【絶望先生】久米田康治エロパロ総合 Part12【改蔵】

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567名無しさん@ピンキー:2008/01/12(土) 17:57:44 ID:GTnYoV7A
GJ! オマケに吹いたw
568名無しさん@ピンキー:2008/01/12(土) 18:52:40 ID:YiHpzsP4
うなにー吹いたwwww
569名無しさん@ピンキー:2008/01/12(土) 19:58:30 ID:+6sa4NA7
うなにー・・・。あたらしいなw
570名無しさん@ピンキー:2008/01/12(土) 22:42:44 ID:LqZf6Qxq
面白いけど百合要素はちょっと勘弁して欲しい・・・
571名無しさん@ピンキー:2008/01/12(土) 22:52:17 ID:iXHZsMOi
君がッ泣くまでッ殴るのをッ止めないッッッ!
572名無しさん@ピンキー:2008/01/12(土) 22:55:38 ID:A4QMTxVW
>>570
ちょっとでも百合要素入ってたら百合スレ行けとでも?
こっちだってノーマル要素入ってるやつに来てほしくないんだが
自分の好みで文句つけてんじゃないよ
573名無しさん@ピンキー:2008/01/12(土) 23:30:54 ID:bmhs9GJe
たしかにこの程度で駄目ってのは、ただの好みの問題っぽいなあ。

まあ「百合っぽい表現が含まれているから嫌いならスルー」と事前の注意があってもよかったかなとも思うが、
「先生と千里と藤吉さんの3人で書いてみました」って書いてあるんだから多少の百合要素くらいあると予想つきそうなもんだしな。
574名無しさん@ピンキー:2008/01/13(日) 02:47:16 ID:g89D9f3H
過剰反応してるようにしか見えない
575名無しさん@ピンキー:2008/01/13(日) 13:16:33 ID:CDMIq0Mp
ぐぐぐぐぐっじょぶ
576566:2008/01/13(日) 14:49:20 ID:oBvOvl10
>>570
作者百合好きでもありますが、今回は百合というよりただの3P描写の範疇のつもりだったんで
前書きに百合要素だとかは書いてませんでした、次があったらちゃんと書いときます。
577名無しさん@ピンキー:2008/01/13(日) 16:12:46 ID:Qxao/eiE
何だかお気を使わせてすまんですね。って自分>>570ではありませんが。
と言うわけで、職人さん達が戻ってらっしゃるのをお待ちしております。
578名無しさん@ピンキー:2008/01/13(日) 17:59:19 ID:wZlD3Kfc
>>572
わけのわからん怒り方すんなよ

第一百合スレと違ってノーマルは行く場がないんだ
579名無しさん@ピンキー:2008/01/13(日) 18:18:42 ID:AEo+QvpT
これくらいで百合だから向こう行けってどんだけ
580名無しさん@ピンキー:2008/01/13(日) 18:23:59 ID:RTGluRC2
こっち(百合スレ)だってノーマル(カップリング)要素
入ってるやつに来てほしくないんだが

ってことじゃネーノ?
581名無しさん@ピンキー:2008/01/13(日) 18:29:48 ID:lldIgqk5
蒸し返すなって
注意書きつけてもらって嫌な人はスルー、それでいいだろ
こういう不毛な論争が職人さんたちを遠ざけるんだよ
582名無しさん@ピンキー:2008/01/13(日) 20:25:23 ID:2l7cuqDr
真昼氏の続きまだー
583名無しさん@ピンキー:2008/01/13(日) 20:41:12 ID:X2yJXGlg
真昼もういい
584名無しさん@ピンキー:2008/01/13(日) 21:24:05 ID:1D8nBbC+
罵り合って互いの意見を押し付けあう暇があるのなら
職人を褒め称えたいと考えるわけでして。

ID:F/KKiZ/M  GJー!!!!!!!!!
ぜひまた投下してくだされー!!藤吉好きなので嬉しかった。
普段ホモ同人でエロに関わってるだけあってやっぱ余裕あんのな。
藤好と先生での話を希望と乞食してみる。
585名無しさん@ピンキー:2008/01/13(日) 21:58:16 ID:86LPD9E9
>>580
藤吉が男のアレを見慣れてるかんじがリアルだったなw
586名無しさん@ピンキー:2008/01/13(日) 23:30:04 ID:3ecruG6B
アニメのカエレネタ、どなたか書いてくださらんかのう
587名無しさん@ピンキー:2008/01/14(月) 06:29:06 ID:bYWOmAaH
お前はこのスレから出て行け
真昼氏以外はイラネ
588名無しさん@ピンキー:2008/01/14(月) 06:30:37 ID:jiKsWKI5
スルー力検定試験か
懐かしいな…
589585:2008/01/14(月) 10:39:33 ID:2uc6pr6y
>>580ではなく>>584でした
すんません
590名無しさん@ピンキー:2008/01/14(月) 12:38:39 ID:7Ir3GaNM
1話2話を見た限りでは、みんなのインスピレーションを刺激するにはまだまだだ。
591名無しさん@ピンキー:2008/01/14(月) 14:48:46 ID:MvPYhTQI
>>589
とりあえずsageような?
E-mail欄に[sage]と打ち込む。
これだけだから;
592名無しさん@ピンキー:2008/01/14(月) 15:52:15 ID:MnT/JNUi
>>584
まったく何もない名無しのが気楽だから黙ってようかと思ったんだけど
保管庫の9スレ目にあるのが自分の。もうあれでネタ切れです。
藤吉さんサブだとよく動いてくれるんだけどメインヒロインだとやりにくいんでたぶん応えられません。
フラグ立ってないし、オタクだから、基本観察者だから。
593430:2008/01/14(月) 16:31:45 ID:kRGb/+CG
>>592
あの話大好きでした〜特に前半のほのぼの会話が。

