お姫様でエロなスレ8

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1名無しさん@ピンキー
やんごとないお姫様をテーマにした総合スレです。
エロな小説(オリジナルでもパロでも)投下の他、姫に関する萌え話などでマターリ楽しみましょう。

■前スレ■
お姫様でエロなスレ7
http://yomi.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1196012780/

■過去スレ■
囚われのお姫様って
http://pie.bbspink.com/test/read.cgi/sm/1073571845/
お姫様でエロなスレ2
http://sakura03.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1133193721/
お姫様でエロなスレ3
http://sakura03.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1148836416/
お姫様でエロなスレ4
http://sakura03.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1157393191/
お姫様でエロなスレ5
http://sakura03.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1166529179/
お姫様でエロなスレ6
http://sakura03.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1178961024/

■関連スレ■
【従者】主従でエロ小説【お嬢様】 第四章
http://sakura03.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1174644437/
◆◆ファンタジー世界の女兵士総合スレpart4◆◆
http://sakura03.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1173497991/
妄想的時代小説part2
http://sakura03.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1155751291/
世界の神話でエロパロ創世
http://sakura03.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1160406187/
逸話や童話世界でエロパロ
http://sakura03.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1162899865/

■保管庫■
http://vs8.f-t-s.com/~pinkprincess/princess/index.html

気位の高い姫への強姦・陵辱SS、囚われの姫への調教SSなど以外にも、
エロ姫が権力のまま他者を蹂躙するSS、民衆の為に剣振るう英雄姫の敗北SS、
姫と身分違いの男とが愛を貫くような和姦・純愛SSも可。基本的に何でもあり。

ただし幅広く同居する為に、ハードグロほか荒れかねない極端な属性は
SS投下時にスルー用警告よろ。スカ程度なら大丈夫っぽい。逆に住人も、
警告があり姫さえ出れば、他スレで放逐されがちな属性も受け入れヨロ。

姫のタイプも、高貴で繊細な姫、武闘派姫から、親近感ある庶民派お姫様。
中世西洋風な姫、和風な姫から、砂漠や辺境や南海の国の姫。王女、皇女、
貴族令嬢、または王妃や女王まで、姫っぽいなら何でもあり。
ライトファンタジー、重厚ファンタジー、歴史モノと、背景も職人の自由で。
2名無しさん@ピンキー:2008/05/05(月) 00:41:34 ID:lGjatkz3
1乙
3名無しさん@ピンキー:2008/05/05(月) 01:00:55 ID:vGUIJX6v
>>1、お疲れ様でした
そなたの働きにはわたくしも、みなも感謝しておりますわ
こちらに来てお座りなさい。紅茶でよかったかしら?
4名無しさん@ピンキー:2008/05/05(月) 01:10:42 ID:kuSfVfEk
>>1
5名無しさん@ピンキー:2008/05/05(月) 03:00:51 ID:lZOVSdkd
>>1よ、姫が其方の働きに免じ乙を授けて下さると申しておる、有り難く受け取れ
6前スレ451:2008/05/05(月) 05:09:35 ID:jG3FniIF
埋めに協力する予定が全部投下する前に埋まってしまったorz
中途半端だけど残りを投下します。
7国王と王妃 9/10:2008/05/05(月) 05:10:35 ID:jG3FniIF
 悪いと思わないではなかったが、欲望に負けたユージーンはレティシアの腰を掴み、狙いを定めて落とさせた。
「あ、ああああっ!」
 いきなり挿入された衝撃でレティシアは体を仰け反らせた。きゅうっと襞が収縮してユージーンを締め付ける。
「そなた、受け入れただけで達したのか」
 愉しげにユージーンが笑う。
 肩で息をしながらレティシアはユージーンの胸に額をぶつける。
「薬、まだ効いているのだな」
 円やかな尻を掴んでレティシアを揺らしながらユージーンは下から腰を突き上げる。
「あ、ひゃ……んんッ、や、あっ、あっ、ああっ」
 突き上げられる度にレティシアは途切れ途切れにないた。
 常よりも潤った内部はきつく締め付けてくるのに滑りがよく、まるで意志を持つかのように蠢いてユージーンを悦ばせる。
「ああ……いいぞ、レティシア」
 表情をうかがえばレティシアは恍惚としており、いつの間にか自ら腰を揺らし始めている。ユージーンは舌なめずりをしてレティシアの乳房を少し強めに揉んだ。
「あっ! やぁっ、そこ、ん、い……ああっ」
「ここがいいのか。こんなに堅くして。赤く腫れているようだな」
 乳首を摘むとレティシアは頭を振って喘ぐ。
「感じているのか。そなた、締め付けが一段ときつくなっていくぞ」
 首を傾け、ユージーンは乳房に舌を這わせ、赤く熟れた乳首に吸いついた。
 二人の結合部からは卑猥な水音が立ち、レティシアはひっきりなしに嬌声をあげる。
「少し早いが……出すぞ」
 力強く突き入れながら、ユージーンは上擦った声を上げた。久しぶりな上、未だかつてないほどに淫らな姿を見せつけられては我慢などできるものではなかった。
「あ、ユージーン……あッ、くださっ、なかに……ああっ! あ、あぁああッ」
 深々と奥まで突き込まれ、レティシアが体を震わせる。ユージーンの体が一瞬強張り、中で何度も脈打つのをレティシアは感じていた。
 すべてを注ぎ込まんとするようにユージーンはレティシアの腰を押さえて射精が終わるまで離さなかった。
「まだ、そなたは満足しておらぬな」
 刺激を求めて揺れだしたレティシアの腰を撫で、自身のものが未だ萎えていないことを確認したユージーンはレティシアの膝裏に手を添えて仰向けに倒す。
「よい機会だ。抱かれるのが怖いなど二度と思わぬよう、そなたの体に快楽を教え込んでやる」
8国王と王妃 10/10:2008/05/05(月) 05:13:37 ID:jG3FniIF
 抜けてしまったものをもう一度レティシアの中へ押し進め、ユージーンはゆっくり腰を動かし始めた。
「愛しいレティシア。今宵は思う存分なくがいい」
 一度欲望を吐き出したおかげで余裕の出来たユージーンは普段めったに見ることのできないレティシアの喘ぐ様を堪能しながら欲望のままに妃の体を貪ることに決めた。


* * * *


「お呼びですか、陛下」
 ユージーンの機嫌が朝から良いようだと感じていたベンジャミンは、執務の合間に彼から呼び出しを受け、喜色満面な国王の前に跪いた。
 媚薬など邪道だと言わんばかりだった昨日の態度は何だったのかと思うベンジャミンは複雑な気持ちを顔に出さないよう努力する。
「そなたの見つけた薬師はよほど腕がいいと見える」
「左様でございますか。お気に召されたようで何よりです」
「うむ。褒美を取らせたい。そなたにも何かやろう。何がいい?」
 新妻を迎えたばかりのユージーンもこうして機嫌良くベンジャミンに褒美云々と言い出したものだ。そう遠くない昔のことを思い出し、ベンジャミンは懐かしさを覚えた。
「そうですね。私が望むものはただ一つにございます」
 今なら何でも叶えてやるぞと顔いっぱいに書いたユージーンはベンジャミンの言葉を玉座にもたれて待った。
「一日も早くお世継ぎを。ベンジャミンが願うのはそれだけにございます」
 ユージーンは一瞬目を見開き、すぐに呆れたように笑う。
「そなたはそればかりだ。たまには余が驚くほど欲深い願いを口にしてみよ」
「お世継ぎをと進言するだけでも十分恐れ多いことにございますれば」
 畏まって恭しく頭を下げるベンジャミンを眺め、ユージーンは鼻を鳴らす。
「まあいい。そこで一つ相談があるのだが」
 ユージーンはにやりと愉しげに口元を歪める。
 そうくるだろうと思ってはいましたがねと顔には出さないながら内心肩を竦める思いでベンジャミンはユージーンの相談に耳を傾ける。
 薬師に出す謝礼の額を増やさねばならないなと下げた頭の片隅で思い、ベンジャミンはユージーンにはわからぬほど僅かに口の端を上げた。


おわり


>>保管庫管理人様
保存して下さらなくて結構ですので、保管なしでお願いします。
9名無しさん@ピンキー:2008/05/05(月) 06:52:12 ID:eHDhDF+r
>>1

>>8
GJ!
幸せそうな夫婦と家臣だ。
10名無しさん@ピンキー:2008/05/05(月) 08:26:39 ID:jQNRXwm/
GJ!
レティシアかわいい!
ラブラブで微笑ましいなあ。
11名無しさん@ピンキー:2008/05/05(月) 10:05:47 ID:kuSfVfEk
朝から良いものを見させてもらいました。GJ!
12名無しさん@ピンキー:2008/05/05(月) 19:37:51 ID:wQ0B8zsF
かわええのぅ
13名無しさん@ピンキー:2008/05/07(水) 01:19:14 ID:Is5qR/9Y
GJ!
やっぱりラブラブものはいいなあ
保管しないなんてもったいない。でも作者さんがそう言うならしょうがないか……
14名無しさん@ピンキー:2008/05/08(木) 02:11:42 ID:WIYXFr8x
セシリアとエルドの中編はまだだろうか
ワクテカ
15名無しさん@ピンキー:2008/05/08(木) 03:50:46 ID:n+B7jpTP
セシリアタンに会いたい…(´д`)
16名無しさん@ピンキー:2008/05/08(木) 19:01:49 ID:JIJfLaYB
期待age
17名無しさん@ピンキー:2008/05/12(月) 01:15:50 ID:jGg+B2sS
wktk保守
18名無しさん@ピンキー:2008/05/12(月) 05:03:20 ID:Nu4DDt5s
連載待ちの合間に保守代わりに一本落としてみる。
平民上がりと貴族の姫君の夫婦もの。
19貴族と平民 1/9:2008/05/12(月) 05:04:12 ID:Nu4DDt5s
 鏡台に向かい、湯上がりの肌を化粧水を含ませた綿ではたはたとはたく。ふとイヴォットはその手を止めて溜め息をこぼした。
 何のために手入れをしているのだろう。不意に襲いくる虚しさを払うように、イヴォットは綿を屑籠に捨てて立ち上がった。
 夫と過ごす夜に備えて身支度を整えるための場所にイヴォットはいた。しかし、寝室へと続く扉を開いても寝台には誰もいない。そんなことはわかりきっていた。
 憂鬱な気持ちで扉を開いたイヴォットの耳に調子外れの声が届いた。
「やあ、久しぶりだね。まだ起きてたんだ。意外と夜更かしなんだね、君って」
 驚きのあまり瞬きを繰り返すイヴォットににんまりとした笑みを向け、イヴォットが返事をする前にその笑みはすぐに違う方向を向いた。
「書斎も探したんだけど見つからなくてさ。もしかしたらと思って。君、知らないかなぁ」
 がさがさと寝室の中を荒らし回る様を眺め、イヴォットは未だに呆然としていた。
 久方振りに会った妻に愛を語らうわけでもなく、ギーは勝手気ままに引き出しやら何やら開けたり閉めたりひっくり返したりを繰り返す。
「……な、何をなさってるの」
 ようやく我に返り、イヴォットは不審な行動を取る夫へ疑問を投げかけた。
 相変わらずがさがさとあちこち漁りながらギーは気のない返事を寄越した。
「んー。いつまで経っても工房に届かなくてね。ほら、間違って自宅に届いちゃったんじゃないかと思って。いろいろ探したんだけどないんだよね」
「何がないの?」
「何って、僕の職業知ってるでしょ。薬だよ、薬」
 諦めたように肩を竦め、ギーはイヴォットに向き直る。
「だめだね。やっぱりここにはないみたい」
 さして残念そうでもなく呟き、ギーはさっさと寝室から出ていこうとする。相変わらず自由奔放な夫の振る舞いにイヴォットはふつふつと怒りが湧き上がるのを感じた。
 本来ならば貴族であるイヴォットが平民出のギーと対等に話すことなど許されない。イヴォットの家が落ち目でさえなければ、ギーが王族御用達の腕利きの薬師でなければ、二人が結婚することなどなかったのだ。
 敬えとまでは言わないが夫は妻をもっと大事にするべきだとイヴォットは思う。
「待ちなさい」
 冷えた水のようなイヴォットの呼びかけにギーが足を止める。振り返り、不思議そうな顔でイヴォットを見た。
「なんだい? 何か心当たりでもあった?」
20貴族と平民 2/9:2008/05/12(月) 05:05:08 ID:Nu4DDt5s
 イヴォットはギーの顔をまじまじと見つめる。
 平民のくせに貴族のように整った顔をしている。それなのに常に胡散臭い笑みを浮かべていることと調子外れの口調のせいでどこからどう見ても美人には見えない。
たまに真面目な顔で真面目な台詞を口走った時に実は彼が美形なのだと思い出したりもするが基本的には怪しいだけの男だ。
 それなのに、ギーの顔を見ていると体が熱くなる。久方振りに会えたことが嬉しくて胸がぎゅっと締め付けられる。どんなに否定してもギーが夫であるという事実に変わりはなく、認めたくはないがイヴォットがそれを好意的に見ていることも事実だ。
「どんなものか聞かなければ思い出しようがないわ」
 会いたかったと素直に口に出せるほどイヴォットは甘え上手ではないし、甘さの欠片もない空気では雰囲気に乗せて思いを伝えることも不可能だ。それでも、彼と少しでも長い時間を過ごしたいがためにイヴォットは無難な言葉で会話を続けた。
「それもそうだね。どんなものか。どんなのだったかなぁ。えーっと……うーん」
 口元に手を当て、首を傾げながらギーは言う。どんなものかも曖昧なのに探し回っていたのかとイヴォットは呆れた。
「ああ! そうそう、思い出した。見た目は飴玉かな。こう、このくらいの瓶に入ってて」
 親指と人差し指を目一杯開き、ギーは嬉しそうに言う。
「瓶は硝子性で透明でね、まぁるい玉が幾つもの入ってるんだよ。色は赤か青か……あれ、緑だったかな」
 夫の説明を聞き、イヴォットは何か引っかかりを覚えた。そんなものをどこかで見たような気がする。
「私、見たような気がするわ」
 ぽつりと呟く。
「えっ!? 本当に? どこで!」
 一気に興奮し、ギーはイヴォットの目の前まで歩み寄る。そして、期待に満ちた目で彼女を見下ろした。
「少し待って。持ってくるから」
 確か刺繍の合間に食べようと自分の部屋へ持っていったのだ。イヴォットが寝室を出て自室へ向かい歩き出すとギーもそれに続いて歩き出す。
「待っていてと言ったでしょう」
「ついていった方が早いじゃない」
 しれっと答えるギーを追い払うのは難しいのだと知っているイヴォットはそれ以上言わずに黙って歩を進めた。
21貴族と平民 3/9:2008/05/12(月) 05:05:56 ID:Nu4DDt5s
 知らないふりをすればギーはずっと家にいてくれたかもしれない。そう考え、けれどもすぐにイヴォットは小さく笑う。そんなはずはない。見つからなければ彼は諦めて工房へ戻っただろう。妻に興味など欠片もなく、彼が愛しているのは工房での研究だけだ。
 思わず浮かんだ自嘲めいたイヴォットの笑みにギーは気づかない。
 自室への扉を開き、イヴォットは机の上に置かれた瓶を手に取る。
「これかしら」
 イヴォットの後ろからその手の瓶を覗き込み、ギーはぱあっと表情を輝かせる。
「これだよ! ああ、よかったぁ。やっと見つかったよ」
 くるくると踊り出しそうな夫の姿にイヴォットの顔に苦笑いが浮かぶ。
「よし。じゃあ、早速」
 瓶の蓋を開け、ギーは赤い玉を一つ取るとそれをイヴォットの口元に差し出した。
「はい、どうぞ」
 形の良い指に掴まれた飴玉のようなものをイヴォットは見つめる。この得体の知れないものを食べろとギーは言っているようだ。
 イヴォットは困惑した様子でギーを見上げた。彼は期待に満ちた目でイヴォットを見ている。
「これは、なに?」
 言われるがままに食べるわけもなく、イヴォットは至極当然な疑問を口にする。
「え? 何って……」
 イヴォットが疑問も抱かず食べるとでも思っていたのか、ギーは驚いたように眉を顰めた。
 沈黙が続き、ギーが少々引きつった笑みを浮かべつつ答える。
「飴玉、かな」
 見かけは飴玉の薬を探しているとさっき自分で言っていたことをよもや忘れたわけではあるまい。ギーは自分でも無理のある答えだと承知しているようだった。
「薬を探していると言っていたじゃないの。何の薬なの?」
 途端にギーがおろおろうろたえだす。結婚して二年は経つが、夫のうろたえる様を見るのは初めてだ。イヴォットは興味深くその姿を眺めた。
「いや、その……あ、薬っていうのは例えみたいなものでね、本当はただの飴玉なんだよ」
「そう。でも、私は今飴を食べるような気分じゃないから遠慮するわ」
 何を食べさせたいのか気にはなるが、どうせろくでもない薬に違いない。ギーはまともな薬も作るが、それ以上に怪しげな薬を作るのが好きだ。
「え? そう言わずに、食べてごらんよ。きっと美味しいから」
 ずいっとギーはイヴォットの口元近くに薬を近付ける。
「あなたが食べればいいでしょう」
22貴族と平民 4/9:2008/05/12(月) 05:06:43 ID:Nu4DDt5s
 隙を見せれば無理矢理口に放り込まれそうな気がして、イヴォットは慌てて口元を隠すように右手を当てる。
 ギーは苛立ったようにも嘆いているようにも見える表情でイヴォットを急かした。
「僕が食べたって意味がないんだよ。君が食べなきゃ」
「何の薬なの?」
「それは、その……き、綺麗になる薬だよ。君がいつまでも綺麗でいられるように食べるべきだ」
 イヴォットは溜め息をついた。
「あなたが何をそんなに必死になっているのかわからないけど、そんな怪しいものを食べる気にはならないわ」
 ついに薬を瓶に戻し、ギーはしゅんとうなだれる。その姿に罪悪感がこみ上げ、悪いことをしたわけではないのにちくりと胸が痛む。
「私はもう寝ますから、あなたも休むなら早くなさい」
 その痛みを振り払うように頭を振り、イヴォットはギーを置いて部屋を出た。
 とぼとぼ後ろをついて歩くギーには気付いていたが、敢えて声をかけはしなかった。何の薬か正直に教えてくれるなら食べるかどうか考えてあげるのに。イヴォットはそう思い、小さく溜め息をこぼす。騙して食べさせるような真似をされては食べる気にはなれなかった。
 寝室についてからもギーはしょぼくれたままだった。横になったイヴォットの隣で膝を立て瓶を手の中で弄ぶ。
 そんなに食べてほしかったのかと思うとイヴォットはギーがなんだか可哀想になってくる。
「ねえ」
 ギーの方を向き、イヴォットは彼に声をかけた。
「そんなに私に食べてほしいの?」
 ぴたりとギーの動きが止まり、彼にしては珍しくごにょごにょとくぐもった声で答える。
「別に、その、いいんだ、君が嫌なら食べなくても。食べたって、どうせ僕の思うようにはならないだろうし、そんなの僕だってわかってる」
 イヴォットは体を起こし、仕方のない人だという顔で笑う。
「情けない顔をしないで。あなたはルイスの当主なのだから」
「……当主は僕じゃなくて君だ。僕は名前だけだよ」
「いいえ、あなたが当主よ。……いいわ。食べてあげる。貸しなさい」
 手を差し出すとギーは驚いた顔でイヴォットを見た。
「いいのかい?」
 イヴォットが頷くとギーは嬉しそうに笑って瓶の蓋を開けた。そうして取り出した薬をイヴォットの口元へ運ぶ。
「甘いから大丈夫だよ」
 イヴォットは口を開いてそれを受け入れた。
23貴族と平民 5/9:2008/05/12(月) 05:07:29 ID:Nu4DDt5s
 薄い飴のようなものが液体を包み込んでいたらしく、口に含んですぐにそれはほろりと溶けて口の中に香りと液体が広がった。ギーの言うようにそれはとても甘かった。
 イヴォットはこくりと液体を飲み下す。
「ど、どうかな?」
 明らかに興奮している様子でギーは尋ねる。
 イヴォットはしばし考え、小首を傾げた。
「どうって……甘かったわ、すごく」
「それだけ? 胸がどきどきしたりしない?」
「いいえ。特にこれと言った変化はないわ」
 それを聞いた途端にギーは奇声を上げて寝台に倒れこんだ。
 驚いたイヴォットは心配そうにギーの顔を覗き込む。
「大丈夫?」
「いいんだ。わかってたから。でも、ちょっと期待してたから、いや、やっぱりちょっとじゃなくてすごく期待してたかも。どうしよう。すごく悲しい」
 今にも泣き出しそうな姿にイヴォットは胸が締め付けられた。本当に何の変化もないのだが、どういう状態になればギーは喜ぶのかを考える。
「あの、少し、胸がどきどきしてきたわ」
 とりあえず、イヴォットは先程のギーの問いかけを肯定してみることにした。
「本当に?」
 不安げに見上げるギーを安心させるように笑み、イヴォットは頷く。
「他には? 僕のこと、どう?」
「あなたのこと?」
「ほら、かっこよく見えるとか」
 一体何を飲ませたのかと訝しみつつ、イヴォットは頷いた。
「そうね。格好良いわ」
「本当! じゃあ、僕のこと、好きになりそう?」
 ギーの問いかけが予想外すぎてイヴォットはぽかんと口を開いて彼を見た。好きになりそうとはどういうことだろうか。
 不意に腕を掴まれ、イヴォットはギーに引き寄せられる。彼の胸にのしかかるような体勢になり胸が大きく高鳴った。
「ねえ、イヴォット。僕のこと、好きかい?」
 未だかつてないほどに積極的な夫の言動に疑問を抱きながらも、イヴォットは素直に頷いた。
「ちゃんと聞かせてよ」
 ギーの手が頬を撫で、頭を撫でる。
「あなたが好きよ」
 肌を重ねたことは幾度もあるが、こんな風に素直になるのは初めてだったし、こんなに甘い雰囲気を味わったのも初めてのことだ。
 イヴォットの鼓動は初夜の晩よりも高く鳴り響いている。
 満足そうにギーは破顔する。そして、イヴォットの長い髪を一房取り、そっと唇を寄せた。
「嬉しいよ。君が僕を好きになってくれたらいいのにってずっと思ってたんだ」
「嘘……」
24貴族と平民 6/9:2008/05/12(月) 05:08:15 ID:Nu4DDt5s
「本当だよ。だって、僕は君みたいに素敵な奥さんが出来て舞い上がってたのにさ。君は僕のことすぐ怒るし、好きじゃないんだと思ったら悲しくて」
 拗ねたような口調でギーは言う。あまりのことにイヴォットは言葉も出ない。
「まあ、わかってたんだ。君は貴族のお姫様で僕は平民だ。僕と結婚なんて君には屈辱でしかないはずだって結婚前に言われたよ」
 ギーの手が何度も何度も優しく髪を撫でる。
「でも、やっと僕のこと好きになってくれた。薬は使っちゃったけど、それでも嬉しいよ」
 イヴォットは頭を振った。
「違うわ」
 聞き返したギーにイヴォットはもう一度同じことを言った。
 ギーはわからないといった顔でイヴォットを見る。
「薬、きいてないわ。何の変化もないもの」
「でも、どきどきするって」
「あなたが喜ぶと思ったから」
 落胆を隠しもせず、ギーは溜め息をついた。
「でも、あなたが好きよ。薬なんか使わなくても、私はあなたが好きだわ」
 驚いた顔でギーはイヴォットを見る。
「あなたは私に興味がないんだと思ってたの」
「どうして?」
「だって、研究ばかりで、滅多に家にいないし」
 月に一度しか帰らないことだってざらだ。
「それは、夢中になると時間が経つの忘れちゃって」
 ギーが申し訳なさそうな顔をする。
「もしかして寂しかった?」
「寂しかったわ。毎日毎日、とても寂しかった」
 自分でも驚くくらいに素直になれる。もしかしたらこれが薬の効果なのかもしれないとイヴォットは思った。
「これからはなるべく帰るよ」
「本当なら嬉しいわ」
「帰るよ。絶対帰る。君を寂しがらせて、ごめん」
 イヴォットを抱き締めるようにしてギーは体勢を入れ替える。今度はギーに覆い被さられて、イヴォットはそっと目を閉じた。
 額に唇が押しつけられ、ぎゅっと抱き締められる。
「好きだよ、イヴォット」
 私もと言いかけたイヴォットの唇はギーのそれで塞がれる。舌を絡ませあう深い口づけにイヴォットはくらくらと眩暈を感じた。
 ギーの手が腿を撫でただけではしたない蜜が溢れ出す。
「あっ……やだ、なんだか、わたし」
 普段より敏感に反応する体が恥ずかしくなってイヴォットはギーから顔を背ける。
 かまわずにギーはイヴォットの服を脱がせ始めた。
25貴族と平民 7/9:2008/05/12(月) 05:09:03 ID:Nu4DDt5s
「君が僕を少しでも好きなら僕が好きで好きでたまらなくなって、君が僕を好きじゃなかったら何にも変わらない。そういう薬だってきいたよ。僕が悲しんでたから友達が作ってくれたんだ」
 ギーは露わになった胸元に口づけ、たわわな乳房を優しく揉む。
「いつもより感じるのは、君が素直になったせいかな?」
 くすりと笑い、ギーは胸の頂を口に含んだ。イヴォットは体を強ばらせ、ぎゅっと目を閉じた。
 胸が受けた刺激が下半身に直結しているかのように蜜は止めどなく溢れる。もじもじと腿を擦りあわせると微かに濡れた音がした。
「あ、ン……はァ、やっ、あっああっ」
 甘い声を上げ、イヴォットはギーの髪に指を絡めて頭を掴んだ。もっと欲しいと言うように胸に頭を押しつける。
 ギーに乳首を強く吸われ、イヴォットはそれだけで軽く達してしまう。
「こっちもすごいね」
 体から力が抜けたイヴォットの膝を掴み、ギーは左右に大きく開かせる。見つめられていることが恥ずかしくてたまらないはずなのにイヴォットはまたしても蜜が溢れ出すのを感じた。
 ギーの指が入り口を軽くなぞる。
「このままいれても大丈夫なくらい濡れてるね」
「やっ、いわないでぇ」
 甘えた声を出すイヴォットにギーは再び深く口づける。
「あっ、おねが……もう、やぁ、へんに……なりそ、あんッ」
 自分の体が自分の体でないような感覚にイヴォットは頭がおかしくなりそうだった。こんなに欲しくてたまらないのにギーは胸に触れたりするばかりで応えてくれない。
 イヴォットにねだられ、ギーは嬉しそうな笑みを見せる。
「欲しいの?」
「あッ、おねがい……う、ああン」
「君から欲しがってくれるのは初めてだね。嬉しいよ」
 求められてギーは焦らすことなくそれに従った。いつもの半分以下の前戯なのにいつもの倍以上は濡れている。媚薬のような効果はないときいていたがイヴォットは驚くほど積極的だ。
 急いで服を脱ぎ捨て、ギーは屹立を蜜に絡めるように滑らせる。入り口を擦るだけでイヴォットは可愛らしく啼いた。
「いれるよ」
 低く囁き、ギーは腰を進めた。先端をあてがい、少し力を込めただけですんなりと侵入することができた。
「ん、いいよ。濡れてて、あったかくて」
 焦ることなくゆっくりと根元まで挿入し、ギーは深く息を吐く。
26貴族と平民 8/9:2008/05/12(月) 05:12:46 ID:Nu4DDt5s
 気持ちを確かめたせいかいつもより感じる気がする。好かれているのだと思うとそれだけで気持ちが高ぶるのだから不思議だった。
「動くね。気持ちよくなったらいつでも好きなときに気をやってくれていいよ」
 イヴォットの返事もきかずにギーは腰を動かした。初めはゆっくりと馴染ませるように、そして徐々に激しく複雑に腰を使い出す。
「んっ、あっ、だめ、い……ああっ、いやぁ」
 悶えるイヴォットの体を押さえ込むようにしてギーは久しぶりに抱く妻の体を堪能する。
 イヴォットは円かな瞳に涙を浮かべ、快楽にとろけた顔で咽ぶ。
 妻を啼かせることが嬉しくてギーは喜び勇んで責め立てた。
 一際締め付けがきつくなる箇所を見つけてはそこを責めて彼女を喘がせ、焦らすように入り口付近で浅く出入りを繰り返して虐めてみたりもする。感じきって悶える様も、欲しがって泣く姿もすべてが愛らしく愛おしい。
 そうして何度も絶頂に達するイヴォットを眺めている内にギーにも限界が訪れる。
「僕も、そろそろ……限界、かも」
 弾む呼吸の合間にギーが辛そうに呻く。
 夫の絶頂が近いことを感じ取り、イヴォットの襞は今まで以上に蠢いて内部を行き来する屹立をきつく締め付けた。
 射精を促すような内部の刺激に耐えかね、ギーは荒々しく腰を叩きつけ始めた。
「あ、ああっ、や、はげし……ン、んんっ、だめ、アッ、ああッ」
 びくびくと体を震わせるイヴォットの腰を掴み、ギーは強く腰を打ち付けた。一番深く入り込んだと体が認識した瞬間に欲望が弾ける。
 背筋をぞくぞくと心地よさが駆け抜け、脱力感が徐々に体を浸食していく。愛しい妻の胎内を汚したのだと思うだけで、えもいわれぬ達成感がギーの中を埋め尽くした。
 イヴォットの中から萎えたものを抜き去り、ギーは彼女の隣に転がる。
「すごく気持ちよかったよ。今までで一番よかったな」
 恥ずかしげもなく言ってのけ、ギーはイヴォットの方へ顔だけを向けて問いかける。
「君も気持ちよかった?」
 まだ惚けたような顔をしていたイヴォットだったが、火照った顔をさらに赤らめて目を反らす。
「気持ちよくなかった?」
 しつこく問いかけるギーから逃れるようにイヴォットは彼に背を向ける。気持ちよくなかったはずがない。そんなことはギーだってわかっているはずだ。気持ちよかったなどと口にするのは恥ずかしかった。

27貴族と平民 9/9:2008/05/12(月) 05:14:41 ID:Nu4DDt5s
 しかし、ギーはイヴォットの腰に腕を回して彼女を抱き寄せ、首筋に顔を埋めながら再度問う。彼はどうしても彼女に気持ちよかったと言わせたいようだ。
「ねえ、イヴォット。せっかく素直になれる薬を飲んだんだから言って」
 ちゅっと肩や項に口づけが落ちた。
 結婚して以来初めてとも言える甘く濃密な空気にくらくらと酔いに似た感覚を覚える。イヴォットはどきどき高鳴る心臓を押さえるように胸元に拳を添えた。
「は、恥ずかしいわ」
 ぽつりと呟くとギーが抗議の声を上げた。
「なんでさ? さっきまであんなに気持ちよさそうにしてたくせに。今更恥ずかしがっても遅いと思うよ」
 かあっと頭に血が上る。これ以上ないくらいに顔を赤くし、イヴォットはギーの腕を振り払おうと躍起になった。
 ギーはイヴォットの抗議など知らぬふりをし、彼女の腰を抱いたまま頬に頬をすり寄せた。
「君が好きだから気持ちよくなってほしかったんだよ。ねえ、どうだった?」
 好きと言われてイヴォットの全身から力が抜ける。夢を見ているように思考がぼやける。
「……気持ち、よかったわ」
 蚊の鳴くように小さな声でイヴォットは答える。
 聞き逃すことなく妻の感想を受け取り、ギーは喜色満面の笑みを浮かべて彼女を抱く腕に力を込めた。



おわり



>>保管庫管理人様
保管庫入りは無しでお願いします。
28名無しさん@ピンキー:2008/05/12(月) 17:50:23 ID:EDUNLoGy
えがった
29名無しさん@ピンキー:2008/05/12(月) 18:40:33 ID:7Nw3e8X2
薬と言いつつプラシーボっぽいなぁ
友人のくだりすら嘘だったりしてw
だとしたらギー演技派杉
そうでなければ…何者だ友人
30名無しさん@ピンキー:2008/05/12(月) 19:41:01 ID:moXhGgt/
薬は嘘だけど、ギーは嘘だと知らされていなかったんじゃないかな
31名無しさん@ピンキー:2008/05/12(月) 19:47:24 ID:IMTUB7Lg
GJ!!

前作に引き続き、保管なしなんてもったいない作品でなぁ…。
32名無しさん@ピンキー:2008/05/13(火) 00:05:30 ID:Nu4DDt5s
GJありがとうございます。

蛇足かもしれないけど薬の正体書いてみた。
33後日談 1/2:2008/05/13(火) 00:07:24 ID:HBGEGAzZ
 頭の天辺から花が生えているのではないかと本気で疑ったが、ギーの頭は綺麗なものだった。
「脳がやられておるようじゃな。最早手の施しようがないわ」
 ひとしきり頭を確認した後、リュカはギーの髪をぐしゃぐしゃとかき回してから手を離した。
「えー? 何の話さ。僕は正常だよ」
 むうっと頬を膨らませてギーはリュカを見上げた。
「へらへらと締まりのない顔をしおって。さっきから何度同じ薬を調合し直せば気がすむのか教えてほしいものじゃ」
 ギーにしては珍しく今日は何度か調合を失敗している。うっかり分量を計り間違えたり、途中から違う薬の材料を混ぜたりと初歩的な間違いばかりを犯している。
「しかし、その様子では儂の作った薬は抜群に効いたようじゃの」
 リュカは腕を組み、自信に満ちた表情でギーを見下ろす。
「うーん、どうなんだろう」
「何だ。試しておらんのか?」
「試したけど、イヴォットは薬を飲んでも普段と変わらないって」
 リュカが眉を顰めてギーを睨みつける。
「阿呆が。儂の調合した薬が効かぬ訳がなかろう。貴様のやりようが悪いに決まっておる」
「そうかなぁ? 僕はだいぶ頑張ったよ」
 鼻を鳴らし、リュカはギーの頭を軽く小突いた。
「生意気を言いおって。しかし、そなた薬が効いておらぬ割には機嫌が良いように見えるが」
 ふと思い立って尋ねたリュカにギーは喜色満面な笑みを浮かべて答えた。
「イヴォットがね、僕のこと好きだって」
 リュカの動きがぴたりと止まり、一拍おいてわなわな震えだす。
「効いておるではないか、莫迦者がっ!」
 一喝し、リュカは脱力して溜め息を漏らす。
「不肖の弟子とはそなたのような者を言うのであろうな。つくづく手に負えぬ男よ。そなたは常に頭が春じゃ」
「そうじゃなくて。薬を飲む前から僕が好きだったって言ってくれたんだ。今日も早く帰ってきてって家を出るときにお願いされちゃった。もっと早く聞けば良かったなぁ。僕のこと好きかいって」
「それは儂の薬を飲ませたおかげではないか」
「うーん。確かにいつもよりイヴォットは素直で感じやすくてすごく可愛かったけど、薬のせいなのかい?」
 ギーが薬のおかげかもしれないと考え直し始めたことに気を良くし、リュカはフフンと不敵な笑みを浮かべる。
「そうであろう、そうであろう。儂の薬が効かぬ訳がないのじゃ」
「で、何を使って調合したのさ? すごく気になるよ」
34後日談 2/2:2008/05/13(火) 00:10:04 ID:HBGEGAzZ
 リュカは戸棚へ近づき、幾つかの薬草を手にしてギーの前にばらまいた。
「これじゃ」
 ギーは薬草と酒瓶を眺めて首を傾げた。
「これでそんな薬が作れるの?」
 リュカはにんまりと笑う。
「できると言えばできるし、できんと言えばできん。あれはただの酒じゃ。薬草入りの酒を飴で包んだ菓子よ。入れたのは少々きつい酒じゃ。そなたの細君が酒に弱ければ多少酔いはするかもしれぬがそれだけのことよ」
 ギーは眉を顰めてリュカを見上げる。
「媚薬と思い込ませれば何の効果もない薬を飲ませても効くことがある。まあ、病は気からというじゃろ。そんなところじゃ」
 まだ訝しんでいるギーにリュカは面倒臭そうに語る。
「そなたのことだからドキドキしてきたかだの何だのとしつこく聞いたのであろう? 惚れ薬やら媚薬の類を飲まされたのだと思い込めば酒も媚薬に変わるというものよ」
 リュカの言葉を噛み砕いてしばらく考え、ギーは呆れた顔でリュカを見た。
「……インチキだ」
「うるさい。インチキではない。薬なぞ使わずにすむならその方がよかろう」
 またしても頭を小突かれ、ギーは不満たっぷりに頬を膨らませる。
「して、そなたよいのか?」
 ギーは首を傾げる。
「早く帰ると約束したのであろう? 日が落ちる前に帰れ。今日の仕事は終わったはずじゃ」
「帰っていいの?」
「うむ。急に押し掛けた儂に気を使わずともよい。そなたがおらずとも一人であれこれ試させてもらう。よもや儂に触られて困るような物は置いておるまい」
 帰ってもいいと言われた途端にそわそわと落ち着きをなくす弟子をリュカは苦笑混じりに眺める。
「じゃあ、その、帰りに鍵かけといてね」
「わかっておる」
「それじゃあ、薬ありがとう。僕も今度お師匠に何か送るよ」
「期待せずに待っておる」
 ぱたぱたと慌てて駆けていくギーの後ろ姿を見送り、リュカは一人ひっそり笑んでいた。


おわり


35名無しさん@ピンキー:2008/05/13(火) 00:30:10 ID:0IWSEQAn
GJ!
36名無しさん@ピンキー:2008/05/13(火) 00:58:15 ID:TFGtoAds
すばらしい
37名無しさん@ピンキー:2008/05/13(火) 01:45:18 ID:6rWU5FYP
お師匠の若い頃の話が読みたいなあ。
38名無しさん@ピンキー:2008/05/13(火) 20:27:29 ID:R+G+Ic+V
このスレは神ばかりだ…本当にすばらしい
レティシアもイヴォットもかわえぇ〜

セシリアもwktkしながら待ってます!!

39名無しさん@ピンキー:2008/05/14(水) 10:16:48 ID:wf3ZC27d
ヘタレな魔王さま頑張って
40名無しさん@ピンキー:2008/05/16(金) 18:21:38 ID:Xeg08CHM
エルドが居ない今のうちに・・・

セシリアは俺の嫁
41エルド:2008/05/16(金) 21:01:11 ID:j+tftOTF
阻止
42名無しさん@ピンキー:2008/05/16(金) 22:17:49 ID:gvCTQinK
ちょwwwwエルドwww
43名無しさん@ピンキー:2008/05/17(土) 21:42:39 ID:ZZYCr+dx
ヘタレ魔王は俺も待ってるよ。全裸で。
44名無しさん@ピンキー:2008/05/19(月) 17:18:49 ID:nDw8YRFr
過去スレの5〜7が見れないんだけど自分だけ?
45名無しさん@ピンキー:2008/05/20(火) 11:19:40 ID:B01ylvwp
>>44
今取ってみたけど取れたよ?
46名無しさん@ピンキー:2008/05/20(火) 12:19:37 ID:p2+M12UH
>>45
やっぱり見れない…
何故なんだ
そのうち見れるようになることを祈る
わざわざすまぬな
47名無しさん@ピンキー:2008/05/20(火) 12:53:00 ID:B01ylvwp
どんなエラーになるのか分からないと助言のしようも無いよ
●がちゃんと有効になってるのは確かめた?
48名無しさん@ピンキー:2008/05/20(火) 17:42:13 ID:p2+M12UH
>>47
1〜4までは見れるんだけど、それ以降はエラーになる
自分はパソコンでなく携帯なんだけど、過去スレ以外でも最近エラーが多い
このページはエラーにより表示できません(502)ってなる
携帯がおかしいのだろうか…
49名無しさん@ピンキー:2008/05/20(火) 19:14:04 ID:EuGrEq2K
携帯は最近調子悪い。俺のimonaも通信エラーはきまくり
50名無しさん@ピンキー:2008/05/20(火) 19:55:09 ID:p2+M12UH
そうなんだ
ちょっとホッとしたよ
ありがとう
調子良くなるといいな
51名無しさん@ピンキー:2008/05/21(水) 02:31:40 ID:girGFv78
ガルィア国の人、サイト開設おめ
加筆修正版もじっくり読ませていただきます。

オーギュストの説明が「学問はできるが顔つきも頭もぼんやりしている」ってのに笑った。

レオノールは結婚後、クレメンテのその後について何か知っていたのか
それとも忘れた(というか昔の思い出として胸の奥にしまっている)のか
ちょっぴり気になっていたので、最新作はそういう意味でも興味深かったです。

ていうか最新作、前スレだったんだね。。ずっとプロバイダが規制くらって
書き込みできなかったんで今更な感想ですが。。。
52名無しさん@ピンキー:2008/05/21(水) 15:34:54 ID:KWIIBlVt
上に同じく、サイト開設おめ!
シリーズの仮の題名が妙にやっつけで笑った。
これからも楽しみにしています。
53名無しさん@ピンキー:2008/05/21(水) 16:30:47 ID:7VUCb5oT
個人サイトの話をここでやるなよ
54名無しさん@ピンキー:2008/05/21(水) 16:35:18 ID:GZuhsCao
作者さんが開設しました報告にきたわけじゃないんだから個人サイトの話をここに持ち込むのは作者さんの迷惑になるんじゃないか?
サイトの話はサイトの掲示板なりメールフォームなりで作者さんに伝えるべきだと思う。
もしかしたら作者さんはサイト開設内緒にしたかったって可能性も考えられるじゃないか。
55名無しさん@ピンキー:2008/05/21(水) 16:36:08 ID:GZuhsCao
>>53と被ってしまった。すまんorz
56名無しさん@ピンキー:2008/05/21(水) 19:29:12 ID:KBUpWHSB
>>51
えっ!! ちょっ!せめてサイト名だけでも教えてくだせえ!!
57名無しさん@ピンキー:2008/05/21(水) 19:52:14 ID:fhqwwh0h
って言い出す奴がでるからさ。
個人サイトの話は厳禁にしたらいい。
58名無しさん@ピンキー:2008/05/21(水) 20:29:45 ID:xUIWzCFt
まぁ、ここでアランが見てない内に

エレノールは俺のよ・・・なにをするきさまらー
59名無しさん@ピンキー:2008/05/21(水) 20:36:51 ID:rGW81ehg
登場人物の名前とか各話のタイトルとか色々検索ワードはあるだろ・・・
60名無しさん@ピンキー:2008/05/22(木) 00:39:25 ID:NXRJUFDx
まぁ、サーチエンジンに登録してるから。

たしかに作者さん本人の報告がない限りは出すべき話題ではないのかもしれん。
61名無しさん@ピンキー:2008/05/22(木) 16:31:09 ID:Rc+bYGkZ
みんな一体どこでそんな情報を…?
まぁお陰で見つけられたよ
ありがたい
62名無しさん@ピンキー:2008/05/22(木) 22:11:47 ID:NXRJUFDx
単純に、サーチエンジンサイトにいったら、ちょうど登録したばかりらしく一番上にきてた(・∀・)
餅は餅屋
63名無しさん@ピンキー:2008/05/23(金) 16:29:55 ID:48ekQ8WF
>>58は今頃どうしてるだろう…
64名無しさん@ピンキー:2008/05/23(金) 16:42:21 ID:TbVqKehq
躾られています
65名無しさん@ピンキー:2008/05/25(日) 01:59:30 ID:FKz5ukAD
66名無しさん@ピンキー:2008/05/25(日) 17:37:19 ID:EsSp9swm
駄目だ。世の中サーチエンジンが多すぎる…。
67名無しさん@ピンキー:2008/05/25(日) 23:41:06 ID:+LJsAEAd
>>66
頑張れっ!
頑張って探すんだっ!!
68名無しさん@ピンキー:2008/05/26(月) 01:05:01 ID:yAsCWW0s
こんばんは。
マリーとオーギュストシリーズを書いている者です。
(HPではRIFと名乗っております)

こちらで個人サイトについて言及するのはルール違反かと思われて
(しかも新作投下のついでというわけでもないので)
ご報告は控えていたのですが、
お祝いのおことばをくださった皆様、
当方をお気遣いくださった皆様、本当にありがとうございました。

大変僭越ですが、
もしまだ拙宅をお探しのかたがいらっしゃいましたら、
たとえば「ChaosParadise R18」という検索サイト様の
「ファンタジー(性描写有)」
というジャンル内でお探しいただくとすぐに見つかるかと思います。
(こちらでの検索対象はサイト名ではなくシリーズの題名になりますが)

また、さきほど「ガルィア」でググッってみると
拙宅内のページが冒頭に出てきたため
そちらからでも直接お越しいただけると思います。

長々と失礼いたしました。
今後もエロ有りのSSについては
こちらに投下をつづけさせていただきたいと存じますので、
よろしくお願い申し上げます。
69名無しさん@ピンキー:2008/05/26(月) 01:29:29 ID:Yhs8dzCD
>>68
これからもシリーズは書いてくれるようなので、期待しつつ応援してます。
70名無しさん@ピンキー:2008/05/26(月) 01:29:48 ID:0GWz5yGs
お疲れ様です。いつも楽しいお話をありがとうございます。
71名無しさん@ピンキー:2008/05/26(月) 02:55:23 ID:8e5dta8o
>>68

ありがとうございます。
自分もみつけられなかった口なのでうれしいです。

それにしても、絵で見るエレノールもかわいいですね。
72名無しさん@ピンキー:2008/05/26(月) 21:38:00 ID:ausBlvBb
文筆力だけでなく、絵もお上手なんですね。

>今後もエロ有りのSSについては
有無に関わらず、貴方の作品は魅力的で本当に楽しみです。
73名無しさん@ピンキー:2008/05/27(火) 23:10:03 ID:DbUpReWg
いつもありがとうございます。
もう一度読み直して、堪能しました。
特にクレメンテとの話が切なくて大好きです。
彼がどんな気持ちでエレノールの花嫁姿を見送ったのか、
考えると目から汁が…
74名無しさん@ピンキー:2008/05/28(水) 00:28:33 ID:88tvcpoI
エロ目的で読み始めたはずなのに、普通の会話のやり取りにも魅了を感じるよね。

ところでセシリアは今頃どうしてるんだろう…?
75名無しさん@ピンキー:2008/05/28(水) 00:57:26 ID:54K/f/J6
エレノールが可愛くって萌えました。
マリーのイラストもぜひともお願いします。
76名無しさん@ピンキー:2008/05/28(水) 01:17:31 ID:hMhyEEBs
イラストってどこにあるのですか?
(見つかりません)
77名無しさん@ピンキー:2008/05/28(水) 01:25:48 ID:sHhvzCef
だから個人サイトの話はサイトでしておいでって。他の職人が投下しづらくなるでしょうに。
78名無しさん@ピンキー:2008/05/31(土) 03:09:16 ID:h5Jw+Oj0
保守
79名無しさん@ピンキー:2008/05/31(土) 18:31:31 ID:k+nRYpZp
職人さん降臨してくれ〜!!
80名無しさん@ピンキー:2008/06/01(日) 14:11:11 ID:RzjpLrN3
保守
81名無しさん@ピンキー:2008/06/02(月) 18:37:16 ID:tCY3rsJq
ほす
82名無しさん@ピンキー:2008/06/03(火) 12:17:53 ID:88mfZ8lW
セシリアたんに会いたい(*´д`)ハアハア
83名無しさん@ピンキー:2008/06/03(火) 22:32:09 ID:zre07sPY
エルドは俺の婿
84名無しさん@ピンキー:2008/06/04(水) 20:09:51 ID:mJtmpfjU
じゃあエレノールは貰って行きまs・・・アッー
85名無しさん@ピンキー:2008/06/04(水) 21:25:33 ID:lmqAUVm1
エルドとセシリアを捕獲してドールハウスで飼いながらニモニモしたいwwwwwww
86名無しさん@ピンキー:2008/06/06(金) 23:27:25 ID:eVU9bayT
船は市上空で破裂し、そして空からは純白のドレスを着たお姫様が降りてきた。身長は地球人の60倍、80mはある。
「ふふふふふ、私は銀河系宇宙の皇帝様の皇女ローラ。愚かな地球人達よ。おとなしく私達の奴隷と食料になりなさい」
彼女はそう言って、その長いスカートに不似合いなくらい右脚を高く上げると、市内の建物を次々と踏み潰し始めた。
彼女にとってのビルなど地球人にとっての発泡スチロールより弱い代物でしかない。
ちょっと強く脚で踏みつけると、ビルは一瞬のうちに粉々に砕け落ちていった。
彼女はそれが気に入ったようで、今度は身体全体で抱きしめるように高層ビルを掴んだ。
そして一息でビルは跡形もなく崩れていく。
「うわああああ、怪物だあぁ」
「た、助けてくれーーー」
その豊かな胸はビルの壁を押し破り、中にいる小人達を次々と押しつぶしていった。
「地球人達よ感謝なさい、私の胸で潰れていくなんて、滅多にないことよ」
次の目をつけたビルをつまむと、3階の辺りから引きちぎった。
そしてビルの中を覗きこむと、多くの小人達が逃げ場もなくただうろうろ走り回っていた。
3mは優にある巨大な彼女の瞳に睨み付けられて、その場にしゃがみこむ者もいた。
「ふふふ、かわいいの」
彼女はビルをジョッキのように傾けると、中の小人達を一気に口の中へと流し込んだ。
「うわわ、助けてくれーー」「ぎゃあああーーー」
多くの小人達の悲鳴は彼女の口の中へと消えていった。
「ごくん。ふふふ、まだいるはずよぉー」
ローラ皇女のビル丸呑みに、鍵のある部屋に逃げ込んでいたものは辛うじて助かっていた。
彼女は次にビルの中に舌を差しこんだ。
その赤くて唾液でしっとりと湿った舌は幅2m、長さも10mは優にある。
まるでセンサーでもついているように小人のいる場所を探し当てると、
一撃でドアを壊して中の小人達を舐め取っていった。
「わあーーー」「し、舌だぁ!!」
「あーおいしい。隠れても駄目よ。あ、地球人達が暴れながら食道を落ちていってる…」
そのころ、彼女の足元近くを逃げ惑っていたものたちは、そのビルの犠牲の元になんとか遠くへ逃げようとしていた。
「あら、地球人達が必死に逃げようとしている。無駄なのにねえ、、」
そういうと彼女は辺りのビルを次々と手で払い落とすように壊し始めた。
「きゃはははは、地球人が必死に逃げ惑ってるぅ」
彼女はその小人達の姿をみているうち、自分の局部が熱くなってくるのに気づいた。
87名無しさん@ピンキー:2008/06/06(金) 23:31:00 ID:eVU9bayT
「そうだわ。このビルちょうどいい」
彼女はその長いスカートを膝まで捲り上げた。
ちょうど膝までのソックスが切れて、生の太股が見えるくらいの高さまでめくると、
目の前のビルにかぶせた。
「あ、ふ、ふう…気持ちイイ…中の地球人はどうしているのかしら…考えるだけで萌えちゃう…」
ビルは完全に彼女のスカートの中に入ってしまって、全く外からは見えない。
彼女が悶える姿から何が起こっているのか想像するしかない。
「あ…あ…いい、、、、う、、、ふう、気持ち良かった」
彼女がスカートを外すと、ビルは無残にも崩れ去り、あたり一面粘液で水浸しになった瓦礫の山と化していた。

「こちら攻撃開始する」
ミサイルが次々と彼女に命中するが、全くといっていいくらいダメージがない。
「効かない、、、」
「目玉を狙え。弱いはずだ。こっちで引きつける」
「了解。気をつけろ」
彼女の気を引くように右側から左右に機体を小刻みに旋回させながら近づいていった。
「なに?こいつ?」
彼女は右手を上げてハエを振り落とすように機体を叩き落そうとした。
機体は彼女の顔の前を右から左へすり抜けた。皇女の顔が機体を追って左を向いた瞬間
「くらえぇ!」
「きゃああああーーーーー」
爆発音とともに目から黒煙が上がった。
「やったか?」「気をつけろ、損害を確認するまでは近づくな」「倒れてはいないようだ」
「……お前達ぃ、よくもやってくれたな…」
彼女は赤く充血した両目を見開いた
88名無しさん@ピンキー:2008/06/06(金) 23:36:15 ID:eVU9bayT
「効いてない!」「そんな…ばかな…眼球に直撃だぞ」
「これでもくらえー!」
彼女は口から光線を発射した。
「回避ぃーーーー!」
光線は扇のように広がってくる。
「なんだぁ?うわあああ!」
戦闘機は左翼を光が突き抜け、機体は完全にコントロールを失った。
「旋回しろ!奴に突っ込むぞ」「旋回できない…」「脱出しろぉ!」
戦闘機は彼女のお腹に衝突し、大爆発を起こした。もちろん彼女は何ともない。その直前、パイロット間一髪で脱出した。
幸運にもパイロットは皇女と反対方向に飛び出したため、遠くのビルの屋上に着地した。
「おろかな、お前達全滅させてやる」
彼女の光線は容赦なく攻撃隊を襲う。反応の遅れた機は次々と火を吹いていく。
「イーグル3,6,7墜落」「ミサイル残数は?」「合計6発」「ちくしょう。全く歯が立たない」
「危ない!」「しまった!」
機体を左に旋回させてかわそうとしたが、翼端に光線を浴びてしまった。
「くっ、バランスが取れない…」
彼の機体は彼女の足元へ近づいていく。
「脱出しろ!」「ここで飛び出せば彼女の餌食だ!」「しかし…」
「うふふ、こうしてあげる…」
彼女はスカートの裾を持つと、膝まで捲り上げた。
「なんだ……?」
機体がスカートの中へ入ったのを確認した彼女は、スカートから手を離した。
攻撃隊からは彼の機体が彼女の秘密の園へ吸い込まれていくように見えた。
「応答しろ!!!」「、、、、、、」「だめだ、全く反応がない、、、」
「このままでは全滅だ。ミサイルの残数もない。いったん引き上げるぞ」
「応援部隊は?」「後5分で到着します」
「お前達、覚悟するんだな!」
彼女は更に光線を発射した。
同じ攻撃でバランスを崩した1機が同じようなコースへ向かってしまった。
「イーグル8、脱出しろ」
彼女は再びスカートの裾を捲り上げた。
「うふふ。いらっしゃい」
「わあああああ」
彼の機体もまた秘密の園へ入り込んでしまった。
「ぜ、全機退避!」
「あははは、地球防衛軍って聞いていたけど、なにが防衛よ。口ほどにもないわ」
攻撃隊が去った後、彼女は再び近くのビルに目をつけると、その脚を振り上げて破壊を始めた。
89名無しさん@ピンキー:2008/06/06(金) 23:40:41 ID:eVU9bayT
「ふう、ここはどこだ…」
先ほどのパイロットは彼女のスカートの中、スリップに機体をめり込ませて動けなくなってしまっていた。
彼は風防を開けて外に出た。目の前には巨大な2本の白いタワー・・・つまり皇女の2本の膝まであるソックスを履いた脚が
遥か頭上までそびえたっていた。
周りはすべて白いレース、つまり彼女のスリップだが、に覆われた空間、直径50mはあるだろうか。
足元と頭上、その両脚の付け根は共に見えない。
「待てよ。こいつの背丈は100mあるかないか……だとしたらスカートの長さはせいぜい50m。ここから地面とパンツが見えないのは変だ」
と、そのとき足を滑らせた。
「ん?わ!わ・・・なんだ????」
彼はその巨大なふくらはぎの肉塊にぶつかったが、下に落ちるわけでもなく、そのまま立ち上れた。
「皇女は立っているなら、俺は横向きに立っていることになる…どういうことだ??そうか、奴は今寝転がっているのか。
いや、ならスカートが覆い被さってきてもいいはずだ。引力が働いていないのか…」
彼はゆっくりと左右を見回した。
「あれは…?」
脚の向こうに戦闘機がスリップに引っかかって止まっている。
「俺の機体じゃない。誰のだ?」
彼は脚伝いに機体の近くまで歩いていった。
「イーグル8・・・」
コックピットの中を注意深く覗いてみた。
「いない、、、どこに行ったんだ?」
ちょうどこの辺りは脚が盛り上がっている。ちょうど膝の上だ。ソックスが切れて生脚が向こうへ伸びている。
「俺のいたところがあの辺で、8の機体までなんでこんなに遠いんだ?…この中はせいぜい50m四方しかないはず・・・
俺達が縮小したのか・・・いや、脚の太さはこんなもんだ。それに、脚が全く動かないのはどう考えてもおかしい・・・
こいつのスカートの中は空間がねじまがっているのか?」
彼は相棒のウルトラ女に連絡を取ろうとした。
「おい、聞こえるか…」
何の反応もない。
「だめか」
90名無しさん@ピンキー:2008/06/06(金) 23:45:25 ID:eVU9bayT
戦闘機をスカートの中に連れこんだ後、皇女は市内のめぼしい建物を片っ端から破壊していった。
あるものはその豊かな胸の下敷きとなり、またあるものはビルごと引きちぎられて中の小人は
彼女の口の中へと呑み込まれていった。
しばらくして到着した第2波攻撃隊も、ほとんどなすすべもなく全滅状態になってしまった。
「はーはっはっ。この星はわれわれがいただく。地球人達よ、それで文句はないな」
市内で僅かに生き残った血j級人達はもはや何をする気力さえうせて、
あたり一面に響き渡る彼女の言葉にただ恐れおののいているだけだった。

「8、8!、、いない、、ふぅ疲れた。一方向に進んでいるはずなのに、なんで元いた場所に戻って来るんだ?」
彼は彼女の膝から太股の方向へ歩いていったのだ。しかし、なぜかまた膝の上に戻ってきている。
そのとき、彼はほのかな香りに気づいた。
「なんだこの匂い・・・いい匂いだ。引きつけられるような…」
彼はその香りのする方向へ巨大な脚の上を歩いていった。巨大な太股は柔らかく、歩いていても足がめり込みそうになるくらいだ。
と、一面を取り囲むスリップの頭上になにかあるのに気づいた。
「あれは、、先日消息を絶った鉱石船、、、なぜあの船がこんな中に入っているんだ?しかもあんなに小さく」
彼は意を決して船のほうへジャンプしてみた。
すると不思議なことにまるで宇宙遊泳でもするようにするすると船のほうへ向かって泳いでいっているのだ。
すると近づくに連れ、船は本来の大きさと変わっていないのが判った。彼は船の周りを注意深く見回してみた。
「どういうことだ、、、あそこのハッチが開いている」
彼は中へ入ってみた。
「おーい。誰かいるかー・・・声がしない・・・ここでもあの匂いがする。しかもさっきより強い」
船を飛び出すと、匂いのする方向へ向かった。
「これは、、、」
ようやく太股の付け根が見えてきた。ドレスと同じ純白の下着をつけている。
局部はほんのりと湿って右側からは愛液が少しはみ出している。
「これだ、、奴はここにスカートの中に連れこんだ地球人をおびき寄せていたのか!
8や鉱石船の乗組員は恐らく、、この匂いでひきつけていたんだ。俺はひっかからないぞ」
彼は、銃を構えた。陰部に撃ちこもうというのだ。
「ふざけやがって」
と、その時、身体が浮かび上がった。
「わ、なんだ?」
そしてそのまま湿った陰部に押し付けられてしまった。
91名無しさん@ピンキー:2008/06/06(金) 23:52:26 ID:eVU9bayT
「ふふ、まさかウルトラ族がいるとは・・・どうりで地球人には十分過ぎるほどの
匂いで引っかからなかったわけだ」
ローラ皇女の声だ。
「う」
今まで我慢してきたが皇女の匂いには引きつけられるようだ。
今までとより更に強い芳香があたり一面に漂っている。
「ふふふ、わたしのあそこの感触と、芳香に包まれてゆっくり休むがいい」
「あ、イイ気持ち…力が抜けていく」
「すべて吸い取ってあげる」

「待ちなさい!ローラ皇女、あなたを逮捕します」
「なにぃ、、、貴女、ウルトラ族!?」
「覚悟なさい」
「うふふ、地球防衛軍の小人はこのスカートの中だ」
「そんな手にのるもんですか。いくわよ」
ウルトラ女は有無を言わさずローラ皇女に飛びげりを入れた。
いきなりの奇襲に皇女はそのまま仰向けに倒れてしまった。
ウルトラ女はダウン寸前の彼女のスカートを掴むと、一気にめくり上げて股間のパンティを凝視した。
その時
「うふふふ、私の特殊空間に入り込んだらもう二度と出てはこれない。貴女も同じ目に遭わせてあげる」
ローラ皇女はそう言うと、その長いスカートをウルトラ女の頭からかぶせた。
「きゃあ!なにするの?」
ローラ皇女のわなにかかったウルトラ女はスカートの中で暴れていたが、やがて動きがなくなり、
スカートも元の形に戻った。ローラ皇女が脚を開いてパンティが丸見えの姿勢で座っていてもどこにも見えなくなった。
そのころ、皇女の股間に吸い付けられていた彼は局部の感触と芳香と熱気で完全に意識が遠くなって、
夢の世界へ入りかけていた。
「あ・・・気持ちイイ」
「なに一人で遊んでいるの!!」
「わ、!!あ、お前か、驚かすなよって、なんでこんなとこいるんだ??」
彼女は彼と同じ大きさになってそばまで来ると、呆れたようにため息をついた。
「あなたを助けに来たのよ」「そりゃありがたい」「ここは皇女の造った異次元空間よ」「脱出できるのか?」
「簡単よ。でもこの仕掛けが判るまでは苦労したんだから。でもあなた楽しそうだから、置いて帰ろうか」
「ひでー!」「わかったわよ」
彼女は手を伸ばすと股間に貼りついていた彼を掴むと肩に乗せた。
「しっかり掴まっててよ」
彼女は全身から光を発し始めた。
92名無しさん@ピンキー:2008/06/06(金) 23:54:34 ID:eVU9bayT
「ん、なんだ?この感触・・・まさか、、、わああああ!」
ローラ皇女はなおも残った建物脚をかけて踏み潰そうとしていた。
そのとき、突如スカートが膨れ始めたかと思うと、
ウルトラ女が飛び出してきた。
「あなたの子供だましの次元幻覚術、ウルトラ族の私には通じないわよ!」
「貴様ぁ…」「悪いけど、時間ないから。覚悟してよね。光線発射」
「きゃあああーーー!」
「あなたには黙秘する権利と弁護人を選ぶ権利があります」
「ふぅーっ。終わったな」



ドレス着たお姫様(*´Д`)ハァハァマジ来てほしい(*´Д`)ハァハァ
93名無しさん@ピンキー:2008/06/07(土) 00:09:13 ID:vA05L41R
凄く新鮮で面白かった
94名無しさん@ピンキー:2008/06/07(土) 00:42:59 ID:ftxyFWuT
ワロタ
95名無しさん@ピンキー:2008/06/07(土) 10:17:07 ID:LjpORvm8
なんという鬼畜お姫様w
96名無しさん@ピンキー:2008/06/07(土) 11:09:47 ID:LjpORvm8
しかし冷静に考えてみると彼女も本国でストレス溜まっていたのかも知れん
公人は求められるものが大きいし
宇宙皇帝の娘ともなると規模のでかい国家のようだし公務も大変なんだろう
領外の地球でちょとはっちゃけたかっただけと考えると心情を察して泣け・・・ないかw
97名無しさん@ピンキー:2008/06/07(土) 16:38:32 ID:pzPCTRLj
>>96
いや、むしろ地球に来たのが公務で
本当は・・・
98名無しさん@ピンキー:2008/06/07(土) 21:39:52 ID:TMZRGOh+
今までにないタイプの御姫様でワラタwww
99名無しさん@ピンキー:2008/06/08(日) 00:04:17 ID:iD0k8yNZ
かなり間があき、申し訳ありませんでした。
『桃色の鞠』中編を投下します。
100桃色の鞠(中編):2008/06/08(日) 00:06:31 ID:iD0k8yNZ
記念祭三日目。
セシリアは、エルドに会うため、早々に王宮入りを果たしていた。
一晩あれこれと悩んだ結果、彼に全てを打ち明けることが最適のように思えたのだ。
何しろ、エルドはこちらの厄介な婚約の事情について知っている。
ついでに、わからなかった言葉の意味も質問してみよう、とセシリアは考えていた。

侍従長から、第三王子が厩舎に居ることをさりげなく聞きつけると、
セシリアは、勇み足で目的地に向かった。
中庭を横切ろうとしたときだった。
突然、彼女の視界の端に桃色の物体が飛び込んできた。

――鞠だ。

セシリアは、反射的に手を伸ばし、それを受け止めた。
一人の少年が、息を切らしながら、駆け寄ってくる。
「セシリア!」
「あら、ロビン」
それは、ユーリ陛下の末息子にして第四王子のロビンだった。
彼の後ろから、二人の従者も走ってくる。

「ありがとう」
ロビンはそう言って、両手を差し出した。
「これは……」
この鞠は、かつては私の物だったのよ、と言おうとして、セシリアは止めた。
今は、ロビンの物なのだろう、と思い当たったのだ。
無言で、桃色の鞠をロビンに渡した。

「ずいぶん背が高くなったのね」
セシリアは実の弟を見守る感慨で、栗色の頭を撫でた。
色はエルドによく似ているが、髪質はもっと硬かった。

「そんなに伸びてないよ」  ロビンは、首を振る。
「セシリアがちっとも後宮に来てくれないから、わからないだけだよ。前はよく来てくれたのに」
無邪気な声には、ほんの少しの非難が混じる。
そういえば、成人してから後宮に行く機会はめっきりと減っていた。

「あら、ごめんなさい。それでは、近い内にあなたがたに会いに後宮へ伺うわ」
「うん、きっとだよ」
ロビンは嬉しそうにぴょんと跳ねた。
それから、何かを思いついたようにセシリアを見上げた。

「ねえ、セシリア。もう一つお願いがあるんだ」
「何かしら?」
「エルドも一緒に連れて来てくれる?」
「エルドですって?」
どうして、誰もかれもエルドのことを話題に出すのだろう。

「うん。セシリアからエルドを誘ってみてよ」
「まあ。どうして、私が誘わなくてはならないの?」
「だって、セシリアだったら、エルドに何でも好き放題、無理難題を言い放つことができるじゃないか」
「そ、そうかしら」
屈託のないロビンの答えに、セシリアは、がくりと肩を落とした。
幼い彼の目には、自分たちは、どんな風に映っているのだろう、と考えてみるが、
理想的な関係に見えていないことは確実のようだ。
101桃色の鞠(中編):2008/06/08(日) 00:08:02 ID:iD0k8yNZ
「私たちは、あなたにとっていいお手本ではなかったわね」
言い争いに終始していた過去を振り返り、セシリアは仕方ないわ、とため息をつく。
すると、幼い少年は満面の笑みを作った。
「僕は、エルドとセシリアの口喧嘩を子守唄がわりにして寝ていたんだって。ばあやが言っていたよ」
ロビンの顔は、まるで大切な宝物を守っているように幸せそうだった。
「まあ、そんなのばあやの冗談よ」
セシリアは頬を膨らました。
「だいたい、エルドに来てもらいたいなら、あなたから誘えばいいのよ。
 一緒に遊びたい、なんて無理なお願いでも何でもないわ」

「……僕は、別にエルドと遊びたいわけじゃないよ」
その途端、ロビンは気まずそうに目を伏せた。
セシリアは「どういう意味かしら?」と首をかしげる。
ちらりと従者たちに目を遣ると、つんと澄ましていた彼らの一人が、おもむろに切り出した。

「ロビン様は、お兄様に告げたいことがあるのです」
「告げたいこと?」
もう一人の従者も、熱心に言い募る。
「そうです。昨日の武芸競技大会にエルド様は参加していたでしょう? その件につきまして少し―――」
そこで、従者は思わせぶりに言葉を切ったので、セシリアの興味はいたずらに煽られる。
「彼が大会に参加したのは、やはり何か意味があってのことなの?」

従者の一人は、こほんと咳払いをすると、いそいそと話し出した。
「あれは、つまりエルド殿下が、軍部入りを希望しているということですよ」
「軍部入り?」
セシリアは、かすれた声で呟いた。
「それじゃあ、エルドは軍官になるの?」

「ほぼ間違いないでしょうね。だいたいエルド様の出自を考えたなら―――」
「黙れ!」
突如として、幼い声が遮った。
「セシリアは関係ないんだから。それ以上、お前たちは変な話を吹き込むな」

振り返ると、ロビンは、鞠を抱きしめ、口を堅く結んでいた。
どうしてなのか、その様子はとても痛ましく見えた。
「ロビン」
深く考えもせずに、セシリアは、第四王子の手を取り、従者たちから引き離した。
「少しあちらの庭を散歩しましょうよ」
わざとらしいくらい朗らかに誘いかけると、
不思議そうに目をきょろきょろさせたあとで、ロビンは大きく頷いた。
102桃色の鞠(中編):2008/06/08(日) 00:10:19 ID:iD0k8yNZ
薔薇が咲き乱れる庭園を、セシリアとロビンは歩いた。
木々は鮮やかな緑の衣を纏い、道沿いは、スミレやプリムラの絨毯で覆われている。
暖かな木漏れ日と爽やかなそよ風は心地よい。
しかし、後ろから一定の距離をあけて付いてくる従者たちが気になってならなかった。

もちろん、先日の不審者が侵入した事件のことを考えると、宮中といえども、安全だとは言い切れず、
幼い王子が一人で出歩くものではないとわかっている。
それでも時代は変わったものだ、とセシリアは懐古にふけった。
自分が幼いときは、お目付け役なんて持たずに、城の庭という庭を駆け回っていたというのに。

「ねえ、ロビン」
イチイの木のアーチを潜り抜けたとき、セシリアは、ロビンに囁いた。
「エルドが軍部に入りたいって本当なの?」
確かに、武芸競技大会は、軍部に入隊することを希望する若者たちにとっては、
軍の幹部に自分の活躍を披露できる、いわば登竜門という側面も持っている。
だが、セシリアはエルドが軍官になるなんて到底、信じられなかった。

「そんなこと、わからないよ。僕はエルドのことを何にも知らないんだから」
そう言って、ロビンは、鞠を真上に放り投げた。
もうその話はしたくないという合図のように見えて、上下する鞠を目で追いながら、セシリアは次の質問を探した。

「あなたは、エルドに何か告げたいことがあるの?」
「――というよりも、訊きたいことがあるんだ」
丸い鞠は、宙に舞い、そして、ロビンの手元に落ちていく。
「でも、エルドはきっと俺なんかに会いたくないよね」
そう言って、幼い少年は何でもないことのように笑った。
子供らしくない笑顔だった。この年齢にして、周囲に気を遣い、全てを諦めているような。

「あなたの従者たちが、そんな益体もないことを吹き込んだの?」
セシリアは、ちらりと背後を確認する。少なくともあの者たちは、エルドのことを快く思っていないようだった。
問われても、ロビンは否定せずに苦笑するばかりで、鞠を再び投げた。
自分で投げ、自分で受け止める。
そうやって、ずっと一人で遊ぶことに慣れているのだろうか。

「あなたは、自分のお兄さんのことを誤解しているのよ」
「誤解?」
「そうよ。エルドは、確かに無愛想な奴だけど、弟のあなたのことを大切に思っているわ」
「……そんな慰めいらないよ」
ロビンは、無表情のまま鞠を投げ続ける。
「慰めなんかじゃないわ」
セシリアは一歩も譲らなかった。

エルドのことを何も知らないのは、セシリアだって一緒だ。
ランスロット=ベイリアルが守りたいと言ったエルドも、
コートニーが一瞬にして心を奪われたエルドも、セシリアにはよくわからない。
けれども、自分にだってわかることがあるのだ。

「あなたが生まれたのは夏だったわ。よく覚えている」
そう。新しい王子の誕生に、宮中は大騒ぎだったのだ。
「あなたが生まれてすぐのとき、エルドと二人で、あなたの顔を見に行ったことがあるのよ」

どんな経緯で、エルドと同行することになったのかは忘れてしまったが、それは事実だった。
103桃色の鞠(中編):2008/06/08(日) 00:13:16 ID:iD0k8yNZ
ロビンの部屋の大きな扉の前で、幼い日のセシリアとエルドは顔を見合わせた。

『エルド。ねえノックして』
『何で俺が、リアがしろよ』

すっかり日常になった言い争いが始まる。
その声を聞きつけたのか、扉がそっと開かれ、乳母が顔を出した。

『今、ちょうどお休みになられたところですよ。お静かに』
口元に人差し指を当てながら、彼女は言った。
『ばあや。赤ちゃんを見てもいいでしょう? 静かにしているから』
セシリアが懇願すると、乳母は扉を大きく開き、二人を中に入れてくれた。

ミルクの匂いが漂う室内の中央には、ヴェールが垂れ下がり、その下に、籐の揺りかごが置かれていた。
わくわくしながら、その中を覗き込むと、幼い王子が、すやすやと寝息を立てていた。
なんと愛らしいのだろう、とセシリアは感動する。まるで全ての幸福の象徴のように思えた。

『あなたの弟よ』
一人っ子のセシリアはうらやましくて、隣にいる少年に囁いた。
すでに兄も姉も、妹までいるのに、エルドは弟まで持つことができるのだ。
『……そうか』
エルドは赤ん坊をじっと見つめた。
そして、おっかなびっくりといった感じで、壊れそうなくらい小さい指を触った。


「―――あのときのエルドはとても嬉しそうだったわ」
セシリアは心を込めて言った。ありふれた陳腐な言葉に聞こえないように、と願いながら。
「あなたの誕生を、エルドは心の底から喜んでいたの。慰めなんかじゃないわ」

その瞬間、ロビンはセシリアの正面に向き直った。
受け取り損ねた鞠は、地面の上を跳ねて、茂みの中に消えていく。
「……それは本当?」
少年は、瞬きを繰り返した。その目の奥がきらりと光る。

セシリアは肯定するかわりに、ロビンの指をぎゅっと握った。
あの頃に比べたら、ずいぶん大きくなった手のひらだった。
それでも、彼はまだ八歳で、ほんの子供で、もっともっと遊ぶことが必要なのだ。

「待っていてちょうだい。
 記念祭が終わって、落ち着いたら、エルドを連れて来てあげるから」

104桃色の鞠(中編):2008/06/08(日) 00:15:42 ID:iD0k8yNZ
厩舎にて、第三王子エルドは、愛馬のレディ・シャルロッテにブラシをかけ、
昨日行われた武芸競技大会の健闘を労っていた。
何しろ、初出場の大会で善戦できたのも、彼女に寄るところが大きかったのだ。

「お前は最高の名馬だよ」
エルドはシャルロッテに優しく囁きかけた。
「あの大会の中で、お前はどの馬よりも美しくて、しなやかだったぞ」
褒められて、彼女は満足そうに、大きな顔をエルドの身体に擦りつけた。

