☆魔法少女リリカルなのは総合エロ小説_第70話☆

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よしとりあえず、爆撃です。
・なのはさんが相変わらずボロボロです。
・ユーノ君、生涯最後の輝き。
・フェイトさんの果てなく続く愛のロードが始まります。
ではでは。
257君に届けたいただ一つの想い:2008/05/14(水) 02:08:40 ID:BP+YEut1
 手に取った金色の宝石が、以前にも増して重たく感じた。
 きっとこれが、己の罪。
 きっとこれが、果すべき責任の重さ。
 そう理解して、フェイト・テスタロッサ・ハラオウンはバルディッシュを握り締める。
 目を閉じ思い出すのは、彼女を親友以上に想ってしまった時の事。脳裏に浮かぶ彼女の笑みは幼く、きっとあ
の輝きを見てしまったからなのだと笑みを浮かべる。名前を呼んだ時、それからこの想いは芽吹いていたのだ。
 ――なのに。

「ごめん……私は、君を護れてなんかいなかったのに」

 もう、あの時の笑顔には会えないのだろう。この決して許されない罪は、絶対に壊してはいけないものを壊し
てしまった。それを護ると言って、実際に僅かたりとも護れやしなかった。
 だがそれでももし、と思ってしまう。もし許されるのなら、もしもう一度チャンスがあるのなら、と。
 贖罪ではなく、果すべき責任ですらないただの胸に残った未練。今この手に握る剣に込めていた想いが叫ぶの
だ。ただ一言、護りたいと。

「フェイト、大丈夫?」

 見上げる姉は真っ直ぐに、フェイトの表情に浮かぶ想いに眼を向ける。映るのは、弱弱しくいつ壊れてもお
かしくなかった危うさは打ち倒すような強い意志。
 迷いが無いとは言わない。苦しみが無い訳がない。だがそれでも、フェイトの表情はアリシアを笑顔にさせ
るに十分なもの。十分な程に、真っ直ぐだったのだ。
 そしてフェイトも、姉の想いに応えるように首を縦に。

「大丈夫」

 そして、言葉に。

「なら、もう安心だね」
258君に届けたいただ一つの想い:2008/05/14(水) 02:09:32 ID:BP+YEut1
 満面の笑みの姉は、妹に抱きつき涙の滲む顔を埋める。アリシアの身長はフェイトの腰に届く程度。羨望に似」
た悔しさは、最早二人の壁が存在しない事を告げていた。
 だからアリシアは言う。胸に秘めた想いを隠す事無く。他愛もない、本当にどうでもいい事だったけれど、と
ても嬉しかった事を。

「背、高いね」
「うん、少し自慢なんだ」
「そっか、胸も大きい」
「それは、母さんに似たんじゃないかな?」

 やや頬を染めたフェイトに、今度は髪型の事。何故ツインテールじゃないのか、なんて些細な事を聞いた。そ
の次はフェイトの仕事の事。その次はみんなの事。
 アリシアに矢継ぎ早に質問され、フェイトは多少戸惑いながらも一つずつ問いに答えていく。アリシアの小さ
な身体は手錠をしているフェイトの腕にすっぽりと納まり、互いに抱き合う形となっていた。
 まるで、一緒にいられない時間を埋めるように。
 この先、決してこのぬくもりを忘れないように。
 ひたすらに、姉と妹は抱き合い続けた。
 そして、最後。

「ありがとう、アリシアお姉ちゃん」
「……うん、どういたしまして」

 輪郭が確かでなくなってきたアリシアは、フェイトを更に強く抱きしめる。フェイトも同様に、アリシアの姿
が消えるまで、決して離さぬように力を込めた。
 奇跡は永遠に続く訳も無く、一瞬の夢だから奇跡足りえる。永遠に続く奇跡があるのなら、それは長い夢。い
つか覚めてしまうのは同じ事。
 アリシア・テスタロッサが消えていく。
 母の願いと、少女が願い続けた想いと共に消えていく。
 耐え切れなくなった涙が落ちると同時、やはり少女はあの時と同じ願いを残して逝った。

 ――どうこ、この子達がずっとずっと一緒にいられますように……。


魔法少女リリカルなのはStrikerS
―君に届けたいただ一つの想い―
(16)


