ヤンデレの小説を書こう!Part11

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1名無しさん@ピンキー
ここは、ヤンデレの小説を書いて投稿するためのスレッドです。

○小説以外にも、ヤンデレ系のネタなら大歓迎。(プロット投下、ニュースネタなど)
○ぶつ切りでの作品投下もアリ。

■ヤンデレとは?
 ・主人公が好きだが(デレ)、愛するあまりに心を病んでしまった(ヤン)状態、またその状態のヒロインの事をさします。
  →(別名:黒化、黒姫化など)
 ・ヒロインは、ライバルがいてもいなくても主人公を思っていくうちに少しずつだが確実に病んでいく。
 ・トラウマ・精神の不安定さから覚醒することもある。

■関連サイト
ヤンデレの小説を書こう!SS保管庫(本保管庫)
http://yandere.web.fc2.com/

ヤンデレ臨時保管庫 @ ウィキ(臨時保管庫)
http://www42.atwiki.jp/i_am_a_yandere/

■前スレ
ヤンデレの小説を書こう!Part10
http://sakura03.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1189967712/

■お約束
 ・sage進行でお願いします。
 ・荒らしはスルーしましょう。
  削除対象ですが、もし反応した場合削除人に「荒らしにかまっている」と判断され、
  削除されない場合があります。必ずスルーでお願いします。
 ・趣味嗜好に合わない作品は読み飛ばすようにしてください。
 ・作者さんへの意見は実になるものを。罵倒、バッシングはお門違いです。議論にならないよう、控えめに。

■投稿のお約束
 ・名前欄にはなるべく作品タイトルを。
 ・長編になる場合は見分けやすくするためトリップ使用推奨。
 ・投稿の前後には、「投稿します」「投稿終わりです」の一言をお願いします。(投稿への割り込み防止のため)
 ・苦手な人がいるかな、と思うような表現がある場合は、投稿のはじめに宣言してください。お願いします。
 ・作品はできるだけ完結させるようにしてください。



2名無しさん@ピンキー:2007/10/20(土) 23:31:18 ID:b5sg+Dw6
>>1
おつ
3名無しさん@ピンキー:2007/10/20(土) 23:59:23 ID:7Au7SI8y
>>1
GJ
4名無しさん@ピンキー:2007/10/21(日) 00:47:43 ID:dysZ5bzK
>>1
5名無しさん@ピンキー:2007/10/21(日) 04:36:41 ID:l2Y2j/mr
>>1
6名無しさん@ピンキー:2007/10/21(日) 07:14:15 ID:LYss9DEW
7名無しさん@ピンキー:2007/10/21(日) 09:03:55 ID:p7SlmnIC
>>1
乙ー
8上書き ◆kNPkZ2h.ro :2007/10/21(日) 23:33:10 ID:CSIWB/IF
投下します。
9上書き ◆kNPkZ2h.ro :2007/10/21(日) 23:34:41 ID:CSIWB/IF
 ……瞼が重い。眼の周りだけ重力が倍になっているのではないかと思うくらいに。
こんな感覚は久しぶりだ。いつも朝の目覚めは良かったからな。加奈を起こしに行くことを考えれば当然だが。
 ――加奈。
 もう、起こしに行くこともないのかな。
別に極楽浄土なんて信じてないけど、俺が今こうやって思考しているということは、少なくとも死後に世界があるという証拠だ。
そしてそこは、俺と加奈以外誰もいない、俺たちだけの楽園だ。
学校に行く必要もないし、その上、加奈とずっと一緒にいられる。誰からの干渉も受けず、真っ直ぐな加奈と永遠を過ごせる。
 ――最高だ。
 これが俺たちが目指していた到達点だ。お互いに絶対の信頼を持って、疑心なんて言葉とは無縁の生活を送ること。
俺たちはこれでやっと、“本当の恋人”になれたんだ……。
 加奈も喜んでいるだろう。笑顔で迎えてくれるに違いない。早く会いたい。抱き締めたい。
だから、億劫だが起きよう。それに、さっきから何だか鼻と口の付近がくすぐったいし。
「……」
 まず視界に飛び込んできたのは、瞳だった。濁りのない綺麗な黒色が、ガラスらしき物を隔てて俺に注がれていた。
その色彩は、真夜中の海のようだ。
暗闇という圧倒的な恐怖と、僅かに天から降り注ぐ月光の安心感とが織り成す、際どいバランス下での演出。
危険と安全という相反する二つの道のどちらをも選べるということから生じる偽りの自由が、被保護欲をそそる。
そのまま溶けていきたいとさえ思える甘い罠――今俺を見ている瞳からは、そんな感覚が伝わった。
 こんな目をしている人を俺は知らない。一瞬で足場を失う危機感を覚えさせたその事実を打破したい一心で、視線を逸らした。
「目、覚めましたか」
 心底から安堵したことがわかるほどの大きな溜め息と共に、俺の耳に声が染み込んだ。
それは、聞き慣れていて、且つ忘れられる筈がなく、忘れてはいけない声。
ただ、その透いた声から伝わる穏やかな感覚は、俺にとって初体験としか言い様がなかった。
不快ではない違和感――矛盾している気がするが――を覚えつつ、俺は視線を先の所へと戻した。
「随分可愛い寝起き顔じゃありませんか」
 俺の顔に触れるか否かまで迫っていた瞳は既に離れていて、そのおかげで全体像を捉えることが出来た。
その瞬間、確信は俺の中の事実へと姿を変えた。
「……島村……」
「ほっぺた引っ張りたいくらい可愛いですよ」
 島村由紀だ。
ここ数週間、加奈以上に俺を翻弄し続けた存在であり、加奈以外で初めて俺のことを好きだと言ってきた存在でもある。
人畜無害な表情の裏に加虐的且つ好戦的性格を秘めている彼女は、しかし、非常に脆い一面をも持ち併せていた。
そこをピンポイントで突いた俺の告白が、彼女を変えてしまった――筈なのだが。
寝起きの靄掛かった頭の俺が見る限り、島村は『島村』だった。
俺の加奈だけが好きという言葉を捻曲げて、歪んだ思考回路の下『加奈』になるという凶行に走った島村はどこにもいなかった。
目の前にいるのは、黒の短髪に若干大きめの眼鏡を掛けた、島村由紀という“唯一人の少女”だけだ。
勿論、『痕』が消えた訳ではない。目元を隠していた長い前髪は額を隠す程度に切り揃えられてしまっているし、胸もない。
髪と胸……どちらも女の子にとっては命と同価なほどのものだろうに、俺なんかを好きになってしまったが為に……。
「誠人くん、病み上がり早々他人の胸を凝視するというのは、あまり感心なりませんね」
「……」
「ノリ悪いですね」
「……別に」
「……全く」
 はぁ、と大きな溜め息をついた島村は、考えの読めない黒い瞳で俺の顔をなぶるように見つめてきた。
そうすること数秒の後、何を思ったか、島村は突然俺の体にのしかかってきた。
左腕で俺の首を固定し、体を隙間を作るまいとするかの如く摺り寄せてきた。
そして、いつからか影を潜めてしまった挑発的な視線で俺を見下ろしてきた。というか、見下しているように見える。
「……何を嬉しそうにしてるんですか」
「違うよ。お前に見下されるのを、懐かしく思っただけだ」
「それ、どういう意味ですか」
 軽く俺の頬を叩いた島村は、一瞬柔らかく微笑んだ(ように見えた)が、すぐに口の端を吊り上げ元の余裕溢れる表情を浮かべた。
「ま、誠人くんがマゾだなんてことは分かっていたのでいいんですが、本題は別にあります」
 ツッコまなきゃいけないとは思ったが、表情の自由奔放さとは裏腹に真剣味を感じさせる声を前に、ふざける気は失せてしまった。
「感じてますか、私に――罪悪感を」
10上書き ◆kNPkZ2h.ro :2007/10/21(日) 23:35:34 ID:CSIWB/IF
 ――罪悪感。
 繰り返してきた自問の中で、特に多く出てきた言葉。
頻出する余り、頭が麻痺して、その意味を見失しないそうになった単語。
何に対して、誰に対しての感情なのか――常にそういうことを理解していなければ、真の意味で“感じた”と断言出来ない重い感覚。
それを、俺が島村に……。
「……」
「答えなくても結構ですが、もしそうだとしたら……私の為にも、誠人くんの為にも、やめて下さい」
 今度こそ、島村は声にぴったり噛み合った真面目な表情で言った。
細めた目からは、非難とも心配とも取れそうな視線が注がれている。
試すかの如く俺の瞳を捕えて離さない島村のそれが、金縛りの被害妄想までもを誘発しそうになるのをうっすらと感じる。
無言のまま膠着状態が続くが、やがて全て悟ったように「ふっ」と息を漏らした島村は、ゆっくりと俺の体から離れていった。
そして若干乱れた制服を直す。
「私、誠人くんが思っているほど、情けない女じゃありませんよ」
「別にそんな風に俺は……」
「なら、何故そんな悲しそうな顔するんですか? それって、誠人くんが私に罪悪感を感じているって証拠ですよね?」
 考えをいともあっさりと射抜かれてしまった。
きっと今の俺は驚愕の色の濃い表情で、島村の憶測を確信へと変えてしまっているのだろう。
でも、俺は感情を隠せるほど強くない。痛いのを我慢出来るほど、大人じゃない。
確かに俺は島村に後ろめたさを感じている。告白を断ったのだから当然と言えば当然だ。
だが同時に俺は、罪悪感を感じることを後ろめたくも思っている。
好きになるなだなんて男としてエゴ丸出しだし、島村に対して失礼だから。
島村だって、自分が好きになった相手が一般的尺度から見て悪い部類に入る男だなんて嫌な筈だ。
かといって、それは島村を完全に拒絶した俺がしていいことなのかというと、素直に「はい」とは頷けない。
あれは島村から恨まれても構わない覚悟での行動だった訳で、島村に罪悪感を感じるというのはその覚悟を否定することに他ならない。
更に言うなら、俺は恐れている。
この“罪悪感を感じている”という実感そのものが、島村とのことで残った蟠りを消す為の逃避手段に過ぎないのではないかと。
それは無自覚下での行動だろうから、肯定も否定も出来ない。
だがもし本当にその通りだとしたら、それこそ島村の好意に報いることが出来ないほど自分が腐った人間であることの証明になってしまう。
 結局どれが正しい選択なのかわからず右往左往を繰り返していた俺に、しかし島村はあっさりと断言してみせた。
 島村の為にも、そして俺の為にも罪悪感は感じるな――それが島村の答え。島村がそう言う以上、俺はそうすべきなのだろう。
元は島村が良かれと思える選択をしようと思っていたのだから。しかし、当然その理由は聞いておきたい。
俺がない頭を絞って必死に未来を模索していたにも関わらず、いとも簡単に断言出来るその根拠を俺は知りたい。
「確かに俺はお前に引け目を感じていたよ」
「やっぱり。誠人くんは優しいですからね……残酷なまでに」
「矛盾してないか? それ」
「ただの独り言ですから、気にしないで下さい」
「それならいいんだが……。後、一つ教えてくれ」
「何ですか」
「こんな言い方だと生意気なんだけどさ、どうして罪悪感を感じて欲しくないんだ? お前と俺の為に」
 俺の質問を聞いた途端、島村は点になっている目を俺に向けてきた。
呆然とした様子で、見方によっては小馬鹿にしたようにすら見える態度だった。
「誠人くんって色々頭の中で考えている筈なのに、案外馬鹿なんですね」
 あ、本当に馬鹿にされた。こんなにはっきりと馬鹿にされたのっていつ以来だろう? 
小学生くらいの頃は馬鹿騒ぎも結構してたけど、年を重ねるにつれて無難な生き方を目指すようになったからな。
人目につきそうなこともしてなかったし。だからか、何だか新鮮味があって、思わず笑ってしまった。
やばい、島村の蔑んだ視線が痛い。
「……何を嬉しそうにしてるんですか」
「違うよ。誰かに馬鹿にされるのを、懐かしく思っただけだ」
「それ、気に入ったんですか」
 島村は一瞬小さく笑った。あどけない微笑だった。
「脱線してしまいましたが、話を戻します。理由ですが……別段難しいことじゃありませんよ」
 演劇でもしているかのように絶妙な一拍を取った後、島村は片腕をベッドにつきながら言った。
「同情して欲しくないだけです」
11上書き ◆kNPkZ2h.ro :2007/10/21(日) 23:39:12 ID:CSIWB/IF
「……同情……」
「かなり大雑把な考えですが、『罪悪感≒同情』というのはわかりますよね? 
罪の意識を感じるには少なくとも相手の立場を理解していなければなりませんからね」
「いや、それは何となくわかるんだが……」
 正直、釈然としない。というか全然納得出来ない。
だって島村が『罪悪感≒同情』だと言うなら、『同情して欲しくない≒罪悪感を感じて欲しくない』ってことになって、結局何も話が進んでないことになってしまう。
これでは俺は霧に包まれた答えまでの途路に迷い続けたままだ。腑に落ちない俺の様子を察したのか、島村は若干慌てた様子で続けた。
「わかりやすく言い換えたつもりだったんですがね。
すいません、少々自分の中で話の道筋を完結させてしまっていたようです。完全な独り善がりです。今のは忘れて下さい」
 そこまでは言ってないぞとフォローを入れようかと思ったが、馬鹿な俺にも理解出来るようにどうやって話そうか考えているのか、手に顎を乗せて唸っている島村を見ていると、それを邪魔するのは悪い気がした。
しきりに頭を動かしている様は、丁度忘れかけた物事を思い出そうとする時の仕草に似ていた。
そのまま見守ること十数秒後、島村に「すいません」と切り出された。
「一言じゃまとめられないので、普通に説明します」
「うん、そうしてくれるとありがたい」
 何だか無駄に時間取らせてしまったような気がする。いや、実際俺が物分りよければそれで済んでいただろうに。
無知は罪深いことだな、と何となく思った。
「同情しているということは、相手を……私を哀れんでいるんですよ、誠人くんは」
「それってつまり――」
「違います」
「……まだ何も言ってないだろ」
「大方、私の自尊心を傷付けてしまっただとか、真夏にマフラー巻いているくらい的外れなことを言うつもりだったんでしょう」
 何だこいつ、エスパーかよ。
こうも見事に心の内読まれていると、実は考えていること全て他人に漏れてるんじゃないかって不安になっちまうじゃないか。
しかも間違ってたとは。ここまで外すと、自分に呆れて羞恥心も湧き上がってこない。
発言すると粗が出ることは重々承知したから、これからはしばらく傍聴者に徹していよう。
「そんな感情論はどうでもいいんです。問題は、何故誠人くんが私を可哀想だと思っているかということです」
 さすがに学習したのでもう口を挟もうとはしないが、島村の言ったことの答えくらいはわかる。
そんなの、俺が島村の好意を受け止められないからに決まっている。それが起因となって、今までの事態は連鎖していったんだ。
ドミノ倒しのように、一度崩れたら止まらない。そうやってズルズルとここまで来てしまったんだ。
「勿論私からの告白を断ったから。そしてそのことで相当悩まれているのでしょう。でも、そんなことはしてくれなくていいんです」
 ベッドについていない、空いている方の手で俺の手を緩く掴みながら、ゆっくりと島村は口を開いた。
「私は誠人くんに、私の想いを真摯に受け止めて、“その上で”フってほしいだけです」
 握られていた手にかかる力が強くなった。その加減が妙に心地良く、懐かしかった。
何故そう思うのかはわからないが、少なくとも伝わる温かみは俺が久しく感じていなくて且つ、欲していたものだということは感覚的に理解していた。
その柔らかさに恍惚となり一瞬我を忘れそうになった自分に叱咤を入れつつ、島村の言葉を脳裏に蘇らせる。
……どういうことだ? もう発言する気ゼロの俺は、ただひたすら島村の言葉を待つ他なかった。
「念の為ですが、受け止めて欲しいというのは付き合ってくれってことじゃありません。
あんなに何度も無理無理言われ続けたんですから、今のところは観念しました」
 勿論誠人くんのことを諦めた訳ではありませんが、と続けながら今度は握力測定でもするかのように島村は俺の手を握ってきた。
繋がれた手から怨念が湧き出てきそうなのは、気のせいじゃない筈。
冷汗が流れるのを感じながら、弱い握力を軽くあしらうと、露骨に不服な様子を表情に滲ませた島村が睨んできた。
手繋ぎたいのか繋ぎたくないのかどっちなんだよ。
「私が求めているのは、私から逃げないで欲しいということです」
 ふざけ半分な表情を引き締めて、島村が再び話を続ける。
「誠人くんが私を好きになれないことは承知しています。
しかし、誠人くんはどこか頭ごなしに私を否定しているように思えてならないんです。
私と付き合えないことを“前提”であるかのようにして、それに依存して、私の気持ちと向き合ってくれていない気がするんです」
12上書き ◆kNPkZ2h.ro :2007/10/21(日) 23:40:08 ID:CSIWB/IF
 直接心を刃物か何かで刺されたと錯覚しそうな程の痛みが走った。
あまりにも核心を突いた言葉に、何も言い返せなかった。
今まで島村に罵倒されても耐えられたのは、それが根拠のない発言で、戯れに近いものだったからだ。
だが、これは違う。言い方こそ遠回しだが、島村は俺の奥底で牙を研いでいる腐った性根を容赦なく引きずり出した。
図星というものの本当の痛みを俺は初めて理解した。
その要因は、今まで自分で自分の悪い部分に気付いたことは多々あっても、他者に指摘されたというかつてない体験からくるものが大きい。
つまり俺は、客観的立場から見た自身の醜い姿というものを初めて見せ付けられたということだ。
思えば今までの俺は鏡を見ているようなものだったんだ。
鏡に映し出された自分を見るということは客観視しているように思えるが、結局客観視するのも自分自身だ。
つまるところ、幾らでもその解釈を捏造することはできる。意識的にしろそうじゃないにしろ、俺がそうしていたということは明白……。
「あの……誠人くん」
 かなりトリップしていたところを何とか拾われたようだ。気付けば、島村は俺の顔の前で自分の小さい掌を振り回していた。
その動きから、そして、島村の暗い面持ちが心配してくれているということを顕著に感じさせてくれた。
「前から言おうと思ってたんですが、誠人くんってちょっと深刻にものを考え過ぎじゃありませんか? 
何かあるとすぐ全部自分の責任だと思い詰め過ぎているように思えるんですが。
それは一般的観点からすれば、決して褒められたものじゃありませんよ」
 図星。
「あ、これも責めてはいませんからね。寧ろ私は誠人くんの美点の一つだと思ってますし」
「何かおかしくないかそれ? 普通の人からは欠点で、お前からすれば良いところってのは」
「ただのアプローチです。他の人が気付けない魅力にも私ならわかってあげられますよっていうさりげないメッセージです。
鈍感な誠人くんにするだけ無駄だったようですが」
「それは幾らなんでもさりげなさ過ぎるだろ」
「ふふ、やっと笑ってくれましたね」
 俺の頬に手を添えながら、島村が笑いかけてきた。
その幸せな気色を見ていると、さっきも笑ってただろなんて野暮なツッコミをする気はまるで失せてしまった。
さっきもこんなことあったな。どうやら島村には相手の言葉を問答無用で遮る才能があるようだな。
「当たり前のことですが、好きな人の悲しい顔なんて誰だって見たくないものですよ。
私を少しでも思う気持ちがあるなら、是非満面スマイルでいて下さい」
 そう言いながら、島村は触れるか触れないかの距離にあった手で俺の頬をぎゅうぎゅう引っ張ってきた。
ニッコリニッコリと連呼しながら、玩具で遊ぶ子供のように本当に楽しそうに弄り倒してきた。
その様子を前に、沈んだ自省の思いに囚われていた心もいつの間にか晴れてしまった。
不謹慎なのかもしれないが、今は島村の言う通り笑顔でいるべきなのだと言い聞かせた。
「と、何度も話が逸れてしまいましたが、そろそろ終わらせちゃいましょう」
 これ以上話が脱線しないよう、全神経を耳に集中させる。
「要は、恋愛漫画の一ページを思い浮かべて頂ければいいんです。
女の子の告白を断る時、男の人は大抵バツが悪そうにしているじゃないですか。拳を握り締めたりとか、歯を噛み締めたり。
その時の気持ちを感じて欲しいだけなんです。私という一人の人間を“感じて”、真剣に悩んで、そして結論を出して下さい。
結果なんてわかってますが、せめて努力だけは認めて欲しいんです。
卑しいことだとはわかっていますが、誠人くんを好きでいるこの気持ちをわかって欲しいんです。
だから……私に、頑張ったで賞を下さい」
 島村の言葉一つ一つを耳に染み込ませ終わった後、島村の方を向く。
するといつからかはわからないが、島村は完全に俯いてしまっていた。
指一本でも触れたら壊れてしまいそうな程脆く見えるが、それでも俺は勇気を振り絞って島村の両の頬を鷲掴みし、無理矢理俺の正面へと向き合わせた。
虚を突かれた様子の島村をよそに、俺が言うには不相応過ぎる言葉を口にした。
「島村は何も悪くないよ。だから、笑えよ」
 一瞬の間を置いて、島村は小さく頷いた。
13上書き ◆kNPkZ2h.ro :2007/10/21(日) 23:43:07 ID:CSIWB/IF
「ところで、お前罪悪感感じるなって言った時、俺の為とか言ってたよな。あれってどういうことなの」
 唐突に湧いた疑問をそのまま吐き出した。
もしシビアな雰囲気じゃなかったら聞き流しそうなほどさらっと言っていた、「俺の為」という一言。
それの持つ意味が何となしに知りたくて、俺は意図もなく尋ねた。
「あぁ、そのことですか。それは説明が簡単です」
 良かった、と安堵しながら、島村は続けた。
「私に罪悪感感じるより、もっと優先すべき相手がいるだろって話ですよ」
「何のことだ」
「……まぁ病み上がりで寝惚けてるだけってことにしておきましょう。
あんまり言いたくないんですが、あなたは自分の恋人に何をしましたか」

 ――『自分の恋人に何をしましたか』

 瞬間、頭の中の余計なものが全て吹っ飛んだ。
ただ島村の言葉によって喚起される“一つの事実”が、抵抗のない思考回路に繰り返し流れ込んできた。
何で今まで忘れていたのかなんて些細なことはどうだっていい。
どうせ下らない理由か、はたまたそんなもの存在しないだけなのだろうから。
重要なのは、俺が何をしたのか。そしてその結果、どうなったのか。
「加奈は……加奈はどこだ!?」
 形振り構わず、俺は島村の肩を思い切り掴んだ。相手が女の子だとわかりながらも緊張のせいで、入る力を抑えることが出来ない。
「誠人、くん、……痛い……」
「加奈はどこにいる? どうなってるんだよ!? 答えてくれ!」
 恥じらいもなく大声で喚いている俺は、島村からはとんでもなく情けなく映っているに違いない。
でも早く知りたい。知らなければならない。俺が加奈を傷付けた……。
いや、そんな生易しいものじゃなく、俺ははっきり加奈を殺そうとした。
そこに至るまでの顛末や思考なんてものは今は忘却の彼方へと捨て去る。
問題は俺がこうして生きていて……そういえば、どうして俺は生きているんだ? 
俺は自分で……いや、やめよう。今は小さい疑問は道端の小石だ。
もし俺が生きていて、加奈が――なんて状況になったら俺は……。とにかく加奈の安否が第一だ。
「島村ッ、加奈は」
「生きていますよ」
 淡々と、島村は言ってのけた。躊躇のないその言い草が、島村の言葉に信憑性を持たせ、ヒートアップしていた俺の心を一気に冷やした。
「安心して下さい。別の病室で寝ていますよ」
 爆発しそうなほど早まった鼓動はそのままだが、俺はその言葉に一応の安心感を得た。
徐々に冷静になってくると、今更ながら、ここが病室だということが理解できた。
ということは、俺と加奈は病院に搬送されたってことか。でも、そうなるまでの経緯が全くわからない。
質問ばっかして悪いとは思うが再び島村に尋ねようとしたところを、言葉で制された。
「どうせ訊いてくるでしょうから先に言っておきますが、お二人は私が見つけました。
誠人くんの帰り道は知っていたんで、そこをずっと辿っていったら、丁度土手で――この先は言いたくないんで省略します」
 そうか、島村が発見してくれたのか。でも、発見したといっても、俺も加奈も首を切って出血していたんだ。
倒れていたところを見たというからには、俺が加奈を刺してから結構時間は経っていると思う。
なのに、どうしてこうして二人とも生きていられるんだ?
「ちなみに、傷は浅かったそうです」
「浅かった? ……でも何で」
「そんなの決まってるじゃないですか」
 そんなことすらわからないのかと言いたげな島村の目をなるべく見ないようにしながら、俺は無言でその続きを待った。
「加奈さんは誠人くんが好きだから、誠人くんは加奈さんが好きだから――傷付けるなんて出来なかった。それだけでしょう」
 そう言った時の島村の表情が悔しそうに見えたのは気のせいじゃないだろう。
島村が一体どんな心境で自分の推測を言ったのか、その辛さは容易に想像出来る。
でも、それでも俺は……嬉しかった。加奈と俺との仲をはっきり肯定されたのが嬉しかった。
今まで色んな奴に冷かされたりなんやりしていたが、何も感じていなかった俺が、島村のその言葉にはっきりと喜びを覚えている。
前者と後者に一体どれほどの違いがあるというのか? わからない。でも、これだけは言っておきたかった。
「ありがとう」
 そして、本当に良かった。加奈が生きてくれていて。
加奈を傷付けようとした俺が思う資格なんてないのはわかっているけど、今だけはこの喜びを噛み締めたい。
「どういたしましてのついでに、私からも質問です」
「何だ」

「誠人くんが加奈さんを好きなことを承知の上で訊きます。誠人くん、あなたは――本当に加奈さんが好きなんですか?」
14上書き ◆kNPkZ2h.ro :2007/10/21(日) 23:46:21 ID:CSIWB/IF
投下終了です。

すみませんでした。三ヶ月以上間が空きましたが、最終話その一です(分量の関係で分割します)。
後一、二回で終わります。凄まじく投下ペース遅いですが、必ず完結させますので。
15名無しさん@ピンキー:2007/10/22(月) 01:49:23 ID:SIPCWUAL
GJ
続き楽しみにしてます
16名無しさん@ピンキー:2007/10/22(月) 07:35:23 ID:XG8BBAoQ
>>14
ずっと待ってましたよお
島村派の俺としては彼女にも救いがありそうな展開で、ちょっと安心した
17溶けない雪:2007/10/22(月) 18:19:10 ID:9KfpG0oe
ようやく終わったので投下します
18溶けない雪:2007/10/22(月) 18:20:00 ID:9KfpG0oe
6
水無月 雪梨視点より
私は授業から休み時間までずっと、
どうやって健二さんとの距離を詰めようかを考えていた。
考えた末に、なるべくの会話、一緒に行動する等の結論に至った。
女子と男子の間には、グループが同じでない限りは見えない壁が存在するものだが、
その辺りは自分の行動でどうとでもなる。


そんなわけで、早速健二さんと同じ委員会になった。
幸いにも、保健委員だけはあんまり人気がなかったようだ。
人気がない理由に疑問もあったけれど
、そのお陰で委員会が同じになれたのだ、感謝こそすれ不都合は何一つとしてない。
委員会も、嬉しい事に明日にやるみたいだ。
そういえば、自己紹介の後、
何故か健二さん友人達に取り囲まれてたど、何かあったのだろうか?
私の周りに居た友達も、皆ニヤニヤしながら私を見ていたし、
本当に、何かあったんだろうか。

物事は上手く事が運ぶ事もあれば、上手運ばない事もある。
私は今その事を痛感している。
放課後、健二さんと一緒に帰ってみようと声を掛けようとしたのだけれど、
なんと、玄関から出て、私と正反対の方に向かっているではないか。
門まで一緒ならまだ、少しは希望があるけれど、
玄関から、向かう先自体が違うので、希望が存在してすらいない。
そんな落胆の中で、私は簡単な事に気付いた。
別に帰り道が違うとしても、同じ帰り道だねとでも行って一緒に帰ればいい。
何でこんなに単純な事に気付かなかったのだろうか。
私は玄関で立ちつくしていたからいいのだが、
既に健二さんは門を潜って帰ってしまっている。

19溶けない雪:2007/10/22(月) 18:21:46 ID:9KfpG0oe
急いで追いかけようとしたが、いきなり走っていって声を掛けるのが憚れた。
健二さんとは、少し会話をしただけの距離があるからだ。
結局、健二さんの後に付いていってはいるが、
声を掛ける事が出来ず、結局は健二さんから20M程離れて歩いている。
悲しい事だけれど、ストーカーに近い。
しばらく、健二さんの後を付けていると、繁華街の入り口辺りで急に足を止めた。
私の事が気付かれたのかと思い、音を立てずに直ぐに近くの電柱に隠れる。
何で私は今隠れているのだろうか?



しかし、健二さんは私に気付いたわけではないみたいで、
しばらく首を下に向けて何かを見ているようだ。
何を見ているのかが気になるが、現在、健二さんとの距離は20M、何を見ているのかは
さすがに視力が2.0の私でも分からない。
少しして、健二さんは首を戻しました。
そして、また繁華街に歩いていった。
さっきと同じで、私は20M位の距離を保ち、
後を付けていたが、これでいいのか?と思い始めていた。
別に少ししか会話をしていないとはいえ、知らない仲というわけではない。
案外声を掛ければそのまま一緒に帰れるのではないか?

だが、もし失敗したら気まずくなるのは確かだ。
しかし、健二さんは優しいからそんな事はないとも思う。
きっとこちらの気を察してくれるに違いない。
そう、大丈夫、きっと大丈夫

それに、仲良くなる為になるべく会話をしようと決めたばかりではないか。
そう自分に言い聞かせ、
「健「けんちゃーん」声を出して健二さんの方に歩き出した時だった。
誰か知らない女の人が、
声を出しながら健二さんに向かって後ろから走っていった。
20溶けない雪:2007/10/22(月) 18:23:37 ID:9KfpG0oe
私はまた、咄嗟に近くの店に身を寄せて、
目立たないようにした。
目立たなくなってから健二さんの方を見ると、
やはりというか健二さんの知り合いみたいだ。
それも、二人共楽しそうに話している様子を見ると仲がかなりいいのも分かる。
多分けんちゃんというのは健二さんのニックネーム
と、いったところだろう。

健二さんは女の人と楽しそうにしゃべっている。
それに比べて、自分は何と惨めな事だろう。
コソコソと楽しそうに会話をしている男女を眺めているなんて。
もし、早く私が話しかけていれば隣に居るのは私だったのだろうか?
やめよう、今となっては無意味な推測にしかならない。
大事なのは今、何をするべきかだ。
今………何をするべきなんだろう。
やはり健二さんに声を掛けて話に混ざるべきか?
無理だ、正直自分ではあそこに割って入る事等到底出来そうにない。
では他に何をするか。
………………………………何も思いつかない。
今だけは自分の頭の回転の悪さに腹が立つ。
ふと、気がつくと既に健二さん達が店に入っていく所だった。
私も中に入ろうかと思ったけどやめた、さすがにばれるからだ。
それに、どうせこの後も健二さん達を付けた所で、
ただ自分は眺めているだけだろう。
帰ろう……それが一番良い。
何も出来なかった自分に腹が立ちながら、結局、
私は重い足を引きずり帰路に着いた。
21溶けない雪:2007/10/22(月) 18:24:50 ID:9KfpG0oe
家に帰り、直ぐに寝ようかと思ったが、
余分に歩いて汗がかいたので、シャワーを浴びる事にした。
シャワーを浴びればこの暗い気分も汗と一緒に流されてくれる、
と思ってシャワーを浴びたが、実際に流れたのは眠気だけで、
寝れなくなってしまった。
つまり、暫く眠くなるまでは、今の気分で過ごせなければいけないという事だ。
強引にベッドに入ろうかとも思ったが、
寝付けなくて直ぐに起きる自分の姿が簡単に想像出来てしまうので辞めた。
「お腹空いた……」
そういえば、まだお昼ご飯も食べていなかった。
お腹が空いたとなればやる事は一つで、とりあえずは冷蔵庫を開けた。
幸いにも昨日の残り物があったので、レンジに入れて、終わるまで
リビングのソファーに座って待つ。
レンジ意外の音が全く聞こえないリビング。
今、リビングに居る人間は私だけで、
その一人が何もしなければ静かになるのは当然だ。
昔はあんなに賑やかだったのに、どうしてこんなに静かになってしまったのだろうか…………
「あぁーっ、もうやめやめ」
駄目だ、本格的に暗くなってしまっている。
普段は考えないような事にまで反応してしまう。
考えるのは止めよう、少し話しただけの人でこんな気分になるなんて馬鹿げている。
そうだ………馬鹿げている。
そもそも何で固執する必要があるのか?
たまたま、話掛けてくれただけではないか。
優しさに触れたから?違う、そんなものは只の言い訳だ。
暗い気分になったのは自分に腹が立っただけ?
違う、それも只の言い訳だ。
何で固執したのか、何で落ち込んでいるのかは、もう分かっている。


本当は健二さんと仲良くなりたいのではなくて、好きになって欲しかったからだ。
22溶けない雪:2007/10/22(月) 18:25:36 ID:9KfpG0oe



そして………横にいる女の人が凄く羨ましく、
そして同時に憎いと思ったからだ。

何だ、簡単な理由じゃないか。
何でこんな簡単な事に言い訳していたんだろう?
本当、私は馬鹿げている。
理由が分かれば話は早い。

積極的に自分をアピールしていこう。
健二さんの事もなるべく知ろう。
あの時の女が彼女かどうかも調べよう。
アピールは自分でするとして、あとの二つは探偵でも雇いましょうか?
そんな計画を立てながら、私は温め終わった焼きそばを食べた。

しかし、思い返してみると、自分でも軽い女だなと呆れる。
なにせ、少し話をしただけで相手を好きになるなど、
軽い以外の何者でもない。
だけど、好きになったものはしょうがないではないか、
開き直る事しか出来ないではないか



だって、この気持ちを消せそうにはないのだから。














次の日、挨拶をした私を見てあなたは驚いた顔をしましたね。
私は距離の長さを再確認したけれど、
いつかはその長い距離を0にさせてもらいますね。
23溶けない雪:2007/10/22(月) 18:27:24 ID:9KfpG0oe
投下終了です
書き終わり、4日おいて見直して、修正をしたので
語尾は大方統一したと思います(洩らしは勘弁です;


さすがにテンポはやいかとも思いましたが、
最初がgdgdだったので強引にはやくしました
24名無しさん@ピンキー:2007/10/22(月) 19:19:31 ID:UlIEBDkS
25名無しさん@ピンキー:2007/10/22(月) 19:23:54 ID:VkxTpqnO
GJ!
続きにwktk
26名無しさん@ピンキー:2007/10/22(月) 20:35:13 ID:xHfnUv3y
>>23

GJ


最初は微妙かなとか考えてたりもしてたが、
面白くなってきた
27名無しさん@ピンキー:2007/10/22(月) 20:42:22 ID:xHfnUv3y
出来ればで構わないから
5話の語尾修正版をキボン
28名無しさん@ピンキー:2007/10/22(月) 20:46:58 ID:+ps5h8SS
>>23
GJ
続きを楽しみに待ってるぜ
29名無しさん@ピンキー:2007/10/24(水) 13:39:59 ID:+3X5rz+t
前スレの埋めネタGJ
30名無しさん@ピンキー:2007/10/24(水) 18:45:29 ID:pI4RjiR6
綺麗に埋まったな。GJ!
名無し君があまりにもヒドいヤツだったので最後スカッとした
いやむしろ感動した
31名無しさん@ピンキー:2007/10/24(水) 22:18:14 ID:1PEvYjQz
あぶねぇーあぶねぇー埋めネタ見逃すとこだった
GJ!後輩使えばさらに続きそうだな
32名無しさん@ピンキー:2007/10/24(水) 23:30:04 ID:AkChfPY4
後輩は後輩で内心で黒いものが渦巻いてたりしてwww
33名無しさん@ピンキー:2007/10/25(木) 22:39:20 ID:Ffi68a6G
やべぇ、ブラッドワークって映画の犯人がヤンデレっぽい。
……まあ、男なんだけれど。
34名無しさん@ピンキー:2007/10/25(木) 22:47:57 ID:jtTUWfHM
俺は
男のヤンデレを理解する日はきっとこないな
35名無しさん@ピンキー:2007/10/26(金) 00:05:17 ID:jejw2lLi
ショタヤンデレなら
36名無しさん@ピンキー:2007/10/26(金) 01:53:20 ID:SDV6+CY9
ドロドロとどす黒い情愛があれば男だろうが人外だろうが構わん
37名無しさん@ピンキー:2007/10/26(金) 07:32:05 ID:E0YU1+YZ
だから男のヤンデレは復讐を決めた男がどんな非道な行いを他の女にしても
心の中にいるたった一人の女性にはいつまでもデレ続けるのがいいんだよ
38名無しさん@ピンキー:2007/10/26(金) 08:16:07 ID:zYZGoO9u
801板に帰れ
39名無しさん@ピンキー:2007/10/26(金) 08:19:01 ID:Y3zkiKe+
とりあえずここは男のヤンデレは基本NGということを覚えておこう・・・
スレチです
40名無しさん@ピンキー:2007/10/26(金) 10:20:41 ID:McQtQjz8
>>37
「ことのはぐるま」の雄志の前世がそんな感じじゃないか?
姫様の仇をとるために、刺客の娘(十本松)にとりいったところとかが似てる。
41名無しさん@ピンキー:2007/10/26(金) 13:29:26 ID:HfXEWgt/
てかことのはぐるま続きまだ?

完結したっけ?
42名無しさん@ピンキー:2007/10/26(金) 15:27:15 ID:1w9aARij
>>39
最近はそうなのか。

「こいつが女だったら〜」系のレスが付かなくて俺涙目。
43名無しさん@ピンキー:2007/10/26(金) 17:47:53 ID:3OelAdnV
最近もクソも最初っからヤンデレ女のスレだよ。

鬼畜スレと逆レイプのスレが違うのと一緒だ。
44名無しさん@ピンキー:2007/10/26(金) 22:51:26 ID:cdexMUDX
前スレの埋めGU!!
45名無しさん@ピンキー:2007/10/27(土) 06:18:35 ID:Zg6PIiYw
「学校であった怖い話」の岩下明美嬢が良ヤンデレだわ
46名無しさん@ピンキー:2007/10/27(土) 12:36:44 ID:ymbcUxz6
お前とんでもなく今更だな
47名無しさん@ピンキー:2007/10/27(土) 14:04:22 ID:2Kpiw+4Q
てか幽霊ってヤンデレだよな?
48名無しさん@ピンキー:2007/10/27(土) 17:42:26 ID:GtEXSXwN
投下します。
49×ヤンデレ ○ヤンドジ 1:2007/10/27(土) 17:43:46 ID:GtEXSXwN
「悪いのはそっちなんだよ? 私があれだけ忠告しておいたのに、あたし以外の人を視界に入れるから」

入れずにいるのがどれほど無理な注文なのか、正しい判断能力を失った今の姉ちゃんには解らないらしい。
俺も俺で彼女の発言の意味が全く解らなかった。一つ一つの語句の意味は通る。しかし文章としてはまるで読み取れない。
俺が悪い? 何故。ただ部活中、後輩に指導をしただけじゃないか。もちろん性的な意味は含まれていない。
俺は後ろ手に縛りあげられている腕を自由にしようと必死で動かしながら、姉ちゃんを睨んだ。

「なぁ、どうしたんだよ。姉ちゃん、何言ってんだよ!」
「どうかしたのはあたしじゃない! 隆志君の方だよ!」

いつもぼんやりしていて、ちょっと……いやかなりドジだったが、優しかった俺の姉ちゃん。
その姉ちゃんの顔が見たこともない色に染まっている。怒りと絶望とで、般若の様に歪んでいた。
しかし、

「……でも、これで隆志君はずっと私の側にいてくれるわ。
 ゆっくり時間をかけていけばまた私だけを見てくれるようになるわよね。ちゃんと元通りの日々に戻れるわよね」

そう言って、姉ちゃんはにっこり晴れやかに、実に嬉しそうな笑顔を浮かべた。
その表情は自然な、日常的によく見掛ける笑顔だった。でも、それはより一層状況の異常さを際立たせる。
なんでこんな状態で笑えるんだ。なんでそんなに嬉しそうなんだ。
俺は身動ぎするけどちっとも動けない。
50×ヤンデレ ○ヤンドジ 2:2007/10/27(土) 17:45:00 ID:GtEXSXwN
「いい加減にしろよ、早くこれ外せ」
「……その後、隆志君はどうするの?」
「は?」

一転して姉ちゃんの目が暗く淀み、ゆっくりと俯いた。小さく震えている様にも見える。

「外したら私の前からいなくなっちゃうんでしょ? あの女の所に行っちゃうんでしょ!?
 そんなの嫌よ。絶対離さない、もう絶対に私の側からは逃がさない!」

俺の切なる願いにも姉ちゃんは動かず、寧ろ固く拒まれてしまった。
言ってる意味も訳も解らない。あの女って誰だよ。今解るのは、姉ちゃんが正気じゃないことだけだ。
姉ちゃんは悲しみと怒りの入り混じった目で俺を睨みつけながら、

「あんな女なんかより私の方がずっとずっと隆志君の事を知ってるし想ってりゅのよ。だって私は小さな頃から隆志君の側に居たんだもん。
隆志君のことなら何でも知ってるわ。すっ好きな食べ物嫌いな食べ物昨日の夜何をしていたか余すことなく全部。
――すぅ、それに……」

――この空気で噛むな。どもるな。ついでに息継ぎするくらいなら無理して長台詞を喋るな。
駄目だ、正気じゃなくても姉ちゃんは姉ちゃんってことか。ポンコツ過ぎる。
未だにこの人が姉であることが信じられない。自然に溜め息が出た。
51×ヤンデレ ○ヤンドジ 3:2007/10/27(土) 17:45:53 ID:GtEXSXwN
「あのさ、姉ちゃんは何を言いたいんだ? 全然解んねえんだけど」
「隆志君とずっと一緒にいたい」
「は」

姉ちゃんの頬は赤く染まっていた。眉を寄せて俺をじっと見ている。正直どうリアクションしていいものか解らない。
俺の硬直ぶりを見つめているうちに、姉ちゃんはまた思い詰めた様子を見せ始めた。
潤んだ瞳は濁りだす。羞恥の震えは怒りに変わる。

「やっぱり、やっぱりそうなんだ。
あの女が気になるんだ。あの女の事を考えてるんでしょ? だからお姉ちゃんの話を聞いてくれないのね?」

何処をどう見てそう判断したんだ。今の俺は一字一句間違えてなるものかと必死で貴方の話を聞いていますよ。
何せ状況を掴む手段は姉ちゃんの言葉しかない。まぁ、聞いていた上で全く掴めていないのだが。

「だから、姉ちゃん!」

叫ぶ俺をスルーして、姉ちゃんはふっと踵を返す。

「……もう、駄目なんだぁ。ふふ、ふふふ……あはっ、あはははははは」

壊れたように笑って部屋を出ていく姉ちゃんの背中を見つめながら、俺はギリギリ唇を噛んだ。
何がしたいんだアイツ。会話が全く噛み合わないことに苛立ちを感じる。
ああもし今体が動かせたなら、その背中に何かかにか投げつけてやったのに!
52×ヤンデレ ○ヤンドジ 4:2007/10/27(土) 17:47:12 ID:GtEXSXwN
ともあれ俺は周りの様子を確認することから始めることにした。
見覚えの無い部屋だが、辺りにあるファンシーな家具やら教科書類から推測するにここは姉ちゃんの部屋で間違いない。
にしても、物が散乱しすぎていてかなり見苦しい。女の子の部屋がこれではがっかりだ。
半ば拉致に近い形で、かつ俺が弟だとは言え、人を招くんだったらもっと整頓しておくべきじゃないのか?

「いい子にしてた?」

扉からひょこりと顔を覗かせて、にっこり笑う姉ちゃんが居る。
悪戯っぽい声と表情にまた溜め息が出た。

「こんなに部屋を残念な状況にしている姉に比べれば、俺は相当な人格者だと思うよ姉ちゃん」
「またそういう事言うんだから。ま、そんなとこも可愛くて好きなんだけど……」

そういう事はもっと正常な状況下において発言すべきなのであって、今この瞬間には全くそぐわない。
男に可愛いと言うな。弟にそんな熱っぽい目を向けるんじゃありません。
当の姉ちゃんは全く知ったこっちゃない風で、両手を後ろに回したまま嬉々として俺に寄ってきた。
さっきまでの絶望に満ちた表情は何処へ行った?

「思ったんだ。このままじゃどうやっても隆志君は私から離れちゃうよね」

そりゃそうだ。
姉ちゃんはまず部屋を片付けたらどうかな。

「−−隆志君が好きなの。大好き。誰にも渡したくない。私以外の他の誰かを好きになって欲しくない。私だけを見て欲しい」

だからそういう事はもっと−−
そこまで考えた時だった。俺はふと顔を上げる。
見開かれていた姉ちゃんの目は魂が抜けた様に光を宿しておらず、瞳孔だけが大きく開いていた。
虚ろな目の焦点は俺以外の何者にも向かっていない。口許にだけは笑みが称えられていた。

そこに来て初めて俺は背筋に走る恐怖を感じた。
53×ヤンデレ ○ヤンドジ 5:2007/10/27(土) 17:48:39 ID:GtEXSXwN
「……姉ちゃん?」
「隆志君の世界が私だけになれば何かが変わると思ったんだけど、そうでもないみたいだし」
「姉ちゃん」
「それなら」

そう言えば、さっき姉ちゃんは何処に行ってたんだろう。
後ろに回してある手には、何が握られている?
今日みた笑顔は本当に笑っていたか? 何もかもを諦めた、悟りきった笑顔だったんじゃないのか?

「こうするしか、もう方法は無いよね?」

姉ちゃんの手が、ゆっくりと俺に迫ってくる。
その手に握られていたのは−−



「は?」
「やだなぁ隆志君、知らないの?」

姉ちゃんはやたら自信満々にこう言った。

「醤油は飲み過ぎたら死んじゃうのよ」



醤油のボトルを片手ににっこり笑う姉ちゃん。
やっぱ駄目だコイツ。


その後、俺に口移しで飲ませようとして盛大に吐き出した事だけを付け足しておく。






「姉ちゃん姉ちゃん、片付けんの手伝おうか?」
「……私から離れないって約束出来る?」
「そのネタはもういいから」
「ネタじゃないもん」
「はいはい」
「もう、隆志君!」
54名無しさん@ピンキー:2007/10/27(土) 17:50:19 ID:GtEXSXwN
以上です。
何スレか前にヤンドジ的なネタがあったので、それ以来温めてたけどどうしてもエロが入れられなかった。
精進します。
55名無しさん@ピンキー:2007/10/27(土) 18:57:31 ID:YyXsi0tm
むしろヤンバカのようなw
56名無しさん@ピンキー:2007/10/27(土) 19:41:41 ID:OJt4b/j7
何か凄い和んだw
作者様gjです
57名無しさん@ピンキー:2007/10/27(土) 19:56:14 ID:jtDRozAK
グッドw
58名無しさん@ピンキー:2007/10/27(土) 20:02:14 ID:DlsnFrLu
姉ちゃん可愛いよ姉ちゃん。
こんな姉ちゃん欲しかった。GJ!!!

すごいなごんだ。
59名無しさん@ピンキー:2007/10/27(土) 20:03:43 ID:USiUASzZ
しょうゆかよwwwwwww一気に空気が抜けたわwwwGJ!
60名無しさん@ピンキー:2007/10/27(土) 21:14:24 ID:13TVMvLo
>>54
ちょwww
姉スキーの俺にはたまらん、姉ちゃんテラカワユスw
ぜひ続きを!
61名無しさん@ピンキー:2007/10/27(土) 22:04:47 ID:6/rJUhwy
ここで刃物を持ち出すor監禁調教逆レイプならストレートなヤンデレになるんだろうが、
ヤンドジは醤油のボトルを持ち出すのか。
面白かったっす。goodjob.
62名無しさん@ピンキー:2007/10/27(土) 22:09:42 ID:9UiAFuwP
GJ!まさか醤油とは…
63名無しさん@ピンキー:2007/10/28(日) 00:55:42 ID:q9HRMeRe
>>54
醤油ふいた。
64名無しさん@ピンキー:2007/10/28(日) 05:51:07 ID:lzvG49t1
>>63醤油を口にふくんだのか?ならきみは立派なヤンドジちゃんだ。

という事で俺は>>63に監禁されながらも、鍵を開けっ放しで、縄もちょうちょ結びだったので、すぐに逃げ出しました。
65名無しさん@ピンキー:2007/10/28(日) 08:39:27 ID:+f84pYow
醤油ってかなり飲まないと死なねーよな…
66名無しさん@ピンキー:2007/10/28(日) 09:30:02 ID:u3r0Wz1O
もちろん勘違いして濃口醤油だよな?(塩分濃度的な意味で
67名無しさん@ピンキー:2007/10/28(日) 09:34:14 ID:4xRbyBrs
髪の毛から醤油を作れるらしいから、
きっとこの醤油もキモ姉の髪の毛から作られてるんだよ。
68名無しさん@ピンキー:2007/10/28(日) 10:03:00 ID:AzkAusRP
一晩経ってみたらこんなに感想が…ありがとうございました。
頑張って続き考えてみる
69名無しさん@ピンキー:2007/10/28(日) 20:14:38 ID:R1MFJHPP
GJです!ヤンドジいいですねー。醤油ボトルwww
70名無しさん@ピンキー:2007/10/29(月) 17:10:14 ID:C/e57nKc
出来たから投下します。
71×ヤンデレ ○ヤンドジ 1:2007/10/29(月) 17:11:07 ID:C/e57nKc
「ふふふふふ……ふふっ、あはははははは! そうよ、これで誰も邪魔出来ないわ。隆志君は私のもの。ずっとずっと私のもの!
もう絶対離さない……邪魔者は一人もいないわ。これで私だけを見てくれるわよね。これで私のことを――痛っ!」

ああ、また指でも切ったか。
悲鳴と同時に読み途中の本を閉じ、ソファーから重い腰を上げる。
最近の姉ちゃんの癖は、高笑いと妄言と怪我を繰り返しながらの料理だった。
聞いてて胸が痛いからそろそろ飽きてくれ。ご近所からの苦情も来て然るべき頃だろうな。
俺は癖になりつつある溜め息をついてから、のろのろと台所へ向かった。

「あ……隆志君だぁ」

そりゃ俺だろうさ。何せ俺しかいないからな。

「見て。お姉ちゃん怪我しちゃったの」
「聞いてたから知ってる。ほら」

いい加減相手にするのも面倒なので絆創膏を投げてやる。
しかし、姉ちゃんは実に不服そうに俺を見つめていた。

「……舐めて消毒して?」
「は? 何バカなこと言って――」
「舐めてくれなきゃ絆創膏貼らない」

どんな脅しだよ。突っ込みたいが、姉ちゃんはぐいぐいと手を押し付けてくる。
連日繰り返される怪我によって絆創膏まみれになっているその手を仕方なく取り、嫌々ながら見た。
……なんだ、大したことないじゃないか。ただちょっと皮が切れたくらいだ。

「舐めて」
「姉ちゃんこれ全然大したことないから大丈b」
「舐めて」
「いやだからさ」
「舐めて」
「大したことn」
「舐 め て ?」
「……慎んで舐めさせて頂きます」

虚ろな目で睨まれ、背中がぞくぞくする。嫌々手を取り、恐る恐る舌を伸ばした。
ここ数日こんなやりとりが続いているせいで頭痛が収まらない。何が悲しくて姉にこんなことをしなくちゃいけないんだ。
72×ヤンデレ ○ヤンドジ 2:2007/10/29(月) 17:12:00 ID:C/e57nKc
溜め息の代わりに肩を落とし、傷口をなぞるように舌を滑らせる。

「ふぁっ」

弟相手にいかがわしい声を出すな。恥ずかしい。
鉄のような血の味を舌先に感じながら、ぐりぐりとそこに押し付ける。

「ひ……あ、やんっ」

ああこら太ももを擦り合わせるな、もじもじしてるんじゃない!
俺は指をそのまま口に含み、軽く吸い上げる。すると姉ちゃんは悩ましい声を出しながらぷるぷる震えて――って、待て!
何をしてるんだ俺は。今何をしようとした。ああ姉ちゃんよ俺を見るな。まだ血迷いたくは無いんだ。
慌てて姉ちゃんの指を解放する。不思議そうな目で此方を見ているが、今はそんな事にかまってなどいられない。

「……ほ、ほら! これで良いだろ」

手を引き剥がし、再び絆創膏を押し付ける。
まずい。非常にまずい。何がまずいって、今俺は姉を相手にとんでもないことをやらかしかけた。
俺は姉ちゃんに洗脳されつつあるのだろうか。いやまさか。俺は正常のはずだ。
バクバクと嫌な音を立てる心臓を落ち着かせる。冷や汗が流れ出ていた。
姉ちゃんは何処か恍惚とした笑みを浮かべながら、

「美味しかった? 私の血肉の味……」

直ぐ様うがいをしたのは言うまでもない。
ああ、ここが台所で本当に良かった。不機嫌そうな姉ちゃん? 知ったこっちゃないな。
73×ヤンデレ ○ヤンドジ 3:2007/10/29(月) 17:12:35 ID:C/e57nKc
「今日はカレーなんだな」
「うん。隆志君カレー好きでしょ? だから作ったの」
「へぇ」

大きな鍋で煮込まれているカレーを見る。この量だと2日は続くな。

「隆志君が喜んでくれるなら私……なんだって作ってあげるよ。なんでもしてあげる。それにね? 私――」

姉ちゃんが何か言ってる様な気がしたが無視することにした。蓋を開けてちらちら中身を覗く。早く完成しねーかな。

「隆志君!」

うるさいな、聞いてないよそんな恥ずかしい演説なんて。
適当にあしらいながら、何か飲もうと思って冷蔵庫を開ける。と、そこには大量の濃口醤油のボトルが――
冷蔵庫を開けた手を瞬時に翻し、適度に角度を付けて振り下ろす。目標地点だった姉の額に見事クリーンヒットした。

「アホかお前は!」
「痛いー! 今チョップしたわね? お姉ちゃんを叩いたわね? 確かに隆志君になら殴られても嬉しいけど」
「黙れ! 醤油は常温保存で良い、こんなに大量の醤油買うな使いきれないだろ、濃口醤油は塩分濃度が薄口より低い!
ついでに変態発言かますな気持ち悪い!」

言いたい事を一気に言って冷蔵庫から黒いボトルを追い出していく。姉ちゃんは不服そうに頬を膨らませていた。
言っとくけどな、最近の醤油は飲み過ぎても死なないように改良されてるんだぞ。

「嘘! ええー、じゃあどうすれば……そうよ、塩水なら」
「飲まないからな」
「はうっ」
74×ヤンデレ ○ヤンドジ 4:2007/10/29(月) 17:14:55 ID:C/e57nKc
俺はやっとの思いで麦茶を取り出し、コップにそれを注ぐ。
俺を殺そうとしているのはこの際諦めよう。しかし何でまたそんなしょうもない方法で殺そうとするんだ。
嫌だぞ、死因が醤油や塩水の飲み過ぎなんて。米で圧死並みに嫌すぎる。

「だって、毒は手に入らないから」
「じゃあ刺すなり絞めるなりすればいいじゃねーか」
「そんなの隆志君が汚くなっちゃうよ。綺麗なままで手に入れたいの」
「醤油まみれもそう変わんねーだろ! ……もう止めれば? 殺すとか殺さないとか」
「やだ。隆志君を私だけの物にするためだもの」

ならもっとこう普通の手段で……と言いかけて止めた。
なんでまた俺を殺そうとする、かつ弟に異様な愛着を示す変態にそれを促すアドバイスをしなきゃいけないんだ。

姉ちゃんは相も変わらず熱っぽい目を俺に向けていた。とりあえず視線を逸らしておく事にする。
暫くは静かだった。静かすぎるくらいだった。ふと姉ちゃんに視線を向けた瞬間、俺はぎょっとした。
姉ちゃんはまた虚ろな目をして、かつ今回は包丁を握り締めていたのだ。

「ね……姉ちゃん?」
「そうだ。そういう手段もあったのよね」
「おい」
「あの泥棒猫を殺せば良いんだ」

物騒な事を言いながらも、姉ちゃんは笑顔だった。
ぐつぐつと煮込まれているカレー鍋の音。野菜を切り立てだからか、やや水に濡れて光る包丁。うん、見事に台無しだ。

「危なっかしい事言うなよ」
「……そんなにあの子が殺されるのは嫌?」
「あのなぁ」

ガリガリと頭を掻いた。
よく話を聞いてないだの何だのと言ってきやがるが、姉ちゃんの方がよっぽど話を聞いてないじゃないか。
75×ヤンデレ ○ヤンドジ 5:2007/10/29(月) 17:15:41 ID:C/e57nKc
「あの女って誰のことだよ」
「そうやって庇うんだ。騙されてるだけなのにどうしてそこまでするの?
大丈夫、隆志君はお姉ちゃんが守ってあげる。だから任せて? 邪魔する人は私が全部消して……」
「姉ちゃん!」

俺が叫ぼうとした瞬間、鬼のような目付きをした姉ちゃんの姿が目に入った。
こんな人は知らない。誰だよ。こんな怖い女は知らないぞ。
姉ちゃんは包丁を握り締め、

「殺すったら殺すわ。死んで当然でしょ? 私と隆志君の世界を邪魔したんだもの。あの野良猫が私は殺すの!
邪魔よ、邪魔なのよ。私の……私だけの隆志君をたぶらかした淫売大王なんて邪魔なの。
隆志君だけいればいいの。二人きりでいれればそれでいいの。他の誰かなんていらにゃいのおおおお!」
「最後の文法がおかしい。あと大王とか子供みたいな表現するな、響きが可愛くなってるだろ。
それと呂律が回ってないのに叫ぶなみっともない!」

姉ちゃんは表情こそ怒り狂っているが、台詞の突っ込み所が多すぎて恐怖を感じられない。相当テンパってるとみた。
……所詮姉ちゃんは姉ちゃんか。たまに発狂してもポンコツには変わりない。
この姉が持ってるってだけで刃物も何だか怖くなくなった。実はそれ、先が引っ込むようになってんじゃないのか。
姉ちゃんがカタカタと震え始めた。俯いているため顔色は伺えない。うん、危ないから包丁は置け。
76×ヤンデレ ○ヤンドジ 6:2007/10/29(月) 17:17:32 ID:C/e57nKc
「隆志君、最近私に冷たいよ。やっぱりあの女が好きなの? 騙されてる、隆志君は騙されてるんだよ。
あんな薄汚い野良猫にも普通に接するくらい優しいところは大好きよ。優しさは隆志君のいいところだよね。
優しくするのは許してあげる。でも私、あいつなんかを好きになっていいなんて言ってないよ?
お姉ちゃんはもう嫌い? どうして? 私はこんなに好きなのに……」

珍しく噛まずに長台詞を言い切った姉を見据える。
視線の端に姉ちゃんが準備したと思われる薬物を認めると、俺は思わず数歩後退りした。
暗黒色に淀んで光を失った瞳は、真っ直ぐに俺を居抜く。

「……姉ちゃん」

俺は何を投げつけられても、刃物を振り回されても届かないであろうギリギリの距離に着いてから、一言だけ言ってやった。




「今のポーションに青色一号は入ってないぞ」
「嘘!?」
「ついでに青色一号は発ガン性物質であって即効性のある毒じゃない」
「で、でも寧ろダメージを受ける味だって誰かが……」
「今回のは前と比べて大分まともな味になってるぞ」
「ま、またそうやって私を騙すのね? 隆志君の意地悪! ……でも、そんな所も好き」
「はいはい」

妙に美麗な顔になってしまった大作RPGの主人公が印刷された缶を眺めながら、俺は本日何度目か解らない溜め息をついた。
77名無しさん@ピンキー:2007/10/29(月) 17:18:52 ID:C/e57nKc
以上です。
題名はヤンバカの方が正しいんだろうか……
78名無しさん@ピンキー:2007/10/29(月) 17:25:28 ID:i3RmEA0q
>>77
GJGJ
姉ちゃん可愛いし、隆志がちょっと洗脳されかけてる所にもなぜか萌えた。
このままほのぼのと堕ちていって欲しい
79いない君といる誰か ◆msUmpMmFSs :2007/10/29(月) 19:34:30 ID:oi4vUM3L
「END2 アリスを殺す」  投下します
あと前回の「どこかのバカ」は冬継くんの自嘲ですのであしからず……といい損ねてましたゴメンナサイ

遅れましたが>>1
80いない君といる誰か ◆msUmpMmFSs :2007/10/29(月) 19:35:34 ID:oi4vUM3L


 ――殺さなくてはいけない。

 そうだ、何を躊躇することがある。嫌というほどに味わっただろう。地面に落ちる生首を二
つ見ても、まだ思い知らないのか。いちいち悩んでいたら、自分がそうなることは明白だ。悩
む。そんな人間らしい行為が、ここには必要がない。
 狂気倶楽部。
 殺し殺されが当たり前だと思わなければ、此処にいることはできない。
 ――覚悟を決めよう。
 くるりと、僕は魔術短剣を逆手に持ち替えた。銀の刃の長さは巨大鋏と大差ない。傘や杖の
間合いに比べれば、はるかに短い。だからこそ、悩んでいたらだめだ。殺すことを決めてさら
に内側まで踏み込まなければ、アリスを殺すことなどできるはずがない。
 一歩を踏み出した。
 ――何のために?
 頭の中で誰かが訊ねてくる。それは姉さんだったかもしれないし神無士乃だったかもしれな
いし、僕自身の声だったかもしれない。如月更紗でないことだけは確かだ。マッド・ハンター
は僕の前にいる。僕の前で、アリスと凌ぎあいをしているのだから。
 ――何のために殺すんだい。
 頭の中で誰かが問う。
 声に出して僕は答える。
「殺されないために」
 頭の中で誰かが笑う。
 にやにやと笑っている。 
 けたけたと笑っている。
 ――殺されないために殺すのか。
「そうだよ」
 さらに一歩。踏み込んだ左足の感触が不確かで、自分が屋上にいることを忘れそうになる。
僕が歩み寄ることにまったく意識を払わず、アリスとマッド・ハンターは切り結ぶ。突き刺す
ような傘の一撃を、マッド・ハンターは鋏で受け、杖を打ち返す。その杖はアリスには届かな
い。スカートをなびかせてくるりくるりとよけていく。狂り狂りと戦っている。
 ――如月更紗を助けるために?
「そうだよ」
 笑いながらたずねる声に僕はこたえる。僕は笑わない。笑う必要がない。笑う理由がない。
笑わないままに僕は考える。 
 如月更紗を守るために殺す。
 僕を守るといってくれた少女を守るために、僕を殺すべくやってきたアリスを殺す。
 ああ――なんだ。
 式にしてみれば、単純なことだったんだ。余分な要素である如月更紗を除けば、ごくありふ
れた単純な答えが出てくる。
 殺しにきたから、殺すのだ。
 わかりやすい。
 わかりやすくて、笑ってしまいそうになる。この場に如月更紗は必要ないのだ。問題は僕と
アリス。ならば問題を片付けるのは僕かアリスというのが筋だろう。
 待っていろ、如月更紗。
 五月ウサギがそうしたように。
 白の女王がそうしたように。

 僕が今、そいつを殺してやる。
81いない君といる誰か ◆msUmpMmFSs :2007/10/29(月) 19:36:44 ID:oi4vUM3L

 三歩目を踏み出す。そのときにはもうアリスとマッド・ハンターの領域に踏み込んでいた。
両方から意識が向けられるのがわかる。視線を向けずに手もとめないのはさすがといったとこ
ろだろう。構わない。僕は逆手に握ったナイフを下から振り上げる。軌道上には傘の腹。斬る
ことができないのはわかっている。アリスは斬戟を傘で防ぎ、
 防いだ傘が、上に撥ねる。
 ごくごく単純な理由で。傘を抑える力よりも、ナイフを振るう力の方が強いという単純な理
由で、傘が撥ねあがる。
 アリスが――そしてマッド・ハンターから、幽かな驚きを感じる。
 何を驚くことがあるんだろう。
 出来る。
 出来る。
 出来るのだ。彼女たちにできて自分に出来ないはずがない。姉さんの遺品で斬れないものが
あるはずがない。
 そう自分に言い聞かせて――僕は四歩目を踏み込んだ。
 距離は埋まらない。アリスはマッド・ハンターの攻撃をかわすために後ろに跳んでいる。そ
のアリスに追随してナイフを突き出す、体を捻ってアリスはよけ、反撃にきた傘を左手で払う。
 成る程。
 二対一であるのなら、アリスでも容易にはいかないらしい。いや、今の僕なら一対一ですら
十分かもしれない。独りでもこれを殺しきれるかもしれない。
 いや、
 殺しきる。
 確信をもって五歩目を踏み込む。ナイフを握る手に力をこめる。振り下ろされた傘を振り上
げて弾く。硬い金属音。手にわずかな痺れ。ナイフを持つ手は放さない。傘を持つ手を狙って
蹴り上げるが、後ろに大きく跳んでかわされる。さすがに体勢がくずれていたので、すぐに追
撃することができない。再び間合いが開いてしまう。
 それでも。
「…………」
 裁罪のアリスの背はフェンスに触れていた。それ以上下がることはできない。間合いはじり
じりと詰まるだけだ。追い詰めたと、そう言っていいのだろう。
 逃げ場はない。
 さぁ――首を撥ねよう。
 後ろから駆けてくるマッド・ハンターの足音を聞きながら、六歩目を踏み出す。もしもこの
とき、僕が冷静であれば気づいていただろう。殺意という熱病におかされていなければ疑った
ことだろう。
 狂気は感染する。
 観客がいつの間にか舞台にあがるように。
 だから僕は気づけなかった――裁罪のアリスの顔に未だに笑みが浮かんでいることに。彼女
が少しも追い詰められていないことに。傘の柄を両手で握ったことに。
 だから僕は疑えなかった――裁罪のアリスが今の今まで遊んでいたのだという、その事実に。
「君は――こちら側の罪人だね」
 アリスが嘯く。どこかマッド・ハンターににた口調。僕はその口をふさぎたくて、ナイフの
狙いをアリスの首に定める。後ろから足音。どこか切羽詰ったような。
 そして、
 やっぱり同時だったように思う――僕が七歩目を踏み出すのと、アリスが傘を振るおうとす
るのと、
「冬継くん!!」
 如月更紗の金切り声が聞こえるのとは。
82いない君といる誰か ◆msUmpMmFSs :2007/10/29(月) 19:38:28 ID:oi4vUM3L
 いや――彼女はたぶん、ずっと僕の名前を呼んでいたのだろう。声はかすれて悲鳴じみてい
た。幾度となく名前を呼んだに違いない。最後の瞬間まで僕の耳に届かなかったという、それ
だけの話。
 声を聞く精神的理由なんてなかったから。
 如月更紗の声は――制止の声だったから。
 それでもとまらない僕に対して、如月更紗は強硬手段に出たのだ。つまりは――思い切り、
横合いから僕を突き飛ばした。それが彼女にできるたった一つのさえたやり方だったから。突
き飛ばされてようやく僕はかすかな冷静さを取り戻して、彼女が名前を呼んでいるように気づ
いた――なんて、いかにも冷静っぽく考えることができたのは、もうすべてが間に合わないと
わかってしまったからだった。そして次の瞬間には精神が崩壊することがわかっているからこ
その、一瞬の冷静さ。
 だから、全部見えてしまった。
 如月更紗が僕を突き飛ばす姿を。敵であるアリスではなく、僕を見ていた彼女と目があった
。彼女は笑っていた。にやにや笑いではなく。死ぬ一瞬前まで、どこか満足そうに笑っていた
。正面から突き出された傘の先端、そこに仕込まれていた銀のナイフに首を切り飛ばされても
――如月更紗は、笑っていたのだった。
 ……。
 …………。
 ………………。
 ……………………………………………………………………………………………………………
………………………………………………………………………………………………………………
………………………………………………………………………………………………………………
………………………………………………………………………………………………………………
 ……………………………………………………………………………………………………………
………………………………………………………………………………………………………………
………………………………………………………………………………………………………………
………………………………………………………………………………………………………………
………………………………………………………………………………………………………………
………………………………………………………………………………………………………………
………………………………………………………………………………………………………………
………………………………………………………………………………………………………………
……………………………………………………………………………………………………………?
  え?
 なんだこれ。
 何の冗句だ。何の冗談だ。何が本当で何が真実だ。僕はもう一度如月更紗を見る。ひょっと
したら如月更紗だったものを見る。ソレが今も如月更紗なのかは自信がない。如月更紗なのだ
としたら、どっちだ? どっちが如月更紗なのだ。首から上を失って地面に倒れ、切断面から
ポンプのように血を噴出した体が如月更紗なのか。それともコンクリートの上をころころと転
がって、虚ろな瞳で僕を見る顔が如月更紗なのか。どっちも如月更紗なのか。どっちも如月更
紗じゃないのか。生きているのか死んでいるのか死んでいたのか生きていたのか。
 笑えよ、如月更紗。
 いつもみたいにさ。
83いない君といる誰か ◆msUmpMmFSs :2007/10/29(月) 19:39:21 ID:oi4vUM3L
「お終い、お終い――」
 アリスが楽しそうに笑う。如月更紗の代わりに笑う。噴出する血のほとんどは傘で受けてい
て、ただでさえ黒い傘は赤黒く染まっていた。あの傘はもしかしたら、はじめは白かったのか
もしれない。返り血を受けすぎていつしか黒くなった傘。黒いアリス。白と赤の混ざり合って
いた服は、如月更紗の血を加えることで赤に染まっていた。赤いウェディングドレス。血まみ
れの花嫁。物語の中から出てきたみたいに。悪夢の中から出てきたみたいに。雲もないのに傘
をさして笑っている。月光を防いでいるのか。
 雨が降っている。
 晴れているのに、赤い雨が降っている。
 そうじゃなきゃ、地面が赤くぬれるものか。
 そうじゃなきゃ、僕の瞳を流れるコレはいったいなんだっていうんだ?
 わからない。
 教えろよ、如月更紗。
 なんか言え。
 なにか言えよ如月更紗。そんなところで黙ってないで、いつもみたいに笑いながら話してみ
ろ。まじめなことでも下品なことでもいい。お前には沈黙は似合わない。益体もないことを延
々としゃべり続けるほうがお前らしいんだよ。屋上での饒舌ぶりはどうした。聞いてもいない
ことをぺらぺらとしゃべり続けるのがお前なんじゃないのか。それじゃあまるで、クラスの中
で窓を見ているときみたいじゃないか。僕と何の接点もなかった頃の如月更紗みたいじゃない
か。
 ああ。
 そうか。
 僕以外がいるからか? 教室の中では決して本性を出さなかったように――この場に僕以外
がいるから、お前は沈黙しているのか? 僕以外。僕とお前ともう一人。裁罪のアリスがいる
から、お前は黙っているのか。
 それもそうだよな。
 聞かれた困るようなことばかり、お前は言うからな。
 実際勘違いされると思うぞ、あんなことをぺらぺらと喋っていれば。深窓の令嬢が下ネタ親
父だなんて誰も思わないし。そもそもお前が狂気倶楽部の一員だなんて、誰一人として想像す
らしないだろうよ。
 狂気倶楽部の一員。
 狂気倶楽部。
 狂気倶楽部。
 狂気倶楽部?
 狂気倶楽部!
 姉さんがいた狂気倶楽部。
 姉さんを殺した狂気倶楽部。
 如月更紗がいた狂気倶楽部。
 如月更紗を殺した狂気倶楽部。
 彼女の姉がいた狂気倶楽部。
 彼女の姉を殺した狂気倶楽部。
 姉さんを殺したやつがいた狂気倶楽部。
 如月更紗を殺したやつがいた狂気倶楽部。
 如月更紗の姉を殺したやつがいた狂気倶楽部。
 狂気! 狂気! 狂気倶楽部!
 狂っている。
 狂っている。
 誰が狂っている?
 僕が狂っている。
 うん――正しい。模範解答だ。
 僕が狂っている。
 僕は狂っている。
 僕と狂っている。
 僕で狂っている。
84いない君といる誰か ◆msUmpMmFSs :2007/10/29(月) 19:40:53 ID:oi4vUM3L
 裁罪のアリスが何か言う。終わりと告げる言葉を吐く。不思議の国のお茶会は、アリスが退
屈することで終わる。でも、あれは終わりじゃない。アリスがいなくなったとしても、彼ら三
人は延々と延々と延々とお茶会を続けている。アリスはイレギュラーだ。本来その閉ざされた
世界には必要なかった要素だ。お茶会をかきまわして、わけがわからず、やがて飽きて退席し
て消えたアリス。彼女には彼女の物語があった。彼らは彼らの物語を続けた。
 なあ、裁罪のアリス。
 そろそろ退屈しただろうし――帰れよ。
 さあ、マッド・ハンター。

