お姫様でエロなスレ7

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410残夜余香:2008/04/29(火) 04:42:18 ID:bawRC6f7
※  ※  ※  ※  ※  ※  ※  ※  ※  ※  ※  ※





「そういえば、香を焚いていたのだったな」
寝台脇の窓辺に置かれた鉢に目をやりながら、アランはぼんやりとつぶやいた。
心地よく疲労した身体に体温の抜けた冷ややかなシーツは心地よかった。
朝日はすでに蜘蛛の糸のように差し込み始め、これまで室内を支配していた青い薄闇は片隅に追いやられようとしていた。
「没薬か」
「好んで、つけていらっしゃるから」
傍らに横たわるエレノールが恥ずかしそうにつぶやいた。

つまりこれも、彼女にとっては彼の寝衣と同じ意味合いをもっているということなのだ。
彼の香り、彼の存在を明確に呼び起こすもの、彼の体温をすぐそこに思い出させるもの。
アランは窓辺のほうを眺めたまま黙っていた。
てっきり勝ち誇ったように鼻で笑われるかと思っていたので
―――だからこそ彼の自負心を満足させてやるのはいちいち腹立たしいのだが―――、エレノールは意外だった。

「そうだな。好きな香りだ」
ようやく口を開いてつぶやくと、アランはまた仰向けになって天井を見上げ、無造作に妻の肩を抱きよせた。
エレノールは安心したように身をゆだね、彼のたくましい胸元に頬を寄せて目を閉じた。
めったに乱れることのない心臓の音。懐かしい規則的な音だった。
彼だけの鼓動、彼だけの体温、彼だけの香り。
これだけそろえば、久方の情熱に燃焼しきった肉体を安らかな眠りにいざなうには十分というべきだった。

「俺の、好きな香りか」
妻がまどろみに落ちてゆくのを見守りながら、アランはまたつぶやいた。
忘れてしまったのだろうか、と思った。
最初は彼女が用いていたのだ。
結婚して半年後、すなわち約二年前、ようやく事実上の夫婦になってみて彼は妃の愛用の品を徐々に知るようになった。
一国の王女の身であれば、嫁入りとともに携えてきた化粧品や香料の種類も膨大だったが、
エレノールがとくに好んで用いていたのは白檀であった。
いかにも南海貿易がさかんな国の貴婦人らしかった。

ただし自分の髪に香油として塗りこめるそれとは別に、彼女はときおり、自室に香を焚いていた。
それが没薬だった。
この国で入手できないこともないが、あまり馴染みのない香料である。
礼拝堂のようなことをするものだ、とアランは思ったが、たしかに心地よい香りではあった。

好きなのか、とある日なんとなく訊いてみたとき、エレノールは一瞬目を見開き、かすかに目を伏せて、ええ、と言った。
「心が落ち着きますの。
 ほんのりと甘くて、香ばしい深みがあって、―――晩春の宵のような」
411残夜余香:2008/04/29(火) 04:43:27 ID:bawRC6f7
そうか、とアランは思った。
そして自分でも取り寄せてみた。
この大陸の貴人は男女問わず日常的に香料を愛好するものであるから、彼がそれを用いるようになったのは何も不自然なことではなかった。
洗練された趣味において名高い王太子がご愛用召されているというので、一時期宮中でも流行をみせたほどである。
エレノールは当初少し戸惑っていたが、次第に彼がそれを身につけることに慣れはじめた。
今日は焚き染めてらっしゃいませんのね、などと言うようになった。
そして「彼の」香りだと思うようになった。

彼女自身に由来する香りでないのだとしたら、彼女のなかでは誰の香りだったのだろう。
誰を偲ぶための香りだったのだろう。
香りによって記憶が塗り替えられたのか。
それとも忘れたふりをしているだけなのか。
それは「彼」を偲ぶよすがではないと、エレノールは誓えるだろうか。
突然問いただしたい気持ちに駆られた。
だが隣に息づく聖女のような寝顔を眺めると、とてもできそうになかった。

(やれやれ)
アランはゆっくりと目を閉じた。
(俺はなんと寛大であることか)
指先でまさぐるエレノールの髪はしなやかで優しかった。
毛先までもがしっとりと密に絡みついてくる。
眠りに安らぐ今でさえ、彼の愛撫をひたむきに求めているかのようだった。
朝日はもはや寝台全体に射しかかっていたが、とくに気になる熱さでもない。
彼は妻の裸の肩を抱いたまま、ゆっくりと眠りに落ちていった。



(終)
412名無しさん@ピンキー:2008/04/29(火) 11:45:35 ID:rf3l5hA2
アランとエレノールキテタ━━(゚∀゚)━━!!
この夫妻はいつ見ても艶めかしくて好きだ。
背徳感たっぷりでなおかつラブラブって辺りがツボにはまる。

ところで…このお話の時期ってルネが悶々としてる真っ最中なんだな
413名無しさん@ピンキー:2008/04/29(火) 15:57:28 ID:cNgHdbMa
そろそろ新作がきてるのじゃないかと思ってました。
オレ様キャラは苦手だがエレノールへの深い愛ゆえ
アランだけは憎めない・・
たまにはエレノールの逆襲?なんてエピソードがあればいいのにと思います。
どの兄弟の話も本当に面白く深みがありますね。
414名無しさん@ピンキー:2008/04/29(火) 20:32:56 ID:KK1PNJYT
この人の書く話は、最後すごく余韻が残るんだよね。
良いわ〜。
415名無しさん@ピンキー:2008/04/30(水) 01:49:32 ID:buHFD82M
待ってましたーーーー!!
アランのサディストぶりにエレノールが可哀相になったw
でも恥ずかしがるエレノールが可愛い
普段とギャップがあるが故に。アランがエレノール苛めたくなる気持ちがわかる気がした
今回も時間かけて丁寧に読ませて頂きました
いつも素敵な話ありがとうございます
416名無しさん@ピンキー:2008/04/30(水) 20:27:57 ID:psK0KhGy
エレノール様、お待ちしておりました
417名無しさん@ピンキー:2008/04/30(水) 20:31:00 ID:QFWFIQnm
>彼は二年前のエレノールの輿入れに前後してしばらく謹慎を被ったらしいが

輿入れ時にエレノールに付き添っていた美女たちも、薄々事情を知っていたようだし、
当時クレメンテへの周囲の評価や反応が気になります。
それでも後に頭角をあらわすのだから凄いですね。
418名無しさん@ピンキー:2008/04/30(水) 22:56:22 ID:gZuGlO02
文章も勿論だけど毎回タイトルが趣あったすごく良い
贅沢を言わせてもらえればそろそろマリーとオーギュストに会いたいです
419名無しさん@ピンキー:2008/05/01(木) 04:16:39 ID:aQcclDXA
私はクレメンテが好きだ!
もっとアランをやきもきさせてほしい。
揺れ動くエレノールが見たい。
420名無しさん@ピンキー:2008/05/01(木) 07:39:07 ID:p82aMzPb
>>419
同意
421名無しさん@ピンキー:2008/05/01(木) 08:36:27 ID:sLBS5n8V
トマ王子登場キボンヌ
422名無しさん@ピンキー:2008/05/02(金) 22:43:18 ID:RXsCpGRN
唐突なマリアンヌの提案に、コートニーは目をしばたかせた。
「まあ、マリアンヌ。ありがたいけれど……そんなことは不可能なのよ」
「どうして不可能なのよ。身分の上では、何の問題もないわ」
「確かに、そうね。
でも、どう考えても、私の国より、リヴァーの国力の方が勝っているわ」
さきほど夢の世界を漂っていた少女は、急に真剣な一国の王女の顔へ変身する。
「そして、私のお父様は、フォレストが、属国扱いされるような真似をすることだけはしないわ」
大国の貴族令嬢には、新興国おける外交政策の危うさは、ぴんと来なかったが、
コートニーの背負っているものの大きさは推し量ることができた。

