らき☆すたの女の子でエロパロ32

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4299-727
2日みないだけでレスが2倍になっているなんて……本当に恐ろしいスレです。
常套句ではありますがまとめてですみません、みなさんGJです!
そして前回のお風呂モノでみゆつか愛してる氏を触発してしまうなんてとても光栄です。
こういうのって書いててよかった、と思える瞬間ですね。

さて、私も投下させていただきます。人のいない時間だから非エロで15レス使っても大丈夫ですよね!
カップリングは多分みゆき&みなみだと思います。キャラが崩れぎみ(とくに後半のみゆきさん)ですが、
ギャグもの(?)ですので軽い気持ちで読んでいただけると幸いです。
今回も懲りずにお風呂シーンあり!では、いきます。
430ばすとはんたー・みなみ (1/15):2008/01/14(月) 05:00:51 ID:20HBRPZO
「……はぁ」
 私の住んでいるところは街路樹が立ち並ぶ二車線の大通りに面しているけれど、
 車といえば周りの住宅地に住んでいる人の車くらいしか通らないので、夜になるととても静かだ。
 だから私が自分の胸を押さえる度に鳴る、この「ぺたぺた」という音も、
 それに続いて口から漏らされる小さな溜息も、
 どんな音にも掻き消されることなく、私の部屋の中に響いてしまう。
「…………」
 高校生になれば、大きくなるはず。
 中学生の頃はそう自分に言い聞かせてきた。
 でも大きくなるのは身長ばかりで、一応身体測定の度に期待してみるのだけれど、
 手帳の『胸囲』の欄には、毎回、数日前に自分で測ったそれと全く同じ数字が書かれているだけだった。
 人生、そう都合よく思い通りにはならない。
 そんなこと、わかっているのだけれど、でも、
「どうして……?」
 肝心のそこは大きくならないまま、私は高校生になった。
 スレンダーとか、細くて羨ましいとか、そんなことを言ってもらえるようにもなった。
 けれど本来なら褒め言葉であるはずのそれも、私にとっては文字通り少し胸が痛む言葉だった。
 私の向かいの家に住んでいる、昔から私と姉妹のように仲良くしてくているみゆきさん。
 いつからだろうか、彼女のそこと自分のそことの差を感じるようになったのは。
 年が二歳離れているとはいえ、みゆきさんのバストは、私なんかとは比べ物にならないほど大きい。 
 この差は何……? やっぱり、
「吸収……?」
 私が少し前から密かに唱えている(と言ってもゆたかから聞いた泉先輩からの受売りの)吸収説。
 もちろん本気で信じているわけではないのだけれど、
 ゆたかとそのお姉さんの成美さんや、自分とみゆきさんを見ていると、
 もしかしたら本当に吸収されているのでは、と思ってしまうこともある。
(吸収……できたらいいのに……)
 窓の外を見ると、街路樹の隙間からみゆきさんの家がちらりと見えた。 
 金曜の夜の月の光は明るく私達を照らしているけれど、みゆきさんの部屋の電気はもう消えていた。
 私の住んでいる住宅街は相変わらず静かで、数十分前から足音一つ聞こえてきていない。
 そういえば『寝る子は育つ』という言葉もある。
 ……今日は早く寝ることにしよう。
「おやすみなさい」
 私は部屋の電気を消して、ベッドに横になった。


「……き……っス……」
 私が眠りについてどのくらいだろうか。
 私は私の耳元、もっと厳密に言えば私の頭の中で何か声が響いているのを感じた。
「……きて……くだ……っス……」
 どこかで聞きた覚えのある声。私の記憶の中にある声とは口調が違うけれど……
 そう、確か学校で何回も聞いたことのあるような……。
「起きて下さいっス、岩崎さんっ!」
 初めはぼんやりとしていた声がしだいにはっきりとしてきて、
 何度目かの呼びかけで私は体を起こした。
 思い出した、あなたは……
「ふぅ、やっと起きてくれたっスね」

 私は初め、自分の目に写っているものを信じることが出来なかった。
 寝ぼけているのかと目を擦ってみても、そこに居るのはさっきと同じ……
 そう、さっきと同じ……手のひらサイズの、


「小さな、田村さん……?」
431ばすとはんたー・みなみ (2/15):2008/01/14(月) 05:01:55 ID:20HBRPZO
「田村さん……? だ、誰っスか、それは……?
 えーっと、今更ながら一応確認させてもらうっスけど、岩崎みなみさんでいいんスよね?」
 背中から生えている二つの羽根を動かし、宙に浮んでいる『小さな田村さん』からされた質問に、
 私は訳もわからないまま頷いた。
 彼女の姿はまるで妖精のようで、
 体の周りがキラキラと輝いて、電気を付けなくてもその姿ははっきりと目に映った。
 チュールの重ねられたふんわりとしたスカートが特徴の黄色いドレスを着ていて、
 子供の頃に絵本で見た、年を取らない男の子の物語に出てきた、あの妖精にそっくり。
 けれどそれ以上に目を惹くのは彼女の顔で、
 そっくり、というものではなく、眼鏡をかけているところも、膝のあたりまであるような黒いロングヘアーも、
 頭から二本の触角のようなものが可愛らしくぴょこんと出ていること以外は、
 何から何まで私の知っている田村ひよりさんと同じだった。

「あなたは……?」
 このような状況に置かれたならば、十人中十人がするような、ありきたりかもしれないが、当然の質問。
 特に私の場合は思い当たる人物の名を一度否定されている。
 もちろん、田村さんがここにいることはありえないことなのだけれど、
 それでも百パーセント絶対に有り得ないことかといわれればそうではない。
 けれど彼女は田村さんではないという。
 では、今私の目の前にいる、『人』なのかも定かではない彼女は一体……?

