◆◆ファンタジー世界総合:女兵士スレpart5◆◆

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314 ◆selJPZyjjY
半年以上間が空いてしまいましたが、「副長の日々」の続編を投下します。
前回の異種姦らしきものから一転して、ややソフトな、少女兵による逆レイプ(?)ものです。
話の都合上、エロが頭でストーリーが後ろ、という変則的な構成になっていますが、どうかご容赦ください。

前編はこちらです。
http://vs8.f-t-s.com/~pinkprincess/female_soldier/0085/
315副長の日々3後編 ◆selJPZyjjY :2008/01/07(月) 14:32:47 ID:ow17S9s7
 つんざくような雨音が、外の世界を満たしている。洞窟の外へ広がる森に鳥や虫たちの声はなく、漆黒の闇の底からは、濁流となった沢の音が聞こえていた。
「これで、最後……っと」
 シャリン、と小さく高い音が鳴る。低すぎず高すぎない位置に細い糸を張り巡らせて、私はそれらを鳴子に連動させながら結びつけていた。
 よく響いたその音に、よし、と私は頷く。この音程ならなんとか、この豪雨の中でも聞こえるだろう。
 従姉妹殿に引きずり回されて、あらかたの悪童遊びに手を染めさせられた幼い日々。その頃に覚えたごく簡単な警報装置だ。こんなものでも、一時凌ぎには無いよりだいぶマシだろう。
 小鬼たちの拠点へ単身で忍び込んで火を放ち、大混乱の中から捕われた部下を救出してから数時間。
 私たち二人はどうにか小鬼たちの追跡をやり過ごしたものの、その途中で豪雨に見舞われ、今は雨露を凌げる洞窟に入っていた。
 逃走の途中で幾筋か沢を渡っていたから、臭いは水で途切れているはずだ。そしてこの豪雨。小鬼たちの嗅覚頼みの追跡も、幾らかは誤魔化せているはずだった。
 しかし敵の追撃が想像以上に激しかったことから、私も退路を当初の予定から大きく変更せざるを得なくなっていた。
 結果として、徒歩で隠密裏に接近するため、小鬼たちの拠点への往路で残置していた馬と装備は回収できておらず、もちろん輜重隊との合流も果たせていない。
 そうして必死の逃避行に息を切らせるうち、私たちは天然の草木で巧妙に隠蔽された洞窟を発見したのだ。
 内部には獣の気配もなく、また水没の心配もない。今夜限りの隠れ家に使うには、絶好の条件が揃っていた。
 こうなった以上はやむを得まい。今夜はいったんここで休息をとり、脱出と合流へ向けた次の本格的な行動はそれから起こす。それが私の計画だった。
 背後に人の気配を感じて、私は振り向きながら問いかけた。
「そっちの仕掛けも、終わったのか?」
「うん……」
 洞窟の闇へ溶けるように、ショートの鮮やかな黒髪が小さく揺れる。
 本来の上衣を破き捨てられたため、寸法の合わない私の上着を羽織ってたたずむ少女が小声で答えた。別方向への仕掛けを頼んでおいたハンナだ。
 いつもはひどく勝ち気で反抗的な、意志の強さをたたえた強い光を宿していた灰色の瞳は今、未だ収まりきらない動揺に揺れていた。
 やむを得ないことだと思う。彼女はまだ14歳の少女なのだ。それがたった一人で小鬼の群れに捕らわれてしまい、半裸に剥かれながらねちねちと辱められ、あまつさえ忌まわしい子種を植えつけられようとしていたのだ。
 救出に成功していなければ、彼女はあのまま小鬼どもの慰みものにされ続け、やがては決して望まぬ魔物の妊娠を強いられていただろう。
 もっともそのおかげで、欲情しきった小鬼どもはこぞって彼女の見物に集まってくれたから、私でもその隙に潜入して火蜥蜴の油での破壊工作を仕掛けることが出来たのだが。
 それでも、救出直後はただ私に手を引かれるだけだった彼女がすぐ、小鬼の追っ手に捉えられそうになる度に真夜中の森で道を示し、最後はこの隠れ家まで見つけてくれたのだ。
 彼女のその凜々しい気丈さを、私は純粋に尊敬した。
 互いの仕掛けた警報装置を一通り確認しあうと、私は彼女に命じた。
「よし。じゃあ今からは交替で見張りをしながら、片方が休もう。最初は私が見張るから、ハンナ、君は奥で休んでいるんだ」
「だ、……大丈夫。最初の見張りは、私がやります。副長こそ、今は休んでください」
「自分の状態を顧みてから、そういう台詞は言うことだね」
 以前の勝ち気さを少し取り戻して、あくまで食い下がろうとする彼女へ、ため息混じりに私は言った。
「君は輜重隊の尖兵をあれだけ長く務めた後、敵の拠点まで一気に潜入してあの戦果を挙げ、そして捕らえられたんだ。普通なら、とっくに倒れていてもおかしくない。いいから今は休んでおくんだ」
「……で、でも」
「でも、じゃない! これは命令だ。休んでおけ、ハンナ!」
「……! は、……はい……」
 ぎゅっ、と悔しげに拳を握りしめ、彼女は洞窟の奥へ下がった。同時にふう、と私の喉からも息が漏れる。
316副長の日々3後編 ◆selJPZyjjY :2008/01/07(月) 14:33:37 ID:ow17S9s7
 内心冷や汗ものだった。輜重隊での行軍中にそうだったように、また徹底的に突っかかってこられたらどうしようと思っていた。
 今回の件は彼女には気の毒だったが、いま直面している非常事態を乗りきるためには好都合な面もある。このまま敵の追跡を振り切って本隊へ合流するには、彼女が素直に私の命令に従ってくれること――集団として意志の統一が容易なことは、大きな救いになってくれるからだ。
「しかし、参ったな……」
 洞窟の岩壁に背を預けながら外界を窺う低い警戒姿勢のまま、私はその合流すべき輜重隊本隊のことを思い返す。
 老練なユゴー伍長に指揮を任せ、後で必ず追いつくと言い含めて予備の迂回路を行かせた彼ら。だが執拗な小鬼の追撃で、こちらはずいぶんと森を迷走してしまった。
 この未開の森の真っ只中では、現在地の特定すらも骨が折れそうだ。さて。この一時の休息後、次はいったいどうしたものか――
 思いに耽るうち、再び気配を感じて私は振り向く。
「どうした? ハンナ」
 羽織った上着の前をはだけながら、ハンナがそこに立っていた。息が荒く、表情はひどく苦しげだ。私は目を眇めた。
「どうした、熱か? 風邪でも引いたのか」
「ううん、違う。違うの……あの時から……あいつに、あの鬼に、服を溶かすおかしな薬を掛けられたときから、ずっと……私の身体、おかしくなっちゃってるの……」
「まさか、……毒か!?」
 さっと表情を引き締めて、私は呻く。私の知っている薬草などほんの数種類だ。一人でまともに解毒できる保証などあろうはずもなかった。
「ううん、……毒じゃない。これは、普通の毒じゃ、なくて――」
「え……?」