ああ、とセシリアは息を詰める。国政の事情により、引き裂かれてしまう恋のなんと切ないことだろう。

他方、マリアンヌはひるむ様子もなかった。
「でも、それは、政略結婚は不可能ということなのでしょう。
 あなたとエルドのあいだに既成事実さえあれば、いくらあなたのお父様だって反対できっこないわ」
「既成事実ですって?」
またもや唐突な言葉に、コートニーは目をぱちくりさせた。
「マリアンヌったら、本気でおっしゃっているの?」

セシリアも不安に思い、マリアンヌの自信満々の顔を見つめた。
何だか雲行きが怪しくなってきたわ。

「まあ大船に乗った気分でいてちょうだい。
私の手にかかれば、エルドなんて一網打尽、袋の中の鼠よ」
マリアンヌは上機嫌で、おほほと笑い声を立てた。
423名無しさん@ピンキー:2008/05/02(金) 22:46:49 ID:RXsCpGRN
うわー。
テスターに投下するはずが誤爆してしまった。
仕切り直しますので、しばしお待ちを。
424名無しさん@ピンキー:2008/05/02(金) 22:54:47 ID:oeZPfc2C
ぎゃー待ってた!待ってる!
425名無しさん@ピンキー:2008/05/03(土) 00:00:17 ID:KhTdZZFI
正座してお待ちしていますwktk
426名無しさん@ピンキー:2008/05/03(土) 00:15:17 ID:vy1v/xoD
全裸で待ってます!
427名無しさん@ピンキー:2008/05/03(土) 00:18:23 ID:x6eL3YfA
大好きな作品の予告が来たーっっ!!
428桃色の鞠(前編) :2008/05/03(土) 00:58:29 ID:YNf4REKH
久しぶりに、セシリアの話を投下させて頂きます。
『青い月』の直後の話で、前・中・後編となります。

     ***

鞠が弾んだ。
セシリアは、縦横無尽に跳ねるそれを夢中で追いかけた。
力いっぱい壁に投げつければ、鞠は弾んで、思いもよらないところへ飛んでいく。
追いかけて捕まえて、また投げる。
その繰り返しだけで、日が暮れてしまいそうだった。

桃色の鞠を撫でながら、セシリアは考える。
マリアンヌが帰ってくる日は、いつだろう。

一人っ子の彼女にとって、一人遊びは得意とするところだ。
それでも、壁に向かって鞠を投げるより、
投げたらちゃんと返してくれる遊び相手が恋しかった。

セシリアは、額にかかった髪の毛を払うと、また鞠を放り投げた。
桃色の鞠は弾んで、彼方まで飛んでいった。

     ***
429桃色の鞠(前編) :2008/05/03(土) 01:01:13 ID:YNf4REKH
記念祭二日目に催された園遊会では、
宮廷管弦楽団による野外音楽鑑賞会が行われていた。
集まった人々は、軽やかな演奏に聞き惚れ、
拍手の合間に批評家を気取り、各々の感想を口に乗せる。

けれども、中には不真面目な聴衆もいて、
例えば公爵令嬢セシリア=フィールドは、
扇子の内側で、こっそりと大きな欠伸をもらしていた。

「セシリアったら、ずいぶん眠そうね。昨日の夜は、はしゃぎすぎたのかしら」
隣に座っていた第四王女マリアンヌは、寝ぼけ眼の親友を面白そうに眺めた。
「え?」 
見透かされたような瞳に見つめられて、素直なセシリアはぎくりとする。

「おおかた夜遅くまでと殿方たちと踊っていたのでしょう」
「……ええ、そんなところよ」
神妙な表情で頷きつつ、セシリアは背筋を正した。
柔らかい背もたれに寄りかかっていたら、管弦楽曲を子守唄に熟睡してしまいそうである。

「そろそろ演奏も終わるから、そうしたら私の居室にいらっしゃい。ゆっくり休憩できるわよ」
そう言って、マリアンヌは目尻を細める。
セシリアは、その思いやりのこもった微笑が大好きだった。

「賛成だわ。でも、この後は、武芸競技大会が控えているけれど、よろしいの?」
そう指摘すると、マリアンヌは「あら、そうだったわね」と呟いた。
軍部主催の武芸競技大会は、数ある華やかな記念祭行事の中でも、人気の筆頭株だったのだ。

しかし、マリアンヌは少しの思案顔を作ったあとで、肩をすくめた。
「まあ、いいわ。どうせ、王族は賭け事もできないのだし」
「あら、つれないのね」
「だって、優秀な成績を修める騎士たちも、だいたい見当がつくのだから、つまらないわよ」
「それでも、今年は何人の騎士が、あなたのために戦おうとするのかしら」

そう言いながら、セシリアはマリアンヌの濃いまつげを眺めた。
軍部に所属する騎士たちの多くは、美しく気高いマリアンヌ王女の崇拝者である。
けれども、王女の側に近寄れる好機なんて、滅多にない。
だからこそ、彼らは、マリアンヌ王女のために戦い、
優勝者のみが得る勝利の聖杯を捧げようとするのだ。
ただ、ほんの一言、姫に労いの言葉をかけてもらう瞬間を夢見て。
430桃色の鞠(前編) :2008/05/03(土) 01:02:34 ID:YNf4REKH
「勝利の聖杯なんて、うんざりだわ」
マリアンヌは、くすりと笑って受け流した。
「殿方はわかっていないのね。ただ一言、
 『あなたが好きです』と想いのたけを告白してくれた方が、何千倍も心に響くのに」

素っ気ないマリアンヌに、セシリアは苦笑して、「そうね」と答える。
その実、もどかしい気持ちをやっとのことで抑えていた。
――それでは、あなたに愛の手紙を送った騎士様とは、一体、どうなっているのよ?
本当は、そう訊きたくてむずむずしていたのだ。

「漆黒の騎士」について、マリアンヌはまだ何も語っていない。
昨晩は、不可解な置き手紙だけが残り、
マリアンヌは魔法にかけられた姫君のように深い眠りについていた。
今朝方、彼女と顔を合わせたとき、いつも通りの様子だったので、
セシリアは、ほっと胸をなで下ろしたのだが、 昨夜の真相については謎のままだった。

けれども、自分の側からせっついて聞き出すような真似はできなかった。
「社交界の女王」を自負するマリアンヌは、
親友のセシリアでも関知しない、幅広い交際の輪を広げている。
その交際関係の内実を、彼女の側から打ち明けてくれれば、耳を傾けるし、
仲間の輪に誘ってくれるならば、喜んで加わる。
しかし、マリアンヌがあえて話し出そうとしない事柄には、首を突っ込まないし干渉しない。
それがセシリアの基本的な姿勢だった。

ともかく、二人は麗らかな午後を、マリアンヌの居室でくつろぐことに決めたのだった。
431桃色の鞠(前編) :2008/05/03(土) 01:03:59 ID:YNf4REKH
夕闇が迫ってきた頃、マリアンヌの侍女は、訪問客の到来を告げた。
セシリアとのお喋りに夢中になっていたマリアンヌは、
来訪者の名前を確認せず、応接室へ通すことを命じた。
しかし扉が開かれ、訪問者の頭が現れた途端に、
マリアンヌは歓声を上げ、椅子から立ち上がった。