「私は、『吸収の神』っスよ」

 目の前の彼女は、神と名乗った。
 彼女は腰に手をあて、どうだと言わんばかりの顔でこちらを見ている。
 それにしても、
「吸収の……神?」
「そう、吸収の神っス。夢とか空想とかじゃなく、れっきとした、実在する神っス。
 岩崎さん、さっき『吸収したい』と願ったっスよね?
 吸収の神は人々のそんな願いをキャッチするっス。
 つまり、岩崎さんの熱ぅ〜い思いが、私を呼び出したというわけっスね。
 今までも何度か岩崎さんからは『吸収』という単語を受信してたんスけど、
 なかなか『吸収したい』とは願ってくれなかったんスよ。
 でも今日、ようやく岩崎さんから、『吸収したい』という願いを聞いたんで、
 晴れて岩崎さんの前に姿を現すことができるようになったというわけっス」

 ……確かに、寝る前に『吸収できたらいいのに』とちらりと思ったけれど、
 それがまさか神さまを呼び出してしまうとは誰が想像しただろう。 
 というかそんなに強く願ったわけではないのに……。
「細かいことは気にしないッス。私もヒマなんスよ」
 神さまのわりに、随分と適当な性格みたい……。

「その神さまが、私に何の用……?」
「野暮な質問っスね〜、本当は自分でも分かってるんじゃないっスか?」
 目の前の神さまは少し意地悪そうに笑った。
 確かに。『吸収したい』という願いで現れた『吸収の神』。
 その神さま一体何をしてくれるのか……分からないはずがない。
 私は彼女が次の言葉を発するより前に、期待という名の胸の高鳴りを感じずにはいられなかった。

「私は岩崎さんに、『吸収』させてあげに来たんスよ」
432ばすとはんたー・みなみ (3/15):2008/01/14(月) 05:02:43 ID:20HBRPZO
 ぞく、と一瞬体に鳥肌が立った。
 そして段々と自分の精神が高揚してきているのが、はっきりと感じられた。
 まさか、こんなことが本当に起こるだなんて。
「岩崎さんの吸収したいものは分かってるっス。ううーん、乙女の純情な悩みっスね〜」
 私は彼女のほうを見て、少し目に力を込めた。
「ご、ごめんなさいっス……。
 でも、吸収といってもただでさせてあげられるわけじゃないっス。
 一応相手のものを奪うわけっスからね。それ相応のリスクを負ってもらって初めて、
 私も力を貸すことができるようになるというわけっス」

 やはりただでは吸収させてもらえないか、と少し残念だったけれど、
 チャンスがあるだけ私は幸運なのだから、この機を逃すわけにはいかない。
「リスクというのは……どんな?」
 このリスクこそが、きっと私にとって最重要事項。
 自分が出来ることなら、少々難しいことだってこなしてみせる。
 私はおそらく、今までにないほどの覚悟を決めた眼差しを彼女に向けていた。

「よくぞ聞いてくれたっス。岩崎さんのリスクは、『四つの条件』で、
 これを全てクリアしなければ、私が吸収の力を使うことはできないっス。
 一度に言うんで、よく聞いて下さいっス」
「…………」
 自分が生唾を飲み込む音が、喉から伝わって耳に入った。

「そのクリアすべき条件とは、

 @ 相手のバストを実際に見る。
 A 相手にバストについて質問し、相手がそれに答える。
 B 自分のバストと相手のバストを直に合わせる。
 C @〜Bまでを1時間以内に行う。

 以上の四つっス。いやー我ながら上手い条件だと思うんスよねー。
 私の好きな漫画からビビッと閃いたんスけどね、これが……、…………」

 自称「神」が他に何か言っていたようだけれど、私の耳にはもはや届いていなかった。
 私は段々と自分が失望していくのを感じた。
 こんなの、こんな条件、

「……できるわけがない」
「えっ?」
「できるわけがないっ!」
「今言ったっスか……? できるわけがない、と……」
「……なぜこんな条件に?」
 いくらなんでも無茶すぎる。
 Aは可能、@も辛うじてできるレベルだとしても、
 Bはほとんど不可能だと言っていいし、さらにCという条件のおまけ付きだ。
 少々無理をすればできるのかもしれないけれど、
 その後、バストと引き換えに全てを失うであろうことは避けられない。
 神さまは、ずいぶんと意地悪が好きな小悪魔だった。
433ばすとはんたー・みなみ (4/15):2008/01/14(月) 05:03:49 ID:20HBRPZO
「し、仕方ないっスよ……さっきも言った通り、
 相応のリスクを負ってもらわないと……そ、そんなに睨まないでほしいっス……
 それに吸収するものに関係するリスクじゃないといけないわけで……」
「条件の変更は……?」
「え、えーと……出来ないこともないっスけど……
 最低限これくらいのリスクを負ってもらわないといけなくて……
 それで私としてはその……折角考えたんだし私の案を採用してもらいらたいな、なんて……
 い、嫌ならいいんスよ? それなら他の人のところにいくまでっスから……」
「そう、それじゃあ……」
「全くしょうがないっスね〜……って、えっ?
 ちょ、ちょっと待って下さいっス! いいんスかそれで!?
 よーく考えて下さいよ、吸収できるんスよ?
 こんなチャンス、普通は一生に一度もないんスからね!?」 

 目の前の神さまは、なんだかひどく動揺しているようだった。
 このままもう少し可愛がってあげようかな……。
「でも、そんな無茶な条件、できない……」
「お願いします! この通りっス!
 最近全然仕事が無くって、久しぶりの仕事なんス!
 これで岩崎さんにフられたら、また私は……ココ○チでメンチカツを揚げなきゃ……ううっ」

 ……泣かせてしまった。
 まさか彼女がそこまで追い詰められていただなんて……。
 あの条件だって、彼女が私のために頑張って考えてくれたに違いない。
 それを、彼女の気持ちを、私は踏みにじってしまった。
 そう思うと私は居ても立ってもいられず、
「あ、あの……私、協力するから、その……泣かないで……?」
「ひっく……えっ? ほ、ホントっスか?」
 彼女は顔を上げて、涙で濡れていた顔を晴らせていった。
 良かった、なんとか泣き止んでくれたみたい……。
「うん……私、頑張るから……」
「あ、ありがとうっス!! 岩崎さんは私の女神っス!」
 
 彼女は小さな手で私の指を握り、ぶんぶんと大きく動かした。
 こうして神さまに神と呼ばれた私は、若干の不安を胸に、彼女の条件を受け入れることになった。
 というか、最初はこちらがお願いする立場だったのだけれど……
 いつの間に間違ってしまったのだろう。



