【仮面】オペラ座の怪人エロパロ第8幕【仮面】

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1名無しさん@ピンキー
引き続き天使様の御降臨をお待ちしております。
エロ無し・ギャグ無しを投下する天使様は、注意書きとしてその旨のレスを入れてから
SSを投下してくださいませ。

過去スレ
第1幕 http://sakura03.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1107434060/
第2幕 http://sakura03.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1117948815/
第3幕 http://sakura03.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1127032742/
第4幕 http://sakura03.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1132843406/
第5幕 http://sakura03.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1138109683/
第6幕 http://sakura03.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1145801742/ 
第7幕 http://sakura03.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1158433917/

関連
【仮面】オペラ座の怪人エロパロ【仮面】:まとめサイト  
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2名無しさん@ピンキー:2007/09/27(木) 09:09:24 ID:gO4GAhp2
にげっと
3名無しさん@ピンキー:2007/09/27(木) 14:14:44 ID:Lc3FRrOw


        *、 *、      。*゚    *-+。・+。-*。+。*
        / ゚+、 ゚+、   *゚ ・゚    \       。*゚
       ∩    *。  *。    +゚    ∩    *
   (´・ω・`)      +。   +。   ゚*     (´・ω・`)
   と   ノ      *゚  *゚    ・     。ヽ、  つ
    と、ノ     ・゚  ・゚     +゚    *  ヽ、 ⊃
     ~∪    *゚  *゚      *    +゚    ∪~   ☆
          +′ +′      +゚   ゚+。*。・+。-*。+。*゚
4名無しさん@ピンキー:2007/09/27(木) 23:32:07 ID:+2o9DUxm
>>1タン乙!
ではマスター5番ボックスどうぞ
5O.G.:2007/09/27(木) 23:41:21 ID:N96z2ERu
ごくろう。
6名無しさん@ピンキー:2007/09/28(金) 00:00:34 ID:s0E+Kw2E
マスターの後ろ取ったあぁぁぁぁ!

スレ立ての天使様乙華麗度。
7名無しさん@ピンキー:2007/09/29(土) 00:27:54 ID:uDUooDP2
>1
乙華麗度!
8名無しさん@ピンキー:2007/09/30(日) 01:26:33 ID:E6ITsN7+
1乙!
目の高さに手を上げて6の後からマスターのことをヲチします。
9名無しさん@ピンキー:2007/10/03(水) 03:16:54 ID:lMug3xgL
この板のスレッド数、いま見たらまだ713だったけど、念のため保守。
10名無しさん@ピンキー:2007/10/06(土) 11:18:30 ID:4ihYpbkd
「失われた環」、やっと完結できたので投下〜。
・エロ無し、ギャグ無し。
・きちんと数えてないけど、20レスぐらいになるかも。
・メロドラマ苦手な人はスルー奨励。
・マスターが情けない状態なので、これも苦手な人はスルーよろしく。
では次から。
11失われた環 33:2007/10/06(土) 11:20:45 ID:4ihYpbkd
  7
 それから二週間ほど経ったある日、クリスティーヌは例の出資者の代理だという人物が会いにきていると、支配人室へとよばれた。
 フィリッパ本人に会いたいのでは?と、クリスティーヌは支配人に尋ねたが、パリでの舞台を観たというよ、と支配人は言う。クリスティーヌは知っている人だろうかと考えながら部屋を訪れると、確かに以前会ったことのある人物であった。
 ゆったりとした動作で立ち上がって手を差し出してきたのは、クリスティーヌの師であった男の妻だったのだ。
 「ミス・ダーエでいらっしゃいますね。会うのは二度目ですわ、覚えていらっしゃいますか?マリー=アンヌ・アルトーです。以前はパリでお会いしましたわね」
 「こんにちは、マダム…」
 クリスティーヌは握手をしたが、予想外の事に言葉が出ない。
 目の前にいる女性は、以前と変わらずチャーミングだ。菫色のドレスも、金色の髪に載った小さな帽子も、派手さこそないが、彼女の柔らかな女性らしい雰囲気とよく合っていてとても素敵だ。
 「ミス・ダーエ、大西洋のこちら側で出会えるなんて嬉しい驚きですわ」
 「え、ええ。本当に。あの、失礼ですけれど、代理の方というのはマダムなのですか?」
 マリー=アンヌはえくぼを作ってにっこり微笑んだ。
 「そうですわ。女性が仕事をしているなんてとおっしゃらないで下さいね。
 私、劇場に出資を申し出ているエリック・カレ氏の秘書をしておりますの。
 ブライトン嬢について少し調べさせてもらったところ、あなたのお名前がでてきたので、私が彼の代理人として参りました。
 とはいっても、仕事の話は先ほど支配人と終わらせてありますし、今日はあなたに会いたくて来たようなものなのですけどね」@
12失われた環 34:2007/10/06(土) 11:22:33 ID:4ihYpbkd
 マリー=アンヌはクリスティーヌの手を取ると、人払いはしてありますからと言って座るように促した。
 「会えて本当に良かった。お話したいことがあったのです。
 …支配人から聞いたのですけれど、一人でアメリカへ来られたとか。勇気があおりですのね。それと才能とが。同じフランス女性として誇りに思いますわ」
 「ありがとうございます。でも、私は運が良かったのです。私にはこれしかないと夢中でやってきて、今こうしていられるのですから…」
 「運も実力のうちといいますもの。それに、運が味方についてくれているにしろ、誰もが出来るようなことではありません。
 素晴らしいことですわ!カレ氏が喜ばれることでしょう」
 「あの…マダム・アルトー、私に話したい事とは何なのでしょう?
 それに、お聞きすることが失礼にならなければいいのですけれど、出資してくださるというエリック・カレ氏とは一体どういう人物なのでしょうか?」
 クリスティーヌは硬い声で訊ねた。
 どうして今、彼の妻がここにいるのか。カレ氏が何の関係があるというのだろう?よりによって、代理人がこの女性だなんて!急なこと故、平静を装える自信がなく、そのことが余計クリスティーヌを緊張させる。
 「困惑させてしまったようですね。まず私のことをお話して知って頂くべきでしょう」マリー=アンヌは安心させるかのように微笑んだ。
 「…私、結婚してすぐに戦争で夫を亡くしましたの。十年ほど前ですわ。その時には妊娠していて、イギリスにいる夫方の親戚に身を寄せることになったのです」
13失われた環 35:2007/10/06(土) 11:25:15 ID:4ihYpbkd
 これはマリー=アンヌがもう何年もの間使っている方便だ。牧師館の初心な娘が男に騙されて一人で子を産み、娼館で働かねばならなかった真実を知っているのは、彼女の雇い主だけだ。
 「よくある話ですけど、親戚との間が上手くいかなくて、かといってフランスにも両親は無く、赤ん坊を抱えてどうしたら良いものかと思っていたところ、カレ氏に会いましたの。
 イギリスで出来た数少ない友人が私をムッシューに紹介して下さったおかげで、私も運が開けたのですわ。
 ちょうどその頃、彼は公式な場でも通じるマナーや言葉を話せる人材を探していたようでした。容貌を気にしてのことでしょう。彼は新しいタイプの事業家でしたし、性別に関係なく雇ってくれたのです」
 マリー=アンヌはクリスティーヌの手をぎゅっと握って、笑顔を見せた。
 「エリック・カレとは、以前、パリで私と一緒にいた仮面の男性のことですわ。過去のことは聞かされていませんけれど、現在の彼は成功者として名を知られております。
 ムッシューは、何度もブライトン嬢の舞台を観に来られました。
 言葉にすることはありませんが、彼が見ているのはブライトン嬢ではなく、ブライトン嬢に見え隠れするクリスティーヌ・ダーエの影であると私は思っています」
 「…何をおっしゃるの、マダム」クリスティーヌはマダム・アルトーに握られた手を引き抜いた。
 この人は夫に会うなと釘を差しに来たのだろうか?それとも私の気持ちを知っていて、わざと傷つけようと私の知らない彼のことを話すのだろうか…。
 彼女の話しぶりや態度からもそう感じられるものは何もないけれど。
 しかし、今の話から、噂の紳士の正体はクリスティーヌの望む人であることがはっきりとした。「やはりあの人だったのだ」と心が喜びでいっぱいになる。
14失われた環 36:2007/10/06(土) 11:27:36 ID:4ihYpbkd
 …では、彼はイギリスで赤ん坊を連れた美しい未亡人を娶り、この地へ移り住んだのだわ…。
 いつかパリで会った、彼と彼の家族の仲良く幸せそうな姿が鮮やかに思い出されて、クリスティーヌは嫉妬に胸が痛くなった。
 「マスターは…いえ、カレ氏は、ただ歌劇がお好きなのでしょう。フィリッパには私も才能があると思っておりますし、カレ氏も同じように感じたのでしょう。私とは関係ありませんわ」
 「ミス・ダーエ、もうずっと、ムッシューは音楽から離れていましたのよ。フィリッパの歌を聴くまでは」  
 クリスティーヌは困惑する。彼女は、夫が妻以外の女性に興味を持つことに平気なのだろうか。
 「…そうですか。では、近いうちにフィリッパをムッシューに紹介した方がよさそうですね。ところで、お嬢さんはお元気ですか?」
 秘書だというが、妻であり、秘書でありという立場なのだろうとクリスティーヌは思っていたので、マダム・アルトーの態度が腹立たしくて仕方がない。
 「娘を覚えていて下さったのですか?ええ、おかげさまで元気ですわ。このごろはもう、レディ気取りで扱いにくくって」
 子どものこととなると、一層表情が柔らかくなり、聖母のようだとクリスティーヌは思った。こんなに素敵な女性に嫉妬する自分がひどく醜く感じられて気分が落ち込んでくる。
 早く会話を切り上げて彼女から離れてしまいたい。
15失われた環 37:2007/10/06(土) 11:29:51 ID:4ihYpbkd
 「ご主人もさぞ可愛がっておられるのでしょうね。マダムにそっくりの愛らしいお嬢さんでしたもの。
 …あの、申し訳ないのですけれど、これから抜けられない用事がありますの。失礼させてもらってよろしいでしょうか。
 ムッシューの都合の良い日をお知らせ頂ければ、フィリッパの予定を合わせますから。カレ氏によろしくお伝え下さい」
 クリスティーヌは自分がどんなに不作法であるか分かっていたが、早口気味にそう言うとさっと立ち上がった。
 「まあ!もう行ってしまわれますの?お話したいことの半分もまだ伝えておりませんのに。
 …ごめんなさい。急に訪ねたのは私の方だというに勝手を言ってしまって。
 では私、これで失礼致しますわ。でも、近いうちに会って下さいますわね。必ずですわよ?」
 クリスティーヌとは対照的なゆっくりと優雅な様子でマダム・アルトーも立ち上がる。
 包み込むかのような温さのある笑顔と声。それでいて可愛らしさも合わせ持つ。その上、大人の落ち着きと余裕があって、このような状況でなければ、素直に憧れてしまうだろう。
 反対に、先ほどからの自分の態度のなんと子どもっぽく我が儘なことか…。あの人がマダムを愛するのは当たり前だわ。
 クリスティーヌは別れの握手を求めてきたアルトーの顔をまともに見ることが出来なかった。彼女と比べると自分自身が情けなく、涙がこぼれそうだったからだ。
16失われた環 38:2007/10/06(土) 11:31:38 ID:4ihYpbkd

自宅へと戻ったマリー=アンヌ・アルトーは、金色の髪からピンを抜き、机の上に帽子を置くとほっと息を吐いた。
アルトーは今までエリック・カレの元で働いてきて、社交分野をまかされてきたし、それなりに話術に長けていると思っていたが、今日のクリスティーヌ・ダーエと会った時のことを思い出すと、どうやらそれは自惚れだったらしい。
クリスティーヌは警戒を解かず、最後まで一線を引いた態度で、会話も向こうから一方的に切られてしまった。しかも、今にも泣き出しそうな顔までしていた。
そういえば、パリで会った時も不安そうな困ったような複雑な表情の上に無理に笑顔を貼りつけていたと、マリー=アンヌは思い出す。
ほっそりとした体つきと、潤んで美しい濃琥珀の瞳。少女のような儚げな雰囲気。たおやかで美しい様子は、可憐な白百合を思わせるその姿は、以前とほとんど変わっていない。
その中に、ヨーロッパから一人でアメリカへ渡ってくるという強かさを忍ばせているなんて誰が想像するだろう。
そんなことを考えていて、あっ、とアルトーは気が付いた。
エリック・カレに雇われていると言っただけだから、まだ私とムッシューが夫婦だと誤解しているのでは?
ムッシューも、新聞記事を信じたままでクリスティーヌ・ダーエが子爵と結婚していると思って、それで行動しない…?
アルトーは「ミス・ダーエ」と言ったことで独身であることを伝えられたと思っていたが、結婚後も名前を変えずに仕事するものも珍しくないし、それも舞台の人間であれば尚更その傾向が強いということを今の今まで忘れていた。
これでは間違いが生じる筈だ。真実を知っているのは自分だけだというのに、はっきりと分かりやすく伝えなかったのも悪いと思う。
「私が余計に誤解の糸を絡ませてどうするのよ。…どうか、お二人が幸せになれますように」
アルトーは天上を仰ぐと胸の前ので十字を切った。
17失われた環 39:2007/10/06(土) 11:34:04 ID:4ihYpbkd
 アルトーは少しだけ策を練った。お茶でも晩餐でも会う機会が持つことができれば真実をきっちりと話すことができるのだが、ミス・ダーエは普通に招待しても応じてくれないだろうと思ったからだ。
 策を練ったというよりも脅迫まがいの方法を取ったのではあるが。
 それは、ブライトン嬢を晩餐に招きたいが、ミス・ダーエも一緒でなければこちらの申し出に不満があると受け取り、それにより出資しないだろう。と、支配人に匂わすことだった。
 当日。初々しいペール・グリンのドレス姿のフィリッパ・ブライトンと、シンプルな空色のドレスをまとったクリスティーヌ・ダーエはアルトーの招待に応じて、ホテルのディナーにやって来たのだった。
 アルトーは、カレ氏は急用で来られなくなったので、代わりに若い芸術家を数人招きましたと二人に言い、一通り紹介し終わると、自分はクリスティーヌを連れて次の間に入った。
 「…あの、若い方達ばかりのようですから、私は失礼した方が…」と、クリスティーヌが言う。
 「いいえ。帰ってはなりません。薄々気付いておいででしょう?私があなたをお呼びしたくてこんなふうに手を回したことを」
 クリスティーヌはアルトーから目を逸らした。
 「お話しがあると言いましたでしょう?きちんと聞いて下さいますわね?」
 クリスティーヌが両手を握られ、びっくりしてアルトーを見ると、アルトーは笑顔を浮かべていた。
 「先日は、このことを最初に言うべきでしたわ。
 私とムッシュー・カレは夫婦ではありません。私は未亡人で、一人娘を育てるためにカレ氏の元で働いているのですわ。ミス・ダーエ」
 静かにマリー=アンヌが言った。
18失われた環 40:2007/10/06(土) 11:36:00 ID:4ihYpbkd
 「…まさか!マスター…、いいえ、あの人はパパと呼ばれていたじゃありませんか。三人でとても仲が良さそうだったし、何故いまごろ違うとおっしゃるの?信じられませんわ」
 「娘のことですが、父親がいないせいでしょう、気に入った男の人をパパと呼んでしまう時期があったのです。今はもうそういった事はなくなりましたけれど。
 そして…パリでのあの場面は…お芝居だったのです。協力して欲しいと言われて、夫婦の振りをしました。このことを、ずっと話したかったのです。そして謝りたかった。
 あなたが結婚されると聞いて罪悪感も薄まったのですが、先日、こちらにいらっしゃると知って、自分のしたことがどれだけミス・ダーエの人生を変えてしまったかと…とても悔やみました。
 今更真実を話したところで、私の罪悪感が薄れるだけで、やってしまったことは消せません。あなたをもっと困らせるだけかもしれません。
 …あの時は、お二人の関係をよく知りませんでした。深く考えずに、彼の提案に従いました。
 私は、彼がいつも身に帯びている指輪の持ち主なのだろうと思っただけで、あなたの気持ちまでは思い至らなかった。街角で会うまでは…。
 惹かれあっているのが分からないほど、私も鈍感ではありません。なのに何故別れなければならないのか、ムッシューは何も教えてはくれなかった。ただ、ミス・ダーエの幸せの為だとしか仰らない。
 もしあの場に私がいなければ、ミス・ダーエはどうしただろう?彼はどうしただろう?妻だと紹介された時に、違うのだと告げていたら?
 閉ざされた暗い部屋で彼の姿を見る度に、私は自分が大きな間違いを犯したことを、お芝居を引き受けてしまったことを、真実を告げる勇気を持たなかったことを後悔してきました。
 …ごめんなさい。パリへ手紙をやることだってできたのに、私はしなかった。主人に忠実でありたかったし、彼の傷もいずれ癒えると思いたかった。私の思いこみと我が儘の為に…ごめんなさい、ミス・ダーエ…」
 マリー=アンヌは頭を垂れた。
19失われた環 41:2007/10/06(土) 11:37:19 ID:4ihYpbkd
 「マダム・アルトー…」
 クリスティーヌももう少女ではない。マダム・アルトーが男への思慕にこそ忠実だったこが理解できる。
 「謝る必要はありません。私は自分の意思でここへ来たし、とても充実した生活を送っています。幸せに暮らしておりますわ。
 …もしあの時、彼が一人ならば私の前には現れなかったのではないでしょうか。出会ったとしても、何も話せずに私は別れてしまうでしょう。そしてやっと、彼が自分にとってどれ程大きな意味を持っていたかに気付くのではないかしら。
 私は何でも遅いの。食べるのも、着替えるのも…他人の気持ちに気付くのも、自分の心を知るのさえ…。自分ではその時その時に最善をつくしているつもりなのだけれど」
 今度はクリスティーヌがマリー=アンヌの手を握って微笑んで見せた。
 「マダム・アルトーは、自分のせいだと思っていらっしゃるようだけど、あなたがいたからこそ彼に会えたし、会えたから自分自身と向き合えて、色々整理もできて、今ここで忙しくも楽しい毎日を送れているのだと思うわ。
 私に夫婦だと嘘をついたことは確かに悪いことだけど、良いきっかけにもなっているのだから、とっくに相殺されているのじゃないかしら?」
 天使のような微笑を見せたと思えば、いたずらっ子のような親しげな表情でクリスティーヌが話すので、アルトーは笑みが漏れた。同時に心が軽くなるのを感じた。
20失われた環 42:2007/10/06(土) 11:38:31 ID:4ihYpbkd
 「私の誤りも、糧にしてしまったと言われるのですね?」
 「そんなつもりは無かったけれど、結果的にはそうなったみたい。貪欲なのね、きっと」
 「いいえ、ミス・ダーエは逆境をひっくり返して運を呼び込む力を持っているのですわ」
 マリー=アンヌはクリスティーヌを見つめた。
 体つきは細く、おっとりとした雰囲気をまとって、はにかむような笑顔、澄んだ瞳は赤い琥珀に似て柔らかく輝いている。美しくなよやかな姿に、強さを秘めているのだと、改めてマリー=アンヌは思った。
 「ミス・ダーエ、謝罪ついでに、お願いを一つ聞いていただけませんか?…遅ればせながら、私の誤りを正したいのです。
 あの方に会っていただきたいのです。このホテルの上層に、彼は住んでおりますの。ムッシューはずっとお独りですのよ…」
21失われた環 43:2007/10/06(土) 11:46:29 ID:4ihYpbkd
  8
 「アルトーです」エリックの部屋の扉をノックする。彼女は一人ではなく、傍にクリスティーヌがあった。クリスティーヌは迷いながらも、今も尚畏れ、憧れ、愛する音楽の天使の部屋の前へと来たのだった。
 かつて、期待と不安で胸をいっぱいにして鏡の前に立った時のことがよみがえってくる。あの時は彼自身が地下の美しい闇の世界へといざなってくれたのだった。
 だが今夜、クリスティーヌ自らが彼を訪ねようとしている。
 空に近いホテルの最上階は、天使の名にふさわしい。と、クリスティーヌはぼんやりと思った。
 中から「入れ」と声がし、クリスティーヌは物思いから覚めた。その一声だけで、彼女の胸は高鳴る。アルトーにそっと肩を押されて、クリスティーヌは中へ入った。背後で扉が閉じられた。クリスティーヌはごくりと唾を飲み込んだ。
 部屋には灯りは一つも点されていない。カーテンが開けられ、入り込む月光の中に男の姿が浮かび上がり、床に黒い影が伸びている。月を見ているのだろうか?人の入って来た気配を感じているはずなのに、男はこちらを向こうとはしない。
 頼りなげなげな月明かりの下でも、人を寄せ付けない、隙のない雰囲気がよく伝わってくる。クリスティーヌは震える手を重ねて握りしめた。
 「ご無沙汰しております。…マスター、クリスティーヌです」
 男はゆっくりと振り向いた。白い仮面が、その立ち姿が、クリスティーヌの知るその人であると語っている。だが彼は凝視するばかりで何も言わない。
22失われた環 44:2007/10/06(土) 11:47:31 ID:4ihYpbkd
 「…クリスティーヌ・ダーエです」
 忘れられていたのだろうか?私が分からないのではないだろうか?マリー=アンヌが言ったことは嘘で、私に会いたいなんて少しも思っていなかったのではないだろうか。
 それとも、拒否されているの?私の顔なんて見たくなかったのかもしれない…。
 クリスティーヌは師匠に会って近況を報告するだけの勇気の持ち合わせぐらいあると思っていたが、無反応な相手の様子に目の前が真っ暗になる。
 もう帰ろう。帰って、ベッドにもぐり込んでしまおう。マダム・アルトーに言われるまま来てしまったが、会いたいと願っていたのは自分の方だけだったのだ!そう考えてショックを受けている自分を悟られまいと、クリスティーヌは笑顔を作った。
 「お忙しいところ申し訳ありませんでした。マダム・アルトーから、マスターがこちらにいらっしゃると聞いて、懐かしくて、つい、押しかけてしまいましたの。ごめんなさい、急に訪ねてくるなんて、礼儀も何もありませんわね。…出直して参りますわ」
 気にしていない風をよそおおうと軽い調子で喋ろうとしたのに、涙を堪えている為にくぐもった声になる。口の端を上げただけの笑顔も見苦しいだろう。クリスティーヌはさっと横を向いた。
 実際はクリスティーヌの思惑とは違い、エリックは驚きのあまり声が出せなかっただけだった。
 泣きそうなのに笑みを浮かべるクリスティーヌに気付いたエリックは、ふと、泣くのを我慢しながら歌のレッスンについてきた少女の姿が思い出され、目を細めた。
 「君は昔と変わらない」
 クリスティーヌはその声に、仮面で覆われている男をもう一度見あげた。
23失われた環 45:2007/10/06(土) 11:49:00 ID:4ihYpbkd
 エリックに向けられた瞳には怖れも嫌悪もなく、代わりに、何か言いたげで、エリックは応えたいと思った。三歩も進めば彼女を抱き締めることができるだろう。
 しかし彼は、乱れてもいない袖口を整える仕草をして、腕を伸ばそうとした自分を誤魔化した。あんなに目が潤んで見えるのは月明かりのせいだと言い聞かせる。懐かしかったという言葉と、会いに来てくれたという事実があれば十分だ、と。
 「思いがけなく古い知り合いに会えるというのは嬉しいことだ。それも外国で会えるなんて、そうあることではないしね…」
 エリックは話したい事も訊ねたいこともたくさんあるのに言葉を続けられない。詮索されていると感じるだろうし、これ以上関わりたくないというのがクリスティーヌの本心かもしれないのだ。
 ブライトン嬢の師としての礼儀正しさが、ここへ挨拶に寄越させたというのが本当のところだろう。
 「わざわざ訪ねてきてくれたことには礼を言おう。しかし、こんな時間に男性と二人きりで会うというのは評判に関わるだろう。夫君も気を揉むのではないかな。
 ブライトン嬢や劇場に対して私が危害を加えることを心配しているのかもしれないが、安心しなさい、私が出すのは金だけだ。約束できるよ、さあ、今夜は帰ることだ」
 エリックは答えを待たず、クリスティーヌの横を抜けて扉のノブに手を掛けて開けようとした。部屋から出ていかせる為に。すると、そこに手が重ねられて、彼は驚いて振り向いた。
 「今夜はマダム・アルトーの計らいで参りましたの…。追い出さないで、お願い」
 クリスティーヌは地下で「行け」と言われた時のことを思い出していた。同じ事を繰り返すつもりはない。
 「どうしてマスターは私の言葉を聞かず、傍に近寄らせてくれないの?どうしてご自分の思いこみだけで、私の心を推し量ってしまうの?
 …夫はおりません。それに、マスターがフィリッパに対して何かするなんて考え付きもしなかった。私が考えていたのはそんなことではなかった」
24失われた環 46:2007/10/06(土) 11:51:21 ID:4ihYpbkd
 クリスティーヌは師の手を握った。
 「…この手に導かれてきました。私の前にはいつもあなたがいて、私はついてゆくので精一杯だった…。
 私が今何をしているかご存知ですか?私も歌を教えていますの。生徒はフィリッパ・ブライトンです。何度も観にいらしてくれたとか。マダム・アルトーから聞いた時、とても嬉しくて…私も少しはマスターに近づくことができたんじゃないかって思いました」
 「私は、君が目標とするような人間ではない。…こんな故郷から遠い土地に、一人で来たというのか?この街で生活していると?…結婚もせずに?」
 エリックは手を引き抜き、クリスティーヌから顔を背けた。
 ニューヨークは華やかで豊かなだけではない。それとは真逆な暮らしがここにはあるのだ。今の彼女の様子からは分からないが、女性が一人で生きるのだから苦労も色々あったに違いない。辛かった時、苦しかった時、どうやって乗り越えてきたのだろう?
 こんなに近くにいたというのに、力になれなかったことが歯がゆく、腹立たしい。
 「ええ。ここで充実した生活をおくっていますわ。あなたのお陰です。…歌があったから。
 …私、パリでマスターとマダム・アルトーに会ってから考えたのです。これからどうすべきかと。それで、マスターと同じように歌を教えたいと思うようになりました。
 時を同じくして、アメリカ人の興行主が人材を欲しがってオペラ座に訪れ、私はその話を受け、ニューヨークへ来ました。
 シャニィ子爵とは別れたのです。その後ですが…彼は、私がオペラ座との契約のことで揉めそうだと知ると、私と婚約したと発表して、私がオペラ座から去りやすいように計らってくれました。旅立つ私への手向けだと言って。…良い友達でした」
25失われた環 47:2007/10/06(土) 11:53:27 ID:4ihYpbkd
 「子爵が…。では、社交欄に載っていた記事は…」
 「新聞をご覧になったのですか?…あれは嘘の記事だったのです。
 でも、マスターだってお芝居をしたではありませんか。マダム・アルトーから聞きましたわ。お二人は夫婦ではなかったのですね。なぜそんなことを…?」
 「…私は…ニューヨークへ来る前に、最後にクリスティーヌの姿を見たかった。パリへ行くと、クリスティーヌはまだ独り身で舞台に立っているという。
 私のせいだと思った。私が去ったことでクリスティーヌが罪悪感を背負い、それで結婚に踏み切れないのだと考えたのだ。そして、私が人並みの幸せを手に入れている事を知れば、お前の中の罪悪感も消え、普通の娘たちのように結婚するだろうと、そう思ったのだ。
 私はクリスティーヌがこんな遠い国へ来て、苦労するようにと望んだわけではなかった。
 私に礼など言ってどうする?…何もしてやれなかったというのに。かつて歌と引き替えに、お前自身を奪おうとした卑劣な男だというのに?」
 エリックは片手で額を押さえ、自嘲するかのように唇を歪めた。
 「私がニューヨークへ来たかったのです。…来て良かった!…マスターに会えたのですもの。
 フィリッパの初舞台、赤いばらが届いて、私は想わず控え室の鏡に触れたの。それから、仮面の紳士の噂が立ち始めて…。
 今夜、こうして目の前にしてはっきりしました。…あなただったのですね」
 クリスティーヌは笑みをたたえて、エリックを見上げる。
 「確かに、パリでは色々ありました。でも、あなたは私を助けてくれた。私の声を聞いてくれた。歌を与えてくれた。
 マスターがいなければ、私はどうなっていたでしょう。舞台に歌手として立つこともなく、オペラ座から出てゆかねばならず、身寄りもなく、要領の悪い私は、今頃はこの世にいなかったかもしれません。
 何度でも言いますわ。ありがとうと、マスターのお陰だと」
26失われた環 48:2007/10/06(土) 11:54:56 ID:4ihYpbkd
 エリックは信じられないといった面持ちで、クリスティーヌの顔をやっと見ると、頭を横に振った。
 「それは違う。私こそ、君に救われたのだ。その声に、その姿に、その心に。私の方がずっと、君から多くのものを与えられたんだ、クリスティーヌ」
 エリックはかつての教え子を見つめた。大人の落ち着きを身につけ、これまでやってきたという自信のせいなのか、あの頃よりもずっと魅力的になった女性を、尊敬と誇らしさの混じる瞳で。
 結局、彼女は誰の手も借りずに一人でも成長できる素質があるのだ。私がいるいないに関わらず…。
 「私からも礼を言わねば。ありがとう、クリスティーヌ。今夜は訪ねて来てくれて嬉しかった。元気そうだし、立派にやっているようで、安心した。これからも頑張りなさい。
 ブライトン嬢にも今後を期待していると伝えてくれたまえ。さあ、今度こそ帰りなさい、クリスティーヌ」
 「いいえ。私は、もっと話がしたい。もっとその声が聞きたい。もっと私を近くにいさせて下さい…!」
 クリスティーヌは押さえきれない衝動に、エリックに抱きついた。
 「まだ、私を想っているとおっしゃって!だって、パリで会ったのも、フィリッパの舞台を観にこられなくなったのも、全て私の為なのでしょう?私があなたにそうさせているのでしょう?お願い、そうだとおっしゃって!
 …いえ、私が先に言いますわ。マスター…、マスターを忘れた日はありませんでした。シャニィ子爵を愛していると思いこんでいた時でさえ、あなたは私の心にいたの。パリで再会したときに、それは決定的になり、私が求めているのはあなただと気が付いてしまった。
 今も、あなたを想うことをやめられないでいます。だから、どうか、帰れなんて言わないで…!」
27失われた環 49:2007/10/06(土) 11:56:25 ID:4ihYpbkd
 エリックは驚きのあまり、胸に飛び込んできた女性をどうして良いか分からず、しがみつかれたままになっていた。
 「…私はまだ夢を見ているのか…?」
 エリックはクリスティーヌを見おろす。
 「フィリッパの歌を聞いて、私は過去が戻ってきたのかと感じた。君が、クリスティーヌが歌っているような気がしてならなかった。そして私はその夢に酔った。
 だが、後からクリスティーヌがフィリッパに歌を教えていると聞き、私は劇場へ行けなくなってしまった。もし私の存在を知れば、怖がらせるだけだと思ったのだ。愛する者から憎まれ、嫌われるのは、もうたくさんだから。
 なのに、クリスティーヌはここにいて、帰らないという。私はどうしていいか分からない。
 …これが夢であれば良かった。夢ならば、存分に愛しても誰をも傷つけることはないのに…」
 クリスティーヌはエリックを見上げ、仮面の奥の瞳を覗き込み、そして微笑んだ。
 「…では、仮面を取りましょう?それから、お願い。拒まないで…」
 クリスティーヌは言いながら、エリックの顔に震える手を伸ばして仮面をそっと外し、ことんと床に落とした。そのまま彼の頬を両手で優しく挟み、背伸びをし、エリックの唇に自分のそれを押し当てた。
 「…振り出しに戻りましょう。ここから始めるの」クリスティーヌは瞳を涙で潤ませて、ふふっと笑い、もう一度、今度は長い口づけを交わした。
 ゆっくりと唇を離す。
 「…もう、出て行けとは言わないでしょう…?」
28失われた環 50:2007/10/06(土) 12:00:30 ID:4ihYpbkd
 「クリスティーヌが決めることだ」
 クリスティーヌは甘えるようにエリックの胸に頬を寄せた。エリックも、自然とクリスティーヌを抱き締める。お互いのぬくもりに、心が満たされていくのを二人は感じていた。
 エリックは金鎖に繋がれた指輪を取り出し、月光に透かす。水晶がきらきらと輝き、クリスティーヌの瞳に映る。
 「私が君を求めることを許して欲しい。…今なら、受け取ってくれるだろうか…」
 それはかつて、無理矢理にクリスティーヌの指にはめ、返された指輪だった。エリックの手は落ち着いた声とは逆に微かに震えている。
 クリスティーヌは頷き、素直に左手を差し出した。それを見たエリックは微笑み、小さな声で「ありがとう」と言った。
 エリックは再びクリスティーヌの薬指に指輪をはめた。この時、氷に花のような水晶がきらめく指輪は、クリスティーヌの元に戻ったのだった。
 「二度とはずさないわ。ずっと傍にいるの。もう、離れたりしない。愛しています、マスター」
 エリックはクリスティーヌの左手を握ったまま、己の口元まで持ってくると、白い指に口づけた。
 「私にそれ以上の望みはないよ、クリスティーヌ。愛している」

