肥え太った少年は、名を伊輔という。
聡明さを感じさせる響きの名とは裏腹に、愚鈍を絵に描いたような子供だった。
生い立ちだけは恵まれている。今や小郎太達の里を実質的に抱えている、奥滋藩藩主の倅だ。
城暮らしが長く、本来はこのような山間の田舎里に居座る類の人間ではない。
そんな彼を里に引き留めている要因は、偏に氷雨の存在だ。
伊輔が初めてこの里を訪れたのは、藩主である父に連れられての事だった。
藩主自らが忍びの里という、藩にとって薬とも毒ともなりうる場所を検分する間、伊輔は村の子供と戯れるよう言いつけられた。
しかしそこは、物心つく前から蝶よ花よと育てられてきた若君だ。
共に戯れるどころか、すぐに小郎太達を下男とみなして身勝手な命を発した。
それを堂々と拒絶したのが、子供組の姉代わりであり、当時まだ勝気の盛りだった氷雨だ。
『何度も言わせないで、いやよ。大体、二言目には偉いんだ偉いんだって、そんなのあたし達には解んないわ。
もしあんたがあたし達より上だっていうなら、何か勝ってるって所を見せてちょうだい!』
氷雨は毅然とした態度でそう迫った。
伊輔は余裕の表情でそれを受けたが、現実には何をやっても氷雨に敵わない。
駆けっこでも、木登りでも、木の棒を用いた剣術でも、挙句には慣れているはずの乗馬でさえ氷雨に遥か劣った。
庶民と見下していた相手、それも女に負ける。
その事実は、伊輔の矜持を深く傷つけたようだった。
考えてみれば、氷雨が将来有望として一人だけ屋敷に招かれたのは、この少し後の事だ。
感情を表に出す事がなくなり、極端に口数が減った時期も、妙に女らしくなった時期も、それほど間は空いていない。
誰にも話したことはないが、氷雨が屋敷に移ってからしばらく経った頃、小郎太はある夢を見たことがある。
氷雨が床に押さえつけられている夢。
激しく暴れる身体を数人の大人に押さえ込まれ、その腰から半分に折れた体の上に、
気色の悪い笑みを湛えた伊輔が覆い被さる。
でっぷりと肥えた腹を揺らしながら、幾度も幾度も腰を打ちつけていく。
氷雨は猿轡を噛まされた口元を忙しなく蠢かすものの、声としては聞こえてこない。
しかしその瞳や皺の寄った眉間からは、嫌悪と明確な恐怖が見て取れる。
氷雨が怯えた顔など見せるのは初めてだ。
『氷雨姉ぇっっっ!!!』
実姉の陵辱を見守るうち、小郎太は自分の中で何かが弾けるような思いを抱き、
目が覚めたとき、彼は自分が寝小便をしている事に気が付いた。
いい歳をして、と他の二人には散々に笑われ、その気まずさから無意識に記憶から消していた夢だ。
しかしよくよく思い起こせば、その次に会った時だった。
氷雨の瞳の表情ががらりと変わり、三人に言葉を失わせたのは。
「…………あれは……夢じゃ、なかった…………きっと」
小郎太は思わずうめく。
伊輔はすでに城に帰ったものと思っていた。
父親がとうに藩へ戻っており、元々田舎嫌いである上、氷雨にしてやられた伊輔が里へ残る筈もないと。
しかし、伊輔は現実として離れにいる。
屋敷から離れへの僅かな移動でも籠が使われる所を幾度か目にしたが、それが伊輔だったのだ。
恐らくは父親に無理を言ってこの里へ残ったのだろう。
そして父の権威を笠に、氷雨への拷問の修行をさせるよう頭領達に迫ったに違いない。
忍びを志す以上、そうした修行もいずれはするにせよ、当時まだ氷雨は15歳。
肉体的にも精神的にも成熟してはいない。
加えてそうした修行は、里の人間内でやるもので、伊輔のような分別のない余所者に任せるなどもっての外だ、
頭領達は難色を示したに違いないが、しかし互助関係を築こうとしている藩主の倅を無碍にもできない。
ゆえに伊輔の駄々で押し切られる形となったに違いない。
「小郎太、大丈夫か? なんか顔色悪いぞ」
隣の少年が小郎太の顔を覗き込んで問う。
彼は、伊輔の件で多少気を害したように見えるが、それでも平素と大差はない。もう一人も同じくだ。
当然だろう、彼らは小郎太とはやや事情が違う。
歳が近く、氷雨の幼馴染であるという共通点はある。
しかし、彼らは氷雨が伊輔に犯される夢を見たわけではないし、何より血を分けた実の弟ではない。
とはいえ、彼ら二人には何も責などないのだ。
「……大丈夫だ」
わざわざ全てを話して、沈む気分を伝播させることもないだろう。小郎太はそう考え、少し眉を下げてみせた。
離れでは、伊輔が手の中で笞を弄びながら氷雨に近づいていた。
そして肉のついた手を振り上げ、重そうに笞を振るう。
下手な笞打ちながら、先の平たい笞は氷雨の背中で激しい音を立てる。
「――――っ!!」
その瞬間、氷雨が背を逸らしながら顔を跳ね上げた。
声こそ漏らさないが、歯を食い縛っている事が肩の付け根の動きで解った。
まだ白い部分の残っていた左脇腹に、新たな赤い筋が浮かぶ。
「どうだ、痛いか。ええ、どうなんだ?」
伊輔は可笑しそうな声色で言いながら、ゆっくりと氷雨の背後で歩を巡らせる。
そして荒い息を吐く氷雨の不意をつき、やおら笞を浴びせかける。
流石というべきか、氷雨は笞が振るわれる瞬間に背中の筋肉を固め、衝撃に備えていた。
もしそうしていなければ、背の肉はとうに幾筋か裂けていることだろう。
いくら伊輔の動きが緩慢とはいえ、笞打ちには本来それだけの威力がある。
「……っ!!」
笞を受けた直後は、氷雨の背筋が痙攣するように蠢いているのが見えた。
縛られた手首の先は固く握り締められ、膝が笑い始めている。
恐らくは腹筋も攣りかけているだろう。
容赦のない笞打ちを浴び続け、いかな氷雨とて消耗しているようだ。
しかし、その様を見ても伊輔のだらけた笑みは消えない。
「まだ頑張るのか。……おい、あれを」
伊輔は傍らに立つ忍び装束の男に呼びかける。
男はすぐに応じ、足元の壷を拾い上げて伊輔の方へと口を向ける。
「ひひひ、今日こそ良い声をだせよ」
伊輔の肉の乗った手の平がその壷の中に差し込まれ、引き抜かれた時には白い粒を大量に掴んでいた。
それが何かを察し、小郎太は樹の上で目を剥く。
その視界の中で、伊輔の白い粒を纏った手の平は、無数の傷のある氷雨の背中へと叩きつけられた。
瞬間。
氷雨の背中がそれまでにないほどに深く反り、手首の縄が小郎太達にもはっきり聴こえるほどに軋む。
身を反らせる事で爪先立ちになった足の震えも尋常ではない。
「――――ッ!!あ、あ゛ッ……!!………………っっ!!!!」
氷雨は決死の覚悟で声を殺しているのだろうが、それでも抑えきれぬといった様子で声が漏れる。
ひとしきり身を暴れさせた後、氷雨は糸が切れたように力なく項垂れた。
吊るされた両腕が歯止めとなり、細い身体は肩を盛り上げるような歪な格好を取る。
ほんの一瞬髪の合間より覗いた左頬から、光る雫が滴り落ちるのが小郎太には見えた。
一方の伊輔は、どこか苛立たしげに笞を手の平に打ち付けている。
「なんだ、また失神したか。碌な悲鳴も上げずに……。おい、ぼさっとせず水を掛けろ」
父親に似た尊大な物言いをし、水を掛けられて意識を取り戻す氷雨を眺めている。
そしてまた笞を振り上げた。
びしっ、びしっと肉を打つ音が響く。縄の軋む音がそれに続く。
声は聴こえない。
その音を延々と耳にしながら、小郎太は自分の袖が引かれている事に気がついた。
横を向くと、隣で見ていた少年が小郎太に小声で呼びかけている。
「おい、おい小郎太!いい加減戻るぞ。すっかり暗くなっちまった」
彼の言葉を受けて周囲を見回すと、確かに夜も更けて空が闇に包まれている。
離れの中でも丸行灯が用意され始めているようだ。
行灯の灯りで黄色く浮かび上がった氷雨の背中は、汗で濡れ光っていた。
そこへ笞が襲い、美しい肌を朱で隠す。
小郎太はせめてその様をいつまでも見続けたかったが、夜通しここにいる訳にもいかない。
眠りこけて樹から落ち、見つかりでもすれば大事だ。
そうなれば少なくとも、再びこの場所で覗く事は叶わなくなる。
ゆえに、小郎太は少年たちに続き、細心の注意を払いながら樹から滑り降りた。
場を完全に後にする瞬間、後方より一際高い笞の音が響き渡る。
ううう、という悲痛な呻きが聴こえた気もする。
そしてその余韻を打ち消すかのように、伊輔の知性を感じさせない笑い方がした。
「はははは!こいつ鳴きこそせんが、ついに小便を漏らしおったぞ。
ああ出すがいい、折檻が済んだら床に這い蹲らせて、一滴残さず舐め取らせてやる!」
耳を疑うようなその言葉を背に、小郎太は木塀の穴をくぐり抜ける。
もし眼前の闇に伊輔の気配があったなら、今の彼は後先を考えず殺人の技を用いるかも知れなかった。
※
拷問修業の様子を覗ける場所は確保できた。さりとて、連日気軽に通えるわけではない。
あくまで大人に見つからないようする事が前提だ。
もし大人の一人にでも知れれば、絶好の場所を失う羽目になる。