「いらっしゃい、みなみちゃん。
 何時ぶりだったかしらねー、こうやってみなみちゃんがウチに泊まりに来るのも」
「こんばんわ、みなみさん。今日はゆっくりしていってくださいね」
「はい、おじゃまいたします」
 神さまの「お風呂っス! 作戦決行はお風呂の時しかないっス!」という助言を受け、
 翌日の土曜日、私はみゆきさんの家へお泊りに行った。
 一応、勉強会という名目を用意してあったのだけれど、
 高良さん一家は特に私に理由を聞くことなく、泊まることを了承してくれた。
「岩崎さん家も相当なもんでしたけど、この人の家もかなり広いっスね〜」
 小さな田村さんこと神さまは、どうやらその姿も、声も、私だけしか感知できないようで、
 私の横で羽をぴこぴこと可愛く羽ばたかせながら、感嘆の息を漏らしている。
「じゃあ、後でお茶を持っていくわね」
「ありがとうございます」
「ありがとうございます、お母さん。では、私の部屋に行きましょうか、みなみさん」
「はいっ」
434ばすとはんたー・みなみ (5/15):2008/01/14(月) 05:04:42 ID:20HBRPZO
 ゆかりおばさんの言っていたとおり、
 みゆきさんの家にあがるのは久しぶりだったのだけれど、
 お家の中も、そして今居るみゆきさんの部屋も、前におじゃましたときとあまり変わりはないようで、
 強いていうならばみゆきさんの机の上にある、
 大事そうに写真立ての中に入れられた写真は、今までに見たことがないものだった。
「これは、去年の夏に泉さん達と海に行ったときの写真なんです。
 黒井先生や、小早川さんのお姉さんの成美さんもご一緒で、
 とても賑やかな、楽しい旅行だったことを覚えています」
 みゆきさんは思い出したようにそっと笑い、その時のことを話してくれた。
 行きの途中、成美さんが壮絶なカーチェイスを繰り広げたこと、
 泉先輩がスクール水着を用意していて、けれどそれがとても似合っていたこと、
 みんなで入ったお風呂で、石鹸を踏んで転んでしまったことなど、聞けば聞くほど興味深い話ばかりで、
 聞いている私も一緒にそこへ行ったような、とても楽しい気持ちになった。
 いつか、私達――ゆたかや、田村さん、パティ達も、一緒にそんな経験が出来るのかな。
 今度、みんなにこの話をしてみよう、と私は心の中で小さく決めた。

「みゆきー、みなみちゃーん、夕ご飯の用意が出来たわよー」
 みゆきさんと話していると時間があっという間に過ぎてしまい、
 ゆかりおばさんが私達を夕飯に呼ぶ声が聞こえた。
「今日はみなみちゃんが来てくれたから、久しぶりに張り切っちゃった」
 と言ってゆかりおばさんがテーブルに持ってきたのは、
 トマトをベースに、色とりどりの野菜が散りばめられたスパゲティで、
 視覚だけでも食欲をそそられるのに、さらにとても良い香りがしていて、
 ゆかりおばさんの張り切り具合を私達に伝えるのには、十分すぎるぐらいだった。
 また、オーブンの中からは、薄く輪切りにされたピーマンが目を惹く丸いピザが出てきて、
 それもスパゲティ同様、早く口に運びたいという欲求を刺激させる、おいしそうなものだった。
「う、うおおっ、た、食べたいっス!!」
 神さまの言うことに私も同意で、私はすぐに席に付いて手を合わせた。
「「いただきます」」
「はい、召し上がれ♪」

 ぱく、もぐもぐ、ごくん。
 私とみゆきさん、二人の音が重なる。
「とても美味しいですよ、お母さん」
「はい、とても美味しいです」
 見た目と香りに違わず、味もとても美味しい料理で、
 失礼かもしれないけれど、普段のイメージとギャップのあるその腕前に、私はいつも驚かされる。
「ふふっ、私もやればできるのねっ」
 そう言って音符マークを出しながら、うきうきと台所へ戻るゆかりおばさんは、
 可愛らしい、という表現が一番似合っていて、
 どちらかと言えば落ち着いた物腰のみゆきさんとは対照的で、なんだか面白いな、と思ってしまう。l
「わ、私にも一口下さいっス! お願いっス!!
 神は怪我とかしても全然平気ですし、食べなくても死にはしないっスけど、
 これを横で見てるだけっていうのはあまりにも酷っス!!」
 私の横で少し涙目になりながら料理を懇願する神さまに、
 私は気づかれないようにそっと小皿にピザを一切れ乗せて、
 隣の空いているイスの上に、二人から見えないようにそれを置いた。
「あ、ありがたいっス……! この恩、一生忘れないっス!
 あむ、あむ……うおおおお、美味いーーーーーっ!!」
 すっかり立場が逆転してしまった神さまを見て、
 神さまに一生とかあるのかな、とか、もう少し神さまらしくしてほしいな、と考えながら、
 私はまたフォークにスパゲティを巻きつけ、口に運んだ。
435ばすとはんたー・みなみ (6/15):2008/01/14(月) 05:05:26 ID:20HBRPZO
「あ、もうこんな時間なんですね。みなみさん、お風呂にしましょうか」
 夕飯の後、私と勉強会をしていたみゆきさんは、そう言って開いていた参考書を閉じた。
 
 お風呂。

 その言葉を聞いて、はっと思い出す。
 みゆきさんと過ごす時間が楽しくてつい忘れてしまっていたけれど、
 私の本来の目的は今日、みゆきさんのバストを吸収することだった。
 私はみゆきさんが後ろを向いた隙に、机の上で寝息を立てていた神さまを叩き起こした。
「ふぇっ!? も、もう朝食っスか!?」
「これから、お風呂」
 私は小さく神さまに告げた。
「おふ……ろ……? じ、冗談っスよ、冗談……。
 まかしといて下さいっス。と言っても、頑張るのは岩崎さんのほうっスけどね」
 そう、私の本当の戦いはこれから。
 みゆきさんのバストを吸収出来るか出来ないかの大勝負。
 とは言っても、あんなに優しくしてもらったみゆきさんから
 バストを奪うということをしてしまうのは、今更ながら気が引けているのも事実なのだけれど。
「大丈夫っスよ。今まで吸収されていた分を取り返させてもらうだけっス。
 それにあのみゆきさんって人、かなりのバストみたいっスから、
 ちょっとくらいなくなっても気が付かないっスよ。ひっひっひ」
 私の耳元で神さま、もとい悪魔の囁きが聞こえる。
 その顔は、誰がどう見ても神さまには見えない。

