間を取りたい。
見つめたまんまってのも何か気恥ずかしいです。
しかし煙草を吸うのも良くないし、困った困った。
これが所謂手持ち無沙汰って奴か。
いなり寿司を食べ終えた彼女は、口周りをぺろりと舐めた。
その辺で調達したつまらない物の割には美味しかったようだ。
そしてお茶を手に取る。
「……?」
彼女は俺を見た。どうやって飲むの? と訊かんばかりに。
段々と硬質でクールなイメージが崩れていく。
俺は蓋を開けて見せ、そして一旦締めて飲む真似をした。
彼女は受け取ると、同じように蓋を開けて口を近づけた。
そして、恐る恐るが功を奏したのか、溢すこともなく飲み始める。
一体何なんだかさっぱり分からん。
人間にしちゃ世間ズレが激し過ぎるよなあ……。
しかも、こんな場所に連れて来て一体何を――。
「!?」
その時、目の前に壮観とも言うべき光景が広がった。
どん――と大きな音と共に、空一面に広がる色鮮やかな花火。
…なるほど、これを見せたかったのか。
隣で彼女も花火を見ていた。だがやはり無表情だった。
俺も黙って、花火を見ることにした。
話しかけるのは野暮だ。この際、もう深く考えるめえ。
「……」
しかし、文字通り穴場だなここは。
こんなに静かな場所で、花火を見たのは初めてだ。
火が螺旋を描いたり、色を変えたりしながら、濃紺の空を賑わせる。
ガキの頃はより大きな花火が見たくて、最初から最後まで釘付けになっていた。
そして今日、場所が近いせいもあるのか、これまでのどんな花火よりも大きく見える。
見ずに帰ろうかと思っていたが、ここに来れて良かった。
休憩を挟んで何百発が上がっただろうか、やがて空に静けさが戻ってきた。
さて、すっかり暗くなった訳だが、ここからどうやって帰ろうか。
と、彼女を見ると再び面を付け直していた。
花火と同じような名残惜しさが残る中、彼女はキツネの顔に戻る。
そうして立ち上がったので、俺もどっこいしょと腰を上げ、周囲のゴミを拾う。
彼女は来た時と同じように俺の手を握ってきた。
そして、来た道を戻る。
大丈夫か? とは思っても、俺は耳なし法一状態で、その手を頼りに歩くだけ。
柔らかくて温かい手が、唯一の道標だ。
キツネに摘まれた、なんてことだけは勘弁。
やがて公園に出た。戻って来られたという訳だ。
人込みが帰って行く中、道外れから出て来た俺と彼女。
目撃されたら、変に思われないかどうか。
と、手を引く彼女が立ち止まる。そして、その手が離れる。
そうか。短い間だったが、これでお別れか。
「改めて、色々とありがとな」
面と向かって言うのは照れ臭いはずだが、”面”相手には意外とそういう気にならない。
相手の顔が見えないからだろうか。
そして面の中は、やっぱり無表情なのかね。
「じゃあ、またな」
”またな”。
流れで出た言葉だが、帰り道々考えてみた。
また会いたい――そう思って口にしたのだろうか。
…やれやれ。良い大人を演じてきたつもりが、綺麗に別れられないもんだな。
俺はまたスーパーに寄り、ビールを一缶買った。
今日はこれを飲んで、ぐっすりと眠ろう。
てか、少し早いが良い夢を見せてもらったと、そう思うことにするか。
……彼女の最後に見た姿が、ふと頭を過ぎる。
俺に背を向け、人込みに紛れて消えてしまった彼女。
その存在の虚ろさ、儚さはキツネが化けたそれだと思っても違和感はないし、寧ろその方が……。
次の日の朝、俺は何気なく公園を散歩していた。
出店はすっかり片付いて、どこか祭の後の寂しさと静けさを感じる。
携帯電話が鳴る。友人からだ。
俺は昨日と同じ、外れのベンチに寄りかかりながら、電話に出た。
「俺だ。昨日はドタキャン悪かったな。辰之丞が蜂に刺されてよ、てんやわんやの大騒ぎだったんだ」
「あいつん家、古屋だからな。スズメバチでも出てくるんじゃないかと思ってたが」
「ご名答。仕方ねーってんであの後、ご近所総出で蜂退治ときたもんだ。そいで俺も手伝わされちまった」
「…ま、おかげ様で面白いもんが見れたんで。それよりお大事に、だな」
「ああ、とりあえず埋め合わせはすっからよ。見舞いってことで、後で辰之丞ん家まで来てくれや」
「OK」
さて、じゃあボチボチ行くか。
「……ん?」
人の気配に振り向くと、そこに少女が立っていた。
見覚えのある綺麗な顔。髪を下ろし、服装もラフだったが、確かに――。
「あのう…」
澄んだ声だった。ん、声? 声が出せる?
