ベッドに一糸まとわぬ少女が腰かけていた。少女らしくどこまでも平坦で白い体である。
名前は宮迫睦月。
少しウェーブのかかった髪にカチューシャを付けている彼女は、平素ひどくにこやかで明るい
少女として祖父から限りない愛情を注がれているが、しかしこのときばかりはおろおろとした様
子で眼前に立つ二人の男を見上げていた。
片方はひどく長身で背の高い黒髪の男性。年の頃は三十前半か。短い髪を無造作に分け、
サングラスをかけている。芝生のようなヒゲをまぶした頬に貼りついた笑みは、まるで彫刻した
ように深く深く皺が刻みこまれており、彼は生涯笑っているように思われた。ちなみに全裸だが
背骨模様の入ったネクタイだけをしているのがある種の変態性を放っている。
もう片方の男はまだ若い。笑っている男より一回りほどは下だろう。新雪を想起させる白い
ショートウルフで色眼鏡をかけ、衣服は胸を軽く開いた黒の半袖カットソーと薄いオリーブドラ
ブのパラシュートパンツ。全体にラフで粗雑な印象である。
この二人の男は兄弟である。黒髪笑顔が兄の早坂久宜。白髪ラフが弟の早坂幸宣。
早坂兄弟と睦月は知り合いであり、とりわけ兄の久宜とは仲が良く好意も抱いていたのだが、
ちょっとした問題が持ち上がった。
紆余曲折を経てようやく久宜と睦月が結ばれたその時、睦月は不覚にもお漏らしをしてしま
ったのだ。
そしていま、それを口実に「お仕置き」されようとしている。
(フフフ。怯える君は可愛いよ。肉体に苦痛を与えない範囲で沢山お仕置きしてあげよう)
さらさらとした髪に久宜の手が乗ると、睦月は怯えたように体を固くした。
「何。痛かったらすぐやめてあげるよ。私は君の可愛い声を聞きたいだけだからね」
久宜は笑ったままはぁはぁと息を上げていた。その表情が祖父に似ていて睦月は少し安心
したが、お風呂に入れられる子猫のような怯えの光は瞳から払拭できない。
「まずは咥えたまえ」
黒い笑みを湛えたまま久宜は先ほどの交合で愛液に濡れ光る黒いペニスを睦月の口に押し
当てた。少女はその乱雑さに異常を感じたらしく、反射的に桃色の唇をきゅっと結んだが強引
に割り開かれ、ミルクを流し込んだように白い歯列が生臭い亀頭にぬらぬらとなぞられ始めた。
「んん……」
自身の失禁への羞恥と、それがもたらした相手の豹変への恐怖だろうか。睦月はくぐもった声
をあげながらいやいやと首を振った。だが、ここぞとばかりにユキの中指が未成熟な一本線の
割れ目に滑り込みちゅくちゅくと音を立てたからたまらない。
「きゃん!」
睦月は思わず声をあげてしまい、肉棒の侵入を許してしまった。
「ぶぐっ」
無理やりペニスを口にねじこまれた睦月は目じりに涙を浮かべながらも、しかし観念したのか
苦しげに首を動かし始めた。
「やれやれ。従順なコトだ。しかし嫌ならいつでもいいたまえ。君は社長の孫だからそれ位の
猶予は用意してある」
久宜がサングラスのノーズパッドを引き上げたのを合図に、ユキはジッパーを下して自身の
分身を取り出した。久宜に比べると色素がやや薄く太さも長さも少し下だが、それを補ってあ
まりある若さゆえの猛々しさが漂っている。
「擦れよ」
睦月はいわれるままである。頬を紅潮させ苦しそうにフェラチオを続行しながら、するすると
手を伸ばし、ぎこちなくしごき始めた。
何分ぐらい続いただろう。
「お仕置きだからね」
久宜は香しい香りの睦月のウェーブヘアー越しに睦月の頭を両手でつかみ取ると、激しく前後
に揺すり始めた。
「んぐっ! んぐぐぐ!!」
