【夢幻紳士】高橋葉介でエロパロ

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1名無しさん@ピンキー
高橋葉介先生、禁煙5周年オメ!

ここは高橋葉介作品のエロパロスレです。
夢幻紳士新刊、加護女原案、ベストセレクション出版など
ヨウスケづいてる近年の波に便乗しようじゃないか

『夢幻紳士』と銘打っていますが、
高橋作品なら新旧関わらずどれでも可。
SSがエロか否かは職人にお任せします
2名無しさん@ピンキー:2008/06/14(土) 02:42:09 ID:ld1/P0tX
しかしぬるぽ
3名無しさん@ピンキー:2008/06/14(土) 19:59:24 ID:HcoVYIoD
ではちょっと馬鹿馬鹿しいのを、

「ねね、お父様、私ね学校で面白いことを覚えたの」

「面白いこと?」

「こういうことよ」

スルスル

「ななな!? 何でズボンを下ろすんだ!?」

パク、ペチャ、ペチャ。

「わあ、や、やめなさい!! お、ああ、おおおう!!」

「ふふふ、お父様のミルク、たーっぷりミルクの顔にかかっちゃった」

「ふう……ふう、まったくこの子はなんて変わったテクニックを……、やっぱり母さんに似たのかね?」


ミルクが?をまわすとき      終わり
4名無しさん@ピンキー:2008/06/14(土) 20:50:04 ID:WFqgGTbt
すきだったー
シリアス風味の夢幻紳士の時のアッコの立ち位置が知りたい
5名無しさん@ピンキー:2008/06/14(土) 20:59:47 ID:wlEF7rJ/
まさかこんなところで、高橋葉介スレにお目にかかるとは
文才の無さがアレで投下は自重するが
夢幻紳士最高だ

>>3
いいぞ、もっとやれ
6名無しさん@ピンキー:2008/06/15(日) 00:08:27 ID:QEGx1T7G
外伝麻実也×下宿の娘が見たい
7名無しさん@ピンキー:2008/06/15(日) 00:57:25 ID:WmA2fzvP
お、早速ミルクで職人降臨とは幸先いいな

>>3
GJ

>>5
そう言わず。投下待ってる
8名無しさん@ピンキー:2008/06/15(日) 01:29:59 ID:J4P1yxu1
いやまさかこんなとこで高橋先生の名をみることになるとは…
夢幻家の血筋の男は魔実也からカリスマめいたあっちのテクも受け継いでいるのだろうか…棟方教授…
9名無しさん@ピンキー:2008/06/15(日) 01:48:28 ID:/VfviPIM
白黒絵なのにもち肌が良くわかる漫画だよな
冒険活劇編のあの腕白イタズラ小僧なマミも、怪奇編のあのミステリアスで妙な色気のある夢幻も大好きだ
10注意書き ◆AO.z.DwhC. :2008/06/15(日) 03:38:14 ID:IlUL8+zR
夢幻紳士 外伝の一話「死者の宴」から
溝呂木×可南子、夢幻×可南子。
近親相姦っぽい描写と、ちょっと猟奇描写あります。
苦手な方はスルーしてください。
よろしければお付き合い頂けると嬉しいです。
11 ◆AO.z.DwhC. :2008/06/15(日) 03:40:13 ID:IlUL8+zR

爛々と光る目をした狂人、希代の殺人鬼、暗闇の中の深遠からこちらを覗き込
む悪魔。
溝呂木可南子の父、溝呂木紅造は、世間ではそんな物騒な形容をされている。
新聞をにぎわせた猟奇殺人の殆どが彼の仕業であり、また殺害した被害者たち
を食していたという彼の異常性は、世間の人々を震え上がらせた。
(……無理もないわ……)
おどろおどろしい見出しが躍る、帝都新聞をぱさりと机に投げ出し、可南子は
小さくため息をついた。
心なしか膨れてきたように思える、自身の腹を一撫でし、ふるりと身を振るわ
せる。
いつか見た父の”研究室”での酸鼻を極める光景が蘇り、可南子は顔を歪めた。

「……うっ……ううっ……」
揺れる船の振動の所為か、それともおぞましさの所為か……はたまた、”自身
の体調”の所為かはわからないが、彼女はこみ上げる吐き気に呻く。
「ううう……うっ……いや……いや……」
すすり泣くような呻きが、船室の中にいつまでもいつまでも響いていた。
12 ◆AO.z.DwhC. :2008/06/15(日) 03:40:36 ID:IlUL8+zR

***

父を恐ろしいと思うようになったのは、いつからだったのだろう。
それはずっと以前だったような気もするし、またはつい最近の出来事のように
も思える。
ここのところ、記憶はいつにも増して曖昧で、私は私自身のことすら分からな
い。
もうずっとずっと、ただひたすら耐えているだけなのだ。
父のおぞましい行為に。恐ろしい悪魔の所業に。

「夢幻くん、よく来たね」
「お久しぶりですね、博士」
黒衣の美しい青年が、父の元を尋ねてきたのは私が女学校を卒業してすぐのこ
とだった。
彼らは旧知の仲であるようだったが、私はその青年に全く見覚えがなかった。
私の記憶が曖昧すぎて、忘れてしまっているのかと思ったが、しかしこれほど
麗しい青年ならば、ただの一度すれ違っただけでも覚えていただろう。
青年――夢幻魔実也は、それほど魅惑的で美しく、どこかこの世のものではな
いような凄みのある艶を持ち合わせていた。
身を包んだ黒衣は、彼の美しさを損なうことなく、むしろその飾り気のなさが
彼の魅力をよりいっそう引き立てていた。
「お嬢さんですか?」
「ああ。娘の可南子だ」
掴みどころのない微笑とともに問いかけた彼に、父は私の手を取ってそう紹介
した。
節くれだって湿った父の手の感触は嫌で仕方なかったが、私は精一杯笑って彼
をみつめた。
細い紙巻煙草を燻らせて、目だけで、彼は私に微笑みかける。
私はその仕草にはしたなくもすっかり舞い上がって、ぼおっとしてしまった。
何を言ったのかすら覚えていない。
ただ、終始彼が私を見つめていたことだけを覚えている。
ほの暗く暖かい闇の色の目は、柔らかく、労わるように、そしてどこか憐憫を
含んだ眼差しで、じっと私を見つめていた。
13 ◆AO.z.DwhC. :2008/06/15(日) 03:41:00 ID:IlUL8+zR

***

父とのその行為が、いつ始まったのか。私は覚えていない。
それは決まって暗い暗い部屋の中で始まり、終わる。
私に圧し掛かる、大きくぶよぶよとした肉の塊は荒い息を漏らして、ひたすら
私を辱める。
初めて花を散らしたのも、今の今まで私の肉体を貪ってきたのも、全てこの恐
ろしい悪魔――私の父、だった。
「可南子……可愛い私の娘……愛しているよ」
父の汗ばんで滑った手が私の身体を這い回り、責め立てる。
私は、もう数を数えるのも億劫なほどこの父という名の悪魔に犯されてきた。
父は決まって夜遅く、私の寝室に忍び込み、朝方日が出る前にいなくなる。
その間中、彼は私の身体を貪り、犯し、辱め、ありとあらゆる悪徳を私に教え
込んだ。
「お前は綺麗だ、美しい……私の娘」
おぞましいことに、父は私を娘だと認識している上で抱いているらしい。
行為の最中には必ず私の名を呼び、愛していると囁き、私の娘だ、と髪を撫で
た。
その言葉を呟かれるたびに、私の身体は私の意志とは無関係に淫らに、淫蕩に
快楽を求める。
まるで、パブロフの犬のように、父の言葉を合図にして。
「……もっと……もっと!」
「可愛い、可愛いよ可南子。私の娘」
身をくねらせて、商売女のように父を求める私を知ったら、あの人はどう思う
だろうか。
父の欲望の種を身に受けながら、絶頂を迎える私の脳裏を掠めたのは、あの黒
衣の青年の白い横顔だった。
14 ◆AO.z.DwhC. :2008/06/15(日) 03:41:34 ID:IlUL8+zR

***

「婚約をしなさい、可南子」
「はいお父様」
ある日、唐突に私の婚約が決まった。
父は不機嫌ながらも、どこか楽しそうにそう告げると、小さく笑って研究室へ
と向かっていく。
その父の背中を見つめながら、私はぼんやりと考える。
どうして、どうして私は父に逆らうことができないのだろう?
女学校で知り合った友人たちは、みな箱入りのお嬢様であったが、それでも両
親との仲違いや衝突はあったようだ。
一度として父に歯向かうことのなかった私とは対照的に、彼女たちは実に自由
で奔放だった。
彼女たちが特別で、私が普通なのだろうか……。
しかし、私と彼女たちの間にそれほど差異があるとは思えない。
やはり私がおかしいのだ。私たち親子の関係は異常なのだ。ずっと、ずっと昔
からおかしかったのだ。
「……可南子さん?」
「あ、すみません。なんでもないんです。ただ、ちょっとぼうっとしてしまっ
て」
考え込んでいた私に、婚約者の祐一さんが不思議そうに問いかける。
父が勝手に決めてきた婚約だが、将来の伴侶となるこの青年はとても良い人だ。

微かな憧れを抱いていた黒衣の青年、夢幻魔実也に比べると見劣りはするもの
の、快活で整った容姿。
優しい気遣いに、暖かい人柄、おおらかな性格、全てが明るい陽の光のような、
祐一さんはそんな人だった。
私が抱いてきた闇を全て払う光、そんな婚約者は、黙り込んだ私の手を握って
小さく囁く。
「……可南子さんは、美しいですね。ふと目を離した隙に攫われてしまいそう
な、そんな儚い美しさが、僕はとても好きです」
「……祐一さん」
真剣な顔で、まるでラブロマンス映画めいた事を言う彼がおかしくて、私がく
すくすと笑うと、祐一さんは困ったように眉を下げた。
「笑わないで下さい。……本当は、親が勝手に決めてきた婚約など、断ろうと
思っていたのです。しかし、あなたに会ったその時から、僕は一目で恋に落ち
てしまった」
ぎゅう、と痛いほど私の手を握り締め、祐一さんは熱っぽく続ける。
てのひらの熱は、手袋を通しても熱いほどで、私はひたすら戸惑って彼を見つ
めた。
「可南子さん、僕はあなたを愛しています。あなたのような人と結ばれること
ができてとても嬉しい。僕と、幸せな家庭を築いていきましょう」
「…………はい」
俯いて答えた、私の頬は自分でも分るくらいに熱かった。
きっと祐一さんの目には真っ赤に頬を染めた私が映っているのだろう。
そう考えるとますます恥ずかしくて、私は頷いて俯いたまま、しばらく顔を上
げることができなかった。
15 ◆AO.z.DwhC. :2008/06/15(日) 03:41:55 ID:IlUL8+zR

***

新聞を片手にした父が、ニタニタと笑いながら朝食の席にやってきた。
行儀が悪いから、やめるように執事に言われているのに、父は決して新聞を手
放そうとしない。
ここのところ物騒な事件が続いていて、紙面にはおぞましい猟奇的な殺人事件
が載っているというのに、父は委細かまわず朝食を食べながらそれを読む。
なぜかとても楽しそうに、被害者の名前を繰り返しながら。
犯罪者の心理を知りたがるのは、学者の常だと口癖のようにいいながら、精神
病理学者である父、溝呂木紅造は今日も新聞を食卓で広げた。
「祐一くんが死んだよ。あんなにいい青年が、なんてことだ」
一面を見て、父はぽつりと呟く。
その言葉を理解することができなくて、否、その言葉を”笑いながら口にする
”父が信じられなくて、私は目を見開いた。
「―――――――っ!」
何を言ったらいいのか分らない。
ただ、この精神異常者が、自分の実の父であるという事実が受け入れがたく、
私は食卓から逃げるように走り出した。
自室へと滑り込むと、へなへなと膝の力が抜け、私は座り込むことしかできな
くなる。
――父が……いや、祐一さんが……いいえ、でも父が……
まとまらない思考の中で、私は時が立つのも忘れて呆然としていた。
どこからか、泣きじゃくる女の声が聞えてくる。
それがいつのまにか自分が漏らしていた嗚咽だと気付き、私は目から止め処な
く溢れていた涙を拭った。
滲んだ視界の中に、祐一さんの姿が見えたような気がした。
16 ◆AO.z.DwhC. :2008/06/15(日) 03:42:17 ID:IlUL8+zR

***

高部祐一は、ライフルで頭部を吹き飛ばれて殺害された。
殺害現場には、彼の脳みそが飛び散り、それは彼の流した血と交じり合って実
に陰惨な光景だった。
死臭と血臭が色濃く残るその場所には、いくつかの花束が置かれ、芳しい匂い
を放っている。
その花々の香りですら拭いきれない腐臭に、黒衣の青年――夢幻魔実也は眉を
顰めてぽつりと呟いた。
「やれやれ、また面倒なことになりそうだ」
懐から取り出した煙草に火をつけると、深々とそれを吸い込む。
やがて吐き出された白い煙は、だんだんと人の形を取り始めていく。
「どれ、ちょっと話してみるといい。誰に殺された?」
やる気なく問いかけると、白い人影は、はっきりとした人間の姿になって魔実
也に掴みかかった。
好青年ともいえる爽やかな顔立ちを歪ませ、目を血走らせた男は魔実也の胸倉
を掴んで叫ぶように問いかける。
「……可南子さん!! 可南子さんは!?」
「落ち着け、高部祐一。君はもう死んでいるだろう? ライフルで頭を撃ちぬ
かれて」
「そんな筈はない! 僕は可南子さんと結婚するんだ! 僕たちは……」
わめく祐一の頭をひとつはたいて、魔実也が嗜めると、祐一はいっそう激しく
詰め寄ってくる。
やれやれ、と魔実也は煙草をふかし、その煙を祐一の顔に吹きかける。
と、生前の快活な青年の顔に戻っていた祐一の頭は無残に砕け散り、死んだ直
後の状態へと変わった。
「……落ち着いたか?」
「ああ。……君は誰だ?」
「夢幻魔実也だ。ところで、君は誰に殺された?」
魔実也の問い掛けに、首なしの祐一は、辺りの空気を震わせるように喉を鳴ら
し、哄笑する。
帽子に片手を添えて、魔実也はその悲しい笑い声を聞いていたが、しばらくし
て飽きたらしく、湿った煙草を放り捨て、新しく取り出した煙草に火をつけた。

「……溝呂木紅造さ、」
「そうか。ありがとう」
続けて恨みを口にしようとした祐一の姿を帽子でかき消して、魔実也は煙草の
煙を吐き出した。
白い煙は、死者を弔うように風に流れて、やがて消えていった。
17 ◆AO.z.DwhC. :2008/06/15(日) 03:42:45 ID:IlUL8+zR

***

――上海――

可南子の実父、溝呂木紅造の犯した罪は、この上なく非道で、残虐で、非人間
的で、悪魔的だった。
そのあまりの所業に、世間は彼の罪にかかわりのない可南子にまで攻撃の目を
向けた。
溝呂木紅造の罪からすれば、それも仕方のない事ではあるが、それは年若い可
南子にとって到底耐え切れるものではなかった。
仕方なく、可南子は上海へと渡り、父の財産で細々と食いつなぐ日々を送る事
になる。
「うう……うううっ……うう……」
街角を歩きながら、ときおりこみ上げる吐き気に、可南子は渡航の船室で感じ
ていた違和感の正体を、ようやく認めた。
――私は、父の、溝呂木構造の子を身ごもっている……!
幾度も脳裏を掠めてきたおぞましい事態がいよいよ現実となり、可南子の精神
は崩壊寸前にまで追い詰められる。
「うう……うっ……ううっ……う……」
吐き気にえづくと、枯れたと思っていた涙が目から零れ落ち、頬を伝っていっ
た。
その生暖かい感触は、まるで父の手が這っているようで、可南子はぶるりと身
体を震わせた。

***
18 ◆AO.z.DwhC. :2008/06/15(日) 03:43:40 ID:IlUL8+zR

***

これは夢なのだろうか。ならば、悪夢だ。
目の前には死んだはずの祐一さんが、私の手を取って微笑んでいる。
「さあ、僕らの結婚を祝ってくれるみなさんに、ご挨拶をしないと」
目を抉られた男の、滴り落ちる血。
臓物を引きずりだされた男の、空洞になった腹からのぞく赤黒い穴。
喉を切り裂かれた女の、不自然に曲がった首からは真っ赤な血の飛沫が零れ落
ちている。
おぞましい死者たちの、父を恨む声がそこかしこから響き、私を責め立てた。
「ほら、可南子さん」
決して生前にはみせなかった昏い笑みで私を促す祐一さんに、ひたすら恐怖を
感じる。
一体、何が起ころうとしているのか、私には全く理解できない。
ただただ恐ろしい予感がして、私は身体を震わせる。
いったいどうなるのだろう。
ここ最近昼となく夜となく、私は死者である彼らに相対して、身のうちの罪を
責められている。
父の娘であるという事実を、実の父に犯されていた罪を、胎内に宿した父の子
を。
全てを詰られ、私は唾棄すべき存在として死者たちの前に引きずり出されてい
た。
今日もまた、そうやって私は私という憎むべき存在を非難され続けるのだろう。

覚悟を決めて祐一さんを見つめた、その時。
――バシュン、
銃声とともに、祐一さんの顔が砕け散り、真っ赤に染まった。
「君は、こんな風に殺されたんだろう?」
懐かしい声がして、悪夢は掻き消える。
黒衣の青年の白い顔立ちを、振り返って見つめるその前に、私の意識は闇へと
落ちていった。

***

「……ここは」
死者の饗宴に悩まされていた私を救い出してくれた、あの黒衣の青年が、椅子
に座っている。
寝かされたベッドに横たわったまま、彼を見つめると、青年――夢幻魔実也は
あのほの暗い目で私を見つめ返した。
「心配ない。ホテルの部屋です」
ここしばらく、昼夜を問わず、父が殺した人々に責められ続けていた私を、あっ
さりと彼らの手から引き剥がした夢幻は、そう言うと眉を顰める。
繊細な作りの部屋は、彼の飾り気のない印象とかみ合わず、私はこんな状況だ
というのに少しおかしかった。
「私は……あの人たちから逃れることができない。私の腹の中には、あの男の、
父の子がいるのです。私は溝呂木紅造の娘で、彼の子を身ごもった女です。”
彼ら”は私を、私の子を、決して許さないでしょう」
私を責める彼ら――婚約者だった祐一さん、父に殺された女、父に内臓を食べ
られた男、父に殺された赤子――は、決して私に手出しできない、と言った夢
幻に、私はそう打ち明けた。
私があの男に犯されていたと知ったら、動揺するだろうか。軽蔑するだろうか。

