595 :
583:2008/08/31(日) 22:48:04 ID:NrlqQc1n
いよいよ次回回想ですか。
これは楽しみ。
いかなる事情で今の事態に至ったのか、というのはやはり気になりますからね。
>後悔やくたたず
うーむ、わざとでしたか。これは失敬。
しかし、後悔が役に立たないのは当たり前なわけで、そういう…っと、これ以上はやめておきましょう。
「後悔役に立たず」ってのは古くある諺もじりですなー。
調べたことはないけど、江戸時代からあっても驚かないくらい。
そういう題名の曲もあるくらいで。
今から
>>503の題材で投下します
一様トリップつけたので、読みたくない人はNGしといてね
日本語おかしかったり誤字とかあったら許してね
前日がサークルの飲み会だったこともあってか、由利は日課である2c○の女装SSスレの観覧は
せずにその日は簡単にシャワーを浴びて歯を磨き、下着のまま寝てしまった。次の日、酒のおかげ
からか、まだ空が薄暗い早朝の6時に目が覚めてしまった。
「うわ…こんな時間に起きたの高校の時の朝練以来だわ。……ラジオ体操でも行ってこようかな」
耳を澄ますと、若干聞き覚えのあるピアノの伴奏と独特の声が聞こえてくる。それを聞いてなん
となく言って見たが、当然のことながら行く気はなかった。とりあえず、得意の二度寝でもう一回
夢の中に戻ろうとするが、なぜか目がさえて寝ようとしても眠れない。
(講義のある日は当たり前のようにして遅刻してるのに…。)
頭の中で少し愚痴った後、どうしようかと部屋を見渡す。すると机の上においてある、親から大
学入学祝いに買ってもらった自分専用のノートパソコンを見て思い出す。
「あぁ…そうだ。女装スレ見るの忘れてた。」
そう独り言を、ボソッと呟いた後机に座りノートパソコンの画面を開ける。ノートパソコンはい
つも休止状態にしてあるので勝手にデスクトップの画面が開く。そして、ブラウザのお気に入りか
らブックマークしてあるスレッドを開く。さっそく新着がないか確認する。
(今日は……お、あるある)
そこには、男装した女性に強制的に女装を強いられた男性との結婚生活を題材としたSSが投下
されていた。
「この現実ではありえないシチュエーション…辱められる男の心情…やっぱ最高だわ…」
投下された分を前回の投下分と一緒に、自分の頭の中で勝手にアニメーションを作りながらゆっ
くりと見ていく。これが、由利にとっては毎日の楽しみの一つとなっていた。そして、読み終わっ
たころには7時になろうとしていた。昨夜、結構な酒を飲んだのにも関わらず、腹が減ってきたの
か、腹の虫が弱々しく鳴く。
「久しぶりに朝飯でも食べようかな。」
大きなあくびをしながら、下着姿のままだらしなく一階の台所に向かう。途中、玄関が勢いよく
開く。入ってきたのは、ラジオ体操から帰ってきた弟の敬二だった。
「ただいまー。あれ?由利姉早いね。いつも寝てるのに。」
「うるさいよっ。あ、そうだ。姉ちゃんがたまには料理してあげようか?」
「いいよ。由利姉がなんか作ると食べれるかわかんないから。」
そういって、敬二は台所に向かって走っていく。
(あの糞餓鬼……)
殴ってやりたい気持ちを抑えて、脱衣所に行き短パンと赤色をベースに簡単なプリントが施され
ている服を着込む。そして、洗顔、歯磨きをして少し長くなってきた髪をポニテ風にゴムで縛ると、
ようやく台所に向かう。
そこには、食パンにバタークリームをつけて2つ折にしたサンドイッチを敬二が頬張っていた。
机の上にはもうひとつサンドイッチがのっていた。
「…これ、私の分?」
「違うに決まってるじゃん。俺が食べる分だよ。」
由利は確実にそういうと思っていたが、『もしかして』という可能性にかけて言ってみたが、言
うだけ無駄だった。由利は少しため息をつき、机の上においてある食パンを取ると敬二同様サンド
イッチにして頬張る。由利は、ラジオ体操のスタンプ表を見ながらサンドイッチを食べている敬二
の顔をじっと見る。
(黙ってればかわいいのに…どうしてこんな生意気になっちゃったんだろ)
敬二は小学生に入るまでは大人しい性格で、どちらかというとすぐに泣いて由利を困らせていた。
幼稚園ではいつも女子とおままごとしては、男子にからかわれていた。誕生日会も来るのは殆ど女
子だった。しかし、小学生に入りサッカーを始めた時から徐々に性格が変わっていき、今ではどち
らかというと、やんちゃな性格だった。しかし、いつも外で遊びまわっているせいか、体の線が細く
顔もショートヘアーに相まって、瞼が二重で目も大きくクリッとしているせいか、近所の人たちに
は、今も女子に間違えられることがある。
敬二はじっとこちらを見ている由利を不審に思い、話しかける。
「……な、なにみてんのさ。俺の顔に何かついてるの?」
「え、あ、いや、なんでもないよ。いや、まじめにスタンプ帳みてるなぁって思って。」
「あ、これ?このスタンプ全部集めたら母ちゃんが、500円くれるんだって。いいだろぉ〜」
そういいながら、敬二はスタンプ帳をやたら見せびらかす。
「あ、そうなの…はは、いいね。」
(そんなのコミケの交通費の足しにもならないよ…)
もう大学生の、それにバイトも経験したこともある由利にとってはまったく羨ましくなかった。
「ふふん。ほしがっても分けてやんないから。これは仮○ライダーアギトの変身セットを買うために
貯金するんだ。……あっ!そういえばもうアギト始まってる!」
敬二はあわてて時計を見ると針は8時を指している。この時間は、敬二の大好きな戦隊モノ(特撮?)