藤吉さんが望まれているところに申し訳ないですが、
またしても捏造チックな望×智恵先生の続きです。
一応、>>228>>239からの流れにはなっておりますが、
別に続けて読まなくても大丈夫かと…。
相変わらず、無駄に長いです。
594本当のきもち 1/15:2008/01/14(月) 16:32:40 ID:kRGb/+CG
「ふう、これでひと通り終わったかしら…。」
私は1人、SC室で、出来上がった資料を整えると息をついた。
時計を見上げると、既にかなり遅い時間になってしまっていた。

そのとき、ドアが開き、彼が顔を覗かせた。
「智恵先生。お仕事終わりましたか?」
「ええ、もうほとんど…。」
「あとで、私の部屋にいらっしゃいませんか?
 実家からワインを何本か持って帰ったんですよ。」

はにかみながら微笑む青年は、2年へ組の担任教師。
彼は現在、この学校の宿直室に住み暮らしており、その代わりに
学校内の見回り、戸締りなど用務員のような仕事も引き受けていた。

そして、彼は、目下のところ私の恋人でもある。

「ええ…そうね…。寄らせていただくわ。」
私は、あいまいに微笑んだ。

彼が嬉しそうな顔を引っ込めると、
私は、小さくため息をついて、手早く残り仕事を片付けた。

帰り支度を整えて階下に降り、
宿直室のドアをノックすると、彼の声が返ってきた。
「ああ、どうぞ、お入り下さい智恵先生。」
「おじゃまします、糸色先生。」

付き合うようになって日が浅いせいか、彼は私のことを律儀に智恵先生と呼ぶ。
そのため、私もつい、彼のことを糸色先生と呼んでしまう。

「交君は?」
「あいつは、今日は倫の家ですよ。あ、ワイン、これでいいですか?」

私は、狭い部屋のちゃぶ台の上に目をやって、絶句した。
ちゃぶ台の上に抜栓して置いてあるのは、なんとDRCのモンラッシェ。
そういえば、彼は良家のお坊ちゃまだったのだ…。
しかし、その横にあるのは、まるで学食に置いてあるようなコップだった。
595本当のきもち 2/15:2008/01/14(月) 16:33:27 ID:kRGb/+CG
「先生…いくらなんでも、このワインに、このコップって…。」
「え?ああ、今、ここにはそれしかないんですよ。」
彼は、全く意に介さないように、ワインをコップに注ぐと、私に差し出した。
私は、思わず苦笑してそれを受け取った。

「乾杯。」
ゴッ、と鈍い音をさせてコップを合わせると、口にワインを含んだ。
樽のきいたシャルドネの、馥郁たる香りが口の中に広がる。

安っぽいコップで飲む、途方もなく高価なワイン。
このアンバランスさは、まるで彼を象徴しているようだった。
子供のような無邪気さと、ガラスのような繊細さを併せ持つこの人に、
私はここのところ、振り回されっぱなしだった。

「うん…これで飲んでも、十分に、おいしいですよ。」
彼は私を見て、にっこりと、満面の笑みを見せた。

その笑顔に、突然、きゅ、と胸がつかまれるような気がした。
鼻の奥が、つんと痛くなる。

―――ああ、まただ。

最近、彼の表情の1つ1つに感情が揺さぶられる。
理由もなく、泣きたくなる。
こんなことは今までになかったことだ。

彼のちょっとした表情や些細な言動で、
幸福の絶頂に上るかと思えば、次の瞬間、不安でたまらなくなる。
経験したことのない感情の乱高下に、私は、ほとほと疲れていた。

そのまま2人で、彼が用意したチーズとともにワインを飲んでいたが、
しばらくすると、彼がコップを置き、私を熱い目で見た。

「…智恵。」
その低い声に、私の体の芯に電流が流れた。

彼が私を呼び捨てにするのは、体を合わせるときだけだった。
そのときだけは、彼は、はにかみやの青年から、猛々しい雄になる。

これも、私が翻弄されている彼のアンバランスの1つだった。
596本当のきもち 3/15:2008/01/14(月) 16:34:05 ID:kRGb/+CG
口付けは、ワインの香りがした。
彼の舌が私の口内で動き、酔いが回った体に快い痺れが走る。
私は、彼の眼鏡をそっと外した。

彼が、唇を合わせたまま私を畳に押し倒した。
その手は、忙しなく私のブラウスのボタンを外していく。
前から思っていたけれど、彼は、女性の服を脱がすことに慣れている。
人のことは言えないけれど、彼の過去に、ちり、と胸が焼けた。

ふいに悔しくなって、起き上がると彼の着物の襟に手をかけた。
彼は、悪戯そうな顔で私の両手をとると、再び私を押し倒した。

「駄目ですよ…私の方が先です。」
そう言いながら、彼が両手で私の胸を柔らかく挟んだ。
彼は、私の胸にこうやって顔を埋めるのが好きだった。

胸元を強く吸われて
「ん…っ。」
思わず、吐息が漏れた。
彼が唇を離したところに、紅い跡が残る。

「ああ…智恵…。」
彼が、私の胸を指と唇で味わい始めた。
与えられる刺激に、息が上がる。

ところが、しばらくして、
「…なんで、声、出さないんですか…?」
彼が顔を上げると、不満そうに尋ねた。

「…。」
最近、いつも、私は声を出すのを必死に抑えていた。
声を上げてしまうのは、何だか彼に負けているみたいで悔しかった。
これ以上、彼に翻弄されている自分を自覚したくなかった。