 でも……うん、そう。
 今までの分を返してもらうだけ。
 だから……ごめんなさい、みゆきさん。

「では、お先に入らせていただきますね。また後で」
「待ってください……みゆきさん」
「はい、何でしょう、みなみさん?」
 あくまで自然に、あくまで自然に……。
「今日は……一緒に、入りませんか……?」
「みなみさんとご一緒に……ですか? ふふ、いいですよ。
 なんだか昔のようですね。では、行きましょうか、みなみさん」
 ふぅ……ひとまず作戦成功。
 優しいみゆきさんのことだから、
 私の提案にも少しも疑問を持つことなく賛成してくれると思っていたけれど、
 やはりこうして実行に移してみると少しは緊張するもので、
 私はまず、計画の第一歩を踏み出せたことに安堵するとともに、
 これから始まる戦いに向けて、体が少し強張っていくのを感じた。
「いよいよっスね……岩崎さん」
「うん……きっと、大丈夫」
 私は自分に言い聞かせるようにして呟き、お風呂の用意を持って、みゆきさんの部屋を後にした。


「昔のよう、とは言っても、やはり今では少し恥ずかしいですね」
 と、タオルで前を隠しながらみゆきさんははにかむようにして笑った。
 小さい頃、みゆきさんとはよく一緒にお風呂に入ったものだけれど、
 そのときは全く気にすることのなかったみゆきさんのバストは、
 タオルに隠れていてもしっかりと自己主張している。
 もちろん、みゆきさんがお風呂に入るときにタオルを使うことは、最初から予想していた。
 事前に神さまとした打ち合わせによると、@の「相手のバストを実際に見る」という条件は、
 やはり包み隠さず全部見なければいけないらしい。
 しかし、体を洗うときは嫌でもタオルを外さなければならないので、
 この条件に関しては私はほとんど心配していなかった。
436ばすとはんたー・みなみ (7/15):2008/01/14(月) 05:06:16 ID:20HBRPZO
 そしてBの条件が最も難関であることは言うまでもないのだけれど、
 Aの「相手にバストについて質問し、相手がそれに答える」という条件も、意外に難しいものだった。
 ただ質問して、みゆきさんが答えるのは簡単なのだけれど、肝心なのは質問の内容で、
 バストに関する質問となると、どうしても生々しい質問になってしまい、
 口にする恥ずかしさと、質問のタイミングがネックになってくる。
 内容も幾つか考えたのだけれど、これといった良いものは出てきてくれず、
 仕方がないので「バストのサイズ」についてという、シンプルなものを今のところ用意しているけれど、
 ただ、この質問の場合、みゆきさんがはっきりと答えてくれるかどうかが微妙なラインで、
 神さまによると、相手からの答えの内容ははっきりとしたものでないといけないらしく、
 分からない、などといった答えはノーカウントになるそうだ。
 けれど「大体〜くらい」という風ならOKらしく、
 この条件のクリアには少々運が絡んでいると言ってもいいかもしれない。

 そしてクリアの順番に関しては順不同で、
 @〜Bのうち、どれか一つをクリアした地点から、Cの条件のいうところの一時間が始まるらしく、
 お風呂に一時間も入っているかどうかは分からないけれど、
 Cの「@〜Bまでを1時間以内に行う」という条件に関しては、
 それほど心配しなくてもいいように思えた。

 しかし、さっきも言ったとおり、Bの「自分のバストと相手のバストを直に合わせる」という
 条件が一番難しいのにも関わらず、私は未だ、この鬼門を突破する手段を考え付いてはいない。
 寝ている隙に、というのも考えたけれど、その方法はあまりにもリスキーで、
 第一、みゆきさんが寝付くまで待っていなければならず、
 その前にAの条件もクリアしていないといけないので、
 やはりお風呂のときに全てクリアしてしまうほうがいいように思えた。
 けれど、一体どうやって「胸と胸を合わせる」という不自然な行為を、
 違和感のないように実行すればいいのだろう。いくら考えても、全く良い案は浮かびそうになかった。
 どうしよう、一体、嗚呼、神さまでも居ればいいのに……(横に居るけれど、何もしてくれないし……)


「大丈夫ですか、みなみさん?」
 というみゆきさんの声で、私ははっと現実に引き戻された。
 みゆきさんは少し癖のあるピンクの綺麗な髪を流し終えていて、
 どうやら私は、みゆきさんが髪を洗っている間ずっと吸収のことを考えていたようだ。
 こうしている間にもどんどんお風呂の時間はなくなっているというのに、
 このままでは一つの条件もクリアできないまま終わってしまいそうだった。
「みなみさん、お風呂に入ってからずっと黙ったままでいらしたので……
 もしかして、のぼせてしまいましたか……?」
「い、いえ……大丈夫です……」
「それなら良いのですが……」
 駄目です、みゆきさん……あまり優しくされると、決心が鈍ってしまいます。
 今までの分……今までの分……返してもらうだけ……よしっ。
「はぁー、私も帰ったらゆーっくりとお風呂に入りたいっスね」
 神さまの声は無視して、自分のすべきことを考えないと……。
「あ……みゆきさん、その……背中、流してもいいですか……?」
 まずはみゆきさんに近づこう。そうすれば、自ずと@やBのクリアに繋がるはず。
437ばすとはんたー・みなみ (8/15):2008/01/14(月) 05:06:56 ID:20HBRPZO
「あら、よろしいのですか? ふふっ、では、お願い致しますね、みなみさん」
 私はみゆきさんの声に従い、浴槽からあがり、小さな座椅子を持ってみゆきさんの背中側に腰掛けた。
 この座椅子は私達がまだ小さいとき、こうして体を洗いあったりするときによく使っていたもので、
 私はそのときの光景を思い出して少し懐かしい気持ちになった。
 尚、みゆきさんは背中にかかっていた髪を片方にまとめて前に垂らしていたので、
 バストが丁度髪の毛で隠される形になってしまい、残念ながら私が@の条件を満たすことは難しそうだった。

