ツンデレのエロパロ7

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755名無しさん@ピンキー:2009/05/12(火) 23:28:33 ID:LTWKmp2a
一話読んだ限りだと
「ああ、富樫の穴埋めですねわかります」
だった
756名無しさん@ピンキー:2009/05/13(水) 17:09:53 ID:L1+ock8D
富樫またバックレたの?
757名無しさん@ピンキー:2009/05/13(水) 20:42:17 ID:wTwL+zQV
「またバックれた」より
「まだバックれてる」の方が正しい状況…かな?
758名無しさん@ピンキー:2009/05/14(木) 09:59:30 ID:AUdJ3mKG
「三巻王」と呼ばれるバックレ常習犯の原作者(小説家)も居るんだぜ?
759名無しさん@ピンキー:2009/05/14(木) 16:36:19 ID:nCOoG9SS
 
760名無しさん@ピンキー:2009/05/22(金) 01:26:45 ID:W76aH8VF
みさくらなんこつ
761名無しさん@ピンキー:2009/05/22(金) 01:58:42 ID:ccMx+Srm
>>758
タイタニアのことか?
762名無しさん@ピンキー:2009/05/23(土) 03:39:13 ID:onoKw8i8
>>758
佐藤大輔か?
763名無しさん@ピンキー:2009/05/23(土) 03:44:20 ID:jSauLH9m
slowly×slowlyの続きを待っているのは俺だけか?
764名無しさん@ピンキー:2009/05/23(土) 11:42:46 ID:LxQHprTQ
俺もだよ
765名無しさん@ピンキー:2009/05/24(日) 01:14:19 ID:MYeqxoQe
俺もずっと待ってる
766名無しさん@ピンキー:2009/05/24(日) 21:46:35 ID:WwQaVM2d
 その少女はかわいいとかキレイとかそんな表現じゃ伝わらない、伝えられないほどの顔の持ち主で、どこかの
有名な彫刻家もしくは画家が作り出したんではないかと疑ってしまう。まだ5月にも関わらず、その少女を見
たいがために頭の上で太陽が輝いている。燦々と彼女に降り注ぐ光は、まるで舞台に立つ女優とそれを引き立た
せるスポットライトのようだ。
 「……夏でもないのにこの暑さは何かしら?」
 太陽の猛烈なアタックは嫌われているようだ。なぜなら彼女の隣には
 「これが俗にいう温暖化現象ってヤツでーす。温暖化ばんざーい」
 うちわをパタパタと扇ぐ彼氏がいるからだ。
 「……温暖化ねぇ」
 退屈そうに呟く彼女の唇は真っ赤に熟れてとても艶かしく、雪原の大地のような肌に滴る汗さえ真珠のように
光輝いている。
 「温暖化だからオレがこうして扇いでるんでしょー?交代プリーズ」
 「暑さで疲れている彼女に扇いでもらうの?貴方って鬼畜なのね」
 「いやー、正直オレもけっこー辛いですよ。ってか、さっきから独りで涼むとかセコイって」
 縁側に座り、たらいに張った水スラリと細長い脚をに浸けるその季節はずれな光景は、名画からそのまま切り
取ったように思えるほど。
 「私は暑さに弱いの。貴方と違って」
 静かで透き通る声と冷たいセリフは彼の心を決して傷つけない。今まで数多くの男を切り捨てていたった彼女
が唯一心を許せる男性。その証に彼女は安心して母の胸の中で眠る赤ちゃんのように、反対に煌びやかな女性の
上品な笑み。その笑顔を見られるのは伊織だけだ。少年はそれを知っている。
 「しょーがないのぅ。暑さに弱い葵ちゃんのためにアイスを持ってきてしんぜよう」
 どこか芝居がかった口調は葵の笑顔を見たいから。日頃の決しておもしろいとは言えない冗談も葵のためであ
り、他の者が笑わなくても十分。1000人の笑顔より愛する彼女の笑みが見たい。それだけ。
 「お待たせしました女王様。ささっ、こちらが例の品です。どうぞお納めください」
 「うむ。でかしたな」
 お互いに良く解らないまま演じる。まるで客席が空白の演劇。舞台には役者2人にそれを包む太陽のスポットラ
イト。それはとても自己満足の世界だが、彼らにはとても心地よい世界になる。
 「……食べないの?」
 「あら、女王に苦労させるつもり?………………察しなさいよバカ」
 朱に染まる頬は太陽のせいか。伊織は黙ってアイスを葵の口元に寄せ
 「あむ…………冷たい」
 「いかがですか女王様?」
 「1口の量が少なすぎ。貴方の目には私が小動物に見えてるのかしら」
 「失礼しました。ただ……小動物のように愛おしいとは思っています」
 口の中と心は甘くなってしまった。ただ心は口内と違って熱い。
 「ごっ、ご託はいいから速くアイスを……」
 「はーい。次は……口移しでどうでしょうか、葵さま?」
 「ふえええええええええええええっ!?かかか、か、からかうな!…………んっ……ふぅ……はん」
 いきなりの口付けはとてもヒンヤリと冷たく甘いのに、少女の身体と頭は熱くなる。甘い雰囲気にクラクラし、
まるで雲の上を歩いてるかのようふわふわする。
 「おかわり……もっと…………ちょうだい?」
 アイスが無くなっても2人の口移しは止まることなく、ずっと繰り返された。
 まだ5月。夏本番には冷凍庫の中がアイスで一杯になるだろう。
767名無しさん@ピンキー:2009/05/24(日) 21:55:48 ID:HokPd9By
>766
久しぶりにいいのがきたぜ!GJ!
768でぃすぱ ◆g5uZET9koI :2009/05/24(日) 21:58:58 ID:WwQaVM2d
お久しぶりです。読んでいただきありがとうございます。
以下に私の状況(言い訳)が記されていますので、そういったものが嫌いな方は
身勝手ですがスルーしてください。









実は大学の編入試験やらバイトやら予備校でSSが書けないでいます。
slowly×slowlyも1レス分しか書けていない状態で完成するのが未定です。
気晴らしに&生存を伝えたくキーボードを叩きました。上の方でお褒めいただいたときは
嬉しく、期待に応えられなく複雑でした。SSを書くのを辞めていないのでまた
気晴らしに投下しますのでよろしければ読んでください。
このような言い訳を徒然と申し訳ありません。
また次の投下時にお会いしましょう。ノシ
769名無しさん@ピンキー:2009/05/24(日) 22:42:18 ID:AeWC7SBb
>>768
いつでも、いつまでも待ってます
770名無しさん@ピンキー:2009/05/24(日) 23:57:51 ID:cFwkHeJR
>>768
書けなくて焦る気持ちはわかるが大丈夫だ
気に入ったSSなら住人はいつまでも気長に待ってるんだぜ
時間ができて、気持ちに余裕ができて、書きたくなったら書けばいい
はやる心とかプレッシャーとかはその辺に置いて、今は目の前のことに集中してくれ
頑張れよ。それまで俺が間を持たせ…




  i                             i  
  l!   |!   il    |      !           ||
  |!l   |i!   |    l|     i!     |      |i|    
_l|i|_|_li|__l!__liil___li|__l!___l|i|_|_
771名無しさん@ピンキー:2009/05/25(月) 01:16:31 ID:BkklQUm1
頑張ればあなたは神職人と呼ばれることになるであろう
いつまでもまっているぜ
772名無しさん@ピンキー:2009/05/25(月) 21:11:14 ID:M5XnfobA
>>770ーーーー!!
773715 ◆cW8I9jdrzY :2009/05/26(火) 20:18:58 ID:dUGrlTPU
こんばんは>>715です。
また一本書いてみたのですが少々長くなったので前後編となります。
とりあえず今回は前編だけで、後編はまた後日に投下したいと思います。