259君に届けたいただ一つの想い:2008/05/14(水) 02:10:36 ID:BP+YEut1
 見上げれば空を走る紫電はすっかりとなりを潜め、もうそろそろ日の出が訪れると言う時刻。正確な時刻は分
からないまでも、長年の己の感覚を頼りに当てをつけたシグナムが前方に殺気と見紛う程の鋭気を向ける。

「――来たか」

 その眼が睨むはクロノが用意した対機動六課の精鋭だ。数は全くもって予想通り。寸分違わぬ構成に、思わず
シグナムの引き結んでいた唇が弧を描く。
 如何にシグナムとて目の前の精鋭を一人で相手にする事は叶わない。だが、彼女は欠片ほども臆する事無く地
面に突き刺していた愛剣を掲げ、悠然と言葉を紡いでいく。

「これより先は機動六課の敷地だ。許可無きも者を通す訳には行かない」
「そちらの部隊長殿には連絡がいっている筈だが?」
「丁重にお引取り願うようにとの事だ」

 シグナムの眼前、眼帯の少女の口端が僅かに上がった。彼女が司令官であるクロノに命じられたのは二つ。
一つはフェイトを引き取る事。そして、もう一つは今ここで実行するべき事。
 すなわち、一つ目の任務を妨げる者を排除する事。

「了解した。ならばこちらもそれ相応の対応をとらせて頂こう……ナンバーズ5チンクだ」
「シグナムだ。アギトが世話になった」
「なるほど、そちらがそうだったか」

 交わす言葉はたったそれだけ。互いに敵と認めた彼女たちは、そのまま各々構えを取り地面を蹴る。
 先に大きく動いたのは紅蓮を纏う炎の剣。シグナムはチンクの右側、眼帯の方向から容赦なくレヴァンティン
を一閃する。死角を取られたチンクはシグナムの速さに感嘆しながらも、迷わず手にしたナイフを投擲して迎え
撃つ。

「――っ! レヴァンティン!」

 愛剣の名を声高に叫び、ナイフを弾きながらシグナムが跳躍する。彼女がいた場所、弾かれたナイフが轟音と
共に爆発し、地面を抉る威力に舌打ちした。
 距離が埋めにくい厄介な相手――だが、そんな事は百も承知。ならばと叫ぶは、彼女の天敵。

「スバル、出番だ!」
「はい!」

 現れるは空を走る蒼の道。雄たけびと共に拳を突き出し、飛び出したスバルはチンクを睨む。
 スバルの登場に硬直したチンクが、だがと己を叱咤し、迷う事無くスバルに狙いを定めナイフを取った。
 交わった視線、二人の耳を打ったのは赤髪を風に乱す彼女の声。

「よぉ、ひっさしぶり!」
「うわっ、と、とと……ノーヴェ危ない!」

 スバルのウイングロードにぶつける形でエアライナーを展開させたノーヴェが、バランスを立て直すスバルを
睨む。ややあってからニッと白い歯を見せながらノーヴェが笑い、好敵手同様拳を突き出す。

「お前の相手はあたしだよ」

 戸惑うスバルの視線の先、シグナムがチンクに押されていた。次々と繰り出されるナイフを切り払い、避け、
果敢にチンクの隙を狙っている。
 それを視線を外すと共に頭の隅に追いやり、敵と定めたノーヴェを見据える。小さく吐き出した息と共にスバ
ルを取り巻く大気が震え、ノーヴェの赤髪を揺らしていた。
 本気で来る。ノーヴェがそう判断した瞬間だ。
 荒れ狂う蒼い星が、戦闘開始の狼煙を上げた。

「ギア・エクセリオン!」

260君に届けたいただ一つの想い:2008/05/14(水) 02:11:22 ID:BP+YEut1
「――始まったようやね」

 耳を打つは金属同士の衝突する音に、一層表情を引き締めはやてがリインと共にシュベルトクロイツを握り締
める。
 彼女が担当するのは官制ではなく純粋な戦闘。シグナム達がナンバーズの気を引いている間に、ありったけの
魔力を込めた一撃を放つのみ。
 場所は機動六課訓練場上空。機動六課内で最も開けている場所として選択したそこでは、今シャマルが目を閉
じフェイトの転送の準備を進めていた。
 別世界間の、正確に座標を決めての転送だ。それにかかる負荷は大きくシャマルはその場を動けない。はやて
が担うはシャマルの防衛。そして、ナンバーズを複数巻き込む範囲攻撃だ。

