かーいい幽霊、妖怪、オカルト娘でハァハァ【その13】
六日目。
寝すぎた。
時間ぎりぎりに起きたおれは、あわてて部屋を出た。
正直、メイドさんの様子も気になったのではあるが相変わらず朝には姿を見せないようで、声をかけたがそれっきり、おれは部屋を出た。
その日もまた地獄の忙しさ。昨日のヘマをフォローしなきゃならんのだから、自業自得と言われれば何も言い返せない。
ようやくその日の仕事も終わり、かりそめの宿であるホテルに帰ってきたおれ。
ロビーでカギを受け取り、部屋に入る。スティックキーをスポットに差し込み、部屋に電気を通す。
すると、その部屋には、何とも可愛らしいメイドさんの姿をした幽霊さんがいて、おれを出迎えてくれたのだ、今夜もまた。
「おかえりなさいませ、だんなさま♪」
おれがただいま、とそれに応えると、彼女は沸かし始めたポットに向き直り、真剣な表情でそれを凝視し始めた。どうやら今夜は出るらしい、コーヒーが。
そしてしばらく、メイドさんはポットを見つめ、中の水が沸騰する直前になった瞬間、えいやっ、と可愛い掛け声を出してポットのスイッチを切った。
そして素早く、あらかじめ粉を入れてあった紙コップに、その湯を注ぐ。
「できました、だんなさま!」
軽くかき混ぜ、そしてメイドさんはそのコーヒーをおれに差し出した。彼女の表情は真剣で、自信と、そして裏腹な不安とが一緒になった緊張の色が
満ちている。
「塩は入れてないよな?」
「はいっ、一粒たりとも混入していません!」
おれは、そのメイドさんの答えを確認してから、コーヒーをひと口。
・・・美味い。
そしてもうひと口。
本当に美味い。
そして残りの分を、味わってじっくりと堪能し、飲み干した。
美味い、信じられん・・・。
まさか、安物のインスタントコーヒーがここまで美味しく味わえるとは、実に驚きだった。まさに神技、幽霊技、いや、メイド技か。メイドさん奥義、
とはよくいったものだ。
いや、はたしてそうだろうか。
そのときちらりと、視界にごみ箱が見えた。夕べと同じく、コーヒーの紙カップや砂糖の紙容器などが堆(うずたか)く積まれている。夕べのことも
あるから、見てみない振りをすることにしたが。
たくさん練習したんだろう。おとといに飲んだ缶コーヒーの味を頼りに、コーヒーの粉の量や砂糖の微妙な配分を変えたり、お湯の温度を工夫したり。
限られた材料を、一番美味しく飲めるバランスに調合したんだろう。なぜだろうか、おれの好きな味だった缶コーヒーよりもずっと美味しく仕上がっている。
幽霊の持つオカルトパワーや、はたまた可愛い女の子がいれてくれるコーヒー、メイドさん効果で美味しくなった、なんてのはただの幻想で、実際は
こんなふうに、何度も試行錯誤を繰り返して習得したはずだ。安易に超常的な力のせいにしてしまっては、彼女の努力に対して失礼だな。
彼女は、コーヒーを飲み干したきり黙ってしまったおれを、心配そうな顔で見つめている。
そうだったな。
いつのまにだか知らないが、おれは彼女のだんなさまになっていたんだ。それならそれで、彼女の主人らしく、彼女に応えてやらねばなるまい。
「うん、美味しいコーヒーだ」
ぱあっ、と彼女の表情に花が咲く。
「よく、がんばったな」
おれは、彼女の頭の上にぽん、と掌を置き、やさしく髪を掻き撫でる。
メイドさんの顔、髪の毛に隠れていないところが赤くなっていく。
そうして彼女に瞳がじんわりと潤みだしたかと思うと。
「だんなさまぁっ!!」
とうとう感極まって、おれに抱きついてきた。
おれの胸元に顔を埋め、両手を背中に回し、ぎゅうっ、としがみついて来る。おれはそれを受け止めて、やさしく抱き返してやりながら、
彼女の体温の温かさを感じていた。
・・・え?
なんで、体温があるんだ?
それにおれ、この幽霊さんに触(さわ)れてるぞ?
いやまて、そう言えばおれ、何度も新聞紙でこの子を叩(はた)いてるな。さっきはごく普通に頭も撫でたりしたし。彼女は自分の意思で、紙コップに
触れたりポットのスイッチを入れたりできるわけで、おれが彼女に触れていること自体はまぁ、なるようになった成り行きのような感じで『あり』なのだろうか。
つまり彼女の実体化は、『彼女が触れようとする意思』か、『おれが彼女に触れようとする意思』どちらかがあればいいのだろう。
最初におれが幽霊作法を教えようとしてすり抜けてしまったのは、おれの気合が足りなかったか、彼女に逃げられてしまったせいかもな。
そうするといまこの幽霊メイドさんに抱きつかれて、おれが体温を感じているということは、『彼女がおれの体温を感じたい』と願っているということだ。
幽霊のくせに温かい人並みの体温を持っているのはなんだか解せないが、まぁそれは愛敬か。
・・・いやまて。
ってゆーことは、おれはいま、触(さわ)れて、体温もある、可愛い女の子に抱きつかれているわけか!