前編はエロなしで後半はエロメインとなります。
他の注意点は特にありませんが、強いて言えばタシロ。
774鬼教師の裏事情(1/9) ◆cW8I9jdrzY :2009/05/26(火) 20:20:34 ID:dUGrlTPU
気だるい雰囲気の中、唯一教壇に立った教師だけがいつもの調子で淡々と授業を進めていた。
あくびをかみ殺しつつ説明を聞くふりをしている者が多い中、
一人の男子生徒が大胆にも机に突っ伏して高いびきをかいている。
「――このオーストリア=ハンガリー帝国の崩壊とソビエト連邦の成立が、
 当時のヨーロッパの軍事バランスを崩してしまいました。1930年に連合国が
 ラインラントから撤兵すると、ドイツに対するフランスの優位性は完全に失われます」
そこまで話して教師は言葉を止めた。細い眼鏡を光らせて教室を見回し、
その真ん中で熟睡している彼を鋭い目でにらみつけた。
「……佐藤君」
緊張が走る中、彼女は静かな声で告げる。彼以外の生徒はみな背筋を震え上がらせ、
慌しく視線を交換して音のないざわめきをあげた。
教壇を降りて彼女が彼に近づく。眼鏡の奥から放たれる眼光も細身の長身も、
そして若く整った顔立ちもまた、その教師にふさわしいものだった。
肩の辺りで切り揃えられた黒いショートヘアが彼女の理知的なイメージによく似合っている。
「――佐藤君!」
ついに彼女の手がかけられ、一同は哀れな子羊に同情を寄せた。
状況を全く理解していない彼がようやく起き上がり、間の抜けた声をあげる。
「……へ? ん、あれ……」
首を振った彼が見たものは、揃って自分を見つめる同級生の哀れみの眼差しと、
自分の隣に仁王立ちして冷ややかに彼を見下ろしている女教師だった。
「佐藤君、ぐっすりおやすみだったみたいね……」
「え? あ、は、はい」
やっと自分に危機が迫っていることに気づき、彼が小さな声でうなずく。
彼女はそんな生徒の肩に軽く手を置いて息を吸った。
「――よくも毎回毎回、同じことしてくれるわねぇえぇぇっ !!
 ちょっとは反省しなさぁぁあぁぁぁいっっっ !!!」
鼓膜が破れそうな怒号に震えたのはこの教室だけではないはずだ。
怒り心頭に達した彼女のお説教は、チャイムが鳴るまで続けられた。

「……あー、死ぬかと思った」
今度は眠気のせいではなく、疲労と消耗に倒れ伏した彼がつぶやいた。
佐藤栄太。クラス一のお調子者の男子生徒である。
「むしろ生きてるのが驚きだな。あのクイーンをあれだけ怒らせる奴なんて
 この学年じゃお前くらいじゃないか、栄太?」
彼の後ろの席で弁当を広げだした男子生徒がそう言った。
端正な顔をした優しそうな少年で、名前は水野啓一。栄太の親友だ。
栄太は冷静に告げる啓一にうらめしそうな視線を向けた。
「誰がクイーンだよ、キラークイーンかっての。ありゃ大魔神か阿修羅の類だろ。
 あの肺活量、間違いなく人間辞めてるぞあれ。しかも何で俺ばっかり
 目の敵にするんだか……もしかして俺は不幸の星の下に生まれついてるんですかね?」
「単に居眠りしないだけでもだいぶ違うと思うんだが。
 前にお前が『彼氏いますか?』とかあの先生に聞いたときは、こっちが死ぬかと思ったよ」
そのとき腹の虫が鳴り、栄太は顔をしかめた。
彼は弁当を持ってきておらずいつも購買でパンを買っている。
しかし今日は先ほどの世界史のダメージがたたり、買いに行くのが遅れてしまった。
今から行ってもまともな物は買えないかもしれない。
775鬼教師の裏事情(2/9) ◆cW8I9jdrzY :2009/05/26(火) 20:21:48 ID:dUGrlTPU
彼は軽くうなり声をあげ、ひとり弁当に箸を伸ばそうとする友人に絡み始めた。
「啓一、俺にも食わせろ」
「断る」
「いやあ悪いなあ、それ恵さんの手作り弁当だろ? 本当に食っていいのか?
 やっぱり持つべきものは頼れる友達だよなあ、感謝するよ」
「断る」
「学年一の優等生、水野啓一さんが、生死の境をさ迷ってる大事な友人を
 まさか見捨てるはずがない! 皆そう思ってますって、よっ大統領!」
「断る」
「うおぉぉぉん、腹減ったよぉぉぉぉぅ……」
栄太が三たび机に突っ伏して泣いていると、二人の女生徒が彼らの元にやってきた。
一人は長い黒髪をストレートに伸ばした、見るからに清楚な印象の少女。
繊細な顔のパーツといい穏やかな雰囲気といい、どことなく啓一に似ている。
もう一人は茶髪を短く切って動きやすくした、活発そうなつり目の女の子だった。
「……栄太、あんた何やってんの?」
「おお由紀か。残念だが俺はここまでだ。
 俺の墓には姓名、階級と生没年月日だけを簡素に記しておいてくれ……ぐふっ」
そう言って栄太はわざとらしく力尽きた。
「啓一クン、この馬鹿どうしたの?」
よくわからないといった顔で、茶髪の少女が栄太を指差す。
「いや、こいつさっきの世界史の授業で居眠りこいててさ。
 それで升田先生に大目玉くらって、パン買いに行けなくて飢えてるだけだよ」
「……やっぱりあれ栄太だったのね。こっちのクラスにまで聞こえてたわよ」
半分は納得したように、もう半分は呆れた口調で彼女が言った。
「あの鬼教師の前で寝るなんてあたしでもしないのに……本当に馬鹿ねあんた」
「うう……死者に鞭打つお前らなんか、友達じゃねーやい!」
「あら、そんなこと言っていいのかしら?」
不意に茶髪の少女――坂本由紀は口元をニヤリと歪めた。
後ろ手に持っていたビニール袋を取り出して、息も絶え絶えの栄太に見せつける。
「そ……それは!」
「珍しくあんたが購買に来ないから、こんなことだろうと思ってさ。
 適当にパン買っといたわよ。ちゃんとお金払ってよね」
「うおぉぉぉぉっ、ありがとう由紀ぃ! 大好きだぁぁあ!」
栄太は救われた表情になって涙を流し、由紀にすがりついた。
「あ、コラやめなさい! 人前で抱きついたら張り倒すっていつも言ってるでしょ!」
「――てことは、二人っきりならいつもイチャイチャしてるんだね……?」
横で静かに話を聞いていた黒髪の少女、水野恵がぽつりと言った。
繊細で清楚、優美を絵に描いたような女生徒で、啓一の双子の妹である。
啓一と恵はギャーギャー騒ぐ二人をじっと見つめていたが、
「ま、こいつらは放って飯食っとこうか」
「……そうだね、啓一」
と同様に呆れた顔で、それぞれ同じおかずの弁当をつつき始めた。
776鬼教師の裏事情(3/9) ◆cW8I9jdrzY :2009/05/26(火) 20:22:41 ID:dUGrlTPU
やがて昼食も終わり、午睡の倦怠感が校内を覆いつくした頃、
生気を取り戻した栄太が急にガタンと音を立てて立ち上がった。
「――諸君に問う!」
三人は同じ表情で彼を見上げ、何か言いたそうにしている。
「本日俺は、あの極悪教師のせいで危うく飢え死にするところであった!
 あの升田とかいう鬼畜をこのままにしておいていいのだろうか !?
 ……いや、いいはずがない!」
(やれやれ、また始まったか……)
周囲の冷めた視線にもめげず、栄太は語彙の限りを駆使して升田の悪逆非道ぶりを非難し、
不当な体罰や精神攻撃を改めるよう力説した。
「そんなの、本人に直接言えよ」
「ふ、愚かだな啓一! そんなことしたら俺の命がないのは火を見るより明らか!」
「……派手な演説するわりには、すっごい弱気よねえ……」
力のない声で、由紀が横から言う。
一応栄太とは付き合っている仲なのだが、彼女にとっても未だにこの男がよくわからない。