どこか嗜虐的になってそんな風に考えていると、彼は全く気にした様子もなく、
薄い唇を吊り上げた。
19 ◆AO.z.DwhC. :2008/06/15(日) 03:59:34 ID:IlUL8+zR

「それも、幻ですよ。あなたは博士の子を身ごもってなどいない。あなた自身、
博士の実の娘でもない。養女です。彼は女性を妊娠させることができない身体
だった」
すべてはあなたに博士が掛けた暗示です。
そういうと、彼は切れ長の目を眇めて私の膨れた腹に手を押し当てた。
にわかには信じがたい彼の言葉を、私は内心疑っている。
全てが幻で、父の掛けた暗示だというのなら、この腹はなんだというのか。
「博士はあなたを防護壁にした。全てをあなたに押し付けるために。彼は犯し
た罪、悔悟、そして懺悔も、恐怖すらも、あなたを生贄として、逃れようとし
た。……ぼくはあなたに掛けられたその暗示を取り去りにきました」
そう彼が言った瞬間、私の膨れた腹から、彼の手によって赤子は取り出され、
”それ”は宙に浮いた。
健やかな赤子はみるみるうちに顔だけが父へと変わり、醜く歪んでいく。
赤子――溝呂木紅造は、常に浮かべていた薄気味の悪い笑みから一転し、引き
攣った表情を貼り付けて叫んだ。
「やめろ……やめてくれ! あの連中に私を渡すな!」
「もう遅い」
切りつけるような声音で、彼はそう言うと、いつのまにか迫っていた死者の一
団――父に殺された人々の群れ――に赤子を投げ渡す。
甲高い絶叫と、楽しげな笑い声が室内に響いて、やがて潮が引くようにそれら
は消えていった。
「さあ、これで、あなたは自由だ」
「……私は……どうすればいいのでしょう?」
問いかけると、彼は小首を傾げて煙草に火をつけた。
「好きに生きればいい。博士の残した財産もあることだし、不自由はないでしょ
う」
「……わたし、は好きに生きていいんですね」
「ええ。では、」
「待ってください。……私が好きに生きていいのなら。あなたに、抱かれたい」

去ろうとする彼の手を思わず引きとめて、私がそう尋ねると、彼は面白そうに
唇を吊り上げて笑う。
だんだんと近づいてくる美しい白い顔を見つめながら、私は生まれて初めて、
父の意思に反することをする悦びに、かすかに身震いをした。
20 ◆AO.z.DwhC. :2008/06/15(日) 03:59:54 ID:IlUL8+zR

***

青年の言葉は事実だったらしい。
私は父に犯されてなどいなかった。
破瓜の痛みを二度も経験するとは思わなかったが、それはひどく甘い苦痛だっ
た。
「……あっ……ああっ……」
唇から零れる嬌声が、我ながらはしたなく思えて、歯を食いしばってそれを抑
えていると、青年の薄い唇は私のそれに合わさる。
冷たい舌が私の口を這い回り、水音のような唾液の絡まる音が部屋に響いた。
「声を抑えることはありません」
「……そ、んな……ああ、ん……はあ、あ、あ、んっ……」
「そう、それでいい」
楽しげに笑って、青年は私の身体を体温を感じない手で撫でる。
楽器を奏でるように繊細な手つきで、白い指がそこかしこに触れて、私はその
度に高く声を上げた。
青年の冷たい体の中で、唯一熱い箇所が私のなかに打ち込まれ、それは切ない
痛みと甘い痺れをもたらす。
「はあ、ん……あっ、あっ、い……ああっ……」
身体を揺さぶられて、まるで海の上を漂う船のようだ、と益体もないことを考
えた。
上海へ向かう船の中で、頭をよぎったあのおぞましい考えを、こんなにも幸福
な気持ちで呼び覚ますことになるとは思わなかった。
「―――――――――っ!」
短い息を吐いて、私のなかで脈打つそれを引き抜いた彼は、息を乱す私を見つ
めて、にやりと笑う。
その暗い目の中に、かすかな欲情の明かりを見つけ、私も小さく微笑んで、彼
の冷たい身体へと腕を巻きつけた。

***

白いシーツを素肌にまきつけながら、可南子はうっとりと頬を染める。
肌のあちこちに残る情交の跡が、赤く色づいてどこか艶めかしい。
予想していた通り、朝になるといなくなっていた青年は、まるで幻のようだっ
たが、その跡だけが可南子に昨夜の出来事が夢ではなかったと教えてくれてい
た。

――お嬢さん。悪い男に、引っかからないように気をつけなさい。
自身も十二分に”悪い男”である夢幻魔実也は、そう言って可南子の額に口づ
けた。
眠りに落ちる、その直前の行為を思い出し、可南子はくすくすと笑った。
「――悪い人」
くしゃみをする、黒衣の青年の姿を思い浮かべながら、可南子は微笑むと、気
だるさの残る体を引き起こして浴室へと向かう。

――そう、そのとおり。
白い裸身をさらして歩く可南子の後姿を、低く甘い声が追いかけたが、それは
誰にも気付かれることなく、備え付けられた机の影へと落ちていった。
21終わり ◆AO.z.DwhC. :2008/06/15(日) 04:00:25 ID:IlUL8+zR
終わりです。お付き合いありがとうございました。
22名無しさん@ピンキー:2008/06/15(日) 09:30:15 ID:iq3JSTnb
>>11さん
GJ、眼福でした。悪い男はアフターケアも万全ですな
23名無しさん@ピンキー:2008/06/15(日) 11:32:29 ID:MGzEKqsj
雰囲気出てる、イイ!GJ!
24名無しさん@ピンキー:2008/06/15(日) 13:43:16 ID:4X0Wwitj
仕事はええww
高橋作品書く機会狙ってたんじゃねーかって位完成度高いな。
乙でした。
25注意書き ◆AO.z.DwhC. :2008/06/15(日) 21:27:46 ID:IlUL8+zR
夢幻紳士外伝の設定でオリジナルストーリーです。
好き勝手やってるので、苦手な方はご注意ください。
虫が苦手な方は注意な表現があります。
エロはぬるめで、原作っぽさを目指しました。
よろしければお付き合いください。タイトルは「虫愛づる姫君」です。
26虫愛づる姫君:2008/06/15(日) 21:28:26 ID:IlUL8+zR

薄暗いカフェに、黒衣の青年がふらりと訪れた。
夜の闇を全て纏ったような彼の肩には、大振りのコガネムシがとまっている。
「うまくやれ」
「わかったわかった」
まるで会話するように、コガネムシに話しかけた青年の奇行は、幸いにも酒場
の誰にも見咎められることはなかった。
どこからともなく聞えてきた嗄れ声に頷いて、青年はテーブルに座っていた壮
年の男へと声を掛ける。
驚いたように振り返った男に、青年が何事か話しかけると、男は小さく頷いて、
青年に席を勧めた。
コートと帽子を脱いで椅子に腰掛けた青年と向かい合い、しばらく男は黙りこ
くっていた。
が、やがて全てを吐き出す勢いで、青年へと何事かを話し始める。
27虫愛づる姫君:2008/06/15(日) 21:29:03 ID:IlUL8+zR

***

「虫?」
「そう、虫です」
訝しげに煙草の灰を落としながら、緩めたタイが妙に艶かしい男――夢幻魔実
也は尋ねた。
それに、小さく頷いた壮年の男が懐からハンカチを取り出して額から滲み出し
た脂汗を拭いながら答える。
「虫、そう蟲がやってくるのです。どこからともなく。はじめは足元にぽつり
と一匹。それがいつのまにかわらわらと集って私の足にたかりだし、やがて私
をすっぽり飲み込む。そして、いつのまにか私は、私が虫なのか虫が私のなの
か区別がつかなくなるほど虫と一つになっていくのです」
どこかうっとりとした表情でそう言うと、男は自身の足元に眼をやった。
まるで愛しむかのように、上等の革靴へと視線を這わせ、男は小さくため息を
つく。
「私は、それが恐ろしかった。しかし、最近では虫がやってくるのを心待ちに
しているような気さえするのです。私は自分が分からない。虫たちの、小さな
足が私の身体中を這い回る、あの感触を、おぞましいと思っていたはずなのに」

――いつからか、私はあの身のうちから外までをすっぽりと包み込まれること
を望むようになっていたのです。
男は、何かの懺悔のように、ぽつぽつと語り続ける。
抑揚のないその声は、静かなカフェの隙間へと落ちていき、夢幻の気のない返
事がその陰鬱な雰囲気をさらに助長していった。

夢幻魔実也が、目の前の目に喜ばしいわけでもない壮年の男と会談するに至っ
た理由は、実に単純である。
知り合いのご婦人(もちろん、身体の方のお付き合いのある)に紹介されてしまっ
たのだ。
基本的に女と子供しか助けない性質である夢幻が、今回のように友人でもない
男の、楽しくもない退屈な話に付き合っているだけでも奇跡に等しい。
自身にそんな幸運が降り注いでいることすら気付いていないらしい男は、ぶつ
ぶつと”蟲”の話を続けている。
男の話しに全く興味を惹かれず、至極退屈を持て余した夢幻は、欠伸をかみ殺
しながら椅子にかけた帽子を手に取った。
――蟲、ねえ。どうでもいいさ。
帽子の中に話しかけるように、夢幻は小さく呟くと、かすかな笑い声が聞える
帽子を頭に被り直した。
28虫愛づる姫君:2008/06/15(日) 21:30:32 ID:IlUL8+zR

***

――それは確かに恐怖だった。
――しかし、いつからかひどく、至極甘美なものに変わっていった。
――蟲たちは私の身体を這い回り、私と一つになり、いつのまにか美しい女へ
と姿を変える。
――それは幻のように儚く、美しく、どこか懐かしい女の姿だ。

そう、”懐かしい”女の姿に、蟲は変わっていく。
そして、ぞっとするような凄みのある、艶やかな声で私の名を呼ぶ。
手招きをする女に、私はふらふらと近づいて、
――ああ!
女の白いからだを組み敷いて、手足を絡めあい、私は蟲と交わった。
蟲であるはずの女の、甘い甘いからだを、ことごとく蹂躪し、味わいつくし、
私は蟲とぴたりと一つになる。
からだとからだを重ねあい、まぐわって、私は女を犯し続ける。
女は声をあげず、白い喉を仰け反らせ、手足を突っ張らせて、私を受け入れた。

時に背中に手を回し、強請るように腰をくねらせ、誘うように舌を出して。
唇に吸い付くと、蜜のように甘い濃厚な花の香りが、私の鼻腔いっぱいに広が
り、それはくらくらと私の頭をとろかした。
女はその吐息すら甘やかで、どこもかしこも馥郁たる芳醇な味わいをしていた。

私は、次第に女のからだに溺れ、全てのことがどうでもよくなった。
そして、

「そして?」
ぶつぶつと呟いていた打ち明け話を退屈な顔で聞いていた青年――夢幻魔実也、
と名乗った――は、私の言葉を促すように顎をしゃくり、煙草のけむりを深く
吸い込んだ。
ほう、と吐き出された紫煙が薄暗いカフェの中をぼんやりと白く染める。
眠たげにうっすらと開かれていた切れ長の瞳が、初めて何かに興味を示したよ
うに輝き出していた。
そういえば、彼を紹介してくれたカフェの女給は、この男は大層な色好みだと
言っていた。
話に色気が出てきたのがお気に召したのだろうか。
「そして、女はいつのまにか死んでいるのです。女の死骸からはわらわらと蟲
が湧き出て、蟲たちは一斉にどこかへ散らばる。すると、私は突然一人だけ、
その暗い世界に取り残される」
「なるほど、」
帽子を深く被りなおし、青年はその白く端正な顔立ちを半ば以上覆い隠す。
そのまま、足を組んでだらしなく椅子に寄りかかり、彼はもう一度煙草をふか
した。
一度は抱いた興味は、すっかり消えうせてしまったようだ。
不安になって、私が話しかけると、彼は片手をふって、何も答えない。
「夢幻さん」
「ああ、いや。……因果なことだ」
堪えきれずにもう一度、彼に声を掛けると、青年は弁解のように両手を挙げる。

「は? 今なんと?」
小さく呟かれた言葉を聞き取ることができず、私が問いかけると、青年は再び
黙して煙草をふかした。
普段なら、なんと不遜な態度だ、と席を立っているはずの、青年の無礼な振る
舞いにも、私は何故か腹が立たなかった。
29虫愛づる姫君:2008/06/15(日) 21:32:42 ID:IlUL8+zR

――不思議な人よ。人間じゃないみたい

情人に例えにしては随分だ、と笑った女給の言葉も、さもありなんと思えるく
らい影のような青年の独特な雰囲気に、私はすっかり飲まれていた。
幻視に悩まされている、という私の酔った上での打ち明け事を聞いて、その女
給はそれならば、と夢幻魔実也という男を紹介してくれた。
不可思議な現象への対処に長けているというこの男は、夜の闇から溶け出した
ような静かな凄みのある青年で、白い肌と対照的な黒い衣服がひどく印象的だ。
「――さん、」
「あ、ああ……はい」
明らかに異質である青年の端正な顔立ちを、畏怖を感じながら見惚れていると、
青年は私の名を呼んだ。
どこか甘い響きのある低い声は、滑らかに耳にすべりこむ。
この声だけでもご婦人は参るのだろう。
「あなたの身近に、蟲にかかわりのある人はいませんか。それも、ごく身内で」
「は? ……あ、母が無類の虫好きでした。蚊すら殺させないので、家族の間
ではうんざりしていましたが」
唐突な質問に、面くらいつつも答えると、青年は納得したように深い息を吐い
た。
「失礼ですが、その方とあなたは、実の親子ではありませんね?」
「…………はい」
「後妻ですか?」
疑問形でありながら、確信を持ってされる質問に、私は言葉に詰まる。
この青年には、全て見抜かれているのではないだろうか。
そうであっても、不思議ではない雰囲気が、彼にはあった。
「……そうです。あの人は、母が死んで三年後に、私の家へとやってきました。
藤色の着物がよく似合う、いつも控えめな人で。滅多にわがままを言わないあ
の人が、私の家族は全員大好きでした。そんな母の唯一のわがままといえるの
が、虫のことだったので、私たち家族は文句を言いながらも従っていたもので
す」
可愛らしい人だった。
私と一回りも年が離れているなど、到底信じられないような、愛らしい微笑み
をしていた。
いつまでも少女のような義母の、無邪気さが父には何より可愛いらしく、彼女
は真綿で包まれるように、大切に大切に扱われていた。
義母はとりわけ虫が好きだったが、なかでも一番好きなのはコガネムシだった。
きらきらと輝くその虫を父から贈られて、義母は嬉しそうにはにかんでいた。



――そうだ、コガネムシ。
30虫愛づる姫君:2008/06/15(日) 21:33:46 ID:IlUL8+zR

「義母はコガネムシが好きでした。小さい頃からそうだったらしく、幼い頃は
”虫愛づる姫君”とからかわれたと」
「どこかのご令嬢だったのですか」
「ええ。義母からは没落しかけていたと聞きましたが、大層由緒のある家柄だ
そうで」
実際、その言葉を裏付けるように、義母はいつも品のある振る舞いをしていた。

コガネムシを指先に這わせ、唇を寄せるその仕草さえ、ひどく美しかった。
思えば私は、義母が虫を愛でるところを覗き見るのが好きだった。
白く細い指に絡みつくコガネムシに、うっとりと頬を染めて微笑む義母の姿が。

「……では、ぼくはこれで」
「えっ?」
ぼんやりと遠い思い出に浸っていると、青年はいつのまにか立ち上がってコー
トを着込んでいた。
虚をつかれて目を見開く私に、青年は小さく笑って言う。
「ご心配なく。怪異はもうすぐ収まりますよ」
「そ、え、あ……いや」
「お困りだったんでしょう? 虫の幻覚に。大丈夫、なんとかしましょう」
青年の言葉に、私の胸内に”そんな”という叫びがこだました。


――何故、なにが、”そんな”だ?

