2 :
名無しさん@ピンキー:2008/04/05(土) 16:05:28 ID:n4S4BSEB
つまりぬるぽ
>>2 ガッ
妄想おいてきます。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「どうだ、フィール。気持ち良かったか?」
「でなきゃあんなにならないよ……すごかった……」
「そうか……そんなに良かったならもう一度しようか?」
「ん……。ね、アルミラ」
「なんだ?」
「耳貸して」
「……?」
「……どうしてだ?」
「アルミラにそう呼ばれるのが好きなんだ」
「そうか。別にそれくらいなんでもないからな……もう一度しようか、少年」
「――っ!」
「……お前な……こう呼ばれるのがよほどいいのか?手でしてやるより反応がいい気がする。
面白くないぞ」
「ご、ごめ……」
「あたしが言ってあげましょうか?」
「ジュジュ!」
「少年、って言われるだけの、なにがそんなにいいのか分かんないけど……それよりアルミラ、
選手交代でしょ?次はフィールとするのはあたしよ」
「まあまあ」
「自分より年下(外見上)の奴に少年なんて言われたって嬉しいわけないだろ?分かんねえ
奴だな。年上の女に言われるからいいんじゃねえか。……それよりアルミラ、今度は俺と
しようぜ。ボウズばっかり相手にしてるとぐれるぞ」
「お前は思春期の子供か?」
「喧嘩しないで三人でしたらいいだろう。ジュジュの相手はもう一度私がしよう」
「えー……あんたの愛撫しつっこいのよね。二回も続けて出来ないわ。休んでなさいよ」
「あいにくと私はそんなに疲れてはいないのだが……そうか。たてつづけにイッて疲れている
なら抱いていてあげよう」
「やだ、離してよ。大体あんたそんなこと言って……っ、やぁん、いきなり触んな……あっ、
ぁあ……んヴィ……ス……!」
「いきなり?こんなになっていて、まだ愛撫して欲しいと?」
「ちが……ふ、ぁあっ、胸、やだあ……!」
「やれやれ……彼女のご希望だ。フィール君、こっちに来たまえ。三人でしよう」
「あ――えっと、いいよ。今度は僕が休んでるよ。二回も続けて二人を相手にしたらさすがに
ジュジュも疲れるだろうし」
「あっ……あッ……あ」
「ほら、大丈夫だ。彼女は結構体力がある。心配はいらない」
「いいよ、せっかくだからヴィティス一人で」
「気ぃつかうことねえのによ。ボウズ、なんならこっち来るか?」
「そうだ。ん……私なら……ぁあ……ん、三人でしても構わないぞ?あぁん、レオン……」
「い、いいよ、本当に!僕も疲れたって言ったら疲れたし」
『特定の相手のいないカテナは子を得るために同時に複数の相手と契ったりするものだ』
初めてそんな風に誘われたのはいつだったか。
二組の男女の交わりを眺めながら、何度混ぜてもらっても自分はカテナの流儀になかなか
慣れないなあ、と思うフィールだった。
>1
乙!
>3
ちょw いきなりGJすぎるんですけどww
犬っコロが何気にハブられててワロスwwwww
保守
前スレの最後は良い〆だったなw
相関図ジェネレータなるものを知って遊んでみたら、
結構面白い結果になったので転載してみる。
フィール--[気になる]--アルミラ
フィール--[知り合い]--ドロシー
ジュジュ--[中途半端]--レオン
ジュジュ--[微妙]--アルミラ
ドロシー--[友達]--アルミラ
ドロシー--[友達以上恋人未満]--レオン
フィール--[勝ち組]--[負け組]--レオン
フィール--[セフレ]--ジュジュ
アルミラ--[し放題]--[させ放題]--レオン
ドロシー--[共犯者]--ジュジュ
>>11 /\___/ヽ ヽ
/ ::::::::::::::::\ つ
. | ,,-‐‐ ‐‐-、 .:::| わ
| 、_(o)_,: _(o)_, :::|ぁぁ
. | ::< .::|あぁ
\ /( [三] )ヽ ::/ああ
/`ー‐--‐‐―´\ぁあ
フィールが色々すごいなw
しかし何だな…神書き手もいるし4スレまで来たけど、
やっぱりカイン×奥さんは難しいようだな…。
変態プレーを要求するカイン
18 :
名無しさん@ピンキー:2008/04/25(金) 02:40:32 ID:TF6AK1un
http://la.x0.to/910/ こいつさあオズサーチの人気ランキングの一位を確保したくて
自演クリを繰り返してサーチから追い出されたんだけど
また別のサーチで自演クリしてるんだよねwww
懲りないやつだ
URLから察するに、前々スレでトラウマだの地雷だの言われてたレオミラサイトか?
またどんだけ嫌われてるんだよw
俺は、OZ祭をけなす発言見て、やな奴〜って思って見なくなった。
カイン「君の……ここ、よく濡れてるね。なんていうとこなの?
人間の言葉は良く知らないから教えて欲しいな」
こうですか分かりません!ていうかカテナと人間の言葉同じだろうけどな
確信犯すぎるw
しかしカイン奥さんって二次サイトでも少ないね
奥さん画像発表された時は、サーチにカテゴリーできるんじゃないかとwktkしたのが懐かしい
OZはツンデレとクールビューティーの二強だからな
ドロシーがいないようですが?
ドロシーなら俺の隣りで寝てるよ
それジュジュじゃね?
ますますジュジュのツンデレっぷりに磨きが掛かる
>>28 超GJ!!
暇つぶしだなんてとんでもない!!
一足遅かったか
俺も見られなかったorz
申し訳ない。三日ほどで消してしまいました。
上げ直しましたのでよろしければ上記のURLの3962を8743に置き換えてDLしてください。
だめだったおー orz
釣られちったかな?
ごめんなさい。流れてしまったようです。
別のところに上げ直します。
やっと落とせたー!
これからゆっくり読みます。煩わせてごめんお。
やっぱりジュジュは可愛いな
多分バレンタインとかには頑張って手作りあげるタイプ。
でも焦げてる。
あるあるw
アルミラさんの場合は大人なワイン風味のチョコレート
ドロシーの場合は可愛いハート型のチョコレート
ジュジュの場合は炭と化したチョコレート
>>40 パティシエ顔負けのガルムのチョコレートケーキ
という落ちがつくのを幻視した
>>41 そしてバレンタインというイベントの性質上、それをフィールその他にご馳走してやりジュジュに恨まれるわけだなw
ジュジュの高校生の制服姿はたまらんな
あんなミニスカじゃパンツが見えちyばっきゅーん
フィ、フィールになら見られても…(///)
な、なんか言いなさいよっ
このド貧乳め!!
ば、馬鹿、ドロシーになんて事を・・・!
おっぱいは正義
レオン×アルミラ
投下します。
52 :
52-1:2008/06/16(月) 22:12:39 ID:qAJbR2Tg
水も緑もすっかり枯れてしまった荒れ地で、彼等は御使いの長ヴィティスと対峙した。
ベラトル系のしもべ四体を従える彼とは大変な戦闘になったが辛くも退けることに成功し、
三人はさらに奥へ、テオロギアへと向かって行った。
「わっ……!」
「おい、大丈夫か?」
「う……うん……」
神殿だったという廃墟の入口でフィールはとたた、と脚をもつれさせた。
手にしていた武器の感触が薄れ、手の中から消える。
「あ……え、トト?」
フィールは姿の見えない飼い猫を探して周囲に視線を巡らせたが、あっと思った時には彼の
頭の上にそれはいた。
背中に後脚を置き、前脚をフィールの後ろ頭にかけてのしかかっている。
「ここまで一息に来たのだ。一度休んでもよかろう」
「トト……」
提案にアルミラとレオンは頷いた。
「そうだな。敵が現れるとその後は歩くこともできないし、一休みするか」
「いいぜ」
彼等にしてもいい加減走りづめで疲れを感じ始めていたのだ。
三人は暫く冷たい壁に背を持たれさせ休んでいたが、フィールが用を足してくる、とその場を
離れた。
それを待っていたようにアルミラが口を開く。
「レオン」
「あん?」
「一体どういうつもりだと思う?」
主語の抜けた曖昧な質問に男はあぁ、と面白くなさそうな顔になる。
「野郎のことか?ふざけんなだよな。現OZが何様だってんだ」
何と言わなくても通じたのは珍しい。それくらいレオンもヴィティスの様子が気になって
いたのだろう。
誰にも厳しい彼のわざと手加減したような、いや、二人とも明らかに手加減されたと感じて
いたからだろう。ヴィティスの態度に違和感を持ったのは。
親しかったからと言って反逆者に手を緩めるような男でないのは分かっている。前例がある。
「本気で来たって負けやしねーよ。なぁ」
「いや、無理だろうな。こっちは装甲化なしの上、フィールはまだまだ初心者だ」
同意を求める彼にもアルミラは冷静だ。
たとえ冗談でも可能性のないことに賛同したりはしない。
「お前、装甲化しようとしてフィールに助けられただろう?ヴィティスはそれを見てまさか、
と言っていた」
「うっ!」
知らなかったからとはいえ下手を打った時の話は聞きづらい。
レオンは顔をしかめた。
「あれを見て、まず間違いなくフィールが神々の子だろうと判断したぞ」
「俺達への攻撃はますます厳しくなる……か。望むところだぜ」
レクスの左腕を強く握りしめる。
戦いは彼を昂ぶらせるものでしかないのだ。
「フィールは何故自分が狙われるのか、訳が分からないだろうな」
「俺達だって分からねえんだ。進んで行くうちにちったあ事情もはっきりしてくんだろ」
「最悪、フィールの妹だけでも何とかしてやりたいんだが……」
「あー……妹な……そうだな」
「何だ。何か引っかかるのか?」
あぐらをかき腕組みしている彼の言葉はあまりにも状況にそぐわないものだった。
「ボウズの妹があと五つ六つ上だったら良かったのになぁ、と」
「こんな時に何を言っているんだ、お前は」
呟きを聞き咎め嘆息する。
53 :
52-2:2008/06/16(月) 22:13:22 ID:qAJbR2Tg
「だけどボウズが15だろ。その妹じゃお子様もいいとこだ。妹じゃなくて姉ちゃんならなぁ」
「それ、フィールの前で言うなよ?……殴られるだけじゃ済まないぞ?」
レオンは分かってると言いたげに肩をすくめた。
妹のことになるとあの少年は常の大人しさからは想像もつかないような底力を発揮するのだ。
「まだ死にたかねぇよ。ま、ほっぺにちゅ、くらいは期待してもいいのかね」
「まったく……神を許せないなんて言っておきながら、ご褒美が無いと頑張れないのか?」
「そういうわけじゃねえけどよ、妙齢の美女を助けるっつー方がその後の展開に期待が
持てるし、ますますやる気も出るってもんだ。……男は単純なんだよ」
「……」
「ん?……何だよ、睨むなよ」
「レオン、お前……」
「あー、もー!そんな目で見るんじゃねえ!」
沈黙に非難が込められていると思ったのだろう。続く言葉を待つことが出来ず、責められる
前に降参した。
顔の前で手を大きく振って今のは無かったことにしてくれと態度で表した。
「悪かったよ!こんな時に言うことじゃなかった。馬鹿なこと言った!」
確かに今の状況を考えると口に出すべきではない内容だった。彼は迂闊な発言を後悔した。
しかし眉をよせた後の彼女の言葉は以外にもレオンを責めるものではなかった。
「お前の言う妙齢っていうのは幾つぐらいだ?」
純粋に不思議そうな顔で首を傾げている。
うっと詰まり追及されているのかいないのか、半々の気持ちで窺いながら慎重に答えた。
「ん〜……そうだな。やっぱり俺と同じか……少し下、くらいか?」
「私くらいか」
ふむ、と顎に手をあて考えている。
「そうなるな」
混ぜそんなことを聞くのだろうか。
アルミラが何を考えているのか分からず落ち着かない。きょろきょろとあたりを見ると
向こうの方で戻ってきたフィールとトトが神殿の内部を指差し何やら話をしているのが見えた。
「では私では?」
「……は?」
一瞬で顔をアルミラに戻す。
レオンの目が丸くなった。
彼女の言葉の意味が理解できなかったのだろう。
「美人とは言えないが、少なくとも条件の一つは満たしている。それとも私ではお前を励ます
ものとしては弱いか?」
レオンは魚のようにぱくぱくと口を開閉させるだけだった。
それもそうだろう。OZのメンバーとして出会ってからどれほどの時が過ぎたか。彼女はその
極めて女性的な体をして、これまで性を感じさせるような発言、行動はしたことが無かったと
いうのに。
「どういうつもり……ってかどうしたんだよ、いきなり。何か悪いもんでも食ったのか?」
正気を疑ったがそういうわけでもないようだし、一体何のつもりかと尋ねると彼女は平然と
答えた。
「なに、それでお前のモチベーションが上がってくれるならいいかと思ってな。本音を言えば
ふざけたことを言ってないで全力でいけ、というところだが。お前の気持ちも分からないでも
ない」
「ば……何言ってやがる。冗談も休み休み言えよ!」
「冗談に聞こえたか?」
「――本気かよ」
あくまで真顔の彼女に彼は絶句した。
アルミラを睨みつけるように(彼にしては)熟考し、確認するように問いかける。
「後であれは無しだ、なんて言わねぇな?」
「しつこいぞ、お前」
アルミラが呆れたように嘆息すると、彼はフィールへと大股で近づいて行った。
「っしゃあぁぁっ!!おいボウズ、行くぞ!」
54 :
52-3:2008/06/16(月) 22:14:10 ID:qAJbR2Tg
***
「父さんと母さんが使ってた部屋なんだ」
窓を大きく開け放ち、寝台の掛布を剥ぐと陽光に照らされふわふわと埃の舞うのが見えた。
新鮮な空気がやはり開けたままにしてある部屋の扉へと一直線に流れていくのが分かる。
「留守にしていたからちょっと埃っぽいけど結構マメに掃除してたから大丈夫、使えるよ」
「わりいな」
「そんなの気にしないで、でも床を掃くくらいはしたいから居間でちょっと待ってて欲しいん
だけど」
気を使うフィールの言葉にレオンが顔の前で手を振った。
「いい、いい。それくらい自分たちでやらあ」
アルミラもそれに頷く。
「レオンの言う通り、我々は客ではなく居候になるのだからそれくらいは自分達でやらせて
欲しい。それにお前は他にやることがあるんだろう?」
「う、うん」
申し訳なさそうな顔になる。
「いいからお前はお前のやるべきことをやれ。――ドロシーに聞けばいいのか?」
「じゃ悪いけどそうしてくれる?僕、ちょっと村の方に行かないといけないから」
そう言って二人に簡単に家の中の説明をするとフィールは慌ただしく出て行った。
「アルミラ」
彼女は窓から顔を出して辺りを眺めている。
振り返らずに返事をしてきた。
「なんだ?」
「本当にいいのかよ」
「だから何が」
要点の分からない質問に、アルミラは背後を振り返った。
ばっちり目が合い何故かレオンが目を逸らす。
「その……一緒の部屋でよ」
鼻の頭をかきながら気まずそうに尋ねる様子は自信なさげで、いつもの彼らしくなかった。
そしてアルミラも意味が分からなかったわけでもないだろうに、何故か明後日なことを答えた。
「我々は少しばかり大きいからな。居間の長椅子には背が収まらないだろうし、フィール達
二人の寝台に入れてもらうには狭すぎる。他に寝台のあるのはここだけだ。ならこの部屋を
借りるのが手っ取り早いさ。そうだろう」
レオンにとっては答えになっていない。しかしズバリ聞くべきかどうか、この時の彼には
判断がつかなかった。
「開いてるぜ」
扉をたたく音に返事をするとアルミラが入ってきた。
風呂上がりでも眼帯はしたまま。髪を洗うときは外すのだろうか。
「先にお風呂借りたぞ。次はお前だ」
「おい……なんだ、それ」
レオンは彼女の服装に目を丸くして、返事もせずに問いかけた。
彼女は自分の姿を見下ろす。
腰の部分をつまんで見せるが腰回りが大分余っていた。
「これか?カインの服だそうだ。フィールの母親の物もフィールの物も私にはきつくてな」
アルミラの格好は全体的にゆったりとした、大腿あたりまでを覆うだけの大きな部屋着だった。
きついというのは胸のことだろう。
「ドロシーが出してくれたんだ。寝るときはゆったりめの方がいいだろうって」
「下は?」
「あるにはあるが……必要ないだろう?」
何故そんなことを聞くのかと不思議そうな顔だ。
どういう意味か分かって言っているのだろうか。いや、彼女のことだ、分かって言っているに
違いない。
レオンは一度口を開いたもののあえて突っ込まず、入れ替わりに部屋を出て行った。
55 :
52-4:2008/06/16(月) 22:14:41 ID:qAJbR2Tg
元々はっきりくっきりさばさば、の彼女に恥じらいを求めるのが無理な相談なのだろうか。
だがこんな時くらいはいつもと違う面を見せるかとレオンは思っていた。期待していたと
言ってもいい。
居間のフィールに風呂の場所を聞きながら、俺の発想の方が余程乙女だぜ、と彼は少し落ち
込んだ。
暫くしてその部屋の扉が再び叩かれた。
「上くらい羽織って来い」
「お前が言うか?」
濡れた頭を布でがしがしと拭きながら寝台に座る彼女の元へとよっていく。
言われたとおり、彼はアルミラと正反対に部屋着の下だけ穿いた格好だった。
「これもか?」
「ああ、カインのだってよ。風呂上がりに上なんか暑くて着てらんねぇ」
顔を手で仰ぐ。
「我々だけではないんだぞ。ドロシーがいる」
「そりゃもうボウズにも怒られて来た……あいつ気にし過ぎなんだよな。過保護」
「目に毒だと思ったんだろう」
「どういう意味だ、そりゃ」
「だって。私は怒られなかったぞ?注意で済んだ」
服の上だけ羽織って風呂を出たら、彼女もやはりフィールと廊下ですれ違ったことを話した。
『下もちゃんとはいて欲しいんだけど……』と真っ赤な顔でやんわり注意されたと言う。
レオンがそりゃあそうだと頷いた。
「その格好、ボウズにゃちいとばかり刺激が強いだろうよ」
「それは無いと思うが。フィールは戦闘服の時は全然気にしていなかっただろう?あれに
比べれば大人しい。露出も控えめだ。腿から下が見えるだけだし」
その見えてる腿が絶妙な位置であるところに問題があるのだが、彼女にはそれがどれだけ
重要な違いか判断がつかないようだった。
「その辺が男のロマンってやつだ。俺はその格好を推奨するがね」
顔を反らし改めて彼女の全身を眺めるレオンに彼女は肩をすくめた。
寝台に腰掛けるアルミラの傍にいてもがっつくつもりはないらしく、彼は窓際まで行くと棚の
上に置いてある水差しから水を一杯注いだ。
「今夜は満月だったな……」
壁に寄り掛かり外を見てレオンが呟いた。
らしくない台詞に彼女も窓辺へゆき外へ目をやる。
「ああ、いい夜だ。祝杯をあげたいくらいだが……それは無理だろうな」
我々の勝利と美しい月に。
レオンが水を飲んでいる姿を見てつい口に出してしまい、彼女は苦笑した。
この村を半壊にしたのは彼らだった。そんな所に住むフィールの家に世話になった挙句、
未成年者二人暮らしの家で酒を望むのは、いくらなんでも不謹慎にすぎるだろう。
「喜ぶ気持ちはボウズにだってあるに決まってるさ。ただ、な。村の連中のことを考えたら
お祝いしようとは言えないんじゃないか?」
「当然だろうな……」
神の支配から逃れたおかげで、はっきりと自分の犯してきた罪を自覚した。
フィールは仕方がないと言ってくれるが、彼女はやはりそれで済ますわけにはいかないと
思っていた。
どうやって償えばよいのか。
月の光を浴びながら、アルミラは静かに目を閉じた。
「一日位忘れてもいいだろ」
声が後ろから聞こえて、アルミラが室内を振り返った。
いつの間にか灯りが消えている。
口に出す前に彼が先回りをして答えた。
「窓からの明かりで充分だろ?ほれ」
「何だ?」
水の入った器を手渡され、当然の如く聞き返す。
56 :
52-5:2008/06/16(月) 22:15:24 ID:qAJbR2Tg
喉が渇いたとは言っていない。
だがレオンも器をもつとアルミラの手を強引に顔の高さに持ち上げて、乾杯、と言って彼女の
持っているそれに当てた。
軽く澄んだ音が響く。
「ようは気分さ。中身なんて、そりゃまあ酒であることに越したことはねえが、祝う仲間が
いるってことが大事なんだ……そうだろ?」
一気に空けてもう一杯と水を注ぐ。
風呂上がりで喉が渇いているだけじゃないのかと言いたくなったが、アルミラの口はかわりに
違う言葉を紡いだ。
「私も一口もらおうかな」
口元に持って行った器を下げて、レオンは軽く目を見開いた。
自分も手にしていてその台詞。意味は一つだ。
言ってから後悔したのか再び外を向いてしまった彼女の顔に手をやって、自分の方を向かせる。
「何だよお前……照れてんのか?」
僅かに染まった頬に彼が嬉しそうな表情になった。
「うるさい」
確かに照れているらしい。
彼女らしからぬ態度にレオンの目元が緩む。なかなか見れない可愛らしい一面に胸が躍った。
水を口に含むとアルミラの顎を指先でなぞるように持ち上げ、薄く開いた唇に自身のそれを
重ねる。
「……ん…」
こくんと喉が鳴るのが分かった。
口の端からこぼれた水を舌で舐めとってやる。
そのままレオンはもう一度確かな口付けを交わそうとしたが、近づける顔を掌で阻まれた。
「おい……」
「散歩に行かないか?」
「あぁ?」
二人はそのまま部屋の窓から抜け出すという大変行儀の悪いことをした。
レオンを待たせて彼女は窓に向ってごそごそやっている。
「そんな恰好で風邪ひくなよ……って何してんだ?」
「うん……よし」
納得した声と共に振りかえる。
「鍵をかけておかないと不用心だろう?」
「外からか?」
中からしか動かせない型の鍵だったが、彼女の知識はそれを障害にしなかったらしい。
「ああ。外からは外せないが朝になったら玄関から入れば問題ない」
げぇ、とレオンが思わず漏らしたのは、さすがに一晩中歩き回るぞというような彼女の言葉に
気だるさを感じたからかもしれない。
あるいはもう一つの思惑が外れたせいか。
「どこに行くんだよ」
「うん。さすがに村のど真ん中へ行くわけにはいかないからな」
そう説明しながらアルミラは森の中へ迷いのない足取りで進んで行った。その後をレオンは
大人しくついてゆく。
手燭がなくても不自由を感じないほどあたりは明るかった。
「あの時……」
「ん?」
「この村に来た時さ。お前、暇だっただろう?」
「あぁ!……暇も何も、ボウズが通るまでだーれも来なかったんだぜ?」
その時の絶望的な気持ちを思い出したのかレオンは眉をしかめた。
彼の性格でただ通る人間を待つだけというのは相当な苦痛だったに違いない。
「あの時な、私もそれは落ち込んで……」
「分かる分かる」
彼はうんうんと頷いた。
57 :
52-6:2008/06/16(月) 22:15:53 ID:qAJbR2Tg
「目ぇ覚めたと同時に今までしてきたことを全部思い出して、それがてめえにとっちゃ許せねえ
事だって気がついて、ものすごく腹が立ったわけだ」
「簡単にいえばそういうことだが――正さなくては、と思った」
「ふんふん」
「で、フィールの力を……御使いを解放する力を借りようと思った。幸運なことにあいつは
理性的で、我々御使いの立場を理解してくれたよ。話が通じるのはありがたいと思った。
分かっていてもやられたことには仕返しを、という考えの者だっている。それはそれで正しい
とは思うし、こちらとしては責められ殺されても文句は言えないのに」
「お人好しっちゃお人好しだ」
「茶化すな。それで――ほらここだ」
アルミラが見ているのは何もない、周りを木々に囲まれた丸い広場だ。
何があるというのだろうか。
「最初から最後まであんな少年に甘えていたのだと思う」
「カインの忘れ形見にな。わざとじゃないんだろうが、自分が死んだ後のことまでフォロー
してくあたり、あいつらしいぜ」
「村を出てこの辺りからか。ヴォロが――我々が連れて来たのだが――出てきた。フィールに
レクスの使い方を教えながら進んでいった」
「あのクソネコなぁ。初めて見たときゃ驚いたもんだが……」
「私も驚いた。レクスが自律行動するなんてな。まぁ彼の作り出す様々な道具に助けられた
部分も多い」
「喋る猫なんざ周りの人間もさぞかし驚いただろうな」
「村では普通の猫を装っていたらしいぞ。そのせいというか、必要がなかったのだろう。
レクスとしての本性を初めてフィールに示したのは、私との戦いの場面だったようだ。
あんなに驚いたことは記憶にない」
その時の気持ちを思い出したのか、アルミラはうっすらと唇をあげた。
「ほんっと初心者だったんだなー。よくそれでお前と戦う気になってたじゃねえか」
「最初は斧を武器にしていたからな。御使いについてあまり知らなかったとはいえ、あんな
物で挑んでくるとは度胸があると思ったよ」
「確かに」
度胸うんぬんでは済まない話だけにレオンはしみじみと頷いた。
「話を戻すが――最初の頃は力がないというかコツがわからなかったのかな?なかなかうまく
パスを出してくれなくてな、やきもきした」
「そりゃしょうがねえだろ。文句言うほうが無茶だ」
「お前にそういう理解ある台詞を言われるとなんだか落ち込むな」
「どういう意味だよ」
レオンが口をとがらせる。
「ふふ……。ほら、橋があるだろう?」
進むにつれて橋が見えてきた。
橋としては短いものだが手すりがないのが恐ろしい。
レオンもそれに気づいたようだ。そっと下を覗き込む。
「危ねえな、これ。下まで結構高さがあるぞ……このまんまにしておくなんて村の連中、
何考えてんだ?」
「さてな。あまり人が通らないのだろう。ここでは、フィールがせっかくのヴォロをぽんぽん
谷底に落とすものだから参った。一度テンションを上げれば必殺技を使うのは狙いも正確だし
上手かったんだが」
「狙いが正確なのに?落とすのか?」
「二、三匹一遍に攻撃するものだから一匹しか私のもとに来なかった……多分自分のレクスの
大きさが掴めていなかったのだな」
レオンはアルミラの意図にやっと気がついた。
自分がレオンと合流するまでのフィールとのやり取り、彼の印象を実際の道を進みながら
説明したいらしい。
だからといってそれにどんな意味があるのかは分からないが。
それでも当時アルミラが何を考えて自分のところまで来たのかが分かって彼には面白かった。
58 :
52-7:2008/06/16(月) 22:16:27 ID:qAJbR2Tg
「この辺でテセラが出たかな。お前がいたらな、と思ったよ」
再び丸く広がる場所に出て、当時、彼女は内心弱音をはいていたことを明かした。
「へぇ?」
レオンは急に自分の名前を出され、からかうように言った。
「やっぱり俺がいないとダメってか」
「ああ。いたら助かるのに、と思った。空中の敵を落とすのに私では手数がかかるし、
フィールは力が足りないしで大変な手間だったから……そう、この村を小さな集落と思って
ベラトル系を連れてこなかったのが勝因かもしれん。最初からあれがいたらお前の所にたどり
つくのも大変だっただろう」
こきおろされると思っていたのを予想外にも肯定されて、レオンは一瞬言葉を詰まらせた。
後ろ頭をかいて『そうか?』などと言っている。照れているのだ。
本人は嫌がるだろうが、こんなところがこの男のかわいいところだと彼女の口はうっすらと
笑みの形を作った。
「途中で雨も降ってきたし、足を取られたりしてフィールも私も難儀した」
「あー……そういや降ってたっけな。俺は木の上にいたからあんまり気にならなかったけどよ」
半分はずれた柵を過ぎ、二人はまだ先へと足を進める。
「おい、寒くねぇか?」
「大丈夫だと言ったろう。まだ風邪を引くような季節じゃない」
「気温じゃなくて格好のことを言ってるんだがよ……って、手ぇ冷てえじゃねえか!」
アルミラの手をとり呆れたように言う。
「強がりじゃないのか?」
「お前じゃあるまいし……冷え性なんだ。普段からこうだから、別に」
「ふぅん。まあ、そんならいいけどよ」
納得しながらも彼女の手を握り締める。
「そうか……いつも素手ってことがなかったから、気付かなかったんだな」
付き合い長いのによ、と笑うレオンの顔は何となく寂しげで、指と指とを絡めるようにして
くる彼の手から離さないぞという意思がうかがえた。
実際寒さなど感じていなかったのだが、大きな手からは確かな温かさが伝わってきてそれに
安心をおぼえたことは、しかしアルミラは言わなかった。
「俺もな、あん時はそりゃあ驚いた。途中まで一緒にきて任務に励んでいたはずの仲間が、
いきなり知らねえボウズの味方について俺を倒す、と来たんだからな」
回想しながらの彼の言葉があまりにおかしくて、アルミラは小さく吹き出した。
「んだよ、笑うな。……だって、びっくりするだろ?」
「すまん……が、確かに。逆の立場だったら私もそう思っていただろうな」
「ボウズを倒してお前の目を覚ましてやらねえと、って思ったが結果はほら、あれだ」
負けた、と言うのがどうにも気に入らなくて彼は言葉をぼかした。
「だが結果としては負けて良かっただろう?そうでなければ……」
言われなくてもその場合のことは分かっている。
二人に勝っていたら、いまだに神々の支配に気づかずに日々を送っていたことだろう。
共にその時のことを考えているに違いない。
手を繋ぎ押し黙ったまま二人はさらに先へと足を進めた。
「さ、終点だぜ」
レオンがアルミラ、フィール二人を相手に戦闘を繰り広げた場所へ出て、隣を見た。
この先は荒野だ。朝には村へ戻るのだからこれ以上先へ行ってもしょうがない。
彼はあいた手を広げるようにしてアルミラへ笑いかけた。
「――が、ここが始まりとも言えるな」
「ふ……珍しく気の利いたことを言う」
「始まり、か……」
アルミラは空を見上げた。
「一体いつを始まりと言うのだろうな。私たち三人が揃った時か、この村を襲撃するよう
神命が下された時か。それともカインが――」
59 :
52-8:2008/06/16(月) 22:17:12 ID:qAJbR2Tg
ぽっかりと木々の広場を囲むような形に添って切り抜かれた空だ。
あまりに月が明るくて、夜空に散らばる星々がかすんで見える。
絡む指に力を感じ、レオンは大人しく次の言葉を待った。
「なあレオン、ヴィティスのことだが……やはり神々の支配に気づいていたんじゃないか?」
「まっさか!だったらあいつのことだ、とっくに何かしら手を打ってただろ?」
レオンは内心またその話か、と思った。
すべてが終わったというのに、何故まだそんなことを気にするのかが彼には理解できなかった。
そういえば道中も彼女は度々その話を口にしていた。
疑問を疑問のまま置いておけない性格なのは知っている。だがこんな時にまでそんな話を
されるのはさすがに面白くなかった。
自然と興味なさそうな返事になる。
「手の打ちようがなかったとも思える」
「なんでだよ」
アルミラは大げさにため息をついた。
考えることを拒否しているとしか思えない相槌の速さだ。
「少しは考えろ。彼が自由意思を取り戻していたとして、だ。味方がいないだろう。いくら
彼でも一人で出来ることには限界がある」
「――ああ!そうか。確かにガルムやあのガキに言っても協力してはくれねえよな。『気でも
狂ったか』とか『あんたおかしいんじゃないの』って言われるのが関の山だ」
「最後にカインに会ったのはヴィティスだし、正気を取り戻す機会があったかもしれない」
それから15年も経っているのだが、間に横たわる時間の長さは問題ではないらしかった。
正面をみて呟く彼女の横顔は根拠があるのかというほど自信に満ちている。
だが本人に自覚はないらしく、次の台詞で己の考えを中断させた。
「……いや、止そう。かもしれない、かもしれないでは何も答えは出ないし」
確かに迷いのあるままでの発言は彼女らしくなかった。
それでも考えることを止めたわけではなく顎に指を当て黙り込んでいると、不意に視界が暗く
なった。
月光を遮るほど近くにレオンがいる。
何も言わない彼を不審に思い顔をあげるといきなり唇を塞がれた。
「……ん……ン、っ…なんだ。いきなり」
月を背に立ち影になっていても、男がつまらなそうな表情をしているのがアルミラにはすぐに
分かった。
「いきなりじゃねえだろ……どうして横に俺がいるのにほかの男のことを考えるかね?」
「そういう内容ではなかっただろう?以前していた話の続きだ」
「お前なあ……そういう問題じゃねえんだよ」
「フィールの話はいいのにか?」
「まあ、我ながらその辺が複雑な男心ってやつだ。ボウズは弟みてえなもんだからな、気に
ならないんだろ」
年が近い分、ヴィティスの話題を出されるとやきもちを焼くのだろうか。
彼は眉をよせアルミラの本心を疑うように問いかけた。
「わざとか?わざとじゃないよな?」
「何故そんなことを気にするのか分からない。ヴィティスは私をそんな風に見てないだろう?」
「ばっか、向こうがどうとかじゃなくて、お前の口からこんな時に聞きたくないって話だ」
指をからめたままの腕を彼女の後ろにやって、身動きを取れないようにしながらまた唇を
重ねる。
さっきと違って触れるだけの口付けだ。
「ありていに言えば嫉妬するね」
顔をあげ、レオンは自分を見つめる女に正直に告げた。
「まさか」
「まさかってなんだよ。どういう感想だ、そりゃ」
彼もまさかアルミラが当り前の女性のようにやきもちを焼かれて喜ぶとは思っていないが、
それにしてもあんまりな返事だ。
つい責めるような顔になる。
「お前の口からそういう言葉を聞くとは……弱みを見せるような発言は嫌がるだろう?それに、
いや……そうじゃない。ただ――ただ、びっくりしたんだ。あんまり――」
アルミラは困ったような表情で顔を背けてしまった。
60 :
52-9:2008/06/16(月) 22:17:46 ID:qAJbR2Tg
「あまりにも意外で」
「何がだよ」
「うん……ええと、難しいな……。何と言えばいいのか……」
彼女はもう一度男を見上げたが珍しく口ごもった。そしてまた顔を下げる。
レオンも急かさずに再度彼女が口を開くのを待った。
身動きしたので絡めた指を離してやる。
アルミラは彼の背後の森へと目をやった。暫くそのまま視線を固定させていたが不意に彼へ
向き直るとさらに珍しく、うろたえているような声を出す。
「私は……こういうことを言葉にするのは苦手なんだ、知っているだろう?」
手を握り締めると八つ当たりのようにとん、と彼の胸を叩いた。どんな表情をすればいいのか
分からないのか、レオンの胸元を睨みつけている。上手く言葉に出来ないもどかしさもあるの
だろう。何度も口を開きかけては閉じるを繰り返す。
いつも落ち着いた態度の彼女にこんな挙動をされては、彼も気になって仕方がない。
大丈夫かと言いたくなってくる。
「こういうことって何だよ。分かんねえな」
「違うんだ。お前……私と初めて会った時のことを憶えているか?」
「ああ。もちろん」
いきなり話が飛ぶ。
彼女は理路整然とした話し方をするのが普通なのだが、このところこういうことが多い。
それでも最後は話が繋がっていくのだが、聞いているほうは面食らう。
「その時、どう思った?」
「どうって何を」
「私の印象だ」
ああ、と頷きながらレオンは当時を回想する。
「そりゃまぁ……そうだな、胸のでけぇ女だなーと思ったよ」
自分で言って直接的に過ぎると思ったのだろう、彼は鼻の頭をかき横を向いてしまった。
「そうじゃない」
「へそが見えてるぞ?」
「叩かれたいのか」
握りこぶしを見せる彼女にレオンは肩をすくめた。
もう叩いたじゃねえか、とぼやく。
殴られてもたいして痛くはないが、アルミラが何を言いたいのか、自分に何を言わせたいのか
皆目見当がつかなかった。
腕組みをして頭をひねる。
「わかんねぇな。後は……強いんだろうな、とは思ったぜ。OZになるくらいだしな」
「女のくせに、とは?」
「思わねえよ。カインが認めてた。それで十分だろ?実際アルミラはそれだけの働きをしてた」
レオンは問われるまま答えたが、アルミラはその言葉にほんの少し唇をあげた。
表面の動きは些細でも、どれだけ彼女が喜んでいるのかは分かる。
「そう、お前とカインはそういうところで差別をするという事が無かったな。分かっていた、
私にも。だから嬉しかったぞ」
「じゃあ何なんだよ。――言っとくけどよ、俺、わかりやすく説明してくれねえと分かんねえ
からな?」
「うん……つまりな」
改めて聞き返され、彼女は言いにくそうに再び下を向いてしまった。
「お前、私のことを異性として見ていなかっただろう?だから、その……ヴィティスの話を
するなとか、嫉妬するとか言われたのがあんまり意外で」
レオンが自分に対して特別な感情を持っているとはまさか今でも思ってはいない。
アルミラはただ彼と約束したことを果たそうと――それは大人として割り切った関係、行為を
するのだと思っていた。
だから嫉妬するなんて思いもよらない言葉を聞いてらしくなく動揺してしまったのだ。
自分の恋人でもないのに他の男に嫉妬するのは彼個人の特性だろうか、それとも男は誰でも
そうなのか。
そんなことが表情に出ていたのか、出ていたとしてもまさかレオンには分からないと思ったの
だが。
アルミラの考えを察したのだろう、彼はそれを否定した。
61 :
52-10:2008/06/16(月) 22:18:21 ID:qAJbR2Tg
異性として見てないだって?と呆れたように口の中で繰り返すと、軽く睨むような顔で正面に
立つ女に目をやった。
「あのなあ……一緒に仕事してんだぜ?うおー乳でけぇ、とかいい尻だぜ、とか言ってられる
かよ。オヤジじゃねぇんだから。そういう事はあえて頭から締め出してんだ。でなきゃお互い
やりにくいだろうが」
「……」
「何だよ、その顔」
彼は顔を後ろに反らすと少しむっとした様子でアルミラに尋ねた。
「いや、そんなに大人だとは思ってなかったんで、驚いた」
彼女は真面目だ。
馬鹿にするなと怒ってもいいところだが、レオンは小さく吹き出しただけだった。
楽しそうに肩を揺らして笑っている。
「ったくよ、十六、七のガキじゃねぇんだ。仕事に色恋は持ちこまねえ。任務のたびに盛って
らんねえだろ?……まぁでも、もうそんなことを気にする必要もなくなったしな」
にやりと口の端を上げる。腕を回すと彼女の腰を引き寄せた。
「お前はいい仲間だった。それ以外考えないようにしなきゃいけなかったんだ。分かるか?