が始まっているのだ。あわてて敬二は、隣のリビングに行きテレビをつけてチャンネルを合わせ、
番組を見る。幸いまだオープニングの途中だったので間に合った。
「ふう…間に合った……」
「あんた、小学4年にもなってそんなもん見て恥ずかしくないの?」
「変なアニメばっかり見てる由利姉より恥ずかしくないよ」
敬二がテレビを見ながら、台所ごしから聞こえる由利に反論する。実際、由利は実際に友人から借り
てきた地方ではやっていないような少々マニアックなアニメのDVDを見ているため反論できない。
「この餓鬼はまったく……」
最近はこの調子でいつも由利はおちょくられている。いい加減、由利も少し仕返しをして減らず口を
黙らせたいと思っていた。
(あぁ…なんか餓鬼相手にむかつく自分も情けないけど……なんか無いかねぇ〜…あ、そうだ)
由利は何かを思いつくと、急いで2階の自分の部屋に入る。そして、箪笥の一番下を開ける。そこに
はコスプレに使ったのだろうか、様々な衣装が入っていた。
「確かここに……あった!」
由利は散々漁って、一着の衣装を取り出した。それは、プリ○ュアというアニメに出てくる、ブラック
という少女が着ている衣装であった。しかし、それはスパッツにヒラヒラとしたスカートや、胸元に大き
なリボンがあしらってあり、とても男が着るような物ではなかった。一つ幸いなのは、そのアニメが由利
が住んでいる地方では放送されていないということだった。この衣装は由利が初めて買ったものだったが
サイズが小さすぎて着れなかったが、どうも捨てられずとっておいた物だった(対象年齢が低いので当然
といえば当然だが)その衣装を見ながら、由利は不気味に微笑む。
「ふふ…これをアイツに着させて……でも、どうやって着せようかな…。」
由利は敬二が見ている番組が終わるまで、どう着させるか、そして着させた後はどうやって楽しもうか
計画を練っていた。敬二はそんなことも知らずに、食い入るように番組を見ていた。
いいぞ、もっとやれ
603 :
583:2008/09/01(月) 22:58:55 ID:zXzNx7tW
つC
アギトでワロタw
黒キュアは俺の嫁
そして敬二きゅんは黒キュアのコスプレをする
つまり敬二きゅんは俺の嫁と言うことだな
これが三段論法だ。テストに出るぞー
ところで最近のプリキュアって五色いるのね?
おじさんじゃ時代に追い付けないよ…
【その34】
亜希子と出会ったのは高校1年の春。
入学式が行なわれる講堂に続く桜並木で、
ふいに吹いた風に長い髪がたなびかせていたのが印象的だった。
成績優秀、運動神経抜群、容姿端麗、しかも実家は大金持ちと、
いまどきマンガでも出てこないような絵に描いたようなお嬢様は、
一部の女子生徒から強烈なやっかみを受けたが、
あっという間に学校中の人気者となった。
俺はというとどこにでもいるような平凡な学生で、
ほかの男子生徒と同じく彼女にあこがれる身の程知らずの1人でしかなかった。
そんな彼女と俺の中が変化したのは、文化祭を前日に控えたある秋の日、
みんなで学校に泊まって準備を間に合わせようと盛り上がっていたときだった。
【その35】
超がつくほどのお嬢様だった彼女は、
門限と家の規則から学校に泊まることが許されず、
強制的に帰宅させられようとしていた。
普段から彼女を快く思っていない女子生徒たちからの強烈なブーイングと、
無理やり連れ帰ろうとする迎えの者に板ばさみになり、
亜希子は今にも泣き出しそうになっていた。
いや、もしかしたら既に泣いていたのかもしれない。
自分の思うところでないにもかかわらず罵倒され、
しかも望まない結末を迎えようとしている彼女は、
見たこともない高級車に乗せられて帰ろうとしていた。
それがどうしても耐えられなかった俺は、
気がついたら亜希子の手を無理やり引いて迎えの者から奪い去っていた。
あの時の亜希子の驚きようと、なんともいえないほどかわいらしい笑顔はいまでも忘れられない。
【その36】
ある意味ヤケクソと勢いで構成された若さゆえの暴走は、
後夜祭でのキャンプファイヤーでクラス中の男子が見守る中、
俺が亜希子にフォークダンスを踊ってもらうよう申し込み、
見事受けてもらったときにクライマックスを迎えた。
この日から、俺と彼女は学校中公認のカップルとなった。
2人で1つの傘を差したり、手をつないで帰るだけでドキドキする、清らかで甘い交際。
クリスマスイブの夕方に初めてキスをしたときは、
舞い上がってそのままどこかに飛んでいきそうなほど嬉しかった。
そういえば、初めて亜希子に女装させられたのは2年生の文化祭だった気がする。
あの時は、はしゃぐ彼女に無理やり制服を交換させられ、