そのとき、啓一が虚空を見上げて何とはなしに後を続けた。
「まあ確かにあの先生は怖いよな。誰に聞いても皆そう言うし」
「そうねー。顔もスタイルもそこそこいいのに、皆震え上がっちゃってるもん。
 あんなヒステリー、あたしも正直言って関わりたくないわ」
「でも、あれがいいっていう隠れファンも結構いるって聞いたよ?」
「えーそう? 信じられんないわね。男ってやっぱりMが多いのかしら……」
彼らは顔を見合わせて、知っている限りの升田の噂を交換し合った。
曰く、今年で二十七。結婚はしていないが彼氏持ちらしい。
曰く、気に入らない相手は容赦なく怒鳴りつけ、校長でさえ彼女には逆らえない。
曰く、身体能力も高く、痴漢を半殺しにして警察に突き出したこともあるとか。
どこまでが本当かわからないが、実際にあの罵声を聞いた者からすれば
どれも事実に思えてしまうようなものばかりだった。
栄太が拳をぎゅっと握り締め、三人に語りかける。
「そう! そんな暴虐の覇王をのさばらせておいていいはずがない !!
 今こそ団結してあの鬼婆を懲らしめないといけないのだ!」
「いや俺パス。死にたくないし、第一俺は被害蒙ってないから」
「この軟弱者め! お前は自分の成績さえ良ければそれでいいのかっ !?」
「うん」
次に発言したのは由紀だった。
「でも懲らしめるって、どうすんのよ栄太。
 いくらあたしでも教師相手に殴り合いなんてしたくないわよ。停学くらうもん」
「大丈夫だ、ちゃんと策は考えている!」
自信満々に答える栄太。目はキラキラと輝き、全身に活気が溢れている。
子供のように悪戯っぽい表情で笑う栄太を、三人は不安そうに見つめていた。
777鬼教師の裏事情(4/9) ◆cW8I9jdrzY :2009/05/26(火) 20:23:39 ID:dUGrlTPU
次の日、栄太は持ってきた物体を机の上に置いて三人に見せびらかした。
「という訳で、俺の用意した秘密道具はこれだ」
「……これ、携帯のストラップ?」
テカテカ光る金属部分から伸びる茶色の革。その先には小さな円形の飾りがついている。
どこからどう見ても、携帯電話につける革製のストラップである。
だが恵や由紀のような女子高生には、少し地味な感じが否めない。
全体的に落ち着いたデザインで、もっと大人の人間が持つにふさわしいものと思われた。
「啓一と恵さんには、何とかしてこれをあの死の教師に渡してほしい」
「……え、俺たちが?」
思いもしないことを言われた双子の少年少女は目を見開いた。
「当たり前だろ。俺や由紀がいきなりこんなの渡したって怪しいだけじゃねーか。
 教師に気を遣ってプレゼント、なんてのは君たち優等生のお仕事ですよ」
「私たちが贈っても充分怪しいと思うけど……」
「まあ大丈夫でしょう。先生方にも受けがいい水野兄妹ですから、
 升田も怪しまずに喜んで受け取るはず。
 可愛い生徒からの贈り物ということで、間違いなく使ってくれますよ」
周囲の生徒に聞こえないよう小さな声で由紀が問う。
「で、こんなストラップが何の役に立つのよ? ご機嫌取りのつもりでもないでしょ?」
「うむ、よくぞ聞いてくれた」
栄太は学生服のポケットからラジオのような機械を取り出した。
短めのイヤホンがついていて、ラジオか音楽プレーヤーにしか見えない。
「そのストラップの受信した音声をここで聞けるわけだ。ついでに録音機能つき。
 特別製の小型電池を使ってるから、当分電池は切れないぜ」
「これ、まさか盗聴器 !?」
「――しぃっ!」
思わず声をあげた恵に向かい、指を自分の口に当てて咎めだてる栄太。
幸いにも周りで今の言葉に気づいた者はいないらしい。栄太は胸を撫で下ろし、
声をひそめて三人に説明を続けた。
「ま、そういうことですよ。これであの女の私生活を暴いて
 弱みを握ろうという実に賢く理にかなった、まさに柔よく剛を制す方法ですね」
「それ、バレたら停学で済むのか……? 下手したら警察沙汰になるんじゃ……」
「なんかすっごいイヤなんですけど……こんなの渡すの……」
露骨に嫌悪感を示す双子を栄太が説得する。
「大丈夫、バレないよう細工は完璧だ。
 盗聴器がバレるのは大抵、電波を発信してるのが発覚してしまうからだが、
 普段から電波を出している携帯につけるんだから何の問題もない。まずバレないって」
「……それって、電波が混線とかしないのか?」
「多分しないと説明書に書いてあった」
「あんた、どっからこんなもん手に入れてくるの……?」
疲れた顔で由紀が言った。
「企業秘密だ。という訳で啓一、恵さん、頼んだぞ。
 俺たち善良な生徒たちの身の安全は、二人の双肩にかかっている!」
「啓一、どうする……?」
「うん、やっぱり聞かなかったことに――」
逃げようとする二人を必死で押さえつけ、栄太は説得に強要と強迫を重ねて
とうとう水野兄妹に協力を約束させてしまったのだった。
778鬼教師の裏事情(5/9) ◆cW8I9jdrzY :2009/05/26(火) 20:24:20 ID:dUGrlTPU
升田美佐は午後の授業でも猛威をふるっていた。
「ヴェルサイユ条約ぐらい覚えておかないと駄目でしょう !!」
「そこ、ちゃんとノート取ってる !? 後で見せてもらうわよ !!」
「人の話は聞きなさいっ !! 私の授業をサボるなんていい度胸だわっ !!」
講義は淡々と氷のように冷静に行うくせに、ひとたび生徒が自分の意に沿わぬときは
口から灼熱の炎を吐いて怒るのだ。
気の弱い生徒の中には泣き出す者すらいて、それがまた彼女を刺激する。
一日が終わり肩をいからせて職員室に帰っていく升田美佐の姿に、
廊下にいた者はみな畏怖を覚え、慌てて端に寄って道を譲るのだった。
「まったく、この学校のコはたるんでるわ……!」
自分の席に座って頭から湯気を出す女教師。
周囲の同僚も愛想笑いを浮かべるだけで彼女に近寄ろうともしない。

そんな升田に声をかけてきたのは二人の生徒だった。
「――升田先生」
「あら水野君、二人揃ってどうしたの?」
そこに立っていたのは成績優秀で評判の双子、二年の水野兄妹だ。
「ちょっと今日の授業のことで、先生に質問があって……」
妹の方、恵の言葉に升田は表情を緩めた。
優等生の二人はたまにこうやって授業中の疑問点を質問しに来る。
彼女としても、積極的に学ぼうとする二人のことを気に入っていた。
「そう? どこかしら」
いつになく優しい声で升田が問う。
もし栄太や由紀がこの声を聞けば、差別だと大声をあげるに違いない。
兄妹の質問によどみなく答え、升田はいい気分で説明をしてやった。
「――どうもありがとうございました」
「いいのよ。またわからないことがあったら、いつでも聞きに来てちょうだい」
「はい、わかりました」
そう言って二人は教師に頭を下げた。
そのまま帰るかと思ったのだが、ふと恵が顔を上げて言葉を続けた。
「あの、先生……」
「? まだ何か聞きたいことがあるの?」
「いえ、そうじゃなくって……その、先生、携帯のストラップはお持ちですか?」
「いいえ、持ってないけど?」
急に話を変えた生徒にきょとんとしつつも、彼女はポケットから自分の携帯を取り出した。
彼女らしく飾り気も何もないシンプルな銀のデザインだ。ストラップはついていない。
「えーと、先生に使ってもらおうかなって、私たち何人かで先生に似合いそうな
 ストラップを選んでみたんですよ。よ、良かったら使ってくださいませんか?」
そう言って茶色の革製のストラップを差し出す恵。
やや怯えたようなその表情と声に、升田が気がつくことはなかった。
「え、私に……?」
思いもしなかった贈り物に少々驚いたが、彼女はにっこり笑ってそれを受け取った。
「ありがとう。それじゃ使わせてもらうわ」
「あ、そ、そうですか! じゃあ私たちはこれで……あははは……」
硬い笑顔を浮かべ、何度も頭を下げて去ってゆく双子の生徒を笑って見送り、
彼女は再び机に向き直った。
「へえ、嫌われてるかと思ってたけど……そうでもないのかしら、私……」
そうつぶやいて、女教師は細い指でストラップをつけ始めた。
779鬼教師の裏事情(6/9) ◆cW8I9jdrzY :2009/05/26(火) 20:25:10 ID:dUGrlTPU
戻ってきた二人を栄太は上機嫌で労った。
「――ご苦労だった! これであの鉄の女の鼻をあかしてやれるぞ!」
「か、勘弁してくれ……すっげー緊張したんだから……」
「ホントよ……私、手がブルブル震えてたもん……」
疲れた声で言う双子に構わず、栄太は受信機を手に笑っている。
「俺の調査によると、噂の彼氏とやらは毎週あの女を学校まで車で迎えに来るらしい。
 そしてちょうど今日がその日なのだ! フハハハハ、なんと好都合!」
「あ、それ知ってる。白い車に乗った男の人じゃない?」
「それならあたしも見たよ。なんかひょろっとした兄ちゃんだったような?」
女子二人が記憶の淵からその事実を拾い上げた。
「さすがのやつも、彼氏と一緒ならば油断のあまり弱点の一端も露にするはず!
 それが狙いよ、あとはそれをネタに笑いものに……クックック……!」
低い笑い声をあげる栄太の隣で、由紀が双子に話しかける。
「恵、啓一クン。あんたたちもうこの辺で身を引いた方が……」
「いや、残念だけどもう深みにはまっちゃってる気が……」
「捕まるときは絶対、皆一緒だよね……ううぅ……」
こうして四人はそれぞれ帰宅し、私服に着替えてから水野家に再び集合した。