 僕がお茶会を続けようか。

「――お終い、」
 ・・・・ ・・・・・・・・・
「お茶会は、終わらないものだろ」
 持っていた魔術短剣を顔もあげずに投げつける。声だけで位置は把握している。はずすつも
りはない。放ったナイフは一直線にアリスの腹へと向かう。顔に投げつけるよりも致死性は低
い――ただし面積が広いのであたりやすく、顔よりはよけるのに時間がかかる。ほんの一秒に
も満たないだけの時間が。
 それだけで十分だった。
 僕はアリスがナイフをよけるその時間で、如月更紗の鋏を拾い上げた。重い。ずっしりとし
た感触が、これがまぎれもない凶器なのだと教えてくれる。刃は鋭く、触れただけでも切って
しまいそうだった。もち手の部分に人差し指と中指をかけ、片手でぶらさげるように持つ。
 アリスの背後で魔術短剣がフェンスに突き刺さって大きな音をたてた。知らなかった。あの
短剣、そこまで鋭かったのか。フェンスにはじかれるかと思ったら、金網を破って途中まで突
き刺さり、そのまま落ちてこない。
 愉快だった。
 僕は笑っていたのかもしれない。どこからともなく聞こえてくる笑い声が僕のものなら、き
っとそうなのだろう。口だけが無関係に笑っている。頭はひどくさめている。体は興奮してい
る。心は沈黙している。なきながら笑い、僕は鋏でアリスの顔を横殴りにした。傘で防がれる
。衝撃までは殺せずに、体が後ろにかしぐ。僕はさらに一歩を踏み込んで、傘を思い切り正面
から蹴り突く。飛び出た刃は恐ろしいが、防刃の部分にまで武器がしこめるわけじゃない。は
じめから体勢を崩すことを狙った一撃。ただでさえかしいでいたところに衝撃が加えられ、裁
罪のアリスは尻餅をつく。と思いきや、片手でバランスを取って立ち上がった。すごいな、こ
の傘を片手だけで振るっていたのか。奇妙に関心しながら、それでも僕はさらに前へと進んで
いた。
 後ろに下がるよりも前に進むほうが速い。
 ましてや今は物語の中だ御伽噺の中だ悪夢の中だ。それくらいできないほうがおかしい。だ
ってそうだろう、そうでなきゃ、如月更紗が死ぬわけがない。
 死んでいいはずがない。
 こうも簡単に――人が死んでいくはずがない。
 如月更紗も神無士乃も姉さんも死んだ。それ以外にもたくさん死んだし、これからもたぶん
死ぬだろう。こんなに簡単に人がしにまくってたまるか。そんな現実があってたまるか。
 だからこれは、ごっこ遊びだ。
 キャラクターを演じて殺し殺され死んで死なれる狂ったお話だ。
 脚本はない。
 だから終わりもない。
 人が死んでも、『キャラクター』は消えはしない。
85いない君といる誰か ◆msUmpMmFSs :2007/10/29(月) 19:42:00 ID:oi4vUM3L
「アリスはお茶会に呼ばれなかった」
 僕は前へ前へ前へ。さがるアリスの前へ、傘の内側に入ってせまる。アリスの笑みに少しだ
け驚きがまざる。傘が仕込である以上、内側へ入ってしまえばその攻撃範囲ではない。息が触
れるほどに近い距離。
 そしてそこは、鋏の間合いだ。
 僕は右手で鋏を突き出す。アリスの右手に止められる。あたらないと見るや傘をあっさりと
手放していた。右手が右手で止められる。さすがとほめるべきなのか、力は完全に拮抗してい
た。手をつなぎあったまま僕らはさらに後ろへ。
 防がれることは、わかっていた。 
 そんなのは初めからただのおとり。重要なのは左手。アリスの左手は地面から復帰するため
に使ったために後ろにあり、魔術短剣を投げ終えた僕の左手は空いていた。武器すらない。武
器がないということは、空いているということだ。
 何も持たない手をまっすぐに伸ばし、アリスの首をつかむ。
 片手でつかめるくらいに細い首だった。あいにくと握力を鍛えたりはしていないので折れた
りはしない。せいぜい器官がしまるくらいだ。窒息死する前に、唯一あいているアリスの左手
は反撃するだろう。瞳をつかれるか隠し武器でも持ち出すか。
 なんでもよかった。
 右手と右手が絡み合い、左手で彼女の体を固定できれば、もうそれだけでよかった。反撃も
攻撃もはじめから頭にない。絡みあった体勢のまま、僕はさらに前へと跳ぶ。今までの加速度
にさらに加速度を加えてかける。アリスは目的を悟ったようだが、意味がない。僕よりも少し
だけ小さなアリスは、首と手をつかまれて体がわずかに浮いている。
 ふんばるだけの力を足にこめることができない。
 左手が、動こうとした。
 その瞬間、アリスの体がフェンスに押し付けられる。左手が体とフェンスに挟まれるように
して動くことができない。僥倖だ。反撃されなかった。
 まあ、意味がない。
 反撃も攻撃も、もう意味はない。
「そろそろ――退場する時間だ」
 僕は間近で彼女にそうささやいて。
 さらに足に力を入れて、踏み込んだ。
 あっけないほどに、あっさりと。

 フェンスを、乗り越えた。
86いない君といる誰か ◆msUmpMmFSs :2007/10/29(月) 19:42:54 ID:oi4vUM3L

 落下防止のフェンスは元より高くない。はじめは鉄柵だけだったものを、隙間を埋めるよう
に金網で補強したフェンスだ。出入り禁止されている以上、フェンスは手入れも何もされてい
ない。壊れやすくなったフェンスはむちゃくちゃな力を加えられて斜めにかしぎ、僕は力まか
せにアリスの首をつかんだまま外に押し出した。
 自身の体ごと。
 放すつもりはなかった――突き落としただけでは無事に復帰するに決まっている。それだけ
のでたらめさをアリスは持っている。確実にするために、僕は自分の体を重りに、自身ごと屋
上の外へと飛び出した。
 冗談のように、何もなかった。
 足場がない。壁がない。地面は四階分の高さを隔てたところにあって、重力だけが嬉々とし
て僕らを待っていた。
 アリスは――笑っていた。首をしめられ屋上から突き飛ばされて、笑っていた。
 だから、僕も笑った。
 笑って、そのまま落下した。アリスの腹に両膝を添える。右手に力を加え続ける。落下まで
の間に突き刺そうと思ったが、さすがにそれほどやわではないらしい。左手はもはや固定する
ためだけのものになっている。左手が僕の首を握った。なるほど、相手も途中で逃がすつもり
はないらしい。
 落下時間は、恐ろしいほどに長かった。
 そして、衝撃は唐突にきた。神経に無理やり電流を流されたような衝撃。衝撃がくるその瞬
間まで、僕は両手も足も離さなかった。アリスは笑うのをやめなかった。笑うのをやめないま
まに、アリスは『広がった』。アリスだったものは僕と地面に挟まれて破裂し、その内容物を
撒き散らしながら表面積を広げた。笑い顔だけは消えていなかった。
 僕は。
 僕はごろりと、彼女から手をはずして横になった。上から見れば、添い寝しているにすら見
えるだろう。アリスから流れ出た血が体を汚していく。地面は冷たい。血は暑い。無茶をした
手足がもう動かない。起き上がることもできない。顔を動かすこともできない。
 転がったままに、見えるものだけを見た。
 屋上ごしに、月が見えた。
 きれいな月だった。
 姉さんはいない。
 神無士乃はいない。
 如月更紗はいない。
 誰もいない。
 君がいない。
 誰かに見られているような気がして、僕はそれが月だと気づいて、大笑いした。
 そこから先は、よく覚えていない。
 笑いながらに、僕はすべてとともに意識を失ったから。


87いない君といる誰か ◆msUmpMmFSs :2007/10/29(月) 19:46:43 ID:oi4vUM3L


・BADEND 『君の代わりに誰かがいる。』


 すべてが終わった数日後、須藤幹也は喫茶店グリムのドアをくぐった。軽い鈴の音と共にド
アが閉じ、喫茶店の中にいた幾人かの視線が向けられ、すぐにはずされる。喫茶店の中は薄暗
く、客はその幾人しかいなかった。それでも多いほうだ、と幹也は思った。アングラな喫茶店
グリムからすれば、客がいるほうが珍しいのだ。平日の昼間から彼女たちは何をしているのだ
ろう、と思うが、とくに何も言わない。それは、自分も同じことだからだ。
 平日の昼下がり。
 喫茶店の中にいる少女たちは、思い思いの時間を過ごしている。本を読む者、本を書く者、
紅茶とケーキを楽しむ者。共通することは日常に馴染めない子たちであること。日常から乖離
するかの如く異端な服に身を包み、自身を特別であると信じている。特別である自分を演じよ
うとしている。
 退屈だな、と幹也は思った。いつものように退屈だった。それは彼にとっては見慣れたもの
で、見飽きたものだった。さがせば一山いくらで見つかるだろう。ほんの少し踏み込めば、誰
だってそうなることはできる。彼がこの古巣に戻ってきた理由は彼女たちではない。彼女たち
がうらやみ、あこがれ、心の底で忌避するものに愛に来たのだ。
 それは、普段は心の奥底で、深く深くで眠っているものだ。
 気づいてしまえば、取り返しのつかないものだ。
 アングラである喫茶店グリムの――さらに下。物理的な意味でも『下』に存在する図書室に
、須藤幹也は用があった。
 連れは一人。
「兄さん」
 車椅子に座った少女が幹也を呼ぶ。その手と足は人工のものだ。動くことも、歩くこともで
きる――それでもそれは万能ではない。彼女は普段から車椅子を使う。そうすることで、兄で
ある幹也をつなぎとめられるから。彼に世話をしてもらえるから。
 妹――須藤冬華にとっては、兄である幹也が世界のすべてだった。
「お願いします」
 ため息で答え、幹也は冬華を抱き上げた。地下へは車椅子を持って降りることができない。
冬華の細い身体をお姫様のように抱きかかえ、幹也は地下へと向かう。店内の注目が集まって
いるのがわかる。二人の間柄に、ではない。下へと降りることができる二人組に。
 冬華の目には幹也しか映っておらず、幹也にしてみればそれこそどうでもいいことだった。
それとなく向けられる注目を気にすることなく、幹也は階段をくだる。とたん、とたん、とた
ん――一段降りるたびに階段が音をたてる。奈落へと続く階段を、気負うことなく降りていく。

88いない君といる誰か ◆msUmpMmFSs :2007/10/29(月) 19:47:21 ID:oi4vUM3L


 かつん、
 かつん。
 かつこん、
 かつこん。
 狭い階段の中で音が反響する。その音をメロディにして、須藤幹也は歌を口ずさむ。
「雨に――唄えば――」
 振い歌を歌いながら幹也は階段を降り続ける。そこ以外は歌わない。同じフレーズを延々と
延々と口ずさみながら、幹也は降りていく。地下へと降りる階段は、きっちり13段。頭の中
でその数字を数えながら、その回数だけサビを繰り返す。雨の中で唄う曲。降りしきる雨の中
で楽しげに踊る曲。
 雨は降っていない。
 ここからでは、空は見えなかった。
 月もまた、見えなかった。
 そうして、須藤幹也と冬華は階段を降り終えて。

「お見事、お見事、大見事。さすがに歌が上手いわね、元三月ウサギ」

 ぱん、ぱん、ぱん、と。
 なげやりな拍手の音が、須藤幹也を歓迎した。
 冬華の声ではない。鋭く、嘲るような、楽しげな声だった。冬華を抱えたままに、拍手と声
のする方向を幹也は見た。
 いつかと逆だった。
 部屋の奥。安楽椅子に腰掛けて、革靴をはいたままの靴を机に載せて。長く艶のある黒髪の
人物が立っていた。男物のタキシードをきて、小さなシルクハットをかぶり、おまけに黒い杖
まで持っていた。
 机の上には、一つの鋏。
 赤い染みのついた、凶器以外の用途が存在しない巨大鋏。
 ここにいるということは、言うまでも無く――狂気倶楽部の一員である。
 その名を、幹也は口にした。
「……マッド・ハンター。いたのか」
「あら、あら、あら。君がいなくなるときいて――せっかく見送りにきたのに」
「怪我はいいのかい」
 言葉とは裏腹に、声は少しも体調を慮った色はなかった。それがわかっているのか、マッド
・ハンターも笑みを浮かべるだけだった。怪我が治っていようが治っていまいが、そんなこと
は関係がないと。
 退屈しのぎにはなるか、と思いながら幹也は本棚に背をもたれかけた。抱きしめていた冬華
の身体を下ろすと、彼女は幹也の胸に身体を預けるようにして立った。両の手が引っ張られて
、冬華の前に回される。旗から見れば幹也が冬華を抱きしめているように見えるだろうが、そ
の実は逆でしかなかった。


89いない君といる誰か ◆msUmpMmFSs :2007/10/29(月) 19:50:57 ID:oi4vUM3L

 退屈。
 そう――退屈しのぎだった。あの夜、死に掛けていたマッド・ハンターを助けたのも、ただ
の退屈しのぎでしかなかった。そうすれば暇が潰れるだろうという、それだけだった。命がど
うなったかも興味はなく、こうなった今も、何も感慨はない。
 お茶会が続いている。
 それだけのことだ。
「なぁ、イカレ帽子屋」
 退屈のままに、幹也は言う。
 それだけは、聞いておきたかったから。
 この街を、狂気倶楽部を立ち去る前に、それだけは聞いておきたかった。
 だから、幹也は尋ねた。
「お前は如月更紗のことが好きなのか?」
 過去形ではない、現在進行形であるその言葉に。
 ・・
 彼は。
 マッド・ハンターは答えなかった。彼女の衣装に身に纏い、彼女の髪から創ったカツラをか
ぶり、彼女と同じ武器を持ち、彼女と同じ役を演じる彼は。
 如月更紗という役を、マッド・ハンターという役を演じる彼は、満足そうに笑うだけだった
。その質問は正しいと、彼は笑った。
 彼女は消えていない。
 如月更紗は死んでいない。キャラクターを演じるものが居る限り、『如月更紗』は消えはし
ない。
 彼女は此処にいる。
 如月更紗は此処にいる。
 それだけが全てだった。
 その笑みだけで満足だったのだろう。冬継は妹を抱きかかえて踵を返す。もう此処には用は
なかった。彼が演じる役割はもう残っていない。あとの物語は、もう関係のないことだった。
「雨に――唄えば――」
 唄いながら、須藤幹也は階段を昇る。その背中を、新たなマッド・ハンターは見つめている
。にやにやと、にやにやにやと笑いながら、その背中が消えるまで見続けていた。

90いない君といる誰か ◆msUmpMmFSs :2007/10/29(月) 19:57:04 ID:oi4vUM3L


 お茶会は、終わらない。



   《続かない》


91いない君といる誰か ◆msUmpMmFSs :2007/10/29(月) 20:00:09 ID:oi4vUM3L
 投下終了です
 男のヤンデレ……になるのかなかこれ
 不快でしたらごめんなさい
 
92名無しさん@ピンキー:2007/10/29(月) 21:52:12 ID:dRe3Cko1
なんというBAD
そっちに逝っちゃらめええええええええ!ってラストでしたな

いやはや乙でした
「これとは違う結末」も期待してます
93名無しさん@ピンキー:2007/10/29(月) 21:53:05 ID:o0AQICPV
GJッス

いいね
やっぱ男のヤンデレは死んだ女を盲目的に愛するのがいいよ
94名無しさん@ピンキー:2007/10/30(火) 00:19:36 ID:W0XSomBk
( ;∀;)ナケルハナシダナー
95名無しさん@ピンキー:2007/10/30(火) 01:41:12 ID:O/h7s6um
面白かったです。狂い具合が良い感じ
でもごめんなさい

出来る。
出来るのだ。

この一節でちょっと吹きました
96名無しさん@ピンキー:2007/10/30(火) 02:04:42 ID:GkDeTzsr
やっぱBAD直行でしたか。しかしそれでもここまで魅せる物語を書けるその手腕に少し嫉妬。
そしてそれ以上に良い仕事と感嘆させて頂きました。
97名無しさん@ピンキー:2007/10/30(火) 02:47:18 ID:36idoXvQ
これはこれで二人幸せそうだから良いかなあと思ってしまった。
98名無しさん@ピンキー:2007/10/30(火) 12:50:48 ID:iKbraxif
乙でした
トゥルーエンドも待ってます
分岐多いから回収大変そうですがひたすら待ってます…
99名無しさん@ピンキー:2007/10/30(火) 19:06:06 ID:ShQBgR/5
ヤンバカGJ
100名無しさん@ピンキー:2007/10/31(水) 07:37:41 ID:j/ByszVE
君の代わりに誰かがいるエンド乙。
いやー男のヤンデレはあんまし得意じゃないんだけどこの流れなら納得だぜ。
ビバ! このスレ的ハッピーエンド!
え〜と、まあごく普通の生存ハッピーも好きですけどね?
てな訳で他選択肢も楽しみに待ってますよー。
101名無しさん@ピンキー:2007/10/31(水) 18:20:16 ID:SnDFDTXf




102名無しさん@ピンキー:2007/11/01(木) 17:58:07 ID:s5UXJWGP
男ヤンデレってVPのレザードみたいな奴なんかね?
103名無しさん@ピンキー:2007/11/01(木) 18:03:55 ID:AduzzzsP
北斗の拳のシン
104名無しさん@ピンキー:2007/11/01(木) 21:09:23 ID:pa9yBxsf
レザードはどうなんだろう、と思いかけたが
性別を入れ替えてみたらそれもありかと思えてきた
105名無しさん@ピンキー:2007/11/01(木) 21:30:14 ID:q0S6h1d9
一度書いてみたいなぁとか思ったんだけど、ここって話を投下するにあたってのおやくそくとかある?
文章の整形こんなだと読み易い・読み辛いとか
1レス何行くらいまでちゃんと詰めろとか。
106名無しさん@ピンキー:2007/11/01(木) 21:31:05 ID:q0S6h1d9
まずageんなよ自分……ごめんなさいorz
107名無しさん@ピンキー:2007/11/01(木) 21:40:56 ID:AduzzzsP
>>105
>>1のテンプレを守ればおK、後は特にない。
細かいところで読み辛かったりした時は住人が指摘してくれたりするのでそれを参考にすればよいかと
108名無しさん@ピンキー:2007/11/01(木) 22:05:00 ID:ZvS7afX9
―――/ ̄ ̄ ヽ――――/ ̄ ̄∞ヽ―― 、
    /:::       ',,    /{-} 、_   `ヽ   |
  _ l:::  {-} /¨`ヽ{-}_/ /¨`ヽ {-}   .|   |  
  |  l:::   |ヽ ._.イl | '| ヽ ._.イl     ',|  |  
  |  \:::   ヘ_/ノ / |  ヘ_/ノ      |   |  グッ〜〜グッ〜
  |  ヽ       ノ   |          |  |
  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ヽ
 ―――――――――――――――――、  |

  「私という『つがい』がアリナガラ
   勝手に他の雌と寝テル・・・・」

\\                                                       //
 \\                                                    //
  \\            スクールデイズ的展開ktkr!!!!               //
   \\              Nice Boat!                        //
    \\                                             //

           / ̄ ̄ ̄'',       / ̄ ̄ ̄'',       ./ ̄ ̄ ̄'',
          /        ',     /        ',     /        ',
          |  {゚} /¨`ヽ {゚}     | {{●}/¨`ヽ{{●}    |  {゚} /¨`ヽ {゚}
         .l   トェェェェイ  ',   .l   トェェェェイ  ',   .l   トェェェェイ  ',
         .|   |-ーー|   ',   |   |-ーー|   ',   |   |-ーー|  ',
         リ   ヘェェェノ    ',   リ   ヘェェェノ    ',   リ   .ヘェェェノ   .',
109105:2007/11/01(木) 22:08:41 ID:t4QG58H3
>>107
ありがとう、書いてみるよ。
いつかこのスレでお目にかかれたら幸いだ…
110名無しさん@ピンキー:2007/11/02(金) 07:55:36 ID:Ao5/PO9G
>>109
ガンガレ、期待して待ってる
111名無しさん@ピンキー:2007/11/02(金) 12:40:49 ID:5NIxC/uh
近親相姦物はアリでつか?
112名無しさん@ピンキー:2007/11/02(金) 12:44:17 ID:5Aq3Br6h
大いにアリよ。まあ姉か妹が相手ならキモ姉&キモウト小説スレもある。
113名無しさん@ピンキー:2007/11/02(金) 14:27:05 ID:Ao5/PO9G
とりあえず保管庫の作品をざっと読んでみればスレの傾向はわかるはず。
まあかなりの量があるから軽く目を通すだけでもいいと思う……それでも大変かなw
114名無しさん@ピンキー:2007/11/02(金) 18:48:37 ID:waVhQGtl
あんまり細かく分ける意味がわからんけどなぁ…
115名無しさん@ピンキー:2007/11/02(金) 21:21:47 ID:s6Rkau/1
まあぶっちゃけスレが立った経緯なんて様々だしあんまり意味はない。
ネタ的にかぶるスレはスレの雰囲気とかで自分に合う所に参加したり投下したりすればよいかと。
116ことのはぐるま ◆Z.OmhTbrSo :2007/11/04(日) 01:39:25 ID:eHyIlQrB
22話を投下します。


-----

第22話〜選択〜

*****

 朝食を食べ損なったことを思い出して立ち寄った自宅近くのファミレスは、遅めの朝食を食べる人で
若干の賑わいを見せていた。
 ファミレスの賑わいのおかげで、盗み聞きされたら頭のネジの締まりを心配されるような会話を
華にできるのだから一応は感謝すべきことなのかもしれない。
 俺たちの座っているテーブルには、相席している人間の姿はない。
 だというのに、華は俺の左隣に座っている。
 それはもちろん俺がそうしろと頼んだからではなく、華の方から隣に座ってきたからそうなったのだ。
 一言二言文句は言ったが、腕を組んで一度考えてみると、テーブル越しに話すよりはくっついて
話す方が周りに会話を聞き取られないで済むなと思い直し、結局は同じソファーで食事をとることにした。

 朝食のサンドイッチを食べながらここ最近で俺の身に起こったことを話した。
 前世のこと。華が屋敷から持ち出した本のこと。
 あらかたの説明を終えたという合図として、コーヒーを飲む。
 コーヒーカップをテーブルの上に置いたタイミングで、華が口を開いた。
「なんとも迷惑な話ですね」
「……」
 まさにその通り。何も言い返せない。
 最近はいろいろと起こり、俺自身その時々で色々なことを思ったものだが、一言で感想を述べるなら
今華が言った言葉が一番ふさわしかった。
「それで、おにいさんはどう思っているんですか?」
「どうって、何を」
「前世の話、信じているんですか?」
 華の声色には問いかけの成分しか含まれていなかった。
 興味本位で聞いているというふうで、俺がどんな返事をしても気にしそうに見えなかった。

「……前世なんてものはない。だから俺は前世なんて信じない」
 ここだけは譲れない考えだ。しかし今はおまけとして新たな考えがついている。
「ただ、もしかしたらという仮説だけど、俺に前世の記憶がないだけじゃないのかとも思えてきた。
 そういう可能性もあるんじゃないかってな」
「そう思う根拠は?」
 ――なんだろうな。自分でもはっきりとわかっていない。
 変なことが起こりすぎているから状況を理解できていないのか。
 もしくは、こんなことに巻き込まれた理由づけがなにか欲しかったからなのか。
 どちらにせよ、今はこうとしか答えられない。
117ことのはぐるま ◆Z.OmhTbrSo :2007/11/04(日) 01:40:33 ID:eHyIlQrB
「なんとなくだ」
「なんとなく、ですか」
「ああ」
「あんまりよくありませんね、そういうの。なんとなく、で済ませようとしたら頭の中にあるかもしれない
 答えのしっぽすら逃してしまうかもしれませんよ。真剣になって思い出してください。
 なにか、そう思うきっかけみたいなものがあるんじゃないですか?」
「やけにつっこんで聞いてくるな、華」
「おにいさんに追求する姿勢がなさそうだから、私が代わりになっているんですよ」
「……そりゃどうも、ご苦労様。お礼にコーヒーでもおごるよ」
「じゃあ、お願いします」
 と言って、華はコーヒーカップを差し出してきた。
 もちろん華もドリンクバーを頼んでいるから、厳密にはおごりではない。
 ここの食事代も割り勘だし。

 ドリンクバーで、華のカップにはコーヒー、俺のものにはカプチーノを注ぐ。
 注ぎ終わるまでのしばらくの間を思考の時間として費やす。
 前世が武士なのかもしれないと考えたきっかけ、ね。
 さっきと同じく、なんとなくとしか言えないんだがな。嘘や下手なことを言うわけにはいかないし。
 昨晩、十本松と話していて気絶した時、なにか夢を見た気がするが、全然思い出せない。
 だって――目が覚めたら十本松が死んでいたのだから。
 あれは、あまりに衝撃が強すぎた。人が死んでいる現場を見たのはあの時が初めてだった。
 思い出せなくなっても当たり前だ。

 コーヒーサーバからでる液体が、カップを8割満たした。
 両手にカップを持ち、華の待つテーブルへ向かう。
 俺がテーブル席に腰を下ろしたとき、同じソファに座っている華は本を手にとって読みふけっていた。
 華が手に持っているのは、菊川屋敷から持ち出した本だ。
 武士と姫の生活と終焉を描いた、1冊の本。
 これを俺が図書館で借りたときは、この本は『無題』というタイトルで扱われていた。
 図書館の膨大な蔵書の中でこの1冊を借りようと思ったのは、この本の奇妙さにあった。
 まず、タイトルがない。『無題』など、本のタイトルとは呼べない。
 次に、中身は小説のくせに、古ぼけた歴史資料の本の棚に入っていた。
 たしかに見た目は古い本ではあるが、内容は歴史資料としては不適切だろう。
 以上のことから、この本に軽く興味をひかれて借りてしまったのだ。

 少し熱めのカプチーノを飲みつつファミレスの駐車場の景色を眺めていたら、華が話しかけてきた。
「この本なんだか変ですよ」
「ん……どこが?」
「おにいさんが前世で武士だったという前提をふまえたうえでの話ですけど。
 現代日本で武士と呼ばれる人々が存在した時代に、現代の小説本と同じ装丁がされている本が
 作られるはずありません。なにより、そんな昔の本がこんな状態で残っているなんておかしいです」
「ああ、そういえば……」
118ことのはぐるま ◆Z.OmhTbrSo :2007/11/04(日) 01:41:25 ID:eHyIlQrB
 華に言われて初めて気づいた。ついでに言うと今まで気にも留めなかった。
 そうだ。二冊ともそこそこに古ぼけてはいるが、骨董品という程の古ぼけ具合ではない。
 商店街の古本屋にある一番古い本、と言えるぐらいの品質を保っているのだ。
 かなこさんが語る前世――おそらくかなり昔の時代――と、この本が作られた時代が同じだとした場合、
このタイトル不明の本には不可解な点がある。本が新しすぎるのだ。
 つまり。

「この本、誰かが作り直したんじゃないですか?」
「……そうかもしれん」
「だとしたら、この本は本物ではなくて偽物ってことになりますね。
 ……そもそも本物があるのかどうかすら怪しいものですけど」
 昔からあった本を製本し直したと考えれば、この二冊の本が持つ不可解は不可解でなくなる。
 その代わり、新たな謎が生まれる。誰が本を作り直したのか、という謎が。
「二冊目の本を十本松が作り直した、というふうに考えれば納得はいく」
「けど、こっちの――私が持っている方の本は説明がつきませんね。
 これ、図書館から借りてきたんでしょう? そして、菊川かなこはこれが図書館で貸し出しされている
 という事実を知らなかった」
 俺がかなこさんと会ったとき、かなこさんはこの本の居場所を探していた。
 で、たまたま声をかけた俺が本の居場所を知っていたから、ようやく本を見つけることができた。
 かなこさんが本を作り直したのだと仮定すれば、自分の足で本を探すはずがない。
 見つからなければ、もう一度作り直せばいいのだから。

「たぶん……かなこさん以外の誰かが作り直したんだろう。
 他にこんなことをやりそうな奴というと――十本松ぐらいしかいないけど」
「作り直したあとで、図書館に預けたのはどういう意図だったんでしょう?」
「俺に読ませるつもりだったんだろ」
「おにいさんが図書館でこの本を見つけるかどうかわからないのに?
 いちかばちかでそんなことをやりますかね?」
「けど、結果として俺はその本を見つけた。今では手元にきてる」
「それは結果しか見てませんよ。目的を果たすための方法としては、図書館に預けるなんて雑過ぎます」
「俺もそうは思うんだけどな。……かなこさんに初めて会った日に、言われたんだよ。
 『前世で無理矢理に引き裂かれた者同士は生まれ変わったら必ず出会ってしまうものだ』って」
「運命ですか。……くだらないですね。あの女の言いそうなことです」
「お前ならそう言うと思ったよ」
 俺だって同じ意見なんだけどな。
 真剣なかなこさんや、前世からの因縁を力強く語った十本松を見ていると、気になるんだよ。
 かなこさんの言っている運命とやらに俺は翻弄されているんじゃないかってな。
119ことのはぐるま ◆Z.OmhTbrSo :2007/11/04(日) 01:42:18 ID:eHyIlQrB
「おにいさん、もう一つ気づいたことが」
「なんだ?」
「どうしておにいさんが、菊川かなこと天野香織に拒絶反応を示すのかがわかりました」
「は? ……本当か、それ」
 どうしてこの女はここまで頭が回るんだ。
 さっきから自分の行動の動機に対して頭を捻っていた俺が馬鹿みたいじゃないか。
「こんなことで嘘は言いませんよ。嘘みたいな与太話に嘘を吐いても意味がないじゃないですか。
 で、話を戻しますけど。さっきおにいさんの話の中で、役割っていうのがありましたよね。
 姫は刺客に殺された。刺客は武士に殺された。武士は刺客の娘に殺された。
 最後には、その刺客の娘も殺されてしまう。殺したのは武士の昔の恋人。
 『姫』、『武士』、『刺客』、『刺客の娘』、『武士の昔の恋人』。全部で五つの役があります。
 この役割が――私の考えでは――重要な要素になっているんですよ。
 おにいさんは、前世では武士の役でした。では、現代では?」
「十本松が言うには、物語の最後に武士を殺した刺客の娘……を殺す女、らしい」
「その刺客の娘役は誰だと、十本松あすかは言っていました?」
「香織とかなこさんだとか――って」
「気づきましたか。つまり、おにいさんがあの二人に対してあんな行動をとってしまうのは、役割を果たすためなんですよ。
 武士の仇をとるために、刺客の娘を殺す。その役割がおにいさんに与えられているんです」
「待て待て待て。俺は香織もかなこさんも恨んでなんかいないぞ?」
「そうでしょうね。けれど、おにいさんはあの二人を前にしたら意志と関係なく、体が勝手な行動をとってしまう。
 その理由は、あくまで私の推測ですけど、たぶん――操られているんじゃないかと」
「操られている? 俺が?」
「操るというか、暗示やすりこみみたいなものだと考えられます。
 おにいさんがあの二人を前にしたら、強制的に殺害行動をとらせる。それが暗示の内容です」
「俺は……暗示にかけられたことなんかないぞ」
 最近は言わずもがな、ずっと昔からそんな記憶はない。
「暗示をかけたこと自体を忘れさせたか、それ以外の何かか。
 どちらにせよ同じこと。おにいさんがそういった『何か』に操られているのは事実です」
「それは――」
「決めつけじゃありませんよ。おにいさん。このファミレスですれ違った人を殴りたいと一度でも考えましたか?」
 ――ない。
 ここから店内にいる客、店員、外を歩いている人たち、誰を見ても感情が揺らがないし体も動かない。華に対しても同じ。
 やっぱり、俺があの反応をとるのは香織とかなこさんだけだ。
120ことのはぐるま ◆Z.OmhTbrSo :2007/11/04(日) 01:43:30 ID:eHyIlQrB
「誰が……」
「はい?」
「誰が、そんなふざけたことを……」
 どいつだ?十本松か?かなこさん?室田さん?
「また推測ですけど。言ってもいいですか?」
「……ああ」
「これです」
 華はさっきまで見ていた本を二冊とも差し出してきた。
 行動の意図がわからない。これ、ってこの本が俺を操っているとでも?
 そんな馬鹿な。たかが本ごときで。

「この本が台本だとしたら、おにいさんは役者です。役者は基本的に台本に従って行動します。
 もちろんアドリブだって演技には必要です。だけど、やらなければいけないシーンは絶対に演じなければいけない。
 そのやらなければいけないシーンの一つに、『武士の昔の恋人』が『刺客の娘』を殺す、というのがあるとは
 考えられませんか? この本の話ではそのシーンは最後の方に来ています。もしそのシーンを省いたら、
 武士と武士の元恋人はそれから幸せに暮らしましためでたしめでたし、で終わっちゃいます。
 おにいさんが脚本家だったら、ラストシーンを省きますか?」
「わかんねえよ。脚本家じゃねえんだから……」
 ちくしょうが。――省くわけがないだろ。話がまったくの別物になってしまう。
「私だったらシナリオは変更しませんね。
 『人を殺した人間は必ず報いを受ける』。たぶん、それがこの本の根本にあるテーマです。
 そこから言わせると最初に殺された姫は不幸だったとしか言えませんけど。
 この武士も姫の仇討ちをせずに故郷に帰っていれば、昔の恋人と何事もなく生きられたはず。
 それをわかっていたとしても、武士は仇を討てずにはいられなかった。
 最後には殺されてしまいますけど、私はこういう人間は好きですよ。心の弱いところが。
 愛する人間を殺されて、「復讐目的で人を殺してはいけない」と考える人間は現実的じゃありません。
 「何としてでも姫の仇はとる」という方が自然で、好感が持てます」
 そこは俺も同意だ。
 憎しみにかられて復讐に走れば、最後には破滅しか待っていない。
 だけど、『恋人は殺されてしまったのになぜあの男はのうのうと生きているんだ』と考えれば、
自分だけ幸せになろうなんて気持ちにはなれない。
 恋人の優しい笑顔や落ち着く声。そして恋人を前にしたときの暖かな気持ち。
 それら全てを奪った人間は、生きていてはいけない。
 もし俺がこの武士であったとしてもまったく同じ行動をなぞるだろう。
121ことのはぐるま ◆Z.OmhTbrSo :2007/11/04(日) 01:44:48 ID:eHyIlQrB
「おにいさんは……どうですか?」
「どうって……ああ。俺も華と同じ考えだけど」
「そうじゃなくって。もし私が殺されたら、殺した人間に復讐しようと思いますか?」
 そっちか。……実際にそんなことにならないとわからないんだが。
「どうなんです? 思うんですか? 思わないんですか?」
 目尻を吊り上げながら涙目になるな。真剣になり過ぎだ。
 やれやれ。仕方ない。

「もちろん、泣き寝入――うそごめん。コーヒーカップを構えないでくれ」
 危なかった。とっさに華の手首を掴まなければ顔に熱い液体をぶちまけられるところだった。
「まじめに答えてください。こっちは真剣に聞いて居るんです」
「はいはい」
 そうだな。華がもし死んでしまったら。もし殺されてしまったら。

「――しばらくは、何もできなくなる」
「え?」
「華は俺とずっと昔からいたから、居なくなるなんて考えたこともなかった。
 だから、居なくなったら現実を理解できずにしばらく放心状態になるだろうな。
 実感が湧いてきてから、ようやく悲しくなる」
「悲しくなったら……泣きますか?」
「……たぶん」
 たぶんじゃないか。確実に泣くな。華が死んだと考えるだけで悲しいし。
 「お兄ちゃん」とか言ってなついてきた可愛いころの華の顔を浮かべると無性に悲しくなる。
 もちろん今の華でも同じだ。華が死んでしまったと聞かされても、事実を受け入れられない。認めたくない。
 十本松が死んだときの衝撃とは桁が違う。

「そうです、か……」
 華が背中を向けて顔を逸らした。もしかして華の奴。
「照れてるのか?」
「別に照れてなんかいませんよ! ――もう、ほっといてください!」
「へいへい」
 わかりやすい奴。こういうところは昔から少しも変らない。
 そういえば、華の反応を楽しむために、昔は華が赤面するようなことをたくさん言ってやったな。
 頭を撫でたり、髪型を褒めたり、「可愛い」とか言ったり。「料理上手だな」とは一度も言わなかったけど。
122ことのはぐるま ◆Z.OmhTbrSo :2007/11/04(日) 01:47:17 ID:eHyIlQrB
 手元にある本を一冊手に取る。この本のシナリオに俺は操られている、ね。
 だとしたら、この本が全ての元凶だとでも言うのだろうか。
 シナリオに操られ、今までに十本松の父、香織の父、かなこさんの父、十本松あすかが死んだ。
 さらに俺が筋書き通りに動き、香織とかなこさんを殺してしまえば話は完結を迎える。
 だが、そんなのは御免だ。なんで俺が二人を殺さなきゃならない。
 まず動機がない。十本松はかなこさんに殺されたけど、その仇をとるつもりなんか俺にはない。
 香織にいたっては十本松になにかしたわけでもない。むしろ被害者の方だ。
 香織は、香織の父親が十本松の父親を殺したことで、シナリオに巻き込まれただけだ。
 そもそも、この台本自体が狂ってやがる。なんでこんなものが存在しているんだ?

 誰が、この本を作り直した?
 それが分かれば、この狂ったシナリオを途中で終わらせることができるかもしれない。
 青い表紙の本。こっちの持ち主は十本松だった。だが、あいつは死んでしまった。
 あいつが死んでから俺はおかしくなった。
 ということは、本の持ち主が死んだからといって話が終わるわけではないらしい。
 この本が作り直されたものだとすると、燃やしたところでどうにもならないだろう。
 もう一冊、図書館から借りてきた本。こっちの持ち主はかなこさんだ。
 だが、これはもともとかなこさんが持っていた物ではなかった。
 いつも俺が通っていた図書館で貸し出されたものだから、もとは図書館の持ち物だということになる。
 ――そうか。図書館だ。あそこに行けば何かがわかるはず。
 かなこさんと図書館で初めて会った日から、まだ二週間も経っていない。
 受付の人なら、何かを知っているはずだ。よし。

「華。いつまでもぶつぶつ言いながら照れてないでこっちを向け」
「照れてないですよ! ……何か話でもあるんですか?」
「今から図書館に行こう。この本を作り直したのが誰か、徹底的に調べてやる」
 華は照れた顔を一変、渋面を作った。そしてそのまま俺の目を見つめてくる。
 もしかして、手伝うのが嫌なんだろうか。
 一人より二人の方が助かるんだが、華が嫌だと言うなら、一人でやるしかない。
「調べるってことは、さらに深入りするつもりですか?
 今までも危ない目に遭ってきたのに、今度は自分から首を突っ込むと?」
「そうだ。そうしなきゃ、いつまでもこの状態が続くからな」
「――提案があります」
 華が右手を小さく挙げた。
「言ってみろ」
「今後、あの二人に関わる一切の行動を行わない、というのはどうですか」
「……却下」
「あのですね、おにいさん。私はただ嫉妬心や独占欲から言っているわけではないんですよ。
 考えてみてください。菊川かなこや十本松あすかに関わるようになってから今まで、
 どれだけ危険な目に遭ってきましたか?」
「えーと……」
 片手で指を折って数える。かなこさんに会った当日のチョークスリーパー、睡眠薬、逆レイプ、
絞殺されかける、爆発事件、十本松の発砲事件、回し蹴り――その他多数。
 いかん、何度指を折ったか忘れてしまった。数え切れないほどある。
「分かったでしょう? 自分がどれだけ災難に見舞われたか。全ては菊川かなこに関わったからです。
 事実として、あの女はおにいさんに害をもたらしています。
 それだけではなく、おにいさんの体に毒まで仕込みました」
「……二人に対する異常反応のことか」
「そうです。これ以上関わったら、それこそ命が危なくなります。
 だからもう……この町から離れませんか?」
123ことのはぐるま ◆Z.OmhTbrSo :2007/11/04(日) 01:49:21 ID:eHyIlQrB
 離れる?高校卒業後に就職して、今まで過ごしてきたこの町を?
 そりゃ、今でもこの町に住んでいるのは、惰性に流されているからでもあるけど……。
「おにいさんの実家に、おじさんとおばさんが住んでいる家に帰りましょう。
 別に喧嘩別れとかしたわけじゃないんですから」
「あ、ああ……でも、この町には香織が住んでいるし」
 香織は元は俺の実家の近くに住んでいた。
 だけど、俺が会社を辞めたと聞いて、この町に引っ越してきた。
 そのことを聞いたのはコンビニのアルバイト店員として再会した後だ。
 あの時は偶然もあるもんだ、と思ったが今なら香織の考えがわかる。
 香織はきっと、俺の後を追ってこの町にやってきたんだ。
 俺に会うためだけに、人見知りな性格をしているくせに、たった一人で。

「それに、たぶん俺が引っ越したって聞いたら、また実家に帰ってくるはずだぞ。
 前に聞いたら、手入れはしていないけど家はまだ残ったままだって言っていたし」
「なら、どこに引っ越したか伝えなければいいんですよ。
 ついでに携帯電話も着信拒否にしてしまえば完璧です」
「あのな。香織と俺は……付き合ってるんだぞ。ちゃんと話したはずだ。
 着信拒否にするわけあるか。携帯はお前には渡さないぞ」
「ええ。お付き合いのことはもちろん知っていますよ。不愉快な事実ですけど。
 そこで、二つ目の提案です。これはかなり個人的な感情が入っているものになります」
 華の右手がピースサインをつくった。
「おにいさん。天野香織さんと別れてください」
 そして、メニューでも注文するような気軽な口調でそう言った。

 ……言うだろうな、とは思っていたさ。引っ越しの話を出してきた時点でな。
 俺自身も、しばらく会わないようにしよう、と香織に提案するか悩んでいたところだ。
 顔を合わせたら香織を無意識のうちに傷つけてしまうと分かっていて、香織に会うことはできない。
 その先に香織との関係が破局が待っているかもしれない、と不安混じりに思ってもいた。
 だけど俺は香織が好きだ。別れたくない。だから、華の提案を呑むことはできない。
 けれど、しばらく会えないことを伝えるだけなら。
 それだけなら香織もきっと受け入れてくれるはずだ。
124ことのはぐるま ◆Z.OmhTbrSo :2007/11/04(日) 01:51:36 ID:eHyIlQrB
「私が言ったことはただの提案ですから。どうするかはおにいさんの勝手ですよ。
 実家に帰るか、香織さんと別れるか。どうします?」
 違う。図書館に行くか、実家に帰るか、香織にしばらく会えない旨を伝えるか、だ。

 図書館に行ったら、この体の異常を解決するヒントが得られるかもしれない。
 体が正常になったら、引っ越しもせず、香織とも別れずにいられる。

 実家に帰っても……なにも進展はないだろう。華はあの二人に会わせないつもりで提案したようだけど。
 香織とかなこさんにしばらく会えなくなるな。いや、今でも会わない方がいいんだったな。
 帰るとしたら、二人には一言も告げずに帰らないと。香織はおろか、かなこさんまで追って来かねない。

 香織に、しばらく会えないとメールするならいつでもできる。 
 だけど、こういうことは正面から話したい。
 俺と会うのは香織にとって危険だが、体に注意を払っていれば香織に手を出さずに会話を終わらせること
だってできるはずだ。図書館に行くのはそれからでも遅くない。
 
 考えろ。今から俺がどう動くべきかを。


 今の俺がとるべき最善の行動は、


 A:図書館に行って本を作り直した人物を明らかにすることだ。
 B:香織とかなこさんには黙ったまま実家に帰ることだ。
 C:香織にしばらく会えないと伝えることだ。
125名無しさん@ピンキー:2007/11/04(日) 01:53:46 ID:eHyIlQrB
今回の分は終わりです。もちろん次回へ続きます。

Aはかなこルート、Bは華ルート、Cは香織ルート、になります。
126名無しさん@ピンキー:2007/11/04(日) 01:55:46 ID:4eIp2yf7
一番やり?GJっす。

Cでおながいします!
127名無しさん@ピンキー:2007/11/04(日) 02:05:45 ID:AdSuUI5h
Aだぁ!
128名無しさん@ピンキー:2007/11/04(日) 02:21:23 ID:+dylfxNB
GJ!更新があって嬉しいです。
どのルートになろうともつづきを楽しみにしてます。
が、希望は出させてもらいます。というわけでB
129名無しさん@ピンキー:2007/11/04(日) 02:40:45 ID:6NzU1czD
>>128
乙Cで!
130名無しさん@ピンキー:2007/11/04(日) 03:38:13 ID:IQ8FU/Yf
乙。
どのルートでも謎は解明されるのだろうか。
俺は華派なのでB。
131名無しさん@ピンキー:2007/11/04(日) 04:10:37 ID:4OM3H9Mx
あああああ。
なにも考えなかったらAなんだけど華派の俺はどうしたらいいんだあー!

rァB
132名無しさん@ピンキー:2007/11/04(日) 07:39:50 ID:BsusMsOM
華派なのでBで
それとGJです!
133名無しさん@ピンキー:2007/11/04(日) 11:37:44 ID:+lJAsLfE
Cでお願いします
134名無しさん@ピンキー:2007/11/04(日) 13:10:58 ID:oXif/L4A
Cで
135名無しさん@ピンキー:2007/11/04(日) 13:27:16 ID:g7vMoH8r
うーん……でもここまできたら全ての謎の答えが知りたい
ってことでA
136名無しさん@ピンキー:2007/11/04(日) 13:51:10 ID:0Nj53ogH
もちろんCで!!
137名無しさん@ピンキー:2007/11/04(日) 14:51:02 ID:+H+W3kN1
C希望です
138名無しさん@ピンキー:2007/11/04(日) 17:16:58 ID:kTX3Z//F
び…Bで
139名無しさん@ピンキー:2007/11/04(日) 18:20:58 ID:i/Ro0+Sf
Aで…
てゆーか、全部見たいorz
140名無しさん@ピンキー:2007/11/04(日) 18:42:13 ID:HS8GFR1z
全部知るならA
生き延びたければB
誠実さを求めるならC
ぐああどうすりゃいいんだー!


Cで。
141名無しさん@ピンキー:2007/11/04(日) 19:11:14 ID:M3hZPOUO
大丈夫、どうせ全部を満たすDルートがあるって
142名無しさん@ピンキー:2007/11/04(日) 19:29:00 ID:58YIGly+
おれはイケヤン
143名無しさん@ピンキー:2007/11/04(日) 22:12:24 ID:lyVpd9jd
Cでお願いします!
144名無しさん@ピンキー:2007/11/05(月) 04:51:11 ID:1MxcAGC4
ここまで来たら香織とハッピーエンドを迎えて欲しい。

よってC!
145溶けない雪:2007/11/05(月) 18:29:18 ID:7DZdiTvy
遅れました
駄文投下します
146溶けない雪:2007/11/05(月) 18:31:06 ID:7DZdiTvy
7

携帯から、今流行りのアーティストの着歌が流れた。
着歌の曲から、鳴った理由がメールだという事は直ぐに分かった。
慣れた手つきで携帯を開きメールを見てみると、
やはりというべきなのか、予想通り差出人は水無月さんだ。
予想通りというのは、メールアドレスを交換したばかりなら、
とりあえずメールアドレスを交換した人とメールをする事がよくあるからだ。
同時に、最初のメールは相手と話が合うかどうかを調べる、
戦闘における言葉で表すと前哨戦に値するので舐めてはいけない。
最初のメールで15件位は続かないと、直ぐにメールをしなくなる可能性が極めて高い。
登録しているのにメールをしていない人と会うと、
気まずくなりやすいというオプションがもれなく付いてきたりもする。

そんなどうでもいい意見はともかく。、
まずはメールの内容を見る。
(これからよろしくね〜)
……当たり障りはないけれど、これだけで話が広がるのか?
とりあえずはこちらもメールを返そう。
(よろしくね)
送信し終わり約15秒位で直ぐにメールが返ってきた。
少し早すぎる気もしたが、内容が薄いのだろうと思い、
メールの内容を見る。(えっと……
いきなりで驚いちゃうかもしれないけど、以下の質問に答えてね
好きな食べ物
嫌いな食べ物
身長
趣味・特技
血液型
寝る時間帯
今現在好きな人がいるかどうか
もしくは付き合ってる人がいるかどうか

以上が
知りたい事かな)
メールを読み、一旦携帯を閉じる。
そして、
誕生日のケーキの蝋燭の火を消すみたいに息を吹く。
内容が薄い?
むしろ濃いだろ
とにかく、驚いた。
質問に驚いたのではなく、
あの短時間でこの量の文のメールが返ってきた事がだ。
物理的に無理な気がするのだが………
147溶けない雪:2007/11/05(月) 18:32:13 ID:7DZdiTvy
ではどうやってあれだけの量を送る事が出来たんだ?


…………そうか、
予め質問をメモ辺りに書いて保存しておいたんだ。
きっとそうに違いない。


それにしてもメールで質問か…
なんか違和感を感じざるを得ないのだが、
元々は興味があるとの事、それを考慮すれば質問位あるのだろう(多分)
くると分かっていても、2件目のメールでされるとは思わなかっただろうが。
(好きな食べ物はシチュー
嫌いな食べ物は特になし
身長は去年のデータによると173センチ位
趣味 特になし
特技 実は料理が得意だったりする
血液型 AB型
寝る時間帯 12時
好きな人
や付き合っている人がいるか 残念ながらというべきか居ない

と、まぁよくそこらへんに居そうな人だよ)
細かく自己紹介をした気分だ。
しかし、他は分かるとして、
寝る時間帯は一体何の為に聞くのだろうか。
夜中に寝ている時にメールしてこちらを起こさない為かな?
もしそうならかなりの気遣いだな……
気付くと、メールの返信が届いていた。
またさっきと同じような慣れた手つきで携帯(実は結構練習した)を開ける。
さっきみたいに驚く事は多分もうないだろう。
そう思い、視線を、携帯の画面に落とした。(ありがとう
お陰で助かったよー)

はて、
助かった?
一体何が助かったのだろうか?

質問に答えてお礼を言われるのは分かるのだが…………


メールだと伝わりにくいという事はよくある事だ。
きっとこれも伝わりにくいメールだったんだ。
勝手に納得しておこう。
深く考える必要ないし。
148溶けない雪:2007/11/05(月) 18:33:15 ID:7DZdiTvy
少し返信が遅れてしまったので、急いでメールを返信する。
内容を打ち、返信ボタンを押そうとする。
その時だ。
近くでなった轟音が―――正確に言うと目の前からなった―――
右耳を貫き、左耳から出ていき、脳を揺らした。
それと同時に、自分の視点が急激に低くなる。
あまりの事に、心臓が一瞬止まった気がした。

何が起きたのか分からず、しばらく呆けていたが、
肩を叩かれてハッとなり直ぐに後ろに振り向いた。
そこには見憶えがない、初対面のおじさんが立っていた。
「大丈夫かね?」
「は?」
いきなりの問いに思わず聞き返してしまった。
「分かってないのかね?トラックに君は跳ねられそうだったんだよ」
「え………」
おじさんの言葉を聞き、辺りをキョロキョロ見回す。
状況把握というやつだ。
辺りを見回して気付いた。
人が視界に写ると足しか見えていない上、
周りにある家や車等がいつの間にか大きくなっている。

何故足しか見えていないのか、
答えは単純、尻餅を付いて僕の視点が下がっていたからだ。
今更だが、目の前にいるおじさんも屈んで僕に視線を合わせていた。
気付いたからにはいつまでも尻餅を付いてるわけにもいかず、
よっこらせっと親父臭い事を言いながら立ち上がる。
視点が回復し、何故、さっきの突然の状況が発生したのかが分かった。
ここは…………信号だ。

さっきの轟音も、目の前にいるおじさんが言うには、
トラックが僕の目の前を通過したからか……

どうやら、考え事に没頭している時に、
横断歩道まで来ていたと気付かずに歩いていた。
そして、信号が赤なのにも関わらず、
横断歩道を渡ろうとした。
そして目の前をトラックが通過、そ
の事に驚き僕は尻餅を付いて呆けていたというわけか。
……ってあれ
149溶けない雪:2007/11/05(月) 18:35:15 ID:7DZdiTvy
もしかしてもう少しで死ぬ所だったんじゃあ…………………
まじで?


おじさんから注意の言葉を有り難く頂戴し
、帰るまで携帯の電源を切ってまた帰る為に歩き出す。
人は学習するのだよ。

ようやく家に着く事が出来た。
移動した時間自体は10分位なのだろうが、
今日の10分程忘れない10分はないだろう。
なんていったって、危うく死ぬ所だったのだから。
人は簡単な事で逝くという事を今日改めて実感した。

そういえばまだ水無月さんにメールを返していない事に気付いたが、
もう疲れたから寝たいという欲求と、
メールの内容的に返信しなくてもよさそうな感じなので、送るのをやめた。
シャワーを少し浴び、着替えてベッドにダイブ。
したのだが、今は仕事で居ない親に今日はもう寝るからと、
連絡を入れてなかったのでベッドから降り、家にある電話で留守電を入れておく。

さて、やる事をやったし寝よう。
そうしてベッドに潜り、意識が遠のいていくのを感じた。

幸いにも明日は土曜だ……………昼まで寝てよう。


朝、昨日夕方に寝たツケなのか、
いつもより早めに目が覚めてしまった。
まだ寝ぼけ気味だが、
僕は一度起きたら二度寝をする事が出来ないので起きるしかない。
今の時刻を確認する為にベッドの近くにおいてある携帯を開いた。
しかし、今気付いたが昨日から携帯の電源を消したままだった。
少しムカツイたが、
たかが数秒の手間にわざわざケチをつけようとは思わなかった。
消してたの自分だし。


やっとの事で電源が付き(やっとと言っても数秒だが)、
携帯の画面を見た瞬間に完璧に目が覚めた。
別に携帯の画面を見ると目が覚めるとかそういう体質という訳ではない。
目が覚めた理由、それは、



メール件数16件
150溶けない雪:2007/11/05(月) 18:36:19 ID:7DZdiTvy
メールの量の多さだ。
え?なんで?
というのが最初の感想。
次の感想が
雲海辺りがイタズラメールでもしたのか?
といったものだ。
無理もない、今までメールといえば溜まっていて6件だったのだ。
その記録が、いきなり朝起きたら2桁行ってましたみたいな感じで、
塗り変えられているともうなにがなんだか分からなくなる。
とりあえずは差出人を見る事にする。
話はそれからだ。
まぁ、きっと雲海辺りがイタズラしたとかいうオチだろうと楽観していた。
しかしそれは受信ボックスを見た瞬間に楽観は崩れる。
(まだ聞きたい事があるんだけどいいかな?)
(どうしたの?)
(取り込み中?)
(ねぇ)
(まだ取り込み中?)

見たのはここまでだが、
恐らく残りのメールも同じ様な内容だろう。
一言、言う事があるとすれば、

これはシャレなのか?というとこだ。

そうだとしても正直笑えない。

かなり怖い。
メールは全て同一人物。
しかも、雲海や夏夢みたいにこれといって親しい友人でもなかった。








メールの差出人は、全て水無月さんだった。


151溶けない雪:2007/11/05(月) 18:37:44 ID:7DZdiTvy
投下終了。 
描写を読んだり書いたりして練習してますが
相変わらず難しい^^;
152名無しさん@ピンキー:2007/11/05(月) 19:28:08 ID:KLvcda8N
>>151
乙乙
水無月さん早くも病んで……メール16件ぐらいではヤンデレとしてはまだ初期か。
153名無しさん@ピンキー:2007/11/05(月) 19:43:19 ID:ogiMY/af
>>151
GJ!
>>152
重度のヤンデレなら一晩にメール500件とか3桁は余裕だからなw
154名無しさん@ピンキー:2007/11/05(月) 19:50:29 ID:nYjgWotd
まあ初期だしこの段階で3桁は早いてw 向こうも無条件にヤンでくれるわけではないし
155名無しさん@ピンキー:2007/11/05(月) 22:47:20 ID:YONr8Wxx

 この物語の主人公こと山田太郎は、名前からして何の変哲もない、ごく一般的な平均少年だった。
 だがある日、ちょっとしたことがきっかけでクラスメイトの美少女闇月杉江に惚れられてしまって以来、彼の日常は一変する!
 昼夜問わず一方的に送られてくる大量のラブメール、振り向くと常に彼女と視線が合う恐怖。
 肩がぶつかったといちゃもんをつけてきた不良たちは次の日川に浮かんでいるところを発見され、
 ほんの少しだけ言葉を交わした少女は、次の週から極度の対人恐怖症を患って学校を休むようになってしまう!

 そんな狂った日常に耐え切れなくなり、太郎はついに自由への逃避を開始する。
 しかし、どこまで逃げても杉江は追ってくる! 裏路地も田舎町も山の中も、太郎がいる限りどこにでも現れるのだ!
「お前は一体なんなんだ!?」
「これこそ愛のなせる技よ!」
 へとへとに疲れきった太郎は、逃亡途中に見つけた廃屋に身を隠し、ようやく人心地つく。
 だが休んでいる暇はない。今度は謎の怪物が、突然太郎に襲い掛かってきたのだ!
「GYOHEEEEEEE!」
「なにこれどうなってんの!?」
「危ないタローちゃん!」
 血染めの斧を振るう杉江の手によって、何とか窮地を脱出する太郎。
 しかし、その廃屋は既に怪物の群に取り囲まれていたのである!
「なにこの展開!? ここはヤンデレスレのはずじゃないのか!?」
「いいじゃんいいじゃん、ああ、タローちゃんと二人きりで、わたしとってもハッピー☆」
 鼻歌混じりに斧を振り回す杉江に守られながら、太郎は必死で逃げ回る。
 そして屋敷の一番奥で、謎の研究施設を発見するのである。
「な、なんだこりゃ!?」
「ああ、見てタローちゃん、あそこに変なロボットがある!」
 杉江の指差す先には、一振りの大剣を装備した謎の巨大ロボットが。
 その目の前で装置を弄っていた謎の老博士が、厳かに説明する。
「うむ、見つかってしまったか。このロボットはヤンデルカイザー。
火の如き感情をエネルギーとして起動する、無敵の剣神なのじゃ!」
「一体どんなSSなんですかこれ!?」
 太郎の突っ込みが空しく響く中、博士は緊張した表情で言う。
 この地球に危機が迫っている。
 敵は宇宙の彼方からやって来る巨大異星人で、外に溢れる怪物もその尖兵なのだという。
「奴らに対抗できる唯一の手段、それがこのヤンデルカイザーなのじゃ。
しかし、人間の感情を原動力とするこのロボットを動かせる人間は、未だに見つからん。
操縦者には火の如き激しい情動が必要なのじゃからして」
「あのー、すんません、僕帰ってもいいですか?」
「ダメだよータローちゃん。さ、一緒にこのロボットに乗ろうね」
「なんでさ!?」
「うふふ、感情で動くロボットなんて、わたしのタローちゃんへの愛を証明するのにピッタリだわ☆」
「いらないからそんなの!」
 嫌がる太郎を無理矢理引き摺って、杉江はヤンデルカイザーに乗り込む。
 その瞬間、凄まじい咆哮を上げながら、ついに起動する無敵の剣神。
 杉江のドス黒い愛が凝縮したものか、白かったはずの機体は一瞬にして漆黒に染まる。
「うわ、本当に動いたし!」
「やったね! 見た、タローちゃん。わたしの愛は無限大なのよ☆」
「いやだなあホントにもう!」
 こうして、ついにこの日本に無敵のロボットが降臨したのである!
「さあ行くよヤンデルカイザー! タローちゃんに手を出す女は、みんなまとめて一刀両断だあああぁぁぁぁっ!」
「いや、敵を斬ろうよ! 敵を!」
 行け、我らがヤンデルカイザー!
 (ごく限定的な)正義の名の下に、並み居る敵を斬り捨てるのだ!

 火情剣神(かじょうけんしん)ヤンデルカイザー
 ヤンデレスレにて、永遠に未公開予定!
156名無しさん@ピンキー:2007/11/05(月) 22:49:22 ID:YONr8Wxx
KY? でもそんなの関係ねぇ!

ロボット物とかでさー、感情を原動力に動くロボット、とかってあるとするじゃん?
そういうのにヤンデレ美少女が乗ったら、物凄く強くなりそうじゃね? イデオン並の破壊力になりそうじゃね?
という訳で、そういう馬鹿馬鹿しいSSもキボンしておく。
157名無しさん@ピンキー:2007/11/05(月) 23:47:43 ID:Nv77wCta
ヤンデレっ子に核鉄を持たせろということか
158名無しさん@ピンキー:2007/11/06(火) 00:26:54 ID:TZmN4t7T
どちらかと言えば最終兵器彼女かもしれん
159名無しさん@ピンキー:2007/11/06(火) 12:06:34 ID:QecQq7y8
男側がちょっとでもほかの女と仲良くしすぎたら世界が滅ぶな
160名無しさん@ピンキー:2007/11/06(火) 13:09:15 ID:9BsSe4Z7
溶けない雪GJ

ヤン初期ktkr
次の展開に期待してる

最終兵器彼女吹いたww
161名無しさん@ピンキー:2007/11/06(火) 16:56:03 ID:rZSh3Fkk
水無月さん、溢れ出さんばかりの素質だなぁ。まだ声かけて同じ委員になっただけなのに。
162名無しさん@ピンキー:2007/11/06(火) 17:49:48 ID:9BsSe4Z7
さりげなく張ってる
伏線に期待するしかないな
163名無しさん@ピンキー:2007/11/06(火) 18:38:02 ID:0zf7TLzy
>>156
お前wwwwwwwwwwwwww
思わず草を生やしてしまったじゃないか。
164名無しさん@ピンキー:2007/11/06(火) 22:14:24 ID:bz3pqDuv
着信暦:167件
電話線をぶち抜いてやった。
165名無しさん@ピンキー:2007/11/06(火) 23:12:48 ID:3amk7y1S
>>156
ヤンデレがレンジマンだったら大変なことになるな。
166名無しさん@ピンキー:2007/11/07(水) 00:23:38 ID:BrW9Rc1i
「愛しい人の記憶無くすぐらいなら死ぬ!」って感じで変身しなさそうだ
167名無しさん@ピンキー:2007/11/07(水) 23:07:59 ID:wslSKlsG
最近臨時保管庫の和菓子と洋菓子がやたら更新されてるんだが
ひょっとして作者さんが誤字訂正とかしてるのかな?
168名無しさん@ピンキー:2007/11/07(水) 23:12:14 ID:YkeCRCd9
「吐きたいほど愛してる」という小説の短編集を読んだ。
登場人物ヤンデレ(基地外も)多くてワロタw
169名無しさん@ピンキー:2007/11/07(水) 23:49:04 ID:gZPs9MBa
確かに自分で誤字訂正できるのは嬉しい
別に俺が書いたSSなんてないけど
170名無しさん@ピンキー:2007/11/08(木) 21:56:43 ID:hpqeaK1w
>>156
ロボット自身がヤンデレ化っていうのは前にも誰かちょっとネタにしてたけど
あれは結構面白そうなんだけどなあ。俺には文才がないorz
171ヤンデレ家族と傍観者の兄 ◆KaE2HRhLms :2007/11/09(金) 00:33:22 ID:sFzVob2v
投下します。文化祭編です。
172ヤンデレ家族と傍観者の兄 ◆KaE2HRhLms :2007/11/09(金) 00:34:46 ID:sFzVob2v
 近頃の俺は欲求不満の状態にある。
 他人が欲求不満と言っていた場合、大抵の人間はいかがわしい方向の欲求であると考えるだろう。
 もしくは食欲が満たされないだとか睡眠時間が足りていないという意味で受け取るかもしれない。
 だが俺の場合の欲求不満はそれとは種類が違う。
 創作意欲。これが満たされないのである。

 友人たちの中でも知る人ぞ知る俺の趣味は、プラモデル作りである。
 俺はどうやら完璧主義者のケがあるらしく、少しでも色合いがおかしかったり小さな部品が欠けている
だけでも落ち着かず、結果的にプラモデルを一つ作り上げるだけでも一ヶ月は余裕でかかってしまう。
 毎日毎週欠かさずにプラモデルを作っているにも関わらず、である。
 そんなペースだから、一日の制限時間である24時間をもっともっと有効に活用したいと思っているし、
作業台に向かう時間もさらに増やしたいと考えている。
 そこでどうしてもネックになるのが、学校に行っている時間だ。
 学生――いや高校生は生徒と呼ぶのか。
 ともかく生徒である以上、朝は遅刻しないよう学校へ行き、午前中の授業を受け、昼食を食べ、
午後の授業を受けなければならない。その後は俺の場合は帰宅部なので即帰宅となる。
 すでにこの時点で一日の大半を消費している。大きなタイムロスである。

 それからようやく、趣味である模型作りに没頭できる……とはいかない。
 その日に受けた授業の内容を復習し、宿題を全て片付けなければならないのだ。
 弟は俺のこんな習性を見て感心しているようであるが、俺はやりたくてやっているわけではない。
 勉強が生徒の仕事だからやっている、という綺麗事を言うつもりはない。
 無論、学業の重要性はわかっている。だが俺のような趣味人間は成績などさほど重要視しない。
 だというのになぜ俺が月曜から金曜までまじめに勉強をしているのかというとだ。
 これも困ったことに俺の性格がそうさせているのである。

 たとえば、俺が宿題をせずに模型作りを始めたとしよう。
 宿題という己の身に課せられた使命を無視した場合、プラモデルの出来がひどいものになる。
 著しく見られる傾向としては、技が雑になる。簡単に言えば手元が狂いやすくなる。
 面相筆(塗装に使う筆のうちで最も細い筆)で溝にスミ入れをやったらラインを外す。
 スプレーを使って塗装していたら吹きすぎて塗料を垂らしてしまう。
 ニッパーでクリアーの部品を切り取っていたら力加減を誤ってヒビを入れる。
 普段ならば絶対にやらない単純なミスをことごとく繰り返してしまうのだ。
 その症状が、復習と宿題をきっちりやり終えた後であればいつもの調子に戻ってしまう。
 おそらく――いや、これしか考えられないが、俺は心残りがあると集中できない性格らしい。
 その事実を知ってから、今のように模範的な高校生の行いをするようになったのである。

 ちなみに、復習と宿題が終わるのは早くて夕食前の七時ごろ。遅かったら九時になる。
 それから風呂に入ったり、弟から要請があったら勉強をみたり、妹の殺意混じりの瞳を受け流したりして、
ようやく模型作りを始めることができる。
 しかし。しかしである。
 我が家には最大の敵、血の繋がった兄の子を産んだアウトローの母がいる。
 母は俺がプラモデル作りをすることをよしとしていない。
 母はシンナー系の匂いを苦手にしているのだ。
 俺が部屋に篭っていると、母は防塵マスクを装着してまで部屋のドアをノックして邪魔をする。
 作業中のノックの音は著しく集中力を乱す。母も当然それをわかっているのだろう。
 もちろん俺も母が邪魔をしてくる状況に手をこまねいているわけではない。
 廊下にラッカー塗料(ラッカーはシンナーの匂いがきつい)を魔除け代わりに置いて対抗している。
 俺の部屋には換気扇があるが、廊下には換気扇など設置していない。
 塗料を置いている間だけは母は近づいてこないのである。
 しかし、いつまでも置いておけるわけでない。
 父と弟と妹からも苦情が来るため、頃合いを見計らって塗料を回収しなければならないのだ。
 母が邪魔をしにくる。俺が塗料を置く。家族からの苦情を受けて塗料を回収する。
 おおまかにはこんなサイクルで俺と母の戦いは行われている。

 このように、家庭における俺の創作環境は理想的とは言い難いものなのである。
173ヤンデレ家族と傍観者の兄 ◆KaE2HRhLms :2007/11/09(金) 00:36:17 ID:sFzVob2v
 そんなわけで、普段から軽い欲求不満にある俺であるが、最近はとみに機嫌が悪い。
 現状は何の障害もなく創作できる環境にあるのに、周囲の人間の協力が得られない状態である。
 学校全体が何らかの物作りを行っているというのに、俺の周りの人間は無気力な野郎女郎ばかりで、
物作りなどよりその日の昼食の方が大事らしく、協力が得られない。

 ちくしょうめ。文化祭開催の一週間前なのに、どうして俺のクラスはやる気がないんだ!