そのまま喫茶店の呼び込みをやらされたっけ。
本当の女子と思われてナンパされたときは「私の恋人に触れるな!」と怒ったり、
悪ふざけでスカートをめくるクラスメイトに対して「お嫁に行けない」なんて笑っていた俺に対し、
真剣な顔で「だったら私がお嫁に貰ってあげる」と真剣な顔で言っていたのが思い出される。
そういう意味で、彼女はあのときの約束を守ったのだろうかと、いまさらながら考える。
【その37】
しかし、どんな幸せなときもいつかは終わりが来るもので、
俺たちの交際にも突然終焉が訪れた。
卒業後、彼女が海外の大学に留学する事になったのだ。
もちろん、距離や時間に隔てられるほどやわな恋の道ではなく、
綿密に連絡を取り合い、俺は日本の大学で勉学に励みながら彼女の帰国を待つ事に。
だが運が悪い事に、人数あわせで無理やり連れて行かれた合コンの開催日と、
彼女が俺を驚かせようと緊急帰国した日が重なってしまった。
さらに不運は重なるもので、やけに馴れ馴れしい女に纏わりつかれながら飲み屋から出た瞬間、
俺を探して街に出てきた亜希子とばったり出くわしてしまったのだ。
浮気されたと怒り狂う亜希子。必死で弁解する俺。
そして空気を読めず変な事を口走るバカ女。
あっという間に亜希子の沸点は臨界に達し、
それまでの人生で食らった事のないほど強烈なビンタをお見舞いされた。
どんなに弁解しても許してもらえず、仕舞いには俺も逆ギレ的に亜希子に怒鳴り返してしまった。
そこでもう1発、目から星が飛び出るほどのビンタが炸裂。
頬に残る真っ赤な手形が手切れ金となり、俺と彼女はそのままぷっつりと縁が切れ、
そのまま若き日の思い出になるはずだった。
【その38】
そうして時は流れ、俺も社会人としての第一歩を歩み始めた。
就職した会社はグループ企業が500ではきかない日本有数の総合商社。
しかもその本社配属ともなれば、大失敗さえしなければ将来安泰、
文字通りの「勝ち組」になることは間違いない。
そこで俺は入社初日から全力で働いた。がむしゃらになって働いた。
寝食を忘れ、それこそ会社の歯車となって、無我夢中で働き続けた。
その甲斐あって、3年目になる頃には社内では知らないものはいないほどの有能社員と呼ばれ、
将来を約束されたエリートとして一目置かれるようになっていた。
若くして係長になるなど異例の出世を遂げ、もはや同期に敵はいないと思っていたその時だった、
亜希子と再会したのは。
アメリカの大学を卒業し、大学院や実地で最新の経営論を学んできた彼女は、
片手に余るほどの会社を興し、それらをすべて成功させてきたという。
そしていよいよ会長に呼び戻され、後継者となるべく入社してきたのだという。
愛娘とはいえ、いきなりの課長待遇。
同い年の社員が俺以外残らずヒラだという事実を考えれば、期待のほども伺えよう。
彼女と別れてから勉強に没頭し、彼女との思い出を脳内から消し去ろうと頑張った結果、
この会社が彼女の父親が経営するものだということをすっかり忘れていた。
これで俺の出世はなくなった。そう感じても間違いないと思っていた。
【その39】
しかし亜希子は、俺なんか眼中にないのか赴任その日からバリバリと働いた。
俺もかなり会社に貢献していたと自負していたが、
そんなもの比べ物にならないほど会社の業績はみるみるアップし、
同時に彼女の評価も指数関数的に上がっていった。
親の七光りだけではない、有無を言わさぬほどの実績。
気がついたら、亜希子は取締役の辞令を受け、
あっという間に雲の上の存在となっていった。
そんな時だった。
俺の父親が経営する町工場が2度目の不渡りを出しそうになったのは。
小さいながらも高い技術力で評判だったが、
長引く不況と安価でそこそこのものを供給する中国に圧され、
経営は火の車になっていたのだ。
しかも追い討ちを掛けるかのように、父の後を継ぐことになっていた兄が居眠り運転のトラックに撥ねられ、
瀕死の重体になってしまったのだ。
順調にエリート街道を歩んできた会社を辞め、父の工場を手伝うかどうか悩んでいたある日曜日、
亜希子は俺の家にやってきたのだった。
とりあえずここまで。
今回で回想編終わるはずだったのに、微妙にはみでてしまった。
あと、嫌な人が読み飛ばせるよう、そろそろトリつけたほうがいいのかなぁと思ってみたり。
>>594 いつかはエロシーン。
それをアイコトバに頑張っていきます!
>>595 今回で事情説明まで終わりませんでした(´・ω・`)
>>597 おおおおおおおおおおおおお!
姉弟モノ!しかも黒キュア!
どうなるかwktkですよ!!!
なんか眠れなかったので、続き執筆
【その40】
「うちに融資していただける・・・・・・」ですと?