――そんなに簡単にできるものか、という青年への反発か。

――いいや、違う。

――私は、本当は、困ってなどいなかったのだ。虫の幻影を、望んでいた。

――あの美しい、義母の姿を形作る、蟲たちを!
31虫愛づる姫君:2008/06/15(日) 21:34:42 ID:IlUL8+zR

***

――さん、コガネムシよ。うつくしいでしょう。

白く小作りな顔立ちが、ひどく幼く見える義母はそう言って微笑んだ。
彼女の白魚めいた指先から、桜のような爪を往復するコガネムシを、うっとり
と見つめながら。

――わたしね、幼い頃から、虫めづるひめぎみだったのよ。

優しくたおやかな義母は、そう言うとふと表情を強張らせた。
私はそれがひどく悲しくて、彼女の視線の先を追った。
そこには、恐ろしく顔を引き攣らせた父が立っていて、義母は白い顔をますま
す白くしながら目を見開いて父を見つめる。

――あなた、ちがうんです。ちがうの

父は、父なりに精一杯義母を愛していた。愛しすぎて、少しおかしくなってい
た。
義母の望むものなら全て与えるくせに、義母には何一つ自由を与えなかった。
彼女が誰かと口を聞くことすら禁じていたし、父の許可なく彼女が戸外へ出る
ことなど論外だった。
その所為で使用人たちにすら声を掛けられない義母は、広い屋敷の中で、毎日
コガネムシに語りかけていた。

――さんは、関係ありません。ね、あなた

父と義母が喧嘩するのは、決まって義母が私とともにいた時だった。
優しく立派な自慢の父は、このときばかりは父でなくただの男の顔をして義母
を怒鳴りつけた。
私はそれに怯えながら、義母の手から離れたコガネムシを捕まえて、唇を寄せ
る。

***

ああ、またこの夢だ。
ここ最近は見なくなっていた義母の夢が、何故今頃になって。
「……いや、」
理由は分りきっているだろう。
飛び起きた寝台に、もう一度寝転がる気は起きなくて、私はしぶしぶ立ち上が
る。
素足を毛の長い絨毯がくすぐり、私が歩き出すとさくさくと草を踏むような音
が鳴った。
32虫愛づる姫君:2008/06/15(日) 21:35:51 ID:IlUL8+zR

――――と。


素足をくすぐる感触が、絨毯のものだけではなくなる。
さわさわと、足を這い登る虫たちの感触、そして小さな吐息。
いつのまにか私の腹まで這い登ったコガネムシが、だんだんと胸へと集り、上
へ上へと昇っていく。
ついに顔まできた虫たちから、やがて義母の甘い吐息が漏れ出す。
とうとう顔まで覆われたと思ったら、コガネムシは義母へと変わっていった。
「――――さん、好きよ。ずっとずっと愛していたわ。お父様よりも誰よりも、
あなたを」
コガネムシが化けた義母は、義母そっくりの甘い声でそう言った。
ゆっくりと白く細い腕を私に伸ばし、やがて――。


「はい、そこまで」
「―――――――っ!」
いつものように、果てなく睦みあうはずだった義母の白いからだは、低く甘い
声と、白い煙の前に霧散した。
「やあ、こんばんは」
「……君は、」
「なんとかすると言ったでしょう。もう、これで虫は出てきませんよ」
黒衣の青年は、唐突に現れてそう言うと、楽しげに笑った。

――もう、出てこない。

その言葉に打ちのめされる私を嬲るように、夢幻魔実也は歌うように続ける。
「一寸の虫にも五分の魂、あなたの義母上の妄執が、彼女の可愛がっていたコ
ガネムシを通して、あなたをあちらへと誘っていたんですよ。あともう少し遅
ければ、あなたは向こう側の住人だった。いや、良かった良かった」
「……義母が、私を」
「そう、あなたを余程愛していたのでしょうね」
何がおかしいのか、青年は楽しげに笑った。
その笑い声は腹立たしくもあったが、しかし私にはそれを怒鳴りつける気力す
ら沸かなかった。
33虫愛づる姫君:2008/06/15(日) 21:37:22 ID:IlUL8+zR

***

青年が、ぱちんと手を叩くと、虫が湧いていた暗闇の世界が消え、いつのまに
か彼と向き合っていたカフェに、私たちは座っていた。
「一体……」
呆然と呟いた私を、青年はにやにやと見つめる。
「い、今のは……なんだったのですか?」
「近い将来、あなたの再婚後に起こりうるかもしれない悲劇ですよ」
片目を瞑って、悪戯な顔で笑う青年は、先ほどまでの幻覚で見ていた、非人間
的な美しさは消えていた。
すこしばかり俗っ気の増した美しい顔立ちは、奇妙に魅力的だった。
「義母を想う息子、そして息子を想ってしまう義母。繰り返される負の連鎖。
あり得るかもしれない、仮定の話ですがね」
「……そうですか」


知り合いの仲人がもってきた、再婚の話に、私は最初乗り気だった。
しかし、妻となるべき人の悪癖であるコガネムシへの愛情や、私の彼女への異
常な執着が次第にその熱を冷ましていった。
そんな状態で彼女を娶っても、余計に彼女を苦しめてしまいそうだったからだ。

そこにきて、今夜のこの出来事である。
息子にも、妻となる人にも、そして私も、全員が不幸になる結婚など、したい
人間はそうそういないだろう。
例えそれが仮定の話だとしても、あの幻覚はあまりに現実的すぎた。


「やはりこのお話はお断りすることにいたします」
「それがいいでしょう」
しかめつらしく頷いて後、青年はどこか悪戯な微笑みを浮かべた。
「もう、夜も遅い。お帰りにならないと、家の方が心配されるでしょう」
「あ……そ、うですね」
促されるままに、私はカフェの机に代金を置くと、ふらつく足で立ち上がった。


いまだ幻惑されているかのように、まるで操られるような感覚でするすると足
が動く。
出口へと向かう私を、黒衣の青年は楽しげに机に肘をついて見守っていた。
34虫愛づる姫君:2008/06/15(日) 21:39:45 ID:IlUL8+zR

***

「やれやれ」
「どうもありがとう、夢幻」
ぶんぶんと飛び回るコガネムシが、魔実也の座るテーブルへとその羽を休めに
来た。
しゃがれた声で、そう言ったコガネムシは、魔実也がテーブルへと落とした酒
の雫を飲む。
「それにしても、なかなか気が進まない仕事だった。愛し合うはずの二人の仲
を裂くのは、実に気が重いね」
「君にしては珍しく、まるで普通の人間みたいなことを言うじゃないか」
言葉とは裏腹に、楽しそうに唇を吊り上げた魔実也を揶揄するように、嗄れ声
は空気を震わせた。
コガネムシから発せられるその声は、どこか愉快そうな響きでテーブルの上へ
と落ちる。
「心外だな。まあしかし、古い友人の頼みとあらば、仕方がないな」
「よく言う、そんなことこれっぽっちも思ってやしないくせに」
テーブルの上を這い回るコガネムシを小突きながら、魔実也はグラスを傾けた。

「……ところで、いったいどうしてまた、こんな依頼なんぞ?」
「それはもちろん、我らが虫愛づる姫君のためさ。彼女は人間なんかにゃ勿体
無い」
「虫にとられる方が余程勿体無いと、僕は思うがね」
得意げに嗄れ声が響くと、魔実也はそれをからかうように笑いながらそう言っ
た。
直後、コガネムシは魔実也の目へと目掛けて飛翔を開始する。
それをあっさりと回避しながら、魔実也は未だからかいの抜けない声色で続け
た。
「怒るな。お前たちの姫君に手を出すほど命知らずじゃないさ」
「どうだか」
ふん、と荒い鼻息すら聞えそうな声音でそう言うと、コガネムシは苛立ったよ
うにテーブルの上を往復した。

――――と。

ふと、薄暗いカフェの中に華やかな香気が立ち昇る。
その華やかな気配に、魔実也は帽子のつばをあげて、そちらを見やった。
そこには、芳しい花そのもののような、少女めいた美しい婦人が、まっすぐに
魔実也とコガネムシを見詰めて戸惑ったように眉を顰めて立っている。
「姫君のご登場だ」
「……夢幻!」
楽しそうに呟いて、彼女をいざなうように手招きした魔実也に、コガネムシは
腹立たしそうに叱責すると、彼の目の前を飛び回った。
「はいはい、退散するさ」
「そうしろ」
ぶんぶんと飛び回るコガネムシに辟易したように、夢幻は顔をしかめて、コー
トを纏う。
カフェの暗闇に滑り込むようにして消えた、黒衣の青年をいぶかしんだのは、
件の虫愛づる姫君だけだった。
35虫愛づる姫君:2008/06/15(日) 21:41:44 ID:IlUL8+zR

***

「面白くないな」
「センセ、どうしたのォ?」
馴染みの女給の酌を受けつつ、呟いた魔実也は、問い返されて片目を眇めた。
「いや。虫は好きか?」
「いいえぇ。アタシは虫は嫌いよォ」
「そうか」
どこかほっとしたように、酒の注がれたグラスを開ける魔実也に、着物の上に
白いエプロンを纏った女給はにこりと赤い唇を吊り上げた。
「でも、センセは好きよ」
「どうして僕と虫を比べる」
憮然とした表情で、問いかける魔実也に向かい、ますます唇を吊り上げて、女
給は楽しげに笑った。
「だってセンセ、あんたも悪い虫、の類だろうに」
「………………」
黙り込んだ魔実也の耳に、女給は赤い唇を寄せた。


お返しに女の耳に睦言を囁いて、夢幻は仄かに赤く染まる首筋を撫でた。
ふと見ると、女給の細く白いうなじには一匹の虫が這っている。
眉をしかめてその虫と対峙した魔実也は、小さくため息をついた。
36終わり ◆AO.z.DwhC. :2008/06/15(日) 21:42:36 ID:IlUL8+zR
終わりです。お付き合いありがとうございました。
37名無しさん@ピンキー:2008/06/15(日) 21:49:21 ID:oYjscB/2
ほんと狙ってたのかってぐらい掴んでるなw
GJ
俺のアッコも書いてくれ
38名無しさん@ピンキー:2008/06/16(月) 00:10:59 ID:geXUYvMM
マイナーだから過疎るだろうと思ってたら異様に伸びててワロタwww
しかしこの職人さんすげーな。ちゃんと外伝のまみやだ。
ちょっと人間くさいかんじがいい。
39sage:2008/06/16(月) 01:19:50 ID:tJoLtRvg
早さといいクオリティーといい、なんという神業ww
次回作楽しみにしてる
40名無しさん@ピンキー:2008/06/16(月) 01:21:38 ID:tJoLtRvg
すまん
sage入力する個所間違えたorz
41名無しさん@ピンキー:2008/06/16(月) 14:43:10 ID:XDkplVLF
わぁーこんなスレが!
そしてこの完成度ですよ。二度狂喜乱舞。
GJです。青年版は外伝さんが一番好きです!

いろんな人のヨウスケエロが見られるといいなぁ。
ちょっと燃料補給してきます。
42注意書き ◆AO.z.DwhC. :2008/06/16(月) 19:03:55 ID:Boh2hyoh
小ネタです。
短編「カメレオン」から、僕×彼女
ちょっとストーリー改変しています。苦手な方は注意してください。
さらっと読み流して頂ければ。
43カメレオン:2008/06/16(月) 19:04:33 ID:Boh2hyoh

僕の好きな彼女はとてもわがままだ。
しかし僕はそんなわがままな彼女のことをとてもとても愛している。
くるくると輝く巻き毛にぱっちりと大きく開いた瞳、仄かに赤く色づいた唇と
同じ色をした薔薇の花を髪に飾った姿は、この街の誰よりも美しい。
僕が彼女に交際を申し込むと、彼女は愛らしい唇で僕に言った。


「男は強くなくちゃダメよ!!」

僕は彼女を愛していたので、すぐさまその期待に応えるべく努力した。

――僕は街中のチンピラを殴り、誰も僕に勝てるものがいなくなるまで戦い続
けた。

やがて僕は街で一番強い男になった。
きっと彼女も僕を愛してくれるだろう、と僕は喜び勇んで彼女の家へ駆けつけ
た。
すると、彼女は始終喧嘩していたせいで薄汚れた僕を玄関の前に立たせたまま
言った。

(きっと埃が家の中に入るのが嫌だったんだろう。彼女はそういう人だ)


「でも頭もヨクなくちゃ!!」

――僕は大学に入るべく、猛勉強を開始した。

やがて努力が実を結び、僕は晴れて大学へと入学した。
必死に授業を受け続け、とうとう博士号まで取り、僕はその証書を丸めたまま、
彼女の元へ駆けつけた。
今度こそ彼女は僕を愛してくれるだろう。
すると、彼女は毎日の勉強のおかげで流行すら分からなくなり、すっかりダサ
くなった僕を嫌そうに見て言った。

(きっとこんなダサい男と知り合いだと思われるのが嫌だったんだ。彼女はそ
ういう人である)


「経済力も忘れてはいけないわ!!」

――僕は事業を起こした。

大学で学んだ経済学と経営学を生かして、事業はだんだんと軌道に乗っていっ
た。
やがて、事業は大成功を収め、寝っ転がっていても大金が入ってくるようにな
ると、僕は薔薇の花束を抱えて、彼女を迎えにいった。
すると、彼女は仕立てのいいスーツを着込んだ僕をみて、にっこりと笑った。

「まあ、いいわ!! なんとか合格よ!」
「ありがとう、うれしいよ!」

――そんなわけで、とうとう僕は彼女と付き合うことになった。
何しろ僕は彼女を愛していたので、うれしくてうれして仕方なかった。
泣きながら花束を渡す僕に、彼女は呆れたような冷たい眼差しを注いでいたよ
うな気もするが、きっと気のせいだろう。うん、そうに違いない。
44カメレオン:2008/06/16(月) 19:05:03 ID:Boh2hyoh

***


寝室には、スプリングの効いたベッド(そのまま月までいけそうなほど弾むん
だ)に真鍮製の柱がついていて、ビロードづくりの天蓋がかかっている。
どこかのお姫様みたいな有様の内装で、僕は心底落ち着かない。
が、何しろこれは彼女の趣味だ。
愛する彼女の趣味ならば、喜んで受け入れるしかないだろう。
薄い夜着を体に巻きつけた彼女が、くっきりと透けるボディラインを見せ付け
るようにしてベッドの上から手招きをした。


「ほら、はやくいらっしゃいよ」

僕は彼女を愛しているので、その期待に応えるべく努力する。

――僕は彼女をゆっくりと寝台に押し倒した。

可愛らしく喘ぐ彼女の姿はとてもとても魅力的だ。
僕はうっとりしながらも、彼女の白い黒子一つない体を撫で回した。
やがて、彼女の身体は赤く染まり、赤い唇からは止め処ない甘い吐息が漏れ出
す。


「ねえ、はやくう」

――僕は彼女の中にゆっくりと侵入した。

彼女の内側はマグマのように熱く、きつく、びっくりするほど僕とぴったり合
わさった。
粘液のぐちゃぐちゃという音がして、僕と彼女は擦れあっていく。
一つにつながる快感が僕の身体に電流のように走り抜けた。


「あ、もう、イイっ! 好きにしてぇっ!」

――僕は彼女の身体を好きなだけ貪ることにした。

途中で何かわめいていたような気もするが、気にせず僕は彼女の柔らかい体を
組み敷いた。
さんざん腰を打ち付けると、彼女はぐったりしたように力を抜いたが、僕はそ
のまま行為を続けた。
何しろ、好きにしていいらしかったので。



――僕は彼女を愛しているので、その言葉にはすぐさま従うことにしている。
45終わり ◆AO.z.DwhC. :2008/06/16(月) 19:09:25 ID:Boh2hyoh
終わりです。

エロパロ板で高橋スレを発見して嬉しさの余り連投してしまいました。
即死防止の賑やかしにでもなっていれば幸いです。
職人さんがいらしてくださることを祈りつつ、今後も保守に努めさせて頂きます。

三作ともにお付き合い頂いた方、本当にありがとうございました。
46名無しさん@ピンキー:2008/06/17(火) 00:57:32 ID:OI6JZxbg
もう来なくていいよ^^
47名無しさん@ピンキー:2008/06/17(火) 01:33:46 ID:0QgE2NdF
「カメレオン」懐かしいww
好きにして良いと言われてそのまんまーっていう
おバカさ加減が初期の雰囲気っぽくていいな
48名無しさん@ピンキー:2008/06/17(火) 06:44:11 ID:ea5kfeNT
46はいろんなスレを渡り歩いて同じ事書いてる寂しいヤツなのでスルー(参考。監禁スレ)
ぐっじょでした!楽しませて貰いましたw
49名無しさん@ピンキー:2008/06/17(火) 16:33:24 ID:DGCNMwVS
みなさんすごいです。


ぼくもちょっとかかせてもらいますよ。






その日、「惑星LOVE」は四度目の崩壊を遂げた。

「はぁぁ……」
男 ―― 鈴木・M・タツヤ―― はぽそりとつぶやく。
「なんだって又こんな事に……」
どこまでも続く荒野を見ながら原因を考える。

原因など考えなくてもわかっていた。

「また、こんなことになっちゃった」
どこまでも続く荒野を見て、
女 ―― ノーマ ―― は溜息を吐く。
三回目の崩壊の時あんなに
「もうこんなこと止めようね」って
誓ったのに。

何でこんなことになったのか、
考えなくてもわかってる。


「ノーマ」
「あなた」
どちらからともなく手を握る。

そして二人はゆっくりと口づけを交わした。
50名無しさん@ピンキー:2008/06/17(火) 16:35:34 ID:DGCNMwVS
「んっ、ん、ん」
ノーマがに情熱的に舌を絡ませる。
やがて口を放すと、唾液の糸が二人の間に橋を架けた。

「ほら、早く脱いでよ」
「うん」
ノーマに急かされタツヤは服を脱ぐと、そのまますでに裸になっている
ノーマに覆いかぶさる。


「僕たち根本が間違ってたんだね」
ゆっくりと、ノーマに指を這わせながら、タツヤはつぶやく。
「あら、僕たちじゃなく、僕は、でしょ?」
指づかいに体を震わせながら嬉しそうにノーマは喋る。

根本的な間違い

一番必要なのは文字どうり



文明なんて創る必要がなかったのだ。

二人の間にやがて子供が生れ


惑星LOVEはその後、崩壊することはなかった。
51名無しさん@ピンキー:2008/06/17(火) 16:37:12 ID:vCsxdWTo
wktk
52名無しさん@ピンキー:2008/06/17(火) 16:37:58 ID:DGCNMwVS
終わりです。


書いてから気づきましたけど
作品の全否定みたいになって、すいませんです。

ではまた。
53名無しさん@ピンキー:2008/06/17(火) 20:12:37 ID:OI6JZxbg
ようやくマトモな職人さんがきたwww
連投荒らしも去ったみたいだし、まったり盛り上がりましょう!!
54名無しさん@ピンキー:2008/06/17(火) 20:44:52 ID:8/TsSl/w
53は最近スレ間に出没している新手のスレ嵐です。
口調が同じなので何個か巡回スレがあったら見たこと有るかもしれません。
スレが和気藹々していたり盛り上がりそうだったりするとこう言う調子で水を差してきます…寂しいヤツです、スルーよろ。
55名無しさん@ピンキー:2008/06/18(水) 01:53:20 ID:NWV24A+N
>>52
GJ!!高橋作品ってラストに色々考えさせられる時があって、
それもまた癖になる

話変わるんだが、「学校怪談」に外伝魔実也が出てくる理由として
子供と奥さんほっぽって遊びまわってた罪滅ぼしだとか
後書きに書いてあったけど、それって狂四郎と雪絵みたいなもんか?

『久々に家に帰ったら
自分の子供に知らないおじさんと勘違いされて警戒される魔実也』

という毒電波を電波塔から受信した。
・・・俺には書けんので誰か頼んますorz
56名無しさん@ピンキー:2008/06/18(水) 02:14:50 ID:XKU/Azs4
スレの進行が早くてびっくりっつうかニヤニヤです。
しかもカメレオンと惑星LOVEとは。もう本当GJ!