私が横を向いて黙り込んでいると、
「そういう強情を張っていると、こうですよ。」
彼が、私の敏感な部分に指を押し当てた。
「…っ!!ぁあっ!!」
思わず、声が漏れてしまう。
597本当のきもち 4/15:2008/01/14(月) 16:34:50 ID:kRGb/+CG
「ほら…もう、こんなになってるのに…どうしてそんなに我を張るんですか。」
そう言いながら、彼は、指をさらに奥に進めた。
彼の長い指が、私の中で微妙に動く。
「やぁ…ん…。」
もどかしい思いに、たまらず体をくねらせると、
彼がにこりと笑って指を強く私の中にこすりつけた。
「んん…あ、そこ、あああっ!」
私は、体をのけぞらせて叫んだ。

彼は私に口付けると囁いた。
「良い声ですよ…。」
悔しい、けど、いつも結局こうなってしまう。
「んっ…はぁ…あ、だめ、ぁあ…っ!」
今日も、私は、そのまま彼の指の動きに促され、先に昇り詰めてしまった。

息を切らしていると、「智恵…」と彼が小さく呟いて、私の中に入ってきた。
「…ぁっ。」
昇り詰めて敏感になったところを突かれ、快感に自分の内部が収縮するのが分かる。
「いいですよ…智恵、すごく、いい…。」
彼の、興奮に掠れた声に、耳朶が痺れる。

それでも、必死に声をかみ殺していると、彼がふと動きを止めた。
「そんなに声を出したくないんだったら、…やめますか?」
そういいながらも、指を私と彼がつながっている部分に伸ばし、蠢かす。

激しい快感がつま先から頭の先までを駆け抜けた。
「あ、ぁぁぁぁあああ!」
もう、私は完全に壊されていた。
「いや、お願い、やめないで、もっと…!」
恥も外聞もなく、彼にねだるのを止められない。

彼が熱の篭った目で私を見つめた。
その視線に、背中に快い刺激が走る。

「そう、そういう智恵の方が、素直で好きですよ…。」
そう言うと、彼はぐい、と強く私を抉った。
「――――!!!」
声にならない歓喜の悲鳴が漏れる。

私は、彼に翻弄され続け、
どこまでも底のない世界へと落ち込んでいった。
598本当のきもち 5/15:2008/01/14(月) 16:35:48 ID:kRGb/+CG
翌朝。
「…せい、智恵先生!」

私は、SC室の椅子の上で飛び上がった。
机の上からカルテがバサバサと落ちる。

「…どうしたんですか?智恵先生らしくない。」
目の前にいる少女が、慌ててカルテを拾い集める私を不審そうに眺めた。

「え、ええ、ごめんなさい…ちょっと頭痛がして…。」
私は必死にごまかした。
最近、彼と身体を重ねた翌日は、大抵こんな状態だった。
あのときの、彼の表情、彼の仕草が何度も目の前をちらついて離れない。
結果、仕事が手に付かなくなってしまうのだ。

少女は、首を傾げたまま私に尋ねた。
「大丈夫ですか…?私、出直したほうがいいですか?」
私は、髪を額の真中で分けている几帳面そうな少女に向かって微笑んで見せた。
「大丈夫よ、木津さん。話してちょうだい。」
そう言いつつも、私は憂鬱な気分が湧き上がってくるのを感じていた。

彼女の相談内容は想像できた。
彼女は以前から、担任教師に特別な思いを抱いている。
彼女だけではない。
彼のクラスには、他にも彼を追いかけている女生徒は多数いて、
その子達が入れ替わり立ち代わり、私のところに悩み相談に来る。

彼女達を脅威に感じているわけではない。
ただ、最近は、彼女達の相談を聞いているうちに、いつのまにか
私自身が、記憶の中の彼の一挙手一投足を追っていて、
カウンセリングがおろそかになってしまうことが多いのだ。

―――いけない…私はカウンセラーなのに…。

結局、木津さんの話は半分も頭に残らなかった。
まあ、彼女自身は、胸の中のもやもやを吐き出したかっただけのようで、
案外、すっきりした顔で帰っていったのだけれど…。
599本当のきもち 6/15:2008/01/14(月) 16:36:38 ID:kRGb/+CG
私は、彼女が帰った後、しばらく両手の中に頭を埋めていた。

―――このままじゃ、私は、ダメになってしまう。

今の私は、全てが彼中心に回ってしまっている。
生活も、仕事も、何もかも。

こんなにも他人に属してしまったことはなかった。
私が、私ではなくなってしまったかのような感覚。
それは、ものすごい恐怖だった。

この間から、ずっと考えていたことを、今、また思い返す。

これ以上、彼と付き合っていたら、私は、自分が保てなくなってしまう。
自分が自分のままでいるためには…。

―――彼と、離れるしかない―――

私は、決心した。





「別れてください。」
「え…?」





別れを告げたときの彼の顔を、私は二度と忘れることはできないだろう。
「ど…し、て…。」
言葉を詰まらせながら尋ねる彼から、私は顔をそむけた。

「縁がなかったと思って…あきらめてください…。」
「智恵先生…!?」

私は、その場から逃げるように彼に背中を向けて立ち去った。
600本当のきもち 7/15:2008/01/14(月) 16:37:57 ID:kRGb/+CG
翌日、彼は学校を休んだらしい。
少し心配だったが、その次の日から、彼は普通に学校に来るようになった。