小さな口いっぱいに頬張ったペニスが喉奥を突き破らんばかりの勢いで出入りするたび、睦
月の苦悶はますます深まり、だらしなくすぼまる可憐な頬に涙が数滴ぽたぽたと流れた。
何かにすがるようにユキの分身を握るうち、自身でも驚くほど激しい愛撫になっているとは気
づかない
「さぁ、出すとするか。できれば飲んでくれると嬉しいよ」
「むぐぐぐ!」
口中でペニスが震えたかと思うと生暖かい液体が噴出し、気道にすら飛び散った。睦月は
瞳孔が収縮するほどの苦しさに見舞われたが、口中の柔肉を苦く白く染める噴出は収まらな
い。たまらず睦月は涙ぐんだ目で許しを乞うように久宜を見上げた。
「おや、呼吸の妨げをしてしまったようだ。すまないね」
久宜はそれで満足したらしく、唾液と精液でどろどろの肉棒を睦月の口から引き抜いた。
「けほっ、けほっ」
自由な呼吸権にありつけた睦月は苦しそうに咳き込むが、そこに久宜とは違う粘っこい粘
液が吹きかけられた。
「きゃあっ!」
思わず顔をのけぞらせた睦月は、ユキが肉棒を掴んで自分に向けているのを見た。
「いったろう? お仕置きだってな。もっともケガするよーな苦痛は与えねー」
彼の目に何かしらの嫉妬の炎が灯っている理由は睦月には預かり知れない。
ただ睦月は愛らしい顔を涎と涙と精液とでどろどろに濡らしたまま、幼い太ももをぎゅっと引き
締めた。
(やだ……くるしかったのに…………おくのほうがジンジンしてきちゃった)
「ほほう。こんどはこちらをしてほしいのかね?」
久宜の手が膝小僧にかかると、睦月はいよいよ体を硬くした。
「ち、ちがうの……たしかに、さわってはほしいけど……でも、でも……! い、いや!」
所詮大人と子供である。睦月は抵抗空しく両足を割り開かれ、繊毛一つない青い花弁を露に
した。
「でも、なんだい?」
「きもちいいと…………」
アゴに手を当てながら、睦月は火よりも赤い顔を俯かせた。
「……また、おもらししそうで、こわいの」
「フム」
久宜はユキに目配せをすると、ベッドを顎でしゃくった。
同時に睦月の腋に手が回り、小さな体が持ち上げられた。
「え?」
目を白黒させる彼女の視界の隅で、ユキがベッドに仰向けになるのが目に見えた。
「いいじゃないか。君はまだ子供なんだ。おもらしなどいっぱいしてもかまわないさ」
少女の薄い胸を体に押しあてながら、久宜はベッドにある黄色いシミを指差した。
「ほら、見たまえ。したとしてもあの程度だ。何を気にする必要があるのかね」
「やだよ。はずかしい……
睦月はいやいやと首を振った。同時に少女の髪から元来の甘さと栗の花の混じった匂いが
ぷんぷんと久宜の鼻をつき、彼の情欲を一層かきたてた。
「フフフ。なんとも可愛いコトだ」
白い裸身を抱えたまま久宜はベッドによじ登り、ユキの足を跨ぎながら中腰になった。
「え……?」
「私ばかりが相手でもつまらないだろう?」
久宜は睦月の持ち方を変えた。それまで腋にあった手が太ももへと回り、肉づきのうすいそこ
をがっちりと割り開きながら、睦月の足の付け根をユキの股間へと近づけた。
そこではパラシュートパンツのファスナーから痛々しいばかりに反りかえった肉茎が白い滴を
垂れ流し、睦月を待ち構えている。
「や、やだ。ほかのひととするなんて、ひさのりさんにわるいよ!」
色をなした睦月は何とか上体を捻って、久宜が唯一身に付けているネクタイに手をかけた。
「フフフ。その辺りは心配ない。ユキは私にとってかけがえのない弟であり最も信頼できる部下
だ。君としたとして私はさほど苦痛でもない」
