FantasyEarth ファンタジーアースでエロパロ 3Dead
またお前か
誤解を招くと悪いので言っておきますと、某スレライターは
お詫びちゃん純愛長編系、エロSS系、変態SS系の最低3人はいると思われます。
三 三三
/;:"ゝ 三三 f;:二iュ 三三三
三 _ゞ::.ニ! ,..'´ ̄`ヽノン なんでこんなになるまで
/.;: .:}^( <;:::::i:::::::.::: :}:} 三三放っておいたんだ!
〈::::.´ .:;.へに)二/.::i :::::::,.イ ト ヽ__
,へ;:ヾ-、ll__/.:::::、:::::f=ー'==、`ー-="⌒ヽ
. 〈::ミ/;;;iー゙ii====|:::::::.` Y ̄ ̄ ̄,.シ'=llー一'";;;ド'
};;;};;;;;! ̄ll ̄ ̄|:::::::::.ヽ\-‐'"´ ̄ ̄ll
ケイの人が確かお詫びちゃんに移った気がする
522 :
343:2008/01/07(月) 04:13:22 ID:CFzrrwhV
続きの続きの続き1
『戦争終結!!』
ソーン平原での戦争が集結し、起伏に激しい地のあちこちで、勝者の声と敗者のつぶやきが交差する。
戦争が終わったからといって、すぐにその場を立ち去ろうとする者は少ない。ある者は仲間と共に次の戦場を探し、
またある者たちは戦術についての議論を交わし、明日への糧を得ようとする。
そんな中、ジャンヌ家の姫君はただ一人、平原の中央にある窪地に立って空を仰いでいた。
「私は、なぜまだ戦うのだろう」
共に戦場を駆けた侍女は、もう側にはいない。一人で戦っても、むなしさがつのるばかりだ。
(あっ……)
下腹部がうずくのを感じて、姫は両足をすり合わせた。
秘すべき恥部がにわかに湿り気を帯び、何かを求めるようにうずく。激戦を制した直後だというのに、すこし侍女
への思いをつのらせただけで、淫らな欲動が兆してしまう。
(くそ……一月前のあのとき以来、妙なクセがついてしまった。このままでは私は……ダメになるんじゃないか)
「よう、姫さん。今回も大した活躍だったな」
「ふぁっ!?」
急な呼びかけに、姫はたいそう驚いて振り返った。
声をかけてきたのは、他国に属するウォリアーの男だった。戦好きで、なぜか傭兵として味方になることが多く、
姫も顔と名前くらいはおぼえていた。
「どしたい、顔赤くして」
「な、なんでもない! いきなり何の用だ!」
「ランキング見たぜェー。片手でありながらダメージランキング3位とは恐れ入るね」
「……そんなことか」
どうやら、直前の仕草は見られていなかったらしい。姫は内心でため息をついた。
「大したことじゃあない。ナイトで一度出られればそんなものだ。近頃は召喚合戦が多いしな」
「そう言えるのは姫さんがツワモノだからだな。単騎でレイスを落とした手並みは見事だったぜェ。まっ、馬上
の姫さんもいいが、正直言やァ、あのお付きちゃんと一緒に戦ってるのが一番目の保養になるけどな。俺ァ
アンタらのファンだからよ」
男は若干の照れを交えながら子供のような笑顔を見せたが、すぐにその表情を引き締まらせた。
「おっと、祖国から救援要請だ。邪魔したな姫さん、ファンとしてちょいと挨拶だけしときたかったんだ」
523 :
343:2008/01/07(月) 04:14:40 ID:CFzrrwhV
続きの続きの続き2
男が去ると、姫は得物であるヘラクレスソードを盾に納め、戦闘態勢を解いた。
「ファンなどと大層な……」
そう言いつつも、姫の口元はほころんでいた。侍女と共に戦う姿を誉められたようで嬉しかった。
「……もう二度と見せてはやれんがな」
停戦協定の続く平野からはいつしか人の密度も薄れ、今では一部の熱心な戦術家たちぐらいしか残っていない。人
が少ない分、その会談の内容はよく聞き取れたが、腰を据えて聞く気にもなれなかった。
だが、姫が本国へ戻ろうと思いかけたそのとき、その耳がある単語を捉えた。
「そうそう、聞いたかよ? ウチの国のなんつったっけ、アレだ、ライサラ家の三男の話!!」
見れば、戦術家たちの輪から少し離れてヒソヒソと世間話に花をさかせている男女の姿があった。男はユカゲ装束、
女はヤマトナ装束と、共に東方から伝わったという珍しい衣装を着装している。
両者ともその顔を蒼と紅のジャイアントマスクで隠していたが、会話の内容から、彼らが侍女の嫁いで行った国の
人間であることは明らかだった。
「最近ほら、どっかの国から嫁もらったって話じゃん? あの雷皿♂ときたら、せっかくもらったその嫁さんを夜
な夜な虐待してるらしいぜー?」
「…………」
どうも男の方が一方的にしゃべっているようだったが、それは姫にとってどうでもいいことだった。気づいたとき、
姫は抜刀して、二人の方へ歩を進めていた。
「なんだ、ノリ悪いじゃん。かえろっかな……って、うぇっ!?」
会話を切り上げようとした男スカウトの喉元にヘラクレスソードの切っ先を突きつけた姫は、有無を言わさぬ
圧力を込めて命じた。
「今の話、詳しく話せ」
「あーおっかねぇ。もう行ったかな?」
ライサラ家の三男夫妻について洗いざらいしゃべらされた男スカウトは、姫がその場から完全に去って行ったこと
を確かめると、横に控えたヤマトナ装束の女スカウトに目配せした。
「…………」
女は言葉を発しなかったが、ジャイアントマスクに包まれた頭を上下させて自らの意思を示す。
「んじゃ、報告といきますか……あー、もしもし?」
男が一人でしゃべりはじめた。クリスタルの召喚エネルギーを通信に応用したTellという技術によって、遠方の
仲間と連絡を取っているらしい。
「あ、胆露ちゃん? ジャンヌたんへのリークは完了したぜ。後は姫君のなすがまま、ってわけだ。んじゃ不肖この
日座巻、兎瑠鹿とデートしながらのんびり帰るんで、後はヨロシクぅ。……さて、うーるーかーちゃん!」
通信を終えた日座巻が勢い勇んで呼んだものの、兎瑠鹿なるヤマトナ装束の娘の姿は既に消え失せていた。
「……照れ屋ちゃん」
日座巻の姿もまた、周囲の景色にとけこむようにして消えていった。
戦術家たちの熱い討論以外なにも聞こえなくなったその平原に、二つの小さな風が音もなく流れたが、その微細な
気配に気づくものは一人としていなかった。
524 :
343:2008/01/07(月) 04:15:42 ID:CFzrrwhV
続きの続きの続き3
『戦闘開始!!』
ソーン平原にて停戦協定が結ばれてから間もなく後、ニコナ街道では別の戦争が開始されていた。
キープから出陣した数十名の精鋭たちが一散に駆け出して行く。
ある者は一番槍として前線へ向かい、またある者は戦略資源確保のためにクリスタルの周囲に陣取る。
戦略地形の中央付近で最初の衝突が起こる頃、後方からも幾人かの者が飛び出して、オベリスクの建設を開始する。
この国では、その頃になると初期装備を身にまとった職業不明の娘がどこからともなく現れるのが通例だった。今
回もその例に漏れず、いつの間にか現れた娘はクリ掘りの面々の中央にちょこんと腰を下ろし、愛用のメガネを指で
上下させた後、その特徴的な髪型を揺らしながら、おっとりとした声で宣言した。
「はいはーい、縦ロール銀行開店しますー。ジャンジャン預けちゃってくださーいなー」
実家がアイテムショップを経営しているという彼女は、戦争参加の動機を「経営的戦略眼と素早い計算力を養うた
め」と公言し、あくまで『商人』として参戦する異色の人材であり、さらには中央大陸の覇権争いが始まったごく初
期の頃から参戦している古参兵でもあった。
口調こそおっとりしているが、正確な召喚計測と明晰な頭脳、そして広い視野を備えた軍師としても一目置かれて
いる彼女への『貯金』をしぶる者はおらず、口座にはみるみるうちにクリスタルが詰め込まれていく。
「在庫50ですー。んー、建築ナイトさん募集かなー。東の方をATで要塞化して欲しいですー」
「私が出る」
クリ掘りの面子の中から、青の戦装束に身を包んだ女性ウォリアーが立ち上がる。
名門ジャンヌ家の一人娘、通称『姫』。縦ロールに勝るとも劣らぬ知名度を誇る手練れである。
「わぁ、お姫さん。連戦で、しかも開幕ナイトなんてお珍しいー。じゃ、お任せしますねーハイ40個」
姫はクリスタルを受け取るやいなやキープに向き直り、クリスタルを触媒としたナイト召喚の儀式を開始する。
ほどなくして、青白いクリスタルの輝きが姫の全身から放たれた。光が晴れたとき、姫の手には長大な突撃槍が、
全身には白銀の鎧が、そしてその尻の下には異界の駿馬が、それぞれ出現する。
「ナ1ーっと。すぐ建築用のクリ集めちゃうんでー、姫さんちょっと待っててくださいなー」
縦ロールがクリスタルの受け渡しを受け付けるのをよそに、姫はまたがった馬の手綱を繰り、馬の首を敵陣とは真
逆の方向へと向けた。
「縦ロール」
「ふえ?」
「許せ」
縦ロールが言葉の意味を理解するより早く、姫のかかとが馬の腹を蹴った。それを合図に馬がいななき、蹄が力強
く地を蹴って疾駆を開始する。
敵陣どころか、戦場ですらない方角へ向けて。
「え……えー?」
縦ロールをはじめとしたその場にいた誰もが、その信じがたい光景を前に動くことさえできなかった。
姫の姿はみるみる戦場から離れ、やがて人々の視界から消えていった。
525 :
343:2008/01/07(月) 04:17:11 ID:CFzrrwhV
続きの続きの続き4
「暇だな」
「な。ハプニング欲しいよな」
ライサラ家の三男にあてがわれた屋敷の門前で、門番たちがそんなやりとりを交わしている。
ライサラ家には、長女の他に三人の兄弟があり、その三人にはそれぞれこのような屋敷があてがわれていた。
「上の若様らの祝言の折には、向こう一年はひっきりなしに来客があったものだが」
「無茶言うなよ、相棒。御兄弟らは人格者だが、ウチの坊ちゃんはあの通りの小僧っ子だろう。こんな屋敷を構える
こと自体、分不相応なんよ」
「ふん。してみれば俺たちも、あんな三男の下に配されて実に災難であるな」
「うわ、つまんねーソレ」
などと言って侮蔑の笑みを浮かべる門番たちの様子から、屋敷の主に対する忠節を読みとることはできない。
これは彼らが特別不忠者なのではなく、この屋敷に仕えるほとんどの従僕に共通する風潮だった。
片割れの門番などしまいには座り込んで、腰を据えた無駄話に臨んでいた。
「まあアレよ? 一番災難なのァ嫁入って来たあのお嬢ちゃんだろうよ。今日なんて朝からガキのサンドバッグだぜ」
「そう思うならお前が救出してやったらどうだ。ジャンヌ家の従僕だけあって、見目麗しかったぞ」
「無理無理! オイラぁ今のリーマン生活が性に合ってるのよ。それにいくらガキだっつっても、きっちり戦闘職に
ついてる坊ちゃんにかなうわけねぇだろうが」
「一介の門番が白馬の王子様に成り上がれるチャンスだというのに」