ヴィティスんとこのガキみたいだったらそんな努力は必要ねえが、アルミラは」
そこでいったん切って彼女の額に口付ける。
「いい女だ。そんな誤解を……って誤解でもねぇか。俺がそういう態度をとってたんだからな。
ま、俺にしちゃよく頑張ったと褒めてもらいたいところだぜ」
なかなか演技派だろ、と悪戯っぽく笑うと今度は頬に唇を落とす。
彼女は抵抗するでもなくレオンのするに任せていたが、短くため息をつくと寂しそうな表情に
なった。
「何だよ、元気ねえじゃねえか」
「あんなに長いこと一緒にいたのに、どうやら私はお前のことを見損なっていたようだ」
「あぁ、そうみてえだな。でもそんなことどうでも……。いや、せっかくだ。たっぷり償って
もらうとしようか」
野性味のある笑いを浮かべアルミラの肩に腕を伸ばした。
「――そろそろ戻ろうぜ」
体はすでに来た道へと向いている。が、抱いた肩は動かなかった。
「入れないと言ったろう?」
「そうだった……マジかよ」
首を横に振る彼女にレオンはぴしゃりと額を叩いた。
せっかくいい雰囲気なのにこの機会を逃すのはもったいないと思ったのだろう。
だが細い腕がレオンの首を引き寄せ、接近する顔が彼の嘆きを封じ込めた。
湿ったものが彼の唇を撫でる。さらに歯を割って入るとそれは中の彼を抱きしめるように
やさしく絡みついた。
しかしレオンが応えて動こうとすると、さっと避けて出て行ってしまう。
「ン……っふ、戻る必要はない」
大胆な言葉にレオンが目を見開いた。
「え……まさか、ここでか?」
「いいだろう、別に。人が来るような所ではないし」
「別に無理にでもってわけじゃない……日を改めてでもいいんだぜ?」
約束をした手前自分に気を遣っていると思ったのか、レオンは一応の断りを入れた。
「そういうわけじゃない。お前さえ良ければ本当に構わないんだ……嫌か?」
「や、……嫌ってか、俺だって構わねえけどよ」
「はっきりしない奴だな。さっきは惜しそうにしていたくせに。こういうことはタイミングが
ものを言うんだぞ?女がいいと言っているならどんどん押したらどうなんだ。押すべき時に
引いたら手に入るものも逃してしまうぞ」
「どうなんだって言われても、だってお前……外でなんてとんでもないってタイプだと思って
たからよ……面食らったんだよ。悪かったよ」
いきなり男女の駆け引きにまで言及され、レオンはへどもどと言い訳をした。
「いい月夜だし」
「あん?」
「外でするのも一興かと思ったんだが」
「おま――……最初っからそのつもりで!?」
62 :
52-11:2008/06/16(月) 22:18:55 ID:qAJbR2Tg
そのためにこんな所まで連れ出したのかと彼女を指さす。
その手を払うとアルミラはさすがに恥ずかしそうに彼を睨みつけた。
「よせ、そう大袈裟に反応されるとどういう態度をとったらいいのか分からなくなる」
いちいち口に出されるのが嫌で部屋での続きのように彼の口を掌で塞いだ。しかしその手を
さらに掴まれる。
レオンは彼女の手を脇へよけるとこっちで黙らせてくれとばかりに口付けた。
今度は逃がさない。
彼女をしっかりと抱きしめて、心ゆくまでやわらかな感触を求めた。
ちゅ、と音をたてて唇を離せばアルミラのほうから舌を差し込んでくる。
腕を彼の首に回し顔を引き寄せて、普段の彼女からは想像もつかないような情熱的な口付けだ。
唇に感じる冷たさとは裏腹に口中を蹂躙する舌は熱く、ねっとりと彼を絡めとる。深く、
深くと舌の根を探るように動くそれは、途中で口蓋を撫でながら戻ってきて、歯にぶつかれば
歯茎をやんわりと舐めていった。
時折離れては重なるその瞬間すら惜しいのか、彼女を受け止めたままレオンの手は頬から
滑るように下りていった。
大きな服に隠された曲線をなぞって彼女を抱きあげると思いのほか軽い。
一秒でも長く触れ合っていたいと思うのは、口付けの気持ちよさによるものではなくレオンの
心が彼女を求めていたからだろう。
顔を離すとレオンの影から月がのぞいていた。
「同じ色だな」
アルミラの手が彼の髪を梳く。
意味がわかったのだろう。レオンもやさしい目で彼女を見ると、人差し指の背でそっと彼女の
頬を撫でた。
「それを言うならお前は月の光だな。しんとした、静かな青だ」
「柄にもないことを言うな」
「どっちが――でもお前にはぴったりだと思うぜ」
広場の真ん中で続けるのはさすがに落ち着かなかったのか、隅に生えている大きな木の下
まで行くとそこで彼女を下ろしてやった。
アルミラの向こうに片手をつき、もう一方の手は再び頬へと添える。
そこに一回り小さな手が重なった。
「ん……っ……こんなことになるって分かってりゃ、上着かついで来たのによ」
さすがにアルミラにもそこまでは言えなかったのだろう。
地面の上に彼女を押し倒すのは少々気が引けるようで、レオンは何かないかと辺りを見回した。
「いい、これを敷けば」
細い指が羽織っている服をつまむ。
ひらひらと風に揺れてきわどいところまで見えそうになったが、それも月明かりの下では
何故かいやらしくはなく、神秘的でさえあった。
「立ってしてもいいし」
「落ち着かねえなぁ」
レオンは笑いながら両手で彼女の頬を挟んだ。熱をもってわずかに上気しているのが分かる。
くすぐったそうにするアルミラの顔中へついばむように口付けをした。
左手が下へと動く。
おもむろに服の上から大きな胸の上へ手をのせるとその感触に彼は思わず口笛を吹いた。
「なんだ?」
「いや、想像以上の手ごたえだったもんでつい、な」
「想像してたのか?いやらしい奴だな」
「そりゃあな……ってか、言っとくけどこれが普通の男の反応だぞ」
「で?」
「あん?」
彼はさらに手を移動させていった。
そのまま下から包み込むように揉み上げる。掌に反発するような力を感じたが、それでいて
とてもやわらかい。
63 :
52-12:2008/06/16(月) 22:19:27 ID:qAJbR2Tg
薄く開いた唇から普段は聞けないような切なげな吐息がもれた。
「ん……っ、どう……想像以上、だった……?」
「そうだな……こうして触ってみると思った以上の大きさだし、弾力がある。……形もいいん
だろうな。早く脱がしてぇ……が、まぁ、それはぼちぼち」
アルミラの顎、正面からは見えない部分に赤く跡を残し、肌を味わいながらもう一度深く
彼女の口中へと侵入する。
「……っ、ん……ちゅ……」
彼女の背後についていた手を離すと背中から布越しに腰を撫でてゆく。ずっと手を置いて
いたくなるようなくびれだ。
そのまま尻を下って大腿まで行くとようやくなめらかな肌に触れる。風呂を上がって大分経つ
せいか、それとも冷え性と言っていたのと関係があるのか、そこはやはりひんやりとしていた。
裾の下に手を潜り込ませ、下って来た丘を再び上る。と、彼の動きが止まった。
唇を離すと眉をあげてアルミラを見る。
「何を驚いている?」
「や、なんもはいてねぇからよ……驚くだろ、普通!」
「必要ないと言ったろうに。人の話を聞いてない奴だ」
「誰がそこまで想像するよ……」
「そう言われれば、そうか」
苦笑するアルミラに彼は頭を振った。
まったく徹底している。
約束した通り彼を受け入れるのに、余計なものは最初から身に着けていなかったのだ。
「効率的だろう?」
「ばっか……効果的、の間違いじゃねえのか?」
彼女の無意識の挑発に鼻の頭をがぶりと噛んで正す。
脱がせる楽しみがないと言えばそれまでだが、推奨すると先に述べたようにそんなことは
問題にならないほど、その服装は彼の欲望を煽った。
桃の形をした肌の上で指先が円を描くように動く。わずかに身動きするのを今度は大きな手で
こねまわした。指が食い込むほど握りしめる。ひんやりした肌の下から伝わる彼女の体温が
心地よくてレオンは目を瞑った。
耳朶を舐め、首筋に跡を残しながら丸く開いた胸元へ舌を這わせてゆく。
布の上からも胸の先端がつんと上を向いているのが分かり、そこをそっと唇で挟んだ。
「――!」
胸へのやわやわとした刺激に、そのたび彼女は肩を震わせた。
立ち上がった部分を舌先で弾くようにされ、大きく体が揺れる。
レオンの肩に置いた手に力が入った。
「……っは……お前、大きい胸が好きなのか?」
「あぁ、まあな。けど好きな女だったら巨乳だろうが無乳だろうが構わねえよ。大事なのは
中身だ……そうだろ?」
「ン……ぁ……」
薄い唇から声をもらし、彼女は完全にレオンに身を委ねていた。
尖ったところに歯を立てられて肩を縮こまらせる。
大木に寄りかかっていた体を引き寄せ、また押しつける。
自分に対して背を向くよう彼女の体を返すとうなじに唇を押しつけた。ちゅ、と音をたてて
少しずつ下へと降りてゆく。
後ろから服をたくし上げるように手を滑り込ませ、抱えるように胸を掴むとその尖ったところ
まで遠慮なく愛撫していった。
「ぁあ、……ん」
体の中心を指がなぞれば感触がくすぐったいのか腰を突き出すようにしてくる。
レオンは手を下へと滑らせたがまっすぐ降りてゆくようなことはせず、焦らすようにそこを
よけて内腿へと手を伸ばした。
吸いつくような肌の感触も、彼の手に対する反応も最上級だ。
跪いて臀部に口付けながら目の前にある彼女の秘所へ指を這わせた。
初めは入口の感触を確かめるように動かすだけだったが、思いのほか溢れているのに遠慮なく
さらに深くと指を沈めた。
64 :
52-13:2008/06/16(月) 22:20:31 ID:qAJbR2Tg
「……ん……っ」
しっかりと濡れていて、指を増やしても動かすのに支障はない。
左脚に手をまわして抑えると右脚は開かせるように向こうへ押した。
広くなった局部へはさらに小さくほころんだ蕾にも刺激を与える。
反射的にだろうレオンの手を止めようとするが、その快感に抗えず、彼女はただ小さく声を
上げるばかりだった。
「――!やっ、あ!あぁ……ん……」
白い丘の上を谷に沿って舌が下がってゆく。
後ろの門を舌先でくすぐるようにされて、アルミラは思わず腰をくねらせた。
「そんなとこ……、や、だめ……やぁ、あっ……止せ、レオッ……」
気持ち良さそうに喘ぎながらの言葉になど従うわけもなく、レオンはなおも舌を動かした。
普段の彼からは想像もつかないような繊細な手の動きがアルミラを翻弄し、体の芯を貫く
ような甘やかな感覚に、小さく開いた唇からは言葉にならない声がもれた。
それに力を得たのかさらにレオンの手が彼女の中をかき回す。
「ふぁ……あぁああ――!」
正面の木に力なく寄りかかったまま、アルミラは体を引きつらせた。
レオンは彼女の反応に満足してにやりと口元を上げた。
立ち上がると、後ろから手を回して釦を下から一つずつ外してゆく。
まだ息を弾ませているアルミラの首筋に吸いついて、肩の方へと口付けを繰り返しながら服を
下へ落とした。
胸と一度達してくっしょりとなった場所へ再び手を伸ばす。
彼女の特徴である豊かな胸は後ろから揉むといよいよその大きさに驚かされる。だがとても
敏感で爪の先で先端をつ、となぞるだけでも背中がぴんと伸びた。
「や……あっ……ぁ」
引っ張ったり擦るようにしてやるとその感覚に逃げ場が欲しくなるのか、レオンの手から
逃げるようにつま先立ちになった。
下へ向かった手は柔らかな毛の流れを撫でている。
中をかき回しながら小さな突起にも刺激を与えてやる。とアルミラは後ろ手にレオンの
下腹へと手を伸ばしてきた。
される一方ではないということらしい。
服の上から撫でるとそこはすでに彼女を欲しがっているのが分かり、アルミラはその先と
分かるところを指で扱くように触れた。
「おい、いいんだぞ?」
「何が……?」
アルミラの背中から顔を上げずに答える。
「適当にしたら入れても」
「なんだって?」
「それとも……口でしてやろうか?お前、が……んんっ……気持ち良くなれば、いいんだから」
「馬鹿言え。てめぇ一人だけいい気持になってどうすんだよ。大体俺は……っていうか男って
もんはな、女が気持ちよさそうな顔してるとますますやる気が出るもんなんだよ。だから
黙ってな」
大きな手も唇も彼女から一瞬たりとも離したくないのか、肌という肌を撫でまわす。
意外な物覚えの良さを発揮して、敏感に反応した部分を重点的にせめた。
「……っ……レオン」
「なんだよ」
「お前……、もしかして焦らしてるんじゃ、ないのか?」
後ろを振り返っての台詞に彼は面白そうな顔をした。
「なんでそんなことを聞く。焦らされてると思ったか?」
「嬉しそうに……。もう十分……だろう」
「適当にしていいんだろ?」
からかうような口ぶりに彼の意図を察して不満をもらした。
「私の口から……っ、ふぁ……言わせたい、のか?ひどい男だ」
「なんとでも。――どうして欲しい?言ってみろよ」
65 :
52-14:2008/06/16(月) 22:21:07 ID:qAJbR2Tg
「あ、あぁっ!駄目、だめ……」
途端体内にあるレオンの手が激しく中をかき回した。
彼女は堪らず手をついた部分を掴もうとするが木肌は滑らかで堅く、爪を立てることも
ままならなかった。
何となく温かさを伝える大木にただ寄りかかる。
「やぁっ……ば、かっ」
「どうして欲しいんだ?」
向こうから顎を捕まえて深く口付ける。
唇が暗闇にも赤く濡れて美しかった。
「お前の口から聞きてえんだ」
いつもなら素直な反応を返すばかりでないアルミラも、この時はあっさりと彼の求めに応じた。
既に彼女には上手く切り返す余裕がなかった。
「レオン、のが……欲しい……ぁあっ!焦らすな……」
声も切れ切れにせがまれ、ずっと秘所をまさぐっていた手が大腿へ動きアルミラの腰を引き
つけた。
自分に対していよいよ突き出すようにさせると、下ばきを緩めて滾ったものを濡れた部分に
あてがう。
薄く開いた唇から小さく声がもれた。
「それがなんにせよ、誰かに求められるっていうのはいい気分だ。……普段こっちばっかり
欲しがっているならなおさらな」
「え――?」
思わず彼に視線を向けた瞬間自身を押し開いてくる剛直に、アルミラは木についた手を握り
しめた。
「ぁ……!」
「逃げんな……っ」
口では求めながらもレオンのものから体を引くのに、しっかりと細い腰を掴んで自身を沈めて
ゆく。
隙間がなくなるほどに密着させればなるほどすでに限界が近かったらしく、アルミラの体は
自分を突き刺す男を心地よい温度と圧倒的な快感で持って締め付けてきた。
それこそ余裕がなくなってしまいそうで、彼は己をごまかすように腰を動かした。
動けば動いただけ貫いている女の口から喘ぎが漏れる。なおも逃げようとする体を後ろから
大木に押し付けて何度も突き上げた。
ちょうどいい位置にきた胸をつぶれるほどに捏ねたが、感動的な弾力を持つそれは彼の手を
難なくはね返した。
二つの性感帯を刺激され、あらかじめ昂ぶらされていたこともあって、彼女はそれから時間を
置かずに高みへ昇りつめた。
「あっ、ぁあぁ……は……!んっ――」
脳髄を焼くような感覚に脚ががくがくと震える。
レオンが掴まえていなかったら崩れ落ちてしまっていただろう。
彼は彼でアルミラが自分との行為で達したことに改めて満足した。
挿入しただけでも良くなってしまいそうな彼女の体とは、自分は相性がいいのかもしれない。
頭の片隅でそんなことを考えながらもレオンの体はすでに本能によって動かされていた。
くたくたになった彼女を抱えるようにしてさらに抽迭を繰り返す。
ぬるぬると擦れ合う感覚によって彼女のなかをいよいよ圧迫し、新たな反応を誘った。
達した直後の締め付けにやっと耐えればまたも自分を追い上げてくる彼女の体に、レオンは
ぐっと息を詰めえる。
アルミラを貫きその先端から迸るものが、彼女の体内を熱く、熱く濡らした。
「っくそ……!」
ずる、と彼女と繋がっていたものを引き抜くと、アルミラの肩を掴んで振り向かせた。
地面に落ちていた服を拾って彼女に放ってやる。
余韻も何もないレオンの行動に彼女は目を丸くした。
「なんだ……気が済んだのか?」
少し傷ついたような表情と声に彼は気付いたかどうか。
66 :
52-15:2008/06/16(月) 22:21:39 ID:qAJbR2Tg
「済むわけねえだろ!?ちくしょう……」
何故か悪態をつきながら衣服を整え、さらにはアルミラが服の釦を閉めるのにまで手を出して
くる。
「さっさと着ろ、戻るぞ」
「戻る?」
反射的に問い返した。
自然訝しそうな顔になる。
フィールの家のどの入口も、窓すら鍵が掛って出入りは出来ないと言ったはずだ。そう彼女の
目が言っている。
それに薄桃色の髪をぽんぽんとやさしく叩くと、行動とは裏腹に忌々しそうな顔になった。
「いいから!外でするなんざ、やっぱり落ち着かねえんだよ!――刺激的ではあるがな」
彼女を抱きしめてついばむように口付ける。
「戻ろうぜ。部屋で――たっぷり愛してやる」
青い月の光に彼の表情が映る。
自分に向けられた眼差しにその台詞が嘘偽りのないものだと分かり、アルミラは彼に対して
初めて緊張した。
窓を叩く音に気がついたのはどれほど経ってからだろうか。
夢から覚めて、はっきりと物音を認識する。
「……」
フィールは一瞬青ざめた。
幽霊の存在はテオロギアの中で確認していたし、昔から『いるのかな、いたら嫌だな、でも
いるんだろうな』と内心苦手に思っていたのだ。
等間隔にこつん、こつんと叩かれる窓のそばに寄る。
開けるべきか、開けざるべきか。
カーテンに手をかけしばし悩んだが、ちらりと人影が映ったのに思い切って、窓の外へ目を
やった。
「レ、レオン!?」
思わず大声をあげたのを窓の向こうからレオンとアルミラが身振りで静かにしろと言っている。
慌てて鍵を外すと半ば責めるように尋ねた。
「二人とも一体外で何をやってるんだい!?こんな夜中に!」
「おう、ちょっと月見をよ……ほら見ろよ、ボウズ。いい月夜だろ」
その言葉に誘われて思わず空を見上げる。
「あ、本当だ……綺麗だね」
「フィール、寝ていたところを済まないが、玄関の鍵を開けてくれないか?」
「そうだ、ちょっと待って。向こうに回るよ」
いったん部屋の窓を閉めて玄関先に回る。金属音は響くのでドロシーが目を覚まさないように
そっと扉を開いた。
「悪りいな」
「それはいいけど……どうやって出ていったの?玄関の鍵も持ってないのに」
「それは秘密だ。でもちゃんと戸締まりはしていったから安心しろ」
「ま、そのせいで部屋に戻れなくなっちまったんだけどな」
レオンは肩をすくめる。
だが冗談めかした仕草にもフィールはごまかされなかった。
自分の家に起居する者に責任を感じているのかもしれない。
「夜出歩くなんて危ないよ。二人でもさ」
「心配すんなって。今度は大人しく寝るから」
レオンはいつものように余裕のある笑みを浮かべ、アルミラはその隣でやれやれという顔を
していた。
67 :
52-16:2008/06/16(月) 22:22:24 ID:qAJbR2Tg
「あ……んンッ……」
寝台の上で二つの影が揺れては重なり合った。
白い肌、大きな胸と意外なほどの可愛らしさを主張する先端へ、レオンは思うままに舌を
這わせる。
同じように挟み、捏ねるような動きでも、指先でされるのと唇を使ってされるのではまた
違った刺激があって、しかしどちらも甘美で意地悪なものだった。
もっともっととアルミラの心を女にしてゆく。
「まったく、大人しく寝るが聞いて、呆れる……!」
「さっきまでに比べりゃ大人しいだろ?外を出歩いているわけでもないし、ちゃんと寝てる」
『寝る』という言葉の解釈にフィールとレオンは大分隔たりがあると思ったが、彼女は口に
出さなかった。
下半身に伸びてきた手に言葉にならなかった、というのが正しいだろう。
「あっ、あっ、あ……んんっ!」
「すげえとろとろになってるぜ……ホント感じやすいんだな」
途端にレオンの背を鋭い痛みが走った。
「ぃてえっ!」
アルミラの手が引っ掻いたのだ。それも両手で。
「そう言うこと、は……言わないで、っ……もらいたい」
「悪りいな」
くっくっと笑いながらその場所に硬くなった自身をゆっくりと押し込んでゆく。
細い腕でぎゅうと抱きしめられるのがこの上なく嬉しかった。面映ゆいから口に出したりは
しなかったが。
喜びが余程顔に出ていたらしい。下から艶めかしい喘ぎに交じって指摘を受けた。
「ぁ……お前こそ……よほど嬉しそうだぞ――っ、ん」
「そりゃあな、アルミラをこうやって抱ける日がくるとは実際考えてなかった……にやけも
するぜ」
「お願いする先がある程度の年頃の女なら、誰でも良かったんだろう?」
動きを止めた男に今度はアルミラも落ち着いた言葉を返す。
相手としてはありなだけで、ほかに候補がいればあえて自分を選ぶとは思っていなかった。
そんな考えが彼女の口をついて出た。レオンとのやり取りに、彼女の中で引っかかるものが
あったのだろう。
だがそれは言い出した側が言うべきことではなかったと、アルミラはすぐに己の失言を悟った。
「……済まない、今の言葉は忘れてくれ」
上にいる男が首を横に振った。
怒っているわけではないらしい。
「だから……そりゃあ誤解だ。俺は遊びでこういうことはしねえ。ある程度の感情がなきゃな」
そこで言葉を区切ると彼女の口中を探るように口付けをしてきた。
舌の付け根に届くほど、深く入り込んでゆく。
「ん……ちゅっ……少なくともお前くらい大事でなきゃ……」
包むように揉んでいた胸が大きく揺れるのを感じ、彼は顔をあげた。
「どうしたよ、んな顔して」
彼女の顔はほんのりと染まっていた。
行為に上気しているというのとはまた違って、まるで感情を隠すことを知らない少女のような。
そんな印象を持ったのは彼女の表情のせいだ。
驚いたような目で彼を見ている。
「お前……もしかして口説いてるのか?」
面白い台詞に彼は額へと唇を落とした。
「まったく、そういうことを直に言ってくるところがらしいよな。順序が逆だと思うが、まあ
そういうこった」
逆、というのは告白が行為と前後したことについてだろう。
くったくのない笑顔で、もしかしてからかっているのかとさえ思えるような迷いのなさだ。
「……」
「なんとか言ったらどうだ」
口ではそう言ったが、彼はすぐに答えを聞くつもりはないのだろう。
68 :
52-17:2008/06/16(月) 22:23:03 ID:qAJbR2Tg
掌の中で硬くなった部分を口に含むと舌先で転がす。
「ん……ンっ、だって……お前っ」
張った腰から尻へも手を伸ばした。
「いつから……」
「さてなあ、俺もちょっと憶えてねえ」
胸元で呟く彼と目が合ってアルミラは戸惑った。
いつものように伝法な口調で話している彼は今までに見たことのないような――真面目で
誠実な――顔をしていたからだ。
それが寄って来たかと思うと頬へ、鼻へと口付けられる。
眼帯の上にも。
「いつか、これの理由を聞いてみたいと思ってた」
再び両手が彼女の胸の先端を嬲る。
「ぁ……ぁああっ、興味……ないのかと」
「少年少女みたいな甘ったるいやりとりは苦手なんだ。それにあんまり突っ込んだこと聞く
のもな」
誰にだって言いたくない過去はあるもの。話してくれれば嬉しいが、だからと言って強引に
聞こうとは思っていなかった。
アルミラは長い脚を彼の腰へとやった。後ろで交差させるとひと息に締め付ける。
「うぉっ……!何すんだよ」
「お前、人の話を聞いてるのか?」
「んだよ、ちゃんと聞いてるぜ、お前の話は。……だいたい俺がどうとか言うけどよ、お前の
方はどう思って――」
はっとレオンは迂闊な発言に口を閉じた。
こんな女々しいことを言うつもりはなかったのだろう。
小さく舌打ちするとこれ以上余計な発言をしないよう、再び豊かな乳房に舌を這わせた。
「レオン」
「だから……何だって」
みっともない自分に苛立ちを覚えぶっきらぼうに答える。
「好きだぞ?」
彼は目を丸くした。
丸い半球から顔を上げる。
「甘いものが大好きだと以前話しただろうに」
甘ったるいやりとり、という言葉にかけての発言らしい。
レオンは彼女の胸の上に突っ伏し肩を震わせて笑っている。いつものように大笑いしないのは
彼なりに状況を考えてのことだろう。
だが必死に堪える様子がアルミラのお気に召さなかったようだ。
「くすぐったいな……おい、人が真面目に言ってるのに、なんだその態度は」
胸元にかかる彼の前髪をよけるように、かきあげながら額を押して自分へと向かせる。
「……っくく、そりゃこっちの台詞だ……。まったくよ、愛だの恋だの関係ねえって顔して
るくせに、いきなりそういうことを言いやがる。まったくビックリ箱みてーな女だよ、お前は。
大体なんで疑問文なんだ……こういう時ぐらい言い切ってくれよ……」
そう言ってなおもひぃひぃと笑っている。
「愛の告白をした女性に向かってなんだ、その態度は。失礼だと思わないのか?」
「いや、悪かった」
強引に彼女の脚を開かせ拘束から抜け出すと自身の顔をアルミラの真上へともってゆく。
「言わなくても分かるだろ、っていうのは甘えかね?」
「あぁ。そういう事を言う男は女に逃げられる」
彼はその台詞に肩をすくめた。脅されてると思ったのかもしれない。
「伝えたい気持ちがあるなら口に出して形にしないとな」
「いいぜ」
アルミラの腰をしっかりと抱え、繋がったままの部分へさらに腰を押しつける。
「……ぁん……」
「何回でも百万回でも言ってやる」
一度自身をぎりぎりまで引き抜くと再び彼女の中心に突き立てた。
「あぁっ……!」
69 :
52-18:2008/06/16(月) 22:23:46 ID:qAJbR2Tg
「愛してるぜ」
顔を反らし喘ぐ女の喉に噛みつくように口付けをする。
下の方からは中をかき回す動きにぐちゅぐちゅと音が聞こえた。
「愛してる」
「あっ、あぁ……!レオン、レオン……レオ……ッ!」
「あんまり呼ぶな、我慢出来なく……なっちまうだろ……」
切なげに自分の名を呼ぶ声に自然、レオンの動きは勢いを増した。
抽迭を繰り返しても弱まることのない圧迫感。かさばった先端の形にぴったりとなじむ膣内は
彼の出し入れに快感を得、そして与えるためだけにくっしょりと濡れて温かく締め付けた。
アルミラが男にしがみつく。
ややあってその手から力が抜けるのが分かった。
「や、っぁ……あぁ――」
直後にアルミラの体が大きくのけ反り、それを追うようにレオンも絶頂を迎えた。
しばらく抱き合ったままじっとしていたが、レオンがアルミラの肩口に顔を埋めたまま変な
声を上げた。
「ふえー……」
「レオン?」
訝しむ彼女に顔だけ向ける。
「マジ気持ち良かった……なんだこれ……」
余程気持ち良かったのだろう、力ない笑顔だ。
アルミラの横顔に口付けると彼女からも同じものが返ってきた。
「何よりだ。私も――非常に気持ち良かったぞ」
非常に、とはまた堅苦しい表現だが、特に言うほど彼女にとってもレオンとの行為は快感
だったのだろう。
彼女の中から出て隣に寝転ぶと仰向けになり腕で顔を隠すようにした。
「あーもう……」
レオンはまだ肩で息をしている。
「OZだった頃にお前と関係持たなくて、ほんっとーに良かったぜ」
「何故」
当然の質問にアルミラを優しく睨むと次いで困ったように笑った。
「もしあの頃お前としてたらな。絶対に任務を疎かにしてた自信がある」
「仮定でも私のせいにされるのは気に入らないが……相性がいいってことかも知れんな」
「色気のねえ台詞だ」
レオンは吹き出した。
細い指が男の上半身に触れる。
「きれいな体だ」
彼はさて、と首を反らした。
斜めに彼女を見やる。
そっと触れる指先に、レオンは照れを隠すように言い返した。
「きれいとはとてもじゃないが言えねえよ。でかい傷がある」
「傷……?勲章だろう、これは」
上からつ、と横に走る傷痕をまたいで指を下ろしてゆく。へその下で動きを止めるとそのまま
脇腹を撫でるように手をまわした。
「良く鍛えられてる」
「まぁ、体を使う仕事だったからな。ヴィティスもカインもこんなもんだったし、ガルム
なんかはもっとすごいぜ」
「こんな時にほかの男を引き合いに出すか?さっきはぶつくさ言っていたくせに」
彼女は半ば呆れながらそっと厚い胸板に寄り添った。
ほんの少し顔をあげ、目の前にあるレオンの顎に軽く口付ける。
「生き物と言うのは結局こういうものなのかも知れないな……」
「うん?」
「命がけの行為の後にはこうして誰かにそばにいて欲しくなる。温もりが――欲しくなるんだ。
それだけが生きている証しというわけでもないのに」
70 :
52-19:2008/06/16(月) 22:24:18 ID:qAJbR2Tg
静かに話す彼女に、その長い髪を撫でながらレオンが口を開いた。
「即物的って言いたいのか?……でもそれは気持ちが欲しがるってことなんだろ?俺はいいと
思うぜ。たとえそれが本能から来るものでもよ。ま、合意の上ならって話だが」
「そうだな」
レオンの胸の上に向き合うようにのりあげるとアルミラは小さく首を傾げた。
「お前はどうなんだ?合意と言うが、私にあんな誘いをかけられてすぐ納得したのか?」
「おいおい、ああいうことを言わせた挙句それを聞くか……?いつもうるさく言うくせに、
本当に人の話を聞いてたのかねえ……」
あんまりな質問にしかめっ面になる。
本当は笑いだしそうになるのをごまかすためだ。
「だからよ、まず気持ちがあってだな……言っとくけどお前が好きだっつう話だぞ?すると
やっぱり相手の全部が欲しくなるだろ」
「ああ」
「そりゃ俺にだって見栄を張りたいって気持ちがある。最初はお前の話にほいほいのるのも
みっともないと思ったんだが……」
アルミラが意外だとでもいうように眉をあげた。
それに彼は肩をすくめると天井を見上げたままその時の心境を語った。
少し視線を下げるアルミラの顔がそこにある。
OZでいた頃も、降格されてからの十五年という短くない日々も、彼女との距離をここまで
縮められる日が来るとは思っていなかった。来るとしてもそれは果てしなく、永遠のように
遠いだろうと思っていた。
遅ればせながらじんわりと湧きあがってくる感動にレオンはしみじみと上にいる女の顔を
眺めた。
彼女はじっと自分を見つめて次の言葉を待っている。
「神の野郎共の支配も解けたし、お前のことを無理に頭から締め出す必要もなくなったからな。
つまり何が言いたいのかってえと……無駄に機会を逃す手もねえかと思い直したんだ。体の
関係を持っちまえば多少は心も動くかも、とかな。下心満載だと我ながら思うが――そこに
つけ込んでみようと思った」
「……普通そういうことは黙っているものだと思うぞ?」
レオンらしいあけすけさに思わず笑いをもらす。
「さて――」
「ん?」
「明日から……ってもう今日だがこれからどうする?」
「とりあえず今日一日くらいは休んでもいいんじゃねえか?人のせいにする気はねえが、
ここんとこ俺達随分頑張ってただろ?……当分ここに世話になりたいとは思っているが」
「フィール達は反対しないだろうな。村の復興を助けたいんだろう?」
「お見通しか。まあ俺の気が済むってだけだが、ちったあ役に立つかと思ってよ。ただ……」
「怪しまれるだろうな、やはり」
村人に、だ。
「だろ?ボウズになんて言ってもらえばいいのか見当がつかねえ」
「正直に言ってもいいのではないか?幸いこの村では一人の死者も出していないし。私も
装甲化した姿しか見られていないからその辺は誤魔化しようがあると思う」
「実はガキどもに期待してるんだが……」
「私も考えた。テオロギアを攻略している途中、何度も顔を合わせた子もいるし、口添えが
期待できるんではないかと」
寝台で肘をつき考え込んでいたが、不意にレオンが耳に噛みついてきた。
「おい……止せ。もう朝だぞ」
「いいだろ、まだ起きるにゃ早ええ」
窓の外を見ると薄い布越しの景色は漆黒から藍色へと移行し、木々の輪郭をぼんやりと浮かび
上がらせていた。
「確かに早い……がフィールはもう起きている」
早朝のため二人に気を遣っているのだろう。遠慮がちな物音が廊下の方から聞こえてきていた。
ほら、と言いながらアルミラがレオンの上から起き上がる。
「我々がいつまでも寝ているわけにはいくまい」
71 :
52-20:2008/06/16(月) 22:24:47 ID:qAJbR2Tg
「寝てるったって俺達一睡もしてねえじゃねえか。俺はいいけどよ。お前、体大丈夫か?」
「お前な……そういう気遣いをするならなお疲れるようなことに誘うんじゃない」
当然の抗議にレオンが苦笑いした。
「あー……確かに」
そういった折りも折り、控え目に扉を叩く音がした。
思わず二人が動きを止め耳をそばだてる。
「んー、まだやっぱり早いかな」
「二人とも疲れてるだろうし、起きてくるまでそっとしておいてあげようよ」
「でも目が覚めて誰もいなかったらきっとびっくりするよ」
「とりあえず書置きしておこうか」
「分かるかなあ。ね、お兄ちゃん。カテナの人って私たちと同じ字を使うの?」
「うーん、それは分からないけど……話してて通じるし、大丈夫じゃないかな」
そんな会話が漏れ聞こえてきて室内の二人は目を見合わせた。
外の声と足音が遠ざかっていったのを確認してから口を開く。
「昨夜休むのが早かったとはいえ、さすがに若いな。連日動き回っていたのは我々も一緒だと
いうのに」
村の人々もフィールがテオロギアまで行って子供達を助けたことを知っている。しばらく
休んでいても何も言わないだろうに、本人が村のために働きたいのだろう。
満身創痍にもかかわらず気力が充実しているのか、こんな朝早くからあちこちの片付けに行く
らしい。
疲れを訴えるアルミラにレオンが労わりの言葉をかけた。
「そんなにだるいのか?もう少し休んでろよ」
自分は平気らしいレオンの台詞に彼女は枕へ突っ伏した。
ちらと彼を横目で見ながら責めるともなく呟く。
「原因の半分はお前だぞ」
「あぁ――?マジかよ」
「あのな!お前、自分がどれだけ――」
隣の男を指差し文句を言おうとしたが、その内容に羞恥をおぼえたらしく口をつぐんでしまう。
そんな彼女にレオンは面白そうに問いかけた。
「どれだけ……なんだって?」
「なんでもない。……にやにやするな、気色悪い!」
「にやにやするようなことを言うお前が悪いんだろ?……まったく殺されるね、お前の台詞に」
彼はアルミラの薄い肩を掴み向こうへ押し倒すと、その上に体重をかけないようのりあがった。
「折角だ。足腰を完全に立たなくしてやる。だから今日一日、ゆっくり休んでな」
耳元に囁きながら、アルミラの耳朶にちゅ、と唇を落とした。
レオンの顔が首筋へと動いてゆくと頭の上でため息が聞こえる。
「ものは言いようだな」
「だろ?」
彼女の嘆息に悪戯っぽく笑うと、二人は視線と口付けを交わした――深く、深く。
「ふ……っん、はぁ……でも……誘惑されるのは嫌いじゃない」
「相手は誰でもいいなんて言うなよ?」
片目を閉じてみせる男にアルミラはもう一度ため息をついた。
する、とレオンの背に腕を回し引き寄せる。
「お前は本当に馬鹿ばかり言う……」
〜おしまい〜
なげぇwwww
でもGJ、久々の等価だし嬉しい
うぉぉぉぉぉ!とうとうレオミラだ!しかも大作!God Job!!!
こんなにキャラが改悪されてないレオミラは初めて読んだ。かなり感動。
やっぱりこーゆーのが大人の関係だよな。
>52
いつもの人(だよね?)超GJ!
この組み合わせもいけるなんてすごいぜ!
残るはティスミラだけだな!
>>75 テスミラに見えて、テセラと絡むアルミラ想像しちゃったじゃないか
空中でまぐわうのか
新しいな
アルミラママンに母乳プレイをお願いしたい
>52
遅れ馳せながらGJ!
レオンいい男だよレオン(*´Д`)ハァハァ
職人募集スレで募集してみたいのだが
募集しても来ないんじゃねーの?
ここは投下があっても、てもろくに感想もGJもないほど過疎スレだし。
・・・あ、俺はいつものネ申じゃないぞ。
レスなんて三つもつけば十分だと思うが
募集に否定的みたいだし止めておくよ
書き手のモチベーション的に三つで十分とはあまり思えないが、そんなもんなの?
何年前のゲームだと思ってるんだ
何本売れたゲームだと思ってるんだ
わからんw
でもあんまりレスついてない時もあったし
いつもの人は現状で満足してるんじゃないか?
3年前のゲームで売り上げは4万本以下
>85
募集したところで結果は見えて・・・ (´;ω;`)ウッ…
二次スレは原作の知名度が重要だからなあ・・・
旅先で偶然、入浴中のフィールとばったり鉢合わせしてしまったアルミラさん
「フィール!偶然だな!」
と言って遠慮なく湯船に入ってくるアルミラ
「ア、アルミラ!?なんでここに……!?っていうか、前隠して、前っ!」
顔を真っ赤にするフィール
無理あるwww
アルミラさんにはパイズリして欲しい
ジュジュには足コキをお願いしたい
ドロシーにはコスプレさせたい
>81
どんなのが読みたい?