*****

「先生。新しいアクセサリーの提案があるんですが」
「却下します。もう文化祭の予算に余裕はありません。作るのなら自腹で作ってください」
「じゃあテーブルに置く小物なんかどうですか。さすがにテーブルクロスだけじゃ味気ないと思いません?」
「思いません。必要なものは小説本くらいです。余計な装飾は読書の邪魔になります。
 大人しく本を読んでいてください。喫茶店を成功させるためには皆が本を読むことが必要です。
 店員は文学についての最低限の知識を持っていないといけません」
 そう言って、我がクラスの担任の国語教師は手元にあるハードカバーの本に視線を落とした。
 ああ、今すぐ両手でハンマーを作ってこの独身女教師の無防備な後頭部に打ち下ろしたい。
 もちろんやらないけれど、誰かのGOサインがあればそいつに責任をなすりつけて実行しかねない。
 それほど今の俺はイライラしている。
 なぜ俺が大正時代の小説家の本など読まねばならん。
 何が楽しくてうちのクラスが文化祭で純文学喫茶を催さなければいかんのだ。

 純文学喫茶とは、漫画喫茶の純文学バージョンである。命名は担任。
 なんとも安直なネーミングである。もう少し頭をひねってくださいこの三十路越え独身教師。
 色気が足りません。もっと遊んでください。
 そんなんだから「活字と結婚した女」なんて噂が流れるんですよ。
 落ち着いた雰囲気がいいとか、葉月さんが成長したらこうなるだろう、とまで生徒の間で噂されるほど
容姿がいいくせに、どうして毎日セーターとジーンズとスニーカーなんて組み合わせなんですか。
 もったいないにも程があります。宝の持ち腐れとはあなたに一番ふさわしい言葉ですよ。
 たまにはスーツぐらい着たらどうです。シャツの胸元を少し開くぐらいなら許されますよ。――年増でもね。

「どうかしましたか? まだ何か提案でも?」
 提案しても即却下するくせに。
「……なんでもないです。戻ります」
 回れ右をして、教壇から下りて自分の机――を合体させている机の集合体へと戻る。
 クラスメイトと机を合体させているのは、文化祭の準備作業をするためである。
 しかし、うちのクラスはすでに小道具の用意を終わらせているので、小説本を読むぐらいしかやることがない。
 俺にとってはなにもしていないのと同じである。
 自分の席の上には、大正時代に活躍した小説家の書いた本が置いてある。
 読む気がゼロであるため、当然ページは開いていない。ただの机のオブジェである。
 ただでさえ文学に興味がないというのに、なんたら喫茶を成功させる目的で読むわけがなかろう。

 机に左腕を立てて、顎を乗せる。そしてため息をひとつ。
 向かいの席に座っている女子生徒が、本に落としていた視線を俺に向けた。
 入学当時から美しい容姿を持ち、今では一年の頃よりずっと綺麗になった葉月さんである。
「おかえり。どうだった……って聞くまでもなさそうだね」
「うん。せっかく葉月さんに考えてもらったんだけどさ。作るのなら自腹でやれ、だと」
「自腹かあ……私が出そうか?」
「いやいや、さすがにそこまでは――」

 その時、唐突に視界がぶれた。
 自分がクラスメイトに殴られたと気づいたのは、こめかみから脳天へ突き抜ける痛みのピークが通り過ぎてからのことであった。
「葉月さんが出すんなら、俺もだす!」
「俺もだ。ただ喫茶店をやるだけじゃ面白くないからな」
「せっかくだから、新しい衣装を買おうぜ! そしたら葉月さん、着てね!」
 同じ机の集合体を形成していた野郎どもの野太い声が遠くから聞こえてくる。
 それは俺の聴覚が狂っているからであって、男どもとの距離が離れているからではない。
 どいつもこいつも勝手なことを。秋でも汗の臭いがしそうな貴様らにつきまとわれたら葉月さんが困るだろうが。
174ヤンデレ家族と傍観者の兄 ◆KaE2HRhLms :2007/11/09(金) 00:38:05 ID:sFzVob2v
 葉月さんへと視線を向ける。葉月さんは俯きながら何か呟いていた。
「よくも……殴…………ね。切り裂い……次に窓から…………投げ……捨て……」
 おや、チキチキという音が聞こえてきたよ。
 この音はカッターの刃を出す音に似ているね。
 なんだか、葉月さんの垂れた前髪から覗く目がギラギラと光っている。獲物を発見した肉食動物の如し。
 葉月さんが立ち上がった。彼女の右手から飛び出している物はカッターナイフの刃。
 蛍光灯の光を鈍く反射する刃には等間隔で斜めに切り込みが入れられていて菱形のそれぞれに
殺意が宿っているかのようで――いかにも危険で流血沙汰の事態を招きそうだっ!
「まずは耳を――」
「葉月さんっ!」
 机の上に身を投げ出して葉月さんの右手を掴む。
「痛っ!」
 距離がありすぎた。葉月さんの手と一緒にカッターの刃を掴んでしまった。
 だがこれでいい。クラスメイトの命の灯火を消すよりは俺の手の皮が切れた方がマシである。

「あ、あれ? どうして私の手を掴んでるの?」
 皮膚を圧迫していた殺気が霧散した。葉月さんの瞳はすでに明るい色を取り戻していた。
「ああ、実は蚊が止まっていたから、ついね。ほら、血が」
 血の付いた手の甲を葉月さんに見せる。手のひらは到底見せられる状態ではないから。
「えっ……ちょっと、大丈夫なの?」
「平気平気。ちょっと洗っておけば問題ないよ」
「そう? なら、いいけど……ありがとう」
「いやいや。それより、アクセサリーの件はなしで。俺の勝手でみんなに金を払わせるわけにはいかないよ」
「えー……」
 葉月さんはしょぼんとした顔のまま、上目遣いで見上げてきた。
 葉月さんがやると恐ろしい破壊力である。さっきまで攻撃色に染まっていたとは思えない。
「あー……また来年もあるから。その時でもいいよ。俺は」
「わかった。でも、やりたくなったら言ってね? いつでもいいからね?」
「覚えとくよ」

 教室から出てトイレへ直行する。蛇口をひねり、握りしめていた手を開く。
 傷口からあふれ出した真っ赤な血は握っていた手の隙間に染みこみ、手のひら全体を紅く染めていた。
 よく見てみると、薬指と小指の関節が軽く切れていた。
 軽く指を動かす。うむむ、やっぱり傷口まで開くな。
「こりゃ、保健室に行った方がいいかな」
 そうだな。どうせ教室に戻っても読みたくもない本を読むか、寝るかしか選択肢がないんだから。
 今から保健室に行って治療ついでにさぼってしまってもいいだろう。
 水に浸したハンカチで血を拭い、傷口を押さえながら保健室へ向かう。

 俺の所属する二年D組は三階建て校舎の二階の奥にある。
 D組から保健室へ向かう際には、どうしても他の教室の前を通ることになる配置である。
 文化祭一週間前ともなると、校舎のいたるところにポスターが貼られている。
 合唱、演劇、お化け屋敷、喫茶店、ジュース販売、映画上映などなど。
 ポスターは手作りであるがゆえに、生徒が楽しんでいることを感じさせてくれる。
 我ら二年D組のポスターは生徒ではなく、書道五段の担任が作成した。
 担任が自分が作ると言って聞かなかったのである。
 結果、『純文学喫茶』と力強くでかでかと書かれた文字と、『場所:校舎二階奥』と小さく書いてあるポスターができた。
 しかし、これはもはやポスターではない。書道の先生が書いた習字のお手本である。
 文字が書いてあるのは画用紙ではなくぺらぺらの和紙。達筆の文字は恐ろしく上手。
 ここまでやれば、ある意味で威勢の良さを感じさせてくれる。
 もしかしたら担任は担任なりに文化祭を楽しんでやろうと考えているのかもしれない。
 しかし、できるなら生徒も楽しめるように気を配って欲しかった。
175ヤンデレ家族と傍観者の兄 ◆KaE2HRhLms :2007/11/09(金) 00:40:51 ID:sFzVob2v
 そもそもだ。二年D組は純文学喫茶をやるつもりなどなかったのである。 
 事が起こったのは今日からさかのぼること二週間前、その日の帰りのHR。
 あの時、白熱した出し物議論は『コスプレ喫茶』と『演劇』にまで絞られていた。
 俺はどちらでもよかった。コスプレ喫茶でも演劇でも、服や装飾品、飾り物などは作り放題だから。
 うちのクラスには葉月さんがいるから、なにをしようと観客来客満員御礼間違いなし。
 いつまで経っても出し物が決定しなかったので、投票で決めようという流れになったころだ。
 教室に入ってきた担任が言ったのである。
『二年D組は純文学喫茶をやることになりました。すでに実行委員にも伝達済みです。
 皆さん、長の会議お疲れ様でした。今日はもう帰っていいですよ』
 あの時のブーイングの嵐はすさまじいものだった。
 しかし、撤回しろという生徒の声は、担任のもう受理されましたの一言で全て蹴られた。
 横暴もいいところである。美人なら何をしても許されるとでも思っているのであろうか。あの年増は。
 十代の葉月さんよりも干支が一周する年数以上に年が離れているくせに、よくもやってくれたものである。

 おかげでクラスメイトのやる気は削がれ、ここ二週間はダウナーな空気が常にD組を覆っている。
 これはパワーハラスメントではないだろうか。校長かPTA会長に直訴したら勝てそうな気もする。
 だが、気力ゲージゼロのクラスメイト達はすでに担任と争う気を無くしてしまっている。
 どうせ逆らっても無駄だ。ならせめて葉月さんの着物ウェイトレス姿を楽しもう……という意識が
最近の皆の心をかろうじて文化祭へと向けさせているようである。
 まあ、俺も楽しみだけど。葉月さんの着物姿。
 当日の写真撮影は許可すべきだな。ただしシャッター一回につき100円で。
 出し物のお茶やお菓子よりそっちの方が儲かりそうだ。

 そうだ。葉月さんと言えば。
「好きだって言ってたよな。俺のこと……」
 葉月さんが妹と俺を相手に我が家で大立ち回りをした日に、俺は彼女と電話番号とメルアドを交換した。
 その日の夜に、葉月さんからさっそく電話がかかってきた。
 嬉し恥ずかしの初通話は、葉月さんがやけにどもったり噛んだりするせいでわけのわからないまま終了した。
 どうやら葉月さんは電話器を通して会話するのが苦手らしい。
 以後、葉月さんとのやりとりはメールで行うことになった。
 告白の返事を催促するようなメールは来ないが、それ以外のメールはたくさん送られてくる。
 朝の挨拶から始まり、今日の天気や星座占いの結果などを教えてくれる。
 葉月さんとメールのやりとりをするようになってから俺はかなり浮かれている。
 最近の俺の様子は、弟曰く「兄さんは放っておいたら何も無いところで転びそうに見えるよ」。
 転びそうなのではない。時々、本当に転んでいるのだ。最近の俺の行動はドジそのものだ。
 油断したら電信柱にぶつかりそうになるし、階段は踏み外しそうになる。
 憧れの女の子からのメールで俺はここまで腑抜けになった。

 ため息を吐きたくなるぐらい、本当に腑抜けなのだ。まだ葉月さんに告白する勇気がない。
 告白したらOKをもらえることは確実だろう。だけど、分かっていてもそれができない。
 きっと、葉月さんは俺からの告白を待っている。
 登下校時や休み時間に俺と一緒にいようとするのは、そういうことなんだろう。
 そして、葉月さんから再度告白してくることは多分無い。
 「女の人からの告白ではOKを出せない」と俺が言ったからだ。
 面と向かっても、メールでも、告白する勇気がない。
 どうしたらいいのだろう。こんなことは誰にも相談できない。
 弟や父には恥ずかしくて言えない。学校の男子に言ったら袋だたきにされることは必至。女子は論外。
 なるべく早いうちに、その場の勢いでもいいから、何とかして言わなければ。
 ――葉月さんが俺に愛想を尽かすその前に。
176ヤンデレ家族と傍観者の兄 ◆KaE2HRhLms :2007/11/09(金) 00:42:07 ID:sFzVob2v
 考えているうちに保健室に到着した。授業中だから保健の先生もいるだろう。
 そういえば、保健室にくるのは身体測定の時以来だ。
 頑丈に産んでくれたことに関しては両親に感謝すべきだな。
 一応、礼儀として三回ノックする。……反応はない。誰もいないようだ。
「失礼します」
 引き戸を開き、保健室へと踏み込む。
 かすかに薬品の匂いを漂わせた保健室には誰もいない――はずなのだが。
「あ、先生。すいませんけどちょっと手伝って……あれ?」
 いた。椅子の上に。見知らぬ女子生徒が。
 女子生徒は着替えをしていたわけではない。だが、なんとなく気まずい。
 妹が体重を量っている現場に出くわしたような微妙な空気だ。
 彼女は、どういうわけなのか俺の顔を見て固まっていた。
 しばらく見つめ合っていると、彼女は何か思いついたように口を大きく開けた。
「あ、あなたは……!」
 何かに驚いた様子であった。俺の顔におかしい部分でもあったのか?
「初めまして。アタシ――――」
 女子生徒は笑顔を浮かべた。換え立ての蛍光灯のように眩しい笑顔であった。
 そこには一切曇りが無く、無垢であるが故に脆さまで含んでいた。
 だから俺は――保健室のドアを勢いよく閉めた。

「あ、あれ? あのー、先輩? なんで出て行くんですか?」
 扉の向こうにいる女子生徒が何か言っている。
 ――なんだ、あの子は。やばい。どれぐらいやばいかというと、葉月さんぐらい。
 いや、妹に詰め寄ったときやクラスメイトにカッターを向けようとしたときのやばさじゃなくて。
 そういう暴力的なものでなく――容姿が、レベル高すぎる。
 どうしよう。逃げたい。なぜか顔を合わせたくない。けど、もう一度だけ見てみたい気もする。
 違うんだ。別にあの子に一目惚れしたわけじゃなくって。
 怖い物見たさに似た、興味本位によるものであって。
 だいいち俺は葉月さんが……でもあの子をもう一目見たいし。

「ああ、ちくしょう! どうすればいいんだっ!」
「……あの、大丈夫、ですか?」
「はうっ!」
 頭を抱えた状態で天井を見上げていたら、女の子から話しかけられた。
 おそるおそる視線を下ろすと、そこには俺より背の低い女の子の上目遣いがあった。
「どこか具合でも悪いんですか?」
「あー……うん。実はちょっと怪我をしてね」
 右手を差し出すと、女の子が両手で掴み注意深く見つめてきた。
 駄目だ、ときめくな俺!
「指がちょっと切れちゃってますね。絆創膏貼らないと。中に入ってください」
「いや、これぐらいなら平気だから。だから、だから……」
 手を離してください、と言いたいのに言えない。
 むしろもう少し握っていてくださいとか言い――たくない! 言わないからな!

 女の子は俺の腕をぐいぐい引っ張り、保健室の中へと引きずり込んだ。
 保健室の空気は女の子がいることで様変わりしていた。
 まるで赤白黄色の球根から生えるユリ科の植物の咲きほころぶ幻想的な庭園の光景を思わせて――。
「いるわけがないだろうが!」
「ひゃっ?! ど、どうしたんですか、突然?」
「……ごめん。ちょっと疲れてるみたいだ。中で休ませてもらっていいかな?」
「ええ。私は構いませんけど」
177ヤンデレ家族と傍観者の兄 ◆KaE2HRhLms :2007/11/09(金) 00:43:13 ID:sFzVob2v
 許可をもらい、ベッドの方へ行こうとしたら、女子生徒に腕を掴んで止められた。
「……なに?」
「休む前に、やっておかないといけないことがあるんじゃないですか?」
 なんだって?俺が、やっておかないといけないこと?
 見知らぬ綺麗な女の子と保健室で二人っきり。ナニをする気なんだ?
 授業中とはいえ誰かが来ないとは限らない。
 保健の先生は留守。だけどひょっこり戻ってくるかもしれない。
 いけない。この状況はリスクが高すぎる。
 やるんなら放課後とか誰もいない教室とか――って、また変な方向に考えが行ってるぞ!
 落ち着け俺のMy脳ブレイン!

「たしか、アレはこのへんに……」
 女の子はがさごそと保健室の棚を探っている。
 アレってなんだ。わからない。自分が立っているのか座っているのかもわからない。
 女の子の髪の毛は肩に触れない程度の位置でカットされている。チラチラ見えるうなじが何とも色っぽい。
 学校指定の女子専用制服はどういうわけかミニスカートである。
 そのため目の前の女の子もミニスカートであり、丈の長さの影響で健康的なフトモモの裏側が、
俺の位置からはばっちり見えてしまっている。
 スカートから伸びた太ももは膝へ向かうにつれて少しずつしまっていく。
 足のラインはふくらはぎのわずかな膨らみを通り過ぎると細い足首で収束する。
 むっちりと肉感的でありながらも無駄のない、正真正銘の美脚であった。

 女子生徒はスカートを翻しながらターンすると、俺の方へと歩み寄ってきた。
「やっぱりこれ、ありました。これがあればもう安心ですよ、先輩」
「ぁぁ……ぅん」
 ドキドキして女の子の顔を見られない。いったい彼女は何を探していたのであろうか。
「それじゃ、ちょっとそこの椅子に座ってください」
 軽やかなソプラノの声は俺を丸椅子へと導いている。俺の腰は操られているようにそこに下りていく。
 女の子は手近にある椅子を持って俺の前へやってくると、椅子に腰を下ろした。
 行儀良く揃えられた膝の隙間とスカートが組み合わさり、そこに三角形の空間ができた。
 ちょっと背筋をのけぞらせれば中身が見えてしまいそうである。
 もちろんやらない。やりたいなんて思ってないぞ!

「それじゃあ、出してください」
 どくん。
「だ、出すって……?」
 何だ?一体この子は何を出せと言っている?俺に何を要求しているのだ?
「さっき見せたじゃないですか。もう一回見せてください」
「……いや、何も見せてないよ」
 数分前のことすら思い出せない精神状態であるが、アレを出していないのは確かだ。
 さすがにそんなことをしたら嫌でも記憶に残るはず。
「もう。じゃあいいです。アタシが勝手にやりますから」
 なっ――!
「……じっとしてて、くださいね。せんぱい……」
「ぁ……………………」
 声が出ない。口がぱくぱくと空回りするだけだ。
 まさかこんな場所で、高校の保健室なんて場所で。
 女の子が俺の手を優しく握り、冷たくて柔らかいものを擦りつけてきた。
 その動きが止まると、今度は指を柔らかいもので包み込まれた。
 ごめん、葉月さん。君に何の返事もしないまま、こんなことを――――。
178ヤンデレ家族と傍観者の兄 ◆KaE2HRhLms :2007/11/09(金) 00:44:57 ID:sFzVob2v
「よっ……と。はい、できましたよ先輩」
「……」
「あの、先輩……?」
「本当はこんな場所でやるつもりじゃなかった……。
 両親と弟と妹が出かけた日の夜、薄暗い部屋の中で月明かりを頼りにしながら俺は……」
「聞いてた話とずいぶん違うなあ。……仕方ない。ここはひとつ……」
「はやる気持ちを抑えながらひとつひとつボタンを外していき、あらわになったその景色へと手を伸ばし……」
「先輩、失礼しますっ!」
 ――あれ?なんでそんな怖い顔をしてるの?え、だめ?いや、ここまで来てそれはないでしょう。
 ん?その構えはなんだかビンタのような――――。
「ていっ!」
「痛ぇっ! ――何するんだ! そりゃ初めてだったけどなるべく焦らないようにして……ん、あ、あれ?」

 ここは、どこだ?俺はさっきまで自室で天国を味わっていたはずではなかったか?
「目が覚めましたか? 先輩」
 正面には可愛い女の子。彼女は椅子に座っている。その点はさっきまでいた世界と同じだ。
 しかし、今俺が居る場所は薬品の収められた棚や白いベッドの置いてある保健室である。
 俺はどうしてこんなところへ来てしまったんだろう。
 ああ、指を怪我したから、その治療をしに来たんだったな。
 指を怪我した箇所は、右手の薬指と小指だったはず。
 右手を見る。茶色の絆創膏が怪我をした二本の指の関節部分に貼ってある。いつのまに貼ったんだろう。
 右手を見ながら記憶を掘り下げていたら、女の子が怪訝な様子で話しかけてきた。
「先輩が手を出してくれないから、勝手に絆創膏を巻いちゃいました。別に構わなかったですよね?」
「あ? ああ、うん。ありがとう……」
 そうか。この子は手当をしたいから「(手を)出してくれ」と言っていたのか。
 ま、そりゃそうだよな。
 普通――この子の容姿は普通の可愛さではないが――の女の子が初対面の相手にいかがわしいことを
要求するはずがあるまい。俺は何を勘違いしてたんだか。

「ところで先輩。保健室に来たのは指だけじゃなくて体の具合も悪かったからですか?」
「いいや。指を怪我したから来ただけだよ」
 本当はさぼるつもりでもあったのだが、そうは言わない。
 だって、言ってしまったらまたこの子と同じ部屋の中で過ごさなければいけなくなる。
 さっきのような落ち着かない気分は失せ始めたが、名前も知らない女の子と二人きりというのはどうも苦手だ。
 早くこの場を去るに限る。
「手間かけさせてごめんね。それじゃあ……」
 椅子から立ち上がり軽く右手を振る。そしてきびすを返して保健室の出口へと向かう。

 ドアに手をかけたとき、異変に気づいた。やけに腹が苦しい。
 下を見ると、ベルトが腹に食い込んでいた。もちろん、いきなり俺のウエストが増したわけではない。
「先輩。ちょーっと待ってくださいよ。教室に戻るんだったら、ついでに手伝ってくれません?」
 いたずらっぽい笑みを顔に貼り付かせた女の子が後ろから俺のベルトを引っ張っていたのである。
 その笑顔にまた心臓が脈打ったのは俺のせいではない。
 この子が可愛いのが悪いのである。
 葉月さんは生徒はもちろん教師までもが認める美人である。
 彼女がいるだけで周囲に凜とした空気があらわれ、周囲もそれに流されてしまうような、
そんな類の美しさを彼女は持っている。
 対して目の前の少女は、小さい女の子の持っている未成熟さからくる可愛さをそのまま残したような容姿をしている。
 彼女を見ていて背徳感を覚えるのはおそらくそれのせいだろう。
 葉月さんとこの少女、どちらを彼女にしたいか決をとらせたら、かなりいい勝負をくりひろげるのではないだろうか。
179ヤンデレ家族と傍観者の兄 ◆KaE2HRhLms :2007/11/09(金) 00:47:10 ID:sFzVob2v
 そんなわけで、この少女から手を貸して欲しいと言われたからには、無下に断るのもなんだかもったいない気がする。
 話だけでも聞いてみるか。
「何を手伝ってほしいって?」
「ちょっと捜し物をしてたんですけど、なかなか見つからないんです」
「捜し物? 保健室で捜すってことは、包帯とか?」
「違いますよ。あれです、あれ。たしか、クロ……なんとか」
「くろ?」
 名称の頭二文字に『くろ』がきて、それでいて保健室に置いてあるもの。
 何だろう。白いものなら保健室中に大量に置いてあるが。
「どんな形をしてるかわかる? そのクロなんとかの特徴でもいいけど」
「えっと、多分液体です」
「液体か。液体ね……消毒液じゃないの?」
「いえ、そうじゃなくって、治療に使うものじゃないんです」
「はい?」
 保健室に来てまでして捜す物が治療に使う物でないと?
「なんか麻酔に使われているものらしいから保健室に置いてあるんじゃないかと思ったんです」
「麻酔って……誰か重傷でもしたの? それなら119番に電話した方がいいよ」
「いえ、誰も怪我はしてないです。……それに救急車がに学校に来てもらったら困るし……。
 とにかく、アタシが捜している物はクロなんとかって名前で、液体で、麻酔みたいなものなんですよ」
「あー、ちょっと待って。頭の中を整理するから」
 左手で女の子のセリフを中断させ、右手で自分の頭を抱える。

 この子は一体何をしようと考えているんだ?麻酔なんか捜して一体どうする気だ?
 それに、救急車が来てもらったら困るとも言っていたな。救急がいたらまずいことでもあるのか?
 まさか、その麻酔を使って何かまずいことでもしようとしているんじゃないだろうな。
 嫌な予感がするぞ。我が家の異常な環境によって鍛えられた勘が、頭の奥の方で何か叫んでいる。
 警告だ。妹に包丁を持たせたときや母が父のために特別メニューを作っているときに鳴る警告音が、
頭の中で少しずつ、しかし確実にその音を大きくしていく。
 この警告の意味は、その場から逃げろ、その状況に関わるな、だ。
 くろ、黒、クロ。これが先頭に来る麻酔の一種。
 ――もしかして、アレか?いや、さすがにそれはないだろ。
 しかし、先頭がクロの麻酔と言ったらアレしかない。

「あ、思い出しました先輩! クロロホルムです、クロロホルム!
 ほら、よくドラマとかで布に染みこませたクロロホルムをかがせて気絶させるシーンがあるじゃないですか!
 アタシあれと同じ事を先輩の――――、ってなんで離れるんですか?」
「いやなに。そろそろ教室に戻らなくちゃやばいかなと思ってね」
 嘘である。担任(独身、♀)に怒られるよりも目の前にいる少女に関わる方がずっとやばい。
 彼女は俺が生徒だったからあっさり捜し物の用途をばらしたのだろう。先生相手であればばらさなかったはず。
 思っていたとおり、彼女の捜し物はクロロホルムだった。
 そして用途は誰かを気絶させるためである、と。
 標的が俺でないのはありがたいが、このままでは学内にいる生徒の身に危険が及ぶ。
「あのね、君」
「いいながら後ろ手にドアを開けないでくださいよ。なんですか?」
 言わねばならない。俺が見知らぬ少女の魔の手から見知らぬ生徒を守るんだ。

「……クロロホルムを嗅がせても人間は気絶しないよ」
 俺がそう言ったら、女の子は目を大きく広げて声を張り上げた。
「ええ!? だって、ドラマだけじゃなくて漫画でもあんなに……」
「そりゃあずっと嗅がせ続けたらわからないけど、少し嗅がせたくらいじゃ体調を悪くする程度の効果しか
 与えられない。やめといたほうがいい。人を気絶させていたずらしようなんてよくないよ」
「そんなあ……せっかく上手くやれる方法を見つけたと思ってたのに……」
180ヤンデレ家族と傍観者の兄 ◆KaE2HRhLms :2007/11/09(金) 00:48:48 ID:sFzVob2v
 女の子は俺の言葉にショックを受けたのか、白い壁に身を任せていた。
 今なら、逃げられるか……?
「うう。それなら、それなら……先輩!」
 女の子は唐突に眠りから目を覚ました猫のような動きで頭を上げ、俺を見た。
「手伝ってください! クロロホルムが駄目なら、先輩の助けが必要です!」
「いや、だからさ」
「先輩の口添えがあれば絶対にあの人は策にはまってくれます! だから、お願いします!」
 さっきからこの子は何を言っているんだ? 俺の助けが必要?
「もしかして、君は俺の知り合いをどうにかしようと?」
「……そうです。けど、決して怪我させたりすることはありません。信じてください」
 お願いします、と言って女の子は頭を下げた。

 犯罪行為の手助けをしてくれとお願いされてもな。手伝うわけがないではないか。
 俺が手伝えば成功させられるということは、俺がいなければ失敗するという意味なのか?
 ――だったら迷うことはない。
「ごめんね。頼まれごとをされるのは嫌いじゃないんだけど、そういう手助けなら話は別だ」
「そんなあ……」
「ほんとにごめんね。それじゃ!」
「あ、ちょっと待って……」
 何か言おうとした女の子の言葉を遮り、保健室から出てドアを閉める。
 競歩の足運びで2年D組の教室へ向かう。後ろから女の子が追ってくる気配はない。
 俺が自分の教室に入った途端、本日最後の授業が終了したことを告げるチャイムが鳴った。
  
*****

 そしてHR終了後。
 担任は大小様々な小説本を両手に持って出ていった。
 担任の持って行った本は、クラスメイトが文化祭の出し物に使うために自宅から持ち込んだものである。
 四十名のクラスメイトが持ってきた本は、担任が毎日少しずつ自宅へお持ち帰りしている。
 本人は本の内容が不適切なものでないか確かめるためだ、と言っている。
 しかし、その行動が文化祭を成功させようという意志の元に行われていないのは明白である。
 きっと、あの独身女は本が読みたいだけなのだ。
 俺はこう思う。担任は生徒から本をかき集めるためだけに純文学喫茶などやらせようとしたのではないかと。
 私利私欲による職権濫用。許し難い行いである。
 教育機関に駆け込んでやりたいところだが、あいにく俺は両親が異常であるため強く出られない。
 もし両親のことに首を突っ込まれたら、それこそ我が家崩壊の危機だ。
 今まで隠し通してきたものを、たかが担任の蛮行ごときで日の当たる場所へさらけ出すわけにはいかないのである。
181ヤンデレ家族と傍観者の兄 ◆KaE2HRhLms :2007/11/09(金) 00:51:52 ID:sFzVob2v
 鞄を持って席を立ったとき、弾んだ声が俺の名を呼んだ。
 声のした方を見ると、手提げ鞄を腰の後ろに回した葉月さんが、横からやってきていた。
「ねえ、今日は何か用事がある?」
 葉月さんはご機嫌な様子である。待ち望んでいたおやつをようやく与えられたときの子供のようにも見える。
「いいや。今日もいつも通り何も用事はなし」
「じゃあ、じゃあさ。今日もいい……かな?」
 頬を若干紅く染めて、葉月さんが上目遣いを繰り出した。
 むう。真綿でじわじわと胸を締め付けられる感覚。甘い痺れが体の奥から湧き起こってくる。
 今の会話だけを抽出するとなんだか色気のある会話であるが、どっこいそんなことはない。
「もちろんいいよ。帰ろうか、葉月さん」
「う、うんっ!」
 俺が歩き出すと、葉月さんは早足で近寄り、俺と肩を並べた。

 教室を出て行く寸前、ちらりと後ろを振り返る。
 そこには獲物を狙う野獣のようなクラスメイトの視線があった。
 男が俺を恨むのは分かる。
 ついこの間まで地味で目立たなかった俺が人気者の葉月さんと仲良くしていたら、不機嫌になって当然だ。
 俺が彼らと逆の立場だったとしても不機嫌になるはずだから。
 女子生徒も男子生徒と同様、いやむしろ彼ら以上に恐ろしい目で俺を見ている。
 彼女たちも男子生徒と同じく、葉月さんと仲のいい俺を快く思っていない。

 同胞のクラスメイトからそんな目で見られては、普通は萎縮してしまうだろう。
 だが俺は違う。俺はもっと恐ろしい、妹の瞳に日常的にさらされている。
 加えて最近のクラスメイトからの無言の圧力によって俺の精神力はさらに上がっている。
 学校プラス家庭での責めは、俺を少しずつ強くしているのだ。
 だから、クラスメイトの視線をスルーしてそのまま教室を後にすることだってできるのである。

 玄関で上履きから靴へ履き替えて、葉月さんと一緒に校舎を出る。
 秋の深まりを感じさせる空気の中を、看板やはしご、ビニール袋を両手に持って歩く生徒の姿があった。
「みんな忙しそうだね」
「うん……」
 彼らの姿を見ていると、自分が損をしているような気分になる。
 文化祭に意欲的なクラスならば、今は準備に大忙しの時期だろう。
 しかしうちらの2年D組は先週の時点で喫茶店で使う本を収める本棚の運び込み、テーブルの確保、
男女それぞれが着る着物の用意、お茶やお菓子の注文数決めなどをあらかた終わらせてしまった。
 今はクラスの文化祭実行委員がぼちぼちと仕上げを進めている段階だ。
 楽と言えば楽だが、楽すぎるのも問題だ。暇すぎるのである。
182ヤンデレ家族と傍観者の兄 ◆KaE2HRhLms :2007/11/09(金) 00:55:04 ID:sFzVob2v
「ねえ、ちょっと行きたいところがあるんだけどいい?」
「別に構わないよ。どこに行くの?」
「ケータイショップ。ちょっと欲しいストラップがあって」
「へえ。どんなやつ?」
 俺がそう言うと、葉月さんは人差し指で空中に何かを描いた。
「えっとね。形はハートマークをしてるの」
 ほほう。なかなか可愛らしい趣味をしていらっしゃる。
 男の俺の携帯電話にはとてもつけられるない。
「それでね、その……欲しいストラップはね、二つセットになってるの」
「へ…………え?」
 さっ、と顔から熱が引いた。
「ピンクとライトブルーの二色でね。限定販売のやつだから、他に売っているものとは絶対にかぶらない
 五桁の番号が両方に彫ってあるの」
「……つまり、おそろいのものってわけ?」
「そう。だからあ、だから……ね?」
 葉月さんが携帯電話を取り出して俺の前にかざした。
 ちなみに、俺の携帯電話と同じ機種である。最近になって突然買い換えた、と葉月さんは言っていた。
 同じ携帯電話と同じストラップ。それらが意味することはつまり。

「片方のストラップ、つけて欲しいなあ?」
 首を右斜め三十度に傾けつつ心臓麻痺レベルの笑顔を浮かべる葉月さん。
 どうしよう。ストラップの用途を予想できた時点でやんわり断ることを考えていたのだが、
こんな笑顔を見せられては断るに断れない。
「私は青が好きだから、ピンクの方、つけてくれるかな?」
 なに、ピンクだと?
 よりによってあんな淡い恋心の象徴であるかのような色をしたストラップをつけろと言うのか!?
 どうする。どうしよう。どうしたらいい。

「どうかな? だめ?」
「う、うう、……うむむ……」
 他ならぬ葉月さんからの頼みだ。できることなら聞き入れてあげたい。
 しかし、おそろいの、しかもピンクのストラップだぞ?
 携帯電話を取り出す度にチラチラと見えてしまうではないか。
 恥ずかしいからと外してしまったら、俺のことだからどこかになくしてしまう可能性もある。
 ストラップを外している携帯電話を葉月さんが見たらどう思う?――傷つくに決まっている。
 葉月さんの心が傷つくついでに、もしかしたら俺の体にまで消えない傷がつくかもしれない。
「お、俺は……」
 ピンクのストラップを選ぶのか。それとも紅い鮮血を選ぶのか。
「だめかな……つけて、欲しかったのに……ぐす」
 ああ、ああ、あああ。葉月さんが泣きそうだ。
 綺麗な瞳。しみひとつない頬。あそこに涙が伝ったらそれはそれは美しい光景であろう。
 だが、泣かせてはだめだ。もう、葉月さんの要求を呑むしか――ない。
183ヤンデレ家族と傍観者の兄 ◆KaE2HRhLms :2007/11/09(金) 00:56:21 ID:sFzVob2v
 意志を固め、口を開けた瞬間であった。
「あ! いた!」
 突然の女子生徒の叫び声。
 何事かと振り向くと、見知らぬ女子生徒が俺を指さしていた。
 保健室で会った女の子とは違う。あの子と比べたらこの子は地味な印象しかない。
「えーと、なんて名前だっけ。……まいいや。先輩! 大変です!」
 なんと失礼な。ツッコミを入れてやりたいが、葉月さんの手前、とりあえず我慢する。
「何が、あったの、かな?」
 怒りを抑え、顎の筋肉を引き攣らせながら言う。
 女の子は緊張を隠さないまま、俺の言葉に応えた。
「先輩の弟さんが、廊下で倒れてて! それで今保健室に連れ込まれたんですよ!」
「はあっ!?」
 弟が倒れた?!あいつに貧血の気はなかったはずだぞ。
 女子生徒の言葉を聞き、女子生徒の死角に移動して両手を伸ばそうとしていた葉月さんもさすがに驚いたようであった。

「ちょっと、大丈夫なの? どこか怪我とかしてなかった? 手当はしたの?」
「どこも怪我はしてなかったみたいですけど。一応ベッドには運んだけど、まだ目を覚まさなくって……。
 どうしよう、……どうしよう。もし彼に何かあったら、私……」
「そうね。一大事だわ。私の義弟のピンチよ!」
「行こう! 葉月さん!」
 返答せず、少しの時間すら惜しむかのように葉月さんは駆けだした。一瞬を置いて俺も続く。
 どんどん俺との距離を開けていく葉月さんを追いながら、俺はある可能性を思いついた。
 保健室。あそこで出会った見知らぬ可愛い女子生徒。
 彼女が気絶させようとしていたのは、もしかして――弟なのか?
 いや、まだわからない。だけど、どうしてもあの子のことが頭から離れない。
 一体彼女は何者だ?弟のなんなんだ?
 いや、何者でもいい。今の俺が願うことはこれだけだ。

 ――無事でいてくれ、弟。
184ヤンデレ家族と傍観者の兄 ◆KaE2HRhLms :2007/11/09(金) 00:59:14 ID:sFzVob2v
*****

 どうしてあなたはそんなに飾らずにいようとするのだろう。
 なぜその魅力を使い、アタシを惑わそうとするのだろう。
 アタシの正体を知っていて、それでもあなたはアタシに対する態度を改めなかった。
 構わないで、慣れているから。
 そう言ったのに、あなたの耳には届いていなかったのだろうか。
 それとも、あなたにとってはアタシの正体なんてどうでもいいものだったの?
 だから、いつまで経ってもその目の色が変らなかったの?

 アタシが、あのいやらしい目つきをした教師と話をしているとき、苦手な先輩と話しているとき、
決まってあなたが話に加わってきた。
 嬉しかった。嬉しかったけど、怖かった。
 いつか、あなたも他の人たちのように変ってしまうんじゃないかって。
 アタシの抱く、あなたへの醜い想いを察したらきっとあなたは離れて行ってしまう。

 アタシがそんな不安を抱いていることなんて知らないあなたは、毎日アタシの肩をたたく。
 決して嫌なわけじゃなかったけど、やめてほしかった。
 あなたが屈託のない笑みを浮かべるたび、アタシの胸の奥は切なく締め付けられるから。
 抑えていたはずの気持ちが表にでようとして、どんどん大きくなっていく。
 こんな気持ちを誰かに向ける日がくるなんて、思わなかった。

 全部、あなたのせいだよ。
 あなたが他の男とも仲良くするから。他の女ともイチャイチャするから。アタシだけを特別扱いしないから。
 アタシはあなたに特別扱いされたい。あなたの特別になりたい。
 あなたの想いを独占する、唯一の存在になりたい。
 そのためにはどうしたらいいの?

 あなたはきっと、誰が何を言っても変らない。
 その性格は生まれ持ったものだろうから。
 あ――そうだ。アタシがあなたを生まれ変わらせてあげればいいんだよ。
 アタシだけを見て、アタシだけに声をかけて、アタシだけに笑顔を見せる、そんな人にしてあげればいい。
 最初から最後まで。生まれてきてから死ぬまで。アタシだけを構う人になって。
 今のあなたも好きだけど、やっぱりアタシはあなたを独占したい。

 だからアタシは、あなたを奪う。
 あなたを一人にしてあげる。アタシとあなたの二人だけの世界に連れて行ってあげる。
 アタシがいなければ、寂しくて悲しくて切なくてどうしようもない、そんな人間にしてあげるよ。
 楽しみだよ。あなたの心が変ってしまう、その瞬間を目撃するときが。
 
 想い人を完全に忘れてしまうとき、あなたはどんな言葉を吐き出して、どんな顔をするのかな?


------

今回はここまで。次回に続きます。
185名無しさん@ピンキー:2007/11/09(金) 01:04:29 ID:4YOkOiPE
さぁて新キャラ登場でますますヒートアップするわけですが。
どうも後輩ちゃんの狙いは葉月さんっぽい感じ。
果たしてお兄ちゃんは守りきれるのか!?
まだそうだと決まったわけじゃないですがね。
続き楽しみにしてますGJ!
186名無しさん@ピンキー:2007/11/09(金) 01:14:36 ID:oFrSK4fE
GJ
毎回楽しみにしてます。

弟が貧血って後輩がやった気が……
187名無しさん@ピンキー:2007/11/09(金) 02:06:22 ID:hm6cU7Gf
乙&GJです。
色々と気になる展開。続きを楽しみに待っています。
188名無しさん@ピンキー:2007/11/09(金) 02:09:44 ID:NmFPPQiJ
GJ
189名無しさん@ピンキー:2007/11/09(金) 02:40:59 ID:Y9BRHLU2
このシリーズすごい好きだ!
そして、我らがお兄ちゃんは健在だ!葉月さん以外の女の子に心揺れたときは
驚いたが…。
頑張って葉月(と弟妹)を守ってくれ!
190名無しさん@ピンキー:2007/11/09(金) 12:23:20 ID:xc07Vo2r
>>184
GJ、さり気なく表現されているが葉月の病みっぷりが尋常じゃなくなっているw
色々と先が妄想できる展開で、楽しみ。
191名無しさん@ピンキー:2007/11/09(金) 15:28:07 ID:xglWFlip
愛する人をとても大切に想っている葉月さんがかわいすぎる

しかしこの家族の男は送られる愛が例外なく異常に深いなw
192名無しさん@ピンキー:2007/11/09(金) 16:01:32 ID:/aEcbZGW
>>184
GJ!このシリーズほんと好きです。
葉月さんいい感じに病んでてかわいい
そしてその葉月さんに冷静に対処しているお兄ちゃんかっこいいな
193名無しさん@ピンキー:2007/11/09(金) 17:33:58 ID:4PwJemsE
GJ!!
お兄ちゃんの精神力の高さは異常。
194名無しさん@ピンキー:2007/11/09(金) 19:26:40 ID:kR0xlgpA
新?ジャンル「病んでる男」
ttp://wwwww.2ch.net/test/read.cgi/news4vip/1194587770/

思ったよりも良い感じ?
195名無しさん@ピンキー:2007/11/09(金) 20:27:22 ID:Bf8FX+Az
GJ!!
弟にフラグが立っているという妄想が頭から離れない俺は異端
196名無しさん@ピンキー:2007/11/09(金) 21:04:36 ID:G/944EXH
>>194
死ね
197名無しさん@ピンキー:2007/11/09(金) 22:30:33 ID:KL1VK53H
GJ!!
ここだけ見ると母親や妹がノーマルに見えるから不思議
198名無しさん@ピンキー:2007/11/10(土) 04:45:40 ID:1bEJQZEr
>>194
なんか下手糞な会話だけの小説だったがそれはそれで読みやすくよかったかもしれんw
199名無しさん@ピンキー:2007/11/10(土) 06:18:33 ID:DsuPJ9dO
まぁトライデントの日本語破綻オナニー小説と比べると幾分マシってレベルだな
200名無しさん@ピンキー:2007/11/10(土) 09:43:09 ID:4sLgcbeE
>>199
トライデントって誰だよw
201名無しさん@ピンキー:2007/11/10(土) 11:09:26 ID:mfkORfA5
>>200
嫉妬修羅場スレで嫌われている作者さんだよ
今は投下が多すぎて荒らしとして認識されている
あまりにも日本語がおかしすぎて、うんざりしている人が多い
202名無しさん@ピンキー:2007/11/10(土) 11:16:41 ID:vIlaKCYk
で、他スレでそんなことをいきなり持ち出してくるお前は何なんだ?
荒らしなのか?ww
203名無しさん@ピンキー:2007/11/10(土) 11:26:52 ID:mfkORfA5
いや、私はトライデントって誰と聞かれたので親切に答えただけだが
実際に嘘を言っているわけではないし、真実ばかりを述べているので
荒らし扱いされるのは本当に不愉快です。

荒らしであるトライデントを批判すれば荒らしになるんですか?
そんな馬鹿な話あるはずないじゃないですか
204名無しさん@ピンキー:2007/11/10(土) 12:00:06 ID:ZjEEq9ph
こんなところまで出張してトライデント氏叩きかよ…
一部が騒いでるだけなのに、さもスレ住人全体の意見みたいに書くのはやめてくれ
見てるこっちが恥ずかしいわ
205名無しさん@ピンキー:2007/11/10(土) 12:08:08 ID:kURf/EqL
NGID:mfkORfA5
206名無しさん@ピンキー:2007/11/10(土) 12:15:54 ID:mfkORfA5
叩きというよりは真実を書き込んでいるだけですが
何か?
いい加減に皆さんは冷静になって欲しいとこですね
ここはヤンデレスレであり、嫉妬スレじゃあないんですよ
207名無しさん@ピンキー:2007/11/10(土) 12:33:27 ID:20rVNGEW
歪んでるな
208名無しさん@ピンキー:2007/11/10(土) 12:36:06 ID:OT6Bz5IA
とりあえず巣に帰ってくれ
いや、荒らしに帰られてもあちらのスレでも迷惑だわな
209名無しさん@ピンキー:2007/11/10(土) 12:36:54 ID:2gJmIkou
何が歪んでいるんだ?
俺には何も見えないのだが
210名無しさん@ピンキー:2007/11/10(土) 12:42:27 ID:iqlAh2e4
女教師に萌えたのは俺だけでいい
211名無しさん@ピンキー:2007/11/10(土) 12:43:16 ID:4r9JmKqT
空気壊すのやめてくれないか?
嫉妬スレみてる俺からすると
かなりむかつくんだが
大体嫉妬スレの事なんて誰も言ってないだろうが
お前が勝手に嫉妬スレのトライデント氏を説明しだしたんだろ
荒らしであるトライデント氏を叩いたら荒らしになるんですか?

だがな
当たり前だろうが
トライデント氏が居るわけじゃない、ヤンデレ関係ない、
空気壊してる時点でお前は完璧な荒らしだよ。
俺が認定証を授与してやってもいい位にな。
最後に前から思ってたが、
言葉遣い統一しろ。
はっきり言って、
言動が舐めてる様にしか思えん。



とか言って俺も空気壊してすまない。

言いたい事は言ったし、これで俺はROMに徹する


ノシ
212名無しさん@ピンキー:2007/11/10(土) 12:46:25 ID:sgWL7ivI
>>210
よお俺。
てか実は真犯人は女教師だったらいいなと期待している俺ガイル
213名無しさん@ピンキー:2007/11/10(土) 12:50:09 ID:I7p4FLo+
そういや、トライデント氏はもうこのスレにこないんだろうか。
214名無しさん@ピンキー:2007/11/10(土) 13:01:19 ID:2gJmIkou
嫉妬スレで長編書いてる間は無理じゃないか?
今は他の作品を投下する余裕はなさそう
215名無しさん@ピンキー:2007/11/10(土) 13:01:52 ID:dWKBN5dY
トライデント氏が来ても荒れるから別に来なくていいです
嫉妬スレのお荷物をこっちまで持ち込むなよ
216名無しさん@ピンキー:2007/11/10(土) 13:03:21 ID:b02qHKve
そのお荷物がもうこちらに届いているようですが
217名無しさん@ピンキー:2007/11/10(土) 13:46:33 ID:sIe1N1yQ
荒らしだと思うならスルーしときゃいいのになんでわざわざ空気を悪くするようなことを書き込むかな
218名無しさん@ピンキー:2007/11/10(土) 16:00:23 ID:1bEJQZEr
嫉妬スレの基地害がついにこのスレまでやって来たか。
こっちのスレには常識のある者だけ来て欲しいものだ。
219名無しさん@ピンキー:2007/11/10(土) 16:11:32 ID:6BeVbFf4
お兄ちゃんの人、GJ!
お兄ちゃんには葉月さん一筋で、傍観者(だけど実は巻き込まれ型)として
頑張って欲しい!
このシリーズは他のとは珍しく、クロスオーバーでないのに群像劇風なので期待してる。
220名無しさん@ピンキー:2007/11/10(土) 16:33:52 ID:EjdY+W74
>>218
常識ある人間はむしろヤンデレとか理解できないんじゃねw
221名無しさん@ピンキー:2007/11/10(土) 19:43:55 ID:1bEJQZEr
>>220
ごめん、今では反省している。
222名無しさん@ピンキー:2007/11/10(土) 21:36:03 ID:Bf0CxXQs
つまり、純文学オタでお団子引っ詰め髪の黒縁眼鏡の
タイトスカートきょにう女教師が良いということですね。

まったくもって異存ありません。
223名無しさん@ピンキー:2007/11/10(土) 22:13:06 ID:lwF7seZY
後輩の想い人って弟なんだよな?
なんか葉月さんって言う人もいるが・・・
224ACTER ◆irhNK99GCI :2007/11/10(土) 22:14:28 ID:JCzgfpY5
空気が読めない俺が流れをぶったぎる
概要:一発ネタ
過去ログ全部は見てないから被ってるかはわかんね
スレ違い? NGの準備は出来たか?
みんなで幸せになろうよ

近藤さんちのやんでれ事情2/2
225近藤さんちのやんでれ事情1/2 ◆irhNK99GCI :2007/11/10(土) 22:15:53 ID:JCzgfpY5
 勉強を終えてスタンドの灯りを消し、ベッドにもぐりこむ。
冷えたシーツが心地よく熱を奪う、その感触を味わっていた頃。
「お兄ちゃん、愛してる。だから……私の為に死んで♪」
部屋に入ってきた妹は笑顔でそういった。
「…はは、冗談だろ?」
「私はいつだって真剣だよっ」
けして崩すことの無いこの笑顔、それに抗えない自分に嫌気が差す。
そのおかげで僕は何度も派手に包帯を巻いて学校に通うことになった事か。
「勘弁してくれ、命は一つしかないんだ、ほら腕でも脚でも……な?
 今まではそれでよかったじゃないか」
どうにか説得できないかと話しかける。
「もう、後には引けないの」
そういって僕に抱きついき、胸に顔を埋めて言葉を続ける。
「お父さんも、お母さんも殺しちゃった」
「なっ! 入院させるだけって言ってたのは嘘だったのか!?」
僕は妹の肩を揺すり問い詰めた。
「ごめんなさいっ…でもでも、仕方なかったんだもん!」
「去年の夏におじさんとおばさんを殺した時の事忘れたわけじゃないだろっ!
 あんなに騒ぎになったのに……また繰り返すのか!」
「ごめんなさいっごめんなさいっ…あたし、あたしにはもう…
 お兄ちゃんしかいないのっ! 大好きだからっ! お願い!」
「……」
泣き崩れる妹の姿を眺めながら考える。
きっと誰の為にもならない愚かな考え。
ただ目の前で泣いている女の子を放って置けないだけなのかもしれない。
「わかった、でも一つだけ約束してくれ。絶対に後悔しないって」
「……お兄ちゃん? うん、ありがとう…大好きっ」
妹の唇がそっと触れた。
それだけで全て許せてしまうのは僕もまた妹の事を……
「おやすみなさい、そしてありがとう。お兄ちゃん……」
返事を返す事無く、僕の意識は闇に飲み込まれていった。
226近藤さんちのやんでれ事情2/2 ◆irhNK99GCI :2007/11/10(土) 22:17:21 ID:JCzgfpY5

翌日の朝、チャイムがなっても教室にはまだ一つ席が空いていた。
「なぁ、アイツやっぱり……?」
「ん? 今日も学校休みじゃないかな」
「まさか今日もなのか? こう立て続けに不幸があるって…なぁ……」
「あら、知らないの? いつもの事よ」

「おーっし席につけぇー!」
担任がクラスに入ってくると、慌しかった教室が静まり返る。
「あー、今日はなぁ、近藤はお兄さんが不幸に会って休みだそうだ。
 藤崎、お前学校終わったら帰りに寄って行ってやってくれ」
「はぁ〜い」
「それじゃしっかり授業うけるんだぞ! 委員長、号令たのむわ」

「なぁ、帰り、俺も一緒にいっていいか? もうあいつんち誰も居なく……」
「来るのはかまわないけど、どうせ追い返されるわよ?
 あの子、お兄ちゃん以外には見向きもしないから」
「はぁ? だって今…その…不幸があったって……」
「私は中学からの付き合いだからもう慣れたけど、アンタは知らなかったわね。
 近藤のトコはね、水泳の授業が始まると不幸に見舞われるのよ」
「なんだって?」
「生理、食中毒、骨折、風邪。出席日数で詰まったら身内の事故とか忌引きね。
 お兄さんとかもう全身の骨折れたんじゃなかったかしら」
「それって……ただの仮病じゃねぇかっ!」
「とっても病んでるわね♪」
227名無しさん@ピンキー:2007/11/10(土) 23:02:39 ID:3ykgrOin
ちょwwほのぼの
いいなあこれ
228名無しさん@ピンキー:2007/11/10(土) 23:03:08 ID:g9EKICJr
>>226
うむ、つまりこれは妹が水泳の授業に出たくないがため、忌引を理由に欠席する口裏あわせを兄に頼み込むと言う話か。
どう考えてもすれ違いだろうがゴルァ!


まあワロタwww
229名無しさん@ピンキー:2007/11/10(土) 23:09:07 ID:LzAbLFSP
和んだww GJ。
230名無しさん@ピンキー:2007/11/10(土) 23:32:21 ID:uE9zN9gC
うまいな
微妙にスレ違いだが面白い
231名無しさん@ピンキー:2007/11/11(日) 00:11:08 ID:FaarDbSw
>>227
本文を一回読んだだけじゃ理解できなかったが、>>228を見た後で読み直したらワロタw
232名無しさん@ピンキー:2007/11/11(日) 01:09:37 ID:fQ4L7Ogr
飛ばしっぷりが尋常じゃねえなw
233名無しさん@ピンキー:2007/11/11(日) 05:06:52 ID:ScSBMw75
殺すってのは釣りバカのハマちゃんと同じって事でおk?
234名無しさん@ピンキー:2007/11/11(日) 12:21:47 ID:1mbj8oEn
ちょww
クソワロタwwww
235名無しさん@ピンキー:2007/11/11(日) 23:08:40 ID:1qylnN1u
これはうまいなw
236名無しさん@ピンキー:2007/11/12(月) 12:57:37 ID:+QM7dklJ
ちゃんとデレもあるから一応ヤンデレだなw
237名無しさん@ピンキー:2007/11/12(月) 15:47:11 ID:DdxCH2mH
ちゅーしてたもんな
238名無しさん@ピンキー:2007/11/12(月) 16:10:05 ID:qoptHiRB
×ゲームはいい病みっぷりだな。
作者このスレと修羅場スレ見てんじゃないかと思えてくる。
239名無しさん@ピンキー:2007/11/12(月) 16:38:05 ID:S5+keeck
あの作者好きじゃないから
240名無しさん@ピンキー:2007/11/12(月) 23:35:18 ID:n5qze9u3
ヤンデレオンリー二回目行ったヤツいる?
何か、ヤンデレ大全を基にした格付けが貼りだされてて
ヒグラシキャラ数人が上位にランクインしてたとか聞いたんだけれど……。
241名無しさん@ピンキー:2007/11/12(月) 23:50:24 ID:pEznejE3
ひぐらしは詩音以外はヤンデレじゃないだろ。
そもそも格付けとかするものでもないだろうに……
242名無しさん@ピンキー:2007/11/12(月) 23:56:01 ID:wX8wwypg
格付けか……そのうち海原雄山が神認定されてしまった
ツンデレのようになるんだろうか
243名無しさん@ピンキー:2007/11/13(火) 01:02:30 ID:FgVjCi6/
今更ながら病み鍋2のイベントレポをここに書いていいかな?
同人板覗いたけど無いのか探し方が悪いのかみつからなかったんだ。

個人的に持って行った小ネタが意外に受けてたしユーザーズイベント(?)も
スタッフ巻き込んでかなり盛り上がってかなり楽しいイベントだったんだが。
244名無しさん@ピンキー:2007/11/13(火) 01:16:50 ID:8/7Cq7/W
>>243
よく分からんがどぞ
SSのネタになるかもしれないし。
245名無しさん@ピンキー:2007/11/13(火) 01:32:55 ID:Ihi6N0ZC
>>240
ああいうミーハー本はとりあえずそれっぽいのかき集めただけだからな〜
まあこの病み鍋やらもあと何回続く事か・・・
246名無しさん@ピンキー:2007/11/13(火) 06:50:04 ID:mC2ufwBQ
前から聞きたかったんだが、詩音はともかく、なんでひぐらしキャラを無理矢理ヤンデレにしたがるんだ?
247名無しさん@ピンキー:2007/11/13(火) 08:00:59 ID:YFaLzBfG
バナナはオヤツに入りません。
狂人(アスカやレナ)はヤンデレに入りません。
248名無しさん@ピンキー:2007/11/13(火) 08:17:58 ID:CLw0E2Ze
レナの行動がヤンデレっぽいからじゃないかな、と思う。

「嘘だっ! あはははは(ry」とか
圭一の家の玄関から顔をのぞかせたりとか
雨の中圭一の部屋を見てたりとか。
あと、鉈を振るっているイメージが強いのかも。

デレてはいないけど、異常行動だけはヤンデレがやりそうなこと。
249名無しさん@ピンキー:2007/11/13(火) 09:54:09 ID:3ESI/0lw
>>242
なるに決まってる。現実を見つめろ
250名無しさん@ピンキー:2007/11/13(火) 10:23:47 ID:AEFc/Bjz
言葉様とアニメ版シャッフルの楓は、文学少女の美羽はヤンデレであってる?
251名無しさん@ピンキー:2007/11/13(火) 12:59:10 ID:MrQcMpsB
というか前2つは火付け役だろw
252名無しさん@ピンキー:2007/11/13(火) 13:25:02 ID:IXwTeIlZ
ぶっちゃけ本気でヤンデレな彼女ができたとしたら俺はSSの主人公みたいな常識的な反応する自信がないぞ

わざと他の女と話してヤキモキさせてみたり
気のないそぶりをしてみたりして病み具合が増幅していくのを愛たりして
たぶんそして刺されるか監禁されるかして初めて自分の愚かさを知るんだろうな
253名無しさん@ピンキー:2007/11/13(火) 13:58:12 ID:Wyp69xGW
監禁されるって、何をされるだろうね
ヤンデレなら愛しい人にキスしまくり以上のことをされるに違いない
254名無しさん@ピンキー:2007/11/13(火) 15:28:47 ID:CLw0E2Ze
体中のありとあらゆる体液を舐めとられるんだよ、きっと。

俺は愛するあまりに監禁されているのなら殴られても構わんが、
足の裏をくすぐられるのだけは勘弁だな。
255名無しさん@ピンキー:2007/11/13(火) 17:31:49 ID:hH7/Y8xx
ひぐらしうろ覚えで語ってしまうが、自分が詩音=ヤンデレに違和感をおぼえるのは
基本的に復讐のために動いてるから、男を愛するあまりの行動ではあっても
男を手に入れるための行動ではないからなんだよな。
(「こうすればサトシが帰ってきてくれる」といった脳内補完は一応あるんだっけ?)
ブチ切れたきっかけも「あんなことやっといて、てめぇらだけ幸せ面しやがって」みたいな妬みだったおぼえがある。

自分の中では、どうも復讐者もの=ヤンデレとはなりにくい。
解釈次第で、死後でも他者排除によって「自分だけのもの」という満足感を
得るという展開もありえるにしろ、無理は残るし。
256名無しさん@ピンキー:2007/11/13(火) 20:12:07 ID:2IXt4wLj
まあどうでもいいけどな
257名無しさん@ピンキー:2007/11/13(火) 21:00:42 ID:FgVjCi6/
ヤンデレ定義の議論中すみませんが、病み鍋のレポをしたいと思います。
と言っても私は一般参加者なので、スタッフ・サークル参加者とはまた目線が違うでしょうが。


当日開場10分前に会場に着くと既に長蛇の列。
会場は7階で列は階段に並んでいたのですが、最後尾は2~3階という状況。
そしてサークル確認(?)の不手際から5分遅れで開場、列の大部分が大手のサークルさんに。
自分は大手はあまり興味なかったので最初にラクガキコーナーへ。コーナーには机に大きな白紙が
設置してあり自由にラクガキが可能とのことで、まだ何も描かれていなかったので大きく「2Get!」の
文字を書いて記念撮影してました。

今回は前回と違って参加サークルさんもかなり増え、大手さんの新刊が出るということもあって
入場者数は500人以上は居たと思います。
ところが多すぎて品物を小数しか持ち込んでおらず開始1時間かからずに完売してしまった
サークルさんもちらほらと。
既出のヤンデレ格付けや、ヤンデレ格闘ゲーム、オリジナルのヤンデレミュージックなどもありました。
あと血塗れ竜と食人姫は落ちてました。
ジャンルはオリジナル・ひぐらし・スクデイ・ハルヒ・シャッフル・未来日記など。

開始から少し経ち、大手目当ての人たちが去ると今度はラクガキコーナーが熱い。
イラスト、テキストだけでなくスタッフの預かり知らぬユーザーズイベント(?)としてヤンデレしりとりが発生。
ヤンデレ風のセリフでしりとりを紙に書いていくものですが紙の端まで来てしまったら矢印を追加して
紙中を駆け巡るネタテキストにまで成長。
もちろん最後は最後の文字が1番目の最初の文字に繋がるように調整されてループ状態にして完成。

みんなで拍手して完成を祝って終わりかと思いきや、前回紙の外周を「あはははは」と病んだ笑い声で
一周させた人が発起人となって今回は1人1ナイスボートで外周を埋めると宣言。
その場のノリで近くに居た人みんなが代わる代わる紙にナイスボートと書き込んでいく風景が。
ひとり書き終わると拍手しながら「ナイスボート! ネクストボート、プリーズ!」とまだ描いていない人にペンを
渡す光景にスタッフが様子を見に来るとスタッフまで巻き込んでナイスボートを続行。
スタッフもノリノリで近くに居た手隙の他のスタッフを呼んで描かせたり、放送でナイスボートを呼びかけたりと
やりたい放題。最後は主催者さんにまでナイスボートを描いてもらって完了。

そうしたところで終了時間に。
アフターイベントのヤンデレカルタ大会は応募者多数で参加者は抽選に。
私は抽選に漏れたので見学することなく会場を出ました。カルタのあと、ジャンケン大会もあったみたいです。
258名無しさん@ピンキー:2007/11/13(火) 22:23:51 ID:h3BcTm9H
>>257
レポ乙です。そして地方民の俺涙目。
259名無しさん@ピンキー:2007/11/13(火) 22:42:55 ID:r4Cqfgyo
>>257
前回寒かったらしいが、賑やかになってきたのはいいことだ
260名無しさん@ピンキー:2007/11/13(火) 22:51:34 ID:mC2ufwBQ
>>255
果てしなく禿同
俺もひぐらしにはヤンデレはいないんじゃないかと思ってる
261名無しさん@ピンキー:2007/11/13(火) 23:26:48 ID:FQm2JqMf
>>250
言葉さまと楓さまはヤンデレの代表格ではないか
ヒエラルキーで言えば頂点に御座していらっしゃる

美羽もヤンデレ認定

>>255
ひぐらしキャラは雛見沢補正で無駄にキレやすくなってるのを忘れてはいけない
レナは全然ヤンデレじゃないし、詩音もヤンデレというよりは雛見沢症候群でアヒャってるだけに見える
262名無しさん@ピンキー:2007/11/14(水) 01:06:20 ID:GkFCrw+E
ひぐらし議論ってたびたび起きるけど正直どうでもいいから
263名無しさん@ピンキー:2007/11/14(水) 01:16:31 ID:DBicCVxx
ひぐらしはヤンデレであってほしいという願いがあるのかもしれんね。
鬼隠し編は可愛かったし。
264名無しさん@ピンキー:2007/11/14(水) 03:21:39 ID:C/cMf1xi
そもそもひぐらしは鬼隠しを頂点としてあとはひたすら下っていく感じだった・・・・
265名無しさん@ピンキー:2007/11/14(水) 08:46:18 ID:3zHBrCc/
いいかげんスレ違いも甚だしいのです
ひぐらしはヤンデレじゃないっていうならヤンデレスレの話題にしないでください
266名無しさん@ピンキー:2007/11/14(水) 14:06:53 ID:GkFCrw+E
ひぐらしの評判が下がるだけだしな

↓以下唐突に自分がヤンデレにされたいこと
267名無しさん@ピンキー:2007/11/14(水) 14:36:16 ID:cf0wg8aQ
依存と嫉妬
268名無しさん@ピンキー:2007/11/14(水) 15:37:09 ID:SlZI4AFP
監禁と血の飲み合い
269名無しさん@ピンキー:2007/11/14(水) 17:18:25 ID:VRxycf7S
ストーカー行為と大量のメール&着信
270名無しさん@ピンキー:2007/11/14(水) 18:45:48 ID:ufV4DOdM
入籍
271名無しさん@ピンキー:2007/11/14(水) 20:15:43 ID:SZR2kSBJ
自分にはして欲しくありません。
272名無しさん@ピンキー:2007/11/14(水) 21:41:41 ID:cf0wg8aQ
>>271
お前正気か!!?
自分に依存してくれるキモ馴染みもキモ馴染みに嫉妬と独占欲を剥き出しにするキモウトもキモウトを出し抜こうとするキモ級生もいらないと申すか!?
273名無しさん@ピンキー:2007/11/14(水) 21:53:54 ID:xeSAoR4g
>>272
逆に考えるんだ!>>271はそう答えることに彼女らをその気にさせようとしている。やっちゃだめと言われるとやりたくなる、そうあれだ。さらに言うならば、彼はツンデレにちが
274名無しさん@ピンキー:2007/11/14(水) 22:10:39 ID:iJaMSTUw
なんという動揺
275名無しさん@ピンキー:2007/11/14(水) 22:24:12 ID:tOhVCPfD
まぁ嫉妬はしてほしいよな
276名無しさん@ピンキー:2007/11/14(水) 22:45:28 ID:dk/AHKL3
とりあえず、監禁は確実にして欲しいな。
あとは首を締めるのと包丁で刺すのも。
277名無しさん@ピンキー:2007/11/14(水) 22:58:13 ID:AuFWFJUD
まずは飲み物に睡眠薬を一服
それで自分のほうを見てくれなかったら、致死量でいっしょに一服
278名無しさん@ピンキー:2007/11/14(水) 23:51:19 ID:ctQop8s+
あれだろ?>>271は主人公じゃなく、主人公の親友的ポジションにつきたいんだよ
主人公がヤンデレに付き纏われている姿を見ながら
安全な立ち位置で「お前、大変だなwwモテモテww」的なことを言いたいんだろ?


ごめん、俺だ・・・
279名無しさん@ピンキー:2007/11/14(水) 23:56:32 ID:XibefLto
正に俺
280名無しさん@ピンキー:2007/11/15(木) 08:39:34 ID:3ZizRT26
俺もヤンデレに追いかけ回されるより傍観者として見ていたい
281名無しさん@ピンキー:2007/11/15(木) 09:25:22 ID:Ls7KNOeK
友(傍観者)くんが消えれば男くんが私に構ってくれる時間が増えるよね♪

があり得るんじゃないか?
282名無しさん@ピンキー:2007/11/15(木) 17:03:21 ID:K70bdTXD
最初に気付いたのは西園寺世界だった
愛する誠の命により、二階からの円を禁じられていた
世界は正門に移動し、人民の動向を監視していたが
上空を見上げる、嫌な予感がしていた。

その嫌な予感が確信に変わる



上空から降りてくるモノが
ただならぬ戦闘能力を讃えていることと
世界の直感が通常より
冴えていた事は無関係ではないだろう





鋸に目を奪われていたのは一瞬
真に見るべきものはその背にいた

世界の円に鋸が触れた瞬間

互いの力量を察知する

と同時に世界は円を解いた

完全な臨戦体勢に入るために

だが

鋸は分裂、

無数の光る鋸となって
宮殿全体に降り注いだ


あのお姉ちゃんの強さの秘密?
まぁ…いくつかあるが
まず肌がおそろしく純白じゃ
奴の潜伏スキルの流れから次の展開を読むのは誰にも出来んな
伊達に長くストーカーしてない訳よ
精神的にはもうヤンデレ廃人の域じゃろ
なにしろあのお姉ちゃん ワシが赤子の頃からお姉ちゃんじゃ
西園寺世界とケンカして生存しておる唯一の人間じゃし
お姉ちゃんには違いない……ウム…ま持ちつ持たれつ銭と金

アホッ 対等なわけあるか!
いつもこっちが泣かされとるわい!!

ん?ああ 強さの秘密だったな
あとは……そうさな
戦闘の方でいえば
言葉様信者召喚≠アれが最も厄介じゃろ
283保守:2007/11/15(木) 19:53:51 ID:q9jWAy+q
「ついに明日が決戦の日ね」
赤い髪の女がそう言った。
俺と共に旅を続けてきた勇者だ。
俺はああ、と頷き決意を新たにする。
ここまでの旅は長かった。
女の勇者など前代未聞だったので、周りの者の理解はなかなか得られなかった。
2人旅なのも困難に拍車をかけた。
高潔な聖騎士、聡明な賢者、偉大な神官、求道者の格闘家、狡猾な盗賊。
多くの者が同行を提案してくれたが、勇者は全て丁重に断った。
曰く、少数精鋭で行きたい、と。
だから、魔術師である俺と勇者だけの旅となった。
時おり、「2人きりの旅なのに…」などとブツブツ言っていて、世界を救う旅に出る自覚があるのかと不安になったが、今日の様子を見ればそれも杞憂だった。
あと、料理についてもいささか不満があった。
交代で料理をしていたが、勇者はたまに、猫を料理するのだ。
最初に出されたのは確か…パン屋の娘に割引してもらって、パンを買った時だったか…あれは旨かった。
「泥棒猫に罰を与えたのよ…」
俺の抗議に対しそう言って微笑んだが、どうせ食料をちょろまかそうとしたとかそんな程度だろう。
たかが猫ごときに大人気ない。
それでも旨ければまだ良かったが、まずくて俺の口には合わなかった。
それでも、何度も猫を出すのを止めなかった。
まあ、旅も明日で終わるはずだ。
俺たちは魔王を滅ぼす。
調べたところでは、魔王は「滅びの呪文」を使い世界を滅ぼそうとしているらしい。
俺たちはその呪文が完成する前に魔王を止めなければならない。
そして、戦いが終わったら勇者にプロポーズしよう。
もし、OKが貰えれば2人でどこかに暮らしたい。
ダメだったら…その時考えよう。
「おやすみ…」
俺たちは決戦に備え休んだ。
翌日。
魔王城には魔物がひしめいていた。
だが、いくつもの死線をくぐり抜けた俺たちはそれらを突破し、最後の番人を倒した。
「…この先に魔王がいるのね」
「ああ」
俺たちは扉を開けた。
そこには青い髪の女が1人でこちらに背を向けて立っていた。
ゆっくりと振り返る。
哀しそうな顔の女は静かに問いかけてきた。
「あなたたちは、何者ですか?」
「私たちはあなたを滅ぼしにきたのよ、魔王!」
勇者が勇ましく言った。
俺は勇者の言葉を聞きながら、魔王の背後に目を奪われた。
水晶のなかに男がいる。
「この男もお前が殺したのか?」
「違う!この人は私の愛する人よ…」
284保守:2007/11/15(木) 19:54:40 ID:q9jWAy+q
俺の問いかけに一瞬激する魔王。
ならば、なぜ水晶に?
俺の疑問に答えるように魔王が続ける。
「この人と私は愛し合いました…ですが、この人は病に倒れたのです…私には彼の時を止めて病の進行を止めることしかできませんでした…」
まだ、この男は生きているのか?
魔王は語り続ける。
「私はこの人を助ける方法を探しました…そして、見つけました。命が失われる時の魂の慟哭、それを集めれば彼を助けられるのです…」
つまり、他の人間を犠牲にして、1人の男を助けようと言うのか。
この女は哀しみで狂ってしまったのか。
確かに魔王の恋人は哀れなのかもしれない。
だが、魔王の行おうとしていることを認めるわけにはいかない。
俺たちはこの哀れな女を止めなければならない。
「だからと言って、世界を滅ぼすことは許されないだろう…?」
俺の問いかけに対して魔王は答える。
「全て滅ぼす必要はないのです。そのようなことをしなくても、彼は助けられる…そして、私は彼と幸せになるのです…」
うっとりした表情で、だから世界を滅ぼす必要はないと魔王は言った。
そして、いくつかの国の名をあげる。
魔王に言わせればそれ「だけ」で彼を救えるのだそうだ。
この女を生かしておいてはいけない。
自分しか見えていない。
この女の恋人が助かった後、多くの犠牲と引き換えに助かったことを知っても喜ぶと思っているのだろうか?
結局、魔王は自分のために、多くの命を犠牲にしようとしている。
「あなたたちも…邪魔をするのですか…?」
魔王の問いかけに対する俺の答えは決まっていた。
そう、それはこの旅を始めた時から決して変わらないものだ。
「ああ、俺たちは…」
俺の言葉はそこで途切れる。
「素晴らしいわ!」
勇者が瞳を輝かせてそんなことを叫んだからだ。
俺はあっけにとられる。
何を言っているんだ、勇者?
「愛する人のために、世界と戦うなんて…私たちも協力するわ!」
ちょ…待っ…
「そうですか…ありがとうございます…あなたたちの協力があれば呪文が早く完成します」
魔王が微笑む。
いや、俺たちはそれを止めに…
だが、俺を無視して勇者と魔王が呪文を詠唱する。
「「保守」」
その日、多くの国が滅びを迎えた。
この日より、後の世に語りつがれる「魔王大戦」が幕を開けた。
赤き魔王と青き魔王、歴史書にはこの2人の名が残る。

END
285保守:2007/11/15(木) 19:55:34 ID:q9jWAy+q
「ねぇ、ママー、このお話って本当?」
赤い髪の少年が本を閉じ、母親に問いかける。
「ただの、お話よ」
少年と同じ赤い髪の女性は微笑んで答える。
「ママとお隣のマオちゃんのママの髪って赤と青で、お話と同じだね」
「そうね。でも、坊やとマオちゃんも赤い髪と青い髪よね」
「うん、そうだね!」
少年は元気良く答える。
「マオちゃんのこと、好き?」
「うん、大好き!」
母親の問いかけに少年は元気よく答える。
「そう…」
「でもね、みんなと遊ぼって言ってもね、2人じゃなきゃ嫌って怒るの…」
微笑む母親に少年は悲しそうに付け加える。
みんなと一緒の方が楽しいのに…と少年は言う。
「マオちゃんも坊やのことが大好きなのよ…」
そう言って母親は少年を抱きしめる。
「そっか…」
笑顔を浮かべ眠りに就く少年。
お隣の少女の苦労を思い母親は苦笑する。
彼女自身、愛しい人を捕まえるのに苦労した。
お隣のマオちゃんも頑張ってほしい…何しろ、親友の娘なのだから…
泥棒猫を退治する方法を教えてあげようかしら?
そんなことを思いながら、彼女はかつて親友と唱えた呪文を口ずさむ。
「保守…」


ホントにオシマイ
286名無しさん@ピンキー:2007/11/15(木) 20:12:57 ID:CMj9esaH
まだ、>>282の方が面白いな
287名無しさん@ピンキー:2007/11/15(木) 20:18:39 ID:bVpHgJyE
>>282
ピトーが世界でネテロが言葉、ゼノが心かよwww

>>285
息子も大変そうだなw
288名無しさん@ピンキー:2007/11/15(木) 20:25:43 ID:M/zt9FqY
>>285
>「保守」
でワロタw
GJなんだけどこれタイトルも保守でいいんだろうか
289名無しさん@ピンキー:2007/11/15(木) 20:32:33 ID:9mNvJffi
H×H信者の俺
笑い死に
290名無しさん@ピンキー:2007/11/15(木) 21:55:43 ID:GIUdOFHF
しかし最近、単発物はちょくちょく来るけど連載物があんまり投下されないな
ほトトギす待ってるんだが…
291名無しさん@ピンキー:2007/11/15(木) 22:57:42 ID:M/zt9FqY
そんなこと言ったら俺なんか両手の指で足りないぐらいの作品を待(ry
ま、色々都合があるんだろ
例の病み鍋に参加した作者さんもいるみたいだし。
292名無しさん@ピンキー:2007/11/15(木) 23:43:04 ID:1WxBr0lP
あー、そっか。あっちに書き手が引っ張られるのはもっともか。忘れてた。
293名無しさん@ピンキー:2007/11/16(金) 08:37:34 ID:xuC/Rl9n
>>282
>西園寺世界とケンカして云々
この一言で俺の腹筋は崩壊した。
294名無しさん@ピンキー:2007/11/16(金) 10:19:36 ID:oEX2nyWj
>>278
よく分かったなwwwww
される側じゃなくて見てるほうが萌えるんだ。
295名無しさん@ピンキー:2007/11/16(金) 12:45:28 ID:sixw2Q8e
そんなSSが外部であったよーな・・・・
ヤンデレ、嫉妬というよりハーレムものだが
296赤いパパ:2007/11/16(金) 18:22:29 ID:d558cimu
そんな中、短編を投下します。
297姉弟遊戯:2007/11/16(金) 18:23:13 ID:d558cimu
 お姉ちゃんに恋人が出来たらしい。

「修也く〜ん、修也く〜ん♪ スキスキ〜〜♪」

 アッコちゃんの替え歌を口ずさみながら、上機嫌でマフラーを編んでいる我がお姉ちゃんの姿はなんというかとてつもなく鬱陶しい。

「お姉ちゃん。ちょっとマフラー編むなら黙ってやってよ。テレビの音が聞こえないじゃん」
「いいじゃない。こうやって修也くんのこと想いながら編むと、一本一本に愛が込められてるように思えるんだ〜」
「なんか呪文みたいで気持ち悪いよ……」
「あはっ、いいね。愛の呪文かぁ。えへへ、いいなぁ。ソレ」

 ありゃ。気分を乗せちゃった。どちらかと言えば呪文というより呪詛のように聞こえるんだけどね。

「ねぇ、ねぇ、修也くん、このマフラー喜んでくれるかなぁ?」
「あー、はいはい。喜んでくれるんじゃないかねー……」

 ボクはなげやりに答える。そんな答えでもお姉ちゃんは「そうだよねぇ」とまた情熱的に身悶えながら、ちくちくと熱心に毛糸を編んでいた。
 お姉ちゃんの弟やって十五年になるけど、近頃は毎日がこんな調子だ。

 一ヶ月ほど前、お姉ちゃんに恋人が出来たそうだ。名前は田上修也さん。お姉ちゃんの学校のクラスメイトなんだってさ。
 お姉ちゃんが言うにはお姉ちゃんとその男の人は毎日いちゃいちゃいちゃいちゃしている校内一ラブラブなカップルでなんだそうな。まぁお姉ちゃんの言うことだから誇張がかなり混じっているだろうけどねー。
 登校するときはその人の家にお迎えに行って二人一緒に登校、放課後はその人の家で晩御飯を作ってあげてから帰ってくる(修也さんは一人暮らしなんだって)。帰ったら帰ったで、携帯電話片手に修也さんとメールだ。
 一度文面を見せてもらったけど、新婚さんかと思うくらいのお姉ちゃんの甘甘ラブラブメールに僕は呆れた。

 毎日朝早く起きて修也さんのお弁当を作ったりしたり、修也さんに何度もメールしたり、週末は毎週のようにデートにでかけたりと、お姉ちゃんはかなりその男の人に入れ込んでるようだった。

 まぁお姉ちゃんも顔は悪くないし、体のラインを隠している服の下は実は隠れ巨乳で胸おっきいし、健気だし、ちょっとボケボケなことに目をつぶれば、弟の僕の視線から見てもかなりの美人なんだよね。
 本当、いままでどうして彼氏が出来なかったんだろうと思うよ。
 そんな優しいお姉ちゃんに、それだけ慕われたらその男の人も本望だろうなぁ。羨ましいね。うんうん。
「お姉ちゃん。明日もお弁当作るんならついでに僕のお弁当も作ってくれないかな?」
「それはダメー♪」
「けち」
 うーん。その優しさをもう少し弟の僕に分けてくれればいいんだけどねぇ。
298姉弟遊戯:2007/11/16(金) 18:24:08 ID:d558cimu
 ★

 あー、変な夢を見た。
 僕の目の前でチャゲがマフィアに囲まれる夢。別に僕はチャゲファンじゃないんだけどさ……、夢というものは時々本当に変なものを見せるね。
 時計を見ると深夜2時……。ふわぁあ。寝たのが12時ちょうどだったからまだあんまり寝てないなぁ。
 トイレ行って牛乳飲んでもう一度寝よう。体を起こすと、部屋の中はひんやりと寒い。床に脱ぎ捨てていたドテラを着込むと、僕は部屋を出て台所へと歩く。
 うう。寒いなぁ。
 そろそろストーブも出さないと、風邪ひいちゃうな……。
 ……ん?