でも、あの日以来、彼が私と言葉を交わすことはなくなった。
彼は、職員室で私と会っても、私がその場にいないかのように振舞う。

私自身、彼と顔を合わせるのは辛かったので、その方が都合が良かった。
もちろん、胸の痛みは感じるが、それは、十分予想していたことだ。
痛みは、時が癒してくれる。
そして、やがて私には、以前のような、退屈だけど平穏な生活が戻ってくる。
自分自身を取り戻せる。
―――――はずだった。

なのに。
私は、いつまでたっても、不安定なままだった。
何かが、おかしい。私が考えていたのとは違う要因が交じっている。
―――何でかしら…きちんと考えて、分析しないと…。

そう思いつつ、今日も私は、ぼんやりと部屋で頬杖をついていた。

と、コンコンとドアがノックされた。
入ってきた人の顔を見て、一瞬私は、彼かと思って息を飲んだ。
しかし、それは、彼の兄の命先生だった。

「命先生…?」
「ちょっと、話したいことがあってね…。」
命先生は、かつてない、冷ややかな空気を身にまとっていた。
私は、もしかしてこれが本来の彼の姿なのかもしれない、とふと思った。

命先生は、つかつかと机を回りこみ、私の横に来ると、私を見下ろした。

「君は、望に、いったい、何をしたんだ。」
「…え…何って…。」
「奴が、最近飯を食ってないのを知ってるかい?」
「…!」

そういえば、最近、すこしやせたみたいだとは思っていた。
しかし、なるべく顔を合わせないようにしていたから…気が付かなかった。
601本当のきもち 8/15:2008/01/14(月) 16:38:44 ID:kRGb/+CG
「おかげでこっちは、毎日、嫌がる奴にブドウ糖注射を打つはめだ。」
「…。」
黙っていると、命先生が私の両腕を強い力でつかんで立ち上がらせた。
私は、思わず「痛っ!」と声を上げた。

命先生が、私に顔を寄せ、低い声で囁くように言った。
「君と私とは、似てるんだよ…同じ人種だ。
 だから、私に対しては、君が何をしようが、それはかまわない。」

命先生の目が一段と冷ややかさを増すと、ぐい、と私を壁に押し付けた。
「だが、弟は違う。奴は、未熟者なんでね、私みたいに器用じゃないんだ。
 ……遊び相手だったら、他の奴を選んでくれないか。」

―――遊ぶだなんて…。
私は、声もなく必死に首を振るだけだった。

―――そんなんじゃない…そんなつもりなんか、ない。
遊べるくらいだったら、別れたりはしなかった。
むしろ、そんな気軽な関係だったら…いつまでも一緒にいられたのに。
―――こんな、思いはしないですんだのに。

私の目に涙が盛り上がってきた。

命先生は、私の顔を見て、びっくりしたように私の腕を離した。
私は、その場にしゃがみこみ、両手で腕を抱えうずくまった。

胸がつぶれそうに痛い。

私は、今まで認めたくなくて目をつぶっていたことを認めた。
本当は、もう、とうに分かっていたのだ。

―――私は、取り返しのつかない過ちを犯してしまった。

自分が保てないからと言って別れたはずだったのに、
彼と別れた後に残った私は、ただの抜け殻だった。
保つべき自分なんて、もはや、どこにもなかった。
602本当のきもち 9/15:2008/01/14(月) 16:39:32 ID:kRGb/+CG
―――私は、いったい、今まで何を学んで生きてきたんだろう。
彼と出会ってからというもの、私は、何一つ正しいことをしていない気がする。

うずくまってすすり泣く私を、命先生は、黙って見下ろしていたが、
やがて、盛大にため息をついた。

「まったく、なんてことだ。
 君は…もしかして、望以上に、不器用なのかもしれないな…。」

私は、涙に濡れた顔を上げた。

命先生は、あきれたような顔で私を見ると、頭をかいた。
「やーれやれ…本当に、いい大人が2人揃って何をやってるんだか…。
 仕方ないな、今回だけは、私が一肌脱いでやるか…。」
毎晩、奴に注射するのもいい加減面倒だしな、と先生は呟いた。

「君は、本心は、望と別れたいと思ってないんだろう?」
私は、命先生から目をそらせると、小さく頷いた。
「だったら、望にそう言って、やり直せばいいだけの話じゃないか。」
こんな簡単なことがあるか、と命先生は腰に手を当てた。

「そんな…私のしたことは、許してもらえるようなことでは…。」
命先生の目がすっと細められた。
「だったら、許してもらえるまで、謝るんだ。
 土下座でも何でもして、謝ればいいじゃないか。」
「…。」
「君が謝るのが苦手なのは分かる…私もそうだからな。
 しかし…君が、本当に望のことを想っているのであれば…。」
「…。」
「頭でいろいろ考える前に、自分の気持ちを伝えてみろ。」

―――まだ、やり直せる…?
命先生の言葉に、私の胸に、小さな希望の灯がともった。



603本当のきもち 10/15:2008/01/14(月) 16:40:09 ID:kRGb/+CG
「さ、どうぞ…散らかってるけどね。」
私は、糸色医院の、命先生の診療室に通された。

「あいつは、最近、毎晩この時間にうちの医院に来ることになってる。
 それだけは、ほとんど脅して納得させたからな。」
私はハンカチを握りしめて、命先生の顔を見た。
命先生は、私の顔を見返して、小さく笑った。
「そんな顔をするな。君らしくない。」

と、診療室の外から、医院の扉が開く音がした。
「…来たみたいだな。とりあえず、そこの影にでも隠れててくれ。」
私は、命先生に言われたとおりに、ついたての後ろに回りこんだ。

「よしよし、今日もよく来たな。私はちょっと用事があるから、
 先に診療室で待っててくれ。」
「用事…?この時間に私が来ることは分かってるはずでしょうに。」
表で、不機嫌そうに命先生と話す彼の声が聞こえる。