「まあ、コートニーではないの!」
「お久しぶりね、マリアンヌ」

セシリアが、マリアンヌの背中越しから覗いてみると、
鮮やかな檸檬色のドレスをまとった令嬢が笑っていた。

「本当にご無沙汰していたわね。リヴァーには、いつから居らしていたの?」
「ちょうど昨晩、到着したのよ。ユーリ陛下には、昨日の内に挨拶を済ましていたのよ」
「あら、それならもっと早くに私のところに、いらしてくれてもよかったじゃない」 
「ごめんなさい。見物するところが、そりゃあたくさんあったから、すっかり遅くなってしまって」
「ああ、懐かしいわ。こうして直にお会いするのは、本当にお久しぶりね」

二人の少女は抱き合いながら、ひとしきり近況を報告しあう。
セシリアにとっては、いささか退屈な時間だった。
そのあとで、ようやくマリアンヌは、セシリアの方へ向き直った。

「セシリア。こちらは、フォレスト王国の第一王女、コートニーよ」
紹介されたコートニー王女は、にっこり笑って会釈した。
結い上げた髪の毛の先が子馬の尻尾のように揺れている。

「フォレスト……」
そう呟きながら、セシリアは昔の記憶を引っ張り出した。
「あら、それじゃあ、八年前に、あなたが避暑に行ったところではないかしら」

「その通りよ。よく覚えているわね」
マリアンヌが感心したように頷いた。
忘れたくとも、忘れられないわ、とセシリアは苦笑する。
432桃色の鞠(前編) :2008/05/03(土) 01:07:19 ID:YNf4REKH
フォレスト王国は、リヴァーの北方に位置する小国であり、
大陸最大と称される深い森と美しい湖を有する国として有名だった。
―――意地悪く言えば、それ以外に名を馳せる物や場所がないのだが―――。

その湖のほとりにある由緒正しき古城で、
当時十歳だったマリアンヌ王女は、夏の休暇を過ごしたのだ。
もちろん、その頃、八歳だったセシリアも、
親友がフォレストに行くことを聞きつけると、「一緒に行きたい」と両親にせがんだ。
しかし、何だかんだと理由をつけられて、あえなく却下され、
親友のいない孤独な二ヶ月あまりを過ごすはめになったのだった。

大好きな親友がいないだけでも、やりきれないのに、
その親友はバカンスを思う存分楽しんでいるようだった。
彼女から定期的に送られてくる手紙には、
毎回、フォレスト王国の貴族の子女の名前がびっしり書き込まれていた。
「今日は、コニーたちとピクニックに行きました」やら、
「ウィロビー家のボートに乗せてもらい、素晴らしい夕焼けを眺めました」などなど。

そんな手紙を読んでは、
楽しんでいるマリアンヌを羨み、旅行の許可をくれなかった両親を恨んだものだった。
マリアンヌやその友人たちと仲良く遊んでいる自分の姿を空想したこともあったくらいだ。

八年前のことなのに、あのときの気持ちが瞬時に蘇ってくる自分に驚きながら、
セシリアは、ぎこちなく彼女に笑いかけた。
「はじめまして。セシリア=フィールドです」
するとコートニー王女は、にっこり笑って親しげに手を握り締めてくれた。
「どうか仲良くしてちょうだいね」
「ええ喜んで」
はにかみながらも、セシリアは嬉しくてたまらなかった。
フォレスト国の王侯貴族の子女と友達になる、という自分の空想が、
歳月を経て実現したことに、純粋に感動していたのだ。
433桃色の鞠(前編) :2008/05/03(土) 01:11:55 ID:YNf4REKH
コートニーは、大いに喋った。
どうやら、長い伝統に裏打ちされた祭りの華麗さは、新興国の王女の心をがっちりと捕えたらしい。

あんまり次から次へと話題が出てくるので、口を挟む暇すらなく、セシリアは相槌を打つばかりだった。
けれども、自国に対する手放しの賞賛は嬉しかったので、自然、コートニーへの好感は募っていく。
とうとう、話題は、マリアンヌとセシリアが意図的にすっぽかした行事に移った。

「先ほどまで、武芸競技大会を見学させてもらっていたのよ」
「あら、どうだった? 初めて観覧するのだったら、とても珍しかったでしょう」
「ええ。最初は見るのが怖かったのだけれど、気付いたら、夢中になってしまったわ」
コートニーは興奮に目を輝かせる。
武芸を競うといっても、記念祭で行われるような試合は、
適度に荒々しく、適度に華やかで、観覧者の好奇心を満足させる範疇を逸脱することはないのだ。

「おまけに、どの出場者の方々も、見目麗しくて男らしい方々ばかりなのね。
 観覧席は歓声の嵐だったのよ」
「そうでしょうとも」
セシリアは物知り顔で頷いた。武芸競技大会が年々華やかさを増していくのは、
ひとえに莫大な出資者たち――そのほとんどが器量好みな有閑階級の婦人たちである―が存在するからだった。
それゆえ、軍部側は、進んで容姿のよい若者を集めているという噂まであった。

「もしかして、あなたにも、お気に入りの騎士ができたのではないかしら?」
「まあ、マリアンヌったら。そんなこと―――」
そこでコートニーは唐突に言葉を切り、わかりやすく頬を赤く染めた。
自分の世界に浸りがちな乙女の表情だ。
「―――実は、そのこともお話したいと思っていたのよ」

マリアンヌは笑い声を立て、身を乗り出した。
「やっぱり、お気に入りの騎士様ができたのね。それで、そのお方に、すっかり夢中というわけなのかしら」
「ええ、認めるわ」
「さあ、その幸運な方は、一体どなたなのかしら。
 お名前はご存知なのでしょう?」
「―――あなたもよくご存知の方よ」
「もちろん、そうでしょうね」
マリアンヌが自信ありげに、口角の両端を上げた。
リヴァーの社交界を牛耳る王女が、
武芸大会で活躍するような花形騎士のことを知らないはずがないのだ。
マリアンヌは、上位入賞の常連である騎士の名前を次々と挙げていった。

しかし、コートニー王女は、意味ありげに首を振るばかりだった。
「いいえ。みんな違うわ」
堪えきれなくなったマリアンヌは、降参のポーズを作る。
「コートニーったら、じらさないで教えなさいよ」
横で聞いていたセシリアも、知りたくてたまらなかったので、頷いた。

そこで、コートニーは、意味ありげに大きく深呼吸した。
「あなたの弟よ」
「え?」
「第三王子エルド殿下よ」
そう言い切って、コートニーは頬をよりいっそう赤らめたのだった。
434桃色の鞠(前編) :2008/05/03(土) 01:16:33 ID:YNf4REKH
「……エルド?」
訳がわからないという風に、マリアンヌはぼんやりとその名前を呟いた。
それから見る見るうちに、眉を吊り上げ、目を三角形にさせた。
「コートニー。あなたは、まさか……まさか、我が弟君が、武芸競技大会に出場していた、とそうおっしゃるの?」
「ええ、もちろん。エルド様は、馬上槍試合の個人戦に出場していたのよ。」

セシリアは、目の前にいるコートニーの顔を穴の空くほど見つめてみる。
彼女の瞳は、どこか夢の世界を漂っているような不安定さはあったが、
少なくとも冗談を言っているようには見えなかった。

王子が競技大会に出場すること自体は、決して珍しいことではなかった。
王族は剣や弓、馬術などの武芸を一通り習得するのだし、
大会の長い歴史を紐解いてみても、過去に、多くの王子たちが参加している。
それでも、本の虫で、体力よりも知力を重んじる傾向のあるエルドが、武芸競技大会に出場するなんて信じられなかった。

