585 :
タピオカ:2008/02/06(水) 00:27:08 ID:1gs2qINA
>>560の◆vyCuygcBYc氏が面白すぎて投下しずらいだろ。常識的に考えて。
でも投下しようと思います。いけます?
かまわず行くが良し!!
welcome!
588 :
タピオカ:2008/02/06(水) 00:32:33 ID:1gs2qINA
それでは、注意事項。
・猫娘と11娘の話
・エロくも何ともない
・捏造が酷い
・時は本編少し前
そして、この場でひとつ前の話について訂正を載せておこうと思います。
未来で保管作業する司書さんがた、申し訳ないです。
前回の話で、タイトルと
>>60と
>>62の「優しい夢を見れるように」という言葉を「優しい夢を見れるよう」に、
>>63の1行目、18行目、21行目に入っている「ATF」を「AMF」に直してもらえないでしょうか。
589 :
タピオカ:2008/02/06(水) 00:34:33 ID:1gs2qINA
「優しい夢を見れるよう」 承の話 前編
落ち着いたリニスが通されたのは客間らしい一室であった。
薄い蛍光じみた明かりで、むき出しの岩壁と人工的な内壁が混ざった通路と比べれば、そこはずいぶんと普通の部屋だ。
広さも明るさもある。造りの良い調度品は手入れもされていた。
無論、アジト全体を包むAMFはこの客間にも及んでいる。それでなお魔力のみで造り出されたリニスは平然としていた。
これで、負荷がかかった状態だ。AMFの制約から離れた時、また目覚めてすぐに見せた暴走状態になるのだろう。
つまるところ、AMFさえかかっていれば沈着冷静なリニスが、弱ったジュエルシードの手綱を握れると言う事だ。
(PT事件でほとんどのジュエルシードが暴走したらしいが……九つ一緒くたで暴れるとあれほど強いか)
「どうぞ」
「……どうも」
ウーノがリニスの手前、テーブルへと茶を一杯差し出した。
スカリエッティと、リニスが向かい合う座席。
スカリエッティの背後には、ウーノ、トーレ、チンクが控える。古参の右腕と、緊急時のリニスの抑え役だ。
一応、プレシアの杖はトーレが持っている。
「さて、お互い聞きたい事があるだろうが、まずは君の質問から答えよう」
「………今はいったい、いつです?」
「プレシア・テスタロッサの状況的死亡から、8年が経つね」
「それほど……」
「フェイト・テスタロッサは現在フェイト・T・ハラオウンと名を変えて管理局執務官として活動中だ。その使い魔アルフは前線を引き、家庭に重点を置いているようだね」
「ハラオウン…? …クロノ・ハラオウン……」
手をつけていない茶の水面をじっと眺めながら、リニスが呟くのは杖の過去で見た少年の名。
時の庭園の崩壊に立ち会った少年の片方だ。
「その母親リンディ・ハラオウンが、プレシア亡き後に彼女を養子にしてね。今では幸せな生活を送っていると言うわけだ」
「養子……ですか」
想い焦がれた娘が思いもよらぬ事態になっているのに、リニスが素っ頓狂な顔になる。
常に余裕を持ち、涼やかな彼女からすれば、かなり呆けた表情だ。
しかし幸せな生活を送れている、と信用しにくい人間の口からであれ聞けたのだからそんな表情にもなろう。
胸の奥に安堵の波紋。
それが全身を包む前に、ざわり、と熱い感情がリニスに湧いた。
フェイトに、会いにいかなければ。
それが今のリニスの存在意義。
「もう一度、フェイトに会いたい」
その願いの成就にのみ、今のリニスは在るのだ。ならば、例えAMFという枷でもこの衝動は抑えられない。
九つの声がリニスに囁く。今すぐに探しに行くぞ、と。
その激流のような思念の波を必死で制して、リニスは続ける。
「フェイトは今、どこに?」
「言えないね」
リニスの瞳から理性と知性が弾け飛ぶ。席から乱暴に立ち上がる。が、そこで止まった。
トーレとチンクも動く。が、リニスの静止に伴って構えるだけに終わる。
「……失礼しました。少し、取り乱してしまい」
「いいや、心中、お察しするよ」
また緩やかな動作で席に着くリニスの目の色は、厳しいが品性を取り戻したものだ。
内心では暴れ狂うフェイトを想う衝動に苦しんでいるのか、瞳は険しい。
トーレは精神的にリニスが何かと闘っていると感じ、チンクはリニスが情愛を溢れさせていると見る。
590 :
タピオカ:2008/02/06(水) 00:35:40 ID:1gs2qINA
「ここはどこですか?」
「それも言えない」
「成程、あなたは私をここから出すつもりはありませんね」
「ご名答。悪いが、監禁させてもらうよ」
ハッキリそうと分かるようにリニスが歯を噛んだ。
今のリニスはロストロギアである。杖の過去から垣間見たジェイル・スカリエッティという人物であれば手放すまい。
加えて、次元犯罪者であるのだから、リニスなどという部外者を捨て置けない。
「今度はこちらから質問させてもらおうかな」
「……どうぞ」
「君はどうして杖から出てきたのかな?」
「ジュエルシードの目的は分かりますか?」
「使用者の願いを叶える事」
「では、使用者がいないと?」
「ジュエルシード自身で使用者を探すね。あぁ、虚数空間では、それができないと言うわけか」
「その通りです。結局、プレシアの杖に収められた九つのジュエルシードは、杖の内部に使用者を自ら作りだしました」
「それが君か。それで、君はジュエルシードに何を願ったのかな?」
「………もう一度、フェイトに会いたい」
「君はプレシア・テスタロッサの使い魔と見ていたのだが?」
「その通りです。契約内容は、フェイトの教育」
「それはそれは。教師をやってるうちに情が移ったというわけか」
「いけませんか?」
「いいや、美しい愛だと思うよ」
「………」
「クックックッ、そう怪訝な顔をしないでもらいたい」
「私をどうするつもりです?」
「正直、どうしようかと悩んでいる。分解してジュエルシードだけを抜き出すと言うのも芸がないからね」
「え……ジュエルシードが目的で、杖を引き上げたのではないのですか?」
「いや、ただの偶然だよ。杖を手に入れたのは」
一瞬だけ、キョトンとしたように目を瞬かせ、それからリニスは慌てて眉を凛々しく吊り上げる。
クスリと、スカリエッティが笑った。
「ならば、私をフェイトの所に放してくれませんか?」
「残念だが出来ない相談だ。ジュエルシードを野放しにするほど大らかにはなれないね。それに、ほら、なにせ私たちは悪の秘密結社みたいなものだからねぇ。やはり女の子の1人や2人、監禁していないと」
「面白い所帯になったものですね、ジェイル・スカリエッティ。後ろにいるのがウーノ、トーレ、チンクならば、最低あと2人がいるわけですか」
「今、12人の父親さ。はて、君は私を見たことがある風に言うのだね」
「オブジェクトリーディング」
リニスがトーレの持つプレシアの杖を指さす。
おや、とスカリエッティが一言。
「君は生前に私を知っていたわけはないのかね?」
「はい」
「では、プレシアの研究については本筋を知らなかったのかな?」
「……プレシアが何を研究していたのか知らされず、フェイトの教育のみを任されていました」