ガチャリと音がして、彼が部屋に入ってきた。
後ろ手にドアを閉め、ため息をつくと患者用の椅子に腰掛ける。

心臓がどきどきする。
彼は、私と話をしてくるだろうか…。

「糸色先生…。」
私は、意を決して、ついたての後ろから歩み出た。

「―――!!」
私を見た彼の表情が、たちまちのうちに硬化する。
その彼の表情を見ただけで、私は、自分の中の勇気が挫けるのを感じた。

「智恵…。」
彼の声は、ほとんど囁きのようだった。
次の瞬間、彼は、踵を返し、私に背中を向けた。
そして、診療室のドアノブに手を伸ばす。

―――ああ、やっぱり…。
分かっていたこととは言え、絶望感に目の前が暗くなった。
604本当のきもち 11/15:2008/01/14(月) 16:40:59 ID:kRGb/+CG
しかし、ドアは、開かなかった。
「!?」
彼が、焦ったようにガチャガチャとドアノブを回す。
小さく舌打ちをすると、バンバンとドアを叩き始めた。
「兄さん!いったい何のつもりですか!!ドアを開けてください!」

外から、のんびりとした命先生の声が聞こえてきた。
「しばらくしたら開けてやるから、それまでは、そこにいろ。
 ―――お前ら、もっと話し合いが必要だ。」

「―――!!」
バ ン !!
彼は、苛立たしげに、両手の拳で診療室のドアを思い切り叩いた。
その音に、私は思わず身体をすくめた。

彼は、しばらくドアに両拳を当てたままの姿勢で静止していたが、
やがて、ゆっくりとこちらを振り向いた。

「そこまで言うんだったら、話をしましょうか…。
 もっとも、私とあなたの間に、これ以上話すことがあるとは思えませんが。」
彼の目は、さっきの命先生よりもさらに冷たい色をしていた。

―――この人に、こんなに冷たい目ができるなんて知らなかった。
私の記憶にある彼は、いつも、優しい目で微笑んでいたはずなのに。

「…ごめん、なさい。」
私は、彼に頭を下げた。

彼は、私から目をそらせた。
「別に、謝ってなんかもらわなくても、いいですよ…。
 私は、もう、あなたに振り回されるのはこりごりです。
 ―――いったい、私を何だと思ってるんですか。」
 
視線と同じように、冷たい言葉。私は、唇を噛んだ。
やはり、許してもらおうなんて考えは、どだい甘かったんだ。
いったい、どうすれば良いのだろう…。

そのとき、命先生の言葉が胸に蘇った。
―――頭でいろいろ考える前に、自分の気持ちを伝えてみろ―――
605本当のきもち 12/15:2008/01/14(月) 16:41:46 ID:kRGb/+CG
そうだ…せめて、自分の気持ちを…彼にきちんと伝えよう。
そして、それを、彼が受け入れてくれなければ…仕方のないことだ。

私は、息を吸い込んだ。
「いと…、……望。」
彼の肩がぴくりと動いた。

「私、あなたを……愛してる。」
彼が、顔をこちらに向けて私を見た。
その目には、先ほどと違って、小さなためらいが見えた。

「今まで、こんな感情、誰にも感じたことなんか、なかった。
 …だから、分からなかったし、怖かったの…この感情が。
 何よりも、こんなにも他人に囚われてしまっている自分が、怖かった。」
彼の目が揺れていた。

「このままじゃ、自分が自分でなくなってしまうような気がして…。
 だから、あなたと離れようと思った…あなたの気持ちなんか何も考えずに。」
私は自嘲気味に笑った。
「でも、離れたからって、どうにもなるものじゃないのね…。
 ―――私が、馬鹿だったの…。ごめんなさい。」

離れたからといって、この感情を止めることはできなかった。
あなたは、もう私の一部になってしまっていた。
―――あなたなしでは、私は、もはや、存在することさえできない…。

彼は、何も言わなかった。
私は、ため息をつくと、小さく笑った。
仕方ない。
命先生はああ言ったけれど、取り返しのつかないことだってあるのだ。

私は、彼に向かって微笑んだ。
「…聞いてくれて、ありがとう。これで、すっきりしたわ。」

そういうと、彼の横をすり抜けてドアに向かった。
命先生を呼ぶためにドアをノックしようと手を上げると、
横から、その手をつかまれた。
606本当のきもち 13/15:2008/01/14(月) 16:42:30 ID:kRGb/+CG
驚いて振り向くと、彼が、真剣な目で私を見ていた。
「…望?」

彼は、しばらくそのまま私を見つめていたが、ゆっくりと息を押し出した。
「智恵…あなたは…私が今まで会った中で、一番の大馬鹿者ですね…。」
「…。」
「馬鹿なだけじゃなく、薄情で、自分勝手で…ひどい人です。」