「お姉ちゃん?」
「あ、起きてたの」

 台所の前でばったりとお姉ちゃんと会った。

「どうしたの? お姉ちゃん……どこか行くの?」

 お姉ちゃんは深夜2時だというのに、外行きの格好だったのだ。
 黒いGパンに防寒ジャンバーを着込んで長い髪の毛をすっぽりとニット帽に収めている、そして肩からおっきく膨らんでいるバックをかけていた。
 少なくとも、寝る時の格好ではない。まるでこれから泥棒にでも行くような服装だ。見事に黒ずくめだし。

「えっとね。修也くんのところ」

 お姉ちゃんは無邪気な顔で答える。

「え、今から行くの? 今午前2時だよ?」
「うん。行くよ」
「でもさすがに修也さんに迷惑なんじゃないの」
「そんなことないよ。毎日行ってるしぃ」
「え!? 毎日っ?」

 みんなが寝静まった頃、お姉ちゃんは毎日出て行ってたのか?

「それって、どういうことなの。修也さんが来いって言ってるの? そうだとしたら、こんな夜中に呼び出すなんて非常識にも程があるよ」
「そうかな? でもお姉ちゃんからしたら、夜でも修也くんに逢えるだから、別にいいんだけど」
「ダメだよ。もし道中で誰かに襲われたらどうするんだよ! 非常識だよっ」
「むぅ……」

 お姉ちゃんの無警戒っぷりに僕は呆れた。一応これでも僕の大事なお姉ちゃんだ。暴漢に襲われたりなんかしたらどうする。
 修也さんも修也さんだ。顔も見たことないけど、うちのお姉ちゃんをこんな夜中に毎日呼び寄せるなんてどうかしているよ。

「うーん、でもお姉ちゃん。修也くんに会いたい……」
「明日朝逢えるじゃん。毎日迎えに行ってるんでしょ?」
「夜も会いたいの!」
「あんだけメールしてるのに……、わかった。お姉ちゃん。じゃあ僕も一緒に行くよ。夜道を一人で歩かせるわけには行かないもん」

 僕はお姉ちゃんを待たせ部屋に戻り、パジャマの上からコートを着こんで再び玄関へ。

「さ、行こう。お姉ちゃん」
「うん」

 いい機会だ。これを機にお姉ちゃんの恋人である修也さんに会ってみよう。
 そして、もし修也さんが毎日お姉ちゃんを真夜中に逢いに来させてるなら、お姉ちゃんの弟として厳重に注意してやる!

299姉弟遊戯:2007/11/16(金) 18:25:17 ID:d558cimu
 ん、お姉ちゃん。ここ修也さんの家。ふーん……。
 電気ついてないけど。もう寝てるんじゃないの。それか留守なんじゃ。え、好都合? どういうこと。お姉ちゃん。
 ドアかぎ掛かってるし。お姉ちゃん。本当にここが修也さんの家?
 ……ん。合鍵もってないの? お姉ちゃん。あんなにラブラブって言ってたじゃん。ん、カバンから何か出した。

「鍵はこれだよ」

 ん。針金と……ドリル? お姉ちゃん。なにする気だよ。それって、もしかして……。

(見事なサムターン回しのため、防犯上描写を割愛します)

「開いた」
「お、お姉ちゃん。ちょっと待って」

 今なにしたの。

「ドア開けたの」
「うん。確かに思いっきり開いてるけど……」

 でも、それは明らかに正規の方法で開けたんじゃないよね。鍵じゃないし。
 ちょ、ちょっ! お姉ちゃん! お姉ちゃんはドアノブを掴み開ける。チェーンががちゃりとかかっていたので、少しの隙間だけしか開かない。
 お姉ちゃんは慣れた手つきでカバンから、チェーンカッターを取り出すと…………。お、お姉ちゃん!?

 チャッキン!

「修也く〜ん。おじゃましまぁす」

 今度こそ完全に開いたドアを開けてお姉ちゃんは普通に入っていった。
 ……お姉ちゃん。普通の恋人は、彼氏の部屋のドアを開けるのにサムターン回しは使わないよ……? チェーンロックを切断しないよ……?
 ……そういえば。よく考えてみよう。お姉ちゃんは何度も修也さんにメールをしていた。でも修也さんからメールが返信された所を僕は見たことあるか?
 なんだか怖くなってきた。

「お、お姉ちゃん!」

 僕はドアを開けた。小声でオジャマしますとつぶやき、暗い部屋の中へ。
 修也サンの部屋は1LDKで、小さな台所と障子で区切られた部屋しか無い。開けっ放しの障子の間からお姉ちゃんの姿が見えた。
 おそるおそる覗き込むと……。

「うふふふふふふ……。修也くんの寝顔、かぁわいい……、食べちゃいたぁいよぉ」
 うちの姉は、ベッドで寝てるであろう修也さんを四つんばいに覆いかぶさっていた。
「えへへ。修也くぅん……。いつもいつも、見てるからねぇ。教室でも、登校のときも、家で寝てるときも、こうやってずーっとあたしが見てるから」
 そう呟くと、お姉ちゃんはベッド脇に置いたカバンに手を伸ばす。中から取り出したのは、今日編んでいたあのマフラー。
「修也くんのために一生懸命編んだの。所々私の髪の毛で編んでるから、これを使ってくれたらいつも一緒だよ……」
 寝ている修也さんの首元にマフラーを被せるお姉ちゃん。
「うふふふふ、ふふふ、ふふふふふふふふ……」

 そういえば僕はトイレに行きたくて、起きたんだった。
 明日も学校だし、早く家に帰って寝ないと。僕はきびすを返し、お姉ちゃんを置いたままおじゃましましたと部屋を出る。
 外は満天の星空。

「修也くぅ〜ん」
「!……おまえ! どっから入ってきた!」
「ふふふ、修也くん。マフラー編んだのぉ」
「そ、それで俺の首を絞めるつもりだな。やめろぉ! 近づくなぁ! うわぁぁぁぁああああ!!」

 なんか、修也さんの部屋から叫び声が聞こえるが、多分気のせいだろう。もしくは木の精だろう。
 さーて。これまで積んだお姉ちゃんに対する尊敬をいくらか見直さないとなー。あははー…………はぁ…・・・。
(おしまい)
300赤いパパ ◆oEsZ2QR/bg :2007/11/16(金) 18:26:01 ID:d558cimu
軽い感じで。
どなたかの電波受信に一役買えばいいなと思います。
301名無しさん@ピンキー:2007/11/16(金) 18:40:23 ID:RlW5GiY3
一番槍GJ!
姉ちゃん怖いよ。
302名無しさん@ピンキー:2007/11/16(金) 19:21:08 ID:Inm+/rAc
GJ
弟助けてやれよw
303名無しさん@ピンキー:2007/11/16(金) 20:20:07 ID:gUyoepzl
>>300
GJ!
でも姉スキーの俺としてはデレの対象が弟君でないのがただただ残念なのであった。
でもGJ
304名無しさん@ピンキー:2007/11/16(金) 20:51:18 ID:ZVqp02xK
あー、それはすげぇ思ったw>デレの対象〜
305名無しさん@ピンキー:2007/11/16(金) 22:03:59 ID:QS5SpaEY
やべぇ・・・俺の真っ赤な〇〇に火がついちまったよ

ちょっと夜空に真っ赤な誓いを叫びに逝ってくる・・・
306名無しさん@ピンキー:2007/11/16(金) 22:19:00 ID:NDfWgZXg
仕事早いな

すぐ上で話題になったやつだろ
307名無しさん@ピンキー:2007/11/17(土) 06:44:17 ID:Dp9OIXMT
>>305
この〜手を離〜すも〜んか〜 真っ赤な誓〜い〜

スレ的に真っ赤って血だろ?
308名無しさん@ピンキー:2007/11/17(土) 08:01:13 ID:1mJ8FaIr
運命の赤い糸かも知れんよ
まあ最初から繋がってるかどうかは知らんが
309名無しさん@ピンキー:2007/11/17(土) 08:52:51 ID:U8jETMf7
>300 >302 そこで弟が修也君を助け、急速に深まる二人の仲
だがそれに嫉妬する姉は・・・

というのを考えてみた
310名無しさん@ピンキー:2007/11/17(土) 11:14:16 ID:nY6w11CU
>>300
グッジョブすぎて茶吹いたwww
デレ対象が他人なのが逆にツボ。
311名無しさん@ピンキー:2007/11/18(日) 00:35:50 ID:y6A79RdV
>>300
新しい方向性GJ!
確かにヤンデレ姉が居る家族は大変だろうなぁ、としみじみしてしまった(´・ω・`)
312名無しさん@ピンキー:2007/11/18(日) 07:10:57 ID:RsNOKuTm
>>300これは怖いwwwwwwwwwww

是非弟君もヤンデレを学んで欲しいですな。

GJ!
313名無しさん@ピンキー:2007/11/18(日) 11:35:31 ID:jBa/CvXa
efのみやこを見て思った

ヤンデレスレの小説は生温いとw
314名無しさん@ピンキー:2007/11/18(日) 11:50:48 ID:ILirCnw0
>>313
みやこがどんな感じなのかkwsk
315名無しさん@ピンキー:2007/11/18(日) 11:55:47 ID:VxDn3HKc
あれはヤンではなくトラウマだろ
316名無しさん@ピンキー:2007/11/18(日) 22:27:33 ID:3sQj79yM
古事記のスセリヒメってヤンデレじゃない?スセリヒメが大国主の浮気(?)
に嫉妬する歌はかなりゾクゾクきたんだが

 ぬばたまの 黒き御衣をまつぶさない 取り装ひ 沖つ鳥 胸見る時
 はたたきも これは適はず へつ波 そに脱ぎ棄て ソニ鳥の
 青き御衣を まつぶさに 取り装ひ 沖つ鳥 胸見る時 はたたきも
 此も適はず へつ波 そに脱ぎ棄て 山縣に 蒔きし あたね春き
 染木が汁に 染め衣を まつぶさに 取り装ひ 沖つ鳥 胸見る時
 はたたきも 此し宜し いちこやの 妹の命 群鳥の 我が群れ住なば
 引け鳥の 我が引け住ねば 泣かじとは 汝は言ふとも 山トの 一本薄
 項傾し 汝が泣かさまく 朝雨の 霧に立たむぞ 若草の 妻の命
 事の 語り言も 是をば
317名無しさん@ピンキー:2007/11/18(日) 23:20:48 ID:Rzjn93BR
だ、だれか理系特攻型の俺に日本語で説明してくれ
318名無しさん@ピンキー:2007/11/18(日) 23:29:41 ID:6YqBRAU2
319名無しさん@ピンキー:2007/11/19(月) 01:20:20 ID:skgKDxaj
>317 いちおそれ日本語だぞ
現代語ではないがw
320名無しさん@ピンキー:2007/11/19(月) 01:43:19 ID:3xsCgFKI
俺的にはイザナミもヤンデレだと思うんだ
321名無しさん@ピンキー:2007/11/19(月) 02:18:02 ID:Cr8Z1irV
そんな事言ってたら、ギリシャ神話は宝庫だぞ
322名無しさん@ピンキー:2007/11/19(月) 02:21:11 ID:es7Ms+ao
愛情が異常加速するのは太古からあることさ
323名無しさん@ピンキー:2007/11/19(月) 07:52:35 ID:Kn5Y5tGB
てか、それ正確には大国主がスセリビメの気持を代弁した歌
最初の六行の解釈によっては、心中に誘っているようにも聞
こえるというのは有名な話
>>320
夫を殺そうとしたあげく逃げられたら、八つ当たりで一日千人
縊り殺すのだから、立派なヤンデレ
324名無しさん@ピンキー:2007/11/19(月) 15:57:02 ID:WM5gjJg/
嫉妬深くて絶対に好きな人を傷つけたりしないがまわりに容赦無いのもヤンデレ?
325名無しさん@ピンキー:2007/11/19(月) 17:19:11 ID:jp1jYLtg
単に周囲に冷たいのならツンデレと区別が付きにくいなあ
恋人や恋路の妨げになりそうな存在には善悪問わず容赦なしっていうんならヤンデレっぽいかな
326名無しさん@ピンキー:2007/11/19(月) 17:20:05 ID:JrEfvuGG
間違いなくヤンデレ
327名無しさん@ピンキー:2007/11/19(月) 22:18:22 ID:0Bb5l8t4
ドジで「こいつは守ってやらなくちゃいけないなー」って思ってる奴が実は超頭がキレててヤンデレだったら怖いな。立ちが悪い。
328名無しさん@ピンキー:2007/11/19(月) 23:20:37 ID:4H9gXUOI
やべぇw
その設定に
鳥肌がたったww
329名無しさん@ピンキー:2007/11/19(月) 23:45:13 ID:8ApdAiPh
>>327
おまいのお陰で電波を受信した。
書いてみるわ
330名無しさん@ピンキー:2007/11/20(火) 00:19:00 ID:NOt9Zd1b
wktkしながら
まったり待ちますか
331名無しさん@ピンキー:2007/11/20(火) 00:19:13 ID:tzwcl2Mk
>>329
超期待
332名無しさん@ピンキー:2007/11/20(火) 00:26:56 ID:xk2+FrRh
>>320
イザナミは、自分の醜い姿を夫に見られて怒り狂って殺そうとしたんじゃなかったけ?
それはヤンデレではないような…。普通のキレやすい女性では。
333リッサ ◆v0Z8Q0837k :2007/11/20(火) 01:05:50 ID:gJdem6/T
お久しぶりです、病み鍋の原稿にかまけていたので久々になりますが投稿します。…しかし殆ど
イラストばっかり描いていたのでブランクを埋められるのか少し不安です。

「料理上手な彼女」


 世の中で素敵な女性はどんな人か?そう考えるとまず真っ先に思い浮かぶのは…やっぱり家庭的
で、さらに料理が上手な人なのかな?と僕はそんなことを考えた。
 「ねぇねぇまーくん、今日のお弁当は…どうかなあ?」
 そういって彼女…僕の幼馴染である登呂玖 泉はいつものように僕の席に自分の席をくっつける
と僕に手製のお弁当の味を聞いてくる。
 彼女はボーイッシュな見かけ、かつ男勝りな性格によらず料理を作るのが大変得意だ。
 「うん、とってもおいしいよ…冷めるのが前提でこんなにもおいしく食べられるお弁当なんて一流
シェフでも作るのは難しいんじゃないかなあ?」
 「本当!やったー!!やっぱり僕って才能あるんだよね!ね!」
 そういって彼女は本当に嬉しそうにガッツポーズをとる…僕の
いう言葉にお世辞はない、本当に彼女の料理は美味しい。給食の
出ない土曜学級の日のみ味わえる彼女のお弁当は僕にとって本当に格別なも

のだった…彼女が初めてお弁当を作ってくれた頃は一緒に食べるのも少し恥
ずかしかったが今ではそれも気にならないくらいに彼女の料理の味は上達していた。
 「…えへへ、嬉しいなあ…まーくんに認められただけで三ツ星シェフになれた気分だよ」
 「それは気が早いよ、まずはちゃんと調理師学校に行かなきゃさ」
 「うん…でも、マー君にあえなくなるのは少しさびしいかな…」
 彼女…泉の将来の夢は調理師になることらしい、もともと子供のころから手作りお菓子やら
料理やらを振舞ってくれた彼女がそんな自分の夢を語ってくれたときはある程度納得したが
彼女の覚悟は半端ではなかったようだった…僕は後数日もすれば高校受験を受けて、晴れて
周りの平均クラスの連中と同じ高校に進学できるのだが…泉はそんな怠惰で甘美な日々を振
り切って調理師学校に進学する道を選んでいた。

>322
 最後の部分の「一日に千人の〜」のくだりで愛を感じる、なんていう解釈を里中美知子が漫画ギリシャ神話でしていたような気がします。
334リッサ ◆v0Z8Q0837k :2007/11/20(火) 01:08:18 ID:gJdem6/T
「料理上手な彼女」@

「何いってるのさ?家だって近所だし、それに休みの日はまたいつでも遊んであげるからさ」
 「ぶー、そういうことじゃないの、僕はまーくんと今みたいに会いたいんだもん!!」
 そういって泉は少し冗談めかした膨れっ面を浮かべた、そういわれて見るともうこうして
他愛ない話をしながら彼女のお弁当を食べられる日が来なくなるのはさびしい事なのかも
しれない…でも僕らはまだ若い、きっと高校に行けばもっと楽しい事もあるはずだ…僕はそう
考えて、彼女のお弁当を出来るだけゆっくり食べてあげる事にした。
「じゃあ高校生になっても一緒に登校してやるよ…だから機嫌直せって」
 「本当に!?絶対だよ!まーくん!」
 今にして考えれば、このときに僕は泉の気持ちに気づいてやるべきだったのかも知れない。 
 このとき僕は気づいていなかった…そうやって未来はいい方向に向かっていくって考えることを…彼
女はもうすでにこの時、全思考を持って否定していたってことを…。
 
335リッサ ◆v0Z8Q0837k :2007/11/20(火) 01:10:17 ID:gJdem6/T
料理上手な彼女…の日記

2月某日 曇りのち雪
 まーくんは今日も僕の料理をほめてくれた、とても嬉しかった、でも悲しい、僕の気持ちをわかって
くれない。
 僕だって同じ学校に行きたいよ、さびしいよ、でも僕は同じ学校にいけないんだ、だってそうしない
とお母さんがぶつんだ、嫌な事をするんだ…あなたは私の跡を継ぐために育ててきたのよ!って。
 本当は僕、料理なんか嫌いなんだよ・・・でも君が喜んで僕の料理を、お母さんみたいに怒らないで食
べてくれたから…僕はまーくんにお弁当を…いや、まーくんが大好きなんだ、だから僕はお弁当を作る
んだ…だから、ひとりでしたときの、おつゆも…隠し味に入れてるんだから…。
 ねえまーくん、早く僕の気持ちに気づいてよ…僕のうちの台所には…媚薬とかないから…君に襲わせ
るのは無理だけど…でもこんなにも、僕はいつもそばにいるんだから…(以降、解読不可能)
336リッサ ◆v0Z8Q0837k :2007/11/20(火) 01:14:00 ID:gJdem6/T
 料理上手な彼女 A
 
 そしてそのまま季節は春を向かえ、僕は晴れて高校生に、泉は調理師学校の生徒になった。
 しかし不思議なもので幼馴染との登校は、学校が変わっているというのにいまだに続けられていた。
 「はい、今日のお弁当だよ」 
 「うん、いつも悪いな」
  高校生になれば自然に給食はなくなって弁当生活が始まるのだがあいにく僕の家は父子家庭なので
…もう季節はとうに五月だと言うのに僕はいまだに泉の好意に甘えて弁当を恵んでもらうという生活を
続けていた。泉が僕の家庭の事情を察していてくれる分ありがたいのだが…いかんせん彼女の家も母子
家庭なので内心とても悪い気がする。
「…そうだ、今度遊びに行こ!おれがおごるから、どこでも好きなところに連れてってやるよ!」
 「あ…ゴメンね、僕の学校、あんまり休みがなくて…」
 「そうか、でも夢をかなえるんだもんな…がんばれよ!」
 「うん…」
 そういう泉の表情はどこか暗く、中学校時代のような覇気がないように感じられる…俗に言う五月病
と言う奴だろうか?最近は指先に絆創膏をまいていたり、なかなか一緒に遊べないあたり、やっぱり料
理を仕事にするための勉強と言うのはとても大変なのかもしれない。
「っと、それじゃあおれはここで…あ、舞ねーちん!」
 そういって角学校への近道である三叉路の角を曲がろうとしたとき、僕はもう一人の幼馴染の気配に
気づいた。
「あ…おはようまーくん、それからイズミン…」
「…あ、お姉ちゃん!今日はちゃんと起きられたんだね!」
 先ほどの態度から少し回復したのか、泉はいつもの調子を取り戻す…彼女の名前は 来栖 舞 僕ら
二人とは一つ違いなのだが子供のころからの付き合いで、さらに僕と同じ学校似通っているためこうし
て三人が顔を合わせるのはねーちんが寝坊をしないかぎりは恒例の行事となっていた。 
「はい、お姉ちゃんのお弁当、スッポン入りだからきっと寝つきがよくなるよ!」
「あらあら…ありがとうねイズミン…今度私もお礼に特製の紅茶を入れてあげますからね…」 
「うん、その時はスコーン焼いてあげるから楽しみにしててね!!」
 ねーちんは紅茶を入れるのが趣味、なんていう浮世離れした趣味を持つ、とろいのが特徴の高校二年
生だ…しかしそんなねーちんと明らかに対照的な泉は凄くウマが合うらしい、嬉しそうにねーちんとし
ゃべる泉。二人は僕も遠慮するぐらいに、まるで本当の姉妹のように仲がよかったりする…やっぱりこ
ういう場合はねーちんと話した方が元気になれるのかな、と考えると少し悔しくなった。 
「あ…それじゃあもうそろそろ学校に行かなきゃ…」
「うん!二人ともいってらっしゃい!!」
「おう!泉も頑張れよ!」
 こうして僕たちはそれぞれの学校へ向かった、二人を待っているうちに遅刻まで時間ギリギリとなっ
てしまったが、それでも泉が少しでも元気になればいい、そう思うことにして僕は舞ねーちんと二人で
陸上部も顔負けの遅刻ギリギリ猛ダッシュをして学校への坂を駆け上がった。
 
337リッサ ◆v0Z8Q0837k :2007/11/20(火) 01:16:51 ID:gJdem6/T
料理上手な彼女 A
 高校生活というものは意外に慣れてしまえば中学校と変わらない怠惰なものだった。クラスの友人達
もそれほど変わり映えはせず、部活動も文系なのでこれと言って頑張れるものではない…しかし強いて
いうなれば、僕の横にいるのが泉でなく、舞ねーちんになった事が一番の変化といったことだろうか。
 舞ねーちんは泉ほど積極的ではないのだが、それでもよく僕をお弁当に誘ってくれた、部活道も実を
言えばねーちんの誘いで入部していたりする…たまに遊びに行く回数なんかも中学校の頃から比べると
何倍も増えていった…そしてその分、朝顔を合わせる以外では、だんだん泉とは疎遠になっていった。
「ねぇねぇ誠君、やっぱり君って舞ちんと付き合ってるの?」
 放課後、部活動である茶道部のあとかたづけ中に先輩からそんなことを聞かれる、女子…しかも舞ね
ーちんの友人が多めのこの部活動ではある意味関係を怪しまれても当然のことだった。
「え…いや別に…僕は舞ねーちんとは…」 
「えー!そうなのー!?…でも仕方ないかー、何てったって舞”ねーちん”だもんねえ」
 先輩はそういってけらけらと笑う…その直後、がらがらと部室のドアを開けて、ねーちんが部室に入
ってきた…その顔はどこか悲しげで、僕は凄い申し訳のない気分になった…。
 もう、僕は心のどこかで気づいているんだろう、舞ねーちんが僕を一人の男として好意を持ってみて
いて…僕もその気持ちに答えたいってことを…。
 恋愛は儚い、ならばそれを全て捨てて友情に走れるのか?…そんな青春時代ではごく当たり前の葛藤
を抱きつつも時は流れ…季節は春から夏へと変わり始めていた。
338リッサ ◆v0Z8Q0837k :2007/11/20(火) 01:18:04 ID:gJdem6/T
料理…下手なねーちんの日記

 6月某日雨
 
 明日は誕生日だ、でもとても嬉しくない事があった。イズミンに相談されてしまったのだ…まーくん
が好きで好きでたまらない、どうしても付き合いたい…でも家の事情と、学校のスケジュールのせいで
会えない、そう涙交じりで相談されてしまったのだ。
 ずるいよイズミン、わたしだってもう我慢の限界なんだよ。
 私もずっとまーくんのことが大好きだったんだよ、でも中学校を卒業して、いつもイズミンのそばに
はまーくんがいたから遠慮してたのに…。
 大好き、まーくん大好き…でも、イズミンも大好きなんだよ…コレだけは信じて、いつもお家や学校
の事で相談に乗ってあげてるのも…同情なんかじゃないんだよ…でも。
 もう、私も我慢の限界なんだよ。
339リッサ ◆v0Z8Q0837k :2007/11/20(火) 01:23:35 ID:gJdem6/T
料理上手な彼女 B
 その日は舞ねーちんの誕生日だった、僕は以前からねーちんが欲しがっていた変なデザインの抱き枕
を買い、泉はケーキと料理に腕を振るう…そんないつも通りな、恒例の分担で二人で誕生日の準備を始
めていた。
 会場には僕の家が使われる事になった、ちょうど両親も旅行で出かけている事だし、遅くまで騒いで
も問題はないだろうという判断からだった。
「イズミン…遅いねえ…」
「うん、なんだかケーキを焼くのに少し時間がかかるみたいだよ」
 泉の到着が遅れたため、僕たち二人は少しの間待たされる事になった…二人きりなのが原因なのか
それともねーちんが珍しく露出度の高い私服をきているせいなのか…緊張気味の僕ともともととろいね
ーちんとの会話はだんだんと少なくなり…次第に僕らは無言のまま隣通しでソファーに座ることになっ
てしまった。
「…ねえ、まーくん…舞ねーちんはね…欲しいものがあるんだよねぇ…」
何故か生唾を飲み込むとねーちんは重い口を開いた…その声はどこか震えている。
「うん…僕もそう思って…今日、プレうわああ!!」
 ねーちんはいきなり立ち上がると僕の肩を掴んだ、そしてそのまま僕をソファーに押し倒した。
「ちがうよ…モノじゃないの…まーくんが、お姉ちゃんは…まーくんが欲しいの!!」
「ちょ!駄目だよねーちん!それにほら…もうすぐ泉が!!」
 ねーちんは僕の声が聞こえないかのように、僕の両手を押さえると、そのまま僕にキスをした。
「ん…大丈夫だよ…だってもう、私我慢できないもん…それに、嫌じゃないんでしょ?まーくん」
「そ…それは…」
 舞ねーちんはそういうなり僕の口腔にに舌を押し込んでくる…もちろん、こうなることは僕自身も望
んでいた事だ…僕はそれを受け止めた。もう完全に泉のことなんてどうでもよくなっていた。
 泉が僕の家の、玄関に近づいていることなんて思いもせずに。

「おねーちゃーん!ハッピーバースデー!!」
 私はケーキの完成で遅れた時間を取り戻すため、慌てて、なおかつ威勢良くまーくんの家の玄関を開
けた、なんだか恥ずかしさで自分が誕生日の主役になったみたいだ…そんな気分だった。
 …馬鹿みたいだ、その玄関を開けることが、地獄の入り口だったと言うのに。
 
「ん…あああ!!!はああ!ん!!」
 僕はねーちんと体を重ねていた、あいにく男性経験は初めてのねーちんのそこはとても硬く閉ざされ

ていて、内部に侵入するのは一苦労だったが一度入ってしまえば後は楽らしく、ねーちんは僕の腰の動き
に対して艶っぽい声を上げていた…。
「ん…ああ…出すよ、ねーちん!」
「あ…来て!来てぇ!いっぱい出して!もう私も、いくぅ!」
「は…んん!!」
 そのまま僕はねーちんの内部に射精した。
 ガシャン!!
 それと同時に玄関に大きな音が響いた、僕は放心状態のねーちんをソファーに寝かせるとそのまま玄
関に近づいた。
「泉…なのか?」
 弱弱しい声で僕が呟く、返事は帰ってこない…意を決して玄関へ向かうと…そこにはたくさんの料理
と、それを乗せたお皿とかごがぶちまけられていた…。
340リッサ ◆v0Z8Q0837k :2007/11/20(火) 01:24:16 ID:gJdem6/T
料理上手な彼女 B

「…泉!!」
 僕は急いで外に出る、しかしその先に泉の姿はなかった、もしやショックを受けて家に帰ったのかな
そう思って泉の家の方角を見ると。

「じゃあね」
 泉は僕の真横にいた、その目は恐ろしくなるくらいに空ろで、視線も一向に定まっていなかった。
「あの…泉、実は…これはその…」
「お姉ちゃんと、お幸せに…」
 泉はそう言うとふらふらとした足取りで自宅に戻っていった。
「泉…」
 義務、なのだろう。男ならここで彼女を引き止めて、きちんと事情を説明する必要がありのだろう…
だって気づいてたはずだろ、あいつが僕とはなれても毎日毎日弁当を作ってくれた理由くらい…だった
ら、それこそ今すぐにでも事情を説明して、きちんとした対応を…。
 がちゃん!!
 そんな大きな音を立てて泉の家のドアが閉められた、それは彼女からの僕たちに対する完全な拒絶の
合図に思えた。
 いや、そう思い込んで逃げていただけなのかもしれない、だって、もしもここで彼女に対して、きち
んと僕が事情を説明できたなら、未来は…あの未来はかえられたのかもしれないのだから。
 
341リッサ ◆v0Z8Q0837k :2007/11/20(火) 01:25:42 ID:gJdem6/T

 料理上手な彼女…の日記A
 
 6月某日 未記入

 お姉ちゃんに裏切られた、まーくんを取られた、私のまーくんを。
 どうして?お姉ちゃんはいつでも私の悩みを聞いてくれた、アドバイスもしてくれた、それ以上に私
のお姉ちゃんで…いつもわたしの大事なお姉ちゃんでいてくれたのに、どうして?なんで?。
 恨めないよ、嫌いになれないよ・・・でも、でもまーくんを取っちゃった事は許せないよ。
 何がいけなかったのかな?何が悪かったのかな?解らないよ、わからないよ。

 そうだ、私の料理が下手だからいけないんだ…そうだよね、私の料理がもっと美味しかったら…お姉ち
ゃんも私とまーくんが上手くいくように協力してくれたはずだ、まーくんももっと早くに私の気持ちに
気づいてくれてたはずだ。
 じゃああの人が悪いんだよね、そうだよね、だっていつも私のことぶって、自分にはかなわないって
ののしりながら料理の事を教えてたくせに…結局何一つ、私の大切なものを振り向かせる方法すら教え
てくれなかったんだもん…悪いのはあの人だよね。じゃあ、殺すしかないよね。
 (以降、多量の血痕により解読不能)
342リッサ ◆v0Z8Q0837k :2007/11/20(火) 01:27:45 ID:gJdem6/T
料理上手な彼女 B
 
 よくは知らないが、彼女との初デート後に一番大事なのは次の日のフォローだという。
 なら、こういう場合はどうすればいいのだろうか?
 次の日、僕とねーちんがきちんと今回の事情を説明するために学校への通学路で泉を待っていると…
そこに泉は現れず、変わりに二人の警察官が現れた。
 任意同行をお願いできますか?と、警察官はそういった。
 
 泉はあの後、寝室で眠る自分の母親をハンマーで滅多打ちにして殺し、調理師学校に…その、調理し
た母親の死体…その生首を持っていったらしい。
 見て!皆!この人ね、料理が大好きだったけど…どんなに調理してもおいしくないんだよ、最低だよ
ね、料理人として最低だよね…あはははははははは! 
 彼女は即、そのまま警察に逮捕された…僕たちはせめてものつぐないに、と事情を包み隠さずに説
明した。
 何がどうあれ、僕たちは一人の少女を、大切な幼馴染を二人して傷つけたのだ…そのための罰ならい
くらでも受けるつもりだった。
 
「わ…私が我慢すればよかったのかな…ひぐ…私があんなことしなきゃ、泉ちゃんは…うぐ…」
「いや…僕だ…僕が悪いんだ…僕がしっかりしてないから…うあああ!!!」
 
 僕たちは泣いた、泣き明かした、まるで自分たちが被害者だったかのように…。
 
 そして年が終わる頃、泉の事件は判決が下された。医療少年院送致、それが彼女に下された刑罰だっ
た…彼女は完全に精神を病んでいるらしく、弁護士との接見はおろか面会も断られる状況、と言った感
じだった。
 実の母親による虐待、そして思春期ゆえの精神の不安定さ…そして僕らの行動のせいで彼女は、壊れ
てしまったのだ。
 僕たちは誓った。もし彼女が帰ってきたら、その心が治ったら…今度こそ二人できちんと事情を説明
して謝罪しよう、そして僕たちの罪を償おう、と。 
  
 そして、更に数ヶ月が流れ、また季節がねーちんの誕生日に近づいたとき…泉は医療少年院を脱走し
て…そのまま姿をくらませた。
 
343リッサ ◆v0Z8Q0837k :2007/11/20(火) 01:28:33 ID:gJdem6/T
料理上手な彼女…の思考

 …やっと解ったよ、お姉ちゃん。どうすればおねえちゃんを許せるのか解ったよ…そうだよ、ずぅー
っと眠りながら考えていたけどやっと解ったよ。お姉ちゃんがお姉ちゃんだからいけないんだよ…お
ねえちゃんが私と、まーくんと同じになればいいんだよ…うふふ、あはははははは!そうだよ、同じな
らいいんだよ、同じになれば…そう、全て…。
 待っててね、今行くからね…お姉ちゃん…。
 私もおねえちゃんのこと、あいしてるからね。
344リッサ ◆v0Z8Q0837k :2007/11/20(火) 01:30:32 ID:gJdem6/T
料理…下手なねーちんの日常

 その日、普段は人一倍とろい私は、珍しく緊張して体を震わせていた。
 数日前、イズミンが医療少年院を脱走した後、始めて私の家に電話をかけてきたのだ。
「会いたいの…どうしてもお話したい事があるの」
 イズミンはかれた声でそう言った、待ち合わせ場所は郊外の廃鉱山で、とのことだった。
 殺されるかもしれない、下手をすれば生きては帰れないかもしれない、そんな思考も頭をよぎった…
でも行かなければい、そうも思った…そうしなければ、私は一生彼女にした事に対して償いが行えないと
感じた。
 もちろん、数日前から私の周りには警察の監視の目が合った、多分この連絡も筒抜けだろうと思う。
 それでも、せめて彼女を説得するべく、私は郊外に向かって自転車を走らせた。
 
 夕方、やっと山間部付近の廃鉱山にたどり着いた時にはもう日が暮れそうになっていた、鉱山の入り
口に近づいて、入り口の鎖がきられている事を確認して大声で叫んでみる。
「イズミーン!いるのなら返事して!私だよ…お姉ちゃんだよ!!」
 声が坑道の奥深くに響き渡る、しかし反応は返ってこない…もう警察に捕まってしまったのだろうか
…そう考えながらも坑道の奥深くに進もうとしたそのとき、背後に気配がした。
「こんばんは、お姉ちゃん」
 背後に彼女がいた、突然の事に驚きながらも私はゆっくり振り向こうとする…夕暮れ時が近いので顔
が確認できるのか、不安になりながら振り向いた時…ごん!という衝撃が、私の頭部を襲った。
 気絶して倒れそうになる中、逆行を浴びて、手にかなづちを持った…懐かしい、それでいてどこか禍
々しい顔の泉を、私はしっかりと確認した。
345リッサ ◆v0Z8Q0837k :2007/11/20(火) 01:31:32 ID:gJdem6/T
 取りあえず今日はここまで貼ります、後半は微グロ予定ですので…ではまた明日
346名無しさん@ピンキー:2007/11/20(火) 01:33:34 ID:Ox+fUX38
なんか、どっち選んでも片方がヤン化しそうなんだが・・・
347名無しさん@ピンキー:2007/11/20(火) 03:07:31 ID:5OmaJUFU
いきなりセクロスシーンに遭遇しなければヤン化はしなかったと思うが

にしても自分の好きな人と親友がヤってるのを見たら死にたくなるだろうな。
しかも誕生日祝いを持ってきた時に。
348名無しさん@ピンキー:2007/11/20(火) 03:24:42 ID:dmcgyp4R
みんなで一緒になりたくて料理が得意、しかも次はビグロらしい

wktkですね
349名無しさん@ピンキー:2007/11/20(火) 07:34:36 ID:6o+HgEGh
>>348
                         ___
             ∧_       /      \_____/|0|
     |\      \  ̄ ̄ ̄ /___/  ノo|        |0|
  《 //        \   /\●__/  /o|\     |0|
|\_/△          \/        /Oノ   \   |0|
\/ \\        //\     /〇/    /\ |0| \
      \\   _ <<_[@〉\_______/____/
         〇(__(⊂( ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ((⊂(__(⊃〇
                  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄      θ//θ
                               θ//θ
                                //
                               //
                            /―▽―、
                            | | ̄ ̄ ̄| |
                            \> </
350名無しさん@ピンキー:2007/11/20(火) 09:37:41 ID:c9OxE3u/
それは違う
351名無しさん@ピンキー:2007/11/20(火) 13:55:52 ID:ouuQtGV2
あえてザクレロ辺りを出していれば突っ込みがいもあったものを
352名無しさん@ピンキー:2007/11/20(火) 21:09:19 ID:f5yyzHYR
まぁ、しょうがない
ところでこのスレのテーマソングを「地獄のズバット」にしようと思うんだがどう思う?
単に俺がよく聞きながらヲチしてるからなんだが・・・
353名無しさん@ピンキー:2007/11/20(火) 21:37:57 ID:ecXSRppa
俺はこれかなあ
ttp://www.youtube.com/watch?v=R6KAHEVtQcg&mode=related&search=

うん、完全に趣味丸出しなんだ。すまない。
354リッサ ◆v0Z8Q0837k :2007/11/20(火) 23:47:46 ID:gJdem6/T
こんばんは、遅くなりましたが残り文を投稿させていただきます。一応微…?グロ注意です

料理…下手なねーちんの最期

「あれ…ここは?」
「おはよう、お姉ちゃん、目は覚めた?」
 気がつくと私の目の前には泉の顔があった。その顔は記憶の最後にある顔よりも痩せこけて、その服は血まみれな上にぼろぼろだった…それでいてぎらぎらと光る様なまなざしははどこか不気味な
雰囲気さえ漂わせていた。
「イズミン…その…怪我とかは大丈夫?」
「ああ、これ?…大丈夫、返り血だから…たいした事ないよね、警察っていってもさ…」
「…ゴメンね、私があの日、あんな事したせいで…あなたを…そんな風に…」
 私は泉の言葉で彼女の服についた血が誰のものなのかをさとり…そこまで泉を追い込んだ自分を恥じた。そして嘆いた…もしも自分があの時あんな行動を取らなければ…そんな考えが頭をよぎる。
「自首しろ、なんてことは言わない…私が憎いなら殺してくれても一向に構わない…だからもうこれ以上、お願いだから誰も殺さないで…それから、本当に、あの時は本当にごめんなさい、もういくら
謝ってもどうにもならない事だろうけど…本当にごめんなさい」
 私は謝った、誠心誠意謝った、最悪の場合の命の覚悟ももう出来ていた。たぶんもう私は助からないのだろう…この両手を縛りつける荒縄がその事実をしっかりと告げていた。
「いいんだよお姉ちゃん、お姉ちゃんは全然悪くない…悪いのはあの女と…私たち二人を虜にしちゃうような…まーくんのやさしい所…それくらいだから…だから」
 さくり!と小気味のいい音がする。
 泉は手に持っていたナイフを私の首に突き刺した…。
「ご…め…ん…ね…」
 気絶しそうな意識の中で私は謝った、ぐりぐりと、泉はナイフの刃で私の首の肉をえぐるように執拗に刃を突き刺してくる…痛い、気絶しそうなほどに痛い、でも
耐えなくては…私の意識がある限り…謝って…。

 そう思考したのを最後に舞の意識は吹き飛んだ。それでも執拗に泉はその首に突き刺したナイフをぐちゃぐちゃとかき混ぜた。
「あれ…おねえちゃんは悪くないのに…どうしてだろ?どうしてだろ?」
 泉はぽろぽろと涙を流し、手に持ったナイフをようやく放した。
「こうすれば…きっと二人とも、ううん、三人とも幸せになれるのに…どうしてだろ…あはははははははは!解らないや!これは解らない
や、あははははははははは!!」
 泉は泣いていた、泣きながら笑っていた、でももうすぐそれも終わる…彼女の狂った理性はそう告げていた。
「そう…あと少しだからね、まーくん…」
 彼女の視線の先には、手足を縛られたまーくん、こと誠が横たわっていた。



 
355リッサ ◆v0Z8Q0837k :2007/11/20(火) 23:48:40 ID:gJdem6/T
こんばんは、遅くなりましたが残り文を投稿させていただきます。一応微…?グロ注意です

料理…下手なねーちんの最期

「あれ…ここは?」
「おはよう、お姉ちゃん、目は覚めた?」
 気がつくと私の目の前には泉の顔があった。その顔は記憶の最後にある顔よりも痩せこけて、その服は血まみれな上にぼろぼろだった…それでいてぎらぎらと光る様なまなざしははどこか不気味な
雰囲気さえ漂わせていた。
「イズミン…その…怪我とかは大丈夫?」
「ああ、これ?…大丈夫、返り血だから…たいした事ないよね、警察っていってもさ…」
「…ゴメンね、私があの日、あんな事したせいで…あなたを…そんな風に…」
 私は泉の言葉で彼女の服についた血が誰のものなのかをさとり…そこまで泉を追い込んだ自分を恥じた。そして嘆いた…もしも自分があの時あんな行動を取らなければ…そんな考えが頭をよぎる。
「自首しろ、なんてことは言わない…私が憎いなら殺してくれても一向に構わない…だからもうこれ以上、お願いだから誰も殺さないで…それから、本当に、あの時は本当にごめんなさい、もういくら
謝ってもどうにもならない事だろうけど…本当にごめんなさい」
 私は謝った、誠心誠意謝った、最悪の場合の命の覚悟ももう出来ていた。たぶんもう私は助からないのだろう…この両手を縛りつける荒縄がその事実をしっかりと告げていた。
「いいんだよお姉ちゃん、お姉ちゃんは全然悪くない…悪いのはあの女と…私たち二人を虜にしちゃうような…まーくんのやさしい所…それくらいだから…だから」
 さくり!と小気味のいい音がする。
 泉は手に持っていたナイフを私の首に突き刺した…。
「ご…め…ん…ね…」
 気絶しそうな意識の中で私は謝った、ぐりぐりと、泉はナイフの刃で私の首の肉をえぐるように執拗に刃を突き刺してくる…痛い、気絶しそうなほどに痛い、でも
耐えなくては…私の意識がある限り…謝って…。

 そう思考したのを最後に舞の意識は吹き飛んだ。それでも執拗に泉はその首に突き刺したナイフをぐちゃぐちゃとかき混ぜた。
「あれ…おねえちゃんは悪くないのに…どうしてだろ?どうしてだろ?」
 泉はぽろぽろと涙を流し、手に持ったナイフをようやく放した。
「こうすれば…きっと二人とも、ううん、三人とも幸せになれるのに…どうしてだろ…あはははははははは!解らないや!これは解らない
や、あははははははははは!!」
 泉は泣いていた、泣きながら笑っていた、でももうすぐそれも終わる…彼女の狂った理性はそう告げていた。
「そう…あと少しだからね、まーくん…」
 彼女の視線の先には、手足を縛られたまーくん、こと誠が横たわっていた。



 
356リッサ ◆v0Z8Q0837k :2007/11/20(火) 23:58:59 ID:gJdem6/T
 書き込みミスと誤爆失礼しました、それではいよいよ最終章になります

料理上手な彼女 ラストオーダー

「まーくぅん、ご飯できたよお!」
 あの日、舞ねーちんを捕まえたと舞ねーちんのケータイから泉のメールがとどいて、急いで廃鉱山に向かってからもうどれほどの日が流れたのだろうか。
 もう数日が過ぎたのかもしれない…舞はいつもの事のように僕に裸エプロンでご飯を振舞ってくれる
…メニューはバターソテーをはじめ、チョリソー、生レバーや刺身に鍋、更にステーキやハンバーグにデザートなどと実に豊富に取り揃えられている。
 …食材は何かって?決まっているだろう、ねーちんその人に決まっているじゃないか!! 
 あの日、監禁された僕を待っていたのはねーちんの死体と、泉によるねーちんの解体ショーだった。
「…僕思いついたんだ…こうやってねーちんを、まーくんの大好きなねーちんを全部食べれば…僕もねーちんと同じ存在になれるって…それで、さらにそのねーちんのもう半分をまー君が食べてくれれば…
もう、二人はずっと仲良しでいられるって…あはははははは!」
 解体された死体を調理しながら泉はそういった、僕は…いっそ殺してもらいたい気分になった。
「はい、あーん」
 こうして数日間?の間に僕は彼女と一緒にねーちんの体を文字通り味わう事になった、最初の数日は食べる事を拒否して何度となくはいていたが、僕の体は泉によって完全に拘束されている上に、吐けば
泉がそれを口移しで返してくれるというお返しが待っていた…そしてもちろん、僕の体は空腹には耐え切れなかった。
 それに泉の振舞うねーちん料理は…何よりも、おいしかったんだ…彼女は言った、捕まっていた間に研究した味付けだと。
 僕は愚かだ、何が謝罪だ、結局僕には何も出来なかったじゃないか…僕が出来た事なんて、結局は女性を苦しめた挙句、足りない覚悟と準備で一人の女性を死なせてしまった事…それだけじゃないか?何でだよ、何で僕は、何で生きてるんだよ…。
「…かわいそう、泣いてるの?まーくん…でも大丈夫、お姉ちゃんと一緒になれば、もう何も寂しくないからね…」
 そういって泉は僕の涙を拭くと、僕の口に、ねーちん料理を運んだ…。 
「ごちそうさまでした…それじゃあ、子作りしようか、ほら、お腹のお姉ちゃんも、まーくんの子供が欲しいっていってるよ」
 そういうと泉はいつものようにエプロンをたくし上げ、自分の濡れた股間を見せた。
「はあ…いいよ、とってもいいよ!まーくん…ん!」 
 ・・・僕が絶頂を迎える瞬間、泉は手に持っていたナイフで、僕の心臓を一突きした。
「はあ…ん!!!まーくん…大好きだよ…大好き…だから…まーくんもおねえちゃんと、私と一緒になろう…」
「…ありがとう…いずみ…」
  彼女の言葉に僕はそう返すしかなかった、というかそこで僕の意識は…永遠に途絶えた。口ではえらそうな事を言ってるくせに…情けない男だ…僕も。
「お姉ちゃんは全部私とまーくんが食べた、そしてまーくんは私が食べてあげる…うふふふふ、あはははははははは!うれしいよ、うれしいよまーくん!あははははハハハ!!」
 廃鉱の中ではいつまでも、いつまでも悲しげな、それでいて嬉しそうな泉の声が響いていた。

 廃坑の奥では今日も泉が料理を作っていた、材料はもちろん大好きなまーくんのお肉だ。
「ふふふ、今日もおいしいよ、まーくんは」
 彼女はテーブルに載った誠の首に話しかける、防腐処理を施されたそれはまるでマネキンのような空ろな目でこちらを見ていた。
「うん…そうなんだ、もう少しで、生まれるとおもうから…」
 泉はお腹をさする、大きく膨れ上がったそれは妊娠6ヶ月、といったところだろうか。
「大丈夫、一人で産むわけじゃないから…そう、皆ずっと一緒だから…ね?」
 そう言うともう一度、泉は誠の生首に対して微笑んだ。
 FIN 
    
  

  
357リッサ ◆v0Z8Q0837k :2007/11/21(水) 00:01:49 ID:gJdem6/T
 以上で終わります、二日にわたって自分のSSにお付き合いいただき本当にありがとうございました。
 それから次の作品の参考に、スレ住人の皆さんにお伺いしたいのですが…ヒロインに当たるキャラが
ショタの作品はどう思われますか?
358名無しさん@ピンキー:2007/11/21(水) 00:06:21 ID:hywa4N2u
Nice cooking
そして貴方のID GJ

359名無しさん@ピンキー:2007/11/21(水) 00:13:24 ID:iaxGTIpg
グッジョブ!
ショタとヤンの組み合わせは良さげだな
360名無しさん@ピンキー:2007/11/21(水) 00:58:38 ID:m1mOLYK1
>>357
GJ。
やはり予想通りにカニバリズム。
あと、
>耐えなくては…私の意識がある限り…謝って…。
このへんの文に感動した。


ところでみんなに聞きたいんだが。
ショタって「可愛い男の子」という意味で解釈していいの?
俺はショタと聞いたら正太郎くんしか思いうかばんのだよ。
ブリジットとか準にゃんは女装少年という属性だと思っていたから。
361名無しさん@ピンキー:2007/11/21(水) 01:00:43 ID:hK85Bt7J
GJ!
これは正しいヤンデレですね。
ショタヤンも一度呼んでみたいです。
362名無しさん@ピンキー:2007/11/21(水) 05:31:53 ID:KzhreXZH
ショタは正太郎少年みたいに小さな子供のことだな
まあ可愛い少年ってのは分からない、マイナーな人もいるからさ

でもそう考えていいかも
363名無しさん@ピンキー:2007/11/21(水) 15:21:39 ID:9xR+96vY
>>360
ショタは小さい男の子という意味で外見的な条件はない
ロリの男版と考えてよかろう。年齢は4-12ってところだろうか
だが実年齢よりも外見年齢を優先で考えるのがいいと思う
ロリババアという表現もあるしな

ブリジットみたいな「女の子のような外見のショタ」に該当する「ロリショタ」なる単語も存在し
少年らしいショタ原理主義とロリショタ愛好家の間には大きな溝と長年の紛争が存在する
これらは完全に別物として扱った方がいいだろう
364名無しさん@ピンキー:2007/11/21(水) 15:33:35 ID:HjEPsfm6
なんかヤンデレと離れていってるぞw
365名無しさん@ピンキー:2007/11/21(水) 15:58:40 ID:hywa4N2u
誰だヤンデレスレでショタっ子の話題なんか振ったのは!?
………………職人さんだった。スマソ
366名無しさん@ピンキー:2007/11/21(水) 17:23:08 ID:KzhreXZH
あ 、私は別段構いませんので、ショタ。
367名無しさん@ピンキー:2007/11/21(水) 18:16:09 ID:Y6PLITIf
ショタ……正直に言えば個人的には全く受け付けないなあ。
以前それっぽいSS読んだけど引いてしまったし。
まあ書くのなら最初ショタ注意と宣言してくれれば
スルーするなり対応できるのでありがたいんだけど。
368名無しさん@ピンキー:2007/11/21(水) 18:45:21 ID:IOne9Arf
むしろ主人公がショタなのを読みたい俺は末期の変態
369名無しさん@ピンキー:2007/11/21(水) 20:42:48 ID:FQgO0Zta
ヤンデレ(♀)×ショタなら大歓迎。
370名無しさん@ピンキー:2007/11/21(水) 20:58:17 ID:IEmbDW58
ヤンデレ(♀)×ショタは意外と萌えるかも…。ぜひお姉さんで。
371こんな感じ?:2007/11/21(水) 21:52:15 ID:1pm+NHzU
「おねぇちゃん!」

またおねぇちゃんがぼくのパンツを持っていった。
このまえ小学校でともだちがじまんしてたガチレンジャーパンツ。
お母さんにたのんでやっと買ってもらえたのに!

おねぇちゃんはぼくの隣の家に住んでいる。
おしごとが忙しいぼくのお母さんにたのまれてよくぼくとあそんでくれる。きれいでやさしいおねぇちゃんだ。
でもときどきおねぇちゃんはぼくのパンツやお弁当のおはしをどこかにもっていっちゃう。
しばらくすると返してくれるんだけどパンツなんかだと時々へんなにおいがついてたりしみがついてたり
お母さんに言っても「あんたのおねしょパンツ洗濯してくれてるんでしょ」とか言ってあいてにしてくれないし・・・
今日こそはとりかえすゾ!


「おねぇちゃん!ぼくのパンツかえして!」
おねぇちゃんの家に行ったぼくはなぜかおねぇちゃんの部屋につれていかれた。
でもそんなことよりはやくパンツかえしてもらわなきゃ。
「え?ゆう君のパンツなんて私知らないよ?」
なんだかおねぇちゃんの顔がいつもより赤くなってる。
「うそだ!おねぇちゃんいっつもぼくのパンツもっていってるじゃん」
「そんなコトよりゆう君。お菓子食べない?」
お菓子でぼくをごまかそうとしてるな。でもそんなこt
「いいから!早く食べて!」
うっ・・・なんだか今日のおねぇちゃんいつものおねぇちゃんじゃない。
「う・・・うん。」
とにかくお菓子をたべればいいんだ。そのあとでパンツを返してもらおう。
「お茶も飲むよね?飲みたいよね?ね?!」
「い・・・いただきま・・す」

・・・

アレ?なんだかめのまえがフラフラする?あ・・・れ?
372続き:2007/11/21(水) 21:53:27 ID:1pm+NHzU

ふ・・ふふふハハハハあハハハハハキャハはは
ついに手に入った!私の!私だけのゆう君!
もう誰にも邪魔させない!ゆう君に纏わりつくあのうざったいメス豚共!
これでようやくゆう君を魔の手から守れる!一生ゆう君仕えることができる!
そのためにもまずゆう君に私の純潔を捧げなくちゃ・・・
「ゆう君。お姉さんの純潔もらってね。」
ゆう君を裸にして私のベッドに縛る。ちょっと申し訳ないけどあのメス豚共の
洗脳にかかっているゆう君の目を覚まさせてあげるためだ。
もう私のあそこはびしょびしょになっていた。
16年守り通した純潔を捧げることが出来る喜びで。いまから始まる誓いの儀式を想像するだけでイッてしまっている。
もうゆう君のパンツでお箸で自分を慰めることもなくなる。
それはそれで寂しい気もするがゆう君に仕える私がゆう君以外でイッてはゆう君に申し訳ない。
そんなことを考えている間になんとか儀式の準備は終わった。
「かぁわいい♪」
ゆう君のまだ小さなおちんちん。いまからこれが私の中に入るんだ・・・
それを想像しただけでまた達してしまった。しばらくぼおっとしてしまったけど気を取り直しゆっくりとおちんちんをシゴく。
だんだん硬くなる小さなゆう君♪今度はゆっくり口の中に入れるまだ皮をかぶってるおちんちんの先から少しずつ甘い液が出てきた。
皮の中も丁寧に舌を使って舐めあげる。一瞬ゆう君の体がビクンって反応した。
その仕草全部が私の体に快感を与えてくれる。
「アハ・・・もうこんなになってる・・・そろそろいいよね。」
おちんちんから口を離しゆう君の体を跨ぐ。
狙いを定めゆっくりと私のあそこに導いた。
「あっああああああああああああ!」
凄い!入れただけで私イッちゃった!自分で慰めてた時とは比べ物にならない快感が私を襲う。
「ッくううぅんっゆう君ゆうくんゆうくんゆうくぅぅん!」
腰を動かしもっとゆう君を感じる。もっともっともっともっと!
「あああああああアアアアアあああああああ!」
瞬間私のナカにあたたかいものが弾けた。
それを感じて私もさらに高いところへ連れて行かれる。
しばらく頭が真っ白になりゆう君に覆いかぶさっていたがのそのそとゆう君の上からどく。
「あ・・・アハ♪ゆう君のはじめてもらっちゃった♪」
これでゆう君はわたしだけのもの。
ワタシダケノタカラモノ
373名無しさん@ピンキー:2007/11/21(水) 21:55:40 ID:1pm+NHzU
むしゃくしゃしてやった
反省はしていない。
374名無しさん@ピンキー:2007/11/21(水) 22:12:29 ID:ZOA8sxH1
>>373
すまん、GJなので保管庫に入れたいんだがタイトルどうしたらいいんだ
375名無しさん@ピンキー:2007/11/21(水) 22:21:34 ID:hoVCKEd0
>>374
ヤンデレおねぇちゃんとガチレンジャーパンツ

・・・

すんません。俺の足りない脳だとこんなのしか出てきませんでした。
376373:2007/11/21(水) 22:24:11 ID:hoVCKEd0
あれ?
ID変わってる。
373です。
377名無しさん@ピンキー:2007/11/21(水) 22:45:09 ID:O1lbkH7P
>>373
GJ!!
こういうのかなり好きだ。
次回作があれば、首を長くして待ってるぜ!!
378名無しさん@ピンキー:2007/11/21(水) 23:42:33 ID:IEmbDW58
この質…速さ…まさしく、職人!GJ!
379名無しさん@ピンキー:2007/11/21(水) 23:53:58 ID:FQgO0Zta
言ってみて良かった!!GJ!!!
380名無しさん@ピンキー:2007/11/22(木) 00:01:41 ID:3n/xLCs+
ガチレンジャーに吹いたww
>>373のネーミングセンスに嫉妬。
381名無しさん@ピンキー:2007/11/22(木) 00:30:00 ID:8ei8vQfa
>>373
続きがあったら読みたいんだが
382名無しさん@ピンキー:2007/11/22(木) 00:36:11 ID:M+vRdzZ5
>>381
スマソ
これネカフェで30分で書いたやつだから続きどころか構成も何も考えてないんだ。
いずれ機会があれば書く
383一発で治ります:2007/11/22(木) 02:24:23 ID:ghPg8ye2

 高校二年生の、夏のことだ。
 そのとき俺は、校庭から聞こえてくる野球部のかけ声を遠くに聞きながら、じめじめ暑い教室で、
イライラしながら美香を待っていた。
「あれ、川田君?」
 声をかけられて顔を上げると、入り口のところにジャージ姿のクラスメイトが立っていた。
「ん? ああ、氷川か」
 氷川は陸上部に所属している女子だ。明るく人当たりのいい性格で、男女問わず人気のある奴だっ
た。
「なんだ、部活か?」
「うん。これから校庭行くとこ。川田君はどうして残ってるの?」
「美香の奴が、忘れ物したーって言って美術室だか音楽室だかに行ったっきり戻ってこなくてさ」
「へえ。それで教室で待ってるわけね」
「そういうこと。ったく、いくつになっても世話が焼けるっつーか……」
 うんざりした俺の声にかすかな笑いで答えたあと、氷川は少し躊躇いがちに聞いてきた。
「……二人は幼馴染なんだっけ?」
 特に隠すようなことでもない。俺はあっさりと頷いた。
「まあね。家が隣なせいで、昔っからピーピーうるせーあいつのお守りばっかでさー。やんなるよホ
ント」
 しかも、不思議なことに幼稚園時代からずっと一緒の組ばかり。美香とは一度も離れたことがない。
「わたしたちが寂しい思いをしないように、神様が頑張ってくれてるんだよ!」
 とは美香の弁だ。
 さすがに神様の頑張りだとは思わないが、確かに何かしらの作為を感じないでもない。
(っつっても、美香と俺が一緒にいて得する人間なんていないと思うしなあ)
 そんな訳で、俺の思考はいつもその段階で止まってしまうのだった。
 そうやってぼんやりと考えこむ俺を見て、氷川が意味深に笑う。
「ふふ。でも、皆は二人が恋人同士だと思ってるみたいだけど?」
 その認識はあんまりだ、と思ったので、すかさず反論する。
「はぁ!? 冗談じゃない、子供とその保護者、みたいなもんだよ」
 氷川は一瞬驚いたように目を瞬かせた。小首を傾げて、探るような口調で聞いてくる。
「……そうなの?」
 変な噂を立てられてはたまらないと思い、俺は早口に答える。
「そうなの。おかげでこっちは毎朝毎朝起こしに行ったり忘れ物ないかチェックしてやったり、
帰りだって猫に気ぃ取られて道に迷ったりボロボロボロボロなんか落としてたり……」
 改めて思い返してみると、本当に世話が焼ける奴だ。
ホント、俺がいなきゃどうなってんだか」
 俺が時間を込めて深々とため息を吐くと、氷川はおかしそうに笑った。
「苦労してるのね」
「そうなんだ。あー、俺はいつまであいつの面倒見てやらなきゃならねえんだか……」
 そうぼやいたとき、不意に氷川がじっとこちらを見つめて、囁くような声で言った。
「……ね。それじゃ、これからはわたしも一緒に、あの子の面倒見てあげましょうか?」
384一発で治ります:2007/11/22(木) 02:25:10 ID:ghPg8ye2

「……へ?」
 何を言われたか分からず、間抜けに口を開いたまま相手を見る。氷川はほんの少し不安そうに目を
細める。
「……いや?」
「いや、っていうか……え、それって、つまり、あの……」
 唐突な状況に混乱して、俺は何も言えなくなってしまう。
 氷川はそんな俺を数秒も無言で見ていたが、こらえきれなくなったように吹きだした。
「……ぷっ」
「あ?」
「あははははは、川田君、顔真っ赤!」
 腹を抱えて笑う彼女を見て、ようやくからかわれたのだと気がついた。顔が熱くなる。
「ひ、氷川が変なこと言うからだろ!?」
「あははは、ごめんごめん……あら?」
 ふと、氷川が教室の入り口の方を見て、笑いを収めた。
 つられて俺もそちらも見るが、特に変わったものは見当たらない。
「どした?」
「今、あそこのところに、チラッと黄色いリボンが見えたような……」
 黄色いリボン、と言われて、俺の脳裏に見慣れた女の子の姿が浮かぶ。
「……美香か? でも、足音もしねえし……それに、あいつが来たなら、大騒ぎしながら飛び込んで
くるはずだけどな」
「そうよね。ごめん、わたしの気のせいだったかも」
 氷川は軽く謝ったあと、「さてと」と言って、踵を返しかけた。
「それじゃ、わたし、そろそろ行くね?」
 引き留める用事もないので、俺は気楽に手を振った。
「おう。じゃーな」
「うん。……あ、川田君」
 教室の半ばまで行きかけたところで、不意に氷川が振り返る。
「なんだ?」
 氷川は悪戯っぽく微笑んだ。
「……さっきの、半分だけ、冗談だからね?」
「え?」
「……じゃ」
 聞き返す間もなく、氷川の細い背中が教室の外に消える。
 俺はその方向から目をそらすこともなく、ぼんやりしたまま先程の言葉の意味を考える。
「……半分っつーことは、もう半分は本気ってことか?」
 氷川の悪戯っぽい笑顔が、再び脳裏に蘇る。心臓が無闇に高鳴り始めた。
「クーッ! あのちんちくりんの相手をすること早十数年、俺にもようやく他の女と縁を結ぶ機会が
回ってきたって訳かっ!」
 あまりの喜びを抑えることが出来ず、俺は帰り道でもウキウキしっぱなしだった。
 いつもはうるさい美香がその日は何故かあまり喋らなかったので、俺は思う存分明日からの楽しい
日々に思いを馳せることができた。
385一発で治ります:2007/11/22(木) 02:26:02 ID:ghPg8ye2

 翌日になると、美香はいつも通りの騒がしいちんちくりんに戻っていた。
「んでね、百円玉がころころ転がっちゃって、追いかけてったらボッチャンって」
 何が楽しいのか、無駄に身振り手振りをつけながら、昨日の思い出を喋り捲っている。
 夜中部屋の電気が消えているから妙だとは思っていたが、百円玉を追いかけていたとは。
(相変わらず間抜けな奴だなあ)
 朝の廊下は人が多いが、こういう美香の姿はいつもどおりのことなので、今更注目を集めることも
ない。
 同時に、そういう無駄話を聞かされる迷惑さ加減も、いつもどおりのことだった。
「なんで朝っぱらからお前がドブに落っこちた経緯聞かなくちゃならねーんだよ……?」
 うんざりしながら教室に入ったとき、俺は異変に気がついた。
「なんだ、なんかヤケに騒がしいな。泣いてる奴もいるぞ……?」
「……どうしたんだろうねえ……?」
 隣で美香も首を傾げる。クラスメイトの一人が俺に気がついて、慌てた様子で駆け寄ってきた。
「あ、おい川田! 大変だ、氷川が昨日死んだってよ!」
 出し抜けに言われて、俺は一瞬何を言われたのか分からなかった。
「……は?」
 ぽかんとしたまま聞き返すと、そのクラスメイトはもどかしそうに繰り返した。
「だから、死んだんだよ、氷川が!」
 ようやく言葉の中身が理解できた。
「死んだって……な、なんで!?」
 昨日の悪戯っぽい笑顔が頭に浮かぶ。あんなに元気だったのに、急に死んだと言われても信じられ
ない。
 混乱する俺の前で、クラスメイトは顎に手を当ててもっともらしい口調で言った。
「それが、死因は不明らしい。昨日の晩飯食ったあとに急に苦しみ出して……そのまま、とか。
でも食中毒でもなさそうだし、体の中から有害な物質が……ってのもないらしいんだよ」
「……」
「謎だよなあ。毒でも盛られたんじゃねーかって話もあるけど、氷川に限って恨みを買ってた噂もね
えし……お前はどう思う?」
 不意に、怒りが沸いてきた。クラスメイトである氷川が死んだというのに、こいつは何を面白がっ
ているんだ?
「……クラスメイトが死んだのに謎解きごっこってのは、不謹慎なんじゃねえのか?」
 怒鳴り声にならなかったのは奇跡だったと思う。
 目の前のクラスメイトは、はっとした様子で俺から目をそらした。
「あ……わ、悪い。なんか落ち着かなくて、ついつい、さ……ごめん」
 そう言われて、ようやく少しだけ冷静になれた。
「いや……すまん、俺も、どうかしてるみたいだ」
 そのクラスメイトに謝ったあと、俺は誰とも話すことなく自分の席に向かった。
 椅子に座ると、完全に力が抜けてしまった。もう、何をする気にもならない。
「……大丈夫、コウちゃん?」
 隣に座った美香が、心配そうに声をかけてくる。教室と同じく、席順もまた、こいつとは大抵隣と
か後ろとかになるのだ。
(ああ、いけねえ。俺がこんな顔してちゃ、こいつも元気なくしちまう)
 頭の片隅に、少しは冷静な部分が残っていたらしい。
 俺は無理矢理笑おうとしたが、結局形にならなかった。
 情けない表情を、美香に見せていることが悔しい。
「……悪い。なんか、急すぎてさ……俺、昨日の放課後氷川と話したんだぜ?
あんなに元気だったのに、いきなり死んだ、なんて……何がなんだか分かんねえよ」
 しかも、口から出るのは言い訳じみた泣き言ばかりだった。
 頭が無闇にグルグル回っているようで、何も考えられない。
 美香もまた突然のことに混乱しているらしく、いつもの無邪気さが信じられないような無表情で、
俺を見下ろしていた。
386一発で治ります:2007/11/22(木) 02:27:03 ID:ghPg8ye2

 こうして、氷川は死んだ。
 彼女の死は深い傷となって俺の心に残ったが、悲劇はそれだけに留まらなかった。
 一週間後、西田が死んだ。
 氷川の死を引き摺る俺のことを元気付けようとしてか、一緒に遊びに行こうと誘ってくれた女の子
だ。
 それから三日後、新谷が死んだ。
 ほとんど鬱のようになって、何も出来なくなってしまった俺を、あれこれと助けてくれていた女の
子だ。
 その翌日、三浦が死んだ。
 ひょっとして自分に原因があるのでは、という俺の疑いを、気楽に笑い飛ばしてくれた女の子だ。
 さすがにこうも連続して俺の周囲で人が死ねば、誰だって不信感を抱く。
 それはクラスメイトだけでなく、警察関係者も同様だった。
 俺は連日のように取調べを受けたが、結局証拠は何も出てこなかった。
 俺だって何も知らないのだから、話せることは何もない。
 ただ、その頃になると、何か自分に原因があるらしいということには薄々感付いていた。
 また俺に優しくしてくれた奴が死んでしまうのではないかと思うと、人に近づくのが怖かった。
 周りの連中も同じ事を考えていたらしく、俺は徐々に孤立していった。
 誰に話しかけることもなく、誰かから話しかけられることもない。
 唯一美香だけは俺に構ってくれていたが、正直な話、何の救いにもならなかった。
 俺は学校に行かなくなった。

 部屋に引きこもるようになってから、夢に死んだ奴らが出てくるようになった。
 彼女らは闇の中から何かを必死で叫んでいるのだが、俺の耳には声が届かない。
 最初は恨み言を言われているのかと思ったが、何故か彼女らの表情は、いつもこちらを案じている
ような感じだった。
 そんな顔で必死に呼びかけてくれているのに、俺にはやはり聞き取れないのだ。
 悔しさで目を覚ますと、涙に滲んだ視界の中央に、美香の心配そうな顔がある。
「大丈夫? うなされてたよ、コウちゃん」
 美香は今も普通に学校に通っているが、毎朝、登校する前に俺を起こしに来てくれる。
 昔とは、立場が逆転してしまった。俺は邪険に手を振って美香を追い払おうとする。
「行けよ。いちいち来なくてもいいって言ってんだろ」
「ダメだよ。コウちゃんに元気になってもらいたいもん。ね、本当に大丈夫、コウちゃん? 具合悪
くない?」
 美香の優しい声が胸に染みる。荒んだ心が温かくなってくるのが分かる。
 その感情を、俺はあえて胸の奥に押し込んだ。代わりに、舌打ち混じりに怒鳴りつけてやる。
「うぜえんだよ! なんでお前なんかに見下さなくちゃなんねえんだ、クソがっ!」
「そんな、見下すなんて、わたし……ごめん、そんなつもりじゃなかったの」
 俯く美香の目が涙で潤む。その小さな体を抱きしめたい衝動を必死に抑えて、俺はひっ掴んだ枕を
思い切り投げつけた。
「そういう態度が見下してるって言うんだよ。人をキチガイみたいに扱いやがって」
「違うよコウちゃん、そんなんじゃ」
「うるせえ、お前なんかに俺の気持ちが分かるかよ! さっさと出てけ、バカ!」
 子供じみた口調で喚き散らし、俺は布団の中に潜り込む。
 この態度に呆れて、美香がこの部屋に寄り付かなくなればいいと思った。
 だが、心の隅では、そんなことは絶対にあり得ないと知っていたのかもしれない。
387一発で治ります:2007/11/22(木) 02:27:55 ID:ghPg8ye2

「コウちゃん」
 優しく囁いた美香が、布団の上からそっと俺の体を抱きしめる。
「わたしのこと、心配してくれてるんだね」
 やはり、美香は俺の考えなど完全にお見通しだったようだ。
「……何のことだよ」
「わたしがコウちゃんのそばにいると、他の女の子たちみたいに死んじゃうかもしれない、って思っ
てるんでしょ」
 違うよ、と言おうとしたが、声が詰まった。
 俺は観念して、深く息を吐き出した。ゆっくりと布団をどけて、ベッドの上で身を起こす。傍らに
立っている美香は、静かな微笑を浮かべてこちらを見下ろしていた。その表情を見ていられず、俺は
俯いて目をそらす。
「分かってるのなら、俺にはもう近づくな」
 声が震えた。情けないことに、涙が止まらない。
「お前が心配してくれるのは、正直凄く嬉しい。でも、だからこそ、この上お前まで失っちまったら、
俺は今度こそ……」
「大丈夫だよ」
 女々しい俺の泣き声を遮って、美香が底抜けに明るい声で言った。顔を上げると、そこにはいつも
どおりの、能天気そうな笑顔があった。その笑顔がやけに眩しく感じられて、俺は思わず目を細める。
「何が、大丈夫なんだ」
「大丈夫なものは大丈夫。わたしは絶対死なないよ。コウちゃんを一人ぼっちになんかしない」
「どうしてだ。お前と他の連中と、何が違うって言うんだよ。何の根拠があってそんなこと言うんだ」
「簡単な話だよ」
 美香は迷いなく言い切った。
「だって、わたしのことはコウちゃんが守ってくれるもの」
 俺は内心呆れてしまった。意味不明と表現してもいいほど、美香の言葉は無茶苦茶だった。
 だが、その無茶苦茶な理屈から、俺に対する絶対的な信頼感が窺える。
 また目頭が熱くなって、俺は気がつくと夢中で美香を抱きしめていた。
「痛いよ、コウちゃん」
 胸の中で身じろぎする美香を、さらに強く抱きしめる。
「お前がバカなこと言うからだ」
「理屈になってないよ」
「お互い様だろ」
「そだね」
 美香がおかしそうに笑い、おもむろに目を閉じる。
 その小さな唇に自分の唇を重ねながら、俺は確かな希望を感じていた。
 こいつだけは、ずっと俺のそばにいてくれる。
 何故か、理由もなくそう確信できた。

 こうして、俺はまたこわごわながらも外に出られるようになった。
 長い間学校を休んでいたせいで遅れを取り戻すのにはかなり苦労したが、いつもそばにいてくれる
美香のおかげで何とか乗り切ることが出来た。
 卒業、進学、就職と、それからの俺の人生は驚くほど順調に進んだ。
 高校時代のように周囲の人間が死ぬこともなく、時は穏やかに流れていく。
 それでも、念のため警戒して、出来る限り美香以外の人間とは親しくならないように注意していたが。
 そんな風に生活していれば当然ながら愛情も深くなっていくわけで、俺は20代前半にしてめでたく
美香と結婚することになった。
 周囲からは散々冷やかされたが、俺は間違いなく幸せだった。
 ずっと変わらずそばにいてくれる女性と、一緒になれたのだから。
388一発で治ります:2007/11/22(木) 02:28:34 ID:ghPg8ye2

「そう言えばよ」
「なあに、コウちゃん」
 椅子に座って編み物をしていた美香が、顔を上げてこちらを見る。
 そのお腹は大きく膨らんでいる。照れくさいが、二人の愛の結晶というわけだ。
「いや、お前がずーっと大事そうに持ってる小箱さ。あれ、何が入ってるんだ?」
 同居するようになってから、ずっと不思議に思っていたことだった。
 美香は何でもなさそうに答える。
「ああ、あれ? あれにはね、お薬が入ってるんだよ」
「薬? 何の?」
 持病などなかったはずだ。不思議に思って聞くと、美香は俺の顔をじっと見つめてきた。。
「特効薬だよ」
「特効薬?」
「そう」
 美香がにっこりと微笑む。
「コウちゃんが、悪い病気にかかっちゃったときのための」
 何故か、背中がぞくりと震える。
 それを誤魔化すように、俺は美香に笑い返した。
「へえ。悪い病気って、なんだ?」
「凄く深刻な病。それにかかっちゃうとね、コウちゃんはとっても不幸になっちゃうの」
 淡々とした声だ。
「でも、安心していいよ。あの薬さえあれば、病気は一発で治っちゃうから。副作用もないんだよ」
 何故か、死んだ女の子達の顔が脳裏を過ぎる。
 どうして自分がそんなことを考えるのか、俺にはさっぱり分からない。
 頭の隅で、何かが激しく警告音を鳴らしているような気がした。
(何だってんだ? 別に、何も悪いことなんか、ねえだろ?)
 自分にそう言い聞かせながら、俺は無理に会話を続ける。
「そりゃ頼もしいな。今度風邪引いたとき飲んでみるかな」
 そう言った瞬間、美香が物凄い声で怒鳴った。
「それはダメ!」
 驚くほどに大きな声。美香は怒鳴ったあとではっとして、誤魔化すような笑みを浮かべた。
「あ、えーと、あのね、取っておきの薬だから、風邪なんかに使っちゃったら勿体無いよ」
「じゃあ、どんな病気に使うんだ?」
「悪い病気だよ」
「だから、具体的な病名とかさ」
「悪い病気」
 あくまでも答えないつもりらしい。胸に広がる嫌な感じから目を背けて、俺は笑った。
「なんだよそりゃ。秘密ってことか?」
「まあ、そうかな。それにね」
 と、美香は含みを持たせた口調で付け加えた。
「心配しなくても、コウちゃんはもうその病気にはかからないと思うよ
「どうしてだよ」
 妙に自信ありげな様子に疑問を感じて聞くと、「だって」と美香は大きなお腹を撫でながら答えた。
「もう、免疫が出来てるはずだもんね」
 再び背中がぞくりと震えたのを、俺はあえて無視した。

 俺は今でもよく、あの夢を見る。
 死んだ女の子達が、必死に何かを伝えようとしている夢だ。
 その夢を見るたびに、俺は彼女達の声が聞こえないように両手で耳を塞ぐ。うるさい黙れと叫んで、
声を掻き消してしまう。
 今さら、死んだ奴らの言葉を聞くつもりはなかった。
 だって、俺は幸せだから。
 ずっと美香がそばにいてくれる。それだけで十分だ。それ以上は何も求めない。何も知る必要がない。
 恐れたり疑ったりするものなど、何もないのだ。
389名無しさん@ピンキー:2007/11/22(木) 02:30:13 ID:ghPg8ye2
>>329ではないが>>327を見て思いついた話を書いてみた。
あんまりヤンデレっぽくなくなったのが心残りだ。
390名無しさん@ピンキー:2007/11/22(木) 02:34:27 ID:55Q1/8Jx
や、素敵にヤンデレだったぞ。
でもこういう風に淡々と泥棒猫潰していくのもなかなかいいな。
391名無しさん@ピンキー:2007/11/22(木) 02:36:42 ID:6VxpazuC
GJ!!
392名無しさん@ピンキー:2007/11/22(木) 08:35:00 ID:cKK0U4pE
普通な女の子が静かな狂気に狂うのっていいよな!
393名無しさん@ピンキー:2007/11/22(木) 12:03:59 ID:sjpt2QGH
>>389
テラGJ。しかしこれは怖い。
女の子達が夢に延々出てくるあたり、何かまだもっと恐ろしい事が隠されているような。
394名無しさん@ピンキー:2007/11/22(木) 12:35:54 ID:/NGxv23c
いい夫婦の日になんてもん投下しやがんだwwww
GJ!!
395名無しさん@ピンキー:2007/11/22(木) 16:26:33 ID:3ohliu/g
きっと続編は生まれてきた子供が四つ子で
「お母さんに殺されたのはこんな晩だったねぇ」
とか言って父親を寝取るんだな
396名無しさん@ピンキー:2007/11/22(木) 23:47:06 ID:ignoZwkr
まさにヤンデレの連鎖だね
397名無しさん@ピンキー:2007/11/23(金) 00:17:06 ID:FNdg7F3y
>>395
落語ネタだが、その発想は素敵だなあ。
398名無しさん@ピンキー:2007/11/23(金) 13:49:53 ID:QCBVBA+W
>>389
GJ!!まさか本当に書くとは思わなかった(^^;  by327
俺も書こうかと思ったが馬鹿だから主人公とヒロイン以外を上手く設定出来ない。
399名無しさん@ピンキー:2007/11/23(金) 20:59:37 ID:ErgPvPGu
久しぶりに来ました。携帯のデータが7月に全部飛んで書いてたSSが消えて心が折れて以来です。
来たら書きたくなったので書きなぐってみました。

久しぶりに書いたんで悲惨です。
読み流して下さい。
400名無しさん@ピンキー:2007/11/23(金) 21:02:01 ID:ErgPvPGu
   …う…………

 目が覚める。当たり前だが自分の部屋だ……

 ………………いや違う。ここはどこだ。

 跳ね起きる………言葉ほど俊敏な動作にはならなかったけれど体を起こすと
下腹部に鈍い感覚となにかがどろっと流れ落ちる感覚がした。
見たくないと思いながら目を向けると見慣れた血の色と、見慣れない白。

   あ………うそ…………

 呟いたつもりだったがその声は空気を震わせてはいなかった。
 ここはどこで私はどうしたんだ。上手く思い出せない。脳の中までどろっとしてしまって
混乱すら出来なかった。冷静に考えよう、といったレベルではない。思考事態が成り立たない。
 窓から薄明かりの刺してきているところを見ると早朝なのだろうか。六畳一間の
アパートのような部屋だった。畳が随分古くなっている。おそらく白かったであろう壁は
薄く汚れて陰鬱な空気を放っていた。家具は無い。自分の下にある布団と膝に
かかっている毛布、それと部屋の隅にモニターがあった。
 薄型のテレビ……PC?それだけが場違いで異質だった。

401名無しさん@ピンキー:2007/11/23(金) 21:05:43 ID:ErgPvPGu

  がちゃり

「あ、マユミ起きてたんだ」

 名前を呼ばれて視線を向けると、ユキが部屋に入って来たところだった。
 ユキ。高校時代に一緒だっ

   来るな!!!!!