そのため三人で同時に張り付いたのは最初の一日だけで、それ以降は交代制にした。
三人のうちの二人は里に残り、修業に励んでいる所を里の大人に見せる。
そうしていわば二人を囮にする形で、残る一人が木塀の中に滑り込むのだ。
一人が居ない程度であれば、山に入っているとでも言い訳が立つ。
しかし三人纏めてとなれば不審を買う。
ゆえに、離れを見張れるのは最高でも三日に一度。
それ以外の間に起こった事は、見張っていた一人に聞くか、氷雨の様子や伊輔の言葉から推察するしかない。
これが小郎太にとって、かなりのもどかしさを感じさせた。
ひとつ確信を得た事がある。
伊輔はやはり、氷雨の操を奪っていた。
ひとしきり拷問を終えた後、伊輔は必ずと言っていいほど氷雨を抱く。
伊輔はけして体力があるほうではなく、拷問終わりは常に息を切らしているが、性欲は極めて強い。
あるいは相手が氷雨ゆえ、か。
かつて自分に恥辱を味わわせた相手を、抵抗もできないほど痛めつけた後に犯す。
そこに生き甲斐を感じているようだ。
水責めをしている際も、伊輔は露骨に性欲の炎を滾らせていた。
真裸のまま後ろ手に縄を打たれた氷雨が、髪を掴まれて水桶に顔を漬けられている。
「っぶはっ!!は、はぁっ、はぁあ、あっ、はあっ!!」
飛沫を上げながら、伊輔に髪を掴まれた氷雨が水面から顔を上げた。
水中で五分以上も息を止められる氷雨とはいえ、断続的に空気を奪われ続けては堪らない。
すらりとした体を捩り、顔を振りながら噎せ返る。
伊輔はその苦悶に満ちた表情を嬉しそうに覗き込み、氷雨が息を吸う瞬間に再び水の中へと頭を漬けた。
氷雨の肩がひどく暴れる。しかし後ろ手に縛られた彼女には、できる抵抗も限られている。
それにつけても、水へ沈めるまでの間の取り方が憎らしいまでに巧妙だ。
氷雨がもっとも多く水を飲む拍子を、伊輔は見極めている。
水責めはこれが初めてではないというから、幾度も繰り返すうち、氷雨が最も嫌がるやり方を会得したのだろう。
今日だけですでに三十数回。
いかに鍛えられたくノ一とはいえ、流石に忍耐ではどうにもならない頃だ。
伊輔は氷雨の後ろ髪を掴んだまま、別の手で頭を押さえ、氷雨の抵抗をその体重で抑え込む。
そして水面に気泡が浮かばなくなってからさらに数秒待ち、無理矢理に後ろ髪を引いて顔を上げさせる。
氷雨の顔を覗き込んだ伊輔は、満面の笑みを浮かべた。
すでに忍びの限界を迎えている頃だ、氷雨の顔は溺死寸前のごとき悲惨なものとなっているだろう。
「いい顔だな。どうだ、苦しいか? 許してくださいと一言言えば、楽にしてやるぞ」
伊輔は勝ち誇ったような顔でそう言いながら、氷雨の乳房に手を掛けた。
そのまま自らの所有物とでも言うべき無遠慮さで揉みしだく。
氷雨は黙ってその恥辱に耐えていた。
しかしその後も図に乗った伊輔が胸への刺激を続けると、間近に迫ったその耳元で何かを呟く。
それは小郎太の耳にも拾えないほど小さな声ではあったが、伊輔はそれを聞いて目を見開く。
そして愛撫の手を止め、怒りに満ちた表情で氷雨を睨みつけた。
「こ、この礼儀知らずが……っ!!」
そう呻くように言うと、荒々しく氷雨の髪を掴んで水桶へと叩き込んだ。
さしたる間もなく引き上げ、すぐにまた沈める事を繰り返して氷雨を消耗させる。
そうして氷雨が水桶の縁に頬を乗せてぐったりとした頃合いで、伊輔は袴をたくし上げて氷雨の背後についた。
「 ぐ 」
一瞬の後、小さな呻き声がし、横向きになった氷雨の奥歯が噛みしめられる。
小郎太にとって最も度し難い時間の始まりだ。
二人分の体重を受け、水を湛えた巨大な桶がぎしぎしと揺れる。
「いいぞ、相変わらずよく締まるな。水責めで昂ぶったのか? このふしだら女め」
伊輔は下卑た言葉責めを交えながら腰を打ちつけていく。
氷雨のすらりとした足に挟まれた、醜悪な伊輔の尻。
それが前後に揺れるたびに、氷雨の足の内側に筋が浮き、おぞましい肥満体の逸物をねじ込まれていると知れる。
何度見てもおぞましい光景だ。
特に今の伊輔は、避妊具である魚の浮き袋を用いていない。
下手に笞で打たれるよりも、直に伊輔の劣悪な精を刷りこまれる方が氷雨にとってはつらいだろう。
事実氷雨は、汚辱からか呻きながら、恨みの籠もった瞳を背後の伊輔に向けていた。
しかし一方の伊輔はそれで退く謙虚さなどなく、体位をずらして氷雨の顔を水に漬けながら突き続ける。
やがて、強く腰を掴んで大きく腰を前後させたかと思うと、伊輔は尻肉を震わせながら射精を始めた。
「むぅぅあっ…………!!」
どくり、どくりと音が聴こえるような、身体を小刻みに震わせる射精だ。
伊輔の射精時間は押しなべて長く、並の男と比べても精液の量はかなり多いものと思われた。
「ふぅ、よく出た。お前のごとき下忍には本来乞うても得られん子種だ。零さず呑み込め」
伊輔はそう言いながら腰を引く。
暗がりになった氷雨の秘所から、大量の白いぬめりが零れていくのが見える。
伊輔はそれが床へ落ちる前に指で掬い取り、改めて刷り込むように秘裂へと戻した。
かすかに見える唇のような秘裂の合間で、太い指がぐちゅぐちゅと音を鳴らす。
伊輔を睨む氷雨の瞳に、かすかに怯えの色が浮かぶ。
それを見た瞬間、小郎太は硬く拳を握り締めていた。
しかしだからとて、彼にはどうする事もできない。ただ忍ぶ事、それ以外には。
※
被虐が止む日はない。
氷雨は、離れにいる間はほぼ常に縄で縛られ、伊輔の征服欲を満たす的となる。
ある日には、駿河問いを受けたまま伊輔の逸物を咥えさせられていた。
天井から吊るされた縄がぎいぎいと鳴る。
伊輔はでっぷりとした腹と尻を揺らし、氷雨の頭を掴んで腰を打ちつけていた。
吊るされる氷雨の細い身体と対比になり、その肥えた身体は滑稽なばかりだ。
「お、おお゛っ……おご、ごおぉっ…………」
氷雨の喉から声が漏れていた。
伊輔は縮れた陰毛で氷雨の顔を覆うまでに深くねじ込んでいる。
となれば当然喉奥まで入り込んでいるはずで、声が漏れるのも仕方のない道理といえた。
声が出る一方で、氷雨自身の顔は無表情を貫いていた。
逸物の出入りの影響で頬や鼻筋に皺が寄ることはあるが、目から上は涼しげに閉じられている。
相手が苦しむ姿を好む伊輔にしてみれば、さぞや興の醒めることだろう。
しかし伊輔は、根比べだと言わんばかりに淡々と氷雨の喉を使い続ける。
「やすく喉が開くようになったな。初めのころは、涙を流して暴れたくっていた分際で」
過去にも同じ責めを繰り返していたと匂わせる言葉を漏らす。
そしてまた、口を噤んで腰を前後させ始める。
桜色の唇の内側で、しとどな唾液のかき混ぜられる音が続いた。
川の流れが堰き止められた箇所で鳴る音。あるいは、囲炉裏鍋の中で湯が煮えたぎる音。
それとよく似た音が続く。氷雨の口の中で。
その異常性は、やがて唇からあふれ出す唾液という形で表れていく。
喉奥を掻き回されているのだ。そして縛められた氷雨は、口を拭う事ができない。
ゆえに唾液も涎も垂れ流された。いかに元が整った顔立ちであろうと、惨めなものと化してしまう。
「どうだ、苦しいか」
伊輔は一旦逸物を引き抜き、唾液に塗れた氷雨に問いかける。
氷雨はしかし、目を静かに閉じ、唇は何事もないかのような一文字に引き結んで涼しい顔を作る。
伊輔は舌打ちし、再び逸物の先で氷雨の唇を割り開いた。
再び喉奥を蹂躙する音が始まる。
見た目には大きな変化のない責めではあったが、水面下では刻一刻と状況が進んでいたらしい。
喉奥を抉る伊輔は、氷雨を見下ろしたまま徐々に笑みを深めていった。
伊輔が氷雨の顎を持ち上げ気味にして喉を突く際、微かながら氷雨の眉間に皺が寄るようにもなる。
そうした事を幾度も繰り返した後に、伊輔は期を得たとばかりに一際腰を深く突き込んだ。
さらにはそのまま氷雨の頭を引きつけ、もっとも喉奥の深い部分で留めてしまう。
氷雨はしばし、静止したように耐えていた。
しかし眉間に強く皺を寄せた直後、その海老反りの身体が大きく震え上がる。
そして喉奥から破裂音がし、ついに、伊輔の陰茎や玉袋を伝って吐瀉物の線が伝い落ちていく。
伊輔は満面の笑みを湛えたまま、嘔吐している最中の喉奥を浅く前後に突き回した。
「ご、もおぉお゛……っっ!!!」
いつになく水気の多い攪拌の音が響き、うがいをするような氷雨の低い呻きが漏れる。
床には品のない音を立て、更なる吐瀉物が打ち付けられた。
嘔吐が終わった後、伊輔は逸物を唇から引き抜く。
それは異常な量の粘液に塗れ、夕暮れとなりはじめた離れの中で怪しく煌いている。
氷雨は疾走を繰り返したような荒い息を吐いていた。
薄く目を開き、床に広がる吐瀉物を暗い瞳で眺めている。
その鼻先に、伊輔が逸物を突き出した。
「どんな気分だ、自分の臓腑の匂いが辺りに漂っているというのは?