そのとき、厩舎の戸が開く音と足音が響いた。
「リア」
エルドはすぐさま相手の名前を呼んだ。振り向きもしなかった。
「あら、よくわかったわね」
残念そうで、少し拍子抜けしたような少女の声が返ってくる。
「ここから見れば、誰が厩舎に来るかわかるんだよ」
そう言って、エルドは前方にある小窓を示した。そこからは、窪地にあるここまで続く道が見渡せるので、
エルドは馬の世話をしつつ、身辺に気を配っていたというわけだ。

「ふうん」
金色の頭が、エルドの隣に並び、丸い小窓を覗きこんだ。
その横顔や胸のふくらみに、ついつい目を遣りながら、何となくエルドはセシリアから一歩離れた。
彼女に会うのは、一日ぶり、自分の寝室で慌ただしく別れたきりだった。

「リア、あのさ……」
そう言いかけて、エルドは口ごもる。彼女に訊きたいことは山ほどあったのだ。
それなのに、こうして目の前に本人が現れると、本当に伝えたい言葉はどこかに消えてしまう。

「わざわざ、こんなところまで何しに来たんだよ」
冷淡なエルドに、セシリアはどこ吹く風だ。
「あら、いいじゃない。シャルロッテに会いに来たのよ」
そう言って、彼女は、エルドの愛馬に手を伸ばし、そのたてがみを撫でようとする。
しかし、シャルロッテは乱暴に身震いし、セシリアの手をはねのけた。

「きゃっ!」
バランスを失ったセシリアはよろけて、干草の山に倒れこんだ。
「珍しいな。シャルロッテは人見知りしないのに」
「……私は嫌われているのかしら」
セシリアは、ショックを受けたようで、しょんぼりする。
いい気味だ、とエルドは思わずにいられなかった。

「リア。お前は、好意には好意が返ってくると信じているんだろう」
「え?」
セシリアは虚をつかれたように、エルドを眺める。
その、ぽかんと開かれた唇に、角砂糖を押し込んだ。

「……甘いわ」
驚いたように目をしばたかせ、セシリアは唇をなめた。
シャルロッテのための角砂糖だよ、と告げると、さっきまで落ち込んでいた顔は、嬉しそうにほころぶ。
単純な奴だ。
一方で、愛馬に同じものをやろうとすると、
こんな娘と同等の扱いを受けるなんて我慢できないと言いたげに、鼻を鳴らして無視された。
105名無しさん@ピンキー:2008/06/08(日) 00:18:08 ID:M9y6iiB3
待ってた!
106桃色の鞠(中編):2008/06/08(日) 00:20:31 ID:iD0k8yNZ
また持ってくるから、と愛馬を宥めていると、背中に強い視線を感じた。
振り返ると、公爵令嬢は、干草の上から熱心にこちらを観察していた。

「どうしたんだ?」
「あなたを見ているのよ」
「―――どうして?」
「だって私はあなたのことを何も知らないんですもの」
セシリアは秘密めいた笑みを浮かべる。
エルドは、やれやれと思いながら、彼女に再び近づいた。
本当は思い出したくなかったのに、脳裏に、二晩前のことがよぎる。

『―――私はいつも自分のことばかりで、あなたのことをちっとも見ていなかったわ』
あのとき、泣きそうな表情の彼女を笑い飛ばすくらいすればよかったのに、どうして慰めてしまったのだろう。

「それで俺のことはわかったのか?」
エルドは、壁に手をつき、セシリアを見下ろした。
彼女は上目遣いにこちらを覗き込む。アーモンドのような瞳に吸い込まれそうだった。

ねえ、と形のいい唇が動いた。
「これは賭けてもいいけど、あなただって私のことをきちんと見たことがないはずよ」
「……何だよ。それ」
ずるい言い方だ。彼女の言う通りに肯定するのは癪だし、
かといって否定すれば、「セシリアのことをきちんと見ている」という意味になってしまう。

返答するかわりに、エルドは、親指でセシリアの唇を撫でて、試すように鼻先を近づけた。
ほんの少しでもいいから、彼女をたじろがせることを期待して。

でも次の瞬間には、もうセシリアの方から顔を近づけていた。
エルドの唇に柔らかい吐息がかかる。
そっと舌を入れると、セシリアの中は甘い砂糖の味がした。
そして何も考えられなくなってしまうのだ。
しばらくのあいだ、二人は、動物が互いの匂いを嗅ぐように、顔を寄せ合った。

唇が離れると、セシリアはエルドの首筋にすがりつき、ほらね、と囁いた。
「私のこと見ているよりも、キスしている時間の方が長いじゃない」
「仕方ないよ」
エルドは、セシリアの頬に手を添え、こちらを向かせた。
「お前のうるさい口を黙らすのに、これほどいい方法はないんだから」
そして、また唇を重ねるために、彼女に後頭部に手を回そうとした。
107桃色の鞠(中編):2008/06/08(日) 00:22:56 ID:iD0k8yNZ
けれども、そのとき、白い頭がにゅっと二人のあいだに割り込んできた。
「きゃっ!」
セシリアが驚いたように飛びのいた。
「シャルロッテ!」
エルドも驚いて立ち上がると、
愛馬は、ふてくされたようにカラス麦の飼い葉桶に顔を隠した。

「どうしたのかしら?」
彼女は不思議そうにシャルロッテを眺めた。
小窓から差し込む一筋の光が、王冠のようにセシリアの額を照らしていた。
エルドは、決まり悪くなって、無言で床に放り出していたブラシを拾い上げた。

「―――それで、結局お前は何しに来たんだ?」
シャルロッテの体を梳きながら、再びその疑問を口にすると、
「ええと」という呟きが聞こえてきた。

「実は、質問したいことがあったのよ。
 あなたは私に何でも教えてくれるって約束してくれたでしょう」
「……そんな厄介な約束した覚えは一切ないんだけど」
「でもあなたに関することなのだから知っているに決まっているわ」
「俺に関すること?」
「ええ。『童貞』の意味を教えて欲しいの」
エルドは危うくブラシを落としかけそうになった。
108桃色の鞠(中編):2008/06/08(日) 00:30:07 ID:iD0k8yNZ
「エルド? どうしたの?」
「お前、どこからそんな言葉……」
「マリアンヌが言っていたのよ。あなたが童貞に違いないって」
「お前たちは、一体、どういう会話をしているんだよ!」
思わず声を荒げると、セシリアは目を丸くした。
「そんなに変な言葉なの?」

「……変というかさ」
変なのはお前だよ、という呟きはかろうじて飲み込んだ。
どこから突っ込んでいいのか迷いつつ、エルドはとりあえずセシリアの誤解を解くことする。
「マリアンヌは間違っている。俺は童貞じゃないよ」
「まぁ、そうなの?」
「というか、そのことをリアが一番よく知っていると思ったんだけど」
「あら、どうして私が?」
セシリアは本当に不思議そうに首をかしげる。
わざとではないとわかっていても、エルドは面白くなかった。

「だってお前が―――」
心のどこかで、やめとけと叫ぶ声が聞こえたが、すでに勢いは止まらなかった。
「リアが、俺の童貞を奪ったんだから」
「え?」
鳩が豆鉄砲をくらったように、セシリアはぽかんとするので、
エルドはもっとわかりやすい言葉を探した。
「つまり童貞というのは、男性に使う処女という意味だよ」

そのときのセシリアの表情は見物だった。
エルドの顔をじっと見つめ、何度も何度も瞬きを繰り返す。
けれども、最近身をもって処女を失うことを体験した彼女は、何かに思い当ったらしい。
「つまり、童貞とは――」
出題された問題を解くように、セシリアは慎重に言った。
「性交渉したことが一度もない男性ということ、なの?」
「よくできました」
白けた気分でエルドが言うと、セシリアの顔は、さっと青ざめた。
「じゃあ、マリアンヌの言ったことは、当たっているじゃない!
 私が、あなたに強要しなかったら、あなたは今でも童貞だったに違いないわ」

どうして、そんなにきっぱりと言い切るのだろう、と複雑に思いながらも、エルドは「かもな」と頷いた。
「でも、そんなことどうでもいいだろ。
どうせ、マリアンヌだって、軽口を叩いたに過ぎないんだから」

「いいえ。マリアンヌは大いに気にするわ!!」
居ても立ってもいられないというように、勢いよくセシリアは立ち上がった。
「よりによって、私が、彼女の計画を台無しにしてしまうなんて!」
「計画? 何のことだ?」
エルドは鋭く追及する。
しかし、セシリアは小窓の方向に視線を遣ると、そのまま動きを止めた。

「リア。聞いているのか?」
尚も問い詰めようとすると、彼女は、ようやく搾り出すように声を発した。
「……マリアンヌが」
109桃色の鞠(中編):2008/06/08(日) 00:31:50 ID:iD0k8yNZ
エルドが小窓から外を確認すると、
姉のマリアンヌとその友人が道を辿って、こちらにやって来るのが見えた。
「―――どうして、あいつがこんなところに?」
セシリアが訪れるのも珍しいことだったが、姉が厩舎を訪れるなんて、天変地異の前触れのような気がした。

公爵令嬢は、エルドの服の裾を引っ張った。
「エルド。隠れなきゃ」
「隠れる?」
「私があなたと一緒にいるところを見られたら、マリアンヌはどう思うか……」
「喧嘩していると思うんじゃないか」
昔から、二人が言い争いをしていると、彼女は仲裁役に回ったものだ。
といっても、マリアンヌの仲裁は火に油を注ぐようなもので、喧嘩はますます悪化していくのが常であったのだが。

「わかってないわ」
セシリアは呆れたように首を振り、先ほどまで自分がいた干草の山をかきわけ始めた。
「リア? 何しているんだ?」
エルドが驚いたことに、セシリアは、その中に身体を埋めようとしていた。

「おい、そんなことすると臭いが移るぞ」
「構わないわ」
セシリアは干草の束を自分の身体にかぶせながら言った。
「臭いがついたら、落とせばいいだけじゃない。
 でも、マリアンヌの信頼を失ったら、永遠に取り戻すことは不可能よ」

ともかく、エルドは、干草の束をかぶせ、彼女が隠れるのを手伝った。
「ときどき、お前の頭の中を覗いてみたくなるよ」
そう独りごちてから、
いや、何も知らない方が精神を良好に保っていられるのかもしれないな、と考え直した。

そして、また厩舎の戸が開いた。
110桃色の鞠(中編):2008/06/08(日) 00:33:46 ID:iD0k8yNZ
「ごきげんよう、エルド。お久しぶりね」
第四王女マリアンヌは、弟に向かって、微笑んだ。
その背後では、彼女の腰巾着であるエリオット=ベイリアルが、へらへらと笑っている。
まるで人をたばかる二匹の狐のようだ、とエルドは思った。

「何の用事だ」
「まあ、挨拶もなしなの? 嘆かわしいわ。我が弟君は、最低限の礼儀も知らないのだから」
マリアンヌがわざとらしくため息を漏らした。
「前置きはいいから。さっさと用件を言ってくれ」

エルドは、辟易しながら言った。
すでに嫁いだ、他の三人の姉からも、何かと要らぬ干渉を受けてきたが、この四番目の姉ほど厄介な存在はなかった。
きらきらと輝く琥珀色の瞳は、いつでも好奇心を満たせるものがないか探し求めているし、
つんと上がった薔薇色の口元は、自分がその場を支配できると確信している傲慢さに満ち溢れている。
彼女にとって年齢の近い弟は、単なる暇つぶしの玩具に過ぎないのだ。

「実はね、君に夜会の招待状を持ってきたんだよ」
エリオットがエルドの前に進み出て、ラベンダー色の封筒を差し出した。
「夜会?」
エルドは眉をひそめる。
記念祭の期間中、宮中では毎晩何かしらの夜会が開かれているが、
騒がしいことが苦手なエルドにとっては、王族として出席義務があるもの以外は、参加する気になれなかった。

「ええ、昨夜から考えていたの。
 記念祭の期間中、若い人たちだけの気軽な集まりの場所があれば、楽しいんじゃないかしらって。
 それで、少々急なのだけれど、明日の晩に開くことになったのよ」
「ふうん。いいんじゃないか? でも俺は興味ないよ」
招待状をつき返そうとするが、マリアンヌの態度は強行だった。

「エルド。あなたに断る権利があると思っているの?」
「だって出席する義務なんてないだろう」
「いいえ。あなたの参加は義務よ。これ以上、私の顔に泥を塗るのは許されないわよ」
「いったい全体、いつ俺が、マリアンヌの顔に泥を塗ったんだよ!」

身に全く覚えがないエルドが叫ぶと、すかさずエリオットが耳打ちした。
「つまりさ、武芸競技大会での君の雄姿を見逃してしまったことを指しているんだよ。
 出席することを、君に秘密にされて、マリアンヌ様は、拗ねているというわけなのさ」

「エリオット。私は別に、拗ねてなんかいないわよ」
マリアンヌは扇子を横暴に振り回して、エリオットを小突き、
彼は、ほらね、とエルドに片目を瞑ってみせた。
111桃色の鞠(中編):2008/06/08(日) 00:35:31 ID:iD0k8yNZ
武芸競技大会のことを持ち出されるとは予想していなかったので、エルドは戸惑った。
優勝したなら、まだしもトーナメントの一つに参加しただけなのだ。どうして騒ぎ立てるのだろう。

「あれは、故意に秘密にしていたわけではなくて、飛び入り参加だっただけだ」
「参加が決まった時点で、どうして報告しないのよ!
 記念祭行事の中でいちばんの話題を見逃してしまった私の立場を考えてみてちょうだい」
「マリアンヌの立場なんて、俺には関係ないだろ!」
エルドは慌てて、自己弁護に回った。
このままではマリアンヌに言い負かされ、まるで自分に非があるように仕立て上げられてしまう。

「まあ、そうかもしれないけれど」
マリアンヌは悪びれずに笑い声を立てた。
「でも、この夜会に出席してくれたって、罰は当たらないでしょう?
 うら若き令嬢もたくさん集まるから、紹介してあげるわ」
「俺がそんな言葉に乗ると思っているのか。マリアンヌ」

マリアンヌは面白くなさそうに鼻を鳴らしたが、
エルドの反応を予測していたようで、すかさず畳み掛けた。
「じゃあ、軍部の若き騎士たちを紹介してあげるというのはどうかしら?
 彼らも大勢招待しているのよ」
その言葉に、エルドはぴくりと反応し、マリアンヌは意味ありげに笑った。

「あなたは軍部に入りたいのでしょう?」
「―――それが?」
自然に、エルドの声は険しくなる。
「わかっているくせに。軍部に入ったら、縦社会よ。協調性が必要になってくるわ。
 いくら王子だろうとも、あなたお得意の個人主義なんて気取っていられなくなるわよ」
マリアンヌはくどくどと、夜会に出席することの有益性を説明する。
それにね、と彼女は最後に付け加えた
「エルドが軍官になることをお父様に口添えしてあげてもいいのよ」

それが決め手だった。
エルドは、エリオットの手から招待状を乱暴にひったくった。
結局、マリアンヌはいつだって思い通りに事を運ばせてしまうのだ。
112桃色の鞠(中編):2008/06/08(日) 00:38:06 ID:iD0k8yNZ
「じゃあ、後は任せたわ。エリオット」
思う存分話したいことを話したあと、 マリアンヌはすっきりした顔で厩舎を後にした。
残されたエルドとエリオットは、互いに見つめ合う。

「―――何でお前が残るんだ?」
憮然としてベイリアル家の次男坊をねめつけると、
彼は待っていましたとばかりに、にんまりと笑った。
「いやね、マリアンヌ様に言いつかって、僕はエルド様に色々と教えに来たんだよ」
「何を?」
「そうだね。まあ、主に女性の扱い方かな」
「………不敬罪で訴えてやろうか」

その時、エルドの視界の端で、干し草の山が微かに動いたような気がした。
そうだ、セシリアがいることを忘れていた。
ブラシを釘にかけ、飼い葉桶を持ち上げると、エルドは入口の方へ向かった。

「とにかくここを出よう。その話は、歩きながら聞くから」
エリオットは驚いたように、第三王子の後を付いて来た。
「いいか。ここから出て行くからな!」
出る瞬間、エルドは、後ろに向かって、大声で叫んだ。

「エルド様、そんなに大きな声を出さないでも聞こえているんですけど……」
「さっさっと出ろ!」
エリオットの訴えを無視しながら、エルドは彼の肩を押した。
113桃色の鞠(中編):2008/06/08(日) 00:41:45 ID:iD0k8yNZ
「―――で、お前とマリアンヌは何を企んでいるんだ?」
自室に向かう道を歩きながら、エルドはエリオットに尋ねた。

「企むって、そんな身も蓋もないなぁ。 ただマリアンヌ様は、君が年頃なのに、
 あまりにも艶事に興味を示さないのを心配しているだけだよ」
「なるほどね」
エルドの頭に、先ほどのセシリアの露骨な質問が浮かんだ。

「そういうのを余計なお世話だというんだよ。
 だいたいマリアンヌは俺のことを心配しているんではなくて、面白がっているんだろう」
「そんなこと言わないでさ。少しは、僕に協力してくれたっていいじゃないか。
 マリアンヌ様は、僕と君の二人が、めくるめく女性の魅力について語り合うことを所望しておられるんだから」
「あいにく俺は、そんな話題に、全く興味ないんだが」
全身で拒絶の色を示すエルドを意に介さないで、エリオットは「まさか」と笑った。
それが、いやに癇に障る。

「とにかく、僕たちみたいに身分が高いとさ、女遊びも一種の勉強というか義務みたいなものなんだよ」
「俺は……」
「気をつけた方がいいよ。君みたいに潔癖で、『女に現を抜かすなんて愚か』だと
 鼻で笑っているような奴ほど、女に人生を狂わされるんだから」
「俺はそんなことしないよ」
「そう。誰もが、自信たっぷりに、自分だけは違うと思っているんだ。
 それなのに、一度快楽の味を知ってしまうと、自分を制御できなくなり、深みに嵌って―――」
そこでエリオットは言葉を切り、愛想笑いをする。
「そんなに恐い顔しないでよ。エルド様。ただの一般論じゃないか」

エルドは浮かない表情のまま、にらみつけた。
「これ以上、くだらない話を続ける気はない。
 マリアンヌには、適当にごまかしておけばいいだろう」
「わかったよ。マリアンヌ様には、エルド様は女性に全く興味を示さなかったと説明するよ。
 しかも君が軍部に入りたがっているのは、
 麗しい令嬢よりも、むさくるしい男共の集団の中にいたいから、だと伝えておこう。
 あはは。何だか、逆に、彼女の関心を煽ってしまいそうだな」

エリオットが一人で悦に入っているあいだに、エルドはさっさとその場を退散した。
114桃色の鞠(中編):2008/06/08(日) 00:47:20 ID:iD0k8yNZ
自室に足を踏み入れると、いつもと何かが違う気がして、エルドは身をこわばらせた。

「警備の数が少なすぎですよ。エルド様」
「アーク!」
祖父の忠実なる僕は、堂々と長椅子に座り、サイドボード上の調度品を鑑賞していた。
まったく今日は千客万来だ、とエルドは嘆息した。
セシリアに、マリアンヌに、エリオット。そして極めつけがアーク。
エルドの精神力を消耗させようと、そろいもそろって襲いかかってくる。

「お前は、俺からも何か盗むつもりなのか」
「まさか」
アークは上品に口の端だけ上げて、すくっと立ち上がった。
「御前の命により参りました。昨日の競技大会の件につきまして」
「もう祖父さんの耳に入ったのか」
エルドは目を丸くする。もちろん、いずれは祖父の知ることになるだろうと予測していたが、昨日の今日だ。

「ご冗談を。街中、その話題で持ちきりですよ。あなたは自分の影響力というものをわかっていない」
「わかっているよ」
イースキン=ラルフの孫息子でいることの影響力は、痛いほど実感しているつもりだった。

「それで、お前は、わざわざ皮肉を言いに来たというわけか。ご苦労なことだな」
「わたしは、エルド様のご意向を確認するために参ったのです。―――まさか、あなたは軍部に入るおつもりなのですか?」
「その通り。俺は軍官になるよ」
そう宣言し、アークの反応を伺うが、彼は一切の感情を隠していた。

「―――それでは、それは御前と交わした約束と喰い違うのでは」
「アーク。俺は王位継承権は放棄しないとだけ約束したんだけだよ」
「もったいないことを」
アークは呆れたように首を振った。
「今の平和ボケしたこの国では、軍部の権力は日増しに弱くなっているというのに」
「構わない。俺は出世や名誉を望んでいるわけではないんだから」
「では何を望んでいる、と?」
アークはじっと見据えてくる。エルドは肩をすくめた。

自分は何が欲しいのだろう。
昔から望んだものは、全てあっという間に手に入った。
でも、本当に心の底から何かを望んだことはあったのだろうか。

「ただ望みさえすれば、権力の杖は簡単にあなたの手の中だ」 
刺々しい口調にもかかわらず、アークは相変わらず、穏やかな表情のままだった。
「それを手に入れたいとは思わないのですか?」

エルドは苦笑した。
アークの尋ね方はひどく形式的で、その台詞を言うように指示した祖父の顔が透けて見えてくる。
「だって俺には、最初からその杖を授かる資格はないんだ」

エルドはアークの脇を通り抜け、隣の部屋の扉を開けた。
「祖父さんに伝えてくれ。俺は、王太子になるつもりはない、と」 
敷居を跨ぐとき、次兄の顔が浮かんだ。彼は自分の決心を聞いたら何と言うだろう。

「―――伝えておきましょう」
背後から、アークの低い声がした。
「それでも、あの方を止めることはできませんよ」

わかっているよ、とエルドは心の中で答え、扉を閉めた。
最愛の娘を亡くしたときから、もうずっと、イースキン=ラルフに残された野望は、唯一つなのだから。
それでも、エルドは祖父の操り人形でいる気はなかった。

115桃色の鞠(中編):2008/06/08(日) 00:49:14 ID:iD0k8yNZ
セシリアは、小舟の端に寄りかかり、川の流れを眺めていた。
水面には、つまらなさそうな女の子の顔が映っては、すぐに歪んで消えていく。
遠くに見える陸地では、色とりどりの旗で飾られた屋台の数々で賑わい、
その隙間を人々の群れが舞うように行き交っている。

外側を虹色に輝く貝殻で飾られた舟は、マリアンヌ王女の自慢の種だった。
一度に乗れるのは、船頭を除いて、約五名で、
川遊びを楽しむためというよりは、話し合いに耽りたいときのために、度々利用されていた。

あるときは、気ままなお喋りの場に、またあるときは悩める者の告白と述懐の場になった。
いずれにしても、寡黙な船頭は何も聞こえない体を装い、ただ忠実に棹を漕ぐ。
そして、今回は、参謀会議の場となったのである。

「まあ、本当? マリアンヌ」
「ええ、ちゃんとエルドを誘ったわ。必ず来るように」
マリアンヌは、紫色のクッションが置かれたいつもの特等席に座り、ご満悦だった。
そして、その隣では、コートニーが熱っぽく対応する。
その席は、本来だったらセシリアの定位置だった。
しかし、セシリアは向かい側で、そんな二人の様子を芝居の観客席にいるように、ただ傍観していた。

「さあ、これでお膳立てはそろったわね」
マリアンヌは得意満面で、手元の招待状を開いてみせる。
明日の晩、急遽開催が決まった夜会。
しかし、元々華やかなことを好む第四王女が企画しただけに、不審に思う者は誰もいなかった。

「夜会が始まってしばらくしたら、エルドにあなたを紹介するわ」
「ああ、ありがとう。マリアンヌ」
コートニーは両手を前で組み、マリアンヌを拝まんばかりだ。
「あなたがいなかったら、ただエルド様の面影を思い返すことしかできなかったわ」
「別にいいのよ」
感謝されることはマリアンヌの最大の養分だ。
こんなこと何でもないのよ、と彼女は胸を張り、それから少し顔を曇らした。

「でも、いくらあなたが可愛い人でも、あいつを籠絡させることは難しいかもしれないわ。
 知り合いに探らせたのだけど、やっぱり堅物というか偏屈というか、全く女性慣れしていないのだから」
それにちょっと嫌な噂も聞いてしまったし、とマリアンヌは言葉を濁した。

「まあ、そうなの」
そう反応する声は、半分残念そうで、半分嬉しそうだった。
「わかるわ。エルド様はどこか禁欲的な雰囲気があるんですもの」
うっとりするコートニーを眺めながら、やはり彼女の趣味はどこかおかしいわ、とセシリアは実感した。
116桃色の鞠(中編):2008/06/08(日) 00:54:54 ID:iD0k8yNZ
マリアンヌは更に言葉を継いだ。
「これがもう少し先の話だったら、もっと綿密に計画を立てられたのだけどね。
 でも、夜会は明日に迫っているのだから強硬手段に出るしかないわ」
「どうするの?」
張り詰めた表情でコートニーが尋ねると、マリアンヌは生き生きと説明を始めた。

「エルドを思いっきり酔わせてしまいましょう。
 薄暗い照明。語りかけるような音楽。柔らかい長椅子。美味しいチーズ。そして、とびきり強いお酒」
「まあ、それではエルド様はうたた寝してしまうのでは?」
「そうよ。眠らせてしまうの。そして目覚めたときは――」
「目覚めたときは―――」
コートニーが復唱する。
「一糸まとわぬ姿で、あなた同じ寝台の上にいるのよ」
その途端に、二人の王女は興奮して、船頭が振り返るほどの歓声を上げた。

「でも、それって、何も起きてないということじゃないの?」
一人だけ、展開についていけないセシリアは、 とうとう二人の会話に口を挟んだ。
「そう。何も起きてないのよ」
そこが重要だと言いたげに、マリアンヌは強調する。
「でも、前後不覚になるほど酔ってしまえば、エルドは自分の素行に自信が持てっこないわ。
 考えただけで、爽快じゃなくって?」
セシリアは条件反射で頷いたが、楽しいことのようには思えなかった。
明日の晩、エルドとコートニーに同じ寝台で眠りにつくのか、とぼんやり考える。

「うまくいくのかしら」
コートニーは頼りなげにぽつりと言った。
彼女のうなじにかかったおくれ毛は風に揺れ、細い肩はかすかに震えた。
まるで計算されたような仕草だった。
その瞬間、セシリアの身体の中を、暗い気持ちがさっと駆け巡った。

結局、彼女は、「大丈夫、うまくいくわよ」と言ってもらいたいだけなのだ。
昨日、相談を持ちかけたときから、コートニーは 自分の無力さを主張することで、
実に見事に、マリアンヌの自尊心をくすぐり、彼女を操っている。

いいや、それはただの焼餅だ、と必死で自分に言い聞かせる。
現実と夢の区別がついてない少女を操っているのは、マリアンヌの方かもしれないのに。

割り切れない感情を捨て去るために、
セシリアはにこりと笑って、二人が喜ぶような言葉を紡いだ。
「大丈夫。マリアンヌがいるんだから、うまくいくに決まっているわ」
「その通りよ」
マリアンヌが自信たっぷりに目配せし、コートニーは嬉しそうに頷く。

八年前に、コートニーと友達になっていたら、こんな気持ちを抱かなかったかもしれない、とふと思った。
どうして、あの夏、フォレストに行けなかったのだろう?
湖でボートに乗りたかった。森へピクニックに行きたかった。
マリアンヌとコートニーと、たくさん笑って、たくさん遊びたかった。

それなのに、今、彼女たちは、美しい川の流れなんて目もくれずに、くだらない話に夢中で、
セシリアは、ただ醜いとしか形容できない気持ちを抱えながらも、楽しそうな振りをしているのだ。

手を伸ばせば届く距離にいるのに、向かい側の二人は限りなく遠かった。


続く
117名無しさん@ピンキー:2008/06/08(日) 00:55:38 ID:iD0k8yNZ
以上です。ありがとうございました。
後編も必ず投下するので、気長に待っていてください。
118名無しさん@ピンキー:2008/06/08(日) 00:57:57 ID:y3kyl3FD
GJ!
毎日覗いてた甲斐があった
119名無しさん@ピンキー:2008/06/08(日) 00:58:38 ID:y3kyl3FD
すまんsageるの忘れてた…orz
120名無しさん@ピンキー:2008/06/08(日) 01:04:39 ID:uKESNnz6
>>117
お疲れ様ー。相変わらずセシリアいいですね、世間知らずのお嬢の割に、なんか妙に
強いところがあったりして。

ああしかし、良い作品ほど世に出るまで時間がかかるのが辛いところですな。
後編のみならず、シリーズの完結までずっと待ってるので、頑張って書いてください。
121おたずね致します:2008/06/08(日) 01:20:26 ID:X0/MG/Ee
まったりしているところ申し訳ありませんが、住人の皆様にお伺いします。
>気位の高い姫への強姦・陵辱SS、囚われの姫への調教SS
>他スレで放逐されがちな属性も受け入れヨロ。
とあるので、こちらに投稿してみようかと考えているのですが、
過去ログをざっと拝見したところ、ほのぼの路線が歓迎される主流のように思われてきました。

拙作のあらすじ:
ある国は征服地の王族の女を陵辱することで、戦の神に感謝する慣わしがある。
ひとりの姫が自国の民の命と引き換えに、その身を敵国に捧げる。
三人の王子たち(プラス一人)の寝所に順番に召し出される姫。
※異常な性癖をもった王子もおり、残酷な方法で姫を責め苛む。

・肉体的苦痛を伴うSM的場面あり、というかこればっかり
・異物(生き物含める)挿入、緊縛、アナル責めあり
・輪姦あり
・出血あり ※「血が出た」くらいの記述で

こんなのは駄目でしょうか?
あ、もちろんお姫様がヒロインで、エロです。
拷問こそありませんが、蝋燭責めはあります。
スカトロこそありませんが、SM描写になじみのない方は気分が悪くなるかもしれません。
三角木馬こそ出番はありませんが、性器に対して似たようなことはあります。
シリアス鬼畜エロの定番要素をだいたいそろえた感じです。

あと投稿が許される場合なのですが、
・上記のような理由により、最初は小出しにして、再度お伺いを立ててみたほうがいいですか?
・原稿はほぼ出来ていて、20回分になりそうです。
半分に分けて第一部第二部として投稿したほうがご迷惑にならないでしょうか?
・現在連載中の方がいらっしゃったら、割り込みは失礼になると思うのですが、
投稿はもっとずっと後の方がいいでしょうか?

長々とすみません。
あらゆる意味で大人の方、澁澤龍彦などに親しんできた方に読んでいただきたいなと
思っているのですが、こちらが適切なスレかどうか自信がありません。
ご指導よろしくお願いいたします。
122名無しさん@ピンキー:2008/06/08(日) 01:32:54 ID:teBBhgUg
テンプレにあるんだから、問題ないでしょ
気遣いも過ぎると、誘い受けと取られることもあるから、やめたほうが良い
123名無しさん@ピンキー:2008/06/08(日) 01:59:12 ID:xtxVRDG4
トリップ付けて投下前に1レス使って注意書き、で問題無いかと。
124名無しさん@ピンキー:2008/06/08(日) 02:13:52 ID:5xYsD40H
まとめサイトに拷問っぽいものもあるからいいんじゃないかな?
注意書きはしたほうがいいかもだけど
125名無しさん@ピンキー:2008/06/08(日) 02:14:53 ID:AZvhcb+u
>>117
エルドとセシリアのずれてる対話が相変わらず楽しいですね。
二人はそろそろお互いへの独占欲を持ち始めるのだろうか……気になる。
セシリア的には複雑かもしれませんが、
マリアンヌとコートニーの密談?もいかにも乙女って感じで可愛いです。
126名無しさん@ピンキー:2008/06/08(日) 08:32:06 ID:xk8WYIEh
>>121
今となっては関係ない(かもしれない)が
姫スレは元々SM板の出自だ。
127名無しさん@ピンキー:2008/06/10(火) 04:01:26 ID:7cBSbM4K
>117

GJ!
読めてうれしいような
読み終わって寂しいような

続き楽しみに待ってます。
128名無しさん@ピンキー:2008/06/10(火) 18:01:26 ID:1Ci8m5iz
GJです!!
短編もだけど特に長く連載してくれる作者さんには本当に感謝してる。
お金貰ってるわけでもないのに住人にこんな素晴らしい話を提供してくれて
長く続けるのって相当大変だろうなと思う
心から感謝してます
続編も待ってます
129名無しさん@ピンキー:2008/06/11(水) 08:28:00 ID:hKJyExHA
>>128
全面的に同意
職人さんたちは作品を書くのも投下するのも自由だからね
いつも感謝しながら読ませてもらってる
130名無しさん@ピンキー:2008/06/12(木) 03:01:30 ID:p7BAxMf3
>>121
くくくっ、久しぶりに鬼畜が来るか・・・
131名無しさん@ピンキー:2008/06/12(木) 05:07:32 ID:nD0hGppj
倉庫みるとその昔はSM系もふつーにあったからアリだとは思う。
個人的には、お姫さまであることと肉体的苦痛を伴うSMのどちらが
その話の中で重要か、がポイントだな。

シスタースレも見てて思うんだけど、高貴あるいは聖なる立場の人を
貶める系は肉体的より精神的な苛め度が強い方が萌える
要するに具体的になにやったこうやった、ってより心理描写が重要。
あくまで個人的な捉え方だけど。
132名無しさん@ピンキー:2008/06/12(木) 12:30:35 ID:WPT3r5El
なら、別に書かなくて良いよ。>あくまで個人的な捉え方

要は、ダーク系でも問題ないってこと
投稿前に長文で尋ねるより、まずは投下してみるといいんじゃないかな
本当に何かズレてるような場合は、ふさわしいスレに誘導もしてもらえるだろうし
133名無しさん@ピンキー:2008/06/12(木) 22:52:47 ID:O3dKqpfS
>>130
ある意味>>98も鬼畜作だろw
たぶんこのスレで一番人が死んでるSSだぞw
134名無しさん@ピンキー:2008/06/12(木) 22:53:48 ID:O3dKqpfS
ああいかん>>86だった>>98めんご☆
135名無しさん@ピンキー:2008/06/14(土) 14:58:44 ID:9VXOSz+X
ひゃぁ がまんできねぇ
136名無しさん@ピンキー:2008/06/16(月) 18:18:24 ID:bL8k8CSQ
鬼畜陵辱は大好きだよ
137名無しさん@ピンキー:2008/06/17(火) 05:43:04 ID:+02/+zkK
愛のある鬼畜は好きです
138名無しさん@ピンキー:2008/06/17(火) 06:50:50 ID:mDampFW7
愛がなくてもいいよ
139名無しさん@ピンキー:2008/06/18(水) 02:02:28 ID:W50kiFP5
でも愛があった方がいいよ
140名無しさん@ピンキー:2008/06/18(水) 06:03:41 ID:iMdn9Jtj
むしろ鬼畜は愛がない方がいいよ
141名無しさん@ピンキー:2008/06/18(水) 16:05:50 ID:4GcBRtvY
どちらでもいいです
つか、書く人の好きにさせてあげればいい
142名無しさん@ピンキー:2008/06/18(水) 17:32:47 ID:f8jNCz6j
フリーダムン!
143名無しさん@ピンキー:2008/06/18(水) 22:25:46 ID:UpuUSwar
職人さんが来るまで雑談でも。
『姫と盗賊』のコリーヌ(見た目の派手さに欠けるが相当な美人)が
実在したらこんな感じかな、とこの絵を見て感じた。
なんていうか、地味な装いと、清楚で知的で上品な雰囲気がコリーヌ風。

ttp://ameblo.jp/public/image/displayimage.do?imagePath=/user_images/15/48/10013069739.jpg
144名無しさん@ピンキー:2008/06/19(木) 22:24:11 ID:WclGSGu6
鬼畜になってたつもりがいつのまにか相手に惚れまくっててでも認めたくない→もっといぢめる
→でも本当は好きだから悩む、みたいなのプリーズ
145名無しさん@ピンキー:2008/06/20(金) 02:23:54 ID:bm3lB3df
どっかの傭兵隊長を思い出したわw
あれ、最初はもろ暴力的で痛そうだったな。最後はハッピーエンドでよかったけど。

肉体的な力じゃどうしても男と女では大きな違いがあって、それがお姫様ならば
なおさらなんで、女が男に振るう暴力と男が女に振るう暴力はちょっと違うんだよね。

まあなんだ、投下する前に属性を並べておいてくれれば、苦手なものはスルーするから
それさえ書いてくれれば。
146名無しさん@ピンキー:2008/06/21(土) 04:12:52 ID:AwAftIsx
>>144
偽善だな
147名無しさん@ピンキー:2008/06/21(土) 15:05:28 ID:7Q1oreN2
だが、それが良い。
148名無しさん@ピンキー:2008/06/21(土) 22:34:55 ID:YHR2pbLk
徹底的な鬼畜でも良いよ
149名無しさん@ピンキー:2008/06/22(日) 03:00:38 ID:BSNQ9EMt
>>144な展開も徹底的な鬼畜もどっちも好き
150名無しさん@ピンキー:2008/06/22(日) 17:34:17 ID:Pbj//kOX
これがいい、あれがいいと、無意識に書き手を誘導する流れになると、廃れるからな
スレ違いでなければ、来るものは拒まないね
151名無しさん@ピンキー:2008/06/25(水) 02:14:29 ID:t7H5hxMe
>>121マダー
152名無しさん@ピンキー:2008/06/25(水) 08:24:42 ID:PHMD9VK5
意見を求めておきながら、それっきりなところを見ると
>>121は、もうこのスレを見ていない気がするな・・・
153名無しさん@ピンキー:2008/06/25(水) 21:46:06 ID:lvdeDkdk
121南無
154121:2008/06/26(木) 00:37:18 ID:qADBuGnN
121です
いっぱいレスをありがとうございました…!
完成したものを投下しようと思いましたが
過去ログを参照に他の皆さんの作品と比べると、あまりにも一回分が長く
思い切って専用のサイトを作ることにしました

こちらのスレの諸事情がよく分っておらず、ご迷惑をおかけしました
ご親切にありがとうございました
155名無しさん@ピンキー:2008/06/26(木) 00:44:41 ID:lChLx2z1
生きておられたか・・・
サイトが出来たら、報告よろ
156名無しさん@ピンキー:2008/06/26(木) 20:16:13 ID:kTVTdzfz
>>154
サイト完成報告、首を長くして待ってます
時間が経ってて書き込みし辛かっただろうに、ありがとう
157121:2008/06/26(木) 23:46:34 ID:wint74rS
何とか出来ました。こちらになります。
ttp://spicaplus.web.fc2.com/
澁澤龍彦系なんて大口叩いた自分が痛かったのですが、落とし前はつけます…。
最初から最後までスレ違い野郎になってしまったことを深くお詫び申し上げます。

鬼畜OKの方の存在に励まされました。ありがとうございました。
158名無しさん@ピンキー:2008/06/27(金) 03:50:26 ID:1qb6qXva
おめでと〜
明日ゆっくり拝読いたす!
159名無しさん@ピンキー:2008/06/28(土) 15:20:33 ID:KcpShgQf
童話のお姫様のエロを書いたんだが、「姫」だからこっちに投下しようかと思ったんだけど
>>1見たら「逸話や童話世界でエロパロ 」ってスレが既にあるようで。
この場合、あっちに投下するべき?
160名無しさん@ピンキー:2008/06/28(土) 15:36:57 ID:tp4yGKLt
だな。
向こうに投下したら読みに行くよ。
161名無しさん@ピンキー:2008/06/28(土) 18:47:48 ID:KcpShgQf
>>160
レスありがとう。
ということであっちに投下してきました。
162名無しさん@ピンキー:2008/06/29(日) 09:36:12 ID:dyHHEDtS
あっちの投下した後見たけど、レスひどいな…。
続きあるのでしたら、こちらに投下していただけると助かります。
163名無しさん@ピンキー:2008/06/29(日) 20:20:55 ID:d09q+ZZY
セシリアたんの後編そろそろ・・・
164名無しさん@ピンキー:2008/06/29(日) 22:00:32 ID:Ox1KFGED
>>162
同意

面白かったからこっちに投下してくれると嬉しい>シンデレラの人
165枕辺戯語(前書き):2008/06/30(月) 00:35:00 ID:1ml+H+km
他の作者様方のリクエスト直後に投下することになってしまい申し訳ありません。
マリーとオーギュストシリーズを書いている者です。
本編を書いている合間に小ネタ(やや長いですが)ができあがったので保守がわりに投下します。
王太子夫妻が和解して間もない新婚時代の話です。
エレノールの逆襲ではないのですがそれっぽい話で、アイディアを下さった方、どうもありがとうございました。

だいぶ前ですが、末弟夫妻やトマなどほかの人物のリクエストを下さった方々、すみません。
本当にありがとうございました。とてもうれしかったです。
できるだけ早く彼らを登場させたいと思います。
(末弟夫妻に関しては健全話(?)が多くなりそうなので今後の登場はHP主体になるかもしれません)




166枕辺戯語:2008/06/30(月) 00:39:26 ID:1ml+H+km
「そなたに贈るものがある」
唐突に告げられて、エレノールは喜ぶというよりも不思議そうに大きな漆黒の瞳でアランを見返した。
長椅子にふたり寄り添いながら歓談を交わしているうちに夜はだいぶ更けていたが、
夫婦の寝室には大きな燭台がいくつも据えられているので
互いの姿や表情をたしかめるのに不自由はない。
すぐそこにある夫の端然とした面持ちはとくに冗談を言っているわけではなさそうだった。

「まあ、なんでしょう。
 何かのお祝いの日でもありませんのに」
彼らは婚礼からようやく半年を数えたばかりで、初めての記念日を迎えるにはまだ間があり、
まして今日はエレノール自身の誕生日でも彼女の洗礼名の由来である聖女の日でもない。
だがいぶかしげな妻の表情を尻目に、アランは寝台のそばの戸棚から正方形の箱を取り出してきた。
それはちょうど膝に乗るぐらいの大きさで、絹布張りの表面には色鮮やかな芥子の花の刺繍が施されており、
見るからに上等で舶来品らしい仕立てだった。
器でさえこうなのだから、中身はどれほどのものかとエレノールもつい気を引かれずにはいられなかった。

「先日、東方貿易の相手国のひとつから交易品目の拡大を打診する文書が
 あまたの珍貴な産品とともに宮中に送られてきた。
 今年中には正式に使節を迎えて交渉を始めることになると思うが、
 それはそなたにも話したな」
「ええ、陛下からご下賜いただいた品々のすばらしかったこと。
 織物も陶磁器も紙細工も、あれほど繊細で丈夫なものはこちらではなかなか入手できませんものね。
 でもそれでしたら、あなたはすでにわたくしにお贈りくださったではありませんか。
 蔓文様が施された羊毛織りの絨毯も、稀に見るほど大粒の真珠を連ねた首飾りも、
 侍女たちの間で評判になっておりますわ」
「まだ見せていないものがあったのだ。仕立て上がってからそなたに贈ろうと思っていた」
「まあ」

思わず声が高くなりかけ、エレノールは慌てて口元を押さえた。
それでも頬がほんのりと染まるのは隠しようがない。
(もう十八で人妻だというのに、童女のようにはしゃいだりしては見苦しいわ)
そうは思いつつも、
このいつも無関心そうな顔をしている夫が自分のために密かに装束を仕立ててくれたという事実がやはりうれしい。
それも世に名高い東方産の織物なのだ。
柔らかい光沢を放つ絹織物で、人間業とは思えぬようなこまやかな刺繍が施されているのだろう。
虚栄心の虜になってはいけない、罪深いことだわ、と自分を諌めつつも、
年若い王太子妃の心はすでに、それを纏って宮中に出でたときに捧げられる賞賛の辞を思い描こうとしていた。
167枕辺戯語:2008/06/30(月) 00:43:05 ID:1ml+H+km
「これだ」
淡々とした声で突然現物を提示されて、エレノールはアランの手元を見やった。
そしてそのまま視線を固まらせる。
「―――これ、でございますか」
「そうだ。美しいだろう」
「ええ、美しいことは美しいですけれど、でもあの、これは……
 こ、これでは、人前に出られませんわ」
「むろんだ。寝室で着るためのものなのだからな」
「し、寝室といっても、あなたや侍女たちの前でさえ着られのうございます」
「俺に遠慮することはない。今からでも着替えてくれ」
「できません!」

真っ赤になって拒絶すると、エレノールは顔を伏せたまま脇を向いた。
アランが箱から取り出した織物はたしかに、少し見て手触りをたしかめただけで、
卓絶した職工が最高級の素材を用いて完成させたものであろうと察せられたが、
しかし仮にも王女である自分がこんなものを身につけられるはずがない。
それは紗織りの軽やかなローブで、工芸品にも喩えうるほどの薄さはまさに透けるようだった。
いや実際、肌まで透けて見えるのに間違いなかった。
なにしろアランが彼女に向かってそれを掲げてみせたとき、彼の輪郭さえ布越しに見ることができたのだ。
こんな代物をいったい何のためにまとわなければならないのか。

「なぜそう拒むのだ。そなたのために寸法をはかって仕立てさせたというのに」
「恩着せがましくおっしゃらないでください。
 あなたこそなぜこんなものをわたくしに着せたがるのです。
 こ、これではまるで、いかがわしい生業の婦人のようではありませんか」
「いや、あちらでは後宮の貴婦人たちもまとっているというぞ」
「嘘ばかり。一体何のためにです。
 こんなに薄くては肌着の役目さえ果たしませんわ」
「いや大丈夫だ。役に立つ」
「どのようにです」

「つまりだな、聞くところでは、この薄さと触感が血行を促進して婦人の身体によい影響を及ぼし、
 細かい医学的理論は省略するが、めぐりめぐって身ごもりやすい体質になるというのだ。
 あちらの使者から直接奏上されたのだから間違いない。
 国際的な善意を無にする気か」
「そんな、そんなことをおっしゃったって」

エレノールは少しとまどった。
善意うんぬんはともかく、身ごもりやすくなるといわれるとやはり無下に拒みきるのは気が引けた。
彼女とアランが結婚した最大の目的は、言うまでもなくこの国の未来を担う世継ぎをもうけることなのだ。
実際のところ、彼女の心身は妊娠の確実性を抜きにしても夫との同衾に歓びをおぼえるようになっていたが、
それをみとめれば姦淫を愉しんでいることになってしまい、
やはり努めて嗣子の問題を心にかけないわけにはいかなかった。
生来の信心深く貞潔な性格がまたそれに拍車をかける。

「それは、もちろん、世継ぎを授かるためにはあらゆる手を尽くさなくてはならないとは思いますけれど」
「そうだろうとも」
「で、でも、わたくし、侍医たちの協力も得て日ごろからそのための食事を心がけておりますし、
 体調管理には気を遣っておりますし」
「それらも大切なことだが、万全を期すためには外部から条件を整えるのも必要だと思わんか」
「それは、そう、かもしれませんが……」
168枕辺戯語:2008/06/30(月) 00:44:35 ID:1ml+H+km
妃の態度が軟化してきたことを察し、これならいつものように押し切れるだろうとアランはひとり見当をつける。
婚礼後半年にわたる断絶を経てようやく和解し、事実上の妻にしたばかりのこの娘は、
婚前に肌を許した恋人がいるとはいうもののまぎれもない処女で、
男女の具体的な営みに関してはほぼ全く無垢で無知な花嫁だった。
これが他の女なら、寝台の上でさえ貞淑を持そうとするその受動的な態度にアランは煩わしさをおぼえたかもしれないが、
この信心深く恥じらい深い王女に関しては、触れれば触れるほどに、
固い蕾をつけたばかりの薔薇をほころばせあでやかに花開かせていく喜びを深めていくばかりだった。

つまるところ、どれほどはしたない姿態を強いようと、
「子を授かりやすくするためだ」と耳元でささやけばこの生真面目な新妻は拒めないのだ。
義務感のために羞恥心をこらえると同時に快楽に溺れまいと悶える初々しい肉体を夜ごと責め抜くのは、
女遊びに慣れた王太子にとっても実にたまらないものがあった。

「そういうわけだ。とにかく着てみるといい。
 肌にじかに着けなければ効果はないということだ」
いまだ困惑しているような納得できないような顔をしている妻の手の中に強引にローブを押し付けると、
アランはさっさと後ろをむいてしまった。
(このかたはもう、本当に)
エレノールは本気で憤慨したが、懐妊という大義をかざされた上でここまで押し切られたらもう拒みきることはできなかった。
衣擦れの音を立てるのさえ恥ずかしい思いで立ち上がると自分の腰帯をそっとほどき、
寝衣と肌着を足元に脱ぎ捨て、贈られた薄布を手早く羽織る。

だが手早く作業する必要などなかったのだ、と彼女はすぐに気がついた。
ローブは想像以上に薄い代物で、着けても着けなくても同じというか、
微妙な陰影でぼんやりと透けている分、全裸よりもむしろ卑猥さが増していた。
そしてその感想はアランにおいても同じようだった。
妻のほうを振り返った彼は、笑みこそ見せなかったものの一瞬感嘆にも似た表情を浮かべ、
それこそ視姦というべき執拗さで恥らう妻の姿を頭から爪先までじっくりと眺めた。

「胸や脚の付け根を隠さずともいいだろう。手をはずしてくれ」
「いやです」
「頼むから」
「いやです」
「なら仕方ない」
アランは立ち上がると、呆然としているエレノールを抱き上げて寝台まで運びさっさと押し倒した。
そして彼女が抵抗するのを押さえつつ自分も手早く寝衣を脱ぎ捨てる。
169枕辺戯語:2008/06/30(月) 00:45:43 ID:1ml+H+km
「ひどいわ、お放しください!」
「そなたが強情だからだ」
口調こそはなんとか落ち着きを保っているが、荒い息も隆起した下腹部も、
彼の忍耐が早くも限界に近いということを歴然と示していた。
妻と同じ弱冠十八歳の身の上であれば、ある意味避けがたい反応だともいえる。

「しかし卑猥だな」
薄布の下に小ぶりな丘陵と桃色の乳首をうっすらと浮かび上がらせる妻の華奢な肢体を眺めながら、
アランはつくづく感心したように言った。
さらに少し目線を下げれば、可愛らしい臍のくぼみや黒々とした茂みの位置まで分かる。
「あなたのまなざしが卑猥なのです」
真っ赤な顔で言いながら、エレノールはなんとか胸だけでも覆い隠そうと腕をじたばたさせたが、
枕元に押さえつけた手首をアランが放してくれる見込みはなさそうだった。

「いい子でいるんだ。じっくり鑑賞させてくれ」
「いやったらいや!」
「そんなに身をよじって胸を揺すったら誘っているようにしか見えぬぞ、ほら」
そういうとアランは妻の乳房に顔を近づけ、その桃色の頂を布越しに優しく吸い上げた。
途端に抵抗する細腕の力が弱くなり、その敏感さに彼は思わず微笑を漏らす。
唇で挟んでやる前から乳首はすでにある程度こわばっていたが、
舌で円を描くように嬲っているうちに木の実のように硬くなり、
頭上からは妻の甘い吐息が漏れ聞こえてきた。

そして左右の乳房に同じ愛撫を施してから顔を上げると、濡れた布越しに屹立しながら透ける乳首は何にも増して卑猥に見え、
恥ずかしそうに顔を背ける妻の清楚な面立ちと見比べるとそれはいっそう強調された。
(恥毛もしっかり浮かび上がらせてやろう)
そう思いながら彼女のなだらかな下腹部に顔を近づけかけたが、ふと思いなおして止まった。
(ちょうどいい)
考えてみれば、これは実にいい機会だった。

「そんなに胸を見られるのがいやか」
「むろんです。わたくしを何だとお思いですの」
「俺の妻だ。だからそなたとの間に早く子をなしたい。
 そこでだ」
彼がつと顔を近づけてきたのでエレノールはどきりとした。
夫の美貌自体にはすでに慣れてしまっていたが、
こんな風に思いがけなく接近されると胸が高鳴るという事実に、
このかたを本当に好きになってしまったのだ、と思う。
170枕辺戯語:2008/06/30(月) 00:48:41 ID:1ml+H+km
「後ろから、試してみないか。
 そなたにしてみれば胸も隠せるし、悪くないだろう。俺としては惜しいが」
甘やかな感情を途端に雲散霧消させられて、彼女はさらに愕然とする。
「う、後ろとはつまり、あなたの前で、両肘と両膝を寝台の上につけて、ということですか」
「そうだ。いわゆる四つ這いだ」
「いやです!そんな獣のようなことはできません」
「獣とはいうが、この体位は侍医たちも絶賛奨励している。
 種子が子宮に流れ込みやすいのだそうだ。なんとなく分かるだろう」

「で、でも、わたくしが婚礼前に習った話では、子をもうけるのに肝要なのは営み方ではなく時期なのだと」
「こんなことをあえて言いたくはないが、
 そなたの生国は医学の水準においてわが国にやや遅れをとっているのではないか。
 五年前に編纂されたガルィアの医学叢書を翻訳する事業がつい先年始められたばかりだと聞いたが」
「それは本当のことですけれど、でも、臨床に関しては彼我にそれほど差はないと存じますし、
 それに、その、……そんな格好をしたなんてもし誰かに知られたら!」
「嫁に行けないか?もう俺の妻ではないか」
「ふ、父母に顔向けできません」
「そなたの父上母上は魔術師か?かの国の宮廷から透視でもできるというのか。
 ここには俺しかいない。安心して恥ずかしい姿勢をとるんだ」
「で、でも、わたくし、そんな」
「分かるだろう、子を授かるためだ」

夫の顔と声がいつのまにか厳粛になってきたので、エレノールもつい抗弁をやめた。
「俺とて妻に恥ずかしい営みを強いるのは心苦しいんだ。
 できれば常に正常な作法でそなたを正妃らしく遇したいと思っている。
 何より、そなたを抱くときはちゃんと顔を合わせて恥じらう様子を確かめ―――というか、
 見つめあって気持ちを通じさせたい。
 それができないのは残念だが、しかし身ごもる可能性を高めるためなら何でも試すべきではないか。
 それは王族たるわれわれの務めでもあるのだから」
「そう……かもしれませんわね……で、でも、あの……」
「決まりだな」

そう言うとアランは押さえつけていたエレノールの両手首を離し、
代わりに彼女の身体をうつぶせにさせてから自分は膝立ちになり、しなやかな腰の両脇をつかんだ。
「きゃっ」
思いがけないほど腰を高く引き上げられて、エレノールは思わず驚きの声を上げた。
そして瞬時に羞恥心と紅潮が全身をかけめぐる。
「お、お放しください」
「後ろからするのに同意しただろう」
「ですけれど、このような姿勢とはうかがっておりません。
 こ、これではまるで」
「欲しがっている牝犬のよう、か?」
そんな問いに答えることさえ恥ずかしく、エレノールは首だけでうなずいた。
顔こそ見えないが、その真っ赤になった耳たぶだけでアランの欲情をかきたてるには十分だった。
171枕辺戯語:2008/06/30(月) 00:49:27 ID:1ml+H+km
「腰を高く持ち上げたほうが種子が奥まで流れ込みやすいんだ。
 位置的に理にかなっているだろう」
言いながら、彼は両手で薄布越しに形の良い臀部をまさぐりはじめる。
柔らかい尻肉の感触を楽しみながら、
すらりと伸びた太腿の付け根をそれとなく指で探ろうとすると慌てて両脚が閉じられそうになった。
仕方がないので悪いとは思いつつも無理やり開かせ、薄紅色の溝を眼前にたしかめることに成功する。
ヴェールをかけられたようなぼんやりとした色合いと形状は、
その曖昧さゆえにいっそう淫靡さを際立たせられているかのようであった。

「なんだ、もうずいぶん濡れているな」
最初のひと触れで湿り気を感じとると、アランは可笑しそうに妻に声をかけた。
むろん彼女は顔をシーツに押し付けんばかりに恥じ入っており、答えが返ってくるはずもない。
「ああ、もうこんなにはっきりと浮かび上がってきた。濡れ方が激しいからだな」
布越しにくちゅくちゅと音をたてながら、指を花びらの間に、そして花芯のなかへと行きつ戻りつさせ、
詰るような面白がるような声でアランはつぶやいた。

「い、や……あっ……」
「それにしても卑猥な眺めだ。布越しだというのに、花びらのかたちが隅々まではっきり分かるぞ。
 つぼみに至ってはもう剥かれているかのようだ。指で探られるだけでこんなに大きくなったのか。
 それともこれからされることを想像して欲情しているのか?
 このあいだ処女を失くしたばかりだというのに、本当に感じやすい身体だな」
「いや、いやっ」
「そうだな、指だけでは満足できまい。
 欲しがっているものをくれてやる。
 こんな、牝犬同然に腰を高く突き出して待ち受けているのだからな」
「だ、だってそれは、あなたが無理やり……あっ、あぁっ!!」

下半身を覆うローブがたくし上げられたかと思うと、猶予なく熱い先端が花園の入り口に押し付けられるのを感じ、
エレノールはもはや声を噛み殺してはいられなくなった。
「いや……あぁっ……だ、だめ……っ」
「だめなはずがあるか、こんなにすんなりと咥えこんでいるくせに」
「う、嘘……すんなり、なんて……」
「これだけ濡れていれば無理もない。俺が進むたびに音が立っているのが聞こえるだろう。
 ほら、奥まで届いているのが分かるか」
「そ、そんなの、分から……あぁっあっ」

小刻みに突き上げられ始めると、エレノールはまたも大きく背を反り返らせ、
無力で切なげな甘い声を上げるようになった。
そしてやがて両腕の力さえ抜けきったかのように上半身をシーツの上にぺたりと着け、
アランの力だけで下半身を高く支えられている格好に陥ってしまう。
本人に自覚はないのだろうが、これこそまさに彼女がどうしても拒もうとした「欲しがる牝犬」の姿だった。
「エレノール、なんと浅ましい姿だ」
「ゆ、許して……だって、あなたが……あぁっ!そこは、だめっ……」
「ここがいいんだな?
 奥まで突かれるとそんなに感じるのか。
 いやというまで責めてやろう」

ことばどおりに執拗な嬲りをつづけつつも、アラン自身かつてない興奮に高まっていく自分を抑えるすべはなかった。
きつく締まった肉襞を奥の奥までかきわけてゆく歓び、
濡れそぼった可憐な花びらのなかを自らの雄が出入りするさまを見下ろす快感、
そして日ごろ気品と淑美とを空気のように自然にまとっている新妻を今だけは牝犬同然に押さえつけ、
荒々しい暴漢のように後ろから「犯し」ぬいているという実感が彼の理性を剥ぎ取り、
自制心を徐々に崩壊させ、ついには極力射精を遅らせようとしていた楔を抜き取った。
出すぞ、と荒い息とともに彼が低くつぶやいたのは、達したのとほぼ同時だったかもしれない。
エレノールはむろん返事もなく、
ただただすすり泣くような喘ぎで夫の宣告と熱い白濁液とを従順に
―――それこそ姿態そのままの従順さで受け止めるばかりだった。
172枕辺戯語:2008/06/30(月) 00:50:37 ID:1ml+H+km
ようやく振動が収まると、アランは自らのものを温かい花芯から抜き出そうとゆっくり動き始めた。
それがいまだ力を保っていることは見ないでも分かっていたが、
少し引き出すたびに充血した花弁が物欲しそうにくちゅりと音を立てるのを聞くと、
彼の意思とは関係なくそれはますます硬直せざるを得ず、
まして花弁と抜き出した亀頭との間に蜜と白濁液の混ざり合ったか細い糸が引かれているのを目にすると、
一晩中でもこの清楚な妻を犯しぬきたいという獣的な情欲に駆り立てられるのだった。
さらに彼の視線は少しだけ上のほうへさまよった。
そこには愛らしい皺の寄った菊門があり、さらなる快楽を予感してひくついているようにさえ見えた。

(―――ああ)
たまらない思いをなんとか抑えながら、アランはエレノールがうつ伏せになっている隣に横たわった。
一見ひどく力ないようすで、ひょっとしてそこまで疲労させてしまったのかと彼は心配になったが、
よく見ると妻はまだ歓喜の余韻から覚めずにいるのだった。
そっと頬に触れてみるとびくりと身体を震わせたが、じきに意識らしい意識を取り戻したようだった。
アランが肩を抱くと、ごく自然に甘えるように身を寄せてくる。
豊かな黒髪がすぐ鼻先で揺れ、かぐわしい香りを放つ。

「よかったか」
「………」
「よかったのだろう」
「……はい……」
この娘は先ほどまで娼婦もかくやと思われるほどの浅ましい姿態を見せつけていたというのに、
今はこうしてうつむきながら消え入るような声で答えている。
その生まれたての仔兎のような恥じらいが、彼には耐え難いほどいとおしかった。
さらなる愛し方責め方を試してみたいという気持ちが下腹部の隆起と同様ますます高まってゆく。

「もっとよくしてやろう」
「そんな、もっと、だなんて……」
「恥ずかしがることはない。
 どこの夫婦もみんなしていることだ。いやみんなというか、多くというか、まあ少なくとも一部はだ。
 それぐらい普遍性のある営みなんだ」
「どのように、営むのですか……?」

妻は依然恥じらいながらも少しだけ興味を持ってきたようだと察し、アランは秘蔵の甘い微笑と囁きを向けた。
ふだん笑顔を見せない彼だけに、独身時代、大抵の貴婦人や令嬢はこれで落ちたものである。
「後ろの門だ」
「後ろ……?先ほど、なされたばかりでは……」
「いや、つながりかたではなく、つながる部位のことだ」
「え……?」
「まあ、意外かもしれんが、そういう方法もあるのだ」
「……後ろの門とは、つまり……」
「最初は怖いかもしれんが、じきによくなる。慣れれば女のほうが快感が激しいというぞ。
 大丈夫だ、時間をかけて優しくするから」
「……あの、それは子作りと何の関係が……」
「あ?ああ、つまりだな、ええとまあ、そちらのほうが開拓されると産道がほどよく圧迫されて子宮にもよい影響が」
173枕辺戯語:2008/06/30(月) 00:54:58 ID:1ml+H+km
ばふっという音とともに会話は中断された。
妻の渾身の力で振り下ろされた枕は枕といえどあまりに重く、
アランは顔の痺れから回復し唇を動かすのにしばらく間をおかなければならなかった。
「―――何をするんだ」
「この変態!虚言者!!」
「いや、聞いてくれ」
「聞く耳などありません!」
「なあ、エレ」
言いかけたとたん再び枕が振り下ろされ、彼は自分に発言権がないことを知った。
「信じ込んでいたわたくしが馬鹿でしたわ。
 『子を授かりやすくするため』だとあなたがおっしゃるから
 言われるままにあんな恥ずかしいことやこんな恥ずかしいことを受け入れてきたのに。
 後ろの門だなんて、そんな道に外れた営みが神に祝福されるべき受胎と関係あるはずはありません!
 仮にそれが夫婦愛の常道のひとつだというならこの国は天意によって即刻滅びます。ええまちがいなく滅びます。
 あなたは大概ろくでもない放蕩を重ねてきたかただとは思っていたけれどそこまで堕落しているとは思いもよりませんでしたわまったく
 男色者も同然ではありませんか一体何人の婦人とその罪を重ねたのですこの変質者大体よくも嘘つきのくせにひとの国の医療水準を馬鹿
 にしてくれたわねああもうお父様はどうしてこんな傲慢な罪人のもとにわたくしを嫁がせたのですかお母様レオノールはもう帰りとう
 ございます出戻りになってもお怒りにならないでくださいませわたくしその後はこのかたを呪いつつ修道院で清らかな半生を送りますから
 ああもうアラン本当にあなたなんて死後は地獄に落ちたきり業火に苛まれつづければいいのです罪相応に苦しみぬきなさい絶対に神様に
 嘆願なんかしてあげません!!」

最後のほうは彼女の母国語に切り替わっていたのでアランは必ずしもその意をすべて汲み取れたわけではなかったが、
とにかく破竹の勢いで罵倒されていることだけは分かった。
だが彼がぎょっとしたのはその呪詛の激しさに対してではなかった。
エレノールは途中からぽろぽろと泣き出していたのだ。
ふだんは滅多に自分から非をみとめない彼も、
この気位の高い妻が人前で涙を見せたという事実に胸を突かれないわけにはいかなかった。
枕殴打の最大半径に留意しつつ、彼女に近づいて静かに語りかけようと試みる。

「エレノール、俺が悪かった。もうあんなことは言い出さない。
 懐妊と結びつけて何かと丸め込んだりもしない。
 だからどうか泣かないでくれ。
 そなたがそんな顔をしていると、俺は」
「―――もう遅うございますわ」
涙声で短くそう言うと、エレノールは元から着ていた寝衣を手早く羽織って寝室を出て行ってしまった。
止めようと思えば止めることもできたが、彼女はひとりになりたいにちがいないと察し、
アランはそのまま華奢な背中を見送ることしかできなかった。




174名無しさん@ピンキー:2008/06/30(月) 00:54:57 ID:+qYKA58O
リアルタイム遭遇ktkr支援
175枕辺戯語:2008/06/30(月) 00:56:17 ID:1ml+H+km
それぞれの夜が明けた。
その日エレノールは朝食の席に現れず、それはまあ仕方があるまいとアランは思ったが、
あろうことか昼餐にも晩餐にも欠席した。
政務の合間に侍従から聞いた話では、午後に予定されていた友人である貴婦人達との遠乗りもとりやめにしたらしい。
(大丈夫だろうか)
朝昼晩と妻のもとへ花籠を届けさせはしたが、
顔を合わせない時間が長引けば長引くほどにアランのなかでは不安が募ってゆく。
とうとう晩餐にほとんど口をつけないまま席を立つと、
彼はエレノールの居室へと早足で歩いていった。

「王太子殿下、いけません。お待ち下さい」
扉の前で彼を引き止めたのは妻が母国から連れてきた侍女のひとりイザベルだった。
もともと乳母姉でもあるということでエレノールから深い信頼を受けており、
控えめな中にもどこか芯の強さを感じさせる娘である。

「どうした。夫が夜に妻を訪うて何が悪い」
「姫様は、―――妃殿下はおひとりでいなければならないのです。それをお望みです」
「だがもう丸一日過ぎた。話をするぐらいはいいだろう。食事だって摂らせねばならん。通してくれ」
「お食事は摂っておられます」
「それならよいが、とにかく顔を見たい」
「精進食ですが」
「何だって?」

全く虚を突かれたという表情の王太子に、イザベルは不信と不満のまなざしを向ける。
「殿下におかれてはご承知おきのことだと存じておりましたが」
「いや全く知らん。どういうわけだ」
「妃殿下におかれては、今朝より祈祷のための斎戒月間に入っておいでです。ただひたすら殿下の御為に」
「俺のため?どういうことだ」
「何をおっしゃいます。まさかご存知ないだなんて。
 ―――知りたいのはわたくしでございます!」
主人を思う気持ちがたかぶるあまりか、イザベルはふだんの穏やかさに似ず突然声を荒げた。
相手が王太子だということさえ一瞬忘れてしまったのかもしれない。
176枕辺戯語:2008/06/30(月) 00:57:26 ID:1ml+H+km
「妃殿下は昨晩泣きながら突然わたくしの部屋にお寄りになったかと思うと、
 わたくしに縋り付いていっそうさめざめと泣かれるではありませんか。
 明け方近くになってようやく落ち着かれた頃にお話をうかがおうとすると、口を閉ざしてしまわれるのです。
 それでもなんとか聞き出したところでは、こんなふうにおおせになりました。
『アランがね、とても罪深い行いを重ねてきたことを今夜知ってしまったの。
 それでたったいま地獄に落ちよとばかりに力の限り罵倒してきたのだけれど、
 考えれば考えるほど、あのかたはもう地獄行きが確定しているのではないかと思って、
 それが悲しくてたまらないの。
 あのかたの魂はもう絶対に救われないのだわ』
『―――今ひとつ事情が分かりませんが、殿下の救済のために今からでもご祈祷を捧げられましたら』
『イザベルもやっぱりそう思う?
 実はさっき、あなたのために祈ってなんかあげないとアランに宣言してしまったのだけど、
 やっぱり強情を張っている場合ではないわね。
 あのかたは傲慢で尊大で淫蕩で顔と頭と生まれ以外いいところがぱっと思いつかないのだけれど、
 でもお優しいところもあるし、神様が御慈悲を垂れようと思ってくださる余地はあるわよね。
 そうだわ。明日からでも、いえもう今朝かしら、
 とにかく精進潔斎に入って、連日連夜あのかたのためにお祈りを捧げましょう。
 あの罪業の深さを考えたら一ヶ月は必要だわ。短すぎるくらいだけれど』
 こういうわけでございます」

アランはぽかんとした面持ちで聞いていたが、突然我に返ったように妻の侍女に訊き返した。
「月間というのは、三十日だな」
「ええ」
「三十日というのは、約四週間だな」
「ええ」
「四週間というのは、一週間の四倍だな。そして一日の二十八倍」
「―――ええ」
何をおっしゃるのかこのかたは、という目でイザベルはアランを見返した。
だがそれにも気づかぬかのように彼は茫洋と宙を見ていた。

「斎戒というのはつまり、身を清く持すということだな」
「さようです。肉も卵も乳製品も控えておいでです」
「夜のほうは」
「修道院の規則に準じて、真夜中までご祈祷をあげられることになっております」
「そうではなく、―――俺は?」
「殿下もご自分の魂のためにお祈りになりたいのでしたら、どうぞご自室か聖堂で」
険しい声で言い放つと、イサベルは王太子の鼻先でさっと扉を閉めてしまった。

アランは黙って扉と相対していた。
あまりに長い静止のため、傍目には生ける彫像かと疑われるほどであった。
が、やがて足元から崩れ落ちるようにしてその場にへたりこんだ。
近くに立っていた衛兵たちが駆け寄り手を貸そうとしたにもかかわらず、彼はそれを制してしばらく床に座っていた。
そして背の高い扉を見上げた。
一ヶ月がかくも長いものだとは、かつて思いもよらぬことであった。



(終)
177名無しさん@ピンキー:2008/06/30(月) 01:02:54 ID:+qYKA58O
マリーとオーギュストの人キテタ―――!!!
相も変わらず長兄夫婦のエロかつ馬鹿っぷりに吹いたwww
サイトも見てるけどできるだけ早く他の兄弟も見たいなあと呟いてみる

しかしエレノールは本当にいい嫁だなあ
アランが溺れ放題なのも分かる
178名無しさん@ピンキー:2008/06/30(月) 02:29:02 ID:SViErd3Z
あなたが神か


超GJ
179名無しさん@ピンキー:2008/06/30(月) 04:51:54 ID:PXXGmuUd
>>165-176
投下きてた!
今日はかなり落ち込んだ一日だったので、最後の最後に新作読めて嬉しいよ
それも一番好きな長兄夫妻 ほんとにありがと〜〜〜

せっかく設定があるのだし、他のきょうだい(特に未だ出てこない妹姫達)
もこれからぜひ登場願いたい…と、ついでに私も呟いてみる
とにかく、GJでした
180名無しさん@ピンキー:2008/06/30(月) 23:49:33 ID:7tskSu8u
王太子夫妻話キテタ━━(゚∀゚)━━!!!!!
そんな要求されたらいかにエレノールとて
引きこもってお祈り三昧したくもなるでしょう。
だけどアランは反省どころか
「そなたが俺の魂の救済の為に祈ってくれるから大丈夫だ」
とか言って罰当たり行為をし続けるんだろうな
181名無しさん@ピンキー:2008/07/02(水) 09:28:45 ID:c3qy/20r
はりきり過ぎた代償に、お預けを食らう王太子
いぢめ甲斐のあるエレノール、可愛いよエレノール
眼福でございました。
182名無しさん@ピンキー:2008/07/02(水) 10:03:37 ID:cguhi2YH
アランは周囲から理知的とか無機質とか言われるのに
エレノールが絡むとほんとにバカだよな。
でもそこがいい(笑)
183名無しさん@ピンキー:2008/07/02(水) 20:33:48 ID:c5x3T9km
この2人本当に大好きだー
いつもありがとうございます
おかげで明日も頑張ろうと思えましたw
184名無しさん@ピンキー:2008/07/06(日) 10:11:10 ID:nc2m/ggh
新作来てたー
エレノール超・超GJ!!
意図せずにアランにとって最大のおしおきを与えちゃったのね。
へたりこんだアランを想像して激しくワロタよ。
リクエストしたものですが作者さんほんとにありがとう。
これからも愛あふれるこの長兄夫妻やマリー・オーギュスト、
他の弟妹たちのお話を待っています。
 
185名無しさん@ピンキー:2008/07/09(水) 02:45:33 ID:6coB78sE
保守
186名無しさん@ピンキー:2008/07/11(金) 10:18:08 ID:JavNrV3k
>>176
さりげなく禁欲生活を2日分削っているアラン。
頭の良さを出しているが、せこい。

笑ってしまった。
187名無しさん@ピンキー:2008/07/12(土) 03:15:00 ID:spqzCHfa
すみません。
結構前ですが、イヴァンとナタリーの話を書いている方がいましたよね。
あのシリーズの最初の話?なのか、イヴァンとナタリーの馴れ初め話って
まだ読めますか?
シリーズの他の話は保管庫にあるようなんですが、タイトルもわかりません。
保管庫の男装少女スレなのかと思ったのですが、もう既出になっているようで…。

しばらくスレから離れていたんですが、
あの職人さんはまだ書いていらっしゃるのでしょうか。
188名無しさん@ピンキー:2008/07/12(土) 04:16:27 ID:ofHpGr20
>>187
既出の意味が分からないけど
馴れ初めの話は男装少女の保管庫にある「虜囚」だと思う
189名無しさん@ピンキー:2008/07/12(土) 08:13:57 ID:OMEQ8iZE
>>187

まだ書いてるかどうかは不明
少なくともここや関連スレではお見かけしない

一人残ってる妹姫の話を楽しみにしてるんだが…
まあ気長に待つさ
190名無しさん@ピンキー:2008/07/12(土) 09:56:02 ID:XV8/3ce/
「図書館にて」→「虜囚」→「耽溺」→「媚薬」→「ナタリー頑張る」→「森の中」→「独占欲」
→「ス・ロゼ」→「初夜」→(「イヴァン辛抱する」「小夜鳴鳥」)→「晴天の日」

時系列的にはこんな感じかな?このシリーズ今でも時々読み返すぐらい好きなんだけど、
その度にどういう順番だったっけ?と思い出すところからスタートする
191名無しさん@ピンキー:2008/07/12(土) 12:27:37 ID:hj8nFrNt
>>190
「図書館にて」を読むにはどうしたらいいかってことでは?
オレも探したが見つからない
192名無しさん@ピンキー:2008/07/12(土) 16:44:37 ID:vsHkm+xT
Trickの二次で見かけたような
193名無しさん@ピンキー:2008/07/12(土) 22:08:29 ID:a6jE5ymZ
ここ?
ttp://www.usamimi.info/~dansou/
はずしてたらごめん。