夕暮れ時、学校の裏門に白い乗用車が止まった。中から出てきたのは若く長身のやせた男。
穏やかな顔に笑みをたたえ、じっとそこで待っている。
そこに現れたのは、小奇麗なスーツを身にまとった若い女だった。
鋭い目を眼鏡で覆い、黒いショートヘアは乱れ一つなく整えられている。
「やあ、美佐」
男はへらへらした笑顔で彼女に声をかけた。
だが女はにこりともせず、冷たい声で吐き捨てる。
「愛想笑いはやめてっていつも言ってるでしょ?」
「ごめん。でもこないだ言ってた店、ちゃんと調べておいたから、
 今日は君にもきっと満足してもらえると思うよ」
「無駄口はいいから早く連れてって。グズは嫌いなの」
そう言って女は車に歩み寄り、そのまま助手席に乗り込んだ。
肩をすくめた男が運転席に乗り、車を走らせる。
夕日を浴びた白い車は、長い影を従えて街に飛び出していった。

“無駄口はいいから早く連れてって。グズは嫌いなの”
「……うっわー、升田先生、やっぱり彼氏相手でもきついね」
マイクから聞こえてくる会話に、恵は感嘆の声をあげた。
「まあ、でもいつも通りじゃない? 相手も慣れてるみたいだしさ。
 やっぱり男はMが基本なのよね、うんきっとそうだわ」
「言っとくけど俺は違うからな。いつもポンポン俺を殴りやがって……」
座布団に座った少年少女がそんな会話を交わす。
ここは啓一の部屋で、広くはないが真面目な彼らしく適度に片付けられていた。
盗聴器とマイクを持ち込んだ栄太は、由紀を連れて水野家に上がりこみ
四人で升田と恋人の会話を盗み聞きしているのだった。
その升田の台詞によると、相手の男の名は秀行というらしい。
780鬼教師の裏事情(7/9) ◆cW8I9jdrzY :2009/05/26(火) 20:26:41 ID:dUGrlTPU
“あれ、携帯にストラップつけたんだね。いい感じじゃない”
“もらい物よ。うちの可愛い生徒たちが私にプレゼントしてくれたの”
その会話に啓一と恵はひやりとしたが、自信に満ちた栄太の言う通り、
この盗聴がばれている様子は皆無のようだった。
“へえ、意外と子供たちに慕われてるんだね”
“意外とってどういう意味かしら、秀行?”
“ご、ごめん……”
男の謝る声がする。どうやらひょろりとした外見通りの気弱な性格のようだ。
やがて信号で止まったのか、エンジンの音以外に何も聞こえなくなった。

「……あ」
そのとき突然、由紀が声をあげて三人の注目を浴びた。
「先生たち、これから晩ご飯食べに行くのよね。
 あたしたちいつまでこれに付き合うの? ご飯どうする?」
「あー、そういや考えてなかったな」
栄太が頭を軽くポリポリと掻いて言った。
「一応録音してるし途中で解散してもいいけど、せっかくデートを生中継してるんだから
 晩飯の会話くらいは聞いてやろうぜ。俺たちの飯はその辺に食いに行くということで」
「でもうちのお母さん、いつも通り晩ご飯の買い物に行っちゃったけど……」
恵が困った顔にそう言葉を添えた。
「二人だけに食べに行かせて俺たちだけいつも通りってのもな……うーん……」
少しの間啓一は考え込み、数秒後に答えを出した。
「んじゃ恵、悪いけど由紀さんと夕飯の材料、何でもいいから買い足してきてくれ。
 作るのは俺も手伝うからさ」
「えー、みんなうちで食べるの? いいけどけっこう大所帯だね」
家主の双子の提案に、客の二人は歓声をあげた。
「恵さんの手料理ですか、イヤッホォォォゥ!」
「でも、とんだ夕食会になっちゃうわね。人のデートを肴にするなんて」
「気にしない気にしない! せいぜいあの地獄の使者を笑いものにしちゃいましょう!」
栄太の発言に、三人は揃って笑った。
最初は反対していた啓一と恵も少しずつこの悪戯を面白く思い始め、
今は栄太に協力しようという意図が見え隠れしていた。

賑やかな調理と夕食を手早く終わらせ、栄太と由紀はそれぞれの自宅にその旨電話を入れた。
「さて、じゃあ続きといきますか!」
ドタバタと啓一の部屋に戻り、静かに盗聴器のマイクに耳を傾ける。
「……あっちはお店に入ったとこみたいね。何か注文してる」
「さあて、どんな会話があるのかなっと♪」
すっかり悪乗りを始めた四人は、楽しそうに教師の私生活に聞き耳を立てた。
“ちょっと混んでるけど、いい感じの店じゃない”
“だろ? 土日はなかなか予約もとれないんだよ”
それからしばらくの間、食器を鳴らす小さな音と店内を流れるクラシックの曲が聞こえた。
彼らの期待に反して、二人はあまり多くの言葉を交わさなかった。
会話をリードしたい男に対して、淡々と物を述べる女教師。
「もっと喋れよな升田め。面白くねえ」
「やっぱりあの人、普段からあんな感じなんだね……」
781鬼教師の裏事情(8/9) ◆cW8I9jdrzY :2009/05/26(火) 20:27:23 ID:dUGrlTPU
そのとき、男が眼鏡の女教師に向かって話しかけた。
“――美佐”
“何よ秀行、改まって”
“僕たち、付き合って何年だっけ”
“学生の頃からだから、もう十年近くになるわね……それがどうしたのよ、突然”
“うん……実は今日、き、君に大事な話があるんだ……”
その台詞に生徒たちはにわかに色めきだった。
「十年って、先生意外と一途じゃない。びっくりだわ!」
「大事な話って何だろうな? ただ事じゃなさそうだ」
ごくりと息を呑んで少年たちが待つ中、升田は男を見つめて訝しがっている。
“何よ、早く言いなさい”
“え、えーと、そ、それが、その……”
男はもじもじとしたまま続きを言えずにいた。
その態度に四人が、そしてそれ以上に升田が苛立っているのが感じられる。
「あーもう、じれったいなあ。早くしろよ」
「これじゃ先生も怒っ――」
“早く言いなさいってば !! あんた人舐めてんのっ !?”
水野兄妹が、そして栄太も由紀も飛び上がり、彼女の怒声に背筋を震わせた。