「痛く……ないですか?」
「はい、とても気持ちがいいですよ、みなみさん」
 みゆきさんから受け取ったタオルを手に、綺麗な色白の背中を傷つけないように丁寧に泡立てて滑らせていく。
 なんてことのない動作なのだけれど、光るようなその美しい肌を見ると、
 まるでレコードに針を乗せるときのように、なんだか慎重になってしまう。
 タオルを持っていないほうの手でつつ、となぞってみると、
 まるで雪でもさわっているかのようにさらさらとしていて、もしみゆきさんの名前を漢字にするとしたら、
 美しい雪、と当てるのが一番相応しいのかもしれないな、と私はふと考えた。
 そのうちみゆきさんが、
「あ、あの……く、くすぐったいです、みなみさん……」
 と、肩をすこし震わせながら言ったので、私は慌てて撫でていた手を引っ込めた。

「ありがとうございました、みなみさん。
 では、今度は私が流させていただきますね」
 そう言うとみゆきさんは座椅子を持って私の後ろに回り、そっと腰掛け、
 私から泡のついたタイルを受け取った。
「こうしていると、やはり小さいころを思い出しますね」
 優しく私の背中を撫でながら、みゆきさんは続けた。
「あの頃はみなみさんが私を姉のように慕ってくださっていたので、
 私も可愛らしい妹が出来たみたいで嬉しかったんですよ。
 けれど、みなみさんは少し恥ずかしがり屋な方でしたので、
 私以外の方に人見知りをしてしまっていないかどうか、心配でもあったんです。
 ですが……そんなことは取り越し苦労だったようですね」
 みゆきさんは小さくふふ、と微笑って、
「最近のみなみさんは、よく笑われるようになりました。
 特に先ほど、私の部屋でお友達の小早川さんや田村さん、パトリシアさん達の話をしていたときのみなみさんは、
 それはもう楽しそうに笑っていらして、みなみさんがとても優しいご友人に囲まれ、
 楽しい学校生活を送っていらっしゃることが伝わってきました。
 私はそんなみなみさんを見ることができて、とても嬉しく思うんですよ」

 みゆきさんは動かしていた手を止め、鏡越しににこりと私に向かって微笑んだ。
 私もみゆきさんの笑顔につられるように、自然にみゆきさんに向かって微笑んでいた。
 それから二人で体の残りの部分を洗い、シャワーで流し合いをしてから一緒に浴槽に浸かった。
438ばすとはんたー・みなみ (9/15):2008/01/14(月) 05:07:40 ID:20HBRPZO
「温かいですね、みなみさん」
「はい……とても……」
 二人で入るお風呂は一人のときよりも少し温かい気がした。
 なにもかもを忘れてしまいそうなほど安心できるひと時。
 なんだかこのまま眠ってしまいそうだ。
 そういえば、なにか大切なことを忘れているような……。
「あのー、岩崎さん……? 吸収のこと……忘れてないっスよね?」

 吸収……? 外部にあるものを内部に吸いとること……?
 それよりもこの小さな人は一体誰……?
 ……ああ、思い出した、確か吸収の神様だった。
 それで彼女は吸収って言ってたみたい……。
 そしてさらに思い出したことは、私は今吸収のためにみゆきさんのおうちに来てて、
 今はその作戦の真っ最中ということ。
 私はこのお風呂の間に課せられた条件をクリアしなくちゃいなくて……
 ああ、よかった、全部思い出すことが出来た。
 思い出すことができたということは、つまり、
 私は今の今まで、吸収のことをすっかり、

「忘れていた……」
「どうかしたんですか、みなみさん?」
「い、いえ、なんでもありません……」
 本当はすごく大事なことだけれど……というかみゆきさん、あなたが原因です。
 みゆきさんといると優しさに包まれて、つい幸せな心地になってしまうから……。
「なんだか良さげな雰囲気だったから声をかけずにいたんスけど……
 それよりもどうするんスか!? 気付けばもうお風呂は終わりみたいな感じじゃないっスか!
 条件も一つもクリア出来てないみたいっスし……」
 そう、私は結局条件@すらクリアすることが出来なかった。
 条件をクリアしたら神様が二つの触角でそれをビビッと感知するらしいので、
 彼女がまだそれを感知していないということは、やはり駄目ということらしかった。
 おそらく何度かは目に入っていたのかもしれないけれど、
 はっきりと「見た」という認識が無ければクリアしたことにならないということなのだろう。
 こうやって思案している間にも、段々とタイムリミットはやってきている。
 一体どうすればいいのだろう。
 水面に口を近づけて息を吹いてみる。ぶくぶくぶく。
「何遊んでるんスか岩崎さん!」
 人間、焦ると本当にどうしていいか分からないというのは本当のようだった。
 私は顔を上げ、みゆきさんのほうを見た。
 とりあえず、条件を一つでもクリアしなければ……

「あの……みゆきさんのバストは、どのくらいなのでしょうか……」
 あまりに不自然すぎるタイミングで、あまりに不自然すぎる内容の質問。
 しかし今私はそんなことに気を使う余裕はなかった。
 とりあえず一つでも多くのクリアを。ただそれだけしか頭に無かった。
「ば、バスト……ですか? どのくらい、と申しますと……サイズをお答えすればよろしいのでしょうか……」
 突然の質問に、さすがのみゆきさんも目をきょろきょろとさせ、慌てているようだった。
 私はみゆきさんの顔を見つめたまま、首を一度だけ縦に動かした。
「その……あまりはっきりとはお答えしにくいのですが……ええと……ごにょごにょ」
「!!」
 みゆきさんに耳打ちされて聞いた数値は、私の想像を上回るものだった。
 私のサイズで一番近いゾロ目なんかとは比べ物にならないくらいのゾロ目……。
 なんだか溜息が出てしまう。はぁ……。
439ばすとはんたー・みなみ (10/15):2008/01/14(月) 05:09:10 ID:20HBRPZO
「きたきたぁっス! Aの条件クリアっスよ!!」
 私がみゆきさんからバストのサイズを聞いたのと同時に、神様の触角がビビッと反応し、
 彼女の体が一瞬輝きに包まれた。今神様は私の横で楽しそうに踊っている。よし、この調子。
 しかしこの調子、とは言っても、一体これからどうすればいいのだろう。
 まずは@のバストを実際に見る、からクリアすべきだろうか。
 でもさっきみたいにいきなり「バストを見せてください」なんてことは言えないし、
 いや、もう勢いで言ってしまったほうが……?
 みゆきさんなら戸惑いはするだろうけれど、多分見せてくれるだろうし……。
 でも、やっぱりそんな強引な手段は使いたくないから、横目でみることにしよう。
 ……
 …………
 駄目。波が立ってて上手く見ることが出来ない……。
「あの……どうされたのでしょう、みなみさん。先ほどから様子が変なようですが……」
「あ、いえ……なんでもありませんから……」
 私はまたみゆきさんに心配されてしまった。
 そんなに挙動不審になっているのかなと、少し恥ずかしくなる。
「やはり、具合が悪いのではないですか?
 無理をしてはいけません、やはり、もう出ましょう、みなみさん」
 みゆきさんはざばぁとお湯を波立たせて湯船から出て、
 私の方に振り返って少し屈み、私の手を取った。
「えっ……あっ……」
 みゆきさんがそんな体勢になるものだから、私は間近でばっちりと二つのそれを見てしまったわけで……
「おおっ! またきたぁっス!! この調子で最後までいっちゃいましょう、岩崎さん!」
 予期せぬところで私は条件をもう一つクリアすることとなってしまった。
 それにしても……本当に二つ歳が離れているだけなの……?
 と、私は少し泣きたい気持ちになった。
 そんな私とは対照的に、神様はまた手と足を動かして楽しそうだ。なんだか可愛らしい。

