らき☆すたの女の子でエロパロ26

このエントリーをはてなブックマークに追加
354彼方まで愛を込めて……
――――彼方まで愛を込めて――――

 そう君、今日はあなたの誕生日。
 あなたがいなくなってから今年で17回目の、誕生日。
 出会ってから数えるともう、何回目になるのかしら?
 赤ん坊だったこなたも、もう18になったのよ?
 時の流れは早いよね。
 あなたにも見せてあげたいな、私達の大事な娘の姿を……。

 ずっと小説家になることだけを志して必死に生きていた、そう君。私の大事な旦那様。
 私は時に優しく、時に厳しくあの人を守ってきたつもりだ。
 だけど、貧困な生活はそれなりに長く、食生活の貧しさからか、知らないうちに、そう君の身体は病に侵されていた。
 19年前。大きな賞を貰って、出版が決まった。あの時のそう君のはしゃぎかたったらなかったよね?
 もう、本当に小さな子供みたいに飛び跳ねて。ふふふ、私も一緒になって飛び跳ねたんだけどね。
 その年の内に私は赤ちゃんを授かって、何もかもが上手くいくと思ってた。
 けれど、そう君の身体を蝕んでいた病魔は、私達の幸福を奪い去っていく。
 それでも、そう君は必死になって小説を書いていた。

「俺は小説家だ。小説には印税ってのがある。お前達に迷惑をかけないためにも、
俺は腕を動かすことが出来なくなるまで、何本でも書き続ける」

 春になって、柔らかな風と共にこなたはやってきた。
 名前は、私の名前「かなた」と対を成すようにって、そう君が決めたんだよね。
 同じ総合病院で家族そろって一緒に入院なんて、笑い話にもならないよね?
 だけど、それはそれでよかったのかもしれない。
 そう君は自分の病室を抜け出して、私とこなたを毎日、抱きしめてくれた。
 それからすぐに私とこなたは退院して、今度は私達二人がそう君を抱きしめるため、毎日病院へと通った。

 家族三人が共に過ごしたのはそれからたったの1年間だけ。

 こなたの身体の調子が悪いとき以外は必ず、お見舞いに行った。
 辛くって、悲しくってどうしようもなかったけど、少しでもあなたと一緒にいたかったから。

 春になってすぐに、そう君は還らぬ人となった。
 お医者様の見立てでは予想されていた死期よりも1年以上存えたのだと言う。
 ずっと分かっていたことだから、泣かないと思ってた。
 覚悟していたから、泣かないように我慢した。

 私達は、ほぼ駆け落ち同然でここまで来たよね。
 私の両親はそう君の事を毛嫌いしていたから、とても話をする気にはなれなかった。
 けれど、そう君は知らないうちに田舎のご両親に連絡を取ってくれていたらしく、その日の内にお義父さんが病院にやってきた。
 お義父さんは何度も私に頭を下げて謝ってくれる。でも、別にお義父さんが悪いわけじゃない。不幸な女とも思われたくない。
 少なくとも私にとって、そう君と過ごした時間はとても幸せだったよ。

 その後、通夜や葬儀の話、今後の話。それから、実際の通夜とか、親戚への挨拶とか……。
 正直、その辺は覚えてないのよね。ずっと、コップいっぱいに注いだ水のように、いつ零れてしまうかも分からない、そんな状態だったから……。 
355彼方まで愛を込めて…… :2007/12/08(土) 03:05:04 ID:wA5DfUwr
 全てが終わって、何日かぶりに我が家へ帰った日のこと。
 そこは、そう君との思い出がいっぱい染みこんでいて……。
 ついにコップの水は溢れ出してしまった。
 疲労や不安、そして悲しさや悔しさが綯い交ぜになって溢れてきたよ。
 私は泣いた。一晩中、泣いた。こなたもつられて泣いた。
 泣いてるこなたを抱きしめて、涙を流すことを止めた夜。
 翌朝、気がつくと、こなたは私の頭を優しく撫でてくれていた。
 私はそう君のためにも、きっとこの子を立派に育ててみせる。そう強く誓った。



 生活自体はそう君のおかげで安定していたよ。そう君の出版したいくつかの小説の印税が主な収入源。
 それに私のパートのお給料を足せば、こなたと二人、なんとか暮らしていけた。

 そう君は二人で実家に戻れって言ってたよね?
 だから、怒られちゃうかもしれないけど、その時の私は誰にも頼りたくないと思ってたの。
 天国で私達を見守ってくれてるはずのそう君に心配をかけたくなくて、一番不安な方法をとってしまった。
 バカだね、私。