彼女はいまだに、おれの胸元に顔を押し当て時折小さくしゃくりあげながら、しがみついて離れようとしない。
おれに褒められたことがそんなにも嬉しかったのか。
おれは彼女の肩に手をかけて優しく促してやり、こちらを見つめてくる彼女に唇を寄せた。
「・・・ん」
唇を重ねられて彼女はやや驚いたようだが、後は瞳を閉じ、おれにそのまま唇を預けてくれた。
そうやって、唇を触れ合わせるだけのキスを続けるうちに、どんどんこの幽霊メイドさんのことが愛おしくなってきた。可愛らしいけれどもお馬鹿な彼女、
メイドさんのくせにインスタントコーヒーを入れる仕事しかしない、だけどもそれに一生懸命な女の子。一体どんな経緯で幽霊になったのかは知らないが、
それでもこうして、この部屋で彼女に出迎えてもらったことはおれにとって幸運な出来事なのだ。
惚れっぽい? 手が早い? ほっといてくれ。情熱的と言ってもらおうか。
とにかく、おれは彼女に恋してしまったようだ。
おれはそれから、キスを少しだけ強く、彼女の唇を割るように重ね、開いた隙間に舌を差し込んだ。
「ん! ・・・んうん、ん・・・」
彼女は侵入してきたおれの舌に驚いたが、それでも抵抗らしい抵抗もせずに受け入れてくれた。彼女の口の中は唾液にあふれ、その中の短めの
舌が、やや不器用にうごめいておれの舌に絡み付いてくる。舌の腹どうしがこすりこすられ、そのたびにぞくり、と背筋を甘い痺れが走り、胸が苦しく
なっていく。
幽霊の口の中に唾液があろうとも、もうおれは驚いたりしねえぞ。ちなみに彼女のキスはコーヒー味。昼間にさんざん味見をしたんだろう。
ちゅ、・・・・・・ちゅう、・・・ちゅうぅ、
おれたちのキスの音が、ときおり唇の隙間から漏れる。キスの最中も、おれに口を防がれた彼女は懸命に鼻で呼吸をしていた。体温とか唾液とか
呼吸とかなんて、まるで生きている人間と同じじゃないか。ここまで来れば、おれも確信を持てる。
これは、『喰っていい』ってことだ。
実体化が彼女の意思ならば、それをここまでリアルに再現してしまう理由は、それしか考えられない。
おれは、ながいながいキスを終えて唇を離す。幽霊のメイドさんは、ようやく唇を解放されて、はぁぁぁ、という熱っぽい息をはいた。その顔は紅潮し、
瞳は潤んでいる。
「・・・すごい、これが『キス』なんですね・・・」
かすれる声で、メイドさんがいう。うっとりとキスの余韻に酔う姿は、だれがどう見ても(もちろんおれしか見ていないが)初心(うぶ)な女の子だ。
「どうだった?」
キスを終えたとはいえ、まだ数センチも離れていない唇で、おれが彼女に感想を聞いてみる。
その問いに彼女はといえばゆるやかに、ぱく・・・、ぱく・・・と口を動かすも、言葉というか音にもならない様子だったのだが、少ししてようやく、
その唇の動きが音を得た。
「それが、ぼーっとしてしまって、なにがなんだか・・・」
顔を赤く染めたまま、困ったような口調での返答。その初々しさに、おれは何ともおかしくなってしまい、ついにやにやと笑ってしまうのだ。
おれは、あまり我慢できない質(たち)なので、そのままメイドさんをベッドに押し倒した。ひゃん、と空気にかすれるような短い悲鳴をあげたメイドさんに、
無粋とは知りながらも言葉に出して確認する。
「このまま先に進んじまうが、いいか?」
するとメイドさん、おずおずとうなずいた。
「よくできたメイドさんは、だんなさまのお手つきになって可愛がられるものなのです・・・」
どっちかっていうと、出来の悪いところが可愛いので抱きたいわけだが、まぁそのあたりは言わないことにした。
幽霊の彼女、消えるときには服も一緒。
だったら今、彼女が着ているこの黒いメイド服も、幽霊なのだろうか。服の幽霊? それともこれも、外骨格みたいな彼女の一部? あるいは、
先祖が代々、死ぬときに残す霊毛で編んだ服なのか?
んなこた、どーでもいい。
何が大事なのかというと、彼女を引き立てるようなデザインであること、服の素材が上質であること、そしてそれを脱がす楽しみを与えてくれている
のか、という点なのだ。
その点、彼女のメイド服は満点合格、さらにその下のインナーまでもが生意気なシルク作りという、贅沢仕様。
「わっ、わわっ、み、見ちゃだめですよっ!」
おれが、彼女のスカートをめくってその下着を確認すると、羞恥に耐えられなくなった彼女がそんな言葉の抵抗をした。
だが残念、そんな言葉程度では俺のリビドは止められやせん。なぜならば、そんな唇はおれがキスで塞いでしまうからだ。
「ん・・・・・・んふ・・・・・」
メイドさんの舌も大分緊張がほぐれてきて、おれの舌に合わせて滑らかに動き始める。
舌の腹がこすれあうたびに、おれはぞくぞくとしびれるような快感を得ることができるし、彼女もそうなのだろう、全身を小さく震えさせながらもときおり
ぴく、ぴくりとのけぞるように反応する。
とてもじゃないが、ここで止めたりはできない。
黒い服の胸元のボタンを外していくと、真っ白な肌が現れた。上品なレースのあしらわれた黒いブラジャーで寄せられたその胸は、柔らかそうな
乳房で見事な谷間ができている。ずいぶん着痩せするんだな、服の上からではわかりにくかったが、結構な巨乳じゃないですか、メイドさん。
「あ、あまりじっくり見ないでください・・・」
実にうまくできた構造で、ブラのフロントホックを外すと、締め付けられていたおっぱいがまるでびっくり箱か飛び出す絵本のような按配で解放された。
メイド服の胸元を押し開いて、二つの胸が現れるさまは、まさに圧巻である。
これはスゴイ。実に面白い。そしていやらしい。
一言にまとめると、『超オモやらしい』。
「実に立派なものをお持ちで・・・」
「・・・素直に喜ぶところなんですか?この場面」
おれの褒め方に、恥ずかしいやら不可解やら、微妙な表情で返してきたメイドさん。
そんな彼女の反応は軽くスルーして、おれは彼女の胸をいじり始めた。まろやかでふくよかな両おっぱいを両の掌で掴み、もにゅん、むにゅん、と揉みしだく。
