ダンテは妻を迎える気がなかった。
自らの母を失った体験が、彼に家庭を持つことを躊躇わせている。
妻にしても大丈夫そうだと思った女達は、大人しくダンテと家庭を築いてくれるような女ではなかった。
艶事がなかった訳ではないが、結局はそれ以上関係が進むこともなく、四十を過ぎた今もって独り身だった。
ところが今更になって、一回りも年下の娘と所帯を持つことになった。
妻となるルシアの身の上では普通には生きられないだろうという憐憫が親近感を生み、ダンテの内に愛情を育てたのかもしれない。
ルシアが自分に好意的なのは分かっていたが、がっつくような歳でもない。
純情なルシアに合わせて段階を踏み、2ヶ月を費やして口説き落とした。
今は結婚を前提とした、同棲交際期間といったところだ。
「おかえりなさい、ダンテ」
「ああ、ただいま」
まだ幾らか戸惑っているようなはにかんだ笑顔で迎えるルシアは、初々しさが正しく新妻といった様子だ。
どちらかというと蓮っ葉な方が好みのダンテだが、控えめなのも悪くないなどとこの頃思う。
「寝ててよかったんだぞ?」
「待っていたかったの。夜食はいるかしら」
「ああ……軽く貰おうか」
「分かった。シャワー使ってる間に出来るわ」
そして、家庭のある幸福というのも、同様に悪くないと思っていた。
ただひとつこの生活に問題があるとするなら、ルシアが清純すぎることだろうか。
いくら歳を重ねたとはいえ、ダンテも男だ。
欲はまだ失っていないが、最近やっとキスに慣れたくらいの乙女に無理はさせられない。
シャワーで雑念を払うべく、バスルームに向かった。
夜食を終えて、2人は揃って寝室へ入る。
いつもならば広いキングサイズのベッドを、中央で分けて使っているのだが、今日は上掛けのシーツがいつものシングル用と違う。
なぜかキングサイズ用のものがかけられていた。
全部洗ってしまったのだろうかなどとダンテが考えていると、ルシアが思いもよらない行動に出る。
先にベッドにあがり、真ん中に肘をついて横たわって、頬を染めている。
抱いてくれといわんばかりの格好だった。
「……ルシア?」
「その……い、営みあってこその夫婦だと、雑誌に書いてあって…」
面食らってダンテが思わず問いかけると、ルシアは躊躇いがちに口を開いた。
愛らしい妻の言動が、静めたはずの欲に火をつけそうになる。
だが無理をして及んだ行為では、愛を確かめるどころか逆にぎくしゃくしかねない。
「ルシア、無理はしなくていい」
「でも」
ダンテは起き上がって心配そうに瞳を覗き込むルシアの傍らに座り、肩を抱いて語りかけた。
「ゆっくりでいい。俺は待てる」
「……ダンテ…」
「一回り近く年下だし、大事にしたいと思ってるんだ」
申し訳なさそうなルシアを落ち着かせるために、努めて優しく言った。
しかし、それが逆にルシアの心を燃え上がらせてしまう。
心地よく胸を締め付ける愛しさと、自然に湧き上がったダンテと一つになりたいという欲求が、ルシアの体を動かす。
立ち上がって寝間着を脱いで、ショーツだけになったルシアの体に、ダンテの視線が釘づけになった。
「無理はしてわない。夫と決めた人を求めるのって、素敵な気持ちなのね。
今、あなたに抱いて欲しいと思ってる。……駄目、かしら」
そう言ってルシアは、少し照れくさそうにあらわになった胸を隠す。
褐色の肌が白いシーツに映えそうだ、などと考えてしまうともう駄目だった。
ダンテの色欲は、引き返せないところまで高ぶっている。
ほんの少しだけ強く腕を引いてルシアをベッドに引き倒し、唇を重ねた。
これからの行為の期待を煽るために、軽くに止めておいた。
「ベッドの上じゃ、俺はそんなに優しくないぜ」
「構わないわ。ねえ、ダンテ」
「なんだ?今更イヤなんて言われても聞かないからな」
「そうじゃない。……子供が欲しいなら遠慮しなくていいと、言いたかっただけ」
ルシアは朱に染まる頬をさらに赤くしながら、夫婦なのだし、と言葉を付け加えた。
素直に嬉しく思ったが、どうしたものかと困りもした。