 しなやかに鍛えられた少女の腕が、私の肩に伸びてくる。熱に潤んだ瞳が、荒く息づく赤い唇が、ゆっくりと近づいてきた。
 早熟な少女がまとう、ひどく官能的な汗のにおいが鼻孔を満たす。玉のように浮かんだ汗を鮮やかに弾く、まだ幼さを残した健康的なみずみずしい肌を間近に意識して、私は思わず唾を呑んだ。
 そして同時に喉の奥から、何か無意識の警告が迫り上がってくる。
 確かつい最近も、これと似たようなことがあった気が――
「わっ!?」
 次の瞬間、ハンナは獣のように躍動して私を襲った。
 背中が岩場へ打ちつけられ、視界が塞がる。少女の熱と弾力に満ちたみずみずしい肉感が、布地越しに私の顔面を締め上げた。
 いやいやをする子どものように首を振って、ハンナは荒い息づかいのまま私の肩を強く掴む。
 彼女はそのままぴったりと密着しながら、その細腕のどこにあったか分からないような強い力で、私を押し倒しながら地面へ完全に組み敷いた。
 鍛えられてはいても、やはり細い少女の身体と、ひどく熱っぽい体温を肌で感じる。
 そして一枚羽織っただけの上着越しに密着する、堅く張りつめた早熟な乳房の丸みと、ツンと強く尖ったその頂の感触をも。
 ハンナはその肢体を押しつけながら、一気に私の下へ私の胸に額を寄せて、ハンナは熱い吐息とともに呟いた。
「あ、熱いの。か、身体が、……身体が、熱いの……。だから。だから……」
「…………!?」
 あまりの事態に言葉を失う。頭が白い。対応が思いつかない。
 私が何か次の行動を起こすより早く、少女の肢体は蛇のように素早く私の四肢へ絡み付いていた。母親譲りの巧みな体術が、私のすべての動きを殺していく。
 私はただぱくぱくと口を動かしながら、意志に関わりなく少女の秘所を指すように屹立してしまったた己の男性と、熱い吐息で瞳を濡らした彼女を交互に凝視した。
「ずっと……さっきからずっと、私の奧がぐちゃぐちゃなの……。あんな奴らに、あんな奴らなんかに無理矢理犯されそうになっただけなのに、……止まらないの……!」
 震えながら、ハンナは蛇のように足を絡めてくる。少女の股間から溢れる熱い液体が、二人のズボンの布地越しに私の腿を濡らした。
「ああ……っ、……ああぁぁああぁ……っ!!」
 苦悶し、無力な仔兎のようにひどく怯えて戸惑いながらも、ハンナは同時に飢えた狼のように執拗に、私を求めて密着してくる。
 汗ばんだまっすぐな黒髪から漂う少女の匂いと体温に、私の心臓は胸を突き破るように跳ね上がった。
317副長の日々3後編 ◆selJPZyjjY :2008/01/07(月) 14:34:00 ID:ow17S9s7
「ちょ、ちょっ、ちょっと待て! 落ち着け、落ち着くんだハンナ、冷静になれ!!」
 私は叫んで暴れたが、手遅れだった。彼女の冴えた体術と、何よりも全てがまったく予想外の行動に、私は完全に奇襲され、制圧されていた。
「ずっと、ずっと……あれから今まで、必死にずっと我慢してたんだけど、……ダメなの……もう、ダメなのっ!!」
「なっ、なああぁっ!?」
 懇願するように喚いた私の言葉に耳を貸すことなく、ハンナは荒く吐き捨てながら右手を鋭く閃かせた。
 いつも弓や剣を自在に扱うその指先が、容赦なく私の股間をまさぐる。不覚にも堅く大きく勃ち上がっていた男根を捕らえるやベルトを外し、一気に引きずり下ろす。
 そして勢いよく跳ね上がるように飛び出したそれを、少女の五指がぎゅっと掴み取っていた。
 突然の無体な行動に反応する間もなく、ハンナは私の男根を掴んでしごき上げる。
「そう……、これ……これなの……これが、欲しいのぉ……っ」
 さらに彼女は身を乗り出して、肉の張りつめた美しい両腿の間へ、私自身を挟み込んだ。
「はあ、あああっ、……ああ、あああああぁぁっ……!!」
 ひどく切なげに、啜り泣くような声を上げながら、14歳の勝ち気な少女兵はズボン越しに、私の男根を何度も秘所へと擦りつけていく。
 私は唖然としてそれを見ていた。あれほど嫌っていたはずの私を力ずくで組み敷き、その逸物を剥き出しにして、こうも無体な淫行に及んでいる。
 つい今までは想像さえも出来なかった、あまりに常軌を逸した情景がそこに生じていた。
「は、ハンナ……」
 そしてこの期に及んで、私はようやく事態を掌握した。
 あの鬼が、ハンナに対して用いた毒薬。あれはただ単に、彼女の衣服を溶解させるだけの代物ではなかったのだ。
 その正体は、おそらく媚薬。凌辱の前に獲物の性感を高め、普段のただ暴力的な強姦とは異なる趣向でハンナの肉体を楽しもうとしていたのだろう。そして、その本格的な効果がいま現れた。
 だとすれば、すべて説明がつく。
 普段はひどく禁欲的な態度で冷たく振る舞い、同僚の城兵たちが飛ばす下卑た冗談にもまともに取りあわず、時にはそれで激昂して喧嘩騒ぎまで起こしていたハンナ。
 そんな彼女が、あれほど馬鹿にしていた私をこうも淫らに求めてくるという異常さも、これで全て説明できる。
 それでもなお分からないのは、なぜそんな薬を、あの程度の知能しかない鬼が持ち合わせていたのかということなのだが――
「んっ!?」
 思索の海への現実逃避は、男根の違和感で霧消した。
 ズボンの生地越しに肉の張りつめた両腿で挟んで、私の男根への責め苛みに没頭していたハンナが、その責めを中断し――自ら腰のベルトを外し、ズボンを脱ぎ下ろそうとしていたのだ。
「ま、待て。待て、ハンナ! 君は――君はいったい、何をやろうとしているんだ!?」
 心の底ではすでに答えなど分かりきった質問。だが、聞かずにはいられなかったのだ。
「分かんない……分かんないよ……もう私、自分がどうなってるのか、どうすればいいのか、全然分かんないよ……!」
 強い熱を帯びた息を吐き出し、ハンナはズボンを一気に引き下ろした。ためらいもなく下着も脱ぎ下ろし、うっすらと生え揃った黒い茂みと秘裂を剥き出しにする。
「分かんないっ。こんなの、初めてだから、なんにも……なんにも分かんないよう……っ!!」
 幼児がいやいやをするように首を振って、ハンナは潤んだ瞳で組み敷いた私を見下ろしてくる。
「だから、……とにかく……ちょうだい……」
 少女兵の手が、私の陰茎をぎゅうっと捕らえる。
「もう、何でもいいから……何だっていいから、あんたの、これを……私の、中に……ちょうだい……!!」
 求められている。強くしごき上げられるような感覚に、私は不覚にもそれだけで軽く達しかけた。
「わ、分かった……分かったから、少し落ち着け。落ち着くんだ、ハンナ」
 あられもなく発情し、しどけない痴態を晒して迫る部下を前に、私は最後の理性を振り絞って抵抗した。
 少女兵のしなやかな腰へ手をやり、汗を弾く艶やかな肌をそっと愛撫する。指先を少しずつ、優しく、筋肉質な背中の線をなぞるように、ハンナのうなじへと登らせていく。
「あっ……! あっ、ああっ……、あ、ふぅん……!」
