腹黒女が純真な男に惚れてしまうSS

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1名無しさん@ピンキー
信じられるのは自分だ
2名無しさん@ピンキー:2008/05/25(日) 02:54:16 ID:lS8qXGBD
スレタイ見てぱっと思いついたシチュが
「表は優しくて人気者、裏は人間不信でひねくれ者の女教師が
教え子の内気な男子高校生にやきもきしながら、とうとう惚れてしまう」という
捻じ曲がった学園モノ。

で2gets
3名無しさん@ピンキー:2008/05/25(日) 03:03:20 ID:nwrZfIWn
財産目当てで取り入ろうとして返り討ちとか定番だな
4名無しさん@ピンキー:2008/05/25(日) 03:13:21 ID:8nVVXk3y
あの女から寝取ってやる!と男に接近するが、演技をする内にいつしか本気に…
5名無しさん@ピンキー:2008/05/25(日) 03:58:56 ID:WjUaAqQx
私の名は神道麗奈。
かの神道財閥の令嬢にして学園一の知力と運動神経を持つ才女にして、他を圧倒する完璧な美貌まで兼ね備えた、神が気紛れに生み出したとしか思えない、至高の存在…
あぁ…自分で自分が恨めしい…
午前八時、学園前、私はいつもの様にリムジンから颯爽と現われた。
「おい、見ろよ…」
「朝からついてる〜」
「あぁ…いつ見ても美しい…」
通学中の愚民供が足を止め、私に対する尊敬のまなざしと称賛の言葉をかける。
私が歩き出すと、まるでモーセが海を割るが如く、愚民供が学園までの道程を開ける。
「し、神道先輩おはようございます!」
まぁ!なんてこと…恐れ多くも愚民が私に話しかけるなんて…
「ええ。ごきげんよう」
しかし、慈悲深い私は愚民に与えるには勿体ないぐらいの言葉をくれてやる。
「せ、先輩が…ぐはぁ!!」
愚民は下品な声を上げて、倒れこんでしまった。
あぁ…美しいとは罪ね…
存在そのものが宇宙が生み出した神秘のような私に欠点や悩みなど存在しない。
つい、この前まで…
「おはよ!神道さん!」
こいつが現われるまでは。



スレタイでちょっと、妄想しますた
6名無しさん@ピンキー:2008/05/25(日) 04:01:03 ID:WjUaAqQx
改行ミスった
7名無しさん@ピンキー:2008/05/25(日) 04:16:08 ID:lS8qXGBD
美しいほど、腹の黒さは黒く見える。
もっとやれー!
8名無しさん@ピンキー:2008/05/25(日) 04:57:07 ID:lS8qXGBD
>>2をベースに即死回避代わりにこんなん書いた。
9より子先生と太田くん:2008/05/25(日) 04:57:46 ID:lS8qXGBD
あー、やだやだ。
今日も、どうでもいい朝がやってくる。
どうしてわたしって、教師をやっているんだろう。
ホントは、この仕事ってどうかと思うの。世間も何も知らない若造たちの前に立って
「ここはこの表現が適切ですね」とかって、ホントどうでもいいの。
例えば「斉藤くんは、もっと漢字を上手く使えたらよくなるよ」なんて言っているけど、
斉藤さ、アンタはバカだよって言ってやりたいんだよ。ホントはね。

でも、わたしは教師。
何となく大学で教職課程を取って、何となく教育実習。
成れの果てには、中学教師。成り行きとは言え教壇に立つ義務がある。
この子たちに国語を教える義務がある。
義務ってなんだ?って言いたいけど、お金も欲しいし地位も欲しいし。
はあ、太陽ってどうしてわたしをムカつかせるんだろう。

学校に向かう生徒たち。その中に混じってわたしは、学校へ同じように向かう。
「より子先生、おはようございまーす」
わたしの教え子たちが、初夏の風を切り手を振りながら通り抜ける。
わたしも同じようににっこり笑って、その笑顔に答える。
(朝からはしゃぐなよ)
はあ、頭が痛い。
10より子先生と太田くん:2008/05/25(日) 04:58:08 ID:lS8qXGBD
「あの、先生。昨日の宿題…持ってきました…」
気の弱そうな男子が、朝食代わりのパンをほおばるわたしの元にやってくる。
「ん…」
もごもごするわたしに、どうして話しかける。だからあんたは友達いないんだよ、太田くん。
パンを牛乳で流し込み、太田のノートをパラパラ捲る。けっしてきれいではない文字が並ぶ。
この宿題、太田だけ提出していなかったんだが、わたしだったらトンズラして提出はしない。
なのに真面目に提出してきた太田。何も言ってないのに、泣きそうな顔をしている。

ざっと見てひいき目でも、おおよそ中学生の文字とは思わない太田の文字。
「うん、よくまとめられているね。太田くんもどんどん伸びると思うよ」
んなわけないだろ。こんなヤツ、もう一度小学生からやり直せ。
って言いたいのは我慢して、ポンと太田にノートを返した。
太田は体も小さいし、気も小さい。わたしが同級生だったら、ぜったい苛めているタイプの子。
おまけに成績も芳しくない。こんなおまけは欲しくも無いので捨ててしまいたい。
お陰でわたしのクラスは学年で平均点も低く、学年主任のサルもわたしのことを睨みつけているのだ。
「三川先生。今度の期末考査はお願いしますよ。先生の考査って言っても過言じゃありませんからね」
ちくしょう。サルがわたしにふらっと圧力をかけてくる。
「お任せください。中間考査よりもご期待ください」
太田が邪魔なんだよなあ。太田が
11より子先生と太田くん:2008/05/25(日) 04:58:28 ID:lS8qXGBD
わたしの担任するクラスは、どちらかと言うとごく普通のクラス。
平均的に騒がしく、平均的に男女仲はよい。しかし、太田は違う。
さっきの太田だ。彼は誰とでも仲良くなるタイプではない。
聞く所によると、けっこうなお坊ちゃんで友達は自分ちの飼い犬ぐらいらしい。納得。

「さて、期末考査の範囲を発表しまーす」
生徒たちは一気に顔面蒼白になり、数字の恐怖を思い出す。
エヘヘ、おもしろい。一気に夏に向けてお気楽気分の生徒たちが、恐怖に慄く姿は何度見ても面白い。
わたしが教師になって、良かったと思える唯一の瞬間だ。
「みんな頑張れば出来る子ですから、いい点とって夏休みを迎えましょうね」
そうなのだ。いい点とって欲しいのだ。さもなければ、わたしの夏が薄ら寒い物になってしまう。
ねちねちとサルのお説教が襲ってくる。頼むから隣の組には勝って欲しい。

そんな期待を裏切ってくれそうな太田が、昼休みにわたしの元に再びやって来た。
「先生…分からない所が…」
きっと、聞ける友達が居ないのだろう。やれやれと思いながら太田の質問に答える。
「あっ…そうか。なるほど…」
はあ、どうしてこんなことが分からなかったのかい?
わたしの授業を思いっきり否定するような子だ。太田をすこしからかってやろうと、わたしの方から質問してみる。

「太田くんって、よく質問してくるよね…」
太田の顔が真っ赤になる。リンゴのように真っ赤だ。
そんなリンゴはウサギが跳ねるようにわたしの元から逃げていった。
12より子先生と太田くん:2008/05/25(日) 04:59:14 ID:lS8qXGBD
「より子先生って、好きな人いるんですかあ?」
ホームルーム終わりのだらだらした時間に委員長が、わたしに話しかけてきた。
「わー!聞きたーい!」
「より子先生って、どんなタイプが好きなんすか?」
いつも間にか、クラスの女子どもが集まってくる。
言いだしっぺの委員長は、ショートカットのメガネっ子。
明るくて誰とでも仲良くなれる、わたしの一番嫌いなタイプの子だ。
生徒たちの前では明るく振舞うわたしに、興味を持つなと言うのは
箸が転がってもケラケラ笑うお年頃の子には、酷なことなんだろう。

「ハイハイ、早くお家に帰りなさい」
「かっわいい!!より子先生が照れてる!!」
「ち、ちがうよ!ほら、委員長もこの後、委員会があるんでしょ?」
「へへへ。もう少し時間があるから、より子先生と一緒にいたいなって」
この子たちは、子犬のようにわたしにまとわりついてくる。

「先生の好きなタイプを聞いてから、お家に帰りまーす!」
他の子たちも調子に乗って、くだらない話題に乗っかってくる。
「例えばさあ!太田とか?」
うっ、その名前を出すか。確かに太田はお坊ちゃんらしいので、玉の輿とかいいかもしれない。
しかし、太田本人となるとお話は別だ。それほど、わたしはアホではないぞ。
さらにおせっかいな委員長は、ほって置いて欲しいのにわたしを晒し者にしようとする。
「わたし、より子先生と太田の架け橋になっちゃおっかなあ?」
「なに?ソレ!うける!!」
「太田さあ、いっつもより子先生の所にいてるじゃん」
「きゃはは!お似合いだ!」
委員長、二度とソレ言うな。
13名無しさん@ピンキー:2008/05/25(日) 05:00:47 ID:lS8qXGBD
とりあえず、ここまでで今回は堪忍な。
14名無しさん@ピンキー:2008/05/25(日) 07:28:01 ID:720O+BxT
すげぇ…なんて言うか、もう凄い。
けだるい心の声の腹黒っぷりが上手い。
あと…



凄い以外出てこねー。続きの腹黒が惚れるパートが今から楽しみだ。
15名無しさん@ピンキー:2008/05/25(日) 14:31:12 ID:aqhEX3D3
期待。このスレにも期待
16名無しさん@ピンキー:2008/05/25(日) 17:08:54 ID:Eht1I6KM
太田ってすごい努力家だったりするんだろうなあ
期待するしかねー
17名無しさん@ピンキー:2008/05/25(日) 18:14:58 ID:HNQpHczt
太田って結構モテてそうだな
18名無しさん@ピンキー:2008/05/25(日) 18:35:49 ID:DypU4XEU
腹黒教師がこれからどうやって太田に惚れるのか楽しみです。


おいらもここで書きたいけど、考えてる分のssにはエロが入らないんだよなぁ。
19名無しさん@ピンキー:2008/05/25(日) 20:23:23 ID:cOkyX0Bv
>>18
ユー、書いちゃいなよ。
わしは、シチュだけでも萌える。
20名無しさん@ピンキー:2008/05/25(日) 21:06:40 ID:WjUaAqQx
>>5の続き投下します。


この男の名は斎藤祐樹。
私の輝かしき人生に唯一の汚点を付けた男。
忌々しい。憎しみで人が殺せるなら、私はこの男をとっくに墓石の下に送り込んでいただろう。
「あら。斎藤君、おはよう」
クソが。朝からこいつに話しかけられるなんて、最悪だ。
「もうすぐで中間テストだね。神道さんの調子はどう?」
「まずまずと言ったところかしら。斎藤君は?」
「僕?僕は全然駄目だよ。部活が忙しくて。それに、神道さんみたいに真面目じゃないし」
それは私に対するイヤミか?そうなのか?
「前回は学年一だったじゃない。今回も大丈夫よ」
心にもない言葉を吐いて更に気分が悪くなる。
さっさと私の視界から消えてくれ。
「ありがとう。でも前回は偶然みたいなものだったし、今回は神道さんにはかなわないよ」
白々しい。上っ面だけで内心では私を馬鹿にしてるに決まっている。
「そう?それなら私も本気を出そうかしら」
「あはは。お手柔らかに。それじゃあ先に行くね」
斎藤はそう言い残し走って行った。
願わくばそこで転けて死ね。


大した文じゃないが、保守代わりに。
21名無しさん@ピンキー:2008/05/25(日) 21:29:25 ID:cOkyX0Bv
いいねえ。
神道さんの黒曜石のような腹黒さに萌えた。
やはり「さいとうゆうき」君は野球部なのだろうか。ハンカチが要る季節だけど、王子。
22名無しさん@ピンキー:2008/05/25(日) 21:54:38 ID:HNQpHczt
俺は嫌いじゃないけど、特定の人物しか想像できない名前は止めて欲しいな
読者の中には嫌いな人もいるかもしれないし

しかし話の続きは楽しみだ期待してますぜ
23名無しさん@ピンキー:2008/05/25(日) 22:02:24 ID:WjUaAqQx
>>22
なんかすんません。
斎藤って名前から考えてたら偶然…
今気づいたら字は違いますが連想しちゃいますね。
某ハンカチ王子とは一切関係ありません。

もし、誰か要望がありましたら、名前を変更させていただきます。
24名無しさん@ピンキー:2008/05/25(日) 23:29:40 ID:rw0bTwQS
俺完全に王子のSSだと思ってたw
25名無しさん@ピンキー:2008/05/25(日) 23:54:24 ID:lS8qXGBD
腹黒先生の続きできたどー。
26より子先生と太田くん:2008/05/25(日) 23:55:00 ID:lS8qXGBD
今日は仕事が残った。悲しいかな、なかなか終わらない。
できれば家に持って帰りたいのだが、昨今の個人情報ナントカでダメだとサルが言う。
一人で寂しく机で仕事を続ける。ふと時計を見ると、もう夕方5時を回っていた。

職員室の隅っこで委員長と太田、そしてうちのクラスの女子・水上飛鳥が雑用をしていた。
トントンと紙を揃える音が、遠くから聞こえてくる。
女子二人はテキパキとこなすなか、太田はオロオロとするばかり。
とろい太田もムカつくが、したり顔でテキパキとこなす女子二人も偉そうだ。
わたしがお手洗いに行く途中、ヤツらに近づき偽善的な社交辞令をかわす。オトナとして。
「頑張ってる?」
「あっ、より子先生」
「わたし、のど渇いちゃった!」
「そんな事言っても、何も出てこないぞお」
委員長と飛鳥は、あははと笑っている。太田は黙って仕事を続けていた。

お手洗いを済ませ扉を開けようとしたとき、外からさっきの女子二人の声が聞こえてきた。
扉を開けるのをやめ、こっそり耳を傾ける。
「ねえ。どうして太田なんかに頼んだの?全然進まないじゃない」
「飛鳥さ、ヤツってとろいけど仕方ないじゃん。放課後とかヒマそうだし。
でね、今度デートしてあげるって言ったらヒョイってね、来ちゃった」
「マジ?デート行くの?」
「んなわけないじゃん!」
「委員長も悪いなあ。アハハ!」

嫌なヤツが嫌なヤツの悪口を言っている時ほど嫌なものはない。
嫌なヤツが何をしようとも、わたしには目障りだ。但し、太田の肩を持っているわけではない。
女子二人の声が遠ざかるのを確認すると、わたしはこっそり職員室に戻った。
27より子先生と太田くん:2008/05/25(日) 23:55:28 ID:lS8qXGBD
職員室に戻ると、阿鼻叫喚の地獄絵図が待ち構えていた。
太田が女子二人のいない間にインクのビンを倒し、せっかく揃えていた資料を台無しにしていたのだ。
飛鳥は今にも泣きそうな太田を責める。
「太田!ふざけんなよ!!」
「まあまあ、飛鳥も落ち着いて!太田もワザとやったんじゃないし」
いちおう委員長は、職員室の中だからか飛鳥をなだめようとしているが、
さっきの会話を聞いたわたしには、今後の為の点数稼ぎにしか見えない。
収まりの付かない飛鳥。太田の襟首をぐっと捕まえている。
「太田さあ。黙ってないで、謝んなさいよ!」
「ご、ごめん」
「声が小さくて聞こえないよ!」

学校内でなければ放って置くんだが、残念な事に事件は職員室で起きていた。
「ほら、太田くんも謝ってるんだし…。ごめんね二人とも」
ティッシュで汚した机を拭きながら、わたしは飛鳥をなだめる。
どうしてこの子たちは、わたしを困らせるのか。太田も飛鳥も委員長もどこぞへと行ってしまえ。
飛鳥はぶつくさ言いながら、委員長は飛鳥をなだめながら、太田は黙って後片付けをしている。
おかげでわたしの仕事も大幅に遅れてしまった。時間を返せ。
28より子先生と太田くん:2008/05/25(日) 23:55:49 ID:lS8qXGBD
なんだかんだで午後5時半を回り、太田と女子二人は下校時間直前という事で職員室から出て行った。
わたしの仕事もキリがいいので、今日はもう帰ってしまおう。
帰り支度をし、職員通用口から出ようとしたとき、ふと教室に忘れ物をした事を思い出した。
悔しいけど、教室に戻って忘れ物を取って来よう。ああ、メンドクサイ。

またしてもメンドクサイ事が、太田の手によって引き起こされる。
教室の前には、太田がつっ立っていたのだ。
奇妙な事に太田はタオルで目隠しをされて、腕をナントカマンがマントを翻して
空を飛んでいる時の様に前に突き出している。
そして、グーをした手の甲の上には、紙コップがそれぞれ乗っかっているのだ。

「な、何してるの?」
太田は何も答えない。兎に角目隠しを取ってやると、気の抜けた声を太田は発した。
「あっ…ああ…」
ホッとしたり、落胆したり疲れるこの子。太田に何があったのか、仕方なく事情だけは聞いておく。
「コップの中に金魚が…いない…」
「金魚?何、なんなの?」
「コップの中に金魚がいるから、ぜったいひっくり返すなって…」
「何?何?どうしたの?」
「先生…」
29より子先生と太田くん:2008/05/25(日) 23:56:53 ID:lS8qXGBD
わたしは太田と一緒に下駄箱に向かって歩きながら話を聞く。
太田は俯いたままなので、わたしは担任としての責務だけは果たそうと背中をポンと叩く。
学校の中では、優しいお姉さん先生なのだ。

太田が言うには、こういうことだった。
さっきの作業を終えて、教室に戻った太田と委員長、そして飛鳥の三人。
インクをこぼして資料を台無しにした罰として、二人に命じられて立たされていたのだと言う。
目隠しをした後に、水を湛えた紙コップを手の甲に置き、二人から耳打ちをされる。

「このコップには、校長室の金魚が入ってるのよ。あんたがコップを落としたら…分かってるよね」
と、居もしない金魚をあたかもコップに入っているように、暗示をかけられていたのだ。
「委員長…約束守ってくれるかなあ」
太田は寂しそうに呟く。多分、お手伝いのご褒美デートの事だろう。
そんな事本気にしていたのか、太田は。悪い女に一生騙されていろ。

下駄箱まできて靴を履こうとした瞬間、太田がこんな事を言い出した。
「でも、もうすぐ委員長と水上さんが戻ってきてくれるって…!」
しかし、残念ながらわたしは悲しい事実を知っている。
委員長と飛鳥の下駄箱には、しっかりと上履きだけが入っていたのだ。
こうやってこの子はずっと人に騙され続けるんだろう。ある意味羨ましい。
30より子先生と太田くん:2008/05/25(日) 23:57:16 ID:lS8qXGBD
期末考査まで一週間。
昼休みというのに生徒たちはノート交換をしたり、出題範囲の問題を出し合ったりしてあたふたしている。
通りがかりだが、高みの見物は気持ちがいい。毎月でもいいので、テストがあればどんなに気持ちいいか。
でも、太田がいるんだよなあ。学年主任のサルがキーキーうるさく言う原因の。

友達のいない太田は、一人で黙々とノートと教科書を捲って勉強をしている。
相変わらず委員長と飛鳥ははしゃぎながら、勉強のような事をしていた。
わたしに気付いた委員長は、太田に向かって叫んでいる。
「ほら、太田くん!より子先生、来たよ!」

わたしは、太田の家庭教師でも何でもない。ただの担任に過ぎない。
なのに便利屋さんのように、こき使うのはやめて欲しい。
そんなわたしの思いも裏腹に、委員長に促された太田は、わたしに擦り寄ってきた。
「先生。ここの…」
恐る恐る教科書を差し出し、わたしを頼ってくる少年が一人。
このくらい、自分で考えなさい。だから自分で考える力が付かないんだよ、太田くん。

「そうね…。今は忙しいから、また…」
太田は独りぼっちにされたチワワのような顔をする。
「あの…先生。国語が得意になるには…どうしたらいいですか」
「えっと、本をたくさん読む事かな」
なんだか太田に、チワワの耳としっぽが付いているように見えてきた。
太田がしっぽをブンブン振っている所が見える。
31より子先生と太田くん:2008/05/25(日) 23:57:42 ID:lS8qXGBD
帰り道、委員長と飛鳥が買い食いしているのを見つけた。
幸い、二人はわたしに気付いていない。平和そうにクレープをパク付く姿は若さの自慢か。太るぞ。
オトナらしく注意をするのか、それとも今後の為に脅しの材料にするのか迷う。

「先生!」
後ろから声がする。太田だ。
両手に本屋の袋を一杯に持っている。なんでも、これから帰ってテストまでに全て読破するらしい。
できるもんならやってみろ、と思っていると委員長と飛鳥がやって来た。
重い本を細い腕で顔をしかめながら持っている太田とは相反して、ニコニコとしている女子二人。
委員長は偽善のメガネ越しに、わたしに上目遣いで甘えてくる。

「より子せんせーい、今度のテストね…あまーく点数つけてね」
「そうそう!さっきのクレープみたいに!」
「飛鳥!だめよ!買い食いなんかしてないよ、わたしたち」
うそつけ。うそなんかつく暇があったら勉強しろ。そしてわたしを安心させるのだ。
「より子せんせーい。クレープ奢ってくれないっすか?」
「そうそう!わたしも委員長も糖分取らないと、勉強しても忘れっぽくてえ」
「飛鳥もなんだ!ほら、より子先生さ、おともだちでしょ。わたしたち」
コイツらと友達になった覚えはない。ただの担任をしている教師なだけだ。
確かにクラスではヤツらと、仲良しごっこのなあなあをしているが、
クレープにジャムとハチミツをぶっかけたような甘えは許さないよ。

「委員長も、水上さんも…先生が困ってるよ…」
意外な伏兵がわたしを助けてくれた。よりによって太田だ。
「なによ。太田、偉そうじゃん」
「飛鳥!」
「…ごめんなさい」
伏兵は剣を敵に振り上げる前に、矢で射抜かれて倒れてしまった。
こんな伏兵は敵地に入る前に、王様から首にされたほうがよかったのではないか。
しかし、太田がわたしをかばうとは思ってもいなかったなあ。

「じゃ、ぼくこれで…」
重そうに袋を両手一杯にした太田は、よろけながら去ってゆく。
しばらく見ていると、太田は一人でこけていた。
「より子せんせーい!ごっちそうさまー!!」
「クレープ奢ってくれるって、なんてやさしい先生なんだろう!」
この二人は勝手にさっき食べていたクレープをわたしの金で、また食べようとしている。
くやしいけど、わたしもいちおう26のオトナだ。ここは目をつぶって二人にごちそうしよう。
『期末考査でいい点を取る』という条件つきだぞ。わかっているのかな、コイツらは。
32より子先生と太田くん:2008/05/25(日) 23:58:11 ID:lS8qXGBD
期末考査まであと二日という所なのに、風邪を引きそうだ。
徹夜で無理してテスト問題をつくる毎日が続いたからなあ。体がだるい。
生徒たちにも、風邪引きさんがちらほら見受けられる。季節の変わり目だからか。

「より子先生、わたし風邪を引いてしまいました」
「なんですと!これは一大事ですよ!なんとかして、より子先生のご慈悲を委員長に…」
そんなおべっか使っても、テストの内容は変わらない。むしろ難易度を上げてやろうか。
甘い物ばっかり食べているから、あまちゃんになっているのだ。
隣の席では太田が、せきをしながら本を読んでいた。
わたしが「本を読め」って言ったので、あの日以来ずっと本を手放さない太田。
もしかして、わたしの言う事なら、なんでも言う事を聞くつもりなのだろうか。
「太田くん、あんまり無理をしないのよ。テストも近いし…」
気分悪そうな顔をしながら、うなずいていた。

飛鳥が興味無さ気に、太田の本をちらっと見る。
「ふーん。難しそうなの、読んでんじゃん」
太田は迷惑そうにしていた。飛鳥はいじわるに太田をデコピンしている。
「何て本なの?飛鳥」
「えっとね…なんだか『エフ氏は…』とかナントカって書いていた」
飛鳥はショートショートぐらい読んだほうがいい。委員長もきっとそう思っているだろう。

こんなヤツらに言ってもしようがないのを分かって、ぼそりと弱音を吐いてみる。
「わたし、風邪引きそうだよ…。テスト問題が簡単だったらごめんねー」
「じゃあ、より子先生には風邪を引いてもらわなきゃ!」
「委員長の風邪もらっとく?バカは風邪引かないって言うから、一発で風邪引いちゃいますよ。センセ」
一番元気なのは飛鳥だった。
33名無しさん@ピンキー:2008/05/25(日) 23:59:06 ID:lS8qXGBD
今日は、ここまで。次回は先生がっ?
34名無しさん@ピンキー:2008/05/26(月) 00:18:48 ID:RLWOFrSc
うーん…
面白いじゃないか
GJでげす
35名無しさん@ピンキー:2008/05/26(月) 00:43:36 ID:FA27J3nd
楽しみにしとります
36名無しさん@ピンキー:2008/05/26(月) 01:57:40 ID:VOIZXTB6
GJ!
先生のデレ期にwktk
37名無しさん@ピンキー:2008/05/26(月) 15:48:56 ID:OTOV4l56
乙。期待期待
38名無しさん@ピンキー:2008/05/26(月) 20:57:43 ID:fdVzbWI9
あああああああ太田トロい!!!!コレじゃあナメられても仕方ねーだろうが!!
せめてもうちょい強気になってくれよ…

まあなんだ、GJだぜ!!
はやくデレが見たいw
39名無しさん@ピンキー:2008/05/26(月) 21:37:21 ID:RLWOFrSc
ツンデレとはまた違った趣があっていいな
こういうのは黒デレとでも言うのかな
とにかく次回も期待であります
40名無しさん@ピンキー:2008/05/26(月) 23:15:57 ID:FA27J3nd
確かにこのまま普通のツンデレ化するには惜しいキャラ
つーか太田が妙にツボなんだが
41名無しさん@ピンキー:2008/05/27(火) 18:24:41 ID:L8TV/j5E
これは!!・・・・・良スレの予感
42名無しさん@ピンキー:2008/05/28(水) 08:12:46 ID:bHJMVkcj
王子の続きはマダー?
43名無しさん@ピンキー:2008/05/28(水) 18:36:03 ID:rwtiHr3N
「より子先生と太田くん」の続き、出来たどー。
投下開始。
44より子先生と太田くん:2008/05/28(水) 18:36:28 ID:rwtiHr3N
期末考査までいよいよあと一日。生徒たちも教師も後が無い。
ふと、カレンダーはなんて残酷なんだろうって思う。
「コレが終われば、たのしい夏の始まりですよ」
教壇に立って、生徒たちに少しでもやる気を出してもらおうと必死なわたし。
ふっ、いかにも偽善的なのがわたしらしいな。ちょっと、立ちくらみがする。
風邪がまだ残っている為すこし体がだるいが、早めに気付いて薬を飲んでおいてよかった。
そのせいか、昨日より幾らか気分がいい。気分が悪かったら、ぜったいこんな科白は吐かないだろう。
いっぽう、太田はこの日学校を休んだ。風邪が悪化したのだろうか。

教室では相変わらず、飛鳥はぎゃあぎゃあ騒ぎながら、教科書を捲っている。
委員長が飛鳥に優しくポイントをまとめてあげようとしているが、今更だという感じだ。
「こんなことなら、早く勉強しとくんだったあ!!」
「はいはい。わたしがポイントをまとめてあげるから、泣かないの」
「うわーん。委員長ーっ!!」
さあ、この間のクレープの借りがある。いい点を取るって約束だぞ。

約束を破るのは、『ほら、わたしって人気者じゃない?』という、頼んでもないのに
ずんずん前に出る厚かましい態度ぷんぷんなヤツと同じくらい嫌いだ。
クレープに金を使うくらいなら、本でも一冊買いなさい。
そうだ、太田を見習え。ヤツは他に金の使い方を知らないんだろうな。
見た目が女の子みたいな太田は、あんまりおしゃれとか興味ないのか。
元がいいから、何を着てもさまになるんだろうな。委員長がこの事を聞いたら、ブチ切れそうだ。
「ハイハイ!地味なメガネっ子で悪かったですね!どーせわたしは委員長ですよ」
って、ふてくされるんだろうな。あはは、面白い。

と、ふと気付いた。

なんで、わたしったら…太田の事、考えてるんだろう。
45名無しさん@ピンキー:2008/05/28(水) 18:36:53 ID:rwtiHr3N
わたしはただの担任だぞ。
生徒なんか、わたしにご飯を食べるお金を持ってきてくれる、健気な妖精さんにすぎないのだ。
なのに、ヤツを心配しているなんて、まるでわたしが…。

わたしは自慢じゃないが、26年間人を好きになった事が無いし、人から本気に好かれた事も無い。
もちろんお付き合いなんぞもっての他。そんなものクソ食らえ、と思っていた。
教室に太田がいないだけで、こんなに太田の事を考えるとは思わなかった。
今頃、一人で寂しく布団で寝ているんだろうか。もともと一人ぼっちだから、そんな事は平気か。
でも、太田が…心配だ。

あまりにも心配なので、委員長へ帰り道に、太田のお見舞いに家へ寄るように命じたが
「わたしも風邪気味で、病院行かなきゃいけないんですう」
と甘えた声で断られた。クラスメイトの事なんか心配じゃないのか、委員長のくせに。
仕方が無いので、わたしが行く事にする。

初めて見る太田の家は、普通の家だという印象を受けた。
誰だ。お坊ちゃんだとか言ううそっぱちを言っていたのは。
そんな愚痴はさておき、インターホンを鳴らすと出てきたのは太田本人だった。
「せ、先生」
「珍しいね。お休みだなんて、みんな心配していたよ」
大ウソを付いた。誰も心配なんぞしていない。

玄関では太田が寒がるので、お邪魔して様子を見てみる。
庭ではワンコがわんわん鳴いている。知らない人が来たから、警戒しているのだろう。
「ぼくの部屋にどうぞ…」
「おじゃまします」
太田の部屋は、あまりにもありふれた物。くんくんと男の子の匂いを嗅いでみる。
なんだろう。太田は牛乳の香りがする。思春期の男の子ってそうなのかな。

「ゴホン!散らかってるけど…いいですか」
机の上には、この間大量に買った本の山があった。
きれいに積み上げられた山は、太田の直実さを表す。
「先生が言うから、読んでるんだ…。でも、まだ半分だし…」
約一週間前、わたしが太田に言った事をまだ覚えていた太田。
私自身、すっかり忘れようとしていたのに、太田はすごい。
46より子先生と太田くん:2008/05/28(水) 18:37:36 ID:rwtiHr3N
太田の両親は共働き。日中は太田一人っきりとの事。
しかし、誰もやってこないこの部屋。クラスのヤツらはみんな薄情だな、ホントに誰一人来ない。
静かな太田の部屋でじっと生徒と教師が二人っきり。わたしはおろか、太田も二人っきりは苦手らしい。
もじもじしていた太田が、なんとか場を繋ごうと沈黙を破る。

「委員長、怒ってた?」
「え?なんで?」
「ちょっと…約束が…出来なくて…ゴホン!」
まさか、まだあの『デートをしてあげる』ってヤツを信じているとは、太田は違う病気かもしれない。
「ふーん。委員長と仲がいいんだ」
こんな事を太田に言い放つわたしは残酷だ。太田の目が寂しいと言う。
けっして自分から前に出るタイプではないので、太田が何を言いたいのかは、
わたしにはわからない。そういう控えめのところが…いや、何も言ってないぞ、わたしは。
もしかして、このことで深く落ち込んでいるんじゃなかろうか。だが、太田は何も言わない。

「じゃあ、わたしからの約束。太田くんは、今度のテストでいい点数、せめて国語だけでもいい点数を取る事。いい?」
こうしときゃ、太田はやる気を出すだろう。こくりと太田は首を立てに振った。
期末考査当日も休んだりして。
47より子先生と太田くん:2008/05/28(水) 18:38:29 ID:rwtiHr3N
期末考査、当日の朝を迎えた。一日目の最初の試験は国語。
わたしもこの日のために、試験問題を作ってきた。生徒たちと勝負の日なのだ。
教師も生徒も思い残す物は無い。みんな、全力でぶつかってゆけ。そして玉と砕けるがいい。

朝のHRが始まる前の教室は静かだ。
クラス中最後の確認として、ノートや参考書のチェックをしている子が多い。
「わたし、もう悪あがきしない!!0点とっても後悔しない!」
「飛鳥はいいなあ。なんのプレッシャーもなくって。ほら、わたしって『みんなの学級委員長』じゃん」
「あらあら。委員長も思いっきり、0点とか取ってみたらスッキリするんじゃない?」
「アハハ!太田と一緒にしないでよ!」
「太田でも取らないよ、そんな点数」
そんな太田は、委員長と飛鳥のうるさいおしゃべりを気にせず、黙々とノートを見返していた。
そう。誰からも心配されない太田は風邪を治し、一人でこの舞台にやってきたのだ。

さあ。己が信じることが出来る武器はペン一本。国語のテストが始まる。
チャイムが戦い始めを告げる。後は、剣と化したペンの走る音だけが残った。
試験監督は、ヨソのクラスの教師が担当する為、太田を始めクラスのヤツらの事はわからない。
むしろ、その方がわたしとしては気分が楽だ。
ヨソのクラスの生徒たちだからなあ、わたしの監督は。いまいちつまらない。
太田は大丈夫だろうか。熱でも出してぶり返しているんじゃなかろうか…。
あっという間に60分は過ぎてゆく。ああ、おしまいのチャイムが鳴る。
48より子先生と太田くん:2008/05/28(水) 18:39:17 ID:rwtiHr3N
監督を務めたクラスを後にして、職員室に戻る途中ふと、自分のクラスを覗いてみた。
太田は全てを使い果たしたかのように、机に突っ伏していた。
そんな太田を尻目に、委員長は照れ笑い、飛鳥は頭に星を回しながらヘラヘラと雑談をしている。
「あっ!より子先生!!結構難しかったよお!」
「あはは…。わたし、生まれて初めて赤点取るかもしれません…。より子先生、ありがとうございました」
「飛鳥!寝るなー!最後まであきらめるんじゃない!!」
「だいじょうぶ。みんな頑張ってたから、いい点取れてるよ」
わたしの科白は教師としては満点だが、個人的には最低だ。なにが『みんな頑張ってた』だ。
ただ、学年主任のサルから目を付けられるような結果じゃなきゃ、もうわたしは何も言わない。
しかし、この二人の科白はわたしをげんなりさせるのだ。クレープ代用意しとけよ、二人とも。

続いて二つ目のテスト。わたしの管轄外なので、興味がない。
期末考査中は午前中まで。あっという間にお日様が真上に昇る。
こうして、期末考査の一日目が終わったのだった。

そして、二日目、三日目…兎に角、あっという間に過ぎていく。
生徒たちの気分は夏休み。しかし、わたしには採点と言う地獄の試練が待っているのだ。
ちくしょう、あんまりはしゃぐな。微妙な答えは迷わずバツ付けるぞ。
わたしの赤ペンは、生徒たちを笑わせる事も泣かせる事も出来るのだよ。
49より子先生と太田くん:2008/05/28(水) 18:39:52 ID:rwtiHr3N
期末考査の全てが終わり、ほっとするのも束の間。初めての国語の授業がやって来た。
この日は生徒たちに答案を返すという、彼らにとっては判決の日なのであった。どうだ、怖いだろ。
一枚一枚、個人に答案を返す瞬間は、それぞれ個性的である。
ガッツポーズをする子や、何度も何度も見直してわたしにクレームをつける子と、まあ様々。
わたしのさじ加減でヤツらが一喜一憂するのは、なんとなく気分がいい。
わたしの機嫌が悪いときは、平均点が低かったりするのだが、今回はまあ、全体的に良かった。

さて、次の順番は…
「太田くん!」
「……」
「よく頑張ったわ」
太田は謙虚そうに答案を受け取り、そそくさと自分の席に持ち帰った。

休み時間のこと。お約束のように、生徒たちは点数の見せあいっこをしている。
まあ、騒ぐ事騒ぐ事。わたしの機嫌が良かったことに感謝するがいい。
「どれどれ委員長。今回も優等生の模範解答ですか?」
「だめだめ。今回は捨てゲームよ」
「委員長とした事が!こんなときは、さあ!太田くんよ。答案を見せなさい!!」

飛鳥が太田に答案の情報開示を求めている。
きっと、太田の点数を見て安心しようとしているのだろう。
が、水上飛鳥よ。あんたはまだまだ、あまちゃんだよ。
嫌がる太田は肩をすくめて答案用紙を隠そうとしていたが、飛鳥からビンタをされ、あっさりとひったくられる。
さあ、水上飛鳥。太田の点数を見てどう思う?
50より子先生と太田くん:2008/05/28(水) 18:40:19 ID:rwtiHr3N
「うそっ!!」
信じられないかもしれないが、太田は国語で98点を取っていた。クラスでトップだ。
「わたし、負けてるの…?いいんちょお…」
「うーん。勝ってる、負けてるで言ったら…やっぱり負けてるよね…」
「ちょっと!!太田!なんとか言いなさいよ!」
「…ごめん」
太田はなぜ謝るのか。癖になるぞ。

オロオロしている飛鳥は、とうとう太田に牙を剥くという、子供じみた悪あがきを始めた。
「ほら!この間さ、より子先生さ、太田ん家いったじゃん!そのとき、答えを見せたんだよ!」
「なるほどなるほど。より子先生と太田ってラブラブだもんね」
「より子先生は太田に甘いもんね」
「いつも一緒だもんね」
「そうそう。『わたしの太田くーん。わたし、太田くんの為なら答えを教えちゃうわ!』ってね」
誰の真似だ、ソレ。委員長も委員長だ、気の無い返事をするくらいなら、こんな話に乗っかるな。
もちろん、わたしは太田にはおろか、誰にも答えなんか見せてないぞ。
第一そんなことをしても、一文にもならない。誰がするもんか。
クラスをまとめる気の無い委員長と飛鳥の勝手な妄想に、何か言いたさげに太田は唇を震わせている。

「…委員長…水上さん……」
「んー」
「これ以上先生を傷つけるな!!」
太田から意外な言葉が飛び出した。委員長と飛鳥は呆気に取られ、クラス中静まり返る。
「ぼくは、いくらバカにされてもいいや…。でも…でも…先生をバカにするヤツは許さない!!」

太田…。


51より子先生と太田くん:2008/05/28(水) 18:41:05 ID:rwtiHr3N
「はあ?太田さあ、調子乗んなよ…」
「飛鳥、やめなよ」
「だって、コイツったら…」
「水上!!うるさい!!」
太田の目はその時、オオカミのように蒼く鋭く見えた。間違いなく太田は本気だ。
わたしは、太田にかばわれた。生まれて初めて、人から助けられたかもしれない。
委員長が小さな体で、二人に割って入り騒ぎを収めようとしていた。
太田は肩を揺らし、飛鳥は太田をバカにした目で見つめながら、ひとごとのように椅子に座りあくびをする。
いっぽう、太田は蒼い目はやがてウサギのように紅くなり、涙を湛えていた。
そんな太田が…

かわいい。

「太田くん。ちょっとこっちに」
わたしは太田を呼び、席を外させる。収まりが付かない飛鳥は、まるでようちえんせい。
「やーい。より子先生におっこられたあ!」
飛鳥の声なんか無視しろ、太田。アイツはバカだ。

「太田くん。どうしたの…」
「先生…ぼく、ぼく」
太田はわたしの前に立つと、堰を切ったようにわっと泣き出した。
なにか締め付けられるような気持ちがする。

ずっと、わたしの足を引っ張り続けていたこの子。
しっしと追っ払いたい時もあった。それでも太田はわたしに懐いてくる。
足手まといな自分を恥じていたんだろうか。
ヤツは、よわっちい体でわたしの前に精一杯真正面立ちはだかり、矢面に立ってくれたのだ。
わたしはまかりなりにも国語教師。なのに、太田への感謝の言葉が見つからない。
どうにかして、太田に何かを伝えたいのに…。わたしの方が恥ずかしい。

わたしは、太田をぎゅっと抱きしめる事しか思い浮かばない。

「先生…」
「いいの、いいの」
太田は牛乳のような香りがする。太田の気持ちは、もう分かった。
もう一度言う。

太田が、かわいい。

52名無しさん@ピンキー:2008/05/28(水) 18:42:07 ID:rwtiHr3N
今日はここまでっ。投下終了。
先生、ageちゃってすいません…。
53名無しさん@ピンキー:2008/05/28(水) 18:48:02 ID:VRSXu3O/
リアルタイム遭遇GJ
続き期待
54名無しさん@ピンキー:2008/05/28(水) 18:49:28 ID:YtjvGIlt
リアルタイムで読んだ。
先生のギャップが面白過ぎるww
次回もwktkしてます。
55名無しさん@ピンキー:2008/05/28(水) 18:54:25 ID:cqZAj0Ac
わーい!
立った立ったー
フラグが立ったぁー!!
56名無しさん@ピンキー:2008/05/28(水) 22:47:25 ID:+klY/XIx
次回が気になるぅ!
57名無しさん@ピンキー:2008/05/28(水) 23:22:21 ID:w0uY9W5+
先生面白いなw
58名無しさん@ピンキー:2008/05/29(木) 00:23:50 ID:eNJk6CvL
先生ワロスwww
59名無しさん@ピンキー:2008/05/29(木) 10:12:25 ID:Az2hpaeH
こんなスレがあったのか


それにしもて委員長&飛鳥のウザさには
SSだということも忘れてむかついてしまう。
いるよな、こういう奴ら。
60名無しさん@ピンキー:2008/05/29(木) 16:58:38 ID:CESFQOTU
>>59
リアルにいそうな事もあいまって実にウザいよなw
61名無しさん@ピンキー:2008/05/29(木) 17:11:56 ID:rKpWj4EW
そいつらのことは忘れろ

せっかくのセンセのデレだ
62名無しさん@ピンキー:2008/05/29(木) 17:14:20 ID:UqDM1zrA
委員長がぶっちぎりで腹が黒い、そして性質が悪い。
63名無しさん@ピンキー:2008/05/30(金) 01:12:12 ID:yK8gEODe
太田くんも、がんばってください
64名無しさん@ピンキー:2008/05/30(金) 03:12:29 ID:x+Gu/jkQ
先生意外と素直だな。
65名無しさん@ピンキー:2008/05/30(金) 05:22:51 ID:lqiZaGnG
>>64
生涯で始めて感じる感情を上手くコントロール出来ないのだろう。
66名無しさん@ピンキー:2008/05/30(金) 18:26:34 ID:YxeUrLRJ
元気玉をはずすクリリンみたいなんもんだな
67名無しさん@ピンキー:2008/05/31(土) 07:29:34 ID:hGzf6Gin
これで委員長と飛鳥が実は密かに太田を巡る恋のライバルとかだったら俺は爆死しちゃうな

耳障りの良い言葉を敢えて避けて太田を虐め続ける二人、しかしその事になにより傷ついていたのは当の二人だとか
むしろこんな腹黒の自分達は太田を好きになる資格なんてないと思ってわざと悪ぶってより子先生との仲を応援してたり…


ないなwwwww
そんな偽装主人公は嫌だwwww
68名無しさん@ピンキー:2008/05/31(土) 09:15:29 ID:McEUM+ln
>>37
それは萎える
69名無しさん@ピンキー:2008/05/31(土) 09:15:56 ID:McEUM+ln
間違えた。
×37
○67
70名無しさん@ピンキー:2008/05/31(土) 13:44:52 ID:S6zG7IIq
スレタイを見てロベリア×大神を思い出したのは俺だけではないはず
71名無しさん@ピンキー:2008/06/01(日) 14:59:34 ID:i7jolVBn
先生の続き、できたどー。
72より子先生と太田くん:2008/06/01(日) 15:00:09 ID:i7jolVBn
太田をぎゅっと抱きしめた日から一週間後。明日は休みというのに相変わらず、太田はびくびく生きている。
全ての期末考査の答案が戻り、ほかの生徒たちはホッとしているのに、太田ったら。
五教科の合計点がはじき出され、数字の自慢がこれから始まるのか。
教師がこんなこと言うのはどうかと思うが、非常にくっだらない。
わたしは、国語以外興味はないのだよ。

あの女子二人は今回満足の行く結果でなかったらしく、少々不満顔。
でも、それがあんたたちの結果なんだから、キチンと受け止めなさいよ。
キチンと太田のように点数を取っているヤツもいるから、わたしはそれで安心が出来るのだ。
そんな女子二人が、太田を囲んで騒いでいる。太田は赤く腫れた頬を手で押さえながら、しくしく泣いている。
「ねえ、これって…マジ?」
「やろうと思っても出来ないよね。普通」
「コイツ普通じゃないじゃん」
女子二人の手には、五教科の期末考査の答案全て。きっと太田のものだろう。

ああ、そこの女子二人。メンドクサイからこっちに来るな、来るなよ。
こっちに来るなって思っていると、やはりコイツらはやって来るのだ。尻尾を振りやがって。
「ねえ…。より子先生、太田ってば…」
「コイツ、すごいんだよ」
太田から強奪してきた答案を、見たくもないのにわたしにムリヤリ見せてくる。
まず、国語が98点。わたしが採点したので、間違えない。
数学・3点、社会・5点、理科・0点、英語・2点…。
なんと、太田は国語以外からっきしな結果だったのだ。

あははと笑う女子二人の声に、太田はきっと傷ついているんだろう。
必死に勉強して、誉められようと頑張った。でも、こんな結果。
結果は結果だけど、人から笑われるのはムカつく。オトナな太田はけっして波風を立てない。

いくら太田でも、こんな極端な点数を前回の中間考査では取ってはいない。
むしろ、平均的に残念な点数を取っていたのだ。しかし、今回はあまりにも極端すぎる。
もしかして、期末考査は国語しか勉強してこなかったのだろうか。そうしか考えられない。
この子は、わたしが死んでしまったらどうなるんだろう。
73より子先生と太田くん:2008/06/01(日) 15:00:36 ID:i7jolVBn
この日の放課後、太田に職員室で夏休みのプリントの作成を命じた。
何枚かあわせて、ホチキスでぱちんと止めるだけ。この間やっていたアレと同じ要領だ。
本当は太田一人でやらせたかったのだが、どこで話を聞いたのか委員長と飛鳥が付いてきた。

「わたしたちも手伝いますう!ねっ、飛鳥」
「太田くん、がんばろうね」
ウソだ。ホントは太田をいびりに来たんだろ。ウソツキの行動は分かりやすい。
女子二人が良い子ちゃんを演じれば、演じるほど胡散臭くなる。
これに気付かない太田も太田だ。教師のわたしが教えてあげたい、
『太田くん、言葉ってかわいい女の子なのよ。太田くんはまだわからないと思うけど
かわいく愛敬を振りまくほど、ホントは…なめんなよって思っているの』って。
あーあ、外じゃツバメが低く飛んでいるよ。頑張って飛べ。

黙々と作業をしている三人。その脇でわたしはパソコンで書き物をする。
紙の音と、ホチキスの歯軋りと、キーボードのリズムだけが響く。
「あまり根詰めてると、効率が悪くなるよ」
「うん。より子先生、ありがとう」
「じゃあ、ちょっと飲み物でも買ってこよ。太田くん、行こっ」
三人は職員室から出て、休憩を取りに行った。太田も一緒だ。
一見仲良しこよしの三人だが、そのあどけなさが薄ら怖い。
またあの二人から苛められているんじゃなかろうか。わたしは、太田のおかあさんかよ。

ちょっと心配になったわたしは、様子を見に行こうと立ち上がった瞬間、太田だけが職員室に戻ってきた。
「あっ、太田くん!」
と、わたしが手を振ろうとした瞬間、隣の机の上の花瓶がころりと転んだ。
花瓶は中に湛えた水をぶちまけ、太田たちが作っていたプリントを溺れさせる。
「ご、ごめんなさい!!」
「先生!」
慌てて花瓶を戻し、ハンカチであたりを拭こうとすると、太田がわたしの元にやってきた。

「先生はあっちに行って!」
「え…?」
「早く!!」
このときの太田の目は、いつか見たオオカミの目であった
74より子先生と太田くん:2008/06/01(日) 15:01:03 ID:i7jolVBn
訳も分からず、太田の言うとおりに花瓶から離れると同時に、職員室に女子二人が缶コーヒーを持って帰ってきた。
女子二人は、びしょ濡れになったプリントと、その前に立ち尽くす太田を目にする。

「あのさ…コレ、何?」
「……ぼく」
「ぼく?太田がやったの?」
太田はこくりとうなずく。
委員長は口をつぐむ。
飛鳥は腕を組みながら、太田に詰め寄る。
「……ふざけんなよ」
太田の思惑ではわたしは、何も言わない方がいいんだろうか。

「より子先生、太田のバカが…」
「委員長、太田なんかもういいよ。ほっといて早く帰ろうよ。ね、より子先生、約束のクレープ食べに行こっ!」

―――わたしは旅人。何となく、ふらふらと当てもなく道を歩く。
旅人はオオカミが嫌い。若いオオカミは付いてこなくてもいいのに旅人に付きまとい、
わたしの旅を不安な旅にしてしまう。蒼い目が旅人を見つめている。
おまけにその後から二頭の山猫が、にゃあと猫なで声でわたしに付きまとう。
その山猫は、危険だぞ。見た目は愛嬌があるが、けっして仲間でも何でもないぞ。
山猫はわたしの肝を狙っている。血の滴るわたしの大事な肝を食べようとしているぞ。
平穏な旅に邪魔な獣たちは、みんな射ころしてしまえ。

「より子先生がやるわけないじゃん」
「ぼくがやりましたっ!」

―――旅の途中、怪我を負い身動きできなくなった旅人を、小さなオオカミは優しく慰める。
「ぼくが、ぜったい守ってやる」
わたしを狙う残忍な山猫たちに、旅人と孤独なオオカミは囲まれた。
逃げ場をなくしたわたしには、一匹のオオカミ。しかし口を開けると、牙がない。
弱いオオカミはヤツらの牙に斃れる。
ヤツらは、オオカミの血に満足したのか闇に消えた。

「ぼくが悪いんです」
「太田くん…、ほら、ハンカチ…」
「先生…」

―――オオカミの血は暖かかった。お願いだから、もう流さないでおくれ。
わたしは、二頭の山猫をころしたい。冷たい血を流して斃れろ。
75より子先生と太田くん:2008/06/01(日) 15:01:44 ID:i7jolVBn
…ふっ、わたし何考えてるんだろう。
「女子はもう遅いからお帰りなさい。後はわたしと太田くんで後片付けするから」
「えー。クレープ!」
「もう、時間も遅いよ。女の子たちは、早く帰らないと…」
「はぁーい。わっかりましたあ」
「委員長、帰ろっ。太田のバーカ」
ヤツらには、オオカミの寂しさはけっして分からないんだろうな。逆にバーカと返したい。
今の空は、オオカミに包まれているように鈍い色をしている。

わたしが作業を終えた太田を家に帰した後、鉛色の空からぽつぽつと雨が降り出した。
ツバメのせいだ。ツバメが頑張って高く飛ばないからそうなるのだ。
わたしの文句をツバメが聞いたら『理不尽なこった!』と怒るかな。それはそれで面白い。

駆け足だった雨足は、どんどん速くなりとうとうアスリート並になった。
あーあ、折角帰ろうと思ったのに、これじゃこの間新調した、
今着ているボヘミアンルックのワンピースが台無しだ。
わたしが新しい服を買うと、いつも雨だ。これは、わたしに服を買うなと神様が言っているのか。
そんなバカな。神様のクセに生意気だぞ。
わたしがそんなバカな事を考えていても、一向に雨は止まない。
あんまり降り続けているので、雨雲がランナーズハイになっているのだろう。

小さなビニール傘を差して、こつこつと家路を急ぐ。小さな体でわたしを雨から守るビニール傘は、
まるで太田のようだ。いやっ、太田って…なんでわたし、太田のこと思い出しているんだろう。
あまりにもわたしが太田太田言うので、本物の太田が目の前に現れた。
この子は傘も差さず、新たな主を待つ潰れた店の軒先で体を震わせながら雨宿りをしていた。

「太田くん?濡れてるの?」
少年は何も言わない。兎に角、わたしの傘におはいんなさい。
心配だからじゃないぞ。これは、わたしの点数稼ぎ……だぞ。
太田もいい点取ったんだから、わたしにもいい点くれ。太田よ。
76より子先生と太田くん:2008/06/01(日) 15:02:08 ID:i7jolVBn
ここから近いので、太田をわたしのアパートに招きいれた。
もしかして、初めてわたしの部屋に男子が入ったのは、太田じゃないのか。
太田よ、胸を張っていいよ。しかし、ずぶ濡れの太田は背をちぢめ込ませるばかり。
シャワーに入れようとするが、太田本人が恥ずかしがっている。そんなに制服を脱ぐのが嫌か。
わたしは見ないから大丈夫。

「着替えは何とかするから。風邪がぶり返すでしょ?」
ひとまず太田を安心させて、風呂場に入れさせた。
でも、太田は運がいいなあ。飛鳥や委員長に見つかってみろ。
さらに水をかけてくるかもな、アイツら。子供じみた水鉄砲で太田を狙い撃ちだ。
そして『太田くん、ごめんね』って平気な顔して言うのだろう。わたしの妄想なのにムカつくのは何故だ。
洗濯機で太田の服を洗う間、代わりの服を探す。女物ばかりのタンスはわたしを悲しくさせる。

「先生、上がります」
小さな脱衣場から太田の声が聞こえる。すりガラス戸越しに太田の華奢な体が見える。
仕方ないので、高校時代の体操服を着せよう。普段はわたしが休みの日に着ている白いシャツと紺のジャージパンツ。
背中には大きく「三川」とゼッケンが。物持ちのいい母に感謝。

必死にすりガラスに隠れながら、太田は顔を覗かせる。
「ねえ、太田くん。コレしかないけど…いい?」
「なんでもいいです」
太田さえよければいいや。あっ…パンツ…。
「濡れてないから、いいです。そのまま同じの履きます」
少しぶかぶかな格好で、ほかほかした湯気と一緒に太田はわたしの体操着を着ている。
わたしと太田は背が違いすぎる。それだけ、太田はちいさい。
男の子にしてはちょっと長い髪を濡らし、小さな肩をさらにちぢ込ませて四畳半の部屋に戻ってきた。
その体操服はいつもわたしが着ているから、わたしの匂いがするのだぞ。
少年よ、お姉さんの匂いだぞ。
わたしは、フェイスタオルを渡しに太田に近づく。

くんくん。

風呂上りの男の子の香り。いつもの牛乳の香りとは違う。
でもどうして、太田なんか家に上げたんだろう。誰か教えて欲しい。
77より子先生と太田くん:2008/06/01(日) 15:03:46 ID:i7jolVBn
座って髪の毛を拭いている姿を見ていると、ちょっかいの一つも出したくなってきた。
委員長がやったらただの嫌味だが、お姉さんはちがうんだ。
かわいいかわいい、ってやっているんだぞ。

後ろから見た太田はホントに女の子。飛鳥よりよっぽど色気がある。
こんなところで飛鳥が負けるとはな。うなじが掻き揚げた髪でちらっとわたしの目に焼きつく。
無防備な太田の首筋につんと人差し指で突付く。せっけんの香りを振りまきながら
目を丸くしてわたしの方に振り向く。
「……」
「びっくりした?」
こくりとうなずく太田は、また小さくなる。
思わず舌なめずりをして、つまみ食いの一つでもしたくなるのは当然。
わたしはつばきを飲み込むと、後ろから太田の顔を覗き込んでみよう。

「…どうして、わたしの事…かばってくれるの?」
「先生は、友達じゃないから」
「…うん」
「友達は嫌いだ。友達は、ぼくを裏切るから」

わたしも、友達は嫌い。友達なんか、多いやつの負けだ。
太田くん。きみは、オオカミ。
けっしてヒトに飼いならされる事なく、自由に、そして孤独に生きるオオカミ。

―――旅人とオオカミは、お互いにかばいあう。旅人は智恵を、オオカミは暖かさを。
ケモノとヒトなので友情なんか、育む事なんかできやしない。『友』だの『ダチ』だの、
陳腐な言葉では片付ける事を、わたしたちは否定する。山猫たちは薄っぺらい気持ちで
旅人に擦り寄ってくるが、今度やってきたら思いっきり蹴り飛ばしてやる。

わたしと太田は、友達なんかという言葉じゃ言い表す事はできない。ざまあみろ、委員長、飛鳥。
教室ではうそっぱちに塗り固められたわたし。
だけど、今は太田と二人っきり。ここでは、なにも怖がる事はない。

「太田くん。先生の言う事…よく聞くよね」
「…だって、ぼくの先生だから…」
「うん。いい子」
わたしは太田の頭を髪の毛と一緒に『がおー』と優しく噛む。
「ふふふ。くすぐったい…」
ヒトにはけっして見せない笑みを太田はわたしに見せた。
今までひねくれていた、わたしの薄汚れた鏡を粉々に砕く太田は、すごい。
ぜったい、しあわせにしてやる。
78名無しさん@ピンキー:2008/06/01(日) 15:04:20 ID:i7jolVBn
今回はここまでっす。投下おしまい。
79名無しさん@ピンキー:2008/06/01(日) 15:12:12 ID:tQ0zcaNi
旅人とオオカミもいいが

山猫二匹のキャラも憎たらしくていい

GJ
80名無しさん@ピンキー:2008/06/01(日) 15:37:41 ID:rm/uU/1M
GJ!
山猫二匹が乱入してこない事を祈りつつ次に期待してます。
81名無しさん@ピンキー:2008/06/01(日) 18:31:47 ID:5kcwNfE3
けどちょっと太田はアホ過ぎるよな
高校入試に通るだけの学力を持っている筈の人間が国語以外であんな悲惨な点数取ったら俺ならドン引きするわ

職員室での庇ったシーンもアホの暴走にしか見えない
まだまだ純真さがより子先生の腹黒さと釣り合いが取れてない

太田もっと頑張れ
82名無しさん@ピンキー:2008/06/02(月) 01:32:20 ID:/tR6OZWa
次回も期待!
83名無しさん@ピンキー:2008/06/02(月) 03:23:45 ID:LRQOqZeF
確かに>>81の指摘した部分は多少強引というか極端というか。
でも物語を盛り上げるツールとして喩えの部分が面白い。見え隠れする内面描写。GJ。
84名無しさん@ピンキー:2008/06/05(木) 12:41:29 ID:yyk2CMjs
おーい、楽さんのスレ上げちゃいなさい保守。
85名無しさん@ピンキー:2008/06/06(金) 09:13:32 ID:bZleGzRe
86名無しさん@ピンキー:2008/06/06(金) 14:58:34 ID:QQqMAypF
87名無しさん@ピンキー:2008/06/06(金) 19:27:54 ID:vXFEoU+A
何か俺の高校時代思い出す
【高一中間考査 数一12 英A16 英文19】
88名無しさん@ピンキー:2008/06/06(金) 19:36:41 ID:Ai2Ad6po
>>81
確か、始めの方に「中学」って書いてあったはず…。
89名無しさん@ピンキー:2008/06/06(金) 21:17:35 ID:4NqDr2/V
本当だ…本当だね!俺よく読みもせずに浮かれてたね!



謹んで迂闊な発言をした事を不愉快に思われた方々へお詫び致します。orz
90名無しさん@ピンキー:2008/06/06(金) 21:20:12 ID:9B8EJuvY
中学時代小テスト0点を量産した俺もいるから安心汁
91名無しさん@ピンキー:2008/06/07(土) 02:57:57 ID:EfFgI9od
安心しちゃだめだろ〜、焦らなきゃっ!!今からがんばれ!!
92名無しさん@ピンキー:2008/06/07(土) 16:09:02 ID:sR+UZ4sZ
>91
今からったって、この板に出入りできる一番若い奴で高3だろ?つまり大学受験が今年。
それより年嵩の大部分の連中なら、もはや「今から」頑張っても概ね手遅れだろ。

それでも>90ガンガレ 超ガンガレ
93名無しさん@ピンキー:2008/06/07(土) 23:17:56 ID:O//TZWZt
みんな良いやつだな…
94名無しさん@ピンキー:2008/06/08(日) 00:26:06 ID:kJKZpVNs
前回はお騒がせしました。「先生」の続きです。
95より子先生と太田くん:2008/06/08(日) 00:26:49 ID:kJKZpVNs
外は、雨。すぐに夜がやってくる。
太田が言うには、今日は父親だけが家にいると言う。最近、母親は仕事で戻れない日々。
一度家に連絡をするように太田に言ったが「父さんなんかに言ってもしょうがないよ」
と、つれない返事だけがわたしに返って来る。
詳しく聞くと、父親は太田には関心がないらしい。心配すらしてくれないとのこと。なんという親だ。
家に帰っても、飼い犬だけが友達なんて太田は惨め過ぎる。もっと捻くれていいぞ、太田。

「チコ、ごはん食べてるかな…」
「チコ?」
「うん。うちのイヌ」
少年は優しさをちらとわたしに見せる。
動物の好きな少年は、外の雨を見ていた。ずっと、ずっと…。
わたしだって、少年に優しさを見せてやるから。

「先生の言う事、しっかり聞いてくれる?」
「うん。先生は大好き」
「太田くん。君はもっと悪い子になりなさい」
「わるい…子」
「優しくて、悪い子になりなさい」
「うん」
白く純な生徒を導く教師なのに、どうしてわたしは黒いんだろう。
96より子先生と太田くん:2008/06/08(日) 00:27:15 ID:kJKZpVNs
素直にわたしの話を聞き入る太田は、よく言えば素直、悪く言えばバカだ。
しかし、太田のバカはいじらしいとも言える。飛鳥と違って。
そんな真っ白な太田をわたしは、わたしのような真っ黒に染めたい。
わたしは自分の指を咥え、その唾だらけの指で、太田の頬からあごにかけてそっと滑らせる。
けっして太田は嫌がらない。わたしを信頼しているからか。
湯上りのせっけんの香り漂わせる少年に、わたしは唇を近づける。
当たり前だが、恥じらいながら少年は首をすくめさせ、目をつぶっている。君は怖いのか。
少年特有の甘い香りがわたしを包み込み、わたしの大人しかった子宮を狂わせる。
「…悪い子ね」
君はうなずく。そう、本当は悪い子。わたしと君は、悪い子同士。
体の底が熱くなり、くらくらする感じが…。

ぴちゃ…。初めて男の子との…キス。甘い。言葉が思い浮かばない…。
言の葉を扱う生業をしているのに、わたしったら。
ただ、君の唾で光っているわたしの小さな唇は、全てを分かっているはず。

覚えのある肌触りのシャツを着た君のおなかに、わたしは頬擦りをして君のガラスの理性を打ち壊す。
すーはーと深呼吸して、そのままジャージをゆっくりめくってあげようか。
そういえば君は、ウソが下手糞だったね。その証拠に君の若く疑う事を知らないオオカミが、
君の下着から、飛び出そうとしている。わたしの言う事を聞いてくれるように、口で教えよう。

「はぅうっ!!」
君の声は正直。わたしはヒトを愛する経験もなく、初めてヒトを愛することにしたのだから、正直な答えが嬉しい。
そして

白い正直者を玩ぶアイツらが許せない。アイツらが…。
97より子先生と太田くん:2008/06/08(日) 00:27:40 ID:kJKZpVNs
オトナになりきれていない君のオオカミは、わたしの口で弄られて音を立てて涙を流す。
じゅるうぅ。ちゅっ。
とっくに雨音はわたしの耳に入ってこなくなり、淫らな音だけが届いている。
「せん…せい…。ぼく…ああん…」
黙ってくれないか。君はウソが下手なんだから。
初めて味わう果実。不思議な感覚だ。わたしの頭の動きにあわせて、君は少女のような声を出す。
「あん!ふぁああ!せ、せんせええ!!」
何かに耐える君の顔をわたしは上目遣いで覗き込むと、孤独なオオカミは子犬のような顔をしていた。

「せ、せんせ…い。やめて…」
「………」
あまりにもわたしが弄りすぎたので、わたしの口の中は君の白く粘つく蜜でいっぱい。
唇からぽたりとこぼれる蜜に、手のひらを濡らしているわたしを君は見ているのか。
軽蔑するもよし、ひれ伏すもよし。君の好きな人なんだからどうにでもするもよし。
ジャージをずり下され、乳飲み子のように無防備な姿をさらけだす君。
わたしの名前の入ったシャツだけに包まれた少年が目の前で横たわる。
そうだ。わたしは君に全てを知って欲しい。

「ほら、太田くん。次は君の番」
異国の雰囲気漂うボヘミアンルックのワンピース。ふわふわとわたしを包み込むこの衣をたくし上げ、
純白のわたしのショーツを君のものにしてあげよう。さあ、どうする。
君の知っての通り、わたしは国語の教師。君にいつも教えたはずだ。そして、君はいつも聞きに来てくれたはず。
答えは君次第。数学と違って、幾つもの答えがあってもいいのだよ、国語は。
98より子先生と太田くん:2008/06/08(日) 00:28:04 ID:kJKZpVNs
「…どうするの…先生」
「……太田くんの…好きにして」
君はどうしていいのか分からない迷子のオオカミ。
まかりなりにもわたしは教師。生徒の問いに答えるしかない。
白いショーツをゆっくり見せ付けるように指で下ろす。
太田くん、これが君の大好きなより子先生なのだよ。きっと、委員長も飛鳥も知らないぞ。
君は恥ずかしそうに目を逸らせているけど、わたしが人間を好きになることなんぞ
めったにないんだから。この誰も踏み入れた事のない、未知なる草原に来てごらん。

「さわっていいの?」
「さわってくれなきゃ、だめ」
わたしは君の白い手のひらを握り締め、ゆっくりと草原に差し出し人を知らぬ草花を撫でさせる。
「あん…」
君はオオカミだったっけ。そうだ、この誰も狩りをしたことのない、豊かな大地を走るがいい。
オオカミよ、思いっきり走れ。君の大好きなウサギもいるぞ。怖がる事はない、さあ。
「ああん!ぬ、濡れちゃう…」
「こ、こうですか」
「う、うん。太田くん…。舐めて…舐めていい…よ。っひ!」
オオカミよ、今一歩踏み出せないのか。ウサギは穴に逃げ込むぞ。
ウサギの穴から、ケノモの香りがするからね。君の舌で確かめろ。
ぴちゃ。ぴちゃ…。
「お、太田くぅうん!」
「は、はう!」
さあ、君の獲物はもうすぐだ。
99より子先生と太田くん:2008/06/08(日) 00:28:29 ID:kJKZpVNs
太田はわたしのいやらしく濡れているウサギ穴の上にまたがっている。
ゆっくりと太田が腰を下ろすと、絡み合う液体のお陰かするりと太田のオオカミが穴に入ろうとしている。
「いたいっ!」
わたしの悲鳴に太田は驚き、泣きそうな顔をするがわたしは大丈夫。
でも、体がずきずきする…。悪い子になるための洗礼なのだろうか…。

「ああん!痛い!ひぃい!!いくっ、いっちゃう…」
言葉なんかもう要らない。太田の方も限界なのか、足が引きつっているようにも見える。
「せ、んせ…いい?」
「……」
「せんせの…中に…でちゃうよお…」
覚悟を決めたオオカミはウサギを追い詰める。さあ、後は一気に攻めるだけ。

「うぅう!」
「太田くぅん!!ああああん!」
ウサギをとらえ、ゆっくりとウサギ穴からオオカミが抜け出すと、
白いウサギの淫靡な羽毛がたらりと糸のように粘つきながら引いていた。ウサギの血も混じっている…。
君はオオカミ、獲物は美味しいか。
「ひっ、ひっ…痛いよお…」
痛さに耐えるわたしの姿は、太田にどう映っているだろう。
こぼれた白い物が、わたしの折角のワンピースを汚す。新しい物を買ったときは、いつもついてない。

太田もわたしも疲れ果て何時しか、雨音が再び耳に入るようになっていた。
100より子先生と太田くん:2008/06/08(日) 00:28:53 ID:kJKZpVNs
もう、わたしは『みんなのお姉さん先生』なんかじゃない。
証拠はこの太田だ。一匹のオオカミを手懐けた一人の旅人は、心強い相棒を得たのだ。
もう、旅は怖くない。何でも来い、獅子でも虎でも…。
そうだ、山猫だ。調子に乗って旅人の旅路を荒らす、有頂天な山猫の血を見たい。
山猫を深く傷付けるには、オオカミを使うほかはないな。
だが、このオオカミは牙がない。たった2匹の山猫なんかでも、返り討ちにあってしまうほどだ。
だけども、旅人にすっかり懐いた義理深いこのオオカミは、旅人を救うかもしれない。
そうだね、太田。

「ねえ、太田くん」
「…はあ…」
疲れ果てた太田は力なく返事をする。
「飛鳥と委員長…どうよ?」
「…うん…」
沈黙が続いた。太田のことだ、頭の中で言いたいことがまとまらないのだろう。
いや、精一杯の気遣いをしているに違いない。太田くんよ、悪い子になりなさい。

「太田くん…わたしの力になってくれる?」
「…はい、先生…」
「いっしょに、山猫退治…する?」

わたしは、悪い先生。
101名無しさん@ピンキー:2008/06/08(日) 00:29:47 ID:kJKZpVNs
今回は、ここまでです。投下終了っす。
102名無しさん@ピンキー:2008/06/08(日) 00:32:54 ID:z9acbssQ
gj
103名無しさん@ピンキー:2008/06/08(日) 00:38:36 ID:++8xYws2
すっげぇ乙
104名無しさん@ピンキー:2008/06/08(日) 01:01:53 ID:q52DNNq9
二人ともたまらん。GJ!
105名無しさん@ピンキー:2008/06/08(日) 01:36:13 ID:yPkzHhi/
乙。いつもありがとうございます
106名無しさん@ピンキー:2008/06/08(日) 01:39:12 ID:24iHsRe+
GJ。
107名無しさん@ピンキー:2008/06/08(日) 23:45:51 ID:fImGRqRH
GJ!
108名無しさん@ピンキー:2008/06/09(月) 00:18:23 ID:DWMy+4j+
よし子先生がオオカミ使いにクラスチェンジしたwwww
カッコ良い!太田と関係を持って清浄化するどころかより腹黒くなるとかwwww最高だ!
そして主を得て太田の真価が発揮?ボニー&クライドみたいなコンビになったり?
これからの展開がすげー楽しみだ!
109名無しさん@ピンキー:2008/06/09(月) 00:33:08 ID:6Tuxvggj
普通におもすれー
続きが気になる
110名無しさん@ピンキー:2008/06/11(水) 00:09:39 ID:8vBn/kDG
文学調の文章で書くセックスかwしかも上手い

表現は内容とマッチしてるのに雰囲気はマッチしてないアンバランス
こういうのも面白いな
111名無しさん@ピンキー:2008/06/14(土) 21:48:52 ID:9wqe23/v
「先生」の続きです。とーかします。
112名無しさん@ピンキー:2008/06/14(土) 21:49:19 ID:1VeXC7LP
まってました
113より子先生と太田くん:2008/06/14(土) 21:49:24 ID:9wqe23/v
わたしと太田が結ばれた日から数日後の放課後。
いつものように、委員長と飛鳥がわたしのそばにまとわり付く。
太田と誓ったように、この山猫たちの血を見なければ、わたしは夏を迎えられない。
あっけらかんとしているこの二人を見ていると、ますますわたしの計画が楽しみだ。

「より子先生は、夏はどうするんですか?」
「んー、こう見えても夏休みは忙しいんだよ。先生は」
「きゃはは!やっぱりデートとか?」
太田とデートも悪くない。しかし、夏を迎える前にわたしは忙しくなるのだよ。君たちのために…。

時計の針が夕刻を告げると、委員長は委員会に出席のために居残り、飛鳥は帰宅する。
面倒くさそうな顔をしながら、委員長は委員会のある教室へすたすた歩いていった。
「こんな委員会なんかサボって、美味しいもの食べたいよお」

周りに誰もいなくなったのを確かめると、わたしは自分の席で本を読んでいた太田を呼び出す。
手懐けられたオオカミはちょこちょことわたしの方へ駆けてくる。かわいいもんだ。
尻尾を振っているオオカミはらんらんとした目でわたしを見ていた。
「今日は、一緒にアレやるよ」
太田はこくりとうなずくだけ。だけど、太田にはしっかり伝わっているはず。
「がおー」
軽く太田を抱きしめて、髪の毛もろとも頭を甘噛みすると、少年はくすくす笑っていた。
114より子先生と太田くん:2008/06/14(土) 21:49:52 ID:9wqe23/v
程なく委員会はお開きとなった。今日もたいした議論もなく、平和な委員会だったらしい。
だらだらと各クラスの委員が出てくる中、我らが委員長はいちばん遅く教室から出てくる。
偶然を装い、わたしは委員長に接近。

「あっ、より子先生」
「お疲れー。ってホントは疲れてないかあ」
「ひどーい!罰として、わたしへ甘い物を提供することを要求しますよ」
いつもの通り、委員長はただでさえ取りすぎている甘味をわたしにねだってきた。
委員長よ、それが自分の事を苦しめるんだよと言いたいけど、言ってあげない。

「それじゃ…、帰りにクレープでも食べる?」
わたしは他の誰にも聞こえないように、委員長に耳打ちを。
単純な委員長はぱあぁっ!と明るくなり、まわりにカラフルな花が咲き乱れた。
「だって!この間、買い食いはダメってって言ってたじゃないすかあ。
こんな事をいわれたら、わたしはクレープ食べなきゃいけないじゃないですかあ!」
乗ってきた、乗ってきた。『クレープを奢れ』の合図をわたしは見逃すはずがない。

「クッレープ、クッレープおいっしいなあ…」
わたしに腕を絡みつかせる委員長は、まるで子供のよう。君は本当に中学生か。
「これは…飛鳥にはぜったい内緒ね」
「うふふふ。はーい」
「ぜったい内緒よ」
クレープとわたしを独り占めにしている優越感で、委員長の背中に羽根が生えてきた。
その羽根は本物の羽根か、それともイカロスの羽根か。委員長はまだそれを知らない。
115より子先生と太田くん:2008/06/14(土) 21:50:17 ID:9wqe23/v
委員長との帰り道、約束どおりクレープ屋に向かう。
店の周りは甘い香りと、子供のような女子高生に囲まれていた。カップルも見受けられるが、それもまた子供のよう。