「ばかやろ、世の中ンな外連味たっぷりにゃ……って、なんだアリャ」
門番の目が、視界の端に映った小さな影をとらえた。影は屋敷に向かって次第に近づいてくる。
しばらくは目を凝らしてその存在を見守っていた門番たちだったが、接近につれてその輪郭が明らかになってくる
につれて、その顔面に驚愕の色を浮かべていった。
「な……ナ、ナイト!?」
「しかも白い縁取りだと!? はぐれナイトだとでも言うのか!?」
「おい! おい! こっち来るぞ! ちょっ、おまっ、早すぎっ!!」
数十秒前まで遙か彼方にいたはずのはぐれナイトは、今や屋敷の門前約半ブロックほどの所にまで接近していた。
「ち、ち、ち、畜生! こちとらこの仕事に今日の晩飯がかかってんだ! 是が非でもカチ込むってんなら、俺の屍
を越えていけぇ!」
門番が、身を挺してナイトの進路に割ってはいる。しかし相手は彼のそんな職業的努力を歯牙にもかけず、悠然と
跳躍した。
馬影を振り仰ぐ門番たちへ、馬上からの一声が降り注いだ。
「早馬なれば乗打御免!」
馬の蹄が飛翔の勢いそのままに格子門を蹴りつけて破り、屋敷の敷地内に着地する。
馬上の騎士は着地で少し崩れた姿勢を整えつつ、門番たちを一瞥することなく、邸内へ向けてさらなる突撃を敢行
した。
526 :
343:2008/01/07(月) 04:18:52 ID:CFzrrwhV
続きの続きの続き5
木製の扉を蹴破って邸内に侵入した姫を、使用人らの見開かれた瞳が出迎えた。
馬上から見渡したロビーに求める娘の姿がないことを認めた姫は、手にした槍で空を切り、大音声を張り上げた。
「奥方はどこかっ!!」
声は石造りのロビーを伝って周囲の鼓膜を震撼させたが、皆棒立ちで姫を見つめるばかりで、うんともすんとも言
おうとしない。
それはほんの数秒ほどの空白だったが、今の姫にとっては一秒さえも惜しい。焦れて、とにかく走りだそうかと思
った矢先、その耳に、懐かしい声がかすかに届いた。
「今のは……! こっちか!?」
姫は声のした方、屋敷の東側へと延びた通路へ馬を回頭させ、即座に腹を蹴った。
角を一つ曲がり、渡り廊下を抜けると、その奥にひっそりと一枚の扉が控えていた。そこから、今度は悲鳴が漏れ
聞こえて来る。
姫は馬の勢いを衰えさせることなく、邸内に乗り込んだときのように、装甲に覆われた馬の顔面でその扉をぶち
破った。
室内中央、はじけ跳んで宙を舞う瓦礫の向こうに、二つの人影があった。
一人は一度だけ写真で見たことがある、ライサラ家の三男。
そしてその奥にもう一人、宙づりにされて気を失っているらしい全裸の娘こそ、姫の従僕であり、戦友であり、幼
なじみであり、そして今誰よりも姫に必要な侍女なのだった。
『いやね、あの三男ときたら性格最悪でみんなに嫌われてるのよ。で、その鬱憤を毎日嫁さんで発散してるって噂。
悲鳴まで聞こえるっちゅーから、下手すりゃ魔法まで使ってるかもしれないな』
全身に刻まれた無数の生傷、手首ににじんだ血、憔悴しきって瞳を伏せた土気色の顔……何より、雷魔法発動時に
特有の、しめったような空気……ジャイアントマスクの男から聞き出した情報がすべて真実となって、姫の前に広が
っていた。
「貴様……」
姫の全身からクリスタルの輝きが消えていく。もとの人間の姿に戻った姫は、ライサラ家の三男へと詰めよりなが
ら、盾に納めたヘラクレスソードを抜刀する。
「じゃ、ジャンヌ家の!? 待って、これは……」
三男は戦闘状態で接近してくる姫に対して何事か弁明しようとするが、突然の事態に、ろれつが回らない。
姫は三男を間合いにおさめると、無造作に得物を振りかざした。
「ひぇっ」
姫の斬撃が、縮こまって目を閉じた三男の頭上、紙一重の位置をかすめながら走った。
吊していた縄が切断され、崩れ落ちようとする半裸の侍女を、姫の腕が抱き留める。
「……すまない」
姫は刃を納めると、意識のない侍女の体を一度抱きしめてから近くのソファの上にそっと横たえた。
そして、腰を抜かしてへたり込んだこの屋敷の主に向き直った。
527 :
343:2008/01/07(月) 04:19:47 ID:CFzrrwhV
続きの続きの続き6
姫は完全に脱力した三男を襟首つかんで引き起こし、その眼に最大限の軽蔑を乗せてにらみつけた。
「大体の話は聞き及んでいる……」
「ぼ、ボクは……っ!」
なにごとか言おうとした三男の口をハンドスキンに包まれた手がおさえた。
「私はこれから、この腹に渦巻く怒りを言い連ねる。その後で飽きるまで殴り抜いてやろう。貴様は私に罵倒され続
ける間、我が身を襲う痛苦を想像して恐怖しろ」
三男は涙さえうかべてその身を震わせたが、姫は一片の慈悲さえかけてやるつもりはなかった。
「このサンピンが……よくも好き勝手やってくれたな」
仮にも『姫』とあざなされる女の口から、下賤な世俗にまみれた言葉が飛び出した。
「なぜこの世にはテメェのようなくだらん奴らが存在するんだ。変態が、変態野郎が。汚ェツラを世に晒しながら、
堂々生き続けるテメェらのようなクソッカス共が。こうして触れている今も総毛立ってしょうがない、その卑屈な眼
を見ているだけで八つ裂きにしてやりたくなる! 貴様の肉を切り開いて、その醜いはらわたを白日の下に並べ立て
てやったら楽しかろう。緑か、黒か、いずれゲス汚れたクソ汚物色に染まった醜い臓物を野鳥たちがついばむのを見
ながら、貴様があの娘につけた傷を一つ一つ舐めて癒してやろう。ああ……それを想像するだけで歓喜がこの身を駆
けめぐるんだ。喜べ、笑え。貴様のような、本来なら生きる価値もないウジ虫以下のゲロ野郎にも一つくらいは誰か
の役にたつことがある……ん?」
さらに言い連ねようとした姫が、下腹に当たる妙な感触に気づいて視線を落とした。
三男の股間の衣服が盛り上がり、張りつめていた。それが、姫の下腹を押していたのである。
しかしそれは、性的興奮によってもたらされた勃起ではなかった。来るはずのない姫の来訪に対する驚愕。己の陰
湿な行為を見られたという焦燥、背徳、自責。あるいは直接的な苦痛への恐怖心や、姫が口にのぼらせた残虐な言葉
の数々……そういった本来混ざり合うはずのない要素が、ただでさえ未成熟な三男の内部で混合した結果、その神経
に変調をきたしたのである。
ほとんどの人間の場合、それは『失禁』という現象となって現れる。
だが、偶然が重なった結果か、はたまた三男の体質がそうさせたのか、この時この場に限っては、それは勃起とい
う現象となって、姫の眼前に堂々と屹立して現れた。
「……ライサラ=ウォス最低だな」
姫の視線から熱が失せ、代わりに鋭利で冷徹な輝きが兆した。汚物を見るような蔑みの色はますます深くなる。
三男の口から離れた手が、直後には拳となってその顔面を打ち抜く。
眼球ではなく眼孔部の骨を狙ったその一撃は、脳へ衝撃を与えることなく、ただ純然たる苦痛を三男にもたらした。
その次は喉仏への掌底。次の一撃は額と鼻柱の間への打拳。その次は頬への平手。さらにその次は口と、その奥に
ある前歯をつぶしにかかった打拳……。
三男は出血もせず、声さえ出すこともできず、さらには気絶することさえ許されずに、死にたくなるほどの激痛の呵
責に晒され続けた。
528 :
343:2008/01/07(月) 04:22:07 ID:CFzrrwhV
続きの続きの続き7
三男の顔の形が変わりはじめると、今度は体を放り投げてその頬を足蹴にした。ブーツのかかとで虫か何かを
執拗につぶすようにして踏みにじる。三男の口の内側が切れて、唾液混じりの血が垂れる。
姫がもう一度踏みつけようと足を上げたが、消え入りそうな声がそれを制した。
「ひいさま……それ以上は……気高いお手が汚れます……」
「!」
侍女が、弛緩して力が入らないのであろう全身を痙攣させながら、ソファの上で懸命に起きあがろうとしていた。
姫は三男ではなく絨毯の上に足をおろし、侍女のもとへと駆け寄る。
「お前、目覚めていたのか。一体いつから」
「『ウジ虫以下のゲロ野郎』辺りから……」
「……妙なところを見られた」
姫は照れ隠しに侍女を助け起こそうとしたが、侍女はその手を拒んだ。
「お前……?」
「どうして……いらしったのですか」
侍女は顔を上げようともせず、ただ震えながら、心底信じられないと言いたげな声でつぶやいたた。
「戦争を……なくせるかもしれないのです……姫様が戦わなくてもよい世界が……作れるかもしれないのです」
そして侍女は、その胸に秘め続けてきた本音を口にした。
「怖いのです……姫様が……戦に魅入られていくようで……そんな姫様と……ずっと戦い続けたいと……思ってしま
う……わたし自身が……!」
「黙れ」
「え……っ!?」
秘密を打ち明けた唇に姫の唇が重なり、言葉を奪う。
唇を離した姫は、まだうつろな表情の侍女をしかと見据えた。
「私はお前を迎えに来たんじゃない。ましてや取り戻しに来たんでもない。奪いに来たんだ、おまえのすべてをこの
腕にとらえにきたんだ。何も言わずに、この私にさらわれるがいい」
「あっ……」
姫はまだぐったりとしたままの侍女を抱き上げると、床に伏したまま芋虫のようにあがいている三男を一瞥した。
そしてその場を立ち去ろうとしたとき、ふと、背中の空気がかすかにうごくのを感じた。
瞬間、その全身に果てしないプレッシャーの奔流が襲来する。
「なに!?」
侍女を抱えたまま反射的にステップを踏んで回避行動に出た直後、姫たちのいた空間に、上から下へ一直線の一撃
が振り下ろされた。
背後からの一撃を辛くも回避したかのように見えたが、床に激突した衝撃波は水しぶきのごとく跳ね上がり、さらに幾
重にも折り重なりながら放射状に広がって、姫たちを襲った。
避けきれず、空中で衝撃に巻き込まれた姫は姿勢を崩し、取り落とした侍女ともども絨毯の上に転げ落ちる。
529 :
343:2008/01/07(月) 04:23:10 ID:CFzrrwhV
続きの続きの続き8
「な……何者!?」
即座に起きあがった姫の眼に、まばゆい緑の輝きが飛び込んでくる。
(ハイドラ装備!? そしてドラゴンテイル……両手ウォリアー、近衛兵か)
ハイドラの手に握られた三日月状の両手斧が、朱色の軌跡を描いて姫の胴を襲う。
これをかろうじて着装が間に合ったシールドで受けた姫は、さらに後方へとステップを踏んだ。
(赤い三日月斧……ヴリトラか!? 実在したとは)
不意打ちをし損じたハイドラは、悠然とした動作で得物を構えなおした。すぐに仕掛けてこないのは、こちらの出
方をうかがうのと同時に、ドラゴンテイルの使用で多少乱れた呼吸を整えるためだろう。
(得物、身のこなし、そして我が従僕でさえ修得しえなかった奥義中の奥義……! ……頭のゲイターだがだけちぐ
はぐだが……いずれにせよただ者ではないと見たが、素直に相手をしてやる義理は、こちらにはない!)