「キャロも準備ええな!?」
「はい! 問題ありません!」

 はやての前方では、フリードに乗ったキャロがじっとシグナム達の戦闘を見つめている。その額に浮いた汗は
緊張と、そして自分の降りかかった役目の大きさからだろうか。
 主砲の防衛という役割を担った少女は、高鳴る心臓の音を聞きながらじっと自分の出番を待っていた。

「……フリード、来た」

 反応したのはキャロとフリードどちらが早かったか。耳を動かしたフリードと共にそこを見れば、現れたの
はライディングボードに乗り移動するウエンディだ。
 木々の間を巧みに移動し、はやて達を見上げながらノーヴェが苦笑する。
 本来ならばノーヴェの役割だったはやて達との戦闘に急遽自分の役割を変更させられた彼女が、悪態を吐き
ながら目の前に現れたキャロにその動きを停止させた。

「っと、ルーお嬢様のお友達っスね」
「ここから先は行き止まりです」

 ウエンディがライディングボードから降り、構えを取った。キャロはフリードに乗ったまま地上すれすれに
高度を取り、ケリュケイオンに魔力を溜める。
 この場にいない少年に想いを馳せながら、ケリュケイオンに込められた魔力はフリードを包み込み、主によっ
て一層の力を得た白竜は小さく唸り、口内で溜めた炎を躊躇う事無くウエンディに吐き散らす。
 炎弾を防いだウエンディが木々の間を飛翔するキャロを追いかける。
 見上げた先のはやてはシュベルトクロイツを掲げ、詠唱を始めていた。それに溜息を吐いたのはキャロを追い
始めてからどれくらい経った後だったろうか。

「……ディエチ、大丈夫っスかねぇ」

 呟き、彼女はキャロに魔力弾を放つ。
 それを避け、炎弾で打ち落とし、キャロがウエンディから目を離さぬよう高速移動で霞む視界に目を細める。
 ウエンディとの距離は変わらず互いの攻撃が当たる位置にいる。キャロはウエンディの相手をフリードに命じ、
召喚陣を展開して機会を伺った。

「フリードは出来るだけ時間を稼いで。八神部隊長への攻撃を打ち落とすのが最優先」

 フェイトの事を想う。
 きっと、彼女にできる事は何もない。フェイトを彼女の元へ向かわせるための手伝い。それが、ずっと願い続
けていたフェイトの助けになるのなら。

「……エリオ君」

 きっと、彼も応援してくれる筈だから。
261君に届けたいただ一つの想い:2008/05/14(水) 02:12:38 ID:BP+YEut1
 チンクとノーヴェ、ウエンディの戦闘を眺めながらディエチは肩膝をついた姿勢で砲を構えていた。僅かに視
線を動かせば、その隣にいるオットーが機動六課周囲に張った結界を維持するため、忙しくコンソールを操作し
ている。

「オットー、そっちは大丈夫?」
「うん、機動六課の周囲に張った結界の維持は完璧。転送魔法は起動させないよ」

 宙に浮かぶ幾つものコンソールを操作しながら、オットーがチンクとの戦闘に注視する。そこにいるのは、二
人の激しい戦闘に加わった双子の姿だ。
 二対一。チンクとの連携でシグナムを攻めるディードの姿に、オットーが溜まっていた息を吐く。シグナムと
チンクはディードよりも経験も戦闘能力も上だが、ディードも負けてはいない。この分なら足手まといにもなら
ず、撃墜される事も無いだろうという安堵の息だった。
 だからだろう。オットーは、ずっと横目で見続けていたディエチの名を口にする。
 感情無く砲を構え、はやてに照準を合わせていたディエチが僅かにオットーに視線を向け、口を開く。言葉と
してオットーの耳に聞えたのは、否定でも肯定でも無い曖昧なディエチの声。それが、迷っていると言っていた。

「あの時、何か出来なかったのかなって思ってる」

 ディエチが紡ぐ言葉にあるのは後悔だけ。
 彼女が自分の元を訪れたとき、クアットロの囁いた言葉がプラスであった筈が無いと。
 あの時何かしら出来ていたのなら、もしかしたらこんな事にはならなかったのではと。
 次々と浮かび消えてくれない後悔を、ディエチは頭を振る事で消し、オットーを見た。