「どれにしよっかなあ」
目をきらきらとさせている委員長は、メニューを見ながら楽しそうに迷っている。
無防備な委員長をわたしは優しく、そして冷徹に見ている。そんな中…。
「あっ、太田くん!」
わざとらしく、わたしは太田を発見する。同じく学校帰りの途中…という設定。
委員長はすこし不機嫌な顔になる。太田が来るんだもんな、この子にとっては無理がないか。
「太田くんも、クレープ食べる?」
「…う、うん」
「より子先生が少ないお給料で奢ってくれるんだから、もっと喜びなさいよね!太田」
太田を蔑む為に口にした委員長の言葉にわたし自身がイラッとするが、
そんなことはどうでもいい。太田もわたしと委員長の輪に加わった。

そして、みんなで楽しくクレープを食べました。
おしまい。




そんな訳ないだろ。話は明日へと続く。
116より子先生と太田くん:2008/06/14(土) 21:50:37 ID:9wqe23/v
翌日の朝早く、一人で職員室に来た委員長は、わたしにこっそり一枚のチラシを見せてくれた。
それは、とある鯛焼き屋の広告であった。
「ここの鯛焼き、すっごく美味しいんですう」
「へえ!いっぺん食べてみたいね」
わたしは新聞を取っていないので、この店のことは知らなかったが、委員長の腹の内は
ただ『鯛焼きが食べたい』というものではなかった。

これからは、あくまでもわたしの憶測なんだが、きっと委員長はわたしに気に入られたいんだろう。
ただ人気者と言うだけでろくにクラスをまとめず、わたしと仲良しごっこをしている委員長。
おそらく、これからの進学の為にわたしに気に入って欲しいと思って、やたら近づいてくるんだな。
そして、わたしをご機嫌にして内申書を少しでもいい点にして欲しいという、
浅はかな考えがメガネの委員長を動かしているのに違いない。うん、間違えない。

思い出してみなさい。太田が花瓶をこぼして資料を台無しにした(実際はわたしなんだが)時の委員長。
ここぞとばかり太田に噛み付く飛鳥に対して、あんまり荒立てようとしなかったじゃないか。
いい子ちゃんをぶって、飛鳥をなだめる所なんぞ偽善の香りが甚だしい。
まるで小さい頃のわたしを見るようで、なんだか腹立たしくもあるのだ。
117より子先生と太田くん:2008/06/14(土) 21:50:59 ID:9wqe23/v
「今度、こっそり買って持ってきましょうか?より子先生のためだけに!」
「うん、楽しみにしてるね」
「うわーい、楽しみにしてくださいね!!」
委員長はまるで高校の頃のわたしのようで、見ていてどうも気に食わない。
同族嫌悪って言うやつか。

.         ××××××××××××××××××××

わたしが中学3年の頃、友達は本当にいなかった。
いや、バカな話をしたり一緒に帰ったりする友達ぐらいはいたが、
どの子も薄っぺらい友情で繋がっている、知り合いの毛の生えたものであった。

「より子は国語の成績がいいなあ」
「べ、別に国語だけ頑張ったんじゃないから…!」
「より子の顔が赤くなったぁ!!」
自慢ではないが、中学時代の成績は押し並べていい方で、間近に控えた高校受験も全く不安なものではなかった。
教師や親からも期待をされた、まじめのまー子であったのだ。
そんなわたしは、他の友達がこれからいくつかの高校の入試に突入する中、いち早く私立の推薦入試に合格を決めた。
もちろん、教師、担任、友達は喜んだ。わたしも嬉しい。
118より子先生と太田くん:2008/06/14(土) 21:51:22 ID:9wqe23/v
これからのスクールライフに、美しい花を咲かせようとした時の事の話。
担任から呼び出されたわたしに、その花をむしりとられる様な事を言われる。
「三川さんは、はしゃがない方がいい」
「どうしてですか?折角合格したのに」
「まだ、受験を控えてる子もいっぱいるからね」

わたしの合格はわたしのものだ、他のヤツが気にする事はない。
と、思っていた当時のわたしはバカだった。

お手洗いの扉越しにわたしの噂を耳にする。
「より子は最近、冷たいなあ。アイツ、浮かれてるよね。ぜったい」
「先に合格したから、調子に乗ってウチらを見下してるんだよ」
友達だと思っていた子たちの声だった。どんなに長い呪いの呪文よりも、この言葉はわたしを深く傷つける。

彼女らがお手洗いから出てきて、わたしの姿を見にすると
「より子の行く高校、いいなあ。きれいなバルコニーがあるんだって?」
「わたしも、より子みたいに早く合格決めるんだ!」
と、手のひらをひっくり返すように、乾き切った尊敬の眼差しでわたしを見てくれる。

うそつけ。うそつきは嫌いだ。友達なんか、うそつきのかたまりだ。
この頃から人間がやけに嫌いになり、わざと友達(だったヤツら)から距離を置くようになる。
その結果、ただでさえ友達のいなかったわたしは、全く友達の影が見当たらなくなってしまった。
119より子先生と太田くん:2008/06/14(土) 21:51:47 ID:9wqe23/v
その反動か、高校に入ってから薄っぺらくてもいいので友達だけは欲しいと、
努めて明るく振舞う『みんなのより子』を演じてきた。
そして、わたしのほうがすっかり『うそつき』になってしまった…。

委員長とわたしの高校時代は、似すぎている…。

.         ××××××××××××××××××××

そんな、わたしの話はさておき。
わたしはそのお礼代わりと言っちゃなんだが、委員長にリップを勧めてみた。
買っておいて封を開けないまま持っていた、瑞々しい柔らかなリップスティックを
わたしのカバンの中から取り出し、委員長の小さなくちびるに塗ってあげた。
それほど派手でもなく、むしろむず痒い中学生たちにはお誂えのリップ。
お年頃の委員長には、ぴったりかもしれない。

どちらかと言うと地味なメガネっ娘で、そんなにおしゃれに気を使わない委員長は、
わたしからのプレゼントにまるで子供の様に喜んでいた。実際、子供なんだが。
「うわーい!より子先生、ありがとう!」
「委員長も大分、委員長っぽくなったよ」
「より子先生!ひどーい!それじゃわたしが『委員長』っぽくなかったじゃないですかあ」
「ウソウソ!!でも、随分大人っぽく見えるよ、コレだけで」

わたしがただで何かをしてあげると思ったら大間違い。
山猫は旅人からもらった一枚の肉にぱくつくが、その肉には小さな小さなとげが仕込んであるぞ。
今は気付かないかも知れないが、後になって痛い痛いって泣き叫んでも知ーらないっと。
委員長はカバンを揺らしながら、ぱたぱたと教室に向かった。
120より子先生と太田くん:2008/06/14(土) 21:52:16 ID:9wqe23/v
その日の午前中のこと。
授業合間にある5分休みの暇を惜しむように、委員長と飛鳥はつるんできゃっきゃ騒いでいた。
クラスに響き渡る騒音の約3分の1はコイツらの声かもしれない。
かといって、だれも気に止めているわけでもない。そんなものか。

「…ねえ、委員長…、水上さん…」
太田がひっそりとその中にやってきた。委員長は軽くあいづちををし、飛鳥は予想通りしかとをしていた。
あのね、太田さあ、そんな仕打ちをされるくらいなら、ヤツらに近寄るな…じゃあ終わらないのがわたしの企み。

女子二人は、いつものように食べ物の話ばかりをしている。
パフェだのケーキだの、よく朝っぱらからそんな話が出来るな。感心するよ、先生は。
聞いているだけでもうおなか一杯。胃がもたれてきた。
無理に二人の間に入ろうとする太田。これもわたしの企み。
「そういえば…委員長、知ってる?」
と、太田が口を挟むが飛鳥は無視をするが、次の言葉で委員長は口を閉ざす。
「この間のクレープ屋に新しいメニューが出来たんだって…」
「太田…!」
委員長は少し顔が曇る
121より子先生と太田くん:2008/06/14(土) 21:52:38 ID:9wqe23/v
「何?何よ、『この間の』クレープって?」
「うん。先生とね…」
「より子先生?より子先生となの??」
飛鳥が釣り針に引っかかる。

友達である委員長から仲間はずれにされて、大好きなわたしからハブられ
そしておまけにクレープを食べに行ったことが飛鳥には重要な問題だった。
飛鳥の粘着的な性格なんぞ、わたしゃお見通しだよ。ふっ。
しかも、太田までもがその恩恵に与っているのを知ったとなりゃ、腹をすかせた山猫の目の前に、
手のひらに野ねずみを乗せてちらつかせるくらい、この発言が危険な事は誰にだって分かる事。
太田は左手に野ねずみと、右手にキャットフード大盛りの皿を持って、山猫にちらつかせていた。
もっとも、太田に野ねずみとキャットフードを持たせたのは……このわたし。

「『この間』は、美味しかったよね…、委員長…」
「う、うん!ほら、太田もさあ…もうすぐ授業が始まるから、急いで…」
「ふーん、委員長も太田もさぞかし美味しいクレープ食べたんでしょうね」
思った通り飛鳥は少し不機嫌な顔をしていた。

昼休み、何事もなかったように委員長と飛鳥は二人で話していた。
しかし、内心飛鳥は悔しい思いをしているんだろうな。表面上ではにこやかな飛鳥だが
委員長に悟られまいといつもの様に笑っている。笑っているのも今のうち。
122より子先生と太田くん:2008/06/14(土) 21:53:11 ID:9wqe23/v
放課後、女子二人と太田はわたしの元に集まってきた。
飛鳥はわたしの前で喋り、委員長は横で相槌をし、太田は脇で黙って見ていた。
わたしは愛想を振りながら、この子たちの話を聞いてあげる。この時は『みんなのお姉さん先生』なんだから、
優しく話を聞くのもお仕事のうち、と割り切っているのだ。しかしまあ、飛鳥は良く喋る。
あまりも喋りすぎて、自分の薄黒い物をさらけ出してしまわないか、こっちは聞いててヒヤヒヤだ。
まあ、そうでもなりゃこちとら万々歳なんだけどね。

「そういえば、委員長さ。リップつけた?」
「う、うん。さすが飛鳥は気が利くねえ」
「太田もこのくらい気付いてやりなさいよね」
油断していた太田は思わぬキラーパスに動揺している。大丈夫、わたしがついているから
太田は何も心配しなくていい。オオカミさんよ、君の出番を待っていてくれ。

「このリップ、どこで買ったの?」
「え、えっとお……お店」
「あたりまえじゃん!あはははは」
「あたりまえだよ、委員長!」
「あたりまえじゃん…」
「太田、うるさいっ」
飛鳥の突っ込みは無慈悲だ。
ところが、わたしにこっそり鯛焼きの事を教えてくれたお礼なので、飛鳥の前では
大っぴらに『より子先生から塗ってもらった』と言えないのだ。
この場でこんな事を言ったら、勘繰り深い飛鳥の餌食になってしまう。
しかも、クレープの一件がある為に、もう飛鳥を仲間はずれにするわけにいかない委員長。

いつもと違う潤んだくちびるをつぐみ、もじもじと俯いている委員長に飛鳥は少し嫉妬していた。
きっと『わたしの方が似合うんだから!』とでも思っているんだろう。バーカ。
123より子先生と太田くん:2008/06/14(土) 21:53:36 ID:9wqe23/v
どうでもいいくだらない話がひと段落すると、わたしは太田に目で合図を送る。
女子二人に割り込むように、太田がぼそぼそ何か言い出す。
「ねえ…委員長って、彼氏ができたんだって?」
「太田、何言ってるの?委員長はフリーなんです!」
「だって…どう見ても…」
「太田ってバカ?どうしてそうやって決め付けるの?」
この間の仲間はずれの件で、飛鳥は太田のどんなに小さな言葉でも過敏になっていた。
いつもだったら聞き流すくせに、こういうときは山猫の耳の様な聴覚を発揮する。

「ウソを言うのはやめてよ…。わたしは…彼氏なんかいません!」
「だって…だって…見たんだ」
「あれれ、恥ずかしい事じゃないよ。いいなあ、委員長もモテモテさんだね。
この間一緒に彼とソフトクリーム食べてる所、わたし見ちゃったよ」
「うん。先生も見たんだって言ってるじゃん…」
わたしはさりげなくフォローを入れた(つもり)。もちろん、太田の発言はうそっぱちだ。
ラブラブソフトクリームを食べている委員長を見たというのももちろんうそっぱち。

委員長には彼氏なんぞいない。そのくらいは、これだけなあなあの関係をしていれば、
この子たちのプライベートも把握は出来るもの。当の委員長の顔が紅くなってゆく。
飛鳥も太田ならともかく、わたしが言うならきっと本当だろうと信じきっているに違いない。
そっちが信頼していても気に食わない相手には、こちらは叛旗を降ることもあるんですう。

「さあさあ!みんな帰った帰った!宿題はちゃんとするのよお」
これにてお開き。わたしはこっそり委員長と飛鳥の後をつけて、会話を盗み聞き。
太田、きょうも良く働いた。君の働きを誇りに思う。
124名無しさん@ピンキー:2008/06/14(土) 21:54:28 ID:9wqe23/v
今日は、ここまで。
次回でファイナルになると思います。投下終了っす。
125名無しさん@ピンキー:2008/06/14(土) 21:58:25 ID:1VeXC7LP
すげぇ乙です
126名無しさん@ピンキー:2008/06/14(土) 23:17:11 ID:vgdBNAJp
乙。オチが楽しみ。
127名無しさん@ピンキー:2008/06/15(日) 07:00:42 ID:qg8Eq/ZL
しかし太田よ君は本当に純真な男の子なのかと俺は問いたいwww
より子先生狡猾過ぎだwww
128名無しさん@ピンキー:2008/06/15(日) 21:08:04 ID:Drtmv1vn
129名無しさん@ピンキー:2008/06/17(火) 17:08:33 ID:SGhbWUkX
結構委員長と気が合うかもw

この心理は誰にでもあるかもな。例えば勇敢にケンカや揉め事を止めに行くマジメ君が実は一番暴れたかったりする
130名無しさん@ピンキー:2008/06/18(水) 02:11:01 ID:lw0UeAyP
>>127
純真じゃないか。先生を信じ切ってる辺りが。
131名無しさん@ピンキー:2008/06/21(土) 19:02:14 ID:QWPaNDE4
さて、「先生」のおはなしも今回でラストにしたいと思います。
では、はじまりはじまり。
132より子先生と太田くん:2008/06/21(土) 19:02:49 ID:QWPaNDE4
廊下を歩きながら、女子二人は静かにお喋りをしていた。
さっきのような華々しさはこれっぽっちもない、お年頃の子としては地味なものだ。
地味と言うより、飛鳥の薄暗い何かが委員長にまとわり付いている感じ。
わたしは職員室に向かうために、ここでさよなら。
後の会話は、こっそり付いて行った太田の話によるもの。じっくり聞いて欲しい。

「飛鳥、太田の言う事なんか気にしないでね」
「気にしてないよ!」
「うん…だって、わたしたちは友達だもんね」
「友達が友達を置いてクレープ食べに行っちゃうんだあ」
「…ごめん」
飛鳥の追撃が委員長に襲い掛かる。委員長は友達の不信感に耐えられるだろうか。
女子二人が、下駄箱から各々靴を取り出そうとふたを開けたとき、委員長の靴箱から
一通の封書が落っこちた。水色でいかにも清純そうな一通のふみ。遠くかえら見ても分かる。
ご丁寧にハートのシールで封をしており、十中八九恋文だと分かる物だった。

「これって、ラブレターじゃん。委員長」
「………」
「ふーん。お勉強も出来て、ちょっと美人で彼氏もいる女の子はモテモテなんですぅ、ってね」
「知らないよ…こんな子」
「『この子の為に背伸びして、わたしリップを付けてみましたぁ』って感じ?」
後ろ向きで委員長に話しかける飛鳥の表情は、想像が容易に出来る。
133より子先生と太田くん:2008/06/21(土) 19:03:14 ID:QWPaNDE4
この恋文は、もちろんわたしが捏造した物。
読み人知らずとなっているこの恋文は、飛鳥に視覚的衝撃を与える為だけに意味を成す。
恥ずかしそうに委員長は封筒をカバンに隠し、自分の靴を取り出した。

「あーあ。わたしもラブレター欲しいなあ」
飛鳥の氷よりも冷たい一言が、委員長の胸に突き刺さる。委員長から見えない血がにじみ出る。
スタスタと二人は学校を後にしたが、飛鳥はその後何も委員長に話しかけない。

太田から聞いた話は、これで以上。
わたしは職員室でお茶を飲みながら、太田からその話を聞いていた。

ごめんね、委員長。でも、わたしはわたしを本気に好いてくれた太田を悲しませる子が、だいっキライなんだ。
そんな簡単な事は、いずれあなたたちにも分かる事だろうね。おこちゃまは分からないか。
だから、わたしは満面の笑みを浮かべながら、山猫を追い詰める弓矢をぶっ放しているんだね。
でも、直接心臓は狙わないよ。だって、だって……かわいそうだからね…。
わたしだって、無慈悲なケモノなんかじゃないよ。きっと心臓に弓矢が突き刺さったら痛いんだろうなと思って、
山猫の尖がった耳たぶ狙い、ひょいと弓矢を放ち込んだんだ。やさしいね、わたし。
そして山猫に復讐の剣でとどめの一撃を斬り付けるべく、わたしと太田は朝早く学校にやってきた。
134より子先生と太田くん:2008/06/21(土) 19:03:37 ID:QWPaNDE4
「…わたしの上靴がないんだけど…」
「また、ベタな方法だねえ。委員長のマニアでもいるんでしょ『委員長の匂い、萌えー』って」
「飛鳥!ひどい!」

お察しの通り、委員長の上靴を隠したのはわたしと太田だ。
この為だけに早起きしてきた、体の弱い太田は賞賛に値する。
犯人はわたしたちなので、当然隠し場所も知っている。もちろん教えるもんか。

その日の朝は、珍しく委員長がチャイムと同時に教室に飛び込んできた。
朝のホームルームの時間ぎりぎりまで、委員長は自分の上靴を探していたんだろう。きっと。
紺の靴下のまま、ぺたぺたと歩く少女が一人。足を汚さぬ様に踵を上げて歩く姿は、なんとも痛々しい。
クラス中の前でこんな姿を見せているので、この事件はすぐにクラス中の話題独占となるのは当然だった。
お祭り大好きな飛鳥は、意外にもこの事を冷静に流していた。
わたしは来客用のスリッパを委員長に渡し、わたしも探すからと安心させる。

昼休み、いつもの様にわたしに群れている女子二人。
地味でぶかぶかのスリッパで歩きにくそうにしている委員長と、
それを平然と見ている飛鳥のそばに、太田が委員長の上靴を持ってやってきた。
さあ。太田くんよ、君の出番がやってきた。
135より子先生と太田くん:2008/06/21(土) 19:04:01 ID:QWPaNDE4
「…みつけた。委員長…」
「わたしの!!」
「植え込みの中…だったよ」
この事件の結末は、太田が昼休み中、委員長の上靴を探し回っていた…と言う、
企画・脚本・演出・プロデュース…わたし、の茶番。観客は委員長と飛鳥。
主演の太田は頭に葉っぱを付けて、恥ずかしそうにしている。小道具は劇の演出効果を高める。

委員長は自分の上靴を履きながら、照れくさそうに呟く。
「太田…あんたさ。けっこう、いいやつじゃん」
「………」
「ありがと」
さあさあ、お客さん。いい感じの展開になってまいり……、なってたまるか。
かわいいわたしの太田を散々コケにしておいて、自分の為に身を削ってくれたら英雄扱いってさ。

思ったとおり飛鳥が、がおーっと牙を剥く。非常に分かりやすい子だ。いい子いい子。
「ねえ、これ…太田がかくしたんじゃね?」
「せっかく見つけてくれて、その言葉はないでしょ。飛鳥」
「だって、あやしいもん!」
「太田、気にしないでね。この子、ちょっとおかしいから」

さあ、委員長と飛鳥の間になにかギクシャクと音がしてきたぞ。
あんまりわたしが口を挟むと、悪いなあって言うオトナの事情でわざと黙っていると、
さっきまでうるさかった飛鳥は黙り込んでしまった。
太田くん。見たかい、二人の友情ってもんを。
「わたし…おかしいんだ…。委員長はそうやって、わたしをずっと見てたんだ」
「……ごめん、飛鳥…」

委員長よ、いい子ちゃんを演じるのは苦しいかい。
136より子先生と太田くん:2008/06/21(土) 19:04:23 ID:QWPaNDE4
委員長の事件から数日後の朝、職員室で書き物をしていると委員長が一人でやってきた。
この間言っていた鯛焼きをもっているもの、顔は浮かない顔をしている。
雨降り前のぐずりそうな顔の委員長は、太田にそっくりだった。

「より子先生…わたし、飛鳥と…ケンカしちゃった…」
「あらあら。ケンカなんか、みんなするよ」
「いや!もうダメかもしれないの!!せっかくの友達だったのに…!!」
そりゃ、ケンカするだろうな。
大切な友達だと思っていたのに、(くだらない意地悪な)仲間だと思ってたのに寝返られ、
(わたしが作ったウソだけど)恋人が出来たのを隠していたりしていると思われちゃあ、
さすがの飛鳥も一人ぼっちにされた!と思うだろう。
でも、その位でケンカして泣くような二人なんだろうか?

「飛鳥にちょっと意地悪しようと思って、インチキのラブレターを作って飛鳥の下駄箱に
入れようとしたんです。あまりにも、飛鳥の言葉にムカついたから…。で、朝早く学校に
来て飛鳥の下駄箱を開けて、インチキなラブレターを入れようとしてたら…」
「したたら?」
「…来ちゃったんです、飛鳥が。そしたら、飛鳥『ふーん、この間さ。自分の下駄箱に
ラブレターがあって有頂天だったじゃん』って言うの…」
その事は、わたしは知らない(事になっている)。しかし、つるっと喋ってしまう委員長は、
きっとかなり動揺しているに違いない。彼女の性格からして、ぜったいそうだ。
137より子先生と太田くん:2008/06/21(土) 19:04:58 ID:QWPaNDE4
委員長は続ける。
「でね…、飛鳥が言うの。『自分の下駄箱に自分で書いたラブレター入れて、わたしに
自慢しようと思ってたんじゃないの?わたし、もて子でーすってね。い・い・ん・ちょう・さん?』って」
「………」
「『なんでそんなこと言うの?』って反論したら、
『じゃあさ、わたしの困る顔が見たいから、そんな事してるんでしょ?』
って…。ホントの事突かれちゃって…。ほんっとにムカついたから、怒鳴ったら…」
もういいよ、これ以上言わなくて…。頂いた鯛焼きをひとつ委員長に勧めて慰める。

いつもより大人しい委員長と一緒に教室に向かうと、廊下で一人ぼっちの飛鳥に出会う。
勇気を絞って委員長は飛鳥に再び放しかけようとするが…。
「ねえ!飛鳥!!」
「………」
「飛鳥ってば!!」
「……わたしの事、これから『水上さん』って呼んでくれませんか?委員長さん」

飛鳥は一人で教室に入っていった。

―――旅人の剣で一匹の山猫は血溜まりの中で斃れた。
もっとも、怪我を負っていたのにも関わらず激しく動こうとした為、かえって
己の傷を深くしたように見える。仲間だったもう一匹は、森の中に逃げていく。
その後姿を君は見たのか。その後姿は寂しかったか。斃れた山猫は答えない。
もういいや。旅人は余命幾ばくも無い山猫を静かに見守ろうとすると、一匹のオオカミが
ひょいとやってくる。その瞳は蒼いが、鋭さは微塵も無い。むしろ、優しい人間の目。

「太田くん、おはよう」
「おはようございます、先生。委員長」
委員長の瞳から、かすかにこぼれ光るものを見た太田は、そっと自分のポケットから
ティッシュを取り出し、彼女に手渡す…。何も言わずに太田は通り過ぎる。

君は、女の子に一生騙される子なんだろうな。太田くん。
138より子先生と太田くん:2008/06/21(土) 19:05:18 ID:QWPaNDE4
―――夏休みに入った青空の眩しいある日。わたしは心弾むデートに出かける。
お相手はもちろん…太田くん。かわいいやつだ。待ち合わせの時間の1時間前から待っていたらしい。
教室以外で太田とこの様に一緒になると、わたしを無垢だった小さい頃に帰らせてくれるし、
一生懸命な太田を見ていると『わたし、いつからヘンな子になったんだろう』と反省させられるのだ。

「より姉は、より姉でいいと思うよ」
太田がわたしを見て『より姉』と呼ぶ。そう、『より子先生』は今日はお休み。
世間様の目もあることなので、休日に太田と街を歩く時はわたしの事を『より姉』と
呼ばせるようにしている。
きっと名も無き市井の人々からは、わたしたちの事は姉弟にしか見えないんだろうな。
世間の目と夏の日差しが重なって見える。しかし、太田はわたしの腕にきゅっと捕まり、
どうでもいい事を忘れさせてくれるのだ。
夏休みでわたしに会えない太田は、この日はきゃんきゃんと跳ねまくる。もー、かわいい。
139より子先生と太田くん:2008/06/21(土) 19:05:42 ID:QWPaNDE4
二人して歩いていると、新しく出来ている店を太田が発見する。
そこには委員長が一人で列に並んでいるのが見える。一人っきりの委員長は静かであった。
「あ!より姉、新しいクレープ屋みたいだよ!」
「へへへ、太田くんは甘いもの大好きなんだね。まだまだお子ちゃま舌だからねえ」
「ひどい!罰として、ぼくへ甘い物を提供することを要求しますよ」
どこかで聞いたフレーズを太田が叫ぶ。

「学校が始まったら、寄り道のレパートリーにするんでしょ?太るぞお」
「この間、買い食いはダメってって言ってたじゃないですか!
そんな事をいわれたら、ぼくはここでクレープ食べなきゃいけないじゃないですか!」
太田は、まるっきり委員長の考え方がコピーされてしまった。
ホント、飛鳥といい委員長といい、そして太田といい…わたしの教え子たちってば。

太田がこっそり委員長の背後に近づき、ひょいと委員長のメガネをひったくる。
驚いた委員長は、わたしたちに気付いた。怒った委員長は太田からメガネを奪い返す。
しかし、夏がやって来るまであった元気さは委員長には無い。そっとわたしは二人に近づく。
「やれやれ、ホントに君たちは。わたしがあなたたちに奢ってあげようではないか。心して頂きなさい」
「…ありがとうございます…」
「より子先生が少ないお給料で奢ってくれるんだから、もっと喜びなさい!委員長」
わたしのオオカミは一人で歩き始めた山猫にかぷっと噛み付いた。

生意気な太田をきゃんと言わせようと、わたしは委員長の目の前で
「がおー」
と、太田の頭を甘噛みするのであった。


おしまい。
140より子先生と太田くん〜あとがき〜:2008/06/21(土) 19:07:19 ID:QWPaNDE4
おはなしは、これで終了です。
また、何時の日にか…。
141名無しさん@ピンキー:2008/06/21(土) 19:12:57 ID:ZDdxwugD
おつ!
みごと二人の仲を引き裂いてくれたww
142名無しさん@ピンキー:2008/06/21(土) 20:06:41 ID:+2iHaBTE
GJ!
だが太田君が困った奴にならないことを望む。
143名無しさん@ピンキー:2008/06/22(日) 04:41:40 ID:+vl6OLY9
乙。後味のいい結末ではないが狡猾な旅人にとってはかくあるべき光景か。
144名無しさん@ピンキー:2008/06/22(日) 22:55:36 ID:E7f+kggQ
しかし凄い話だったな!
何が凄いって結局太田に惚れたからってよし子先生の腹黒さが全く清浄化されなかった事だな
よし子先生の深い心の闇に太田は飲み込まれた形になっちゃったな
人としての年季の差って奴が出たな
作者さんGJ!
145名無しさん@ピンキー:2008/06/23(月) 01:32:51 ID:7S0++7u+
より子だぞ。
数年後には委員長も先生みたいな腹黒のいい女に成長してほしいもんだ。
今回の事件を糧にしてな。
146名無しさん@ピンキー:2008/06/24(火) 01:04:13 ID:v3AnxWj9
所詮その程度の友達とはなれたからどうだっていうんだ


でもGJ
147名無しさん@ピンキー:2008/06/28(土) 00:52:00 ID:ld7nghqW
gj
一話から一気に読んでしまった

次は委員長が主役で一本お願いしますw
148名無しさん@ピンキー:2008/07/01(火) 23:21:53 ID:LOu4HILB
委員長が保守しますう。
149名無しさん@ピンキー:2008/07/05(土) 16:33:20 ID:dcaE2zCs
保守
150名無しさん@ピンキー:2008/07/06(日) 06:20:00 ID:eZkYG0hT
今いっきにスレ読んだ
お嬢様の話が面白そうだったせいか、より子先生の話はそうでもなかった
お嬢様期待
151名無しさん@ピンキー:2008/07/07(月) 05:41:44 ID:0o3qWvdB
>>150
お嬢様ってなんだっけと思って読み返したら王子のか
152名無しさん@ピンキー:2008/07/08(火) 00:12:17 ID:Id3KYAEe
腹黒、ネクラは一番萌えるキャラ。
書き手さんかもーん。
153名無しさん@ピンキー:2008/07/12(土) 14:09:53 ID:V3qOdfUS
今週の金剛番長、このスレに合ってる気がする
更正しそうなのがちょい萎えだが
154名無しさん@ピンキー:2008/07/17(木) 01:28:56 ID:GGfyxtPi
ほしゅ
155名無しさん@ピンキー:2008/07/22(火) 12:42:21 ID:ZpYIAgYV
156名無しさん@ピンキー:2008/07/29(火) 08:32:12 ID:P/fxscct
より子先生と太田くんの作者GJ

『太田くん、言葉ってかわいい女の子なのよ。太田くんはまだわからないと思うけど
かわいく愛敬を振りまくほど、ホントは…なめんなよって思っているの』って。

この文を読んでただものじゃないと思った。表現がうますぎるw
157名無しさん@ピンキー:2008/08/04(月) 15:23:11 ID:POTx3ajJ
158名無しさん@ピンキー:2008/08/04(月) 20:33:41 ID:ruXQE6QC
新たなSSを期待待ち保守。
159名無しさん@ピンキー:2008/08/04(月) 21:05:11 ID:rJMZrdU4
「城崎さん、今日一緒に帰らない?」
「ごめんなさい。今日は用事があるから……」
 愚民の分際で私に話しかける馬鹿は毎日毎日絶える事はない。
 その原因は表面上だけ優等生で通している私にあるのだが、私は何時の頃からかその仮面を脱げなくなっていた。
「城崎さん、今回のテスト何点だった?」
 私の点数を知ってどうすると言うのか。私にその質問を投げかけた女生徒は、にこにこと笑みを浮かべながら私の点数を知ろうとしてくる。
 私は心の中で悪態を吐いたが、それを表面にまで表す訳にも行かず、テスト用紙を見せた。
 100点と点数の欄に書かれた数字を見て、その女生徒は黄色い歓声を上げる。そうして、私を褒めて来る。
 愚民の褒め言葉など、私にとっては何の役にも立たないと言うのに。
 大体、こういう手合いに限って、私が少しでも傲慢な態度を見せれば手の平を返したように虐めの加害者になるのだ。
 この女生徒だけではない。人間はどいつもこいつも汚い言葉を人に対して向けているのだ。
 ならば、こうして私が腹の底で人を嘲笑い、侮蔑しても何ら問題はない。その上、私が傍目から見ても優等生の鏡であるなら、それが露見する事態も成り得ない。

 帰りのホームルームの終了を告げるチャイムが鳴り、日直の号令がかかった後、私は自分の鞄を提げてすぐに教室を出た。
 下らない話題で盛り上がり、時には私まで巻き込んでくるあの馬鹿どもと関わりたくないからだ。
 先ほど私と一緒に帰りたいと言った男子生徒の視線を背中に感じていたが、気色悪いだけなので無視する事にした。
 下等な分際と一緒に帰路を共にするなど、考えただけで吐き気を催す。
 奴らは自分に見合った相応の五月蠅い女性と付き合えば良いのだ。私とでは到底釣り合わない。その自負が私には在った。

 校門を潜ると、生活指導の教師が生徒の素行について注意をしている光景があった。
 髪の毛を染めている者、校則違反のアクセサリーを身に着ける者、スカートの丈が短すぎる者――そう言った生徒を手当たり次第に叱り付けている。
 どうせその場凌ぎにしか成り得ないのに、その熱心さには心底敬服する。私は心の中でその教師を嘲笑して、門を出ようとした。
「おい、城崎。ちょっと待て」
 私の足が門を一歩出た時、その教師の声が私の耳を突いた。
 鬱陶しい。私に注意する事など何一つ無いだろうに、何を理由に注意をしようと言うのか。
 生徒を先導する立場である教師がこれでは、他の教師の高も知れている。職員室で世間話に花を咲かせている奴らも、無能に違いない。
「何か」
「スカート丈が短いぞ。少し測らせて貰おうか」
 そう言って、教師は私の太股に手を伸ばしてくる。私のスカート丈は校則に則っているはずなのに――いや、下心しかこの男には無いのだろう。
 私はそう判ずると、反論も無駄と考えて、一思いに痴漢だと叫ぼうとした。
 幸いこの教師の、生徒からの評判は悪い。私がここで叫べば、十中八九周りの生徒は私の証言を信じるだろう。
 教師の手がとうとう私の太股に当てられ、私が叫ぼうと空気を思い切り吸い込んだ時、一人の男子生徒は卒然と登場した。
「止めたら、先生? 城崎さんが叫べば教師じゃ居られませんよ」
 教師の手首を掴み、彼は私を横目で見た。教師の目も、同時に私に向く。
 すると、その教師は私が叫ぼうとしているのを悟ったのか、聞こえるか聞こえないかの舌打ちを残してその場を去った。
 後に残されたのは、校門を出ようとする生徒達の波に抗うようにその場に留まっている私と、私を助けた男子生徒だけだった。
「大丈夫? あの先生、平気でああいう事するから気を付けた方がいいよ」
「どうせ叫ぶつもりだったもの。助けられなくても、どうにかなったわ」
「あ……そっか。ごめん、余計な真似して」
 心配気に私を見詰めていた瞳に、悄然とした光が宿った時、私は仮面を被っていない事に初めて気が付いた。
 何時ものように、ありがとうと優等生らしく謝辞を並べれば良かったのだ。
 何故私はそれを放擲してまで素の自分を出してしまったのだろう。今になって後悔の念が湧き上がる。
「それじゃ……僕は帰るから。また学校で、城崎さん」
「あ、あの!」
「え?」
「その、ありがとう……」
「……どういたしまして」
 何故だろう。咄嗟に彼を呼び止めた訳も、微かな羞恥を持ちながらお礼を言ったのも、何もかも判然としない。
 ただ、私のお礼を聞いて嬉しそうに微笑んで、心なしか軽い足取りで帰って行った彼の後姿を眺めていた。
 ――止まらない生徒達の波に抗うように、私は暫くの間校門の前で立ち尽くしていた。


続かない。
160名無しさん@ピンキー:2008/08/04(月) 23:20:03 ID:rItXAGEo
>>159
ぐ、、、ぐっじょーーーーーぶ


と叫びたいのに、、、続かないの?
ねぇ、、、続けようよぉ
161名無しさん@ピンキー:2008/08/05(火) 00:31:44 ID:yRVy+kfB
うはー!城崎さんツボだ!
続いてくれよお。

城崎さんのナレーションは「黒バラ」の杉本○み女史で再生される。
162名無しさん@ピンキー:2008/08/05(火) 09:41:04 ID:LG8CE2/a
ttp://www.amazon.co.jp/gp/product/customer-images/B000TUGSZM/ref=cm_ciu_pdp_images_0?ie=UTF8&index=0#gallery

そういえばこの子もスレタイに合ってるな
専用スレあるけど
163名無しさん@ピンキー:2008/08/06(水) 18:08:25 ID:v0QjWgI2
無骨でバカな男ってのが好きなんだがスレ違いになっちゃうのかね
バカ故に純粋ってのが良い
164名無しさん@ピンキー:2008/08/06(水) 21:53:39 ID:rAdAfQzq
ちょっと読んでみたい気もする。
165名無しさん@ピンキー:2008/08/07(木) 15:04:54 ID:VHv2gzJA
モノは試しに投げてみる
微黒?

差し出されたその手には…

 私だって、何も最初から捻くれていたワケじゃない。
 小さい頃は疑う事を知らなかったし、誰にでも心から優しく出来ていた。
 皆が幸せなら、それだけで良かったと思っていた。
 だけど、私はもう今の私になってしまったのだから仕様が無い。
 気が付いたらこうなってしまっていた、今の私。
 でも、別に不満は無いから困っているワケでもない。
 原因を何となく過去に察する事は可能なのだけれど、それに気付くのも、対処するのも既に手遅れなのだから今の私なんだろう。
 ゴメンよ、昔の私。救ってあげられなくて…。
 でも、今の私もそれなりに人生を楽しんでいるから許してくれるよね?
 昔の私は良い子だったから。
166名無しさん@ピンキー:2008/08/07(木) 15:08:33 ID:VHv2gzJA
「あ…!!神楽さん、ちょっと良いかな?」
 名前を呼ばれて振り返ると、そこには良く知るクラスメイトの女子が私を指差して立っていた。
 ショートカットの良く似合う、快活な女の子。
「あら、何かしら?榊さん」
 私の言葉に、榊さんが愛想を浮かべて揉み手をしながら擦り寄って来た。
「えっと〜…。実は、来月の学園祭の事なんだけど〜、実行委員が決まってないのウチだけなんだ〜」
 申し訳無さそうな表情を浮かべてはいるものの、その瞳には獲物を狙う鋭さが漂っている。
 その言わんとする所に、私は内心で溜息を吐いた。
「つまり、私に実行委員になって欲しい、と言うワケですね?」
「ゴメンよ〜。ウチのクラスってバイトしてる人がやたら多くってさ〜、皆時間取れないって言うんだもん」
 「お願いだよ〜」と懇願してくる彼女を、私は疲れた目で見た。
 確かに、私はアルバイトをしているワケじゃないけど、アルバイトをしている人たちは自分の時間をアルバイトに使っているのだ。
 他の人は自分の時間を謳歌しているのに、何故私が他人の為に時間を割かねばならぬのか。
 そもそも、私だって自分の時間はちゃんと予定で埋められている。
 成績上位は一日にして成らず、なのだ。
 先の榊さんの言葉通り、学園祭は一ヵ月後。
 二週間前から午前中授業に切り替わり、クラスに拠るが二、三日前には担任が監督して泊り込んで準備すると言う徹底ぶり。
 毎年、OBや周辺住民を巻き込んで三日は騒ぎ続ける一大イベントなのだ。
 実は売り上げは結構な額になっていて、そこから学生の学費補助などに当てられているらしい。
 お陰でこの学園は私立であるにも関わらず、公立とそう変わらない学費で通えると有名なのだ。
 『学校法人私立榊学園』。
 目の前の御仁は、当学園の理事長の孫娘である。
「そうですね〜。他ならぬ榊さんの頼みですし…」
 「面倒臭い」の言葉を飲み込んで、私は了承の言葉を吐き出した。
 学園祭の委員ともなれば評定も良くなるだろうし、何より地元の名家でもある彼女の心象を良くしておいて損は無い。
 決して大きな街では無いけれど、私の街で榊の息の掛かっていない地域は殆ど無い。
 財界政界にもコネがある榊家は、その権力で古くから周辺地域を守り、そして統治してきたのだ。
 只、最低二週間。もしかすれば、一ヶ月は放課後を丸々準備に費やさねばならない事が私にとては結構なストレスになるかもしれないが…。
「ホントッ!?やった〜、これで三人揃ったよ〜っ!!」
 榊さんが、握り拳を両手に作ってそう叫んだ。
「え?三人ですか?」
 私の言葉に、榊さんが首肯する。
「実行委員は各クラス三人だよ?」
 そう言えばそうだった。
 何せ、規模が大きい私たちの学園祭では兎に角人数が必要なのだ。
 まぁ、人数が増えればその分個々の負担が減るので寧ろ歓迎するべき事には違い無かった。
「えぇっと、それでもう一人の実行委員は誰なのですか?」
「宮路君だよ?」
 その名前に、「あぁ…」と私は納得した。
 彼なら、委員と言わずに頼まれれば何だってしてしまうだろう。
 と、言うか。彼が誰かの頼みを断っているのを見た事が無かった。
 一家に一台。クラスに一人。
 そんな単語が良く似合う、私のクラスのお助け人なのだ。
「ちょっと待っててね?」
 そう言うと、榊さんは携帯電話を取り出して早速連絡を取り始めた。
 聞こえてくる数度のコール音がして、程無くその相手の声が漏れてくる。
「え〜っと、宮路君?三人目が揃ったから、今から教室に来てくれる?顔合わせしたいんだけど?え?誰かって?ふっふっふ〜。それは来てからのお楽しみ」
 何だろう。私は何かの楽しみにされるのだろうか。
 悪戯っぽく笑いながら話をする榊さんを眺めて、私の中では早くも己の警鐘が鳴り始めていた。
167名無しさん@ピンキー:2008/08/07(木) 15:13:56 ID:VHv2gzJA
「へぇ…。三人目って神楽さんだったんだ。宜しくね」
 案外近くに居たのか、宮路君は直ぐに現れた。
 同じクラスのメンバーなのだけれど、こうやって改めて顔を合わせるのは初めてかもしれない。
 年下の様な幼い顔立ちに加えて、無垢な表情が更に輪を掛けてそう見せていた。それに、男子にしては小柄で身長も私より少し高いくらいだろう。
 相変わらずの、人畜無害な雰囲気が漂っている。
「クラスメイトに今更宜しくも無いけどね〜。まっ、こう言うのは気持ちの問題だし。やっぱり宜しくは言っておこうか?宜しくっ」
「よ、宜しく…」
 カラカラと笑う榊さんに倣い、私も挨拶を済ませた。
「それじゃ、早速本題に移ろうか?言っとくケド、ウチが一番遅れてるンだからそこンとこ宜しくね」
 榊さんの机に椅子を寄せて、三人での会議が始まった。
 二人とも有能で、滞り無く話が進む事は私にとって有り難い。
 丸投げにしているクラスメイトたちは、無理な内容でなければ実行委員の決定に従うと事前のホームルームで捺印させられている。
 よって、私たちの裁量でクラスの出し物は喫茶店となった。
 メニューに始まり、食材の買出しや火の管理。内装や制服、予算の積み立てが次々と組み立てられていく。
「よ〜っし、じゃあ後の細かい微調整は明日話し合おう。今日はここ迄で解散。二人とも、お疲れ様でした〜」
 一時間と経たない内に企画書の骨子が完成し、榊さんの満足そうな表情で今日の会議はお開きとなった。
「お疲れ様でした…」
 私も別れの挨拶を済ませ、順調に進んだ仕事の充実感を味わいながら帰り支度を始めようとした時、ふと私の目の前に手が差し出された。
「はい、神楽さん。今日はご苦労様」
 そう言って差し出された宮路君の手には、飴玉が一つコロンと載せられていた。
「頑張った神楽さんに、ご褒美」
「え?あ?有難う…」
 おずおずと、私が飴玉を受け取ると、宮路君が満足そうに微笑んだ。
「おぅっと?宮路君?アタイには何も無ぇのかい?欲しいな〜、私も飴玉欲しいな〜」
 人差し指を指に咥えてねだる榊さんに、苦笑した宮路君が別の飴玉を取り出した。
「はいはい、じゃ榊さんには懐かしの小児科の味を…」
「って、オレンジかい!?風邪薬や水薬の味付けを髣髴させる、なんて渋いチョイス…。まぁ、地域で味も違うンだけどね…」
 ブツクサ呟く榊さんだが、貰った飴玉を口に放り込んでコロコロと転がし始めると、ほんわかと頬を緩ませた。
「うんうん、やっぱ労働に対価は必要だね〜…。アタシャこのひと時の為に今日を働いてんだよ…」
 その表情があまりにも幸せそうに見えたからか。
 気が付くと、私も自然な動作で宮路君の飴玉を口に入れていた。
「あ、美味しい…」
 柑橘系の甘酸っぱい味が、不思議な懐かしさと一緒に広がっていった。
 味覚が感じるその甘さに、意外にも私が疲れていたのだと知らされる。
 いや、これはきっと身体の疲れだけじゃないのかもしれない。
 乾いた土に、水が染み込む様な。そんな気分にさせられる。
「じゃあ、僕はこれで失礼するね」
「あ…」
 「有難う」と言う前に、宮路君は教室を出ていった。
 コロコロ、コロコロ…。
 いつか昔の子供の様に、私は久し振りに宮路君の飴玉を溶ける迄嘗めていた。

続く?
それよりも、もっと黒そうなキャラがいないでもない様な…
168名無しさん@ピンキー:2008/08/07(木) 15:54:11 ID:KFyNzXNn
おお、新作が来ましたよ。
これからこの三人がどう絡んでいくかが楽しみ。
169名無しさん@ピンキー:2008/08/07(木) 15:58:23 ID:3O411QhJ
わっふるわっふる

どう考えても、微黒の女の子ともっと黒い娘っ子が
一人の男を取り合う未来が見える様な……

しかも、朴念仁は全然気付かないと言うお約束付きで
170差し出されたその手には…:2008/08/07(木) 22:16:47 ID:VHv2gzJA
勢いで書いたけど、本当に微黒?かと言うくらい黒くない…orz

多分、もっと心に余裕が無くなれば黒くなってくる、筈…
それでは、続きを投下いたします


差し出されたその手には…(2)

差し出されたその手には…(2)

 優秀な二人のお陰もあってか、企画書の手直しはどんどん進み、週末に差し掛かる頃には何と私たちのクラスは既に学園祭の準備に取り掛かれる程になっていた。
 そして、アルバイトで時間が取れない生徒が多い私たちのクラスでは、遅く迄学園に残らない代わりに来週から準備を始める事となった。
 なのだけれど…。

「あ、そろそろ俺バイトだわ。悪い、今日はここで抜けるわ」
「私もバイト行くね〜」
 一人の生徒を皮切りに、ぞろぞろと芋蔓式に抜けていく生徒たち。
 本当に、何で私たちのクラスにはこんなにアルバイトをしている生徒が多いのか。
 この時期は学園祭があると解っているのだから、正直アルバイトを自粛して欲しい気がする。
 そんな私の考えなどつゆ知らず、隣で企画書と作業進行をチェックしていた宮路君は去り行く彼らに律儀に別れの挨拶を掛けていた。
「お疲れ様〜」
「あいよ〜」
「まったね〜」
 そして時計の針が六時を回る頃には、教室には私たち実行委員の三人だけが残って作業を進めていると言う始末。
 何だか、割に合わない気がしないでもない。
 まぁ、評定やら何やらでその分は返ってくるのだと私は自分に言い聞かせた。
 と、
「この儘いけば、喫茶店は充分間に合いそうだね〜」
 喫茶店の女子の制服をミシンでカタカタ縫いながら、榊さんが楽しそうに呟いた。
「結構皆もギリギリ迄残ってくれてるし、やっぱりクラスの出し物は皆で楽しみたいモンね〜」
 とは言っても、放課後一時間で殆どがアルバイトに行ってしまっているのだが…。
 「よし、一丁上がりっ。次、いきましょうか〜」と、内心でボヤく私の前で次々に制服を量産していく榊さん。
 正直、この手際の良さは本職ではなかろうかと私は思う。
「こっちも一丁上がり」
 と、気付けば宮路君も男子の制服をどんどん仕立て上げていた。
 何だろう。この異常にスペックの高い二人は…。
 一緒に仕事をする様になって気付いたのだけれど、この二人は一人で優に数人分の仕事を平然と熟していた。
 正直、勉強しか取り柄の無い私が二人の作業についていけるワケがない。
 更に付け加えるならば、二人とも学業成績は優秀で、辛うじて私が頭一つ勝っていると言うくらい。
 まぁ、他人は他人。私は私。
 二人の美点は認めるし、美点が無いからと言って私の欠点が増えるワケでもない。
 無理して何か出来る様になっても、結局は何処かで綻びが出てきてしまうのだ。
 無理はしない。それが私の主義なのだ。
「ん〜…。今日はこれくらいにしとこうか?そろそろ八時回るし」
 三人の仕事が一段落着いた所で、榊さんが今日の仕事の終了を宣言した。
「そうだね」
「お疲れ様…」
 私の台詞に続いて、榊さんと宮路君が互いに労う言葉を述べ合った。
「と言うワケで。はい、二人とも」
 と、宮路君が私たちに恒例となった飴玉を差し出した。
171差し出されたその手には…:2008/08/07(木) 22:18:41 ID:VHv2gzJA
「ひゃっほい!!愛してるぜ、宮路〜」
「あ、有難う…」
 飴玉を受け取る私の隣で、何処と無く男前な台詞で飴玉を受け取る榊さん。
 毎回思うのだけれど、榊さんって一応お嬢様の筈よね?
「って、またオレンジかいっ!?」
 渋い表情でコロコロ飴玉を転がす榊さんに、名家のご令嬢など言う雰囲気は微塵も感じられない。
 澄ましていれば間違い無く美人だと思うのに、今の目の前の榊さんは普通の女の子以外の何者でもなかった。
「ところでさ〜、宮路君。何で飴チャンとか配ってるの?」
 帰り支度をしながら、榊さんが宮路君に訊ねた。
「そうだね〜。僕が飴持ってたからかな?まぁ、他のお菓子があったらそれあげちゃうかもね」
「いや、そうじゃなくて。お菓子を持っていたら、何で他の人にあげちゃうワケ?」
「う〜ん…。多分、喜んで貰えるからかな?ホラ、お菓子貰ったら何となく嬉しい気持ちにならない?」
 まぁ、悪い気分にはならないとは思うケド。知らない人からだと不信感バリバリな気がするのは私だけ?
「なるっ!!そして、ホイホイ付いて行っちゃうかも…!!」
 アレ?お嬢様、何を仰られているのデスカ?
 私の視線を感じ取ったのか、榊さんがこっちを向いて両手でガッツポーズをした。
「大丈夫、神楽さんの分も包んで貰うからね?」
 大丈夫なのはそこじゃねぇです…。
 息を巻いて目を輝かせる榊さんに、私は肩を落とした。

「じゃ、私はここで〜っ!!」
「気を付けてね、榊さん」
「さようなら…」
 元気良く手を振る榊さんと別れると、私と宮路君は途中まで一緒の通学路を歩き始めた。
 コツコツと、二人の足音だけが月明かりの中で聞こえてくる。
「今日は、結構進んだね」
「えぇ、そうね…」
 何処か弾んでいる宮路君の声に釣られて、私もつい嬉しそうに返した。
 物臭な性分がある私だけれど、やると決めた事は必ずやるのが私の信条だ。
 と、今日の充足感に浸っている私の隣で、宮路君が盛大な溜息を吐いた。
「実は、今日で飴玉のストックが切れたんだ。明日から何を持って行こう…」
「………」
 そんな理由で、私の隣で陰鬱そうな溜息を吐かないで欲しい…。
「別に、又飴玉でも良いんじゃないかしら?」
「でも、同じのだと飽きられない?」
「まぁ、何だかんだで榊さんは気に入っているみたいだし、私は構わないと思うわ」
「そうかな?だと良いケド…」
 何処かほっとした宮路君の言葉に、少し、胸に爪で擦ったような感覚が広がった。
 多分、こんなどうでも良い事に悩んでいた宮路君に呆れてしまったのだろう。
 きっとそうだと、私は思った。

続く?
172名無しさん@ピンキー:2008/08/08(金) 11:57:20 ID:ZpI/CCLr
子供のような宮路くん、いいねえ。
榊、神楽両者も黒く、正しく、美しく…
173差し出されたその手には…:2008/08/09(土) 02:15:08 ID:KY5Vor/B
今は皆落ち着いていますが、佳境に入れば…と、自分自身を信じております
黒さが足りないですが、話が出来たので投下します

差し出されたその手には…(3)

「今度の休みに、三人で買い物に行かない?喫茶店で使う道具とか材料とか調達したいものとか割とあるんだ〜」
 ここ一週間ですっかりお馴染みになってしまった三人だけの準備作業で、榊さんがそう切り出した。
「そうなんだ?」
「だけど、何を買いに行くの?制服は今ある生地で全員分仕立てられるし、紙食器も十分に用意してますし…」
 私の言葉に、榊さんが「ふふふ〜」と得意そうな笑みを浮かべる。
「実は、喫茶店で使う材料なんだけど。その材料の買い付けにね〜」
「へぇ〜。榊さん、そう言うのに詳しいんだ?」
 素直に感心の声を上げる宮路君。
 だけど、私は少し気になる事があった。
「そう言うのって、原価はどれくらいなんですか?あまり高価だと、予算が不足してしまう様な…」
「大丈夫、大丈夫〜。そんなに高価なモンじゃないから。『値段の割に質が良い』くらいの買い物の予定なの」
 そう言って、榊さんは改めて私たちに視線を送ってきた。
「まぁ、それなら…」
 本当は貴重な休日は一人で過ごしたかったのだけれど、私は榊さんの買い物に付き合う事に決めた。
 それに、最近は私も街に出ていなかったし、ついでに羽を伸ばしたかったのだ。
 いくら順調な仕事とは言え、週五日の放課後をずっと準備作業に追われていたのだから気分転換の一つもしたくなってくると言うものだ。
「そうだね、荷物持ちとか男手も要るみたいだし」
 この時点で既に荷物持ちの自覚ありとは、流石はお助け人の宮路君。
 と言いますか、彼のこの出所不明の積極性は一体何なのだろう。
 奉仕の心なんてずっと昔に擦り切れてしまった私には、ちょっと理解出来ない。
「よし。それじゃ、土曜の10時に平坂公園の噴水前で良いかな?」
「うん、良いよ」
「分かったわ…」
 かくして、私たち三人での買い物が決まったのだった。
174差し出されたその手には…:2008/08/09(土) 02:20:32 ID:KY5Vor/B
「あ、神楽さん」
 集合時間の十五分前、指定された平坂公園の噴水前にはバスケットを提げた宮路君が立っていた。
「えっと、宮路君。今日は…」
 挨拶をする私だが、如何せん彼の持つバスケットについ目が向けられてしまう。
 そんな私の視線に気が付いた宮路君が、都合(ばつ)悪そうに頭を掻く。
「一応、皆のお弁当作ったんだけど…。張り切り過ぎかな?」
 間違い無く、張り切り過ぎです。
 そう思う一方で、私は男の子の、宮路君の作ったと言うお弁当が少し気になった。
 昼食を摂りながら三人で話し合いをする事もあったけど、そう言えば宮路君はいつもお弁当だった気がする。
「宮路君が作ったの?」
「うん。朝ご飯作るついでにね…」
 「あ、でも朝ご飯と同じご飯じゃないよ?」と付け加える宮路君だったが、それよりも私は休日の朝から自炊していた宮路君に少し感心してしまった。
 一体、宮路君はいつ休んでいるのだろうか。
「お、皆早いね〜」
 と、そこに元気な声が響いた。
「あ、榊さん」
 宮路君の視線を追うと、手をヒラヒラと振りながら歩いてくる榊さんがいた。
「ややっ!?宮路君、夢の詰まっていそうなその手のアイテムは一体何ぞや!?」
 親指と人差し指で架空の眼鏡のフレームを揺らしながら、榊さんが目を輝かせた。
 正直、少しウザい…。
「えっと、皆の分のお弁当を作ってきたんだ」
「うんうん。そんな気配りが出来る宮路君は、きっと良いお嫁さんになれるよ」
「ははははは…」
 満足そうな表情を浮かべる榊さんに、流石の宮路君も乾いた笑いを漏らした。
「さぁ、やる気も出てきた事だし。早速買い付けに行こうじゃないか」
「うん、そうだね」
「え、えぇ…」
 やたらとテンションの高い榊さんを先頭に、私たち三人の買出しが始まった。

続く?
175名無しさん@ピンキー:2008/08/09(土) 15:27:24 ID:UcSqpFj9
いいよー。わっふる。
楽しみですね。
176名無しさん@ピンキー:2008/08/09(土) 23:30:36 ID:jmVeoaCB
乙。一回2、3レス程度ならもう少しまとめてから投下しても良いんじゃないか。
177名無しさん@ピンキー:2008/08/10(日) 13:00:20 ID:1fxfyo9f
そだね。一気に読みたい。
178名無しさん@ピンキー:2008/08/10(日) 14:55:44 ID:QIIPz1Oj
榊・神楽両嬢のブラック&デレを期待。
179差し出されたその手には…:2008/08/10(日) 17:43:30 ID:ikAAy9M8
つい、適当な区切りで投げてしまうンですね…
以前に一気に投下して、規制で干された苦い経験の所為でしょうか?
出来たら即投下、よりはある程度溜め込んだ方が良いですかね?
取り敢えず、本格的な文化祭準備から楽しくなりそうです


差し出されたその手には…(4)

 榊さんに連れられ、訪れたお店は直売所みたいな専門店。
 国内国外を問わず、その豊富な品揃えに私たちは思わず呆気に取られてしまった。
 値札を見れば驚く様な高価な商品もいっぱいで、味も知らない商品ばかりでどれを選べば良いのか見当も付かなかった。
 だけど、榊さんは店の中を見渡すと喫茶店で使うメニューの材料と見比べながら手頃な値段の商品を次々と買い込んでいった。
 こうして、一通りの材料を買い揃えた私たちは榊さんの主導の下、早々とその目的を終わらせてしまったのだった。

「さて、お昼も回ったし、そろそろお待ちかねのお弁当タイムと行こうじゃないかっ!!」
 集合場所の平坂公園の原っぱで、そう口にするのはバスケットを手にする榊さん。
 因みに宮路君はと言うと、両肘に茶葉そして胸には珈琲豆と、沢山の紙袋を抱えている状態。
 まぁ、本人曰く「お茶っ葉は乾燥してるから全然重くないし、珈琲豆もそんなに大した事無いよ?」らしい。
 それはさて置き、お腹が減ってきたのは私も同じなので昼食を摂りたいのは確かな事。
 宮路君に目を遣ると、お腹が空いてしまった、と同意の表情。
 満場一致で、私たちはお弁当を広げる適当な木陰を探し始めた。
「それじゃあ、宮路君のお弁当のお披露目をしよう」
 と、草叢に腰を下ろす榊さん。
 私もそれに続き、荷物を置いて宮路君も座った。
「おぉっ!?これはまた王道な…!!」
 バスケットを開けて中を覗き見るや、榊さんが感嘆の吐息を漏らした。
 興味をそそられてつい首を伸ばして確認すると、私も思わずその出来に驚いた。
「凄いですね…」
 陳腐な言葉だが、それ以上の言葉は思い付かなかった。
 サンドイッチや御握りとかは予想していたけど、唐揚げやサラダ、玉子焼きやフライものなんかの惣菜が結構揃えられていた。
「まぁ、ちょっと作り過ぎたかな?」
 作り過ぎです。
 でも、仕出し弁当なんかより手作り感が出ていて、これは確かに美味しそうだった。
 バスケットから紙皿やお箸、お手拭を取り出して配り終えると、お弁当箱が広げられたシーツの上に乗せられた。
「アレ?紙コップはあるのに、飲み物が無いとはこれ如何に?」
「あぁ、こっちに入れておいたんだ」
 と、宮路君が今まで持っていた買い物袋から魔法瓶の水筒を取り出した。
「結構、重いからね」
 そう言うと、宮路君が私たちのコップにお茶を注いでいく。
「良し、ンじゃ、頂きま〜すっ!!」
 榊さんが高らかに宣言するのに合わせて、私たち三人は手を合わせた。
「頂きます」
「頂きます…」
 取り敢えず、私は一番近かった惣菜の中から一口サイズのコロッケを選び、それを口の中へと運んだ。
「美味しいっ!!」
 榊さんが声を上げた。
 いや、確かに美味しいけどそこまで声を出さなくても良いんじゃないかしら。
「シェフを呼べ!!」
 目の前に居ますから。
 何でこんなに一挙一動が大きいのだろう。
 少し恥ずかしい。
180差し出されたその手には…:2008/08/10(日) 17:44:44 ID:ikAAy9M8
 と、
「でも、今日は驚いたよ。榊さんがお嬢様って呼ばれてるんだもん」
 宮路君が感心した表情で切り出した。
 そう、今日の買い物で一番驚いたのは何よりもその事だろう。
『これは、悠輝お嬢様。ようこそいらっしゃいました』
 専門店で、榊さんを見た店員が咄嗟にそう挨拶したのだ。
 流石に私たちの前でそう呼ばれるのは抵抗があったのか、『あちゃ〜』と榊さんは少し困った表情で笑っていた。
「あははは…。まぁ、何だ…。そう言う面も含めて私なんだってば…」
 その時の事を思い出したのか、榊さんが頭を掻いた。
「だけど、やっぱり榊さんてお嬢様って思う時はあるよ?」
「へぇ?どんな?」
 宮路君の言葉に、榊さんが興味を覚えたらしい。
 尤も、私も宮路君の言う榊さんの『お嬢様』がかなり気になった。
「ホラ、お箸の持ち方とか食べ方とか凄く綺麗だし。街を歩く時も背筋が伸びてたしね。何て言うのかな?品、が漂っているのかな?」
「はっはっは〜。それはもう昔っから躾けられてきたからね〜。今更抜けないンだよ」
 ケラケラと笑い、榊さんが別のおかずを口に運んだ。
 確かに、よくよく見れば榊さんの仕草は洗練されたもので、見惚れてしまう程に様(さま)になっていた。
「およ?神楽さんも私のが気になる?」
「え、そ、その…」
 榊さんの指摘に、私は言葉が吃った。
「そうだね〜」
 そんな私を見て何を思ったのか、「コホン」と榊さんが上品に咳払いをした。
「この様に振舞えば、神楽様も私(わたくし)が由緒ある榊の者として相応しいのでしょうか?」
「――っ!?」
 そして、崩した脚を優雅に組み、銀の鈴の様な凛と響く声で榊さんが私に嫋やかに微笑んできた。
「そんな驚かれた表情をしないで下さいまし…。榊がこの平坂を代表する顔たれば、この様な振る舞いも必要となりましょう?」
 しんなりと、白く細い首を傾げる榊さん。
 肩に揺れる髪が、サラリと零れた。
「わぁ、本当にお嬢様みたいだ」
「って、本物だって言ってるでしょうがぁ!!」
 凍りついていた私の目の前で、見事に榊さんの仮面を粉砕する宮路君。
 同性の私でさえ思わずドキリとした榊さんの仕草は宮路君には全く効果は無いらしい。
「でも、口調が変わっただけだしね?」
「お?バレた?」
 何ですと。
 目を丸くした私を見て、榊さんが「へっへっへ〜」と笑った。
「流石は宮路君。私が普段から結構気を使っているのに気が付いてたか…」
「気が付くも何も、最初からそんな感じじゃなかったっけ?」
 当たり前の様に語る宮路君。
「うん、そうだね…」
 榊さんも、何故か素直に頷いた。
「全然気が付きませんでした…」
 いつも能天気そうな榊さんの言動ばかりに気を取られて、同じクラスになっても今まで全く気が付かなかった。
「結構他人を見てる宮路君のそう言う所、私は買ってるンだよね〜」
 榊さんがニヤニヤと見るからに邪悪そうな笑みを宮路君に向ける。
「まぁ、勝手に目に付くンだけどね…」
 その視線から逃げる様に、目を背ける宮路君。
 そして、宮路君のお弁当が無くなるまで私たちは他愛無い会話を続けたのだった。

続く?
181名無しさん@ピンキー:2008/08/10(日) 19:29:26 ID:ikAAy9M8
次回投下する機会があれば、ある程度まとめてから投下してみます
今回は話の流れから見てこの辺りで区切りが欲しいので投下させて頂きました
182名無しさん@ピンキー:2008/08/11(月) 13:42:22 ID:sPAr6XKw
次なる展開を期待しつつ、エールを送るぜ
183名無しさん@ピンキー:2008/08/12(火) 00:27:40 ID:X3SX4K91
すいません、本業が忙しくなってきたので一ヶ月ほどSSは投下できそうにないです
榊と神楽、そして宮路の行く末は正直勢いで書いているので自分でもどうなるか分かりません
ですがスレタイ通り、『腹黒女が純真な男に惚れてしまう』のは確実ですのでそこは間違い無いです
忙しさが過ぎたらまた投下しに来ます
184名無しさん@ピンキー:2008/08/12(火) 11:33:33 ID:OPkkrzYs
がんばれよ
185名無しさん@ピンキー:2008/08/16(土) 19:36:17 ID:zdyddJ+L
お話待ち
186名無しさん@ピンキー:2008/08/19(火) 20:16:13 ID:bkdGBY+F
保守
187名無しさん@ピンキー:2008/08/24(日) 22:56:54 ID:HLIpMlgG
あげ
188名無しさん@ピンキー:2008/08/24(日) 23:51:24 ID:HLIpMlgG
王子まだー?
189名無しさん@ピンキー:2008/08/27(水) 00:50:30 ID:TyYTLyyj
王子はハンカチを買いに行ったまま行方不明。
期待ほしゅ
190名無しさん@ピンキー:2008/08/27(水) 13:14:45 ID:r8V8NNSe
「ねえ、一緒に帰らない?」
真島雪子はその端正な顔を上げた。そこにはにこにこ笑っているあどけない
少年がいた。放課後の教室はざわざわしていて、二人の様子を気に掛ける者
など誰もいなかった。教室の掃除当番が箒を持ち出してせわしなく動き出し
た。斜光が少年の短い栗色の髪をきらきら光らせている。
二人は一緒に教室の外に出た。
「湯沢って私の家と同じ方向だっけ・・?」
「おれ、真島さんちはどこか知らないけど・・。」
学ランの第一ボタンをはずしながら湯沢慎は目をぱちくりさせた。
・・・?
雪子は過去の慎との接点を思い返してみた。同じ班だった。
仲は悪くも良くもないはずだが。
無言のまま、下駄箱へ足を運ぶ。数人の男子生徒が雪子を振り返っていく。
・・誰と寝たか誰と寝てないかわからない。雪子はその細い指で長い髪を
耳にかける。
湯沢慎は自分も見られている気がしてならない。
すれ違う男子生徒の羨望の視線を感じる。それは前をゆく長い髪の美貌の少女の
せいだと鈍い慎でも気づいていた。
しかしもう1つほの暗い少女の視線もあることに慎は気づいていない。
今日はあの男の子か・・というまなざし。
191名無しさん@ピンキー:2008/08/27(水) 13:35:21 ID:r8V8NNSe
下駄箱のところで雪子の歩幅に合わせていた慎は左に、雪子は右に
分かれる。
下駄箱を開けるとこもった自分の靴の匂いがした。上履きを入れる
と黒く光るローファーを放り出す。目の前に二本の白い足。
ふ、と視線を上げると雪子はショートボブの少女に見下ろされてい
た。たれ目で清楚な可憐さのある少女は雪子とは対照にいるようだ。
悲しい非難の視線で雪子を一瞥すると少女は上履きをはいて駆けて
いった。
湯沢慎は明るく屈託がなく笑ってみせた。今日の調理実習のこと、
嫌な教師がまた癇癪を起こした、という愚痴、次の委員会はなにに
するか?という質問。
慎が10しゃべって、雪子が4返す、といった感じになった。
あまりしゃべらないことは雪子の美徳だ。大きな声で笑うこともな
い。そのことが美しい切れ長の目とミステリアスな美貌を引き立て
ている。周囲を見回すと少女は少女、少年と少年と一緒にいる。
高校一年という年齢、そして六月という早い季節だからかまだ恋人
たちも出来上がっていないようだ。子猫のようにはしゃいで、じゃ
れあっている。あるものは仲良く評判のお好み焼き屋さんに入って
いく。部活のジャージ姿で校門に走っていく少年たち。それをこっ
そり見ている少女たち。
青臭い果物の香りを嗅いだようで雪子は眩暈がした。
192名無しさん@ピンキー:2008/08/27(水) 13:54:52 ID:r8V8NNSe
その香りを最も感じるのは隣で嬉しそうにおしゃべりに興じている
少年だ。身振り手振りが大きい。時々雪子に親愛の情のような視線
を向けてくるのももどかしい。長い手足が雪子に合わせて動いている
。背丈だけはずんずん伸びてしまって心が追いついてない。心だけ大
人になった自分とは逆の生き物に見えた。
慎の手は女の自分よりは雑だけど美しい造形をしている、
と思った。あの指は誰によって穢されるのか、と思うとわたしは
この子を壊したいんだな、という気がしてきた。
「そうだね。私も掲示係がいい。湯沢、一緒にやろうよ。」
雪子はこれまでに無いくらいやさしい顔で笑うことができた。
見慣れたY路路がみえてきた。
「あ・・おれこっちなんだ。」
賑やかな商店街を指差す。一番手前には安いと評判の八百屋が見
えている。威勢のいい魚屋の呼び込みも聞こえる。買い物かごを
持った主婦とすれ違う。
「私はこっち。」
雪子の指差すのは閑静な住宅街だ。
じゃあね!と元気良く走り出そうとする少年のyシャツの袖を雪子
がつまむ。
「ねえ今日暇?」
193名無しさん@ピンキー:2008/08/27(水) 14:14:29 ID:gXuIz9IK
「お邪魔します」
礼儀正しくスニーカーをそろえる慎。
雪子の家の玄関はフローラルの香りがする。目の前に廊下が広がり、
しゃれた手すりのついた階段が目の前にたたずんでいる。家の中は
ほの暗く、誰もいないかのように静かだ。
(誰もいない・・?のかな。まずくない・・?)
純真な少年とはいっても慎には自覚はある。思春期の男と女が二人
きりというのは・・そういう展開になってしまうのではないかという
。真島さんはそんな迂闊な子じゃない・・という思いと、二人きり
ならえっちな展開が待っている、という漫画みたいなこと現実では
ないよ・・なに考えているんだ・・という思い。どちらにしても
卑猥な妄想は止まらなかったが、慎の持ち前の優しさが不埒な思い
を打ち消しにかかっていた。大体経験のない慎にとってはそんなこと
はリアルではなかったのだ。
「さあどうぞ。」
階段を上がるとピンクの配色の小奇麗な部屋に通された。
扉を開けた途端、
(あぁ。これは真島さんの匂いだな。)
と慎は思った。雪子が一階に飲み物をとりに行っている間、
TVはつけられているが慎の中では単なる音響機器と成り下
がっていた。
よく冷えた午後の紅茶を飲みながら会話をしようとするのだが
うまくいかない。慎とは対照的に雪子はリラックスしているように
感じた。
(この子は何しにきたんだろう。)
TV画面を見つめながら、一生懸命の慎の横顔を見ながら雪子は
思った・・。
194名無しさん@ピンキー:2008/08/27(水) 14:33:47 ID:gXuIz9IK
「ごめん。窮屈だから着替えていい?」
「あっ・・ごめんね。気づかなくって・・ちょっ・・?!」
雪子は躊躇せずブラウスのボタンをはずす。白い胸元が徐々に
あらわになる。心がぱっと明るくなるような明るい水色の小花
模様のブラジャーが見える。ブラウスから透けているのを盗み
見た、青だ。
「・・真島さん・・」
顔が熱くなった慎はうつむく。
「そのつもりで来たのでしょ?」
カーテンから差し込む夕方の光が雪子の華奢な体を美しく照ら
す。慎はかぶりを振った。
萎縮している慎の体を抱きしめ、ベッドにそっと誘導する。
ベッドに座った慎は不安そうに雪子を見る。色素の薄い瞳をう
らやましいと思った。手を重ねて唇に触れてみる。少し厚い唇
がこじ開けられていく。雪子の背中の手に力がこもっていく。
さらさらしている慎の唾液を雪子が舐める。