書くほうにすりゃ勿論第一に自己満足だが、
喜ばれるに越したことはないし。
かくいう自分は、神投下があったばかりだというのにレオミラが読みたいんだぜ。
ガルムとジュジュかな
95 :
81:2008/06/29(日) 23:38:54 ID:qfchhC6R
フィール×ジュジュ。でも書きたいもの書いてくれればなんでも嬉しい。
期待して待ってる!
おれはテセラ×アルミラ
アルミラさんならやはり少年の筆おろしだろう
筆おろしハァハァ
筆おろしものは男のロマン
100 :
名無しさん@ピンキー:2008/07/07(月) 23:08:33 ID:3uJclKzT
100ゲット!
独り寝に慣れてるヴィティスの話を投下します。暇つぶしにでも。
エロなしですが、女が一人出てくるのではっきり「OZのキャラクターじゃないと嫌!」な方は
スルーしてください。(どうしても四組と一人になってしまうのでなんとも)
>>93 全裸で待ってます!!
102 :
102-1:2008/07/08(火) 00:44:37 ID:XV9bRZMe
「やれやれ……」
酒屋の背中を見送って私は店の扉を閉めた。
慌ててフィール君の家から帰って来た時、酒屋の主人はちょうど留守だと諦めて帰るところ
だったという。
私が見たのは彼が馬の首を返しているところだった。
あんなに焦ったことは最近ない。
主人に駆け寄って留守を謝罪したが、当然機嫌を悪くしただろうと思った。
しかし意外にも彼は一山越えての道のりが無駄にならなくてすんだと笑って許してくれた。
以前より私に対するあたりがやわらかくなった気がする。取引を重ねたことによって多少は
打ち解けてくれたということだろうか。
店の入口を入ってすぐの場所に木箱が五つ、積み上げられている。
この村はもともと人口の多い方ではない。となれば自然、客の数も消費される酒の量も知れて
いるというもの。それでも開店当時に比べれば酒屋との取引の頻度は増えているし、客の数も
しかり。
御使いの脅威がなくなったことが人々の心を健やかな状態へ向かわせているのだろう。
逃げ隠れせずに済むから田畑の面倒をきっちり見ることが出来る。その結果村全体の生産量も
あがり、人々の生活にゆとりが出てきたのだ。
そうなれば嗜好品への需要も少しずつ増えるというもの。
自然と口元が緩む。
少しずつだが経営が上向きになってきたことに満足を感じる。
常に酒を扱っていられること、そして自身の生活への安心を得たこと。なによりそれが人々に
平和が戻ってきたことを示すからだ。
すでに検品の済んだ品を休む間もなく棚に並べていく。空箱を店の裏に出してから、やっと
人心地がついた。
隙間なく瓶の並んでいる様子にはうっとりする。やはりこうでなくてはならないと、私は
自身の仕事に満足した。
「ふー……」
肩を回しながら店から自室へと続く扉をくぐる。
真っ直ぐ台所に向かい水差しから椀に透明の液体を注ぐと、動きっぱなしだった体に水分を
補給した。
立ったまま一息に飲み干すと思わずため息がもれる。
「久し振りに走ったからな……運動不足か」
OZであった頃と違い、こういう仕事では滅多に走ったりなんだりということはない。徐々に
失われてゆくだろう体力に何か運動でも始めるべきだろうかと真剣に考えた。
しかし体力をつけるという目的のために運動するのは何か腑に落ちないものを感じる。日常
生活で何らかの手段を探すべきだろうか。
「……」
とりあえずは現状維持でも大丈夫か。
面倒な考え事は後にして、私はもう一杯水を飲むと洗濯や掃除など、日中の仕事を済ませる
為に脱衣所に向かった。
103 :
102-2:2008/07/08(火) 00:45:25 ID:XV9bRZMe
この晩はレオンもガルムも飲みには来なかった。
ガルムにしてみれば秘すべき事柄を無理やり聞きだされ、足を向けたくなかったのだろう。
気持ちは良く分かる。
レオンの方はきっとアルミラに説教でもされているに違いない。彼女はレオン個人には
おおらかだが、誰かにかかわることとなると教師のように、あるいは親のようにうるさい
ところを見せる。きっと無断で外泊したこと、そして予告なくフィールの家に泊ったことに
ついて厳しく言い聞かせているのだ。
そして本人は『悪かったよ』と平謝り。
好き勝手しているようで、本当はレオンは彼女に頭が上がらないのは周知の事実。
その有様が目に浮かぶようで寝台に一人横になりながらつい笑ってしまった。
それにしても今日は朝から疲れる一日だった。
ごろりと寝がえりを打つ。
「……」
ふと戸締まりについて不安を覚えた。
いや、きちんとしたはずだ。だが店も裏口も、いつも流れで鍵をかけるので半ば無意識の
行動のせいか、時折こんな風にどうだったかと心配になるのだ。
「……」
大丈夫だろうと目を閉じたがやはり気になる。
このまま悶々としていても仕方がないので私は諦めて寝台を降りた。
部屋履きを履き店へ向かうと住居部分と繋がっているカウンターの内側から出て、壁際に行く。
窓という窓、そして店の扉が確かに締まっていることを確認してようやく安心した。
戸締まりや火の始末というのは一度気にしてしまうとはっきり思い出せることが少ない。
ぐずぐず思い悩んでいるよりさっさと見に行っていしまった方が精神衛生上良いのだ。
そして再び横になってしばらく、とんとんと控え目に訪問を知らせる音が聞こえた。真夜中
だからと気を使っているのだろう。
裏口だ。
こんな時間の来客だが、相手が誰かは見当が付いている。
私は眠気を払って再び寝台を降りた。
「どうぞ」
扉を開き中へ招き入れる。
先に立って寝室へ入り彼女を座らせると、棚から葡萄酒と酒杯を二つとった。寝台の手前に
あるテーブルに置き二言三言交わしながらそれを注ぐ。
彼女は短く礼を言って受け取り、小さく乾杯をしてそれに口をつけた。
赤く輝く液体はいつ見ても美しい。私にとっては宝石より貴いものだ。
余程うっとりしていたらしい。彼女はしみじみとこちらを見て『本当にお酒が好きなのね』と
呆れたように言った。それでも『私とどちらが……』なんていう定型的な質問をしてくること
はない。
微笑む彼女の唇も美しく、私は目を細めてそれを眺めた。口腔を満たす香りに勝るとも劣らぬ、
雨の中にきりりと咲く花のような。
葡萄酒と違うのは濡れた赤味が男の情欲をそそるというところだろうか。
隣どうしに座り他愛のない話をしては口付けを交わす。向こうもそのつもりで来ているから
今さら嫌がるようなことはなかった。
そして互いの身に着けているものを脱がせ合って性欲を満たすためだけの行為に及ぶ。
寝台の上で身動きするたびに下から甘やかな吐息が聞こえた。
酒に酔うように、互いの与えあう快感に酔う。鼻をくすぐる汗の匂いすら、相手の魅力を増す
要素に過ぎない。
美しい体と惜しまぬ奉仕。機会を得るのは彼女の気まぐれによるものだが、私に文句のあろう
はずもなかった。
104 :
102-3:2008/07/08(火) 00:46:36 ID:XV9bRZMe
彼女はその後私の腕の中でしばらく休み、夜が明けぬうちにと帰って行った。
暗いから送って行こうと言っても人に見られたら困るからと頑なに拒む。それもまた、いつも
通りの会話だ。
裏口にもたれ、彼女の姿が遠く藍色に溶けるのを見届けると、私は再び寝室に戻った。
置いたままの酒杯にもう一杯注ぎ窓際に立つ。
東の空はすでに薄紫から水色へと変化を遂げている。
夜明けだ。
灯りなど必要ないといつも言っていたが、彼女は無事家に着いただろうか。
薄く笑って酒杯に口をつける。適度な運動の後は喉が渇くのだ。
こんなことを言ったら怒られるだろうが。
レオンやガルムはいい相手はいないのかと訊いてくる。だが、特定のパートナーではないが、
こうして時々会う相手はいるし特に不自由は感じていない。
彼女が求めているものは快楽と背徳感なのだろう。
互いに特別な感情を持たない割り切った関係、それに不満はなかった。
そんなことを考えながらさらに酒杯を傾ける。一人の時は何かしら考え事をしながら飲むのが
癖になっていてつい飲み過ぎてしまう。だが今は純粋に喉の渇きを潤したかった。
一杯だけと中身の残った瓶に栓をして棚へ戻す。
ふう、と行為後の気だるさに一つ伸びをして寝台へもぐった。
レオンに独り寝は慣れていると言ったのは本当のこと。私はこの部屋で誰かと朝を迎えた
ことがない。
ただ、今は決まった相手を求めるよりも、酒場の店主として店の経営を考えている方が楽しい
のだ。
こんなことを言ったらレオンにはまた呆れられるだろうが。彼は誰か紹介しようかと身を乗り
出してくるだろう。案外世話焼きなところがある彼には時々閉口させられる。
怒りっぽいところがあるがおおらかと言えばおおらかな男だ。少し年配の女性のようなところ
もある。
それこそ怒るに違いない、言ったりはしないが。
私は苦笑いをしつつ燭台の灯りを吹き消した。それが必要ないほどすでに室内は明るくなって
きている。
私は差し込む光から逃げるように掛布を引き被った。
〜おしまい〜
ヴなんとかGJ!!
ごめん、みんな
今だから告白する
ヴなんとかを始めに言い出したのは俺なんだ・・・
>>52 レオンもアルミラもらしくって、実際ありそうだと思えた
すんごい萌えた。ごちそうさまでした
梅雨なのでしっとりぐっちょりなエロが
海の日なので、白い浜辺でキャッキャッうふふなSSが
黒いビキニに揺れるアルミラさんの胸!!
つうこんのいちげき!! フィールは はなぢをだした!!
スクール水着に微塵も揺れないジュジュの胸!!
まないたは いもうとのみずぎで みなれている!! フィールは ひらりとみをかわした!!
揺れないのがイイんじゃないか!
ほ
OZクリアした。断章見て思ったんだけど、ヴがカイン粛正に来たのは
カイン失踪から3年後でその時フィールは2歳くらい?
カイン手早くね?
ひとめぼれからなだれ込みセーックス
ほっしゅ
カインも奥さんも上品な顔して
やることさっさとやってるのがギャップあっていい
ということは、その息子も…
アルミラさんに筆おろしをしてもらう
↓
ジュジュの初めてを美味しくいただく
なかなかやるな、フィールめ!!
まさか妹にまで手を(ry
当たり前じゃないですか
122 :
名無しさん@ピンキー:2008/08/20(水) 00:19:11 ID:pIfC0yDM
さすがカインの息子だ
ジュジュにえっちなおしおきされたい
したいじゃなくてされたいだと?
恥ずかしがりながらいじられるの希望
_ ∩
( ゚∀゚)彡 足コキ!! 足コキ!!
( ⊂彡
| |
し ⌒J
レクスコキ!痛い!
レクスコキということはアルミラさんか
素足のジュジュとレクスのアルミラさん、どっちがいいだろう
どっちがいいかなんて選べねええええええええええええええええええええええええ
レクスのアルミラさんで頼もうか
血まみれを選ぶか
お前ガッツあるな
足コキならジュジュ
素股ならアルミラさん
パイズリならアルミラさんに決まってる
カイン×細君、何回かに分けて投下します。
長いですがご容赦。
134 :
134-1:2008/09/17(水) 04:07:49 ID:Q0g4I+Ay
味方と言えばこの赤い生き物と戦力とも言えない神々の子だけ。
一方は私のレクスだしもう一方は反射的な攻撃を返すことしかできない。それでも話相手には
なってくれるし、あの子の存在は神々の支配を払うことが出来るのだと私を力づけてくれた。
自分の目指すものがどれほど厳しい道か覚悟はしていた。
暗い結末ばかりを考えていたら前に進めないから仕方が無い。とはいえ、それでも少し
楽天的に過ぎたんだと思う。
次々と追って来る御使い達相手に、私の精神は一月も耐えられなかった。
***
手近にある枝に手を伸ばす。
腹立ちまぎれにそれを引き下ろすと生木の裂ける音がした。両手で掴んで曲げてみれば
一息に折れることなくただぐにゃりと曲がるだけ。
ねじれた私の精神状態を表しているようだった。
「一体いつ生まれるんだ!?」
私の怒鳴り声に彼はふいとそっぽを向いた。
「もうすぐ、もうすぐって……君の時間の感覚は一体どうなっている!カテナと一緒なのか?
それとも、人間と同じなのか?」
「もうすぐはもうすぐだ。それしか言えん」
「まったく!頼りになる従者様だな!」
手にしていた枝を後ろに放り投げる。
くだらない嫌味を言っているのは分かっている。そんなことを言っても仕方がないのに。
しかし連戦に次ぐ連戦にやっとのことで追手を振りきっていた私には、彼を思いやる余裕が
なくなっていた。
逃げ始めたあの日以来、ゆっくり休みをとれたことはない。
短時間で出来るだけ深く眠り、だが周囲のエテリアの気配には常に気を配っていた。
御使いやあの不自然な存在であるしもべが近づいて来れば、それと察することが出来るように。
疲れがたまって寝入ってしまった時など、この赤いレクスに引っ掻き起こされたこともあった。
救いがあるとすればこのレクスを通じて知っているのか、それともエテリアを通して感じる
のか、『神々の子』がゆっくりでも私の後を付いてきてくれることだろうか。
押したり引いたりしなくても動いてくれるというのは、連れて逃げるという点でとても大事な
ことだったから。
追いつかれそうだと感じたら、話しかければその場にとどまってもくれる。
そのたび決して姿を見せないよう言い聞かせて私は追手を迎え撃った。
エテリアを引き寄せる性質がなかったら逃亡はもっと容易だったに違いない。
素直について来るあの子をさらにテオロギアから遠ざけなくてはと、私は私なりに必死だった。
私の言葉に怒るでもなく赤い生き物は淡々と答えた。
「それでもエテリアを呼び集めるということは以前に比べあまりなさらなくなった。多少は
神々の目を欺けているのではないか?」
「ああ……そうだね」
何が原因か、あの子は初めに比べると確かに落ち着いてきたようだった。
ありがたいことだ。
「あまり苛立つな、心を落ち着けろ。ご主人が不安がっておられる」
「……そうだよね……ごめん」
冷静な言葉に、私は後ろにいる白い球体に謝罪した。
最も冷静でいるべきは自分なのにと己の余裕のなさに、内心ため息が出た。
135 :
134-2:2008/09/17(水) 04:08:35 ID:Q0g4I+Ay
ふと顔を上げる。
遠くで何か聞こえたような。気のせいだろうか。
「……ね、今なにか……」
ゆっくりあたりを見回して赤い生き物に言いかける。
するとその声は、今度こそはっきり私の耳を打った。
「きゃ……!」
女性の声だ。
その瞬間私は弾かれたように駆けだしていた。
こんな森の中で悲鳴を上げる理由とは。
声を上げている人物は逃げているのだろう。誰か、と助けを呼ぶ声は向かう先で移動している
様子。
生い茂る藪をかき分け、私は道なき道を走った。
「助けて、誰か……!」
声の主はすぐそこだ。
ひときわ大きな茂みに飛び込むように突き抜けると、目の前に少女がいた。
「あ……」
交差する視線。
私の姿を認めて、だがどうしてか人が来て安心したと言う顔ではない。
顔を青く引きつらせて身を硬くする。
一瞬で大きな怪我のないことを確認しその後ろに目をやると、今まさに武器を振り上げている
ヴォロがいた。
考える間もなく少女の腕を掴み自分の後ろへと庇う。
しもべの鈍くも重い攻撃を蹴り飛ばし、ふらついたところにもう一度蹴りを見舞わせる。
地に転がったそれは何でもなかったように立ち上がり、今度は私めがけて攻撃の構えをとった。
「カイン!」
後ろから聞こえた鋭い声に、ヴォロに目を向けたまま右手をあげる。
するとものを言うレクスは瞬く間に大剣の形となり、私の掌におさまった。
しっくりと手に馴染んだもの。
振り下ろされる棍棒を跳ね上げて胴体を一薙ぎする。倒れたしもべに駄目押しとばかりに剣を
閃かせると、ヴォロはたちまち光の塊となった。
硬い外殻も肉の体ももうない。
エテリアの小さな集合は不自然な器から解放され宙に散っていった。
「はぁ……」
ヴォロ一体で良かった。御使いが相手だったらこうあっさりとは終わらなかったはず。
全速力で駆けたものだからなかなか動悸がおさまらない。額からつ、と流れる汗を拭うと件の
女性を振り返った。
あれきり声を上げないのは恐怖のためだろうか。相変わらず青い顔でこちらを見ている。
声をかけても返事はない。彼女もヴォロから逃げていたためか私と同じように息を切らして
いた。
「君は――」
私は苛立ちを止められなかった。
青ざめている少女の手首を掴み引き寄せると、彼女は一瞬顔をしかめた。
「どうしてこんな所にいる!」
「……!」
彼女は私の声にびくん、と肩を縮こまらせた。
「こんな時に一人で森を歩くなんて!その危険に気付くくらいの想像力もないのか!?」
「ごめんなさい……」
もう一度怒鳴りつけて、それでようやく返事があった。
しゅんとうなだれているのは本当に反省しているからか、それともいきなり知らない男に
説教をされた故か。
136 :
134-3:2008/09/17(水) 04:09:06 ID:Q0g4I+Ay
怯えているのは構った事ではなかった。これくらいで済んだだけありがたいと思って欲しい
ものだ。私がいなかったらしもべにやられて今頃息絶えていたかもしれないのだから。
「家は?」
私は横を向いたまま、彼女の顔も見ずに言った。
「え……」
「君の家だ。送って行く。……このまま一人で帰すわけにはいかないからね」
出会ってしまったからにはこれ以上一人で森を歩かせるわけにはいかない。本当はこんな
ことをしている場合じゃないのに。
寄り道なんかで時間を潰したくはなかった。だがそれをしなければこれ以上の犠牲を出さぬ
ように、という自分の決意に反する。
忌々しいことだ。
「今ので分かっただろうけど、この辺りは本当に危険なんだ……さ」
「……」
手を差し出せばその手を見つめる。それからやっと顔をこちらに向けた。
どうも動きの鈍い少女だ。
何を迷っているのか彼女は視線を周囲をさまよわせ、躊躇うようなそぶりで口を開いた。
「あの……一つ、聞いてもいいかしら?」
「なに?」
嫌々返事をする。
常識のない相手と口を利くのが嫌だったから自然返答はつっけんどんなものになった。
「あなたは……」
言いたいことがあればはっきり言えばいい。迷うなら言わなければいい。
はっきりしない相手の態度に私は顔をしかめた。
「だからなに?」
「あなた……もしかして、御使い……?」
「――」
そう聞かれた時、私の方こそ青ざめていたかもしれない。
改めて問われるまでもない。この格好が――なにより私が手にしているものが――全てを
物語っていた。
そうか。
だからこの少女は。
反応の鈍い娘だと思っていたけどようやく事情が飲み込めた。
動きづめで熱を持った体と正反対に、心の中は緊張で冷たくなる。
答えなくてはと口を開いたものの喉が震えているのが分かって声が出せなかった。
さっきの彼女もこうだったのかもしれない。
罵倒されるだろうか。
御使いであった時には気にもしなかったが、やはり責められるのは辛い。事実から逃げたいと
いう気持ちがあった。
だがそれは出来ない。
頷いただけで答えを返すと、差し出した手の先で彼女が小さく息を飲んだ。
「君……!」
右手のレクスを放り出してくずおれる体に慌てて両腕を伸ばす。
御使いという存在がどれほど恐ろしいのか。それと知った途端気を失ってしまったのだ。
抱きかかえれば華奢な体は軽く、身に着けているものを見ればやはりこんな森の中を歩く格好
ではない。まるでちょっとその辺りへと散歩にでも行くような。
どこから来たのだろう。
今、意識を失う寸前に死を覚悟したのだろうか。
自分を含む御使いという存在に、私は改めてやりきれなさを感じた。
137 :
134-4:2008/09/17(水) 04:09:33 ID:Q0g4I+Ay
「その娘、どうする」
すぐそこに草地を見つけ少女をやわらかな草の上に横たえると、後ろからあの赤い生き物が
声をかけてきた。
「どうもこうも……放っておくわけにもいかないし……。仕方ない、休憩がてら傍について
いるよ。そのうち気が付くだろう。君は『ご主人』を連れて来てくれないか?」
私達の後を追って近くまで来ているはずだ。
「分かった」
短く答えると赤い生き物は再び藪の中に入っていった。
「ああ、来たね」
少しして、木々の影にほんのりと輝く光球が見えた。
この子の姿を見るとホッとする。
神々の強制的に収集するのとは違って『ご主人』がエテリアに囲まれて輝く姿は、自然の風景
として調和が取れていた。
先にレクスが下の藪から出てくる。
「そちらには出ていかない方がいいか?」
木陰に隠れていた方が良いかと言う意味だ。
私は頷いた。
「そうだね……見られるのは避けたい。どんな娘かも分からないし、余計な情報は与えない
方がいいだろう」
「ふむ」
彼がそれを伝えると神々の子はそれ以上寄ってこようとはしなかった。
聞きわけのいい子だ。私達の話をきちんと理解しているのだろう。
その様子を見て少女を寝かせた木陰に自分も腰を下ろした。すると赤い生き物もやって来て
隣で丸くなる。こうしてみると本当に猫のようだ……顔以外は。
私は膝を抱えそこに顎をのせた。
「ね……」
「なんだ」
話しかけても顔を上げもしない。
眠たいのだろうか……尋ねたことはないけれどレクスも寝るのだろうか?こうして丸くなる
のは今までただのポーズだと思っていた。疑問があっても素直に聞いたりしないけど(どう
でもいいといえばどうでもいいことだし)、まあそのうち分かるだろう。
「さっきのヴォロだけど、あれは私達を追ってきたものかな」
「さて」
「私達……御使いは人々の粛清に行く時に彼等を連れていくだろう?人間との戦闘で機能を
損ったヴォロが、はぐれて辺りをさまよってるというのは時々あることだ」
レクスは目線だけで先を促してきた。
……これが分かるようになっただけでも大した進歩だと思う。黒目がなくてもそれなりに目で
ものを言えるんだな。
「ご主人を追ってきたものなら確かに危険だが……そうではなかろう。もしもそうならば、
あれ一体ということはあるまい。ヴォロごときの手に負えるご主人ではないからな。最低でも
OZ程度の実力者でなくては話にならん」
彼は億劫そうに答えてくれた。
自分への褒め言葉ともとれる台詞に隣を見ると彼もこちらを向いた。いっそう目を細める。
「ヴィティスにもそれはもう分かっているだろうな」
「あぁ、そ……」
そうだね、と。あまりに自然な流れに思わず頷きそうになったが、彼の発言にあの日以来
会っていない友人を思い出した。
ヴィティス。
私の親しい友達。
138 :
134-5:2008/09/17(水) 04:10:05 ID:Q0g4I+Ay
彼は私の副官のような仕事をしていた。と言っても命じられてではない。私の仕事ぶりを
見るに見かねてのことだ。
どうして、と問えば毎回同じ答えが返ってきた。
『君の仕事が滞ると下の者に差し支えるからな』と。
つまらない言い訳をするなあと思ったことは多分ばれている。その上で忙しい私を助けて
くれていたのだ。自分だって忙しいのに。
次期の長候補としてその有能さは皆に認められていたから、きっと今頃はその地位について
いるのだろう。
「そうだね……。私が生きてること……あの子を助けているのにもう気が付いているかな」
「さあな。こればかりはなんとも言えん」
無駄に部下の命を散らすような男ではない。
私は死んだと思われてたし、彼等の油断を誘うためにも存在を知られたくなかった。
それゆえ追手のすべてに、本意ではないが――本当に本意ではなかったのだが――止めを
刺して地に埋めた。ヴォロはエテリアに還るが御使いはそうはいかない。遺体を改められれば
レクスによる傷だとばれてしまう。
だから土の中に隠した。心の中で何度も謝りながら。
ヴィティスは戻らぬ仲間、見つからぬ遺体に何かがあるのだと察しただろう。
もういっそ神々の子を諦めてくれればとも願うが、それは叶わぬこと。神々の命令は撤回
されぬ限り止めることはない。かつての私がそうだったし……彼もそうだろう。
「得体が知れないと手控えてくれればありがたいけど」
「そうはならんぞ。そんな消極的な男ではない。よく知っているはずだ」
「うん。君と同じくらいね……」
誘惑に負けて目を閉じる。
瞼の裏がぼんやりと霞がかって来た。
「ねえ、君。ふぁ……」
駄目だ。
「どうした……おい?お前こんな時に寝るつもりか」
ごろりと少女の隣で横になると彼が非難がましく言った。
私は構わず腕を枕に目を瞑る。
「こんな時って言うけどさ、眠い時は眠いんだよ。睡眠時間はまちまちで、量も全然、足りて
な……」
とりあえず敵はいないしいいだろう。何かあれば気配で気が付くから。
彼が耳元でなんだかんだと騒いでいるのを聞いて、だがもうそれを理解できるほど頭は働いて
いなかった。
レクスの声に最後まで答えないまま、私の意識は暗闇に落ちて行った。
「ん……くしゅん!」
空気が冷たくて体が震えた。
寒い。
「うー……」
まずい、空気が冷えるほどの時間まで眠ってしまった。こんなにゆっくり眠れたのは久し振り
だけど。
目をこすりながらそう思った瞬間、完全に覚醒した。勢いよく上体を起こす。
そうだ、あの少女は――!
彼女は私の隣にはいなかった。
焦って辺りに視線を巡らせると少し離れたところであの赤い生き物を構っている。
そちらを見ている私に、彼が最初に気付いた。
少女に抱えられていたのを腕から飛び降りてこちらへと駆け寄ってくる。にゃあと鳴いている
ところを見ると、どうやら猫で通すつもりらしい。……それで通用するのかどうかは置いて
おいて。
139 :
134-6:2008/09/17(水) 04:10:34 ID:Q0g4I+Ay
足をがりがりと引っ掻くので私も腕に抱えてやる。するとすっかり大人しくなった。彼がその
つもりならと私も普通の猫のように扱う。喉を撫でてやると気持ち良さそうに目を細めるが
やはり少し怖い顔だと思った。
「やあ……怪我はないかい?」
立ち上がりながら少女に何気なく問いかけた。あまり真剣な顔をしたら怯えられると思った
から。でもよく考えたらあんな風に怒鳴った後では意味がないかもしれない。
「……ないわ」
彼女は少し緊張しているのか声が硬い。
「そう。それなら良かった」
大袈裟でなく安心し、自然と笑みがもれた。
少女はそんな私をじっと見ている。
それにしても、なぜ逃げなかったのだろう。私が眠っている間に立ち去ることだって出来た
だろうに。あんな風に猫を構って遊んでいるなんて。
目を閉じて感覚を研ぎ澄ます。とりあえず敵の……テオロギアの追手が迫ってくる気配はない。
もう猫の頭を撫でると一歩踏み出した。
「もう一度聞くけど、君はどこから来たんだい?もう日が暮れる。送って行くから」
「……」
ここで初めて彼女は険しい目つきになった。
「そうして私の村を突き止めるの?村の人達を……殺すの?」
「――!」
そうか。そういう発想になるのか。
彼女の攻撃的な台詞に私は自分の鈍感さを思い知った。
「そんなことしやしないよ。確かに……私は御使いではあったが、今は彼等と別の意思で
動いている。人々に信仰を強制したりしないし、従わないからといって殺すつもりも攫う
つもりもない」
「まさか」
「本当さ。疑われるのは分かるし仕方ないけど、でなきゃたった一人でこんな所にいない。
神命に臨む際は普通なら複数人で組んで、あるいはヴォロ達しもべを連れて行動をするからね」
神々が現れて数百年、これくらいはとうに知っているかと思ったが違っていたらしい。案外
知られていないものだと考えていると、今度は違うことを聞いてきた。
「……別の意志って、何のこと?」
これだっていちいち答える必要はなかったが、どうしてか敵ではないのだと知って欲しかった。
彼女の攻撃性が恐れからくるものだと思うから不安を取り除いてやりたいのかもしれない。
「私はもう神々に従うことは出来ないということ」
「仲間を裏切ったの?」
私の台詞が予想外の言葉だったのか、眉をひそめより正確な回答を求めてくる。
「彼等はそう言うだろうね。私の見解は違うけれど。もっと言うなら――神々の支配する世を
終わらせたいと思っている」
「――!」
今度は少女の方が息をのんだ。
「今日はよく驚く日だ?」
思った通りの反応に笑みがもれる。
ヴォロに襲われたりそれを御使いに助けられたり、挙句の果てに御使いが『神々を倒す』
なんて言いだす。人にしてみればそんなことは想像の埒外だろう。
「馬鹿にしないで」
強い語調に一瞬きょとんとした顔をしてしまった。そんなつもりはなかったんだけど。
今のは自嘲的な意味だったのだが確かにそんなことは伝わらなくて当然。私は謝意を込めて
頭を下げた。
「ごめん。そんなつもりじゃなかった……謝るよ」
すると少女はゆうゆると首を横に振った。
体の前で重ねていた手をぎゅっと握りしめて草地に視線を落したまま呟いた。
「あなたの言うこと、どこまで信じられるのかしら。……分からないわ。今まで御使いがして
きたことを考えると」
140 :
134-7:2008/09/17(水) 04:11:06 ID:Q0g4I+Ay
「信じられなくても無理はないよ。でも――本当に悪意はないんだ。夜が更けようって時間に
女の子を一人歩きさせるなんて私には出来ない。さっきみたいなことだってあるしね。もし
私が付いてくるのは嫌だって言うならこいつを連れてってくれてもいい」
彼なら何かあれば私のところへ飛んできて知らせてくれるだろう。
そう思って猫を示したが彼女は頷かなかった。じいっと私の顔を見つめて、そのまなざしの
真剣さに目を逸らすことも出来ない。
そして次に彼女の発した一言はまさに予想外だった。
「いいわ。信じるわ」
私こそ目を見開いて相当な間抜け面だったろう。
口ばっかりでもそんなことを言ってもらえるとは思わなかったから、何と答えたらいいのか
分からなかった。
彼女の目は鋭い光をはらんでいて――もし嘘をついたら怖いわよと――信じると言ったのが
口先だけでないのがはっきりと見て取れた。
そして一転、彼女は眉尻を下げ申し訳なさそうな顔になった。
「私、まだお礼も言ってなかった」
「ああ……」
「助けてくれてありがとう。近くに御使いが現れたって話も聞いていなかったし、まさか
こんな事になるとは思わなかったの」
ゆっくり近づいてくる。
まさかそれを言うためだけに危険と知りながら私の目覚めを待っていたのだろうか。
にゃあ、と手元で声がして、赤い猫が私の腕から飛び降りた。少女の元に駆け寄るとさっきの
ように抱きあげられる。
ふふ、と微笑みながら彼女は猫の頭を撫でたり喉を鳴らしたりした。
そしてそのままの顔で私を見て言った。
「申し訳ないけれど家まで送って行ってくれる?」
「それはもちろん」
頷くと彼女はにっこりと笑った。
誰かのこんな笑顔を見たのはどのくらいぶりだろうか。仲間と袂を分かってからしばらく、
やさしい顔を向けられたことがなかったからそれだけで胸の奥がじんとなった。
「どっちから来たのかは分かる?」
「ええ。こちらよ」
もちろん、と示してくれたのにはほっとした。こんな道のない森の中は目印なしでは迷っても
当然。送るとは宣言したものの、どっちだったかしらなんて言われたら途方に暮れる所だった。
「君はこの辺りに住んでいるの?」
「でなければこんな格好で森の中を歩いていたりしないわ」
「確かに」
その通りだ。森を歩くに相応しい格好ではないという自覚はあるらしい。
しかし村などあっただろうか。
この辺りを通ることは時々あった。
と言ってもテセラを使い上空を通り過ぎるばかりだったが。それでも人が住んでいる様子は
なかったはず。自分が見落としていただけだろうか。
「こっちよ」
彼女の足取りに迷いはない。
この辺りの地理がしっかり頭に入っているのだろう。とすればやはり私達が気付かなかった
村が存在するのか。
「道もないのによく分かるね」
「あら。うろうろしてればそれなりに覚えるわ。最も、だからあんまり行ったことのない
ところには行かないけれど。谷間の中だからなんて気を抜いていたら遭難してしまうもの」
彼女は茂みのないところを選んで歩いている。
藪なんか裾をからげて通らなければ枝に引っ掛けて破れてしまうからだろう。
「聞いてもいいかしら」
「なんだい?」
141 :
134-8:2008/09/17(水) 04:11:35 ID:Q0g4I+Ay
「あれ……なんなの?」
彼女はちら、と後ろに視線をやった。
そう、そこにいるのは光る球体。
神々の子だ。
言われた通り隠れていたのだが移動を始めたらいつものように私の後をついて来てしまった。
とはいえあの場所に残しておくわけにもいかないし、だからといってあの子のことは丁寧に
説明する気はなかった。
「怪しくないから大丈夫だよ」
「……」
とりあえず微笑んで見せたけれど効果はなかったらしい。疑わしそうな表情だ。
「この上なく怪しいと思うけど……あれも神々の作ったもの?人を殺すの?」
「あ……」
そうだった。彼等人間の関心は常にそこにあるんだ。
私は説明不足を知り、慌てて付け加えた。
「いや、この子はそういう目的で造られたんじゃないんだ。まだ子供だけど神々の支配からは
自由だし、そんな危険な存在ではないよ」
「だからなの?」
「え?」
「その子を連れて逃げているのかしら、と思って」
私は息をのんだ。
どうして追われているということを?何故――。
無意識に睨んでいたかもしれない。
そのせいか彼女は少しひるんだ風に私の顔をうかがった。
「あの……あなたの格好、随分くたびれているみたいだから……それに、さっきまでずっと
寝ていたし」
「……!」
「あんな所なのによく眠っていたわ。……疲れてるんでしょう?」
言われて自分の体を見下ろす。
確かにくたびれてるかもしれない。この服は戦闘用でそれこそ随分丈夫なのだが、時折り川を
見つけては洗濯するだけであとはずっと着続けだったから。
着たきりなのは自分がOZを離脱した状況から仕方がないこととはいえ、それを人に知られた
のはなんだか恥ずかしかった。
「洞察力があるね」
感心を肯定ととらえたのか、彼女は少し得意げに片目を閉じてみせた。
「ふふ、よく言われるわ。でも、あんまり女の子に対する褒め言葉でもないわね」
「確かに」
久し振りにあの猫意外と話をして笑った。
アルミラ達と別れてからまだたった一か月と少ししか経っていないのに、御使い時代がとても
遠い昔に思えた。
もう辺りは真っ暗だ。
私は夜目が利くからいいけれど彼女には見えているのだろうか。しかし木の根につまづく
様子もないし、本人が言っていた通りこの辺りをよく知っているのだろう。
そう思った折りも折り、少女は立ち止まり前方を指差した。
「あそこよ」
「……?」
木々の向こうには確かに建物の輪郭が見えた。だが灯りがない。
私は目をすがめた。
こんな時間に人が住んでいて灯りをつけないなんてことがあるだろうか。
「村……?」
「そうよ。家が並んでいるの、見えるでしょう?何家族もいる……どうして?」
横にいる少女を見やる。
「灯りがない。皆もう眠っているのかい?」
「いやだわ」
彼女は再びくすくすと笑い声を上げた。
142 :
134-9:2008/09/17(水) 04:12:09 ID:Q0g4I+Ay
「まだ日が暮れたばかりよ。灯りが見えないように――人が住んでるのが分からないように
してるの」
「ああ……」
そうか。みんな御使いの目を逃れるためなのだ。
少女の言葉に納得したものの、人がいるはずなのに灯りのない風景はとても寂しかった。
「ここまでで大丈夫だね」
森の出口で私が立ち止まると彼女も隣で足を止めた。
「わざわざ送ってくれてありがとう」
「いや」
丁寧に頭を下げてくるのに私は首を横に振った。
最初の印象こそ悪かったけれど、話をしてみるとものの分かる少女のようだった。そう思うと
勝手なもので、自分が怒鳴りつけたことも申し訳なかったと感じてしまう。
あんなにきつく言うほどのことじゃなかったかもしれない。あの時は逃げるのに疲れて、少し
苛々していたから。
「こんなのは何でもない」
「そう……?ね、よかったら私の家で休んで行って。面倒をかけてばっかりだったもの。
お礼にご飯くらい用意するわ」
「え――」
思いがけぬ申し出に、私は目を見開いた。
「そのかわり上着は脱いで。あなたの格好は不吉なの」
「不吉……」
彼女は頷いた。
「御使いの中で最も強い人達……『OZ』のメンバーは真っ黒だって話だから。伝説のような
ものだし見たことのある人はいないんだけど。それでも知らない人が見たらきっと驚くわ」
どうやら私を一般の御使いだと思い込んでいるようだった。
だが否定する気はない。わざわざ怯えさせるようなものだ。
彼女は私が後ろをついてくると信じて疑わない足取りで先を歩いて行く。
私は迷った。
ついて行きかけて、だが森をほんの少し出たところで立ち止まる。
足音がしないのに気付いたのか、彼女が振り向いた。
「どうしたの?」
「……やっぱり、遠慮しておくよ」
「どうして」
不思議そうな表情で戻ってくる。
村の人に見とがめられぬよう木々の影へ入ると彼女もまた同じようについてきた。
「私は……そんな風にしてもらえる立場じゃない」
「あら。立場なんて関係ないわ。私を助けてくれて、こうして夜道を送ってくれて。それに
お礼をしたいっていう気持ちにあなたの素性や立場なんか関係ないでしょう」
「でも」
そういう問題ではなく私が罪悪感をもってしまうからなのだが、ここできっぱりと断れない
のは逃げ続ける毎日で誰かと(あの赤いレクスは置いておいて)話をしたかったからかも
しれない。
彼女は私の手を取った。小さな手が励ますように握りしめてくる。
「あまり気にしないで。たいしたものは出せないけど、どうぞ休んでいって」
握られた手を見つめて黙り込んでいると少女の首をかしげるのが見えた。
「ね」
「……それじゃ、お言葉に甘えるよ」
重ねての申し出に、厚意をありがたく受け取ることにした。
「ちょっと待っていてくれる?あの子達に言ってくるから」
断りを入れて森の中へと戻る。ちゃんと事情を伝えておかないとあの子達までついてきて
しまうからだ。
茂みを飛び越えて数歩行くと、木の陰から姿をのぞかせる二人が見えた。
あのレクスが『ご主人』を押しとどめてくれたらしい。
143 :
134-10:2008/09/17(水) 04:12:40 ID:Q0g4I+Ay
「ねえ、君――」
少女に聞こえないようあくまで小声で話しかける。だがみなまで言わないうちに彼は分かって
いる、とうるさげに顔をそむけた。
「ふん、あの娘の家で飯を食べてくると言うのであろう。聞こえていたぞ」
「……いい、かな」
さすがに自分一人だけゆっくり食事をとるというのが後ろめたかった。彼にも恩恵を分けて
やりたかったが、もとはレクスのためかこの赤い猫は食事というものを必要としない。
食べようと思えば食べられるらしいのだが、今の世は人々の食糧事情があまり良くない。そう
知っていることもあり、それをあえて食べさせてあげてとも言えなかった。
そのせいで自然と彼の顔色をうかがうような聞き方になる。
赤いレクスはふん、と鼻を鳴らすと私の上に飛び上がった。
相変わらず体格の割に凄い跳躍力で、あっと思った時には私の頭は彼の踏み台になっている。
「良いも悪いもなかろう。すでに約束は成っているのだ。おれサマ達のことは気にしなくて
いい。ご主人ともう少し戻って辺りから見えにくい場所にいよう。場所は分かるな」
「うん。もちろん」
エテリアの気配を辿れば居場所を掴むのは容易だ。
頭を前足でたしたしと叩かれながら神々の子に向き直った。
「ごめんね。ちょっと行ってくるよ。すぐに戻るから心配しないで」
すると上から彼がちゃちゃを入れてきた。
「戻ってきたらこれまで以上に働くのだぞ?」
「ああ。分かってる」
「さっさと行け。こんな暗闇で娘を一人で待たせるものではない」
「それも分かってるよ――じゃ、行ってきます」
紳士的な彼の台詞に口元があがるのがわかった。笑い交じりに小声での会話を切り上げて、
私は再び森の外へでた。
全くあれで猫だと主張するつもりらしいから笑える。あんな口うるさい猫が他にいるだろうか。
彼女はこちらを向いて待っていた。手をあげて戻ってきたことを知らせる。
「お待たせ……っと」
茂みをまたごうとし、私はまたも森の出口で立ち止まった。
そうだ。
脱ぐよう言われていたんだった。
前を緩め袖を抜くと私は言われたとおり上着を脱いで手に持った。少女に近づきながら癖で
くるくると丸める。すると彼女が手を差し出してきた。
「貸して」
「……?」
言われるままに渡してしまう。
村のほうを向いていたのにこちらを見て微笑むのが分かった。
「ついでに洗濯してあげるわ」
「えっ?」
思わず聞き返すが彼女はもう自分の家に向かって歩き始めていた。
「そんなくたびれた服見ていられないもの。明日の朝一番に洗濯するから、そしたら天気も
いいし昼には着て出られると思うわ」
さっきまでの疑いの眼差しは嫌だったけれど、いきなりこれは好意的に過ぎるんではない
だろうか。
何か裏があるんじゃないか、なんて考えたくもないけど、ついさっきまで自分は敵だと認識
されていたはず。急にこんな風に扱われたら普通は驚く。
疑い半分困惑半分で首を横に振った。
「さすがにそこまでしてもらうわけにはいかないよ。返してくれ」
取り返そうと手を伸ばしたが、彼女も私の上着を背後にまわし抵抗した。
「気にしなくても大丈夫。うち、父さんも母さんも亡くなっているから部屋はあるの。だから
誰に何を言われる心配もないし泊っていったらいいわ」
〜つづく〜
いいなあ、やっぱり
おとーさん
>>144 神キテタ━━━━━━━(゚∀゚)━━━━━━━!!
