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※この物語はフィクションです。実在の人物・団体等一切関係ありません。
彼の居場所を見つけるのは至極簡単なことだった。
XXの山奥、彼がそこにいるであろう家にぽつりと明かりがともっている。
僕は山を一瞥し、大きくいきを吸い込む。緑の、深い自然の臭いが鼻を掠めた。
一歩、また一歩踏み込むごとに砂利の音が真夜中にこだまする。
――あと数メートル先にいけば彼がいる。
そう思っただけで喉の乾きが増し、呼吸が荒くなり、手の震えも酷くなった。
だめだ。壊してはいけない。
すこしでも彼に自分のこの苦しさを伝えて、わかってもらおう。
でも何を?何を彼にわかってもらう?
拒絶される以外何もないだろう。
そう頭でわかってはいても、僕は彼とすこしでも通じ合いたい、
などと僕の欲望とは矛盾した気持ちが湧き出ていた。
そんな気持ちがでていたことにいまさらながら気づいた僕は、一人自嘲する。
彼を目前にしたら、欲望をむき出しにした僕が現れるというのに。
全くもって馬鹿げている、と頭を横に振っていた時、
これから赴く彼がいる家から、声が聞こえてきた。