「はぁ・・はぁ・・」
慎の呼吸音が高まっていく。雪子の部屋のCO2濃度が高まって
いくようだ。そんなに息を吐いてばかりでちゃんと吸っているんだ
ろうか。外は雨が降ってきたようだ。最初のぽつんぽつんという音が
じゃじゃ降りになって音を高めていく。
慎は雪子を見上げた。細身の割りに大きな乳房が窮屈そうに揺れた。
(真島さん・・真島さん・・。)
195名無しさん@ピンキー:2008/08/27(水) 14:59:39 ID:gXuIz9IK
乳房を触ってみる。先端に小さな突起があって、そこをつまんでみる
と雪子がため息を漏らした。
「っはぁ・・あ・・湯沢かわいい・・」
クールな雪子が今はただの売春婦に成り下がっている。自分の鎖骨の
あたりをむしゃぶっている。
スカートのなかに手を入れてみる。布がその役割を果たさず、じんわ
りとしめっていた。
「あっ・・あん・・。だめ・・突然入れちゃ・・」
潤滑油としての役割を果たしすぎている。慎の指が意識せず、雪子の
なかに入ってしまった。もう自分の理性がどこかに引っ越してしまっ
たことを慎は頭の隅で気づいた。
「あ・・あっ・うふぅ・・」
小さな突起を親指と人差し指でつまんで中指と薬指を差し込んだ。
めちゃめちゃに動かしてみる。どろどろでしゃりしゃりしていた。
慎の指が知らない粘膜で汚されていく。
「わたしも湯沢を気持ちよくしてあげる」
少女の小さいと思っていた口が自分のこれまで誰も見せたことのな
い場所を包む。それだけで達しそうになってこらえる。
「真島さん・・だめ・・だめっ・・だって・あっ・・んっ」
悪魔のような笑顔で雪子は慎のペニスの先端を舐めながら、手も
ゆるめない。激しくこすって時折慎の顔をみる。
自分で触れたときには感じなかった興奮が押し寄せてきて、
雪子の小さな唇から白濁した液体があふれ出す。細い指でぬぐうと
舌で口の周りを舐めた。それだけでは納まりきれず、口からあふれた
精液は雪子の鎖骨にポタ、と落ちた。
その姿を見ただけで今達したばかりだというのに慎は熱いものがこみ
あげてくるのを感じた。
196名無しさん@ピンキー:2008/08/27(水) 15:16:47 ID:jjssRlbb
「しん・・上手・・んふぅ・・そうよ。そうするの・・」
もはや慎の理性は完全に吹っ飛び、雪子の体にむしゃぶりついてい
る。雪子の性器にゆっくりと挿入する。どこかわからないかと思っ
いたが、雪子が体をそらして誘導してくれた。
「でも、だめだよ。そんない激しく動かしたら・・んっすぐ・・あっ」
無理やりバックの体勢に持っていく。雪子の乳房は完熟の果実のよう
に乳首を立たせている。そこを攻めてやる。背中を舐め上げて、乳房
をもみしだく。
「あっ・ああああああ・・だめ・・いく・・」
顔が見たいと思って、正上位に戻した。雪子の膣がきゅんきゅん締め
あげてくるのを感じる。乳房がぶるんぶるんと弾む。
「あっ・・真島さん出ちゃうよ・・」
雪子の体が痙攣して慎の精液を受け入れた。
だめだ、と頭ではわかっていたのに、慎は雪子を抱きしめる手を離さな
かった・・。
197名無しさん@ピンキー:2008/08/27(水) 15:36:42 ID:peVYngUa
「初めてなんでしょ?上手ね。」
慎が顔を手で隠している。雪子をちらりとも見ない。
どうして?これまでの男たちは体を与えてやれば、こう言ってやれば
満足したはずだ。慎の腕の裏は体の表面とは違う白だった。
無理やり腕をつかむ。生暖かい水が雪子の指につく。
慎が黒めがちの瞳からぼろぼろ、その水を流し続けていた。
なぜか胸が痛んだ。
「真島さんのこと好きだ。女子が変な噂しているの聞いて絶対
嘘だと思って。いや・・本当でもおれが止めてみせると思って
いたのに。おれ最悪だよね・・。」
噂とやらに雪子は心あたりがあった。自分の悪癖がもたらした
ものだから雪子自体は仕方がないと思っていたのだけれど。
「わたしは自業自得だから。湯沢が気にすることはないのよ。」
ショートボブの女の子が泣きながら憎しみの眼を向けてきたこと
を思い出す。あのとき友達はあきらめた。そのつれあいの少年と
キスしていたとき、純愛はあきらめた。
裸のまま慎を抱きしめる。まだまだ狭い肩幅をなぞりながら目を
閉じる。
真島さん、それでも好きなんだ、と何回でもつぶやいている。いつの間にか
雨は小降りになって、陽は翳っていた。
(馬鹿だね。)
そう思いながら雪子は、今日は湯沢の匂いを嗅ぎながら眠れるんだ・・
と矛盾したことを思っていた。
198名無しさん@ピンキー:2008/08/27(水) 15:38:02 ID:peVYngUa
テーマにそってるかわからなくなってしまったんですが・・。
すみません(汗)
思いつきなので読み飛ばしてくださいな・・。
199名無しさん@ピンキー:2008/08/27(水) 20:51:27 ID:TyYTLyyj
真島さんのもっと黒ーいところを見たかったけど、ぐじょぶ。
200名無しさん@ピンキー:2008/09/02(火) 22:51:25 ID:jRQbAtOh
保守
201名無しさん@ピンキー:2008/09/08(月) 20:57:04 ID:6O+KZBVX
保守してもいいですか
202名無しさん@ピンキー:2008/09/09(火) 02:42:59 ID:g7mjvbYL
    ∧_∧  / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
   (*・ー・)< まったり保守してね
   ( つt[])  \_______________
___と__)__)______________
  ⊂  ) )(__()’;.o:°
   ( つ O.  / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
   (。ー。)< 何このお茶 安物すぎてゲロ吐きそ
    ∨ ̄∨   \_______________
203名無しさん@ピンキー:2008/09/09(火) 04:32:15 ID:ZNAcMlFP
それ多分g(ry
204名無しさん@ピンキー:2008/09/15(月) 17:57:25 ID:nyLi3yY7
ゆっくり保守
205名無しさん@ピンキー:2008/09/22(月) 16:28:05 ID:UFjxFN2Z
あげえ
206名無しさん@ピンキー:2008/09/22(月) 22:08:06 ID:+hy9TrFh
おげえ
207名無しさん@ピンキー:2008/09/29(月) 21:26:10 ID:STUs7pVO
age
208名無しさん@ピンキー:2008/10/07(火) 11:32:40 ID:mvsHqSYJ
209名無しさん@ピンキー:2008/10/20(月) 13:44:56 ID:itG+Y/Q8
あげ
210名無しさん@ピンキー:2008/10/31(金) 00:34:57 ID:HGC7rmev
保守!
211名無しさん@ピンキー:2008/11/09(日) 14:21:39 ID:0mnbKGdc
212名無しさん@ピンキー:2008/11/13(木) 00:01:58 ID:FZj24NA8
くるの?
213名無しさん@ピンキー:2008/11/18(火) 17:26:02 ID:nnBubm+j
あげ
214名無しさん@ピンキー:2008/11/23(日) 18:08:25 ID:od0JHCMT
保守
215名無しさん@ピンキー:2008/11/23(日) 18:14:17 ID:3xRJ4Gkt
あげー( ̄∇ ̄#)
216名無しさん@ピンキー:2008/11/30(日) 00:13:01 ID:vGzZcltQ
    ∧_∧  / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
   (*・ー・)< 保守
   ( つt[])  \_______________
___と__)__)______________
  ⊂  ) )(__()’;.o:°
   ( つ O.  / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
   (。ー。)< 職人まだ?
    ∨ ̄∨   \_______________
217名無しさん@ピンキー:2008/12/01(月) 23:36:11 ID:uVvemx4O
眠い、とてつもなく眠い。
メイドの朝は早い、それはもうとんでもなく。
空が明ける頃に起床し、掃除に庭の手入れ、朝食の準備で出る洗い物…と、気づいた頃にはあっという間に時間が経っている。
低血圧気味の私にとってこれほど苦痛な時間はない。
手に持った水気の残るグラスを拭きながら深く溜息を吐き出す。
「フラン様!」
パタパタと駆け寄ってくるメイドが私の名を呼ぶ。
…まったく、廊下は走るなとあれ程言ったのにこのバカは治らないようね。
「どうかしましたか?」
けどそんな面倒な事わざわざ言いたくもないからぐっと堪える。
なにより私のイメージが崩れかねないものね。
「それが……また王子が部屋を抜け出してしまったようで…。私では見つけることが出来なくて…」
その報告を聞いた途端、手に持ったグラスを叩き割りたい衝動に駆られる。
私達の主かつ、この国の王子…。
バカ王子は身体が弱いくせに、何度も何度も部屋を抜け出しては私の仕事を増やす問題児。
私が何度このバカ王子に予定を狂わされたか…思い出すだけで人を1人捻り殺したくなる程だ。
「…わかりました、私が探しておきますので貴方は自分の仕事に戻りなさい」
「メイド長にこのような事を頼んでしまって…申し訳ありません」
可愛らしいおさげを揺らしながら必死に頭を下げてくるメイド…。
この鬱陶しいおさげを切ってしまいたい。
「気にしないでいいのよ、さ…いってきなさい」
安堵の表情を浮かべながら走り去るメイドに向かい、本日二回目の溜息を吐き出す。
ああ…あのバカ王子を殴れたらどんなにスッキリすることか…。
そんな事を思いながら私はバカ王子が居るであろう庭に向う。
218名無しさん@ピンキー:2008/12/01(月) 23:37:03 ID:uVvemx4O
美しく咲く花々や青々とした緑に彩られた庭に…居た。バカ王子が寝間着姿のまま倒れてる。
まさか…と思い焦って駆け寄る。もし大事があったら私の責任になってしまう。
「王子!大丈夫ですか!」
力なく横たわる身体を抱きかかえ、白く透き通った頬を何度か優しく叩く。
「…暖かい」
私の手に冷たい手を重ねながら、王子が目を覚ました。
「お体は大丈夫ですか?」
額に手を当ててみるが特に熱を感じる程ではなく。
一先ずは安堵。その代わりに…このバカ王子に対する苛立たしさが蘇ってくる。
「また部屋を抜け出したのですね…。どうして何度言っても聞かないのですか?」
「…ごめんね、どうしても花の様子が見たくて…」
…怒りを通り越すと呆れてしまうというのは本当のようね。
「本当はもう少し早く戻るつもりだったんだけど、メイド達とのかくれんぼがつい楽しくて」
屈託なく微笑む王子。金の色をした髪が陽に照らされ、何も知らない者が見ればさぞ心奪われる笑顔…であろう。
だが私はこの笑顔に憎たらしさしか感じない。
まったく、こんな我侭の為にわざわざ私が出張ってやったのかと思うと殴りたくなってくる。
「…でも、もう鬼に捕まっちゃった。だから戻るよ…ごめんなさい」
「そうしていただけると助かります」
そう言いながら王子を立たせる。
…やっと自分の仕事に戻れる。
ふと見ると、王子は何故か私に向って手を差し出している。
「…手を繋いで」
「は、はぁ…?」
言われるまま手を差し出し、冷たい手を優しく握り締める。
「…やっぱり、暖かいねフランの手」
「あ、ありがとうございます…」
「あのさ…部屋まで、手を繋いでくれない?」
「…はい?」
「なんだかね…フランの暖かい手を握ってると気持ちがいいんだ」
王子は頬を薔薇のように染めながら恥ずかしそうに私の手を強く握る。
面倒だ。すぐにでも仕事に戻りたいのに…。
だから王子の表情に胸が疼いた気がしたのは気のせいだ。第一そんなの私らしくもない。
「フラン…いいかな?」
「王子がお望みとあらば…」
そう、私はメイドだ。だから王子が望めばそれに従う。
だから余計な事は…王子が私の言葉にほんの少し寂しそうな表情を浮かべた事は見ないフリをした。


思いつき保守
219名無しさん@ピンキー:2008/12/02(火) 20:42:57 ID:LImcCHuO
さぁ続きを書く作業に戻るんだ!
220名無しさん@ピンキー:2008/12/03(水) 01:56:45 ID:D6kIMQku
早く続きを書くんだ!
わっふるわっふる
221名無しさん@ピンキー:2008/12/05(金) 02:31:42 ID:anjk+Yr0
「…軽い風邪、のようですね」
白衣を着たどことなく貫禄のある医者が私にそう告げる。
傍らには豪華な装飾の施されたベッドに横たわる王子。
苦しそうに不規則な呼吸を繰り返して力なく咳をする。
見るからに辛そう…だが、男なら少しは我慢しろ。
「念の為、薬を出しておきますが…。まあ、この調子ならすぐに治るでしょう」
医者の言葉に背後に居た数人のメイド達が安堵の吐息を漏らす。
私は微笑を作りながら頭の寂しくなった医者に頭を下げる。
「ありがとうございます」
ああ早く仕事に戻りたい。
「さっ…お医者様をお送りしてください」
背後のメイドにそう声をかけ、最期に軽く医者に会釈する。
はー……終わった。
今日は朝から王子が体調を崩したせいで色々な予定が台無しだ。
王子のスケジュールを調整し、医者の手配をして……ああ…これだから身体の弱い奴は…。
…苛々してても仕様がない。さっさと仕事に戻らないと…。
「それでは…リリさん。今日一日王子のお世話を…」
と、おさげのメイドに声を掛けた時。
「…まっ…て……フラン…」
弱々しい声がベッドから漏れる。…どうやら王子がご苦労な事に苦しいのにも関わらず声をかけてきた。
「はい?如何なさいましたか?」
「…ボク…今日はフランと一緒にいたい……。ダメ…かな?」
ダメに決まってるだろう。
「王子、そのような我侭を仰られましても…」
仮にも私はメイド長という立場に居る。
そこら辺のメイドよりやる事も、堪っている仕事も沢山ある。
…このバカ王子はそれをわかってないようだ。
内心腹立たしく思いながらも、あくまでも冷静に…穏やかな表情を浮かべる。
「でも…ボクはフランが……ゲホッ…う…ぐっ……」
苦しそうに咳き込み、胸を抑える王子。
…この体調だ。精神に負担をかけることはできない…か。
明日の仕事量を思いながら内心溜息をつく。
「…畏まりました。ではリリさん、代わりに貴方は……」
細々と私がやるはずだった仕事の分担やらを話し、さっさと仕事に戻らせる。
「ゴメンねフラン…我侭言って…」
まったくだ。
「ねぇ…こっち…きて…」
「はい、どうなされました?」
まったく、17にもなって子供かお前は。
言われるまま王子の傍に寄り、ベッドのすぐ横にある医者の座っていた椅子に腰を下ろす。
すぐ近くで見る王子の顔は蒼白で、まるで今ここで掻き消えてしまいそうな程だ。
青く澄んだ瞳が私を弱々しく射抜く。
「手を…」
王子はそう言いながら布団から手を出す。
「…はい、畏まりました」
この所王子は私の手を握るのが好きなようだ。いい迷惑…。
相変わらずの冷たい手を壊れ物を扱うように両手で包み込み、安心させるように優しく微笑んで見せる。
「ありがとう…フラン」
あーはいはい。
「暫く……このまま…で…」
王子は柔らかく微笑を浮かべると瞼を閉じ、暫くするとすぐに寝息が聞こえてきた。
その寝顔はどことなく安堵しているようで…私は思わず目を逸らす。
…手は強く握られている。外す事はできない。
「はぁ……面倒…」
冷たい手を知らず内に握りしめながら、寝息を立てる王子に視線を移して私は小さく溜息を吐いた。


神が戻ってくるまでの保守
222名無しさん@ピンキー:2008/12/06(土) 15:19:38 ID:T+pNBEtY
>>221
お前こそ神だ
メイドの腹黒具合がたまらん。続きを待ってるぞ!
223名無しさん@ピンキー:2008/12/06(土) 22:34:56 ID:g17nj1Ek
保守ってレベルじゃねーぞ!
224名無しさん@ピンキー:2008/12/14(日) 00:11:25 ID:zzgAnyX1
保守マダー?
225名無しさん@ピンキー:2008/12/18(木) 15:15:10 ID:xdAYrMjS
あげ保守
226名無しさん@ピンキー:2008/12/29(月) 02:30:10 ID:NfyxVJc1
ほす
227名無しさん@ピンキー:2008/12/29(月) 09:08:33 ID:QlxI+4Wb
このシチュって好きなんだけど好きな理由は意外性が大きい気がする
はじめから惚れることが分かっていると、腹黒女のありがたみが薄いっつーか
228名無しさん@ピンキー:2008/12/30(火) 01:27:14 ID:39zrYJg0
>>227
腹黒いのを何人か出せば「まさかこいつとくっつくとは…」という意外性を出せるぜ!
さあ書け。はやく書け。書くか?書くよな!書いたな!?投下しろ!して下さい。

自分は「バカな腹黒女と賢い純真男」を書こうとしたが無理でした。
229名無しさん@ピンキー:2008/12/30(火) 15:40:26 ID:U1FCdDok
ふわふわと宙に浮いたような感覚。
私は今夢を見ている。
その証拠に、目の前の光景はずっと昔の出会い。
肩口で切り揃えた黒髪は風に揺れてさわさわと頬を撫でる。
月明かりの元で金糸のような髪を私と同じように靡かせて。
色素の薄い肌は降り注ぐ蒼白い月明かりのせいで病的な印象を与えていた。
足元で揺れる色とりどりの花と相まってこの世のものとは思えない光景に思えてくる。
私は見惚れたようにその光景を見ていた。
綺麗で、それと同時に…何故か怖かった。
私を壊してしまいそうなこの光景から目を逸らしたかった。
「月が綺麗ですね、貴女もそう思いませんか?」
ニッコリと花のような笑顔で目の前の人は微笑む。
今と変わらない、その心内を感じさせる笑顔に私は拳を握り締めた。

私の中のスイッチが入ったり切れたりしている。
目の前の光景は消え、夢から覚めたという自覚がじわじわと意識を塗り替えていく。
ゆっくりと首を振って瞼を開け…。
「おはよう、フラン」
その声で私は完全に目が覚めた。
王子が目の前…というより、ベッドから見上げるように笑顔を見せている。
そこですぐに今の状況に気がついた。
「も、申し訳ございません!」
どうやら王子の看病をしていたら寝入ってしまったようだ。
…とんだ失態。私らしくもない。
「あ、謝らなくて平気だよ。ボクは全然気にしてないし」
そっちが気にしなくてもこっちが気にするんだよ。
ああもしこれが誰かの耳に入りでもしたら…ここまで築き上げてきた私の立場がなくなってしまう。
幸い寝入っていたのは15分という短い間だったのが救いといえば救い…か。
「あのね、本当に気にしなくていいから。
 だって…………フランの寝顔、とっても可愛かったし…」
…まあ、自分の容姿にはそれなりの自信はある。
褒められて悪い気はしないけど……なんだろう。まだ夢を引き摺ってるのかもしれない。
230名無しさん@ピンキー:2008/12/30(火) 15:41:16 ID:U1FCdDok
「…ごめん…勝手に寝顔見ちゃって……」
どうやら私が黙っていたせいで怒らせたのだと勘違いしたらしい。
「いいえ、私の方こそ勝手に寝てしまったのですから、おあいこですよ」
王子は妙にネガティブに考える癖がある。正直ウザイ、面倒臭い。
「…ありがとう」
嬉しそうに微笑む王子。…単純な奴だ。
「あっ、ねえ、フランはどんな夢を見てたの?」
多分王子にとっては何気ない質問だったのだろう。
けど…今は夢の内容を思い出したくはなかった。
「ええと……昔の夢、です」
「昔?」
「はい、私がお城に仕えていた時の夢です」
まあ嘘ではない。
「へぇ……フランっていつから働いてたの?」
「そうですね、13の時からお城に仕えておりました」
「じゃあ14年も…」
王子は驚いた様子でそう言葉を漏らした。
…別に驚くような事じゃないと思うけど。
「そんなに大した事ではありませんよ」
「ううん、すごいよ…
 …ボクなんかより全然……」
王子は青い瞳を悲しげに揺らして瞼を伏せ、まるで今にも折れてしまいそうな程弱々しく翳りを映す表情を浮かべた。
何故王子がこんな顔をするのか、なんとなくわかる。
王子は身体が弱い。
そのせいか、周りも、本人も、王位継承者としての王子を求めなかった。
2つ上のもう1人の王子が居たせいもあるが、それ以上に本人の意志が希薄すぎたせいだ。
隠れ住むように郊外の屋敷にこうして住居を構えたのも偏にそういった経緯があったからだろう。
――コチコチと時を刻む音が耳障りだ。
言葉を噤み、天井を遠い目でじっと見つめる王子は、どこまでも弱々しい。
掻き消えることを望んでいるような…。
231名無しさん@ピンキー:2008/12/30(火) 15:42:05 ID:U1FCdDok
……ああ面倒。
だから嫌なんだ、こういうウジウジした奴。
「王子は何も欲しいモノがないのですよ」
「…ボクに欲しいモノがない…?」
丁寧な口調は崩さなかったけど、つい本音が出てしまった。
止める事も出来たけど…嫌な夢も見たことだし、いいや。
「地位も、責任も、守りたいモノも、なにも欲しくないのでしょう
 だから何も固執しない、全て手放してここにいるのではありませんか」
王子は何も言わない。何も言わず、青い瞳で私を射抜く。
肯定も否定もせずにただ言葉を受け取る。
それはまるで王子の生き方そのもの。
「…ですが、それもまた王子の生き方です。私は否定しませんよ」
好きでもないけど。
「…………うん」
漸く口を開いた王子は、小さく…本当に小さく、言葉を紡いだ。
再び訪れた沈黙。
今度は、耐え切れなくなったのは王子の方だった。
「ねえフラン。もっと楽しい話をしよう」
「はい、なんでしょうか?」
それには同感。このままだと余計な事まで喋ってしまいそうだったから。
「あ、あの…フランにね、ずっと前から聞きたい事があったんだ」
聞きたい事?
「………嫌なら答えなくて良いんだけど……
 フランは…今、好きな人とか……いる?」
頬を朱色に灯しながら伺うように弱々しくそう尋ねてきた。
…これは恐らく勘違いではないだろう。
王子の瞳から滲む私への好意…これは、決して主がメイドに対して向けるべき好意の色ではない。
恐らく………。
………そこまで考えて、ふと黒い感情が湧いてきていることに気づいた。
無防備なまでに私に対して好意を向けてくる少年。
未だ穢れを知らない柔らかそうな唇、白く美味しそうな肌。

…汚したい。どうしようもなく、壊してしまいたい。

いつもならこんな感情すぐに押し込める自信があった。けど今は……。
「…ふふっ、どうしてそんな事が知りたいのですか?」
知らず内に私は唇を歪め、女の顔で笑っていた。
「っ…そ、れは………その…」
私を射抜いていた瞳は忙しなく色々な場所を映し、その動揺具合が声以外でもわかるよう。
おかしくなってしまう。本当におかしい。
私は身を乗り出し、片足をベッドに乗せて覆い被さるように手で身体を支える。
…スカートが捲くれて太股が肌寒い。
232名無しさん@ピンキー:2008/12/30(火) 15:43:01 ID:U1FCdDok
「フ、フラン…!?」
ああ、この慌てる様がイラつく。
形のいい眉が困惑で垂れ下がって、それでもどこか期待する瞳を向けるこの少年を滅茶苦茶にしてやりたい。
私は何も言わず、赤く染まった頬を指先でなぞる。
ピクンと、指先に伝わる感覚に瞼を細めて顔を近づける。
紅を注した唇を僅かに開いて歯の隙間から舌を覗かせる。
熱い頬をザラザラとした舌でぬるりと舐め、舌先で擽るように柔らかな肌の味を堪能すると
唾液をわざと滴らせながらゆっくりと首筋へと這わせていく。
ぬめりとした唾液が枕元に落ちてシミを作った。
「ふっ……ぁ…ぁ…ん」
王子の甘い声が鼓膜に響き、私の衝動を揺さぶっていく。
その声に触発されたのか、溜まらず私は王子の白い首筋にかぷっと甘く噛み付いてしまった。
舌先で肌をぬるりと舐めながら軽くちゅぅっと音を立てて吸い付く。
汗のしょっぱい味と、王子の匂いに心が満たされる思いだった。
唇を離すと舌と首筋に銀色の糸が伝う。
白い首筋に赤い花弁が痛々しく、けれど禁忌の匂いを放って私を蕩けさせる。
ゆっくり顔を離すと、様々な感情を混じらせた顔で私を見る王子が居た。
「あの…これって…」
「王子の疑問にお答えします」
…そう、まずはこれに答えないといけない。
なにをするにしても……。
だから、思ったことを伝えよう。
互いの息がかかるほどの距離で見つめあい、ゆっくりと腕の力を抜いていく。
王子は私の意図を察したのか、瞼を閉じて僅かに睫毛を奮わせる。
けれど私は唇が触れる寸前で小さな笑いを漏らした。
何がおかしかったのか。…多分、王子も、私自身も全てがおかしく見えたから。
茶番だ。
人差し指で王子の柔らかな唇を奪い、耳元で吐息と共に囁いた。
「私は、子供が大嫌いです」
そう呟くや否や、身体を剥がしてベッドから下り、ずっと前から絡ませていたお互いの手を解いた。
「それではそろそろお仕事に戻ります。何かあればお申し付け下さいませ」
目を見開いて呆気に取られた表情で固まる王子を尻目に、私は軽くお辞儀をして部屋を後にした。

パタン。と、ドアが閉まると、私は溜息をついた。
馬鹿馬鹿しい、本当に馬鹿馬鹿しい。
子供の恋愛ゴッコに付き合ってる余裕は私にはない。
手近な私で恋を知った風になっているだけ。
そんな王子に付き合う必要なんてない。これはメイドの仕事じゃないはずだ。
「めんどくさ…」
面倒だなぁ、ホント。
汗ばんでいた掌を握り締めながら、私はついさっきの出来事を意識の隅に押し込め、仕事に戻った。


今年最後の保守
233名無しさん@ピンキー:2008/12/30(火) 17:02:22 ID:M60ynQ0P
>>229
神がいらっしゃった!
フランの素直じゃないところが可愛いなーちょくちょく本性がでてくるのがたまらない
頑張れ王子
234名無しさん@ピンキー:2008/12/31(水) 16:49:20 ID:toizCx5w
>>229
お前いい加減保守とか言うのやめろよ!この野郎っ・・・・・・・・・・GJ
235名無しさん@ピンキー:2009/01/01(木) 11:09:49 ID:fHAXX86H
保守ってレベルじゃねぇぞ!GJ!!
236名無しさん@ピンキー:2009/01/10(土) 21:34:33 ID:q06M6ZGy
保守
237名無しさん@ピンキー:2009/01/13(火) 01:14:42 ID:3rQQaX82
今年最初の保守マダー?
238名無しさん@ピンキー:2009/01/18(日) 17:45:17 ID:4pdvgZEv

「私は、子供が大嫌いです」

そう、言われた。
どういう意味なのかな……。
さっきまでフランの舌が触れていた首筋を確かめるようになぞりながら考えてみる。
答えになってない気もする。
けど、これが一番欲しかった答えだとも思う…気がする。
質問の裏に隠したボクの「想い」に対する答え…。
もしそうなら………ボクは振られた、ということなのかもしれない。
言葉通り「嫌い」なのだろうか…。
……きっとそうなのだと思う。
「…はぁ」
知らず、溜息が漏れた。
好きな人から嫌われるのはやっぱり堪える。
フランがボクに良くしてくれるのは、ボクが主だから…。
それをわかってるつもりだったのに、本当はわかってなかったのかもしれない。
…どこかで期待していた。
「……痛い」
胸が痛い。
発作の痛みじゃない、胸が締め付けられるような切ない痛み。
よくわからないけど、フランに出会ってからこんな想いばかりしているような気がする。
「諦め……られるわけ、ないよ…」
フランと出会ってからずっと…ボクはこの気持ちを抱き続けていた。
今更振られたからといって、この気持ちをすぐに消す事は出来ない。
例え嫌われていたとしても……。
「大人になるってどういうことなのかな…」
もし子供じゃなければ。もし大人になったら、フランはボクを好きになってくれるのかな。
そんな妄想が頭を駆け巡り――やがて、諦めの溜息が漏れた。
ボクは大人になんかなれない…随分前に諦めてしまったから、何もかも。
ボクにも欲しいものはあった。守りたいものもあった。
でも…こんな体じゃ、なに1つ手に入れられるものなんて無い。
それに気づいてしまったら…もう、諦めるしかないのに。
239名無しさん@ピンキー:2009/01/18(日) 17:46:56 ID:4pdvgZEv
「…はぁ、……花、元気かな…」
気分を変えよう。
変えないと……こんな気持ちのままいたら、また体調を崩してしまう。
ボクはベッドからのそのそと這い上がり重い体で窓まで近づく。
外はいつの間にか月が光り輝いていた。
黒い空にぽっかりと浮かぶ月の輝きは、まるで自分の暗い気持ちを照らすかのようで。
ほんの少しだけ心が軽くなったような気がして、自分の単純さに笑みを零しながら窓の外に視線を落とした。
月明かりの元でいつものように美しく咲いている花。…その近くに、見知った人影がいた。
その人影の姿形に止まってしまうのではないかと思うほど、心臓が大きく跳ねてしまった。
「……フラン…」
花の近くで立ち尽くすその後姿は紛れも無いフランで…。
けれどいつもの完璧な立ち振る舞いとは違う…ような気がする。
どこかぼんやりとしているような……。
それはいつも一つに纏めた髪が下ろされ、ふわりふわりと揺れているせいか。
それともボクの気持ちが…揺れているせいなのか。

ボクは暫しその光景に見惚れていた。
初めて出会った時のように、ただただ心惹かれていた。
フランはただ立ち尽くす。動くのは風に揺れる栗色の髪だけ。
………あぁ……ボクはやっぱりフランが好きだ。
だってこんなにも綺麗な人を……諦められるわけ、ない。

―――思えば、これがボクの中の始まりだったのかもしれない。
ずっと止めていた気持ちが動き出した。
そんな…予感がしていた。


王子視点の今年最初の保守
240名無しさん@ピンキー:2009/01/18(日) 18:33:03 ID:4pdvgZEv
間違えた

×→フランはただ立ち尽くす。動くのは風に揺れる栗色の髪だけ。
○→フランはただ立ち尽くす。動くのは風に揺れる漆黒の髪だけ。
241名無しさん@ピンキー:2009/01/18(日) 21:01:22 ID:6aQAjkdz
>>240
GJ!
おつかれっしたー
242名無しさん@ピンキー:2009/01/19(月) 00:27:17 ID:q2QkiRJP
足りん!ピヨピヨ!足りん!ピヨピヨ!
243名無しさん@ピンキー:2009/01/21(水) 01:45:25 ID:O4LSa1JI
構わん。ゆっくり続けてくれ。
244名無しさん@ピンキー:2009/01/28(水) 19:38:13 ID:Uyx2f4UC
保守
245名無しさん@ピンキー:2009/01/31(土) 03:43:35 ID:fbLvsScg
保守のクオリティの高さに全俺が泣いた
246名無しさん@ピンキー:2009/02/09(月) 22:48:02 ID:rd4BgGMt
保守
247名無しさん@ピンキー:2009/02/19(木) 17:51:52 ID:FfkWxwrB
保守
248名無しさん@ピンキー:2009/02/20(金) 01:45:10 ID:B9ETyUSr
age
249名無しさん@ピンキー:2009/02/26(木) 01:29:05 ID:WShQucQw
保守マダー?!
250名無しさん@ピンキー:2009/03/01(日) 15:25:07 ID:V10VWhfl
保守
251名無しさん@ピンキー:2009/03/10(火) 12:18:36 ID:0247bVNE
保守
252名無しさん@ピンキー:2009/03/21(土) 17:53:49 ID:9bEPXTL5
    ∧_∧  / ̄ ̄ ̄ ̄
  ∧( ´∀`)< あげ
 ( ⊂    ⊃ \____
 ( つ ノ ノ
 |(__)_)
 (__)_)
253名無しさん@ピンキー:2009/03/30(月) 13:39:23 ID:ckb+rKmZ
あげ
254名無しさん@ピンキー:2009/04/03(金) 15:59:18 ID:0J1/itIQ
保守
255名無しさん@ピンキー:2009/04/04(土) 01:56:03 ID:kIgNJ2AJ
もうダメかもしれんね
256名無しさん@ピンキー:2009/04/04(土) 10:16:05 ID:mrAmlD5x
黙って保守
257名無しさん@ピンキー:2009/04/04(土) 19:46:53 ID:L6lRh+4a
腹黒白熊希望
258名無しさん@ピンキー:2009/04/05(日) 09:10:14 ID:BnJY9g3H
パンダ?
259名無しさん@ピンキー:2009/04/05(日) 10:03:35 ID:UwYDdFbL
>>258 不覚にも吹いてしまったw
しかし、全角じゃsageにならないぞ
260名無しさん@ピンキー:2009/04/05(日) 13:21:35 ID:lYH2Jwn5
マジレスすると熊田先生だな
261名無しさん@ピンキー:2009/04/06(月) 02:07:34 ID:n8brthOS
エロ?何それおいしいの?保守


音楽準備室にいるようになったのは、誰にも邪魔されずに二人きりになれるから。
ここで煙草を吸わなくなったのは、彼が匂いを気にするのではと思ったから。
前より教師という仕事と向き合うようになったのは、他の生徒を指導したり相談に乗ることで、
同じ「指導」「相談」という名目で彼と頻繁に会っているのをカモフラージュするため。

三方人所 瞳の教員生活は、自分と彼――澤田裕のために動いていた。

今日は来ないのだろうか
机の上のプリントを軽く片付けたりしながら裕の訪れを待っていると、ノックが耳に届く。
表情には出さないが、内心そわそわと鍵を開けた。

「先生」

音楽科の一生徒、から気になる存在、そして恋人へと変わった存在が立っていた。

「何。用があるなら入る、無いなら帰りなさい」

そう言いながら中へ招き入れると、再び鍵をかける。
裕以外の生徒の入室を許可するときも鍵をかけることにしているから、周囲に不自然だと疑われることはないだろう。

「せんせい」
「ん?」
「僕、先生のこと好きですよ」
「……何言ってんのいきなり」

裕は無邪気に笑う。
裕は――見かけだけは――屈託がない。その実、心の中に不安を抱えているだろうに。
三方人所にだってわかっている。自分たちは教師と生徒で、おおっぴらにできるような関係じゃない。
隠れて付き合うという今のスタンスが、伸び盛りの裕をどれだけ抑えつけているか。
「せんせい」
いつもの先生、ではなくて少し舌ったらずなひらがなに聞こえるのは、裕がなんだか切なげな顔をしているからだ。
「背中向いてもらってもいいですか」
素直に従うと、背中にぬくもりが生じる。

「あら積極的」
驚きが声に少し滲んでしまったかもしれない。
触れられて心臓が跳ねることを、この少年は知っているのだろうか。
「澤田くん」
そう呼ぶと、ぴくん、と動いたらしいのが伝わってくる。
「なんか、実感して」
身体を震わせる白衣越しにくぐもった声と、直接耳に届く声とが二重になってくすぐったかった。
三方人所は振り向かずに聴いた。
「実感?」
「すごく好きだなって」
「……相変わらずの直球。」
「もう一度呼んでくれますか」
「何を?」
「名前」
言うとおりにもう一度、彼の名前を舌に乗せる。
「澤田」
いつも呼んでいる名前。もうひとつのほうは、呼んだことがない。まだ、呼べないでいる。
ふたりきりの時くらい呼んでもいいかと思ったこともある。でも制御が出来なくなるのが怖くてやめた。
262名無しさん@ピンキー:2009/04/06(月) 02:14:13 ID:n8brthOS
教師と生徒という垣根を全て取り払うことを、許してはいけないと思う。
それは、三方人所一人の問題ではない。裕は卒業まであと1年あるのだ。
「先生」と「澤田」。「教師」と「生徒」。
背中の裕はもう一度「せんせい」と呟いた。
ひらがなで「せんせい」。その他大勢とは違うのだと思ってしまう声の甘さは、三方人所の己惚れだろうか。

「僕、せんせいの声が好きです。せんせいに澤田って呼ばれるのが好きです。
せんせいの声が僕の名前を呼ぶの、凄く好きです」

三方人所自身の覚悟の無さの所為なのに、それを祐はそう言ってくれるのだ。
発音は同じでも音色が違う。他の誰かが呼ぶものと音は一緒でも、そこに混じる甘さが違う。
うん、と三方人所はうなった。

充電完了、と離れた祐の目は、またいつもと変わらずきらきらと明るく輝いている。
にっこり笑うと、少しいたずらっぽい表情をみせた。
「中学の同級生が、結婚するんです。あ、男ですよ」
「そりゃまた・・・早いわね」
自分はまだ結婚なんて先の先だろう。裕とは続くことの無い、所詮学生時代の恋だ。

「先生が僕のこと、下の名前で呼んでくれないのは今までちょっと不満でした」
「は」
「でも、それで気づいたんです。僕が澤田って呼ばれる時間って限られてるだろうから、
今のうちにいっぱい呼んでもらうのもいいかなって」
「ちょっと、それって」
「あ、そろそろ失礼します、つくわだ先生」
来たときと同じくはにかんだ笑顔で、祐は部屋を出て行く。

「……マジで?」
自分は珍しい苗字を持っていつ一人娘で、いつか婿養子を貰わないといけない身で、裕は次男坊な訳で。
それを全てわかって言ってるのだとしたら。

「・・・・馬鹿。」
さりげなくとんでもない発言をされた三方人所は、口元に手を当てて言われた意味を噛み締めていた。
263名無しさん@ピンキー:2009/04/06(月) 20:27:00 ID:FqssgTPp
GJ
これはこれで好きだが、もっと腹黒くていいと思う。
犯される願望のやつ思い出した。もう見れないんだな…
264名無しさん@ピンキー:2009/04/06(月) 21:38:43 ID:2K6u/1X5
gj!
このスレのテーマは限定されすぎだから
作者によって多かれ少なかれ、解釈を変えて書けばいいんじゃないかな?
265名無しさん@ピンキー:2009/04/09(木) 12:40:29 ID:BisKoDP3
寮スレあげ
266名無しさん@ピンキー:2009/04/09(木) 14:28:59 ID:o/GMP28g
良スレ発見
最初から一気に読んでしまった
267名無しさん@ピンキー:2009/04/10(金) 11:31:19 ID:5NpOJ2gL
不覚にもパンダで笑った
268名無しさん@ピンキー:2009/04/11(土) 11:54:52 ID:CbBrgE5p
腹黒女って版権だとどんなキャラが居たっけか?
269名無しさん@ピンキー:2009/04/12(日) 08:30:18 ID:iXUim1rb
彼氏彼女の事情の主人公とか?
270名無しさん@ピンキー:2009/04/12(日) 16:21:37 ID:cLxlZr3s
放課後チルドレンの主人公は小学生にしちゃ黒かった気がする
271名無しさん@ピンキー:2009/04/16(木) 11:38:17 ID:H753x/7o
保守
272名無しさん@ピンキー:2009/04/17(金) 19:08:33 ID:2PAnxsFi
保守
273名無しさん@ピンキー:2009/04/17(金) 19:09:29 ID:2PAnxsFi
保守
274名無しさん@ピンキー:2009/04/22(水) 17:45:16 ID:+kLP96+0
良スレなのに、あんまり投下無いな
内容的にビッチスレと所々が被ってるからなのかね
275名無しさん@ピンキー:2009/04/25(土) 00:51:51 ID:nscxnTp9
保守
276名無しさん@ピンキー:2009/05/06(水) 23:51:27 ID:pTmdIzfS
保守
277名無しさん@ピンキー:2009/05/09(土) 01:16:48 ID:kBGTZPtG
保守
278pkkhiro4:2009/05/09(土) 20:37:21 ID:41fMzsYI
保守
279名無しさん@ピンキー:2009/05/09(土) 21:19:51 ID:wC6lxzDm
もっと読みたいな。
280名無しさん@ピンキー:2009/05/09(土) 23:13:12 ID:Hiq4c+jj
携帯で見れる有名女優・アイドルのパンスト股間など 動画・画像を探してます。
ここにいい写真ありました。
http://1pg.in/~rest/
281名無しさん@ピンキー:2009/05/10(日) 02:04:18 ID:4pomgSdd
 天然でちょっとおっちょこちょい☆、しかも愛らしいロリ顔だったなら、モテない訳がないだろボケ。
「いたっ」
「え、南さん大丈夫?絆創膏いる?」
「だ、大丈夫…うぅ」
 紙で指を切っただけだというのに、男はこうやってすぐ愚かにも愛くるしい私に関わりたがるし、私も涙目上目遣いなんかしちゃってそれ相応に答えてやってる。
 こういう些細な事からコツコツやっていくのが、キャラ作りにおいて大事だからな。

「大丈夫?めいこちゃん、私絆創膏あるよ」
 女友達Aが差し出してくれた絆創膏をありがとうっ!とアホの様な笑顔で受け取る。
 そう私、南めいこはぶりっ子の域に入るにも関わらず、女にまで好印象を与えている。
 徹底した裏表のないキャラ作りにより、『おばかでほっとけない子』という、女の集団の中では申し分ない地位を手に入れているのだ。
 そう皆、私の手の内で踊らされている哀れな愚民共。支配者は私。
 このカス共をいいように使ってモテまくり、贔屓されまくりの、人生の栄華を極める生活は、その頃の私には何不自由のない日々だった。

 あの日の放課後、あの男と対面するまでは…。


続く…かもしれないw
282名無しさん@ピンキー:2009/05/10(日) 02:52:30 ID:0IdbXodk
>>281
GJ!

ぜひ続きをッ!!!
283めいこと高坂:2009/05/10(日) 23:32:46 ID:4pomgSdd
281の続きです

――――――――

 その日の放課後、日直だった私は一人、教室を掃除していた。もう一人の日直はゴミ出しに出ている。
 いつもなら何やかんやと芸術的なまでの手八丁口八丁で男に全部やらせるが、今日ばかりは違った。
 高坂という男がもう一人の日直だっが、どうも前々から何考えてるか分からないようなネクラな奴なのだ。
 大きな瞳にふわふわのロングヘアな愛くるしい私を前にしても動じないし、何かとやりにくい印象があり、実際やりにくかった。
 それだけで万死に値する。
 あんな無表情な奴、きっと現実の女に興味がないに違いない。
 …など、詮無いことを考えてる内に掃除が終わり、私は箒とチリトリを片づけようと、用具入れに向かった。
と。

ガッ!

 不意に足をすくわれるような感覚に襲われ、バランスを崩す。
「あ?」
 箒の柄が足に絡んだのだと理解したのは、盛大に転げた後だった。
284めいこと高坂:2009/05/10(日) 23:34:37 ID:4pomgSdd
 ガラガシャン!

 掃除したばかりの床を、埃が一面に舞った。
「………ッ!…いっ!」
 自分で言おう、哀れだった。
 前のめりに倒れて、とっさに側の机を掴んだ為に机は見事にひっくり返り、必死で手で体を支えた為に四つん這いのような体勢になり…
 見なくても分かる、スカートはめくれあがっていた。
「………ッ」
 痛みと共に言い知れようのない怒り、そして屈辱感が込み上げる。
「なん、でっ…」
 何で私がこんな目に逢わなきゃならない?
 いつもなら男にやらせる仕事を何で私が?
 そう高坂、奴だ、あのネクラだ。
 このまま叫び出したい欲望と必死で戦う。
 ダメ、今ここで叫んで誰かに見られたらどうする?私の人生は終わりじゃないか、でも今は放課後、人気はもう無い……「……………」

「全部てめーのせいだあのカスがぁああ!ぶっ殺すぞ高坂!」
「何が?」

 これが私の人生の転換期。
 高坂はいつもの無表情で私を見つめていた。
285めいこと高坂:2009/05/10(日) 23:37:51 ID:4pomgSdd
「…高坂君☆」
「あ、ゴミ捨てたよ。もう鍵閉めて帰ろうか」
「高坂君☆?」
 まるで何も見なかったかのように高坂は淡々と言い放つ…と思いきや
「南さんパンツ見えてるよ」
「ぐわっ!ぎゃ!」
 パンツを丸出しだった事に付け、まるでおっさんのような悲鳴を上げてしまい、一気に頭に血が上る。
「ほら、大丈夫?」
 高坂は涼しい顔で私に歩み寄り、手を差し出した。
「…あり、…がとう」
 高坂は…何考えてるんだろう。
 何で、何も言わないんだろう。
 もしかしてちゃんと聞こえてなかったのかな。
「…」
 怖いけど、逃げるのは私じゃないだろ。
 勇気を振り絞って尋ねてみる。

「高坂君…さっきの聞いてた…?」
「ああいう時もあるよね」

 さらっ と高坂はそう返した。
 ああいう時って何だ?パンツ丸出しで絶叫してるのがか?只の変態だろ。
「いや、多分あまり無いと…」
「俺だってどうしようもなく嫌な事があって、誰かに八つ当たりしたくて、叫びたくなったりするよ」
 …何か、凄く私の行動が美化されてる気がするんだけど。
286めいこと高坂:2009/05/10(日) 23:40:12 ID:4pomgSdd
「南さんもいつも元気に振る舞ってるけど、爆発して叫びたいって時だってあるってだけの事だろ?」
 …まーそう思ってんなら好都合だけど。
 むむ?何か勝手に勘違いしてんぞコイツ。いけんじゃね?
 これはとりあえずパターンAで凌ごう。
 顔を赤くしてグーにした手を口元にやり、高坂の目を見上げる。
「ははっ…何か高坂君に恥ずかしい所見せちゃったみたいだねっ///」
「いや、南さんにもそんな面白い部分があるんだなって新鮮だった」
 ていうかどんだけポジティブ思考なんだよお前。

 高坂は無表情のままだったけど、少しその表情が緩んでいる気がした。
 無表情だけど、笑ってるようにみえた。
「もう遅いし、帰ろうか」
 声を掛けられ、はっと我に返る。
「あ、うんっ」


 それから、二人で日誌を出しに行って、正門まで一緒に歩いて、正反対方向に挨拶だけして、お互い何事もないように帰っていった。

 意外だった。
 高坂があーいう奴だなんて、思いもしなかった。
 何かズレてて、でも多分良い奴で、感情が顔に出ないだけの典型的な損するタイプ。
 …なかなか馬鹿で使えそうな奴じゃないか。
 クラスの生徒リサーチに漏れがあった事を反省し、今後の対策を練りつつふと、高坂を少し羨ましく思った。
 あいつは私なんかよりずっと、心が綺麗なんだな。
 純粋に感心していた。
287名無しさん@ピンキー:2009/05/10(日) 23:42:03 ID:4pomgSdd
以上です
ペースはあんまり早くないと思いますが、ぽつぽつ出していこうと思うので、よろしくです
288名無しさん@ピンキー:2009/05/10(日) 23:51:54 ID:RuVr1kXO
GJ!
これからの展開が楽しみだ
289名無しさん@ピンキー:2009/05/11(月) 00:14:44 ID:Rr3w9eBV
投下GJ&乙!
みwwなwwぎwwっwwてwwきwwたww

安心しろ!ペースが遅くても俺たちが保守しておく!
290名無しさん@ピンキー:2009/05/12(火) 21:08:44 ID:TZrjKvzy
5月病の俺には丁度この上ないくらいの起爆剤だな
久々に全裸正座を試すとしよう
グッドジョブ
291名無しさん@ピンキー:2009/05/13(水) 00:55:53 ID:rD+ZP7+V
うまいな、書きなれてる?
ゆっくりでいいから続けてくれると嬉しい
292めいこと高坂:2009/05/13(水) 01:40:54 ID:YKzR3FQs
 高坂誠一、4人家族の長男で成績良好。

「…めいこ何してるの?」
「あ、奈々子ちゃん」
「ノートで顔隠しながら…何覗いてんの?」
「の、覗いてないようっ!」
 ヤベェ、何かと鋭い奈々子に捕まってしまった。
 本当に余計な事ばっかり気付きやがってこのアマ。

 私がしていたのは、勿論高坂誠一に関するリサーチだった。
 今後あんな事態が起きないように予習復習、あいつに関する情報を集め傾向と対策を練り、完全攻略するのだ。
 思った通り友達もそんなに居ないし、モテなさそーだし喋りなタイプでもない。
 私の正体がバラされるということは無さそうだ。
 しかし油断してはならない、初めて私の本性が暴かれる危機にあるのだからそれ相応の
「うーん、この視線の先は?」
 奈々子は私の目の前に人差し指を置き、「てん、てん、てん…」と指をズラして行く。
 その指の先には…。

「あ、高さ」「きゃあああああああああああああああああ!!!!」

 お前何言ってんだボケ!愚民の癖に無駄に当てんなよ!!

 …という本音こそ漏れなかったものの、クラス中の視線は今や私一人のものであった。
「…めいちゃん?」
「南さんどうしたの…?」
 突如奇声を発しながら立ち上がった私に、遠慮がちに掛けられる声。
 イタい。イタすぎる。
「はわっご、ごめんなさいっ!いっ今、虫っ!そう何かモスラみたいな形の虫が飛んで来て…怖くってつい☆」
「何だ虫かよー」
「モスラだなんて、めいちゃんたら可愛いー」
 一気に弛緩する空気の中、私は恐る恐る奈々子を見やる。
 奈々子は…凄い笑顔で私を見ていた。
293めいこと高坂:2009/05/13(水) 01:45:07 ID:YKzR3FQs
 授業が終わり、私と奈々子、そして共通の友達マユは、某ファーストフード店に居た。
 席について早々、高めのポニーテールを揺らし、フライドポテトをかじるマユを尻目に奈々子はビシリと言い放った。

「めいこ、ずばりアンタ高坂の事が好きでしょ!」
「ち、違うもん!」

「……」
「……」
「じゃあ何で高坂見てたの」
「見てないもんっ」
「じゃあノート持って何してたの」
「べ、勉強…」
「マユ!めいこの鞄からノート出して!」
「ラジャー!」
「ああああちょっと何してるのこのクソア」
「くそあ?」
「あはははは」
「隊長!『高坂攻略ノート』とブツには書かれています!!」
「哀れな…クロだったようね」
「………」

 会話文で顛末が終わる程あっさり、大いなる誤解は定着した。
 ちょっと待て何だこいつら。
 私があの高坂の事を好きだと?有り得ない、有り得ない上に失礼極まりない。
 一刻も早くこの誤解を…!
 …ん?解いた方がいいのか?

「しかしめいこが高坂をねー…まぁ分からないでもないか」
「高坂君モテますものね」
 更に有り得ない情報が耳に飛び込んで来た。
294めいこと高坂:2009/05/13(水) 01:49:39 ID:YKzR3FQs
「え、マユ、どういう事?高坂…君ってモテるの?」
「ええ〜っ恋する乙女がそんな事も知らないんですかぁ?」
 丸メガネの奥の目を見張り、大袈裟にマユは反応する。
 滅茶苦茶ウザい。が、ここは我慢だ。
「え、だって高坂君ってちょっと無愛想だし、あんま喋らないから…」
「そこが萌えポインツ!」
 ビシイィ!
 いきなり二人は身を乗り出して、私に指を突きつける。
「こんなフツーの一介の公立高校で真にモテるのは、ギャアギャア五月蝿いチャラ男でもモロ体育会系でも望み高な爽やか超イケメンでもない!」

「適度にイケメンでちょっと無愛想だけど話すと楽しい等身大な男!!」

 ドーン!はい来た!
 奈津子は妙なテンションで手を叩いた。
 人事だと思って物凄く楽しそうだなこの野郎…。
 で、なんだって?
「そ、そういうのがモテるんだ…ていうか、高坂君って話したら楽しい人なんだね」
 楽しいというか、やたら見方が好意的というか、純粋な奴だなとは思ったけれど。
「ほら、高坂君って無表情は無表情だけど、ちょっと安心出来るようなオーラを出しているんですね」
「うんうん癒やし系ね」
 何がオーラだ、お前は江原か。
 マユの後に奈々子が続ける。
「それでちょっと話し掛けたら、本当に親切だし、ネガティブな話でもいい方向に視点を変えてくれたりするような子な訳」
 あら紳士、とマユの合いの手。

 さぁて、モテない訳がないわよね。

 にやり。挑戦的に奈々子は私に笑いかけた。
「なっ何で私を見るのようぅ〜///」
 手足をバタバタさせながら、口を尖らせる。
295めいこと高坂:2009/05/13(水) 01:52:50 ID:YKzR3FQs
 表向きはお決まりのパターンBで凌いだが、内心は何故か、変にぐっと詰まるものがあった。
 今二人が話した内容は、私が昨日から高坂に抱き出していたイメージと一致するものがあった。
 だからこそ、何だか変な…何故かがっかりした様な気持ちになった。

 あの時見せた一面は、別に特別だった訳でも、私だけに見せたものでは無かったのだ。
 何だか拍子抜けしてしまったが、すぐに憤りと警戒心が再燃する。
 何が紳士だ私のパンツ見やがって。紳士と書いて変態と読むんだろうがお前の場合はよ。大体よく考えたらよくもまああの状態で涼しい顔なんかしてくれやがって私のパンツは売ったら5億は下らねえぞ見ただけで5000万だそれを「めいこ、決まりよ」「は?」
 私が呪いの言葉を脳内に刻みつけている間に、当事者不在で何かが決まったらしい。
 やたら目をキラキラさせる二人にウンザリしながら…それでも問い掛けてやる。

「何が?」
「緑会委員、一緒にやるのよ」

 一気に目の前が暗くなった。
 このボケ共。
296281:2009/05/13(水) 02:02:12 ID:YKzR3FQs
以上です
付き合ってもらえるようでありがたいです
携帯から出してるんで、字数制限であんま長く出せないんですが気にしないで下さいw
297名無しさん@ピンキー:2009/05/13(水) 21:32:00 ID:3CB1S2yl
これぐらいはっきりしてる方が俺は好きだよGJ
298名無しさん@ピンキー:2009/05/13(水) 22:50:57 ID:LQ6syI8b
>>296 GJ!!
続きwktk
299めいこと高坂:2009/05/14(木) 22:46:27 ID:uxeHn7X3
 よく見たらわりとイケメンかもしれない。

 それ以上でも以下でもなく、高坂の顔に対する評価は定まった。
 しかしこの程度の顔で真のモテ男だ持ち上げんのはどーかと思うぞ。

 あの低脳達が私が高坂を好きだとか勘違いしたままなのは、もう放置する事にした。
 否定するのも面倒だし、むしろ高坂完全攻略の為には交流を持たなきゃなのは必要不可欠なんだから、奴らのお節介が逆に関わる言い訳にもなる。
 そしてその目論見は見事達成された。
 達成された。
 が。
「俺はアメリカン、南さんは」
「あ、私はロイヤルミルクティーでお願いします」
「かしこまりましたー」
 なんで私はこんな駅前の喫茶店で高坂と向かい合ってるんだ?!


 そう、そもそも「緑会」だった。
 正式名称は「地球の緑が危ない!環境について考えよう!行動しよう!実行しよう!委員会」。
 この高校が環境だエコだのと数年前から騒ぎ出した、お題目だけの厄介行事。
 内容はいたってシンプルで、各クラス男女一名ずつ委員を選出し、クラス内で「環境を改善するには何をしたらいいか」だとか、いい加減議論尽くされた内容を掘り返して学校集会で代表者が発表して終わる。
 ちなみに毎年その時期は、テスト期間中と被る。

 だからそもそも「じゃあ一緒に緑会委員やって距離を縮めちゃいなよ☆」「それいい考えですよめいこさんー」
とか軽々しく言われて引き受けるには余りにも面倒なのだ。
 毎年クラスで役の擦り付けあいになるような委員なのに。
 しかし。
300めいこと高坂:2009/05/14(木) 22:50:00 ID:uxeHn7X3
「はい、今年の緑会委員ですがなんと!南めいこさんと高坂誠一君が自ら!進んで立候補されました!」

 飯島奈々子は学級委員長だった。
 殺れるなら喉元からそのポニーテールで絞め殺している所だ。
 オオオー!というどよめきから拍手まで聞こえ出す。こいつらそこまでやりたくないか。
 案の定さすがの高坂も「は?」と言うような表情で脂汗をかいている。
 やっっぱりノーアポかよアイツ!
「ちょ、飯島さ」「高坂君は言ってくれました…『俺はテスト余裕だから委員位やってやるよここは任せろ!』と」
「……」
 再び上がる大歓声。
 誰も高坂がそんな事言い出したとは思ってない。自分が役を免れた事への歓声だ。
 いい加減自分の性格は最悪だと思っている私だが、…こいつらは悪魔じゃないのか。
「めいこは素晴らしい志を持って参加の意を表してくれました、南さんどうぞ!」
「へっ?」
 それでいきなり私には丸投げかよ!
 仕方なく涙目、切なげな表情等々を作り、か細い声で訴えてみる。
「え、えっと…地球さんはお花とか葉っぱが無くなったらすごく悲しいと思います…だから私達で少しでも助けてあげたいんですっっ!」
「素晴らしい!お花さんとか葉っぱさんは大切という共存共栄の心ですね!」
「めいこちゃん偉いなー」
「南さんは優しいな…まるで天使だよ」
 緑なんか知るか死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね。

「さて二人は『皆の意見は聞かずとも私達は理解できる…よって話し合いは必要ない』と言ってますのでこれより後は自習時間とさせていただきます」
 お前も死ね。
 今日一番の歓声の中、高坂は既に諦めモードで天を仰いでいる。
 そして奈々子は今回の作戦のキモであろう事項を付け加えた。
「二人は後日、早速フィールドワークに行ってくる予定だそうなので、次のHRで発表を期待しましょう!」
 …後日?
 フィールドワーク?
 このクサレ[ピーーーー]

 気が付けば高坂がこちらを向いていて、「同志よ…」というような沈痛な面持ちで頷いていた。
 思わず私も頷いてウンザリした表情を作る。
「……」
 いつもの私の顔はこんな表情してたっけ?

 なんて思ったのは結局チャイムが鳴った頃で。
 ひとまず話し合わなきゃならないだろと、私は高坂の下に向かった。
301めいこと高坂:2009/05/14(木) 22:54:53 ID:uxeHn7X3
 つまり、フィールドワークと言えば聞こえがいいが、要するに街中を二人で歩いて、身近な環境問題を見つけようという話である。
 …つまりほぼ、デートである。

 その事実を反復しながら、運ばれてきたロイヤルミルクティーを口に運ぶ。
「砂糖入れないの?」
「あ」
 忘れてたあっなんて言いつつ砂糖をぶっかける。
 マズいな。変に緊張しているせいで、キャラ作りにブレが出てきてる。
 実を言うと甘いモノはそんなに好きじゃない。
 外ではキャラの為に積極的に食べる様にしてるけど、本当はケーキなんて1個食べたら十分過ぎる程で、紅茶党だけど砂糖は滅多に入れない。
 人工的な甘さにこっそり顔をしかめつつ、高坂に話を振る。

「…で、とりあえず集合してみたけど…どうしよっか?」
「いきなりだったもんな…今日になったのも強制的に飯島さんに指定されたからだし」
「えっと…一応この辺の地図、ネットで出してきたよ〜。見に行った方がいい場所にはチェックしてる。時間は結構掛かると思うけど、午前中から始めたらいい時間になると思うし」

 高坂は珍しく表情を揺らし、私を見つめた。
「南さん凄いな。俺地元だからってそんなキッチリ調べてなんて来なかった」
「いやっ私もネットで見ただけだよっ、チェックしたとこも『河』とか『山』なの///」
 生活排水が流れ込んでいる河、最近住宅建設で伐採が進んでいるこの辺で一番身近な山、区役所近くの市民会館では、市の環境問題について常設展示があった筈。
 キャラの都合上表立って仕切る事は無いが、私はこういうのに意外と燃える。
「じゃあ南さんが調べてきた所を廻って、街中を歩いてる中で気付いた事や、掘り下げて調べた方が良いこととかをメモして行こうか」
「うん!頑張ろうねぇ〜♪」
302めいこと高坂:2009/05/14(木) 22:58:43 ID:uxeHn7X3
 事務的に話し合いをした為に気まずい空気を作らずに済んだが、実際の所、高坂と二人で長時間話すというのは非常に…何というかビビる。
 あんなこの私と話すにも値しないようないかにも平民に対して、過剰反応もイイトコなのだが。
 やはり「あの雄叫び」を聞かれただけに、またその話を振られまいかとドギマギする。
 昨日はお陰で緊張し過ぎてロクに眠れなかったし、服だってなかなか決まらなかった。

「あ、店出る前にお手洗い良いかなっ?」
「うん、いってらっしゃい」
 高坂は今日も殆ど無表情だけど、何だか良い感じだ。
 …何が良いのかは分かんないけど…これがマユの言ってた「癒し」なのか?

「…………」

 つらつら考えながら歩いていると、妙に見覚えのある尻尾を見つけた。
 尻尾どころかメガネも見える。
 それどころか…。
「奈々子ちゃん達ったら、そんなベッタリソファにくっ付いて何してるのかなあ?」

「頬ずりしてます!」
「メガネ拭いてます〜」
「…霊視?」

 何故時間と場所指定が行われたのか…今になって理解出来た。
 三人のクソアマ達は仲良く私達の後ろの席で聞き耳を立てていた。
「きょ、今日1日尾けるつもりでしょっ!!(泣)」
「正解ぴょ〜ん」
「しかも何で香織まで?!」
「…楽しそうだったから」

 相田香織は、ちょっと無口で私の愛らしさには及ばないがなかなかの黒髪美少女だ。
 奈々子とマユは高校で出来た友達だが、香織は小学校からの付き合いで、よくつるんではいるものの、こんな下世話な所まで付いてくるとは思わなかった。
「アイアイが行きたがってたんだからいーじゃ〜ん」
「めーちゃんが好きな人…興味ある…」
「あらあら相田さんたら、高坂君にヤキモチ焼いてますわ〜」
 三人が何を言っているのか全く意味が分からなかったが、時間も無いことだし釘だけは刺さないと。

「とにかく!絶対表に出て来ちゃダメだよっ」
「「「は〜い!」」」

 今日1日、高坂に付けてこいつらまで相手に過ごさなきゃならんのか…。
 馬鹿なのか?こいつらは馬鹿なのか?
 大いなる不安を抱え、緑会委員会活動は始まった…。
303281:2009/05/14(木) 23:00:20 ID:uxeHn7X3
今日は以上です
次はすぐ出せると思います
304名無しさん@ピンキー:2009/05/14(木) 23:02:35 ID:1lMUirOf

死ね死ね連呼するあたりが可愛いと思った俺は末期かもしれません
305名無しさん@ピンキー:2009/05/16(土) 09:09:38 ID:/ZlWmcpT
>>303 GJ!!
続きに期待
306名無しさん@ピンキー:2009/05/16(土) 10:13:10 ID:+1AmDzRu
女の子ってふつーにこのぐらい腹黒だよねぇ。ってか萌エタ。
307めいこと高坂:2009/05/16(土) 22:25:00 ID:i1R3Bt4w
「高坂君メモとれた?」
「うん、そっちは?」
「さっき職員の人から話聞けたよ。河の浄化活動をしてる市民グループがあるらしくて、今度代表者の方を紹介してくれるって」
「じゃあやっぱり今回のテーマは河だな」
「来週の日曜日も空いてるよね?その日で聞いてみるねっ」

 キャラを辛うじて保ちつつ、久しぶりに私は充実感を覚えていた。
 引っ付いてきた野次馬共は物凄くつまらなさそうだが知ったこっちゃない。
 目的の為に自分の頭で行動するっていうのはやっぱり面白い。
 まあ元々私はそういう人間だけど。


 市民会館を出る頃、とっくに日は傾き始めていた。
「しかし大分時間経ったな…もう4時か」
「ホントいっぱい廻ったね〜」

 今日は本当に1日歩き通しだった。
 二人でヘトヘトになった頃には、ショッピングモールの地下でソフトクリームを食べたりした。
 高坂の食べるスピードが遅すぎて、コーンの先からボトボトクリームが溢れ出していて、それを無表情で必死に拭き続ける様子に何回も吹き出しそうになった。
 歩く時は、いつもはネタで軽く1、2回つまづいてみせて「きゃぅっ!はう〜…(泣)」なんてサービスする所だが、そいいえば今日ばかりは、疲れ過ぎてガチコケしてしまった。
 その時の声が前回から進歩なく「ぎゃわっ!うげ」だったんだから情けなさ過ぎる…。
 でもあの時の高坂は、今にも笑い出しそうな顔で手を伸ばしてくれて、内心ガッツポーズを取ってしまった。
 いつの間にか私の中で「高坂の笑った顔が見たい」という気持ちが膨らんでいた。
308めいこと高坂:2009/05/16(土) 22:28:22 ID:i1R3Bt4w
 ……まるでデート、みたいな内容だったのは確かだが、断じてデートじゃない。
 これは奈々子の策略で、私は高坂攻略の為に一口乗ってやっただけなのだ。
「そうだ」
 ふと歩みを止めた高坂は、時計を見やってから提案した。
「最後にもう一回、河川敷まで行ってみる?」
「あ、うん」
 高坂に誘われて、私達はまた河川敷の方へ向かった。


「こーやって見ると綺麗なんだけどな〜」
 夕日が乱反射して、キラキラと視界を彩る。
 アスファルトの階段に座り込んで、私達はボンヤリと河を眺めていた。
「この河から自転車とか出て来た事あるらしいよ」
「タバコの吸い殻もよく見たら大分落ちてるしな」
 あぶねぇなんて言いながら、高坂は吸い殻をゴミ箱に放り込んだ。
 石が転げ落ちたのか水面が揺れて、小さな波紋を作った。

「……」
「…意外に真面目にやっちゃったねー」

 高坂なんかとこんな場所で、こんな事してるなんてすごく変だ。
 でも今の私は何故か、まだこうして居たいような気がしていた。
 高坂は水面を見つめたまま答えた。
「でも俺は、南さんは最初からマジでやるつもりなんだと思ってた」
「あ、あの『地球が〜』って話かな?あれは奈々子ちゃんが…」

「南さんって、本当はもっと芯のあるハキハキした子な気がするな」
「え」

 心が不意にザワつく。
 危機感が頭をもたげる。
 …何を言いだしてる?
309めいこと高坂:2009/05/16(土) 22:31:29 ID:i1R3Bt4w
「今日1日一緒にやってみて思ったんだ。今日の南さんは実行力があって元気でハキハキしてた。いつものふわふわしてるイメージもあるけど、やっぱりそういう所が目に付いたんだ」
 高坂は、顔を向けて私の目を見ていた。

 夕日が高坂の顔を照らして、睫毛や毛先がキラキラ光っている。
 顔が強張っていくのを感じる。
 止めて。
 赤信号が頭の中で点滅する。

「この前も凄い大声で自分の思いを口にしてたし、いつもはそういうトコ、見せてないけど」
 止めてってば。

「そういう面も南さんらしいと思った」
 危機感が加速する。
 信号が赤なのに渡ったら駄目。
 死んじゃうから、

「だからさ」
 止めろ。

「余計なこと言わないで」
「え」
 口が止まらない、歯止めが聞かない。
「私は『コレ』でいい。『コレ』がいいの。アンタに指図されるいわれはない」
 私は高坂を睨みつけていた。
 強い拒絶感が体の中で爆発していた。
「でも」
「分かったら先帰って」

「南さん…ごめ」
「早く帰って!!」


「…ごめんな」
 高坂は立ち上がって、歩き出した。
 私は動かない。

 足音が聞こえなくなった頃に、噛み殺していた嗚咽が押さえきれなくなって、変な声が出てきた。
 奈々子達がどこで見ていたのか駆け寄ってきたけど、涙で何も見えなかった。

 私は最低だ。

310281:2009/05/16(土) 22:33:47 ID:i1R3Bt4w
今日は以上です
なんか中途半端な所で終わってすいません
311名無しさん@ピンキー:2009/05/17(日) 06:47:18 ID:qAgddeCE
GJ! 続きが気になる終わり方だねw
312名無しさん@ピンキー:2009/05/17(日) 12:45:56 ID:8jPQJMuE
いよいよ可愛くなってまいりました
313名無しさん@ピンキー:2009/05/18(月) 22:34:31 ID:mqx2kb9Y
これは続きが楽しみだな。
314名無しさん@ピンキー:2009/05/19(火) 06:50:25 ID:fWoNw4Yz
追いついちまった
続き楽しみにしてます
315めいこと高坂:2009/05/19(火) 17:37:15 ID:BjZoOe4x
 私以外の人間は皆、私より馬鹿だとしか思えない。
 可愛い顔してちょっと優しくしてやれば、皆コロッと騙される。
 キャアキャアいちいち騒ぐ女はアホにしか見えないし、男の視線はいつだって下世話だ。
 それが自意識過剰であろうがなんであろうが、ぬくぬくとした立場の中、笑顔の下で毒づくのが私の生き方だ。
 それは歪められてはいけない。
 誰にも侵されてはいけない私の支えだ。

「おねえ」
「…」
「めいねえ」
「なによ」
「晩ご飯だってさ」
 いい加減フテてないで、下降りてきなよ。
 と、真以子は言いたい事だけ言って、リビングに向かった。
「………めんど」
 ダルい体を無理やり起こし、階段を降りてゆく。
 着過ぎて袖がだるだるになったダボダボのスウェットが、ますます歩みを鈍くする。
「あ、めいこ起きた?今日お父さん飲み会だからもう食べるわよ」
「……カボチャ」
「ほら、一個は絶対食べなさい。後は真以子にあげてもいいから」
 母親はそれでも大きめの煮付けを私の皿に乗せていた。
「おっしゃいただきます!」
 甘いモノに目が無い真以子は、早々とカボチャを口に放り込んでいる。
 ぱくりと、嫌いなモノから片付けたい私もカボチャをかじってみる。
 クソ甘かったけど、疲れているせいか妙に体に染み渡る感じがした。
「真以子箸どけて」
「あっ何で真以子のカボチャ取るの?!」
「あれ、珍しいわね」
「ていうか私のだし。たまにはいいじゃん」

 些末でささやかな会話が流れる。
 こんな風に食卓を囲むのも、今年で5年目になろうとしていた。
316めいこと高坂:2009/05/19(火) 17:40:51 ID:BjZoOe4x
 夕食を食べ終えて、ごろりと自分のベッドに体を投げ出す。まるで牛だ。
 髪はクシャクシャで、スーパーで売ってそうなスウェットでゴロついてる私を皆が見たら、開いた口が塞がらないだろう。
 お部屋は全部ピンク色とぬいぐるみさんで統一してるの☆とかいつも言ってるしな。
 …想像したらキモすぎる部屋だな…。

「…ていうか明日のことだ」
 どうしよう。
 奈々子達はとにかく振り切って逃げたし、会話も殆ど聞こえてなかったみたいだからなんとかなるだろう。
 問題は高坂だ。
 気まずい所じゃない、どう考えても不条理で私の一方的な逆ギレだ。
 あの時怒り出さなかった高坂を、改めて凄い奴だと思う。私なら…
「…」
 今の私ならどうしてるんだろう。
 いや、そんな事より明日だ。
 今回は「南さんにもそういう部分が〜」とかで誤魔化せないような域の爆発をしてしまっている。
 高坂が私の禁忌に触れたから。
 …とにかく。
 ……。
 ………。

「あああああダメだ!」
 高坂の出方なんか分かる訳がない。あんな純粋な奴が何考えてるかなんか分かるかボケ!
 もう明日当たって砕けよう。正体なんかどうせ最初の方でバレてるようなもんなんだから実力行使で黙らせて縄とガムテープが要るな屋上でとりあえずフルボッコにして生殺与奪の権利を得てから吊して

「あああああもう!!」
「おねえうっさい!!」

 こうして私の夜は悶々と更けてゆき、問題の朝を迎えたのであった…。

317281:2009/05/19(火) 17:46:28 ID:BjZoOe4x
以上です
展開上、今回は短くなってしまいました
次は色々動かそうと思うのでよろしくです
318名無しさん@ピンキー:2009/05/19(火) 18:34:22 ID:VZKKnXTW
>>317
乙です!
続き楽しみにしてます
319名無しさん@ピンキー:2009/05/20(水) 11:28:03 ID:8KjeqRsS
>>317
いいっすねえ
320名無しさん@ピンキー:2009/05/20(水) 12:07:25 ID:yqBfPXaT
GJ
やっぱり動揺しているところっていいよなぁ
321名無しさん@ピンキー:2009/05/21(木) 22:08:45 ID:DrGvRfrM
続き期待wktk
322めいこと高坂:2009/05/21(木) 22:18:05 ID:YS5kcw51
 こんなに朝を、学校を、恐ろしいと思った事はないかもしれない。
 扉を開ける瞬間、クラス内での南めいこ神話崩壊を覚悟したが、高坂が皆に話したような様子は無かった。
 まあ、そもそも高坂はそういう事をやる奴じゃない。
 ひきつる笑顔を必死で保ちつつ、「おはようっ皆おはよう!!」と愛想を景気対策並にバラまきながら席に着く。

 着いた途端に案の定、奈々子達が飛ぶようにやって来た。
「めいこ昨日はどうしたの?!」
「大丈夫でした!?」
「高坂に犯られたなら…ちゃんと殺してくるよ」
「大丈夫だってばぁ〜っ、ていうか香織は怖い事言わない」
「…」
「な、何?本当に何もされてないよっ?」
「…」
 香織はしばし私を見つめた後、無表情を崩さないままコクリと頷き…

「高坂君ちょっと」
「ちょ、香織?!」

「ちょっと来て」
「え?あ、ああ」
 高坂は訝しげに僅かに眉をしかめながら立ち上がり、二人はあっという間に教室から消えてしまった。
 予想外過ぎる展開に頭がショートして火花を散らす。
 あ、あいつ…何やってんだ?

