電脳コイルでエロパロ3

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298寸止め刑事
【アイ×P】1/5

どうしてこんな事になってしまったのだろう。
思いもよらぬ幸運に見舞われ、幸せで一杯のはずなのに
私の心は何故か重く沈んだまま浮かび上がるそぶりも見せない。
幸福も度が過ぎれば苦痛なのだなと、分かった風な事を考えながら
もやもやした気分を晴らすつもりで軽く息を吸い込む。
贅沢な悩みは呼気と混ざり合い、全く薄まらないまま弱々しく吐き出された。

「どうしたの? Pちゃん。ため息なんかついて」

あの人が私の名を呼びながら近づいて来た。
この身分不相応な悩みの元になっているあの人が。
教室最後尾の席に座る私の前まで来ると、前の席の椅子に後ろ向きに腰掛けた。
ショートパンツからすらりと伸びた両脚を惜しげも無く投げ出して背もたれを跨いでいる。
そのいかにも健康的な肢体に劣らぬ笑顔でにっこりと微笑む。なんて眩しいのだろう。
今の私にその笑顔は強過ぎる。涙が出そうになった。

「何かあったの? Pちゃん、顔暗いわよ?」
「元からこんな顔だから…」

本当の事など言える訳も無く、かと言って嘘もつけず。
辛気臭い顔に生まれたのは事実なのでそう答えた。
Pちゃんというのはもちろんあだ名で、本当の名前は「りん」と言う。
父親は「燐」と名付けたがったが、人名に使えない漢字だったので平仮名にしたらしい。
いつだったかその事が話題に上った時に、
クラスの誰かが「燐の元素記号はPだからPちゃんだね」と言ったのがそのまま定着してしまった。

「なによー心配してあげてるのにぃ」

ぷっと頬を膨らませて拗ねた様な顔で、「あの人」である所のアイコちゃんが睨んだ。
本気で怒っている訳ではないことは分かっているが、心底申し訳なくてゴメンと謝る。
つい最近まで、こんな風に会話を交わせる様になるとは思っても見なかった。
私の中ではずっとアイコちゃんは「あの人」であり、遠くから見守るだけの存在だったから。
私の4つ前の席に座る彼女の後ろ姿を、毎日飽きずに眺め続けて来た。
黒板からノートへと視線を移す度に揺れるポニーテール。時折振り向いてクラスメートに話し掛ける時の笑顔。
グラウンドを伸びやかに駆ける体操着姿。そのどれもを眼に焼き付け、心に刻んだ。
人は自分の持っていない物に強く惹かれるものなのか。
私はあの人に近づきたかった、あの人の様になりたかった。
でも臆病な私は近づくどころか視線さえも合わせることが出来ず、ただ遠くから眺めるのが精一杯。
299寸止め刑事:2008/06/22(日) 21:25:35 ID:AGTZDhmb
【アイ×P】2/5

転機が訪れたのは夏休み前、立て続けに転校生が二人入って来てしばらく経った頃だった。
アイコちゃんは転校生の一人と隣の席になり、新しい教科書が届くまでの間机をくっ付けたり
同じ生物部の橋本さんと一緒にもう一人の転校生と楽しそうに給食を食べたりしていていて
後ろから眺める事しか出来ない私を普段よりいっそう寂しい気持ちにさせた。

「まったく、あの二人にも困ったもんねぇ。」

そう言いながら休み時間の人がまばらになった教室で、アイコちゃんは今と同じ様に前の席に腰掛けた。
愚痴を聞いてもらうのは誰でも良かったのだろうと思う。ただたまたまそばに居た、それだけの理由で
アイコちゃんは私に話し掛けて来た。
あの二人、とはたぶん橋本さんと男子の沢口くんの事だ。
給食時間に何か些細な事で言い争いになって、休み時間になるとぷいっとお互い反対方向へ出て行ってしまった。
あの二人がケンカするのは毎度の事とはいえ、よくまぁ飽きないもんだと思いつつ、
気の小さい自分にとって言いたい事を全部ぶちまけられる相手が居るのは羨ましいとも思っていた。

「お互いの事が気になってしょうがないのに、ホント天の邪鬼なんだから…」

そう言いながら橋本さんの出て行った方向を眺めていたアイコちゃんがくるりと私の方へ向き直った。
ポニーテールがふわりと舞い上がり、窓からの陽光を反射して銀の糸の様にきらきらと輝く。
その美しさに見蕩れるあまり、アイコちゃんが私に何か言ったのを聞き逃してしまった。

「ご、ごめんなさい。私に何か言った?」
「あ…本読んでるの邪魔してゴメン」

聞き逃したのは私が本に夢中になっていた所為だとアイコちゃんは思ったらしい。
今にも立ち上がってどこかへ去ってしまいそうに思えた。慌てて否定して本を勢い良く閉じる。

「いいの、これ何度も読んでるし!」
「そう? ねぇPちゃんも後ろから見てて分かるでしょ?フミエ達の事」
「え?え、ええ…」
「やっぱりねー。もうクラス全員にバレバレだってのにねぇ」

そう言ってアイコちゃんはからからと笑った。
アイコちゃんはこの手の話には目がないらしく、誰それが彼それを好きらしいとか
隣のクラスの○○さんは△△クンと付き合ってるらしいとか、
そういった会話に眼を輝かせて参加しているのを良く見かける。
300寸止め刑事:2008/06/22(日) 21:26:27 ID:AGTZDhmb
【アイ×P】3/5