 決して女体の扱いに慣れているとは言い難い、私のそれだけの指遣いで、ハンナはあっさりと悦楽の波に揺り動かされた。
 暗い洞窟へ押し殺したように響く少女のはかなげな嬌声が、まるで美しい楽器を奏でているようだ。その敏感な反応にわずかな自信を取り戻して、私は彼女を説得した。
318副長の日々3後編 ◆selJPZyjjY :2008/01/07(月) 14:34:37 ID:ow17S9s7
「ハンナ――君が冒されたのは、あの魔物たちの使った媚薬だ。君は一時的に欲情を高ぶらせられているに過ぎない。大丈夫。こうやって少しずつ、君の火照りを鎮めてあげる。だから――うむうっ!?」
 説得の途中でいきなり、無理矢理に唇を塞がれた。すぐ目の前で上気しきったハンナが両目を閉じて、私の口腔内へ強引に舌をねじ込んできたのだ。
 唾液が混じりあい、舌が舌へと蛇のように絡みつく。ハンナは夢中のままに私の腔内を貪り尽くし、呼吸を止められて危うく死にかけた私を、恐ろしく長い空白ののちにようやく解放した。
「……ぷ、ぷはぁ……っ!!」
「ん……ああっ、んんぅ……っ」
 息を切らせる私の前で、ハンナは糸を引いた二人の唾液を手で切って口許へ寄せ、私の腔内を蹂躙しつくした赤い舌をちろりと見せて舐め取った。
 頭が白い。ああ、そういえば、女性と交わす唇同士の接吻はこれが人生で初めてだったなと思い――童貞を母のライナに、ファーストキスを娘のハンナに奪われるという、私とグレアム母娘との奇妙な関わりが、ぼんやりと頭を白く、熱くした。
 だが、いつまでも少女の唇の余韻に囚われているわけにはいかなかった。
 彼女の上官として、私は、彼女を守らなければならないのだから。
「ハンナ。君がいま感じている情動は、こうして優しく解きほぐしてあげられる。だから、最後までする必要なんて、ないんだ」
「え……?」
 何を言われているのか理解できないというような、とろんと蕩けるように濡れた瞳で、ハンナは私を一心に覗き込んでくる。
 私はこの可憐な少女兵の兄にでもなったような心持ちで、あくまで優しく語りかけた。
「だから……だから今の勢いだけで、私と関係を結んでしまうことはない。君はまだ処女なんだろう? そんな大切なものを好きでもない男のために捧げるなんて、粗末に扱かったりしてはいけない。だから、今は――」
 言葉でハンナを説得し、片手では彼女をなだめるためにみっちりとした肉の詰まった肌を愛撫しながら、私は再び片手で自分の下着とズボンを上げようとした。
「…………!」
 だが、ハンナの視線がそこへ吸い着く。
 腹へ着くほどに堅く怒張したまま、今にもズボンの下へ格納されていこうとしている私の男根へ。
「だ、――」
「え?」
「だめぇっ!!」
「ぶっ!?」
 強烈な体当たりを喰らって、私は背中を岩場へ打ちつけられる。
 ハンナはすがりつくようにして私の五体を組み敷き直しながら、涙混じりに私に請うた。
「ダメなの! そんなのだけじゃ、ダメなの……! まだ、まだ私のここに、あいつが居るみたいなの。あいつ、……あいつ、まだ私を犯してるの……! だから、ダメ……最後まで、ちゃんとやってくれなきゃ、ダメぇ……!!」
「ちゃ、ちゃんと? ちゃんと最後まで、って――」
「ちゃ、ちゃんと――」
 媚薬によって強制された情欲に衝き動かされながらも、ハンナの表情に一瞬の恥じらいが走った。
 だが次の瞬間にはこらえきれなくなり、恐怖と嫌悪感に苛まれた、苦しげな顔で哀願した。
「ちゃんと、最後まで――最後まで、奧までぜんぶ入れてくれなきゃ駄目ぇ! それで、きれいに掻き出して――あんたのそれの太くなってる先っぽで、私のおなかの中から、あいつを全部きれいに掻き出してぇ!!」
「…………」
 あまりの要求に絶句しながら、しかし同時に、脳裏をよぎる記憶があった。
 騎士修業時代、下世話な話が好きな同僚から聞いたことがある。
 男の陽物はその亀頭に、一種のブラシとしての機能も併せ持っているという。自分の前にその女を犯した男が注いだ精液の残滓を掻き出し、その胎へ改めて自分の子種だけを植え付けるために、男根というものはそうした形をしているのだと。
 女のくせにけらけらと笑って、あけっぴろげにそんな話をしていた同僚の顔を苦笑混じりに思い出しながら、私の胸にはあきらめにも似た思いが広がっていった。
 精液よりも先に男根がその身にまとう、いわゆる先走り汁にも子種は含まれているという。あのときハンナが鬼に突き入れられたのは、ほんの入り口までのはずだ。
 だが、何しろ魔物のやることだ。実際どうなってしまうかは分からない。確かにこのままでは、ハンナがあの鬼の子を身ごもらされてしまう可能性もゼロではなかった。
 ――それは、許せない。
319副長の日々3後編 ◆selJPZyjjY :2008/01/07(月) 14:35:11 ID:ow17S9s7
「あぁ……っ!」
 私は己が陽物をハンナの秘裂にあてがう。それを見たハンナの顔に喜悦とわずかな怯え、そして深い安堵が広がっていくのを、私は不思議な満足感とともに見つめていた。
 彼女の腰へしっかりと手をやって支えながら、汗の伝い落ちる耳元へ寄せて囁く。
「分かったよ、ハンナ。そんなに堅くならなくていい。力を抜いて、僕に任せろ」
「わ……私はなにも、堅くなってなんかっ……!」
 精一杯に抗おうとする勝ち気な言葉も、今はなぜだか可愛らしく感じられる。
 奥まで貫かれはしなかったとはいえ、卑しい先走り汁をまとった鬼の男根を宛がわれてしまったそこから、その汚れを拭い取ってやるような気持ちで――私はゆっくりと、しかし腰ごと彼女へ強く押し込みはじめる。
 少女の腰へやった手をゆっくりと抱きかかえるように下ろして、彼女の膣を男根へ被せていく。
「あっ……!」
 再び侵入してきた熱い肉棒に、びくりと首を震わせてハンナが喘いだ。14歳の少女兵の引き締まった体は、怒張した私を最初からきつく締め上げてきた。
 それでもいやいやをするようにせがむ彼女が少しずつ腰を下ろして、狭隘な洞窟の奥へと、私は静かに導かれていく。彼女の奥へ、沈んでいく。
 そして私は、ライナ軍曹のときにはなかった、最初の障害に接触した。
「く……くうぅ……っ……!」
「痛い……?」
 少女の肉をえぐる度に、必死に食いしばられた赤い唇から悔しげな、そして切なげな悲鳴が漏れていた。瞳は潤み、たちまち目尻にしずくを作り上げようとしている。
 ハンナは抑えきれない情欲に溺れながら、同時に身を貫かれるはじめての痛みに耐えて、そしてこれから訪れる体験による、決定的な変化に怯えているように見えた。
 しかし腰の動きを止めた私を、彼女は強い光を込めた瞳でキッと睨みつけてくる。
「な、何よ。私は……私は何も、痛く、なんか……っ」
「じゃあ、……怖い?」