「立てますか? みなみさん」
 みゆきさんは誤解をしたまま、私の目をまっすぐに見つめている。
「え、あの、違うんです、本当に……」
「みなみさんは優しい方ですから、私に心配を掛けまいとしてくださっているのですね。
 でも今はお体のほうが大切です。どうか、無理をなさらないでください」

 みゆきさんの大きな瞳に移った自分の姿を見て、私はふと今日あったことを思い返していた。
 玄関でのお出迎え、みゆきさんの部屋、食事の時間、そしてお風呂……
 いつもそこには、昔と変わらない優しいみゆきさんが居た。
 いつでもこうして私を優しく見つめていてくれていて、
 柔らかな笑顔と、温かな包容力で、私を守ってくれていた。
 あなたは……本当に素敵な方ですね。
 私は自分が情けないです。
 そんなあなたを騙して、バストを奪おうとしていたんですから。
 やっぱり、こんなこと……いけませんよね。

「はい、すみません……みゆきさん」
 私はみゆきさんに手を取られながら、静かに立ち上がった。
「で、出ちゃうんスか、岩崎さん! せっかくここまで来れたのにっ!」
 そう神様は言うけれど、みゆきさんのあの目を見てしまっては、
 たとえ百戦練磨の武士といえど、一秒で戦意を失ってしまうだろう。
 私は神様のほうを見て、こくりと頷いた。
「岩崎さん……それが岩崎さんの選んだ道なんスね……。
 もう私は何も言わないっス! 岩崎さんは頑張ったっス、感動をありがとうっス!!」
 神様は目の辺りに腕を当て、涙を拭う仕草をしている。
 私こそすみませんでした、神様。結局お仕事、させてあげられませんでしたね。
440ばすとはんたー・みなみ (11/15):2008/01/14(月) 05:10:16 ID:20HBRPZO
 私は足を浴槽の外に出し、みゆきさんとお風呂場の入り口に向かった。
 けれど、みゆきさんがドアの持ち手に手をかけたのと同じくらいに、
 どういうことか私の視界がぐらりと揺らぎ、ぼうっとした感覚に襲われた。
 まさか、お風呂の中でいろいろ考えてるうちに本当にのぼせてしまった……?
「みゆきさん……」
「大丈夫ですか、みなみさん!」
 私は体を支えてもらおうと、みゆきさんを呼び止め、ふらつく足でみゆきさんに近づいた。
「すみません、みゆきさ……あっ!」
「!!」
 しかし、突然の歪みに対応しきれない私は体をうまくコントロールすることが出来ず、
 思い切りみゆきさんに飛びついてしまい、ふわり、と体に柔らかいみゆきさんの感触が伝わってきた。
 最後の最後で本当に心配をかけてしまったな、と申し訳ない気持ちだったけれど、
 めまいが治まるまでの少しの間、私はずっとみゆきさんに抱きついていた。
 けれど、胸に感じるこのふわふわとした感じ、これってまさか……?
「うおーーっ! きたぁーーっ!!」
 と、神様が叫んだのを聞いて、私は全てを確信した。
 みゆきさんに倒れ掛かってしまったことにより、
 私は偶然にも、Bの「自分のバストと相手のバストを直に合わせる」という条件をクリアしてしまったのだ。 

「全ての条件クリアっス! さすがっスね岩崎さん!!
 いやー、すっかり騙されたっスよ。神をも欺くとは、見事としかいいようがないっス」
 と、神様は私の顔の横で嬉しそうにしている。
 クリアできたのは全くの偶然で、騙すつもりなんてこれっぽっちもなかったと私は弁解したかったけれど、
 みゆきさんが居る手前、声を出すことができないのがとてももどかしい。
 なので首を横にふるふると震わせてみるけれど、神様は私が条件をクリアしたことがよほど嬉しかったのか、
 そんなことには気付いてもくれなかった。
「派手な演出とか全くなくて申し訳ないんスけど、もう吸収は終わってるんで、
 あとは一晩眠れば明日の朝にはもう効果が出ているはずっス。よかったっスね、岩崎さん」
 そう神様は言ってくれるのだけれど、もう私には吸収する気はなかったわけで、
 結果的には嬉しいことが起こるのかもしれないけれど、私はとても複雑な心境だった。

「あ……すみません、みゆきさん……」
 私は長い間みゆきさんに抱きついていたことに気付き、
 めまいももう治まっていたこともあってみゆきさんから離れた。
「あの、みゆきさん……?」
 けれどみゆきさんは上の空、といった具合に遠いところを見つめていて、
 私が呼びかけてもしばらくは何も反応してくれなかった。
「はっ……す、すみません、みなみさん。お体の調子はよろしいですか?」
「はい、もう大丈夫です。それより、みゆきさんこそ、大丈夫ですか……?」
「え、ええ、何でもありません。では、もう出ましょうか、みなみさん」
 私は本当にどうしたのかな、と思ったけれど、みゆきさんが大丈夫というのでそれほど気にも留めず、
 私達がお風呂から出て体を拭き終わる頃には、そのことをすっかり忘れてしまっていた。