>>55
流れ電波に当たってこっちまでビビビっときた! 危なっ!
57名無しさん@ピンキー:2008/06/18(水) 07:01:18 ID:cyDBrpr3
>>55
待ってくれ。妻だったのか、すると外伝魔実也氏は結婚してたのか!?
下宿の娘はてっきり愛人の一人だと思っていたわ
58名無しさん@ピンキー:2008/06/18(水) 09:30:07 ID:gQcFkE0L
え!マジで奥は誰なんだ?
59名無しさん@ピンキー:2008/06/18(水) 21:13:16 ID:lnD1i4Fg
魔実也のことだから認知のみかと思っていたんだが…
60名無しさん@ピンキー:2008/06/18(水) 21:47:10 ID:2I6iHWD3
同じく認知のみかと思ってた
でも「うるさい娘だ、誰に似たんだか・・・」と九鬼子に対する思い入れから、
他の女よりは思い入れがあったんじゃないかとは思ってる

というわけで下宿の娘との最後の逢瀬とかの話を烈しく読みたい
61名無しさん@ピンキー:2008/06/18(水) 23:27:53 ID:1H8dTDvy
いらん物議をかもした55です。
「学校怪談」の『ホテル・くだん』の後書きを見直したところ、
「とんでもない女たらしだし、子供の面倒見て家族で暮らすような
柄でもなし。」ほったらかして遊びまわってた罪ほろぼしに
子孫の様子を見に来てるんじゃないかってことだった。
だったら魔実也は一体何人(何十人)の子孫の面倒みてるんだと小一時間

とはいえ、女性関係に無責任な魔実也にしては
下宿の娘に思い入れがあるように感じた。義理堅い男だから
最低でも無銭宿泊世話介抱etcの恩義ぐらいは感じてるんじゃなかろうか
62名無しさん@ピンキー:2008/06/18(水) 23:45:00 ID:xwMmNMxL

, イlllllllllllllllllllllllllllllllllllllllllllllllllllllllllllllllllllllシ lllllllllllllllllllllllllllllllllllllllll 
´ イlllllllllllllllllllllllllllllllllllllllllllllllllllllllllllllllllllシ   !llllllllllllllllllllllllllllllllllllll 
イlllllllllllllllllllllllllllllllllll llllllllllllllllllllllllllllllシ,.r‐'"´llllllllllllllllllllll!!llllllllllll
ヾllllllllllllllllllllllllllllllllll llllllllllllllllllllllイlllシニr‐ニ二ヨゞlllllllllll〈.,r、ヾllllll
 ゙!!lllllllllllllllllllllllllllll lll llllllll lllllイllジ rニララ"´フ ヾlllllllllど l lllll
 ヽ、ヾllllllllllllll lllllll lll lllllll llll llシ  "`ヨr'"´     llllllllllllレ' ,イllll
llゝ、ヾミミョllllllllll llllllllll llllllll lll lシ            )lllllllllレ'lllllllll
lllllllll`ヾヾlllllllllll lllllllll lllllllllпr             ,イlllllllllllllllllllllll
llllllllll j ,イllllllllllllllミlllllllllllllllllllシ            ,イlllllll llllllllllllllll
llllllll( ( ヾ゙!lllllllllllllllllllllllllllllllllll[``          ,イlイllレ',イlllllllllllllll
ヾllllпR`゙`三ニニ三ニニミlllllп@ゝフ    ,タ' ,タ',イllllllllllllllllll
 ヾlllllllllllllllllllllllllllllllllllllllllпSllllll// '"   ,タ il!  lll lllllllllllllll
   ヾllllllllllllllllllllllllllllllllllllllllll! ゙//人    ll  ll   (l! llllllllllllll
      ヾ!lllllllllllllllllllllllllllllllп@,イllllЮ__,,,jlレп@   ll ,ゞllllllllll
       ゙ヾ!lllllllllllllllllllllllllllllllllllllllllllllllllllllllllllllllп@ /,ゞllllllllll
            ̄ ̄ ̄ヾ!lllllll!llllllllllllllllll!lllllllタV’V   llllllll
             ヾ!ヾпSlllllllllllll!タ   ! ヽ、 llllllll
                `` `゙` ヾl llllllj 、 l    〉jllllllll
                      llllllllll!i└ ! ,r'"´jllllllllll
63名無しさん@ピンキー:2008/06/19(木) 05:29:37 ID:hFMJOwp5
考えてみれば、ここまでの速度が異常だったんだよな…。
たった一日、職人さんが来てないだけで不安になるなんて、どうかしてるぜ…
ここは高橋スレだというのに…!

夢幻の少年探偵バージョンが読みたい。
あのやんちゃっぷりを見るに、わりと色々やらかしてると見た。
64名無しさん@ピンキー:2008/06/19(木) 08:48:00 ID:yaZ+oCCj
上三行がかなり余計。
65名無しさん@ピンキー:2008/06/20(金) 23:10:54 ID:/1Gu1d0p
あー、マンガ少年版もかなりそっち方面やんちゃっぽいな(笑)
冒険活劇は、奥手だ〜とさんざん言われてたけど。
66名無しさん@ピンキー:2008/06/23(月) 21:02:19 ID:reK/HOYB
保守
67名無しさん@ピンキー:2008/06/24(火) 09:27:51 ID:NjQVJi42
過疎?
てか元々どれくらいいたんだろう?
とりあえずノ
68名無しさん@ピンキー:2008/06/24(火) 10:31:19 ID:3GekYZcE


まーこんなもんだってw
69名無しさん@ピンキー:2008/06/24(火) 22:07:45 ID:7Q1HpkBy
70名無しさん@ピンキー:2008/06/25(水) 01:09:58 ID:YvNRnulk
|・ω・)ノ
71名無しさん@ピンキー:2008/06/25(水) 02:08:58 ID:5uhhdjGl
72名無しさん@ピンキー:2008/06/25(水) 07:04:07 ID:vVJjR35x
73名無しさん@ピンキー:2008/06/25(水) 18:29:59 ID:+QwfG5kj
のし
74注意書き ◆AO.z.DwhC. :2008/06/26(木) 02:16:47 ID:qXV4WHWG
外伝の夢幻紳士設定です。
下宿屋の娘→夢幻、女給→夢幻でエロは匂わせる程度です。
夢幻の日常を捏造してみました。
よろしければお付き合いください。タイトルは「月曜日」です。
75月曜日:2008/06/26(木) 02:17:22 ID:qXV4WHWG


――月曜日


「もうっ! いつまで寝てるのよ!」


下宿の二階に、若い娘の金切り声が響いた。
夢幻魔実也が定宿にしているこの下宿は、ほどほどに広く、ほどほどに綺麗で、
ほどほどに片付いている。
なにもかもがほどほどで、かつ宿代を払わなくてもかまわない、という理想的
な住処である。
理想的ではあるのだが、ごくときたま、布団に包まって安眠を貪る魔実也を叩きだす、
この娘の存在だけが玉に瑕だ。
しかしまあ、この存在でもって程よくつり合いが取れているのだろう。
世の中完璧なものなどありはしないのだから。
ぼんやりとそんな事を考えながら、眠気の覚めない顔で悠々と煙草を吸いだし
た魔実也を見て、娘は眉を吊り上げて叫んだ。
「布団干すから、どっかいっててちょうだい!」
「はいはい」
面倒そうに頷いた魔実也は、適当に衣服を見繕ってジャケットを引っ掛けた。
娘の声に急き立てられるようにして、咥え煙草のまま下宿を追い出された彼は、
どこにともなく歩き出した。

***

ぎりぎり下品でない程度に薄暗い店内は、これまたぎりぎり下品でない程度に
派手な色合いの内装をしている。
和洋折衷と言う言葉がぴたりとハマる、なんとも無秩序なカフェの中には、給
仕役の女給と客たちの華やかなざわめきに満ちていた。
女給たちは皆一様に着物にお仕着せの白いエプロンを羽織り、甲斐甲斐しく客
に勺をしている。
男と女の駆け引きめいた言葉遊びがそこかしこで繰り広げられる、大人の社交
場たるカフェは今日も盛況だった。
76月曜日:2008/06/26(木) 02:18:03 ID:qXV4WHWG

くすくすと哂い合う女給たちの赤い唇をみるともなしに眺めながら、魔実也は
深々と煙草の煙を吐き出した。
紫煙はゆるく立ち昇り、彼の白い顔立ちを覆うように広がっては薄くぼやけて
いく。
「センセ、今日は随分お早いこと」
「下宿から追い出されたんだ。どうにも、うるさいのがいてまいる」
うんざりしたように顔を顰めた魔実也に、女給は肩の辺りで切りそろえた黒髪
を揺らし、さらに可笑しそうに哂った。

隣に座る、この女給ともそろそろ長い。
いつだったか、どこかの屋敷に泊まり込んだときだったか、この女とあの下宿
屋の娘が鉢合わせして、それこそ蜂の巣をつついたような騒ぎになった事があっ
た。
ふと思い出して、魔実也はさらに眉間に皺を寄せた。

「センセの下宿って、あの初心そうな小娘のとこだろ? 可愛いじゃないか、
あの子はセンセに惚れてるのさ」
「それならそれで、いくらでもやりようはあるが」

下宿屋の娘の、生娘らしい、回りくどくも分り易い思慕の情に気付かない魔
実也ではなかったが、未だ手をつけてはいない。
そう告げると、女は面白そうに流し目を寄越した。長く黒い睫毛が、扇のよう
に瞼に影を作りあげる。
77月曜日:2008/06/26(木) 02:21:05 ID:qXV4WHWG

「悪い人だよ。あの娘はすっかり世話女房きどりだってのに」
「どうとでも。拒みはしないが、わざわざ誘いをかける気はしないな」
「アタシはどうだったのか、聞いときたいところだね」

魔実也の言葉に、女給は伏せた瞼を押し上げ、半眼で彼を睨みつけた。
自分から誘ってもいたような、この男に誘われたような。
気付けば男と女の関係になっていた自分たちだが、今の男の言い草では、まる
で自分だけがすがり付いているかのようにも聞える。

「さあ、どうだったかな」
「ま、いいさ。ともかく、悪い遊びは控えたらいい。センセ、女は怖いよ」
「それができれば苦労はしないさ」

ふ、と目元を緩ませた男の、なんとも言えない匂いたつような色気に、女給は
虚を突かれたように目を瞠った。
どうにもこうにも、人でなしな(まさしくその通りであるのだが、女には知る
由もない)この男に、すっかりと嵌りこんでいる自分が、あの初心そうな娘を
心配するなんて、お笑い草である。
自嘲するように笑って、女は魔実也の口元を珊瑚色の爪で優しくなぞった。
魔実也は女の白い指の感触を楽しむように、かすかに赤い舌をだしてそれ
を舐め上げる。

「この、人でなし」
「よく言われる」

くつりと喉を鳴らして女の言葉に答える魔実也に、女給さらに何やら言い募ろ
うとした、が。
魔実也が、ふいに煙草を揉み消し、女の肩を抱いた。
女の手を引き寄せ、その指に口付けると、小さく身震いした彼女の唇に、自分
のそれを重ねる。
柱の影に隠れるようにして、短い口づけを交わした二人の間には、ただ暗い闇
が落ちていた。



月曜日の教訓
――女の口は、塞いでおくにかぎる。
78終わり ◆AO.z.DwhC. :2008/06/26(木) 02:21:33 ID:qXV4WHWG
終わりです。お付き合いありがとうございました。
79名無しさん@ピンキー:2008/06/30(月) 05:54:36 ID:6vcZKhyi
投下キター(゚∀゚)!!
毎度クオリティ高いなぁ
80名無しさん@ピンキー:2008/06/30(月) 15:21:29 ID:uEy4TetS
カフェーの姉御キター!!
指舐めがエロくてどきどきした。

この人でなしっぷりがたまらん…!
81名無しさん@ピンキー:2008/06/30(月) 16:49:31 ID:+VQZA3eV
はいはい自演自演
82名無しさん@ピンキー:2008/06/30(月) 20:52:24 ID:XMaWUjBV
ふむ。
影が自らが褒め称えていたというわけか。
自らを褒め称えるとは無様この上ないが…
なに、健気なものじゃないか。己が本体を褒め称える影など。

少なくとも、勝手きわまりない僕の影よりは数段上等というものさ。
83名無しさん@ピンキー:2008/07/01(火) 15:32:23 ID:+x+ue2fU
職人さんの心が折れる音のするスレですね。

>>81だけでも相当だけど>>82の追い討ちコンボが悲惨すぎるww
84名無しさん@ピンキー:2008/07/01(火) 18:55:28 ID:YIPJ0N6a
>>82はいい切り返しだと思うがなぁ。原作的な意味で。

勝手極まりない影が女をたらしこむ話が読みたいです。
85名無しさん@ピンキー:2008/07/01(火) 22:11:19 ID:+x+ue2fU
いや、俺が言ってんのは根拠もない自演認定のあとに>>82みたいな
自演肯定レスなんか来たらどんな職人さんでも凹むだろって話。
86名無しさん@ピンキー:2008/07/01(火) 22:12:13 ID:zWMOz+1b
>>85
お前ちゃんと原作読め。
87名無しさん@ピンキー:2008/07/01(火) 22:17:09 ID:+x+ue2fU
読んでるってwww
その上で>>82には悪意しか感じなかった。
実際けっこう酷いこと書いてると思うぞ?
88名無しさん@ピンキー:2008/07/01(火) 22:18:17 ID:+x+ue2fU
ごめんsage忘れた。
89名無しさん@ピンキー:2008/07/01(火) 22:35:04 ID:zWMOz+1b
原作だと影と本体は別人格じゃないか。
「影=本体」じゃないんだぞ?
>>82がダンナの真似してるんなら、そういうことだろ?

(これで>>82書いた本人が「悪意あった」って言い出したら俺カコワルイw)
9082:2008/07/01(火) 22:50:51 ID:+x+ue2fU
悪意あった。

こうですかわかりません><
てのは冗談だけど、俺が神経質なだけかもしれないが悪意は感じたぞ。

実際、以前の常駐スレは
なんでもかんでも自演認定するアホ+自演だっていいじゃん!派の擁護に見せ掛けた叩き
のコンボで廃れていった。
続々と職人さんたちの心が折れていくのは見てて辛かった。

もうこの>>74-78書いた職人さんは戻ってこないとだろうが
他の職人さんがきたときもこんな調子じゃちっとアレだろうと思う。


最初のレスでは茶化したけどわりとマジレスだ。
91名無しさん@ピンキー:2008/07/02(水) 14:12:19 ID:UhbOlfrr
つか>>90が既に荒らしと化している件
92名無しさん@ピンキー:2008/07/02(水) 14:21:02 ID:IZl5pq/G
うは、高橋葉スレあったんだ。
「腸詰工場の少女」を小学生でうっかり読んだおかげで
ショックが数年続いた俺が通り過ぎますよ。
93名無しさん@ピンキー:2008/07/02(水) 16:09:02 ID:UIgRBtMp
小学生でその出会いは辛いな。
腸詰工場の少女は今だとR15ぐらい?
94名無しさん@ピンキー:2008/07/02(水) 16:24:33 ID:1OZUZh8J
中学の時に読んだクレイジーピエロのインパクトは凄かったなあ。
あの切断面はいまでもたまに思い出してしまう。

高橋作品ってグロいのになんか綺麗だからつい読んじゃうんだよな。
あの絵柄には妙な魔力がある。
95名無しさん@ピンキー:2008/07/02(水) 17:17:01 ID:UIgRBtMp
グロが下品じゃないんだよね。
かといって現実感に激しく欠けるというわけでもなく。
96名無しさん@ピンキー:2008/07/04(金) 23:56:49 ID:c1YjTB5j
「イ〜ッヒッヒッヒィ〜」とかセリフが書いてあるので
なんか安心してグロでも読める。
でも闇姫様はきつかった
97名無しさん@ピンキー:2008/07/06(日) 23:32:40 ID:T29W5cgo
そういえば、20年位前に角川文庫の乱歩物の表紙を
高橋氏が担当した事があったんだけど (ちなみに黒蜥蜴や幻人幻戯はおっぱい祭状態)
ttp://www.h7.dion.ne.jp/~henro/rannpo.htm

小畑氏が人間失格の表紙をやって売れてるらしいから
高橋版乱歩も復活して欲しいもんだ。
98名無しさん@ピンキー:2008/07/07(月) 12:32:09 ID:Wph3UvYG
ああ、いいですね。
私も話には聞いたことはあるけれど、ヨースケ乱歩シリーズは実物見たことがないんですよね。
古本屋で思い出したら探してはいますが。

小畑人間失格で出版業界が味を占めて、漫画家×文学の新装版が増えているという噂を聞いたので、
もしかしたらもしか…しないかも?
99名無しさん@ピンキー:2008/07/10(木) 22:56:59 ID:3jx4TieV
エロのようなエロでないような。
ミゾロギ×九鬼子
魔実也×九鬼子
ベタなかんじですが・・・


「こらぁぁあああっやめろオオオオ!ミゾロギいいっ!」

九鬼子の怒声が大地にとどろく。
荒野の大地、しかしその大地は奇妙にひねくれ曲がり、空には・・・空と呼べるのか、いつまでもゆがみ続ける空間や
大小の惑星がとめどもなく浮遊するこの奇妙な空間。
九鬼子はタンクトップとショーツのみの姿で、地面から離れて浮遊している。
浮かんでいるのも妙だが、九鬼子の両腕が大きく伸ばされ何も無い空間に縛り付けられるかのように動かず
さらに足も大の字に開かれて、同じように自由が利かなくなっているのも妙だった。
何も無い空間に、九鬼子は手と足を大きく開き、
そしてそれから逃れようともがいているのだ。
体をくねらせるが、腕も足もびくともしない。
「クッキィちゃ〜ん♪やっと僕のモノになってくれるんだねえ♪」
ミゾロギはその側に寄り添い、九鬼子の肢体を舐めるように見ている。


100名無しさん@ピンキー:2008/07/10(木) 22:57:56 ID:3jx4TieV
キレイだよ〜クッキィ〜やっぱり君は女神だァ〜」
「馬鹿野郎ッ!見るな!」
九鬼子の体は下着しか身に着けていない。
その日、仕事を終え帰宅し、疲れた体をいたわるべく風呂に入ろうと
衣服を脱ぎ捨て九鬼子の豊満な体が姿を現した途端
(まだショーツとブラ、タンクトップを着たままではあったのだが)
その両手がいきなり頭上に高々とあがり、ピクリとも動かなくなった。
また同じように両足も、石のように動かない。
驚く暇も無く、目の前の空間がゆがみ、暗い穴が開いたかと思うと中へと吸い込まれてしまった。
九鬼子が気付くと、動かない体はそのままに、目の前で天敵のミゾロギがニヤニヤと笑っていたのだ。