台風が来るけど全裸で待ってるよ
ついにカインがキタアアアアアアアア
カインでいいんかいん?
なんちゃって
149 :
134-11:2008/09/23(火) 01:16:33 ID:0iyGtgTz
なんてことを言うんだろう。
開いた口が塞がらないとはこのこと。常識を疑うような申し出に、私は半ば少女を叱るような
口調になっていた。
「君、会って間もない相手に、いきなりそんな――」
「しいっ!」
厳しく言われ、慌てて口元を押さえる。
彼女は人差し指を立て私に口を噤むよう要求した。
「駄目よ、静かにして。皆御使いのことで気がたってるから、下手に人に見られたら怪しまれ
てしまうわ」
「ごめん」
手で押さえたまま小声で謝罪する。
「たまにね、やっぱりよその人がふらふらして来る時があって」
「うん」
等間隔に並ぶ家を迂回して、森からすぐのところを歩く。
彼女は小声で話を続けた。
「……御使いに襲われて命からがら逃げて来たとか、そういう人達……。服を洗濯する余裕も
ないのね。藪に引っかけたりしてそのままのぼろぼろの格好をしているわ。それで大抵の人は
ここに置いて欲しいって言うの」
「だろうね」
逃げ出しても行く当てが無いから人の好意にすがるしかないのだろう。そしてこういう場合、
どういった対応をするかは村長の判断にゆだねられるものだ。
「村長や大人達でああだこうだと話し合ってね。本人の話もよくよく聞いて、それからやっと
ここで生活することが許されるの」
「とても警戒してるんだね」
「他人を入れるのが嫌だって言うんじゃないの。ただ……御使いと人とは姿が似ているから。
こうして隠れるようにして暮らしていると、どうしても慎重になってしまうのね」
それでも余所者を受け入れてくれるのはおおらかな方だろう。
身一つで逃げて来た者、食べる物だってない。今はどの村でもお腹一杯食べるなんてことは
考えられないから、他人の口を賄うなんて嫌がりそうなものなのに。
「でも基本的には人がいいんだ……だろう?」
「そうなるのかしら?見殺しにするのは後味が悪くて嫌なだけかも知れないけれどね」
一軒の家に近づくと彼女は私を振り返った。
「ここよ。裏口からでごめんなさいね。……入って」
目の前にあるのはなんてことのない普通の民家だった。扉も裏口らしく模様もない簡素なもの。
鍵を開くと先に彼女が入った。
少しだけ緊張する。
「お邪魔します」
まさか中で待ち伏せなんてことはない。生き物の存在がエテリアの気配で分かるから。
それでもついそんなことを考えてしまう自分の臆病さに私は顔をしかめた。
中は真っ暗だった。それももう外とも大差ないが。
慣れた家の中、彼女はどこに何があるのか分かっているのだろう。暗がりを物音も立てずに
奥へと入って行った。
「待ってて、今灯りをつけるから」
その言葉に目を閉じてしばらく、瞼の向こうがほんのりと赤くなった。
自分のいる場所を確認するとそこは台所で、テーブルの上の燭台に火が灯されている。
とても温かな色だ。
彼女は突然の客にどうしよう、と手を頬にあてて辺りを見回した。
「えっと……じゃ、まず手を洗ってもらおうかしら」
彼女の台詞に子供の頃を思い出した。
日常が甦ったようでなんだかくすぐったい。
150 :
134-12:2008/09/23(火) 01:17:05 ID:0iyGtgTz
「家に帰った時の基本だね」
「ええ、そうね」
桶に水を張ってくれたので言われたとおり袖まくりをし、手を洗った。
その間に少女はつっかい棒を外し片開きの窓を大きく開いた。かたんと大きく音がなり、
そこから少し冷たい風が入ってきた。
「いいのかい?」
「え?」
出してくれた布巾で手を拭いながら問いかけると彼女は不思議そうな顔で振り向いた。
「窓をこんなに大きく開いて。外から見えないように気をつけているんだろう?」
「ああ――、そうよ。でも大丈夫。この村の家はどれもひさしが大きく出来ているの。
気付いていた?この村自体、森より少し地面が下がっているのよ」
「へぇ」
それは気付かなかった。
上空を通るだけの御使いではなおさら分からないだろう。
「窓もひさしも大人の目線より低い。だから森に誰かがいても私達の灯りは見えないの。
そうね、気をつけるとしたら燭台の灯で軒下が明るく映ることくらいかしら」
言いながら彼女は窓とテーブルの間に小さな衝立を置いた。
「こうして外にもれる灯りを押さえればそれもほとんど見えないし。夜は問題ないのよ。
ただ……昼間がね」
語りながらも彼女の手が止まることはない。
棚の上から鍋をとり、竈に火をかける。小さな鍋を二つ置き、テーブルの上には茶碗や皿を
二つづつ並べ始めた。
「ごめんなさい。お客様を立たせっぱなしにして。どうぞ座って」
突っ立って話を聞いている私に気付き、彼女は慌てて椅子を勧めてきた。
「いや、いいよ」
短く断ってテーブルに寄りかかる。
視線で話の先を促すと彼女は小さくため息をついた。
「畑仕事なんかすればどうしたって隠れてはいられないでしょう?子供達だって外で遊ぶ
から。家から出さないわけにもいかないからそれだけは心配で」
「外で用事をしている時に御使いが上を通ったら見つかってしまうからね」
「そうなの。だから皆、煮炊きをするのにもとても気を遣っているのよ。うっかり魚なんか
焼いたら煙がものすごいからってそんなことまで話し合って」
凄いでしょ、と微笑む彼女に言葉が出なかった。
そんな日々に心の平安はあるのだろうか。いつ見つかるか、追われるかと怯えて過ごす事の
辛さはもう身に染みて理解している。
だが彼女の声に暗い色はなかった。
「この村の人達は結構行動的なの。近くに御使いが現れたって聞いたら森の中に隠れたり。
数組分かれて洞窟で寝起きしたこともあるわ」
それには思わず聞いてしまった。
「誰がそんなことを?」
定住するべき家を持つ者が森や洞窟で寝起きしようなんて。
発想をするのはともかく村の皆にその案を受け入れさせたことが凄い。
私は何度も人間たちの粛清に手を下してきた。だが彼等は危険だと分かっていてもなかなか
家を離れようとはしなかったのに。
だが彼女は薄く笑っただけでその問いに答えることはなかった。代わりに別の話をする。
「元々……ここは私達の住んでいた村ではないのよ」
手にした包丁を置いてゆっくりこちらを振り返る。
「――?それって……」
「私達の住んでいた村はずうっと昔御使いに襲われて、もうまるで廃墟。歯向かったもの
だから徹底的に攻撃されて家も壊されて、人が住めるようなありさまじゃなかった。……まだ
私が子供の頃の話だけど」
「それは……」
昔のことと割り切った口調に、何と言ったらいいのか分からなかった。私の口からいたわりの
言葉を聞いても、励みにも慰めにもならないだろう。
151 :
134-13:2008/09/23(火) 01:17:37 ID:0iyGtgTz
粛清とはまず人々を神々に臣従させることにある。
見せしめに数人を犠牲にし、神々に心服せねばこうなるのだぞと知らしめるのだ。
それが叶わなければいよいよ大きな武力を以って、ということになるのだが、人が住めなく
なるほどとなると、彼女のいた村の……この村の人々は余程激しく抵抗したのだと思う。
そこまですれば成り行きとして住民も皆殺しにされそうな気もしたが、今はそれを当然の
ことと支持するつもりはないので言わないでおいた。
平然と話して彼女を怖がらせたくなかった。
「その時に村を捨てたのかい」
沈黙に居心地の悪さを感じ、私は続きを尋ねた。
彼女は私の台詞に思うところがあったのか一度口を開きかけて――だが何も言わずにまな板の
方へと向き直った。とんとんと包丁の音をさせ始める。
「そうよ。長の決定。ついて行く義務はなかったけれど、それだけの抵抗をしたら御使い達も
この先目を光らせるでしょうし……それに残ると言う人もいなかったしね。その時も皆で話を
して。村ごと移住となると、住む先を探すのも大変ですもの」
「そうだね」
新たな土地を見つけてそれぞれ家を立てて、井戸を掘って。
一から作り上げるのは途方もない苦労があるだろう。
「だからやっぱり御使いに襲われた村を探そうってことに決まったの。村がまだ無事な頃、
旅人や流れの商人がどのあたりに御使いが来たとか、村は無事なのに住人だけいなくなって
しまったらしいとか色々な話をしていたから」
彼女は私に背を向けたまま、だが会話は続いている。
「あなた達、一度襲った村はしばらく来ないでしょう?」
「ああ……」
そう言われれば、確かに。
『襲う』という表現に顔をしかめたものの訂正することは出来なかった。人間にとって我々は
どこまでも恐怖の対象なのだと改めて思い知らされる。
「粛清が済めばそこは神々にとって何の意味もない土地だから。……違うかしら」
その通りだ。
抵抗を諦めた人々は神々の威光を思い知っただろうし、そうでなければ村ごと全滅させるだけ。
そうなれば人のいない所になど何の用もない。
殺伐とした内容をいたって普通に話しながら、時々こちらを向いて微笑む。
反射的に笑顔を返してそんな自分に違和感を覚えた。
「だからそういうところを探したの。襲われる前は怖いけれど、それをやり過ごせば当面は
平和に暮らせるもの」
鍋をのぞき中身をかき混ぜて、大きな匙でこんこんと縁を叩いた。
「この村もそう。都合よく、なんて言ってはいけないけれど、家はあったけど誰もいなくて」
私は目を伏せた。聞きたくなかった。
爪が食い込むほど強く手を握りしめる。
ここで耳を塞ぐのは逃げだろうか。
「皆死んでいたの」
ぎり、と歯を食いしばる音が自分の耳に大きすぎるほど響いた。
「家の裏にも、村の外にも、遺体はあちこちにあったわ。何度も強く殴られた跡のある人や、
背中から大きく切られた人……一度逆らったら逃げる相手にも御使いは容赦が無いのね」
胸が苦しい。
事実を言っているだけの決して責める口調ではないのに鼓動が速さを増していく。
「子供達は姿も……遺体もなくって。一人残らず御使いに連れていかれたのだと思うわ。皆で
その人たちをきちんと埋葬して、あった家をそのまま使わせてもらっているの」
そうなんだ、なんて簡単な言葉も返せない。
『大変だったね』?
『今まで君達が無事だったのは運が良かった』?
152 :
134-14:2008/09/23(火) 01:18:04 ID:0iyGtgTz
それとも地に額を付けて謝罪すれば、このもやもやと胸に淀んだものもすっきりするの
だろうか。御使いだった頃は相手の話にあった適切な返しなんて簡単だったはずなのに、
どうしてか台詞が浮かんで来ない。分かるのはどれも今言うのに相応しい言葉ではないという
ことだけだ。
彼女は足元を見つめて動かない私に明るく声をかけた。
「さ、どうぞ。本当に大したものはないけど作りたてよ」
そう目の前に置いてくれた出来たてのスープ。続いて戸棚からパンを出し、その横に小さな
壺を並べてくれた。
「パンはお昼に焼いたものだけど、蜂蜜をつけてちょうだい」
もう一度座るよう勧められる。私たちは向かい合って腰掛けた。
「随分沢山だね」
微笑む彼女に思わずもれた言葉だ。
皿の上には厚みこそないものの両掌を合わせたほど大きさのパンが十枚以上積まれている。
この少女が一人で食べるのだろうか。まさか一食で?
驚きが顔に出ていたのか、彼女は慌てて首を振った。
私の考えたことをあっさり否定する。
「あぁ――別に一回で食べきる量じゃないから誤解しないでね。食べ物が傷む季節でもないし、
作り置きしてるだけだから」
何故か理由が分かった以上の安堵を覚えつつ、小さく頭を下げた。
「いただきます……」
「本当はもっと作ってあれば良かったんだけど、スープにすれば料理の手間が省けるでしょう?
一人だし、いつもそれで済ませてしまうの。今から何か作っても時間がかかるだろうし。
……その代り野菜を沢山入れたから。おかわりもあるわ。言ってちょうだい」
誰かと向かい合わせに食事をするなんて久し振りだった。
温かなものを食べるのも。
ゆらゆらと湯気の立つスープも蜂蜜を塗ったパンも、大袈裟ではなく、今まで食べたものの
中で一番美味しいと思った。
向かい側に座っている彼女が口を開いた。
「こんな風に誰かと食事するの、久し振りだわ」
私達が着いているのは台所にある小さなテーブルで、手を伸ばせば相手に届くくらいの距離。
燭台の灯りを間に置いて、私達は数瞬見つめ合った。
なんとなく気まずさを感じて当たり障りのない話を振る。
「招待する相手はいないの?」
彼女くらいの年頃なら恋人がいてもおかしくはない。家に呼ぶのも。ましてや親がいないの
だからそのあたりは普通の家よりもずっと自由が利くだろう。
私の質問に彼女は困りながら笑うといった器用な表情で答えた。
だがそれは私の予想とは違う返事だった。
「うーん。招待されることは時々あるんだけど……お隣さんとか。賑やかよ。私一人で食事を
するのは寂しいだろうって心配してくれているみたい。だからうちに誰かを呼ぶってことは
ないわね」
彼女はちょっとつまらないかしら、と肩をすくめた。
「父も母も亡くなって大分経つしすっかり一人に慣れてしまって。今はもう寂しいとも思わ
ないわ」
「状況に順応するというのは大事なことだよ。いつまでも慣れなかったら心が病にかかって
しまう」
今の状況が腑に落ちない様子に私は慰め事でなく声をかけた。
何となく自分も同じような感じだと思ったからだ。
仲間と離れ逃げ回っていても常に二人(?)がそばにいる私と、落ち着いた生活をしていても
一人の彼女とはどちらが幸せだろうか。
だがすぐにそんなことは比べても仕方のないことだと頭を振った。
153 :
134-15:2008/09/23(火) 01:18:30 ID:0iyGtgTz
「ここには御使いが来たことはないんだね」
「……来ても、彼等に従えば何の恐怖もないんでしょうけどね。……どれほど恐ろしくても、
人間にだって従えないこともあるわ」
彼女には強い信念を感じる。こういう人が御使いと出会った場合に抵抗勢力と判断されるのだ
ろう。言う通りはい、はいと言っていればいいものをそれをする自分が許せないのだ。今の
世にそれでは生き辛いと分かっていて従うことが出来ない。
私は以前、それを強さではなく愚かさだと思っていた。
頷くと彼女は『でしょう?』と匙を振った。が、慌ててその行儀の悪さに引っ込める。
恥ずかしそうにこちらをうかがい謝った。
「ごめんなさい」
「いや」
随分落ち着いていると思ったが、始めに感じたより若いのかもしれない。言うことは大人
びているし、筋が通っているけれど。
「聞いてもいいかしら」
「なんだい?」
心なしか姿勢を正したような、すみれ色の瞳がまっすぐこちらを見ている。
二度瞬きをして、彼女は口を開いた。
「あなた達に捕らえられた人は……どうなるの?」
「――!」
これには動きが止まってしまった。
同じように匙を握ったまま頭を懸命に働かせる。だがどれだけ考えても人間の納得するような
耳触りのいい言葉は出てこなかった。
どう表現しようと結果は一つしかないのだから。
「最終的には……」
最後まで言えない。
それを行ってきた者として人々の結末を伝える程度の責任も果たせない、意気地のない自分。
だがそれは彼女も分かっていたらしい。感情のこもらない声でさらに追求してきた。
「亡くなっているのでしょう?そのくらいは分かるわ。村の皆だって……。そうじゃなくて、
どのようにして、と聞いているの。考えるのも嫌な話だけど、まさか拷問、とか……してるの?」
まゆをひそめ、恐る恐る聞いてくる。
「あ……」
私は迷った。
どう答えればいいのだろう。
実験に使われた挙句、廃棄されたりしもべとして造りかえられているなんて聞いたら、気を
失ってしまうかもしれない。
それでも教えるべきだろうか。
そうしたらこの少女は村人に伝えるかもしれない。事実を知った人々は一層神々を恐れ、
嫌悪し、さらに抵抗を激しくするだろう。それじゃ人死にが増えるばかりだ。
あるいは反転、恭順の意を示す可能性もあるが今抵抗している人々ならば、多分そんなこと
にはならないだろう。
そんな風に人間のことを考えるふりをしているが、自分は本当は糾弾から逃れたいのだと思う。
ずるい考えだ。そんな男ではありたくないと思っていたのに。
では、どうすればいいのか。
彼女は真剣な眼差しでこちらを見ている。答えを待っている。
「……」
視線が手元に落ち、匙をそっと皿の上に戻した。何と言ったものかと口を開きかけると、
ものを食べている最中だったというのに唇が乾いていて、この質問に自分が思った以上に緊張
していることを知った。
私は逃げられなかった。
「実験に、使われるんだ」
「何の?」
154 :
134-16:2008/09/23(火) 01:19:01 ID:0iyGtgTz
『実験』という不吉な響きに彼女の顔が強張る。
「しもべを改良するために……。自律行動をする生き物から全ての感情を取り払ってしもべ
としての行動を植え込むんだ。道具を使える生き物を一から作り上げるより、たやすいから」
過去に自分が教えられたことを――なぜ実験に使われるのが人間なのか、あるいは出来の悪い
仲間なのか――その理由を一息に告げた。
「――あぁ……」
彼女はわずかに声をあげ、顔を覆ってしまった。
そうしたくもなるだろう。
御使いと同じく敵としていたものが、以前は同じ人間だったなんて。
原型を留めていなかったとはいえ仲間だった。それを知ったら大抵の人間はこういう反応を
見せるだろう。
そういう意味では御使いは冷たいと思う。彼等は――いや、『私達は』連れているしもべの
正体が元は自分達の仲間であったかなどと、思ったりすることもなかった。
「なんてこと……!」
目尻に涙を滲ませて、だが心を落ち着けようと大きく息をつく。何度も吸ってはいてを繰り
返し、ようやくこちらに視線を戻した。
さっきから二人とも食事の手が止まっている。
当然だ。のんきに食べていられるような話題じゃない。
「君達には……謝るべき言葉も浮かばない。なんと責められても仕方がない」
「仕方がないだなんて……!」
だが責めるように言った直後、彼女はゆるゆると頭を振った。
すこし青い顔をして。ぎこちない笑顔で。
「ごめんなさい。こんなことを言ってもそれこそ仕方がないのに。あなた達は神々の支配を
受けていたのだから」
もう一度ふう、と息をつき、彼女は話題を変えた。
「今するような話ではなかったわね。私ったら――冷めてしまうわ……食べてちょうだい」
「ありがとう」
感謝ではなく謝罪するべきだっただろうか。
だがそれ以上話を続けるのも苦痛だったから(彼女もそうだろう)、私は当たり障りのない
話題をとこの村での生活について話を振った。
彼女はそれにぽつりぽつりと答えてくれる。そのうち気分も紛れたのか再び笑顔が見える
ようになって内心安堵した。
食事が済むと彼女は私を居間に案内し、お茶を供してくれた。
「座っていて。部屋の支度をしてくるから」
「あ……」
これ以上の手間をかけさせるのも申し訳ない。
慌てて彼女の背に声をかけた。
「私は、本当に……その、この長椅子だって構わない。こうして屋根の下で休ませてもらえる
だけで助かるから――」
いまさらと思ったのだろうか。彼女は眉をあげて、だが私に言い聞かせるようにゆっくりと
言った。
「どうせ家の中ですもの、寝台で寝ましょう?だいたいあなた背が高いじゃない。長椅子じゃ、
脚がはみ出してしまうわ」
こともなげに言う。
湯を使わせてもらいお休みなさいと寝室に入るまでずっとこんな風で、あれやこれやと面倒を
見てくれる彼女に、私は恐縮するばかりだった。
「ふー……」
寝台の上に倒れ込む。
アルミラやレオンと別れたあの日以来のやわらかな寝床だ。生成りの掛布がふかふかと、頬に
心地良い。
私はうっとりと目を瞑った。
155 :
134-17:2008/09/23(火) 01:40:21 ID:0iyGtgTz
「やっぱりちゃんとしたとこで横になるのは気持ちが良いなあ……」
思いがけない展開になったがこれでここしばらくの疲れがとれるだろうと、それだけで私は
嬉しくなった。
だが直後に残してきた二人の姿が頭をかすめて少し胸が痛んだ。
いつまでも戻ってこない私を心配しているだろうか。あとで謝らなくちゃ。
だがしっかりものを考えていたのはそこまでで、私の意識はたちまち夢の中へと吸い込まれて
いった。
鳥のさえずりが聞こえる。
閉じた瞼にも外はまだ暗いのが分かった。まだ夜明け前だ。
「ん……」
そう、あの鳥は目覚めが早いから朝方休む時にはいつもうんざりさせられるんだ。
半分寝ぼけた頭でそんなことを考えながら寝返りを打ち、はた、と夕べからのことを思い
出した。
そうだ。ここは……森の中じゃなかったんだ。
そんなことを思いながら上体を起こしてぼさぼさの前髪をかき上げた。
久し振りによく眠れた。
それほど長く寝たわけでもないのだが久方ぶりのちゃんとした寝床に体が驚いたのか、寝起き
だというのに節々が痛い。それとも日々の疲れがどっと出たのだろうか。
私は手洗いを借りようと廊下へ出た。
そこには窓があり、遠く山の向こうは明るくなり始めているのが分かる。
夜明けの赤、夕暮れ時の赤は紫色を帯びて寂しい色だ。
こんな風に思ったのは……今、帰るべき場所もなくて心細いからだろうか。
気分が萎えるような発想に頭を振り、ごまかすよう近景に視線を向けた。
この家は少し大きく、庭をぐるりと囲むように建っている。その中庭に大きな木の影が
ぼんやり浮かび上がって見えた。
建物からは結構離れているのに梢は屋根に届きそうなほど伸びている。夏などこの木の下に
いれば風が吹き抜け、それだけで大分涼しいだろうと想像がついた。
幸い庭の切れ目は村の中心ではなく森の方を向いている。誰に見られることもないだろう。
私はそっと窓を開けると窓枠を乗り越え表に出た。
木に近くで見ると本当に大きい。森の中でさえこんな立派な木は見かけなかった。
樹齢はどのくらいだろう。百ということはない。二百、あるいは二百五十……私と同じか、
それ以上かも知れない。
とにかくこの家よりも古いことは確かだ。
「元から生えてるのを、わざわざ囲うように建てたのかな」
近寄って上を見上げれば途中折れた部分もある。
さっきの鳥の声が聞こえた。巣があるのかもしれない。一眠りした後ですっきりしている
せいか、いつものように煩わしく思うことはなかった。ただ可愛らしいだけの鳴き声に、私は
上を向いたまま目を閉じた。
いつもは逃げ回るのに必死でそれどころではなかったのだけれど、こうして自然に向き合うと
自分の鈍さをしみじみと考えさせられる。
元々エテリアとの交感能力が極端に高かった。それは他の御使いには見られない私の特性だ。
それなのに二百と数十年も生きていて、彼等の真実の声に気付かなかったのだ。
目を閉じれば確かに自分を取り巻く気配を――この身の内にすら流れているものを――感じる
ことが出来た。
そう、こんなに容易にエテリアの悲鳴を聞きとれるのに、なのにあの子に出会うまではその
歪みもざわめきも、それこそが調和を示しているのだと思っていた。
神々の支配下にあった時も知ろうとすれば分かったはず。だが何も疑うことがなかった。
盲目的に彼等を信じていたのだということ、自分の至らなさにただため息がもれた。
156 :
134-18:2008/09/23(火) 01:41:21 ID:0iyGtgTz
向かい合うように寄りかかると額に触れる木肌はごつごつとしていて、だが温かかった。細い
枝の末、若葉の端にまでエテリアの流れを感じる。
私達はこうしていつも彼等に包まれて生きてきたのだと、改めて実感した。
「ごめんよ……」
「何がかしら?」
「――!」
一瞬体が硬直する。
呟きに返事があって驚いた。
後ろを振り向くと軒下にあの少女が立っている。なんの気配も感じなかったのは私のせい
だろうか。それとも彼女の身ごなしのせいか。
ほっと緊張をとき、でもどんな表情をしたらいいのか分からず、目線を合わせることが出来な
かった。
「懺悔をしていたんだ」
「庭の木に?」
彼女は不思議そうに首を傾げる。
いつの間にそんなに時間が経ったのか、些細な表情さえ見える程あたりは明るくなっていた。
「この世界のすべてに」
チチチ、と再びの小鳥のさえずりに幹を真っ直ぐ見上げたが厚く葉に覆われて、やはり姿は
見えない。
こうして誰かがいても飛び立つ様子はない。やはり天辺の方に巣でもあるのだろうか。
人が来たのにいつまでも木の下にいても仕方がない。私は部屋へ戻ることにした。
少女の後ろに見える扉へと向かう。
互いに視線をあてたまま近付いてゆくと、まだ夜も明けきらぬというのに彼女はすでに寝間着
を脱いでいるのに気が付いた。
私は眉を上げた。
「早いね。もう起きるのかい?」
「あなたこそ」
「私はお手洗いに通りかかっただけなんだ」
「それでどうして外に」
確かに。
この問いに顔は笑っていたように思う。そんなつもりはなかったのだけれど。
「この世界で――自分一人だけでは生きていけないんだってことを再確認していたんだ」
返したのはそれだけ。
やはり意味が分からなかったのだろう。彼女は不思議そうにこちらを見て、そして話題を
変えた。
「折角だからお昼まで寝ていたらいいわ。いつもはこんなに休めないのでしょう?洗濯物も
あるし、食事が出来たら声をかけるから……ね?」
「なんだか悪いみたいだけど」
今さら遠慮するのもおかしな話、彼女の勧めに従うことにした。
「それじゃ、お言葉に甘えて」
「ええ、おやすみなさい」
「おやすみ」
朝の挨拶には大分違和感のある言葉を掛け合って、私は客室に戻った。
寝台に横になるとやはりまどろみを楽しむ間もなく眠りこんでしまい、再び彼女に声を
かけられた時にはすでに昼をまわっていた。
「目が覚めた?」
「うん……」
頭が変に重たくて均衡の取れていない感じがする。ひどい寝ぐせのせいかもしれない。
〜つづく〜
ではまた。
またいいところで続きか!!
待ってるぞ!!
GJ、描写が丁寧で(・∀・)イイ!!
160 :
134-19:2008/09/27(土) 08:30:09 ID:EOoypSSo
開いた扉の外の眩しさに顔をしかめた。
彼女の背後から日が差し込んで大分明るい。洗濯物もよく乾いただろう。そう思った折りも
折り、彼女は手にしていたものを差し出してきた。
きちんと畳まれた、私の黒い上着だった。
「はい」
「ああ――ありがとう」
「この天気でしょう?風もあるし、すっかり乾いたわ。ご飯の支度も出来てるから着替えたら
台所にどうぞ」
言うだけ言うと彼女はさっさと出て行ってしまった。
扉を閉め、寝間着を脱ぐと早速元の服に着替える。まだ日中は暑いと感じる格好だ。袖を
通したものの、少し考えてやはり上着は着ないことにした。
村を出てからの方がいいだろう。見られたらまずいし、もともと防御力の向上のための服だ、
戦闘時に身につけていればいい。
半分着かけて脱いだ服を広げ、首を傾げた。
そういえばこんなに大きな上着、一体どこに干したんだろう。真っ黒でそれこそ目立ちそう
だけれど。人に見られたらまずいだろうに。
上着を手に台所に行くと彼女はお茶を入れているところだった。
「おはよう」
もうそんな時間ではないけれど、私は改めて起床の挨拶をした。彼女も同じことを思ったのか
悪戯っぽく笑って尋ねてきた。
「おはよう。よく眠れた?」
「おかげさまで」
「座って」
勧められるまま椅子に腰かける。と、足元に絡みつくものがある。
下を覗いてみると、あの赤いレクスだった。
戻りの遅い私を迎えに来たのだろうか。
手を差し出すと私の腕を伝って上ろうとし、抱きあげるとにゃあと鳴き声を上げる。
それに気付き、少女が玄関のほうを指差した。
「家の扉の前で入りたそうにしていたの。きっとあなたが見えなくて寂しかったのね」
それはどうだろう。
寂しいというより怒っているのではないだろうか。すぐ戻ると言ったのに約束が違うって。
でもあの子はきっと心配してる。あの子はやさしいから。
猫のふりをする彼の喉を撫でてやってもごろごろと鳴くだけ。何を考えているのか、一見
気持ちよさそうに目を細めているが、私には怒っているようにしか思えない。それとも私の
感じている後ろめたさがそう見せるのだろうか。
質問をしても答えてもらうわけにもいかないと、彼女に聞こえぬようごく小さな声で『ごめん、
もう少しだけ』と告げ彼を床に下ろしてやった。すると彼は壁のほうに行き腰の高さほどの
窓をとび越え、振り向きもせずに外へ出て行った。
「あら……いいの?」
「大丈夫。外で待っていてくれるはずだから」
「賢いのね」
「……そうだね」
ものを言ったり私に説教したり。元がレクスとはとても思えない。ちょっと見には猫の形を
しているあの生き物が人語を解するのだと言ったら、きっと彼女は驚くだろう。
用意してくれた朝食(昼食だろうか?)の内容は昨晩のものとそんなに変わりはない。ただ、
今度はパンが焼き立てで野菜の炒め物が添えてあった。それにスープ。朝だからお腹にたまる
ようにか大きく切った芋がごろごろしていた。中に入っている野菜の種類が減って、代わりに
肉が浮いている。
もちろん内容に文句などあるはずもなく、ありがたく頂いた。
最後にお茶をすすっていると彼女がちらりとこちらに視線を向けた。もっと食べればいいのに、
ともらすのに微笑みが浮かぶ。
161 :
134-20:2008/09/27(土) 08:30:37 ID:EOoypSSo
「充分頂いたよ」
「そう?それならいいけど」
確かに少しは遠慮もしたけど。
さすがにこのうえ図々しいことは出来なかった。今はどこの人も食べたいだけ食べられる
ような状況ではない。基本的には御使い達に襲われれば山や森へ逃げ出すような生活を送り、
その目を避けるため近隣の村と盛んと言えるほどの物流もないのだ。そんな暮らしをして
いれば蓄えは減り、すぐ餓えてしまう。
こうして余計な客を迎えるのだって結構な負担になるはずだ。
これで辞去しよう。今のところ追手の気配は感じないがあの子も待っている。
それにしても彼女にはなんてお礼を言ったらいいんだろう。久し振りの温かい食事や寝台での
眠りで精神的にも肉体的にもかなり回復した気がした。
お礼の言葉を思案していると向かいでやはりお茶を飲んでいた彼女が口を開いた。
「ねえ」
「なんだい?」
「お願いがあるのだけれど」
「うん」
なんだろう。
とても親切にしてもらったし、私は出来ることならなんでもするよという気分だった。
真っ直ぐにこちらを見つめる瞳は薄紫のやさしい色をしている。
「お礼代わり……と言ってはなんだけど、どうして神々と袂を分かつことになったのか教えて
くれる?」
「――!」
さあ、と顔が強張るのが分かった。
まったく!
逃げようのない質問の仕方をしてくる少女だ。
自分の受けた衝撃と絶望――それに向かい合うのは辛かったから、あの時のことはあまり考え
ないようにしていたのに。
だからあくまでも自分の主観で、単なる勧善懲悪の行為としてそれを成し遂げようとしていた。
こんな風に礼代わりと求められれば確かに答える他ない。何よりそれを望んだのが自分なの
だから。
だが、なんて言えば上手に伝えられるだろう。
上手に?