……まぁいい、続けるぞ。お前の胃が空になるまでだ。
もっとも、しおらしく哀願すれば赦してやらん事もないがな」
氷雨は視線を汚物塗れの逸物に向ける。
しかしなお無感情を貫いたまま、伊輔の言葉を聞き流している。
伊輔は一際大きく舌を打つと、荒々しく氷雨の黒髪を掴み上げた。
伊輔は、どうにかして氷雨の心を折ろうと苦心しているらしい。
憎い相手から繰り返し恥辱や陵辱を受け、精神を磨り減らす。
それは拷問の修業としては、ある意味で非常に実践的ともいえる。
しかし伊輔にはまるで容赦が無い。
思いつく限りのやり口で、氷雨の心身を責め立てる。
ある時、小郎太が離れを覗くと、氷雨は伊輔に覆い被さられる形で犯されていた。
大股を開く屈曲位といった体勢だ。
性交時の氷雨の顔を好む伊輔はその体位を好む。それ自体は何もおかしい所はない。
しかしながら、その時は氷雨が妙に声を出していた。
「あ、あ!あ、あ、あ、あっ……!!」
小刻みに喘ぐような声を発する。
瞳も見開かれ、結合部の付近を見下ろしている。
普段であれば、犯されている間じゅう何事も無しといった顔を貫く彼女が、だ。
何故だ。
小郎太が訝しがりながらも見守っていると、程なく伊輔自身の口から真相が明かされる。
「本当によく締まるな、お前の糞の穴は。名残惜しげに根元から先まで吸い付いてくるわ。
女陰よりも具合が良いかも知れんぞ。
どうだ? お前にくっついていた腰巾着の小僧三人にも、これを味わわせてやっては」
伊輔のその言葉を聞いた瞬間、小郎太は衝撃を受けた。
糞の穴……すなわち後孔を性交の箇所として用いられているのだ。
なんとおぞましい。
しかしそうであるならば、氷雨が声を上げたり、表情を変えているのも得心がいく。
氷雨の不浄観念は、小郎太と大差ないはずだからだ。
その氷雨は、伊輔の言葉に対して鋭い視線で睨み上げていた。
射殺すような眼光。ところが伊輔は怯む様子もない。
すでに何度もその視線を受け、しかし自分に危害を加えられないと確信しているようだ。
「なんだその目は。あいつらの話をするとすぐにそれだ。
怒気が漏れているぞ、くノ一は喜怒哀楽を表したりはしない……じゃ無かったのか」
伊輔は嘲笑いながら腹の肉を揺らし、氷雨の中に滾りを打ち込む。
そうと知れれば、確かに結合の位置は普通よりも低い。
伊輔の陰毛越しに、氷雨の桜色の秘所が半ばほど覗いている。
しかし。
小郎太は目を擦った。
光の加減だろうか。どうもその秘じらいの場所は、蜜に濡れているように見える。
「……まぁいい。どの道、もう間もなくお前は『喜』を隠せなくなるんだからな。
いい加減、薬も回ってきた頃合いだろう。繋がっているおれも血の巡りが止まらんわ」
伊輔は笑みを湛えながら告げ、氷雨の茂みの中に指を差し入れた。
水音が立つ。
「これで薬も三日目、今宵が山だ。このまま突き続ければ、女はやがて自我を失くす。
少なくとも遊女共は皆そうだった。忍びとて女は女、別ではない。
せいぜい、夜明けまでそうして睨んでいるがいい。
お前が尻の穴だけであさましく乱れ狂っていく様を、この奥滋藩次期藩主が自ら見届けてやる」
伊輔は氷雨の両腿を掴み、匂い立つ体臭を嗅ぎながら力強く尻穴を穿つ。
氷雨は足指に痛いほど力を込めていた。
すっかり豊かに膨らんだ乳房を上下に揺らし、艶やかな黒髪を川のように床へ広げて。
小郎太は屋敷を後にする事ができなかった。
欅の樹を滑り落ち、木塀をくぐり抜けたところで女の叫びが聞こえたからだ。
心を刺すほど悲痛な叫びと、暴れまわる何かを数人が押さえつける音。
そして、聞き慣れた伊輔の笑い声。
木塀にもたれ掛かってそれらを耳にしながら、小郎太はひとり俯く。
顔の影となった地面に、細かな水滴が滴り落ちる。
小さな影はそれから間もなく、宵闇に紛れて輪郭をなくす。
まさにその瞬間。
小郎太は、自分の中の冷静な何かがぶちりと千切れ落ちる音を聞いた。
決起を誓ったのは、この時だ。
※
氷雨は今、太い柱へ大の字になるように縛られ、伊輔の連れてきた婀娜な女に責め立てられている。
女は手にした壷から妙な薬を手に取り、それを氷雨の秘所に近づける。
責めるのは常に同じ箇所だ。
秘裂の最上部に息づく、小豆のような突起。
女はそこだけを指で嬲っている。
「ああ、ああああああっ!!!うあああ、ああ、あああああああっっ!!!!」
氷雨は身も世もなく身悶えていた。
小郎太に女体の知識はないが、その小豆ほどの器官が女の急所である事が、その乱れ様から推して知れる。
狙いが急所であることを念頭に入れれば、女の指遣いはいよいよ残酷に映った。
片手親指で包皮を剥き上げ、薬を絡めた別の指で挟むようにして嬲る。
強弱をつけ、捻りを加え、さすり、弾き、押し潰し。休み無く。
それらの刺激によって、氷雨の秘部の突起は刻一刻と充血していった。
数日前は普通には見えないほどの大きさしかなかったはずだ。
それが、嬲られはじめてしばし経つと小豆程度になり、今は大きさだけなら大豆にも等しい。
総身から立ち上る汗の匂いもいつになく濃厚で、欅の樹上にいる小郎太達にさえ届くほどだ。
「ああっ、あああああっっ!!!はぁ、もっ、やめっ……あ、あっああ!!!
ああああぅううあああああおおおおおおおっっ!!!!!」
氷雨はもはや忍ぶどころではない。
固く閉じた目から大粒の涙を零し、鼻水や涎に塗れて歪む顔は美貌の影すらない。
必死に脚を閉じようともがいているが、その欲求はただ太い縄を軋ませるだけで叶わない。
「どうしたんだいくノ一、そんなに喚き散らしてさ。
可愛い女の場所からも、ひっきりなしに蜜が零れてるよ。ほら、まぁた」
婀娜な女が氷雨の女陰を開きながら告げた。
女の指での開きにあわせ、一筋の艶が氷雨の白い脚を伝い落ちる。
それは膝頭を回ったところで滴り落ち、下に広がる液溜まりに小さな飛沫を上げた。
「ははは、責め殺すんじゃないぞ。そいつはまだ愉しめるんだからな」
伊輔は大名さながらの豪奢な肘置きに身を預け、女のする事を見守っている。
傍には器を掲げた若い女が侍っており、伊輔はその器に手を伸ばしては、醍醐を掬い取って嘗めていた。
彼にとっては美食の肴に過ぎないのだ。氷雨がどれほど悶え苦しもうと。
「心得ております、若様。ただこの女芯責めは、女の地獄ですから。
これを延々と続ければ、どれほど強情な娘でもしおらしく変わるものです。
それにこの薬を用いている以上、この娘は身体の奥から快楽に蕩けていくはず。
この薬で極まり続けた末に房事に至れば、男も女も桃源郷を彷徨うが如き心地と申します。
もっとも……女の頭がその後も正気を保てるかは、分かりかねますが」
女は軽い口調でそう語る。
伊輔もそれは楽しみだと上機嫌に笑う。
氷雨が刻一刻と瓦解しようとしているその前で。
小郎太は音もなく欅の樹を降り、屋敷の傍へ戻る。
しかし、今度は泣く事はなかった。
涙を流す代わりに、全身を濃緑色の忍び装束で包んでいる。
今宵は満月。しかし……今日彼が戦うのは、氷雨ではない。
口当てを鼻の上まで上げ、小郎太は時を待つ。
ひゅーい、と遠くで口笛の音が響いた。
小郎太は懐刀の位置を確かめ直し、勢いをつけて屋敷の塀の上へと手を掛けた。
塀の内では騒ぎが起こっている。どこかで火の手が上がっているらしい。
どうやら、他の二人は上手くやったようだ。
小郎太は塀に刺した刀を足がかりに瓦を乗り越えながら、大きく息を吸った。
目的は、氷雨の奪還。
そして、どす黒い怒りの塊を伊輔の喉笛に叩き込む事だ。
三人共に覚悟は決めている。三者三様に、煮えたぎる思いを孕んでいる。
中でも最も憤りの深い小郎太が、最も危険な役割を担う事になった。
まだ子供の彼らは、『仕方がない』と割り切って氷雨を諦めることなどできない。
大人達がしないならば、自分達の手で彼らの姉を奪い返す。怨敵に誅を下す。
たとえ、誰かの命が欠けようとも……。
終
GJ! 若干SMスレ向けのような気もするが、色んなパターンあって楽しめた
つか若様ぶん殴りてえw
GJ!