自分もこのスレ保管庫のマチルド勉強編からこのシリーズを知って
今でも時々読み返しにいくんだ。とても大好きな作品だ。

アラン・エレノールは最初から婚約者で夫婦になったところから
スタートだったけど、この二人はイヴァンが口説いて口説いて
口説き落として結婚だったんだよね〜同じ王太子夫妻でも
王女のエレノールと捕虜だったナタリーでは言葉遣いや態度が違ってて
二つのシリーズ(の他にもいろいろな作品)を横断的に楽しんでるよ。
読み手としてすげー幸せに思う。
194名無しさん@ピンキー:2008/07/13(日) 02:48:57 ID:QgUZHTB3
マチルド可愛かったなあ
195名無しさん@ピンキー:2008/07/14(月) 00:51:10 ID:X7qZyzvN
このシリーズ大好きだ…
今でもちょくちょく読み返すよ
196名無しさん@ピンキー:2008/07/14(月) 10:35:48 ID:y1VDDrZ8
オナジク。
マチルドのその後とか、機会があれば見てみたいもんだが。
197名無しさん@ピンキー:2008/07/14(月) 11:16:17 ID:G5ptHnli
>>187です。
無事読めました!ありがとうございます。
マチルドとかの時にリアルタイムで多少読んでたんですが、
過去ログまで読む暇もなく、当時は作者さんがサイト持ってたようだから、
いずれ読もうと思いつつ数年たってしまいました。

あらためて読んでも素敵な作品で、今でも忘れてないファンも多いんですね。
萌え〜だけでなく、キャラも描写も素晴らしいし、上品なのにエロイ。
かなり作品意欲旺盛だったけれど、作者さんもういないんですね。
当時も文章能力の高さから本職の作家さんのお遊びでは?
なんて言われてたような気がします。

まだ未読の話があるので読んできます。
198名無しさん@ピンキー:2008/07/16(水) 05:07:54 ID:9o9CgAEa
>>197
作者さんのBLOG急にパスワードかかるようになったんだよなあ。
でそのまま行かなくなった、と。
199名無しさん@ピンキー:2008/07/17(木) 21:41:17 ID:lGCDNH5G
>>193
図書館にてはいぞこ・・・
200名無しさん@ピンキー:2008/07/17(木) 22:27:28 ID:qQFC7kUg
「塔に柊」のジャックのキャラが好きだなあ・・・
言いたいことをずけずけ言うのに気が優しくて、主人思いで気配りがあって。
最後は泣ける。
201名無しさん@ピンキー:2008/07/17(木) 22:29:02 ID:bGlE/4is
>>199
なんのことだぁ?と思ったが、あれだ、タイトルが違うんだな。図書館じゃなくて、図書室なんだ
202名無しさん@ピンキー:2008/07/17(木) 23:04:28 ID:lGCDNH5G
>>201
感謝!
203名無しさん@ピンキー:2008/07/18(金) 01:53:43 ID:gTeZZXRK
【領土問題】竹島への投票をお願いします。
竹島に関する英語のブログです。
http://dokdo-or-takeshima.blogspot.com/2007/10/inspectors-map-of-ulleungdo-shows.html
204名無しさん@ピンキー:2008/07/18(金) 08:33:28 ID:9w5DtTKE
>>200
あの話は女の子の境遇を思うと涙せずにはいられん
最終的に幸せになったと思うとまた涙が…
205名無しさん@ピンキー:2008/07/18(金) 21:14:00 ID:P2Unro7D
比較的、悪人率が高くない作品群のなかで、意欲作というか異色作だった気がする。>柊
(シリーズのレギュラーで一番悪どいのは、実はイヴァンという気が・・・)
どう描いたものでも、読後感が素晴らしくてため息。

206名無しさん@ピンキー:2008/07/18(金) 21:31:48 ID:NbsRW0Bk
常に涙目でおろおろうるうるしてる8歳ぐらいの美幼女姫様希望
何千年経っても歳とらないで性格そのままで
207名無しさん@ピンキー:2008/07/18(金) 23:44:53 ID:OIREQHSV
>>200>>205
柊は男装スレでは最後に書かれた作品だったよね
リアルタイムで読めた幸せ者だがじんわり泣けた思い出がある。
そして何となく『これで終わるんだな』と思った記憶も・・
物語としては一番好きかも
208名無しさん@ピンキー:2008/07/19(土) 00:47:32 ID:B9jEGCNL
>>206
どこにエロを持ってくるんだ、どこにw
209名無しさん@ピンキー:2008/07/19(土) 01:40:44 ID:PLoaOJPr
えーと、ここかな?
>何千年経っても歳とらないで
伝奇浪漫になりそうだがw
210名無しさん@ピンキー:2008/07/19(土) 05:41:26 ID:oKn7FEqt
「8歳の永遠に年を取らない美少女が主人公でエロシーンもある作品」は存在する。
山岸凉子「時じくの香の木の実」。ただ、性格はかなりキツイ少女だけど。
211名無しさん@ピンキー:2008/07/19(土) 13:33:52 ID:/TO00X8k
>>198
そのブログ、まだあるのかな?
あるのだとしたら、覗いてみたい・・・。
ヒントだけでも教えていただけると嬉しいのですが。
212名無しさん@ピンキー:2008/07/19(土) 15:01:15 ID:2W7p/T0d
>>211
50あたりからの流れを読み返してみたら?
213名無しさん@ピンキー:2008/07/19(土) 22:02:36 ID:FLV3R6C7
>>212
マチルドの作者さんとオーギュストの作者さん別人だろ?
自分もイヴァンシリーズ大好きだ。特にベアトリス。
今もブログあるなら見たい。
214名無しさん@ピンキー:2008/07/19(土) 22:41:47 ID:m1A+qiUS
同じ人とか別人とかじゃなくて、個人サイトの話をここでするなってことじゃないの?
215名無しさん@ピンキー:2008/07/20(日) 21:57:25 ID:U3p2QEq+
セシリアはまだかいのぅ…
216長い物とマカロニ:2008/07/21(月) 00:45:36 ID:A1hGRQad
こんな板があったのか………
SS久しぶりだから、練習のつもりで投下。


「神楽ー!!神楽はおるかー!!」
お館様が声を張り上げ、『娘』の名を呼んでいる。
何か可及の用事でもあるのだろうか、その声には少しばかり焦りが混じっている。
神楽……その少女は、お館様の実の娘では無い。どこかからふらりと現れ、その『特異性』がお館様の興味を引き、このお屋敷に娘として引き取られたのだ。
まだ少女のあどけなさを宿す容姿、年の頃は十を過ぎたぐらいだろうか。少なくとも、外見上はそう見える。
そう、今私の腕の中に隠れているこの少女だ。
「もうお館様は向こうに行かれましたよ、神楽様。」
「…………ホ、ホント?」「ええ。」
不安そうに私を見つめる少女に、私は笑顔で返す。
それに安堵した少女は、緊張を解き、私に体を預けてきた。
「う、うぅ…………よかった。」
「今度は一体なんなのですか?」
少女が安堵した所に、私はすかさず質問を被せる。すると少女は気まずそうに視線をそらし、
「さ、祭事が………」
そう呟いた。
短い一言だったが、私にはそれで合点がいった。
ようするに、祭事で人前に立つのが恥ずかしいのだ。この極端な人見知りは、彼女がふらりと現れた八年前から…………いや、『それ以前』から、全く改善の兆しが無い。
(はあ、仕方がない。)
そう心の中で嘆息し、私は結局、少女が望む決断をしてしまう。
「仕方がないですね、お館様には、後で私が謝っておきます。」
「あ、あうぅ……ごめんなさい。」
申し訳なさそうに、けれど少しだけ安心したような顔で、少女が謝る。
私はこの少女に甘い、その理由の一つとして、この表情があるだろう。守ってあげなくてはならない、そんな気にさせられるのだ。
「今日は私も暇ですし、神楽様のお相手を致しましょう。」
私がそう言うと、少女はとても嬉しそうな表情を浮かべた。
そして少しだけ頬を染めると、一瞬だけ視線をそらし、呟く。
217長い物とマカロニ:2008/07/21(月) 00:49:50 ID:A1hGRQad
「…………イシュタル」
少女が私のものではない、『俺の名前』で私を呼ぶ。
それが合図となり、私も自分の中のスイッチを切り替える。
そして、少女の『本当の名前』で、彼女を呼ぶ。
「アリア……」
どちらが先に求めたのだろう、呟きと同時に、互いの口内を貪る。
アリアの小さな唇を舌で優しく撫でる、それを更に求めるかのように、アリアの舌が、俺の舌に絡み付いてくる。
アリアの幼い外見には似つかわしくない、淫らな口付け。
「……ちゅぷ…ちゅ………んぅ…ん…ちゅぷ。」
互いに飽きる事無く、口内を貪り続ける。俺がアリアの口内を犯し、アリアが俺の口内を犯す。時折舌を絡め、互いの総てを欲するかのように、求め合う。
そんな行為を幾度も繰り返し、充分に求め合った後に、アリアが唇を離す。
互いの唇を繋ぐように、唾液が糸を引く。その様子が、より一層俺の性欲を刺激する。
「んんぅ!!」
アリアの着物をはだけさせ、鎖骨の辺りに口付けをすると、アリアは堪えかねたかのように、ビクンッ、と反応する。
そのまま俺は更に強く吸い、綺麗な白い肌に、朱い印をつける。
「あぅ……跡、付いちゃう。」
「嫌?」
「………嫌じゃ、ない。」「それじゃ。」
アリアがうっとりとした表情で返してきたので、更に印を刻む。
「あぅ……ひゃうっ………んっ!」
鎖骨付近から、徐々に下に向かっていくと、アリアはそのたびに、くすぐったそうに、みをよじる。
そして、なだらかな起伏の頂上、そこに到達したとき、更に強い力で吸い付く。
「ひゃっ、あ、ああぁぁぁーーー!!」
その途端、アリアの小さな身体が何度も跳ねる。
「アリア、イッた?」
「……あぅぅ、意地悪。」
そう言って、真っ赤になって視線を逸らす。
「ゴメンゴメン、アリアが可愛いからつい。」
「…………!!」
プシューーーー
そう言った瞬間、アリアの顔が更に真っ赤になる。相変わらず、この手の褒め言葉弱い。
「相変わらずアリアは胸が弱いな。」
「あっ、あんっ、んっ!………そ、そう…あっ、言いながら……む、胸を……んんっ!!………い、弄らないで………下さい………ああぁっ!!」
アリアの言葉を無視して、更に執拗に胸を弄る。
乳首をつまみ、何度もこね回しながら、ついでにそのなだらかな起伏を、優しく揉む。
ツンッとたった乳首の先端に舌を当て、その弾力を楽しむ。
「はぅっ………あん、あぁん………あ、あんっ。」
それを繰り返す度、アリアの身体は、ビクンッ、ビクンッ、と跳ねる。おそらく、もう五回以上イッているだろう。
「はぁ、はぁ………ん。」
アリアの息が荒くなってきた頃に、胸への愛撫を中断し、唇を重ねる。
「はあ、んぅ、ちゅぷ、ちゅ、ちゅっ。」
しばらく唇を重ね、アリアが満足するまで、その行為を続ける。
「んぷっ………………ず、ずるい。」
「なにが?」
「そ、そういう所………」
気付かれていたらしい。
アリアはキスが好きだ、多少激しい愛撫をしても、キスをしてあげれば、大体は許してくれる。それを知ってやっている俺は、やっぱり『ずるい』のだろう。
ちゅっ
「ゴメン、ずるいな。」
おでこに軽くキスをして、アリアの髪を撫でる。先程の愛撫と違い、優しく、丁寧に。
「……だったら………も、求めて………さ、触られるだけじゃ……切ない。」
「ん、了解。」
アリアの求めに、もう一度キスすることで応え、アリアの上に覆いかぶさる。
先程の胸への愛撫で、アリアのそこは、充分過ぎる程濡れている。俺はソコに自分のモノを押し当て、一気に貫く。
218長い物とマカロニ:2008/07/21(月) 00:53:28 ID:A1hGRQad
「ん、んああぁぁぁぁぁぁっっっっっっ!!」
俺が貫くと同時、アリアが苦痛の混じった嬌声をあげる。
アリアと交わるのは、何十、何百、いや、『何千』回目だろう。彼女が『俺』の前に『アリア』として姿を現す度、俺達は結ばれ、そして何度も肌を重ねた。
回数を重ねる度、行為自体には慣れても、『アリアの体は成長しない』。
その小さな体に比例する小さな膣は、どんなに慣れたとしても、アリアの体に苦痛をもたらすのだ。
「ん、あぁ、んあ、ん、も、もっと激しくしても、んぁっ、い、いいよ。」
自身への苦痛を無視して、アリアが健気にそんな事を言う。
俺は、彼女のそんな姿に胸を痛めながら、少しだけペースを早め、彼女にキスをする。
「ん、んちゅ、んんっ……ちゅん、んぅ、ちゅっ、ちゅぱ。」
俺がキスをすると、アリアは蕩けるような表情になり、俺の背中に手をまわし、おもいっきり抱き着いてきた。
「んちゅっ、愛して、ちゅ、んぅ、います、んああぁ、何百年も、ちゅ、あなただけを、ずっと……んんっ。」
キスの合間に、アリアが俺への愛を、必死に囁く。
俺はそれに応えるかのように、何度もキスを繰り返す。
「俺も、だよ、ちゅっ、ちゅぱ、何度でも、ちゅぷ、君を愛するよ。」
アリアの身体が、大きく揺れる程の激しい注挿を繰り返しながら、何度も何度も、愛を囁き合う。
「くっ、も、もう。」
絶頂が近づいてきている、それをアリアに告げる。
「わ、わらしもぉ、い、一緒に。」
アリアの求めに、頷く事で応え、ラストスパートをかける。そして………
「んああぁぁぁぁぁぁぁぁーーーー!!!!」
「あ゛あ゛ぁぁぁぁぁぁーー!!」
ビクンッ、ビクンッ、どぷっ、ビュルルッ、ビュルッ、コプッ。
アリアが絶頂を迎えると同時に、俺はアリアの膣に欲望を吐き出す。
心地よい疲労感に包まれ、俺は少しだけ、意識を飛ばした。

〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜

むかしむかし、北欧の方のある場所に、小さな小さな国が有りました。
その国の王女は、とある騎士と恋に堕ちます。
小さく、権力争いとは無縁の国だった為、国民や国王にも二人は祝福され、晴れて夫婦となりました。
しかし、そんな二人の幸せにも終わりが訪れます。近隣の大国が攻めてきて、あっさりと二人の国を滅ぼしてしまったのです。
騎士の少年は、王女を庇ってその命を落としました。
王女は嘆き、悲しみ、、世界を、神を呪いました。
そして王女は、神に………………呪われました。
少年と出会った時の姿のままで、永遠に生き続けるという呪いを背負いました…………

〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜

まどろみから覚めて、隣で寝ている少女を見つめる。
お館様を始めとする屋敷の人間達が、不老不死というだけで、現人神と崇める少女を。
「神楽様……」
少女の頭を撫でる、本当は、『神に呪われた』少女の頭を。
愛しい少女の頭を撫でながら思い出す、『イシュタル』が最後に『アリア』に残した言葉を……


「たとえ……生まれ変わり………『イシュタル』で無くなったとしても………何度でも、君と出会い………愛すると、誓うよ。」
219名無しさん@ピンキー:2008/07/21(月) 00:59:03 ID:A1hGRQad
……………エロ描写って難しいですね。
>>206を見てオリジナルで浮かんだのを書いてみましたが、なんか姫関係無いですね…………
スレチっぽいので、阿呆は、これで退散します。
220名無しさん@ピンキー:2008/07/22(火) 03:39:10 ID:eA9B1inZ
>>219そんなことないよ。騎士が姫を大事にし続けるあまーい雰囲気がいい。
姫が呪われてるっていうダークさも、珍しくていいスパイスになってると思う。
221名無しさん@ピンキー:2008/07/24(木) 02:07:16 ID:6J4ZHl1z
保守
222名無しさん@ピンキー:2008/07/26(土) 02:01:17 ID:U8zcevWY
保守
223名無しさん@ピンキー:2008/07/26(土) 20:31:10 ID:gI/tb7E9
ほす
224名無しさん@ピンキー:2008/07/26(土) 21:32:22 ID:u/AAz0zo
軍事大国の人民共和国に侵攻され、崩壊した王国。
国王をはじめ多くの貴族は捕らえられて処刑され、
愛らしく美しい姫も、共和国を支配する労働党幹部の奴隷にされ、
屈辱の中、党幹部の屋敷でメイドとしてこき使われてしまう。
さらにある日、自分が慰み者にされることを知った姫は
もはや生きることに絶望し、自殺を図ろうとする。
悪魔が姿を現したのはその時であった。
「一国の姫が自殺をしようなど…。くく、そんなに辛いか。
 だが安心するがよい。お前に復讐をさせてやろう。」
そして、悪魔は不気味な笑みを浮かべながら契約書を姫に渡す。
古代文字で書かれた契約書。だが、不思議なことに文字は読めた。
巨大、破壊、殺戮…そして復讐という文字。
「復讐…。もしできることなら、あの男と、この国を滅ぼしたい…。」
姫の頭の中に『復讐』の二文字が駆け巡る。
圧倒的な軍事力を前に、決して望むことの出来なかったこと。
それが今、目の前に横たわっている。あとは血判を押すだけ。
国や親しい者を失い、自身も奴隷の身として虐げられた姫は
もはや躊躇うことなく、だが、よく読みもせず契約書に血判を押した。
『契約は血で贖われる』という条項に目を通すことなく。
そして契約を結び終わった時、メイド服を着た姫の足元には
精巧なミニチュア模型のような党幹部の屋敷があったのだ…。
225名無しさん@ピンキー:2008/07/26(土) 21:32:41 ID:u/AAz0zo
針金のように細い塀で囲われた、箱庭サイズの小さな敷地。
その中心には踝ほどの高さの、洋風建築の屋敷が建っている。
広さも靴二つ分ほど。とても先刻までいたとは思えない小ささだ。
そんなに大きくなってしまったメイド姿の姫だが、
大して驚きもせず、落ち着いた様子でゆっくりと膝をつくと、
屋敷の両端に指を突き刺し、屋根をバリバリ剥ぎ取って中を覗き込む。
すると、露になった二階では使用人達が慌てふためいていた。
まるでドールハウスの人形にされたような気分なのだ。
大きさはもっと小さかったが。実に100分の1サイズだ。
それだけ小さければ、いくら相手が使用人仲間とはいっても
まるで怪獣のように見えてくる。何されるか分かったものではない。
うろたえながらも、急いで逃げようとする使用人達。
だが、巨大メイドは無慈悲にも彼らを指先で押し潰していく。
プチ、プチッと。鮮血で真っ赤に染まる廊下、小部屋、大広間。
机の下やクロゼットに逃げ込んでも、まとめて潰されてしまう。
使用人達は何処にいようと関係なく指先の犠牲となった。
続いて、巨大メイドは外に逃げ出した使用人達をデコピンで弾き飛ばし、
20m以上離れた塀に突っ込ませ、一瞬で絶命させていく。
その時、屋敷一階の廊下ではまだ数人が残っていたが、
外での惨状を目の当たりにして逃げ出すことは出来なかった。
そこに、庭にいた者を全滅させた巨大メイドが窓を覗き込んでくる。
窓枠よりも遙かに大きな瞳。それが自分たちを見つめているのだ。
恐怖のあまり、人々は悲鳴を上げながら各々の部屋に逃げ込み、鍵をかける。
党幹部も例外ではなかった。目が合ってしまったが、視界外に飛び込む。
「かくれんぼですね、ご主人様。」
それを見た巨大メイドは楽しそうに言い、外壁を指で削り取った。
226名無しさん@ピンキー:2008/07/26(土) 21:33:35 ID:u/AAz0zo
あごめん誤爆
227名無しさん@ピンキー:2008/07/27(日) 00:34:58 ID:5yHy6hM3
ちょwwww
228名無しさん@ピンキー:2008/07/27(日) 01:01:39 ID:J3J8xfiU
マリーの前夫との結婚式とかちょっと読んでみたい
ひどい夫だったんだろうけど・・・・
229名無しさん@ピンキー:2008/07/27(日) 01:21:09 ID:T7PdpYpH
>>224-225
ちょwwこれつづきがきになるんだけどwwww
230名無しさん@ピンキー:2008/07/28(月) 22:29:25 ID:i/iGpb3P
231小さな国の女王様と下僕のお話/序:2008/07/29(火) 02:30:29 ID:UB/ufaEG
男は唇を噛みしめてただ時が過ぎるのを待っていた。
いつものことだ。
そう言い聞かせながら。

一つ扉を隔てた隣の部屋から、男と若い女の喘ぎ声とベッドのきしむ音が聞
こえる。
小国と言えど城のベッドが安普請なわけが無い。それほど激しい行為が行わ
れているのだろうと思うと、男はわかっていても気が狂いそうだと目を閉じ
た。
232小さな国の女王様と下僕のお話/白の夜:2008/07/29(火) 02:31:13 ID:UB/ufaEG
「相変わらずお美しい」
まだ年若い、少女とも言える女王の肌に吸い付きながら、中年の男は女王を
褒め称える。
暴食の限りを尽くしているのが見て取れる、脂ぎった豊満な体で女王に跨が
り、その白い身体を隠す薄物を手荒にはぎ取る。
そして零れ出た豊かで柔らかな乳房を、肉厚な手のひらできつく握る。
「くぅ…」
男は性急に乳房の間に己の物を挟み込む。
「マリアンヌ様、その麗しい唇でご奉仕していただきましょう」
女王は、臭いのきついモノに僅かに顔を歪めるが、乳房を自分の手で左右か
ら緩急を付けて押しつぶし、間のソレに口接けをする。
そして先走りで濡れている鈴口を舐め吸うを軽く繰り返す。
「おお、良いですなぁ。ちっちゃいお口が気持ち良ぉございます」
きゅ、きゅと乳房で刺激を与えながら、小さい口に懸命に男のモノを頬張り
舌で舐めまわし、強めに何度も吸っていると男の身体がぶるりと震えた。
「おほう! 発射しますぞう! ちゃんと全部お飲みくだされぇ!!」
言った途端、美しい口の中でどろりとしたものが爆発した。
「うくっ! ぐ…げほっ…ごほ」
喉を灼く白濁した液体を飲み込もうとするが上手くいかずむせてしまう。
男はそんな女王に構わず、女王の足を開いて身体の中心を濡れた舌でぺちゃ
ぺちゃと舐め始めた。
「ああ、あはぁ」
マリアンヌは男の愛撫に声を上げた。舌が胎内に潜り込むと自然と腰が揺ら
ぐ。
年若い美しい女王が、淫らに己の下で動く様に男は既に我慢が効かなくなっ
ていた。
「陛下、行きますぞ!」
「……−−−殿、お約束下さいまし、例の件、必ずと」
「勿論お約束しますとも! それ!」
「あああああああっ!!!」
男を身の内に迎えて、マリアンヌは悲鳴に近い喘ぎを上げた。
「おおお、なんと具合が良い」
男は、気持ちよさに声を上げて勢いを付けて腰を動かす。
「おほっ おお、おお! 出しますぞ!出しますぞぅ!」
叫ぶと、男は女王の胎内に射精する。
「あふうぅ!!!」
女王も同時に身体を痙攣させて達していた。
男は最後まで内側に放つと満足したのか、抱え上げた細い足を下ろすと己を
引き抜く。
途端に、今まで男が塞いでいた場所からどろりと白い液体が零れでた。
それを見てニンマリと笑うと手早く着衣を身に着け、テーブルに置かれた書
類に必要事項とサインを書き込むといそいそと部屋を出ていった。
233小さな国の女王様と下僕のお話/白の夜:2008/07/29(火) 02:32:00 ID:UB/ufaEG
マリアンヌはゆっくりと身体を起こすと、気怠げに髪を掻き上げる。
一息吐くと、何も身に着けないまま隣室へと入る。
控えていた側近の手から薬を受け取ると、苦いソレを一気に飲み干す。
「キース、妾の身体を清めるのを手伝っておくれ」
キースと呼ばれた長身の男は、黙って頭を下げる。真っ直ぐな銀の髪が揺れ
た。
僅かに見えた下唇の更に下に血が滲んでいるのに、マリアンヌは心の中で小
さく微笑んだ。

大理石で作られた広い浴室に入ると湯の中には入らず、内装同様大理石で作
られた腰掛けに腰を降ろした。
キースは慣れた手つきで湯を汲みマリアンヌの肩から掛けると、その白い肢
体に前に回る。
細い足が躊躇うことなく左右に開き、全てを晒す。
「…陛下、失礼致します」
その言葉にマリアンヌの目に険が宿った。
「2人きりの時は陛下は無しじゃといったはずじゃ」
更に不満をぶつけようとする美しい口が息を飲んだ。
濡れた男の指が中心を這いすぐに内側に侵入する。
「ああっ」
指が動くとじゅぷと濡れた音がして先ほど受けた男の精が零れた。目の前に
いる美しく忠節な男の物では無い。
構わずキースは秘められた場所を開く。ごぷりと溢れる粘液を指で掻き出す。
男と抱き合う前と湯浴みの前に飲んだ薬で妊娠は避けられるはずだが、マリ
アンヌ本人が気持ちが良くないと、命じた行為だ。
マリアンヌはキースの指の動きに耐えるように、両腕をつっぱり上半身を後
ろにのけぞらせる。
流す湯に濁りが無くなる頃には、白い身体に赤みが差し細い足が男の身体に
絡みついていた。
「キース…」
マリアンヌがうっとりと名を呼ぶと、それが合図のように深い口接けが交わ
される。
234小さな国の女王様と下僕のお話/白の夜:2008/07/29(火) 02:32:45 ID:UB/ufaEG
思う様口中を貪られながら、白い繊手がキースの濡れたズボンの中心に触れ
る。熱の形を確かめるように擦ると、器用に帯を解き内で膨れたモノを露出
させた。
美しい指がゆったりとなぞるそのグロテスクな存在は、通常より数が多かっ
た。前後に二本そそり立っているのだ。
マリアンヌは構わず両手を二つの熱に絡ませる。
銀糸を引いて唇と唇、舌と舌が名残惜しげに離れる。
「…悪戯な方だ」
キースが熱い息を吐きながら耳元で囁くと、マリアンヌは嫣然と微笑んだ。
「キース、早よう」
強請るように揺れる細腰を掴むと、湯と蜜で殆ど洪水のようになっている秘
裂に奥の熱を、焦らすように時間を掛けて突き入れる。
「ふ…あああ」
胎内を熱が埋めると共に、もう一つの熱が緩やかにその手前の小さな華芯を
まるで削り取るように擦りあげる。
胎内を埋め尽くし一旦動きが止んだと思った次には、逞しい身体が対する細
い身体を激しく揺らし、突き上げる。
「ひあっ……だめじゃ…ひぃぃ!!」
間断なく押し寄せる感覚に、ピンク色の口から喘ぎとも苦鳴ともつかない意
味をなさない声が次々溢れる。
「いやああああああ!!だめ…もう…あああ」
内と外に熱い白濁を受けた時には、一国の若き女王は女王の態を成していな
いも同然だった。
両目から大粒の涙を流し、しゃくりあげる口元からはだらしなく涎が零れ落
ちていく。
後始末の時にこの忠実なる側近が容赦の無いのはいつものことだ。
それに慣れることも出来ず、いいように振り回されている自分は未熟なだけ
だと、マリアンヌは心の中で唇を噛んだ。
「起きあがれますか? マリアンヌ様」
無意味な質問である。
質問した方もそれは弁えていた。
くたりと力の抜けた身体を清め抱き抱えると、湯の浅い場所に沈め清める。
温かな湯と優しく動く大きな手の心地よさに、マリアンヌはいつしか意識を
手放していた。
235小さな国の女王様と下僕のお話/白の夜:2008/07/29(火) 02:33:37 ID:UB/ufaEG
寝室外交、読んで字の如くである。
周囲を大国に囲まれた豊かな小国は、王族が流行病で次々亡くなり、残され
たのはまだ10代半ばの姫君唯1人であった。
先代の王はしたたかな人物で、まさに諸外国を手玉に取るような政治をして
いたのだが、成人もしていない、他に王太子も3人いたために政治学も学ん
でいない小娘に何が出来たわけでもない。
そして女王として即位した少女は決意した。
専門分野は専門に詳しい側近や大臣にまかせ、自らはその為に出来ることを
しよう、と。
少女は自分の魅力を客観的に評価し、その上で各国の重要人物に分け隔て無
くその身体を差し出すことにした。
その見返りを求めることを条件に。
最初は馬鹿なことをとどの国も歯牙にも掛けなかった。当然だろう、美しい
が小娘1人の為に国益を損なうなど出来ようはずもない。
だが、やがてある国の1人の男が考えた。
女王に子どもが出来たらどうなる? 小さいが豊かな国だ。しかも周辺の国
と戦が起こった時に要所となりうる位置に存在する。自らの国に併合出来れ
ば、素晴らしい功績だ。
結果、女王は月の半分は各国の要人と寝所を共にしている。
娼婦と陰口を叩かれようと知ったことでは無い。
守るべき国民がいることこそが女王マリアンヌの矜持を支えていた。
236小さな国の女王様と下僕のお話:2008/07/29(火) 02:36:35 ID:UB/ufaEG
以上です。

すいません、注意書きのレスが書き込まれてなかった……
普通の人間の身体じゃないキャラが出てるのが苦手で
読んでしまったらすみません
文章が読みづらいのも申し訳無いです
237名無しさん@ピンキー:2008/07/31(木) 00:40:58 ID:huCY9L6I
保守
238名無しさん@ピンキー:2008/07/31(木) 22:11:39 ID:v/X7sFOp
全力で保守
239名無しさん@ピンキー:2008/08/01(金) 13:49:06 ID:xy2VXs/D
セシリアたんに会いたいよぅ。゜(ノ□`)゜。
240名無しさん@ピンキー:2008/08/01(金) 20:34:47 ID:kXNuyoBy
>>231-236
短いけど雰囲気が出てて良かった。
241名無しさん@ピンキー:2008/08/03(日) 12:30:08 ID:6TPV9BSj
セシリアタソは俺の嫁
242名無しさん@ピンキー:2008/08/05(火) 01:06:44 ID:EW9pPpN+
保守
243名無しさん@ピンキー:2008/08/06(水) 17:39:57 ID:JdygFasW
和物です。あと、女の子(姫様とその侍女)同士です。
244戦国もの1:2008/08/06(水) 17:40:43 ID:JdygFasW
「…そなたと話しておると、時が経つのを忘れまする」
侍女のお雪に若桜(わかさ)御前が語りかけた。この日、若桜は中秋の夜長の
無聊を慰めるべく、話相手としてお雪を自身の寝所に召していた。
お雪は若桜が今の夫・右馬頭直照(うまのかみ なおてる)のもとへ
嫁ぐまえから付き従っていた侍女で、互いに気心が知れており、一国を
統べる大名の奥方となった今でも、こうして側近くで仕えているのだった。
若桜は当年24歳。顔かたちは大変美しく、輿入れの際に直照は「三国一の
大果報者」といわれたものだ。白桃のごとき美しい肌に、すっきりとした目元、
そしてよく実った豊かな肢体。女として、これ以上のものは無いと言っても
過言でないほどの姿であった。当然直照もぞっこん、惚れ込んでいる。
しかし、夫は夏ごろから隣国へ出陣しており、戻ってこられるのは師走ごろとの
ことだった。当然のことながら、若桜の体には誰も触れることは無く、それが
冬まで続くとなると、男を知った肢体の欲求は膨れ上がっていく。
初めは指などをつかって自分で慰めてはいたが、とうとうそれだけではどうしようも
なくなり、意を決してお雪を召したのであった。
だが、お雪を呼び寄せたはいいが、どうしても恥ずかしさが先にたち言い出すことが
できずに、とりとめのない世間話に終始してしまう。何度か口にだそうとはしたが、
お雪と目が合った瞬間、のどまで出かかったせりふが戻っていってしまった。
かすかに頬が紅潮し、目も泳いでしまう。そして結局若桜は言い出せぬまま、
「お雪、もう遅いゆえ、下がってもよい」
と言ってしまった。「はっ」とお雪は一礼し、立ち上がったが、次の瞬間、お雪は
歩を進めると、若桜と間近に向かい合った。
「あっ」
若桜が小さく叫ぶと同時に、お雪は若桜の唇を奪っていた。そして、同時にお雪の手は
白い寝巻き越しに若桜の胸をつかんでいた。
245戦国もの2:2008/08/06(水) 17:41:31 ID:JdygFasW
「姫様。今宵私を呼んだのは、このためでございましょう?」
唇を離したお雪が若桜の耳元でささやいた。まさか、そこまで見透かされていたとは
思ってもみなかった若桜は、自分の望み通りとはいえ、お雪と目を合わせられず、
うつむいてしまった。
「姫様。私は今の殿さまよりも前から姫様のことを存じ上げているのですよ?」
そう続けるとお雪は若桜のたわわに実った胸を揉みしだきはじめたのだった。
「・・・う、ああっ」
「姫様、さぞお寂しかったことでしょう?今宵は私が夜通しで慰めてさしあげます」
お雪は再び若桜の唇を吸うと、自身の舌を若桜の口内へ潜り込ませ、若桜の舌に絡めた。
すると若桜も堪りかねたのか、自分も舌を使い始めた。やがて、二人は唇をからめ、お互いに
抱き合った姿で褥に横たわった。
お雪はさらに、若桜の白い寝巻きの裾をはだけさせ、豊かな乳房を今度は直接揉みはじめた。
若桜の真っ白な乳房の先端には、これまた美しく色づいた突起が、興奮のためかすっかり
硬くなっていた。お雪はそれを指で挟むと、乳房を揉むのと平行してしごきはじめた。
「・・・むうぅっ、んんっ・・・」
これには思わず若桜も反応し、びくりと肢体を震わせた。その拍子に互いの涎で濡れた
唇同士が離れた。するとお雪、今度は離れた唇を若桜の首筋へ押し付けて、吸引した。
さらにお雪は右手で乳房を弄びつつ、左手を伸ばし、今度は若桜の太ももや尻を撫で回し始めた。
太ももは適度に肉がついている。そして、若桜の尻は適度に大きく、尻を揉みたててやると、
若桜は反応を示し、興奮と快感に身もだえした。長年仕えてきた姫様ながら、お雪は
自分のされるがままに身もだえし、自分にすがり付いてくる若桜がたまらなく愛しかった。
もちろん、お雪にそっちの趣味があるわけではないのだが、夏以来ずっと夫の留守を守り、
寂しさと身体の欲求に耐えて来た若桜が、自分ひとりにだけ痴態をさらしているという事実が
あっては、若桜を愛しく思ってしまうのも道理であった。
「・・・ふふ・・・姫様・・・可愛い・・・」
「・・・あ、ああ。そ、そのような・・からかわないで・・・あ、ううっ・・」
若桜の尻を撫で回していたお雪の左手はいよいよ、その谷間へと突入していた。
まず最初にあたったのは、若桜の菊座だった。そこをやさしく撫でてあげると、若桜は
たまらず息を荒くした。だが、女の身には、こちらの穴には睦言での出番はない。そこで
お雪はさらに指を伸ばし、若桜の一番大事なところを攻めたのであった。
「ああ、そ、そこは・・」
若桜の秘所はもうすっかり濡れていた。お雪の手にもたっぷりと若桜のだした液体が
付着している。お雪はいったん左手を若桜の股間から離すと、左手の指を若桜の頬に
押し付け、附着した淫液を若桜に見せ付けたのだった。
「・・・姫様も、思いのほか、お好きなようですのね」
「そ、それは・・・そなたが・・・ああっ!」
愛しいからこそ、若桜に意地悪をしたくなってしまうのである。お雪はすっかり肌蹴ていた
若桜の寝巻きを剥ぎ取った。これで若桜は生まれたままの姿になってしまった。
246戦国もの3:2008/08/06(水) 17:42:24 ID:JdygFasW
「ああ・・・!」
お雪は若桜を仰向けに寝かせると、自身も着物を脱ぎ捨て、若桜の股間へと顔を埋めた。
今まで夫にしかされたことはなく、それでも恥ずかしかったというのに、お雪にそんなことを
されてしまっては、もう、たまったものではなかった。羞恥に耐え切れず、若桜は両手で顔を
覆ってしまったのだった。旧知の間柄だけに、余計に恥ずかしい。
しかしお雪はそれにかまうこともせず、舌を若桜の秘所に這わせたり、指でなぞったりして
若桜の御陰を堪能している。お雪に攻められるたび、新たな淫液があふれ出てくる。
「はあぁ、ああ・・・!あっ、あっ・・・ひいい・・っ!」
悶え善がる若桜。お雪の舌は若桜の股間を這い回る。そして、舌は若桜の菊門に到達した。
小さく、可愛らしい菊の花が、若桜が垂らした淫液やお雪の唾液によって妖しく光っていた。
「あああっ、そ、そこ・・・は・・・ひああっ、ひゃうぅ・・・」
そのうちにお雪は若桜の上になり、自身のこれまた豊かな尻を若桜の眼前に押し付けた。
「姫様もお一人で喜んでばかりおられないで、私のことも可愛がってくださいませ。
・・・もしや姫様、殿方への仕え方をご存知ないのですか?」
すると、若桜はお雪のすでに濡れている秘所を口で撫で始めた。さすがに、直照のもとに
来てから数年は経ており、子供だってもう2人いるのだ。それなのに、仕え方も知らないの?
とからかわれたことで、若桜は少しムキになっていた。お雪には若桜のその気持ちがよく
わかるし、そんな若桜を堪らないほどに可愛く思っていた。
「あ、あうっ・・・ひ、姫さま、お上手・・・」
そう言いつつお雪は若桜の陰核を舌で攻め始めた。陰核はすっかり怒張しており、
それがまた卑猥さを引き立てている。さらにお雪は指をつかって若桜の秘所をいじめ
続ける。
「・・・お、ゆき・・・もう・・・もう、駄目・・・このままじゃ・・・あああ!」
若桜はお雪に何か訴えようとしたが、言葉にならないし、お雪も聞く耳は持たない。
そして、そのときがきた。若桜は絶頂を迎えたのだった。そしてさらに、
堪りかねた若桜は失禁してしまったのだ。びゅうっ、としばらくの間、若桜の股間から
聖水が溢れ続けた。そして、ひとしきり出切ると、若桜はあまりの事態にただただ恥じ入る
ばかり。
「姫様」
お雪は優しく若桜を抱くと、再びその唇を吸った。そして、今度は持参した張形を若桜の体に
這わせた。そして、また耳元で囁いた。
「そろそろ、欲しゅうなってきたのではございませんか?」
若桜は答えない。しかし、その表情ははっきりと欲しがっている。それを見越したお雪は
「姫様。もう、よろしいのですか?それでは、私も下がらせていただきまする」
と言った。ここまでされて、今更最後まで相手をしてくれないなど、耐えられない。
「・・・いや、いや」
若桜は短く答えた。返事を聞くや、お雪は若桜を四つんばいにさせ、尻を突き出させた。
突き上げられた尻をお雪は揉みしだき、谷間を大きく広げ、あらわになった肛門や
秘所を再び攻め立てた。
247戦国もの4:2008/08/06(水) 17:43:07 ID:JdygFasW
「ああっ、ああっ、ああ・・・」
若桜は尻をくねらせて悶絶した。さらにお雪が揺れる尻をペチンと音がするように叩いて
やると、ぴくりと体を震わせた。ころあいをみてお雪が張形を若桜の秘所に宛がうと、
ゆっくりと挿入させていった。
「・・・あああ、ああああ」
若桜が体をひくつかせながら歓喜の声を上げた。異物が体内に侵入してくるのは、夫が出陣
していらい久々のことだった。お雪はたくみに張形出し入れし、さらに陰核や菊門の愛撫も
加え、若桜の体を攻め続けた。
「・・・・あああ、わらわは・・もう、もう・・・あううう」
若桜は歓喜に涙しながらうわごとのように声を上げ続けた。
このとき若桜は一気にお雪が攻めて、自分が果てるまで続けてくれることを
期待していた。しかし、にわかにお雪は張形を抜いてしまったのだった。
「あっ、ああっ、あうぅ・・・」
張形が抜けてゆく感覚に、おもわず切なげな声を上げてしまった若桜。お雪のほうを
見ると、なんとお雪の裸体から男の一物よようなものが見えるではないか。
「お、お雪。それは・・・?」
それは特殊な形状をした張形で、一方をお雪の秘所に挿入すると、もう一方の先端が前へ
出て、女同士でも男女のような睦言が楽しめるような代物であった。
お雪は若桜の上になると、突き出ているほうの張形の先端を若桜のなかへと入れた。
「ああっ、ひゃあああう」
若桜はまさか女同士でこのようなことができるなどとは思いもよらなかった。その上
夫と交わるときとはまた別種の快感が体のなかを突き抜ける感触に声をあげた。
お雪は若桜へ挿入すると、自身の細腰を巧みに御し始めた。そして、一方の手で体を
支えつつ、もう一方の手で若桜の乳房を攻め立てる。若桜は泣きながら悶え続けた。
一方のお雪も体を動かすたびに自身に入れたほうの張形がうごめき、なんともいえぬ
激しい快感に身もだえをした。
若桜は両腕をお雪の背中に回し、しっかりとお雪を抱きしめていた。唇同士も何度となく
ふれあい、互いの乳房がこすれあった。
「あああ、ああっ、ひいっ、ああん、んん、あああ、もう・・・」
二人の美女のからだ中を歓喜の炎が渦巻いた。二人はじっとりと汗をかき、互いを抱き
しめている。しかし、それでもお雪はまだ自分の務めを忘れては居らず、主人の肢体を
攻め立てて、喜ばせ続けている。
巧みに腰を動かし、若桜の乳房を揉んだり、手を太ももや尻のほうへ回すなどし、愛撫
している。若桜のほうはというと、もはやたまらぬとい感じで、お雪にすがり付いて
歓喜の涙で枕を濡らしながら歓び悶えるので精一杯のようだ。
「はああ・・・姫様、いかが・・・ですか・・・?」
「はああぁん、んん・・・・気持ちゅうて・・・わらわは・・・もう・・・・
耐えられ・・・ませぬぅ・・・・んんっ、あああ」
若桜がもうすぐ果てると見たお雪、一段と激しく腰を動かしはじめた。やがて、若桜は
お雪をすがりつくような目で見つけながら
「わらわ・・・は・・・もう・・・果ててしまいます・・・」
と泣きじゃくった。
「姫様、私もです。ともに、ともに・・・・」
いよいよ二人の動きも激しくなる。
「わらわは・・・ああっ・・・果てる、果てまするぅ、行きまするぅ・・・」
「・・・姫様、私も・・・あああ!」
先に若桜が達すると、それに続いてお雪も果てた。

翌朝若桜が目覚めると、すでに着替えたお雪が朝餉の用意をしつつ伺候していた。
昨晩のことを思い出すと、なんともいえぬ恥ずかしさがこみ上げてきてお雪を
正視できない。
「お雪・・・昨日は・・・」
若桜が言いかけると、お雪は若桜の耳元へ口を寄せ、若桜の尻に手を回して囁いた。
「姫様。殿さまからの御使者で、殿様はもう少し早く師走前にはお戻りになられるとのこと。
・・・・でも、またお寂しいときは、私が殿さまに代わって、姫様をお慰めいたしますわ」
そして、直照が陣中から送ってきた手紙を若桜の懐に差し入れ、再び朝餉の用意を
続けたのだった。
248名無しさん@ピンキー:2008/08/06(水) 17:45:46 ID:JdygFasW
以上です。
戦国ものといいつつ、戦国っぽさは無いですが・・・・
249名無しさん@ピンキー:2008/08/08(金) 01:38:40 ID:M37SKp2c
保守
250名無しさん@ピンキー:2008/08/08(金) 01:48:27 ID:9nYHqIEW
>>248
GJ
できれば今度は殿様が出てくるのも読んでみたい

あとところどころ現代語っぽいのが気になった
251名無しさん@ピンキー:2008/08/09(土) 00:44:05 ID:rqhVNSZl
セシリアたんは俺の嫁!





会いたいよぅ……
252名無しさん@ピンキー:2008/08/09(土) 13:21:48 ID:c/b/958I
セシリアタソの親御さんは元気かなぁ…
253名無しさん@ピンキー:2008/08/10(日) 12:34:21 ID:G65F08tl
保守
254名無しさん@ピンキー:2008/08/12(火) 19:43:48 ID:sYmWBaMX
保守
255名無しさん@ピンキー:2008/08/13(水) 02:41:44 ID:sTZ3MTYB
愛媛県民が羨ましい
256名無しさん@ピンキー:2008/08/14(木) 09:54:55 ID:7B/qIIB3
ほす
257名無しさん@ピンキー:2008/08/16(土) 08:05:34 ID:s/PzmkaU
保守
258名無しさん@ピンキー:2008/08/18(月) 22:30:44 ID:sh3rHrdZ
保守
259名無しさん@ピンキー:2008/08/21(木) 19:55:55 ID:1p5zZHJ4
最近過疎っててさびしい……保守
260名無しさん@ピンキー:2008/08/23(土) 19:25:52 ID:p1cS9In0
保守
261名無しさん@ピンキー:2008/08/25(月) 13:03:25 ID:RooB1oZv
保守
262名無しさん@ピンキー:2008/08/26(火) 22:44:45 ID:r6bT84hW
じゃあエレノールはもらっていきますね

・・・な、なにをするきさまらー
263名無しさん@ピンキー:2008/08/31(日) 10:45:07 ID:7gNpgixE
保守ばかりの保守
264名無しさん@ピンキー:2008/08/31(日) 19:58:59 ID:7QCcqc0z
>>262
間違いなくアランの仕業です
265花影幻燈(前篇):2008/08/31(日) 22:27:20 ID:KUyJvC1E
こんばんは。
マリーとオーギュストのシリーズを書いている者です。
前回ご感想をくださったかたがた、262・264様のように登場人物を思い出してくださるかたがた、
いつもありがとうございます。
ひとつひとつが本当に励みになります。

結局今回も長兄夫妻の話になってしまったのですが、一応妻方の妹姫が出てきます。
バッドエンドではありませんが、全体として重い話になってしまいました。
長いので前・後篇に分けて投下させていただきます。
※ストーリー的にNGなかたもいらっしゃるかもしれないため、以下に注意書き兼ネタバレを一行書きます。










夫が妻の妹と関係する(強要される)









266花影幻燈(前篇):2008/08/31(日) 22:29:59 ID:KUyJvC1E
一瞬、幻を見ているような錯覚に襲われた。
書斎へ向かう途中に通りかかった吹き抜けの渡り廊下からは、中庭がよく見渡せる。
中庭の入り口付近には小さいが精巧な仕掛けの噴水があり、
その正面に置かれた長椅子にはふたつの人影が寄り添うように座っていた。
噴水のしぶきが宙に生み出す虹を愛でているのだろうか、ときどきかろやかな歓声が上がっている。
緑陰にて夏の朝の清涼を楽しむふたりの貴婦人。それは宮中ではありふれた風景である。
だが、ふたりの顔かたちが鏡に映したように同じであるということだけが尋常ではなかった。
頭上に広がるポプラの枝葉から零れ落ちる陽光を散りばめた黒髪と、ときおりまぶしそうに細められる漆黒の瞳。
余人が彼女たちを目にしたら、その寸分違わぬ精緻な美しさに、
地上に降りた一対の守護天使のようだと評する者もいるかもしれない。
だがアランを襲ったのは何か軽い眩暈のようなものだった。
しかし一瞬後、彼はすぐ事態を了解する。
あれは妻と妻の妹だ。何もおかしなことはない。一方が他方の分身などであるものか。
そして考えてみれば自分はここのところふたりと顔を合わせるたびに
こんな錯覚に襲われているのだということに思い至り、ひとり苦笑いをする。


ことの起こりはまったくの偶然だった。
夏の盛りを迎えたのを機に、王太子夫妻は例年どおり国土の東北に位置する山間部レマナを訪れた。
ここは辺境州としてガルィアの版図に組みこまれてから日は浅いものの、
穏やかな気候とたぐいまれな景勝、そして豊かな鉱水により国際的にも名高い保養地であり、
ガルィア王室の離宮が構えられているのはもちろん、諸外国の上流人士の所有になる別荘も多々点在していた。
自国がガルィアと政治的緊張状態に陥らない限り、彼らも毎年のようにここを訪れては英気を養い帰ってゆくのである。
猛暑の訪れとともに久方ぶりに公務から解放されたアランとエレノールの夫妻も、
宮廷の喧騒から離れたこの清涼な土地で、一昨年生まれた女児ルイーズを伴いながら静謐閑雅な暮らしを数週間楽しむつもりだった。
だが、レマナに到着したその日の夕方、ある隣人の噂を離宮の廷臣から伝え聞くと王太子妃はかつてない喜色に頬を染めた。
ごくわずかな供回りを連れただけの貴婦人が身元を隠すようにして数日前から近隣の城館に滞在しているが、
呼吸器の軽い疾患のために静養に来たというその佳人は
黒髪に黒い瞳ばかりか顔立ちの隅々までがエレノールに瓜二つだというのである。
奏聞が終わるやいなやエレノールはアランに口を挟む暇も暇も与えずに浮き足立つようにして離宮を出てゆき、
数時間後まさにその貴婦人を連れて戻ってきた。
それが彼女の妹エマニュエルだった。
嫁ぎ先の呼称ではエマヌエーラとなるそうだが、エレノールだけは母国語風にマヌエラと呼んでいる。
267花影幻燈(前篇):2008/08/31(日) 22:31:18 ID:KUyJvC1E
スパニヤ王国第三王女エマニュエルはエレノールからすれば年子の妹にあたる。
芳紀十八にして陽光とオリーブの香りあふれる母国よりさらに南方のヴァネシア公国に嫁ぎ、今年二十一になるという。
南海の翡翠。斜陽を知らぬ都。神の恩寵に護られし地。
あまたの形容で古歌にも誉れ高く謳われる都市国家ヴァネシアは、
地形的には限りなく島嶼に近い小半島であり、
異教徒たちが割拠する東大陸から突き出た西南端の半島を
自らの属する文化圏である西大陸に海峡を隔てながらかろうじて結びつける危うい楔のような位置を占めている。
そして支配領域からいえば三方を海に囲まれた首都とその周辺の岩がちな沿岸線に限られ、
徹底した重商主義と人口寡小のため、自国の防衛は伝統的に外国人の傭兵に一任してきたというのが実情である。
しかしながら、地の利を最大限に生かして東西中継貿易路を最初に開拓し、
商業上の競争相手たる近隣諸都市を同盟の名のもとに次々と服属させ、
古来より一貫して独占的に繁栄を謳歌してきたのもやはりヴァネシアであった。

造船技術の向上と火薬の伝播により、ガルィアを始めとする諸大国も
軍事的・経済的に有利な陸路海路の開拓に勤しむようになって久しいが、
それでもやはり、この大陸に東方異教徒の国々から目の覚めるような精巧な文物をもたらすとともに
関税や専売制によって各国の重要財源をも提供している大陸間通商
―――いわゆる南海交易は、ヴァネシアの中継なしでは依然として成りたたないといわれている。

他にめぼしい産業もなく専ら交易に拠って立つ小さな都市国家の常として、
ヴァネシアにおいても政治的発言力は貴族議会より主要商会のほうに重みがあることは動かしがたい事実であり、
恣意的な法令でもって大商人たちの利権を侵害した君主が玉座を追われたことも過去に一度や二度ではない。
そのように、王侯貴族にとってはある意味屈辱的ともいえる国情がつづいており、
かつ地理的関係上、常に大陸間の戦火に巻き込まれる危惧を抱いて暮らさざるを得ないことから、
その統治者たる公に嫁ぐのは、いくら莫大な富に囲まれた生活が約束されるとはいえやはり相応の諦観と胆力が必要であろう、
と諸外国の王室からは縁組を敬遠される傾向があるのも否めない事実だった。


アランはこれまで義妹に一度も会ったことがないが、
エレノールとはひとつ離れているというのに並の双子以上によく似た妹姫だという旨は侍女たちから仄聞していた。
そのうえ子沢山なスパニヤ王室のなかでも最も仲がよい姉妹だといい、
未婚時代のふたりはいつも一緒にいるがゆえに、それぞれの従者は常々己が主人の識別に心を砕かねばならなかったという話である。
ただしエレノール自身はと言えば、妹に言及するときは必ず
「あの子はわたくしよりずっと綺麗だから、あなたがお会いになったら心を奪われないかと心配だわ」と、
冗談とも本気ともつかない声で付け足すものだから、アランも若干興味を惹かれないでもなかった。
むろん、おおよそは妻の罪のない誇張というか身びいきであろうと思いながら。

何しろ、もともとが肉親に対し情の深いたちだとはいえ、
エレノールがすぐ下の妹について語るときの愛情の込め方には、いつもひとからならぬものがあった。
小さなときからとても愛らしくて、聡明で、努力家で、思いやりがあるのだと。
その幸せそうな語り口を聞くにつけても、すぐ下の弟ののらくらぶりに自分は幼い頃からどれだけ気を揉まされてきたかを思い出し、
何かこう、世の不公平を感じるアランでもあった。
268花影幻燈(前篇):2008/08/31(日) 22:34:18 ID:KUyJvC1E
エレノールが妹を連れ帰ってきたその晩、急ごしらえの宴席にてヴァネシア公妃エマニュエルと初めて対面してみたところ、
容姿においては妻と伯仲であろうという予想は間違っていなかった。
華奢ながら女性らしく優美な体格は言うまでもなく、
飴菓子のように滑らかで柔らかそうな小麦色の肌も雨上がりのように潤いを含んだ黒髪も、
そして大粒の宝玉と見紛うばかりの漆黒の瞳も、たしかにエレノールと寸分変わらぬ造形というべきであり、
真珠や珊瑚を贅沢に散りばめたヴァネシア風の髪飾りや装束さえまとっていなければ
アランでさえ一瞬妻と見間違えかねないほどの危うさがあった。

しかしながら彼は、無難な時候の挨拶を美しき義妹と交わしながら、
そんな誤りは実際には起こり得ないとじきに確信をもつに至った。
そしてそれこそ、エレノールが「あの子はわたくしよりずっと綺麗だから」と評する理由に違いない、とも彼は思った。
姉姫がそうであるのと同様、エマニュエルも温和で気品に満ちた婦人であるが、
万事におっとりとして他人を信じ込みやすい姉姫に比べ、
彼女のほうは穏やかな態度のなかにも他者に馴れ合いや阿諛を許さない確固とした線引きのようなものが感じられた。
王侯貴族の社交の要であり人物評価の基準にもなりうる会話術はといえば、
若い女性の常として主題の定まらない話をとりとめなく語りつづける傾向のあるエレノールに比べ、
エマニュエルのほうは整然として機知に溢れる会話を主導しなおかつ聞き上手なので、
アラン自身俺はこれほど話術に巧みだったのかと幾度も錯覚を覚えるほどであった。

そして何より姉妹の区別を印象づけるものとして、エマニュエルの瞳には力があった。
石膏に刻みつけられたかのようにくっきりとした二重まぶたも
密林のように濃く長いまつげも森の奥深くで湧きいづる泉のように黒く濡れた虹彩も、
器官としてのつくり自体はエレノールとほとんど変わるところがないというのに、その発する気配が彼女とは全く異質なのだった。
使い古された言い回しではあるが、わが妻が万物に柔和な光を注ぐ月ならこの娘は太陽だな、とアランは思った。
それも炎夏の朝、一日の生命力を燃やし始めたばかりの太陽である。
義妹の美しい瞳にはそれほどの鋭気が潜んでいた。

しかしだからといって、彼女は見るからに気性の激しさを感じさせるというわけでは全くない。
ともに食卓を囲んでいるときの挙措や表情、ことばづかいは、姉姫ほどの打ち解けた人好きさには欠けるとはいえ、
二十歳を過ぎたばかりの年若い娘にはそぐわぬほどの落ち着きと余裕があり、
いまここには同席していないものの、
対面を果たしたおりには幼いルイーズもすぐにこの美しい叔母に懐くことであろうとアランには容易に想像がついた。
そして同時に、この義妹は自身の明敏さをごく自然に糊塗できるほどの知性に恵まれており、
しかしその知性をもってしても覆い隠せないほどの情熱を内側に秘めているのだろう、とふと感ぜられた。
269花影幻燈(前篇):2008/08/31(日) 22:37:23 ID:KUyJvC1E
(たしかに、エレノールが冗談でも不安を口にするだけのことはある)
静かに酒杯を傾けつつ妻とその妹の顔をそれとなく見比べながら、アランは少し酔いの回った頭でぼんやりと思った。
彼女たちは同席するアランに遠慮してガルィア語で話を続けているが、
その歓談の盛り上がりようから察するに、彼が席を外すのさえ待てずに今にも母国語で互いの愛称を呼び合いたいに違いなかった。
それにしてもエマニュエル妃はわが国語に長けている。アランは密かに感心した。
自他ともに認める随一の文化国家という位置付けから、ガルィアはその国語さえもがこの大陸の優越者たる地位を占めて久しかった。
いわゆる国際公用語である。

むろん各国とも何よりまず自国語での文芸振興を標榜しているものの、いずれの国であれ上流社会に属する者たちは、
ガルィア語をいかに流暢に使いこなせるかということに貴種としての沽券を賭ける風潮が強かった。
そのような教育方針を何代もとり続けた結果として、
彼らの子女には自国語で手紙を書けない者さえいるというのだからアランなどは失笑してしまうが、
彼が義妹に感服したのは、彼女は母国語や嫁ぎ先の言語は言うに及ばず
ガルィア語も古典語も実に不足なく習得しているからだった。

姉妹それぞれ婚約者が定まっている身ながら十五六ごろには天性の美貌が鮮やかに色づき始め、
スパニヤの宮廷人たちの注視を浴びずにはいられなかったであろうことは想像に難くないが、
聞くところによれば、エマニュエルに懸想する貴公子の数は常に姉姫の倍はあったという。
さもありなん、とアランは思う。
それほどに、温和な物腰と明朗な瞳の裏側に暗い情炎を秘めた、どこか深淵を感じさせる娘なのだ。
この姫が隠そうとしている情熱を引き出せた暁にはどんな悩ましい表情を見せてくれることだろう。
周囲の男の気概をしてそう駆り立てずにはおかない何かが、この娘にはあるのだった。

そしてそれだけに、惜しいことだ、ともアランは思った。
不憫なことだ、と言ったほうが正しいだろうか。
大陸屈指の由緒ある血統はむろんのこと、美貌も知性も社交性もあまねく兼ね揃えたこの娘、
これ以上何も望むことなどあるまいと傍からは思われる年若い貴婦人は、
結婚生活に関してはその美質にふさわしい待遇を与えられているとは言いがたかった。
270花影幻燈(前篇):2008/08/31(日) 22:41:03 ID:KUyJvC1E
もとより遠く離れた異国の宮廷の内情であり、アランとてそれほど確信をもって把握しているわけではないが、
南海東部方面の諸国に放っている間諜たちからの定期報告によれば、
―――むろん彼らの第一の任務は当該国の政治経済および軍事上の動向を探ることであり、
君主の私生活に言及するとしたらあくまで備考という域に留めるのみではあるのだが―――
彼女の夫である現在のヴァネシア公はくたびれた初老の男であり、
先君である兄の跡目は本来その一人息子が継ぐはずであったのが、
当時東方からもたらされたばかりの流行り病で夭逝してしまったがために、
五十も過ぎてから急遽公位継承権が転がりこんできたのだという。

皮肉なことに、エマニュエルが本来婚約していたのは英名高き公太子のほうであり、
ヴァネシア公は玉座と同時に若く美しい許嫁を手に入れたことになる。
しかしながら彼の評判は将来を嘱望された甥に遠く及ばず、
即位の話がもたらされるまでは諸国の富が集まるヴァネシアの豊かさを享受しながら日がな安穏と暮らしていたためであろうか、
政治家としての手腕もまるで未熟だという話だった。

実際、エレノールに聞いたところでは、彼女たちの父であるスパニヤ国王も、
このような「再嫁」を図ることに若干の躊躇を覚えたというが、それでも結局踏み切るに至ったのは、
中継貿易地としてのヴァネシアの重みゆえであったろう。
それはヴァネシア以北のどの国においても変わらぬ事情ではあるとはいえ、
殊に南海貿易による利潤が歳入の小さからぬ割合を占める海洋国家スパニヤにおいては、
かの公室との紐帯を維持することはまさに喫緊の課題であった。

一度も顔を合わせたことのない夭折した婚約者に対しエマニュエルがどれほどの思い入れを持っていたかは知る由もないが、
エレノール及びその上のエスメラルダといった姉姫たちが年相応の青年貴公子たちに嫁いでゆく一方で、
父親より年上の男のもとに嫁がされることになった運命を一度も嘆くことはなかった、
と推し量るならあまりに美談でありすぎるだろう。
それでも夫が家庭人として思いやりのある年長者であったなら救いはあったかもしれないが、
現実はといえば、ヴァネシア公はエマニュエルを娶ってからも宮中のそこかしこに愛人を侍らせて憚らないのだという。
間諜からの報告を引用すれば、「スパニヤの貴婦人独特の謹厳さに公はついに馴染むことができなかった」
ということである。

経済的な余裕さえあれば王侯貴族が蓄妾に励むことなどガルィアを始めどこの国でも珍しくなく、
何もヴァネシア公室に限った陋習ではないが、
同一の信教、同一の戒律を奉ずるこの大陸の人間はみな少なくとも法の上では一夫一妻制に服しており、
それは王侯貴族も同じことであって、公式の寵妃といえど神の前で誓約を交わした正妻に対しては顔を伏せるのが当然である。
それだけに、夫の愛人たちが我が物顔で闊歩する宮廷に正妃として起居しなければならない屈辱は余人には図りしれないものがあり、
またそれだけに、今こうして目の前にいる当の娘が常に温顔で他者に心地よい物腰を保っていられるというのは賞賛に値する、
とアランにはひそかに思われた。

(これも衿持の高さゆえか)
内心の苦痛や葛藤を露わにすること、そして他者の憐れみを向けられることだけは何があっても忌避しようと、
公妃エマニュエルは習慣的に自分を厳しく律しつづけているのだろう。
そのきわめて自制的な態度は堅牢の域にさえ達しているが、
一方では確かに姉姫エレノールの芯の強さに通じるものを感じさせ、アランは初対面の席から総じて義妹を好ましく思った。
271花影幻燈(前篇):2008/08/31(日) 22:44:18 ID:KUyJvC1E
が、彼女は彼女でよくできた貴婦人だと判明したが、
アランをやや困惑させたのは、妹に対するエレノールの度を越した愛着ぶりであった。
レマナ離宮に到着した晩、つまりエマニュエルのために宴席を張ったその晩、
エレノールは夫婦の寝台で珍しく上目遣いになって夫に嘆願したのである。
「ねえアラン、妹がこの地に滞在する間、いま居る城館からこちらの離宮に呼び寄せてもよろしいでしょう?
 私事ですから、従者たちも含めた応接費はすべてわたくしの資産からまかないますわ」
「一個連隊を養うわけでもなし、別にそこまで気を遣わずともよい。
 姉が妹との再会を祝すのに、どうして妨げる理由があろう」
「ではあの子をこちらに迎えてよろしいのですね?ありがとうございます、アラン」
夫の肩に頬を寄せながら、エレノールは濃いまつげに縁取られた大きな黒い瞳を弧のように細めた。
もともとが表情ゆたかな彼女は満面の笑みをこぼすのに吝嗇であったことはないが、
それでもこの笑顔を見るためなら何でもしてやりたい、とアランに思わせるには十分な明るさだった。

「もうひとつ、お願いしてもよろしいでしょうか」
「なんだ」
「あの子がこちらにいる期間は限られますから、朝晩できるだけ同じ空間で過ごしたいのです。
 食事もお化粧も、眠るのも一緒に」
「つまり妹御を優先して、俺は独居の身か」
「申し訳ございません。―――お許しいただけましょうか」
エレノ―ルの声は幾分か小さくなっていた。
そもそもこのたび都からはるばる離宮に足を運んだのは、
単に避暑だけではなく公務に邪魔されない休暇をふたりで楽しむためでもあったのだ。
童女でもあるまいし夜ぐらいは夫婦の寝台に戻って来い、とアランはよほど説得したかったが、
妻の黒く潤いある瞳に不安げに見つめられるとその強気もだいぶ失せてしまい、しばらく考えをめぐらすほかなかった。

「―――まあいい。妹御が滞在する間だけ、という約束だ」
「うれしい。ありがとうございます、アラン」
エレノールはふたたび笑顔になって夫に抱きつき、頬や顎に感謝の接吻を降らせた。
「だがその前に」
「え?」
「条件がある。いや、ものごとの理と言ったほうが正しいか」
囁きかけながら、アランは妻の首筋に唇を這わせた。
「しばらくの間そなたは自ら神聖な夫婦の義務を放棄するのだ。その代償は大きいぞ」
「代償」
「今夜は誠意を尽くしてもらわねばな」
「誠意だなんて、……だめ、お待ち下さい……っ」
夫の手が強引に寝衣を剥ぎ取ろうとするのをエレノールは阻止しようとしたが、むろん果たされず、
それどころか裸身を軽々と持ち上げられて彼の腿の上にまたがる姿態をとらされるに至った。
下から無遠慮に見上げてくる夫のまなざしに耐えられず乳房を両手で隠しながらうつむくと、
すでに大樹のように屹立した雄が彼女の視界に堂々と映る。

「アラン、もう、こんなに……」
「そなたのせいだ。明日からは長らく見捨てられる境遇なのだからな。
 せいぜい慰撫してやろうとは思わんか」
「も、もちろん、申し訳なく思ってはおりますけれど」
「思うだけでは同じことだ。行為で示せ」
「でも……」
「そなたの敬愛する聖アルトゥールも『教書』後篇第二節で同じことを述べているだろう」
こんなときに聖人を引き合いに出すなんて、とエレノールは本気でアランに腹を立てかけたが、もはや拒む術はなかった。
準備万端に反り返る逞しい彼自身を眼前にして、
己の花芯もひそやかに火照り潤い始めていることを認めないわけにはいかなかったからだ。
(この淫らな身体をどうか、お許し下さい)
世のあらゆる聖者たちに許しを請いながら、彼女は祈るようにこうべを垂れ、
硬直した雄の先端をその紅唇で挟み、いとおしむように優しく吸った。
妻がようやく「誠意」を見せる気になったことをここに確認し、アランは深い満足の吐息を漏らした。
272花影幻燈(前篇):2008/08/31(日) 22:45:20 ID:KUyJvC1E
エマニュエルとの共同生活はそのようにして始まった。
共同生活とは言っても実質は広壮な離宮の一角でのエレノールと彼女との閉ざされた蜜月であり、
しかも詩の朗読やらレース編みやら鉱水への入浴やらルイーズのための人形選びやら、
朝から晩まで女子どもが好きな営みに終始しているので、
アランなどは食事の席を除けばほとんど義妹との接点もないほどだった。
それはいいのだが、妻ともめったにふたりきりになれる場がないとなるとやはり不満は募ってくる。
たまにその機会をとらえると、彼はつい揶揄のひとつも言いたくなるのだった。

「よくもまあ、四六時中一緒にいて飽きないものだな」
「ごめんなさい。―――妬いていらっしゃる?」
申し訳なさそうに、だがほんのりと可笑しそうにエレノールが言う。
まったくはずれでもないだけに、アランの口調は却って無愛想になった。
「妻の実妹になど誰が妬くものか。
 ただ、生まれてからずっと一緒に育ってきた年子の妹とこれ以上何を話すことがあるのかと訝しく思うだけだ。
 寝台まで共にしてな。女はよく分からん」
「こちらに嫁いで以来ずっと離れ離れだったのですもの、積もる話は山とございます。
 あなただってマテュー殿ご帰京のおりは、ご兄弟ふたり水入らずで同衾なさりたかったらお止めしませんわ」
「気色悪いことを言うな」
本気で眉をしかめた夫を尻目に、エレノールは口元を押さえつつ笑いを噛み殺しきれぬまま妹の待つほうに歩き去ってしまった。
やれやれ、と小さく息を吐きながらアランはその背を見送る。
(朝から晩までマヌエラ、マヌエラか)

しかし自分で許諾した以上、それは受け入れるより仕方のないことだった。
エマニュエル妃を離宮に迎えて以来、アランは夜を書斎で過ごすことが多くなった。
都の王宮に劣らぬほど広い夫婦の寝室をひとりきりで使うのは当初は新鮮な気もしたが、
次第次第に侘しさがつのってきたからだ。
一年に数週間しか滞在しないとはいえ、離宮の書斎もなかなかの蔵書を誇っており、
なおかつチーク材を贅沢に用いた部屋全体が涼やかで過ごしやすいため、
書棚の間に置かれた長椅子で夜を明かすことは、徐々に慕わしくさえ思えるようになってきた。
(あと何日だったか)
エレノールに悪いとは思いつつも、義妹の出立までに残された日数をひそかに数えつつ、
アランは日干しの匂いがする古書の頁をくくるのだった。





273花影幻燈(前篇):2008/08/31(日) 22:47:32 ID:KUyJvC1E
その晩もやはり同様に過ごすつもりだった。
最後の衛兵に見送られて回廊の角を曲がったそのとき、アランはふと足を止めた。
あと数歩でたどり着くはずの書斎の扉から、生糸のように微かながら一条の明かりが漏れている。
決して小規模ではないレマナ離宮とはいえ、
衛兵の咎めを受けずに王太子の私的空間へ立ち入れるのはひとりしかいようはずがない。
彼女がこんな時刻にこんな場所で己を待ち受けようとする意図は掴みかねたものの、
アランはついつい早まる足取りを抑えることができなかった。
敲く暇さえ惜しまれて扉を一息に開けると、彼の視界をまず覆ったのは部屋の中央から円心状に広がるほのかな光だった。
暗がりによく目を凝らせば、その源は樫の文机の上に置かれた三叉の燭台であり、
さらによく見ればそのうちの中央の枝のみに立てられた小さな蝋燭である。
そしてその傍らには華奢な人影が佇み、慎ましい静寂のうちにこの部屋の主人を迎えいれた。

アランも何も言わなかった。
厚く敷かれた絨毯に足音を沈み込ませて近づくと、ただ彼女をゆったりと抱擁し、そのままそこに立ち尽くした。
湯浴みを終えたばかりなのだろう、艶めかしいほどに潤いを含んだ黒髪にゆっくり顔をうずめると、
焚きしめられてまもない白檀の香りがいつにも増してかぐわしく鼻孔を突いた。
こうして二人きりで触れ合うのはたかだか数日ぶりのことだというのに、
アランにはなぜか、かつて政務のため都を数週間から一月ほど留守にした折よりもさらに胸が満たされる思いがした。

誠に大人気ないことではあるが、この静閑な離宮に到着してからというもの、
妻の注意が専ら久方ぶりに再会した妹と慣れない環境にむずかりがちな幼い娘に向けられていることに、
自分が思う以上に寂寥を募らせていたのかもしれない。
そう思い至るとアランはひとり微苦笑し、腕のなかのやわらかな頬に手を当てて顔を上げさせると、
彼女の側の意向を確かめるようにそっとその双眸を覗きこんだ。
エレノールの美貌の中心をなす大きな瞳は儚げな蝋燭の光を宿しつつもますます深みのある黒さを帯び、
夫のあらゆる望みに応える用意があると告げるかのように、従順なまなざしで彼の視線を受け止めていた。

だがその瞳の奥には、どこか緊張を孕んでもいた。
その事実に気づくとアランは、訝しさよりもむしろ愛おしさと情欲とが累乗的に募ってくるのを感じた。
生娘のそぶりとは初々しいことだ、と戯れかかりたくなるのを堪えつつ、手すさびに黒髪を梳いてみる。
エレノール、と初めて名を囁くと、抱きすくめられたままのしなやかな肢体はまなざしと同様にかすかな硬直を示した。
だがそれさえも夫の目には違和感となりえず、彼女の貞淑さゆえのためらいと恥じらいの結実と映った。

ふたたび妻に顔を近づけ、今度はゆっくりと唇を重ねる。
最初はいくらか強張りを感じたが、じきに彼女の唇からも力が抜け、
喘ぐような吐息とともに無防備な口腔が明け渡された。
愛撫に対してひたすら従順で受け身がちな態度は以前と変わるところがなかったが、それさえもかえってアランの満足を促した。
けれど、妹姫に勧められてエレノールは就寝前に東方産の茶でも嗜むようになったのであろうか、
久しぶりに絡めあった柔らかな舌は、ほんのりとジャスミンの香りがした。
274花影幻燈(前篇):2008/08/31(日) 22:48:43 ID:KUyJvC1E
ごく自然な流れで妻の寝衣の帯に手をかけると、彼女は一瞬だがはっきりと身震いをみせた。
それはアランには理不尽な翻意としか思えぬものだった。
「寝室以外の場で営むのはそれほど嫌か。そのつもりでここを訪うたのだろうに」
エレノールは答えなかった。

妙だな、とアランは初めて動きを止めた。
いつもなら妻は必ずこのあたりで、己の羞恥心を嬲りものにせんとする夫の非礼に顔を赤らめながら憤りの声を上げるものなのだ。
アランのなかでふいに不安が芽生えた。
たしかにエレノールは、妹姫と再会を果たしたその晩、
ここレマナ離宮に滞在する間はエマニュエルとの時間を優先させていただきたいとアランに請い願い、彼もそれを了承したのだ。
夫婦の間の口約束とはいえ、それを忘れてはいけなかった。

「寝室で待つ妹御のことがやはり気になるか。
 無理もないことだが、―――だが、俺はやはりそなたが欲しい。
 しばしのあいだ肌を許してはくれぬか。情事の跡は極力残さぬように気をつけると約束する。
 そなたとて、接吻だけで満たされるわけではあるまい。
 それとも、就寝前のくちづけのためだけに俺に会いに来たのか」
それでも妻から返事はなく、広々とした書斎は彼自身のことばの余韻を漂わせるだけだった。

どこかに苛立たしさと不明瞭感が残ったが、アランはついに折れた。
ただ肉の欲望に突き動かされて交合を求めている、そのように思いなされるのは決して望むところではない。
「―――そなたが厭うことはするまい」
短くそう呟くと、今はこれで満足しよう、とでも告げるかのようにふたたび彼女の華奢な腰を強く抱き寄せ、
その黒髪や首筋や肩にゆっくりと接吻を降らせた。