震え上がったのは男も同様だった。
こちらをにらみつけている升田の視線におびえ、体を小刻みに振動させている。
大学生のとき知り合って以来、彼は未だにこの女に口で勝ったことはなかった。
だが、今日だけは気圧される訳にはいかない。
彼は震える手でポケットから小さな箱を取り出し、彼女に差し出した。
受け取った彼女の顔から急速に憤怒が消えうせ、やがて呆然としたものに変わる。
「……何よ、これ」
そのつぶやきにも力がない。こんな彼女は今までに見たことがなかった。
秀行は一生に一度の勇気を振り絞り、はっきりとその言葉を口にした。
「――美佐、その指輪を受け取ってほしい」
「…………」
「お願いだ美佐。僕と結婚してくれ」
それからしばらくの間、マイクからは何も聞こえてこなかった。
782鬼教師の裏事情(9/9) ◆cW8I9jdrzY :2009/05/26(火) 20:27:59 ID:dUGrlTPU
ようやく声を絞り出した彼女ができたのは、小さく笑うことだけだった。
「あはは……何よ秀行、冗談でしょ?」
「僕は本気だ。結婚してくれ、美佐」
「な、なんで……なんで……」
彼女は糸の切れた人形のようにテーブルに倒れ込んだ。
「なんで……あんたが先に、その言葉を言っちゃうのよぉ…… !?」
「美佐……?」
「こんな指輪まで用意してぇ……! あんたにその気がないって思ってたから、
 いつ言おうか、どうやって言おうか、ずっと考えてたのにぃ……っ!」
彼女は泣いていた。大きな喜びとわずかな敗北感に涙を流し、
そのまま愛する男の前で嗚咽を漏らし続けた。
「ごめん……美佐……」
「なんであんたが謝るのよ……嬉しいに決まってるじゃない……っ !!」
その言葉に反して、彼女は顔をくしゃくしゃにして泣いている。
「――すまなかった。ごめんよ、美佐」
「謝るなぁっ !! 謝るくらいならもっと言ってよ! 好きだって!
 私のこと愛してるって、結婚してくれって!」
こんなに取り乱した彼女を見るのは初めてのことだった。
子供のように駄々をこねて泣き続ける恋人に優しい目を向け、秀行が続ける。
「ああ、君がそうしてほしいなら何度でも言うよ。好きだ美佐。愛してる。
 そ、それで近くのホテルに部屋を取ってるから……今夜はその、い、一緒に……」
後半は緊張に固まりつつも彼女の了解を取りつけ、彼はほっと胸を撫で下ろした。

一方、啓一の部屋も大騒ぎになっている。
「うおぉぉっ !!? ま、まさかの急展開っ !!」
「ちょ、ちょ、ちょっとちょっとちょっと !! どうするのよ !?
 すっごい決定的瞬間じゃない !! ヤバすぎないこれ !?」
「まさかプロポーズとはなあ……先生、おめでとう」
「先生泣いてたね。ちょっと可愛かったかも」
顔を少し赤らめて恵がつぶやく。鬼教師の意外な姿に、彼らは驚きを隠せずにいた。
「しかもホテルに直行とか、相手は準備万端ね!
 今どきレストランで指輪贈って告白後にホテルなんて、実際にあるもんねぇ……」
「ん、待てよ皆 !? 落ち着いて俺の話を聞いてくれっ !!!」
荒げた声の栄太に三人は動きを止め、彼に続きを促した。
だが栄太はいつになく静かな声音になって、吐き出すように重々しく言った。
「この後、先生がホテルでえっちぃことする訳ですが……中継、続けますか?」
真っ赤になった三人がうなずいたのは言うまでもなかった。
783名無しさん@ピンキー:2009/05/26(火) 21:29:30 ID:bXyCSXdF
>>782
不謹慎な感想だがこれがスピンオフ的な面白さなんだなぁと素直に感嘆したい


で、大学生の時に知り合って10年って事は(某C大的なミラクルがない限り)28歳以上って事であって
先生は実年齢より若く見られてたんだなぁと
784名無しさん@ピンキー:2009/05/26(火) 22:05:43 ID:T6L/loh2
GJ
なんか修学旅行のエロDVD鑑賞会っぽくて好きだな、こんな雰囲気
寸どめなので早く続きを…
785名無しさん@ピンキー:2009/05/27(水) 09:56:24 ID:H+MJ56Yk
>>782
GJ
後編の投下早く来い
786鬼教師の裏事情その2(1/9) ◆cW8I9jdrzY :2009/05/29(金) 21:04:14 ID:kUY7zt/8
こんばんは>>715です、後編の投下となります。


暗黒の夜空の中、星は大地に落ちて灯火となって空を照らしていた。
この部屋からは夜景が丸見えで、いつもなら彼女と二人で肩を並べて
街を見下ろし、甘い気分に浸ることができたに違いない。
だが今夜は違った。いつにない緊張が彼を、そして彼女を包んでいる。
「美佐……」
秀行はベッドの中の恋人に呼びかけた。
白い布の海に浸かった裸の女のなめらかな肌は、彼が思わず
触れてはならないと畏怖してしまうほどの美を備えていた。
女は短い髪を軽く揺らし、眼鏡の奥から彼を見つめて――いや、にらみつけている。
決して今の状況が気に入らない訳ではない。
ただ突然の求婚に対する戸惑いと、それを嬉しく思う本心を露にしたくないという
意地が鋭い視線に込められ、矢となって秀行を射抜いていた。
「……いつから?」
「え?」
軽く歯を食いしばった口からそう問いかけられる。
「いつから、結婚しようって思ってた?」
「え、うーんと……そうだなぁ……」
至近で見つめあって、わずかに考える。

その間に彼の頭をよぎったのは、彼女と過ごした日々の思い出だった。
学生時代に出会って、強気な女だなと思っているうちに
なんとなく一緒に食事に出かけたり、映画に行ったりするようになって。
やがて冷たい態度の中に時折混ざる本音にも気づくようになって。
いつしか自分が彼女の数少ない理解者であることを誇りに思っていた。
教職を取って教師になると聞いたときは彼も賛成した。
実際の授業風景は見たことがないが、きっと毎日生徒たちを怒鳴り散らしているのだろう。
いつからだったろうか。ずっと彼女の隣にいたいと思い始めたのは。
初めての頃からだった気もするし、ふと先月くらいに思い立ったような気もする。
「うーん、いつからだっけなぁ……?」
「早く言いなさい。まさかわからない訳ないでしょ?」
「ごめん。やっぱりわからない」
隠したり気取ったりするのは性に合わない。
秀行は正直に自分の思った通りのことを口にした。
「……何よそれ、あんた馬鹿じゃないの?」
「そうかもしれない。でも君が好きだってのは本当だ。信じてほしい」
「馬鹿……」
美佐は頬を朱に染めてそっぽを向いた。
秀行もベッドの中に潜り込み、姫を迎える王子のように礼儀正しく彼女に手を伸ばす。
「美佐……」
軽く抱き寄せ唇を合わせる。
彼女は抵抗せず、大人しく秀行の口づけを受け入れた。
そのまま彼が舌を侵入させると、それに応えるように美佐も自分のを絡めてくる。
男女の唾と呼吸の交じり合う音が部屋に響いた。
やがて二人は満足したのか、名残惜しそうな唾液の線を虚空に描いて離れる。
「今日は、積極的……だね?」
「馬鹿……そんな訳ないじゃない……」
眼鏡に覆われた瞳がうるんで、今にも涙がこぼれそうだ。
不意に秀行の手がすっと伸ばされ、彼女のレンズを取り去ってしまった。
「あ、ダメ、眼鏡……!」
「今日は取ろうよ。何もつけてない美佐の顔、見たいんだ」
「…………」
男の手に頬を撫で回される感触に、彼女は軽く目を閉じた。
787鬼教師の裏事情 その2(2/9) ◆cW8I9jdrzY :2009/05/29(金) 21:05:57 ID:kUY7zt/8
秀行の手が、今度は豊かな乳房に這わされる。
ぎゅっと握った手からややはみ出すこのサイズがいい。彼はそう思った。
美佐は気持ち良さげに身をくねらせ、なすがままになっている。
しかしその口は、いつものように彼に文句を言うのを忘れなかった。
「もう、そんなとこばっかり……」
「だって気持ち良くてさ」
「まったく、男ってホントにケダモノね」
体を震わせ熱い息を吐いて、彼に愛撫される若い女。
その扇情的な姿は、普段の彼女からはなかなか想像できないだろう。
秀行以外には決して見せない、女としての升田美佐の姿だった。
静かに彼女の双丘を揉んでいた秀行だったが、やがて彼女の体に口を寄せると
赤子のようにその乳首に吸いついた。
「あっ……!」
「うん、美佐のおっぱい、おいしいよ」
「ああぁっ……そ、それ、はあぁぁんっ…… !!」
乳房を口に含み、その先端を舌で転がすように舐めまわす。
優しくも激しい恋人の責めに、美佐は耐え切れず声をあげた。