その考えを悟らせぬために、姫は盾に納めたヘラクレスソードを静かに抜き払った。
同時に、腕から転げ落ちた侍女のほうへ一瞬だけ視線を飛ばす。侍女は姫のさらに後方へと飛ばされて、壁にぶつ
かって止まったらしい。皮肉にも三男と同じような姿勢でもがいていたが、姫のいる位置からならワンステップで届
く距離だ。
(……両手ヲリならば、こちらに近づかなければ有効打を繰り出せないはず……間合いに入ると同時に、シールドバ
ッシュで動きを止め、その隙に二人でこの場を去る……)
姫の脳がめまぐるしく活動し、常人ならば言葉を発することさえできぬ程の短時間で、侍女と共に逃げ切るための
戦術を構築していく。鍛え抜かれた超絶的集中力のなせる技だったが、その集中ゆえに、侍女のか細い声を聞くこと
はかなわなかった。
「逃げて……姫様……かなう相手ではありません……!!」
(来るっ!)
ハイドラがかすかにその足を動かした。かと思った瞬間、素晴らしいまでの鋭さを持って、緑の甲冑が突っ込んで
来る。
(前方にステップ! だが、いかに速くとも来る方向さえわかっていれば)
超人的加速で踏み込んできたハイドラが盾の間合いに入る、その一瞬のタイミングを、姫は正確にとらえ抜いた。
小さな呼気とともに、渾身の力を持って盾の腹を打ち付ける。
しかし、必中のはずの一撃はなんら手応えを返すことなく、空気だけを叩く18:26 2008/01/05。
(跳んだ!?)
視界の端にスカートのひらめく様が一瞬だけ見えた。短距離ステップを絶妙な位置に着地させたハイドラは、すか
さず跳躍して姫の殴打を回避したものらしい。
(しめた、着地を狙ってくれと言っているようなもの……)
姫が第二撃の命中を確信して、左斜め上方向へとハイドラの軌道を追う。
しかし振り仰いだ方向に敵の姿はなく、代わりに、眼ではなく耳が、小さなかけ声と、何かを蹴る音をとらえた。
530 :
343:2008/01/07(月) 04:25:09 ID:CFzrrwhV
続きの続きの続き9
(三角飛び……!!)
まず姫の斜めにジャンプしたハイドラは、その一飛びで侍女がぶつかったあの壁にまで到達し、さらにその壁を蹴
ることで、空にありながら落下の軌道・速度を変化させたのだ。
そこまで思い至る思考の流れが、姫の動きをほんの一挙動ほど遅らせた。その間に、足音が背後へと降りてくる。
室内にあってなお野生さえ感じさせる緻密で大胆な動作は、『身軽』の一言では表現しきれない魔性を感じさせた。
(まずい、後ろを……!!)
振り返ろうとした姫の脇を、重力の塊をたたきつけられたかのような衝撃が襲った。
(ヘヴィ……スマッシュ……!)
斜めに突き上げるような重圧で、姫の体が地を離れた。そのまま衝撃の方向に沿って飛ばされ、壁に激突して崩
れ落ちる。
「ゴォォォエッ……ゲァッ……!」
内蔵へのダメージが著しい。駆け上ってきた虫酸が、口から吹き出す。体の自由がきかず、踏みつぶされた虫ケラ
のようにもがくことしかできない。たった一撃で、人から虫へと堕とされてしまった。
姫をそんな状態にせしめた張本人は、決着がついたことを確認して、はじめて口を開いた。
「慌てて転身しようとすれば脇が開く。距離を取るべきだったな」
531 :
343:2008/01/07(月) 04:26:47 ID:CFzrrwhV
続きの続きの続き10
ヴリトラの三日月状の峰が、地面でうごめく姫の顎をひっかけた。
「意識はあるのか。さすがはジャンヌ家の戦装束、我が一撃を受けてほころびを見せぬどころか、紙一重で主を守り
きったようだ」
ゲイターヘルムに隠れて表情はわからないが、その声色は少しだけ笑っているようだった。
ヴリトラの刀身が姫から離れ、その頭上高くに掲げられる。
「貴様の思惑、思い至れぬでもないが……今回はこれでデッドダウンしてもらおう。クリスタルの加護のもと、自国
へ送り戻されるがいい。召喚状態で乗り込んできたのは良い判断だったな」
赤い三日月がまさに振り下ろされようとしたそのとき、その腕をつかむ者があった。
「おやめ……ください」
侍女だった。
立つことさえ困難な状態にありながら、侍女は、すがりつくようにしてガントレットにつかみかかっていた。
「無茶をする。坊ちゃんの雷で責められているのだろう」
「おやめください……どうか」
「それは命令か?」
「え……」
「ライサラ家御三男の妻女として命ずるのであれば、一従者に過ぎぬ私は、理由の如何に関わらずこの刃を納めよう。
だが、そうでないのならば聞き入れてやる理由はないな」
「わたくしは……」
侍女は何か言おうとしたが、そこで筋力の限界を迎え、床の上に崩れ落ちた。
かろうじて四つん這いの姿勢でその身を支える。体の表面に脂汗がうかびはじめ、呼吸も荒くなっていった。
「わたしは……犬です」
ハイドラが三日月型の斧をおろして、四つん這いの侍女を見下ろした。
侍女もまた、立ち上がることはできないまでも首を上に向けて、ハイドラをきっと見据える。
「犬ゆえにここに来て、犬ゆえに堪え忍んできました! ただ姫様が傷つかねばよいと……そのための礎になれるな
らと! その姫様を傷つけようとする人がいる、『やめて』と口にする理由が他にあって?! これまでも……これか
らだって! わたしはひいさまの犬なのよ!!」
ハイドラはその激白に身じろぎ一つせず、ただ兜の奥から、自ら犬と名乗った娘をしばし見つめていた。そして数
瞬ののち、その得物を静かに納めた。
「当家で犬を養うという話はついぞ聞いたことがない。迷い込んで来たのであれば迷惑だ。疾く、飼い主ともども去
ぬがいい。私は一刻も早く坊ちゃんのお怪我を診てさしあげたいのだ」
ハイドラは視線を切り、姫と同じく床でもがく三男へと歩み寄っていった。
532 :
343:2008/01/07(月) 04:27:43 ID:CFzrrwhV
続きの続きの続き11
「姫様……」
回復しはじめた五感が、懐かしい声と、匂いと、手の感触を感じとった。
「大丈夫だ……動ける、なんとか……」
犬に抱き起こされた姫は、まだ軋む内蔵と肋骨に顔をしかめながらも、自らの力で体を起こした。
「不様だな……私は」
「仰らないで」
姫と犬の視線が重なる。表情さえうつろだった犬の顔にみるみる生気が兆し、それに伴って瞳がうるうるとゆらぎ、
やがては感極まって、主人の胸に顔をうずめた。
「……恋しゅうございました……」
姫の胸に犬の涙がしみて、そのぬくもりが伝わる。
焦がれに焦がれた娘。虐げられていることを聞いて、助けに来ずにはおられなかった娘。それが今、自分の手の届
く位置に、確かにいるのだ。だが……
(く……)
姫には、犬を抱きしめてやることができなかった。一糸まとわぬ姿で甘えてくる犬を、愛でることができなかった。
かろうじてできたのは、その両肩に手を添える程度だった。
「……私とて、気持ちは同じだ。だが、今は……」
「……はい」
顔を上げた犬は涙をぬぐい、両手で自分の頬を叩いた。
「姫様。奥の化粧部屋から裏庭へ抜けられます。そこからなら、人目を避けて……」
「だめだ……!」
姫はヘヴィスマッシュの一撃で取りこぼしてしまったヘラクレスソードを拾い、ふらつきながらも剣を支えに立ち
上がり、そして、ちょうど三男を抱き上げたところのハイドラに向き直った。
「出るのは正面からだ……! 私が召喚状態でここに来たのは、正体を隠すためじゃあない……!」
ハイドラは姫を一瞥し、「ふん」と鼻を鳴らしただけで、さっさと部屋を出ていった。
「ぐぅっ」
ハイドラが去ると同時に、姫は再び膝をついた。犬が心配げに身を寄せてくる。
「姫様、まだお体が……」
「子細ないっ。呼吸を整えれば、立てる……! だがお前……服はどうする?」
「犬に衣服は無用ですわ!」
「そうもいくまい……仕方ないな」
姫の手がジャンヌ装束のボタンにかかったのを見て、犬が血相を変えた。
「姫様! 姫様が素肌を晒す必要などありません!」
「では、どうする。私に、生まれたままの姿のお前を連れ回せというのか?」
「うぅっ、それは……あっ!」
犬が表情をぱっと明るくし、『ピンときた』とでも言いたげに手を打った。
533 :
343:2008/01/07(月) 04:28:50 ID:CFzrrwhV
続きの続きの続き12
「立てるか?」
「まだ少し痺れが……でも、なんとか」
姫が手を引いて犬を立たせる。先ほどまでの全裸ではなく、その体には下着の上下がまとわれていた。
「姫様の下着、汗じっとり。ふふ……本当に大慌てで来てくだすったのですね」
「ばか、いらぬことを言うな……しかしその、なんだ。素肌にこの服は……妙な感じだ」
そう、犬が身につけているのは、先ほどまで姫が戦装束の下に着込んでいた下着だった。姫の素肌を晒すことをど
うしても良しとしない犬が苦肉の策として提案したものだったが、いざ下着を着せてみると、犬は妙にうきうきとし
ている。
姫はというと、普段は下着に柔らかく包まれている敏感な部分が編み込まれた布地に触れるので、たいそう動きに
くい思いをしている。
とはいえ長居もできない。かろうじてマシな状態にある姫が犬の体をささえつつ、正面玄関へ向けての移動を開始
する。
姫が屋敷に乗り込んでからだいぶ時間が経っていたが、廊下は召喚状態の姫に踏み荒らされたままの状態で、人が
出てくる気配もない。
「信じられんな……自分でやっておいてなんだが、ここまでの狼藉を働かれて、人が出てこないとは」
「この屋敷に詰める人間、そう多くはありません。ご本家から相当数の人間が派遣されたようですが、半数近くが、
お坊ちゃんに見切りをつけて去っていったと……」
「……あのハイドラ装備の女戦士は何者だ?」
「わたしも詳しくは存じません。お顔も常に兜に隠れていましたし……ただあの方だけは、ご本家からの命令ではな
く、ご自分の意志でお坊ちゃんに付き従っているようでした。あの方はこの屋敷でただ一人、本当の意味で、お坊ち
ゃんの味方なのかも知れません」
姫は、いまだに我が身を去ろうとしない脇の痛みを思いながら、下唇をかんだ。
「……完敗だった。あの数瞬の攻防で、次元の違いを思い知らされた……」
「相手が悪うございます……わたしとて、あの方が相手では何秒ともつかどうか……」
「そうじゃない! そうじゃあないんだ、私は……」
姫が何か言おうとするのと、二人が正面玄関から中庭へ抜け出るのとがほぼ同時だった。
そしてその瞬間、犬が眼前に広がる異変に気づいて、表情をこわばらせた。
「姫様……!」
正面玄関から中庭へ抜け出た姫たちを出迎えたのは、前方と左右の三方を隙間なく取り囲んだ、無数の衛士たちだ
った。
534 :
343:2008/01/07(月) 04:30:10 ID:CFzrrwhV
続きの続きの続き13
(迂闊……!)