その割には本人の浮いた話はとんと聞かず、
クラス内でも容姿性格ともに目立つ存在のアイコちゃんらしくないなと不思議に思っていた。
実に楽しそうに笑う本人を目の前にして思わず口が滑った。

「アイコちゃんには好きな人いないの?」

急に驚いた様な顔をして、アイコちゃんは私の顔を覗き込んだ。

「びっくりしたぁー… そんな事聞かれたの初めてだわ」
「ごめんなさい! 聞かれたくなかった?」
「いや、そんな事はないんだけどね。うーん…考えた事も無かったなぁ」

こんどは逆に私の方がびっくりした。まさか!?
アイコちゃんは恋愛談義においては
「もう、さっさと告っちゃいなさいよ!」とか「あーあのコはやめといた方が良いわよ」
といった発言から分かる様に、どちらかと言うとアドバイザー的ポジションにいる。
そんな理由から恋愛経験豊富なんだろうと勝手に思い込んでいた。
すらりとして大人びた体躯から、年上の男性と付き合っていてもおかしくはない、
むしろ小学生なんかガキ過ぎて相手にならない。
近所に住む高校生?それとも家庭教師としてやって来た大学生?
「好きな人? 居るけど内緒ー 」とか「付き合ってる人は居るわよ?」といった返答を覚悟していた私にとって
「考えた事も無かった」は、衝撃だった。

「え? そ、そうなの?」
「うん。だって自分の事なんかちっとも面白くないでしょ?」

そんなものなのか。自分の事を考えるヒマも無い程に他人の恋愛沙汰が面白いものなのかもしれない。
私はアイコちゃんの恋愛についてどうしようもなく興味をそそられるが
自分の事になると確かに面白くも何ともない。私が好きなのはクラスの男子でもなく、大人の男性でもなく…

「そういうPちゃんはどうなの?」
「え?」
「好きな人ぐらいいるんでしょ? 言っちゃいなさいよーホラ」

急に水を向けられてどぎまぎしてしまう。
その同様ぶりを見抜かれ「やっぱり居るんだ!」とばかりにアイコちゃんは身を乗り出して来た。
301寸止め刑事:2008/06/22(日) 21:27:30 ID:AGTZDhmb
【アイ×P】4/5

ぐんとお互いの顔が近づき、心臓が飛び出しそうな程に激しく鼓動を打つ。
苦しい、息が出来ない。あぁなんだかこのまま死にそう…

「ね、誰にも言わないから…」

こっそり聞く様に耳に手をあて、さらに顔が近づいてくる。
この場から逃げ出したい衝動に駆られるが、体は金縛りに遭った様に固まって動かない。
ますます鼓動は勢いを増し、耳の奥で血液の流れる音が轟々と響いている。
本当に死んでしまいそうだ。
でもこのままあっけなく死んでしまうのなら、その前にせめて想いの丈を打ち明けなきゃ…

「あ…アイコちゃん…」
「ん? なぁに?」
「そうじゃなくて…私の好きな人は…アイコちゃん…」

一瞬の間の後。アイコちゃんは身を離し、ポカンとした顔で私を眺めた。

「わたしもPちゃんの事好きよ?」

上手く伝わらなかったのか、はたまたはぐらかされたのか。
アイコちゃんは一般のクラスメート、友達として好き。という意味の返事をしてくれた。
一方の私と言えば、混乱した状態だったとはいえ決死の覚悟での告白だったので引くに引けなくなっている。
このまま「ありがとう、うふふ」で済ませられる程の器用さも持ち合わせてはいない。

「違うの、そう言う意味じゃなくて、恋愛対象としてアイコちゃんの事が好きなの」
「え?…えぇー!!!」

突然のアイコちゃんの驚きの声は教室中に良く通り、何人か残っていた生徒達が一斉にこちらを振り向いたが
私の声はぼそぼそとか細いので、アイコちゃんが何に驚いたのかまでは知られなかった。

「えー… あ、そうなんだぁ」
「うん…そうなの…」
302寸止め刑事:2008/06/22(日) 21:29:28 ID:AGTZDhmb
【アイ×P】5/5

もうどうにでもなれ的に捨て鉢な告白だったが、思っていた以上にすっきりした。
嫌われてしまったとしても、アイコちゃんとの距離は今までと変わる訳では無いし
ずっと伝えたかった事を伝えたかった人へ伝える事が出来た。
その達成感の様なものは、今まで感じた事の無い清々しさを心の中に満たした。

「Pちゃん、変だよ?」

そう、私は変な子なの、女なのに女の子を好きに…

「なんで笑いながら泣いてるの?」
「え!?」

アイコちゃんに言われるまで私は、自分が笑顔でいる事にも涙を流している事にも気付かなかった。
慌ててメガネを外してハンカチで両目を押さえる。

「いやー、なんだか今日はPちゃんに驚かされっぱなしだわー」
「…ごめんなさい」
「おとなしい子だと思ってたけど、なんのなんの、意外に熱いじゃない?」

アイコちゃんはそれほど嫌悪する様子はなく、むしろ楽しそうに語りかけてくる。
眼がきらきらと輝いていた。そう、恋愛談義に夢中になっている時のあの眼と同じ様に。

「よし、分かった!」
「え? 何が?」

アイコちゃんは口に手をあてて私に耳打ちする様に顔を近づけて来た。

「私たち、付き合っちゃおうか?」
「え?…えぇー!!!」

今度は珍しく大きく響いた私の声に皆の視線が集まる。
それが幸せだけどちょっと切ない、私たち二人の熱い夏の始まりだった。



━つづく━