 それから私は、アパートと保育園とパート先を行ったり来たりする日々がずっと続いた。
 こなたはそう君によく似て、なんにでも興味を示す、好奇心旺盛な子だったの。
 保育園の帰り道には、その日の出来事を一生懸命に話してくれるあの子が微笑ましくて、
それを見るだけで、辛さや悲しさはどこかに消えていった。
 そう君譲りの泣き黒子も癒しの一つだったわね。

 数年が経ち、こなたも小学生になった。
 前と比べると、なんとなく笑顔が減った気がしたけど、とても強い子だなって思ったよ。
 お父さんがいないことを寂しく思わず、強く育ってくれてた。
 私はそれに安心したのもあるけど、大きくなっていろいろ入り用なものも増えたし、
パートの量を少しずつ増やしていった。

 中学に入り、こう、個性が出てきたっていうのかな?
 私としては不満だったけど、あなたと同じで、ゲームやアニメにハマり始めたみたい。
 「みたい」っていうのは……。
 その頃から、こなたと私は会話が減っていったから……。
 笑顔を見ることも徐々に無くなっていった……。
356彼方まで愛を込めて…… :2007/12/08(土) 03:05:35 ID:wA5DfUwr
 こなたが3年生になった頃、ついに私達の間の会話は消滅した。
 あの頃の私はいつもこなたの部屋を開けることが出来なかった。
 毎日、毎日こなたに怯えながら生きていた。
 無表情で無感動で何を考えているのか分からない。
 できる限りのことはしたつもり。


 パートが終わり、帰宅するのはいつも夜9時ごろ。
 アパートの前で部屋を見上げると、ウチだけが真っ暗だった。
 唯一、あの子の部屋のディスプレイだけがぼんやりと淡い光を外に放っていた。
 私は、それを見るたびに深いため息を吐き出す。

「ただいま〜。こなたー、今帰ったわよー」

 「おかえり」の声は、いつも無い。
 静まり返る部屋に私の声が吸い込まれていく。それがとてつもなく、悲しかった。
 パート先で貰った、残り物の惣菜をおかずに、一人遅い晩御飯を食べる。
 時折トイレに向かうこなたを見かける以外、何の接触もとることは無かった。
 こなたが話してくれなかったことは寂しかった。
 こなたが笑ってくれないことが悲しかった。
 そう君がここにいないことが、何よりも辛かった。
 そして、一眠りして朝を迎えれば、また同じ日常が始まる。
 私は必死に働く、こなたを守るために。
 お金が無くちゃ、生活できない。お金が無くちゃ、何も出来ない。
 お金さえあれば、そう君は……。お金さえあれば……こんな思いする必要はなかったのに……。
357彼方まで愛を込めて…… :2007/12/08(土) 03:06:07 ID:wA5DfUwr
 ある日、パート中に体調を崩して急遽、帰宅したことがあった。
 家に帰ると、カギが開いている。
 不思議に思った私は玄関を恐る恐る開いて、中を確かめる。
 すると、そこにはある筈のないこなたの靴が脱ぎ散らかしてあった。
 正午を少し回ったくらいの時間。
 本来なら学校にある筈のこなたの靴が目の前にある。

 私はこの状況をしっかりと理解できないまま、自分の身体の調子も忘れてこなたの部屋へと走る。

「こなた!」

 電気の消えた部屋はカーテンで閉め切られ、薄暗い。
 その中にディスプレイの灯りで顔を照らされたこなたが、ぽつんと座っていた。

「なあに? おかあさん?」
「あなた……、学校は……?」

 沈黙。カタカタとキーボードを叩き続けるこなた。

「つまんないから……、帰ってきたんだよ……」

 気のない、感情のない返事。
 うっすらと見える横顔には生気のかけらも無く、こちらに向く様子もない。
 表情からは何も伝わってこない。
 視線を下ろすことなく手だけがカタカタと音を立てて動いている。
 私の中に何か分からない感情が生まれた。
 いや、最初からそこにあったのだと思う。
 それが、今、膨れ上がり、破裂した。
 頭に血が上り、体温が上がる。吐き気に襲われ、汗がにじみ出る。

――――パシーン

 パソコンとキーボードを叩く音が小さく流れる部屋の中に、大きな破裂音が響く。

 私はその日、初めてこなたを、叩いた。
358彼方まで愛を込めて…… :2007/12/08(土) 03:06:57 ID:wA5DfUwr
「痛いよ、おかあ……」
「なんで分かってくれないの!お母さんこんなにがんばってるじゃない!?」