「……ほんとう?」
「ああ、ほんとうだともさ」
睦月の気の緩みを察したのか、久宜は彼女をユキの足の上に落とした。
「さぁ、またがりなさい」
「で、でも……きゃっ」
耳たぶを舐められた睦月は身をくねらせ、あたかも尾を踏まれた子犬のようである。
そんな彼女の耳元から悪魔のような囁きが到来した。
「さっき私の上に乗った君は……その…………フフフフ。すごく可愛かったよ」
「可愛……いい?」
うわ言のように呟き瞳を蕩けさせると、睦月は夢遊病者のようなてつきでユキのペニスを手
に取り、秘裂に押し当てると一気に埋没させた。
「んっ……」
そのまま腰を上下させていたがやがて甘い息を吐きながらユキの体へと倒れ込み、口に握り
拳を当てながら、か細く喘ぎ始めた。しかし喘ぎながらも細い腰はユキの律動に合わせて艶め
かしくくゆり、屹立をきゅうきゅうと締めつけている。
「さぁ、どうだいユキのモノの感想は」
「い、いえない。恥ずかし……あんっ」
華奢な肢体がぴくぴくと震えたのは、久宜の人差し指がぬぷぬぷと菊門に根本まで入って
いたからだ。
「やだ、やだ! ぬいてよひさのりさん! またおもらししちゃ、ふぁああっ!!」
狭い孔の中で人差し指が鉤のように折れ曲がり、熱い肉襞をかき分ける。
「フフフ。あれだけの所業を私にしておいて今さら恥ずかしいも何もないものだ。いいたまえよ」
指に一層力が籠ると睦月はばらばらに乱れたウェーブヘアーの上でぎゅっと目をつぶり、喘
ぎ喘ぎ言葉を紡いだ。
「ひ、ひさのりさんのより」
ちゅくちゅくと淫靡な水音がユキと睦月の結合部から立ち上り、吐息はますます熱さを増す。
「すこしみじかくて……ほそくて…………ものたりないよー」
(このガキャァァァァァー!!!!!
ユキは色を成して睦月を睨んだが、久宜はそんな彼を「まぁまぁ」となだめた。
「いいじゃないかユキ。男はサイズじゃない。技術だ。これから思う存分、この子にお前の技術
を味あわせてやればいい。フフ。私も協力させてもらうよ」
そういうと久宜は小さな菊門から指を引き抜き、代わりに自身の怒張を押しあてた。
「さわった感じ、ずいぶんこなれているようじゃないか」
「え……?」
力なく振り返った睦月が大きな瞳をさらに見開いて分かりやすい狼狽を浮かべるのを、久宜
は凄絶な笑みで観察した。
「そこ、おじいちゃんはさわるだけで、いれたことないよ……?」
「そうかね。まぁ、こなれているから二本差しでも大丈夫だろう」
「ひぎぃ!」
小さなすぼまりにめりめりと肉棒が侵入する感触するや、睦月は上体を海老のように跳ねあ
がらせた。拡大しきった瞳孔は一瞬すべての光を失くし、小さな舌が開ききった口からだらしなく
垂れた。
「やだ……やだ……キツいよぉ! ぬいて、ぬいてぇ……」
崩れ落ち、ユキの首に手を回して涙と涎で顔をくしゃくしゃにする睦月だが、彼女の腰の動
きは止まらない。ユキと久宜のそれぞれの律動で勝手に動いているのか、自ら応じているの
かわからないほど睦月は悩乱し、ぽろぽろと涙をこぼした。
「なぁに。すぐによくなるよ」
久宜の声が切羽詰ったのは、ただでさえ狭い肛門がユキとの淫猥極まる共同作業によって
ますます狭くなりたまらない締め付けが襲ってくるからだ。それに加えて上下左右別々の律動
がたまらない刺激を与えてくる。女性経験のある久宜でも思わず法悦のため息を漏らすほど、
格別の快感であり、彼はよりそれを貪るために腰を動きを速めた。
すると眼下では幼い背中がますます快美に打ち震え、鮮やかな桜色に染まっていくからます