工場の負債を全額引き受け、かつグループ企業の仕事を回してくれるという亜希子の提案に、
親父だけでなく俺も耳を疑った。
「ええ、こちらの工場の持つ研磨技術は、世界トップクラスと聞きますから」
確かに、親父を筆頭とした職人たちの精密部品研磨技術は、
それこそ世界一といっても過言ではないほど凄い。
しかし、世の中にある機械部品の大半は、そこまでの精密さは要求されず、
そのため「それなりの品質」で安価な中国製品を大量導入したほうが、
企業としては見返りが大きいはず。
いくらつぎ込まれた技術が高かろうと、部品の質が優れていようと、
大量生産品で最も重要視されるのは「どれだけ利益率が上がるか」なのだ。
それを考えたら、俺ならばこんな提案などしない。するはずがない。
当然、数々の実績を上げ、同い年で大企業の取締役に就いているような人間が、
こんなうちだけが利益になるような話を持ちかけてくるはずがない。
なにか裏がある。
俺は知らず知らずのうちに身構えていた。
【その41】
さらに都合のいい話は続く。
交通事故で入院している兄貴の入院費用までも面倒見てくれるというのだ。
わずかながらの保険で治療費をまかなっている現状、これだけでも願ってもない話だ。
最初はあまりにも都合のよすぎる話にうさんくささを感じていた両親だったが、
提示する数々の条件に舞い上がってしまい、もはや状況を把握できる状態ではない。
現在唯一冷静さを保っている俺が、意を決して尋ねてみた。
「で、それだけ破格の条件に対し、親父の工場が飲む条件はなんでしょうか」と。
すると、亜希子は待ってましたとばかりに笑い、こう答えた。
「結婚することですよ。あなたと、わたしが」
あまりの返答に、空気が凍りつく。聞き間違いかと思ってもう一度言ってもらっても、やはり同じ返答。
あの不幸かつ突然の別れを、亜希子は後悔し続けていたのだという。
そのため、あれから男と付きあわず、ずっと学問に没頭していたのだとか。
そして、帰国して父の会社に就職したとき、俺に出会って再び恋心が燃え上がり、
それをずっといままで隠し続けてきたのだという。
なんて出来過ぎの話だ。
【その42】
しかし、俺のほうも彼女が入社してきたときから再び胸の炎が燃え上がっていて、
どうにかして復縁したいと考えていたのも事実。
立場は大きく変わってしまって無理だとばかり思っていたので、
この提案は渡りに船といったところだった。
そう、次の言葉を亜希子が言うまでは。
「ただし、あなたがわたしのお嫁さんになるという条件で、ですが」
俺が、お嫁さん? 亜希子の?
びっくりすると目が点になるというが、たぶん俺の顔もそうなっていたことだろう。
「ちょ、ちょっと待て!なんで俺が嫁にならなきゃいけないんだ!」
いまや雲の上の上司となったということも忘れ、思わず亜希子を怒鳴りつける。
そんな反応を見せる事など先刻承知とばかりに、
「男は浮気するから。既に浮気したんだし、もし結婚して夫になっても、きっと浮気するに違いないわ。
だったら妻にして自分の目の届くところに置いておくほうが、どれほど気が楽か」
あれを本当に浮気といっていいのかわからないが、それなりに負い目はある。
しかしだからといって、男を妻にするっていう発想は普通生まれるか?
【その43】
俺に決断を促す亜希子。
その目はかつてお互い甘い恋愛をはぐくんだときのものではなく、
厳しいビジネスの世界に身をゆだねてきたヤングエグゼクティブのものだった。
俺の、そして家族の一生を、文字通り決めてしまうこの決断。
もし断っても、亜希子自身が俺を社内でどうにかすることはないと言っているが、
そんなこと信用できるはずがない。
もし亜希子自身が何らかの方法で俺を左遷なり何なりしなくても、
きっと「気を利かせた」他の管理職が、何らかの形で俺を会社から追い落とすだろう。
そして辞表を提出したとしても、俺と家族の生活が立ち行かなくなることも、しっかり予見している。
だが、ここで了承したら、俺は一体どうなってしまうのかわかったものではない。
なんせ『妻』に『花嫁』にされるのだ。
男なのに、『妻』で『花嫁』。当然、屈辱恥辱はそれだけで済まないことは容易に想像できる。
進んでも地獄、引いても地獄とはこういうことをいうのだろうか。
【その44】
「大丈夫、工場は潰してかまわない。借金は警備員でもしてなんとか返すさ」
あまりの苦悩にもだえる俺を見かねてか、親父が声を掛けてきた。
最近は忙しくてじっくり話す機会も少なかったが、
その髪の毛にはずいぶんと白いものが混じっていることに気がついた。
俺たち兄弟を育て上げ、さらに今、俺のために苦渋の決断をしようとしている。
親孝行するとき、それは今。
「わかった、結婚する」
俺は亜希子に深々と頭を下げたが、彼女はにやりと笑ってこう言い放った。
「もっと『お嫁に貰っていただく』ことを自覚してもらわないとね、貴明」
ぎりり。悔しさのあまり奥歯が鳴った。
もういいんだ、そんな条件飲む必要ないと親父やお袋は俺に優しく手を差し伸べる。
だが、俺はそんな両親のために、救済の手を振り払って、