「ん! ひ! ひにゃああん!」
おれにおっぱいを揉まれ、肩を縮めて身悶えるメイドさん。ときおりまぶたを開き、おれに鷲掴まれる自分の乳房を見て、より困惑したように眉根を寄せる。
こころの、主に性欲の赴くままにおれはメイドさんのたわわなおっぱいをこね回した。するとその乳房の先端、淡い色の乳首が、だんだんぷくりと勃起を始めた。
「乳首、膨らんできたな」
「や、言わないでください〜」
おれは、舌をとがらせてつきだし、その乳首の周りをなめてやった。
「ひっ! や! あっ! はぁっ!」
メイドさんは息を詰まらせ、可愛らしい声を出してあえぐ。乳首に直接舌が触れることなく、その周辺だけをくすぐるような刺激。じれったさに肌が暴れ、声も乱れる。
「うん、乳首も立派なもんだ」
おれが舌を離し一息ついたころには、彼女の双球の上の乳首は、小さめながらもびんびんに固くなっていた。もちろん彼女の息も絶え絶えで、
さっきのように微妙な疑問を挟んでくる余裕もない。
そしておれはようやく、彼女の乳首に直接攻撃を開始した。
「ひうっ!! あ、あ、ああっ、あああ〜ッ!!!」
おれが彼女の乳首にすいついてしゃぶり倒すと、彼女は悲鳴を上げて悶えまくった。当然彼女の乳首からミルクが出るわけもないが、
それでも彼女の味がして、吸いついた舌先でなぶるのが楽しい。なぶるたびに彼女が悲鳴を上げて悶えまくるのが、スゲー楽しい。
あまり調子に乗って乳首ばかり攻めると、メイドさんの方が保たない。今でもすでに息絶え絶えで、瞳に涙をためてぐったりしている。
もちろん、おれの方だって我慢できない。ズボンの中で愚息がデカくなりすぎて窮屈だぜ。
じじじ、とおれはファスナーを下げ、その中からギンギンにいきり立ったペニスを取り出した。
「じ、実に立派なものをお持ちで・・・」
「おうともさ」
メイドさんは、おれの逸物をみて、ごくりと息を飲み込む。
ベッドに横たわり、息を少し整えていたメイドさんは、近づけられたおれのペニスにそっと手を触れさせた。
「あ、・・・あの、これをおしゃぶりすれば、よろしいんですよね?」
お、フェラチオのことを知ってるのか。なんかそのあたり、知ってる知識と知らない事の差がよくわからん。おれがそのことをちょっと聞いてみると。
「この部屋の、ビデオで見ていましたので、理論は知っています。・・・実践はまだですが」
部屋のビデオって、見たお客さんが金を払う有料放送じゃねえか。覚えのないビデオ代を請求されるとは、客も迷惑したろうな。
おれがそんなふうな感想を漏らすと、頬を赤らめたメイドさんが申し訳なさそうに、呟いた。
「そこは、呪いとでも思ってあきらめてもらうしか・・・」
『見てないはずのアダルトビデオ代金が請求される呪い』なんて、聞いたことねえ。
とにかく、予習済みってんなら、遠慮なく堪能させてもらおうか。おれは、いまだに起き上がれないメイドさんの顔の横に腰かけて、
彼女を膝枕する要領でその頭をペニスに近づけた。
「あう・・・ち、近すぎです、おちんちん・・・」
顔のすぐそばに存在するペニス、膝枕されたメイドさんの口元にちょうどさしかかる。彼女が唇を開き、舌を伸ばしただけで、
ペニスの竿に届くほどの距離だ。本来の、左右両の眼が視線を結ぶ位置よりもずっと手前にあるペニスを見つめると、
ことさら距離感がいびつになるのだろう。
「じ、じゃあ、はじめます・・・」
そしてメイドさんは、膝枕されたまま、片手だけをペニスに添えて引き寄せて、ちゅ、と竿にキスをした。
「これから、おせわになります・・・」
大きなペニスに向かって小さく、かすれる声でそんな挨拶をするあたり、実に奇妙な律義さ。それだけ聞くと間抜けな言葉だけど、
視覚的にはものすごいインパクトがある。おれのいびつなペニスと、可愛らしいメイドさんの顔がこれほどに近く、そしてそのペニスに対して
彼女がそんなセリフを言うものだから、なんだか、このメイドさんをおれのペニスが隷属させているような、倒錯的な快感すら湧き上がってくるのだ。
「・・・は、あむ・・・ちゅ、」
メイドさんが、頬ずりをするようなしぐさでおれのペニスをいとおしむ。甘くついばむようなキス、そして舌先でのくすぐるような愛撫。
短く途切れるような吐息が、湿った音を立てておれの耳をくすぐってくる。
おいおい、なんだこれ、いきなりフェラチオ上級者じゃねーか!!
・・・とも思ったが、よくよく考えてみれば、けっして達者なのではない。男のくすぐりどころを熟知しているわけではない。
彼女は懸命なのだ。
懸命におれのペニスを愛してくれているのだ。
「ん、ん、ん、・・・は、あん、んちゅ、んん・・・・・・」
もともと呼吸が浅いのか、はたまた彼女も興奮をしているのか。短く途切れるような息を繰り返しながら、おれのペニスにじゃれついて来る。
おれは、今の刺激に身を震わせながらも、新しい刺激を求めて次の行為を促した。彼女の頭を少し後ろに下げ、ペニスの先端を小さな唇にあてがう。
「ふぁ・・・・・んぁむ・・・・・・ん」
予習の成果か、おれの意図を正しく察したメイドさん、精一杯に開いた唇の中におれの亀頭をふくみ、そのままずるずると飲みこんでいった。
ペニスの敏感な部分が彼女の咥内粘膜にこすられながら、ほとんど根元近くまで飲みこまれていく。唾液に滑る頬の内側の感触に背筋を震わせ、
ねっとりと動く舌が竿にこすりつけられ、少し固い喉に押し込まれる刺激にどんどん高まっていくおれ。さらにその光景、おれの太いチンコがメイドさんの
可愛らしい顔を犯すさまに、おれはますます興奮した。
「ん、んんう、んぐ・・・ちゅぐ、ん、じゅる、ん、んんん・・・・・・」
そしてメイドさん、不自由な姿勢ながらも懸命に顔を動かして、おれのペニスをしゃぶりあげた。絶えず喉の奥にペニスを吸い込む吸引を行いつつ、
顔を振って唇や舌の動きでおれを刺激する。
やべえ、もうもたねえ!