自分を負かした相手のことばかり考えていて、その他の部分に対して思慮を及ばせなかったことを、今さらながら
に姫は悔いた。
鎧に身を包み、ずらりと居並んだ衛士たちの中には、姫が屋敷に乗り込んだときに出くわした使用人たちの顔もあ
った。この屋敷の使用人たちは、すべからく衛士を兼ねているのだろう。となれば人が出てこないのも当然で、彼ら
は、突如として襲来した狼藉者を撃退するために、総出で迎撃準備を進めていたのだ。
「ジャンヌ家のご息女とお見受けする」
居並ぶ衛士の中から、長らしき者が一歩歩み出て言った。
「屋敷を荒らし、ライサラ家ご三男のご妻女を連れ去ろうとするその振る舞い、いかにいかでも許されるものではあ
りませんぞ」
「黙れ下郎! 命じられるままに暗君に仕える信念なき走狗ども、我が進行を阻むのならば、残らず順繰りに切り伏
せてくれるっ」
姫が愛剣を抜き、衛士たちが身構える。空気が張りつめていく中、姫の間合いの一歩外にいる衛士長は、表情を変
えずに、その片手をかかげた。
「この手を下げれば、この場の全員が一斉に動く。貴殿の剣力は聞き及んでいるが……着の身着のままの娘を抱えて、
この数相手に立ち回れるおつもりか?」
「姫様……」
「離れるな」
姫は、犬をしかと抱き寄せながらも歯がみした。
(一人一人は戦闘職にもついていない雑兵……だがこの数、50人はくだらない……)
まだハイドラから受けた一撃も癒えてはおらず、犬を抱いているため盾も使えない。脱出の可能性は限りなく低い。
「まあなんでもよろしい。捕縛されて後、ご本家の面前で、貴殿の信念とやらを語るがいい」
衛士長の手が降りた。
それを合図に、人並みが一斉に姫に押し寄せてくる。
姫は残された力を振り絞り、ヘラクレスソードの柄を握り込んだ。
その瞬間、姫たちの背後から、翡翠のごとき輝きが飛び出した。
『ぢェェいっ!!』
不気味な声と共に放たれた何かが姫たちの頭上を駆け抜けていく。
かと思うや、薄紫色の閃光が最前列にいた数名の衛士たちの間に突き刺さり、そのすべてをなぎ倒した。
「!?」
信じがたい光景を前に、全員が我が眼を疑い、動きを止めて立ちつくした。その静寂の中心に、翡翠色の輝きが舞
い降りる。
そして同志のはずの衛士たちをいともたやすくなぎ払ったハイドラ装備の女戦士は、長大な剣を肩にかつぎ、超然
と言い放った。
「この場、私が預かろう」
535 :
343:2008/01/07(月) 04:32:32 ID:CFzrrwhV
続きの続きの続き14
「これはなんの真似だ!」
真っ先に声を上げたのは、かろうじて難を逃れた衛士長だった。その怒声は無論のこと、ハイドラへと向いている。
「その娘はライサラ家を愚弄した不届き者なんだぞ! それを……」
食ってかかろうとした衛士長の顔左側面を、鋭い光がかすめた。
眼にも止まらぬ速度で繰り出された長剣の突き。そしてそこから放たれた衝撃波が、後方に並んだ衛士たちの、鉄
兜の頭頂部にある突起を順繰りに吹き飛ばしていった。
衛士長は腰を抜かしたのか、その場に尻餅をついて静かになる。
「馬鹿な! その剣は、まさか……」
「ギロチンソード……!」
同時に戦慄した姫と犬に、ハイドラが向き直る。
二人とも思わず身構えたが、ハイドラが口にしたのは、たった二文字の言葉だった。
「行け」
「……え?」
とっさにはその言葉の意味するところがわからず、姫はつい呆けた返事をしてしまった。
姫たちに先んじて、三人を取り囲んでいた衛士たちが動いた。逃げまどうような足取りで隊列を開き、門までの道
を姫達に示す。その状態になってはじめて、姫はさきほどの言葉の真意を悟った。
「どういうつもりだ」
「愚問を重ねるな」
「情けをかけようというのか!?」
「この程度で情けもなにもないが……」
ハイドラは失望したようにため息をついた。
「情けをかけられるのを是としないのならば、相応の力を得ておくことだな」
「くっ……」
「もう一度言っておく。疾く、去ね。戦友の忘れ形見が貴様らの血を欲している」
ハイドラの手にある長大な剣が、その言葉に呼応するように不気味な音を発した。
「姫様、参りましょう」
意外にも、犬はハイドラの申し出をすんなりと受け入れたようだったが、それでも姫には承伏しかねた。
「だが……!」
「姫様……『奪いに来た』と仰ってくださったとき、とても嬉しゅうございました。あの一言で、犬はあなたの手に
落ちる決心をつけられたのです」
「だが、私は……!」
「小僧のような姫君だな」
頑として動こうとしない姫に業を煮やしたのか、ハイドラがあきれたように口を挟んだ。
「私はその犬の信念を通してやろうとしているに過ぎん。貴様のつまらん意地になど、もとより付き合ってやるつも
りはないのだ。行きたくないと言うのなら勝手気ままに駄々をこねているがいい、無分別な子供のように」
ギロチンソードを納刀したハイドラは、興味をなくしたように二人に背を向けた。その背を、犬が呼び止める。
「お待ち下さい……短い間でしたが、お世話になりました」
犬は小さく目礼したに過ぎなかったが、その仕草はハイドラに対する敬意に満ちていた。
「世話をしてやった覚えはない。道中、息災でな」
ハイドラは軽く手をあげて見せると、振り返ることなく屋敷の奥へと消えていった。
「姫様、さあ……さらっていってくださいまし」
剣を向ける相手を失い、愛しい犬にほほえみ混じりにこう言われては、姫はもはや首を縦にふるしかなかった。
536 :
343:2008/01/07(月) 04:34:01 ID:CFzrrwhV
続きの続きの続き15
二人が徒歩で祖国の屋敷に戻る頃には、辺り一面濃密な夜のとばりに閉ざされていた。
「たった二月……でも、懐かしゅうございます」
犬は笑いながら門をくぐったが、姫にはその笑顔がまぶしくて、眼を合わせることができなかった。
「姫様……?」
不思議そうにのぞき込んでくる犬の視線をよけながら、その手を引いて、西へ進む。
幾度となく水を浴びた庭園に犬を誘った姫は、しばらく使われていなかった桶に、月を頼りに新しい水をくむ。
「身を、清めよう……」
犬の下着を脱がせ、桶の中に座らせる。
「姫様、もったいのうございます」
いつもとは逆の立場に恐縮した様子の犬だったが、特別固辞することもなく、姫のなすがままに任せていた。
水を浴びた犬の肌は月明かりに照らされ、庭園の中央に咲く一輪の華のように儚く、美しかった。
だが水がその肌を覆った粉末を洗い流して行くにつれ、新しいものから古いものまで、無数の傷が顔を見せる。
「ここまで……いくつかは深いものもある……消えないものだって……」
「……鍛えていたつもりでしたが、私の肌もまた、人並みの柔肌だったみたいです」
「手首は特に酷い……」
連日連夜荒縄が食い込んで幾度となく肌を削られたのであろう手首には、もはや消えることのない痣が刻まれてい
た。今も一部のかさぶたがはがれ、ぬめった傷口があらわになっている。
姫はその傷にそっと唇を寄せた。
「姫様……! 汚いです、そんな……」
言葉とは裏腹に、犬は頬を染め、うっとりと姫を見つめた。
だが逆に、口づけた姫の方は、犬の手を押し抱くようにしてうつむき、震えていた。
「全身の傷をこうしてやるつもりだった」
「姫様……」
「お前に刻まれたすべての傷を、こうやって私のものにしてやるつもりだった……!」
姫の声が震えはじめる。こらえようのない悔しさがわき上がってきていた。
「私はお前を奪うつもりだった。痛みも苦しみも、あらゆるしがらみも、すべてをこの手に収めてやるつもりだった。
お前のすべてを私のものにするつもりだったんだ! それなのに……それなのに!」
桶にはった水の中に、水滴が一粒、二粒と落ちて、映りこんだ月の光を静かに揺らした。
537 :
343:2008/01/07(月) 04:35:36 ID:CFzrrwhV
続きの続きの続き16(ここで一段落)
「できると思った。その力が私にはあると思っていた! だが現実はどうか!! たった一人の敵も打ち倒せぬばかり
か、その敵の助けを借りてようやくお前を連れ出せた。これが私だ! この程度が私なんだ! 無力な私が、人一人
のすべてを手中にしようなどと……!」
叫び、血が上り、熱を宿しはじめた姫の頬に、水に濡れた犬の手がそっと触れた。
犬は薄暗がりの中、手探りでさがすように姫の涙をすくうと、今度は戦装束の前ボタンに手をかけた。
「なにを……」
あっという間にボタンが外されると、開いた合わせの隙間から、豊かな膨らみが二つのぞく。犬はその左側に手を
置くと同時に、姫の手を自分の胸に誘った。
「姫様の心臓が脈打っているのがわかります。わたしの鼓動もおわかりになるでしょう?」
「ああ……」
「わたし好きです、この鼓動。とくとくと、あんなに勇ましく戦う姫様に似つかわしくないくらい、可愛らしい鼓動。
この鼓動に触れられることが、いまこんなにも嬉しい。姫様は、嬉しくないでしょうか?」
姫は首を横に振った。
そんなことあるわけない。嬉しくてたまらない。二度と会えないと思っていた。忘れれば楽になれる、でも忘れら
れなくて苦しかった。会いたかった。恋しかった……
胸がいっぱいで言葉を紡げない。
「今生の別れを惜しみ合った私たちが、今こうして互いの鼓動に手を重ねている……わたしは、それで十分です。姫
様、すべてに勝利できる者などありはしません。ほとんどの人々は、数え切れない敗北の果てに、一片の勝利のカケ
ラを拾いあげて先に進むのです。戦いましょう。戦い続けましょう。わたしはもう恐れない、傷ついても、時には敗
れても、姫様のおそばで戦い続けます。だから……」
犬が姫の体を抱き寄せた。うつむいていた姫の顔が乳房に埋もれる。永久に沈んでいきたいほどの心地よさが、全
身に広がっていく。
「だから姫様、時折は、わたしにも甘えて下さいまし」
その瞬間、姫の胸の奥底から、抗いがたいほどの感情の並がわき上がってきた。
それが一体いかなる意味を持つ感情なのかも理解できず、圧倒的なうねりを持ったその奔流にただ流されるように
して、姫は声を上げた。
いつしか姫は、己を犬と定めた娘にすがりつき、子供のように声を張り上げて泣きじゃくっていた。
月夜の下で、花々とただ一人の犬だけが、その産声のような泣き声に耳を傾け続けた。
<さらに続く>
<次回ハイドラさんと再戦>
538 :
343:2008/01/07(月) 04:39:25 ID:CFzrrwhV
うん、「またエロシーンがない」んだ。済まない。
仏の顔もって言うしね、謝って許してもらおうとも思っていない。
でも、次回のハイドラさんとの再戦を書ききると、姫様たちにエロいことし放題の
「状況」みたいなものが整ってくると思う。
殺伐とした戦争の中で、巨乳のスカ子ちゃんを手懐ける姫様とかええやん?