 そうしてそののち、仮面の紳士が美しい妻を伴って劇場に現れる姿が幾度となくみられるのだった。


            <おしまい>      
29名無しさん@ピンキー:2007/10/06(土) 12:16:57 ID:4ihYpbkd
書き忘れましたが、
前スレ「失われた環32」からの続きです。

「失われた環33」最後の”@”は、ただの消し忘れで意味はありません。

アルトーの娘がマスターを「パパ」呼ばわりしていた理由ですが、
「そんなこと有り得ない」と思われるかもしれません。
が、実際そんな光景を見たことがあり、お話の中で使いました。

ながーいすれ違いにお付き合い下さったかた、どうもありがとうございました。
なんだか押しの弱いマスター像で、がっくりした方にはごめんなさい。
30名無しさん@ピンキー:2007/10/06(土) 22:01:42 ID:CbfyFjTs
ぅわぁぁぁぁぁぁんおわっちったよ〜〜〜〜
そしてありがとう 天使さま〜〜
GJとハグとキスをたくさん〜〜
31名無しさん@ピンキー:2007/10/07(日) 01:10:48 ID:rayfFlYc
待ち望んでいました!!!
なんだか、読み終わるのがもったいなくて・・・
ほんとにありがとう天使さま。
クリスティーヌとマスターに言ってほしかった、してほしかった全てを
させてくれたように思うよ。GJGJGJ
32名無しさん@ピンキー:2007/10/07(日) 09:57:38 ID:yUPtikFs
ついにこの日がきてしまったのですね
続きを待ちわびる日々も終わりなのですね…
秋の夜長、寂しくなります…
天使様
封印していたオペラ座関連を
出してこようかなと思ったくらい
GJGJGJです!
大作ありがとうございました
33名無しさん@ピンキー:2007/10/08(月) 18:08:48 ID:KULccbaq
クリスの足に子犬がじゃれ付き 登場したマスターが既婚者に!という
私も一緒に絶望してからと言うもの ここを開く目的は続きを探すためでした。
2人の幸せが見られて良かったです。
超大作お疲れ様でした。そしてありがとうございました。

34名無しさん@ピンキー:2007/10/08(月) 18:09:48 ID:KULccbaq
すみません興奮のあまり上げてしまいました。
35名無しさん@ピンキー:2007/10/08(月) 20:38:33 ID:Np6wlm7j
GJ!
36名無しさん@ピンキー:2007/10/08(月) 21:37:04 ID:fe50QZ4E
再会したときに、マスターが一度もクリスティーヌとは呼ばなかった
ことや、エリックという名すら自分は知らなかった、と振り返る場面では
めちゃくちゃ胸が締め付けられました。
あと、マスターがとても小さな声でクリスティーヌと言った場面とか・・・
レッスンをしていた頃を振り返って、「随分泣かしたものだが」っていうのも
厳格な師と生徒って雰囲気が伝わってきました。
最終回だなんてすごくさびしい・・・。
ほんとにGJでした!ありがとう天使様。
長くなってごめんなさい。
37名無しさん@ピンキー:2007/10/08(月) 23:08:53 ID:pc6MBOM0
お疲れ様です。
すごく感動しました。
本編もこのような結末だったら良かったのに…!なんて思っちゃいました。
38名無しさん@ピンキー:2007/10/08(月) 23:14:38 ID:XzFCCaoK
本編はあれでいいじゃん
39名無しさん@ピンキー:2007/10/09(火) 10:41:02 ID:JiA+0wn5
うん。私も本編はあれだから名作なんだと思う
40名無しさん@ピンキー:2007/10/09(火) 23:44:31 ID:smZQlXYd
ああ……、天使様GJ!
本当に書いてくれてありがとう!
たびたび続きを急かして申し訳なかった。
もう終わってしまったなんて……、名残惜しい……!
天使様へ最大限の感謝を。
41名無しさん@ピンキー:2007/10/10(水) 10:08:16 ID:TLsKCWy1
GJ!
そうなるかな…と思ってはいたけど
実際2人が巡り会うまではらはらしていた。

ほっとすると同時に、終わってしまってサミシス。
42名無しさん@ピンキー:2007/10/12(金) 17:49:56 ID:g6/Vn2hi
豚切り

ハロウィーンの仮装の一環みたいw
あなたも憧れの?マスターに!
ttp://image.www.rakuten.co.jp/arune/img10251240675.jpeg
43名無しさん@ピンキー:2007/10/15(月) 22:54:18 ID:hNnUc9H0
>42
ドキッ?!先生だらけのマスカレード〜スコア投げもあるよ!
を開催いたします。

しかしペラいwデザインもモデルもビミョウで
怒り狂った先生から縄かけられそうだ。
44名無しさん@ピンキー:2007/10/16(火) 16:56:54 ID:aKp0Qv7p
一応「オペラ座の怪人」ってのは
ハロウィンなんかの定番仮装であるわけで
ttp://www.zoogstercostumes.com/landing/phantomoftheopera.php
…ホントに微妙だなぁ
45名無しさん@ピンキー:2007/10/18(木) 19:47:21 ID:BGeFQ+sV
新まとめサイト様の更新も止まってしまったような…
46名無しさん@ピンキー:2007/10/18(木) 22:13:19 ID:VhEV9Vk0
新まとめサイトの管理人です。
すみません近いうちに更新致しますorz゛
前幕落ちましたね
47名無しさん@ピンキー:2007/10/21(日) 13:22:14 ID:2u0TMHa9
>46
ガンバ!
メルシィ!
48名無しさん@ピンキー:2007/10/21(日) 21:26:19 ID:yC58IY4T
>46
いつもありがとうー!
●を持ってないので、過去の作品を読めて嬉しいです。
49名無しさん@ピンキー:2007/10/21(日) 23:27:56 ID:dELtGmu/
>46
up乙です&ありがとうっ!
50名無しさん@ピンキー:2007/10/25(木) 00:09:41 ID:UyczeP6q
>>46いつもありがとうございます!
シリーズものを最初から読み返すことができるのも
まとめサイト様のおかげです!

以下超小ネタ。エロなし。



何を言っているのだ?ジリー。
何故私が菓子を用意する必要があるのだ。
…無論知っているとも。
オペラ座の踊り子たちが…我が弟子も含めて、もうそんな年齢でないにも拘らず
寄宿生の子供たちと一緒に、お菓子をねだって回るのを楽しみにしているのだろう?
ああ、当然だ。それ故に私は菓子を用意していないのだ。
…分かっていないな、ジリー。
お菓子かイタズラか、だぞ?
菓子を渡さなければ、クリスティーヌが・私に・イタズラを・するのだ!
どうして私が菓子を渡してそこで話を終わらせねばならぬのか?
勿論菓子以外の準備は万端だ。
イタズラにはある程度のスペースが必要になる。
また怪我などしては大変だ、クッションなどがあると望ましいだろう。
はしゃいで物音を立てると周囲の迷惑になる。
よってイタズラ用のスペースとして私の寝室、ベッドの上を提供
…ジリーどこへ行く?その日は外出禁止にする?
待て、地下は「外」にはならな…いや、せめてクリスティーヌは例外に
…ジリー!待つんだジリー…!
51名無しさん@ピンキー:2007/10/25(木) 12:30:11 ID:vNFxBHNh
うわははwwwwwwww激ワラしました。
いたずら用のグッズはバッチリ用意済みってことだなマスター?
鳥の羽ペン2本とかw
52名無しさん@ピンキー:2007/10/25(木) 17:03:21 ID:QjdSo4Pm
GJです天使様ww
Trick or treat...オウ、クリスティーヌ!!
53名無しさん@ピンキー:2007/11/02(金) 19:37:23 ID:KKkYZeba
ホ、ホス?
54名無しさん@ピンキー:2007/11/03(土) 22:24:31 ID:vDsGgvqi
保守〜〜
55名無しさん@ピンキー:2007/11/06(火) 11:16:39 ID:j8suVAs3
なぜ静まり返っているのだ、皆さん?
私がいなくなったと思っていたのか、寂しかったろう?
私はあなた方のためにオペラを書いたのだ
これが完全なスコア
…「ドンファン・トりゃイアンファント」!

(あ、噛んだ)
(噛んだ)
(噛んだ)
(あいつ噛んだ)
(マスター、噛んだ)
56名無しさん@ピンキー:2007/11/06(火) 20:58:27 ID:Mjtk0IFT
ちょwww
再上映あるのに、スコア投げつけるシーンで笑っちまうジャマイカwwwwwww
57名無しさん@ピンキー:2007/11/07(水) 07:56:12 ID:L7uRnp38
>50
先生が出向いて「お菓子かイタズラか、選べ!もはや退けないぞーー」
と言えばいいじゃないかw
もちろんお菓子を貰っても、簡単に引き下がりはしないと思うが。
って、スレチェックを怠っている間にハロウィーンも終わってたわorz
>56
股間のもっこりもお忘れ無くwww
58名無しさん@ピンキー:2007/11/07(水) 09:29:56 ID:sTtgkPM3
>>57
クリス「お菓子」
ラウル「お菓子」
メグ「お菓子」
59名無しさん@ピンキー:2007/11/08(木) 22:42:27 ID:xTlb5zZs
投下します。
ファントム×クリス、エロは最後まで行かずに終わってます。
601/9:2007/11/08(木) 22:45:47 ID:xTlb5zZs
“彼女”に花嫁衣裳を着せる時、私は自分の胸がいつになく高鳴るのを感じた。
その肌は滑らかで冷たく、眼には何の光も宿ってはいないけれど、私が完璧に作り上げた
それは、もうただの人形ではなくなっていた。

それまで着させていた木綿のビスチェとパニエを脱がせ、髪に結んだリボンを外す。
まるで恋人の衣服を一枚一枚剥いでゆくようだ……そう、お前は今夜、私の妻になるのだ。

ドレープの美しいレースのドレスも、薄絹のヴェールも花冠も、お前によく似合うことだろう。
そして待つのだ、お前が、お前の分身が、その衣装を纏って私のものとなるその瞬間を。
この地下で唯一の慰めだった美しいこの人形は、その時、役目を終えるのだ。


私が“彼女”を形作ったのは、もう2年ほど前のことになる。

それまでまだほんの子どもだった栗色の巻毛の少女――クリスティーヌが、突然に女の匂いを
身体に宿らせた時……そして私が、芯から沸きあがる欲情を抑えきれなくなった時……
私はクリスティーヌの清らかな身体の代替として、自らの欲情を注ぐ眼前の対象として、
その美しさを複製したのだ。

まだ14歳になったばかりのクリスティーヌは、若く、瑞々しく、未完成で危うかった。
彼女の歌手としての才能や将来性を見出していたのは、私だけではなかったが、遠慮がちで
人の前に出ることを好まない彼女の性格のせいで、このオペラ座の花形となる日はまだ遠い
だろうと思われた。

だから私は、彼女の影となり闇となり、決して他人が目にすることのない場所で、彼女に
秘密のレッスンを施していたのだ。
彼女がもっと自分の美貌や才能に積極的で、他の踊り子のように目立ちたがりで即物的なものを
好む性格であったなら、私は彼女が少女の蛹を脱ぐ前に、教えることを止めただろう。

しかしクリスティーヌ・ダーエという北欧生まれの少女は、羽化を終えてもなお、その身体に
精神に、未熟さを多分に抱えていた。
触れれば破けてしまいそうな、露に濡れれば折れてしまいそうな彼女の羽は、確かに誰かの
保護を必要としていた――私は彼女を汚れから守ってやらなければと思った。そしてまた、
どこかで疼いている翅があるならば、私の手で開かせてやろうと思った。
612/9:2007/11/08(木) 22:48:39 ID:xTlb5zZs
その日、クリスティーヌは、まだ陽が昇りきらないうちにオペラ座の片隅にある礼拝室にやって来た。
この狭く、冷たく、薄暗い礼拝室こそが、私とクリスティーヌが声を交わす唯一の場所だ。
私と彼女は、彼女がまだほんの子どもであった頃から築き上げた強い絆で結ばれている。
けれど、彼女が私の姿を見たことはない。

彼女の美しい歌声を引き出すのに、私は声だけの存在であった方がよいと思ったから、そして――
私には、彼女にどうしても見せられない“持ちもの”があったからだ。

「天使さま……天使さま」
寝間着のまま冷たい床に座り込み、泣き出しそうな声で私を呼ぶ。
「私をお許しください、天使さま」

優しく彼女の名を口にしてやると、クリスティーヌは潤んだ瞳で天井を見上げた。

「天使さま……! 私は、もう歌えないかもしれません」
「……クリスティーヌ?」
「天使さまは仰いました……美しい声は、清らかな精神と身体とに宿るのだと。ほんの一度でも
過ちを犯した者は、音楽の天使さまの恩恵を享受することはできなくなってしまうのだと。
私は、私の身体には……汚れが宿ってしまったのです」

彼女が何を言っているのか、私には分からなかった。
オペラ座の寄宿生になったその日から、私は一日だって欠かさず、彼女を見守っている。
その身に危険が迫れば、私はあらゆる手段を高じて讐敵を排除し、彼女を庇ってきた。
少なくとも私が知る範囲で、彼女が汚されたことなどなかったはずだ。

彼女の肩が可哀想なくらいにかたかたと震えているので、私は彼女を宥めるつもりで、何が
あったのか話してごらん、と言った。
それでも彼女の口は重く、怯えたような視線を揺らめかせたままでいる。

その細い肩に手を沿え、指先を握って、優しく抱き締めてやれたらどんなに良いだろう。
彼女の名を囁きながら、か弱く震える瞼に口づけできたら、どんなに良いだろう。
けれども私の“持ちもの”は、それを許してはくれない。

「何を恐れている?」
言った後で、私の声の低さが彼女に冷たく突き刺さってしまわないかと、少し怖くなる。
クリスティーヌは何度か瞬きをした後、縋るように視線を上げて、言った。

「紅い……花びらのような……汚れが」
623/9:2007/11/08(木) 22:49:22 ID:xTlb5zZs
彼女がやっと聞き取れるくらいの声で告白したその言葉で、私はクリスティーヌの身体に何が
起こったのかを悟った。
それは、彼女の身体が少女から女へと変化を遂げた証であり、男性を、男の欲を、受け入れられる
ようになったことの印であった。

私は、迎えたばかりの初潮に戸惑っているクリスティーヌに、何を言ってやれば良いのか迷っていた。
そして、言葉を探すうちに、自分の中に淫らな欲望が沸々と湧いてくるのを感じていた。

「クリスティーヌ、お前は汚れてなどいないのだよ」
彼女ははっとして眼を開いた。
この言葉を待っていたのだろう――薄く涙を浮かべていた瞳が輝き、頬にはほんのりと赤みが上った。

「それは、お前がやっと大人になった印……ひとつ階段を上った証なのだ」
私の声を、クリスティーヌは不思議そうな表情で聞いている。

「すぐに消えたのだろう?」
「はい……ほんの少しだけで……後は何とも……」

私は彼女の身体を見た。
その小さな肩と細い手足は、彼女がまだ少女であることを物語っていたが、気のせいか、胸と
腰の線はふっくらと丸みを帯びてきているようであった。

瑞々しさを湛えた肌、清らかに潤んだ瞳と唇、彼女の奥で、まだ固く結ばれたままの蕾……
彼女がひとつ大人になったのなら、その過程をこんなに近くで目にすることができるのなら、
その肌に、閉じられた花弁に、ほんの少し触れても構わないのではないか。
雨水のように不純な一滴の露をその上に垂らしたとしても、罪ではないのではないか。

「クリスティーヌ、お前は、知る権利を得たのだよ」
「……何を……」
「新しい悦びを」

私はクリスティーヌに、絶対にこちらを振り向かないこと、私に身を任せること、を約束させ、
座り込んだままの背中にそっと近付いた。

「クリスティーヌ」
歌うように、囁くように、愛しい名前を呼ぶ。
彼女は長い睫毛を下げ、私の声を静かに聴いている。
私はクリスティーヌのすぐ後ろにそっと腰を下ろし、彼女のほのかな香りを吸った。
634/9:2007/11/08(木) 22:50:23 ID:xTlb5zZs
私はそのまましばらく、動くことが出来ずにいた。

鼻先が触れそうなほど近くにいるのに、腕を伸ばすことが出来ない。
きつく抱き締めてしまいたいのに、その輝く肌に触れることが出来ない。

拒まれてしまったら――母にさえ疎まれたこの顔、この身体、この指――目の前の美しい処女は、
こんなものを持った私を、拒絶するのではないだろうか。絶望してしまうのではないだろうか。

私の中に棲む欲情は、そんな臆病者を嗤う。

まだ何も知らない、たった14の少女だ。いずれは男の手で性の快楽を知らされる運命にある身だ。
悦びを教え、女の欲を開花させてやることの、何が罪だと言うのだ?
素直な彼女は、決して約束を破らないだろう。師を拒まないだろう。
この日が来るまで、私はじっと耐えていたのだ。今さら、何を恐れることがある?

「クリスティーヌ、決して約束を破ってはいけない」
私は利己に満ちたその言葉で彼女を拘束し、小さな肩にそっと手を乗せた。
クリスティーヌは僅かに肩を弾ませたが、すぐに小さな溜息とともに力を抜いた。

薄い木綿の寝間着は、彼女の身体を無防備に透かす。布地越しに見える薄桃色の柔肌が、私の恐怖を
あからさまな欲に変えてしまう。

肩に乗せた手を滑らせ、細い両腕を擦る。
クリスティーヌは眼を閉じ、私の仕草を黙って受けている。
私は自分を制することができなくなり、脚を開いて彼女の身体を膝の間に押し込め、胸に掻き抱いた。

拒まれても構わない、たった一瞬でも、身を寄せ合いたい……!
私は夢中で、彼女の背を胸の中に押し込んだ。抗われても後悔はないと思った。
次の瞬間、私の耳に飛び込んできたのは、予想もしなかった言葉だった。

「ああ、天使さま……温かい」

聞き間違えたのではなく、彼女は私の腕を、胸を、「温かい」と言った。
645/9:2007/11/08(木) 22:50:56 ID:xTlb5zZs
私は彼女の髪に頬を寄せ、その香りを吸い込んだ。
彼女が「温かい」と言ってくれたこの手で、彼女の身体を撫で上げ、胸の膨らみを擦る。
柔らかな肉の感触は、私の手を先へ、先へと進めてしまう。

「天使さま……天使さま」
クリスティーヌは少し息を荒くしながら、うわ言のように私を呼ぶ。
それに答える代わりに、私は、寝間着の下に手を滑り込ませた。

胸元のレースの下から指を忍ばせ、ふっくらとした丘を撫でる。
まだ幼さの残るふたつの丘は、柔らかく、けれども熟していない果実のように僅かに硬く、
ほんのりと熱を帯びている。
指と掌でやわやわと揉みしだくと、それはどんどんと温度を増して、皮膚の下から響く
鼓動を感じさせる。

クリスティーヌの呼吸はますます荒くなり、私を呼ぶ声にも艶が混じる。
私は人差し指と中指の先で、丘の先端を軽く弄った。

「あぁっ……」
クリスティーヌは、今まで聞いたこともないような淫らな声を上げた。
自分の声に驚いたのか、はっと口を噤む。

「て、天使さま……こんな……こと」
「約束しただろう、クリスティーヌ。私に身を任せると」
「あ……でも……」
「抗ってはいけない」

そう言うと同時に、私は両手でふたつの先端をきゅ、と摘まんだ。
「はあ……っ」
クリスティーヌから、切ない喘ぎ声が漏れる。

指先で先端を弄りながら、丸く柔らかな丘を揉み込む。
クリスティーヌはその行為に翻弄されて、言葉を忘れ、ただただ熱い息を吐いている。

「どうした? クリスティーヌ……?」
「あぁぁ、天使さま……ぁ……何だか……あっ、ああっ」

私の手が先端を掠める度に、クリスティーヌが発する淫らな声は高さを増す。
自分では気が付いていないのだろうが、いつのまにか彼女は、声と同時に、少しずつ
腰を動かすようになっていた。
656/9:2007/11/08(木) 22:51:29 ID:xTlb5zZs
「好いのだね、クリスティーヌ」
言葉では返さなくても、その荒い息遣いと腰の揺らめきが、彼女の快感を伝えてくる。

私は彼女の胸元を弄りながら、片手を下の方へと滑らせ、もうひとつの官能の丘に
服の上から触れた。
クリスティーヌは、胸元を駆ける淫靡な刺激に翻弄されて、悪戯な私の片手に気付かないでいる。

私は彼女の太腿の間に忍ばせた手に、ぐ、と力を込めた。
「あ……っ」
はっとして閉じようとする脚を、それまで胸を弄っていた手で制する。
片手で脚を押さえながら、もう片方の手で、温かい隙間を探ってゆく。

「天使さま、そ、そんな……」
クリスティーヌは戸惑いの声を上げ、両脚の内側に力を入れた。
指の腹でその太腿を優しく擦り、徐々に彼女の緊張を解く。同時に、脚の間に差し入れた
手も、円を描くように柔らかく動かす。しばらくそれを繰り返すと、クリスティーヌの
脚から力が抜けてゆくのが分かった。

寝間着の裾をそろそろと捲り上げる私に、彼女はもう抵抗しなかった。
薄くたっぷりとした布地を、両脚の狭間からたくし上げ、下着の中へと指先を忍ばせる。
再び緊張する内腿を、今度は半ば強引に開かせ、私は彼女の秘裂に触れた。

指先に絡む恥毛を掻き分け、柔らかい肉を弄る。
硬く閉じた秘裂に指を這わせて、感じやすい場所を探ってゆく。
隠れていた官能の芽の先端に触れると、クリスティーヌの唇から、切ない溜息が漏れた。

指先を丸く動かすと、彼女の秘裂は私の指を誘うようにゆっくりと開き、熱くなった芽の存在を伝える。
強すぎる刺激を与えないように気を付けながら、少しずつ、敏感な芽の感触を捉えてゆく。
押すように、掠めるように、その芽を弄うと、クリスティーヌの吐息は徐々に艶を増し、次第に甘美な喘ぎ声に変わっていくのだった。

「ああ……あん……んんっっ」
クリスティーヌは頭を反らせ、腰を軽く痙攣させて、私の指から送られる刺激に耐えている。
その様子は、昨日まで清らかな少女であったことを忘れさせてしまうほどに、淫らで、美しかった。

私の指が蠢くそのさらに奥から、しっとりとした粘液が染み出しているのが分かる。
私は指先を滑らせて、肉付きの薄い、ぴったりと閉じられた洞の入り口を弄る。
ついに辿り着いたその場所は、熱く潤い、異物の侵入を待ち侘びているようだった。

溢れてきた粘液を指に絡めて、襞の重なるその入り口を割ってゆく。
クリスティーヌの声色に、微かに怯えが混じった。
「ああ……天使さま……こ、怖い……」
667/9:2007/11/08(木) 22:52:37 ID:xTlb5zZs
「大丈夫、何も怖いことなどないのだよ……お前を待っているのは、悦び……それだけだ」
「でも……」
「私を信じて」

その言葉に、クリスティーヌは震える息を吐いて答え、自分のスカートをぎゅうっと掴んだ。
その手を取って、指を絡めてやると、彼女の細い指は縋るように私の手を握り締めた。

「力を抜いてごらん」
従おうとしても、うまくいかないらしい――腰から腿のあたりには緊張が漂い、速い鼓動が
胸元の皮膚を震わせている。
私はゆっくりと、ゆっくりと、入り口にあてがった指を中へと進めていった。

粘液で潤ってはいるものの、そこはまだきつく閉じられていて、初めての侵入者を拒もうとする。
それでもじわじわと指を奥へ挿し入れてゆくと、柔らかい丘は次第に、生々しい内壁の感触に
変わっていった。
襞を割ってしまうと、そこから先へはすんなりと侵入させることができた。

クリスティーヌは息を飲んで身体を固くし、今までに味わったことない感覚に驚いている
ようだった。
奥へと突き入れた指を、ゆっくりと引き出し、また奥へと挿し入れる。
その度に、私の指に粘った肉襞が纏わり、クリスティーヌの緊張が解れてゆくのが分かる。
指を軽く曲げて、内壁の感じやすい部分を擦ってやると、彼女はそれまでで一番艶めいた
声を上げた。

「あぁぁ……んっ!」
彼女の官能を引き上げようと、その部分を激しく刺激する。
礼拝室に、くちゅくちゅという淫らな水音が響く。
「あぁぁ……いや、いやぁぁ……そんな……あぁっっ」

彼女がまた頭を反らせたので、その冷たく柔らかな耳たぶが私の唇に触れた。
耳たぶを軽く噛み、息を吹き込みながらさらに指を動かしていると、彼女の洞が蠕動した。
そして、悲鳴にも似た喘ぎ声と共に、彼女は大きく息を吐き、腰をぴくぴくと痙攣させた。
「あ、ああ……うぅ……」
初めての指姦で達してしまった驚きと悦び、脱力感に翻弄されているクリスティーヌの
表情は、うっすらと上ってきた白い陽に照らされて、美しく淫らに輝いていた。

「クリスティーヌ……お前はひとつ、大人になったのだよ」
大きく息を吐いて、私の肩に頭を摺り寄せる彼女を、心から愛おしいと思った。
678/9:2007/11/08(木) 22:53:15 ID:xTlb5zZs
礼拝室に差し込む光で、既に朝日が昇り切ったことを知る。
クリスティーヌはうっとりとした表情のまま眼を閉じ、私の肩に暖かい重みを乗せている。
できることなら、このままずっと、彼女の身体を抱いていてやりたかった。

けれど、今の私と彼女に、そんな幸福な一時を得ることは許されていない。
私は、身体の一部を断ち切るような気持ちで、クリスティーヌを私の上半身から引き離し、
「他の踊り子たちが目を覚ます前に……自分のベッドに戻りなさい」と言った。

するとクリスティーヌが私の両手をぎゅっと握り、自分の胸に押し付けるようにした。
「もう……もう戻らなくてはいけないの? このまま抱いていてくださらないの?」
彼女の切ない声に、胸が締め付けられる。

私がどんな思いで彼女を離そうとしているのか、彼女は知っているのだろうか。

「こんな風に抱き締めて欲しかったのです……ずっと、ずっと、誰かに」
クリスティーヌの手が、私の指を包むように動いた。
「いいえ……きっと、あなたに」

気が付くと私は、クリスティーヌの身体を、後ろからきつく抱き締めていた。
これ以上ないくらいに愛しい温度と柔らかさが、薄い布越しに伝わってくる。
時が止まってしまえばいいと思った。このままふたりで熔けて無くなってしまいたいと思った。

「クリスティーヌ……眼を閉じて」
顔は見えなかったが、気配で彼女が私の言うことに素直に従ったのが分かった。

自分の身体を傾け、クリスティーヌの肩越しに彼女の顔を見る。少し瞼を震わせながら、
けれどもしっかりと眼を閉じて、クリスティーヌは私の次の言葉を待っていた。
その美しい顔を手でこちらに向けさせて、躊躇いと恍惚に一息の間を奪われた後、私は
クリスティーヌの唇にゆっくりと口づけた。

私の唇の下で、彼女のそれは羽のように柔らかく震えた。
689/9:2007/11/08(木) 22:53:56 ID:xTlb5zZs
クリスティーヌが唇を離すような仕草をしたので、私は彼女にそうされるよりも先に、
口付けを止め、再び彼女の背後に身を隠した。
振り返られるのが怖くて――もう言葉でそれを制すこともできずに――彼女の眼を、
両手でそっと覆った。

「クリスティーヌ、私はもう、お前に触れないだろう……しばらくの間」
「……どうして、そんな……」
私の手に視界を遮られたまま、クリスティーヌが悲しそうな声を出す。

「けれど、約束しよう、クリスティーヌ。お前が16歳になるその日までに、私はきっと
お前をオペラ座のプリマドンナにしてみせよう。そうしたら」

クリスティーヌは黙って私の言葉を待っている。

「お前を迎えにゆくよ、必ず」

クリスティーヌの唇が、ふわりと微笑んだ。

その笑みを宝物のように胸にしまい込んでから、私はゆっくりと、彼女の眼を覆っていた
手を外した。
じっと眼を閉じて穏やかな表情を湛えるクリスティーヌから、やっとの思いで身を離す。

「……それまで、誰のものにも、なるな」

私は、彼女の耳に届かないくらい低く小さな声でそう言って、礼拝室を後にした。


それから、私はずっと今日という日を待っていた――2年もの月日を、ただひたすらに耐えた。
クリスティーヌ、お前は覚えているのだろうか? あの日の熱した肌を、潤んだ唇を。
身体に宿った確かな官能を――。

今夜お前は、このオペラ座の大舞台で成功を収め、数々の賞賛を得るだろう。
そして私は、あの日の約束どおり、ついにお前を迎えにゆく。
16歳になったばかりのお前に、私の手で真の悦びを教えてやろう。

私は花嫁衣裳を着せた人形の顔を撫でながら、今夜この場所へ来る本当の花嫁に思いを馳せた。

もうじき、舞台の幕が開く。
69名無しさん@ピンキー:2007/11/08(木) 22:54:57 ID:xTlb5zZs
以上です。
長くなってしまってごめんなさい。
読んでくださった方、ありがとうございました。
70名無しさん@ピンキー:2007/11/09(金) 20:43:16 ID:iM82gSlA
GJですてんしさまぁぁ
長くなって・・なんて言わないで。
どんなに長くったって正座して読みます。
なんなら四つんばいで読みます。
71名無しさん@ピンキー:2007/11/09(金) 20:45:19 ID:iM82gSlA
スマソ・・逝ッテキマス
72名無しさん@ピンキー:2007/11/10(土) 01:06:01 ID:sc8gZQ67
うわ……! すごい!
こんな素敵な物語が読めるなんて、天使様ありがとう!
映画の設定ピッタリで何の違和感も無いよ。素晴らしい。
本当にGJGJGJ!
73名無しさん@ピンキー:2007/11/10(土) 16:26:09 ID:AzOvDMaH
GJ
クリス、14歳かあ。
映画の設定より若いクリスティーヌに色々と・・・ってのは今まで
なかったよね。
74名無しさん@ピンキー:2007/11/10(土) 22:12:37 ID:GnFaeP5W
GJ! GJ!
自分の浅ましさを自覚しつつ、先に進んでっちゃう先生がエロい!