 ユキを見た途端に全てを思い出した。
そうだ。
 昨日久しぶりに飲もうと誘われてコイツとあって飲んでたら体が重くなってきて
そしたら知らない男が5、6人出て来て車に押し込まれてこの部屋に連れ込まれて
怖くて声が出なくて体に上手く力も入らなくて布団の上に投げ出されてたくさんの目が
ぎらついた目がこっちを見ててユキが笑って服に手がかかってボタンが飛んで手が
いっぱい伸びてきて息が舌が手がそれからそれからそれからそれからああああああああ

「まだ薬残ってるのかな。ごめんね」

 上手く動かない体で必死に逃げようとしたがユキに簡単に捕らえられた。
がちゃりと手錠が嵌められる。次いで足にも枷が嵌められた。

「まだ起きないと思ったから拘束衣は下なの。後で着せてあげるね」

   なんでこんなことするの

 涙が頬を伝った。相変わらず声は音にならず私の中にたまっていく。

402名無しさん@ピンキー:2007/11/23(金) 21:08:39 ID:ErgPvPGu

「マユミ、汚れちゃったね」

 ユキが私の肌を撫でながら静かな笑顔でポツリと言った。
 そして顔をあげ、私の目を見て深い笑みを作る。

「もうカズキさんのところには帰れないね」

   カズキさんには手を出さないで!

「大丈夫だよ関係ない人のことなんてすぐ忘れるから」

 恋人の名前を出されて動揺する私を宥めるようにユキは笑った。
 そんなことより言ってる意味が分からない。関係ない?彼は私の恋人だ。忘れる?

「ねえ、今日からマユミは私のモノだよ。ずっとずっと欲しかった」

 ユキが私を抱きしめる。

「女だからって理由であなたを諦めなきゃいけないのは辛かった。そして諦めきれなかった。」

 彼女の手が私の頭を撫でる。

「もう、私のモノだよ。こんな汚れたらどこにもいけないでしょう?体も動かないのに」

 彼女は……泣いている。

「やっと手に入れたよ。マユミ。逃げたらまたあいつらが犯すからね」

 私の心はじわじわと恐怖に染まって行った。

「もうどこにも行かないでね。マユミ。愛してる」

 ユキの唇が私に触れた。
 彼女の狂気が流れ込んで来た。

403名無しさん@ピンキー:2007/11/23(金) 21:11:29 ID:ErgPvPGu
以上です。スレ汚しすみませんでした。
タイトルは無いです。続きが浮かんだけれど書く体力はありませんでしたorz

暮らしが落ち着くまでリハビリして
逃亡作者になってしまってる分の続きを書きたい……とは思ってます。

404名無しさん@ピンキー:2007/11/23(金) 21:26:20 ID:vzzNGVTy
GJ!
405名無しさん@ピンキー:2007/11/23(金) 21:44:06 ID:/q2T6qAy
>>402
超怖っ……あれ、なんかおちんちんが……
406名無しさん@ピンキー:2007/11/23(金) 21:49:19 ID:/NDXokSL
>>403
GJ!!レズ注意は欲しかった気もするけど、それだとオチバレになるし難しいか。
407名無しさん@ピンキー:2007/11/23(金) 22:43:23 ID:ErgPvPGu
そうでしたすみませんでした。百合モノなんで注意迷ったんですがすみませんでした。
408きゃの十三 ◆DT08VUwMk2 :2007/11/24(土) 02:06:36 ID:E4af3Dlk
投下します。
409お見舞い ◆DT08VUwMk2 :2007/11/24(土) 02:08:10 ID:E4af3Dlk
「気が乗らないなぁ〜」
僕は、そう思いつつ今日、風邪で休んだ高島さんにプリントを届けに彼女の家へ向かった。
普通は、高島さん家に一番近い吉田がこの役を先生に任せられるべきなのだろうが
どうやら高島さんが電話で先生に俺に来させろっと電話してきたそうだ
普通なら却下されるところだが
いかんせん高島さんのおじいちゃんは、うちの学校の理事長らしい
だから一介の教師であるうちの担任は、高島さんに頭が上がらない

「しかし、いつ見てもでっかい屋敷だなぁ〜」
僕は、(これまたでかい)門の前のインターホンを鳴らす
3秒もしないうちにインターホンから
「はぁ〜い、努くんですか?森野努くんですね今、門は開いていますよぉ」と
高島さんのとても風邪とは、思えない元気いっぱいの声が聞こえた。

門を通り屋敷の戸を開けると玄関に綺麗な黒髪の割れ目から見えるオデコに
冷えピタシートを装着しパジャマ姿の美少女が立っていた。
彼女が今日、風邪で休んだ高島詩織である

あぁ〜本当に風邪ひいてたのね

「さぁ努くん、あがって下さいな」
「いや…プリント渡しに来ただけだから………」
「まぁ私の為にはるばる我が家へ!?
まさかとは思ってましたがやっぱり私達は、相思相愛だったのですね」
僕は、高島さんが来いって呼んだんじゃんっと言いそうになったが辞めとこう…きっと無駄だ
そんな事より早く用事を済ませて帰ろう

「えぇ〜っと、これが今日渡されたプリントで…」
「ここじゃ寒いでしょうから中に入ってお話しましょう」
「いや結構でs「そんな遠慮しないで努くんと私の仲じゃないですか」
そう言うとどこから出るのか細い腕で僕を客間へと連れてった。

客間には、お茶とお菓子が置いてあった。
多分…というか確実に媚薬かしびれ薬、もしくは両方が入っていると思っていいだろう
先週、コレのせいで危うく高島さんに童貞を奪われるところだった(いやぁ〜あの時は危なかった)
410お見舞い ◆DT08VUwMk2 :2007/11/24(土) 02:08:49 ID:E4af3Dlk
「さぁ努さん、私が作った手作りお菓子を食べてくださいな」
芸がないな高島さん、同じ過ちを二度繰り返す僕じゃない!!

「ご・ゴメン、僕、虫歯だから悪いけど食べられないや」
「あらそうでしたの?それは、失礼を」
高島さんは、残念そうな顔でお菓子を片づけに炊事場に行った。
悪い事したかな?否、断じてそんな事はない
ってそんな事より早くプリント渡して帰らなきゃそろそろ危険だ

「努くん♪」
どうやら炊事場から戻って来たみたいだ
「高島さん、はいプリン………と」
そこには、素っ裸になった高島さんが立っていた。
上半身を見ると小さいながらも形の良い胸が見える
下半身の方を見ると薄い桜色の秘所が見え…なかった。

「た・高島さん、なんでそんな格好を…っていうかアンタ風邪引いてるんだぞ!!」
「うぅ…だってだって努くんがあまりに素直になってくれないから」
「素直じゃない?」
「本当は、私の事好きなのに嫌いな振りして意地悪するから」
そう言うと高島さんは、座っている僕に回り込み背中を抱きしめてきた。
「もう絶対に離しませハックシュン…んがらね」
「高島さん、とりあえず服着たほうがいいよ寒いでしょ?」
「ぞんな事言っでまだ逃げる気でじょう?努くん湯だんぽがあるがら寒ぐありまぜん」
鼻水声で何言ってるかわかんないけどとりあえず離さないらしい
こりゃまた帰るの徹夜になりそうだ やれやれ家に電話しておこう
411お見舞い ◆DT08VUwMk2 :2007/11/24(土) 02:09:57 ID:E4af3Dlk
(1時間後)

なんとか寝かしつけられた。
思ったより速く寝付いてくれてよかった。

あの後、なんとか説得しパジャマを着せるのに成功したはいいが
「一緒にお布団入ってくれなきゃ死んでやる」っとペーパーナイフを自分の首に向けられ
しぶしぶ一緒に布団に入らされる事になってしまった。

その後、「男女が一緒に寝る時って…その…セックスする時ですよね?
私、風邪で弱ってるから犯そうと思えば…努くん、聞いてますか?」と色っぽい声で
コチラを誘惑してくるのだった(我が理性、よくぞ頑張った)

高島さんが起きないようにそっと高島さんの寝部屋を後にした。
そして僕は、高島さんの部屋に向かった。
別に高島さんの下着を盗んで家に帰ってスーハースーハーしようと言うわけじゃない
っというかそんな回りくどい事せんでも高島さんの事だから下着はおろか使用済みタンポンとかくれそうな気がする
まぁしないけどね

「あった」
高島さんの机からどこで隠し撮りしたのかわからない僕の排泄シーンが写った写真が数枚。
きっとおじいちゃんに頼んで隠しカメラを設置してもらったのだろう
こういう陰湿なところがなかったら付き合うんだけどなぁ
こっちの写真は、修学旅行の時に撮られた僕の寝顔写真。これは、前田に金渡して撮ってもらったのだろう
最後に僕と高島さんのツーショット写真2枚(1枚は無理矢理撮らされもう1枚は合成)

どの写真も高島さんの唾液と愛液まみれでベタベタしてる


とりあえず排泄写真は、家に帰ってゆっくり処分。
寝顔写真とツーショット写真は、流石に取り上げるのかわいそうなのでそのままに
さてと、じゃあそろそろお暇させていただきますか

さてと家に帰って『銀魂』観るかな
自分の今日のスケジュールを考えながら靴を履こうと靴を取ろうとした時

「どこ行くの?努くん!!」

いつの間に高島さん、起きたんだろう?
「やっぱり私を置いて出て行こうとしましたね?一緒にいるって約束したのに」
そんな約束した覚えは断固としてない
約束した覚えはないのでそそくさと靴を履きダッシュで高島さん家を後にした。

「あっ待ちなさい!未来の奥様の約束を破る悪い人はお仕置きです!!」
高島さんは、パジャマ姿で追っかけてきた。


こうして今日もいつ果てるとも知れぬ鬼ごっこを繰り返すのであった。
あぁ〜『CLANNAD』始まる前には帰りたいなぁ〜
412きゃの十三 ◆DT08VUwMk2 :2007/11/24(土) 02:13:15 ID:E4af3Dlk
投下終了です。

嫉妬やグロエロのないヤンデレを書こうとしたらいまいちヤンデレっぽくない物が出来てしまった。
413名無しさん@ピンキー:2007/11/24(土) 02:17:27 ID:fmHmhBQ2
個人的には彼女の方は十分ヤンデレだと思う。
ただ、慕われてる方が怖がらなければ物語の上での脅威度が薄れるってだけで。
怪物や幽霊に対抗する手段が出た途端に、ホラー映画がアクション映画に切り替わるような感じ。

っつーか努君余裕ありすぎだろw
このぐらい器がデカい男なら、ヤンデレ相手でも普通に対処出来てしまうに違いない。
414名無しさん@ピンキー:2007/11/24(土) 03:14:05 ID:HAgQ6NZf
>>412

これはまた明るく良いヤンデレです
415名無しさん@ピンキー:2007/11/24(土) 13:19:15 ID:uX2E3vqm
GJ!
ヤンドジっぽい感じもする。個人的には続けてほしい。
416名無しさん@ピンキー:2007/11/24(土) 13:29:22 ID:Ge8dQqZ4
「〜」をみると岡山の糞親父を思い出してだめだw
417名無しさん@ピンキー:2007/11/24(土) 14:10:25 ID:JECmWZMr
>>412
うむ。高島さんは立派にヤンデレなんだが
努くんの度量の広さというか能天気さでお馬鹿な印象になっているような気がしないでもない。
とにかくGJ
418名無しさん@ピンキー:2007/11/24(土) 17:36:50 ID:8nn39tfs
本保管庫のBBS、アダルトサイトの宣伝がさりげなく削除されている……。
管理人さん、ちゃんと見てるんだな。
419名無しさん@ピンキー:2007/11/24(土) 20:58:04 ID:WeiTbhQG
wikiについての提案。

1スレから前スレまでのログをHTMLで見られるようにしようと思うんだが。
俺がやってもよろしいか?
420名無しさん@ピンキー:2007/11/24(土) 21:11:49 ID:WVaTjaa0
>>419
ログ消しちゃった俺には吉報だ。
よろしくたのむ
421名無しさん@ピンキー:2007/11/24(土) 22:12:27 ID:KS9/mzXJ
一応、保管庫の中に前々スレまではhtml化されたのがあったぜ。
どうやってftpの中身を見たかについては聞かないでくれよ。

ttp://yandere.web.fc2.com/thread/
422名無しさん@ピンキー:2007/11/24(土) 22:28:44 ID:KS9/mzXJ
うはwwwwwwwwwもう消されてるwwwwwwwww
保管庫の人、まだここみてるんだなwwwwwwwwww
423419:2007/11/24(土) 22:47:27 ID:WeiTbhQG
過去ログを見られるようにしといたよ。
424名無しさん@ピンキー:2007/11/25(日) 01:26:08 ID:sJRlPWsq
電波を受信した。

主人公(おまいら)は電話相談の人(いじめとかの)。
ある日電話がかかってくる。それは、高校生の男の子からで、
姉が自分のことを本気で愛している事、そのせいで性的ないじめを受けている事などをその子から聞く。
主人公はできるだけのアドバイスを彼にして、
「次があった時の為に」と、名前と電話番号を伝える。
次の日、彼からの電話がかかってくる。
「助けてほしい」と。
自分の考え一つで彼を幸せにもできるし、又その逆も。
あなたはどうする?

…うん、長々とごめん。
どこかで見たやつに妄想付け加えただけなんだ。本当にごめん。
425名無しさん@ピンキー:2007/11/25(日) 01:54:14 ID:DvD+xI7G
それはキモ姉、キモウトスレの範疇じゃないか
それがクラスメイトとか先輩とかならこのスレでOKだろうけど
当然このスレの住人なら「2人」が幸せになるように煽るだろうな。
426名無しさん@ピンキー:2007/11/25(日) 02:24:40 ID:eP4QT8Oo
そーいや、たとえばヤンデレだった女の子が浄化されてまともになる、
みたいな感じのもここの範疇でいいのか?
それとも最終的に二人とも堕ちる筋書きじゃないとダメなんだろうか。
427名無しさん@ピンキー:2007/11/25(日) 03:00:53 ID:K9fL5Dsu
>>426
少なくともスレ違いにはならないと思うが。
428名無しさん@ピンキー:2007/11/25(日) 04:26:23 ID:BagYiQGw
堕ちる以外のも見てみたいな。
429名無しさん@ピンキー:2007/11/25(日) 05:19:03 ID:YwD9rO2U
読みたいな、それ。
たまにはこのスレの娘達にも普通の幸福を手に入れて欲しい。
430名無しさん@ピンキー:2007/11/25(日) 07:35:33 ID:QLG5I9lw
431名無しさん@ピンキー:2007/11/25(日) 08:13:13 ID:QCgLMV5B
>>426
つ『あなたと握手を』
432名無しさん@ピンキー:2007/11/25(日) 10:54:26 ID:1rtHo8AE
>>424
キモ姉スレの保管庫で似たような話を見かけた気がする
433ヤンデレの薬:2007/11/25(日) 21:36:33 ID:gK1hC/nj
「ついに完成だ!」
 
怪しげな研究者が怪しげな研究室で何か薬を開発していた。
 
「ヤンデレの薬が!」

この科学者の名前は薬丸、ヤンデレが大好物でヤンデレ系作品で彼がやったり読んだことが無い作品は無い程だ。そんな彼はどんな人でも(女限定)ヤンデレにできる薬の研究をしていたすべては自分の欲望を満たす為に

「宮本君!」

名前を呼ぶとくるぶしまでとどく長いツインテールで背丈は158くらい、割とスレンダーな女の子が出てきた。

「なんですか教授」

「この薬を全国に散布してくれ」

薬瓶を彼女に渡す。

「わかりました」
434ヤンデレの薬:2007/11/25(日) 21:38:42 ID:gK1hC/nj
研究室を出た後彼女は考えていた

「彼氏と別れて気付いたのは良いけどこの想い教授にどう伝えよう、とにかく仕事頑張ってチャンスを探しましょう!」

ちなみに彼女はしっかりしているけどドジです。

「きゃ!?」

自分のツインテール踏んでこけました
パリーン

「教授……」

「お、早かったね宮本くんぐ!?」

いきなり抱きつかれキスされました。

「私教授が好き!」

彼女は半泣きで自分の気持をうったえてきた。

「でも君には彼氏が」

「ずっと前にわかれましただから私のモノになってください」

「わかったこれからは君を真剣に愛そう!ぐッ?」

いきなり腹から激痛が走る

「アハハじゃあずっと私しか見れないようにしてあげます!他の女なんかに渡さない!」

ぐりぐりと包丁を動かす。
「みやもとく……」

薄れゆく意識の中で彼は思った、最高に幸せだ!
変態は死ぬまで変態だった。

彼女は血だらけだった、多分他の助手の女の子達も殺したのだろう

「さて、ホルマリンとか用意しなきゃね、教授待っててくださいねアハハハアハハハアッハハハハハハ」

研究室無いに響くのは彼女の悲しく狂った笑い声とスキップする音だけだった。
435ヤンデレの薬:2007/11/25(日) 21:49:13 ID:gK1hC/nj
ヤンデレ初めて書いたんですがこんなんで大丈夫ですか?(´・ω・`)
436名無しさん@ピンキー:2007/11/25(日) 22:06:36 ID:QCgLMV5B
なんとわかりやすいヤンデレキャラ。
そしてGood Job.


長いツインテールと聞いて宮本くんのイメージが初音○クになったのは俺だけでいい。
437名無しさん@ピンキー:2007/11/25(日) 22:43:59 ID:ksGoxaSF
敢えて言おうと思う。展開が早い。薄い。あと刺さなくても、むしろ刺さない方がヤンデレになれると思う。

もっと丁寧に作れば、素敵になると思う。次に期待。
438名無しさん@ピンキー:2007/11/25(日) 22:48:10 ID:nEQ9b22z
句読点はきちんと入れましょう
特に読点をもっと使ってみては
あと擬音は止めておいた方が
439名無しさん@ピンキー:2007/11/25(日) 22:52:56 ID:G0LDmkGF
何でも狂気があればヤンデレって訳じゃない。
狂ってるベクトルが全身全霊で愛に向かっているのがヤンデレなんだ!
だからそれはヤンデレではないと個人的に思う。
別に非難してるわけじゃないんでスルーしてくれてもかまわない。
だが最近になってヤンデレじゃないキャラがヤンデレと呼ばれてたりしていないかい?
目のハイライトが消えればヤンデレですか?
鉈やナイフを振り回せばヤンデレですか?
440名無しさん@ピンキー:2007/11/25(日) 23:06:29 ID:dRCV+Tzd
量産機とカスタム機の違いだな
441名無しさん@ピンキー:2007/11/25(日) 23:10:49 ID:LIEiMn/E
ヤンデレとはな・・・・・・
萌えるんだ。とってもな。もう、様を付けたくなる程に愛おしいんだよな
小動物の女の子が愛しい主人公を手に入れるために黒化して
必死に着信99件にしたり、主人公の家の合鍵を作ったり、
盗聴器も仕掛けて24時間監視したりと

そんな健気な行動が評価されて今があったらいいなと思う。

個人的にはヤンデレ化したヒロインの頭を優しく撫でると
喜んで尻尾を振るのか? 難問に俺は立ち向かっている
442名無しさん@ピンキー:2007/11/25(日) 23:51:26 ID:CFJAVw4r
「べ、別にただの残り物だよ!捨てるの勿体無いし、俺は腹空いてないし…え〜とっ、残飯処理!そうお前は残飯処理係な」











ヤンキーデレスレはここでつか?
443名無しさん@ピンキー:2007/11/25(日) 23:55:26 ID:Ja5nu43W
>>439
いかなる言葉も、普及するにつれて意味が拡散していく。
ツンデレとかゴスロリとか見てると分かるだろう? まったく別物になっちまった。
444名無しさん@ピンキー:2007/11/26(月) 00:08:55 ID:53kU/T/b
>>441
「病み」の質に寄るんじゃないかな?
仮に優しく頭を撫でても「この人は優しい振りで私を騙しているだけなんだ」と思えば「私のものにならないならいっそ・・・」と邪魔な連中共々デストロイしちゃうだろうし
「彼が私以外の人間に優しくするはずないもん!」と信じ込んでいるなら「あいつ等がいなくなれば私ダケノモノ・・・」と相手だけをデストロイするだろう

ヤンデレは無限大の可能性がある
ヤンデレは俺たちを育む宇宙なんじゃないかと俺は思うよ
445名無しさん@ピンキー:2007/11/26(月) 01:26:28 ID:SZjTJRlX
>>443
明確な定義があればいいんだけどね。
広辞苑あたりがビシッと載せてくれればそれで解決だぜ。
446429:2007/11/26(月) 02:11:31 ID:bi7ww6P2
>>431
ありがとう、俺の心が浄化された。

俺の携帯からだと少し面倒臭い事しないと読めなかったから飛ばしてたみたいだわ。
447ヤンデレの薬:2007/11/26(月) 08:38:45 ID:u5ECGHpw
みなさんありがとうございます。
自分シリアスが苦手なんでシリアスな話になりやすいヤンデレを笑いにしようってコンセプトで書いてみたんですが、ヤンデレと笑いって合い入れないものなんですかね(´・ω・`)
それともただ単に自分の力量不足なだけかもしれませんがw
なんにせよ次は頑張ります。
ヤンデレを
萌のかわりに
笑にする
448名無しさん@ピンキー:2007/11/26(月) 10:00:19 ID:FBz1G16h
ヤンデレのコメディはなんだろうな
病的にまで愛してるんだけど、どこか憎めない、どこか怖くないって感じが強いかもな

住人は基本ヤンデレになった過程と理由を重視するので、
「病んでしまうくらい愛してしまった」過程になんか面白みを入れてみるのもいいかもな

例えば夢見がちな女の子がいたとして、主人公がたまたま毎回毎回
その女の子が困ってたりするときに助けてくれたりするうちに
『私の王子様!』みたいな感じでとってしまってたりな
でも主人公には自覚なくてただ偶然に助けたりしてるだけなかんじ
で、いっつも告白しようとしたりするんだけど妄想がひどいので
いっつも言いたいことが伝わらなかったりとかなw
449リッサ ◆v0Z8Q0837k :2007/11/26(月) 10:16:49 ID:USB98JEl
こんばんは、大変時間がかかってしまいましたが無事にショタヤンデレ作品が完成しましたのでさっそくですが
投稿します。
 ショタヒロインに関して貴重なご意見を頂けて大変嬉しかったです、どうもありがとうございました。
 それでは始めます、一応ショタとグロ、そしてインチキ時代劇注意です、長くなりますがご覚悟を…。

 「月輪に舞う」@
 
 …あらあ、兄ちゃんここいらじゃ見かけない顔だわね…いやいやあ、こんな狭めー村じゃあよその人なんて一発で解っちまうからよお……そんで、今日は何かい?こんな山奥の村の、よりにもよって居酒屋によお…へえ、学生さんで、こんなところまで民俗学の研究ってかい…。
 そんで…昔話?そんなモンを調べてんのかい?…いいぜえ、んならおらっちさが教えてやっからよお…。
 …これはむかーしむかし、まぁだ織田信長がガキ大将をしてた頃…そこの筑摩山に、忍者の里があったころのお話でよぉ…。

 …空からは大粒の雪が降っていた、まだ季節は神無月の初旬であるというのに…。
 男は走っていた、といってもただあてもなく走っていたわけでもない、久々に仕事を終えて久々に里に帰るために走っていたのだ。
 「寒いな…全く…」
 男の口からはそんな言葉が漏れた、無理もない。時刻は丑三つ時、さらに雪が降っていると言うのに男は傘もかぶらず薄い綿入りを着ているだけといった格好で、更に汗で髪と、眼帯と顔を濡らしながらもすさまじい速度で街道を走っているのだ。
 普通の人間ならばこの季節柄、凍傷…最悪凍死しまってもおかしくないだろう。しかし男は普通の人間ではなかった。
 男の生業は忍者だった、しかもただの下忍ではない…里の土地柄ゆえか活動範囲こそ限定されてしまっているが、それでもそこそこ名の知れた流派の腕扱きとして、たった今まで任務をこなして…やっと里に帰ろうとしたときにこんな目にあってしまったのだ。 
 「今日はついていないな…本当に…」 
 そういいながら男は立ち止まると街道の右側にある山の獣道に向かって走り出した…獣道をまっすぐ入り、そのまま山を二つ越えれば男は見事里の家に帰れるといった具合である。
 (二刻ほど掛かるかな…早く帰らねば本当に風邪を引いてしまう)
 男はそんなことを考えながら懐かしい故郷の山道の土を踏みしめて…ふと異変に気づいた。
 臭い…何かが匂う…それも普通の糞尿の類の匂いではない、これは…人間の血糊の匂いだ。
 「…死体か?」 
 男は呟いて辺りを見回した、訓練された目はこんな夜道でも梟のごとくものを見ることが出来るのだ。
 男は視線を周囲にめぐらし…自分の横にある大木の下に目を向けた。
 そこには一人の…裸の人間が横たわっていた。まだ雪が降り積もっていない分熱を帯びているようだ…辺りには衣服が乱雑に散らばっており、血の匂いもそこから漂っている…。
 「…生きているのか?」
 倒れこんだ人間にそう男が尋ねた瞬間、背後にまばゆい光が迫った…。
 
450リッサ ◆v0Z8Q0837k :2007/11/26(月) 10:19:24 ID:USB98JEl
「月輪に舞う」@

 「水雲さま!帰ってこられましたか!蓑虫は嬉しゅうございますぞ!!」
 男…水雲が背後に振り向くと、そこには提灯を持った初老の…隻眼の男
が立っていた。
 「…何だ、蓑虫か…驚かすなよ…」
 「へへぇ…すいやせん…」
 そういって蓑虫は顔をくしゃくしゃにして微笑んだ…その手には蓑と傘、更に
はかんじきと酒徳利までもが握られている…どうやら帰るのが遅い自分を心配して
迎えに来てくれたようだった。 
 「出迎え有難う…ところで蓑虫、少し提灯を貸してはくれぬか?」
 「へえ?いいですが一体何を?」
 「…あれだ」
 そう言うと水雲は蓑虫から提灯を受け取り、大木の根元を照らした。
 「…こりゃあ…死体?ですかい?」
 「いや…息があるな……これは」
 水雲はそういいかけて…息をのんだ。
 根元に横たわっていたのは少年…いや、少年だった、と言うべきか…
その見た目は少年と言うにはあまりにも美しすぎた。
  …まるで雪と同化したような真っ白な肌と髪、そして少女のように
整った顔立ち…そして前文全てを否定するかのように股間に生えた可愛らしい一物
…脱がされた服と、下腹部の出血から考えれば乱暴され、そして口封じがわりに刀で斬られた
のは明白だったが…その光景さえも美しく感じるぐらいに少年は魅力的な…まるで、妖気を放っていた。
 「うう…」 
 光に反応したのか、少年は弱弱しい声を上げる…そのわずかに見開かれた目と、紫色の唇は…。
 …どういうことだコレは、俺は狸にでも化かされているのか?…コイツは、コイツは一体?…。
 「…鬼灯…」
 「ひ…ひい!いけません水雲様!すぐお離れください!こいつはきっと妖の類です!…でなければ
あんな、ほ、鬼灯様のような顔は!」
 後ずさる蓑虫を、水雲は睨み付けた。
 「・・・蓑虫、少し黙れ」 
 その目は普段の穏やかな水雲の目ではない、近頃関八州を騒がせる忍…天目水雲の目だ。
 そういうと水雲は蓑虫に手を差し出した、蓑虫は事情を察してすぐに酒徳利を手渡す。
 水雲はそれを手に取ると口に含み、少年のそばに寄ると、酒を傷口に吹き付けた。
 「…ぎああああああ!!!」
 少年はまだそれほどの力が残っていたのか甲高い絶叫を上げる、水雲はついで懐にしまった
路銀代わりの絹糸を取り出し、持っていた針に糸を通す。
 「…助けるのでございますか?水雲様?」
 「ああ、このままほおっておいたのでは気分が悪い」 
 そう言うが早いか水雲は絹糸で少年の傷口を仮縫いして、自分の着ていた綿入りを着せ、蓑虫
の持ってきた傘と蓑を被せた。
 「これを飲め…体が温まる…」
 「う…あう…」
 「もう大丈夫だ、お前は必ず助かる」 
 水雲は普段の柔和な顔でそう呟きながらかんじきを履いた。
451リッサ ◆v0Z8Q0837k :2007/11/26(月) 10:24:59 ID:USB98JEl
月輪に舞う」@
 
 …これは、やはり神様仏様が下された罰なのか…?。 
 …少年を担ぎ、少年を気味悪がる蓑虫を連れて里に向かって走っている間
水雲はずっと考えていた、背に担いだ少年は微弱ながら脈もあり、声も上げ
られる、急いで里に帰れば命は助けられるかもしれなかった。
 しかしその少年の容姿は…あまりにも似ていた、いや…瓜二つだった…
まるで金型で鋳造したかのような容姿…そして、よくよく見ればその姿は…
白子(アルビノ)というところまで全く同じだった。
 …水雲、好きだよ…そう、今にも少年は自分にそう呼びかけてきそうな気がした。
 「…馬鹿な事を考えるな、こいつは鬼灯ではない…」
 水雲はそう呟いて自分の考えを否定した…そう、こいつは鬼灯ではない、彼女はあの
日死んだのだ…だから、そんなことはもうあるわけがないのだ…。
 水雲は動揺する心を必死に押さえつけて二つの山を越え、やっとの思いで筑摩の里に
たどり着いたのはやや空が白くなり始めた頃だった。
 
 筑摩の里は周りを山野に囲まれた小さな小さな村である、しかし塩が取れないと言う
事情からか物流は行われ、人の行き来は常人が思うよりは多少はある…忍者を育成する
のに適した、それでいて程よい閉鎖環境を保っている村だった。
 「先生!起きてくれ!頼むから起きてくれ!!」
 明朝、朝一番に筑摩の村の診療所に乗り込んだのは水雲だった。
 水雲はまだ鶏が鳴く前に医者をたたき起こすと、すぐさまに少年の怪我を直すように頼み込んだ。
 そしてそのまま家にたどり着くと、水雲は死んだように眠った、実際二日も目を覚まさなかった
ので蓑虫は本気で水雲が死んだのではないのかと心配したくらいだった。

 「…遅れましたが報告終わりまして、以上にございます」
 そして二日後、水雲はすぐ様に飛び起きると里の長に仕事の報告をした
かりにも水雲は里でも腕扱きの忍…筑摩七本槍の四位である。これを三日も
怠って臥せっていては七本槍の名が泣くだろう。  
 「ご苦労であったな…時に水雲よ」
 「はっ…何でございましょうか?」
 「某はあの山で…鬼灯に似た少年を拾ったそうだな」 
 「はっ!」
 「…陰間にでもなるつもりか?」
 ぎりりと、水雲は唇をかんだ…。
 「いえ…そんな気はありませぬが、どうも罪無き手負いのものは頬って
はおけないゆえ…怪我が治ったらば、事情を聞いて元居た所に帰そうかと…」
 「ならばよいがな…お主は里の宝故…間違いがあってはいけぬのでな」
 「…ありがたきお言葉…ではこれにて」
 内心苦々しい顔のまま、一礼をして水雲は里長の屋敷を後にした。
 「鬼灯のことは忘れるのだ…」
 里長の言葉はどんな攻撃よりも、水雲の心を傷つけた。
 
452リッサ ◆v0Z8Q0837k :2007/11/26(月) 10:27:04 ID:USB98JEl
「月輪に舞う」@

 鬼灯を忘れろ、か…よくも言えたものだな。そう内心をいらいらさせながら
も水雲は家に帰り、蓑虫の用意した茶漬けを食い、そのまま診療所に向かった。
 
 「経過は良好だがな…どうにも人を怖がってかなわん…」
 ため息をついて医者はそういった、もともと子供好きな男だったのだが、少年
には全くなついてもらえず、さらに自分を見ておびえられるという行為には耐えられなかったようだ。
 「それで今、あの少年はどこに…」
 「縁側で日向ぼっこをしているよ…しかしあの年で乱暴されて斬られるとは…不憫だな」
 「…全て時代が悪いのですよ、それ一言で飲み込みたくは無い言葉ですが…失礼」
 そういうと水雲は土間から診療所に上がり、縁側に向かった。

 少年は縁側にたたずんで、飛んできた鳥と戯れていた、白子、と言う見た目と少女のように整った
顔はまるで風景を一枚の絵に変えていくようだった。
 「…調子はいいようだな」
 「…っ!!……あなたは…」
 少年は水雲の声とともに竦み、びくりと体を震わせたが…その顔を見るなり、まるで地獄に仏、と
いったような笑顔で水雲に微笑み返した。そして立ち上がると水雲にぺこりと頭を下げた。

「私のようなものの命を助けていただいて…本当に有難うございました…貴方がいなければ、僕はあ
のまま死んでいたでしょう…本当に何度お礼を言っても言い足りないぐらいです…有難うございました」
 「いや…例には及ばない、狭い里だがゆっくり休んでいくといい…怪我が治ったら元居た場所に送り届けてやるから安心しなさい」 
 「…お優しいのですね、有難うございます…」
 忍びの性か、声や顔には出さなかったが水雲は大きく動揺していた、少年の凛、とした声は、そして笑顔はまるきり鬼灯と同じだった
のだ…このまま押し倒したい、着物の襟から除く少年の白い首筋を見ると、水雲はそんな感情を抱きはじめ…また必死にその感情を抑えた。
 「…しかし、申し訳ありませんが、自分には…もうきっと帰る家はありません。野党に襲われて…家は、屋敷は焼かれました…父様も、母様
も…生きているのかは怪しいものです…それに、家に帰っても…白子の自分は…」
 座敷牢くらいしか居場所は無い、そう言いたいのだろう…この地方では白子は福を招く富の象徴だ…箱入りで閉じ込めて大切にはされるかも
しれないが、人並みの幸せは与えられない…きっと少年を襲った連中もそのご利益だのといったくだらない理由で少年を犯したのだろう…と、なんとなく想像がついた。
 それに少年がそういう身の上かもしれないことはうすうす気づいていた…もちろんその場合の返答も…苦心はしたが、考えてはいた…自分はもう二十歳で、さらに里
で責任ある立場にいるのだ、拾った孤児を放り出すのは恥だ…取るべき責任はきちんと取るべきだ。
 怖がらせないように笑顔でそっと、そしてやさしく、水雲は少年に声をかけた。
 「ならばうちに来るといい、ちょうど小間使いが欲しかったところだ…うちで使ってやろう…」
 「…迷惑では、ございませんか?こんな、私のようなものなど…」  
 「迷惑などではないさ、それにこの村の住人もいい奴ばかりだから安心するといい…きっともう、つらい思いをする事はないだろう」
 「う…う、うああああああ!!!ありがとうございます!ありがとうございますぅううう!!!」
 少年は大粒の涙を零すと水雲に抱きついた、乱暴された記憶からか、男を見て怯えるという症状を起こしていたのが嘘のように、ぎゅ
っと強く水雲を抱きしめた。
 「…大丈夫、もう大丈夫だ…」
 そういって少年を抱きしめ返す水雲の心境は複雑なものだった。あまりにも鬼灯と同じ外見を持った少年は…どれほど心で否定しても、水雲
のその心を惑わせるものでしかなかった。
 …怖いよ、水雲…怖いよ…
 少年の柔らかい肌…その感触で記憶が蘇る、初めて鬼灯を抱いたあの日の記憶が…。
 「私の名は…天目水雲…お前の名は?」
 「弧太郎…弧太郎と申します」
 悲劇は、このときにもう始まっていたのかもしれなかった…。
453リッサ ◆v0Z8Q0837k :2007/11/26(月) 10:28:19 ID:USB98JEl
月輪に舞う@
 
 それから二週間ほど時が流れた、弧太郎はある程度心の傷が癒え始めたのか、水雲以外の他の男を見ても
あまり怯えなくなってきた…。
 弧太郎は村人たちとの交流も上手くいっているようだった、同い年の子供たちも始めはよそ者とあって近寄り
がたいようだったが…それでもその人をひきつける容姿と優しい性格から打ち解けあい…やがては鬼灯の亡霊と
気味悪がっていた村の大人たちとも交流が出来るようになっていった。
 「蓑虫様、それではそろそろ出かけましょう!」
 「あいさあ!それでは早速行きましょうか!」
 蓑虫も例外ではなかった…早くに子を失い、熱病で枯れたこの男もまるで
孫が出来たかのように弧太郎を可愛がってくれた。
 「…よかった、本当に…」
 水雲はほっとしていた、もしも弧太郎が皆と上手くいかなかったらどうしよう
かと思っていたが…どうやらそのような心配は要らないようだった、まあ…しかし今一番の問題は…。
 「よお!弧太郎ちゃん!釣りに行くなら俺も…うわっと!!!」
 玄関から盛大に転ぶ音が聞こえる、妖気に弧太郎に声をかけるこの男は名を冬士郎といった…男が転ぶ
理由はただ一つ、男も水雲と同じ筑摩七本槍の上…片目を眼帯で覆っているからだ。
 「馬鹿だねえアンタ…ねえ水雲、あんたもそう思わないかい?」
 そしてその背後にもう一人、やはり眼帯の女が立っていた。
  「門女まで…一体どうしたんだお前ら…?」
  「っつ!どうしたもこうしたもないさ…弧太郎が釣りにいくって言うから俺も一緒に行こうと思ったのよ!」
 「…そうか、人気者なんだな…あいつは…よかった」
 「ああ、人気者だよあの子は…化粧もよく似合うしねぇ…ふふふ」
 そういって笑う門女と冬士郎の笑顔を見て水雲は笑った…。
 「しかし、遅かったな冬士郎…弧太郎なら今さっき蓑虫と沢に向かっていったところだぞ」
 「何ぃ!早く言えよ!じゃあな!」
 水雲と門女は急いで駆け出す冬士郎の背中を見送った。
 「…しかし不思議だねえ、鬼灯の実の兄貴だったアイツが…あんなにもあの子と遊びたがるなんて」
 「…それをいうなら、鬼灯と許婚の俺はもっと不思議と言う事になるな…ところで門女」
 「ああ、私もあの子と遊びたいのは山々だけど…アンタに用があったんだよ、はい!」
 そういうと門女は懐に持っていた札を水雲に差し出した、真っ赤に塗られた札には、甲斐という文字が書かれている。
 「…仕事か、今度は甲斐の国とは…長くなりそうだな」
 「ああ、そうだろうね…」
 「冬士郎共々…弧太郎を頼むぞ…色々と、な」
 「任せときなって、それよりあんたも…生きて帰ってくるんだよ、弧太郎ちゃんが悲しむから」
 「ああ…それから」
 水雲は門女の言葉に安心すると、身支度を始めた。
 赤札は暗殺の印だ、詳しい情報は甲斐にいる草の者にでも聞けば解るだろう…。
 「あの子は何が何でもこの世界にかかわせないでくれ…頼むぞ」 
 「…任せときな…」
 水雲にとって一番の心配事、それはやはり…弧太郎がこの忍の世界にかかわる事だった。
454リッサ ◆v0Z8Q0837k :2007/11/26(月) 10:29:56 ID:USB98JEl
月輪に舞う@

 翌朝、水雲は泣きじゃくる弧太郎をおいて村を出た、名残惜しかったが仕方のない事ではあった。
 いかないでくださいませ!水雲様…そういう小太郎を振り切って、水雲は甲斐の国へ向かった。
 
 休息が終わり、任務に戻れば日々はまたいつものように殺伐としたものだった。
 今回の仕事は近々行われる戦の情報収集というものだった、水雲は主に的に作戦を傍受してそれを伝え
さらに作戦に重要な指揮官を暗殺してくる任務を負わされた。
 普通の忍なら甲斐お抱えの根来衆の目をくぐって諜報活動をするのは至難の技だろう、しかし水雲には
それを可能にする特殊能力があった。
 水雲は甲斐の陣よりやや離れた森にいた、見回りの来る心配のないそこで深呼吸をすると水雲は片目を
覆う眼帯を取った…象牙で出来た眼帯の下には、大きなくぼみと…青い義眼が埋め込まれていた。
 青い義眼は筑摩の里の秘法…忍術を使える者にのみ与えられる証明だ…そして水雲の忍術は…一瞬にして
背景と自分とを同化して、視覚と聴覚、さらに嗅覚から自分を消し去るというものだった。
 (いっそ任務も俺のように消え去って、早く里に帰れればいいのにな…)
 敵たちの横を悠々と通りながら水雲はそう考えた…早く帰って弧太郎に会いたかった…。

 その頃、弧太郎は一人深夜の神社に御参りに行っていた、俗に言うお百度参りというものである…
願いはもちろん、水雲が無事に帰ってくるように…それだけだった。
 (水雲さま…生きて、帰ってきてください…)
 弧太郎は無心に祈っていた、自分の命の恩人の生還を…それはもちろん救ってもらった恩義もあったが
弧太郎はそれ以上に一刻も早く水雲に会いたかった…会って、何時もの笑顔を浮かべたまま、自分をやさしく
抱きしめてもらいたかった…。
 まだまだ子供とはいえ…弧太郎は水雲に対して淡い恋をしていたのだ。
 「水雲さま…弧太郎は、早く会いとうございます…」
 「そうか、それほど会いたいのか…ならいい方法を教えてやろうか?」
 背後からいきなり声をかけられて弧太郎は一気に後ろに振り向いた。その先には
…眼帯をした老人がいた。
 「何者です!?」
 「安心しろ、わしはこの村の者だ…」
 老人はそう言うと微笑んだ、そしてこう言った。
 「水雲に会いたいのなら忍になれ、さすれば嫌でも一緒に仕事をすることになるだろう
…それに、あの男の役に立ちたいとは思わんか?」
 「…役に、立つ…」
 その言葉に、弧太郎は悩んだ…今こうしてあの人の帰還を望むだけでいいのか、恒にそう
も考えていた彼にとっては…老人の言葉は渡りに船、といった所だった。
 目の前にいる笑顔の老人の正体がこの筑摩の村の長であるという事も知らずに…。 
455リッサ ◆v0Z8Q0837k :2007/11/26(月) 10:31:54 ID:USB98JEl
月輪に舞う@ 
  
 それから半年後、やっとの思いで任務を終えた水雲は一刻も早く帰郷するべく、筑摩の里への山道を
凄まじい速度で上っていた。
 その背には大きな風呂敷包みがある、中には露店で買った弧太郎へのお土産が山ほど詰まっていた。
 (弧太郎、喜んでくれるといいのだがな…)
 と、顔をにやつかせながら走る水雲の前に、白い影が現れた。一瞬で立ち止まって身構える水雲。
 「山河と筑摩…その意は」
 白い影はそう訪ねた、夕暮れ時の山道で顔はよく見えないが…これは筑摩の里特有の、確認の合図だ…
水雲は答えた。
 「ただ一人、月輪に舞う…」
 「水雲様!!帰ってまいられましたか!!」
 白い影はそう言うと、水雲の胸に飛び込んだ…その小さな姿、そして香る少女のような匂い…間違いない…
コイツは弧太郎だ…。
 「ああ…さびしい思いをさせてすまなかったな、弧太郎…」
 「嬉しゅうございます、手も…足もある…ぐ・・・ぐず…」
 弧太郎は水雲の胸で泣きじゃくった…無理もない、半年も文もよこせずに任務に没頭していたのだ。
さぞ寂しかったのであろう…やはりこう言う所は鬼灯とは違うのだな…だが、それでいい…。
 そう考えて…ふと、感じた違和感を拭うため、水雲は一気に弧太郎を押し倒した。
 「うわ!!ああ!!水雲様…何を…!?」
 水雲は一気に弧太郎の服の胸元をはだけさせる…そして、白い肌とともに現れたあるものに、水雲は愕然とした。
 「……お前、忍になるのか?…誰に技を教わった!?」
 「は…はい…まだまだ至りませんが…蓑虫様に…」
 弧太郎は少し嬉しそうに、顔を赤らめながらも答えた…。
 「里へ帰る!帰るぞ!!」
 水雲はそういうと、凄まじい速度で山道を駆け出した、そんな態度に弧太郎はきょとんとしながらも…
衣服の乱れを直し始めた。
 
 弧太郎は嬉しかった、水雲は自分の変化と…服の下に隠れた…稽古の後の痣に気づいてくれたのだ。
 きっと水雲は驚いて、嬉しさで言葉も出ずに走り出してしまったのだろう…そう考えた。
 …恥ずかしがり屋なのかな…でも、こうして水雲様に…思ってもらえているというのは…悪くないなあ
・・・でもどうしたんだろう、いきなり僕の裸を見て…興奮したのかなあ?…そうだったら、少し嬉しいな…。
 弧太郎は気づいていなかった、水雲の顔が完全に青ざめていた事に。

 「お館様!これは一体どういうことでございますか!?」
 水雲は一気に里の館に向かうと、任務の報告もそこそこに里長に事を問いただした。
 「どうもこうもない…あのものは忍の素質があるでな、わしが蓑虫に育てるように命じた」 
 「…里の秘法を、部外者に教えるということは…」
 「これは里の総意だ、そのような小さなことはどうでもいい…それにお主も見ておろう、弧太郎は
この半年で…蓑虫の攻撃全てを交わし、反撃を二手三手いれるほどになったのだぞ…あの実力は素晴らしい
きっと鬼灯のように抜け忍などにならずに…里の反映に手を貸してくれようぞ」
 …水雲はぎりぎりと、歯をかみ締めた…。 
 最も起こってはいけない事が起こってしまったのだ。
456リッサ ◆v0Z8Q0837k :2007/11/26(月) 12:27:01 ID:USB98JEl
月輪に舞う@
 
 弧太郎は戸惑っていた、あれから数日の間、水雲はまるで口も聞いてくれないのだ。
 「水雲様…今日は、蓑虫様ではなく、水雲様に術を教えていただきたいのですが…」
 「成らぬ、師が二人つく事は里の掟に反する」
 そういって昼ごろに起きると、いつもどこかにふらふらと出かけてしまうのだ。
 …やはりまだ自分は半人前故に、厳しくしてくれるのかな?…弧太郎はそう考えた
それはある意味いつか自分を認めてくれるのだろうという期待に繋がった…。 
「行きますぞ!弧太郎様!」
 蓑虫は師として厳しく、時には何時ものようにやさしく弧太郎に師事した、水雲の
任務に比べれば軽い仕事なども任されるようになった。
 泣きたくなるような日もあった…そして、時に人も殺した…それでも、この行いが
いつの日か水雲への恩返しに繋がるのなら…そう考えた。
 
 「もう…駄目なようだな…あれほどの才能が有れば…今夜辺りには…」
 「ごめんね…水雲…私、力になれなくて…」
 そんな様子を門女と共に影で眺めながら、水雲は涙をこぼした…。
 「…そうではない、あれほどの才能があれば里の忍は誰も放ってはおけないさ…でも
でも俺は…あの子に…なんて事を…」
 「…ごめんね、ごめんね…私が悪いんだ…鬼灯の時だって…私が…」
 「…いうな、かどめ…うう、うう…」
 二人は抱き合って、泣いた。
457リッサ ◆v0Z8Q0837k :2007/11/26(月) 12:31:18 ID:USB98JEl
月輪に舞う@

その晩、弧太郎は蓑虫に里の近くを流れる渓流に呼び出された…奥義の伝授、そういう話だった。
 「あ…蓑虫様…」
 弧太郎は影から音もなく現れた蓑虫のその格好に驚いた…服は黒の忍服、鉄鋼と脚半を装備した
その姿は…まるで修行ではなく、本当の任務に向かうときのような服装だったからだ…。
 「…先手は譲ろう…来い、弧太郎!!」
 「は、はい!!」
 言うなりいきなり抜き身の刀を渡すと、蓑虫は後ろを向いた。
 「こ、これは一体…」
 「この里では奥義の伝授は…師を殺して初めて行われるのだ!!…水雲と並ぶ実力が欲しいの
ならば…ためらわずに来い!!」
 「う…うおおおおお!!!」
 蓑虫の声はぞっとするほど冷たい…しかし…ここまで来て、ためらうわけには行かない…そう
弧太郎は…水雲の手助けをするため…そのために忍になったのだ。
 刀を水平に構えて、一気に蓑虫の背後に迫る。しかしそうもうまくはいかない、蓑虫は軽く
その攻撃を受け流すと、後方に弧太郎を弾き飛ばした。
 「ぐう…っつ!」
 倒れこむも一気に飛び起きて襲い掛かろうとする弧太郎、しかし眼前に蓑虫の姿はなく…いや、
その姿は上空にあった…蓑虫は服の袖からは黒い縄が四本、まるで触手のように飛び出していた。
 蓑虫の術は袖から出した縄をまるで本当の腕のように使う、といったものだった・・・伸縮自在な上
にまるで鉄鞭のような硬度を持ったそれでいっぺんに叩かれては、普段の練習とは違い…弧太郎の肉
は簡単に裂けてしまうだろう。
 ヒュ!!ヒュ!!!ビシイ!!!!
 凄まじい音が響く、しかし縄が叩いたのは蓑虫が手渡した刀であった。
 弧太郎は一気に後ろに飛ぶと、手に持っていた標で次々に三本の縄を切り落とす、これが弧太郎の
修行の成果だった。
 もちろんこんな芸当は水雲でも出来ない。
 「はあ!!」
 蓑虫は残った一本の縄で木に飛び移ろうとする、しかしその縄すらも切り落とされると…一気に地面
に落ちた、いや、叩き落された。
 「…ぐ、うう…」
 それほどの高さではなかったので何とか息はあった、しかし片手の骨が折れたようで…老体の蓑虫に
反撃は不可能なように思えた。
 「はあ、はあ…」
 その体の上に弧太郎が馬乗りになる、手には大きな標が握られていた…勝ちはもう決まっていた、しかし
弧太郎は…息を荒げたまま
刃を刺せないでいた。
 「どうした…やれんのか…」
 「…はあ、はあ…あなたをそう簡単に…出来るわけ…」
 「…やはりな、余所者の上に…陰間にはそのような根性はありはせぬか…」    
 「な…なあ!!!」
 まだ数えで11である弧太郎にとって…蓑虫を、水雲のいない間、まるで孫のように可愛がって
くれた蓑虫を本気で尊敬する弧太郎にとってその言葉は…ただただ動揺するしかなかった。
 「忍になって水雲の気を引きたいのであろう…しかし、哀れよ…愛するもの以外を殺す覚悟のない
お前には…陰間のお前には…水雲に愛される資格などは…抱かれる資格等はないわ!…あやつにとって
お前はただの…拾った子犬に過ぎぬ!!」

 弧太郎は動揺していた、訳がわからなかった。 
 何で、何でそんなことを言うのです…蓑虫様…僕は、貴方を尊敬しているというのに、水雲さまの次に
僕をかわいがってくれた貴方を…親同様に、好きだったというのに…わからない…なぜこの様な目にあうのか
人を愛するのがこんなにつらくて大変な事なのか…何故こんなにも苦しむのか…わからない、わからないわからない
わからないわからないわからない……うああああああああ!!!嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ!!!!こんなことせずに…いっそ僕が…
でも…でも水雲様…僕は貴方の事が、僕は貴方の事が…ダイスキナンデス・・・オヤクニタチタインデス…ソバニイタインデス…ダカラ…
ごめんなさい、本当にごめんなさい…みのむしさま。
 「は…はははっ!!はははははははははははは!!!!」
 どすり!!と…笑い声と共に、弧太郎は標を蓑虫の胸に突き刺した。
 ぐう!と蓑虫が悲鳴を上げる。
458リッサ ◆v0Z8Q0837k :2007/11/26(月) 12:33:33 ID:USB98JEl
「…お見事…もう、これで…水雲様の守護のお役目は任せられますな…弧太郎様…」
 そういうと、蓑虫は弧太郎の頬を優しくなでた…弧太郎はきょとんとする。
 「…貴方の実力なら…その覚悟がおありなら…たとえ子は宿せずとも、夫婦には
なれずとも…ずっと水雲さまをお守り出来ましょう…なに、元は里一といわれたこの
蓑虫を殺せたのです…しんぱいは…」
 「あ…ああああああ!!!いやだ、蓑虫様!!いやだああああああ!!!!」
 弧太郎は全てを悟ったのだ、蓑虫の想いを…しかし時はもう遅かった、蓑虫の呼吸は
次第に弱弱しくなっていく…その間、弧太郎には蓑虫とすごした日々の走馬灯が見えた
…たった半年とはいえ、彼との思い出は…弧太郎にとっては大切なものだった。
 そして数秒後、蓑虫の息は完全に途絶えた…。 
「ふ…ふふふ、あははっ!!ははははははは!!!あはははははははは!!!!」
 顔を血にぬらし、涙を流しながら笑う弧太郎…その背後に突如として篝火が現れ…
弧太郎の周りを七つの影が取り囲んだ。 
 「大儀であったな弧太郎…これでお前は晴れて筑摩の里の忍…それもその上の、筑摩七本槍
の七位の位が授けられようぞ…」 
 七つの影を引き連れて、弧太郎の眼前に現れたのはあのときの老人…この筑摩の里の里長だった。
 「…あなたは…そうですか、貴方が里長なのですか…」
 微笑む里長と、空ろな目と言葉でそれを帰す弧太郎…弱弱しいながらも弧太郎は里長にぺこりと頭
を下げる…その瞬間に、弧太郎は二つの影に両手を掴まれた。
 「悪く思うなよ、弧太郎…」
 影の正体の一人は冬士郎だった、冬士郎はそう耳元で呟くと、懐から竹筒を取り出して里長に渡した。
この筒を使って里長は継承儀式で師を殺した忍の目をえぐり…秘伝の義眼を埋め込む事で奥義を継承させる
ことでこの儀式は終了する…それが手順だった。
 「・・・・・・いえ、里長殿と、冬士郎様の手を煩わせるまでもありません…」
 しばしの沈黙の後、弧太郎はそういった…するり、と二人の拘束を解いて竹筒を里長の手から取り上げる。
 「これも、必要ありません…」
 ヒュ!という音と共に手刀で竹筒を割る。そして弧太郎はそのまま…人差し指を一気に瞼に当てた。
 これは罰だ、自分を大切にしてくれた人を殺した自分への罰だ。
 「ぐ……ぎああああああ!!!!」
 ブチュ!グチュ…血の音と共に甲高い声で悲鳴を上げながらも一気に目玉を引き抜く弧太郎…ひときわ
甲高い声を上げると同時に…目玉は弧太郎の手中に落ちた。
 「よろしい…それではこれからも…せいぜい…水雲と、筑摩の里のために働くがよいぞ、弧太郎」
 里長は弧太郎の目玉を受け取ると、それと引き換えに白い義眼と、象牙の眼帯を与えた。
 …弧太郎はそれを聞くとその場にへたり込んだ、里長と七本槍のうち四人はそのまま渓流を去り…
残りの二人…門女と冬士郎は蓑虫の死体を担ぎ上げて墓地へ向かう、そしてその後には…水雲と弧太郎
のみが残された…水雲はそのまま弧太郎を優しく担ぎ上げる。
 水雲は泣いていた…蓑虫を失ったという悲しみもあったが…それ以上に、これまでさせるまいと思って
いた弧太郎に…つらい思いをさせてしまったのが申し訳なかった。
 「私は…水雲さまを守ります…絶対に守ります…ふふふ、あははははは…」
 うわごとのように、こんな言葉を繰り返させるくらいに…弧太郎の心を追い詰めていた原因が自分にある
のが…とても悲しかった。
 「おしたい申しております…大好きです、水雲さま…」
 こんな自分でもなお、慕ってくれている弧太郎…水雲は、その弧太郎の姿をいとおしく思うと共に…それでも
鬼灯の事を忘れられずに弧太郎の気持ちに答えられない自分を恨めしく思った。 
459リッサ ◆v0Z8Q0837k :2007/11/26(月) 12:35:18 ID:USB98JEl
月輪に舞う @

 それから二日の間、弧太郎は屋敷の自分の部屋にこもってしまい、たとえ水雲がなれない
食事をつくろうとも…部屋から出てこなくなってしまった…。
 三日目、水雲は意を決して弧太郎の部屋に飛び込んだ。
 「弧太郎…いい加減に飯を食わないと死んでしまうぞ…」
 炊いた粥をもって部屋に飛び込む。その先では痩せこけて青ざめた弧太郎が…抱きしめた布団
に何かを呟いていた。
 「…大好きですよ…すいうんさま…え、もちろんみのむしさまもだいすきですよ…うふふ…」
 心が壊れたのか…いたたまれない…そう思い、それでもあきらめきれない水雲は弧太郎を抱き
起こすと、その唇に口付けをした…それならば、せめてものこいつの願いをかなえてやろうと。
 「うわあ!…ん…ちゅ…はあ…」
 そのまま舌を口腔内部に侵入させる…唾液もほとんどなく、乾いたそこは甘い味がした。それに
あわせるかのように、弧太郎も水雲の舌に自分の舌を絡ませ…そのまま、長い長い接吻が続いた。
 「ん…水…雲さま…弧太郎は…弧太郎は…水雲さまを…愛しております…だから…」
 抱いて欲しい、そういうことなのだろう…水雲は無言で了承して、弧太郎の寝巻きを脱がせた。
 「あ…恥ずかしいです…」
 弧太郎はまるで少女のように胸と股間を隠す…そんなことはしなくても、何度となく見ているという
のに…水雲はその行為を微笑ましく思った。
 ……いや、違う…水雲は頭の中で浮かび上がる思考を必死に否定した…あの時も同じだったのだ…自分の
師を、祖母を殺して…自ら片目をえぐって儀式を終え…引きこもる鬼灯を抱いた日も…今日と同じこの日この季節…。
 「水雲さま・・・やはり、私は…男は…嫌いですか?」
 「そうではない、そうではないのだ…俺は、お前を…別の女と…死んだ許婚と…重ねようとしているのだ、そんな
俺にお前を抱く権利など…」
 肩を震わせる水雲、弧太郎はその体を優しく抱いた。
 「ふふふ…いいのですよ水雲様…私は…たとえ貴方が…貴方がどう思おうと…たとえどんな女性と私を重ねようと…
私は貴方を、愛しておりますから…」
 水雲は情けなかった、涙を流した…しかし、それでも、弧太郎が元気になればと…弧太郎を抱いた。
 
 「っ…痛くないか…弧太郎…」
 「はい…嬉しいです、嬉しいです…ん…ああ…うれしいです…すいうんさま…ああ!!」
 「…くう…は!あ!」 
 二人は同時に達した…事後…水雲は弧太郎にやさしく口付けをし、抱きしめ…明朝、里長の指令を受けて
奥羽に向かうべく屋敷を後にした。
 「もしもこの任務を断れば、弧太郎にはもっときつい任務を与える」
 里長はじかに水雲の前に現れてそういった…応仁の乱をとうに過ぎたとはいえ、まだまだ未開の地である
奥羽への遠征はたとえ水雲であってもそれなりに危険が伴うだろう…それでも、それでも水雲はたった一人
奥羽へ向かった。きっと弧太郎は悲しむだろう、でも…この指令を聞かねば、それだけはすまないのも事実だろう。
 (何があっても…俺は必ず守る、弧太郎を…この命にかけてでも…)
 水雲の決意は固かった…里を離れると言う事がどういう意味を持つ事なのかも考えずに。
460リッサ ◆v0Z8Q0837k :2007/11/26(月) 12:37:13 ID:USB98JEl
月輪に舞うA

 そしてそれから一年の月日が流れた、水雲は奥羽から里に帰る前にさらに尾張の任務に向かわされ…
ある日、尾張の町で薬屋に変装して蕎麦屋で食事を取っていると…こんな噂を聞いた。
 「−近頃、腕利きの白子のくの一が現れる−」と
 水雲は嫌な予感を抑え、必死の思いで任務をこなし…里へ戻った。
 里に戻った水雲が見たのは…月日が流れて男らしく成長するどころか…まるきり、そう、まるで鬼灯
の生き写しのように…化粧のよく似合う、女のように育った弧太郎だった。

 「お前らは里長にいいように使われてたのさ…」
 冬士郎は久々にあった水雲にそう言った…里長は同じ事を弧太郎にいい、そして弧太郎をきつい任務
につかせて…二人を使っている、冬士郎はそう断言した。
 「なぜ…そんな事を…」
 「お前が不安要素だからさ…お前の力は強いが、抜け人の鬼灯の許婚だ、いつ裏切るかわからない分
こうやって弧太郎っていう子犬を人質に取っておけば裏切られる心配はないし…忠実な子犬を安心して飼う事も出来る…」
 「なぜ、我々はこうも…あの子はこうも…辛い目に合わされるのだ?」
 「そうするしかないのだよ、それが忍だ…そう割り切らなければ、お前に殺された妹は…鬼灯は、もっと簡単に抜け出せたはずだ…」
 二人は同時に俯く、とそこに弧太郎が走ってきた。
 「…水雲様…お会いしとうございました!お会いしとうございました!」
 弧太郎はそう言うなり水雲をひしと抱きしめた、事態を悟った冬士郎は気を使ってその場を離れる。
 「少し、背が高くなったな…ただいま、弧太郎…」
 「はい、はい…お帰りなさいませ!!水雲さま…大変お疲れだったでしょう、今夜はごゆっくりお休みくださいませ・・・」
 弧太郎の顔は少し痩せているように見えた…そして表情もあの日からあまり変わらず、どこかその瞳も空ろに見えた…。
 弧太郎は水雲の体を話すことなく、そのままぼろぼろと涙を流し始める…そんな弧太郎を水雲はせいいっぱいの気持ちで労う為…
口付けをして、その場に弧太郎を押し倒した。
    
 それから数日の間、弧太郎と水雲は交わり続けた、弧太郎は何度となく水雲を求め続け、水雲もそれに応じた…まるで埋められなかった
時間を体で埋めるかのように…そして、事が終われば二人は抱き合って眠りについた…そんな生活が二、三日続いた。
 なぜそこまで執拗に弧太郎が体を求めてきたのか?・・・その謎はその日、呼び出された里長の屋敷で判明した…里長は水雲に命じたのだ
門女との結婚を…。
 
461リッサ ◆v0Z8Q0837k :2007/11/26(月) 12:39:15 ID:USB98JEl
月輪に舞うA
 
 「もう…ここまでなのですかね…」
 弧太郎は川原にいた、たった一人・・・里の中でもっとも信頼した師である蓑虫を殺した川原で、手に短刀を持ってたたずんでいた。
 弧太郎は悩んでいた…せっかく得た水雲を守るという誓い、たった一人で彼に仕える…その想いすら打ち砕かれる事になってしまう
ことに、彼の心はもう耐え切れなかった。
 いっそ門女を殺したかった、でもそれは出来なかった…もう誰も傷つけたくない、蓑虫を殺した時のような想いはしたくない…そして
何より、水雲の悲しむ顔を見たくはなかった。
 「よせ、自害などするな…」
 背後から声をかけたのは冬士郎だった、彼は涙で頬をぬらす弧太郎に手ぬぐいを渡すと弧太郎の横に座った。
 「冬士郎様…しかし自分は…怖いのです、このまま壊れて…誰かを傷つけてしまうくらいなら…いっそこの手で…」 
 「俺の妹も、鬼灯もそうだった…あいつはお前と同じく、心が壊れるのを防ぐために逃げて…最も愛する水雲に殺されたのさ」
 「…!!…何故…一体鬼灯さまという方に何があったというのですか!?」
 「あいつは心が壊れたのさ…師であるおばあを殺した日から水雲に依存を重ねてたんだ…そしてその挙句、水雲に横恋慕して迫った
くの一を殺して…」 
 里掟を破り、責任を取るべく送り込まれた水雲に殺された…それが鬼灯をめぐる事件の顛末だった。里の友人である門女を人質に
取られた水雲は悩んだ挙句…斬り殺したのだ、鬼灯を。
 「うれしいよ…こんな私でも泣いてくれるんだね…水雲…」
 彼女はそういって事切れたらしい。
 「…私はその方と同じように生きていたのですね…でも、その方と同じになって…水雲さまに迷惑をかけるくらいなら…いっそ!
うわあ!!な、何を!?」
 言い終わるのを待たずに冬士郎は弧太郎を押し倒した、そしてそのまま一気に着物の服をはだけさせる。
「…俺の話がここで終わると思ったか?…俺はお前に言いたいのだ…弧太郎、もう俺は我慢できん…俺の女…いや、男になれ、俺は
絶対にお前を幸せにする!悲しませることなどしない!…もう嫌なのだ…水雲に、あの男にお前を取られるのは…こたろう、こたろう!!」
 「い…いやあ!!お止めくださいませ!!冬士郎様!!あ!ああ!!」
 弧太郎の弱弱しい叫びを無視して冬士郎は弧太郎の乳首を舐めまわす…そしてその唇を弧太郎に近づけたとき…冬士郎の首は綺麗こぼれ落ちた。
「あ…ああああああああああ!!!!嫌嗚呼嗚呼アアア!!!!!」
 条件反射、といった方がよいのだろうか…弧太郎はいつも、暗殺任務のときにそうしていたように手に隠し持った大型の標で一気に冬士郎の首を
切り落としたのだ…初めて里の皆にあったとき、陽気に自分に話しかけてくれて…まるで実の兄のように遊びを教え、蓑虫と同様に自分を気にかけて
くれた男を…冬士郎を…。
 「・・・…うああああああああ!!!!ああああああああ!!!!!」
 弧太郎は泣いた、泣きながら走り出した…もう何が何かわからなかった、自分の生き方を呪った……自分に優しくしてくれた人を殺し、愛してくれた
男に迷惑をかけ続ける自分を呪った、でも…それでも、弧太郎は…愛していた、水雲を、愛していた。
 「あはははははははははは!あはははははは!!水雲様、もう、もう弧太郎に生きる資格はありません!
でも、それでも貴方を!貴方が!私は貴方が好きなのです!!!あははははははははは!!」
 せめて、里掟にしたがって水雲に自分を殺させないようにと…山の谷に向かって弧太郎は走った。
 
462リッサ ◆v0Z8Q0837k :2007/11/26(月) 12:41:14 ID:USB98JEl
月輪に舞うA
 
 弧太郎に相談があると呼ばれて、所用で少し遅れながらも川原にたどり着いた門女は冬士郎の
首なし死体を見て…ここで起こった事の全てを悟った。
 「…このままじゃだめだ!弧太郎を助けなきゃ!!」
 門女は眼帯を取って術を使った…門女の術は一種のレーダーのようなものである、弧太郎の残
した気配をたどれば彼がどこに向かうのかは察しが着いた。
 門女はいそいで水雲の家に向かう、そして水雲に全てを話して…自分の持っていた巾着袋を放り投げた。
 「このままいけばあの子は自殺しちまうだろうし…もしもそれを食い止められても、里掟でまたあんたは
あの子を鬼灯と同じように殺す羽目になる…だから、逃げな…それを持って、唐にでも」 
 以外に大きな袋の中には金塊と宝石が入っていた、これだけの量が有れば唐まで逃げるのは余裕だろう。
 「…かたじけない、しかし…そうなればお前は…」
 脱走幇助でどの道死ぬ羽目になる、そう言おうとした瞬間、門女は怒鳴った。
 「馬鹿野郎!あの子はアンタが好きなんだよ!蓑虫を殺して!心を壊しながらも忍びになって!冬士郎を
殺せるくらいにあんたの事が好きだったんだよ!?それを…また助けてあげないでどうするのさ!また助け
られなかった私はどうなるのさ!…早く行っちまえよ馬鹿野郎!!」
 「…すまない、門女…」
 そういって水雲は門女に背を向けると、山の谷に向かって走り出した…門女はそれを涙目で見送ると…胸に
短刀を当てながらこう呟いた。
 「あの子を幸せにしろよ…大好きだったよ、水雲…」
 門女は一気に自分の胸元を短刀で刺し貫いた。
 
 弧太郎は崖の前で立ちすくんでいた…そろそろ、潮時かな…そう考えて崖に飛び込もうとしていた。
 このまま飛び込めば下は岩石がごろごろした大きな穴が広がっている、きっと死ぬ事は簡単だろう。
 「愛していますよ…水雲様…ふふふ…」
 …ありったけの思い出を思い出して、たっぷり感傷に浸った後、弧太郎は一歩一歩、崖に向かって歩き
出した。一歩、また一歩…そして最後の一歩を踏み出そうとしたとき、弧太郎は首根っこを掴まれた。
 「なら…死ぬな、ずっと一緒にいよう、弧太郎」
 弧太郎はその手の主が誰なのかを一瞬で判断した。
 「でも…このまま一緒にいれば…私は必ず貴方を…水雲様を不幸せにしますよ?大切な人の命を奪う
かもしれませんよ…もう、もう…私など…貴方のために、死ねたほうが…!!」
 ばちいん!!と、弧太郎の頬を叩く水雲、彼はその後すぐに弧太郎の体を抱きしめ、言った。
 「俺はお前が好きだ、もう放したくない…たしかにこれまで多くの、俺の大切な人が死んだかもしれない…
お前はその人を手にかけたかもしれない…それでも、それでも俺は…お前が愛しいのだ!!お前と一緒にいたい
たとえ病めるときも…老いて死ぬときも…片時も離れずに、同じく死に、腐れ落ちる…俺はそうありたいのだ!
…たとえ里も、国も…全てを敵に回してでも!!俺はお前が好きなのだ!」
 水雲の言葉に偽りはなかった、鬼灯への想いは…未練と後悔は、捨てていた。
 「本当に…いいのですか…本当に…わたしなど、わたし…う、うああああああああああああああ!!!!ああああ
ああああ!!!!!」
 弧太郎は水雲の胸で泣いた、水雲はそれを抱きしめた。
 そして二人は手をとり、里から街道へ抜ける道を、手をつないで目指した。
 瞬間、ぐさり!という音と共に血を噴出して水雲は倒れた。
 青ざめる弧太郎たちを…鉄砲を持った忍の群れが囲んでいた。理由は一つしかない…抜け忍に対する
制裁行為だろう。
 パン!パン!パン!パン!! 
 次々に弾丸が飛び交う、水雲は弧太郎を守るべく必死に立ち上がって自分の体を盾にしようとしたが…
それもむなしく、二人は倒れこんだ。
463リッサ ◆v0Z8Q0837k :2007/11/26(月) 12:43:06 ID:USB98JEl
月輪に舞うA

 里長は二人が死んだ事の報告を受けて、本当に嬉しそうな笑顔を見せた。
 自分の娘である鬼灯と、出来損ないとはいえ息子の冬士郎の仇が討てたのだ…
それも鬼灯の仇である水雲はさんざん苦悩させた挙句、一番の幸福を与えてから殺す
というサディスティックな方法が行えた…里長にとってこれほど嬉しい事はなかった
たとえ里にとっては逸材の、とても優秀な忍を二人失う結果になったとしても、である。
 里長は村を守らねばならない立場だ、でもそれでも…掟で、自分が命令を出したとはいえ
…娘を殺した水雲が憎かった…いや、誰かを憎まねば気がすまなかった。
 冷酷な里掟の矛先は…歪んだ男の逆恨みの復讐劇を成就させた、たとえその行為が矛盾だらけ
な上に…全く理のないものだとしても、男…里長は満足していた。
 ふと、里長が床に眼をやると…そこには何かが転がっていた。よくよく見ればそれは…見覚えの
ある七つの玉…七本槍に与えた、さまざまな色の義眼だった。
 「たあああああああ!!!」
 里長が手槍を取って身構えた瞬間、その首は簡単に落とされた。
 里長の背後には、標を構えた弧太郎がいた。
 「あはははははは、あはははははははははは!!!!」
 弧太郎の体は血にまみれていた、先ほど鉄砲で撃たれた傷の出血も十分に酷かったが…その血の殆どは
…水雲を殺そうとした七本槍と…それを見てみぬ振りをした、村人達の返り血だった。
 「あははははは!あはははははは!!!」
 弧太郎の心は完全に壊れた、そしてその怒りを村の住人にぶつけて…本気で暴れた結果、小さな村は一夜に
して軽々と全滅したのだ…。 
 かつて死を恐れぬと言われた南洋の戦士は第一次世界大戦の際、十二発もの弾丸を心臓と頭部に打ち込まれ
ながらも動き回り、二人の騎兵を軽々と切り殺したと言う…忍の天才である弧太郎にとって、重傷を負いながら
の戦闘行為は…至極可能なものだったのかもしれない。
 戦闘が終わり、村に朝日が昇る頃…弧太郎は再度崖の近くに向かい…そして、水雲と一緒に埋まれるような、大きな
大きな墓穴を掘った。
 「老いて死ぬときも…片時も離れずに、同じく死に、腐れ落ちる…ふふふ、いっしょですよ、ずーっといっしょですよ
すいうんさま…」
 穴に綺麗に水雲の死体を寝かせると、そんな言葉を呟きながら…弧太郎は穴に入って水雲の死体を抱きしめ…その中で
ようやく絶命した。
 …自分が上になっていいのかなあ…水雲さま、きっと恥ずかしがるだろうなあ…。
 そんな事を考えながら、弧太郎の意識は途絶えた。
464リッサ ◆v0Z8Q0837k :2007/11/26(月) 12:44:20 ID:USB98JEl
月輪に舞う エピローグ

 …おしまいおしまい、と…ああ、猛こんな時間かい…悪かったない、こんな遅くまで
くだらねえ忍者の話なんかでつき合わせちまってよう…って、泣いてんのかい?…
涙もろいやねえ兄ちゃんはよお…。
 へ?二人が可哀想だって?まあまだ話には続きがあってさね…このあと二人は地獄に
落ちるってんだけどよお、あの世で二人を哀れに思った閻魔様は…二人を畜生…狐にして
この筑摩の山に夫婦として永遠に転生させるってことに決めたってんだわなあ…。
 そうして今でもあの山では…二人は中むつまじく、夜もすればおどってんだとよ…どうだい?
これで安心したかい…っと、これで店じまいだな、お代はいらねえよ…くだらねえ年寄りの話に
付き合ってくれたお礼だ…また来てくんな、今度はもっと泣ける話をしてやっからよお…。
   
 筑摩の山ではかつての里の跡も消え、今では木々が広がっていた。
 そしてちょうど木々がなくなった原っぱでは…満月ともなれば、どこからともなく二匹の狐が現れて
くるくると…まるでダンスを踊るかのように双方が回って、戯れていた。
 空には月がさしていた、そしてそこには弧太郎と水雲の二人がいた。

 二人の愛は、たとえ姿が変わっても永遠だったのだ。

 …山河と筑摩…その意はただ二人、永久に月輪に舞う…
 
 FIN
 
465リッサ ◆v0Z8Q0837k :2007/11/26(月) 12:46:20 ID:USB98JEl
 以上で終わります、長文な上になんかあまりショタヤンデレっぽくないかなあ?な出来でしたが
長文にお付き合いいただき有難うございました。
466名無しさん@ピンキー:2007/11/26(月) 13:10:10 ID:kxLbGy42
>>465
GJ!