「クックックックッ……ハッハッハッハッハッハッ」
ひとしきり、スカリエッティの笑い声が続く。
場の全員が、ただ黙して収まるのを待った。
591 :
タピオカ:2008/02/06(水) 00:36:30 ID:1gs2qINA
「蚊帳の外だったわけだ」
「だから、どうだと言うのです」
「哀れだね」
「それでもフェイトと、アルフと過ごした時間は素晴らしかった」
「私を憎まないのかな?」
「八つ裂きにしたいほど苛立ちます」
「それは恐ろしい」
「しかし、感謝に似た気持ちもあります」
「失敗作が出来たからかね」
「殺しますよ」
AMFは、効いている。それでもなお、トーレとチンクを凌いでスカリエッティを惨殺し得る鬼気が漲った。
トーレがインパルスブレードを、チンクがスティンガーを現す。ウーノも思わずスカリエッティをかばう構え。
リニスの殺意の収束先であるスカリエッティ一人が余裕を持っている。手だけでナンバーズ三人を制して続けた。
「失礼、優秀な執務官を掴まえて、少々口がすぎた」
「………」
「さて、ウーノ、彼女に部屋を。ああ、監禁すると言っても手荒に扱うつもりはない。くつろいでくれたまえ」
「………」
「世話は、そうだね、ディエチをつけさせようか」
「分かりました、こちらへどうぞ、リニス様」
未だ不愉快そうな心情を隠さず、スカリエッティを一睨みした後、リニスはウ−ノについていく。
目くばせするまでもなく、その後ろにチンクとトーレが控える。
残ったのは、手つかずの茶と、スカリエッティだけ。
「母親だな、あれは」
母親のいない男が、どこか楽しそうに呟いた。
あるいは、ひょっとすると、もしかすればその呟きは羨望の響きが、あったかもしれない。
◇
やや薄暗い通路を、ウーノたちに先導されて歩いていれば、前から話し声がやってくる。
全員、女の子だ。
来ているスーツもトーレとチンクと同じものである。
セイン、セッテ、ノーヴェ、ディエチ。戦闘訓練の帰りになる。
「おー、ウー姉……って、ありゃ、そちらはどちらさま?」
「ドクターの客人です、失礼のないようにね」
「リニスです……女の子が多いのですね」
「12人全員、女性ですよ」
「それはまた……華やかです」
「あたし、セインです」
「ノーヴェです」
「……ディエチと言います」
「セッテです」
592 :
タピオカ:2008/02/06(水) 00:37:12 ID:1gs2qINA
明らかな好奇心を持って、セインが覗きこんでくるのに、リニスは苦笑じみた笑顔で返す。
ディエチも、興味があるようにリニスをぼんやりと見つめていた。
そしてセッテは無関心な風、ノーヴェも歓迎している雰囲気はない。
「ディエチ、リニス様の身の回りについては、あなたに任せますからついてきなさい」
「分かりました」
粛々と、ディエチがウーノたちに加わって行ってしまうのを見届けて、セインとセッテ、ノーヴェが残る。
「はは〜ん、きっとあの人、ウェンディが持って帰ったって言う杖に関係してるんだろうね」
「どんな関係があるってんだ?」
「いや、そこまでは分かんないけどさ……」
「ウェンディがあんな風になった原因みたいだし、そんな杖、叩き壊したい」
「おーおー、妹思いだねぇ」
「ちゃかすな。あんなウェンディ、初めて見た」
「そりゃ、あたしもさ」
「虚数空間で何があったんだ……?」
「そりゃ、」
「落ちたのでしょう」
セインの言葉を引き継いで、セッテが入ってきた。
ずっと、リニスが去って行った方向を見やったまま。セインとノーヴェの会話に入ってなお、まだリニスの後ろ姿があった方を見ている。
「うん、あたしもセッテの言う通りだと思うな」
「ふぅん」
「セッテ、あの人に興味あんの?」
「え」
まるで表情は変化しないが、驚きが多少混じったセッテの声。ずっと視線をリニスの方へとやっていたセッテが、ようやくセインへと向き直る。
「ずっとリニス様の方、見てたからさ」
「……優しそうな、お方だと思っていました」
「そうか? 怖い顔してたじゃないか」
やはり、ノーヴェに歓迎の空気はない。
だから、リニスを歓迎しようと思っているセインとしてはセッテの見解が少し嬉しかった。
◆
「こちらがリニス様のお部屋になります」
一人の生活空間としては大きな部屋だった。
ただ、やはり良好な状態を保っている整った部屋だ。こちらの調度品も、派手な物はないが質が高い。
清潔感のあるそんな風景に、リニスがポカンとなる。
「それでは部屋の説明を……」
「……」
「リニス様?」
「あ、いえ、その、もっと牢屋見たいなのを想像していたものですから……」
「そこまで手荒に扱いません」
593 :
タピオカ:2008/02/06(水) 00:38:09 ID:1gs2qINA
一通り、ディエチからの説明を受ければ、さながらマンションの一部屋のように風呂も台所もついていた。
淡々としているディエチの所作は無駄が少ない。
「何か足りない物あれば言ってください」
「食材は支給されるのですか?」
「いえ、ダイニングがありますので、そこで出来たものをあたしが運んできます。そろそろ夕食ですが、持ってきましょうか?」
「いえ、まだ構わないです……あれ?」
手を振りながら、リニスが自分で自分を見下ろす。腹具合は、減ってもないが満ちてもない。
とどのつまり、ジュエルシードに依存しているのだから食事と言う概念がないのだろう。
だが、食べようと思えば食べられるようだ。この場合はもはやエネルギーの摂取ではなく、娯楽の話になってしまうだろう。
使い魔時代、食欲があったのを思い返して淋しい気分になる。
「分かりました。必要になったら言ってください、作ってきます」
「あなたが料理番なのですか?」
「おおよそは、ドクターが作ります。料理は、ドクターの趣味のようなものですのから。とても美味しいです」
「そ、そうなのですか」
リニスの中でスカリエッティに、ちょっぴりアットホームなイメージが付与された。
当人は比喩で言ってたが、本当に12人の父親のように振舞っているのだろうか。
「12人全員が、スカリエッティがどのような人物か、分っているのですか?」
「はい。次元犯罪者ではありますが、特にそれがどうとも……」
「そうですか……」
期待していたわけではないが、こうなるとリニスがここを脱出するのは不可能に近いだろう。
つまりそれは、フェイトとの再会が無理という事。苦しげに、リニスが眉根を寄せる。
存在の理由を閉じられて、苦しくないはずがなかった。ただ、それでも暴れ狂ってしまおうとまではリニスは思わない。
全権がスカリエッティに握られてしまっている。彼が自分をどうするかを待つしかないようだ。
「あなた達は、孤児か何かでしょうか?」
「いえ、戦闘機人です」
「戦闘……機人?」
ここから、リニスはディエチより戦闘機人について深い所まで説明を受ける。
全てを聴き終えてから、難しい顔でしばし考えに沈んだリニスはディエチへ、
「一緒に食事をしましょう」
という言葉を投げかける事になる。
◇
あ、歌。
歌が聞こえる。
またか。
昨日眠ってる時にも、聞こえてきたな。それで、そうだ、落ちた時の事を思い出すんだ。
これ、夢?