迎えに行った後は、映画に繋がるの?
それとも、別の物語が始まるの?
後者なら、続きを投下して欲しい。いえ、して下さい、天使さま。
75名無しさん@ピンキー:2007/11/12(月) 02:21:14 ID:5L/Ccy2l
続き気になるぅ!

しっとりとした余韻が心地よいですね、GJ!
クリスティーヌは、深い愛情を感じ、この大人への一歩が彼女の女としての自信になったのではないでしょうか?

そして控えめながらも、素直に純粋にプリマとして育ってゆくのですねっ。

ああ、天使さま!
お導きを心より願います。
76名無しさん@ピンキー:2007/11/15(木) 12:57:58 ID:AAYm7f29
天使様方、何処へ?
77名無しさん@ピンキー:2007/11/16(金) 19:28:46 ID:E0iDPioF
寒くなってきましたね。
明日のパリは最低気温0度らしいです。
78名無しさん@ピンキー:2007/11/18(日) 00:11:03 ID:H/bHK9TX
まあ僕はそれでもはだけたシャツ一枚で居眠りするんだけどね!
79名無しさん@ピンキー:2007/11/18(日) 15:15:48 ID:09lEaMT7
先生乙!
80名無しさん@ピンキー:2007/11/18(日) 18:48:13 ID:Dd3e4KGH
地下はぬくい?
81名無しさん@ピンキー:2007/11/18(日) 20:48:26 ID:i36Gcc6q
可哀想に。わざとですか?
82名無しさん@ピンキー:2007/11/19(月) 23:11:07 ID:sfFCCxa0
続編待ちのSSって、どれ位あったっけ?
寒い季節、引き続き投下お待ちしております。
83名無しさん@ピンキー:2007/11/23(金) 23:36:42 ID:trvSqbx/
!!!急募!!!

一人の人物を人肌で暖めるだけの簡単なお仕事です。
※住み込みとなります。
就労場所はパリ市の中心部、
ロマンティックな家具の付いた個室です。

待遇:委細面談
条件:年齢15〜22歳
    独身の女性
    スウェーデン人
    父親がバイオリニスト
    天使の存在を信じている
  ※歌が上手な方、優遇します
  ※10年以上の長期就労歓迎
84名無しさん@ピンキー:2007/11/24(土) 23:43:22 ID:LLVL+zJ1
>>83
>スウェーデン人
>父親がバイオリニスト

該当一人じゃねーかww
85名無しさん@ピンキー:2007/11/24(土) 23:52:29 ID:LO6w8rdh
>>83
>人肌で暖めるだけ

暖める「だけ」?
んなわきゃーない。
86名無しさん@ピンキー:2007/11/25(日) 21:59:40 ID:oZlEyGFh
どこを、とは書いてないぞwww
87名無しさん@ピンキー:2007/11/26(月) 22:58:14 ID:L2bOBqAc
小ネタ

クリスティーヌ、私の大切なものを暖めてほしい。
そう、大切なものだ。
それは私の体の真ん中に…その奥底にある。

傷つけられ、貶められてきたそれは暗く冷たい孤独の中で
硬い殻を自ら纏い、ただじっと蹲っていた。
本当は弱く脆い…弱点にもなりうるものなのだから…。
しかしお前に出会って、凍り付いていたそれは動き始めた。
お前の歌で、微笑で、熱く脈打ち始めた。

お前に触れてほしい。
そうしてお前自身で暖めてほしい。
そうすれば私は・・・!




「ねぇメグ、聞いてくれる?天使様が私に頼みたいことがあるらしいんだけど、
お話が難しくって良く分からなかったのよね。一緒に考えてくれる?」
「いいけど、どんなこと言ってたの?」
「私に暖めてほしい部分があるんですって。そんなお年にも見えないけれど、地下は冷えるのね」
「部分?妙なこというのね、あなたの天使って。どこなの?」
「それが良く分からなくて…ええと、なんておっしゃってたかしら。マスターの体の中心にあるんですって」
「中心?男性の体の、中心?」
「確か…固い皮?に覆われていて、弱点だっておっしゃってたような…」
「ちょっと、クリスティーヌ、それって…」
「そうだ、私に会うまでそれは蹲っていたけれど、私に会うと脈打ったり動いたり元気になるんですって!」
「!!やっぱりあなたの先生って何かおかしいわ!」
「そうかしら…それを触ったり暖めたりしてほしいって仰ってたの。どうすればいいのかしら」
「そんなことしちゃダメよ!そうだ、ママに相談しましょう!」
「ジリー先生に?そうね、そうするわ!」
88名無しさん@ピンキー:2007/11/27(火) 10:45:10 ID:PL4dO36I
GJ!!
病み上がりの乾いたハートを潤す笑いをありがとう!!
生き返ったよ!笑いの天使さま・・・。
89名無しさん@ピンキー:2007/11/27(火) 23:26:17 ID:6NjU/EU2
>>88 風邪かね?
これを使うがよかろう

 _, ,_   Ю
( ゜ノゝ゜) △ <喉スプレー(カルロッタ用)
90名無しさん@ピンキー:2007/11/27(火) 23:33:09 ID:JTUPFJdG
>>87
笑いをありがとう! メルシーボークー

クリスはやっぱ可愛いなぁ
91名無しさん@ピンキー:2007/11/28(水) 19:31:35 ID:sHAjiUol
ぅわマスター・・・

ゲコ
92名無しさん@ピンキー:2007/11/28(水) 22:10:38 ID:AakrnYDG
マスター後でマダムに説教喰らいそうだな…。
「嫁入り前の娘になんてことを…!」
「違う!誤解だ!私が彼女にそんなハシタナイ要求をするわけが無いだろう!」
弁解むなしく…
93名無しさん@ピンキー:2007/11/29(木) 23:22:03 ID:1zzJ8/Io
とはいえ、「あわよくば」とも思っているマスター。
94名無しさん@ピンキー:2007/11/30(金) 14:02:33 ID:5YjDh384
あわよくば…思っていたが、何故だかあらぬ方向に解釈され、ひどい目に会うマスター。
95名無しさん@ピンキー:2007/12/02(日) 00:44:36 ID:odG5rqJ6
クリスティーヌ型ゆたんぽを開発するマスター。ある日液漏れしびしょ濡れで目を覚ます。クリスティーヌ型ホッカイロは高温になりすぎ抱いて寝られず断念。しかしめげずにクリスティーヌあったかグッズの開発に力を入れる。
96名無しさん@ピンキー:2007/12/02(日) 01:06:42 ID:H4QpIF4U
焼死する日も近いな
97名無しさん@ピンキー:2007/12/02(日) 01:30:25 ID:6xFmZaxr
でも完成すれば、それなに「しあわせあったか」できそうだよ。
ジーニアスなマスターなら、例の求人の応募を待つより早いかも。
がんばれw
98名無しさん@ピンキー:2007/12/02(日) 07:36:10 ID:4uZ0wvDK
結局クリス本人じゃなくて物かよww
マスターカワイソスwww
99名無しさん@ピンキー:2007/12/03(月) 02:10:51 ID:cLRzefds
それなりの「しあわせあったか」グッズには、
「身体の中心にあって、普段蹲っているが、クリスに会うと脈打ち始めるモノ」を
何とかできる一品も含まれているんだろうか。
100名無しさん@ピンキー:2007/12/03(月) 14:09:39 ID:gZDXd+Hu
100
101小ネタ:2007/12/04(火) 00:32:34 ID:RjU0QjqU
〜〜〜クリスティーヌあったかグッズ開発研究レポートより一部抜粋〜〜〜
「クリスティーヌ型ゆたんぽの液漏れ
及びクリスティーヌ型ホッカイロの予想外の高温は
使用者が一部に過剰に体重をかける、もしくは
ある部分に過度の摩擦を加えたため生じたものである。
いずれも不具合の原因は明白であり、
ただちに改良できる類いのものであると考えられる。
クリスティーヌ、お前の姿かたちばかりでなく
私に力をあたえるそのやわらかさ、あたたかさまで再現して見せよう!!!
完成する日は近い。私はいつもお前と共にある」


102名無しさん@ピンキー:2007/12/04(火) 23:08:39 ID:0X8HfXpM
>ある部分に過度の摩擦
先生w何やってんのwww
103名無しさん@ピンキー:2007/12/05(水) 20:49:31 ID:89h3ko2q
>102

むろん、ナニをやっている。
104名無しさん@ピンキー:2007/12/06(木) 16:51:46 ID:ss2sScqn
>103
誰がうまいこと言えとww
105名無しさん@ピンキー:2007/12/06(木) 21:03:54 ID:vhRo9pCu
>>104
IDにSSが出ていますおめでとう
106名無しさん@ピンキー:2007/12/06(木) 23:07:50 ID:8pUhh6vF
>>104
おお!SSの神!!!
SSの投下待っております。
107名無しさん@ピンキー:2007/12/09(日) 17:34:28 ID:ARDeqYW5
マスター クリスマス近いけど?
108名無しさん@ピンキー:2007/12/11(火) 22:04:47 ID:8Qmh4XKe
>107
クリスマスが一体なんだというのだ。
私には関係ない。
歌姫として成功することだけを夢見るクリスティーヌにも関係ないはずだ。
クリスティーヌが欲しがっていた髪留めなどというシロモノで彼女の気をひこうなど、
露ほども思っていない。
厳しい稽古の後、その夜だけはいつもと違って優しい言葉をかけ、それで気をひこう
などとも思っていない。
優しい私の言葉に感激し、「マスター……」とうっとり夢見心地で私を呼ぶおまえを
あわよくば地下の宮殿に拉し去り、美しく聖夜の装いを施した私の宮殿を見せ、
さらに「マスター……」と夢見心地でつぶやくおまえをあわよくば寝室に………などと
泡沫経済下の『ホットドッグ・プレス』読者諸氏のようなことを考えるはずもない。

さて、そろそろ日も落ちる頃だ。
私は所用のために外出しなければならないのだ。
師走というくらいだ、マスターである私も忙しいのだ。











<お買い物リスト>
・もみの木 ←本物を探すこと
・青色発光ダイオードの電飾
・普通の電飾 ←念のため用意
・何か丸いのいっぱい
・蝋燭いっぱい
・星 ←絶対に忘れないこと!!
・クリスマス・ソングのコンピレーション・アルバム ←なかったら自分で歌う
・薔薇の香りのアロマ・オイル ←寝室用
・林檎、石榴、無花果 ←自分で試してみる用・効果があったら買い足す
109名無しさん@ピンキー:2007/12/12(水) 05:53:17 ID:9cUaB/kT
ちょwマスターww
お買い物リストカワユスwww
何か丸いの…うんあのピカピカした玉か。何て言うんだろうねえ
110名無しさん@ピンキー:2007/12/12(水) 21:17:49 ID:/1x7VGB5
マスターったらw
プリティさんめww
111名無しさん@ピンキー:2007/12/12(水) 22:13:10 ID:C+vkt1QJ
これはwww
マスターかわいすぐる。 和むわww
112名無しさん@ピンキー:2007/12/12(水) 23:06:02 ID:go0XVfww
マスター、コンピアルバムはこれを。
特に12曲目が お す す め ♡

ttp://www.amazon.co.jp/Broadway-Cares-Holidays-Various-Artists/dp/B00005RDD2
113名無しさん@ピンキー:2007/12/12(水) 23:47:22 ID:iW6pC5Lh
そーいや、去年は桜塚やっくんの「クリスマスター」でちょっと
盛り上がったっけ。もー2年くらい、このスレ見続けているな。
114名無しさん@ピンキー:2007/12/13(木) 00:33:35 ID:8ZB0rsqe
>・林檎、石榴、無花果 ←自分で試してみる用・効果があったら買い足す

素でわかんないよママン
無花果を自分で試すって、アッーーー! ?
しかしどこかで邪魔者が入り計画が頓挫しちゃったときのマスター、見たい。
もしくはクリスティーヌを誘いきれずぴかぴかの宮殿で一人膝を抱えるマスターが見たいよ。
115名無しさん@ピンキー:2007/12/13(木) 22:54:13 ID:X0J9V+zd
>114
無論、媚薬の材料に決まっている。

林檎や石榴、無花果などより、膃肭臍の陰茎や羊の睾丸などの方が
効くというが、まさかそんなものを可愛いクリスティーヌに与える
わけにはいかぬではないか。
116名無しさん@ピンキー:2007/12/13(木) 23:50:47 ID:kIp8cwlQ
>>108
大変申し訳ございませんが、例の丸いのは
当店では総て売り切れでございます。
ええ、先ほどシャニュイ様が買い占めてゆかれて…
117114:2007/12/14(金) 01:52:14 ID:cykVEF1z
>>115マスター、教えてくれてありがとう!

自分に試して、クリスティーヌ襲わないようにね!
つーか、クリスティーヌに一服盛って襲われちゃえw

幸せなクリスマスをお迎えになられますようお祈り申し上げます。
118名無しさん@ピンキー:2007/12/16(日) 00:22:41 ID:m7E/17sS
ROM専でしたが、投稿します。
エロ少なめ、ギャグ多めです。
初めて書いたので、ちょっとグダグダです。
1191/5:2007/12/16(日) 00:24:56 ID:m7E/17sS
今日はクリスマスだ。男は少女が来るのを心待ちにしていた。
あんなことやこんなことをする二人を想像しながら…。
大きな足音を立てて、少女は隠れ家へとやって来た。
「ファントム〜。最近冷たいわねッ!」

いきなりそう切り出したクリスに、ファントムはあっけに取られた。

「エロ支配人のクリスマスプレゼントは、パリ中のお菓子。
 ハゲラウルのクリスマスプレゼントは、
 シルクのドレスと毛皮のコートをそれぞれ10着。
 それなのに、ヒッキー天使様は何も用意してないわけ?!」

愕然とするファントム…。
1202/5:2007/12/16(日) 00:26:28 ID:m7E/17sS
少女はファントムの下の方をじっと見つめる。

「ここは用意が良いのね…」
そう言って、腰から手を這わせ、
ファントムの股間へとそっと手を近づける。

「!!!!」
『今日は、クリスに悦びをプレゼントする予定だったのに…』
クリスは股間を優しく撫で続ける。

遡ること数週間前…
1213/5:2007/12/16(日) 00:29:06 ID:m7E/17sS
マダム・ジリーは、真夜中の稽古場で少女を待っていた。
バレエのレッスンと云って、別のレッスンを施すために…。

やがて、少女はやって来た。
「ジリー先生、これは…。」
少女の目に飛び込んできたのは、突起を付けた大きな人形であった。

「殿方のもっとも繊細な場所まで
 再現した、ダッチハズバンドよ☆」
突起をくるくると回転させながら、楽しそうに答えるマダム・ジリー。
1223/5:2007/12/16(日) 00:33:14 ID:m7E/17sS
「これから、殿方を楽しませる方法を伝授いたします!」
マダム・ジリーはそう宣言した。

少女は、耐えた。殿方の突起の構造、舐め方…これ以上はとてもここでは
書けない。

最終日。
マダム・ジリーは、クリスに一冊の本を差し出した。
「クリスマスは、この台本の通りに行動しなさい。」
その台本の表紙には、
「クリスとファントムの未来日記〜クリスマス編〜」と書かれていた。
1235/5:2007/12/16(日) 00:34:19 ID:m7E/17sS
…そんなわけで、ここに、ツンデレで床上手の
クリスが誕生したわけである。

「天使様…こんなにも濡らしてしまって…」
「あぁぁ…」

白い液体が、あちこちに飛び交っている。

「掃除するの大変ですのよ…
 ねぇ、マスター…掃除の前に、優しくしてくださる?」
云われるままに…いや、自分の欲望の赴くままに、男は少女の花弁に
指を入れた…。
124名無しさん@ピンキー:2007/12/16(日) 00:35:52 ID:m7E/17sS
以上です。3/5が2つあるのはミスです。

読んでくださった方、ありがとうございました。
125名無しさん@ピンキー:2007/12/16(日) 11:51:11 ID:GuFQTzGN
>>124
投下乙。

マダムのレッスンの様子を詳しく知りたいのだが。
ついでに、白い液体があちこちに飛び交う経緯も詳しく知りたいのだが。
126名無しさん@ピンキー:2007/12/16(日) 23:57:28 ID:ZhjyOmNl
この板でマダムのレッスンを書けないって、どこでなら書けるんだ?
一番大事なところは飛ばすことなく、挑戦して下さい!
127名無しさん@ピンキー:2007/12/17(月) 23:10:15 ID:XsMxKOm4
短期間でここまで手玉に取れるようになるとは、
書けないレッスンの中身がますます気になるw
128名無しさん@ピンキー:2007/12/18(火) 00:09:57 ID:ZqR+gC0+
クリスの中の人、ドラゴンボールのブルマ役やるんだね。
想像できない。
129私は108である。 1/6:2007/12/18(火) 01:44:29 ID:g5/F+2dH
12月24日

「ああ、いやいや……、マスター………」
クリスティーヌが切ない瞳で私を見つめた。
ふるふると小さく首をふりながら、大きくはだけた襟元を両手でかき合わせる。
「クリスティーヌ、なぜ嫌なのかね?」
「だって、だって………」
いっそう切なげに眉根を寄せ、縋るように私を見つめるクリスティーヌは
何ともいえず愛らしかった。

今夜、礼拝所での稽古のあと、私の地下宮殿にいざなわれてきたクリスティーヌは
聖夜の装いを施された宮殿の様子に目を瞠り、幾百本の蝋燭に灯った明かりに
しばし言葉を失った。
食事の最後に果実のシャーベットを食べさせ、優しく頬やこめかみに口づけながら
髪を撫でてやり、それから、うっとりと夢見心地のままのクリスティーヌを寝室へと導く。
薔薇の香のする寝室にはたった一本の蝋燭だけが灯り、私たちふたりを世界から
隔絶してくれている。
シャーベットのおかげか、あるいはワインの力か、クリスティーヌはさしたる抵抗も見せずに
その身を寝台に横たえ、今まさにその柔肌を私の目に晒そうとしているのだった。

「だって………、は……ずか……し………」
「クリスティーヌ、ここには私とおまえのふたりきりしかいない。
恥ずかしがることなど何もないのだよ………」
「でも………」
「大丈夫、無体なことはしない、だからすべてを私にゆだねるのだ」
「ああ、マスター………」
「クリスティーヌ………」
130私は108である。 2/6:2007/12/18(火) 01:45:41 ID:g5/F+2dH
12月25日

「ああ、だめだめぇ……、マスター………」
クリスティーヌがしどけない瞳で私を見つめた。
ぽってりとした唇をとがらせるようにして、下ろされかけた下着の端を掴んで首をふる。
「夕べ、おまえはすべてを私に許したではないか」
「でも………」
「おまえの美しい姿をもう一度見せておくれ」

夕べのクリスティーヌはどれほど愛らしかったであろうか。
恥じらいつつも、私の愛撫にその身を顫わせ、切ない声で生まれて初めての絶頂を
私に知らせたクリスティーヌ………。

今朝、恥ずかしそうな様子で起き出してきたクリスティーヌは、
それでも樅の木の根元に小さな贈り物の包みを見つけると嬉しそうに飛びついて、
その様はまるで幼い少女のようでいっそう愛らしかった。
真珠で彩られた髪留めをつけた己の姿を何度も何度も鏡に映してみては喜んでいた
その姿からは想像も出来ないほど淫らな姿を私に晒した夕べ………。

そして、いまだ乙女のその場所はひっそりと濡れそぼって私を待っていた。
花芯から溢れた蜜にまみれた莢がわずかにほころび、あざやかな粘膜の紅が
ちらちらと揺れる蝋燭の灯に照らされる。

「ああ、マスター、そこはだめぇ………」
「今夜は更なる快楽をおまえに教えよう」
「ああ、マスター………」
「クリスティーヌ………」
131私は108である。 3/6:2007/12/18(火) 01:46:43 ID:g5/F+2dH
1月1日

「ああ、いや、怖いの……、マスター………」
クリスティーヌが縋るような瞳で私を見つめた。
侵入しようとする私を押しとどめるつもりなのか、私の腕に自分の腕をかけ、
哀しげに首をふる。
「これまで、私がおまえにひどいことをしたことがあるかね?」
ううん、というように首をふり、しかし、
「でも………」と戸惑ったように唇を噛む。

私の指と唇による愛撫の味を覚え、その最も秘めやかな場所さえも
私に許したクリスティーヌ………。
抜き差しされる指を締めつけるようにすらなったその場所を、
今夜、私は完全に自分のものにするつもりでいた。

「確かに今夜だけは痛い思いをするだろうと言ったが、
次からはくるめく官能の歓びがおまえを待っているのだ」
「……………」
まだ痛みを覚えたわけでもないのに、クリスティーヌが涙を浮かべた。
やはり怖いのだろう。
可愛いクリスティーヌ………。
「大丈夫、私が気をつけているから、そんなにつらい思いはさせないよ」
「ああ、マスター………」
「クリスティーヌ………」
132私は108である。 4/6:2007/12/18(火) 01:47:50 ID:g5/F+2dH
1月2日

「ああ、だめ、恥ずかしいの……、マスター………」
クリスティーヌが悩ましげな瞳で私を見つめた。
愛らしい唇をしどけなく私の頬に這わせ、まるで愛撫を催促するかのように
熱い吐息をもらす。

夕べのクリスティーヌのいじらしさといったらなかった。
生まれて初めて男を受け入れ、痛みと驚きとに涙しながら私にしがみついてきた
クリスティーヌを優しくかき抱き、宥めるように口づけを送った、その甘い
ひとときを思い返す。

身を離したあと、甘えて泣きじゃくるクリスティーヌを抱き寄せたときの
喜びだとて何にも代え難いものだ。
「痛かったの……、痛かったの………」
「すまない………」
くすんくすんと鼻を鳴らし続けるクリスティーヌの額やこめかみ、頬に口づける。
「こんなに痛いのはこれきりだから………、許しておくれ」

私を咎めるような、しかしどこか安心したような瞳で私を見つめ、
それから涙を残したまま寝入ってしまったクリスティーヌ………。
ああ、私の人生のなかで、夕べほど幸福だったことがあるだろうか。

「さあ、今夜から私たちは完全にひとつになれるのだ」
「ああ、マスター………」
「クリスティーヌ………」
133私は108である。 5/6:2007/12/18(火) 01:48:58 ID:g5/F+2dH
1月某日

「ああ、マスター、マスター………」
「だめ………、いっちゃうの……、いっちゃうの………」
クリスティーヌが私の下で可愛い声を上げる。
熱い吐息を閉じこめるように口づける。
「ああ、もう、いっちゃうぅ……………!!」
びくびくと私を締めつけ、クリスティーヌが逝った。

「マスター………?」
「何かね?」
「あの……ね、………マスターとわたしは恋人同士?」
「……………」
「………違うの? やっぱり、違うの?」
クリスティーヌの美しい瞳がみるみるうちに潤み始め、あっという間に
大粒の涙が頬を伝った。

「クリスティーヌ………」
「メグがね、言ったの、今みたいにするのは恋人同士だけなんだって。
そうじゃなかったら、………、それは、遊ばれているだけなんだって………」
「クリスティーヌ! 私がおまえを弄ぶなど、有り得ん」
「……………」
「もちろん、私たちは恋人同士だとも。おまえは私の可愛い恋人だ」
「本当?」
「本当だとも。愛している、クリスティーヌ。ずっとずっと愛していた」

抱きしめ合うふたり。互いの唇を貪り合う。
「ああ、マスター………」
「クリスティーヌ………」
134私は108である。 6/6:2007/12/18(火) 01:49:42 ID:g5/F+2dH
よしっ、完璧だっ。
完璧な計画、完璧なイメージ・トレーニング。
これでクリスティーヌは私のものだ。

待っていろ、クリスマス!
待っていろ、クリスティーヌ!










<追加のお買い物リスト>
・シーツたくさん
135名無しさん@ピンキー:2007/12/18(火) 01:54:47 ID:g5/F+2dH
>107
かように完璧な計画を立てて望むことに相成った。

>114
効果は今ひとつだったが、何もないよりはマシだと思われる。
136名無しさん@ピンキー:2007/12/18(火) 01:55:45 ID:g5/F+2dH
ああ、私としたことが………!

×望む
○臨む
137名無しさん@ピンキー:2007/12/18(火) 23:49:23 ID:3gAb/+BP
ちょ、イメージトレーニング長杉wwwwww

健気なマスターGJ! 
幸運を祈る。心から。
138名無しさん@ピンキー:2007/12/19(水) 00:19:51 ID:4FX0LCx6
マスター・・・
クリスティーヌの絵姿の前に蝋燭灯したケーキと
鳥のもも肉を供えて「俺の嫁と過ごすクリスマス」なんて
書き込みをされないように願ってますよ・・・。
139名無しさん@ピンキー:2007/12/19(水) 19:57:28 ID:xoBpEE1i
絵姿なんて!
マスターがそんなことする訳ないよ!
クリス人形があるのに!!
140名無しさん@ピンキー:2007/12/19(水) 20:13:16 ID:PpqRNLI1
そうだよそうだよ!
クリス人形にミニスカサンタのコスプレなんてさせるわけないよ!
141名無しさん@ピンキー:2007/12/20(木) 00:28:20 ID:MRSZ17EQ
無駄にハイスペックなPCと重厚でアンティークな家具、
開封したヴィンテージワインに精巧なつくりの
オーダーメイド人形をうpして('A`)連中に
「か・・・漢だ」「魔法使いから大魔導士にスペックをあげた男」
「奴には今年も敵わねえよ」「嫁に全てを捧げてんな」
と熱い書き込みを貰うマスター。
142名無しさん@ピンキー:2007/12/20(木) 02:06:34 ID:cUWZ++N7
>141
ワロタw 実際に給料3ヶ月分の指輪とか買ってうpする人間いるし生々しいw

トリビアだがサンタ(フランスだとペールノエル?)が根付いたのって
二次大戦より後らしいね。
この辺りはさすがにカトリックの国って感じか。
143大方の予想通り。:2007/12/24(月) 02:32:02 ID:v0MbWm5J
「さて、明日のレッスンだが、」
いつも通りの稽古のあと、ファントムが口を開く。
「あ、天使さま、わたし、明日のレッスンはおやすみいたします」
「な…に………?」
「マダム・ジリーのお友だちのおうちでクリスマスのお祝いをするんですって。
わたしも一緒にってマダムが」
「……………」
「ひとりでここに残るのは危険だっておっしゃって」
「……………」

ファントムは三日前にマダム・ジリーが地下へとやって来たときのことを
思い出していた。
支配人からの手紙を届けに来たわ、と言いながら、地下のあちこちを
歩き回っていたマダム・ジリー。
ファントムは内心、クリスマスのために用意したあれこれを見つかるのでは
ないかとヒヤヒヤしていた。
かろうじて電飾やら何か丸いのやらは見つからずに済んだが、部屋の中央に
置かれた樅の木だけは隠しようもなかった。
大きく葉を広げた樅をもの思わしげに眺めていたジリーの姿が脳裏に浮かぶ。
くそぅ、バレていたのか………。

「だからね、天使さま、クリスマスが終わったら戻ってきますから、
そうしたらまたお稽古してくださいな」
「……………」
「天使さま?」
「……………」
「天使さま? どうなさったの、天使さま?」

―――鏡の裏で男泣きに泣くファントムは、愛しの天使の呼びかけにも
応えることができずにいた。
144名無しさん@ピンキー:2007/12/24(月) 04:40:09 ID:Qq5ISSLc
大丈夫です! マスター!
新年のお祝いにどさくさでキスする手があります!
145名無しさん@ピンキー:2007/12/25(火) 00:36:11 ID:KbfqixwF
新年って…。マスカレードの衣装合わせという口実であんなことや
こんなことを…。
だめだ、妄想が止まらない。
146名無しさん@ピンキー:2007/12/26(水) 20:24:55 ID:M+useQKk
hssh
147名無しさん@ピンキー:2007/12/27(木) 18:27:11 ID:e4mrZZMA
クリスマスも終わり、次はマスカレードですねマスター!
148名無しさん@ピンキー:2007/12/28(金) 03:02:56 ID:NZxDix/E
>147
当日に備えて、先ほど衣裳を着てみた。




















……入らなかった。
149名無しさん@ピンキー:2007/12/28(金) 20:17:01 ID:Qj69negZ
( ゚Д゚ )ポカーン
150名無しさん@ピンキー:2007/12/28(金) 20:59:45 ID:XmYMvhKd
先生、入らなかったのは

1. フェロモンむんむんな逞しい太腿
2. マダムもドッキドキなもっこり股間
3. 中年の悲哀、メタボな下っ腹

の、どこですか?