「……昨日は、ありがとうございました。狐も、喜んでいます」
「え、ちょっと…訳が分からない」
「あ、ごめんなさい。座って、話をしますね」
そして、あのキツネの面がどこにもない。
彼女の口から、全て説明された。
平たく言う。信じられないことに彼女は昨日、狐憑きに遭っていたのだという。
つまり俺は結局、心霊現象に遭遇していたことになる。
悪い意味で納得がいった。しかし、真相は意外なものだった。
彼女は自らそのキツネに、体を貸していた。
「お母さんの命日だけ――って約束なんです」
そしてそれが知り合いに悟られぬよう、キツネの面を被っていたと。
「でも、何でキツネさんは俺に興味なんて持ったんだ?」
「あ、えと……優しそうだったから、って」
何故に顔を真っ赤にして俯かれにゃならんのでしょうか?
「とても嬉しかったから、あの場所に連れて行った、って。私以外には、初めてでした」
「そうか。何か、嬉しいな」
「あの、私にも何となく、記憶が残るんです。喋ったりは出来ないですけど……それで、私――」
どうしてそんな瞳で、俺を見つめるの? 畜生、ドキドキする。
「……その、狐が、また来年会いたい、って……それまで、私……」
そうか、キツネを通して彼女は俺を見て、そして好意を持ってくれたのか。
「……ありがとな。俺で良ければ、これから――」
彼女の表情が、パッと明るくなった。
そして握り締めてくる、その柔らかな手を…俺は正直に受け止めた。
”また”会えた。そして”また”会う為に――来年の花火大会まで、長い付き合いになりそうだ。
おしまい
226 :
名無しさん@ピンキー:2009/06/26(金) 08:10:42 ID:Qc4tBoHV
素晴らしい
ヤバい良い話だ
暑い季節の一時の凉を得るような
お盆とかお彼岸の暑い夕方とかに読みたくなるような不思議な余韻のある話だった
幽玄の雰囲気を持つ浴衣少女が陽の光の下で制服姿を見せるっていうのも切なさが緩和されて良い
くそ今日は朝から陵辱モノのエロゲーを買いに出た俺がべた褒めじゃないか
エロパロ板でこんないい話が読めるとは
ちょw普通に良作なんだがw
若干手直ししてなんかのラノベ系短編賞にだせば良いとこ行くと思いますよ。
エロなしうぜーとか思ってすんません。
229くらいの感想書きになりたい
GJ!
仮に話が続くと、少女と狐との三角関係になるのかね?
上手い
コスチュームを剥ぎ取られながらも「マスクだけは!マスクだけは!」と
必死にマスクを庇い続ける女の子が見たい
保守
岡村?