「大丈夫、みんなには迷惑をかけないから」
「うん」

 ディエチにどちらがいいかなどの判断はついていない。この任務を遂行出来れば、彼女の諦めてくれる。諦め
てくれれば、彼女が助かる確率もぐっと跳ね上がる。ディエチが事実として知っているのはそれだけだ。
 ただ、何となくだが思ってしまう。
 好きな人と一緒にいられないのは、とても寂しいのでは無いかと。
 想像しようとして、目を閉じてしまった――だから。

「――動かないで」
「――っ!」

 突然現れた彼女に、反応しようが無かったのだ。

「はぁ、はぁ……やっと見つけた」

 クロスミラージュを構え、ティアナが肩で息をしながらディエチを睨む。オットーはディエチに突きつけら
れたクロスミラージュに動けず、ディエチは僅かに溜息を吐きながら抵抗する事無くティアナを見上げていた。

「いつの間に?」
「あなたがぼんやりしてる間よ。何考えてるか知らないけど隙だらけよ」

 目の前に、とても強い意志が感じられた。
 だからディエチが彼女の名を口にする。自分はどうすればよかったのか、と。教えを請う子供のようにティア
ナを見上げ、そう問いかけていた。

「……そんなの決まってるわ」
262君に届けたいただ一つの想い:2008/05/14(水) 02:13:33 ID:BP+YEut1
 痛む身体で息を乱しながら、ティアナが言う。彼女が親友に教えられた一つの答えだ。

「自分が、後悔しないと思う方選択すればいいのよ」

 なるほど、とディエチが微笑んだ。構えていた砲を地面に置き、申し訳なさそうにオットーに視線を移しな
がら、言う。

「なら、あたしはあの人の邪魔なんて出来ないよ」

 この先何があろうとも、やはりそれだけは許容出来そうになかったのだ。


「――っ、なかなか!」

 迫る数え切れぬ程のナイフと、視界外から襲い掛かるツインブレード。シグナムは攻める二人相手に、だがそ
れでも引き下がる事は無かった。
 右手に握ったレヴァンティンを一閃し、弾かれたチンクのナイフによる爆発に視界を塞がれながらも彼女は背
後を執拗に取ろうとするディードの一撃を鞘でやり過ごす。
 痛む右腕を確認すれば、どちらの攻撃だったのか僅かに騎士甲冑を損傷し紅い鮮血が滴っている。だがそれを
気にする事無く、烈火の将はその名に些かも恥じない戦を続けていた。
 その戦闘領域からやや離れた所。行われているのはスバルとノーヴェの戦闘だ。
 その力を、その想いをそれぞれ拳と脚に込め、繰り出す互いの一撃は全てが渾身。

「くそっ、ちょろちょろと!」

 ウイングロードに衝突させるようにエアライナーを展開させつつ、ノーヴェが悪態と共にスバルに叫ぶ。
 中距離ではノーヴェに分があるとは言え、本来の得意分野である筈の戦闘ではスバルが若干勝ると言った
所か。
 その事に腹が立つ。相手がスバルであるだけになお更に。
 だから叫んだ。感情任せに。ガンナックルを突き出し、適当に乱射しながらただひたすらに、叫び、吼える。

「テメェ待てよっ!」
「いーやーだ!」

 ノーヴェのこめかみが、あまりに怒りにピクピクと震えていた。
 それを地中から見ていたセインは苦笑し、この戦域を離れていった。

「さて、こっちはこっちのやる事やりますか」

 ディープダイバーの能力を存分に発揮し、音も無くセインは妨げるものなく移動する。
 キャロの鎖に絡め取られたウエンディの横を通り過ぎ、魔力を溜め終わったはやての渾身の一撃をやり過ごし、
真っ直ぐに彼女が向かうのは機動六課隊舎内。
 そこに彼女はいる。彼女が頷けばこの任務も終わり。余計な戦闘など必要が無いのだ。
 戦闘能力の低いセインが担う役割は、彼女しか行えない彼女だけの任務だった。
 ――だが。

「テスタロッサちゃん! 準備できたわよ!」

 その声が、全てを覆す。
 隊舎から溢れ出した金色の輝きは、セインを飲み込み尚も突き進む。
 施設内のありとあらゆる物を吹き飛ばし、シャマルの元へ駆けていくナンバーズを吹き飛ばし、それでも止ま
る事は無く。彼女の眼中にすら、存在しなかったのだ。
 向かうはこの世界でただ一人、全てを捧げると誓った人との約束の地。
 立つ事すら困難な風の中。