どうでもいいが1970年〜1990年代のドラマは女がヤンデレって言うケースが多いな。
最近は見かけないけど規制とかかけられたのかな。
467名無しさん@ピンキー:2007/11/26(月) 15:59:51 ID:FWyskqo5
>>466
単に今やっても受けが悪いからじゃないかな
なんか今は綺麗事並べる恋愛の方が受け良さそう
468名無しさん@ピンキー:2007/11/26(月) 16:17:57 ID:u5ECGHpw
>>465
(´;ω;`)ぶわっ
GJ!すぎてなんて言えば良いかわかんない
 
ところでヤンデレ男×女ってありかな?
ストーカーっぽくなりそうだけど
469名無しさん@ピンキー:2007/11/26(月) 17:01:09 ID:2vXOBINk
>>1にヒロインって書いてあるから多分なしじゃないか?
需要については俺一人の意見で決めつけるわけにはいかないから、↓を参考にしてくれ
470名無しさん@ピンキー:2007/11/26(月) 17:04:47 ID:jArq0QpM
あれ?そうなると、>>465の小説もスレ違いになるなね。
だってヤンデレ化するのはショタだし……。
471名無しさん@ピンキー:2007/11/26(月) 17:05:36 ID:z/rMFJ17
過去ログ読めば分かるがその話は毎回議論が続くんだが結局男のヤンデレは基本NGって事になる。
472名無しさん@ピンキー:2007/11/26(月) 17:20:39 ID:2vXOBINk
>>470
ショタなら許容範囲って意見も少なくないからスレ全体の判断は難しいんだよな
473名無しさん@ピンキー:2007/11/26(月) 17:36:14 ID:7lJ/mAI4
主人公がショタだと思ってたんだが違うのか
昔他スレでそれっぽいの読んでグッときたせいで勘違いしてた
474名無しさん@ピンキー:2007/11/26(月) 18:28:14 ID:dYQ6FbdK
そんな事だったら百合物も駆逐してほしいわ

まあ、無しとかそういう話はやめにして個人個人がNGすればいいだろ
475名無しさん@ピンキー:2007/11/26(月) 18:54:21 ID:SZjTJRlX
>>474
だな。
百合注意とか書いておいてくれればおkだろ。
476溶けない雪:2007/11/26(月) 19:24:15 ID:MLwnsq7n
遅くなり気味ですが投下します
477溶けない雪:2007/11/26(月) 19:25:36 ID:MLwnsq7n
8
カーテンを開ける。
カーテンを開けた瞬間に差し込む健康的な光。
天気は、今日の幸先の良さを思わず感じさせる程の晴天だった。
ベッドから本格的に起き上がり、
始めに感じたのはとてつもない空腹感。
凄くオーバーなリアクションを取るとしたら、
ベタだが死にそうな位と言いたくなる程に、お腹が空いていた。
考えてみれば、昨日の夜から今日の昼まで何も食べていない。
お腹が空いているとなればやる事は一つしかない。
携帯をポケットにしまい、一階の冷蔵庫に向かう。

短い廊下を通って、階段を降りる。
階段を降り終わると、直ぐに目的地、リビングに着いた。

リビングと聞くと賑やかなイメージが自分の中ではあるのだが、
今自分の視界に入っている居間の雰囲気は、賑やかとは到底言えない静けさだ。
「またいないのか………」
誰に言うでもなく一人呟く。
ただ、口から溢れただけの声は、リビングの静けさの中で反響した様に聞こえた。



柄にもなく久しぶりに感傷に浸ってしまったお陰で、本来の目的を忘れる所だった。
今はさほど気にしていない静かな居間の中央を通りすぎて、キッチンにある冷蔵庫へ向かう。
何かないかな?と思い、冷蔵庫を開ける。
幸いにも、鮭が入っていた。



昼ご飯を食べ終え、暫くボーッとしている。
ボーッとしている内に、眠くなってきてしまったので、
そのまま、カーペットで保護されている床に体を倒す。
と同時に、ポケットの辺りに圧迫感を感じる。
何だ?と思いながらポケットから何かを出す。
あぁ……
そういえば携帯をポケットに入れていたんだっけ……。
ポケットから取り出した携帯をじっと眺める。
水無月さんのメールの事を忘れていたわけではない。
ただ、考えるのを後回しにした。
それだけの話だ。

携帯の受信ボックスは再度見る。
そこに書かれている差出人は全て水無月さんだ。
「何でだろうなぁ…………」
そう呟きながら、さっき見ていなかった残りのメールを見ていく。

478溶けない雪:2007/11/26(月) 19:26:42 ID:MLwnsq7n
見ていく事で、ある事に気が付いた。
全てのメールが、30分の間隔で送られている。
妙に律義というかなんというか……
そしてもう一つ気が付いた。
メールが約12時頃に終わっている。
これが意味する事は何か。
確か僕はメールで寝る時間帯は12時だと答えた。
そして、水無月さんの少し異常とも取れるメールの数。
30分間隔、12時にピタリとメールを送るのをやめている。
つまり、水無月さんは少なくとも普通にメールを送っていたという考えが浮かぶ。
その普通が、少し異常なのが問題なのだろうけど………


考えても、これからどうすればいいのかが分からない。
無視しようかとも考えたが、結局そんな事は出来ず、
水無月さんに昨日のメールの返信をする事にした。
(ごめんね、昨日は早く寝ちゃってた(汗))
嘘は付いていない。
色々理由はあったのだけど、早く寝たのが一番の理由なのだから。
昨日のメールの返信なので、届くまで時間が掛かると予測したねで、
それまでの間にテレビの電源を入れようと立ち上がった。
立ち上がったのだが、床に置いた携帯から着歌が流れたので直ぐに腰を降ろす。
さて………、差出人は水無月さんだった。
もしかしたら水無月さんは携帯を常に自身の回りに置いているのかな?
などとおぼろげに考えながら、返ってきたメールを見る。
(そうだったんだ……いきなりメールが戻ってこないから心配しちゃったよ)
心配………か

僕が少し考え過ぎていただけだな…………
何でもかんでも僕は深く考えすぎるんだよ。
深く考えるという事は、日常的にはあまり意味がない事だ。
お陰で昨日なんかはトラックに轢かれそうになったし。



(本当にごめん(汗))
分かっていて返信をしなかった事もあって、もう一度謝罪のメールを送る。
今度も大して待たずに返信がきた
(うーん………じゃあ、お詫びという形で買い物に付き合ってくれないかな?)
(それ位なら全然構わないよ)
誘いのメールを即座に受ける。
ちょっとした罪悪感と、どうせ今日は暇だからだ。
(じゃあ、2時30分に繁華街の北入り口で)
(了解)
メールを送り、携帯で現在の時刻を確認する。
携帯に表示されている数字は1と50、
479溶けない雪:2007/11/26(月) 19:27:17 ID:MLwnsq7n
つまり1時50分だ。
ここから繁華街に着くまで6分程度、充分に時間はある。
準備は先に済ませてしまおう。
使用した食器を片付け、2階にある自室に向かう。
廊下を一歩、一歩と進む毎に足元から木が軋む音が聞こえる。
足元から軋む音が聞こえる度に、床が抜けやしないかと冷や汗をかく。
簡単に床が抜けるわけがないと分かっていても、そう思ってしまう。
何より、さっき通った時は鳴ってなかった気がするんだけどな………

ひやひやしながら廊下を通り、階段を登る。


自室に入り、着替えを済ませる。
着替えが終わった頃には、時間が2時を回っていた。
「うーん……」
待ち合わせの時間は2時30分、
今の時間は2時近くだ。
「今から行くか……少しのんびりしてから行くか………」
今は寒い季節ではなく、これから歩いて10分頃には着く。
約束は30分からなので20分位待つという事になる。
しかし、のんびりしてギリギリ位に行けば相手を待たせる事になる可能性もある。

「………行くか」
結局、今から出る事にする。
少し待つ位、別にいいじゃないか。
そう考えて、薄着で外に出る。

徒歩で歩くこと約6分、水無月さんとの待ち合わせ場所に着いた。
待ち合わせ場所には、
誰が作ったのかが全く分からない、犬と人間の像が中央に建てられていて、
像の近くには、ところどころにベンチが設置されている。
やはり少し早すぎた様で、まだ水無月さんは来ていないみたいだ。
辺りを見回すと、待ち合わせ場所としてはそこそこ人気なのか、それなりに人が集まっている。

再度時計を見る。
現在2時8分。
多分あと10分位で水無月さんは来ると思う。
とりあえずはベンチに座って待つ事にしt
「約束20分前行動とは、感心しますね」
ベンチに腰掛けようとした時、背後から声をかけられた。
480溶けない雪:2007/11/26(月) 19:30:22 ID:MLwnsq7n
投下終了

最近は続きがなかなか書きだせない・・・


逃亡作者にはならないようにします


481名無しさん@ピンキー:2007/11/26(月) 20:29:47 ID:z/rMFJ17
まあ簡単に言えば
水無月さんが可愛いのでオールOKw

なんかバランス取れてきた気もするけどこれからどうなるのやらw
482名無しさん@ピンキー:2007/11/26(月) 21:49:06 ID:eYhb8Oas
溶けない雪GJ

これからどういう風な
展開になるのかwktkして待ってるぜ
483ヤンデレ家族と傍観者の兄 ◆KaE2HRhLms :2007/11/27(火) 01:02:29 ID:nZgZ3m6t
投下します。10レス使用。第四話目になります。
484ヤンデレ家族と傍観者の兄 ◆KaE2HRhLms :2007/11/27(火) 01:03:25 ID:nZgZ3m6t
 保健室。そこにいくのは本日二回目になる。
 一回目にやってきたときは怪我した指に絆創膏を貼るのが目的だった。
 そして二回目たる今は、怪我はともかく病気などろくにしないくせに、今日どういうわけか廊下で
倒れていたらしい弟の様子をみるのが目的である。

 弟は成績はそれほどよくはないが、その代わりに自身の持つ身体能力を活かして体育や部活動では
かなりの活躍を見せている――らしい。
 噂でしか聞いたことがないので、その辺りのことは詳しくは知らないのだ。
 あえて知ろうとは思わないだけであって、知りたくないわけではない。
 兄弟であり同居人であるため、ただでさえ俺は弟のことをいろいろ知っているのだから。
 
 弟が高校にあがってからも妹と風呂に入っていることなど、学校にいる連中は誰一人として知らないだろう。
 妹の仲を誤解されるようなことを弟が自分から口にするはずがない。俺だってもちろん口外していない。
 他に知っていることとしては、弟が未だに自慰行為の意味すら知らないことがあげられる。
 ちなみに、これは嘘ではない。 弟が嘘を言っているのでなければだが。
 以前、話の流れで弟にさりげなく「弟。オナ……自慰をしたことがあるか?」と質問したところ、
「示威? ……兄さん、人を脅すのは良くないよ」という天然ボケを思わせる回答が返ってきたのだ。
 あの時は、あえて自慰と言い直した俺の言い方が悪かったのかもしれない。
 だが、『じい』と言ったら示威よりも自慰の方をすぐに思い浮かべるはずだろう。高校生であるならば。
 それはまあ、高校生と言っても様々な人間がいるから自慰のことを知らない者がいてもおかしくはない。
 しかし、まさか俺の弟がそうであるなどとは足の小指の爪先ほどにも思わなかった。

 この他にも、弟に関して知らなくてもいいのに知っていることはたくさんある。
 その代償として、家族として知っておかなければいけないことは全て把握している。
 今まで弟が貧血を起こして倒れたりしたことは一度もなかった。持病があるという話も聞いたことはない。
 うちの兄妹が近親相姦で生まれたと知ってから今まで、兄妹のうち誰かの体に欠陥がないかと疑ってきたから、
俺はその手のことに関してはかなり気を配っている。 
 今のところ、俺が平凡で、弟が身体能力が優れていて少し天然ボケが入っていて、妹が弟に対して異常なまでの
ブラザーコンプレックスによる執着と独占欲を見せているぐらいで、誰の体にも変なところは見られない。

 だというのに、今日弟は倒れた。
 もしかしたら何かの病気が発症したのかも、と不安にはなる。
 だが、今日に限ってはその不安は外れていると考えられる。
 それは、保健室であの女の子に出会ったからだ。
 あの子は、俺の身近にいる誰かを気絶させようと目論んでいた。
 学校にいて俺と接点のある人間というと、弟と葉月さんとクラスにいる数人の友人ぐらいだ。
 それ以外は教師や顔も知らない生徒たちだけだが、あまりに対象が多すぎる。知り合いには含まれない。
 それを考慮に入れると、保健室で会った女子生徒の狙いは弟である可能性が高い。

 もちろん、あの子に全ての嫌疑をかけるわけではない。
 日々大量のラブレターや遊びの誘いのメールを受け取る(らしい)弟は、同学年の女子生徒のあこがれだろう。
 弟を無力化して無理矢理モノにしようとする過激な女子がいてもおかしくない。
 恋の力というのは人間の正常な判断力を奪うものだ。
 俺だってそんな気分になったことがあるのだから、犯人の感情は否定しない。また責めもしない。
 しかし、弟や妹や友人に手を出したのならば、俺は犯人を断固否定する。
 事を無理に押し進めようとすれば周囲との軋轢が生じるものだ。
 その軋みがいかなる結果を生むのか、犯人は分かっていない。
 これから先の長い人生を犠牲にしてしまうような取り返しの付かないことになる前に、何としても止めなければ。
485ヤンデレ家族と傍観者の兄 ◆KaE2HRhLms :2007/11/27(火) 01:04:44 ID:nZgZ3m6t
 幸いにも廊下を走っている現場を教師に発見されることもなく、保健室に到着した。
 保健室の入り口は、その地点だけが高い人口密集度を見せていた。
 男女の比率は男ゼロで女が百。集まっているのは全員が女子生徒であった。
 事情を知らない生徒であれば一体どんなアイドルが保健室に匿われているのかと疑う状況だ。
 しかし俺は知っている。保健室の中にいるのは歌って踊れて演技もできるアイドルではない。
 俺の弟だ。特技が『特撮ヒーローの必殺技のモノマネ』の弟である。
 ここにいる女子達が弟を心配してやってきたということは言うまでもない。
 ポイント稼ぎのつもりだったのだろう。
 だが、これだけ集まっていたら弟のポイントは全員に行き渡る前になくなるな。

「ちょっと御免なさい。通してね」
 葉月さんが女子達の中へ突っ込んでいった。
 俺もそれに続こうとしたのだが、葉月さんの真似をするには難度が高すぎることに気づいた。
 女子生徒の人混みに紛れ込んでいいのは同性である女子か、人気者の弟みたいな男ぐらいである。
 特徴を挙げるなら地味の一言に尽きる俺がとっていい行動ではない。
 先に進むことを逡巡しているうちに、葉月さんは保健室の入り口に到着していた。
 しかし、どういうわけか葉月さんはドアを開こうとしない。何かあったのだろうか。
 女子達は俺に背中を向けていて、俺の存在には気づいていない。
 これ幸いと女子達の人混みに少しだけ接近する。
 ……むう。あまりドキドキしないのは俺が葉月さんと話すことに慣れているからなのであろうか。

 葉月さんと数人の女子の会話が聞こえる。
「……ちょっと。どいてくれない? 保健室に用事があるのよ」
「駄目です。いくら葉月先輩でも、いやむしろ葉月先輩だからこそ、中に入れるわけにはいきません」
 葉月さんに先輩をつけて呼んでいるということは、相手は一年生のようだ。
 しかし、なぜ一年の女子は保健室に通してくれないのであろうか。
「中にいる男子生徒に用があるの。倒れたって聞いたけど」
「やっぱり彼に会うのが目的なんですね。……怪我はしていないから安心して帰ってください」
「直接見なくちゃ信じられないわよ。別に変なことしないって。ただ様子を見に来ただけだから」
「それでも駄目です。他の女子生徒を中に入れることはできません」
 これはおかしい。まるで面会謝絶状態ではないか。
 怪我をしていないのなら、ここまで強硬につっぱねることもないだろうに。
 入れられない理由でもあるのか?
「ハア……。あなたたち、やっぱりあれ?あの、噂の」
 ん、噂?
「そういうことです」
「確かにあの子は顔もいいし運動もできるから、あなたたちみたいなミーハーな子が騒ぐのも無理ないけど。
 だからって私が中に入れない理由にはならない。勝手な決まりを作るなら内輪だけでやって頂戴」
「できません! 会員第四条特例項目、『葉月先輩は要注意』! それに、個人的にも葉月先輩を彼に近づけたくないんです!」
 今、変な単語が出たぞ。会員? 第四条特例?
 何の会の、どんな決まりのことを言っているんだろう。

「……いいからそこ、どきなさいよ。力づくで通ってもいいのよ、私は」
「できるならやってみてください。すぐに先生を呼びますから」
「言うわね。一人じゃ近づくこともできない、告白する勇気もない、だからせめて誰も近づけないようにしよう、
 なんて甘い考えのお嬢様集団が」
 まずい。葉月さんの声が低くなり出した。おまけにセリフに毒がにじみ出している。
 このままじゃ、葉月さんと対面している女子の身に危険が及ぶかもしれない。
 だが、こんな離れた場所からじゃどうにもならない。止めようがない。
 お願いだ、見知らぬ女子よ。これ以上葉月さんをヒートアップさせないでくれ。
486ヤンデレ家族と傍観者の兄 ◆KaE2HRhLms :2007/11/27(火) 01:06:52 ID:nZgZ3m6t
「葉月先輩みたいに綺麗な人にはわかりませんよ。私は、自分に自信が持てないんですから……」
「あなたが自分に自信を持っていようがいまいが、私には関係ないでしょう」
「だって……葉月先輩が彼と付き合いだしたら、私は邪魔なんかできないじゃないですかぁ……。
 絶対、葉月先輩には勝てないもん……」
 涙声。泣いているのは葉月さんと向かい合っている女の子だろう。
 そりゃまあ、容姿で葉月さんに勝っている女子はそうはいないから、勝てないと思い込んでも無理はない。
 しかし、容姿が良くても恋愛成就するとは限らないぞ。
 事実、弟は葉月さんの容姿を褒めることはあっても付き合いたいと言ったことはない。
 というか、弟は誰かと付き合いたいという話を持ちかけてこない。
 弟が中学時代に女子に付きまとわれ始めてから今まで、ただの一度もだ。
 誰か好きな人がいるのかと問い質しても答えをはぐらかすばかりで、未だに奴の真意はつかめない。
 ただ、その相手が妹でないのは確かだろう。
 もし弟が妹に惚れているのならば、今以上の心労がたたって俺は色々な部分がボロボロになっているはずである。

「言っておくけど、私はあの子と付き合うつもりなんかさらさらないわよ。
 だって…………他に好きな人がいるから」
 葉月さんのカミングアウト。続いて女子の集団から大きなざわめきが起こる。
「ええっ! ほ、本当ですかっ?!」
「相手は? 三年の男子の小山さんですか?」
「数学教師の奥ちゃんだよ、きっと!」
「そんな……憧れの葉月姉様が……」
 保健室のドアの前が多数の驚きの声と少しの悲しみの声で騒々しくなる。
 女子達の放つ熱気は俺の足を勝手に後退させるのに十分な勢いを持っていた。
 しかし後ずさりしたのは熱気に押されたことだけが理由ではない。
 ――激しく嫌な予感がしたのだ。
 葉月さんが好きな人。以前ならそれが誰であるのか、俺だって興味津々だった。
 今では、葉月さんが誰を好きなのか知っている。
 彼女はその相手にラブレターを書き、屋上で告白をし、相手の家に押しかけまでした。
 羨ましくも葉月さんにそこまで想われている相手は――

「そこにいる、彼よ」
 葉月さんが短く、しかしはっきりとその場にいる全員に聞こえるように言った。
 そう、未だになぜ好かれているのか自分の行いを省みても全く心当たりがないのだが、
どういうわけだか葉月さんが想いを寄せている相手というのは俺なのである。

 葉月さんの言葉に反応した女子全員が俺の方を向いた。
 振り向いた瞬間の彼女たちの目は隠しきられていない好奇心で一杯だった。
 言葉にするなら、一年女子の一部に憧れの目で見られている葉月さんが好意を寄せる相手はどんな人間なのか、
ものすごく素敵な人に違いない、という感じだろう。
 だからであろう。全員が俺の顔を見た瞬間に肩透かしを食らったような表情をしたのは。
「えー……っと」
「この人を? 葉月先輩が?」
「あの……とりあえず、こんにちは」
 一番近くにいた女子生徒が軽く会釈してきた。頷きで返事する。
 ……いや、いいんだけどね。そういう反応されてもさ。
 自分の顔は毎日鏡で拝んでどんなものかよくわかっているし、クラスの女子にも似たような反応をされているし。
 彼女たちは、なんで俺みたいな地味な奴が葉月さんに好かれているのかわからないのだろう。
 俺だってわからない。だから彼女たちに何かを言う資格は俺には無い。
 だがそこまで落胆してもらうと、さすがにこっちまで落ち込むというか、なんで同じ親から生まれた兄妹なのに
ここまで扱いに差が出るのかとか、そんな微妙な気持ちになってしまうではないか。
 最近葉月さんに優しくされているから錯覚していたようだ。
 やはり、異性は俺に対して薄い印象しか抱かないらしい。
487ヤンデレ家族と傍観者の兄 ◆KaE2HRhLms :2007/11/27(火) 01:08:01 ID:nZgZ3m6t
 この空気に耐えかねてそろそろ立ち去ろうかと思ったとき、葉月さんが俺の方へ戻ってきた。
 立ちすくむ俺の腕を取り、保健室の入り口の方向へと連れて行く。
 ドアの前にはやはり知らない女子生徒が立ちはだかって進路を妨げていた。
「そういうわけだから、あなたたちの心配するようなことはしないわよ。
 もう一人男子が一緒に行くんだから、変なことをする心配もしないで済むしょう?」
「ええ、そういうことでしたら。疑ってすみませんでした、先輩」
 女の子は申し訳なさそうに頭を下げると、ドアの前からどいてくれた。
「いいのよ。なるべく危険因子は近づけたくないっていうその気持ち。よくわかってるつもりだから」
「先輩。最後にひとつだけ聞いてもいいですか?」
「何?」
「その人、何者ですか?」
「……質問の意味がよくわからないんだけど」
 同意である。何者と言われても、ただのいち高校生としか答えられない。
 以前は久しぶりに会った親戚に実年齢より五歳以上年上に見られたりしたが、今は制服を着ているのだから
高校生にしか見えていないはずだ。

「いろいろと疑問に思うことはあるんですけど、一番わからないのはその先輩まで保健室に入ることです」
「あ、そういう意味なの」
「葉月先輩の付き添いできたんですか? それともただ心配で来たんですか?」
「後者よ。だって彼、あの子のお兄さんだもの」
「……お兄さん?」
「そうよ。知ってるでしょ、あの子にお兄さんがいることぐらい」
「じゃあ、この人が、あの」
 女子生徒はここで言葉を飲み込んだ。
 あの、ってなんだろう。俺に関する噂でも流れ出しているのか?
 葉月さんと一緒に登下校するようになってから変な噂が流れていないか耳を澄ませているが、
タチの悪いものはまだ耳にしていない。軽い恨み程度ならしょっちゅう聞いているが。
「そうなんだあ……お兄さんか」
 人形でも見るような無機質な女の子の目に色が宿った。
 俺の正体が知人の兄だということがわかって、ようやく警戒が解けたようだった。
 だが、どうにもそれだけではないような気もする。
 さっきまで邪魔者でも見るような目つきだったのに、今ではにこやかに微笑んでいるのだ。
 視線を横に流す。他の女子も雰囲気を柔らかくしていて、排斥する気配を消していた。
 変わり身が早すぎるだろう、後輩諸君。
 俺が憧れの男の兄だとわかっただけでここまで手のひらを返されると、弟の人気者ぶりに少しの誇りと
たくさんの嫉妬を覚えてしまうではないか。

 左にいた女の子が俺の左手を握った。しかも両手で。
「あの、お兄さん。私村田って言います。いつも弟さんには仲良くしてもらってます。よろしくお願いしますね」
「……はあ」
 どう答えたらいいかわからないので、こんな声しかでない。
 ぼんやりしているうちに、今度は周囲から色々な声を投げかけられた。
「村ちゃんずるい! あの、私は石川です!」
「平田です! 気軽に平ちゃんって呼んでください!」
「みんな少しは落ち着きなさい。……広瀬です。私の名前だけは覚えてください」
 自己紹介の嵐。続々と女の子が俺に向けて名乗りを上げる。
 悪いけれど、左手を握ってきた女の子以外の名前はちっとも耳に残っていない。
 俺は基本的に人の名前を覚えるのが苦手なのだ。
 いや、仮に得意であったとしても十人以上の女の子の名前と顔を一致させる離れ業まではできない。
 この子達も、俺に自己紹介したところで弟の好感度がアップするわけではないというのにご苦労さまなことである。
488ヤンデレ家族と傍観者の兄 ◆KaE2HRhLms :2007/11/27(火) 01:09:34 ID:nZgZ3m6t
 さて、今の俺は右手を葉月さんに、左手を村田という名の女子に握られたままの状態にある。
 両手に華とはまさにこの様子のことをいうのだろう。
 むしろ周りは女子だらけなわけだからお花畑の中にいるとでもいった方がふさわしいかもしれない。
 しかし、どうにも納得のいかないこともある。
 なぜ俺の右手は握られている痛みで悲鳴をあげているのであろうか。
「なによ……あんたたち……勝手に手なんか握って……しかもいきなり馴れ馴れしくなって……!
 私でさえ、簡単に声をかけられなかったのに…………」
 この声は葉月さんか。いつもと違って声を絞り出すようにして喋っているからすぐにわからなかった。
 どうやら葉月さんは怒っているご様子。女の子達が俺に話しかけだしたのが気に入らないらしい。
 もしかして、やきもちというやつか? 葉月さんは後輩の女子に嫉妬している?
 それほど葉月さんに想われているなんて、俺はなんと幸せ者なんだろう。
 右手に痛みどころか触覚まで感じなくなるほど今の俺は喜びに打ち震えている!

 学年一の美女プラス多数の後輩女子による似非ハーレム状態を堪能していると、突然保健室のドアが開いた。
「みなさん、少し騒ぎすぎですよ」
 と言いながら扉から顔を出してきたのは――我が2年D組の担任であった。
 なぜ担任が保健室からでてくるのだろう。授業中以外は職員室で茶を飲みつつ文庫本を読んでいるか
図書館にて分厚い本を読んでいるかという行動パターンしかとらないはずなのに。
「中には寝ている生徒がいるんですから、心配してきたのならもっと気を配ってください」
 担任の声を聞き、女子達は急に静かになった。
 少しの注意であれだけ騒いでいた女子を鎮めるとは意外である。
 もしかしたらうちのクラスの担任は生徒からの人望を集めているのかもしれない。
「あら? お二人ともどうしてここに?」
 担任が俺と葉月さんに向けて疑問の声を向けてきた。
「実は弟が倒れたって聞いたもんで。ちょっと見に来たんですよ」
「弟? ああ、そういえば名字が同じでしたね。 ふー……む」
 担任は俺の顔を見たまま右手を顎に当てた。何かを考えているようである。
「あまり似ていな――――いえ、なんでもありません」
「……今、似ていないって言おうとしませんでした?」
「弟さんは中にいます。どうぞ、中に入ってください」
 この教師は、人のツッコミに対してなんと見事なスルーをするのであろうか。
 流石、その年になっても独身でいられるだけある。
 聞きたくない人の言葉を切り捨てる技術は並ではない。そこだけは見習いたいものだ。

「ところで先生はなんで保健室に来てるんですか?」
「私が弟さんの倒れていた現場の第一発見者だからです。廊下を歩いていたら偶然倒れている生徒を
 見つけたので、他の生徒の手を借りて保健室に運び込んだんです」
「そうだったんですか。それは、どうも……ありがとうございます」
「弟さんは体調管理を怠っているのではないですか? 倒れた場所が校内、しかも廊下だったから
 よかったものの、車道の近くで倒れたりしたら命に関わりますよ」
「はい、家に帰ったら言い聞かせときます……」
「まったく。……あら?」
 担任の視線が斜め下、俺の右手へと向けられた。
 つられて自分の右手を見る。俺の手と葉月さんの手は繋がったままだった。
 それはいい。それはいいのだが――指が紫色になっているのはよろしくない。
 そして、手が危険な色になっているというのに痛みを感じないのはどういうわけだ。
489ヤンデレ家族と傍観者の兄 ◆KaE2HRhLms :2007/11/27(火) 01:10:34 ID:nZgZ3m6t
「あの、葉月さん?」
「また……女が増えた……」
「手を離して――いえ、お手を離していただけないでしょうか?」
「年増のくせに…………!」
 これは――葉月さん、相当頭にきてらっしゃる。やきもちを妬くとかそういうレベルではない。
 俺でさえ担任に向けて年増という暴言は頭の中でしか吐かないというのに、葉月さんは口に出してしまった。
 ぽつりとつぶやいた感じだったが、これだけ近ければ担任にも聞こえているはずだ。
 しかし、担任は相変わらずのやる気があるのかないのかわからない事務的な表情をしたままであった。

「葉月さん、そろそろ手を離してあげてはどうですか?」
 葉月さんは答えない。俺の手を握りしめて俯いたままだ。
「そのまま握り続けていると、彼の右手は使い物にならなくなってしまいますよ?」
 その通りだ。こんな紫色の手では塗料の瓶の蓋を開けることすら出来ない。
 ぜひとも今すぐに離して欲しいところである。
「私と彼の繋がりを……断とうっていうの? そんなのは……」
「まったく……仕方がないですね」
 担任はため息を吐くと、葉月さんの耳に口を寄せた。そして小さな声で呟く。
「彼の右手が使い物にならなくなったら、指で弄ってもらえなくなりますよ?」
「――――――あっ!」
 突然声をあげた葉月さんから俺の右手がようやく解放された。
 右手には葉月さんの手形がはっきりと残っていた。
 紫に染まった手の中でそこだけは白いままで、まるで葉月さんの手形によって守られていたみたいだった。
 もちろん、右手を変色させてくれたのは葉月さんなわけであるから、感謝しようとは思わない。

「ごめんね! 大丈夫だった?!」
 葉月さんが俺の右手をとってマッサージをしだした。
 見ている分にはしきりに手を揉み続けているようだったが、どうにも指の感覚があらわれてこない。
「ごめんなさい、ごめんなさい! つい頭に血が上っちゃって、それで……」
「いや、いいよいいよ。そんなに謝ってくれなくても。たいしたことないし、それに感覚も戻ってきたし」
 マッサージが効いたのであろう。指の辺りにこそばゆい痺れがあらわれだした。
 よかった。まだ俺の右手は生きている。
 これからも趣味を継続していける。そんな当たり前のことがこんなに嬉しく感じられるなんて。
 幸せというのは日々の生活の中に溶けこんでいるものなんだなあ。
490ヤンデレ家族と傍観者の兄 ◆KaE2HRhLms :2007/11/27(火) 01:13:26 ID:nZgZ3m6t
 謝り続ける葉月さんをどうにかなだめ、保健室の中へ。
「あ……兄さん」
 するとそこには、どういうわけか相も変わらず柔和な表情の弟が立っていた。
 廊下で倒れていたことなどまったく連想させない顔色。
 安堵すると同時に、拍子抜けした。無駄な心配をした気分だ。
 しかし心配したのが無駄だったとは思わないのも事実。
 いつ何時、どんな場所で、俺たち兄妹は体に異常をきたすかわからないから気を配りすぎても配りすぎ、
ということはない。
 とはいえ、弟の顔を見て心配させやがって、とか小言を言うと弟を心配していた兄だと葉月さんに思われかねない。
 こういうむきだしな感情はなるべく人には見せたくない。俺は冷静な男というイメージを守りたいのだ。
 ――待てよ。
 今時家族に対する情が厚い男というのはなかなかいないのではないか?
 だとすれば、意外に葉月さんの受けもとれるのでは?
 よし。ここは兄として、弟を心配していたような振りをするとしよう。

「ごめん、兄さん。心配させて」
「心配させやが…………は?」
「倒れたって聞いて、心配だったから来たんでしょ? だから、ごめん」
 なぜこんなときにしおらしい態度をとりやがる、弟。
 そんな台詞を聞くと頬がひくつくだろうが。
「…………別に心配してたわけじゃないぞ。勘違いするな」
「そう……」
 弟が表情のベクトルをほんの少しだけ残念そうな方へ向けた。
 ――しまった。つい天の邪鬼な性質を表に出してしまった。
 だって、それはあれだ。家族に謝られたらなんだか気恥ずかしいんだよ。だからついやってしまったんだよ。
 軽くさらっと礼を言われたり、憎まれ口を叩かれている方が俺は気楽だ。
 弟だって普段勉強を教わった後は深々と頭を下げたりしない。ありがと、とか言うだけだ。
 だというのに今日はどうしてそんな反応をとるんだ。
 なぜ弟の見舞いに来た俺が、弟からの予想外の謝罪を見舞われなければならない。
 機会を逃しては普段通りに冷静で厳しい兄として振る舞うしかないではないか。
 葉月さんへの好感度を上げる絶好のチャンスがふいになってしまった。

 弟から目を逸らし、回れ右。保健室の出口へ体を向けて、後ろにいる弟に告げる。
「体調が良くなったんならさっさと帰るぞ。葉月さんも送って行かなきゃならないんだから」
「うん……」
 やけに低い調子の弟の声。しかし俺は謝らない。
 俺は少し不機嫌なのだ。帰りは遅くなるし、ポイントは取り損ねるし。

 と、その時。
「ふふふ……」
 背後からささやくような笑い声が聞こえてきた。
 肩越しに視線を向けると葉月さんが右手を唇に当てながら微笑んでいた。
「弟君。残念がることないわよ。お兄さんはあなたが倒れたって聞いて、
 すっとんきょうな声を上げるほどに驚いたんだから」
 んな!
「……何を言っているんだい、葉月さん。俺がそんな声出すわけがないじゃないか」
 そう。あの時声を上げたのは、――かけ声を出しただけだよ。
 うん、文化祭で呼び子をしなきゃいけないから、その練習をしただけさ。
 一通り頭の中でそんなことを考え、さらにごまかしついでにハハハハハ、と笑ってみる。
「そうなの? 兄さん」
 返答代わりに、ハを連発させる。今度はちょっと長めに。ハハハハハ、ハッハッハッハッハ。
「イエス、だってさ。弟くん」
「兄弟の仲はよろしいようですね。
 正直お兄さんの方が劣等感を――いえ、遠慮をしているのではないかと思っていましたが。
 仲良きことは美しきかな。これからもご兄弟で助け合っていってくださいね」
 声の調子から意外なことに葉月さんのポイントを稼げていたことがわかったとか、担任のごまかしきれていない
失言が聞こえたとか、そんなことはどうでもよかった。
 ただ俺は笑った。笑い続けたらこの状況から逃れられそうな気がしたからだ。
491ヤンデレ家族と傍観者の兄 ◆KaE2HRhLms :2007/11/27(火) 01:18:13 ID:nZgZ3m6t
*****

 俺と葉月さんと弟の三人で校門から出たときには、時刻はすでに六時近くになっていた。
 最近は平均気温低下の進行に連動するように、日の暮れるペースもだいぶ早まっている。
 そのため六時、つまり今頃の時間には辺りはすっかり暗くなってしまうのである。
 黒の色合いを濃くした路地を俺、その左に葉月さん、そのまた左に弟という陣を組んで進む。
 正面から見れば俺と弟で葉月さんの両脇を固めているように映るはずだ。
 もっとも、暴漢に襲われた際、三人の内で無傷でいられる可能性が高いのは葉月さんである。
 だが、もちろんそんなことは言わない。
 そんなことを言うのは失礼だし、何より葉月さんだって無敵ではないのだ。万が一ということもある。
 いや、万が一という言い方も失礼か。もしかしたらということもある、に訂正。

 それに、葉月さんの武道家としての実力云々を別にしても、俺自身が葉月さんを家に送りたいのだ。
 学内でも美人と評判の女子生徒との下校。さらにその子は自分の憧れの女の子。
 本来ならこちらから頭を下げてでもお願いしたいシチュエーションだ。
 幸いにして、俺の場合は葉月さんからの申し出を二つ返事するだけで引き受けることができた。
 そんな経緯を経て、頼りない実力皆無の葉月さん専用ナイト(俺)が誕生したわけである。

 実は、葉月さんが家に入ったのを確認してから俺の警戒レベルが数段上がるのは秘密である。
 最近は学校の中でも冷ややかな視線を浴びている俺としては、暗い夜道など避けたい状況でしかない。
 誰かが俺を影から狙っているかもしれない。しかもそれがクラスメイトの誰かである可能性まである。
 したがって、葉月さんと別れた後の俺の下校方法は競歩ではなく、またジョギングでもない。
 サブスリーを目指すマラソンランナーのようなペースでの疾走である。
 走っていると、緊張感から自分の足音を追ってくるような靴の音まで聞こえてくる。
 強迫観念により、俺の足はさらに加速する。自分がどんな呼吸をしているのかも意識できなくなる。
 よって葉月さん宅から自宅までの距離を、俺が何分で走り抜けているのかは未だに計測していない。
 しかし、路地を走る自転車をあっさり抜いている点から考えて結構な記録が出ているのではなかろうか。
 足が速くなったところでプラモデル作りの腕が上がるわけではないのだから、嬉しくはないのだが。

 俺が考え事をしている間に、左側にいる葉月さんと弟は親しく会話を交わしていた。
「僕、葉月先輩の家に行ったことがないんですよ。学校から遠いんですか?」
「ううん。歩いて十分ちょっとで着くよ。……ほら、見えてきた」
 葉月さんの視線の先には、立派な構えの門がそびえ立っていた。
 永い時の経過を感じさせてくれる漆黒としけった茶の混ざり合った木柱が四本と、それに支えられて鎮座する
瓦を被った屋根の組み合わせである。長く連なる塀が門の威容を慎ましくも壮大なものとして見せつけている。
「はー……すごいですね。先輩ってもしかしてお嬢様ですか?」
「そんな大したものじゃないよ。道場が敷地の中にあるから、おっきいだけ。
 昔からある家をそのまんま残しただけだから、うちの両親も武道が出来る以外は平凡な夫婦だよ」
「そうなんですか。うちの両親は普通――――だけど、ここまで大きな家は持ってないから、ちょっとうらやましいです」
「あははっ。お兄さんと同じこと、言うんだね。実際は知り合いも多いからめんどくさいんだけど。
 ほら、家が長く続いてると親戚も比例して増えていくからさ。その分お年玉はがっぽり、ね」
「お年玉、ですか……」
「二人とも、お年玉とかどれぐらいもらうの?」
「えっと……そこそこです。はい」
「そうなの?」
 と、葉月さんが俺に話を振ってきた。
「そうだねぇ……。うん、やっぱりそこそこかな。月の小遣いよりも多く、だが決して無駄には使えない、って感じ」
「へー、そうなんだ」
 葉月さんは納得したように二回頷いた。どうやら、ボロは出さずに済んだようだ。
492ヤンデレ家族と傍観者の兄 ◆KaE2HRhLms :2007/11/27(火) 01:20:17 ID:nZgZ3m6t
 両親が血の繋がったブラザーアンドシスターである我が一家でも、葉月さんの家族のように正月は迎える。
 盆と正月ばかりはさすがに両親も実家に帰る。そして両親の生みの親である祖母と過ごす。
 他の家庭では正月には親戚なども集まるらしい。だがうちの家族はひと味違う。
 親戚がろくに来ないのだ。当然である。別々の家同士を結びつけるはずの結婚を身内同士で行ったのだから。
 来てくれるのは祖父方の親族が数名のみ。しかも軽く挨拶して、祖父に線香を供えるだけで帰って行く。
 その時に上手く鉢合わせできればお年玉を戴けるのだが、タイミングを逃せば無論のこと……である。
 そのため、うちの兄妹はお年玉にあまり縁がない。
 祖母と両親からは毎年もらえているから、絶縁状態でないだけマシかもしれないが。

 さて、あまり人様の門前で立ち話するのも失礼だ。今日は帰るとしよう。
「葉月さん。また明日、学校で」
「先輩、さようなら。今日はどうもありがとうございました」
「うん、それじゃあね。二人とも気をつけて帰ってね。……バイバイ」
 葉月さんに見送られ、弟と二人で自宅への帰途につく。
 今日は弟がいるから走って帰る必要はない。
 さすがに二人を相手にしてまで襲いかかってくるほど、敵も不用心ではあるまい。
 事前に二人を相手にする準備をしていたのならともかく、俺が弟と帰るのは久しいのだから、今日のことは
予想していないはずだ。

 冷たい空気の中、腕で伸びをしながら歩きつつ弟に話しかける。
「お前、今日は一体どうした?」
「ん、どうしたって、倒れたことを言ってるの?」
「ああ。お前が倒れるなんて今まで一度もなかったからな。ご飯を抜いて、そのせいで……とかじゃないんだろ?」
「朝も昼も、妹の料理をちゃんと食べたから、それはないよ」
 ふと、そのせいで倒れたのではないかとか考えてしまった俺は兄貴失格なのであろうか。
 長男としては末っ子の妹のことも信じてやるべきなのだろう。
 だが、どうにもなあ。弟よ、わかっているんだろう? 料理しているときの妹の嬉しそうな表情の意味を。
 愛しの兄に料理を作っているという理由だけでは、絵本に出てくる魔女みたいに唇の端をあげないぞ。
 あれは、興奮状態とか恍惚状態って言うんだぞ。言い換えればエクスタシーだ。
 まあいい。今までも弟は妹の料理を食べても倒れなかったのだから、血の繋がった魔女の仕業ではないということだろう。
 ――では、一体なぜお前は倒れたんだ、弟?

「実は、僕のクラスは文化祭でコスプレ喫茶なんてものをやるんだ」
「……ほう。どんなプレイをするんだ?」
「プレイって言わないでよ。そうだね、巫女さんとかメイドさんとか、侍とか甲冑を着た騎士とか。
 あ、ピーターパンなんてのもあったっけ。僕はヒーローの役をやりたいんだけどね」
「ほっほぅ。それはそれは。素晴らしい事じゃないか」
「うん。で、まだ準備が終わってなくて。放課後も残って作業なんかしてるんだけどね」
 くくく、結構結構。僥倖だ。
「僕も残ろうと思ってて、HRが終わってからすぐにトイレに行ったら……後ろからチョークスリーパーをかけられて、
 顔にいきなりスプレー……かな、あれは。それを吹き付けられたら眠くなって、たぶんそれで」
「なるほどなあ。ま、無事だっただけ儲けもんだな」
「うん。篤子先生には感謝してるよ」
 突然知らない名前が出てきた。
「誰だ? 篤子先生って。担任の先生か?」
「……兄さんのクラスの担任でしょ。名前、覚えてないの?」
「特徴的な外見をしているからすぐにわかる。名前なんて必要ないだろう」
 常に文庫本を片手に持ち歩いているセーターとジーンズも似合うけどどんな格好も似合いそうな文学オタ美人、
とでも覚えておけばいいんだ。おっと、年増と独身というフレーズも忘れてはならないか。失礼した、篤子女史。
493ヤンデレ家族と傍観者の兄 ◆KaE2HRhLms :2007/11/27(火) 01:22:42 ID:nZgZ3m6t
「いいけどね、別に。ともかく、さっき説明した通りの状況で眠らされたんだよ」
「ふむ。後ろから襲われたということは顔も見ていないわけか」
「うん。小さい手だったから女の子じゃないかとは思うけど、それだけ」
「女の子、か……」
 どうしても今日保健室で会った美少女の顔が浮かんでしまうな。
 彼女の不審な言動。俺のことを知っているような素振り。今のところ、彼女が一番疑わしい。
 というより、今のところ他にいないか。
 女の子という条件で弟を狙いそうな女子というと……保健室の前に集合していた女子達が全員疑わしくなる。
 今のところは犯人を特定できない。ヒントが少なすぎる。
 ――ならば、こちらから探ってやろうではないか。

「弟、さっき文化祭の準備が遅れている、と言っていたな」
「うん。接客する人だけ衣装を用意すればいいんだけど、クラスの半分以上がやるつもりみたいだから。
 裁縫係の女の子たちはすっごいぴりぴりしてるよ。小道具担当もね」
 弟の言葉を聞き、自然と頬がつり上がる。
 最高だ。この状況こそ、俺が望んだものだ!
「誰か手伝ってくれる人、いないかな。誰でもいいんだけど。兄さん、心当たりはない?」
「ここにいるだろう」
「ここに? ……って兄さんしかいないけど」
「だから、俺がいるだろう、という意味で言っている」
「え……でもさ。兄さんのクラスは?」
「ふん。純文学喫茶など灰にして塵として土に帰してやればいい。俺にはやらなければならないことがある。
 そう。お前のクラスのコスプレ喫茶を成功させるため、力を貸すという大事な仕事がな」
 正直に言えば俺の欲求不満を満たすのが目的なのだが。
 だが、弟はそんな俺の本心など微塵も悟ってはいない。
「ありがとう! 兄さんみたいな器用な人が居れば、準備がもっと早く終わるよ!」
 このように、俺の助けを得られるとわかって神の手でも得たときのようにありがたがっている。
 期待に応えようではないか。俺の覚悟は今すぐに学校に引きかえすことも辞さない。
 途中で通り魔に遭おうと知ったことではない。
 襲いかかってくるナイフを鞄で受けて、ウエスタンラリアットの一撃でコンクリートのマットに沈めてやる。
「じゃあ、早速明日からよろしくね! 兄さん!」
「応ともよ」

 文化祭まで、あと一週間もない。
 だがそれは、一週間近くも時間があるということでもある。
 なにせ一日は二十四時間もあるのだ。数日あれば十分だ。十分すぎる。
 弟の素晴らしきクラスメイトたちよ――もう、安心していい。俺が居れば全てが上手くいく。

------
今回はここまでです。
494名無しさん@ピンキー:2007/11/27(火) 01:53:04 ID:DY+ELF68
>>493
GJ
例の美少女が誰狙いなのか次回には明かされることを
期待して待つよ。
495名無しさん@ピンキー:2007/11/27(火) 02:10:00 ID:N3DqyGoF
>>493乙。そしてGJです。
それにしても葉月さんは可愛いなw

続きを楽しみにまったりと待ってます。
496名無しさん@ピンキー:2007/11/27(火) 02:21:29 ID:8CgDs1O3
>>493
GJ!葉月さん可愛すぐる

それにしても兄貴は文化祭で何をするつもりなのか怪しく見えるぞww
497名無しさん@ピンキー:2007/11/27(火) 02:58:06 ID:VyLR6Dyt
弟の好きな人、・・・いや、なんでもない。忘れよう。GJ!
498名無しさん@ピンキー:2007/11/27(火) 03:27:20 ID:U0IjNHUH
男が軽くヤンデレになるSSなんだけどここが該当するのか?
499名無しさん@ピンキー:2007/11/27(火) 03:30:59 ID:nzxekUae
>>493GJ!
葉月さんも可愛いのだが、兄のキャラがすごくつぼにはまる
500名無しさん@ピンキー:2007/11/27(火) 03:48:07 ID:inV+gPrq
まさか弟…ウホッではなかろうな
501名無しさん@ピンキー:2007/11/27(火) 10:15:53 ID:OkiUSePz
すでに不測の事態に備えて弟を鰤に脳内変換している自分は
石橋を叩いてわたる派
502名無しさん@ピンキー:2007/11/27(火) 10:32:00 ID:02+niPWa
>>498
みたくないやつはフィルターかけるしあらかじめNGワードふっとけば良いんじゃね?
俺は読んでみたい
503名無しさん@ピンキー:2007/11/27(火) 11:37:26 ID:NuzDpeQh
男を病ませて一体誰が得するんだと何度
鬱屈したキモい奴か陵辱モノの主人公かのどっちかになると思う

他の住人が良いんなら試しに見てはみたいけど…惨状必死
504名無しさん@ピンキー:2007/11/27(火) 11:52:42 ID:ogY1vAem
男でヤンデレというとすげこまくんが頭に浮かぶ。
あれくらいはっちゃけてて、殺傷方面にいかないなら読んでみたいかも。
505名無しさん@ピンキー:2007/11/27(火) 12:10:01 ID:i//yxhr4
見たくなければNG登録を住人が徹底できればいいが、
過去に百合でも突っかかってくる人とかいて荒れたりしたからなあ。
慎重にやらないと空気悪くなるのは避けられないので配慮していただければ。

まあ読みたいか読みたくないかで言えば俺は読みたくない。
506名無しさん@ピンキー:2007/11/27(火) 14:04:39 ID:GjpQSCFo
過程にもよるんけど
ヤンデレ女にMCされて男が病むとかだったら読んでみたい
507名無しさん@ピンキー:2007/11/27(火) 16:50:00 ID:U0IjNHUH
最終的に嫉妬スレに書いたんでよろ
508名無しさん@ピンキー:2007/11/27(火) 19:44:20 ID:gPOzsm69
>>493
GJでした。
しかし、兄さん。もはや傍観者じゃないだろw
509名無しさん@ピンキー:2007/11/27(火) 21:32:51 ID:hM8hQ68V
>>507
明らかにプロットに見えない件www
510名無しさん@ピンキー:2007/11/27(火) 22:21:19 ID:P3ImyfcO
>>493 GJ
篤子女史が弟を気絶させたのではないかと考えている俺
511名無しさん@ピンキー:2007/11/27(火) 23:58:10 ID:zS2alqz5
弟の思い人が篤子女史であると推測。
512名無しさん@ピンキー:2007/11/28(水) 00:39:05 ID:CkzdOEiH
弟が、実は女で兄を慕っているなんて話だとかなり嬉しい俺
513名無しさん@ピンキー:2007/11/28(水) 02:48:20 ID:wK9GFkl8
弟が、実は兄を慕っていると推測。
514名無しさん@ピンキー:2007/11/28(水) 11:36:15 ID:QLkMAClv
何度読んでも弟→兄にしか見えない
515名無しさん@ピンキー:2007/11/28(水) 13:17:10 ID:QjtXn+Gr
脳内変換「準にゃん」
516名無しさん@ピンキー:2007/11/28(水) 19:40:47 ID:edWuJzEc
アッー!は某プロ野球選手だけで十分なんだぜ
517名無しさん@ピンキー:2007/11/28(水) 20:21:06 ID:/1Nd5e28
てかおまいら明らかに期待してるだろw
518名無しさん@ピンキー:2007/11/28(水) 21:01:46 ID:ufvIBa6S
男は度胸!なんでも試してみるモンだ。きっと気持ちいいぞ!
519名無しさん@ピンキー:2007/11/28(水) 21:34:43 ID:7IQmR5w+
そういえば、ガチホモのSSがなぜか投下されていた時期もあったなぁ…
懐古してしまった、スマソ
520名無しさん@ピンキー:2007/11/28(水) 22:47:06 ID:52NVVfRb
初代スレだよな!ログはなくなってしまったが覚えてるぞおー
521名無しさん@ピンキー:2007/11/28(水) 23:15:46 ID:/1Nd5e28
あれは荒らされてただけだw
懐古ついでに言えば初代の頃は「ヤンデレ」でスレタイ全板検索しても
こことVIPしか引っかからなかったなあ。
522名無しさん@ピンキー:2007/11/29(木) 00:21:01 ID:P4TdiHns
懐かしいなww
あの小説を読んでおっきしたのも今となってはいい思い出だ…
523名無しさん@ピンキー:2007/11/29(木) 00:44:42 ID:fpaMTy/S
唐突だけど
臨時保管庫にて編集作業している人、乙です
ほとんど時間を置かずに保管してくれていつでも見られるので感謝してますよ
これからもよろしく
524トライデント ◆J7GMgIOEyA :2007/11/29(木) 00:58:00 ID:rCB25aQZ
お久しぶりです。以前の投稿から半年以上が経っていますが
投下致します
525幽霊の日々 ◆J7GMgIOEyA :2007/11/29(木) 01:00:50 ID:rCB25aQZ
 第1話『幽霊屋敷』
 この春。
 俺はめでたく浪人することが決定した。
 そりゃ、大学受験の当日に受験会場へ辿り着かなかった不運の持ち主だったら、
来年は頑張って志望の大学に受かってやるという意気込みが沸いてくるのだが。
学力以外の方法で試験に合格する手段はある。正真正銘のアホである俺は裏技を使わざるえなかった

 それは……カンニング。
 数学関連は適当に解けばいいんだが、暗記が必要とされる科目に関してはお手上げだ。 
事前に用意したカンニングのために仕込んだ消しゴム。目が怪我しているように装い、左目の包帯に
いろいろと英単語や別に覚えてなくていいだろう歴史や地理の名前など。

 完璧に用意したカンニング方法は……試験開始5分ぐらいでバレた。
 試験官が俺の背中を優しく叩いた瞬間に、皆がテストを受けている時に
俺は相手の胸に頭突きしたサッカー選手のようにレッドカ−ドで退場。
 後は偉そうな天下りしてそうな貫禄のあるハゲに人生とは何か? だんご大家族とは何かと延々と説教させられた。

悪質なカンニング行為をした懲罰として俺は試験を受けさせてもらう資格を剥脱された。試験を受けさせないなら受験料を返せよ。
 そんな感じで俺は浪人することになった。
 両親も息子がカンニング行為をやったぐらいでお前は勘当だ。
家から出ていけと怒鳴られて、僅かなお金を渡されて家に追い出される始末。

 まあ、母親が仕送りと予備校の学費と引っ越し予定のボロいアパートの家賃を送ってくれなければ、
念願の独り暮らしなんてできなかっただろう。その事に感謝しながら。
 引っ越してきたボロいアパートで俺の新生活が始まろうとしていた。

 さて、引っ越したアパートの物件を選んだ理由は家賃が安いし、周囲には駅も近く遊ぶ所には困らない。
今時、家賃1500円なんて信じられない家賃に少しでも仕送りのお金を節約して
小遣いを増やそうとこすいことを考えていた俺は速攻で契約した。敷金も保証金も0円という。本気で有り難い。
 ただ、物件を仲介した人は本当にいいんですか? 何度も何度も確認を求めてくる。
 怪しい態度に気付いた俺は何を隠しているのかと怯えている仲介人の胸倉を掴まさせて、白状させた。

 なんと、俺が契約したアパートには幽霊が住んでいるらしいのだ。
そう、この物件と契約した人たちはたったの三日ぐらいで契約解除して泣きながら助けを求めてきたらしい。 
正直、俺も信じがたい話だが、その仲介人も幽霊の存在を見たことがあると自分の恐怖体験を延々と語りだした。
 深夜零時頃になると幽霊がうらめしやーと叫びながら姿を現す。

予想もしていない異物な存在にパニックを起こした仲介人が唯一確信を持って言えたのは、幽霊は女性だった。
たった、それだけのことである。
526幽霊の日々 ◆J7GMgIOEyA :2007/11/29(木) 01:03:23 ID:rCB25aQZ
その事実を知ってから、松山光一(俺)は中古アパートに引っ越して一週間。
 何事も起こらなかった。
 幽霊なんて噂話に過ぎなかったのではないか? 住人の全てが麻薬中毒者で幻覚症状に陥っていた可能性すらも浮かんでくる。
 ともあれ、夜だ。

「今夜も秘蔵のお宝をインスト−ルするか」
 浪人生である俺が自宅から持ってきたPCでお目当てのゲームをインスト−ルするのは
真面目に受験に取り込んでいる人たちが見るとお前絶対に必ず落ちると指を差して笑われるかもしれないが、断固として言うであろう。
激しい受験勉強で数々のストレスが体に蓄積しているので、少しぐらいゲ−ムをやってもいいだろ。
 そんな感じでPCを起動して、スピーカーの差し込み口にヘッドホンをする。隣に住人はいないが、外に声が漏れるのはよろしくはない。
 完全最強装備を整えた俺はいざ勝負っ!!

「う〜ら〜め〜し〜や〜」
「ん? 何か聞こえたような?」
 スピーカの音量をMAXにしているため、僅かな小さな声が聞こえるだけである。
「そんなことよりもヤンデレヒロインを頑張って病んでもらわないとステ−ジクリアができねぇよ」
「う〜ら〜め〜し〜や〜」
「最近のヤンデレヒロインは着信99件に、ポストに五年分の手紙が入っていると年々と凄くなってきているな」
「う〜ら〜め〜し〜や〜」
「ひゃっほっっっ!! ヤンデレゾンビが鉈を装備かよ。誰かロケットランチャ−持ってきてくれ」
「う〜ら〜め〜し〜や〜。う〜ら〜め〜し〜や〜」
「う〜む……。精神世界にダイブするとまともだったヒロインがヤンデレ化して、
自分のために死んでよと嘆願されてもなぁ。男は余裕でひくって……」
「う〜ら〜め〜し〜や〜。うらめし〜や」
「ん?」

 後ろを振り返ると……そこには見慣れない少女がいた。
白い服だけ身に纏っていた少女が涙目になって、うらめしやと呟いていた。
年頃は俺と同じくらいであろう。腰まで届く長い髪に、整った可愛らしい容姿。
これが幽霊と言われると、押し掛けてきたストーカーが家に侵入してきたように思える。

「とりあえず、うらめしいんですよぉ!!」
 と、目の前の幽霊は振り返った来た俺の身体にポカポカと力を入れずに叩き出した。
何がうらめしいのか、その小さなお口でちゃんと事情を説明して欲しいもんだ。

「その前に。あんたは噂になっている幽霊なのか?」
「そうですよ。すでに故人です!! お墓もありますよ!!」
「それは良かったな。じゃあ、俺はヤンデレオンラインRPGの攻略するからじゃあ」

「ひ、酷いです。わ、私のお話も聞いてくれてもいいじゃないですか……」
「いや、聞いてもさ。生前、私は犬でしたがご主人さまのために転生しましたオチでしょ?」
「犬なんかじゃあありません。生前はまともな人間でしたよ!! それに私が話したいことはそういうことじゃあないんです」

 この幽霊はしつこく俺に歯向かってくる。せっかく、至福の時間を潰す奴は極楽へ行かせてあげたい気分になってきた。
527幽霊の日々 ◆J7GMgIOEyA :2007/11/29(木) 01:05:43 ID:rCB25aQZ
「大体、光一さんはあなたは一体何ですか!! 
あなたがアパ−トにやってきた日からずっとずっと、
うらめしやうらめしやって言っているのに全然気付いてくれないじゃないですか? 
あなたは本当に人間なんですか。他の人なら私の声に気付いて、すぐに逃げるんですよ」
 と、幽霊はポカポカと俺の頭を叩いてくる。力が篭もっていないので全く痛くも痒くもないが、幽霊の愚痴はまだまだ続く。
「なのに……光一さんは毎日毎日PCゲ−ムで夢中になって、本当に受験生なの!? 
って感じに朝になるまでゲ−ムをやっているだもん。
私、一度その人に姿を見られない限りは朝になると見えなくなるんですよ。
だったら、夜は早く寝てください。そうじゃないと私の声が聞こえないでしょう!!」
「ようするに気付かなかったことに怒っているのか」
「そうです!! 寂しがっている女の子の気持ちに気付かないと背後から鋸から刺されますよ」
 俺に無視されて、寂しかったのか幽霊。

「まあ、気付かないのは真面目に受験勉強に取り込んでいた俺の落ち度ということは認めよう」
「誰がが真面目に勉強していたんですか?」
「ともあれ、幽霊が実在していると証明されたので。それじゃあ」
「それじゃあないんです!!」
 と、先程から幽霊は自分の受けた仕打ち分は怒る権利があると言うばかりに怒鳴り散らしていた。
可愛いらしい容姿をしていても、カルシウム不足の女は男にモテないと思うんだが。
「どうして、光一さんは私のことを恐がらないんですか? 仮にも、私はすでに死んでいるんですよ」
「恐がると言われてもな……」
 これが筋肉ダルマの幽霊や顔が半分潰れている生理的に受け付けない幽霊なら
裸足でお宝のソフトコレクションを持ちながら逃げ出していただろう。
だが、目の前の少女は和やかな雰囲気を部屋に充満させているおかげでそんな恐怖を微塵も感じなかった。
「幽霊が居てくれないと家賃が上がるじゃん」
「家賃って」
「幽霊が出ると噂されているボロいアパ−トのおかげで家賃が安くて助かっているんだ。恐れるどころか、逆に感謝したいとこです」
「感謝って……」
「でも、遠きヴァルハラの道に行きたいなら、別に成仏してもいいんだけど」
「いいえ。まだ、私は成仏したくありません。この世に未練はたっぷりとあるんですよ」
528幽霊の日々 ◆J7GMgIOEyA :2007/11/29(木) 01:08:24 ID:rCB25aQZ
「その未練とは?」
 幽霊がこの世に固執した理由を肴にして、今晩は暇つぶしができそうだ。
 軽い気持ちで聞いた俺とは違って、幽霊は前髪で表情を隠して陰気な雰囲気を漂わせてから言った。
「私が死んでから15年の月日が経ちました。
生前は光一さんと同じように新築したアパ−トの部屋に住んでいました。
ここに住んだ理由は一生懸命勉強して入った大学に通うために下宿したんです。
この大学に入るために青春の全てを犠牲にして猛勉強しました」

 小さな手で鉛筆を動かしている幽霊の姿を思い浮べる。バカと書かれていた鉢巻きを頭にしている
彼女の健気な受験勉強に声援の一つとバナナの皮を持ってきて、
その場で滑って見せたりといろいろな悪戯もやりたくなるわけだが。
 幽霊は感情が強くこもった声が周囲の空気を更に重くした。

「せっかく、ギリギリで受かった大学も勉強が難しくてついていくことがやっとでした。
毎日毎日、自習や勉強に貴重な時間を費やしたときに気付いたんです。
他の皆は大学を勉強している場所ではなくて、男遊びにやってきた雌だということに。
友達も勉学よりも医大や一流大学のボンボンばかりを狙う狩人でしたし。
そこで私は勉強のおかげで自分の初恋もまだだったことに気付きました。
これからは男を、彼氏を作って、失われた青春を取り戻してやるんです!!