さっきまで腰のあたりでむずむずいっていた射精感が、一気にペニスを駆けあがる。おれは思わず、メイドさんの頭を掴み押し付けるようにして
ペニスを喉奥につきこみながら、勢いよく射精した。
「ん! んん! んん〜〜〜っ!!」
苦しそうにうめくメイドさんには申し訳ないが、最高の射精だ。おれは彼女の喉にドクドクと、何度も何度もペニスを脈打たせて精液を吐きだした。
彼女は顔を真っ赤にしながら、おれの精液を出されるがままに飲み干していく。
「ぐ! ごふっ!! げふっ!!!」
精液の噴き出してくる間隔と、飲みこむタイミングがずれてしまったせいで、メイドさんはおれのペニスを射精の途中で吐きだし、激しくむせこんでしまった。
「げほ! げほっ! ごほっ!!!」
おれはそれでも止まらぬ射精を彼女の顔に向けて、苦しげに咳こむ彼女の顔と髪に精液をぶちまけてしまった。苦しむ彼女には申し訳ないが、
一度解き放たれた精液は最後まで出し尽くすまで止まらないのだ。
ようやくおれの射精が収まり、彼女の咳も終わった。口元から涎と、おれの精液をこぼしながら、荒く息をするメイドさん。
白濁に汚れた顔はやや恨みがましくおれを見つめていた。ちょっとやりすぎたかな、と射精から冷めつつあったおれは後ろめたい気持ちになり、
それを取り繕うような感じで彼女の頭を撫でてやった。
こんなごまかしみたいな行為ではさすがに許してもらえないだろうな、とも思っていたが、おれに頭を撫でられていたメイドさんはだんだんと
表情を和らげ、しまいには幸せそうに笑みを浮かべた。
「はやく、私を可愛がってください、だんなさま・・・」
フェラチオが終わり、口をゆすいでなんとか喉の苦しさも癒えたメイドさんと、さっそく次のステップに移ったおれ。再び交わしたキスを皮切りに、
どんどんメイドさんの身体を愛撫していく。おっぱいをなぶり、思いっきり彼女をよがらせた後でショーツを脱がせると、もうそこはびっしょりと濡れていた。
スカートを大きくまくりあげ、その部分をよく観察してみると、薄い茂みは湿って肌に張り付き、全体的にほてって十分に肉を柔らかくしている感じだった。
あの苦しげなフェラチオでも、実はぐっしょり濡らすぐらいに興奮していたのかもしれない。
おれはその、蒸れたような股間に顔を寄せ、彼女のあそこにむしゃぶりついた。
「ひあっ!!」
びっくりしたような声を最初だけあげたが、その後は悩ましく、声を震わせる。
「あっ、ああっ、んあああっ、ひあ、や、やあああああん・・・・・・」
おれに腰を押さえられたまま、くねくねと半身をよじって、股間からの刺激に震えるメイドさん。最初は戸惑うような声だったのが、次第に甘く、
喜ぶような声になっていく。彼女の鼓動が早くなり、呼吸もどんどん短くなり、その嬌声も短く区切られるスタッカートのように高まっていく。
「あ、あ、ああ、ああっ、はあっ、あっ、あん、ああっ、あっ、はっ、ああああっっ!!」
彼女のあそこにしゃぶりつき、舌で粘膜をなめまくり、さらにクリトリスにキスをして、ちゅうっ、と吸い上げる。
「ひゃあっ!! あああああああああああっっっっ!!!」
ひときわ高い声をあげた後、くたりと脱力した彼女。間違いなく、絶頂した。高まりの頂点でシーツを握りしめた指も、ぴんと張り詰めるようにして
伸ばされた足も、今やぐったりと力を抜いて、荒い呼吸に身体を震えさせている。
その、メイド服を乱しながら恍惚に意識を曇らせる彼女を見ているうちに、もうおれもさっきの射精から回復してぎんぎんに勃起していた。お互いに準備は整った。
いよいよ、これからメイドさんと、セックスだ。
おれは彼女の上から多い被さるようにして身体を重ねた。そして近づいた顔をさらに寄せて、彼女にキスをした。
彼女の息が収まりかけてきたのを邪魔しないように、ちゅ、ちゅっ、とついばむようなキス。
「ん・・・・・・うん、あ、ん、だ・・・だんなさあぁ・・・・んちゅ、ちゅっ、ん・・・」
ようやくメイドさんも、おれのキスに応じるように、お互いがお互いの唇めがけて短いキスを繰り返していく。
ちゅっ、ちゅっ、とおれが彼女の唇を吸えば、彼女も負けじと、ちゅっ、ちゅちゅっ、と迎え撃つようにキスで応じる。
そうやって短いキスの応酬を続ける間に、ようやくその間隔が長くなり、しまいにはぴったりを唇を押し付けあい、
伸ばしあった舌を絡ませる濃厚なディープキスへと変わっていった。
そのころにはいつの間にか、メイドさんの両手はおれの背中に回され、身体を密着させようとしがみついて来ていた。
おれの胸元には彼女の豊満な胸が押し付けられ、彼女の鼓動がどんどん早くなっているのがわかるし、さらに彼女は、膝立てた両腿でおれの腰を
挟みこみ、おれを求めている。
おれが求め、彼女が求めている限りは、きっとできる、絶対できる。
たとえ彼女が幽霊という不確かな存在であろうとも、こうしてお互いが抱き合えているのは、おれとメイドさんがお互いを求めているからなんだと思う。
だからおれは躊躇をしない。
おれは、メイドさんとのキスを中断し、無言で彼女を見つめた。彼女も、キスでぼーっとした表情ながらも、こくりとうなずいて、
おれと気持ちが同じであることを認めた。
おれは自分のチンコに手をやって、先端を彼女の割れ目にあてがい、少しだけくにくにと動かして狙いを定めた。そうすると彼女は少しだけ肩を
ぴくりと寄せて身構えたので、おれは無言のまま、鼻の頭をぺろりと舐めた。
「ひゃん!」
なにをするんだこの人は、みたいな顔でおれを見るメイドさんに、おれは二コリと笑って応じてやった。
ニヤリではなくニコリ、ここ大事。
おれはできるだけスケベにならないよう、そうやって彼女の緊張をほぐしてやったのだが。
「もう、だんなさまの、すけべ」
そう言って笑われてしまった。くそう、なんだか釈然としねえな。
なんにせよ、彼女の緊張はほぐれたようなので、おれは腰に力を込め、そのままずぶりと彼女の膣内(なか)に挿入した。
「あぐっ! ああ・・・っ!」
メイドさんは苦痛に顔をしかめたが、気丈にもそれ以上、痛みのうめき声をあげなかった。ペニスはもう半ばほど彼女の膣内に埋まり、
きつい締め付けとぬめったヒダがおれを出迎えてくれたのだが、そこは痛みのせいか固く強ばるように震えていた。
「だ、だいじょーぶですから、つづけてくださいです・・・ッ」
おれが動かないことを気遣ってメイドさんがそんなことを言うけれど、むしろその声が震えてるもんだから逆効果だ。
しかしこのままじっとしているわけにもいかない。このまま動かずに彼女に挿入しているだけで射精してしまえる自信はあったけど、そのままじっと
動かないでいられる自信はない。ようは、あんまり気持ち良いんで、男の身勝手な欲望が暴走するのをいつまでも抑えておけない、ということだ。
おれはできるだけ彼女をいたわりながら、腰を動かした。半ばの位置から引いて、浅く打ち込む。彼女の膣内奥深くにはまだ進まないで、
膣の浅いところを重点的に前後する。
「いっ、ああっ、く、」
動く度に、彼女の身体はびくびくと震え、我慢しても漏れてしまう苦痛の声。しばらくはそれをできるだけ気遣いながらも、我慢できない腰の動きを
繰り返す。そうしてちゅくちゅくと、彼女の愛液がたてる音が目立ち始めた頃には、彼女の声にも艶が含まれてきた。
「ん、ァん、あ、あふ、んく・・・」
吐く息に甘い熱が宿り、強ばっていたあそこの締め付けも、まだまだきつくはあるけれど、それでも少し柔らかみを帯びてきた。
つか、ただ強く締め付けるだけではない、襞のざわめきのようなものが加わって、より強い刺激を送るようになってきた。もう辛抱たまりません!