そうだ、夢だ。
落ちた時の、夢。
この歌が聞こえたからあたし、虚数空間を潜ってみたのに。
恐かったな……
あれ、恐かった?
違うよ。
恐いよ、今も。
何が恐いんだろう。この歌?
歌じゃない。落ちた事が忘れられないから、恐いんだろうな……
恐いよ。
……恐いんだ。
594 :
タピオカ:2008/02/06(水) 00:38:54 ID:1gs2qINA
血を吐くようにそれだけを自覚して、薄い殻を破るように目が醒めた。
訓練スペースの傍らで丸まっていた体を起こす。
近場ではデュエチとセインが気楽そうに話をし、遠めにノーヴェがディードとセッテと攻撃の動作を交えて詰めた話をしている。
ウェンディといえば、何もしていないでお昼寝をしていたかと言うと、そうではなく何もできないのだ。
昨日ライディングボードを虚数空間に落としてきた彼女は、現在待機中。とは言え、そのライディングボードの代えは簡単に利くので今日中にスカリエッティから渡される事になっている。つまり、今日のウェンディはお休みなのだ。
「起きた?」
「おはよっス」
にこやかに手を振るセインへと、ウェンディも手を振り返す。その表情は、昨日、虚数空間から帰ってきた時の放心状態からほど遠い。
ほど遠いが、いつもの元気に陰が差している。セインも、ディエチもそんな妹の様子に不安が滲む。
「……ウェンディ、元気がない?」
「なに言っんスか! あたしは元気いっぱいっスよ!」
勢いよく立ち上がって、ディエチやセインへと陽気なステップ。
元気はある。いつもの軽快さだ。
ただ、どこか暗さがウェンディの雰囲気に一枚、はさまっている。そこには触れずに、そっとしておくしかないだろうとセインもディエチも思う。
「そう……」
「ディエチの方が元気ないじゃないっスか」
「そう……?」
「うん、あたしも今日のディエチ、ちょっと変だな、と思った。あ、別に悪い意味じゃないんだ。何か、戸惑ってる?」
「……うん。ちょっとだけ、戸惑ってるかもしれない」
セインとウェンディが小首をひねったので、ディエチがぽつりぽつりと語るのはリニスの事である。
昨日、今日に渡ってリニスについていたディエチだが、今まで接してきた者たちとハッキリと違うのだ。
簡潔に表せば、優しい。
一番近い感覚で、ルーテシアが自分たちに接する雰囲気に似ているが、やはり違う。リニスの場合はルーテシアのように自然体とまでいかない。ある種、ゼストから向けられる憐憫の情のようなものが微かにある。
が、やはり違う。
人として、接されていると、ディエチは気付かない。
そう、扱われた事がないからだ。
「ふーん……いい人なんスね、その、リニス様って」
「そう、みたい」
「セッテも優しそうって言ってたからね、実際にそんな方なんじゃない」
「……で、リニス様って、誰っスか?」
昨日、そっとされていたウェンディが最後までディエチが最後まで喋ってからそう訊くのだった。
「ドクターの客人だって。詳しい事は良く分からないけどね、ドクターからはこのアジト内では監視付きで自由にしていいって言われてるよ」
「それ、ドクター的な監禁じゃなかったっスかね?」
「リニス様自身、監禁されていると言っていた」
「何者っスかね?」
「あたしはね、きっとウェンディが持って帰ってきた杖に関係してると思うんだ」
「あの、杖っスか……」
子供じみたセインの推論に、ウェンディの目に影がよぎる。怯え。それをディエチは見逃さない。
「杖は、いいじゃない……実際に、リニス様の部屋に、行ってみる?」
「へ、行っていいのかな?」
「さぁ。でも、姉妹みんなに会ってみたいって、リニス様が言っていた」
「あ、じゃあ、行く行く」
ディエチからの提案に、セインもウェンディも驚いた。セインはハイハイ、と手を挙げて体で表現。
ウェンディは少しためらったが、行くと返事をする。ディエチの心にちょっとした波紋を作った事と、そして杖について今のままではいけないと思うから。
595 :
タピオカ:2008/02/06(水) 00:39:48 ID:1gs2qINA
「コォラ! サボるつもりか!」
そんな3人へと、ノーヴェが割って入ってくる。
セッテ、ディードが組になって模擬戦をしているの置いておき、さながら委員長じみたセリフを乱暴に。
「ちょっとだけ、ちょっとだけだからさ」
「ちょっとも何もない! いいからセッテとディードを見てやれ!」
「なら、私が見よう」
「チ、チンク姉!?」
いつの間にか、最小のナンバーズがいた。唐突に現れた親愛なる姉に、ノーヴェが途端、大人しくなる。
セインたちに対するピリピリした態度も消えうせ、むしろさっさとリニスの所へ行ってしまえと言わんばかりだ。
それを見上げて、チンクがノーヴェへ提案。
「ノーヴェ、お前もリニス様の所へ行ってくるといい」
「え、な、なんで?」
「……そうだな、具体的に理由は言えないが、きっとお前のためになると、思う」
「いいよ、あたしは。ここでチンク姉と一緒にセッテとディードを見てる」
「リニス様に、興味はないか?」
「別に……あたしはチンク姉と一緒がいい」
「……そうか」
心なしか、残念そうだ。それをノーヴェは感じ取ったが、何故そうなるのかまでは分からない。
だから、チンクが残念そうになって、ノーヴェも残念な気持ちになる。変な連鎖だった。
ただ、2人はとっても姉妹らしい姉妹なだけ。
「えーっと、まぁ、うぅんっと……行ってくるね!」
「あぁ、いろんな話をして、いろんな話を聞くといい」
「チンク姉は、リニス様について何か知ってるんスか?」
「……………いいや、特に何も」
隻眼をそらして、チンクがセッテとディードの方へ行った。その後をノーヴェがついていく。
チンクに不自然さを感じながらも、ディエチはウェンディとセインを伴って、訓練スペースを離れた。
リニスの部屋は、アジトの奥の方だ。
一応、逃げようとした時に面倒な場所に作られてある。
「リニス様、ディエチです」
外から内へとマイクを通す。インターホンのようなものだから、完全にマンションの一角のようであった。
そんなディエチに対して、返ってくるリニスの声はちょっと怒っている。
『ええ、入ってきてください。それよりディエチ』
「はい」
『様づけは、必要ないと言ったじゃないですか』
「……申し訳ありません」
『そんな言葉使いも必要ありません』
「……はい」
きょとんと、セインが目を瞬かせる。どうも、リニスは自分たちと差をつけた付き合いをしたくないようだ。
それがセインにはとても好感が持てた。そしてこんな風に、付き合い方について文句を言う者を、他に知っている。
「まるでウェンディみたいだね」