 宮野由姫(みやの ゆい)20才。運命を変える決心した日ですぅ」

 宮野由姫……男に泣かされるフラグが見事に立ちやがった瞬間だな。

「ところが、私は情けない事故で死ぬことになりまして。
若い年頃の女の子が初恋もできずに死んでしまうということは幽霊になる理由としては充分すぎると思いませんか? 
それがこの世に未練を残すことになったんです。本当に可哀相だと光一さんも思ってくれますよね?」
「俺が言えることはたった一つだけだよ」
 宮野由姫の悲しい過去に同情することはできないだろ。
どう受け止めるかは人それぞれ違うものだから。
俺は俺の真実を大声で告げるだけだ。

「実年齢35才!!?? いや、それよりも。驚くべきことは……
 この鍛え抜かれた鋼鉄の肉体!!!!」

「鍛え抜いていませんし、普通の女の子の体ですよぉぉ!!」
 幽霊・宮野由姫は頬を膨らませて、女の子に鋼鉄の肉体って嫌味ですかとジト目で睨まれていた。
小動物が少しムクれている姿は幽霊であっても可愛いもんだ。
 と、俺は今まで話を聞いてとある事実に気付いた。

「未練を残して幽霊になったってことは……宮野由比さんが初恋するまでは成仏できないのか?」
「その通りです」
「それまでは俺の部屋で居座るつもりかよ」
「ううん。ずっと、光一さんの傍にいますから。よろしくお願いしますね」

 こうして、俺と幽霊の奇妙な共同生活が始まった。
 やれやれだぜ。
529トライデント ◆J7GMgIOEyA :2007/11/29(木) 01:10:26 ID:rCB25aQZ
投下終了です。
一応、短編で終わらせる予定です。

ヤンデレスレは二度目の投稿になるので
よろしくお願いします。
530名無しさん@ピンキー:2007/11/29(木) 03:40:52 ID:lmJpuons
所謂ヤンデレコメディ的なノリですな。
こういう笑えるの大好物だwww

てか男のキャラに吹いたwwwニヤニヤしながら癒されましたww
GJ!!
531名無しさん@ピンキー:2007/11/29(木) 04:17:11 ID:8topzTfM
トライデントってあの荒らしのトライデントか?
532名無しさん@ピンキー:2007/11/29(木) 07:31:44 ID:fZEMAy9O
NG指定:8topzTfM
533名無しさん@ピンキー:2007/11/29(木) 07:33:49 ID:glm/58lu
>>529
GJ
黒の領域好きでした
続きを楽しみに待ってます
534名無しさん@ピンキー:2007/11/29(木) 12:43:12 ID:dKmP0TWA
>>529
GJ!!
こういうの大好きだ。
短編なのが残念だ。
535名無しさん@ピンキー:2007/11/29(木) 12:52:53 ID:vRFIwkkU
>>529
GJと言いたい所だけど、言葉の使い回しとか誤字が多いので、しっかり推敲してほしいです
536名無しさん@ピンキー:2007/11/29(木) 13:33:32 ID:8X5oLiXt
>>535
そんなに誤字が多かったけ? よくわからないけど
537名無しさん@ピンキー:2007/11/29(木) 17:18:58 ID:X3e5tVc7
一瞬「えっ!!桜荘はっ!?」
って思ったけど
ここはヤンデレスレだったな
538名無しさん@ピンキー:2007/11/29(木) 17:37:49 ID:g+HB/JQ1
>>529
GJGJ!!!!1

3年前に北海道の会社に就職したとき家賃3000円の部屋に幽霊が出たのを思い出した。
539名無しさん@ピンキー:2007/11/29(木) 18:05:14 ID:bzDg5k5i
トライデントさんは荒らしに好かれてるからな、もれなく荒らしが着いてくるんよね
しかし文法間違いや誤字が多いのは事実
540名無しさん@ピンキー:2007/11/29(木) 18:44:49 ID:FN75cyde
>>539
だったら、ちゃんと間違いを指摘してあげたら?
個人的にはネタが良ければ、それでいいんだが
541名無しさん@ピンキー:2007/11/29(木) 18:58:35 ID:74u0AYNO
例えばこことか。
>他の皆は大学を勉強している場所ではなくて、男遊びにやってきた雌だということに。

まああんだけ言われてんのに直らないってことは
この人の芸風なんじゃね?って俺は解釈してるけど。
542 ◆5PfWpKIZI. :2007/11/29(木) 19:04:18 ID:DLC4FQNb
トライデントさんGJです
誰がなんと言おうと俺は書き続けるあなたを尊敬するしあなたのファンです。


逃亡したと思われているであろう俺が投下します。リハビリ投下で書く希望をもらいました。
本当にすみませんでした。
初見の方もたくさんいらっしゃると思います。
本保管庫の方にまとめていただいているので興味が合ったら読んで下さい。
では投下します↓
543恋人作り ◆5PfWpKIZI. :2007/11/29(木) 19:09:03 ID:DLC4FQNb

シャラン

 湯の中で鎖を揺らすと耳に心地良い音が鳴った。聖佑人はだいぶのぼせた頭で鎖を
鳴らして遊んでいた。そろそろ姫野亜弓にでも助けを求めようか、と考えながら
どうにも面倒で体が動かない。このままいたら立てなくなるな。頭の隅でそう呟く。

 先ほど、姫野真弓は佑人に口づけた。
 唇はすぐに離れて一瞬だけ2人の瞳が交錯する。

「あっいや……今のは……」

 目を逸らして口ごもると次の瞬間に真弓は弾かれたように立ち上がり素早く
手錠を蛇口に付け替えると風呂場から逃げ出してしまった。

「ゆっ佑人が見つめるからいけないんだからね!!!!」

扉ごしにそう意味の分かるような分からないようなことを叫ばれて佑人は放置された。

 そして今に至る。ぼーっと湯に浸かり続けて一時間、佑人はのぼせきっていた。


■■■■■■
■■■■■■


 急にに鮮烈な空気が入ってきて顔をあげる。風呂場のドアが開いて亜弓が立っていた。

「のぼせちゃったかしら……ごめんなさいね、真弓を宥めるのに時間がかかってしまって」

 言いながら入ってきてカチャリと手錠を外す。湯気で青白いほどの肌に黒髪が
張り付いていた。生き物のようにも見える黒髪。その下に見えるうなじから鎖骨に
かけて目を走らせると平素よりか幾分色づいている。血が通っているのだ。
この人も生きてるんだな。佑人は妙な実感を覚えた。

「ありがとうございます」
「いいのよ……部屋で真弓が待っているわ。行ってあげて」

 そう言いながら亜弓は佑人の首輪の鎖を有無を言わさずに引いていた。


■■■■■■

544恋人作り ◆5PfWpKIZI. :2007/11/29(木) 19:12:05 ID:DLC4FQNb
■■■■■■


 暗い部屋に入る。亜弓は音も立てずに真弓の首輪に鎖を繋ぐと出て行った。

「……真弓」

 黙っているのも気まずいので話しかける。返答は、無い。一メートル程度の距離の所で
背中を向けてうずくまる真弓は酷く小さく見えた。こんな子に俺は繋がれてるのか。
酷くバカバカしい事実だったが、事実は事実だった。もうすぐ終わるであろうにしても
今現在繋がれていることに変わりはない。薬がまた回ってきたのか体が酷く重かった。

「真弓。寝ようか」

 肩に手をかけると真弓の体がびくんと震えた。

「真弓?」
「……っ佑人は、佑人は私に興味ないの?」
「は?」

 佑人には脈絡なく感じる問いだった。

「だから、佑人は、私と、その……その、えっちな事とかしたくないの?」

 暗闇でも分かる。真弓の顔は赤かった。

「いや…」
「だって好きなんでしょ?好きだったらしたいものでしょ?」

 一度言ってしまうと真弓は吹っ切れたのか一気に言葉を継ぐ。

「私は……佑人と、したいよ?体も佑人のものになりたい。佑人が、好きだから」

 言い切ると真弓は一旦俯いて、それから驚きで硬直している佑人にキスをした。

545恋人作り ◆5PfWpKIZI. :2007/11/29(木) 19:16:33 ID:DLC4FQNb

 始めは唇が触れるだけの。
 その次は触れた後に舌でなぞって。
 三度目に触れた時に真弓は佑人の中に舌を差し込んだ。
 口腔の中に真弓が入って来るに至って佑人の鈍った頭にも警鐘が鳴りだした。
まずい。このままではまずい。また侵食されてしまう。だがそう思う間にも真弓の舌は
佑人を犯していた。絡みつき、隅々まで舐めていく。ゆっくりとした動きだが確実に
佑人の脳は快感を感じていた。いつの間にか腕が首に回されており体が密着している。
薄いパジャマを通して真弓の胸が、太ももが、腹が、佑人に密着していた。
彼女の鼓動――早鐘を打っている鼓動が伝わってくる。
 その暖かさは、愛しささえ錯覚させて来る。しがみつくように、離さないように
腕や足に力が込められ、軽い圧迫感すら与えた。

 軽い呼吸音。
 息が続かなくなったのか真弓が顔を離した。小さく佑人、と囁いて首に回していた
腕をとく。そのまま佑人のパジャマのボタンを外し始めた。

「真弓っ何し」

 止めようとすると唇を塞がれる。舌を吸われながら、佑人はそれでもまだ抵抗
しようとしていた。自由にならない体に加えて抵抗しようとする気さえ萎えていく。

546恋人作り ◆5PfWpKIZI. :2007/11/29(木) 19:19:57 ID:DLC4FQNb

 いいじゃないか。殺される訳では無い。
 だがそう思う一方でこれ以上進めば戻って来られない領域に足を踏み込むことに
なることも分かっていた。取り返しのつかない、帰って来られない領域へ。
 あまり自分を明け渡してはいけない。分からないけど何かが危険だ。
これ以上自分を削られてはいけない。名前を読んでキスをして愛を告げて
もう自分は随分真弓に取り込まれていないか?
 佑人の頭の中で鳴る警鐘を押し流すように真弓は行動を続けた。舌が這う。

 佑人の上半身を脱がしたところで唇を離し、そのまま首筋を伝って行く。
首輪に沿ってキスをされ、一瞬痛みのような感覚が走る。

547恋人作り ◆5PfWpKIZI. :2007/11/29(木) 19:24:42 ID:DLC4FQNb

「痕、つけちゃった」

 軽く笑いながらいつの間にか彼女のパジャマのボタンも外されきっていた。
 少し涙で潤んだ瞳が見上げて来る。

「佑人、脱がして?」
「俺は」
「女の子が必死で迫ってるのに……」
「そういう問題じゃなくて」

「佑人」

 暗くて見えない筈なのに分かった。
 真弓の瞳の色が変わった。
 持ち上がって来た手が首輪に繋がる鎖にかかる。
 じわじわと力がかかって首が締まって行く。
 真弓の瞳には佑人が写っている。写っているがそれは真弓の佑人ではない。
 真弓の佑人は優しくキスをして真弓を抱き締めて頭を撫でてくれる。
 今真弓の瞳に写っているのはそうでは無い佑人だ。
 そんな佑人は、真弓には必要ではない。

「……ま…ゆみ…」

 意識が遠のく。殺されないんじゃ無かったのか。

 死にたくない。

 死にたくない。
 まだ明日も生きたい。真綾に会いたい。……真綾。
 彼女を思い出すのも随分久しぶりかもしれない。

 かすみそうな意識の中で佑人は決めた。

 俺は生きたい。

 手を伸ばして少女の頬に触れ、そのまま下に下ろして羽織っているだけだった
パジャマを滑り落とす。
 佑人は自分を明け渡すことに決めた。


■■■■■■
■■■■■■
548 ◆5PfWpKIZI. :2007/11/29(木) 19:25:45 ID:DLC4FQNb
今回は以上で終わりです。

すいませんでしたorz
すみませんでしたorz
549名無しさん@ピンキー:2007/11/29(木) 19:28:53 ID:+9AjyI/l
>>548GJ
550名無しさん@ピンキー:2007/11/29(木) 19:35:51 ID:o/mwFYq7
>>548
誰だっけ?






嘘です。
うおおおーー! 素で忘れていたじゃないか!
初代スレの話題が出たり、カムバックが最近の流れなのか?
大歓迎だぜ!
551名無しさん@ピンキー:2007/11/29(木) 19:53:41 ID:g+HB/JQ1
>>548
懐かしい!!!GJ
552名無しさん@ピンキー:2007/11/29(木) 20:30:57 ID:slssmEt8
>>548
久しぶりグッジョブ
553名無しさん@ピンキー:2007/11/30(金) 00:17:34 ID:ReITYIjz
お久です。続き読めたのは嬉しいことで。
これからもご自分のペースでゆっくり投下していただければこれ幸い。
554無形 ◆UHh3YBA8aM :2007/11/30(金) 04:29:29 ID:+LDdIc8s
投下します
555ほトトギす ◆UHh3YBA8aM :2007/11/30(金) 04:32:03 ID:+LDdIc8s
――――――――――――――――――――――――――――――――――――

それは少し前の話。
「花逍遥に参りませんか?」
散策の途上。
まだ青葉の茂る頃。
花見の時期を逸して間もない季節に従妹はそう云った。
「唐突だな。桜はもう散っているだろう?」
「これから、という訳ではありません。来年――年が明けたらの話です」
来年?随分先の話だ。
「鬼が笑うな」
「笑わせておけば良いのです。綾緒は・・・どれ程時が移ろっても、にいさまの御傍に仕える所存です
から」
美麗な血縁は穏やかに目を伏せた。
この少女に外連は無い。
だからどちらも本気で云っているのだろうと了解する。
「でも桜かぁ。もう何年も見てないなぁ」
目に留めることはあるけれど、それを目的として出掛けることは殆ど無い。
「桜ではありません」
綾緒は首を振った。
「桜じゃない?花見って云ったら、桜だと思ってたけどな」
「上古はいざ知らず、都鄙、貴賎問わず、花逍遥と云えば桜ですね。それは綾緒も否定しません。です
が――」
従妹は僕を見る。
「にいさまは、桜よりも梅を愛しておられるでしょう?」
「愛してるって云うか、梅のほうが綺麗だと思うだけだよ。特に、雪の中にあるものはね」
「存じております。ですから、梅を見に往きましょう。雪の降る頃に」
梅と雪。それは確かに魅力的ではあった。
「綾緒も、梅が好きです。花言葉も含めて、気に入っております」
眼前に梅は無い。
けれど彼女は“それ”見るように天を仰ぐ。
梅の花言葉。
『忠実』
そして『気品』
それは綾緒の持つ、女性の理想像と合致する。
けれどそれならば。
「桜はどうなんだ?あれの花言葉は“優れた美人”だったじゃないか」
その言葉も理想像の一つではないだろうか?何より桜は綾緒に似合うような気がした。
「にいさま」
従妹はくすりと笑う。
「桜は復讐の木です。女を裏切った男を呪い殺すための、怨念の塊なんですよ?」
「・・・・」
ぞくりとした。
上目遣いに僕を見つめる穏やかで従順な従妹の下に、“何か”が居た様に見えたから。
「卒時ですが」
綾緒は表情を戻す。
「梅と云えば、何か連想されるものはありませんか?」
仕切りなおして問う従妹の顔は、陽だまりのように明るい。先程のような寒気は微塵も感じない。僕も
“今見たもの”を振り払いながら答える。
「鶯・・・かな?」
「はい。鶯です。では、にいさま、鶯は何故啼くのか、御存知ですか?」
「ん?そんなの――」
求愛のためだろう?
他に思いつかない。
そもそもあんなに綺麗な歌声が、求愛以外に使途があるとも思えない。
そう僕が答えると、
「残念ですが、違います」
従妹は微笑して首を振る。
556ほトトギす ◆UHh3YBA8aM :2007/11/30(金) 04:35:14 ID:+LDdIc8s
「鶯は愛らしい容貌と美しい歌声を持ちますが、極めて争闘性の強い鳥なんです。あの啼き声は、恋の
歌では無いんですよ」
「それじゃ、一体何のために歌うんだ?」
尋ねても綾緒は即答しなかった。
僕を見てニッコリと笑い、
「綾緒にとっての、にいさまです」
そう云って、従兄の腕にそっと寄り添った。
どういうことだろうか。
視線で説明を促す。
すると従妹は目を細め、それから一歩踏み出した。
そして歌うように。
啼くようにこう云った。

「この場所こそ我が領地

この場所こそ我が幸せ

何人たりとも踏み込むこと許さず

侵すものは、死をも覚悟せよ」

それは、誰の宣言であったか。
一歩詰めた従妹は、再び従兄の腕を掴む。
「鶯の歌は、こういう意味があるのです。求めるためのものでなく、媚びるためのものでもない。自分
がここにいて、己の居場所がそこにあって。それを守り抜くと誓う。その為の歌。その為だけの声なん
です。だから綾緒は、鶯を気に入っています。鶯のように生きること。それが綾緒の理想なのです」

――綾緒もまた、鶯です。

従妹は、はっきりと僕にそう云った。
だから。
だからこの娘には、梅よりも。
きっと桜のほうが似合うと思ったのだ。

目が覚めると、白い天井があった。
自室の天井はこんな色をしていない。
清潔に過ぎる消毒液の臭いと、目に映る世界は僕の知らないそれであった。
(どこだ?ここ・・・)
身を起こす。
どうやらベッドに横たわっていた様だ。
見知らぬ、白いベッドに。
白?
(それって、まるで病院みたいな――)
「!」
ハッとした。
病院。
ここが病院ならば。
「・・・・」
僕は頭を振る。
『思い出した』
否。
思い当たったと云うべきか。
ここが何処で、どういう状況なのか。
「ッ・・・!」
僕は自分の腕を見る。
目に入るは、真新しいガーゼ。
貼り付けられたそれを外すと、そこには穴穿たれた痕があった。
・・・・・・血・・・・・・・。
これは、血を出し入れした痕。
557ほトトギす ◆UHh3YBA8aM :2007/11/30(金) 04:37:13 ID:+LDdIc8s
ならば今僕に流れているこの血は――
「お目覚めになられましたか、にいさま」
思考を切断するように穏やかな声がする。
よく知った、誰かの声。
鶯の、鳴き声が。
個室と思しき病室の入り口。
丁度ここへ来たのだろう、制服姿の誰かがそこにいた。
「・・・綾緒・・・・」
「はい。にいさまの綾緒です」
声の主――楢柴綾緒は、口の両端を吊り上げると丁寧に扉を閉める。
それは、こことここ以外との遮蔽。
即ち、空間の限定。
それを為した張本人は見るからに機嫌が良い。僕が婚約を請うた時のように、晴れやかだ。
それで確信した。
総入れ替えは――
血液の交換は完了したのだと。
従妹は一礼してから傍の椅子に腰掛ける。背もたれの無い丸い椅子は、ぎし、と僅かに軋んだ。
「にいさま御加減は如何ですか?」
従妹は妖艶な表情で僕の腕を取った。
「・・・・」
僕は答えない。怒るべきか、悲しむべきか、それともいなすべきか、判断が付きかねたからだ。あんな
ことをされて、どう感じればよいのか。どう振舞えばよいのか。
思考の停止は結果として従妹を無視する形となったが、それでも綾緒は特に気分を害した様子もなく唐
突に、
「おめでとう御座います」
と、取った腕を見ながら微笑んだ。
「めで・・・たい・・・?」
「はい。昨日は実に良き日となりました」
従妹は心底嬉しそうに、腕に顔を近づける。
「にいさまが不浄な血から逃れ、綾緒とひとつになれましたから」
「痛ッ・・・!」
痕に走る痛み。
それは、従妹の口が為したもの。
綾緒は痕に口をつけると、そこから自分の――僕の血を吸っていた。
まだ塞がって間が無かったと思われるその痕は容易く破れ、生命の源が強引に引き出されて往く。
「あ、綾緒、痛い・・・っ」
思わず腕を振り払おうとする。
けれど呆けたように笑う従妹は、至福の表情のまま腕を捕らえ、吸引を続ける。
「これがにいさまの味・・・・。綾緒の味・・・・。楢柴の味・・・・」
紅を塗ったように赤い唇の間から伸びる舌が、痕から染み出る血液を舐め取って往く。
生成り――
記憶が途切れる前に見た従妹の姿は、人から人以外へと変わる過程そのものだった。
ならば。
ならば今ここにいる従妹は“何者”だろうか。
夜叉なのか、人なのか、或はその中間なのか。
「にいさま」
綾緒は気味の悪いほどに優しい笑顔で僕を見上げる。
腕はいまだに力強く囚われており、舌は合間に這いまわる。
「先生より、暫くの間、静養が必要であるとの言葉を受けとっております。つきましてはにいさま、楢
柴の離宮へ御出で下さいな」
ぴちゃり。ぴちゃりと繰り返される音の隙間からそんな言葉が届く。
「離宮・・・、お前の別邸か」
楢柴家には無数の御用邸がある。
その中の一つが、楢柴の離宮と呼ばれる敷地。
並みの金持ちならばそれを持つだけで生涯の名誉と出来るであろう巨大な屋敷は、庭園と無数の屋敷か
らなる、まさに離れの宮である。
当主の文人氏をはじめとする楢柴直系の者以外は立ち入ることの出来ぬ場所。日日仕事に追われる楢柴
の頂点達は、それ故立ち入る資格があってもやって来ることが無い。
つまり、そこは綾緒以外に使う者も来る者もいない限定の世界。
558ほトトギす ◆UHh3YBA8aM :2007/11/30(金) 04:39:22 ID:+LDdIc8s
そして――
そして『あそこ』には、アレがあったはずだ。
時代錯誤。
或は物語の中のように。
名家の屋敷だからこそ有り得る、異形の空間。
即ち――座敷牢が。
僕はぶるりと震える。
流石に“閉じ込められる”とは思っていないが、『それ』が可能な施設がある場所へは往きたくなかっ
た。
だから僕は首を振る。
「い、いい。あそこには往かないよ。療養なら、自分ちで充分だ」
「いけません」
「痛ッ!!」
従妹は吸引を強める。
補充されたばかりの血液が、また、数滴失われた。
「にいさまの御自宅では――不充分です。にいさまにはいつでも綾緒の目の届く場所に居て頂きません
と困るのです」
「ぼ、僕は困らない」
往きたくはない、あそこには。
「にいさま」
じっと、従妹は僕を見上げる。
「にいさまは、綾緒の云うことが聞けませんか?」
「――」
寒気がした。
綾緒は・・・従妹は、気分を害したのだろうか。
“こうなった”綾緒を押し切る自信は僕には無い。
頷かなければならないのだろうか?
そう思った矢先――
「あ・・・」
くらりと従妹が揺れた。
「あ、綾緒!?」
慌てて身体を押さえる。その身体は相変わらず羽のように軽い。
「申し訳ありません、まだ、貧血が治まっていないようで・・・」
くらくらするのか、綾緒は額に掌を当てている。
「駄目じゃないか、お前、僕に静養を勧めるなら、まず自分が健康であるべきだ。自分の目の届く範囲
に居ろって云っただろ?それは綾緒が僕の世話を焼くためだろう?でも不健康な人間に近くでふらふら
されたら、それこそ気が休まらない」
「あ、そう・・・ですね。にいさま、申し訳ありません」
「謝らなくて良い。見たところ、お前のほうが重症じゃないか。静養するのはそっちだ。とりあえず、
今日は帰りなさい」
心配8割。回避2割のための言葉だった。
健康を害しているためだろう。従妹は素直に頷いて立ち上がった。
「一人で帰れるのか?」
「車を待たせているので、大丈夫です。・・・にいさま、本当に申し訳ありませんでした」
そう云って深深と腰を折った。
僕が退室を促すと、従妹は表情とは裏腹な強い意思を秘めた瞳でこちらを見つめる。
「にいさま、必ず御迎えに上がります。必ず・・・」
「・・・・」
僕は頷かなかった。
頷けるわけがなかった。
559ほトトギす ◆UHh3YBA8aM :2007/11/30(金) 04:41:37 ID:+LDdIc8s

結局、僕は幾らも留まらずに病院を出た。
綾緒に云ったように静養するならば自宅が一番落ち着くからだ。楢柴の息のかかった場所で過ごす気等
更更無い。
家に帰り着いた時はすでに夜。
誰も居ない家には明かりは無かった。
明かりは無かったが――人影はあった。
玄関前に誰かが蹲っている。
不審に思いながらも近づくと、向こうも僕に気づいたのだろう。ゆっくりと起き上がる。
「遅かったですね」
抑揚の無い冷淡な声。
何処を向いているのか判らない無表情。
よく知った後輩であった。
「一ツ橋、何でお前がこんな所に?」
「兄事している人間が行方不明になれば、心配くらいするでしょう」
そう云う後輩の表情に変化は無い。けれどこれが彼女のスタンスだ。
「行方不明・・・そうか、そうなるんだよな」
連絡も無しに日を跨いだのだから。
「その辺も含めて、話を聞かせて頂きたいんですが」
「そうだな。うん、じゃあ、入ってくれ」

「どうぞ」
一ツ橋がテーブルに紅茶を置く。まれびとに淹れさせるというのもどうかと思うが、
「私が淹れるほうが美味しいです」
等と云われてしまえば一言も無い。
テーブルの中央には黒い直方体がある。例の御守りだが、普段から持ち歩いているのだろうか?
「しかし態態家の前で待ってるなんてな」
「これでも心配していたんですが」
自分の紅茶を僕のそれのすぐ横に置く。
隣に座るのか。
てっきりそう思ったのだが。
「・・・・・なあ、一ツ橋」
「朝歌」
「・・・朝歌」
「なんですか、お兄ちゃん」
「どうして僕の上に乗る?」
「少し黙って下さい」
「・・・・・・」
成る程。
確かに心配を掛けたらしい。
無表情の後輩はあまり機嫌が良くない様子。
表情はいざ知らず、気配はツンツンしている。
「ほんとに心配しました」
「悪い・・・」
この後輩のことは古くから知っているが、感情を出した姿を見たことは数えるほどしかない。
元元人付き合いのあまり無い人物なので、余計にそんな機会が無いのだ。
一応、僕のことをまだ兄貴分と捉えているらしいので、珍しく気持ちが出たのだろう。膝の上にある妹
分は僅かに揺れている。
「お兄ちゃん」
「ん?」
「私の身体、抱きしめて下さい」
「・・・・・」
僕は無言で抱きしめる。
小さくても、女の子ということだろう、吹けば飛ぶような痩身は、それでも奇妙な柔らかさがあった。
「少し落ち着きました」
「そうか」
「部長も心配していましたよ、お兄ちゃんのこと」
「あ〜・・・、先輩にも心配掛けちゃったか」
「何度も電話をしていたみたいです」
560ほトトギす ◆UHh3YBA8aM :2007/11/30(金) 04:43:39 ID:+LDdIc8s
携帯を取り出す。
直方体のせいで電波は届いていないが、履歴は『織倉由良』で埋め尽くされていた。
「・・・3分置きか。授業はどうしたんだろう」
「それで」
遮るように後輩が口を開く。
「何がありましたか」
抑揚の無いはずの声。
けれどその中には、気配同様尖った何かが混じっているように思えた。
僕は部屋の明かりに手を翳す。
陽光と違って、皮と肉の中が透ける事は無い。
体内に流れる新たな血を、もう一度確認したかったのだけど。

「そうですか」
説明が終わるといつもの言葉が紡がれる。
膝の上に座って前方を見ている後輩の表情は見えない。
返って来た声には起伏が無い。
つまり、相も変わらず心底が読めない。
「身体の調子はどうですか」
「ん、多分平気。少しだるいけど」
でなければ病院を抜けてこない。
「部長に知れたら、総て捨てろと云われますよ」
「血を!?それは無茶だ」
「理に適うとか適わないとか、あの人の中にはありません」
「・・・・」
僕は黙る。
俄には信じられないけれど、今の先輩ならそう云っても不思議はなかった。
「お兄ちゃん、渡した御守りは持っていますか?」
「ん?ああ、ほら」
一ツ橋の前に差し出してやる。
と、後輩は引っ手繰る様に御守りを取り上げた。
「これはもういりません」
「おいおい」
「効果がなかったようですから。こっちと交換です」
渡されたのは、まったく同じ安産守り。見分けがつかないくらい同じだ。
「“使い方”は以前説明した通りです」
「使い方って・・・あれか」
壊せだか何だかと云っていた。
「なあ、ひと・・・朝歌、これ、一体何なんだ?」
「御守りです」
「いや、それはわかってるけど・・・」
「誰か来たようです」
一ツ橋は壁――玄関のほうを向く。
果たして、一呼吸後に呼び鈴が響いた。
「・・・よくわかるな」
「肌と気配は敏感なんです」
後輩は僕の膝から降りる。
「どうぞ、応対して来て下さい」
促されるままに僕は部屋を出た。

のぞき窓の向こう。
玄関に立っていたのは意外な人だった。
財閥の頂点。
名門の総帥。
半血の身内にして、近くて遠い伯父。
楢柴文人。
彼は沈痛な面持ちで立ち尽くしていた。
「お、伯父さん?」
僕は慌てて扉を開ける。
561ほトトギす ◆UHh3YBA8aM :2007/11/30(金) 04:46:32 ID:+LDdIc8s
「どうしたんですか、こんな時間に」
そう問うより早く。
「すまなかった!」
伯父は地に手を突いていた。
「お、伯父さん、どうしたんです、突然!?」
「・・・・・病院から、連絡があった」
「――」
耳に、入ったのか。
「あれがきみにした事を先程聞いた。してはいけないことをしたと知った。子の責任は親の責任だ。謝
って済む事ではないが、きみに謝罪しに来た」
伯父は額を地面に擦り付けた。
「伯父さん、顔を上げてください」
「そんなことできるわけが無いだろう。あれが仕出かした事は、人道から外れる」
「兎に角、身体を起こして下さい。そのままじゃ何も話せませんよ」
「・・・・」
僕が云うと、伯父は「すまない」と立ち上がった。
「創くん。身体は、平気かね?」
「今のところは」
「精密検査は?」
「綾緒の話だと、したらしいです。結果はしりません。まだ出ていないのかも」
「・・・・」
伯父は苦悶の表情を浮かべていた。
その胸中はいかばかりだろうか。
「あそこの病院は楢柴のお抱えだ。綾緒に忠誠を尽くしているものも多い。だが、それ以上に私の息の
かかった刀圭家は多い。そちらから、今回の事を聞いた」
「綾緒とは、話したんですか?」
「いや。連絡を受けてすぐにこちらに来た。あれは家で寝込んでいるらしいが、帰ったらすぐに問い詰
めるつもりだ。そして、正式に謝罪をさせる」
「・・・・・」
「あれは思った以上に歪んでいたようだ。血抜きという奇行ですら、きみの為だと本気で思っている。
嬉嬉としてそれを為したと聞いたよ」
「そう、ですか」
おめでとう御座います。
蕩けた笑みで僕に語った言葉は、心からのものだったのか。
冗談とは思っていなかった。
けれど、本気だと思いたくもなかった。
「ここへ来たのはきみへの謝罪が第一だが、もう一つ聞きたいことがあったんだ」
「何でしょうか?」
「きみはあれを――楢柴綾緒を、本当に女性としてみているのかね?」
「・・・・・」
左の中指。
そして、片耳が疼く。
僕はどんな表情をしたのだろうか。
眼前にある楢柴の総帥は、殊更顔を歪めて見せた。
「きみから婚約を持ちかけられた。あれは私にそう云った」
事実だ。
だけど、真実ではない。
「あれがきみと婚約したいと云った時、私は条件を出した。――日ノ本創が、女としてお前を求めてい
るなら、と」
僕は綾緒を、そんなふうには見れていない。
外貌でそれを察したのだろう。
伯父はもう一度「すまなかった」と頭を下げた。
「その話は、白紙にさせて貰う。きみはあれに気を使うことなく、生きたいように生きてくれ。血の件
も含めて、謝罪させるし、償わせる」
「いえ、そんな・・・」
「いや、させる。これはきみだけの話ではなく――楢柴の誇りの問題でもある。あれは気高さを履き違
えているようだが、誇り高い人間とは、けじめをつけられる人間であると私は思っている。それは道を
踏み外さない事とも同義だ。謝罪して終わりではない」
勿論私自身の事も。
562ほトトギす ◆UHh3YBA8aM :2007/11/30(金) 04:48:38 ID:+LDdIc8s
楢柴文人はもう一度頭を下げた。
「娘は・・・本当に怪異なのかもしれない。それでも楢柴の一員である限り、させることはさせる」
悲愴な表情をした文人氏は、それでも強い光を湛えた目で僕を見つめた。

「父親は常識人のようですね」
伯父が去って居間に戻ると、一方の妹分が紅茶を淹れなおしていた。
「お前のとこと同じさ。娘は変わり者でも、父親は識者だ」
ソファに座る。
先程と同じ場所。
「父のことはよく知りません。あまり話しませんから」
「一ツ橋教授、相変わらず忙しいのか」
「近近倫敦に往くそうです。最低5年と云っていましたが、今までもいない様なものでしたから、実感
がありません」
後輩はちいさく「よいしょ」と声を出して僕の膝の上にのぼった。
「実感できる身内なんて、私にとっては一人だけです」
「そうか」
「そうです。だから抱きしめて下さい」
「・・・・・」
ぎゅっと抱え込むと、一ツ橋は目を閉じた。
(昔は綾緒も・・・素直な良い娘だったんだけどな)
今でも素直と云えば素直なのだろう。
けれど、いつからか、『夜叉』が住み着いた。
生成り。
従妹は鶯の化け物になろうとしているのか。
「お兄ちゃん」
「ん?」
「人は人。物の怪は物の怪。相容れることはありません」
後輩は目を閉じたまま。
「わかっているさ、そんな事」
生成り。
まだ人であるのなら。
僕は綾緒を信じたかった。
見慣れた天井を見上げる。
目覚めて見た時の『白』ではない。
「なあ朝歌。僕はどうすれば良いのかな」
「お兄ちゃんの好きにすれば良いでしょう。唯、相手が人で無いなら答えは一つです」
「それは?」
一ツ橋は目を開けない。
何事も無いように。
唯、ポツリとこう云った。
「幽明界を異にする」
563ほトトギす ◆UHh3YBA8aM :2007/11/30(金) 04:50:38 ID:+LDdIc8s

織倉由良に連絡を取ったのは一ツ橋が帰ってからすぐのことだ。
余程心配していたのだろう。
怒られたり、近況を聞かれたり、近況を話されたり、たっぷり3時間は捕まった。
流石に一から十まで話せない。
綾緒や血のことは伏せて誤魔化した。
曖昧な説明では納得しなかったのだろう。
先輩の機嫌は良くはなかったが、“朝一番で部室に来ること”を条件に許された。
それで翌朝。
僕は部室の前にいる。
『まったり仲良く』が伝統の茶道部は朝に人が集まることは無い。
だから今僕の目の前にある扉の向こうには、件の人物しか居ないはず。
運動系の部活動加入者が漸く登校を始める時間。
学校自体が眠りから覚める途上。
そんな『時』に、僕はコツコツと扉を叩いた。
「日ノ本くん?入って良いわよ」
返って来たのは、よく知った声。
織倉先輩のそれ。
矢張り先に来ていたようだ。
失礼しますと扉を開ける。
織倉由良は、僕に背を向けて正座していた。
「先輩、おはようございます」
「うん。おはよう。扉、閉めてもらえる?」
振り向かないまま先輩は答える。
入室したときに遮蔽は済んでいるので、鍵を掛けろと云う事なのだろう。
施錠をし、靴を脱いで畳に上がる。
そこで、漸く先輩は振り返り立ち上がった。
「日ノ本くん、遅いわよ。張子房を見習わないと」
「夜中から潜んでいろと?いくらなんでも無茶すぎです」
僕は苦笑する。
苦笑して――動きが止まった。
「私、日ノ本くんに話があったんだ」
織倉由良は笑顔。
破顔したまま僕を見つめていた。
だけど僕は笑うことが出来なかった。
何故なら。
何故なら織倉由良の手に目を奪われたから。
にこやかに笑う先輩の手には。
銀色に光る金属が、しっかりと握られていた――
564無形 ◆UHh3YBA8aM :2007/11/30(金) 04:56:13 ID:+LDdIc8s

投下ここまでです。
多分、このスレへの投下は今年最後になると思います。
次回投下は1月を予定しておりますので、気長にお待ちいただければ幸いです。
では、かなーりはやいですが・・・

皆様、良いお年を!

私信
前回投下時、連投規制の情報を御教示下さったID:8BjkX/XD様。
この場を借りて御礼申し上げます。
565名無しさん@ピンキー:2007/11/30(金) 04:58:32 ID:cxKy5XI4
一日千秋でまってたGJ
よいお年を
566名無しさん@ピンキー:2007/11/30(金) 06:01:27 ID:OCjQ9l0K
>>564
GJ!!!!
全裸で待った甲斐があったぜ!!
次を楽しみに待ってるよ!!
ただニットと靴下だけは着るのを許してくれ…。
南国に住んでても流石に最近は寒いんだ。
567名無しさん@ピンキー:2007/11/30(金) 07:20:19 ID:RLQZrmDF
ゆるさ〜ん。



全裸をなんと心得るか!
ニットなど邪道!!
シルクハットまたは付け髭以外は許可できるわけなかろう。


まったく最近の学校は何を教えているのかね。
568名無しさん@ピンキー:2007/11/30(金) 07:25:04 ID:RLQZrmDF
蝶ネクタイなら許してやらんでも無いがな。
569名無しさん@ピンキー:2007/11/30(金) 07:36:42 ID:s3h6M2MH
一ツ橋かわいいよかわいいよ!ヤンデレスレ最萌だよ

そして叔父さんかっこいい
かっこいいんだけど死相が見えそうなのはなんでだぜ?
570名無しさん@ピンキー:2007/11/30(金) 09:13:53 ID:WHu5CGg1
>>564
数ある作品の中で、一番待っていた、一番待っていたんだっ。
まだまだ読み足りないけれど、続きを涎を垂らしながら待っています。

しかし一ツ橋は本当にかわいいなぁ、メルトダウンしている他二人と
対照的な鉄面皮が実にいい。
571名無しさん@ピンキー:2007/11/30(金) 13:07:37 ID:1HqUoZco
>>564
ヒロイン3人とも可愛いw
でもこんな目にあっていたら、
日ノ本君精神崩壊してしまうんじゃないかと心配になってきた。
親父さんには死亡フラグたちまくりだし。

良いお年を〜
572名無しさん@ピンキー:2007/11/30(金) 21:38:16 ID:jXrYGrl+
>>566
つ全身タイツ
573名無しさん@ピンキー:2007/12/01(土) 00:08:21 ID:sudJrNAy
Godjob!
待ってた。しかし安心して読める文章だなあ。
574名無しさん@ピンキー:2007/12/01(土) 00:12:10 ID:29TyRMco
GJッス! もう主人公もヒロイン達もイイキャラしすぎwww

>>573
だが展開はハラハラの連続で心臓に悪い罠
575名無しさん@ピンキー:2007/12/01(土) 01:58:55 ID:916X6SK5
>>564
【審議中】

    ∧,,∧  ∧,,∧
 ∧ (´・ω・) (・ω・`) ∧∧ 
( ´・ω) U) ( つと ノ(ω・` )
| U (  ´・) (・`  ) と ノ
 u-u (l    ) (   ノu-u
     `u-u'. `u-u'






パッ   パッ   パッ    パッ   パッ    パッ
  [G]    [J]    [で]   [す]     [よ]     [!] 
  ‖∧∧  ‖∧∧ ‖∧,,∧ ‖∧,,∧ ‖∧∧  ‖,∧∧
  ∩・ω・`)∩・ω・`)∩・ω・`)∩・ω・`)∩・ω・`)∩・ω・`)
   (    ). (    ). (    ) (    ) (    ) (    )
   `u-u´  `u-u´   `u-u´  `u-u´  `u-u´  `u-u
576名無しさん@ピンキー:2007/12/01(土) 04:17:47 ID:8tD+031U
ttp://www.toranoana.jp/shop/kara/interview/kara_itw01.html
ますます用語の曲解がすすんでるなー
577名無しさん@ピンキー:2007/12/01(土) 04:58:01 ID:IMktG11g
>>564
GJォォォォォ!!
新年楽しみだわ

>>576
た、確かにorz
578名無しさん@ピンキー:2007/12/01(土) 05:31:13 ID:jLQFOAN3
なんか最近ヤンデレっていう言葉を知って自慢げに話す痛い子みたいなインタビューだな。
全然意味分かってないところが輪をかけて頭わるすぎるwww
579ヤンデレ家族と傍観者の兄 ◆KaE2HRhLms :2007/12/01(土) 06:34:29 ID:jRR78z+M
投下します。今回はパラレル編です。16レス使用します。
本筋とは無関係ではありませんが、読まなくても――むしろ、
ある男のイメージを変えないためには読まない方がいいかもしれません。

以下のNGワードがOKの方のみ、お読みください。

・夢オチ
・女体化
580ヤンデレ家族と傍観者の兄 ◆KaE2HRhLms :2007/12/01(土) 06:35:14 ID:jRR78z+M
*****

 弟と共に自宅の玄関前にたどり着いた。特に何も考えず、玄関のノブをひねる。
「うむ?」
 ノブを回した状態でドアを引いたのだが、固い手応えしか返ってこない。戸は開かなかった。
 何度繰り返しても同じだ。引く度に鉄製のロックが不満を漏らすように硬質の音を立てるだけ。
「中に誰も居ないみたいだな」
「おかしいね。今日は平日だから母さんが居るはずなのに」
「買い物にでも行ってるのかもな」
 いつものパターンで考えれば、母は六時を過ぎる頃には夕食を作っている。
 そのはずなのに、今日は中にいない。珍しいこともあるものだ。昼寝しすぎたのであろうか。

 しかし、予想は外れた。
 合鍵でドアを開け、鞄を自室の前に置いてからリビングのドアを開けると、テーブルの上に書き置きが残されていた。
 その内容は、『お父さんの上司のお宅に招かれたから、お母さんも行ってきます。夕ご飯は作ってあるので、
温めて食べて』というものであった。
 なるほど、上司のお宅に招かれたのであれば行かないわけにはゆかないものな。
 父の昇進を考えるなら、上司の印象を良くしておくのは必要な行動だ。テレビドラマではよくそう言う。
 母も、上司の誘いをないがしろにするのはよくないと考えたのだろう。
 よって、行きたくもない上司の家へ行き、妹でありながら妻として偽りの自己紹介をする気になった、と。

 家に帰ってくる前に母が出かけてくれていてよかった。
 もし出掛けの状態にある母に遭遇していたら、書き置きのメッセージ以上に長い愚痴をひとしきり聞かされていたはずだ。
 母は父と過ごせる時間を邪魔するものには何者であろうとも敵意を向ける。
 今日のように上司の家に招かれるなんて、母の悪癖を引き起こす典型的なものだ。
 しかし、今日ばかりは相手が悪い。
 相手が父の上司、おまけの戦力として父まで加わっている。これでは母も不機嫌にはなれまい。
 できるならば毎日大人しくしてほしい。息子として俺はそう思う。

 リビングから一旦引き上げ、自室へ向かう。
 制服を上下共にハンガーに掛け、シャツを足下に投げておく。
 シャツは風呂に入るとき、ついでに洗面所へ持って行くとしよう。
 部屋着に着替え終えたところで、ノックの音が飛び込んできた。
「兄さん、いる?」
 続いて聞こえてきたのは弟の声だった。
 返事をせずに、ドアを開けて弟と対面する。
「何だ? 晩飯なら俺の分はまだ温めなくていいぞ。風呂に入ってから食べるから」
「そうだろうと思った。僕がお風呂を洗っておいたよ」
「お? 気が利くな」
 珍しい。いつも風呂を洗っているのは妹だったから、稀なこともあるものだと思わざるをえない。
 おや――――そういえば。

「妹はどうしたんだ? いつもなら帰ってきてる時間だろ?」
 普段ならば、諸々の家事を終わらせた後で玄関の前で弟の帰りを待っているはずなのだが、それもなかったし。
「ああ、さっきメールが来てたよ。今日は文化祭の準備で遅くなるかもしれない、もしかしたら泊まりになるかも、だって」
「え、中学もこの時期文化祭だったっけ?」
「そうだよ。覚えてないの?」
 …………。思い出せん。覚えてない。忘れ去ってしまった。
 一年ちょっとでも別の環境に身を置くと忘れてしまうものなんだな。
 中学に通っていたときは世間の常識、たとえば大人でも知っていることだ、とか思ってたけど。
581ヤンデレ家族と傍観者の兄 ◆KaE2HRhLms :2007/12/01(土) 06:36:29 ID:jRR78z+M
「ま、そんなことはどうでもいい。遅くなるっていうんなら迎えに行ってやらないとな」
「え……なんで?」
「妹に一人で暗い夜道を歩かせるわけにはいかないだろ」
「あ、ああ。そうだね」
 弟の反応が優れない。どういうわけか、歯切れの悪い返事だった。
「迎えに行きたくないのか? 行きたくないっていうなら俺一人で行くからいいけど」
「いや、行きたくないわけじゃ、なくて……。ねえ、兄さん」
「おう」
「やっぱり、自分の妹は心配かな?」
 当たり前だ。これでも長男なんだから弟と妹の面倒を見る責任がある、と、普段なら言ってやるところだ。
 しかし、俺は口にしなかった。恥ずかしかったからではない。
 単純に、口にすることをためらってしまったのだ。弟の雰囲気が口を開くのを迷わせていた。
 何かを懇願しているような、切ない表情が弟の顔に浮かんでいた。

 俺は、返事の代わりに首を縦に振った。続け様に弟が問い質してくる。
「それはやっぱり、妹が女の子だから?」
 うむ、という台詞を飲み込んで頷きを返す。
「それじゃ、――――僕がもし、妹の立場だったとしたら? 兄さんはどうするの? 学校に迎えに来てくれる?」
 うむ……ん、んん?
 なんだこの質問。意図が掴めん。何が言いたいんだ、この弟は。
「お前のために、俺がわざわざ夜中に学校に行くか? と聞いているのか?」
「そうだよ。もちろん、兄さんのことだから――」
「男だろ。一人で帰ってこい」
 こればかりはきっぱりと断りを入れる。
 さっき弟と妹の面倒を見る責任が俺にはあると考えたが、それは致命的な過ちを犯さないか見守らなければならない
という種類のものである。具体例としては弟と妹が性的な意味で抱き合うのを阻止すること。
 よって、高校生のくせに夜中に迎えに来いという弟の願いは叶えない。

「そんな、兄さん……ずるいよ、妹ばっかり……」
「アホ。お前だってあいつの兄貴なんだぞ。兄が妹を羨ましがるな」
 この弟は、ちょっと甘え過ぎなのではないか?
 俺が世話を焼きすぎたせいなのかもしれない。
 ここは少しばかり、兄貴としての心構えを教えてやらねばなるまい。
「いいか。妹が居ないから言うけどな。兄貴ってのはなあ、ちっとはかっこつけなきゃいけないもんなんだ。
 虚勢でもいいから、気を張れ。いつでもそうしろ、とは言わない。妹を前にした時だけでいい。
 いつもより前向きに考えろ。たったそれだけでも違うもんだ。それが自然に出来るようになれ。
 いつのまにか、気負うことなく出来るようになるから」
 弟が伏目がちに見つめてくる。なんだその主人に褒められてもらえずに沈む犬のような目は。
 気持ち悪いからやめてくれ。
「わかったか?」
 弟は俺の目を見つめている。答えを返してこない。
「返事は?」
「……うん、わかったよ。兄さん」
582ヤンデレ家族と傍観者の兄 ◆KaE2HRhLms :2007/12/01(土) 06:38:26 ID:jRR78z+M

 弟に熱弁を振るった恥ずかしさと、弟の普段より元気のない様子からくる不気味さに気押されて、俺は脱衣所へやってきた。
 より正確に言えば逃げ込んだという感じである。
 まったく、今日の弟はどうしたというんだ?
 学校の保健室でのしおらしい態度といい、さっきの反応といい。
 あいつ、本当はどこか調子が悪いのか?
 体調不良だから気弱になっているのかもしれないな。
「ちょっときつく言い過ぎた、かな……?」
 ふー、と、肺にため込んでいた空気を、ため息にして鼻から吐き出す。
 仕方がない。妹から連絡が来たら、弟に留守番を任せて俺一人で迎えに行くとしよう。
 今日の弟を出歩かせたら、車はもちろんのこと自転車にまで跳ねられそうだ。
 妹は不満だろうが、少しばかり辛抱してもらうとしよう。

 脱衣所に備え付けのプラスチック製のタンスからバスタオルを取り出して、風呂場の出口、足ふきマットの近くに置く。
 寝間着兼部屋着のジャージを、上下ともに脱ぐ。こちらは洗濯かごには入れない。
 洗濯かごに入れるのは、肌着とパンツだけだ。
 肌着を脱ぎ、かごの中に投げ捨てるように入れる。
 ふと、忘れ物をしたことに気づいた。制服のシャツ、部屋の床に脱ぎ散らかしたままだった。
 弟から離れることばかり考えていて、そのことをすっかり失念していた。
 ここまで脱いでおいて、部屋に戻るのも面倒だな。着直さなきゃいけないし。
 でも、ちょっとでも頭に引っかかるものがあると入浴を存分に楽しめないのが俺の性格だ。
 今の時期の風呂というと、こう、疲れの代わりに暖かい熱が体に入り込んでいって、ぽかぽかになれるから好きなのだ。
 俺としては、憂いを一切無くした状態でゆっくり湯船に浸かりたい。
 一度戻るか。数分パンツ一丁でいても風邪はひかないだろう。

 冷たい廊下を歩く。室内用スリッパを履いていないのはめんどくさかったからであり、俺用のスリッパがないわけではない。
 いかんな。足下から冷え始めてきた。とっとと部屋に戻って、シャツを取ってこなくては。
 自室の前にたどりつき、ドアノブを回して扉を少し開けた、その時。
「は……っん、ぁ……どう、して……優しく、してくれないの……。優しくしてよぉ……」
 突然の艶めかしいエロ声を聞き、俺は固まった。反射的にドアを閉めることさえできなかった。
 なんだ、一体全体、俺の部屋で何事が起こっている?
 エロいDVDなんか借りてないし、ましてや再生してもいないぞ。だってDVDプレイヤーがないから。
 我が家でDVDビデオを再生できる機器は今のところ、リビングにあるビデオデッキと父のパソコンぐらい。
 だが俺の部屋はリビングではない。もちろん父の部屋でもない。父の部屋は隣だ。部屋を間違えているはずがない。
 この無害でありながらくらくらする匂いは愛用のエナメル塗料のそれだ。
 必然、俺がいる場所は自室の前ということになる。
 それなのに、それなのにどうして――女の声が聞こえてくるんだ?
「……のこと、ちゃんと、見て……お願いだから……」
 途切れつつ聞こえてくる声は、俺の居る位置からはいまいち聞き取りづらい。
 もっとはっきり聞いてみたかった。
 別にどきどきしているのが原因じゃないぞ。声から相手の正体を突き止めたいだけだ。
 言い訳をしつつ、音を立てないよう慎重にドアを開く。
 首を突っ込めるぐらい開いたドアから、諜報員になったつもりで覗き見る。
 しかして、人様の部屋で喘ぐ女の正体が判明した。

「にいさん……僕だって本当は、ほんとのこと、…………言いたい、のに」
「…………」
 とっさに感じたのは恐怖だった。俺は今までの人生で一番おぞましいものを目にしてしまった。
 開いた口はふさがらないまま、小刻みに痙攣を繰り返す。
 眼鏡でもかけていればエフェクトとしてずれるどころか、床に落としているような状態だ。
 だって、俺の部屋にある折りたたまれて重ねられた寝具の上に――お、おと、おとうと、弟が。
 制服で、乱れて、うつぶせに、くねくね。両手が見えない、たぶん体の前。何やってんだ、きさん(博多弁)。
「すー……はぁぁ、すぅー……はぁぁ、にいさんの、匂いがするぅ……」
 やめろ、それは俺の枕だ。お前の枕は別の部屋にあるだろう。人の物に顔を埋めるな。
 それはNASAの血のにじむような努力とスウェーデンの企業の努力とデンマークの工場が問題なく稼働している
おかげで存在している逸品なんだぞ。それを、そんなものを、そういうふうに扱うな。
 お前が、無礼にも無様にも、眠る以外の目的――自慰するために使っていいものじゃないんだ。
583ヤンデレ家族と傍観者の兄 ◆KaE2HRhLms :2007/12/01(土) 06:39:14 ID:jRR78z+M
 弟が体を少し浮かせた。そしてズボンの中から取り出したるは、くしゃくしゃになってしまった俺の制服のシャツ。
 弟は、あろうことかそれを顔に押しつけた。
「ふぅ……ぁ、あっ! ……これぇ、にいさんと、僕の匂いがするよ……」
 動け。動けよ、俺の口! 今動かなきゃどうにもならないんだ!
 やめろと言うだけでいいんだ。それだけで、こんな吐き気を伴う現状を回復できるんだから!
「はむ……んん、ぁう……ふうぅ……んん、ん」
 食うな。喰うな。シャツを食うな。
 シャツがほとんど口の中に入ってるぞ。そんなことしたら喉につまるだろ。息できないだろ。
 それは食べるものじゃないんだよ。食べるものはキッチンにあるから。
 なんならレンジでチンして持ってきてあげるから。
 だからもうやめてくれ。汚い。金輪際着られない。ナイフで脅されても着たくない。
 あー、ほら。そんなことしてるからむせたじゃないか。馬鹿なことするからそんなことになるんだぞ。
 懲りずにまた口に含むなよ。汚いから。俺の汗とか匂いが染みついている時点で汚いんだから。
 お前の唾液と汗まで混ざったら洗濯もできなくなるじゃないか。
 動くな、止まれ、フリーズ、ストップ。どれでもいいから聞いてくれよ。
「……欲しい。にいさんの――――が、欲しいよ。僕の、ここに……」
 これは悪夢か? じゃあ覚めろ。可及的速やかに覚めろ。
 レム睡眠とかどうでもいい。忘れていい。こんな夢見たくない。鳥肌がういてくる。鶏になってしまう。
「にいさん、――――にいさん。僕はにいさんのこと――」
 やめろ。俺の名前を呼び、あまつさえ何を言うつもりだ。
 僕は……? 俺のことを……? こいつ、まさか!
 やめろ――――――!
「にいさんのことが、…………だい好き、です」

 寒い。家の中にいるのに寒い。
 十一月でこんなに冷えるんなら、来月はどれぐらいの冷え込みになるんだろう。
 早く服を着ないと風邪をひいてしまう。パンツ一枚ではとうてい寒さはしのげない。
 明日は楽しい楽しい文化祭の準備なんだから、風邪をひいて潰すわけにはいかない。
 あ、駄目だ。くしゃみが……鼻をつまんで止め…………いや、間に合わない。

 爆発。
 鼻の奥から湧き起こった衝動が脳へと走り、指令を受け取った然るべき器官が応答した。
 止めようがなかった。目の前の光景に釘付けになっていた時間がどれほどか覚えていないが、俺にくしゃみをさせる
程度には長かったようである。
 くしゃみというものは仕組みからして、吸い込んだ息を一斉に吐き出すもの。
 したがって、どうしても音を吐き出してしまう。
 弟の絶対に目にしたくない痴態を隠れながら見ていた俺にとって、やってはいけない行動の最たるものであった。

「――っ! にい……さん!」
 弟は紅潮した顔で俺を見上げていた。
 布団の上に落ちたシャツと口元を繋ぐ透明な糸が、蛍光灯が放つ光を反射している。
「とうとう……見ちゃったんだ。兄さん。ずっと隠してきた、僕の秘密を」
 見ていない。俺は何も見ていない。現実逃避しているわけじゃない。これは絶対的に現実じゃないんだ。
 だって、弟がそっち系の人間のはずがない。弟はそっち系であってはならない。
 こいつだけはまともでいなければならない。俺が、まともなままでいさせなければならない。
「じゃあ、仕方ないよね。……見られちゃったんなら、もう隠す必要もないし」
「いや、ぜひとも隠してくれ。誰にも言わないから。担任にもお前を慕う女の子たちにも、一言も漏らさない」
「信じられないよ、そんなの」
「後生だから、信じてくれ。さっきは悪かった。この通りだ」
 腰から四十五度に傾ける。さらに両手まで合掌させる。
「僕は謝って欲しいわけじゃないよ。欲しいものは、別のもの」
「……金か? 例の全身完全稼働モデルのフィギュアか? カツ丼なんかどうだ? カツ丼、好きだろ?」
「うん、好きだよ」
「だったら、それで何とか手を打って――」
「でも、もっと、もっともっと好きなものがあるんだ。それはね――――兄さん自身」
584ヤンデレ家族と傍観者の兄 ◆KaE2HRhLms :2007/12/01(土) 06:40:17 ID:jRR78z+M
 弟が身をかがめた。そして音もなく、跳ねた。真上ではなく、部屋の入り口にいる俺へ向けて。
 逃げるという選択肢をようやく思い浮かべたのは、弟に両腕を掴まれて笑みを向けられてからであった。
「兄さん、捕まえたよ」
「うぅ……」
「これでもう、逃げられないね。じゃあ――早速」
 言い終わると同時に、俺は足払いをかけられた。
 突然宙に浮いた俺にとって確かな感覚は弟に掴まれた腕だけ。
 なすすべもなく尻餅をついた。弟に腕を掴まれていたため、衝撃は軽い。
 がちゃり、という音が頭上から聞こえた。弟の手によって部屋に鍵をかけられた音だった。
「これなら、もう邪魔は入らないよ。それじゃ改めて……」
 改めるな。いや、己の行動を悔い改めろ。
「兄さん。やっと……こうすることが出来た。ずっと、こうしたかったんだ、僕」
 床に仰向けに倒れた俺の上に、弟が乗った。両腕を首に回して、耳をくっつけてくる。
「弟、お前……そういう種類の人間だったのか」
「そういう? ってどういう意味なの? 僕がこうやって抱きついちゃ、いけない?」
「あったりまえだろうが! まさか、お前が同性愛者だったなんて……」
 ちっとも気づけなかった。同じ家に住んで、同じ釜の飯を食って、同じ学校に通っているのに。

「同性? ……ああ、そういうことなんだ。やっぱり忘れてる。兄さんは頭の回転は速いのに。
 記憶力だってすごいのに。大事なことだけは忘れちゃうんだね」
「お前、いい加減にしておけよ。俺を馬鹿にしたのもとんでもないことだが、こんな馬鹿げたことするのはそれ以上だ。
 今やめるんなら、笑って済ませてやるぞ」
「それは無理だよ。僕、もう……火が付いちゃってるから。すぐに兄さんも、熱くさせてあげるよ。
 うん、だから、ちょっとだけ、ごめんね?」
 両腕を頭の上に持ち上げられた。弟は手近にあったヘッドホンのコードを手にとると、それを巻き付けようとしてくる。
 もちろん俺は抵抗する。縛られでもしたら、おしまいだ。俺も、弟も。
「大人しくしてよ。痛くしないから……」
「やめろ! こんなのは間違ってる!」
「ああん、もう……しょうがないなあ」
 弟は腕を支えにして、逆立ちするように自分の体を高く上げた。
 高い位置にあった弟の両膝は重力に引かれて落下。真下にいる俺の腹を直撃した。
 体に詰まったものを吹き出しそうなほどの痛みに悶える。
 その間に、無防備になった俺の両手首にコードが巻き付けられた。
 それだけでは足りないとでも思ったのか、弟はガムテープを用いて机の脚と俺の腕をびっちりと固定した。
 俺の体を防護しているのはトランクスのみ。頭部、胴体、腕の裏は弟にさらけだしている格好だ。

「痛い? ……よね。ごめん。けど、こうでもしないと兄さんは大人しくしてくれないだろうから」
「ぅぐ……謝る、ぐらぃ……なら、やるんじゃ、ねえよ……」
「……ごめん。でも、その代わりにたくさん気持ちよくさせてあげるから」
 右の腿を挟まれる感触。おそらく弟が両膝で挟んでいるのだろう。
 素足に擦りつけられる制服の感触は、俺が普段着ているものとほぼ同じ。
 決定的に違うのは、いかんともし難い生理的な嫌悪感を覚えること。
「ん……ぁ、あんっ……はぁ、はっ……! あ、ふぁ……」
 股を、腿に擦り続けられる。挟む力が強すぎて、皮膚が焼けそうになる。
 弟は荒い呼吸を吐いている。頬は真っ赤で、引き結んだ唇と合わさって羞恥に耐えているようにも見える。
585ヤンデレ家族と傍観者の兄 ◆KaE2HRhLms :2007/12/01(土) 06:41:05 ID:jRR78z+M
 内臓を冒す痛覚に苛まれながら腿の熱さに耐えていると、弟の動きが少しずつ落ち着き始め、ついには止まった。
「はっ、は、……はぁ、ぁぁぁ……。すごいよ。やっぱり本物は違う。知ってる、兄さん。
 僕、しょっちゅうこうやって兄さんの部屋で自分を慰めてるんだよ。兄さんに乱暴に犯されることを考えながら」
「気持ち悪いこと、言うんじゃねえよ。変態」
「……そうだね。実の兄に、そんなことされるのを望むなんて、変態だ。でも、僕はその考えを止められない。
 夜になると兄さんが欲しい、兄さんが欲しい、って言うんだ。……ここが」
 弟は右手で自身の股間を押さえた。そこに何があるかなど、考えるまでもない。
 弟から顔を背ける。気分が悪くて――悪すぎて、弟を直視できない。
「ふふ……兄さんが何を考えているか、手に取るようにわかるよ。僕のモノなんか見たくない、って感じでしょ?」
 わかってんじゃねえか。
「でも、ね。それは外れだよ。そもそも兄さんは根本的なところから考え方が間違っている。
 僕に対する認識が、最初からずれてる。一番大事なことに焦点を合わせていない」
「俺よりひとつ年下。男。恋人無し。特撮ヒーロー番組は欠かさず見る。同性愛者。
 ……どれかひとつでも外れているか?」
「うん、二つも間違っている。僕という存在を根本から見誤っている。ちゃんと見てくれないからそうなるんだよ。
 僕から言わせれば、兄失格、だね」
 俺が兄失格なら、お前はさしずめ人間失格――とまではいかなくても、まず弟失格だ。
 こんなこと、男どうしで、ましてや兄弟同士でやるものじゃない。 
 根っこを植える場所を間違ったのはお前の方だ、弟。

 体にかかる重みが減った。衣擦れの音が聞こえる。
 視界の隅に映るものから推測するに、弟が制服を脱いでいるようだった。
 顔の前に衣服が落ちる。黒いスラックス、シャツ、肌着。弟は今頃パンツだけしか身につけていないはずだ。
 腹の上に弟の腰が落ちた。――やる気か、くそったれ。
「さあ、兄さん。僕を見て」
「断る」
 絶対に見ない。目を固く閉じ、首まわりの筋肉を硬直させる。
 弟が首の方向を変えさせようとしてくる。俺は断固抵抗する。
「もう。仕方ないなあ。兄さん、これでもそうしていられるかな?」
 首を抱かれた。続いて胸を密着させられた。この時点で、些細な違和感を覚えた。
 胸の辺りに、柔らかい感覚がある。服やクッションなどの感触とは違うもの。肉の柔らかさだ。
 疑問が晴れないうちに、胸から下へ向けて少しずつ体を重ねられていく。最終的に、腰を弟の足で挟まれた。
 そして気づく。俺のへその下あたりに乗った弟の股に、何もついていないということを。

 どういうことだ? 男であればついているはずのアレがない。
 横に行ったとか、後ろに行ったとかいう感じはしない。
 中に引っ込んでいる可能性もなきにしもあらずだが、それにしたってここまでまっさら、ということはないだろう。
 つまり、弟にはついていなかった。男の象徴、もしくは息子と呼ばれる体のいち器官が。
「お……」
 お前、どういうことだよこれは、と言いたかった。でも声が出ない。喉が震えない。
 混乱でつい、正面を向いてしまった。
 そこで目にしたのは、上体を起こした弟の上気した顔と――わずかに膨らみを見せる胸。
 どのような鍛え方をしようとも、こんなに柔らかそうに胸が盛り上がったりはしない。
 弟の細身の体にちょうどマッチするような大きさのそれの上には、突起したピンク色の乳首がある。
 そして、視線を下へと移動させると、どんな角度から見ても男物に見えない、フリルで縁を形取った
白のショーツが見えた。履いているのはもちろん弟である。
586ヤンデレ家族と傍観者の兄 ◆KaE2HRhLms :2007/12/01(土) 06:41:47 ID:jRR78z+M
「わかった、兄さん? 僕が、女だってことが」
 弟が――今まで弟だと思っていた奴が、女だということは確認した。
 ここまではっきりとした証拠を見せられては、否定しようもない。
 だけど、それが事実だとは認めたくなかった。
「おま……えは、男のはずだろ?」
「女だよ。お、ん、な。僕は弟じゃなくて、妹。兄さんから数えていっこ下の、妹」
「そんな……嘘だろ。だって、妹はお前が好きで」
「ああ、それ」
 弟がくすり、と笑った。
「妹は女の子だけど、女の子が好きみたいだよ。男なんか興味がないんだって。
 だから兄さんには興味がないみたい。よかったよ、妹と兄さんの取り合いなんかしたくないから」
「ふ……風呂。風呂はお前ら一緒に入ってるだろ」
「うん。妹がいろいろ触ってくるからあんまり好きじゃないんだけど。
 ちょっと悔しいのは、妹の方が僕より胸がおっきいことだね」
 知りたくもない情報は教えなくていい。
 どうなってやがる。いったいいつから弟は弟になった? 妹から弟になった?