そのときふいに、エレノールが面をあげた。彼女は依然として無言だった。
ただしその煌々たる瞳にはもはや緊張の色はなく、
既に連れ添って四年になるアランをして思わず瞠目させるほど、挑発的なまでの艶めかしさを怖じることなく放っていた。
エレノール、と呼びかけるその前に、アランは既に細い指先が自らの頬を這い、唇を優しくなぞるのを感じていた。
いらして、と聞こえたような気がした。
それは後で考えれば、彼のなかで情動の舫が解かれるのと全く時を同じくしていた。
275花影幻燈(前篇):2008/08/31(日) 22:49:55 ID:KUyJvC1E
妻に手を引かれて促されるがまま、アランは文机と対になった樫製の椅子に腰を下ろし、膝の上に彼女を横向きに座らせた。
見た目はごく華奢だとはいえ、彼に重みを預けた臀部の丸みと触感は、改めて子をなした女を感じさせた。
肩を抱き寄せて唇を重ねると、ついで頬、耳たぶ、顎、首筋、鎖骨へと徐々に軌道を下げてゆく。
妹姫の侍女に手伝わせたものなのか、珍しい結い方をしている帯を解き胸元の紐を解いて肌着まですっかり剥ぎ取ってしまっても、
彼女はもはや夫の手から逃れようとするそぶりも見せなかった。
淡い灯火のなかで目を細めれば、小ぶりながら形のよい乳房の頂点が屹立していることははっきりと分かった。
両手の親指をあててそこをこね回してみると、花弁のような唇からはジャスミンのかぐわしい吐息が漏れた。

「触れる前からずいぶん硬いようだ。そなたも欲していたのだな、そうだろう?」
「アラン……あ、い、いやっ」
「ここも確かめねば意味がなかろう。
 やはりすっかり濡れている。もう指を二本もくわえ込んでいるぞ。分かるか?」
「だめぇ……かきまぜないで……っ」
「つぼみも大きくなってきたな。ふだんよりさらに敏感なのではないか?
 ほら、望みどおり剥いてやる」
「い、いやぁっ!そこは、だめぇっ!」
「なんという濡れようだ。もうまもなく達しそうだな。どうだ、指だけで果てたいか」
「い、いいえ……指だけでは、だめ……」
「ならばどうしてほしい。今度こそ黙るのではないぞ」
「あ、あなたの、……ものが、ほしいです」
「大きくて硬いものが、だろう?この間の晩は涙ぐみながら何度となく俺にそうねだったではないか」

あなたがわたくしにそう言わせたのです、という憤慨に満ちた返事が返ってくるかと思ったが、そうではなかった。
愉悦に流されまいとする恥じらいに満ちた表情は予想通りだが、唇のほうは何かを言いかけてはまた閉じ、
しかし結局、夫の耳元で素直に問いに答えた。
「はい、……あの晩のように、あなたの大きくて硬いものを、わたくしのなかに、ください」
「今夜はずいぶん素直ではないか。よほど飢えを募らせていたのだな」
「飢えだなんて……」
「そなたの本性が牝犬と変わらぬことはよく分かっている。
 ひとたび欲情すれば前から後ろから責められないかぎり我慢できない女だ。そうだな?」
「はい、―――わ、わたくしは、あなたの牝犬です。ですから指だけではなく、どうか、―――はあぁっ!」
「いい子だ。今夜は驚くほど素直だな」
「は、はい、―――ご褒美がいただけて、うれしゅうございます」

とぎれとぎれの熱い息を漏らしながら、エレノールは夫の肩にしがみついた。
たったいま一瞬のうちに身体を持ち上げられ、屹立した陽根の先端を濡れそぼった秘裂に押し付けられたのだ。
これ以上深いところまで欲しかったら自分でまたがれ、といわんばかりの残酷な仕打ちに
彼女は慄くように瞳を閉じたものの、火照りきった肉体のほうはごく素直に夫の要求に従い、
自ら腰を動かしては淫猥な蜜音を書斎中に響かせつつ、彼自身をゆっくりと根元まで飲み込んだ。
276花影幻燈(前篇):2008/08/31(日) 22:50:56 ID:KUyJvC1E
アランもこのころにはさすがに呼吸を乱さないわけにはいかなかった。
柔らかく温かい襞の中に自分自身が深く迎え入れられていくという触感的な愉悦ももちろんだが、
数日ぶりに肌を重ねる目の前の妻が羞恥心と戦いながら細い腰を前後に激しく揺らし、
それに伴い愛らしい乳房と硬いままの乳首を悩ましく上下させては
高まりゆく快感に涙ぐむのをじっとこらえているという光景そのものが、彼の興奮を否がおうにも煽り立てるのだった。

「今夜の腰使いは、また大したものだな。玄人女にでも教えられたのか」
「ち、ちが……何もかも、あなたにお喜びいただくために、わたくし……あ、あぁ……っ」
「可愛い女だ。だが俺のためと言わず、そなた自身の満足のためにいくらでも貪るがいい。この淫乱め。
 俺も貢献してやる」
荒い息でそう言うと、アランは妻の細腰を両手でしっかりとつかみなおし、下から猛然と突き上げ始めた。
「あ、あぁっ……いやっ、そんなに激しく、だめぇっ!」
「激しく責められるのが好きなのだと、今まで何度となく身をもって告白したではないか。
 いまさら隠そうとして何になる」
「い、いやっ、許して、もう……あ、あぁっ…そんなに、奥まで……
 あ、ああぁっ!そこ、です……っ……もっと、もっと突いて……」
「この辺りも感じるようになったのか」

女はいくらでも目覚めてゆくものだな、と嬲るように囁きかけたとき、アランはふと動きを止めた。
腰の反復運動だけでなく、表情や呼吸さえも彫像のように凍りつく。
彼の視線の先にあるのはエレノールの首、正確には顎の裏側だった。後ろにのけぞったときに初めて人目に触れる部位である。
そこはほかと変わらず滑らかで艶のある肌に覆われている。だが一点だけ彼には見慣れぬ符号―――大きめのほくろがあった。
最初は黒の顔料がこぼれたものかと思われたが、それが気休めの考えであることは自分自身で分かっていた。
これはほくろだ。そしてエレノールにはこのほくろはない。

アランは目をつぶった。
これが数分前ならまだ中断できたが、楔のように深いところまで結ばれた今になっては
引き返そうと続行しようと犯した過ちの重さは同じだ、と彼には思われた。
肝要なのは、最後まで「気づかなかった」ことにすることだ。今はそれしかない。
動作を停止してから一瞬のうちに対処を決めると、
彼はもはや呼吸が乱れすぎて何も言えないというかのように、ただ無言で『妻』のきつく締まった花芯を突き上げ始めた。
彼の背中にまわされた細腕の力が強くなった。
胸の中の美しい牝は、ここで息絶えようと惜しくないとばかりに彼から与えられる愉楽をただただ素直に享受し、
自らもいっそう激しく腰を前後に揺さぶっている。

そしてある瞬間、アランは『妻』の身体を持ち上げて荒々しく引き剥がした。
彼女はひどく切なげな声を上げてその無情に抵抗したが、
やがて自らの平らな腹部に放たれた白濁液をいとおしげに指先にとり、
まだ熱いままのそれを舌先で上品に舐めるようすが、薄れゆくアランの視界にもはっきりと映った。


277花影幻燈(前篇):2008/08/31(日) 22:52:03 ID:KUyJvC1E
「どうして、離れてしまわれたの?」
書斎に横たわる静謐を最初に破ったのはその声だった。
アランは顔を向けず、何も答えなかった。
ほのかな微笑とともに紅唇から漏らされた吐息がすぐそばで聞こえたような気がした。
彼の未だ収まらぬ呼吸の間を縫うようにして、ひそやかなことばは続けられた。
それはもはや妻どころか義妹の声でさえなく、己の魂を獲物と定めた地中に潜む死霊からの呼びかけのようであった。
「何をためらわれたのです」
「ためらってなどいない。普段、―――普段からずっとこうしているではないか。
 そうだろう。そなたを一年中身重にしたくはない」
ほとんど自分に言い聞かせるようにして、アランはゆっくりと答えた。
そうだ、これが真実なのだ、とひとり胸中に繰り返しながら。

自分で自分の言を真実だと思わなければ、この女に信じ込ませられるはずがない。
そうだ、こちらが彼女の思惑に攪乱されるのではなく、こちらの思惑に彼女を従わせなければならない。
エマニュエルにどんな動機があってこんな所行に及んだのかは分からないが、
エレノールへの罪悪感を―――少なくとも後ろめたさを感じているのは彼女とて同じはずであり、
ならばこちらが「最後まで気づかなかった」ことにしておくのが双方にとって最善の処置なのだ。
それしかない、とアランは思った。
自らの服装を正し帯を締めなおしながら、彼は極力自然に、
情事のあとで夫が妻にかけることばとしては冷たすぎず熱すぎもしない程度の温度を込めて、できるだけ淡々と話しかけた。

「早く寝室に戻ったほうがいい。妹御がふいに目を覚まして、そなたの不在を不審に思っているかもしれん」
「『今夜は』冷たくていらっしゃるのね。
 ことが済んだら抱擁さえくださらないのですか?いつものように、慈しんでくださいませ」
「―――悪かった。そなたが気を急いているかと思ったのだ」

ますます膨れ上がる戸惑いと不可解さを押し隠しながら、アランは再び「妻」に近づき、未だ火照り鎮まらぬ細い肩を抱き寄せた。
彼女の願いに背かぬよう、すなわち彼女に疑念を抱かせぬよう「いつものように」額から首筋、肩へと接吻を降らせ、
エレノールとの親密な後戯を再現しながら、
なぜこの娘はわれわれの房事についてかくも審らかに知悉しているのだろう、とアランはふと栗然とするものを感じた。
いくら仲の良い姉妹だとはいえ、果たしてあの謹厳なエレノールが多少なりとも淫靡さを孕んだ話を妹に打ち明けるだろうか。
あるいは単なる推測に基づいて俺をけしかけているだけかもしれない。むしろそのほうが自然だった。
だが、そもそもこの娘は、この作為を通じて俺に何を望んでいるのか。
278花影幻燈(前篇):2008/08/31(日) 22:54:01 ID:KUyJvC1E
「わたくしの名を呼んで」
首筋への接吻を受けながら、エマニュエルが囁いた。
「あなたの声を聴きたいの。いつものように呼んで」
「妙なことを」
アランはできるだけ自然に微笑を浮かべようとした。
「これだけ近くにいてまだ不安か。―――エレノール。エル」
ふたりきりのときに妻に呼びかける愛称を、アランは初めて他人の前で口にした。
周囲の人間に情愛を示すことに全くためらいのないエレノール自身は、
公務の場でもない限りいつでもそう呼んで下さればいいのにと言うが、
弟妹たちをさえ愛称で呼ぶ習慣を持たずにきた彼にしてみればそんな昵懇は論外のきわみである。

だが今だけは、とアランは思った。
今だけは固執を捨ててこの娘の望みに応えるが吉であろう。
もっと、と腕のなかからひそやかな懇願が聞こえた。
「もっと、ある限りの名でわたくしを呼んで。あなたがいつもそうなされるように」
「エレノール。ルゥ。エラ。エレナ。レネ。ノーラ」
「うれしいわ、お義兄様」

天井が真冬の湖面と化したかのように、部屋の空気が一瞬にして凍結した。
少なくともアランにとってはそうだった。
「いつもこうして、姉様にお呼びかけなさるのね。夜毎こうして、姉様をいとおしまれるのね」
その声音は誰のものでもない木霊のように虚な響きだった。
アランは反射的に「妻」から身体を離した。
エマニュエルはもはやそれを制止しようとはしなかった。
ひとり文机の前の椅子に―――たったいま情事を交わしたばかりの椅子に腰掛けると、
何とか動悸を落ち着かせようとしている義兄とは対照的に、
奏者の手を離れたリュートの弦のように静謐なまなざしでただ彼を見つめている。

「やはりわたしだとお気づきだったのね。どうか怯まないで下さいませ、お義兄様」
「―――貴女は」
アランは深く息を呑んだ。
「何を考えている。一体何を企図してこんなことを」
「あなたをお慕いしているから、というのではいけない?」
「それはあるまい」
アランは間を置かずに答えた。
いくら自負心の強い彼だとはいえ、義妹の日頃の挙動には自分への特別な思慕を窺わせるものなど何もないことはよく分かっていた。
「世辞や韜晦は聞きたくない。貴女の真意が知りたい。なぜだ?」
「なぜかしらね。自分でもはっきりとは分かりませんの。強いて言えば、欲望を感じたからかしら」
「欲望だと」
「姉様の伴侶と寝ることに」

書斎の外から小さく物音が聞こえた。
廊下に詰めている衛兵たちの交代時間なのだろう。
エマニュエルはその雑音に乗じて義兄から目をそらすわけでもなく、きつく凝視するわけでもなく、
机の上の瑠璃杯のようにただそこにある静物として彼を眺めていた。
それはアランには侮辱的ともとれる視線だった。
そして同時に、彼女が姉への裏切りに対して何の後悔も抱いていないことを語るものでもあった。
279花影幻燈(前篇):2008/08/31(日) 22:55:08 ID:KUyJvC1E
「一体なぜだ。昼間は水が滴り落ちる隙間もないほどふたり仲睦まじく過ごしているではないか。
 エレノールが貴女に何をしたというのだ。あれは貴女を誰よりも愛している」
「存じておりますわ。そしてわたしも心の底から姉を愛しております。 
 あなたなど及びもつかないくらいに。
 十年後二十年後にあなたのご寵愛がどれほど保たれているかは疑わしいものだけれど、
 姉様が老いようとわたしに冷たくなろうと、わたしは姉様を愛します」
「ならばなぜだ」
「お分かりにならないのね」
幸せなかた、とでも嘯くかのようにエマニュエルはまたほのかに笑った。
「こんなにも深く愛しているからこそ、こんなにも強く憎むことができるのですわ。
 あなたには及びもつかぬほどに」
アランは視界が揺らぐような思いで義妹を見た。
妻に瓜二つであったはずのその美貌は、いまや悪魔の手になる彫琢としか見えなかった。

「―――分からん。俺には分からん。今夜のことは何もかも計画していたというのか」
「いいえ、全くの弾みでしたわ」
穏やかにそう呟くと、エマニュエルは憐れむようなまなざしで義兄を見返した。
「あなたのせいですのよ、お義兄様」
「何を言う、―――貴女が最初に人違いだと拒みさえすれば、あんなことは決して」

「ええ、そのつもりでしたわ。
 最初はほんの戯れだったのです。
 真夜中に目が覚めて、隣では姉様がまだ眠っていて、ふとお義兄様はどうしておいでかと思いましたの。
 わたしがこちらに参って以来独り寝をかこっておられるがために、
 最近は夜遅くまで書斎にお籠もりになられているという話はかねてより伺っておりました。
 今日はとりわけ行く先々で姉様と取り違えられたせいかしら、
 もし衛兵たちにも見咎められることがなければ、書斎にお邪魔してあなたを試してみようと思いついたのです。
 あなたが入室なさったとき、衛兵たちと同じようにあなたも全くわたしを見破れないと知って、
 とても可笑しい気持ちでしたわ。
 互いの唇が触れる寸前、わたしが自ら打ち明けるまでお義兄様は一片たりともお気づきにならなかったと、
 明日の朝姉様にお聞かせしたらずいぶん面白がって下さろうかと、そればかりを考えておりました」

「なぜ、戯れに留めておかなかった」
絞り出すような声でアランは言った。
「あなたがいけないのですわ、お義兄様。わたしは本当にあのときやめるつもりでした。
 次の瞬間にでも笑い出して、かつがれたお義兄様にも笑っていただこうと、そう思っておりましたのに。
 あんなふうにわたしを、―――姉様を抱擁なさるから」
エマニュエルの声から最後の和らぎが消えた。

「確かめずにはいられなかったのです。姉様は夜毎どのように求められ、どのようにいとおしまれているのかと」
「馬鹿な」
「荒唐だとお思いになる?けれどこれが真実ですわ。わたしはどうしても確かめたかった。知りたかったの」
「分からん。なぜだ?エレノールを取り返しのつかないほど傷つけると知っていてなぜそんな衝動に身を任せた」
「申し上げましたでしょう、憎んでいるからよ。
 あなたが悪いのです、お義兄様。姉様があなたのもとで不幸でさえあれば、わたしは彼女を許したわ。
 国に残してきた恋人を想いながら日々泣き崩れて、好きでもない男に夜毎玩具にされていたなら許せたのに、そうではなかった。
 姉様は自分が心から愛し、自分を心から愛する伴侶と暮らしている。
 あなたの愛撫と囁きで、はっきりそれが分かったの。
 だからわたしは拒まなかった。拒めなかったのです。
『わたし』を愛するひとに抱かれるというのがどんなことなのか、それを知りたかったの」
280花影幻燈(前篇):2008/08/31(日) 22:57:02 ID:KUyJvC1E
書斎に長い沈黙が降りた。
窓から吹き込む微風にインク壷に立てられた羽根ペンが揺れ、後にはまた静けさが戻った。
筋肉の疲労を覚えるほどの長い静止のあと、アランはついに自ら一歩前に踏み出し、義妹の目を見て話しかけた。
「エマニュエル殿、提案がある。いや、懇願だ。あなたが望むなら床に跪きもしよう。
 こうしようではないか。
 今夜、我々はこの書斎でもどこででも会うことはなかった。
 ふたりきりになることは一度たりともなかった。そしてこれからも永劫にない。
 繰り返す。今夜、我々の間には何もなかった。よろしいか」
「あなたがそうお思いになりたいのなら」
エマニュエルは柔らかい笑みを浮かべながら応じた。

「わたしにどうして反駁することができましょう?義理とはいえわたしの兄君ですもの」
「感謝する。では―――」
「ただし」
同じ笑みを浮かべたまま、エマニュエルは静かに彼を制した。
「わたしにはわたしの主張がありますわ。
 お義兄様が今夜は何もなかったと思いこまれても、わたしが姉様に事実を告げたらどうなりましょう」
「まさか」
「戯れではありませんわ。わたしは今、目の前にありありと思い描いておりますの。
 愛する夫に裏切られ、しかも裏切らせたのが妹だと知ったときの姉様の顔を。
 あのいつもおっとりとした表情が、どれほどの苦痛に歪むことかしら」
「まさか、本気で言っているのではなかろう。
 貴女はそんなことはしない。そんなことは、―――それだけはやめてくれ」
エマニュエルは答えなかった。
椅子にゆったりと腰掛けたまま、何も語らないまなざしで義兄の顔を眺めている。

「俺が裏切ったとどうしてもエレノールに告げたいのなら、酔った勢いで女官にでも手を出したことにしていただきたい。
 あれは間違いなく怒り狂うことだろうが、それでもまだその事実には耐えられよう。
 これまでのわが素行を省みれば、あれが俺の貞操に全幅の信頼を置いていないことはもとより分かっている。
 だが、貴女は違う。エレノールにとって貴女は己が半身のようなものだ。
 それほどまで信じ抜いている相手から裏切られたと知れば、あれは下手をすれば精神の均衡を危うくしよう。
 それだけは避けねばならん。
 エレノールに俺の悪評を吹き込むのはいい。だが貴女自身が悪意を体現するのだけはやめてくれ」
「分かっていらっしゃらないのね、お義兄様」
「何のことだ」
「あなたが姉様の心の安寧を思っておことばを尽くせば尽くされるほど、わたしは姉様が憎くなりますの。
 もっと無慈悲に傷つける術を、どこまでも追い求めたくなります」
281花影幻燈(前篇):2008/08/31(日) 22:58:36 ID:KUyJvC1E
アランはことばを失ったように義妹を見た。
ふたつの黒い瞳は相変わらず宝玉のような輝きを保ち、なんの翳りも不穏も見当たらなかった。
だがひとつだけ、彼に分かったことがあった。
初めてエマニュエルと対面した宴席で、彼女とエレノールを決定的に分かつものと思われた瞳に宿る力
―――秘した情熱だと彼が見なしたものは、正しくは憎悪の炎だったのだと、いまようやく気づいたのだった。
憎しみや怒りをもつことは誰にでもできるが、その衝動を維持し対象物を追いつづけることには力が要る。
それはエマニュエルのような聡明で自制心のある人間にしかできないことだ。

だが、とアランは思った。
彼女がいま述べたことが本当に動機のすべてなのか。
彼女が怒りを向けている相手は、理不尽な復讐を遂げたいと願っている相手は本当にエレノールなのか。
彼には分からなかった。

しかし自分の要請が受け入れられなかった以上、アランには言わねばならぬことがあった。
それは王室の秩序を守る国王の長子としての義務でもあった。
「それでは、まことに残念だが、エマニュエル殿」
アランはわずかに唇を噛んだ。
妹を溺愛しているエレノールの心中を思えば、これは間違いなく残念な選択だと思いながら。

「明朝までに貴女にはこの離宮を退去していただく。
 そして一週間以内にわが国を去るように。
 これはガルィアの王太子としての命令だ。わが領土内においては、主権は常にこちらにある。
 レマナから最も近い国境の関門までは護衛隊をつけよう。一週間は猶予期限としては十分なはずだ」
「冷酷なかたね。姉様のお気持ちを考えないの?」
「エレノールには、貴女が俺に対して礼を失したとだけ言っておく。
 弁護の機会くらい与えてほしかったとあれは抗議するかもしれんが、それぐらいの衝突はやむをえまい」
「礼を失した、ね。言い得て妙ですこと。その後のことは思いを巡らしていらっしゃる?」
「貴女は貴女の家庭に戻り、俺たちはまた俺たちの生活に戻る。それだけのことだ」
「それだけでなかったら?」
エマニュエルは相変わらず平坦な声で問いかけた。
だがその裏側には奇妙な軽やかさが感じられ、アランは思わず義妹の顔を凝視した。
282花影幻燈(前篇):2008/08/31(日) 22:59:57 ID:KUyJvC1E
「俺がそれだけと言えば、それだけだ。すべてはそこで終わる」
「ヴァネシアに帰った後、わたしが夫に泣きついたらどうなりましょう。
 レマナでの静養中、招かれた先のガルィアの王太子に関係を迫られた挙句乱暴をはたらかれたと。
 そして姉様にも文を送り、あなたがどうしてわたしを早急に追い払いたがったのかを説いたなら」
「馬鹿な、―――何の証拠がある」
「あなたがつけていらっしゃる指輪」
エマニュエルは思わせぶりに義兄の左右の手に目を転じた。
「ひとつだけ、少なくなっていると思われませんか。
 ガルィア王室の紋章が小さく刻まれた、黄金の指輪ですわ」
このような、と言う代わりにエマニュエルは彼の眼前に実物をかざして見せた。
アランの顔は怒りのために紅潮を通り越して青白くなった。

「この指輪を代償として差し出しがてら、わたしに同衾をお求めになったというのはどうかしら。
 恋文を作成してもいいわね。
 わたしを離宮に呼び寄せるために発行してくださった正式な招待状のおかげであなたの筆跡も存じておりますし」
「貴様、―――貴様は盗賊にももとる下郎だ」
「窃盗に当たると思われるなら、お借りしている間の代価は金貨でお支払いしますわ。
 ですがあなたもいささかご注意に欠けておいでではありますまいか、お義兄様。
 すばらしいご愛撫に感謝を示してわたしがあなたの指を吸っている間、
 指への圧迫が少しだけ軽くなったことに気づかれぬのですもの」
「黙れ。何が代価だ。早くそれをよこせ。
 返さぬというなら力に訴えるまでだ」
「動かないで。そこから一歩でもわたしに近づいてこられたら、渾身の叫びをあげますわ。
 いくら王太子殿下の書斎とはいえ、王太子妃と思われる女の悲鳴がなかから聞こえたら、
 衛兵たちとて手をこまねいているわけにはいかぬでしょう。
 そして今夜起こったすべての事実が白日にさらされるのですわ」
「貴様、―――」

「それにお義兄様、よくお考えくださいませ。
 たとえ何の証拠がなくとも、世間はこのような場合女の声に耳を傾けるものでございます。
 一生の汚点、一族の不名誉になると分かっていて、わざわざ捏造してまで陵辱されたと訴えたがる人妻がいるものでしょうか。
 しかもそれが一国の主の妃なのですもの。
 よほど『本物の』屈辱感に突き動かされない限りそんな挙には出ないものだと、みなが考えるはずですわ」
アランは口を開きかけて、また呑み込んだ。
義兄の思慮を推し量ろうとするかのように、エマニュエルは椅子を降りて自ら彼に近づき、
その涼やかな褐色の瞳を下から覗き込みながらゆっくりと囁いた。
283花影幻燈(前篇):2008/08/31(日) 23:02:02 ID:KUyJvC1E
「あなたはこうお考えかしら。
 わたしが帰国して夫に誹謗中傷を吹き込んだところで、さすがにそれが戦火を招くということはない。
 ガルィアとヴァネシアはこれまで敵対したことはないし、
 いくら東西の富が集まる地とはいえ、傭兵をかき集めて国を守備させている一都市国家のヴァネシアが
 ガルィアのような大国に戦を仕掛けるなど無謀な振る舞いに出るはずがない」
「―――違うというのか」
「いいえ、そのとおりですわ。ことに我が夫は火薬の匂いを嗅いだだけで気分が悪くなるほど怯懦な
 ―――いえ、『平和的な』と申しておきましょうか、そのような人物ですから、
 まちがっても妻の名誉のためだけに国運を賭けるような真似はいたしますまい。
 けれど、あなたご自身の名誉はどうかしら」
義兄の胸に指を這わせながら、エマニュエルはかすかに微笑みを浮べた。
それはすでに答えを知っている者の問いかけだった。

「もちろん、あなたはそれにこそ思いを馳せておいでですわね。
 わたしが帰国してから姉様に出す手紙は、ガルィアの宮廷内で厳重な検閲体制を布いておけば
 姉様の手に届く前にことごとく焼却処理できるかもしれません。
 けれど、東西貿易の要たるわが国から発せられた風聞は、どうしても諸国に流布されずにはいないのです。
 それが王侯たちの醜聞であればなおのこと。
 遠からぬうちにヴァネシアの民はもとよりガルィアの貿易商の耳にも届きましょうし、
 やがてはスパニヤ王家にも伝奏されましょう。
 言うまでもなく、わが生国は貴国とは数代にわたる友邦です。
 このようなつまらぬことであなたの人品に対するわが父王の疑惑を招き、同盟関係に亀裂を入れたくはありませぬでしょう。
 さらに言えば、スパニヤに届いた風聞はどうあってもいずれは姉様の耳に届きます。
 生国と密書を交わすのは、異国に嫁いだ王女の宿命ですもの」

エマニュエルはふと脇を向いた。
ひとりでつづけざまに語りすぎたからか、執務机の上に置かれていた水差しを取って一対の瑠璃杯に注ぎ、
ひとつをアランの前に置いてからもうひとつを口元に運ぶと、こくんと小さな音をたててこの土地特有の名水を飲み干した。
その小さな咽喉元がわずかに動くさまを見ながら、アランは同じ場所から一歩も動けずにいた。

「何が望みだ」
かすれきった義兄の声を案ずるように、エマニュエルはさらに一杯ついで器を差し出したが、
当然のごとく彼はそれを押しのけた。
「言え。一体俺に何を望んでいる」
「難しいことではありませんわ。
 まして、貴国の国益を害する陰謀などではありません」
 つまり」
エマニュエルは瑠璃杯を机に置き、ふたたび義兄に顔を近づけた。
その可憐な唇からは、やはり甘美なジャスミンの香りがした。

「姉様に対する共犯関係を結んでいただきたいということですわ。わたしがここにいる間じゅう。
 出立の前夜には、指輪は必ずお返しいたします」
アランは目を閉じた。
これ以上妻に瓜二つな悪鬼の顔を見つめていたら、文字通り正気が失われるかもしれないと思った。
その危惧を知ってか知らずか、エマニュエルはいっそう顔を近づけ、とうとう唇が彼の耳たぶに触れんばかりになった。
そして神託のように告げた。
「慰み者に、おなりなさいませ」




(続)
284名無しさん@ピンキー:2008/08/31(日) 23:18:39 ID:QUzoqxGK
ほぼリアルタイムktkr

……しかし、後味苦すぎ。覚悟はしていたが…。
後編で、どうにかアランには巻き返してほしいなぁ。
285名無しさん@ピンキー:2008/08/31(日) 23:54:58 ID:kyF78Cyx
GJ
エマニュエルの悲しい悪女っぷりがいいね
作者さんの書く人物像は深くて引き込まれるなあ
後半も待ってるよ
286名無しさん@ピンキー:2008/09/01(月) 00:36:01 ID:n+el3uQH
>>265
このスレにはあなたのような優れた書き手がいる、それは希望だ。

まあ、それはさておきGJ ここまで嬉しくないというか、重いラブシーンは久しぶりです。
このまま話が二者間で終わるのか、あるいはエレノールも絡んでくるのか、後編への興味が尽きません。
287名無しさん@ピンキー:2008/09/01(月) 05:37:56 ID:et9jtd7r
続きが読みたいようなそうでないような、ひどいジレンマだぜ!
エレノールが泣くような事態にだけはなりませんように……!
288名無しさん@ピンキー:2008/09/01(月) 09:42:10 ID:S98z9nTI
かつてない程に重く、暗雲の立ち込める展開!
王太子夫妻、ひいてはガルィア王国に降りかかった最大の危機か?
エマニュエルの業の炎にこのまま焼き尽くされるのか、アラン?

待て。しかして希望せよ……GJ!
289名無しさん@ピンキー:2008/09/01(月) 09:57:13 ID:L1JehJPy
アランとエレノールは勿論、妹姫にも救いのある結末になって欲しいなぁ。
エレノールと瓜二つだと思うとなおさら。
誰の心にも傷が残らない終結なんて無理そうな展開だけれど。。

とにかくGJです。
長くても一気に読ませてしまう筆力はいつもながら感心。
後編が待ち遠しくてなりません。
290名無しさん@ピンキー:2008/09/01(月) 21:42:43 ID:O3CSWuGn
ふとエマニュエルとアンヌで策謀合戦を交わしたら、どちらに軍配が上がるんだろう・・・と思った。
(いずれ劣らぬ明晰さと目的のためには手段を選ばない行動力の持ち主なので)
イザベル(エレノールの侍女)がアンヌばりの洞察力や胆力、知力を備えていたら、
こうした事態は未然に防げたろうに・・・と惜しまれてならない。

いつも幸せで楽しく結ばれるシリーズなので、この展開は新鮮でした。
続きも楽しみに待っています。
291名無しさん@ピンキー:2008/09/01(月) 22:09:25 ID:jqX/znpD
何故かエレノールは第一王女だと思っていたw

わっふるわっふる
292名無しさん@ピンキー:2008/09/02(火) 06:34:10 ID:Doi7wY73
長兄夫婦話は大好きなのだが・・・
今回は苦い〜
最後は笑顔のエレノールであってほしい。

いつもながら作者様の筆力は本当に素晴らしい・・・GJです!
後編楽しみです。
293名無しさん@ピンキー:2008/09/02(火) 07:28:42 ID:m3+FwreF
む…胸が苦しい!
普段ほのぼの(?)してるだけに余計に!
作者さん早く続きを〜
294名無しさん@ピンキー:2008/09/03(水) 20:21:15 ID:gUrpcI4O
初読は妹姫の極悪ぶりに長兄夫妻が気の毒でならなかったけど、エマニュエルの視点で再読すると、
「容貌も血統も僅差なく、聡明さでは劣る女」から幸せぶりを聞かされ続けた(それも当人には全く悪意がなく
無邪気さゆえ妹の境遇や心境を推し量れない)としたら、律していた憎悪が噴出するかもしれないな、と感じたり。
いつもながら、本当に人間描写が巧みで引き込まれますね。

後半では、「バッドエンドではない」という作者様の言葉を信じて、
>彼女が怒りを向けている相手は、理不尽な復讐を遂げたいと願っている相手は本当にエレノールなのか
が、解き明かされるのを心待ちにしています。
295銀と橙 前書き:2008/09/07(日) 16:45:21 ID:jN0QPbLF
保守代わりに投下。
神が来るまでのヒマ潰しにでも…。

エロなし。姫前半のみ。
携帯+初投下ゆえ見づらかったらすまん。
思い切って投下っ!
296銀と橙@:2008/09/07(日) 16:47:12 ID:jN0QPbLF
「――そのお話は、お断り下さい」
窓の外を眺めたまま、淡いオレンジ色の髪が眩しい彼女は、柔らかくも芯の強い声で答えた。
「はっ……、ですが姫様。領土や文化的発展は若干見劣り致すかもしれませんが、
 わが国との友好関係も長く、何より平和と品位を重んずる国民性は姫様の……」
「――宰相、わたくしに二度も同じことを言わせないで下さる?」
宰相が姫の居室に入ってから初めて、彼女は景色から視線をはずし宰相を見やった。
「国王夫妻に伝えなさい。お父上お母上の末娘を案ずる気持ち、とても有り難く存じますが、
 最初にこの婚姻を決めたのはあなた方であり、それを受諾したのはわたくしです。
 多少かの国で動乱があったからと言って今は鎮圧され秩序を取り戻しつつありますし、
 わたくしはなんの心配も致しておりません」

口調はあくまで柔らかいものなのに、言葉の端々に鋭い棘が混じる。
いつもは潜められている激しい気性が静かに燃え上がり、
王族にしか出せないであろう気品が硬質とも言えるほど彼女の周りを取り巻くと、
国王の片腕として長きにわたって国政を支えてきた宰相である彼でさえ逆らいがたく、息をのむものがあった。
297銀と橙A:2008/09/07(日) 16:48:25 ID:jN0QPbLF
「――わたくしはナザル国に嫁ぎます。他のどんな縁談も、どんな説得も徒労ですわ」
「…………。――わかりました」
今まで散々、様々な立場の者が彼女を説得してきた。
お付きの侍女から始まり、侍従長も国政に参加する兄たちも、果ては他国に嫁いだ姉たちも説得に手紙を寄越した。
しかし、頑として末子の姫はその首を縦には振らなかった。
近しい者たちの説得も、他国からどうにか掴んだ数多の縁談も、彼女の前では何の意味もなさなかったのだ。
ほとほと疲れ果てた国王と妃は、最後にこの辣腕の宰相を送り込んだのだった。

「……陛下と妃殿下には、その御意志をきちんと伝えましょう。しかしその前に、ひとつ」
姫の一瞬ほっとして緩んでいた緊張の糸が、再び張り詰める。
「最早、銀の王子――フェルディナント王子はあなたの知るかの方とは全く違うかもしれません。
 それでもリリア王女、あなたは嫁ぐのですね」
「――もちろんですわ」
そう言った彼女をじっと見つめると、宰相一礼しは姫の居室を後にした。


護衛の兵士が――今は専ら突然の逃走を阻止する、見張りに近いのだが――
ドアを閉める音を背後で聞きながら、宰相は長い廊下をゆっくりと進む。
298銀と橙B:2008/09/07(日) 16:54:30 ID:jN0QPbLF
懐にそっと手を入れ、ハンカチに包んであった小さな紙片を取り出した。
そこには小さな文字でびっしりと何かが書き記されており、最後に小さく署名が見える。
彼はそれを粉々に千切ると窓際に歩み寄り、丁度開いていた小窓から撒き散らした。
ひらひらと舞い散るその様を見ながら、彼は一つの景色を思い出す。

友好国ナザルの弟王子と、彼を慕うまだ幼さ残るエデラール国末子の姫。
ともに学び、幼くとも確かな信頼とお互いを思いやる気持ちを育んでいった。
今、『彼』はその絆を試そうとしている。

ナザルの王弟一族が起こしたクーデター。
処刑された国王夫妻と王太子に代わり彼らを打ち倒したのは、銀の仮面で顔を覆い現れたフェルディナントであった。
学問に秀でてはいたものの、宮廷政治にも軍の率い方にもぱっとしたものはなかった第二王子。
けれど宮廷内、軍内部の力関係を把握した上での見事な采配は、感嘆を通り越し、周囲の者に畏敬の念と一抹の疑心を与えた。
外さない仮面、クーデター後一時的に行方不明であったという事実、そして城内の幽霊騒ぎが彼の存在性を疑わせ、そして皮肉なことに彼を神格化させていった。
299銀と橙C:2008/09/07(日) 16:56:02 ID:jN0QPbLF
エデラール国としては、フェルディナントかわからない、突き詰めれば王族の正統な血を引いているかわからない彼を王にすることは許し難い。
けれど、これで三度(みたび)混乱の最中に投じられたら、ナザル国はもちろん、
かの国が持つ鉱物資源と貿易港に依存するエデラール国も危うい状況になる。

リリアが嫁げば、ナザルは安定への第一歩を確実にするだろう。
しかし、もし仮面の中が全く違う人物であったら。
もし本人だとしても、銀の仮面で顔を覆うなど不可解すぎる。
娘を持つ親としても国を背負う為政者としても、エデラール国王は揺れていた。

……宰相が破り捨てた紙片は、事の真相を明かす唯一の手がかりであった。
それさえあれば末娘の結婚は疎か、エデラール国のナザル国への対応もはっきりと定めることができただろう。
ただ、辣腕の宰相は何を思ったかそれを破り捨ててしまった。
今はもう、彼の素顔を見るほかに道はない。そしてそれが一番可能なのは、未来のナザル国王妃――リリアだけである。

――『もちろんですわ』。
その言葉と表情に託してみようと思う。固い意志とその覚悟に。
リリアと話すまで感じていた迷いはもうない。
300銀と橙D:2008/09/07(日) 16:57:01 ID:jN0QPbLF
退室間際に見た彼女の顔が、不思議と大丈夫だという確信を与えていた。

迎えに来た侍従に促された先にある大きな扉。その向こうには昔馴染みの男がいる。
互いに背負うものは多くなってしまったが、その分培った関係がある。

――おまえの娘はきっと幸せになる。
幸せになるだけの力もある。
心配するな――

宰相は一呼吸おくと、開かれた扉の中へと一歩踏み出した。


銀の王子とオレンジの王女が手を取り合う、その日を夢見る始まりの一幕。



(了)
301名無しさん@ピンキー:2008/09/07(日) 18:46:33 ID:lvJ3WsU1
早く続きを!続きを書くんだ!!ハァハァ
302名無しさん@ピンキー:2008/09/08(月) 02:41:27 ID:+xRG+8a2
凛とした姫様GJ!
続き楽しみにしてます
303名無しさん@ピンキー:2008/09/11(木) 01:40:29 ID:KUGjd+3p
アラン
やっちまったなぁ!!
304名無しさん@ピンキー:2008/09/11(木) 08:09:15 ID:sM92qhxs
「男は黙って」「土下座!」
305名無しさん@ピンキー:2008/09/12(金) 03:34:19 ID:iAY02gAK
それフツウだよ…
306名無しさん@ピンキー:2008/09/13(土) 01:56:31 ID:5G97x9/X
続き待ち保守
307名無しさん@ピンキー:2008/09/14(日) 08:00:15 ID:eZiKuJUC
本当このスレはエロパロ板中最高だな
みんなクオリティが高すぎる
308名無しさん@ピンキー:2008/09/15(月) 19:46:07 ID:mvAPSxMb
そろそろあげとくか。
309名無しさん@ピンキー:2008/09/20(土) 19:07:17 ID:tGubXUEY
で、エロい姫は何処におられるか
310名無しさん@ピンキー:2008/09/20(土) 21:17:37 ID:QoDNyHhm
シャルロット姫→Σ( ̄□ ̄;)ガーン↓
http://imepita.jp/20080920/291500



311名無しさん@ピンキー:2008/09/24(水) 01:03:58 ID:1ZMFYkFi
ageとく
312名無しさん@ピンキー:2008/09/24(水) 21:26:52 ID:W+LQMh6q
sageとく
313名無しさん@ピンキー:2008/09/27(土) 17:49:05 ID:R2+99A1R
征服系で、蛮族王子×貴族令嬢の長編物投下します。
暗い要素多め、微欝、微グロ。ただし鬼畜と見せかけてボーイミーツガール的な和姦物。

女の台詞=上品で丁寧な貴族英語、男の台詞=訛りやスラング満載の田舎英語、
みたいなもんだと脳内変換してどうぞ。
314いぬのおひめさま(前編):2008/09/27(土) 17:50:01 ID:R2+99A1R

「近寄らないでください!」
空を切り裂いた鋭い平手が、しかし虚しくも受け止められる。
「おーおーつれないねぇ、お姫様は」
そのまま暴れる女を軽々といなし、男は軽薄な笑いを漏らした。

  時は帝国暦の414年。
  帝国の南の要であり、祖帝による大陸統一時からの名城だったゼズ城は、
  今まさに建国以来の未曾有の変事に晒されていた。
  南方の蛮夷、オルブ族。
  中央の民からは赤鬼(せきき)とも蔑称される、粗野で野蛮な未開人達が、
  大挙して南方のヴェンチサ要塞に押し寄せるとこれを陥落、
  そのままの勢いでヴェンチサ地方の領主館であるこのゼズ城を攻め立てたのである。
  ヴェンチサ侯フェリウスは猛将として知られる英傑であり、
  過去20年間、幾度にも渡ってヴェンチサ要塞の防衛に成功していた戦上手だったが、
  それでも今回は持ちこたえるべき要塞の陥落があまりにも早すぎた。
  慌てて兵を集め、ヴェンチサ要塞とゼズ城の中間地点にて迎撃のための陣を敷くも、
  急ごしらえの編成と行軍が祟ってか、
  敵重騎兵の怒涛の攻勢に半挟撃状態から全軍潰走したのがこの春の終わり。
  フェリウスは残った兵約3000を率いてゼズ城に篭城したが、
  救援の援軍を待たずして敵包囲による補給遮断を受け精神的に追い詰められていき、
  起死回生を狙って打って出るもあえなく敗死の憂き目となった。

  ――とまあ、『帝国の側から記述するのならば』このような書き方になるのだろう。
  ともかくそうやってフェリウスが討たれ、ゼズ城が陥落したのが十日程前の出来事だ。


「っ、離して!」
掴まれた腕を振りほどいた拍子に、美しい鳶色の髪がふわりと揺れる。
その持ち主こそヴェンチサ侯フェリウスの妻、リュケイアーナ・オル・ペレウザ・ウェド・ヴェンチサ。
三ヶ月にも及ぶ篭城戦の直後だけあり、
装いは本式の喪装にはほど遠く、髪もやや肩に掛かるほどに伸び放たれていたが、
内側から滲み出る貴人の気迫は翳りを押して尚強く、
白磁のごとき美しき肌は、青白いどころか憤怒にほんのりと朱くさえあった。
 
315いぬのおひめさま(前編):2008/09/27(土) 17:51:19 ID:R2+99A1R

「たとえ落ちぶれようとも、私はペレウザ家の娘、帝国はヴェンチサ侯爵の妻です」
ただ亡将の妻という肩書きを差し引いても、その姿は悲壮の一言だ。
御歳わずか19。
齢は50の手前、海千山千な老練の極みだったヴェンチサ侯フェリウスの妻にしては、
あまりにも彼女は若すぎた。
「蛮夷に辱めを受けるくらいならば、自ら命を絶つ方を選びます」
護身用の懐剣を自らの胸元につきつけた手が隠しようもなく震えていても、
誰にもそれを責められはしない。
そういう時代だったのだ。
女は剣を持てず、政治に口出しできず、内助の功に尽くすことこそが美徳とされていた。
懐剣を握る手つきがまるで素人だったとして、誰がそれをなじれよう。

「ですがお願いです。我が臣下、領民の厚遇を保障してくれるのならば――」
「いや、死ねないだろそれじゃ」
そして男の軽口は、そんな彼女の覚悟を踏み躙る。

「そんな細腕と中途半端な刃じゃ、胸や腹なんか突いたってまず死ねねーぞ?
せめてやるんなら手首か首筋にしないとな」
「…ッ!?」
ハッとした表情で胸元の懐剣を確認する女を前に、男が悠々と一歩踏み出す。
「や、ち、近寄らないでと言いましたッ!」
それに過剰に反応して、震える腕で切っ先を自分から男へと向け直すが、
男の歩みが止まる気配はない。
「…し、舌を、舌を噛みます! 噛みますから!」
「…勘違いしてないと思うけどな、舌噛んで死ぬのって激痛で憤死とかそういうのじゃないぞ?
噛んだ舌上手く喉に詰まらせて、窒息できないと無駄に痛いだけで死ねないかんな?」
「!!」
狼狽と共に、後退りする背中が窓枠にぶつかる。
平然と間を詰めてくる男を前に、窓枠がカタカタと小刻みな音を立てた。
「…いや……来ないで……こないで……」
懐剣を構えたままの少女に対して、とうとう男が真正面に迫る。

黒ずんだ褐色の肌に、血の色のように赤い髪、濁った黄土色の目。
どれも帝国の主教である太陽神信仰においては邪悪で不吉とされる色合いであり、
同時にそれが一般的なオルブ族の容姿容貌だった。
腐っても帝国の貴族階級、太陽神信仰の影響を強く受けて育ってきた少女にとって、
どうしても生理的恐怖が先立つのも無理はない。
なにせ聖典の中に語られる、鬼や悪魔の姿そのものなのだ。
 
316いぬのおひめさま(前編):2008/09/27(土) 17:51:53 ID:R2+99A1R

だからこそ、激昂もした。
「もうやめなって」
「……ッ!」
鬼であり悪魔であるはずの相手が、憐れみの目で彼女を見るのを見た時、
彼女の中の何かが弾け飛んだ。
「殺せねーし、死ねねーよ。そんな剣の握り方一つ知らない細っこい腕じゃ」
「――口を閉じなさい下郎ッ!!」
叫んで、懐剣を振り上げて。

……それでも振り下ろすことが出来なかった。

「……っ」
殺めるだけの大義名分はたくさんあった。
相手は彼女の夫を殺した。相手は帝国の民を殺した。
男は敵の司令官だ。彼女は領主の妻だ。
相手は卑しい蛮族であり、知性の欠片もない人畜にも劣る野蛮人なのだ。
人間ではない。鬼だ。悪魔だ。異教徒だ。

だが。

「…なぁ、あんたはもっと賢いだろ?」
「……う、ぁ」
彼女の手の内の懐剣が、ゆっくりと絨毯の上へ転がり落ちる。
全身の力が弛緩して、無様に床へとへたり込んだ。

そうだ、彼女はそこまで愚かではない。
真実を知る機会を与えられず、都合のいい知識と歴史だけを教えられた民草とは違う。
「俺らが本当に同じ人間じゃない、鬼か悪魔だなんて信じてる?」
政略の道具たる女の分際で、
政治や歴史、神学に興味を持ってしまった、愚かでいられなかったのが少女の罪だ。
「…男は殺す、女は犯す、子供や年寄りも容赦しない、村は焼き払って財産は奪う。
邪神を崇めてて、人間を生贄に捧げる儀式をしてる、赤い髪や黒い肌はその証拠」
答えは明らか、少なくとも少女は気づいている。
「…そんな与太話、本気で今でも信じてるのか?」
「あ……あ……」
そうやって民に流言を吹き込んで脅しつけなければならないほど、今のこの国は歪んでいる。
そうしなければ北夷や南夷に対抗出来ないほど、この国の威力は衰えている。
 
317いぬのおひめさま(前編):2008/09/27(土) 17:52:15 ID:R2+99A1R

「ひ……ぐ、ぅっ……」
喉が引き攣り、気がつけば涙がとめどなく頬を伝う。
男の態度と言葉が破壊槌のように、容赦なく少女の心を打ち砕いていた。
信じていた。
信じていたかった。
でももう信じられない。盲で居続けることは許されない。
彼女達は負けた。
悪だと信じ続けていた相手が実は悪ではなかった。
では何のために自分達は戦って来たのか?
何のために民は苦しみ死んだのか。
彼女が耐え続けてきた苦痛、受け続けてきた責め苦に、一体何の意味があったのか?

空虚で。
果てしなく空虚で。

「…男が怖いか?」
ビクリと身を竦ませる少女の身体が、そのままぐいと抱き寄せられる。
そんなことをする人物は、少なくともこの部屋の中に一名しかいないはずなのだが、
「泣けよ」
抗う気力も、逆らう覇気も、今の少女には存在していない。
それがどういう不義なのか分かっていても、熱さを増す目頭の潤みは止められない。
「泣いちまえって、それくらいは神様だって許してくれるだろ」
言葉は優しく、神をも語る。
肌に感じた相手の身体は、同じ人間の熱く血の通った暖かさだった。
「あんたは十分頑張ったよ」
「……ひぅ」
ぎう、と男の胸にしがみついて、小さな子供のように泣きじゃくりだす。
嫁いで来て四年、誰も言ってくれなかった言葉がそこにあった。
 
318いぬのおひめさま(前編):2008/09/27(土) 17:52:43 ID:R2+99A1R


  言いたいことはただ一つ、腐らぬ国はないという話だ。
  むしろ一つの王朝が400年も続いてるという時点で、察しのいい歴史家なら気づくべきだろう。

「落ち着いたか?」
「…………」
寝台に並んで腰掛けながら、手渡されたハンカチでぐしょぐしょの顔を拭いつつ、
幼き元侯爵夫人は暗澹たる気持ちで己の軽率さを恥じ入った。
いくら非常事態の最中とはいえ、夫以外の、それも敵であり蛮族である男の胸に伏して
取り乱し泣き崩れるなど、およそ貴人のすべきことでない。
しかも男は『卑しい蛮族』でありながら、
そんな彼女に暴力を振るうわけでもなければ、強引に寝台に押し倒すわけでもなく、
嗚咽が止むまで背中を擦り、ハンカチまで差し出してくれたのである。
…範疇外にも程がある。
頼みの綱である侍従や侍女達も、今は男の手により人払いされてこの場にない。
自分の知る貴族社会の礼法や慣習を可能な限り思い返してみたが、
この場合取るべき適切な行動というものを、少女はどうしても見つけられなかった。

そんな中で男の方から行動を起こしてくれたのは、彼女にとっての僥倖だ。
「やめてください、子供ではないのですから!」
まるで幼児か動物にでもするように、
ポンと頭に乗せられた手がくしゃくしゃと自分の頭を撫で回すのを受けて、
少女が反射的にその手を払いのける。
そうして次の瞬間、自分のしてしまった失態に僅かにその身を強張らせた。
通常であれば無作法と謗られ、相手の機嫌を損ねてもおかしくない行動である。

が。
「あ、わりーわりー」
「…………」
…それでも男が彼女の思い上がりを責める風でもなく、
例によっての軽薄なニヤニヤ笑いを続けているのを確認するに及んで、
ようやく彼女にも多少の余裕が生まれてきたらしい。
「……何をしに来たのです。こんな夜更けに、惨めな未亡人のところへ」
出来る限りそっけなく、抑揚のない声で言ってみる。
 
319いぬのおひめさま(前編):2008/09/27(土) 17:53:26 ID:R2+99A1R

「そりゃーお前、男がこんな夜中に女の部屋に来るっつったら、一つしかないだろうがよ」
「…………」
ぽむぽむと、非常に馴れ馴れしく喪服の肩を叩かれた。
沈黙。
困惑。
「……だったらお望み通り、疾く私を組み敷き穢せばいいではないですか」
言って、ちらりと男の体躯や二の腕を垣間見る。
…どれほど控えめに見たとしても、華奢な文官や貴公子の細腕には見えはしない。
彼女を力ずくで押さえるくらい、男にすれば朝飯前のはずだ。
「古来よりの戦場の習いを分からぬほど、世を知らぬ子供ではないつもりです。
温情を施されるつもりはありません、存分にご自分の獣欲をお満たしくださいませ」
挑発の意味合いを込めて、皮肉の一つも言ってみる。
媚び、心まで売り渡すつもりは毛頭なかった。せめてそれぐらいは――

「いや、それじゃつまんないだろ」
「……は?」
思わず間抜けな声を上げる。

「そりゃ力ずくで押し倒して、無理矢理犯すとかも出来るだろうけどさ。
でもそれじゃ、あんたの身体は手に入っても、心までは手に入らないよな?」
「…………」
それは、確かにその通りだが。
「大体、泣き叫ぶ女を無理矢理手篭めにしたって弱い者いじめと大差ないだろ。
そういうの俺好きじゃないんだよね、フツーにチンコ萎えてくるっていうか」
「……要するに。一体何をご所望なのです?」
床に目を落としたまま、少しイライラしながら聞いてみる。
そうして後悔した。

「いや、なんつーかこう、出来れば勝者とか敗者とか抜きにして、そっちの方から、
『きゃーステキ濡れちゃう、抱いて!』な風に来てくれるのが嬉しいっていうか……」
「…………」
「……ア、アレ? ナニソノ絶対零度の目?」
 
320いぬのおひめさま(前編):2008/09/27(土) 17:54:18 ID:R2+99A1R

…初めてまじまじと、男の頭の天辺からつま先までを舐めるようにねめ回した。
およそ淑女のすべきではない、破廉恥この上ない行為だが、それはこの際やむを得まい。
「…貴方、馬鹿ですよね?」
口を突く言葉も、もはや皮肉を通り越して完全に罵倒だ。
これで相手が怒りで顔を青黒くして『誰に向かって口を利いている貴様!』とでも
言ってくれれば、彼女としてもまだ気が楽だったのだが。
「ん。よく言われる」
嬉しそうに照れ笑いを浮かべる、それが男の返した反応である。
…呆れるを通り越して、何か珍獣でも見るような目に女の目が変わった。

「…本当に司令官なのですか? 実は一兵卒とかではなくて?」
まず、冷静に見てみると非常に若い。
彼女より数歳上な程度、どれだけ高く見積もっても30を越えてはいないだろう。
一軍の将を任されるには、あまりにも歳が若すぎる。
「ん、一応な。あんまり乗り気じゃないんだけど、今日付けでそういうことになった」
身の装いにしたとて、蛮族だという事実を踏まえたとしても酷い。
丈の足りず腹の出たシャツに、飾り気の欠片もない革のズボン、腰に帯剣もしていない。
馬番の小僧や農民の子だとしても通用するだろう、
人の上に立つ者の装いではなければ、夜分に女の部屋を訪ねる服装でもなかった。

「てかそういうアンタだって侯爵夫人って貫禄じゃないだろ、チビ」
「ちっ!?」
そして礼儀作法の片鱗もなくゴロリと寝台に寝転がった男の言葉に、さしもの少女も絶句する。
言わんとする所は身に覚えもなくはないが、しかし『チビ』はないだろう。
罵声や侮辱すら通り越して、もはや子供の悪口だ。
「フェリウスの爺、確か50近くだったぞ? まさかその成りで30過ぎだとか言う気もないよな?」
「……私は、あの人の四人目の妻ですから!」
「んー、知ってる」
カッとなって怒鳴りそうになるのを、必死で押さえ込みつつ抑揚無い口調を保つ。
何しろ相手は蛮族なのだ、帝国側のマナーを期待するだけ徒労だろう。
堕ちても貴人の身代らしく、寛容な心で接しなければと、繰り返し自分に言い聞かせる。

「んで、その件についてちょっと頼みがあるんだけど」
「……なんですか?」
久しく忘れた感情のうねり、一体何年ぶりの激昂なのかにも気がつかぬまま、
「脱いで」
「ばっ!?」
でも、流石にこれはプッツン来た。
 
321いぬのおひめさま(前編):2008/09/27(土) 17:54:48 ID:R2+99A1R

「だから! 脱がしたいなら存分に服を引き裂けばいいでしょう!?」
腕ずくで穢されたとか、民や子らを人質に取られ脅されてとかならまだ分かる。
が、繰り返すが何処の世界に好んで簒奪者に身を許し、心を許す妻がいるというのだ。
彼女は娼婦ではない。姦婦や毒婦になるつもりもない。

「汚したいのなら力ずくで陵辱なさったらどうです! 人を侮辱するのもいい加減に――」
「……地下の拷問部屋見てきた」
「――!!」
つもりはない。
「爺の部屋にある、変態臭い道具の勢揃いもだ」
つもりはないのだ。

「昔からの従僕に聞き出したぞ?」
「…………」
時が止まった彼女の目の前で、むくりと男が身を起こす。
「『病に臥せった挙句』? 『不慮の事故で』? よくもまあしゃあしゃあと。
二人目は首括って、三人目は折檻が過ぎて頓死したってのがホントじゃねーか」
獣じみた黄土の瞳に睨まれて、少女は思わず目を逸らす。
…逸らさせるだけの、強さがあった。

「もう一度言うぞ、脱げよ」
飾り気のない、しかし強い調子の賊徒の言葉に、元侯爵夫人はカチカチと奥歯を鳴らす。
「お前にはその義務があるし、俺にはその責務がある」
もしも仲睦まじい夫婦だったなら、こんな脅しには怯みも屈しもしなかったのかもしれない。
「この城を預かった以上、前任がしでかした蛮行確認すんのは施政者の務めだしな」
仲睦まじい夫婦だったなら。
 
322いぬのおひめさま(前編):2008/09/27(土) 17:55:26 ID:R2+99A1R


  全ての良家の婦女子が、しかし『妻』として他家に嫁げるわけではない。
  時には最初から『妾』として、あるいは『人質』や『献上品』として送られることもある。
  力の弱い家に美しい娘が生まれた場合などは、特に後者の傾向が強い。

「…ひっでぇなオイ……」
角灯の明かりに照らされた裸体を見て、さしもの男も呟きを漏らす。
「…どっちが悪魔だよ、ホント」
「……」
サラサラとした鳶色の髪に、絹のように白く滑らかな肌。
安らぎと穏やかさを感じさせる蒼い瞳も合わさって、さながら人形のような美しさだけに、
そこに刻み込まれた狂気の痕は、尚更その惨たらしさを際立たせていた。

背に、尻に、腹に散らばる、
鞭で打たれた痕と思しき黒ずんだ痣、杖で殴られたと思しき折檻の跡。
左脇腹と右肩の二箇所に至っては、
火箸か何かでも押し当てられたらしく酷い火傷痕まで残されている。
いずれも肩から上や膝から下など、
公的な場で衆目につく可能性のある部分は巧妙に避けて刻まれている辺りが、
陰湿、狡猾極まりない。

そうしてそれらの中で一番直視に耐えかねる代物が、
豊かで張りのある双丘の頂点に施された、さながら乳牛を思わせる二つの輪飾りだ。
「……イカれてんだろこれ」
見ているだけでこちらが痛くなるその様子に、蛮族であるはずの男の声が引き攣る。
痛ましいにも程があった。
戦場での酸鼻、捕虜への拷問の残虐さには見慣れていたはずだったが、
女、それも明らかに非戦闘員な女に対して身内がこんな仕打ちを加えたという事実が、
男の嫌悪感を刺激してやまない。
股座に取り付けられた物々しい貞操帯が、一番まともな常識の産物に見えるのが、
なんとも救われない光景だ。
 
323いぬのおひめさま(前編):2008/09/27(土) 17:55:48 ID:R2+99A1R

「……これで分かったでしょう」
背を向けたままの少女の声は気丈だが、僅かな震えまでは隠せない。
「これを見てまだ私を犯そうと思えますか? 股座の粗末なものは奮い立ちますか?」
ここに至っては男でなくとも気がついたであろう。
孤高を保つかと見せかけた裏に、滲んだ自虐と自棄の色に。
「私の身体は夫の『モノ』です」
振り返った瞳が輝いて見えたのも、光の錯覚ではないはずだ。
「とっくの昔に。余すところなく」
その目は確かに潤んでいた。
彼女が自覚しているか、認めているか否かは別として。

「……ふざけんなよ」
当然、怒った。
「何が『夫のもの』だよ、何が『侯爵夫人』だよ!」
略奪の経験がないわけではない。
部下の指揮を保つため、仕方なく非道な行為に目を瞑った経験も何度かある。
だが、好んで皆殺しや焼き討ちをした覚えはない。
至らず、力及ばずが故に至善に届かず苦汁を舐めたことはあっても、
進んで女子供をいたぶって、それを喜ぶほど腐ってはいない。
妊婦の腹は割かないし、子供の四肢は切り取らない、女に糞便は食わせない。

「それのどこが妻なんだよ!? まんま家畜や奴隷じゃねーか!」
「……ッ」
粗野で卑俗な蛮族風情に、しかし簡潔に正鵠を射られて、女もただただ奥歯を噛む。
抗弁したいが、出来なかった。
耐えるしかない恥辱と苦痛の中で、それでも狂妄には逃げ込めなかった。
夫のしたことは全て正しくも間違っていないと、叫べるほどには堕ちれなかった。
これでは『貞淑かつ従順な妻』には程遠い。
だから少女は辛苦を噛み締め、男は苛立ちに憤る。
 
324いぬのおひめさま(前編):2008/09/27(土) 17:56:26 ID:R2+99A1R

「っだぁー、くそ!」
「いっ!?」
叫んで頭を掻いた男に次の瞬間腰へと取り付かれ、少女が僅かに息を呑む。
しかし続けてやってきたのはガチリという音と、股に感じる開放感だった。
「……え?」
同時にガシャリと音を立てて、床の上に落ちる貞操帯。

「……きゃああッ!?」
余りの突然の出来事に、繕った虚勢も剥げ落ちてしまったようだ。
発作的に両腕が胸と股間とを覆い、明らかに頬が赤みを増す。
「…ど、して……」
「押し倒してみたら貞操帯あってヤれませんでしたなんて、アホらしいにも程があるだろ」
一体どこから見つけ出して来たのやら、
くるくると手の内で鉄鍵をもてあそび、ふて腐れたように男が言う。
「その内、その胸の耳飾りも取ってやる。…見てるこっちが痛えかんな」
信じられないものでも見るような目で、少女は男の顔を見上げた。
簒奪者にそこまで施される理由が、本気で理解できなく混乱しているのだった。

「大体なんだ! こんくらいの傷!」
だから目の前の男が上着を脱ぎ捨て、褐色の裸身を彼女の前に晒しても、
ぽかんと口を開けるだけで何もできない。
突き飛ばされるようにして、無駄に豪華で贅の凝らされた寝台に押し倒されても、
事態に思考が追いつけなかった。

「ほら見ろよ! こいつは矢傷だぞ、それとこれもな!」
彼女に跨るよう膝立ちになりながら、筋骨隆々とした己の肉体を指差す。
……少女と違い、肌の色が暗いせいで一見では目立ちにくかったが、
よくよく見ればそこかしこに、戦場でのものと思しき惨たらしい傷が刻まれていた。

「これなんか三年前にお前らんとこの弩兵に鎖帷子ごと撃ち抜かれてな!
めっっっちゃくちゃ痛かったぞ、恥ずかしい話死ぬかと思って泣いたかんな!」
示されるままに左胸の腕の付け根近くを見てみれば、
傷口を焼いて止血した痕だろう、見るもおぞましい肉の盛り上がった火傷痕の姿。
 
325いぬのおひめさま(前編):2008/09/27(土) 17:57:02 ID:R2+99A1R

「これは横っ腹槍で突かれて馬から落ちた時の傷!
こっちは砦攻めの時に背中から不意打ちで切りつけられた傷!」
そうして他にも大小様々、
帝都の社交界で日々夜会に明け暮れる貴婦人方が見たならば、
即刻卒倒して倒れるような生々しい傷痕を見せ付けた後、
「どうだ分かったか! 俺の方がずっと多いし傷も酷い!」
最後にふふんと鼻を鳴らして、勝ち誇ったかのように胸を張った。

「…………」
絶句。
文字通り手も足も、言葉さえも出ない。
鼻息荒く、勝手にまくし立てて、
か弱い女に見せるようなものじゃない代物をさも誇らしげに誇示した挙句、
何でだか偉そうに自信満々で笑っている。

「…だからそんくらいの傷、全然大した事ないわけだ」
ぽすん、と顔の両脇に手を突かれ、馬乗りに覆い被さられる形になっても、
それだから少女は抵抗の意気を奮い起こせなかった。
「…俺に比べりゃ、屁でもないんだしな」
目の前の男は、殴らない。
ぶたない、罵らない、嘲らない。

見上げる目に、見下ろす目がかち合った。
角灯の光を反射して、燃え盛る硫黄のような輝くそれは、正に悪魔の瞳なのだが、
どうしてか少女は吸い寄せられるよう、目を逸らすことができなかった。
光よりも闇になじむ指が一房、おもむろに散った彼女の髪をもてあそぶ。
そして糸の切れた人形のような彼女の腕を持ち上げると、
ゆっくりと彼女の掌に、自分の掌を重ねてきた。
そのまま硫黄の瞳が降りてくる。

警告の声は、ずっと頭の中で響いている。
彼女は白く、男は黒い。
白、鳶色、青を抱く彼女は、清らで、善な、神の側であり、
褐色、赤、黄土を持つ男は、穢れた、悪たる、悪魔の側だ。
交われば、穢れてしまう。
 
326いぬのおひめさま(前編):2008/09/27(土) 17:57:23 ID:R2+99A1R

――だが、女は『キス』というものをされたことがなかった。
してもらったことがなかった。
肉棒を咥えさせられ、轡を填められたことこそあったが、
およそ普通の夫婦や恋人がするように、ささやかな愛情の交わし合った記憶はない。
…昔、書物の中の物語を読んで憧れたのを思い出す。
悲劇の恋人達の切ない逢瀬。
竜退治の王子が悪竜を打ち倒し、眠れる姫の呪いを接吻によって覚ますのだ。
だから。

唇を重ねられても、少女は黙ってそれを受け入れた。
ぼうっとした思考の中で、舌が割って入り込んで来たのを感じ取る。
オルブは焔の民と言われるだけもあって、
合わせた掌はとても熱く、絡みついてくる舌は温かかった。
すぐにちゅ、ちゅ、という水音が聞こえ出す。
その微かな水音と、相手の柔らかな口付けに、少女は安堵にまどろんで――

――ようやくそこで、淡い恐怖を覚えた。
心地よいのである、何も感じないというのとは違って。
安らぎさえ覚えるのだ、相手は蛮族で、しかもこれから犯されようとしているのに。
苦痛や嫌悪を感じるならまだいい、痛めつけられるのには慣れている。
何も感じないのもまた許せる、人形のように機械的に、ただ役目を果たすだけなのだ。
だが、これは。

「ふ……」
相手の舌を押し出そうと押し返した舌が、しかしぬるりと絡め取られた。
結果的にそれは更なる摩擦を伴って、愛撫をより激しいものにする。
(……いや)
半身のしかかってくる男の上半身が彼女の乳房を押し潰し、重みがとても心地よい。
(ちがう、違う)
合わせた掌を握る指を、ついついこちらから握り返してしまう。
(違う、違う、違う、違う!)
心臓がとくとくと高鳴って、えもいわれぬ感情が胸中で蛇のようにとぐろを巻いた。
(私、そんな……)
 
327いぬのおひめさま(前編):2008/09/27(土) 17:58:55 ID:R2+99A1R


  叶う筈がないと、諦めながらに見ていた夢がある。
  悪い竜をやっつけて、囚われの姫を助け出しに、白馬の王子様がやってくるのだ。

「いや、ぁ」
ようやく解放された唇から、か細く震えた悲鳴が上がる。
一体全体何が嫌なのか、彼女自身にも混迷の極地でよく分からないにせよ。
対して首筋に移動した男の唇は、そのままゆっくりと舌を這わせる。
「や……」
それはれろれろと動物のように白い肌を舐めながら、ゆっくりと下方に移動して、
やがてなだらかな乳房の上を這い上がると、
耳輪の填められた乳首へと辿り着き、そこを重点的に責め始めた。
同時に反対側の乳房を、片方の手がやわやわと揉みしだく。
「ん……」
くすぐったさともこそばゆさとも付かぬ、優しくも柔らかな細波に、
耐え忍ぶかのようにぎゅっと目を閉じる少女だったが、
ふいに男の攻め手が止まり、乳房を枕にするが如く頭がぽふりと預けられた。
僅かに安堵の息を吐けたが、それも一瞬のことだった。

「――どきどきしてる?」
「ッッッ!!」
聴かれていると分かった時には、もう遅い。
心臓が跳ね上がるかのような驚愕と共に、全身がビクンと痙攣を起こす。
それは確かに徴となって、乳房に耳を当てる男の鼓膜に届いただろう。
母の胸にと身を預けるがごとく、微動だにしない男に対し、
やはり反抗らしい反抗もできず、ただただ身を縮込まらさせて震えるしかない少女。
『かつて』がそうだったのと同じように、
しょせん『家畜』の彼女にできる抵抗などそれぐらいなものなのだ。

「……最初はさ、半月くらい様子見て、友達同士から始めようとか思ってたんだけど」
対して女の胸に顔を擦りつけるように、その上で大きく伸びをした後、
「やっぱやめたわ、今から犯すな」
「……うえ?」
思わず聞き返した少女を他所に、男は勢いよく身体を起こした。
 
328いぬのおひめさま(前編):2008/09/27(土) 17:59:25 ID:R2+99A1R

「悪いなー、でも俺も包囲やら戦後処理やらで最近死ぬほど忙しくてさ。
ここ一ヶ月近く女抱いてないせいで、やっぱり溜まってんだよね」
おもむろにカチャカチャと自分のズボンを脱ぎ出す男。
例によって男の言葉についていけず、言われたい放題で固まっていた彼女だったが、
「…それに『こんな身体見て粗末なもん勃つわけないでしょ』なんて挑発されたらさぁ」
「……え?」
露になった男の下半身を目にし、泳がせていた焦点をその一点へと集約させた。
少し。
いや少しどころではなくかなり。
「……ここで勃たなきゃ男じゃないっしょ?」
「……え、ええ?」
朗らかに笑う男だったが、股間からそそり立つそれは明らかにおかしい。
色もそうだが、長さも、太さも、形状も、彼女の記憶にあるものとは大幅に違っていた。
というか、入れるものではないだろうこれは。
錯覚でなければ、胴回りが彼女の手首くらいはあるように見えるのだが。

「ん? どったの? 急に怖気づいたみたいだけど?」
ぬうっと顔を突き出してきた男が、獣のような笑みを浮かべる。
「さっき『犯したいなら勝手に犯せば?』とか言ってなかったけ? おかしーなぁ?」
「……う」
ねっとりと耳元に囁く姿が、まるで猫科の肉食獣に見える。
「だーいじょぶだって、優しくするから!」
なのに『人間』よりはよっぽど優しく、
「それに断っとくけど俺、『言うこと聞かないと民が地獄見るぞ』みたいに
女一人と領民の命天秤に架けるトコまで頭のネジぶっ飛んでもいないからさ!
安心して俺に気持ちよくされちゃっていいぞ!」
『人間』よりは、よっぽどまともだ。

「…どう…して……」
思わず女が問い返してしまうのも、無理はなかった。
欲情されていると気がついて、途端にどうしてか羞恥が込み上げ胸と股とを腕で隠した。
弄ばれ、傷つけられ、畜生以下にまで貶められてしまった自分の身体を見られたくなかった。
どうして放っておいてくれないのか。
どうして冷たくしてくれない。
自分に果たしてどれほどの利用価値があるか、他でもない彼女自身が実は一番知っている。
侯爵夫人などという肩書きとて、昔も今も形骸でしかない。
『奴隷や家畜と変わらない』という男の言葉の正しさを、誰よりも知るのは彼女自身だ。
 
329いぬのおひめさま(前編):2008/09/27(土) 18:00:25 ID:R2+99A1R

「だってあんた、可哀想だろ」
なので『空の色は青いだろ』とでも言うのと変わらぬが如く普通に男が言い切ったのは、
青天の霹靂とばかりに少女の瞳が見開かれた。
「…そんな人間に酷い目に合わされまくった犬ッコロみたいな目されてたらさあ、
なんかこう、幸せ見してやりたくなるのが男の人情ってもんじゃん?」
「い、ぬ……」
『犬ッコロ』という単語にやや強張りを見せるものの、
嫌味や侮蔑を含むでもなし、あっけらかんと言われた『可哀想』という言葉は、
頑なな岩に染み通るがごとく、少女の心を浸潤する。

自分はやっぱり、可哀想なのだろうか?
自分はやっぱり、憐れまれるような境遇にあるのだろうか?
自分はやっぱり、『犬』なのだろうか?