笑いながらセインがウェンディの肩を叩く。
そう、ウェンディとリニスの呼称のこだわりは似ている。ディードがいちいち姉様と自分たちを呼ぼうとするのを、無理やり「ウェンディ」と呼び捨てさせているのだ。
だがセインに肩を叩かれた当のウェンディの顔は、愕然としたもの。唇が、肩が、震えている。
「ど、どうしたの?!」
「な、なんでもないっス……なんでも……」
596 :
タピオカ:2008/02/06(水) 00:40:39 ID:1gs2qINA
ディエチに続いて、セインを押しのけるようにウェンディもリニスの部屋へと入っていく。
「なんでもない」とは自分に言い聞かせているようにしか聞こえなかった。
部屋には、ずいぶんと香ばしく甘い匂い。
「いらっしゃい、ディエチ」
「こんにちは、リニス……」
「おや、今日は他にもお客さんですね。良かった、もうそろそろクッキーもできますし、恥ずかしくないおもてなしができます」
「こんにちは、リニス様」
「あなたは確か、セインでしたね。えっと、もう1人は……」
「ウ、ウェンディっス……」
ウェンディが、後ずさる。リニスに笑顔を向けられ、笑顔で返そうとして失敗していた。
ダメだ。この声は、ダメだ。
「リニスです、よろしくお願いしますね」
「……あ、あの、そうだ、よ、用事を思い出したっス! ライディングボードが……」
柔らか態度でリニスが一歩ウェンディへ歩み寄るのを皮切りに、ウェンディが弾けるようにそう言った。
いけない。この声は、いけない。
目を決してリニスに合わせようとせずに、ウェンディはまるで堪え切れなくなったように走り去ろうとする。
明らかに、逃げようとしているとしかとれず、セインがウェンディの肩を掴んだ。
「急にどうしたの?」
「な、なんでもないっスよ。ほ、ほ、ほら、ドクターの事だからさ、も、もうライディングボード出来てるかもしれないじゃないっスか……」
「ドクターなら、まぁ、そうかもしれないけど……」
「だから、あ、あたしは日を改めるっス……セインは、ゆ、ゆっくりすればいいっスよ」
たどたどしすぎる妹の様子に、セインも不審にしか思えないが、存外強くウェンディに振りほどかれて、結局行かせてしまった。
リニスのみならず、何年も一緒に過ごしているセインとディエチさえキョトンとしてしまう。自動的に閉まるドアを眺め、リニスが苦笑。
「嫌われてしまったのでしょうか」
「そ、そんな事ありませんよ、リニス様。ウェンディ、ちょっとうっかりしてるものですから」
「おや、ディエチからは、セインが一番ドジの多い姉妹だと聞いていましたが」
「な! ディエチ、そんな事喋ったの!?」
「……つい」
頬赤らめながら、セインが目をそらすディエチを睨む。ディエチは、少し笑っているようだ。珍しい。
「ディエチからいろいろと聞かせてもらいました。そして、もっと聞きたいと思っています」
かちゃり、かちゃりと3人分、カップを並べ始めるリニスの姿は昨日やってきた人間とは思えないほどこの部屋に馴染んでいた。
もはや、ここは「家」と言っていいほどの空気が流れている。そう考えて、セインが戸惑った。
「家」とは何だろう、と少しだけ夢遊するような思考。
そんな思考からすぐに我に返ってセインは慌てた。ぼんやりしすぎだ。
「あ、リニス様、そんな事は自分がしますよ」
「何を言っているんです。ここは私に宛がわれた部屋なのですから、私が歓迎の準備をせずどうするのですか」
「い、いえ、そもそもリニス様はドクターのお客人ですし……」
「セイン」
「は、はい」
カップを並べ終えたリニスがセインを真正面から見詰めてきた。
吸い込まれるように、その瞳からセインは目が離せない。
厳しいような、優しいような、悲しいような、温かいような、淋しいような、リニスの双眸。
「私の事は、リニスと呼んでください。それに丁寧な対応も、要りません」
「へ……」
「そうですね、簡単な話、友達づきあいしてください、と言うところでしょうか」
「……」
597 :
タピオカ:2008/02/06(水) 00:41:19 ID:1gs2qINA
不思議そうに、セインが逡巡。堅苦しいのが苦手なのは、ナンバーズ中一二を争うのだ、そんなリニスの申し出は有難い。
単純に、いいのかなぁ、とセインは思ったわけである。だからディエチへと、そう言葉にする。
「い、いいのかなぁ……?」
「あたしは……いいと思う、思わないじゃなくて、そうしたい」
あまり感情を表さないディエチにしては、確固たる自己を以てセインに応えた。
だから、セインも嬉しそうに一つ頷いた。
「分かったよ。よろしく、リニス」
「はい、よろしくセイン」
キッチンに備えつけられたオーブンから、焼けたクッキーを取り出してはリニスの破顔。歓迎の、笑顔。
「クッキー作れたんだ……」
「これでも料理には自信があります」
「あ、いや技術的な問題じゃなくって、物理的な話で」
「あたしがいろいろ取ってきた……一人だと暇だから、食材を出来るだけ持ってきてって」
「ナンバーズ全員に、会いたいと思っています。しかしながら、歓迎のために出来ること、料理ぐらいしかないものですから」
「歓迎するつもりだったけど、歓迎されちゃったわけか」
セインが苦笑じみた表情で、嬉しそうに席に着く。ディエチも。
リニスがカップに茶を入れる様子が優しすぎて、穏やかすぎて、何よりも女性的すぎて、セインが思いつく。
「家」では、お母さんが迎えてくれるものだ、と。
◆
ライディングボードは、出来あがっていた。もともとスペアのパーツはいくらかあったのだから、ほとんど組み上げるだけだったと言うのがスカリエッティの言。
そんな軽い言い分のくせに、これほどの高性能なのだから彼の天才ぶりが良く分かる。
そう、高性能だ。きちんと、間違えようもなく高性能である。
なのに、ウェンディはそんなラインディングボードを駆りながら違和感ばかり。
チンクやノーヴェ、セッテとディードのいる訓練スペースとはまた違う訓練スペースでの事。
ライディングボードで縦横無尽に空を走るウェンディは、あれほど心地よかった中空で居心地が悪かった。
そして、何よりも、
「歌が……耳にちらつくっス……」
あの歌。杖の歌。リニスと同じ声。つまり、リニスと同じ歌声。だから、リニスの歌声。
逃げてしまったが、やはりそれが正解だったとウェンディは思う。
恐い。
落ちるのが、恐い。
それを彷彿させる歌声だから、リニスさえ今は恐い。あの杖は、ここにきてもうリニスの物だろうとウェンディは確定する。
つまり、リニスのせいで落ちた。だからと言って、当たり散らすではなく、ウェンディは逃げた。単純に、落ちたのは自分が調子に乗ったからだと、考えている。