違う。正確に、だ。
私は出来るだけ冷静にと心の中で唱え、考え考えしながらあの夜のことを話した。
思ったより話は長くなった。
表現に詰まっては、言葉を選んでおしまいまで語った。
それでも自身が御使いの長であることは告げなかった。言えば余計な疑いをもたれるかも
知れない。本当なら私のような者は抵抗勢力の偵察に来たと思われても当然だったから。
テーブルの上には空になった食器が並んでいる。
「私は、運が良かったのだと思う」
この言葉に余程気持ちがこもっていたのか彼女も頷いて返した。
「そうね。神々の支配が始まってからそれの解けた人なんて今までいなかったのでしょう?」
「多分。……それに、これは試したから言うんだけど、どうやら本気でやり合うには神々の
支配は強すぎるんだ」
「どういうこと?」
「神々に戦いを挑もうと装甲化すると――人々の村を襲う時にする格好だね。レクスを鎧状に
纏うことなんだけれど――神経を焼かれるような感じになるんだ。多分完全に装甲化しようと
したら、私は再び神々の力に囚われるだろう」
162 :
134-21:2008/09/27(土) 08:31:11 ID:EOoypSSo
「そんな……!」
「……まあ、もともとレクス自体が神々に与えられた力だからそれを武器として使える
だけでも御の字なんだけどね。それがなくちゃ私達カテナも人間と一緒さ。装甲化した
御使いを相手にまともな抵抗も出来ないで殺されるばかりだよ」
両手の指を組んで顎をのせていたがずるずると顔を下にずらして目を伏せた。
解放後に装甲化しようとした時――あの気持ち悪い感覚といったらなかった。
背中から体を汚染されるような。
何よりそこにほんの少しの安らぎがあったのが恐ろしい。
御使いは全身をあの安心感に包まれているのだ。神々の行いに疑いを持とうはずがない。
「これはまずいと思って――それ以来、本気で戦えたことはないね」
「それで追っ手を追い払えるの?」
「うん、まあ……今のところはなんとかなってるよ。それでやっとだけど」
「強いのね」
「う……ん」
強い、のだろうか。
ずるいと思ったことはあるけれど。
コツと言えばとにかく一度に複数を相手取らないことだ。なんと言ってもこちらは一人なの
だから。それと相手の攻撃には絶対に当たらないようにすること。
注意するのは実際それだけだった。
幸い私にはエテリアという強い味方がいる。
姿が見えないうちから場所も人数も何もかもを彼等が語ってくれた。
追っ手の接近を知るたびに神々の子へ少し離れた場所で動かぬよう言い含め、私は茂みに
ひそんだ。御使い達はあの子を探すという目的から大抵手分けして行動していたから、個別の
戦闘にもっていくのは思ったよりも簡単だった。
ただやはり仲間を呼ばれることもあって、そんな時はとても難儀したけれど。
話している途中何度かあったように内側への思考にとらわれる。
無意識に茶碗を手の中で弄んでいたが、手を滑らせ、かちゃんと耳に痛い音が鳴った。
はっとして顔を正面に向ける。
彼女はまだ私の顔を見ていた。
「あ……」
「味方を増やすのは絶望的、ということ?」
「うん、まあそうなんだけど……絶望的だなんて落ち込む表現はやめて欲しいな」
「ごめんなさい。気に障ったのなら謝るわ」
私は頭を下げる彼女にそっと首を振った。
「いや、ただ……やっぱり一人っていうのは時々とても辛いから、現実を直視してばかりも
いたくないんだ」
「そうね」
こちらの気持ちを思いやってか彼女の表情が暗くなる。
「私もそれについては当然考えたんだよ。でも駄目だった」
「駄目って?」
「あの子……神々の子がまだとても幼い、赤子のようなものだとは話したよね」
「ええ。あなたの攻撃に対する反応も本能的なものでしかなかったと」
「だからさ。私はそれをいまいち理解していなかったんだ。だからその時のように御使いの
攻撃に晒せば、相手に同じ反応を返すんじゃないかと思った」
「そんな――赤子のようだと言ったその口で、御使いが来るたびそれを彼等の前に晒すと
言うの!?」
非道を責める目つき。
それこそどこまで理解しているのか。
彼女にとっては御使い、人間、神々の被造物というものに境界線はないのだろう。あるのは
ただ生命に対する畏敬の念だけ。
だから昨日初めて会った相手にも、怪しいと警戒した物体にもこうして優しさを示す。
これほど純粋な心を持つ人に会ったのは初めてかも知れない。
163 :
134-22:2008/09/27(土) 08:31:39 ID:EOoypSSo
もう一度首を横に振って否やを示した。
「君は優しいね」
心からの言葉だったのだが彼女の気には召さなかったようだ。
からかわれているとでも思ったのか、きっと私を睨みつける。
「あなた達が他の命に無頓着なだけなのではない?」
こんな皮肉にも腹は立たかった。彼女の言っていることは事実だ。図星を指されて怒るなんて
子供のすることだ。
一瞬自嘲の笑みを浮かべ、だが慌てて引っ込めると小さな頷きだけを返答にかえて、私は腰を
上げた。
「ごちそうさま」
彼女もつられて立ち上がる。
「あぁ――いいえ。大したことは出来なかったけれど」
「とんでもない。君のおかげで久し振りにゆっくり休めた。感謝してる」
私は謝意を示した。なんと嫌味を言われようとこれは嘘偽りのない気持ちだ。
「それなら良かったわ」
にっこりと微笑む。
苛立ちを見せたかと思えばこれだ。気持ちの切り替えの早さには内心感嘆する。この若さで
珍しいほど感情を自制出来る子だ。
私は食器を片づけようとしたが慌てて近寄って来た彼女にその手を押さえられた。
「いいわ。そのままにしておいて。『神々の子』やあの赤い猫、あなたを待っているんで
しょう?」
母親に言われるような台詞に心がじんわりと温かくなった。
こんな子供にと思うけれど。
懐かしい気持ちだとかそんな言葉では表現できない何か。
言われるまま上着を手に持って後ろをついて行く。
彼女は先に表に出ると裏口から森へ行くのに周囲に人の気配がないかを確認してくれた。
きょろきょろと辺りを見回し私を手招きする。
早く、と小声で急かしてくるのに、戸締まりはいいのかと気にしながら駆け足で彼女の家を
後にした。
「ねえ、君。鍵を閉めなくていいのかい?不用心だ」
「すぐに戻るから大丈夫よ」
森はすぐそこだ。
気にしている場合ではないと分かっているのか、彼女は昨日の晩と違って茂みを迂回する
ようなまだるっこしいことはしなかった。
裾をからげてがさがさと音をたてて迷いなく木々の奥へと進んで行く。
私は途中までついて行ってようやく言うべきことを口にした。
「あの……送ってくれなくても大丈夫だ。もう戻ってくれ」
あまり先まで行くと今度はまた彼女を送ってこなくてはならない。
それでも前をゆく彼女は歩みを止めなかった。
うっそうとした森の中でもほんの小さな陽だまりはある。
もう一度同じことを言おうとした矢先、そこで彼女はようやく私の方を向いた。陽光を浴びて
輝く髪は金で紡いだ糸のように輝いている。
彼女の容貌がとても美しいことに、私はこの時ようやく気が付いた。
口元が動く。小さな唇は何もつけていないのだろうに愛らしい桃色をしていた。
「はい」
「え?あ……」
ぼんやりと見とれていたのがばれてしまっただろうか。
何故か焦り、差し出された右手を咄嗟にとった。すると彼女はもう一方の手を添えてぎゅうと
固く握ってくる。
「……?」
「握手よ」
それは分かる。
「これからどこか行く先はあるの?」
164 :
134-23:2008/09/27(土) 08:32:05 ID:EOoypSSo
「いや、ただ……ただ逃げているだけだよ。常に動いていないとあの子、近辺のエテリアを
みんな集めてしまう。そうなれば神々に気配を察知され易くなるから」
「ではまたここに来るかも知れない?」
「そうだね。通ることもあるかもしれない」
平然を装って答えるが、鼓動が速くなる。
どうしてこんなことを聞くんだろう。
近くを通ることがあってももう来るなとか、そういうことだろうか。
自分で考えて胸が痛んだ。好意を示してくれた相手にそんな風に思われるのは辛い。
落胆が顔に出ないようにと思ったのはちっぽけな見栄だ。
だが彼女が続けて発した言葉はまたしても予想外のものだった。
「じゃあ近くまで来たら、またうちに寄ってちょうだい」
「え――?」
ぽかんと目を見開いて、相当な間抜け面をしていたと思う。あの猫によく言われるけれど、
そうと自覚したのはこれが初めてだった。
聞き間違いだろうか?
まさか、そんな。
だが彼女は先と同じことを同じ表情で言った。
「うちで休んだらいいわ。帰るところもなく逃げ続けるのはくたびれるでしょう」
「え……あ、でも」
何と返せばいいのか、言葉にならない。
だって、どうして……どうしてそんな申し出を。
何か企んでいる?
私が訪ねて来るのを待って、今度こそ村人達と共に待ち伏せにするつもりなのだろうか。
その為の布石として親切にしてくれたのだろうか。
分からない。そんな風には見えなかったけれど。
いや、違う。
常に疑うことを忘れてはいけない。身を守りたければ流されない強さが必要なんだ。
でも。
だけど。
あの時以来の混乱に返事が出来ず顔をそむけた。
「迷惑?」
私の気持ちをうかがうような声。
迷惑だなんて、そんなわけはない。
でも信用できるのか。していいのか。第一あの猫だって反対するかも知れない。いや、普通に
考えたら反対して当然だろう。
「どうして……」
やっとそれだけ口にする。
「理由を?」
「ああ。私は――最前まで君達の敵だった。どうしてそんな風に言ってくれるの?」
問いかけた直後ほっと胸をなでおろした。
そうだ。初めからこう聞けばよかった。
年を取るとどうしてか直接的な物言いが出来なくなる。ひたすら相手の思惑を推し量って、
あるいは勝手に誤解をして。
知りたければこうしてはっきり聞けばいいだけのことなのに。
「そうね……」
視線を森の中に移し、彼女はわずかに目を伏せた。
「理由……そう、理由は一つよ。あなたの主張が正しいと思ったから」
「主張?」
聞き返すと真っ直ぐに私を見上げてくる。その瞳の美しいこと。
165 :
134-24:2008/09/27(土) 08:32:33 ID:EOoypSSo
「ええ。神々の行っていることは正義ではない。あなた、さっきそう言ったわ」
「うん」
静かに頷いた。
「神々を倒すのだと」
「……うん」
確かに言った。
返事が重いのは、目を逸らしてしまったのは、本当は倒せると言いきるほどの自信がない
からだ。
神とは、やはり神なのだ。
その支配は強力で、打倒を考えてもそこにたどり着けるかどうか。装甲化無しでは周囲を守る
御使い達全員を振り払うことは困難だし、装甲化すれば再び精神を支配されてしまうだろう。
見上げる先は高過ぎて、のけぞり倒れてしまいそうになる。
だが私にも希望を与えてくれるものがあった。
まだ赤子のようなあの子。あの子の存在が私を力づけてくれた。
御使い達がカテナとして自由を取り戻せば、あるいはと。だから――決して敵わないとは
思いたくないのだ。
「神々を倒すなんて私達人間には叶わないことだもの。もし出来る人がいるなら何だって協力
するのにってずっと思ってた。そんなの夢だとばかり思っていたけれど。……だから私も
あなたの力になりたいの。休む場所や食事くらいなら提供できるわ」
その台詞に顔を見返せば、すみれ色の瞳の中に私の顔が映っている。
いつもこんな風に人の顔を真っ直ぐ見ているなら、どれほど迷いのない人生を歩んでいるの
かと思う。
それを羨ましく思う自分が情けない。
ちくりと胸が痛んだ。
「気持ちは嬉しいけどそこまで甘えることは出来ないよ」
「どうして?」
今更だけれど事情を話すべきではなかったかと後悔した。
彼女はここでとりあえずの生活を送ることが出来るのだし、こんな得体の知れない男の世話を
していると知れたら村人に怪しまれてしまう。
不和の種をまくつもりはなかった。
もし何らかの疑いをかけられても、知らなければ話しようもないのだから。
……それでも。
彼女の台詞を心の中で反芻する。
その気持ちは嬉しかった。最終的には自分達人間のために、ということでも。
ふ、と息をついて微笑む。
ちゃんと笑顔になっているだろうか。感謝を伝える時は出来るだけ笑っていたい。
「こんな時だしね。あんまり余所者がうろうろしているのは良くない。君だって村の人に
見とがめられたら言い訳するのが面倒だろう。一晩泊めて貰っただけで助かったもの。これ
以上のことは遠慮するよ」
「……つまり見られなければ済むってことだわ」
話を終わらせようとする私の台詞を無視し、子供のようなことを言う。
「そういうことを言いたいんじゃないよ。わかっているだろう?」
「あら。もちろん私だって気をつけるけれど、あなたも人に見られるなんてそんなへま、
しないでしょう?」
くるくるとよく表情の変わる子だ。
怯えたり、怒ったり、微笑んだり――挑発したり。
こんな時どういう態度を取るのが相応しいのだろう。
私は目を閉じた。そして熟考と言えるほどの時間をおかず、再び目の前の少女に目を向けた。
迷いはまだあったがあんな風に言われては答えは一つしかない。
「……私はそんな間抜けじゃない」
「でしょう?なら何も問題はないわ」
嬉しそうに頷く。なんて少女だろう。
166 :
134-25:2008/09/27(土) 08:33:12 ID:EOoypSSo
「そうだね」
短く答えるとずっと握られっぱなしだった彼女の手をよけ、逆にその右手をとった。
家事を行っているせいか少し荒れた、だがほっそりと白い指先。
「えっ?」
身をかがめると頭の先で彼女の声が聞こえた。
手の甲に小さく口付ける。
我ながら気障な仕草だと思ったけれど、まさかいきなり抱きしめるわけにもいかない。感謝を
態度で示したかった。
「――!」
顔を向けると彼女は照れくさそうな表情をしていた。
「ふふ、淑女として扱われているみたいでちょっと恥ずかしいわ」
目元をほんのり赤く染める。
手を取り戻すと、さあ、と私にもう行くよう促した。
「あの赤い猫と『あの子』が待っているんでしょう?」
「うん」
彼女を向いたまま森の方に一歩後ずさる。
「また、来て」
「うん」
「気がねはいらないわ」
「うん――ありがとう」
胸の前で手を振る彼女に頷きだけを返して、私はさらに森の奥へと入っていった。
下生えをがさがさ踏み分けながら頬に手をやると熱を持ってるのが分かる。
うん、うんと子供のような返事。そうとしか返せなかった自分が恥ずかしかった。
そしてなにより彼女の好意が嬉しかった。
数歩行くと隣にあの猫がそっと寄り添ってきた。
「随分ゆっくりだったな」
「……ごめん。心配したかい?」
こちらを見上げる猫に改めて尋ねると彼はぷいとそっぽを向いてしまった。
「おれサマは心配なぞしておらん。ただご主人が気にしておられたから迎えに行ったまでの
こと。お前はすぐ戻ると言っておったからな」
「そっか」
意地っ張りな彼の台詞に口元がほころぶ。
口ではこんなことを言っていても彼が本当は自分を案じてくれていたのを知っている。
この赤い生き物は少しひねくれているというか、あの子以外には感情を素直に表現するという
ことをしないんだ。以外、といっても他にいる相手は私だけだけれど。
「なにか面白いことでもあったのか?」
笑いを堪えようとし、だが抑えきれずにやけていたのだろう。彼は私の態度の原因が彼女と
過ごした時間にあると思ったらしい。
首を振って彼の予想を否定した。
「面白い、というか……うん……彼女、変わった娘だった」
「それは最初から分かっておろう。でなければお前にあのような申し出をするわけがない」
「確かに」
危ない所を助けられたからとはいえ、敵である御使いをあんなふうにもてなすなんて。しかも
隠れて住んでる村に案内までして。知られぬよう生活するのに苦心していると言っていたのに。
しかも……しかも、また訪ねて来てもいいと。寄っていってと。
まさか分かってくれる人がいるとは思わなかった。彼女の言葉を反芻しているうちに目の奥が
じわ、と熱くなるのを感じ、私は慌てて目を閉じた。理解してくれる人がいるということが、
こんなにも嬉しいことだったなんて。
興奮が冷めたら、さっきからずっと続いている動悸が治まったら二人にこのことを告げよう。
赤いレクスは私の様子をみて訝しげに目を細めたが、なにも言わなかった。
167 :
134-26:2008/09/27(土) 08:33:55 ID:EOoypSSo
***
それを提案したのは一体何度目だったか、仲間をしりぞけた後のこと。
これまでの展開からしてみれば、ああいう話になったのは当然だった。でもやはり少し考えが
足りなかったかもしれない。
一休みしようと木にもたれているとき、ずっと思案していたことを相棒に告げた。
「なんだと……!?」
彼の顔にようやく慣れてきた私にも、それまで見たことのないほど見開かれた目は、それは
それは恐ろしいものだった。
それとなく体を後ろに引きながら、もう一言添える。
「ああ。そうすれば、私にしてくれたみたいに神々の支配から解放してくれるかと思って。
……どう、かな?」
レクスはむう、と俯いた。
険しい顔をしてよくよく考えているのだろう。質問して大分経ってからようやく口を開いた。
「分からん。その場になってみなければ。ただその可能性はある、と思う」
「どうしたって私一人であの子を連れて逃げるのは難しいんだよ。ヴィティスは馬鹿ではない
からね。最初はよくても、いつかきっと追い詰められる」
それは初めて御使いを敵にした時から分かっていたことだ。
一人でも協力者がいればどれだけ助かるだろう。
隣にいる赤い猫もそれは理解しているようだった。きゅうと目を細め真っ直ぐ前方を見詰め
ている。彼はいつまでたってもそのまま動かなかったが、私は急かさずじっと答えを待った。
迷うのは仕方がない。
何故なら私の意見を受け入れるということは、彼の主人を御使い達の攻撃に晒すということに
他ならないからだ。
その安全こそを第一と考えている彼には私の提案は賭けのようなもの。万一のことがあったら
神々の子は御使いのレクスの前に儚く散ってしまうだろう。
すでに糸のように細くなっていた目を瞑り、尻尾をぴんと伸ばすとようやく彼は口を開いた。
「諾……と言うほかあるまい」
忠実な従者の答えに思わずほっと息をついた。
これが上手くいけば、あの子を助けられる確率が上がる。それでも最悪の可能性を考えて
一応念を押した。
「本当にいいんだね?」
「ああ、だが条件があるぞ」
「何なりと――私が出来る事だったら」
主人の身を危険にさらすのだからその位は予想できた。彼が何を言うのかも。
「ご主人を敵の前に置くのは相手が一人でかかって来たときのみだ」
「ああ。同行者を片付けてから、ってことだね?」
「そうだ。お前が並みの御使い以上にできるのは知っている。だが御主人を背に一人を相手に
しているとき、脇からもう一人出てきました、襲われました、というのでは困るからな」
私は頷いた。彼の言う通りだ。
「分かった。他には?」
「そのくらいか。あとは……お前が心得ておろう」
はっきり言葉にはしないがその一言に私への信頼が見える。彼の期待を決して裏切ることの
ないよう、自分自身と彼に対してはっきりと誓った。
「君をがっかりさせるような真似はしないよ」
「……ふん」
「このこと、あの子には伏せておくよ。いいね?」
そう言うと彼は顔をそむけてしまった。言われるまでもないという態度だ。
「あらかじめ知っていては『攻撃に対する反射的な反応』は期待できんからな……しかし、
上手くいくか……」
呟きには主人を囮にする苦さが混じっている。
私にはフォローする言葉がかけられなかった。
168 :
134-27:2008/09/27(土) 08:34:33 ID:EOoypSSo
それから幾日か過ぎ、再び御使い達が姿を現した。
「ふー……」
エテリアの気配にそれを察し、私は緊張を解くのに大きく深呼吸をした。
これは今までと違って仲間を増やすための戦い、彼等を皆殺しにする必要がない。と言っても
あの子の前まで通せるのはたった一人だ。それでも一人は助けられると、私にはそれが震える
ほど有難かった。
赤い猫を振り返る。
「準備はいいかい?」
「無論――しくじるなよ」
「ああ。分かってる」
きっぱり頷いて返すと赤い猫は光の塊になった。閃光を放つそれは私の掌の中で大きな剣の
姿になる。
レクスの感触を確かめるようにさっと一振りし、私はそれを肩の上へと構えた。
ざざ、と遠くで下草を踏みつけ駆け抜ける音がする。森の中だというのに、何が潜んでいるか
分からないというのに、警戒することなど知らぬかのようにその音は急速に近づいてきた。
これだけ近づけば普通の御使い達でもエテリアの流れが一か所に集まっているのを感じて
いるはず。私の背後にいるあの子めがけて――その命を断つために――そのためだけに数人
がかりで、しもべを引き連れてかかって来るのだ。
茂みの向こうから見慣れた格好が飛び出してきたのと同時に、私はその前に立ち塞がった。
相手はぎくりと立ち止まる。
『神々の使い』は今までの相手と同じように私の姿を視認し、口元をわずかに動かした。その
かたちからカイン、と呟いているのが分かる。
死んだと聞かされた相手が生きている。それが一体どういうことかと考えているのだろう。
私は躊躇わなかった。
まだ一人目だ。
相手が装甲化をしていても、こちらが生身でも、レクスをもって殴り、切り裂けばダメージは
ある。
時間をかけている暇はなかった。残りの者がエテリアの流れを感じすぐにでも駆けつけてくる
だろう。手間取ればたちまち一対多数に持ち込まれてしまう。
相手は一直線に近づいてくる私にすぐには反応できなかったらしい。片付けるのは簡単だった。
腕を振り上げる隙も与えず斜め上から必殺の勢いでレクスを叩きこんだ。正確に言うなら
切り裂いた、かもしれない。
装甲の下でみしりと肉にめり込む感触がし、一瞬だけ気が遠くなった。だが半端なことは
出来ない。腕を振り切り傾く体にもう一撃をくらわせるとあとは絶命を確認することもせず、
地に伏した遺体を足で転がし脇へと追いやった。辺りに放置しておいて足を取られでもしたら
かなわないからだ。死者に対する尊厳なんて言っている暇はない。
後ろにいる灯台をめがけて次が来るのだから。
自分は器用な方だと思っていたが、それでも常にエテリアの様子に気を配りながらの戦闘には
なかなか慣れることが出来なかった。
エテリア達が教えてくれると言っても、彼等は基本的にそこにただ『在る』だけだ。
宙を流れる輝きに周囲の状況を知ることが出来るというだけのもの。
気持ちをそちらに向けなければ読み取ることは叶わない。
だがエテリア達は私はあの子をかばっているせいだろうか、ことさら集中すれば逆に霧散して
しまいそうな儚さ、やわらかさで、時に私にも察することのできない事柄を知らせてくれた。
それは戦いに臨む際も同じで、敵に集中してしまっている私の耳元でそっと囁くように。
彼等にこれという意思が生まれるのは知識としては知っていたが、実際にそれを目の当たりに
したのは逃亡を始めてからだった。
169 :
134-28:2008/09/27(土) 08:35:05 ID:EOoypSSo
奇跡を見るような思いだった。
神々に疎まれ捨てられた存在だというのに、あの子はエテリア達を魅了し、あの子自身が望む
以上の輝きをその身に集めた。
彼等は揺りかごのようにあの子を包みこみ、あたため、歌った。
歌声は空気を震わせ木々の間を渡る風のようにさやさやと、人々の耳に聞こえる音には
叶わないほど遠くまで響き、さらに沢山のエテリア達を誘った。
新たに近付いてくる気配にはっとし、慌てて仕事の後を片付けた。と言っても何人分もの
遺体を茂みの奥に押し込んで見えないようにしただけだが。
亡骸をさらしたままにしておいては相手を警戒させるだけだ。目標の物を見つけたままの
勢いで、神々の子に向かって行って欲しかった。
そうすれば生きたいという本能があの時のようにあの子自身を守るだろう。
木々の間から大きな影が飛び出してきたが私は動かず、茂みの影にじっと潜んでいた。
あれが残り一人というのは分かっている。暴力にさらされるあの子には悪いが、追い詰められ
私のように支配から解き放ってくれればと――せめてもう一人なりと味方が増えてくれれば
助かる確率は格段に上がるのだからと――そう祈るような気持ちで御使いが武器を振り上げる
のを見ていた。
だがその瞬間、脇から切迫した声が上がった。
「いかん!!」
共に成り行きを見守っていた猫が鋭く言う。
「止めろ、カイン!!」
「な――!?」
驚く私に言うが早いか、彼はものすごい勢いで飛び出して行った。
主人を、という気持ちが彼を急きたてたのか、彼は間一髪というところであの子と御使いの
間に入り盾となった。
御使いにしても必殺の勢いでかかったのだろう。攻撃を加える、あるいは防ぐ力がせめぎ合い、
彼等を中心にして辺りに強い風が吹いた。
私もすでに木陰から駈け出していた。
視界を塞がんばかりの風に目を細める。だが足を止めることはせずレクスの後を追うように
御使いの前に立った。
右手を前方に向ければ彼も心得たもので、猫はたちまちそこに武器として収まった。
得体のしれない生き物に御使いは硬直していたが、私の姿を認めると後ずさりした。
死んだはずの男の登場に恐れたのか、あるいは予想外の展開に一時退却するべきと思ったのか。
だがこちらには相手の都合に構っている暇はない。あと一人なりと味方を、との思惑が外れた
今、それなりの対処をしなければならないのだ。
相手に追いすがり、反射的に繰り出される攻撃をかわして一撃を加えると、御使いはほんの
少し呻いただけで地に崩れ落ちた。
相手を行動不能にするだけならこれで十分。だが私の目的にはそれでは足りない。
今さら自分の罪深さを恐れるわけではない。それでもいつも、とどめを刺す前には天を仰がず
にはいられなかった。
私という存在を気取られてはいけないのだと。
そう自分を戒めてもう一度レクスを握り直した。
「……っ……」
動かなくなった敵の傍らにしゃがみこむ。
すでに装甲化は解け、本当の姿を取り戻している。世が世ならカテナと呼ばれていたはずの、
同胞の遺体。薄く開かれた目。
瞼を閉じてやり、だがとても見てはいられず顔を背けるように立ちあがると頭の上にいる
レクスに声をかけた。
170 :
134-29:2008/09/27(土) 08:35:49 ID:EOoypSSo
「ねえ」
「なんだ」
ふん、と鼻を鳴らして偉そうな態度。あんなに張りつめた声を上げた相手とはとても思えない。
だが私は気にならなかった。彼は弱みを見せるのを嫌うところがあるから、わざわざさっきの
様子を言い立てるような真似はしない。
「あの子、一体どうしたんだろう。攻撃されようって時に何故あんなに無防備だったのか……」
「分からんのか」
「……?だからどうしたんだろうって――」
言ってるんだろう、とそう言いかけたのを追うように彼は言葉をかぶせてきた。
その苦々しげな声。
「お前のせいだぞ」
「え――」
思わず頭上の猫を振り仰ぐと、足場が揺らいだのに彼はひょいと飛び降りた。
私のせい?
分からない。何故私のせいなんて言われるんだろう。それとも知らず知らずのうちに、何か
していたのだろうか。
頭を必死に回転させているとレクスは顔も上げずに言ってきた。
「お前、御主人と出会ってどのくらいになる」
「え……っと、二……三週間……にならないくらい、かな?なんだかもっとずっと一緒にいる
ような気がするけれど」
曖昧な答えにも満足そうに頷く。いつもならはっきりしろと怒鳴られるところだ。
「そうだな。そんなものだ。だが、たったそれだけの期間お前と共にいたせいで、御使いを
知ってしまった。いや、お前を知ったことで御使いを知ったつもりになった……と言えば
いいのか。とにかくそのせいでご主人はあの時のような恐怖を御使いに対して感じなくなって
しまったのだ」
「そんな――!」
青天の霹靂とはこういうことを言うのだろう。
私に慣れてくれたことによる弊害がこんな風に表れるなんて。
「とりあえず、これで味方を増やすのは無理だと分かったな」
「ああ……だね」
気付かないうちに、この作戦に随分自信を持っていたらしい。予想以上に気落ちしている
自分に、頭を振った。
当てが外れたときの落胆が嫌であまり期待しないでおこうと思っていたはずなのに。
こんなことすら以前は自制出来ていたのに。
これが支配を脱するということなのだろうか。自身の感情すらままならず、苛立ちを抱える
ことが。
「立て」
まだぼうっとした頭で言われるままに立ち上がる。すると赤い猫は前足で私の足の甲を叩いた。
さっさとしろとはっぱをかけているのだろう。
「その者どもを埋めるのに墓穴を掘るのだろう」
そうだ。彼らの遺体を隠さなくては。戦闘の痕跡を完全に消すのは無理だが、出来る限り
なにがあったのかばれないようにしなくては。
とはいえ地を掘る道具もない。
「……いいかい?」
不承不承という風な彼を説き伏せ、私は後始末を始めた。
***
〜つづく〜
続きキテタ━━━━━━━(゚∀゚)━━━━━━━!!
174 :
134-30:2008/10/04(土) 04:23:11 ID:Ubj00GCr
「はぁ……」
土を掘り返してはため息をつき、穴の中に遺体をおいてはため息をつく。
あれから何度目か数えるのもばかばかしい。それほど回数を重ねても、私はこの作業に慣れる
ことが出来なかった。
気分は滅入るばかり、土を掘ろうとすればおれサマは鍬ではないぞと文句を言われながらの
作業だ。私の方も大抵くたびれているから、うんごめんよ頼むよと適当に機嫌を取るのだが、
あまり心がこもっていないことは彼にもきっとばれている。
手袋をしたままの手でせっせと土を埋め直すのだが、これもまた地道な作業だ。それこそ
鍬なんか土を扱う道具があったら楽なんだけれど、まさかそんなものを担いで逃げるわけにも
いかない。これについては仕方のないこととすでに諦めていた。
捜索されても見えにくいだろう茂みの影になる場所で『仲間』の遺体を処理していると、彼が
声をかけてきた。
「何をぼうっとしてる。さっさと終わらせんか」
「ああ、うん。ごめんよ。ちょっと昔のことを思い出してた」
昔と言ってもあれから――味方を増やそうという試みをした時から――ひと月も経っていない。
あの時自分はすっかり見守る態勢でいたから、もしこの猫の働きがなかったらあの子は
無事ではいられなかっただろう。最悪の事態を思うと今さらながらぞっとする。
「昔……?まあいい。おい」
「なんだい?」
しゃがみこみ背を向けたまま返事をすると彼は驚くようなことを言ってきた。
「済んだらあの娘のところに行くぞ」
「……え?」
思わず手を止めて振り返る。
「どうして急に?」
「間の抜けた面をしおって。もっときりっとせんか」
「なんだい?行くのはもう決定事項なのかい?」
相談するふりくらいしても良さそうなものだけど、私の意思など構った事ではないのだろう。
「そうだ。貴様の意志よりご主人の都合が優先だ。当然のことだろう」
「まあ君にはそうだろうけど……迷惑じゃないのかな?」
「いつでも来いと言っておっただろう。それに迷惑になるかならんかはお前次第ではないか?」
「それはそうかもしれないけど……」
とんとんと靴裏で地面をならす。
遺体を埋めた所はいまだ濃く生い茂る緑の影になっているから、掘り返して土が新しいのにも
気付かれにくいのだ。
口車に乗せられたような気がしないでもなかったけれど、きっぱり断る理由もなかったから
すっかり墓穴を埋めてしまうと私は裾の埃を払った。
「おまたせ。それじゃ、行こうか」
彼に逆らっても無駄なこと。そう思い前向きに言ったが実は心中それほど穏やかではない。
あの少女について半端な社交辞令を言う子には見えなかったが、万が一村人に見られたら
という不安もあった。
しかしそんな風に彼女の本音や立場を慮るのも本心なら、屋根の下での睡眠や温かい食事より
なによりまた彼女と話が出来る、それを楽しみにしていたのも紛れもない本心だった。
葛藤というにはささいなものだが動悸が速くなったのは、多分気のせいではないだろう。
「ねえ」
「なんだ」
「君のご主人の都合ってなんのことだい?」
それが必要というなら何かしら関わりがあるはずだ。でも二人は接触どころか互いの姿を
近くに確認しただけにすぎない。あの時あの子にはおかしな様子は見られなかったし、あの
少女からも神々の子についてあれは何かと聞かれただけ。
一体何があるというのだろう。それともなにかあったとして、私が鈍くて気付かなかっただけ
なのだろうか。
175 :
134-31:2008/10/04(土) 04:23:46 ID:Ubj00GCr
「……ふむ」
彼は私の肩の上で(猫型の時はそこが定位置らしい。重くないから別にいいんだけれど)少し
考えているようだったが、話しても無駄だと思ったのか単に面倒臭かったのか、説明らしい
説明はしてくれなかった。
「事情はあとで話してやる。そのかわり、いいか。戻ってくるときには必ずあの少女を伴って
来るのだぞ。ご主人にきちんと紹介してもらうからな」
『よいな?』と小さな掌が頭頂部をぐいぐい押してくる。
うっかりおかしなことを言うとたちまち爪を立ててくるから、結構な用心をして問いかけた。
「……それは、君がそうして欲しいってこと?」
あの少女に対してご主人に礼を尽くせ、なんていかにも彼の言いそうなことだ。
「何故おれサマがそんな僭越な真似を。ご主人のお望みに決まっているだろうが。あの少女
にはな、お前を休ませてもらったことについてそれはそれは感謝してらっしゃるのだ。自分の
従者の面倒をみてもらったとな。もったいないことだ。お前はご主人にそれだけ心配されて
いるということ、ゆめゆめ忘れてはならんぞ」
「ああ」
彼の言葉が腑に落ちて思わず頷いた。
それで興味をもったのか。きっと彼女のことをやさしい人だと判断したに違いない。
今あの子の近くにいるのは私とこの赤い猫だけだから、あの少女のような相手を知るのはいい
ことだと思った。
この世界には本当に色々な人がいるのだと――追う者がいれば、自分に対して好意を持って
くれる者もいることを――知って欲しかった。相手を知ることが、相手の本質を見抜くことが、
あの子自身を守る盾になるから。
きっと彼女もやさしく接してしてくれるだろう。
分かったよと請け負って、私達はこの間初めて知った場所へと向かった。
着いた時にはすっかり日は暮れていた。
辺りを見回して、人が歩いていないことを確認する。一度訪ねた家はどんな壁だったか、屋根
だったかをちゃんと憶えていたから、やっぱり上着を脱いで駆け足で向かった。目立たぬ
ように、扉に張り付く。
こんばんは、なんて大声を上げるわけにもいかないから控え目に扉を叩いた。
以前裏口から入れてもらったからとこちらに回ったけれど、礼儀に外れているだろうか?
よく分からない。
するとしばらくして返事があった。
「……どなた?」
日が暮れてからの客に警戒しているのだろう。
咄嗟の返事に困った。
「あ……」
どなた、なんて。
そういえば前に来た時名乗りもしなかった。御使いです、なんて言うわけにもいかない。でも
逃げている身で名を名乗るのも躊躇われる。
どうしようと焦っていると何故か私より先にレクスが返事をした。
「にゃあ」
「え?」
足元の猫に私の方が驚いてしまった。
いつの間にこんなところまで。こっちは何も心配することはないと分かっているだろうに、
あの子のそばを離れるなんてどうしたんだろう。
扉はあっさりと開かれた。
「まあ……こんばんは」
少し眉をあげているのは、まさか来るとは思っていなかったからだろうか。それにしても扉を
空ける前にはもう少し用心した方がいい気がする。
他人ごとなのに心配になるほど、彼女はあっさりと私達を受け入れてくれた。
「こんばんは。この間はありがとう。その……」
先に続いて言葉に詰まった。
176 :
134-32:2008/10/04(土) 04:24:14 ID:Ubj00GCr
休ませてもらえるかな?
ご飯を食べさせて欲しい?
分からない。
自分はもう少し機転の利く男だと思っていたけどそうじゃなかったみたいだ。
「早く入って」
ええと、と口ごもる私を彼女は小声で促した。
姿を見られたら困るのは私も彼女も一緒だ。慌てて中に滑り込むと、背後で声がした。
「あなたもどうぞ」
あの猫に対しての台詞だ。しゃがみこんで扉の隙間から外へ手招きしている。
だが彼は少女の顔をじっと眺めると、ふいと外へ駆けて行ってしまった。
「あら……行ってしまったけれど、いいのかしら」
これは私に向かってのもの。
「気にしないで。自分の主人の所に向かっただけだから。本当は『あの子』から、少しだって
離れていたくはないのさ」
「それじゃ、あなたは?あなたはあの猫にとって大事なものではないの?」
そう言われてはたと思う。
彼のことだ、あの子に対する立場では多分自分が上だと思っているだろう。
「なんだろう……同僚、かな?」
まさかどうやらあの猫の下の立場のようです、とは言えない。あの子を助けるためには
それなりに重要な存在だとは思っているようだけれど。
「まあ。ふふっ」
私を入れて改めて裏口の鍵を閉めるとさっそく私を台所に通してくれた。
前と同じように私に手を洗わせて、その間に彼女は竈に火を入れ小さな鍋をのせる。どんな
客が来ても、彼女の流れるような動作に変わりはないのだろう。
「本当はね、もう来ないかと思った」
こちらを向いて微笑んだ顔の嬉しそうなこと。
……嬉しそうに見えただけかもしれないけれど。とにかく迷惑そうではないことに私はほっと
胸をなでおろした。
「何故?」
「あなたのことを色々と知ったでしょう?村の人に話したんじゃないかとか……私、疑われた
かしらって」
「……君は……そんな人には見えなかったから……」
「そう?なら良かった」
「いや……それに私のほうこそ君の言葉に甘えていいものか判断がつかなくて。でも色々
あって結局こうして図々しく君の前に座ってる」
「いいのよ。訪ねてきてと言ったのは私の方ですもの」
そんな短い会話の間にも強い炎に水はあっという間に沸騰し、彼女は茶葉を鍋にひと匙すくい
入れた。途端、室内に苦みのある香りが広がる。火から鍋を外し、茶漉しを間において碗に
注ぎ淹れた。
どうぞ、と置かれたものを両手に持つとやはり温かい食べ物、飲み物は手にするだけで
心休まるような気がした。
「ね」
「うん?」
「甘いものは好きかしら」
甘いもの?