 頬に手を当て、言葉を言いかけた娘を遮り、私は続ける。

「お父さんがいなくて辛い思いもさせた。そのために私が働きに出て寂しい思いもさせた。
だけど、生活に不自由をさせたことは無いし、なんでも与えてあげたじゃない!
あなたには立派に生きていって欲しいから、立派な大人になって欲しいから……。
だから、私こんなにがんばってるじゃない!なんで、分かってくれないのぉ!?」

 私は思うままのことを吐き出し、その場に蹲った。
 涙が溢れてくる。
 自分の苦労が伝わらない悔しさ。
 女手一つで育ててきた疲れ。
 若さゆえに、遊びたい時もある。それさえも押し殺してきたストレス。
 その全てが綯い交ぜになり、一気に押し寄せる。
 醜かった。自分で自分の事が嫌になり、とてつもなく醜く感じた。

 そう君、ねぇそう君!あなたは何で逝ってしまったの?
 なんで、私を残して、逝ってしまったの?

「ばか――――」

 パソコンから漏れ出るファンモーターの音が耳に残る、この虚無的な空間に、こなたの声が響く。
 はっとして顔を上げる私。

「ばか……、ばか……、ばか、ばか! お母さんのばかー!」

 こなたが泣いてる。
 ずっと、無表情で、何の感情も見せなかったこなたが、泣いてる……。

「私、一度でもお父さんが欲しいって言ったことあったかなぁ!?
私、一度でもお母さんにそんなわがまま、言ったことあったかなぁ?」

 こなたは小さな肩を震わしながら、私に近づいてくる。
359彼方まで愛を込めて…… :2007/12/08(土) 03:07:38 ID:wA5DfUwr
計算間違いです。後4レスほど頂きますorz
360彼方まで愛を込めて…… :2007/12/08(土) 03:08:50 ID:wA5DfUwr
「ねぇ、お母さん。私は、私だよ? 泉こなただよ?
お母さん、いつになったら私のこと見てくれるのさー!?」

――――えっ!?

「ちゃんと見て、私を見てよ、おかあさん! 私はお父さんの替りじゃないんだよ!?
私はお母さんの子供なんだよ!? 泉こなたなんだよ!?」

 小さいと思っていたその両手は、いつの間にか私と同じくらいの大きさになり、
掴まれてる肩に入れられた力も、もう子供のものじゃない。
 この子はちゃんと育ってる。こなたは立派に育ってる。

 なんで、気がつかなかったんだろう、そんなことに。

 何の為に私はがんばっていたんだろう……。

 私はいつ、この子を置き去りにしてしまったんだろう?

 そんな疑問と後悔が湧き上がり、再び涙が溢れ出す。
 こなたの腕を払いのけて、今度は私が抱きしめる。
 うん。育ってる。大きくなってる。
 でも、まだまだ小さいこなた。こんなに小さいこなたは、こんなにたくさんの不安を抱えていた。
 知らず知らずのうちに私が植えつけていった不安。
 
 頬を寄せ合い、互いに嗚咽する。
 涙と涙が混じりあう。それはとても暖かい。
 あの人がいなくなってから14年間、感じたことの無かった暖かさ。

 ごめんね、そう君。私、ダメな母親だったわ。
 あなたがいなくちゃ何も出来ない、ダメな母親だわ。
 でも……、でもね、そう君。
 これからはきっと大丈夫。私にはこなたが、いるから。
 あなたの残してくれた……ううん、あなたと私の大事な子供。こなたがいるから、大丈夫。
 私達二人、きっとうまくやっていける。そうだよね?そう君。

「ごめんね」

 ようやく出すことの出来た言葉はたったのそれだけ。
 でも、こなたは何度も何度も頷き、私にしがみついていた。
361名無しさん@ピンキー:2007/12/08(土) 03:12:06 ID:wA5DfUwr
 その日、私はこなたと一緒に寝ることにした。
 床に布団を敷き、枕を三つ並べて、真ん中にこなたをその横に私。
 反対側は……言わなくても分かるよね。

 こなたは初めて学校のことを話してくれた。
 友達は少ないみたいだけど、決してさびしくは無いって。
 学校をサボってよく先生に怒られるって。
 でも、その先生は優しくしてくれるって。
 そういえば、中学になってから一度も学校へ行ったことが無かった。
 今度、お礼代わりにあいさつに行かなきゃ。

 取り留めの無い話をしているうちに、こなたは私にしがみついたまま眠ってしまった。
 私はこなたの為に生きていかなきゃ、こなたの為にがんばらなきゃ。
 そう君じゃない。一人の人間として、私の大切な娘、泉こなたを守っていかなきゃ。
 その為なら、助けてくれるよね、そう君――――



362名無しさん@ピンキー:2007/12/08(土) 03:13:22 ID:wA5DfUwr
「お母さん! 大根がぁー!」
「へ?」

 こなたの声にびっくりして飛び起きる。
 鍋を覗くとお湯は蒸発し、大根は絶体絶命のピンチ。
 うそ!? いつの間に眠っちゃってたんだろう!