そう思って、次回の話を書いているんだ。
公開オナニーの一種だと思って、冷たい目で「この生きる価値もないウジ虫以下のゲロ野郎」とののしってくれるといいと思う。
じゃあ、また次回。
。;*
.;゚ *;。 ヘへ
ハァ._▲_゚; へ/ヘへ
ハァ(*'A`) .| / ヘ.|
.†ノ雷ヘヘ \ /
""""""""""""""""""
>539
ライサラ=ウォス最低だなっ!
この生きる価値もないウジ虫以下のゲロ野郎!
とりあえず職人GJ
職人乙!
そしてwktk
どうしても続きが気になってしまう
罪な奴だぜ…
そのままハゲスは営業課のフロアへと向かって行った。
営業社員の机が並ぶ一室。金曜夜ということで社員は殆ど顧客に商談混じりの接待に行っており、
そこに残っているのはお詫びちゃんのみ。ドア越しの窓から資料のまとめ作業をしている彼女の後ろ姿が見える。
ハゲス「おいぃ、お詫びいるか!」
怒鳴りながら部屋に入り、後ろ手でドアの鍵を閉める。事務作業に集中している彼女には小さなカチャッという音には気付かない。
お詫びちゃん「あ、ハゲスさんお疲れ様。ご機嫌斜めやなぁ…お呼びかいな?」
ハゲス「呼んだから聞こえたんだろボケがっ!手前のお詫びの仕方が足りないからいっつもクレームがGMに来るんだよ!」
怒声と同時に彼女の髪を掴み、後ろに引っ張る。座ったままの姿勢では抵抗もままならず、
強制的に仰け反った姿勢に豊満な胸が弾むのが目に写る。
お詫びちゃん「きゃっ!?ハ、ハゲスさん!?いきなり何」
ハゲス「いきなりも糞も無いだろ?俺は、いーーっつもお前のお詫びにイラついてんだよ。誠意が無いだろ?」
お詫びちゃん「それでもうちなりに一生懸命やっているんやから」
ハゲス「お前、自分の立場分かってんのか?お前はお詫びをするだけの社員モドキ。俺はGMとしても社員としても発言力がある。
その俺がお前の駄目さを指摘しているのに何それ?舐めてんじゃねえよっ!!」
ガンッ!顔面を机にぶつけ、鼻血が出ているが気にせずにそのまま仰け反るように後ろに引っ張る。
お詫びちゃん「せっ、せやかて」
血で鼻が詰まり、目尻に涙を溜めつつも反論しようとする彼女の姿に
ハゲス「だから俺がお詫びの仕方ってのをじっくりレクチャーしてやろうってんだ、よっ!!」
言うと同時に彼女の上着を下のシャツごと強引に下から引っ張り、脇の所で脱がさない状態にする。端から見るとバンザイをしたようにも見える。
ハゲス「簡易拘束の完成、と。へへっ、良い乳してんじゃねえか。おら動くなよ、動いたらまた一発お見舞いするぞ。
綺麗な顔に傷を付けたくないなら、静かに俺のレクチャーを受けてろよ?」
お詫びちゃん「レっ、レクチャーって何をしてんねん!?」
ハゲス「お詫びってのはな、相手に満足してもらわないと駄目なんだ。だから体を使ったお詫びをするのは当然だ。
特にお前はこの乳と良い腰のクビレも。へへっ、ヨダレが出そうなぐらいに良いスタイルをしているからな。
だから俺がこの体を使ったお詫びってのをご親切に教えてやる。嫌なら部長にある事無い事言って首にするぞ?」
お詫びちゃん「そんなもん誰が出来んねん!」
ハゲス「お前は社員モドキで謝るだけ、俺は地位のある社員、公私混合でも仕事はこなし上司からの信頼も厚い。
さてさて、部長はどっちを信用するかな?」
お詫びちゃん「ひっ、卑怯やで。こんな事をして絶対に許さへんから!」
ハゲス「へへへっ、許すかどうかは…体に聞いてみようか。いや待てよ。こういう時は後で体は正直だぞって言うべきだからここは」
これから始まる事に妄想を膨らませ、自然と顔に笑みが浮かんでくるが、
ドンドンドン 突然、部屋のドアが叩かれた。
???「あれ?おーい、お詫びちゃん。まだいるかな?」
お詫びちゃん「あっ、い(ぐむっ、むぐーむぐー)」
人が来た事に焦りつつも、とっさに上着越しに彼女の口を塞ぎ声を出せないようにしておく。
ハゲス「(おい騒ぐんじゃねえぞ殺すぞ) どーも、お疲れ様です。お詫びちゃんは居ないですよ。」
???「あれ?そうなんですか?えーと鍵が掛かっているんですけど、あなたは?」
ハゲス「GMチームのハゲスです!ちょっと営業課長から資料を頼まれて探していまして。もう見つかったので大丈夫です。
部屋には私しかいないのでこのまま帰るので戸締りは任せてください。」
お詫びちゃん「(むむむ!むぐぅぐーむぐー!)」
???「あれー?そうですか、分かりました。それじゃあ戸締りよろしくお願いします。
あ、もしお詫びちゃんにあったらいつもの飲み屋で待っていると伝えてもらえますか?」
ハゲス「分かりました、もし会ったら伝えておきますね。」
ドア付近から人の気配が消えた。本来だったら不審に思うだろうが俺だから信用したのだろう。馬鹿な男だ。
ハゲス「へっへへ、それじゃあナイトさんは消えた事だし、レクチャーの続きを始めるぜ。」
To Be Continued?
546 :
545:2008/01/11(金) 21:44:17 ID:5gjvzZMM
スレ汚し失礼しました
547 :
545:2008/01/11(金) 21:48:23 ID:5gjvzZMM
純愛系の人と同じキャラを扱って汚すのもなんなので
最後はbadとhappyの2つ用意してみたのですが…オナヌーですまん('A`)
わっhAげすしね
おわびちゃんはかわいい
お幸せに!
ティファリス様見てて、これ谷間あるし横から見たら胸割と大きいんじゃね
と思った日曜の朝
ライサラ=ウォス最低だなっ!
久々にスレに来たけどいい職人がいるじゃあないか!
続き楽しみにしてる!
ラ、ライサ=ラヴォス!
普段はあんまり使わなかったアイスボルトを使いはじめてからサラのスコアが5000くらい伸びた
なんでかしら
アイスボルトはライトと同じくらい使うぜ、ジャベより普通に頻度高い
ってかスレ違いだ
シャンテ陵辱モノ希望
ぎゅるびーん!
とりあえずストラクチャーセットがノーパンでストッキング直穿きだからそこを上手く使いたい
あーでもパンスト直穿きすると常時擦れてるんだっけか?
test
558 :
343:2008/02/05(火) 01:22:02 ID:a39dVZME
ハイドラ再戦01/17
姫は自室の窓枠に腰かけ、中庭を見下ろしていた。草花の表面に朝露の光が散っているのが、部屋からでもわかる。
さわやかな朝と言ってよいだろう。
(私の、当主としての門出を祝そうというのか……)
脇の辺りが小さくうずく。肉ではなく、その奥の骨がゆれるような感じだ。あのハイドラに一撃を受けた場所であ
る。その脇をおさえてため息をつくのと同時に、扉がノックされた。続いて「犬です。失礼いたします」という娘の
声がやってきて、扉が開いた。
「おはようございます……あら、お召し替えをと思って来たのですけど」
新しいウエイトレス衣装に身を包んだ犬は、主が青い戦装束をまとっているのを見て、少し意外そうに口元へ手を
やった。その手首に、うっすらと縄の跡がのこっている。姫はそんな犬にほほえんでやる。
「いつまでも敗北を気に病んでいるわけにもいかない……いきなりとはいえ、私はもうジャンヌ家の当主なのだ」
すべては慌しい流れの中で行われた。
姫が犬を連れ戻ってきたことを知った前当主、すなわち姫の実父は、すぐさまライサラ本家へと走った。ライサラ
家の言い分を聞いて事情を把握した父が戻ってきたのは、つい昨日のことである。
父は戻るや否や、姫や犬を含む屋敷中の人間を集め、姫の行状を叱責した。
両家の友好関係が終わったこと。水面下で進行していた両国元首への同盟案提出が頓挫したこと。そしてライサラ
家の出方次第では、国家間戦争とは違う、きわめて私的な紛争が起こるかもしれないこと。それらを恨めしそうに述
べ立ててから、前当主は最後にとんでもないことを言い出した。
「もう面倒くせェ。アホらしいから俺ァ隠居する」
唐突にそう発表した父は、古くからの執事と、父を慕って同行を申し出た二人の侍女、あわせて三人を連れて屋敷
を出て行った。行き先は聞いていないが、しばらくは兵士たちの使う宿屋に滞在することになるのだろう。
「みなはどうしている?」
いきなりの襲名式から一夜明けて、残された侍女たちの動向が姫には不安だった。自分はまだ若く、当主としての
経験に乏しい。姫将軍ワドリーテの例があるとはいえ、女当主であることも不安の種だろう。夜の間に屋敷を出た者
もいるかもしれない。あるいは、屋敷に残った人間の方が少ないかもしれない。
だが、姫の不安をよそに、犬はかえって明るい顔をした。
「何も変わりません。みんな姫様に付き従う所存です。執事さんはいませんけど、かわりに侍従長の姐やが、みんな
を取り仕切っています。姫様が案じることなんて、なんにもないんですよ」
「そうか……」
思わずため息が出た。それが安堵のためか、当主としての責任への気負いのためかはわからなかったが、姫は考え
ることをやめて、窓枠を降りた。
「ならば私も、変わりなくジャンヌ家の使命をまっとうしよう」
犬が姫の真意に気づいて、背筋を伸ばした。
「では、姫様」
「戦に出る。体はなまっていないな、我が犬?」
「もちろんですわ!」
犬の体が小さく震えていた。武者震いである。
その仕草が愛しくて、姫は気負いのない笑顔を浮かべることができた。共に戦える歓喜を体全体で表現してくれる
この娘の存在が、自分にとってかけがえのないものなのだと感じた。
559 :
343:2008/02/05(火) 01:22:55 ID:a39dVZME
ハイドラ再戦02/17
犬がそっと壁を指さした。その先の壁に、赤銅色の両手斧がかざられている。
「もう一度、姫様の横であのマルスを振るえるときがくるなんて」
「えっ、いやっそれはダメだ!」
気持ちが和んでいたところにマルスの名を出されて、姫はとっさにそう言ってしまった。当然、犬は不思議そうな
顔をする。
「えっ……そんなぁ、どうしてですの?」
「それは、その。アレだ。新しいのを用意してあるんだ」
「でも、せっかく陛下から賜った栄誉ある品ですのに……」
(ああ、もう!)