101名無しさん@ピンキー:2008/07/10(木) 22:58:28 ID:3jx4TieV
「待ってたよクッキィちゃん♪」
「待ってたよじゃねえっ!てめぇミゾロギ!またしょうこりもなく!」
九鬼子が結婚してからというもの、ミゾロギはその姿を現さなくなっていた。
安心した九鬼子はおそらくどこかでミゾロギがのたれ死んでいるのだろうと思っていた。
「うふふふふクッキィちゃん、君は僕がいなくなって油断したね?僕はそこを狙ったのさ。僕ちゃん頭イイ♪
あのトーヘンボクも出張してるらしいし、朝まで楽しもうねクッキイ〜♪」
確かに夫は出張に出ていた。この男は見張っていたのだ。
「くっ・・・なにが・・・僕ちゃんだ・・・」
必死に両手両足を動かす、しかし丁度手首足首が何かにくくりつけられているかのように動かない。
「くッそ〜」
「ウフフフフフ無理だよクッキィちゃん」
「その呼び方をやめろォ!」
「クッキィちゃん♪これなーんだ♪」
見るとそこには九鬼子そっくりの人形が棒に両手両足を括り付けられている。
102名無しさん@ピンキー:2008/07/10(木) 22:58:52 ID:3jx4TieV
「てめぇそれは!」
「ウフフフそうだよ。あの人形さ。(206話参照ね)僕だって考えたんだ。
人形の服ぬぎぬぎさせるよりも、自由を奪った方が楽勝じゃんってね」
面白そうにミゾロギが棒にくくりつけられた人形を左右に振ると、
目の前の九鬼子も同じように左右に揺れた。
「くっ・・てめ・・・」
九鬼子は顔を真っ赤にしてにらみ付ける。
しかし九鬼子のそんな表情を気にすることなく、ミゾロギは近寄っていく。
「クッキィは本当にキレイだなぁ〜ウフフフフフ」
笑いながらミゾロギは九鬼子の腹を指でなであげる。
そのままタンクトップの上を走り、九鬼子の大きな胸に近づく
「てめえええええ!!!ミゾロギいいいいいい!!!」
九鬼子が鬼の形相で怒鳴りつける。
おもわずミゾロギは手をひっこめると、九鬼子をまじまじと見つめた、
103名無しさん@ピンキー:2008/07/10(木) 23:00:21 ID:3jx4TieV
「本当にクッキィは・・・カワイイ声が出せないんだねえ」
「クッ。なにい?」
九鬼子を見ながら、つまらなそうにぼやく
「だってそうじゃないか。前に僕があのヤマギシとかいう男子高校生の体と魂を君と入れ替えて
君の体になったヤマギシを襲った時の声のカワイイこと。
『いやぁ〜!やめてぇ〜!誰か助けてえ〜!』
男の子ですらそうだよ?クッキィはそんな声は出せないの?」
「だっ出せないわけじゃ・・・じゃない!ふざけるなっ!」
「ん〜まぁいいや、魂が男の子に変ってても君を手篭めにしようとした僕だからね。」
「自慢になるかっ!さっさと離せえ!」
「声なんてものは・・・こうしちゃえばいいのさ!」
「モゴォッ!」
ミゾロギは素早く九鬼子にさるぐつわをかませる。
「これはこれでいい趣向じゃないか!ねえクッキィ!」
「んぐぐ!んんんん!!」
「怒った顔もカワイイよおlクッキィ!本当は僕の×××で塞いでもいいんだけど」
九鬼子の顔がみるみる怒りに燃え上がる
「・・・・・・さすがに危険そうだからね」
104名無しさん@ピンキー:2008/07/10(木) 23:00:52 ID:3jx4TieV
さて、といいながらミゾロギは九鬼子の体を撫で始めた。
九鬼子の肌はすべすべとしてミゾロギを楽しませる。
「ふふ・・とうとう僕ちゃんの勝ちだ・・・」
「んん〜!!んんんん!!」
抗議の声も声にならない。
タンクトップがたくし上げられ、ブラまでも同じようにずりあげられる。
「んん!んぐんんんん!!」
手から逃れようと体をくねらせても逃げ場が無い。
そうしているうちにミゾロギの手が九鬼子の胸を捕らえた。
「うわああああ・・・クッキィのおっぱいだあ〜・・・」
感動しきりなミゾロギは胸の外側からゆっくり撫で上げ、円い乳房をさすった。
「・・・・・・・!」
九鬼子は目をつぶって耐える。
女の体というものは男から与えられる最悪の所業にも最低限対応するように出来ている。
自分の体を守るためだ
九鬼子もそれを知っている。
心が煮えたぎっているが、体は反応しようとしている。
「気持ちよかったら素直に感じてイインダヨ?ほら・・・」
柔らかく優しく撫でていたミゾロギの手がとたんに九鬼子の乳首をとらえた。
「!!」
思わず体がびくんと跳ねる。
「ほらね〜?」
ニヤニヤと笑うミゾロギを、九鬼子は赤い顔をしながらも、グッとにらみつけた。
105名無しさん@ピンキー:2008/07/10(木) 23:01:31 ID:3jx4TieV
「素直じゃないなぁ。クッキィは〜」
そういいながらミゾロギは少し力を込めて九鬼子の乳房を揉み上げる。
柔らかで暖かな双丘はミゾロギの手にあわせて変形する
「まぁいいや、どうせドンドン気持ちよくなっていっちゃうんだから・・・」
乳房を揉み、時に乳首を指でこね回したりしつつ
ミゾロギは九鬼子の首筋から肩に口付けを落とす。
「んん!くふぅんんん・・・」
九鬼子の鼻から、耐え切れないように甘い吐息が漏れる。
耳に唇を這わせると九鬼子の背が反った。
「んん・・・!!」
「耳キモチいいねえ?背中はどうかな?クッキィは。」
首筋に舌を這わせつつ背筋へと手をまわし、撫で上げたり指で背筋をなぞると、九鬼子はイヤイヤと頭を振りながら抵抗する。
「ふっ・・・んんん〜!んん!んっ、やああっ!」
九鬼子の口からさるぐつわが外れてしまった。
しかし、九鬼子はむしろ今までうまく吸えなかった空気を存分に取り入れんとせんばかりに呼吸を続け
ミゾロギの愛撫にあわせて、声をもらした。
「ん、あんっ、ふっ・・・んん」
夢中になり始めてる!そう思ったミゾロギは九鬼子の胸にしゃぶりついた。
「ああ・・・っ!!」
得たりと九鬼子の体に手を回して抱きしめながら乳首をなめまわし、その感触を楽しんだ
「やあっ、ああっ、あっ!」
「はぁ、はぁ、クッキィちゃん・・・気持ちいい?夢中になっちゃうね・・・?」
「ん・・・夢中・・・?」
「そう、もう、夢中。」
「そうね・・・でも・・・」
「?!」
106名無しさん@ピンキー:2008/07/10(木) 23:02:16 ID:3jx4TieV

「夢中になっているのはお前だけだろう?」

「え、あれ?」
見るとミゾロギは九鬼子の人形に抱きついて、その胸にむしゃぶりついている。
しかもそれだけではない
「あれ?小さかった人形がこんな大き・・あれ?クッキィちゃん??」
「やっぱり、お前だけだったようだな」
「うわぁッ!」
ミゾロギの頭上に巨大な人間の顔が浮かんでいる
それは九鬼子と少し似ているが、意地悪く微笑んでいるのは間違いなく男だった
黒髪の向こうに冷たく妖しく光る目を持っている
「お、お前はクッキィの!」
「そう、素敵なお兄様=Aだ。」
「くっクッキィはどこだ!なんでこんな・・・」
ミゾロギの体がゆがみ、一つ目のゆがんだ化け物に変っていく、
「九鬼子は俺の側に居る。お前なんぞに、俺のかわいい九鬼子はさわらせん。」
見るとその手には、人形に仕込まれていたはずの九鬼子のタバコの吸殻が握られている
「くそっ」
ミゾロギが男に飛び掛っていこうとしたが、男がフッと息を吐くと、あえなく消えてしまった。

「俺に向かってくるとは100万年早い。」
107名無しさん@ピンキー:2008/07/10(木) 23:03:07 ID:3jx4TieV
ミゾロギが生み出した奇妙な大地に、夢幻魔実也はタバコをくゆらせながらたっていた。
すぐそばの岩に、九鬼子が横になって気を失っている。
タンクトップもブラもずり上がったままだった。
「・・・・・・育ったな、九鬼子。」
こんな脱がせ方じゃ女もきつかろうに・・・とひとりごちながらゆっくりと近づいて衣服を戻そうと手にかける。
その手を、九鬼子が握り締めた。

「・・・・・・遅いよ・・・」
「・・・・すまん・・・」
抗議する九鬼子の顔は朱に染まり、じっと魔実也の瞳を見つめる。
魔実也は衣服をさげようとすると、九鬼子は突然起き上がり、魔実也にすがりついた。
魔実也はしばらく動かなかったが、やがて九鬼子の頭をなではじめた
「大丈夫だ。」
「でも遅かった!」
扇情的な格好のまま九鬼子は魔実也を見つめあげた。
妖しく、色っぽいともいえる魔実也の瞳
冷たく、しかしどこか優しいまなざし。
見つめあった瞳が一瞬緊張する。
しかし次の瞬間魔実也の瞳は少し悪戯っぽくニヤリと笑う。
「・・・・・・悪かった・・・・俺の知らない九鬼子の姿に見とれてたんだ。」
「馬鹿・・・・・」
「男はたいてい馬鹿さ」
108名無しさん@ピンキー:2008/07/10(木) 23:03:31 ID:3jx4TieV
ふと、九鬼子はいつのまにか、自分自身が真っ黒な鳥の羽根の中に包まれている事に気がついた。
もうあのミゾロギの作った空間に居るのではなさそうだが
元の世界に戻ろうとしているのか、羽根に包まれて、いや、魔実也に抱きかかえられてどこかへ飛んでいるような心地だった。
体が密着している。
周りの空間がまとわりつくように動いているようで、九鬼子の感覚もくらくらとしていた。
タバコのにおい。
なにか心の中心が懐かしさに震えている感じもする。
体中が柔らかい羽毛に包まれているような感触に九鬼子は陶酔する。
自分が今いったいどこにいるのか。
どんな格好をしているのかもわからない。
ただゆっくりと・・・しかし眩暈がするようにあたりは変容し
その変容から守るように
暖かな黒い羽根につつまれている。
羽根に自分を埋もれさせ、体を預ける。
すがりつき、子供のように甘えている。
ヤニ臭い・・・・タバコのにおい・・・
109名無しさん@ピンキー:2008/07/10(木) 23:04:20 ID:3jx4TieV
鳥の羽根が
沢山の大きな羽根が体中に密着している
羽根の先が時折体をくすぐり、九鬼子の感覚をさらに甘い陶酔へひきこんでいった
まるで自分自身の知らない体の急所を目ざとく見つけては優しく刺激するように羽根がくすぐり、つつみこんでいく。
自分自身の息が荒くなっているのに気付いた九鬼子は、思わず羽根から離れようとするが
空間のゆがみのせいなのか、それとも自分自身が目を回しているのか、まったく力が入らない。
強い力で引き寄せられる。
開いた足の間にもいつの間にか羽根がしのびこみ、くすぐっていく。
体の熱がたかまる、ざわざわとした寒気のような震えと、皮膚を這う熱さにのけぞる。
声が出たろうか?
それすらもわからなかった。
110名無しさん@ピンキー:2008/07/10(木) 23:04:38 ID:3jx4TieV
ふと目を開けると、目の前に魔実也の顔があった。
魔実也の顔は愛しげに、しかしまたもいたずらっぽく、微笑んでいる。
羞恥と困惑に顔をそむけたいのだが、
魔法にかかったようにそれができなかった。
妖しげで・・・・美しい魔実也の顔
九鬼子は自分の中の熱が徐々に脳天に向かって昇りつめるていくのを感じた。
止められない。
いや、止めるどころか自分に何が起こっているのかも把握できない。
ただひたすらに体に灯った悦びに身を任せるしかなかった。
体中を這う羽根の柔らかさに体がしびれ
九鬼子は首をふって熱を逃がそうとするが
もうなにもかも手遅れなように、脳内が真っ白に輝き、背筋がのけぞり両手と両足に力がこもった。
111名無しさん@ピンキー:2008/07/10(木) 23:05:36 ID:3jx4TieV
「アッ・・・・ーーーーーーッッ・・・・・・・・!!」

その瞬間、「かわいい九鬼子」というささやきと共に
頭のてっぺんまで羽根におおいつくされ、
九鬼子は暖かな羽根の中で意識を失った。





「っっうわっ!!」
九鬼子はベッドの上ではねあがった。
布団もけとばしてベッド中央にすわりこむ。
はげしい鼓動とともに、自分自身の居場所を確認する。

自宅のベッドルーム。
そしてそのべッドの上で動揺している自分。
112名無しさん@ピンキー:2008/07/10(木) 23:06:43 ID:3jx4TieV
「え?あれ?」
再びあたりを見回すが、やはり何の変哲も無いいつもの部屋。
「?」
自分の姿を確認すると、ブラにショーツにタンクトップ・・・。
だがどこにも乱れた様子は無い。
すぐそばに脱ぎ散らかした衣服も散乱している。
帰宅して、そうだ、そのまま寝室にむかって服を脱ぐのももどかしくベッドにダイブして・・・
ということは・・・
「え・・・・?ゆ・・・夢・・・?」
だとすると
「う・・・・・・っっわあああああ〜〜〜ッッ!アタシったらなんつう夢をおおお〜〜〜!!」
真っ赤な顔をで頭を抱えて悶絶する。ベッドの上でゴロゴロころがり枕に向かって頭突きを繰り返す。
「欲求不満??私って欲求不満なのか??そ、そんなはずは・・・だってついこの間・・・・っていやあ〜〜〜んもう〜〜〜!!」
夫婦の営みを真剣に反芻している自分に絶叫しつつ布団をつかんでもぐりこむ。
「はああ〜〜・・・うう・・・なんでこんな夢・・・」
魔実也の顔をが脳裏に浮かぶ。
そしてあの感触。感覚。
「〜〜〜・・・・・・っっもう〜〜〜!」
布団に丸まって脳内にとどまるものを振り払おうと自分の夫の顔を思い浮かべる。
「・・・・・・早く帰ってこないかなあ・・・・・・」
枕元に置いている時計だけが静かに秒針を刻んでいた。
布団にじっとしがみついて、すでにもとの静けさを取り戻した部屋をながめる
「夢・・・・・・だよね・・・・・・」
つぶやき、そしてゆっくりと眠りの中におちていった。
113名無しさん@ピンキー:2008/07/10(木) 23:07:25 ID:3jx4TieV
「え〜〜〜〜ん!夢じゃないよクッキイ〜〜〜!!僕ちゃんもう少しだったのにい〜〜!!」
どこだかわからない、狭い狭い空間の中で、ただの九鬼子人形にしがみついてミゾロギは顔を歪ませて大泣きしている。
「ちくしょお〜〜!あんにゃろお〜!僕のクッキイラブラブ大作戦を邪魔しただけじゃなくて
クッキイにあんなイタズラまでしちゃうなんて羨まし・・・じゃなくて許せないいいい〜〜!」



黒衣の男はぽつり、とつぶやく
「かわいい九鬼子にイタズラなんてするものか。」
紫煙がゆらめいて、小さく微笑む。
「服を着させてやっただけさ。」




114名無しさん@ピンキー:2008/07/12(土) 00:17:33 ID:834M2ITZ
寝る前にいい物を読ませていただいた。
良い夢が見られそうだ。
というわけで夢で九鬼子に逢ってくるノシ
115名無しさん@ピンキー:2008/07/12(土) 02:30:39 ID:KqagEWZR
じゃあ俺は裸エプロンのミゾロギの夢を見る。
116名無しさん@ピンキー:2008/07/18(金) 03:18:38 ID:XxzBZOpN
「俺の知らない九鬼子の姿に見とれてたんだ」
「服を着させてやっただけさ」
おじいちゃん素敵すぎ…!