生々しい男女の声は、盗聴器を通じて生徒たちの元にも余すことなく届けられていた。
“ああぁっ……そ、それ、はあぁぁんっ…… !!”
聞こえてくる嬌声に、彼らはそれぞれ顔を火照らせている。
「せ、先生……すごいね……」
「ああ……とてもあの鬼教師とは思えねー……」
息を荒くしてそんなやり取りを交わす。
“ひ、秀行ぃぃ……っ !!”
“今日の美佐、いつもより可愛い……”
“やだ、言わないでぇぇっ!”
ふと栄太が顔をあげると、自分と同じく劣情に染まった顔の由紀と目が合った。
恋人の淫らな表情に彼は思わず目をそむけたが、マイクから流れてくる音声は
狭い部屋の中に響き、彼らの意識を肉欲で覆い尽くそうとしてやまない。

「――あ、俺ちょっとトイレ……」
「う、うん。行ってらっしゃい……」
このままここに居ては由紀に襲いかかってしまうかもしれない。
理性の危機を感じた栄太は、気をまぎらわせようとトイレを借りることにした。
部屋に残されたのは、真っ赤な顔で男女のさえずりに耳を傾ける三人の少年少女。
いつの間にか啓一が恵に寄り添い、その細い肩をぐっと抱いていた。
それを見た由紀がからかうように恵に尋ねる。
「恵……大丈夫? 顔真っ赤よ……」
「そんなの由紀だって……ね、啓一」
「ん? あ、ああ……」
力なく少年が答えたが、彼の意識の大部分が視覚と聴覚に注がれていた。
聞こえてくるのは女教師の甘い声と男女の絡み合う音。
そして見えるのは自分の分身たる黒髪の少女の熱っぽい横顔。
ふと気がつくと啓一の腕が恵の体に回され、指が彼女の柔らかい肉をつかんでいた。
(あっ、け、啓一……? ダメ、由紀が見てるのにぃ……!)
(わ、わかってるよ……でも体が勝手に――)
(それなら……ね? あっちの部屋で……)
などと囁き合う双子をうらめしげに見つめ、由紀はひとりで座り込んでいる。
「ご、ごめん由紀。私たち、ちょっと気分悪くなってきちゃったから、向こうで休んどくね。
 この部屋使ってていいから、あとお願い……」
「あー、はいはい。あたしに構わなくていいわよ。お大事に」
由紀はそう言って部屋を出て行く二人を見送った。
「くそ、恵のやついいなあ……。栄太、早く帰ってきてよぅ……」
“あぁっ、やめ、そこやだあぁぁっ!”
升田の喘ぎに下着がじんわりと濡れ、由紀は火照った体を持て余していた。
788鬼教師の裏事情 その2(3/9) ◆cW8I9jdrzY :2009/05/29(金) 21:06:49 ID:kUY7zt/8
生まれたままの姿の女の秘所を、男の人差し指が貫く。
「や、あああぁっ !!」
美佐は声をあげたが、秀行の指は何度も抜き差しを繰り返して執拗に彼女を責めたてた。
陰部から止めどなく熱い液体が溢れ、激しい汁の音を響かせる。
「美佐のココ……すごいよ。溢れてる……」
「やめてええぇっ…… !!」
「ごめん、でもやめられないんだ……」
秀行の手が陰核に触れ、彼女は体をびくりと震わせた。
そこを責められるのは初めてではないのに、電流が走ったような衝撃が頭を駆け巡る。
美佐はベッドの上で跳ね回って子供のように叫んでいた。
普段しているセックスとはまるで違う快感に、彼女は逆らうこともできない。
男を待ち焦がれている女陰からとろりと汁が垂れ、シーツに染みを作った。
(こ、こんな……この私が……)
自分がここまで理性を失うことなんて考えられない。
それなのに、秀行の指が肉壷をえぐるたびかん高い嬌声をあげてしまう。
いつもなら怒りを込めた視線でこの男をにらみつけて震え上がらせるのに、
今は抵抗もできずに秀行の玩具になってしまっている。
悔しい。わずかに残った矜持はそう歯ぎしりしているものの、美佐の体は
恋人の指の動き、体温、息遣いの一つにまで反応して淫らな悲鳴をあげた。
「――んあぁぁあぁっ !?」
ひときわ大きく体が跳ね、彼女は自分が達してしまったことを知った。
まさかこの自分が、指だけでイカされてしまうとは。
美佐は呼吸を荒くして、よどんだ瞳で秀行の顔を見つめた。

「――み、美佐、大丈夫……?」
その気遣いが彼女に理性を取り戻させることとなった。
不意に目をつり上げて自分を憤怒の表情でにらみつける恋人を、彼は不思議そうに見返した。
「ど、どうしたの……大丈夫?」
「いちいち……き、気にしなくて、いいから…… !!」
「ご、ごめん……」
そのとき、美佐の目から一筋の雫がぽたりと垂れて二人を驚かせた。
「――美佐、泣いてるの……?」
「な、なんで……私…… !?」
「……安心して。僕は美佐のことが大好きだから、ずっとそばにいるよ。約束する」
そう言って秀行は彼女の体をぎゅっと抱きしめた。
「ち、ちが……秀行、やめて……!」
「美佐、美佐……!」
何とかして男の腕から逃れようとする美佐だったが、やがてそうしているうちに
暴れるのをやめて、じっと秀行に抱かれたままで大人しくなった。
「美佐……落ち着いた?」
「……ほんと、あなた馬鹿ね……」
小さなつぶやきが空気を揺らす。
裸の男女は、白いベッドの上で一つに重なり合っていた。
789鬼教師の裏事情 その2(4/9) ◆cW8I9jdrzY :2009/05/29(金) 21:07:33 ID:kUY7zt/8
秀行のやせた体が強い力で美佐を押さえつける。
荒々しい男の動きに興奮と恐怖を感じ、彼女の声が裏返った。
「――秀行…… !?」
「ごめん……でも、僕もう……」
彼は辛そうに息を吐き、獣のような視線をこちらに突き刺していた。
自分の腿に当たる硬い男性器の感触に、美佐の心に怯えと期待が湧き上がってくる。
「もう……ムード考えてちょうだい。それにゴムくらいつけてよね……」
「き、今日は要らないと思って、持ってきてないや……あはは」
「ちょっと、あなたねぇ……」
口ではそうぼやきながら、美佐は自分にのしかかってくる男を愛しげに眺めていた。
硬くそそり立った肉棒が待望の挿入を果たそうと彼女の肉をかき分ける。
美佐はすっかり濡れそぼった膣に太くたくましい男性器を突き込まれ、嬉しそうに鳴いた。
「あぁっ……だ、だから入れちゃやだって、言ってるのにぃ……!」
「ご、ごめん……でも、すごく気持ちよくて……」
「馬鹿、で、できちゃったらどうするのよぉ…… !?」
「ちゃんと求婚はしたから、別にいいと思うんだけど……」
「わっ、私、そ、そんな……あぁっ、はしたない女じゃ……ない、わよぉっ……!」
自分の中を激しく前後する男に言葉だけは抗うものの、彼女の腕は秀行の背に回され、
結合部も盛大に汁を溢れさせて性交の喜びに震えていた。
それに応えるように、劣情に理性を溶かされた男も乱暴に女の腰をつかんで
力の限り自分の男性自身を打ちつける。