「あなたはもしかしたら」 セシリアは動揺を押さえながら言ってみた。
「別の誰かと第三王子を勘違いしているのではないかしら」

「いいえ、間違いないわ。
審判が、ちゃんと公表していたもの。 エルド殿下の名前が発表された途端、客席は拍手喝采だったのよ」
「ええ。そりゃあ、大騒ぎだったでしょうね」
マリアンヌは、息も絶え絶えというふうに呻いた。

苦虫をつぶしたようなマリアンヌの表情には気付かずに、
コートニーは、意気揚々と語りだした。

彼女は、リヴァーの第三王子を興味津々で眺めたのだ。
第四王女マリアンヌとは頻繁に手紙を交わす関係だったが、
その弟のエルドとは面識はなかったし、彼にまつわる噂すら耳にすることはなかった。
しかし、観客のこのはしゃぎぶりから判断するに、とても人気のある王子なのだろう。

でも大丈夫かしら、とコートニーは心配になった。
第三王子は、いかめしい鎧兜の上からでも、細身であることが伺えたし、
一方、対戦相手は彼よりも背が高く屈強な騎士だった。

けれども、コートニーの心配は杞憂だった。
相手選手の槍が届く前に、エルドはさっと身をかわし、突撃した。
目にもとまらぬ速さとは、こういうことを言うのだろう。
相手は方向転換する間もなく、槍を落とし、試合は終わったのだ。

「そして、そのあとで、挨拶をするために、エルド様が兜を脱いだのよ」
コートニーは熱に浮かされたように、喋った。
彼女の眼前では、その光景が上映されているに違いない。
「まるで地上に天使が舞い降りて来たのではないかと思ったわ。
 あの方の凛々しい顔を拝見した瞬間、私は何も考えられなくなってしまったの」
435桃色の鞠(前編) :2008/05/03(土) 01:18:54 ID:YNf4REKH
そのあとも、勝ち進んで行くエルドがいかに勇ましかったか、
何回戦かで、運悪く敗れてしまったのだが、それが手に汗握る接戦であり、
本当に惜しかったのだ、などと、コートニーは、延々と語り続けたのだが、
セシリアは、混乱していたので、真面目に聴くことはできなかった。
マリアンヌも同様らしく、小声でセシリアに耳打ちする。

「あなた、知っていた? エルドが試合に出場するなんて」
「いいえ、まさか!」 セシリアは何度も首を横に振った。
「あなたが知らなかったというのに」
「そうよ、そうなのよ。出場者のリストは事前に公開されているはずだから、
 まさかエルドが出場するなんて大事件が起きれば、この私の耳に届かないはずがないのに」

マリアンヌは、扇子の内側で歯をくいしばった。
宮廷内の情報と流行の発信源を自負している彼女にとっては、
滅多に公衆の面前に現れない弟王子の晴れ舞台を見逃したことは、
まさしく一生の不覚であっただろう。

セシリアは自分の扇子を仰ごうとして、膝に手を伸ばしたが、
床に落としていることに気づき、屈んで扇子を拾い上げた。

「あら、そういえば」 
「どうしたの、セシリア?」
「いえ、実は……昨日、舞踏会が始まる前に、エルドと政務長官の二人が熱心に話しこんでいるのを見かけたのよ。
 今から思うと、あれは……」
「政務長官ですって!」 マリアンヌはわなわなと震えた。
「彼らと何を話していたというのかしら」

もちろんマリアンヌはわかっていたはずだ。
セシリアでさえ見当が付いたくらいなのだから。
武芸競技大会の出場者の履歴書類を確認し、
最終的な許可を下ろすのは、政務官の任である。
エルドは、王族という特権階級を有効活用し、
武芸競技会の飛び入り参加を打診していたに違いない。

「してやられたわね。すでに宮廷中に、いいえ国中に、このことが広まっているでしょうに」
マリアンヌは、憎々しげに吐き捨てた。

「それにしても―――飛び入り参加だなんて、エルドらしくないやり方だわ」
セシリアが一番腑に落ちないのは、その点だった。
エルドの性格からして、突発的に行動することも、
王家の威光を振りかざすことも、必要以上に注目を浴びることも、嫌うはずだ。
436桃色の鞠(前編) :2008/05/03(土) 01:24:34 ID:YNf4REKH
セシリアがぶつぶつと呟きはじめると、
コートニー王女は夢の世界から舞い戻ったようで、じろりと彼女を注視した。
「あなたは―――エルド様と仲がよろしいの?」
「……え?」
「セシリアとエルドの仲の悪さは昔から折り紙つきよ」
コートニーの気迫に押され、二の句が告げないでいるセシリアの代わりに、マリアンヌがさらりと答えた。

「成人してからは、顔を付き合わせる機会も少なくなったし。そうでしょう、セシリア?」
セシリアはぎこちなく賛同した。
まさか、つい昨晩も、同じ寝台で睦まじく寝ていました、と言えるはずがない。

「だから、あなたは恋敵の出現を心配しなくてもいいのよ、コートニー」
「恋敵?」
聞き慣れない言葉にセシリアは面食らったが、
コートニーは違和感なくその言葉を受け入れたようで、そっと目を伏せた。
「まあ、変なことを尋ねてごめんなさいね。
 何しろ観覧席にいた女性は、みんなエルド様に心を奪われていたのよ」
それはコートニーの思い込みなのではないかしら、とセシリアは思う。

「だから、あの方に、その……勝利を捧げたご婦人がいるかどうかが、どうしても、気になってしまって……」
「まあ、そんなに思い詰める必要なんて、ないのに」
マリアンヌは、自分の弟にそれほどまでの価値があるのかしら、と言いたげである。
セシリアも全く同感であった。

「でも、記念祭が終われば、私は帰国しなくてはならないし、
 そうしたら、次にいつエルド様にお会いできるかわからないわ。
 だから、記念祭が終わるまでに、どうしても私は、エルド様とお話してみたいの」
「まあ」
ため息をつくコートニーの様子に、セシリアまで切なくなってしまう。
一目惚れに心を悩ますなんて、まるで恋愛小説のようではないか!

一方、マリアンヌは、口元を手で覆い、なにやら考え込んでいた。
「コートニー。あなたはお話しするだけで満足なのかしら? 
 その先のことを想像したことはないの?」
「それは、もちろん。
できれば、私の燃えるような想いを伝えたいわ」
「そうでしょうとも。そして、その先は?」
「―――それは……恋人同士になることかしら」 コートニーは、ため息を漏らした。
「でもそんなこと夢のまた夢ね」
「あら、どうして? 夢に終わらせる必要はないわ」
マリアンヌは悠然と微笑んだ。
「相手がエルドというところが、ちょっと引っかかるけれど、私に任せてちょうだい。
 必ずや、あなたの恋を叶えてみせるから」
437桃色の鞠(前編) :2008/05/03(土) 01:27:23 ID:YNf4REKH
唐突な提案に、コートニーは目をしばたかせた。
「まあ、マリアンヌ。ありがたいけれど……そんなことは不可能なのよ」
「どうして不可能なのよ。身分の上では、何の問題もないわ」
「確かに、そうね。でも、どう考えても、私の国より、リヴァーの国力の方が勝っているわ」
さきほど夢の世界を漂っていた少女は、急に真剣な一国の王女の顔へ変身する。

「そして、私のお父様は、フォレストが、属国扱いされるような真似をすることだけはしないわ」
大国の貴族令嬢には、新興国おける外交政策の危うさは、ぴんと来なかったが、
コートニーの背負っているものの大きさは推し量ることができた。