九段先生、ちゃんと棟方教授ともラブラブっぽくてなんか安心した。
117名無しさん@ピンキー:2008/07/20(日) 01:39:22 ID:140VqoNT
夢幻紳士がまた復活だな!
楽しみすぎる。エロパロも燃料補給になればいいなあ。
118名無しさん@ピンキー:2008/07/22(火) 18:19:29 ID:DxFS/vkY
>>117ホームページ見てきた(゚∀゚)!!
新作楽しみじゃ
119名無しさん@ピンキー:2008/07/27(日) 05:13:14 ID:wldLGSz9
すみません画像はどこですか
すみません画像はどこですか
すみませんすみません
120名無しさん@ピンキー:2008/08/02(土) 02:36:27 ID:yrrYop0t
猫婦人が最初はエロかったのに後半がおもろいオバサンになってたのが残念だ。
121名無しさん@ピンキー:2008/08/29(金) 21:35:05 ID:cTK/QDCH
新ネタ希望
122名無しさん@ピンキー:2008/08/30(土) 04:58:28 ID:PmGFyoLX
新作も新ネタも楽しみだ
123名無しさん@ピンキー:2008/09/20(土) 06:36:50 ID:NQ2BWPtl
このスレもだいぶ下がってきてどきどき…
大丈夫。まだ大丈夫。
新ネタ来たときが上げるときだ。
124名無しさん@ピンキー:2008/09/25(木) 02:11:13 ID:re2+G+2g
もののけ草紙単行本記念age
125名無しさん@ピンキー:2008/09/25(木) 08:20:57 ID:U1FsKE3Y
『アウトサイダーの夜』を読んでマジ泣きしたのは俺だけではないと思いたい。
誰かあの二人のその後の話を書いてくれませんか?
エロはいらないから…!
126名無しさん@ピンキー:2008/10/03(金) 01:40:46 ID:/hUIV7bZ
アウトサイダーの夜とは渋いな。
ホラーMの短編集は今入手困難ですよね。ふー…

とりあえず盛り上がっていることだし、もののけ草紙を期待してみます。
でも手の目は原作上でも脱ぎまくってるから、なんかかえってネタにしにくいな…
127名無しさん@ピンキー:2008/11/07(金) 23:42:20 ID:i1lX7veG
ほすほす。
128名無しさん@ピンキー:2008/11/12(水) 09:18:08 ID:xWyE7XEY
あがってなかった…
129名無しさん@ピンキー:2008/11/12(水) 21:24:52 ID:tQCqIRjs
ロリ手の目でエロいのキボンヌ
130名無しさん@ピンキー:2008/12/12(金) 00:09:31 ID:Czx7rKEG
ほしゅ。
131名無しさん@ピンキー:2008/12/26(金) 00:29:50 ID:mqFRVkGG
K−20(怪人20面相伝)が上映されてるんだから
昭和レトロブーム(といっても、「3丁目の夕日」的な30年代じゃなくって勿論昭和初期)が起きないものか?
132名無しさん@ピンキー:2008/12/26(金) 11:23:30 ID:xZ7kGcwZ
久々に上がってる。しかし保守。
大正〜昭和初期いいよね。たしかにもっと盛り上がって欲しい分野だ。
133名無しさん@ピンキー:2008/12/26(金) 21:55:21 ID:aaGhrZDz
コンビニので売ってた学校怪談を買って
読んだらうっかりハマってしまった。
立石さん話でも無いかと思ったけど
学校怪談で投下はまだないんだな。
134名無しさん@ピンキー:2009/01/04(日) 01:41:02 ID:Q8gDNptz
ほしゅ
135名無しさん@ピンキー:2009/01/04(日) 01:41:27 ID:Q8gDNptz
あげてなかったw
136名無しさん@ピンキー:2009/01/06(火) 01:04:39 ID:x7AQ0gkB
>>99ですが、>>125のカキコを見て書いてみました。
つたないくせに長くてしかも学校怪談とまぜました。嫌だったらスルーヨロ
しかもエロなし。エロまで発展せずw
137名無しさん@ピンキー:2009/01/06(火) 01:05:47 ID:x7AQ0gkB
プロローグ

俺はアウトサイダーだ。
俺は醜い。俺はのけ者だ。誰からも相手にされない。
憎い。俺は俺が憎い。誰にも愛されない俺自身が憎い。
そんな思いをさせる皆が憎い。誰も彼も、俺をはじけ者にしているのだ。
何もかも間違っていたのだ。
失敗だ。また失敗だ。成功できなかった。
俺はこの世からはじき出されたアウトサイダーなのだ。
俺は、俺は、俺は・・・・・・


今日も彼はどす黒い影を背負っている。
影を背負って、街を彷徨っている。
あの影は、どこかで拾ってきたものではない。
彼自身が生み出したものだ。
もしも拾ってきたものならば、元に戻す事も出来るだろう。
しかし、身の内から出てきた憎悪は、どこへもやる事は出来ない。
本人が気付かなければ、どうにもならな
「山岸先生〜〜〜〜!!」
「うおっ!」
138名無しさん@ピンキー:2009/01/06(火) 01:06:37 ID:x7AQ0gkB
女子生徒数人の、比喩でもなんでもない文字通りのアタックを受けて、山岸はよろめいた。
よろめく山岸の腕を抱え込み、まるで子供同士がじゃれあうかの様にまとわりつく。
「ちょ、こら。やめ、やめなさい。」
「山岸先生今帰り〜?!一緒に帰ろうー!!」
「そうだー!先生明日調理実習があるけど、先生にもあげようか??お菓子つくるの!」
「ねえ帰るより、これからカラオケ行こうよ〜!先生も一緒に!」
「ね、あの。こら。ちょっと。」
引きずられるようにして山岸は道路を歩く。
しかも女子生徒は山岸の腕と自分の体を密着させている。
「ね。お願い、離して〜っ!」
真っ赤になってる、可愛い〜〜〜!と、夕暮れの路地がそこだけ昼間のような大騒ぎ。
「先生は行くところあるから!ね!」
「えーっ!つまんないー!!」
「ほらほら、バスが来たよ?君たちあれに乗るんだろ??」
「え〜!あのバスでも帰れるけどー!いいじゃん別・・・」
山岸は腕を振りほどくと生徒らの前に立ちはだかり、生徒らの瞳をじっと見据えた。
「・・・・・・ね?帰るんだ。いい子だから。」
その途端、騒いでいた生徒らは魔法にでもかかったかのように一斉に沈黙し、ふらふらとバスへと乗り込んで行った。

バスが去るのを見届けつつ、山岸はつぶやいた。
「ごめんね。普段はこんな真似はしないんだけど、今日は特別だ。」

夕闇はいつのまにかビル街を飲み込んで、夜の帳を静かに下ろし始める。
「アウトサイダーの夜だからね・・・・・・。」
見上げる空には何かを見守るかのように月が鈍く光っていた。
139名無しさん@ピンキー:2009/01/06(火) 01:07:21 ID:x7AQ0gkB
昼の光はどこへ消えてしまったのだろうか
ふと気付くとアスファルトも、コンクリートの壁も、じっとりと闇をしみこませて、いつもの顔は見せてくれない。
こんな夜は、早めに家に帰る方がいい。
人気の無い路地を足早に歩く。自分の履くパンプスの音だけが響いている。
帰ろう。早く帰って、明るい部屋で休もう。電話をかけよう。暖かい所に行きたい。誰かとつながりたい。
そんな感覚が自分自身を飲み込んでいく。
こんな夜はあまり外にはいない方がいい。
足を速めようとした瞬間。心臓に衝撃が走る。
後ろを振り向く。
離れたところに、人影が見える。
人影がビルのはざまでコツリ、と物音を立てた。
動悸がはやまる。たいしたことない、たいしたことない、と念じながら、
先ほど感じた心臓への衝撃が体中を支配していくのを感じる
早く帰りたい。
お願い、早く帰らせて。
いつの間にか走っている。
息切れがする。どうしよう。
だって、さっきの人影がもうすぐ後ろに
140名無しさん@ピンキー:2009/01/06(火) 01:08:09 ID:x7AQ0gkB
「フタバ!!」
目の前に現れた大きく手を広げた人影におもわず飛び込む。
「!!山岸君!!」
「下がって!!」
「キャッ!」

山岸は双葉を押しのけると、最初から狙っていたかのように右手を突き出す。
そこには禍々しく光る刃物を持った男が、いままさに双葉に向かって凶器を向けようと
突進してきた所だった。男の顔面を山岸の手がふさぐ。

「ヒッ!ヤマギ・・・」
驚く双葉に目配せをして、静かにさせる。
じっと山岸が男をのぞきこむ。
男は刃物を持ったまま、ビデオの静止画面のように微動だにしない。
よく見るとまだ学生のようなその男の顔は痩せていて
落ち窪んで異様にぎらついた瞳が一点を見つめるように開かれている。
双葉にはわかっていた。今まさに山岸がその力を使って男に語りかけているのを。
141名無しさん@ピンキー:2009/01/06(火) 01:08:46 ID:x7AQ0gkB
・・・・・・君をずっと見てたよ。君には真っ黒い影がついてる。憎悪の塊だ。』

(死ね死ね死ね死ね消えろ消えろ消えろ消えろ憎い憎い憎い憎い邪魔だ邪魔だ邪魔だ)

『君は疎まれ拒否されはじかれ蹴飛ばされ隅に追いやられてきた』

(憎い憎い憎い憎い嫌いだ嫌いだ嫌いだ嫌いだ妬ましい妬ましい妬ましい妬ましい)

『ふーん・・・でも・・・』

(俺は怪物だ怪物だ怪物だ怪物だ醜い醜い醜い醜い失敗だ失敗だ失敗だ失敗だ死にたい死にたい死にたい死にたい)

『君には・・・救いがあるようだ』

(失敗だ失敗だ失敗だ失敗だダメだダメだダメだダメだダメだ憎い憎い憎い憎い)

パシッ!

山岸が両手を男の目前で叩くと、男は弛緩して凶器をぶらりと下げ、のろのろと歩き出した。
「山岸君・・・・・!」
双葉が駆け寄る。山岸はその男が凶器を自分の服の中にしまいこみ、闇に消えるのを見ている。
「いいんだ。失敗だ、なんていってるけど・・・ちゃんと彼は成功だよ。」
「え?」
「まあ、ちょっと痛い目を見ると思うけどね・・・。」

男はゆっくりと、ビルの闇の中に消えて行った。
142名無しさん@ピンキー:2009/01/06(火) 01:09:11 ID:x7AQ0gkB
ああ・・・怖かった・・・ありがとう山岸君・・・。」
「ううん。もう平気だよ。立石さん。」
「早く家に帰って山岸君に電話しようと思ってたの。そしたら・・・。」
「今日みたいな夜は早く帰るに限るさ。」
「ん・・・そうね。・・・・・・そういえば、帰るといえば。」
「ん?」
「あたしね、時々夕方に、商店街とかで帰る山岸君見かけるのよ。」
「え。そうなの?声を掛けてくれれば・・・」
「・・・・・・可愛い生徒さんたちと和気藹々と帰ってるのに?」
「え゛???」
「山岸君って本当に人気あるわよね。九段先生は男女わけへだてなかったけど・・・」
「い、いや、違うよ!僕だって別に」
「山岸君は女 子 高 だもんねえ・・・」
「ひっ!」
キラリと光る双葉の眼鏡が山岸には刃物より怖ろしく見えた。
143名無しさん@ピンキー:2009/01/06(火) 01:09:49 ID:x7AQ0gkB
・1・

(良かった 助かって良かった。 あなたが生きてて本当に良かった。)
(ああ・・・そうなのか。 俺生きてて良かったのか・・・・・・。)

あのアウトサイダーの夜、俺は自分が生きていていい、という事を実感した。
いや、実感させてもらえた。
そっと自分の顔に触れる。
あの痩せていた顔は今では少しずつふっくらとしてきている。
毎日栄養のあるものを食べているからだ。
部屋を見回す。
散らかり放題だった部屋が今では花まで飾られている。
床に寝転ぶ。掃除をされた部屋は爽快だ。
ゴミひとつない。
ほんの少し前までは、毎晩、いや、昼といわず夜といわず、この部屋で自分を呪い続けてきた。
自分の顔を蔑み、今まで何も成し遂げられなかった人生をを悔やみ、生き方に失望し、他人を妬んでいた。
あの頃と比べると、今の自分の状態がまるで嘘のようだった。
なぜなら・・・


ぼんやりと天井を見つめていると、玄関の扉がガチャと開いた。
「あ、何してるの?入っちゃっていい??」
彼女だ。
俺を救ってくれた彼女。
俺に生きていて良かったと言ってくれた張本人。
そして、この夢のような現実をくれた張本人。
「ん・・・いいよ・・・」
のろのろと起き出す俺。
つい先日退院してきたばかりで、体がなまっている。
そんな俺を助けるべく、彼女は足しげく通ってくる。
いや、今に始まった事ではない
入院している最中も日を空けずに見舞いに来てくれた。
枕元で話をしたり、果物をむいたり、一緒にテレビを見たりした。
そしていつもいつも、俺に向かって「ありがとう」と言った。
彼女だけではない、彼女の両親もやってきて、彼女の命を(結果的に)救った俺に何度も礼を言った。
一度治療費その他にとお金を渡されそうになったが、俺は断った。
だって、俺はそんな事をしてもらえるほどの人間じゃないからだ。
彼女達は暖かい光の国の住人。
俺はアウトサイダーに足を突っ込んだ人間だ。
だから俺は断ったんだ。
ご両親は不満そうだった。
そして、彼女は、そんな俺をじっと見つめていた。
144名無しさん@ピンキー:2009/01/06(火) 01:10:26 ID:x7AQ0gkB
彼女は俺の部屋で、家事をやってくれる。
学校の帰りだとか、休みの日だとかにやってきて、嬉しそうに洗濯物をしたり(下着はいいって断ったけど)
ゆっくりゆっくりテーブルを拭いたり、時にはご飯まで作ってくれる。
でもそうして親切にしてくれればしてくれる程、なんだかとても心が苦しくなってくる。
だって
俺は
俺は本当は
「どうしたの?」
彼女が明るいまなざしで俺を見ていた。
「いや、あの。」
「?」
「あのさ、俺」
「なあに?」
「・・・・・・。」


いつもこうだ。言葉が出てこない。なんと切り出せばいいんだろう。
彼女はありがたい。
ありがたいけど、俺は彼女の善意を受け取れる人間じゃない。
彼女にしたって、責任感が強いから、そして俺を普通の人間だと思っているから、ここまでやってくれているんだ。
こんな男の部屋にあがりこむなんてご両親も許さないだろうし、彼女の為にもならないんだ。
それに、俺は君の事を最初は
・・・殺してしまおうなんて思っていたのに
俺はそんな事を考えてしまっていた人間なんだ。
君が来てくれると嬉しいけれど、君が帰った後、俺はいつも鏡に向かって自問してしまう。
「いいのか?お前みたいな人間がこんなに夢のような毎日を送って。だってお前は騙しているんだ。お前は酷い奴だ。
彼女の優しさにつけこんでいるんだろう?なんて奴だ。汚い奴だ。」
そう、わかってる。俺はこんなに優しくしてもらえる人間じゃないんだ。
だから
だからもう彼女を解放しなくては。
俺みたいな人間と一緒にいちゃいけないんだ。
ハッキリ言おう。断ろう。
言わなきゃと思ってた。
なんとか言わなきゃ・・・
145名無しさん@ピンキー:2009/01/06(火) 01:10:54 ID:x7AQ0gkB
もう、その、もういいよ。ここまでしてくれなくても。」
やっと言葉が出た。
「え?いいのよ。遠慮しないで。」
「いや、でもさ。別にそんな。」
「だって・・・アナタが私のことを助けてくれなかったら、私死んでたのよ?私は、お礼がしたいの。」
「でも、その、いいんだよもう、ここまでやってくれたんだから。」
彼女の顔が曇る。
ドキドキしてきた。ああ、どう思ってるんだろう?
どうしよう?
「・・・・・迷惑だった・・・・・・?」
「いや、そうじゃないんだ。でも、」
「じゃあ・・・!」
「おっ、俺には必要ないんだ!!」

大きな声が出た。自分でも驚いた。
彼女が吃驚して俺を見ている。
あ・・・・・・彼女の瞳・・・・
「な、泣くなよ!そ、その、俺には必要ないんだ!!だから、だからもういいって・・・・・!!」
体中から汗が噴出している。
彼女の瞳からは一筋、二筋と涙がこぼれおちる。
どうしていいのかわからない。
なんでわかってくれないんだ。
俺みたいな人間にはそんな優しさはいらないんだって
だって、だって、だって・・・・・!
146名無しさん@ピンキー:2009/01/06(火) 01:11:23 ID:x7AQ0gkB
・2・

「・・・・・・ごめんなさい。私・・・本当に・・・迷惑なんてかけるつもりじゃなかったんだけど・・・。」
こんなにいい子を泣かせてしまうなんて。ああ、どうしたらいいんだ。
この後どうしたらいいのか全く解らなくてうなだれて頭を抱えていると、彼女が鼻声のまま、ポツポツと話しかけてきた。
「・・・あたし、あたし、あなたの為になりたかったの。私を助けてくれた人に、私はこれ位しか出来ないし・・・」
「君は・・・・悪くないよ。有り難いとおもってるんだ・・・。でも・・・。」
彼女は座り込んだまま、スカートをぎゅっと握り締めている。
震えているみたいだ。ああ。
「ごめん・・・でももう・・・帰っていいよ。俺はもう大丈夫だから・・・。」
「・・・・・・ごめんなさい・・・。」
謝ってばかりだ。
気まずい雰囲気だ・・・。
早く帰ってくれないかな・・・。
そうしたら僕も君も、こんな苦しい状況から解放されるのに・・・
「でも、あの・・・・・。これだけは言わせて。」
彼女がキッとこちらを見た。涙と紅潮した頬が俺の心に飛び込んでくる。
「私、私、本当に感謝してるの。貴方が私の命をたすけてくれて・・・。」
「あ、あれは、その、何度も言うけど、偶然だよ。助けようとして助けたわけじゃ・・・。」
「でも、私を救ってくれたのは確かだわ。 私みたいな人間でも、生きていこうって思えたんだもの・・・。」
「え?」

私みたいな人間??
俺がしょっちゅう口にしていた言葉だ。驚いて彼女を眺めていると、すこしうつむいて彼女は語りだした。
147名無しさん@ピンキー:2009/01/06(火) 01:11:54 ID:x7AQ0gkB
・・・・・・私・・・・自分に自信なくて・・・それに、なんていうのかな、
殆ど毎日、何もかも上手くいかない、って感じがしてて・・・。
ごめんね、突然こんな事言い出して・・・でも私、あの時・・・本当にまいっていたの。」

え?え?
なんだって?