「おやすみなさい、みゆきさん」
「は、はい、おやすみなさい、みなみさん」
 お風呂から出た後、少しだけおしゃべりをして、私は客間へと向かい、
 用意されていたベッドに体を潜り込ませた。
441ばすとはんたー・みなみ (12/15):2008/01/14(月) 05:11:00 ID:20HBRPZO
 目を閉じてから少しした後、私は自分の居る部屋のドアが開く音と、
 それからこちらに向かって近づいてくる足音を聞いた。
 誰かな、と思って目を開けると、最初は暗くて分からなかったけれど、
 みゆきさんのようだったので、
「みゆきさん……?」
 と聞いたのだけれど、そのみゆきさんらしい人は何も答えずに私のベッドの中に潜りこんできた。
 私は少し不安になったけれど、やがて目の前に、
 私に覆いかぶさるようにしてみゆきさんの顔が現れたので、その不安もすぐに消えてしまった。
 みゆきさんは相変わらず何も言わずに、いつもの柔和な表情とは違う真剣な眼差しで私を見つめていた。
「みゆきさん、どうしたんです……」
 そして私はみゆきさんに質問し終わる前に、みゆきさんの唇にで口を塞がれた。
 バストと同じくらい柔らかいみゆきさんの唇……って、
「み、みゆきさんっ!?」

 私は驚いて、みゆきさんの肩を持って唇を引き離した。
 今、私は確かにみゆきさんにキスされた。でも、一体何故、どういうわけなのか、全く分からない。
 パニック状態になる私に、みゆきさんは、
「今日……ずっとみなみさんの熱い視線を感じていました。
 とくにお風呂場では、私のバストを食い入るように見つめていましたね」
 確かに今日は吸収のこともあって、みゆきさんを意識して見つめるときが多かったかもしれないけれど……
 というか、まさか、この展開は……?
「さらにあのような質問、そして最後の情熱的な抱擁……。
 私はみなみさんの、本当の気持ちに気付いてしまいました。みなみさんは……私の体に大変な興味がおありのようですね」
「!!?」
 私は必死に顔を横に振った。
 勘違いをしている。みゆきさんはものすごい勘違いをしている。
 私はお風呂でみゆきさんに抱きついてしまったときのことを思い出した。
 そういえばあの時、何か様子がおかしかったような気がしたけれど、
 まさかあの時、私がみゆきさんの変なスイッチを入れてしまった――!?

「うふふ、恥ずかしがらなくてもいいんですよ。
 今日は私がたっぷりとみなみさんに、私のことを教えてさしあげますからね」
 と、みゆきさんはにこりと笑った。
 その笑顔には逆らえないような、絶対的な何かが込められていると感じた。
 もう、私はこのままみゆきさんの餌食になるしかなさそうだった。
 さっき、昔と変わらないなんて思いましたけど、あなたは随分と変わってしまったんですね。
 私は藁にもすがる思いで神様のほうを見ると、神様はうずくまって体を小さく震わせ、
 二つの触角を動かしながら、体をキラキラと輝かせていた。
 ということはつまり……
「おおおおっ!! き、来てるス! 最高の反応っス!! 
 私の触角が、今岩崎さんがみゆきさんと体を重ねれば、超ド級の吸収が出来ると告げているっス!!
 この機を逃す手はないっス、岩崎さん! やっちゃって下さいっスーーーー!!!!」
 なんということなのだろう。
 神のお告げは、私にこのままみゆきさんに食べられてしまうことを望んでいるようだった。
「ふふ、ふふふ……」
 自然と笑い声が、口から漏れた。
 こうなったら、いけるとこまでいってしまおう。
 みゆきさんの全てを吸収するつもりで、受け入れてやるっ……!
「では、最後のお勉強会を始めましょうか、みなみさん……」

 その日の夜、私はみゆきさんのバストの大きさと絶倫ぶりを、身を持って体感した。
442ばすとはんたー・みなみ (13/15):2008/01/14(月) 05:12:08 ID:20HBRPZO
「う……ん……」
 明くる日の日曜日の朝、カーテンの隙間を縫う太陽の光と、囁くすずめ達の声で私は目を覚ました。
 みゆきさんはまだとても幸せそうな顔で眠っている。
 ふらつく足取りで私はみゆきさんの部屋に戻り、頭をぼーっとさせたまま着替えて、荷物をまとめ、
 持ってきたノートに書置きをして、破いて机の上に置いた。
 みゆきさんには悪いけど、今日はこのまま帰らせてもらおう。
 もし今日もう一度みゆきさんと二人きりのときに目が合えば、
 私はみゆきさんにもっとすごいことをされてしまいそうな気がするから……。
「昨日はおじゃま致しました……みゆきさんにもよろしくお伝え下さい……」
「いいのよみなみちゃん。またいつでもいらしてね」
 覇気の無い声でゆかりおばさんに挨拶をして、私は自分の家へと戻った。
 高良家に、壮絶な思い出を残して。

「ふう……」
 私は自室に戻り、ベッドに寝転んだ。
 昨日は本当にいろんなことがあったな、と思い返して、すぐにやめた。
 でも、なんであんなことになったのだろう……?


「そうだ、吸収……!!」


 私はベッドから飛び起きて、鏡の前に立った。 
 そうだ、そうだった。私は吸収のためにみゆきさんの家に行ったんだった。
 そして吸収は大成功。さっきの着替えのときにはぼーっとしてて忘れていたけれど、
 どのくらいになったのか、早く確かめてみないと。
 きっと、夢にまで見た大きなバストが……
「えっ……」
 シャツを脱ぎ、ブラを外すと……そこにはいつも通りの起伏の無い胸が写っていた。
 子供のころから変わることのない、見るのも飽きるほどの胸。
 でも何故? 吸収は成功したはずじゃ……?