ああ、とセシリアは息を詰める。国政の事情により、引き裂かれてしまう恋のなんと切ないことだろう。

他方、マリアンヌはひるむ様子もなかった。
「でも、それは、政略結婚は不可能ということなのでしょう。
 あなたとエルドのあいだに既成事実さえあれば、いくらあなたのお父様だって反対できっこないわ」
「既成事実ですって?」
またもや唐突な言葉に、コートニーは目をぱちくりさせた。
「マリアンヌったら、本気でおっしゃっているの?」

セシリアも不安に思い、マリアンヌの自信満々の顔を見つめた。
何だか雲行きが怪しくなってきたわ。

「まあ大船に乗った気分でいてちょうだい。
私の手にかかれば、エルドなんて一網打尽、袋の中の鼠よ」
マリアンヌは上機嫌で、おほほと笑い声を立てた。
438名無しさん@ピンキー:2008/05/03(土) 01:30:00 ID:vy1v/xoD
鼻息荒く支援
439桃色の鞠(前編) :2008/05/03(土) 01:31:59 ID:YNf4REKH
その晩、セシリアは、フィールド邸の自室で、頭を抱えていた。
さっさと眠ってしまった方がいいのはわかっているが、
頭は危険に冴えていて眠れそうになかった。

どうして、こんな気持ちになるのだろう、とセシリアは、マリアンヌの言葉を思い返してみた。

『――そもそも』と、マリアンヌは勿体をつけて話し始めた。
『女性が自分の側から思いを告白するのは良くないわ。
 むしろ、相手からの求愛を待っているべきなのよ』

コートニーは引き込まれるように聴いていた。
『もちろん、ただ首をこまねいて待っているのは愚かだわ。
 きちんと餌をまいて、男性が罠にかかるのをじっと待つことが必要ね』
そこで、マリアンヌは、コートニーが自分の話を熱心に聴いているのを確認し、満足そうに笑った。

『それに、正攻法で――つまり告白したところで、
 あの堅物の弟を落とせる可能性は極めて薄いわ』
『まあ、そうなの?』
とすかさずコートニーが反応する。
恋焦がれている相手について少しでも情報を得たいのだろう。

『ええ。何しろ、あいつは十六にもなって、どのご令嬢とも浮いた噂を聞かないのだから』
マリアンヌは遺憾だと言いたげに首を振った。
『―――まず間違いなく童貞でしょうね』
『まあ』
率直な物言いに、コートニーは少々恥じらいを見せる。
マリアンヌはそんな彼女に目もくれずに自説を繰り広げる。
『私も、常々、弟のことは心配だったのよ。
 童貞なんて、世の男性にとっては大切に守るものでもないでしょう。
 むしろ童貞を捨ててこそ、男性は一人前になるのだわ』

いかにも弟思いの優しい姉を装ったところで、
マリアンヌが、エルドに対して立腹し、
彼よりも優位に立ちたいだけであることは明らかだった。
440桃色の鞠(前編) :2008/05/03(土) 01:32:49 ID:YNf4REKH
その間、セシリアは、黙って紅茶をすすっていた。
そうするしかなかったのだ。
セシリアには、マリアンヌが何を話しているのか半分も理解できなかったのだから。

「童貞」とはどういう意味なのだろう?
それに、既成事実を作る、とは?
どうやらエルドを罠に嵌める作戦を提案していることだけはわかったが、
それがコートニーの恋路の成就とどのように関連しているのは、さっぱりだった。

素直に尋ねればよかったのかもしれない。
しかし、コートニーはマリアンヌの意図を理解しているようだったし、
ここで自分が質問をすれば、盛り上がっている空気に水を差しかねない。
二人は、何にも知らないセシリアを馬鹿にしたりはしないだろうが、
いかにも理解しているように装っている方が、セシリアのプライドは守られたのだ。

でも、訊いておけばよかったわ、とセシリアは今更ながら後悔する。
マリアンヌとコートニーだけで、仲良く楽しそうに話しているときに、
自分だけで蚊帳の外にいるなんて、嫌な気分だ。

一人で悶々としていると、躊躇いがちに扉を叩く音が聞こえ、侍女のトルテが入ってきた。

「セシリア様。失礼致します」
「あら、どうしたの、トルテ」
トルテは、主人の乱れた髪の毛を見て、驚いたようだったが、淡々と用件を告げた。
「旦那様がお呼びですわ。至急、書斎までいらっしゃるように、とのことです」
「お父様が?」
悪い予感に取り付かれながら、セシリアは重い腰を上げた。
441桃色の鞠(前編) :2008/05/03(土) 01:41:24 ID:YNf4REKH
いよいよ、婚約の事実を宣告される時が来たに違いない。
セシリアは心を奮い立たせた。
何も、記念祭の期間中に、そんな重要な話をしなくてもいいのにと思わなくもないが、
いかにも間の悪いあの父親らしいではないか!

両親の話し合いを盗み聞きしてから、すでに一ヶ月が経過していた。
その間に、セシリアは、いかに両親たちに反抗するかを考え抜き、入念に牙を研いできたのだ。
怒りに我を忘れて「結婚なんてしません」と叫ぶのは愚かだ。
むしろ、涙ながらにしおらしく「お父様たちと離れるなんて嫌です」と訴えた方が得策だろう。
頭の中で、台本を練りながら、セシリアは父親の書斎へと向った。

「やあ、セシリア。元気かい」
扉を開けると、不自然な笑みを貼り付けた父親が立っていた。
「こんばんは、お父様」
セシリアは、彼の腕の中に飛び込み、甘えるような鼻声を出した。
彼の衣服からは、いつも薬草の渋い香りがした。

「おや、セシリア。なんだい、まるで子供みたいではないか」
「だって、リアはまだ子供だわ」
「いいや。お前は立派な淑女だよ。だから、自分のことを『リア』と呼ぶのはやめるんだ」
フィールド公爵は、すがりつくセシリアを無情にも引き剥がしながら、感慨深げに頷いた。

「どうだい。この夏、ノイスへ避暑に行ってみる気はないかな」
「―――避暑ですって」
セシリアはぽかんと口を開いた。
「そうだ、お前も成人したのだから、遠方へ旅行に行くのもいいだろう。ノイスの夏は涼しくていいぞ」
「そんなこと突然、おっしゃられても……」
「何を迷う必要があるんだ?
お前は、以前から避暑旅行をしたがっていただろう」
「だって、それは―――」
セシリアは、絶句した。
そもそも、親友が行くから、自分も一緒に行きたいと騒ぎ立てたのであって、
何も外国で夏を過ごしたかったわけではないのだ。

フィールド公爵は、夏をノイス王国で過ごすことが、どれくらい素晴らしいか、
あちらの文化がどれくらい興味深いか、などを事細かに語ったが、
すっかり毒気が抜かれたセシリアは、満足に耳を傾けることができなかった。
最後には、「考えておきますわ」と言葉を濁し、よろよろと父親の書斎を退出した。

用意していた反撃の言葉は何一つ使えなかった。
まさか結婚以外の話が飛び出てくるなんて思いもしなかった。
よりにもよって「避暑」だなんて、寝耳に水だ。あの父親は何を考えているのだろう。
興奮冷めやらない頭で考え込むが、納得できる答えは見つからなかった。