「僕が男の格好をするようになったのは、小学三年生のころから。そのころは当然兄さんは四年生だよね。
 あの頃ってどういうわけか男の子が女の子と一緒にいるのを避けようとするでしょう? 友達にからかわれるから。
 もちろん兄さんも例外じゃなかった。僕が兄さんと一緒にいたら、兄さん、逃げるんだもん。
 そこで、僕は考えたんだ。男の子になれば、兄さんは遊んでくれるはずだって」
「なんだよ、その短絡的思考は」
「あの頃はそれが一番のアイデアだと思ったんだもん」
 もん、とか言うな。女の子みたいだからやめろ。
 お前は確かに女だが、俺にとっちゃ弟のままなんだよ。いや……確かに、体は女だけどさ。
「……男の格好をしたお前を見て、当時の俺はどうしたんだ」
「驚いてはいたよね。だけど、前みたいに露骨に避けるようなことはなくなった。
 そうやって過ごしていくうちに、兄さんは僕が女だってことを忘れていった。
 プールに行ったときには、男子更衣室に連れて行こうとまでしたんだよ。覚えてる?」
 覚えてない。が、ついさっきまで弟を男扱いしていた。
 俺は以前からそうしていたはず。つまり弟の言うとおりなんだろう。
 俺、昔はとんでもなく馬鹿だったんだなあ……。妹が弟になったらさすがに怪しむだろ。大雑把すぎだ。

「ま、そんなわけで引っ込みがつかなくなった僕としては、弟のままでいることにしたわけ。
 ……でもね、辛かったんだよ。兄さんに男として扱われるの。男だからって理由で、厳しくされるから。
 今日だってそう。保健室で冷たくあしらわれた時は泣きそうになったよ。
 さっきは兄貴の在り方、みたいなことを説かれたし」
「いや、でも……役には立っただろ?」
「ううん。全然。だって僕、兄さんの妹だから。兄さんだけのモノだから、知る必要のないことだよ」
「自分で自分をモノ扱いするな。それに、俺はお前なんか欲しくない」
 たちまちのうちに、弟の顔が悲しみに歪む。
「ひどいよ……どうして、そんなこと言うの。僕、なんでもするよ。兄さんのためだったら、何にも怖くない。
 兄さんが僕のそばに居てくれるんなら、どんな危険だってくぐり抜けてみせる」
「んなもん迷惑だ、って言ってるんだよ」
「僕が妹だから嫌なの? 妹とは付き合えないから? 父さんや母さんみたいになりたくないから?」
「それ以前の問題だ。妹なんて、恋愛対象にはならないんだよ。絶対に」
「そんなの、嫌だよ。僕、兄さんじゃなきゃ。兄さん以外の男の人なんか、絶対に好きになれない」
「そういうのな、錯覚っていうんだよ」
 目の前にいるこいつは、弟だ。たとえ性別が女であっても、俺にとっては弟そのものなんだ。
 だから、俺に好意を抱かせないように、説得しなければならない。
 同級生から慕われる人物に育った弟に対して、俺がしてやれるのはこんなことだけだ。
587ヤンデレ家族と傍観者の兄 ◆KaE2HRhLms :2007/12/01(土) 06:42:34 ID:jRR78z+M
「お前は男という存在を、俺一人だけだと思ってる。俺以外の男を見ようとしていないのがそもそもの間違いだ。
 面倒見がいいとか、勉強を教えてくれるとか、優しいだとか厳しいだとか、まともな男なら持っているものなんだ。
 そして、まともな男は探せばちゃんといる。どんな場所にでもいるとは言わない。けど、駄目な奴や悪い奴が
 いるように、まともな奴だって絶対に存在している。
 そういう奴のことを深く知れば、俺のことなんかすぐに小さく見えてくる」
「兄さんは小さい男じゃないよ。そりゃ、一番大事なことを忘れたりはするけど」
「ほれ。大事なことを忘れている兄貴、ってだけでアウトだ。デリカシーなんかあったもんじゃない。
 俺みたいな奴のことを、駄目な男って言うんだ――」
「黙って!」
 眼前で弟が叫んだ。脳全体が震える。耳の中で声が響く。
「それ以上言わないで! 兄さんが自分のことを自分で悪く言っていると、僕まで悲しくなる!
 兄さんを好きになった僕のことまで、駄目な奴って言うつもりなの?!」
「人を好きなるのは悪い事じゃない。俺だって兄貴として慕われているんなら嬉しく思う。
 だけど、お前の場合は、そういうものとは種類が違うんだろ?」
「うん。僕は兄さんが欲しい。兄さんに全てを奪って欲しい。兄さんのこと、愛してるんだ」
 愛している、か。
 そんな台詞を言われたこと、前にもあったな。
 ――そうだ。俺は、他でもない葉月さんに好きと言われているんだった。

「俺も、お前のことは好きだけど」
「好きだけど、……なに?」
「異性としては好きになれそうもない。この状況を元にして想像してみろ。押し倒されているのがお前で、
 上に乗っかっているのが妹――末っ子の妹だとして、お前はどんな気持ちになる?」
「……早く逃げたい」
「それと同じだ。俺は今、お前に押し倒されても嬉しくない。襲いかかってきた人間と同じ気分になんてなれない。
 つまり、俺のはそういうタイプの好意だってことだ」
 相手のことが好きだけど、欲しくない。抱き寄せて抱きしめて、ひとつになりたいと思わない。
 家族や兄弟とは、そういう関係にある時点ですでにひとつになっていることと同じ。
 そう考える俺にとって、これ以上深い関係になることは、心と体を重くさせるだけの結果しかもたらさない。
 簡単に言ってしまえば、一緒に暮らしているんだからそれで十分だろ、という感じだ。

 俺の言葉にショックを受けたのか、いや、受けたんだろう、弟は首を振っていた。
 認めたくない、とでも言うように。
「僕のどこが駄目なの? 言ってよ。どこでも直すから。口調も、女の子らしく戻しても構わないし」
「そういうんじゃない。お前自身の容姿や行動に原因があるんじゃなくて、生まれた時から駄目なんだよ。
 同じ家族の一員という時点で、深いところで繋がっているんだ。兄妹ってのは、そういうふうにできてるんだよ」
「じゃあ……家族じゃなければいいの? 家族以外の他人なら、誰でもいいってこと?」
「誤解を招く言い方だが、おおむねそんな感じだ。もちろん誰でもいいって訳じゃないけど」
「――葉月先輩」
 弟が、ぽつりと声を漏らした。
「葉月先輩なら、兄さんはいいの?」
「……ああ。理想的だな。ベストな選択肢だ。男としては、葉月さん以外の選択肢を選びたくない」
「つまり、それは葉月先輩がのしかかってきたら流されるままに抱くっていうことだね」
「そんなの当たり前だろう」
 俺は、据え膳食わぬは男の恥、という言葉が嫌いだ。来るもの拒まず、という姿勢が好かん。
 だが、葉月さんは据え膳ではない。彼女の味を知ってしまったらそれ以外が劣って見えてしまう、
相手をする気も失せてしまう、というタイプの中毒性の薬物だ。
 もちろん味わったことなんかないけど、葉月さんはそれぐらい言っても大げさではない、素晴らしい女性だ。
588ヤンデレ家族と傍観者の兄 ◆KaE2HRhLms :2007/12/01(土) 06:43:48 ID:jRR78z+M
「……ふっ、あは、はははっ……ははははは! 兄さん、嘘はいけないよ」
「何だと? 嘘なんか吐いていないぞ」
「また、嘘の言葉を言った。知っているんだよ、僕は」
 弟はポーカーでジョーカーを使用するときのように微笑むと、悠々と口を開く。

「兄さんが、本当は葉月先輩を好きじゃないってことを、さ」

 言葉を聞いて、カチンと来た。知ったような口を利く弟に対して、怒りが沸いてきた。
「あれ? 怖い顔だね、兄さん。もしかして図星だったりした?」
「お前のその態度がむかつくんだよ。挑発なんかしてきて、そこまでしても俺を怒らせたいのか?」
「ふうん。……その怒りは、何に因るものなの? 単純に、僕の態度に対して起こっているだけ、じゃないの?
 ――葉月先輩に対する想いを侮辱されたのが原因、ではないんでしょ?」
「ふざけんな! お前に何がわかるってんだよ!」
「なんでもわかるんだよ、僕には。さっき兄さんが自分で言っていたでしょう? 僕と兄さんは繋がっているって。
 今日、葉月先輩と話しているときの兄さんを見て確信したよ。兄さんは葉月先輩の外面しか見ていない。
 綺麗な黒髪や造りのいい顔立ちや女性として理想的に育った体に欲情して、それが恋だ、愛だと勘違いしてる。
 葉月先輩の心のうちや、考えてること、知ろうとしていない。理解しようとしていない。そうでしょう?」
「うるっ……さい。黙ってろ!」

 腹が立つ。とにかく腹が立つ。
 ここまで怒りに我を忘れそうになったのは、いつ以来だろうか。
 覚えていない。こんなやり場のない怒りは初めてだ。
 もしも俺の腕が自由だったら――俺は弟の顔面ではなく、自分のこめかみを殴りつけただろう。
 どうしてそうしたいのかは、わからない。ただ殴るべきは俺自身だった。そのことが直感でわかる。
 忘れろよ。弟はあてずっぽうに言っているだけなんだから。
 俺は、葉月さんのことが好き。何度心の中で繰り返しても、その気持ちは変らない。

「ねえ、兄さん」
 喋るな。今の俺は耳をふさげないんだからお前の戯れ言を断てないんだ。
「僕は兄さんのことが好き。この言葉を、僕は兄さんに向けて言える。自分に言い聞かせるために口にしたりしない。
 だって、もったいないもん。相当昔から心に刻んでいるから、自分に言ったって今更なんだ。
 いつどんなときだって兄さんのことが好きってことなんだよ。僕の言ってること、わかるよね?」
「わかるかよ。そんなこと聞かされたって、俺は」
「つまりね、兄さんは自分に向けて、葉月さんが好きだって言い聞かせているんだよ。自分を納得させるために。
 そしてそれは、まだ本当の意味で好きになっていないってことだよ、って僕は言いたいんだ」
「…………」 

 弟の、俺の感情に対する洞察は、実に鋭かった。
 弟の言葉に流されてしまいそうなほど、心に思い当たることがあった。
 葉月さんが告白してきたとき、彼女が俺にどんな想いを抱いているか、どんな種類の想いなのか考えようともせず、
昔経験した出来事と照らし合わせて葉月さんを振った。
 あの時は、屋上にたどり着く前から、相手が誰であっても振るつもりでいた。
 それから色々と、痛みを覚えるようなことをして、ようやく葉月さんの本当の想いを知った。
 だけど知っただけで、俺が想いに応えようとしていたかというと、否だった。
 俺は、葉月さんが俺にアプローチしてくるみたいに積極的になっていない。
 ただ俺は、葉月さんに好意を向けられていることに浮かれているだけだったのだ。
 本当に葉月さんのことを好きだったら――屋上での告白だって、真実だと思って疑わなかったはずだ。

「兄さんが女の人から告白されるのを嫌っているのは知ってたよ。
 中学時代に兄さんを振って、僕に告白してきたあの女の子が、兄さんにトラウマを植え付けたんだもんね。
 それを知っていたから、葉月先輩が兄さんのことを聞いてきたときだって、怒りを抑えられた。
 告白は失敗に終わるだろう、って確信があったから。
 その後、葉月先輩が家に来て妹と兄さんを投げたとき、僕は喜んだ。これで、兄さんは葉月先輩を嫌うだろうと思って。
 けど、そうはならなかった。兄さんは葉月先輩を許してしまった。葉月先輩は、毎朝家に来るほど積極的になった」
589ヤンデレ家族と傍観者の兄 ◆KaE2HRhLms :2007/12/01(土) 06:45:08 ID:jRR78z+M
 弟は俺の頭を横から挟むように、両手をついた。その体勢のまま、口を開く。
「あそこで、兄さんが僕を助けてくれたのは嬉しかったけど、ああならなかったほうがよかった。
 兄さんと葉月先輩がもっと仲良くなってしまうなんて。
 葉月先輩に、嘘を言っておけば――兄さんには彼女がいるんだって伝えていれば、こんなことにはならなかったのに」
 そういえば、葉月さんは俺に内緒で、弟に俺のことを聞いていたんだったな。
 もし、弟が嘘をついていたら葉月さんはどうしただろう。
 屋上で告白する決心をつけられなかったか、それさえ無視して告白したか。
 いや、葉月さんだったらそれでも告白していたかもしれない。あの人の積極的な性格なら、きっと。
 たぶん、俺だったら好きな人に彼氏がいたら断念するだろう。

 ――なるほど、この違いか。
 上手くいかないとわかっていて、告白しない俺と、告白する葉月さん。
 相手のことを本気で好きかどうか。
 俺は、葉月さんの純粋な強い想いに対して、本気で応えていない。
 本当に葉月さんに恋していて、欲しいと思っているなら、今みたいに中途半端な関係を続けているわけがない。
 まったくもって、弟の言うとおりだ。後輩の女子生徒たちの視線が語る思いは外れていない。
 真剣な想いをはぐらかし続ける俺は、誠実さという点で、葉月さんと釣り合いがとれていない。
 もちろん、その他諸々もだけど。

 弟は俺と目を合わせたまま、引き結んだ視線のラインをずらすことなく顔を近づけてきた。
 視界一杯に、泣く一歩手前の弟の紅潮した顔が広がった。
「もう、あんな失敗は犯さない。いつ兄さんを奪われるかわからない不安に苛まれるなんて、もう嫌だ。
 兄さん。僕は我慢するのを、やめるから」
 弟のまぶたが微妙に、しかしはっきりと閉じていく。同時に、その顔がだんだん近づいてくる。
 逃げようにも、頭は左右から動きを抑えられている。仰向けに倒れた状態では首を反ることもできない。
 必然の結果として、俺と弟は唇を重ねた。
 最初に感じたのは、弟の唇のふにっとした柔らかさだった。
 唇同士が重なり合うことで、相手の体に宿る熱を感じさせられる。
 弟は一度唇を離し、また口づける。俺の上唇、下唇を啄むように自身の唇で甘噛みする。
「んん、ん……ふ……ん、はぁ、ぅん……兄さんと、キス……兄さんの唇……」
 柔らかい、と弟が言った。俺も、不覚にもそう思っていた。
 俺の記憶には、今まで誰かとキスをし合ったというものがない。
 つまり、俺は弟によって人生で初めての唇を奪われたのだ。
 相手は女ではあるが弟。キスの相手が女であるというのは変じゃない。
 妹とするのが初めてというのは、兄妹の仲によっては起こりうるかもしれないがやはりおかしい。
 しかも俺の場合、弟的存在の妹である弟が相手だ。
 道理に反している。兄妹の仲が破綻している。恋愛のキスなんて家族とやるものじゃない。

 体の上で切なげに身をよじりながら、弟は唇をむさぼり続ける。
 ついには、舌までが上下の唇の間を割って入り込んできた。
 気づいたときには遅かった。歯を食いしばる反応をする前に、弟の舌は俺の舌に絡みついていた。
 荒い吐息と、唇が離れたときに漏れる水音と、口腔を舐めとられる音を聴覚と触覚が拾う。
 俺の頭は、弟の唇で床に強く押しつけられていた。
 逃れようにも、弟の舌は目隠しをした獲物を弄ぶかのように俺の舌を捉えるばかり。
590ヤンデレ家族と傍観者の兄 ◆KaE2HRhLms :2007/12/01(土) 06:46:16 ID:jRR78z+M
 舌を動かすことに集中していた俺の背中に、弟の左手が回った。
 背中から強く押され、弟の体とより密着する。胸の上に不快でない違和感。
 それは、人のものにしては奇妙なまでに弾力があった。
 この目にしたときに覚えた慎ましさからは想像できないほどの、極上の感触を味わわされた。
 その刺激に、股間が反応する。むくむくと欲望がもたげてくる。
 女を知らない俺にとって、弟の持つ女性の体は、未知のものだった。
 自分の体とは全然違う。この柔らかさはまったくの異質なものだ。

 下腹部に冷たい手の感触があらわれた。だんだん足の方へ下っていくもどかしさに肌が粟立つ。
 自然と、弟の手は唯一身につけていた下着へとたどり着いた。
 唇をむさぼっていた弟の動きが止まる。代わりに手探りで下着をずらされていく。
 固くなり出した性器がむき出しになったところで、冷たくて小さい指先の感触に撫でられる。
 弟の顔が離れる。ただし、すぐにでもキスできそうな間を空けて。
「あ……本当に、熱くなるんだ。僕のキスとおっぱいで、兄さんが興奮してくれた……」
「……もう、やめろ。こんなことしたって、なんにもならない」
「意味はあるよ。もちろん。兄さんが興奮したら、その分僕だけを見てくれるようになるから。
 最中だけは他の女の人を忘れてくれるでしょう? それは、男扱いされてきた僕にとって一番嬉しいことなんだ。
 女として見られてこなかった反動だよ。……兄さんには、責任をとってもらわなきゃ」

 弟の指が、一物を根本から先端へとなで上げていく。
 先へ行くにしたがって切なくなり、物足りなくなる。
 端へ着いたところで最も気持ちよくなる――が、そこで指が離れて、不満を覚える。
 弟は俺を焦らしていた。指の動きに合わせて小さな反応を返す俺の体の上で、満足げに微笑んでいた。
「気持ちいい? 気持ちいいよね。ほら、さっきよりも固くなって、大きくなってるもん、ね。
 それに、暖かいよ。ここから、兄さんの子種がいっぱい出てくるんだね」
「いい加減にどけよ……重いんだよ、お前の体は」
 俺にはこれが今できる最大の暴言だった。言葉が見つからない。
 案の定、弟は止めるはずもなく、とうとう俺のものを手で包み込んだ。
 身をゆだねてしまいたくなる快感を、痛みの残る腹と肛門に力を入れて抑え込む。
 ここで達するわけにはいかない。一度でも達してしまったら、そこから終わっていってしまう。
 兄としてのプライドも、弟のリミッターも。そんなことぐらい、経験がなくたってわかる。

 弟にも経験がなかったのか、幸いにも擦りあげる動きは稚拙そのものだった。
 強めの力加減、手を触れさせる箇所、ゆっくりな上下の運動。頭は冷静さを取り戻し始めていた。
 弟の顔色に疑いの色があらわれた。
「さっきより、柔らかくなってる……? なんで?」
「そんなやり方で、俺を達せさせるなんてできるわけがないだろ」
「じゃあ、いいよ。やり方を変えるまでだから」
 そう言うと、急に手の動きを止めた。
 代わりに、体を浮かせて体位を入れ替えた。
 頭は俺の下半身へ。下半身は俺の頭部へ。
「お前、何を……? まさか……」
「ふふふ、ふふ。兄さんの、だ……。僕の兄さんの、兄さんのもの……」
591ヤンデレ家族と傍観者の兄 ◆KaE2HRhLms :2007/12/01(土) 06:47:06 ID:jRR78z+M
 先を、舐めあげられた。
 続けて鈴口を割り、舌が尿道の入り口から入ろうとする。
 見ていなくても、弟が肉棒を舐めているのがわかる。
 ペニス全体をまんべんなく刺激する舌は、弱点を探そうとしているようだった。
「やめっ、ろ……きもち、わ、る…………くぁ……」
 ぴちゃぴちゃ、という卑猥な音が止まり、弟の声が聞こえてくる。
「嘘ばっかりだ、兄さんは……口ではそう言ってるのに、下半身は正直……んん、おいしい……」
 間断なく、舌が動く。敏感な部分が反応して、びくびくと震える。
「わ、動いた……すご。もっと、もっと……」
 弟は舌を動かしながら、腰もせつなげに捩っていた。
 白くてしみのない太ももと尻、水気によりわずかににじみを見せるショーツ、全てが目の前にある。
 一度も目にしたことのない、女の部分が息のかかりそうなところにまで来ている。
 その自覚が、容赦なく肉欲を盛らせ、下半身を疼かせる。
「先っぽから……ねばねばしたのが出てるよ、兄さん。これが精液……じゃないよね。精液なら白いはずだもん。
 まだ、もっともっと……いっぱい、いっぱい……」

 肉棒を舐める舌の動きがさらに活発になる。それに合わせて、腰まで激しく揺れる。
 はずみで、顎の先が弟のショーツに触れた。
「! ……っは、あ……?! な、何したの、兄さん……今、僕のあそこを……」
 途切れ途切れだった弟の声がさらに小さくなる。
 感じているのか……? 軽く触れただけで?
「もっと……して」
 ねだるような、女の声。
「触って……いいよ。僕は今の……気持ち良かった」
「いや、今のは」
 お前の方からぶつかったんだ、と言おうとしたら、口を塞がれた。弟の手によって、ではない。
 口の上に、濡れたショーツが乗ってきたのだ。弟が自ら腰を下ろしてきた。
「ふぁ……あぁ、ああ……これ、だめ…………駄目になっちゃう……でも、いい、よ。
 僕の恥ずかしい部分、兄さんの好きにして……」
 俺は何もする気はない。そう思っても、口は開けない。
 首を振っても弟には見えないだろうし、何よりそんなことをしたら弟の思う壺だ。

 鼻で呼吸しながら、舌でペニスを舐められ、濡れた秘所を顔に押しつけられる状況に耐える。
 だが、バランスが崩れた。俺の忍耐力に限界が見え始めた。
 裏筋に舌が這うだけで、カリをなめ回されるだけで、体の奥から波が寄せてくる。
「兄さん、また……大きくなったよ? ねえ、どうしたの? もしかして、出そう?」
 その通りだ。だから、早くこの状態を抜け出さなくてはならない。
 足でもがく。しかし、弟の手が邪魔でどうにもならない。体をひっくり返すことも不可能。
 頭は弟の太ももに挟まれたままで、動かせない。
 それでも抜け出せるかもしれないと考え、首を捻る。
「あっ、やっ……兄さん、な……にするのぉ……やあ、ぁ……」
 無駄な動きだった。ただ弟に切ない声をあげさせるだけ。
「や、や……きてる……あ、だめ! だめだってば! 我慢、してっ……」
 弟の声が大きくなった。太ももの力が、一層強まる。限界が近づいているように、見て取れた。
 それでも、弟は口に含んだ肉棒を放さない。それどころか、でたらめに舌が動き出した。
 滅茶苦茶なその動きは、今の俺の気分をあらわしているよう。
 出したい、楽になりたい、という思い。絶対に何があっても我慢しろ、という考え。
 両者のせめぎあいは、本能の勝利に終わってしまった。
 もはや俺のペニスの律動は、抑えられるような状態ではなかった。
592ヤンデレ家族と傍観者の兄 ◆KaE2HRhLms :2007/12/01(土) 06:47:49 ID:jRR78z+M
 先端から、勢いよく精液が迸る。
 弟の口内に入り込んでいたため、白濁した液体の全てが中へと吐き出された。
「ん、んん、んーーーーーーーーーっ!」
 遅れて、弟も達した。
 ただでさえ初めから濡れていたショーツが、さらに湿り気を増す。
 俺の顔は弟の愛液ですっかり濡らされていた。
 精液を吐き出したことで少しだけ冷静になると、部屋が静まりかえっていたことに気づいた。
 静寂に、水を吸い上げる音と、喉を鳴らす音が響く。すぐに消えて、頭に音の輪郭だけが残った。

 弟はしばらく脱力して動かなかった。俺も、疲労とは別の理由で動かなかった。
 兄妹で卑猥なことをしてしまったという、取り返しの付かない罪悪感と慚愧が沸いてくる。
 体が軽くなった。弟が体を浮かせて、また向きを入れ替えたのだ。
 腰の上に乗った弟は、唇の端を右手の指で撫でていた。

「兄さんの精液、飲んじゃった。口の中のも、こぼしそうになったのも、全部」
「……そうかよ」
「気持ちよかったかな? ……気持ちよかったよね。僕も一緒にイって、とっても気持ちよかった」
「射精に快感が伴うのは当然だろ。生理現象だ。別にお前が相手じゃなくても、あんなことをされたら、ああなる」
「つまり、僕にされたから射精した、ってことだよね」
「……」
 口惜しいが、そういうことになる。
「じゃあ、兄さん。もっと、気持ちいいことしよう? 二人で、繋がろうよ。本当の意味で」

 弟はその場で立ち上がると、ショーツをおそるおそる脱ぎ始めた。
 露わになった弟の秘所には、当然のように男性器などついておらず、ただ少なめな毛があるだけだった。
 最初に左足から、次に右足から。下着をまで脱いだ弟は、まさに生まれたままの姿だった。
 細い肩と腕、膨らんだ胸、くびれたウエスト、弱そうな腰まわり、すらりとした脚。
 不覚にも見とれていた自分に気づいた俺は、右に視線を向けた。
「今の兄さんの顔。すっごく良かった。女の子を見る目で僕を見つめてた。
 ずっと、そんな目で見て欲しかったんだ……小学生の頃から、今まで。五年以上の間、ずっと」
「……悪かったとは思ってるよ」
「今さら謝られても遅いよ。もう謝っても許してあげない。――僕を抱いてくれるまで、絶対に許さない」
 そう言うと、弟は俺の体の上にまた乗ってきた。
 膝を床につき、俺の胸に右手をつき、体を起こす。
 左手が、肉棒を掴んだ。
 未だに衰えていなかった肉棒の先端が、濡れそぼった弟の――淫裂に触れた。
「お前……それは駄目だ! 絶対に!」
「ふふふ、ふふふふふ……っはは。遅いよ。兄さんは何もかも遅い。
 僕の正体に気づくのも、僕の思いに気づくのも。無防備すぎるよ……兄さんは」
「頼む! それ以外ならなんでもしてやる! だから、やめろっ!」
「だからぁ……もう手遅れなんだよ。兄さんが今まで僕にしてきたことの、罰さ。
 それじゃあ…………挿れるよ。兄さん」
 
 秘所に肉棒が飲み込まれていく。
 きつい入り口をペニスがこじ開けて、緩やかに弟の体を貫いていく。
「あ、あ、あ、あ……僕の中に、兄さんがあ……はぅ……、刺さっていってる……」
 途中、先端部分に何かが当たる感触がした。
 それがいったい何であるのか、女性にとってどれほど大切なものであるのか、俺は触りだけであるが、知っていた。
 なのに、弟はそんなことはなんでもない、というふうに微笑むと、急に腰を沈めた。
593ヤンデレ家族と傍観者の兄 ◆KaE2HRhLms :2007/12/01(土) 06:49:07 ID:jRR78z+M
「う、ぅああああああああ、ああ、あああっ!」
 女の体をした弟は、背中を仰け反らせながら、絶叫した。
 首を持ち上げて下半身へ目を向けると、俺と弟の体は隙間も無くぴったりとくっついていた。
 俺のペニスは、弟の体を貫いていた。真っ赤な血が、俺の腰と弟の腿を濡らしていた。
 超えてはならないラインを、俺と弟はあっさり踏み越えていた。
「……ああ、気持ちいい……頭がヘンになりそうだよ。こんなに、兄さんに犯されるのが気持ちいい、なんて」
「お前、自分が何したか……」
「知っているよ、もちろん……兄さんに処女を奪ってもらった。抱いてもらってるんだ……今の、僕、は。
 は、ああぁぁぁぁぁ……もう、痛くないから。動くね。兄さんも、好きなだけ突いていいから」
 
 水音と共に、弟の腰が浮く。離れるとき以上に大きな音を立て、腰が落ちる。
 弟から動くその行為は、言うなれば逆レイプのようなものだった。
 押し倒され、唇を奪われ、性器を舐められ――貞操を失った。
 初めてする相手が誰、とは決めていなかったけれど、まさか弟、しかももとは妹だった人間とするなんて。
 もうめちゃくちゃだ。思考も、欲望もぐちゃぐちゃで、体までぐちゃぐちゃで。

 ――いいや。なにもかも。
 俺が悪いんだ。今まで妹のことを弟だと思いこんでいたのが悪いんだ。
 弟を、いや、妹を気持ちよくさせてやろう。
 俺の腰の上で卑猥な笑みを浮かべている女は、俺が欲しいんだ。
 望むものをあげてやりたい。
 腰は動く。ほら、こんなに簡単に。
「ふっ!? あ、ひゃあっ! に、さん……急に、しちゃだめ……だめぇ……僕、感じやすいの……に。
 は、やぁ、ひぃん、あぅんっ、ひっ……い、やぁぁぁぁぁ…………」
 ああ、この女は、気持ちがいい。
 どうして今まで放っておいたんだろう。こんなにいい体を持った女を。もったいない。
 俺は馬鹿だ。妹だと知っていたら、もっと早くに手をつけていたのに。

「い、く……いくいく、い、ひぃぃぃぃいん……」
「出すぞ。いいな」
 こんな台詞、妹に言うべきものじゃないだろ。
 ああ、でももう、遅いな。
 こいつの言うとおり、俺はなにもかもが――遅い。
「うん、うん! 赤ちゃん、産むから! っふ、ああっ! 兄さんの、子供、欲しいからあっ!
 だめっ! も……ぅ、あああああ! イク、イクっ! ああ、ああああああぁぁぁぁぁぁっ!」
 自分がなにをしているのかわからなくなるほどに、絶頂した。同時に、妹も。
 迸る精液が、肉棒がたどり着けないその奥までも犯していく。
 俺は、妹を抱いてしまった。
 近親相姦を認めないという考えを持っていたのに、そんなもの、いざというときには何の役にもたたなかった。
 もう俺は、兄貴失格どころか人間として失格だ。
 このまま、堕ちていってしまえばいい――――――――。




594ヤンデレ家族と傍観者の兄 ◆KaE2HRhLms :2007/12/01(土) 06:51:56 ID:jRR78z+M
*****

「兄さん! 兄さん! 起きて!」
「む……?」
 後頭部に感じるのは固い床の感触。腰から背中へ向けて流れ込むのは室内の空気。
 そして目の前にいるのは、同級生の女子に大人気のプレイボーイである弟であった。
「大丈夫? うなされたりごめんなさいって謝ったり嬉しそうに笑ったりしてたけど」
「ん……ああ。平気だ」
「本当に? どこか体が悪いんじゃ」
「心配するな。寝てただけだ……っと、ここ、どこだ?」

 床にあぐらをかいて周囲を観る。
 洗濯機、洗濯かご、タオル専用の小型タンス、足ふきマット、バスルームへ続くドア、などがある。
 ふむ。ここは我が家の脱衣所らしい。
 俺は、どうしてこんなところで倒れていたんだ? これじゃあまるで弟みたいじゃないか。
 いや、弟は誰かに眠らされたんだったな。
「いつまで経っても来ないと思ってたら、兄さんが床に頭をぶつけて気絶してるんだもん。びっくりしたよ」
「そうか……。いやなに、気にするな。どうせなにかで転んだだけだ」
「なら、いいけど。気をつけてね」
 弟が困ったような顔で笑う。
 相変わらず中性的な顔をした野郎だ。まるで女の子――――だ、って。

「う、ああ! うわあああああ!」
「ちょ……兄さん?」
「おま、近づ、何が目的、だっ!」
「……大丈夫じゃなさそうだね。今日は寝た方がいいよ。風邪ひいたら面倒だっていつも兄さん言ってるでしょ?」
「そ、その思いやりの心! 誠かっ! 何か隠しているのでは?!」
「隠すことなんか、特にないよ。僕にはね」
「嘘を吐け! お前が! 本当は――」
 女だって事を俺は知っているんだぞ!
「言え! 白状しろ! お前は一体誰が好きなんだ! 正直に言わねば、殴る!」
「え? えー……っと」
 弟が俺から目を逸らして、頬を掻いた。
 この、はっきりとしない態度。もしかして……正夢?

「妹じゃ、ない」
「……おう」
 それは知っている。
「葉月先輩や、同級生の子たちでもない」
 おいおい。それ以外で、お前が好きになりそうなやつなんていないだろ?
「まさかお前……男が」
「それはない。絶対にないよ」
 毅然とした態度で言う弟だった。
 もしこの台詞が嘘だったら、こいつの文化祭での衣装は悪の組織側のやおい大好き副官にしてやる。

「うん、ヒントをあげるよ。ひとつめ、年上の人。ふたつめ、同じ学校の女の人。みっつめ、兄さんも知っている人」
 なんだそれ。ひとつめとふたつめなら二年女子、三年女子、女教師、ということになる。
 けど、その中で俺が知っている人間となると……俺のクラスの担任になるじゃないか。
 こいつ、文学オタで年増で博識な失言家が好きなのか。
 妹以外の女なら誰でもいい、って昔の俺が言ったかもしれないけど、あの担任だけはやめとけ。
「ま、ともかくお前は男が好きなわけじゃないんだな」
「当たり前でしょ」
「そうか。……よかった。その言葉を、俺はずっと待っていた……!」
595ヤンデレ家族と傍観者の兄 ◆KaE2HRhLms :2007/12/01(土) 06:53:42 ID:jRR78z+M
 心の中で感涙にむせぶ俺の横で、弟は首を傾げていた。 
「変なの。あ、そうだ。もう妹は帰ってきてるよ」
「早いな。遅くなるんじゃなかったのか?」
「うん。僕も気になったから聞いてみたら、途中で抜け出してきたって言ってたよ。
 帰り道で冷えたから、ご飯より先にお風呂に入りたいとも言ってた。いいかな? 先に入って」
「ああ。いいぞ。俺は先に飯を食べておくから」
「ん、わかった」

 弟はきびすを返して脱衣所から出て行こうとする。
 ふと、思いついたことがあったので、弟を呼び止める。
「なあ、一言、言っていいか?」
「いいけど。何? 改まって」
「ああ。あのな……」
 お前は本当に男なのか? と、聞いていいものだろうか。
 あんな夢を見てしまった今の心境では、是非とも確認しておきたい。
 しかし、どんな手段で弟の股間にアレがついているということを確認すればいいのだろう。
 もし直接触って、真っ平らだったりしたら……俺は立ち直れないかもしれない。
 何か、弟の体に触れることなく、それでいて最悪の場合だった時に受けるダメージが少ない、そんな方法はないか?
 風呂に入っている弟の体を覗き見るなんて冗談でもやりたくない。家族にばれたら冗談という言い訳じゃ済まない。
 弟に軽蔑され、両親に見放され、とどめに妹に凶器を向けられてジ・エンドだ。
 一言でいい。一発で男であると確認できる一言があれば。

「後でもいいかな。妹を呼びに行かなきゃ」
「ああ、ちょっと待ってろ」
 腕を組み、首を前に倒し、床を見つめながら眉をひそめて考える。
 アレのことを考えていたので、ついつい自分の股間へと目がいく。
 そうか――これがあったか。
「おい、チャックが空いてるぞ」
 どうだ。これなら、さすがに男なら反応せざるをえまい。
「あはは、やだなあ、兄さん。僕をはめようっていうんなら、もっと上手いこと言わなくちゃ。
 僕はチャックだけは閉じ忘れないよう、確認を怠らないんだから」
「え……おい、あれ、れ?」
 この反応は、どうとればいいのだ?
 慌ててチャックが閉じているか確認しないから、アウト?
 それともチャックを必ず閉じる、つまり人並み以上に意識しているからセーフ?
「終わりなら、僕は妹を呼びにいくよ? いい?」
「あ、ああ。悪かったな、変なこと言って」
「いいって。じゃね」
 弟は脱衣所の扉を開けて廊下へと出て行った。今度は、俺は呼びとめなかった。

 あれは、夢……だよな?
 でも、やけに弟の言葉には説得力があった。
 俺が葉月さんに抱いている気持ち。
 告白しないのは、勇気がないからではなく、本当に好きになっていないから。
 本当に好きになるって、どういうことなんだ?
 自分で自分に対して、俺は葉月さんが好きだ、と言い聞かせるのとは違うんだろう。
 俺だって、それは違うと思う。

 葉月さんの想いに応える方法。俺はそれを見つけられるんだろうか?
 見つけられるまで、実践できるまで、葉月さんは俺のことを好きでいてくれるのだろうか?
 あ――違うか。相手がどう思っていても、自分の好意を伝えるのが好きだってことなんだもんな。

「葉月さんのこと、好きになりてえなあ」

 もう二度とあんな夢を見ないために。なにより、葉月さんのために。
 今日は、ご飯を食べて風呂に入って、早めに眠ろう。
596ヤンデレ家族と傍観者の兄 ◆KaE2HRhLms :2007/12/01(土) 06:54:54 ID:jRR78z+M
という感じです。
>>512氏の話を聞いて思いつきました。
長くてすいません。

では、また。
597名無しさん@ピンキー:2007/12/01(土) 07:10:49 ID:YAmgIDVu
超GJ!
598名無しさん@ピンキー:2007/12/01(土) 07:36:17 ID:uZEciyex
>>596
ちょwwwこれはwww
NGワードでオチ分かってたけど途中でモーニングコーヒー吹いたwww
599名無しさん@ピンキー:2007/12/01(土) 07:36:38 ID:D+CNLM3D
>>596
GoodJob!!
兄さんの最後の一言がなぜかは知らんが心に響いた。

>>568
蝶ネクタイを着けてみたら
首もとが暖かくなった気がするようなしないような感じなんだぜ。
シルクハットと付け髭は給料入ったら買いにいってくるよ。

>>572
貴方のやさしさに全俺が泣いた。
600名無しさん@ピンキー:2007/12/01(土) 08:04:53 ID:916X6SK5
>>596
GJ!
女体化ってのは苦手なんだけど、読みながらずーっとニヤニヤしてたw
面白かったですよー
601名無しさん@ピンキー:2007/12/01(土) 09:50:27 ID:hAeEk25N
>>596
弟が妹というのは予想GUYですた
そして完全には否定せずに含みを残してるところ、いい味出てます
602512:2007/12/01(土) 12:57:50 ID:FFE/d49P
>>596
ありがとう! ありがとう!
ヤバい。夢落ちでも嬉しい
GJ!
603名無しさん@ピンキー:2007/12/01(土) 13:47:41 ID:DEsJRDt3
>>596
いいな、このシリーズで一番よかった
こういうのって、話の最後に実はあれは本当では・・・?みたいな終わり方がよくあるし
ボーイッシュな女の子が大好きな俺にはクリーンヒットだぜ
604名無しさん@ピンキー:2007/12/01(土) 13:58:03 ID:2Ge+NiFc
自分は逆にお兄ちゃんは傍観者でいて欲しく、弟に群がるヤンデレを楽しみたい方だから、
どちらともとれる番外編で嬉しかった。
どちらにせよ、GJ!
605名無しさん@ピンキー:2007/12/01(土) 21:07:19 ID:6RGZ0pze
GJ!……って、なんばしよっとかきさん!(博多弁)
いやー堪能させてもらいました、本編の続きも期待してます。
606名無しさん@ピンキー:2007/12/01(土) 21:31:32 ID:dIsmIAvi
未来日記の由乃はヤンデレ?
607名無しさん@ピンキー:2007/12/01(土) 21:45:37 ID:mNeJxpnq
超ヤンデレ
608名無しさん@ピンキー:2007/12/01(土) 22:02:25 ID:hDlCREXK
ヤンデレの教科書みたいな奴じゃないか
まぁ『未来日記』は、まだ完結してないから
今後、評価が変わるかもしれないけど
609名無しさん@ピンキー:2007/12/01(土) 22:41:34 ID:Cgx1ijTy
確実にヤンデレなんだが、依存成分も大量に含んでいるよね。
610合わせ鏡 ◆GGVULrPJKw :2007/12/02(日) 00:28:27 ID:JzYQw/N7
そんなに病んでないお姉さんかもしれません。
初投下です。よろしくお願いします。


611合わせ鏡 ◆GGVULrPJKw :2007/12/02(日) 00:30:19 ID:JzYQw/N7
鏡の向こうの自分は、自分と同じ顔をして、自分と同じ行動をする。
私が笑えば笑うし、私が泣けば泣いて、私が怒れば怒る。
私と同じ顔をした私は、それでも別人。


「みなきはこうたくんを甘やかしすぎじゃない?」
友達が笑いながら言う。
「まあ、浩太くんくらいカッコいいと自慢でしょう?」
友達が笑いながら言う。

だから、笑いながら私も答える。
「うん、すごいでしょう。私よりしっかりしすぎてるから、心配なんてしないけど」
と。

白石 浩太は、私の従弟。でも、本当は、弟。
お母さんは、姑であるお祖母さんと争って負けて、お父さんと離婚した。私が3つの時。
その時、お腹にいたのがこーた。
お腹の中のこーたが男の子とわかった時に、お母さんは、絶対、お父さんのお家に知られない
ようにしようと決心した。
お父さんのお家は旧家で、お父さんは長男だったから、知られたら、絶対に姑にとられてしまう。
だから、自分のお兄さん夫婦に相談して、お兄さん夫婦の子供として籍に入れてもらった。
だから、こーたは私の従弟。子供のできないお兄さん夫婦は、こーたを自分の子供として、
可愛がって、可愛がって育てた。
家が近かったから、私達は、ずっと一緒にいた。
お母さんが死んでからは、1年だけだけど、一緒に暮らした。
でも、私が高校生、こーたが中学生になるまで、私達はお互いを姉弟だと知らなかった。

知っていればよかった。従弟だって思ってたから、ずっと…。
最初から姉弟だって知ってたら、きっと、こんな思いは抱かなかった。
612合わせ鏡 ◆GGVULrPJKw :2007/12/02(日) 00:31:25 ID:JzYQw/N7
こーたが東京の大学に入学した時に、叔母さんから、こーたと一緒に住まないか、と言われた。
イヤだった。
こーたと一緒に暮らすなんて。こーたが毎日私の側にいるなんて。
弟なのに側にいるなんて、ずっと見るだけなんてつらすぎる。
でも、私は、東京の大学に進学していて、もう大学院への進学も決まっていた。
お祖母ちゃんとお母さんの残してくれたお金はあるけど、それでは足りない。
優しい叔父さんと叔母さんには、いっぱい迷惑をかけている。
仕送りの問題もあるし、私にそれを拒む理由なんてなかった。

私とこーたは一緒に住むことになった。3年ぶりに会ったこーたは、背も伸びて、信じられない
くらいにカッコよくなっていた。
こーたは優しかった。たまに友達と飲みに行く時以外は、私の料理を食べるために、毎日早く
帰ってきてくれた。友達と遊びに行く時も、必ず連絡をくれて、どんなに遅くなっても家に
帰ってきた。
「水樹一人だと、危なくて心配だから」
なんて言われた時には、嬉しくて死にそうになった。

でもわかってる。それは姉だから。
叔母さんが言っていた。こーたは私のことが小さい頃から大好きで、姉だと知ったときには、
本当に喜んだって。
こーたの「大好き」は「きょうだい」としての大好きなんだ。
私と一緒に住むのが嬉しそうなのも「姉」との絆を深めたいからなんだ。
だから、私は、大好きなこーたのために、ずっと「優しい水樹お姉ちゃん」でいる。
世話焼きで、ちょっとドジで、こーたが大好きで優しい、普通のお姉さん。
こーたに恋人ができたって、こーたが結婚したって、ちょっと泣いて喜んであげる、普通のお姉さん。
でも、今だけ夢を見させてね。毎日、料理を作って、お洒落をして、こーたに甘えて、世話を焼いて
あげる。お弁当だって作る。朝は優しく起こしてあげる。
まるで、恋人みたいな生活を、楽しませてね。
613合わせ鏡 ◆GGVULrPJKw :2007/12/02(日) 00:32:51 ID:JzYQw/N7
こーたが酔って帰ってきて、ソファで寝ている時も、そっと毛布をかけてあげる。
こんな時は、本当は苦しい。
触りたいな、キスしたいな。こーたは眠っているから気づかないかな、といつも迷う。
でも、こーたが気づいたら、姉でもいられなくなってしまう。
だから、頭だけ、優しく撫でる。我慢する。ずっと、ずっと、撫で続ける。

あ、でも、頬ならいいかな。頬を撫でるくらい、姉でもするよね。
ゆっくりと、こーたの頬をなでる。すべすべしてる。男の子だから、ちょっとあぶらっぽいかな?
ゆっくり、顔を撫でる。小さなニキビが額にある。耳たぶも柔らかい。
唇に、ちょんと人差し指を当てて、我慢した。あんまり唇をゆっくり撫でるのは、姉じゃないよね。
顔だけじゃなくて、手とか、肩とかも、いいかな…。大丈夫だよね。変じゃないよね。
頬からゆっくりと肩へと手を滑らせる。細くてスタイルがいいけど、がっしりしてるんだ…。
肩をゆっくりとさすって、迷いながら、胸へと手を滑らせる。愛撫するようにではなく、ただ
確かめるだけのように、ぺた、ぺた、と触る。これなら、変じゃないよね。大丈夫だよね。
お腹をパンチするように小突いて、わき腹へと抜ける。くすぐったら、起きちゃうかな。ふふ。
ちょっとだけ、声が出ないように微笑んで、そのまま、手を握る。
ぎゅっと握ってから、指と指の間をゆっくりと撫でる。手の甲に指を滑らせて、もう一度、ぎゅっと
握る。
顔を、ゆっくりと手に近づけて、ほお擦りする。少し、変かな…。でも、お母さんも、小さい頃
こうしてくれた気がする。じゃあ、大丈夫だよね。
両手でこーたの手を握って、顔をあげ、こーたの肩に近づける。このままだと、ぴったり寄り添う
形になる。
そうしたい。でも、駄目。
こーたにキスしたい。でも、駄目。自分の息が乱れているのが、わかる。もうやめないと…。
ゆっくり、こーたを起こさないように手を離すと、立ち上がる。足早に自分の部屋の扉を開け、
飛び込む。
息が荒い、全力疾走したときみたいにハアハアしている。
こーたに触れた手。これがこーたならいいのに。
こーたの手が、私の体を触ってくれたら、私の手を肩を胸を全てを触ってくれたら…。
「ん…ちゅ…」
自分の手をゆっくりと舐めてみる。こーた、こーた…こーた…。
その手で自分の胸を触る。乳首をころころと弄ぶと、それだけで声が出そうになった。
クリトリスがじんじんする。私はまだ処女だから、中までは怖くて入れられないけど、ここの
快楽はすでに自分の指で知っていた。
こーたの指だったら…こーたが、私のここを、ゆっくりと触って、こんな風に…愛液を絡めて
ゆっくりと触ってくれたら、ああっ、ゆっくり…ゆっくり…ああ駄目、声を出しちゃ駄目、でも
ああ、溶けそう…こーたの指が、こーたに触れた指で、こんなことしちゃいけないのに、いけない
のに…。


ごめんね、こんなお姉さんで。でも、姉でいるから許してね。
そう思っていた、あの日までは。


「水樹、久しぶりだね」
こーたが、家に連れてきたのは、こーたのバイト先で一緒になったという、私と同じ顔をした
私じゃない女性。
21年間会っていなかったけど、すぐにわかった。
みずき。
高崎 瑞希。
だって、私達は、一卵性双生児だから。
614合わせ鏡 ◆GGVULrPJKw :2007/12/02(日) 00:35:46 ID:JzYQw/N7
以上です。
コンセプトとしては、常識との狭間で悩むヤンデレお姉さんということで。
615名無しさん@ピンキー:2007/12/02(日) 00:53:06 ID:hY1MIFqz
超GJ!!
もうこの時点で萌え死にそうなのに
双子姉の登場でwktkが止まらない。
616名無しさん@ピンキー:2007/12/02(日) 00:57:08 ID:Boz6sSRd
>>614
GJ!!
617名無しさん@ピンキー:2007/12/02(日) 03:00:59 ID:+7fk5EaB
ラノベの作家目指しています。下のスレに感想ください。

【ラノベ】自分の作品を晒し感想を貰うスレvol.7
http://love6.2ch.net/test/read.cgi/bookall/1194683066/

【アドレス】 http://wannabee.mine.nu/uploader/files/up1156.txt
【ジャンル】 殺殺殺痛痛痛殺殺痛殺殺殺痛殺殺痛殺痛痛痛痛痛殺殺殺殺痛
宜しくお願いします。
618名無しさん@ピンキー:2007/12/02(日) 11:58:30 ID:7pWdJkPs
昔週間ストーリーランドで
ヤンデレの彼女が彼氏の腕斧で叩き斬っちゃう話あったなぁ…

今思うと時代先取りしてたな
619名無しさん@ピンキー:2007/12/02(日) 12:10:08 ID:MPKr3J+8
週間ストーリーランドおもしろかったな
620名無しさん@ピンキー:2007/12/02(日) 12:54:32 ID:0oW1eNWv
あれ、もう473KBか。
次スレ立ててきますよ?
621名無しさん@ピンキー:2007/12/02(日) 12:58:54 ID:0oW1eNWv
立ててきますた

ヤンデレの小説を書こう!Part12
http://sakura03.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1196567848/
622名無しさん@ピンキー:2007/12/02(日) 13:01:29 ID:MPKr3J+8
623このお姉さんはヤンデレ?:2007/12/02(日) 13:05:32 ID:sMTf3PYX
>>599
 
「もしもし、警察ですか?路上で全身タイツの>>599が股間をもっこりさせてます素早くタイーホしてくれ!」

「把握」

パトカーがきますた。

「やべぇ、逃げなきゃ!っうわ!?」

タイツマン(>>599)はいきなり腕をつかまれ路地裏にひきこまれる。

「なんだ?」

腕をつかんでいたのはショートヘアーのお姉さん巨乳だ。

「あなたのもっこりに一目惚れしたわ、守らせて」

腕にしがみつかれて胸があたって話に集中できず適当に相づちした。

「わ、わかった」

当然もっこりはスーパーモッコリンに変身、お姉さんもそれに気付くとうっとりした顔で

「ハァハァ、ねえ私と良いことしない?」

「喜んで!」

と、いきなり警察に見つかる。

「見つけたぞ!タイーホする!」

すると何かがブチキレル音がした。お姉さんがキレたのだ。

「こんの糞ポリが――!!」

そのポリたちは全員皆殺しさらに増員逃げながら邪魔するやつらは皆殺しにされた。お姉さんは血だらけ>>599はひたすら萌えて(*´д`)ハアハアしていた。
おわり
624名無しさん@ピンキー:2007/12/02(日) 13:21:23 ID:0oW1eNWv
>>623
ただDQNでビッチなだけではないか。
625名無しさん@ピンキー:2007/12/02(日) 13:52:37 ID:Mjgo5433
>>614
|ω・`)b GJ!
この姉、焦らしプレイとは・・・やるな
どう病んで行くのか楽しみにしてます
626名無しさん@ピンキー:2007/12/02(日) 14:59:11 ID:zJbpD5RI
ヤンバカねぇちゃんの続きも見たい
あんなヤンデレなら付き合いたい
627名無しさん@ピンキー:2007/12/02(日) 15:19:00 ID:9VkwD3Bz
>>619
藤子Fのモロパクリが出てきて吹いた記憶がある
628名無しさん@ピンキー:2007/12/02(日) 21:41:13 ID:WtQldRkP
美川べるの先生の『学園天国パラドキシア』を読んでいたら用語解説で。
ヤンデレ:病んでるデレ。サイコさんすら萌えの対象となる、この業界の懐の深さよ。
と、あったんだがヤンデレって=サイコなのか?
教えて偉い人。
629名無しさん@ピンキー:2007/12/02(日) 21:49:05 ID:Bm3lPaQ3
サイコさんも含む、って意味と解釈すればいいんじゃないか。
実際サイコさんなヤンデレ娘だっている訳だしさ。
630名無しさん@ピンキー:2007/12/02(日) 23:50:30 ID:XGJ1B+eh
サイ姑クラッシャー!!
631名無しさん@ピンキー:2007/12/03(月) 00:27:49 ID:1D32OzRw
>>628
俺もそれが気になった。
ミカベル好きなんだけどね。
632名無しさん@ピンキー:2007/12/03(月) 08:42:13 ID:Os24RyBN
ヤンデレお姉さんがショタを拉致監禁する話みたい

書くか?俺
633名無しさん@ピンキー:2007/12/03(月) 10:33:26 ID:lZMg7uNp
どうぞどうぞ
634名無しさん@ピンキー:2007/12/03(月) 11:31:37 ID:f4xl4rKw
ヤンドジマダー?
635名無しさん@ピンキー:2007/12/03(月) 15:08:27 ID:PIAMpt06
>>465
亀レスだけどGJ!
愛ゆえに病む、基本に立ち戻った名作でした
636名無しさん@ピンキー:2007/12/04(火) 14:25:03 ID:14wAmf49
今日、ヤンデレに追いかけられる夢を見た。しかも、2回目。どういうことだろう。
637名無しさん@ピンキー:2007/12/04(火) 16:18:40 ID:PXP7NpQ5
>>636
ヤンデレの女の子を二股したいとゆう願望さ
638名無しさん@ピンキー:2007/12/04(火) 16:39:30 ID:hk7Q8nkP
なんという迂遠な自殺願望。
639名無しさん@ピンキー:2007/12/04(火) 16:47:47 ID:hGGlq5i1
しかし刺される瞬間つい(・∀・)ニヤニヤしてしまった>>636であった
640名無しさん@ピンキー:2007/12/05(水) 12:43:40 ID:WOJJiBgU
>>638
その前に女VS女の壮絶な血みどろ&修羅場が
641名無しさん@ピンキー:2007/12/05(水) 18:39:42 ID:yk6c4yEG
636だけど、2回とも同じ娘だったよ。次見るときは、殺されてしまうのだろうか。
642名無しさん@ピンキー:2007/12/05(水) 19:53:21 ID:0JNnIq+C
三度目見るときは刺されて死んで
現実じゃ心臓麻痺とかで死んでしまうんだよ
643名無しさん@ピンキー:2007/12/05(水) 20:54:13 ID:xi7MXefz
しかし胸には傷跡が…
644名無しさん@ピンキー:2007/12/05(水) 21:08:38 ID:yk6c4yEG
((((;゚Д゚))))ガクガクブルブル
645名無しさん@ピンキー:2007/12/05(水) 21:58:58 ID:ksmzNDx2
つまりヤンデレ夢魔ということか……これは新しい!
646名無しさん@ピンキー:2007/12/05(水) 22:15:01 ID:QOukftdQ
そこへ 修道院に入ったはずの妹が……!
647名無しさん@ピンキー:2007/12/05(水) 23:09:55 ID:WOJJiBgU
埋めるためにもヤンデレ女を二股する男の話を誰か書いて欲しい
ちなみに俺には無理だ(´・ω・`)
648名無しさん@ピンキー:2007/12/06(木) 16:40:03 ID:JX8wSKgJ
無理じゃないだろ、お前がヤンデレ女と二股しているところを脳内シュミレーションしてみろ。
649リッサ ◆v0Z8Q0837k :2007/12/06(木) 21:48:52 ID:EtQZh+DO
>635
 感想有難うございました、時間はずれていましたがとても嬉しかったです。
 というわけで、うれしいがてらに月輪に舞うの弧太郎を描いてみました、急ごしらえの上に下手
な絵ですがよろしかったら見てください。
 ttp://www.dotup.org/uploda/www.dotup.org8191.jpg.html
650名無しさん@ピンキー:2007/12/06(木) 23:27:16 ID:JX8wSKgJ
乙!
651名無しさん@ピンキー:2007/12/07(金) 13:01:00 ID:fhqEA2cU
>>648
妄想できてもそれを文章にできなきゃ意味ねえんだよ(´;ω;`)
652名無しさん@ピンキー:2007/12/07(金) 15:23:17 ID:0vFUe6EJ
上手く抽出するんだ!
出来ればシュミレーションするのではなく実際にヤンデレと触れ合ってだな(ry
653名無しさん@ピンキー:2007/12/08(土) 04:46:09 ID:nPE9JFOx
未だにシミュレーションをシュミレーションと誤読まま
居るのは相当アホなIME使いの証拠
654名無しさん@ピンキー:2007/12/08(土) 11:16:35 ID:tG+LNY3E
>>652
身近にヤンデレ居ねえよw
ヤンデレの薬欲しいな…
655ヤンデレの薬:2007/12/08(土) 12:16:08 ID:PIiB+h1R
「つ、ついに出来たぞ…」
俺は薬学部の6年生。卒論も落ち着いたしなんだか面白いことはないかなと思って
ヤンデレの薬なるものを開発した。
理論はあかせないが、是を飲んだ女の子はたちどころにヤンデレになる。
あとは臨床をするだけ。ちなみに中和剤も同時に開発した。
これを友達の彼女に飲ませて、あとは楽しむことにしようか…
ふふふ、あいつがこれから困る姿を想像するとにやけてしまうぜ…
どうなるのかな…リアルで空鍋とか見れるのかな…
そうかそのためには誰かけしかけないと…
俺の頭の中では壮大なドッキリ大作戦を遂行するかのような感じで考えていた。
そう、これは壮大なドッキリなのだ。そう考えると悪いなという意識が薄れていくから恐ろしい。
「修君ー♪」
「うお、加奈かよ…」
俺の彼女加奈。すんごい可愛いがちょっと天然すぎるところがある。
だが勉強で疲れた俺を癒してくれる自慢の彼女さ。
「あれれー修君なにしてたの?」
「うん?ちょっと暇だったからね、将来のためのお勉強」
「へー新しいお薬」
「そー言うこった。ま、学生の作ったものだからな、効果とうは保障しないがな」
「どういう効果が出るの?」
「相手のことがたまらなく好きになるんだ。もう周りが見えなくなるくらい」
「飲むー♪」
そういうと加奈は薬(が溶けた液体)が入ってるビンを音速と見まごう速さで掠め取り、
おれが止める前に…飲み干した。
「加奈ーーーーーー!?」
「あー別に何にも変わらないよ」
すぐには効果は現れないようだ。だが万が一ということもある。中和剤を…
「加奈!早くこれを飲むんだ!」
「えー?」
「いいから!」
俺は急いで中和剤を飲ませた。
これで一安心のはず。いやー参った、参った。やっぱ悪いことは出来ないねと。

…あれ、俺はたしか中和剤は右に置いたんじゃなかったっけ…
加奈は確か右のほうを最初に…!!!!!
そうういえばさっきから加奈のふいんき(←なぜか変換できない)が変わってる気がする!?
「やばい!加奈!しばらくは俺のそばから…」
そのとき運悪く誰かが研究室にやってきた。
「やっほー修君♪」
手遅れ。ゲームオーバー。
俺の研究室仲間の女の子が元気に入ってきた。
そして加奈の目が変わった。
656ヤンデレの薬:2007/12/08(土) 12:17:50 ID:PIiB+h1R
その後、修君と呼ばれる男の簡易的な日記には。
12月3日
ヤンデレの薬を加奈に飲まれてしまった。その後入ってきた研究室仲間一人がショック症状で病院にいくことになった。
すまん、俺のせいで…
12月4日
中和剤の複製を開始。早くしなければ被害が…
12月6日
クリスマスの予定について聞かれた。まるで2人きりじゃないと殺あれるような勢いで。
当然空かす。まだまだ死にたくない。
12月11日
あれからいろいろあったが、何とか中和剤が完成。これでなんとかなる!
3日3晩こもりきった甲斐があった!
12月12日
やばい。研究室にこもってたことを誤解された。
とりあえず部屋に逃げ込む
12月13日
激しく部屋のドアをノックされる。だが出たらいけない。出たらそれこそ命が危ない。
12月16日
ノックされる時間が日に日に長くなっていく。俺も発狂しそうだ。
食料も切れかけてる。篭城はもはや限界か
12月17日
なんだか加奈が目の前にいるような気がする。
実際はドアをノックしているのが加奈なのに…
なんでだ。目の前でなんで、なんでとずっと言ってる感じがする。消えろ、消えてくれ。
12月18日
悪かった俺が悪かった、謝るから、謝るから…ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい…
12月18日
あぁぁぁぁぁぁ帰れよぉぉぉぉぉ。
悪かった、俺が悪かったからぁぁぁぁぁぁぁぁ
いいかげんにしてくれよぉぉぉぉぉぉぉ
12月19日
かゆ、うま

ここからは途切れている。
この日以降修君と呼ばれる男の所在は確認できていない。



勢いでやってみた。反省はちょっとだけしている。


こんなことやってないではやく続き書けとね俺orz
657名無しさん@ピンキー:2007/12/08(土) 12:50:16 ID:ACxZtOji
>>656
まあなんだ、とりあえず
テラGJ! イイヨイイヨー
658名無しさん@ピンキー:2007/12/08(土) 13:49:33 ID:Z2h6+RRC
かゆうま吹いたwwww
GJ!!
659名無しさん@ピンキー:2007/12/08(土) 15:12:51 ID:Ub07/L4I
人を陥れようとすると、すべて自分にかえってくるという教訓だね
660名無しさん@ピンキー:2007/12/09(日) 13:52:36 ID:IMKXoQxb
正直>>656の方が面白い同じ題材
もっと精進するために旅に出ます。探さないでください。
661名無しさん@ピンキー:2007/12/09(日) 23:20:25 ID:I06dmWf7
ただの人間には興味ありません。
この中に、依存系幼馴染み、キモ姉妹、粘着ストーカー同級生、
被害妄想系先輩、腹黒系後輩がいたら、俺のところに来てくれ。
662埋めネタ:2007/12/10(月) 01:01:20 ID:hBhhQk/5
 十二月上旬。僕の勤める会社ではボーナスが支給された。
 支給されたとはいっても、ただボーナスの明細が書かれた紙をもらっただけで、手渡しされたわけじゃない。
 ボーナスは給料と同じ口座に振り込まれているのだ。そんなことは当たり前だけど。
 この時期、純粋に僕はうきうき気分になれる。
 欲しかったアレやコレを買えるから、というのがその理由だ。
 とはいえ、全額、欲しいものに費やせるわけじゃない。

 僕は去年中古車を買っていて、そのローンの支払いがまだ残っている。
 それ以外にも税金や貯金などにいくらか割り振るので、せっかくのボーナスも半分以上使えない。
 それでも、数万円は手元に残る。
 残された金額の使い道は決めていない。
 使い道がないのなら貯金しなさい、と母さんなら言うんだろう。
 でも、生憎僕は母さんほど倹約家なわけでもなく、また貯金通帳の明細を見ながらティータイムを
楽しめるほど稀有な性格をしているわけでもない。
 よって、冬のボーナスは全て使い切ることになる。
 毎回そうやっているのだから、今回もいつも通りにやらせてもらおうと思う。

 仕事を定時退社の時刻までに済ませた僕は、賞与明細を鞄の中に突っ込んで、
同僚に挨拶をしてから職場を後にした。
 夕方と言うには少し遅い、午後七時。
 ボーナスが出たのだから、同僚と一緒に飲みに行くのが会社員としての一般的な行動なのだろう。
 しかし、僕は行かない。なぜなら、飲みに行きたくないから。
 もちろん行きたくない理由はある。
 同僚に嫌われていたり僕が同僚を嫌っていたりするわけではなく、単に、お酒の席で絡まれるのが嫌なのだ。
 絡まれるにしても、仕事でミスをしたことについて軽く説教されるならいい。
 もしくは未だに彼女がいないことについてからかわれたりするのでも構わない。
 お酒の席で、皆が僕のあだ名を呼び出すのが気に入らないのだ。

 僕のあだ名は、名前の漢字の読み方を変えただけのものである。
 皆があまりにあだ名の方で呼びかけてくるので、あだ名が本名だと僕自身が錯覚してしまう。
 僕の親は明らかにウケ狙いで僕の名前をつけたに違いない。
 最近、漫画やアニメに出てきそうな名前を子供に名付ける親が増えているというが、実に嘆かわしい。
 僕は変な名前を名付けられたせいで損することはあっても得することはなかった。
 いい名前だね、という言葉は嫌みにしか聞こえない。慰めだったとしても要らない、欲しくない。
 子供をひねくれさせたくなければ、親は真っ当な名付け方をするべきだ。

 タイムカードを押し、会社の建物を出る。
 寒さをしのぐためにコートの襟を立て、歩き出したその時だった。
「名無し君。今帰りかい?」
 正門近くに停めてあった車を通り過ぎたところで、突然女性に声をかけられた。しかも、あだ名で。
 聞き覚えのありすぎる声だったので、不機嫌を七割ほどむき出しにして返事する。
「ええ、そうですよ。十一子さん」
 そして聞こえてくる、ぎり、ぎりりりり、という歯ぎしりの音。やはり相手を怒らせてしまったようだ。
 だけど、この場合は彼女が悪い。いきなり僕のあだ名を呼んだのだから。
 仕返しに、彼女が嫌っている彼女のあだ名を言ったって構わないはずだ。

 右を見る。彼女は腕を組みながら僕を睨んでいた。
「ひどい人間だな、君は。私の嫌いなあだ名を言うとは」
「ひどいのはどっちですか。僕の名前の読み方を知っているくせに」
「ちょっとした冗句のつもりだったのだがな……。いや、すまない。やはり失言だったよ。七詩君。
 謝る。この通りだ。だから――君も私を本名で呼んでくれないか?」
 頭を下げてくる彼女に、僕は返事する。
「謝らなくてもいいですよ。もう機嫌悪くないですし。……文子さん、なにか用ですか?」
663埋めネタ:2007/12/10(月) 01:03:18 ID:hBhhQk/5
 そう言うと、文子――フルネームは入文子(いりふみこ)――さんは頭を上げた。
 僕と文子さんは、不幸にもおかしな本名を持ち、不愉快なあだ名で呼ばれる同士である。
 僕の名前、七詩。読みは『ななうた』だけど、漢字をぱっと見たら『ななし』と読んでしまう。
 文子さんの本名、入文子。名字を『いれ』、名前『ぶんこ』と読めば、『いれぶんこ』になる。
 次に『いれぶん』を『イレブン』にして、さらに日本語に変換すれば『十一』となる。
 しかして、『入文子』は『十一子』となり、文子さんは『十一子』というあだ名を付けられた。
 名無しと、十一子。どちらも、本名をもじったあだ名だ。
 そして、あだ名を付けられた当人はどちらともそれを快く思っていない。
 会社ではさすがに名字で呼ばれているけど、仕事以外ではあだ名で呼ばれることが多い――いやむしろ、呼ばれる。
 だから、僕は会社の外で同僚と会うことを極力避けるようにしている。

 たかがあだ名ごときでそこまでしなくても、と人は言う。
 けど、僕にとって、あだ名で呼ばれることは最大級の侮辱になるのだ。
 それは小中学校時代の経験が原因だろう。
 思い出すのも嫌になる。僕はあだ名のせいで、避けられたはずの災難に数多く遭った。
 僕も傷ついたし、他人も傷ついた。悪意の有無に関わらず、僕は人を避けた。
 大学生になってようやく毎日話す相手ができたくらいだった。
 文子さんが僕と同じ経験をしたのかは知らない。知るべきではない、踏み込むべきではない領域だと知っているから。
 文子さんは変なあだ名を付けられた者同士という理由で馴れ馴れしくされたくないはずだ。僕だってそう思っている。
 僕が文子さんと仲良くしているのは、彼女が僕との距離の取り方と付き合い方を弁えているからだ。
 どちらからも会いに行かない。たまたま会ったときにその場の空気で話すだけの関係。
 それが僕にとって最も嬉しい、人との関係の持ち方だった。
 そのことを自覚させてくれたのは、文子さんだ。
 ――もっともそれは、僕の人付き合いの技術がいかに低いかを自覚させてくれたということでもあるけれど。

「七詩君、ボーナスをもらったか?」
 返事を分かっている問いかけ方だった。それでもあえて問うたのは確認するためだったのだろう。
「ええ、いつも通りに。ちゃんと増えてましたよ」
「うん、それは良かった……で、だ。今から、使ってみる気はないか?」
「今からですか? まあ、いくらか使う予定のない分がありますけど」
「なら、今から付き合わないか?」
「……?」
 首を傾げてしまった。
 だって、初めてだったのだ。文子さんから誘いを持ちかけてくるなんて。
「付き合うって、お酒にですか?」
「うん、そうだ。もちろん、これから用事があるというのなら今度でも構わないが」
「この後で用事は、ないですけど……どうしたんですか、突然?
 文子さんから飲みに誘ってくるなんて一度も無かったのに」
 それどころか、正門で僕を待っているのも今日が初めてだった。
 今日の文子さんは、どこかがいつもと違う。
「あー……七詩君は忘年会に出ていなかっただろう?」
「ええ。文子さんもそうでしたよね」
「うん、だからだ」
「だから……? どういう意味です?」
 文子さんがちょっとだけ眉根を寄せた。
664埋めネタ:2007/12/10(月) 01:04:50 ID:hBhhQk/5
「察しが悪いな、君は」
「いえ、二人でこれから忘年会をやろうって言いたいのは察してますよ。
 わからないのは、忘年会に出ていなかったって理由で、どうして文子さんと飲まなきゃいけないのかってことです」
「君は察しが悪いんじゃないな。冷たいんだ。部屋の空気を入れ換えるときに触れる窓枠と同じくらいに」
「ああ、最近のは特に冷たいですよね。手袋が欲しいくらいですよ」
「ということは、七詩君に触れるときは手袋をしなければいけないということか」
「論理的に解釈すればそうなりますけど、僕は窓枠じゃないので、触れるときに手袋は不要です」
「おお、それは良かった。もし手袋が必要だったら、色々不都合が出てくるからな」
 どんな不都合が出てくるんだろう。
 もしかして、僕と直に手を繋ぎたいとか? ――まさかね。

「七詩君、同僚と酒を飲むのはそんなに嫌か?」
「ええ。酒が入ると、普段はまじめな人でもおかしくなりますから」
 そうなったら、僕の過去に踏み込んでくるから嫌だ。
「でも、文子さんと飲むんならいいですよ」
「ぇ?」
 文子さんの切れ長の目がちょっとだけ大きくなった。
「文子さんなら、その――ちゃんと分かっていると思いますし。忘年会もやっておきたいし。
 それに、初めてじゃないですか。文子さんと飲むなんて。もちろん、誘われるのも初めてですけど」
「じゃあ、いいのか?」
「いいですよ。飲みに行きましょう」
「なら、なら……場所は、私が指定していいか?」
「はい」
「そうか、そうか……よし!」
 文子さんは両手を握りしめた。おそらくガッツポーズをとろうとして、やっぱり人前でポーズをとるのは恥ずかしいと
思い直したけど、それでも衝動が抑えきれず拳が反応してしまった、みたいな感じだろうと推測する。

 文子さんが顔を近づけて、耳打ちしてきた。
 告げられた飲みの場所は、駅の近くの繁華街でもなく、会社が忘年会でよく利用する料亭でもなかった。
 その、場所は――――――。

*****

 時刻は十一時。ふと、文子さんのことを禁断のあだ名で呼びたくなったけど我慢する。
 文子さんはテーブルの向かい側の席についている。両肘をつき、前傾姿勢のまま話しかけてくる。
「だからぁ、泊まっていけって、言ってるじゃないかあぅっ……っく!」
 返事はしない。面倒だからではなく、何度も同じ返事をしているから。
 ここ――文子さんの家で一晩明かすつもりはない、と言っているが、文子さんはどうしても譲らない。
 帰り道で買ってきたお酒をあらかた飲み終わり、残りの分でちびちびとやり始めてから数時間、ずっとこの調子である。
「なんで泊まっていかないんだ! お酒、入っているんだろう……?」
 ハイとローを行ったり来たりの文子さんに返事をする。
「入ってますけどね、確かに。でも歩けない訳じゃない。つまり僕が帰ることは不可能とは言えないわけですよ」
「否定を連続するな! 聞いてる方は、混乱するんだよ……」
 そう言われても、酔ったときにこんなしゃべり方に変わるのは僕の癖なのだからどうしようもない。
「そろそろお暇しますよ。遅くまでお邪魔してすいませんでした」
 一方的に告げて、床の上から立ち上がった。
「あ……れ」
 そして次の瞬間、僕の視界は九十度回った。
 右腕に走った痛みで、何が起こったのか分かった。僕は、床に倒れたのだ。
665埋めネタ:2007/12/10(月) 01:06:07 ID:hBhhQk/5
「あー、ははははは、っはは! ……ようやく、効いたんだ。遅いよ、まったく」
 文子さんが四つん這いで倒れた僕のもとへやってきた。僕の体を仰向けにして、上に乗ってくる。
「何をしたんですか、一体」
「うん、ちょっと七詩君のお酒に睡眠薬をね、入れたんだ」
 どうりで眠たい……わけだ。
「なん……で、こんなこと、するんですか」
「決まっている! 君に今夜泊まってもらって、眠った君をじっくりと料理するつもりだったんだよ」
「りょう、理……?」
 文子さん、料理できるのか? 一人暮らしの女性って、やっぱり料理するんだ。
 ちなみに僕はやってない。毎日麺類か惣菜だ。――いや、料理するかしないかなんてどうでもいい。
「僕は、理由を聞いているんですけど」
「わからないのか?! わからないんだな。そうか……ハア。まあ、気づくはずもない、か。
 いいよ。教えてあげよう。私は、君が好きだから、こうしたんだよ」

 文子さんの顔が近づいた。かすむ視界の中に文子さんだけが映っている。
 唇に、わずかな感触があらわれた。いや、頬だったかもしれない。
 体表感覚の麻痺した今の状態では、はっきりと自覚できない。
「君が欲しい。君の熱が、体が、全部が欲しい。どうしても、強引な手を使ってでも手に入れたかったんだ。
 ――嗚呼、キスしてしまった。これが、君の味なんだね。うん、チョコレートみたいな甘さだ」
 それは僕の味ではなく、本物のチョコのものです。さっき残ってる分を全部食べましたから。
「この分だと、七詩君の体はもっと甘いのかもしれないね。人と関わるのを極力避けて、自分を守ってきた七詩君。
 誰にも手を付けられていないに違いない……そう、青い果実だ!」
 ごめんなさい。期待を裏切って悪いのですが、キスだけは済ませています。
 大学時代、酔っぱらった女の子にキスされたことが一回だけあった。
 その後に色気のある展開を繰り広げたりはしなかったけど。

「さて! ……さて、これから七詩君は私のものになるわけだが」
 そうなるのが当然、みたいに言わないでください。と言いたいのに言えない。
 眠い。口を開くのが億劫だ。五感の内でちゃんと働いているのは耳しかない。
 聞こえてくるのが文子さんの声だけだから、世界の中に文子さんしかいないみたいな気になる。
「その前に、私のプロポーズを聞いてくれ」
 ――プロポーズ。
 結婚の申し込みのことか。僕の方からは一生することはないと思っていたけど、まさか女性からされるなんて。
 なんだか夢みたいだ。いや、もしかしたら夢なのかもしれない。
 眠いし、ふわふわするし、やけに気分がいいし。
 なにより、文子さんが僕のことを好きでいてくれたなんて――嬉しすぎる。
 だって、僕も文子さんのことを好きだったから。
 いつから好きだったのかはわからない。
 もしかしたら出会ったときからかもしれない。もしかしたらたった今、恋したのかもしれない。
 でも僕にとって、家に遊びに行けるほど仲良くなれた異性なんて、文子さんが初めてだった。
 じゃあ、これが初恋なのか。そして、初恋の相手にプロポーズされる。
 なんだ、僕の人生も、そんなに悪いものじゃないみたいだな。
 
 文子さんの声が聞こえる。頭の中に響き渡る。
「あなたに、私のボーナスを全て管理して欲しい」
 どこの銀行のポスターに書かれたキャッチフレーズだろうか、と考えさせられる台詞――もとい、プロボーズであった。
 でも、それもいいかな。家計簿をつけるのは得意だし。
 プロポーズに対して、僕は頷きを返した。
 本当は文子さんの体を抱きしめたい気分だった。けど、眠いからどうしようもない。
 文子さんが睡眠薬なんて盛ったのが悪いんだ。

 ――明日起きても、文子さんを抱きしめるのは無しにしよう。
666名無しさん@ピンキー:2007/12/10(月) 01:10:07 ID:hBhhQk/5
ちょっと強引にまとめてしまった。スマソ。
とりあえず、いつも通りに、



                 埋め!
667名無しさん@ピンキー:2007/12/10(月) 04:04:40 ID:npjyKNGK
どこかずれた二人だけど( ;∀;)イイハナシダナー

では埋めええええええええ
668名無しさん@ピンキー:2007/12/10(月) 10:20:25 ID:4w4X9/sO
そうだ今日ボーナスだ…
669名無しさん@ピンキー:2007/12/10(月) 16:37:19 ID:VgzQ79dP
>>666
GJ!

埋めてあげるわ
あはははははははははははははははははははははは
あはははははははははははははははははははははははははははははははははははは
670名無しさん@ピンキー:2007/12/10(月) 19:11:45 ID:/njrQAOW
>>669
ヤンデレさんうるさいですよ。  by隣の部屋の男
671リッサ ◆v0Z8Q0837k :2007/12/10(月) 19:38:37 ID:zUmWkgcA
 久々に投稿&埋めネタします、今回もまた変化球ですのであしからず。

 「ヤンデレ観測者」

 大人になってからは時間の流れが速くなるとは言うが、よもや自分がそれを経験する日が
来るとは思っていなかった。
 気がつけば私ももう二十代後半を過ぎ、更に季節はもうクリスマスに程近くなっている。
 一人身にとっては心身ともに大変辛い季節だ、だからこそ早く家に帰りたかった、それに
家に帰ればモニターの中で…こんな私でも微笑んで手をとってくれる少女たちがいるからだ。
 いつからだろうか、現実の女性に興味をもてなくなったのは…高校一年の夏、ようやく告白
が実って付き合い始めた女の子に、実はキープ扱いされて手ひどく振られた日からだろうか?
それとも職場恋愛で結婚寸前まで持ちかけられた同僚を出張中に上司に寝取られた日からだろうか?。
 それでも、そんな日でも…少女たちはモニターの中で微笑を絶やさないで私に愛をささやいてくれた
あるものは恋敵を殺し…またあるものは邪魔になれば肉親すらも殺し…あるときは私の分身である少

年を監禁し、そして私を殺して…捕食までしてくれた。
 怖くはないのか?怖いわけがない…こんな私をそこまで思ってくれるのだ、愛のある殺意の
どこにおびえればいいのだ…そんな考えが普通に浮かぶ。 
 まあ自分でいうのもあれだが、私は精神を少々病みながらも…ヤンデレというものの魅力に
完全に取り付かれていたのだ。
 そんな事を考えながら自宅である安アパートに向かう。急ぎ足で入り組んだ路地を抜けて
アパート近くのバス停前にたどり着いたとき…私は変なもの…いや、人を目撃した。
 その女性は深夜、こんなに遅い時間に大荷物を持ってバス停に腰をかけているのだ…
間違いなくバスを待っているということはないだろう、しかもその服装ときたら…
メイド服ときているのだ。
 異常だ、明らかに何かおかしい、でも…ゲームとの天秤が揺らぐくらいに興味を引かれた
のは事実だった。
672リッサ ◆v0Z8Q0837k
「こんばんは…バスを待っているんですか?」
 私は彼女に話しかけてみることにした、こういうことは仕事柄よくなれている。
空ろな目をした彼女はいきなり話しかけられたことに対して動揺したようだったが
それから作り笑いを絵に描いたような表情を浮かべるとこう切り替えした。
 「いえ、少し疲れたので…眠っていたんです」
 「そうですか…ああ、それじゃあこれをどうぞ…体が温まりますよ」
 「あ…はい、ありがとうございます」
 そういって彼女は私が手渡したコーヒー缶を受け取ると、念入りに缶の
尻の部分を観察して…それからプルタブをひねってコーヒーを飲み始めた。
 「…あったかい、ありがとうございます」
 「いえいえ、この程度…しかしあれですねぇ、どうしてまたこんなところで
こんな格好を?」
 私はどうしても気になっていたことを尋ねてみた、よくよく見れば臭いこそし
ないが…そのメイド服と、大荷物である巨大なスポルディングバッグには、どう見ても
血にしか見えないシミがところどころについていたのだ。
 「…私のお話、信じてくださいますか?」
 「ええ、どんな話でも信じますよ…たとえば…そうですね、そういえばこの前は
彼氏の生首を持って海外逃亡をする、なんていってる血まみれの女の子がここに座っ
てましてね…私、不憫になったのでいくばくかお金と食料を上げちゃいまして…まあ
そんな感じなので大丈夫ですよ、それに誰にも絶対言いませんし…何でも言ってください、
どんな話でも信じますから」
 「ふふ…お優しいんですね、大変失礼ですが…馬鹿なくらいに…」
 「まあ、そうですねえ・・・」
 そういって彼女は少し笑う、どうやら私の話を信じていないようだ。
 実際私はその彼氏の生首を見せられたと言うのに、それにそんな経験は一度や二度ではないと
言うのに…。
 そもそもこの街はなんだか治安がよろしくない、そのせいなのか何なのかこのアパート周辺だけでも
かなり変な人が多い分…わたしはこのバス停で幾度となく、そんな少女や女性たちの話を伺う羽目にな
っていたのだ。
 あるときは彼氏だと言うミイラを背負った少女に出会い、明らかに変質的な馴れ初め話しを聞かされ
た、またあるときは彼氏を殺してしまい、泣きながら包丁を持っている少女と対話して、彼氏の事を悔いる少女を諭した事もあった…酷いときには明け方まで監禁した彼氏の写メを見せて自慢話をしてくる
少女もいたくらいだ…そして三度目くらいにわたしはこう仮定した、どうやらここには何かヤンデレを
集めるオーラか何かがあって、わたしはそれらから上手く話を聞きだせる条件を有している、と…どう
せ暇人だし、命もあんまり惜しくはない…それになにより彼女たちは愛する人がいる分…絶対にほれら
れる事もない。
 そんな少々悲しい仮定をして大体月に一度、わたしはこうしてヤンデレてしまった人たちの観測を
行っていた。
 「…私、出身は東北の貧しい魚村の出でして…」
 少々押し黙った後、彼女はそういって語り始めた。
 「家は六人兄弟で…十歳のときに父が事故で死んでからますます生活が苦しくなって…とうとう
奴隷として売りに出されそうになったときに…偶然拾われたんです、ご主人様に…」
 そういう彼女の目は空ろだったが、顔は必死に作り笑いを浮かべていた…そしてその視線の
先は、大きな大きなスポルディングバッグに…いや、違う、コレはどこからどう見ても…死体袋じゃないか
…ストラップついてるから気づかなかったなぁ…に向けられていた。
 「ご主人様はさる貴族の末裔の大金持ちだそうで…たまたま村の再開発部分を視察しに来たときに私をみて
…一目で気に入ってくれたらしくて…そのまま私をメイドとしてお雇いになってくれたんです…勿論、凄く
うれしかったですよ、私…ふふふ」
 「一目ぼれ…だったんですか?」
 「ええ…でもそれはあの人も同じだったみたいですね…暇なときに私を呼びつけてはよくお話してい
ましたよ…私は早逝された妹さんにそっくりだとかで…ふふ、きっと恥ずかしかったんでしょうね
そんな事をいって照れ隠ししていたんですよ…」
 私は頷きつつもそのご主人様とやらに少し嫉妬した。