151名無しさん@ピンキー:2007/12/31(月) 09:38:55 ID:s7+iqwXT
久しぶりにまとめサイト見にいったけど、
やっぱり年々投下作品数が減っているねぇ。
タイトルに引かれて「マスターも走る、12月」を思わず読んでしまった。
先生は女に翻弄される姿がお似合いだとしみじみ感じたわw

>148
先生、そんな時の為に健康器具がたくさんあるじゃありませんか!
七日間集中プログラムとか色々お持ちでしょうに。
152!dama!omikuji :2007/12/31(月) 19:05:17 ID:o8na9qav
わざとフライングしてみる
153 【1512円】 【豚】 :2008/01/01(火) 01:42:42 ID:pRv8gMTW
明けましておめでとうございます
投下は減少傾向にありますが細々でも良いので今年のスレの繁栄を祈っています
154 【1597円】 【吉】 :2008/01/01(火) 01:47:11 ID:tscqwNSq
新年おめ!
天使さまがた、今年もよろしくお願いします!
155 【812円】 【大凶】 :2008/01/01(火) 02:15:05 ID:kA7oB51q
明けましておめでとうございます
今年もスレが繁栄しますように・・・。
156名無しさん@ピンキー:2008/01/01(火) 13:17:36 ID:wTl00otW
あけましておめでとうございます!
今年もこのスレに神様が舞い降りますように
157名無しさん@ピンキー:2008/01/03(木) 00:48:06 ID:tsXy9pmx

   ポカポカにしてやるぞ
    <⌒ )ヽ-、 ___
   <⌒/``ニ  丶/  マスター
 /<_/____/

158名無しさん@ピンキー:2008/01/04(金) 23:33:51 ID:T3i11KjI
<<157 かわいい。
マスターもさぞあったかくなることでしょう。
159名無しさん@ピンキー:2008/01/04(金) 23:39:07 ID:T3i11KjI
>>157
でした…。

新年になったけどマスターでてこないのは階段から転がり落ちて
ぶつけたところが治らないから?
きっとクリスも心配しているよ!
と言ってみるテスト
160名無しさん@ピンキー:2008/01/05(土) 18:18:21 ID:Z+CBL3Wm
投下します。

・ファントム一人語り
・エロなし
・ギャグなし
・超弩級のこじつけ

新年からエロがなくて申し訳ないです。
161一人語り:1:2008/01/05(土) 18:21:36 ID:Z+CBL3Wm
クリスティーヌ。
私の愛した天使。私の愛した唯ひとりの娘。
おまえの幸せだけが私の夢。私の希望。私の祈り。



わがオペラ座に新しい支配人が着任し、それと同時に新しいパトロンが来ると
いうことは、おそらくオペラ座の誰より早く私は知っていた。
しかし、そのパトロンがクリスティーヌの幼馴染だとは誰が想像し得ただろう。
「幼い頃、恋人同士と呼び合ったの」というクリスティーヌの嬉しそうな声は、
今でも忘れられない。
だからこそ、私は新支配人に向かって得意気に歌を披露するカルロッタの上に
背景幕を落とし、彼女が怒り狂って自らの役を放棄させるよう仕向け、
クリスティーヌをその代役に指名するようマダム・ジリーに指示を出したのだ。

果たしてクリスティーヌは見事にその役を演じきり、その夜、初めて五番の
ボックス席から舞台を見たシャニュイ子爵の注意をも引くことになった。
花束を持って楽屋を訪れた子爵の目の前で、クリスティーヌを拉し去り、
さらに手紙を書き送って、彼女が‘音楽の天使’の庇護の下にいるなどと
脅してみせたことで、子爵の関心はいやがうえにもクリスティーヌに注がれた。

‘音楽の天使’といったところで、‘O.G’の署名つきなのだ、どんな馬鹿でも、
その天使が‘オペラ座の怪人’だとすぐにわかっただろう。
そして、それが単なる口碑ではない、実体を伴った人間なのだと、
それも自分とたいして年の違わない男なのだとわかったはずだ。
そのために彼にも声を聞かせたのだから。

十年ぶりに再会した幼馴染の踊り子と食事に行こうとして目の前で攫われた子爵が、
その貴族の子弟らしい勝気さから‘オペラ座の怪人’に対して激しい嫉妬の念を抱き、
かつ正義感の強い子爵が、得体の知れない‘オペラ座の怪人’とやらの魔の手から
クリスティーヌを救い出そうと思うのは自然な流れだった。
162一人語り:2:2008/01/05(土) 18:23:25 ID:Z+CBL3Wm
クリスティーヌを拉し去ったとき、十年もの間、‘音楽の天使’と呼んで慕っていた私に
初めて邂逅した喜びによるものだろう、彼女は恍惚とした状態ですべて私の言うがまま、
為すがままだった。
このまま私と会い続ければ、クリスティーヌは子爵など歯牙にもかけないだろう。
ほんの一押しであっという間に私の腕のなかに崩れこんできそうなクリスティーヌの
様子に心が動かないではなかったが、予想以上に盲目的なクリスティーヌに出会って、
私は多少の方向転換を図ることにした。
危機感と嫉妬。
これが、私がクリスティーヌに与えてやれる持参金だった。


思惑通り、私の仮面をはずしたクリスティーヌは驚き怯え、十年の長きにわたって
結ばれてきた師弟の絆はそれによって断ち切られた。
夜ごと礼拝所で声を交わす私以外に頼るものとてなかった彼女が、その私の正体を
知って次に頼れる人間といったら子爵以外にいない。
ブケーを殺すことで、いっそう‘怪人’としての怖ろしさを印象づけられたふたりは、
その日のうちに愛を確かめあい、二世を誓うことになった。
追い詰められた者というのは、番いを作ろうとするものだ。

しかし、私は気づかないうちに己の仕掛けた罠に自ら嵌ってしまっていた………。
屋上で愛を誓う彼らふたりの姿を見て、私自身、思いもかけないほどの打撃を
受けたのだ。
だが、私は私の計画を最後までやり切ってみせる。
喩え、クリスティーヌへの愛にこの身を、この心を引き裂かれようとも―――。
163一人語り:3:2008/01/05(土) 18:26:31 ID:Z+CBL3Wm
そして、マスカレードの夜。
「秘密の婚約よ」
クリスティーヌの嬉しそうな声。
私は、もちろんその指環を奪うつもりで機会を窺う。

怪人への恐怖、クリスティーヌを庇護したいという欲求、己の力で何とか
解決可能だと思わすことのできる、ぎりぎり限界の脅威。
サーベルを取りに行った子爵が戻ってくるまでの時間稼ぎに派手な立ち回りを
演じたから、いやが上にもそれらはいっそう強く子爵のなかに刻みつけられたに
違いない。

鏡の部屋に誘い出し、軽い怪我を負わせ、ついでに生命の危機をも感じさせる。
パンジャブの縄には仕掛けを施し、子爵の息の根を止める前に千切れるように
しておいたけれども、私の意を汲むことに長けたマダム・ジリーが子爵を救い
出してしまい、それはそれでそう悪くはない展開だったが、やはり彼自身を
傷つけねばどこか足りない気がした。
164一人語り:4:2008/01/05(土) 18:29:38 ID:Z+CBL3Wm
そんな時、クリスティーヌがひとり亡父の墓所へ行こうとしているのに気づいた。
機会を窺っていた甲斐があったというものだ。
クリスティーヌをどこかへと攫い、それを追ってきた子爵に救い出させる、
という筋書きを思い描いていた私は一も二もなくその機会に飛びついた。

だが、私の計画よりも幾分早く子爵が拉致に気づいてしまった。
クリスティーヌの生命もしくは貞操が危険に晒されていると感じ、
しかし、彼女の貞操があからさまに疑わしくならない程度の時間、
その程度の時間を見はからったつもりだったが、彼は馬に鞍も着けずに、
そしておそらく道中すべてを駈歩で来たのだろう、クリスティーヌを墓所に
連れ去り、そこから彼女の声を、助けを求める声を聞かせるという計画は
見事に失敗に終わった。

思いがけず剣闘を演じる羽目になり、そこで彼に怪我を負わせることはできたが、
結果的に彼が勝利したので決め手に欠ける。
己の命を賭してクリスティーヌを守った、という筋書きにはほど遠い。
やはり突発的に訪れた機会に咄嗟に移した行動というのは上手くいかないものだ。
もっと綿密に、失敗は絶対にないというほど綿密に計画を練らねばなるまい。


しかし、練りに練った計画を―――綿密に、これ以上ないほど綿密に練った計画を
ふいにしてしまいそうになったのも他ならぬ私自身であったのは何の皮肉だろうか。


『勝利のドン・ファン』の劇中、できる限りクリスティーヌに触れることで
焦りと嫉妬を引き出し、その嫉妬と焦りが頂点に達したところで彼女を拉し去る。
子爵は必ずクリスティーヌを助け出しにやってくる。
罠も仕掛けた。マダム・ジリーに必要な指示も与えた。
………但し、シャンデリアの件だけは黙して語らなかったが。
165一人語り:5:2008/01/05(土) 18:32:03 ID:Z+CBL3Wm
クリスティーヌが花かごを持って舞台に立つ。
後ろから徐々に近づいていく私の声にクリスティーヌが振り返る。
私だと気づいたのだ。
人差し指で彼女を制す。
戸惑ったような、あるいは怯えるような貌をして立ち上がったクリスティーヌに
一歩ずつ近づいていく。
後ずさりする彼女を追いつめるような気持ちで歩をつめていく。
そして、クリスティーヌをこの手に捕らえ、そのうなじに顔を埋め、誘惑するように
舞台奥に引き摺っていく。
押し戻した小さな手はひどく熱く、私の手から離されて行き場を失ったように
一瞬空に留まった。

沈黙が支配する舞台で、ふいにクリスティーヌの歌声が響く。
救いを求めるように恋人の男を見上げた後、クリスティーヌはしっかりと
私を見据えながら階に向かって歩いていった。
ああ、階の途中でクリスティーヌと見つめ合った瞬間を、私は生涯忘れることは
できない。
あの瞬間、私たちは互いのものだった―――、私がクリスティーヌを求めるのと
同じくらい強くクリスティーヌも私を求めていた。

そして、私は、自分がどれほど強くクリスティーヌを欲していたか、
クリスティーヌの幸せを願う心の奥底でどれほど激しく彼女を求めていたか、
ようやく自覚したのだった。

このままクリスティーヌを自分のものにしたい、ずっとクリスティーヌに
そばにいて欲しい。
私たちはこれほどに強く互いを求め合っているのだから。
私たちは互いのためにこの世に生まれ出たのだから。私たちは互いのものなのだから。
しかし、それは叶えられない望みだった。叶えられてはいけない望みだった。
私のクリスティーヌはこの世の誰より幸せにならなくてはならない。
166一人語り:6:2008/01/05(土) 18:36:13 ID:Z+CBL3Wm
クリスティーヌの橋上での予想外の行動―――つまり、観衆の面前で私の仮面を
引き剥がし、醜い素顔を白日の下にさらすという行動によって、私はひどく
傷つくことになった。
よもや十年もの長きに渡って歌を教えてきた愛弟子がそこまで思い切ったことを
しようとは―――。

万一を考えて用意したシャンデリアの仕掛けを作動させたのは、素顔を曝された
ことへの怒りだったのか、それとも逃亡の時間を稼ぐためだったのか、或いは、
私自身、後へ引けなくするためであったのか。
クリスティーヌの身体を抱え、奈落の底へ落ちていくとき感じていたのは、
このまま地獄へ堕ちてもいい、クリスティーヌを我がものにしたい、
クリスティーヌを己だけのものにしたいという強烈な欲求だった。

しかし、シャンデリアを落とし、多くの人々を生命の危機に曝した私を
クリスティーヌは決して許さないであろうし、もはや師への敬慕の念ですら
消えたであろう。だからこそ落としたのだ。

―――クリスティーヌの幸せのためなら、私は己が身ですらどうでもよかった。
無論、クリスティーヌ以外の人間の命などさらにどうでもいい。
クリスティーヌが幸せになるのなら、たとえ幾百人が、幾千人が、
この地上の誰も彼もが命を落したところで構いはしない。
オペラ座ですら廃墟にしてしまってもいい、おまえに憎まれても、軽蔑されても、
十年の絆さえ穢らわしいものと思われても、おまえさえ幸せな結婚をしてくれるのなら。
おまえさえ幸せであるのなら。
167一人語り:7:2008/01/05(土) 18:38:24 ID:Z+CBL3Wm
予想どおり、子爵はクリスティーヌを救出しに地下へとやってきた。
仕掛けておいた罠にはまって水牢に落ち、私が前夜入念に錆を落としておいた
歯車を動かし、しかし当然そんなことには思い至らず、命からがら、恐ろしい
怪人に連れ去られた美しい婚約者を救出しにやってきた。

花嫁衣裳を着けた婚約者を彼はどういう思いで見たのだろうか。
もちろん、クリスティーヌの衣裳に乱れはない。
クリスティーヌを自分の許へ返せと叫ぶ男の眸に安堵の光が宿っているのを
苦々しい気持ちで見た。

そして、彼はクリスティーヌへの愛を叫ぶ。
愛しているのだと、その気持ちがわからないのかと彼は問う。
私が決して口に出来ないその言葉を、まるで挨拶のような気軽さで彼は言う。
もしも、クリスティーヌの身に疑わしい痕があったら彼は彼女を返せと求めた
だろうか。
それでもクリスティーヌを愛していると言えただろうか。
―――詮無いことを頭の片隅で考える。

とにかく、彼のクリスティーヌへの気持ちを確認することはできた。
あとは彼の命を危険に曝し、その恐怖を心に刻みつけるだけ。
そして、その恐怖から彼を救うのはクリスティーヌだ。
命を危険に曝して守り通そうとした妻を、そして身を挺して自分の命を救った
妻を、彼は決して手放さないであろう。
いつか妻への愛が薄れゆくとき、彼は今宵の恐怖とクリスティーヌへの感謝を
思い出すはずだ。
168一人語り:8:2008/01/05(土) 18:41:39 ID:Z+CBL3Wm
子爵を縛り、クリスティーヌに共に暮らせと請う。
おまえはきっと我が身を犠牲にして彼の命を贖おうとする。
しかし、私は既に、私自身の仕掛けた罠に嵌ってしまっていた。

舞台の上からずっと私のなかで燻りつづけていた、クリスティーヌが欲しいという思い。
子爵を縊り殺すつもりなどなかったはずなのに、私の手はいつの間にか殊更強く縄を
締め上げ、そうしながら私は彼を殺したこの手でクリスティーヌを抱き寄せる光景を
想像していた。

そして、共に暮らせとだけ請うはずだった私の口は、気づけばクリスティーヌの愛を
請うていて、私を愛せと叫んでいた。

―――私たちは互いのものなのだから、クリスティーヌは婚約者を亡き者にした私を
許すはずだ。否、許さなくてはならない。
私をそうさせたのはクリスティーヌなのだから。
或いは、自分のために命を失った婚約者を間近に見て、クリスティーヌは正気をなくす
かも知れない。よしや正気を失うとも、己の傍にいてくれるならそれでも私は構わない。
狂気の妻を私は生涯愛そう。
169一人語り:9:2008/01/05(土) 18:44:48 ID:Z+CBL3Wm
もし、あの瞬間、クリスティーヌが動き出さなかったら、私はきっとあの男を
縊り殺していた。
ああ、あの指環を嵌めながら私を見つめてくれたおまえの眸を私は決して忘れない。
そして、おまえがくれた口づけの優しさも―――。

私は、私が心から求めつづけたのはおまえの幸せだけだったと信じたい。
私は、私の穢らわしい欲望など顧みもせずにおまえの幸せだけを願っていたと信じたい。
誰が信じなくとも、おまえとて私の気持ちを知らなくとも、私は私自身を信じていたい。
私がこの世に生まれ出たのは、おまえを幸せにするため。
私がこの世にある意味は、おまえをこの世の誰より幸福な女にするため。
私を正気に戻し、私の望みを叶えさせてくれたおまえに感謝する。



一度は去ったおまえが戻ってきたとき、私は初めてクリスティーヌへの愛を告げた。
告げずにはいられなかった。
ひた隠しにしてきた思いを口にしたとき、私のなかで生まれて初めて没我の愛とは
どういうものなのかわかった気がした。
愛していた。ずっと愛していた。この世の誰より愛していた。
そう告げ、それから彼女の師として最後の教えを与えた。
今宵あったことを生涯口にしてはいけない、と。

私への憎悪と恐怖の記憶、私たちふたりの絆に対する嫉妬、彼女へのかすかな疑念、
それに打ち勝ちたいという切望。
彼女の夫となるべき男がそれらの思いを持ち続ける限り、クリスティーヌは夫の愛を
失うことはないだろう。
170一人語り:10:2008/01/05(土) 18:45:35 ID:Z+CBL3Wm
クリスティーヌ。
私の愛した天使。私の愛した唯ひとりの娘。
おまえの幸せだけが私の夢。私の希望。私の祈り―――。


去っていくおまえの姿を脳裏に焼き付けるように見つめた。
もう二度と会うことのない私の愛弟子。
私が愛した唯ひとりのおまえ。
どうか幸せであるように。
この世に命のある限り、私はおまえの幸せだけを願っている。




171名無しさん@ピンキー:2008/01/05(土) 18:46:10 ID:Z+CBL3Wm
以上です。

お読み下さった方、どうもありがとうございました。
172名無しさん@ピンキー:2008/01/07(月) 00:12:11 ID:25Um2FYP
GJ!!
先生が切なくて、胸が締め付けられるようだった。
映画を見たら、この先生が頭を過ぎるかもしれないよ。ありがとう。
173名無しさん@ピンキー:2008/01/07(月) 16:45:21 ID:GWZ/jjwm
GJ!!!
手放そうと決心していながら、揺れるマスター。
こんな解釈があったとは。
新年早々お年玉をありがとう天使様。
174名無しさん@ピンキー:2008/01/11(金) 00:18:10 ID:2B0ixsqo
ファントム×クリス
いちゃいちゃ(既に)バカップルです
1751/3:2008/01/11(金) 00:18:59 ID:2B0ixsqo
「まぁ…!」
小さな木の扉をくぐり、眼下に広がった光景にクリスティーヌは押し殺した感嘆の声をあげた。
「こんな所があるなんて!」
「静かに。ここで声を立てると思いがけず響くのだ」
後ろ手に扉を閉めながら、師は低く囁き、唇に指を当ててみせる。
クリスティーヌは頷くと、低い柵から身を乗り出した。

シャンデリアの手入れのためだろうか、天井近くに取り付けられたこの回廊からは
オペラ座のホールが一望できる。
人気のうせた客席も、まだ明かりの落ちてない舞台も、はるか下。
すぐ目の前には眩いほどに輝くシャンデリア。
優美な天井画も、まるで手が届きそうなほど近くに見える。
「5番ボックスは…どこかしら?」
死角になったその席を探そうと、大きく伸び上がる。
「危ないぞ、クリスティーヌ」
「大丈夫よ。ね、ご覧になって、あれが…」
振り返りかけて、クリスティーヌの身体が揺れた。
「きゃ…!」
バランスを崩し、上半身が柵の外側にぐらりとはみ出す。
瞬間、ファントムはすばやく動いた。

力強い腕が腰を強く引き、大きな掌が口を覆う。
そのままどさりとクリスティーヌの身体は後ろに倒れこんだ。
「…!」
ファントムの膝の上に尻餅をついて、上げかけた悲鳴を飲み込む。
「危ないといったろう」
「…ごめんなさい」
少し強い調子の師の声に、目を見開いたままクリスティーヌは呟く。
「吃驚、したわ…!」
はぁと大きく息を吐いて首だけ振り返り、肩越しに仮面の奥の瞳を見つめた。
「…マスターの心臓、すごく、どきどきしている…」
ぐっと背を男の胸に押し付け、微笑む。
「私も、どきどきしているわ」
肩の辺りにあった男の掌を、胸元に押し付ける。
「ね?凄く速く打っているでしょう?」
1762/3:2008/01/11(金) 00:19:52 ID:2B0ixsqo
「…お前は…」
男を取り巻く空気が変化したのを、クリスティーヌは肌で感じた。
慌てて離れようとしたが、腰をしっかり抱えられている。
「マスター、あの…」
止める間もなく、胸元の手は襟から潜りこんでいった。
「止め…!」
思わず発した言葉は、思っていたよりずっと大きく聞こえる。
クリスティーヌは背を強張らせた。
「声は響く、と言っただろう?」
柔らかい双丘の、その感触を楽しむようにゆっくりと揉みしだきながらファントムは囁いた。
「舞台は終わったが、まだ残っている人間はいる。…聞きつけられたらどうする?ん?」
「う、う」
唇をかみ締め身を捩る。
「そんなことをして男がどんな思いを抱くか…」
耳朶を食むように男の唇が囁く。
「お前はまだ分かっていないのだな」

掌は胸を離れると着衣の上から腹を撫で、腰に降りてゆく。
「クリスティーヌ…」
「ひ…!」
腰の両側を掴まれ、ひょいと細い身体が浮き上がる。
思わず上げかけた声を必死で飲み込んでいる間に
クリスティーヌはファントムと向かい合うようにその膝の上に座っていた。
「マスター…」
囁く声も厚い唇が喉を探る感触に途切れて消える。
唇はすぐに引き下げられた襟元から胸を貪り、
濡れた下着は手探りで引き摺り下ろされ、ぬるついた入り口に男の丸い先端が宛がわれる。
「膝を、ついて」
男の両手が、腿から膝までするりと撫でる。
言われるがままに男の上に深く跨り、クリスティーヌは頭を仰け反らせた。
「んんっ!」
零れそうになる悲鳴を、手の甲を唇に当てて堪える。
腰が沈むにつれ張り詰めた強張りが身体の奥深く入り込んでくる。
完全にファントムを飲み込んだところで、熱い吐息と共に言葉が耳に注ぎ込まれる。
「お前の…良いところを探すんだ、自分で…」
1773/3:2008/01/11(金) 00:20:24 ID:2B0ixsqo
「ん!」
ファントムの手が幾重にも重なったスカートを捲りあげ、丸い尻を掴むと前後に揺すった。
「ほら、自分で動いて」
「う…ふうっ!」
上半身がびくびくと震える。
「そうか、そこが…いいのか」
手首を掴むと、口に押し当てた手をひょいと外した。
「うぁ…」
巻き毛に指を差し入れ、小さな頭を自らの肩に押し付ける。
「こうしていなさい…噛んでも構わん」
耳朶を唇で擽るように囁いて、ファントムは腰を突き上げた。
合わせるように最初はぎこちなく、段々と大きく少女の身体が上下する。
大きな掌が苦しげに左右に振られる頭をしっかり掴む。
「んっ…う、くぅ…!」
「噛むんだ…!」
「…!……!!」
身を震わせて絹地に歯を立てる。
真っ白になる意識の中、背に回された男の指先に痛いほど力が篭る。
口の中に微かな鉄の匂いを感じた瞬間、男の身体もまた大きく震えた。

「ごめんなさい」
ファントムの膝に抱かれたまま、クリスティーヌが小さく呟いた。
細い指が破れたシャツの肩口に触れる。
「お前は存外力が強いな」
顔をしかめつつも笑いを含んだ声に、唇を尖らせたまま顔を上げる。
「…マスターが声を出しちゃいけないって、言うからよ」
「聞かせたいのか?ならば今度はもう少し人がいるときにしよう」
「もう!そうじゃな…!」
「しっ」
食って掛かろうとした唇は不満そうに閉じられる。
自らの唇に指を当て、ファントムはにやりと笑った。
「静かに、静かに…」
178名無しさん@ピンキー:2008/01/12(土) 22:23:54 ID:P7s2MJpi
GJ
短い話なのに、なんだか二人の濃密な雰囲気が凝縮されてて
どきどきしますた。
ラブラブかつエロエロな二人のSSが読めて嬉しかった。
ありがとうてんしさま!!!
179名無しさん@ピンキー:2008/01/15(火) 21:57:00 ID:lbfaR7bq
天使さまGJですた!
ファントムが指を当てる仕草、
「silent...silent...」のシーンを彷彿とさせる!
180名無しさん@ピンキー:2008/01/21(月) 01:09:52 ID:sdpPF/Ux
保守
181名無しさん@ピンキー:2008/01/28(月) 21:35:54 ID:cUGEVTcr
マスター
来月はバレンタインですな。
182名無しさん@ピンキー:2008/01/28(月) 23:51:29 ID:TZLQ6u6L
親愛なる支配人

挨拶は省略させていただく。
一体これはどういう事態なのかを説明いただきたい。
何故わが弟子があのような役を演じることになってしまったのだ?
合わぬ仕事を断るのも支配人の仕事だろう。

そもそも作品もよくない。
原作は有名だが、改変が過ぎて失敗必至といわれている作品であるのに、
あの役!何故あの役なのだ。

大体役名がよくない。
ああ、確かにかの名前自体は人名ではある。
しかし今日ではあの名前から連想されるのは運動着、
それも大腿から足首までの素肌を晒すあのはしたない履物ではないか!
確かにわが弟子の若々しくかつ優しい曲線を併せ持つ脚は魅力的部分ではある。
ストッキングに包まれている状態も艶かしいが、そっと脱がした際その下から現れた
素肌の滑らかさ、清らかさは触れるのを躊躇わせるほどだ。
しかしそれを軽薄かつ淫らな大衆の視線に晒すなど、許せることではない!
仮にそれが衣装ではないとしても、そのような不埒な連想をさせる役名は
不適切だと言わざるを得ない。

さらに、本人に尋ねたところ「水色のウィッグを着けて、
マーシャルアーツの訓練をしている」そうではないか。
とんでもない色であの美しい巻き毛を隠す事も罪だが、マーシャルアーツ!マーシャツアーツとは!
あれがそんなものを身に着けてしまっては、仮に墓場で誘い込みに成功したとして
その後どうやってあんなことやこんなことを仕掛けたらよいのだ?
背後を取った瞬間腕を捻られ投げられるドン・ファンなど、誰が見たいというのか!
…ではなく、アレだ、ほら、万が一訓練中に怪我でもしたら大変なことになる。

一刻も早くあのとんでもない役からわが弟子を救い出すのだ!
さもないとシャンデリアが落ちる以上の怖ろしい災いがオペラ座を襲うであろう!
我が言葉を真に受けないと後が怖いぞ!

それでは、あなたの忠実な僕
O.G.
183名無しさん@ピンキー:2008/01/28(月) 23:59:29 ID:TZLQ6u6L
P.T.O.