速度を出して、その怯えを振り払おうとしても、歌の幻聴は余計に鼓膜から離れない。
しょせん、幻聴だ。速度を出すのは、楽しい。空は、気持いい。
そう念じて、以前は快感でさえあった滑空を思い出す。それでも、今見えている景色が、今聞こえている歌が、ウェンディを蝕んだ。
「恐い…恐いよ……」
各段に、ウェンディは空が下手になっていた。
598 :
タピオカ:2008/02/06(水) 00:43:02 ID:1gs2qINA
終わりです。
ここ最近、他の職人さんの話を読んで、よぉく分かりました。
派手さが足りん。
もうちょい、こう……何とかしようと思います。
再見。
乙です。数の子かわいいよ数の子
しかしタピオカ氏の人物描写は凄いな、声が自然に脳内再生される
600 :
B・A:2008/02/06(水) 01:23:11 ID:5gI4otXQ
前の人が投下して既に30分。そろそろ良いですね。
注意事項
・エリオ×ルーテシア
・非エロ
・本編改編。いわゆるIFというやつです。
・強引な展開や独自の解釈、勝手な捏造が多々含まれます。
使い魔自体は肉体を持ってるんでAMF下でも通常の行動は問題ないんだろうな
時間は少し前後する。
頭上を越えて飛び立つヘリを見上げ、エリオは地面に膝をついた。
間に合わなかった。
追いつけなかった。
無力感と絶望感に打ちひしがれ、エリオの心が闇に沈んでいく。だが、その体はまだ諦めていなかった。
ボロボロで動かすこともままならないというのに、エリオの体はヘリを追いかける。
追いつくはずがない。
一歩進むだけでも苦痛なのだ。
これ以上の無茶は死に繋がるかもしれない。
それでも、エリオは前に進む。前のめりに倒れながら、一歩一歩前に進む。
ルーテシアのもとに行く。
その決意に、エリオの心は応えた。
「まだ・・・・終わってない・・・・」
木にもたれかかりながら、ストラーダを構える。
瞬間、鋭い痛みが右腕に走った。
「ぐうぁっ!」
右腕が異様に膨らみ、どす黒く変色していた。
そうだ、この腕はスバルとの戦いで骨折していた。しかし、ちゃんと治癒魔法で治療したはずなのに。
「どうして・・・・ルーに・・治してもらったのに・・・・・」
『魔法だって万能ではない。傷がぶりかえすこともある』
それだけ、自分は無茶をしてきたということだ。もうこの腕では、ストラーダを握ることもできない。
「だから・・・なんだって言うんだ・・・・!」
コートを破いて右手をストラーダの柄に括りつける。
こうしている間にも、ヘリはどんどん遠ざかっているのだ。これくらいの傷で足止めを食らっている場合じゃない。
「ストラーダ・・・・ヘリまで飛ぶよ・・・・」
『承服しかねる。これ以上の負荷は君の死に繋がる恐れがあるのだぞ』
「それでも、行かなきゃならない。ルーに伝えることがあるんだ」
シグナムに意地を貫けと言われた。
フェイトに自分で終わらせろと言われた。
その約束を果たすためにも、ルーテシアのもとへ行かねばならないのだ。
『君は、いつも私の意見を聞かないな。私がいつも、どんな思いで君に力を貸していると思っているんだ?』
いつだって無茶をして、限界まで魔力を引きずりだす手伝いをさせられているのは自分なのだ。主を最も傷つけているのは自分なのだ。
それがデバイスの役目であるが故に、ストラーダにはどうすることもできない。それが堪らなく悲しかった。
その上、死ぬかもしれないような無茶に力を貸せと言うのか。
『私にこれ以上、家族を傷つけさせろと言うのか、エリオ!』
それが自分の存在否定に繋がるとわかっていても、ストラーダは言わずにはいられなかった。
ルーテシアを守りたいというエリオの意思は尊重する。だが、それ以上にストラーダはこの無謀な主を傷つけたくはなかった。
彼は信頼すべき主であり、大切な家族なのだから。
「ごめん、ストラーダ。けど・・・君と一緒なら、きっと飛べると思うんだ」
例え、どれだけ遠く離れていようと、このデバイスとならばきっと辿り着ける。
自分と彼は一心同体。力を合わせれば、きっと不可能はない。
「だから・・・お願いだ、ストラーダ!」
エリオの魂の叫びが、ストラーダの電子頭脳に僅かなノイズを走らせる。
一拍の間を置いて、ストラーダは答えた。
『・・・・・先ほどの戦闘でカートリッジを全て使い切っている。補充を頼めるか?』
「ありがとう」
主思いのデバイスに感謝し、懐を探る。たったそれだけの動作で腕に痛みが走り、手にしたカートリッジをこぼしてしまう。
拾おうかとも思ったが、その時間すら惜しくてすぐに新しいカートリッジを取り出した。
手が震えるせいでうまく装填できない。折れている右腕で柄を支えて何とか一発を装填し終えた時には、
既にヘリは豆粒ほどの大きさになっていた。
「ストラーダ、僕をルーのところに。その名のままに僕が往くべき道となれ!」
『Jawohl Mein Bruder(了解した、我が兄弟)』
強烈な加速Gに体が軋む。
まるで高速で壁にぶつかったかのような衝撃。質量を伴った風がエリオの前に立ち塞がり、
全身がバラバラになったかのような錯覚にエリオの意識が暗転する。
その時、ありえないことが起こった。
『Panzergeist』
吹き付ける風が止み、エリオは意識を取り戻した。
飛んでいるというのに、風の手応えがない。
何かが行く手を塞ぐ風から守ってくれている。
「ストラーダ?」
『死なせはしない、大事な家族なんだ。我が名に賭けて、騎士エリオを
フロイライン・ルーテシアのもとへ届ける! 届けてみせる!』
アームドデバイスにはミッド式のようなオートガード機能は搭載されていない。
術者の危機に対して、このように防御魔法を唱えることなど本来はありえないことだ。
ストラーダのエリオを思う気持ちが、デバイスの機能をも超えた奇跡を起こしたのだ。
「ストラーダ・・・・・いくよ、ストラーダっ!!」
辛うじて力の入る左手で、自分を守ってくれる相棒をしっかりと握る。
煙のように魔力残滓をまき散らしながら、エリオは空を駆け抜けた。
支援
「あんの馬鹿! ぶつかったらどうする気だ!」
まっすぐにこちらへ向かってくるエリオに、ヴァイスは悪態をついた。
このままではぶつかってしまう。機体に穴なんて空けられたら堪らんと、ヴァイスは後方ハッチを開放した。
更に衝撃に備えて、ほとんど使ったことのないホールディングネットを展開する。
直後、機体が大きく縦揺れを起こした。
「いったぁ・・・・・」
「こんの馬鹿エリオ! ストームレイダーに傷がついたらどうしてくれんだ!」
「す、すみません・・・・・」
ホールディングネットを突き破り、運転席まで突っ込んできたエリオにヴァイスはどなる。