イカされまくりで折れかけになってる氷雨をもっと見たいな
次あったらオネショタネタで小郎太に童貞卒業の手ほどきとかキボンヌ
若様がひどくて久々に切れちまったぜ
しかしいいせめっぷりだなぁ
うむ、良いエロ加減だったけど
それ以上に伊輔の殺意わくほどのクズっぷりの描写が素晴らしすぎる
一作投下、スカトロや痛い拷問、蚊責めなど注意。
「まさか、屋敷内はおろか寝間の真上にまで入り込まれるとは……屈辱ですよ」
男は静かに告げた。
藍色の小袖の上に黒八丈を羽織り、本多髷を結った、さぞや金回りも良かろうという風貌だ。
顔に湛えた柔和な笑みなどは七福神の大黒天を思わせる。
しかしこの男の本性は、柔和などとは程遠い。
紀嶋屋相之丞。
奥末藩藩主の御用商人でありながら、敵方である士沼諸藩との密通が疑われている男。
否、正確には“疑われていた”男か。
(不義者め…………)
くノ一・翠(すい)は、相之丞の侍衛達に取り押さえられたまま鋭い眼光を放っていた。
美しい女だ。
忍らしくキリリと鋭い面立ちに、後ろで一つに結われた艶やかな黒髪。
肌色は白く、身体はよく引き締まって健康的な美に溢れている。
胸と尻の膨らみは十分に女らしく、すらりと細長い脚線は異人の血でも入っているかのよう。
奥末藩の密命を受けたこの翠にとって、相之丞は怨敵だった。
屋敷に忍び込んだ彼女が天井裏から見たものは、士沼の姫と同衾する相之丞の姿。
密通はもはや確定となった所で報告に戻ろうとした矢先、翠は屋敷に仕掛けられた罠に捕らわれてしまう。
主に砦や城内戦を想定した城に用いられる、屋敷内ではまずあり得ない類の罠だ。
相之丞にはよほど痛い腹があるらしい。
事実、相之丞の黒い噂には枚挙に暇がなく、様々な商人が株を奪われて自殺に追い込まれたともいう。
「さて。この女には、何処の手の者かを白状して貰わねばなりません。
そのための拷問は、私自らが行います。さもなくば腹の虫が収まりそうにないのでね」
相之丞が人懐こい糸目を細く開き、狡い瞳を覗かせながら告げる。
翠はその視線を受け止め、射殺すような眼光で睨み返す。
美しきくノ一は心に決めていた。
必ず機を見て脱出する。そして奥末藩の力を以って、この卑劣な古狸に天誅をくれてやる、と。
※
尋問部屋に笞打ちの音が響き渡る。
相之丞の持つ箒尻が唸り、今一度翠の背を打った。
両手首と腰の縄で万歳をするように縛られた翠には、それを防ぐ術などない。
「ッ……」
翠は奥歯を噛みしめて痛みに耐える。
忍装束は背の部分が大きく裂け、柔肌からも血が噴き出しているに違いない。
背の全体が焼け爛れたように痛む。しかし痛みそのものであれば、指先の方が上だ。
翠の視界に映る左右の十本指には、一つ一つに棒状のものが突き刺さっている。
およそ裁縫には使えぬような極太の針だ。
笞打ちで翠が気を失うたび、指の肉と爪の間にその極太針を突き刺して気付けが行われた。
最初に針を打たれた右手中指の血はすでに固まっているが、最後の左手小指からはなおも血が滴っている。
膝下の痛みも相当だ。
翠はこの笞打ちの前に石抱き責めを受け、伊豆石を三枚積まれて問責されていた。
足の骨が残らず砕けたように思え、今でも縄の支えがなければ、立つことすらままならない。
背、指先、脛。その全てがボロ屑のように成り果てた現状。
それでも、翠には余裕があった。
彼女はくノ一として拷問の訓練を積んでおり、痛みには慣れている。
さらに、痛みによる疲弊と、自白して楽になろうとする心を、頭の中で分かつ心得も身につけている。
痛みによって自白する事はまずあり得ない。
「中々に強情ですな。こうまでされて、ろくに声も上げんとは」
彫りの深い顔立ちをした男が、腕組みをしたまま言った。多少名の通った火付盗賊改だ。
拷問に不慣れな相之丞が相手を責め殺さぬよう、頃合いを測っているらしい。
彼のような番方すら懐柔している所が、豪商たる相之丞の恐ろしい所だ。
「なに、声を上げさせるぐらいは簡単ですよ。……ほら、寄越しなさい」
相之丞は少々の苛立ちを見せながら汗を拭い、近くの下男に声を掛ける。
下男はその言葉に応じて手にしたものを慎重に主へ渡した。
今まさに炭火から抜かれたばかりの火熨斗。
相之丞は片手で翠の足首を掴み上げ、その火熨斗をゆっくりと近づけていく。
「!」
足裏に迫る熱気に気付き、翠が足元を見やった。
真っ赤に熱された平らな鉄が視界に入り、ぞくりと悪寒を走らせる。
永遠にも思える数秒。
その後に、ジウと何かの焦げる音がし、悪臭が立ち込め、そして……熱さが翠を襲った。
「ふッ、ぬ゛ぅうううう゛う゛ッッ!!!!!」
如何なくノ一とて、これには声を堪える事が出来ない。
翠は反射的に涙を零し、下唇をきつくきつく噛みしめて苦痛に耐え忍ぶ。
すでに幾度も噛みしめていた下唇からはついに血が滴り、顎の下を流れ落ちていく。
相之丞は苦しむ翠を冷酷に観察しながら火熨斗を離した。
そして下男の差し出した壷に手を差し入れ、たっぷりの塩を掴み出すと、それを紅く焼けた翠の足裏に塗りこめる。
「いッ、っぎぁああぁあああッッッ!!!」
翠はたまらず叫んだ。
一気に背筋を寒気が駆け上り、脳に達して警鐘を打ち鳴らし始める。
身体が震え始め、内股をなま暖かい奔流が流れていく。
「ふん、失禁ですか。品のない」
相之丞は汚らしそうに告げながら足の裏から手を離した。
そして汗と涙に塗れた翠の顔を掴み、目元に血に塗れた塩を塗りつける。
「どうです、話す気になりましたか」
翠は数度瞬きして視界の涙を払いながら、きっ、と相之丞を睨みつけた。
「自分の胸にでも聞いてみろ、外道が」
乾いた喉を絞るようにして恨み節を吐き出す。
相之丞は細く開いた眼の中に苛立ちを浮かべながら、深く嘆息した。
「…………なるほど、残念です。では望みどおり拷問を続けましょう。
あなたには素直になるまで、水責め、痒み責め、色責めと、あらゆる苦難を味わって頂きます。
けして死なず、さりとて生を感じられないほどの過酷さでね」
冷たい表情のまま、淡々と紡がれる宣言。
そこには自らの地位を脅かす者に対する、病的なほどの敵愾心が見て取れた。
※
「まだ、白状する気はありませんか」
相之丞が大黒のような笑みを浮かべて尋ねた。
その視線の先で、翠は後ろ手に縛られている。
両手首を一つに縛った縄尻は太い木の枝に結わえつけられ、逃走を封じていた。
かろうじて膝立ちにはなれる高さであり、肩が抜けることはない。
格好は丸裸だ。
男好きのする身体を男達に晒すがままになっている。
場所は深い藪の中であり、周囲には不快な羽音が絶え間なく飛び交っていた。
何をされるのかは想像に難くない。
それでも、翠の瞳には微塵の恐怖もなかった。
「可愛気のない瞳だ。……やりなさい」
相之丞は大黒の笑みから下卑た瞳を覗かせ、下男に命じる。
すると、下男達が手に持った桶の中身をそれぞれ翠に浴びせかける。
酒だ。
「さて、では私達は一旦退散することにしましょう。蚊に噛まれでもしたら大変だ。
この辺りの蚊は特別に痒みが強くてね、普通の倍は腫れる。
たった一箇所脛を刺されただけでも、寝付けず夜中まで掻き毟ってしまう塩梅ですから」
相之丞は翠に聴こえるように告げると、踵を返して藪の中から去っていく。
藪には、酒の匂いを漂わせた翠だけが取り残された。
耳障りな羽音が翠を取り囲む。
「っ!」
顔に取り付こうとした数匹を、翠は頭を振って追い払った。
しかし同時に内腿へと別の蚊に付かれる。続いて首筋、肩口へと。
それらの蚊が離れてしばらくすると、猛烈な痒みが沸き起こった。
「ううっ!!」
相之丞の言葉は大袈裟ではない。普通の蚊よりも痒みが強く、寝付けないほどだ。
指で掻き毟りたくて仕方ないが、両手を木に括りつけられた翠はただ身を捩らせるしかない。
蚊の群れはそんな翠の周りを飛び交い、無慈悲に白い肌へと取り付いていく。
「……く、くっ……っ、あああぁあああ゛っ!!!くあ、あぐうっ!うああぁぁッアアああ゛ッッ!!!!」
やがて翠は忍耐の限界を迎え、叫び声を上げた。
近くで相之丞達が聞き耳を立てているであろう事は知っていたが、理性で抑えられる痒みではない。
汗が噴きだし、涙が滲む。
「か、痒いっ!!あア゛、痒い、痒いぃっ!!止めろッ、来るな、来るなぁッッ!あぐ、ああ゛あ゛っッ!!!」
必死に身を捩っての抵抗を試みる。後ろ手の縄が手首に食い込み、ついに血を滴らせ始めた。
縄尻が結わえられた太い枝は、軋みこそすれど折れる気配はない。
「ふ、っくぐうううぅうっ!!!!」
歯を食い縛る翠。
全身を痒みが覆い、寒気と刺すような痛みを覚えるまでになっている。
薄目を開けると、涙で滲んだ視界にはつねに蚊の姿がある。
蚊が自らの肌に取り付き、止まり、離れていく。その箇所に痛烈な痒みが生まれる。
すでに全身至る所に赤い跡があり、中には刺された部分をさらに刺されて赤黒く変色している部分さえあった。
「はーーっ、はっ、はっ、はぁっ……」
息が切れる。一日で十里を走るほどの翠の息が。
全身から汗が滴り、口元からは止め処ない涎が溢れている。
放置されてからどれだけの時間が経ったのだろう。そしてこれから、どれだけ続くのだろう。
一睡もできず、神経を磨り減らすこの地獄が。
「…………おやおや、酷い有様だ」
翌朝、相之丞が翠を一目見て告げた。
翠はそれを遠くに聞きながら、朦朧とした意識の中を漂う。
ようやく虫でないものに会えた、その安堵を噛みしめながら。
※
捕らわれて以来、翠に休息らしい休息はなかった。
著しく心身を消耗させる拷問の合間にも、絶えず何らかの緩やかな責めが加えられた。
今、翠は後ろ手胡坐縛りに縛られたまま、乳房を二つの木の板で挟み潰されている。