「――行くよ、バルディッシュ」

 手にある剣は、それでも決して離れはしない――。
263君に届けたいただ一つの想い:2008/05/14(水) 02:14:16 ID:BP+YEut1
* * *


 エイミィ・ハラオウンによって齎された指令系統の混乱は、その配下、ユーノ・スクライアと彼女取り囲む武
装隊にまで及んでいた。
 連絡を取ろうにも通信は妨害され、目の前には満身創痍でこちらを睨む無限書庫司書長。それぞれが握るデバ
イスが容赦なく砲撃を放つには、些か厄介すぎる相手だったのだ。
 その隙にユーノは彼女と共に武装隊を掻い潜り、捜索する武装隊から逃れながら彼女に回復魔法を施し続けて
いた。
 場所はユーノが指定した座標からやや離れた場所。咄嗟に行使した転送魔法としては、十分すぎるほどに許容
できる範囲だったが、彼の練度から言えば歯噛みを禁じえないと言ったところだろう。
 その状況下で、彼女は痛みに喘ぎながらも決して立ち止まろうとはしなかった。
 制止を求めるユーノの声を無視し、胸に光る青い宝石に目を細め、力を求める。主の願いに呼応したジュエル
シードはたちまち願いを叶える為輝きを増し、彼女に力を与えていった。

「うぐっ……くぅぅ……」

 だがジュエルシードが正しく願いを叶える筈も無く、しばし彼女は内を荒れ狂う魔力に唇を噛むことになる。
 常に潤いを保つ形の良い唇など今はな無く、青ざめ乾いた唇からは血が滲んでいる。
 それすら見ていられないと目を逸らしたくなる現状に加え、彼女の身体はまともな所が無いほどに壊れていた。
 それを稼動可能なまでに保っているのがジュエルシードの力だ。彼女は望みを叶えるまで倒れる事は許されず、
痛みに壊れるきる事すらままならない。
 まともなら耐えられない苦しみに、だが彼女はボロボロの唇を歪め、笑うのだ。血走った眼を剥き、もう彼女
は求めるただ一人しか見てはいなかった。

「……」

 その姿にユーノは何を言うでもなく淡々と、彼女に施し続けている回復魔法へ更に強い魔力を込めていく。
 今彼女の最も近くにいる彼がジュエルシードを封印するのは簡単だ。ほんの僅か、この回復魔法よりも断然
少ない魔力を行使するだけで済む。
 事実として認識しているそれに、だが彼の意思は僅かたりとも傾く事は無い。
 間違いしか無いこの選択の果て、それでも彼女の望みが叶うのならそれでいいのかもしれないと。
 その先、何が待っていようとも彼女が満たされるのならと。

「行くよ」

 そう願い続ける事で、彼は己の意思を殺し続けた。
264君に届けたいただ一つの想い:2008/05/14(水) 02:15:01 ID:BP+YEut1
 一歩歩くたび軋む身体に、最早恐怖すら感じる余裕は無く彼女を歩み続ける。時折ユーノの指示で身を隠し、
時折躓き転びながら時間をかけて。
 もうすぐだよ、そう励まし続けるユーノに顔を上げ、そこを見た。

「……海鳴臨海公園」

 ユーノが目指していたのはその場所に他無く、彼女自身も当ても無くただ求めるだけだったものの、その場は
確かに心のどこかにあったのだ。
 今まで以上に意志を固める彼女に、ユーノが微笑んだのはどれくらいの時だったろうか。
 ややあってから、ユーノは今まで以上に真摯な声で言葉を紡いだ。

「ここから先は君だけだ。この先にフェイトがいるよ」

 この先は彼女達だけのもの。自分がそこへ行くのは許されない。そう、何故かは分からないけれど理解した。
 役目を終え、ユーノの身体が彼自身の魔力に包まれる。フェレットの姿から開放された彼は彼女に背を向け、
上空からこちらへ向かう武装隊を睨んでいた。
 だが、背中に感じる視線と気配は相変わらずそこから動く様子は無い。振り返った方がいいのだろうか、そう
思った矢先の事だ。