「あああ〜ついに香織さんの嫉妬の炎が…」
「よし尾けるぞ!ほらめいこ!」
「へっ?ふにぁあっ!何するのっ」
 襟元をひっつかまれ強制連行が執行される中、疑問だけが渦巻く。
 香織は何が目的なんだ?
323めいこと高坂:2009/05/21(木) 22:21:25 ID:YS5kcw51
 相田さんに呼び出されたが、全く事情が分からない。
 俺は彼女に何かしたんだろうか。
 ……いや、彼女じゃない。
 きっと南さんの話だ。
 相田さんは当然のように屋上の鍵を持っていて、開錠後「入って」と手まねきした。

 一歩外に出た途端、空が視界一面に広がり、頭がぽかっと空いたような開放感がわく。
 体を風が通り抜ける感覚が襲い、思わず目を細めた。

「相田さん、俺に何か?」
 風に長い黒髪がバサバサとかき乱されるのと対照に、相田さんの表情は湖面のように静かだった。
 口だけがそっと動いた。

「高坂君はめーちゃんの事が好きなの?」
「…………は?」


 思いがけなさすぎる問い掛けに、思わず頭がパニックになりかける。
「答えて」
 予断を許さず相田さんは追求してくる。
「早く、今すぐ、3・2・1」「好きだよ」

 一拍置いて、相田さんは口を開く。
「それはlike?love?」
「そりゃ…後者だよ」
「どっちなの」
「…loveだよ」

 相田さんはいとも簡単に、隠し続けていた俺の気持ちを吐き出させた。
 …まるで犯罪者になったような気分だ。

 俺は、南さんがずっと好きだ。

 そんなのうちのクラスの半分以上の男がきっとそうだし、望みが無いなんて分かりきってる。
 だから今回、一緒に緑会委員を出来たのは、凄くラッキーな事だったんだ。

 そんな俺の気持ちを知ってか知らずか、相田さんは「分かった」と頷いた。
「…相田さんは何が言いたいんだ?」

 相田さんは急に、見るモノ全てを凍てつかせる様な冷たい視線を俺にぶつける。

「高坂君…めーちゃんを泣かせた、傷付けた」
「それは本当に申し訳ないと…」
「高坂君は本当に好き?どんなめーちゃんでも好き?」
「…えっと」
「すぐ答えられないようなら、覚悟がないなら、めーちゃんに関わらないで」
 一気に切り捨てられた。

 相田さんは俺に南さんは無理だと、迷惑だから消えろと、そう言いたいのだろうか。
 それなら…最初から分かっていたのに。
「分かってるよ。…これ以上俺なんかが、彼女に立ち入っちゃいけないよな」
「…」
「本当にごめん」

 自分が情けなくていたたまれず、とにかく謝って、その場から立ち去ろうとした時、相田さんの口がまた開いた。
「…高坂君は」
 ………。
324めいこと高坂:2009/05/21(木) 22:24:11 ID:YS5kcw51
 ガチャリ。
 やっと施錠が解かれる。
「あっ!アイアイ!何してたんだよ!」
「密室に二人…危険な香りなのですね」
「よ、良かった…!」
 高坂のどこにも、外傷も縛られた跡も拷問に遭った様子もない。
 私が恐れていた事態には発展しなかったようだ…。

「南さん、何でこんな所に?」
 高坂は本当に不思議そうな顔をして尋ねてくる。
 こんな所も何もお前を心配してやってたんだよ脳みそあんのかお前。
「いや、急に香織に連れていかれたからびっくりしちゃってっっ」
 とは言わない私は、やっぱり天使の様に優しいだろ常識的に考えて。
「? 大丈夫だよ。あ、そうだ。あのさ、授業終わったらちょっと付き合ってくれないか?緑会の事で」
「え?わ、分かった」
 高坂は言いたい事だけ言って、教室へ戻って行ってしまった。

 その後香織は、当然奈々子達によって尋問に掛けられたが、結局口を割らず、うやむやに事態は収束した。
 すごすご席に戻っていく二人の後ろ姿を眺めながら、香織に問いかける。

「香織…アンタ何言ったの」
「めーちゃんが心配するような事は言ってない…大丈夫」
「信用出来ない。いいよ、直接本人に聞くから」
「…久しぶりにめーちゃんだ」
 今になって気付いた。
 香織の機嫌がいい。
 無言で睨み付けるが堪えた様子もなく、香織はすました顔で授業の支度を始めている。
 ムカつくが、まぁいい。どうせもうすぐ分かるんだから。

「…ったく」
 いい加減準備を始める為に、シャーペンを手に取る。
 不必要に可愛らしいキャラクタがぶら下がった、不便なシャーペン。
 その陽気に笑う姿が自分みたいで、酷くいびつに見えた。
325めいこと高坂:2009/05/21(木) 22:26:58 ID:YS5kcw51
 本当に何言ったんだあのアマ。

「…え、高坂君?も、もう一回言ってくれないかなぁっ?☆」
「河の清掃活動をしてるグループの代表の人から俺に連絡が来たから、今週の日曜日…」
「その後その後っ♪」
「…の前日の土曜日に、話し合いついでに一緒にテスト勉強しないか?」
 俺の家で。

「はあ?」
「いや、都合が悪いなら構わないけど」

「………」
 …あ〜〜ダメだ高坂がいつもの無表情だから何考えて言ってんのか分からん!!
 何?!何言ってんの?!
 家?何を言い出してんだコイツ?
 ううううああああああああ
(この間2秒)


「あああうう!」
「へ?」
「いやいや今のはちょっとバグが出ただけだから気にしないでねっ☆」
「あ、ああ」
「家っ家よねっわかた!行くよ!」
「本当に大丈夫か?何か大丈夫じゃなさそうだけど…」
「全然平気だよ!!」
「じゃあ土曜12時に正門前で…」
「うんっわかりましたっ!ではでは〜っ☆」


 はい嘘です。
 よく考えなくても、OKする事なんて無かった。断れば良かったのに。
 いつもなら「この愚民身分違いにも何を言い出してるんださてどう料理してやろう」ってなもんなのに。
 アイツがいきなり言い出したもんだから混乱して、正常な判断が…。
 だから…。

 ……。
 いや、違う。
 薄々感じていた自らの意識に、否が応でも向き合わされたのを感じる。
 苦々しい気持ちが湧き上がってくる。

 いつの間にか私にとって高坂は、それがどんな存在であれ。
 他とは違う、特別な存在になっていた。
326めいこと高坂:2009/05/21(木) 22:29:48 ID:YS5kcw51
「…はぁー」
 顔がどんどん熱くなっていくのを感じる。多分真っ赤になってるだろう。
 とんでもない誘いをしてしまった…。
 何であんな事を言ってしまったんだろう。
 あの時の…相田さんとの会話を思い出す。


『高坂君はめーちゃんを、「傷付けても」一緒に居たい?』
『いや。俺はもう彼女に嫌われてるから…』
『居たいならめーちゃんを誘ってみて』
『俺は』

『誘いなさい』
『……何にだよ』

『家に誘ってみて』
『家?!そんなの』
『誘って』
 めーちゃんは絶対に、OKする。

 確信を持って、相田さんはそう言った。

 正直、迫力に押されて鵜呑みにする形になったのは間違いない。
 大体相田さんは何なんだ?…牽制してるのか協力しようとしてるのか、訳が分からない。
 実際OKされても実感がわかないし、本当に迷惑でなかったか不安で仕方ない。
 というか…親が居るにしろ、男女が一つの部屋で…
 ……。
 ………。

 ダメだ、そんなの良くない。

 耐えきれなくなった俺は、即座にその場を後にした。


「あんた、高坂に何言ったの」
「内緒…」

「何でさっき高坂が凄い勢いで来て、『相田さんも良かったら一緒に勉強しよう』って言って帰っていったの」
「知らない…行くけど…」

「あーこのクソ女…もう何でもいいわ…とりあえずありがと」
 香織は、私と高坂の先日からの気まずさだけは払拭してくれていた。
 クソ女は珍しくニコリと、悪魔みたいに微笑んだ。
327281:2009/05/21(木) 22:31:31 ID:YS5kcw51
今回は以上です
なんか長々とすいません
保守代わりと思ってもらえればw
328名無しさん@ピンキー:2009/05/21(木) 23:24:02 ID:BZ/3Nmw3
投稿乙です
いつも通りwktkがとまらない展開だw
329名無しさん@ピンキー:2009/05/22(金) 10:05:46 ID:/AAKOuom
かわいいな、もう
330名無しさん@ピンキー:2009/05/23(土) 02:04:35 ID:OAsZ8Dcl
いいよいいよ〜
331めいこと高坂:2009/05/24(日) 23:10:10 ID:O6F5OzmS
 土曜日までの私の、輝かしいまでの愛らしさは略すとして。
「汚いけど良かったら」
「「「はーい」」」
いや、はーいじゃねーだろお前ら。

 何というか、予定通りというか、滞りなく、事態は香織のいいようになっていた。
 ほら見ろ小市民代表みたいな顔した高坂の母親が、女4人も連れて来るもんだから滅茶苦茶びびってんじゃねーか。
 仕方ないから挨拶位してやろう。
「高坂君のお母様、今日はお招きいただいてありがとうございますっ/// 騒がしくするかとは思いますがご容赦くださいっ」(ペコッ)
 可愛く頭を下げ菓子折りの一つでも渡せばちょろいもんだ。
「まぁまぁ!ありがとうねー」
 案の定母親は、私が持ってきたどら焼きの箱詰めを見て、口を綻ばした。
 まあそんな哀れな人間にも情けを掛けてやるのが、私の素晴らしい所だな。
「南さんも良かったら入って」
「あ、はいっ」
 高坂に促され、私達は高坂の部屋に初めて足を踏み入れた。

 部屋はイメージ通りシンプル、簡素、そんな言葉が似合いそうな整頓具合だった。

「何かエロ本なさそうな部屋だね」
「奈々子!!」
「去年の成績表見つけましたわ〜」
「マユ!!」

 どうしようもなくアホな子供を持った親の気持ちが今分かる……。
「高坂君ごめんねっその、二人には悪気はなくて…その、ちょっと馬鹿なだけなのっ!」
「いやいいよ。別に見られて困るものもないし」
「…めーちゃんキャラ補正」

 香織につつかれハッと口を押さえる。
 しまった…奈々子を呼び捨てにしたり馬鹿とか口走ってしまった…。
 青ざめる私を気にした様子もなく、4人はさっさと各々の座布団を敷いて勉強道具を持ち出す。
 ていうか…このメンツで勉強が成立するんだろうか。
332めいこと高坂:2009/05/24(日) 23:11:25 ID:O6F5OzmS
「これー…答え3だよね」
「また間違ってますよ〜奈々子さん」
「それは先に代入してから解かないと」
「…頭悪い」
「はっ!?アイアイ今何を」
「ねえねえ」
 高坂は何というか、下手に素直なだけに押され弱い所があるようだ。
 今回だって、1人追加で誘った筈が、うやむやに女4人も家に呼ぶハメになってるし。

 とろとろと意味もなく1時間位経って一段落ついた頃、私は「高坂君、そろそろ緑会の方の話し合いしよう」と言い出した。
 奈々子が「あらっじゃあ私達ここに居るから別室でどうぞどうぞ!!」と自分の家でもない癖に壮絶な気を利かせた時も、あいつはあえて何も言わなかった。

 正直、私の腹は最初から決まっていた。
 香織のフォローと高坂の優しさで、私の失態をなあなあに見逃してもらうつもりはない。
 自分の事は自分の力で収拾する。付き合いの長い香織も、それは分かってるだろう。
 大体、私は謝ってもいないんだ。
333めいこと高坂:2009/05/24(日) 23:13:56 ID:O6F5OzmS
「半分物置みたいな部屋だけど、ここで良かったら」
「ていうか、話し合いする私達が追い出されるってかなりおかしいね…」
「まあ、同じ部屋で違う事喋ってたら相田さん達の邪魔になるしな」
 いや、お前家主だろ。どこまで人が良いんだ…。
 高坂の母親が運んできた私のどら焼きをパクつきながら、さっきより一回り小さな机に地図と数枚の資料を乗せる。

「連絡取れた後に、活動概要の書いたファイルをメールで送ってくれて、あとHPも教えてもらったんだけど」
「あ、HP見た見たっ。何か凄いよね、お花見とか」
 HPにはゴミ拾いだけでなく、周辺に植わってる桜が満開になる時期には屋台を出して地域振興を図ったり、植林活動をしたりと、とにかく幅広く活動内容が報告されていた。
「それで明日のインタビューの質問なんだけど…」
「ああ、言われた通りいくつか考えてきた」
「見せて〜。…あ、やっぱり何個か被ってる(笑)」
「これとこれは押さえた方が…」

 な ん て 。

 余裕ぶって話してる訳だけど、実際は心臓のバクバクが止まらない。
 頭に血がじりじりと昇って目が眩むのを感じる。
 何でこんなにこの部屋狭いの?
 50センチもない距離で頭をつき合わせて同じ空間に居るなんて、緊張して目が回ってくる。
 何がこんな部屋のスペースを取ってんだと高坂の背後を見やったら、大量の布団が丸めて寄せられていた。
 …ますます目眩がする。

「南さん?」
「あ、ごめんっ。うんそれでいいと思うよ」
 慌てて高坂の呼びかけに我に返る。
 …駄目だ。
 最近の私は自分のペースを狂わせ過ぎてる。
 今までの私ならこんな事、一度だって無かった。
 皆の前で良い顔して、香織の前でたまに毒づいてれば、それでバランスは保たれていた筈なのに。
 全部、こいつ。高坂が現れたせいだ。

「じゃあそろそろ向こうに戻ろうか」
「あ、ちょっと待って!」

 立ち上がりかけた高坂の服の裾を思わず掴む。
 視線がぶつかった。
334めいこと高坂:2009/05/24(日) 23:16:49 ID:O6F5OzmS
 最初に目を逸らしたのは高坂だった。

「えっと…」
「あっ…の」
 言え、言うんだ私。
「「この前はごめん!」」

 言った瞬間、とてつもない脱力感と共に違和感が襲う。
 …あれ?声がだぶった?
「…高坂、くん?」
 高坂は膝をついて、深々と頭を下げていた。

 さてコイツは、今度は何の勘違いをしてるんだ?
「この前は本当に…デリカシーない事言って本当にごめん」
「いや、あの、え?」
「南さんの事知ったような口きいて、ずけずけ人の心に入って行くなんて…人間として最低だ」
「高坂クン?」
 どうもおかしい。本来謝るのは私の筈なのに、どうして高坂が平謝りしてるんだ?
 いまや彼の中で、高坂誠一という男は今世紀至上最悪の男となっていた。
「こんな事で許して貰えるとは思ってないけど、」
「ちょっと待ってよ高坂君!高坂君は全然悪くないよ!」

 きょとんとまばたきをして、高坂は私を見上げた。
 私は言い含める様に、ゆっくり、きっちり、目を見ながら話す。
「高坂君は悪くない。私が勝手にキレて、高坂君に迷惑を掛けただけ」
「でも、俺が余計な事を言ったのは確かだ…」
「じゃあおあいこでいいじゃない。どっちも悪かったんだよ」
 どう考えても私の方に非はあるが、こうでも言わなきゃ高坂は延々自分を責め続けるだろう。
 気を張っていた自分が馬鹿みたいで、体の力が抜けるのが分かる。
 やっとこれで一段落…。

「待って。そういえば高坂君、屋上で香織に何言われたの」
 途端に、高坂の表情が今まで見たことのないモノに豹変した。
「…高坂君?(笑)」
「……」
 一段落はまだ、つかないようだ…。
335281:2009/05/24(日) 23:19:22 ID:O6F5OzmS
今日は以上です。
ではでは。
336名無しさん@ピンキー:2009/05/24(日) 23:41:48 ID:7z8imBC+
>>335 乙!
また続きをwktkしながら待ってる
337名無しさん@ピンキー:2009/05/25(月) 00:01:29 ID:GVLPlhki
>>335
エロパロってこんなにもいいところだったんだな・・・
338名無しさん@ピンキー:2009/05/25(月) 00:54:58 ID:3whf6cDm
>>335 GJ!!
腹黒スレなのに全然腹黒さを感じないぜ!もちろんいい意味で。
339名無しさん@ピンキー:2009/05/26(火) 21:41:53 ID:g21m0qlB
乙〜
続き待ってるよ〜
340めいこと高坂:2009/05/27(水) 01:02:06 ID:IONt/W1e
「相田さんには、その、怒られたよ…」
「香織が何高坂君に怒る事あんのよ」
「そりゃ南さんに酷い事言ったから…傷付けるなら関わるなって釘刺されたよ」
「あいつ…」
 あの馬鹿女…ホントに余計な事ばっかり言いやがって。
 私の思いとは裏腹に、高坂は何やら感心したようだ。
「相田さん…本当に南さんの事が大切なんだな」
「そうかな」
「あんなに自分の事を想ってくれてる友達が居るって、なんかいいと思うよ」
「香織は…私に借りがあると思ってるから」
「え?」
 つい口を滑らせてしまったが時既に遅く、高坂はすっかり続きを聞く体勢だ。
「えっと」
 耳に入れたくない話だが、仕方無く口を開く。
 出来るだけ浅く小さく手短に。

「香織は小学校からの付き合いで、中学も一緒に上がったんだけど…1年の頃に少しイジめられてたの」
「あの相田さんが?」
 今でこそ図太く強かになった香織だが、当時は純粋無垢な弱い子だった。
「それで私があの子の手助けをして、すぐにいじめは収まったの」
 たったそれだけなのに、香織はまだ私に恩義を感じてるみたいで。と軽く笑って続けたが、事実はそうじゃない。
 あれは地獄だった。
 香織はいつ殺されてもおかしくなかった。
 庇った私は更に無限地獄に陥って、親の都合で転校になるまで、その連鎖を完全に断ち切る事は出来なかった。
 まあ香織はそんな私に引っ付いて来た訳だけど。
341めいこと高坂:2009/05/27(水) 01:05:19 ID:IONt/W1e
「何にせよ、相田さんみたいな友達が居るって良いことだと思うよ」
「いやー高坂君にノシ付けてあげちゃうよ」
 恐らく香織にボロカス言われた筈なのだが、高坂の中で奴は素晴らしい人間になってるようだった。
 ふと気付くと、高坂はまた私を見つめていた。
「…南さん」
「っ」
 変に真剣な眼差しを受けて、急にまた心臓がバクバクし始める。
 う、うう、静まれ心臓!大丈夫、あれだけ謝られたんだから、もうヤツは変な事言い出さない筈!
 …よし、返事だ!

「何かなっ?」
「南さんは、そういう風にしてるのが1番かわいいと思う」

 まごうことなくクリティカルヒット。

「………」
「今みたいに元気に喋ってる方が俺は凄く楽しい」
「…」
「あれ、南さん?」
「……」
 天然だ…。
 あれだけ謝っておいてこの発言…。
 この男は…天然だ…。
 ハッと今更ながらに高坂は慌て出した。
「どうしたの南さん、顔が赤くなってるけど部屋暑い?」
 部、屋、じゃ、ねーーよっ!!
「だっ大丈夫大丈夫大丈夫!」
 かっ顔!顔近いから!
 一刻も早くこの部屋から出ないと…!
 ヅル。
「あ」
 重ねて不運な事に。
 焦り過ぎて立ち上がった弾みに、どら焼きの包み紙に足を滑らせて…。
「わっ!」
「ぎゃっ」
 前のめりに倒れるが高坂に支えられ、何とか姿勢を保つ。
 保てたが…。
「……」
「…き」
 高坂は私の胸を思いっきり掴んでいた。
 硬直する高坂。
 一瞬の空白、そして。

「きやああああああああああ!!!!!」

 悲鳴と同時にスパーーン!と襖が開き、香織が突如現れる。
 香織は様子を見るなり私の手を掴み、ずるりと高坂から引き剥がした。

「では私達はこれで」
 『殺』…そんな漢字が浮き上がってきそうな表情を高坂に向けつつ、香織は私の手を引き帰り支度を始める。
 私は全く、とにかく、それどころでなくて。
 胸だの香織だのの前に、自分の事でいっぱいいっぱいだった。
 心臓が、痛い。

 どうしよう。
 私、高坂の事好きだ。
342めいこと高坂:2009/05/27(水) 01:10:03 ID:IONt/W1e
「香織、本当は怒ってないでしょ」
「めーちゃん、高坂君の事好きでしょ…」
「それを気付かせる為に家に呼ばせたわね…」
「知らない…」

 観念する事にした。
 本当言うと、顔だってカッコいいかもって、ちょっと思ってた。
 私と違って純粋で馬鹿みたいに素直で、私の事も受け入れてくれた。
 あいつと居ると馬鹿女の自分と、最低女の自分との境目がなくなって、只の私として向き合えていた気がしてたんだ。

「ねーめいこ、いつまでアイアイにおんぶして貰ってんの」
 菜々子の突っ込みに、はたと自分の立場に気が付く。
 そうだった。
 度重なるショックでマトモに反応しない私に業を煮やした香織は、なんと私をおぶってまでして高坂家を後にしたのだ。
 香織の身長は165センチ、私は154センチ…極端な体格差が成せる技だった。
「めいこー、好きな人に胸揉まれた位いいじゃんよー」
「本望じゃないですかぁ〜。逆に襲っちゃえば良かったんですよ☆」
「マユ自重…」
「ううう〜っ」
 三人に言われたい放題でも、今はもう返す言葉さえ見つからない。
 また頭がぐらぐら沸騰し出す。
「…めーちゃんまた顔赤いよ」
「あっ涙目!また泣いてる!」
「菜々子さん、いじめっ子じゃないんですから落ち着きましょうねー」
 顔を香織の肩に押し付けて必死で隠す。

「……恥ずかしいよー…」
「めーちゃんふぁいと…」

 もう私はボロボロで、毎回完敗なのに、それなのに。
 …それなのに、明日も高坂に会うんだ。
343281:2009/05/27(水) 01:11:02 ID:IONt/W1e
今日は以上です。
ではっ
344名無しさん@ピンキー:2009/05/27(水) 22:05:09 ID:eMUDGK3e
完全にwktk乙!
345名無しさん@ピンキー:2009/05/27(水) 22:23:59 ID:9caibpHZ
超乙!
346名無しさん@ピンキー:2009/05/28(木) 10:02:22 ID:UttDk6xS
GJ!
347めいこと高坂:2009/05/30(土) 16:47:12 ID:G56R+pYw
「おはよう高坂君!」
「お、おは…」
「昨日は急に帰っちゃってごめんね!あっ胸の事なら気にしてないから大丈夫!」
「南さん?」
「なにかなっ?」
「何でお面被ってんの?」
 諸事情で。
「それ…屋台の500円位する高いやつだよな」
「香織に貰ったから大丈夫!香織滅茶苦茶お金持ちだから!」
 …何て通じる訳がないか。
 観念してセーラー○ーンのお面を取る。
 恥ずかしくて顔を合わせられないと言ったら香織がくれたお面だったが…。
 やっぱり冗談だったんだろうか。ていうか冗談すら判別出来ない今の私って何なんだろう…。
 いや!でも!一番言いたかった事はとりあえず言えたぞ!

 インタビューの待ち合わせ場所に指定している河川敷の方に歩き出しながら、高坂はやっぱり申し訳なさそうな顔で切り出した。
「いやでも南さん…昨日はマジでごめ」
「はいっ『ごめん』は今日はナシだよ」
「え?」
「私達、よく考えたらいっつもどっちもどっちみたいな事してると思わない?」
「そ、そうかな」
「だから私達の間で『ゴメン』って言う時は、二人共謝る事にしよ」
 納得してないような高坂の様子だが、何も言わないよりはマシだろう。
 必死で平静を保ちながら、やっと河川敷に辿り着く。
 代表者の方は既に到着していた。
348めいこと高坂:2009/05/30(土) 16:49:51 ID:G56R+pYw
 妹尾純。
 …という名前だったからてっきりおじさんを想像していたのだが。

「ここ!デジカメで取って!ほら!」
「はいっ!」
 新米カメラマンのようにコキ使われる高坂を後目に、私はせっせとゴミ拾いに勤しんでいた。
 高坂はゴミが捨てられている様子や、煙草の吸い殻などをかつてない真剣さで激写している。

 妹尾純は女で、しかも若くて、しかも結構美人だった。
 開口一番彼女はこう言った。
「カメラ持ってる方は記録係、残りはゴミ拾え」
 ………あのアマ殺す殺す殺す殺す殺す殺す絶対殺す。
 ぶちっとうっかり雑草ごと引き抜く所を見られ、「何してんだそこ!」と怒鳴られる。
「はぁいっごめんなさぁいっ!」
 何で待ち合わせ時間が朝8時からだったのか…今更ながらに理解した。

「この河は…昔から馴染みのある、大好きな場所の一つだったんだ」
 写真を撮って、ゴミを拾い、生え過ぎた草を刈り、ゴミ収集所までそれら全てを運び終えてから、やっとインタビューが始まった。
 時刻は12時を過ぎようとしていた…。
 ジュルジュルと飲み尽くしたオレンジジュースの底をストローで吸う。
 その横でメモを取る高坂だが、度重なる酷使で握力に限界が来て、ミミズみたいな字になっている。
「最初は私の恋人と二人で始めたんだがもう奴は今は…」
「え…まさかお亡くなりに」
「活動メンバーの中の可愛い女とデキて以来、二人共目にする事はなくなった」
「そうですか…」

 人格はともかく、妹尾純の志は尊敬に値するものがあった。
 実際に活動実績を上げているというのが凄い。
 会社勤めをする傍ら、こういった活動に精力的参加出来るというのは、情熱が無ければ出来ない事だ。
 私にこんな打ち込める事なんてあっただろうか。
「まあ…最近は仕事との折り合いが難しくなってきて、代表を違う人間に譲ろうと思ってるんだけどな」
 困った様な笑い顔で、妹尾さんは最後にそう付け加えた。
349めいこと高坂:2009/05/30(土) 16:55:29 ID:G56R+pYw
 インタビューを終え、私達は歩き慣れた道を帰っていた。
「…ちょっと寂しいね」
「若い人はやっぱり集まらないそうだしね。うちの高校も漠然とやらせるんじゃなく、ああいう活動に実際取り組むべきだよな」
 教科書的お手本発言をする私達だが。
 実際私達自身が経験しなければ、どれだけの事を考えられたというのだろう。
 私なんて、基本的に慈善活動なんてやってられるかってなもんだ。
 だけど、高坂は違う。きっと最初から真剣に取り組んでいたんだろう。
 …そういう所が私は全然だめだ。
 顔とか態度で私は高坂の事を見下していたけれど、本当に見下されるべきなのは私だったんだ。
 それが今更になって理解出来る。
「南さんどうしたの?」
「何もないよ、大丈夫」
「南さん」
 不意に高坂の声のトーンが変わった。
「はい?」
「南さんは俺に『ごめん』って言うなって言ったけど、じゃあ南さんは『大丈夫』って言っちゃだめだ」
「高坂君?」
「南さんは優しいから平気なふりしてたりするけど、そんなの体に良くない。大丈夫じゃない時は大丈夫じゃないって言わなきゃダメだよ」

 高坂の目はいつも通り純真で、真摯だった。
 また何をバカな事を言い出してるんだ。
 私が大丈夫って言う時は、大抵何かを誤魔化す時か、関わってくんなっていうのを遠回しに伝えてるだけなんだ。
 だからお前のそんな言葉は完全に間の抜けたバカ丸出しのアドバイスなんだよ。
 だから私はそんな事、今まで一度だって言われた事が無い。

「わっ!南さん?また俺何か悪い事」
「…目にゴミが入ったの」
「ゴミ?!大変だ、あの喫茶店でトイレ貸して貰おう!」
 こすっちゃダメだ、菌が入るから!とか大真面目に言ってる高坂はやっはりバカだ。
 ぽつりと落ちた涙は、すぐアスファルトに吸い込まれていった。
350めいこと高坂:2009/05/30(土) 16:57:32 ID:G56R+pYw
 本当にトイレで目を洗う羽目になるとは思わなかった。

 某チェーンの喫茶店の女子トイレでパシャパシャと軽く目をすすぐと、化粧のすっかり取れた顔が現れた。
 カッコ悪い。けど仕方ない。
 目の赤みが引いているのを確認して、出口のノブを回す。
 途端に喧騒がボリュームを上げて耳に飛び込んでくる。
 高坂はどこだとキョロキョロと見回すが、見当たらなかった。
「外かな」
 そして出口へ歩き出そうとした時、それは聞こえてきた。

「あの子が良くしてもらってるみたいで」
「今年で高二になりますね」
 あ。

 一言その声を聴いただけで、その断片がめまぐるしくフラッシュバックする。

 甘いキャラメルみたいな声。ふわふわの巻き毛にクスクス笑いが絡み付く。
『ママはめいこちゃんが要らないの』
 凄く綺麗で可愛かった。
『かわいくないから要らないの』

「あら、もしかしてあの子」
 私を指したその指は、ベビーピンクのマニキュアが塗られていた。
「めいこ…」
 母親は私を見て、驚いたように眉をしかめた。
「ほら、やっぱりめいこちゃん」
 元母親は、私を見てニッコリ微笑んだ。
 私にそっくりな顔をしたそいつは、残酷な程愛らしい。
351281:2009/05/30(土) 17:01:22 ID:G56R+pYw
今日はここまで
あと5回?位で終わると思います
352名無しさん@ピンキー:2009/05/30(土) 17:02:15 ID:m+i0gelk
最速乙っ!!!!!!!
353名無しさん@ピンキー:2009/05/31(日) 09:06:36 ID:YOKh4KpH
GJ!
高坂くんは本当にいいやつだな
354めいこと高坂:2009/06/01(月) 02:45:54 ID:Ks7gWrpZ
「南さん?」
「めいこお友達?」
 外で待っていたらしい高坂が様子見に戻って来てしまった。
 変な誤解を与える前にすかさず付け加える。
「緑会委員で一緒に活動してるの。今日インタビューしに行くって言ってたでしょ」
 ああ、と母親が納得している横で、そいつはまたニッコリと微笑んでいた。
 そしてさも当然かのように、それを提案した。
「じゃあよろしければ、貴方達もこちらに座られません?」「いや俺は」
「一緒にお話しましょうよ」
 久しぶりにお話したいわ。と山下結衣子は囁くように言った。


 南さんがいつまで経っても出て来ず、心配になって来てみれば…何だかマズいシーンに出くわしてしまったようだった。
 なかば強制的に促され、状況把握出来ないままイスに腰を下ろす。
 座っていた二人の内一人は、南さんにそっくりだった。
 南さんを大人にしたら、きっとこうなるんだろう。

「…」
「ふふ」
「………」

「えっと」
 いつまで経っても始まる様子の無い会話に恐れをなし、恐る恐る声を掛けてみた。
「南さんのお母さんですか?」
「いいえ、こっちの方がめいこちゃんのお母さんよ」
 途端に南さんの気配が変わるのが分かった。
「親離婚してるから。他人」
 そしてブツ切れの言葉だけが返ってきた。
 ……いつになく南さんの様子が怖過ぎる。
 という事は、俺の向かいに居る女の人が、今の南さんのお母さんなのだろうか。
 今のお母さん?と思われる人は俺と同じく、何とも形容しがたい、複雑な表情で苦笑いをしていた。
355めいこと高坂:2009/06/01(月) 02:47:13 ID:Ks7gWrpZ
「山下さん、この子はいつぶりでしたっけ。大分経つんじゃないですか」
「最後に見たのは中3位じゃないかしら、母の葬儀の時だから…」
「お母さん、何で山下さんとこんな所で喋ってるの」

 主婦らしいたわいない会話は、南さんの低い声に両断され、『山下さん』という人は南さんみたいにニッコリと微笑み。
「これ返して貰ったの」
 フライパンを取り出した。
「…は?」
「この前すっごく久しぶりにホットケーキ作ろうとしたらうまくいかなくって」
 昔のフライパンならうまくいったのにーっ!て思ってたらねぇ、めいこちゃんのパパの家に置きっ放しにして来たの思い出したのよ。
「連絡を受けて押入探したら、まだ家にあったの。だからお返ししてたのよ」

 …俺は所詮外野だから何も言えないけど。
 そういう事って普通するんだろうか。
 何年も前に別れた相手の家に電話して、忘れ物を持って来させて平然としてるのは…ちょっとおかしいんじゃないだろうか。
「そう」
 南さんは無表情だった。
356めいこと高坂:2009/06/01(月) 02:50:21 ID:Ks7gWrpZ
 よく聞くと、山下さんの発言は妙に違和感のあるものばかりだった。
「ふふ、それにしてもめいこちゃんも大きくなったわね。彼氏は居ないの?」
 実の母親だというのに、語り口もどこかおかしい。
 まるで親戚か近所の人かといった様な…形容しがたい『軽さ』をその振る舞いに感じる。
 何が違和感なんだろう。この人の何が足りないんだろう。
「居ないです」
「皐月さん、めいこちゃんも言ってる間にすぐ出来るわよ」
「まだまだ早い気もしますけれどね。そういえば山下さんお時間は大丈夫ですか?」
 そして南さんの母親は、明らかに引き際を探していた。
「まだ大丈夫よ。ねえめいこちゃん」
 それを知ってか知らずか軽く質問をかわし、尚も南さんに尋ねる。
「何ですか」
「折角だからお小遣いあげようか」
 ピシリ、と南さんの表情が凍った。
 ああ。
「山下さんそんな申し訳ない」
「5000円位でいいかな?…あら万札しかないわ、ふふ、ラッキーねぇ〜」
 美味しいものでも食べてね、と一万円がぺらりと南さんの前に置かれた。
 南さんは微動だにしない。
「…」
 不意に。
 分かった気がする。
 この人には責任が無いんだ。
 自分の子供だなんて、思ってないんだ。
「もう結構です」


 私じゃない。
 そう認識するのに数秒かかった。
 立ち上がっていたのは高坂だった。
「もう結構ですから」
 高坂はもう一度繰り返し、私を見た。
「南さん行こう」
「へ?あっ…」
 何が何だか分からないまま手を取られ、ぐいぐいと引っ張られていく。
 慌てて母親に目をやるが、驚きの余りか追おうとはしてこなかった。
 そしてあの女は、やはり笑っていた。
357めいこと高坂:2009/06/01(月) 02:54:28 ID:Ks7gWrpZ
「高坂、君っ?」
「…」
「あの、大分歩いてない?ていうかペース早…っ」
「…」
「あの私、鞄置いて来ちゃ」
 ピタリ。
 店を出て以降、延々歩き続けていた高坂は、突然立ち止まった。
「高さ」「あああ〜……」
 奇声を上げ突如その場に座り込み…。
「俺は何て失礼な事を…!」
 そして、明らかに手遅れな反省をし出した。


「高坂君、何であんな事したの?」
 訊かずには居られなかった。
 何であの温厚で冷静なこいつが、あんな風に怒って、荷物を持つ暇さえ与えずに私を連れ出してしまったのか。
「…失礼な人だと思ったんだ」
 暫くしてぽつりと、高坂は呟いた。
「あの人は、南さんに対して凄く失礼だった」
 それに我慢出来なかったと、高坂は俯きながら呟いた。
 失礼ならお前も十分やっちゃった感あるよなと胸中で突っ込んでみるが、反面嬉しさがじわじわと沸き上がってきた。
「いいんだよ」

 高坂は顔を起こし、私を見つめた。
「あの人は別にいいの、そういう人だから」

 高坂と私は、近場の公園のベンチで並んで腰を下ろしていた。
 高坂になら少し話してみよう。そう思えたからだ。
 今までそんな風に思えた人間は居なかったし、作ろうともしなかった。
 高坂だから初めて考えられた事だった。
 踏み込まれる事への恐れを感じながらも、私は一言切り出した。
358めいこと高坂:2009/06/01(月) 02:59:27 ID:Ks7gWrpZ
「私は今の母親が本当の母親だと思う」
 嫌いなモノは食べさせられるししょっちゅう怒られるし、真以子は五月蝿いけど。
「私に関わってくれてると思うから」
「…山下さんは昔からああいう風だったの」
「あの人は昔から自分にしか興味ないから。今思えば顔がそっくりだったっていうのも嫌だったんだろうな」
 高坂は『理解出来ない』というような顔で眉をしかめた。
 コイツには絶対理解出来ないんだろうな。
 それが普通で、きっとあの女と私はもう異常なんだ。

 少し話しているうちに、ふとあの言葉が頭をよぎった。

「そういえば昔、『かわいくない』って言われた事があるんだけど」
「え…南さんが?」

 有り得ない、というような口調で聞き返す高坂だが、そもそも昔の私は、今みたいに可愛いと言われるような人間ではなかった。
 性格はサバサバしていて、学級委員なども積極的にやって、友達も男の方が多かった。
 特に小学校の頃は髪も短くて、日が暮れるまで外で遊んでばかりいたような子供だった。

 言葉を続ける。
「何年か前までは私の姿や性格が、可愛くないから、うんざりして捨てたっていう意味だと思ってたの。でも、最近分かったんだ」
 あの綺麗な笑顔が頭の片隅によぎる。
「あれは、自分の子供としてかわいく思わないっていう意味だったんだと思う」
 何故、彼女が子供に対して異常なまでに愛情が沸かなかったのか。分からない。
 昔の私は必死だった。
 どうにか気に入られようと、希望を繋ごうと必死だった。
 でもそれは無駄で、私が相手にされないのはどうしようもない事だった。
「だからもういいの。私は今に満足しているし、そんな事全部過去だもん」
 無理にまとめ上げたが気持ちに偽りはない。
 全て過去の事で、終わった事なんだ。

「……」
 話し終えると、少し気持ちが落ち着いた気がした。
 高坂は私が話し終わっても黙り込んでいて、いくらか経った頃、不意に呟いた。
359めいこと高坂:2009/06/01(月) 03:03:53 ID:Ks7gWrpZ
「南さんはいつも強いよな」
「はは、そんな事ないよ」
「いや、強いよ」
 高坂は私の方に顔を傾け、じっと目を見つめていた。
「だから心配になるんだ」
「…大丈夫だよ」
 禁止と言われてたのに、うっかり「大丈夫」という言葉を口に出してしまった。
 しかし他に言う事なんて見つからなくて、更に言葉を重ねてしまう。
「大丈夫だったら」
「じゃあ」
 高坂の様子は何だかおかしかった。
 彼は今まで見た事ない様な思い詰めた顔で、私に尋ねた。

 何でさっきあの人の前で震えてたんだ。

「っ」
 ギクリと、勝手に体が反応する。
 じわりと切迫感が押し寄せる。
 高坂はかつてない程饒舌に私を追い詰め始めていた。
「だって南さんが自分の気持ちや現実に納得してるのは分かるけど、やっぱり辛い事には変わりはないんだろ?」
「いや、でも大丈夫だよ。大丈夫だから」

「そんな時位、誰かに甘えたって罰は当たらない筈じゃないか?」
「大丈夫だってば!」

 ああ、一緒だ。
 いつかのあの時と…一緒だ。
 また私は私の中に入ってくる高坂を拒もうとしている。
 私は高坂の事が好きなのに。好きな人にさえ私は。
 高坂は。
「大丈夫じゃないよ!」
 乱暴に私の両肩肩を掴み俯いた。
「気になるし心配だよ」

「俺は…南さんの事が好きだから…」

 体中。
 血が逆流したかのような感覚を覚える。
「…っ」
 怖い。怖い。
 私に入って来ないで。
 私は。


 気が付くと私は高坂の手を引き剥がし、全力で逃げ出していた。
 心にある何もかもが、黒い沼に沈んでいく。
 誰かが私の中でせせら笑っていた。
 歪な私には何かを掴んだり、望んだりなんて、おこがましい事だったんだ。
360281:2009/06/01(月) 03:07:12 ID:Ks7gWrpZ
以上です
今回の話は一気に出した方が読みやすいかと思って多めになりました
ではでは
361名無しさん@ピンキー:2009/06/01(月) 09:04:05 ID:PPN65u2m
>>360
続き待ってます
362名無しさん@ピンキー:2009/06/01(月) 09:43:21 ID:CFhqSmNy
高坂萌え
続きお待ちしてます
363めいこと高坂:2009/06/02(火) 11:14:06 ID:ETzefAx3
「皆、おはよう〜っ☆」
「あっめいこちゃん」
「おはよー!」
「南さんは今日もヤバいな…」
「ああ…あの愛らしさは世界遺産に登録すべきだな」

 そして日常が始まった。

 全ては以前と同じように、これからもそうであるように、退屈で歪んでいる。
「…めーちゃん」
「あっ香織おはよ〜☆」
「…目が死んでる」
 …本当に要らん事に気付く奴だな。
 会話にお構いなしに、いつも通り菜々子とマユが割り込んでくる。

「何々昨日のデートはどうだったのよ〜うらうら」
「楽しかったですかあ〜?」
「え、デートじゃないよぅ?それ以前に私高坂君好きじゃないし☆」

 一応可愛さMAXで切り返してみたのだが、ものの見事に二人は固まった。
「は?めいこ何言って…」
「も〜勝手に決めつけるんだからっ。高坂君にも迷惑なんだからねっ///」
「え、いやいやいや」
「じゃ、私先生に呼ばれてるからいってくるねぇ〜♪」
「ちょっめいこ?!」
 二人の反応を待たずに席を立ち、声を聞かないように足早に教室から抜け出す。
「……」
 この私が、逃げている。
 変に惨めな気分になって、じわりと目の端に涙が滲んだ。
 でもその涙は相変わらず、自分の為に流されてるんだ。
364めいこと高坂:2009/06/02(火) 11:17:17 ID:ETzefAx3
「多分めーちゃんはお母さんに言われた言葉が原因で、『かわいい』の意味をはき違えてあんな風になった」
 彼女は淡々淡々と話す。
「…時期も悪かった。あの頃めーちゃんと私はいじめに遭っていて、めーちゃんの家庭も崩壊寸前だった」
「…相田さんは何でそんな事まで知ってるんだ?」
 そして何故俺に、そんな事を話しているんだ?

 またしても昼休み、俺は相田さんに屋上へ呼び出されていた。
『ちょっなにす、うわっ!』
『……来て』
 …呼び出されたと言うより、連行されたに近いか。
 相田さんに引きずり出された時、クラス中が注目していたけれど、やはり南さんは俺に見向きもしなかった。
 でもそれも今となっては仕方ない。
 俺は、南さんの信用を裏切ったんだ。

 相も変わらず飄々とした面持ちで相田さんは答える。
「…前に詳しく調べさせたから」
「誰にだよ…」
「家の者…」
 いやに空恐ろしい響きを持つ言葉を放つ。
 そういや南さん、相田さんは金持ちだって言ってたような…。
「引っ越しが決まってからも私はめーちゃんが心配で、めーちゃんの引っ越し先に着いて行って、今まで一緒」
「着いて行くって…無理だろ普通」
「うちの家はそれ位は出来る…」
 ……どうやら洒落にならないレベルの金持ちらしい。
365めいこと高坂:2009/06/02(火) 11:18:40 ID:ETzefAx3
「…めーちゃんは滅茶苦茶うざがったけど、私は行く必要があった」
「なぁ、何でこんな話を俺にするんだ?」
 相田さんと話している時の俺は、常に疑問と疑念でいっぱいだ。
 相田さんはいつだって謎解きのように偏った情報だけ言って、他は何も語ろうとしない。
 彼女は一見南さんの味方の様で、実は何か友達だからという理由以上の意図があるような気がしてならない。

「…どうせめーちゃんが怖がるような告白をして逃げられたんでしょ」
「なっなんで」
 まさかあの日相田さんの監視が付いていたのか?いやでもまさかいや相田さんならやりかねない。
「そんなのめーちゃんの様子みたら分かる…」
「…そうか」
「高坂君に話すのは、高坂君なら今のめーちゃんを変えられると思ったから…」
 私では出来ないから。と、相田さんはふと視線を落とす。
「だからまだ諦めないで…まだめーちゃんは高坂君を嫌いになんてなっていない…」
「そんな事言っても…俺はもう告白されてフラれてるんだぞ?」
「…めーちゃんは自分に好意を持ってくれてる人間を嫌いになんかならない」
 相田さんの声の調子が急に強くなった。
「だからめーちゃんは昔の私を見捨てなかった。過去を知る私が隣に居続けてる今も…」
「相田さんは…」
 何でそこまで南さんの為に一生懸命になるんだ?
 俺の質問に、相田さんは一言答えた。
「贖罪」

 めーちゃんの幸せが私の幸せだと、彼女は小さく笑った。
366281:2009/06/02(火) 11:22:08 ID:ETzefAx3
以上です
あと少しお付き合いおねがいします
367名無しさん@ピンキー:2009/06/02(火) 11:24:48 ID:RpqpY5hS
GJっす
続き待ってます
368名無しさん@ピンキー:2009/06/02(火) 19:38:35 ID:hSqjCVXV
             _、_
          ( ,_ノ` )
          r      ヽ.
       __/  ┃)) __i | キュッキュッ
      / /ヽ,,⌒)___(,,ノ\


            _、_
          ( ,_ノ` )
        | ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄|  トン トン
       _(,,) good job!! (,,)
      / |         |\
369名無しさん@ピンキー:2009/06/02(火) 20:10:21 ID:gVdijEkQ
とにかく黙って続きを待ちます
370めいこと高坂:2009/06/03(水) 15:29:36 ID:zEO4l4d2
 高坂と関わらなくなった日々は、何もかもが色褪せてみえた。
 幸いな事に緑会のクラス内発表は済ませた後で、後は後日行ったインタビューを付け加えれば完成と言ってもいい状態に仕上がっていた。
 事務的な内容だけをメールで送り、出来るだけ接触を避け続ける日が続く。
 全校集会での発表まで後数日、となってもその状態は続いた。

「さっきのアイツのにやけた顔見た?馬鹿みたいにまた騙されてやんの」
「……」
「でもアイツ押さえといたら学校でもやりやすくなるしね、ホント頭悪い奴ばっかで助かる」
「…めーちゃん」
「ん?」
 気が付くと、香織は悲しそうな目で私を見ている。
「めーちゃんじゃない…」
「は?」
「…めーちゃんは高坂君と仲直りするべき」
「うるさい」
 席を立ってそのまま教室を去るが、香織が追ってくる様な様子はなかった。
 私は、助言してくれる友達まで失ってしまったようだった。


「バイバイめいこちゃん」
「うんっバイバイ〜っ!」
 反比例して、馬鹿女の演技ばかりが上手くなる。
 最近はとうとう、私のファンクラブが出来たらしい。
 どうでもいい、知ったこっちゃない。
 私の利益になるようなら放っておくし、不利益になるなら潰すだけだ。
 めーちゃんじゃないとか香織は抜かしていたが、私は昔からこうだったじゃないか。
 人の事を見下すのが大好きな、裏も表も最悪な馬鹿女で上等。
 それでいい。それを望んだのは他でもない私なんだ。
371めいこと高坂:2009/06/03(水) 15:32:27 ID:zEO4l4d2
―――――――――――――
〈宛先〉 高坂誠一
〈件名〉緑会について
〈本文〉
パソコンに送って貰った資料確認しました。
発表はこの前決めた流れ通りでいいよね?
明日はよろしくお願いします。

めいこ
―――――――――――――

「こら!ご飯食べてる途中に携帯いじらない!」
「もう終わるって。緑会の事なの」
「緑会?」
「発表明日なの」
 とうとう発表前日まで、まともに話をしないまま来てしまった。
 夕食時、かに玉を前にメールを打つ私を窘めつつ、隙あらば姉の分まで食い尽くそうとする真以子の箸をしっかり押さえ、母親は「ああ、あの子!」と笑った。
「お母さんが面白いって言った子ね」
「面白いって…」
 そういえば、この前高坂がキレてしまった件、あの時は母親に怒られるどころか「面白い」で済まされてしまっていたんだった。
「どこが面白いのよ、あんなのただのバカじゃん」
「バカでも言える割にはめいこ、あの人に何にも言えないじゃない」
 じゃあおねえは大バカだね!と口周りを汚しまくった真以子にまでボロカス言われる。
「お母さんはああ言って貰って、すっとしたわよ?」
 山下さん腹黒だからね、顔笑ってても絶対キレてるわよあれは。
 何て爆笑しながら、母親はかに玉をよそって私に渡す際、一言添えた。
「あの子はいい子よ、あんたみたいな悪い子にはピッタリ」


 お風呂を出て、いつも通りコロリとベッドに横たわる。
 明日は発表なんだから、嫌でも高坂と話さなきゃならない。
 …本当は、嫌という訳じゃない。
 だって今回も悪いのは全部私だ。
 高坂に告白されたのに、私はまた逃げ出して、それから今までずっと逃げ続けている。
 私が高坂を好きな気持ちには変わりはない、でも…自信がない。
 本当に好きになってもらう自信が。正面から向き合える自信が。
「…考えたってもう遅いか」
 なんてひとりごちた時、それは唐突にやって来た。

 ピリリリリ!
「はわっ?!」

 携帯がけたたましく着信音を告げ、慌てて画面を開き、次の瞬間目を見開く。
 〈高坂誠一〉
 画面はそう告げていた。
372めいこと高坂:2009/06/03(水) 15:35:44 ID:zEO4l4d2
 きっと緑会の事だ。出なければ明日の発表に支障をきたす。出ないと…。
「…っ」
 ピッ
 逡巡する自分ごと断ち切る為に、意志と関係無く、ボタンを容赦なく押す。
『あ…あー南さん?』
 聞こえてきたのは妙に懐かしい、高坂の声だった。
 とにかく体裁を繕いがてら、挨拶をしてみる。
「う、うん。こんばんは」
『あ、こんばんは』

「……」
『……』

「…な、何かな」
『あっ!えっと』
 電話だと更に埒があかない高坂だった。
『最近話せてなかったから言いそびれてて…でも当日までには言っておきたかったから』
「…何?」
 それはよっぽどの事だろうと、自然身を固くして発言を待つ。
 そして高坂は言った。

『明日頑張ろうな!』
「ぶっ」

 ………。
 ……こんな状況でさえ、高坂が天使に見えてきた。
『え、何?どうかした?』
 高坂は、良い奴だ。
 高坂には、私を無視したりなじったり問い詰めたりする権利がある筈だ。
 なのにこいつは何も言わない。
 それは馬鹿だからじゃない、高坂が優しいからだ。
 ならば、私はそれに答えるべきだ。

「うん…明日、頑張ろう。これまで一生懸命二人でやって来たもんね」
『だよな』
 嬉しそうに返事をした高坂だが、ふと思い出したようにまた切り出した。
『あ、そういや明日サプライズがあるから。楽しみにしといて』
「へ?」
『じゃあまた明日!おやすみー』
「え?あれこうさ」ツーッツーッツーッツーッ…
 返事をする間もなく電話は切られ、暫し呆然とする。
「…は?」
 今の電話は…結局何だったんだろう。
 いくら考えたって、純真清らかに高坂が考えてる事が私に分かろう筈もなく。
 結局その日は、また悶々とした夜を迎えたのであった。
373281:2009/06/03(水) 15:40:56 ID:zEO4l4d2
以上です
次は早めに出しに来ます
では!
374名無しさん@ピンキー:2009/06/03(水) 15:44:03 ID:MEc62NXs
またもや最速乙
375名無しさん@ピンキー:2009/06/03(水) 15:45:04 ID:jzX0q6bt
GJ!
うぉw続き早く読みてぇw
376めいこと高坂:2009/06/04(木) 17:03:26 ID:+ru+vR6m
 嫌味かと毒づきたくなるような大晴天の中。
 全校生徒は体育館に引きこもり、10代の若者にとって最も関心が無いであろう議題について、ゴールの無い発表合戦を繰り広げていた。
「あ〜南さん…!あと2人で回ってくるよ…!」
「お前男ならドンと構えろバカ!」
「二人共 静 か にして下さい」

 サプライズはすぐに分かった。
 正門で聞き覚えのある怒鳴り声を聴いた時は、目眩を感じたほどだ。
 妹尾純は「どうしてもと言われ仕方なく」やって来たと説明したが、背後の高坂は必死で首を横に振っていた。
 どうやら私達の発表がトリなのを良いことに、長々と喋りに来たらしい。
「めーちゃんもうるさいよ…」
「そーだそーだ」
「そうですねぇ」
「…何で発表者しか上がれない舞台裏に香織達まで居るのかなあ?」
 香織はきっぱりと「保護者」と答えた。
 頭痛がしてくる…。

 妹尾純が勝手に来たのも、香織達が乱入してるのも、まあいい。
 問題は肝心の緑会の様子だ。
 一言で言うと、思わしくない。むしろ予想出来た事態だ。
 1日潰して全クラスの発表をするのだから、途中でダレたり眠くなったりするのは大いに理解出来るが、一番耳に付くのが喋り声だった。
 もし、私が緑会委員でなくて、また緑会委員でもマジメにやってなかったら諦めもついただろう。
 だが、時間が経つにつれ大きくなってゆく声と、注意がおざなりになってきた教師を見るにつけ、何とも言えない腹立たしい気持ちが湧き上がって来る。
 しかし、そんな自分を不思議にも思う。
 以前の自分なら、絶対にこんな事で苛立ったりしなかった。むしろ喋る方の立場に居たのだから。
377めいこと高坂:2009/06/04(木) 17:11:21 ID:+ru+vR6m
 高坂がうわずった声で手招きする。
「みっ南さん、来たよ順番!」
「よし、がんばろ!」
「おう頑張れ!」
「妹尾さんも出るんですよ…」
 様々な問題を抱えつつも、こうして私達の発表が幕を開けた。


 結論、南めいこファンクラブが一番うるさい。
 …潰しておけば良かった。
 発表自体は非常にうまく行っていた。
 行っていたが、騒音の方も順調にボリュームを上げていた。
 喋ってくれている高坂の声が隣の私にさえ聞き取れない所がある。
 妹尾純に至っては、学生の問題は学生で始末しろとでも言わんばかりのシカト状態だ。
 よく見れば、熱心に聴いてる生徒も、熱心ではないにせよ聴いている様子の生徒だっている。
 それを凌ぐ騒音、時折聞こえてくる「めいこ様!」「今日も麗しい」とか言う声やシャッター音が、神経を逆撫でしていた。
「…」
 何で私は、そんな奴らの前で、我慢したり笑顔を向けたりしなきゃならないんだろう。
 そんな余計な感情を必死で押し殺し、私は高坂の補佐に回る。
 高坂は一生懸命喋ってくれている。私も手助けしないと。
 笑顔を向けつつ、写真をスクリーンに映す作業を再開する。
 その時ふと、誰かの話し声が耳に流れ込んできた。
 その言葉だけが妙にクリアに聞き取れた。

「こんなん真面目にやってバカじゃん?」

 …バカ?
 ブツン。
 頭の何かが切れた音がした。
378めいこと高坂:2009/06/04(木) 17:16:37 ID:+ru+vR6m
 南さんが突如マイクを奪い取り、俺を壇上から蹴り落とした時は頭が真っ白になったが。

「お前らいい加減にしろボケ!!!」

 彼女の第一声を聞いて、気絶しそうになった。


 体育館には、今まで訪れた事の無いような静けさと、薄ら寒さが漂っていた。
「わざわざ外から私達の為に来て貰ってる人が居るんだよ!恥ずかしいと思えよ!っていうかちゃんと聞け!!」
 全くもって正論を、南さんは怒鳴っていた。
 誰もが身動きを取れず、南さんを凝視している。
「どうでもいい話とか思わないで…ちゃんと聞いてみろ!」
 南さんの声は、震えていた。
 真っ赤な顔で彼女はそう言い捨て、ぷるぷると小刻みに震えた後、マイクを壇上に投げ捨てると同時にその場を走り去った。
「………」
 『ガン!ゴッ』とマイクが衝撃音を拾い、その後はまた沈黙が支配する。
 と。
「全くその通りだな」
 背筋が凍る様な…笑いを含んだ声が上がる。
 妹尾さんは世にも凶悪な笑顔でマイクを拾い上げていた。
「何ぼさっとしてんだ、早くあいつ追い掛けろ」
「え、あ、」
「走れっつってんだろ」
「ハイ」
 1秒で迫力負けし、とりあえず南さんが出て行った方へ走り出す。
 背後から「じゃあお姉さんが今からお前らに、大切な地球環境と人間としての礼儀について話してやるな」なんて空恐ろしい声が聞こえたが、聞かなかった事にする。

 舞台裏の出口まで来た時、扉の前に見知った人物が立っている事に気付いた。
「相田さん」
「めーちゃんは屋上だよ…」
 相田さんはいつもの無表情だったが、何故か妙に楽しそうに見えた。
 色々聞きたい事はあったが、場所を聞くや俺は部屋を飛び出す。
 走りながら、きっと相田さんは一人で笑ってるんだろな、なんて想像が頭の隅によぎった。
379281:2009/06/04(木) 17:17:24 ID:+ru+vR6m
今日は以上です
では
380名無しさん@ピンキー:2009/06/04(木) 17:40:21 ID:BO6KzeWK
キタ…w
続き待ってるお!
381めいこと高坂:2009/06/05(金) 10:32:02 ID:Le8E//ys
 おしまい。
 もうオシマイだ。おしまい、おしまいだ。
 頭の中で『南めいこ終了のお知らせ』が高らかに告げられる。
 もうおしまいだ。
 屋上の長い階段を無我夢中で登りながら、鍵を握りしめる。
 鍵は飛び出した際「ここなら2時間は持つ」と香織に握らされたものだった。
 他に行ける所なんてある筈もなく、震える手を抑えながら鍵穴に鍵を突っ込む。
 鍵穴にガチガチと無意味に金属がぶつかり、ますます手を焦らせる。
 ガチャリ。
 やっとの事で開錠したと同時に「南さん!」と背後から声を掛けられ、更に血の気が引く。
「ちょっと待って!」
 高坂は階段を登り、こちらに向かってきていた。

「こっ来ないで!!」

 動揺の余り鍵を取り落とすが、拾う余裕すらなく扉に体当たりして中に逃げ込む。

 ザアッ
 瞬間、まるで雰囲気にそぐわない静けさが全身を覆った。
 ビュンビュンと風が体を抜けてゆくのを感じる。
「きゃっ」
 髪がバサバサと乱れるのも構わず、出来るだけ扉から遠くへ行こうと走るも、すぐに躓く。
「…南さん」
 振り向いた先には、高坂が立ち尽くしていた。
382めいこと高坂:2009/06/05(金) 10:35:08 ID:Le8E//ys
「南さん」
「それ以上来ないで!」

 もう失うモノなんて何も無かった。
 高坂にも学校の皆にも、私の真っ黒な正体を露呈してしまった。
「…もう分かったでしょ?私はアンタが思ってるような純粋で可愛い女なんかじゃない、皆を見下しては笑ってる心の底から腹黒い奴なの」
 破れかぶれで、高坂に言い散らす。
 何もかもが…急速にどうでもよくなっていく。
 流石の高坂も騙されたと怒っているだろういや、怒りを通り越して呆れてるかもしれない。
 しかし何を言っても、高坂に反応は無かった。
 そんな気まずさや恥ずかしさ、無気力感がどんどん私の口を回らせてゆく。
「大体最初から緑会委員なんて私はやりたくなかったのに。バカじゃないの、一人で頑張って」
「……」
「皆私なんかに騙されて、本当に馬鹿。馬鹿ばっかり」
「南さん訂正して」
 ようやく高坂が口を開いたが、その声音は強い意志を帯びていた。

「…訂正?」
「『私なんか』、じゃない」
 高坂は語調を強め、一歩私の方へ踏み出した。
「南さんはそのままの自分で十分なんだ」
「そのままの自分って何?…皆、他人に良いように思われたくて演技して暮らしてるじゃない。私がそうして何が悪いの」
「悪くないよ。それだって南さんなんだから」
「…?」
 急に高坂が言ってる事が分からなくなった。
 何が言いたいんだ?
「俺は南さんが好きで…俺の最初知っていた南さんは可愛くて、色んな意味で良い子なんだなって思ってた」
 でも南さんと関わるようになってから、南さんの色んな面が見えてきた。と高坂は言った。
「南さんは普段は自分から言い出さないけど、何かするってなったら、凄く力を発揮出来る人だった」
 高坂は喋り続ける。
383めいこと高坂:2009/06/05(金) 10:38:54 ID:Le8E//ys
「活動的でテキパキしてて、本当はズバッと物を言う人だって気付いた。甘い物が苦手な事も」
 甘いモノ…気付かれてたんだ。
 あの喫茶店でそんな所まで見られていたなんて、思ってもみない事だった。
「そういうのに気付いた時、俺は本当の意味で南さんに惹かれた。南さんに引きつけられるようなパワーを感じたんだ」
 だから、南さんはそもそも自分が思ってるような嫌な奴じゃない。
「私がどんな人間だって…見下したり騙したりしていた事に変わりない」
「南さんはその『役』をやってて楽しい?」
 思いがけない質問を受けた。
 楽しいだとか楽しくないだとか、考えた事もない事だった。
 中学を転校して、すぐにこういうキャラを私は作り始めた。全部生きる為に。
 親や同級生から自分を全否定された私に迷いは無かったし、新しい自分を得る事で、全く違う人生を歩み始めたような気分になったのを覚えている。
 そう、文句や違和感を感じながらも私は現状にこれまで満足していた。
 高坂が私の歪みを気付かせるまでは…。
「…あんたに会うまでは、嫌いじゃなかった」
「人を見下すのはいけない事だと思う。優越感に浸ったり、そういうのは意味のない事だから」
 だけどと高坂はまた続ける。
「南さんは今はもうそれに気が付いている。じゃあ南さんが南さんで居るままの理由なんて、それで十分だろ?」
 いい加減辟易してきた。
「…もうあんたの言ってる事、意味わかんない」

「まあ要約すると、南さんはどんな南さんでも可愛いって事」
「うぐ」

 瞬間、かぁああっと頭に血がのぼり、また目眩がぐわんぐわんと押し寄せる。
384めいこと高坂:2009/06/05(金) 10:41:00 ID:Le8E//ys
 こ、この真剣な時に何を。
 必死で反抗出来る言葉を探し、とにかく投げつける。
「どっどこが可愛いのよ…!もうおしまいよ!あんたのせいで全部ダメになっちゃったんだから!」
「うん」
 ダメだ、全然理論的じゃない。私馬鹿みたいだ。
「あんたのせいで気付いちゃったんじゃない!あんたが馬鹿みたいだから、馬鹿みたいにいい奴だから」
 ていうか私、馬鹿だ。
「俺は南さんが演じてると思ってるキャラも、アリだと思うんだ。自分を蔑んで変える必要は全くないと思う」
 高坂はどこまでも、私を否定しなかった。
 それは否定され続けた私にとって…初めての経験だった。
「それは相田さんだけじゃなくて、飯島さん達も分かってる事じゃないかな」
 南さんだって本当は気付いてるんじゃないの、と高坂は私に問い掛けた。

「可愛くて天然なキャラも、毒があってキツいキャラも、全部紛れもなく本物の南さんの一部なんだ」
385めいこと高坂:2009/06/05(金) 10:47:13 ID:Le8E//ys
「何それ…あんた馬鹿じゃないの」
「うん、馬鹿だと思うよ」
「これ以上好きにさせてどうするのよ」
「うん…って、え?」
 涙が勝手にぼろぼろと落ち始める。もう、限界だった。
「ちょっ南さん?大丈夫?!」
 さっきまでの雰囲気はどこへやら、高坂は慌てて私の元に掛け寄る。
「もしかしてさっき転けた時にどっか打ったの?!ほっ保健室、先生を…… !?」
 私は膝を付いた香坂の体にきゅっと腕を回して、顔を押し付けた。
 これ以上ぼろぼろな顔を見られたくなかった。
「み…南さん?」
「みるな」
「見るなって…」
「絶対だめ」
 必死で言い含めて、顔をしっかりガードする。
 心臓が早過ぎて、目眩がぐるぐると津波のように襲い掛かる。目が回る。
「…そうよ、そもそも全部アンタのせいじゃない」
「えっ俺?」
「アンタが優しくてカッコ良くて凄く良い奴なのが悪いんだ」
 私は恨み言の様にぶつぶつと言葉を言い連ねる。
 何か喋ってるうちに腹が立ってきた。
 そうだ大体からしてコイツだ。全部の元凶だ。
「お陰で私は私じゃなくなった」
「…な、何か全然よく分からないけど…それも南さんだと思うから良いと思うよ」
「当たり前じゃない。私を誰だと思ってんの」
 精一杯の虚勢を張るが、果たして通じているだろうか。
 やっと涙が止まって、目元だけを高坂の胸から覗かせる。
 高坂が居た。

「? 南さ」
「ん」
 ちゅう。

 口は恥ずかしいから頬にしてみたけど。
 高坂の呆気に取られた顔を見て、自分の途方もない甘さに気が付く。
「…」
「…」

「…へ?あ、ちょ…えぇええ?!」
「ぎにゃあああああ!!」

 やっぱダメだ、逃走するしかない!
 必死でフェンスによじ登るが「南さんそっち地面ない!空気しかないから!」と呆気なく引きずり降ろされる。
「ぎゃっ」
「わ」
 引きずり降ろされた勢いで体がバランスを失い、私達は思いっ切りアスファルトに倒れ込んだ。
 図らずも、向き合った格好でお互いを見つめ合う事となった。
 余りのことに、お互い絶句してその場を沈黙が支配する。

 そのうち高坂が、ぽつりと漏らした。
「…何か、結局俺達二人とも馬鹿なんじゃないのか?」
「……そうだね」
 何もかも全部、馬鹿馬鹿し過ぎる。

 散々笑い転げた後、私達は真剣にこの後の対処を考え始めた。
 私は馬鹿で腹黒くて弱いままだけど、当分このままでいいみたいだ。
386281:2009/06/05(金) 10:48:50 ID:Le8E//ys
以上です
次で最終回なんで、よければ最後までお付き合いお願いします
387名無しさん@ピンキー:2009/06/05(金) 10:51:54 ID:Li1uiAYB
ええはなしや!
388名無しさん@ピンキー:2009/06/05(金) 14:21:33 ID:WQ7inu3h
も り あ が っ て ま い り ま し た
次が楽しみでもあり次で終わるのが寂しくもあり
つまりはGJ
389名無しさん@ピンキー:2009/06/05(金) 15:51:18 ID:uSWixWje
GJ!
ほんとだな
続き楽しみだが終わるのは寂しい
今から言うのもなんだけど番外編とか続いて欲しいですw
390名無しさん@ピンキー:2009/06/06(土) 09:05:58 ID:eFhaLgwq
GJ
391めいこと高坂:2009/06/06(土) 10:46:09 ID:/b2G/Krc
 詰まるところ。
 皆を誤魔化しきれたかといえば、まあ9割は成功した。

 教室に戻った私の目は(意図的な)大粒の涙で溢れていた。
「皆…!ごめんね!」
「め、めいこちゃん…」
「さっきのは一体…?」
 皆の疑惑の目の中、私は説明した。
「皆が喋ってる様子を見て、悲しくて『何で聞いてくれないの』ってどうしようもなくイライラしてきて…」
 実際説明は間違ってない。

 私は、『南めいこ』の中に怒りを隠す事を止めた。
 皆が知ってる南めいこという人格を変えないままで、少しずつ殻から抜け出したい。そう思ったからだ。

「気が付いたらあんな事言ってて…何であんな事言ったのか分からないの」
 本当にごめんなさいっ!!と私は体を曲げて頭を皆に下げた。
 弾みにぽろりと涙がこぼれ落ち、皆は慌てて私を慰め出した。
「めいこちゃんそんな…気にしないで!」
「私も皆喋ってたのどうかと思ってたしっ」
「妹尾先生の話で人生観変わったよ!」
 この短時間で既に『先生』呼ばわりされてるアイツが何をやらかしたかは知らないが…。
 上辺だけでなく様子を見るに、どうやら私は本当に許されたようで、予想以上に驚いてしまった。
 少しでも素を出せば皆に見向きもされなくなると、そう思い込んでいた自分は疑心暗鬼に捕らわれ過ぎていたらしい。
 そう思ったらまた涙が視界を覆い、更に皆を慌てさせる事になった。
392めいこと高坂:2009/06/06(土) 10:48:41 ID:/b2G/Krc
 9割成功したと前述したが、勿論残り1割にはがっつりバレた。
 高坂には勿論だが、奈々子、マユ、妹尾純辺りは最初から私の本性を薄々感じていたらしく、大した驚きもなく受け入れられた。

「だって付き合い長いし」
「今更ですねー」
「…ああそう」

 特に妹尾純に至っては「お前に草むしりを命じた瞬間、ドス黒いオーラをはっきり感じた」と切り捨てられた。
 …あのアマいつか決着つけてやる。

 さてその妹尾純だが。
 誰に聞いても皆青ざめて首を振るばかりで、一向に何を喋ったのか謎のままなのはもう良いとして。
 感銘(というか恐怖)を感じたらしい教師達が、妹尾純をアドバイザーに加えて来年度からの緑会活動の見直しを図るらしい。
 あの女には『会社勤め』とだけ聞かされていたが、環境ビジネス主軸の企業に勤める、結構な地位の人間だったらしい。
 アイツが絡むんだったら、来年から果てしなく草むしりやらゴミ拾いやら…とにかく現場の仕事になるのは間違いないだろう。
 想像するだけでウンザリしてくるが、あの女がバリバリ全校生徒に檄を飛ばす様子を思うと、何故か楽しみに思えてきた。

 ちなみに『自分を出していこうキャンペーン』の一貫として、調子に乗っている南めいこファンクラブを粛正する事にした。
『お前らちょっとこっち来いよ』
『え、めいこ様?ってぎゃああああっ』
『逃がさない…』
『え、相田さ、ぐわあああ!』
 …そんな感じで。香織とタッグを組み、強力な体制が完成したと自負している。
「あっめいこ様!」
「お疲れ様です!」
 今や奴らは私と香織を見る度、直立不動で敬礼する程だ。
393めいこと高坂:2009/06/06(土) 10:51:16 ID:/b2G/Krc
 まあ、そんな話は結局どうでもいい訳で。

 現在。時計の針は4時を指している。
 今の私は、バタバタと慌ただしく帰り支度をしていた。
「めいこ様!お帰りですか!」
「見たらわかるでしょっ」
「はいっすいませんでした!」
 ファンクラブを適当にあしらい、とっとと荷物を詰め込む。
 隣ではそんな騒がしさも全く意に介さないといった様子で、香織が何やら難しそうな本を捲っていた。
「…約束?」
 無関心と思いきや、香織は活字から目を話さないまま私に問いかけてきた。
「うん4時に正門っ!」
「遅刻決定だね…」
「うっさい!じゃあお先ね!」
「いってらっしゃい、めーちゃん」
 香織は本を見つめたまま、笑って私を見送った。

 ダッシュで2分後。
 正門が見えてくるのと同時に、お目当ての姿が瞳に映る。

「高坂君!」
「あ」

 高坂がこちらに気付き、手を振って私を迎える。
「お、遅くなってごめんね」
「全然いいよ、走ってこなくても良かったのに…」
「ううん」
 早く会いたかったから。というと、高坂は顔を少し赤らめて視線を逸らした。
 出会った時は無表情ばかりだったのに、最近は沢山の表情を見せてくれるようになった。
 そんな変化が嬉しくて、少し気恥ずかしい。
「じゃあ、そのラーメン屋さん行こうか」
「うんっ、あそこの激辛ラーメンは本当美味しいから!高坂君も絶対やみつきだよ!」

 たわいもない話をしながら、私達は歩き出す。
 そのうち高坂の手が私の手に触れ、そのまま手が繋がれた。
「…っ」
 顔が赤くなるのを感じながら、ぎゅっと握り返して高坂を見上げる。
 高坂は顔を真っ赤にして、私に笑いかけていた。




394281:2009/06/06(土) 10:52:36 ID:/b2G/Krc
これで「めいこと高坂」はおしまいです
途中からあんまり腹黒じゃなかったり色々すみません(笑)
続編や番外編は何も考えてませんが、思い付いたらまた出したいと思います
長々とありがとうございました
ではまた
395名無しさん@ピンキー:2009/06/06(土) 12:16:15 ID:KSPUvkvP
これは乙じゃなくてポニーテールうんたらかんたら乙
396名無しさん@ピンキー:2009/06/06(土) 12:32:37 ID:ZutgrEvo
GJGJGJ!!!
397名無しさん@ピンキー:2009/06/06(土) 12:38:07 ID:77Mmz6Xg
内容GJ

でもなによりもGJなのは、ちゃんと完結させたことだね。
どうもありがとう。
398名無しさん@ピンキー:2009/06/06(土) 13:28:10 ID:idFY4J17
やっと終わったよ
399名無しさん@ピンキー:2009/06/06(土) 13:38:49 ID:uH+mb6pu
こういう風に腹黒女が浄化されていく過程もなかなか良いな
終わるのは寂しいけどGJ
400名無しさん@ピンキー:2009/06/06(土) 13:45:56 ID:RxK6oFVS
ぐっじょーぶでした
401名無しさん@ピンキー:2009/06/11(木) 20:23:26 ID:oD8/sFqD
かなり今更だけど、GJ!!
初々しいラストに癒されたが、
初々しいエロまで見てみたかった気がするw
402名無しさん@ピンキー:2009/06/12(金) 19:46:14 ID:kRi4kQAA
>初々しいエロまで見たかった
激しく同意
403名無しさん@ピンキー:2009/06/14(日) 22:20:34 ID:G92u2RII
すごく遅れたけど、ただただGJ。昨日から何度も読み返してるよ。
高坂がやさしくて萌えた
404名無しさん@ピンキー:2009/06/21(日) 03:04:28 ID:ElnUdB0G
あげ
405名無しさん@ピンキー:2009/06/21(日) 22:13:44 ID:T9HN788T
腹黒サイコー
406名無しさん@ピンキー:2009/06/22(月) 22:05:34 ID:7PlaGwGX
女の子はやっぱりちょっと黒い方が可愛いよな
407名無しさん@ピンキー:2009/06/24(水) 00:57:03 ID:OdBocYGM
近年稀に見る良スレだな
408名無しさん@ピンキー:2009/06/27(土) 08:43:57 ID:y2BoqaEL
age
409名無しさん@ピンキー:2009/07/02(木) 04:27:07 ID:BzgSNrwN
まだー?
410名無しさん@ピンキー:2009/07/06(月) 02:07:51 ID:H24jBxDk
3日レスなしか…
411名無しさん@ピンキー:2009/07/09(木) 06:40:21 ID:X7aqACVE
ふぅ
412名無しさん@ピンキー:2009/07/10(金) 23:59:54 ID:ivCXih21
「純真な男に惚れてしまう」ってのが良いな
413名無しさん@ピンキー:2009/07/11(土) 04:33:25 ID:x5ac7cM+
古代っぽい舞台、凄まじい傾国の腹黒美女策士がとある国に足を踏み入れて
「この国を私のものにしてやろう」
と決意、瞬く間に宮廷に入り込んで王様に近付く
王様は最近まで田舎の領主やってて奇跡的に跡目を継いだばかりの純朴青年
美女の口車に乗せられまくってセックスで骨抜きにされて傀儡状態
その噂を聞いて近隣諸国がこれが好機と凸してくるも、
美女策士のコウメイの罠の前にすべて退散していく

周囲の連中は美女策士のことを悪魔だの妖怪だのと恐れだす
「そうよ私は悪魔なのよー、ふん、悪さいっぱいしてやるー」
ぐれっぱなしの美女策士
けどたった一人だけ、田舎者の王様だけは彼女のことを尊敬の眼差しで見ていた
「すごいなー、俺は馬鹿だからあなたみたいなことできないよ。ずっとこの国にいてくれると嬉しいなー」
すんごい純粋な目つき
美女策士の胸がキュン
「ふ、ふんっ。そこまで言うなら仕方がないわね。ずっとあなたの側にいてあげる」

なんかそういう系の話を書きたかった
414夏の足跡 ◆kYNSP8SVcY :2009/07/11(土) 11:39:01 ID:82RAn5ra
初めて投下します。
鬱っぽい話が好きなんでそういう風にしたいと思います。
よろしくお願いします><
415夏の足跡 ◆kYNSP8SVcY :2009/07/11(土) 11:41:03 ID:82RAn5ra


振り返れば何も残っていなかった。

もうすぐ19。貧乏な俺、橘 久人はこんなくそ暑い日でもバイトをしなければならない。
しなければならないといっても直接生死に関わるわけではない。高校を卒業してから『何かしなければ』という強迫観念に支配されている。

中学時代、高校時代は明らかに平均以下の青春を送っていた。
一時は『なんで俺を産んだんだ』と親を責めたりした。モテないし頭も悪いし、中学生なら誰もが通る道だろう。ちなみに親は『ぼーっとしてたらもうおろせなかったのよ』と答えた。答えになっていない。
改めてこうやって振り返ればまた『そういう感情』が沸き上がってくるが、俺ももう19だ。黙って死ぬさ。