 私は動揺し、しばらくして落胆した。夢だったのかと疑いもした。
 しかし破かれたノートや荷物を見ると、やはり夢ではなかったのだと分かった。
 では、最初から神様などいなかったのだろうか。
 私のバストの吸収を手伝ってくれる神様など、最初から存在していなかったのだろうか。
 そう考えると、すべてのつじつまが合う。
 神様は、私があまりにバストにコンプレックスを抱いているために作りだしてしまった、偽りの存在。
 だから他の誰にも見えないし、声も聞こえない。私だけが知覚できる。
 吸収の力なんていうのも全て空想。空想だから、効果も無い。
 想像の条件を満たしても、バストなんて、増えやしないんだ。
 ……そうか、そうだったんだ。全部……「嘘」だったんだ。
「ふふ、ふふふふ……」
 昨日と同じみたいに、自然に笑い声が漏れてくる。
 おかしくて、仕方がない。あれが、全部自分の作った嘘だったなんて。
「あは、あははは……あはははははは……!!」
 乾いた笑いは止まることがなかった。
 頭のネジが飛んでいったみたいに、私はしばらく笑い続けた。
443ばすとはんたー・みなみ (14/15):2008/01/14(月) 05:16:33 ID:20HBRPZO
「あ、あの〜……岩崎さん……」
「あははは……えっ?」
 突然、頭の中に響くような聞き覚えのある声がして、私の笑いは止められた。
「神様……?」
「そうっス、夢とか空想とかじゃなく、れっきとした、実在する神っス」
 目の前の彼女は、神と名乗った。
 彼女は机の上のペンを持ち、置いてあったノートに文字を書いた。
 ノートには確かに私のではない字で「ごめんなさい」と書かれている。
 やはり、神様はちゃんと実在するようだ。
 私はひどく安心した。よかった、嘘じゃなかったんだ。
 でも、「ごめんなさい」って、一体……?
 神様は、何だかすごく申し訳なさそうな顔をしている。

「あの……バスト、見たんスよね……」
 そう、そういえば神様が本当に存在するということは、吸収の条件の話も本当だということで、
 それが成功したにも関わらず私のバストはそのままなのには、何か理由がないとおかしくなる。
「うん……そのまま、だった……」
「す、すみませんっス!!」
 神様は机の上に乗って、土下座した。
「どういうこと……?」
「実は、条件のクリアまでは大成功だったんスけど……。問題は……その後のことでして……」
「その後……?」
 というと、
「はい……みゆきさんとの……えーと、『お勉強会』のことっス……」

 瞬間、フラッシュバック。

「い、岩崎さん? 大丈夫っスか?」
「う、うん」
「えと、そのときに私の触角の反応通り、超ド級の吸収に成功したんスけど……。
 それが、私の想像を遥かに超えるほどの吸収量でして……」
「それで……?」
「吸収されたものは一旦情報になって私を経由して岩崎さんに届くんスけど、
 その……それがあの時は私のキャパシティを超えてしまったというか……なんというか……
 つまり、私が処理できないほどのデータが一気に流れ込んできてしまったというわけでして……」
「それで?」
「行き場を無くした想定外の膨大な量のデータは、
 今まで蓄積してきたものを吹き飛ばして逆流させてしまうほどの、ものすごい『爆発』を引き起こしたんス……。
 い、岩崎さん……目が……」
「そ れ で ?」
「ひっ……あの、その、つまり、全部パーになったというか、おじゃんになったというか、
 私も全然予測できない初めての事態でして、私が未熟なばっかりに、申し訳ないっス、ホントに、
 あの、またご縁があったらお仕事させていただきますんで、さような……ひいっ!」
「……逃がさない」
 私は飛んでいこうとする神様の足を持って、彼女を引き止めた。
444ばすとはんたー・みなみ (15/15):2008/01/14(月) 05:17:39 ID:20HBRPZO
「あなたのせいで、私とみゆきさんの関係はめちゃくちゃ」
「あ、あの……本当に、ももも、もうしわけなななな……」
「神様は、怪我とかしても全然平気……でしたよね?」
「え、そ、そうっスけど……あの、お手柔らかに頼みます……」


 せーの、


「ぺたぺたぺたぺたぺたぺたぺたぺたぺたぺたぺたぺたぺたぺたぺたぺたぺた
 ぺたぺたぺたぺたぺたぺたぺたぺたぺたぺたぺたぺたぺたぺたぺたぺたぺた
 ぺたぺたぺたぺたぺたぺたぺたぺたぺたぺたぺたぺたぺたぺたぺたぺたぺた
 ぺたぺたぺたぺたぺたぺたぺたぺたぺたぺたぺたぺたぺたぺたぺたぺたぺた
 ぺたぺたぺたぺたぺた YURYYYYYYYYYYYYYYYY!!!!
 ぺたぺたぺたぺたぺたぺたぺたぺたぺたぺたぺたぺたぺたぺたぺたぺたぺた
 ぺたぺたぺたぺたぺたぺたぺたぺたぺたぺたぺたぺたぺたぺたぺたぺたぺたぺたぺたァ!!!!」

「ヤッダーバァアァァァァアアアアア」



 私の「ぺたぺたラッシュ」を受けて、神様は壁をすり抜け、ゴミ収集車に飛んでいった……ような気がした。
 今日は早く寝よう……なんだかとても、疲れたから……。


 次の日、電車の中でみゆきさんからの熱い視線を感じながら、
 もう二度と吸収説なんて信じないと、私は心に決めたのだった。








 
「みなみちゃん、おはよう!」
「おはよう、ゆたか」
「あ、おはよう、岩崎さん」
「…………」
「ん、どうしたの、岩崎さん」
「……神様の、バカ」スタスタ
「い、岩崎さん!?」
「田村さん、みなみちゃんと何かあったの?」
「ううん、何にもないはずなんだけど……(ま、まさか同人誌を見られた!?
 それで、内容には満足だから私を神だと思っているけれど、バストが小さめだったから怒ってる、とか……?)
 い、岩崎さん、ちょっと待って! 今度はもっとバスト大きめに描くから〜!!」
4459-727:2008/01/14(月) 05:21:41 ID:20HBRPZO
これで終わりです。みなみちゃん理不尽すぎ!
書き終えた感想としては、わけのわからない作品を作ってしまったなぁと(笑)
最初はギャグ路線でいこうと思ったのに途中で義姉妹愛的な話になって……
みゆきさんがキャラ崩壊して結局あんなオチになってしまいました。
そして保管庫をチェックしてみたら12-482氏の
「攻めのみゆき、受けのみなみ」という作品とみゆきさんのキャラが少しかぶってて、
13話のアニメ店長よろしく「あーーーーーーーーー!!!」って感じでした。
あと「あれ?これゴッドさんともかぶってね…?」とも書いてて思いました。
でも反省はしていませ(ry 神様ひよりんは書いてて楽しかったです。
読んでくださった方、ありがとうございました。