そして、震える手で三つ指ついて深々と座礼をし、搾り出すように言葉を吐き出した。
「亜希子さん、どうか私をお嫁に貰ってください」
亜希子は高らかに笑った。
【その45】
あくる日出社すると、俺と亜希子が婚約したという噂は瞬く間に全社内に広まっていた。
心から祝福する者、やっかみの声を上げる者、無視する者、
その反応はさまざまだった。
さらに同じ日、俺は今いた部署から亜希子専属の秘書になるよう辞令が下った。
元々出世頭で通っていたが、一夜にして経営陣の一角に加わろうかという出世ぶりに、
平成の植木等なんていうわかったようなわからないようなあだ名までつけられてしまう。
しかし、秘書なんていうのは体のいい形式上の役職に過ぎず、
実際は俺に業務中にも花嫁修業をさせようという亜希子の策略だったのだ。
料理や裁縫は言うに及ばず、お茶にお華に日舞に着付け、
さらにはバイオリンや社交ダンスまで。
亜希子に言われるがまま、業務時間どころか残業してまで花嫁修業に明け暮れる日々。
もうなんのために会社に行っているのか、まったくわからない状態だ。
【その46】
そして結婚の条件となっていた親父の経営する工場の再建はというと、
亜希子が約束通り以上のことをしてくれたおかげであっという間に経営はよくなり、
増資増築も行なって工場規模も以前に比べかなり大きなものとなった。
今ではその高い技術力で、グループ企業の製造下請け業務がどんどんやってくるという。
兄貴も転院してからみるみるよくなり、リハビリも順調だという。
俺1人が犠牲になることによってこんなにも家族が幸せになれるなら、
花嫁になることを承知した甲斐もあるものだ。
しかし、時折現実を直視させるかのように、亜希子は数々の「イベント」を提示してきた。
まずは結納。正式に婚約を結ぶという重要な儀式だが、
近年は形式だけのものとなっている場合が多い。
しかし、そこで俺は振袖を着させられるという屈辱を味わった。
男物の着物とは違う、独特の重さと締め付け感を伴った動きにくい服装は、
それだけでも心が折れる代物だった。
しかも昼間のホテルで執り行われたため、
備え付けのメイク室から結納が行なわれるところまで移動するだけでも
好奇の視線がザクザクと突き刺さってくる。
ウィッグとメイクでごまかしているが、絶対に男だという事がばれている。
間違いない。断言できる。
【その47】
続いてはウェディングドレスを仕立てるための仮縫い。
男が花嫁としてドレスを仕立てに来るというのはいままでなかったらしく面食らっていたが、
いくらか握らされたのか俺をずっと結婚を控えて幸せな花嫁として扱っていた。
ドレスのデザインはどれにするかと聞かれてもよくわからないので、
結局全部亜希子任せになってしまった。
こういうのは20年以上女性だった彼女に任せたほうがいいだろうと思ったが、
出来上がった『いかにも女性らしい』ドレスの数々に
もう少しこちらの意見も主張して女性らしさを排除すればよかったと後悔した。
もっとも、ウェディングドレスから女性らしさを取り除く事なんてできはしないのだが。
そしてエステ。それも1回に目玉の飛び出るほどの料金がかかる、超高級エステ。
もちろんここでも俺は完全に女性扱い。
亜希子なんて「男性の方は受付まででお願いします」
なんて言われる始末。絶対、あらかじめそう言うよう申し付けていたのだろうが。
専門の女性スタッフ3人の手によって丁寧に丁寧にマッサージされ、
パックやら角質除去やら脱毛やら、どんどん俺が磨き上げられてゆく。
脂肪を減らすというマッサージは「天然ハーブを配合したオイルで気持ちよくマッサージ」
なんていわれていたが、実際には肉をひねってつまんでもみしだくという、痛いだけのものだった。
バストアップマッサージも施されたが、こっちはなんとなく気持ちがよかったのは内緒だ。
そんな痛恥ずかしいエステを週1回ずっと続けるうち、
男としてはまずありえないような「くびれ」と「バスト」がわずかながら生まれてきた。
当日ドレスを着るときは、これを補正下着で強調するのだという。なんて恐ろしい。
【その48】
そんな恥辱にまみれた結婚準備だったが、これはまだまだ序章に過ぎないことがわかった。
限られた親族だけで執り行うと勝手に思っていた結婚式は、
招待客を呼んで大々的に行なう事になったのだ。
つまり、俺のウェディングドレス姿も、知人友人お偉いさんに晒すという事だ。
これはさすがに拒否したかったが、俺にそんな権利もなく、
どんどん挙式のプランが決まってゆく。
もちろん招待客の選別も俺の自由になるはずがない。
できるのは「こいつとは仲が悪いから呼びたくない」と、
リストアップした招待客候補数人に赤線を引くぐらいだ。
こうして招待された高校や大学の友人、会社の同僚たちはいま、
俺の花嫁姿を珍しいものを見る目で見つめている。
そんな視線の海を泳ぎきり、新郎新婦はようやく主賓席へとたどり着くのだった。
今度こそここまで(`・ω・´)
次回からは披露宴に戻ります。
微妙に初期とつじつま合わないようなきがするけど、
そこはそれ、すいません(´・ω・`)
624 :