板の両端は麻縄で幾重にも縛りあわされるため、ちょうど女の豊かな乳房を搾り出すような形だ。
その上で乳房の敏感な部分へと針を刺されている。
針先はごく細い。
太い針よりも刺突自体の刺激は小さいが、それを延々と突き刺されると、それはそれで神経を侵される。
さらに相之丞は、針を刺す前に必ず唐辛子入りの壷に針の先を漬けていた。
それにより、針を刺されると同時に焼けるような痛みが翠を襲う。
「…………っ、…………っっ…………!!」
翠の鼻から吐息が漏れた。
乳房を鷲掴みにされたまま、柔な乳首や粟立つ乳輪へと針を打ち込まれる。
責め手は相之丞本人だ。翠は責めを受けながらも、相之丞の顔を真正面から睨みすえている。
一方の相之丞は、その視線を受けながらも涼しい顔だ。
「胸の先が尖ってきましたよ。あなたは、こんなもので気持ちが良くなるのですか」
相之丞が翠の乳首を摘みながら言う。
翠がちらりと視線を落とすと、確かに胸の尖りははじめよりも円錐型にしこり勃っている。
度重なる刺激を脳が快感と誤認識したのか。あるいは本当に心地良いのか。
いずれにせよ、怨敵に性的な反応を見られることは女忍の恥だ。
「くっ……!」
翠の視線が一層鋭さを増す。
相之丞はその顔を嘲笑うように眺めながら、針を置いてキセルに持ち替えた。
高価な品として知られる銀延べキセルだ。
相之丞はゆっくりと煙を吸い込むと、さも美味そうに煙を吐き出した。
煙は正面に座る翠の顔へと浴びせかかり、その美貌を歪ませる。
噎せる翠を眺めながら、相之丞はさらに一服した後、おもむろにキセルを翠の太腿へと近づける。
そして先を反転させ、剥きだしの白い腿の上で燃えさしを棄てた。
「ぬ゛っ!!!」
乳首と顔ばかりに意識が向いていたところへ、突然の腿の熱さ。
これには翠とて反応が遅れ、生々しい反応で胡坐縛りの太腿を震わせた。
「灰落としが、動くな」
相之丞は本性を露わにしたような低い声で、翠に語りかけた。そしてまた唐辛子の壷と針を手に取る。
相之丞の憂さ晴らしとも言えるこの責めは、そこからまた何刻かに渡って続けられた。
※
「もう一度だ」
相之丞が命じる。
折檻役が翠の黒髪を掴み、水の湛えられた盥へと頭を沈める。
もう幾度目になるだろうか。
「ぶはっ!!げほっ、げほえほっ!!……っはぁ、はあ……はぁっ…………!!」
水から引き上げられた翠は、酷く苦しみながら咳き込み、酸素を求めた。
どれほど訓練を積んだとて、人が水中で息ができるようはならない。
長時間水に漬けられれば、忍といえど苦悶に満ちた生々しい表情を晒すしかない。
「……どうだ、水責めの味は」
相之丞は責められる翠の前へと回り込み、疲弊した翠の顎を持ち上げた。
濡れた前髪が額に貼りつき、何とも艶めかしいものだ。
しかしそこはくノ一。相手が相之丞だと知れるや否や、口を窄めて唾を吐きかける。
唾は相之丞の目の下を打つ。
相之丞は一瞬怯んだものの、すぐに薄笑いを浮かべながら目の下を拭った。
「威勢のいいことです。ですが、それもいつまで持つものか。
こんなものは、水責めの中でのほんの小手調べ。ここからが地獄ですよ」
相も変わらず穏やかな口調で、冷酷な言葉を発する。
翠は屈強な男達に引き立てられながら、そんな相之丞を睨み続けていた。
次の水責めは水車を利用して行われた。
水車は相之丞の屋敷がある村の中ほどに備わっている。
村の人間達が何事かと集まる中で、丸裸の翠は逆さ吊りのようにして両手足の首を水車へと括りつけられていく。
この村人達は、相之丞を国主の如く慕ってはいるが、彼の不義に関わっている訳ではない。
奥末藩に縁のある善良な民であり、翠が憎しみを向けるべき相手ではない。
実際のところ翠にしてみれば、こうした無関係な村人の前で恥を晒す事がもっとも辛い。
相之丞へ対するように鋼の心で抗うことができない。
丸裸で水車に括り付けられながら、翠は恥じらいに胸を締め付けられていた。
やがて水車は、軋みを上げながら回り始める。
相之丞子飼いの男達が水車を引き、人力で回しているのだ。
村の人間に乳房と茂みを晒す格好から、翠は次第に円に沿って上へと運ばれていく。
水車の頂点を越えたあたりで、村の男達から歓声が上がった。
大股開きになった秘所が、彼らからは丸見えになっているのだろう。
足を閉じる事も叶わない翠は、恥辱にただ耐えるしかない。
そして、恥らってばかりもいられなかった。
目の前にはすでに、こんこんと水の流れる用水路がある。今からそこへ潜ることになるのだ。
足の先から順に冷たさが這い登り、ついに乳房までが水に隠れる。
「はぁっ」
翠は大きく胸を膨らませ、息を吸った。その数瞬後、ざぶりと顔までが水の中に浸かる。
ごぼごぼと鳴る水音。水車の軋みが煩いほど大きく響く。
視界に映るのは暗い水底と、揺れる濃緑色の藻、そして木製の水車の車輪。
息苦しさがわずかに肺へ溜まる。
水車の回転はわざと遅くされているようだ。より長く苦しめようというのだろう。
くノ一として潜水にはある程度自信があるが、これが幾度も繰り返されては流石に厳しい。
次第に視界が明るくなり、揺れる水面の向こうに村人達の姿が見えはじめる。
男達は水から出た翠の身体を指差して盛り上がっているようだ。
そして、ついに顔が水面から出る。
「ぶはっ!!」
翠は当然のこととして酸素を求めた。その翠の顔を、また男達が好色そうに眺める。
その視線に耐えながら、翠は再び水車の回転にそって引き上げられていく。
それが幾度か繰り返された時だ。
暗い水底を抜け、ようやくまた酸素が吸えると翠が肺を緩めた時。突然相之丞の声がした。
同時に水車の回りが止まり、翠は首から上が水中に没したままで留められる。
(しまった…………!!)
そう考えた時にはもう遅く、酸素を吸う準備をしていた灰から空気が漏れ出す。
貴重な酸素が泡となって浮かび上がり、代わりに水が翠の喉へと入り込んだ。
その苦しさに、またガボガボと泡を吐いてしまう。そうして完全に酸素を失ってからが、苦しみの始まりだった。
水車に括りつけられた身体が暴れる。苦しみと恐怖で表情が引き攣る。
村人達は、そうした翠を嘲笑った。
中には気の毒そうにしている子供もいたが、彼らにとって翠は、いや相之丞に楯突く者は敵なのだ。
十分に翠が苦しんだところで、ようやく水車が再び回り始める。
溺れた人間特有の無残な顔をした翠が表れ、周囲の笑いを誘う。
こうした責めが、さらに幾度も続けられた。その度に翠は苦しみもがき、ついには失禁さえも晒して笑い者にされ続けた。
水責めはまだ終わらない。
二度の水責めで水への苦手意識を植えつけたところに、とどめの三度目が行われる。
それに気付いた瞬間、翠は内心で震えた。本当に容赦がない。
尿道と肛門にきつく栓が嵌め込まれ、水の逃げ場を失くす。
その上で、檜造りのの巨大な手桶と、なみなみと水で満たされた二抱えほどの酒樽が翠の前に置かれた。
手桶で勢いよく水が汲み出され、口に流し込まれる様が容易に思い描ける。
「……水責めというものはね、本当によくできた拷問なんですよ。
気が狂うほどの苦痛だそうですが、実際に狂ったという話は聞かない。外傷は残らないし、後遺症もさほどない。
ただ、確実に大人しくなる。どんな人間でも反抗する気概を失い、水を見せるだけで怯えて言う事を聞くようになる」
折檻役が翠の鼻を摘み、口広の漏斗を深く咥えさせるのを見ながら、相之丞は告げた。
翠は瞳を惑わせつつ、必死に彼を睨み上げた。
遥か上下に落差がついた、二つの視線がぶつかり合う。
折檻役が翠の鼻を摘んだまま、手桶の水を漏斗の中に流し込む。
一人が流し込めば、すぐに逆から別の一人が、その次にまた別の一人が。
その交替制により、翠の口には絶え間なく水が流れ込む。
鼻を摘まれて呼吸を封じられたた翠は、その水を飲むしかない。
白い喉が幾度も上下する。
「む、んん、んっ…………んんもぉエ゛ッ!!!!」
えずくような音がし、翠の腹部がにわかに蠢きはじめた。
同時に首を振り始め、なんとか水を呑む苦しさから逃れようとする。
しかしそれで許すような折檻役ではない。
むしろより強固に翠の頭と身体を押さえ込み、手桶で水を呑ませてゆく。
「え゛っ、あごぐっ……!!ゴバッ、ぃあんんんォっ…………!!!」
整った顔が口周りを中心に歪にゆがむ。
全身が細かに痙攣をはじめ、そしてついに、翠の眼球はぐるりと天を剥いた。
そこへ来て、ようやく折檻役達は一旦漏斗を抜き出す。
「ッげほっ、げほえっ!!えごほっ、ごぼっ、え゛げろ゛っっ!!!」
嘔吐を思わせる音で水が吐き出された。
盥の時よりも、水車の時よりも格段に苦しげな音だ。
「どうです、自分の素性でも思い出しましたか」
相之丞は手に扇子を遊ばせながら、憎らしいほどの余裕をもって問うた。
「…………地獄、に、堕ちろ」
翠は息も絶え絶えに答える。相之丞が手を振り上げた。
再び折檻役が翠の鼻を摘み、漏斗を咥えさせる。
翠の瞳に一瞬、明らかな恐怖の色が浮かぶ。
そしてまた水が注がれ始めた。
「ああああ゛っ!!!おえぇげぼっ、も゛ぅンぐっ!ぶっ、ッげぐぼァ゛ああ゛っ!!!」
艶かしい身体が暴れ回り、黒髪を鷲掴みにされたまま首を振りたくる。
呑ませては吐かせ、また呑ませては吐かせ。
すべてを吐ける訳でもない為、その繰り返しで翠の細い腹部はゆっくりと膨れてゆく。
肌の色が土気色に変わり、唇は紫色になり。
やがて本当の本当に限界と見られた所で、漏斗が引き抜かれた。
「いい加減に答えろ。貴様、どこの手の者だ!」
折檻役が、水風船のように膨れた腹部を強く鷲掴みにする。翠は激痛に顔を顰める。
「ごおお゛ぇっ、ぶぐふっ!!!」
翠の口から勢いよく水を吐き出された。