「ひ、ああああああっっ!!」
彼女の膣の奥、その一番突き当たりまで、俺のチンコが進入した。
ずぶーーーーーっ、と未通の肉襞をかき分けて、奥の深くの行き止まり、子宮口を亀頭で思い切り突き上げる。うは、すごい気持ちいい。
「あーーーーーーーっ、ああーーーーーーーーーっ!!」
メイドさんは、膣のすべてを俺のチンコに埋められて、その衝撃を悲鳴のような声で口から逃がしていく。ただその声は、苦痛からくるような声質ではなく、
熱く悩ましい、身体にわき上がる性感の爆発に戸惑う悲鳴、のように聞こえた。
「だいじょうぶか?」
「だ、だいじょうぶれひゅ、で、でも、ふかい、ふかすぎまひゅぅ!!」
おれが様子をうかがうと、どうにも歯の根があわぬような声で返してきた。おれは女じゃないからいまいち掴みかねる感覚だが、おそらく腰の芯が
砕けたような、強い快感を得たんだろう。さっきまで膣の入り口を集中してこすりあげたのは彼女のGスポットを暖めるくらいのつもりだったのだが、
その奥にはもっとすごい性感帯が潜んでいるらしい。
そうなるとおれも、躊躇無く彼女と楽しめるというもので。ペニスを入り口近くまで引き戻し、そして一気に根本まで送り込む。メイドさんは
そのたびに甘い悲鳴を上げて、身体をびくびく震わせて身悶える。
「だ、だんなひゃまぁ、あっ、あうっ、もう、だめれす!」
懸命に腰を振る俺にしがみつき、おれの肩に顎を乗せるようにしてメイドさんは、そんな風に叫んだ。さっきまでもおれに激しく突き上げられて、
揺さぶられるように声を途切れさせながら、甘い囀りをおれに聞かせてくれていたのだが、その声にもだんだんせっぱ詰まった艶が混ざりだしてきた。
初めての女の子でも、いけるのだろうか。
たぶん、俺とこのメイドさんの、身体の相性が素晴らしくあっているからだと思う。かくいうおれも、挿入していくらもたっていないというのに、
すぐにも限界を迎えそうだった。
おれは最後とばかりに、やや乱暴ではあったが思い切り突きまくった。
「あ! あっ! はっ! はあっ! は、ああああああああああああっっ!!!」
彼女ももう限界のようだ。泣きながら強く叫び、悲鳴を上げたかと思うとぎゅっ、と身体を強ばらせて、声もなく絶頂を迎えた。
そしておれも同時に、彼女の中にどくどくと精を放った。
ぜえ、はぁ、と長く荒い二人の呼吸。ふたりして800メートル走をダッシュで完走しきったような、呼吸の荒さと脱力具合。
「・・・気持ち、よかったか?」
息が整うのが少し早かったおれ、まだぜえはあ言ってるメイドさんに、感想を聞いてみる。こうして二人一緒にフィニッシュできたのだから、
気持ちよくなかった、なんて回答はないだろう、程度に自信はある。
答える余裕もなく、息の荒いままのメイドさんにおれが、頬や唇、鼻の頭などに、ちゅ、ちゅっとキスをしながら間を持たせていると、
ようやく彼女もキスで応じることができる程度には回復したようで。
「・・・はい、気持ちよすぎて、死んじゃうかと思いました・・・」
瞳を甘くぼやけさせたままの彼女がいう感想にしても、なんかずれてる気がする。おまえはもう幽霊で、死んでいるんじゃないか? なんて
ツッコミをしたくもあったが、無粋なのでやめておいた。
そうだ、彼女は幽霊なのだ。
あまりにも人間じみた存在感のせいで忘れかけてしまうが、本来はこんな風に肉体を持たない存在のはずなのだ。
昔話なんかでたまにある、幽霊が子供を産む、なんて話は、こういうタイプの幽霊が相手だったのだろうか。
なんて、そんな考察は後回しだ。
「おれも、気持ちよすぎて、まだまだおさまんねーよ」
「ふぇ?」
そうなのだ。さっき彼女の膣の中で思いっきり射精したばかりなのに、ぜんぜん萎えない。おれのチンコは今も彼女の膣内で、
ガチガチに硬いままなのだ。
「というわけで、もう一戦、いくぞ?」
「いっせん? ひ、あうん!!」
おれの言う意味を今一つ掴みかねていたメイドさんだったが、おれが硬いままのチンコをずるりと動かすと甘い声を上げた。
「ま、まだするんですかぁ!?」
「当然だ」
この調子だと、あと2発は軽い。このところ仕事が忙しくて溜まってたからな。
「だ、だんなさまは性欲魔神ですかっ!!」
メイドさんが涙目で抵抗するのもそっちのけ、おれは本格的に2回戦目に突入。ひにゃん、と可愛らしい声で鳴き始めた彼女を何度も
可愛がってあげた。
そうして、奮発してあと3回連続。
メイドさんが気を失ったのと同じくして、ようやくおれにも睡魔がやってきた。おれは、彼女を抱きしめたまま眠りについていった。
7日目。
朝、起きたら消えていた。
幽霊のくせに温かかったり、なぜか心臓がドキドキしたり、セックスできたりと、まるで全然幽霊らしからぬ奴なのに、朝になったらきっぱり消えて
しまうとかは妙に律義な幽霊っぷり。そのあたりのロジックが今一つわからん。
その日もおれは働いた。
とにかくその日を頑張って乗り切れば、あのホテルの、メイドさんがいる部屋に帰れる。うまく行けば早めに切り上げて、定時でだって帰れるかも
しれない。もしそうやって早く帰れれば、あの可愛らしいメイドの幽霊さんとたっぷりセックスができる。
えてしてそういった邪(よこしま)なパワーこそが正しい仕事の能率と発展を生み出すもので。ビデオデッキの普及がエロビデオに起因したり、
『同級生』をやりたい奴がNECのPC−98に手を出したりと、過去の実績が証明しているわけだ。