あー最悪だ。最悪。
コンビニのバイトでよかった。クーラー気持ちいい。
416夏の足跡 ◆kYNSP8SVcY :2009/07/11(土) 11:42:59 ID:82RAn5ra


「橘くん、品出ししてきてくれる?」
来た。天使の声来た。
彼女は結木(ゆいき)さん。かわいくて優しくて現在俺の生きる意味ベスト3にランクインしている。同じバイトをやってる先輩は『ケバいし腹黒そう』と評していたが俺からすればそんな事はない。
「……おーい、そんなに見つめられても困るんだけど」
「は、はい、行ってきましゅ」

本当はもう6時間ぐらい見つめていたかったが彼女のお願いを叶えてあげなければならない。
ぐふふふ。かわいいよぉかわいいよぉ
というわけで俺はバックヤードへ向かった。
そうだ、今日こそ。今日こそ彼女のアドレスを教えてもらおう。もっと仲良くしてほしい。本当にあの人が好きなんだ。



「チッ 一回で聞いとけよゴミ虫が」
417夏の足跡 ◆kYNSP8SVcY :2009/07/11(土) 11:47:36 ID:82RAn5ra

1日前

今あたし結木はこのクソ蒸し暑い次期に家で大学の課題をやっている。あたしの部屋にクーラーはない。とはいってもクーラーのある一階にはクソ親父がいる。一緒の空気を吸うと考えるだけで吐き気がするので暑さを我慢している。

英語わかんねえ。胸焼けがする。あのハゲクソゴミ教師だけは許せねえ。
頭にはまったく入っていないがとりあえず値段が馬鹿高い大学の教科書から答えを探して書きまくり無事?課題を終えた。汗をかいたのでお風呂に入ろ。

一階でゴミと目があった。吐き気がした。

シャワーを浴びている間最近やりはじめたバイト先のことを考えていた。みんなよくレジ打ちに苦戦するというが、脳みそ入っているのか???
バイト先の一つ下の子…橘くん?もそういう事を言っていた。
いっけね、空気キャラの名前ってよく忘れるんだわ。いっつも名札見なきゃわかんねえよ。そろそろ覚えてやろ。ゴシゴシ。


でも、顔は綺麗だよなぁ、橘くん。
418夏の足跡 ◆kYNSP8SVcY :2009/07/11(土) 11:50:49 ID:82RAn5ra


今あたし結木はこのクソ蒸し暑い次期に家で大学の課題をやっている。あたしの部屋にクーラーはない。とはいってもクーラーのある一階にはクソ親父がいる。一緒の空気を吸うと考えるだけで吐き気がするので暑さを我慢している。

英語わかんねえ。胸焼けがする。あのハゲクソゴミ教師だけは許せねえ。いっつもニコニコして何でも言うこと聞くと思ったら大間違いだぞおら。

頭にはまったく入っていないがとりあえず値段が馬鹿高い大学の教科書から答えを探して書きまくり無事?課題を終えた。汗をかいたのでお風呂に入ろ。

一階でゴミと目があった。吐き気がした。


シャワーを浴びている間最近やりはじめたバイト先のことを考えていた。みんなよくレジ打ちに苦戦するというが、脳みそ入っているのか???
バイト先の一つ下の子…橘くん?もそういう事を言っていた。
いっけね、空気キャラの名前ってよく忘れるんだわ。いっつも名札見なきゃわかんねえよ。そろそろ覚えてやろ。ゴシゴシ。


顔は綺麗だよなぁ、橘くん。
419名無しさん@ピンキー:2009/07/11(土) 11:54:15 ID:v/Lv676o
支援かな
420夏の足跡 ◆kYNSP8SVcY :2009/07/11(土) 11:55:25 ID:82RAn5ra


いい湯だった。などとおっさんみたいな事を言ってみる。
お風呂から出たあたしはバスタオルで体を拭き、ミニタオルで頭をガシガシ拭いてる最中にふと思った。
「パーマとれてきてんだった…金ねぇよ」
はぁっと溜め息。自分で言って泣けてきた。一気にやる気が失せた。適当に手洗い場の鏡の前に並べた数10個以上の化粧品から化粧水を取り出し、蓋を開け、だらしなくパンパンと顔につけた。

服を着ないままバスタオルを胸から巻いた。心置きなく部屋で裸になるためだ。我ながら家ではおっさんだとおもう。


二階に上がる途中楽にお金を稼げる方法を考えてた。風俗でもやろうか?
前に元風俗の人が性病に感染して死にかけてたのをテレビで見たのを思い出した。性病なんてものがなかったらやってたのに。
「貢いでくれる男でもいればなぁ」
階段を上がり終えたあたしは絶対あり得ないと思いつつ独り言を言いながら部屋へ向かった。
421夏の足跡 ◆kYNSP8SVcY :2009/07/11(土) 11:59:03 ID:82RAn5ra


バイトよはやく終われ。時計の針よ早く進め。そう心の中で唱えながらバックヤードから運んできた商品を積んだカートを冷蔵庫の前へつけた。お客さんが来た。
「いらっしゃいませー」
めんどくせえ。こういう時どうしたらいいの。もう入って結構だけど未だにわからん。お客さんはカートの前の商品がほしいようだ。
「ごめんなさいねっ」
俺はニコッと笑いカートを前に進めた。
「……無いんだけど。」
お客さんは120円のジュースの棚を指差し、やや不満げに俺にいった。
「ああ、ごめんなさい」
俺はカートに積んである箱からジュースを取り出し、お客さんに渡した。

もともと人付き合いが苦手だからこれだけの動作でかなり精神に負担がかかる。それでもバイトをして少しマシにはなったと思うけど。
あー結木さんとメールができる。結木さん、ちゅっちゅっ。

あ、結木さんと目があった。ニコッ(^-^)と笑ってくれた。天にも上る気分である。

……まてよ、
品出ししている手が止まり、あることに気がついた。

断られたらどうしよう。
いや、断られなくても心の中で避けられてたら。
…顔が青ざめてきた。と思う。
422夏の足跡 ◆kYNSP8SVcY :2009/07/11(土) 12:00:40 ID:82RAn5ra

というわけで一時停止。
ぜひご支援お願いします><
423名無しさん@ピンキー:2009/07/11(土) 21:45:10 ID:B4Hi3Ibm

続きを期待して待ってる
424名無しさん@ピンキー:2009/07/12(日) 00:05:43 ID:q2gpZDjb
支援
425夏の足跡 ◆kYNSP8SVcY :2009/07/12(日) 11:56:17 ID:lyLFqNOR
投下します。
頭こんがらがってきた><;
426夏の足跡 ◆kYNSP8SVcY :2009/07/12(日) 11:58:08 ID:lyLFqNOR


それに…どうやって聞けばいいんだ。やっぱあほだ、俺は。
『仲良くしてほしいです、アドレス交換してくださいです』とかかな?でも仲良くして、なんて下心丸出しだと思われるに決まってる…どうしよ


あ、………そうだ。いい事思い付いた。名案だ、今世紀最大の。
絶対に成功するはずだ。俺は心のなかでニヤけた。

〜♪
品出しを終えた俺はカートをバックヤードへと運ぼうとした。その時お客さんにすれ違った。
「いらっしゃいませ」
さっきよりもいい声でお客さんに声をかけた。恋をすると人は変わるものなのだな。

バイト終っわれ〜バイト終っわれ〜ヒューーッッ!!!
名案をゲットした俺は気持ちが昂ってきて万能感に似たものを得た。
いやでも結木さんとずーっとレジ打ちするのも悪くないか。結木さんさえいいならここに住むしね。
さぁ早く戻ろう。結木さんが困ってる。
427夏の足跡 ◆kYNSP8SVcY :2009/07/12(日) 12:01:38 ID:lyLFqNOR


だりー、だりーわマジで。お腹痛い。
客が来る。客が来る。そして客が来る。このコンビニの周辺は会社も多いしトラック野郎なんかもよく行き来する。おまけに学校も近くて学生がわんさか来る。なかなか繁盛してやがる。イライラ
あたしはロボットみたいに挨拶をし、ポイントカードの有無を聞き、レジを打ち、お釣りを返し、ありがとうございましたと言う。そしてまた客が来る。不毛だ。
ああ、300円の買い物に万札出しやがった。すげぇ。
おっと、表情に出てないだろうな。すかさず笑顔を作り直す。
「いらっしゃいませ♪」


ようやく客が落ち着いてきた。楽になってきた。

…おい、橘ちゃん。品切らしてんじゃねぇかよ。そこの棚。さっさと行けよおい。

「棚くん、品出ししてきてくれる?」
作り直したての笑顔をくれてやった。誇りに思え。

……ん?さっさと行けよ。

「……おーい、そんなに見つめられても困るんだけど」
おどけて言ってみた。
「は、はい、行ってきましゅ」

なんだ今の?寝てねえのか?
さっきの客の多さにただでさえイライラしてたのに橘のあほさがそれに拍車をかけた。

「チッ 一回で聞いとけよゴミ虫が」
428夏の足跡 ◆kYNSP8SVcY :2009/07/12(日) 12:19:28 ID:lyLFqNOR


レジに小走りで戻った俺は結木さんのレジ前に並ぶお客さんに声をかけ、こっちに誘導した。
さすがの俺でも客がちょっと多い時はレジ打ちに集中するさ。ミスなんてしたら結木さんにドン引きされるもん。

でも、もうすぐだ。もうすぐで結木さんとメールができるかもしれないという気持ちを糧に、レジ打ちに集中していた。
そして長い長いバイトは終わった。


バックヤードへ戻り、制服を脱いだ俺は深呼吸をした。
これから戦場に行く兵士の気分だ。
これから敵将を討ち取りに…いや討ち取ったら駄目だ。
あの、アレ、わ…和平的なのを結びにいかなきゃ。

彼女も制服を脱ぎおえ、俺に挨拶をしようと顔を覗き込むようにして「お疲れ様です」と言った。反則的な笑顔で、だ。俺もお疲れ様ですと返事した。
いつもならとろけているのだが今日はそういうわけにはいかない。今日はとっておきの和平案を持ち込んだのだ。

俺はすかさず言った。

「結木さん、アドレス教えてくれない…?」
言った。言ってしまった。
下心のなさをアピールする為さりげなくかつストレートに言う、つもりだったんだけど……若干必死な声を出してしまった。
顔が物凄い勢いで真っ赤になってるのに気がついた。心臓がバクバク言っている。そのたび首、顔の脈が共鳴している。
嫌われたら、最悪だ。

しばらく、といっても3.25秒ぐらいだろうが、とても長く感じた。ますます脈打って死にそうだった。そして彼女は若干目を見開き、声を出した。

「えっ…?」

「だ、だって、シフトとか変えたい時にいいじゃん」
ガタガタ震えながら、泣くように声を出した。
これこそが名案のはずなのにいざやろうとしたらこれだ。

「それでもちょっと困る……」


えっ。
なにそれこわい
429名無しさん@ピンキー:2009/07/12(日) 12:21:38 ID:lyLFqNOR
一時停止。
できるだけ速く書きます
430名無しさん@ピンキー:2009/07/12(日) 13:22:07 ID:QPIeMYAz
続くんだよな?
431名無しさん@ピンキー:2009/07/12(日) 13:23:50 ID:fs6YIu0Y
GJ!
気弱な主人公が結木さんにどれだけ
詰られるか楽しみです。
432名無しさん@ピンキー:2009/07/14(火) 02:56:38 ID:DbT4V456
GJ
楽しみ
433名無しさん@ピンキー:2009/07/16(木) 13:34:58 ID:WouI1QRs
保守
434名無しさん@ピンキー:2009/07/16(木) 17:59:22 ID:SOkcn49n
>>426-429
GJ
435名無しさん@ピンキー:2009/07/29(水) 00:33:41 ID:BXqU99u0
まだ圧縮は大丈夫か
436名無しさん@ピンキー:2009/07/31(金) 00:33:33 ID:IFEcYh4h
でも近い
437名無しさん@ピンキー:2009/08/08(土) 01:46:58 ID:t/EAjjHZ
保守
438名無しさん@ピンキー:2009/08/12(水) 22:14:07 ID:T9X6IUWr
あげ
439名無しさん@ピンキー:2009/08/23(日) 09:38:23 ID:cx6eWbCZ
ほす
440名無しさん@ピンキー:2009/08/24(月) 01:53:45 ID:SoMVST2c
腹黒な女の子、いいよね
441名無しさん@ピンキー:2009/08/24(月) 05:10:18 ID:rLxQKNa0
そのためのスレじゃないか。
442名無しさん@そうだ選挙に行こう:2009/08/30(日) 18:45:52 ID:0/Eyjdvj
443名無しさん@ピンキー:2009/08/31(月) 07:24:35 ID:0fhqpPPo
ああ
なんてスレに出会ってしまったんだ
神様ありがとう
444名無しさん@ピンキー:2009/09/04(金) 21:42:58 ID:ZVD0N2Uz
>>443
その感動をエネルギーに文章を書く作業に戻るんだ!
445名無しさん@ピンキー:2009/09/07(月) 17:35:54 ID:VPR+mPTS
保守
446名無しさん@ピンキー:2009/09/13(日) 02:37:50 ID:DNdE4wTm
>>443
いらっしゃい
447名無しさん@ピンキー:2009/09/16(水) 21:11:36 ID:yUAufnjK
アパシーの「学校であった恋い話」って同人ゲームを女主人公でプレイして
男主人公を攻略すると、ちょうど、このスレのようなシチュエーションになるよ
448名無しさん@ピンキー:2009/09/21(月) 18:39:43 ID:0jXB0ExM
保守
449名無しさん@ピンキー:2009/09/24(木) 12:19:21 ID:xm3H+fwe
好きな組み合わせ
450名無しさん@ピンキー:2009/09/27(日) 11:19:01 ID:pBixzOee
機能してないなこのスレ
451名無しさん@ピンキー:2009/09/27(日) 12:34:59 ID:4O5RO/LZ
アマガミの絢辻みたいな感じ?
452名無しさん@ピンキー:2009/09/27(日) 16:21:05 ID:QNMEqOf1
保守します。
453名無しさん@ピンキー:2009/09/28(月) 09:58:37 ID:obHp3Jt0
初投下です。お手柔らかにお願いします。


俺は今日も待っていた。

ホームに入ってきた電車を目で追う。
いない・・・いない・・・いない・・・いた!
急いで駆け寄り、ドアが開くのももどかしく乗り込んで、
つり革につかまってる中学時代の同級生に声を掛けた。
「佐倉!」
佐倉は一瞬驚いた顔をしたけど「偶然!また一緒になったね」と、笑顔で答えてくれる。
そして俺達の最寄の駅までの10分間、話をする。
一緒に電車を降りて、改札を抜けて自転車置き場まで行き、それぞれ違う方向に別れる。
短い時間だけど、俺の至福の時間だ。

俺と佐倉は中3の時同じクラスだった。
大人しいけどいつも笑顔を欠かさない佐倉に、いつの間にか惹かれていた。
別々の高校に進んだけど、お互い部活のある日は、帰りの電車で一緒になる事がある。
それに気付いてからは、俺はなるべく彼女の下校時間に合わせるようになった。
さりげなく部活のある日を聞き出して、その日は駅のホームで待つ。
彼女はいつも同じ車両に乗っているので見つけやすい。
運が良ければ、週に三・四回一緒に帰れる時もある。

中学の修学旅行先の京都で、業者が撮って校内に張り出した写真のひとつに、友達と笑顔で喋る彼女が写ってた。
はじっこの方には彼女を見つめる俺も小さく写ってる。
自覚無かったけど、俺こんな顔して彼女のこといつも見てたんだ。
もちろん注文した。
佐倉との2ショット写真は一枚も無いけど、これは大切な思い出写真になった。
454名無しさん@ピンキー:2009/09/28(月) 19:20:04 ID:Qq0uzYDe
続く…のかな?
久々の投下期待!
455名無しさん@ピンキー:2009/09/28(月) 22:28:05 ID:6MLLFcf1
続きに期待
456名無しさん@ピンキー:2009/09/28(月) 22:35:01 ID:obHp3Jt0
>>454 >>455
ありがとうございます。
勇気が出たので投下します。
読みにくいところがあったらすみません。
457名無しさん@ピンキー:2009/09/28(月) 22:36:48 ID:obHp3Jt0
会えば笑顔で話してくれる佐倉だけど、俺がどれだけ必死に時間を合わせても、
進展は何も無い。
けど佐倉への思いは、日に日に強くなっていく。
穏やかな佐倉はいつも聞き役で、俺のくだらない話も、笑いながらよく聞いてくれる。
いつもはイジられキャラの俺も、佐倉の前ではやたら喋る。
バカな新任教師の勘違いで責められ、でも反論も出来ず教室の隅で
涙を堪えているのを見て以来、俺はあいつが気になって仕方が無かった。
沢山笑顔にしてやりたかったし、佐倉の笑顔を見ると最高に幸せな気持ちになる。

俺は少しでも長く一緒に居たくて、歩くのが遅い佐倉に合わせてゆっくり歩いたり、
「今日はこっちに用があるから」と佐倉の帰り道に合わせて遠回りしてみたりした。
思い切って「もう暗いし、家まで送るよ」と言った時は、「ありがとう。でも大丈夫だよ。」と
笑顔でかわされた。

そんな日々が1ヵ月続いた。
来月には夏休みに入る。
休みに入ったら、さすがに帰り道合わせる事は出来ない。
高1の夏休み、佐倉と一緒に過ごしたい。
本当は毎日でも一緒にいたい位だ。
いつもの帰り道、俺は勇気を出して「今度映画に行かない?」と誘ってみた。
俺にしては大きな進歩で、とても勇気のいる事だった。
でも佐倉は戸惑った表情になって、返事はよりによって「えっ・・・どうして?」だった。

俺は黙って自転車を漕ぎだし、佐倉を置いてその場を去った。
立ち漕ぎで、まるでその場から一秒でも早く逃げないと
死ぬんじゃないかっていうくらい、バカみたいに飛ばした。
一緒に帰ってる位で、舞い上がって俺は本当にバカだ。
長く片思いして大事にしてた気持ちも、壊れるのは一瞬だな。


俺はそれ以来、電車の佐倉を待たなくなった。
もうちょっとタイミングを見てうまく誘えば良かったと後悔したり、
いや佐倉は最初からその気なんて無かったんだと思い直したり。
友達と騒いでも、部活に打ち込んでみても、気持ちは晴れなかった。
458名無しさん@ピンキー:2009/09/28(月) 22:48:57 ID:obHp3Jt0
期末テストも史上最悪の出来で、面談では担任と母親にフルボッコされた。
何もかも上手くいかねえ。
最悪な気分だった土曜日、ひっくり返って寝ていると、中学の時同じクラスだった
谷口から電話があった。
「今みんな香織のうちに遊びに来てるんだけど、山本もおいでよ」
谷口は別の学校だけど、たまに駅で会う。
顔は可愛いけどちょっとヤンキーっぽいのと色黒で、大人しくて色白の佐倉とは
全然違うタイプだ。
でも悪いヤツじゃない。
いつも明るく声を掛けてきてくれて、ギャーギャーうるさいけど面白いヤツだ。
クラスでも目立つ方で、みんなと仲が良かった。

香織とかいうやつの家に行って騒ぐほど親しくはなかったし、何より全然気が進まないので
断っても、谷口はしつこかった。
「ゆりちゃんも来てるよ。みんな久しぶりに山本に会いたがってるんだから、来ればいいじゃん。」
中学時代、佐倉はみんなにゆりちゃんって呼ばれてた。
俺は呼べなかったけど。
谷口は俺の気持ちに気付いてるのか。

俺と佐倉が一緒に歩いている時に、何人かの中学の友達と出くわした。
友達がニヤニヤしながら噂になってるぜと教えてくれた。

佐倉とは随分会ってない。
気まずくてもそれでも会いたくなった俺は、行くことにして香織の家を教えてもらう。
もしかしたら佐倉も何か言いたいことがあって、俺に会いたいのかもしれない。
459名無しさん@ピンキー:2009/09/28(月) 22:54:06 ID:obHp3Jt0
続きは明日以降に一気に投下して終わらせます。
エロの予定です。
エロ有無しも何も小説作ったのも初めてなもので、
稚拙な文章読んでくれた人ありがとうです。
460名無しさん@ピンキー:2009/09/29(火) 03:23:56 ID:Bl3mwyjK
続き期待
461名無しさん@ピンキー:2009/10/04(日) 03:20:25 ID:AnhhMcJI
462名無しさん@ピンキー:2009/10/09(金) 13:28:54 ID:uLG6P0cw
早く書けよ
463名無しさん@ピンキー:2009/10/09(金) 21:54:07 ID:PmrVQncs
早漏だねぇ
464名無しさん@ピンキー:2009/10/11(日) 14:22:26 ID:2zNiN2dn
この腹黒スキーども、今すぐ本屋行って「トリプル押しかけ許婚」を買ってこい
腹黒毒舌ロリのベタボレとか見れるぞ
465名無しさん@ピンキー:2009/10/11(日) 16:19:30 ID:dLwLF4MO
よし、さっそく逝ってくる
466名無しさん@ピンキー:2009/10/19(月) 13:34:06 ID:DHt1ei5i
保守
467名無しさん@ピンキー:2009/11/02(月) 16:31:14 ID:xsN7RXHU
保守
468名無しさん@ピンキー:2009/11/02(月) 21:32:37 ID:goQ8aeO8
>>459
まだかよwwwwwwwwww
469名無しさん@ピンキー:2009/11/04(水) 11:41:55 ID:5IRf+jCr
>>468
飽きたんだろ。
470名無しさん@ピンキー:2009/11/09(月) 22:37:00 ID:1oZYHYEM
待ってるよwww
471名無しさん@ピンキー:2009/11/13(金) 16:33:19 ID:Lc71GlAK
もう、何を待ってるのかすらわからんなw。
472名無しさん@ピンキー:2009/11/24(火) 20:51:56 ID:GKEyTSd6
久しぶりにage
せっかく良スレなのに勿体無い
473名無しさん@ピンキー:2009/11/24(火) 23:30:58 ID:XrnMP1hT
「さーね、どーだろ?強いっては聞くけど、でもなになに?サトってもしか三浦に興味あんの?」
 と愉快そうに突っ込まれた時、私は笑って答えたつもりだった。
「ハハッ、バーカ!んなこと言ってネーって!つか誰も三浦のことなんか聞いてネーのに、
ミッコが気にしてんじゃん?んー?」
「ちょっ、あんたが言い出したんじゃん!」
「あたしは剣道部が強いかどうかって聞いただけっスよ?だーれも三浦のことなんか、
なんにも聞いてないんスけど?」
 実のところここまで返すつもりはなかったが、路子の指摘に慌ててしまったこともあり、
必要以上に責めてしまう自分を止められなかったのだが……路子の反応を見た瞬間、
里子は自分の発言を後悔した。里子は急に俯き、頬を染めて呟くように答えた。
「……あー…サト、ごめん。…そだね…」
「…」
 里子にとって、こんなに明白な事態は小学校以来のことだった。純粋に好きだった、
気弱で大人しい男子を友達とからかっている内に転校されてしまい、
胸にぽっかりと大きな穴が開いたあの日と少し似たような感じがした瞬間、
里子の心臓は誰かに握られたように痛んだ。そしてその痛みを避けようと、
里子は唯一の親友の背中をドンッと叩いてから囁いた。
「ゴメンゴメン!…でもさ、あのさ……ミッコ、ちょっと来な」
「…なに?」
「いーーから!」
474名無しさん@ピンキー:2009/12/12(土) 18:24:40 ID:WQ6ePeVi
巻き込まれ規制解除記念に
純真な男が年上のパターンで、保守代わり
475名無しさん@ピンキー:2009/12/12(土) 18:28:55 ID:WQ6ePeVi
 非の打ち所のない人間を演じるというのは、なかなかに辛いものだ。
 それでも、元々演じようもないほどに非のありすぎる人間どもに比べれば、私は恵まれている。
 染めてはもったいないと言われる黒髪と、母譲りの白い肌と。細身の体は手足が長く、華奢で可憐。顔形も美麗にして清ら、清純派の美少女を見事に形作っている。
 その上裕福な家の三女、生活に困ったこともない。
 これで性格まで完璧であったなら、きっと私は薄命で終わるだろう。だからこそ、ナルキッソスのように、けれど彼より狡猾に、私は生きなくては。

「郷原さん、もう帰るの?」

 クラスの女子が一人、鞄を肩にかけた私に声をかけてくる。かけるな。五月蝿い。
「うん、今日はちょっと」
 そうそう毎日毎日、お前達のようにお喋りに興じてられるものか。苦行だ。
と思いながら、柔らかい微笑を浮かべて、申し訳なさそうに首を傾げてみせる私。
「さおりん忙しいもんねー」
 誰がさおりんだ。私の名前は沙織だっての。
 男子からは高嶺の花と見られている私だが、女子からは癒しキャラ扱いをされて方向性の修正に悩む。
 高校生の女子といえば、もう少し成熟していてもいいんじゃないのか。私のように。
「ごめんね、私ももうちょっと、みんなの話聞いてたいんだけど」
「あーもー、さおりん今日も髪の毛さらっさら。シャンプー何使ってるんだっけ?」
 親から押し付けられた高級品。
 帰ると言っているだろうが、ひっつくな。
「ううん、忘れちゃった」
 私はまた済まなそうに笑って、やんわり背中にしがみついてきたやつを引き剥がす。
 じゃあね、と教室の女子どもに手を振った。社交辞令社交辞令。さよならまた明日。会いたくもないけれど会ってあげましょう。
476名無しさん@ピンキー:2009/12/12(土) 18:31:14 ID:WQ6ePeVi
校門を出て、少しは歩く。
 というかこの私立高校、無駄に景観と緑とやらに拘っていて、校門からしばらく歩行者オンリーの並木道が続く。
 おかげで迎えの車も、すぐ傍にはつけられない。裏手の職員用の方を使うわけにもいかず。面倒なことをするものだ。
 憮然と、私は枯葉を踏みながら歩んでいく。
 ようやく終わりが見えてきた頃に、目立つ高級車が一台と悪目立ちしている男が一人、同じく目に入ってくる。
 今日の迎えもこいつか。たまにはメイドの方を寄越してくれないものだろうかと思い、ついつい溜め息をついた。
 けして、その男、執事(要するに使用人だ)の望月遼太郎。容貌が悪いわけではない。
 むしろ三十に近づきつつある割には若々しく、精悍な整った顔ではある。
 しかしお前はマフィアかヤクザなのかと思うような黒スーツと、少しでも頬を動かしたら世界が滅びでもするのだろうかと思うほどの仏頂面が、異様な存在感を放っていて恥ずかしい。
 その彼が、私に気づく。

「お嬢!」

 その瞬間、主人を見つけた犬のように、その顔がくしゃくしゃに綻んだ。はい今お前の世界滅びた。滅びたよ。
 私をお嬢と呼ぶな、沙織お嬢様と呼べ。うちにはお嬢が上に二人いてややこしいんだよ。そして私に様付けをしないなんて、使用人のくせに無礼千万だ。
 しかしそれを口に出して信用を失い、後の面倒に繋がると困るので、私は寛容に微笑んでみせる。
「ごめんなさい、待たせましたか、望月」
「いいえ、少しも。お荷物をこちらへ」
 にこにこ嬉しそうに笑うな、振っている尻尾が見えそうで鬱陶しい。私にギャップ萌えはない。
 鞄を手渡すと、望月は手馴れた動きでそれを後部座席に置く。そして助手席側のドアを開けると、恭しく私に促した。
 こういうことはできるのに、なぜ私を沙織お嬢様と呼べない、腹の立つ。
「ありがとう、望月」
「本日は直接お帰りになりますね」
「ええ」
 “優しいお嬢様”は、“癒し系の高嶺の花”と同じくらいにエネルギーと忍耐力を要する演技だ。
 けれど私は、それを持続する。
 運転をする望月の顔を、横目で見た。何か言っているので、適当に相槌を打っておこう。
 何の悩みも苦悩もなさそうな、明るい、裏表のない、騙されやすそうな、むしろ恒常的に私に騙されている、馬鹿っぽい、そんな望月が――羨ましく、ならなかった。
 誰がなるものか。



続くか不明
477名無しさん@ピンキー:2009/12/12(土) 20:31:13 ID:wiFHfkos
GJ!
478名無しさん@ピンキー:2009/12/12(土) 22:21:36 ID:djmfVr00
GJ!このスレの新たな活力になってほしい
479名無しさん@ピンキー:2009/12/14(月) 08:57:43 ID:5u9sEikp
キタ-(´Д`)--
めいこと高坂の人降臨!?
480名無しさん@ピンキー:2009/12/15(火) 22:15:52 ID:clXngOIP
続いてくれると嬉しい
481名無しさん@ピンキー:2009/12/16(水) 20:43:37 ID:Bdq+gRFe
>>476
>少しでも頬を動かしたら世界が滅びでもするのだろうかと思うほどの仏頂面
>その顔がくしゃくしゃに綻んだ。はい今お前の世界滅びた。滅びたよ。

クソワロタwww
こういうの書けるって惚れるわ。
482名無しさん@ピンキー:2009/12/17(木) 19:50:38 ID:lfkFH3mB
保守
483名無しさん@ピンキー:2009/12/22(火) 14:44:22 ID:e+J9nB5S
規制さえ解ければ…
484名無しさん@ピンキー:2009/12/22(火) 22:31:08 ID:e+J9nB5S
解けてたので急ぎ修正、続き投下する。
遅筆な上に考えながら書いてるんで、あんまり期待しないで何かのついでにでも待ってほしい。
めいこと高坂の人とは別人です、ごめんなさい。



 私は何も初めから、膨大な忍耐力とエネルギー、思慮深さと判断力を持っていたわけではない。
 物心ついたばかりの頃は、私は自分に正直であった。
 語彙と知識ばかりは豊富な、こましゃくれた娘と言ってもいい。馬鹿だった。
 幸いにして、小学生となってしばらく経ち、分別のつくようになったことは「反抗期の終わり」と位置づけられたらしく、ほんの時折笑い話に持ち出される程度。
 それを微笑し受け流せる私は、寛容になったのだろう。
 記憶を消せる方法があるなら実行しているが。
 この前ふりが何かというと、要するに。

「お嬢もすっかり柔らかくなられましたよね」

 なんでお前がそんなことを知っている。
 にこやかに言うなお前は私の親か違うだろう車から叩き落すぞ。
 しかしそうすると車が動かせないので、私は辛うじて微笑む。
「そうかしら」
「はい」
 フロントガラスに向かって爽やかに笑うな。無論こちらも見るな。
 一人でいる時の見た目のままの性格のほうが、ずっと付き合いやすかっただろう。
 しかしながら私の期待から大いに逸れて、望月は無駄に好青年であった。むげにするわけにもいかない、私の身になれ。
 ――さて、いつ期待したのだったろう。
「私が、いくつくらいの時からでしょう。そんなに早くから、望月、いました?」
 恥らうように片方の頬に手を当て、首を傾げる。
 私のエネルギーは健在のよう。僥倖。
「十年ほど前からお勤めしています。一度、旦那様のご都合でこちらからは離れましたが」
 十六マイナス十で六。
「あら、お恥ずかしいところを」
 あらじゃない私。
 その頃の私と言えば、そう。

 ――何も思い出すことで記憶を汚すこともないだろう。と思い直し、私はそこで小さく首を振った。

 とにかく全盛期であったはずなのだが、どうしてくれようか。どうにかできるだろうか、いやどうにもしようがない。
 こっそり深呼吸をして、自分を落ち着かせる。
 とりあえず、この男が古くから私を知っている、ということは理解できた。それだけで十分、といったところだろう。
 慣性の法則をほとんど感じさせることなく、車が止まる。
 いつの間にやら、車は家へと着いていた。
485名無しさん@ピンキー:2009/12/22(火) 22:35:58 ID:e+J9nB5S
 所謂、洋風の豪邸だ。
 この狭い日本で、よくもまあこんな土地にこんな家をあんな時代に建てるものだ、と呆れるくらいには。
 しかし建てた人間――西洋趣味であったらしい曽祖父は既に他界しているので、呆れる先もない。
 鞄を持つ望月を後ろに、部屋へ向かって歩いていると、たまたま二番目の姉と鉢合わせた。

「あ、沙織ちゃんだ。お帰りー」
「ただいま、友香姉さん。大学は?」
「今日は授業入れてないの。お休みさー」

 どうやら出かけるところらしい、コートを羽織った長身の友香姉を見上げ、私は少しだけ笑い返した。
 私と比べれば劣るものの、この二番目の姉は努力皆無でありながら綺麗なパーツを持ち合わせている。
 身の丈の割には愛嬌溢れるふるまいが、非常に参考になるとは思う。
 ただし、キャラクター的に模倣するべき状況が見つからず、いまだ試したことはない。
「望月さんもお帰り。いつもいつもお疲れ様だねえ。それじゃっ」
「いえ、とんでもありません。行ってらっしゃいませ、友香お嬢様」
 笑顔で返事をしているが、望月、友香姉はもうそこにいない。
 返事をしないわけにはいかなかっただろうから、哀れといえば哀れではある。行動は早いからなあの姉。
 ――というかお前今、ちゃんと呼んでたじゃないかよ。姉を。

 そしてその行動の早い姉は、私が廊下を歩み自室に入り、望月から鞄を受け取った辺りで不意に戻ってきた。

「そうそう沙織ちゃんや、言い忘れてたけど」
「お帰りなさい友香姉さん」
「まだどこにも行ってないよ」
 分かっているとも。
「明日ね、美晴ちゃん帰ってくるらしいんだ」
 一番上の姉の名を出されて、私は少し首を傾げる。
 美晴姉は去年大学を卒業し、晴れて婚約者と同居中。迫るクリスマスに婚姻するとの話がまことしやかに流れている。家庭内限定だが。
 その彼女が帰ってくるというのは、まさか喧嘩でもしたのか。
「してないよー。沙織ちゃんは心配性だよね」
 心を読むな。
 そして誰が心配性だ。
 友香姉と比較すれば、大方の人間は心配性に振り分けられてしまうだろう。
 それ以前に、誰が姉カップルの心配などするものか。好きにやっていればいい。
「……ええと、何をしに?」
「義兄さんとうちにご挨拶、だとさー。そんでそのお迎えとか、ついでにこの辺あちこちうろうろするらしいから、あの車使うのね」
 この辺りでようやく、本題はそれかと合点が行く。
 つまり、
「ということは、お嬢の登下校は」
「そうそう、電車使ってもらうことになったかも。二日間だけだからさ」
 納得し、私は頷いた。
 別段、依存はない。
 友香姉と比較すると心配性の極みと言える人物、要するには私の両親により、車を使わされているだけだ。
 これが家庭外の人間からの強制であれば、私は柳眉を顰め誰がその通りにするものかと思うところだが。
486名無しさん@ピンキー:2009/12/22(火) 22:45:53 ID:e+J9nB5S
「分かった、そうしますね。それじゃあ、望月」
「承りました」
 何を承った気でいるお前。
 嫌な予感がして、私は引きつりそうな微笑で彼を見上げる。
「同行させていただき、お送りいたします」
 やはりそうか。
 やはりそうくるか。
「私……一人でも電車くらい、乗れますよ。そんな、お手間を」
「いえ、日々お嬢の安全については、旦那様から言付かっていますから」
「お父さんは心配が過ぎるんです」
 私はやんわり笑って、そうして貰いたいのはやまやまだけれど、迷惑でしょうし、という雰囲気をちらつかせる。
 この悪目立ちする男と、あまりうろつきたくはないものだ。
 学校の人間に見られたらどうしてくれる。説明など面倒なことを、私はしたくない。
「送ってもらいなよ沙織ちゃん、電車危ないよー」
 余計な口を挟むな、姉。

 しかしながら二対一、淑やかか弱げを形にしながらでは、敵うべくもない。

 そして最後には「ご迷惑でしょうか」などと言ってきた男に、その通りと答えられるはずもなく。
 私は微笑んで、いいえそんなことはそれではお願いしますねと、言わなくてはならなかった。
 ――その時の望月の笑顔は、ひどく明るく嬉しげなものだった。
 そんなに、私を送り迎えするのは楽しいことなのだろうか?
 この私が多少、絆されそうになるくらいには、幸せそうに見えたのだった。



多分続く
エロが遠いよ…
487名無しさん@ピンキー:2009/12/22(火) 23:47:50 ID:+lhYqzoz
全力で待たせていただく
488名無しさん@ピンキー:2009/12/27(日) 09:29:53 ID:QFxRA1RY
続き来た!次回もマジで期待

489名無しさん@ピンキー:2009/12/30(水) 20:58:56 ID:r+RGs3iy
保守
490名無しさん@ピンキー:2009/12/31(木) 03:23:05 ID:U0rlwkAk
楽しみ
491名無しさん@ピンキー:2010/01/04(月) 01:41:47 ID:JF7U3L7B
マジで過疎ってんなこのスレ
492名無しさん@ピンキー:2010/01/06(水) 01:26:37 ID:MoLO7iwq
保守
493名無しさん@ピンキー:2010/01/09(土) 15:57:34 ID:bv+Cy1rv
494名無しさん@ピンキー:2010/01/18(月) 18:58:32 ID:WLE2cmCN
保守
495名無しさん@ピンキー:2010/01/24(日) 20:25:26 ID:ZBavCAMA
ほっしゅ
496名無しさん@ピンキー:2010/01/27(水) 12:55:29 ID:oFt1LEBD
過疎
497彼女の心は宇宙の深遠:2010/01/28(木) 23:47:38 ID:2Vv1yBR8
はじめまして。
書いている間に設定がおかしなほうへぶっ飛びましたが、ヒロインはちゃんとスレの趣旨通り、
のはずです。
おかしなものを感じたら、『彼女の心は宇宙の深遠』をNGにしてください。


※エロSSを読むときは、部屋を暗くして、他人から離れて見てくださいネ


不思議なことなんて世界にはない。十四年も生きていれば、そのくらいの分別はつく。


「祐樹サーン!」
夏休みも終わったというのに、未だ暑さが和らぐ気配のない9月。休み明けの月曜日。
その放課後。芦屋法子は奇妙な光景を目にした。
部活へと向かう友人たちに別れを告げながら昇降口を出ると、校門の辺りで手を振る女の子と
おぼしき影が、こちらに向かって叫んできていた。
まあ、これだけならさほど奇妙というわけではない。
問題は、その少女の肌が紫だということだ。
いや、正確には違う――よく目をこらして見ると、顔は普通の肌色のようだ。あと、両手の指も。
それ以外は、明らかに丈が足りていないTシャツ(胸が遠目から分かるほど大きすぎるせいだ)を
着ているため露わになっている腹部も、短パンから伸びる脚も、全部紫だ。
靴を履いていないようだが、手と違って、こちらは足先までド紫だった。
(なに、あれ……)
ぽかんと口を開けて、呆然とする。足を動かす余裕などはない。
そのため、自然と少女を観察していた。脳天気に手を振り続ける少女。髪は銀髪のようで、
やけに長い。
自分と同じように、法子の視界にいる人間全てが足を止めて少女を見ていたが、彼女は気にしない。
「こっちデースよーゥ!」
少女は先ほどから、誰かに向かって呼びかけているようだが、かなりの声量だ。
だというのに、特に苦しそうな様子はない。むしろ楽しげだった。
一度目をこすってみたが、少女は消えない。逆に、彼女に向かって走っていく黒い影が現れた。
うちの学生服を来た男子だ。
彼は少女のもとに到達すると、嬉しそうにまた声をあげようとした彼女の口を抑え、
なにごとか叫ぶと、相手の手をつかんでぐんぐんと逃げるように走り去っていった。
しばし、凍ったままの時が過ぎて、やっと金縛りがとけた生徒たちは頭を捻りながら各々歩き出す。
しかし、法子の足は未だ動けなかった。
(今の男子って……)
「……祐樹?」
少女を連れ去った男子に、法子は見覚えがあった。よく知っている。幼なじみだ。にしても……
498彼女の心は宇宙の深遠:2010/01/28(木) 23:50:11 ID:2Vv1yBR8
「なにあれ……」
今度は声に出して呟く。すると、
「へー、あれが宇宙人か」
「ほんとに紫タイツだな」
「でもけっこう可愛いんだろ?」
「だからってあの格好はねーよ」
後ろから笑い声がして、振り返ると、祐樹と同じくクラスメイトの男子たちがいた。
どうやら何か知っているようだが。
「ねえ、今のなに?」
「あ、委員長」
もう帰り?今日は早いね、などとどうでもいいことを聞いてくる男子ども。
それを適当にあしらいながらも、なんとか欲しい答えは手には入った。
「宇宙人。一昨日会ったんだってよ。UFO探してくれって頼まれたらしい」
「へぇ……」
礼を言って男子たちから離れる。つまりは――
(いつものことか……相手が電波だけど)

◆◇◆◇◆

向島祐樹に対する女子の評価は一貫している。いい人≠烽オくは便利≠セ。
頼めば何でもやってくれて、断られることはありえない。
それは彼が優しいからというよりは、優柔不断だからだろう。彼は今、副学級委員をしているが、
自ら立候補をして学級委員に名乗りをあげた法子とは違い、押しつけられて断れなかったせいだ。
そして、彼にはそれ以外に特徴と呼べるところはなにもない。全てが平々凡々、良くも悪くもない。
そんな彼が唯一誇っていることがあるとすれば、あの木内健人≠フ親友ということくらいか。
まあとにかく、彼はいつも貧乏くじを引かされている。とはいえ。
(宇宙人ねえ……)
宇宙人。だから紫タイツか。バカじゃないの。騙されるほうも。騙すほうも。
机に向かいながら、いらいらと法子はノートに書き込んでいた。
(可愛けりゃそれでいいのか――電波でも)
バカ男子どもの発言を思い出し、改めて記憶を漁ってみる。
あの自称・宇宙人娘が可愛いのかどうかは知らないが、胸は大きかった――我知らず、視線が自らの胸元にいく。
馬鹿馬鹿しい。これだから男子は。
その時、小さな弾ける音ともに、持っていたシャーペンの芯が折れた。
ため息をつく。今日で何度目だ?シャーペンをノックすると、出てきた芯はすぐに尽きてしまった。
筆入れを漁ると、出てきたのは空っぽの芯入れだった。
「ああっ!もう!」
増していくばかりのいらいらを八つ当たりするように椅子を押しのけ、法子は立ち上がった。
499彼女の心は宇宙の深遠:2010/01/28(木) 23:54:48 ID:2Vv1yBR8
一番近所のコンビニには、自転車なら一分だ。
夜十時過ぎとはいえ、こう灯りがこうこうとしていれば、変質者もないだろう。
何事もなく買い物を済ませ店から出ると、思いがけないものを見かけた。
通りの向こう、薄暗い道を歩くバカとバカ電波。
未だ学生服姿の彼は、補導されたいのだろうか?
(無視、無視)
それが一番だ。それ以外の選択肢などありえない。
自分からバカに近づいていくほどバカなことはない――だが、自分は思ったよりバカだったらしい。
「向島くん!」
声をかけた理由は、単なる好奇心としか言いようがない。少なくとも、この時はそう思った。
びくっと、大げさに驚いてきょろきょろと辺りを見回す祐樹。
先生にでも見つかったかと思ったのだろうか?
やっとこちらを見つけて、安堵の顔してから彼は電波を連れ立って近づいてきた。
よく見ると、手をつないでいる――もしかして、放課後からずっと手を繋いでいたのか?
愚にもつかないことが思い浮かび、引きつりそうになる顔に
なんとか普段の笑顔≠張り付かせ、彼らを待った。
「こんばんは、芦屋さん」
「こんばんはアシヤサン」
彼が挨拶するのをちらっと見てから、ついて来た女が全く同じことを繰り返してきたが、
発音がおかしかった。
「こんばんは。えーっと、彼女は?」
祐樹に目配せをしてから、女を見やる。
女の格好は先ほどと変わっていた。といっても、紫の全身タイツはそのままだ。
Tシャツと短パンを脱いでいる。
近くで見れば、女は確かに可愛かった。日本人離れした目鼻立ちをしている。
ただしどことなく――雰囲気というべきか――、バカっぽい。
「う、うーん。彼女はソラって言って……」
「祐樹サン、言ったじゃないデスか。アナタたちに発音できるノガそこダケデあって、ワタシの名前は――」
途端に、よくわからない、嗚咽とも取れるような音を発しはじめる女。その中で、
確かに『ソラ』と聞こえる部分があったかもしれないが、呆気にとられた法子にはどうでもいいことだった。
「そ、それで彼女は――」
「……宇宙人?」
ばたばたと身振り混じりで取り繕おうとする彼に、助け船をだしてやる。
早くここから離れたい一心で。
「そっ!そうなんだ!今は一緒に彼女の宇宙船を探してて!」
「へーぇ、そうなんだー。でも、さすがに帰らないとまずいと思うよ?じゃ、がんばって」
「う、うん、ありがとう。あ!もうこんな時間か。帰らないと!ほら、ソラ」
「ばいバーイ」
こちらに手を振りながら、襟首を掴まれ引きずられていく、ソラとかいう女。
500彼女の心は宇宙の深遠:2010/01/28(木) 23:57:48 ID:2Vv1yBR8
法子は手を振り返してやりながら自転車を押して進んだ。角を曲がり――自転車に飛び乗った法子は、
もう後ろを振り返らなかった。
やはり、選択肢は間違いだった。そう思う。
間違いなく、あれ≠ヘ、電波だ。

◆◇◆◇◆

次の日登校すると、祐樹が生徒に囲まれていた。滅多にない光景だ。
「――で、宇宙人ちゃんは――」
わいわいと質問責めしている彼らは、どうやらあの宇宙人≠フことが聞きたいらしい。
ふっと嘲るような笑みが浮かぶのを押さえきれず、それが誰かに見られてないことを確認していると、
祐樹の周りにいた男子の一人がこちらに気づいた。
「あ、委員長おはよー。なあ、委員長は昨日の宇宙人、どう思う?」
どう思うもなにも、答えなど一つに決まってるだろ――しかし、その内心は決して表には出さない。
「うーん、夢のある話だと思うけど……」
曖昧な笑顔と言葉で濁し、法子はそれ以上のことは言わない。代わりに、チャイムがそろそろ鳴る時間だと告げると、
クラスメイトたちは解散していった。
法子自身も自らの席に着いたが、ふと気配を感じた。座ったまま振り向く。そこには祐樹がいた。
「あ、あの……昨日のことなんだけど……」
「もうすぐ先生が来るわよ?向島くん」
やんわりと、笑顔で言ってやる。拒絶を。
「ご、ごめん。じゃあ、あとで――」
同時にチャイムが鳴った。そして、
「おっはよう!諸君!」
担任の岡崎が、今日も暑苦しい笑顔を浮かべ、暑苦しい挨拶をしながら、暑苦しく教室に入ってきた。
体感温度が数度上がった気がする。
さすがに祐樹はあきらめたようで、名残惜しむように去っていったが、
法子は彼のほうを見てはやらなかった。


休み時間、女子トイレにて。用を済ませた法子は、個室から出ようとしたら、
話し声がしたので思いとどまった。
「宇宙人って、マジかな?」
「えぇ、ないでしょ」
きゃははと笑いながら喋る彼女たちの声には聞き覚えがある。うちのクラスの女子だ。
「いや、そうじゃなくてさ。向島がマジで信じてるかどうかってこと」
「あー、あいつならありえるー」
バカの馬鹿話をするバカ。ため息をついてから扉を開ける。バカに付き合うつもりはない。
「い、委員長?」
驚いた顔でこちらを見るバカ二人。彼女らを無視して手を洗い流し、出入り口に向かう。
扉を開ける一瞬前、
「あんまり声大きいと、木内くんにも聞かれるよ」
その言葉を残して、法子はトイレを後にした。
501彼女の心は宇宙の深遠:2010/01/29(金) 00:01:50 ID:2Vv1yBR8
法子の父親は市長だ。だからといって、何か優遇された記憶は彼女にはない。しかし、周りの反応はあからさまだった。
法子と同年代の子供たちは、法子に逆らったら本気で島流しにされると、
少なくとも小学校までは信じていたようだし――まったく、バカばかりだ――、
大人は大人で、法子が文武ともに優れているのは父の教育の賜物だといい、
リーダーシップを発揮すればさすがは父の子だとほめちぎった。
法子の努力など、見ようともしないで。
そして、大人が彼女を誉めれば誉めるほど、子供たちが――特に女子が、
彼女を疎んじていたことに、法子は気づいていた。


放課後、帰ろうとした法子は、祐樹とともに、担任の岡崎に呼び止められた。
資料の作成をしてほしいらしい。
「じゃあ、頼んだぞ。二人とも」
「あ、あの、先生!僕――」
「これも学級委員の仕事だからさ、頼むよ。な?」
「は、はあ」
落ちた。祐樹はもう言い返せないはずだ。
わかりました――と法子は返事をしようとしたが、その機先を制して、
「でも、どうしても用事が――」
祐樹が食い下がった。軽い驚きとともに、祐樹の顔を見る。必死だ。
「頼むよ、先生も忙しくて。なんなら他の奴らに手伝わせていいから」
「……わかりました」
今度こそ祐樹は落ちた。それから岡崎は、さも忙しそうに教室を出て行った。
「早く終わらせましょ」
落胆する彼に告げる。早く帰りたいなら、さっさと頭を切り替えればいい。
「うん……」
だが、彼の動きはのろかった。


ぱちん、ぱちん。ホッチキスの音がやけに大きく聞こえるのは、自分も相手も無言だからだろうか。
普段ならば、こういう状況で法子は、できるだけ会話をする努力をする。
正直に言えば、黙々と作業に没頭したい質だったが、暗い奴だとは思われたくない。
それに、同じ作業をしながら雑談をしていると、仲間意識というのが芽生えるらしく、
普段は聞けないようなことをぽろっと漏らしてくれることがあるのだ。
だが、今一緒にいるのは祐樹だ。疎遠になっていたが、今年同じクラスになってからは何度も話している。
結果、特に変わったことはないようだから、今さら気になることはない。
彼のほうは、今の法子の本性を知らないだろうが。
祐樹は、今の法子をどう思っているのだろうか。
小学三年生の時に引っ越した祐樹。もっとも、市内であったため中学校でまた同じになった。
だが、再会してからはお互い名前で呼ばなくなり、話をすることも遊ぶこともなくなった。
502彼女の心は宇宙の深遠:2010/01/29(金) 00:04:41 ID:2Vv1yBR8
「あの……芦屋さん」
「なに?」
作業を続けながら返事だけを返す。話しかけるなという意味なのだが、祐樹には伝わらなかったようだ。
「昨日の――ソラのことなんだけど……」
こっちは聞きたくないんだけど。しかし祐樹はもごもごと歯切れ悪く話し続けた。
「あんなことで、彼女のことを誤解しないで欲しいんだ。ソラは、嘘をついてる、わけじゃあ……」
説得力の無さに気づいたのだろうか。彼の言葉は尻すぼみに消えていった。
「祐樹は信じてるわけ?」
目線だけを彼に向けると、祐樹が俯いていた顔をあげるところだった。
そこには少なからぬ喜色が見えた。
「うん。きっと法子ちゃんも――」
「ばっかじゃないの」
「え……?」
祐樹の表情が、一転して間抜け面としか言いようのない形で凍った。
そんな彼に、ちゃんと向き直る。
「本物のわけないでしょ。本物だとすれば、あれは本物の電波よ」
「でん……ぱ……?」
「頭がおかしいってこと」
さっと、祐樹の表情が朱に染まる。ころころと先ほどからよく変わる。それは彼が、
自分の感情にさえ素直だからだろう。
「違う!ソラは本物≠ネんだ!証拠だってある!」
「紫のタイツのこと?それとも、彼女の名前?」
あんなものを信じる人間がほんとにいるとは。
「どうしようもないバカね」
「違う、ほんとなんだ!もう一度ソラと会えば、そうすれば――」
「嫌よ。あんな子」
もう、法子は祐樹を見ていなかった。あともう少しで自分の分の作業は終わる。
終わらせればもうここに用はない。
しかし祐樹は、まだこちらを見ていた。視線を感じる。
「法子ちゃん、どうして……」
「その呼び方はやめて。私はもう法子ちゃん≠カゃない」
そう。もう自分は、祐樹の知っている、幼い法子ではない。


夜も更けて。
法子はいつものように机に向かってノートを開いていたが、
なにも書かずにその上に突っ伏していた。
(なんであんなこと……)
作業は結局終わらなかった。あの後すぐに岡崎がやってきて、帰るように言われた。
なんでも、最近この界隈で変質者――着ぐるみを着ているらしい――だかが現れるので、
生徒をなるべく早く帰らせるように指示されたらしい。まあ、それはともかく。
503彼女の心は宇宙の深遠:2010/01/29(金) 00:06:02 ID:2Vv1yBR8
法子は突っ伏してはいるが、泣いてはいなかった。自分はそんなに弱くない。
それに、そこまで素直でもない。
でも、泣いたら楽になるだろうか?感情を涙とともに吐き出せば。
そして、その泣きはらした顔で登校して、祐樹に謝るのか?
彼は間違いなく許すだろう。許されたら、あの女に会うことになるのか?
ぎゅっと、手を握りしめる力が増した。そんなこと、絶対にするものか。
もう一度会えば本物≠セと分かる、だと?
どんな手品を見せられたのか知らないが、祐樹はすっかり信じ込んでいた。
「宇宙人……だって……?」
忌々しく呟く。
(そうだ、あの女だ)
頭のおかしい電波女。あいつが祐樹をもおかしくしたのだ。
「そうだ、私は悪くない」
自分に言い聞かす。
自分は悪くない。
自分は当然のことを言ったまでだ。
(あいつの化けの皮を剥がせば、祐樹だって)
顔を上げる。机の横、右斜め前に窓があり、そこから空が見えた。
空と、心なしか赤く染まったように見える満月が。
(そうだ……簡単なことよ)
法子は月に笑いかけた。
504おっちゃん牛乳 ◆2nkMiLkTeA :2010/01/29(金) 00:08:27 ID:0sHfB2aJ
今回は以上です。
携帯からの書き込みなので、変な改行があってもどうかお許しを。
投稿してる時に思ったんですけど、番号とか振れば良かったかも。
505名無しさん@ピンキー:2010/01/29(金) 23:26:08 ID:IpOMf8gh
GJ!!! これは続きが楽しみでならない
506名無しさん@ピンキー:2010/01/30(土) 11:38:16 ID:9bDt+p0N
なんというGJ
そこはかとなくジュヴナイル系統の雰囲気も好みです
続きを楽しみにしています
507名無しさん@ピンキー:2010/01/30(土) 22:48:42 ID:Pl2uRswV
これは楽しみだわ
508名無しさん@ピンキー:2010/01/31(日) 19:08:47 ID:ynLjQ/Fg
GJ
これは期待
509名無しさん@ピンキー:2010/02/01(月) 17:21:00 ID:PUj+uyK6
おっちゃん牛乳です。お待たせしています。
作品の続きなんですが……規制されましたorz
このレスは代行にお願いして書き込んでもらっています。
正直いつ解除になるのかさっぱりわかりません。作品まで代行して貰うかどうかは悩みます。
期待していただいたのに落とすような形になって申し訳ありません……。
510彼女の心は宇宙の深遠:2010/02/06(土) 22:35:58 ID:D4Ous1pl
◆◇◆◇◆

翌日、法子は昨日と同じ時間に登校した。
今朝は祐樹の周りには、人だかりはできていない。木内健人と話している。
法子が席に着くと、昨日と同じように祐樹が話しかけてきたが、今日は無視した。
彼が話しかけてきてすぐに、昨日と同じように岡崎が暑苦しくやってきて――
昨日と代わり映えのしないまま放課後となった。
放課後、頼まれ事をされなかったのは、数少ない昨日とは違う点だ。
ちらちらとこちらを見てくる祐樹を、クラスメイトの女子と話して無視していると、
やがてあきらめたのか教室を出て行った。
慌てないように、怪しく見えないようにクラスメイトとの話を打ち切り、法子も続く。
祐樹には気づかれないように。
階段を下り、昇降口を抜ける。校門見やると、昨日と同じように紫ずくめの女がいた。
一昨日のように祐樹に呼びかけてこないのは、何か言われたのか。
祐樹は電波女と合流すると、彼の家路とはまるで違う方向へと歩き出した。
その後を、法子は見つからないように追いかけた。


ひょっとして、今の自分は相当馬鹿馬鹿しいことをしているのではないか。
それは、もう一時間も前に浮かんでいた疑問だった。すぐに答えは出たが、法子はそれを黙殺した。
というか、自分はなぜこんなことをしているんだろう。
橋の上から、川縁で遊んでいるようにしか見えない二人を覗きこんでいると、つくづくそう思う。
(なにがUFO探しよ……)
遊んでいるだけじゃない。
(もう帰ろうかな……)
果てしなく時間を無駄にしているのは疑いようもない。
空しい気持ちで、ぼーっと二人を――いや、祐樹を見ていると、昔の思い出が浮かび上がってきた。
昔はよく二人で遊んだものだ。あの頃、法子にとって祐樹は兄のようなものだった。同い年だが。
幼い頃の祐樹は、今では考えられないほどしっかりしていたように思う。その頃から、
みんなの手助けばかりしていた――ふっと笑みが漏れる。
(話しかけてみようか)
今ならそれもありかもしれない。しかし。
夢想が突然打ち切られ、現実の映像が流れ込んできた。いつの間にか、女が祐樹のすぐそばにいる。
急に二人がスローモーションになって――
女の唇が。祐樹に――
「いや――」
それは最初、小さな波紋だった。水面を揺らす小さなさざ波。だがそれは、気づけば
すべてを飲み込む渦潮になっていた。
「いやあああああああああ――」
その瞬間、法子の世界が大きく歪み、法子自身も変質していた。
511彼女の心は宇宙の深遠:2010/02/06(土) 22:40:13 ID:D4Ous1pl
◆◇◆◇◆

悲鳴が聞こえて、祐樹はとっさに身構えた。悲鳴がどこから聞こえたのかは分からない。
焦るように辺りを見回すと、橋の上に異形の存在が立っていた――予め知らされていたこととはいえ、
明確な殺意をこちらに向けている化け物と対峙すれば、後ずさりしてしまったのは仕方がない。はずだ。
「出ましたネ」
予想した張本人、ソラは極めて冷静だった。コスモゴーストの正確な出現時間も、
相手の姿や能力も、そして、霊媒が誰であるかも分からない不確かな予想だと言っていたが、
まったく焦っていない。至極当然といった様子である。
ソラに頷くと、彼女は左手を差し出してきた。
祐樹も手を伸ばした。その手を握るためではない。その左手の手首を撫でさするためだ。
すると、撫でた後に光る記号――ソラたちの文字が浮かびあがり、ソラの身体は
不定形の紫の物体と化した。それは、広がりながら祐樹を包み込んだ。

◆◇◆◇◆

「――ちゃん、法子ちゃん」
誰かが、優しく私を呼ぶ声が聞こえる……
(でも……だれ……?)
「だれ……?」
心に浮かんだ疑問は、我知らず小さな呟きとなって、口から出て行った。
目を開けると、答えは容易だった。声の主は、声と同様の優しい微笑を浮かべていた。
「ゆう……き……?」
「おはよう、法子ちゃん」


なんとか続き投稿できそうです。
設定はこのあたりから変な方向に飛ぶんですが。
512名無しさん@ピンキー:2010/02/07(日) 22:55:08 ID:U+Ds9WbC
おお乙!続き待ってました!
513名無しさん@ピンキー:2010/02/08(月) 22:06:21 ID:bELgJOli
続き楽しみに待ってます
規制解けたときで良いので地道に投稿してください
514名無しさん@ピンキー:2010/02/09(火) 12:04:46 ID:7M80lrNq
GJ
素直に面白い
515名無しさん@ピンキー:2010/02/09(火) 22:29:20 ID:8u4UzWCg
続きが楽しみ
516名無しさん@ピンキー:2010/02/16(火) 01:04:20 ID:7rh5yTnr
猫被ってる女に惹かれる
517彼女の心は宇宙の深遠:2010/02/16(火) 20:06:59 ID:+OlSnhne
「びっくりしたよ、急に寝ちゃうからさ」
「あ、あはは」
私もよ。まさか、気になる男の子を自室にあげて、部屋どころかこの家自体で二人きりの
状況だというのに、あろうことかその男の子の隣で眠りこけるとは。驚きを通り越して呆れてしまう。
まさか本当に、他人に思われているほど、自分は鈍い性格ではないと思っていたのだが。
(でも――)
ちらっと横を見る。祐樹君と目が合い、恥ずかしさで赤くなっていた顔に、
更に血が上るのを感じた。
(ほんとこれでよく寝られたわ)
ベッドに隣り合って座り、肌が密着しそうなほど近くに祐樹君がいる状況で。
「僕は、そんなに無害に見える?」
「へ?」
彼の顔から、景色は目まぐるしく変わり、気づけば仰向けにされた私は、天井を見ていた。
「寝てる間に、こんなことの一つでもしたかもしれないよ」
倒れた私の顔を、覆い被さるようにして見ている祐樹君。表情はいつものように
優しげなのに、瞳にぎらぎらとした光が見えた。
何も言えない。心臓がうるさすぎて、何も考えられない。
「いいよね?」
この状況では、正常な判断を望むことなどできない。
それでも、私は頷いた。
518彼女の心は宇宙の深遠:2010/02/16(火) 20:08:51 ID:+OlSnhne
◆◇◆◇◆

気がつくと、辺り一面真っ暗闇だった。
「これが……法子ちゃんの理想の世界?」
〈イエ、違いマス。彼女の精神カラ切り離された部分デスね〉
その声は、頭の中から響いている。今、自分と声の主は一心同体だ。
「切り離した?」
〈エエ。たぶん、精神世界に彼女を定着サセル時に、邪魔だったンでショウ〉
「ふーん……」
きょろきょろと辺りを見回すが、暗闇しかない。どこへ向かえばいいのやら。
「彼女はどこにいるの?」
〈さあ?勘デ進んでクダさい〉
あまりといえばあんまりな答えに、途方にくれて裕樹は言い返した。
「そんな適当な……」
〈心の中デハ、方向も距離も意味ヲなしまセン。裕樹サンの気持ち次第デス〉
だからファイト!と、無意味に言ってくるソラ。
さらに何か言い返そうとしたが、
〈うっきゃあ!〉
「どうしたの!?」
〈だいじょぶデス。戦闘に集中しマス〉
「う、うん。気をつけて」
通信が途切れ、また辺りを見回す。深い深い闇。しかし、
「……光?とりあえず、あっちに行ってみようかな」
夜空に輝く星のように。だが儚い。見つけたわずかな光に向かって、祐樹は歩き出した。
519名無しさん@ピンキー:2010/02/24(水) 17:27:40 ID:FX/DcfgF
GJ
応援する
520名無しさん@ピンキー:2010/03/01(月) 19:37:05 ID:PC30MYRl
GJ
521名無しさん@ピンキー:2010/03/11(木) 06:33:50 ID:09hlco4S
GJ
522名無しさん@ピンキー:2010/03/20(土) 20:04:01 ID:3vn7+4hD
保守
523名無しさん@ピンキー:2010/03/26(金) 03:10:35 ID:Fe22kCpU
好きなシチュかもしれない
524名無しさん@ピンキー:2010/04/09(金) 03:36:38 ID:xSsQOjfH
保守
525名無しさん@ピンキー:2010/04/25(日) 23:40:17 ID:UXJ3fYpn
保守
526名無しさん@ピンキー:2010/05/04(火) 04:23:31 ID:0CbMBdI3
保守
527名無しさん@ピンキー:2010/05/13(木) 04:01:25 ID:zd4yNXxR
思えば俺の初恋の相手も腹黒だったな…
実体験を元にして書くのも面白いかな
528名無しさん@ピンキー:2010/05/13(木) 04:33:42 ID:WP99i5GW
そのセルフナイフに耐えられるなら頑張ってくれwww
529名無しさん@ピンキー:2010/05/20(木) 00:28:20 ID:PFsVPaKG
保守
530名無しさん@ピンキー:2010/05/20(木) 01:09:53 ID:8quuG4n8
隠れた良スレの予感保守
531名無しさん@ピンキー:2010/05/24(月) 14:41:03 ID:G+uLMv9V
(´・ω・`)ほ
532名無しさん@ピンキー:2010/05/29(土) 12:17:05 ID:U16c0hiN
時代がまだ追いつかないのか…保守
533名無しさん@ピンキー:2010/05/29(土) 23:39:03 ID:fGZU/wW7
腹黒女が実は純情だといいよね
534名無しさん@ピンキー:2010/06/08(火) 03:47:24 ID:cy9UjyHV
保守
535名無しさん@ピンキー:2010/06/13(日) 15:15:20 ID:OhnAF21B
保守
536名無しさん@ピンキー:2010/06/14(月) 01:17:54 ID:Fket/+VP
ちょっと前に保守代わりに頑張って書いたんだが
展開に行き詰まって止めちった
いつか出せればいいんだが
537名無しさん@ピンキー:2010/06/14(月) 01:20:51 ID:1wyU6ESs
俺は>>536を支援するよ
頑張ってください
538名無しさん@ピンキー:2010/06/16(水) 16:37:34 ID:OHA2aKnL
俺も応援してる>>536
539名無しさん@ピンキー:2010/06/19(土) 22:50:59 ID:qSojHLMk
保守
540名無しさん@ピンキー:2010/06/26(土) 05:30:04 ID:x5XZuwbr
保守
541名無しさん@ピンキー:2010/06/29(火) 04:47:18 ID:r6HZLJEz
途中まで書けたんで出してみます

・先生(男)生徒(女)もの
・ちょっとサスペンス風味?

結構長くなりそうなんですが…
保守代わりにでも読んでもらえればありがたいです
542由梨と上原先生:2010/06/29(火) 04:51:55 ID:r6HZLJEz


「…は?僕で4人目って…」
「あっ!シーっですよ上原先生」
 現代文の中島先生は、ぽってりした唇に指を当て、僕に注意を促した。
「はあ…?」

 授業前の廊下はザワザワと喧しく、時折生徒達がチラリチラリと僕に視線を向ける。
 見ない顔で珍しいんだろうな。
 まあ私立とは言えこんな片田舎に、僕みたいな若くて余所から来た人間が赴任して来るなんて事は、かなり珍しいんだろう。

 びゅっ!と鋭い風が窓に叩き付けられ、窓ガラスがビリリリと震える。
 寒そう…大分北に来ちゃったもんだな…。

「上原先生、聞いてるんですかっ」
「ああっハイ、ハイ。えっと、新任で来るのが僕で…」
「あなたで4人目です」
 中島先生は、愛嬌のある可愛らしい顔に似合わない仏頂面で続けた。
「あんまり大きな声じゃ言えないんですけど。
ここ1年以上、新任で来てもらった男の先生皆、何故かすぐに辞められちゃうんですよ」
 大きな声で言えないと言いつつも、元々喋り好きなのか、ぺらぺらと語りながら中島先生は歩を進める。

「私は2年目で、この学校の教師で一番若いんですけど…同じ時期に入った若い先生は最初の3ヶ月で辞めてしまわれて」
「さ、3ヶ月ですか」
「代わりに急遽来られた方々も次々と」
「……」

 思わず絶句する。
 確かにここは辺鄙な土地だ。子供だってかなり少ない方だろう。
 正直地元でもない限り避けたくなる土地だし、今の若い先生が田舎暮らしに耐えられないのも…まあ分からないでもない。
 が、にしても。

「そんな。何か辞めざるを得ないような理由でも……まさか」
「教師イジメなんて、この学校では有り得ませんよ」
 ぴたりと中島先生は立ち止まり、チラリと僕をねめつけた。

「本当にここは田舎で、良い意味で何も知らない純粋な子達ばかりなんです。
規模も小さいから目も本当に行き届きますし、そんな事があればすぐに気付きます」
「でも、何も理由がなければ辞めるだなんて」
「今まで辞められた先生は、むしろとても生き生きしていました」
 中島先生は当時を思い出すように、声音を変えた。
 ふと、時間が気になった。
 底冷えする廊下を、もう随分歩いている様な気がする。
543由梨と上原先生:2010/06/29(火) 04:55:53 ID:r6HZLJEz
「皆さん楽しそうで、生き生きしてらして…辞めるだなんて誰も思ってなかったのに。
ある日突然、『辞めます』って言い出すんです」
 理由を質しても皆さん口を閉ざして、一向に話してはくれなかったし。と中島先生は寂しげに漏らす。
 そんな中島先生の気持ちを軽くしてあげたくて、僕は出来る限り気持ちを込めて、先生に語りかける。
「僕は…僕は決して辞めたりなんてしませんよ」
「ええ、だから上原先生には本当に期待しているんです!」

 少し表情を明るくして、中島先生はようやく足を1つの教室の前で止めた。
 2−Aと表記されたその教室からは、ざわりざわりと、生徒達の喧騒が漏れ聞こえる。

「人手不足で、いきなり実質副担任なんてごめんなさいね」
「とんでもない!皆さんの足を引っ張らないように頑張りますよ」
 そう、僕は一つの強い教育に対する志を持ってこの街へやってきた。
 前任者がどうあれ僕のするべき事は、最初から決まっているんだ。

 中島先生は魅力的な笑顔を浮かべ、ポニーテールを揺らして小首を傾げ、言った。
「ようこそ暁高校へ」

 そしてガラリと扉が開かれ一瞬の静寂と共に、僕の異様な非日常の日々が始まった。
544由梨と上原先生:2010/06/29(火) 05:01:20 ID:r6HZLJEz

 ガラリと扉を開くと、喧騒が一層喧しく耳をつんざいた。

「はーい皆、静かに!」
「先生その人が新しい先生ですかー?」
「えっマジで!」
「こらっあんたら少しは黙りなさいっ」
 中島先生はずんずんと小柄な体で生徒を押しのけ、教壇に向かう。
 そして「はい座る!」と、ぱちんと手を鳴らした。
 すると潮が引くようにすんなりと教室は静まり、改めて一斉に生徒たちの視線が僕に集中した。
「……」
 緊張しながらも、やはり様子が気になってそれとなく教室を見渡してみる。
 田舎だけあって、今まで教えてきた都会の子よりか、少し純朴な感じの子が多い気がした。
 髪も一様に真っ黒で、随分化粧っ気もない感じ。

「全校集会で話した通り、今日から新しく英語の先生が赴任されてきました」
 中島先生は一通りの紹介をしてくれた後、僕に自己紹介を促した。
「あ、はじめまして!上原隆といいます。字は」
 僕は後ろを向き、カツカツと白チョークで自身の名を書きつけ向き直る。
「こう書くんですが…」
 あ。
 そして向き直ったその瞬間、僕の視線は教室の窓際の席に釘付けになった。

 何故教室に入ったときに気が付かなかったのか。
 校庭側の窓際、後ろから三列目。
 ぱたりぱたりと風にカーテンが揺られ、その布に隠れるようにして、その子は居た。

 周りの生徒と同じように肩下で揃えられた黒髪と、黒いセーラー服。
 明らかに周囲より白い肌が風景に浮き、その中で大きな瞳がぱちりと開かれている。
 唇は赤く眉は優しげで、いかにも華奢そうな体つきで、何と言うかつまり。

 こんな田舎には有り得ない、とんでもない美少女が居た。
545由梨と上原先生:2010/06/29(火) 05:04:00 ID:r6HZLJEz
「――」
 一瞬目が合った気がしたが、その子は直ぐに伏目になってしまい、バサリと睫毛が降りていく。

「先生?」
「あ、は、はい!前は東京の方に居て、今回は…」

 不審気な中島先生の視線から逃げるように慌てて言葉を重ねていくと、東京という言葉に反応した生徒の一人が不意に声を上げた。
「そんな都会に居たのに、何でわざわざ先生こんな所に来たの?」
 思わず苦笑してしまう。何度も人から聞かれた質問だったからだ。
「いやちょっと照れるんだけど、やっぱり自然の多い場所で、君たちと伸び伸び共に学んでいけるような環境に憧れていてね…」
 顔が赤らむのがわかる。
 我ながら夢見がちで、ドラマや本だのの影響受けすぎているとは思うが、
本当にそんなものに憧れてこの職業を選んでしまったのだから、仕方がない。

「先生バカだな〜!絶対東京の方が楽しいのに」
「本当に遊ぶ場所も何もないんだよーこの辺」
「いやいや何もないなんて逆に良いじゃないか!」
 僕が思わず力を込めて反論すると、それがおかしかったのか、教室が笑いに包まれる。
 よく見れば中島先生までクスクスと笑っている。
 何だかよく分からないが……僕のことは概ね好意的に受け入れられたようだった。
 名前も知らないあの美少女をチラリと見やると、彼女もまたクスクスと微笑んでいた。
546541:2010/06/29(火) 05:08:11 ID:r6HZLJEz
今日はここまでです
また明日出しに来ます
拙いですが頑張って出していくので、よろしくお願いします
547名無しさん@ピンキー:2010/06/29(火) 16:58:08 ID:HQrY2Obn
>>541-546
あんた神過ぎるぜ
最高だな

てことで続き期待してますぜ
一緒にスレを盛り上げて行こう
548名無しさん@ピンキー:2010/06/30(水) 22:06:27 ID:Ht0VjBZ8
続き出しに来ました

>>547
ありがとう
人が居て良かったw
549由梨と上原先生:2010/06/30(水) 22:08:31 ID:Ht0VjBZ8


 新任で来た初日に出会った美少女。
 その素性は案外早く知れた。

「襟沢由梨ですか?そりゃ校内では有名ですよ」
「えりさわ…ゆり?」
 学年主任の平塚先生は、メガネを拭きながら、事も無げに答えた。
 随分白髪の混じった頭髪に、柔和な微笑みは、学校の重鎮といった風格を感じさせる。
「やはり色々と目立つ子ですからね。顔立ちはあの通りだし、頭もいい」
「ああ、なる程」
「しかも今時の子とは思えない程心根の優しい子でね。あの子の明るさには僕も元気を貰いましたよ」
 孫にしたい位だね、と平塚先生は笑いながら言い添えた。
「あの子は確かクラス委員だから、そのうち話す機会もありますよ」
「はあ…」
「可愛いからって、変な気は起こさんで下さいよ」
「なっ何を言い出すんですか!!」
 危うく口に含んだ緑茶を吹き出しそうになる。
 そんな僕の気持ちを知ってか知らずか、平塚先生は陽気に笑い、
「先生次、授業でしょう。頑張って下さいね」と、僕の肩をぽんと叩いた。


 授業自体は滞りなく進み、何も問題は起きなかった。
 が、その間も、胸中にあるモヤモヤが消える事はなかった。
 他にも気にかける生徒は沢山居る筈なのに、どうしても彼女の事が気になるのだ。
 決して変な意味ででは無く、襟沢由梨の存在が妙に気にかかる。
 それに平塚先生は「明るい子」と言っていたが…僕にはどうも、明るさよりも影の部分が感じられるような気がしてならなかった。

 本日最後の授業、気だるさでどんよりした空気を打ち消す様に、僕は声を上げる。
「はい、じゃあ今日はここまで!書いてもらったプリントは、英語係の人が回収して下さい」
 途端に教室は湧き上がり、またワイワイと喧騒が戻る。
 そう言って、僕が帰り支度をしていると、不意に目の前に白い紙が突き出された。
550由梨と上原先生:2010/06/30(水) 22:10:17 ID:Ht0VjBZ8
「先生、集めましたよ」
「ああ、ありが……」
 襟沢由梨だった。

「っ!」
「え?何ですか」
 ぱちくりと瞳を開き、小首を傾げる襟沢。
 …確かに愛らしい。
 じゃなくて!