そしてようやく酸素を得られたとばかりに激しく喘いだあと、再び水を吐く。それを繰り返す。
最後の水には鮮血すら混じっていたが、完全に白目を剥き痙攣を繰り返すくノ一が、素性を明かす事はついになかった。
「痛みでは駄目、苦しみでも堕ちず…………ですか」
陥落する事のない忍を前に、相之丞は苛立ちを露わにする。
しかしその一方では、冷静に次の一手を案じている風でもあった。
※
翠は布団の上に寝かされ、大の字に手足を拘束されたまま色責めに掛けられていた。
翠の上に覆いかぶさっているのは、村の娘だ。
天上人たる相之丞から屋敷に招かれたのみならず、くノ一への責めすらも任された。
その大任に胸躍らせ、嬉々として責め立てている。
「………………」
娘から執拗に唇を貪られながらも、翠は毅然とした態度で天井を睨み上げていた。
口づけはなされるがまま。
しかし、内心では興奮が刻一刻と高まり続けている。
同性に口内を貪られる事もひとつ。
そして娘の片手は、傍らの壷から゛秘薬”を掬い取りながら、翠の淡いへと沈み込んでいく。
同じ女ゆえに、その責めは洗練されていた。昂ぶるように、膣の中の弱い部分を的確に責め立てた。
それを一方的に受け続ければ、いかなくノ一とてまったく感じないという訳にはいかない。
「ねぇくノ一、気持ちいいんでしょう。女陰の奥がどろどろになってきているわ。
わたしの指をしっとりと咥え込んで、流石、いやらしいのねぇ」
村娘が指を蠢かしながら囁く。
彼女に指摘されるまでもなく、座敷にはもうかなり前から濡れた音が繰り返されている。
出所は翠自身の秘所だ。
翠が問いに答えないのを見て、娘が再び唇を奪う。
年を疑うほど妖艶な舌遣いで歯茎を舐め、上顎をなぞり、舌を絡ませて。
ぞくぞくとする無防備な昂ぶりが、翠の脳裏をくすぐった。
「…………お願いだ……こんな事、もうやめてくれ…………」
口が離された瞬間、翠は娘にだけ聴こえるように小声で囁きかけた。
部屋の隅で盃片手に見ている相之丞には気付かれないように。
しかし、娘は面白そうに目を見開いた。
「はっ、ねぇ相之丞さま!この女、今弱音を吐きましたよー!もうやめてくれ、ですって!あははっ」
鬼の首を取ったかのように、相之丞を振り仰いで叫ぶ。
それを聞き、翠はやはりこの村娘も敵方の人間なのだと心寂しくなる。
奥末の忍である自分が、同じ奥末の民に虐げられるとは。
「そうか、そうか。ならば続けよ、折れさせれば好きに褒美を出すぞ」
相之丞は機嫌よく娘に答える。
その言葉を聞き、娘はいよいよ目を輝かせて翠に覆い被さった。
「あははっ、お乳でてきた」
娘が翠の胸の尖りを摘んで叫ぶ。
針で散々に乳腺を刺激された胸の先は、再度の興奮によって確かに白い雫を零している。
とろりと、何とも心地よさげに。それは翠自身の心のようだった。
娘によって、翠はなお散々に嬲られていた。
豊かな胸を揉まれ、秘裂に秘薬を塗り込められ、さらにはその上の赤い蕾にすら秘薬をつけた筆でなぞられて。
「はぁ、はっ……はぁっ……はぁっ……あっ、はーっ…………」
全身に汗を掻きながら、翠は激しく胸を上下させていた。
性感の極みまで押し上げられ、しかしそのまま寸止めという生殺しの状態を続けられているのだ。
寸止めは相之丞の命令だった。
昂ぶりきっている。
毅然とした態度で天井を見つめていた翠の瞳は、いまや色に蕩けて濡れたようになっていた。
秘裂からは蜜が止め処なく流れ、娘の指に絡みながら敷布団に滴っていく。
「…………よし、そろそろ良いだろう。存分に果てさせてやれ」
翠の状態を見守っていた相之丞が、扇を開きつつ言う。
すると娘は、待っていたとばかりに桐箱から責め具を取り出す。
凹凸のついた、極太の張り型。
「さぁ、いくわよくノ一」
猫のような瞳で翠の目を覗き込み、娘の手にした張り型が秘裂を割る。
「ぐっ!!」
思わず声が出た。張り型の太さもあるが、それ以上に快感が凄まじい。
膣内の膨らんだ襞を張り型が通り抜けた瞬間、翠は軽い絶頂を迎えた。
そして張り型の先が蕩けきった膣奥を突くと……脳内が白く染まる。
全身を巡る甘い電流。足指の先までがぴんと伸び、断続的な快感に腰から脊髄までが打ち震える。
この快感は、まずい。そうはっきりと感じられた。
しかし、拒めない。拒む術がない。
「んん、んあっ!!ああ、あはっ、あぐうううっ!!ひっ、あぁああっ!!!」
和室に女忍びの嬌声が響き渡る。
村娘の手で容赦なく張り型を叩き込まれながら。
幾度も幾度も腰が跳ねる。子宮を中心に身体中が痙攣を繰り返す。
「どう、ぶち込まれて堪らないでしょう!ほらっ、知ってる事全部吐きなさいよ、ほら!!」
村娘はいよいよ嬉々として翠を責め立てる。
「おごほぉぉおおお゛っっ!!」
翠は事実たまらなかった。
絶頂につぐ絶頂で呼吸すらままならず、口からは涎はおろか泡すらも噴いてしまっている。
頭の中が快感で煮崩れしていくようだ。
自我を保てなくなる恐怖と、底無しの快感に惹かれる危うさ。
今までの責めでも、もっとも強い警鐘を脳が鳴らしている。
生物が本能的に求めていることだからこそ、手に負えない。
「あはっ、あ、ああっ、ああっ。ひあぁああああふっ!!!」
翠は極限状態に置かれながら、後頭部を床に打ち付けてかろうじて正気を保つ。
頭の中でぷつりと糸の途切れる音がし、視界が黒く染まって気を失う瞬間まで。
何とか、耐え切った。
暗い意識の底に沈む瞬間、翠は安堵した。しかし同時に解ってもいた。
次はどうなるか解らない。次の責めで、『くノ一・翠』は壊れてしまうかもしれない、と。
※
「うわ、何あれ……双子孕んでるみたい」
「あれってあの、細くて、ちょいと綺麗だったくノ一だろ。腹が膨れあがると、醜くなるもんだねぇ」
村人達がどよめきながら畦道に群がっている。
その中心にいるのは翠だった。
手首足首をそれぞれ一纏めにし、大股を開く格好で二本の木に結わえ付けられている。
その腹部は醜く膨れ上がっていた。過食責めの影響だ。
囲炉裏鍋二つ分作られた下剤入りの粥を、手で掬って無理矢理に食べさせる責め。
液状のものに対して苦手意識を植え付けられた翠は、粥を口に近づけられるだけで怯えを見せた。
しかしそれに構わず、手で口を覆って塗りつけるように食べさせる。
翠は幾度も嘔吐した。
液状のものを口にする恐怖と、単純な食べ過ぎによる戻し。
しかしその吐瀉物すら掬い、恐ろしく長い時間を掛けて残さず平らげさせられた。
その結果の蛙腹だ。
ぐりゅるるる、ごぉうるるるるるぅ、と不穏な音が響く。
下剤の効果と腸の限界以上の圧迫による腹鳴り。翠の苦しさの象徴。
それでも、翠は村人の前で恥辱を晒したくはなかった。
「はっ、はっ……はぁっ、はっ……あああ……ううううっ、ああっ…………!!」
荒い息を繰り返しながら、翠は耐える。耐え忍ぶ。
しかし……本当の限界は覆らない。
吊られた手足が震え、尻肉が幾度も引き締まり、その末に、とうとう尻穴から飛沫が上がる。
「うわっ、出した!!」
「おいおい、汚ねぇなあ。しかもすげぇ匂いだ!」
「こら、見るんじゃありません!!」
村の人間から悲鳴に近い反応が沸き起こった。
ある男は下卑た視線を寄越し、
ある女は心の底から軽蔑したように冷笑し、
ある母親は子供の目を必死で覆って非難の目を向け。
それらの反応が、翠の心を切り刻む。しかし、排泄は止まらない。止められる訳がない。
飛沫は奔流に変わり、腹部の張りを解消しながら地面に叩きつけられていく。
臭気が身を包み込む。
「…………見るな…………見るな、…………見るな、見るな…………見ないで、くれ………………っ!!」
脂汗を流して排泄を続けながら、翠は小さく繰り返した。
「これが最後です。どうです、何か話しますか」
尻肉から汚物を垂らすままの翠に、相之丞が問う。いつになく柔らかな口調だ。
翠は一瞬心が靡きかけるのを必死に堪え、怨敵を睨みつける。
「そうですか。ならば…………もう、いい。」
相之丞は首を振り、折檻役達に木の縄を解かせた。
両手足の縛りはそのままに、翠の身体は抱え上げられる。そしてそのまま村外れへと運ばれた。
明らかに妙な一画へと辿り着く。
周囲よりも数段低く掘り下げられ、家屋も無く、林に遮られて昼なお薄暗い土地。
「棄てろ」
相之丞の一言で、翠はその中に投げ込まれる。
「ぐっ!!」
肩を地面に打ちつけた翠は、ふと妙な匂いを嗅ぎ取った。
まるで何年にも渡って水浴をしていないような、濃厚な体臭。それが匂ってきている。
はっとして顔を上げれば、そこにはもはや人と呼んでよいのかも解らないものがいた。
全身が垢で覆われて浅黒く、腹だけがぽこりとでた餓鬼体型。
そして女に飢えているらしく、目をぎらつかせながら裸の翠ににじり寄る。
「よせっ、止めろ!来るな!!」
本能的な恐怖から翠は叫んだ。しかし、大股開きで手足を縛られていては逃げられない。
男達はたちまち翠に群がり、やおら女陰へと勃起した逸物を捻り込む。
ぬるりとした感触が翠の中を滑る。
しかし、翠はその小汚い性交にすら快感を得ていた。秘薬のせいだ。
「ーーーーーっ!!!」
つねに蕩けているような膣奥を乱暴に貫かれ、天を仰ぎながら声ならぬ声を上げる。
その翠にまた別の一人が貼りつき、挿入を試みた。
塞がっている膣以外のもうひとつ……後孔へ。
「なっ!?よ、よせっ、後ろはっ!今、そんな事をされたらっ…………!!」
翠の哀願も、飢えた男達には通じない。
男は迷うことなく翠の肛門へと怒張を宛がい、一息に貫いた。
「あうううっ!!!」
翠が顔を歪める。その歪みは、怒張が肛門を攪拌する中で、ますます歪になっていった。
「あっ、ああ、あっ!!や、やめろ、やめてくれ、聴こえてるんだろう!!