続く
442名無しさん@ピンキー:2008/05/03(土) 04:02:16 ID:iozx6jy5
久しぶりのセシリアたんの登場にwktkが止まらんです
続き楽しみに待ってます
443名無しさん@ピンキー:2008/05/03(土) 07:57:11 ID:YWlV/Nbz
続きを悶々としながら待ってます全裸で
444名無しさん@ピンキー:2008/05/03(土) 15:19:10 ID:HEi0ZQ4O
マリアンヌって情報早そうだけどじつは疎かったんですね
ふたりのことに気づいて知らないフリしてるかとおもったw

しかしこの場合、ふたりの仲がばれたらセシリアの結婚なくなるんだろうか?
それとも父親激怒で緘口令強いて結婚か、修道院なんだろうか・・・

ともあれ続きが楽しみです。
445名無しさん@ピンキー:2008/05/03(土) 23:25:49 ID:KBqPGONo
エルドとセシリアにはくっついてほしいな
と言ってもラブラブになるんじゃなくて
天然セシリアとそれに振り回されるエルドという関係のままで

既成事実がバレてw、婚約や結婚したとしても
セシリアは親友と義妹になれることを喜んで
エルドは俺は一生こいつに振り回されるのか…みたいな
446名無しさん@ピンキー:2008/05/04(日) 02:16:28 ID:5kOjk7mW
あわわわこのシリーズ大好きだから更新されててすごく嬉しいです
447名無しさん@ピンキー:2008/05/04(日) 10:51:34 ID:10PoNNSb
お2人ともGJ!

久しぶりに読めてうれしいです。

それにしても、セシリアとエルドの続きが気になる〜。
448名無しさん@ピンキー:2008/05/04(日) 20:42:29 ID:eQaim/ka
484……残り16じゃねーか!
次スレ誰かお頼み申し上げます
449名無しさん@ピンキー:2008/05/04(日) 23:54:38 ID:su7+7hHX
よし、すれたてイッテクルー
450名無しさん@ピンキー:2008/05/04(日) 23:59:10 ID:su7+7hHX
ほいっお姫様でエロなスレ8
http://yomi.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1209913078/

451名無しさん@ピンキー:2008/05/05(月) 04:58:00 ID:jG3FniIF
次スレも立ったし埋めに協力する。
お姫さまというかお妃さまものだけど。
452国王と王妃 1/10:2008/05/05(月) 04:58:44 ID:jG3FniIF
「そなたらが泣いて頼むから娶ったのだぞ。それを今更あれこれ口を挟むな」
 うんざりした顔でユージーンは口を開いた。
「確かに。あちらの姫君を娶ること、進言いたしましたのは我ら。ですが、陛下。もうじきに二年が経つというのに未だに懐妊の兆しが見えぬばかりか、聞くところによりますと寝所に渡られても小一時間で自室へ戻られるそうではありませぬか」
「余は嫌いではないのだが、妃が好まぬのだから仕方がなかろう。話をするだけで嬉しいと言われてはな、それでもよいかと思ってしまう。余も妃も若いのだからそう急がずとも良かろう」
 玉座の肘掛けに肘をついて頬を当て、ユージーンはうんざりとして臣下を見た。まだまだ食いついてきそうな剣幕で鼻息荒いユージーンを見ている。
「それとも何か、ベンジャミン。そなたは余に嫌がる妃を無理矢理褥に押し倒せと申すか。そのような野蛮な行為を余に行えと?」
 切れ長の瞳に怒りがこもる。ユージーンが本気で苛立ち始めていることに気付いたベンジャミンは押し黙る。
 しかし、国の繁栄のためにもユージーンに暢気に構えていてもらっては困るのだとベンジャミンは意を決して口を開いた。
「そうは申しておりません。レティシア様が陛下の閨に侍ること拒まれるのであれば……陛下の寵を得たいと望む姫はそれこそ星の数ほど」
 乾いた音を立てグラスが割れる。ユージーンの傍らにあったグラスがベンジャミンの傍らをすり抜けるようにして壁にぶつかったのだ。
「妃は一人だ。寵姫も要らぬ」
 主の逆鱗に触れたことはわかっていたが、それでもベンジャミンは諦めなかった。
「では、陛下。せめて子を成す努力はしていただけませぬか?」
「くどいぞ、ベンジャミン。妃に無理強いはせぬ」
「無理にとは申しません。レティシア様が嫌がるから閨を共にせぬと陛下は仰いましたね。それならばベンジャミンにお任せ下さいませ」
 胡散臭いものでも見るようにユージーンは臣下を見た。不敵な笑みを浮かべたベンジャミンはがさごそと懐を探り、もったいぶって何かを握った拳をユージーンの前に差し出した。
「レティシア様がその気にさえなれば良いのです。そのために、このベンジャミン、苦心いたしましたぞ、陛下」
 ベンジャミンの拳の中には中指ほどの長さの小瓶が握られていた。
453国王と王妃 2/10:2008/05/05(月) 04:59:52 ID:jG3FniIF
 これで万事上手くいくのだと自信たっぷりに語り出すベンジャミンの口上に耳を傾けながら、ユージーンは受け取った小瓶を日に透かしてみる。
「ふむ」
 透明な小瓶に入った薄紫の液体はとろみを帯びており、蓋を開けると仄かに甘い香りがした。
「……して、ベンジャミンよ。そなたの言いたいことはわかったが、この薬は何なのだ」
 素朴な疑問を口にするユージーンに向かい、ベンジャミンはにんまりと笑ってみせる。その笑顔の裏に薄気味悪いものを感じ、ユージーンは溜め息混じりに瓶の蓋を閉じた。