「え……ええ……っ?」
 ゆっくりとした腰の動きを止めて、ハンナが濡れた大きな瞳で、私の真意を質そうとするかのように覗き込んでくる。
「怖いのなら、無理しなくていいんだ。君の胎内を清める方法は、他にもなくはない。君が本当にそうしたいと思うまで、それは大事に取っておけばいい。
 ――いま感じている高ぶりは、他の方法で満たしてあげるから……」
「なっ……」
 熱に浮かされた少女の瞳が、私を見つめる。自分ではどうすることもできない熱の高ぶりの、その中心を貫かれる感覚に身悶えしながら、それでも彼女は精一杯の虚勢を張った。
「な、何、それ……。悪いんだけど、あんたのなんかね、全然細くて小っちゃくって、かわいいんだけど。こんなに粗末なものなんか、三本まとめて来たって怖くなんかあるもんかっ!!」
「傷つくことを言うね……」
 言葉だけでなく実際に少し凹みながら、私は堅く屹立して、今やその尖端を彼女へ埋めた分身に目と手をやった。
 君の母上には、それなりに好評だったはずなのだが……。あれももしかして、私を傷つけないためのライナ軍曹の心遣いだったのだろうか。
 なかなか嫌な想像だったが、あの日の女軍曹との情事が、私にいくらか男としての自信を与えてくれているのは確かだった。
 少女は何かを振り切ろうとするかのように、罵りの言葉を連ねつづける。
「怖いわけなんか、ないじゃない……! そんなことより、あんたの粗末なソレで私の中から、ちゃんとあの鬼の汚い汁を、ぜんぶ綺麗に拭い取れるかどうかのほうを心配をしてなさいよ……っ!」
「そうだね。――でもきっと、君の期待には添えると思うよ」
「何を……っ!」
 ハンナは私の上で歯を剥いて凄んでみせたが、私はいくばくの余裕を持って少女の威嚇を受け流すことができた。
 発情した少女のしなやかな肢体を、改めて舐めまわすように見つめていく。
 健康的に日焼けした肌にはいっぱいに汗が浮かんで、無数の玉を作っている。両手を腰から離して、彼女の胴を登らせた。
 邪魔な上着を跳ね除けると、手のひらにちょうど収まる愛らしい隆起が二つ、その薄桃色の頂を堅く尖らせながら張りつめているのが露わになる。
 それらの汗の水滴を潰して押し広げながら、私の両手は鍛えられた腹筋から這い上がって、左右に連なるふたつの丘を掌中に捉えた。
320副長の日々3後編 ◆selJPZyjjY :2008/01/07(月) 14:35:41 ID:ow17S9s7
「あん……っ!」
 柔らかくも素晴らしい弾力を備えた、革の胸当に守られていた少女兵の乳房。
 ライナ軍曹や従姉妹殿のそれに比べれば、確かに大きさでは見劣りする。
 しかし膨らみはじめて間もない、ひどく若い乳房の味わいは格別だった。
 日焼けのない白い肉がふたつ、手のひらにぴったりと収まってぐにぐにと変形していく。
 その頂でツンと気取ったように堅く上を向いた、色の薄い可愛い乳首を指で挟んでいじめてやる。
「あ……ああッ……!」
 全体を捏ね回されながら、尖端に対しても加えられる攻撃に、ハンナがびくんっ! と背筋を跳ね上げて反応する。
 その仕草のひとつひとつが、たまらなく可愛い。
「やっ、やああっ……。おねがい……」
「ん?」
 愛らしい乳房の肉を集めて揉みながら、いっこうに腰を進めてこようとしない私に、少女は焦れた喘ぎをあげた。
「お、おねがい……お願いだから、もう、じらさないでぇ……限界なの……もう駄目なの……これ以上、そんなところで止められてたら私、ほんとうにぃ、おかしくなっちゃうぅ……っ!」
「ふむ……ん」
 目に涙を溜めながら、意地を捨てての必死の哀願。
 いつか訪れるはずのそのときを待ちきれずに震える少女に、私は穏やかな笑みを浮かべ、そして、率直な思いを答えた。
「可愛いよ。……とても可愛いよ、君は――ハンナ」
「なっ、なに、言ってぇ……っ、ひっ、い、ぃぅやあぁあぁぁぁっっ!!」
「くう……っ」
 その瞬間、少女の大切な部分を守っていた最後の城壁を、私の破城槌が押し貫いた。
「、あ……あ、あああぁぁああぁーーーっ!!」
 怒張した尖端はそこを一気に押し破りながら、さらに城内の奧深くへ向けて進撃していく。
 が、すぐに行き当たる。少女の城内は思いのほかに狭く、私は根元にいくばくの余長を残したまま、ハンナの内部を完全に制圧してしまっていた。
 私もハンナも、二人とも何の力も入れていないのに、彼女の腰は私から少し浮いている。
 ハンナを、貫通した。
「――ほら。いちばん奧まで、入っちゃったね」
「あ、ああ……ああああ……はいっちゃった……わたしの……わたしの、おなかのなか……入れられて……つらぬかれて……いっぱい……いっぱいに、されちゃったよう……」
 くす、と微笑んで、この愛らしい少女の顔を見つめる。
 喪失の絶叫のあと、ハンナはびくっ、びくんっと数度震えて、どこか遠い場所へ視線を飛ばしていた。その目尻が溢れて、幾筋もの熱い涙が滴り落ちる。
 ――ハンナの処女を、奪った。
 勝ち気で峻嶮な少女兵の中は、彼女そのもののようにきつく狭かった。
 初めての痛みに言葉を失い、強靱な意志と私への反抗心までも吹き飛ばされてしまったかのように震える少女の腰を、私は両手でぎゅっと掴んだ。
「さあ。それじゃあ、本題に入ろう。――君の中を、きれいに拭ってあげるとしようか」
「…………、え……? あ、……ひ、うっ!!」
 言いながら、腰から全身に力を溜め、私は力強く腰の往復運動を繰り出した。
 腰を揺らし、胎内から少女の頭へ向けて、貫き通すように叩きつける。
 狭い膣道の中を、陰茎の尖端が何度も繰り返し往復し、跳ねるハンナの身体の上で、彼女の頭と丸い乳房ががくがくと揺れ動いた。
「あんたなんか……あんたなんか、大っ嫌いなんだからぁ……! これは……これは、奴らの妖術のせいなの。私は妖術にたぶらかされて、今だけおかしくなってるだけなんだから。
 妖術で変にされてなかったら、絶対に、あんたなんかと、こんなことなんか……絶対に、しないんだからぁ……っ!!」
「分かってる。分かってるよ、ハンナ。君は強く気高い優秀な戦士で、僕たちの大切な部下だ。それは誰よりも、この僕が知ってる」
 絞り出すように悲痛な声で絶叫しながら、少女は私の上で叩きつけるように激しく腰を振り続けた。
 ハンナの鍛えられた身体は、素晴らしく強い締まりで私の陰茎を責めなぶっていた。
 激しい腰の動きは溢れた水音を熱く淫靡に響きわたらせ、負けじと怒張した私の男根はその内側に吸いつく肉を容赦もなしに抉っていく。
321副長の日々3後編 ◆selJPZyjjY :2008/01/07(月) 14:36:53 ID:ow17S9s7
「ううっ、すごい……」
 その窮屈な締め上げに思わず言葉を漏らしながら、これならきっと、彼女を犯そうとした魔物の汚れも、十二分に拭い取ることが出来ただろうなと、どこか思考の片隅で思う。