私は、うなだれた。

と、彼が私を引き寄せ、その胸に抱きしめた。
「なのに…どうして、私はこんなにもあなたが好きなんでしょう…!」
「―――!!」

私は、何が起きたか理解できないまま、固まっていた。

彼は体を離すと、私の頬に手を添えて、私を仰向かせた。
「ホントに……私も大概、馬鹿ですけどね…。」
そう言うと、彼は、まだ呆然としている私に、口付けた。

久しぶりに受ける彼からの口付けは、
かさかさに乾いていた私の心を、一気に潤すようだった。

彼の口付けはだんだんと深くなり、私を抱きしめる手にも力が篭る。
ようやく彼が唇を離したときは、私も彼も息を切らしていた。

お互い、熱のこもった目で相手の顔を見つめる。
次の瞬間、私達は、診療室のベッドの上に転がっていた。

もどかしげに相手の服を脱がせていく。
外にいる命先生のことなど、そのときは全く頭になかった。

彼の体を見て、私は、彼が随分やせてしまったことに愕然とした。
自分が彼に対して与えた仕打ちに、胸がずきりと痛む。

と、彼が私を抱きしめながら呟いた。
「智恵…やせましたね…。」
え、と自分の体を見下ろした。
そういえば、自分では気がつかなかったけれど、最近、余り食欲がなかった。
607本当のきもち 14/15:2008/01/14(月) 16:43:16 ID:kRGb/+CG
「どうやら、私達は一緒にいないと、栄養的にもよろしくないようですよ。」
彼が、くすりと笑うと私を見て、柔らかく口付けてきた。
その余りの甘さに、おいしい…と、思わず心の中で頷いていた。

彼が、私の下肢に手を伸ばしてきた。
いつものように、私の胸に顔を埋めたりする余裕もないらしい。
私自身も、一刻も早く彼を体で感じたくて、おかしくなりそうだった。

彼の指が、私の中を掻き分けてくる。
くちゅ、という水音が響き、私は思わず声を上げた。
「ぁあ、ああっ!」
彼が、驚いたように指を止めると、嬉しそうに微笑んだ。
「今日は、また、随分素直なんですね…。」
私は、彼を潤んだ目で見上げた。
「もう、これからは意地を張ったりしない…素直になることに決めたの。」

彼は、目を瞬くと、くすくすと笑い出した。
「…それはどうですかね…きっと、これからも私達、意地を張り合って、
 たくさん喧嘩するような気がするんですけど。」
「それはそうかもしれないけど…でも、すぐに仲直りするわ。」
私は、彼の目を覗き込んだ。

彼は、私を愛おしそうに見下ろすと、頷いた。
「そうですね…愛してますよ、智恵。」
「私も…望。」

「あなたの声をもっと聞きたいのはやまやまですが…兄さんがいますからね。」
そう言うと、彼は私の口を唇で塞いだ。
そして、私達は、唇を合わせたまま、体を重ねた。

「ん…っ、あぁ、んん…!」
「く…ぁあ…!」
お互いの唇の隙間から、堪え切れない声が漏れる。

彼が私の中ではちきれんばかりになっているのが感じられる。
そして、私の体がそれに歓喜しているのも。

気が狂いそうな程に互いを求め合い、むさぼり合って、
私達は最後、同時に昇り詰めた。
608本当のきもち 15/15:2008/01/14(月) 16:44:15 ID:kRGb/+CG
全てが終わった跡、私は、久しぶりの彼の腕の中で
幸福でとろけそうな気分を味わいながら、うとうとしていた。

「ねえ、智恵…。」
そのとき、彼が、ふと口を開いた。

「あなたが、今までの自分でいられないという、さっきの話…。
 その代わりに、新しいあなたを見つければいいんじゃないですか?
 どんなあなただろうと、それは、あなたに違いないんですから。」
私は、思わず彼を見上げた。
彼は、明るい目をして私に微笑みかけていた。

「…なんだか、糸色先生じゃないみたい…。」
私が呟くと、彼は照れたように笑った。
「あなたを失わないためだったら、私だって前向きになります。
 私だって、少しずつですが、変わってきているんですよ。」
「…!」

―――ああ、そうか…。

人が出会い、愛し合って、お互いを生まれ変わらせていく。
人を愛すると言うのは、つまりは、そういうことなのだ。
そして、それは、なんとも素晴らしいことではないか。

―――私は、いったい、何を恐れていたんだろう…。

私は、嬉しくなって、彼の胸に顔を埋めた。
彼の匂いに包まれ、私は、確実に自分が変わっていっているのを感じていた。


*   *   *   *   *   *   *   *


その頃、医院の待合室では。

「…まったく、あいつら…人の診療室で何やってるんだか…。
 これじゃ、いつまでたっても帰れないじゃないか…。」

ベンチに座り、医院の鍵を指で回しながら、ぼやいている命がいた。
609430:2008/01/14(月) 16:45:47 ID:kRGb/+CG
相変わらず、メロドラマで…orz
カラッとした明るいエロを書けるようになりたいなぁ。

冒頭のエロシーン、霧とまといはどこにいたんだって自己突っ込み。
お相手が智恵先生だと、生徒達の出番が少なくて、ちょっと寂しいです。

以下は、例によって蛇足小ネタです。
長い上に、こんなもんまでくっつけて、容量がギリギリになってしまいました。
大変申し訳ない。
610蛇足小ネタ:2008/01/14(月) 16:46:27 ID:kRGb/+CG
翌朝の糸色医院。

看護師が明るい顔で命に挨拶をした。
「おはようございます、先生。」
対する命は、余り覇気がなかった。
「ああ…おはよう。」

「先生どうしたんですか、なんか目が赤いですけど…。」
「いや、ちょっとした寝不足で…。」
(結局、あいつら明け方まで帰りゃしないんだから)
「あらまぁ…。」
と言いつつ、手早く診療室の掃除を始めた看護師は、突然、動きを止めた。
「ん?どうした?」
看護師は、この上なく不機嫌な顔で診察室のベッドを睨んでいた。

「先生…なんで、ベッドのシーツが外れてるんですか…。」
「え、ああ、これは…。」
「私、昨日、きれいに整えて帰りましたよ…。」
「だから、これは…。」
「しかもベッドの横に、レースのついた、ハンカチが落ちてます。」
「あ?なんだ、彼女、忘れていったのか?」
「…先生!!」
「は、はい?」
「不潔です!!先生、聖なる職場で…最低ですーーー!!」
「え?えええええーーー!?」