犬がなかなか納得しないので、姫のなかに焦りが生じた。とにかくなんとしても、マルスを使わせるわけにはいか
ないのだ。その焦りが、姫の口からよどみない言葉をすべり出させた。
「犬よ! お前は私の犬として生まれ変わったのだ。新たな服、新たな鎧、そして新たな武器で、私についてきてく
れ。それが私の願いなんだ」
犬がはっとしたように目を見開いた。姫の言葉は、この娘の心にしかと届いたらしい。
「姫様、そんな風に……申し訳ありません、わたしったら……」
犬は感激し、瞳をうるませさえしてこちらを見つめてくる。その視線がちょっとだけ痛かったが、姫は内心で、今
度こそ安堵のため息をついた。
(自慰になんて使ってしまったものを、持たせられるか……)
「あっ……」
犬に触られて乱れた自分。マルスにまたがって乱れた自分。淫らな自分の姿を思い出して、また股間が湿るのを感
じた。肉欲が一人歩きしているように思えて、姫の頬は羞恥の色に染まった。
「姫様? お顔が赤くなっているような……」
「なっ、なんでもない。戦いを前に、少し昂ぶっているだけだ」
「本当に? もしお体の調子が悪いなら、無理に戦わなくとも……」
そのとき、訝る犬をどうごまかそうか思案しはじめた姫を救うように、軍団通信になじみの声が響いた。
『はいはーい。まもなく目標時間でーす。目標のウォーロックは他国支配なのーでー、今すぐ制圧しないと間に合い
ませんー。ご協力お願いしまーすー』
間延びした声が頭の中に直接響き渡る。縦ロール銀行の店主が、目標戦を制しうる精鋭を募っているようだ。
目標の二文字を聞き、姫は我知らずその表情を引き締めて、犬を見据えた。
「ちょうどいいな」
「……支度してまいります!」
犬はもう四の五の言わず、一礼すると、部屋を出て行った。
姫の股間はもう乾いている。だが、その抑えがたい淫らな衝動が下腹部に居座っているのも感じる。
(聞き分けろ、我が欲動よ……こんな気持ちのままでは、私は何も手にいれられない)
脇がまたうずいた。ハイドラに喫した敗北は、三日たち、当主となった今でも、姫の心に重くのしかかっていた。
(戦おう……戦いが、きっと私を前進させてくれる……)
姫の決意に追従するように、全軍通信が鳴り響いた。
『ウォーロック古戦場跡にて宣戦布告しました』
姫は背筋を伸ばし、来るべき戦に向けて神経を研ぎ澄ませた。そして何食わぬ顔で、壁に飾ってあったマルスを、
クリスタルの異界干渉性を応用したインベントリにそっとしまいこんだ。
560 :
343:2008/02/05(火) 01:23:47 ID:a39dVZME
ハイドラ再戦03/17
扉の向こうから、男と女が何か言い争っているのが聞こえる。
「ジャンヌ家の言い分だけで動くわけにはいかん。これだけ言っても、弟に会わせんつもりか」
「坊ちゃんはジャンヌの姫君に負わされた傷が癒えておりませぬ故……」
「その姫君が去るのを手助けしたというではないか、野良犬め。なにを企む」
部屋に入ろうとしている男を、女がとどめている。粉砕され、仮板が打ち付けられただけの扉からは、そのやり取
りの様子がくっきりと伝わってくる。
自室のベッドに腰掛けたライサラ家の三男は、耳をふさぎ、扉の向こうからもれ聞こえるそのやり取りを遮断した。
「ハイドラ。ハイドラ。お願いだ、兄上をここに通さないで……」
包帯に包まれた顔をふせ、祈るようにそんな言葉をこぼしていく。
数分か、あるいは十数分。三男にとっては長い静寂を経て、仮の扉の開く気配がした。
三男は反射的に瞳を閉じ、ふさぎこむように頭を抱えて震えた。
部屋に入ってきたのは女の方だけだった。翡翠のごとく輝くハイドラ装備に身を包み、頭にはくすんだ薄緑の兜を
据えている。
女戦士の気配に気づいた三男は顔を上げ、安堵したように鼻をすすった。
「兄上様はお帰りになられました」
「うん。ありがとう……」
三男は、来客を退けた従者の功績に礼を言ったものの、少し気恥ずかしそうに視線を落とした。
「包帯をお取替えいたしましょう」
ハイドラはインベントリから包帯を取り出すと、三男の顔に巻きつけられた古い包帯をはずしにかかった。三男の
顔があらわになると、ハイドラは「ほう」と、少し意外そうな吐息をもらした。
「まだかすかに腫れが残ってはおりますが……ほとんど癒えております。跡も残っていない。包帯などいりませぬな。
ジャンヌの姫君、気性に幼いところはあったが、正しい資質をお持ちのようです」
ハイドラは、ヘルムからのぞく紅い口元にかすかな笑みを乗せた。その気配を敏感に察知して、三男は口をとがら
せる。
「正しい資質って、なんだよ」
「今の坊ちゃんには難しゅうございます」
「…………」
三男は黙り込み、まだわずかに腫れの残る頬骨の辺りへ手をやる。次に額、さらに上顎。そうやってジャンヌの姫
君に負わされた傷を一つ一つなぞりながら、従者に問いかける。
「ボクは、生きる価値もないウジ虫以下のゲロ野郎なんだそうだ。ハイドラ。ボクのしたことは、そんなにも酷いこ
とだったか?」
その問いかけに、従者は、はっきりとうなずいた。
「唾棄すべき外道の所業でありました」
三男はうつむき、ため息をつきながら立ち上がった。眼前のハイドラをかわし、窓際に立って、視線を空に逃がす。
「まだ……よくわからない。姫の怒り、されるがままだったあの娘のこと」
空の下を雲が流れている。しばしその様子を眺めていた三男だったが、やがてその背後で鳴った小さな金属音に振
り返った。
「あ……なっ、ハイドラ!?」
振り返った先に、あの翡翠の女戦士はいなかった。
いたのは、少し日に焼けた小麦色の肌を惜しげもなくさらした、一人の女だった。
女は、ハイドラスカートと胸をおさえる巻き布、そしてゲイターヘルムだけを身に着け、まるで三男を待っている
かのようにベッドに腰かけていた。その足元に、翡翠の甲冑が転がっている。
三男はうろたえ、その場に立ちすくんだ。
561 :
343:2008/02/05(火) 01:24:34 ID:a39dVZME
ハイドラ再戦04/17
ハイドラの手がよどみない動きで背中にまわった。巻き布の結びをゆるめ、乳房の戒めを解く。おさえつけられて
いた二つのふくらみが、解放のときを待ち焦がれていたように弾んで布をすべらせていく。
巻き布が左右の乳首にひっかかり、かろうじて乳房の露出を防いだ。
「坊ちゃん、私を抱けますか」
ハイドラの声は静かであり、一切のゆらぎを見せなかった。対して三男は、見慣れない従者の姿に視線を釘付けに
されながら、大いに動揺していた。
「いっ、いきなり、なにを!?」
「好きにしていただいてかまいません」
「いい、いいよそんなの! 鎧をつけろ! 早く!」
「縄で縛っても鞭で打っても、雷で責めても結構です。犬と罵ってもいい。蔑んでもいい」
「何を言ってるんだよ! できるわけないだろ!? 君にそんなこと、できる……わけが……」
三男は、言い終えない内に、何かに気づいたように愕然としてハイドラを見つめた。
「できるわけ……ないよ」
「なぜ?」
「だって君は、だって……」
うつむき、まごつくばかりの主を前に、ハイドラは大きくため息をついて、胸の巻き布を締めなおしにかかった。
「あなたは、虐げやすい者を身近に欲していたに過ぎませぬ」
語りながら、布を締めなおし、足元の甲冑を拾って、再び身に着けていく。
「坊ちゃん、あなたの心はまだ弱い。貴い家柄に相応しくあろうとすること、さぞ重荷でありましょう。しかも歯が
ゆいことに、私はそのお心を導くだけの言葉を持たぬ」
「ハイドラ……?」
すべての装備を装着して普段の姿に戻った女戦士は、兜の奥に秘められた瞳を主へと据えた。
「ジャンヌの姫君には感謝しております。私にはできぬことを、あの娘はしかとやってのけた。二ヶ月もの間、あな
たの不慣れな自慰に耐え続けた奥方にも」
「……ボクは」
三男が何か言おうとしたとき、全軍通信がクリスタルの波動を伝って二人に響いた。
『救援要請! ウォーロック古戦場跡!』
要請を聞くと同時に、ハイドラの手元でガントレットが音を立てた。指を開閉し、はまり具合を確かめている。
「……坊ちゃん。きっかけはすでに得ているはず。あとはあなた自身が、戦いの中で理解してゆかなくてはなりませ
ぬ。自信とは何か。他者に信頼されうる強さとは何か」
「この要請を受けようっていうのか?」
ハイドラの口が、不敵に釣りあがる。
「戦う場に困らぬのは、幸福なことでありますな」
「でも……何度も救援要請が出てる。きっと負け戦だよ。そんなところに行っても、意味が……」
尻込みする三男をよそに、ハイドラの手に薄く発光した長大な大剣が現れた。本来ならばクリスタルの力を結集し
て召喚する異界の魔物の手にあるべき、魔性の剣が。
「戦いとは、勝利にすり寄っていくことにあらず。眼前に横たわる敗北を打ち倒すことこそ本義。それを、私めが体
現してご覧にいれましょう」
天井に触れない程度に掲げられたギロチンソードの刀身が、鳴き声のような不気味な音を発した。
562 :
343:2008/02/05(火) 01:25:08 ID:a39dVZME
ハイドラ再戦05/17
「てぁっ!」
小さな呼気と共に走った斧が、敵のステップ着地を正確に捉え、その体を打ち据えた。
「がっは……」
力尽き、倒れる敵スカウト。眼前の敵を倒したばかりの犬は、気をゆるめることなく周囲の気配をさぐる。
「姫様、もう一人ハイドがいます」
「見えている!」
犬より数歩離れた位置で、もう一人のネズミを相手にしていた姫のレトセルスシールドが虚空を打った。瞬間、重
い金属音と共に、姿を隠していた敵スカウトが現れる。
盾を介して全身に気と衝撃を叩き込まれたスカウトは、一時的な酩酊状態に陥って、その場でたたらを踏む。
犬が動く。地を蹴って間合いを詰めると同時に、デリーターの刃を叩きつける。スカウトはまだ倒れない。着地し
た犬が、斧をさらに深くかまえる。犬の気を宿した斧が青白い軌跡を描き、棒立ちのスカウトへと吸い込まれていく。
ヘヴィスマッシュが命中した重厚な音に、スカウトの断末魔が弱々しく続いた。
二匹のネズミを片付けた姫たちは、武器をおろし、小さく息を漏らす。
「お見事です、姫様」
「ああ……こちら中央。ネズミは排除したが、オベリスクが少し損傷した。私と犬の二名で、引き続き防衛に当たる」
軍団通信で状況を伝えると、姫はその場に腰を下ろした。犬もそれに習い、隣に座る。
「間もなく敵キャッスルも陥落ですね。前線は一進一退のようですけど」
「ああ。中央渦巻きの全域をおさえられたからな。領域で勝ったのだろう」
ウォーロック古戦場跡の中央には、らせん状のうず高い山がある。ここを早期に押さえて守り抜くことで、攻撃軍
は領域において大いに有利になる。その重要なオベリスクの防衛に、姫と犬は当たっていた。主戦場から離れた僻地
にきたのは、実戦を行うのが二ヶ月ぶりになる犬を慮ってのことだった。
「しかし、二ヶ月ぶりの実戦とは思えないな。新しい武器はなじむか?」
姫は、犬の手にある片刃の両手斧・デリーターを指した。