 そして私は、この往復運動の限界が近づいてきていることを感じていた。
「うっ……。いっ、いきそうだ……。ハンナ、もう僕のが……僕の子種が出るっ!」
 警告の叫びを発し、私は往復運動の終末点を探った。ハンナを上へ跳ね上げて切っ先までのすべてを抜き取り、外へ射精しなければならない。
 ライナ軍曹の時は彼女の包容力に甘えて不覚を取ったが、まさか、ハンナ相手に同じことを繰り返すわけにはいかないのだ。
「…………! だめ……っ」
 しかしハンナは、私の警告に気づかなかったのか、あるいは、聞こえていても認識できなかったのか――ここに至って何か小声で囁き、むしろ自ら腰の動きを強めてきた。
 さらに全身の力で私を押さえ込み、彼女を跳ね除けようとする試みを封じ込んでくる。
 その私をいっそう強く締め上げる激しい動きが、私の絶頂を加速させた。二人で同じゴールに向けて、凄まじい勢いで、破滅的に加速していく。
「だっ、駄目だっ、駄目だハンナ! 早くっ、早く僕の上から――!!」
「アアァッ……ッッ!!」
「――――ッ!!」
 その快感が全身を突き抜けた最後の瞬間、私は目を見開いてそれを見上げた。
 ハンナは渾身の力で地面へ、私へ向かって腰を打ちつけ、彼女を跳ね除けようとする私の反撃を完全に封殺していた。
 どくっ、どくっ、どくっ……。輸送任務の中で十二分に蓄えられていた大量の白濁は、その最後の一滴に至るまでもが無情にも、ハンナの一番奥の部分を目掛けて注ぎ込まれていった。
「……あっ、ああ……っ……、で、出てる……。わたしの、おなかのなかで……ユアンの濃くて熱いの、いっぱい、いっぱい出てるぅ……っ」
「は……ハンナ……っ」
 そうして身体を折り、私の凶器を呑み込んだままの自分の腹を、いとおしげにそっと何度も撫でながら――力尽きた少女兵は、どさり、と私の上に崩れ落ちた。
322副長の日々3後編 ◆selJPZyjjY :2008/01/07(月) 14:37:13 ID:ow17S9s7
「…………ん、……」
「――気が付いたか?」
 人の気配を感じて、ハンナは洞窟で目を覚ました。
 おかしな熱は去っている。全身は再び借り物の衣服をまとっており、異常は何も見受けられない。
「痛……っ!」
 だが身を起こそうとしたとき、彼女は不意に股間の痛みを感じた。
 手と意識をやれば、確かにそこは混じり合った二人の体液を綺麗に拭き取られてはいた。
 しかし確かに、何か太く逞しいもので奧まで何度も完全に貫き通されてしまった、その残滓のような感覚が残っていた。
「夢じゃ……なかったんだ……」
 その押し広げられた秘裂を指先でなぞるようにして、ハンナはその匂いを嗅いだ。自分のものではない匂いが確かにそこには混ざっていて、少女の心臓を高鳴らせた。
「……具合はどうだ? 大丈夫か……?」
 ひどく心配そうな顔で覗き込んでくるユアンを前に、こくん、とハンナは頷く。無意識のうちに、鍛えられた腹筋をそっと撫で下ろした。
 その仕草を見て、さっとユアンが顔色を変えた。
「あ、……ああ。その……す、済まない! 本当に、済まなかった。完全に、僕の責任だ……君の純潔を奪っただけでなく、あまつさえ……中に、注いでしまうなんて……」
 悔恨の思いに満ちて肩を落とすユアンを前に、しかしハンナの口許には、次第に意地悪そうな笑みが浮かんでいった。
「――バカじゃないんですか?」
「え?」
 うなだれるユアンに背を向けたまま、ふっ、とハンナはいつものように、意地悪そうに笑ってみせた。
「あんなの、あなたの粗末なものだけで、ちゃんと魔物の汚れがきれいに全部落とせるかどうか不安だったから、最後の駄目押しを入れただけです。
 魔物に犯されてもすぐに男と交って精を受ければ、魔物を孕ませられることはないって言うでしょ」
「いや、まあ……確かに、そういう噂や伝承もあるけれど……」
 実証は難しいので、はっきりとした正確な話ではなかったはず、とうろ覚えの知識で反論しかけたユアンを制して、ハンナはいつものさばさばとした傲慢さで言い放った。
「ま、副長どのにしてはよくやってくれたと思います。ちゃんと私の熱を鎮めて、汚らしい鬼の気配もぜんぶ取り除いてくれたわけですし。――ぎりぎり合格点、ですかね」
「それは、……ははは。ありがたいね……」
 以前にも増して歯に衣着せぬ慇懃無礼な言いように、ユアンはもはや苦笑しか浮かべることが出来ない。
 ふふん、と勝ち誇った笑みを浮かべると、ハンナはユアンの剣を引ったくって、彼を洞窟の奧へ押し込んだ。
「ほら、見張り交代交代! さっさと休んでもらわないと、雨上がりからの脱出行で私についてこれなくなっちゃうでしょう? 足手まといになられちゃ困るんですよ!」
「わ、わわっ……!」
 無理矢理ユアンを奧へ押し込むと、ハンナは洞窟の入り口近くに腰掛けた。外の雨足はいくぶん弱まってはいるが、まだ暫く上がってくれそうにない。
「まったく、本当に……。なんで私、初めてがフレア隊長とじゃなくて、あんな奴なんかと……」
 ユアンから借りた上着の布地越しに、そっとしなやかな腹筋を撫でる。そうするとなぜか身を焼くような熱い恥じらいとともに、確かに感じた悦びの記憶が甦ってきて、それが少女の頬を火照らせた。
 つい先ほどまで、確かに二人が繋がっていた場所。
 降りしきる夜の森に視線を巡らせながら、少女はそこへそっと手を伸ばした。
323副長の日々3後編 ◆selJPZyjjY :2008/01/07(月) 14:37:35 ID:ow17S9s7
 私が目覚めたとき、ちょうど雨は上がり、夜も白みはじめたところだった。
 払暁前。私たちは敵の気配を窺いながら手近な高台まで登りつめ、周囲の地形を確認した。そして私は輜重隊主力の行進経路を予測して、それに近づく合流路を選んだ。
 あらかじめ地形を可能な限り頭に叩き込み、鋭敏なハンナの五感にも頼りながら、小鬼たちの包囲網を抜けていくつもりだった。
 正直、今の私たちに戦闘力は無いに等しい。防具はないし、武器といえば私の剣と、小鬼から奪った石斧がひとつという充実ぶりである。
 せめてハンナに必殺の弓矢があればもっと大胆な行動も取れるのだが、そんな贅沢は望むべくもなかった。
 小鬼と遭遇すれば、まともに戦えるのはせいぜい三体ぐらいまでだろうが、追撃に出た敵がそれだけの数で動くはずがない。見つかってしまえば、すぐに仲間を呼んで膨れ上がるだろう。
 だが私たちは、軽装のぶんだけ身軽であるはずだ。このまま捕捉されずに追跡を振り切り、友軍との合流に望みをつなぐしかない。
 だがハンナの報告は、そんな楽観的な望みを易々と断ち切ってくれた。
「――敵の足が、速い……。かなりの大物も、もう、すぐそこまで来てる……このままでは、間もなく追いつかれます」
