最初の観光スポットは、八戸駅からJR八戸線で20分少々、八戸港内にある『蕪島』(かぶしま)というところだ。
ウミネコの繁殖地として、国の天然記念物に指定されているスポット。
小高い山の上に蕪嶋神社があり、ふもとから神社に向かって階段の参道が続いている。
神社周辺の山肌や崖には大量のウミネコが巣を作っているのだ。
「昔は名前通り島だったんだけど、今は埋め立てられて陸続きになってるんだってさ」
「へぇー」
「ウミネコはかっぱえびせんが好物なんだって。島の売店で売っているらしいから、買って餌やりしましょ」
アリサがガイドブック『ぶるる』の情報を読み上げていると、列車が最寄り駅の鮫駅に到着した。
列車を降りて歩き始めると、左側には海、そして港。小さな猟師の船が入っているような、そんな感じの港だ。
なのは達の住む海鳴市にも海や港はあるが、「漁港」という感じではない。
それに比べて、ここの港はいかにも「漁港」という感じだった。
アー
アッー アー
アッ アアー
アッ――――
潮の香りと共に、ウミネコの鳴き声が風に乗ってなのは達の耳に届き始めた頃には、神社の入り口が見えてきた。
よく見ると、神社ふもとの駐車場には、ウミネコが点々としている。
「わあ……」
はやての車椅子を押しながら、なのはが歓声を上げた。ウミネコ。黄色のくちばしと脚。
胴体部分は白が基調で、羽根の部分は黒。体形的には、カラスをほんの少しだけポッチャリさせたような感じの鳥だ。
五人とも、動物は好きである。
すずかは猫を、アリサは犬を、それぞれ屋敷に飼っているし、はやても犬が欲しいと思っていた時期があった。
その願望は、ザフィーラによって叶えられることになったのだが。
フェイトのパートナーは犬を素体にした使い魔・アルフだし、なのはも一時期、
フェレット状態のユーノ・スクライアと共同生活をしていたことがある。
なお、8月は繁殖のために島に訪れたウミネコ達が徐々に去っていく時期なので、
あまり観光に適した時期とはいえない。
ただ、繁殖のために何万羽もウミネコが訪れる春は、傘を差していないと上空から放たれるフンが直撃するほど。
さすがにフンが降ってくるのは御免だ。そう考えると、逆にこの時期に訪れたのはよかったのかもしれない。
「かわいい……」
潮風に長い金髪を靡かせながら、足元を行き来するウミネコを眺めるフェイト。
戦闘のときは冷静沈着、キリッとしているフェイトだが、今の彼女からはそんな気配など微塵も感じられない。
可愛いものを見て顔をニッコリさせている、穏やかでごくごく普通の少女だ。
「はい、フェイトちゃん」
後ろを振り向くと、売店で買ってきたかっぱえびせんの袋を差し出すすずかの姿があった。
そのさらに後ろでは、なのはとアリサが、かっぱえびせんをばら撒き、それを食べるウミネコ達を見て
きゃっきゃと騒いでいた。
その光景に、フェイトは列車の中でのアリサの言葉を思い出す。
「ありがと、すずか」
かっぱえびせんを受け取り、袋を開封して中身を一掴みばら撒くと、たちまちウミネコが群がった。
出遅れてしまい、かっぱえびせんを食べ損ねたウミネコ達は、もっとくれ、もっとくれと
言わんばかりに鳴き声を上げ、まるでにじり寄るようにフェイトに近づいてくる。
「ま、待って!ちょっと待ってってばぁー!」
「あは、あはははは!」
それにしても、ここの鳥達は非常に人間慣れしていた。
はやての車椅子が珍しいのか、ハンドル部分に停まっているウミネコもいる。
「よしよし、ちょっと待っとってな」
はやてが袋からかっぱえびせんを取り出して投げようとすると、それを待ちきれないと言わんばかりに、
一羽のウミネコがはやての目の前を一閃して右手からかっぱえびせんをパクッと奪い去った。
「ひゃっ?!……全くもう、せっかちやなぁ〜」
思わぬ奇襲を受け、驚くはやて。笑い声が上がる。
年齢の割に大人びている五人だが、今の彼女達はどこからどう見ても、10歳という年相応の表情を浮かべていた。
「よーし、それっ!」
なのはが、かっぱえびせんを上に向かって放り投げる。
それが地面に落ちる前に、一羽のウミネコが鮮やかな空中キャッチを見せて飛び去っていく。
その光景に、また少女達の笑い声が上がった。