甘いものというと菓子だろうか。そういえば菓子など久しく口にしていない。特に食べたいと
思ったことはないが、暫く食べていないと思うとどうしてか欲しくなる。天の邪鬼なのだ。
嫌いではないという意味で頷くと彼女の顔がぱっと明るくなった。
「それじゃ、あとでお茶にしましょう。今日の昼間、お菓子を焼いたの。まだ少しあるから
味を見てくれる?」
「お菓子も作るの?」
「ええ。得意って言うほどでもないししょっちゅうは出来ないけれど、子供達に食べさせて
あげたくて。……何を優雅にって周りはあまりいい顔しないんだけどね」
177 :
134-33:2008/10/04(土) 04:24:36 ID:Ubj00GCr
人のことだろうにと眉を寄せると彼女は小さく肩をすくめた。
「でもねえ、こんな時にっていう皆の気持ちも分かるし」
時々のことだから見逃してもらいたいわと呟く。
本当はこんな時だからこそお菓子を焼いたり子供達に楽しみを与えたいのだろう。逃げ隠れる
日々を送っていては娯楽だって少ないから。
ただ人々は農地を離れ実際に食料の調達に苦労しているから、菓子なんか作っているのを
見るとどうしても後先を考えない行動に映る。それを知っているから彼女も責められたら
謝るしかないと、そう思ってやっているのだ。
それでもこの少女のこと、ちゃんと食糧には余裕を見てのことだと思われるが。
彼女は普通の人とはなにも変わらぬように私をもてなしてくれた。
ゆっくり休めるように、気兼ねせず過ごせるようにと心を尽くしてくれる。
私に対して無理をしているのではないということが伝わってきて、嬉しかった。
「え?」
翌朝、帰りがけに少し森まで付き合ってほしいと言うと彼女は数度目を瞬かせた。
「ぜひ連れて来て欲しいって。君に会いたいらしいんだ」
「でも……」
躊躇するのはあまり関わり合いになりたくないからだろうか。それともあの子が恐ろしい
からか。些細なことに物怖じするような少女ではないと思ったのだが。
わけを尋ねると言いづらそうに口を開いた。
「あんまり良くないんじゃないかって思うんだけど……」
「良くない?何がだい?」
上目づかいにこちらを見る彼女はそっと目線を外して申し訳なさそうだ。
「あんなこと聞いておいてなんだけど、部外者が余計な事を知るのは良くないと思うの」
組んだ手の親指をくるくるとまわして。
自分が突っ込んだことを聞いたくせにと思っているのに違いない。こうしたことからも自分の
行動に責任が持てる少女だということがよく分かる。まだこんなに若いのに。
そんな思いが顔に出たのか、自然と顔がほころんだ。
「本人がそれを望んでいるんだ。君が構わなければあの子に会ってあげて欲しい――駄目かな」
玄関の扉に手を掛けて、私は彼女を促した。
取っ手の上に置いていたがその上に小さな手が重なった。
「私が先に出るわ」
確認するように語りかけてくる。
自分が先に出て辺りに人がいないか見ようというのだろう。すでにその目に迷いはない。
つまり承諾したということだ。
頷きあうと私達は前回のように森の中へ小走りで入って行った。
駆け寄ってくる赤い猫に両手を差し出すと、軽々と肩のあたりまで登ってきた。
どうやら彼は彼女に正体を明かすつもりはないらしい。
細い足で自分の上に立たれる危うさに思わず腕をまわして話しかけた。
「ただいま」
にゃあと鳴いて、まるで猫のようだ。本当の姿を知っているとなんだか落ち着かない気持ちに
なる。
彼は後ろ向きにじっと少女を見つめていよう。顔を回すと彼女が微笑んだのが見えた。
「こんにちは」
彼女の言葉にも鳴き声だけ。
「名前はなんて言うのかしら」
「名前?名前……は考えてなかった」
驚いて答えると彼女はさらにびっくりした顔を私に向けた。
「それじゃ、なんて呼んでいるの?」
「ねえ、とか君、とかだね」
「それは名前じゃないわ」
確かに。
178 :
134-34:2008/10/04(土) 04:24:59 ID:Ubj00GCr
今まで気付かなかったのがおかしなくらいだ。
でもそれでも用が足りていたし、と自分に言い訳をする。どことなく彼女の目に非難の色が
あるのは彼を意思をないものとして扱っているように見えたからだろうか。
きっと人格(猫格?)を認めるならきちんと名を呼ぶべきだと思っているのだ。
「この間までレクスだったから……そういう発想がなかったんだ。ごめん」
「別に私に謝る必要はないわ。それでは、あの子には?」
「あぁ――」
あの赤い猫の『ご主人』は少し離れた所にいて、遠慮しているというより彼女という存在を
遠くからうかがっているように見えた。
「紹介するよ。来て」
まだ太陽が中天にも昇っていないような時間だったが、戦闘のたび身を隠すように言い続けて
来たせいか、あの子はより木々の茂る暗い場所にとどまっていた。
彼女と二人近づいてゆくと神々の子はゆらゆらと左右に揺れ動いた。
知らない人を間近にするのに、緊張しているのだろう。この子自身が彼女との接触を求めた
とはいっても、ほとんど初対面なのだ。普通の子供だって見知らぬ人には人見知りする。
強くなったり弱くなったりするエテリアの輝きに、私は顔がゆるむのを感じた。
さて、何と言って紹介するのが良いだろう。
少女の方はと後ろに顔を向けると、彼女は見上げるほどの大きさの球体ににっこりと笑い
かけていた。そして首を傾げ、小声で尋ねてくる。
「声をかけても大丈夫かしら」
「この子には言葉は話せないから。君が話しかけてくれたら助かる。でもあまり驚かせる
ようなことは言わないでほしい」
最後の台詞には心外そうに眉を上げたものの、頷いてくれた。
神々の子に向かって少女はもう一度微笑む。
「こんにちは」
球体の纏うエテリアがゆらりと表面から立ち昇る。しかしこの輝きは彼女には――彼女達、
人間には大きな一つの光にしか見えないのだ。それを思うと少しだけ人間達が気の毒になる。
こんなに気持ちのいい光を、春の木漏れ日のような暖かさをその目に見ることが出来ないと
いうのだから。
体の前で組んでいた手を球体へ伸ばしかけ、だが届く前にこちらを振り返った。
「触れてもいいかしら」
「大丈夫だと思うよ。でもそうっとね。この子も緊張してるから」
頷く彼女の頬が上気しているのに気付いた。
やはり緊張しているのだろう。話には聞いても正体の分からないもの。それに勇気を出して
歩み寄ろうとしているのだ。
そっと指先が触れる。表面をなでるようにして掌がおりた。
「真っ白い……ぼんやりしてて、でもあたたかくて。中に小さな太陽がはいっているみたい
だわ」
やはり人間には中が見えないのだ。
だがエテリアそれ自体を視認することはできなくても、あの子を取り巻くエテリアの量に、
息づくものを感じている。
「気持ちいい……」
顔を寄せても目に見えるのはほんのりとした光だけ。目を細めてみたが真の姿になんの
手掛かりも得られなかったようだ。
「やっぱり太陽みたい。目を凝らしても中は見えないのね」
彼女が何かものを言うたびにあの子はふわ、とエテリアを溢れさせた。
どういう反応だろう。
私と話しているときはこんな風にはならないのに。
それを口に出すと彼女は唇を尖らせた。
「残念だわ」
「何がだい?」
「あなた達に見えて、私には見えないっていうことが。確かに目の前で起こっているのに
分からないなんて。エテリアって話には聞いたことがあるの。昔話に……綺麗なんでしょう?
……私、初めて人間に生まれて損をしたと思った」
179 :
134-35:2008/10/04(土) 04:25:21 ID:Ubj00GCr
他愛のない会話。
だが赤い猫はそれを注意するそぶりもない。こちらの様子をうかがいながら私達の周りを延々
うろうろしていた。
私はと言えば、このレクスがいったい何をしたかったのか、本当に彼女をこの子に会わせる
ことだけが目的だったのかと内心首を傾げていたが、彼女の質問に答え、あるいははぐらかして
いるうちに、彼の真の目的をさとったのだった。
結構な時間が過ぎてることに気づき、慌てて彼女を森の出口――村の入り口まで送って行った。
あまり長時間留守にしていては、村の人に何か感づかれるかもしれないからだ。
少女を見送り二人の元に戻ると赤いレクスは得意そうな顔をしていた。
「意味が分かったか?」
近付く私に駆け寄ると、大した助走もせずに肩の上へと飛び上がる。
「ああ――すごいね。どういうことだい?」
自然と目が神々の子へと向かう。
あの少女を連れてくる前に比べると、事情を知らなければ眉をひそめるほどエテリアの量が
減っていた。
赤い猫の鋭い眼がわずかに歪む。
「……結局のところ、寂しく感じていらっしゃったということだろう。おれサマにも予想外
だった。こんな短時間でこれほどの変化が現れるとは」
その輝き、弱くなったと言っても天の太陽が月になった程度だが、本人に分からなくても
地上において光を浴びる者には両者の違いは大変なものだ。
「そうか……」
表面を撫でてやると無数の小さな光が漂ってくる。だが一通り私の体の上を泳ぐといつもの
ように神々の子の中へと還っていった。
相手は人間だ。私達カテナやこの猫のように意思の疎通が出来るわけでもないのに。
「あれで満足だったのかい?楽しかった?……彼女、やさしそうな子だったろう」
問いかけにまた球体の上をエテリアが揺らめいて、私達そうと察する者には神々の子が肯定を
表していることがわかった。
それは声なき笑い声のようにゆらゆらと溢れて、とてもとても美しかった。
次のおとないの時、私は事情を話して彼女の協力を仰いだ。
君と接触したことであの子の孤独感がやわらいだこと。
そのおかげかエテリアを無暗に呼び寄せるようなことがなくなったことを。
「だから時間のあるときでいいんだけど。あの子のところに行ってあげて欲しいんだ」
「それ……本当に私のせいなのかしら」
話を聞いている間から手の中で茶碗の淵をなぞっている。
テーブルに向かい合わせに座って、私達は話をしていた。
「うん。この間は言わなかったけれど、本当は君がいた時から様子がどんどん変わっていって
たんだよ。あれにはちょっと驚いた。まさかあんなに……」
「そんなに変化があったの?」
目を見張る彼女に私は重々しく頷いた。
「でなきゃ、こんなことは頼めない。私達の目にエテリアは小さな光として映る。あの子は
それを一身に集めるから闇夜には大きなともし火のようになるんだよ。だから御使い達は
神々の子に関しては夜、行動するんだけど」
「光を目指して?」
「そう。明るいうちよりも探すのが格段に楽になるからね。だけど君と接することでもっと
もっと寂しさが薄れたら……きっと今までみたいにエテリアを集めて眩しい光を放つことも
なくなるし、そうすれば御使い達から身を隠しやすくなる。今までみたいにあちこち逃げ
回らなくてもよくなるんだ」
180 :
134-36:2008/10/04(土) 04:25:56 ID:Ubj00GCr
そうなれば私としてもありがたい。逃げる分の体力を御使い達を撃退する方に回せるのだから。
ただ彼女にはしばしば森の中へ来てもらわなくてはならないから、それを怪しまれないかが
心配だった。
いや、まずは承諾してくれるかどうかなのだが。
「どうだろう、協力してくれるかい?」
改めて要請すると、彼女は思いのほか長く考え込んだ。手元を見つめる真剣な眼差しは、
重ねて言い募るのを憚らせる。
その表情に私は楽観的になっていたことにどきりとした。彼女のことだから一つ返事にけて
くれるだろうと思っていたのだ。
考え方を変えたんだろうかとそんな不安を感じ始めた頃、彼女はようやく顔を上げた。
「役に立つかは分からないけれど……」
「――!それじゃあ……」
「私でよければ。じゃ、あなたが帰るとき、一緒に行くわ。そんなに長時間は無理だと思う
けれど。それでもいいかしら」
「ありがとう……!助かるよ、本当に」
自分の表情がぱっと明るくなるのが分かった。
ここのところ、こんな風に気持ちが素直に出ることが多い気がする。
御使い達を率いていた時は感情を隠すことをよしとしていたというのに。これも自由意思を
取り戻した影響なのだろうか。
「そんなことなんでもないわ」
小さな手をとりぶんぶんと握手をすると、彼女は照れくさそうに言った。
「そうしたらあなたも少しは楽になるのかしら」
「かなりね」
彼女は以前言った通り、出来る限りのことをしようとしてくれているのだ。
共に闘ってくれる者でこそないものの、本気で私達を支えようとしてくれているのが分かり、
胸が熱くなった。
こうしてたびたび彼女の家で休ませてもらうようになり――私達は一度だけ関係を持った。
〜つづく〜
長くて申し訳ない。
こいつは長編だな、全裸で読む価値があるじゃねぇかGJ
>>181 長くてもいいんだよおおおおおおお
もうwktkが止まらない
全裸で待つには寒い季節になって参りました
風邪ひいた
つ靴下(右)
つ手袋(左)
つ蝶ネクタイ(水玉)
なんだろう…おまいらのチェインに感謝の気持ちが沸いてこない
つベルト
「無理だ!!」
192 :
134-37:2008/10/13(月) 03:46:08 ID:4mHqsgzI
怒りも嘆きも、自分の選んだ生き方への迷いや孤独さえ、彼女の笑顔をみれば大したことでは
なかったのだと思える。
初めて出会った日から君の存在が、そのやさしさが、確かに私を支えてくれていたのだと。
そのことを私は一生忘れないだろう。
***
「は……っ、く……!」
大剣で敵の攻撃を逸らし相手の懐に飛び込む。御使いは急な接近にのけぞったが、反撃する
余裕も与えず返すレクスでその喉元を切り裂いた。
私が狙うのは装甲の綻びだ。彼等は頭からつま先までエテリアを吸着しその防護を堅牢な
ものにしている。だが良く見てみればきっちりと覆われた体にもエテリア同士の繋がりが
薄い部分があった。
確かにレクスをもってすれば装甲状態の相手を傷つけることが出来る。だが時間に余裕が無い
私はいつも少ない手数での決着を求めていたため、激しい戦闘のさなかにも相手の最も弱い
部分を探るようになっていた。
それもエテリアの流れを読むのと同じく、逃亡のうちに身に付いたものだ。
びくびくと痙攣する体をほおって私は再び駆けだした。
前には森を歩くのにずいぶん慣れたあの子がいた。先に行けと怒鳴ったからわき目も振らず
進んでいるに違いない。ただひたすらに前を向いて。
早く追いつかなくては。
そう焦る私に後方から凄い速さで接近してくるものがあった。
九人目だ。
倒しても倒しても現れる相手にヒヤリとする。
今晩はおかしい。ヴォロを一体も連れてきていないし、みな気配の薄くなったあの子がどこに
いるのか、居場所を知っているかのように真っ直ぐ目指してくる。
いつものようにうろうろした挙句見つけたというのではなく。
私ははっとした。
ヴィティス……彼だ!
私には遠く及ばないだろうが、エテリアの気配に敏感な者はいる。埒が明かないからと一気に
叩くつもりなのだろう。
まさかここにきて人海戦術で来るとは――。
その可能性を考えないではなかったが、今さらないだろうと油断していた私の失態だ。しかし
予見していたからと言って一体どんな備えが出来たというのか。いくら私でも一度に複数は
相手に出来ない。かかってこられたら逃げるしかないのだから。
もうあの子の白い影が見えてくるという頃、それは視界に入ってきた。
私の逃げてきた道には点々と死体が転がっている。それを見ていないのか、あるいは勝てると
思っているのか、相手は迷いなく私に攻撃を仕掛けてきた。
一瞬で飛びかかってくる跳躍力は凄いものだった。アルミラもかなりのものだったが、この
相手はその速度が桁違いだ。
「……っ!」
なんとか防いだもののさっきの相手と違って今度は私の方が態勢を崩した。
勢いがついていても思ったより攻撃が軽かったのは、もしかして相手が女性だからかも
しれない。
最初に二人を同時に相手にし、あの子を先に行かせたから、いつものように待ち伏せて迎え
撃つなんてこともできない。あがった息を整える間もない戦闘の連続に、さすがに足もとが
怪しくなった。ふらつかぬよう、足を前後に置いて地を踏みしめる。
193 :
134-38:2008/10/13(月) 03:46:58 ID:4mHqsgzI
正面にいる相手は何を語るでもない。だがこちらとしても言葉を交わすより問答無用で戦闘に
入ってくれる方がありがたかった。
相手に心があると思うと、攻撃する手が鈍るから。
それにしてもと相手を眺める。
もしこの御使いが女性だとしたら厄介だ。女性は往々にして私達男より身軽だから。
相手の身のこなしの素早さは、どんなに攻撃が重いかより私にとって重要なことだった。
この柔らかい体で今まで敵を退けてこれた理由がそこにあったからだ。
自慢ではないが私はこの自重、身長で皆が驚くほど反応することができる。それは確かに
多少動きが早いというのもあるが、どんな攻撃を仕掛けてくるか、どう避けるかという方向に
頭が回ったからだ。だから判断を下すのも早く、結果的に敵の攻撃に当たりにくくなる。
しかし運の悪いことに、相手の攻撃は飛び道具系だった。とするとやはり女性なのだろう。
男の場合、レクスは手に持つ物、体に装備する物であることが多い。
ある少女を思い出した。いつか見た……彼女は確かジュジュ、と言っただろうか。今対峙して
いる相手の能力は追尾能力こそないようだがあんな風に周囲に展開するレクスだった。
橙色の鋭い光が私めがけて飛んでくる。
後ろに飛びすさると今まで立っていた場所に何本もの矢が突き刺さっている。あの少女の
物のように一度自分のもとへ戻すのかと思いきや、地に突き立てられたものをそのままに
また背後に数本の光の矢を出現させた。
まずい、と思った。
急接近されてこの攻撃を受けたらさすがに全部避けることは出来ないかもしれない。火照った
体に、だが背中がひんやりとするのを感じて私はわずかに後ずさった。
その瞬間だった。
御使いは一気に間合いを詰めてきたのだ。
「――ッ!」
あまりに早いその動き、あっと思った時には目の前に敵の顔があった。表情の読めない、
装甲化した顔が。
一歩下がり、もう一歩で左手に飛びのける。
あまりに近距離の攻撃、なんとか避けたものの一筋が肩をかすり背後に鋭い音をたてた。
痛みがないのは服をかすっただけだからだろう。
エテリアの守りが込められているとはいえ、この服の丈夫さには本当に助けられる。態勢を
崩したのにたたらを踏んで向き直ると、なんと相手は私に見向きもせずに走って行くところ
だった。
私は御使いが最も優先しているのはなんなのかを忘れていたのだ。
敵に背を向けることに何の躊躇いもないのは私を侮っているわけではなく、障害物が進路から
どいたから進むと、それだけだ。背後の脅威などは二の次で万事神々の意思を優先する。
神命の執行さえ出来れば死さえ厭わない。そう思っているのが手に取るように分かった。
二か月ほど前までは私も同じように考えていたから。
あの足の速さでは先回りすることもかなわない。
私は手にしたレクスを前方へ向け思いきり放り投げた。すると見た目に反して軽いレクスは
瞬く間に黒い翼をもつ猫になった。
それは主人を守るために風を切って宙を飛ぶ。
彼なら私が走るより早くあの子と御使いの間に割り込むことができる。そう確信しての行動
だった。
案の定、敵は接近しつつ前方を行く神々の子を攻撃しようとしたが、矢はあの猫の作りだす
不可視の盾によって弾き飛ばされた。
相手はまさかと思ったのだろう。見たこともないおかしな生き物にこれもまた予想外の能力。
急激に速度を落とし、行く手を阻むよう宙に浮いている生き物に距離をとった。
神々の子を中心に円を描くよう動くとそれにつれてあの猫もその視線を阻むように動いた。
決して通さぬという決意が見て取れる。
私も感心しているばかりではない。急ぎに急いで御使いのいるのとは逆方向へ迂回し、
あの子の前に立った。
194 :
134-39:2008/10/13(月) 03:47:27 ID:4mHqsgzI
私からはあの猫の背中が見える。
彼に任せておけばこの子を傷つけられる心配はないのだろうが、それでは攻撃する手段も
なくなってしまう。
深呼吸をして後ろから羽をもつレクスに近づいた。
「……後は任せるぞ」
「ああ」
猫の言葉に短く答える。
彼もこのままでは埒が明かないと思ったのだろう。守りに終始していては決着がつかないから。
掌に心地よい熱さを感じた直後、正面から光る矢が飛んできた。
隙を突こうとしたのか私のいる場所への攻撃に横へ大きく避ける。だが避けた挙句あの子に
当たっては困るからと間に立ちつつも神々の子を真後ろにすることは避けた。
この剣でいったいどこまで防げるのか。先ほどのように距離を詰められては弾くこともまま
ならない。相手の動きの速さを考えると、怪我することを覚悟の上でかからなければならない
だろう。
一点集中ではなく斜めに並んで飛んでくる橙色の矢を数本打ち落とす。
一、二、三……。
一度に何本まで打てるのか確認しながらの防御。先ほどより少ないと思いながら大剣で
払った後、もう一本が飛んできた。この位置なら後ろにいるあの子に当たらないと一瞬で
判断し体をひねる。
やはりこれで全部、一度に操れるのは七本までだ。
体は攻撃を避けても視線は外さない。
ならば次の攻撃の直後に隙ができるはず。そこまで考えた。反撃の機会を捉えたと。
だが光の矢はもう一本あった。
「な、にっ!?」
大剣を構えなおす間もなく向き直した体をもう一度ひねる。
しかし避けきれなかった。
「ぐ……!」
シュ、と風を切る音に背中を裂かれたのが分かった。さっきと違い、今度の攻撃は肉まで
届いている。だが同時に動けないほどの重症でないことも分かっていた。
御使いは私を攻撃すると同時に走りだしていたのだろう。まさかこの程度で倒せると考えて
いたとは思えないが、それこそ私の脇をすり抜ける隙が出来れば十分と思っていたに違いない。
横を駆け抜ける存在に私は反射的に足をあげた。上半身をかえす余裕はなかったしそれしか
出来なかった。
以前はレクス以外で相手に働きかけることはなかったのだが、一人で闘っているうちに自然と
こういう小細工が出るようになっていた。こちらにはなりふり構っている余裕がないのだ。
相手もまさかと思っただろう。神々の子へ必殺の勢いで向かったせいもあり、前のめりに
なったまま前方へ――私の後ろへと転がった。
といっても均衡を崩して地面に倒れこんだ程度だが、その御使いに追いすがるには十分だった。
思いがけないことに混乱したのか、敵のレクスの先端はどこを向けばいいのかとあちら
こちらを向いている。
飛んでこなければこんなもの、脅威でもなんでもない。
雑草を刈るように橙色の矢を払うと這ったまま逃れようとする御使いに対してレクスを振り
上げた。
「は……っ……はぁっ……はぁっ……」
私はなんとか生き延びた、という心境だった。
今までこれほど切羽詰まった状況はなかった。
思いがけない展開、途中の一対複数の戦闘。
守るべきものを敵の目に映しての防衛は大変なものだった。息は切れ、黒い服の下で全身から
汗がふき出している。
よろよろと地に両膝をついた。次いで両手を。
195 :
134-40:2008/10/13(月) 03:47:57 ID:4mHqsgzI
「大丈夫か?」
「ああ……生きてるから、ね……」
それが何より重要だった。
死体の横にごろりと仰向けになる。見上げる木々の間に星は見えなかったが、さらに逃げて
いたあの子が戦闘の終わりを察知したらしい。木陰から寄ってきて辺りを照らしてくれた。
大分数の減ったエテリアがそれでもふよふよと寄ってくるのに私は右手をあげた。
「大丈夫……大丈夫だから……少しだけ、休ませて」
微笑むと神々の子は体を揺らして辺りに光を振りまいた。
額に手をやって手袋をしたままだったことに気付く。指先をくわえて外すと、改めて額が
しっとり濡れているのを拭った。
「ああ、でも……今回はさすがに疲れたよ……君は大丈夫かい?」
「おれサマはレクスだからな。疲労とは無縁だ」
赤い猫は答えつつ両手をついて伸びをした。
あんなことを言っていても大分気を張っていたようだから(当然だろう)やはり精神的には
くたびれたのだろう。
「ならいいけど……」
横を見ると倒したばかりの御使いが斬りつけられた姿勢のまま伏せている。装甲化はすでに
解けていた。
それを見るともなしに見て、目を閉じ反対方向へと顔を向けた。
死に顔は普通の……本当に普通のカテナだ。生きている時は目だけが違った。何かを盲目的に
信じている者の目。異論を受け付けない、鈍く輝く瞳。
右手を握りしめると長い時間レクスを掴んでいたせいかわずかに、強張っていた。胸の上に
両手を合わせ、くたびれた掌を揉みほぐす。
「背中は痛まんのか?」
「平気さ」
それを聞いて彼は神々の子の方を向いた。見上げたという方が正しいか。
ご主人と崇めているだけあって、さすがの彼もこの子の上に飛びのることはしない。
言葉を交わさなくてもある程度の意思を感じられるのは私も一緒だが、やはり彼は正体が
レクスということもあり、エテリアから神々の子の意思を感じることにかけて、私は一歩も
二歩も及ばなかった。
今も『ご主人』が何を考えているのか読み取っているのだろう。
「沢山……」
「うん?なんだ」
肩越しに振り向くのに首を振った。
「なんでもない……」
沢山殺した。
一晩でこれだけの人数を殺したのは御使いを辞めて以来始めてだった。
それも紛れもない自分自身の意志で。
彼等も自分達が支配されていた事実を知らなかったとはいえ、思いを遂げずに逝ったのは無念
だっただろう。それに比べたら背中の傷くらいなんだというのか。だが仕方がない。彼等には
彼等の、私には私の都合がある。
どんなに沢山の相手を傷つけても負けてやるわけにはいかないのだ。
全ての追手を退けて息は上がっていても私は平静だった。少なくとも自分ではそのつもり
だった。
だが彼には私の精神状態がよく分かっていたのだと思う。
暫くの休息ののちいつものように後始末を始めたのだが、遺体の処理も終えぬうちにあの
少女を訪ねるよう勧めてきた。
「どうして。まだ片付けが終わってない……さっさとしなきゃ、もしかしてまた次が来るかも
知れないだろう?」
今回のことを思えばヴィティスのことだ、半日と置かず新たな追手を向けるくらいのことは
するかもしれない。
そう言ったが彼は頑として頷かなかった。
196 :
134-41:2008/10/13(月) 03:48:25 ID:4mHqsgzI
「お前は怪我をしている。手当てをする必要がある」
「だから……大丈夫だよ。こんなもの、かすり傷だ。寝ればすぐ治るさ」
両手を広げてみせるが彼は納得しなかった。
「お前の大丈夫はあてにならん。ただでさえ本来なら寝台で眠るものを、草の上を寝床に
しておるのだぞ。時々あの娘の所で休ませてもらっていても、数日分の疲れはたまっている
はずだ。……だいたい背中の傷がどれほどのものか、自分では見えぬだろうが」
「見えないけど……大して痛くないから」
「手当てをしてもらえ」
平気さと肩をすくめてみせても険しい顔で言い募る。
いつもに比べて随分親身だと思った。だが傷を案じているというよりは、もっと別の不安を
感じているような態度。
だが私はその痛みが些細なことに思えるほど疲れていたから、すぐにでも横になりたかった。
物を考えるいとまもないほどすぐに。
手袋をはめ直した手で頭をかいた。
普通の人づきあいを考えるとどうにも彼の主張には同意しかねる。
「ついこの間訪ねて行ったばかりだし。あんまりあてにされても、きっと迷惑だよ」
「だったらあの娘はそう言う。また来いと言うのは本当にそう思っているからだ」
「よく分かるね」
いつの間にそんなに理解を深めたのかと、私はなぜか明後日なやきもちを焼いた。
眉を寄せるとレクスはふんと鼻を鳴らした。
「お前が鈍いのだ」
口の悪い彼にもう一度肩をすくめる。逃亡を始めてからこの動作がすっかり癖になって
しまった。
「怪我したまま行ったら驚くんじゃないかな」
「ではたった今完治させて見せるがいい。……あまりぐずぐず言っているとあの娘の方を
呼び出すぞ?」
今度は脅しだ。まったく、本気なのだろうか。あれだけ自分の正体を隠そうとしていたくせに。
だがこの猫はやりかねない。頑固なのだ。
私はあきらめのため息をついた。
まさか彼女をこんな殺人現場に連れて来させるわけにはいかない。
「わかった!わかったよ……行こう」
いつものように戦闘が始まったのが暗くなってからだったから、彼女の家に着くころには
すっかり深夜を回っていた。いくらなんでも人を訪問するには遅すぎる時間だ。
辺りに人気のないことを確認して木陰から出る。
扉をとんとんと叩いて、反応がないのにもう一度叩く。こんな非常識な時間だもの、もう
眠っているのかもしれない。
ではどうしようと思ったとき、扉の向こうに人の気配を感じた。
彼女の問いはいつも同じだ。
「どなた?」
「――!」
予想できたはずの台詞に息をのんだ。
私は焦った。二度目に訪ねた時のように、一体なんて言えばいいのかと。
正面に扉を叩いたまま握った手があった。人を殺してきたばかりの手。
目に見えないけどそれは確かに血で汚れている。手だけじゃない、全身が血まみれだ。
私はどうしてここにいるのか。
いられるのか。
無意識のうちに自分が後ずさりしていることに気が付いた。
いまさらに人殺しの自分を見られたくないのだろうか。
どんなに身ぎれいにしても彼女は知っている。私が同胞殺しの元統率者だということを。
答えに迷っていると扉が開いた。
彼女は手燭を掲げ私の顔を認めてほっとしたような表情をした。
「やっぱりあなただったのね。返事をしてくれなくちゃ分からないわ。……入って」
197 :
134-42:2008/10/13(月) 03:48:46 ID:4mHqsgzI
金色の長い髪をゆるく縛って手前にたらしている。もしかして、もう寝台に入った後だった
のかもしれない。
初めて見た彼女の寝間着姿は若い娘らしく可憐なものだった。まだ夏用のものなのか、彼女が
身動きするたびにひらひらと揺れる。露草の青を水に溶いたような生地は限りなく薄く、
ともし火に透かせば体の線がはっきりと見えそうで羽織っているレースの肩掛けが人前に出る
最低限の体裁を取り繕っていた。
自分の視線に気付き慌てて顔を背けたが、頬が熱を持つのを抑えることは出来なかった。
「――君は不用心に過ぎる」
私に対しあまりに無防備な少女。
心に湧いた焦りをごまかすのについ苦情めいたことを言ってしまった。
「あら、あなたが返事をしないのが悪いんだわ」
注意されるのは心外と眉を上げる。そして突っ立って動かない私に首を傾げた。
「どうしたの?どうぞ」
いつも使わせてもらっている部屋に着くと彼女は中に入るよう身振りで示した。そして申し訳
なさそうに私に視線を向ける。
「ごめんなさい。今夜は来ないと思って、お湯の支度をしていなかったの。体を拭くだけ
でもいいかし……っ!」
その時少女が息を飲んだのが分かった。
「あなた、怪我をしているの……!?」
客室に入る私の背中に彼女の声が覆いかぶさった。
「あ、うん」
答える声は我ながら平然としたものだ。
あの猫にはああ言ったけど、本当は結構痛むんだ。でもあの時は痛いというのすら億劫で。
珍しく怯えている少女に、心配しないよう片目を閉じて見せた。そしてやっぱり見栄を張って
しまう。これは男だから仕方がないだろう。
「ちょっとしくじってしまって。そんなに痛くはないんだ。それで……当て布と包帯でも
あったら借りたいんだけど」
すると彼女は眉を寄せ私を非難した。
「そういうことはすぐに言ってちょうだい!もう……待ってて。持ってくるから」
余程慌てているのか、扉はばたんと大きな音を立てて閉まった。
「そんなにひどいのかな?」
彼女は桶と畳まれた布やなんかを手にすぐに戻ってきた。ぼうっとして動かない私を見て
目をいからせた。
「まだ脱いでなかったの?さ、早く!早く脱いでちょうだい!」
「ご、ごめん」
あまりの剣幕に反射的に謝って胸元の留め具に手をかけた。だがどうしてか指先が震えて
うまく外せない。
「あ、私が」
「大丈夫、自分で出来る……ありがとう」
見かねて申し出てくれたが断った。痛みのせいだと思われただろうか。
本当なら裸になるところだ。彼女には出て行ってもらうのだが今は傷を見てもらわなくては
いけない(さすがに背中を自分で手当ては出来ない)。せめて脱ぐくらいのことは自分でと
思ったのだが、彼女は一つ首を振るとさっと手を出してきた。
器用に留め具を外し、瞬く間に上着を脱がせてしまった。むっと汗のにおいが広がったが
彼女は構わないようだった。
黒い上着を椅子の背にかけると表情を変えることなく肌着に手を伸ばす。首の部分を緩めて
やはり釦で留めてある前を開くと改めて背後に回った。
肩からそうっと脱がせてくれる。
「っ……!」
傷口が肌着に張り付き、傷が攣れてつい声をもらしてしまった。
彼女は一瞬動きを止めたものの、脱がせなくてはと思いきったのか真剣な声で少し我慢して、
と言って一息に剥いだ。
198 :
134-43:2008/10/13(月) 03:49:30 ID:4mHqsgzI
「酷い傷……でもなんだか……切り傷というより火傷の跡みたいだわ。出血は止まっている
ようだけど」
「火傷?そうか……多分相手のレクスがそういうものだったんだろうね。でも、本当なら
心臓を貫かれてもおかしくなかったんだ。運が良かった」
「そう……」
大袈裟に言うのはそれに比べればこんなの軽いものだと言いたかったから。でも大して効果は
なかったらしい。彼女の返事は重たげだった。
「座って」
言われるまま寝台に腰を下ろす。すると絞った布で何度も傷口を拭いて、その後は傷の上に
何か薬をつけてくれたようだった。ようだ、というのは私からは見えないから。熱をもった
部分にひんやりしたものを当てられたのが分かったから、なにか薬草でもつけてくれたのかも
しれない。
布を当て包帯を巻き終わるまで、あとはもう互いに何も言わなかった。
手当てが済んで部屋を出て行く途中、彼女は思い出したようにこちらを振り返った。
「着替えは棚から出して使って。お腹は?食べれるかしら。なにか用意してくるから」
台所だってもう火を落としたのだろうに当たり前のように声をかけてくれる。すっかり寝る
つもりだっただろう彼女に改めて恐縮した。
「いや、怪我をしたせいか食欲はないんだ」
「駄目よ。そういう時だからこそちゃんと食べないと。体だって回復しないわ」
人差し指をたてて言い聞かせる姿は母親のよう。
そんな彼女にお腹は空いてるんでしょうと念を押されては断りきれなかった。
「……じゃあお言葉に甘えて……でも本当に少しでいい。そんなに食欲がないんだ」
「分かったわ」
頷いて彼女は扉を閉めた。
自分しかいなくなった室内を見るともなしに眺める。
寝台の脇に置かれた燭台。小さな棚と一脚の椅子のほかは余計な家具のないすっきりした部屋。
いつにもまして違和感を覚えるのは戦闘の余韻が残っているからだろうか。
目を閉じると嫌でもさっきの光景が浮かんでくる。
数人を相手にして、私は必死だった。生き残るのに。
連戦に次ぐ連戦。途中で図らずも二人を相手にした時はさすがに死ぬかと思った。
あの時――これで終いかと死を感じたとき強く思ったのは神々を倒すためにとか、あの子を
守るんだとかそんな耳触りのいい決意ではなく、まだ死にたくない、ということだった。
死んでもいいと思った事さえあったというのに。
正直言ってこの世にどんな未練があるわけでもない。本当は自分のしていることは偽善なの
だと頭の片隅にいつもそんな考えがあった。正義に酔っていたくてそのことから目を逸らして
いただけなのだ。
だから何も考えたくなかった。これまでのように気付かない振りをしていたかった。
やるべき作業で頭をいっぱいにして、やるべきことをやったら泥のように眠りたかった。
どれだけ御使いを犠牲にしても、私には彼等の死を悼む権利などない。なぜならこんなにも
自分の無事に安堵している。あの子も関係ない。結局彼等の命より自分の命のほうが大事な
だけだった。
ぎゅっと目を閉じて歯をくいしばった。
気を抜くと涙がこぼれそうだった。
暫くして彼女が戻ってきた。
手にした小さな盆にはパンとお茶が載っている。
「抱えて食べて」
そう言って寝台に腰かけたままの私に寄こした。
「ありがとう」
答える声はしっかりしていただろうか。
彼女は少し首を傾げたが、何も言わず正面の椅子に腰かけた。
199 :
134-44:2008/10/13(月) 03:49:56 ID:4mHqsgzI
この少女には世話になってばかりだ。申し出があったからとはいえ、かなり助けられている。
こんな風に支持し助けてくれる相手がいるのにぐずぐずと考え込んではいられない。気持ちを
切り替え無くてはとチーズを挟んだパンにかぶりついた。
食べるものと、休む場所と。提供してくれる相手がいることに私は感謝しなくてはならない。
まだそんなことを思いながら口をもぐもぐと動かしていると、椅子に腰かけて見ていた少女が
心配そうに問いかけてきた。
「傷が痛むの?」
「え?」
「元気がないから。……怪我したこともあるし、今日は食べたら早く休んで」
「ありがとう……でも大丈夫」
思いやりある言葉に笑顔を向ける。
本当はあまり心配をかけるようなことはしたくなかったんだけれど。こんな女の子に切った
張ったの話をするのは控えたい。でもあの猫の言う通りきちんと傷の手当てをしてもらえた
のは助かった。
そんなことを思いながら茶を一口飲む。と、彼女の口からため息がもれた。見れば目を伏せ
沈痛な面持ちをしている。
「どうかしたの」
「……いつも大丈夫って言うのね」
「え?」
寂しげな彼女の微笑みに私はどきりとした。
「ここに二度目に訪ねてきた時のこと、覚えてる?」
あの猫に帰りにこの少女を連れて来いと言われた時のことだ。
「さっきあなたを出迎えた時、あの晩と同じような顔をしていたわ」
「同じ顔?」
「ええ。どうしたらいいのか分からないって、そんな顔」
彼女の台詞にぎくりとした。
確かに私の訪問を知らせようとして、あの時と今日とで同じような戸惑いを覚えたから。この
少女が言うように、どういう態度をとるべきかという迷いが顔に出ていたのだろう。
なんだか気まずくて目をそらしたが、それは逃げのような感じがして彼女に顔を戻した。
すると気の毒そうな、だがどこか責めるような目が私をしっかと見据えていた。
思わずたじろいでしまいそうなほど真摯な表情で。
「あなたは私が何か言うといつも『大丈夫』って答えるわ。それは本当にそうなのかも
しれない。けれど……私には自分に言い聞かせているように思えて仕方がないの。『まだ
大丈夫だ』って日々の疲れや不安を自分自身にすら隠しているみたいに」
大袈裟な言い回しに首を振った。彼女の話を聞いていると、どれだけ自分は繊細だと思われて
いるのかとおかしくなる。
「でも、本当に大丈夫なんだ。この怪我だって大したことは無いし、疲れていてもこうして
休ませてもらえれば回復するから」
「そうね。その通りだわ」
「そうだよ。痛いのもだるいのもいっときのこと。平気さ」
冗談ぽく言ったが彼女は乗ってこなかった。
じっとこちらを見ていたが眉をよせ下を向いてしまった。
「でも辛いんでしょうに」
目を伏せているのに瞳が輝いて見えるのは水が張っているからだろうか。
問いの形をした言葉に答えず、私はどうして彼女は泣きそうな目をしているんだろうとそんな
ことを考えていた。
「一時でも怪我すれば痛いわ。疲れていたら休みたい。なのにそう口に出すことすら我慢を
して。あなたはなんでも辛抱しすぎる。私は誰かを殺したり……なんて、話に聞いただけでも
怖くなってしまうし、だからあなたも口にしないよう気を使ってくれているのかもしれない
けれど、私にも話を聞くくらいのことは出来るわ」
「私は話なんて、なにも……」
「ね?そうやって拒むの。一人で抱え込んで。どういうつもりか知らないけれど……私に
対しては、それは優しさじゃないわ」
「……」
200 :
134-45:2008/10/13(月) 03:50:27 ID:4mHqsgzI
今度こそ私は正面を向いていられなくなった。
俯く顔、早まる鼓動に呼吸が荒くなる。異常を悟られまいと自分よ落ち着けと膝の上できつく
手を強く握りしめたが駄目だった。その拳すら小さく震えだした。
どういうつもりなのかって?