かくしておれは、この一週間で一番の効率化を図り、仕事を定時で終えた。まだいくつかやるべきことはあるものの、それは明日にならないと
着手できない類のもので、明日の最終日一日あれば十分終わらせることができると判断できた。
そうなのだ、明日で出張は終了する。
だが幸い、明日は金曜日で、その後は土、日と休暇を取れるし、この出張中に取れるはずだった休暇を連結させれば、4連休だって可能だ。
もちろん宿泊費は個人持ちとなるが、そこはそれリーズナブルなビジネスホテル、少々の連泊くらい何とかならない額ではない、ということだ。
つまり、この出張が終わったからといって、おれと彼女は永遠の別れというわけではなく、こんなふうに会おうと思えば何とかなるものなのさ。
そしておれは、定時上がりの時間を有意義に使うべく、急いでホテルへと戻った。まだ夕日も残る黄昏の時間、少しくらい早くても、別に困りは
しない。
ここに泊まるのももはや慣れっこで、いつものようにロビーで部屋のカギを受け取った。そのまま部屋に直行、・・・しようとして踵を返す。
そうだな、ついでにさっきのプラン通り、部屋を連泊で予約しておこう。
ちょっと聞きたいんだけど、とおれはフロントの従業員に声をかけた。
「今の部屋に続けて泊まりたいんだけど、他の予約とかは入ってないよな?」
まぁ、仮に予約が入っていたとしても何とかなるだろう。こういうビジネスホテルはたいてい、当日になってのキャンセルが起こるものなのだ。
何とか交渉して、その開いた部屋と変わってもらえばいい。
そんな算段のおれに、その従業員はやはり表情を曇らせて言ってきた。
「あのお部屋に連泊は、出来ません」
予約があるなら、・・・と言いかけて思い出した。
そういやあの部屋、リフォーム予定なんだったっけ。
「明日、お客さまの宿泊が終わりますと、そのまま工事の業者が作業を行う予定になっておりますので」
うーむ、残念、連泊は無理か。
まぁでも、少々のお払いや清めの塩にもびくともしなかったメイドさんだ、リフォームくらいでどうにかなるもんでもなさそうだ。
仕方がない、少し間を置いて、会いに来ることにしようか。ちょっとした遠距離恋愛と言ったところだな。
とりあえず、早々に休める日に目途を立てて、予約をとってしまおうと考えていたら、その従業員が申し訳なさそうに、おれに言った。
「あのお部屋は縁起が悪いので、潰してしまうことになりました」
「お、おかえりなさいませ、だんなさま♪」
部屋に帰ったおれを出迎えるメイドさん。なんだかちょっぴり、今までとは様子が違う。髪の毛に隠れた頬を赤く染めて、照れながらもおれに
出迎えのあいさつ。これがまた、ずいぶんと可愛らしい。
「はい、コーヒーです。どうぞ、召し上がれ」
そうして、手慣れたしぐさで作るインスタントコーヒー。ちらりと窺うごみ箱には、やはり残る練習の跡。夕べおれに褒められたコーヒーの粉や
お湯の配分を、身につくまで練習したのか、はたまた夕べの味を超えようというのか。
うむ、その心意気や、よし!
おれはまぶたを閉じて、味にだけ集中するつもりで、受け取ったコーヒーを飲んだ。
・・・・・・美味しい。
これは、夕べより美味いかも知れん。コーヒーといっても所詮、味の違いなんて、結局は個人の好みでしかない。ざっくり分けても豆の種類や
煎り方、砂糖のあるなしなどなど、人によって好みは様々だ、味の優劣を競えるもんじゃない。
でも、このコーヒーは、美味い。
実に、おれの好みなのだ。
今まで飲んできた中でも、一番。
・・・・・・ん? あれ? なんか変だな。
かすかに、塩味がするぞ?
まったく、馬鹿め、あれほど塩を入れるなと言ったのに、性懲りもなく。
ほんとうに、しょうがねえなぁ。また一から教えてやらにゃあならんのかよ。
ちくしょうめ。
「・・・・・・だんなさま・・・」
するとメイドさん、何やら心配そうな声を出した。そうしておれの手にそっと両手を添えて、持っていたカップを丁寧に受け取った。
「だんなさまはアホですねぇ・・・」
うおっ、馬鹿に阿呆呼ばわりされた!
メイドさんは、そんなおれの内心をどう読み取ったのかは知らないが、そのままおれの頭に手を伸ばし、胸元に抱き寄せてやさしく語りかけてきた。
「別に、だんなさまのお仕事が終わったら私がいなくなるわけじゃあないんですよ?」
そしておれの頭をなでなでと、まるで小さい子供をあやすように撫でながら、静かに言葉を続ける。
「私はずっと、ここにいます。だから、私がこの部屋から出られない代わりに、だんなさまが来てくれればいいんですよ。
そんなこともわからないなんて、本当にだんなさまはお馬鹿さんです」
ちくしょう、言いたい放題言いやがって。
「私はこの部屋で、これからもコーヒーをつくりながら待っていますね。
あっ、・・・ほかの人はあくまでも『お客さま』ですから!」
そう言った後、もじもじと口篭りながら。
「夕べみたいなことは、その、だ・・・だんなさまとしかしません・・・」
そして、ぎゅっ、と強くおれを抱きしめた。
「おいしいコーヒーもいれて差し上げます、え、エッチなことだって、いくらでもお相手いたします。
だから、もう・・・」
その、馬鹿だけど健気で、可愛いメイドさんは、抱きしめたおれの耳元で、優しく囁いた。
「もう、泣かないでください・・・」
8日目。
そうしておれは、ホテルをチェックアウトした。
このホテルで起こった奇妙な話は、だいたいこんなところだ。
あとの話はおまけの、蛇足みたいなもんだなぁ。
それでも聞くかい?