 静謐なこの場所で地面へ耳を近づけ、微細な振動を聞き取っていたハンナの唇から、情報がもたらされてくる。
「他には? 何か、他に感じ取れた情報はないか?」
「この方向に、物資を満載した馬車の車列……輜重本隊だ。それと……そこに近づく一隊が。間もなく接触します。かなり重量級の馬と、武装した兵員……これは……騎士……?」
「城塞からの友軍か!?」
「おそらく。でも……」
 思わず腰を浮かせた私に、ハンナは身体を起こした。地形を見渡しながら、張りつめた表情で続ける。
「いずれの位置も、いくつも崖や河を隔てた先です。私たちを囲むように近づいてきている敵より、ずっと遠い。この位置関係では合流するより先に、奴らに捕捉されます……!」
 判断と指示を求めるように、ハンナの瞳が私を見つめて揺れている。
 口許を隠すように右手をやり、しばらく考えた後、私は彼女に質問した。
「その接近中の騎士たちは、我々の砦から出てきたのだな?」
「はい。おそらく、それは間違いないと思います」
「と、なると……」
 私の中で、我々を取り巻く現状の諸要素が再配置されていく。いま考えなければならないことは、ただ単純な一点のみ――すなわち、いかにして生き残るか。
「よし。ハンナ」
 出来るだけ落ち着いたように聞こえる声で、私はいま唯一の部下であり、同時に守るべき存在である少女兵に呼びかけた。
 瞳に微かな不安の影を揺らしながら、彼女は私を見返してくる。
「すぐに出発しよう。進行方向は私に任せてもらう。ただ……その前にひとつ、君にやってもらいたいたいことがあるんだ」
「この期に及んで、何だって言うんですか?」
 私はこの高台で、もっとも高く聳える木の幹を見上げる。
「私がやってもいいんだが……身軽な君にやってもらうのが、ずっと早くて正確だろう。頼みたいのは、こういうことだ」
 不審そうに見つめてくるハンナに、私はその案を説明した。
 彼女は最初意外そうな顔をして、その行動の意味と、その作業で果たして意味ある効果が得られるのかに疑問を呈したが、私がもう一押しすると、やがて素直に頷いて従ってくれた。以前なら考えられないことだ。
 だが、もう一刻も無駄には出来ない。ハンナが作業を終えるのを見届けると、私たちは足早にその高台を離れた。
324副長の日々3後編 ◆selJPZyjjY :2008/01/07(月) 14:50:30 ID:ow17S9s7
 私たちは果てしなく続く森を、いくつもの道なき斜面を乗り越えながら進んでいた。軽装とはいえ、かなりの急行軍だ。
 それでもハンナはまだ多少の余裕があるのか、私に先行しながら周囲の気配を窺ってくれている。
 しかし互いに無言のままで言葉は交わさずとも、その表情から、敵との距離がいよいよ詰まりつつあることは理解できた。
 どれほどの距離を稼いだろうか? 左手には険しい崖がそびえ、右手には千尋の谷の下に河が流れる坂道へ入ったとき、ハンナが急に警告を発した。
「――危ない!」
「!?」
 はっとして空を見れば、飛来する礫を視線が捉えた。首を捻って慌ててかわすが、さらに続けて数個、拳大の飛礫が襲ってくる。
「あ痛っ――」
「副長!?」
 避け損ねた一発に無防備な肩を打たれて、思わず間抜けな悲鳴を上げる。それで近づこうとしてきたハンナを手で追いやって、私は周囲を見渡した。
 前後から――それこそ前方にすら待ち伏せていたのか、次々に小鬼の群れが顔を覗かせた。手に手に石斧や投石用の小石を握り、不気味な笑みを浮かべている。
 その数は、実に二十体近く――そして後方から現れた集団の中には、見覚えのある巨体があった。
 捕らえたハンナを辱め、最後は私の仕掛けた火蜥蜴の油で全身を灼かれたあの鬼だ。その毛皮は焼けただれてすっかり炭化し、痛々しい火傷の痕を曝していたが、生憎なことに健在のようだった。
「グッ、グフッ、グゥフフフ……ッ。ようッ、ヤク……ヨウヤク、見つケタゾォォ……!!」
 鬼の濁った双眸は、今や煮えたぎる怒りと獣欲、そして復讐の暗い悦びに震えていた。
「案外早かったな? 追いつくまで、もっとかかるかと思ったが」
「ゲフェフェフェフェ……キサマらなどと一緒にされては、困ルナァ」
 言葉と同時に、鬼は棍棒を地面へ振り下ろした。
 途端に地面が揺れ動き、軽く身体が浮き上がるほどの振動を感じる。私たちの退路を断ち、包囲していくように配下の小鬼たちが動いていく中で、鬼は狂気をたたえた瞳で私たちを見据えていた。
「この男ノ全身の骨を砕キ、生キタマま引き裂きながら、ソの目の前で、この娘を犯シテ孕ませル……! クククッ、良い趣向ダァ……!」
「変態野郎め……!」
 ハンナが石斧を握りしめながら、負けじと睨み返して凄んでみせる。
 しかし、少女の四肢はかすかに震え、瞳は潤みはじめていた。
 あの凌辱を受けてから、まだ一日も経ってはいない。それなのに自分はまた、永遠の絶望の底へ突き落とされようとしている。
「ハンナ」
「――?」
 不意に名前を呼ばれて、彼女は私に振り向いた。
「もういい、演技はそこまでだ。――我々は、もう十分に時間を稼いだ」
「えっ……?」
「ナニ?」
 ハンナと鬼が、私の言葉でほとんど同時に、ほとんど同じ反応を示した。
「――来た」
「えっ……?」
 呟きながら見上げた私の視線の先を、ハンナが思わず倣って見上げる。今にも襲いかかろうとしていた小鬼たちまで、それに釣られて顔を上げた。
 視線の先。切り立った崖の真上に、光があった。
 いや。正確に言うならそれは光ではなく、朝の陽光を跳ね返す装甲板の輝き――馬上にある、一騎の装甲騎士の姿であった。
「き――キッ、騎士ダトッ!?」
「え……? そんな、……まさか……」
 ハンナの瞳が潤んで震え、そして乾きかけた唇が、半信半疑にその名を呼んだ。
「フレア、隊長……!?」
 さすがの鬼と小鬼どもも、度肝を抜かれてうろたえる。
 それはそうだろう。こんな森の奧で、突如として完全武装の装甲騎士が現れるなど、明らかに常軌を逸している。
 だが、それは紛れもない現実だった。
325副長の日々3後編 ◆selJPZyjjY :2008/01/07(月) 14:50:59 ID:ow17S9s7
「ハァッ!」
 装甲板の奧からくぐもった、しかし若い娘の凛とした気合いが響く。
 崖上の装甲騎士は片手に騎槍を掴み、面頬の奧にその表情を隠したまま、臆する様子もなしに拍車をくれて、崖から一気に駆け下りてきた。
「ギッ――」
「ばっ、バカメェ! その急斜面、そんな重装備で降れるものかァ!」
 予想外の敵の出現にうろたえる部下たちを叱咤するかのように、鬼が騎士の無謀をあざ笑う。
 確かに、私ほどの下手くそでなくとも、せいぜい並みの騎士ならそうだろう。あの崖を駆け下りるなど、自殺行為以外の何物でもない。
 だが……並みの騎士ではなかったとしたら?