私は大量に下剤を飲まされてるんだ、まだ半分も出し切れていない!!
もう解るだろう、そんな状態で後ろを……あ、され…………たら、う、んうううっ!!!」
翠が必死の説得を続ける間にも、背後の男は動きを緩めない。
どれほどの女日照りだったのだろうか。
腰を鷲掴みにし、腰よ壊れよとばかりに力強く叩きつける。腸の奥の奥まで。
「やめ、やめろっ、ほんとうにもう……ぬ、ぬいてくれ、後生だ…………っ!!!!!」
その言葉の直後、ついに翠の肛門から第二の噴出が始まる。
腸の深くにあった下痢便が、怒張の抜き差しの刺激で下ってきたのだ。
「うわあああぁあああっ!!!」
これには翠も絶叫した。
本来性交に用いるべきでない肛門を犯されるのみならず、脱糞まで晒す。
くノ一である以前に、女としてこれ以上はない恥だ。
「うわぁー、すっごい。やってるやってる」
「ひぇえ、どっちも腰から下が糞塗れ……。もう人間じゃないね、ありゃ」
低地を見下ろす形で村人達が集まり、口々に翠をなじる。
尋問役や相之丞もそちら側にいる。
それを見上げるうち、まるで翠は、自分が人間でない下等生物になったように感じた。
垢まみれの人間に押し倒され、孔という孔を好き勝手に使われる畜生。
吐き気のする大衆と、自らの漏らした汚物の匂いに満ちた空間で這いずる蟲。
汚れていく。
垢にまみれ、地面にまき散らされる汚物の中を転がって。
人間としての尊厳が………………、折れる。
「たすけて……助けてください。私は、わたしは、お、堕ちたくない。人間で居たい!!」
翠は、ついに涙を流した。
それまでの凜とした声ではなく、弱弱しい声。
くノ一としての尊厳を砕かれ、無力なひとりの娘に成り下がった瞬間だった。
しかし。相之丞は反応しない。
大黒天のような慈愛に満ちた笑みの隙間から、蔑みきった瞳で見下ろしている。
まるで興味が失せたとでも言いたげに。
「……さて、帰りましょうか。アレは、あまり見るものではないですよ。目が腐ります」
黒八丈を翻しながら、相之丞の姿が遠ざかっていく。
村の人間達も、それぞれ翠に哀れみの一瞥をくれながら踵を返す。
翠の視界から、“人”が消える。
「ま、待って、待って下さいっ!!置いていかないで、出自を話しますっ!!
私は、奥末藩藩主永長から直々に忍を受けた忍びです!
相之丞殿が士沼と関わりがあるとの噂を調べに参りました!
すべて奥末の行く末を思えばこそ任務なのです、ですから、お慈悲をっ!!
誰か、お願いです、誰か聞いて下さい、誰か、ねぇ、誰かぁあぁああああ゛っ!!!!」
空しい叫びが空に消え、翠の頭は垢まみれの手に押さえつけられた。
そして男達がそうするのと同様に、自らの排泄した養分を口元へと近づけられる。
気丈だったくノ一の切れ長な目尻は、泣くように垂れ下がった。
終
過疎スレを覗いてみたら良作が
最後の向こう側(人間)とこちら側(下等生物)の隔たりが絶望的でよかった
雰囲気あって面白かったですGJ
世界忍者戦ジライヤ 第32話「渚のくの一忍法帖」より 予告編
立ち籠める霧に覆われた路の両側には、場に似わない切り立った崖。セントマリ
アナ女学院の海浜寮付近の雑木林の筈が、瞞しの結界が張られているに相違ない。
そこで麗破が目にしたものは、その隘路を塞ぐかのように張り巡らされた巨大な
蜘蛛の巣に貼り付けられ、拘束されている花忍夢破。
渚で妖魔一族と切り結んだ際に捕らわれたときのまま、若く引き締まったシルエッ
トに見事にフィットした濃紺無地の競泳水着を纏っている。お尻に程好く食い込む
稍小さめなサイズ。きめ細かなサラサラした素材。鈍く輝く表面の光沢。股間の辺
り、少し湿り気味なのか、滑りとした独特の質感がリアルに伝わってくるようだ。
競泳水着越し、不気味な蜘蛛の糸が程好く均整のとれた全身を縦横に駆け巡って、
胸を潰すように圧迫し、股間にも緊く食い込んでいる。目を閉じて項垂れている
夢破の腕脚の至る所には、焦痕、噛痕。ややクラシカルながらも端正な顔立ちに
酷く残る内出血の痕跡が、既に加えられた拷問の惨さを無言のうちに物語っている。
颯爽と駆け寄る麗破。楚とした佇まいにも、仄かな色香を漂わせる眩しい形姿。
伸縮性に秀れた極薄で純白のレオタードとメタリックシルバーのアンダースーツ
が、靭やかな躰の線を耽美に描いている。引き締まった脚から柔らかな美尻へと
続く艶かしいラインに唖然とする。女性らしい丸みを残した腹部から坦らかに隆
起して、薄い胸の頂点で生地が慎ましく張っている。
果て無き激闘の末、凶悪な忍者群の襲撃を辛うじて退けたばかりで、薄らと汗ば
み、何時に無く肌骨ない身ごなし。レオタードの下、傷口が抉られたように疼き、
紫に腫れている。連戦で酷使した痩身には、限界が近い。
(承前)
「今、助けてあげる!」
だが、侵入したくノ一を狙って発動する怪光線のトラップ。極限に達し、もう変
身を維持しているだけで心身ともに辛く切ないのに、創痍の痩身に鞭打ち、すら
りと抜いた忍刀の美技で光線を撥ね、夢破を救おうとする。しかし、囚われの
夢破を庇うために、避けることができなかった一筋の怪光線に胸を撃ち抜かれ、
踊るように縺れて頽れる麗破。
「うっ……あっ…… か、躰が痺れる」
両肩を震わせて、何とか起き上がろうと藻掻く麗破。そこに光線が矢となって容赦
なく降り注ぎ、卑劣な直撃が痩身を打ち据える。次第に力が弱まり、蹲ってしまう。
「はぁ、はぁ…… 」
懸命に立ち上がる足許も覚束ない。憔悴し、傷ついた我が身を省みず、結界を破り、
蜘蛛糸を解いて夢破の戒めを解く。その場に崩れ落ちる夢破。愛しく抱きとめ、
扶助する麗破。
地に突っ伏した花忍夢破。呼びかけても反応がなく、意識がない。心肺が停止し
ている。一刻も早く脳に新鮮な酸素を送らなければ。硬い地面に仰向けに寝かせ、
顎を持ち上げて気道を確保する。両乳頭の中間に手の付け根を置いて圧迫し、救
命のため痩身に残された力の限りをエネルギーに変え、意識のない夢破に注ぎ込
む。瞳が緑に輝き、放たれた光線が優しく夢破を包む。
「ぁぁぁぁっ……」
麗破の躰から、遍く力が搾り取られる。使命感が、今の儚げな麗破を支えている。
肩で息をつき、蹲りそうになる。地が揺れているようにさえ感ずる。心臓が急激
に早鐘のように打ち始め、削られるように気力が無くなっていく。苦悶に堪えて
歪む表情と意識を失いかけ唆るような表情が交錯する。双眸が虚ろに漂い、崩れ
落ちるように両手を地につく麗破。押し潰されるような疲弊に、意識が途絶えそ
うになる。極僅かだが思わず漏らしてしまい、ぴっちりとしたレオタードを、し
っとり濡らす。尽きる寸前、夢破に呻き声があがり、幸いに息が戻る。
(承前)
「はっ!」
何時しか何処からとも無く流れている尺八の音。憔悴し切った麗破を追い撃つよ
うに、手毬ほどの大きさの白色球体が次々襲う。受け損ね、薄い胸を直撃!
「ああっ! あぅっ!」
華奢な肩に、確りと張った腰に、若さにはち切れそうな腿に、次々痛撃!
ぶつけられた球体は、破裂して消滅する。その度に、どうしたことか、麗破の体
力が、気力が搾り取られるように奪われていく。同時に、愛撫されたような妖し
い感覚が躰を駆け巡る。然も、有ろう事か、次第次第に性感が敏感に研ぎ澄まさ
れていく。小振りだが形の良い乳房がレオタードの膨らみの下で揺れ、薄紅色の
乳首が勃つ。当惑と羞恥が、麗破の素心を掻き乱す。
い……いけない……
思わず胸を庇いつつ、退く麗破。泥に脚をとられて仰向けに転倒!
「ああっ!」
水溜りに美尻が浸り、汚水に穢されるレオタード。
懸命に起き上がろうとするが、足許が覚束ず、蹌踉めいて腰から砕け、そのまま
両手両膝を付いて前にのめり込む麗破。その間も、球体の襲撃!