「いや、ありがとう。えっと君は確か襟沢…」
「はい!委員長と英語係をやってる襟沢由梨っていいます」
 ニコーーっと襟沢は極上の弾けんばかりの笑顔を浮かべた。
 うわ、意外だ。
 影のあるミステリアスなイメージが先行していただけに、元気はつらつな様子にたじろいでしまう。

「そうか委員長もやってるなら、これから色々学校の事教えてもらわないとなあ」
「あ〜センセイ委員長の事雑用だと思ってるでしょ」
「そっそんな事ないよ!」
「ははっ!先生ってやっぱり真面目な方なんですね」
 ころころと笑いながら、襟沢はプリントを持ち直す。
「折角だから、雑用係として職員室までご一緒しますね」
「あ、ああ悪いね」
 先生荷物重そうですし。と襟沢。
 ふわりと髪が揺れ、好意100%の微笑が輝く。
 何という性格のよさ。何という気持ちの良さ。
 完全無欠の美少女とは…正に彼女を言うのだと痛いほど痛感した一幕であった。
551由梨と上原先生:2010/06/30(水) 22:12:31 ID:Ht0VjBZ8
「先生は東京から来たんですよね」
 職員室までの道すがら、興味津々と言ったように襟沢が僕に訊ねてきた。
「そうだよ」
「東京ってどんな所ですか?やっぱり芸能人とか見ますか?」
 田舎の子らしい発想だ。
 純朴さに頬を弛めながら答える。
「そりゃね、毎日住んでいたらたまに遭遇したりはするよ」
「すごーい!東京ってやっぱり最先端って感じですね」
「まあ…何でもある所だからね。でも何にもない所でもある」
 僕はここぞとばかりに力説する。
「田舎だとか思わないで、よく見てみなよ。東京なんかよりずっと良い所があると思うけどな」
「そんな事ある訳ない」
「え」

 一瞬、何処から発せられたのかわからない程、異質な声音が聞こえた。

「? 何ですか?」
 慌てて隣を見やるが、襟沢は変わらず微笑んでいるだけだった。
「あ、いや…」
「絶対東京の方がいいですよ!私109とか行ってみたいんです」
「あ、あー今時の子だなあ」
 今の感覚は、気のせいだろうか。
 …きっと気のせいだ。
 この時の僕は違和感を感じながらも、目の前の無邪気な少女の姿にすっかり気を許してしまっていた。
 襟沢由梨はそれ程までに、優しくて気だての良い、美しい子だったのだ。


 そして数週間。
 授業を重ねるうちに、彼女は生徒の中でもすっかり特別な存在となっていた。
 英語係として僕をサポートしてくれて、また慣れぬ校内の事で分からない事があれば、委員長として支えてくれて。
 いつの間にか彼女は、僕の教師生活の中で無くてはならない存在となっていたのだ。

 襟沢が居てくれて本当に良かった。
 彼女の事は1年間大切に、その成長を見守っていこう。

 そんな風に思っていた矢先、その事件は起きた。
552由梨と上原先生:2010/06/30(水) 22:19:24 ID:Ht0VjBZ8
 その日の昼休み、僕は職員室で自作の弁当をつついていた。
 白米と野菜炒めを詰めた、素っ気ないものだが、男の料理なんてこんなもんだ。
 味気ないキャベツを噛みしめていると、隣に座っていた中島先生が、ヒョイと覗き込んできた。

「隆先生、そのおかず昨日と全く同じじゃありませんか?」
「…中島先生よく見てますね」
「中島先生だなんて。歩美とかで良いですよ〜」
「いやそんな」
 ころころ笑っていた中島先生だったが、不意に思い出したように真顔になった。

「それより先生」
「ハイ?」
 中島先生は声を潜め、僕に問うた。
「最近襟沢さんと仲が良いって聞くんですが…」
「仲が良いってそんな、彼女はたまたま僕に関わる機会が多いだけで」
「先生はそのつもりでも、気を付けないと駄目ですよ。最近の子は大胆ですし、しかも襟沢さんですからね」
 この発言には些か驚いた。
 快活で可愛らしいイメージの強い中島先生の口から、そんな勘ぐるような発言が出るとは思わなかったのだ。

「中島先生!それは襟沢に酷いです。生徒の事を悪く言うのは許しませんよ」
「あらやだ、ごめんなさい」
 中島先生は僕に謝罪し、慌てて付け足した。
「そうね。元々襟沢さんには藤本君が居るし…」
「ーー」
 何故か、ギクリとした。

「藤本?藤本ってB組のサッカー部の奴ですか?」
「ええ、襟沢さんとは幼なじみで、付き合ってはいないけど…時間の問題じゃないかしら」
 中島先生は様子を窺う様に、チロリとこちらを見つめた。
「へえ…あ、僕そろそろ準備したいんで、これで失礼しますね」
「あっあの、今度お昼ご一緒しませんか?」
「そうですね、では」
 中島先生の言葉もロクに耳に入らないまま、僕は職員室を後にした。
 襟沢の…幼なじみ?
553由梨と上原先生:2010/06/30(水) 22:23:22 ID:Ht0VjBZ8
 その後の授業は全く身が入らなかった。
 自分でも何故こんな心境に陥っているのか、訳が分からない。
 藤本は結構なイケメンで、女子に人気が高いらしい。
 成績だって問題ないし、明るくて快活な奴だ。
 …襟沢にぴったりじゃないか。
 僕が気にすることなんて、何も無い。
 自分はただ、教育への夢や情熱だけでこの地へ来たのだから、そんな事を気にする必要がある筈が無いのに。

「では今日はこれで終わりです。質問のある人は個別に来て下さい」
「あ、先生」
 ザワザワと耳をつくざわめきを、凛とした声切り裂く。

「…襟沢」
「はは」
 襟沢由梨が照れ笑いをしながら、目の前に立っていた。

「なに、質問かな?」
「えっと、質問というか…相談ですっ」
 もごもごと視線を微妙に外しながら、恥ずかしげに言葉を紡ぐ姿は、はっきり言って死ぬ程可愛い。
 白い肌が赤く上気し、唇が軽く塗れている。
 その唇を開き、彼女は僕に尋ねる。
「相談なんでちょっと時間掛かっちゃうんですが…先生今日のお仕事は」
「あー…実は平塚先生から頼まれてる仕事があってね。夜まで掛かるんだよ」
「あっでも、私待てますから!」
「ダメだよ、女の子が夜遅くとか危ないだろ?」
 そう窘めると、襟沢は急にきっとした表情となり
「大丈夫です。私教室で待ってますから」
と言うやスカートを翻し、パッと教室を飛び出していってしまった。

「ちょっ、こら襟沢!」
 慌てて後を追い掛けるが、何処へ消えたのかもう姿が見えなくなっていた。
「襟沢…」
 一体いきなり何のつもりなんだ。
 突然の事に混乱し頭を振る。
「ん?」
 その時、妙に視線を感じ、周りを見渡してみる。
 と。

「……」
 見覚えのある、やけに背の高い男子生徒が、凄い眼力でこちらを睨みつけていた。
 藤本だった。
「何なんだ…」
 もう、本当に一体何なんだ……。
 物事の不条理を感じつつ、僕はトボトボとその場を後にした。
554541:2010/06/30(水) 22:25:02 ID:Ht0VjBZ8
ごめん…ミスって上げちゃった

また近日中に続き出しに来ます
では
555名無しさん@ピンキー:2010/06/30(水) 23:49:29 ID:4l//wzfN
>>541 乙です。
これはかなりの長編になりそう。

支援支援
556名無しさん@ピンキー:2010/07/01(木) 22:54:47 ID:NoA6m1Yc
>>541GJ!! 中島先生が本筋にどう絡んでくるのか楽しみ
557541:2010/07/03(土) 01:01:37 ID:6tqDUoVF
こんばんは541です
出しに来ました
558由梨と上原先生:2010/07/03(土) 01:04:16 ID:6tqDUoVF


 数時間後。
「ふう…」
 仕事に区切りがつき、漸く一息着く。
 時刻は、夜の8時すぎを差していた。


 結局学校が終わっても、仕事に追われて2−Aに向かう事は出来なかった。
 行く事が出来ないと一度断った以上、流石の襟沢もとっくに帰っている筈だ。
 気に掛かる反面、これで良かったのだとも思う。
 こんな中途半端な自分のまま、襟沢の相談に乗ることなど出来ない。
 純粋な生徒に対して、僕も誠実に答えるだけの気持ちを養っていかなければならないんだ。

「…帰ろう」
 そしてくたびれた体に鞭打って身支度をして、職員室を出ようとした時、漸く僕はある事に気付く。
 2−Aの鍵が返っていなかった。


 慌てて2−Aに向かう。
 おかしい、2−Aの鍵が返ってきているのを一度見た筈なのに(だから安心していたのに)。
 また無くなっているのは何故だ?
「っと!」
 階段を二段飛ばしで駆け上がり、そのすぐ右に位置する2−Aの教室に飛び込む。

 ガラッ!!
「襟沢!?」

 教室は、限りなく真っ暗だった。
 僅かにグラウンドを照らす照明、そして月明かりだけが、その場を照らし出していた。
 が、襟沢が帰っていない事は明白だった。
559由梨と上原先生:2010/07/03(土) 01:14:53 ID:6tqDUoVF
「襟沢…」
 教卓の上に、彼女のものと思しき鞄が乗っていたのだ。

 何でだ、何で帰らなかったんだ。
 コツ、コツ…。
 呆然と、いつもの習慣も合わさって教壇に上がり、教卓の前に立ちすくむ。
「一体何処に……」
 その時ふと、目の端に黒の切れ端が見えた。

 あれ?
 強烈な違和感と、訳の分からない恐れのようなものが、唐突に頭を支配する。
 あれ?
 恐る恐る、そのまま視線を下ろしていく。
 見慣れた教室の風景から、
 ざらついた教卓の木目から、
 ぽっかり穴の空いた暗がりに…

「先生、私の事好き?」
 三角座りをした襟沢由梨が、教卓の下に潜り込んで笑顔を浮かべていた。

「っ」
 瞬間、襟沢はジャンプするように僕を押し倒し、僕は勢いよく転倒した。


 カチリと、どこからか機械音が聞こえたような気がした。
「うぁっ!えっえりさ」
「先生…」
 辛うじて地面に後ろ手を付け、彼女を見上げる。
 僕に馬乗りになった状態で彼女は、やはり微笑んでいた。
 窓の光に照らされた白い肌は陶磁器の様に輝き、唇は艶やかに塗れている。
 普段は整然と伸び揃った黒髪は乱れ、暗がりの中でも瞳だけは、爛々と輝き。
 それは、ぞっとするような美しさだった。
「……」

「はっ」
 何を停止しているんだ僕は!
 暫しその姿に迂闊にも見入ってしまったが、
必死で現実に思考を引き戻し、襟沢をキッと睨み付け、ビシッと指を突きつける。
「とっとにかく降りなさい!話はそれむぅっ」

 ちゅう。
 一瞬何が起こったのか分からなかった。

 ちゅぷ、にゅる
「んっ?!う」
「…んっ、ふ」
 襟沢が僕にキスをしていた。
 それも、舌を絡めて…。
「…っ!」
 襟沢の舌は溶けてしまいそうな程柔らかく、僕の舌を絡め取っては吸い付き、口内をちくちくと刺激する。
 キスなのに死ぬ程、気持ちいい…。
「セン、セ」
 襟沢が途切れ途切れに、切なく呼び掛けてくる。
 だけどそれはダメだと、決して応えてはいけないと。
「んんっ…ふっ!」
 十分に分かっている筈なのに、僕はその手で彼女の頬を挟んで、舌を絡みつかせた。
560由梨と上原先生:2010/07/03(土) 01:20:05 ID:6tqDUoVF
 くちゅくちゅ、と教室中に響いていた水濁音が漸く止み、つうっと唾液が彼女の唇から零れた。
「……」
 顔が離れ、改めてお互いを見つめ合う。
 襟沢の顔は上気し、潤んだ瞳は誘うように妖艶な光を放っていた。
 襟沢は艶を含んだ声で、ポツリと僕に囁いた。

「先生、私…先生の事が好き」

「それは、ダメだよ襟沢」
 君がいくら僕の事が好きでも、…僕がいくら君が好きでも。
 僕の拒否に、襟沢は少し目を大きく開いたが、すぐに元の微笑を浮かべる。

「でも私先生の事が好きだから…何でも出来るよ」
 何でも?
 僕が尋ねようとするまでに、その『何でも』の内容は明らかになった。

「え!ちょっ!?うわっ」
 ガチャガチャ!ジーッ。
「へへ」

 あろうことか、襟沢は手早く僕のベルトを外し、ジッパーを開け、ズボンをずり降ろしてしまったのだ。
 キスで興奮状態になってしまっていた僕のそこは当然…
「先生お元気ですね」
「げげげんきじゃない!!!」
 元気いっぱいだった。
「嬉しい…」
 襟沢はやはり動じた様子もなく、躊躇なく僕のモノを握り口を近付けていく。
「えっ襟沢!」
 僕の情けない抵抗も虚しく、襟沢はペロリと真っ赤な舌でその先端を舐めまわした。
「ん…」
 ビリリと快感が体を走る。
「うわっちょ、…っ」
 ちゅるっぴちゃぴちゃ…
 生々しい音を立てて、襟沢は僕のモノをアイスキャンディーかの如く舐めまわす。
 ねとり、ねとりと舌が棒に絡みつき、ささいな舌先の動きが強烈な快感となって襲ってくる。
 自分の顔が歪むのが分かる。
 気持ち良すぎる。快楽地獄だ…。

「ふふ」
 襟沢は僕が苦悶している様子を楽しそうに上目遣いで見やると、そのままカプリと僕のモノをくわえ、飲み込んでいった。
561由梨と上原先生:2010/07/03(土) 01:25:38 ID:6tqDUoVF
 じゅぶ、じゅるっ
 襟沢は…、ズブリズブリと、ゆっくりと僕のモノを口内へ収めていく。
「ん…先生の…おっきい」
 襟沢は僕のモノを口に突っ込んでいるというのに器用にそう呟き、それから亀頭を喉元まで押し込んだ。
「うっ…!?」
「ふあ」
 喉の収縮がまた一層先端を刺激する。
「んんっ…」
 襟沢はそのまま小刻みに頭を振り、ズチュッズチュと下品な音を立てながら僕のモノを口を使ってしごいていく。
 じゅる、じゅぶっ
 締め付ける強さ、にゅるりと吸い付くように這い回る舌、絶妙な速さのストローク。
 実際、そのテクニックは異常な巧さだった。
 が、当の僕にそんな事を感心している余裕はなく、快感と衝撃で真っ白になった頭で呆然と襟沢の痴態を眺めるしかなかった。

 そしてこんなにいやらしく乱れても、襟沢はひたすら、綺麗だった。
 顎も大分疲れてきただろうに、一生懸命僕のモノをくわえ込み、口の端からは唾液がぽたりと僕のズボンを濡らしている。
 頬を真っ赤に紅潮させながら汗をつう、と首筋に流している様子は、思わず魅入ってしまいそうな程、妖艶な様だった。
562由梨と上原先生:2010/07/03(土) 01:29:58 ID:6tqDUoVF
「…くっ!」

 …ヤバい。
 そんな風に、まるで一瞬他人ごとの様な目線で彼女を見るもつかの間、早くも限界がすぐそばまでに来ていた。
 襟沢もそれを敏感にキャッチし、いよいよ頭を激しく振り出す。
「ダメだ…襟沢…!」
 今まで流されて来てしまった自分に、漸くマトモな判断が頭に下る。
 大切な生徒に、自分の精液を飲ませるなんて行為が許される筈がない!

 ズッ!ジュルッ
「ふ!?ふっしぇんせ」
 僕が突然腰を引き出し、襟沢は思わぬ僕の行動に目を白黒させる。

「ダメだよ襟沢!口を放しなさい!」
「んんんんっ」
「体はっ!大っ切っに!」
「ひゃっ!ふははひゃい!」

 …何を言っているかは分からないが、放すつもりは毛頭ないようだ。
 自分の最後の理性が腰をぐいぐいと引かせ、彼女の顔を両手で遠ざけさせる。
 が、もう1人の僕の方は理性とは裏腹に、限界どころかあと一息で爆発する寸前まで来ていた。
「んーっんー!っ!」
 彼女は…おちょぼ口で、先端に必死で吸い付いていたが観念したのか、とうとうスポンと口を放した。
「よしっ!襟さ」
 しかし僕の方もこれで気が弛んでしまい。
 ビュッ!ドプッ…!

「……」
「……」

 襟沢は見事に正面から僕の出したモノを浴び、それは彼女の美しい顔や髪、果ては漆黒のセーラー服にまで飛び散ってしまった。
563541:2010/07/03(土) 01:32:15 ID:6tqDUoVF
今回は以上です
次もまた近日中に出します
ではー
564名無しさん@ピンキー:2010/07/03(土) 22:36:02 ID:lorkjBM1
>>541
射精のとこまでやってくれて良かったw
エッチ中に中断されたら生殺しになるとこだったw

そして続きが凄く気になる
565名無しさん@ピンキー:2010/07/04(日) 23:21:55 ID:cbyQCrUI
由梨ちゃんかわいいよ由梨ちゃん
566由梨と上原先生:2010/07/05(月) 19:04:33 ID:YnHxJYBH


 それは一言で言えば、最悪だった。
 彼女は完全に硬直しており、僕もまた同じ様に固まっていた。
 しかし固まっていただけではない。
 僕の頭の中では、至極真っ当なある考えが同時に浮かんでいた。
 何て事だ…。
 耐えきれずに僕は、襟沢の手をそっと取る。
「先生…?」
 襟沢は不思議そうに囁く。
 僕は言った。
「襟沢さん」
「はい」
「ハンカチ持ってる?」
「…え?…あ、これでいいですか?」
「よし!」
 襟沢が渡してくれたピンクのハンカチを握りしめ、僕は勢いよく立ち上がった。

「せんっ」
「早く拭かないとセーラー服に染みが出来てしまう!これ濡らして来るからちょっと待っててくれ!」
「…はぁああ?」

 襟沢が何か不穏な擬音を発したような気もしたが、そんな事にかまう暇もなく、僕は教室を飛び出し一直線に洗面所へ向かった。
567由梨と上原先生:2010/07/05(月) 19:10:07 ID:YnHxJYBH
 命より大切な生徒に何て事を…!
 しかも学園生活の要であるセーラー服にまで被害を…僕は最低だ…!
 ジャー…ジャブジャブ
 猛烈な自責の念に駆られながら、何故か女子トイレの洗面台でハンカチを濡らし、猛ダッシュで教室に戻る。

「襟沢さ…!」

 襟沢の姿は、とっくに消え失せていた。
 この短時間で教室はもぬけの殻となっており、カーテンだけがバタリバタリと夜風に揺れている。
「なんで…」
 それはちょうど新任初日、初めて襟沢を見つけたあの席だった。
 まるで窓から飛び降りてしまったかのように、彼女は居なくなってしまった。

「…」
 自分のその発想が怖くなり、そろりと窓に近付いて覗き込んでみる。
 グラウンドの端は照明が届かないとはいえ、人が居ない事くらいは十分に分かった。
 当たり前だ、きっと彼女は鞄を持って、顔と服を拭きながら帰っていったのだ。
 悲しんでいるだろうか、怒っているだろうか。
 僕は、そんな単純な事でさえも見当が付かなかった。
 そもそもこれは現実なのか?
 全て僕の妄想で、僕はただの変態で下半身裸になって、教室で1人寂しく自慰を……。
「……」
 何だか自分の発想が薄ら寒くなって来たので、とにかく自分の中で一つ、結論付ける。

 とにかく、明日だ。
 明日襟沢が来るにしても、来ないにしても、あの子とはよく話し合わなくてはならない。
 そしてとにかく、ズボンを履こう。
「僕って本当情けないな…」
 情けなく思うと同時に、自分の感情に戸惑う。

 僕は襟沢由梨という少女の得体の知れない内面に恐れさえ抱きつつも、
やはりどこか強く惹かれる自分が居ることを感じていた。
568由梨と上原先生:2010/07/05(月) 19:12:44 ID:YnHxJYBH
 つい声を荒げてしまった中島先生には聞き辛く、他の先生とはまだそこまで仲が良い訳でもなく。

「襟沢由梨について?うーん」
「ちょっと指導に行き詰まってまして…」
「指導というと?」
 結局次の日、僕は主任の平塚先生に相談していた。

 花壇の手入れをする平塚先生を手伝い、水差しを持って僕は応える。
 今日は珍しく寒さが和らいだ陽気で、背中に日差しがさんさんと当たって気持ちが良い。
「その、言いにくい話なのですが…」
「また彼女が問題でも?」
「問題といいますか、生活態度は申し分ないのですが」
 少し言葉に詰まる。
 昨夜の事は流石に言い出せない。
「…彼女は今、思春期特有の視野の狭い状態にあるようで…その、どうやら僕の事を」
「あーなる程!先生青春ですなあ!」
 納得したように感嘆した平塚先生だが、そんな悠長な事を言ってられる事態ではない。
 というか平塚先生軽すぎだろう。
「いや本当に困ってまして…僕は断ってるのですが、彼女もなかなか納得してくれなくて」
「まあー…僕もそういった経験は何度かありますがね、大概の生徒はその時はブツクサ言っても、卒業と共にすんなり思い出にしてくれるもんですよ」
「はあ…」
「彼女の事は、ちゃんとした言葉でお断りしましたか?」
「いや、それは」
「なら今日中にでも、ちゃんと向かい合って話をつけるのが一番だと思うよ」
「……」
 素直になる程、と思った。
 確かに僕は、自分の奥底の襟沢に惹かれる思いから、ちゃんと断る事をしてなかったように思う。
「進路指導室の鍵を貸すから、ちゃんと話し合いなさい?」
 そう言って微笑む平塚先生は泰然自若として、感服の念を覚えた。

「ありがとうございます!」
「はは…しかし君も、厄介な事に巻き込まれたね」
「いや、厄介とは」
「いやいや、厄介事だ」
 そう言って平塚先生は、サクリと土にスコップを突き刺した。
569由梨と上原先生:2010/07/05(月) 19:18:34 ID:YnHxJYBH
 

「何ですかー先生?」
「……!!…っ!」
 英語の授業の後、教壇に襟沢を読んだのはよしとして。
 余りに変化のない襟沢の様子に、僕は硬直してしまった。

 授業中も、見かけも、襟沢に何一つ変わった様子はなかった。
 こうして見ると、セーラー服には染み一つ付いておらず、襟沢の笑顔にも曇り一つ無い。
「…襟沢、あの」
「はいっ」
「昨日の事で話し合いたいから、放課後指導室に来てくれないかな?」
「あっはい!分かりました」
「……うん」
 昨日、と言っても全くの無反応。
 本当に自分の妄想じゃないのか?と半ば絶望的な気持ちになった時、ふと、襟沢が人差し指を唇に当て、こちらを見上げ。

「…昨日は染みにならなかったから、大丈夫ですよ?」
 と、小首を傾げ、顔を赤らめて微笑んだ。

「そ、そうか」
 …どうやら、やはり夢では無かったらしい。


「隆さん!」
 そしてその日のお昼休み。
 不意に聞き慣れなさすぎな呼び掛けを受け振り返ると、そこには中島先生が居た。
「中島先生」
「もう、だから歩美でいいですって」
 いやいや、やはり只の同僚を下で呼ぶのは…。
 僕の動揺もお構いなしに、中島先生は僕の隣に座ると。

「はい!」
「……」
 突然、お弁当を差し出してきた。
 えっと…。

「あの、僕お弁当持ってますよ?」
「私が昨日言ったこと忘れたんですか!?」
 …何だっけ。
「今日お昼…ご一緒しましょう!私作ります!って……!」
「あっ…何か言っていたような」
 僕の曖昧な発言に、中島先生は余程衝撃を受けたのか、青ざめてガコッとお弁当を落とした。
「そんな…酷い、酷い…隆さん…酷すぎるわ」
「あっ中島先生!そんな、本当にごめんなさい!」
 一気に罪悪感が胸中で膨らむ。
 僕は…何て愚かな事をしたんだ。中島先生の純粋な好意を裏切って…。
 さっきから身に覚えのない呼び方や行動をされている気になっていたけど、
きっと全て僕がぼんやりしている間に了承してしまった事に違いない!
「ごめんなさい!なか…歩美先生。ご飯一緒に食べましょう?」
 僕がそう言うと、先程までブツブツ机に向かって話しかけていた歩美先生は、グルンとこちらを振り向き。

「ほんとうですか」
 と、ニコリと笑った。
570541:2010/07/05(月) 19:24:30 ID:YnHxJYBH
今日は以上です
ではまた明後日位に
571名無しさん@ピンキー:2010/07/05(月) 23:22:08 ID:LI2v+Okr
>>541
乙です
中島先生かわいいw
572名無しさん@ピンキー:2010/07/06(火) 22:05:00 ID:6HEJ/P0P
支援
573541:2010/07/07(水) 02:41:45 ID:q7fygqyo
出しに来ました
今回ちょっと長めです
574由梨と上原先生:2010/07/07(水) 02:45:10 ID:q7fygqyo


 今日何だか、本当に奇妙な日だ。
「……」
 引きずられる様にして歩美先生に庭に連れ出され、
もの凄く凝ったお弁当を食べ、何故か生徒達にヒューヒュー言われ。
 そんでもって襟沢の方は何も変わってなくて、でも何も変わってない事はとてつもなく奇異な事で。
「もうこれ以上おかしな事は起こらないでくれ…」
 ただでさえ放課後に襟沢との第2ラウンドを控えている僕にとって、この謎の疲労感は命取りになりかねないものだった。

 が、僕の切実な願いが叶ったのか、昼以降は特に変わった事も起こらずに、坦々と時間が流れた。
 しかしそれはそれで、困った話で。

「せーんせ!行きましょ」
「………」

 愛嬌いっぱいの笑顔で、ニコニコと僕を見上げる襟沢。
 率直に可愛い、眩しすぎる。
 僕にあんな酷い事をされたのに…何でそんなにニコニコしてられるんだろう。
「先生?早く行こうよ」
「あ、ああ」
 つまらない思考も束の間。
 襟沢の声に促され、僕は言われるがまま歩き出した。



 ガチャリ。
「わぁ〜生徒指導室なんて初めて入りました!」
「そんなはしゃぐんじゃない!誉められる事じゃないんだぞ」
 生徒指導室はやけにカビ臭くて、北側にあるせいか薄暗く、いよいよ寒々しく見えた。
「とにかく座りなさい」
「ハイ」
 簡素なテーブルに座るよう指示すると、襟沢は素直に椅子に腰を降ろす。
 そして僕はその向かいに座り、開口一番切り出した。

「襟沢、昨日の件だ」
「はい。上原先生にふぇらした事ですね」
「ぶっ」

 うっかりペットボトルのお茶を盛大に吹き出す。
「なななななななななんて事を」
「だって…私先生の事好きなんだもん」
 僕の動揺をよそに、襟沢は恥じらうように上目遣いで僕を見つめる。
「大好きだから…先生を悦ばせたくて一生懸命やったんですけど…ダメでしたか?」
「いやいやいやいやダメとかじゃなくてな」
 ダメどころかむしろ滅茶苦茶気持ち良かっ…じゃなくて!

「いいか?何度も言うけど先生は『先生』だ。襟沢は良い子だし、十分女の子として可愛らしい。
でも先生は、生徒としてしか見られない。だから付き合えないよ」

575由梨と上原先生:2010/07/07(水) 02:49:45 ID:q7fygqyo
 
 言った。一気に言い切った。
 何だかかなり本音トークになってしまったが、逆に言えば残酷なまでに真実を突きつけた。
 そう、僕にとって『生徒』はいつまでも生徒だ。
 いくら襟沢が良い子でも、可愛くても、手を出すなんてあるまじき事が出来る筈がない!

「先生…でも私」
「ダメなものはダメだよ、先生は『でも』なんて聞かないぞ」
 殆ど意地で突っぱねると、襟沢は見事にいじらしく目を潤ませて、ジッと僕を見つめた。
 え、ええい見つめるんじゃない!

「じゃあ…最後に」
 少しした後、観念したのか、襟沢はポツリと僕に呟いた。
「最後?」
「手を握ってもいいですか?」

 手。

 ………また微妙な。
 手か…抱き締めるとかなら問題だが…手なら…要するに握手だしな。
 10秒程考えあぐね、僕はギリギリのジャッジを下した。
 セーーーフ!だ。
「よし分かった!手を繋ごう!」
 まるで商談が成立したかのごとく、僕は勢い良く手を差し出し、握手を求める。
 あれ、握手じゃないんだっけ。

「あっありがとうございます!」
 そして襟沢は嬉しそうに僕の手を取り。

 例の笑顔を浮かべた。

576由梨と上原先生:2010/07/07(水) 02:52:38 ID:q7fygqyo
 
 このバカ、バカだからすぐに手を出しやがった。
 私なら絶対こんなミスは犯さない。
 私ならね。


 私は逃がさないようしっかり手を握り、「センセ、隣に行って繋いで貰っていいですか?」と尋ねる。
 「えっそれは…」とか何とか上原が言いよどんでる間に、既に私は移動して上原のソファーに無理やり座る。

「えっ襟沢何を!」
「センセ…」
 ハハハ何を、じゃねーよバーーーーカ。カス、死ね。

「センセ、私先生が大好きだからもう…」
「ダッダメだぞこれ以上は」
「…我慢出来ない」

 ピラリ、と私はセーラーのスカートをめくる。
 私は何もはいていなかった。
「ハッ!??」
「へへ…」
 上原は目を更にして硬直している。硬直している癖に目はしっかりロックオンされてる。
 ハイハイ今日は先生の為にノーパンで来ました!実はね!
 ふふん、今日1日大変だったんだから。特に体育とか。

「触って…」
 って言っても、触る度胸はコイツには無いから、私は足を広げて上原の手を私のソコに近付ける。
 ぬる。
 ムカつくけど私のソコはツヤツヤと愛液を零して、濡れていた。
 こんなの何でもない、生理現象だ。
 上原に見られてるから興奮してるんじゃない…私が私に興奮してるだけ。

 くちゅり。
「ふぁあっ」
 見られている事で一層敏感になっていたそこは、上原の人差し指が窪みに軽く沈んだだけで、ふるふると痙攣する。

「えっ襟沢!」
 バカそのものの間抜け面で、上原は私に必死で語りかける。
「何て事を!てっ手を放しなさい!」
 だったらお前が放せばいーのに。だからお前はクソエロ教師なんだよ。

「上原先生…」
 と、悪態をついてはみるものの……。
 上原はこれまでの奴と違って『本当に放せない』ようである事は分かった。
577由梨と上原先生:2010/07/07(水) 02:58:18 ID:q7fygqyo
 
 何せ顔が本能丸出しどころか、顔面蒼白だ。
 口は辛うじて開いているが、体は完全に硬直している。
 困ったな…これじゃとれない…。
 ……。

「先生、お願いがあるんです」
「なっ…なに?」

 作戦を変える事にした。
 『本性出させる作戦』から『誘導作戦』に変更。

 私はセーラーのスカートの裾をまくり、股を更に広げる。
 そうしてトロトロのそこを見せつけながら、潤んだ目で上原を見つめた。

「先生の指で…私のココをくちゅくちゅして下さい」

 ビクリとまた中が痙攣し、上原の指を飲み込む。
「そんな事出来る訳がっ」
「して貰えたら…私もう、先生の事は諦めます」
 ピクリと、上原の反応が変化した。

「思い出を下さい…ここで何もしなければ、私残りの学生生活、絶対後悔してしまいます」
「それは…」
「指を…進めて下さい」
「………うーん」
 そして『生徒思い』の上原は。
 なんと生真面目に悩み始めた。
 …ここで?

「僕は今最大の難問に立ちはだかっているのかもしれない…」
 ブツブツと、私そっちのけで喋り出す上原。
「彼女の気持ちを思えば、後々の学生生活を楽しく過ごす為にしてあげた方がいいのかもしれない…」
「……」
「いやでも、万一彼女の体を傷つけるような事をしたら、僕は一生かけて彼女に償いを」
「…………」
 多分。
 混乱し過ぎて、思考回路が完全に口に出ている。

「行為が問題なのであって…だな、例えばそう」
「……」
 何だかもう、馬鹿馬鹿しくなってきた。
 コイツの『僕は純粋ですよー純情ですよー』って嘘臭い態度が気に入らなかったけど。
 コイツ多分嘘以前に、マジにバカだ。
 …も、いいや。

 私が諦念を覚えると同時に、何か思いついたようにぱっと顔を上げ、上原は叫んだ。
「そうだ襟沢!思い出ならよければ僕と放課後クレープでもっ!っうわああ!?」
 ブチュ、グチュグチュッ!
「ヒッ、あ、あああっ!」
 問答無用で私は思い切り、上原の指を自分の中へ突き立てた。

578由梨と上原先生:2010/07/07(水) 03:06:35 ID:q7fygqyo

「はぁっ!んっ…ふああっ」
 じゅくっじゅくっ!
 上原の指が私の中をうねうねと弄る。
 敏感なスポットをつつかれ、ふるふると腰が震えると共に、愛液がじゅぷりとまた溢れる。
 上原の、熱に浮かされたような視線がまとわりつく…ちょっと目がイッちゃってるような。
 どうやら緊張のあまりか、ようやく本能が解放されたのか、プッツンしてしまったらしい。

「襟沢…っ」
「せん、せいぃっ!もっとっもっとぉおっ」
 ジュプッジュプッジュプッ!!

 私の声に呼応するように、上原の指が激しさを増し、的確に私の感じる所を突いてくる。
 あ、あ、イイ…気持ちいい…!
「イイっイイよう!」
 あまりの気持ち良さに、無意識に上原に見せ付けるように股を更に開いてしまい、M字開脚そのものの姿になってしまう。

 私のきゅうきゅうの締め付けをモノともせず、上原は私の名を呼びながら指を激しく動かし続ける。
「襟沢…襟沢!」
「ああっはあっ!、先生の指、気持ちいい…!」

 グチャッ!
「ッ!ヒッあああっ!」
 何の予告も無く、ズボリと私の中に指が更にニ本挿入された。
 愛液が拍子にべちゃりと飛び散り、上原の手首までを濡らす。
 私のそこは更にキツく指を締め付け、歓迎するように愛液をトクトクと排出し続けた。


「あっあああっああ!」
 そして私には、限界が来ようとしていた。
 頭が真っ白になる前に、用意していた理性が働く。
 何か言わせないと。言質を取らないと…。
「先生っ、私の事…あっ!好き…ですかっ?」
「襟沢…僕は…僕は!」
 上原は何故だか泣きそうな顔で、私を見つめていた。
 こんな時…こんな顔で見てくる人間は今まで居なかった。
 それを見て思う。
 上原は、良い奴だったのかもしれない。
 それでも編集点に、私は少しずつ喘ぎ声を変えていく。

「ひっ嫌あっああ、うっ」
「君が…好きだ!」
 泣き声で上原がそう叫ぶと同時に、自分でも驚く程にそこがキュウウッ!と強く収縮し、上原の指を締め付けた。
 そして

「ああああああああっ!」
 ビュッビューッ
 イくっイくっ!
 ガクガクと痙攣しながら私は、上原の指で絶頂に達した。
579由梨と上原先生:2010/07/07(水) 03:11:36 ID:q7fygqyo
 
「はっ…はぁ…あ…」
 潮を噴いてしまったせいで、上原のジャケットはぐっしょりと濡れてしまっていた。
 我ながら、自分がこんなにも感じてしまった事に驚く。
 特に上原が巧かった訳でもないのに…。

「襟沢…!」
 ふと上原を見ると、上原は完全に当初の顔面蒼白状態に戻ってしまっていた。
 ああ…ホントにバカな奴。
 何でそんなに後悔するのに、やりきっちゃうんだよ。
「……」
 愚かだと思うと同時に、何故だかその情けない教師を少し面白がっている自分に、戸惑う。
 イった直後だからかもしれないが、何だか妙な気分だ。

「…先生」
「あっ!えっ」
 頭を切り替え、意図的に涙声を出すと、面白いように上原は動揺を浮かべた。
 そして開口一番。

「襟沢、いっ今のは忘れてくれ!!」
「………」
 うん。使うのはココまででいいや。

「忘れません…先生に気持ち良くしてもらった事は、一生の思い出にします」
 私はまたいつもの媚び媚びの声音で、上原にすり寄る。
 しかし自分の淫行を忘れろだなんて、本当教師失格な奴だな。
 『自然と子どもが好きで』なんて言って来た癖にコイツも結局…
「いや、僕が君の事を好きだと言った事を…忘れてくれ」
「え?」
 何故かギクリとした。

 え…コイツ、いきなり何言ってんの?なんでそっち?
 ていうかこっちは言われた事すら忘れてたっつの。
「君は僕みたいな人間を、好きになるべきじゃないよ」
 上原は私の両肩に手を乗せ、何故か寂しそうな目で私を見つめた。
「僕は、未だ生徒たちの気持ちも推し量る事の出来ない…
教師としても人間としても、襟沢より遙かに未成熟な人間なんだ」
「そんな事」
「現にこうして、君の心身を鑑みず危険な行為を行ってしまった上…」
 上原は……

「君に好意を寄せるなんて……」
 泣いていた。

580541:2010/07/07(水) 03:14:30 ID:q7fygqyo
今回以上です
切り所が難しくて
中途な所で止めてすいません…

次のは早めに持ってきます
では
581名無しさん@ピンキー:2010/07/07(水) 03:49:00 ID:kdMGDkcL
切り所が難しい?
中途な所?

思いっきし期待持たせる引きじゃねーか!
ふざけてるの?


正座して待ってます。
582名無しさん@ピンキー:2010/07/07(水) 12:24:21 ID:wzgR4VdB
勝手ながら、このスレッドの作品を、
ビッチ系総合まとめ@wikiに保管させていただきました。

ttp://www40.atwiki.jp/bitchgirls/
(頭にhを補ってください)

単独保管庫を立てたい方がいらした場合は、データをお渡しします。
その他問題等ありましたら、wiki上のメアドまでお願いします。
583名無しさん@ピンキー:2010/07/07(水) 13:19:16 ID:r9FiaoBz
>>541
GJです!
襟沢も先生も可愛いな
続き待っております
584名無しさん@ピンキー:2010/07/07(水) 23:57:39 ID:4n6IFeMH
支援
585541:2010/07/08(木) 09:53:35 ID:d0V0Og02
おはようございます
続きです
586由梨と上原先生:2010/07/08(木) 10:00:09 ID:d0V0Og02



※前回あらすじ 上原大号泣。



「ううう…ヒクッ」
 ……。
 ええええええええええええええ。
 いやココ泣くところ?
 え、え?ナニコレ?私?私が泣かせた訳?
 予想外、予想外すぎる。今までの奴と勝手が違いすぎる。

「うっ…グス…」
「先生!私嬉しいよっ?だって先生も私の事が好きだなんて夢みたいだし…」
「そんな風に思わせてしまうなんて、先生失格にも程がある…!」

 な、何で私が慰めてんの?
 上原はもう幼児そのものの体でポロポロ涙を零している。
 え、いっつもこんなんじゃないだろお前。
 若くて頼りなさげとは言え、やる時はキッチリやるし、しっかりしてる。
 上原はそういう奴だ。
 距離を詰める期間に、散々コイツにつきまとったんだからその位は分かる。
 それが何だコレ。
 前のフェラの始末の時から思ってたけど、どうも時たま、上原は社会の常識を越えた行動を取る。
 …それって、どういう事なんだ?

「センセ、もうほらしっかりして下さい」
「う…襟沢」
 パンツを片手でずるずる上げながら、もう片手で上原の背をさすさすと撫でる。
 この光景って本当どうなのさ。
 何というか…アホらし。

「もう…パンツもはけないじゃないですか」
「ごめん襟沢、手伝うよ!」
「いやそうじゃなくてさ」
 げっ。
 気怠げで低温な自身の声に、自分でビックリする。
 しまった地が出た!
「あっえとっ」
 慌てて上原の顔を見やると、その真っ直ぐな瞳にぶつかる。
「?」
 あいつは、何ともキョトンとした表情をしていた。
 そして私は
「………」
 その表情を見て、何故か唐突に分かってしまった。
587由梨と上原先生:2010/07/08(木) 10:04:09 ID:d0V0Og02
 
 世の中には馬鹿と言われる人間が居る。
 返せる見込みのない奴に金を貸すお人好しや、人を信じ過ぎて騙される奴、自分より先に他人の事を考える低脳達だ。
 まあ大抵の人間は裏切られて「人間」を知るが、
中には何をされても人を信じる事の出来る人間が居る。
 つまり根っからの最上級馬鹿だ。
 つまり…本当に純粋な奴だ。
 上原はどうやら、その部類に入る人間なのではないだろうか。

「襟沢、お腹痛くないか?気分は悪くないか?」
 一瞬何の質問か分からなかったが、すぐにどういう事なのか気付いた。
 指を突っ込みまくったから、お腹が痛くないか?という事らしい。
「痛いわけあるかっっ!」……という突っ込みを堪え、私はニッコリ微笑む。
「大丈夫ですよ先生。ちっとも痛くありません。まだ、ちょっと気持ちいい位」
 ちょっと照れながら言うと、上原は顔を真っ赤になって涙を零す。
 あーあー…コイツ最早、先生でもなんでもないな。
「いい加減泣き止まないとダメですよ」
 小さな子どもの世話を焼くような気持ちで、上原の涙を指先で拭き取る。
 ……何か、一応録ったけど、やる気なくなっちゃったな。
 大人は皆死んで地獄に落ちればいいのにって思うし、
実際地獄に落としてきたけど、コイツは色々とめんどくさすぎる。
 情が移ったのかもしれない。
588由梨と上原先生:2010/07/08(木) 10:06:33 ID:d0V0Og02
 
 涙が止まり始め、ようやく私は上原に切り出した。
「じゃあ先生…私帰りますね」
「襟沢、僕が言った事は聞いてくれるか」
「ハイ、気持ち良かった思い出は忘れませんけど、先生の言葉は忘れます。良い生徒になります」
 そう笑うと、少しだけ上原も笑った。

 上原は、見逃してやる。

 良い奴だからじゃない、単に面倒な事になりそうだから、違う手を使うって話なだけだ。
 だから今日は、これで終わりだ。

 このとき私は、すっかり油断しきっていた。
 だからセーラー服が少し乱れていて、ポケットが裏返りそうになっていたのに気付かなかった。
「じゃあ、さよなら。先生」
 私は立ち上がって、歩き出す。
 と同時に。
 カシャン、とポケットからボイスレコーダーが零れ落ちた。

「ーーあ」
「え?」

 鈍色に輝くソレは、落ちた拍子に再生スイッチが入ったらしく、
微細なノイズを絡ませて、制止を待たずにその音声をまき散らした。


『ひっ嫌あっああ、うっ』
『君が…好きだ!』
『あ、ああああああああっ!』
 ビュッビューッ


 この時点で、私の些細な感情だとか思考の積み重なりは、全て崩れて消え失せた。
 そもそも最初から、引き返す事など不可能だったのかもしれない。
「え?」
 上原はやはりキョトンとした表情で、私を見つめていた。
589由梨と上原先生:2010/07/08(木) 10:10:47 ID:d0V0Og02
 
「え、ボイスレコーダー…何で?」
「あ」

 授業ででも使ったのか?
 最初に浮かんだのはそんな、間の抜けた考えだった。
 しかしすぐに頭の中で否定される。
 じゃあ何で、ついさっきの音声が入ってるんだ?
 僕はごく自然に、落ちたボイスレコーダーを拾い上げる。
「…っ」
 その行為に、何故かピクリと表情ひきつらせる襟沢。

「襟沢…コレ、何?」
 僕はこの時点においても本当に何が何だか分からなくて。 まず何故この場にボイスレコーダーがあるのか、それが分からなくて聞いた。
 それなのに襟沢は、僕が何かとんでもない発言をしたかの様に、ビクリと身を震わせた。
「…あ……」
「何でさっきの音声が入ってるんだ?」
 さあっと襟沢の血の気が引く。
 そして。

 ガタッ!ガラガラ…ッ!
「えっ襟沢!?」
 物凄い勢いで襟沢は鞄をひっつかんで扉を開け、脱兎のごとく逃げ出してしまった。
 な、何で逃げるんだ!
 続けて追おうと指導室を飛び出すが、既に襟沢の姿は廊下の彼方にあった。
 今追いかければ、完全に周りに不審がられてしまう事もあり、僕は辛うじて足を止める。
 そして…疑問だけが頭を巡る。

「…何でだよ」

 何でだ。
 何でいつも逃げるんだ。
 襟沢はいったい何を考えて…僕に関わってるんだ。
 あの良い子の襟沢は、あの夜の襟沢は、この指導室での襟沢は…

「考えを遮ってしまって申し訳ないんですけど先生、簡単ですよ」
 その声は不意に右手から聞こえてきた。
 驚いて振り返るとそこには、B組の藤本が居た。
590541:2010/07/08(木) 10:13:53 ID:d0V0Og02
今日はここまでです
またすぐ出しに来ます
では
591名無しさん@ピンキー:2010/07/08(木) 18:45:51 ID:uaCYLAMb
だから引きが上手すぎると何度ry

期待してます。
592名無しさん@ピンキー:2010/07/09(金) 00:56:09 ID:tVtjsM3v
いい…すごくいいよぉ!
続き待ってます
593名無しさん@ピンキー:2010/07/09(金) 23:44:12 ID:BK9jCj9P
支援
594541:2010/07/10(土) 19:20:55 ID:gKRv+t3p
541です
すぐ出すとか言ってたのに遅れてすいません
続きです
595由梨と上原先生:2010/07/10(土) 19:26:37 ID:gKRv+t3p


 藤本は部活鞄を背負い、何事もないかのように、ただそこに突っ立っていた。
 しかしその光景は、間違いなく異様だった。

「…藤本、部活は?」
 基本的な質問を投げかけると、藤本は
「顧問に上原先生に呼ばれてるって言ってるんで、遅刻して行きます」
「僕は君を呼んでなんか」
「でもセンセー、俺が必要でしょ」
 軟派な口調で藤本は僕に問いかけ、僕の脇をすり抜けて、勝手に指導室に入っていく。
 僕は振り返って、指導室に立つ藤本に問いかける。
「どういう事なんだ藤本」
 今度こそ僕の頭がパニック寸前まで陥る。
 なんだ?藤本は何を知っていて、僕に何を言おうと…
 と、やっと一つの考えが閃く。

「そういえば藤本…君確か襟沢の幼なじみって…もしかして襟沢について何か」
「何かどころじゃないっすよ。俺付き合い長いし由梨の事好きだから、大抵の事は知ってますよ」

 由梨。
 好きだから。

 藤本のそんな些細な言葉に、僕の心は激しく乱れる。
 襟沢には忘れるよう言っておきながら…僕の方はちっとも彼女を忘れる事が出来ない。
「じゃあ…僕に何か教えてくれるのか?」
「その為に指導室の前で、ワザワザ終わるまで待ってたんですから」
 終わるまで?
 ……終わるまで…って。
「えっ、へ?え、あああ、まさ、え?まさか」
「あっ外からはあんま聞こえなかったっすから大丈夫だと思いますよ」
「〜〜〜〜〜〜〜?!」
「あ、そういう問題じゃないか、ハハハ」
 僕の動揺マックスの様子を余所に、藤本は僕に語りかけ続ける。
「まあ、先生滅茶苦茶察しが悪いみたいなんでザクッと言いますと」

 先生、騙されてますよ。

「騙されてるって」
「由梨はセンセーと寝て、ヤってる最中の音声をネタに揺すりやってるんですよ」

596由梨と上原先生:2010/07/10(土) 19:32:00 ID:gKRv+t3p
 
「……は?」
 本当に何でもない顔で、藤本は言い放った。
「先生が今手に持ってるボイスレコーダーで録って、後日教師に聞かせるんです」
「……」
「そしたら大概の教師はビビっちゃって、何でもするんスよ」
 体中の血が沸き立つのを感じる。
 頭がくらくらと酸欠状態を起こしている。
「由梨何してたかなぁ〜、ブランドバッグ貢がせてた時もあったし。単純に金取ったり変な命令したり?」
 藤本は飄々とした体で、指折り数えていく。
 その様子に…僕の心の奥底が、フツフツと煮えくりかえる。
 何で藤本はこんなに平気な顔で、平気な口調で、自分の好きな人間が傷つく様を話せるんだ?

 その憤りは収まる事なく、そのまま藤本へ向かっていく。
「仮に君の話が正しかったとして!何で!君はそれを止めないんだ!襟沢を好きならどうしてっ」
 思わず怒鳴りつけた瞬間、藤本の表情が一変した。
「止めて…癒えんなら」
「何だって?」
 ドン!
「止めて由梨の傷が癒えるんだったら、いつでも止めてやるよ!」
「っ」
 藤本は襟首を掴んで僕を壁に突き飛ばし、ドンと拳を頭の横に叩きつけた。

「だけど今の由梨はそれしか自分を保つ方法がないんだ、俺だけじゃどうしようも出来ねーんだよ」
 さっきまで「普通の顔」をしていた藤本の顔は殺気だち、同時にやるせなさに歪んでいた。
 藤本は射抜くような目で僕を睨みながら、頭に刻みつけるように話し掛ける。
「だからせめて俺は、由梨を見守ってる…今日みたいなボロが出た時の為に」
 アンタ察し悪いからいくらでも誤魔化せたけど、
逆に変に誤魔化すといつまでも由梨につきまとって来そうだからな。
597由梨と上原先生:2010/07/10(土) 19:36:30 ID:gKRv+t3p
 
「当たり前だ!それが事実だとしたら一刻も早く襟沢を」
「黙れよ」
 そして藤本は、とんでもないモノを取り出した。

 ドス
「……!?」
 藤本は、ナイフを僕の顔の真横に突き立てていた。

「今後由梨に変なちょっかいを出したり、不審な行動を取れば、これでアンタを殺す」
 あまりの事に…声を失う。
 この一見明るく爽やかな生徒の何処に、こんな狂気が隠されていたんだ。
「俺は本気だよ。実際に切りつけた奴も居る」
「藤本…」
「ハハ、ビビんないで下さいよ」
 僕の瞳の怯えを見て、また藤本にあの飄々とした表情が戻る。
「先生明日は休みだ…まあ土日にゆっくり考えてみてくださいよ」
 藤本は初めてニヤリと笑みを見せ、ナイフをしまう。
「………」
「じゃ、先生また来週」
 そう言って、藤本は後ろ手を振り指導室を出て行った。

 そして僕は。
 藤本の言葉に、何一つ返すことが出来なかった。

 襟沢由梨がカラダを使って教師を脅して、金を取っているだと?
 あの口振りだと、僕が初めてではないようだ。
 歩美先生は、この学校の男の教師が何人も辞めていると言っていた。
 つまりそれは……。
 それは…。

 その答えをくれる人間は、誰も居なかった。
 自分の手の中にあるボイスレコーダーだけが、照明を受け鈍色を放っていた。

598541:2010/07/10(土) 19:38:37 ID:gKRv+t3p
すいませんちょっと中断します
1時間後位に戻ります
599由梨と上原先生:2010/07/10(土) 21:04:06 ID:gKRv+t3p
 
 ピピピピピピピピ!

 そして混乱の1日が過ぎ去り。
 翌朝僕はけたたましいメールの受信音で目を醒ました。
「ん…何だよ」
 時刻を見ると、まだ朝の9時だった。
 朝と言うにはおこがましいが、休日位ゆっくり目に起床したい所だ。
 が、そんなささやかな願いも、メールの文面によって一気にぶち壊される事となる。

-------------------
09:04
frm 中島歩美
sub おはようござい
ます☆
本文
隆さんおはようござ
いますっ♪♪
今○○駅降りたすぐ
の、広場のベンチに
座ってます(*^o^*)
約束の時間は10時で
すけど、ちょっと早
く着いちゃいました(
照)
隆さんは慌てずゆっ
くり来て下さいね★

☆ぁゅみ☆
-------------------

「は?」
 は?

「………」
 文面が全く理解できず、もう一度読み直してみる。
 差出人は歩美先生。
 ちゃんと僕の名前が入っているから、間違って送ってきてる可能性はない。
「え?約束って…は?」
 はっきり言って、全く文面の「約束」とやらに心当たりがない。
 もしここまで細かく約束しているなら、僕が幾らぼんやりしていても忘れようがない。
 ……どうすればいいんだ?

 とりあえず考える。
 これはとりあえず…現場に赴くべきではないだろうか。
 歩美先生の性格を考えると、メールや電話での会話は、事態を余計ややこしくさせる可能性がある。
 幸い今日は用事もないし…超万が一の話、僕がうっかり忘れているのかもしれない。
「歩美先生…何のつもりなんだろう」
 ひとまず「おはようございます。とりあえず向かいます。少し遅れるかもしれません 上原」
とメールを返し、慌てて身支度を始める。
 こうして僕の休日の朝は、襟沢の事を考える余裕もなく慌ただしく幕を開けた。

600由梨と上原先生:2010/07/10(土) 21:12:25 ID:gKRv+t3p
 
「あっ隆さんっ!おはようござぃまぁ〜す」
「おっおは、おはよ…!」

 10:03。
 猛ダッシュで走って電車に飛び乗った甲斐あり、僕は起きた時間にしては好成績で約束の広場に到着した。
 息切れしながら、歩美先生の姿を見やる。
 ………。
「あ、歩美先生…」
「はいっ?」
「…いえ、おはようございます…」
 歩美先生は、凄い格好をしていた。
 文章で言えば、白のカーディガンにピンクのワンピースという至って可愛らしい格好だが。
 胸の空き具合とスカートの裾の短さが人智を越える仕様となっていた。
 先生、色々と出過ぎやしませんか?
 突っ込みたいのは山々だが、話がややこしくならない内に話しておかなくてはならない。

「あの、先生」
「何ですかー?」
 ズバリ聞いてみる。
「僕、先生と出掛ける約束なんてしてましたっけ」
 途端。
 歩美先生の笑顔が一瞬で凍り付き、次の瞬間には悲壮な顔付きで絶叫した。

「たっ隆さん……!!デートしようって言ってくれたじゃないですかっ」
 言ってない。
 絶っ対、言ってない。

「あの、失礼ですが、それはいつ、どんな状況で?」
「昨日ですよー!昨日お昼休みにデートしたいですねって話したじゃないですかあ!」
「あっちょ、泣かないで下さい!」
 歩美先生は早くも滂沱の涙をこぼしながら、僕に決死の訴えを起こしていた。
「○○駅の近くにショッピングモールが出来たから行きたいとか、時間も…!」
 なるほど…。
 歩美先生の訴えを聞いて、彼女の思考回路が何となく見えてきた。

601由梨と上原先生:2010/07/10(土) 21:17:01 ID:gKRv+t3p
 
 確かにそういう話はした。
 しかし歩美先生が昼休みに話していたのは

・一回二人で出掛けたいですねー
・最近○○駅にショッピングモール出来たんで行きたいんですよー
・先生休日とか何されてるんですかー

 全部、歩美先生の単なる話題だった。
 僕はそれに
「そうですね」
「そうなんですか」
「大体寝てますよ」
と返しただけなのだが、それがつまり肯定の言葉となっていたらしい……。
 …どうやら以前の『お弁当事件』もきな臭くなって来た。
 何て恐ろしい話だろうか。
 正に歩美先生マジックだ。

「うっうっ…酷いわ…全部忘れちゃうなんて……ぐすん」
 話は分かった。
 が、分かったところで歩美先生は一向に泣き止まない。
「あー……」
 ……。
 ………。
「うん」
 僕はもうどうしようもなくなって、結局安易な道を取る事にした。

「あの、歩美先生」
「ふ、うぅう…にゃんですか…」
「まあ折角集合したんですし、今日はご一緒しますよ」
「えっ」
 1日くらい。
 その程度の気持ちで、僕は歩美先生とのデート?を了承した。
 瞬間、歩美先生の顔が爆発的な変化を見せる。
「きゃあああさすが隆さん!」
 …喜色満面ってやつだ。
「やったー!!ふふふっじゃあ早速行きましょうよ〜っ」
「あ、はい」
 歩美先生は手の平を返したかのようなハイテンションで、僕の手を引いて歩き出した。
 そう1日くらい。
 その安易な考えが、後々の自分の首を絞めていく事になろうとは、このときの僕には知る由もないことだった。

602541:2010/07/10(土) 21:20:19 ID:gKRv+t3p
今日は以上です
また出しにきます
603名無しさん@そうだ選挙に行こう:2010/07/11(日) 00:43:10 ID:907D/Akh
GJ!

ってか歩美先生もなんだか腹黒いな…
いや、天然なのかそうなのか?
604名無しさん@そうだ選挙に行こう:2010/07/11(日) 22:54:30 ID:9ktUL802
乙です。
605由梨と上原先生:2010/07/12(月) 00:49:11 ID:Q2Y8X6zF


 歩き出して暫く経った頃。
「私最近彼氏と別れたんですよー」
 歩美先生はふと思い出したように、声をあげた。
 彼氏だって?
「へえ、どんな方だったんですか?」
「あっ気になっちゃう感じですか〜?」
 いや…。
「ハハハ、まあ…同い年の方ですか?」
「2つ年上の人です☆」
「へえー」
 その人は一体どんな風に歩美先生と付き合っていたのだろうか。
 失礼な話だが、歩美先生と正面きってお付き合いをするのは、並大抵の事ではないだろう。
「何で別れちゃったんですか?」
「あっまたしても気になっちゃう感じですか〜?」
 ……。
「…はい、すっごく気になりますねー」
「もう最悪ですよ〜向こうの浮気です」
 浮気か…歩美先生の事だから、めちゃくちゃキレちゃったんだろうな…。
 僕はとりあえず、当たり障りのない言葉で応える。
「ああーそれはダメな人ですね」
「そうなんですよーダメなんですよー。ほんと、」
 ニコニコとした微笑みを僕に向けたまま、歩美先生は

「マジでアイツ、他の女に目移りしやがって(笑)」
 ゾッとするような、世にも恐ろしい声音で呟いた。

「……」
「あっ隆さん着きましたよ!」
「あっああ」
 気が付くと、近代的な建築物が目の前にあった。
 いつの間にか、例のショッピングモールに着いてしまっていたようだ。
「行きましょ行きましょっ!」
「そうですね」
 胸の動悸を押さえ、僕は努めて明るく返事をする。
 だが。
「……」
 今の声…トラウマになりそうだ。
 僕は歩美先生に手を引かれながら、必死で流れた冷や汗を拭っていた。

606由梨と上原先生:2010/07/12(月) 00:52:35 ID:Q2Y8X6zF
 
 そして今日のこの1日。
 ひたすら歩美先生と買い物をして、お喋りをして、晩ご飯を食べて。
 あっという間に時間は過ぎて行った。


「これから、どうします??」
 そして辺りがすっかり闇に沈んだ頃。

 歩美先生ご推薦のイタリアンレストランを出て開口一番、歩美先生は笑顔で僕にそう聞いた。
「そうですね」
 僕は大きく頷き、間髪を入れず応えた。

「帰りましょうか」
「ええええええええええええええええええ」

「え…?だってこれから何をするんですか?殆ど店も閉まっちゃいましたし」
「ええええ……まあ、確かにそうですけど…私は…ぶつぶつ」
 僕の言葉に形では同意するも、やはりブツブツと独り言を始める歩美先生。
 なんか…歩美先生って本当、独り言癖あるよなあ…。
 ぼんやりそう思っているうちに何か思い付いたのか、不意に歩美先生はぱっと顔を上げ、大きく頷いた。
「わかりました!帰りましょう」
「何だかすいませんね」
「いえいえとんでもない!」
 なぜだか上機嫌で歩美先生は首を振り、僕の手を取る。
「さあさあ、帰り道は私が案内しますから帰りましょうか」
「あ、ありがとうございます」
 僕は全く、何の疑問も持たずに『ご好意』としてその手を握り返し。
 そして。



「じゃっ私お風呂入ってきますから♪」
「……………」

 歩き出し、僅か30分後。
 歩美先生がバスタオルを持ってシャワールームへ向かう様子を、僕は呆然と眺めていた。
 えっと。

「………」
 こめかみに指を当てて、もう一度…もう一度よく考えてみる。
 まず第一に。
 恐る恐る、下世話なピンク色の壁紙に目をやる。
 一緒にティッシュ箱や、謎の天蓋風?ベットが目に入ってしまい、
慌てて目の前の机の灰皿に視線を戻す。

 まず、何故僕らは今、ラブホテルに居るのか。
 僅か15分前の出来事を、更に今一度思い返してみる。

607由梨と上原先生:2010/07/12(月) 00:54:57 ID:Q2Y8X6zF
 
 あの時『帰りは送りますよ』と言ってくれた歩美先生。
 しかし不運にも先生は道に迷ってしまい、僕らは間違えて繁華街の路地へ入って来てしまっていた。
 『何ていかがわしい所……歩美怖い』と怯える歩美先生を早く安心させてあげたくて、
僕が買ったばかりのスマートフォンのナビ機能を使おうとしたその瞬間。

『あああああっ突然腹に差し込みがああああ!』
『だっ大丈夫ですか!?』
『ああああ隆さん私はもうダメですぅううあうあうああああ』
『きゅっ救急車呼びますか!?』
『いやっ十数分横になってれば治りますから!そこの休憩所に入って下さい!!!』
『はっはい!』
 ガラガラ…
『とりあえずそこの右上の部屋の宿泊の方のボタン押して下さいいいいああああお腹があああ』
『あっはいっ!』
『さあそのルームキー取って指定の部屋へああああ』
『だっ大丈夫ですか!もうすぐですよ!ほら開けました!』
 ガチャッ。

『ふう…さあ歩美先生早く横に』
『あっ♪♪なんか急に治っちゃいました』
『は!!!?』
『あーあっお腹痛くて汗いっぱいかいちゃったぁ…あつーい』パタパタ(チラッ)
『暑いって…』
『あの、汗かいちゃったんで、折角だしお風呂だけ入っていいですかぁ?』
『えっ!いや、じゃあ僕は』
『入るだけですよー!入ったらすぐ帰りますんで、ベットとかで横になってて下さい』
『は、』
『ねっ!!!』
『は…い…?』

 ………で、冒頭の歩美先生の言葉に戻るわけだ。

608由梨と上原先生:2010/07/12(月) 01:00:38 ID:Q2Y8X6zF
 
 しかし歩美先生は、本当に人を疑わない純粋な人だ。
 僕の事を信頼して、お風呂にまで入るなんて…僕だから良かったものの。
 他の男性なら襲ってしまう危険性があるような歩美先生の行為に、危うさを感じてしまう。
「出て来たら忠告してあげないと…」

 意識を戻すと、ザアアアアア…ッとシャワーからお湯が流れる音が耳に一層強く飛び込んでくる。
 パシャ、ピシャッ…
「……」

 …なんというか。
 幾ら僕にやましい気持ちが無いとしても、女性が入浴している部屋に居るというのはやはり気まずい。
 さすがに帰る訳にはいかないが、外に出て待っている位は許されるだろう。
「書き置きだけして…出ていこう」
 僕は出来るだけ周りの景色を見ないように、机の上のメモ帳に手を伸ばし

『支度が終わるまで外で待っています。 上原』

 と書き付け、歩美先生の鞄の上にメモ用紙をちぎって置いた。
 これなら分かるだろう。
 僕はそっと自分の荷物を掴むと、ドアに向かって歩き出す。
 これ料金とかってどうなってるのかな…あの受付に部屋の番号言ったら精算してくれるのかな。
 チラリと上を見やると赤い料金表示の文字が消えかかっている。
 ドアノブを回す、キリリと金属の軋む音が響いて

 その声は、やけに近くから聞こえてきた。


「どこ行くんですか」


 一瞬何なのか。
 分からずに、訳が分からずに、振り返る。
「え」
 すると右肩口に顔が見えた。
 スルスルと、その顔に水滴が流れ。
 目が合う。

「上原先生どこに行くんですか」
 僕の真後ろにぴったりと、歩美先生が濡れ髪のまま背後に張り付いていた。

 歩美先生は、まばたきもしていなかった。

609541:2010/07/12(月) 01:05:07 ID:Q2Y8X6zF
以上です
そろそろ書きためてた分が無くなって来ました…w
また出しに来ます
610名無しさん@ピンキー:2010/07/12(月) 01:38:36 ID:x+/y5nEO
>>609
乙!

だが…あれ…上原先生ヤバくね?
611名無しさん@ピンキー:2010/07/12(月) 01:48:19 ID:g6mQ5iFT
上原センセの周りは危ない女しかいないなw
612名無しさん@ピンキー:2010/07/13(火) 23:46:18 ID:qjRQ/uFb
支援
613541:2010/07/14(水) 00:05:13 ID:MWVwUl6H
541です
続きです
614由梨と上原先生:2010/07/14(水) 00:10:13 ID:gfpbRmdK


 そして先生は。
 歩美先生は。
 全裸だった。

「う、
わあああああああああ!!?」
 あまりの衝撃に、絶叫してしまう。
 よく考えれば失礼な事甚だしいが、そんな事考えてる場合じゃない早くここを出ないと
「待って下さいよ」
 ガッ
 歩美先生は極めて冷静に、逃げだそうとする僕の襟首を掴んで引き留めた。
「いやっ先生!あの、とにかく何か着るものを」
「夜は…これからですよ♪」
「……え」
 ニッコリと歩美先生は妖然と微笑み。
 物凄い腕力で僕をベットまで引きずり込んだ。


 ドサッ!
 ギッ…ギッ
「まさか隆さんとこんな展開になるなんて…思ってもみませんでした」
 頬を赤らめて俯く歩美先生だったが、押し倒されているのは当然僕だった。
「ふ…ううっ」
 何か言おうにも、目の前にある歩美先生の胸に押しつぶされて、ただ唇に柔らかな感触が伝わっただけだった。
 歩美先生の胸は、Gカップはありそうな勢いだった。
 まっさらな白肌に、ぷるぷるとした弾力、どっしりした重み。
 まさに「巨乳」の名を冠するに相応しい迫力だ。

 その乳を揺らしながら、歩美先生はウットリと僕を見つめる。
「ふふ…やっぱり素敵」
「歩美先生!何するんで…うわっ」
 グイッ!ガチャガチャッ
「隆さんたら、可愛い」
 ようやく巨乳の森を抜け出し声をあげるやいなや、
歩美先生は先程の異様な握力で僕の両腕を片手一本で押さえ。
 あろうことかもう片手で手慣れた手つきで僕の服を脱がせ始めた。

 プチ、プチ。
「隆さん乳首可愛いー」
「何言ってるんですか!!」
 ズルズルズルズル!
「あっズボン引っ張らないでっ、ちょっ!?」

 この状況はどこかで見た事がある。
 そう、襟沢に襲われた時も一方的に剥かれてしまって…。
 しかしその時とはまた趣が激しく違う気がする。
 これは何というか…こう…

「…痴女?」
「気が付いていたと思うんですけど…私、隆さんの事が好きなんです」
 僕の呟きを無視して(もしくは聞こえてすらないのか)、歩美先生はとんでもない科白を吐いた。

615由梨と上原先生:2010/07/14(水) 00:16:36 ID:gfpbRmdK
 

 僕の事が、好き?

「え」
 僕は、全く気付いてなかった。
 確かに身の回りの事だのお弁当だのと、やけに良くして貰っていたがあれは考えようによっては…………
 頭の中で、意味不明な歩美先生の行動の数々が一つに繋がる。
「あ、あああああ…!」
 あ、あれはそういう事だったのか!!!

 僕の奇声をどう受け取ったのか、歩美先生は満足げな笑みを浮かべて更にとんでもない事を口にした。
「まあ、もう先生が私の事が好きなの知ってますから」
 はあ?
「いや、それは歩美先生違…むぐっ」
 僕がその言葉に反論する前に、歩美先生は素早く体を動かし、僕にお尻を向け、そのお尻を僕の顔に下ろした。

「むぐっあふひしぇんせ」
「ふふ、隆さんたらこんなに大きくなっちゃって」
 歩美先生は躊躇なく、屹立した僕のモノをペロリと舐める。
「くっ、うう…」
 瞬間、意志とは関係なく快感が体を走り、たまらずに悶える。
 確かに歩美先生は全裸で、しかも一気に色んな事が起こり過ぎて、
体が生理的に興奮状態に陥っているのは間違いない。
 だけど…襟沢と違って、歩美先生に興奮している訳じゃないのに。
 僕は無意識に、襟沢に対して頭の中で言い訳をしていた。
 そんな事、襟沢に伝わる筈が無いのに。

 ジュブッジュブッ!
「は、んっ美味しいぃ…♪隆さん、私のココも舐めて下さい」
 歩美先生はすっかり口いっぱいに僕のモノをくわえ込んで、
表情は見えないものの、嬉々としてジュブジュブとしゃぶり続けていた。
「うっあ…先生…」
 襟沢は丁寧に、僕が反応した所を舌先を使って攻め立てるようなフェラだったが、
歩美先生のそれは正に一撃一撃に腰がとろけてしまうような、激しく頭がおかしくなってしまうような快楽を僕に与えた。

616由梨と上原先生:2010/07/14(水) 00:23:04 ID:gfpbRmdK
 
「ん…!」
 言葉を続けようと口を開くと、歩美先生の内股を伝って愛液が僕の口に流れ込んできた。
 快感が理性を奪い、僕は歩美先生の指示通り、愛液がトクトク湧き出す歩美先生のそこに口付けた。
 チュルッ!ピチャピチャ…
「あっっ!来たぁ!!隆さんの舌が私のアソコ舐めてるぅ!」
 歩美先生はあられもない声を上げて、気持ち良さそうに腰を揺らす。

 もう快感に支配されてしまって、僕は歩美先生を止める事が出来ない。
 ならばせめて歩美先生にも気持ち良くなってもらったら…。
 僕の最後の理性がそう言い訳をして、僕はいよいよ舌を歩美先生の中へとねじ込んでいく。

「ひぃいいっ私のアソコっ!ペロペロされてる!もっとグチャグチャにしてぇっ」
 ジュブッジュクッ、ピチャ…!
 歩美先生は器用に、喘ぎながら僕のモノを舌を使い指を使い、しごき上げていく。

「あ、歩美、セン…セ」
 僕も勢いにつられ、歩美先生のソコを入り口からヒダまで舌先で舐めまわし、
溢れる愛液を音を鳴らして啜りながら、先生を愛撫していた。

「あああっ舌気持ちイイッアソコ気持ちイイッ!気持ちいいよぅ!!もう歩美イク!イク!」
 歩美先生はそう叫びながら、いよいよ僕のモノを激しくしごく。
「あっ僕も…もう…!うっ」
「一緒にぃ…!歩美と一緒にイッてえぇ!」
 パクパクと入り口を痙攣させながら、歩美先生は腰を振って僕にねだる。
 雌の匂いと雄の匂いが充満した部屋で、僕の理性は最早消滅しかかっていた。

「あっ隆さんもうキてるぅ!いこっ一緒にっ一緒に…!!」
「うっうあああああああ!」
 ドプッビュッビュ…!
「ひ、あああああああっ!?」
 プシャーーッ

 そして僕らは歩美先生の要望通り、同時に達してしまった。

617由梨と上原先生:2010/07/14(水) 00:30:38 ID:gfpbRmdK
 
「はっはぁ…はぁ…」
 一気に…脱力感が僕を襲う。

「んっ…ゴクッ」
「あっ歩美先生!そんなの飲まないで下さい」
 何と、歩美先生は口内で発射された僕の精液をそのまま飲んでしまっていた。
「えへへ、美味しい…お掃除もしときますね」
 言うなり歩美先生はまた僕のモノに口付けて、チューチューと、残った精液も吸い出していく。

「んっ」
「隆さんごめんなさい…私の、掛かっちゃいましたね」
「いや、気にする事は」
 僕の顔面は、歩美先生の潮吹きで愛液まみれになっていた。
「んっしょっと」
 歩美先生は僕の上に乗ったまま体の位置をゆっくりと戻し、僕と顔を突き合わせた。

「何か久しぶりに見た気がします」
「…はは」

 目の前の歩美先生の髪は少し乱れ、上気した頬と、はにかんだ笑みはまるで少女のようだった。
 僕の顔を手で吹きながら、歩美先生はにっこりと微笑む。
「そろそろ…いいですか?」
 この『そろそろ』と言うのは、つまり…最後までって事だ。
「…っ」
 不意に心が揺れた。

 僕は、襟沢由梨が好きだ。
 だがその感情は永遠に封じ込めていなければならない。
 一生叶わない、諦めなければならない存在だ。

 だが、歩美先生は違う。
 年も近いし僕に好意を持ってくれている。
 性格や行動には少々難あり…というか、何をしでかすか分からない所はあるが、
こうして見ている歩美先生は本当に可愛いし、僕なりに彼女を愛す事は出来る…と思う。
 むしろ襟沢を忘れるチャンスだ。
 だから僕は。
 ならば僕は。

「……先生」
「はい?」
「家、帰りましょう」
 でも僕は。


 襟沢の笑顔が浮かぶ。
 あの屈託のない微笑みが好きだ。
 普段の顔は綺麗過ぎて近寄りがたいのに、笑うだけで彼女はびっくりする程年相応の少女になる。
 そんな彼女を、僕は好きになった。

 今、この状況に追い詰められて初めて分かった。
 襟沢が、高校生であろうが、生徒であろうが、僕を騙そうとしていようが。
 そんな事は結局、僕にとってどうでもいい事だったのだ。
 ただ彼女が幸せであれば。
 叶わない事が前提であろうが、想い、見守り続ける事が出来るのであれば。
 僕にはそれ以外、何も要らなかったのだ。

618由梨と上原先生:2010/07/14(水) 00:37:13 ID:gfpbRmdK
 
「折角なのですが…先生の告白はお受けする事が出来ません」
「………」
 僕は歩美先生の下から体をずらし、ゆっくりと体を起こした。
 そのまま立ち上がり、散らばった服を拾い上げていく。
 一枚、一枚拾い上げ、着ていく事に理性が戻ってきているような気がした。
「………」
 ベッドに一人、歩美先生は膝をついて、ぼんやり壁を眺めている。
 服を着終わり、僕はベッドに腰掛け、壁を見つめる歩美先生にゆっくりと話しかけた。

「僕は…未熟な人間です。自制が利かなくて、歩美先生の体に触れてしまった」
「……」
「でも、やはり僕には自分を偽る事が出来ません」
「……」
「僕には他に大切に想う人が居ます。だから、歩美先生の気持ちには応えられない」

「ごめんなさい」
 僕は歩美先生の後ろ姿に向かって、ぺこりと頭を下げた。

「……」
 それでも歩美先生は微動だにしない。
 きっと歩美先生は、卑怯な僕に怒っているのだ。
 返事をする価値もない…そういう事なのだ。
 だが僕には、歩美先生を無事駅まで送る役割がまだ残っている。
 僕は後ろを向いたままの歩美先生の右手を取った。
 その手は、氷のように冷たい。

「歩美先生、とにかくここから出ましょう」
「………ふ…」
 と、やっと歩美先生が、ポツリと声を漏らした。
 ふ?