言葉の上では優しくないなどといったが、まさか初めての彼女にそこまで出来るわけがない。
なにより、ダンテはもう少し彼女との恋人同士の恋愛を楽しんでいたかった。
「子供はまだ先でいい。それより」
「あ……」
胸を隠す手をどけて、軽く触れる。
張りのある乳房の、綺麗な色の頂に口を近づけて囁いた。
「今は、お前を味わいたい」
「ダンテ……あ、ん……」
わざと軽く音を立てて、乳房にキスをする。
ぴくりと揺れるルシアの体は、初めての感覚に戸惑っているようだった。
だが優しくゆっくり揉んでいると、鼻にかかった甘い声が聞こえてきた。
「んっ、あ……ああっ…」
ルシアの感度が上々らしいと分かって嬉しくなり、ダンテはわずかに口角を持ち上げる。
いたずらをする子供のような気持ちで頂を軽く噛むと、ルシアの体が大げさに跳ねた。
「あぁっ!そ、そんなこと、急には……」
「悪い。あんまり美味そうだったんでな」
「そ、そんな……ふ、んん……」
噛んだところを労わるように舐め、空いた手を体のラインをなぞりながら下腹部に近づけていく。
一度に複数の快感を与えられたルシアは、情けない声を聞かせたくなくて、思わず指をきゅっと噛んだ。
それに気付いて下に伸ばした手を戻し、細い指を歯から開放してやる。
「こら、声が聞こえないだろう?」
「だって、こんな声……私じゃないみたいで…」
「俺は聞きたい。ルシアの可愛い声、もっと聞かせてくれ」
「かわいい、なんて……あっ、そこは……!」
改めて下腹部のショーツで覆われた部分に手を伸ばし、頼りない布の上から秘部に触れた。
陰唇を指の腹でなぞりながら、ときおり陰核を強く押す。
「んっ……!ちょっと、待って……!」
「待たない。言っただろう、優しくないってな。だが、これでも随分優しくしてるつもりだ」
布越しに触れるのは初めての行為に慣らすためで、そうでなければショーツをどけて触れているところだ。
気遣いはしていると言われ本当なのだろうと思いながらも、やはり初めての感覚に身が竦む。
優しく擽られたり強く擦られたりしている内に、徐々に慣れてきたのか体が芯から熱くなってきた。
高ぶりは止まらず、もっと触れて欲しいとまで思う。
「は、あ……変な、感じ……。胸の奥が、痺れてるみたい……お腹も熱くて……」
「興奮してるんだ、怖がらなくていい」
「ええ……あっ、あ、あ、あ……」
陰核を小刻みに擦って反応を確かめると、随分と慣れたようで素直に声を上げる。
ぎゅっと布を押し付けて湿り気を帯びたのを感じ、頃合だと察した。
羞恥を煽るように、ショーツをゆっくり脱がす。
ルシアは目論見どおりに恥ずかしがって、切なげに眉をひそめて目を閉じた。
ついでに閉じようとした脚は遮り、膝を軽く叩いて開くように促す。
しばらく躊躇っていたが、やがて決心したのかルシアの脚から力が抜け、簡単に開くことが出来た。
「綺麗な色してる」
「は、恥ずかしい、から……そこ、あまり見ないで……」
「これからここを可愛がるんだ、それは無理な相談だろう」
何も受け入れたことのない秘部に、少しばかりの潤いで指を入れてしまうのは酷だろう。
そう考えて、ダンテは顔を近づける。
何をされるのか検討のついたらしいルシアの顔が、耳まで赤く染まった。
差し出されたダンテの舌が陰唇に触れた途端、ルシアはえも言われぬ快感を感じた。
「ひ、あ……!んんっ、あ、あ!だめ、や、ああ……!」
ぬるりと舌が舐るたびに、じんと痺れが全身を駆け巡るような感覚は、快楽に不慣れなルシアには刺激が強すぎる。
止まらない甘い喘ぎが、何より心地よくダンテの耳をくすぐった。
「ふっ……ん!ダンテ、だめ……!」
「よく濡らしておかないと、お前が辛いだけだぞ」
「分かって、る、けど……!や、いやあ……!」
下腹部に感じる熱さは、いまや全身に広がってルシアの感覚を支配しようとしている。
その熱に比例して秘部から溢れる愛液が増え、淫猥に響く音も大きくなっていた。
秘部を啜られ、陰核を唇で啄ばまれるたびに、ルシアの体が艶かしく揺らめく。