「ナッ――」
 軍馬は峻嶮な岩場を跳ね回るようにして駆け下りながらうねるように身をこなして、そして小鬼たちが何か思う暇もなく、その内懐へと飛び込んでいた。
 途端に一閃された騎槍が最も手近な一匹を撃ち据えて骨を砕き、さらに一匹を貫いたまま宙空高くへ放り投げる。
「ギヒィッ!!」
「ケプッ!?」
「!?」
 そうして飛来した同胞の骸が、別の一体を薙ぎ倒す。
 驚愕しながらも、たちまち臨戦態勢に入る小鬼たち。だが彼らは私たち二人を包囲するため、散開しすぎていた。
 相互支援もろくに出来ない間合いで、バラバラに立つだけの烏合の衆である小鬼などが、これほどの装甲騎士へまともに立ち向かう手段など、ない。
 森の腐葉土を馬蹄が蹴散らし、血に濡れた騎槍が首をもたげて次の獲物へ狙いを定める。
 その正面で狙われた小鬼が、何事かを絶叫しながら必死に石斧を振り上げた。
「ギィッ! ギッ、ギイィッ、ピギィ!!」
「グッ、グルオオオオ――ギャフ!」
 騎槍の穂先が肉を貫き、長柄が四肢をさんざに打ちのめし、馬蹄が骨もろとも命を砕く。
 呆気にとられたような鬼の眼前で、彼の配下たちは瞬く間に掃討されていく。
 一応の抵抗を試みたものもいたが、無秩序で統一を欠いた足掻きは、ただ一方的に撃破されるだけだった。
「ハンナ! ここでは邪魔になる、敵の向こうへ抜けて下がるぞっ!!」
「え、えっ――はっ、はい!!」
 半ば呆然としてしまっていた彼女の手を引きながら、先導して後方めがけて突っ走る。経路上にいた小鬼と剣を撃ち合ったところで、ハンナの石斧がその首へめり込んだ。蹴り倒す。
 私たちはそのまま包囲網を抜けて、囲まれずに済む安全な位置を確保した。あとはひとまず、足手まといにならないように見守るだけだ。
 十数体いた小鬼どもがほとんど全て騎槍の錆となり果てた頃、騎士は初めて馬を止め、兜の面頬を上げた。
 赤い長髪が幾筋かこぼれ落ち、並外れた怒りにたぎった瞳が、まっすぐに鬼を射貫く。
 我が強く美しき従姉妹殿――守備隊長フレア・ランパートは朝の森で、威風堂々と巨体の鬼に対峙した。
 その唇が、怒りに満ちた言葉を紡ぐ。
「『この男の全身の骨を砕き、その目の前でこの娘を犯して孕ませる』……だったか?」
「ぐ、ぐぬゥッ……!!」
 瞬時に配下を壊滅させられ、しかし同時に退路を馬体で塞がれ、退くも進むもままならずに唸るだけの鬼を、従姉妹殿は冷たい瞳で見下ろしていた。
「下衆め。我が従兄弟殿と部下に、かくも下卑た科白を吐いてくれた罪――この槍にかかってあがなうがいい!」
「くっ、クソガァアアァァッ!!」
 森を震わせるほどの大音量で絶叫し、鬼は巨大な棍棒を振り上げて、迎え撃つように彼女へ走った。小山のような巨体が猛然と躍動し、波打つように地面が揺れる。
 そこへ向かって、トッ、と従姉妹殿が馬腹へ拍車を掛ける。軍馬は彼女と見えない糸で繋がれたように操られ、土を蹴散らしながら突進していく。
 大の男の五人分もあったかという鬼の巨体から、風を巻きながら轟音を放ち、その全力で振り下ろされた棍棒をするりとかわして――従姉妹殿の槍の穂先は騎馬の勢いをそのまま乗せて、分厚い毛皮を貫き通した。
326副長の日々3後編 ◆selJPZyjjY :2008/01/07(月) 14:51:22 ID:ow17S9s7
「ブッ――!」
 胸を突かれて鬼が目を剥く。巨体が一瞬浮き上がり、埋まった穂先が背から飛び出す。
「落ちろ、――下郎が」
 鮮血を噴いてよろぼう鬼の首筋へさらに、従姉妹殿はすれ違いざまに抜き放った長剣を斬りつけていた。
 深くぱっくりと裂けた首筋から、噴水のように鮮血の滝が立ち昇る。十数歩先で手綱を引いて、従姉妹殿はその断末魔を冷たく見送った。
 悲鳴を上げる余裕すらなく、どう、と鬼の巨体が倒れ伏す。
 崖を駆け下りての参戦から、わずか数分足らず。たったそれだけの間で二十の小鬼は骸と化して、戦場の森はもとの静けさを取り戻していた。
 それを見届けてから馬首を巡らし、点々と連なる小鬼の骸の間を近づいてくる。
 従姉妹殿は甲冑の重さを感じさせない軽い動きで、言葉を失った私たちの前に降り立った。小枝を踏み折り、踵の拍車を鳴らしながら近づいてくる。
「私の率いる威力偵察隊は、ユゴー伍長の輜重隊と合流した。現在は城への帰路にある」
「そ、そうですか……それは、良かっ――」
「何も良くなどない、従兄弟殿!!」
 従姉妹殿の強烈な叱責が、私を叩いて背中へ抜けた。
「ユゴー伍長から聞かせてもらったぞ、従兄弟殿。輜重隊の指揮権を伍長に預け、自らはハンナ一人を率いてたった二人で敵の攪乱に向かったそうだな?」
「えっ――」
「ええ。まったく相違ありません」
 従姉妹殿の認識は、私が輜重隊を離れるとき、ユゴー伍長に言い含めたとおりのことだ。
 背後でハンナが身を竦めたが、彼女が何か余計なことを言い出す前に私はずいと進み出て、自分の言葉でそれを封じた。
 部下の不始末を預かるのも、私の責務だからだ。
「兵の命を預かる指揮官の責務を、いったい何と心得ておられるのか! 軽々と輜重隊を手放し、攪乱任務などに自らを投じるなどと……何もなかったから良かったとはいえ、従兄弟殿、この責はどのように負われるつもりかっ」
「覚悟しております。従姉妹殿の――いえ、隊長殿の御意に従います」
 すう、と従姉妹殿の目が細められる。たまらず私は目を閉じた。
 ああ、この女性は今、本当に怒っている。
 今まで十七年間の腐れ縁で、好むと好まざるとに関わらず、無意識化に学習させられていた。
 フレア・ランパートは優秀なる理性の騎士であると同時に、激情の女性でもある。こうなってしまったが最後、もう彼女を止めることなど出来はしない。
 骨の二本や三本で済めばいいが――
 そう思って、かすかに薄目を開けたとき、その光景が飛び込んできた。
 胸を騎槍に貫かれ、首筋を深々と切り裂かれて倒されていた鬼。
 その巨体がゆっくりと起き上がり、再び棍棒を手にしていることに。
 いったんゆらりと沈み込んだ重心から、跳躍への溜めを作って――一足飛びに従姉妹殿を叩き潰さんと、最後の動作へ入ったことに。
 声にならない叫びを発して、私は渾身の力で従姉妹殿へぶち当たった。
「なっ!?」
 虚を突かれたのか、従姉妹殿は私に組み付かれたまま後ろへ吹っ飛ぶ。
 そして先ほどまで彼女がいた場所を、鬼の棍棒が叩き潰した。
「隊長、副長っ!!」
 ハンナが弾かれたように駆け出し、石斧の一撃を鬼の胴へと叩き込むが、分厚い毛皮と肉はたやすくそれをはじき返した。鬼は意にも介さない。