・・・じゃあ、話すとしよう。
7日目、最後の夜の続きからだな。
「泣いてなんかねえぞおおおおおおおっっ!!」
「きゃん!」
おれは叫んで、メイドさんの胸からがばりと顔を離した。子犬のような驚き声でメイドさんは、急に元気になったおれの様子にうろたえる。
もう、泣かないでください、だと?
当たり前だ、泣いてる場合じゃねえんだよ!!
おれは、明日チェックアウトするまでに、このメイドさんを失わないように足掻かなければいけないんだ。泣いてる場合じゃないんだよ!!!
そうして猛然と立ち上がったおれを、このメイドさん、なんだか所在なげにチラ見しては目を逸らし、チラリと見ては目を逸らし、なんともまた、
もじもじそわそわとしていた。
「あ、あのう、いくらでもお付き合いします、って言いましたけど、あんまり激しいエッチは、私が先にダメになっちゃいますので・・・」
両手の人差し指先をつきあわせ、てれてれと赤面しながら、それでも何やら嬉しそうに。
「やさしく可愛がってほしいです〜・・・」
すぱーーーーん!
ぶふっ!
おれの新聞紙がうなり、メイドさんの脳天に炸裂。彼女は噴き出すように呻いてつんのめった。
「な、なんで!?」
叩かれた頭をかばうように体勢を立て直したメイドさん、どうして叩かれたのかもわからずにおれを恨めしそうに見ている。
ええい、脳天気な奴め。
おれだって、やりたいのは山々だが、今はそれどころじゃないんだよ!
この幽霊メイドさんは間違いなく、自分の運命を知らない。明日部屋に工事が入り、ドアが取り払われて完全な『開かずの間』にされてしまうことを
知らないのだ。そうなってしまえば、この部屋に縛られる自爆霊である彼女はもちろんおれと会うこともできないし、下手をすればこれからずっと
独りぼっちで閉じ込められてしまうのかもしれない。
だが、今そのことをおれが彼女に話しても仕方がない。
自爆霊である彼女自身にはどうすることも出来ないことだろうからだ。
いや、正直に言うと、『怖い』のだ。
なにが怖いのか?
会えなくなること、それは確かに怖い。
しかしそれよりもいま、このことを彼女が知って、どんな反応をするのか、それが怖い。
この、馬鹿で脳天気なメイドさんが、悲しそうな表情をしたりするのを見るのは耐えられない。無理をして笑ったりする顔なんて、絶対見たくない。
たとえどんな表情をしたとしても、確実におれはダメージを負うだろうという確信がある。
そうとも、おれは臆病者だ。
だったら、彼女に知られなければいい。
彼女には知られないまま、彼女をこの部屋から解放する手段を探すのだ。
何かから逃げる臆病者は、代わりに立ちはだかる別の壁に立ち向かわなければいけない。それからも逃げるようじゃあ、いつまでたっても
逃げたままだろうしな。
やったろうじゃねえか。
考えろ。
とにかくあがけ。
小賢しくロジカルな思考を総動員だ。
まずは情報集めだ。
ちなみにおれ、彼女に、自分がどういう経緯で幽霊になったのか、夕べのベッドで聞いてみたのだが、全くわからないのだという。気がついたら
あの部屋でコーヒーを作っていた、らしい。
本人がわからないとなると、外堀から埋めて攻めるしかないだろう。
ケーキを買ってきてやる、とか適当な理由をつけておれはフロントへ。
フロントで、とにかく古参の従業員に、あの部屋に関する『いわく』を聞いてみた。ホテル側として話しづらいことなのは承知で、それでも粘って、
とにかく話をしてくれるように懇願した。そんなおれに折れて取り合ってくれたものの、だれそれがあの部屋で殺されたとか、従業員が自殺したとか、
そんな話は一切なし。数年前、ホテルができた当初から怪現象が絶えなかったという。
それじゃあホテルができる前はなんだったのか、というと、墓地とか病院とか、そういったよくある縁起の悪い土地ではなく、山のすそ野を
切りひらいて作った畑だったそうな。
つまり、ホテルや部屋には因縁いわくの類は一切なし。
じゃあ、彼女は一体、なにに縛られているのか。
「私も常々、思っていたんですよ」
メイドさんが言った。
「コーヒーにケーキがつかないのは、片手落ちなんじゃないかって」
わくわくと、表情を輝かせながらメイドさんがいう。そっちの話だったか。
もちろんケーキを買うなんてのは方便だったので、おれは手ぶらで部屋に戻ってきていた。そのことをメイドさんに伝えてやる。
「ケーキ? なんのことだ?」
おれのその言葉を聞いた彼女はその表情をみるみるしぼませた。
「・・・だんなさまはひどい人です・・・」
そうして、そんな恨みごとをいった。
「メイドさんは国の宝なんです。大切に扱わないと、法律で重く罰せられるのです!」
いや、確かにケーキを買ってきてやらなかったのは悪かったが、それは言いすぎだ。
「こうなったら、私は悪霊メイドさんになって、だんなさまに祟って差し上げるのです!」
な、なんだと!?
『悪霊』とか『祟る』なんていう言葉におれは思わず身を引いてしまった。その反応に気を良くしたのか、メイドさんはその可愛らしい声をできる限り
低く落として、うふふふ、と笑い、言った。
「だんなさまの歩く先にバナナの皮を置いたり、天井からアルマイトの洗面器を落としたりと、恐ろしい呪いの限りを尽くすのです!!!」
すぱーーーーーーん!!
ひぶっ!