「――ユーノ君、ありがとう。今まで、ありがとうね」

 小さな、どこか不安気な声がユーノの耳を打っていた。

「そんなのいいから早く行って」
「うん、ごめんなさい」

 足音が遠ざかっていく。ゆっくりと、だが確かに。
 それを聞きながら彼は、最後に送られた言葉の意味を考えていた。

「くそっ」

 珍しく悪態を吐く彼に笑みはな無く、耳に残る言葉が何を意味するのか分かってしまったからこそ、彼は苛
立ちに震えた拳を自身の脚に叩き付け、一歩を進める。
 目の前に降り立つ武装隊がデバイスを向ける中、彼の耳を打ったのはユーノの震えた呟き。

「ここから先は通さない」

 彼女はいつだって残酷だ。
 この想いに、あんな言葉はいらなかった。
 欲しかったのはもっと別のもの。彼女が一人だけに向ける、かけがえの無い想いだった筈なのに。
 あんな言葉だけで満足してしまった自分が、この上なく腹立たしかったのだ。

「ここから先は二人だけのものだ。君達のの汚い足で汚すなんて許さない」

 あんまりにも腹立たしいから彼は決めた。
 前言撤回。もう、会わせるだけなんてつまらない事はなしだ。
 この身全てを捧げてでも、この場で彼女を守り抜いて見せよう――。


* * *

265君に届けたいただ一つの想い:2008/05/14(水) 02:15:58 ID:BP+YEut1
 心臓が、張り裂けそうな程に高鳴っていた。
 ユーノから分かれた彼女が身体を引きずりながら向かった先、フェイト・テスタロッサ・ハラオウンは彼女を
見つめたままそこにいた。

「……フェイト、ちゃん……フェイトちゃんフェイトちゃんフェイトちゃん……!」
「うん」

 海鳴臨海公園の一角。フェイトは不安定な街灯の上に立ちながらも、そのバランスを崩す事無くバルディッ
シュを握ったまま彼女を見下ろす。
 バリアジャケットを纏ったままのフェイトに、彼女は痛みも忘れ笑顔だった。傷だらけの顔を更に涙で汚し、
呼吸する間すら惜しむようにしきりにフェイトの名を叫んでいる。
 フェイトはそれに応えながらも、その場から決して動く事は無く。その口から、彼女の名が出る事もない。

「フェイトちゃんそんな所にいないでこっち来てよ。ね? お話しようよ」
「――私があの時言った言葉、覚えてるかな?」
「ふぇ? 何かな?」
「君を護るって。この世界の全てを敵にしたって構わないって」
「覚えてるよ。当たり前でしょ? 絶対忘れない」

 今まで一度たりともその名を呼んでいないのに。
 なのに、彼女は笑顔のままだ。傷つき、レイジングハートを杖にして立つのがやっとのくせに、笑顔のまま。
 その事に、怒りが湧く。
 正視すらしたくない彼女の姿に、だがフェイトは瞬きせずその眼に焼き付けていた。
 もう、目を逸らさないと決めたからだ。

「あの時の誓いは今も変わらない。君を傷つける全てから私は君を守り抜く……絶対だ」
「うん! うん、うん! だからっ――」
「でも、君を一番傷つけていたのは私だったんだよ」

 彼女の目が、見開いた。もうこれ以上開かないだろうと思うほど、大きく。
 そんな事ない。そう、感情に任せ髪を振り乱す彼女に、フェイトは一度首を横にするだけ。

「私は、君が真っ直ぐ進む為に目の前の邪魔なものを切り払うって、そう約束した筈なのに」
「そんなの良いよ! そんな事より、私はフェイトちゃんと一緒にいたいの! 離れたくないの……ずっと傍で、
誰よりも近くで……フェイトちゃんだってそう言ってくれたよっ!?」

 フェイトと彼女の距離は十歩程。今の傷ついた彼女でも容易に埋められる距離の筈だ。なのに、何故かフェイ
トが遠い。物理的な距離じゃない。もっと別の、もっと大切な距離。
 それが嫌で苦しくて、彼女が進む。一歩ずつゆっくりと。五歩歩いたところで小石に躓き、彼女は母を求める
幼子の様にフェイトを見上げた。
 だが、それでもフェイトが手を伸ばす事は無い。
 ただそれきり彼女が立ち上がれない程弱っている事に。
 咄嗟に手を伸ばそうとしてしまった弱い自分に。
 目を逸らし、逃げ出したくなっている自分に、奥歯を噛み締めて堪えるだけ。
 やや経った後だ。しゃくりを上げながら泣きじゃくる彼女に、ゆっくりと溜めていた息を吐く。
 そして。