「何ですか?」
「ふっ…」
 歩美先生の手に、急激に力がこもる。
 皮膚が破れんばかりに爪が食い込み、僕は思わず顔を歪める。

「せん」
「ふざけんじゃねーよ!!!この粗チンがアッ!!!」

 ビリビリビリッ!
「……!?」
 壁が震える、強烈な耳鳴りに顔が歪む。
 余りの怒声に一瞬、目の前が真っ白になった。
 なんだ?
 何が起こって
 振り返った歩美先生は。

「あらごめんなさい、つい大声出しちゃった」
 口が裂けんばかりに、笑っていた。

619541:2010/07/14(水) 00:47:18 ID:gfpbRmdK
今日は以上です
次回は歩美ちゃんが本気出しますw

あと次なんですが
この時期勉強やら色々忙しくて、ちょっと次回出すの遅れます…すいません
来週位には出せると思うのでよろしくです

620名無しさん@ピンキー:2010/07/14(水) 01:48:20 ID:lDX0p6Uf
GJ!


歩美先生怖すぎワラタ
いや、笑ってる場合じゃないか…
隆さん逃げてー
621名無しさん@ピンキー:2010/07/14(水) 22:20:55 ID:iTCFTKtX
乙、次回楽しみに待ってます。
622名無しさん@ピンキー:2010/07/15(木) 23:40:15 ID:bUurugvR
支援
623名無しさん@ピンキー:2010/07/18(日) 23:54:24 ID:tByjG0oK
投下期待保守
624541:2010/07/20(火) 18:33:30 ID:S7og5Opv
お久しぶりです541です
ようやく時間が取れたので、続き出します
625由梨と上原先生:2010/07/20(火) 18:39:20 ID:S7og5Opv
10

前回あらすじ・歩美ちゃん狩猟モード


 警鐘が
「隆さん、私ね、隆さんの事大好きなんですよ」
 振り返った歩美先生の口元からは僕の精液が一筋、流れていた。
 まるで生き血でも啜った後かのように。

「あ、…の」
 喉が急速に乾いて、粘膜が張り付く。
 無意識に、手が震え出す。
 ガンガンと警鐘が鳴り響く。
 あれ
 あれ?
 なんで、これは
 なんで

「ねえねえ先生、私聞きたいことがあるの」
 瞳孔が開いてる

「隆さんも勿論私の事が好きなんだよね?」
「あ…」

「隆さんも夜私の事を考えて眠れないんでしょ?」
 歩美先生は僕の手を握り潰すようにして掴み、僕を笑顔で見つめる。
 親指の爪がとうとう皮膚を突き破り、血が掌の皺を伝う。
 歩美先生はまばたきをしていない。

「隆さんも朝起きたら真っ先に私の事を考えるよね?
 隆さんも窓辺に私の写真を飾ってくれてるよね?
 隆さんも私の観察日記つけてるよね?
 隆さんも気になって、鞄や机の中を物色してるよね?
 隆さんもすれ違う度に私の匂いを嗅いでるよね?
 隆さんも私が居ない間、お弁当のお箸を舐めてるよね?
 隆さんも夜には、私を思ってオナニーしてるんだよね?
 隆さんも」
「ヒッーー」
 一気に血の気が引く、恐れに戸惑いすら感じられない。
 怖い。
 純然たる恐怖が僕を襲った。
 何だこの人は。

「ッ!」
 僕は鞄をひっつかみ、勢いに任せて歩美先生を突き飛ばした。
 ドッ!
「きゃっ!」
「あっ…」
 弱々しい声に、一瞬後悔が生まれる。
 女性を突き飛ばすなんて…
「…アンタもあいつがいいの!?」
 感情と理性の葛藤の最中、歩美先生は取り乱して叫んだ。
 あいつ?
「あいつ?」
「アンタも襟沢なの!?」

 え?
626由梨と上原先生:2010/07/20(火) 18:48:10 ID:S7og5Opv
 
 今何て
 
「アンタも襟沢とヤってんの?!」
「!」
「女子高生のマ○コがいいってヤってんの?あんなガバマンとヤったら病気移されますよ!」
「…止めろ」
「隆さんは騙されてるんですよ、あの淫乱雌豚に肉棒目当てでで使われて」
「ッ止めてくれ!」
 耐えきれず、僕は部屋を飛び出した。
 部屋の中で歩美先生はまだ何か叫んでいる様だが、振り返る事は無かった。
 僕は駆け出す。

 闇を覆い尽くすようなネオンが目を眩ます。
 何か妙な感触のものを踏んだ。
 それが何か恐ろしいものの様に感じてヒヤリと足がすくむ。
 天井から闇が融解し、頭上からこの身に溶け落ちる。
 歩美先生の悲鳴のような絶叫は、いつまでも僕の耳に響いていた。
 転がり落ちるように、僕は坂を下った。

 月曜日、襟沢は学校に来なかった。

627由梨と上原先生:2010/07/20(火) 18:52:43 ID:S7og5Opv
 
「由梨なら風邪ですよ」
「…本当に?」

 月曜日。
 結局襟沢は姿を見せず、僕はわざわざ隣のクラスの藤本を捕まえて問い質していた。
 昼休みに校庭のベンチに呼び出すと、
「勘弁して下さいよー飯食えなかったじゃないっすか」と僕に金をせびり、まんまと購買の焼きそばを手にしていた。

「せめてその焼きそば代位は話してくれよ」
「風邪はマジです。前から調子が悪かったんですよ。
まぁ学校なんかで股広げちまって、腹でも冷やしたんじゃないっすかね」
 サラッと藤本はとんでもない事を呟いて、僕を慌てさせる。
「ちょ、こらっ学校でなんて事を言うんだ!」
 ていうかやっぱりお前聞いてただけじゃなくて見ていたのか。
 僕の挙動不審な様子を見て、藤本は薄い唇を歪ませる。
「分からないな上原先生。何でそんな常識は分かるのに、生徒に学校で指マンなんてしちゃう訳?」
「それは…」
「まぁ今までの奴もそうだったけどさ、純粋だか何だか知んねーけど」
 偽善者なんだよ、先生。

「偽善者」
 それはこれまでも、散々言われ慣れてきた言葉だった。
「…僕の事はどうでもいいよ。襟沢の話だ」
 頭に浮かんだ黒い靄を払い、僕は藤本に水を向ける。
「襟沢がお前の言うとおり、教師を食い物にしてるとして…
襟沢は何で、そんな恐喝だの美人局まがいの事をしているんだ?」
「先生勘違いしてない?」
 質問開始早々、僕の言葉はあっという間に両断される。

「俺が由梨の話をしたのは先生にこれ以上関わらせない為だから。変な詮索したら殺すって」
 ちゅうちゅうとパックジュースを吸う藤本は、酷い脅し文句を吐いてる癖にこちらを見ようともしない。
「そうかじゃあ手を引くよって言って引ける人間なら、お前も警戒しないだろ」
「まぁね」

628由梨と上原先生:2010/07/20(火) 18:56:18 ID:S7og5Opv
 
 藤本は肩を竦め、箸で僕を指す。
「かと言って、いきなりアンタを刺してぶっ殺す程、俺も自分の人生捨ててない」
 だから結局、基本は抑制と監視だよ。
「とにかく俺はもうウンザリなんだよ。由梨がお前らみたいな害虫にたかられるのは」
「…僕は、襟沢に手を出したりなんかしない」
「少なくとももう怖くて出せないよな」
「そういう意味じゃない!」
 僕が声を荒げる様子を見て、ハハハと藤本は笑う。

「とにかく俺がアンタの力になる事はない。先生には由梨を救えないよ」
 藤本は潰した紙パックをゴミ箱に投げ入れ、立ち上がる。
「俺になんか頼らないで、気になるなら自分で調べりゃいい」
「藤本」
「でもその結果何が付いてきても…それはアンタの自業自得だよ」
 昼休みの終了を告げる予鈴が鳴る。
 ごっそさんと藤本は、焼きそばのパックもゴミ箱に投げ捨てた。



 
 藤本は勝手に自分で調べろ、と言った。
 実はその手は考えてなかった訳じゃない。
 藤本は確かに不気味で、危険な存在だ。
 だがあいつと僕が違うのは、僕が「教師」で「大人」であるという事だ。

「えー今まで来た先生?何でそんな事をみるりに聞くの??」
「やっぱり前任の人の教え方とか、皆にどう思われてたとか気になってさ」
「何でみるりなの?みるりは先生の都合の良い女じゃないんだよ?」
 どうみても小学生にしか見えない痩躯をふるふると震わせ、高坂みるりは僕をキッとねめつけた。

629由梨と上原先生:2010/07/20(火) 19:04:13 ID:S7og5Opv
 
 2-B、英語係の高坂みるり。

 身長145センチ(自称)・体重36キログラム(自称)。
 そして身の丈に沿った童顔(というか子供)に、ひよこの羽毛みたいなふわっふわしたセミロング。
 特注のミニマムサイズの制服をピシッと着こなす彼女は大きな瞳を見開き、怒りを露わにしていた。
「まぁまぁそんな怒らないでさ…」
「むうー」
 目を細め、つっけんどんな態度を取る彼女。
 そんな態度には、実にしょうもない理由がある。

「『小学生』のみるりには、用がないんじゃないの??」
「まだ言うか…」
 まあつまり、初対面で思いっ切り彼女を小学生と間違えてしまったのだ。

『君っこんな所で何をしてるんだ!』
『えっみるりは生徒だよ?ほら制服…』
『馬鹿言ってんじゃない!君はどう見たって子供じゃないか』
『なっ何ぃ〜っ?新任とはいえ聞き捨てならぬ科白!見やがれこの学生証セカンドシーズ』
『お母さんの名前は分かるかい!?』
『…ン』
 ボゴッ……

「……」
 一瞬当時の思い出がフラッシュバックし、鳩尾が疼く。
 痛かったなぁ…正拳突き。
 とにかく彼女を初対面で小学生と本気で勘違いしてしまった以来、高坂は一貫して僕に冷たいのだ。
「…っと、ちょっと先生?」
「え、あ」
「もう聞いてたの?折角みるりが色々話してあげようと思ったのに」
 視線を逸らしながら、ブツブツと言葉を吐き出す高坂。
「ハハ、ごめんごめん」
 が、それ以来気安い存在にでもなったのか、高坂は僕に対して不器用ながらも色々声を掛けてくれるようになっていた。

630由梨と上原先生:2010/07/20(火) 19:10:29 ID:S7og5Opv
 
「だからー先生が4人目だってのは聞いてるんだよね?」
「ああ、引き継ぎのノートなんかも見てるんだけど」
 教材を職員室に運ぶのを手伝って貰うついでに質問しただけだったが、
存外高坂はペラペラと素直に答えてくれた。
「えとねー…みるりが知ってる限り」

 1人目はみるりの入学と同時に来た桜井先生。
 2人目は2学期の始まりに入れ代わって来た久保田先生。
 3人目は2年の1学期に来た青柳先生。
「で、秋口に来た上原先生ね」
「ああ」
「うーんどんな人…みるりも英語係でちょっと話すだけだったけど」

 高坂が言うには。
 桜井先生は今どきの爽やかイケメンな感じで、皆からも人気があったらしい。
 一方後任の久保田先生は年も30半ばを越え、口数も少ないかなり影の薄い存在だったそうだ。
「その2人はぶっちゃけよく覚えてないんだけどさ、青柳は酷かったんだよ!」
「酷いって?」
 高坂は憤然と短い腕を振り上げて、僕に主張する。
「自分の事カッコいいとか思ってて超ナルシストだし、性格も意地悪いの」
「本当に?そんな人だったのか?」
「皆も文句ばっかだったよ。それに学校内で付き合ってる噂まであって」
 その言葉に思わず身を乗り出す。
「それ…どの子なんだい?」
 ガタッ
「せっ先生、みるりに近い!」
「あっごめん」
 高坂が怒った様に顔を赤らめたので、慌てて身を引く。
 しかし青柳先生が生徒と付き合っていた噂が出ていたなんて。
 襟沢の顔が頭の端にちらついたのを、必死で消し去る。

「どの子って言うか」
 そして高坂は困惑の表情を浮かべ、言った。
「歩美ちゃん先生だよ」

631由梨と上原先生:2010/07/20(火) 19:15:31 ID:S7og5Opv
 
 歩美ちゃん先生?

 歩美ちゃんて…
 反射的に血の気が引く。
「…中島歩美先生?」
「そうそう。あっそういや歩美ちゃん先生今日学校来てないね」
「歩美先生も今日は体調が悪くて…」
 今まで考えないようにしていた名前が挙がり、心に動揺が襲う。

「えっどうしたの?みるり悪い事言った?大丈夫?」
「いや、少し驚いただけだよ…それで?」
 高坂の心配そうな姿に、申し訳ないと思いながらも僕は質問を重ねる。
「みるりの勘的には絶対、青柳先生と歩美ちゃん先生は付き合ってたけど、全然だったよ」
「全然って」
「絶対歩美ちゃん先生遊ばれてたもん。恋愛になったら一直線!ってタイプは絶対ああいう手合いはダメ」
 見た目は極度に幼い癖に一端の事を語っている風な高坂は、何だか微笑ましい。
「ハハ、酷い言われ様だな」
「むうー、だって歩美ちゃん先生は絶対桜井先生の方がお似合いだったもん」
「桜井先生?」
「桜井先生とはちゃんと付き合ってたんだよ?公認でさ、皆結婚するって言ってたのに」
 そうなのか……。
 何で別れちゃったんだろ。と言う高坂みるりの声が遠く霞んでいく。
 襟沢の事を調べるつもりで聞いた質問が、歩美先生と繋がった。
 それは、どういう事なのだろうか。

「…ありがとな高坂。はいコレ」
「あっレモン味だあ〜! ってだから何でみるりの事、定期的に子供扱いするの!?」
 僕はブツブツ文句を言う高坂に礼を言い、駄賃にレモンキャンディを渡した。

632541:2010/07/20(火) 19:19:01 ID:S7og5Opv
今日は以上です
久々で、思ったより長くなってしまいました…

また近いうちに出しに来ます
では

633名無しさん@ピンキー:2010/07/20(火) 22:22:46 ID:lJjtIWDE
GJ!
待ってるぜ!
634名無しさん@ピンキー:2010/07/20(火) 22:36:04 ID:ETHz2r/2
乙乙!
635名無しさん@ピンキー:2010/07/20(火) 22:45:32 ID:BhgGQsHw
先生!みるりは、みるりは腹黒い子じゃないですよね?
636名無しさん@ピンキー:2010/07/21(水) 01:28:44 ID:wDmsfw0I
みるりが腹黒い子だったら世の中ヒドすぐるw

しかし歩美先生も藤本も病んでるなぁ。
由梨のところでみんなの糸がすごく拗れてる
637名無しさん@ピンキー:2010/07/21(水) 21:46:46 ID:mPSwK+Ij
支援
638541:2010/07/23(金) 00:39:53 ID:uxTDdKqe
541です
続きです
639由梨と上原先生:2010/07/23(金) 00:41:56 ID:uxTDdKqe
11

「っと!」
 ドサッ、ガラガラ…

 ファイルを積み重ねた瞬間、ギリギリで均衡を保っていた資料の山が崩れ、溜め息が出る。
 放課後、闇が辺りを覆い尽くす時刻。
 僕は職員室に人が居なくなるのを見計らって、棚に整理されている資料を片っ端から調べていた。
 勿論、僕の前任者達の事を調べる為なのだが。

「特に気になるってモノは無いなー…」
 引き継ぎ作業の際に関連資料のある場所は聞いていたので、
履歴、資料ノートなどそれなりの情報は出て来るものの、結局めぼしいものは見つからなかった。

「まあ…そりゃそうか」
 僕は何に期待してたんだろう。
 自分がしている事が何だか馬鹿らしくなり、ぼんやり資料の顔写真を眺める。
「確かにイケメンだな」
 桜井先生は当時23歳。確かに、俳優にでもなれそうな爽やかな男性だった。
 反して久保田先生は、言っては悪いがいかにも風采が上がらない、中年男性という感じ。
「で、青柳先生が26歳…2つ歩美先生より年上」
 て事はやっぱり、歩美先生と付き合ってたのは青柳先生か。
 青柳先生は三白眼が特徴的な、いかにも仕事の出来そうなエリート、という感じだった。

 つまり。
 藤本の話を鵜呑みにすると、襟沢はこの教師達の誰かとは付き合って(脅迫して?)いた。
 歩美先生も1人目と3人目の講師と付き合っていた、という事は分かっている。
 しかも先生のあの様子だと襟沢と歩美先生が、
かつて1人の男性を取り合っていたのでは?という構図が浮かんでくる。

「となると…青柳先生が何か知ってそうだな」
 青柳先生の高坂の講評や歩美先生の反応をみる限り、彼があの2人により関わっているのは間違いない。
 となれば青柳先生に、実際に聞いてみるのが……
「ん?」
 あれ?

「上原先生」

「こんな時間までお仕事ですか?」
 不意に声を掛けられ慌てて振り向くと、スコップを持った平塚先生が背後に立っていた。

640由梨と上原先生:2010/07/23(金) 00:49:17 ID:uxTDdKqe
 
 パラリと、スコップから砂粒が落ちた。

「平塚先生こそ、こんな夜更けに土いじりですか?」
 いつから居たのだろうか?全く気が付かなかった。
「花壇は私の人生ですからね」
 聞いてみると、夜になるまで作業をしていたのだという。
「なる程、本当に熱心ですね」
「上原先生こそ。お探し物ですか?」
「いえ何となく見ていただけで…」
「ではそろそろ私達も帰宅しませんか?もう真っ暗だ」
「あ…」
 ここで妙な行動をすれば、変に怪しまれてしまうかもしれない。
 僕は平塚先生に従い、一緒に帰宅する事にした。
 一つの疑念を胸に。
 そうそれは、ささやかな疑念。
 青柳先生の資料だけが、殆ど見つからなかったのだ。





「大丈夫だよ由梨ちゃん、上原先生多分気付いてないとみるりは思う」
「…みるりアイツと喋ったの?」

 月曜日の放課後、私の部屋にはみるりが見舞いに来ていた。
 見舞いに持ってきたみかんを自分で食べながら、みるりは続ける。
「うん、前の先生の話が聞きたいって」
「! それって」
「うーん多分由梨ちゃんの話じゃなくて、歩美ちゃん先生の事で聞かれたっぽい」
「て事は…」
「また歩美ちゃん、悪い癖出てるみたいだね」
 …もうあの女のアレは殆ど病気なんじゃないかと思う。
「だから、心配しないで学校来たらいいとみるりは思うよ。
上原先生がよっぽどな奴じゃない限り、ボイスレコーダーも返してくれると思うし」
 みるりは、くりくりした瞳を一心にこちらに向けて私に訴える。
 みるりが心配しなくても、上原はそんな事やんない。
 何故かそう確信してしまう自分が腹立たしく、同時に戸惑う。
 あんなキモくて情けないバカ男なんて、信じられる訳がないのに。

「大丈夫だよ由梨ちゃん…明日ボイスレコーダー返して貰お」
 みるりは幼い顔を綻ばせて、私にきゅっと抱き付く。
「へへ、由梨ちゃん大好き」
「もうアンタ、本当にレズっぽいよね」
「みるりは幼なじみだもーん」
 ニコニコと、子猫のように私にじゃれつくみるりを見ながら考える。

 そうだ、明日で全て終わらせよう。
 私のテクを持ってしたら、あのウザい男を黙らせる位簡単な筈だ。
「わぅー、こちょこちょっ」
「ギャッ!くすぐるなっ」
 それに。
 こんな私を慕ってくれるみるり。
 みるりをこれ以上面倒な目にも合わせたくない。
 どんな事をしてでも、私は私の信念と、自分の地位を守るんだ。

641由梨と上原先生:2010/07/23(金) 00:52:24 ID:uxTDdKqe
 
「……」
「だからこのwithを使って…」
「……」
「そうそう、はいOK!じゃあまた明日」
「先生」
「ん?ああ何だ襟沢か」
「あっ」
 振り返った上原の顔はあまりにも普通で、思わず言葉に詰まってしまった。

 水曜日。
 風邪が思いの外長引き、私が登校して来たのはアノ日から早5日後の事だった。
 私が居ない間も何一つ変わる事なく日々は流れ、
私は空いた小さな隙間を埋めるようにして学校へ戻ってきた。
 底冷えする廊下に、冷え切った足の指が凍り付くようにして張り付く。
 まるで、その場に縛り付けられるように。
 私はこの停滞した空間が嫌いだ。
 停止し続けるから淀んでいく、沈んでいく。

 そんな中で上原は、きっと私の事を考えて思い悩んでいるに違いなかった。
 バカ正直で愚かなあの男は、私の登校を気が気でなく待っている筈。
 だったのに。

「……」
「な、何かな…?」
 何で私を見ても動揺しないの?
 おかしい、いつものクソ上原なら「あわわわ」とかカスみたいに動揺する筈なのに。
「襟沢…?」
 あれ、なんかムカつく。
 何か凄く、滅茶苦茶腹立たしい。
「っ」
 バッ!
 苛立つ気持ちを押し込み、私は勢いよく頭を下げた。

「先生この前はいきなり帰って…ごめんなさいっ」
「いや、僕こそ何と謝っていいか!」
 私が頭を下げる姿を見て、上原はあからさまに狼狽える。
 ハハ何だ、やっぱりいつもの情けないバカ男じゃない。
 内心ニヤリと笑いながら、私は言葉を紡ぐ。
「それで、ボイスレコーダーなんですけど、あれは」
「ああ勿論返すよ。もし良ければ今日また放課後、生徒指導室の前に居てくれないか?」
「えっ」
 信じられない。
「行けそうか?」
「…………あ、ハイ」
 あの上原から誘ってきた。

642由梨と上原先生:2010/07/23(金) 00:57:24 ID:uxTDdKqe
 
 やっぱりおかしい。
 もしかして私の予想が外れて、実は上原もアイツらと一緒で…。
「…っ」
 そこまで考えて、自分の発想に愕然とする。
 教師なんて、皆一緒に決まってる!
 どいつもこいつも、上原も、下半身だけで生きてる低俗な生き物なのに、私は今何の期待を

「じゃあまた放課後にな」
「ハイ…」
 上原はくしゃりと私の頭を撫でて、教室を後にして行った。

「……」
 残された私は無意識に、上原が触れた髪に手を触れていた。
 自分の体温なのは分かっているのに、奇妙な温かみを感じて何故か吐き気がした。
 奥歯を噛み締める。

「襟沢さん!」
 不意にクラスメイトに呼び掛けられた。
「え…?」
「どうしたの?顔真っ赤だよ」

 私を保つ歯車の一つ一つが、今静かに狂い始めようとしていた。




「じゃあまずは、コレを返すな」
 そして放課後。
 指導室に呼ばれた私は、傾く夕日を背に上原と向き合っていた。

 上原はボイスレコーダーを胸ポケットから取り出し、コトンと机の上に置いた。
「中の録音は聞いてないよ」
「本当すみません。授業を録音しようと思って持って来たもので」
「勉強熱心はいいけど、ボイスレコーダーを使うのはちょっと賢過ぎだなあ」
 僕も大学生時代その手を使っておけば良かった、と上原は屈託なく笑う。
 夕日の淡くくすんだ橙色の光を受け、上原の瞳が静かに輝く。
 その様子に耐え難い程苛つく。
 まるで金曜日の出来事を全て忘れてしまったように、平然としている。
「……」
 いや、上原はあの時の感情を「忘れてくれ」と私に言ったのだった。
 ならば、この態度は当然で。
 それに私は、脅す価値もないと、コイツを見逃そうと。

「用はこれだけだよ。時間を取らせてしまって済まなかったね」
「上原先生」
 でも先生。

「何かな?」
「ねえ先生。この前のだけじゃ、物足りなくありませんか?」

643由梨と上原先生:2010/07/23(金) 01:00:04 ID:uxTDdKqe
 
 私はにっこりと微笑みながら、足を組む。
 日が傾き、私の顔に影が色濃く差す。

「私…やっぱり先生の事忘れられない…ううん、忘れたくない」
 そう、私は永遠に影に棲む人間なのだ。
 私は立ち上がり、上原の隣に腰を下ろす。
「ねぇ先生…キスして」
「襟沢…」
 上原は相変わらず間抜け面で目を見張り、硬直している。
 内心、ほくそ笑む。
 それがアンタにお似合いの顔、私の心を掻き乱すなんてエラそうな事するからだ。

 ちゅ、
「んっ」

 私は上原の返事も待たず、そのまま体ごと上原にのし掛かり、キスをした。
「ん、はぁ…」
 ちゅ、ちゅくっ
 無理に舌を引き出し、唾液を救って飲み込む。
「は…」
「んんっ」
 唾液が甘い。
 頭が、唇が痺れる、心臓が張り裂けそうに痛い。
 頭がおかしくなってしまったのかもしれない。

「センセ…」
 下唇を吸い、一度離す。
 上原は息を荒げて、潤んだ瞳で私を見つめる。
 私はやはりにっこりと微笑み、言葉を紡ごうと唇を広げ
 上原は寂しげな顔で微笑み、囁いた。

「ボイスレコーダーのスイッチを入れておこうか?」
「 」
 時が止まった。


644541:2010/07/23(金) 01:02:04 ID:uxTDdKqe
今日は以上です
ではー
645541:2010/07/23(金) 01:08:24 ID:uxTDdKqe
>>635
>>636
ああゴメン、答えてなかったw
考えながら書いてるから何とも言えんけど
みるりは悪い子ではないよ、うんw
646名無しさん@ピンキー:2010/07/23(金) 22:02:43 ID:B6eRxPF6
GJ!乙
647名無しさん@ピンキー:2010/07/23(金) 22:08:52 ID:PWVgo+I3
乙です
ああ、続きが気になる

よかった、悪いみるりはいなかったんだ…
でも何かあるんだろうなぁ
648名無しさん@ピンキー:2010/07/24(土) 23:32:41 ID:JrCoq7ok
支援
649由梨と上原先生:2010/07/25(日) 21:56:02 ID:A4fTCJfy
12

 橙色が今あるモノを焼き尽くすようにして、部屋を染め上げる。
「…なんで?」
 私は、無様な言葉しか吐くことが出来なかった。

 何で上原がそんな事を言うの?
 何で何もかも分かったような顔でそんな
 上原は。
「僕は、別に何でもいいんだよ」
 私の見開いたままの瞳を見つめ、言う。
 私の腰を支えていた手が背後に回り、優しく背中を撫でる。

「僕は、襟沢が襟沢であるなら、何でもいいよ」
「……」
「襟沢が強迫するために僕に近付いていたって
本当は僕の事が好きなんかじゃなくても
何人の教師に同じ事をしてきたとしても
僕にとってはどうでもいい事なんだ」

 何故。
 何故こんな事までコイツは知ってるの?
 誰がこんな事を?
 いやそれよりも何故。
 コイツは私を赦しているの?


「僕にとって大事なのは、君が傷つかず、死ぬまで笑顔で居る事だ」
 上原は私の瞳を真っ正面から捉える。
「だから襟沢、聞きたいんだ」
「…ア」
「なんで襟沢」
「アンタみたいなクソ教師に同情されるいわれはッ!!!」
「何に苦しんでいるのか教えてくれ。命に代えても、僕は君を守る」


「ま、」
 胸の奥から何か大きな固まりが込み上げて来て、息が出来なくなった。
「まも、る………」
 文字通り、開いた口が塞がらない。
 僕が君を守るって?
 一体いつの時代の口説き文句?
 恥ずかしすぎて爆笑してしまう、意味がわからない。
 何のナイト気取り?今の時代そんな事言う男が何処に居るってわけ?
 私はまだ一度も
 そんな人に、一度も会ったことなんてなかった。

「襟沢、泣かないで」
 上原の声で、初めて自分が涙を流している事に気が付く。
 みっともない。恥ずかしい。
「これは…っ」
「うん」
「アンタみたいな奴の為に流してる訳じゃっ」
「うん」
「…だから……ッ」
 息が詰まって、何も喋られなくなって、私はスーツの裾を握りしめて、上原に抱きついた。
 落ちまいと必死でしがみつく、幼子のような心許なさが胸中に広がった。

650由梨と上原先生:2010/07/25(日) 21:59:01 ID:A4fTCJfy
 
「落ち着いた?」
「うん」
 ひとしきり泣いた後、襟沢は腫らした目を擦り、僕の方に向き直った。
 蓋を開けてみれば、やはり襟沢は年相応の少女だった。
 分不相応に何らかの闇を抱えて人を騙して、それでも人間を諦めきれない、ただの子供だ。
「落ち着いた所で聞きたい事があるんだけど、いいかな」
 出来るだけ安心させる様な口調で、襟沢に問いかける。
「…いいよ」
 泣き疲れて少しぼんやりした表情で、コクンと襟沢は頷く。
 今までの得体の知れなさが一掃されたせいか、そんな様子が可愛く見えて仕方がなかった。

「確認の為に訊くけど…レコーダーで、今までの先生に強迫をしていたんだね」
「警察に連れてくの?」
 さっと顔色を変えた襟沢に、慌ててフォローを入れる。
「そんな訳ないだろ、何で先生の僕が大事な生徒を売らなきゃいけないんだ」
 安心させる為に言ったセリフだったのだが、何故か襟沢は妙な表情を浮かべていた。
 その表情が気になったが、とにかく質問を続ける事にする。
「えっと…それは今まで辞めた先生達全員にかい?」
「…」
 襟沢は口を開いたまま言葉を発しなかったが、暫くするとポツリポツリと応え始めた。

「ううん…久保田先生と、青柳先生だけ」
「桜井先生は違うんだね?」
「その頃はこんな事しようと思わなかったし、桜井は中島と付き合ってた」
 …なるほど。
 つまり桜井先生から久保田先生に切り替わる前に、襟沢に何かが起こったという訳だ。

 そして僕は、いよいよ一番知りたかった核心に触れた。
「答え辛いかもしれないけど……襟沢は何故、こんな事をしようと思ったんだ?」
「………」
 案の定、襟沢は俯いて黙り込む。
「今言える事だけでいいんだ、言いたくない事は言わなくていい。少しでもいいから先生にヒントをくれないか?」
「…先生、先生はこのまま、ずっとこの学校に居るの?」

651由梨と上原先生:2010/07/25(日) 22:02:04 ID:A4fTCJfy
 
「え?」
 何だ急に。
 襟沢は僕を真剣な目で見上げている。
「えっと」
 戸惑いながらも、ともかく答える。
「あー…そうだね。まだ何とも言えないけど、人不足だしその可能性が高いと思うよ。僕も」
 襟沢の小さな肩を見つめる。
 何が自然だ。素朴だ。理想の教育だ。
 そんなモノで人が守れるもんか。
「…ココに居たいし」
「そっか」
 襟沢はフッと気が抜けたように、リラックスした表情を見せた。

「今の質問はなにか関係が」
「私ね。入学して暫く経ってから、レイプされたの」

 え。
「学校帰りに、いつも通らない道を歩いてたら、山の中に引きずり込まれた」
「……」
「田舎ってさ。街灯もないから、本当に夜は真っ暗なんだ。近くに公衆電話も、コンビニもなくて、民家だって疎らで」
 笑みさえ浮かべながら、襟沢は喋り続ける。
「レイプしたのは、スーツ着てる只のサラリーマン。『只の大人』だった」
「…」
「その時、『ああ、大人ってこういうものなんだなぁ』って思ったの。
大人はいつだって一方的で、私達子供の弱みに付け込んで、食い物にするんだって」
 それは違う襟沢、それは
「だから私も、やられたらやり返そうって。今度は私が大人を食い物にしようって思ったの」
 襟沢寂しい。それはあまりにも
「ただ、それだけだよ」
 襟沢。

「…先生泣かないで、大人でしょ」
 襟沢は僕の頭を撫でて、少しだけ笑った。



 漸く気持ちが収まり、僕は襟沢の両肩を掴み、今日一番言いたかった科白を口にした。

「襟沢、こんな事はもう止めるんだ」
「うん…止めるよ。私には先生が居るから」
 襟沢はそう言って、瞳を潤める。
「え、あ」
 その答えに、情けない位動揺してしまう。
「あのっ襟沢!その、君の事は知っての通り僕も……なんだがっ、えっと」
「うん、私ちゃんと待つよ」
 僕の慌てっぷりを笑いながら、襟沢は余裕の発言をする。
 どっちが大人なんだか……。

652由梨と上原先生:2010/07/25(日) 22:10:57 ID:A4fTCJfy
 
 そして襟沢は、これまで訊くのを我慢していたらしく、
会話が途切れた所で待ちかねたようにある質問をして来た。
「先生、警察に言う気もないなら何で前の先生の事、あんなに訊いてきたの?」
「ああ…」
 実を言うと、その話が今日襟沢の話に次いで、聞きたい事だった。
「ちょっと、青柳先生について聞きたいんだ」
「えっ」
 青柳、という言葉に、ビクリと襟沢の肩が震えた。
「青柳が…どうかしたの」
 その反応に妙な確信を覚えながら、僕は自身の鞄を手繰り寄せ言った。
「妙な事が分かったんだ」



「青柳洋介が失踪してる」
 僕の持ってきた資料を見ながら、襟沢は不審げに眉を顰めた。
「青柳が…?」
「実は襟沢が学校を休んでる間に、青柳先生の家に行ったんだよ」

 襟沢が学校を休んだ2日目の放課後、僕は青柳先生の自宅へと向かっていた。
 先生3人に連絡した所、桜井先生も久保田先生も住居を変えたのか
電話が繋がらず、青柳先生の自宅だけに連絡がついた。
 電話口で失踪した旨を説明されたものの「詳しく話を伺いたい」と、無理を言って翌日上がらせて貰ったのだ。

「それで…」
「青柳先生のお母さんに寄ると、失踪したのは、今年の7月15日」
「…」
「ちょうど終業式頃だね」
「終業式の日には、もう青柳は居なかった…」
 襟沢は、真っ青な顔をしていた。

653由梨と上原先生:2010/07/25(日) 22:16:10 ID:A4fTCJfy
 
「話に寄ると、当日青柳先生は学校に行ったきり、そのまま帰って来なかったそうだ」
 捜索届も出したそうだが有力な情報も見つけられず、今日に至ってるらしい。
「襟沢知らなかったのか?学校にも警察が来ていた筈だけど」
「分からない…少なくとも先生達は何も言ってなかった」
「そうか。夏休みと被っていたし、うやむやのうちに伝えられなかったのかもな…」
 どうやら青柳先生の失踪は、本当に一部の人間の間でしか知られていないようだった。
「僕としては青柳先生が心配だし、君とも関わりの深い人だから、どうしても気になるんだ」
「7月15日…」
「襟沢、何か知っていないかい?」
 僕の言葉に、襟沢はピクリと身動ぎする。
 彼女は明らかに何かを知っている。
 知っていて、僕に話すか迷っている。
 かつての僕になら、彼女はそれを話さそうとは思わないだろう。
 だが今なら、今の僕たちなら。
「…知ってる」
 襟沢は僕の目を真正面から捉え、答えた。


「15日はテスト最終日だったんだけど、選抜クラスはテストの後に授業が入ってたの」

 確かに襟沢のAクラスは、受験に向けて成績別に分けられた中でも、トップ組だと聞いていた。
「だから私も青柳も遅くまで残っていて、皆が帰ったのを見計らって呼び出したんだ」
「何で?」
「ちょうどその頃は、やっと青柳から脅しのネタに使えそうな声が録音出来て、いよいよ脅迫って時だったの」
 サラリと襟沢は恐ろしい事を言う。
 そして、脅しのネタに使えそうとはつまり…。
 胸が苦しくて声に詰まるが、何とか襟沢の言葉に反応する。
「それで呼び出して…どうなったんだ?」
 襟沢は当時を思い出すようにじっと一点を見つめ、感情を込めずに言った。
「殺されそうになった」

654由梨と上原先生:2010/07/25(日) 22:23:36 ID:A4fTCJfy
 
「こっ殺されそうにって…!」

 衝撃の余り声が大きくなり、慌てて自分の口を抑える。
「脅迫したら私の身も危ないなんて、当たり前の事なんだけど」
「どういう事だ、何があったんだ」
「……『ダビングしたCDを友達数人に持たせてるから、私に何かあったらネット上に流して、
学校や親、各関係者に郵送で送りつける事になってる』って言ったら久保田の時は大人しくなったからいけると思ったの」
 襟沢のやり口は冷酷で容赦がなく、逃げ道がない。
 無表情で淡々と語る姿は、その心の闇を映し出すようだった。

「それでも、いつでも逃げ出せるようにドア側に立って。油断しないで」
「青柳先生は何を」
「青柳は逆上して、私の首を絞めたの」

「あ…」
 彼女の声を聞いて、僕の脳裏に奇妙な情景が再生される。

 北の土地に訪れる、短い夏の夜。
 薄闇の中、男の目が光る。
 黒髪が机に散り、闇の中で同化する。
 小さな箱の中で。
 少女は白い喉元を震わせ、息絶える。
 彼女の瞳は何も写さない。
 それは彼女がもう

『ガキの癖に騙しやがって』
『ぶっ殺してやる!』

「その声だけ、覚えてる」
 襟沢の声に、ハッと現実に引き戻される。
「あ…その後はどうなったんだい?」
 襟沢は眉を顰めながら、自身でも困惑げに顛末を話した。
「私は途中で頭を打ち付けて、気を失って」

 気が付いたら家のベッドで寝てたの。

 ……。
「……飛んだな」
「記憶が全くないの、ホントに」
「親に聞いたら、みるりが見つけて送ってくれたみたいで」
「高坂みるり?」
 ここで、思いも寄らぬ名前が出た。

655由梨と上原先生:2010/07/25(日) 22:28:41 ID:A4fTCJfy
 
「友達なの。幼なじみで親友なんだ」
 そうだったのか…。
 しかし高坂は、襟沢の事情を知っているのか。

「みるりに聞いたら、正門で待ってたけど、いつまで経っても私が来ないから教室まで迎えに来て見つけたみたい」
「その時の様子は…」
「教室には私以外誰も居なかったし、私に乱暴された跡も全く無かったって」
 そして翌日、もう青柳は出勤して来なかった。

「正直何が何だか分からなくて、今まで放置してた。怖くて忘れようとしてた」
「襟沢、気持ちは分かるよ。でも」
「分かってる…それっておかしいよね。絶対に、何かあったんだ…」
 キュッと唇を結んで、襟沢は視線を床に落とす。

 僕は襟沢の顔を両手で押し上げ、僕と視線を合わさせた。
「目を背けるのは簡単だ。だけど襟沢、これを解決出来たら、僕も君も自分を変える事が出来るかもしれない」
「変える…」
「今までのしがらみを捨てて、本当の自分を、また生きたいように生きる事が出来るかもしれない」
「……」
 襟沢はポカンと僕を見つめていたが、すぐに目を逸らしてしまった。
「どうしたの」
「私…こんなに醜いのに、変われたりするのかな…」

656由梨と上原先生:2010/07/25(日) 22:31:12 ID:A4fTCJfy
 
 襟沢は小さく震えていた。
 僕の手を両手で掴み、縋るような瞳で僕に訴える。
「だってこんな話…軽蔑したよね、最悪だって、醜い女だって」
 声に涙が混じる。
 襟沢の手は、氷のように冷えていた。
「軽蔑なんてしてないよ」
 僕は襟沢の手をギュッと握り返し、笑いかけた。
「襟沢がしてきた事は、先生側に過失があるにしても悪い事だ。だけど」

「必死で生きてきた人間を軽蔑するなんて、そんな資格は誰にもないよ」
 彼女の冷えた手を擦ると、青白い肌に少し血が通った気がした。



「そうか、藤本が切りつけた可能性も」
 青柳先生の件を考えながら帰り支度をしていると、不意にそんな発想が浮かんだ。
「藤本?」
「アイツ確か人を切りつけた事があるとか何とか…」
 襟沢は僕の考え込む姿を訝しげに見つめている。
 そうだ、あの藤本の事だから、その日現場に居たって何もおかしくはない。
 アイツが何か知ってるんじゃないのか。
「なあ襟沢、藤本が何か青柳先生の件で言ってなかったか?」
「藤本って」
「ほら、君の幼なじみの」
「ああ藤本君…なんで?」
「何でって」
「確かに昔から近所だし、同じ学校に居るけど」
 襟沢は本当にキョトンとした顔で、僕に真実を突き付けた。

「今は会っても挨拶位しかしない仲だよ?」

「―――」
 一体どれが真実で、どれが虚構なのか。
 僕は見極める時期に来ていた。

657541:2010/07/25(日) 22:33:37 ID:A4fTCJfy
今日は以上です
いつも長くてすみません…
では
658名無しさん@ピンキー:2010/07/25(日) 23:35:54 ID:CVC9EjnH
乙です。いえいえ、毎度楽しみにしていますよ。
659名無しさん@ピンキー:2010/07/26(月) 00:17:07 ID:0fFu3jlR
ああ、そうきたか〜
660名無しさん@ピンキー:2010/07/26(月) 23:45:21 ID:KYWetlAM
GJ!!!かわええのう(*´3`)
661名無しさん@ピンキー:2010/07/27(火) 22:46:34 ID:Z6j1L/rY
支援
662由梨と上原先生:2010/07/29(木) 01:09:28 ID:LYS4yGgr
13

「という訳で俺のストーカー事情が露見してしまった訳ですが」
「自分で言うな…悲しすぎるぞ」

 翌日、早朝7:00。
 朝練中に顧問を介して呼び出すと、暫くして物凄く不機嫌な顔をした藤本が現れた。
 今にも殴りかかってきそうな殺伐とした空気を漂わせていた藤本だったが、
テイクアウトの牛丼(ギョク付)が入ったビニール袋を突き付けると、一転してニヤリと笑顔を見せた。

「ていうか朝牛って、リーマンの発想ですよ」
「嫌なら食うな」
「で、俺に聞きたいんでしょ?青柳の件」
「…やっぱり昨日も居たんだな」
 驚異の張り付き具合に、こいつのプライベートはどうなってんだと変な勘ぐりをしてしまう。
「はっきり言って俺、完全なストーカーですからね」
「僕はてっきり。事情もよく知ってるし、歩美先生からも幼なじみで付き合う寸前だと…」
「事情はストーキングと高坂と喋ってるトコを立ち聞き。中島には一度だけ『幼なじみだ』
って言った事があるんで、由梨を牽制する為にアイツが適当に吐いた嘘だと思いますよ」

 また歩美先生か…。
 名前が出ただけで、思わず頭を抱えてしまう。
「その様子だと、中島に結構やられたみたいっすね」
「…その件については、ちょっと放っておいてくれないか」
「まあ中島も、青柳には手痛くやられたっぽいですね」
「え」
 思わず頭を上げると、藤本は相変わらずすました顔で牛丼をかき込んでいる。
「先生ー紅生姜もっと貰ってきて下さいよ」
「藤本それはどういう」

 ジャー、ピチャピチャッ

「冷っ!?はっ?」
 雨?え、あ?!
 一瞬、何が起こったのか分からなかった。
 藤本は。
「上原先生、アンタには本当に殺したい位腹が立ってるんですよ」
 藤本は僕の頭上で紙パックを握り潰し、無表情で飲料水を浴びせかけていた。

663由梨と上原先生:2010/07/29(木) 01:15:34 ID:LYS4yGgr
 
 髪が萎れ、水滴が滴る。

「なっ何を!」
「何が守るだよお前はどっかのヒーローか。古いんだよウザいんだよキモいんだよ!」
 藤本は、これまで溜まっていた鬱積を晴らすかのような怒声を張り上げていた。
「そ…そんな事言われても」
「またそれだ、何が純粋だよ、いい人ぶんな。この偽善者!」
「……ッ」
 藤本は、僕にナイフを突き付けたあの時の表情をしていた。
 久々に生徒に罵倒を浴びせられ、体が竦む。
 だがここで萎縮してしまう様では情報は得られない。

 僕は藤本に負けない位の気迫で言い返す。
「偽善でも何でもいいじゃないか!」
「何の開き直りだよっ」
「僕も君も、襟沢の事以外で大事な事なんて無いだろ!」
 その言葉に、ピクリと藤本の表情が動いた。
「何が言いたいんだ」
「僕の言動なんか、君の気持ちなんか、どうでもいいって事だよ」
 そして僕は、自分なりに至った境地を吐露した。

「襟沢をどうやったら救えるか、僕達が考えなきゃいけないのは、たったそれだけの筈だろ?」
「……」
 饒舌な藤本が、初めて沈黙した。


「ウザいとか目障りとか、偽善者とか。だからどうした。偽善でも襟沢が救えるならそれでいいんじゃないのか?」
「……」
「お前のつまらない感情で、チャンスを潰すなよ」
 僕の言葉に、ギリ、と歯を軋ませる藤本。
「クソが」
 敵意は消えない。和解はない。だが。
 藤本は頭は悪くない。
「青柳は……」
 口火は切られ、事態はまた動く。
「確かに由梨を殺そうとしていた」

664由梨と上原先生:2010/07/29(木) 01:20:33 ID:LYS4yGgr
 
 何か揉めているような声は聞こえてた。
『放して!何しっ……』
『ぶっ殺してやる!』
 最初に聞こえてきたのは、そんな悲鳴と罵声だった。

 俺はすぐに扉を開けて中に踏み込んだ。
『お前が!お前が!』
 教室の中で青柳は、机の上に由梨を押し倒して首を絞めていた。
 本当だ。アイツ、生徒を殺そうとしていたんだよ。
 それを見た瞬間頭が真っ白になって、青柳が振り返った所をそのままナイフで切りつけたんだ。
 場所?
 勿論心臓なんか狙ってないよ。
 何だかんだ言ったって、俺は只の臆病なガキなんだ。
 カッとなったからって人を殺す事なんて出来ない。
 胸を切りつけた。こっちに向かって来たからぶん殴って、何回も何回も気絶するまで殴る蹴るを繰り返した。
 女相手じゃ有利だったんだろうけど、あんなひょろい奴、一瞬だったぜ。
 …ああ大丈夫、あんなもんじゃ死なない。

 気絶させてから初めて、由梨を見た。
 幸か不幸か由梨は気絶してて、俺は考える時間を与えられた。
 勿論興奮状態で考えるもクソも無かったけどさ、それでも考えたんだよ。

 警察には間違っても通報出来なかった。
 言ってしまえば由梨も青柳も俺も、皆加害者だからな。
 それに俺が由梨をおぶって、アイツん家まで行っても不審過ぎる。
 だから、高坂みるりにメールしたんだよ。

665由梨と上原先生:2010/07/29(木) 01:23:53 ID:LYS4yGgr
 
 え?何で高坂って?
 知ってるだろ?アイツは由梨の幼なじみで親友だって。
 いつも一緒に帰ってるから、その日ももしかして学校に残ってるんじゃないかと思ったんだよ。
 そしたら案の定、
『正門で待ってるのに約束の時間にまだ来ない』
って返ってきたもんだから、シメたと思った。
 適当に事情を話して、由梨をおぶって、みるりと由梨ん家の近所まで行った。
 そんで家に入る段になって、みるりにバトンタッチした。んだ。

 何、襟沢はみるりから何も聞いてない?
 そりゃそうだよ、口止めしたもん。
 由梨とは疎遠になっちまったけど、みるりと俺は近所同士、昔から仲が良い。
 その程度の事なら黙っててくれたんだろ。

 由梨も馬鹿だな。よく考えたら、身長141センチのみるりが160センチの由梨を背負える訳がないなんて事、分かる筈なのに。
 …ん?ああ、みるりは141センチだよ。中2以来1ミリも変わってない。

 そんでその日は一日中、戦々恐々としていた。

 明日朝起きたら警察が来てるんじゃないのか?
 青柳が仕返しに来るんじゃないのか?
 そんな事ばかり考えて一睡も出来なかった。
 翌日、教室は綺麗に片付いていた。
 自分の犯罪がバレないように、青柳が戻したんだと思った。
 青柳は学校に来ていなくて、学年主任の平塚に訊いたら『体調不良』と言われた。
 『体調不良』のまま夏休みが始まり、青柳はそのまま帰って来なかった。
 警察も来なかった。
 夢かなんかみたいに全部過ぎ去って、新しい学期が来てそして

「アンタが来たんだ」
「……」
 話を聞き終わり。
 僕は今、初めてこの学校においてのスタートラインに立った気がした。

 何もない田舎の片隅の、抑圧された小さな箱の中で営まれる、逃げ場のない愛憎と凄惨な悲劇。
 感覚の鋭敏な子供の目には、それがどのように映っているのだろうか。
 僕には検討もつかなかった。
 それは僕がこの土地の者でないからなのか、僕が「大人」だからなのか。
 しかし僕が外の人間で、大人だからこそ。
 停滞したこの状況を動かす事が出来るんだ。

666由梨と上原先生:2010/07/29(木) 01:31:36 ID:LYS4yGgr
 
「じゃあお前が知ってるのはそれだけか?」
 衝撃的な内容ではあったが、青柳先生の失踪に一歩踏み込むには情報が足りない。
「あー…どうだったかな」
 いつの間にか時刻は8時を回ろうとしていた。
「先生、準備いいの?」
「ああまだ…」

 今聞いた話を考えながらグラウンドの方を眺めていると、裏門の方に一台のタクシーが止まったのが見えた。
「あれ、タクシー」
「ああ」
 藤本はそれを見て、まるでよく知っているものであるかのように、ニヤリと口元を歪めた。
 そして不意にとんでもない質問をぶつけてきた。
「先生さー、中島フってから今日で何日目だっけ」
「あ、6日目かな…ってええっ!今何を」
「ああ、じゃあそれそろか」
 藤本は嘲笑を含んだ口調で言葉を吐き出した。
「いよいよ『歩美様』ご登場って訳だな」


 歩美様。
 藤本のその言葉を理解するのに、そう時間は掛からなかった。
「あっ?え?ちょっ歩美先生!?」
 タクシーから降りてきた先生は。
 大きな大きなサングラスをしていた。
「……!?」
 加えて服が、毛皮のコートにミニスカピンヒール。
 絶望的な事に、車を出ると歩き煙草をしながら、グラウンドを闊歩していた。
 何というか、スローモーションの映像効果に、BGMにはゴージャスな曲が掛かってそうな迫力すらあった……。

「……『歩美様』!?」
「男にフられたり、嫌な事されると、文字通り『グレる』んだよね。アノ人」
「おい藤本!あれ最早別の物体だぞ!」
「先生相当衝撃受けてるね……あれ」

 動揺しまくる僕をニヤニヤ見ていた藤本が、不意に表情を真顔に戻した。
「何だ?」
「そういや…あの日、帰り際に中島に会った」
 藤本の顔が青白く、血の気を失った。


「どういう事だ、それはどんな状況だったんだ?」
「待てよ。そうだ、すっかり忘れてた…」
 藤本は頭を両手で押さえ、考える素振りを見せる。
「そうだ。由梨を背負って、教室の鍵を閉めて。帰り際廊下で中島に会った」
「それで何かあったのか?」
「『何で襟沢さんを背負ってるの』とか訊かれたけど、その時は適当に返事したんだ」
「それで?それだけか?」
「それで、俺は由梨を背負った姿を教師にこれ以上見られたくなくて、だから」
 藤本は言葉を止め、とんでもない過失を犯したかのように、呆然と僕を見つめた。

「『職員室に返しといて下さい』って、2−Aの教室の鍵を渡した」

667541:2010/07/29(木) 01:33:25 ID:LYS4yGgr
今日はここまでです
ちょっと遅くなってすいません
風邪で寝込んでましたww
またそのうち出しに来ますー
では
668名無しさん@ピンキー:2010/07/29(木) 07:01:03 ID:nDQNS6H5
エロ以上にミステリーとして面白いよ
669名無しさん@ピンキー:2010/07/29(木) 18:58:29 ID:1rlWh5JD
中々面白い展開になってきたね
次回も期待して待ってます
670名無しさん@ピンキー:2010/07/30(金) 21:35:37 ID:RwZpay0y
職人さんの力量と熱意に感心する
671由梨と上原先生:2010/07/30(金) 23:48:08 ID:gpmAvoKi
14

 僕に与えられた役割は、あまりにも荷が重いものだった。
 だが、やらねばならない。逃げてはいけない。
 逃げちゃダメだ逃げちゃダメだ逃げちゃダメだ…

「あっっあーゆみ、先っ生!」
「……」
 職員室、お昼前の4限目。
 僕は6日ぶりに、歩美先生に声を掛けた。


「…何ですか」
 予想通り、歩美先生はこちらを振り向こうとはしなかった。
「うっ」
 香水の匂いのキツさに思わず顔をしかめる。
 …いやこんなものに負けてはいけない。僕には果たすべき役割があるんだ。
「あの、その先日は失礼しました」
「そうですか」
 暖簾に腕押し状態の問答に冷や汗をかきつつ、めげる事なく質問を繰り出していく。
 とにかく会話しなければ話にならないんだ。
「えっと…体調の方はもう大丈夫なんですか?」
「大丈夫ですよ」
「あのそれで「私は怒ってるんですよ」
 僕の声を割って、歩美先生は漸くこちらに向き直った。

「……」
 歩美先生はいつもの何倍も派手なメイクだったが、同時に変に雑だった。
 取れかけの付け睫毛や、少し歪んだ赤い口紅が、妙に痛々しくて直視出来ない。
「怒ってる…それは当然ですよね」
 なにせラブホテルに女性1人、置いてきてしまったのだ。
 男性としてはあるまじき、配慮や常識に欠けた行為だ。
「はい。上原先生の天の邪鬼に付き合うのは大変ですよ」
 すると歩美先生は僕の予想に反して、奇妙な返しをしてきた。
 天の邪鬼?
「天の邪鬼って…」
「あれから考えたんですよ。
何度も何度も何度も何度も何度も何度も」
 人も疎らな職員室内で、歩美先生の語調は次第に強くなっていく。
「何で隆さんは、あんな嘘を言ったんだろうって」
 嘘…?何を言ってるんだ歩美先生は。
 嫌な予感がする。
 鈍感な僕にさえも気付けるような危険が、背筋が凍りつくような悪寒が
「そしたら分かったんです」
「分かったって」

「先生はイジワルでそんな事言ってるだけで、本当は私の事を愛してるんだって!」

 歩美先生は幸せそうに、化粧の崩れた顔で弾けるような笑顔を浮かべた。
 悪夢はまだ続いていた。

672由梨と上原先生:2010/07/30(金) 23:51:50 ID:gpmAvoKi
 
「愛して……」
 ない。愛している訳がない。

 しかし今ココでそれを主張する事は出来ない。
 彼女に今離れられては困る。
「それか、襟沢の売女に騙されてるか」
「そんな!」
「あ?」
 思わず反論をしかけると、瞬間射るような視線が僕の体を貫く。
「いや何でもっ!」
 ダメだ…。
 僕は、自分を殺す事に躍起になる。
 嘘だ…頑張って嘘をつくんだ……
 ………

 そして。

「ハハハ、襟沢みたいな女に騙される訳がないじゃないですか。僕はあ、歩美せ…あゆみ一筋だよ!」
 頭を振り絞って考えた、世にも白々しい台詞を吐いた。
 こんな白々しい言葉に騙される人間が居るのか?
 流石の歩美先生も僕の大根っぷりに、逆に疑念を持ってしまうのでは…

「何それ歩美、超嬉しい」

 歩美先生は目をカッと見開き、真っ白な歯で真っ赤な下唇を噛んで笑顔を浮かべていた。
 それは昔流行った『口裂け女』を連想させる、世にもグロテスクな表情だった。

「あ、いや!ハハハ!」
 無理。
 もう、無理だ。
 笑う以外の選択肢がない。
 最早笑う事しか出来ない。
「アハハハ…ハハハ…」
 口が「ハ」を連発しながら、頭をフル回転させる。
 これ以上の会話は僕には不可能だ。
 もうこの流れだ。この流れで、勢いで持っていくしかない。

「歩美、もし良かったら明日の放課後、歩美の家に行って良いかな?愛する人の生活が知りたいんだ☆」
「オッケーマイダーリン愛してる!!」

 歩美先生の絶叫は、職員室中に響き渡った。
 明日から『公認カップル』として地獄の日々が始まるのは、間違いなさそうだった。

673由梨と上原先生:2010/07/30(金) 23:58:47 ID:gpmAvoKi
 
 まず前提として、皆と共有しておきたい事実があるんだけど。
 そう前置きして、藤本は僕達の前で断言した。

「はっきり言って、中島は頭がおかしい」

「「「……」」」
 襟沢、高坂、僕の3人は、無言で首を縦に振った。
 翌日の昼休み。
 襟沢、藤本、高坂、僕の4人は、雁首揃えて中庭の芝生スペースに集まっていた。


 事の発端は、先日の藤本の発言だった。
『歩美先生に、青柳先生が居る教室の鍵を持たせたって…』
『酷いミスだよ先生…あの抜け目の無い中島が、
天敵の襟沢が倒れた現場を見に行かない筈がない…』
『天敵?』
『中島は由梨と、青柳を取り合っていたんだ。
中島は付き合っていたつもりだったから、実際には由梨がリードしていたのに、
「糞ガキが私の彼氏に手を出そうとしてる」
って勘違いして、当時は由梨にちょくちょく嫌がらせしてたんだ』
『嫌がらせって』
『テストの点数改竄とか、おかしなデマ流したり…まあどれも犯罪レベルだね』
『歩美先生が…そんな人道に劣るような事を?』
『そうか中島か…アイツなら何やっててもおかしくありませんよ』
『何って』
『倒れた青柳を見て、中島は何を思うでしょうね』
『……襟沢に何かされたと思って、怒るとか』
『だけど2学期以降、由梨は一切手を出されていない』
『だったら』
『きっと「違う事」をしたんですよ、先生』
『……何だ?』
『何でしょう。調べてみる価値はある』
『どうやって調べるんだ』
『…上原先生』
『ん?』
『赤信号、皆で渡れば怖くない。って言葉知ってますか?』


 という訳で。
 前代未聞の藤本の提案で、僕達が集められたのだ。
『どうせだから由梨、みるりにも手伝ってもらいましょう』
 と藤本は僕に二人を呼び出すように指図し、
僕は事情を掻い摘んで襟沢に説明し、襟沢は高坂に事情を説明した。
 襟沢は最初、藤本の存在を知り驚き眉を顰めたものの、高坂からフォローがあったのか、
翌日現れた襟沢は、特に目立った動揺も見せずに僕の隣に立っていた。

674由梨と上原先生:2010/07/31(土) 00:07:25 ID:B3U27PII
 
「知っての通り。中島は桜井と付き合っていた頃は比較的マトモな奴だったけど、
1年の夏休み明け辺りからアイツは変わった」

 藤本は、状況の整理と僕への説明を兼ねて、これまでの経緯を語り出す。
「逃げた桜井を追っかけて学校を休んだり、おかしな行動をとったり。
…まあそのロスタイムで久保田が助かったんだろうけどな」
 久保田が助かった、という表現に首を傾げる僕。
 それを見て藤本が言い添える。
「今回の上原先生でハッキリしたんだけど…中島はどうやら『教師』に異常な愛情と執着を持つみたいなんだ」
 桜井・青柳・上原…、と襟沢がぽそりと呟いた。
「周りに男が居ないのか、何か固執する理由でもあるのか」
 これまで付き合ってきた教師達への愛情は、常軌を逸している。
「最初は皆、仲の良いカップルだと思うんだよ。
多分男自身も。それが段々、おかしな事に気付いていく。
『あれ、何か気持ち悪いな』
『不自然だな』
ってな具合にな」
 まあ上原センセは今までの奴より、大分気付くのが遅かったけど。
「それは…」
 正直歩美先生の事は本当に苦手になってしまったが、
彼女が犯罪まがいの行動をしているという事までは、未だに信じる事が出来ない。
「だから桜井は逃げて、青柳は適当にあしらって次の女に行って…消えた」
「ロクな末路じゃないね」
 襟沢は軽侮の念を込めて言葉を吐き出す。
「桜井はどんな目に遭ったのか、青柳は何処に行ったのか…知りたいですよね」
「勿論!」
 当然だ!と僕が大きく頷くと、藤本はニッコリと僕に笑いかけた。
「じゃあ…」
 そう、それは初めて見るような、藤本の爽やかな笑顔だった。

「という訳で今回上原先生には、皆と同じ末路を辿って貰います」
「は!?」

 藤本は悪魔の様な言葉を僕に宣告した。

675由梨と上原先生:2010/07/31(土) 00:11:01 ID:B3U27PII
 
「ちょっと藤本君!何言ってんの!」
 藤本が言葉を発した瞬間、弾かれたように襟沢が藤本に歩み寄った。

「このまま中島に先生を食わせろって訳!?」
「いや違う襟沢!」
 僕は慌てて襟沢の手を掴んで引き寄せる。
 ていうか何て事言うんだ襟沢。
「だって先生!」
「藤本にはきっと目的がある。今からそれを語ってくれるんだ。な?藤本」
 口と頭の回る藤本なら、気の立った襟沢にうまく対応出来る筈だと藤本を見やる。
 と。

「あっ…、あの、え、襟沢さんその、違うんです。訳があって…えっと」
「…藤本?」

 敬語?襟沢さん?どもってる?
 先程までの小賢しさが一変、藤本は顔を真っ赤にして俯いてしまっていた。
「アンタ…」
 襟沢もびっくりしたように目を丸くしている。
「由梨ちゃん止めたげて、圭君緊張しぃなんだよ」
 それまで沈黙を守っていた高坂が、よっぽど見かねたのか服の袖を掴んで襟沢を見上げる。
「う…」
 その瞳を見て、流石の襟沢も言葉をつまらせる。
 そうか、藤本お前…。
 僕は思わず真顔で藤本に話し掛ける。

「藤本お前…本当に襟沢と疎遠だったんだな!」
「先生…先生の純朴さが今ほど身に染みる時はありませんよ…」

 何故か泣きそうな顔で藤本はそう呟いた。

676由梨と上原先生:2010/07/31(土) 00:14:46 ID:B3U27PII
 
 暫くして、漸く藤本は続きを話し始めた。
「要するに上原先生には、中島の巣。つまりアイツの家にあがってもらいたいんです。目的は2つ」

 1つは、先生が実験体となって、中島が男に対してどんな行動を取るかを見極める。
 2つ目は、中島から青柳の話を聞き出すなど、青柳の痕跡を探る事。

「これで仮に、中島が上原先生に殴りかかるような事があれば、2つ共いっぺんに解決しますけどね」
「藤本!!」
 とうとう襟沢が、藤本を呼び捨てにし始めた。
「すっすいません調子乗りましたごめんなさい!」
「由梨ちゃん!」
「襟沢!」
「だってこいつが!」


 そして。
「……」
 軽妙なやり取りに一瞬気を削がれるも、
一転して重苦しい空気が僕達の間に流れた。
 そう、言葉には出さずとも、誰もが考えていた事だった。

 人気のない放課後。
 先の見えない暗闇。
 傷を負い、意識を失った青柳洋介。
 中島歩美はそれを見て思う。
 とうとう彼が自分のものになる。
 
 青柳が桜井のように逃げたのでなければ。

「監禁しているか、殺しているか、どちらかだ」

 藤本が無機質な声音で、言葉の重さを背負った。


677541:2010/07/31(土) 00:20:48 ID:B3U27PII
今日は以上です
大分後半に入ってきました
あと少しお付き合いいただけたら嬉しいです
では
678名無しさん@ピンキー:2010/07/31(土) 00:32:21 ID:scaxCg4P
いよいよ佳境か楽しみだ。ああでも終わりに近づくのが淋しくもあり。

しかし上原先生純朴すぎるw
あと、なぜ藤本はみるりの身体測定の結果を把握しているのか
まさかざ、座高まで
679名無しさん@ピンキー:2010/07/31(土) 18:52:37 ID:obnwUa+y
由梨の藤本の扱いが露骨に悪くてワラタwww

いや、でもしょうがないか…
680由梨と上原先生:2010/08/02(月) 14:05:43 ID:B66zqQ1n
15

 全員の意志が一致してから、話は迅速に進んだ。

「堂々と家へ侵入出来るのは、先生しか居ないんだ」
「僕が…探ってくればいいんだな?」
「じゃあ私達は何をすればいいの?」

「あっえっと」
 襟沢がずい、と藤本に攻め寄ると、藤本は脂汗を流しながらもたどたどしく答える。
「ぼ、僕達にはそれぞれ役割があります」
「何よ」
「実は昨日、中島を尾けて家を見て来て、その!」
「藤本落ち着け、家を下見してきたんだな?」
 僕が慌てて間に入ると、藤本はあからさまにホッとした表情に戻り。
 そして言った。
「それで…見つかったんだ。限定一名、外から侵入する方法が」



「綺麗に咲いていますね」
「ああ、これは上原先生」

 放課後。
 曇天の下、僕は相変わらず花壇で作業をする平塚先生に声を掛けた。

 平塚先生は花壇に、ビニールの囲いをせっせと設置している所だった。
「今日も精が出ますね」
「夜から強い雨が降るそうで…心配になって」
「ああ、大分酷いみたいですね」
 天気予報では深夜から朝方にかけ、激しい雷雨の
恐れがあるらしく、警報必至の様相を呈している。
 今日の歩美先生のお宅訪問は、出来るだけ早くあがった方がいいな…。
 頭の片隅でそんな事を考えつつ、花壇の方に歩み寄る。

「そういえば上原先生、何かご用ですか?」
「あの実は…そこの秋桜を数輪分けて欲しくて…」
 僕は、淡いピンクが揺れる秋桜の花壇を指さした。

681由梨と上原先生:2010/08/02(月) 14:08:54 ID:B66zqQ1n
 
「秋桜を?」
 キョトンとした顔で平塚先生が僕を見つめる。
「あ、あのですね」

 僕は何だか気恥ずかしくて、顔を赤らめながら平塚先生に事情を説明する。
「じ、実は今日歩美先生とデートというか、その、それで何も持たないというのは…」
「ハハハ!なる程ね」
 僕の挙動不審な様子が余程おかしかったのか、
平塚先生は「良いモノを見た」とでもいうような笑顔で笑い出した。

「どうぞどうぞ何輪でも。上原先生の恋路のお役に立てるなら」
「笑わないで下さい!」
 平塚先生はくつくつと笑いをかみ殺しながら、
プチプチと秋桜を数輪切り取り新聞紙にくるんで僕に渡した。
「どうぞ、一番育ちの良い場所のやつです」
「すっすみません!」
「形は不格好ですが、きっと上原先生のお気持ちは伝わりますよ」
 平塚先生は穏やかな笑顔を浮かべて、そう言い添えてくれた。

「そうだと良いのですが…」
「でもまあ今日はデートも早めに切り上げた方がいいですね」
 大事をとって生徒たちの部活動も切り上げさせましたし、と平塚先生は空を見上げる。
「酷く荒れなければいいんですが」





「隆さん!ようこそ我が家へ!」
「あ、ありがとう…」
「勿論親は急な旅行で今日は帰りませんから☆」
 急な旅行って…まさか無理やり追い出したんじゃないだろうな。
 夕闇の中、嵐の前の緩い風が頬を撫でる。
 秋桜の簡素な花束を携えて。
 上機嫌の歩美先生に連れられ、僕は中島家にお邪魔していた。

「しかし…大きな家ですね」
 藤本から話は聞いていたものの、予想より立派な門構えに些か驚いてしまう。
「両親は只の教師なんですけどね。祖父が不動産をやっててちょっと」
 歩美先生の親も教師をやっているのか。
 何でもないように喋っているが、実際なかなかのお金持ちの家の娘らしかった。
「どうぞ、入って下さい♪」
「じゃあ…お邪魔しまーす…」
 ガチャリ。
 靴を脱ぎ、歩美先生に連れられてリビングへ向かう。
「わあ…広い…ってテレビでか!!」
「ふふ、そんな事ないですよ〜。あ、お茶入れてきますねっ」
 歩美先生はニコニコと軽やかな足取りでキッチンに向かう。

「…凄いな」
 玄関に入った瞬間、強烈な芳香剤の薫りが鼻をつく。
 靴箱を見やると、高そうな生花の漬かった芳香剤が、幾つも置かれていた。

682由梨と上原先生:2010/08/02(月) 14:14:22 ID:B66zqQ1n
 
 なる程…。
 リビングはソファ、テーブル、テレビと、スタンダードな配置になっていた。
 窓も大きく取り付けられ、見晴らしがいい。
 玄関で見た間取りから考えるに、1階にリビングや和室、
2階に歩美先生の自室や寝室があるようだ。

 そして僕が見ているこの窓の向こうには…
「〜〜っ!」
 不意に窓からヒョコリと黒髪の頭が見えて、心臓が跳ね上がる。
 頭はすぐに引っ込んだが、心臓は収まることなくバクバクと早鐘のように鼓動を打ち鳴らす。
 ア、アイツら…本当に大丈夫なのか?
 …だが、やるしかない。
 拭いきれない不安を胸に、僕は歩美先生に呼び掛ける。
「歩美先生」
「はい?」
「あの、トイレってどこですか?」



「藤本!アンタ背高いんだからもっと屈みなさいよっ」
「はいっすいません!」
「圭君、メール来たよ」

 私達は藤本の指示通り、中島の家の窓の外で待機していた。
 高塀のお陰で外から見咎められる事はないだろうが、
それでもかなり危険な行動を私達は取っている。

 メールを開いた藤本は、小さく頷く。
「…よし、予想通りの間取りだな。例の窓も開いているようだ」
 例の窓、という言葉にビクリとみるりが反応する。
「けっけい君…あの作戦、本当に…」
「大丈夫だみるり、自分の体型を信じろ」
 体型を信じろ、という言葉に一層「ひうううぅ…(泣)」とみるりは涙目で怯えた。

683由梨と上原先生:2010/08/02(月) 14:22:09 ID:B66zqQ1n
 
「移動だ」と、私達は藤本と更に家の裏に回る。

「藤本、アンタみるりに何かあったら只じゃおかないよ」
 ドスを効かせて軽く脅しつけると、藤本は脂汗を流しながらコクコクと頷く。
 ったく…ホントに情けない男だ。
 私をストーキングするような奴は、大体こんな意気地無しばかりだ。
 先生は私がストーカーに動揺していない事を不思議がっていたけれど、
正直こんな奴が憑いているのが日常茶飯事過ぎててもらいたい事は1つ。
皆で中島を1階に引き付けている間に、2階の中島の部屋を探ってきて欲しいんだ」
「探るって結局、何を探せばいいの?」
「運が良ければ腐乱した本人が見つかるかもな」
「ヒッヒィイイイイ!」
「無駄にみるりを怯えさせないで!」
「すいません!すいません!すいません!」



 そして結局、みるりが折れた。

「う…怖いけど…みるりこんな事でしか役に立たないし」
 みるりはビクつきながらも、中へ侵入する事を決意したようだった。

 数分後。

「ちょっと藤本!靴脱いで乗りなさいよ!」
「あっごめんなさい!」
「たっ高いいぃ!」

 私は、何故か四つん這いになって藤本に乗られるという、屈辱的な役割を果たしていた。
 簡単な話で、藤本の目算よりも窓が高かったのだ。

 ガラ
 藤本に高々と上げられたみるりは、窓を全開に開けて中の様子を窺っているようだった。
 四つん這いになっているせいで様子が窺えないが、
微かにカタ、ゴト、と物音が聞こえる事からみるりが侵入を試みている事が分かった。
 と。
 不意に物音が止まり、小声で藤本とみるりが言い争う声が聞こえてきた。
 小声過ぎて聞こえないが…このクソ重いのを我慢してるってのに、アイツら何やってんだ。

 暫くして漸く諍いは収まったようで、コト、コトとまた音が伝わり出す。
 フワッ。
 すると同時に、何かが空から降ってきて私の頭に被さった。
「え、何?何?」

 するとみるりが中に入りきったのか、藤本がゆっくりと私の腰から足を下ろした。

 藤本は何故か複雑な表情をしつつも、達成感溢れる表情で断言した。
「よし、思わぬ難関があったが侵入成功だ」
「難関ってアンタ…さっき何揉めてたのよ」
 私は痛む腰を押さえつつ起き上がり、頭に降ってきた物体をつまみ上げる。
 瞬間、目が点になった。