危うく>181の心遣いを無にするところであった。

私自身は甘いものを好まぬが、我が弟子は好いているので
届けられたチョコレートは地下においておくこととしている。
とはいえ、オペラ座に届けられる私宛の大量のチョコレートを
わざわざ運んでいただくのも忍びない。
よって水の入らぬよう密封し、地下道の途中にある穴へと落としていただければ結構だ。
穴の場所はパトロンの子爵がご存知だ。ああ、よーくご存知だとも。
184名無しさん@ピンキー:2008/01/30(水) 01:43:07 ID:4JX1ov6S
O.G様最高。
何のことかと思えば、ああ、あの映画化か。
たしかにクリスたんからはかけ離れてるもんね。
時々こういうステキな小話?が投下されるから、大好きだこのスレ。
185名無しさん@ピンキー:2008/01/30(水) 12:28:18 ID:yTRCno5y
保守age
186名無しさん@ピンキー:2008/01/30(水) 16:11:00 ID:iEcc2XEj
>背後を取った瞬間腕を捻られ投げられるドン・ファンなど、

見たいですマスター!!!
187名無しさん@ピンキー:2008/02/03(日) 22:58:52 ID:6DEVlzKf
ほっしゅーー
188名無しさん@ピンキー:2008/02/05(火) 22:30:08 ID:WDS5FPO2
まとめサイトを読んできた。
去年の8月10日に投下してくれた天使さまの、「エロのない後日談」
ってのはまだなのかな。狂気じみたマスターも好きだ。
189名無しさん@ピンキー:2008/02/11(月) 00:46:37 ID:93ACNHkH
hosu
190名無しさん@ピンキー:2008/02/11(月) 01:39:14 ID:kKP9UOJ0
投下ないなあ。
寂しいよマスター。
191名無しさん@ピンキー:2008/02/12(火) 22:53:02 ID:rZfEsXd2
天使様降臨期待あげ
192名無しさん@ピンキー:2008/02/13(水) 01:50:08 ID:5cNgcynL
>>182マスターのお手紙が面白かったので続きを作ってみました。
初なんで、いろいろすみません。

エロなしギャグ、ファントム(ヘタレ風味)×クリス




この頃のマスターはなんだか不機嫌。
歌のレッスンはちゃんとしているし、おかげでCDも出しちゃったりして
もうカルロッタなんて目じゃないくらいになったのに。
オペラ座を出ることが多いのがご心配なの?と尋ねたことはあったけれど、
マスターは静かに首を振ったわ。君が活躍することに何の不満があろうか、って。
……あの、綺麗な緑色の瞳が少し寂しげに翳ったのを見てしまったけれど。
だからこそ、マスターの教えをまもり、どんなに忙しくてもマスターのいる
オペラ座に私は帰ってくるのだわ。あのお声が聞きたくて、私は戻るの。
あの憧れに満ちた瞳に見詰められたくて、私は彼の元に戻るの。
でも、最近はあの美しい夜の調べを歌ってくださらない。
私とのデュエットもさりげなくお避けになる。
どうしてなのかしら。
私は歌手としてだけでなく、女優として映画にも出ているわ。
でも、マスターがそれをお怒りになったことはなかった。
いつだって私を褒めてくださった。

いつまでもこんな関係はイヤだわ。
何にご不満なのか、きちんと教えて頂かなくては。

193192:2008/02/13(水) 01:51:15 ID:5cNgcynL
「私が不機嫌だって?そう見えるかね、クリスティーヌ?」
「ええ、最近のマスター……冷たいわ」
上目遣いに見上げると、マスターはとても悲しそうな顔をなさった。
こういう仕草をしてみせると、マスターは怒りの矛先を私に向けることが出来ずに
困ってしまわれるのを私はよく知っている。
マスターは暫く音楽の玉座の周りをぐるぐる歩き、立ち止まり、意を決したように
オルガンの裏手から広告のようなものを手に取ってこられた。
「これが何かわかるかね、クリスティーヌ」
「……ブルマー、ですわ」
「東の果ての国では子供の体操着として使用されていると聞く」
「ええ」
「…さて、君の次回の出演作と役はなんだったかね?」
「ドラゴンボールの、ブルマ、ですわ、マスター」
その瞬間マスターは手に持っていた広告を思い切り引き裂いた。
私は固唾をのんで彼の発言を待つしかない。
「ブルマ、だと!ブルマ!私の可愛い弟子が、最果ての国の体操着とは!
クリスティーヌ、恥を知らないのかね!何故君が体操着の役をやらねばならんのだ!」
「待ってマスター、ブルマといえど体操着では」
「教えておこう、我が弟子よ。ブルマというもの、単なる体操着ではない。不埒な趣味を持つ男共が
大金を払って手に入れたがるような代物なのだ。歪んだ性欲の対象なのだぞ」
「幼女趣味、ロリータ、変態、そんな殿方の?」
「おおおクリスティーヌ!唇が汚れる!そんな言葉を口にしてはならない!」
「私のおそばに、そんな方がいらっしゃったような気がしたものですから」
「誰だそれは!あの脳天気な子爵どののことかね?それともあの支」
「いいえもっと側に」
「なんてことだ、あとでその不届き者の目を潰してくれる。わかったかね、そんな
歪んだ欲望の対象を演じることは不要だ、断ってきなさい」
「いいえ、だって可愛くて頭の良い女の子の役名ですもの。とっても人気のある娘なの。
ほら、これがドラゴンボールのブルマ。可愛いでしょう?私が演じれば、もっと
可愛いと思いますわ」
「な、なんだこの低俗な書物は。品性も教養も感じられぬ」
「ジャパンのコミックです。みんな一度ははまるわ。マスターにも貸して差し上げます」
「むぅ……」
「今、マーシャルアーツで身体を絞っているの。私もかつてのマスターのように
割れた腹筋が出来るとよいのだけど。それに、多分胸が大きくなるんじゃないかって」
「確かにこのブルマ、胸が」
「マスター!貧乳の方が好きだと仰ったのは嘘なの?」
「待ちなさい、愛しい弟子よ。それは君が胸が大きくなるのを望んでいるようだからそちらに目が
いっただけだ!胸などどうでもよい、それよりも武道を極めるなどと野蛮なことはよしなさい。
やはり私はその、破廉恥な役には反対だ」
「私はあの水色のウィッグもお衣装も好きなのに……」
私はマスターに背を向け、肩を振るわせた。マスターは私のことをよくご存知だけど、
私だってマスターの弱点はよーく心得てるつもりなの。

194192:2008/02/13(水) 01:53:22 ID:5cNgcynL
「ク、クリスティーヌ…私は君のためを思って……」
「どうしてもダメなの?マスター…」
「私の美学にはそぐわない」
マスターはそっと私の背後から寄り添い、肩を抱いた。
マスターの大きな手のぬくもりが愛おしい。
「クリスティーヌ、君はもっと役を選べる俳優なのだ。どうか思い直しておくれ」
やがてその手が私の首筋を優しく撫で、指が私の髪の毛を絡め取る。
普段は野良猫のように警戒心の塊のような方だけど、このときばかりは隙だらけ。
「トアァッ!!」
私はすっとかがむと前のめりになったマスターの左腕を取り、気合を込めて
マスターを投げ飛ばした。マスターの計算し尽くされた優雅な黒いマントが
美しい弧を描く。
ずん、と地響きがし、マスターの長身が地に倒れた。
そのまま私はマスターの右腕をすくいあげると4の字固めを決めた。
スタイルを整えるつもりがすっかり格闘技にはまってしまい、最近習得した有名な技が
見事に決まり私はとっても嬉しかった。
「クリスティーヌ!!!なんの真似だ!うっ、い、痛い!!はなせクリスティーヌ!」
「お願い、マスター、私が映画に出るのを認めて頂戴。きっとマスターが
喜んでくださるようなブルマを演じてみせるから」
「そ、そんなブルマ姿は私の前だけ…いや、いや、せ、せめて名前だけでも
変えてもらうのだ」
「ダメよマスター。それではドラゴンボールではなくなってしまいます。
お願いよ、いつものように頑張る私を見守って、導いて」
「いいや処女のお前がやたら肌を露出するのは私は嫌だ!「ブルマGJwwww」
などと揶揄されるのも嫌だ、クリスティーヌ、お前はクリスティーヌなのだから」
「マスター…私は女優なの。大丈夫、オペラ座ではいつだってあなたのクリスティーヌよ」
私はそっと小さな自分の胸の膨らみにマスターの指先を押しつけた。
さらに、太腿をマスターの腕にきつくからみつけた。次第にマスターの頬が上気してゆく。
決して苦痛の為ではない。
「わかったよ、クリスティーヌ……」
もうマスターはお小言を言わない。いつものお優しいマスターに戻ってくださった。
私はマスターが大好き。
だから、認めてくださったマスターにそっと、耳打ちした。

「今度はブルマ姿でレッスンを受けますわ、マスター」
そして、「ぱふぱふ」もしてさしあげよう。きっとマスターは喜んでくださるわね。


195192:2008/02/13(水) 01:56:04 ID:5cNgcynL
以上です。
182マスターごめんなさい〜〜荒縄ロープ待ってます。
天使様でもなくてごめんなさい。
196名無しさん@ピンキー:2008/02/13(水) 11:04:51 ID:xDlP/Wv4
これは?携帯だけだけど
ttp://courseagain.com
197名無しさん@ピンキー:2008/02/13(水) 20:51:12 ID:1nfXK+ie
>192
GJお疲れ!
>かつてのマスターのように割れた腹筋が

なつかしいwブートキャンプスパルタァ!で
腹筋が割れた時期もありましたね。
ていうか今お腹はブルンブル(ry

それはともかく、ブルマってもともと
米国の女性運動家ブルーマーという人の
名前が発祥だから、
あちらでは別になんでもない名前かなぁとも思ったりして。
198名無しさん@ピンキー:2008/02/13(水) 23:56:53 ID:ABpqhWEA
ぱふぱふwww
素人童貞(多分)純情中年の先生に
そんなことしたら、倒れるぞw
199名無しさん@ピンキー:2008/02/14(木) 22:01:42 ID:8c0jgrOe
GJwww
マスター、地がオタクだから、意外とドラゴンボールにはまってそうだな。
彼なら根性でシェンロン召喚できそうだw
200名無しさん@ピンキー:2008/02/14(木) 22:46:40 ID:mmnmqY1z
ブルマGJwwww
201名無しさん@ピンキー:2008/02/21(木) 00:07:31 ID:29J14/va
保守
202名無しさん@ピンキー:2008/02/28(木) 04:57:50 ID:U8/EYfIp
寂しいなあ・・・
203名無しさん@ピンキー:2008/02/28(木) 15:54:47 ID:2zCu31yJ
女性の身体を洗い、マッサージをする仕事になります。
射精の瞬間を見たいという要望も多数あります。
[email protected]
204名無しさん@ピンキー:2008/02/29(金) 00:17:20 ID:RP7sM6sh
業者書き込みでさえネタに出来るよ。意味深だなあ。
205名無しさん@ピンキー:2008/03/03(月) 23:37:51 ID:0YkBqBCE
そうですね、あの方ならそのお仕事に適性はおありでしょうね。

ほぼ初対面の少女に不信感を抱かせず、全身をさわさわする掌テクニック。

ぴったぴたの衣装の数々から伺える己の肉体への自信は、
その瞬間を凝視されてもいささかも揺るぐことはないと思われます。
206名無しさん@ピンキー:2008/03/08(土) 00:03:31 ID:yj1PSDGk
「要望」が「多数」ってとこも気になるが
207名無しさん@ピンキー:2008/03/08(土) 01:45:53 ID:nEW8+9W2
「だって、ねぇ?」
「そうよ、あのクリスティーヌが…」
「天使様〜とか言ってたあの子が、毎晩抜け出して会いに行くほどなんでしょ?」
「レッスン?口実に決まってるじゃない」
「え?じゃあそういう口実で毎晩2人っきりで…」
「見たでしょ?あなたも、マスカレードのとき」
「見た!見たわ!すっごいイイ身体してた!」
「あの腕とか胸とか太腿とか!」
「あの子もあんなに周りに人がいて、しかも彼氏が一緒だったのにフラフラ近づいていってたし」
「オペラ座の怪人って、もう分かってるのにね」
「よっぽどね」
「よっぽどなのね」
「凄いのよ、きっと」
「それはもう、激しいんだと思うわ」
「…見たいわよねぇ」
「見た〜い!」
「見たい!」
208名無しさん@ピンキー:2008/03/08(土) 08:02:17 ID:ZpwdOvRl
ああ、つまりここの住人のことか。
209名無しさん@ピンキー:2008/03/08(土) 08:04:02 ID:QIURjXp7
【中国】スター三人、無修正写真流出「セックス?スキャンダル」

02-09?冠希裸照事件2月7号最新?[?思慧]-37P-
http://av.idol-photo.com/page97.php?tid=13/2008-2-9/63187_2.shtml
http://av.idol-photo.com/page97.php?tid=13/2008-2-9/63187_1.shtml
http://av.idol-photo.com/page97.php?tid=/13/2008-2-9/63187.shtml

02-09?冠希裸照事件2月7号最新?[梁雨恩]-40P-
http://av.idol-photo.com/page97.php?tid=13/2008-2-9/63186_2.shtml

02-09?冠希裸照事件2月7号最新?[??思]-10P-
http://av.idol-photo.com/page97.php?tid=/13/2008-2-9/63185.shtml
210名無しさん@ピンキー:2008/03/11(火) 23:15:02 ID:9gHBIRXT
いつの間にかこのスレも丸3年続いているんだなあ
天使様いつもありがとう
211名無しさん@ピンキー:2008/03/12(水) 18:36:11 ID:AsCsQOrk
んだんだ
天使様ありがとう
212名無しさん@ピンキー:2008/03/14(金) 23:52:21 ID:VSwbqzHH
マスター、クリスにホワイトデーはどんなお返しを?
213名無しさん@ピンキー:2008/03/15(土) 00:08:54 ID:amDoK4fb
そもそもバレンタインに何も貰ってませんが、何か。
214名無しさん@ピンキー:2008/03/15(土) 01:08:38 ID:YJaYxl0t
(´・ω・`)
215名無しさん@ピンキー:2008/03/15(土) 23:55:26 ID:Uf3N5D3c
昨日書き込もうと思ってたのに忘れていたです…

ホワイトデイ小ネタ
ファントム・クリスでエロ無し。
2161/2:2008/03/15(土) 23:56:00 ID:Uf3N5D3c
世俗の習慣に興味はないが、相手がクリスティーヌならば勝手が違う。

先日のバレンタインデイに、我が弟子は薔薇をかたどったチョコレートを贈ってくれた。
薔薇といえば我がシンボル、我が愛の魂。
わざわざその形のチョコレートを贈ってよこすその思いやり、その愛情!
「ラウルにも同じものを贈ったの」とか耳に挟んだような気がするが∩゚)д゚)ァーァー キコエナーイ

とにかくクリスティーヌは優しい娘なのだ。
それに比べてあの"親友"殿には恐れ入る。
髑髏形の(確かにそれも我が象徴といえなくもないが)チョコの額に
大きく輝く「義理」の文字…!まったく慎みというものを
母親の腹に置き忘れてきたのかと嘆息したが、その母親が
チョコレート運搬係として眼前にいたので、その思いは口に出さないこととした。

さて、そうこうしているうちにホワイトデイが近づいてくる。
心尽くしのチョコレートの礼に、私も我が最愛のものを象ったお返しを送らねばならない。
そう、我が最愛の等身大クリスティーヌマシュマロを!
…ホワイトチョコレートは考えないでもなかったが、チョコはやはり刺激物、油脂分やカロリーも心配だ。
その点マシュマロならばコラーゲンも豊富で肌にもよい、が難点はやはりある。
"型"である。

チョコレートならば削りだして作ることも可能だが、マシュマロではそうも行かない。
型に流し込むことが必要だし、そもそも型が必要だ。
勿論粘土などで塑像を作り方を形成することは容易い。
が、愛しい天使に贈るのだ、やはりここは完璧を期したい。
そこでだ、実物から型を取るのだ。つまり、私のクリスティーヌから。

その意図を話せば、優しい我が弟子ならば快く頷いてくれるだろう。
地下に招き、用意したぴったりした衣服を身につけ、誂えた寝台に寝てもらう。
特性の石膏を流し込み固まるまでのその間、傍に付きっ切りで世話をする。
お前が望むならば、いつまででも隣で歌い続けよう…!
2172/2:2008/03/15(土) 23:56:32 ID:Uf3N5D3c
しかしどんなに準備をしていても、アクシデントの可能性は常にある。
例えば何かの拍子に寝室との間を仕切るカーテンが突然上がってしまうかもしれない。
もしかすると着替えの途中だったクリスティーヌは衣服を取り去ったばかり、
という嬉…とんでもない事態になってしまうことだってあるだろう。
一糸纏わぬ姿で私の眼前にその身を晒したクリスティーヌは、羞恥のあまり動けなくなってしまうだろう。
その繊細な睫に、涙を浮かべるかもしれない。

しかしクリスティーヌ、なんら恥じることなどないのだ。
裸は恥ずかしいものではない。むしろお前のその肌そのラインは美の極致、
我が総ての芸術の源泉といってもいい存在なのだ。
だが慎ましい我がクリスティーヌは、言葉で言ったとて納得はしないだろう。
そこでだ、私がわが身を持ってそれを証明しよう。
私も衣服と秩序の頚を捨て、クリスティーヌと同じく一糸纏わぬ姿になるのだ。

自慢ではないが地下と地上の往復で日夜鍛えたこの肉体、
屋上での日光浴も欠かしておらず、十分若い娘の鑑賞に堪えるはずだ。
純粋なかの娘とて、うっとりと見つめるだろう。
「分かったか?クリスティーヌ…裸は恥ずかしいものではないのだよ」
「はい、天使様…」
「お前のこの柔らかな肌…どんなマシュマロもかなわない…」
触れるか触れないか程度で触ってみる→拒否されなければもっと触る。
かつて初めて我が地下の宮殿に招いたとき、クリスティーヌを忘我の境地へ導いた
歌声と愛撫で(今度はじかに触るので効果も倍増だ)そっと横たえ、
「私に触れ、感じておくれ」とクリスティーヌの手を私の身体に導けば
あとはもう夜の音楽の偉大なパワーの前に屈するしかないのだ…!

どうだね?この計画は。理想的だろう?
それでは早速クリスティーヌを招く手紙を渡してくるとしよう!
218名無しさん@ピンキー:2008/03/16(日) 00:20:41 ID:v9Uihb/O
ちょwwwwっうぇうぇっっうぇwww
マスター、音楽の偉大なパワーをそんなことに使っちゃ…w
久しぶりに楽しませていただきました、天使様♪
219名無しさん@ピンキー:2008/03/16(日) 00:55:35 ID:NQamJcnK
マスター面白すぎwww
「等身大クリスティーヌマシュマロ」ってなんかかわいいし。フワフワダロウナ
目的はやっぱりそこか!っていう、本筋からズレていくマスターが最高です。
220名無しさん@ピンキー:2008/03/16(日) 02:42:21 ID:9KAYWF04
アーアーキコエナイがしっかりマスクかぶってるしw天使様仕事細かい!
メグたんからももらっていたのか
なんだかんだいったって幸せそうマスター
221名無しさん@ピンキー:2008/03/16(日) 15:36:31 ID:XGtQvDLv
馬鹿担当はやっぱバトさんなのね・・・w
222名無しさん@ピンキー:2008/03/24(月) 00:50:37 ID:UyrI6b2w
パトラッシュ、疲れたろう。僕も疲れたんだ…
   ,.-─-、 ←
   / /_wゝ-∠l
   ヾ___ノ,. - >
   /|/(ヽY__ノミ
  .{   rイ  ノ

何だかとても眠いんだ…パトラ………誰だよお前。
   ,.-─-、
   / /_wゝ-∠l
   ヾ___ノ´・ω・`)
   /|/(ヽ __ノミ
  .{   rイ  ノ
223名無しさん@ピンキー:2008/03/24(月) 18:43:31 ID:KnzV/I83
>>222
ぬこ可愛い
224名無しさん@ピンキー:2008/03/25(火) 00:24:10 ID:yF9O3aVd
>>222
ほんと誰だよお前w
225名無しさん@ピンキー:2008/03/26(水) 23:55:23 ID:XAKCZHtB
 _, ,_
( ゜ノゝ゜)  ミ ∠l
と   つ(´・ω・`)
    ノ
ぬこコスでクリスもメロメロ
226名無しさん@ピンキー:2008/03/27(木) 00:09:23 ID:iImUQDmx
バトラー ッシュ・・・
227名無しさん@ピンキー:2008/03/31(月) 19:31:21 ID:BZlXpb6r
パトラッシュ、疲れたろう。僕も疲れたんだ…
   ,.-─-、
   / /_wゝ-∠l
   ヾ___ノ,. - >
   /|/(ヽY__ノミ
  .{   rイ  ノ

何だかとても眠いんだ…パトラ………誰だよお前。
   ,.-─-、
   / /_wゝ-∠l
   ヾ___ノ∀´ .:;>
   /|/(ヽ __ノミ
  .{   rイ  ノ

お前パトラッシュ食っただろ。
   ,.-─-、
   / /_wゝ-∠l
   ヾ___ノД´ .:;> 
   /|/(ヽ __ノミ
  .{   rイ  ノ
228名無しさん@ピンキー:2008/03/31(月) 23:48:47 ID:bTnrpX4/
カワユス

あーあ、SS読みたいなー
229名無しさん@ピンキー:2008/04/01(火) 00:48:03 ID:OO+mve1x
今日はあの日

クリスティーヌが嫌いって言っちゃう話マダー?
230名無しさん@ピンキー:2008/04/01(火) 23:53:29 ID:qwF8c0mq
それでは日付ネタ、投下します。
マンハッタンなアレを未読の方は、スルーされた方がいいかもしれません。
231名無しさん@ピンキー:2008/04/01(火) 23:56:21 ID:qwF8c0mq
書き忘れました。
エロなし、ネタです。
232本日のお話 1/4:2008/04/01(火) 23:57:10 ID:qwF8c0mq
マスター、今日どうしても、お話ししておきたいことがあるの。
ずっと隠していたのだけど……もう限界。
お願いマスター、どうか驚かないで聞いてくださいね。

実は私、本当は……クリスティーヌ・ダーエじゃないんです。
未来からやってきた、クリスティーヌの孫なんです。

信じられないのも、無理のないことですわ。
この時代に、タイムマシンなんてなかったんですものね。でも本当のことなんです。
そっくりでしょう、私。クリスティーヌおばあさまに。
私は写真でしか見たことはないけれど、お父さまがよく言うの。
「お前は、年々おばあさまに似てくるね」って。

え……? お父さま……?
私のお父さまは、ピエールという名前よ。ピエール・ド・シャニー。

ああ! マスター、どうなさったの!?
そんなに落胆なさらないで。お願い……ね、お顔を上げてください。

そう、分かっていますわ。「シャニー」という名字を聞いて、ショックを受けられたのでしょう?
大丈夫、最後まで私の話を聞いてくださいまし。
2331/2:2008/04/02(水) 00:00:11 ID:iwfSA/7T
「クリスティーヌ…いつもの様に、愛しているといってくれないか?」
固く膨れ上がった肉の剣を、少女の奥深くに突きたてながら、男は耳元でそう囁いた。
「い、や…」
厚いため息をつき、蕩けてしまいそうな目で、少女はしか頭を振った。
「愛してなんか、ないんだから」
「何?」
訝しげなファントムの耳元に今度はクリスティーヌが顔を寄せるようにして囁く。
「今日は嘘をついてもいい日なのよ」
柔らかい唇で男の耳朶をそっと吸いながら、言葉を続ける。
「だから、あなたなんて、好きじゃないの」
「そうか」
得心したように頷き、男はゆっくりと腰を遣い始めた。
「あ…!」
「おまえは、こうされるのが、好きだと思っていたが?」
大きく開いた脚を押さえつけ、最奥まで突きこみ、じらすようにゆっくりと引き抜く。
「やぁ、あ、あぁっ!」
「やはり、好きなのではないか」
総てを浚ってゆきそうな官能の波を逃そうと、クリスティーヌはシーツの上で身をくねらせた。
紅い絹地が複雑な模様を描く。
「ん、違…好きじゃない…全然、好きじゃ、ないもの…っ!」
喘ぎの合間に言葉を零し、波打つ男の背に腕を回す。
「…そんなに、好きじゃないのか?」
男の動きが早まってゆく。
「嫌い、嫌い嫌い嫌い…!…!!」
ついに耐えがたい波に飲まれ、無言の叫びと共にクリスティーヌは全身で男にしがみついた。
234本日のお話 2/4:2008/04/02(水) 00:01:51 ID:alFtX9mu
シャニー……そう、紛れもなく、あのラウル・ド・シャニーの、名字ですわ……。
私も彼にお会いしました。ええ今日も、誰に気兼ねする様子もなく、堂々と5番ボックス席にお座りでした。
ああ、待って、待ってください!
そんな風に縄を握り締めたりしないで……ね、どうか落ち着いて私の話を聞いて、マスター。

確かに素敵な紳士でしたわ。彼女が心惹かれたのも無理はないと思いました。
でも、でも……
彼は、絶対に人には言えない秘密を持っているのです。

その秘密を知っているのは、私と……マダム・ジリーだけ。
……え? いいえ、違います。幼馴染みというのは本当です。
そんな簡単なことではないの。もっと深刻な……。

彼は、ラウル・ド・シャニー子爵は……
幼少の頃の事故が元で、去s……その……子を成せない身体になってしまったのです。

マ、マスター!! いけませんわ、そんな`;:゙;`(;゚;ж;゚; )なんてお顔をなさっては!
私だって、私だって、シャニー子爵に初めてお目にかかった時、つい……あそこを……見てしまいましたけど……
とにかく、これでお分かりでしょう?
ピエール・ド・シャニーは、シャニー子爵の……本当の息子ではないのです。

いいえ、確かにクリスティーヌの息子ですわ。
そう、父親は他にいるのです。
235233:2008/04/02(水) 00:01:56 ID:4qY8hnSh
↑ごめんなさい。
リロードミスりました。
236本日のお話 3/4:2008/04/02(水) 00:04:23 ID:alFtX9mu
それはそうと、マスター。
マスターは、ご自分の将来がどうなっているか、興味がおありでしょう?
まさかこの地下で、一生を終えようなんて……えっ、本気で思っていらっしゃるの?
残念ですけれど、その予想は外れますわ。

このオペラ座は、近い将来、火事に見舞われます。
当然、火をつけるのはマスター、あなたですわ。
ご自身が怒りっぽい性格だってことは、よくご承知のはずです。

そしてあなたは、この地下から逃れます。そう、あの鏡を叩き割って……
行儀よくまじめなんて 出来やしなかったのでしょう。

難を逃れたあなたは、アメリカ、ニューヨーク市のコニーアイランドに落ちのびます。
元々才能をお持ちのあなたは、表舞台にこそ姿を現さないものの、アメリカの経済社会に君臨し、巨万の富を手にします。
2万フラン? そんなレベルじゃありませんわ。
もうオペラ座の支配人に手紙を書いて、ちまちまと脅迫していたあなたじゃありません。
アメリカ社会全体が、あなたの言いなりになるのです。

嘘みたいでしょう?
でも全部、未来の真実なんです。

ああ、マスター。さっきから何だか上の空でいらっしゃるわね。
ピエールの本当の父親が誰か、気になっていらっしゃるのね。
237本日のお話 4/4:2008/04/02(水) 00:05:16 ID:alFtX9mu
マスター、マスター……!
本当はもう、薄々勘付いていらっしゃるくせに……。

そう、クリスティーヌのお腹に宿っていたのは、紛れもない、あなたの子どもなのよ!
だから、私とあなたは今夜、結ばれなくてはならないのです。

えっ? 孫となんかできないって?
いやですわ、マスター!! あんなお話、本気で信用なさったの?

私は、未来から来たクリスティーヌの孫ですよって?
あなたがアメリカへ渡って、大金持ちになるって?

ああ可笑しい! そんな何かの続編みたいなお話、あり得ないわ!
マスターったら……意外と純真なところがおありなのね。ふふ、可愛い……。

ねぇマスター、今日が何の日か、ご存知でしょう?
ほら、日付をご覧になって……




……あれ?
238230:2008/04/02(水) 00:08:10 ID:alFtX9mu
以上です。失礼いたしました。

>>235
こちらこそ、せっかくの素敵なエロを台無しにしてしまって、申し訳ないです。
しかも229サンのご要望にはお応えできませんでした…なんかもういろいろすみません。
239233:2008/04/02(水) 01:00:21 ID:3xtKNyDb
>>230 2度も中断してしまい、重ねて失礼致しました。
おそらく同じタイミングを狙っていたと思われますが、
こちらは初手から失敗し(ry

注意書き部分もミスでおとしてしまいました。
申し訳ありません。
改めまして、ファントム×クリス
既にそういう関係、4/1ネタです。
240233 2/2:2008/04/02(水) 01:02:08 ID:3xtKNyDb
「そんなに私が嫌いだったとは」
重ねた身体の鼓動が穏やかになって暫く後、男はゆっくりと口を開いた。
「嫌いよ」
その胸元に潜りこむように頬を寄せたまま、クリスティーヌは微笑む。
「嫌い…とっても、いっぱい、ものすごく…大っ嫌い」
「そうか」
歌うような声に少し目を細めて、男は唇の端を上げた。
「それは残念だ。私はお前を何にも代えがたく愛しているのに」
「!」
一瞬目を見開き、クリスティーヌはがばっと半身を起こした。
寝台から伸び上がり身を乗り出し、壁にかけられた時計を確認する。
「…ズルいわ!」
「ズルい?」
「知ってらっしゃって、わざとお聞きになったのね?」
「何のことだ」
そ知らぬ風で、でも瞳には面白そうな光を浮かべてファントムはクリスティーヌを見つめた。
「私はただ、お前が私のことをどう思っているのか聞きたかっただけだが?」
「私だってあなたのこと…」
「大っ嫌い、なのだろう?」
「…もう!意地悪!」
食って掛かる恋人の両手首を柔らかく掴んで、手首にくちづける。
「それは、だって、さっきまで昨日だったから…!」
柔らかい肌を唇で食むように吸い、ちろりと舌を這わせる。
クリスティーヌの目元にふっと赤みがさした。
「…だって」
「嫌いならば、好きにさせる努力はしなければ」
手首を握ったまま身体を入れ替え、少女を再びシーツに押し付ける。
「…ほんとに嫌いになっちゃうんだから…」
「つまらぬことを言う口だ」
そのまま唇に唇を重ねゆっくりと吸い上げる。
「まだ嫌いかね?」
「…まだ嫌い…」
紅く染まった顔で頬を膨らませる。
唇をその頬から首筋に滑らせ、逸らされた首の曲線を舌で辿る。
「まだか?」
「…まだよ」
「成程、ではこれではどうかな?」
すっと掌で鎖骨から膨らみ始めた胸元の辺りまで辿る。
「…先は長そうだ」
再び潤み始めた瞳ににやりと唇をゆがめ、ファントムはクリスティーヌの夜着の襟元を押し広げた。
241名無しさん@ピンキー:2008/04/02(水) 23:45:13 ID:V/kD2h8l
わーいダブル天使様御降臨!
ギャグとエロを交互に読めるなんてスゴス
本日の話の天使様まさかそのオチで来るとは!天使様のSS読んだら舞台の続編も楽しみになってきました。
エロの天使様もGJでした!嫌い嫌いも好きのうちだね幸せマスター
242名無しさん@ピンキー:2008/04/03(木) 20:36:11 ID:xcVaZ6h1
天使さまありがとう。
どっちの話もニマニマでした。ギャグのほうは、マスターがかわいいし、
エロのほうは、クリスがかわいいし!
久々にエイプリルフールを楽しめたよ、笑

>ファントムはクリスティーヌの夜着の襟元を押し広げた

の続きも読みたいよーーー。
243名無しさん@ピンキー:2008/04/03(木) 20:37:28 ID:xcVaZ6h1
笑、とか書いちゃったよ。はずかしい。
244名無しさん@ピンキー:2008/04/05(土) 14:22:32 ID:GqgrQp2v
天使様GJ!!