面白かった
長年抱き続けてた妄想をここまで具現化してるスレが見つかって
感激した。もっとメジャーになりさえすれば・・・
>>233 頭隠して尻隠さずですね
わかりますわかります
238 :
名無しさん@ピンキー:2009/08/05(水) 00:03:59 ID:1QQ1jqPT
保守
ミステリアス
242 :
名無しさん@ピンキー:2009/09/11(金) 22:03:41 ID:U4Hj1iQX
誰かSS書けよーーーーーーーーーーー
続きを期待してるSSを待ち続けて早1年か…
マジお願いします職人様orz
保守
俺も1年以上待っているが、
他スレの作品ではwktkしながら4年以上待っている。
246 :
名無しさん@ピンキー:2009/09/29(火) 12:08:13 ID:1HFlKjXs
247 :
名無しさん@ピンキー:2009/10/03(土) 14:31:09 ID:aP5X+1UT
ほしゅ
保守
なに?
253 :
名無しさん@ピンキー:2009/11/22(日) 03:57:55 ID:gFbDvVkB
捕手
色々書きたいが時間がない…
>>254 亀ですが、概要だけでも書いて頂けると妄想を膨らませられるのでお願いしたいところです。
仮面以外全裸の露出狂とかもこのスレ的におk?
257 :
名無しさん@ピンキー:2009/12/28(月) 02:30:17 ID:hxcJsmhF
全然OK
レザーの全頭マスクと目元だけの仮面ではどっちが人気だろう?
前者は変態度の高い熟女だけど後者はセレブでむしろSっぽいイメージだ。
極度のフェチ的には前者
あと基本的に素顔は若い美女で
そんな俺はファンタジーなフルフェイス兜娘フェチです
変態〜
ついつい仮面以上の要素も求めてしまうな
スイムゴーグルなら競泳用水着
ピンクのホッケーマスクならツインテールで制服とか
女側視点なSSも見たいものだ。
相手は自分を見ているのか、それとも・・・・?という葛藤なんかが感じられる攻めがいい。
誰もが羨む美女が恥ずかしくて近寄れない想い人のもとに顔隠して押しかけて痴女行為に走るとか。
相手の男は当人を知らないか、知っていても雲の上と見ていたりとか。
襲い受けというのはアリだろう
顔を隠している以上それを補って余りある外見的特徴を求めてしまう。
つまり爆乳とか
思うにナイチチとパッドや幻術、魔法等で誤魔化すのも正体を隠しているといえるのではないだろうか。
逆にサラシとかで巨乳を隠すのもしかり。
貧乳仮面ヒロインだっているだろうと思ったが考えてみると心当たりがないな
このスレでも結構派閥が分かれてるもんだなぁw
てか仮面オンリーでなく、正体を隠してる要素まで扱うスレでもあるのかね?
仮面関係なら、顔全体(ガスマスク、女聖闘士)・目元のみ(ポワトリン)・口元のみ(ガーゼマスク、くノ一系)の3つに、
覆面(けっこう仮面、キャットウーマン)、ヘルメット(特撮ヒロイン、騎士)が付属して、
更にナイスバディか、男装要素有りかでも分かれてる感じかな?
あと女聖闘士みたいに目元が透けてないかどうかも好みが分かれるだろうね。
個人的に、素顔が見れたときの楽しみが増すので、透けてない方が好きだなぁ。
完全に顔が見えない状態のほうがエロいと思います 反論は聞くだけ聞く
271 :
名無しさん@ピンキー:2010/02/21(日) 21:35:40 ID:T/uydym3
反論はありません
仮面キャラが素顔さらしたとたん一気に素顔の絵ばかり増える現象に萎えます。
>>272 素顔をさらす場合、『仮面が割れる』描写が多いからなぁ。
さすがに、割れてしまったらもう代わりのマスクは持ってないだろうし。
仮面をつける理由が、正体を隠すためだったら、ばれてしまったらもう必要ないけど、
恥ずかしいから仮面で顔を隠す女の子の場合、割れた仮面の代わりに何かで代用しようとするのがおもしろいかも。
鉄仮面が砕けてしまって、代わりにスーパーの紙袋をかぶって代用とか。