「・・・うちの家って、外側からは普通の家族に見えるでしょうけど・・・。
両親はずっといがみあってるし、お互いに自分自身のことしか興味ないの。
外面だけはいいけれど、家の中に入れば憎しみしかないわ。
顔をあわせれば欠点ばっかりあげつらって・・・。
あの人たちは自分の夢を私にただおしつけるだけ。
・・・・・・この間の事件の時だって、私自身の無事なんてちっとも喜んでなかった。
ぼんやり歩いてた私が悪い。もし何かあったら世間になんと言われるか。
・・・・・・それに、あなたがお金を受け取らなかった事を、散財せずに済んだって喜んでたのよ・・・。」
「そ。そんな!まさか!優しそうな人だったじゃないか!」
「あなたは知らないのよ。あの人達の事。」
彼女はそこで、何か遠くを見るような目つきで、少し笑った。
俺は口をポカンと開けて聞くしかなかった。
「誰も信用できなくて、学校でもうまくいかなくて・・・ずっとのけ者だった・・・」
そして、笑うような顔のまま、涙がボロボロと零れ落ち始めた。
「だから、私はもう、もうずっと、死んじゃいたいと思ってたの・・・」
148名無しさん@ピンキー:2009/01/06(火) 01:13:24 ID:x7AQ0gkB
泣く彼女を見ながら、俺は頭を殴られた気分で居た。
私みたいな人間?上手くいかない?死にたい?
激しい憎しみ。絶望、それは、俺がずっと抱えていたもののはずだ。
「あの夜・・・私は家に帰っていて・・・でも帰りたくなくて、いつ死んだらいいんだろう。どうやって死のう。
なんて思っていたの。そしたら、何か感じて、後ろを振り向いたら貴方がいて、その後ろからトラックが・・・。」
彼女の顔も、手も涙で濡れていた。
「トラックが来たあの瞬間、とても怖かった・・・。体中が恐怖で動かなかった。
あなたに助けられて、トラックが走り去ったら、私、自分が助かった事にホッとしてた。
正直言って、さっきまで死にたいって思ってたのが、一瞬でどこかに吹き飛んでしまってた。」
俺はあの夜の彼女を思い出していた。
驚いて・・・助かった後、彼女は俺に向かって紅潮した顔でお礼を言っていた。

「あなたがすぐに走り去ってしまったから、ちゃんとお礼を言おうと思って後を追ったわ。
追いながら、私気付いたの。『さっきまで私死にたがってたはずだわ。』って。
でも今では『助かって良かった。』って思ってる。その事にとても驚いたの。
私は今、生きていたいって心の底から感じてるんだって実感したの。
あなたを探し続けながら、死にたい気持ちは間違いだわって思ったわ。
だって私は生きていて嬉しいってあの瞬間ハッキリ感じたもの。
だったら、私、この感覚の方を大切にしたい。周りがどんな状態だって、私が生きていたいって思ってるなら、
そっちを完全に優先した方がいいに決まってるって!
そんな事を思いながら、貴方を探していたら・・・・・・。」
149名無しさん@ピンキー:2009/01/06(火) 01:13:42 ID:x7AQ0gkB
俺が倒れていたのか。
まさか、彼女がそんな事を考えていたなんて。そんな状態だったなんて。
知らなかった。
幸せに暮らしている女の子だとばかり思っていた。

彼女は一つ、大きく息をついて、そして微笑んで見せた。
「あなたが生きていてくれて良かった。そして、私を助けてくれてありがとう。
本当にこれが言いたかったの。・・・・・・でも、甘えちゃってた。ごめんなさい・・・。」
俺が口を開こうとするより先に、彼女はすっくと立ち上がり
ペコリと礼をして、玄関に向かって行った。
「それじゃ・・・」
彼女は靴を履きながら、冷蔵庫にタッパーに入った煮物がある事、タッパーは返さなくてもいい事
洗濯物を干したままにしてある・・・そんな事を話した。
バッグを肩にかけて、去り際にまた「ありがとう。」を口にした。
150名無しさん@ピンキー:2009/01/06(火) 01:14:13 ID:x7AQ0gkB
・3・

俺はといえば、「ああ」とか「うん」とかいいながら、玄関の側に所在無げに立ってるだけだった。
なんだが、体中がビリビリしているような。胸の辺りが重かった。
彼女は行ってしまう。
当たり前だ、俺が出て行けって言ったんだから。
なんだ、後悔してるのか?後悔するくらいならそんな事言わなきゃ良かった?
いや、違う。俺は彼女の側には居ちゃいけない。
アウトサイダーなんだ。
でも、彼女もまた、自分はのけ者だといっていた。
あれ?じゃあ?
考えがまとまらない。どうしたらいいんだろう?
ああ、いつもこうだ。また同じだ。
昔から何も変らない。また俺はダメだったんだ。
俺はまた昔に戻るのか?また後悔しつづけるのか?
折角あのアウトサイダーの夜から抜けたと思ったのに
馬鹿いうな。許されるもんか。人を殺そうと思ったのに。
俺はアウトサイダーなん・・・・・

「ありがとう。」
「えっ?あ、ああ・・・いやその・・・」
「じゃ・・・・・・。」

ゆっくりと扉が開いて、彼女は日が暮れた外へと出た。
夕闇の中で彼女は会釈をして、
去って行った。
151名無しさん@ピンキー:2009/01/06(火) 01:14:46 ID:x7AQ0gkB
なんだろう。心臓がドキドキしている。
俺って酷いことしてしまったんじゃ?
心苦しいからって、彼女をのけ者にするみたいに追い出して・・・
それに・・・
俺は、彼女みたいにありがとうって。言えていたんだろうか?
何度か口にはしたけれど、本当に彼女に伝えたろうか?
断るにしてもあんな言い方するんじゃなくて、ちゃんと伝えるべきなんじゃ?
俺が本当はどんな人間か、彼女の感謝を受ける立場に無い事を。
そして俺の方こそちゃんと、感謝を伝えるべきなんじゃ??
あの時「生きていてくれて良かった」って言ってくれた事が、どんなに嬉しかったか。
彼女は俺に、ちゃんと話してくれた。
ああ、でももう、彼女は街の中に溶け込んでいっている。
ここから先はもう俺には触れられない世界なんだ
彼女は元通りの世界の住人に・・・・・
元通り?彼女も?
152名無しさん@ピンキー:2009/01/06(火) 01:15:06 ID:x7AQ0gkB
街の暗闇はまるで彼女を覆うように広まっている。
こんなに街って暗かったろうか?
昼間はあんなに明るかったのに、なんでなんだ?
心臓がドキドキする。そうだ、あの夜。あの夜もこんな風にドキドキしていた。
俺は夜の支配者になって、全てを自由に出来ると思ったあの時も、
アレは興奮していたからなのか。それともこの夜のせいなのか
まさか、今日もあの夜と同じ、あの時の俺みたいな人間の為の夜なんだろうか???
月は輝いているのに、なんだかちっとも明るくない。
俺の腹の傷が痛んだ。
そうだ。あいつ。
あの犯人だって、捕まっていないんだ。

俺は思わず駆け出していた。
153名無しさん@ピンキー:2009/01/06(火) 01:15:33 ID:x7AQ0gkB
走りながらも、闇はべたべたと張り付いてくるみたいだった。
夜ってこうだったろうか?
俺はいままで、こんな夜の中を彼女を帰らせていたのか?
いや、今日は違う。今日の夜はいつもと違う。
今日はアウトサイダーの夜なんだ。
彼女が微笑んで帰るとき、俺が、俺がほんの少しの本音で「ありがとう。」と話していた間、
夜はこんなに重みを持って迫ってなんかこなかった。
そうだ、俺は本当は、もっと、もっと彼女に「ありがとう」って言いたかった。
そりゃ本音は、もっと一緒にいたかったけれど
俺には自信がなかった。全てを話す勇気も。
そうだ、せめてお別れを言うのなら、全てを話してしまおう。
そしてこんな夜に彼女を一人にしちゃいけない。
それがせめてもの俺からの恩返しだ。
彼女に全てを話して謝ろう。そしてちゃんとお礼をいおう。
彼女は暗い高架の真下にいた。
あんな所にいちゃいけない!
154名無しさん@ピンキー:2009/01/06(火) 01:15:57 ID:x7AQ0gkB
・4・

「きゃあっ!!」

後ろからの足音に振り向いた彼女の手を、俺はグッとつかんだ。

「あ、ああ・・・びっくりした・・・」
彼女の顔が驚いているけれど、俺もまた彼女の涙が乾いていなかった事に驚いた。
「あ、あの!」
「は、はい。」
「あっ・・・・あのお・・・っっ」
つ・・・続かない。走ってきたし、なんだか頭がクラクラして、言葉が出ない。
息継ぎだけで精一杯の俺に、彼女は狼狽しつつ背中をさすってくれた。
「ど・・・どうしたの?ちょ・・・ちょっと・・・」
「はーっはーっ・・・だ・・・だめだ。かっ・・・肩で息してて・・・言葉が・・・。
こ・・・んなに走ったの久しぶり・・・すぎ・・・・ちょ、ちょっと・・・まって・・・・はーっ」
俺はヘナヘナと座りこみながらまだ息を切らしている。
「だ、大丈夫?ほら、あそこ、もう少し行くとファミレスがあるわよ。そこで休みましょう。」
「ご、ごめ・・・」
なんてこった。
俺は格好悪く彼女に支えてもらいながら進んだ。
高架の隅で、何か動いたような気もしたが
もうそれどころではなかった。
155名無しさん@ピンキー:2009/01/06(火) 01:17:13 ID:x7AQ0gkB
ファミレスに入って、席に着いた。とりあえず水を飲み干していると、彼女がコーヒーを二つ注文した。
周りの客も俺がハアハア言いながらへたり込んでいるのを何事かと見ていた。
か、格好悪い。
俺たちの後に入ってきた男が、俺のすぐ後ろに座った。
ああ、これから大切な話をしなきゃいけないのに。聞こえちゃうだろうか。

しばらくすると、店員がコーヒーを二つ持ってきた。
砂糖を入れて、ミルクを足して・・・
ずっと沈黙が続いていた。俺は周りの客が俺たちの話しに聞き耳を立てているんじゃないかと思って
周りが少しずつ騒がしくなるまで待っていた。
彼女は黙って俺を見ていた。
ああ、ドキドキしてきた。
でも、いわなくちゃ。
外を見ると、闇が完全に街を覆っている。
こんな夜は明るい所に居た方がいい。
ここは明るい。アウトサイダーの夜とは関係が無い。
だから、今ココでいわなくちゃ。
「あの・・・」
「はい。」
「さっきはごめん・・・怒鳴ったりして。」
彼女は少しポカンとしていた。そして、マグカップを見ながら「ううん。」と呟いた。
「怒鳴るつもりじゃなかったんだ。ただ、その。君が色々とやってくれるのはありがたいんだけど」
「こっちこそ、ごめんね。気を使わせちゃって。いくらなんでも毎日のようにやってくるなんておかしいよね。」
「ちちちちち違う違う!」
え?と彼女は持ちかけたカップをテーブルに戻した。
「そうじゃ、そうじゃないんだ。本当に嬉しかったんだ。君が色々作ってくれるのも。洗濯してくれたり
花まで買ってきてくれるのも。」
言いながら自分の顔がどんな顔をしているのか気になった。
真っ赤なんだろうか。変だろうな。
「・・・・・・ただ、その。俺はそんな好意を受けていい人間じゃないんだ。本当は・・・。」
俺は少し小声になって話し始めた。
156名無しさん@ピンキー:2009/01/06(火) 01:18:12 ID:x7AQ0gkB
「あの夜・・・。」
「え?」
「あの、君を助けた夜。俺が何をしに街に出てたと思う?」
「え?・・・・それは、コンビニに行くためとか話してなかった?」
あ、そうか、そんな事を警察とかに話したんだっけ。
「違うんだ。俺は・・・・」
俺はおもわずテーブルに身を乗り出した。
そしてさらに小声で
「俺は・・・誰かを殺そうと思ってたんだ。」
「・・・・・・え・・・・・・。」
「信じられない?でも確かにそうなんだ。誰かを殺してやろうって思って、ナイフを持って街に出たんだ。」
「そんな。冗談でしょ?」
「冗談なんかじゃない。誰でもいい。殺したかったんだ。」
困惑している。当たり前だよな。
「でも、そんな。・・・でも、なんで・・・?」
彼女は俺の話についてこようとしていた。
ありがたい。俺の話を嘘だと決め付けないでいてくれる。
「俺は・・・完全にアウトサイダーだった。君には、両親もいない。一人暮らしで学校もほとんどいってない。っていったけど」
「ええ。」
「でもそれだけじゃない。俺はずっと、ずっと疎まれて生きてきたんだ。」
「・・・・・・。」
「君が綺麗にしてくれたあの部屋。最初は見れたもんじゃなかったろう?
俺はあの部屋の片隅で、毎日毎日、何もかも、俺の周りの全てを憎悪しながら生きていた。」
あの時の重たいモノが今も俺に覆いかぶさっている気がして、俺は頭を抱えてうつむいた。
157名無しさん@ピンキー:2009/01/06(火) 01:19:19 ID:x7AQ0gkB
俺は・・・ずっと人から疎まれてきた。誰からも拒否されてきた。
馬鹿にされ、蹴飛ばされ、俺はずっとそんな俺を憎んでいたんだ。
自分自身も大嫌いだったし、俺にそう思わせる社会も憎んだ。
俺は完全にアウトサイダーだった。人の形をした怪物だと思ってた。」
それからしばらくの間、彼女は俺の半生をただ黙って聞いていてくれた。
俺自身も、周りのことなんてほとんど気にしなくなっていた。
なぜなら、涙も出てきて、頭も体もどんどん熱を帯びていたからだ。
「俺は・・・俺は生きてちゃいけない怪物だったんだ。だから本当の怪物になって、世間をおそれさせてやると思った。
俺が世間を憎む。世間だって俺を憎む。そうすれば・・・。」
「そうすれば?」
「世間は俺を認めてくれる・・・・・・。」

知らない間に、テーブルの上に涙がこぼれていた。
顔が上げられない。
ああ、格好悪い。でももう止まらない。
「俺は死んでもいい人間だから、だから俺も誰かを傷つけてやろうと思ってた。
でも・・・・ははは。でもあの日・・・・。」
トラックが後ろからやってきて、俺はおもわず彼女を抱えて飛びのいたのだ。
「ハ・・・ははは。笑えるよな。だから、偶然なんだよ・・・。ほ・・・本当に。う・・・君を・・・おれ・・・」
何かが俺の中を駆け巡っている。
ずっと俺の中で飼っていた何かが、俺自身がそいつに注意を向けて、外に出そうとしているから
今まで隠れていたそいつが暴れだし、頭をガンガンと鳴らし、涙と嗚咽になって、外へ飛び出しているようだった。
「ごめ・・・ごめん・・・・!ごめんなさい・・・・!!おれ、俺は・・・君を・・・う・・・あの夜に・・・。」
この先どうしたらいいのか全くわからなかった。
店員が水を換えに来たので、その間だけ息を凝らした。
変に思われてるだろうな・・・でも・・・まあいいや。俺に必要なのは彼女に伝える事だから。
「ゆ、許してもらおうとは思わない・・・俺は君の善意を・・・受け取れる人間じゃないんだ。僕は感謝される人間じゃないんだよ・・・。」
158名無しさん@ピンキー:2009/01/06(火) 01:20:51 ID:x7AQ0gkB
「でも・・・でも、信じられない・・・何も凶器なんて持っていなかったじゃない!・・・そんな・・・。」
「・・・持っていた。ナイフを。凄くよく切れるやつ・・・。
でも君を抱えて飛んだ時にどこかへ無くしちゃって・・・はは・・・信じられないよね。でも・・・本当だよ・・・。」
「そんな・・・ううん・・・やっぱり信じられないよ・・・。だって・・・助けてくれたのは事実だもの・・・」
しばらくの間、何かを考えるように沈黙していたが
ふと彼女も少し身を乗り出して、そして俺に向かって力強く告げた。

「そりゃあ、あの時貴方は、もしかしたら私を殺そうと思っていたかもしれないけど、
そうだとしても、トラックがやってきた時に貴方だって別の選択をしたんだわ!
私が死にたい気持ちから、生きていたいって気持ちに変ったように!
だから・・・そうよ、貴方は結局誰も殺さなかったわ。だから・・・」
彼女の声につられて俺も顔を上げた。
彼女は、不思議な表情をしていた。困っているような、でも力強い顔をしていた。
意志のある瞳から、涙が幾筋か頬に伝っていた。
俺の話を聞いて・・・泣いてくれてるのか・・・?
「誰も殺さなかった・・・。」
「そうよ、そうでしょ?誰も殺してなんか無いわ。むしろ助けて生かしてくれた。
あなたには不本意だったかもしれないけれど、でも結局真実はそうだわ。
だからお願い・・・もうそんな、自分を責めたりは・・・しないで。」
159名無しさん@ピンキー:2009/01/06(火) 01:23:02 ID:x7AQ0gkB
・5・

息を整えてから、涙を拭いた。
そして彼女に向き合った。
彼女の瞳が俺とぶつかる。
もう一度深呼吸をした。
「本当に・・・ごめん!でも、ありがとう。」
「ありがとう・・・?」
「あ・・・えと・・結果的には君をだましていたんだけど、俺も、その、やっぱり嬉しかった。
君が言ってくれたじゃないか。「生きていてくれて本当によかった」って。
俺は死んでいい人間だって思ってたから、そういってもらえた瞬間に、なんだか胸の辺りが軽くなったんだ。
そんなこと言ってもらえるなんて思いもしなかった。
だから、嬉しかったんだ・・・ありがとう。」
彼女は俺を見つめると、手元にあったスプーンを持って、コーヒーを混ぜ始めた。
店内に流れる曲だけが、しばらくの間俺と彼女の隙間を生めていた。
160名無しさん@ピンキー:2009/01/06(火) 01:29:24 ID:x7AQ0gkB
「おかしいね・・・。」
「え?」
「奇遇っていうのかな。」
彼女が少し微笑んでいた。
「だってつまり・・・殺したかった貴方と・・・死にたかった私があの夜に出会ってたのね。
そして、あなたは私を生き延びさせて、私は貴方に殺させなかった・・・。」
「・・・・・・そうだね・・・。」
「それで・・・貴方は、本当は私を殺そうとしてたから、私の恩返しはいらない、って・・・事?」
「ん・・・そうだね。」
「わかった・・・・・・。」
コツコツ。とカップの底をつついている音が聞こえる。
「君が・・・君がさっき自分の事を話してくれたじゃないか。俺はそれを聞いて驚いた。
だって、俺は君の事、本当に幸せそうな女の子だと思ってたから・・・。」
「それは私も同じだわ。私も貴方がそんなに苦しんでいた人だったなんて、知らなかったもの。」
彼女は背もたれに寄りかかると、ひとつ息をついた。
「お互い様よね・・・私たち勝手にお互いの事想像してたんだわ。」
「・・・・・・ちなみに・・・君は僕の事どう思ってたの・・・?」
「ん・・・大変な境遇にあるみたいだけど・・・でも一人で生きている凄い人・・・かな。」
「うわ・・・本当に?」
「本当よ!しかも突然現れて私を助けてくれたんだもの。名前も言わずに去っちゃうし。
お金も受け取らない。凄い人だわ。って思った。」
ムズムズする。本当に、俺も彼女もお互いの事を勝手に誤解してたのか。
「でも・・・。」
「でも?」
「確かに部屋は汚かったわ。」
「ブッ・・・ご、ごめん!」
飲もうとしたコーヒーを少しこぼした。
あっ大変、と彼女もおしぼりでテーブルを拭く。
彼女と目が合うと、お互い自然と笑いがこみ上げてきた。
161名無しさん@ピンキー:2009/01/06(火) 01:29:51 ID:x7AQ0gkB
背もたれにもたれて、笑っていると、腹の傷がいたんだ。
「アイテテテ・・・」
「だ、大丈夫?」
大丈夫、大丈夫、といいつつ、俺の目に外の景色が飛び込んできた。
月がぼんやりと輝いていて、星も見える。
まさかこんな事になるなんて思いもしなかった。
俺が他人と笑いあうなんて。
でも・・・
「あいつ・・・。」
「え?」
「俺を刺したあいつ。」
「え、ええ。まだ・・・捕まってないのよね。」
「あいつも・・・俺と同じだった。」
「え?」
「あいつの目・・俺と同じアウトサイダーの目だった。
世の中をうらんで、あいつも俺と同じだった・・・。」
「・・・・・・。」
「あいつも、きっと辛い事ばかりなんだろうな。それに・・・そんな自分を恨んで、そしてきっと、誤解してるんだ。
周りが敵ばかりだと思って、どんどん憎しみだけがのしかかってくるんだ。
俺にはわかるよ。俺も同じだったから。毎日毎日堂々めぐりの悪循環。何もかも、部屋の空気でさえも
俺を苛んで押しつぶそうとするみたいに感じてた。」
「・・・あたしにもなんとなく解る・・・。誰も味方が居なくって、自分が生まれてきた事を恨んでいたわ。
誰も守ってくれない。皆敵なんだ、って思ってた。」
「アイツも言ってたよ 『ざまあみろ。俺は怪物なんだ。みんなみんな俺の敵なんだ』・・・って。」
「・・・・・・結局3人で・・・似たもの同士だったのね。私たち。」
162名無しさん@ピンキー:2009/01/06(火) 01:30:45 ID:x7AQ0gkB
「俺はあいつのナイフが刺さって地面に倒れている間、アイツの事を許そうと思ったんだ。
俺も辛かったから、他人事だと思えなくて、刺されたのが俺で良かった、とも思った。
こういうと、おかしいって思われるだろうけど、あいつが憎しみでこの街をさまよっているなら、
俺がもう一度刺されてもいいや、って気もするんだ。」
「そんな・・・!」
「はは、そりゃあんな痛い思いはもう嫌だけど・・・誰か他の人があいつの憎しみを受けるより、
この俺が受けた方がきっと受け止められるな。なんて思っちゃうんだ。
だから俺だったらいいな。とか思っちゃうんだ。」
「やめて・・・。嫌だよそんなの・・・。折角助かったのに!」
「あ、ご、ごめん!」
少し涙目になっている彼女を見て、あわてて謝った。