そんなのはこちらの台詞だ。そっちこそどういうつもりでそうやってずけずけと人の心に踏み
込んでくるんだろう。隠されていると感じたのなら気付かないふりをするのが礼儀ではないの
だろうか。
分からない。
どうしてそんなにも無遠慮なのか。
どうしてそんなにもやさしいのか。
「泣かないで」
「え……?」
彼女の言葉に顔を上げると、瞬きに頬につうと水が流れるのが分かった。
知らず知らずのうちに泣いていたらしい。
「――っ!」
言われたとたん自分がひどく悲しんでいるのに気付いた。
おかしいのは『一体何が悲しいのか』をはっきり認識できなかったことだ。
悲しい理由が分からない。
自分を見損なっていたことだろうか。
世話好きの母を疎ましがるように彼女に対して意地を張っていたことだろうか。
頬を濡らす滴を手の甲で拭って、それでもまだ涙はあふれてくる。
ごしごしとこするのは無駄な抵抗だった。
「わ、私は……」
自分を取り戻した夜あんなに泣いたのにまだ泣き足りないのか。涙はすでに尽きたとさえ
思ったのに。感傷的になるのはこれきりと誓ったのに。
右手で隠すように顔を覆う。それでも涙は止まることはなかった。
ぎっと寝台がきしみ、隣から伸びた手に頭を持って行かれた。頭をかかえるように抱きしめ
られて、丸まった背中をとんとんと叩かれる。
幼子をあやすような仕草にも私は抵抗しなかった。
「どうしてそんなに優しいんだ、君は……」
言った声はくぐもって聞こえなかったかもしれない。
瞑った目尻から頬へ、さらに顎の先を伝って雫が落ちた。
敷布の上に一つ、また一つと落ちて黒い染みを広げてゆく。俯く目の先にそれははっきり
見えていたものの、人前で涙を流すことの恥ずかしさを何故か感じなかった。
「そんな風にしてもらう権利は……私には、ない……」
ただ罰だけを。
望んで行ってきたことでないとはいえ、この先は苦しんで、悔やんで生きていくのが相応しい
のだと思っていたのに。
「生きているんですもの。喜びを否定することはないわ。あなたは自分の犯した罪の重さを
知っている。それを受け止めて償おうとしている人を、どうして責めることが出来るの?」
「でも……君達にはその権利があるんだ」
「そうね。でもそれを出来るのは……あなた達によって家族を奪われた人の身内の方だけ
なんじゃないかしら」
声は耳からも聞こえたが、それより近く抱きしめられ接した部分から直接響いてきた。
私をなじるでもない、だが庇うでもない。ただ事実を語っているだけの。
「君は、許せるの……?」
体が揺れ、そっと首を振ったのが分かった。
「もちろん許せる行為じゃないわ。あなた達はいろいろなものを奪い過ぎた。世界を潤す
エテリアも、住むべき村も、家族も。でも――そういう意味ではあなたをその人達から奪う
ような真似は出来ないわ」
あくまで落ち着いた声。
201 :
134-46:2008/10/13(月) 03:50:52 ID:4mHqsgzI
目が勝手に閉じてしまい、また涙がこぼれた。
何故この人はこんなにも静かに話すのだろう。
こうして大の男が、それも大量殺人者が泣いているのに甘ったれるなと罵ることもしない。
ただやさしくしてくれる。
「ね、泣かないで」
小さな手が何度も何度も頭を撫でて慰めてくれる。
涙を拭うこともせず顔を上げれば、正面には心配そうな表情の彼女がいて胸が詰まった。
頭なんか働いて無かった。
彼女の手を掴まえて抱きしめる。
力の強さに驚いたのか体を硬くしたのが分かったが、その温もりを逃がしたくなかった。
「ごめんなさい……ごめん……」
うわごとのように呟く。
この世界に、そして今まで手にかけてきた人々に。
少女はそっと私の後ろに手をまわし、また宥めるようにしゃくりあげる背中を撫でてくれた。
随分長いことそうしていた気がする。彼女が何も言わないのに私は薄い肩口から顔をあげた。
瞬きした拍子に涙の粒が落ちて頬を伝う。
ほっそりした指が流れを断つようにそこを拭った。
顔をあげたその一瞬目が合ったものの、泣きはらした目にも何も言わない。
彼女は少し視線を上に向けて私の乱れた前髪を梳いてくれた。
そして顔が近付いてきて、私は目を閉じた。
額に、瞼の上に。あたたかい感触が落ちてくる。何度も、何度も。
――誘ってるの?
なんて。
こんな風に口付けられて、いつもの私だったら意地悪く聞いていたかもしれない。
でもこのときはただすがる相手が欲しかった。抱きしめて、頭を撫でてくれたらどんなに
この心細さが和らぐだろうかと。
だが心の中からそうじゃないという声がする。
その声のまま頬に置かれた手をとって、ぎゅっと握りしめた。
離せない。
離したくない。
このあたたかい人を、どこにもやりたくなかった。
自分がされたように彼女の顔に手を伸ばす。
薄金の髪を結わえた紐はいつの間にか落ちてしまっていて、いつものように長い髪を下ろして
いる。
頬を撫でれば肌はしっとりとして指先に心地良い。指の背で顔の輪郭をたどって顎に至り
そっと上向けても少女は目をそらさない。
真っ直ぐに私を見つめて――顔が近づいても、彼女は逃げなかった。
重なる私の唇を目を閉じて受け止めた。
深く絡ませることもしない、そっと触れるだけの。
嫌がるそぶりを見せない少女に私はなぜかほんの少し苛立ちを感じた。
彼女の気持ちが分からない。何を考えているのか。今の流れではどうしたって慰めを求めて
いるようにしか思えないだろうに。
「どうして……」
呟けば不思議そうに瞬きをする。私は言葉を継いだ。
「嫌だって言わないの?」
「なぜ。だって嫌でないのに必要がないでしょう?」
首を傾げて、本気でそう思っているらしかった。
202 :
134-47:2008/10/13(月) 03:51:44 ID:4mHqsgzI
顔にかかる前髪を避けると反射的にか目を閉じる。そこに隙を見てまた口付けた。
額に、瞼の上に、頬に。
彼女は子供のように目をぎゅうと閉じていた。私が離れるとおっかなびっくりと言った風に
こちらを見て、そしてほんの少し顔を赤く染め恥ずかしそうに笑った。
それ以上言葉を重ねるのが怖くて、彼女の口からの否定の言葉が出るのを恐れて私は口を
噤んだ。
拒まれないことに甘えていいのか。
心の奥にそんな迷いもあったが止めることは出来なかった。すでに苛立ちなど吹き飛んでいる。
近づけば目を伏せる彼女に再度唇を落とした。
ちゅ、と数回ついばんだのち、そっと自身のそれで入口を開いた。舌を滑り込ませると彼女の
体がわずかに逃げる。離れないように肩に置いていた腕を背中へと回した。
抱きよせる体の細いこと。
こんな華奢な、儚げな少女が本当に……受け入れてくれるのだろうか。
私は憐れまれているのか。
その気持に感謝をし、受けとっていいのか。
たったふた月程度の孤独が私をこんなにも心弱くしたのだろうか。語り合う愛のないまま
関係を持とうなんて。
脳裏をかすめる自身への問いかけも、だが今の私には何の抑止力にもならない。
だが、それだけ寂しかった。一人で立っているのが辛かった。
仲間を迎え撃ち、殺す。
他に道がなかったとはいえ罪は深い。いずれ罰せられる時が来るのだろうが、今はただ慰めが
欲しかった。
抱き締めてくれる誰か。
自分の選択は正しいのだと、私の生き方を支持してくれる誰か。
そんな相手が目の前にいて弱音を吐かぬ事など出来るだろうか。
「ん……っ、ぁ……」
決して強引にはならないようにと絡ませた舌を最後にやさしく噛んで、顔を上げた。
視界はまだ僅かに水気で滲んでいたが、正面にいる彼女の笑顔はたがえることなく私の心に
沁みこんできた。
「笑顔の方が似合うわ」
そう言って頬に口付けてくれる。
まるで母親のように。
無償の愛の存在を信じたくなった。
応えるよう彼女に笑いかけたがぎこちなかったと思う。それでも彼女はその顔の方がいいわ、
と言ってくれた。
膝の上に抱きあげると思っていた以上に軽い。ちゃんと食べているのだろうか。
彼女は大人しくされるままになって私の肩に両腕を置いた。
そして頭に何度も口付けてくる。
今度こそくすぐったくて、私は笑い声をもらした。
重ね合う唇、服を脱がせながら時折指先に触れる肌の感触に安らぎを感じる。
人の肌とはこんなにも心地良いものだったのか。
以前は生暖かさに気持ちが悪いと思ったことさえあったのに、今はそれにため息がもれる
ほどの安堵を覚えている。
私は息が上がるほど激しく彼女の唇を求めた。
何度も離れては舌を絡ませ、吸って彼女の口中を存分に味わいながらその細い体を寝台に
横たえる。
天井が視界に入っても彼女は逃げようとはしなかった。
〜つづく〜
おっづ!
GJ、いよいよお楽しみタイム突入ですね!!
GJすぐる(*´Д`)ハァハァ
長さのにエロが短いことを先に謝罪させていただきます!
208 :
134-48:2008/10/21(火) 01:30:16 ID:4XMr1WHw
私の心と同じようにたよりない灯りが室内をかろうじて暗闇から引き離している。だがそんな
寝台の端まで届かない光でも、今の私にはそれで十分だった。
ただこの少女を照らしていてくれれば、それで。
下を見ずに途中まで脱がせていた寝間着を引き下ろす。ゆったりしてやわらかな素材のそれは
音も立てずに寝台の脇に落ちた。そしてもう一枚。女の子らしい桃色の生地が目の端に映った。
裾から手を滑り込ませ膝の上へ向かう。掌を大腿に這わせれば若さに溢れいつまでもさすって
いたくなるようなみずみずしい肌に気が逸り、下肢を覆う布きれをさっと奪い取った。
全く、我ながらどれだけ即物的なのかと思う。上から順にではなく先に一番大事なところを
脱がせるなんて。
膝上丈の下着は襟ぐりが大きく開いて鎖骨を露出している。抱きしめればふわりと押し返す
体だが、そこは燭台の灯りで影が映るほどくっきりと浮いていた。きっとこれを脱がせれば
ほっそりとした体が現れるのだろう。
橙色に染めるともし火にも彼女の頬が上気しているのが分かる。
表情の全てが知りたくて額に散る髪を脇によけると恥ずかしくなったのか、こちらをじっと
見ていたすみれ色の瞳が閉ざされた。そしてほわ、とさらに頬が濃く色づく。夕日を頬に
いただいたと思うほど赤く、熱くなり、その反応があまりに可愛らしくて瞼の上にまた
口付けた。
すると彼女はまつ毛を震わせ窺うように私の顔を見上げた。
小さな唇、薄く開いた場所を指先でなぞると反射的にかやはり閉じてしまう。指を差し込む
ようにして唇を開かせると、自身の唇を重ねた。
「ん……」
歯はきちんと並んでいて端からそろりとなぞってゆくのも心地良い。小さいからあっという
間に反対側にたどりついて、そのまま裏側まで舐めた。口内のぬるついた感触に素のままの
彼女を感じて嬉しくなり、遠慮がちにしている小さな舌にちらちらと誘うように触れては
反応に困るのを楽しんだ。
視線が交わるたび彼女が微笑んでくれるのは私を安心させるためだろうか。考えても分から
ないことは頭から締め出して顔から顎へ、さらに喉へと唇を落とす。噛みつくようにしては
舐めて、きつく吸っては点々としるしを残した。
今まで誰と寝た時もこんな感覚に陥ることはなかったが自分にそれだけ余裕が無いということ
だろうか。気を抜いたら彼女への気遣いすら置き去りにしてこの華奢な体を貪ってしまいそう
だった。
腰でゆるく結ばれている帯に手を伸ばすとそれを察したのか少女の胸が大きく上下した。
それでも彼女は何も言わない。
帯をほどいて裾をたくし上げる。
「手、あげて」
耳元に囁くと彼女は私の言う通り脱がせるのに合わせて腕をあげた。ばんざいのかたちにして
下着を脱がせると、最後に長い髪が服からこぼれた。薄金色の髪は華奢な肩に、胸元にと流れ、
腕や脚で体を隠そうとする姿が年にそぐわないほど彼女を艶めかしく見せた。
寝巻きと同じように薄手の下着も寝台の下に落とし、彼女の体を覆うものはもうなにもない。
全裸の彼女に比べ私は下ばきは穿いたままで上半身は裸とはいえ包帯に包まれている。
乾きかけているはずの傷が、片手で自重を支え力が入っているせいかちょっと身動きした
拍子にも痛んで動きを慎重にした。
だがその感覚にも徐々に慣れてきてしまっている。
慣れたと言うより人恋しさに自身を駆り立てるものが、痛みを霞ませているだけかもしれな
かった。
露わになった体を顎から喉を人差し指でなぞる。
左から右へ、鎖骨の陰影にそって舌を這わせたいと思うのは男にとって自然な衝動だろう。
指先が胸の間を通るときに少し身を縮めたようだったが、腹部のくぼみを過ぎて大事な場所の
手前まで指を止めなかった。
掌を落とすとなめらかな肌にも一糸も纏わぬ寒さ故か緊張のためか、肩も腕も、胸すら
わずかに粟立っている。
209 :
134-49:2008/10/21(火) 01:30:57 ID:4XMr1WHw
それこそ自分の肌と触れ合う感触に慣れて欲しくて、彼女をぎゅっと抱きしめた。
こんな成り行きでもひどくするつもりはない。怖がって欲しくなかったから。
口付けをはえ際に、髪にと繰り返しながら手は勤勉に動いている。肩を撫で、腕に触れ、指と
指をからめてはその先にも唇を落とした。
ふつふつと立つ鳥肌に、最初の触れた時の滑らかさに戻るかと掌をそっと彼女の胸に這わせた。
ただやさしくと心に念じて揉み上げる。
丸く盛り上がったやわらかな肉。片手で髪を撫でつつもう一方は胸の先端を摘み、弾いた。
「……あ、っ」
舌先で硬くなった部分を転がしては唇で圧迫する。そのたび彼女は息をつめ、私は敏感な
反応に満足してさらに手を動かした。掌に吸いつくようなみずみずしい肌はまるで男を
知らない乙女のようだ。
以前、最初の印象よりも若いと思ったがそれは顔だけでなく全身についても言えることだった。
腰回りや大腿にはまだ成長の余地があり、それに比べて細すぎるくらいの腕が拠り所を
求めてか私の首へと回された。だが裸身に引き寄せるのを照れているのかぎゅうと抱きしめる
ようなことはない。
少々の寂しさを感じながら私は手をくびれへと回しさらに下へ動かした。白い丘陵は感動的な
までの柔らかさを弾力をもっていて、両手で弄ぶうちにより彼女の近くへ行きたいと思い
始めていた。
大腿へ、その内側へと掌の感触に慣らし、さらに足の付け根へと滑らせた。
真夜中に全裸で触れ合う二人、彼女の呼吸が落ち着いたのを知って私は秘密の場所へ手を
伸ばした。
瞬間小さく身動きしたがそれには気付かないふりをして指先を下へおろした。
なんとなく感じていたのだが、やはりと思う。彼女は全体に体毛が薄いようで、その場所も
例外ではなかった。
どうだろうと多少不安に思ったが、指が閉じた部分へ分け入るとそこは私の愛撫で十分潤んで
いた。
そっと動かせばぬるりとしたものが指先にまとわりつく。彼女の表情を見、声を聞いていれば
分かるが、それでもはっきりと表れた女の反応に安堵した。
意識は指先へ、視線は無意識に少女の喉のあたりにいっていたが、肩を掴む手に力が入るのを
感じて顔を前に向けた。
見れば眉をひそめ私を見ている。その濡れた瞳と言ったら、こんな風に視線だけでこちらを
昂らせる相手は今までなかった。
そこにある突起に触れると脚が閉じようとした。もちろん間に私がいるからそんなことは
出来ないのだが無意識の反応だろう。
彼女の愛液で濡れた指で、くりくりとそこを捏ねてやる。と、腰が逃げそうになったのに
のし掛かるようにして彼女をつかまえた。
「ぁ……っ、あ」
声をあまり出さない人なのか、それとも感じて――いないわけではない、と思いたい。
時折り小さな喘ぎが吐息に混じる。
入口をそろりと撫でると秘唇のさらに深く、奥へとゆっくり指を沈めていった。
私は焦っていたのかもしれない。本当はもっと丁寧に愛撫するべきだったのかも。
そんなことを心の奥で考えて、だが指先に感じる粘液の感触に、逸る自身を抑えることが
出来なかった。
中をほぐすのもそこそこに、下ばきを緩め脱ぎ捨てる。
いきり立ったものをほころんだ場所へと押し当てた。
途端彼女が一段と大きく体をすくませる。だが逃げようとはしない。というより、紅潮した
顔にもほんの少しおびえが見え、彼女は逃げぬよう努めているように見えた。
「――……」
突然ある可能性に辿りつき、私は一瞬動きを止めた。
210 :
134-50:2008/10/21(火) 01:31:21 ID:4XMr1WHw
まさか。
まさか彼女は――まだ、蕾なのだろうか。
「君……まさか」
乗り出して言いかけると小さな手が私の口を塞ぐ。
何を言おうとしたのか察したのだろうか。じっと私の顔を見つめて、それから首を横に振った。
まるで『何も言わないで』というように。
まさか、と。
人間と我々カテナは寿命が十倍も違うことは分かっていた。だが――考えが足りないと
言われればそれまでだが――カテナは彼女ほどの年になると(外見上の年齢で、だが)多くの
者はすでにある程度の経験を済ませている。
だから、その可能性を考えていなかった。
何よりいくら気の毒だからと言っても、経験のない乙女が身をもって男を慰めてくれるなどと、
誰が思うだろう。
筋道だてて考えたわけではなかったが、無意識に彼女は経験済みだと思っていたことに、
そしてそんな彼女が私を受け入れてくれたことに私は愕然となった。
だが胸の中に去来する思いとは裏腹に、下半身に凝る衝動が私を止まらせなかった。
この期に及んで経験の有無を言っても始まらないと追及を避ける彼女に甘えて、というより
も、その事実を頭から締め出して、再び彼女に集中した。
ぐっと腰を進めると細い腰がしなる。
もっと丁寧にすれば良かった。やさしく、やさしくすれば良かった。
女体と交わる感覚に恍惚としながら後悔を覚える。
痛みにか彼女の脚に力が入り、くっと伸びるのを感じた。眉根を寄せている顔に何度も口付け
脚を撫でてやる。辛さを少しでも和らげてやりたかった。
突き当りに辿りつくと彼女の肩口に顔を落として大きく息をついた。
本当に疲れているのは少女の方だろうが。
細い腕を辿ると敷布を強く握りしめているのに気付き、自分の肩へともってきた。
「ここに置いておいて」
そして抱きしめて欲しいと甘えたことを言ったら、こぼれるような笑顔を見せてくれた。
「でも傷口には触らないようにすればいいのね?」
「出来れば」
そう答えると彼女は両手を背に回して抱きしめてくれた。私からも同じように両手を回す。
もう少しこのままでいればいい。彼女の中が少しでも慣れるまで。
彼女も本当は口を利くどころでは無かったのかもしれない。互いに沈黙したままただ抱き
合っていた。
暫くして囁くような声がした。
「ね」
「うん?」
「あの……う、動いても……もう」
さすがに直接的すぎて恥ずかしいのか言いつつ顔を横に向けてしまう。
本当はもう少しこのままでも構わなかったのだが、言葉に甘えてほんの少し体を引いた。
実際動かなくても挿入したままのものは萎える気配はなく、これが本能のせいか相手が彼女
だからか、私にはよく分からなかった。
もう一度腰を寄せる。
彼女の中は私にぴたりと吸いついて離れない。体をゆっくり前後させると少女が小さく声を
もらした。だが表情と言えば額に薄汗を滲ませながらも励ますよう微笑みかけてくる。内心
臆したのが分かってしまったのだろうか。
平気なふりをして(これは彼女のほうこそ、だろう)唇を啄ばんだ。
それでも彼女との行為を止めることが出来ない。
そんな自分があさましいと思ったが、自身への感想をわきに追いやってなお動きたくなるほど
彼女の姿は可憐で扇情的だった。
211 :
134-51:2008/10/21(火) 01:31:47 ID:4XMr1WHw
「や……あ、っ」
何度目か中を抉るよう強く腰をぶつけると濡れた膣内、襞に擦れるのに体の奥から知った
感覚が押し寄せてくる。抗えない、大きな波に頭の中が真っ白になる。
「くっ……!」
私は衝動に流されるまま、彼女の中を自分の欲望で満たした。
彼女がカテナだったら多少は気を使ったのだろうか。だが私達の行為に妊娠の可能性は欠片も
なく、遠慮する必要がない。
この頃にはもはや行動の理由は寂しさだけでなくなっていた。
彼女の肢体は私の本能を誘惑してやまない。
達しても一向に萎える様子のない自身に美しいくびれを抱え直すと、再度抽迭を始めた。
繋がった部分からは密着し擦れ合うのに合わせて隠微な音が聞こえる。
「ぁ……あ、待って……」
下から小さく制止する声があがったが私は聞かなかった。
繰り返し突き上げるたび彼女の体が弓なりに反る。
顔をそむけ、声を抑えるためか口元を手の甲で隠す彼女の、なんと美しいことか。抱きあう
女性がこんなに神秘的なものに見えたのはこれが初めてかも知れない。
力任せに彼女の腰を抱き上げると腿の上に乗せるように抱えこんだ。
「きゃ……っ!んん……っ」
私は寝台の上に半ば膝立ちになりながらうろたえる彼女を引きよせ口付けた。
後ろからこの白い背中を眺めるのもいいだろうが、向かい合っての行為だと口付けが容易
なのがいい。
「あっ、あの……ン……ッ、ぁ……」
やり場のない手を私の肩に回してくれたから、私は両手を彼女の大腿にやり再びゆっくりと
ゆすり上げた。
しがみつく少女のあえぎ声が耳元に響く。
先と違う体位で突き上げられるの感触にやはり腰が浮いたが、私も後ろから彼女の肩に手を
回して離さなかった。
脚が私を挟む姿勢になったが私が腰を動かすたびに緊張し力が入るのか、中にいる私をきつく
締めつけてきた。
何もかもがたまらなかった。
貪欲に唇を重ねればおっとりと絡めてくる彼女の舌の動きも、中では締めつけながら逃げ
ようとする体も。
終わりが見えてきて大きく彼女を突き上げる。
「んっ……」
揺するたび大きな胸が私の体を撫で、下半身に滾るものが私を扇動した。
ひと際強く突き上げる。
貫く先から快感が駆け抜けるのに私は裸身を強く抱き締め背筋を震わせた。
「はぁ……はぁっ……」
続けての絶頂を迎え、さすがに私も肩で息をした。
彼女には何が何だか分からなかったかもしれない。愛撫に対する反応はあっても声音には
なんとなく不安の色を感じたから。
繋がりを解くのは名残惜しかったがここまでしてもそれ以上自分本位にはなれなかった。
一方的な思いやりだと言われるかも知れないけれど、彼女にも同じような感覚を味わって
欲しくて改めて彼女の首筋に唇を落とした。細く白い喉元にちゅ、と音をたてて跡を残すと
舌先でなぞるように下へ下へと舐めていった。
両手は量感豊かなふくらみの上にあって、麓からつんと上を向いた場所まで余すところなく
撫でては捏ねる。
「は……」
小さな唇からもれる吐息に陰影が混じると、私は再度そこへ舌を這わせた。
212 :
134-52:2008/10/21(火) 01:32:18 ID:4XMr1WHw
桃色に尖った場所にきり、と噛みつくと彼女が肩をすくめるのが分かった。最初はそっと、
だが徐々に強く。何故だか半ば彼女を試すような気持で立てる歯に力を加えていった。
口と言うのは自分で思うより大分力のある器官で、なのにまだ嫌がらないのかとこちらが
心配になる頃、ようやく彼女は声をもらした。
「ぁ……!」
それでも私を責めるようなことは言わない。切なげにまつ毛を震わせて問うような眼差しを
向けるだけだ。
あまりにも控えめな態度に私は急に己の行為に罪悪感を覚え、彼女の耳元で謝罪の言葉を
述べた。
彼女は頷くでも首を横に振るでもない。潤んだ瞳が映っているのは私の顔しかなく、だが何を
思い何を考えているのかまったく分からなかった。
分かるのはそれでも私を拒否してはいないということだけ。
赤く歯形のついた場所にもう一度舌を這わせると、自分が傷つけた部分を丹念に舐めた。
もう片方の乳房に左手を置く。さっきの反省も兼ねてひたすらにそっと、やさしく揉み上げる。
張りのある柔肉は掌の中でさまざまに形を変えた。
肌と言う肌、指先に感じる彼女は若さに溢れていた。
背中に手をまわせばかすかになぞっていく指の動きに敏感に身動きする。知らず知らずの
うちに微笑みを浮かべているのに気付き、慌てて再度顔を雪のような肌の上に落とした。
腰の下へさらに手を進めれば曲線も滑らかな臀部に至る。
腿の付け根から持ち上げるように、あるいは横から尻朶を寄せるようにする。小さめの丘は
すべすべしていてその感触に私はうっとりとなった。
指先が新たな場所に触れるたび、身を縮め、眉をひそめる。
その度に口付けを交わし並びの良い歯をなぞり、赤く濡れた唇を吸った。
これはすべての御使いに言える感覚だと思うが、御使い時代は人間を行為の対象に考えること、
同じ姿かたちをしていてもその発想すらなかった。
もうずっと昔、お伽話に人と恋に落ちる御使いの話を聞いたことがあったが、それも我々に
とっては獣と恋をするようなもので、本当にただの夢物語でしかなかった。
だが今考えてみればそれは神々が現れる前に真実あったことなのかもしれない。人間への
差別意識さえなければ種族を越えて愛し合うことが出来ると、先人達は知っていたのだ。
「ふ」
「え……?」
「なんでもない……なんでも」
「でも、ん……っ、あ、……ぁ……ん」
思わずもれた笑みに目を眇める少女。何か言いかけたのになんでもないと首を振って口を
塞いだ。
最中に何を埒もないことをと我ながらおかしくなった。が、でなければ行為に夢中になって
しまいそうだった。夢中になってこれ以上自分勝手にこの少女を抱くことを避けたかった。
小さな手がやってきて私の視界を塞ぐ。
「見ないで……」
舌を這わせていても自分を見上げてくる私の視線に照れてしまったのだろう。
可愛らしい声に目がゆるむ。
「恥ずかしい?」
「ええ……恥ずかしいわ」
そう答えるのもやっとの恥じらいぶりに、私は身を乗り出して枕もとの燭台に息を吹きかけた。
もともと小さな火は簡単に消え、灯りがもれぬ様窓もしっかり閉ざされた部屋のこと、辺りは
星の明りさえ見えぬ真の暗闇に染まった。
これでもう彼女のかたちを知るのはこの手と記憶だけだ。
見えなくなったものの居場所を確認するように髪を撫で、頬を撫で、口付けを交わす。
「……っ、ん……ふぁ……」
213 :
134-53:2008/10/21(火) 01:32:47 ID:4XMr1WHw
鼻が悪いわけではない。だがこの時までその香りに気付かなかったのは余計なところに神経が
行っていたからだろうか。
彼女の体からほのかに漂ってくる甘い香りに気付き、くん、と匂いを嗅いだ。
「甘い香りがする」
「え?……あぁ、お昼に居間に花を生けたの。それかしら」
暗闇に聞こえる声は密やかで可愛らしい。だが下から香ってくるのはそれを包み込んであまり
ある程の濃厚な花の香だった。瑞々しい緑の匂いもする。
吸う息から胸の中まで染めてゆきそうな甘い空気に頭がしびれるような気がした。
見えないのを良いことに、下方に体をずらすとほっそりした腿を持ち上げた。
はっきり映らなくても私に対してあからさまになった場所。そこを撫で、つぶと指先を埋める。
ほんの入り口だが普段は触れられぬ部分のこと、彼女はたちまち脚を閉じようとした。
「駄目……閉じないで」
しんとしているせいでつい声をひそめてしまう。
静寂の向こうに迷っている気配を感じたが私はそれこそ躊躇いなくそこに顔を寄せた。
陰核をついばみ、舌先でくすぐっては唇でやわやわと揉む。
「やっ……駄目……!」
上に逃げようとするのに大腿を抑えつける。秘裂に差し込んだ指で内壁を探った。
「あっ、あっ……あ、いや……!」
切れ切れに声を上げるが手を休めたりしない。徐々に喘ぐ声が切なげなものへと変わって
いくと私は突起をしゃぶっていた舌をずらした。
くっしょり濡れた所を片手で開いて秘所の入口を舐める。
「駄目……おねが……」
最後まで言えない台詞にも首を振る。
「力を抜いて」
それだけ言うと愛液で満たされた場所を舌で遠慮なくねぶった。
いやらしい水音に混じって上の方から短く息をつくのが聞こえる。少しして彼女の体から力が
抜けたのを知ると手を豊かな胸に伸ばした。
二か所を同時に弄られ持って行きようのない手が胸を這う手に重なる。
ぎゅっと握られるのと、彼女の腰が震えるのは同時だった。
「ぁ……っ!」
彼女の反応に満足し心の中でため息をついた。
そして自分の愛撫で達したことに自身が思った以上に喜んでいることに気が付いた。
濡れた口元を手の甲で拭って耳元に顔を寄せる。
「疲れた?」
「つ……!?」
髪を撫でるとふいと横を向かれた。
「あ……そ、それは疲れたわ。私……頭がおかしくなるかと思った……嫌だって言ったのに……」
最後には本気で責めるような物言いに、ただ一言ごめんと謝った。
一言しか言えなかったのは嬉しくて口元が緩んでいたから。
どもりつつも答えてくれる彼女がとても愛おしくて抱きしめた。
柔らかい体がとても心地良かった。
不意に少女が口を開いた。
「寒いの?」
「え?」
「震えてるから……」
そうまで言われてもまだ自覚はない。
抱きしめる手に力を入れ過ぎたのだろうか。
背中を小さな手が動いた。包帯越しにも彼女の掌はとてもあたたかく感じる。だが傷の上を
撫でられたのにはつい声をもらしてしまった。さすがに直接傷を刺激されるのは辛い。
「ッ……!」
「――ご、ごめんなさい……!」
焦ったのを見ると彼女もうっかりしてのことだったのだろう。
「いや、大丈夫」
214 :
134-54:2008/10/21(火) 01:33:26 ID:4XMr1WHw
平然を装っても微妙な声色は隠せない。
彼女は何かに気づいた様に目を見開いた。
「あ……もしかして傷のせい……?熱が?」
震えの原因が怪我から来る熱のせいだと思ったらしい。
「いや、熱はないよ。大丈夫」
手当てをしようというのか腕から抜け出そうとしたのに私は首を振った。それが理由でない
ことだけははっきりしていたから。
少し下にある彼女の頬に自身のそれをぴったりとくっつける。
「ほら。熱なんてないだろう?」
だからといって原因が分かるわけでもなかったから緊張してるみたいだ、と笑いかけた。
「それなら一緒だわ」
ほっとしたようにやさしい声が返ってきて、なんて正直なんだろうと胸がじんとした。
互いに少し息が上がっていたからと抱き合っったままでいるうちに私はすっかり眠りこんで
しまった。
考えてみれば戦闘のあった夜、それも怪我を負った後の行為だ。ちょっと気を抜けばそうなる
のは当然のことだったと思う。
疲労の蓄積に体は相当参っていたのだ。
それでも夜が明けぬうちに目覚めてしまったのはなんとなく、落ち着かなかったからだろうか。
「ん……」
寝返りを打とうとして、腕の中にある心地よい体温に状況を把握した。
下から穏やかな寝息が聞こえる。慣れないことに疲れたのだろう。そうっと体を外して寝台を
抜け出しても彼女は目を覚まさなかった。
灯りがなくても目はおぼろげに辺りの輪郭を捉えている。
がたつく木の窓を開けると夜はすでに白み始めていて、ほんの少しうとうとした程度だが来た
時間が時間だからか朝がとても早く感じられた。
高さのある窓に室内がぼんやり明るくなっても彼女は目を覚ます気配がない。
窓を細く閉じて最低限の明かりが入るようにすると私は下に落ちていた服を身につけた。
「……っ」
肌着を着けるときだけはさすがに背中の傷が痛んで顔をしかめた。
最中はあまり気にならなかったものだが。
そう思った瞬間あまりにあからさまな自分の思考に顔が熱くなる。手の甲でこすると頬の熱が
手に移りそうだった。
最後に上着を手にして寝台を彼女の方へ回る。風邪をひかないよう上掛けを首のあたりまで
あげて頬にかかる髪をよけた。
まだあどけない寝顔に心が和む。
昨日の不安や心細さは消え、今の自分には選んできた道に迷いはなかった。不思議なほどに。
一晩(というか数時間だが)経って冷静になったのだろうか。
いや……彼女のおかげだろう。
触れる指先を動かしても気付く様子はない。思わずそのやわらかい頬に口付けたくなったが
目が覚めては困る。なんとか自制心を発揮すると代わりに指に髪をからませ、そこに唇を
落とした。
改めて窓をきっちり締め静かに部屋を出た。勝手知ったる台所から家の鍵を拝借する。
例によって周囲に気をつけて表に出ると外から玄関の扉に鍵を掛けた。
「寒いなあ……」
思ったよりも低い気温に身震いをする。
上着を手に向かったのは昨夜私達の過ごした部屋だ。窓には鍵を掛けておかなかった。
音を立てないよう、彼女が目を覚まさないよう慎重に開けて窓枠の内側にあるへりに鍵を置く。
多少の不安もあったがもう完全に日が昇る。この部屋の窓は高く小さいし、いくら鍵が開いて
いても日が出たあとなら誰もこんなところから侵入しないだろう。
そんなことを思いながらそっと窓を閉じて小走りに森へ、私は村を後にした。
215 :
134-55:2008/10/21(火) 01:33:54 ID:4XMr1WHw
あの子達は人の気配を察して移動していることがままある。いつものようにエテリアの流れを
辿りながら私は明け始めた空に比べ薄暗さの残る森を歩いた。
道々、昨夜自分のしたことがひどく恥ずかしくなって、傍らの木を殴りつけては痛む傷に
しゃがみこんだ。
二人の元に帰ると赤い猫は細い目でこちらを見ていた。それはいつものことなのだが。
「やあ。ただい、ま……?」
なんだろう。彼に睨まれているような気がする。
戻るのが遅かっただろうか。いや、いつもより早いくらいだったけれど。それとも何か考え
事をしていてその辺にあるもの(この場合私の顔だ)を見つめているだけだろうか。
何となく気まずくて当たり障りのないことを言ってみる。
「私の顔に何かついてるかい?」
「いや」
彼は短く答えて首を振った。
目に見えるような変化などないと思ったけれど、それでも気付くものがあったのか。
おかしいと思いつつ頬を撫でると、熱い。映す物も無くて確認できないが、多分赤面している
のだろう。
なんだか昨夜のことを彼に見透かされるような気がして恥ずかしかった。
恥ずかしく……そして嬉しかった。
そう感じるのは彼女と過ごした夜が確かに現実の事だったと思えたから。
「傷はどうした。手当てはしてもらったのか?」
「あぁ――うん。丁寧に包帯を巻いてくれた。思ったより浅かったみたいだよ。火傷みたいに
なってて出血もほとんど止まってたみたいだ」
心を半分彼女に向けたまま答えた。
「そうか」
「君は?休めたかい?」
彼はご主人の隣にいるのがなにより落ち着くのだとよく言っていた。
赤い猫は私の質問に鷹揚に頷き大きな口をにんまりと開いた。
「ご主人はお前のことを心配しておられたのだぞ。大丈夫と申し上げても落ち着かず村の方へ
行こうとしたほどだ。もちろんお止めしたが……この果報者め」
「本当?何も危険なことなんてないのに」
目の前にいる神々の子を見ると心配性な自分が恥ずかしいのか木陰に隠れてしまった。
それでもエテリアがふわりと漂ってくるのにあの子の本心が見える。
本当に私の怪我を心配してくれていたのだと、切なくなった。
こんなに私を気にかけてくれる相手がいるのに寂しがるなんて。
私は何て鈍いのだろう。彼女もきっとそう思ったに違いない。
「清々した顔をしおって」
「え?そ、そう?」
すっきしりたなんて言われては気になってしまう。特にあんなことの後では。
明後日の方を見てそうかなあと呟いていると彼がさあさあと急かしてきた。
「ほれ!」
例によってレクスが頭の上に飛び乗ってくる。
「行くぞ」
「え?どこに」
「寝ぼけておるのか?後始末だ!戦闘の跡がまだ残っているのだぞ?……お前、だから早く
戻ってきたのではなかったのか?」
「あ……いや、うん!もちろん分かってるよ」
慌てて頷くと猫を両手で抱きあげた。
移動するのに頭の上にいられたんじゃそれこそ落ち着かない。
無意識に脇に抱えると離せだの何だのとわめくのが聞こえたが、頭の中がごちゃごちゃして
まるで耳に入ってはこなかった。
***
216 :
134-56:2008/10/21(火) 01:34:25 ID:4XMr1WHw
「やあ」
「どうぞ、入って」
「お邪魔します」
もう定型文ともいえる受け答え。
彼女は微笑んでいる。
私はあの日何も言わずに立ち去ってしまったことをフォローしなくてはと思ったものの、
どう言葉にしたらいいのか分からなくて、とうとう何も言えなかった。
感情に任せて抱いた。経験のない少女に無理をさせた。
だから彼女の体のことが気にかかってたが、あんな風に辞去しておいて『体は平気?』なんて
聞く権利、私にはない。
彼女もあの日のことについては何も言わなかった。
以前と変わった様子を見せることもない。
いつものように私に手を洗わせて、食事と寝台を提供して。
普段通りの彼女に、すっかりあのことに言及するタイミングを逸してしまった。
あれきり破れたままの上着を見て首を傾げた。
「これ……鋏は通るかしら」
椅子に掛けてあったのを手にして背中の破れた部分を眺めている。表から見て裏から見て、
私の方を向いた。
「このままじゃ、もし同じ場所を攻撃された時あまり防護の役目を果たさないわ。あなたさえ
良ければ裾を少し切り取って破れた部分を繕いたいんだけど」
「ええっと……直してもらえればそれは助かるよ」
「そう?ならやってしまうわ。こういうの、そのまんまにしておけないのよ。気になって
しまって。性格ね」
早速に居間の棚から針と糸を持ってくる。
先に休んでいてと言うのを拒み彼女の手が破れを繕っていくのを見ていたが、その手際の
良さは魔法みたいだと感心した。
時折り他愛ないことを話して。沈黙も辛くはなかった。
私達の間にはまるで何事もなかったかのように再び日々が過ぎていった。
そしてその後も何度かの戦闘があった。
私は自分の選択した人生を大分静かな目で見られるようになっていた。以前のように昂る
ことももうない。