* * * *


 妃の膝に頭を預け、ユージーンは寝台に転がっていた。
 焚きしめられた香は控えめな中に嫌みのない甘さを持ち、おっとりとしたレティシアによく合っているとユージーンは思う。この香りを好んでいるようで、レティシアからこれ以外の香りがする日はあまりない。
 葡萄の皮を剥き、レティシアがユージーンの口元へ運ぶ。素直にそれを口にして、ユージーンは下からレティシアを眺めた。
 肌は雪の白さを持ち、瞳は氷の蒼、髪は月明かりの銀。レティシアの姿はまるで妖精のようだ。
ここより北の国にはレティシアのような容姿の娘が多いと聞くが、それでもレティシアの美しさは飛び抜けているはずだとユージーンは思っている。もっともユージーンより幾らか年が下な分、レティシアは美しいというよりは愛らしいのだが。
「あなたのお口に合うかしら? 昼間にジネットと散歩をした時に分けていただいたのです」
 城の中を歩き回り、兵や侍女達に声をかけて回るのをレティシアは好む。初めは面食らっていた侍女達も今はレティシアと会話を交わせるほどに慣れてしまった。果実や菓子を分けてもらったと嬉しそうに語られたのは今日が初めてのことではない。
「甘い。だが、こちらの方がいい」
 指についた汁を拭おうとしていたレティシアの手を取り、ユージーンはそっと口に含む。汁のついた指をねっとりと舐り、体を起こしながら汁の伝った手のひらへ舌を這わせる。
「あ……ユージーン、さま……んっ」
 見る間に肌を朱に染めるレティシアを片目にとらえながら、ユージーンは執拗にレティシアの手に舌を這わせていく。指の一本一本を丹念に愛撫する。
「だめ、いけませんっ」
 か細い声でなき、レティシアが小さく頭を振る。ユージーンはレティシアの手を離し、背に手を回して抱き寄せる。
454国王と王妃 3/10:2008/05/05(月) 05:00:33 ID:jG3FniIF
 震えるレティシアを宥めるために背を撫でつつ、艶やかな髪に頬を寄せる。
「そなたの指が汚れてしまってはいけないと思ったのだが」
「布で、拭いますから」
「甘い果汁が勿体無い」
 拗ねた顔で見上げてくる妃の唇に啄む口づけを落とす。
「ユージーンさまの意地悪」
 ぷいっとそっぽを向く様が愛らしく、ユージーンはくつくつと笑う。
「今宵はここで休もうか」
 腕の中の小さな体が跳ねる。
「嫌か?」
 あたふたし始めたレティシアが逃げられないようやんわりととらえ、ユージーンは肩に額を当てる。
「レティシア」
 顔を横に向けると真っ赤になった首筋が目に入る。項に舌を這わせた途端にレティシアが間抜けな声を上げて仰け反った。
「今日はいけません」
 ユージーンの胸をぐいぐい押し返しながらレティシアは言う。
「なぜ?」
「朝から今夜はそうなさると伝えて下さらなければ心の準備ができません」
「朝はその気でなくとも夜になって急にその気になることもある」
「で、でも、朝にお伝え下さる約束です」
 今にも泣き出しそうなレティシアの頬に口づけ、ユージーンは妃を抱く手を緩める。
「わかっている。そなたの困った顔が見たかっただけだ。許せ」
 あからさまに安堵した顔でレティシアはユージーンを見上げた。
 レティシアの嫌がることはしたくないが本当はもう少し抱ける日を増やしたいとユージーンは思っていた。十日に一度、下手をすれば月に一度程しかレティシアを抱けないのはやはり寂しい。今夜はどうかと朝に打診しても必ず承諾が得られるわけでないのだ。
 しかし、初めの頃に抱くときはレティシアの許可を得てからにすると約束したからには仕方がない。約束は約束だ。守らねばならない。
「ユージーンさまが嫌いなわけではないのです」
 寂しく思う気持ちが顔に出ていたのか、レティシアがユージーンの胸に頭を預けて呟いた。
「好きです。とても好き。でも」
 言いにくそうにレティシアが言葉をつかえる。ユージーンはそっと髪を撫でてやりながら言葉を繋いだ。
「抱かれるのは嫌?」
 少しだけ迷い、レティシアは首を振った。
「嫌ではないの。嫌ではないのです。ただ、怖くて」
 何度も聞かされた言葉だ。ユージーンは苦笑してレティシアを抱き締める。
「よい。そう沈むな。怖くなくなるまで待つと余は申した。それを忘れてはおらぬな」
「はい」
455国王と王妃 4/10:2008/05/05(月) 05:01:20 ID:jG3FniIF
「ならばよい。唐突に言い出した余が悪いのだ。そなたが気に病むことではない」
 頬に手を添え、そっと唇を重ねる。拒むことなく受け入れ、レティシアは稚拙ながらもユージーンの舌に自らの舌を絡めて口づけを深めた。
 深い口づけを堪能し、ユージーンが唇を離す。二人の間に銀の橋が架かり、すぐに落ちた。
 濡れた唇を指で拭ってやりながら、ユージーンはふと思い起こして懐に手を入れた。
 ベンジャミンから受け取った小瓶を取り出すとレティシアが興味をひかれたようでまじまじとそれを見た。
「それは何ですの」
 素直に答えかけ、ユージーンはすぐに口を閉じた。これは絶好の機会かもしれない。
「薬だ」
「薬? 不思議な色をしていますのね」
 レティシアに瓶を渡してやると彼女はそれを興味深そうに回し見る。
「何の薬ですか」
 だがしかし、ここで嘘をついてレティシアを丸め込めば後々嫌われてしまうかもしれない。
 ユージーンは迷った。目先の快楽をとるか、今後の愛情をとるか。答えはすぐに出た。
 残念に思う気持ちがないわけではない。ユージーンは力なく肩を竦め、小さく息を吐く。
「ベンジャミンが手に入れてきた。男を知らぬうぶな娘も娼婦の如く振る舞うという」
 はたり、と音がするのではないかというほどゆっくり確かにレティシアは目を瞬いた。
「有り体に言うと媚薬だ」
 それでもよくわからないようでレティシアは首を傾げた。
「びやく……?」
 男女のことに疎い娘だとわかってはいたが、レティシアが媚薬も知らないことに驚き、ユージーンは頬を指で掻く。
「その、なんだろう。……それを飲むと男に抱かれたくてたまらなくなると言えばわかるか」
 なんとなく理解したようでレティシアは頬を染めて頷いた。
「そのような薬があるのですね。何のために必要なのでしょう」
 不思議そうにレティシアは言う。
「それは……世の中には欲した娘を手に入れる為には手段を選ばぬ男もいるということだ」
 ユージーンの言葉にレティシアは眉を顰めた。
「まあ。恐ろしいものなのですね」
「もっと刺激的な夜を過ごしたいと望む夫婦や恋人も使うのだから一概に悪いものとは言えない」
 やはり見せるのではなかったと後悔を始めたユージーンであったが、レティシアは瓶を返そうとせず、思い詰めたようにそれを眺めていた。
「媚薬……」
456国王と王妃 5/10:2008/05/05(月) 05:02:26 ID:jG3FniIF
 おそるおそるといった様子でレティシアが瓶の蓋を開ける。ユージーンはぎょっとしてその手を掴んだ。
「レティシア?」
 縋るようにユージーンを見上げ、レティシアは瓶を自分に引き寄せる。
「これは私に飲ませるために手に入れたのでしょう」
「いや、それは……」
「違うのですか?」
 答えに窮し、ユージーンはうろたえる。そうだと言えばレティシアは自分を嫌ってしまうかもしれない。それだけは避けたかった。
「違う。そなたに飲ませたいわけで、は……レティシア!」
 違うと言った途端にレティシアは薬を呷ろうとし、ユージーンは慌てて瓶を払い落とす。レティシアの夜着に液がこぼれ、布を紫に染めた。
「何をしている? そなたに飲ませたいわけではないと」
 ぼろぼろとレティシアの目から大粒の涙がこぼれ落ちる。わけがわからずユージーンは眉を寄せた。
「あなたには欲する娘があるのですか」
「何の話だ?」
「どちらの姫君か存じません。でも、欲しいと願う姫があるのでしょう? こんな薬を使ってまで手にしたい姫が」
 拭っても拭ってもこぼれる涙を止められず、ユージーンはレティシアを膝に抱き上げて頭を自分の胸に押しつける。
 レティシアの言っていることがユージーンにはさっぱりわからなかった。何をどうすればそんな結論にたどり着くのか全く理解できない。
「あなたが仰ったのです。どんな手段を使ってでも手に入れたい娘がいる時に使う薬だと」