「それに、最初に言っただろ」
迷いの内におとがいを指で摘まれ、ぐいと顎を持ち上げられる。
猫のような目と笑みに、鳴るはずのない心臓がドキリと鳴る。
「敵国の美姫を手に入れたからって、嬲って晒し者にしなきゃダメっつー道理でもなし」
火照るはずのない奥が火照りを覚える。
疼くはずのない芯が疼きを覚える。
「身体だけありゃいいんならな、山羊のマンコにぶち込んでりゃいいんだ」
下卑た俗語にさえ反応する、卑しい己が身に赤面する。
至近から覗き込まれる男の目の輝きに耐え切れずして、少女はふるふると目を閉じた。
「俺は心が欲しいんだよ」



『犬め!』という言葉と共に、杖でぶたれた記憶が蘇る。
『犬め!』という言葉と共に、鞭で打たれた記憶が蘇る。
罵られ、蔑まれ、蹲った所で更にお腹を蹴り上げられて無様に床を転がされる。
周りの誰も助けてくれない。控える小姓や侍従達も、飛び火を恐れてただ縮こまるだけだ。
実家の身内も助けてくれない。おそらく叔父は、承知で自分をここに送った。

そういう時代だったのだ。
女は弱く、不浄とされ、貞淑であることが美徳であり、夫に逆らうのは許されなかった。
なにより対等な家柄の婚姻ではなく、彼女は名実共に『献上品』だった。
そういう時代、――『だった』のだ。

<続>
330名無しさん@ピンキー:2008/09/27(土) 18:43:02 ID:DoeWL43G
今までにないストーリー運びとキャラの明るさが魅力的ですね。
作者さんのチャレンジ魂にGJです。
331名無しさん@ピンキー:2008/09/27(土) 19:00:51 ID:zElY7mzQ
名作のヨカーン! つ、続きを〜〜〜〜!
332名無しさん@ピンキー:2008/09/28(日) 09:57:51 ID:eVM2SqBG
少女も青年もイイヨイイヨー
話は面白いし、すごい続きが気になるのぜ…
楽しみにして待ってます
333名無しさん@ピンキー:2008/09/29(月) 01:25:39 ID:JwxqfjRv
表現が過激なのにどことなく少女漫画を思わせるキャラクターや雰囲気がすごく良かったです
続き楽しみにしてます
334名無しさん@ピンキー:2008/09/29(月) 22:28:48 ID:QiiIbigB
これは面白い!
少女が幸せになれますように
335名無しさん@ピンキー:2008/09/30(火) 19:53:59 ID:MW6+eBsY
続きが読みたい…!
336名無しさん@ピンキー:2008/09/30(火) 22:31:01 ID:UOdjQL4P
は、はやくつづきを…!
337名無しさん@ピンキー:2008/10/01(水) 01:54:35 ID:Ihf84a5c
確かに鬼畜風なのに純情物語に見える!
続き楽しみに待ってます!!
338名無しさん@ピンキー:2008/10/02(木) 15:15:01 ID:Ew63vTbe
泣く姫はいねがー、悪い姫はいねがー
339名無しさん@ピンキー:2008/10/02(木) 15:23:46 ID:dgP3lsWS
わっふるわっふるわ(ry
340純一 ◆9vV3o3MEJE :2008/10/04(土) 00:31:42 ID:4gdBEo3R
arcadiaでも捜索以来出したんですけど、みなさんの力を貸してください。
・魔法使いとお姫様が主人公
・魔法使いは何らかの理由で半ば強引に姫を抱かなければならなかった
・そのため姫の従者(女)からは最初毛嫌いされていた
・抱かれることにより姫はだんだんと魔法使いに惹かれていく

・同じサイトに「籠の鳥」といったような題名の短編小説があった
・なにかの童話のパロもあったような
こんなシチュの小説だれか覚えていませんか?ちなみに下に行くほど情報が不確かです
341純一 ◆9vV3o3MEJE :2008/10/04(土) 00:39:39 ID:4gdBEo3R
ともったらむこうのサイトで解決しましだ。
ちなみに『Lの本棚ーH』の「魔女の弟子」でした
無駄レスすいません
342名無しさん@ピンキー:2008/10/04(土) 01:29:01 ID:oo61GfDc
神作品ktkr!!
続きが楽しみで寝れません後編投稿お待ちしております!
343名無しさん@ピンキー:2008/10/05(日) 22:44:43 ID:CYjDVgyf
【エロじゃない】DID系作品スレ【SMじゃない】
http://namidame.2ch.net/test/read.cgi/mitemite/1220431440/l50

囚われのお姫様に興味はあるけど、エロはどうも、という人はこんなスレはいかがでしょう
344花影幻燈(中篇)前書き:2008/10/05(日) 23:48:58 ID:Y/Hw52+z
「花影幻燈(前篇)」のつづきです。
前回、前・後篇で投下予定と申し上げましたが長くなりすぎたので三部構成にしました。
完結篇を待っていてくださったかたがたには本当に申し訳ありません。
ご感想をくださったかたがた、本当にありがとうございました。

今回も終わり方(というか続き方)の後味があまりよくないかもしれないのでご注意下さい。
また冒頭以外は延々と非エロ話がつづくため、興味のない方はスルーしてください。




345花影幻燈(中篇):2008/10/05(日) 23:55:27 ID:Y/Hw52+z
「こんばんは、お義兄様」
顔を上げると、いつのまに扉を開けて入ってきたのかエマニュエルのすらりとした輪郭が文机の雨に佇んでいた。
燭台から放たれる淡い光は書斎の闇の中にその滑らかな小麦色の肌を浮かび上がらせ、
礼拝堂の一角から信徒たちを見下ろす聖女像のようにおごそかな気品をまとわせていた。

「何を読んでいらっしゃるの?」
首を少しだけ前に傾けて義妹が問う。
湯浴みから上がって間もない洗い髪がアランの目の前で揺れ、白檀のゆかしい香りを惜しみなく漂わせる。
「この図解は黄道かしら。
 そういえば、お義兄様は自然科学のなかでもとりわけ天文学をお好みなのだと、以前姉様からうかがったわ」
夜毎の訪問だけでなく自分という女の存在そのものを忌んでいる義兄が
こういった問いに決して答えるはずがないことはよく分かっているので、
エマニュエルはひとりごとのように淡々とつづけてゆく。
アランは文机の上で両手を組み合わせ、視線を本の上に落としたまま微動だにしない。

「避暑と休息のためにこちらにいらしたはずなのに、
 昼間は離宮近郊の農村を視察なさったり、直訴状に目を通されたり、
 今日などは州長官を招聘して行政の現状を聴取なさったりと、勤勉のきわみでいらっしゃる。
 それなのに夜はまた学問に励まれるとは、君主の鑑と申し上げるべきですわね」
アランは依然として何も答えない。
しかしその伏せられた褐色の瞳の奥では、
かろうじて静けさを保ちながらも紅蓮の怒りが今に炎上せんばかりであるのは明らかだった。
その事実にエマニュエルはほとんど倒錯的な喜びをおぼえたかのように口元をほころばせる。
それは誰の目に触れたとしても、善良無垢にして自らのうちに品位を保つ高位の修道女のような微笑だと評されたことだろう。

アランは義妹のほうを努めて見まいとしていたが、
彼女が椅子の近くに膝をつきあたかも従順な婢女のようにこちらを見上げてきたので
どうしてもその微笑を視界に収めないわけにはいかなかった。
顔の造作も同じならば微笑の性質さえ妻と同じであることに彼は気づかされ、
いっそうやりきれない陰鬱な思いに身も心も浸食されてゆく。
だがエマニュエルは、義兄にそれ以上の思索を許さないかのように自らの身を彼の両膝の間に滑り込ませ、
微笑そのままの柔らかいまなざしで彼を見上げながら幼子に言い聞かせるように優しげな、しかし確固とした口調で語りかけた。

「終日の疲れを癒して差し上げますわ、お義兄様」
そして彼の帯に指をかけて銀の留め具をはずし、寝衣の合わせ目から肌着へと手を差し込み、ためらいなく彼自身を取り出した。
突如女性の滑らかな手に包まれたというだけでなく、取り出す際に彼女がその裏側にほどこした愛撫があまりに巧みであったため、
純粋な生理現象としてそれはすでに充血を始めていた。
「硬くなっていらっしゃる。待ちきれなかったのね?」
「人を、愚弄するな」
突き放すように乾いた声でアランは答えた。彼女の指使いに快感を得ているということだけはこの娘に気づかれたくなかった。

「ようやく口を利いてくださったわね、お義兄様。
 既に七日目なのですから、もう少し打ち解けてくださってもよろしいのに」
「黙れ」
腹の底からの怒気を込めた声を上げようとした途端、アランは唇を噛みしめることを余儀なくされた。
彼自身の先端は今や品のよい形をした紅唇に包まれ、
その内側では柔らかな舌が長寿によって魔力を得た蛇のように執拗な愛撫を始めていた。
円を描くように亀頭の周囲を舐めつくしてしまうと、エマニュエルは一旦口を離して義兄の顔を見上げた。
その端然とした美貌はあくまで執務中のような平静を保とうと努めていたが、
唇を噛んでいなければ今にも深い呻きと熱い息を自分の頭部に吐きかけるであろうことが、彼女にはよく分かっていた。
346花影幻燈(中篇):2008/10/05(日) 23:58:15 ID:Y/Hw52+z
「我慢などなさらなくていいのよ、お義兄様。どうかお楽になさいましな。
 もとよりこのような願望はおもちだったのでしょう。
 書物に囲まれた静謐な学究の場で淫らな奉仕を受け、
 形而下的な欲望をすっかり吐き出しては思考を純化させるという。
 けれど姉様はそのような痴戯には決して応じてはくださらぬでしょう?
 わたしたちの生国でさえ今どき珍しいほど、
 ましてこの享楽的な貴国におかれてはめったに見出せないほど生真面目で信心深いひとですものね。
 けれどわたしなら、あなたの願望をくまなく満たして差し上げられますわ。
 どれほど罪深い営みでも、どれほど浅ましい愛撫でも。
 どうしても受け入れられぬとおっしゃるなら目をおつぶりなさいませ。
 そして他ならぬ姉様が、愛する奥方がいまあなたのまえに跪き、
 あなたに歓んでいただかんがため無心に奉仕に励んでいるのだとご想像になればよろしいのですわ。
 用いている香料とて同じものですし、何も難しいことはありませぬでしょう」

「馬鹿なことを。そなたのような淫婦とエレノールを同列に並べるなどと」
「あら、最初の晩にお膝の上で『姉様』を激しく責め苛みながら何度も淫乱呼ばわりなさったのはどなたでしたかしら。
 自明の真理のように呼び慣れていらっしゃるご口調でしたわね。
 よほど時間をかけて惜しみなく開拓あそばされたのかしら。
 あの慎ましい姉様が、とわたしでさえあの晩は意外に思ったものだけれど、
 でも考えてみれば当然という気もいたしますわ。わたしと同じ血が流れているのですもの。
 精力あふれる殿方を欲してやまない淫蕩な血が」
「―――そなたは」
努めて呼吸をなだめようとしながら、アランは初めて義妹と目を合わせた。
「なぜエレノールだけでなく、自分をも貶めなければ気がすまない。
 まるで自ら泥濘のなかに身を沈めたがっているようにしか思えぬ」

エマニュエルは微笑を消した。答えを返さないまま、義兄の視線を無感動に受け止める。
しかしやがて沈黙のうちにこうべを垂れると、硬直を保ったままの彼自身にさらなる愛撫を加えんと
先ほどにもまして巧妙に口舌を駆使しはじめた。
小さな愛らしい舌で裏側を丹念に舐めているうちに先端から透明な液が分泌されてきたことに気づくと、
一滴でも床に滴り落とすことを惜しむかのようにすばやく舐め取ろうとする。
その貪欲なまでにこまやかな奉仕ぶりは否応なくアランの興奮と背徳感を煽り立てた。

そして世の男たちのそのような生理的回路を知り抜いているかのように、
エマニュエルは小さな唇をできる限り大きく開けて彼自身を根元近くまで咥えこみ、
姉姫生き写しの気品ある眉目とは水と油のように相容れぬ卑猥きわまりない音を立てながらゆっくりと吸い上げた。
この期に及んでは鋼の自制心と自尊心を以てしても喘ぎをこらえることはできなかった。
アランは右手で口を覆うことで、書斎の天井に声を響かせることだけはかろうじて免れ得た。

「姉様はこのようなことはしてくださらぬでしょう?お義兄様」
囚われの牡が限界まで反り返っているのをたしかめるようにして彼女はそれをゆっくりと口から取り出し、
義兄の下腹部から少しだけ顔を離した。
「でもわたしならできるわ。わたしには姉様のような自己欺瞞はありませんの。
 ただこの肉体が欲するままに動くだけ。
 もう一週間ほども肌を重ねて下さっているのですもの、すでにお分かりですわね。
 どうかお義兄様、そのようにお身体をこわばらせず、ご自分に忍耐を強いることなく、
 わたしを娼婦のようにお取り扱いなさいませ。そのほうがお互いに満たされますわ」

「そういう言い方はするな」
「密通を強要されている貞夫という体裁をお保ちになりたいのなら、あえてこれ以上は申し上げませんけれど。
 けれどお分かりでしょう、お義兄様。あなたのご命運はあくまでわたしの掌中にあるのだということは。
 たとえどれほど不本意でも、あなたはわたしの希望を満たしてくださらなければなりませんわ。
 わたしが中に出してと申し上げたら中にお出し下さいませ。何をおそれていらっしゃるのです?
 すでにお察しのとおり、わたしはヴァネシアの宮廷に幾人も愛人を抱えております。
 半年後にお腹のふくらみが隠せなくなってきたからといって夫が正しく見当をつけられるはずはありませんわ」
347花影幻燈(中篇):2008/10/05(日) 23:59:20 ID:Y/Hw52+z
「―――よくも平然と、そのような愚昧を口走れるものだな。
 愛妾を侍らせてそなたを省みない夫君への意趣返しとして愛人をつくるのはまだ理解できる。
 だが夫以外の男との間に努めて子をもうけ、それを継嗣に据えて恥じないかのようなそなたの言い草は、
 ヴァネシア公のみならず彼を正統な君主として戴いている臣民に対する裏切りに他ならんぞ。
 君侯の妃として確固とした自覚をもつがいい」

「―――わたしが自ら望んだ地位ではありませんわ」
「だが現にその権益を享受しているだろう。
 外国の保養地へ静養におもむくのも、若く美しい廷臣を愛人に抱え俸禄を加算してやるのも、
 そなたの身をきらびやかに飾るのも、すべて拠るところは民の―――」
「わたしにどうしろと?他に行くところなどないからよ!」

突如荒げられた白銀の鈴のような声は、彼らふたりを包み込むようにしばらくその余韻を宙に漂わせていたかと思うと
書斎の最奥部へとゆっくり吸い込まれていった。
「失礼いたしました」
エマニュエルはぽつりと呟き、そしてまたアランの顔を上目遣いに覗き込んだ。
その漆黒の瞳はすでに穏やかさを取り戻していたが、しかし同時に、不気味なまでに平板な色を感じさせた。
「どうかこれ以上、わたしの不興をこうむるような言辞はお控えくださいませ。
 さもなくばじきに、あなたが最もお避けになりたかった事態が出来いたしますわ」
そしてアランの反駁も許さぬかのように彼のものをしっかりとつかんで口に運び、先走りの汁を滴らせるその先端に接吻した。
「どうか一滴も無駄になさらず、わが口にも秘所にもあなたのものを余さず放ってくださいませ。
 これはお願いではありません。わたしたちの『契約』に正しくのっとった義務のご履行を促しているだけですわ。
 あなたの白いものでわたしを奥まで満たして、―――汚しきってくださいませ」




348花影幻燈(中篇):2008/10/06(月) 00:01:30 ID:lYRTjulg
かすかに衣擦れの音を伴いながら、エマニュエルが窓辺に近づいてゆく足音が聞こえた。
熱気と情事の余韻が籠もった室内の空気を入れ替えようというのだろうか。
アランは寝椅子に横たわったまま、寝衣を胸元で掻きあわせただけの姿でひとり天井を仰いでいた。
昼間に見たならば鮮やかな彩色が施されているはずの広々とした方形は、
この真夜中にはただ漆黒の覆いの内側で沈黙を守るばかりだった。
やがて山麓特有の澄んだ空気が火照りの残る肌を優しく包み始めたころ、エマニュエルもゆっくりと彼のほうへ戻ってきた。
「お義兄様、お顔色が優れないわ。せっかくのご明眸が台無しに」
「離れよ」

甲斐甲斐しい新妻のように彼の額にかかった乱れ髪を掻き上げようとする義妹の手を払いのけながら、アランは短く言い放った。
「そろそろ好意を受け入れてくださってもよろしいのではなくて?」
別段気分を害するでもなく、気怠さの残るゆったりした声で問いかけると、
エマニュエルはいとおしそうに義兄の形のよい唇に長い接吻を落とした。
その真意はむろん親愛の表明などではなく、
彼に己の立場が虜囚にすぎないと思い出させるための示威行動であることは言わずもがなの事実であった。
義妹が顔を離すや、彼は袖口で口元を拭った。
そのようすを見ながら、エマニュエルは依然として淡々とことばをかけた。

「かえすがえすも律儀なかたね。
 ここにはわたしたちふたりだけなのだから、あなたもお気持ちを入れ替えてお愉しみになればよろしいのに。
 わたしと姉様が寸分違わぬ顔に見えるのは今でも同じことでしょう?
 ならば姉様が―――あなたの愛する貞淑な奥方が今だけは夜毎娼婦のように振る舞ってくれる、
 そうお考えになればよろしいのですわ」
「馬鹿な」
「愚かなのはどちらかしら。
 伝え聞いたところでは、お義兄様はご婚約時代、ひいては結婚後も姉様がかの侍従に操を立て契りを拒んでいるうちは、
 宮廷の内外で相当な風流貴公子ぶりを発揮しておられたご様子。
 そのころのことを思い出されませ。
 身元さえも知れぬ女人と枕を交わすことには常に新鮮な情趣が伴ったことでございましょう。
 それこそが生の歓びというものですわ。
 姉様に伺ったところでは、あなたは本来、信仰や戒律を日々の拠り所とされるかたではあられぬのでしょう。
 女々しく思い煩うのはお止めになり、割り切って官能の歓びを追求なされませ。
 それでこそ地上の一切の苦悩は救済されるのですわ」

アランはふと顔を動かし、だいぶ弱々しくなった灯火にぼんやりと映し出されている黒髪と端麗な横顔を眺めた。
寝椅子の傍らの安楽椅子に腰掛けたエマニュエルはすでに寝衣の帯を締め、
悩ましく乱れた豊かな髪を白銀の櫛で流れるように梳いていた。
これもやはり東洋の名匠の手になる極上の舶来品なのであろうか、
彼女の腕が上から下へと優美に下ろされるたび、うねるような漆黒のなかに月華のかけらにも似た白い粒子が気まぐれに煌めいた。
義兄が初めて自らこちらを向いたことに気づき、エマニュエルは動作を止めた。
しかし表情の落ち着きは変わらなかった。

「いかがされました」
「救済と言ったか」
「ええ」
「本心からの、信条か」
「世の理に目を向ければ、誰もがいずれはたどり着く結論ですわ。それが何か」
「―――何でもない」
短く答えるとアランは寝椅子の上で寝返りをうち、今度こそ義妹に背を向けた。
349花影幻燈(中篇):2008/10/06(月) 00:03:40 ID:lYRTjulg
七日前に「契約」を交わして以来、彼らはこうして別れを告げるのが習いになっていた。
互いの身体を離した後はアランは常に義妹から顔を背け、
その艶やかな肌から情欲の残滓が拭われる様もしなやかな肢体が優雅に寝衣を羽織る様も、決して見届けようとはしなかった。
殊に、エマニュエルの囁きに促されたごとくに、交わりのさなかふとした瞬間に一種異様な興奮を
―――それはむしろ倒錯と呼ぶべき奇妙な感覚だったが―――覚えてしまったときなどは、
身体を離したあとに彼女を視界に収めたくないどころか、
文字通りその存在を地上から消し去りたいと願わずにはいられないほどの狂おしい後悔と憎しみに苛まれるのだった。
今夜はそのような倒錯的歓喜は免れえたものの、彼女の望むがままにその口に秘所に精を放ち、
あまつさえ事後にことばをかけてしまったことで、アランは今さらながら形容しがたい自己嫌悪の念にとらわれた。

さらにまた、あと数時間もすれば朝餐の席でエレノールと顔を合わせねばならない。
妻は乳母に付き添われているルイーズのようすに目を配りながらも、
今日は妹とどのように過ごすつもりかをアランにうれしそうに話すだろう。
今さっき彼の精液をためらいなく嚥下し、
引き出せる快楽は余さず引き出そうと彼の膝の上で腰を打ちつけ続けたその妹との予定を、彼女が居合わせる食卓で。

(気を、強くもたねば)
エレノールの心の安定を守るどころか、このままでは俺が精神を危うくしかねない。
両手を額に当て、アランは何とか平静を取り戻そうとした。
だが自分を暗い淵から引き戻そうと思えば、浮かんでくるのはエレノールの柔和な面影ばかりだった。
幼いルイーズに向ける微笑、
義理の弟妹たちが騒動を惹き起こすたびに浮かべる困惑と心配、
御苑で早咲きの薔薇を見つけたときの歓喜、
そしてアランの身体の下であられもない声を上げて果てたあとに見せる、自らの乱れぶりに消え入らんばかりの恥じらい。

(―――あれをこれほどに想うことさえなければ)
アランは静かに唇を噛んだ。
政略のために娶ったにすぎない妃をここまで真摯に愛することさえなければ、今回のことは単に刺激的な情事になりえただろう。
エマニュエルの説くとおり、官能の欲するままに義妹との交情を、かつてない愉悦を堪能できたはずなのだ。
世の習いからいえば、背徳的な関係ほど人の興奮をより深くより熱く駆り立ててゆくものなのだから。

そうだわ、と思い出したように呟くエマニュエルの声が静寂を破った。
「明晩は参りません」
「――――そうか」
天恵のように降り来たった安堵に包まれながら、アランも短く無関心に答えた。
義妹の行動を把握しておきたいがためにその理由を問いただしたい気もしたが、
あえてそれを口にすればまるで彼女の不在を惜しんでいるかのようで、彼は結局何もつづけなかった。
身支度をすっかり整えたエマニュエルが音も立てずに扉のほうへ向かいかけたとき、アランはようやくその理由に思い至った。
しかしそれがあまりに意外であったため、つい口から問いが漏れた。
「明後日に参拝を控えているためか」
エマニュエルは何も答えず、振り向いて義兄を一瞥することもせずそのまま扉に手をかけ、やはり音も立てずに出て行った。
品よく伸ばされた背筋はもちろん、小粒の真珠を散りばめた金鎖で軽くまとめられた髪の長さまで
エレノールと寸分違わぬ義妹の華奢な背中が暗闇に消えてゆくのを見届けてから、アランはゆっくりと寝椅子の上で起き上がった。
書棚の列の合間から見える窓に目をやれば、白々とした黎明の気配がわずかだがすでに感じられた。

(案外信心深いものだ)
姦淫の正当などを説いておきながら、とアランはぼんやり霞むような頭で思った。
明晩は聖域に詣でる前夜であるから、潔斎を守り罪深い行いは慎むというのだ。
総じて現世の生の充足を追求することが奨励され退廃的な空気を色濃く漂わせるガルィア宮廷で生い育ってきたアランにしてみれば、
昨年ついに僧籍に入ってしまった三弟ルネを除けば、
神の名において定められた戒律をそこまで厳格に履行しようとする人間を身辺に見いだしたことはほとんどなかった。
それゆえに義妹のこのような一面にふと触れてみると、
いかに激しく姉への憎悪を吐露するとはいえやはりエレノールと同じく、
聖人聖女や彼らにまつわる聖地を心から崇敬し聖遺物の収集に尽力してやまないスパニヤ王家の血が流れているのだな、
と今さらのように思い起こされた。
350花影幻燈(中篇):2008/10/06(月) 00:06:55 ID:lYRTjulg
ここレマナの地は比較的なだらかな山岳地帯より成り、ガルィア王家の離宮はその山間に広がる小紺碧湖のほとりに建てられている。
小と名がつくとおり別の山間には本来の「紺碧湖」と称される湖があり、
さらにいえばこの一帯は山頂や山間、山麓とを問わず大小さまざまな美しい湖沼に恵まれていた。
滴るようにゆたかな緑と透き通るような湖水、さらにそこへ万病に効くとされる鉱水の発見が加わって、
レマナはいまや国内外に名高い一大保養地であり、王家からひときわ深い愛顧を賜る王室直轄地のひとつでもある。
近隣の農村には離宮の増改築のための徭役が課せられているものの税制上は優遇措置がとられており、
また土地全体が水利に恵まれているため住民の暮らしはまずまず豊かである。

だが偉大なる創造主の格別な恩恵を受けて久しいかのように見える風光明媚なレマナの地も、
隣国との戦後条約によりガルィアの版図として確立されるほんの百五十年ほど前までは
大国の狭間に位置する主なき土地として紛争地帯の悲哀を底まで舐めつくし、
度重なる戦火と暴徒による略奪、そして両国の軍隊による威圧行動に住民は疲弊しきっていた。
ことあるごとに男手が動員されるため山肌に開墾された畑は荒れ果て、
漁撈用の船や網の修繕さえも省みられることがない。
ことに全大陸的に疫病が流行したその年、レマナの多くの農家では生産力を有する年齢に達した子女を養うことが限界となり、
不運にも生まれてきた赤子や乳離れしてまもない幼子の多くが人知れず山奥に捨てられては命を落とした。

現在王家の離宮が聳え立つ小紺碧湖のほとりからほど近いところに、山向こうへと通じる正規の街道があり、
その途中で分岐する小径のひとつが山中のとある洞窟へとつづいている。
そこもやはり件の年に近隣の山村の住民たちがしばしば子捨てのために訪れた場所であった。
洞窟の最奥部は大人の腰のあたりまでくぼんでいるため、
乳飲み子はもちろん体力の衰えきった幼子がそこから抜け出すことはまず不可能と考えられたのだ。
住民からは「暗き柩」と呼ばれるそのくぼみの底へ、ある日ひとりの男児が涙にくれる若い母親の手で降ろされ、
聖人の加護を祈る護符とともにただひとり取り残された。

数日たったころ、せめて埋葬だけでもしてやりたいと痩せ細った足でふたたび洞窟を訪れた母親が目にしたのは、
背中に羽根を生やしゆったりした服をまとったこのうえなく美しい人間、
男とも女ともつかない見知らぬ人間の腕に抱かれて眠る我が子の姿だった。
彼女が洞窟にこだまするほどの驚きの叫びを上げると羽根をもつ人物の姿は消え、後には安らかに眠る男児だけが残された。
天使の降誕はあるいは幻覚かもしれなかったが、幼い息子が「暗き柩」から逃れ出たこと、
そして洞窟内の岩壁からいつのまにか沸き出でていた鉱水により渇きを癒し、
洞窟の入り口付近に立つ山葡萄の木から落ちた実によって飢えをしのいだことは事実であった。
不思議なことに、近隣の村人は誰一人その鉱水と山葡萄の木の存在を知らず、必然的にその幼子が見出した
―――言い換えれば創造主が彼の延命のために賜ったのだということになった。
その後も男児はこれまで誰も知らなかった鉱水が流れ果樹の群生するところへと大人たちを導き、
近隣の村々を病や飢えから救ったのだという。

そして彼は十五のときに自ら山奥の修道院の門を叩き、
生い立ちにまつわる神秘的な伝承に驕ることなく学問と修身に励んだばかりか、
その徳行と学識により教会の中央組織から莫大な聖職禄を伴う地位を打診されたときも毅然として断り、
終生粗衣粗食を貫きながらここレマナの地で人々への奉仕と両国の紛争回避に尽力したと語り伝えられている。
その高僧は没後ほどなくして聖人の認定を受け、今では聖リュシアンと呼ばれ国中から広く敬愛を集めている。
351花影幻燈(中篇):2008/10/06(月) 00:10:27 ID:lYRTjulg
教会の認定を受けた聖人聖女は通常、生前起こした奇跡にちなんだ守護対象をもつことになっているが、
聖リュシアンもその例に漏れなかった。
今では一般に樽職人および果樹園主の守護聖人として崇められており、
彼の命日には山葡萄をかたどった木の彫り物を作業場や果樹園の門前に提げる例が広く見られるが、
一方ではまた、「見捨てられし者、忘れ去られし者たちの守護者」とも呼び慣わされている。
そしてかの鉱水が沸きいづる洞窟は彼の生前から奇跡の地として徐々に近隣の村人たちの信仰を集めるようになり、
今ではガルィア国内外からあまたの信心深い人々、苦悩を抱える人々を迎え入れる国際的巡礼地のひとつである。

教会の調査により洞窟全体が聖域と定められているが、
殊に今も脈々と湧きいづる鉱水は、生まれてまもない幼子に健やかな肉体と魂を約束するものとして
多くの年若い父母たちを惹きつけている。
王太子夫妻が娘ルイーズを伴って明後日に参拝を予定しているのはまさにその洞窟であった。
そもそもが敬虔な信仰生活とは縁遠いアランは、高名な巡礼地が離宮近郊にあるからといって大した感興を覚えるでもなかったが、
エレノールの熱の入れようはまるで対照的で、
「去年はルイーズが幼すぎて避暑地に伴うことができなかったのだから
 今年こそあの子に聖リュシアンのご加護を乞うてあげなくては」
と都にいるころから何度となく夫に力説するほどであり、
彼女の意向により洞窟への参拝はだいぶ前から離宮滞在中の予定に組み込まれていた。

しかしエマニュエルを離宮に迎えた後、
妹を聖地に伴ってゆきたいという懇願をアランは妻から聞いたことがなかった。
その代わり数日前、まだ彼が義妹と関係を持つ前に、
「エマニュエルがわたくしたちとともに参拝したいと申しておりますが、よろしいかしら」
という妻の控えめな問いにとくに深く考えることもなく肯定を与えたことだけおぼえていた。
考えてみればこれは奇妙な次第だった。
エレノールは湖水での舟遊びさえ妹を伴わなければ出かけようとしないのだから、
巡礼のような晴れの行事とくれば、何をおいても彼女を誘いたがるはずなのだ。
それがどうやら今回はエマニュエルのほうから願い出られ、それを消極的に、どこか困惑しながら受け入れたかたちらしい。

聖地の参拝者にはとりたてて資格が求められるわけではない。
老若男女、病人や貧民、盗賊や娼婦たるを問わず、
救済を求めてやまない誰をもその懐に受け入れるのが他ならぬ奇跡の地の役割なのだから、それは当然のことである。
エレノールはエマニュエルを参拝者として不適格だと見なしたのだろうか。
それとも単に、愛娘の祝福の儀を夫婦ふたりだけで執りおこないたかったのか。
彼女が妹を己の半身のように慈しみむしろ尊んでさえいるという事実に鑑みれば、どちらも説得力のない仮説だった。

(―――考えても仕方がない)
アランは小さく首を振った。その日はたまたま姉妹で口論でもしたのだろう。
仲がよい兄弟姉妹ほど容易に喧嘩し容易に仲直りするのは無理もない話である。
そういえば、とアランはふいに思い出した。
明日はエマニュエルの訪れがないことに安堵して終わるわけにはいかず、
彼自身もまた斎戒を守らねばならぬのだった。
明後日の参拝の主役は二歳に満たない娘ルイーズであるが、
彼女に付き添う父母としてアランとエレノールは房事を控えるのはもちろんのこと、
食事もパンとオリーブと葡萄酒のみにとどめ、日没後に二回沐浴して身を清らかに保っておく必要があった。
(清らか、か)
その一語を脳裏に反芻すると、彼は今夜の営みの代償そのもののような激しい疲労に襲われた。
エレノールは最後まで気づかぬかもしれない。
だが聖リュシアンは、あるいは天は、果たして俺を許すだろうか。
深い眠りに沈み込みながら、アランは初めて祈るという行為の意味を知った気がした。


352花影幻燈(中篇):2008/10/06(月) 00:16:09 ID:lYRTjulg
朝靄は白亜の壁のように立ち込め、馬車がそのなかを進もうといくらも動じる気配はなかった。
御者台の一隅に座を占めお抱えの御者が手綱を振るう音を聞きながら、
山間の早朝とはこういうものか、とアランはひどく清新な思いに打たれていた。
後方の絹張りの座席には妻と妻の妹が並んで歓談している。
今日の主役であるルイーズはといえば乳母とともに後続の馬車に乗せられ、
耳を澄ませている限りではむずかりもせずいい子にしているようだ。

本来ならアランこそ談話の主人役となるべきであったが、彼はむろん後ろへ赴いて妻たちに加わるつもりはなかった。
山道が岩がちになってきたためかふと馬車が大きく揺れ、息を呑みこむような女たちの声なき悲鳴が空気を震わせた。
アランは慌てて振り返ったもののむろん左右の頑強な手すりを越えて落ちた者などおらず、
一対の鏡像のような姉妹たちが肩を寄せ合いながら笑いさざめいているのが見えただけだった。
エマニュエルの両手が、エレノールを車上につなぎ止めるかのようにその胴体にしっかりと掛けられている。
こうしてふたりはしゃいでいるのを目にすると、一児の母と人妻どころかまだろくに宮中から出たこともないほんの少女のようだ、
とアランは一瞬不思議な気持ちに襲われたが、すぐにまた、形容しがたい陰鬱さに包まれた。

―――あの女は夜毎あのような振る舞いに及びながら、なぜ今こうしてエレノールの身を案じることさえできるのか。
しかも姉の身体を支えようとしたのは作為的なそぶりではなく、明らかに反射的に出たかのように見えた。
(女は分からぬ)
微笑ましいというよりむしろ暗澹たる思いに呑み込まれそうになりながら、
アランは努めて周囲の景色に注意を向けようとした。
山間にある離宮近くの湖畔とは違い、薄暗い山中に分け入っていくこの道はさほど景勝に恵まれているわけではないが、
国王の衛士のように左右に密に茂る草木と朝靄とを貫くようにして姿を見せ始めた黎明の荘厳さは、
やや眠気に襲われがちな王太子夫妻一行を刮目せしむるには十分だった。

御用馬車はある三叉路で脇に入り、今までにもまして岩がちな道を進んでゆく。
道幅が急速に狭まったため、ここまでその左右に付き従ってきた騎馬兵たちは
やむを得ず御用馬車の前後に回り込み、新たな護衛配置に就いた。
山越えをする本道ではないのに一応の馬車道が敷かれているのは、
教会の意向を奉じたガルィア政府により巡礼路として認められ舗装の対象となったがゆえである。
大抵の巡礼者は徒歩で悪路に耐えながらはるばるレマナを訪れることに加え、
老人や病人には近隣の修道院にて乗合馬車が提供され、
また富貴の者たちの多くは自家用の馬か馬車で乗り付けるのが常であったから、
巡礼路の整備維持はまさに不可欠な公共事業だった。
この少し先は荒々しい岩肌に閉ざされて行き止まりになっているが、
その隅には大人がようやく入れるほどの小さな洞窟が口を開け、
件の伝承の舞台につづく細長い道を万人に開放していた。

そしてアランたちが本日あえてこのような時刻に参拝に訪れたのは、
「王太子夫妻ご参拝」のお触れによって
遠路はるばる聖地を踏みにきた信心深い平民たちを無碍に追いたてるような事態を避けるためだった。
実際、薄まりつつある朝靄のなかで見晴るかすかぎり、馬車道の両脇に広がる歩道には人影らしい人影もほとんどなかった。
353花影幻燈(中篇):2008/10/06(月) 00:17:14 ID:lYRTjulg
「こちらで下車していただくことになります」
王太子夫妻の接待と道先案内を司るため、ここからほど近い山間の修道院
―――聖リュシアンが後半生を送ったまさにその修道院より遣わされてきた副院長が穏やかな声で告げた。
道の両脇に山葡萄の木が腕を伸ばすこの地点から洞窟までは、すでに前方に岩壁が見えているとはいえまだいくらか隔たりがある。
しかし聖人への表敬作法は世俗の君侯とて従容と受け入れるのが当然であり、
アランたちは老僧のことばどおり最後は徒歩で聖域の入り口へと辿り着いた。
外界が徐々に朝の陽光に包まれつつあるだけに、洞窟のなかは別世界のように冷然と感じられた。
番僧の手により常に火が灯されているらしく、
最奥部にゆらめく明かりが入り口付近からでもすでに窺われ、ほのかに足元を照らしてくれる。
洞窟自体がそれほど深いつくりではなく通気もよいため、訪問者たちが煙で燻されるということはない。

エレノールは乳母の腕に抱かれたルイーズの小さな顔を覗きこみながら、
この子にはもう少し厚着をさせてあげればよかったかしら、と案ずるかのようにそっと額に接吻すると、
ぬめりがちな足元に気をつけながらアランとともに副院長の先導に従った。
その後ろにはエマニュエルと乳母と護衛たちが、さらに恭しく間をおいて従僕たちがつづいてゆく。

広く語り伝えられているとおり、聖なる鉱水は洞窟の突き当たりの何の変哲もない粗い岩壁から突如として湧きいでていた。
大人の胸ほどの高さにある穿孔から糸紡ぎのように細々と流れ落ちる清水は、
少し下のほうに突き出ている水盤めいた形状の岩に受けとめられたのち、再び岩壁の隙間に染み込んでゆく。
静寂の底に奏でられる水音は聖リュシアンそのひとのように穏やかで調和に満ち、
聖域にて粛然と襟を正していた一行の心を解きほぐしてくれるかのようだった。

湧き水の周囲には囲いらしい囲いもなく、巡礼者たちが蝋燭や貴金属などを奉納するための祭壇もなかった。
いくら清貧を以て称えられる聖人ゆかりの地とはいえ、あまりに簡素なしつらえにアランはやや呆気ない思いにとらわれたが、
エレノールはあくまで厳粛な面持ちで進みいで、老僧に促されるまま地に跪いて祈りを捧げ、次いで流れ落ちる鉱水に指先を浸した。
それを合図にルイーズを抱いた乳母が歩み寄り、幼子の頭部を恭しく王太子妃のほうに向けると、
エレノールは額、首、右肩、左肩の順で娘の身体に触れてゆく。
最後にもう一度指先を濡らして額に触れ、以て儀式の締めくくりとした。
この一連の流れは近親者に祝福を授ける作法としてはガルィアの一般的なそれとは若干異なっており、
ゆえに王太子妃かつて王室付き司祭より厳しく咎められたこともあるのだが、
信仰の本質に関わる問題ではないとしてアランは妻に矯正を強いることはなかった。
実際、ガルィアの廷臣や民の不興を買うほど頑なにスパニヤの流儀を通そうというのでない限り、
エレノールが生国にいるときと変わらず心安らかに過ごせるよう極力取り計らってやりたいものだ、
というのが彼の偽らざる思いであった。

エレノールが一歩退くのと入れ替わるようにしてアランは進みいで、
細かい順序や仕草には違いがあるものの、ほぼ同様の流れにのっとり鉱水の滴りによって娘に祝福を与えた。
少量だとはいえ冷え切った水を何度も降り注がれるのであるから
ルイーズはよほど儀式の途中で泣き出すのではないかと思われたが、
意外にも不思議そうな面もちで両親の仕草をじっと見守っているだけだった。
肩まで伸びた黒髪は母親と同じ艶やかさを示しているものの、透き通るような青緑色の双眸はアランの母后譲りであり、
そのまなざしに触れるたび、アランは愛らしく思うというより心慰められる心地がしたものだった。
だが今は、妻への背信と周囲への欺瞞に首まで浸っていながら平然と聖域を訪れた我が身の不遜を、
この無垢なまなざしは何もかも見通しているのではないかという虞れが何より先に彼を襲った。
生まれてまだ間もない幼子ほど罪から遠く神に近い者はいない。
アランは娘と目を合わせるのを最後まで避けた。
354花影幻燈(中篇):2008/10/06(月) 00:18:46 ID:lYRTjulg
「わたしにもお許しいただけるかしら」
義妹の控えめな問いかけに彼ははっとして顔を上げた。
彼女から話しかけられるのは今日初めてのことである。
だが一息間を置いて聞き返してみればそこに何も含意はなく、
エマニュエルは姉夫婦が儀式を終えたのを機に自分も姪に鉱水の祝福を授けてよいかと許可を請うているだけだった。
「貴意のままに」
アランは短く答えてそのまま義妹から目をそらしたが、エレノールの返事は少しだけ間が開いた。
違和感を覚えてアランが見やると、先ほどまで厳かに引き締められていた妻の顔はかすかだが驚きを浮かべているようだった。

「―――ええ、もちろん。うれしいわ、マヌエラ。ありがとう、ルイサのために祈ってくれて」
そう言うとエレノールはいつもの柔らかい微笑を浮かべたが、その実彼女の動揺がかなり深いものであることは、
今はアランを交えた三人で話をしているはずなのに唐突に母国語に戻ってしまったという異状からも明らかだった。
母后がスパニヤ王家の出身であるためアランもその国語に関してはそれなりに教育を施されており、
文語での読み書きはもちろん、会話を主導できるとは言わないまでも口語もある程度は理解できる。
それを知っているエレノールが夫から何かを隠すために母国語に切り替えようなどとは思いつかぬはずだし、
何より今の彼女の返答にはアランに聞かれて困る点など何もなかったはずである。
つまるところ、妹のことばにあまりに気をとられたがため、
本来この場で口にすべき夫の母国語ではなくエレノール自身にとって最も自然な言語が口をついて出た、ということなのだ。

(だが、なぜだ)
エマニュエルの申し出には何も奇妙なところはなかった。
近親者の幸福を祈ること、とりわけ年若い叔母が愛くるしい姪のために祝福を授けることなど
身分の貴賤を問わずどんな家庭でも自然におこなわれ受け入れられていることである。
エマニュエルは一歩前に進み出で、姉夫婦と同様に冷たい鉱水に指先を浸した。
(まさか)
アランはある危惧に駆られて義妹の動作を凝視した。

わたしは姉様を憎んでおります。
アランの牡を貪るように愛撫しながら、彼女は何度となく言った。
そしてそれが真情だということはもはや疑いようがなかった。
ならば、エマニュエルの憎しみがルイーズの上にまで及んでも決しておかしくはないはずだ。
エレノールの幸福の最大の源、彼女の生活を日々満ち足らしめているその小さな命の上に。
エレノールはよもや、最愛の妹が自分に苛烈な憎悪を向けているなどとは微塵も気づいていまい。
だが母親としての直感で、妹がルイーズに対し何らかの害意を抱いているのだと、たった今悟ったのではないか。
アランは再び妻を見やった。彼女もやはりどこか緊張しながら妹のなすところを眺めていた。

だが予期に反して、エマニュエルは悪霊の力を呼びだすとされる禁忌の仕草をしたり呪詛を吐くわけでもなく、
ましてルイーズの首に手をかけるでもなく、非の打ちどころのない粛々とした挙措で以て祈りに入った。
彼女が優雅に踏襲してゆく作法のひとつひとつはアランにも馴染み深いものであったが、
全体としてはスパニヤのものでもガルィアのものでもない独特の順序―――恐らくはウァネシアの流儀に則っているものと考えられた。
エマニュエルはルイーズに祝福を与えるとまた一歩後ろに下がった。
しかしそのまなざしが姪の顔から逸らされることはなく、
まさにこの鉱水のようにひそやかに注がれつづけていることがアランにも分かった。
355花影幻燈(中篇):2008/10/06(月) 00:21:06 ID:lYRTjulg
「マヌエラ様は、すっかりあちらのお作法に染まってしまわれたのですね」
ルイーズを抱いた乳母がスパニヤ語でぽつりと呟いたのは、
幼子の心身に聖人の加護を乞う儀式が無事に終わり、
一同が再び副院長の先導のもと洞窟の口に向かって歩き始めたときのことだった。
「―――そうね」
つい習慣が出てしまったわ、とエマニュエルは穏やかに答えた。
彼女に語りかけた人の好い中年の乳母はエレノールが輿入れの際に生国より伴ってきた随員のひとりであり、
王女姉妹自身の乳母ではないとはいえ、恐らく幼少時からふたりに親しみ身辺の世話をしてきた身なのであろう。
年配者であればあるほどものごとの変容に感傷を抱きやすいのは当然であり、アランはとくに気に留めることなく聞き流した。
ふと傍らのエレノールが振り向き、妹姫に語りかけるのが聞こえた。

「何だか寂しいわ」
「姉様ったら、子どものようなことをおっしゃる」
「だって、あなたがすっかりあちらの人になってしまったのだと思うと」
「嫁ぎ先の家風なり国風なりに合わせて自らを変えていくのは務めではありませんか」
「でも……、ねえマヌエラ、わたくしたちがスパニヤで共に培った習わしも、どうか忘れないでいて。
 そうでなければ、きっとお父様お母様も寂しくお思いに」

「レオノール妃殿下」
かすかに刺を含んだ若々しい声が王族たちの背後から上がった。
「大変僭越ながら、そのような思慮に欠ける言辞はお控えください。
 ヴァネシアの国俗を習得し我がものとして受け入れるためにマヌエラ様がいかほどのご辛労を重ねてこられたことか―――」
「おやめなさい」
エマニュエルの短い命令で発言の主はまた自らの隊列に戻った。

アランが振り返って見やると、
それは今回の参拝に際してエマニュエルが自らの従者たちのなかからただひとり同行させた青年だった。
鍛え上げていながらもどこか骨ばった体つきに加え、面立ちのほうもいまだ少年の趣を残してはいるが、
貴人の血が感じられる眉目はまずまず整っていた。
ことに濃い栗色の髪に淡い緑色の瞳がよく映えている。
ただそのまなざしだけは初々しい顔の輪郭に不釣り合いなほど尖鋭な印象を見る者に与えた。
あるいは今だけに限った険しさなのかもしれないが、
エレノールの発言はそれほど深く彼の憤慨を揺り動かしたということなのか。

先ほどのスパニヤ語の会話からも明らかなように、
彼はヴァネシア出身ではなく第三王女の輿入れに従って祖国を後にした随員のひとりなのだろう。
王族の随員といっても下働きから廷臣までさまざまだが、彼の挙措やことばづかいは名家の素養を感じさせる。
だが父兄の威光を背負い将来の栄達を約束されている貴公子と見るにはその身なりはあまりに慎ましく、
今日の参拝においては護衛たちの列に身を置いているという事実からしても、彼の序列は窺い知ることができた。
恐らくは中下流貴族の庶子か、とアランは見当をつけた。
356花影幻燈(中篇):2008/10/06(月) 00:22:08 ID:lYRTjulg
妻の母国はその民びとの敬虔さと聖職者の強権ぶりで名高いとはいえ、
王侯貴族が愛人を抱えるのは他国と同様に当然のこととされており、
またその結果として生まれた庶子を神の祝福によらざるものとして疎む傾向が強いのも他国と同様であった。
彼らは正妻の子たちと対等な相続権を主張することはおろか父の姓の継承さえ許されないのがふつうだが、
身分相応の経済力を誇る大貴族の家ならば、嫡子たちとは別に
「祝福されざる」子どもにも何がしかの領地や財産を分け与え新興貴門としての地位を保証する例もしばしば見られた。

だが大抵の家庭では庶子に対しそこまで寛容な待遇がとられることはなく、
そもそも父親である家長自身が家産の分散や奥方の不興を被る事態を嫌って庶子を厄介払いしたがる傾向が強い。
その方策のひとつとして王子の親征や王女の出嫁の際に「祝福されざる」我が子の身柄を差し出し、
王族の側仕えという誉れとともに辺境や異国に追いやり終生をそこで送らせる、というのはよくある話だった。
エレノールが母国から伴ってきた侍女たちのなかにも、
明らかに名家の育ちでありながら貴族身分を示す辞が姓に冠せられていない者が何人かおり、
この若い男の出自もおそらくはそんなところであろうと思われた。

生まれはさておきこの凛として瑞々しい存在感からすれば、
並み居る随員のなかで王女エマニュエルの目に留まり
空虚な結婚生活を補う愛人のひとりとして彼女との距離を縮めたのだとしてもおかしくはない。
そして年若い寵臣であればなおさら、自らの忠心を王女に知らしめんがため、
また王女によって保証された自らの重みを確かめんがため
人前で声高に強硬に主人を擁護してみせるのは無理のないことだとも思われた。
だが、とアランは訝しんだ。この男はエマニュエルどころか女そのものを知らないように見える。
別に根拠があるわけではないが、エレノールひとりを妻と定めるまでさまざまな女を渉猟してきた彼は、
単に女たちの類型だけでなく、女の生々しさから遠いところにいる男、女色を知りそめて耽溺する男、
ひいては惰性で色事をつづける男たち等の識別にも慣れているつもりだった。

(無私の忠臣か)
肉欲に汚されない愛と称して美しい貴婦人に一定の距離を保ちつつ賛美を捧げる者たちが
世の中に少なからずいることはアランも了解している。
懐疑的ではありつつも彼は青年の立場をなんとなく理解したように思った。
しかし同時に、この男はエマニュエルのような女には青すぎるのではないかとも思った。

許可も得ていないのに発せられた青年の諌言は僭越というよりほとんど不敬の域に達しており、
エマニュエルが制止したのも当然のことではあった。
だがエレノール自身は怒るでもなく、むしろ指摘されて初めて気づいた自らの短慮を悄然と悔やむような、
少女のようにいたたまれなさそうな表情を浮かべていた。
「まあ、ごめんなさい、マヌエラ……わたくしそんなつもりはなかったの。
 ただあなたが、遠い人になってしまったと思うのが寂しくて」
「いいのよ、姉様。分かっておりますわ」
微笑を含んだ穏やかな声でエマニュエルは答えた。
「姉様はお変わりでないことが、わたしはうれしいわ」
普段は感情を抑制しがちな妹姫からの愛情の言明に、エレノールはたちまち喜色に染まったのがアランにも分かった。
だが彼は妻の思いとは裏腹に、背筋の強張るような冷ややかさを義妹の声のうちに感じていた。
357花影幻燈(中篇):2008/10/06(月) 00:24:02 ID:lYRTjulg
(この女と共にあることでエレノールが満ち足りるのなら、俺が言うべきことは何もない)
諭すように自らに言い聞かせながら、アランは一行に先んじて馬車を停めた地点に着いた。
留守居を務めていた御者は主人たちの帰還を知ると羽根つきの帽子を脱いで敬礼し、後部座席の昇降口を恭しく開く。
先に車中に昇って妻と義妹との乗車を助けると、アランは座席から降りて前方の御者台に向かった。
アランはむろん、帰路も妻たちの談話に加わるつもりはなかった。
御者もそれと心得て主人の登台を助けるべく待機している。

「あら、お義兄様、お帰りの道くらいわたしたちと同席してくださればよろしいのに」
やや咎めるようなエマニュエルの声が背後から聞こえた。
それも実に遺憾だといいたげな―――非礼にならない程度の非難を込めたうえに、寂しさを滲ませた声だった。
「そうよ、アラン。帰りぐらいはこちらにおいでになられませ」
「いや、俺はいい。気にせずにふたりで話していてくれ」
「お義兄様はかねてより、わたしをお避けになっておられる気がいたします。
 こちらに参って以来わたしが姉様を占有しつづけているからでしょうか」

どこか臆したようなその声は何も知らない者が聞いたら同情を寄せずにはいられないような、深い自責と遺憾の念に満ちていた。
アランが腹も煮え繰り返らんばかりの思いに耐えているとも知らず、
エレノールは妹をなだめるように語りかけた。
「まあエマニュエルったら、そんなことがあるはずないでしょう。我が君は子どもではないのよ。
 わたくしたちがふたり水入らずで過ごせるようにいつも心を砕いて下さっているから、それだけよ。
 でもアラン、あなたも」
そう言って今度は夫のほうに向き直った。
「ここのところ、少しお気を遣ってくださりすぎではないかと思いますの。
 食事の席でもずっと黙っていらっしゃるのだもの。エマニュエルが誤解するのも無理はないわ。
 今日の帰り道ぐらいは三人で一緒に過ごしましょう」
「―――分かった」
姉妹ふたりは瓜二つの顔をともにほころばせ、細められた漆黒の瞳は全く同じ弧を描いた。
そして座席の両隅に座りなおすと、アランを中央に迎え入れた。

「ルイーズは今日、とてもお利口でしたわね。
 わたしたち三人に次々と冷たい指で触れられても、少しもいやがらなかったわ」
乳母に抱かれた姪が乗っている後方の馬車をちらりと見やりながら、エマニュエルが朗らかに口を開いた。
むろん同席する義兄への礼儀として彼の国語で話している。
「ええ、わたくしも驚いたわ。あの子がおとなしくしてくれるとはあまり期待していなかったものだから。
 これも聖リュシアン様のご威光かしら」
「あら姉様、あのかたはいかめしさではなくご慈愛深さでもって称えられておいでなのに」
「そうね、『忘れ去られし者、見捨てられし者たちの守護者』ですものね」
「ご威光というよりむしろ、幼子への慈しみの霊気があの洞窟には満ちているのでしょう」
「本当にそのとおりだわ。ルイーズがあんなに長い間おとなしかったことはめったにないもの。
 ねえアラン、あなたはお小さいときにこちらへいらっしゃることはなかったの?」
358花影幻燈(中篇):2008/10/06(月) 00:28:45 ID:lYRTjulg
合槌を打つだけの夫を会話にいざなおうとしてか、エレノールがやんわり水を向けた。
アランは依然として気詰まりだったが、妻に気を遣わせるのは彼の望むところではない。
不自然でない程度にぽつりぽつりと話し出した。
「いや、生後一年やそこらで参拝の話は出たようだが、そのころこの山間部で土砂災害があり、
 王室の巡礼行列を差し向けるどころの騒ぎではなくなったようだ」
「まあ、残念なこと」
「だが都近郊の何箇所かの大寺院には、幼いころ母上にしばしば連れられていったおぼえがある。
 ずいぶん長い祈祷に参加させられたものだ」
「いずこの聖人のご加護にせよ、お義兄様がお健やかにご成育なされてよかったわ。
 姉様とわたしも小さいころからお祈りや参拝をともにしておりましたのよ」
「そうね。わたくしたちはいつも一緒だったわ。
 年子だからかしら、周りの皆からもふたりで一組と扱われておりましたし」
「あまり都から離れた地方に赴いたことはなかったけれど、巡礼の行き帰りは楽しかったわね、姉様」
「ええ、道中の風景は宮廷ではとても目にできないものばかりだったものね。
 田園も牧草地も町並みも、土地によって少しずつ表情が違っていたわ」

「姉様、おぼえていらっしゃる?
 馬車の上で風景を眺めながら、わたしたちが好きだった遊びのこと」
「目に入るものを次から次に題材にして、即興で詩を作ったりしたわね。音韻を全く無視しながら」
姉妹はそろってくすくすと笑った。
「ごっこ遊びもよくしたわね。
 今から外国の宮中舞踏会に出かけるのだとか、落飾を控えた修道女志願者になりきったりだとか」
「それから、あてもの遊びもしたわ。お義兄様はお小さいときになさったことがある?」
「あてもの?」

「告解式をまねたような遊びですわ。
 最初に題目を決めて、ひとりが三つずつそれにまつわる自分の秘め事を話して、そのうちのどれが本当かをあてるの」
「いや、そういうのはないな」
「あれも楽しかったわね。
 ねえアラン、エマニュエルったらどんなことでも詳細に本当らしく話すから、
 わたくしはいつも言い当てるのに迷ったものですわ。
 あのころからとても賢い子だったの。女優の才能もあったわ」
「そなたのほうはつねに見抜かれていたのだろう」
「そうよ、姉様ったら嘘がつけないのだもの。
 ―――でも、ふたりとも大人になった今なら事情が違うかもしれませんわね。
 どうかしら姉様、もういちどあてものをしてみませんこと?今度はお義兄様を交えた三人で」

首筋に刃を添えられたような悪寒が、アランの皮膚をゆっくりと覆いはじめた。
義妹の顔は相変わらず、いとしい日々への懐古に染まりきったかのような無邪気な微笑を浮べている。
少なくともエレノールの目にはそう映るだろう。
「それもいいわね。アラン、やってみましょうよ。まだまだ離宮まで山道は長いのだもの」
「いや、俺は―――」
「決まりごとはごく簡単ですわ、お義兄様。
 三つのうちひとつだけ、本当のことが語られるのです」
彼は黙っていた。
義妹の声の末尾は冷気のようにアランの耳朶にまとわりつき、余韻を漂わせながらやがて消えた。
馬車が一瞬、轍から逸れかけて大きく揺れ動いた。
359花影幻燈(中篇):2008/10/06(月) 00:31:36 ID:lYRTjulg
「題目はどうしようかしら」
「奇跡の地にて徳高き聖人のご加護をお祈りしたあとですから、
 自分のこれまでのおこないへの悔悟も込めて、誠意と不実というのはどうかしら」
「いいわ。ではあなたから始めて、エマニュエル。
 今度はちゃんと見破るんだから」
「そうね、期待しておりますわ」
茶化すような声で応じつつ、エマニュエルはほんの一瞬だけ思案するような顔になった。

「―――ではひとつめ。
 わたしは六歳の頃、アルフォンソ兄様のお部屋でとある侯爵令嬢にあてた手紙を見つけましたの。
 読めたのは宛名ぐらいだったのだけれど、兄様はすっかり狼狽なさってしまって、
『黙っていれば菓子を好きなだけくれてやる』とおっしゃいました。
 わたしはむろん大喜びで、絶対に黙っていますと誓ったわ。
 その翌日に兄様はお約束どおり大籠一杯の焼き菓子をわたしの部屋まで届けてくださったのだけれど、
 たぶんご存じなかったのね、わたしの嫌いな干し葡萄が入っているものばかりで、
 ひどく腹が立ったからばあやにこっそり話してしまったの。

 ふたつめ。
 九歳のとき、侍女のひとりが家畜番から譲られたという仔猫を大切に育てていました。
 もこもこした毛並みの手触りは絹糸そっくりで、瞳はエメラルドのようで、妖精のように可愛らしいの。
 わたしは羨ましくて羨ましくてついに一晩貸してもらったのだけど、
 うっかり逃がしてしまって内緒で別の猫を返してしまいました。
 処女雪のような真っ白な猫だったから代わりはすぐに見つかったけれど、
 これが模様の入り組んだぶち猫だったりしたら大変な思いをするところでしたわ。
 絵筆とペンキに頼るしかなかったかもしれません」

「まあエマニュエル、ずいぶんと人道にも悖る不実を重ねてきたのね」
あなたに限ってとても信じられないわ、という口調でエレノールはくすくす笑いながら言った。
妹姫は答えずにつづけた。
「みっつめ。
 姉様のお輿入れ前日に『離れ離れになってもいつまでもお揃いで身につけていましょう』と約束してふたりで選んだ銀の腕輪を、
 その後まもなく人に譲ってしまいました。
 名前は挙げないけれど、姉様を崇拝していた貴公子たちのひとりですわ。
 あまりひたむきに哀願するものだからつい断りきれなくて差し上げてしまったの。
 ―――代償に、とても美しい栗毛の馬を贈っていただいたし」
360花影幻燈(中篇):2008/10/06(月) 00:32:35 ID:lYRTjulg
エレノールは一瞬固まったような表情を見せた。
だがすぐに、冗談ぽく咎めるような姉らしい顔になった。
「まあエマニュエル、ひどいことをしてくれたわね」
「本当のことはひとつよ、姉様、お義兄様。さあ当ててごらんになって」
(まさか三番目ということはあるまい)
そうは思いつつも、万が一これが真であったならエレノールの胸中はいかばかりか、とアランは息苦しさを感じた。
妻はくだんの腕輪を片時も離さず身に帯びていることを彼はよく知っている。

「ひとつめではないのか」
笑話で流せればいいと念じながら、彼は妻に先んじて口を挟んだ。
「昔俺も上の妹に―――ナディーヌというのだが、同じようなことをやらかされた覚えがある」
「あらお義兄様、本当に?」
「アランったら、そのようなお話は伺ったことがありませんわ」
エレノールの声音が優しい姉のそれから嫉妬深い妻のそれに突如変わったことに、アランはむしろ安堵をおぼえた。
とにかく彼女の注意をこの遊戯から、ひいては妹から引き離すことができさえすればよかった。

「そうだったか?余計なことを口にした。早く忘れるがいい」
「お逃げにならないで。お相手の詳細をお聞かせ下さいませ」
「ずいぶん昔のことだ。髪の色さえ忘れてしまった」
「あなたというかたは、そんなにたやすくお心変わりばかりして―――」
「姉様、お義兄様とおふたりきりの場ではないのですよ」
たしなめるような妹の声にエレノールははっとして顔をかすかに赤らめ、片手でそっと口元を覆った。
「そうよね、ごめんなさい。つい見苦しい真似をしてしまったわ。
 ええと、あなたの告白を当てるのよね。
 ―――わたくしもひとつめにするわ。その実例がここにいるのだもの」
「過去に流せばいいものを」
「では申し上げます。正解は」
妻からの厳しい視線も一瞬忘れ、アランは小さく息を呑んだ。

「そのとおり、ひとつめよ。あの後まもなくアルフォンソ兄様にことの次第が伝わって、ひどく叱られてしまったわ。
 おまえにはしばらく甘味を与えぬよう侍女たちに申し渡しておくとまでおっしゃって」
「思いだしたわ、あなたが六つだからわたくしが七つのときね。
 たしかに一時期、わたくしがひとりでアルフォンソ兄様のお側に行くと、
 兄様は不思議とそっけなくいらっしゃって遊んでも下さらなかったわ。
 あれはあなたとわたくしを見間違えておいでだったのね」
「そんなことがあったの?姉様には申し訳ないことをしたわ」
ふふ、と笑いながらエマニュエルは詫びた。
そこにはたしかに、昔を偲ぶときの肉親同士だけに見いだすことのできる親愛の情があった。
361花影幻燈(中篇):2008/10/06(月) 00:34:15 ID:lYRTjulg
「では次は姉様がどうぞ」
「ええと、そうね……」
エレノールは眉を寄せながら膝の上に視線をさまよわせ、長いこと沈黙していた。
緊張が解けてほっとしたばかりのアランには、これはいささか考え込みすぎではないかとも思われたが、
よく考えてみれば矛盾のない嘘を即興でいくつも思いつくには相当な機転と俊敏さが必要である。
ゆえに妻の長きにわたる呻吟は決して魯鈍と言われるべきではない。

むしろ尋常でないのは、とアランは思った。
尋常でないのはあきらかにエマニュエルのほうだ。
あの女はほとんど逡巡もせず三つの告白を述べ立て、いずれもそれなりに筋の通った話だった。
彼女の明敏さをもってすればこれくらいの思いつきは文字通り児戯にひとしいのか、
あるいは―――このあてもの遊びのための話をわざわざ前もって考えていたのか。
仮にそうであったなら、何かの事態を誘発したいという意図がそこには働いているのか。
アランが義妹の目の奥をそれとなく探ろうとしたとき、ふいにエレノールが顔を上げた。
ずいぶんと晴れやかな表情を浮べていることから察するに、まずまずの着想を得たに違いない。

「お待たせてしまってごめんなさい。では告白するわね。
 ひとつめは八つのときのこと。
 お母様がかなり重い風邪をお患いになって何日も寝込まれたとき、エマニュエル、あなたと一緒に
『お母様がよくなられるまで大好きな蜂蜜を絶って毎朝毎晩お祈りしましょう』と誓い合ったわよね?
 たしか斎戒は二週間ほど続いたと思うのだけど、
 あのとき一度だけ、我慢できずに厨房に忍び込んで蜂蜜をひとさじ食してしまったことがあるの。
 でも結局、あなたと一緒に禁欲を守り抜いたような顔をしてお父様お母様からお誉めのことばを受けてしまった。
 
 ふたつめはそれのおよそ一週間後で、わたくしも風邪を引いて寝込んでしまったの。 
 あなたも覚えているわね、エマニュエル。毎日枕元でご本を読んでくれたものね。
 本当は、熱は最初の二日ぐらいで引いていたのだけれど、お医者様に頼み込んで少しだけ『治療期間』を延ばしてもらったの。
 みんなが心配してくれるし、我慢していた蜂蜜も好きなだけ食べさせてもらえるし、お母様を独り占めできるし」
「まあ、姉様もひとのことは言えないわね」
362花影幻燈(中篇):2008/10/06(月) 00:35:43 ID:lYRTjulg
「ええ、でも仮病はあれきりなのよ。
 みっつめは十二歳頃のこと。
 あのころわたくしは淡い色の髪にとても憧れていて、世の殿方もみんな金髪の婦人を誰より重んじて崇敬するのだと思っていたわ。
 外見を気にしすぎるのは虚栄心につながることだと聴罪司祭様に戒められていたから、決して口には出せなかったけれど」
「そういえば、心あたりがあるわ。
 そのころ姉様はなんだかいつも、鏡を見てはため息ばかりついてらっしゃったもの。
 北国に旅行したら髪の色が淡くなるのかしらと呟いたり」

「もう、よくおぼえているのね。
 そうよ、もしあのころ、世の中には脱色という方法があるのだと知っていたら
 侍女たちに命じてどんないかがわしい方法でも試させたことでしょう。
 幸いなことに当時のわたくしは、自分にできるのはお祈りすることだけと思っていたから髪を傷めることはなかったけれど。
 本題はここから。ちょうどそのころ、わたくしはようやくガルィア語の読み書きが板についてきたから、
 お母様に言われてアランに手紙を書くことになったの。許婚としてね。
 まず時候の挨拶、ご機嫌伺い、こちらの近況等を型どおり綴っていったのだけれど、
 自己紹介をする段になったとき、―――つい『わたしの髪は少し暗めの金色です』と書いてしまったの。
 虚栄心に勝てなかったのね」
アランとエマニュエルはほとんど同時に笑いだした。
エレノールはやや傷ついたような顔になったが、先に進んだ。

「わたくしは嘘をついたつもりはなかったのよ。それはいずれ本当になると信じていたの。
 心を込めて朝夕お祈りをつづければ―――実利的なことはお祈りしてはいけないと言われるけれど―――
 きっと神様が聞き入れてくださるって」
「それで結局、どうなったのだ。そなたとの文通のなかで、そのような記述は読んだ覚えがないのだが」
「ええ。阻止されてしまったの」
「阻止?」
「語学の先生に。手紙を書き終えたあとで添削のために目を通していただいたら、
『姫様、これに許可をお出しすることはできません』と遺憾な顔でおっしゃるの。
『文法上の間違いはほとんどありませんが、ある一点でアラン王太子殿下への誠意を欠いていらっしゃる。
 それだけならまだよいのですが、姫様、残念なことに、このお手紙はご肖像画とともにガルィア宮廷に送られるのです』
 みっつめのお話はこれでおしまい。
 では、どれが本当でしょう」

「最後のでしょう」「最後のだろう」
ふたりの答えが発せられたのはこれもほぼ同時だった。
エレノールは少しがっかりしたように目を瞬いたが、潔く首を縦に振った。
「そのとおりよ。ふたりとも分かってしまうなんて」
「それだけ詳細に語ればな」
「それに姉様、ひとつめのお話だけれど、お母様が罹られたのは夏風邪で、七月の終わりごろだったでしょう。
 真夏の時期は、蜂蜜は厨房の一角ではなく地下貯蔵庫に置かれたはずよ」
「まあ、よくおぼえているわね。やっぱり細部までちゃんと気を配らなければだめなのね。
 ではアラン、次はあなたですわ」
「俺か。俺は、―――」
363花影幻燈(中篇):2008/10/06(月) 00:38:02 ID:lYRTjulg
「お義兄様はまだ、不慣れでいらっしゃるかしら」
エマニュエルがふと顔を寄せ、彼の耳元で囁いた。
「姉様、お義兄様はこの遊びが初めてでいらっしゃるから、よろしければもう一巡わたしたちふたりで進めましょう」
「それもそうね。アラン、では一回飛ばして―――」
「いや、いい」
アランはほとんど反射的に口走った。
この遊びに加わることそのものには拘泥もなかったが、
彼を思いやるように提案されたエマニュエルのことばのなかに、その温雅な微笑の向こうに、
何か抗すべきものがふと感じられたのだった。
それが何なのか、果たして実体を伴うものなのかどうかも分からない。
だが膝に置かれた彼の掌には少しずつだが確実に汗がにじみ出てきていた。

(―――嫌な気分だ)
唇を噛みしめてから、彼はゆっくりとことばを紡いだ。
一方で考えながら一方で話し続ける。
それはこのたぐいの遊びでは誉められたやりかたではなかったが、時を費やすことさえできれば勝ち負けなどどうでもよかった。
(もうまもなくすれば、湖畔に離宮の正門が見えてくる)
ひとつめ。ふたつめ。みっつめ。最後の問いかけと答え。
極力微に入り細を穿ちて語ったつもりだったが、山道の終点を過ぎたばかりのころに、彼の番は終焉を迎えてしまった。
今語り終えたばかりなのに、自分で何を語ったのかもつまびらかには思い起こせない。
正体の分からない懸念がそれほど深く心に根を下ろしているということなのか。

「ではまた、わたしの番ね」
エマニュエルの落ち着いた声で彼の沈思は破られた。
エレノールは合図の代わりに微笑む。
外の風景に目をやりながらアランは額の汗を拭った。
背中まで汗ばんでいるように感じられるのは、先ほどまで長々と話を主導していたからだろう。
そうとしか考えられない。それ以外のことは考えたくなかった。

「食べ物の話がつづいたから、少し艶やかな話題にいたしましょうか。
 わたしが十三、姉様が十四のころだったかしら。
 アルフォンソ兄様の小姓のひとりにロベルトという少年がおりました。
 おとなしい子だからその存在も気づいていらっしゃらなかったと思うけれど、あの子は姉様のことをとても慕っていたわ。
 ほとんど信仰といっていいくらいに。
 ある夏の夕べ、わたしがひとりで宮中の百合園を歩いていたとき、ロベルトが木陰から近づいてきて恋を告げたのです。
 わたしが妹のほうだと弁明する間もないくらい彼は唐突に話し出したものだから、
 結局最後までレオノール姉様だという顔をして耳を傾けてしまいました。
 ロベルトも初めから想いの丈が報われることなど期待していなかったのでしょう、
 告白だけ告白すると満足したように去って行ってしまったから、
 わたしも結局返事さえせずに、自分の胸のうちにだけしまったの」
「あらエマニュエル、それは―――」
言いかけたものの、エレノールはまた口をつぐんだ。
しかし何か思い当たることがあるかのように、その唇の端にははっきりと笑みが浮かんでいる。

「いいわ、つづけて」
「あら、姉様にだけ有利な告白をしてしまったのかしら。
 それでは公平を欠きますから、ふたつめはお義兄様にお心当たりのあることにいたしましょう。
 これはつい最近のことですわ。
 その晩、もうずいぶん更けてしまったころ、わたしはふと姉様の隣で目が覚めてしまいなかなか寝付けないものだから、
 なんとなくお義兄様の書斎にお邪魔したのです。
 淡い灯火に頼るほかないこの夜陰でも、わたしと姉様を見分けてくださるだろうかと子どものようなことを思いながら。
 案の定、お義兄様はお気づきになりませんでした。
 わたしは迷ったけれど、結局自分から真実を告げることはしなかったの」
「まあ―――それで、どうしたの?」
「お義兄様はわたしを妻として遇し、情熱的に愛してくださいましたわ。姉様に夜毎そうなさるように」
364花影幻燈(中篇):2008/10/06(月) 00:39:15 ID:lYRTjulg
車上の空気が氷のように凍結するのを、アランはたしかに肌で感じた。
だが一瞬後、彼の目に映ったのはエレノールの翳りなき微笑だった。
もうこの子ったら、と姉らしく困ったような顔でもある。
「いくら公正を期すためだといっても、そのような形でアランを告白に登場させるのはおやめなさい。
 あなたたちは義理とはいえ今では兄妹なのだから。
 それにエマニュエル、ひとつめが本当だと言うことをわたくし知っていてよ。
 実はその日の夕方、あなたを探してわたくしも百合園を歩き回っていたの。
 あなたたちふたりの姿が遠目にも分かったわ。
 ロベルトはすぐに立ち去ってしまったから、話の中身までは聞けなかったけれど。
 だからこれでは公正を期したことになっていないわ」
「まだ、すべてではありませんわ」
エマニュエルは淡々とつづけた。

「みっつめ。これは簡単だけれど、誠意と不実という題目に最もよくかなった告白だと思います」
アランは外の景色から車内に目を戻した。
その先にある漆黒の双眸は、何も語ることなく彼を迎えた。
「わたしは今、この遊びのきまりごとを守っておりませんの」





(続)
365名無しさん@ピンキー:2008/10/06(月) 00:46:35 ID:Q5WYbVn0
リアルタイムktkr

続き激しく気になる!!
366名無しさん@ピンキー:2008/10/06(月) 00:47:33 ID:fv0gehw6
リアルタイムキター!
マヌエラの決め台詞にドキドキさせられました
女って本当に怖いなw
367名無しさん@ピンキー:2008/10/06(月) 00:58:16 ID:g5StZpvp
うわ、リアルタイム!
一話より更に続きが気になる引きだ。
368名無しさん@ピンキー:2008/10/06(月) 11:48:44 ID:7aKV7sET
続き来てた!
今回は心理サスペンス風味ですね。
どきどきします。
369名無しさん@ピンキー:2008/10/06(月) 21:07:57 ID:HmaxqcmW
エロは薄めでも宮廷生活の描写が非常に生々しくて面白いです
面白いだけに読んでて心臓がキリキリはしますが。女の嫉妬的な意味で

しかしこうして見ると浮気はしてもアランがいかに善い王で夫かよく分かる
夫どころか国や民にまで背いておいて
どっこいそれを自己正当化しちゃうあたりマヌエラもその周囲もとことん救われないな
結婚生活の不幸と惨めさは元の英明な姫をここまで堕とすか
370名無しさん@ピンキー:2008/10/06(月) 21:46:29 ID:i/1wzBVN
今回の参拝地の由来とアランが不審を覚えた点をつなげたら、ある推測に
行き着いたのですが・・・もしビンゴならエマニュエルが哀れすぎるな。
本当に今回はサスペンス風味で、さまざまな想像をかき立てられますね。
作者さんの豊かな才能に喝采です。
371名無しさん@ピンキー:2008/10/06(月) 22:40:28 ID:y/1VZVhd
GJでした。
毎回文章美にクラクラです。


マヌエラは実は子供の産めない体じゃないかと俺は思うんだ。癒えない痛みと罪悪感を負ってそうな気がするんだよな。
372名無しさん@ピンキー:2008/10/06(月) 23:38:23 ID:LH/xgCKC
話も書き込まれるところで、そういう予想は最後までとっておけ
無神経な
373名無しさん@ピンキー:2008/10/07(火) 08:29:48 ID:wx2t4Nlp
うぉぉぉぉぉぉ!GJ過ぎる!ていうか続きがめちゃめちゃ気になる!作者さんの本があったら絶対買うよ!
374名無しさん@ピンキー:2008/10/07(火) 17:52:18 ID:2IRN4TlI
読みたいけど怖くて読めない…
心臓がキリキリするよ。後編を待ちます。
375名無しさん@ピンキー:2008/10/07(火) 23:31:48 ID:kgFKg5qU
てか、毎度読んでて歴史の豆知識にもなるのが凄い。
スパニアがあそこ、ヴェネシアがあそこ、なるほど当時はそういうもんだったのかと頷きながら読める。
ズバリ作者様は相当な宗教史や中世史のマニアと見た。
376名無しさん@ピンキー:2008/10/08(水) 00:46:29 ID:UWCIREWq
アランが本気で心配だ
エレノールのために全部背負い込もうとしてるから精神的にかなりまいってる
でも今回は妹の心の奥にある痛みを垣間見た気がする。続きが気になる!
377名無しさん@ピンキー:2008/10/08(水) 01:12:54 ID:rTW92BGs
神投稿が多くて最近スレ覗くのが毎度楽しみです!