◆YSssFbSYIE :2008/09/02(火) 06:41:26 ID:ae8F7Xtq
あ、あと次の投稿から上記トリップつけます
読みたくない方は気軽にNGしてくださいませ
>>602-605 Cありがと。
仮面ライダーシリーズとかよくわかんないから適当に頭に浮かんだもの
ポッとつけた
後、ブラックってのは女の子の名前じゃないみたいね・・
>>612 まさかwktkされるとは・・ありがたい
これからもよろしくです
>>626 BS11の土曜日19:30〜を見るんだ。
>>627 すまない、家じゃBSみれないんだ・・orz
つC
そして、スレ立て乙
新スレに投稿
女装までが長いので梅がわりに。
>>480のネタで、本番なし&晒し者にして辱める内容です。
(1/3)
とは、とても言えない王様でした。
шшш
「お召し物をお持ちしましたわ」
新婚ほやほやの奥さんに世話を焼かれることは、男の人にとって幸せ以外の何物でもないでしょう。
それが現在隆盛を誇る大国の才女にして、バター色の肌に艶めく黒髪の美女ならなおさらです。
しかし、理知的なアイスブルーの瞳が、夫である自分のためだけに細められているというのに、王様はちっとも嬉しくはなれませんでした。
それは王様がミルク色の肌に波打つブロンド、輝くエメラルドの瞳に小柄な体躯という少女めいた美貌の主だからでも、女性に興味がないからでもありません。
ご婚約が決まった際、当時逝去したばかりの父王様の代理として一国を切り盛りしていた彼女に出会った時、王様は自分の国にはない色の瞳や髪に、妻となる女性の凛とした美しさにしばし心奪われたものでした。
ならば、なぜなのでしょうか。
それは王様の目の前に差し出された「お召し物」が、社交界入りする令嬢のそれよりも煽情的なデザインの、真っ赤なミニドレスだったからです。
шшш
王様の祖国は、国土は小さいながらも繊細な工芸技術を持ち、他国に一目置かれるようなところです。
優秀な父王様方の施政により、資源豊かな美しい国は長く平和な時代が続いていました。
ところが、その父王様を始めとした国の重鎮が、不幸な事故で次々と突然天に召されてしまったのです。
跡継ぎとしての教えを受けたとはいえ、まだ年若い兄王子…新王様の国は格好のカモとなりました。それまで手を出せずにいた近隣諸国がにわかにちょっかいをかけだすと、たちまち美しい国は傾き始めました。
そんな時に条件付きで、くだんの大国が全面的な援助を申し出たのです。降ってわいたような幸運に、王族の男子に国王不在の大国の長を務めさせるという条件は速やかに受け入れられました。
政には関係ないからと、それこそ蝶よ花よと大切に育てられてきた弟王子様は、祖国の命運を託されて、見知らぬ国の王様となったのです。
633 :
はだマシ(改行エラースマソ) ◆CpBvBAxqv. :2008/09/05(金) 01:08:11 ID:Gc47/EA7
(2/3)
そんなわけで王様の目下の関心事は、どうすれば王妃さまや他の偉い人々の機嫌を損ね
ずに済むか、という王様らしからぬものでした。
男系であるこの国に女子しか生まれなかった、なんてことがなければ、自分のような手
腕も後ろ盾もない者が引き立てられることはないという身の程を、不始末をしでかせば、
それはすなわち自分の故郷の存亡につながるということを、王様はよくわきまえておりま
した。
王様のその負い目を知っているからなのでしょう。聞こえよがしにやれ輿入れだの入り
婿だのといった、端から見れば事実に相違ない揶揄をするものも宮廷には少なくありませ
ん。
しかしそれに強く物言うこともできないまま、王様はそれこそ新妻のようにお妃様の言
うままに務めておりました。
ですからお妃様から、
「父が生前懇意にしていた仕立て屋に、お召し物を作らせますわ」
と聞いた時には、王様は大変恐縮し、珍しく首を横に振ったのです。
「あの、そんなにしてくださらなくても、お気持ちだけで十分です」
奥手な王様は毎夜お妃様と閨を共にしても、いまだに夫婦の営みをいたしておりません。
もともと引っ込み思案な性格とお妃様が何もおっしゃらないこともあいまって、こうして
平素から及び腰になってしまうのでした。
「何をおっしゃるのです。戴冠式以来の朝見なのですから、それなりの装いをなさらない
といけませんわ」
肩口で切り揃えた黒髪をサラリと揺らすことで、王様の意見は一蹴されます。
王様の祖国には上背のある女性が少なかったことと、また王様が男性にしては小柄なの
もあり、スタイルの良いお妃様にそれをされると、王様はもう反論なんかできません。
そして、弦に細かな細工の施された眼鏡越しの蒼瞳は、ご成婚後も変わらず冷ややかに
揺らぐことなく夫であるはずの王様を見据えるのです。
女性に王位継承権のないこの国で、若くして国王補佐となった事情を考えれば納得はい
くのですが、ぬくぬくと政権とは無縁な生活を送ってこられた王様には、何を考えている
のか見当もつかないお妃様をちょっぴり怖いと思ってしまうことがあるのでした。
何も言えずうつむいてしまった王様の気持ちを知ってか知らずか、しばしの間を置きお
妃様が口を開きました。