両方とも楽しませて頂きました(・∀・)
245名無しさん@ピンキー:2008/04/06(日) 19:09:11 ID:va4SdW7O
GJ!!ニタニタしてるうち 本編見たくなって
ヒサシブリに DVD引っ張り出してみました。
天使さまありがとう!!
246名無しさん@ピンキー:2008/04/16(水) 12:42:41 ID:cDNhsHQS
ほす
247名無しさん@ピンキー:2008/04/16(水) 18:28:05 ID:uOfCVeSU
天使さまカモン
248名無しさん@ピンキー:2008/04/26(土) 02:02:52 ID:YPxO171V
ほす
249名無しさん@ピンキー:2008/04/28(月) 18:06:38 ID:YjlpoHGK
だれか天使さま起こしてみて
250名無しさん@ピンキー:2008/05/01(木) 21:00:45 ID:phWoo21Q
エイプリルフール以来、投下なしですな。
ゴールデンウィークは天使さま方はお休みかな
251名無しさん@ピンキー:2008/05/04(日) 20:56:07 ID:+P72XNWW
天使様たちのサイトの更新も止まってるね
252名無しさん@ピンキー:2008/05/04(日) 23:14:30 ID:eKMK+aiB
スレチを承知で、天使様待ちのネタに。
オペラ座に2chがあったら、どんなスレとかレスがあるか考えてみようぜ
253名無しさん@ピンキー:2008/05/05(月) 00:34:13 ID:ZQ9FlorZ
裏サイトなんかあったら支配人の事はボロクソ悪口書かれてるんだろうな
254名無しさん@ピンキー:2008/05/05(月) 02:11:59 ID:nEwzWbji
PINK板もあるだろう
【師弟】怪人×歌姫【エンジェル】
もちろん立てたのは先生。
255名無しさん@ピンキー:2008/05/05(月) 11:06:36 ID:ADiZPWNe
カーラとのエログロか……奥が深いな。
256名無しさん@ピンキー:2008/05/05(月) 16:46:03 ID:LcMb831G
エロはともかくグロってw
2は間違いなく"童貞乙w"だろうな
257名無しさん@ピンキー:2008/05/06(火) 04:10:28 ID:QJjUoEph
ひょんなことから知り合った美少女クリスティーヌに
一目ぼれしたヒキオタは怪人男というコテでスレッドを立てる。
しかしなかなかまっすぐに思いを伝えられない怪人男。
そんな中、御者を殴り倒して入れ替わった馬車で
クリスティーヌと2人っきりになるというハプニングが。
あせった怪人男は、携帯からスレに助けを求める。

拉致 どこか たのむ


「怪人男」、書籍化。
258名無しさん@ピンキー:2008/05/06(火) 07:57:54 ID:iOIH9Qxw
後の完全なる飼育である

>>256
というかカーラに罪はなく、怪人が絡めば必然的にグロになるでしょW
259名無しさん@ピンキー:2008/05/14(水) 19:59:41 ID:BOvXzv0x
ホシュ
260名無しさん@ピンキー:2008/05/14(水) 23:21:05 ID:Qpkm5x19
>258
リトル版ファントム乙
261名無しさん@ピンキー:2008/05/21(水) 17:32:05 ID:BJCk+fQV
このスレ保管庫あったんだな





そして若ファントム×ジリ―にうっかりすっ転んだ五月の日
ちょっと原作読み直してくる
262名無しさん@ピンキー:2008/05/21(水) 22:37:03 ID:olBtERwj
だ、ダメ…!原作のジリーおばさんを読んじゃダメぇ!
263名無しさん@ピンキー:2008/05/22(木) 01:28:08 ID:4cQVkBXF
そこから逆に昔に思いを馳せるのが楽しいんじゃないか
264名無しさん@ピンキー:2008/05/24(土) 00:56:40 ID:ZrsyXuU+
>>261につられて、読んできたw
「ジル」って呼んじゃうマスターイイネ!
ほかにも、マダムとのSSってどれもいいなー。
265名無しさん@ピンキー:2008/05/24(土) 22:54:11 ID:HoDI7vHf
最近オペラ座はまったよ
まとめサイトも全部見たけど、みんなすごいね
いつか俺もここで天使様になるんだー
266名無しさん@ピンキー:2008/05/24(土) 23:56:29 ID:qe7QPR7M
楽しみに待ってるよ!
267名無しさん@ピンキー:2008/05/26(月) 18:13:28 ID:Gs0UKecf
マスター!今度はクリスティーヌがDBのブルマに扮するそうですね!
なぜこれを許したのか、一言コメントをお願いします!
268名無しさん@ピンキー:2008/05/27(火) 22:36:27 ID:F3b53jaA
脚本抜粋
「あーら 純情〜!つつくだけでいいのぉー!?ぱふぱふのほうがいいんじゃなぁい?」
『ぱ…ぱ…ぱふぱふ…?』
「オッパイとオッパイのあいだにおカオをはさんで…ぱふぱふ」

ブルマ、下着を着けていないことを忘れてスカートを捲り上げる



「クリスティーヌよ、今日の歌のレッスンはここまでだ。
残りの時間は演技の勉強だ。私が相手役になってやるから
ここで演じてみなさい。…いや、やはり声のみを相手に
リアルな演技は難しかろう。すぐそちらに行くから待っていなさい」
269名無しさん@ピンキー:2008/06/03(火) 00:51:20 ID:X0tKXIR4
マ、マスター・・・
270名無しさん@ピンキー:2008/06/04(水) 22:10:42 ID:VEFgD2m+
演劇板で見つけた



213 :名無しさん@公演中:2008/05/31(土) 05:47:29 ID:kX53mKzZ
オペラ座の怪人の続編話は進んで2009年の11月にWEでの開幕を目指してるらしいけど、
その名も「Phantom: Once Upon Another Time」というステキなタイトルで
「PhantomはNYのコニーアイランドへ、マダム・ジリーとメグと共に行き、
クリスティンの為にマンハッタンでコンサートを開く。
クリスティンは夫ラウルと彼らの十代の息子、まさしくPhantomのような音楽の天才のと
アメリカへ旅をする。」というイカス内容変わらず。

http://www.playbill.com/news/article/118218.html
271名無しさん@ピンキー:2008/06/04(水) 23:59:44 ID:lXkSqKlz
え?マダムも一緒?メグも?
何だかそこに至るまでのマダム×先生×メグが
ドロドロありそうで気になる。
272名無しさん@ピンキー:2008/06/05(木) 00:20:59 ID:qBXZamOG
もはや昼メロの世界だよな……
273名無しさん@ピンキー:2008/06/06(金) 01:53:55 ID:1YAY28fU
↑先生に挽回のチャンス?
でも、先生は公式では幸せになってもらいたくな・・・おや机の上に見慣れぬ封筒が・・・
274名無しさん@ピンキー:2008/06/06(金) 03:17:17 ID:lGmOQ3t4
そんなのオペラ座じゃないやい〜
275名無しさん@ピンキー:2008/06/06(金) 17:35:35 ID:7ehl+kun
そういえばマンハッタンの方って結局挽回した事になってるのアレ?
あらすじだけしか知らないからよく解らんのだけど、多分それによると思う
276名無しさん@ピンキー:2008/06/08(日) 17:04:23 ID:H0Y+rxv8
何や知らんけど息子と幸せに暮らしてるし・・・
美しくはないけどちょっと救われた感はある
277名無しさん@ピンキー:2008/06/08(日) 17:30:13 ID:OaPb0Dsj
クリスからは愛されないけど救われた感はあるな
278名無しさん@ピンキー:2008/06/09(月) 04:22:44 ID:zFYnQQUR
ファントム×マダム前提で原作とマンハッタンの繋ぎの様な過去回想……というか原作出版直後のマダムと原作者の対談話を考えてみた


エロ無し・同作者の別作品キャラ登場(最初だけ)・ファントムが殆ど出てこない・色々捏造(その後のマダムとかメグの出生とか)と色々酷い事になりそうなんだが、最近天使様来ないから投下してもいいかな?
279名無しさん@ピンキー:2008/06/09(月) 09:10:52 ID:8uXW9hKs
>278
おもしろそう!
自分は読んでみたいな
280名無しさん@ピンキー:2008/06/09(月) 16:02:44 ID:7GJyfy7N
>>278
カモンカモン♪
281278:2008/06/09(月) 23:02:10 ID:zFYnQQUR
じゃあ取り敢えず冒頭のみ投下、改行ガタガタだったら御免


――――――――――――――――――――――――――――――


ジョゼフ・ルールタビーユ氏はその日、とある人物の代理としてガルニエ宮に降り立った。


『正午、ガルニエ宮の正面にて。目印には赤い薔薇を』

それが今日会う事になった人物について、彼が知りうる情報だった。
恐らく彼――数年前までは自分に対し、執拗にある事件の話をする様に求めた。
元同僚にして今や知らない人はいない程の有名作家――の事であるから、恐らくは次の小説の参考か。
あるいはつい先日までその全貌を明かす事に腐心していた、『ガルニエ宮の噂』に関係する誰かなのだろう。
とは言え代理人を立ててまで会いたがる人物とは、一体どの様な相手なのかと思いをめぐらせていたジョセフの目の前に。
一台の馬車が滑る様に停止した。

「お待たせしてしまったかしら」
目の前に降り立ったのは、赤い薔薇を胸に飾る女性だった。
「いえ、お気になさらずマダム。私はルルー氏の代理人です。
彼もまもなくこちらへ到着しますので、今暫し待っていただけますか?」
帽子を脱いで会釈すると、女性は少し驚いた表情をした後、ふと考える様な仕草をとる。
「……何か不都合でも?」
「ええ……実は一緒に来て頂こうと思っていたのだけれど……
仕方がないわ。此処を訪ねて貰える様、伝えて頂けないかしら?」
「構いませんよ」


女性の乗った馬車が再び動き出すのを見届けたのち、手渡された紙片に目を落とすと。
そこにはホテルの名前と、とある資産家の名前が書き込まれていた。
282名無しさん@ピンキー:2008/06/12(木) 13:42:02 ID:rA0g0R7z
  _  ∩
( ゚∀゚)彡 つーづーき!つーづーき!
 ⊂彡
283名無しさん@ピンキー:2008/06/19(木) 23:43:49 ID:loB2s4B6
天使さまカモンカモン
284名無しさん@ピンキー:2008/06/20(金) 07:00:19 ID:WMZUxkWu
本スレでああいう話をするよりは、天使さま待ちの間も
ここで萌え話で盛り上がった方が楽しいと思うんだ
285名無しさん@ピンキー:2008/06/20(金) 17:27:45 ID:t+imJtT5
>284
ドウイ
286名無しさん@ピンキー:2008/06/21(土) 00:07:40 ID:V2/za7XB
本スレ住み分けしてくれなくて
何度いっても話つづけてるの正直いわなくても辛い。
ものすごい痛いのでやめてほしい。
287名無しさん@ピンキー:2008/06/21(土) 09:37:51 ID:HpyheuE6
日本語でおk。だがエスパーしてみる。
何度言ってもって、ここしばらくの本スレの流れで1回注意が入ってるだけだし
今のスレだとその同じ1回だけじゃね?
新規住人が来てるかも知れないし、テンプレでエロパロには誘導してない。
中にはテレビやDVDで入って知らずに話してる新規住人もいると思う……。
288名無しさん@ピンキー:2008/06/22(日) 11:41:32 ID:nDnIzkLw
まあでもエロ話にはなるよな。実際映画はエロいもんw
別にオパーイ出てくるわけでもなく、
ちゅー以上もしないんだけどさ。
289名無しさん@ピンキー:2008/06/22(日) 23:22:28 ID:KInLUDhE
>288
そこがすごいよね。
直接的な描写は一切ないのに、あそこまでエロさが滲み出ているうえに
エロパロスレがここまで盛り上がっているという…
290名無しさん@ピンキー:2008/06/23(月) 23:35:31 ID:XVUMB6I3
もうウホの話はいいよ
291名無しさん@ピンキー:2008/06/23(月) 23:36:09 ID:XVUMB6I3
ごめん誤爆
292名無しさん@ピンキー:2008/06/30(月) 05:20:11 ID:F4vWR1Ft
保守
293名無しさん@ピンキー:2008/07/09(水) 00:20:59 ID:bhmtF/7y
さらに保守
294名無しさん@ピンキー:2008/07/16(水) 23:17:49 ID:Yedame8m
さらにさらに保守
つか、最近寂しいなあ。
295名無しさん@ピンキー:2008/07/26(土) 01:35:26 ID:pxM6M8Tj
ホシュがてら

続編話、マンハッタンどおりならば
既成事実が作られたのは、ドンファン後
ラウルが来るまでの間だよなぁ。
公開当時からファントムが着替えちゃってたり
クリスの髪が乱れまくってて話題になったが
296名無しさん@ピンキー:2008/07/27(日) 00:52:55 ID:STzdOD3Z
アミンタ服→脱がされる→既成事実→ウェディングドレスを着る
というとこだろうか
ドレス姿で現れたところでは髪が爆発状態だったしプンスカ怒ってたし
297名無しさん@ピンキー:2008/07/27(日) 18:33:54 ID:EGV3gni+
ドンファンでズラごと仮面を剥がされて、
仕返しにひんむいちゃったんだろうね。
おまえのしたことはこういうことと同じだ!と。
298名無しさん@ピンキー:2008/07/27(日) 23:50:46 ID:xb2ceL5g
>>296
>プンスカw
なんかかわいいな。
299名無しさん@ピンキー:2008/08/01(金) 10:16:22 ID:eg/2JANA
ひん剥かれてアレコレあった後がプンスカなら
先生以上にブチ切れてたんだろうなぁ、クリスw
300名無しさん@ピンキー:2008/08/02(土) 20:45:09 ID:M+4Wlrzi
ファンクリ甘々まだー?
301名無しさん@ピンキー:2008/08/12(火) 09:00:48 ID:jc5fd6W6
同じく、まだ?
302名無しさん@ピンキー:2008/08/12(火) 15:02:00 ID:9q1AJUpb
天使様はバカンスに出かけております。
303名無しさん@ピンキー:2008/08/14(木) 10:47:18 ID:2HjSh6h3
ファントム×クリス、ちょっとネタ寄り
既にそういう関係です
3041/3:2008/08/14(木) 10:47:41 ID:2HjSh6h3
繻子のように滑らかな肌。
普段は輝くように白いその肌は、重ねられた愛撫に色づき
薄く浮いた汗によってしっとりと艶めいている。
腰の柔らかな曲線を掌で撫でると、恋人は悲鳴のような嬌声を上げた。
「や、あっ…マスター…」
すすり泣くような声は、身体の中心の熱を揺さぶる。
「クリスティーヌ…もっと聞かせてくれ、お前の音色を…」
胸を包んでいた掌を、ゆっくりと下腹に移動させる。
髪と同じ色の小さな茂みを梳くように、指を戯れさせる。
私の手が動くたびに切なげな吐息を漏らしていたクリスティーヌは、
指先がぴったりと捩られた脚の間に入り込むと大きく身悶えた。
「だめ、だめぇ…!」
「違うだろう?お前はこんなに欲しがっているのに」
愛しい我が弟子のその秘すべき場所は、既に熱を持ち、潤んでいる。
「ああ、私…」
寄せられた眉、染まった頬、潤んだ瞳の中には紛れもない欲望
…ほんの一時前までは、慎ましく純粋だった娘が…女は、変るのだ。
「お前は私の、楽器だ」
そう、この指の、身体の思いのままに、甘い音色を奏でる。
「あっ」
両脚を左右に広げ、露になった肉の合わせ目に張り詰めた己の先端をあてがう。
「や、や、ああ…!」
徐々に入り込むにつれ、左右に振られる小さな頭を抱えるようにして耳元に囁く。
「歌ってくれ…私の可愛いヴァイオリン…」
「んん…ッ」
"私の"と囁いた瞬間、私を包み込む肉の内壁がく、と狭まる。
その小さな手が背に、可愛らしい足は蛇のように私の足に絡みつく。
丸いかかとが、腰を遣うたびに私の脹脛を何度も擦る。
3052/3:2008/08/14(木) 10:51:11 ID:2HjSh6h3
自分のものとは明らかに違う肌の感触を存分に楽しむ。
「さぁ、次は違う音色だ」
小さな欲望の尖りを指先で撫でながら、内部を擦るように突き上げる。これはコロラトゥーラ
「あぁ、あ、あ!」
繋がった部分から溢れる泉が、淫らな水音を立てながら腿までを濡らしてゆく。
甲高い悦びの声は鼓膜だけでなく、総ての感覚を震わせる。
そして、カデンツァ。
一際深い抽送に、濡れた唇からは意味を成さない叫びが零れる。
声はやがて擦れ、組み敷いた細い身体ががくがくと震える。
「マスター、マスター…!」
囁きと共に、背に爪が立てられる。
小さな痛みと共にクリスティーヌを襲っている波が自らの身体に流れ込むのを感じ、
急いで我が身をクリスティーヌから抜き取る。
そのままシーツに放つと、今だ荒く上下している身体を覆うように倒れこんだ。


「そのときラウルがそう言うから、私は"マスターは楽器なら何でも、
凄く上手に弾かれるのよ"って教えてあげましたの」
「そうか」
シーツに包まり楽しそうに話すクリスティーヌの
乱れて枕に広がる巻き毛を梳いてやりながら、私は内心眉を寄せる。
あのパトロンの若君は未だ幼馴染を諦めていないらしい。
「…でも、そのときマスターがいつもおっしゃることを思い出してしまって、恥ずかしかったの…」
「いつも言っていること?」
「あの、ほら…私のこと、楽器だって…おっしゃるから…」
ふわりと目元を薔薇色に染める。ざまを見ろシャニュイ子爵。
貴様いかに近づこうとも、我が弟子の可憐な唇から聞くことができるのは
私への思い…要するに、のろけだ。思わず唇が緩む。
「そう、お前が奏でるのはこの世で一番美しい音色だ…また別の歌を
聞かせてくれないか?夜は、長いのだから」
そっと顎に手を沿え、顔を近づける。しかしクリスティーヌはすいと
くちづけを避けて、半身を枕の上に起こした。
3063/3:2008/08/14(木) 10:59:16 ID:2HjSh6h3
「それで、ラウルはその後こう言いましたの。"それだけ上手に弾くのなら、
さぞかし練習したのだろうね"って」
ん?
「…そうだな、私には、時間だけはたっぷりあったから」
「ええ」
んん?いつもならこの手の話しになるとクリスティーヌは黙って私の手を取るか、
頭を抱き寄せてくれるかするのだが…何だか雰囲気が、おかしい。
「そうですわよね?練習、なさらないと上手になりませんものね」
「そうだな、そうだ、が…」
「ですからお聞きしたいなって思って。どうやって"楽器を奏でる練習"をなさったのかを」
にっこりと微笑むクリスティーヌ…目が笑っていない。
「本当に、凄く、お上手で、いらっしゃるから」
「いや、その、別に練習などしなくとも自然に弾けるようになることもある、かもしれな…」
「別に怒っているわけではありませんのよ?ただ私意外とマスターのこと知らないのだなと思って」
…く、あの子爵め…!わざと言ったのではあるまいな。いやワザとだ絶対ワザとだ。
あいつは少しでも我々の間に波風立てようと、常に画策を…
「マスター、今夜これからはお話しをしましょうか…夜は、長いのですから」
ああ、我が弟子の笑顔を怖ろしく感じる日がこようとは…つい先ほどまで私の下で
可憐に喘いでいたクリスティーヌが…女は、変わるのだ。
すっかり起き上がってじっと私を見つめるはしばみ色の瞳に
宿るただならぬ光に来るべき修羅場を予感し、私は何かに祈るような気持ちで瞳を閉じた。
307名無しさん@ピンキー:2008/08/15(金) 03:22:18 ID:PBUA9vJb
天使様キテター(*´Д`*)

GJでした!楽しませてくれてありがとう!
308名無しさん@ピンキー:2008/08/17(日) 17:17:11 ID:lZuSeFJ/
切なく美しく… そしてワロタw
マスターとんだ災難ですね

天使様どうもありがとうございました!!
309名無しさん@ピンキー:2008/08/18(月) 00:23:56 ID:BaQ0p726
GJ!!
エロからネタへの変化が見事です天使様!
マスターどうやって言い訳すんのかなw
310名無しさん@ピンキー:2008/09/02(火) 00:48:47 ID:pchhrrUT
捕手
311名無しさん@ピンキー:2008/09/06(土) 22:11:50 ID:AwpFpinx
捕手
312名無しさん@ピンキー:2008/09/08(月) 17:27:49 ID:Vow8uHuI
age
313名無しさん@ピンキー:2008/09/09(火) 11:14:07 ID:Wp6sMZA9
>310-311
どっちか投手やってくれ

10日にBSで放送だ。楽しみ。
314名無しさん@ピンキー:2008/09/15(月) 20:16:10 ID:siB3goFp
野手
315名無しさん@ピンキー:2008/09/15(月) 23:23:29 ID:v9SvKec1
野手www
316名無しさん@ピンキー:2008/09/15(月) 23:59:51 ID:ThRFFIkF
あー天使様。
今週の再上映をみて、また降臨してください。。。
317名無しさん@ピンキー:2008/09/17(水) 13:40:20 ID:JOLiXpFs
遊撃手
318名無しさん@ピンキー:2008/09/20(土) 16:14:52 ID:DnzlfEqa
誰か投手やってくれ


投手=天使様
319名無しさん@ピンキー:2008/10/03(金) 17:24:41 ID:ovKdXjzo
新宿で再上映ですよ天使様
320名無しさん@ピンキー:2008/10/06(月) 23:19:28 ID:ba3qNuIx
age
321名無しさん@ピンキー:2008/10/14(火) 13:03:46 ID:mJLnQL3s
あげ
3221/2:2008/10/16(木) 16:39:25 ID:73pSgddv
保守代わりに小ネタ
エロ無し、小悪魔黒クリスと振り回される先生。
AIIOYの後ぐらい。

「クリスティーヌ…!おまえは昨夜屋上で何をしていた?」
「まぁ、天使さま。ご覧になってらしたの?」
「歌を与え合いを与えた私に、おまえが報いたのはあの仕打ち…」
「誤解よ、天使さま!」
「誤解?何が誤解だというのだ。おまえはあの若造とベタベタくっつき、
よりによってキ、キ、キスまで…!」
「だって、ラウルはオペラ座のパトロンですのよ?」
「だから何だと言うのだ!」
「私のような踊り子がパトロンのご機嫌を損ねたら…私と天使さまが
一緒に目指してきたプリマドンナという目標も、遠いものとなってしまいますわ!」
「それはそうだが、なにもキ、キスすることはないではないか!」
「わ、私…天使さまのためにも、絶対プリマドンナにって…」
「…!」
「ちょっとでも早く…天使さまに…舞台に立つ姿…み、見ていただきたいって…!」
「ああ!分かった、クリスティーヌ、泣くんじゃない!私も少し強く言い過ぎた」

「でも、でもね」
「どうした?」
「…最近はプリマドンナじゃなくてもいいかなって、思うの」
「何?!」
「歌うことも大事だけど、もっともっと大切なものがあることに気づいたんです」
「…もっと、大切な?」
「はい。幼い頃からずっと支えになってくださった…大切な方の、お嫁さんになるのも、いいなぁって」
「幼い頃から…支えに…それは、もしかして…」
「…他に、どなたがいらっしゃると思って?」
「!!!ク、クリスティーヌ!そうだな!そういう道もあるな!」
「あぁ、けれど…」
3232/2:2008/10/16(木) 16:40:25 ID:73pSgddv
「けれど?!けれど、どうしたのだ?!」
「これまでのことを思えば、天使さまへの恩返しの意味でも
一度は舞台で主役を演じてみたいわ…!」
「え?まぁそれはそれとして…」
「いいえ、駄目よ!やっぱり主役を演じてから、それからお嫁さんに…」
「主役なら明日から暫くイル・ムートの侯爵夫人役を演じるではないか」
「いや、イヤ!だってカルロッタの代役ですわ!それに貼り札だってカルロッタだし!」
「分かった、分かったから、落ち着いてくれ」
「それにね、天使さま。いつか天使さまは私のためにオペラを書いてくださるって
おっしゃっていましたわよね?」
「ああ、確かに言ったし、既に書き始めている、しかし…」
「折角なら、天使さまのオペラを歌いたいわ!」
「何だと?!」

「一度きりのプリマドンナ…敬愛する師の手になるアリアを歌って…そして身も心も大切な人に…」
「分かった!クリスティーヌ!おまえのために一刻も早くオペラを完成させよう!」
「でも、主役にしないとカルロッタが何をするか…」
「それも任せておきなさい!私が必ずおまえを主演とするよう取り計らう!」
「安心いたしましたわ!それでは作曲のお邪魔をしないように、曲ができるまでレッスンはお休みですわね」
「あ?いや、そ…」
「私、寂しいですけど我慢いたします!ステキなアリアを作ってくださいね!」
「ああ!任せておきなさいそれはもちろんだが…」
「心配なさらないで、1人でもちゃんとお稽古いたしますわ。曲が出来上がるのを楽しみにしております」
「クリスティーヌ」
「それじゃあ、おやすみなさい天使さま…ううん、未来のだ・ん・な・さ・ま!」
「未来の…!おお、お休みクリスティーヌ、良い夢を!すぐにオペラは完成させよう!
おまえが長く待つことはない…!」

平安の3ヶ月、スタート。
324名無しさん@ピンキー:2008/10/20(月) 22:54:28 ID:SUYvoKqy
ピッチャー現る!!
なかなかGJでした。
325名無しさん@ピンキー:2008/10/22(水) 01:42:51 ID:MDNv8yf5
クリスヒドス(つд`)
GJでした
326名無しさん@ピンキー:2008/10/23(木) 20:58:31 ID:LIagGjRZ
マスターw

GJです
327名無しさん@ピンキー:2008/10/26(日) 02:26:41 ID:AKsQNUp7
亀だが、GJ!
誰か引き続き登板たのむ。
328名無しさん@ピンキー:2008/11/01(土) 13:34:02 ID:WkQkKWt+
保守ー
329名無しさん@ピンキー:2008/11/09(日) 01:44:24 ID:1UinWVC2
揚げ
330名無しさん@ピンキー:2008/11/15(土) 23:41:31 ID:QLqUl8zO
ここも廃れたね
キラ星のごとく天使様がいた時代が懐かしいよ
331名無しさん@ピンキー:2008/11/16(日) 00:32:48 ID:LCXEgB6s
栄枯盛衰なのさ… 
332名無しさん@ピンキー:2008/11/26(水) 16:51:47 ID:l96RtdRl
保守がてら

エロほとんど無し。
小ネタ。
3331/4:2008/11/26(水) 16:53:44 ID:l96RtdRl
ちょっと前、ラウルは支配人室にいた。
部屋の中には二人の支配人、クリスティーヌにマダム・ジリー、カルロッタ、ピアンジとムッシュ・レイエ。
「さて皆さん」
アンドレの言葉をフィルマンが受け取る。
「それでは早速、はじめましょう」

この人数ががここに集まっているのは話し合いをするためで、
勿論議題はあの男が置いていったオペラについてだ。
皆険しい顔で小卓の上に置かれたスコアケースを、穴が開くほど見つめている。
「それで、次回の公演のことですが」
フィルマンが口火を切る。クリスティーヌの肩がひくりと動く。
ラウルとしては彼女をこんな場に居させたくないのだが、
支配人たちはマスカレード以来弱腰で、次なる殺人が起これば間違いなく身の破滅だと考えている。
「ここはひとつあいつの要求どおり、このオペラを上演してはどうでしょう」
アンドレも頷く。
「一度演ってやればヤツの気も済むかもしれませんし」
しかしムッシュレイエはこのオペラ自体の持つ問題を指摘した。
「どうでしょうか?」
ムッシュ・レイエは楽譜を一枚抜き出してカルロッタに手渡す。
「…こんなの歌じゃないわ」
カルロッタは鼻を鳴らして楽譜をテーブルに放った。
「どの様式でもないし、どの形式でもない!音域も広すぎるわ。誰が歌えるっていうの!」
「ミス・ダーエ?」
促されてクリスティーヌも頷き、おそらく音楽に対する感想を口にする。
3度のインターバルとか変則的なアルペジオとか不協和音の調和とか、
カルロッタやピアンジも加わり音楽論は白熱してゆく。
とりあえず分からないのでしょうがなくうんうんと頷いていたら、ふとクリスティーヌが苛立ったようにこちらを見た。
「…つまりちょっと変わった音楽なの。ね、ラウルここはもういいから、どこか別のところで別のことなさってて」
可哀想な人を見るような目で諭され、つまりラウルは支配人室を追い出された。
今頃はまだ音楽談義が続いているだろう。
3342/4:2008/11/26(水) 16:55:16 ID:l96RtdRl
することもなく舞台裏をぶらついていると、爪先に何か固いものが当たった。
なんだろうと拾い上げてみると、しっかりした革表紙のノート。
あのスコアケースとよく似た…というかおそろいの表紙だ。
が、描かれている飾り文字はドン・ファンではなく、「Cの指導に関する覚書」
間違いなくあいつのものだし、そうするとCというのは勿論彼女のことだ。
ラウルは眉を寄せると表紙を開いた。
雪のように白い紙が目に飛び込んでくる。指先で触れると滑らかで張りがあり
かなり上質な用紙を使っているようだ。
そういえばあの楽譜が書かれている五線紙も結構良いものらしく、
クリスティーヌが感心したように、バーなんたらとかいうメーカーのものだと呟いていた。
そのバーなんたらを買うお金も廻り廻って自分の出したものだと思わず言いそうになったが、
非常に物悲しい事態に陥りそうだったのでぐっと我慢したのだ。

とりあえず読み始める。
声の特質が音域がどうの、スケールが音階がこうの…全く分からない言葉が並ぶページはパラパラと読み飛ばす。
するとふと、とある章のタイトルが目に入った。
「人物造詣について」
これならば分かりそうだ。ラウルは癖の強い字を指で辿りながら読み進める。

”魅力的に演じるには、その人物になりきる必要がある。
脚本上には書かれていない生い立ちや人格、その後辿る運命などを考え、また知ることで
登場人物への理解が深まり、歌にどのような感情を込めるか、どのように演じるかを知ることが出来る。
つまり描かれていない部分こそが作品を深くするのだ。”

「成程ね」
ラウルは頷いた。
描かれていない部分が作品を深くする。いい言葉だ。今度クリスティーヌに言ってみよう。
ちょっとは尊敬してくれるかもしれない。
更に視線を先に進める。
3353/4:2008/11/26(水) 16:56:28 ID:l96RtdRl
”以下に実例を述べる”

例1
”奴隷としてカルタゴに連れてこられた娘。
その身を覆うのは、薄絹のみ。その両手足を戒めるのは鋼の鎖。
故郷も身分も何もかも失った奴隷は、王の命を拒む術を持たない。
淫らな視線に晒され命ぜられるまま素肌を晒して踊り、
肌に食込む鎖はやがてその熱を移し、いまや…”

「…なんだ、これ…?」
慌ててページをめくる。

例2
”男装で伯爵夫人の召使として勤める少女。
偶然その秘密を握った男は、ばらされたくなければと、少女を伯爵が英国へ行った隙に
主人の寝室へと連れ込む。少女は抵抗するが男の脅しに屈し、乱暴な腕の
なすがままに身体を覆う少年の衣服を引き剥がされ、その背を寝台に預けることとなり――”

例3
”希代の女たらしは、無邪気な村娘を誘惑する。
男の言葉に幼い体の奥底に眠っていた官能が目覚め、娘は次第に大胆になってゆく。
自ら男に触れ、誘いかけるように笑い…やがて自ら慎みを手放す。
ドレスの肩を落とし、スカートがまくれるのも気にせず脚を開き、素肌を這い回る男の掌に
肌の下の炎を煽られたそのとき、主人が帰宅…"

「何か、これは…知ってる話のような…」

"…実は主人は従者が変装しているのだが、それを知らぬ娘は
男が「隠れよう」と誘うままに男の寝室へ入ってゆく。
既に用意の整った寝台に押し倒され、声を上げようにも男の
「主人に気づかれる」という言葉に唇を結ぶしかなく、娘は………"
3364/4:2008/11/26(水) 16:57:03 ID:l96RtdRl
思わずページを繰る手を止め、ラウルは紙面をまじまじと見つめた。
例3の最後あたりには力強く2重下線が引いてあり、”コレ!”という文字も書き添えてある。
知っている。間違いなくこの話を知っている。
クリスティーヌが説明してくれたあの可愛らしい声が、耳の奥に蘇る。
「だから、ドン・ファンは従者のパッサリーノと入れ替わって」
……!
「…あの仮面の変態め…!」
紳士らしからぬ言葉を呟き、ラウルは皮の表紙をばしんと閉じた。
「あいつの思い通りにさせるものか!絶対捕まえてやる…いや、撃ち殺してやる!」
大股で出てきた部屋へと戻りながら、頭の中で素早く計算する。
まずは地下から引きずり出さねばならない。その上で逃げられないようにして…
「名案を思いついた!」
支配人室の扉を開け放ち、居並ぶ面々を見渡しながらラウルは自信たっぷりに口を開いた。
「いい案がある…あの利口な友を罠にかけるんだ!」
337名無しさん@ピンキー:2008/11/27(木) 00:22:43 ID:e8WsglyN
GJ!
>”コレ!”に笑ったw
338名無しさん@ピンキー:2008/11/27(木) 00:25:02 ID:CeKOkj4t
上手い。上手すぎる!
細かいところまでよくご存知でいらっしゃる。
久々にのぞいてみて良かった。
ありがとう!!!
339名無しさん@ピンキー:2008/11/27(木) 01:47:00 ID:Qo5yHqtr
……の続きが気になってしまうw
GJでした!天使様ありがとう!
340名無しさん@ピンキー:2008/11/27(木) 11:43:41 ID:+JL5gePR
>337
同じくマスターの“コレッ!”萌えww
341名無しさん@ピンキー:2008/11/27(木) 21:45:43 ID:HaceQX2k
GJ! マスターの変態仮面ぶりがよく出ていて素敵でしたw
342名無しさん@ピンキー:2008/11/28(金) 01:02:33 ID:4ECpeu+J
GJ!
久しぶりに笑ったwww ありがとう
343名無しさん@ピンキー:2008/11/30(日) 22:59:29 ID:GOMkmpng
天使様が降臨されんことを
344名無しさん@ピンキー:2008/12/12(金) 08:59:34 ID:mrYsQOCR
天使さま・・・
345名無しさん@ピンキー:2008/12/17(水) 01:18:02 ID:VR23rx5E
ほす
346名無しさん@ピンキー:2008/12/24(水) 17:20:19 ID:jfCs+g02
マスター、Noelですよ。
347O.G.:2008/12/26(金) 09:27:56 ID:k4298Zt6
※noel中止のお知らせ※