「もう、全部終わりにしよう」

 はっきりと、手を伸ばす彼女にそう言った。

「……フェイトちゃん?」
266君に届けたいただ一つの想い:2008/05/14(水) 02:16:41 ID:BP+YEut1
 いつから間違ってしまったのか。
 もう幾度と無く自問した問いだ。今再び、それをもう一度。
 あの時彼女を抱きしめた時の誓いは絶対の筈だったのに、どこで間違ってしまっていたのか。
 最初からだったのか、それとももっと後だったのか。もう、それすらフェイトには分からない。
 分からないから、探したかったのだ。今目の前にいる彼女と一緒に、歩み続けたかったのだ。この誓いを思い
出してしまったから、もうそんな事しか考えられなかったのだ。
 この手に握る剣が斬るものは敵なんかじゃない。そんなものじゃなくて、もっと別の尊いもの――。

「終わらせて、また一緒に始めようよ」

 ――彼女の未来を切り拓く為にある筈だったから。

「私は今だけじゃない! この先もずっと一緒にいたいんだ! 君と一緒に手を繋いで笑って、もしかしたら
苦しい事があるかも知れないけど、でも、でもっ、それでも一緒に歩き続けたいんだっ!」

 少し頑固な所が好きだった。
 自分の事なんて顧みないで、誰かの為に頑張るところが好きだった。
 失敗したとき、誤魔化したように笑うところも。
 それでも負けずに前へ進み続けようとするところも。
 それ以外も全て、何もかも、もう言葉になんか表せないほどに大好きだった。

「私はっ、またそんな君が見たいんだよっ! 今の君じゃない……前みたいに……私が好きになった……暖かい
笑顔の君と一緒にいたいんだ!」

 涙を浮かばせ、金髪を乱しながらフェイトが叫ぶ。感情に任せて握られた拳は震え、ぐっと堪えるように結ん
だ唇も落ち着かない。
 それを見て、彼女はようやく理解した。

「ミライなんて、いらないよ。ミライなんかより、フェイトちゃんの方が欲しいもん」

 彼女と自分を隔てる五歩の距離。それはもう絶対に埋まらないほどに遠く、彼女がこちらに歩み寄る事はない
と。
 彼女が何を言っているかなんて分からない。そんなどうでもいい言葉なんかよりも、もっと欲しいものがある
のだと。
 だから彼女は立ち上がる。左手に絶えず握っていたそれを掲げ、あの時のように。

「私はもう何もいらないの。欲しいものも護りたいものなんか何もない……今この瞬間、あなたの傍にいたいだ
けなんだよ?」

 風が吹いている。
 それに混じり聞えたフェイトの呟きは、彼女の名前ではなく小さな、とても小さな感嘆の声。
 あぁ、そうだと。やっぱりその方が君らしいと。
 驚きも戸惑いもフェイトには無く、あるのは嬉しさに似た感情と、あの時を思い出させてくれる星の輝き。

「そうだね、君はずっとそうだった。そうやって、あの時も届けてくれたんだもんね」

 この場に立っている意味がある。
 この手にバルディッシュを握っている意味がある。
 あの時とは何もかもが違う。握るデバイスも、纏うバリアジャケットも身長も、胸に秘めた想いすら全く違う。
 だからこれは再現なんかじゃない。
 再び自分達が始める為の、譲れない戦いだ。

「――さぁ、始めようか」

 終わらせる為に。
 一緒に始める為に。
 彼女の想い全てを受け止める為に。
 その果て、今度は二度と離れぬように――。
267246:2008/05/14(水) 02:17:55 ID:BP+YEut1
以上です。ありがとうござました。
ちょっと場面転換多すぎたと思いますが……一応、頑張って纏めました。
ナンバーズがもの凄い物足りないですが、ディエチが書きたいだけだったのでこれで良し。そんな事よりも、
この話のメインはフェイトさんだから。
一話を覚えているでしょうか? いるわきゃない。だって自分も覚えてないし、読みたくない。
でもあの時から二人の最後の戦いをを書くことは決まっていました。246はなのはさんの想い=SLBだと思ってい
るので、書くしか無いと。
これで残り二話。次回はのはさんが溜めに溜めたフェイトさんにぶっ放したい一発限りの収束砲のお話。
そして、二人の少し長いお別れです。
ではでは。