「まだ少し違和感が……でも、じきに慣れますわ。このインペリアルセットも」
犬は、編みこまれた布地に包まれた胸に両手を乗せてうれしそうに微笑んだ。
「よく似合っているよ」
姫の褒め言葉で、犬は素直に頬を赤らめる。その頬を照れくさそうに手で覆う仕草が愛しい。だが、犬を傍らに置
いておける幸福に浸るのを拒むように、姫の脇がうずいた。
(……くそ)
「まだ、あの方に敗れたことを?」
姫の表情が沈んでいくのを察知したのか、犬が的確な質問を投げかけてくる。姫は答えようとはせず、先ほど打ち
倒したネズミたちの方へ視線を移した。
力尽きて倒れたスカウトたちの体は、もうほとんど大地に溶け込むようにして薄くなっている。間もなく、クリス
タルの加護によってキャッスルに転送されるだろう。その様が、ハイドラに打ち込まれた直後の自分と重なる。
(私はまだ、ああして地にはいつくばったままだ。戦うだけではダメだ……あの敗北の記憶を粉砕しなくては、前に
進めやしない。だが……どうすればいい)
「姫様……」
犬が心配そうに顔を寄せてくる。頬に吐息を感じ、くすぐったい。姫もまた、誘いこまれるように犬に視線を重ね
る。
563 :
343:2008/02/05(火) 01:25:51 ID:a39dVZME
ハイドラ再戦06/17
『南西の前線に敵レイス発見! 護衛ナシ! ナイト急行されたし!』
姫の頬が熱くなりかけたそのとき、軍団通信に前線からの報告が入った。姫と犬は、互いに少しびっくりしたよう
に体を離した。
「警戒から、キャッスルのクリスタルは枯渇していると聞いていたが、まだレイスが出せるのか」
「で、でも、護衛もないそうですし、きっと最後の最後にとっておいたクリスタルを使ったんでしょう」
「そうだな、はは……」
白々しく笑いながらも、姫の頭の中では、一つの疑問が波紋を広げていた。
(護衛ナシでレイス……普通ならば考えられないことだ)
『ちょっちょっ、おまっ! 聞いて聞いて! 変なの見た! 今変なの見た!』
『あっお前! なんでキプ前に戻ってんだよ、ハイドで敵キマ警戒するって言ってたじゃねーか!』
軍団通信がにわかに慌しくなった。敵のキャッスルを監視していたスカウトが、突如としてキープに現れたためら
しい。当のスカウトは何かひどくうろたえた様子で、全軍に通信を発している。
『聞いてくれ! 監視はちゃんとしてたんだ。そしたら、なんか新しい兵が二人はいってきて……こんな終盤に参戦
なんて珍しいだろ? 顔を見ようと思って近づいたんだ……そしたら飛んできたんだよ! ギロチンソードが!』
『あーレイスが出るときに気づかれたのか。運がなかったな』
『ちがうんだ! そのときまだレイスは出てなかったんだよ! むしろ、俺のキルクリで出したみたいな感じで……』
『あ? じゃあ……なにそれ?』
『あのレイスになった女ヲリはなんかヤバイよ! 一瞬でハイドの俺に気づいたし、生身でギロチン使うし……』
「まさか……!」
黙って報告を聞いていた姫の脳裏に、一つの確信が湧き上がった。
女ウォリアー。生身でのギロチンソード。ハイドに気づく鋭敏さ。これらの特徴を備えた人物を、姫は一人だけ知
っている。
「姫様、もしかして……」
犬も同じ予感に行き当たったらしく、顔を青くして姫を見た。
「間違いない、奴だ……奴が来たんだ! あの女にレイスなどやらせたら……この戦場、ひっくり返るぞ!!」
姫はオベリスクの防衛も忘れて、一目散にキープへと走った。犬がそれに続く。キープでは例の警戒スカウトが、
まだ落ち着かない様子で縦ロールはじめとした裏方の面子に何か話している。
「縦ロール! 向こうのレイスに覚えがある! 私をナイトで出してくれ!」
姫はクリスタルにつくや否や、草原に腰を下ろして銀行業務に明け暮れている縦ロールの娘に願い出た。
だが、縦ロールから返されたのは、不審に満ちた細い眼差しだった。
「た、縦ロール……?」
予期していなかった敵意に、姫は困惑した。縦ロールはこちらを一瞥しただけですぐに視線を切る。
「ナイトさーん。確か五騎くらいいましたーよねー。そろそろーレイス倒せましたーかー」
軍団通信で、レイスの討伐に向かったらしいナイトたちに縦ロールが呼びかける。
だがナイトたちからの返事はない。
「今戦ってるのかしらー。まー、討伐されるのも時間のもんだ……」
『ナイト死亡』『ナイト落馬』『すまんナイトやられた』
「ハァッ?!」
いきなりなだれ込んできた三つの報告に、縦ロールのみならず、キープ付近に待機していた一同が唖然となった。
564 :
343:2008/02/05(火) 01:26:59 ID:a39dVZME
ハイドラ再戦07/17
「ど、ど、どうしてー!? 護衛ーいっぱいでてきたんですかー?」
『いや、なんつーか……正直に言うわ。負けた。真っ向勝負で。レイスに』
(やはり……!)
姫にとっては予測できていた事態ではあった。あのハイドラがレイスとなり、その戦闘センスを遺憾なく発揮すれ
ば、ナイトとて天敵ではなくなる。討伐隊には、護衛がついていないことへの油断もあっただろう。
やはり、レイスの正体はハイドラ本人に間違いない。姫の胸の内で、心臓が大きく脈打った。
「縦ロール、頼む。敵レイスと戦わせてくれ。奴をおさえなければ、前線が崩壊する」
今度は声を落ち着かせて願い出てみたが、やはり縦ロールは姫を見ようとはしなかった。
「ナイトさーん、まだ全滅はーしてないですよーねー。慎重にー歩兵にも気をつけてーヒットアンドアウェーで……」
『ム、ムリだ! どうしろってんだ! ア、アイツは殺戮機械なんだよ! アイツがいるかぎ……う、うわあぁああ!』
「…………」
壮絶な断末魔とともに軍団通信が途絶えた。キープに集まった面々は、一様に『まさか』と言いたげな表情を浮か
べる。しばらくの沈黙の後、前線から送還された一人の兵士がキープに現れ、たった一つの事実を告げた。
『ナイトしぼう』
「なんでよ――――――!」
常に温厚で、冷静さを失わないことで知られる縦ロールが、メガネを振り落とさんばかりに取り乱した。縦に巻かれ
た髪が無様に振り乱れる。単騎で四騎のナイトを退けるレイスの存在は、それほどに大きかった。
『前線やばい! レイスがとまらないッ! 無双にも程があるッッッ!!』
『オベ折られるぞ。短スカ、なんかブレイクいれてくれ』
『やろうと思ったけど無理! ハイドで近づいたのに、引き付けるだけ引き付けてからバインドもらったわ!』
『じゃ、じゃあ弓スカ、イーグルで削ってくれ!』
『ダメですぅ〜。あのレイス間合いがすごっ……イーグルよけるくせに、バインド当ててくるんですよぅ〜ッ!
っきゃ〜! 逃げ切れない〜!!』
間断なく送られてくる絶望的な報告に、キープの面々の士気が沈んでいく。中には「目標失敗か……」などとつぶ
やく者まで現れはじめていた。
「え、えぇー……どうすればいいのー……」
軍師としての力も評価されている縦ロールだったが、一騎当千のレイスを相手にしては戦略も浮かばない様子であ
る。敗戦の気配が濃厚になってゆくキープ一帯において、姫だけがまだ士気を保っていた。
「縦ロール。四の五の言っている時間はない。私が奴をおさえる。おさえねば……負けるんだ!」
「負ける……」
その言葉に、縦ロールの瞳が静かさを取り戻した。しかし、その底に潜む鋭さはまだ去らない。
「お姫さん。あの戦いもー、負けーたんですよー」
「あの戦い……?」
「お姫さんがー、ナイトーになってー、どっかいっちゃったーときー」
「あっ……」
縦ロールの敵意の意味を、姫はようやく理解した。あの時、姫は犬を救うため、初動展開に必要なクリスタルを使
ってナイトを召喚し、戦場を去った。それが自軍にとってどれほどの痛手になったか、考えるまでもないことだった
のだ。
「僅差でしたー……オベやATの展開がもっと早ければー……押し切れてたーかもー……」
「姫様、一体……?」
それまで黙っていた犬が、姫の背後で不思議そうに首をかしげた。
犬は、姫がナイトになって救出に現れるまでの経緯を知らない。そして、知られたくもなかった。姫は慌てた。
「そ、それはその、あの時はちょっと色々あってだな……」
「おかげであたしぃー、工作員の疑いーまでかけられてー。縦ロール銀行は信用ガタ落ちですー。こんな状況でクリ
渡して、まーた裏切られたらー……」
「裏切るものか! クリスタルを渡してくれれば、行動で示す」
「信用できまーせんー。どうしてもってーいうのならー……条件がありますー」
565 :
343:2008/02/05(火) 01:27:42 ID:a39dVZME
ハイドラ再戦08/17
無理もない要求だった。私的には一刻を争う状況だったとはいえ、それは縦ロールたちには関係ない。姫は、素直
に首を縦に振った。
「……わかった。だが急いでくれ、こうしている間にも前線は押されている……」
縦ロールの口が不気味につりあがった。指先でメガネの位置を整えると、にわかにその鏡面が濃さをまし、瞳を覆
い隠す。銀行や軍師というより、商人としての表情が濃くなっている。
「今じゃないですー。この戦争がー終わったらぁー、ちょっとあたしの実家の商売をー手伝ってもらいますー」
「商売だと?」
「ウチもーライバル多くてー。何か目玉商品でもあればーと思っているんですー。お姫さんにーその目玉になってー
もらえたらなー」
「承服できません!」
こたえたのは、姫ではなく犬の方だった。犬は真新しい鎧をわなわなと震わせ、縦ロールへと詰め寄っていく。
「事情はよくわかりませんけれど、そんなの絶対許せません。姫様を、そっその、商品だなんて……!」
一方の縦ロールも、犬の剣幕にひるむことなく、どころかその鼻先を指で突き返しながらメガネを光らせる。
「あたしはー別に身をひさげなんてー言ってませんー。ただー写真のモデルーにーなって欲しいんですー」
「写真って……」
「有名なー姫様のーちょっとこうセクシーなポーズーでもいっぱい撮ってー雑誌にしたり、ブロマイドにしたらー、
儲かるかなって思うんですー。知り合いに良いカメラマンもーいるしー」
「せっ、セクシーって……! ダメダメ、そんなのダメにきまってますわ! 他のにしてくださいな!」
犬は顔を真っ赤に染めて、断固反対の意を示す。
「駆け引きは好きくありませんー。あたしがーこうと言ったらーこれ以外はありませんー」
「お、横暴ですわ、そんなの!」
「だまらっしゃーい。銀行から借りるもん借りてー、利子もつけずに踏み倒そうなんてー生きる価値もないウジ虫以
下のゲロ野郎だー」
「な、なぜそのセリフを……」
第三者が知るはずもないセリフに、さすがの犬も思わずたじろいだ。縦ロールはそれについては何も説明せず、た
だ得意げに鼻を鳴らす。
そうしている間にも、前線からは阿鼻叫喚の悲鳴が伝わってきている。そしてそれは、少しずつだがキープへと迫
りつつあった。
姫は拳を握り締めた。脇のうずきはいまだにやまぬ。
(この機を逃せば、私はきっと、永遠にこのままだ……!)