しつこいほどの愛撫によってすでに十分な潤いを湛えた秘部は、受け入れるものを求めてひくついていた。
ひくひくと物欲しそうにしている秘部に目を留めたダンテは、試しに中指を挿入してみる。
指は最後までとはいかないが苦もなく飲み込まれ、ルシアの表情を伺っても苦痛のようなものは見えない。
「動かすぞ」
「ん、はあっ……あ、んん……!」
ダンテの指が、ルシアの中を広げるように動く。
まずは浅く探るように、次いでゆっくりと深く潜り込むようにして内側に指を進める。
徐々に大胆になっていく動きに、ルシアは目のくらむような思いでいた。
慣れたところで指を増やし、愛液を絡ませて奥を探っていくが、途中でルシアの体が強張ったままになった。
「はぁ、う……、……!ひぅっ……!」
あまりの快感のせいか、ルシアの唇から零れていた甘い声が、今では引きつったような吐息にしかならない。
快楽に耐性のないルシアは、どう力を抜いていいのが分からなくて、半ばパニックになりかけていた。
絶頂が近いのだと、ダンテは察する。
だが、とりあえずは息も出来ないほど強張った体を一度休ませてやろうと、指を引き抜こうとする。
その時、偶然に爪の先がある一点を掠め、ルシアの背が弓なりに反った。
「きゃ、あああっ!」
悲鳴のような声を上げたルシアの体が大きく振るえ、まだ中にあるダンテの指を締め付ける。
どうやら、いいところを掠めてしまったらしいと分かって、震えるルシアを抱え上げて抱きしめた。
「よしよし、落ち着け」
「はぁ、あっ……ダンテ、今、私…」
「イッたみたいだな。悪い、ここまで飛ばすつもりじゃなかったんだが」
荒く息を吐くルシアが落ち着いた頃合を見計らって、ベッドに横たえた。
彼女を労わるならここで止めておくべきかと考えもしたが、天を仰いで寝間着の古ジーンズを押し上げているダンテのそれは、ルシアを求めて落ち着きそうにない。
ルシアに背を向けてダンテが悩んでいると、不意に心地よい温みと柔らかさを感じた。
「ダンテ……私は大丈夫だから、続けて…」
「いいのか?」
「ええ……正直に言うと、お、奥のほうが、なんだか物足りない気がするの……」
振り向くと、ルシアは完全に落ち着きを取り戻していて、あまつさえ恥ずかしそうに身をくねらせている。
ここで止めるようなら、むしろそちらの方が野暮だろう。
ダンテはルシアに覆いかぶさるようにして押し倒し、深くキスをした。
「んん……ん、んんっ……んっ!」
キスを続けたまま秘部に手を当て、潤いを確かめる。
一度の絶頂で少し潤いが足りなくなっているようで、このまま挿入しては辛いだろう。
幸い、指を受け入れるだけの余裕はあるようだ。
今度は一度に2本の指を入れてバラバラに動かし、わざと卑猥に音をたてた。
少し痛みを感じるはずなのに、ぐちゃぐちゃと耳につく音は恥ずかしくて堪らないはずなのに、ルシアの熱は高ぶっていく。
ダンテにされていることだと思うと、それだけで興奮が抑えられなかった。
「ん、んあ……あ、あんっ!ああ、ダンテ……!」
「ルシア……」
一度離した唇が、吸い付くように再び重なり合った。
何度も角度を変えて舌を絡めあい、唇を舐めあう。
「もう、入れても平気か」
体はダンテを受け入れられるだろう。
なら心はどうかとルシアに問いかけると、溜め息のように告げてこくりと頷いた。
「ええ……大丈夫よ…」
「良かった。少し、待ってくれ」
身に着けていたものを脱ぎ捨て、素裸になったダンテを初めて見たルシアは、ダンテのものを見て一瞬凍りつく。
果たしてあんなものが受け入れられるのだろうかと不安になったが、見上げると優しい夫の笑顔があった。
一瞬で解けていく不安と代わりに胸を暖かくする安堵を感じ、ダンテを愛してよかったと強く思う。
泣きそうなほどの幸福感が、自然とその言葉を言わせた。
「ダンテ、来て……」
「……ああ」
避妊具をつける時間も惜しんでいるのか、ダンテはそのまま覆いかぶさってきた。
秘部に宛がわれた怒張が、ルシアの中に押し入っていく。