「…それに、これはあなたや、わたくしのためにもなるのです」
「え?」
(3/3)
夫婦二人きりの場所でも、必要なお話しかされないお妃様だったので、思いがけない言
葉に王様が首を傾げます。
「わたくしの父……先の王以上のお姿のあなたを拝見すれば、あなたが紛うことなきこの
国の主であることを、皆が理解できると思うのです」
「………あの、それは…」
ご婚約以来王様を悩ませてきたこの事は、誰にも――わずかながら祖国から連れてきた
家来達にも打ち明けたことはありません。
どうしてそれを、と尋ねようと唇を動かすのより早く、お妃様が続けます。
「…あなたがいわれのない誹謗に心を痛めていることは存じております。わたくしは妻と
して、あなたに辛い思いをさせたくはないのです。だから、どうか信じてくださいませ」
あなたが心安らかであることが、わたくしの幸せなのです、と。
表情こそ平素のポーカーフェイスではありますが、そっと王様の手をとりお妃様の言葉
は、掠れた囁き声と相まって王様の心に深く響きました。
「私のために、そんな…」
春の湖沼のように清らかな瞳が潤みます。
「わたくしの言葉が足りないせいで、あなたを不安にさせていることを心苦しく思ってお
ります……このような形でしか告げられない妻でございますが、わたくしはあなたに、こ
の世の誰よりも幸せになって欲しいのです」
いつの間にか二人の距離は縮まり、はたから見れば口付けを交わしているかのような近
くに、お妃様の憂いを帯びた双眸が、思わず抱き寄せたくなるような美しい肢体がありま
した。
藍色を基調にした袖や裾の長い独特なデザインの服は、お妃様のふくよかなお胸や、そ
れに対しスラリとしたスリットからのぞく脚の魅力を余すことなく引き立てています。
こんなに美しく聡明な女性が、確かに自分の身体に触れて愛を語っているのです。
王様は彼女に引け目を、そして勝手な怯えを抱いていた自分を恥ずかしく思いました。
(4/3)
(こんなに私のことを想ってくれているのに、私は自分のことばかり、嘆くばかりだなん
て…なんてひどい夫だろう)
申し訳なさと、それ以上に目の前の女性への愛しさを込めて、王様は金色の睫毛に縁取
られた目をニッコリと細めました。天上からの使いのような清廉な笑顔を、お妃様はじっ
と見つめています。
「ごめんなさい、わがままを言ってしまって…その、お言葉に甘えさせてください」
嬉しさと照れくささに桜色に染まる王様の頬に、ややあってクスリとお妃様の吐息がか
かりました。
「御意に……それと、わたくしにもひとつ、わがままを言わせていただけますか?」
即座にうなずきつつも身構える王様に、お妃様は気遣わしげにほほ笑みかけます。
「わたくしが至らないせいもありますが……そのように、お気を煩わせないでくださいま
せ」
「ああ!…その、ごめんなさい…あっ!」
言われたそばから、と王様は真っ赤になって口をつぐみます。その様子にお妃様は再び
小さく笑いました。
「お慕い申し上げますわ、あなた」
шшш
エラー続発させて間が開きましたが、今回は以上です。
分割まで間違えてしまい、失礼しました。
637 :
名無しさん@ピンキー:2008/09/05(金) 11:05:19 ID:bfGSWAyi
>>632 >>降ってわいたような幸運に、王族の男子に国王不在の大国の長を務めさせるという条件は速やかに受け入れられました。
この一文、言葉が足りなくてすごくわかりにくいぞ、主語もないし
「くだんの大国」に「傾き始めた美しい国」の弟王子が王として迎えられたと言うことか?
確かに言葉がたりないがシュチュとしは大好物
つC
そして埋め
保守埋め
>>637 ありゃりゃ、本当わかりにくい。
意味はその通りです。いっそウツクシ国やグレート王国とでも名付けときゃマシでしたね。
ご指摘ありがとうございました。
(1/4)
朝見を前にした王様の元へとお妃様が仕立屋を伴っていらした時、王様は満面の笑みで
彼らを迎え入れました。
「お初にお目にかかり、まことに光栄でございます」
お妃様のお取り計らいでしょうか、新しい服の入った長櫃を携えてきた仕立屋は、王様
方と年近い二人の若者でした。
「婚礼の儀の折、拝見した以上のお美しさ。幸甚に存じます」
そんな彼らに口々に褒めたたえられ、王様はくすぐったさを覚えながらお礼を述べます。
「お召しになった姿に一番早くお会いしたい」と可愛らしいお願いをされたお妃様と一
緒に、豪華な彫刻が施された蓋が開かれ中身が取り出されるのを、王様はわくわくとして
見つめておりました。
「王様、こちらにございます!」
「わぁ!とてもキレイな……………………あ?」
一国の主らしい艶やかな臙脂色に思わず歓声を上げかけましたが、豪奢な布遣いのそれ
は……どう考えても「ドレス」と呼ばれる、それも極端に丈や袖の短いデザインのもので
した。
何かの間違いだろうとは分かりつつも、王様とはいえ初対面の相手に失礼な態度をとる
わけにはいかず、隣のお妃様の反応を待ちましたが、
「まぁ!本当に………王様に相応しい、立派なお召し物ですわ」