684由梨と上原先生:2010/08/02(月) 14:29:54 ID:B66zqQ1n
すいませんコピペミスりました…
683は無視して下さい

ーーーーーーーーーーーーーーーーー

「移動だ」と、私達は藤本と更に家の裏に回る。

「藤本、アンタみるりに何かあったら只じゃおかないよ」
 ドスを効かせて軽く脅しつけると、藤本は脂汗を流しながらコクコクと頷く。

 ったく…ホントに情けない男だ。
 私をストーキングするような奴は、大体こんな意気地無しばかりだ。
 先生は私がストーカーに動揺していない事を不思議がっていたけれど、
正直こんな奴が憑いているのが日常茶飯事過ぎて、何の感情も抱けない。

「ここだ」
 藤本が指をさした所は、3メートル程上に取り付けられた小さな窓だった。
「上原のメールと窓の位置・サイズから想定するに、
多分階段の途中で換気用に設置された小窓だと思う」
「確かに開いてるわね」
「1階から入れば流石にバレるし、2階の窓は高すぎる」
 確かに入るならここがベスト。但し。
「見ての通り、子供が入れるギリギリのサイズだ」
「だから何で皆みるりを子供扱いするの!?」
 もう目にいっぱいの涙を浮かべ、殆ど泣いている状態で、みるりが最後の抵抗をする。
「みるりにやってもらいたい事は1つ。
皆で中島を1階に引き付けている間に、2階の中島の部屋を探ってきて欲しいんだ」
「探るって結局、何を探せばいいの?」
「運が良ければ腐乱した本人が見つかるかもな」
「ヒッヒィイイイイ!」
「無駄にみるりを怯えさせないで!」
「すいません!すいません!すいません!」



 そして結局、みるりが折れた。
「う…怖いけど…みるりこんな事でしか役に立たないし」
 みるりはビクつきながらも、中へ侵入する事を決意したようだった。

 数分後。

「ちょっと藤本!靴脱いで乗りなさいよ!」
「あっごめんなさい!」
「たっ高いいぃ!」

 私は、何故か四つん這いになって藤本に乗られるという、屈辱的な役割を果たしていた。
 簡単な話で、藤本の目算よりも窓が高かったのだ。

 ガラ
 藤本に高々と上げられたみるりは、窓を全開に開けて中の様子を窺っているようだった。
 四つん這いになっているせいで様子が窺えないが、
微かにカタ、ゴト、と物音が聞こえる事からみるりが侵入を試みている事が分かった。
 と。
 不意に物音が止まり、小声で藤本とみるりが言い争う声が聞こえてきた。

685由梨と上原先生:2010/08/02(月) 14:33:33 ID:B66zqQ1n
 
 小声過ぎて聞こえないが…このクソ重いのを我慢してるってのに、アイツら何やってんだ。

 暫くして漸く諍いは収まったようで、コト、コトとまた音が伝わり出す。
 フワッ。
 すると同時に、何かが空から降ってきて私の頭に被さった。
「え、何?何?」

 するとみるりが中に入りきったのか、藤本がゆっくりと私の腰から足を下ろした。

 藤本は何故か複雑な表情をしつつも、達成感溢れる表情で断言した。
「よし、思わぬ難関があったが侵入成功だ」
「難関ってアンタ…さっき何揉めてたのよ」
 私は痛む腰を押さえつつ起き上がり、頭に降ってきた物体をつまみ上げる。
 瞬間、目が点になった。

「…ぶらじゃー?」

 悲しい程小ぶりで、白いレースのブラジャーが私の頭に乗っかっていたのだ。
「何これ…もしかしてみるりの?」
「変に見栄を張るから」
 藤本は心底呆れた顔で、ブラジャーを指さした。
「ブラに詰め物しまくってたせいで、窓に肩を突っ込んだ時に引っかかったらしい」
 誠意ある交渉の末、彼女には一時女性を忘れてもらう事にした。
 そう大真面目で語る藤本の頭を、私は全力で殴りつけた。

686541:2010/08/02(月) 14:41:52 ID:B66zqQ1n
以上です
今日の夜に続き持ってきます
では
687名無しさん@ピンキー:2010/08/02(月) 18:18:46 ID:kSnjsGtR
GJ!
続きが待ち遠しいです
688名無しさん@ピンキー:2010/08/02(月) 22:30:47 ID:lPQ+bkvk
誠意ある交渉ってw
689由梨と上原先生:2010/08/03(火) 00:53:00 ID:L1G8XTku
16

「あら?今何か音がしました?」
「そうですか!?ぼっ僕には聞こえなかったなぁ!」
 白々しく大声を張り上げ、僕はコーヒーを一気に胃に流し込んだ。

 おいおい、あんな物音を立てるなよ…。
 緊張の連続に、僕の心は折れ掛けていた。
 だが、状況的には順調この上ない。
 歩美先生の自宅に侵入。
 間取りと、階段の窓が開いているかチェックのメール。
 そして高坂みるりの侵入。

 高坂の侵入は、歩美先生が2階へ直行した場合は中止の予定だったが、
歩美先生が暫くリビングに腰を据える様子だった為に、決行となった。
 まあ、襟沢を使って歩美先生を1階に足止めしている間に
2階で僕が捜索する、パターンBよりはリスクが少ないもんな…。

「隆さん聞いてますっ?」
「あっすいません!何でしたっけ」

 僕が慌てて現実に引き戻ると、歩美先生はほっぺを膨らませて僕を睨んでいた。
「もー。先生が歩美の事知りたいって言うから色々話してるのに」
「ええと今は」
「ふふ、元カレの話ですよ」
 歩美先生はネイルの施された指でスプーンを摘み、コーヒーに継ぎ足したミルクをかき混ぜる。
 その所作は本当に静かで穏やかで、まるで激情に走った時とは同一人物のようには思えない。

 茶けたセミロングを揺らし、歩美先生は小さく首を傾げる。
「それにしても隆さんが、桜井先生や青柳先生のお話を知ってるなんて」
「やっぱりちょっと気になって…生徒たちから仕入れてきました」
「あら、じゃあ色々聞いたんですね」
「ま、まあ…」
 何だか調子が狂う。
 家に入るまでは、いつも通り異様なテンションの歩美先生だったのに、
リビングでお茶をし出してからというもの、歩美先生はすっかり落ち着きを取り戻していた。
 そうまるで、初めて出会った頃のように。

690由梨と上原先生:2010/08/03(火) 00:58:26 ID:L1G8XTku
 
「桜井先生はね、カッコイイだけじゃなくて優しい、とても素敵な人だったんです」
 歩美先生はミルクが混ざりきった後もスプーンをくるくるとかき回し、
手を遊ばせながら僕の質問に答える。

「私オクテで、お付き合いとか初めてで。でも親と同じ『先生』だから大丈夫かなって」
「そうだったんですか!歩美先生モテそうなのに」
「父親が教師なだけに、異性関係に厳しくて」
 恋愛とか、男の人と何かするって、凄く悪い事のように感じていたんです。
 と、照れながら話す歩美先生。
 カランカランと、スプーンが回る。

「でも桜井先生なら大丈夫。『先生』は正しい事が出来る人だから、って」
「…歩美先生は、教師という仕事を信頼しているんですね」
「ええ」
 僕は妙な所で、歩美先生の教師に対する真っ直ぐな想いに感銘を受けてしまった。

 良くも悪くも歩美先生は素直で、真っ直ぐだ。
 それが常に良い方に向かっていれば…。
「でも、桜井先生は正しい事が出来なかったんです」
「正しい?」
「最初は小さな事だったんです。約束を忘れてたとか、少し乱暴な物言いをしたとか」
 カラン。
「でもそのうち、桜井先生は色んな事を忘れるようになりました。ズボラになっていきました」
 歩美先生は、キラキラと銀色に光るスプーンを眺めている。

「お早うのメールを忘れました。
お休みのメールを忘れました。
電話をするのを忘れました。
約束の時間に来なくなりました。
私が毎日240通メールを送っても、50回電話をしても、
2時間に1回約束の日時を指定しても、現れなくなりました」

 スプーンが回る。
 1秒に1回スプーンを回しているとすると、かれこれ840回、歩美先生はスプーンを回している。

「学校でも避けられて、話もして貰えなくて」
 それって正しい事じゃないですよね?
「それは…桜井先生が自分の意志をキチンと伝えていなければ、確かに…」
 桜井先生は恐らく、怯えきっていたのだ。
 歩美先生の愛情に、正しさへの拘りに。

691由梨と上原先生:2010/08/03(火) 01:04:21 ID:L1G8XTku
 
「私は桜井先生の『返事』が欲しかっただけなんです。だから、辞めた後も、追い掛けた」

 その時期が、藤本が言っていた久保田先生が赴任してきた頃か。
「追い掛けて…見つかりましたか?」
「見つかりましたよ」
 歌うように朗らかに、歩美先生は言った。
「見つけた時、可愛い女の子と歩いていました。だから聞きました。『その子は誰』って」
「誰と」
「『新しい彼女』だと」
 カランカランカラン。
 カップからコーヒーが溢れ出す、零れていく。
「やっと返事を貰いました」
 歩美先生は変わらず笑みを浮かべていた。
 僕は桜井先生と彼女がどうなったのか、訊かなかった。



「青柳先生ですか?」

 そして桜井先生の話の後。
 漸く僕は核心に触れようとしていた。
 高坂が侵入してから20分、何か情報は得られただろうか。

「ハイ、彼とはどうだったんですか?」
「もう隆さんったら知りたがり屋さんですね〜」
 カランカラン。
 歩美先生はまた照れるようにして、顔を赤らめた。
 それだけなら可愛らしい妙齢の女性そのものなのに、
彼女の周りにはコーヒーの雫が点々と飛び散っていた。

「青柳先生は」

 ビシャリとスプーンがコーヒーを撒き散らす。
「桜井なんかと違って大人で、」
 ガチガチとスプーンが打ち鳴らされる。
「凄くカッコよかった。カッコよくて、変な女にまで手を出されて凄く困ってたんです」

 歩美先生の様子はあからさまに異常だった。
 話が進むにつれ、目の焦点がぼやけ、スプーンが機械的に回り続ける。
 カップの中のコーヒーは殆どが飛び散り、底に溜まった澱を一生懸命かき混ぜ続けている。

 ガリ、ガリ、ガリ、ガリ。

 体が、凍り付いたように硬直してしまって、動けない。
 頭だけがくるくると思考を巡らせる。
 連絡は?高坂は?襟沢は?
「困って…どうしたんですか」
「ある日、青柳先生が酷く乱暴に私を扱いました」
「乱暴な言葉を吐いて、私を殴りました」

 すると歩美先生は不意に顔を上げ、僕を見つめた。
 いや、僕でない。

692由梨と上原先生:2010/08/03(火) 01:13:14 ID:L1G8XTku
 
 歩美先生は、僕の膝に置いた秋桜の花束を見ていた。

「ソレ、綺麗ですね隆さん」
「あ…」
 膝に置きっぱなしにしていたせいで、花は少し萎れ、元気をなくしていた。
 僕は慌てて花束を歩美先生に差し出す。
「すみません、すっかりお渡しするのを忘れていました。良ければ花瓶にでも」
「ふふ、秋桜。もうそんな時期なんですよね」
 漸くスプーンを捨て、歩美先生は花束を受け取った。
「とっても綺麗だわ」
 花の薫りをすんすんと嗅ぐ彼女からは、すっかり先程の狂気が霧散してしまっていた。

「あの先生、先程の話の続きを」
 張り詰めた空気が途絶え、とんでもなくホッとするが、
それでも現状から逃げる訳にはいかない。
 恐怖心を抑え、話に戻ろうとする僕に、歩美先生は真顔で答える。
「ちゃんと話してますよ」
「いや花じゃなくてですね」

 状況は停滞していたが、決して悪化していた訳ではない。
 計画は概ね上手く進行していたのだ。
 この時までは。

 どこからか声がした。


「ヒッ―――」


 あ。
 微かな微かな、か細い女の声。
 幻聴で無ければそれは。
 高坂みるりの声だった。
「……あ」

 ヤバい。

 素早く歩美先生を見やる。
「あら」
 歩美先生は明らかに声に反応した。
「今何か聞こえませんでした?」
 ヤバい、誤魔化せ。
「ああ、きっと外に誰か居るんですよ」
 僕は必死で笑顔を取り繕う。

693由梨と上原先生:2010/08/03(火) 01:21:55 ID:L1G8XTku
 
「にしては室内で聞こえてきたような…」
「もう〜、恋人の僕の事が信じられないんですか?」

 奥の手、必殺キーワードを口にした途端、歩美先生の疑いの表情が一変した。
「まさか!隆さんの言う事を疑うなんて!歩美がそんな事する訳ないじゃないですかっっ」
「ハハハハありがとう、じゃあちょっと僕はトイレに」
「どうぞどうぞ!」
 誤魔化せたのか?
 僕はいてもたっても居られず、リビングを飛び出した。

 リビングの入り口のすぐ側に、2階へ通じる階段がある。
 その奥に洗面所と脱衣場が。
 僕はトイレの明かりを点け、扉を閉める。
 これで数分は凌げる筈だ。
 僕は足音を立てないように細心の注意を払い、階段を登りだした。

 1段、
 2段、
 3段…

 ギシリ、と階段が軋む音がした。
 うっかり強く踏んでしまったのか。
 気を付けないと…。
 ………
 ……いや?

 繰り返す。
 僕は細心の注意を払って階段を登っている。

「 」
 自然に呼吸が止まった。
 電気の点けられていない階段は真っ暗で、足を闇に浸けているようだ。
 どこかで雷の音が聞こえた。
 ゴロ…と猛獣のような低い唸り声。
 そう。
 嵐が来るのだ。

「 あ  」
 歩美先生は頭がおかしい。
 しかし同時に。
 頭がよく回る。

 閃光の様に雷鳴が、階段の闇を切り裂いた。


「隆さん、どこへ行くんですか?」
 僕の後ろにピタリと、歩美先生が張り付いていた。


「―――」
 躊躇いもなく、僕は中島歩美を階段から突き落とした。


694541:2010/08/03(火) 01:24:04 ID:L1G8XTku
今日は以上です
次も早めに出しにきます
では
695名無しさん@ピンキー:2010/08/03(火) 11:50:30 ID:xTKt0wrG
乙です
歩美センセ怖ぇww
696名無しさん@ピンキー:2010/08/04(水) 01:22:14 ID:nWRPmPMx
容量ヤバいか?
697名無しさん@ピンキー:2010/08/06(金) 01:12:10 ID:M6iVL5b6
取り合えず次スレ立てといた。

腹黒女が純真な男に惚れてしまうSS 第2章
http://yomi.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1281024655/l50
698由梨と上原先生:2010/08/06(金) 01:40:47 ID:fd07vpkh
17

 ゴッゴッゴッ
 背後から、人間が頭と体を強打しながら滑り落ちる音がした。
 それでも僕は振り返らずに、階段を駆け上がる。

 バリバリッ
「テメェ!」

 後ろで硝子の割れる音が聞こえ、罵声が耳をつんざくが、それをも無視して2階へ到達する。

 2階にはドアが4つあり、そのうちの1つが僅かに開いていた。
 そしてすぐ、異変に気が付く。
「ウッ」
 何か、強烈な臭いがする。
「ッ高坂!!」
 僕は胃から湧き上がる嘔吐感を抑え、僅かに開いたドアを開け放った。

 そして。
 僕は、一生忘れることの出来ない光景を見る事となる。


 強烈な腐臭で、一瞬にして鼻が麻痺する。
「げほっ…うっ…ヒクッ」
 高坂みるりはベッドの側で四つん這いになって、嘔吐していた。
「…ッ」
 僕自身も一気に胃がせり上がって来るが、歯を食いしばり目の前にあるモノを直視する。

 ベッドの下の収納棚の中に、死体が入っていた。

 が、髪が短い事から辛うじて男である事が判断出来るだけで、
男の体は部位という部位から肉が削げ落ち、目に見えて骨格が浮き上がっていた。
 僅かに残った黒く変色した肉の中からは、白い蛆が湧きかえり、
辺りには羽化した蠅が縦横無尽に飛び回る。
 とりどりの虫達の蠢く音色が細波の様に重なり、
生命誕生の「歓喜の歌」を、絶望的な様相で奏でる。

 正に地獄絵図が、そこにあった。

 何故この臭いに気が付かなかったのか。
 陳列された芳香剤が頭をよぎる。

 気の狂うような恐怖に駆られながらも、僕は高坂に手を掛ける。
 高坂の吐瀉物が足に触れるが、構わずに呼び掛ける。

「高坂!大丈夫か!」
「せっせんせ…ひぅっ…げぼっ…」
 高坂は目に涙を溜め、必死で僕の背広を掴む。
「コレっ…青柳…」
「喋るな!」
 僕は高坂の背中をさすりながら、目を背けたくなるのを堪え、死体を見つめる。

699由梨と上原先生:2010/08/06(金) 01:45:31 ID:fd07vpkh
 
 この死体は男だ。
 が、本当に青柳なのか。
 青柳に決まってる、早くこの場から出て行きたい。
 そんな気持ちを抑して、目を皿のようにして死体を観察する。

 目立った特徴などはない。
 服も肉と共に腐り落ちたのか、辛うじて背広を着ていると判断出来る位だ。
 背広…やはり青柳なのか。
 にしては、ここまで白骨化するなんて腐敗が早過ぎる気もする。
 夏だったからか?
 その時僕は、死体の側で、微かに光る小さなプラスチックを見つけた。
「…」
 恐る恐る拾い上げ、電球に透かして見る。
「…あ」

 ネームプレートには『桜井』と書かれていた。

「青柳じゃない」
「え?」
 初めて高坂が顔を上げた。



「高坂、部屋は全部見たのか?」
「みっみたよ…沢山あったから時間が掛かったけど…その分キチンと調べた筈だよ」
 漸く吐き気が治まったのか、もう吐くモノも無いのか、
高坂は涙を流しながらも的確に僕の質問に答える。

「でも…これがあった」
 高坂は吐瀉物の側に散らばる、ファイルや紙を指さす。
「これは…」
 それは、僕が探していた青柳先生の資料だった。
「歩美先生が盗んでいたのか…」
 という事は、やはり青柳先生も歩美先生の手に…。

「他に死体はなかったんだな」
「ない!ない!!」
 絶叫するように高坂は否定する。
「じゃあ出るぞ!」
 僕は高坂を抱き上げ小脇に抱え、階段を下った。


 ダッダッダ!
 階段を下りるとそこでは、同じく地獄絵図が繰り広げられていた。

「テメェぶっ殺すぞ!!」
「何で邪魔すんの?ねえ何で藤本圭君と糞女がココに居るの?」

 藤本が腕から血を流しながら、中島歩美の腕を掴んで背中に乗り上げていた。
 二人は、窓を破って侵入して来たのだ。
 襟沢は恐怖で涙をこぼしながらも、暴れる歩美先生の足を押さえていた。

700由梨と上原先生:2010/08/06(金) 01:50:00 ID:fd07vpkh
 
「先生!」
 振り絞るような弱々しい声で、襟沢が呼び掛けた。

「どうしたの!?何があったの!」
「二人ともそのまま押さえとけ!」
 藤本と目が合う。
 殺気立った目で藤本は、端的に問う。
「…青柳か?」
「居ない。桜井先生の死体があった」
 ヒッ、と襟沢が息を飲む。
 鼻がやられて匂いが分からないが、扉を盛大に開けて出て来た事で
腐臭が階下にも広がっているようだった。

「青柳は何処なんだ?オイ!!」
 ガンッ!
 最後の罵声と共に、藤本は思い切り歩美先生の頭をフローリングに打ち付ける。
「はぐぅっ!」
 奇声を上げ、歩美先生は体を仰け反らせるが、気を失った様子は無い。

「やめろ藤原!そんな事をしても歩美先生は話さない」
「隆さん…」
 僕の声に反応して、ズルリと歩美先生の頭が起き上がる。
 歩美先生は鼻血を垂れ流し、やはり幸せそうに微笑んでいた。

「歩美先生、青柳先生は何処ですか?」
 僕は怒りを殺し、必要な言葉だけを歩美先生の前に並べた。
「話の…続きでしたね」
 それに対し、歩美先生はよくわからない返答をする。

「話?」
「ほら、秋桜の話ですよ…」
「話を逸らさないで下さい!」
「さっきも『ちゃんと話してる』って言ったじゃないですか」
 歩美先生は、やはり真顔で僕に訴えた。

「あ」
「え?」

 出し抜けに発した間抜けな声に、藤本達が不審げにこちらを見やる。
 不意に僕の中で、彼女の言葉と言葉が繋がった。

 青柳と秋桜は関係が
 秋桜が綺麗だと彼女は

「秋桜、よく育ってましたね」
 歩美先生は歌うように、うっとりと呟く。

「きっと栄養が良いからですよ」

 僕は、握り締めていたネームプレートを取り落とした。

 歓喜に満ちた中島歩美の嬌声が、階下に響き渡った。


701由梨と上原先生:2010/08/06(金) 02:00:31 ID:fd07vpkh
 
 中島歩美を手持ちのロープで縛り上げると、僕は一目散に玄関へ駆け出した。

「高坂、とにかく警察に通報しろ!」
「あ、はい!」
「藤本は歩美先生を見張っとけ!」
「おい何処に行くんだよ!」
 藤本の問い掛けに、僕は簡潔に叫び返す。
「確かめにいく!」「私も!」
 思いもよらない所で襟沢が立ち上がった。
 
「襟沢、君は」
「お願い先生!」
 襟沢は混乱し、恐怖しながらも真摯な瞳を僕に向けていた。
 一瞬の逡巡の後、僕は無言で家を飛び出し、その後を襟沢が追った。

 ゴッ!!
 ザアアアアッ
 闇天の下、土砂降りの豪雨が僕を襲う。
 風に叩き付けられよろめく、が、それでも僕は走り続ける。
 
「っ!」
 後ろから手が伸びてくる。
「せんっ…せい!」
 それは白い白い、襟沢の手だった。
 打ち付ける雨の中、苦しそうな襟沢の手を取り、僕らはまた走り出した。
 一つの目的地に向かって。
 

 
 見上げた時、それはまるで巨大な墓石のように思えた。
 雨に晒され、闇が落ちる。
「学校…」

 呟く襟沢の手を引き、僕は裏門に回った。
 打ち付ける雨は激しさを増し、痛みさえ伴う。
 濡れそぼった髪をかきあげ、僕は鉄柵を握り締め、勢いを付けて門を乗り越えた。
「ほら」
 僕は内側から手を伸ばし、襟沢に足を乗せて踏み台にするよう指示する。
「うんっ」
 襟沢は小さな足を乗せ、飛び上がった。

「先生、どこに行くの!」
 襟沢の問い掛けに答えず、僕は一直線に用具倉庫へ向かう。
 ガラガラ…ッ
 偶然開いていた倉庫の中を、携帯のバックライトを頼りに物色する。
「あった」
 僕は土がこびり付いたシャベルを2本、取り出した。


 ザクッ、ザクッ、ザクッ…、ザクッ、ジャリッ

 規則正しいようで不規則な、土を掘り返す音。
 それに合わせ、荒い息遣いが耳に纏わりつく。
 咲いた秋桜はとうに、掘り返した土の下に埋まっている。

702541:2010/08/06(金) 02:05:26 ID:fd07vpkh
次スレ行きますねー
703541:2010/08/09(月) 23:43:33 ID:OmsDkxxX
541です
次スレに移るのが早過ぎてすいません

今回は、昔書いた「めいこと高坂」の短編を出します
短編というか、当時忙しくて続き書けなかっただけですが…w

一部の人しか知らないと思いますが、良ければどうぞ
704めいこの受難:2010/08/09(月) 23:48:53 ID:OmsDkxxX

「きゃっ?!」
「あっごめん!」

 手が不意に胸にぶつかった。
 それだけだった。
 しかしそれはソレを、決定的に感じさせる出来事だった。
「あ、うん大丈夫だよ」
「わっ悪い、痛くなかった?」
「だ、…大丈夫」
「良かった〜、ごめんな」
「…あー……うん」
「ん?どうしたの」
「えっ…いや」

 そう言う手は未だに私の右胸に置かれていて。
 その無意識の仕草に高坂本人が気が付いたのは、ひとしきり彼が謝った後だった。



「いやもう…無意識って、素直って、本当に怖い」
「めいちゃん独り言乙…」

 今日は中間試験の最終日。
 やっと地獄のような試験漬けの日々から抜け出した私は、久々に香織の家にお邪魔していた。
「今日高坂君と遊ぶ約束じゃなかったの…?」
「何かバイトが急に入ったみたい」
 話もホドホドに、お昼ご飯にと出された高級ステーキに必死で食らいつく私。
 そんな光景をよそに、「そう」と香織は涼しげな顔でダージリンを飲み干した。
 そこへ絶妙なタイミングで、お付きのメイドが追加の紅茶を注ぐ。

「それでめいちゃん…相談って何…?」
「………まあ、香織ごときには聞くまでもないような事なんだけどまあ一応参考に聞いてやってもいいかんじで聞くけど」
「高坂君奥手だから、Cまで行くのは難しいと思うよ…」
「う゛ぐっ?!」
 最後の一切れに思いっ切り喉を詰まらせる。
 散々咳き込み苦しみを味わった後、なかば腹いせに睨み付ける。

「お前は超能力者か!!」
「違う、観察力と情報量の勝利…」

 香織は相変わらずの様子でティーカップを机に戻し、言葉を重ねる。
「急にどうしたの…?やっぱり襲われ」「ち、が、う!!」
 それが無いから困ってるんじゃないか!!と口まで出掛かるが、堪える。
 そんな事言ったらそれこそ香織の思うつぼだ。
「それが無いから困ってるんだろうね…」
「もう何も突っ込まない…突っ込まないから」
 相談に乗って下さい。
 そう言った時、香織の目がキラリと輝いたのは、多分気のせいじゃないだろう。

705めいこの受難:2010/08/09(月) 23:51:52 ID:OmsDkxxX

 要するに、私は高坂の無意識アピールに死ぬ程当てられていたのだ。

 付き合って何だかんだで早半年を越え、それなりに手とかぎゅっとか…キ、キスとかも嗜んできた訳だ。
 でも私達はそこでピタリと止まってしまっていた。
 原因は多分私よりも高坂にあり、そしてそこへ彼が至る理由は至極簡単だ。

 『高校生にはまだ早い』

 恐るべき正論。最早論理の暴力と言っても良いだろう。
 いや、まだそれだけならいい。
 高坂がきっぱりパッキリバッサリ主張するなら私も進展への諦めがつくし、
そもそも私自身急いではないから、逆に安心出来た筈だった。
 しかし。
 純粋過ぎる、素直過ぎる高坂の本能は、本人が気付かない所で遺憾なく主張し始めていたのだ。

「…で?」
「む、胸…」
「もまれたの…?」
「ちがっ…触られてちょっとぷにょって!それだけ!」
「…それが無意識なの?」
「………うん……」

 とにかくタチが悪い。
 今回の事は流石に極端だとは言え、似たような事はここ暫く続いていたのだ。
「他は…?」
「…キスの時なんかえろかったり…たまに何とも言えない目で物欲しそーにこっち見てる」
「…」

 視線をふと逸らし、香織は考え込むように首を傾げた。
 と思いきや、具体的な質問が飛んできた。
「…めーちゃんはどうしたいの?」
「どうって」
「やりたいの、やりたくないの」
「ぶっ」
 アッサムを盛大に吹くが、香織の表情はピクリとも動かず、私を見つめている。

 ああ…アレはハッキリした答え以外は受け付けない顔だ。
 盛大に恥ずかしかったが、背に腹は代えられぬと、私は腹をくくる。
「…いよ」
「え…?」
「したい…かな」
「かな?」
「したいです!!」
 怒りと恥ずかしさから顔が熱くなるのを感じつつ、怒鳴りつけた。
 怖いけど、したい。………めちゃくちゃ怖いけど。
 高坂が求めてくれて、私がそれを差し出せるなら…答えてあげたい。
 何より私自身も、それを願ってるんだ。

706めいこの受難:2010/08/09(月) 23:54:15 ID:OmsDkxxX
 

「その心意気やよし」
 数秒後、香織は時代がかった奇妙な言葉を吐いた。

「…へ?」
 お前は今どの立場から物を喋ってんだ…?
 私の困惑をよそに、香織はおもむろに片手を挙げ、パチン!と指を鳴らした。
 途端に銀の盆と共にやってくるメイドの群。
「そんな迷える子羊にこれを授けます…」
「いやお前、何様?」
「折角画期的打開策を用意したのに要らないの…?」
「はいなんですか香織様」
 香織は無表情のまま、とんでもない提案をして来た。

「…じゃあね、めーちゃんは高坂君に襲われるように仕向けたらいいの」
「…」

 …その提案に一瞬考え込み、すぐに回答を出す。
「色仕掛けしたってアイツは絶対理性で抑えるし、そもそも私色気なんか無いよ」
 そう。大体からして、そもそも私自身に色気が不足している。
 私は今でも自分の事は超絶可愛いと思ってるが…いわゆるセクシーなタイプではないのは分かっていた。
 胸は大きいけど逆に童顔を強調されてる気がするし、小さな背は子供っぽさに輪をかけている。
 私が何をしようと、発情期でもあの高坂が何かしてくるなんて考えられない。
「私じゃ限界があるよ」
「『いつもの』めーちゃんならね…」
 香織は妙に含みを持たせ、メイドの一人に手招きをした。

「これ、何か分かる…?」
 メイドが持つ盆に乗っていたのは、ピンク色をした、2つの小さなプラスチックだった。
 一つはスライド式の調節ボタンが付いていて、もう一つは丸みを帯びた何の付属品も付いていない、シンプルな形をしている。
 何だろう?
 全く予想がつかず、素直に降参する。
「分かんない」
「じゃあめーちゃん、自慰って知ってる?」
「へあっ?」

「………………」
「何その声…」
 ………。
 ………………思わず変な声を出してしまった。
 …なんだって?
「よ…よく聞き取れなかったんだけど今なんて」
「だから自慰、通称オ」「わかった!!わかったから!!」
 聞き間違いではないらしい…。

707めいこの受難:2010/08/10(火) 00:00:16 ID:z/jkz/Fu
 
 聞き間違いではないらしい…。
 怒涛の勢いで疑問と困惑が噴出する。

「それが何の関係があるのよ!!」
「セクシーな要素が足りないなら補えばいい…」
「それがじっ…いと何の関係が」
「…セクシーに見えるのは、性的な欲求を高める要素を持っているから」

 めーちゃんが自分の外面である容姿や体が子供っぽいって言うなら、内面を魅力的にして行けばいい。
 自慰は女性フェロモン、つまり女の色気が最大に表れる時。
 表情を官能的にさせ、内面から女が溢れる。
「これを利用しない手は無い…」
「じゃっじゃあまさかこれは…」
「相田コーポレーションの最新技術を駆使して開発したローターだよ…」
 何やってんだ相田コーポレーション。

 胸中での突っ込みも虚しく、香織はおもむろにソレを私に手渡そうとする。
「ちょっ、こんなの要らないって!」
「明日はこれ付けて学校に来ること…」
「はぁ?!」
「だって高坂君がその様子を見てないと意味がない…」
 こいつ真顔でラリってる、絶対何かがおかしい。
 香織は考え込むように、ふっと宙に視線を逸らし、再度真顔で提案した。

「そんなに怖いなら今日は練習すればいいよ…」
「わ、私がそんなもん怖い訳ないじゃない!」
「じゃあどうぞ」
 ポン、と無情にも手渡されるローター。
「めーちゃんなら…全然怖くないよね?」
「…っ!」
 挑発に乗ってしまったと感じつつも。

 「使わなければいい」と心の中で弁解しながら、
とうとう私はソレを受け取ってしまったのだった…。

708めいこの受難:2010/08/10(火) 00:03:39 ID:z/jkz/Fu
 
「アイスクリームあるわよー」
「後で食べる…」

 お風呂からあがり、今日も今日とて色気も愛想もないトレーナーを着て息をつく。
「はあ…」
 今日は最低な1日だった。
 高坂とは遊べないし香織には変なもん渡されるし。
 チラリと例の物が入った紙袋を見やる。
 何故か保証書まで貰ってしまった…。

「…絶対使わないからな」
 そうだ、何もそこまでする必要なんてない。高坂だって必要以上に色気を求めている筈がないし、何だかんだできっと私みたいなのがタイプ(な筈)だ!

 ピロリロ。
「ん」

 不意に携帯がメール受信を知らせる。丁度バイトが終わる頃だから、相手は十中八九高坂だろう。
 案の定、開くと高坂からだった。
 今日も大変だったけど勉強になっただとか
次も頑張るだとか、生真面目な文章が並んでいる。
「そうだ…」
 文章を眺めていて、名案を思い付いた。
 もやもや考えてる位なら、この際高坂の好みのタイプを聞けばいいんだ。
 パチパチと携帯を操り、気負いなく送信してみる。

―――――――――
おつかれ〜。
急でなんなんだけど
、高坂君って好きな
女優さんとか女のタ
レントさんって居る

―――――――――

 よし、これで完璧。
 ちょっと遠回しだけど、これなら何を聞かれても誤魔化しがきく。
 高坂はなんて答えるんだろう…やっぱアッ○ーナとかしょ〇たんとか可愛い感じかな。
 もしかしたら「南さんだよ」なんて言ってくれたりして…。

 ピロリロ。
 数分後、意外と早く返信が来た。
 少しドキドキしながら画面を開く。
 果たしてメールにはこう書かれていた。

――――――――
安めぐみ
なんで??
――――――――

「………」
 絶句。した。
「…安…?」

「セクシーじゃん!!タイプ違うじゃん!!」
「おねえうっさい!」

709めいこの受難:2010/08/10(火) 00:07:47 ID:z/jkz/Fu

 妹の声も虚しく耳を突き抜け、愕然と事実に打ち震える。
 ………え?
 じゃあもしかして…無意識に我慢してるんじゃなくて…萎えてるのかな。
 ………。
 それって女としてマズくないだろうか…?

『セクシーになりたいなら努力すべき』

 香織の言葉が追い討ちのように頭をよぎる。
 私は、選択を迫られていた。



「んっ」

 自分でした事は…あるといえばあるけど、ちゃんとした事なんて怖くて一度も無かった。
 でも高坂の為なら…。
 思い切って下着の中に手を入れ、人差し指でそこを上下にさわさわと撫でてみる。

「ひあっ」
 緊張で更に敏感になっているそこは、指で触れただけでピクリと反応した。
「…っ」
 目を瞑って指を少し差し入れながら、触っていく。

 すり、すり。
「ふ…んん」
 段々とそこは熱を帯び、じわりと快感が生まれ始めている。

「あ…ふぁ」
 ちゅく、ぴちゃ。
 少しずつだが、とろとろと愛液がそこから溢れだし、指に絡み付き始めていた。
「ッ」
 そこで不意に高坂の顔が頭をよぎり、羞恥と興奮できゅうっとそこが締まって、更に指をくわえ込んでいってしまう。
「んん!…あっ」
 いつの間にかそこはくちゅくちゅと愛液にまみれ、音を立て。全体が痺れるような快感に包まれていた。
 下着は既に足首までズレ落ち、涙がうっすらと瞳に膜を張っているのを感じた。
「ふあ…もう…大丈夫かな」
 した事があるのはここまでで、ここから未知の領域だった。

 気持ちよさでボーっとする頭を何とか起こし、紙袋に手を突っ込み、ローターを取り出す。
 プラスチックの丸みを帯びた部分がピカリと輝き、一瞬躊躇が生まれる。

710めいこの受難:2010/08/10(火) 00:16:08 ID:z/jkz/Fu
 
 でも、これを入れたらもっと気持ちいいんだろうか…。

 高坂の為なのは確かだが、今の私はそれを忘れんばかりの快楽に捕らわれていた。
 呆然と指でそれをつまみ、ズプリと溶けたそこへと沈めていく…。
 ズブズブと異物が侵入していく感覚と、鈍い快感が体を突く。

「ひぅ…あ」
 中に埋め込んで、スイッチを手探りで引き寄せ、オンのボタンを押した。
 微かな振動音と共に、それは来た。

「ひああああっ!?」

 目の前が真っ白になる感覚と共に、強い快感が体を突き抜けた。
 ブブ、ブブブ…。
 振動は体の中心で小刻みに震えたり、うねるように動いたり、私の中を傍若無人に動き回る。
「そんなかき回したら…あふっ、ああっ!」

711めいこの受難:2010/08/10(火) 00:21:03 ID:z/jkz/Fu

 最早そこは痛い程熱を持ち、どろどろと幾筋もの愛液が糸を引いてベッドを汚していた。

「あっ…ああっ、こっ高坂君っ」
 絶え間ない快感が駆け上がるように登りつめる。

 気持ちいい、気持ちいい、気持ちいい…!!
「あああああっ!」

 そして私は。
 そのまま頭が真っ白になった。



 むくり。
 暫くしてから、激しい脱力感をおして、私はベッドから起き上がった。
 ばたばたと手を無作為に伸ばしてみるが、何も掴めない。
 それ以前に私は何を取りたいんだったか。

「………鏡」
 そう、鏡だ。
 ずるりと布団から抜け出し、大きな鏡がある化粧台の前に立つ。
 そこには自分とは思えない乱れた姿があった。
 髪はくしゃくしゃで、目はぼんやりと潤んでいる。
 頬は上気し、肌や唇はつやつやと艶めいていた。
 これは…。

「これいける!」

 これはどう考えても安っぽい!いやむしろ超越してる!
 うん、セクシー。完璧!明日はこれで学校に決定だろ常識的に考えて!

 …なんて妙なハイテンションで一夜を明かした私だったが…。
 我に返った翌日。

「………」
「おねえ遅刻するよ」
「…………」
「おねえ〜」
「あああああもう!」

 結局ローターを前にして、後悔と疑念に苛まれながら悩んでいるのだった。

712541:2010/08/10(火) 00:28:10 ID:z/jkz/Fu
以上です
文体で分かるかなと思ってたら誰にも突っ込まれないので…w
ずっと言いそびれてたんですが541=281です
その節はお世話になりました

由梨と上原先生も、またそのうち出しにきますね
では
713541:2010/08/10(火) 00:35:17 ID:z/jkz/Fu
あーまだ471KB…足りないですね
適当に埋めた方がいいですかね…
714名無しさん@ピンキー:2010/08/10(火) 01:05:02 ID:vhF+miKt
>>712
お疲れさん!
めいこと高坂はやっぱりいいな!
715名無しさん@ピンキー:2010/08/10(火) 12:41:31 ID:ik8BDZPO
おお待ってました!どんどんいってください
716名無しさん@ピンキー:2010/08/10(火) 22:22:19 ID:Csd/sI0+
以前突っ込んだら他人だったので、作者に迷惑をかけたので、自重してました。

GJ
717名無しさん@ピンキー:2010/09/20(月) 00:48:36 ID:+PyZKSH+
まだ埋まってない
718名無しさん@ピンキー:2010/09/20(月) 01:22:03 ID:1XKq1K/n
書いてみたいけど、題材として結構難しいよな。
腹黒だけど魅力のあるキャラ立てとか
719スレ埋め人:2010/10/24(日) 04:13:08 ID:YF4Ad702

【令嬢助手と長沢教授】


カツリカツリと響くヒール。
それは、ソファで昼寝をする僕の前でピタリと止む。
「…教授」
滑らかで、柔らかな囁きが耳朶をくすぐる。
あーうん、やっぱり彼女の声は癒されるなぁ。
うんうん、ずっとこうしていたい。この幸せな時をもう少し…あともう1限位。
「教授」
再度、彼女の声が耳元で囁かれる。
その調子でもう少し、子守歌なんかでも。
「ん」
「長沢教授」
顔に乗せた本が優しく取り払われる。
日光が瞼を突き抜けて意識を呼び覚ます。
闇に慣れた目が開かれ、眼前の彼女を捉える。

「うわっ!?」
彼女は鼻先の距離まで僕に顔を近付けて、ニッコリと微笑んでいた。
「近っ近いよ!!」
「教授、今日の1限の授業の件ですが」
目の端に栗色のウェーブが揺れている。
彼女は驚くべき近距離に完璧な微苦笑を浮かべ、同じ事をもう一度繰り返した。
「長沢嘉人教授、今日の、1限の、授業の件、ですが」
「あ、ああ。ちょっと昨日頑張り過ぎたせいでウッカリ寝過ごしちゃってねー
途中で起きたんだけどもう始まっちゃってるしもういいかってうああああああ!!!?」
突如頭に強烈な刺激が走る。
頭が追い付かず、何が何だか分からないまま悲鳴を上げ飛び起き、
一拍置いて自分が熱湯をダバダバ浴びせられている事に気が付く。

「ぎやあああ熱ッアッ、ちょ、あっつ!!!!!!!」
ダボダボダボダボ
「あら、ちょっと温め過ぎましたかね」
ダバダバダバダバ
「止めっ!!ちょっ!!マジで!!香奈子嬢ッ!」
チョロチョロ…

彼女、香奈子嬢は困ったような微笑みを浮かべたまま、
研究室の錆びたヤカンから熱湯を僕の頭に浴びせかけていた。

720下げるの忘れてごめん…:2010/10/24(日) 04:15:36 ID:YF4Ad702

「分かりました」
僕の必死の懇願に、ようやく彼女の手が止まる。
「なっなんで!!君ィ!熱湯て!!」
ビッショビショの白衣をバサバサしながら、僕は香奈子嬢に噛みつく。
「いや、昨日は研究室で徹夜されてお風呂にも入っていないだろうと思いまして…」
お風呂代わりに、カップ麺に使ったお湯の残りを少々。
と、全く当たり前の事のように香奈子嬢は頬に手をあてる。
「なんだそれ!!そんな風呂の入れ方何処で習ったんだよ!!」
「でも…お父様が『庶民にはこの様にして風呂に入る者が居るのだ』と」
「……」
「あの、もしかして、その様な方は居られないのでしょうか?」
「いや」
確かに居るっちゃ…居るなぁ。
『お父様』か…うーん成程、彼ならそう教えかねないなぁ。
一瞬の躊躇いの後、僕は言った。

「確かに居るね」
「ですよね!!」

パァッと香奈子嬢の顔が華やぐ。
笑顔を見てボンヤリ思う。
やっぱり香奈子嬢は可愛らしい子だなぁ。
「居るけど一部の人だけだし、僕はしないから。今後は止めてね」
「はい教授」
素直な彼女は、幸せそうにニコニコ微笑みながら言葉を続ける。
「それじゃあ、そろそろ2限の授業へ向かっていただけますか?」
「え?」

721名無しさん@ピンキー:2010/10/24(日) 04:19:27 ID:YF4Ad702

「お風呂も入った事ですし、準備もしておきましたから」
いや僕寝起きだし。
ていうかビッショビショのビッチャビチャだし。
今ちょっと歩いただけでバチャバチャいってたし。
「という訳だからせめてタオルを」
「ほらほら急いで教授、教授の素晴らしいお話を聞きたがってる
生徒さんがいらっしゃってますよ」
ガラガラ、ピシャッ
僕の抵抗もどこ吹く風、香奈子嬢は僕に資料を渡すや
研究室から僕を追い出し、扉を閉めてしまった。

意味が分からない。
「ちょっと香奈子嬢!!」
ドンドンと締め切られた扉を叩くと、僅かな隙間が生まれ
そこから香奈子嬢が少しばかり顔を出す。
「長沢教授…」
「おお香奈子嬢ようやく世間の常識を分かって」
「今日もお仕事頑張って下さいね、私…頑張ってる教授が大好きです」
ピシャリ
「」

今の行動に…思いを馳せてみる。
可愛い。
やっぱり香奈子嬢は…可愛いなぁ。
うん、もしかして今の台詞を言うのが恥ずかしかったから、僕を追い出したのかなぁ。
いや…天然でいじらしくて、可愛いなあ。
僕は何だか独りで納得してしまって、言われるがまま教室へと歩き出した。




教室に入ると何故か悲鳴を上げられた。
どうやらびしょ濡れだったせいで、不審者と間違えられてしまったようだ。
おまけにそのまま大学事務局に通報され、しこたま説教されてしまった。
香奈子嬢のとりなしがなかったらどうなっていたか分からない。
いやー、香奈子嬢には頭が上がらないなあ。


722:2010/10/24(日) 04:23:30 ID:YF4Ad702


ズルズルズルズル。
「ふむー」
ズルッ、ずばばば、
「うーん」
ゴクッゴクゴクッゴク
「香奈子嬢、カップ麺の汁が資料に…」
「ああっごめんなさい教授!!」


【令嬢助手と長沢教授2】


今や、僕の資料はドット柄状態になっていた。
味噌ラーメンだから、もろ茶色の。
「いや、いいんだよ。しかし香奈子嬢、君はカップ麺がやけに好きだね」
「長沢教授にこの庶民の食べ物を教えていただいて以来、すっかり虜なんですよ」
ちゅるちゅる麺を吸いながら、香奈子嬢は極上の笑みを浮かべる。

木々が風に揺れる、風が生徒達の喧噪を運ぶ。
秋晴れの空はポカポカした陽気に反し、からっ乾いた空寒い気温。
窓ガラス越しの日差しにウツラウツラしていると、ふと思い付いた事があった。
「そういえば香奈子嬢」
「はい」
「君のお父様は何の社長をしてたんだったかな?」
「商社です。海外で何だか怪しい兵器を販売しているんです」
聞かなきゃ良かった。

そうか…、彼はそんな職を生業としていたんだね。
今更にして、何の詳細も聞かずに君を助手にしてしまった自分の迂闊さを責めているよ。
いや、職業に貴賤は無いけどね。
…法律にも貴賤が無いからね。
「…ちなみにお父さん、外国人?」
「お母様はハーフですね」
「あっだからちょっとロリっぽくてハーフっぽい顔なんだ」
「……」
「……」
 大 失 言 。


「長沢教授」
長い長い沈黙の後。
慈母のような…妙に曖昧な笑顔を浮かべ、香奈子嬢がカップ麺から顔を上げた。
「そういえば私も聞きたかったのですが」
「あ、うんうん何だい?」
己の失言を挽回するべく、僕は3限を休講にする覚悟で彼女の質問に挑む。
「教授って何を研究されてるんですか?」
「」
想像の斜め上を行く質問が僕の脳にぶっ刺さった。

723名無しさん@ピンキー:2010/10/24(日) 04:27:10 ID:YF4Ad702

「香奈子嬢、君、僕の所に来てどの位経つっけ」
「半年と21日です」
「君にはどんな仕事を任せてるかな」
「授業に使う資料の整理・印刷。稀に研究のお手伝いもします。
スケジュール管理やお仕事のメールなども丸投げされています」
「ん?今何か言わな」「それがどうかされましたか?」
麗しい香奈子嬢は、マイセンのティーカップで食後の紅茶をすする。
どうかも何も、香奈子嬢よ。
「君、何も分からないまま仕事してたのかい?」
「はあ」
再び沈黙が降りる。
沈黙の隙間に風が吹き込む。
冷たい冷たい、冬の気配だ。
……。
いやいやいやいやいや。
「いやそんな訳ないだろう香奈子嬢。よく考えたら、自己紹介の時に説明したよ」
「そうでしたでしょうか、でも分からないものは分からないので説明していただけますか?」
一見傲慢な科白と裏腹に。
香奈子嬢は言葉と共にソッと僕の肩に触れ、朗らかに微笑んだ。
口元から白い八重歯が零れた。
「よし、答えましょう」
「どうせなので、当て物クイズにして良いですか?」
「…い、いいでしょう」


「教授は白衣を来てらっしゃいますね」
「うん」
「白衣は研究と関係がありますね?」
「いや、無い」
香奈子嬢は心底不思議そうに首を傾げた。
「…何故着てらっしゃるのですか?」
「普通に生活しているだけなのに、よく服を汚すからだよ」
何も無い所で転んだり、泥に塗れたり、この前は熱湯を浴びたしね。

「ならば、理系でなく文系ですね」
「そうだね」
香奈子嬢はクルリクルリと自身の髪を指で遊ぶ。
螺旋状にそれは回り、一瞬でほどけていく。

724名無しさん@ピンキー:2010/10/24(日) 04:29:28 ID:YF4Ad702

「ああ、分かりました。教授は哲学者なのですね」
「何処から哲学が出て来た」

「考え深くていらっしゃいますし…いつも何処か一点を見つめて深慮なさっている様じゃありませんか」
………。
それはね香奈子嬢、ボーッとしてるだけだよ。
今日のご飯何にしよーとか考えているだけなんだ。
そう僕が丁寧に説明すると、香奈子嬢は口に手を当て、ショックを受けたように箸を取り落とした。
(まだ食べていたのか)

「そういえば教授は文学部でしたね」
「何故そこまで分かっておきながら…」
「いえ、消去法で考えても文学部に辿り着きますわ」
「何故だい?」
「社会学者にしては社会性が無いようですし、経済学者にしてはお金に縁も興味も無いようですし…」
「そっそれで!!何だと思うんだい?」
もう何だかいたたまれなくなってしまって、僕は香奈子嬢の解答を促した。
「うふふ、私分かりました」
愛嬌たっぷりに香奈子嬢は僕を見つめる。
「文学者ですわ」
「違うね」
「語学者」
「違う」
「歴史学者」
「ブーッ」
「何だか面倒になってきましたわ」
「君が言い出したんだよ!!!!」

僕はいつの間にか両の目から、ハラハラと涙を流していた。
僕の心血を捧げた研究は何一つ、香奈子嬢の心を捉える事が出来なかったのだ。
その事が、何故か僕はとても悲しかった。

725埋まるまで書きに来ます。また次回:2010/10/24(日) 04:31:50 ID:YF4Ad702

「あらそういえば」
香奈子嬢はカップ麺の残り汁に白米をぶっこみながら、僕に報告する。
「次の日本人類学会、8月に変更になったそうですよ」
「何だって?急な話だな」
「あの南アフリカの少数民族の研究を発表なさるのですか?」
「そうだな…」
って。
「君、人類学者って分かってるじゃないか」
「当たり前ではないですか」
香奈子嬢は味噌汁ご飯みたいになった米を口の端に付けたまま、怪訝な顔で答える。
「なっ何で分からないなんて」
気色ばんで僕が声を荒げると、香奈子嬢は今日一番の麗しい微笑を投げかける。

「先程のお返しです」

そう言って、ちろりと真っ赤な舌を出した彼女。
「うん、それは仕方ないな」
その愛らしさに、僕は全てを一瞬で水に流した。



「しかし教授。私が教授が何を研究しているか知っていて、良かったですね」
「?」
だってあのままでしたら教授、
『理系でも無いのに白衣を着て、毎日ボーッとしてる、社会性も金もない大学にただ居る人』
になっている所でしょう?
「……」
僕はもう一度泣いた。

726:2010/10/30(土) 14:52:18 ID:j1s0Aaf4

「香奈子嬢、さっきから何をしているんだい?」
「教授宛のラブレターを燃しています」
「え?」


【令嬢助手と長沢教授3】


ジャングルの夜闇は深く、妖しい。
僕達はそんな帳の端っこにテントを張り、僅かな炎で虎口を凌いでいた。
ちろりちろりと燃ゆ焚き火。
焚き火の上にハラハラと舞う、
「…僕のラブレター?」
「ええ、それも熱烈な」
その繊細な指先を駆使して紙が裁断されていく、香奈子嬢はニッコリ微笑んだ。

獣の鳴き声が不意に空気を揺らす。
ザワザワと森一体が、生命体の様に蠢く。
「香奈子嬢。今一度、僕達の状況を説明してくれないか?」
「はい。私達は教授の研究で、ジャングルにやって参りました」
「うん」
「が、しかし教授の独創性のある方向感覚により、私達はジャングルの中で迷ってしまいました」
「うん…」
「幸いにも、この様な事があろうかと私がアウトドア用品一式を携帯していた為、
こうして火を炊きカップ麺のお湯を沸かしているのが現在です」
香奈子嬢の横顔が、柔らかな光に照らされる。
その瞳がレンズのように炎を反射して、ピカリと光を放った。
こんな時でも彼女は綺麗だな、と何となく思った。

ビリリ、ビリリ
紙の破れる音で我に返る。
「そうだ。それで何でこの事態に、こんな場所で、僕宛のラブレターを」
「燃やす物が要ると思いまして」
キョトンとした顔で香奈子嬢は、容赦なく2枚目も破り捨てる。
ああ…天然だなあ。
「そもそも何で君が僕のラブレターを持ってるんだ。
人の物を。それに一体それは誰からの」
「これは火曜2限の生徒さんのものです」
香奈子嬢はフッと僕の顔を見つめ。
「教授はロリコンなんですか?」
「なっ!そっそんな訳がないだろう!」
「なら、読まずともよろしいのでは」
「かと言って無視するわけにも行かないだろう!」
「大丈夫です。今までラブレターをしたためて来られた生徒さんには、私が対応致しましたので」
「ああそれなら…って何で君が!」
と、納得しかけて僕は慌てて首を振る。
「大丈夫です。皆さん、納得していただけましたから」
何が大丈夫なのか、香奈子嬢は鷹揚に頷き、ハラハラと紙片を撒き散らす。
「まあ皆さんには、少しばかり痛い目に逢ったり、社会的に地位を脅かせたりしましたが…」
「ん?何か言ったかな?」
「いえいえ…独り言ですわ」

727名無しさん@ピンキー:2010/10/30(土) 14:54:10 ID:j1s0Aaf4

「しかし何で君がそんな事を…」
呆れて僕は紙片を手に取る。
紙片には辛うじて、軽薄なハートマークが見て取れた。
「それは、私が教授の事が大好きだからですわ」
「えええええええ!???そっそれはまさか、こっ告は」
「…なんちゃって☆」
テヘッと赤い舌を出す香奈子嬢。
ま、全く心臓に悪い…。


「寒いですね。何か毛布はありましたっけ」
不意に、香奈子嬢が呟いた。
毛布…そんな物はさすがに無かったよな。
じゃあ仕方ないという訳にもいくまい。
僕の大切な香奈子嬢が風邪を引くなんて、許されるはずがない。
「ああ、ならおいで」
「えっ」
僕が両手を広げると、香奈子嬢はポトリと箸を取り落とした。

「あっえ、それは、あの」
常の静かで穏やかな姿は何処へやら、香奈子嬢はあわあわと手をばたつかせる。
「こんな時は人肌が一番なんだ。さあ」
「ああ…あの、はい…」
呆然と、といった様子で、僕の手に触れる香奈子嬢。
すべすべした、柔らかな肌が僕の肌に触れた。
とすっ
手を引くと、香奈子嬢はバランスを崩し、ストンと僕の膝に腰を落とした。
思ったより随分軽い。
「あ……」
僕はバランスを整えようと、香奈子嬢の腰に手を回し、すっぽりと僕の体の中に彼女を収めた。
「どう?」
じんわり、温かさが伝わる。

728また次回:2010/10/30(土) 14:55:44 ID:j1s0Aaf4

「……」
香奈子嬢は微動だにしなかった。
しかし暫くすると状況に慣れたのか、キュッと僕の白衣を掴み、顔をそっと胸に押し当てた。
甘えられているようで、何だか気恥ずかしかった。
「温まったかい?」
「…人肌は遭難時には有効ですからね」
「そうだな」
香奈子嬢は安心しきった子供の様に、僕の中で体を丸める。
何となく、本当に何となく。
僕は、彼女の小さな頭を撫でた。


闇は深く、得体が知れない。
ちっぽけな僕達は身を寄せ合って、只、其処に居る。
「嫌がらせで遭難させて良かった…」
「ん?今何か」
「いえ…」
ちろちろと炎が燃える。
ジャングルの夜が更けていく。


729名無しさん@ピンキー:2010/10/31(日) 14:27:34 ID:lqBnjdRW
うおおおおおめちゃ投下されてるじゃないか!
前スレだったから今まで気付きませんでした。
>>719-728 GJっ過ぎる!続き待ってますよ!!
730:2010/11/01(月) 23:59:56 ID:Hnb+FfGl

【令嬢助手と長沢教授4】

「……」
「まあつまりアレだ。確かにお前の研究は素晴らしいよ、その凡庸さ、無害さがお前という人格を表してるよな」
「…ああ」
「おっとソコに居るのは麗しの安斎香奈子嬢じゃないか?お久しぶりですどうぞどうぞ」
「どうぞって、此処は長沢教授の研究室ですが…」
香奈子嬢は何とも微妙に絶妙な顔をして、虎ノ門影雪教授の前に緑茶を置いた。


今日は珍しく、研究室に来客があった。
客は全く珍しくもない、腐れ縁の虎ノ門影雪教授。
僕の様にしみったれた大学の教授でなく、某国立大で若くして教授に成り上がった遣り手研究者。
虎ノ門は月に2・3度、突如やって来ては壮絶な無駄話をして、竜巻の様に去っていく。
それもこれも、僕と虎ノ門が大学時代の友人であるからなのだが……
「香奈子ちゃん、こんなダサ男の研究室なんて辞めて、俺の所へ来なよ」
白衣を雄孔雀のようにバサバサさせて、軽口を叩く虎ノ門。
「何を仰っているのか。ここを紹介して下さったのは虎ノ門教授ですよ?」
もう一つ、彼はこの研究室に縁を持っている。
何を隠そう、香奈子嬢を僕に紹介したのは彼なのだ。

「そりゃー俺だって手放したくは無かったよ。こんな可愛くて性格が極悪うぎゃ」
ゴン!
「ああっ!大丈夫ですか!?つい手が滑って!!」
「……」
香奈子嬢がウッカリ手を滑らせたお陰で、虎ノ門教授は緑茶塗れになっていた。
「すぐお拭きしますわ!」
そう言って、真っ黒な雑巾で虎ノ門教授の顔をゴシゴシ拭き出す香奈子嬢。
「いやー…良い性格だよ」
「だろ?良く気の付く本当に良い子だよ」
僕の言葉に、何故か虎ノ門はビーカーを投げつけてきた。

731名無しさん@ピンキー:2010/11/02(火) 00:01:34 ID:rdkfp6OW

「で、今日は何の用なんだ。生物学のカリスマ教授様」
「ふむ。まあいつも通りお知恵を拝借ってトコだな」
「あらそうだったのですか。余りに悩みのなさそうな面構えでしたので、
また世間話でもされに来たのかと思いました」
香奈子嬢の何気ない一言に、やはり苦笑いを浮かべる虎ノ門。
「研究室にな、またキナ臭い奴が入り込んでるみたいなんだよ」
その言葉に僕は思わず顔を歪める。
「何だ…。またいかがわしい仕事に首突っ込んでるのか」
「金になるからね。金の為なら何でもござれ」
「キナ臭い方でなければ、お父様とご縁は作れません」
香奈子嬢は蔑んだような視線を虎ノ門に向ける。

「資料を複製した跡や、夜間侵入した形跡もある」
「どうやら、研究室内部の人間みたいですね」
香奈子嬢の言葉に、虎ノ門の片眉が上がった。
「何で分かる?」
「そこまでされたら普通、警察に通報しますよ。身近に心当たりがあるから教授の所に来られたんですわ」
「まあ、余り深くサツの世話になりたくないのもあるがな」
カラカラと虎ノ門は快活に笑った。

助手の吉岡ナオ、事務員の重田寛、助教授の江村昌幸。
「この3人が怪しいと思ってる」
「理由は?」
「この3人位しか俺の部屋と研究を把握していないし、研究室の合鍵を持っている。それぞれ俺に不満を持っている」
むしろ君に不満を持っていない人間を探す方が困難じゃないのか?
「そう言うなよ」
虎ノ門は香奈子嬢の煎れた緑茶を飲み干し、甘ったるそうな饅頭にかぶりついた。
「俺の勘だが、何となく最近あいつらの様子がおかしい」

732名無しさん@ピンキー:2010/11/02(火) 00:03:07 ID:rdkfp6OW


2つ目の饅頭に手を伸ばす虎ノ門。
「まず、助手の吉岡は曲がった事が嫌いな堅物女だ」
若くて割と可愛い癖にブスッとしてて、俺が引き受けるヤバ目な仕事にイチャモン付けて、毎回喧嘩になる。
「事務員の重田とは、20年来の犬猿の仲だ」
大学在籍時代から目を付けられて、備品の管理や光熱費やら、毎回喧嘩になる。
「助教授の江村は、俺が失脚するのを虎視眈々と狙っている」
この前も喧嘩したばかりだ。
「喧嘩をせずには居られないのですね…」
憐憫の眼差しを向ける香奈子嬢…。

僕は早々に視界進行役に回り、話を促す。
「つまりその3人の誰かが、情報を流してるんじゃないかと?」
「どいつもこいつもきな臭い上、3人共喧嘩したばかりだ」
「どんな喧嘩を?」
香奈子嬢はコポコポと、虎ノ門の湯のみに茶を継ぎ足す。
「最近吉岡の顔色が悪い。寝てないようだったから聞いてみたら
『料理にハマってて、遅くまで作ってる』
なんてぬかしやがって。説教してやった」
「事務員は最近やたらと俺のタバコの注意をしてきやがって、禁煙だの病気の元だの。それでだ」
「助教授とは酒の事で喧嘩になった。アイツ下戸だからって俺の事『能なし酔っ払い』とか言いやがったからコレだよ」
と、拳骨を見せ付ける虎ノ門。
「ふぅん」
と、麗しい唇を尖らせる香奈子嬢。

「ちなみに、今やっている研究はどんなモノですか?」
「今は国からの頼まれ事で、ちょっとしたサンプルを糞程作ってる。気の遠くなるような単純作業だ」
あと1ヶ月は掛かるな、と虎ノ門は顔を歪める。
「ふぅん」
と、香奈子嬢。
「あ」
その時僕は気付いた。
僕は鈍感で頭が悪いから、誰が裏切り者なのかなんて全く検討がつかない。
だけど、全く話の違う事に僕は気が付いた。
「虎ノ門、そういや君」
「そういえば虎ノ門教授。今日は何日でしたかしら」
僕の質問を遮り、香奈子嬢が質問をする。
「今日?11月2日だろ?」
「それが分かっているなら早く研究室にお帰り下さい」
「帰れ…だと?」
その言葉にプチプチ…と虎ノ門の頭の血管が千切れていくが、
香奈子嬢は全く動じず、注ぎ直した湯呑みを掲げると。

ジャバジャバジャバ
「っっあっっっっっつ!!!!!!!!」
虎ノ門教授の頭にぶっかけた。


733名無しさん@ピンキー:2010/11/02(火) 00:04:51 ID:rdkfp6OW


………そして。

『二度と来るかこんな研究室!』
という言葉を残し、虎ノ門影雪教授はやはり疾風の様に立ち去っていった。
僕は呆然と、香奈子嬢を見つめる。
「か、香奈子嬢…何故」
「手がまた滑ったんです」
申し訳なさそうに顔を伏せる香奈子嬢。
泣いているのだろうか、肩がピクピク震えている。
嗚咽をかみ殺しているらしく、時折「クッ…笑え…フフッ」と切ない泣き声が聞こえてくる。
そうか、本当にウッカリだったのか。虎ノ門には後でフォローしておかないと。
僕の独り言は兎も角。
僕は香奈子嬢に聞いた。
「香奈子嬢、もしかして真相分かった?」


香奈子嬢はニコリと微笑み、断言した。
「分かりますよ。どう考えても虎ノ門教授は皆さんに好かれていますから」
好かれてる?彼が?
「しかし君も聞いただろう。彼はあの3人とは喧嘩ばかりだと」
「喧嘩する程、仲が良いんです」
香奈子嬢は会議の進行役の様に、理路整然と言葉を述べる。

「まず虎ノ門教授と3人は、そもそも嫌い合ってはいません。むしろ気に掛け合っています」
「しかし今の話には」
「大体3人の喧嘩の内容を思い返して下さい」
「……」
「教授は吉岡さんの顔色が悪いと『心配して』声を掛け、重田さんは禁煙しろと体を『気遣い』、
助教授は生意気な口が聞ける程、『気安い』仲です」
「…成程」
「お互い不器用だから、言葉と気持ちが行き違うのでしょうが」
香奈子嬢は呆れたように肩をすくめ、ふと口調を変える。
「そんな3人が不審な行動を取り出す。知らない間に研究室に変化が起き、
助手は寝不足に、助教授はいきなり自分は飲めない酒の話を持ち出す」

「そして来る11月2日」
今日は何の日ですか?
女神のように微笑む香奈子嬢を前に、僕は自然と、先程言いそびれた言葉を口にしていた。
「今日は…」

734名無しさん@ピンキー:2010/11/02(火) 00:07:40 ID:rdkfp6OW

後日。
真っ赤なリボンが掛けられた一升瓶とニコレットガムを両手に持って、
バースデーケーキを食べさせて貰っている笑顔の虎ノ門の写真が、携帯から送りつけられてきた。
すぐ側には、1ヶ月は掛かると思われていた数百のサンプル資料が、整然と置かれている。
何だか羨ましくなるような光景だった。

余程意気投合したのか、冬には4人で温泉旅行に行くらしい。
僕らも行ってみるかい?と水を向けると、
何故か香奈子嬢は顔を真っ赤にして、湯呑みを取り落とした。


735名無しさん@ピンキー:2010/11/02(火) 13:12:23 ID:nJgoKGoS
GJ
736名無しさん@ピンキー:2010/11/03(水) 22:44:56 ID:kUV8TTqd
イイヨーイイヨー
737名無しさん@ピンキー:2010/11/03(水) 22:49:30 ID:sb9QinUl
>>734
なんで湯呑み落としちゃったのかなぁ〜?w
ニヤニヤしてしまいますなw
738名無しさん@ピンキー:2010/11/04(木) 21:56:49 ID:uYDp8QW+
温泉旅行、ぜひ行ってくれ!
739名無しさん@ピンキー:2010/11/05(金) 13:44:06 ID:vjRSR5Po

夜光虫が張り付いている日本に居ると忘れがちな事。
夜空というものは本領を発揮すると、手の施しようが無く美しい。
ダイヤモンドを砕いて一面に散りばめたような、闇に燦々と輝く夜空。
僕は眼前の美しさに、ただ圧倒されていた。


【御令嬢と長沢青年】


同級生達が寝静まった頃、目が冴えてしまった僕は、懐中電灯片手に1人テントを抜け出した。
案の定夜は静かに最高潮を迎えていて、僕は興奮を抑えながら、慎重に歩を進める。
空を見上げながら歩いていると、光の粒が目にどんどんと飛び込んでくる。
生乾きの緑、異国の風の匂いが闇に溶け込む。
すると、まるで自分がこの情景の一部として溶け込んでしまっている様な、奇妙な感覚に襲われた。

僕は状況に酔い、更に歩を進めていく。
すると、何やら光の灯っている箇所があった。
そしてその輝きの中に、人影のようなものが見て取れた。
…原住民だろうか?
僕は気持ちの赴くまま、光の元へ向かっていく。
ガサリ、ガサリ。
そして、その距離が縮まるにつれ、僕は次第に先程とは違う高揚を感じていた。

ガサリ。
人影が振り返る。
其処に立っていたのは、世にも綺麗な少女だった。

少女はランプ型の電灯を地面に置いて、星を観賞していたようだった。
「き、君は」
「……」
僕は驚愕すると共に、胸の躍動が押さえられなかった。
顔付きから見て、どうやらアジア圏の人間のようだった。
こんな海外の森の果てで、同じ人種に出会う事自体驚くべき事である。
「うわ」
なのに彼女と来たら東洋一、いや世界一と断言してよい位の美しさを持ち合わせていたのだ。
肩で切りそろえられた黒髪が風に揺れる。
少女の大きな黒い瞳が僕を射抜く。
「……」
彼女は僕を見つめるばかりで、何も言おうとしない。
僕が、話しかけなければ。
この計算し尽くされたかのような、幻想的シチュエーションに相応な言葉。
僕は口を開けたまま必死で頭を働かせ、今掛けられる最上級の美辞麗句を投げかけた。
「こ、こんばんは。今日は良い夜ですね」
「貴方は一体どなたですか?人を呼びますよ?」
そして玉砕した。

740名無しさん@ピンキー:2010/11/05(金) 13:47:11 ID:vjRSR5Po

「すいませんでした」
「何故、謝るのですか?」
一瞬にして幻想的なムードが霧散する。
後に残ったのは少女の疑いの眼差しと、22歳の青二才。
というか彼女、日本人だったのか。

「…貴方の身分と5W1Hを述べて下さい」
そして少女は無表情のまま、ピシリと指を突きつけた。
「えっ?え、と」
僕は挙動不審になりながらも、言われるがままに質問に答えていく。
「長沢嘉人22歳、大学生です。昨日からこの地域に、
ゼミの仲間と、研究を兼ねた卒業旅行を、フラフラとやっております」
答えた。
愚直なまでに忠実に要望に応えたが、彼女の反応は今一つだった。
「ふぅん」
「あの、君は?」
「私はカナコ」
カナコ。やはり日本人のようだ。
「今年で11歳です。お父様と一緒に来ました」
「お父さん?お父さんはどうしたの?」
「近くの施設に居ます。私は夜空が見たくて、コッソリ」
成程。父親の単身赴任か何かで一緒に付いてきたんだな。
少女は僕の間抜けな所作に毒気を抜かれたのか、
小さく溜息を吐くと徐に地面に寝転がった。

「服が、君汚れて」
「良いのです。長沢さんもどうぞ」
カナコの奇妙な薦めに僕は言われるがまま、彼女の隣に寝そべった。
「わあ」
「星が綺麗でしょう」
夜闇がトロリと流れ込み、チカチカと光の砂粒が眼球で弾ける。
「うん」
僕らは暫く黙って空を眺めていた。


「…しかしこんな密林の側に施設なんて、あるのかい?」
「はい。内外には極秘で立てられた軍事兵器開発研究所ですから。この様な場所になってしまったようです」
「ん?ぐんじかいは…?」
「いえ、忘れて下さい」
カナコは強張った顔で呟くと、視線を夜空に戻す。
僕は何の気なしに、質問を投げかける。
「何故君は、僕を誘ってくれたんだい?」
「ハイ。私は長沢さんがロリコンの変質者と見込んで、貴方に変態行為をされるのを待っているからです」
「へぇそうなんだ…ってえええええええええええええ!!!!!??」
余りにも衝撃的な言葉に、僕は静寂をぶち破り奇声を上げた。
ああ言われて見ればカナコさん、
只寝そべっているというより、まな板の鯉のような決意溢れる眼差しをしている!

741名無しさん@ピンキー:2010/11/05(金) 13:49:20 ID:vjRSR5Po

「なっ、ななななっ」
「大丈夫です。貴方が手を出した瞬間。此方の『犯殺ブザー』が火を噴き、
貴方は駆けつけたセキュリティーに捕縛されますから」
「全然大丈夫じゃないよ!何だって襲われる為に居るんだい!」
「……私の性格が悪いからです」
ぷい、とカナコは僕から視線を逸らす。
「性格なんて。君は素敵な子じゃないか」
「性的な意味で、ですか?」
「誰が君にそんな言葉を教えたんだ」

カナコは妙に大人ぶった仕草で、髪をかきあげた。
その表情は強ばっている。
「私は性格が悪いから、お父様はこんな事でもしない限り…構ってくれません」
「……何で君は、自分の性格が悪いと思うんだい?」
「見ず知らずの他人を利用して自分の目的を達成しようとしている時点で、腹黒くはありませんか?」
「いやそれは君がお父さんを思う一心で」
「自らの明晰さを誇り、周りのクラスメイトを小馬鹿にしていてもですか?」
「いやいや」
「この前ボディーガードのジェリーに悪戯を仕掛けて、熱々のお汁粉まみれにさせていても?」
「…う、…うん」
何ちゅう事をしているんだ彼女は。


不意に風が吹いた。
草木がざわめき、うねる。
「思うのです。何故私にはこんな醜い感情があるのだろう。人に優しくなれないのだろう、と」
いつの間にかカナコは、星空を見つめながら涙を零していた。
それを見て僕は思った。
「君は良い子だね」
「……ロリコン変質者さん。今の私の話を聞いていましたか?」
「まずその不名誉な称号を取り去ってもらいたい所だが、カナコちゃん。
はっきり言ってお父さんは君のことが大好きだ」

742名無しさん@ピンキー

僕の言葉に、カナコは余程ビックリしたのか、目をしばたかせた。
「何も知らない癖に、何を根拠に」
余裕なくカナコは、矢継ぎ早に発言の意図を追及してくる。
「うん、君を見ていたら分かるよ。きっと良いお父さんなんだろう」
「そんな非科学的な…」
「一度自分から言ってみなよ。『休みを取って、遊んで』って」
「……」
僕の言葉に彼女は黙り込む。
「言った事がないんだろう?」
「でも性格は」
「君は良い奴だよ。現に『犯殺ブザー』も押されていない」
「でも私は悪い人間だから…」
カナコは小さな己の体をぎゅっと抱き締める。
「あのさ」
僕は、そっとカナコの頭を撫でた。
「物事の善し悪しは、他人や社会が決める事じゃない」
「じゃあ」
「自分で決める事だ」

「……っ」
「自分に対して抱いている嫌悪感が、君を『悪人』にしている訳だろ?」
星が巡る。光が瞬く。
「自分の中に『理想』があるのなら、それを実践してみればいい。
それがダメだったら、自分の本当の気持ちを塞がずに、理想に沿う自分なりの方法を見つけ出せばいい」
カナコは口を開けて、まじまじと僕を見つめる。
僕もそれに負けじと見つめ返す。
「自分の『正しさ』に納得がいくように生きるだけだ。それだけなんだよ」



話終えると、カナコは静かに立ち上がった。
「…超ロリコン変質者さん。ありがとうございました」
「君、頼むから名称に改良の余地を」
「変質者さんが言ってくれた言葉、実践してみます」
カナコの顔は心なしか明るかった。
「健闘を祈る」
僕が笑って答えると、不意にカナコはニコリと微笑んだ。
「じゃあ、早速実践してみますね」
その笑みは本当に魅力的で、僕はうっかり見とれて。

ちゅ
その間隙を突いて、カナコは僕の頬にキスをした。