できることなら首絞めでもかけてやりたいところだが、さすがに運転中なので自重した。
「エリオ・・・・」
荷台にいたルーテシアは、突然乱入したエリオの姿を見て言葉を失った。
力なく垂れ下った右腕。傷つき血を流す右目。全身傷だらけで無傷な個所はどこにもない。
(また・・・私のせいで・・・・エリオが・・・・)
エリオが痛む体を無理やり起こしてルーテシアのもとへと向かうと、まるで何かに怯えるように後退する。
だが、すぐに後退する空間がなくなり、ルーテシアはエリオに抱きしめられた。
「ルー・・・やっと・・・追いついた・・・・・」
抱きしめた腕にはほとんど力が入らなかった。
シグナムとの死闘、そして飛んでいるヘリに突っ込むなんて無茶をやらかしたのだから、当然と言える。
本当に、自分でも無茶をし過ぎたと思っている。
「ダメだよ・・・・私といたら、またエリオが傷つくよ・・・・もう、エリオが傷つく姿なんか・・・・見たくないよ・・・・」
「それは、僕もだ・・・僕だって、君の泣き顔は見たくない」
互いを思うが故に、2人は傷つけあうことしかできなかった。
まるで山嵐だ。お互いを求めあいながら、その針が邪魔をして抱き合えない。一緒にいることができない。
けれど、山嵐はいつか傷つかない距離を覚える。その位置ならば、決して傷つかず、いつもそばにいられる。
「ルー・・・僕は、ずっと間違っていたんだ。君を守るためなら、他の全てを犠牲にしても良いって思っていた。
けど、そこには僕自身も含まれていた」
守ることに固執するあまり、その本質を見誤っていた。
何もかもを犠牲にするべきではなかった。
たった一つでも、彼女以外に譲れないものがあったのに。
自分という、彼女とともにあらねばならぬ存在が。
「それが、君を傷つける結果になるとわかっていても、僕は立ち止まれなかった。怖かったんだ、君を失うことが」
恐怖は強さを求め、強さは更なる不安を呼んだ。
自分なんてどうでもいい、とにかく彼女を守る。その一点だけを求めた。
そのために、仲間も、理想も、全て切り捨てた。
致命的な間違いを、自分は犯してしまった。
「それでも・・・・僕はもう戻れない・・・やり直すことはできても、犯してしまった罪は消えない。
きっと僕は、これからも君を傷つける形でしか守れない」
それを自覚することが、エリオにとって今までを終わらせることだった。
自分は万能の魔法使いではない。
無敵の騎士でもない。
ルーテシアという1人の少女を守りたいだけの、ただのエリオでしかない。
「それでも・・・僕は君を守りたい。だって・・・・・」
願いには、必ず行きつく先がある。
ルーテシアを守りたいという思いが照らす道、その先にあったのは・・・・。
「僕は・・・君と生きていきたいんだ」
どれだけ傷つこうと、君のためなら耐えられる。
どんなに苦しくても、君と一緒なら乗り越えられる。
1人で戦うわけじゃない。
1人で苦しむわけじゃない。
幸せも苦しみも、全部まとめて2人で背負いたい。
それが、エリオにとっての新しい自分だった。
「私も・・・エリオと一緒にいたい・・・・」
小さな唇から、かすれるような声が漏れる。
「でも・・・ダメだよ・・・・私なんかといたら・・・ダメ・・・・」
「ルー!?」
「きっと傷つけるから・・・・死にたいってくらい苦しい目にあうから・・・・だから・・・・・」
ルーテシアの周りに魔力が集まっていく。
意図の読めない行動にエリオは戸惑い、ルーテシアの思いに気づいたヴァイスは沈黙したまま涙した。
「私のことは・・・・忘れて・・・・」
ルーテシアがエリオと体の位置を入れ替える。直後、風船が破裂するような音がしたかと思うと、エリオの体は宙を飛んでいた。
そして、開きっぱなしのハッチから空中へと投げ出される。
「ルゥゥゥゥッ!!」
遠ざかるエリオの声を振り払うように、ルーテシアはヴァイスに言った。
「見た?」
「ああ。君を捕まえた管理局局員を吹っ飛ばす瞬間を、バッチリとな」
「じゃあ、いいです。扉を閉めて」
「・・・・・あいよ」
電撃と衝撃弾がぶつかりあい、爆発の余波で木々が揺れる。
仕留めきれなかったと悟るやいなや、ガリューは加速、そのままフェイトの懐に入り込み、神速の乱撃を放つ。
「くっ・・・」
腹部に2発食らった時点でバックステップを踏み、大きく後退。
後コンマ5秒反応が遅ければ、5発は食らっていた。こちらの予想を遙かに上回るガリューの速さに、
フェイトは素直に称賛の言葉を送る。
「大したものですね、私よりも速いなんて」
こうなれば、真ソニックフォームを使うしかない。能力リミッターのせいでライオットが使えないのが痛いが、
今のままではそもそも決定打を与えることができない。
そう考えていた時、不意にガリューが構えを解いた。
「どうしました、まだ戦闘は終わっていませんよ?」
「!!」
斬りかかろうとするフェイトを手で制し、ガリューは明後日の方向を向く。
その先には、隊舎に戻ろうとするヴァイスのヘリが飛んでいた。
次の瞬間、ガリューはヘリ目がけて飛翔した。
いったい何があったのかとフェイトも後を追い、そこで初めてエリオがヘリから落下したことに気づいた。
「エリオ!?」
重力に引かれ、もの凄い速度でエリオは落下していく。ストラーダを構えて飛ぼうとしているようだが、ブースターはガスが切れたコンロのように小さな火花を散らすだけだった。
そのままエリオは地面に吸いこまれるように落ちていき、あわや激突というところでガリューに抱きとめられた。
「うぅ・・・・うぅ・あぁぁ・・・ああぁっぁ・・・・」
2人に追いついたフェイトが見たのは、ガリューの腕の中で嗚咽するエリオの姿だった。
頬から涙を流し、遠ざかるヘリに向かって救いを求めるように片手を伸ばす。
居たたまれないその姿に、フェイトはかける言葉が思い浮かばなかった。
いったいヘリの中で何があったのか、その場にいなかったフェイトにはわからない。
だが、いずれにしてもエリオの望んだ形でなかったことだけはわかる。
「ルゥゥゥゥッ!!」
絶望に打ちひしがれるエリオの叫びに、空は何も応えなかった。
to be continued
610 :
B・A:2008/02/06(水) 01:36:02 ID:5gI4otXQ
以上です。
入りきってよかったぁ。
ガリューが強いぜ……エリオの負けたから俺の中ではザコ扱いだったんだが、まさかフェイトを苦戦させるとは。
ともかくGJです。
互いを傷つけない為に寄り添う事ができないなんて、悲壮な愛ですね。
この先ルーにどんな展開になるのか気になってしかたないです、最高に期待してます!!