おれは思わず、丸めた新聞紙でメイドさんの頭を叩(はた)いた。まるでくしゃみのような声をあげてメイドさんがつんのめる。
なんだよ、その、ドリフのコントみたいな呪いは!
なんというか、メイドさんとしての能力はまぁ、インスタントコーヒー限定ではあるが上達したと認めよう。
しかし、こいつは幽霊として、まるでダメなのだ。
「ええい、おまえのような奴が幽霊を名乗るなんて、先達(せんだつ)に申し訳ないとおもわんのかっ!!」
「ふえっ、せ、先達ですかっ!!」
おれが活を入れると、メイドさんは思わぬ反撃に面食らったようだ。
そのままたたみこむように彼女を言いくるめ・・・もとい、指導していく。
「そうだっ! 近年、貞子や伽椰子が懸命に作り上げてきた『幽霊=スゲこわ』というイメージに泥を塗りおって!」
いまや、映画『リング』や『呪怨』など、数年前からブームになったジャパニーズホラーでは、日本の幽霊は世界にも認められるほどの恐怖の
代名詞となった。
そんな日本の幽霊の中にあってこのメイドさんの、なんと気の抜けたことか。
おれは、さっきまで必至に考えていた思考からあっさり脱線し、彼女に日本の幽霊道を説き始めたのだ。
メイドさんは、そんなおれの言葉に興味を引かれたようで、おずおずと尋ねてくる。
「『スゲこわ』、ですか?」
「そうだ、スゲー怖いを略して『スゲこわ』だっ!!
それなのにおまえと来たら、『ほんこわ』は『ほんこわ』でも、ほんのりとも怖くない『ほんこわ』だっ!!」
そのように、おれは言い放った。
稲光のようなショックを受けたのかメイドさん、はじめは愕然としていたのだが、次第に表情を取り戻し、不敵な笑みをつくって言った。
「・・・『ほんこわ』ですか。・・・それはけっこう良いかも知れません」
「なんだと?」
おれは、やや得意げなメイドさんに、その真意を問い返した。
「だって、人によっては、『本当に怖い幽霊』とか、勘違いしてくれるかもしれないじゃないですか」
「ばかもーーーーんっ!!」
すぱーん! へぶっ!
唸る必殺・新聞紙。
「そうやって誤解した者が真実を知ったとき、より激しいガッカリ感を味わうと知れっ!!」
「ガ、ガッカリ感・・・」
かなりのショックを受けたメイドさん、そのままがっくりと、膝を突いてうちのめされた。そうしてしばらくして、だんなさまのばかーっ、と呟きながら
消えてしまった。
しまった。
やりすぎちまったぜ。
別にメイドさんをいじめたいわけじゃないが、つい調子に乗ってしまった。
まさかこのまま、今日は出てこないつもりじゃないだろうな、と心配になったおれ。
「あー、言いすぎた・・・・・・・・・・・・・・・ごめん」
謝った。
だが、部屋に変化はない。
「別に、おまえのことを大事にしてないとか、そういうことじゃないんだ」
いいわけ、女々しい。
だけど、言っておきたい。
これを最後になんか、したくない。
「ただ、おまえとこんなふうに馬鹿話をしたりするのが、楽しいんだ。
おまえが馬鹿なことをいったりするののにおれが突っ込んだり、そういうやりとりが、すごく楽しいんだ」
おれは、実に正直に、胸の中身を打ち明けた。
「出会って少ししか経ってないけど、好き、なんだ」
くわぁ、恥ずかしい!
だが、おれがそんな恥ずかしい告白までしたというのに、部屋にはメイドさんが戻ってくる気配がない。
ちくしょう、まさか、本当にこれで終わりなのか?
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ちゃんと、ケーキを買ってきてくださいますか?」
メイドさんの声がした。
おれは慌ててあたりを見渡してみた。しかし姿はない。
「ああ、もちろん。今からでもすぐに、買ってきてやる!」
「私の分も合わせて、二つ、ですよ?」
「わかった!」
おれが迷わず答えると、テーブルの上で何かが動いた。
部屋の小さなテーブルの上におかれたいくつかの備品。ホテルが部屋の利用者のために備え付けた品物の一つ、電気ポットの影から、ちんまりと。
小さく可愛らしい、小人のような大きさのメイドさんが現れた。
「それならば、許して差し上げます・・・」
そして小さな妖精のようなメイドさん、相変わらず髪の毛に隠れがちな頬を真っ赤に染めて、こういった。
「・・・私も、だんなさまのことが、だいすきです・・・」
彼女はその小さな姿から、さっきまでの人間サイズに姿を戻すと、ぎゅっとおれに抱きついてきた。おれも彼女を強く抱き返す。温かい彼女の体温。
それを抱きしめることができるこの幸せを、おれは絶対手放すものか、と決意した。
そのとき。
びしゃーーーーーん!!!
雷鳴のような閃き、まさに天啓。
もしかして。
おれはその思いつきを、実行してみた。
さて、結構長い話になったけど、今度こそ本当に終わり。
翌日、部屋をチェックアウトしたおれは、ホテルに頼み込み、あるものを持って帰ってきた。
そう、電気ポットだ。
そうして今では、あのメイドさんはおれの部屋に住みついた。
彼女は、部屋に取りついた幽霊ではなかったのだ。彼女自身も自覚がなかったことだが、実は彼女はあの部屋に備え付けられた備品に
宿っていた精霊のようなものだ。部屋から出られなかったのも当然だ、何せ彼女は部屋の備品、勝手に部屋の外に持ち出すことができない
のだからな。
おれはあの部屋の備品をいったんすべて部屋から持ち出し、一つ一つ別の部屋に移してから、彼女がその新しい部屋に現れるかを確認した。
そしてようやく、この電気ポットを特定したわけだ。
「おかえりなさいませ、だんなさま♪」
今日も仕事から帰り、自分の部屋にたどり着くと、あのメイドさんが笑顔で出迎えて、お手製のインスタントコーヒーを作ってくれる。いい加減、
本格的なコーヒーの作り方を覚えてほしいものだが、まぁそれも焦らず教えていこうと思う。
そんなふうに毎日、彼女は相変わらず馬鹿でそそっかしいが、懸命に仕事を覚えてメイドさんの仕事に励んでいる。
彼女はこうして、おれの部屋の『備品兼恋人』になったのだ。
「おいしいコーヒーはいかがですか?」
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