「はっ、はぁんっ、は、激しい……のぉっ!」
「み、美佐……! ミサぁ……好きだよぉっ……!」
「ん、もう……ひ、ヒデユキの……バカァっ!」
愛情を込めて恋人の名を呼ぶ女の顔は幸福感に満ち足りていた。
普段職場では決して目にすることのない、いや今まで付き合ってきた彼ですら
見たことがないほどの升田美佐の乱れようだった。
男の名を口にするたび彼女の体は喜びに震え、その相手に貫かれているという実感が
ゾクゾクとした快感となって背筋を這い上がってくる。
鋭利な眼差しも冷徹な罵声も、トレードマークの細い眼鏡も失った彼女は
いつもの生真面目で冷徹な女教師ではなかった。
グチャグチャと肉壷をかき回されて体をくねらせ嬌声をあげるその姿は
一人の淫らな女、一匹の雌に成り果てていた。
柔らかな寝床の上、二人の交わりはまだ終わるところを知らない。
790鬼教師の裏事情 その2(5/9) ◆cW8I9jdrzY :2009/05/29(金) 21:08:22 ID:kUY7zt/8
水を流す音と共に、ようやく栄太がトイレから出てきた。
「あー、やっとチンコ収まった……」
げっそりした顔でそう漏らし、冷たい水で手を洗って部屋に戻る。
まさかあの鬼教師の絡みであんなに興奮するとは思わなかった。
少し甘く見ていたな、と苦笑いを浮かべて栄太は啓一の部屋のドアを開けた。
するとそこには――。
「……はぁっ、ああぁっ !!」
「――ゆ、由紀…… !?」
フリルのついた下着を足首までずらし、ミニスカートの中に手を伸ばして
自分の性器を愛撫し続けている栄太の恋人、坂本由紀の姿があった。
“はっ、はぁんっ、は、激しい……のぉっ!”
「ああぁ、升田のやつ、すごい……!」
水野兄妹は別の部屋に行ったのか、ここには姿がない。
由紀は教師の寝物語を聞きながらひとり自分を慰めていた。
「お、落ち着け、由紀!」
そんな由紀の自慰を止めようと、必死で彼女を押さえ込もうとする栄太。
だが校内でも有名な女傑たる由紀の力は栄太を軽く凌いでいる。
「え、栄太ぁ……あたし……」
「ちょ、ちょ、お前―― !?」
押さえ込むつもりが逆に押さえつけられ、彼の方が下になってしまった。
自分のあまりの情けなさに憤慨していると、由紀の手が伸びて栄太の顔を挟んだ。
「栄太、遅いぃぃ……ずっと待ってたのよぉ……?」
そのまま強引に唇を奪われ、口内に舌まで入れられる。
いつもより激しく情熱的なキスに翻弄され、栄太は彼女の思うがままになっていた。
「んむ……じゅるっ、ふぇーはぁ……はむぅ……!」
少女の短い茶髪が揺れ、一時的に彼の視界を覆った。
教師の情交の様子が赤裸々に流され、発情した恋人に口を貪られる現状にあっても
栄太は奇妙なほど冷静にこの状況を観察していた。
“ん、もう……ひ、ヒデユキの……バカァっ!”
(升田のやつ、意外といい声で鳴くんだな。いつもあんな大魔神してるくせに。
 あーくそ、でもこれ録音してるし、こうなったら後で何度も何度も聞き直してやる。
 しっかしそれにしても、由紀の唇って柔らかいよなぁ。吸い心地抜群っつーか……)

そのとき急に由紀が彼から離れ、息を切らして床に倒れかかった。
「由紀、どうした……?」
「ダメぇ……あたし、もう我慢できないよぅ……」
彼女は髪を振り乱し、物欲しそうな淫欲の眼差しで栄太の方を振り返った。
四つんばいになってヒクヒク蠢く性器を隠さずこちらに向けている。
「栄太……お願い、きてぇっ……!」
自分を求めて恥ずかしい姿を露にする少女を前に、栄太はごくりと唾を飲み干した。
他人の家、しかもいつ主が帰ってくるかわからない親友の部屋で恋人と交わるのは
かなり抵抗があったが、彼も一人の男、この状況で断れるはずもない。
(――やれやれ、とんだ乱交騒ぎになっちまったな……ま、いいけど)
栄太はズボンの中から再び立ち上がっていた陰茎を取り出すと、
犬のような格好でこちらを待っている由紀に勢いよく侵入を開始した。
「ああぁ――入ってくるぅ……!」
快楽に蕩けた至福の表情で由紀が言い、積極的に腰を振り始める。
性器の繋がる至高の快楽に栄太は思わず息を漏らした。
791鬼教師の裏事情 その2(6/9) ◆cW8I9jdrzY :2009/05/29(金) 21:09:00 ID:kUY7zt/8
栄太と由紀が交わっている部屋のすぐ隣、恵の部屋でも男女の営みが行われていた。
鍵のかかった部屋の中のベッドの上で、双子の兄妹が座って抱き合ったまま繋がっている。
「ん、はぁ……」
恵の桃色の唇が兄のそれを吸う。
彼女はとろんとした目で啓一を見つめ、上下ともに体を繋げていた。
彼らにしか聞こえない囁きが愛の言葉を交換していく。
(啓一……私、すっごい興奮してる……)
(俺もさ。お前の心は俺の思い……だろ?)
(こんなになってるの、やっぱり先生のせいだよね……)
(確かに、普段怒鳴り散らしてるあの声で、あれだけやられちゃ興奮するよな。
 まあもう充分堪能したし、続きはあの二人に任せよう)
(そうだね啓一。君は私が……)
恵の膣は双子の兄をくわえ込んで離さない。
妹の強い締めつけと彼の肉を擦る柔らかな襞の感触に、啓一は目を細めた。
上を下への激しい性交ではなく、静かに抱き合ってお互いを見つめ合ったり
唇を寄せて相手の粘膜を食み合ったりする、そんな緩い交わりに二人は溺れていた。

「あはは、啓一の……私の中でビクビクしてるよ……」
「恵のだって、こんなに俺をぎゅーぎゅーしてるじゃないか……人のこと言えないぞ」
「そ、そんなこと……んっ、ないもん」
「嘘つけって。お前の考えてること、俺には全部わかるってのに……」
結合したまま笑顔で交わす、双子の穏やかな会話。
熱を持った息遣いと動悸した胸の高鳴り、そして相手を想う心を共有した兄妹は
優しく丁寧に愛撫を重ね、少しずつ絶頂への坂を上り始めている。
そして座っていた二人の体がふらりと揺れ、繋がったままベッドに横になった。
「あ、私が下でいいから……」
「いや、恵が上に乗れよ。たまには騎乗位もいいだろ?」
「でもあれ、啓一に入れてもらってる感じがいまいちしなくて……。
 わかるでしょ、私の気持ち? お願い、啓一」
「やれやれ、わがままな片割れを持つと大変だ……」
そう言いながらも啓一は妹をベッドに仰向けにし、のしかかってゆっくり腰を振り始めた。
「あぁっ……や、やっぱり……これ、いい……!」
「ホントにもう、エッチな優等生もいたもんだ。学校の皆が見たら幻滅しますよ?」
「そ、そんな、こと言うと……怒る、よぉっ…… !?」
「おっと、また体を取られちゃたまらんからな。今日はがっちりガードしとくよ」
「け、啓一の……意地悪ぅっ……!」
体も心もよく似た双子の愛の語らいは、今夜も遅くまでかかりそうだった。
792鬼教師の裏事情 その2(7/9) ◆cW8I9jdrzY :2009/05/29(金) 21:10:12 ID:kUY7zt/8
結局、あれから二回、休憩を挟んでもう一回。
秀行に散々犯され、何度も中に出された美佐だったが
ようやく行為が終わり、冷静になって相手と見つめ合うことができた。
細い縁無し眼鏡の奥から冷ややかな視線が彼に注がれている。
「美佐、どうしたの……?」
「……どうもしてないわよ」
いつもの口調で冷たく告げる。その恋人の様子に秀行は少々不安になって、
慌てて美佐に向けて言葉を続けた。先ほど告白の際に見せた勇気は既にどこかへ消えうせ、
普段通りの彼女に逆らえない気弱な彼に戻っていた。
「ひ、ひょっとして怒ってる?」
「別に怒ってないわ」
「い、いや、なんか怒ってる……気がする……!」
「しつこいわね! あんたそんなに私を怒らせたいのっ !?」
「……ひぃっ!」
その怒鳴り声についびくりと縮こまってしまう。
恋人の情けない姿から目をそらし、美佐は突き放した声で言った。
「……まったく、いいようにしてくれちゃって。できちゃったらどうするの?
 いくら結婚をOKしたからって、無計画に赤ちゃん作っても困るわよ」
「ご、ごめん……」
「だいたいあなたはいつもそう。こっちに気を遣ってるフリしてる癖に、
 肝心なところで気が利かないんだから。指輪もホテルも用意しといて
 避妊具の一つも持ってきてないなんて、逆にこっちが恥ずかしいわ」
「う、うぅ……」