GJ!!です。
エリオォォォ!!そしてルーテシアは優しさ故に・・・。
感想が支離滅裂ですが今の私の精神を物語ってますw
先が本当に読めないw
ここからどうなるのか楽しみです。
ガリューが強過ぎw
でも決着が見えてきましたね
GJ!!!!!
こういうことになったか……
しかしヴァイスの兄貴は台詞だけで癒されたぜw
GJです!ヴァイスのアニキっぷりがグレイト!!
余韻も冷めませんが済みません、ですが今がタイミングなので投下します・・・・
ええ、思いついたのを次回予告風に纏めました。推奨BGMは〜FLY INTO THE NIGHT〜です。
ってか用量大丈夫か!?
「さぁ、伝えよう・・・・この世界に、己の終わりを。そして来る新たな世界に、其の始まりを!」
「ふざけるな!私はまだこの世界に求めるものがある!そしてそんな世界に用など無い!」
stsから数年後、管理局開設至上最悪の事件となるそれは、何気ない日常における一人の少女の優しさから始まった・・・・・・
ヴィヴィオ「セラちゃん、危ない!!」
クラスメイト「ヴィヴィオちゃん・・・・その光は・・・・・!?」
彼女の見せた魔力光(ひかり)によってトリガーが引かれるのは、かつて最高評議会が企んだこの歪んだ世界の大編成。
ミッドチルダ一般人「レジアス中将の居ない、もう杜撰でしかない管理局に、このミッドチルダを任せておくことなんて出来ないんだよ!!」
管理世界一般人「今こそ聖王の下に新たなシステムを構築すべきだ!でなければこの世界達を守ることなんて出来ない!」
聖王の再来により引き起こるのは、一枚岩のベルカ聖教すら二つに引き裂く戦乱。
カリム「幾ら聖王のクローンとはいえあんな小さな子にどれだけ大きな責任を押し付ける心算なんですか貴方方は!!」
ベルカ聖教司祭「何も彼女が全て引き受ける必要など無い。だが、考えてもみたまえ。もし、『彼女』がこの世界の現状を見たらどう思うかおね。」
呼応して立ち上がるのは聖王朝時代に彼女を支えた12の聖騎士。
管理局員A「馬鹿な!?今は無き『王の聖騎士団』が何故ここに!?」
管理局員B「も、もう駄目だ・・・・・・・・」
管理局員C「くそぉ、誰か『円卓の鬼神』とか『片翼の妖精』とかを連れて来てくれよ!・・・・・・・・・何ならリボン付きだって!」
管理局員D「最後のはともかくあの二人はベルカ戦争の人間だろ!?無理だよ!もうお仕舞いなんだよ!!」」
そして再び現れるベルカの最終兵器。明かされるのは無限書庫にすら記載されなかった最重要機密。
スカリエッティ「私が使ったのはあれを造る為に建造されたプロトタイプ。だからミッドチルダなんて敵地に存在したし、簡単に見つけることが出来たのさ。」
同上「君は不思議に思ったことは無いかい?あの近接戦主体のベルカが何故戦艦なんて砲撃が主体のものを建造したのかを。」
フェイト「まさか、あの『揺り籠』は!?」
原作・脚本:都築真紀
監督:草加啓造
新たなキャストを迎えて放たれるシリーズ最新作、『魔法少女リリカルなのは VIVIO』。20××年、放送予定。
己が持つ『正義』同士がぶつかり合った果てにあるのは、この世界の存続か、新たな世界の到来か。・・・・それとも・・・・・・・・
「この世界がどういうものか、よくわかってる。けどせめて・・・・・それでもせめて、この世の人々に少しでも多くの幸が・・・・あらんことを・・・・・。」
多分わかる人には分かる予告を聞きながら書きました。
そういえば結構中の人多いな・・・この間もシグナムがレーヴァテイン振るってたし・・・
ええ、スタッフ云々はジョークです。本気にしたら駄目です。ついでに続きは未定です・・
見苦しかったらすみません・・・
次スレの季節だね
見苦しいってレベルじゃねーぞ
>>619 ごめん。AYAKASHI並みについていけないorz
>>610 GJ!