「……やろう。やってやる。雑誌でも写真でも、かまわん! 大儲けさせてやるッ!」
「ちょっ……姫様!?」
「縦ロールの言うとおりだ。駆け引きなどしている時間はない。それに……どうもその女は、敵にまわさない方がよ
さそうだ」
姫が苦笑すると、縦ロールも不敵に微笑んだ。
「商談成立ーですー。そうと決まればーハイ40個ー」
決まってしまえば、縦ロールの行動は早かった。すぐさま抱え込んだクリスタルを姫に渡す。
「……私も行きます! かまいませんよね、縦ロール?」
犬も討伐軍に名乗りをあげた。まだ不満の名残が表情に表れていたが、これ以上姫の決意に踏み入ろうとはしない。
「うーん……むしろー出て欲しいのは山々なんですけどー……在庫が微妙に足りないんですー。キルクリあります?」
「それなら問題ありませんわ。先ほどネズミを倒しましたから」
戦場を駆ける兵士たちは、すべからくクリスタルの庇護下にある。致命傷を負っても無傷で拠点に送還されるだけ
ですむ。倒された兵士の体からこぼれたクリスタルのエネルギーは、それを倒した者の懐に入るという仕組みだ。
犬もサブの銀行から在庫のクリスタルを受け取り、姫と並んでキープ前に立つ。
「相手が相手だ。二ヶ月ぶりだなどと甘えていられなくなったな」
「こわくないです。姫様のおそばにいられるのなら、それで」
姫は、自然と笑みがこみ上げてくるのを感じた。自分を慕ってくれるこの娘のためにも、勝利をおさめなくてはな
らない。
(勝つ。あの女にも、この戦争にも。そしてなにより、我が身にのしかかる敗北の記憶にもだ)
決意と共にクリスタルを掲げ、召喚の儀式を開始する。攻撃軍の赤色に縁取られた突撃槍と甲冑、そして異界の駿
馬が現れ、姫の全身をかためる。隣では、犬が同様の姿となって並んでいる。
姫は犬へと視線を重ねる。どちらともなくうなずき合い、意識を重ね、そして手綱を振るった。
馬が地を蹴り、最前線へと向けた疾走を開始する。
遠ざかっていくキープが見えなくなる直前、軍団通信ではなく、肉声で、盾ロールの声が草原に響いた。
「ジャンヌ家ご当主のご出陣! ご出陣ーッ!!」
566 :
343:2008/02/05(火) 01:28:53 ID:a39dVZME
ハイドラ再戦09/17
しばらく並走していた姫と犬の二人だったが、犬が突然手綱をひき、馬の足を止めた。
「姫様……いま、北東の方角になにか召喚の反応があったような……」
戦場の地形は、クリスタルを通じて兵士たちの頭脳に描き出される。そこにさらにオベリスクを建設することで細
かい認識を実現するのだが、今北東には味方のオベリスクは建っていない。
姫はすかさず、全軍通信へと意識をチャネルした。
『前線の様子は?』
『相変わらずレイスは無双だけど、歩兵は減ってきた。レイスだけどうにかしてくれりゃ押し返せる!』
返答した者の声は、一抹の希望を見出したように明るい。本来ならば姫にとっても喜ばしい報せだが、犬が感じた
召喚の気配がある以上、裏を見抜かねばならない。
「姫様、もしかして……」
「キマイラだ!」
錬金術によって異界の獣を合成した魔獣キマイラ。三種のブレスを操る強力な召喚獣だが、なにより危険なのは、
キープに取り付いて自爆するファイナルバーストである。北東に現れた召喚獣の気配は、そのキマイラに違いなかった。
直前まで優勢だったとはいえ、戦争も終盤。自軍のキープがその破壊に耐え切れないのは明白だ。
「なんて奴らだ……一騎当千のレイスさえ囮にして、キマイラを決めるつもりか!」
「で、でもでも、どこからクリスタルを……」
「あの女だ。あの女、もうキマイラを召喚できるほどのキルを稼いだようだな……!」
「そんな……いかがいたしましょう!?」
姫の腹はすでに決まっていた。
「お前はキマイラに当たれ! 奴は……私がおさえる!」
「で、でもそれじゃあ……」
「やるしかない! キマイラを阻止したとしても、結局レイスをおさえねば負けるんだ!」
言うが早いか、姫は馬を走らせた。議論を重ねている時間はない。背中のほうで、犬が逆の方向へと走りだす気配
を感じる。
馬は鼻から猛烈に息を吐き、前線へと疾走するが、それでも姫にはもどかしかった。かかとで腹を蹴りつけ、加速
を促す。その視界の端に、突如として別のナイトが走り抜けているのを認めた。
(犬……!? いや、例の五騎の生き残りか!)
見たところ、その味方ナイトは相当消耗しているようだった。鎧ははげ、馬の足取りも頼りない。だがそれよりも
姫の目を引き付けたのは、その味方を追う、青い縁取りの敵ナイトの姿だった。そちらも相当に疲弊している。
(奴がレイスのクリスタルをキャッスルに運んだな。追われている味方のほうも輸送か)
姫は即座に手綱を繰り、馬の進路を二騎のナイトに向けた。二騎に垂直な進路で進み、側面を突く。
姫の存在に気づいた敵ナイトが、馬をいななかせて槍をかまえた。長大な槍身に電光が閃く。放たれた衝撃波が、
前方を直進する瀕死の味方ナイトを襲う。
(道連れにする気か!? いかん、命中するぞ!)
ディバインスラストの一撃が味方ナイトを貫くかに見えた瞬間、クリスタルの輝きが爆ぜ、騎馬の姿が消えた。代
わりに、光の中心からワイルドキャット装備の女スカウトが現れる。槍の一撃は、生身のその娘を打ち抜いた。
「にゃあッ!」
小さな悲鳴とともに娘が転倒する。だが、ナイトの力は生身の人間には及ばない。致命傷はまぬがれたようだ。
次の瞬間には、姫の放った一撃が相手ナイトを貫いていた。
騎手が落馬し、馬も二、三度地をかいて地面に転倒した。薄れていく体が、致命傷を負ったことを示していた。
「良い判断だ。もうだめかと思ったぞ」
姫は地面にへたってあえぐ女スカウトに一声かけ、再び前線への進撃を再開しようとした。しかし、ヘルムに隠れ
たその娘を目にしたとき、ふと、過去の記憶が頭をもたげてきた。
「君は……そうか」
娘が、不思議そうに姫を見上げる。
「召喚解除は、おぼえたようだな」
「えっ……」
娘の白い喉が、驚きを示す音を鳴らす。直後、犬の声が軍団通信に乗った。
『敵キマイラを発見しました! 迎撃の人員をまわしてください!』
北東から忍び寄っていたのは、やはりキマイラであったらしい。自軍のキープは、いまや前門の虎と後門の狼に狙
われている。これ以上この場にとどまる時間は、この戦場には残されていない。
「行かねばならん。君は、クリスタルをあの縦ロールに届けてやってくれ」
言葉を残し、三度前線への疾駆を馬に命じる。
手綱を繰って前線から後退してくる負傷兵の隙間を縫う内、姫はいつしか最前線へと躍り出ていた。
(みつけた……!)
青みがかった漆黒の四枚羽が、彼方に見えた。
567 :
343:
ハイドラ再戦10/17
『ぢェェェあッ!』
敵レイスは、果敢に突撃した味方の両手ウォリアーをギロチンソードの一振りで吹き飛ばし、悠然と坂を上ってく
る。さすがに無傷ではなく、それなりの負傷は見て取れたが、まだまだ余力は残している。
「ハイドラァッ!」
『来たか、ジャンヌの姫君ッ!』
相手の方でも姫に気づいた。強者だけが成しうる感覚の共有。姫は馬の勢いを落とすことなく、敵兵をかきわけて
突撃した。相対速度によって、両者の距離は一瞬にして詰まる。
相手が槍の間合いに入った瞬間、姫はたぎる闘争心を乗せて槍を突いた。馬がいななき、槍身に宿った異界の力が
一直線に放たれる。しかし……。
(……はずしたっ!)
レイスは衝撃波が命中する直前、一瞬のタイミングをとらえて後退した。レイスは衝撃波が霧散すると同時に、左
手に青白い冷気を収束し、それを姫に向かって撃ち出した。大振りの攻撃を外した直後であり、回避運動を取ること
さえできず、冷気弾が命中する。
「くっ……!」
急激に体を冷やされ、全身がかじかむ。その影響は馬にも現れ、その速度が目に見えて鈍化した。
(今のは私が愚かだった……! だがこれで、頭は冷えたぞ)
馬を走らせ、レイスの正面から側面へと回る。鈍化しているとはいえ、並の兵士にとらえきれる速度ではない。容
易く回り込んだころには馬の体も熱を取り戻していた。
敵歩兵の少ないルートを瞬時に見極めて突撃する。貫く大振りのディバインスラストではなく、小突くピアッシン
グの間合への接近を試みる。
『ぢェェいッ!!』
ギロチンソードが風を切り、薄紫に輝く魔性の刃が姫を打ち据える。だが、鎧に覆われたナイトにとって、一撃二
撃ならば耐えられないダメージではない。
「オォォッ!」
レイスの連続攻撃を真っ向から受けながら、姫が雄叫びを上げた。突撃の勢いはゆるめない。やがて、馬の鼻先が
相手に触れるほどの位置にもぐりこむ。槍の先端が小さく輝き、レイスの体を打った。
(まだまだ。一気に削り取ってくれる)
姫が第二撃を繰り出そうとしたとき、突如その視界が闇に閉ざされた。レイスの魔力で、周囲が闇の帳に閉ざされ
たのだ。
(かまわん、この距離ならば……)
ひるむことなく槍を放とうとした姫の体に、軽い衝撃が打ち込まれた。
一瞬何をされたのかわからなかった。だが、前進しつつ放ったはずの槍が空を切ったことで理解する。
(しまった、シールドバッシュ……!)
闇の狙いは、姫から姿を隠すためではなく、忍び寄る敵の歩兵を隠すためのもの。そして馬は、敵の放った盾にや
られて動きを止めたのだ。闇の向こうからいくつもの足音が駆け寄ってくる。
(まずい……!)
すでに相当の無理を重ねている。敵の歩兵に、火力の強いソーサラーでもいれば、一気に体力を減らされかねない。
その予感を肯定するように、闇を切り裂くような猛火が放たれる。瞬間、姫は落馬さえ覚悟した。