「でもさ、あいつも・・・あいつも救われるといいな。」
涙をふきながら、彼女もうなずいていた。
ふと気付くと、店内にいたお客も随分減っていた。
真後ろの男もゴソゴソと動いて財布を出し、レジへと向かって行く。
残り少なくなったコーヒーを飲んだ。
こんなに美味いコーヒーは初めてだと思った。
163名無しさん@ピンキー:2009/01/06(火) 01:31:30 ID:x7AQ0gkB

二人は気付いていなかったが、その男性客は清算を終えると、
店のドアの前にたたずんだまま、二人を眺めていた。
その客もまだ若く、痩せていて落ち窪んだ目をしていた。
男はしばらく二人を見つめて、
やがて悲しそうな顔をしたと思うと
二人に向かって少し頭を下げ、ドアを開け出て行った。
「・・・なんなの?あの人。」
レジ係の店員がいぶかしげにその客を見送った。
164名無しさん@ピンキー:2009/01/06(火) 01:32:18 ID:x7AQ0gkB
・6・

「ア・・・やばい!もうこんな時間だよ!さすがにまずいよ、帰らなきゃご両親が・・・。」
俺は時計をみて飛び上がった。
「・・・・・・。」
彼女の顔がくもる。やっぱり家には帰りたくないらしい。
でも、帰らないわけにはいかない。
「俺、駅まで送るよ。」
「ん・・・うん・・・。」
「・・・・・・あの、あのさ、ご両親と一緒に居たくないのかもしれないけれど、
でも・・・ちゃんと両親がいるんなら、一緒にいれるときには一緒に居た方がいいと思うんだ。」
「うん・・・・・・。」
元気なく立ち上がる。
レジをすませて、駅まで歩いた。
怖ろしい夜だったはずだが、もう外の気配なんてどうでもよくなっていた。
ただ・・・、このまま駅でお別れすれば・・・本当にお別れになるんだ。
なんだか彼女との距離が縮まった感じがして、嬉しかったのに
でも、もうこなくていい、と言った手前言い直すことなんてできないし・・・
そんな事が頭の中をぐるぐるとまわって、ほとんど話す事なんて出来なかった。
本当のことは伝えた。
彼女との誤解も解けて、
・・・・・・・
できれば
本当はもっと一緒にいたいけど・・・

こういう時、なんていったらいいんだ???
165名無しさん@ピンキー:2009/01/06(火) 01:32:51 ID:x7AQ0gkB
駅に着いた。着いてしまった。
殆ど人はいなくて、彼女が切符を買うのを眺めながら俺はもじもじと動き回るしかなかった。
どうしよう?
いやしかし。
でもやっぱり
どうすれば??
いや、ここは・・・
おかしな言葉の断片だけが次々と俺の頭を駆け巡り、心臓がまたドキドキとなりだした。
のどが渇いてきて、つばだけをやたら飲み込んでいた。
自分が先に言った「もう来なくていい」を撤回するのに適当で説得力がある言葉を探し回ったけれども
結局はなにも思い浮かばない。
あ、彼女がこっちに戻ってきた。
あ、列車ももうすぐきちゃうのか。
うわ、ど、
あせりが最高潮になったその時

彼女が突然俺の顔を真正面からのぞきこんだ。
166名無しさん@ピンキー:2009/01/06(火) 01:33:27 ID:x7AQ0gkB
「あの・・その、私と会うのって、やっぱり迷惑かしら・・・。」
「え?」
えらく高くてマヌケな声が出た。
「もう、あなたが『どんな人間だったか』はわかったわ。だから、過去のせいで自分自身を
貶めるような事はもう言わないで欲しいの。」
「う・・・うん?」
「だから、その、私は別にあなたの昔は、別にかまわないから、その・・・」
彼女の顔がみるみる真っ赤になっていく。
そして
「・・・・・・ただ、仲良くしたいだけなんだけど、・・・・・・だめ??」
(エーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッ)
ななななな仲良くしたい?俺と?
いいの?だって俺は
だって俺は君のこ・・・・
いや、えと。
そうじゃない。
俺は今は
そうだ。
俺の今の気持ちは・・・・
「あ・・・・その・・・・もしそうなら・・・嬉しい・・・・」

うわあ、言ってしまった。
あれ、そうだ。俺の言いたかった事だ。

「俺はまた・・・会ってもらえるんなら・・・嬉しい・・・。」
167名無しさん@ピンキー:2009/01/06(火) 01:34:18 ID:x7AQ0gkB
「私も、嬉しい!」
彼女がパッと微笑む。
やばい。可愛い。言葉が出ない。
そうだ。この気持ちを大切にしよう。嬉しいって気持ちのほうを選ぼう。
彼女が言ってた「周りがどんなであろうと自分の生きたい気持ちの方を選ぶ」って。
ここから電車に乗って、彼女はまた苦しみの生活に戻っていくんだ。
俺と一緒にいて、嬉しいって言ってくれている。
彼女を守ってやりたい。彼女の生きていく力を応援してやりたい。
そのために・・・俺も彼女を守る事のできるように、生きていく事を選ぼう。

改札を通ろうとする彼女にもう一度ありがとうと言いたくて、手を握・・・・ることはできなかった。
168名無しさん@ピンキー:2009/01/06(火) 01:35:01 ID:x7AQ0gkB
エピローグ

駅前の派出所には、警官が2名ほど勤務していた。
そこへ一人の男が現れて、突然衣服の中から刃物を取り出した。
驚いた警官が取り押さえようとすると
男は少し抵抗したが、警官が腕をねじりあげ押さえつけると、「痛い、痛い、ハハハ・・・」と突然笑いだした。
しかしやがて大声で泣き出し、無抵抗になった。
その後も「失敗」とか「成功」等と呟いていたが、しばらくすると大人しくなった。
やがて男は自分が通り魔事件の犯人である事を告げ、凶器の刃物も没収された。
取調べで男はこう話したという。
169名無しさん@ピンキー:2009/01/06(火) 01:37:05 ID:x7AQ0gkB
「ずっとなにもかも恨んで生きてきた。自分を受け入れてくれるものなど何も無いと思っていた。
先日の犯行では男性を殺す事が出来なかったため、
それすらも出来ないのか、また『失敗』なのかと思った。
犯行後しばらく身を潜めていたが、あの夜はもうどうしてもたまらなくなり、
夕方近くより獲物をさがして徘徊していた。
男性で失敗したので女性を狙おうと思っていた。

一度暗い路地で女性に狙いを定めていたが、男性が側にいたのであきらめた。
気付くと高架橋の側に立っていた。
ぼんやりと暗闇に潜んでいると、女子学生が泣きながら近づいてきた。狙おうかと思ったが、
すぐに後ろから男がやってきたので再び断念した。
しかしその男性に見覚えがあったため、後をつけてレストランへ入店して
すぐ側に座って様子をうかがっていた。
すぐにその男が自分が先日加害した男性だと気付いたが、彼らの話を聞いているうちに、
もう何もかもどうでもよくなった。
何故なら、被害男性の人生があまりに自分自身とよく似ていたのだ。
さらにその被害男性が自分の事を認め、受け入れると話していたからだ。
もう一度刺されても良いとまで話していた。
170名無しさん@ピンキー:2009/01/06(火) 01:38:19 ID:x7AQ0gkB
自分自身はアウトサイダーで、他人から疎んじられる怪物だと思っていたのに
知らない間に他人の人生を結果的には幸せにしていたのだと思うと
あまりの数奇な縁に犯行の計画はどうでもよくなってしまった。
殺すことが出来なくて自分は『失敗』した。と思っていたのに実はそれが『成功』だった。
これ以上アウトサイダーでいる人生を、逃げ続け、自分と周りを憎む人生を選びたくない。
そう思って自首をしたのだ。
被害者の男性には大変申し訳ないことをしたと思っている。
そして俺も、いつか救われたい。と思っている。」

男の証言を二人が知るのは、後の事であった。
171名無しさん@ピンキー:2009/01/06(火) 01:42:39 ID:x7AQ0gkB
別のエピローグ


「ねえ双葉、もう機嫌直してよ」
「知らないわよ。山岸君は女子高生と仲良くしてればいいじゃない。」
(・・・・・・とか何とかいってちゃっかり僕のアパートには来るくせに(笑))
「なあに?何か言った?」
「別に〜。ほら、もう部屋に着くから、中に入って暖かいお茶でも・・・。」
「あら?アレ何かしら?」
「え?」
見ると山岸の部屋のドアノブにビニール袋が掛かっている。
「?なんだろう。」
二人で中を見ると、そこには見るからに手作りのクッキーが・・・・・・
しかも「おいしく食べてネ(はぁと)愛を込めて(ハート乱れ飛び)」のメモ付。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」
「ななななななんじゃこりゃ??」
「・・・・・・・・・クッキーね。おいしそうだわ。手 作 り ね。」
「ちょちょちょ、双葉、これは違うよ、」
「誰からかしら〜?こんな嬉しい事してくれる人がいるんだ〜?」
「違うよオ!そそ、そうだ、これはほら、調理実習!調理実習でお菓子つくるって生徒が言ってたよ!」
「調理実習?」
「そう!そう!(大きくうなずきながら)違いないよ!僕にもくれるって言って・・・」
その時、二人の通ってきた通路を跳ね飛んできた影が一つ。
「やっほお〜!ヤマギシい〜!元気にしてた〜〜??!」
飛んできたのは神宮寺八千華。大人になって露出にも磨きのかかった衣服で山岸に抱きつく。
「ややややや八千華ーーーー!!!」
172名無しさん@ピンキー:2009/01/06(火) 01:43:37 ID:x7AQ0gkB
「そうだよ〜ん♪ねえ山岸!クッキーわかったあ?八千華ちゃんが焼いたんだぞお!
折角山岸と 二 人 っ き り で食べようと思ったのに、山岸帰ってくるの遅いんだモン。
ドアノブにかけて帰ろうとしてたの。でも下の方で山岸が帰ってくるの見えたから〜♪
走ってきちゃった!ねー山岸早く部屋に入ろうよオ、そして一緒にクッキー・・・・ってあら?双葉あんたいたの?」
山岸は凍りつく。山岸だけでなく通路も明かりも街路樹も
何もかもが凍りついたように見えた。
「・・・・・・・・・・へェ〜っ・・・調理実習・・・ねえ〜。」
何よりも冷たい双葉の眼鏡が光る。
「ち、ちが、違うよ。本当に生徒が・・・。」
「え〜?何?双葉何いってんの?」
「山岸君はこれは生徒さんからの差し入れだって言ってたのよ。」
「何いってんのアタシ以外なんて考えられないでしょお!」
「いや八千華、お前が作ったっていう方が考えられな・・・」
「山岸君」
「ハイッ」
「アタシ帰るわね(はぁと)」
「ええ〜ッちょっと待って・・・」
「いいじゃん山岸〜♪私と一緒にクッキー食べよう〜♪」
「こら八千華離れろよ、くっつくなっ・・・」
「わ〜♪照れてる可愛い〜♪」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「双葉あ〜〜〜ッ!!」

闇の中に声がこだまする。
しかしもう、あの妖しい夜ではなかった。
アウトサイダーの夜は、見守り続けている月の光を受け入れて、
ビル街をつつみこみ、優しく更けていった。

山岸にとっては、優しい夜ではなかったけれど・・・・。
173名無しさん@ピンキー:2009/01/06(火) 01:43:55 ID:x7AQ0gkB
以上。おそまつでした。
174名無しさん@ピンキー:2009/01/07(水) 19:06:45 ID:u3hPxARX
>>173
GJ!
感動したよ
なんか頑張ろうって気持ちになれた
175125:2009/01/09(金) 21:28:37 ID:blqUlDWh
>>173
やべぇ涙と鼻水が止まらない。
まさか読めるとは思わず、とんでもなく素晴らしい作品、ありがとうございました!
ファミレスの一連が特に感動しました。
主人公のヘタレ具合も実にイイ!
文章の隅から隅までセンスが溢れてて大好きです!
GJでした…!

176名無しさん@ピンキー:2009/01/24(土) 10:27:42 ID:xyOBV8yi
良スレ保守
177名無しさん@ピンキー:2009/02/05(木) 00:25:51 ID:zI8pbuuf
保守
178名無しさん@ピンキー:2009/02/12(木) 14:11:00 ID:c1gLKwS5
>>173
GJGJ!!
こっちまで励まされるすげーいいSSでした。
生きてて良かった!

気早いが、職人様方の神SSを埋もれさせんためにも
そろそろ保管庫作ろうと思ってるんだが・・・どうだろうか。
なにか要望や意見があったら聞かせてくれ
179名無しさん@ピンキー:2009/02/18(水) 01:16:12 ID:HBlqfMD2
保管庫作ってくれると有難い!
特に要望とかは無いが・・・
ありがとう>>178
180178:2009/02/19(木) 22:17:20 ID:F1zbug4r
賛同ありがとう!SSはこのスレ住人の宝だと思ってる。
エロパロ保管庫の体裁は、定番の2パターンのうちどちらかで考えてます

@アダルト可の鯖を借りて保管庫を作成
→言い出しっぺな以上、保管庫を長期的に管理できる環境にはある。
 が、管理人が不慮の事態で冥王星に迷い込んだ場合、更新が止まる

A@wikiで保管庫を作成
→もしも手伝い人が現れた場合、更新停止が回避される可能性は高い。
 が、本来@wikiはアダルトコンテンツ禁止だ\(^o^)/

スレ住人の反応を見て、3月上旬〜中旬頃には作成に着手する予定です。
ご意見お待ちしてます
181名無しさん@ピンキー:2009/02/20(金) 12:07:12 ID:ArxiLW1q
保管庫! それはすばらしい!

アダルト可で長期利用可のサーバーのが安心かな…。
複数人での管理、っての自体にも不安はあるし。
もし178さんに何かあったら保管庫が迷子になるけど、SSや職人同様に、
保管庫の管理人もまたこのスレの宝。なので可能な限りの支援はさせてもらいます!
182名無しさん@ピンキー:2009/02/20(金) 21:43:16 ID:nwtOIMf+
99ですー
皆様感想ありがとうございます。
とても嬉しいです!
178さん、保管庫ありがとうございます。
自分も@がよいと思います。
ご苦労かけますが、よろしくお願いします。
183178:2009/02/27(金) 23:06:33 ID:KZMoMKD0
中間報告。

>>181,>>182
ご意見有難うございます!参考になりました。胸まで一杯になりました。
この一週間で結論出すのは早いかもしれないけど、
ひとまずサーバーを借りる方向で進めようと思います。

言う事なしなのは有料鯖ですが、少々無理なので無料鯖で探しました。すまないorz
『アダルト可・広告が少ない・比較的サーバーが安定している・他の保管庫さんも使っている』点から

@FC2のアダルトコンテンツ
ARibbonNetwork

のどちらかにするつもりでいます。
@はFC2へのリンク以外ほぼ広告無しでスッキリ見やすく、
更新の少ない保管庫さんでも続けていられるようなので、
今のところ@のサーバーを借りようかと思っています。
他にお勧めなどありましたら是非ご指南お願いします。
184181:2009/03/02(月) 09:29:59 ID:hXGZxmSo
FC2の通常サーバーは使用したことがありますが、よかったですよ。
デザインもすっきりしてるし、いざというときの引継ぎも楽なので。

お手数おかけします。頑張って!
185178:2009/03/04(水) 23:51:40 ID:uCFD85i2
>>181
FC2を借りることにしました。助言助かります、頑張ります!
保管庫は先月からチョコチョコと作っていたので、
今週末にはアップロードできそうです。
186181:2009/03/05(木) 20:33:07 ID:iIe/Bfds
乙です!
期待してます。
187178:2009/03/07(土) 00:00:30 ID:HKIvs0z+
保管庫できました⊃
ttp://yousukemugen.x.fc2.com/

PC用になります。
保管庫作りながら読み返す神々の作品が支えでした。
職人様、本当にありがとうございます・・・!

それと誠に勝手ながら夢幻魔実也のなりきり板の過去ログも載せました。
埋まったままにするには惜しい面白さだったので、
未読の方はよろしければ是非に。
188名無しさん@ピンキー:2009/03/12(木) 03:05:19 ID:8YrUHUgd
保管庫おつです!
なりきり板のははじめて読む!GJ!
189名無しさん@ピンキー:2009/03/19(木) 15:59:59 ID:3ftsRh8d
>>187 管理人様
綺麗なサイトで吃驚しました。
本当にお疲れ様です〜!

……魔実也氏が女体化したら、猫おばさん……。(ボソリ)
190名無しさん@ピンキー:2009/03/24(火) 14:12:40 ID:dbCA0ubs
遅くなりましたが乙です! なりきり板まで…!

このご恩はいつか作品投下で還元します。
191名無しさん@ピンキー
保守!