肘を付いて蹲まりながらも、気丈にも苦悶に充ち満ちた顔を上げようと蜿き、
のたうち回る麗破。
ううっ……
およそ耐え難い程の過酷な消尽が麗破の肉体と精神を蝕む。まるで、激しく撃た
れながら、乱暴に犯され続けているかのようだ。
息が上がって、肩が、小癪な胸が上下する。下肢が痙攣の波動に弱弱しく打ち震
え、背筋が寂しく波打っている。益々全身が萎えて、次第に力が尽きていく。
遂には、俯せに崩れ落ち、惨めに這い蹲ってしまう……
襲ってくる快感に抗い、激痛を堪え、泥土に塗れながらも、両肩を震わせて、唆
る腰を重く振りながら、形振り構わず立ち上がる。しかし、その無防備な背に、
度重なる戦いのために痛めている腰に、非情な毬が更に容赦なく降り注ぐ。
ああっ ああっ!
(承前)
やがて尺八の音が止み、白毬が消える。此方に聳え立ち、動きを止める影。痩せ
て強靭で、ぞっとする程、見覚えのあるその異形。深編笠の虚無僧姿。思わず怯
えの混じった声が洩れる。
「宇破! くっ……」
じりじりと詰まる間合い。麗破の両手から忍刀が音も無く滑り落ち、音忍宇破と
の間に障碍のように転がる。剣術にも長ける宇破に対し、咄嗟の応用技であり、
巧妙な防御策である。必殺の袈裟斬りに、丁度一歩踏み出すその地点へ、美事に
転がっている。麗破の背後には蜘蛛の巣が張られている。飛び退っては躱せない。
その窮地に、機転を利かせたのである。
幾歩距てて対峙する無刀の構えを見て、音忍が思わず呟く。
「新陰流か、難儀な」
技量では幾分優れども、妖魔の秘術で再生されたばかりの身には、長引けば不利。
正眼から八双に付けた宇破の呼吸が少しく乱れ……
……二つの影が交叉した刹那、一瞬早く麗破の蹴りが顎に炸裂! 八双からの太
刀捌き、転がる刀を蹴りに踏み込んだところ、一瞬の精妙を欠いたのである。そ
の隙を逃す麗破ではなかった。だが、宇破の姿は、醜い叫びだけを残し、撒き散
らした濃霧の彼方、早掻き消えている。
些か安堵する暇も無く、若さにはちきれそうな麗破の太腿に、長く鋭い魔針が深々
と突き刺さる! 劇痛に顔を歪め、腿を押さえて身悶え、敢え無くへたりこむ麗破。
「ぃ、痛い…… ぅぅ……」
回転性の眩暈と極度の痺れを伴い、超高度に濃縮された麻酔薬が即効する。
「ぅぅ…… か、躰が…… あっ、あああ……」
「暫クハ、マトモニ身動キデキナイヨ、麗破!」
「蜘蛛御前! くぅっ……」
「いい事を教えてやろう。この秘薬は妖魔の媚毒で、お前を淫乱にする作用がある」
「紅牙!」
「ここで、存分に痴態を晒すがいい」
「そんなもの、効くものか! ぁっ……」
麗破、危うし!
to be continued
支援
てす
楽しみだ。支援
保守がてら雑文投下
町家の中を進む3人の虚無僧。町の雑踏を抜け、荒涼とした農村地帯へさしかかる。
と、突然周囲から襲いかかってくる幾多の影。突然の激しい応酬で編みがさを飛ばされる3人、また襲撃者の方も瞬時足が
とまる、いやとめられた、というべきか。虚無僧の3人は若い女、攻めかかる面々も20名はいるだろうが、
何れも若い女達ばかりである。大集団の出で立ちは揃って肩まで剥き出しの草色衣。腰まわりを白い細紐で締め、
尻は申し訳程度に覆う超ミニの格好である。衣の下にサラシは巻いておらず、胸元が強調されるも当然のこと。
少し衣をはだければ容易に乳房全体が露わになるだろう。下半身は更に過激である。褌1枚しておらず、衣の
裾から真紅の陰唇、整った茂みなどの秘所が惜しげもなく晒されている。腕には白布で巻いた手甲、脚にも同様の脚絆を纏い、
素足に草鞋とくればこれぞ典型的なくの一の姿。腰紐に1本の短い刀を背中で結んでおり、
全くの丸腰ではないが今この闘いに見る限り拳や蹴りといった体術のみにて殺意はなさそうである。
一方、受けて立つ3人とて俊敏な身のこなし唯者でない、四肢全身を駆使し攻防の技をかける。
答えを先に明かせば、3人はこの地へ公儀の隠密任務でやってきた伊賀くの一、襲撃者は独立系の霞くの一忍群である。
多勢に無勢と思われた闘いだったが、激しい交錯の中で――「うッ!」呻き声ひとつ。
臍の真上あたりか、腹に拳が突き刺さり苦悶のうちに気絶したのは霞くの一の方だった。そうこうするうち周囲の農民が何事かと騒ぎだし、
霞くの一達は気絶した仲間をかかえて撤退する。伊賀くの一達は虚無僧姿のまま山あいの荒れ寺へ入り、尼の衣装へと
着替えるも手なれた風。仕込み杖を抜かず血を見なかった先程の闘いを良しとし、相手にとって不足なしと意気込む。
それはやはりくの一ならではの感覚、無益な殺生より色恋を好む女子として、血なまぐさい男達と一線を画したいとの思いがあった。
霞くの一たちも全く同様である。腰の短刀はあくまで護身のため、帯刀する男忍者や武士たちから切りつけられた際の受け太刀でしかない。
さても荒れ寺に落ち着いた3人、今回任務は奪われた天領御用金10万両の探索と奪還である。
何でも警備の武士たちが峠にさしかかった際、たちこめる濃霧の中で自慰衝動に翻弄されながら気を失い、目覚めた時は全て奪われた後とのこと。
それが霞くの一忍法「淫霧香」という、女陰から放出される催淫、催眠の霧だということまでは知る由もないが。
何れにせよ腹が減っては戦が出来ぬと、胡坐をかいて飯をほおばっているところへ一人の尼がやってくる。
にわか尼僧3人とのやりとりですら、すぐにも正体がばれる女、今度は真田くの一衆の登場と。しかし女は抵抗もせずあっけなく3人に組伏せられる。
拍子抜けの3人が「非力なお前ひとりでどうなるものでもない、如何に天領が以前真田領であり、よしんば御用金が真田領民の年貢米から生じたものであっても、今や真田のものではない」と戒めると、
真田くの一は押さえつけられたまま「お家再興のため必要であり、公儀には渡しとうない」と弱弱しく抗弁する。余りの非力さに微笑む3人は女を解き放つ。
と、その夜。夕餉を終えてひと心地ついているところで天井裏に気配あり。
敏感に反応する3人が追い詰めた相手は昼間の霞くの一1名。
早くもここを探り当てたは流石だけど、ここまでよ、と勢い込むが意外や意外の激闘、やっとのことで女を気絶させる。
そこで伊賀くの一忍法「移し観音」失神している霞くの一に覆いかぶさり心行くまでまぐわえば伊賀の女はすっかり霞くの一に変化し、
そのまま霞女忍群の拠処に入り込む。仲間と思い油断しきっている霞くの一を数名、至近からの当て身で気絶させる伊賀くの一。
騒がれずにこっそりと、倒した女たちを物陰に隠す。少しでも相手の頭数を減らしておきたい思惑があった。
ここまではよかったが、霞頭領への報告時、睦合いの中で化けていることがばれ、陰部に張り型を突き入れられ気絶し囚われてしまう。
それを救い出そうと残りの2人、半袖黒衣に黒の手甲脚絆という伊賀くの一装束となって猛然と仕掛けるが、
5名ほど倒し仲間の囚われている牢屋まで辿り着いたところで霞くの一忍法「乳悶絶」
霞くの一たちの飛散させる乳汁が伊賀くの一たちに纏わりつくや、穴という穴から入り込み、昇天失神させるという秘技を食らい気絶、
同じく囚われることに。
ところが霞くの一達の注意が伊賀くの一たちに向けられている間、離れた場所の穴蔵に隠されていた10万両が奪われる事態となっていた。
仕掛けたのは何とあの真田くの一がたったの一人。しかも尼姿で正面から堂々と警備の霞くの一達の前へ進み出る。
当然すぐにも取り押さえられるが、そこで居丈高になっている5人のくの一に向けか細い声で「お許しを」。
霞くの一達は口々に「道に迷ったなど誰が信じる」「怪しい奴、ひん剥いて問い質そうぞ」と意気軒高。
しかし強気と同時に隙がある5人、自らの腹部に尼の拳が突き入れられるとは思いもよらぬ。
ドスッ「う!」ズムッ「うぐっ!!」ドシュ!「ふうッ!」…あっという間に気絶させられ、更に10名が同じ手口で倒される。
そして10万両の前で警備する4人にはまた異なる攻め口を見せた。
真田くの一忍法「髪くぐつ」自ら抜いた4本の黒髪をふっと吹けば、矢のように飛んでいき霞くの一達の首筋に刺さる。
本人ちくりとも感じないだろうが、刺さった瞬間から霞くの一たちは真田くの一の命ずるまま。
10万両を荷車に積みこませ馬まで用意させ、まんまと御用金をせしめるのである。仕上げは髪抜きさまの拳一突き。
4人は深い気絶の眠りにつくが、真田女はここではじめて尼の衣装を脱ぎ棄て真田くの一の格好になる。
これも肩や太腿を露骨に晒すは霞くの一達と同じだが衣は黒色、手甲脚絆も黒の網目という具合。
忍び装束となっていよいよの本領発揮か、ここから更に10名と闘い難なく気絶させるはまことにもって手練れの証。
いや、本来闘う必要もない相手だったにもかかわらず、獲物を求めるように襲いかかり気絶させていくあたりサドのきらいすらある。
実はこの真田くの一こそが最強であり、弱弱しく見せていたのは演技だったということか。
とにかくも彼女の活躍により公儀の手が及ばない外様の分家として真田が見事に再興を果たす。それはこの顛末から1年たったうららかな春のことであった。
無論、真田女が霞くの一のひとりをさらい、1年間調教した事実が表に出ることはないのだが。(完)
kan