いいねぇ。エリオは男前で、ルーテシアもヴァイス伝いで自分を犠牲にエリオを表舞台に帰らせようとしてる姿がいじらしい。
愛だね、愛。B・A氏の愛が溢れてるよ。
>>622 うん、すいません説明が足りませんでした・・・・・・。
えー、前々からあった、ヴィヴィオが聖王だってことが周りに知れてその結果、ベルカ聖教会から
何からどうするかについて世界が割れて、その結果大戦乱という結果に・・・・・という話です。
えー、勿論背後で蠢く存在だとか、それがいったい何を考えてるだとか、上にあった聖騎士とは
聖王に仕えてるから『聖』騎士だとか、何で昔の人が居るかと言うと守護騎士と同じようにプロ
グラム的な存在だとか、最後は揺り籠がグレン○ガンばりに○○するだとか・・・・
思い返せばぶっ飛んでるどころか、大気圏を突き抜けてロストインスペースな設定ばかりでした・・・・
正直ごめん・・・・・・・
あ、そういえば『なのは』なのにヴィヴィオとかの出番あってなのは本人の出番がないや
>>タピオカ氏
GJ! こういう話は和むなぁ。今後の展開楽しみでしょうがない。
ナンバーズもそれぞれの反応が初々しくて困る。ウェンディとかセインとか。
派手さが無いと言いますが登場人物達も今はまだ現状把握に追われてますしこれでいいかと。
てかドクター主夫かよwwww パパ頑張りすぎwww
>>B・A氏
なんでこんなにもすれ違うのか……
傍から見て苛立ちを超えて呆れてしまうのもまた青春の一形態。
確かにこれならフェイトが叱ってたら話のテンポ悪くなってたかもしれないね。
そうだよなぁ、エリオは賢い子だからいつだって罪の意識が付き纏ってたんだろうなぁ。
しかしガリュー強いな。ヴィータにもふっとばされてたのに
>>610 貴様、なんてことをしてくれた!?ストラーダの台詞が熱すぎて涙が止まらないぞ!!
GJだ!!
>>560 エリオがいったいどうしてしまったのか・・・
過去編を見たいような見たくないようなものすごく複雑な気持ちです
GJ!
>>610 GJ!
ガリューもエリオもいいよ!
もう二人とも良すぎます。そしてルーテシア!君って子は・・・
とにかく先がものすごく気になります。
容量やばい。現在496kbだ。
次スレたててくる。
>619
ベルカ戦争って、そっちのかよw
@異次元対策
______________________________________
,. ': : : : : :/: : : : : :/: : : :,ィ´: : :〃: /"ナ‐= ラ-ナ l: : :| : : l : : : l:|
- ': : : : ,: : /: : : : : :/: : : 〃 ,. =  ̄ =.くヾ/:/ |r、:| : : l: : : :ヽ
-‐ ' |:/: : : : : :/: ://: ,イi;;: i舎i ヽ/゙ , -l:`ト=-ヽ: : : :ヽ
/: : : : : :/:/:l // ヾ;;: ミシ 〉 ォ=l.、ヽ、: \: : : \━━━━━━━━━━
/: : : _: -: ´/^\│ k ヽ;:. , _ ´ 僉 ;ヽl: 丶._\ー _:\
─  ̄l:|:::::::::/ ノ入 ヽ `ミ、、  ̄ ;彡'´ 、 `~ / ト、: : : :ヾ`  ̄
|:|::::::::{ l :l::::> ミョー_.,;i!l 丶、: \
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
_ ヽl ,、 l/
. , '(フ^^^ヘ ^ヘヘ`~⌒`ナ"^
j∠ノ人ヘゝ . /, ' ハノソノヾソハ,ヾヽヽ .
_、ノ_,(l(.゚)ヮ゚ノヽ,_ __/=- ( リ、゚ヮ ゚ |ノ ハ /.\
´ ⊂ミ,,W,ミつ` く===●=]=[_]===∩===○====o | 0 0 |
/j,(〉、,〈}、  ̄ ̄\=- ソ,j,i,ヾ\  ̄| ̄
ん'-ヽし'-ゝ \` ~<_)!<_)~\ . |
`'~`'''`'`'`~'~~`~~'`'`''''"`'`'`'~`'''`'`'`~'~~`~~'`'`''''"`'`''~~`~~'`'`''''"`'~~`~~'`'~`~~'`'`''''"`'`'~`~~'`'`'''
______________________________________
. l/|:.:|:.:.:.:.:/.:.|:.:.|:.:.:/‐l/-|:.:ハ:.:.:ハ:.:. |:.:.:.|: |:.:.|:.:.:.|:.:.:.:/ | | l:.:.:.:.:.:.:,
. V',:.: /:.:.:.|:.:.l:.:.:.|<圷示 ∨|ー-|:./」_:|:.:.|:.:./:.:.:/ :| | |:.:.:.:.:.:.:',
. !:∨:.:.:.:.:|:.:.|、.:|l ゞ=' ヘ| 'イ圷示/|: /:/'^レ ∨ |:.:.:.:.:.:.:.:',
━━━━━━━━━━━━ |:.:.:.:.:.:.:. |ヽ| ヽ| , ゞ=' ′|/:/|r;/ \. |:.:.:.:.:.:.:.:.:',
. |:.:.: / ̄ ̄\ヘ. ′ /イ:.:.|/、 ___ヽ|:.:.:.:.:.:.:.:.:.:',
. |:/ /|:.:\ ` ` / |:.:/ 「|Y´ \:.:.:.:.:.:.:.:.:.',
. / //|:.:.| \__ .. イ |,|/ l|:| | ∧:.:.:.:.:.:.:.:.:
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
【次スレ】
☆魔法少女リリカルなのは総合エロ小説_第50話☆
http://yomi.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1202259018/l50
@異次元対策
||||||||||||||||||||||||||||| ┳ |||||||||||||||||||||||||||||
|||||||||||||||||||: ┠ +20 |||||||||||||||||||
|||||||||||||||: ┃ :||||||||||||||
|||||||||||: ┠ +10 . :|||||||||||
|||||||||: , '(フ^^^ヘ |||||||||
||||||||┣┿┿┿┿ j∠ノ人ヘゝ ┿┿┿┿┫||||||
|||||||| _、ノ__(l `ヮ´ノヽ,_ :||||||||
|||||||||: ´ ⊂ミ,,W,ミつ` :|||||||||
||||||||||| ~ ゜~~。゜ ~~ ~~ ┠ -10~ ゜~~ ~。゜ ~|||||||||||
|||||||||||||||: ┃ :|||||||||||||||
|||||||||||||||||||: ┠ -20 |||||||||||||||||||
||||||||||||||||||||||||||||| ┻ |||||||||||||||||||||||||||||
 ̄フ / _|__ ヽ | ̄ ̄ ̄| ──フヽヽ イ / _|__ ┌──┐ _|__ ヽ ──フヽヽ
 ̄ ̄フ / |. |───| / ┼ / / lニニニ| l | \ /
/ / ̄l ノ | |───| | /ト / l ⌒X´. └┬┬┘ ノ | | | |
L_ / \/ <フ\ !_____| \_ / .| └─┤ (__ ,ノ |_ノ <フ\ レ \
【次スレ】
☆魔法少女リリカルなのは総合エロ小説_第50話☆
http://yomi.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1202259018/l50