初めにピリッとした痛みを感じたが、十分な愛撫とゆっくりとした挿入が痛みを和らげていた。
「あ、あああ……うぅ……!」
「少しだけ我慢してくれ、息は止めるなよ」
「……大、丈夫……だから…」
ダンテのアドバイスどおり息を止めないように心がけ、ダンテを受け入れていく。
待ちきれないとでも言うようにキスや胸への愛撫が始まり、挿入の痛みは更に和らぐ。
夢中になって唇を奪い合い、キスをしたままルシアはダンテを最後まで迎え入れた。
しばらく黙ったまま口づけあい、抱き合って、ルシアが落ち着くのを待つ。
やがてルシアから唇を離し、もう大丈夫だと言うようにダンテの名を呼ぶ。
「んぅ、ふ、あ……。ダンテ……」
「いいのか?もう少し待っていても構わないが」
「いえ、平気……」
ルシアは気丈に微笑んでみせて、ダンテの首に腕を回す。
ダンテに喜んで欲しいという彼女の気持ちに応えて、ゆっくり動き始めた。
繰り返される挿入はやがてルシアに快感をもたらし始め、わずかに苦しげだった吐息が艶を帯びてくる。
「あ、ダンテ……ん、あ、もっと……早くても……いいから…!」
もどかしくなってきたのか、ルシアは腰を小さく揺らしながら、ダンテに甘ったるい声でねだった。
妻のおねだりなら応えない訳にはいくまいと、ダンテは少しずつ動きを速めていく。
「は、あ!ふ、ああっ!ダンテ、ダンテ……!」
「……ルシア、綺麗だ…」
「そんな、こと……ひぁ、あんっ!」
いつもは貞淑なルシアが、自分の名を呼びながら自分の腕の中でこんなにも乱れているのだと思うと、ダンテも高ぶりを止められなくなる。
赤い髪がシーツに広がる様は、まるで花のようだった。
「あ、んっ、んん、く、ふぁ……!」
「ルシア、ルシア……」
ルシアは名前を呼ばれることが、こんなに心地いいことなのだとは思わなかった。
ダンテの低く掠れた声で名前を呼ばれるたび、快感が背筋をくすぐってぞくぞくするくらいで、感情が高ぶりすぎて果ててしまうかと思った。
実際に限界は近く、それはダンテも一緒だろう。
どうせ果てるなら2人でと、ルシアはダンテにすがり付いて耐える。
「ダンテぇ……!」
ひときわ強く抱き縋られて、ルシアの限界を悟ったダンテは、更に腰を強く打ち付ける。
肉のぶつかる音が大きく響いた。
「あ!だめ、も、う……!あああああっ!」
「く、ぅ……ルシア…!」
絶頂を迎えたルシアに強く締め付けられて、ダンテも次いで果てる。
引き抜いた屹立から精が吐き出され、ルシアの体に飛び散った。
ルシアの褐色の肌は、シーツと精の白が映えて見える。
思ったとおりだなどと笑いながら、自分の吐精したものが付着するのも構わずに、愛しい妻を抱きしめた。
事後処理を済ませた2人は、抱き合って眠りに落ちるのを待つ。
昨日までは30cmほどはあった距離が、今日は限りなく0に近い。
「セックスなんて、下品なものかと思ってたわ」
「ああ、ルシアは確かにそういうタイプだな」
「そうね。でも、今は違う……。不思議なものだわ、たった一度好きな人に抱かれただけなのに」
「貞淑な女ほど、セックスにハマりやすいんだ」
ダンテはそう言ってしまってから、失言に気付いた。
案の定、ルシアは冷たい目でダンテを睨みつけている。
寝返りまで打たれ、限りなく0に近かったはずの距離が、10センチほど開いてしまった。
逃げられることを覚悟で後ろから抱いてみたが、逃げる気配がないことに安堵した。
「言い方が悪かったな、すまない」
「別に……構わない」
そっけない言い方に怒っているのかと思って、機嫌をとろうと口を開きかけたダンテを、ルシアの言葉が遮った。
「あなたとのセックスなら……確かに、ハマッたのかもしれない、し……」
ルシアの思わぬ言葉に、ダンテは込み上げてくる笑いが止められなかった。
まったく、可愛い女を嫁に貰ったものだ。
そんな風に考え、照れて不貞寝を決めこんだルシアを無理やり抱きかかえて、ダンテもまぶたを閉じる。
明日からの夫婦生活を楽しみに思いながら、眠りに落ちていくのだった。