誤解がとけるまで、命はしばらく、看護師に口をきいてもらえなかったらしい。
611名無しさん@ピンキー:2008/01/14(月) 21:50:37 ID:bYWOmAaH
>>609
もう、しかたないわね、新スレ立ててあげるわよ!
あ、あなたのためにやったんじゃないんだからね!
http://sakura03.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1200314711/

ところで長編乙でした
612305:2008/01/14(月) 21:55:50 ID:HdO9rJlp
命先生がイイ! 
人の事は良く見えるのに、自分の事はまるで見えてない、それがいいです。

お疲れ様です。305です。

えーと、大草さんで一つ作ってきましたので、投下させて下さい。
エロ無し・短編・ちょっと雰囲気暗い です。 8kくらいなので丁度埋まるかも。>>611さんスレ立て感謝です。

では、よろしくです。
613名無しさん@ピンキー:2008/01/14(月) 21:56:35 ID:2uc6pr6y
早いっすねw
>>611とにかく乙
614麻菜実:『宵待草』:2008/01/14(月) 21:57:08 ID:HdO9rJlp
待ち合わせの場所にはその姿は見つけられなかった。
来られなくなったのだろうか? 不安な考えが一瞬だけ頭をよぎり、だがすぐに別の可能性を思い出した。
彼女のトレードマークとも言える、まとめた短いポニーテール。
今日だけはそれを目印にする事はできないのだった。
苦笑を浮かべながら、駅前の雑踏の中にその姿をもう一度捜す。
程無くして見付けた彼女は、公演予定のポスターが並ぶ掲示板に背を預けるように立っていた。
長い耳当てを垂らしたウインターニットを目深に被り、下ろした髪は襟首を隠すように帽子の裾からこぼれ
出している。
灰色のマフラーで口元を覆い、誰とも視線を合わすまいとするかのように、目を伏せじっと佇んでいた。

うっかりと、いつものように名前を呼ぼうと口を開きかけ、慌てて出かけた声を飲みこむ。
何事も無かったように装ってゆっくりとその前に進み出た。
すると、気配に気がついた彼女が少し顔を上げる。

だれだろう?
そんな考えを携えた表情で、数秒の間こちらを凝視していたその瞳にすぐに輝くような光が宿る。
彼女は少しはにかんだ表情で肩をすくめてみせた。

―――どなたですか? ・・・と、顔に出ていましたよ。

そう言いたげに困った表情を作って見せ、人差し指で眼鏡のズレを直そうとして、今日は眼鏡をかけてい
ない事を思い出し、あ、と口を丸くして照れ笑いを浮かべた。
コンタクトのおかげで視界は普段と変わらないためか、つい癖がでてしまう。
不自然にならない程度に整えた髪型と、落ち着いた色合いのランチコートとジーンズ姿。これではすぐに
は誰なのか分からなくても無理はない。
互いに相手の顔を見つめ、お互い様だったということに気がついて二人は吹き出して笑った。

ごく自然に手を取り合い、ゆっくりと歩きながら距離を縮め、手を繋いだまま腕を絡めた。

変装と呼ぶには少々お粗末な二人の姿は、知り合いにでも会ったらすぐに気がつかれてしまう程だろう。
そして気分転換だと誤魔化すには簡単ではない姿。
――もう少し分かりにくい格好にするべきでしたかね?
冗談で言おうとして、すぐに口をつぐんだ。
まだ戻る事も出来ると。・・・自分たちの姿は、互いにそんな事を教え合っているように感じられる。
すべての言動に意味を感じて考えに落ちてしまう自分を叱咤するように、彼女には分からないように軽く頬
を叩き、そこで考える事をやめて、絡めた指に少し強く力を込めた。
――分かっていますよ、分かっています。
強く握り返してくる細い指を感じながら、何度も胸の内で繰り返した。


暗くなってくる空。それに反して灯り出す公園の街灯。
海を臨めるこの場所は、週末には寄り添う恋人同士で一杯になる。
自分たちも見た目はそんなカップルの一組。・・・すくなくともそう見えているだろう。
何度も確認するように周囲を盗み見て歩く。
街灯の照らす光からは逃れるように暗がりを選び、身を隠すようにして明かりをさけ、お互いの顔も見ず
に、どこか逃げ場がないかと探しているかのようだった。
615麻菜実:『宵待草』:2008/01/14(月) 21:59:30 ID:HdO9rJlp
                                                               _
公園の外れ、切れかけて時折点滅する薄暗い街灯の下に二人は寄り添い、しばし見つめあう。
その体が小刻みに震えているのは寒さのせいだけではないだろう。
ずっと触れたくてたまらなかったその頬を包み込むように両手で触れる。
まだ幼さのある丸い瞳は時折ゾクリとするほどの大人びた光を宿す時があることを、自分は知っている。
少し尻下がりのはっきりとした愛らしい眉を撫でると、まるでそれが合図だとでも言うように彼女は目を閉
じた。
躊躇する必要など無いはずなのに、いつもこの時間を待ち侘びて過ごしていたというのに、なぜだかため
らいが生まれて心が止まってしまう。

空白の時間が流れ、やがて寂しそうな微笑みを浮かべた彼女が目を開く。
すこしだけ泣きそうな表情を浮かべて、すぐに肩に両手を回して背伸びをし二人の顔の距離を縮めた。
そして唇を重ね合う。
その瞬間に一瞬だけ戸惑いを見せた彼女の心の中には何がよぎったのだろうか。
熱っぽい口付けを受けながら目を閉じ、あえて心は鈍く、そこに感じた痛みは忘れようとした。