「あ、ああっ! どうしようっ!? み、みずーっ! こなた、みずちょうだーい!」

 寸でのところで、大根は無事、救出された。
 こなたは呆れ顔で、お母さんには任せられないって必死に仕上げをしている。
 私は、テーブルに軟禁され、そう君の書いた本を開く。
 台所に立つあの子を見てると、さっきまで考えていたことが嘘のように思えてくる。
 いまだに、アニメやゲームは大好きだけど、家の中はいつも会話と笑顔で満ち溢れている。
 こんなにも私を暖かくしてくれているのはこなたのおかげ。 
 そんなことを考えて、後姿を眺めていたら、こなたは急に振り返って、私に問いかけてきた。

「ねえ、お母さん。お父さんってどんな人だったの?」

 私はその言葉に、心臓が飛び出るかと思うほど驚いた。
 そうだった、この子には何も聞かせてなかった、そう君の事を……。
 私は何も言わなかった。言うと、余計にこの子は寂しがってしまう、そう勝手に思い込んでいた。
 それに、本人から聞いてくることも無かった。だから、なんとなく有耶無耶にしてしまっていた。

 だけど、やっぱりそれは違うね。教えてあげなきゃいけないんだよね?
 ねぇ、そう君。そう君の事、何から話したらいいかな?

「私、お父さんが手羽大根を好きなこと以外、何も知らないのは、ちょっと寂しいよ〜」
「ふふふ、そうねぇ〜……」

 こなたにそう君のことを話す前に、お誕生日おめでとう。
 今年も、私とこなたの笑顔を受け取ってね。

 了
363名無しさん@ピンキー:2007/12/08(土) 03:14:03 ID:wA5DfUwr
エピローグ

「ねえ、こなた」
「ん? なあに? お母さん?」
 食器を洗いながら頭だけでこちらを向く。
 こちらに振り向いて、結い上げた髪の毛がふわりと揺れる。
「そんなに邪魔なら、切っちゃえばいいんじゃない?その髪」
 人のこと、言えた義理じゃないんだけどね。
 でも、あの子は何もいわず、ずっとあの髪型のまま。
 私と同じ青い髪を、長く長く伸ばしてる。
「あはは、なんでだろうね?」
 いたずらっぽい微笑をして、空いたほうの手で髪をくしゃくしゃと触ってみせる。
 そしてまた、こなたは黙って洗い物を再開した。
「え?教えてくれないの?」
「あはは、教えないよ〜」
「なによ、けちんぼ!」
「お、お母さん、それ、禁則事項……」
 こなたが猫口で頬を掻く。私はそんな顔できないわ。
「……これはね、お母さんとずっと一緒にいられるおまじないだよ」
 片づけを終え、タオルで手を拭くと、こなたが降りてくる。
 頬を赤らめて、手を後ろに回した。
 リボンを解くと、真っ青にきらめく長い髪が舞い散る花びらのように広がった。
 恥ずかしいわね、そんな嬉しいこといきなり言うもんじゃないわ。
「それと……」
「え?まだあるの?」
 ゆっくりとこなたが窓の外に視線を動かす。
 私もつられてその方向を見つめる。
「お母さん、今、幸せ? お父さんいないけど、幸せだよね?」
「え? うん、そうね、幸せ、だね……」
「だから、伸ばすの……」
 その瞬間、少しだけこなたが大人っぽく見えた。
 親バカじゃなく、とってもきれいな横顔……。
「空の上からでも、私が分かりますように……。
いつか、お母さんとお父さんみたいな、素敵な出逢いに、巡りあえますように……」
 こなたの横に立ち、肩を引き寄せる。
 二人で窓の外を眺めながら、星を探す。
 こつんと頭を寄せてくる、こなた。

 此方から愛を込めて。届いていますか? そう君?
 彼方まで愛を込めて。届いているよね? そう君――――

 終