いぬのおひめさま の続きも気になってしゃーないっすww
378名無しさん@ピンキー:2008/10/08(水) 22:13:45 ID:9q/TQInb
今回も面白かったでさ
後編も楽しみに正座して待っとります
379名無しさん@ピンキー:2008/10/11(土) 03:36:55 ID:MxOTym+P
アンヌがエレノールを大年増呼ばわりしてたけどエレノールとマリーっていくつくらい年の差があるんだろう?10才は越えてる?
380名無しさん@ピンキー:2008/10/11(土) 07:39:19 ID:YI8Oc0ee
アランとエレノールが同い年で
オーギュストはアランより12歳下。
マリーはオーギュストより1歳年上
381名無しさん@ピンキー:2008/10/11(土) 07:41:41 ID:cc+qMCWj
エレノールが28歳のとき、マリーが17歳じゃないかな。
382名無しさん@ピンキー:2008/10/11(土) 07:43:29 ID:MxOTym+P
なるほど。ありがとう
383名無しさん@ピンキー:2008/10/11(土) 19:26:10 ID:3MAq8LAd
蛮族王子×貴族令嬢の中編投下。
例によって微グロ。陵辱という形を取って行われる愛のある和姦。



前戯にまるまる一話とか、阿呆の自覚はあります。
ただでさえ男側が気品0なのに、ひたすら濡れ場だけなのも問題な気がしてきたので、
背景とか世界を伝えられる話も上げたいもんです。後編と同時進行で。
 
384いぬのおひめさま(中編):2008/10/11(土) 19:26:49 ID:3MAq8LAd
身の内を満たすのは矜持と尊厳ではなく、暗澹たる厭世と諦観だ。
貴族という皮を一枚めくれば、あるのは卑しい本性だ。

第一にまず犬の仔だった。
貴族にあっての卑しき者、近親の禁忌の果てに生まれた、罪の証たる背徳の花。
持って生まれた天性の美貌も、血の濃さの故と思えば呪わしい。
だがそれでも実家に居た頃は、時折蔑まれようとまだ貴族、…人間のままで居られたと思う。

杖に殴られるなら耐えられて、鞭に打たれるのもまだ耐えられた。
…でも焼け火箸の『痛み』は無理だった。
泣き、媚びて、許しを乞う。
…でももっと耐えられなかったのが、全身を拘束され胸に施されたこの家畜の証。
あれで自分の人生観は変わったと思う。
もしも轡が嵌められてなければ、確実に舌を噛み切っていた激痛。
糞尿を洩らす程の痛みというものを、リュケイアーナは生まれて初めて味わった。
プライドは粉微塵に打ち砕かれ、恐怖は深々と刻み込まれる。

――妻の務めは、夫の心労を慰めその求めに応じ、慎ましやかにも淑々たること。

怖かった。もう逆らえなかった。
あの地獄の激痛がもう一度と思うと、どんな正しい善の倫理も吹き飛んだ。
一度逆らった結果として陰核の包皮にもこれを施され、
次は大陰唇の両側に並べるぞと脅されて以来は、本当に一片の抵抗の意思さえ消し飛ぶ。
四つん這いになり、床に零された料理を食し、夫の尿を飲まされ、靴の裏も舐め、
…この辺りでもう疑念を抱き始める、自分って何だろう、世界って何だろう。

――貴きは生得の血に拠りて、土を踏まず、民に並ばず、品行に表れ矜持に顕る。

貴族にしては高慢じゃない? 小娘にしては達観してる?
そんなの当たり前だろう、一度完璧に価値観を、心の拠り所を壊されてるのだから。
幼少時代に半軟禁生活状態だったとか、書物にしか逃げ場が無かったとか関係はない。
……自分に誇りが持てなければ、そもそも慢心のしようが無い。

許せないを通り越して、虚しかった。
どれほど義憤に駆られたところで、それでも聳え立つ絶対的な壁はどうしようもなかった。
……聡明さは身の程の正確な弁えに、健気さは慣行と習俗への服属に、
思慮深さは家や夫への反抗を躊躇わせて、謙虚さは自虐と自己卑下へ向かう。

――時は統一帝政末期、体制は腐敗し、佞臣が専横、梟雄が跋扈した暦上有数の暗黒時代。
夜明けの前の、最も暗い時間だ。
 
385いぬのおひめさま(中編):2008/10/11(土) 19:27:19 ID:3MAq8LAd


「ん?」
女を抱き起こしつつ股座に這わされた男の手が、ふと翳りの上で停止する。
「…え? 何? ここにも耳輪填められてんの?」
「……っ!」
げー、とでも言いたげに、明らかに引いた表情をする男に対して、
ビクッと身を震わせた少女がぎゅうと身体を硬くした。
男の指は陰核のすぐ下、括りつけられた小さな輪の上で止まっている。
「あったまおかしいだろこれ。…痛くないのか?」
「………」
必死に首を横に振り、無言の肯定を持って返した。

確かにされた当時は気が狂わんばかりの激痛だったが、それももう二年も前の話だ。
今では最初からそうであったが如く、彼女の肉体の一部として在る。
…だがそれが堪らなく恥ずかしくて、せめて両の乳房を覆い隠した。
蛮族であるはずの男からさえも、「普通じゃない」と判断される家畜の体。
そういう肉体に自分の身体がされてしまったのだと、
今更ながら思い知らされ、泣きそうなくらいに悲しくなるからだった。

「腫れたり、化膿したりとかしないのか? 普通はずっと付けてればなるだろ?」
「……装飾用の、でなく、罪人用の、なんです……」
問いに、震えた声を返す。
確かに触ってみればザラザラと、金属ではなく軽石のような手触りである。
凝らした意匠や細工もなく、宝石の一つもなければ光沢もない。
「だから……血肉に馴染んでしまったら、もう……」
「……冗談だろ?」
首を振る。
途端、これまで誰にも吐露できなかった苦悩が、堰を切ったように溢れ出した。

「…あの、人…、これで、自分が死んでも、さ、再婚なんてっ、っ、出来ないって……」
夫だった男の歪んだ笑みを思い出す。
「こんな、浅ましい身体、しっ、臣下に下与するにも、ひっく、つ、使えな……」
自分とて、好きでこんな身体になったわけじゃないのに。
好きでこんな美しさだけが取り柄の、容姿しか糧ならぬ身空に生まれたわけではないのに。

「ふぐっ、うっ、ぐ…ぅ…、………ふっ、…んっ、あ」
だが泣くのを堪えようとしていた少女の嗚咽に、ふいに甘いものが混じりだす。
…見れば男の指がくにくにと、女の陰核を愛撫していた。
 
386いぬのおひめさま(中編):2008/10/11(土) 19:27:47 ID:3MAq8LAd
「そ、か」
「んっ、ん、ふっ、く」
言葉はそっけなかったが、指の動きは優しげで、顔には明らかに同情の色が浮かぶ。
同じ同情でも腫れ物を扱う風でもなく、遠巻きに眺めるようでもない。
感じたことのないくらいに身近で、実際に手も差し伸べてくれる類の同情に、
彼女の心はまたも動揺し、頑なさを保つ理由を失った。

「…あ、なるほど。本体に直接とかでなく、覆ってる皮くくんのに通してんだ」
「ふぁああっ!?」
ちりちりと男の指に輪をいじられ、電流のような快感に仰け反る少女。
「だから剥き出しで、こんなに赤く腫れちゃってんのか」
「…や……み、見ないで……みない、で……」
恒常的に外気に晒され下着に擦れ続け、
嫁いで来る前とは比べ物にならないほど赤く肥大化してしまったそこは、
彼女にとって最も見られたくない恥部の一つだ。
なのに男の指に弄ばれ、そこは意思に反してはしたなくも自己主張を露にし、
強引に胸を覆う腕を除かれれば、乳首もピンと硬くなって天を指す。

「しっかしでかいなー。ほんと股から子鬼の角生えてるみてーで」
「……!!」
そしてとうとう為された配慮の欠片もない指摘に、少女はきつく目を閉じて羞恥に耐え、
(……ぅぁっ!?)
しかし同時に身を襲った奇妙な感覚に、混乱に思考を揺らがせた。
(…今、の……)
耐え難い羞恥を感じた瞬間、きゅうっと下腹の奥深くをしめつけた『ぞくぞく』。

「んうっ!」
それの正体を確かめる間もなく、再び唇を塞がれる。
今回は激しく、かなり強引に。
合わせて陰核を弄んでいた男の右手の指が一本、つぷんと膣口にあてがわれ、
女がはっとする間も無く、ずぷりと第一関節の辺りまで埋没した。
「んううう〜っ!」
流石にこれには彼女も少々、唇を塞がれつつ抵抗を示す。
…だがとっくに蜜を溢れさせていた蜜壷は、あっけないほど簡単に侵入者を受け入れ、
舌を絡め取られ、口腔を嬲られながら、
とうとう彼女の淫肉は根元まで、男の浅黒い指を咥え込まされてしまった。
 
387いぬのおひめさま(中編):2008/10/11(土) 19:28:14 ID:3MAq8LAd
半分だけのしかかる形で、吸われる唇、押し潰される乳房、
腹には野太い剛直の異様な質量が押し付けられ、膣にはぐりぐりと根元まで指が押し込まれる。
全身で犯されるかのような熱烈な責めに、
少女は為すすべも無く「んーんー」と呻きを上げ、せいぜい男の押さえつけの下でもがくのみだ。

「可愛いぞ?」
「…っあ、あっ」
息継ぎの都度、男に囁かれる毎、唇からは乱れた呼気だけが漏れ出でる。
「…可愛い」
「はっ、あ、あ、は」
耳元で男に囁かれると、どうしてか心臓が締め付けられるかのように切なかった。
秘裂に差し込まれる指は二本に増え、親指はぐりぐりと硬く充血した陰核を嬲り……
「あ、ぅ、だっ、だめ、だめッ、……んゔうううっ!」
とうとう限界に達したのか、男に唇を塞がれたまま気をやってしまう。
ガクガク震える彼女の身体を存分に堪能した後、
男はゆっくりと唇を離し、ついでのしかけていた身体を持ち上げた。

はーはーと荒い息を吐き、女は目を閉じながらもグッタリと仰向けで横たわる。
白い肌は上気して薄っすら汗ばみ、頬には涙の跡が残った。
溢れた愛液は股座を濡らし、乳首と陰核は金輪を伴いながらも硬くしこって天を突く。

実に満足げに、そんな自分の戦果を堪能すると、
「なあ、俺のも気持ち良くしてくれる?」
男は広い寝台の上をもぞもぞと、身体の位置を入れ替えるようにして移動する。
ぬっと目の前に男の長大な陽根が突きつけられた時は、
少女もぼんやりとした頭で、口での奉仕を強要されるのだとばかり思った。

…その行為自体にはもう、微塵も抵抗感など感じない。
貴い身にしてはの、『陵辱』と『奉仕』の定番。
事ある毎に30近く年上の夫の物を、咥えさせられ屹立するまで舐めさせられて来た。
時には十分近く舐めても硬くならず、上手く出来ない場合は『仕置き』が待つ。
そういうのが彼女にとっての、男女の交合の一般的な形。
…目の前の男が夫でなく異民族の侵略者で、角灯の光を遮る褐色の肌を持ち、
対象が舐める前から既に十分すぎるほどの硬さと威容を保っているのが、
いつもとは少々異なっていたが。

果たして彼女の予想は半分当たり、半分外れる。
 
388いぬのおひめさま(中編):2008/10/11(土) 19:28:36 ID:3MAq8LAd
舐めさせられると思った瞬間、ぐるりと身体を引っ張られ天地が反転、
彼女が下で男が上という形から、彼女が上となる体勢にひっくり返された。
一瞬何が起こったか分からず、荒い呼吸を整えながら、
しかし次の瞬間股間に感じる感触に、目を見開いて熱い物に触れたように飛び起きる。

「やっ、ど、どこに顔を入れて――…ッ!」

叫びかけたところで、ちろりと柔らかく生暖かいものに硬化した陰核を擦り上げられ、
仰け反った拍子に支えを失う、男の身体の上へと崩れ落ちた。
すぐ目の前に禍々しくそそり立った剛直があり、ビクリと少女は身を引き攣らせる。
「しゃぶる…って、分かるか? 口でするやつ」
鼻息が会陰にかかるのを感じながら、尻の方から上がる声を聞く。
「それして欲しいんだよ、俺もお前の舐めてやるからさ」
「……!」

――冗談ではない!

「そ、そんなの……出来るわけないじゃないですか!」
叫んで、再び身を起こそうとするが、出来ない。
迂闊に身体を起こせば、結果的に濡れそぼった陰部を男の顔に押し付ける破目になる。
身を捩って横方向に男の拘束から脱しようにも、
対して力を入れられてるわけでもないのに、腿から下は脚をバタつかせることさえ不可能だ。
達した直後というのもあるが、それ以上に男の武量が(阿呆と見せかけて)高いのだろう。
「…い、やだ……やです……、…汚い……」
程なく少女はいつもと同じく、諦めたように慟哭し始める。
涙ぐむ程度、彼女にとっては茶飯事だった。

「――俺なんかの舌じゃ、舐められても汚らわしいだけ?」
「っ、ちが……そうじゃないです!」
それだけ追い詰められているのだろう、社会観念的にも、存在意義的にも。
必死で男の言葉を否定するが、自分の発言の意味には気がつかない。
「下賎で卑しい蛮族のチンポなんて、汚らわしくて舐められない?」
「そんなことない! そうじゃないんですっ!」
相手を見下していると、侮蔑しているのだとは思われたくない必死さの中で、
自分が何を言ってしまっているのかには気がついていない。

「……そこは……汚いん、です……」
 
389いぬのおひめさま(中編):2008/10/11(土) 19:29:00 ID:3MAq8LAd


帝国の国教である太陽神教では、男が陽たる太陽に、女が陰たる月に喩えられる。
すなわち男が主であり昼であり乾であり、女が従であり夜であり湿である。

「不潔で……ばい菌とか、病気に……」
血を流し澱物を零すそこは不浄だとされていた。
娼婦の存在などから、性病は女から生まれ広がるものであるとの俗説があった。
「……見な、いで……」
何より、見ても見られても気持ちいいものでもないのは、持ち主が一番知っている。
度重なる陵辱、三角木馬やフィルス(※男根を象った木製の彫り物に革を被せた物)に
跨らせ続けられた結果、今の自分の秘所は処女時代の清楚さを失って久しい。
使い込まれて汚れたそこを、凝視されて楽しい淑女が居るだろうか?

――が。

「? 汚い…って、何そんな当たり前のこと言ってるんだよ今更」
「……え」
男の文化圏では、また違う価値観があるのは当然の話だ。
「ここが汚いのは当然だろ? だってションベンの出るトコなんだし」
「……う、あ」
唐突に飛び出す隠喩なしのスラングに、分かっていても顔を赤らめてしまう。
そういうものへの耐性はないらしい。

「てかそれ言ったら俺のチンコだって汚ねえじゃねーか。どうなんだよそれ?」
「…そ、それは……おっ、男の方のとは違うんですよ!」
まるで子供の『なぜ?なに?どーして?』が如く、稚拙で単純な質問をしてくる男に、
それでもムキになって宗教観とか慣習といったものを説こうとするが、
「男の方が出すのは種ですけど……女の方は、つまり、土で、畑で……」
「でもここガキが出てくる穴だろ? だったらガキも汚いのか?」
「そ、それは……だから!」
遠慮なしな男のあけすけな物言いに、隠喩を用いる女の方が押される始末だ。
控えめで奥ゆかしいことが、必ずしも最善とは限らない。

挙句。
「大体、逆に考えるんだよ」
「えっ? や、わあああああああっ!?」
女の股間からジュルルルルルという水音がしたのと同時に、
ボンと音がしそうなくらいに少女の顔が赤らめられ、喉からは甲高い悲鳴が上がった。
……何が起きたかは、推して量るべしである。
 
390いぬのおひめさま(中編):2008/10/11(土) 19:29:25 ID:3MAq8LAd
「なっ! なにっ、をっ! なっ、あ――」
羞恥と怒りがない交ぜになった赤ら顔で、力が入らないまま怒鳴りかけた少女の顔が、
「汚いからこそ舐めんだって。お前らも膝擦り剥いたり指切った時とか唾つけて治すだろ?」
「――ふ、へ?」
次の瞬間、鳩が豆鉄砲でも食らったかのように固まった。
「人の唾には邪気払う力があるって言うし、清める目的だったら別に問題ないよな?」
「……え? え、あ……」
――『バッチイからこそ唾つけて消毒する』。
…その発想は無かったらしい。
盲点からの切り込みに、意表を突かれて押し黙る。

「だからさ? お前も俺の舐めてってば、汚いもん清めるんだって思ってさ」
「……だ、だから! なんでそういう話になるんです!」
困惑し、赤くなりながら、それでも男の要求を断ろうとする。
「てか実際、ちゃんと舐めた方が変な病気にも掛かりにくくなるんだぞ? ホントだぞ?」
「……そ、それは、確かにそうかもしれませんけど」
…だが、衛生的な見地から考えればちょっと頷けてしまうのが何とも悲しい。
確かに性病への感染率は下がるだろうし、
確かに異民族の男に犯されるというこの状況で、その選択は賢明にも思えてくる。

…………

「…だ、駄目です。やっぱり駄目…」
若干流されそうになりながらも、少女は懸命に理性で気勢を立て直した。
「…出来ません、そんな……簡単に、人の、その、……陽根を」
虐げてきた亡夫に対する貞淑というわけではない。
むしろそれを強要してきた、社会常識や世間の白眼視に対する怯えだろう。
こういう時、亡夫の妻は敵将の陵辱や快楽に屈せず、最後まで抗うのが美とされている。
――ならば自分もそうならなければ。…そういう強迫観念があるのである。

…損得勘定で簡単に違う男に乗り換える、尻軽女になりたくない。
…夫以外にもあっさりと股を開く、淫売女だと思われたくない。
例え誰も見ていなくても、そういう恐れが女を縛る。
いや、目の前の男を前にして、尚更縛られると言うのが正しいか。
ここで簡単に屈するならば、とっくの昔に彼女は心まで『犬』に堕ちている。
この頑なさがあったからこそ、今日までここまで保って来れた。

「…えー。あんなに気持ちよくしてやったのに、俺には何にもなし?」
「そっ、そういう風に言わないでください! 子供じゃないんですから!」
だからこそ、いい歳して子供のようにぶーたれる男の声を聞くのは苦しかった。
何か母性本能をくすぐられる。
もっと原初的な道理の次元で、与えられたものに報いたくなる。
「変態爺のチンポは喜んでしゃぶっても、俺のチンポはしゃぶってくれないんだ」
「……!!」
子供が『おかしいよ!』と憤るように、孕む矛盾を指摘されれば、自分の立ち位置が分からなくなる。
自分が前まで居た世界は、本当に高潔だったのか?
自分がこれから進む世界は、本当に卑しい世界なのか?
 
391いぬのおひめさま(中編):2008/10/11(土) 19:29:49 ID:3MAq8LAd
「…駄目…だめです…」
…本音を言えば、彼女だって**だ。 **で**だし、夫のことも**と思っている。
でもそれを受け入れるわけにはいかない。言葉して、声に出して認めるわけにはいかないのだ。
「…こんな、大きいの……」
目の前に聳え立つ、こんなに凶悪な肉の柱を見ても、
むしろ胸が高鳴り股奥に妖しい疼きを覚えてしまう自分なんて、認めたくない。
「…むり…ぃ……」
自分は、『犬』ではない。

「…別に舐めるだけでいいよ。咥えんのが無理そうなら」
「……う」
犬ではない。
「真面目な話、俺のデカいからさ。…唾液まぶしとかないと痛いと思う、多分」
「………」
犬じゃないのに。



「……ん」
おっかなびっくり、ちろり、と黒々とした幹に赤い舌を這わせる。
途端にぐいっと大きく反り返ったそれに、
思わず驚いて添えた手で強く握ってしまったが、さしたる問題とはならなかった。
(……あ……)
たおやかな細い指が巻きつけられたそれは、熱く、硬く、
彼女の指が周りきらないくらいの太さを備えている。
色は褐色どころか黒曜のような闇色、傘になった先端部分はテラテラと光を反射さえしていた。

太い血管が幾つも走る姿はグロテスクで、むっとするような性臭も鼻をついたが、
その辺は既に慣れている彼女だ、今更嫌悪の対象にもならない。
むしろ散々脅かされていたよりはずっとまとも、
垢や毛ジラミにまみれるわけでもなく臭いも大差ないのが拍子抜けだった。
それどころか針金のように剛い赤毛の陰毛を見て、
(ここの毛も髪の色と同じなんだ)と、当然のことに今更驚く余裕さえあった程だ。

そうして一度踏み越えてしまえば後は簡単、
勢いづけば刻み込まれた舌使いが、無意識にでも相手への奉仕を実行する。
『消毒のためだ』とか『自分が痛くないためだ』と言い聞かせながら、
幹に沿って舌を這わせ、口中に唾液を溜めてはたっぷりとそれを竿部分にまぶす。
多少作業面積は広いものの、決して難しくない作業なはずだった。
……相手の妨害さえなければだが。
392いぬのおひめさま(中編):2008/10/11(土) 19:30:08 ID:3MAq8LAd
「ん。上手だな」
「いッ!?」
刹那、陰核から走った電流に、身体が仰け反り顔は陰茎へと押し付けられた。
それどころか思わず力が入った拍子に、股間に入り込んだ男の頭を太腿で強く挟み込んでしまう。
「…あ、や、ご、ごめんなさい! ごめんなさっ……」
自分の不始末にビクッとして、羞恥に顔を赤らめながらも、
怒るよりもまず先に反射的に謝ってしまうのが、染み付いた習性のようで何か悲しい。
「ん。いいよ、全然気にしてねーから」
「…………そ、それなら別に…って、いっ!? あ!? っ!」
けれど相手が怒っていないのにホッとした瞬間、再度陰核を刺激が襲う。
少女はまた情けない悲鳴を上げ、二度三度男の頭を挟みつけた。

「なっ、なに、何を……!」
「…感じちゃうと股キュッ、ってなっちゃうんだろ? なら仕方ねーって。気にせずどーぞ。
むしろ太腿すげー柔らかいので、俺としてはもう今の大歓迎なんで」
「……!!!」
涙目で振り返ったところにの、男のこの言い草である。
自分の臀部に隠れて見えはしないが、男のニヤニヤ笑いが目に浮かぶようで、

……なんか、カチンと来た。

「ふ、太腿って、何、考えて……はっ、はや、くっ、そこから頭、抜っ、くッ、あ!」
身を起こして懸命に怒声を奮わせるも、
どうも今ひとつ奮わないのは、現在進行形で陰核に加えられる舌での攻撃のせいだろう。
「んっ、うっ、う」
プルプルと身体を震わせながら、内股になってしまいそうなのを懸命に耐えている。
堪えが利かず相当に苦しいらしい。とてもとても辛そうだ。

「ん。だから気持ちよくさせ合いっこ」
「……はあ!?」
対して無邪気極まりなく、腐っても上流社会出身の少女が耳を疑う戯言をのたまう。
「先にイカされちゃった方が負けとか、そういう感じの勝負みたいなので」
「か、勝手なこと、言わないで……えぅ」
ふざけてる、子供の競争じゃあるまいし、誰がそんな勝負、やらないし絶対に乗るものかと、
当初は極めて真っ当に、彼女もそうやって考えたのだが。

「いや、いいぞ別にそれでも? …お前は俺を一回も気持ちよくさせられないのに、
俺に散々気持ちよくさせられて二回もイッちゃったっていう事実が残るだけだから」
「………ぐ」
安い挑発に、らしくもなくムッと来てしまったのが運の尽き。
 
393いぬのおひめさま(中編):2008/10/11(土) 19:30:35 ID:3MAq8LAd


「…っ、ふ、っ、う」
相手の舌技に声を漏らしながらも、一心腐乱に肉棒を舐める。
流石に二度続けてこの男相手に絶頂させられるのは、彼女の沽券に関わったらしい。
変に快感に耐えているせいで舌先の狙いが定まらず、
唇がずるりと幹から外れたり、時々歯がぶつかったりもしているが、
それでも非常に気合の入った舌技になった。
…苦痛や恐怖に脅されてではない、人生初めてとなる自らの意思での奉仕。

――だというのに男の暴挙はとどまるを知らない。

「しっかしいいケツだなー、すべすべで柔らかくて。巨乳ならぬ巨尻っていうの?」
「んむぅっ!?」
むにむにっと尻肉を揉まれた拍子に、辛うじて開いていた腿がまた男の頭を挟み上げる。
「お豆ちゃんもさ、もう豆っていうか角? 勃起しまくりで俺の親指の先くらいあるし」
「やっ、あっ、ぐ」
怒りも感じたし、羞恥も感じたが、それ以上に先刻同様の『ぞくぞく』が不意を突いた。
冬の日の突然の尿意に似た、ぶるぶるっと来る危うい恍惚。
それに少女は我が身を震わせ、結果腿はよりきつく男の頭を締め付ける。

「胸も大きい方だし、ホントやらしー身体だよな、首から上は清楚なくせして」
「っ! …言わ、ない、で……」
――何故だろう。
前夫に言われた時は、暗澹たる心に嘆きと痛みしか感じなかった言葉なのに。
今はどうしてこんなに腹が立って、どうしてこんなに身体が熱い?

「…あれ? 何? ひょっとして感じてんの? 俺に言葉責めされて感じてんの?」
「――!!」
恥骨から脳天まで一直線に、冷たく熱い快感が走る。
「ち、ちがっ……」
「でもココすっごいビキビキ言ってるぞ? 勃起しまくりでビキビキ言ってるぞ?」
「…う、うわああああッ」
言われなくても、彼女が一番よく知っていた。
耐え難い羞恥と、それに比して臓腑がおかしくなるんじゃないかと思うくらいの『ぞくぞく』。
脚がガクガクして強張って、腿を開きたいのに開けない。
荒い鼻息とパサつく頭髪、男の熱を感じながら、ますます強く股間の異物を締め付ける。

「それに何でだかマンコもビクビクしてきてるしさ。…ひょっとしてまたイキそうなの?」
「…ッ、そ、そんなわけ…っ!」
半ば絶叫に近い怒声を女が上げるが、余裕がないのは表情を見れば分かった。
かつてない程の激しい快感に、一番恐れ慄いているのは本人だ。
「えー、お前またイッちゃうの? さっきイッたばかりなのにまたイッちゃうの?」
「…い、イクとか……そういう言葉…言わな…くぅッ」
蔑むべき下卑た淫語さえ、今はどうしようもない快感に変わる。
 
394いぬのおひめさま(中編):2008/10/11(土) 19:31:03 ID:3MAq8LAd
「……蛮族の、くせに…ッ」
「…あれ? 見て分かんない? ひょっとして目ぇ悪いの?」
反撃も試みているのだが、流石にこれは分が悪いだろう。
虐待と暴力に晒されていたとはいえ、それでも彼女は形なりとも先日までの雲上人だ。
伏字が要りそうな卑猥な罵り合いでは、明らかに語彙で負けている。
「…ッ! や、ばんじん…! ケダ、モノ…!!」
「はいはい野蛮人野蛮人、ケダモノケダモノ」
というか挑発の上手い下手の時点で、そもそも敗北していたとも。
ますます頭に血が昇り、鼻息荒く我を忘れる女に対し、男は実に余裕そのものだ。
「……あくまっ! あくまあああぁッ!!」
「…なんだ、今頃気がついた?」
笑われ、それさえ快感になる。
悔しくて、頭に来て、許せなくて、……だけどどうしようもなく、今のこの瞬間が心地よい。
はひはひと獣のような息を零しながら、瞑った目より涙を零し、身に染み付いた奉仕を繰り返す。

…傍から見れば珍奇な光景だったろう。
陵辱の光景でもなければ、恋人同士の逢瀬でもなく、形だけな夫婦の儀式でもない。
子供同士の取っ組み合いの喧嘩、それが一番近い形容か。
女は憤怒で瞳を潤ませながら、男の傘裏を鬼の形相で舐め上げ唾液をまぶす。
男は呼気を荒くしながら、大人げなくも女をからかって煽るのをやめない。
…乱痴騒ぎにもほどがある。
既に貴人の閨事たる品性はなく、あるのは意地と負けん気と激情だけだ。

いっそ開き直ったらしい、痛がれとばかりに万力が如く太腿で男の頭を締め付ければ、
悲鳴を上げるどころかますます鼻息を荒くして、剛直はぎちぎちと反り返る。
窒息しろとばかりにぐしょぐしょの陰部を押し付けてやっても、
器用に鼻先を使って呼吸を確保し、さも楽しそうに笑ってパタパタ脚さえ動かしてみせる。

「イク? イクのか? なぁイッちゃうの?」
「……ふ、ぐ」
興奮しきった男の声に、とうとう女は言葉にならない呻くを洩らす。
桜色の唇からこぼれた唾液が、とろとろと男の亀頭に落ち、
どうしようもない快感が陰核に集まって、快さが理性をどろどろに溶かす。
「俺の頭股に挟んだままイッちゃうの? な、野蛮人に股舐められながらイッちゃうの?」
「……うあ、あ……」
煽られ、囃され、涙に鼻水、涎で顔がぐしゃぐしゃの中、震えながら目を閉じ歯を食い縛る。
――惨めなのに、気持ちよかった。
褐色の肌を下に組み敷き、恥部に舌での奉仕を受けながら、陵辱者なはずの頭を股に挟む。
そんな倒錯した状況が、少女の心の平衡を奪い、敵愾心の壁を削っていく。
望まず男の頭を挟んでいたのは最初の内だけ。
最後の方は、自ら股に感じる髪の感触と体温を楽しみ、異物感と吐息の温かさを愉しんでいた。
 
395いぬのおひめさま(中編):2008/10/11(土) 19:31:32 ID:3MAq8LAd
「ほら、イケよ、イッちまえよオラッ!!」
「――ああアアアッ!!」
亡夫にさえ言われたことのない粗暴な言葉が、結局最後の一手となった。

「はっ、ああッ、あああぁッ?!」
かつてない絶頂を貪るかのように、海獣の如く男の腹の上で仰け反りながら、
同時にぴしゃぴしゃと噴き出した愛液が男の顔に掛かってしまっているのを意識して、
羞恥と快楽により深く強く、高い軌跡を描いて達してしまう。
突き出された乳房の頂点で揺れる輪飾が、少女の卑しい性情を表すかのようで、
しかし汗だくの若々しい肢体と合わさり、妖しい美しさを醸し出した。

ブルブルと突っ張った腕を奮わせる中、
ふと焦点の合わない濁った目が、眼下のぬらぬらとした剛直を見止める。

――理由は、彼女にもよく分からない。
閨の供として伴侶を歓ばすしか能がない、愛玩の寵姫としての意地とも言える。
四年間味わった地獄の中で、せめて培われた技術に対しての自負だとも。
男への愛だとか、雌の本能などという、下卑た言葉でも説明はつこう。
でも一番強かったのは、やはり悔しいという気持ち、…負けたくないという想いだと。

およそ可愛らしいという感想が関の山なはずの唇を限界まで開け、
少女は黒々とした男の肉棒を奥の限界まで飲み込んだ。
喉まで当たって苦しい、そしてそこまでしても根元まで咥えることはできなかったが、
息苦しさに耐えつつ口全体を使って剛直を攻め始める。
「ちょっ!? お前――」
脚の方から引き攣った声が上がり、腰から下を拘束していた腕の力が緩むが、
かまわず男の肉棒を吸い上げ、粘膜で傘裏を包むよう刺激してやる。
…出来るものなら男の頭か肩を足で思いっきり蹴飛ばしてやりたいところだったが、
流石にそれは腰から下に力が入らないので諦めた。
「馬鹿、やめっ……ぅあッ!?」
余裕綽々だった男の声色に、初めて情けない切羽詰ったものが混じった時、
だから貴賎聖淫の諸々を抜きに、素直に歓喜し悦んだ。
『自分はやられっ放しじゃない、一矢報いてやったのだ』と、
『勝ち逃げなんて許さない、せめて引き分けに持ち込んでやる』と、
最後の足掻きと言わんばかりに、自爆覚悟で喰らいつく。
「ほ、本気で、まず……」
「…! ……!!」

――『貴族としての誇り』、『人としての尊厳』。
駆り立てているのがそれだった、およそ相応しからぬ行為だとしても。
…これが出来る精一杯の抵抗だったのだ。
腕力でも及ばず、話術でも及ばず、立場でも及ばず、性別でも及ばない彼女が、
唯一相手に突き立てられそうな、己の持ちうる最大の牙。

……もっとも、
 
396いぬのおひめさま(中編):2008/10/11(土) 19:32:17 ID:3MAq8LAd
「――っだあッ!!」
ちゅぽん
「…!!!」

奮起して試みた反抗が、必ずしも成功するとは限らないのもまた世の常だ。
どれだけ決死の覚悟で挑んだとしても、ダメな時はダメ。無情。

……相手のモノが大きすぎて完全には咥え込めなかったのと、
なまじ律儀に歯を立てまいとしたのが仇となった。
上半身を起こした男に腋を掴まれ、ベリッと音がしそうなくらいに引っぺがされる。
悲しいかな、少女は無慈悲にうっちゃられた。


ぜいぜいと荒い息を吐き、広い寝台の上に寝転がる二名。
事後……には見えないのがなんともはや。
まるで死闘を繰り広げた好敵手同士や、
房中での暗殺が紙一重で回避された直後にしか見えないのが笑いの種だった。
女の方は疲労と酸素不足で息を荒げるからいいとして、
男の方がすぐそこまで来た射精感を必死で押し戻すのに息を荒げているのはここだけの話。

……本当、実はものすごく惜しかった。
あと三秒男の対応が遅れていたら、彼女の反撃は成功していたのだから。

やがてのろのろ、男が身体を動かす。
もそもそと寝台の上を移動すると、女の脚の側に回り込み、ゆっくりとその二本を持ち上げる。
――なんとなく脚の間から目が合った。

「……えと、じゃあ犯すから」
「………」

(……あ、俺、なんか今すごいアホなこと言っ――)
――コクンと相手の少女が、ぼんやり霞んだ目のまま頷くのも見えた。

「………」
「………」

沈黙。
 
397いぬのおひめさま(中編):2008/10/11(土) 19:32:38 ID:3MAq8LAd
「……股、開いて? …こうやって…膝の裏持って…うん、その方が痛くねーから」
「………」
語りかけ、腕を引いて姿勢を促すと、やはりコクリと頷いて為すがままに任せてくる。
(あれ、なんか幾らなんでも従順過ぎねえ?)と思うのと、
(うっわー、可愛いなオイ)と思うのは同時で、
男は無心を保つため、それらの思考を懸命に頭から追い散らさねばならなかった。

容貌は文句なく美しいし、怯える仕草や羞恥に耐える仕草、ムキになる姿も可愛いと思った。
…でも存在自体が愛しいと思ったのは、今この瞬間が初めてだ。
とろんとした目で言われるがままに股を開き、自らの両手で膝の裏を持ち抱え、
見てくださいと言わんばかりにヒクつく秘裂を突き出している。
かといってその表情は男に媚びる娼婦でもなく、屈辱と怒りに耐える矜持の女でもなく、
観念して俎板の上に寝転がる陰気で鬱陶しい恨み女でもない。

――からっぽなのだ、目の前の女の心の裡が。

普通、後家女や未亡人の心の中には、既に男の影が宿って大抵大きな位置を占める。
未通女でない女の心の中にも、辿った男の遍歴は宿る、男にはそれがよく判る。
結末がどれだけ最悪だろうと、少しでも幸せな時代があったなら、それは残影として色落とそう。
……なのに目の前のには、なんにもない。
これほど肉体は淫猥の極み、改造され尽くして等しいというのに、裡なる洞には闇だけだ。
寒々しいまでに何もなく、痛ましいまでに空白で、仄暗い洞には虚ろが満ち……
……でも逆に言えば無色透明、限りなく漂白された純白は、とても綺麗で美しく見える。

「力抜いて……って、もう抜いてるか」
宛がわれても、緊張するどころか完全に脱力状態、虚脱状態なのを目の当たりにして、
やっぱりさっきの乱痴騒ぎの反動で気力切れちゃったのかなー、とか思う。
身体はこんなにエロいのに、不器用なんだなー、とも思う。
チグハグな心を、可愛いと思う。
こんな不器用になるまで、苛められ、閉じ込められてきた彼女の心を、可哀想だと。
……可愛がってやりたくなる。
そういう時は確かそう、男はどう言うのが常だったっけか。

「……痛くしないから、な?」
「……あ」

ぐうっ…と押し付けられた先端に、ぐぽ、と入口が押し広げられるのを感じてか、
ようやく反応らしい反応を返す女。
……もし彼女が『犬だから卑しい』などと洩らしても、男は笑って返しただろう。
犬みたいな女は好みだと。
 
398いぬのおひめさま(中編):2008/10/11(土) 19:33:50 ID:3MAq8LAd


――痛くない。

ずぶずぶと自分の中に入ってくる漆黒の肉塊を、呆然と眺めながらリュケイアーナは思った。
彼女の手首ほどもある太さのそれは、どう見てもあの小さな膣口を潜れるはずがなく、
実際挿入感は凄まじい、肉が押し広げられる感触に、膣壁が引き伸ばされる感触、
明らかな異物感と圧迫感で、息や内臓が苦しいかと言われれば苦しく、息苦しいは息苦しい。
……でも痛くはない。
…絶対に痛い、痛くなければおかしいはずなのに、でもこれっぽっちも痛くない。
膣口が亀頭に押し広げられた時、僅かに穴の円周が突っ張るような痛みが走ったが、
でもそれだけだ、今はジン…とした痛みが僅かに残るだけ、……こんなの痛みにも入らない。
潤滑油がたっぷりなせいで、肉が内側に巻き込まれて噛まれもしない。
みちみちと膣肉が犯される感触が、ただ質量感だけを伴って我が身を襲う。

――なんで痛くなってくれない。

勿論それは、十分な前戯でほぐれ潤んだ蜜壷に、たっぷり唾液がまぶされた剛直。
…非処女どころか散々異物も挿れられて来た膣内、恐怖の解消、緩やかな挿入という、
諸々の要因が丁寧に重なった成果なのだが、そんな瑣事は少女にとって関係ない。
…だって痛くなければ困るのだ。
自分は陵辱されていて、敗将の妻として慰み者にされてるのだもの。
夫以外の男に抱かれ、しかも相手は異教徒である蛮族、帝国領を侵した侵略者だ。
…痛くなければおかしいじゃないか。
自分は苦痛で然るべきだ。

――どうして痛くしてくれないのか。

…違う、と思う。
違う!違う!違う!違う!、と。
こんなの自分が思ってた形じゃない! 自分が思い描いてたのはもっと、
暴力を奮われ、濡れてもいないのにゴツゴツと、思いやりの欠片もなく乱暴に突かれ、
垢塗れの不衛生な、でっぷり太った中年の好色家に、
嘲笑され、蔑まれ、身体も心も踏み躙られて、戦利品のように扱われるものだ!
こんなに温かくて優しくて、こんなに思い遣りのあるものじゃない!
こんなに幸せなものじゃない!
 
399いぬのおひめさま(中編):2008/10/11(土) 19:34:06 ID:3MAq8LAd
「……ッ」
だから相手の男の表情が、懸命に何かを堪えるよう歪む度、『貴族の彼女』の心は軋む。
自分に体重をかけぬよう、力の篭った腕を見る毎、『貴族な彼女』は悲鳴を上げる。

――痛みが欲しい。
殴って、ぶって、罵って、杖で打って、鞭で叩いて、蔑んで欲しい。
そうしてくれないと憎めない。
…恨めない、呪えない、蔑めない。…どうしたらいいのか、わからない。
はしたないこと、正しくないこと、相手の不興を買うことをすれば、いつも痛みが飛んで来た。
何が正しくて、何が間違ってるのか、だからそれで決めることができた。
痛み、痛み、痛み、痛み、彼女の善悪正誤を定める、世界を支配する絶対の律令。


…そんな『貴族な自分』の葛藤を、まるで誰か他人の会話がごとく、
リュケイアーナはぼんやりと心の奥底に聞いていた。
「……痛くない?」
「……ん」
ぼうっとした頭の虚脱の中に、ぬくもりに彼女の心は満たされ、囀りは遥か下方に掠れる。
虚ろを満たす、熱が、質量が、洞に侵入してくる感覚に陶然を覚える。

…これが、『犬の彼女』だ。

――世に流されるがままに、周囲に翻弄されるがままに、無気力、無抵抗、無感動。
理不尽な暴威に晒されれば、ただじっと身を縮めて嵐が通り過ぎるのを待つだけ。
どれほど蹂躙されても抵抗せず、どれほど罵倒されても憤慨せず、
媚び、へつらって、矜持も糞もなくただ従順、苦痛と暴力から逃げられさえすればいい。
目前の兇行には目を瞑り、民の嘆きには耳を塞ぎ、ただ穏当に、嫌われぬよう、恨まれぬよう、
…でもそうやってさも悲劇の姫ぶって造った顔の裏で、へらへらへらへら、笑ってるのだ。

馬鹿馬鹿しい、何もかも、無駄だ、無意味だ、無力だ、無情だ、知らない、煩い、関係ない。
本家? 帝国? 貴族? 教会? 夫? 臣下? 民? 蛮夷? くだらない。煩い。呪われろ。
嘆くしかできず、憂うしかできない、己の無力を憂い嘆き、そうしてそれにさえ疲れ果てた。
疲れた、面倒だ、どうでもいい。もう自分が泣いてるのか、笑ってるのかすら判らない。
世は変わらない。道義もない。帝国もきっともうダメだ、…何の意味がある、この世の全てに。
 
400いぬのおひめさま(中編):2008/10/11(土) 19:35:26 ID:3MAq8LAd
……そんな卑しい自分を認められないから、リュケイアーナは仮面を被った。
最低の、どうしようもない自分を否定し抑え込むために、『侯爵夫人』の仮面を被ってきた。
せめて出来る自分の務めを――何の解決にもならないと分かっていて、果たす。

だって分かっていた。
自分の立場、自分の地位で、この身の内に澱む呪いの言葉を衆前で吐き、喚き、暴れたならば、
周りがどういう反応を返すか、どういう結果に繋がるか。
乱心ということで、幽閉か、病扱いか…ああでも、それは本当に狂ってるんだろう。
それが現実に成った時、おそらく自分は本当に狂って壊れてる。
……狂うのは嫌だ、狂いたくない。
正真正銘に人間を辞めて、本当の獣になりたくない。…そう今でも思う。

なのに。

「…気持ちいい?」
「………」
コクリと頷くリュケイアーナの中で、それでも幸福と安堵は膨大、慙愧と暗澹は矮小だ。
チクチクという良心の疼きさえ、むしろ快楽の贄になる。
心は癒され安堵して、貫き侵される充足感が、淡波のように身を満たす。

こんな簡単に餌で釣られて、なんて卑しいと頭には思えど、
――でもリュケイアーナは餌どころか、褒められたり撫でられたりした記憶さえない。
異教徒、異民族の簒奪者に、一夜で肌を許すとは何事かと思うが、
――でも眩しいのだ、粗野で粗暴なのかもしれなくても、それでも温かく、輝いて見える。

「…腕、疲れるよな? …足、俺の腰に回した方が楽だぞ?」
「………」
黙って言われた通りにしながら、もうダメかなあ、と犬なリュケイアーナは思った。
…でもダメでもいいや、ともどこかで。
もう戦えない。何の為に抗えばいいか、誰の為に立てばいいのか判らない。
男が悪いのだ。こんなに温かくて、若く、強く、言葉には力が満ちるから。

体勢を保つのに疲れたのだろう、ぽすりとシーツ、彼女の肩に頭を埋めるのを、
少女は黙って、令されずとも自由になった両手で抱きかかえた。
手入れもなく痛んだ焔の髪も、傷だらけで荒れた土の肌も、嫌いじゃなかった。
そうして。
 
401いぬのおひめさま(中編):2008/10/11(土) 19:36:10 ID:3MAq8LAd


――ごつ、と男の先端が、とうとう最奥に突き当たる。
「………」
「………」
互いに示し合わせずとも、肺から深く息をついた。
女はたゆたう息苦しさを逃がすため、男は自らの自身を鎮めるため。

かくて一拍の間を置いた後、
「……ぜんぶ挿入っちゃったな」
「……う」
にーっと肉食獣めいた笑みを向けられて、犬の彼女は恥じらいにつと顔を背けた。
ギラギラと輝く硫黄の瞳が、どうしてか恥ずかしくて直視できない。
すぐ至近に相手の視線を感じ、密着した体勢は嫌でも相手の重さと肉体を感じる。

…分かったのだ、なんとなくだが。
獣は確かに野蛮だが、でも人のようには膿まないし澱まないし濁らない。
虎は確かに凶暴だが、でもその悪意は子供が蟻の巣を突くのにも似た無邪気の悪意だ。
残酷で意地悪だが……同時に優しいし強い、裏表もない。

「なあどんな気分? こんな凄いカッコになっちゃって?」
「……あ…」
ぐぅっと緩やかに体重を掛けられ、突き当たりに到達した先端を更に肉中へと押し込まれる。
少しずつ首を絞められていくような仄かな苦痛――とも言えぬ鈍い圧迫感と共に、
こなれた柔肉は引き伸ばされ、ずぶずぶとまだ四分の一ほど残っていた剛直を飲み込みだす。

耳脇に囁かれた声は本当に悪魔の囁きのように、甘く、意地悪く、蠱惑的だ。
見なくてもその硫黄の眼が純粋な好奇心、興味と興奮で輝いているのが分かる。
絡めた四肢が解けない、解くにはあまりにも熱く瑞々しく頼もしい。
高くもなく低くもない猫撫で声は、けれどえもいわれぬ力強さ、意を動かす何かに満ちて、
……犬の彼女はあまねく犯される歓びに、打ち震えて快い羞恥に昂揚した。

「俺みたいな蛮族なんかに犯されちゃって、どんな気分?」
「……ふあぁっ、あッ」
意地の悪いなじりに羞恥心を抉られると同時に、
ずぷ、と一寸強く押し込まれた肉柱が、ごり、と自分の本当の一番奥を抉るのを感じた。
甘美な――今まで感じたこともない甘美な鈍痛に、ピンと張り詰めてたものが切れたらしい。
もしかすると――言葉責めでというのもあれだが――軽く達しさえしてしまったのか、
絡めていた両脚が勝手にがくがくっと跳ね上がり、膣は男のモノを絞り上げる。

――それが拙かった。


<続>
 
402名無しさん@ピンキー:2008/10/11(土) 20:04:51 ID:40TUuA/C
続き来てた――(*´Д`)=э
あなたが神か!
いぬのお姫様も蛮族男も可愛いなあ。幸せになりやがれ!
後編も全裸でお待ちしてます
403名無しさん@ピンキー:2008/10/12(日) 00:36:48 ID:yi6nw2mP
GJ!GJ!GJ!!そして後編を!!
404名無しさん@ピンキー:2008/10/12(日) 01:41:02 ID:lyuJtId9
シリーズ化希望
405名無しさん@ピンキー:2008/10/12(日) 03:18:51 ID:Tqgq4DNO
待ってましたGJ!


流石に全裸ネクタイはきつくなってきたな……
406名無しさん@ピンキー:2008/10/12(日) 03:48:15 ID:YNxc+YkV
うっちゃられた の意味がわかんなくて思わずぐぐってしまったw
407名無しさん@ピンキー:2008/10/12(日) 06:08:55 ID:DXzwzy7D
後編wktk

>>405
気温が下がって縮んだんだろう
一度解いて結びなおすんだ
408名無しさん@ピンキー:2008/10/12(日) 20:25:11 ID:XBHTbbx5
すごく面白かったっっ 後編待ってます!!
409名無しさん@ピンキー:2008/10/12(日) 20:43:56 ID:O3Gem2kz
作者さんGJ!
蛮族青年イイヨイイヨー後編楽しみにしてます!シリーズ化希望
410名無しさん@ピンキー:2008/10/14(火) 21:52:07 ID:gpqDD0W6
いぬか
411名無しさん@ピンキー:2008/10/14(火) 22:09:20 ID:OYo9QyHS
GJGJ!!!
こんなにGJ作品が投下されてたとは!
後編超楽しみにしてる
412名無しさん@ピンキー:2008/10/17(金) 22:27:04 ID:luNbfrHH
読みました。
凄い。話の流れも自然で、言葉遣いも丁寧で、描写も綺麗だしその上エロい。
続きを楽しみにしています。本当に楽しみにしてます。頑張ってください。
413Barbarian Prince:2008/10/20(月) 19:35:46 ID:JEoejw6k
蛮族王子×貴族令嬢、なんですが、今回は後編じゃなくて番外です。
なんていうか、今までひたすら濡れ場、濡れ場だったので、時代背景の補完分に。
エロ皆無。漫才多め。




お忍びで城から抜け出すのに巡回の兵を暗がりから絞め落として兵装を交換、
マジでお供もつけずに単身単騎、舗装道でなく山林部分を突っ切り、
逃走経路にブービートラップ残しつつ追っ手を撒く、そんなアクティブな王子。
やたら気配殺すのが上手いので、山に逃げ込まれるともう兵にもどうしようもない。

戦争中なのにやたら軽くてちゃらいのは、もう大勝した後なせい。
兵は精強で士気も旺盛だけど、もう更なる侵攻&占領ができる軍費と兵糧がないので、
当面(2〜3年)は防衛迎撃に専念、内治に徹しないと駄目なのも理由の一つ。
蹴散らして潰走させた帝国軍の敗残兵の一部が、今後野盗化するのも目に見えてる。
今の帝国に兵を『六面同時展開』させるだけの金も米もないと知ってるのも、余裕の一因。
 
414Barbarian Prince:2008/10/20(月) 19:36:27 ID:JEoejw6k
「じゃ、人妻寝取りに行ってくっから!」

「……ロア様」
びしっ、と『いってきます』のポーズを決めた男に、老人は渋い顔で苦情を洩らした。
「先日申し上げましたよう、かの御仁は亡きフェリウスに手酷い虐待を受けていたとのこと。
城内の旧臣達の心象を良くする意味でも、ここはしばらくそっとしておいた方が……」
「馬ッ鹿お前、だからこそお近づきになりに行くんだろ!?」
複雑な表情で老人は主を嗜めるが、当の主は『分かってないな』とばかりに拳を固める。

「傷心の未亡人! 明るい話題で優しく近づく俺! やがて次第に深まる二人の仲!
『キャー、あんな暴力夫なんかと比べて全然カッコいいわ! ステキ! 抱いてッ!』」
「………」
気持ち悪い裏声を出す主君に対して、老人は達観したかのような目で嘆息する。
角灯の光に照らされて、元は紅かったであろう白髪と顎鬚、
そうして深い皺の刻まれた顔の、隻眼の老偉丈夫が浮かび上がった。
「…心に傷を負った女を抱くのは一苦労ですぞ? 最中に突然泣き喚きだしたり…。
好い女を抱きたいというのでしたら、こちらで八方尽くしてでも手配しますに」
「いや、だってさお前? 占領だよ占領? 征服、侵略、簒奪!」
まるで孫と祖父のように見える二人だが、実際は主君と臣下の関係なのは聞いての通り。
老人は男のお目付け役であり旧教育係――俗にいう『じい』な存在だった。

「いざそれやらかしてみた以上はさあ、やっぱり敵国の美姫とか亡国の女王とか、
きっちり自分の物にしとかないとダメだと思うんだよね、男に生まれた以上」
「…ロア様がおっしゃると、何でも俗っぽく聞こえてくるから不思議でございますな」
「いや〜、それほどで 「褒めておりません」
夢見る少年の貌で熱く語る主君に対し、流されずピシャリと厳言を叩きつけた。

分かっているのだ、一朝一夕の付き合いでも無し。
女子(おなご)さえ圧される口達者、こうやって押し引き引き押し相手の調子を狂わせて、
自分の気勢に持ち込んでしまうのが目の前の若造の手管だと。
初対面の人間には『馬鹿者』『うつけ』と評を下されがちな彼の主君だが、
それが全く的を得ぬのは、少なくとも古付き合いの者達は知っている。
…目の前の若造は、しかし虎狼のようにはしこい小僧だ。

「てかここ俺の城でしょ? 『俺の城のものは俺の城のもの』ってやつじゃん?」
燃える硫黄のような瞳を見れば、誰もが同じ感想を抱くだろう。
不遜が服を着ているような男だと。

「…ロア様一人で落としたわけでもございますまい、今回の遠征の総大将はイナ様、
包囲戦の司令官はラクロ様でした。攻め滅ぼした国の財産の帰属先的に考えますに、
イナ様、ラクロ様、あとは現盟主であるクウナ様の物と考えるのが……」
「でもこの城貰ったの俺だもんねー。この城で一番偉いのも今日から俺だしさー」
「………」
それでいて子供のようにえっへんと胸を張る姿が、演技かと言えばまた違う。
……演技じゃないからこそむしろ厄介なのだが。
 
415Barbarian Prince:2008/10/20(月) 19:38:39 ID:JEoejw6k
本当に、誰が信じるだろうかと思う。
「ってかさー、すっごい美人なんだぜ!? しかも俺とほとんど同じ歳!
これはさー、据え膳食わねば何とやら、だろ!」
…『こんなの』が今回の追討戦の一番の戦術的功労者、
三月前の野戦においては、手勢1000の重騎兵隊でもって敵陣左翼を食い破り背襲、
フェリウス本隊を挟撃からの敗走に至らしめた猛将であり、
十日前もまた脱出を図ったフェリウスを追跡、敗死に追い込んだ驍将だと。

実際に目耳に味わわなければまず信じられまい。
虎がごとく敵陣の急所に食い付き、狼がごとく浮き足立ち逃げ惑う兵を食い散らす。
蹂躙し、蹴散らし、何何百の命が千切れ飛ぶ中、今と変わらぬこの笑顔、
…『悪魔』『化け物』呼ばわりも頷けよう。
本当に(今日付けで)城主で、本当に(任領こそ小さいが)領主、
『ゼズ城および周辺三郡五街二砦の経営監督権』ならびに『千人長から小将師への昇進』、
……この行賞が過大にならない、それだけの輝かしい大功だった。

――それだけに、溜め息が出る。
「…わかりました。ロア様が一度言い出したら聞かないのは承知しておりますからな。
ただ一つだけじいの頼みを聞いてくれるならば、他に関してはとやかく言いますまい」
「お。今日は随分話が分かるなじい? で、なんだその頼みって」
頬杖を突き、にこにこしながら聞いてくる主君。
「……もう少し『王弟殿下』らしくしていただけませんかな?」

――王弟殿下。

ブッとその単語に噴き出したのは、もちろん会話相手である殿下その人だった。
「で、殿下ぁ!?」
一体何がツボに入ったのか、腹まで抱えて大笑いする。
「お、王弟殿下ってお前、そんな柄 「至って真面目な話です。冗談ではなく」
しかし老爺はそんな主に対し、真剣な表情で語り始めた。

 そもそも国というのは、神や聖霊の承認によって生まれるものではない。
 英傑が現れ、その周囲に人が集まり、それが次第に大きくなる、
 そうした上でその集団が国を自称し、周囲がそれを無視できぬほどに力が強まったならば、
 初めて自他共に認める国となるのだ。

 大陸統一以来の数百年間、大陸は帝国を中心とする一強皆弱にあり、
 特に『蛮族』のレッテルを貼られた北夷と南夷は
 国としてどころか同じ人間の同胞としてすら認められず長らく迫害の下にあった。
 その中で国を自称した北夷南夷の部族も居たが、
 当然帝国からは認知されず、やがて歴史の荒波へと消されていった。

 だが! 長年の宿願だった山岳オルブ諸部族の連合が達成されて早40年、
 帝国大包囲網と一斉侵攻の開始に伴い、国家を名乗っても良いのではないか!?

「…というわけで、名乗ったようです。ちなみに名前はオルバス連合王国だそうで」
長々とした語りを締めくくった老爺に、男はパチクリと目を瞬かせる。
 
416Barbarian Prince:2008/10/20(月) 19:38:58 ID:JEoejw6k
「…え。…いや、ちょっと待て、全然聞いてないぞそれ? てか連合王国ってお前、
親父もクウナ兄も盟主であって王じゃないだろ。んなことほざいたらガルデガの爺共が――」
「いや、それに関しても大丈夫です」
馬鹿だが利発な彼の主君、流石に事の重大を理解したらしく動揺の声を上げるのだが、
老爺は落ち着き払った声でそれを制した。

「実は我々遠征軍が出発した後、向こうでもちょっとした政変があったようでして。
ガルデガの古老連が隠居を表明し、代わりにかのファデラ様が新しく族長となられました。
臣下としての恭順の意も示されたらしく、これで名実共に山オルブ統一も果たされたかと」
「………」
唖然とする男。
よくもまぁあっさりと言ってくれたが、しかしこれ、相当とんでもないことである。

 帝国側が一括りに『南蛮』『赤鬼』と呼ぶ彼らオルブだが、実際には複数の部族の集合、
 とりわけ蛮土東方山岳地帯の『山の民』と、西方砂漠地帯の『砂の民』では、
 同じなのは外見だけ、気質・生活様式・文化風習、内実は全然別物というのが実際だ。
 ガルデガはそんな山の民の中でも二番目の大部族。
 対帝国同盟の盟主にして、山岳オルブ最大の部族であるゼティスの対抗馬で、
 盟主に過ぎない彼らが強権を手にしないよう、
 同盟結成後も水面下での政争や対立を繰り返し続けてきた長年の政敵達だった。

 その長老連が権力の座から一掃され、代わりに男もよく知る融和派の女傑が長に就く。
 …事実上の無血政変とは言え、裏で相当血生臭いことがあったのは疑いない。
 「…何やってるんだよクウナ兄は」と、思わず男も呟いた。

 先盟主ゼリドの次男であり七年前に現在の盟主の座についたクウナは、御歳39歳。
 (男一人から固着しそうなオルブ全体のイメージの払拭のために弁明すると)
 大層な優男で物腰も穏やか、父ゼリドとは正反対に武よりも文を好む温和な盟主で、
 その内政手腕、何よりも稀代の文化人・教養人としての振る舞いが周囲の名望を集めている。
 (でも身内である男に言わせれば、政争からロアら脳筋妹弟を守ってくれる反面、
 『微笑みながら政敵の首を真綿で絞め殺す』、お腹真っ黒の性格ドS、策謀家だ)

「この政変を受け、帝国に対する宣戦布告も国家、王の名において出されたとか。
例によって帝国は無視の一点張りですが、逆に隣の砂オルブ、東の東洋諸島都市連合、
北のクラート、シシス、洋を挟んだ西大陸の三国には一様に受諾されました」
「……それ、今回の切り取りに参加してる連中全部じゃね?」
そうなのである。
「良かったですな。多数決の原理で、見事ロア様も今日から王弟殿下」
「…え。…えー? いや、つーか、タチ悪い冗だ 「だから冗談ではございません」
なのにもっと喜んでもいいはずの快挙を、まるで迷惑そうに聞くこの王弟。

「…てか、本当に寝耳に水だぞ? もっと前フリっていうか、幾ら何でも急すぎっつか」
「それはそうでしょう。何しろ私も今日の昼間に聞かされたばかりですから」
まあでも本当に、この主君にとってはそんな話、その程度のことでしかないのだった。
 
417Barbarian Prince:2008/10/20(月) 19:39:34 ID:JEoejw6k
「今回の追討戦にガルデガの兵が数多く含まれていた関係上、
兵の動揺を防ぐために緘口令が敷かれていたというのが実際なようですな。
イナ様、ラクロ様は攻城開始の時点で既に知っていたようですが」
「ちょ、イナ姉もラクロ兄も知っててなんで俺だけ教えられてないんだよ!?
俺そんな口軽くないよ!? そんな信用ないの!?」
『大功を立てた重将なのに軽んじられた』的に憤るというよりは、
『兄貴も姉貴もなんで俺のこと仲間外れにしたの?』的にガーン!な末っ子。

「…いや、普通に『馬鹿だし教えても教えなくても大差ないだろ』とか思われたんでは?」
「ひどっ!? ひっど、酷いぞそれ! 馬鹿なのは認めるけど酷い!」
…もう少し野心、もう少し権力欲があって体面に拘る男だったならともかく、
『馬鹿なのは認めるけど酷い』とか自分で言い切っちゃう辺り、
そうやって『あー、あいつは後でいいや』的に兄姉から末弟扱いされるのだとは気がつかない。

「…あー。じゃあいいよもう。うん。…何? 王位継承権? 要らないからそれ。放棄する」
ホラこういうこと言い出すし。
「何言っとるんです、どこの世界に獲得して五分で王位継承権放棄する馬鹿がいますか」
「ココ。だって馬鹿だし。…どーせ俺は馬鹿ですよーだ」
あまつイジケてふて腐れだす。
…成人してもう三年と半にもなろうというのに、いつまで子供のつもりなのか嘆かわしい。

「…大体あれだろ? 暗殺とか毒殺とか、王族って権謀術数渦巻く蛇の巣なんだろ?
面倒なだけじゃん、どう考えても要らないだろ。むしろなんで皆王位とか欲しがんの?」
「必ずしもそうとは限りません。…というか立志伝や英雄伝記の読みすぎです」
「でもさぁ、『貴方は実は王子だったのです』とかですらなく『お前今日から王子ね』って何?
この際だから建前抜きの本音で語り合いたいんだけど、」
うんざりしたように、胸を張る。

「俺のどこをどーいう風に見れば、王弟殿下なんかに見えるんだよ!!」
「どこからどう見ても王弟殿下に見えませんが、これからは見えて頂けないと困るのです!!」

……下野し降籍し出家したところで、統治者の血の者であることに変わりはない。
継承権は捨てられても、貴血という事実は捨てられないのだ。
体面、礼節、地位というものは、政(まつりごと)を行う上で絶対に無視できぬ要素。
まるでどこぞの山賊の若頭、傭兵隊長にしか見えなくとも、今後は変わってくれないと困る。

「げー」
……本当に、嘆かわしい。
「…つかさ、ほんとに要らないじゃん。俺兄妹の中でも末っ子だよ? 上に22人もいるんだよ?
これ全員退けて王位掴むとか、普通に考えてありえねーし、やれたとしてもやんねーよ」
何故これだけの利発さを持ちつつ、権力への渇望は抱かない。
何故これだけの軍才を持ちながら、献身を厭わずして情愛に生きる。
「レダ兄とか、ラクロ兄とか、俺なんかよりもずっと相応しいのはたくさんいるし……、
そもそもクウナ兄からしてとっくに妻子持ちだし……、大体」
何故戦場ではあれほど敵を踏み躙れるのに、降りれば親を立て、兄を立て、義を立てる。
何故礼節の前の礼を知り、体面の前の体を知り、天地を弁え、人心を解し――

「――そういう王族とかの飾りなんかなくたって、俺は俺だし、親父の子だよ」
 
418Barbarian Prince:2008/10/20(月) 19:40:12 ID:JEoejw6k
迷いなく言い切られた何気ない語に、老爺はハッとして目頭を抑えた。

……前言での謗りは、撤回せねばなるまい、
見る者が見さえするのなら、どう見ても山賊や傭兵には見えないのだから。
隠し切れぬ貴血の生まれ……という言い方をするのは語弊がある。
敢えて言うなら、乱世の雄の相か。

冠も、笏も、珠も帯びぬが、窓辺に腰掛け懊悩する姿は、下衆にはありえぬ品格を持つ。
誰もが振り返るような美丈夫でもなく、女と見紛うような優男でもない、
大人になりきれぬ悪戯坊主、形作る骨肉だけをなぞるなら、確かに山賊傭兵の評は真だ。
……だが虎が虎として唯在るように、鷹が鷹として唯在るように、
言の葉の霊、野にあって粗なれど唯在るをもって貴きを為し、
その立ち振る舞い、野にあって蛮なれど唯在るをもって衆人を魅する。
畏れ敬われることはないが、誰をも惹きつけ愛されよう。
飾らぬ言葉は学無き民草にも希望を見せ、通す道理は勝利を通して正義を見せる。

重なるのは、男の祖父の姿だ。
目を閉じれば老雄の瞼にありありと浮かぶ、在りし日の旧主のその威容。
現在の包囲網の先駆けであり、山岳オルブ諸族を力で束ね上げた初代の盟主。
病にて夭折していなければ、あのフェリウスにここまで煮え湯は飲まされなかったはずだ。
そしてその転生がごとき生き写しが今、老雄の目の前に座している。
……口惜しくてたまらない。
何故このような男が、一番最後の子と生まれたのか。
何故このほどの大器が、近衛の女兵士との間に成ったのか。
火神の末たる灼煉眼、燃え盛る硫黄の金眼を、
「ですが王弟殿下という肩書きがあれば、間違いなく女子にはモテますが」
「……う」
……どうして『こんなの』が持っている。

「…………どうすりゃいいの? 具体的には」
ああ、釣れた、釣れちゃったよ。

「…問題だらけで何処から手をつけて良いのやら途方に暮れるほどですが、
さしあたっては振る舞いや言葉遣いを改めるのからでしょうか」
「ことばづかい?」
「……人前で鼻をほじらない」
「………」
「ズボンで拭わない!!」

 今でこそ堕落した帝国も、それでも200年前、300年前は興盛の限りを尽くしていた。
 権勢は領土の果てにまで及び、『蛮族』のレッテルを貼られた彼ら敗者は、
 奴隷として狩られて帝国の諸都市に連行、過酷な肉体労働に使い潰されたという。
 言葉は奪われ、信教は奪われ、文化風俗を奪われた。
 でもそれ自体はもういい、既に遠い過去の話だし、代わりに向こうから得た物もある。
 …帝国の為した功罪の一つが、実質大陸における言語の統一だ。

「まぁ確かに俺らもクラート(=北夷)も普通に帝国語話すけどさ」
 
419Barbarian Prince:2008/10/20(月) 19:40:29 ID:JEoejw6k

 …とは言え、しかしそれらの言語が均一かつ画一的に野に浸透しているわけではない。
 方言、訛りとでも呼べばいいのか、例えば彼らオルブの話す帝国語は、
 帝都民が嗤う所の帝国南部の『田舎言葉』を、もっと粗野にした感じである。
 広大な領土の北で頻出の口語が、南では聞いたこともないなんてのはよくある話だ。
 東である意味を指す語句が、西では全く逆の意味で使われることもある。

 ……しかし百歩譲ってそれだけならまだいい。
 それでも人は普段から心がけて、持ちうる語彙の中から使う言葉を『選ぶ』ことができる。
 心優しい人間は柔らかい言葉を、粗野な人間は乱雑な言葉を。
 激昂したり、進退窮まった時に飛び出す罵倒で、育ちの貴賎が分かるのはこの為で、

「…つまり『ちんこ』とか『まんこ』とか、『キチガイ』とか『ビッチ』とか言うなってこと?」
「………」

……もう手遅れかもしれないなと、心中で匙をぶらつかせた。
どこで育て方を間違ったのだろう。
教育係として悔やんでも悔やみきれず先々代に申し訳が立たない。

…いや、散々きついこと言ってるが、本当は何処に責任があるのは分かっている。
親族親兄弟から臣下に至るまで全員が全員、
『どうせ一番権力争いからは遠い、歳の離れた末っ子だし』ということで礼を失し、
(少々手荒く)可愛がりに可愛がった、目くじら立てなかったのが悪いのだ。

下々の者らと泥んこになって転げ回り、ガキ大将やってた時点で止めるべきだったか。
怪我した虎の仔を何処からか拾って来て、飼いたいと言い出した時点で窘めれば良かった。
12歳にして初陣を迎え、その戦勝祝いですっかり部下達と意気投合、
未成年なのに酒を飲まされ、いい飲みっぷりを披露してた時点でやな予感はしてた。
成人の儀式の祝詞の最中、目を開けながら寝てるのを見た時点でもう諦めた。
夜街に出ては酒場で食事を奢り、部下を連れて娼館に入る。
『ヤバそうな安宿には近づいてないよ!』? ……そういう問題じゃねえ。



――もっとも男に言わせれば、何も特別なことはしてないつもりなのだ。

「だ、か、ら、要らねーっつってんだろがこんバカッ!」
「だ、か、ら、要らないでは済まされんと何度申し上げれば分かりますかこの洟垂がッ!」

出来るからする、面白いからやる、有利有効だからやる、道義に沿ってるからする。
出来ないからしない、つまらないからしない、無益無駄だからしない、道義に反するからしない。

「何処の世界に女とヤってる最中も傍で部下待機させとく上司が居んだよ!?」
「だから皇帝や王侯貴族ではそれが普通なんだと何度言わせれば!」
馬鹿じゃないの?とフツーに思う。
シてる最中にまで部屋内に近衛兵と侍女置けとか、頭悪いの?とかフツーに思う。
「だって普通に変態プレイだろ! 見られて感じるとかそういう趣味ねーよ!」
むしろ気が散るし、勃たない勃たない。
そもそも二人っきりでエロムードだからこそ、色々恥ずかしい事とかも言えんのであって、
それを冷静に第三者に全部観察されてるとか、普通に嫌だ、すっごい悶絶。
 
420Barbarian Prince:2008/10/20(月) 19:41:04 ID:JEoejw6k
「ですが閨房が古来より暗殺率No.1、男が最も無防備になる瞬間だというのは
若だって重々ご承知でしょうが! ただでさえ相手は自分が討った将の妻ですに!」
ああほら、興奮して『若』とか言い出した。
「バーカ、そんなん首の骨へし折って窓からぶん投げ決定だろ。
伊達に虎素手で殴り殺してねーよ、そもそも廊下とか城門の警備優先しろっつの」
散々『成人してもう何年〜』『いい加減大人に〜』と言っておいてのこの言い草、
じいだって人の事言えないだろとも思う。

「…女は魔物と言いますぞ? 間諜よりもむしろこちらが厄介かと思いますがな。
酒、毒、火…刃と腕力だけが威力にあらず、幾人の王が房中に死したとお思いか」
「…んな気概がありゃ、とっくにフェリウスの爺も死んでるはずだけどな」
「いいえ、女は分かりません」
「………」
立志伝や英雄伝記の読みすぎはそっちもだろうが、とも、言えるなら言ってやりたい。

――何が『御身は玉体』だ、『上辺は諦めようとも内実は礼に則していただきますぞ』だ。
着替え係? 香油塗り係? 日を改めて文を贈り、花を贈って香炉を焚け?
女子供じゃあるまいし、服くらい自分で選んで着れる。
あまつ花なんて飾って香なんぞ炊いたら、それこそ娼館と変わらない。
…本当に、ちょっと幼い寡婦に夜這い仕掛けるだけだってのに、なんでこんな七面倒臭い。
死んだ部下とか上司の妻とか、身内の義姉相手なら不義密通だろうが、
幸い相手は攻め滅ぼして占領した敵国の女なのだ、世間的に何の問題があろう!(?)