まるで隠れようとするかのように深く被った帽子に手を触れ、ゆっくりと取り去ろうとすると、少し怯えた表
情を浮かべて一瞬だけ周囲をうかがうように視線を泳がせた。
――大丈夫ですよ。そう笑いかけ、弾力のあるニットを脱がせると収めていた髪が、夜風の中へと広がり
その頬へと絡み付いた。
髪を撫でるように手櫛を通しながら軽く振れるだけの口付けを落とす。
背中を抱き寄せ、再び長く唇を触れ合わせた。

二人で逢う時、時間も場所も限られていると言うのに、ほとんど言葉を交わした事はない。
長い抱擁とキスを繰り返して短い時間はあっという間に過ぎていく。
この欠陥だらけの関係はいつもここまでで止まり、先へは進もうとはしないまま、ただ時間だけが過ぎ去っ
ていく。
「私・・・・・・遅くなっても、大丈夫ですから・・・」
自分の胸に顔をうずめた彼女がぽつりと言葉に出した。
何気ない口調に一瞬思考が遅れ、胸の中へと強く響きわたる。
愛しそうに抱え込んだ彼女の頭に頬を付け、ゆっくりと首を横に振ってみせた。

夜が来る前、夜が深くなる前までの時間だけ。そう決めていた事は二人ともよく承知している。
日の無い時間は想像以上に特別だから。そう、互いに言い聞かせていた。
昼の光の下では言えなかった事も、聞けなかった事も、心の中を曝け出し受け入れてしまう。
狂ってしまう、と。この人と共に過ごす夜は、自分を狂わせてしまう、と。
そして夜は必ず終わってしまう。
きっと、そこに在った物を抱えて元の場所に戻るなんて事は、もう出来ない。


――もし、今日で、世界が滅びてしまうとしたら。
独白するようなその呟きを耳にして、彼女は顔を上げた。
いつも見せる困ったような笑顔は、今は泣いているようにしか見えない。
次の言葉を促すようなその視線に、目を閉じ、少し乱暴に首を振る。その場しのぎの言葉を吐くくらいなら
、何も言わないほうがいい。そう思い、唇を噛み締める。

「わたしも、同じ事を考えていました・・・・・・」
小首をかしげて、自分を見上げながら少女のように笑ってみせる。瞳からこぼれそうになっている雫が点
滅する街灯の光を受けて瞬いた。
「ずっとこの時間が繰り返せばいいのにって・・・・・・ 明日なんか来なければいいのに・・・ って。」
耐え兼ねたようにうつむいた彼女の瞳から落ちた雫が、石畳の上に小さく染みて広がる。
「そんな――夢みたいな事・・・・・・ 子供みたいに・・・・・・何度も・・・・・・」
答える言葉など何も見つからず、ただ、自分の服を握りしめ、震わせているその肩をそっと抱き寄せた。

616麻菜実:『宵待草』
                                                            _
目の前には海が望める公園。
街灯の光に寄せられるように集まり、二人だけの語らいをしている恋人たち。
その間を寄り添って歩く自分たちも、単なる恋人達の一組にすぎないのだろう。――この場所なら。

「だれもが・・・・・・ずっとこの幸せな時が続くようにと、そう信じて・・・願って、いますよね・・・」
不意にそう呟いて立ち止まり、こちらを見上げる。・・・何とか笑おうとしているような辛そうな表情だった。

「・・・わたしは ・・・私達は、何を願えばいいのでしょう?」
じっと自分を見つめる瞳は吸い込まれるほどに透き通っていた。
「どう願えばいいのでしょう・・・・・・ 何を・・・祈れば・・・・・・」
唇が震え、瞳の中に影が差してゆく。
「・・・・・・何に祈れば・・・・・祝福されるのでしょう・・・  わたし・・・祈れません・・・・・・自分たちの幸せな
んて・・・・・・!」

肩に乗せた重しに潰されるように崩れて行く体を受け止め、これまでに無いほどに強く抱きしめた。
唇をきつく結んで漏れそうになる嗚咽を必死で耐えている。その耳元を覆うように自分の手の平を添え、
そっと口を近づけ微かな声で囁くような声を出した。
「――好きですよ、麻菜実。・・・待ち遠しくて、姿を想う度いつも恋しくて、気が狂いそうになる程・・・ 好き
です。」
驚きと、戸惑いと、嬉しさと、悲しさと。次々と変わって見せた表情に、彼女の中を通りすぎた強い感情の
波を感じ取れた。
夢中でその唇を奪うと、その喉の奥から一度だけ低い嗚咽を漏らし、彼女は重ねた唇を外して相手の耳
に振れるほどの間近に口を寄せた。
途切れ途切れにしか聞き取れないほど微かな、震えた声を漏らす。

「好き・・・大好き・・・・・・ いつか、ダメになってしまっても・・・・・・ 終わってしまっても・・・・・・ 逢えなくな
っても、好きだから・・・ 望・・・」
人目をはばかるように、かすれるような細い声で言ってくれた彼女の体を優しく抱きしめ、空を仰いだ。


――ひとつだけ祈れる事があるとしたら。
この想いが実らないように・・・・・・と。 それだけなのでしょうか・・・

自分のその考えに、苦笑いさえ浮かべる余裕もなかった。今はただ胸が痛い。耳に残った彼女の言葉が
首筋に痺れるような疼きを残していた。

――幸せくらい、祈らせて下さい。・・・せめて、彼女の分だけでも・・・・・・

時間はこのまま過ぎ去り、また、待ち遠しい1週間の日々が始まる。
とても幸せで、とても苦しい毎日が、また繰り返すのだろう。