そこまで言ったところで、不意に彼女が表情を変えた。
こちらを横目で見つめ、軽く微笑んで囁いてくる。
「まあ、しちゃったものは仕方ないから、今回はいいわ。
 でもこれから一緒になるんだったら、もっと私を満足させてよね?」
「み、美佐……?」
まさか聞くとは思わなかった彼女の優しい言葉に、秀行が呆然とする。
「ほら、ぼーっとしない。先にシャワー浴びてくるから、後始末お願い」
「え? あ、う、うん……」
「式の日取りも決めないといけないし、ご家族にもご挨拶しないと。
 この忙しい時期にとんだ災難だわ、まったく……」
ぶつぶつ言いながら足を弾ませシャワーを浴びに行く。
いつになく明るい美佐の姿に驚きつつも、秀行は救われたような気分になった。
「ぼ、僕は……やったのか…… !? 美佐……ありがとう!」
告白したときの彼女の表情。ベッドで乱れる彼女の痴態。
そして自分を受け入れてくれた、聖母のように安らかな彼女の微笑み。
彼にとっては千夜のようにも感じた長い一夜が、やっと終わろうとしていた。

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ 
793鬼教師の裏事情 その2(8/9) ◆cW8I9jdrzY :2009/05/29(金) 21:11:09 ID:kUY7zt/8
昼前、人間が一日で一番空腹を感じる時間。
廊下の角まで届きそうな女教師の叫びが教室を凍りつかせた。
「――佐藤君っ !!」
「……んあ? ふ、ふぁい……?」
「まったくあなたは、いつもいつも居眠りばかりで……!」
栄太の席の隣では、世界史担当の升田美佐が立ったままブルブル震えている。
クラスメートはみな氷のように固まって、次の瞬間には訪れるであろう彼女の怒号、
そしてそれに続く長時間の説教を覚悟していた。
だが全員の予想に反して女教師はキッと目を吊り上げて佐藤栄太をにらみつけ、
「……これからはちゃんと話を聞きなさい。わかったわね?」
と不機嫌な声で言っただけだった。
栄太は眠そうに目をこすり、へらへら笑いながら謝罪した。
「はい、すいません。どうも寝不足で」
「ちゃんと夜は寝なさい。ろくに寝ずに翌日の授業に支障をきたすなんて、もっての外よ」
「わかりました。先生は睡眠、ちゃんと取れてますか? 昨日とか」
「な、何言ってるの。もちろん私は規則正しい生活を送ってます」
「そりゃそうですよね。つまんないこと聞いてすんませんでした」
少しだけ言いよどんだ教師に栄太はにやけ顔でうなずいた。
そのまま教壇に戻っていった彼女の姿に、クラス中が静かにざわめく。
升田は何事もなかったように講義を再開し、穏やかに授業は終了した。

そのすぐ後の昼休み、栄太の親友の啓一が彼に話しかけた。
「――おい栄太、何やってるんだ?」
見れば、彼はイヤホンをつけてにやにや笑っている。
「ん、音楽鑑賞」
「絶対違うだろ。また今度は何をやってるんだか……」
どこからどう見ても不審な友人の様子を怪しく思いつつ、啓一は机の上に弁当箱を広げた。
そこへ短い茶髪の少女が現れ、パンの入った袋を彼に差し出した。
「ほら、三百七十円」
「おう、悪いな由紀」
いつも由紀に頭が上がらない栄太が、彼女に昼食を買いに行かせるとは驚きだった。
怪訝な顔の啓一の目の前で、由紀は嬉しそうに栄太のイヤホンの
片方を手にとって自分の耳につける。
「だってあたしもこれ聞きたいし。ねえ、啓一クンもどう?」
「? 何の話――」
そのとき、聞き返そうとした啓一の顔に突如閃きが走り、彼は全てを理解した。
顔を強張らせてひったくるように栄太のイヤホンを奪い取り、聞いている内容を確認する。
“美佐、可愛いよ……大好きだ……”
“――んあぁっ、はぁん、いいのぉ……!”
「…………!」
予想通りの男女の痴態に、啓一は言うべき言葉を見失った。
794鬼教師の裏事情 その2(9/9) ◆cW8I9jdrzY :2009/05/29(金) 21:12:02 ID:kUY7zt/8
そんな彼に、栄太が面白くて仕方ないといった表情で説明する。
「いやーあの日以来、二人ともすごい激しくてさあ……俺も先生の寝不足が心配ってわけよ。
 だから心配のあまり、最近はこうやって先生の私生活が乱れていないか
 こっそりチェックしているんだ。偉いなあ俺、いやマジで」
「んでこれ、昨日のやつ? 升田もだいぶあの人に懐いたもんねえ……」
「…………」
いつかお前ら痛い目見るぞ、と思いながら啓一は窓の外を見上げた。
空は高く雲は細く、広々とした開放感が世界を覆っている。
「なあ、啓一」
不意に意識を呼び戻され、彼は栄太と由紀の方を向いた。
ああ、そういえば弁当食べないと、という心の声が聞こえてくる。
「何だよ。俺はもうそれ聞きたくないぞ。こないだはそれで大変だったんだからな」
「これ、いくらで売れると思う?」
「さあな」
心の底からため息をつきたくなって、啓一は椅子にもたれかかった。
「いっそ升田先生本人に売りつけたらどうだ。プロポーズの会話を録音してる人なんて
 ほとんどいないから、いい記念になるかもしれない」
「なるほど! さすが啓一、やっぱ賢い!」
ポンと手を叩き、目から鱗が落ちたと言わんばかりに栄太が感嘆する。
「このデータを裏に流されたくなかったら、とあの女を脅迫するわけだな!
 となると最初は匿名で、ちょっとずつ後からちらつかせて恐怖心を煽るのが効果的――」
「恵ぃぃっ! 何とかしてくれぇぇっ !!」
周囲が何事かと視線を向ける中、水野啓一は彼らしくもなく頭を抱えていた。

その頃、職員室では升田が上機嫌で座っていた。
稀有なことに鼻歌など歌いながら、薬指に光る指輪を優しく撫で回す。
「――おや升田先生、どうしました?」
偶然その横を通り過ぎようとした老人、校長が彼女に問いかける。
白髪頭の上司を眺め、彼女は嬉しそうに答えた。
「校長先生。実は私、結婚するんです」
「ほう、それはおめでとうございます。お相手はどんな方で?」
「そうですね。気弱で臆病、ついでに馬鹿で、しかも気が利かなくて……」
はにかんだ笑顔で婚約者の欠点をあげつらう女教師。
「は、はあ……そうですか……まあ、とにかくおめでとうございます」
校長は呆気に取られた表情でその場を去っていった。
「――でも」
誰にも聞こえない声で、最後に彼女はこう付け加えた。
「……とっても素敵な人なんですよ」
795名無しさん@ピンキー:2009/05/30(土) 14:19:06 ID:EvI+4/73

栄太がうらやましすぎるw
796名無しさん@ピンキー:2009/05/31(日) 23:14:53 ID:QU+lAqsx
これはいい裏事情w
まったく盗聴とかこそこそしやがって



いいぞ、もっとやれ
797名無しさん@ピンキー:2009/06/01(月) 01:10:03 ID:xZGOa1P8
まさか、あんたの作品をこのスレで見ることになるとは…!
GJ
798名無しさん@ピンキー:2009/06/01(月) 21:29:12 ID:9ijK8Q1H
gj 次作に期待
799名無しさん@ピンキー:2009/06/03(水) 20:50:16 ID:q7pyywwI
面白かったよ
GJ!!
800名無しさん@ピンキー:2009/06/04(木) 22:11:59 ID:ByuVhWm1
800
801名無しさん@ピンキー:2009/06/05(金) 21:13:11 ID:FADmgVMj
1000
802名無しさん@ピンキー:2009/06/10(水) 20:33:10 ID:Qjvs8bE0
やばいぐらい過疎ってるな
803名無しさん@ピンキー:2009/06/12(金) 17:56:09 ID:JZYgguPd
ツンデレ補給は随時可能だからな。オオカミさん、沙代、箒、文乃etc.
専用スレが無い版権ツンデレキャラのSSとか欲しいな。
804名無しさん@ピンキー
つか2週間前に投下があったじゃないか。
このくらいならまだまだ平気。
連レス失礼。