「…ああ、わーった、わーったよ! 譲歩する!」
とうとう男は両手を上げて、素直に降参のポーズを取る。
「ご理解いただけま……」
「要はヤらなきゃ問題ないんだろ!? 会いに行くだけ、それならいいよな!?」
「……は」
一瞬綻びかけた老雄の顔が、皺が緩んだまま固まった。

「会いに行くだけって……どこの世界に夜女の部屋へ会いに行くだけの間男がいます」
何を馬鹿なこと言ってるんだという風に言ってやったのだが、
「いや、最初に『虐待受けてたっぽいから無体なことすんな』って言ったのお前じゃんか」
逆にお前こそ何馬鹿なこと言ってるんだという表情で返された。
「それに嫌がる女を無理矢理ってお前、普通に男も痛いだろ、絶対濡れてる方がいいだろ。
折角の歳が近い美女で、一期一会でなく時間も余ってんだ、『急がば廻れ』って知ってる?」
「…それはまあ……そうですが……」

久々に正論。
手っ取り早くて金も暇もない時に便利だけど、失敗のリスクも高いのが強姦なんだよな。
相手がドMだとか、実は両思いだったとか、そういう場合は後からの関係修復も可能だけど、
基本的には一回限りの使い捨て、高確率で心も関係も大破全壊するから困る。
(よっぽどテクに自信あるならともかく)素人にはオススメできない。

「だからまずは『お友達』からに決まってるじゃねーか。馬鹿なの? 常識的に考えようよ?」
「………」
でもなんだろう、この納得のいかなさは。
 
421Barbarian Prince:2008/10/20(月) 19:41:35 ID:JEoejw6k
「……思いっきり抵抗されたらどうするんです。物投げられたりとか」
「そりゃお前、机の影に隠れたり、部屋の隅から優しく語りかけたりとか、臨機応変に」
「………」
猛獣か何かと勘違いしてるんじゃないかと思う。非常識なのはどっちなんだか。
「床は絨毯敷いてあるんだし、外での野宿よりは寝やすいだろ。
まずは男は怖くないってことから判って貰おうと思ってる、当面の目標は添い寝かな」
布団に入れてもらえない覚悟まで決めてるとは実に見上げた根性だ。
もう侵略した側のプライドないね。

「……『陵辱』、ナメてませんか?」
「『陵辱』って、文贈って花贈った後香炊きながら他人に見られてやるもんだったんだな」
「………」
「………」
――なんというグダグダ。
成り上がりの野蛮人風情が、お貴族様の真似事しようとするからこうなる。
誰の目にも分かる、この二人は間違いなく聞き伝えの見様見真似。

沈黙。
やがて老従の方が諦めたように、盛大に肩を落として溜め息をついた。
「…まぁ、しかし確かにそうでしょうな。ロア様に強姦陵辱なんて出来るはずもなし」
そうして急に臣下らしくない胡乱な片目で、仕えるべき主を横目に見る。
「素人になんて無理矢理どころか、濡らしてでも挿れられないくらいですから。
そう思えば歳の程が変わらぬ美貌の『未亡人』に、ご執心なさる気持ちも判る」
「……なんだよ」
実に引っかかる言い方に、僅かに男の目つきが険しくなり、
「ですがそんな奥手で悠長だから、許婚を兄上様に寝取――」
「おい!」
初めて表情に余裕の無い、目に見て取れる怒気を表した。

どんなに余裕めいた蛮勇にも、一つくらい突かれると痛い弱みはある。
ましてやそれが、男の尊厳に関わることともなれば尚更だ。
――『過ぎたるは尚及ばざるが如し』。

「しかし、事実は事実でしょう。
…竜雄にありて、短小にして種薄きは国傾き、長大にして種濃きは国栄えると言えども、
万事物事には限度があります。…挿れられぬのなら、まだ入る分短小の方がマシかと」
言葉の上辺こそ高尚難解だが、言っている内容は下品の極み。
「うるせーよ馬鹿。不敬罪で首ちょんぎるぞ?」
流石に本気で首を撥ねられることはないと、分かった上での暴言だったが、
それでも目に見えて不機嫌になった主上に対して、老爺や慇懃無礼に頭を下げた。
「これは失礼をば、いささか臣下の礼を失したようですな」
そうして、急に口調を一変させる。

「ではお詫びと言ってはなんですが、兵に命じて速やかに奥離れを人払いさせましょう」
「……あ?」
耳の穴かっぽじってそっぽを向いていた男が、予期せぬ言葉に振り返った。
 
422Barbarian Prince:2008/10/20(月) 19:42:10 ID:JEoejw6k
「姫君と密会したいのでしょう? こんな時に権力濫用しなくていつ濫用しますか」
「…え、いや、権力濫用って……おお?」
突然180度反転したお目付け役の態度に、きょとんとして要領得ないらしい主君。
老従はおもむろに頭を上げると、今度は真顔でそんな主を見た。

「…というか、どうなさるつもりだったんです。平時ならともかく今占領中ですぞ?
奥離れに軟禁と言っても、かの御仁の傍には侍女や監視の兵が粛々と控えています。
本気で単身忍び込めるとでも? 二人っきりとか常識的に考えて無理ですが」

さっき『馬鹿なの? 常識的に考えようよ?』とか言われたのがよっぽど癪に障ったらしい。
『常識的に』のところをやたらと強調しつつ、主君の考え無しを指摘した。
……この主君にしてこの臣下、この教育役にしてこの殿下。

対して男は、『えー』とか言いながらポリポリと頭を掻きながら、
「…え、いや。…昼間上がれそうなとこ目星つけといたから、バルコニー伝って窓か――」
「どこの泥棒猫ですかあんたは!」
『んー』とか言いつつのこの言い草、流石に老爺も大声を上げる。
「それにさっき言いましたよう、そもそも向こうは部屋付きの侍女が侍っとります。
どう追い払う気でしたか、向かって来られたら窓から投げ飛ばすんですか!」
ただでさえ落城直後の占領下、する側もされた側もピリピリなのだ。

「それはまぁ、こいつで適当に脅して追い払っ――」
「大騒ぎですよ! 間違いなく確実に大騒ぎですよ!!」
「……じょ、ジョーダンだって、はは」
笑顔で腰の蛮刀を掲げて見せる主君に、頭痛が込み上げるのを抑え切れない。
というか、やってただろうという確信がある。
……本当に忍び込むまではいかないだろうが、警戒網の限界点まで接近した後、
無理だと舌打ちして引き上げるぐらいまではやってただろう。

今でこそ栄えある重騎兵隊の将師だが、
仕官後最初の三年間は、誰もが平等に通る下積みとして帝国南端の山林部に座し、
帝国の商隊や輸送隊の襲撃、野盗化した脱走帝国兵の討伐を務めていた。
(と書くと聞こえはいいが、要は国を挙げての帝国軍狙いの山賊行為だ)
家庭教師こと軍師として付き従い、将来敗走した際の生存技術の教授も兼ねて、
シビアな遊撃戦術のイロハを叩き込んだのは他でもない老雄。
可愛いからこそ実戦戦術の全て、罠の仕掛け方や痕跡の消し方、『獲物』の狩り方、
待伏・伏兵の辛さ苦しさと、それに反比例する奇襲成功時の快感等、
およそ王弟殿下が知る必要ない、山賊的な諸々を教え込んだのは彼自身だ。

「…お貸しください」
「お?」
その罪滅ぼしというわけでもないが。
「…確かにお預かりしました」
「ん」
主君の蛮刀を両手に預かる。
…剣を預け預かるという関係が、一般的な王家で何を意味するかはさて置くとして。
 
423Barbarian Prince:2008/10/20(月) 19:42:45 ID:JEoejw6k
「夜はまだ早い。半刻ほどお待ちいただければ、お望み通りの場を仕立てましょう」
「……おー」
剣を手にうやうやしく礼した老僕は、見事にこの場を取り繕って見せた。

……ただ、少なくとも老雄自身はそう思ったのだが、
「もう何も申しますまい。ロア様に何を言っても無駄なのは、臣とてとっくの――」
「ははーん、分かった分かった」
そう思っていたのは老雄だけだったらしい、水魚の交わりは相互いを知る。

「じい、お前てっきり俺が『強姦』しに行くと思って、必死で止めようとしてたわけか」
「……!!」
馴れ馴れしく肩に手を置かれニヤニヤ笑われれば、ギシリと隻眼を固まらせもする。
「やっさしっいなー、なんだかんだ言ってお前も女子供には甘いもんなぁ」
「べ、別にそういうわけで言っていたのではありません!」
無骨で気難しい老人なだけに、反応は素直なものではなかったが、
しかし真意を見抜いてもらえ、師として臣として嬉しい部分もありで――
「ただ私は、ロア様には君子として道に外れぬ行動をして欲しいと、ひとえにそう……」
「はいはい分かった分かった、外れない外れない」
――ツンデレ! ツンデレ!
「…ッ、とにかくです!」
ゴホンと咳払いし、面目を保つと、格調を引き締める。

「…ロア様はここしばらく昼夜問わずして働き詰めでしたからな、ご褒美です。
明日の早朝訓練と午前中の政務は出席しなくていいですぞ」
「……って、ええ!? じいどうしたよ? 何か悪いもんでも食ったのか!?」
別に悪い物を食べたわけではないが、とりあえずこれは当然の休暇だ。
入城より連続してのここ十日程の激務に次ぐ激務、
周囲に呆れ叱られながらも、真面目に戦後処理に挑み、それを一段落つけたのだ。
「件の御仁の取り巻きの侍女達は、明昼まで臣が何とか抑え込みましょう。
お二人で朝の林を散歩するなり、城の中を案内してもらうなり、
しっかり二人っきりしてくださいませ、どうせ手紙も詩歌も楽器もダメなのですから」
「至り尽くせりじゃねーか、どういう気の変わりようだよ?」
若くて体力が有り余ってるのはあっても、初三日のほぼ徹夜などキツかったろう。
戦陣にあっての部下の手前、遠征開始以来酒も女も弁えて久しい。
…多少の破目の外しや女遊びくらい、許して然るべき休憩だ。

「ただし城外に出るのは無しですぞ。繰り返すようですが『強引に』も絶対……」
「分かってる、だから分かってるけどさ!」
だというのにこの主君と来たら、子供のように目を輝かせて興奮し、
「メチャクチャ甘やかしてない珍しく俺のこと? 本当に仕事サボってもいいの?」
…なんてのたまうんだから、少々哀れにも思えてくる。
人の上に立つ者として、雑兵よりも尚人一倍働くのは当然とは言え、
流石に「馬鹿だ」「未熟だ」「甘えなさるな」と、少々尻を叩き過ぎたかとも思うのだ。
…否、そもそもこういう風に思ってしまう時点で、自分は主に甘いのだろうか?
「何を言いますか、これとて立派な仕事です」
――老人にはよく分からない。
 
424Barbarian Prince:2008/10/20(月) 19:43:46 ID:JEoejw6k
「…真面目な話、侵略する側とされる側の両頭が融和合力するに損はなしです。
城内における旧臣も、フェリウスには恐れ慄く一方かの方には同情の念が強いようですし、
これを擁護して丁重に扱い、将でなく個として友誼を深めるは緊張緩和と吸収の一手。
同時に我々が道義を持つを内外に示し、捕縛した敵諸将を下らせる一助にもなりましょう」
「うっわ前言撤回、やっぱりじいはじいだったわ。何その打算の雨霰」
「兵は詭道ですからな」
ともあれ主君の休暇と娯楽が、また仕事にも繋がるのならこれ以上幸いなこともなし。

 なにせ今回の戦争は、民族やら主義やら宗教の絡んだ凄惨な殲滅戦争ではなく、
 実に蛮族らしい征服戦争、自国を広げ富ますための戦争だからだ。
 略奪や強姦を軍規で厳しく禁じつつ、『平民』『農民』を積極的に宣撫保護する一方、
 腐敗した『貴族』や『官吏』を一掃したのは、別に勧善懲悪のためではない。

 未だ帝国の領土は広大で、総合的な国力では此方が圧倒的に負けている。
 真っ先に最脅威である南領の要ヴェンチサを、全戦力集中して速攻で落としたのは、
 帝国の混乱を狙うのもあるが、山越え後の橋頭堡を築くためでもあった。
 要塞化の予定上、戦争で痩せ衰えた畑を耕し直す必要があるし、
 城砦を建設するための労働力も欲しい、その為には何よりもまず民心が要る。
 故にこそ全身全霊で民草に媚び入り、糧食を分け与えてまで融和を図ってるのだ。

 でないと安心して兵配置できる、前線基地領が手に入らない。
 更には今後30年の帝国分割を考えた際の、安定した兵站、後方領が手に入らない。
 どっかの隊が馬鹿やって略奪なんてのこそが、最も阻止するべき最悪の事態だ。

そうして、他にも問題がある。
「また、ロア様も今や一躍時の人、綺羅星の大戦果も挙げてしまいましたからな。
ここだけの話、もう一月もすれば本国、下手すると包囲網参加の諸勢力からさえ、
逆求婚や縁談の申し込みが殺到する恐れがございます」
「……もう来てるよ包囲の内から。…今まで無視ってた癖にムカつくよなー」
一躍有名になった英雄特有の、よくある問題の発生というか。
『少年と言っても差し支えない若さであのフェリウスを敗死に追い込んだ』とか、
『民と同じ目線に立って戦う先代盟主の末子』なんて噂が本人の意思無視で勝手に暴走、
ちょっとしたカリスマっぽいことになってきちゃったのだ。
――これが身一つで乱世に覇を立てんとする稀代の野心家だったなら、
ここでニヤリとほくそ笑んだのだろうが、生憎と男はそうでない。

「ご自分でも分かってらっしゃるよう、ロア様は母方の後ろ盾がございません。
…そういうのに組み込まれたら一環の終わり、間違いなく権力争いの駒に使われます。
兄姉様方に泣く泣く斬られたくなくば、妙な縁故は作らぬに越したことはない」
「…頼むからそういう話は昼だけにしてくれよ。俺だって頭痛いんだよ」
――どうやって二心がないことを証明しよう。
珍しく情けない声を上げる横顔は、しかし間違いなく『愛されて育った末っ子』のそれだ。
乱世の英雄の相こそ備えど、奸雄タイプというよりは忠臣タイプ、
家族へ信仰にも近い忠誠を捧げ、出自と国土を愛せるからこそ、男は強く、無欲でもある。
民に裏切られても、兵に裏切られても、
それより尚強い『血の絆』の存在を信じれるからこそ、それを拠り所に立ち上がれる。
 
425Barbarian Prince:2008/10/20(月) 19:44:56 ID:JEoejw6k
『俺は一生中立だよ〜、兄貴姉貴達一筋だよ〜、叛意を持つとかとんでもないよ〜』
『ホントすんません! 調子乗ってないッス! マジ兄より優れた弟なんていないッス!』
――という自分の魂の叫びを、ビシッと表明するにはどうしたらいいか。
そんな悩みと共に男は忠臣の顔を仰ぎ……

「いえ、その点これは本当に……よく考えてみれば本当の本当に、悪い話ではない。
『墜とした敵国の領主の寡婦に熱を上げた』、『討将の若妻との不器用な恋』。
英雄色を好む、あのフェリウスの妻を寝取ったともなれば古老共の手前面目も立ちましょうし、
何より民や兵が若いなとニヤつきそうな色話、それでいて女側の後ろ盾も実質皆無ッ!」
「うあぉっ!?」
だが直後猛然と肩を掴まれ、男は思わず勢いに息を詰まらせた。
……鬼気迫る老僕の真顔が怖い。

「…一月、いえ三月かかっても構いませぬ。…その代わり絶対に篭絡せしめなされ!」
「ちょ」
ガクガクと肩を揺さぶられ、さしもの男も悲鳴を上げる。
「あわよくば御子も! このままでは初子もないまま20の大台に突入してしまいます!」
出たよ必殺、じいやの『早く御子の顔を見せてくだされ』モード。
「先代も先々代も16の夏には初子を設けていたというに、若と来たら…!!」
「は、話を膨らますなよ! 俺はもっと気楽に――」
「だから許婚を破瓜どころか膣断裂で大事に至らせた上寝取られたのは何処の誰かと!」
「――!!」
のうりに よみがえる ひどい とらうま。
「『処女』を選択肢に加えられないせいで、臣らがどれだけ本妻選びに苦労しているか!
出戻りは大抵しがらみか曰く付きだし、たまにまともなのがあってももう30近くだしで……」
「うるせえええええええッ!!」

 『巨艦大砲主義』は漢のロマンだが、現実には『機動運用主義』に敗北した。
 『万単位の大軍』もまた漢のロマンだが、これも同様に『千単位の精鋭』によく負ける。
 見目の威容は無知な雑兵を圧倒し、為政者の見栄と体面こそ満たされるにせよ、
 人の身に使いこなせぬなら意味がなく、身の程に余るのなら非効率の極みだ。
 居ないわけではなかろうも、万軍を御せる大将器など、そうそうそこらには溢れない。
 現実を知らない統治者が、ロマンに夢馳せるのは勝手だが――
 ――それで悲惨を極めるのは、大抵それに付き合わされる現場の現実だ。

「叫んでも無駄です。現実と戦いなさいま――」
「そりゃ俺だってな! 誰の物にもなってない新品娘を自分の色に染め上げたいよ!」
愉しむどころか満足に事に及べる相手さえ、なかなか見つからないのは辛い話だ。
事に持ち込むまで手間隙を労し、でもいざ脱いでみたら『ごめん入らない』なのは悲しい事だ。
「たまには俺の方が主導権握りたい、経験不足な女弄んでみたいよ!
清楚で可憐で健気な同年代と、しっぽりイチャイチャ逢引しながらも語らいたいよ!」
生まれついての大王であるならば、民からの搾取にも悦を見出せようが、
生憎と男は生来が卑しい、激痛に泣き叫ぶ女を前に、剛直を維持できる程の酷薄でもない。
「でも無理なんだよ! 誰だよ『大きい事は良い事だって』一番最初に言った奴!!」

だから一刻後に自分の望みが叶うとは知らず、顔を真っ赤にして憤った。
…王族の座以上に魅力と映る愛玩動物が掌中に収まるのは、まさにその夜の話なのだが。


<終>
426名無しさん@ピンキー:2008/10/20(月) 21:32:35 ID:/nEoz6Y7
じいと若の話のテンポがよくて明るいのが魅力ですね。
楽しく読ませていただきました。

>…成人してもう三年と半にもなろうというのに
とあるので23歳なのかと思っていたのですが、
>「あわよくば御子も! このままでは初子もないまま20の大台に突入してしまいます!」
ということは、この国の成人は16歳をさすのかな。未亡人と同世代とあるし。
(うっかり読み落としていたらすみません)

続きも期待しています。
427名無しさん@ピンキー:2008/10/21(火) 01:12:49 ID:EfXSmZDo
面白かった!ってかツンデレ!でおもっきり噴いたわw
テンポよくて、設定しっかりしてて、読ませる文章だな。

もしサイトあるならヒント欲しいぜ
428名無しさん@ピンキー:2008/10/21(火) 02:21:28 ID:UrW/4Vso
GJ! GJ!!

続き(というか本編?)をwktkしながら空気椅子で待つぜ!!
 +
+  ∧_∧ +
 +(0゜・∀・)
  (0゜つと) +
+ と_)_)
429名無しさん@ピンキー:2008/10/21(火) 10:47:05 ID:H+O7VJSt
面白かった!
老従とのやりとりがいいね!

世界観も面白い、もし他の話もあるなら読んでみたいな

でも、とりあえず後編楽しみに待ってます!
GJでした
430名無しさん@ピンキー:2008/10/21(火) 11:08:21 ID:/rKOJks4
面白かった!キャラが皆可愛くていいねぇ
非常にGJ
431名無しさん@ピンキー:2008/10/24(金) 21:49:28 ID:YJPocmTo
GJでした

兵は詭道なりで思ったんだけど、やっぱりこれモデルは中華だよなあ
北夷南蛮って言い方や、周辺から中央の大国が侵されるとか
個人的に三国志とか、義とか君子って単語大好きなので超応援したい
432名無しさん@ピンキー:2008/10/24(金) 22:52:05 ID:O7D4PZ/2
ローマとかもそうじゃね? まあ、大陸国家は大なり小なり中華思想が出てくるからね。
433名無しさん@ピンキー:2008/10/24(金) 23:34:10 ID:N/QPUXBK
三国志といえば「レッドクリフ」が公開間近だね。
王をめぐって姉妹の愛憎が火花を散らす「ブーリン家の姉妹」も「花影幻燈」を思い出す。
映画ばりにスケールの大きい話を書ける作者さんたち、GJ!
434名無しさん@ピンキー:2008/10/25(土) 01:35:37 ID:eny6PeUZ
>>431
北夷とは言っているが、南蛮とはいってなくね? 南夷って言っているから別もんじゃないかねぇ
435銀と橙の邂逅(序) 前書き:2008/10/28(火) 07:49:02 ID:gbXGjMV8
保守ネタ続き。
今回は前回より姫成分多めで、心情が主になります。
前回から数ヶ月が経ち、婚約者としてナザル国城に移り住んだ設定です。

最後になりましたが、えろなしオチなしの話を迎え入れて、感想まで下さり有難うございました。
では投下します。
436銀と橙の邂逅(序)@:2008/10/28(火) 07:52:32 ID:gbXGjMV8
「――疲れた……」
早朝に出発しナザル国城に到着してからも何かと慌ただしかったせいか、
日が落ちる頃には、リリアはぐったりと疲れきっていた。
ある程度整えられていたとはいえ、新しく自分が生活する場所である。
内装全般、持ってきた衣装や小物の整理などやることはたくさんあった。
馴染みの侍女たちに任せればきっともっと楽だっただろう。
けれど彼女たちのほとんどは数週間でエデラールに帰ってしまうし、
新しく付いてくれるこの国の者たちに自分の存在をしっかりと認識させる必要がある。
動きまわり監督し続けたせいか、足腰が特に痛かった。
しかも先ほどまで、フェルディナントの五つ年下の妹アンナ――確か年の頃は十六――が突然やってきて喋り倒していったのだ。
自分と二つ三つ歳が違うだけなのだが、なかなか強烈な性格だったせいで疲労は三割増しとなっていた。

今、リリアは自室に一人。
人払いもして落ち着けるはずが、ある事実がその心をざわめかせていた。
あと幾らかすると、ここにフェルディナントがやって来るのだ。
が、あとどれくらい待てば彼が来るのかはさっぱりわからない。
わからないまま、すでに1時間近く彼女は待ち続けている。
437銀と橙の邂逅(序)A:2008/10/28(火) 07:54:45 ID:gbXGjMV8

「あぁもうっ。しっかりしないと」

一度椅子から立ち上がるもまた座り直す。さっきから何回も繰り返している動作だ。
会うのはフェルディナントの留学時以来であるから、かれこれ七年振りである。
当時十四歳の彼に、十二歳の彼女。お互い歳の離れた兄・姉妹しかいなかったのもあり、歳の近い二人はすぐに親しくなった。
更に王族の女子としては珍しく学問に興味があったリリアはともに机を並べることができ、半年の留学期間が終わる頃に二人の婚約が決まった。
その頃のフェルディナントは、聡明、誠実、温和を基本にした、第二王子に相応しいと言えば相応しい控えめな性格であった。
彼の顔を思い浮かべようとすると、いつも微笑んでリリアを見つめていてくれたことを思い出す。
それに合わせてはにかんだり、怒ったり。たまにその胸にしっかりと抱きしめて貰うのが、あの頃何よりも嬉しかった。

いま彼は銀の仮面を付けている。成長期もプラスすれば、どんな姿になっているか想像が付かない。
故国で聞いた話には、彼がしたとは到底思えない処断の数々もあった。
銀仮面の下には、人ではない魔物の顔がある。
そんな噂をする人もいる。
438銀と橙の邂逅(序)B:2008/10/28(火) 07:56:09 ID:gbXGjMV8
ただ、現在暫定的に、そして未来きっと末永く国を統べる者として。
そうしなければならなかったのだとリリアは考える。

あの人に会えるという期待、不安、喜び、恐怖。
千々と乱れているのは、それでも乙女らしい感情。
綺麗と言って欲しい。会えた喜びを表現してほしい。でも幻滅されたら。冷たくされたら。
色々考えてしまっても、結局一度きつく抱きしめてくれたら、それだけで満たされてしまうのだろう。

「失礼します。フェルディナント様がお越しでございます」
「……ええ。お入りいただいて」

覚悟と希望だけは失わず。
リリアは立ち上がると、下腹部で緩く手を重ねて背筋を伸ばした。



(続く)
439名無しさん@ピンキー:2008/10/28(火) 23:37:23 ID:XolcJSJ8
GJ、でも展開が生殺しで辛いぜ
440名無しさん@ピンキー:2008/10/30(木) 17:25:27 ID:6e684JN3
続きは気になる・・・が確かに短すぎて感想もつけ辛いかな
下手じゃないし文章も丁寧なんだけど起承転結の承だけなんで読み手も反応に困る感じ
441名無しさん@ピンキー:2008/10/30(木) 23:24:38 ID:u0O8rTx7
久しぶりにスレ覗いたらなんという神投稿w
いぬのおひめさまの続きが個人的に気になってしょうがないんだぜ
蛮族の男と姫様イイヨイイヨー
読んでて気持ちのいい作品ですね。
特に蛮族の男が面白くてめちゃ好みだ。
442銀と橙の邂逅 前書き:2008/10/30(木) 23:27:32 ID:brNhOXtE
こちら側の諸々の都合でこの様な投下にしてしまいました。申し訳ないです。
今後はさくっと切りのいい所で投下します。
が、今回生殺しには変わりない気がします…
エロなし、投下します。
443銀と橙の邂逅@:2008/10/30(木) 23:30:03 ID:brNhOXtE
「…お久しぶりでございます、フェルディナント様」
新しくリリアに与えられた部屋に入ってきたのは、フェルディナント一人であった。
以前宝物庫で見た古代文明の黄金のマスク、舞踏会に現れる道化師の仮面、
紳士淑女が戯れにつける目元だけ飾った仮面。
「銀の仮面」 ということしか知らなかったリリアは色々と想像を巡らせて彼を待っていたのだが、
彼の物は仮面と呼ぶにはあまりに――
「――本当に、全くお顔が見れないのですね」
仮面と言うよりは寧ろ、騎士のかぶる兜(かぶと)に近い。
顔どころか首筋も見えず、その下に纏う服はほとんどが黒か濃紫色を基調としたもの。
人としての温かみが感じられない。
彼の存在に様々な憶測がついて回るのも頷けるものだった。
「…………」
「……何か話していただけませんか?」
「…あなたは。変わりないようだ」
「……まぁ」
聞こえたフェルディナントの声は多少くぐもってはいたものの、意外と明瞭に聞こえた。
「そこはお世辞でも綺麗と仰って下さればいいのに」
「王家の女性にしては、男性並みに頭の回転が速い。噂はかねがね聞いているが、昔よりも一層巧みになったのでは」
「………お礼、申し上げます」
444銀と橙の邂逅A:2008/10/30(木) 23:31:19 ID:brNhOXtE
昔よりも喋るフェルディナントに、リリアは少々面食らう。
しかもなんだか皮肉っぽい。諭すように優しく話していてくれた彼とはまるで別人だ。
「あなたは私の婚約者だが、まだ正式に我が王家の一員となったわけではない。公の場に出る必要はないので、取り敢えずこの城に慣れていただきたい」
「わかりました」
「不自由があったら周りになんでも申し付けていただければ、すぐに対処するだろう。
 ――では、失礼」
え、とリリアが呆けると、フェルディナントはさっと踵を返した。
「ちょ、ちょっとお待ちになって」
リリアは慌てて彼の手首に触れ引き留めた。
指先に布越しでも伝わる柔らかさが彼が血の通う人間だという証拠の気がして、
リリアは心中秘かにほっとする。
「――何か」
「何か、はこちらの言葉ですわ。フェルディナント様は何しにこちらにいらしたのです」
「到着した婚約者の顔を見に来たのだが」
「そ、それならそうで、もっとしようがあると思います」
「…………なるほど」
フェルディナントは掴まれていた手首を外すと、腕を組みリリアを見据えた。
「あなたは私の婚約者とはいえ未婚の淑女。日が暮れた中、部屋に二人きりというのは要らぬ噂を呼ぶかと思うが」
445銀と橙の邂逅B:2008/10/30(木) 23:32:21 ID:brNhOXtE
「それは、そうかもしれませんが……」
久しぶりなのに。もっと砕けた口調で話したいのに。
しかし以前よりも遙かに高い上背に、表情を完璧に覆い隠す仮面が、
言いたい言葉を飲み込ませる。
「……それなら、明日もお会いできますか?」
「今はまだ混乱から抜け切れていない。……約束はできかねる」
「…………」
それは即ち、忙しいからこれからは会うつもりは特にないということ。
是非にと請うておいて、来たら来たで婚約者は放置。あんまりな扱いである。
「……わかりました。まだ、わたくし達は婚約中ですものね。
 仕方がありませんわ。――ただ、最後に一つ」
リリアは王家の一員として確かに淑女である。聡明と評されることも度々ある。
だがしかし、彼女は末っ子でもある。負けん気が強い。何かやり返してやらないと気が済まない。
「お顔をお見せ下さい」
「………………」
「これからしばらくお会いできないなら、せめて顔ぐらいは見ておきたいですわ」
にっこりと微笑むリリアに対し、フェルディナントは無言のまま直立不動を崩さない。
「噂では寝るときもそのままだとか。完全に人払いしていますし、
 わたくしだけなのだから安心してお外し下さい、ね?」
「………………」
446銀と橙の邂逅C:2008/10/30(木) 23:33:30 ID:brNhOXtE
それとも、とリリアは片手を伸ばし、仮面の冷たい頬に手を当てた。
「――それともこの下には、どうしても隠しておきたい秘密があるのかしら?」
「…………本当に、昔と変わらないな」
「ええ? ――きゃあっ」
フェルディナントは頬に当てられた手を掴み勢いよく引っ張ると、
リリアの腰を強引に引き寄せ抱き締めた。
ほとんど爪先立ちに近くなった彼女は、自然フェルディナントに寄りかかった状態になる。

「な、何をなさるのです!」
「あなたは私の顔が気になるようだ。それなら近くに寄って確かめればいい」
鈍く光った銀色の表面に、リリアの姿がぼんやりと映る。鼻先と目にある隙間からは、暗い闇の色しか見て取れない。
先ほど感じた体温も忘れ、リリアは小さく震えた。
「……仮面越しでは、よくわかりませんわ」
「確かに。
 ――この仮面を外して欲しいのなら、しかし、方法は無くはない」
彼女を抱えるフェルディナントの左手が、思わせぶりに、リリアの背中から腰の辺りまで辿る。
「――まぁ、それなりの代償をいただくが」
「…わたくしが嫌だと申しましたら?」
「関係ない。
 そもそもあなたが挑発的な態度をとったのに、何を今更」
447銀と橙の邂逅D:2008/10/30(木) 23:36:42 ID:brNhOXtE
フェルディナントは腕を緩めると、彼女の顎をくいと持ち上げた。
「そう、一つだけ忠告しよう」
更に顔が近づき、彼の声にあわせて仮面の中で反響する僅かな声まで聞こえるようになる。
「あなたがこの城からどんな情報を祖国へ送ろうとも、その意味は無に等しい。
 あなたは私の妻になりこの国の母になるのだ。その意味を、深く考えて行動することだ。
 ……では、数日中にまた」
フェルディナントは黒衣のマントを翻すと、リリアの前から去っていった。


「どうしよう…………」
自分がかけた罠に引きずり込まれた気分だ。
リリアは全身の力を抜くと、ぐったりと椅子にもたれかかる。
『フェルディナント』の正体を探ること。出立前に父王からも暗に仄めかされていた。
ただ、そのような政治的思惑などだけではなく、リリアは純粋に知りたかった。
『彼』がフェルディナントでないのなら、安否を確かめ場合によっては保護しなければならない。
『彼』が本物ならあの仮面の意味を、そして心身ともに疲弊しているだろう彼を精一杯支えて行きたい。
448銀と橙の邂逅E:2008/10/30(木) 23:39:45 ID:brNhOXtE
なのにこの有様。自分では落ち着いているつもりだったが、どうやら知らぬ間に気が急いていたようだ。
最初の素っ気ない態度からして、リリアを困惑させてペースを乱そうという魂胆だった気がする。
しかも去り際には無視できないほどの釘を刺されてしまった。
あれは即ち、この国のために、そして『フェルディナント』のためにこの身を尽くせということ。手段はたぶん、選ばない。

このままでは己の貞操も危ない。フェルディナント本人にならともかく、
知らない相手に蹂躙されるのだけはどうにかして避けたい。

数日中ということは、連れて来た侍女たちの一部が帰国する間際か。
少しでも有益な情報を持ち帰らせたいと思いながらも、それが非常に厳しいことは、
リリア自身がよく痛感していることであった。




(続きは多分投下します。有難うございました)
449名無しさん@ピンキー:2008/10/31(金) 18:03:09 ID:Y07j34YG
GJです
諜報的腹の読み合いが岩窟王ぽいのもあって新鮮だな
450名無しさん@ピンキー:2008/10/31(金) 20:13:16 ID:Aa6Qswms
>続きは多分投下します
多分と言わず必ずお願いしますw
451名無しさん@ピンキー:2008/10/31(金) 23:50:11 ID:aXDY3tDc
面白いしもっと自信持っていいと思うぜ!
452名無しさん@ピンキー:2008/11/05(水) 22:42:13 ID:Ii2NvUR9
保守
453名無しさん@ピンキー:2008/11/06(木) 00:59:24 ID:4oOT7tR9
いぬのおひめさまの続き、まだまだ待ってますぜ!!
雪が降ろうが全裸で待機してみせる!
454名無しさん@ピンキー:2008/11/06(木) 22:04:34 ID:PPOH552F
セシリア姫の続きも待ってる・・・待ってるんだ・・・・・・
455名無しさん@ピンキー:2008/11/06(木) 23:19:37 ID:KVkW9hVo
俺も、セシリアとエルドの続き待ってる
456名無しさん@ピンキー:2008/11/07(金) 19:46:00 ID:imbtspPf
「いぬのおひめさま」後編
なんだけど、すいません、あまりに長くなりすぎたので二分割投下させてください。
いわゆる後編の前編。

例によって濡れ場一色。
微欝・微グロが抜けて来た分、甘さとバカさが増してきた感じ。




>>426
大体そんな感じです。元服が15歳とかのイメージで合ってる。
古代のローマ、ギリシャ、中国らへんがごった煮ってのもイメージ的には正しいかと。
457いぬのおひめさま(後編):2008/11/07(金) 19:46:32 ID:imbtspPf
限界なら黙って動かなきゃいいのに、それが出来ないのがこの男だ。
「ぜんぶ挿入っちゃったな」
明朗快活と言えば聞こえはいいが、単純にじっとしてられないだけでもある。
「なあどんな気分? こんな凄いカッコになっちゃって?」
予想以上の女の蜜壷の奥深さに、受け入れてもらえる喜びを隠せない。
勝気で強気な女戦士達や、海千山千な娼婦達と比べると、
青く若い男にとって、目の前の少女は非常に素晴らしいものと映ったようだ。
「俺みたいな蛮族なんかに犯されちゃって、どんな気分?」
だから欲しいし、だから犯す。
だから優しくする男は、しかし間違いなくサディストだ。

「ふあぁっ、あッ!」
「…ッ?!」

膣内を限界まで占拠した肉柱が、更に大きく肥大したかと思ったら、
ジュッ…と何か水流のようなものが、膣奥を穿つのを感じる女。
(……ふ?)
ジュッ、ジュッ、と更に体奥に何か暖かい湯が噴き滲む感触に、
引き伸ばされた膣壁に感じる、剛直のビクン、ビクンという強い脈動。
(…? …???)
覆い被さった男の腰の震えと、緊張し何かに耐えるような身の強張りを感じても、
少女にはそれが何なのか、刹那では思い至ることができなかった。
(………はう)
むしろ膣内に広がるぼんやりとした熱さに、気持ちが良かったくらいだ。
温かなぬくもりと痙攣に、どうしてか心の奥底で恍惚とする。

だが広がる熱さが結合部から溢れた時、恍惚の中にもようやく小さな疑念が浮かんだ。
何しろ隙間らしい隙間がないので、すぐさまビュッとかブシュッなんて音を立てて、
押し出される愛液の飛沫を腹や股座に感じていると、それもなんだか気持ち良く……
…………。
強張りが一転して弛緩、体重を預けてきた男の身体の重みも心地良かったので。
顔は見えずとも、真横に埋められた男の頭が安堵し恍惚とした息を吐くのが聞こえたので。
抱きしめられるのが、回した脚に感じる腰の熱さ、野太い剛直の脈動が快かったので。
だから彼女の理性は、それらを受け止め満喫したい欲望に屈した。
疑問は浮かんだけれど、愛欲と快楽の前には勝てなかった。

なので完全に止むまで10秒近くにも及んだ射精が終わっても、
「?」とは思うのだろうがパズルのピースが合わないらしく、まだ忘我としていた。
そうして汗だくで息を整え合いながら絡み合い、
もう10秒ほどそうしていたところで、ようやく頭の中でカチリと何かが嵌り込む。
感じた熱い飛沫と迸り。男の緊張と震え。股に感じるぬるぬる。
――貴賎人畜を問わぬ、この行為の本当の目的。

「…………や」
「……?」
「やあああああああああああああっ!!」
叫ぶもやむなし。
 
458いぬのおひめさま(後編):2008/11/07(金) 19:47:24 ID:imbtspPf
「え、ど、どうした?」
慌てて身を起こしかけた男の胸を、女の腕がぐいぐいと押しやる。
「ど、どいて……どいてください! 抜いて!」
「うわっ、ちょ、無理無理無理無理!」
頼まれてやりたい気持ちもあったが、流石にそれは無理があった。
ただでさえ乱暴な動きが出来ないのに、お互い深々と繋がったこの状況、
どっちかが相手を無視して動けば、両方『いててて!』なのは明白だ。
「何? 何? ひょっとしてどっか痛くした?」
「ちが……そうじゃなくって!」
押してもビクともしないからって、ポカポカドカドカ男の胸を叩き出す女に、
男が(うっわ鼻血出そう…)と、痛がるどころかむしろ興奮してるのはさて置いて。
「…こっ、子供……赤ちゃんが……」

馬鹿じゃなかろうかと思われても仕方ないのは認める。
でも少女的には本気で忘れていたのだ、この行為の本義がどこにあるのかを。
亡夫相手に、その、様々な変態プレイや加虐の数々に晒される中、
小手先に走って本道を見失っていたというか。
これは男の欲望を吐き出す行為で、女の体を使ったストレス発散の遊戯か何か、
神聖なんてのは建前の、背徳的何かだと思い込んでしまっていたのだ。
だから今更実家で説かれた『貴家の女は血を継ぎ子を産むための道具』という教えを、
言葉ではなく身体で体感、魂で思い出したとて、もう遅い。

「…え? あれ、ひょっとして膣内で出したらまずかったの?」
「…! …!!!」
この期に及んで緊張感の欠片もない男に、唇をキッと引き結んでぶんぶん頷く女。
当たり前だ、何しろ『赤鬼(セキキ)』の子を産むということは……

「…や、ごめん。なんか最初に『亡将の妻の宿命は分かってるから犯したいんならさっさと
犯しなさいよこのケダモノ!』的なこと言ってたから、てっきり覚悟完了なのかなって」
「……!! …う、わ……」
でもこれは泣く。
「…つか言ってくれればちゃんと避妊したのに。避妊薬持って来てからやったよ?」
「…わっ、わあああああああん!!」
泣く。流石に泣く。

やたらと軽い、だが軽いだけに男の言葉に嘘偽りがないのははっきりと分かった。
ただでさえボロボロになってた貴上の矜持が、ここで完全に崩壊する。
――『余計な意地と見栄なんか張らないで、さっさと素直に服従してればよかった』
そんな想いで胸が一杯になる気弱な少女19歳。
もう最初にツンと澄ましてた、それでも体面を保ててた貴婦人の姿はどこにもない。

「やだ……やだああぁぁ……」
無駄と分かっていても、無益と分かっていても、男の上半身を押しやらずにはいられない。
少女とて女。
「…てか、もう諦めよ?」
しかしあまりにも違いすぎる身長差、体重差、体格差、
こそりとも動かない男が傍目にも気の毒そうな、それでいて冷静な表情で告げる。

「フツーに手遅れじゃね? 抜いて、掻き出して、…全部掻き出せんの?」
「……!!!」
 
459いぬのおひめさま(後編):2008/11/07(金) 19:47:55 ID:imbtspPf
時が止まったかの如く女の身体が硬直し、やがてぱたむと腕がシーツに倒れ伏した。
男の腰に回されていた脚も、ずるりと脱力して滑り落ちる。
「………うあ」
困ったようにこっちを見下ろす男の目が、少女にもよく判らない混沌に彼女の心を落とす。

「…いや俺、さっきも言ったんだけど、ここ一ヶ月ロクに女抱いてなかったからさ」
『蛮夷の女、性奔放にして、男は好色強精』なんて、よくある下馬評を思い出すも手遅れ。
「特にここ十日だなんて、熱出そうなくれー忙しくて自分で処理する暇もなくて」
視線の先、男の褐色の腹に散った返り精が、白黒の対比にやけに生々しく現実を映す。
「…その、自分で言うのも何なんだけど、俺自身びっくりするくらい出たっつか」
会陰を何か、ぬるぬるしたものが垂れる感触。
「…お前には悪いんだけど、これもう絶対、胎ん中飛び散っちゃった、と、思う」
「………」

分かっている。少女とて寝所での作法と共に、男女の理を知識としては教わった。
あまり露骨な言い方をするのは好きではないが、
それでも薄いよりは濃いが、少ないよりも多く、浅くでよりも深くで、
そうして老いよりも若いの方が危険だと知っている。
その意味で言えば、今し方の男の放精はまさに女にとって致命的だった。

「…てかさ、あれか? やっぱりヤバい時期だったりすんの? 月の巡り的に?」
それでも女の側もまた万全の状態、然るべき時節に精を受けねば子は出来ないのだが。
「……わから……ない、です」
「? どゆこと?」
辛うじて声を絞り出した姿を問われ、少女はポツポツと説明しだした。

――明らかに過度のストレスが原因なのだが――少女は月巡りが安定しない性質だった。
正確に来る時もあれば、一月半、酷い時には二ヶ月近く来ないこともある。
『月の物の始まる14〜18日前が危険』というそれなりに信憑性の高い汎説から鑑みるに、
もしも正確に来てくれているのなら開始予定は数日後、これなら安全性は高いだろう。
…でももし、今回が『一月半』の予定で来ている回だったのなら。

「あー…、なるほどな」
得心がいったらしく、困ったような表情でバリバリと赤髪を掻き掻き身を起こす男に、
女はすんすんと鼻を鳴らした。
自分なんかの話を聞いて理解を示して貰えたのは嬉しいが、でも現実はどうしようもない。
…嬉しいんだか悲しいんだか、非常に複雑な心境だ。
『出しされちゃったもんは仕方ないじゃん』と聞く者が聞けば思うかもしれないが、
しかしいかんせん「命に関わる問題」である。

死産どころか母子共に命を落とすケースや、産後の肥立ちが悪くての死も多く、
仮に無事生まれても確実に『一人産めば一年寿命が縮む』、そういう世界、そういう時代。
…許婚だとか婚約者だとかで、予め覚悟が出来ているならいざ知らず、
いきなり「産んでね」と言われて「うんいいよ」となど、答えられる女がいるはずもない。

……はずもないのだが。
 
460いぬのおひめさま(後編):2008/11/07(金) 19:48:32 ID:imbtspPf
「…よっし、じゃあ分かった、責任取る」
「………う?」
複雑な心境で渦巻いていた心が、更に複雑奇怪な四次元状態で凍結した。
「だから責任取るって言ったんだって。それなら問題ないんだろ?」
「……え」
別に難聴を患ってるわけじゃない。――でも軽いのだ。
軽い。超軽い。重い言葉のはずなのにやたらと軽い。しかも展開が速い。
というか初めて顔を合わせ言葉を交わしてから一刻(=2時間)も経ってない男に、
『責任取るよ』とか言われる事態になったら、普通の女は混乱する。

「いや、だってガキ出来ちまったから面倒臭くてポイとか、フツーに男としてサイテーじゃん?」
「………」
当たり前だろ、とでも言いたげに相手は言うが、
しかし当たり前のことを当たり前にできる人間ばかりだったら、今の世の中乱世じゃないのだ。
ましてや相手は侵略者である蛮族で、前夫を死に追いやった張本人。
…そう考えてみれば確かに現状、彼女は男に犯されているとしか言い様のない構図なのだが、
でも今まで感じたこともない善意を施して貰ってるし、…間違いなく愛しても貰えている。
混乱は深まるばかりで、幸なのか不幸なのかもう少女にも分からず、

「俺こう見えても今日付けで……格は一番下だけど、それでも将軍だから!
女子供の一人や二人、楽勝で養えるだけの俸禄あるから!」
「………」

…ただ、そうやってえっへん!と自信満々に胸を叩く男の姿に、安らぐのは事実だった。
青臭いとか子供っぽいを通り越して、いっそ小気味よく、そして眩しい。
…またトクトクと、自分の心臓が高鳴りだす音を聞く。
出されてしまったという自覚はあるのに。妊娠してしまうことへの恐怖はあるのに。

「…てか、そんなに俺の子供産むの嫌?」
「……っ」
そうして不意に顔を近づけて為された問いに、動揺激しく狼狽した。
同時にずるりと、埋め込まれていた剛直を動かされる。
「悪魔の子なんて産みたくない? 蛮族に孕まされるなんて死んだ方がマシ?」
「…く、あ」
ずっ、ずっ、と二度三度、纏わり付いた精液を膣壁を使って扱き取るかのような動きに、
生まれる粟立ちに声を隠せず、たまらず解いた脚で男の腰を挟む。
この猫科の肉食獣めいた笑いで囁かれるのは、顔が熱くて苦手だった。
「汚い? 汚れる? 穢れる? 耐えられない?」
「ち、ちがっ………う、けど………でもっ」
――そう言えばどうして精を放った硬いままなのだろう。
今更のように片隅でそんな疑問を抱きつつ、少女は再び抱きついてきた男を見やった。
赤い髪。褐色の肌。黄土の目。
「……赤ちゃん……が……」

 それが結局、一番の理由だ。
 それが結局400年前、祖帝を中心に今の帝国民が何処よりも団結して戦えた理由であり、
 それが結局400年以上、黒や褐色の北夷南夷が虐げられて来た理由でもある。
 それ故に彼らは悪魔とされ、交われば堕ちると、穢されて堕落すると布教されても来た。
 
461いぬのおひめさま(後編):2008/11/07(金) 19:48:54 ID:imbtspPf
 父親が帝国人の場合ならばまだいい。
 自分の種ではないと父親が言い張ればそれで通るし、それで終わる。
 …悲惨なのは母親の方が帝国人の時だ。
 腹を痛めて産み落とした以上、言い逃れは出来ないし知らぬ存ぜぬも押し通せない。
 白眼視と迫害。村八分。追放。集団リンチ。

「……赤鬼の子供…産んだら…、…もう普通に暮らせない……んです」
――我が身に収まる不幸だけならばいい。
ただ彼女だけの不幸なら、それでもどんな過ちにもまだ耐えられた。
「私だけじゃない…生まれてきた子も……幸せになれな……」
――だが親の堕落と暴走に、生まれて来る子供まで巻き込むのは耐えられなかった。
かつて母子の姦通で生まれた彼女が、生来より罪を引き継いだように。

それが普通の反応だった。
帝国で生まれて帝国で育ち、貴族教育を受けてきた女の怯えだった。
生まれ育った環境による影響や、幼少期よりの教育は、そう簡単には覆らない。
4年間、亡夫に施されて来た苦痛と恐怖による足枷や、
既に散々痛めつけられて、ボロボロだった貴種としての矜持は壊れても、
19年間、無意識に培ってきたそれは『まだ』壊れない。

「……でも、もうここ帝国じゃないぞ?」

でも、それにもとうとう罅が入る。

「俺らの土地だよ? 俺らの国」
「……あ」
当たり前のこと、分かっていたはずのことだったのだが、
実際こうやって口に出して告げられれば、また遥かに受けるダメージが違った。
「お前だって、もう貴族でも侯爵夫人でもないぞ? ただの女」
「……う…あ…」
忌々しい枷。だが確かに自分の価値を表す唯一の標でもある評。
嘆けばいいのか、喜べばいいのか、分からない。
…ただボロボロと、何か重たく重大だったものが剥落していく錯覚を覚えるだけ。

そんな衝撃を知ってか知らずか彼女に覆い被さったまま、
まるで猫が伸びをするように「んー」と大きく伸びをして、胸元に頬擦りしながら男が言う。
「…てかさ、いい機会だし復讐してやろうよ? フェリウスの爺に」
「……ふく、しゅ……?」
のろのろと反応する女に大きい動物が如く擦り付いて、…パチリとその獣の目を開けた。
「なんかお前が石女ってことになってるみたいだけど――」
「…んぅっ!?」
ずちゅりと一寸、引かれた腰に埋め込まれた杭が引き抜かれ、
「――四人も妻交換して一人も子供いないんだぞ? 普通に種無しなの爺の方だろ?」
「ふくっ!」
ずぱんと湿った音を立てて、それがもう一度押し込まれる。

ぐち、ぐち、ぐち、ぐち。

「なのになんで女のせいになってるわけ? 普通におかしいとか思んなかった?」
「…っ、は、あ」
 
462いぬのおひめさま(後編):2008/11/07(金) 19:49:58 ID:imbtspPf
上半身で覆い被さり抱きつきながら、腰だけを器用に使って小刻みに打ち込む。
実際に生じる快感よりも、その動きの淫猥さをもって、相手の心を攻めるのが肝要だ。
だからわざと大きな音も立てる。

「まさか愛してたとか、そんなのないよな? んなもん見てりゃすぐ分かるし」
「……あう、…う」
背けようとする顔の顎を掴む。目を逸らすのは許さない。
男はバカだが知っている。――人間、後ろ暗いものがあり、心にやましいものがある時は、
相手の顔を直視することが出来ない、目を見てまっすぐに話すことが出来ない。
…そんな中で目を直視しての会話を強要されることが、どれだけ相手の心を苛むかも。

「怖かっただけだろ? ホントは大嫌いだったんだろ?」
「……っ、…ぁ」
現に縫い止めた先の蒼い瞳の内に、みるみる虚ろが、黒い剥落が広がるのを見て、
上がる戦果に、男は愉悦に唇の端を吊り上げた。
もちろん、腰の動きがどうでもいいわけでもないので、しっかり卑猥さで攻め煽る。
意地と強硬を保てず、弱りきった相手の心を、道義と情理で攻めるのは兵法でも理だ。
嫌がる女を押さえつけ、ちりちりと乳首に取り付けられた迫害の証を指で弄る。
「……だからさ、復讐してやろ?」
「んんあ! …は、はぁっ」

 男は別に漁女家ではない。
 教養はないし、語学にも芸事にも、作法にも通じない。算術も理学もからっきしだ。
 ……だけど戦なら、用兵の妙なら分かる。
 兵法と軍略、古の戦人の盛衰と故事だけは、将星の最低限として流石に学んだ。

 殺さなくてもいいのだ。捕え縛する必要さえない。
 ただ戦う意思と気力を失わせて逃げ散らせ、群体行動を取れなくするだけで戦は足りる。
 集団戦が語られる際、何よりも「士気」「士気」とそれが語られるのもそれが為、
 そして味方の昂揚と怒涛の強勢でもって、敵方を怯え竦ませるのだけが士気の妙でもない。
 …戦うのが馬鹿らしいと、自軍の将に愛想を尽かさせやる気を無くさせるのもいい。
 …こちらに好感と信頼を持たせて、投降と恭順を促してもいい。
 …飢え、病み、痛みという、切実な苦しみに敵が喘ぐなら、施して恩を成すのは劇的に効く。

 忠義愛国の志旺盛で、抵抗盛んな敵を虜とするのは、時に殺すよりも難儀だが、
 でも心疲れ果てて意気保てず、国にも主にも絶望した敵を慮とするのは、これは容易だ。
 殺さずに取り込め、それも楽に吸収できるとなれば、これ以上の上策は他にない。
 敵も死なずに味方も耗しないし、敵は救われ味方は力増すのだ、…万々歳ではないか。

 だから男は――少年は笑う。
 戦に情はないと、戦に愛はないと、大義も正義も道理も情理もないと謳う帝国を、
 流血を疎い、暴力を厭い、死を恐れて戦は醜く悲惨なものだと喚き疑わぬ文明国を笑う。
 人は『弱い』、人は『愚か』、それは変わらない、それは事実だろう。
 悪逆非道の限りに十戒を犯しても、本当に一片の呵責も感じぬ『強き』悪など万人に一人、
 騙し、欺き、利用し、裏切って、欠片も後ろめたくない真に『賢き』悪など千人に一人だ。
 だからこそ人は、うそぶき、強がり、虚勢を張って、詭弁で言い訳して開き直る。

 ――弱いじゃないか、実に弱い。
 だから自分如き若輩にも、こうやって付け込み切り崩せる。
 
463いぬのおひめさま(後編):2008/11/07(金) 19:50:44 ID:imbtspPf
「……四年も掛けても孕ませられなかったのがさ、蛮族なんかにソッコーで孕まされちゃったら、
爺のメンツ丸潰れだろ? 家畜が禽獣に孕まされんだ、ある意味最高の意趣返しじゃねえ?」
「っ、ぅ、うあっ、あ、はっ」
優しいのではない、本当に悪魔の囁きなのだ。
ぐちぐち腰を揺すりながら、女の首筋、柔肌に舌を這わせ、乳房を揉み、尻を、腿を擦る。
結果が堕落であり矜持の喪失だろうと、
悪魔らしいやり方を使えば味方の益かつ敵の救いになるなら、男は迷いなくそれを選ぶ。
無論そこには男の欲望も大いに絡むのだが、しかし男とて聖人君子ではない。
自分は得する、敵も助ける、両方狙いに行かずして何が雄か。

「きっと楽しいって! 『爺ザマミロ』、『変態インガオーホー』ってさ」
鎖を粉々にしてやりたかった。あのイカれた恐怖公に施された、この少女への鉄条を。
「だから一緒にやろ? な? な?」
「っ、やっ、だ――」

 だから男もまた弱く愚かだ。

「――だめ…、…子供……そんなことに、使ったら……」
「……お」
 英雄でもないし、ましてや悪魔でもない、ただの一人の人の子に過ぎない。
「生まれてくる赤ちゃん……かわいそう……」
「………」
 成しえず届かないより強きに、美しく正しきに憧れる。



それだけは承服できなかった。
命は道具ではない。
新しく生まれ来る命は、祝福されて生まれて来るべきだ。…自分のようにではなくて。

ピタリと腰を止めた相手の瞳孔が、驚いたようにクッと見開かれるのを見て、
一瞬不興を買ったのかと身も竦める。
……でもそうじゃなかった。
「…そっか」
――諫言を受け入れられるのは嬉しいものだ。
――意見が通るというのは、評価されるというのは喜ばしいものだ。
「偉いな、お前」
感銘を得たような男の笑顔が、少女の網膜に焼きついた。

…そのまま顔を重ねられて唇を吸われると、素直にそれに応じる。
舌を差し込まれればそれに絡み、反射的に身体が動いていた。
二本の腕は覆い被さる男の背中に回され、二本の脚は男の腰を挟む。
動いてはいないが、それでも一番奥に確かに男を感じ、ただそれだけで満たされる。
肉体の快楽だけでは満たされないもの。
至高の矜持だけでは潤わないもの。
ぬるぬると膣内を満たす男の精液の感触が、意外と気持ちが良いのにも気がつく。
男の精。体液。自分を汚し、染め上げるもの。
 
464いぬのおひめさま(後編):2008/11/07(金) 19:51:04 ID:imbtspPf
「…お前の気持ちも分かるけど、でもこれやっぱり陵辱だしさ」
唇を離した男の、困ったような、慈しむような眼が目に入った。
シーツに肘を突いた腕が、少女の鳶色の髪を撫でる。
「その気持ち、汲んでやりてートコなんだけど、もう出しちゃったし」
根気強く諭される事実に、もう忌避も恐怖も抱かなかった。
ただぼんやりと、漠然とした安心感に男を見る。

「…もう孕んじゃったかもしんないから」
むしろそんな言葉を共に褐色の掌で下腹を擦られ、ひくっと震えてしまう。
嫌悪ではない。絶望でもない。
母にされそうになった女が誰しも抱く、未来への当然の不安であり恐れであり、
……そして『そういう自分』を想像した時の、じんわりと滲む『何か』だ。
男の顔を見る。自分の下腹を見る。また男の顔を見る。

「だから次からは薬用意して、出来ちゃってたら俺が責任取る。…それでいい?」
――やや沈黙あって、こくりと頷く。
少なくとも現状では最も現実的な打開策、破格の待遇なように少女には思えた。
「堕胎はもっとやだよな? …産んでくれる?」
――睦言のように囁かれて、頷く。
この時代において、堕胎は遠い未来よりも遥かに危険で困難なものだ。
素直に産んでから遺棄した方が、まだ変な障害とかも残らない。
それでも生まれた子供が絶対に幸せになれないのなら、女も堕胎を選んだろうが、
…でも普通の幸せを享受できそうなのなら話は違う。

「うん、分かった。…じゃあもしそうなったら俺が責任持って幸せにするってことで!」
一見軽い口約束が、でも確かな安心感を伴って女の心に染み渡る。
顔を合わせ言葉を交わしてから一刻と満たない男ではあるが、
子供のように破天荒と見せかけ、実は情味に厚いのは、もう肌と魂で理解していた。

「よっし決まり。…それじゃ続けよ?」
「………」
そうしてきょとんとした。
――続き?
「さっきも言った通り、これ『陵辱』だから。俺まだ満足してないから」
発言の意味を理解するより早く、陵辱という単語が少女の脳内にて軋みをあげた。
りょうじょく。

陵辱だろう。犯されてはいるし、男の獣欲性欲は確かに感じる。
…でも陵辱じゃない。陵辱はこんな気持ちのいい、暖かで幸せなものだろうか?
何より。
「…それとももう無理? …頑張れる?」
相手に労わられて、頑張れそうかと尋ねられるこの行為は、――何なのだろう。

分からない。
分からないけれども。
「……はい、頑張れ……ます」
頑張ろうと思ったのだ。
 
465いぬのおひめさま(後編):2008/11/07(金) 19:51:55 ID:imbtspPf
唇を塞がれ、口付けを交わし、同時に今度は腰の方の動きも再開される。
「……ん、むっ」
ぐち、ぐち、ぐち、ぐち、ずぷ、ずぷ、ずぷ、ずぷ。
決して高度でも激しくもない、極めて単調な遅く短い反復でしかないが、
モノがモノだけに激しく動けば辛い以上仕方がなかった。
男の精が更なる潤滑油の代わりにはなったが、それでも滑りが良くなった程度。
「ふ……ふ……」
けれど下手な器具や薬を使うよりは、遥かに心地よくて安らぐのだ。
相手の男の、体温、体重、存在感。
胸板は分厚く、腕は頼もしく、所作の一つ一つは労わりに満ちる。
浅黒く瑞々しい肉体は、前夫とは比べようもなく体温高い。

「ぷはっ、はっ、はっ……はむっ?」
何より犯されている――侵されているという実感が凄かった。
野太い剛直、肉棒というよりも肉柱というべき大質量が膣内を占拠し往復するだけで、
確かに少々苦しく息が詰まるのだが、――でもそれこそが良い。
「ん、ん、う、んっ…」
相手に入って来られている、滅茶苦茶にされていると思うと、耐え難いほどに恍惚とした。
少しくらい苦しくても耐えられるのが、誇りを伴って更なる昂揚を掻き立てる。
自然、汗ばんだ脚は再度男の腰へと絡められ、背に回された腕には力が篭る。

「はふ、は、はむ、ふ…」
幾度も繰り返される口づけは、甘く、優しく、しかし淫らで情熱的だ。
ふーふーと鼻息が洩れ、唾液が零れるのにも関わらず、互いに互いを貪り啜る。
舌を絡められ、唾液を流し込まれ、覆い被さられ、上と下を同時に犯され、
…でもとても幸せで気持ちいい、
今まで生きてきた人生の中で、一番に思えるくらいの幸福だった。
「ふはっ、ふあっ、あっ、あんっ、んむ…っ」
摩擦や刺激で得られる快感よりも、もっと深くて大きいものが心の奥から湧いてくる。
思考と理性はどろどろに溶け、ただ快楽と痴態に耽溺する。

とろりと縦に、白濁した唾液が糸を引いた。
「…ふあ……」
唐突に止んだ快楽の波紋に、
餌を取り上げられた畜獣のような目をする女に対し、男が笑って言う。
「体位変えてみるか」

「ひゃい!?」
両腕も両脚もしがみ付いているのをいいことに、背と尻に回された腕、
ひょいと――本当にひょい、と男に身体を持ち上げられた。
宙ぶらりんからすぐに身体を縦にされ、そのまま胡坐をかいた男の上に座らされる。
「……は」
ずぶりと自重で奥深くまで嵌ってしまい、女の口から少しだけ声が洩れる。
「体面座位、な?」
――ああ、茶臼絡みか。
嫁入り前に入念に教えられたはずの知識を、数年ぶりにおぼろげに思い出す。
そんな彼女の腕を、至近で見詰め合った男の腕が取った。

「…ほら、俺の腕触って?」
「……う?」
 
466いぬのおひめさま(後編):2008/11/07(金) 19:52:23 ID:imbtspPf
汗だくの女の白磁の腕を、汗だくの己の浅黒い腕に触らせる。
「なんかさっきから俺に為されるままっつーか、黙ってじっとしてるだけっつーか、
俺ばっか楽しんでるみたいで悪いからさ」
「……そ、そんなことないです!」
楽しんでないなんてとんでもない、むしろ自分の方が何もしていない、そう言い掛けて。
「じゃあさ、もっと楽しも?」
「……え?」
でもそんな少女の腕を取り、更に自分の腕を触らせる男。
意外な行動に驚く間もなく、その掌に確かな男の肉体、血肉の形が伝わって来た。
…はち切れんばかりの筋肉だとか、その太さと硬さ、刻まれた傷の多さとか。

「筋肉とか嫌い? …やっぱ傷一つない白くて薄い胸板とかの方が興奮する?」
「う、え? えええ??」
ざわめきと興奮を抑えようとしていた少女にとって、その質問は奇襲だった。
「ほら、俺って貴公子サマってタイプじゃないしさ。普通に気品の欠片もない戦人だし。
野蛮人なのは野蛮人だから、…ワイルドなのとか傷だらけなのは好きくない?」
というか奇襲も奇襲だ、毎度のことながら酷い直球ストレートだ。
花も恥らう貴上の(処女でこそないが)乙女に、こういうのを露骨に聞いてはいけない。
「そ、そういうことは、ない、です、けど」

そりゃあ、嫌いではないが。
聡明誠実だが色白耽美、女と見間違うほどに美しい、どこか儚げで優しい貴公子とか、
多少年上でも博識で経験豊富、仕事は出来て話術も巧みな、魅力溢れるナイスダンディとか、
もちろん好き、女である以上彼女も空想して憧れることはあるが、
…でも、こういうのも、その、あんまり、嫌いじゃないっていうか、寧ろ、…凄い、好き、…かも。

「…大抵は胸板分厚いのとか、腹筋八つに割れてるのとか、腕太いのとか喜ばれて、
『逞しいのねステキ☆』って言ってもらえんだけど、…あんまグッと来ない方?」
「…………うあぅ」
言われて、極力意識しないようにしてたものが表層に来てしまい、ビクッとなる。
顔が熱い。赤い赤い。

そんな彼女の反応をもってして、返事の如何を判断したのだろう。
「ほら、こういうのも出来るぞ?」
「あ、やっ…」
少女の脚の下に腕を入れると、掬い上げるようにしてその全身を持ち上げる。
まるで重さなんて無いかみたいに軽々とひょいひょい、
但しぬぷぬぷずぷずぷ、結合部の肉を捲り上がらせたり押し込んだり、液を掻き出しながら。
「ふ、は、あっ」
浮き上がってぐらつく上半身を支えるようにして、自然男の頭を胸に抱きついてしまう。
己の動く余地なく一方的にオモチャにされる肉体に、でも興奮を感じてしまう。

「あ、は」
ちゅうっ、と胸に抱きしめた男の頭に乳首に吸い付かれ、ひくりと上半身を震わせる。
ちゅぱちゅぱと家畜の証が嵌った突起を、舌で吸い舐り転がす男に、
慈しみに似た甘い恍惚、母性から生じる愛しさを覚える。
「くあっ、あ、あ、あぅ、あううっ」
なのに同時に下からはガクガクと揺すられ、男の腕の力強さで突き上げられるのだ。
女の視線が夢境に迷う、半開きの口が荒い息を吐くのも無理は無い。
 
467いぬのおひめさま(後編):2008/11/07(金) 19:53:18 ID:imbtspPf
「…俺、芸事教養関連はゼンメツだけど、腕力と体力だけはあっからさ」
れろりと乳首を舐め上げ終わっての下からの言葉に、でも少しだけ理性を取り戻した。
「そういうのたまんない、大好きだってんなら、もっと乱れて善がり狂ってよ?」
ピタリと止められた腰使い、舐め上げるような上目遣いの視線に、
たちまち少女は羞恥を取り戻し、頬を赤く染め、
「や、で、でも! 私、そんなの、はしたなくないです、…か?」

はしたないだろう、容姿や膂力、美しさ逞しさといった、外的要素で好む男を選ぶなど。
はしたないだろう、若く強く逞しいから好きだなんて、そんな燕漁りの奸婦みたいな。

「――全然?」
「ふえ」
だってのにあっさりと言い切った男に、またしても変な声を上げてしまった。
もうホント、貴人の矜持なんて欠片も残ってない。

「『男は虎狼の如く、女は花楽の如く』だよ。俺らオルブの諺だけど」
「…お、おんなはかがくのごとく?」
従順な生徒のように反復する少女に対し、
「まー分かりやすく言うと、『お前ら女は俺らのこと狼だのケダモノだの言うけど、
お前らだって表れが違うだけで似たようなもんだろ』っていう俺ら側の言い分」
男は笑って、世間話するようにくだけて話した。

「本性丸出しの女は、『程々を超えて狂い咲く花みたいに鬱陶しくて鼻について、
勝手に鳴り出す楽器みたいに図々しくってけたたましい』って意味、な?」
「う……」

それはちょっと、身に覚えがなくもない話だった。
何しろ帝国においての愚女愚妻の定義と、そっくりそのまま合致するからだ。
…そういう風に見られて呆れられるのが嫌だから、彼女だって必死に自分を御してきた、
慎ましやかに控えめに、自己主張も顕示もせず、今日まで貞淑に生きてきたのに。

「…でも、お前はちょっと咲かなすぎの鳴らなすぎ」
「……ぁ」
――この場の絶対者である、陵辱者からの命令。
「我慢しすぎで遠慮しすぎ。…なんか押し殺してるよね? ここで」
「……う、あ」
とん、と胸の谷間、鳩尾に拳の背を置かれる。
濁りも淀みもない瞳で、下方から心を見透かされるが如くに射抜かれる。
「咲いてよ、もっと。…花が咲いちゃうみてーにさ」
「くっ、あっ?」
囁かれながら、腕さえ使われず膝と腰の動きだけで身体を持ち上げられる。
「鳴けよ、もっといい声で。…俺が奏でてやっから」
「うっ、あっ、あっ、あ」
尻に手を添えられて、もう片方の手で腰のくびれをなぞられる。
まるで弦器を爪弾くように、つつ、と背筋を指が這う。
「だってお前、こうやって下から、咲かせようと、鳴かせようとしてる奴がいるんだぞ?」
「やっ、だめ、だめ、だっ、らめっ――」
狂う、狂う、甘きに狂う。
下卑て下品で卑猥だが、でもどんな美辞麗句よりも、女を狂わせる口説き文句。
「…狂ったって、仕方ないって」
「――!!」
 
468いぬのおひめさま(後編):2008/11/07(金) 19:54:01 ID:imbtspPf


 陽が陰に優れるも、陰が陽に勝るもない。

「うあっ、あっ、お、おっぱい、おっぱいもっと吸ってくださいぃっ!」
ガクガクと揺すられながら、狂う。
ちゅうちゅうと赤子のように吸い付かれながら狂う。
「はっ、おっぱい、あっ、か、かわい、かわいい……」
肌の色も髪の色も違う頭を抱きかかえ、涅槃の笑みを浮かべて狂う。
「――かわいい?」
「ひあっ? ひっ、はっ、ね、ねじるのやだ、ねじっちゃやです!?」
だが見当違いな感想を述べた愚者を戒めるかのように、下からの責めが激しさを増す。
母が女に、慈愛が歓喜にたちまち変わる。

「あ、ぐりって、ぐりってやっちゃやだ、ねじるのやぁっ……」
縦の動きより横の動き、前後の往復よりも左右の回転に弱いらしいというのは、
ほんのついさっき見つけられたばかりのこの女の特徴だ。
…やはり押し殺されているよりも、こうやって振れ幅が劇的な方が弱点も見つけやすい。
はぁはぁと息の荒い女をひとしきり愉しむと、さて、男は改めて口を開いた。
「ん。じゃあ言って。俺のどこが好き?」

指で顎をくすぐる、愛玩動物にそうするように。

「つっ、強いのが好きです!」
「うん」
奈落に跳躍するがごとくに思い切った女のお利口に、男はたまらない満足感を覚える。
そうだ自分は強くて偉い。良い女に賞賛されるのは実にいい気分だ。
「強くて、大きくて、重くて、広くて、優しくて……」
「うんうん」
昏い虚ろを湛えていた美しい碧眼が、今は喜色一杯なのもたまらなく嬉しい。
そうだ自分は強くて偉くて頼もしいのだ、だからもっと――

「……でも、可愛いのが好きです……」
「………」

――『まあ、いいか』と、捻りに捻って意地悪してやろうかと思いかけたのを留める。
自分は寛大なのだ、義に厚く嘘を吐かない従順な者、ましてや女に対しては広い心で接する。
可愛いは不問にしよう。…本当に不服なのだが、ここは広い心で不問。

「あつ、熱いんです、温かいんです、熱くて……」
「ん?」
しかしまだ続く、まだ溢れ出て来る女の言葉に、ピクリと耳を傾ける。
「熱いんです、抱きついた身体も、私の、…あそこに入った、…太いのも、…精も」
「そか、…そっか」
――まだちょっと弱い、今は次善だが、その内『おまんこ』とか『ちんこ』とかって単語も
この桜色の唇から言わせてやろうと、そんな決意も頷きつつ固める。
「甘くて、なんか、甘い、甘いんです、甘い、…蕩けちゃうくらい、甘い……」
「うん、うん」
あやふやで漠然とした、要領を得ない言葉だが、…でも言いたいことはまず分かった。
だから嬉しい、気分はいい。
 
469いぬのおひめさま(後編):2008/11/07(金) 19:54:19 ID:imbtspPf
「なぁ、逞しいの、好き?」
「はいっ!」
ああ、いい気分だ。これこれ、こういうのが良いんだ、こういうのが無いと。
「優しいの、好き?」
「はいっ!!」
いい女だなあ、従順だし、控えめだし、実に利発だ、臆病で奥手だけどそこがいい。
首から上はもちろん、尻はたまんないし、胸も十分ある、挿れ具合もいい。
硬くてキツい軍の女とは違って、抱くと柔らかい、良い匂いがする、吸い付くようだ。

「…な? これが男の良さ」
だからもっと良くなって欲しくて、肌をすり寄せる、ずりずりと動かす。
もっと自分から咲き狂って欲しくて、背の高さを合わせると軽く口づけする。
「いいもんだろ? 怖くて硬くて乱暴なだけじゃない、悪くないよな?」
「はいっ、はいっ!」
いい返事だ、すごく可愛い。
「で、これが正しい男女の交わり」
もっと自分達が正しいのを教えるために、今までが間違ってたのを自覚させる。
もっと好きになって欲しいので、理不尽を廃して道理を立てる。
「男が女を歓ばせて、女が男を歓ばせる、持ちつ持たれつ、…な?」
「…っ! …はい、はいいっ!!」
うわぁ可愛い。何こいつ超可愛いんだけど。なんか犬耳の幻覚が見える。

唇を重ねて舌を入れると、今や向こうの方から積極的に舌を絡めて来た。
唾液を絡ませ啄ばみ合いながら、胸板と乳房を押し付けあって身体を擦りつけ合う。
腰の動きは最小限に、まったりゆったり、時間を掛けて愉しむ。
あんまり乱暴に動けない分を、そういうので補う。
これが娼婦や女兵士ではこうはいかず、忙しい分悠長も夜更かしもさせられないが、
でもこの少女相手に限ってはそんなの気にする必要もなかった。

――これは自分のものだ。自分専用。
ただ抱かれるためだけに、子を産まされるためだけに生かされてきた極上の女。
前の持ち主はそこを逆手に取っての殴る蹴るの暴行、
何をしても許されるのをいいことに、散々アブノーマルや猟奇性愛を愉しんでたようだが、
男にすれば実に勿体無い話、まったく飽食に慣れたキチガイの心は解らない。

「ふっ、ふあっ、あっ、や、でっ、出ちゃう、出ちゃうっ!」
「……?」
おとなしくちゅっちゅされてたのが、急に嫌がってバタバタしだしたので唇を解放してみたら、
口の周りを唾液塗れにしながらそんなことを言う。…『出る』? …『ふたなり』?
「お、お小水……」
「……オショースイ?」
男からすれば聞き慣れない単語に、即座には意味が解らず首を傾げると、
通じないと知った少女が顔を真っ赤にしながら大声で叫んだ。

「おし、おしっこ! …おしっこ出ちゃいそうなんですッ!!」
「………」

――ああ、小便か。なるほど、漏らしそうなんだな。
なんだかんだで最初に押し倒してから一刻は経とう、である以上別におかしくはないが、
「な、なんか、さっきから、凄いぶるっ、ぶるって、段々びくびくして来てて、急に…!」
そこまで考えながら女の言葉を聞いていて、ふとある気づきに目を瞬かせた。
 
470いぬのおひめさま(後編):2008/11/07(金) 19:55:10 ID:imbtspPf
「急に凄い、ぞわって、……こ、このままだと、出ちゃう……」
これは、つまり、『そういうこと』ではないか?
これは、つまり、『その徴』ではないか?
「ど、どしたらいいですか? …ど、どう、しよう……」
何より愚直な尋ねに、女の願望を知った。
この日、この時、この瞬間、男と繋がっている瞬間を失いたくなく離れたくないのだろう、
きゅうっとしがみつく脚に力を込める少女が、いじましくも愛らしい。
――馬鹿だなあ、と思う。
こういう時に男に訊いてはいけない、弱みを見せてはいけないのに。

なれば、答えは決まっているではないか。

女の身体を抱きかかえたまま、ぼふりと後方、シーツの上に背中から倒れる。
「あぐっ」
その拍子に杭打ち機に打たれるよう下から奥を突かれたのだろう、
走った鈍痛に少女が僅かに顔を顰め、
けれどそれが散り薄れるに合わせて広がる快感に、じわりと熱っぽく瞳を濁らせた。
そんな少女の頭を撫ぜ、鳶色の髪を指で漉きつつ男が言う。
「……じゃあ出しちゃえ」

 破滅するということは、砕け散るということだ、もう二度と元には戻れない。
 堕落するということは、転がり落ちるということだ、簡単には上へと這い上がれない。

「……へ」
まるで女の側が押し倒したような格好にされ、少女は間の抜けた声を上げた。
「うん、漏らしちまってもいいぞ」
女の全体重を下から受け止めつつ、男がぽんぽんと背と肩を抱く。
それが気持ちいいので、少女も一瞬(はふ…)となりかけたが。
「やっ、で、でも――」
「――俺の兄貴が言ってたんだ」
それでも絞り出した声を、男の発言が遮った。
「女ってさ、あんまり気持ちいいと漏らしちゃうんだって」
相手の言葉が、じんわりと少女の脳に浸透する。
「死ぬほど気持ちよくなっちゃうと、ションベン垂らしながらイッちゃうんだってさ」
漏らす。気持ちいいと。垂らす。

「だから漏らしてもいいぞ。存分にお漏らししちゃって」
「はくっ」
不意打ちにまたどちゅりと、太い先端に膣奥のしこりを叩かれた痛みに息を漏らし、
「……あ、は…」
でも同時に膣奥から走った痺れるような濃い快感に、また瞳を濁らせる。
きゅうっと勝手に締まる膣。意思とは無関係にひくつく肉壁。またぶるっと来る尿意。

「……で、でも……こ、この格好だと、そ、そっち、掛かっ――」
「掛かってもいいよ?」
ぱちりと瞬きして言う男の瞳に、耐え切れずして目を閉じた。
さすさすと背中を擦られる。さすさすとお尻を擦られる。膀胱がますます緊張する。
「まぁ美少女のをして黄金水って言うくらいだし、汚くないよ、むしろ綺麗なんじゃねえ?」
「…おっ、おーごん、すい……??」
 
471いぬのおひめさま(後編):2008/11/07(金) 19:55:36 ID:imbtspPf
意味は分からなかった。
男が『お小水』の意味を分からなかったように、女にも『黄金水』の意味は分からない。
流石にそんなシモ中のシモまでは語彙にない。
でも。

「それに俺だって、お前のこと好きだし」
「――!? …はくぅっ、はっ!?」

愛されてるのは分かった。
ごつ、と奥を突かれた衝撃と、突然の告白とで涎を零しながら、
自重で乳房を男の胸板に潰しつつびくびくする。
「わ、わたひなんかの、どこ――」
「いや、フツーに体と顔?」
身も蓋もない断言に、思わず泣きそうに表情を歪める。
ここで『貴方の吸い込まれんばかりの美しい瞳に魅せられてしまって』とか言ってくれれば、
ちょっとはサマにもなるってのに、
…でもそんな嘘の無さに感じてしまう自分が、どうしようもなくダメな女に思えてくる。

「首から上はもちろん、おっぱいは爆まではいかないにしても普通に巨な乳だし、
尻もでかい、腰のくびれなんかと合わさって超たまんない安産型、
太腿もむっちむち、肌は吸いつく、柔らかいから抱き心地いいし、いい匂いだし…」
「ふっ、ぐあっ、あっ、あうっ」
ずんずんと奥を突かれながら、為す術もなく男の卑猥な言葉を聞かされた。
あれほど呪わしくて堪らなかったただ美しいだけの肉の器な身が、
どうしてか今は喜ばしくてたまらない、――唯一の長所を褒められて嬉しかった。
――ああ、役に立てている。歓んで、愉しんでもらえてる。
…無意識に目下の胸板に舌を這わす。嬉しい。好きだ。愛しい。欲しい。

「ついでに性格も良いって来てる」
「…つっ、『ついで』でっ、済まさないでっ……ください、よう……」
あんまりな言い草に思わず抗議の声を上げると、
またあの猫めいたにーっという笑みと共に、引っ張り上げられるようにしてキスをされた。
意地悪だと感じながらも、ちゅむちゅむという優しい舌遣いに応じてしまう。
…ぷるぷる震える身体の奥で、またぞくぞく、ぶるぶるっと尿意に似た膨らみが増した。

「…それにさ、なんつっても挿れ具合がさ。…すっごい名器だよお前?」
「ひあっ? ああああっ!」
そこで捻られる。
縦運動だけだったところへの不意の横運動、絞られるように雁に引っかかって
横にごりごりと擦られる膣壁に、漏らしそうで背筋がビクンと反る。

「別に『数の子天井』とか『ミミズ千匹』とか、そういうわけでもないと思うんだけどさ。
でもキツくねーし、トロトロが次々溢れてくるから痛くもねーし……、
あ、キツくないっつっても、ガバガバなんじゃなくて柔らかい肉がみちみちっつーか」
「あああっ、あああああっ」
愛の睦言にしてはあまりにも品が無く、美の賞賛にしてはあまりにも卑猥だ。
実際少女も、『カズノコテンジョウ』や『ミミズセンビキ』は流石に何を表すか分からない。
…ただ話の意図だけは、『トロトロ』や『みちみち』からよく分かった。
 
472いぬのおひめさま(後編):2008/11/07(金) 19:56:18 ID:imbtspPf
「柔らかい肉がたっぷり? 入り口もモリマンだし、こういうの肉厚マンコっていうの?
絡みつきこそしねーけど、ぴったり張り付いて吸い付いてくんのが超気持ちいいってか」
「や、は、そ、そういうのっ」
「つーか深マン! こんなちっこい身体のくせして俺のがほとんど入んのが凄い、
奥に当たったーって思ってもさ、まだずぶずぶ入んだよ。…むちむちの底なし沼?」
「そういうの言わないでっ、言わないでくださいぃ…」
腰を掴んで左右に捻っていた手が止まり、そのまま尻をむにむに揉まれる。
止まった動き、柄の間の休息に息を整えながら、しかし快感の後には陶然が来た。
…たっぷりと脂肪のついた臀部を、おっきな手で弄ばれる。
痺れも疼きもないが、乳を吸われて頭を撫でられるように、幸せな気持ちが心に満ちる。

「――でも、何よりも一番気持ちいいのがさ」
そうして止まった攻め手に呼応するかの如く、男が安堵したかのように深く息を吐き、
…その満ち足りた声色に誘われて、少女も無意識にそちらを見た。
「…それでも奥入れてくと段々狭くてキツいんだけど、なんか突き当たり手前だけ
ちょっと空洞っぽくなっててさ。…押し込むとそこにくぽ、って嵌っちゃうんだよ」
相性ってあるんだなー、と、感慨深げに呟く男は本当に幸せそうで、
――だから少女も釣られて嬉しくなった。
目を細めて気持ち良さそう、恍惚陶然としてる男がお腹を撫でられた猫のようで、
――だからたまらなく愛しくなった、可愛い、愛しい、とても可愛い。

「マジで気持ちいいって、こんなん一旦挿れたら抜けねーよ、中にだって出す。
鍵と鍵穴っつーかさ、お前ホント俺に抱かれる為に生まれてきたみたいな女だって」
粗野だ。下品だ。傲慢だ。馬鹿だ。ていうかバカだ。すごいバカだ。
…でもバカだからこそ愛しくて、無垢だからこそ愛らしい。

「俺の女になれって、…な?」
「…………うあ」
だが強い。
「俺専用になろ? これから毎日こーいう風にいちゃいちゃしよ? な?」
「…っ、ん、ふぁ」
ひたすら強い。バカだから強い。強くて眩しくて当てられる。

「大体、お前だって俺のこと好きなんだろ? 俺の身体好きなんだよね?」
肉欲から始まる愛だなんていけないことだ。
出会ってすぐの男に、簡単に心を許してしまうだなんていけないことだ。
「分かってる? 身体勝手に動いてるよ? …乳首俺の胸でぐりぐりするの気持ちいい?」
「…っ! ひっ、い、あ、やぁっ」
だけどやめられない。貪り埋没するのを止められない。

「乳首コリコリさせちゃってさ。俺の腹筋ぽこぽこして気持ちいい? 洗濯板みたいで」
「はっ、はあっ、はああぁっ」
カチカチに硬化した乳首を男の胸板の上で転がし、陰核を針金のような陰毛に擦り付ける。
三点に施された家畜の証の、ザラついた感触が混じるのもあって、
ジンジンとした甘い痺れはたまらない快感、ますます少女の律動を加速させた。

「き、気持ちいい…。気持ちいいのぉ…きもちいいよぅ…」
でこぼこした男の腹筋も、そういう意味では気持ちいい、…より強く男を感じられるので。
動いてくれない男の代わりに、もっと深く男が欲しく、もっと強く相手を感じたい。
 
473いぬのおひめさま(後編):2008/11/07(金) 19:57:14 ID:imbtspPf
「いいの? 漏らしちゃうんじゃなかった? 止めないと漏れちゃうぞ?」
「うあっ、あっ、ああああっ」
おかげで黙っていれば抑えられただろう波濤も、ますます昂ぶって臨界に近づいてしまう。
尿意?は既に限界近く、ビクビクと脚や尿道、膣周りは勝手に痙攣してるのだが、
「…と……止まんない……とまんないぃ……」
涙、鼻水、唾液で顔をぐしょぐしょにしながら、破滅に向かって突き進んでしまう。
――破滅したかった。壊れたかった。堕ちて、もう戻りたくない。

「…お前、ホント家畜とか動物みたいだな」
笑みを含んだ男の意地の悪い囁きに、ビクリと大きく眼が見開かれる。
そうだ、自分はダメな女だ、どうしようもない女なんだ。
「ほら、こうして欲しいだろ? 俺のおっきいのでずんずんされると気持ちいいんだろ?」
「うっ、ぐあっ、がっ、ああああああっ!」
唐突にどちゅっ、どちゅっ、と潤みの止まらない膣奥を突き上げられ、獣じみた咆哮を上げる。
もう痛みさえ無い。皮肉にも野太さが、先端面積の広さがそれを散らした。
こなれ温まってほぐれた膣壁が限界まで伸び、柔らかくも男を根元まで飲み込んでしまう。

「やっ、ああっ!? な、なんか、なんかおっきいの来る! お゙っぎいの来るッ!!」
双丘の先端と股間の陰核、三点から淡く広がるジンジンとした快感が、
膣奥から広がる痺れるような強い快感と混じり、とうとう飽和状態から鎌首をもたげた。
「怖い、怖いぃっ、こわいいぃ」
未知の領域。ようやくそれに少女は気がつき、怯え、恐怖し、男にしがみつく。
「ん。大丈夫、怖くないぞ」
なのにぽむぽむと背中を叩かれ、ぎゅうっと力強く抱きしめられて、
――とうとう恐れることさえ、慄くことさえ許してもらえなかった。

おしとやかさなんて微塵も無い。
歯を食いしばって声を押し殺すだなんて、そんなのが出来る次元じゃない。

「んあああっ、ん゙ああああっ、ん゙あ゙あ゙あ゙あああああっ!!!」

その華奢な肩と細い喉の、どこから出るのかという獣声と共に、哀れ彼女は達してしまった。
余裕なんて一片もない、無慈悲にも全部真っ黒に塗り潰される。
「――ッ、――! ――…」
今夜これまで、そしてそれ以前までに感じてきた『絶頂』が一体なんだったのかと、
そう思ってしまうような、それほどまでに深く、ある種辛くさえある絶頂だった。
「……ガ……あ……」
肺の息を絞り出してしまい、酸欠に喘ぐその姿は、最早誰の目にも貴種には見えない。
かつて暴力と痛苦により奪われた貴上の矜持と尊厳が、
皮肉にも全く逆の手法、逆の情感によって、今度こそ根こそぎ刈り取られる。
「…あ……ああ……ああああ……」

彼女の名誉と尊厳のためにも、今一度だけここに断言しよう。
――まだ腕ずくで強姦されてた方が良かった、心だけは奪わずに済んだ。

「………ひあぅ」
ぷしゃっと何かが弾ける感触と共に、繋がった場所近くにに生暖かいものを感じ、
 
474名無しさん@ピンキー:2008/11/07(金) 19:59:48 ID:imbtspPf
というところで続次回。

うん。ごめん。でも本当にここでようやく後半の半分なんだ。
計36レスの半量。
だから区切れるような話じゃないけど無理矢理区切ります。すんません。
でも感想ありがとう。
475名無しさん@ピンキー:2008/11/07(金) 20:49:47 ID:mRRexhh6
GJ!GJ!
いぬのおひめさまキター!!
二人のやりとりがやらしいのに可愛くて大好き!
476名無しさん@ピンキー:2008/11/07(金) 21:45:30 ID:9Cw2vg+O
ちょ・・・っいぬのおひめさまキターーー!!
最後まで読むのがもったいなくてじっくり時間をかけて読ませて頂きました!
てか続きがめちゃ気になるところで切れてるなんて・・・なんて焦らしプレイですか。
あああ、なんて可愛いカップルなんだっエロくて可愛いなwww

次回の投稿も楽しみにしております!
477名無しさん@ピンキー:2008/11/07(金) 21:53:50 ID:4BFLTmLV
うわあああ
こんなところで切られたらどうすれば……
GJ!続き待ってますよー
478名無しさん@ピンキー:2008/11/08(土) 01:59:18 ID:f19LYM2Y
なんつーかさ、この人の書くものって蜂蜜みたいだと思うんだ。
それも精製されたやつじゃなくて、巣箱から取り出したばかりのハニカムの固まりから滴り落ちる濃厚なやつ。
口に含んだ瞬間に奥歯がしびれるほどとんでもなく甘ったるくて、でもそれが癖になって何度も口に運んでしまう、そんな蜂蜜。





いぬのおひめさま、大好きだ。GJ。
479名無しさん@ピンキー:2008/11/08(土) 06:58:22 ID:QQeU14nd
何故分けるんだああああッ!
読むのに!50レスでも100レスでも読むのに!!
480名無しさん@ピンキー:2008/11/08(土) 08:04:17 ID:mLsTVJ2V
当人は不本意みたいだけどロア「可愛い」!
・・・そういえば、このふたりは互いの名を知っているのかな?
「リュケイアーナ」ってロアには覚えにくそうなので、愛称で呼びそうなイメージがあるw
481名無しさん@ピンキー:2008/11/08(土) 18:15:45 ID:tUwPmFwF
は、はやく続きを…!