ます征服欲をかきたてる。鎖骨のか細い凹凸も背の中心に長い陰影を落とす背骨も、腸液を
滴らせる幼い菊門も、総て総てとろけろとばかりに久宜は容赦なく睦月をついた。
ユキもいよいよ律動を早めていく。彼はむしろ兄に征服されんとする少女への嫉妬が多分に
あり、多分にあるからこそ細い腰を引っ掴み奥底を叩きつけるように腰を動かした。
睦月の呼吸はいよいよ速くなり、背後から乳首を、正面から肉芽を同時につままれた瞬間、
彼女は絶頂に達した。
「ふぁ、ふぁああああああああああ!!」
攻めはそれだけでは終わらない。絶頂冷めやらぬ睦月は結合したまま久宜に抱えられ、ユ
キにペニスを引き抜かれると、四つん這いにされた。
同時にまだぬらぬらと淫らに光るユキのペニスが半開きの口へと挿入された。
久宜も菊門からペニスを引き抜き、代わりに睦月の秘所へ挿入したが、甘い霞の中で息を
つく睦月には分からなかった。
とにかくも彼女はしばらく犬のような姿勢で犯された。
当初は戸惑いを見せていた睦月も、行為が進むにつれてほつれ毛を噛みながら涙を流し、
律動にあえぐ他なかった。
もはや彼女の下腹部は腸液と愛液と精液の混合液でべとべとに汚れきり、ただただ背後か
らの律動に甘い刺激を感じるだけの器官と成り果てている。とろけるように痺れた蜜壺の奥が
硬く熱いペニスにがつがつと突かれるたびに睦月は掠れた甘い叫びをあげ、或いは泣き、くしゃ
くしゃの顔をシーツに擦りつけようとするも、ユキのペニスに喉奥まで犯されるのだ。
しばらく地獄のような快美の嵐が睦月の脳髄を襲撃し、やがて二人の放出とともに解放され
た彼女は白い泥のようにベッドへ沈みこんだ。
だがそれは時間にして五分と持たなかった。
再び態勢は変わり、睦月は久宜にお尻を向ける形で跨っていた。
ユキはひとまず傍観するコトにした。
(やっぱ無粋だしな。アニキはせいぜい楽しめばいいさ)
ポケットに手を入れながら、彼は退屈そうな伸びをした。一方、当事者たちは。
「おや、今度は顔を向けないのかね」
「だ、だってかおむけたら、ひさのりさん、わたしのむねさわってくるから」
刺激によって失禁する事を恐れているらしい。未熟な桃のようなお尻を久宜に向けてくゆくゆと
上下させると、睦月は久宜の太さを味わうようなストロークを描き始めた。
「はぁ……はぁ……」
久宜もそれに応じるようにピストン運動を繰り返し睦月の口から甘い喘ぎを漏らさせていたが
やがて身を起して硬く尖りきった小さな乳首をつねりあげた。
「きゃう……だ、だめだよ…………せっかくうしろむいたの……に!」
ヒゲまみれの顎がカーテンを縫うように綺麗な髪をくぐり抜け、白い頸に軽いキスを見舞った。
「ふぁぁ」
それだけでも快美の睦月は片目を閉じてくすぐったそうに喘ぐのだ。
残る片目と目が合った。どちらからともなく顔を近づけ、キスをした。久宜は舌を入れると睦月
の輝くような歯列をなぞり、柔らかな歯茎を舐めまわすと、最後に舌を絡めた。
「んむ」
睦月はうっとりとされるがままになり、唾液を流し込まれるとそれも可愛い喉を鳴らして飲んだ。
そして目だけで笑われた久宜はますます高揚し、睦月の髪を五指で梳りつつ、少女の芯を突
き上げる。
「ふぁっ、ふぁあ!」
小さな体はそのたびにぶるぶると躍動し、快美の痙攣をきたし、そして悶えていく。
「やめて……また漏らしたらひさのりさんにかかっちゃうよぉ……」
なのに真赤な顔を振りかえらすと睦月はそんなコトをいうのである。
(一連の拒否は私を慮っての事なのか?)