ノエルの行事といえば、カードのやり取りが上げられる。
いつもより多くのカードの封をするためには、
いつもより多くの封蝋が必要だ。
だが。
だが、例えば。
多くの封蝋が入ったスプーンは不安定だ。
あくまで例えばの話だが、
ふとした拍子に…例えばガウンの裾が引っかかった場合などに
突然ひっくり返り、跳ね飛んだ蝋の熱さに驚いて
思わずランプをひっくり返し、火が楽譜に移り、
消そうとクッションで叩いているうちガウンの裾にも火がつき、
どうにもならなくなり湖に飛び込んだら
軽いやけどに合わせて風邪を引き、小火を出したことで
マダムジリーに怒られるハメに……
……ではなく、とても危険だ。あくまで例えばの話だが、
かくのごとくノエルとは危険なものなのだ。

よって、本年のノエルは中止とする。
本来ならばもう少し早く通達を出すべきだったが、
残念ながらよんどころない事情で寝台を離れられない状態であった。
よって少々遅れたがこの手紙をもってノエル中止の知らせとする。

あなた達の忠実な僕
O.G.
348名無しさん@ピンキー:2008/12/26(金) 19:57:17 ID:4/AS5Cyg
>>347
>よんごとない事情、ってなんですの?
349名無しさん@ピンキー:2008/12/26(金) 23:16:25 ID:UTDu1XOg
ヤケドとカゼで寝込んでたのねw
GJ!
350 【大吉】 【712円】 :2009/01/01(木) 00:55:20 ID:qA7iV18o
おめ!
今年もゆるゆると天使様に会えますように!
351 【56円】 【大凶】 :2009/01/01(木) 17:09:17 ID:4gndkWpV
あけましておめでとうございます
3回目のお正月を迎えましたね
352 【1803円】 【吉】 :2009/01/01(木) 17:10:35 ID:4gndkWpV
…去年は豚、今年は大凶…orz
353 【1787円】 【豚】 :2009/01/01(木) 21:04:03 ID:hd8camXi
>351,352
153の人かwおめw
354名無しさん@ピンキー:2009/01/09(金) 01:40:50 ID:rtsS+DK7
上げさせていただく
355名無しさん@ピンキー:2009/01/12(月) 02:16:20 ID:8u0THjiT
マスター、どうやらまた下がってしまったようですわ…

でも、わたし達のこの地下深い迷宮のようなスレを知られてしまうのは
少し惜しい気もするので、上げないで保守にしておきますわね


ということで保守ー
356小ネタ:2009/01/14(水) 14:44:43 ID:2aoWB9wF
オペラ座で人気の美少女コーラスガールが処女ではなかったことに怒ったファンが抗議し、
オペラの上演が無期限休止に追い込まれた可能性が高いことが分かった。
今回の“非処女発覚”には多くのファンが衝撃を受けているが、中には「実力行使」で抗議する者もおり、
オペラ座で騒ぎになっている。

無期限休演が明らかになったのは、オペラ座で上演中の人気オペラ「ハンニバル」。
引きこもりのの中年男性が美少女の花嫁フィギュアを作ったところ、
その像が「クリスティーヌ」と名乗って動き出す、という物語。

問題のシーンは先月の舞台稽古。
主人公の中年男性に思わせぶりな態度を示してきた「クリスティーヌ」に、
実はイケメンで貴族で幼馴染の恋人がいたことが発覚。
不純な関係を思わせる劇中の「幼い恋人同士だったの」という発言から「非処女だった!」と騒ぎになった。

怒りが頂点に達したファンの1人は先月15日、一輪の赤い薔薇をバラバラにした写真をアップ。
さらに今月5日夜、その実物を握り締めて屋上で号泣した、と書き込んだ。
この行為に反発した別のファンらが、ハンニバル休演に関する投稿を連発するなど注目が集まる中、
きょう9日発売の「月刊☆オペラ座通信」で突如、無期限休演が発表。理由について支配人は
「プリマドンナの体調不良」としか明かさず、取材にも一貫して「カルロッタが出勤していないので分からない」と答えるのみだ。

しかし、オペラ座文化に詳しい、フリーライターのO.G.(オージー)氏(仮名)は
「体調不良とはいえ、無期限休演は異常事態。今回の非処女騒動が引き金になったのは間違いない」とみる。
357名無しさん@ピンキー:2009/01/22(木) 21:18:09 ID:V5MqV0R4
かんなぎネタか
358名無しさん@ピンキー:2009/01/30(金) 23:15:34 ID:YrxzG2fj
ほす
359名無しさん@ピンキー:2009/02/06(金) 22:36:22 ID:LRrZjMXM
保守カレード
360名無しさん@ピンキー:2009/02/13(金) 19:22:57 ID:JPb+IL/u
エンジェル・保守・ミュージック
361名無しさん@ピンキー:2009/02/15(日) 00:33:19 ID:2G2EV7bV
ほす・・・

バレンタインだったというのに、
今年はチョコもらえなかったのかな。
362名無しさん@ピンキー:2009/02/16(月) 00:24:31 ID:IJjRBFHM
や、今年は逆チョコですからね。
渡さないともらえません。
そういうものです。
363名無しさん@ピンキー:2009/02/21(土) 15:22:45 ID:V41VBVZJ
だ、誰か・・・・
364名無しさん@ピンキー:2009/02/24(火) 00:50:43 ID:6KUlYsC9
ドンファン×アミンタとか読みたい
歌詞に沿う感じでー

誰かお願いします
365名無しさん@ピンキー:2009/03/10(火) 01:55:13 ID:uICwk5rx
下がりすぎ(´∀`∩)↑age↑
366名無しさん@ピンキー:2009/03/13(金) 20:32:50 ID:vRp9peqZ
初めて覗きました。
保守
367名無しさん@ピンキー:2009/03/19(木) 01:33:37 ID:yicyfn6s
保守
368名無しさん@ピンキー:2009/04/01(水) 12:44:29 ID:H3JfIihk
地下の秘密訓練場。
ピアノを伴奏するファントム「高音が弱いぞ、クリス」
「それに色気がない、そんなことで舞台に立てる度胸がつくのか」
「服を脱ぐんだ、クリス、全部だ」
渋々、服を脱ぐクリス。
「下着も全部とれ」
全裸になったクリス。
369名無しさん@ピンキー:2009/04/01(水) 13:02:32 ID:H3JfIihk
ファントム「歌うんだ」
歌うクリス。
ファントムはクリスの乳房を指で触れる。
「こんなに尖っている。」
その後に股間の繁みに指を這わす。
「こんなに濡れている。この突起はなんだ。」
割れ目とクリトリスをなぞるファントム。
クリス「許して」
ファントム「駄目だ、歌い続けるんだ」
ファントム、クリスの剃毛をする。
ファントム「こうして、よく、恥ずかしい部分が見えるようにするんだ」
クリスのクリトリスに軽く接吻するファントム。悶えるクリス。
口を拭うファントム「うまく歌えるようになったら、御褒美をあげてもいいぞ。ふふ。」
END
370名無しさん@ピンキー:2009/04/03(金) 02:10:57 ID:t+n/8eNK
簡潔w
371名無しさん@ピンキー:2009/04/03(金) 13:33:13 ID:MepwIvfb
何か邪神を思い出したw
372名無しさん@ピンキー:2009/04/05(日) 01:02:48 ID:4k836zjH
投下乙。元ネタはあるの?
373名無しさん@ピンキー:2009/04/08(水) 15:02:41 ID:q8Q1yVYW
投下乙w
374名無しさん@ピンキー:2009/04/16(木) 00:00:50 ID:VR/8ufxn
あげ
375名無しさん@ピンキー:2009/04/27(月) 00:28:44 ID:zjPUwMeU
あげまん
376名無しさん@ピンキー:2009/05/07(木) 08:56:45 ID:DT+I8Lem
hosu
377名無しさん@ピンキー:2009/05/09(土) 12:58:48 ID:ourOea76
ブランチで消えたベールやってた。
378名無しさん@ピンキー:2009/05/10(日) 20:55:25 ID:Ccr1fuKG
>377
それをブランチに投稿したのはこの私だ。
・・・他にもたくさん投稿した人がいたんだろうけど。

しかし見逃したorz
379名無しさん@ピンキー:2009/05/11(月) 12:35:31 ID:HNMyh0QX
ちょ、見てないのでkwsk
380名無しさん@ピンキー:2009/05/21(木) 19:35:12 ID:3Ma48hSu
ほっしゅ(´∀`)
381名無しさん@ピンキー:2009/05/24(日) 15:14:22 ID:Vdrj3xVR
ブケー→ジリーが頭に浮かんだ。
死にたくなった。
382名無しさん@ピンキー:2009/05/27(水) 08:10:38 ID:xYG4cl9T
>>381
舞台裏で無理やりブケーにナニされていた所をマスター現る・・・
んで、ブケーの首吊りという展開ですね。


誰か書いて!!!
383名無しさん@ピンキー:2009/05/27(水) 12:04:34 ID:gPHfGSEw
いいなあそれ
エロ書けないんで誰か天使様頼む
384名無しさん@ピンキー:2009/06/18(木) 14:03:13 ID:5ySE7vtm
hosyu

8スレ目にしてブケーにスポットがw
そいや支配人モノもまだないよね?
385名無しさん@ピンキー:2009/06/18(木) 15:08:13 ID:a0bymsYt
切実にファンクリが読みたい
386名無しさん@ピンキー:2009/06/23(火) 01:46:30 ID:08h6y7Wt
俺はE/Mが読みたい…
海外ファンフィクで飢えを満たしているが
「come on!」とか「oh my god!」とか噴いてしまうんだ
387名無しさん@ピンキー:2009/06/23(火) 21:20:39 ID:hmb54pYj
Mって誰?メグ?
388名無しさん@ピンキー:2009/06/24(水) 02:59:00 ID:QkecNif9
そう。Erik/MegでE/M。向こうだとそこそこある組み合わせ。
もちろんE/Cとか、あとR/CとかE/G(マダム)とかもあるので
自動翻訳を駆使しつつお世話になる。
389名無しさん@ピンキー:2009/06/24(水) 06:38:06 ID:XE+Uyach
へー。でもここでは普通に日本語で書いてくれた方が分かりやすい。
390名無しさん@ピンキー:2009/06/25(木) 23:25:47 ID:n/ZtkQqR
今衛星で見て何か再燃。
ちゃんとダロガ出てる映画無いのかな。好きなのに。
391名無しさん@ピンキー:2009/06/26(金) 22:16:32 ID:ZVZX1Z7D
チェイニー版はかなり微妙な〈ペルシャ人〉だしな・・・
392名無しさん@ピンキー:2009/07/02(木) 18:54:20 ID:Fnyo5kCg
>>388
どこでそういうの見れるの?
よかったら教えて
393名無しさん@ピンキー:2009/07/03(金) 08:06:26 ID:nJM80D2f
>392
普通に「Erik/Christine」とかで検索すりゃ出てくる

FanFiction.Netから探すと楽だけど↓
http://www.fanfiction.net/book/Phantom_of_the_Opera/
394名無しさん@ピンキー:2009/07/12(日) 01:36:07 ID:r3lD2+Cp
age
395名無しさん@ピンキー:2009/07/12(日) 01:39:34 ID:V6Gs6Ojw
保守
396名無しさん@ピンキー:2009/07/20(月) 20:15:26 ID:AiEREbkq
hosyu
397名無しさん@ピンキー:2009/07/31(金) 17:53:31 ID:L2+Ka/lC
保守
398名無しさん@ピンキー:2009/08/12(水) 14:25:23 ID:0ZQn1Ies
投下はないが
落ちるとさみしいな
399名無しさん@ピンキー:2009/08/13(木) 19:47:46 ID:cCOC3BUs
カルロッタとピアンジ萌えage
400名無しさん@ピンキー:2009/08/15(土) 02:14:54 ID:oeoA69vI
長生き
401名無しさん@ピンキー:2009/08/17(月) 16:00:48 ID:Xnfkhn+n
クリスティーヌの中の人が……
402名無しさん@ピンキー:2009/08/17(月) 17:12:46 ID:7D63sYoh
離婚ってねぇ……
403名無しさん@ピンキー:2009/08/17(月) 17:30:08 ID:zcSHn5Yf
結婚してたこと今知ったっていう……
404名無しさん@ピンキー:2009/08/18(火) 16:56:38 ID:f3e7xULC
"秘密の婚約よ!"…って…。
405名無しさん@ピンキー:2009/08/19(水) 07:47:56 ID:sgk3akMS
だれうま
406名無しさん@ピンキー:2009/08/19(水) 17:43:02 ID:AZfzQLCJ
多分ファントムが仕組んだんだな
407名無しさん@ピンキー:2009/08/22(土) 14:55:48 ID:KMCN0uwW
「私のものだ!」
408名無しさん@ピンキー:2009/08/24(月) 02:08:14 ID:TYP4dnCT
                  _r'ニ二> 、
               _,. :'´ ̄: :`ヽ\::.::`ヽ
            _,.:'´: : : : : : : : : : ヽ ';:.::.::ハ
          ∠,仁._‐-、 : : : : : : : : : :}_j::/::.::i
        , '´ ̄¨´‐.、 `y'^ー、: : : : : : :/'イ::.::.::{       ,.、
      /  .   : :  Y }   }_;.-'TT´::::::.::.::.:;ノ   _,.f´__,\
      .′ :   :    :}v  .i`ト-く._!:::::::_;.イ--、―¬;.:.:.:.:_:.:.:\
.     l .  :     :. .:!|   !!  /イ ̄ /   j_,. -亠'¨⌒ヽ:_ノ
      ! {  :  :.  |:.:,! !  | `ー'´ ヽ.__,,.. -‐'´
     }.:}.  :.l  :.: .!:.i r' , 、〉
   (_,ノ_;{:...:.:.:!: .:.:. .ハ:{_`T~^i
      f彡Y:.:.}:|:.!:.:!:{:イ'` |  !
     ⌒j,ィ:.{:!:ハ:|:!{{|   j  !
       ,レ^ト! }川`ー/,.  {
              }n.n r}
                 ´ ゙′
天使さまはどこへ行ったの?
409初投下です1:2009/08/25(火) 00:19:53 ID:fFjOUbEN
クリスティーヌとラウルが再会した時、
食事に誘われたクリスティーヌが「音楽の天使はとても厳しいの」と言ったことから
妄想しました。クリスティーヌ14,15歳くらいで。
あんまりエロくないです、暗め。

------


いつも熱心に稽古にはげむクリスティーヌの様子が、おかしかった。
歌詞にも旋律にも心がこめられておらず、やたらと時計を気にしていた。
まるで、まだ稽古は終わらないのかとでも言いたげに。

思い当たる節があった。
毎日の稽古が実を結び、コーラスガールの中でも重要なポジションに初めて配役された。
その公演の夜、クリスティーヌが劇場を出ると、二十歳くらいの青年が花と手紙を持って現れた。
青年はとても整った顔立ちで、上品な立ち居振る舞いからは育ちの良さがわかった。
クリスティーヌにとっては何もかも初めてのことだった。
今までになく責任感のある役をこなした達成感、自分の歌を聴いて人々が歓喜してくれたこと、
そして、魅力的な男が自分の前に現れたこと。

私にとっては何もかもが気に入らなかった。
今日クリスティーヌが稽古に来た時にすぐ気づいたが、彼女は化粧をしていた。
私と会う時に化粧をしてきたのは初めてだった。色が馴染んでいない白粉、パンダのようなアイシャドウ、
唇の輪郭から外れた口紅、下手な化粧は、クリスティーヌの顔に子供が落書きをしたように見えた。
せめて、この化粧が私のためであったなら、笑って済ませられただろうに。
私はオルガンを弾く手を止めた。
「やめだ」
伴奏が急に止まり、私の声の調子がいつもと違うのに気づいて、クリスティーヌは驚いた顔をしてこちらを見た。
「すみません…」
「どこが悪いのか分かっているのかね」
「……」
「何故化粧をする必要があるのかね?誰に色目を使ってるんだ」
「周りの子も、みんな、しています」
「あんな奴らと同じ事をする必要が何処にある!」
クリスティーヌは私から視線を外し、黙り込んだままだ。
「いいか、クリスティーヌ。おまえはまだ子供なんだ」
そう、彼女はまだ子供なのだ。だから、私が父親代わりになる必要がある。
私が教えた歌が原因で、肉欲を持った男がクリスティーヌに近寄ってくるなら、私の責任でもある。
私は、クリスティーヌを護らなければならないのだ。
「クリスティーヌ、ベッドの上で横になっていなさい」
彼女は休憩が与えられたものと思って、私の指示に従った。私はいつも自分が髭剃りに使っている剃刀を丹念に研ぎ、
彼女が横になっているベッドに向かった。
410初投下です2:2009/08/25(火) 00:21:38 ID:fFjOUbEN
剃刀を手にし入ってきた私に、クリスティーヌは悲鳴を上げてベッドから起き上がろうとした。
「ショーツを脱ぐんだ」
彼女は目から涙をぼろぼろと零し、呼吸を荒げていた。
「私がおまえに厭らしいことをするとでも?」
わたしは無表情でクリスティーヌに問いかけた。
彼女は必死に首を横に振ると、震える手で両脚からショーツを脱ぎ取った。彼女の恥毛はとても薄く、産毛のようで、
生えていないようにも見えた。
「動くんじゃない」
私は彼女の両脚の間に入ると、左手で彼女の腰を抑え、彼女の恥毛の上に剃刀を滑らせた。
「いや…」
クリスティーヌは顔で手を覆いながら、大人しくしていた。彼女を抑えている左手から、震えているのが伝わってくる。
彼女の秘められた場所に私の剃刀は大きく、下に進むに連れとくに繊細に扱わなければならなかった。
左手を彼女の腰から秘所に移動させ、そこを押し広げながら、剃刀をゆっくりと滑らせていく。
「あ…」
私の指が彼女の秘所に触れているためか、彼女の口から悲鳴とは違う声があがった。彼女の脚がびくりと動く。
徐々に、私が触れている部分に湿り気を感じるようになってきた。今の私にはそれすら気に入らなかった。
剃り落としたものを取り払おうと、指で擦ると今度は「ああっ…」という声とともに、体全体を震わせた。
「動くんじゃないといっただろう!」
入り口を囲む柔らかい肉に、刃をぐっと押し付けた。クリスティーヌの声はまた泣き声に変わる。
剃り落とされた毛が、彼女が零した液にへばりついていた。それすら汚らしく感じた。
「おまえはまだ子供なんだ…」



泣き止んだクリスティーヌは、起き上がってこちらを見た。
「顔を洗いなさい」
化粧が涙でぐちゃぐちゃになり、クリスティーヌの顔の上で絵の具が混じったようになっていた。
鏡を見た彼女は自分の顔に驚いてまた泣いていた。
「ひどい顔!」
そのクリスティーヌの言葉は、私に浴びせられたかのようで、私は自分の顔に仮面が装着されていることを確かめずにいられなかった。
411名無しさん@ピンキー:2009/08/25(火) 00:24:34 ID:fFjOUbEN
以上です。失礼しました。

ではまた保管庫を読み漁ることにします。
412名無しさん@ピンキー:2009/08/25(火) 18:01:40 ID:9mCgKy7Z
GJ!!
嫉妬で変態じみてるマスターの独占欲イイヨイイヨー

最後の一言、グサッときただろなぁ…
413名無しさん@ピンキー:2009/08/26(水) 14:03:58 ID:2OQSJO6/
乙!
久しぶりの降臨だにゃ〜

ここしばらく某仮面つながりのエロパロスレに通っていたけど
読めば読むほど設定がソックリで共通の萌え要素がある。
414名無しさん@ピンキー:2009/08/27(木) 01:54:09 ID:jw7gDz2v
GJ!
この時期に初投下というのは、最近ハマった天使様?
415名無しさん@ピンキー:2009/08/28(金) 23:54:11 ID:VzzcVqTt
初投下したものです。読んでくださった方々ありがとうございました。

>>414
はい、作品自体は前から観ていたのですが、まさか今になってファントム×クリス萌えするとは…


既出なことだと思うけど、映画メイキングの舟が止まってしまったという場面で、
クリス(の中の人)がマスターのマントに隠れて遊んでいるところが映っていて、甘々な二人を妄想しハァハァしてしまう…
416名無しさん@ピンキー:2009/08/30(日) 00:23:55 ID:mh7212ig
投下乙です!
緊張感溢れるソフトエロでした、ドキドキしました

メイキングシーンいいですよね
はしゃいでるクリス(中の人)を優しく見ているファントム(中の人)がたまらないです
417名無しさん@ピンキー:2009/09/01(火) 01:01:22 ID:/px5rO4D
おぉ!投下来てて嬉しい
GJでした!!
418名無しさん@ピンキー:2009/09/13(日) 09:44:30 ID:GpRqiViu
圧縮回避祈念
419名無しさん@ピンキー:2009/09/13(日) 22:44:14 ID:A/F3DaBQ
天使様乙でした
またの投下を待ってます

あと5スレ増えたら圧縮くるんだね
落ちませんように…
420名無しさん@ピンキー:2009/09/16(水) 02:34:17 ID:RDUXN8b7
上げさせてもらおう
421名無しさん@ピンキー:2009/09/16(水) 21:40:52 ID:DM45AAhL
懐かしage
ヲタっぽいの苦手だったんだけど、ここのスレはよく覗きにきてたなあ
なんか可愛らしい話かく人いて、その人好きだったw
ほんと懐かしい
422名無しさん@ピンキー:2009/09/16(水) 23:51:19 ID:RDUXN8b7
ここはいい話が多かった
高レベルだった
懐かしいな
423名無しさん@ピンキー:2009/09/21(月) 20:13:36 ID:0C39Fy6m
マスターに質問!
噂のメイキング映像は、初回限定版のDVDにしか入っていないのですか?
424名無しさん@ピンキー:2009/09/23(水) 20:32:21 ID:LhnV11XP
限定盤の2枚目に収録されています。
425名無しさん@ピンキー:2009/09/25(金) 14:12:27 ID:HAQNUoqz
特典映像…
10代らしくキャッキャウフフするクリスの中の人と、
ずーっと役のまんま直立不動な
ファントムの中の人に萌えたなぁw
426名無しさん@ピンキー:2009/09/26(土) 19:42:25 ID:dF8uddzw
あれは萌えた
427名無しさん@ピンキー:2009/10/05(月) 21:23:59 ID:pfKQ7bmX
あげ
428名無しさん@ピンキー:2009/10/13(火) 22:22:41 ID:3cW20rGf
ファントム×クリスティーヌ、途中だけど、投下してよい?

ラスト地下の場面で、ラウルは当て馬確定なんだけと、二人をくっつけるかすれ違いのままかまだ決めかねてる。
429名無しさん@ピンキー:2009/10/14(水) 00:25:09 ID:MlXiXhiq
>>428
盛況の時なら途中までは嫌われると思うけど、
今は過疎ってるし、良いんじゃない?
430名無しさん@ピンキー:2009/10/15(木) 18:57:57 ID:I3D9ONB0
>>428
そんなにカオスなことになりそうじゃなければ。
待ってるぞ
431428 ◆Jn2LL5QjRo :2009/10/15(木) 22:38:45 ID:mX/eXO0G
>>428です。
遅くなりました。
ファントム×クリスティーヌです。

ラウルは当て馬になる予定なのでご注意ください。
4321 ◆Jn2LL5QjRo :2009/10/15(木) 22:41:49 ID:mX/eXO0G
「あの男を助けて欲しければ、私にキスを」
クリスティーヌに投げつけたその条件を、彼女が飲むとは私自身考えていなかった。
彼女は子爵を愛している。どれだけ私が執着しようと、泣きわめこうと、それが事実であり、覆すことなどできない理だ。
彼女はこの醜い化け物でなく子爵を選ぶ。逆はない。彼女がそんな愚かな真似をするはずがない。
だから私は、最後の瞬間を迎える前に、安心してクリスティーヌに口づけを求める愚かな言葉を吐いたのだ。

彼女は、唇を噛んで狼狽えている。
私の言葉がが本気でないと見抜けない憐れな女は、この化け物に口づけるという拷問を前に、身を焦がさんばかりの苦悩にとりつかれている。

ああ、私はこの愛しい少女相手になんと辛く酷いことを強いてきたのだろう。
己ですら愛せなかった、このおぞましい怪物を、愛せというほうが土台無理な話ではないか。
なぜこんなにも簡単なことに、気付かなかったのだろう。
否、彼女は違うと、思い込もうとしたのだろう。
それは、彼女が私を見たからだ。一度は、幻でなく一度は、私という存在を受け入れてくれたからだ。
父親の代わりとして。音楽の師として。

――そのどこに、男女間の愛があった?

間違えたのは私だ。答えに気付かない振りをしたのは、この私だ。
その結果がどうだ!
私は今、幻を追い求めそれを彼女に強いた代償に、全てを失おうとしている。
ああ、愚かだった。何度も繰り返してなお学べない私は、愚かな道化だ。
私に注がれる愛がこの世には初めから存在しないことなど、分かりきっていたというのに!
4332 ◆Jn2LL5QjRo :2009/10/15(木) 22:44:29 ID:mX/eXO0G
「どうした、クリスティーヌ? このままではお前の愛しい男は死んでしまうぞ」
私は、答えを促すように言った。
「ひどいわ、マスター」
クリスティーヌは涙の混じった声で私をなじった。
「どうしてそんなひどいことを仰るの……」

優しいクリスティーヌが泣いている。


ああ、大丈夫だクリスティーヌ。
お前がノンと答えても、私はお前たち二人を無事に地上へ返してやる。だから、はやく答えるがいい。
そんな怯えた、哀しい目をしなくていい。
私はもう、お前から歌も舞台も、愛する相手も奪おうとは思わないから。


私をみるお前の顔は、いつしか憎しみと悲しみばかりに彩られていた。いつから、笑顔を見ていないだろう。
それに気付いた時、私はこの茶番劇を始める決心をした。
クリスティーヌが幸せであること、それこそが全てに勝る私の望みであり、私の人生をかけるに相応しいことなのだ。
けれど、その時彼女の傍らにいるという役目は、私には役者不足だ。
ならば、嫉妬に狂った怪人は、彼女の前からはっきりと、永遠に姿を消すことで彼女の不安を消し去らなければならない。
幸いにも、子爵は命をかけてクリスティーヌを愛している。この地下の悪夢から抜け出した暁には、生涯彼女を幸せにするだろう。
私には決してできないことを、彼ならば違わずやり遂げてくれるだろう。

だからクリスティーヌ、はやく私に、愛しい男を解放するよう乞えばいい。
私は、その言葉に従おう。
それとももし私に口づけてくれるなら、私は母にももらえなかった最初の口づけを宝物にすることができる。

さあ早く。無粋な警官隊が乗り込んできて、舞台の全てを滅茶苦茶にしてしまう前に。
4343 ◆Jn2LL5QjRo :2009/10/15(木) 22:46:16 ID:mX/eXO0G
マスターに口づけを求められて、私は息を呑んだ。
怖かったからじゃない。嫌悪感? とんでもない。
マスターの求めたものが、私との決別を意味すると気付いたからだ。
そうでなければ、マスターの瞳があんなに澄んで、消えてしまいそうなほとに哀しい理由がわからない。
口づけはお別れの印、マスターはそれきり私の前から姿を消してしまう。
オペラ座から。パリから。もしかしたら、この世界から……。
ラウルを助けるための条件? 違う、マスターは最初から彼を殺す気なんてない。少なくとも、舞台から私を連れ去ったこの時には。
マスターは私が、ラウルを選ぶと思っていらっしゃる。
お別れのキスをして、ラウルとの人生を選ぶと思っていらっしゃる。

そう思われても仕方なかった。私がラウルを好きだということは本当だし、ほんのさっきまでラウルが私の生涯の伴侶だと思っていた。

でも、違う。
マスターと一緒に奈落に落ちて、ラウルを人質にされ、口づけを求められた今、ようやく答えを見つけたの。

私はマスターから離れられない。
歌を捨てても、舞台を捨てても、マスターを捨てることはできないの。

お父様が遣わしてくれた音楽の天使。お父様の面影を、マスターの中に探していた時期も確かにあった。
でも、私は今、マスターを愛している。
神様は、いえ、マスターは、こんな罪深い私を赦してくださるでしょうか?