にしてもほんとにGJです
482名無しさん@ピンキー:2008/11/08(土) 20:21:24 ID:3rzkOGdz
>>480
「りゅーたん」とか?www

計36レスってことはもう書き上げてるんですよね?
早く続きが読みたいです。生殺しw
483名無しさん@ピンキー:2008/11/08(土) 23:00:34 ID:JxEFlKsy
いぬのお姫様、gjです!!!!!

>>480
縮めて愛称リュナかもしれんw
484名無しさん@ピンキー:2008/11/09(日) 05:26:05 ID:fxkrYjne
何この良スレ
何この良話s

とりあえず作者達gj
485名無しさん@ピンキー:2008/11/09(日) 10:09:29 ID:WfkdYk0H
「おお、アーナ」
「うぁぁぁん、大穴っていうー!」
「だから入ったんじゃん。オレ専用ってこったろ。」ニヤニヤ



こうですか
わかりません
486名無しさん@ピンキー:2008/11/09(日) 13:03:20 ID:AXATV0Si
個人的には「リューナ」とか「リュアーナ」とか呼んでほしい。
んでもって「略称でない正当な名前、覚えてます?」とか聞かれて言葉に詰まった結果、
拗ねちゃったリュケイアーナに内心右往左往するロアを想像して楽しんでる。


………あとリュケイアーナの犬耳はレトリバー系の垂れ耳だと思うのだけれど、
諸君はどう考える?

ついでに、橙の姫様は柴犬耳だと思う。
487名無しさん@ピンキー:2008/11/09(日) 14:02:38 ID:71iJKf6h
「好きな女の名前くらい正称で呼ぶだろう」と誰も言わないところが、ロアのキャラなんだなw
>>486
三角の耳でイメージしていたけど、猫科のロアとかぶっちゃうかな。
従順で臆病で素直で奥手・・・だと垂れ耳かも。
488名無しさん@ピンキー:2008/11/09(日) 14:39:38 ID:SyLvmBUh
>>474
うおおおう生殺しいいいいっ…続き気になるwktk
愛称はリュケでも可愛いなぁ
489名無しさん@ピンキー:2008/11/09(日) 14:42:50 ID:8GXlTBhQ
同じく脳内の姫の頭には三角の耳がぴょこんと出ていたんだけれども
鳶色の長い髪にふさふさのGレトリバーの垂れ耳…似合うねえ
あの長いしっぽもお尻から伸びてて、ロアに逢う度ぱたぱたしてると良いよ

ちなみにロアは髪と同じ赤みがかった毛色のトラ猫の耳としっぽだと思うがどうだろうw
490名無しさん@ピンキー:2008/11/09(日) 14:47:32 ID:AXATV0Si
>>489
赤みの強い虎縞ですね、わかります。

そんでもって喧嘩した証でちょっとギザ耳だったりすると最高。
491名無しさん@ピンキー:2008/11/09(日) 18:29:23 ID:KgTJgypp
犬姫様最終。後編の後編。
明るく健康な未来を作る、おもらし、孕ませ、ソフトSM、奴隷化、
奥歯が痺れる強めの甘味を含みます。




容量の関係上、一応次スレを立てる準備もしてきました。
とりあえず495KB越えたあたりで全部貼るのが無理そうだったら、残りは次スレに。
492いぬのおひめさま(後編):2008/11/09(日) 18:30:19 ID:KgTJgypp
「………ひあぅ」
ぷしゃっと何かが弾ける感触と共に、繋がった場所近くにに生暖かいものを感じ、
続けてちょろちょろ、ちゅーちゅー、困憊の中にも馴染みの深い開放感。

「…あ……あ……」
迫る尿意にも似た感覚、ではなく、本当に尿意も迫っていた。
結局漏らしてしまう、それも床やシーツの上にですらなく、繋がった男の腹の上にだ。
散々飛び散った男女の混合液と洗い流すかのように、
ほとんど透明な熱い液体が、重なり合った腹部や太腿の合間に広がっていく感触。
「…うあ……とまんにゃい……とまんにゃいぃ……」
呂律の回らない舌で、全身を弛緩させながら呟く少女。
すぐ下にある自分を抱いた男の顔が、明らかにハァハァ鼻息荒い、
片手に彼女の背を抱きながら、もう片方で後ろ頭を撫で撫でしてくれるのも問題だった。
…汚いと突き放してさえくれない。全部受け止められてしまう。
「…あう……うっ……う……」

ゆっくりと下降し引いていく絶頂の余韻に合わせての、温かな放出感、開放感。
絶頂の激しい快感とは、また違った意味で非常に危ない――
――病み付きになりそうな、そっちの意味で『精神に失調』をきたしそうな快感だった。
…純粋な少女は知る由もなかろうが、『おもらし』は癖になりやすいのだ。
特にこんな風に前後不覚に陥るほど攻め立てられ、忘我自失の中に味わってしまうと、
無意識レベルに快感が刷り込まれてしまい、最悪慢性化の恐れさえある。
自分がどれだけ危険極まりない状況にあるか、少女は知らない、少年さえ知らない。


男根による圧迫で、結局完全に放尿が終わったのは絶頂から一分近く経った後。
…逆に言えばそれだけの間、少女は男の上で漏らしてしまった。
「………」
茫然自失の中で、ただ下に敷いた男の肉体と、腹部に残った温水の感触を貪る。
小さな子供がよくそうするよう、排尿の終わりにふるるっと身体を震わせて、
…そうしてそんな少女を実に満足げに観察していた男が、ここでようやく言葉を発した。
「漏らしちゃったな」
「…!!」
――やり過ぎだ。
びくんと身体を痙攣させた女に、男はますます興奮を強めるが、でもこれはもう行き過ぎだ。
もっとちゃんと、…男の方も興奮しておらず、冷静で正気だったなら気がついたはずだ。
女の目が恍惚と幸福に陶然としてはいても、――もう光を宿していないことに。
「ダメな女だなぁ」
「……ぅぁ」
耳元でねっとりと囁かれた今の言葉だなんて、確実に心に傷を残しただろう。
カリッと浅く爪でひっかくように、けれど剥き出しの心に傷がつく。

「………いっ」
――びちゃ、と下から突き上げられる。
「いっ、あっ、あ」
――びちゃっ、びちゃっ、ずくっ、ずくっ、と下から小刻みに突き上げられる。
寝台のクッションと腰のバネだけを使ったその動きに、
『おもらし』で湿ったシーツがじゅくじゅくと音を立てて温水を滲ませ、
男の腹筋の凸凹を受け皿に残った尿を跳ね散らせる。
 
493いぬのおひめさま(後編):2008/11/09(日) 18:30:45 ID:KgTJgypp
「あっ、やっ…」
これは、辛い。
「やっ、やあぁっ、やだああぁぁぁっ…」
もうお終いだと思い込んでいた、弛緩し安息していた少女にこれは辛い。

「も…もうやだ…、もう気持ちいいのやだ……」
泣きながらばたばたと力なく手足を動かし、逃げられないのにもぞもぞもがく。
「やだ、気持ちいいのやだ、気持ちいいのやだあああぁッ」
せっかく熾火のように収まっていた快楽が、たちまち再燃し出すのを感じる。
疲れてるのに、もう止めたいのに、反応するいやらしい己の肉体が怖い。
「やっ、やだ……や……はっ、はう、はん…あんっ」
ぬちゅぬちゅと行き来する肉柱に、それでも濡れた膣壁が絡みつく。
ごりごりと凶悪な雁の段差の裏側にさえ、恋人のようにぺっとりと抱きついて離れない。
「あう…あふ…は…はうっ…はふ…ぅんっ…」
ああでも気持ちいい、やっぱり気持ちいい、気持ちいい気持ちいい気持ちいい。
好きだ、好きだ、好きだ、好きだ。

「……頑張ってよもうちょい」
「んっ、んっ、んっ」
こてんと男の胸板に横たわったまま、股座からの快感に耐えていた少女の表情が、
「辛いかもしんないけど、俺ももう少しで出るからさ」
「……ん、ぅ?」
『出る』という単語に、流石に不穏な反応を示した。
「…あ。出るってのはもちろん、ションベンのことじゃなくて白いののことな?」
「………」
――『出る』、『でる』、…『射精る』?

のろのろと男の表情を見やると……やっぱりとても気持ち良さそうだった。
彼女の腰を掴んで上下させ、剛直に感じるぬめぬめときゅうきゅうを愉しんでいる。
時折恍惚とした息を吐きながらピタリと腰の動きを止めるのは、
込み上げてくる射精感を堪えるためだろう、なるべく長く、限界まで愉しむつもりなのだ。
…それは慈悲でもなければ悠長でもなく、ましてや女への気遣いでもない。
そうやって焦らし焦らし長らく愉しんだ方が、とろとろに練られた白濁が大量に出る、
濃く多い吐精が長く続き、快感もまた高まることを知ってるのだ。
完全に自分が愉しむ動き。
女の身体を『使う』、自分の快楽重視の動きとそこに伴う忘我の表情に、
さしもの少女も本能レベルで、自分がされそうになっていることを理解した。

「……や……だめ……」
拒絶の言葉は洩れた。
…一切の物理的抵抗を伴わない、声にさえ諦めと迷いを含んだ拒絶だったが。
「……そとに……なかに出しちゃだめ……ぇ」
本当はもう大量の先走り汁に膣奥を犯され、更には既に一度出され済みなのだが、
それでも外に拘るのは、まあ立場的に無理からぬ心理だろう。
…それでなくとも準備の出来てないところへの不意打ちだった一度目とは違い、
今は心も体もすっかり準備が出来てしまっている、
蕩けた肉はぷるぷると男自身に絡みつき、淫らに乞い願って仕方がないのだ。
最初は七割八割しか入らなかったはずの剛直が、
今では根元まで入ってしまっている事実も、少女の心を苛んだ。
 
494いぬのおひめさま(後編):2008/11/09(日) 18:31:10 ID:KgTJgypp
挿れられる前に見た、舐めしゃぶったモノの全容を思い出す。
…入るはずがない、あんな異常な大きさのものが、根元まで体内に埋まるはずがない。
はずがないのに、現実には柔軟な膣壁、豊潤な膣肉が、
ゴムのように柔らかく伸びて、全身で男を受け入れてしまっている。
胃や腸、更には肺が圧迫される感覚に、軽いえずきや息苦しさも感じつつ、
槍のように突き上げられ、捉えられせり上がってしまった子宮を思い、女は泣いた。
――する。――絶対妊娠する。――絶対妊娠させられる。
「……赤ちゃん……できちゃう……」

無知な少女に分かろうはずもない。
自分のそんな啜り泣きが、どれだけ目の前の男を興奮させるかなど。

「仕方ないって」
愉悦と興奮を抑え切れない男が、実に悪魔らしく甘きに囁く。
「好きだからしちゃうんだよ」
「……やだ……」
――嫌がれる理由を掴もうとした。
「気持ちいいからやめらんないんだって」
「……やだぁ……」
――壊れた人形のように定型の文句を呟きながら、それでも嫌がれる理由を探そうとした。
「だからできちゃうんだろ? だから中で出しちゃうんだろ?」
「……やだ……やだよぅ……」
――だってそうだろう? 犯され孕まされるのを自分から喜ぶ女が何処にいる?
「好きだから出来ちゃうんだよ、…仕方ねえって」
「や……」

――だから掴もうとする、なのに見つからない。
何処にも無い、あんなにたくさん、数え切れないくらいあったはずなのに。

「…や……だめ……」
虎視眈々と狙っていたのだろう。
「そこ……深いぃ……奥……だめぇ……」
肉襞を掻き分けた亀頭の鈴口が、むちゅう、と子宮口に口付けを施した時にも、
だから少女には何も出来なかった。
「だめ……だめ……ちゅーしちゃ……やだぁ……」
くりくりと、ちょうど男の巨体がじゃれ付いて来るように強く押し上げられて、
同時に正真正銘全部挿入ってしまう、ぷにぷにとした土手がぎゅっと男の恥骨に押し潰される。
「あ……あ……あ……あ……」
それだけにびくんと男の腰が痙攣し、同じく震えた先端がぐっと膨らむのも、全部感じた。
「っあああ゙!」
「っ」
高い悲鳴と低い呻きが重なった時には、白濁が少女の最奥を射抜いていた。

完全には味わえなかった一度目とは違い、待ち構えての二度目。
 
495いぬのおひめさま(後編):2008/11/09(日) 18:31:33 ID:KgTJgypp
「…く、ふぁ」
ジュッ、ジュッ、と明らかに何か出ている感触が膣奥に伝わる。
その時点で何か脳の奥がジン…と痺れる、訳の分からない歓喜に吐息が洩れる。
そんな明らかに何か出てると分かるのは最初の二度三度だけなのだが、
でも何か熱いものが、じんわりとそこを中心に広がっていく感触がそれに続く。
「は、ふ……」
これも危険だ。訳が分からないくらい幸せになる。
胎の中にぽっと火が入ったような感覚、狂おしいほどの幸福に涎も垂れる。
ギチギチに収まった肉柱が、びくんびくんと脈動する感覚もいい。
熱が逆流していく感覚も、結合部からびゅっびゅっと飛び散る感触も素敵だ。
なまじ反射的に締まってしまうせいで、余計に強く感じてしまう。
震える男の腰も、がっしりと彼女の身体を掴んで離さない腕の太さも、勿論好き。

「…ひぁ、ん……」
『雌の歓び』…なんて言うのは少女のためにもやめてあげるが、
とにかく『女の子に生まれて良かった』と、心の底から思えてしまう危険な歓びだった。
深い絶頂の劇的な波濤とも、先刻のお漏らしの流砂めいた背徳とも違う、
また別の歓び、これはこれで危ない麻薬めいた恍惚。

「…ん、んッ」
ひくひくと震えていた肢体が、冬の寒さに瘧を起こしたが如くぶるぶるっと震え、
放出は終えても未だビクビクと震える男の剛直を絞り上げた。
最初挿入された時にも彼女が感じた痙攣だが、
でもこれは絶頂というよりは、単に幸福の酩酊に感極まっての反射的な震え、
『それも絶頂の一種』とするのは、あまりにも可哀想なので彼女のためにもやめておく。
『何回イッてる、淫乱の素質があるんじゃないか』と、そういう話になってしまうから。

……ああほら、言わんこっちゃいない。

「……しゃせー……きもちい……」
心に傷が残った、
「あつい……あったかひ……」
心に傷が残った、
「……せーえき……びゅーって……びゅー……」
間違いなく心に傷が残った。

そうしてドン、ドン、と分厚い大胸筋ごしにも感じる心臓の鼓動を聴きながら、
ふーふーとだらしなく射精の快感を貪る男の表情を盗み見る。
だらしなくても、やっぱりとっても幸せそうで、やっぱりとっても気持ち良さそうで。
「……かわいぃおぅ……」
唾液で呂律の回らない舌、男に意味ある言葉として届かなかったのが、
不幸中の幸いといえば幸いだったかもしれない。

……終わり切ってから十二分に間を置いた後、男の両手が女の足腰を離す。
伸びきることで根元まで男を飲み込んでいた膣肉が反動で戻り、
ずず…とゆっくり、一割ほど男の剛直を吐き出した。
 
496いぬのおひめさま(後編):2008/11/09(日) 18:32:08 ID:KgTJgypp
どろりとした白濁が溢れ、捲れ上がった朱肉が滑り戻りながらひくひくと蠢く。
自由になった腰の対価に、背中を抱かれ、頭を撫でられ、
「……できちゃう……できちゃうよぅ……」
しかし言葉とは裏腹、甘えむずがるような声色で男の胸に擦りつく辺り、手遅れだ。
目がキちゃってる。完全に正気じゃない。

男の両手が女の腋下を掴むと、引っ張り寄せるようにしてキスをする。
身長差が辛いせいで実は微妙に届かない、
結果として黒檀色の肉棒がずるずるっと半分ほど抜け出、ビクビクと白い下半身が痙攣したが、
股間からぼたぼたと白濁を垂らすにも関わらず、少女は夢中で施される口付けを貪った。
ちゅむちゅむはむはむ、絡んでくる舌と、幸せな後戯。

「…いいだろできちゃっても」
「……ふぁ」
てろりと唾液の橋を残しながら、唇を離した男が呟く。
「てか産もう? 産んじゃお? 俺の子産も?」
「くッ? うぅんッ、……あ」
そのまま引っ張り上げて抜いた分を、肩を抱き圧すことによって再び押し込む。
再び満たされ、ずるるると八割近くまで飲み込んでしまいながら、
でもそこでようやく、少女も回らない頭なりに気がついた、経験則的に。

「…な……なんで、ちっちゃく、なんない……」
「…ん?」
男が小首を傾げる。…ちょっと可愛い。
「…だって…さ、さっきも、今も、出したのに…全然縮まない…おっきいまま……」
「…え。…そりゃお前、だってさっき言っただろ」
どこかふわふわした女の問いに、どこかふわふわした男が真顔で答えた。
「忙しすぎて抜く暇も無かったって。大体十日分くらい溜まってるって」
「………」

歯車が噛み合わない。
彼女の中での男の陽根とは、一度精を吐けばすぐ縮むものだ。
十日もなにも、三日置こうが一ヶ月間を空けようが、それが不変の事実だったし、
そもそも一晩に二回射精だなんて、そう言えばされた覚えはない。
というか、こんな出ない。
出てると分かるほど、激しく出された記憶ない。

「…そりゃ俺だって抜かずは二連が最高記録で、三連行けそうな今は新境地だけど、
でも別に抜かずでなきゃチャージ満タン、最高記録も更新できそうだし…」
要領を得ないことをブツブツと呟く男の声を、疲れ果てた脳で半分も理解できずに聴く。
鼓膜に響く低音だけで心地よい少女は、だからとうとう気がつけなかった。
「…そもそも、萎えろってのが無理あるぞお前」

男の目もヤバい。
虚ろに高揚してて、地味にこっちも正気じゃない。

「『イヤダメやめて赤ちゃん出来ちゃう』とかさぁ、勃つだろ、男的に当然」
「……うあっ!?」
高揚して完全にハイになってる男が、極めて正直な自分の気持ちを吐露したが、
でもこれはちょっと正直過ぎだ、いくらなんでも正直過ぎだ。
 
497いぬのおひめさま(後編):2008/11/09(日) 18:32:27 ID:KgTJgypp
「白いよなぁ肌も、山羊乳みたいで、綺麗で」
腿や尻を撫でる目には、それでも青痣や傷跡、肩下と脇腹の火傷痕は映らない。
傷なんて見慣れてるし、そもそも肌がミルク色の女がして珍しいのだ。
「…こんな白い股からさぁ、お前が唸りながら小麦色のガキがひり出しちゃうとかさ」
「ふ、ああっ……んんっ」
そうしてそんな光景を、実にまざまざと想像したのだろう。
ぐいいいっと、二連続の放出で八分勃ちぐらいには柔らかになっていたものが、
たちまち硬さと体積を取り戻し、女が鼻に掛かった声を上げた。

「普通に鼻血でない? 出るよ俺? だって男だもん、ケダモノだもん」
「うあ…あ、あぁ……ああんっ…」
ぎゅうっと両腕両肩を拘束されながら、逃れようも無く過激な睦言を囁かれて、
なのに少女は嫌がれない、甘えた息を洩らしてしまう。
「で、そうやって産んじゃったのに、頑張ったねって俺に褒められると頷いちゃって、
キスされたらラブラブチューしちゃうとか、そこまでやって『本当の陵辱』だろ?」
「はぁッ、はあぁっ」
くちくちと突かれる最奥に、亀頭と子宮口の隙間で精液が練られ擦り込まれるのを感じ、
なのに歓んでしまう、幸せにぞくぞく、勝手に身体が擦り寄ってしまう。

「こんな牛みたいな輪っかつけちゃってさぁ、乳垂れ流して、でも笑ってんだよ、
でかい腹抱えて、なのに幸せいっぱいで、中に入ってんのは俺の子で」
「ひ……」
言われて、でも容易にはっきり想像できた。

家畜のように乳を腫らし、胎に子を孕んで、…でも褒めてもらえる、撫でてもらえるのだ。
偉いね、頑張ったね、よくやったねと、愛されて、可愛がられて、キスされて。
それにどうしようもない自分はますます乳を漏らし、犯されて孕んだ子なのに愛しくなってしまう。
それをダメな女だなって優しく叱られて、でも幸せで、気持ちよくて、がくがくぞくぞくして。

「口先では嫌がりながら『悔しいけど産んじゃう』ってのも捨てがたいけどさぁ、
口先でさえ嫌がれなくて『幸せいっぱいで産んじゃう』ってのも、それはそれで良くね?」
「あっ、あっ、あ……」
まるで貴公子が理想の夫婦像を説くかの如くに、
下卑た笑いでも上げながら言うべきを甘く優しく囁いてくるのが、また痛烈に心を冒す。
言葉は優しくて、抱き締める腕も優しいのに、でも目だけが強くて蠱惑的だ。

「…お前も、幸せ? …お前も、俺と家族したい?」
「……ッ!!」
隠し切れてそうにもない膨大な歓喜に、少女は息を詰まらせて身を竦ませる。
欲しい。産みたい。産まされたい。
「…なぁ、やっぱ本当に避妊しないとダメ? なんでダメなん? どうしてダメ?」
「ふ…、ふ…」
ずるい男が、約束を反故にしても怒れない。
強く、大きく、立場の上の男が、でも脅すのでなくおねだりしてくるのが理性を溶かす。
可愛い。あげたい。使ってほしい。
「復讐の道具にしなきゃいいんじゃん、愛し合って作るならいいんだろ?
こうやって毎日中出しまくってさ、それでデキちゃったんなら仕方ないだろ?」
「んっ…、んっ…」
純粋にまっすぐに攻められて、嘘も悪気もないせいで、勢いに押される、飲み込まれる。
 
498いぬのおひめさま(後編):2008/11/09(日) 18:32:53 ID:KgTJgypp
「作ろう? てか結婚しよう?」
「……ぁ」
結婚。…その言葉の持つ幸せな響きが、じり、と女の脳を灼く。
結婚。結婚。夫婦。つがい。
ちぷちぷという小刻みな甘い波紋も、一層女を耽溺に落とす。
「爺とのなんて結婚にも入らねーよ、だってこれお前、まんま性奴隷の待遇じゃん」
「…だ……だめ……だめ……」
ぶたれない結婚。蹴られない結婚。…好きな人との、幸せな結婚。
「俺とホントの結婚しよ? ホントの正しい恋人同士して、正真正銘の夫婦して、
いちゃいちゃラブラブで毎日エロいことして、いっぱい子供作っていっぱい産もう?」
「だめ……だめ……けっこん……だめ……」
したい。したい。
それなら別に家畜でもいい、ずっと一緒に居られるなら、それならどこまで堕ちてもいい。

――でもダメだ。

「……わたひ……いぬ……だからぁ……」
釣り合わない。
『貴』と『賎』では、『強』と『弱』では、……『人』と『犬』では釣り合わない。
今までずっと認めたくなくて、でもここでようやく自認する。
「……いぬ……ぅ……」
前夫を殺した相手と寝た。領土を侵した相手と寝た。蛮族、異民族、異教徒と寝た。
寝たのみならず心を許して奪われた。自分から求め、自分から応じた。
喘いで、善がって、媚び狂った。
唇を吸われながら達し、男根を咥えながら達し、獣のように尿を撒きながら達し、
種付けされながら咽び鳴いて、今尚男の子供が欲しくて溜まらない。
あまつ男の若さと逞しさに酔い、力に魅せられ、餌に釣られる。
「よごれ……ちゃう……」
自分の方こそがむしろ相応しくない。男の方こそがむしろ素晴らしい。
野蛮人だとか、異教徒だとか、簒奪者だとか、もう関係ない。
こんな強くて眩しくて輝いている、純粋で穢れ無い、熱量と活力の塊みたいな男に、
自分は相応しくない、自分には勿体無い、夫婦だなんて恐れ多い。
「……にんげんじゃ……ないの……」
そもそも一度の交合でここまで相手に溺れてしまうなんて、本当に売女かもしれなくて、
だから少女は最後の力を振り絞った、男の誘いを押しのけたのに。

「…なんで犬だとダメなん?」
「……――」
 飴のように溶けた理性、崩壊した価値観、ガタガタの心。
「…犬、好きだよ俺?」
「………ぁ」
 もう守る鎧が何一つなくなった剥き出しな精神に、これは致命の一撃だった。
「可愛いし、従順だし、尻尾振りながらすりすりしてくるし」
「………ぁ、ぁ」
 彼女のトラウマの要。負い目引け目の核。最後の砦。
「おバカでダメなところとか、ちょっとアホの子なところとかも好きだし、
サカっちゃうとどうしようもないところもエロくて好きだなー」
 お互い汗だくで寝転んで抱き合いながら、ちょっと冗談めかしつつ軽い気持ちで、
 バカで頭の悪い男が目の前の『それ』を、トン、と押す。
 
499いぬのおひめさま(後編):2008/11/09(日) 18:33:28 ID:KgTJgypp
「…そんなに可愛いのに、なんで犬だとダメなんだ?」
「は…――、あ――」
 それにぐらりと傾いだ高い塔、影を落として均衡点より外に出てしまった積み石が、
「いいじゃん犬で。別に」
「――――!!!!」
 折れる彼女の心そのものだ。

 がしゃん



…枯れたと思った涙をまたみるみる溢れさせ、がたがたと震えだした少女に対し、
男はおもむろにごろんと側位になると、猫背で深々と口付けをした。
『女落とすにはチューが基本戦術だぞ!』とは、兄の一人からの至高の助言である。
今までの体位も良かったのだが、身が屈められずキスしにくいのが難点、
…本当を言うならバックか立ちバックで、獣のように激しくしたい気分だったのだが、
それは経験則から断腸の思いで我慢、またの機会にお見送りする。

辛いのだ後背位は。体格差的にまず間違いなく女の側が痛がる。
というかそれで一度苦い失敗もした、だからもっと慣れてから余裕のある時に試したい。
…巨根だとか、身の丈八尺余(※当時の一尺は約23cm)の大男だとか、
そういう意味では皆は羨望の目で見るものの、あまり良いものではないと男は思う。
サイズが大きすぎるせいで、テクの入り込める余地が少ない。
前戯も十分に必要で、挿入後も激しくは動けず、結果長引き相手をうんざりさせてしまう。
泣き叫ぶ女で楽しめる趣味はなく、濡れてない穴でだとこっちまで痛い。
愛撫が人一倍丁寧なのもある意味当然で、別に特別なことをしてるつもりはなかった。

「…俺のペット、なる?」
「………はい」
だから鎖骨の下、胸板に寄せた女の頭がこくんと頷いた時は狂喜した。
『ヤッター陵辱成功ー、祝陥落今日から俺の女ー』とか、
『やっぱり再婚とか捕虜とか言うから重いんだよな、ペットなら軽くてフレンドリー』とか、
心の中でリビドーのままにワーイした。
「…俺の子、産む?」
「………ふぁい」
だから幸せそうな顔をした少女がこくりと頷いてしまった時は興奮したし、
「……赤ちゃん……ください……」
自分の胸に顔を擦り付け、少女がもじもじしながら言ってきた時は感動さえした。

「ん。…じゃあ子作りしよっか!」
「………」
爽やかにも卑猥な誘いに、でもビクンとした少女が顔を真っ赤にしながらも頷く、
…どころか期待さえ込めた上目遣いでぽーっとこっちを見て来た時なんか、もう幸せ絶頂だ。
『うわー、何ちょっとこいつ、なんかあり得ないくらい可愛いよ、鼻血出そう』と、
少女がひたすら可愛くて愛しくて、そんな彼女を幸せにできる自分が誇らしくて有頂天。

――これだからバカは怖い、始末に負えない。
500いぬのおひめさま(後編):2008/11/09(日) 18:33:42 ID:KgTJgypp
相手の片脚を持ち上げて余裕を確保すると、一気に半分ほど黒柱を引き抜く。
「ふぁああッ!?」
案の定多少膣肉は捲れこそしたが、意外とスムーズにずるずると抜けた。
凶悪な雁にぷりぷりとした肉が絡みつく抵抗感こそあったが、
膣肉が噛んで止まってしまう感触や、相手の女が痛みで悲鳴を上げる様子も無い。
「あっ……あ……」
濡れ具合もあるが、相当温まって、『緩んで』も来た結果だろう。
…これが並の者なら『締まりが悪くなってきた』と眉を顰めるところだろうが、
男にしてみれば好都合、ようやく激しくも動かせそうだった。

至って普通の、激しいピストン。
娼婦相手にさえ相手が顔を顰めてしまい、なかなか出来ないことが出来るのだ、
興奮を抑えるなというだに無理がある。
「ああ、あ、う、ううぅぅう……」
ぐににーっ、と再度押し込まれていく肉の杭に、ぼたぼたと掻き出された混合液が垂れる。
持ち上げた脚はぷるぷると痙攣して、女の喉からは呻きが洩れる。

…『何か反応や声質の大胆さが変わったな』、とは男も思ったが、
でもそれは『陥落して妊娠OK宣言出しちゃったからかな』、ぐらいの結論に収まった。
それとてトロンと虚ろな女の蒼い目が可愛い以上、実に瑣末な問題だ。
「んうっ」
こつん、と奥まで当たったのを感じ、女がビクンとするのを腕に覚えながら、
今後の展望についての算段を立てる。

内容は実に簡単。
女が苦痛を覚えない程度に、今の出し入れのピッチを上げていく。
耐え切れなかったらペースを落とすが、耐え切れるところまで行ってみよう、
そう思いながら、男は二度目の引き抜きにかかった。

 <ここからが本当の地獄だ>

「はっ、ああっ、んっ、くうぅっ」
ずるっ、ずるっ、と激しく行き来する肉棒に、女が歓喜の悲鳴を上げる。
「うあっ、うあああっ、うあああっ、うああああっ」
犯される快感に、膣肉がぐぼぐぼと雁に掻き出される感触に、だらしなく口を開けて快感を貪る。
「気持ちいい? な、気持ちいい?」
「いっ、いいよぅっ、いいいぃっ、気持ちいいいぃっ!」
訊かれてためらいもなく、秘所から走る快感のままに幸せそうに叫んでしまうその姿は、
――ああでも手遅れだ。引き返せないとこまで行っちゃった。

「いいっ、ごっ、ごしゅっ」
更には。
「…ご主人様、ご主人様っ、ごしゅじんさまぁっ!」
「うおわ!?」
唐突な爆弾発言に、これには男もビックリする。…腰の動きは止めないが。
「…え、お、俺、ご主人様? ご主人様なの?」
「はいっ、はいいいっ! あっ、あっ」
おっかなびっくり男が訊くが、少女は何か限界突破でも成し遂げたかのように幸せそう。
501いぬのおひめさま(後編):2008/11/09(日) 18:34:14 ID:KgTJgypp
(…え、ええー……)
でも男の方からすれば、この突き抜けられぶりは逆に照れくさくて恥ずかしい。
何しろ冗談やおふざけではなく、至って真剣に呼ばれてるのだ。
ご主人様――Lord(君主)――なんて柄じゃあないのは、本人が一番分かってる。

「ご主人様……ご主人様……あなた……あなたぁ……」
「……う」
だから「My Lord」――ご主人様とかあなた――なんて、顔が赤くもなる。
そうやって呟きながら恍惚と胸にすりすりされると、どう反応していいのやら。
幸せなんだけどもよもよする、嬉しいんだけどむず痒い。
贅沢な悩みだとは分かっていても、それでも『英雄』と同じで重たくて困った。
狙って軽くしてるんでなく、本当に重いのが苦手なのだ。

「…ご、ご主人様はいいよ……。……ロア。ロアネアム」
「……ろあねあむ、さま?」
「様はつけなくていいって! ロア! ロアでいいから!」
思わず腰の動きも中座してしまって、耳まで真っ赤にしながらそう叫ぶ。
褐色肌の自分はそれが露になり難いから助かると思い、
――そうしてそう言えば、お互い名前も名乗ってなかったのに気がついた。

極めて本末転倒で、今更もいいところの話だったが、
「……ろあ……ロア……」
でも目下、噛み締めるように自分の名前を連呼している少女を見ていると、
流石に名さえ分からないのは不便極まりないと気がつく。
「――そういや、名前は?」
あまりそういう出自だとか姓名には拘らぬ性質だが、それでも聞く。

「……りゅけいあーな・おる……」
応えて紡がれかけた女の名乗りもまた、はたと中途で滞った。
長い本名の大部分、家格や出自を表す語句が、今やどれほど価値を持つか。
「…………リュケイアーナ」
そう思った、だから『ただの女』のリュケイアーナは、ただそうとだけ小さく呟く。
…本当は帝国での通俗的に、愛称は『イアナ』か『アナ』になるのが通例なのだが。
「そっか、じゃあリュカだな、リュカ」
与えられ決められた新しい呼称に、それでも少女の心は嬉しさに震える。

――名前。ご主人様から貰った新しい名前。

たかが名前だが、それでも名前だ。
「リュカ、リュカ」
愛でるように名を呼ばれながら、ずぽずぽと動きを再開される。
「あっ、ろ、ロアっ、ロアああッ」
呼ばれたから応える。善がり声の代わりに、噛み締めるように、確かめるように。
「リュカリュカ、リュカー」
呼び声に合わせ、徐々に往復が加速し、
「ロア、ロア、ロアっ、ろあっ」
肩までの鳶色の髪が散るのにも関わらず、動きに応えるように女も応じる。

りゅかりゅかろあろあ。ぐりぐらぐりぐら。
502いぬのおひめさま(後編):2008/11/09(日) 18:35:15 ID:KgTJgypp
下は激しく、上は大甘。
確かに陵辱のはずなのに、実際気品の欠片もない獣交なのに、
もう恋人同士の逢瀬にしか見えない。
誰もが『ご馳走様』と呟くだろう、立派なバカップルの出来上がりだ。

「んんっ」
しまいには感極まったらしく口付けまで交し合いだす。
「んんーっ、んゔーっ」
当たり前のように舌入れディープが基本になってることに、
つい一刻前にファーストキスを経験したばかりのお姫様は何の疑問も抱かないらしい。
鼻息荒くも一生懸命相手の舌に絡んで、ちゅーちゅーお互いの唾液を吸う。
幸せ、幸せ。

「ふはっ、はっ、はああっ、あああッ!」
「イクの? またイッちゃうの?」
やがて腕の中でじたじたし出したリュカに、ロアが唇を離して強く問いかける。
「イク? イク?」
「いっ、いく!」
反復して問われるがままに、オウム返しで復唱する。
高貴な身分の者が使う言葉ではない、下々の農奴が使うような下卑た言葉だが、
「…いく、イクっ、イクッ!」
――でもいいよね、犬だし、もうただの女なんだし。

「あああ゙あ゙またイクっ! またイッぢゃううぅ!!」
漏らしはせずとも怖いのには違いない。投げ出されるような恐怖感。
だからぎゅうっと男の身体に抱きつく。腰に足を巻きつけて、胸板に顔を押し付ける。
「いぐっ、ひぐっ、い――グ、ぅッ!!」
激しく、でもしっかり抱き締めて、抱き締められて。
結局世界で一番相手を感じながら、とっても幸せにリュカは絶頂してしまった。

「あ…ああ゙……あ゙…」
膣肉を痙攣させながら、だらしなくロアの胸に涎まで零して、でもオーガズムに酔う。
本来ならそれで良く、それで終わりだった。
眼がチカチカ、頭が真っ白になるほどの辛い快感は、けれど静かに拡散して、
緩やかに落ちていく曲線、ふんわりと軟着陸する心地よさ、
むしろそっちの方が目当てかもとも言える、甘くて幸せな時間がやってくるはずだった。
――本来なら。

(…うあっ?)
白く濁った思考の中にも、更なる下からの突き上げを感じる。
ビクビクと絶頂に収縮する膣壁を、張り出した雁がぐにゅううっと掻き出す感触を覚える。
(あっ、あうっ、あう)
ずん、ずん、ぐに、ぐに、…結果としてなかなか下に降りない。
小刻みに下から突き上げられるせいで、下降中にも微妙に跳ね上がるのだ。
――でもそれだけならまだいい。
(はうっ、はうっ、はう、…はうっ?)
下降曲線がふんわり軟着陸しだす――地面よりも遥かに高い空中で。

熱い重湯のような濃い快楽が、まだたゆたって渦巻いてる、薄れきっていないのに、
(は……)
曲線が平行になる、どころか『くくくっ』と、まだ底からだいぶ高いところで上を向く。
503いぬのおひめさま(後編):2008/11/09(日) 18:35:33 ID:KgTJgypp
「あ、ああっ、うあ……」
恐れもする。
熾火どころかちょっと火勢が弱まった程度のトコに、油ぶっ掛けられるようなものなのだ。
火が勢いよく燃えるのを見て、無邪気に興奮している投入者の『子供』はともかく、
燃えている『火本人』としては非常に怖い、火事になったらどうすんだこれ。
「や、やああッ、やあああああ!」
叫びもする。

「やだ、な、なにっ、へん、変、おかしい、これっ」
がくんがくんと揺すられながら、身に起こる変調を機能しない頭で必死に訴える。
「とまんなっ、きもちいい、やだっ、や――」
その訴えすら唇で塞がれる。

――拷問だ。当事者二人がなんと言おうと、第三者からすれば拷問。

「んっ、んっ……」
愛情たっぷりの優しいキスで、生じた恐れや不安がみるみる温かく蕩かされる。
絶頂直後のバカになった頭では、すぐに幸せにぼーっとしてしまうのだが、
でも下からの責めはそんな時でも止まない。
(んーっ、んんーっ)
快感は折り重なる。一枚一枚、でも確実に蓄積し、このままではすぐに閾値に達する。
でも何もできない、甘さに蕩かされる、優しい、温かい、気持ちいい。
怖いと思うことさえ、恐れることさえ許されない、ほぐされて、溶かされて、浸されて。

「…やめて……やめてよ……とめてよぅ……」
壊されて、壊されて、壊された挙句の、先刻から散見される幼児退行のきらい、
ぎゅうっと蒼い涙目を瞑ってふるふるするちっちゃい女に対し、虎は、鬼は、
――少年は悪魔めいて笑った。
「じゃあ止めような」
そうして一番奥まで、限界まで捻じ込む。
「がうっ!」
子宮を、内臓を、肺を押し上げられて、女が吼えるような悲鳴を上げた。

小刻みにしか動けなかった時に、大体感覚は掴んでいた。
ごっ、ごっ、と軽く鋭く突くのではなく、どむ、どむ、と重たく鈍く、
面積が広いところで当たれるよう、押し潰すようにしてコリコリを叩く。
「あっ……や、やだ……これも、やだぁ……ぁっ」
効果のほどは、女のぶるぶるという震えですぐに分かった。
「これも、きもちひ……、…これも、くるぅッ、ぅ……」
優しさなんて微塵もなく、まるで虎のように少年は笑う。

再三言うが苦しいのは事実だ、苦しさだけは変わらない。
どれだけ膣壁が柔軟で、どれほど行為で温まった結果緩んだ、痛みは微塵も無かろうと、
長さも太さも標準の1.5倍、イコール体積は3倍超、
胃や小腸、消化器官は軒並み押し上げられ、結果横隔膜も圧迫される。
ほとんどの女は気持ちいいどころではない。
呼吸は苦しい。軽い嘔吐感は伴う。食事直後に乱暴にやられたら間違いなく吐く。

「…おか…ひいよう……」
なのに。
504いぬのおひめさま(後編):2008/11/09(日) 18:35:47 ID:KgTJgypp
「苦しいのにきもちいい……苦ひいと気持ちいいの……」
「…そっか」
――おかしいな、と男は思う。
自分は苦痛に泣き叫ぶ女相手に、興奮する性癖は持ってなかったはずなんだが。
「痛いのに気持ちいい……痛いのに、いっ、ひっ……」
「そっかぁ」
――おかしいな、と女は思う。
自分はあんなに痛いのが嫌だったはずなのに、痛いのが怖かったはずなのに。

大好きだから苦しいのにも耐えられる、痛いのにも我慢できる。
我慢できるから誇らしい、耐えられる自分が嬉しく思え、もっともっと頑張りたい。
「……もっと」
首を絞められるのが気持ちいいように、辛い苦行が気持ちいい。
非常に危険な精神状態ではあるが、それでも幸せなのも事実だった。
倫理的には正しくない。道徳的にも間違っている。
そこまで女が追い詰められた、その全てが男の責ならば、まだ男をも非難できた。
…でもこの構図が真に救えないのは、そうでないというその事実そのもの。
「……もっと、もっと!」

宗教洗脳、思想洗脳、大いに結構、効果的なのは否定しない。
ただしやるなら徹底的に、一片さえ矛盾を許さずムラなく完璧に塗り潰すべきだった。
――『洗脳』で本当に怖いのは、万が一解けてしまった際のその『反動』。

「だいじょぶだから…頑張れるから……だからもっとどすどす、奥どすどすぅ」
「うん、うん」
…なんて高等理論分かるはずもなく、男は「マゾだなぁ」と思いながら要望に応じた。
『ああこれが噂に聞くドMってやつか、辛くても感じちゃう特殊性癖か』、
『やっぱりこの体格差じゃ少し辛いみたいだけど、でも感じてるんだし別にいいよな』、
ぐらいにしか考えず、興奮してただひたすらにずむずむと突く。

何より、ロアの方も気持ちいい。
こんもりとしたリュカの土手は、見た目通りぷっくりしていて肉が厚く、
いざ限界まで押し込んでみると、ひんやりとした肉布団がぷにっと根元を包み込む。
それがなんとも心の快感、なんだか幸せになれる気持ちよさ。
「俺も気持ちいいよ、すっごい気持ちいいよ!」
もっと奥。もっとぷにぷに。
「…っ、わっ、わたひも、わたひもぉっ」

無茶してるのに、相手がそれを受け入れてくれるから調子に乗る。
演技でなく本気で感じてるのが丸分かりだから、心配や手加減もできなくなる。
気持ちよくなって貰えてるのが嬉しくて、だからまたチューをして、
そうして『今なら出来るかも!』と思い、思慮も加減もないバカな問いをした。

「…ね? 俺とフェリウスの爺のと、どっちが気持ちいい? どっちが幸せ?」

呪縛を解いてあげたかったのだ。悲しい思い出を忘れさせたかった。
だからやった、相手の心がガタガタなのは漠然と感じ、今なら出来るとの自信を持って。
はたしてリュカがほんの少しだけビクリと震えた後、
「…こ、こっち! こっちいぃ!」
決別するかのように高らかに叫んだ時は、内心力の限りにガッツポーズした。
505いぬのおひめさま(後編):2008/11/09(日) 18:36:01 ID:KgTJgypp
ブチブチと鎖が切れる手応え、女がこっちの胸に飛び込んできてくれたのを感じて、
――なのでさっぱり分かってない、自分が何を引き千切ったのかを。

身分や性差が絶対の帝国貴族にあって、夫への背反がどれほどの禁忌か。
絶対的君臨者だった前夫への反抗が、少女にとってどれほどの勇気を要したのか。
根が真面目で奥手な少女にとって、それらがどれだけ普通よりも重いのか、
卑しい蛮族、お気楽なバカには、それらが全然分からない。

「ロアの方が、ご主人様の方が、ずっといい…、ずっと幸せで気持ちいい…!」
「だっから、ご主人様はやめろってば」
苦笑しながら、ちょいちょい女の顎をくすぐる男には分かってない。
「おっきくて、強くて、優しくて……あぅ、太いの、ずむずむ太いの、気持ちいい…っ」
「ん。そか、そか」
褒め称えられて満足そうに頷くバカには、やっぱりちっとも分かってない。

「嫌いだったよな、本当は爺のこと? こんな酷いことする奴だもんな?」
「…っ、…うん、…うんッ!」
ちりちりと乳首の輪飾りを弄びながら、けれどあまりにも酷なことを聞く。
「…きらい、嫌い、あんな人…!」
ロアからすれば、妻であるはずの少女に対してこんな仕打ちをしたのである、
嫌われて当然、殺したことへの罪悪感さえ失せた、背反に何を躊躇うとさえ思うのだが。
――でも故人なのだ、それでも前夫、恐怖公ではあってもそれでも公。
それでも少女が略礼喪服を着ていた、着ざるを得なかった周囲背景を何も知らない。

「しんじゃえばよかった……さっさとしんじゃえばよかったんだ……!」

故人への罵倒。亡くなった人間に対する呪詛。それも前夫に対しての。
…でも倫理や道徳なんて薄皮をめくった下にあったのは、確かに憎悪、怨恨、軽蔑で、
立場や責任なんかで抑えつけてた下に溜まってたのは、汚く澱んで濁った膿で。

「うん。だよな。フツーそうだよな」
そんなのをこの蛮族は残酷に。
「ちゃんと自分の本当の気持ち言えたな。偉いな。よしよし」
「あ……」
――褒められた。ご主人様に褒められた。偉いねよしよしって撫でられた。
――自分は正しいことをしたんだ。間違ってないんだ。

べちゃり、べちゃり、と白く濁った軟膏をもって、僅かな罪悪感まで塗り潰していく。

「…ご主人様……ご主人様ぁ……好き……大好き……」
傷を癒され、薬を塗られる歓びに、愛敬の念いっぱいで抱きつく女。
「まーたご主人様ってお前は」
対して、全くどうして『たかがこの程度』で、「Only my lord」だの「True my lord」だの、
やめろと言ってるのに言ってしまうかとばかりに男は笑うと、
「――ホント、ダメな女だなぁ」
「…あ、っ」
軽蔑どころか逆に愛情たっぷり、
『仕方のないわんこだね』と言わんばかりに、女を金色の獣眼で見下ろした。
506いぬのおひめさま(後編):2008/11/09(日) 18:36:39 ID:KgTJgypp
「…ごっ、ごめんなさい、ごめんなさっ、ぁっ?」
『ダメなわんこ』、『いけないわんこ』としての自覚がある少女としては、
そんなご主人様からのたまらない視線に耐えられるはずもなくビクビク来ちゃい、
「…っ、ふあっ、イっ、…ひぐぅッ!?!?」
くりくりくりくり、先っぽで子宮の入り口をいじめられながら、
ビクンと跳ねた脚、少女自身でも不意打ちの到達を迎えてしまった。

「……――、――ッ、――っ…」
がくんがくんと仰け反ってイク少女と、そんな少女をどこか獣の目でみる男。
当然、腰の動きを止めることもない。
ちろりと舌で唇を湿らせると、静から動、再び激しい動きで女を攻め始める。
……たまらないのは女の方だ。

「…かはっ、あっ、ああああああっ!!」
流石に理解する。行き着く先を。
さっきよりももっと地面から遠く、もっと高い所で快感の曲線の下降が止まった。
「だめっ、またっ、まだあああっ!」
というかもう来てる、もう気持ちいい、また気持ちいい、すごい、狂う、おかしくなる。
強すぎる快感は苦痛に同じと言われるように、深い絶頂ほど辛くて疲れる。
…ごろごろと飲み込めない唾液で喉を鳴らしながら、だからリュカは恐怖し懇願した。
「ゆるっ、ひてっ、ゆうっ、ひてええぅっ!」
…そんな彼女が唾液を詰まらせて窒息死してしまいそうで怖かったので、
とりあえずロアは仰け反った頭に下を向かせると、
トン、とリュカのうなじを叩き、けぽん、と己の胸の上に溜まった唾液を吐き出させた。
…どうせ二人とも体液まみれなのだ、今更汚いということもない。

「あっ、ああっ、ああっ、うあああっ」
ただ、そうしている間にも下からの責めはやめないので、
ガクガクと揺すられる彼女の動きが止まることはないし、喘ぎ声が止まることもない。
そんな少女の様子を、またちろりと唇の端を湿らせつつ確かめると、
「――変だな、『犬』が人間の言葉で話すんだ」
どこか陶然として放たれたロアの言葉に、リュカの肩から上がギシリと固まった。

「『犬』はなんて喋ればいいの? …どういう風に鳴くんだっけ?」
高すぎず低すぎず、よく通る頭一つ上からの男声に、両者の視線が一瞬交差する。

不遜と喜悦に満ちた、強い虎の目、燃え盛る硫黄のような金色。
謙虚と快楽に満ちた、弱い犬の目、青く澄んだ海のような蒼色。

我が身を卑しむということは、ずっと彼女にとって苦痛だった。
自虐し卑屈になる度に、暗い坑の底に落ちていくような、暗澹と諦観を感じていた。
でも。
「……わん」
それももう変わる。
「わん、わん。…わんわんわんわん、わんわんわんわんッ!!!!」

落とされる男の視線、みるみる吊り上って笑みの形になる口の端に、
眩暈がするほどの恍惚を得ている、充足感、被征服の快楽に溺れる己を知った。
開けたのは新世界の扉だ、眩い、眩しい、彼女にとっての光の扉。
――見て、ご主人様見て、もっといやらしい自分を見て、ダメでいけない自分を見て!
507いぬのおひめさま(後編):2008/11/09(日) 18:37:03 ID:KgTJgypp
「かっわえぇー…」
「わっ、わんっ! わんんっ!」
どこか夢見るようなロアに抱き締められ、万感の想いで荒波に合わせるがままに吼える。
きつくきつく抱き締められる。それに今までの何倍もの幸せが襲ってくる。
その瞬間、漠然と無意識に感じるのではない、リュカは自分で理解に到達してしまった。

自分は、彼に支配されたかったのだ。
だから種付けされたかった。だから苦しくても快楽だった。全部奪われたかった。
こちらからあげるのでは半減なのだ、無理矢理力ずくで征服されることに意義がある。
そうすることでより強く相手の力を、強さ凄さを体感したい。
犯されたい。組み敷かれたい。弄ばれたい。孕まされて所有されて、でも愛されたい。

「わっ、わうっ、わうううううっ」
この上なく卑屈で、この上なく淫らな、実に自主性のない願望なのに、
でもそう気がつく、『自分でそうしたいのだ』と自覚すると――俄然勇気と元気が湧いてきた。
頑張りたいのだ、ロアの蛮勇、際限ない活力に限界まで付き合えるように。
ついて行きたいのだ、いつでも一番に、誰よりもその側で蹂躙してもらえるように。
尽くしたい、自分が一番ロアの願いを叶えられる、一番望みに応えられる。
頑張る、ついてく、まだ頑張れる、まだついてける、負けない、負けない、負けたくない!

――体の快楽に、それを受け止められる心の器が追いついて。

「わっ、…あああああ゙あ゙あ゙あ゙ッ!!」
とうとうそれさえ辛くなくなった、心身共に歓喜として受け止められるようになった。
連続三度目、今日全体ではもう何度目になるかも分からない、
心身ともに疲れ果てての受け止めだったが、けれど完璧に抱擁できた。
今までで一番高く、辛く、一番激しい絶頂で、
そうしてそれでさえ終わりじゃない、まだすぐ次が来るけど、でももう怖くなかった。
「……わっ……わぅ……あぅ…ん……」

完全覚醒、最終進化。
ただでさえ後戻り出来ない地点だったのを、更なる魔境に紐無しバンジー。
……そうして男の方も男の方だ。

「リュカ、可愛い、かわいいよ」
「わぅ……うん……あぅっ、わうっ、あうっ!」
ぎゅうっと強く強く抱き締めながら、イッたばかりの少女を愛でる。
相も変わらず優しいのは上半身だけで、下半身からの責め苦は苛烈の一言。
もちろん、自分のせいでリュカが『越えてしまった』とは露ほども知らず、
ただ相手が嫌がってない、快楽に溺れてくれてるからこそ、尚ロアも深く溺れていく。
その目は優しく、でも残酷で、ギラギラと輝き、爛々と光る。

…ぶっちゃけ、もう優しくなんかない。
あるのは若さと好奇心、そうして少年特有の獣欲だけだ。
ロアは今まで自分の腕の中で、こんなにも乱れてくれた女を見たことがなかった。
だからこそ嬉しくて、だからこそ若さと好奇心が前に出てしまった。
凄い、見たい、まだ気持ちよくできるんだろうか、どこまで行くんだろう、もっと見たい。
508いぬのおひめさま(後編):2008/11/09(日) 18:37:51 ID:KgTJgypp
愛しさがないわけではなく、むしろ相手が愛しいからこその暴走だ。
女への畏敬の念もあり過ぎるくらいなのだが、それ故に人一倍強い好奇心が抑えられない。
情動豊か、あまりにも強くまっすぐ過ぎて、結果相手を思いやれる余裕が消える。
――それ故にロアは何度も苦い失敗してきた。許婚の時も、それ以後も。
失敗を重ねる度により慎重になり、より自分を抑えられるようになって来てはいたが、
でもあまりにもリュカが耐えられるので、とうとうタガが跳ね飛んだらしい。

「あああリュカ! 可愛い、かあいい、かあいいよー」
「わうっ、わうううっ、わんんっ、がうううっ!」
興奮し理性を失って、ただひたすらに相手への賛辞を繰り返す姿は、
無邪気な子供が蟻を撫で殺し、興奮した猫が鼠をいたぶり殺すのに似ている。
本当に悪気はないのだ、ただ無駄に図体と力が桁外れなだけ。
そうしてそれ故に、下手に悪気がある場合よりもある意味ずっと厄介なのだった。

現にリュカはそうしている間にもまた達し、
それでもまだ止めてもらえない往復、30秒と持たず再度絶頂してしまっている。
ロア自身はめいっぱい優しい言葉をかけて、めいっぱいしっかりと抱き締めてあげ、
射精感を堪えながら、めいっぱい気持ちよくさせようと頑張ったのだが、
それも全然効を為さな……というか全部逆効果。
力さえ加減すりゃ壊さずに済むというわけもなく――スタミナはガリガリ削れていく。
相手が彼女でなかったら、とっくに別れを決意されてる頃だ。

「…あオ……おオォ……」
連続で五回目、ガクガクしながら実にヤバげな獣っぽい歓声を上げちゃうリュカを見て、
でも『可愛いなぁ』としか思わない、そこまでのバカ。
こんなちっちゃな、いかにも清楚で可憐な少女が、でも桜色の唇をめいっぱいに開けて、
獣みたいな唸りを上げてしまっている、そういうのに興奮できる健全な少年。
――相手が農奴や平民女ではない、帝国貴族だという事実は、とっくの昔に念頭にない。

ロアは身体が大きい。モノも大きい。
だから今まで本気で愛してしまう度、相手の女を壊しかけてきた。
泣くのを見たくない、喜ばせるのも十分に楽しかったから、遠慮と奉仕でも楽しめて来たが、
…でもやっぱり本気の想いの丈をぶつけたい、それも若者として当然の本心。
『ゆっくり丁寧ねちねち』も嫌いじゃないが、少しだけ痩せ我慢してたのも真実だった。
――でもこの少女は壊れない。
――壊れない、壊れない、壊れない!

「…こっ、こわひて……こわひてぇ……こあっ、ッあああ゙あ゙あ゙あ゙!!」
「うんっ、うんっ! 壊すぞ! 壊すよ!」
無知な少年は分かっていない。それはよくある定型の善がり文句などではない。
本当に壊れてるのだ。――本当に壊してしまった。
「しっ、しぬっ、ひぬっ、ひぬうっ、ひっ――」
「だいじょぶ、だいじょぶだよリュカ! 一緒に逝こう? 一緒に逝こうな!」
ぎゅう、ぎゅううっ、と『死ぬ死ぬ』言う少女を包み込むように抱き締めて、
終わりの確信、射精へのラストスパートに、更に激しく腰の動きを加速させ。

「――がっ、」
それにとうとう、
「…ガあああああアアああああああッッ!!」
リュカの最後の天井が壊れた。
509いぬのおひめさま(後編):2008/11/09(日) 18:38:29 ID:KgTJgypp
「あ゙あ゙あ゙あああっっ、ああああアア゙ア゙あ゙あ゙あ゙!!!!」
イク。イキ終わる前からイク。更にイク。イッてるのにイク。
膣どころか脚まで痙攣して止まらない。肺の空気が全部搾り出され、結果声帯が振動する。
全部が漂白されていき、もう自分の存在さえ分からない。
「ああああああああッ!!」
ロアの方も雄叫びを上げる。なんか相手が叫び出したのでつい。
それが始まると同時に、膣内が別の生き物のように締め付けて来て止まらなくなったので、
叫んでいないと射精してしまいそうだった、だから合わせて声を吐いた。
凄いことになっちゃってる腕の中の少女をもっと見ていたい、だからここまで来てまだ堪える。

――二人とも、誰も傍にいない、人払いされてることに安堵した。
これが本来なら、『すわ何事か、侵入者』と衛兵に駆けつけられててもおかしくない事態だ。
――そうして二人とも、感謝した。
もしも誰か、お召し換えを用意した侍女なんかが傍に居たら、ここまでの域には来れなかった。
つがう二匹の情交の間に、余分なものは何も要らない。

「あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙ッ――」
ただ延々叫ばせ続けるわけにもいかないので、ロアが強引にリュカの口を塞ぐ。
むーむーと唸り続ける中、ぴちゃぴちゃと舌を絡めてお互いを求め合い、
そんな中でも下から突く、突き上げられる、まだ腰を振る。
おかげでもうイキっぱなしなのに、ずっとイッてるのに更に下から押し上げられて、
高いところに昇らされてしまい、更に高いところに昇らされてしまい。

(あ……気持ちいい……気持ちいい、きもちいい、きもちいい)
薄い白が濃い白、濃い白が乳白色、乳白色が青みさえ帯びてスパークし出す思考の中、
疲労困憊からのランナーズハイ、苦痛倦怠さえ本当に快楽に変換しつつ、
リュカは快楽に耽溺した、この世のものならぬ悦楽に狂い、甘い海の中を漂った。
自分の身体の感覚がない、もう男の肉体しか分からない。

(死んじゃう……しんじゃう……しんじゃうよぉ……)
今ならたとえ死であっても、ロアから与えられるのなら喜んで受け取ったに違いない。
震え、ガクガクし、全身が溶けたみたい、頭が甘く痺れてジンジンする中、
犬のようにただ与えられる快楽を貪り、受け止め、貪り、受け止め、歓び、泣き。

(…すき、すき、すきすきすきすき、すき…だいすき……だいすき)
甘え、瀕死になる中で、でもずん、ずん、と突き上げられての更なる飛躍、更なる浮遊。
この瞬間が、この甘美な時間が、永遠に続くのだと信じて疑わない中で――
――どぶっと奥まで押し込まれた肉棒、痙攣、膨張。
……馴染み深い、ビュッと熱いものが奥にかかる感触、かけられる甘美。

「――――〜〜〜〜〜〜ッッッッ!!!!」
びくん、とミルクにチョコレートが混じる。

練乳のように真っ白の海になっていた世界が、ぷつりと緊張を失って弾けて崩壊し、
……まるで熱く濃厚な白濁液が、全身にびしゃびしゃとかかるような快楽の中、
(………わう)
白黒反転、流石にリュカもぐるりと目を剥くと、そのまま意識を暗転させた。

チョコレートミルク。ちょこれーとみるく。
510名無しさん@ピンキー:2008/11/09(日) 18:54:15 ID:v5UioERV
511名無しさん@ピンキー:2008/11/13(木) 01:20:07 ID:HowhIR8h
生め
512名無しさん@ピンキー:2008/11/15(土) 21:15:17 ID:PillYXVn
宇め
513名無しさん@ピンキー:2008/11/18(火) 15:31:14 ID:ESj9LSMD
保管庫が止まってるのは仕様?
514名無しさん@ピンキー:2008/11/20(木) 03:49:20 ID:g7Z5614w
よく見たら埋まってないのな
515埋めネタ:2008/11/23(日) 18:22:52 ID:L5i/fgwo
『背が高い』というのは、やっぱり古今を問わぬカッコいい王子様の必須要件だ。
なにせ部下への威厳も保ちやすいし、長身痩躯は伊達男の条件。
低身長に悩んだ王が歴史上ごまんと居ることからも、高い方が得に決まってる。
決まってるのだが。
「………」
「ん?」
ぐぎぎぎ、と音がしそうなくらい首を反らせて、少女は王子(仮)を仰ぎ見た。
「…おっきいですね」
「ん」
実に率直な感想である。
「…何食べたらそんなに大きくなるんですか?」
「? 肉とか魚」
実に明快な回答である。
並んで立てば殊更に分かる、少女の頭のてっぺんが、やっと少年の鎖骨下。
こっそりぐぐぐと背伸びをしてみて、でも土台無理そうだと断念する。
…背伸びをしてさえキスができない。…踏み台でもない限り無理っぽかった。

彼女は決してチビではない。神賭けてチビ女ではありえない。
遠い未来と比べると、遥かに栄養状態の悪いこの時代、世の平均身長は低かったのだ。
…そりゃあ栄養状態に恵まれた、権力者有力者に限れば庶民の比ではないが、
でもそういう富裕層女性の平均値から見ても、彼女はあくまで『低め』程度。
庶民と比べれば『高め』な以上、やっぱり自分はチビ違う、くどいようだがチビ違う。
――相手が大きすぎるのだ。
516埋めネタ
過ぎたるは尚及ばざるが如し。

高すぎる背はもう『カッコいい』を通り越し、普通に『怖い』の域にある。
太すぎる腕はもう『逞しい』を通り過ぎ、『壊されそう』の域にある。
どうしてモテないんですかと訊いた時、
そんなん俺だって知りたいよと嘆かれ、今更のようにだが思い出した。
慣れれば可愛くて仕方ない、猫科の動物めいたその瞳も、
でも初対面者には恐ろしい獣の眼、残酷さ忌まわしさとしか取られぬのだと。
慣れてしまったからちっとも怖くなくて頼もしいのであって、
でもこんな巨体が肉食獣めいた笑みを浮かべ、のしのし近づいてきたら普通は怖い。
精悍ではあっても怖すぎる。野性的ではあっても虎すぎる。
哀しいけど存在自体がもう暴力だ、背が高すぎて、立ってるだけで威圧感。
ましてやこんな、褐色の肌に赤色の髪。
半裸で斧でも振り回し、騎士に討伐でもされてた方が、よっぽど似合う外見だ。

『んああああああ゙あ゙っ!!』
でもそんな蛮夷の少年の上で、少女はあられもなく雌の鳴き声を上げてしまった。
『ひはっ、ひあっ、はひッ!』
身長40cm差で肩幅も倍、体重もほとんど倍近い、巨漢と子犬の交わりは、
肌の色の対比もあり、客観的には純然たる暴力、強姦か陵辱にしか見て取れない。
ましてや白肌に無数の青痣、局部にピアスまで施され済みと来れば、
百人が百人男を疑う、誰もが暴虐の場だと断じただろう。
『気持ちいいい゙ぃっ、気持ぢい゙いよお゙お゙ぉっ』
はてさて盗賊団の若き頭にでも攫われて、調教されてしまった良家の令嬢か。
あるいは名のある傭兵に酷使される、性欲処理用の奴隷の少女か。
『いっ、イグッ!? 来てるっ、またイクッ、またイグぅッ!!』
どびゅん、と最奥に受けるあの衝撃。
『わおおおおオオオオッ!!?』
びちゅッ、と白い溶岩に、激しく子宮を撃ち抜かれる、抱っこされて逝くあの歓喜。


「…リュカ? どしたん?」
「いっ!」
一瞬で想起から引き戻され、子犬姫はギクリと引き攣った。
さぁて目に淫色は漂っていなかったか、はしたなくも涎は零れていなかったか、
ややキョドりつつも意識を走らせ、それでも迅速に立て直すとフォローを、
「ひゃあっ!?」
する暇もなく子犬みたく抱き上げられ、両脇から掬い上げられ宙吊られる。
ムードも何もなく、口付けされた。

「…いやらしいこと考えてたろ?」
「……わう」
火照った息を吐きながら、優しく意地悪く小さな声で、ご主人様に叱られた。
「分かんだぞ? 女の匂いしてるから」
「………」
デリカシーゼロだとか、王子様の嗅覚じゃねえよとか、そういうことはどうでも良かった。
虎さんの前ではどんな嘘も見抜かれる、それだけ分かれば十分だった。
その絶対性。逆立ちしたって自分は勝てないその事実。
少年が本当はどれだけ偉くて強くて凄いのか、その身に感じられるから少女は濡れる。
「今夜、また遊びに行ってもいい?」
隠喩も奥ゆかしさもない逢瀬への申し込みに、のろのろと頷きつつ少女は思う。
――自分達は一体、どういう関係に見えるのだろう?
「…ロア」
「ん?」
取り落として砂利の上に転がった扇子や、外れて植え込みに引っかかったストールに、
少なくとも『庭園を散策する王子様とお姫様』、それには見えないのだろうなぁとぼんやり思った。

「…大きいから好きですよ? …おっきいから好きです」