「い、従兄弟殿――」
 肩で突き倒した従姉妹殿の身体は甲冑で守られていて、女性らしい柔らかさとはまったく無縁だった。その重さと頑丈さは私に痛みとなって跳ね返った。
 一瞬だけ押し倒して馬乗りになった彼女から、身を翻して慌てて跳び退く。
「グルォォオオオオッッ! しぃっ、死ィネェェエェェッッッ!!」
 なお執拗に彼女を狙って振り下ろされる棍棒と、腰の剣を抜き払いながら立ち上がろうとする従姉妹殿のどちらが速いのか。
 その決着の瞬間に響いたのは、骨を叩き割る鈍器の湿った炸裂音だった。
327副長の日々3後編 ◆selJPZyjjY :2008/01/07(月) 14:51:43 ID:ow17S9s7
「従姉妹殿っ!?」
 起き上がりながら絶叫する私の視界に、彼女の剣が入ってくる。まだ鞘から抜かれていない。
「あ……」
 遠くなる世界を感じながら、対峙する鬼を見上げた。
 鬼は、笑っていた。
 笑いながら、棍棒を高々と振り上げた姿勢のまま――その脳天に斧槍を生やして、ぴゅうぴゅうと鮮血を噴き上げながら、鬼はゆっくりとのけぞりはじめた。
「か……ゴッ……!!」
「ヨイショッ、と」
 分厚い頭蓋骨に深々と突き刺さった斧槍が引き抜かれると、ぴゅうと真っ赤な血だか脳漿だか分からないものをいっそう激しく噴き出しながら、鬼はさらにとてり、とてりと大きくよろめき――そして最後に足場を踏み外し、千尋の谷へ真っ逆様に転がり落ちていった。
 従姉妹殿の危急を救った斧槍を軽々と肩へ担い直しながら、鬼の背後を襲ったその装甲歩兵は兜のかぶりをいかにもらしく直してみせた。
「ライナ軍曹!」
「……母さん……」
「副長殿にハンナ。うんうん。二人とも、元気そうで何よりです」
 ハンナの母にして守備隊の屋台骨たる歴戦の古参兵、ライナ・グレアム軍曹は不敵に笑ってみせた。
 それから、私たち共通の上官へ向き直ってみせる。
「いやいや、隊長殿。幼馴染みの身内であられる副長殿にも厳正な軍紀をお忘れないとはさすがです。
 兵の上に立つ騎士として、なんとも感動的な場面に水を差すのはまったく申し訳ないのですが――私のほうからもひとつ、よろしいでしょうか」
「――何か、軍曹」
 ライナ軍曹からの呼びかけに応じるとき、怒りに燃える鉄仮面の下に、どこかしら苦手そうな雰囲気が走ったように見えたのは私の気のせいだっただろうか?
 だがハンナの母にして守備隊の屋台骨、ライナ・グレアム軍曹は、どこか陽気そうにも見える顔でその口上を並べ立てた。
「確かに副長殿の、目の前の敵を脅威と捉えるがあまり、自ら囮となって輜重本隊を逃がそうとしたのは問題でしょう。
 ですが、そもそも……『威力偵察』として城塞から出撃したあと、急に進路を変更して輜重隊との合流に向かう、というのは……どうなんでしょうね?」
「そ……それは。集まってきた敵情からたまたま、輜重隊の行軍経路の方向に有力な敵の進出が予想されたからで……」
「まあいいでしょう。ではそれで輜重隊と合流した後、ろくな説明も残さずに単騎でいきなり路外の森へ飛び出していったのは?」
「「…………」」
「…………」
 私とハンナの視線が同時に集中すると、従姉妹殿はどこか遠いところへ視線を逃がした。
 従姉妹殿……。
「わ、……私と従兄弟殿にしか理解できない方法で、高台の樹上に救難信号が作られていたのを見つけたからだ。幼い日に私たち二人が作った、私たちだけの信号で……」
 そう。それは私がハンナに命じて作らせた、簡単な救難信号だ。
 従姉妹殿だけに発見と理解が可能な救難信号を用いることで、迫り来る小鬼たちにはこちらの位置を報せることなく、従姉妹殿だけに位置と状況を教える。
 あとはそこから一心に、従姉妹殿と私ならこうするであろう進路を辿って合流を目指す。従姉妹殿もまたその一点を目指して、必ず追及してきてくれると信じて……。
 見事なぐらいに一から十まで従姉妹殿に頼った方法だったが、これ以外に有望な方法が思いつかなかったのも確かではある。
 ともかく結果として、私たち二人は従姉妹殿に急を報せて迎えを頼みながら、それでいて小鬼たちをギリギリまで振り切って時間と距離を稼いだ。あとの結果はご覧の通り。
 結果だけ見れば成功である。……結果だけ見れば。
「いやはや……しかし、さすがにこれは懲りました。二度とやりたくはありませんな」
「う……うむ。皆、危ないところだった」
「ふむ、ふむ。……まあ……いいでしょう」
328副長の日々3後編 ◆selJPZyjjY :2008/01/07(月) 14:52:15 ID:ow17S9s7
 反省してみせる私たちは、それなりに堪えたように見えたらしい。ライナ軍曹は少し意地悪そうに、満足そうな笑みを浮かべると、急にハンナの方を向いた。
「じゃあ、そういうことで。いいね、ハンナ?」
「えっ……?」
 目を瞬かせて戸惑う娘に、母は笑みを消して言いつけた。
「上官の命令への服従は絶対だけれど、もし上官殿が無茶な命令を出されたときは……それをお諫めするのもまた、部下の務めだ。いいね?」
「母さん……」
「……ま。こんな話、まだまだぺーぺーのあんたにゃ十年早いんだけどね」
 それからライナ軍曹は私に向かって、年甲斐もなく、ぺろりと小さく舌を出してみせた。こういうときの彼女は、本当に同年代の少女のように見えてしまうから恐ろしい。
「さあて。それじゃあ早いところ、帰って本隊に合流するとしますか――待たせてるのが大勢居ますからね」



「……ねえ。母さん……」
「ん?」
 騎士フレアと徒下のユアンの二人を後方に置き、ライナとハンナの二人が前衛となって輜重隊と威力偵察隊の進路へと向かう、道なき道の道中。
 呼ばれて振り向いたライナに、ハンナは胸の前に手をやりながら、問うた。
「私の父さん……どんな人だった?」
「へっ?」
 突拍子もない質問に、さすがの女軍曹も戸惑いの表情を浮かべる。思わず意図を探るように、娘の全身を凝視した。
 しかし次の瞬間には、何か察することでもあったのか――ライナは娘を包み込む、暖かな母のまなざしで微笑んでいた。
「――イイ男だったよ。あんたが欲しくなるぐらいね。……ハンナ?」
「そっか……ううん。何でもない……」
 母の後ろについて、ハンナは再び城を目指す。一度だけ振り向いて、肩越しに二人の若き騎士の姿を見つめた。
 決して入り込めないほど、強い絆を見せつけられた二人の姿を。
「負けるもんか……。いつか必ず、私を認めてもらうんだ」
 ハンナは誰にも聞こえない小声で、しかし力強く呟くと、その口許を引き締めた。