ただ一つの目的、それを果たすまでは後悔の言葉を口にしないと誓ったのだ。
「きれいだなあ」
森の中、横を歩きながらしみじみと神々の子を眺め、つい今さらの感想をもらした。
だがあの子の従者には今さらなどという概念はないらしい。ないどころか四六時中、口を開く
たび『ご主人』を讃えても彼に言い過ぎるということはないのだろう。
「全くだ。御主人ほどエテリアに愛されているものはこの世に存在せんぞ」
こういう時だけは素直に同意する。頑固で扱いに困る時もあるけれど、こういうところだけは
可愛い、とレクスに対して思った。
この子は最近、本当に賢くなった。
以前のようにエテリアをむやみに引き寄せるような真似をしない。
そのせいか神々も気配を辿りにくくなっているのだろう。追っ手と対峙する頻度も日に日に
少なくなっていった。
ある日彼が言った。
「カインよ」
「うん?」
217 :
134-57:2008/10/21(火) 01:34:57 ID:4XMr1WHw
「今はもう以前ほど必死に逃げ回る必要はないな」
「そうだね」
頷いて返す。
あの子の纏うエテリアはもう普通の生き物達のそれと同じ程の量になっていた。
緑豊かな森の中ではもうかなり見つけにくいだろう。動物たちや木々の気配に紛れて、よほど
運が悪くなければ、偶然が働かなければ、私のようにその気配に敏感なものがいなければ、
発見される心配もないと思う。
「ご主人はまだ中から出ていらっしゃらないが、人という物をお前やあの娘から随分学ばれた
ようだ」
彼には珍しくまわりくどい表現だった。
一体何を言おうとしているのか。
私は肩をすくめた。
「私はカテナだし、あの子が基準って言うのがちょっと問題かもしれないけどね。……彼女は
人間にしてはかなり変わってる」
「茶化すな。真面目な話をしてる」
「ごめん」
予想外の真剣な声に、私は素直に謝った。
「分かるか?中に見えているのは基礎となったもの……人間か、カテナかはおれサマには
分からんがな。しもべ達も同じような段階を経てなおああした異形を持って生まれる……が。
おれサマには分かる。御主人はきっと人の姿を得てお生まれになるだろう」
「……」
それは幸か不幸か。私には分からない。もっと自由に生きることのできる姿が他にもあるかも
しれないのに。
そう思うと先に待つ出来事の全てが私の責任のような気がして少し胸が痛かった。
こんなにエテリア達に慕われている子には、なるべく苦しい生き方をして欲しくなかったから。
「幸せになれるかな」
「なれるに決まっておろうが!」
口を突いて出てきた台詞に彼が敏感に反応する。裂けた口を大きく開いて怒鳴りつける様子は
今にも食われそうだと思うほど。
白く鋭い歯がこの上なく存在感を主張していた。
さらに叱られるかと内心身構えたが、彼はそれ以上の追及はしなかった。
話は予想外の方へ行った。
「が――それはお前にも言えることだ」
「え?」
「たまには我儘を言ってもいいのだぞ」
「我儘?」
意味が分からない。
「先に言ったようにご主人の様子を見れば、もうひと所に落ち着いても良い頃だ」
「うん……でも」
どこに落ち着くというのだろう。
一瞬脳裏に浮かんだ場所を、私は慌てて打ち消した。
だってまさか。
そんなこと――言えるわけがない。
「お前はあの日からずっと自分のことを二の次にしている。それでは生きる喜びなど生まれぬ。
違うか」
「……」
この猫はそれこそ日頃何を考えているのだろう。気を抜けばたちまち本音を探られてしまい
そうだ。考えても無駄だと分かっていることに心を縛られているのを、知られたくはないのに。
否定の意味で首を振った。
「幸せだよ、私は。自分が何をすべきか分かっている。それより大事なことがあるかい?」
「話をはぐらかすことだけは一人前だな」
一度だってはぐらかされてくれたことなんかないくせに、こういうことを言う。
218 :
134-58:2008/10/21(火) 01:35:36 ID:4XMr1WHw
ぬけぬけと言う彼に私は言葉を重ねた。
「あの子や君に逢えたことは僥倖だった」
「そんなことを言っているのではない。とぼけるな。自分のためにもその脳みそを使えと
言っておるのだ。常に一つのことしか出来んほど要領が悪いわけでもないだろうに」
「……何を言ってるのか分からないよ」
核心に触れようとする台詞に顔を背ける。
だってそれは夢を見るようなもの。私なんかが望むには図々しい願いだ。
「自分一人幸せに出来ず、他者をそこへ導くことが出来ると思っておるのか」
どうしてこうなんだ。
いつもいつも、自分の推察は合っているのだと人の意見を聞かない。
「そう心配せずともお前が腑抜けにならんよう、おれサマが見張っていてやる」
「でも私は」
「どうしたいのだ!」
私は眉をよせた。
「駄目だ。どう考えたって無理だよ」
「お前……ヴィティスにはさんざん素直になれとか言っていたくせに自分はそれか」
それを言われるときつい。
「こう言っちゃなんだけど、私は彼よりは素直だよ」
「どうだかな。あの男は自分が間違っていると分かればあっさり認めたぞ」
「私が間違っていると?」
「さてな……お前自身はどう思っておるのだ」
こうやって最後にはこちらに言わせようとする。嫌な性格だ。
「……そうやって、君は無責任なことばかり言う……」
「ふん」
責めるような呟きに彼は鼻を鳴らした。
「無責任だと?当然だ。おれサマは貴様に対してとるべき責任などないからな。七つ八つの
子供でもあるまいになにを寝ぼけたことを」
「それはそうだけど、焚き付けるだけ焚き付けておいてあとは知らんなんて、ちょっと勝手
なんじゃないのかい?人の一生がかかっているのに」
こちらとしては当然の気持ちだが、そう口答えすると赤い猫は面倒臭そうに目を細めた。
「ちっ……よいか?おれサマだって何も考えずにものを言っているわけではない。お前が
自分の選択に責任をとれる男だからこそ言っているのだ。でなければ誰がこんな提案をするか。
それこそ人の娘の一生を台無しにするかもしれんのだぞ」
「……」
これはもしかして褒められているのだろうか。だとしたら彼と言葉を交わしてから初めての
ことだ。
ぽかんと彼を見たのも一瞬のこと。苛立たしげな彼の様子を見るとそんなことをのんびり
考えている場面ではない。
拳をぎゅっと額に当てて、私は黙り込んだ。
その姿勢のまましばらく、うんともすんとも言わない私に彼が焦れたように言った。
「よいか、あとは『お前が』どうしたいかだ。どうするのが良いとは思っても、この通り
おれサマは助言することしか出来ん。選ぶのはお前自身なのだから」
あれだけ好き勝手を言っておきながら自らの発言を助言という彼のふてぶてしさは見習いたい
ところだ。
いつも自信満々で迷いを見せない猫。
彼の十分の一でも自分に自信が持てたら私はどうしただろうか。どこかで違う選択をして
いたのだろうか。
いや……それはないだろう。
いつだって迷いを抱えながら、それでも自分にとって一つしかないと思える道を選んできたの
だから。
「間違いは……正すべきだろうか」
「言うまでもないことだ」
そう。このレクスはいつもこんな風に私を支持してくれた。
逃亡を始めて、何につけ彼のせいだと思ったことは一度もない。時には思い悩んだことも
あったけれど。
219 :
134-59:2008/10/21(火) 01:36:04 ID:4XMr1WHw
今だって自信はない。
こうすることが私にとって良いことなのか。本当に間違いではないのか。なにより彼女に
とってはどうなのかと。
だが、彼の言うのは誰もみな自分が決めているということなのだ。
仮に私が何を言おうと、どう受け止め、どう応えるのかは彼女が決めることだと。
玉砕したくはないけれど当たるだけなら、口にするだけなら。
あとは彼女が。
私は深呼吸をした。
赤い猫と神々の子に視線を巡らす。
「――二人とも、ここで待っててくれるかい?」
「いつまでだ」
「私が呼びに来るまで」
「行くのか」
問う彼の口元は笑っているような気がした。
後ろ向きのまま一歩下がる。
「……戻ってきたらきちんと彼女に紹介するよ。この猫は言葉を話すんだって。いいだろう?」
「望むところだ」
不敵な笑みを浮かべる彼に自分も微笑みを浮かべ、私は彼女の家を目指し駆け出した。
とっくに日は暮れていて、でもそんなことは私には関係なかった。月明かりもない森を足元も
見ないで走るから木の根に脚を取られ転びそうになったり、藪に突っ込みそうにもなった。
いくら多少は目が利くといっても真昼のように見通せるわけじゃない。時間はかかる。
すっかり覚えた木々の並びを彼女の家への案内として、私は休みなく走った。
森を抜けるともうそこは彼女の家の近く。
村の外れとはいえ耳を澄ませても辺りから物音は聞こえてこない。さすがに村人達も寝台に
入る時間なのだろう。
一応周囲を見回して、いつもしているように裏口に回る。
もう眠っているかもしれない。
いつも訪ねる時間帯よりまだ遅い……あの夜のように。
だが叩こうとすると同時に扉が開いた。
「……!」
「きゃ……!」
がちゃりと開いた扉のこちらと向こうで同じように驚いた顔が見つめ合う。
人々が寝静まる頃だというのにどこかへ出かけるところだったのか、彼女はいつかの夜の
ように寝間着姿だった。同じように肩掛けをしてあの時と違うのはもう少し暖かそうな生地の
物になっているということだけ。
私は息を整える間もない彼女の登場にやっと一言だけ言って手を挙げた。
「やあ」
「驚いたわ……本当に」
しげしげと見上げてくる少女に当然の質問をした。
「出かけるの?」
聞いていておかしいなとは思った。なにしろ寝間着に肩掛けを羽織っただけの姿だ。いくら
村の人と仲が良いと言っても人を訪ねるのにふさわしい格好ではない。
彼女は首を振った。
「いいえ。いいえ……どうしてかしら。あなたが……来るような気がして」
そして胸元で肩掛けをぎゅうと掴むと反対に私に尋ねてきた。
「あなたこそどうしたの?また何かあったの?あの子達は?」
訪ねてくる時間が遅いのに不吉を感じたらしい。
最近馴染みの猫の姿が見えないのに扉の外へ視線を巡らせる。だが手燭はようやく足元を
照らすくらい。森の向こうが見通せるはずがなかった。
220 :
134-60:2008/10/21(火) 01:36:37 ID:4XMr1WHw
「なんでもないんだけど……置いて来たんだ」
「置いて来た?どうして」
「とても大事な用があって――中に入れてもらっても?」
村人は寝静まったいるとはいえ、どんな酔狂な者が夜道を歩いているとも限らない。いつもの
ように家に入る許可を求めた。
「ああ、そうね。ごめんなさい。どうぞ入って」
彼女の後に続いて後ろ手に扉を閉める。
さらに中へと進む彼女を呼び止めた。
「待ってくれ。今日は……君に話があって来たんだ」
「休みに来たのではないの?……何かあったの?必要なものがあるなら言ってくれれば――」
「そうじゃないんだ」
自分に関係のない事が起きたと思っているらしい。
畳みかけるように聞いてくる彼女の言葉を遮ると、私はそっと手を差し出した。彼女の手から
手燭を取り上げて床の上に置く。
その上でもう一度彼女に手を伸ばした。
「……?」
訝しげな表情とともに彼女もそろりと右手を差し出す。
ぎこちなく重なる手を握り、私はさらにもう一方の手で小さな手を包み込んだ。
こんなに緊張したのはいつ以来だろう。
ああ、この世のすべてのものに宿るエテリアよ、私に勇気を――。
最後に目を閉じてすう、と深呼吸をする。
「こんな……あっちこっち逃げ回っているような男だけど……」
女性に気持ちを伝えるのに花を贈ることもできない。
それどころか共にいれば命の危機が増すだけの。
「君にあげられるものは何もない。私が持っているものはこの身一つだけ……もし、それでも」
まっすぐな瞳に私の方が俯いた。
「……っ」
なんて言えばいいのだろう。
続く言葉がなかなか出てこなくて、でも彼女は黙って待っている。
思い切って顔を上げた。
私は少し下にある顔を、その澄んだすみれ色の瞳を見つめる。
こんなに勇気を出して言葉を発するのは初めてかも知れない。
自分に立てた誓いを守るのに涙の一つも我慢できないような男だけど。
寂しくて、君の優しさに逃げてしまうような男だけど。
逃げないで欲しい。
笑わないで欲しい。
寂しいから言っているのではないと、本気なのだと伝わって欲しい。
「私と一緒にこれからの人生を過ごしてはくれないか」
「――!」
びくん、と肩が揺れる。目の中の光が揺れ、戸惑いが見えた。
私の台詞を反芻しているのか、小さく眉を寄せるのに私はもう一度言葉を重ねる。
「私と共にあってほしい」
今度こそ彼女は大きく息を吸った。
「君を愛している」
小さな体がすくみ、肩掛けが滑り落ちた。
手を引かれるのに素直に右手を離してやった。
緊張で心臓が壊れそうだ。耳元でうるさいくらいの音がしている。
長い長い沈黙はまるで一日にも感じられた。
221 :
134-61:2008/10/21(火) 01:37:20 ID:4XMr1WHw
駄目か。
彼女の反応のなさに私は気持がずんと落ち込むのを感じた。
彼女は顔をそらした。
「どうしてそんな……それは――責任感から?」
「まさか!」
あの夜、関係を持ったことについての言葉だろう。
愚かにもこの時、あの出来事はすっかり頭の中から消えていた。それだけ彼女に想いを告げる
ことで頭がいっぱいだったのだ。
予想外の台詞に慌てて首を振った。
確かにあの一件も無関係ではない。あの時私を慰めてくれたことには大変な感謝と申し訳
なさを感じている。
こんな大きな図体をした男を求められるまま、体ごと慰めてくれた。受け入れてくれた。
嘆きと焦燥に追い詰められたあの時、もし縋るものがなかったら。そう思うとぞっとする。
真実に気付かなければ良かったとあの子に武器を振りおろしていたかもしれない。罪の深さと
孤独への恐怖で自分を見失っていたかもしれない。
「責任感なんて、そんなものじゃない。ただ私は……君が……私を……」
なかなか言葉に出来ないのを彼女は辛抱強く待ってくれた。
「君が……支えてくれたのが本当に心強かった。君の優しさが。時々厳しかったり……」
余計な事を言いそうになって咳ばらいをする。いや、そう余計なことでもないのか。正直に
伝えるべきだろうか。
「一人で逃げているのが嫌だから言うわけじゃないんだ。だいぶ逃げ回るのにも慣れたし、
あの子もエテリアを引き寄せなくなったしね。御使いとの戦闘も劇的に減った。だから利害で
言うわけじゃないんだ。それは分かって欲しい」
彼女は数度瞬きをした。
やはり何も言わずに話の続きを待っている。
「私は……その、君といると心が安らぐんだ。私みたいなのにも隔意を持たずに接してくれて」
「……それはあなたが正直に話してくれたからだわ」
「ね、そう言うだろう?そうやってこちらが向けただけ、真剣な気持ちに本気で返してくれる、
そんなところが……私を励ましてくれて……叱ったり。そういうところ全てが好ましい」
「私みたいな子供に怒られても?」
「怒られても」
まあ、と眉を上げるのに私は生真面目に頷いた。
年の頃は確かに少女だが彼女が精神的に子供だとはもう思ってはいなかった。
ふふ、と私の顔を見て微笑みかける。
「そうね……では、次からはお帰りなさいと言うわ」
「それじゃあ……」
「分からなかったかもしれないけれど、私こそ半端な気持ちであなたと……その、ああいう
風になったのではないの。力になれるなら、助けてあげられるならたとえそれがどんな形
でも……応えてあげたかった」
そっと目を伏せる彼女の頬はほんのり赤く染まっている。
「ああ……!」
恥ずかしそうに告白する彼女を私は壊れ物のようにそっと抱き締めた。そして腕の中に彼女を
感じても喜びは一向に鎮まらず、次第に腕に力がこもっていった。
すると彼女は身じろぎし、私を見上げて訴えてきた。
「ね、放して。……苦しいわ」
あんまり嬉しくてその額に小さく口付ける。
「ありがとう」
感謝の言葉を告げると、満面に笑みを浮かべている自分とは裏腹に何故か彼女は哀しげに目を
伏せた。
222 :
134-62:2008/10/21(火) 01:38:32 ID:4XMr1WHw
「次は、ね……」
「なんだい?」
「次にここを出る時は行ってきますって、言ってちょうだい……」
語尾が細く消える。
「もう来ないかも、なんて思いながら見送るのは嫌なの」
もしかして、以前から彼女は私の安否を気遣っていてくれたのだろうか。いや、それは感じて
いたが。
「そうしたら早く帰って来てって、言えるでしょう……?」
泣き出しそうな顔にそっと口付けた。
私を案じてくれる気持ちに今まで気付かなかったなんて。
顔をあげて私は改めて問いかけた。
「聞いてもいいかい?」
「……?なに?」
「君の名を。名乗っていなかったけど私の名は」
「知ってるわ」
「え――?」
「あなたの名前。私……知っているの」
私は思いがけないことに目を見開いた。
「まさか、どうして」
名乗った覚えはない。名乗るべきか迷った時もあったが私は逃げている立場。結局は意識して
隠していたのだから。
「あの時……初めて会った時のこと、憶えている?」
「ヴォロに襲われた時のことだろう?」
「ええ。あなたに助けてもらった。私を背中に隠してしもべから守ってくれたでしょう?
あの時あなたのレクスが後ろから飛んできて叫んだんだもの……『カイン』って」
「そうか」
そう言われればあの時確かにあの猫は私の名を呼んでいた。そして私は彼を手に。
脳裏に邂逅の夜を思い出しているとまた彼女が口を開いた。
では彼女はあの猫が言葉を話すことも知っていて、何も言わなかったのだろうか。
何もかも、知らないふりをして。
「あの時、あなたが姿を現した時、それは驚いたわ。だってあの……ヴォロ?あれから逃げて
いる途中に真っ黒い人が出てくるんですもの。私、死ぬかと思った」
告白するまでもない。彼女は薄々気付いていたのだろう。私がOZの一員だということに。
それでなお私の話を聞いてくれていたのか。信用してくれたのか。
「ああ。泣かないで、カイン」
慌てて私の頬を拭ってくれる。
最近、本当に泣いてばかりだ。こんな姿とてもあの猫には見せられない。
泣き顔を見られるのに、もはやなんの抵抗もなかった。
涙を拭う彼女の手を掴み微笑む。
「君は?なんて言う名前なの」
すると彼女の顔が近付いて一瞬だけ唇に触れていく。
「本当は、ずっとそう聞いて欲しかったの」
そう言う彼女の方こそすみれ色の瞳から涙がぽつりとこぼれた。
「私の名前は――」
〜おしまい〜」
223 :
名無しさん@ピンキー:2008/10/21(火) 20:03:48 ID:4faMTtwP
完結乙あげ
大作GJ、最後の台詞にグッときたわ
毎回文章に引き込まれるわ
GJ!
久し振りに来てみたら新作が投下されているじゃないか、GJ
このゲームはなかなか面白かった
主人公が童顔で眼帯のお姉さんがエロかったのもよく覚えてる
童顔?
いや15歳にしては随分大人びた容姿じゃないかフィールくんは。
15歳の少年に性の悦びを教える快感
アルミラさんのおっぱいを揉みしだきたい…
OZの女キャラはなぜエロいのか?
それはOZが3人だからだ
3Pをする為の3人
その3人とは
ヴォロ・テセラ・槍ノッポ
それは擬人化ですね、分かります
貧乳ジュジュ
豊乳ジュジュ
それはジュジュじゃないだろ
普乳ジュジュ
ホルスタインジュジュ
アルミラジュジュ
ここまでジュジュの願望
陥没ジュジュ
焼肉ジュジュ苑
ほ
248 :
名無しさん@ピンキー:2008/12/30(火) 14:28:08 ID:94MFOgg/
アルミラさんと年越しセックルの予感
レオンとだろ?
アッー!
アルミラ×レオンの寸止め投下します。
「ふぁー」
「あらドロシー、おねむ?」
あくびをし、目をこする仕草にアルミラが微笑んだ。時間はすでに夜の十時半を回っている。
子供が起きているには遅い時間だ。
するとレオンも眉を上げた。
「おいおい、大丈夫か?今年は二年参りに行くんだろ。もう少しだから頑張って起きてようぜ」
からかい混じりにも励ましているのが分かる。
数日前から滅多にできない夜更かしが堂々と出来る今日を、そして何より四人で過ごす一年の
終わりのこの日を少女はとても楽しみにしていたのだ。
ドロシーはコタツの上に頭をのせたまま頷いてよこす。
「うん……頑張る……」
そう答えるうちにも瞼は降りて寝入ってしまいそうだ。
トトが気遣わしげに声をかけた。
「ご主人、ご主人。こんなところで眠ったら風邪をひきますぞ」
「そうだよドロシー。眠たいなら部屋に行ってベッドに入っておいで。時間になったら
起こしてあげるから」
レオンが掌を打った。
「そっか。その手もあったな」
「何も時間までずっと起きてなきゃいけない事はないものね。ね、ドロシー。そうしたら
いいわ」
「ほら、ドロシー」
すでに返事はない。
「フィール。俺が部屋まで運んでやるよ」
半ば兄に抱えられるようにコタツを出るとドロシーはそのままレオンの背中の上にのせられた。
「うー……ん……」
「よっぽど眠いみたいだな。ま、まだ子供だから仕方ないか」
「レオン。も少し小声で話して。ドロシーが起きちゃうよ」
「ははっ、悪い悪い」
少女を寝台の上に横たえると、部屋を出てすぐフィールも大きく欠伸をもらした。
「なんだなんだ、お前も眠いのか?」
「僕も早寝のほうだから……ごめん、レオン。僕も時間まで眠ってていいかな。起こして
くれるかい?」
「ああ。任せておけよ」
「それにしてもレオンもアルミラも、よく平気だね。大人って眠くならないの?」
「そうだなあ……やっぱり子供の頃はお前みたいなもんだったぜ。ま、夜更かしばっかりの
不良少年になるよりはいいさ。じゃ、またあとでな」
「うん、あとで」
廊下でそんな会話をした後、レオンは再び居間に戻った。そこではアルミラ一人がコタツに
入っている。
ドアを開けた男に目を向けて首を傾げた。フィールの姿がないのを不思議に思ったのだろう。
「フィールも時間まで寝るってよ」
「なあに?それじゃずっと起きてるのは私達だけ?寂しいわね」
「なんだよアルミラ。俺だけじゃ不満だって言うのか?」
自身もアルミラの正面に陣取ってつまらなそうな顔をする。だがこれはポーズだ。彼女を
からかっているだけで本当に拗ねているわけではない。
アルミラもそれを分かっていて、だが宥めるように言った。
「そんなことは言ってないじゃない。あなたと二人きりの時間も素敵よ」
「ちぇっ、よく言うよ」
本気か嘘か、こんなときにはあえて追及しないのが大人というものだ。
レオンはリモコンをとり電源を入れたが映る番組を一通りチェックすると再び電源を切った。
面白そうなものはやっていなかったらしい。
「ゆく年くる年が始まってから声をかけてやれば間に合うよな」
「そうね。神社が歩いてすぐのところにあるのは楽でいいわ」
アルミラの手がコタツの上に伸びた。包みを取り上げて開く。
「私、これ大好きよ。冬しか食べられないのが残念……」
小さく笑いながらチョコレートを口に運ぶ。
「……ん〜〜〜っ……美味しい……」
「そんなに感動するほど美味いか?」
レオンが疑わしげな表情をする。彼女が甘いものを好むことは知っていたが、口に入れた途端
目を閉じて身を震わせるほど感動するとは思わなかった。
「美味しいわ。だってこれ、食べると名前の通りだなあって思うの」
「名前って?」
「『メルティキス』よ」
「メルティキス?」
いぶかしげな顔になる。意味が分からないらしい。
「もう……!いくらあなたでも、そのくらい分かるでしょ?」
眉を寄せる男に、アルミラは少し憤慨したようだった。
向かい合わせに座ったまま、レオンの顔を見つめて離さない。
人差し指を口元にもってくるとにい、と紅い唇が弧をえがいた。
「『とろけるようなくちづけ』――それほど柔らかいってことよ」
レオンは彼女の口元から目が離せなかった。
「あなたも食べる?」
呆けていた男がはっとなった。
「な、なにを」
「だからこれ、チョコよ。他になにが」
「い、いや。なんでも……アルミラが間際らしい言い方するから……」
バツが悪そうに顔をそらすのには知らん顔で、しかしわざわざ袋をむいてチョコレートを
差し出した。
「はい」
「あ、ああ。サンキュ」
ものが特に溶けやすいチョコレートだというのについ自分も手を差し出す。アルミラは仕方
なさそうに笑った。
「ダ、メ、よ。レオンったら、それじゃ手がべたべたになっちゃうじゃない」
「えっ?」
「ほら……あーんして」
躊躇する男にアルミラは手を伸ばした。
目の前にある茶色の四角いものからは甘い匂いがする。だがそれだけではない雰囲気がある。
アルミラの態度のせいかも知れなかった。
レオンはおずおずと身を乗り出すと必要以上に口を開け、アルミラの指を噛まないように
チョコレートの部分だけ器用についばんだ。ぺろりと自身の唇についた粉を舐める。
「うん……確かにとろけるな。これ」
口の中に柔らかく消えていく甘味にレオンも頷いた。
「美味い美味い」
「レオン」
「ん?」
「さっさと食べてくれないから指先についちゃったわ」
どことなく恨めしそうな言い方だった
。示す指先には確かに溶けたチョコレートがついていて、指先の白さとチョコレートの焦げ
茶色の対比がどこか艶めかしく見える。
「……」
つ、とさらに伸びる手にレオンが再び前方へ体を傾けた。
さっきよりも控えめに口を開くと少し冷たい指先が唇に触れる。
舌で先端から指の腹まで辿るようにゆっくりと舐めた。舌の先に感じるのは溶けた
チョコレートの甘味と形よく整えられた爪の輪郭だ。ちゅっちゅと音を立てて爪の付け根まで
口に含む。微笑むアルミラの顔を見つめたまま、とろけるような味わいの無くなるまで
しゃぶってやった。
「ほら、そっち……親指もだろ?」
人差し指を解放するとレオンは次を要求した。
「溶けてても甘いでしょ」
「ん……っちゅ、そうだな……」
アルミラは男の様子を面白そうに眺めている。
レオンは大人しく親指に舌を這わせていたが、突然体を硬直させた。
「んん……ッ!?」
のけぞるように口の中のものを解放すると慌てて相手の名を呼んだ。
「……っ!っは……おい、アルミラッ!?」
「なあに?レオン」
答える瞳には悪戯っぽい光が見える。
「おま……コタツ……あ、足……!」
「うん?」
どもりつつも真意を問おうとしたが、途中まで言いかけてアルミラがまぎれもなく故意に
やっていることを悟った。
「足がなあに?」
あくまでも普通どおりに聞き返してくるが、レオンはとても落ち着いてはいられなかった。
コタツという二人からは見えない場所でアルミラの足が彼の下腹部を撫でさすっていたのだ。
こんな風にやんわりと、両足でそっと挟むようにしごくように動かされたら服の上からでも、
その気がなくても反応してしまう。
予想外の展開に、レオンは一気に緊張した。
「足が?」
重ねて問うてくるがレオンには答えられない。
「っ……だから、足がよ……!」
何もかも分かっていて挑発しているに違いない。
今はフィール達が起きたら初詣に行こうというときであまり時間がない。それを一体どういう
つもりなのか。苛立たしげな目をしながら、器用に動く足から逃れようとコタツからそろ、
そろと後ずさった。
彼女の足も途中までレオンを追いかけたが届かなくなったのだろう。一瞬目を細めると暖気の
名残を惜しむことなくさっとコタツから立ち上がった。ぐるりとそこを迂回し、足首まである
長いスカートもものともせずに、ぽかんと自分を見ていた男をまたいだ。
「アルミラ?おい?……っと……!」
男の目はますます丸くなる。のけぞり過ぎて後ろに倒れ込んでしまった。
いきなり自分の上で仁王立ちされれば仕方がないかも知れないが。
「お、おい」
ようやく声をかけるとアルミラはすっと腰を落とした。
レオンの体はまだ膝から下がコタツの中に残されている。ちょうど彼の足の付け根あたりに
座ると男の顔を覗き込んだ。
「こんなにすぐ反応して。レオンってば本当に可愛いわね」
「……!」
上半身を回してコタツの上に置いてあったチョコレートを手に取る。鼻歌でも歌いだしそうな
明るさで彼女はそれを口にした。
「ん、美味しいわ。レオンも食べたい?」
アルミラの行動にため息しか出てこないのか、彼ははあ、とひとつ大きくいきをして首を横に
振った。
「いや」
「じゃあ違う物でも食べる?」
そう言って片目をつぶってみせる。
「違う物ってなんだよ……」
「ふふっ。分かってるくせに。知らない振りするなんて見栄っ張りね」
ちょんとレオンの鼻を突っつくと下半身を擦りつけるように腰を前後させた。
下敷きになっている男は思わず目をつぶる。
「ねえレオン……欲しくないの?」
「……すぐ出かけんだろ」
眉をひそめてアルミラを見上げる。すぐに乗ってこないないあたり、彼にしては耐えている
方だ。
「まだ時間はあるわ」
腰を浮かせてレオンの下ばきをわずかにずり下げると、すでに硬くなったものが顔をのぞか
せる。アルミラはひそやかな笑みを浮かべた。
「ね、ほら……」
膝立ちのまま彼の手を取ると、幾重にも薄い生地の重なるスカートをくぐり自身の大腿に
もっていった。男が逆らわないのを確認し手を離すと捲り上げた生地が裏地に滑って流れ
落ちる。ちら、と一瞬だけのぞいたアルミラの白い大腿は再び見えなくなった。
「手際よくすれば問題はないと思わない?」
楽しそうに言う彼女に、レオンはついに我慢が出来なくなった。
「おい……」
「なあに?怖い顔して」
「いい加減、その言葉遣い止めろよ。俺と二人ん時は普通にしてろ。俺だってそうしてん
だろ?」
舌打ちをして、本気で嫌がっているらしい。
「大体何なんだよ」
「うん?」
「なんで下に何も着けてねえんだよ!」
目に見えずとも撫でただけで肌のきめ細かさが分かる。腿から臀部へと向かって行った掌を
一旦離すと、レオンはぺちんとそこを引っぱたいた。
「ふ……細かい奴だな。今脱いだに決まってるだろう。乗っかるのに邪魔だ」
さっきの今で言葉遣いががらりと変わってる。男のような口調にもレオンはそっちの方が
落ち着くらしく、寝転がったまま器用に肩をすくめた。
「よっぽどお前らしいや」
「お前はこちらの言葉遣いのほうが慣れてるからな……っ、ん、レオン……」
「……んだよ、人のこと勃ってるとか言っといて、自分こそぐしょぐしょじゃねえか」
茂みが濡れそぼっているのにレオンがからかった。
指先に絡まる繊毛をかき分けて入り口にたどりつく。熱く彼女の体温を伝える膣内は最前から
男を待っていたようで、動かせば動かしただけ愛液のまとわりつく手は、そのたびアルミラの
腰を震わせた。
露出しているのはお互い局部だけだ。しかもそれすらアルミラの衣服に隠れて直接は目に
見えない。肉芽をぬれた手でしごきこねれば上からは嬌声になりきれないと息がもれ聞こえた。
レオンは空いている手で大腿を撫で臀部を撫で腰を撫で、掌にわずかに力を入れ引き寄せる
ようにして、自身の上に密着するよう彼女に求めた。
「あ、ん……っ」
剛直に手を添えてアルミラは隙間を埋めるようじりじりと腰を下ろした。
「……っ」
レオンもその瞬間息を詰めたが、彼女はそのまま身を伏せると男の唇に自身のそれを重ねた。
押しつけられる肉感的な体にレオンは口付けの合間に荒く息をついた。
元々積極的なのかアルミラは彼の行動を待つことなく舌を差し込む。くちゅりと唾液の絡まる
音を響かせながら、舌に噛みつき口腔の内部をなぞった。
「っふ……レオン……っ、ちゅ……あぁんっ……」
レオンの顔を両手につかまえて浅く深く腰を動かす。男が合わせて動こうとしたが、彼女は
首を振って私が動くから、と切れ切れに言った。
徐々に高まってゆく快楽への集中力に、アルミラはレオンの胸元に手を置き、レオンはその
手をつかまえて彼女の動きを支えた。
と、廊下の方で物音がした。
ぎくりと居間にいる二人は動きを止める。高まった感覚の冴えは外にも向けられており、
いつもなら聞き逃すような小さな音にもこの時の彼等は気が付いた。
少しして、ドアが開いた。
「ふあぁ……ごめんよ、二人とも。一応目覚ましをかけておいたんだけど、ちょっと寝すぎ
ちゃったかな……ドロシーを起こしてくるから待っててくれる?」
レオンを体内に咥え込んだままの姿勢で、だがアルミラはどこまでも冷静だった。
「ええ。でも急がなくてもいいわよ。私達も支度がまだ出来てないから」
ようやくフィールは二人の体勢にけげんそうな表情になった。しかし直前までそこに漂って
いたいかがわしい雰囲気には気が付かないらしい。
「そんな格好で何をしてたの?」
「あん?」
当然の質問だろう。
何と答えるべきかと一瞬詰まったレオンに、アルミラが覆いかぶせるように言った。
「レオンったらこのチョコの美味しさが分からない、なんて言うんですもの。無理矢理に
食べさせていたの」
普段の彼女はとてもそんな強引なことはしそうにないのだが、あまりに平然と言うアルミラに
は妙な説得力がありフィールは目を数度瞬かせただけだった。
「ふぅん……?アルミラ甘いもの好きだからなあ……でもあんまりレオンの嫌がることしたら
駄目だよ」
「分かってるわ」
なお首を傾げる少年の後ろ姿を見送って、レオンがうめいた。
このままの状態で置いておかれるのはつらい。初詣に行く都合もある。さっさと昂ったものを
吐きだしてしまいたかった。
「おい、アルミラ!さっさと――」
「終いだ、レオン」
「あぁ!?」
アルミラは短く告げると乱れた裾を捌いてさっさと男の上から立ち上がった。
レオンも慌てて体を起こす。彼の一部はいまだ天を仰いでいた。
「これどうすんだよ」
自分の股間を指し示して彼女の責任を追及するもアルミラはつれなかった。ちらりとそこに
目をやってなおも突き放す。
「トイレにでもいって適当に処理して来い」
「ちょ……あのなあ!ここまでしておいてそりゃねえだろ!?」
「大声を出すな――仕方がないだろう。いくら私でもだ、さすがに二人がいつ来るか分からん
状態でさあ続けようとは言えん。それに文句を言うが、こっちだって中途半端な状態なんだぞ」
隻眼で男を睨むとアルミラは少し足元をもぞもぞさせた。
「ちぇー……なんだよ……」
レオンは億劫そうに立ち上がると下ばきを上げてドアに向かった。
「こんなところで中断されるたあ思わなかったぜ……いてっ!」
「いつまでもぐずぐずと――二人に気付かれるなよ?」
「そんなドジ踏むかよ……」
これ以上言うことはないとドアノブに手をかける。
と、そこにアルミラの手が重なった。
ふうと耳元に息を吹きかけられレオンはくすぐったそうに体を縮めた。並ぶと丁度良い
身長差の二人、アルミラは男の背中に豊かな胸を押しつける。
背中に感じる魅惑的な弾力にも、だが彼からはがっかりした声しか出てこなかった。
「あのなあ……寸止めしたり挑発したり……この上一体俺をどうしたいんだよ!」
「帰ったら続きをするぞ」
「なに?」
「姫始め、だ。知っているだろう?」
「……」
「一年の計は元旦にありと言うし、一年の始めがよければいいだろう?」
ちょっと意味がおかしい気がするし誤魔化されたような気もするが、続きをしようと言われて
怒る男はいない。
アルミラがどいてからこっち、ずっとしかめっ面だったレオンの顔が緩んだ。
にっこりと微笑む彼女から他意は感じられない。
居間のドアを背に経つとアルミラの腰を抱き寄せた。
「今度は中断はなしだぞ」
「そうは言うがな、今のことだって私の本意ではないのだぞ」
「わぁーかった!もう言わねえよ。お楽しみは後にとっとけってな」
「やれやれ……やっと機嫌が直ったか」
仕方のない奴だとアルミラが笑う。だがそこには相手への柔らかい感情が見え隠れしている。
レオンはレオンで機嫌の直った自分が恥ずかしいらしい。
照れ隠しにアルミラの肩を掴んで洋服掛けのほうへと押しやった。
「ほら、さっさと上着持ってこいよ。そうときまったら初詣、さっさと行ってこようぜ。俺は
フィール達を呼んでくるから――」
「こら……待て、待て!レオン、お前はその前に行くところがあるだろう」
そのまま居間を出て行こうとする男を小さな手が引き止める。
「行くところ?」
オウム返しに問い返す彼に、アルミラは容赦なくこぶしを振り上げた。
「トイレだ、ばかものっ!」
〜おしまい〜
コピペ改変か何かか?
期待させといてそりゃないんだぜorz
オリジナルだけど年の初めからがっかりさせて申し訳なかった……。出直してきます。
オリジナルだったのか。それはこちらこそ悪かったな。
でも何でアルミラがわざわざ猫かぶってるんだ?
オズレンかと思いきや途中から戻ってるし、俺の頭ではよーわからんorz
ええ、オズレンジャーの話にしようと思ってたのにそのあたりのことをすっかり書き忘れたんだ……だから内容が
わけわかめ気味になった。悪いのはこちら。一応両者イかないで終わりのつもりだったんだけどそのうちきっちり
最後まで書き直してどっかうpろだにあげます。
スレ汚しスマソ。消したい……orz
オズレンの2人は飽くまで天然でアレであってほしいな
もちろんトトも。
何はともあれ>262乙。時節ネタをちゃんと上げられるだけで尊敬。
グッジョブ
久し振りに来たらテオロギアに新たな神が
GJ!!
ほ
アルミラさああああああああああああああああああああああああああああああああん
アルミラ姐さんに媚薬入りの逆チョコをあげたかった…
アルミラさんにローションたっぷりパイズリしてもらいたい
270 :
252:2009/03/16(月) 13:11:32 ID:dToL6OOo
保守
保守
276 :
名無しさん@ピンキー:2009/04/12(日) 01:25:15 ID:DFRf3L4V
保守
ho
sh