うっとりと目を細める彼女のそれは、純粋に期待に応えられた喜びに満ちています。
趣味の善し悪しに関わらず、冗談なんて言ったことがないお妃様の初めての不可解な行
動。王様は混乱しつつも勇気をふり絞り、お妃様の袖を弱々しく引っ張りました。
「あ、あの…これって……」
「どうかされましたか?」
「どうかって…」
心底不思議そうに首を傾げるお妃様に王様が口ごもっていると、彼女と顔を見合わせた
仕立屋の年かさの方が「ああ!」と声を上げました。
「さすが王様、ご慧眼にございます!」
「え?」
「あら…そういうことでしたか。姿見は後で持たせるべきでしたね」
苦笑するお妃様の視線の先には大きな鏡があり、お妃様の横で困惑する自分や、仕立屋
二人の掲げる真っ赤なドレスが映っています。
「先日申し上げそびれましたが、この仕立屋の作る物は少々変わっておりまして…」
「おそれながらお妃様。それはどうか私どもに説明させてくださいませ!」
仕立屋二人の朗らかな笑顔に、さすがのお妃様も「どうぞ」と顔をほころばせます。王
様はといえば、お妃様の珍しくも麗しい微笑みに見とれるどころではありません。
(2/4)
「こちらは一見普通のお召し物なのですが、こうして姿見を通しましたり……」
「王様や国家に逆心を抱く愚か者が目にすると、このような女性の物に見えるのです!」
「ぎ、逆……?」
「そうですわ」
仕立屋らのセリフに目を白黒させていた王様が見やると、お妃様が袖を口元に寄せてに
こやかに囁きます。
「つまり、これをお召しになった王様を拝見した者の反応で、駆逐すべき裏切り者か、そ
うでないかが分かるのですよ」
物言いにまったくそぐわない物騒な内容に、王様の思考が一瞬止まり…直後に目まぐる
しく回転しました。
(え!?そ、それってつまり………私が裏切り者ってこと!?)
そんな魔法めいた技術が、おとぎ話のようなことがあるだろうかという疑念もありまし
たが、何しろ今まで軽口一つおっしゃったことのないお妃様です。自分の命を賭けに使っ
てまで問い質す度胸は、温室育ちの王様にはありませんでした。
(どうしよう、変な反応をすれば……そもそも、そんなつもりなんてないのに!)
祖国への愛情はもちろんありますが、お妃様やこの国へ尽くしたいという気持ちだって
同じくらいだと思っていた王様にとって、自分自身を偽っていたということは大変な衝撃
でした。
しかしここでお妃様の言う「駆逐すべき裏切り者」であることが明るみに出れば、どう
なることでしょう。王様ご自身はもちろんのこと、連れてきた家来達や、ようやく以前の
ような国として回り始めた兄王様方に危険が及びます。
ショックに恐怖、そしてお妃様方への想いに押しつぶされそうになりながら……背中を
伝う汗を感じつつ、王様は口を開きました。
「………す……素晴らしい服、ですね……ほ、本当に、ありがとう…ございます……」
声は上擦り震え、とても言葉通りには思えませんでしたが、お妃様や仕立屋達は満足げ
にうなずきました。
「お気に召して、何よりですわ」
「ありがたき幸せにございます!」
「ささ!さっそくお召し替えいたしましょうか!」
「うそ!?」「冗談じゃない!」と、首を横に振りたい気は山々でしたが、お妃様の手
が王様の両肩にそっと添えられたことに、王様はビクリと硬直してしまいます。
「ええ、早速………よろしいですわね?」
聞いたことはないけれど死刑宣告を受けた囚人の気持ちで、王様はどうにか「はい」と
うなずきました。
(3/4)
「それでは王様、今お召しになっている物を失礼いたします」
言うなり仕立屋らがひざまずくと、王様の靴を順番に脱がせ始めます。
「わたくしも、お手伝いしますわ」
後ろからお妃様の声がして、ゆったりとした王様の上着に手をかけられました。
「ええっ!?あ、あの、結構です!自分でしますから…!」
慌てる王様に小首を傾げ、お妃様は「そんな」と笑みを浮かべます。
「遠慮など、なさらないでください」
「時間も押しておりますし」などと言われれば、なんだか自分がわがままな子供になっ
たような気分になります。
渋々王様が「お願いします」とうなずくや否や、お妃様や仕立屋らは非常に手際よく王
様の服を脱がしていきました。
祖国で仕立てたそれは、細かな刺繍で飾られたゆったりとしたもので、袖や足通しを抜
かれるごとに故郷が遠くなったような、なんともいえない名残惜しさを覚えます。
王様の感傷にかまわず三人の手が華奢な身体中から衣服を取り去り、最後に残った下着
を仕立屋が掴みました。
「!?そ、それは大丈夫です!」
まさかこんなところで素っ裸にされるとは思っていなかったので、王様は慌てて身を引
きます。
たっぷりした布地で隠されていた王様の裸身は、日の光も汚れも知らない滑らかな陶器
のようで、細いながらも少女めいた柔らかい線を描く肢体を羞じらうように手で隠す様は、
なんといえない背徳感があります。
しかし仕立屋の言葉は、そんな王様の羞恥など意にも介さないものでした。
「ですが王様、肌着も私どもがお仕立ていたしましたので、どうぞ」
「じ、じゃあ、それくらいは自分でもできますから、その、部屋の隅ででもさせてくださ
い!」