久宜の胸にズキリとした痛みが走った。が、彼はそれを究明するよりも早く睦月から己の分身
を引き抜き、同時に彼女を仰向けした。
「ひさのり、さん……?」
目を白黒させる睦月は、しかし久宜の何事かを見抜いたらしく、細い足をM字にすると幼い
秘所に指を伸ばして割り開き、照れくさそうに微笑した。
「かかってもいいなら……いれて……いいよ」
刹那、久宜の熱い脈動は獣が飛びかかるような勢いで睦月に侵入し、内臓を食い荒らすよ
うに激しく激しく凄まじく前後運動を開始した。
久宜の両手は睦月の太ももを握りしめ、痣よ付けとばかり粘土よりも深く指の形を押し付け
て、肉棒から逃がすまいと激しい律動を繰り広げた。久宜の口からはかつてない激しい吐息
が漏れ、幼い秘所は肉棒の出し入れで色素の薄い花弁がめくれにめくれ、いよいよ白く粘った
愛液が太ももやお尻をねっとり垂れてシーツをも汚した。
ユキが茫然と見つめるほど久宜は荒れていた。荒れ狂っていた。
ついには睦月の体をくの字に折り曲げて、もはや抉るように蹂躙を始めたころ、睦月に限界が
訪れた。
「ふぁああああ! イク、イッちゃうううううう!!」
涙を散らしながら叫ぶ睦月の秘所は幼いながらに精いっぱいペニスを締め付け肉襞でぎゅう
ぎゅうと愛撫した。
それに促される様に久宜は短く呻き、最奥まで肉棒を突き立てると精を放った。
亀頭は震えに震え、四・五回、爆発的な脈動を見せると際限なく白濁液を睦月の中へとびゅる
びゅるびゅるびゅる流し込み、睦月はその感覚を最後に意識を手放した。
「やりすぎじゃねーかアニキ?」
「そ、そうだな。途中から少し調子に乗りすぎた……」
早坂兄弟は、焦点の定まらぬ瞳で甘美の息をはぁはぁとつく睦月を見下ろしながら困り果てた。
「私は手を出したくなかったんだが、先に手を出されてついついやってしまったよ。まぁいいユキ。
とりあえず宮迫社長に連絡を取って、それとなく今の行為が大丈夫だったか聞いてくれ。私は
彼女の様子を見ている」
「あいよ」
ユキが辞去すると、久宜は毛布を探して睦月にかけた。
「本当はただ、失禁した君が可愛かったから少しいじめたかっただけなのだよ。……フフフ。だ
が、私たち兄弟が『少しだけ』相手をいじめるなど、最初から不可能だったのかもな。所詮ワル
だから手を出せばああなってしまう。フフ、『やめておけばよかった』……私らしくもなく、そう思っ
ているが、君には許しがたいだろうな」
ふぅとため息をつきながら、久宜はベッドの下に落ちている一葉の写真を見つけた。行為に
及ぶ前に取った写真だ。寝息を立てる睦月の周りに子猫が寄り添っている他愛もない写真。
睦月に鉤爪で服を斬られた時、一緒にバラバラになっていたかと思っていたが、奇跡的に残っ
ていたらしい。
(今となっては、こういう景観だけを君に求めていたのかも知れないな。)
しかしそれを久宜自身がブチ壊したワケで、彼は笑顔のままため息をついた。
もちろん、裸ネクタイのままである。
三日後。
「あ」
「あ!」
街角でバタリと睦月とでくわした久宜はツツーっと汗をかいた。
「ひさのりさんだー。子猫さんたちげんき?」
「あ、ああ。もちろんだとも。この私が飼育する以上、体調不良などは許さないからね」
サングラスのノーズパッドをくいと引き上げながら、久宜は困惑した。
(なぜ普通に話しているんだ。というかこの前の出来事は謝るべきか? 彼女は重要顧客の
孫、機嫌をとらねば何かとマズいというか、いや、というよりも)
本心は別な部分にあると理解しつつも、ワルはワルであるべきという信条ゆえに久宜はそ
れを実行できない。
「この前のこと」
笑顔のまま久宜は凍りついた。
「べつにだいじょうぶだよー。ちょっとつらかったけどきもちよかったし。あ、でもお漏らしはない
しょにしててね? やくそくだよ!」
睦月も笑顔で久宜を見上げると、「じゃ、またねー」と駆け去って行った。
(わからない少女だ)
茫然としながらも久宜は「まぁ、禍根がなければそれでいいか」と歩きだした。
終わり。