「いや、確かにそうだが」
「私に使う気がないのなら、他の使い道はそれしかありません」
 失敗した。いよいよユージーンは落ち込む。媚薬なんぞを使ってみようと考えたから罰が当たったのだ。
 ぽかぽか胸を拳で叩き始めたレティシアの腕を掴もうとしながら、ユージーンは自身の浅はかさを呪った。
「すまぬ」
 両手首を掴み、顔をのぞき込もうとするが、レティシアが無理に顔を背けるせいでなかなか目が合わない。
「謝って欲しいわけではありません」
「だが、余はそなたに謝ることしかできない」
「謝らないで……そのような、私が惨めな気持ちになります」
「なぜだ? 惨めな気持ちになっているのは余の方だ」
 ようやく目を合わせるとレティシアが勢いよく唇を重ねてきた。勢いづいたおかげで歯がぶつかり、けれどそれでもレティシアは唇を押しつけてくる。
「れ、レティシ……っは、待て……落ち着け」
457国王と王妃 6/10:2008/05/05(月) 05:03:56 ID:jG3FniIF
 がむしゃらに唇を押しつけて舌を絡めようとするレティシアを無理矢理引き剥がしてユージーンは深く息を吐く。
「嫌です」
 肩を掴んで体を引き離されたレティシアが泣きながら呟く。
「ユージーンさまが好きです。あ、愛してます。好きなの」
 困惑しながらも妃からの愛の告白は素直に嬉しい。わけがわからないなりにユージーンはレティシアに応えた。
「余もそなたを愛している。そなたより余の方が愛情は深いと自負しているが、そんなことは知っているだろう?」
 レティシアが首を横に振る。
「愛していても、あなたは私以外の姫を求めています」
「レティシア。それは誤解だ」
「あなたに寵姫が出来ても黙認しなければならない立場なのはわかっています。でも、嫌です。ユージーンさま……私の、私だけのユージーンさま」
 どこにこんな力があったのかというほどの力で押され、ユージーンは寝台に倒される。その上に馬乗りになり、レティシアは夜着を脱ぎ始めた。
 思わぬ展開に呆気に取られていたユージーンだったが、レティシアの夜着を染める紫が目に入り低く呻いた。
「そなた、あれを飲んだのか」
 ほとんどこぼれてしまったはずだが、唇をつけていたのだから少し飲んでしまったのかもしれない。
「ほんの、少しだけ」
 夜着の前をはだけたレティシアはユージーンの夜着に手をかける。身を屈めるとはだけた夜着の間からたわわな乳房が見える。
「そうか、飲んだのか」
 ユージーンは手を伸ばし、夜着の間から乳房に触れる。
「きゃ、っ……あっ、んんッ」
 すくい上げるように手を添えただけでレティシアは敏感に反応を示す。
「ふむ。ほんの少しでこれか」
 すべて飲んでしまえば相当淫らに振る舞ったのだろうとユージーンは媚薬の効き目に感心する。ベンジャミンが苦心したと言うだけはある。
 親指で乳首を撫でるとレティシアが甘い声でなく。
「や、あっ……ン、はぁっ」
 くたりと力なくユージーンの胸に倒れ込んできたレティシアの背に手を当てて撫でる。それだけでも感じるらしく、レティシアはびくびくと体を震わせている。
「ユージーンさまぁ」
 すがりつくレティシアの額に口づけ、ユージーンは体を起こそうとする。けれど、それを阻もうとレティシアが肩を押さえつけた。
「こ、今宵は、私がします」
 露わになったユージーンの鎖骨を撫で、胸を伝って臍まで一直線に指を這わせる。
458国王と王妃 7/10:2008/05/05(月) 05:04:52 ID:jG3FniIF
「いつも、あなたが、して下さること、今宵は……私がします」
 整わぬ呼吸の合間にレティシアが宣言し、拒絶は聞かぬとばかりに再び唇を寄せた。先ほどよりは落ち着いているのか、今度は歯もぶつからず上手に舌を差し込んでくる。
 そうしながらレティシアはユージーンの胸に手を這わせ、乳首を指で弾く。ころころと指で転がされ、ユージーンは快感よりもくすぐったさを覚えた。
 しかし、妃がこのように積極的に求めてくることなど初めてでどんなに稚拙であろうともレティシアの愛撫はユージーンの感覚を高めた。愛おしいと思う気持ちが彼の男を奮い立たせていた。
「きもち、いいですか?」
 唇を離し、レティシアが問う。妃を喜ばせたい一心でユージーンは気持ちいいと呟いた。
 ユージーンを悦ばせていることが嬉しいらしく、レティシアは今度は唇を胸に押しつけた。ぴちゃぴちゃと音を立ててユージーンの肌を舐め、時折啄むように軽く吸う。
 すっかり堅く盛り上がりを見せているユージーンの腰回りにレティシアは無意識にだろうが腰を押しつけてくる。胸への愛撫よりもそちらの方が気持ちいいのだが、ユージーンはそうとは口にしないで黙ってレティシアの腰を導いた。
 濡れた部分が当たるように誘導するとレティシアが艶めいた吐息をこぼす。
「だめです……私が、ひゃっ、あん……あっ、ああッ」
 布越しにもレティシアがひどく濡れていることがわかる。谷間に沿わせるようにしてユージーンはレティシアの腰を揺らした。
 口では駄目だと言いながらレティシアはユージーンの行為をやめさせようとはしない。ユージーンへの愛撫も忘れ、恍惚として胸に頬をすり寄せる。
「いけないひと」
 吐息混じりにレティシアが囁いた。
「わたくしが、ン……だめっ、いけないひとね、ユージーン。わたくしがしますから、あなたは、大人しくなさっていて」
 ぴしゃりとユージーンの腕を打ち、レティシアがのろのろ体を起こした。
 ゆっくりと夜着を脱ぎ捨て、レティシアは白い肌を露わにする。焦らすつもりはないのだろうがレティシアの動きが鈍いものだからユージーンはもどかしさを覚えた。さっさと剥ぎ取って押し倒してしまいたくなる。
 けれど、妃がどういう風に責めてくれるのかと期待する気持ちも強く、ユージーンはレティシアがすべてを脱ぎ去るのを辛抱強く待った。
「あなたも……」
459国王と王妃 8/10
 肌を覆うものすべてを取り去ったレティシアがユージーンの夜着も剥ぎ取りにかかる。それも同じようにゆっくりとした動きではあったがユージーンは耐えた。
「まあ」
 現れた屹立をまじまじと眺め、レティシアは目を見張った。
 明かりをつけたまま交わるのは初めてであるし、ユージーンはそれを触らせたこともなければ見せたこともない。初めて見るものに興味を引かれたレティシアはおそるおそる指を這わせた。
「これが、そうなのですね」
 既に先端から透明な液を漏らし始めているそれをレティシアは指で弾いたり握ったりと思うままに遊んでいる。
 ユージーンは眉間に皺を寄せながら、生殺しのようなレティシアの行為に耐えた。
「レティシア」
 しかし、最後に肌を重ねたのは十日以上も前のこと。妃の温かな内部へ包まれたいと切望する気持ちがユージーンに切ない声を出させる。
「これ以上は余も自信がない」
「自信?」
「早くそなたの内へ迎え入れてもらわねば、余はそなたの希望に添えぬかもしれない」
 我慢できずに押し倒してしまいそうなのだとユージーンは遠回しに伝える。はっきり言えば逃げられてしまいかねないと思ったからだ。
 ユージーンは体を起こし、レティシアに向かって手を広げる。
「おいで」
 レティシアは素直にユージーンに従い、彼の太股を跨いで膝を突く。
 腰を落とせば天を向いた屹立が触れるようにしながらもレティシアは腰を落としはしない。彼の肩に手を置き、苦しげな顔をじっと見ている。
「レティシア。余はもう限界だ」
 たまらずに呻いたユージーンの頬にレティシアは手を添える。
「約束してくださいますか」
「余にできることなら。そなたの為なら余は何でもする」
「私以外の方と、このようなことはなさらないで」
 今にも泣き出しそうな顔でレティシアは言う。まだ誤解しているのかと半ば呆れつつ、ユージーンは微笑んでみせる。
「余が愛する妻はそなた一人だ、レティシア。それは、そなたを娶った日から今まで、そしてこれから先も変わらない。なぜ余がそなたを泣かせるような真似をする? 余はこんなにもそなたを愛しているのに」
 レティシアがぎゅっと首に腕を回してしがみつく。それを愛おしく思いながら受け止め、ユージーンは露わな耳朶に唇を寄せた。
「愛しているから、余はそなたが欲しくてたまらぬのだ」