「さあ、愛する男のために、キスの一つくらいできるだろう」
マスターが仰る。
罰は、なんて苦い。
愛を伝えたい方へのキスが、別れを意味するなんて。
この気持ちをどう伝えたらいいの?
435 ◆Jn2LL5QjRo :2009/10/15(木) 22:49:21 ID:mX/eXO0G
今のところここまでです。
続きもかけそうなので、よければ待っていてください。

初投稿なので、不備はすみません。

一年ぶりに友人からDVDBOXかりて、再燃しました。
436名無しさん@ピンキー:2009/10/16(金) 17:12:02 ID:f78NYii3
GJ!
こういう展開なんか新鮮だな
続きも待ってます
437名無しさん@ピンキー:2009/10/18(日) 23:57:07 ID:FwyUqOpM
GJ
待っていてやるから書いてくるがいい
438名無しさん@ピンキー:2009/10/24(土) 00:23:50 ID:61A2M+j3
久しぶりGJ!
ラウル当て馬宣言にはワラタが
どっちに転ぶにしても続き気になる。
439名無しさん@ピンキー:2009/11/07(土) 20:34:46 ID:fw8vP7g5
ほしゅ
440名無しさん@ピンキー:2009/11/24(火) 23:29:56 ID:DXs6xXH5
保守上げ

Love Never Diesはどうなってんのかね
441名無しさん@ピンキー:2009/11/25(水) 09:08:57 ID:oqNR2T+l
>440
ggrks
4421/2:2009/12/11(金) 16:40:44 ID:4MHA3Sy2
続きの天使さま待ちで、続編小ネタ
エロ無し、オチも無し

※続編の設定で     
10年後、NY、某公園…

「クリスティーヌ、私は、2度とおまえに会うつもりはなかった。」
「ミスター・ムルハイム…いいえ、今はマスターと呼ばせていただきますわ」
「…悪魔と罵られても仕方のない私に…おまえは優しい子だ、クリスティーヌ。
しかしその優しさが、この悲劇を…」
「マスター…あの、ひとつはっきりさせておきたいのですけれど」
「なんだね?」
「マスターは勘違いをなさってますわ」
「勘違い?」
「グスタフは、あなたの子ではありません」
「何?」
「間違いなく正真正銘違います」
「な、何故そう言い切れる?!時期的には…!」
「むしろ!どうしてそういう勘違いをなさったのかが分かりません。
こどもができるようなことは何一つしていませんのに」
「く、くちづけをしたではないか!」
4432/2:2009/12/11(金) 16:41:16 ID:4MHA3Sy2
「くちづけ?」
「愛し合うもの同士がくちづけをしたら、赤ん坊を授かるのだぞ?!
あのとき私は間違いなくおまえを愛していたが、おまえが・・・おまえの心の中に
少しでも私に対する愛情があったなら赤ん坊が…」
「いえ、あの、マスター…」
「…何だ」
「くちづけでこどもはできません」
「な…!昔マダム・ジリーが、キスをすればこどもができると…!」
「いつそう聞かれたのですか?」
「それは20…30年くらい、前…しかし!しかしだ、おまえの夫にそれとなく話を向けてみたが
物凄く思わせぶりなことを言っていたぞ?"クリスティーヌの子である限り僕の息子だ"とか」
「あの人が人の話を聞かない方だって、あなたも良くご存知でしょう?
何度違うといっても"何も言わなくていいんだよ、僕を信じてくれ"って言うばっかりで」
「あの男、10年たっても変わらんな…」
「あなたもですわ、マスター」

「いや、でも、グスタフには音楽の才能があるではないか、あの見事な声…」
「私の遺伝だとは思いませんでした?」
「起用でどんな楽器も弾きこなし、」
「父はバイオリン奏者でしたが」
「……」
「……」
「キスでこどもは」
「できません」
「…マダムが」
「…マスター、もしかして」
「な、何だ」
「どうしたらこどもができるかまだご存じないということは、
まさか、まだ…あ!待って、マスター!そんなに走っては危ないですわーーー!」
444名無しさん@ピンキー:2009/12/13(日) 16:43:16 ID:O4uKlVl3
ワロスw
445名無しさん@ピンキー:2009/12/13(日) 19:27:11 ID:T+rAvYDi
GJ!
Mr.ムルハイムのその後が気になりますw
446名無しさん@ピンキー:2009/12/14(月) 22:05:40 ID:BYH6ahxM
人の話を最後まで聞けってマスター
天使様GJでしたありがとう
447名無しさん@ピンキー:2009/12/24(木) 03:30:00 ID:cvBOGaYJ
イヴですな
448TOM 1/4:2010/01/13(水) 22:27:46 ID:jqaXZ8CA
同じく続き天使さま待ちで初投下
エロ無しで、割と映画に忠実設定
______

「あの歌を練習するんですか?」
「そうだ」
天使さまの口から出たその歌の名前は、確かカルロッタが今度ガラで歌うはずのものだった。
昔の恋人を思う美しい歌で、私も大好きだった。
あの女が歌ってはふられた男にしつこくすがるやかましい女の歌になってしまう、という天使さまの厳しいお言葉に少し同意してしまったのは秘密だけれど。
とにかく、公演で歌われるような歌はこれまでも練習してきたし、今回も只それだけのことだと思い私はすんなり受け入れた。
実はこの歌を練習することにはこれとは違う目的があったのだけれど、それはまた別のお話。
「歌詞は大体覚えているね?」
「はい」
「では歌ってみなさい」
私は静かに息を吸い込んだ。
449TOM 2/4:2010/01/13(水) 22:29:16 ID:jqaXZ8CA
私の響いた声が静かに消えていき、礼拝堂が静寂に包まれた。
天使さまからお褒めの言葉もお叱りのお言葉も無く、不安になる。
やはり上手く歌えなかったのだろうか・・・
この曲を歌うのが初めてにしても、私だって歌のレッスンをしてきた
身なのだ。
天使さまもある程度期待していたレベルがあったはずだ。
私はそこにも達していなかったのだろうか。
やはり私はまだまだなのね、と落ち込みかけたとき天使さまがやっと
口を開いた。
「・・気持ちが、こもっていないな」
「・・・え?」
てっきり技術面を指摘されると思っていた私は呆気にとられた。
私なりに一生懸命誰かを思っているつもりで歌っていたのだけれど、
そんなに気持ちがこもっていなかったのかしら、と顔が熱くなる。
「それでもまだ足りぬな。具体的な誰かを思い浮かべていないだろう?」
「具体的な誰か・・・」
考えを巡らせても、誰も思い浮かばない。
私には恋人なんていたことが無いのだ。
幼い頃ラウルという少年とは仲良くしていたけど、あれは遠い昔の話。
あの時何を感じていたかなんて、覚えていない。
「恋人である必要は無い。お前にとって大切な者ぐらい居るだろう?」
大切な人。
離れたくない、大切な時間をともに過ごしてきた人。
「そうだな。たとえばお前の友の―・・・」
「マスター」
「何?」
天使さまの言葉を遮ってしまったことに少し後悔したものの、
つい言葉を続ける。
「私にとって大切なお人は、マスターです」
450TOM 3/4改め5:2010/01/13(水) 22:30:54 ID:jqaXZ8CA
もし離れ離れになってしまったとき、あの歌詞のように思える人。
最初に浮かんだのはマスターだった。
マスターはずっと傍にいてくださった。
マスターは天使で、師で、父で、友人だった。
10年近く、ずっと一緒に居てくれた大切なお方だった。
そんなマスターと離れることになってしまったら、どんなに辛いだろう。
それこそあの歌詞のように、毎日この方のことを思って・・・
「・・・クリスティーヌ」
きっと来る日も来る日も楽しかった日々を思い起こすのだ。
でも天使さまはもういない。
もう、この方が私のことを思ってくれていると願うことしかできないのだ。
「何を泣いている」
天使さまのその優しい声に、初めて自らの頬に流れ落ちる涙に気が付いた。
「ご・・・ごめんなさい・・・」
慌てて涙を止めようとしたが、逆に嗚咽が漏れ始めてしまった。
「マスターと離れてしまったらと考えたら・・・なんだか・・・」
口を必死で押さえているのに、どうにも止まらない。
馬鹿みたい。
マスターはここに居るのに。
マスターと離れたことなんて、私の頭の中で起こったことだけなのに。
「・・・馬鹿な子だね」
・・・マスターに馬鹿と言われた・・・!
顔が一気に赤くなり、一瞬泣くのも忘れてしまったほどだった。
でも思いのほか傷つかなかったのは、マスターの声が優しかったからだろうか。
「・・・心配するな」
その声はまるで頭を撫でられているようで、つい目を細めた。
「私はずっとお前のそばにいる。
決して離れはしない。
例え何があっても、お前を最後まで見守ることを約束しよう。
・・・信じてくれるね?」
その言葉に私は笑顔で顔を上げ、もちろんです、と言った。
451TOM 4/5:2010/01/13(水) 22:32:04 ID:jqaXZ8CA
閉じた瞼の向こう側に、暖かい光が溢れているのが分かる。
目を開けていられないような眩しさではなかったけれど、覚めかけた頭を
起こすには充分だった。
ゆっくり目を開けると、窓の向こうから差し込んでくる暖かい光と春の風に
なびく白いカーテンが目に入る。
本を読んでいるうちに椅子の上でまどろんでしまっていたことに気が付くまでに
少しかかった。
「ママン!」
眠気が頭から完全に消えた頃、ぱたぱたという可愛らしい足音と共に、
我が子が椅子のそばまで駆け寄ってきた。
「ママ、ママ、もうお目覚めになったの?」
「あら、お母様が寝ていたことを知っていたのね」
父譲りの金髪の細い髪に指を通しながら言うと、目の前の子は太陽のような
笑顔でうなずいた。
「あのねえあのねえ、ママにひざ掛けを掛けてあげたの」
その言葉に下を見ると、なるほど寝る前にはなかった毛布がある。
私はたまらなくなって、この愛しい子を抱きしめた。
腕の中からはころころと鈴の鳴るような笑い声が聞こえる。
でも少しすると、気が付いたように私の腕の中から飛び出した。
「忘れてた!あのねえパパが帰ってくるの!窓の外から見えたの!」
そうなの、と言うとすぐに下からただいま、と言う朗らかな声が聞こえた。
途端にうずうずしだした目の前の子に私は、いってらっしゃいと声をかけた。
大きくうなずいて駆け出すと、間もなく父と子の笑い声が聞こえた。
金髪のあの人が、同じ色の髪のわが子を抱え上げている様子が想像できて、
思わず笑みがこぼれた。
452TOM 5/5:2010/01/13(水) 22:32:55 ID:jqaXZ8CA
かつて夏の海で一緒に遊んだ少年だった優しい夫。
この世の誰よりも可愛い私の子。
二人は誰よりも大切で、誰よりも愛していた。
とてもとても幸せだった。
もう、これ以上何もいらないほどに。
でも。
私はたまにあの日に帰る。
パリオペラ座にいた、あの少女の頃に。
朝起きて、ここはどこだろう、寄宿舎はどこだろう、
と考えることはざらだった。
あの場所は私の青春のほとんどを過ごした場所だったのだ。
そして同時に、あの方と過ごした場所でもあった。
あの方は私のすべてだった。
あの方が、今の私の礎にある。
・・・まだ覚えてくれているだろうか。
ひどい仕打ちをした私を、まだ昔のように思ってくれているだろうか。
下の階から名前を呼ばれて、私は涙を拭って立ち上がった。

私を思い出してください。
どうか、優しく思い出してください。
あの共に過ごした時間を、どうか覚えていてください。

あなたのことを考えない日など、一日もありません。
453名無しさん@ピンキー:2010/01/13(水) 22:34:49 ID:jqaXZ8CA
改行ミスとか色々スマソ・・・
お目汚し失礼しました。
454名無しさん@ピンキー:2010/01/13(水) 23:19:36 ID:llRWIRuq
gj!
455名無しさん@ピンキー:2010/01/14(木) 15:19:34 ID:GWJM41HW
GJ!
切ない(´・ω・`)
456名無しさん@ピンキー:2010/01/17(日) 23:41:56 ID:2ovzyhYs
天使様来てたー!
GJです冬の夜に胸が熱くなる話をありがとう
457名無しさん@ピンキー:2010/01/27(水) 21:46:59 ID:SrR5/V7J
下がりすぎあげ
458名無しさん@ピンキー:2010/02/09(火) 13:45:35 ID:UXMdCyJ8
久しぶりにスレ覗いたら書きたくなって書いてみた。
似たようなシチュエーションのがあったような気がするので、
色々被ってたらごめんなさい。

・微エロ
・クリスティーヌ14か15才くらい。
・2レスの小話。
459礼拝堂 1:2010/02/09(火) 13:49:55 ID:UXMdCyJ8
 秘密の礼拝堂。
 ここへ来るのはわたしと、音楽の天使さまだけ。
 ろうそくのオレンジ色の灯りだけが十字架を浮かび上がらせる。
 今夜はもういらっしゃらないのかしら……?
 歌のレッスンは無いのかしら。
 クリスティーヌは目をしばたたかせた。
 天使は気まぐれで、いつもレッスンをつけてくれるわけではない。
 いつ声を聞かせてくれるのかもはっきりしない。
 そんな方をいつまでも待つなんて。
 クリスティーヌは短くなっていくろうそくを見つめた。
 そうしていると天使の声がすぐ傍で聞こえてくるような気がする。
 耳にざらざらと感触が残る、それでいて不思議と不快ではない天使の声が。
 思いだすだけで肌がぴりぴりと粟立ち、頬が上気した。
 彼の声は不快ではないが、心地よいというには後ろめたさが伴う。
 わたしは悪い子だわ。
 十字架に手を合わせたが、同時に唇を舐めてもいた。
 本当のキスはまだ知らないが、唇に触れる自分自身の生温かな舌に思わず目を閉じた。
 胸の先端が尖り、服の布地を押し上げているのが感じられる。
 天使の声が頭の中でリフレーンされている。
 そのせいなのだろうか?慎み深くスカートやペチコートに覆われている下腹部が妙に熱っぽい。
 やましさと抗いがたい欲求にさいなまれて、罪びとのような気持ちで思わずつぶやいた。
 「天使さまはこんないやらしい子はお嫌いよ……」
 神様だって見ていらっしゃるのに。
 ろうそくの向こうの十字架をちらりと見遣り、固く太ももを閉じた。
 そんなことをして敏感な部分に下着の布地がこすれてしまう。
 クリスティーヌはもぞもぞと太ももをすりあわせ、吐息をもらす。
 薄暗い小さな礼拝堂に衣ずれの音と、押し殺したような苦しげな息の音が響いた。
 「どうしよう……」
 こんな恥ずかしいことはやめなければと思うのに熱は増して、体は刺激を欲している。
460礼拝堂 2:2010/02/09(火) 13:52:31 ID:UXMdCyJ8

 「天使さま、天使さま」
 しかし、彼を呼ぶといっそう体の欲求が増すだけだった。
 堪え切れずに尖ったままの胸の先端を手のひらでなでる。
 「天使さま……」
 顔も知らない音楽の天使さま。天使さまがこんなことされる筈ないけれど、でも……。
 「……ん……っ」
 クリスティーヌは音楽の天使に今一番触れてほしいところがどこかよく分かっている。
 彼女の白い可愛らしい手は胸から太ももへと下りていった。
 スカートの中へ手を入れる勇気はない。しかし体は何かを欲している。
 クリスティーヌは服の上から手を押しあてて前後にそっと動かした。
 「……ふ……っ……」
 天使さまに見られたらどうしよう、今いらっしゃったらどうしよう?
 その思いはいやらしい行動を押さえつける力は持っていなかった。
 逆にクリスティーヌの欲求を募らせるだけだった。
 手の動きは早くなり、辛抱しきれずに腰が動いてしまう。
 「あ、あ、天使さま…ぁ…っ」
 膨れ上がった欲求がはじけて、ふるふると体が震えた。
 すると、さっきまでは消えていた羞恥心が戻ってきて、嫌悪感でいっぱいになった。
 いつの間にかろうそくは消えている。
 「て、天使さま、天使さま怒らないでください。わたしを見捨てないで」
 我に返ったクリスティーヌは慌てて十字を切って手を合わせた。
 そして礼拝堂から逃げるように出ていった。
 まだ体の奥底が熱く潤んでいるのを感じながら。

                     fin
461礼拝堂:2010/02/09(火) 14:05:00 ID:UXMdCyJ8
ファントムに耳レイプされたクリスティーヌのお話でした。
ニコ動では孕む人も多いよねw
462名無しさん@ピンキー:2010/02/11(木) 18:48:19 ID:GsZ1Pwzu
GJ!
ごちそうさまでした
463名無しさん@ピンキー:2010/02/20(土) 01:10:10 ID:aQpEcQ1E
GJ!
クリス可愛かった(*´д`*)
464名無しさん@ピンキー:2010/02/21(日) 22:54:56 ID:A+sz3Bvt
gj
良かった
465名無しさん@ピンキー:2010/03/07(日) 23:54:26 ID:CK6CQ8lz
ほしゅ
ちょくちょく天使さまが来てくださるなぁ
466名無しさん@ピンキー:2010/03/19(金) 22:39:16 ID:LZ3iI7ef
保守
467名無しさん@ピンキー:2010/03/25(木) 00:37:06 ID:Knf6gtqz
468名無しさん@ピンキー:2010/03/27(土) 00:19:09 ID:jWo66X0+
ほしゅ
469名無しさん@ピンキー:2010/03/29(月) 13:24:55 ID:BLQAqS+w
ほっしゅっしゅ
470名無しさん@ピンキー:2010/04/09(金) 17:49:52 ID:g93BvaGp
保守
再上映みたけど、ドンファンエロス
471名無しさん@ピンキー:2010/04/09(金) 23:40:33 ID:j6wJKjP9
大規模規制中の間、あまりに暇だったので、嫌だスレなどを参考にくだらん小話を書いた。
久しぶりに長い文章書いたので色々おかしかったらごめんなさい。
・エロ無し
・キャラ崩壊
・我先にとギャグ方向へ突っ走る皆さん
・先に壊れたもの勝ち

原作設定。
だけど全員ギャグ方向にシフト。
作中の事件で死者はおらず、怪人がちょっと暴走しちゃっただけってことになってる。
クリスティーヌとラウルに文字通り心を砕かれたエリックは二人を地上に送り出した……その直後からのお話。
4721/8:2010/04/09(金) 23:41:43 ID:j6wJKjP9
オペラ座の地下でエリックは次回公演用の脚本を怒涛の勢いで書き上げていた。
「ふっふっふっ……出来た、出来たぞ!なんて素晴らしい作品だ!」
エリックは、彼のささやかな宮殿中にその甘美な声を響かせた。
(まあ素敵。さすが私の音楽の天使様!)
クリスティーヌが微笑を浮かべる。彼の脳内で。
そして彼女は両手を広げ、潤んだ瞳でエリックを見上げた。
「ふふ、ふふふ……」
以後どのような妄想が彼の脳裏を刺激したのかは定かではない。
とにかく、彼は薄暗い室内で一人ニヤニヤするのだった。
「そうだ。続きも書いておくか。うむ、子供は男の子と女の子が一人ずつで……」
小さな白い家に暖かな食卓。そして私の帰りを待つ美しい妻と子供達。
ああなんて普通で、それでいて私にとっては夢のような幸せ!
紙とペンさえあれば彼はいくらでも自身の世界を広げることが出来た。

トントン
現実の世界へ引き戻す無粋なノックの音。
エリックは不機嫌そうに顔を上げた。しかし直後に聞こえてきた愛らしい声に彼はすぐさま扉を開けた。
そこには可憐な彼の愛弟子がいた。
「先生!」
「おおクリスティーヌ、待っていたよ」
クリスティーヌはエリックの肩越しに、室内を見やる。
原稿用紙が散乱している室内を見て、仕事中だと気付いたのだろう。不安そうに彼を見上げた。
「もしかしてお邪魔でしたか」
「いいやとんでもない。さあお入り」
「お邪魔します」
「お邪魔します」
クリスティーヌの声と似ても似つかない若い男の声に、エリックははっとしてクリスティーヌを押しのけた。
彼女の背中に隠れていた男はばれたかと一瞬首を竦めるが、すぐにいつもの能天気そうな顔に戻って、
抱えてきた小箱を恭しく差し出した。
「どうぞ、つまらないものですが……」
「これはご丁寧にありがとうございます」
条件反射で思わず箱を受け取ってしまったエリックは自分の失態に声も無く身を捩った。
おみやげ作戦を見事成功させたラウルはクリスティーヌの手を取って、さも我が家のように室内へ押し入った。
4732/8:2010/04/09(金) 23:43:06 ID:j6wJKjP9
エリックが放心状態から立ち直り、玄関を閉めて室内を見渡す頃には、
二人はもう完全におうちモードでリラックスしきっていた。
いつからここは託児所になったのだろうか。
こんなはずじゃなかった!こんなはずじゃなかった!こんなはずじゃなかった!
エリックは呪うように心の中で三回叫んだ。

こんなことになったのにも理由がある。
クリスティーヌを舞台の上から浚ったあの日。
子爵はどういうわけかペルシャ人のダロガと知り合い、二人はここまで辿りついた。
――ダロガ曰く、彼は人を疑うことを知らない無垢な子供のようだったという。
見ず知らずの相手についていくのだから相当頭の弱い子なのだと思われる。
彼はお兄さんから「知らない人に付いて行っちゃいけません」と教わらなかったのだろうか。
ちなみに彼を探しに来たお兄さんは湖で溺れていたので助け出して地上に返しておいた。
とっても感謝された。今日彼がここに来れるのも彼の兄が私を信頼しきっているためだろう。
こんなことなら助けなきゃ良かった……。
閑話休題。
でもって紆余曲折あって、死にそうになった二人をクリスティーヌの頼みで助け出した。
ここまでは良かったのだ!
だがあの時の私は何を思ったのか、ダロガのみを地上に戻し、あの憎き恋敵を手元に置いた。
人質の意味もあったのだが、クリスティーヌに嫌われたくないあまり、私は彼を牢屋に繋がずその辺に放置した。
二人とも初めのうちこそ怖がって、ビクビクと子羊のように暮らしていたわけだが、一週間もすれば慣れてくる。
好奇心旺盛な二人は部屋を散らかし、仕掛けを壊し、それでいて怪我をして泣き出して……まるで子供のようだった。
いい加減頭に来た私は、立場を忘れた「頭の」可哀想なラウルに掃除や洗濯などの雑務を命じた。
しかし何もかもメイド任せな貴族の彼にそんなことが出来るわけなかった。
お茶も汲めない癖して、彼はどうやってクリスティーヌと駆け落ちする気でいたのだろうか。
呆れている間にも我が宮殿は二人の小さな怪獣によって破壊されていく。
ああ、私が丹精こめて創り出したささやかな我が家が……。
私の心は今にも張り裂けそうだった。
私は大粒の涙を流し――そんな私にクリスティーヌは優しくキスをしてくれた――二人を地上に追い返した。
「また遊びに来るね!」と手を繋いでおうちに帰ろうとする子供達に「もう二度とくんな」と捨て台詞を吐いて。
4743/8:2010/04/09(金) 23:44:28 ID:j6wJKjP9
なのに。
エリックはくつろいでいる二人を忌々しい思いで睨んだ。
今回で何度目だろうか。やはり最初にやってきた時に追い返すべきだったのだろうか。
地上に追い返したはずの二人が最初に遊びに来た日の事を思い出す。
あの日私は壊されてしまった拷問部屋の仕掛けを直していた。
そこに突然ラウルが降ってきた。彼は拷問部屋へ繋がる道しか知らなかったのだ。
腰への激痛でのた打ち回っている私を尻目に、彼は頭上の穴から顔を覗かせているクリスティーヌに呼びかけた。
「大丈夫そうだよ!あの時と同じ部屋だ!ほら降りておいで」
その後また腰に激痛が走ったのは言うまでもない。
今後私のいない内に拷問部屋に落ちて怖い思いをしては、さすがに可哀想だったので(というか死ぬので)
帰りに楽屋の鏡へと繋がる出入り口を教えてあげた。
その日から毎日のように遊びに来るのだ。
体力の有り余っている若い二人にとってはちょうどいい遊び場なのかもしれないが、
万年地下で引きこもっていたこっちの身にもなってほしい。
まあおかげで人並みの退屈しない暮らしを送れているわけだが。
という旨を先日ダロガに伝えたら「自慢かね。羨ましい限りだ」と肩を竦められてしまった。
「私には君と違って、そんな愉快な友人はいないのでね!」

思えばこんな親しく出来る友人はなかなかいないのかもしれない。
作戦のためとはいえ、彼は毎回何らかの贈り物を持ってきてくれる。
(べっ、別に食べ物に釣られてるんじゃないんだからねっ!)
中には見たこともないお菓子もあり、中でも東洋のヨウカンがおいしいと話したら、
次から毎回それを持ってきてくれるようになった。
大変気に入ったので自分でも買ってみようと商店へ行ったら(最近少し外出できるようになった)
ヨウカンは珍しいものらしく店主さえも存在を知らなかった。
仕方なくオペラ座の支配人二人に訊ねてみるとそれが大変入手困難なものであると知った。
そんな貴重なものを惜しげもなく持ってきてくれるのだ。
きっと私は彼にとって大切な友人の一人なのだろう。柄にもなく嬉しくなってしまう。
内心にやけながら原稿用紙が散乱しているテーブルに向かうと、私の友人が話しかけてきた。
「早く開けて。それ僕も好きなんだ」
前言撤回。やっぱり友人じゃない。
独り占めしたかったエリックは子供のように喚いたが、お茶を入れてくれたクリスティーヌが
「私も好き」
というので三人で食べる事となった。
4754/8:2010/04/09(金) 23:45:45 ID:j6wJKjP9
「もぐもぐ……それにしても」
お茶を飲んで一息つくと、ラウルは床に視線を落とした。
未使用の原稿用紙や失敗したらしいぐしゃぐしゃに丸められた原稿用紙などが散乱している。
「よくこんな散らかった所で生活できるね」
「掃除も出来ない坊やに言われたくはない」
「まあまあ。先生はお仕事で忙しかったのよ。そうですよね」
「うむ、クリスティーヌはよくわかっているな。もぐもぐ」
ラウルが胡散臭そうにこちらを見ている。彼の言いたいことはこうだろう。
(ニートが仕事など!ありえなーい!)
(ニートではない!このプッシー知らずめ!というか貴様こそ仕事はしないので?)
水面下でそんなやり取りをしているとは露知らず、クリスティーヌはぼんやりとにこやかな二人を見ていた。
(いつの間に仲良くなったのかしら?)
「今日は気分が悪い」
エリックがイライラと立ち上がった。
突然のことだったのでクリスティーヌは目を白黒させた。
あんなに楽しそうに見つめ合っていたのにいきなり機嫌が悪くなるんだもの。
「空気がこもってるからねえ!」
ラウルが吐き捨てるように言った。
そうね。空気が悪いから二人ともイライラしているのね。
「それは悪かったね」
エリックは薄暗い湖に面した窓を開けた。むわっと生臭いぬるい風が入ってくる。
クリスティーヌは俯いた。この臭い、嫌いだわ。
彼女の心の声を察したのか、本人もこの臭いは勘弁と思ったのか、ラウルが腕を振った。
「もういい、閉めて」
エリックが窓を閉めるためにこちらに背中を向けたのをいいことに、ラウルはテーブルの上の紙の束を手に取った。
それは床に捨ててある丸められたものやテーブルに散乱しているほかの紙とは違い、丁寧に紐で括られている。
表紙の紙にはミミズがのたくったような赤い文字でタイトルが書かれていた。
ラウルの肩越しに覗き込んだクリスティーヌがそれを読み上げる。
「オペラ座の怪人?」
ハッとしたエリックが振り返るも時既に遅く、二人の好奇心旺盛な子供の手によって固く縛られた紐は解かれていた。
4765/8:2010/04/09(金) 23:47:02 ID:j6wJKjP9
――オペラ座には美しい少女がいた。彼女の蕾は音楽の天使によってやがて開花し始める。
ちょうどその頃オペラ座を脅かす怪人がひそかに活動を始め、彼女の元には幼なじみの貴族の青年が現れる。
彼女は自分を守るという青年と恋に落ちる。しかし青年には知られざる秘密があった……。

「先生がこれをお書きになったの?新しい舞台の脚本ですか?」
クリスティーヌが目を輝かせる。それとは正反対にため息をついたラウルはつまらなそうに足を投げ出した。
「この間の事件の概要じゃないか。自分のやったことを舞台にしようだなんて大胆だねえ」
ま、僕とクリスティーヌが恋に落ちるようだから別に良いけど。と彼は続けた。
「でもこれじゃ僕が主役みたいじゃないか。なんだか申し訳ないよ」
「そんなことはありませんよ子爵殿。最後までお読みいただければ先日の事件とは違うとお分かりいただけるでしょう」
嫌に丁寧なエリックの態度に薄ら寒いものを感じるも、ラウルはクリスティーヌに急かされるままページを捲った。

――なんと彼女が恋した青年はオペラ座の怪人だったのである。
どうしても彼女を手に入れたい青年は自ら怪人を演じ、彼女を恐怖に慄かせ、
滑稽にも怪人である自分が彼女を守っていた。
怪人――青年に浚われた少女は初めて彼女の音楽の天使が言っていたことが正しかったのだと知る。
彼女は青年によって、音楽の天使こそが怪人だと思い込まされていたのだ。
けれどそれは違った。音楽の天使こそが彼女を守る騎士だったのである。
オペラ座に少女の悲鳴がこだました。

「ってちょっと待て。なんで僕が怪人なんだ」
「まあラウルが怪人だったのね!私を騙していたのね!」
キャアッと可愛らしい悲鳴を上げてクリスティーヌはラウルから身を剥がした。
「違うから!これは彼の書いた物語だから!」
そうクリスティーヌを宥めると、ラウルはエリックを睨んだ。
エリックは彼を無視して、クリスティーヌに優しく話しかける。
「大丈夫だ。クリスティーヌは私が守るからね。読みすすめてごらん」
「はい先生……」
クリスティーヌの震える指先が恐る恐るページを捲る。

――浚われた彼女を助けに来たのは彼女の音楽の天使だった!
怪人はあらゆる手段で彼女の天使を痛めつけるも、天使は諦めなかった。
怪人は彼女と彼女の音楽の天使のお互いを思い合う気持ちに涙して、二人を地上へ帰すのであった。
めでたしめでたし。
4776/8:2010/04/09(金) 23:48:06 ID:j6wJKjP9
「まあとてもいいお話でしたわ。泣いてしまいました」
「そうだともクリスティーヌ」
「……」
ラウルが背後に青白い炎をメラメラと散らして怒っている。
ちょっとやりすぎたかなと思ったエリックはペンを取って最後のページに一文を書き足す。
《怪人は改心して二人を見守ることに決めました》
「だーっ!!」
それもやはり気に食わなかったのか、怪人……いや、ラウルはテーブルに積もった原稿用紙を撒き散らした。
一枚が彼の頭の上に落ちてくる。そこにはこの話の続きが書かれていた。
彼女と彼女の音楽の天使の間には男の子と女の子が一人ずつ産まれ、小さな白い家に住んでいるという続編だ。
ブチッ。
エリックは確かに血管の切れる音を聞いた。
ラウルは静かに、だが煮えたぎるマグマのように荒れ狂った動作でその続編をぐしゃぐしゃに丸めると、
薄暗い湖に面した窓を開け、それを投げ捨てた。
そしてくるりとまるで踊るかのようにUターンして、今度はクリスティーヌの手に握られていた
「オペラ座の怪人」の原稿用紙をやんわりともぎ取った。
またしても窓に向かっていく。そこで意図に気付いたエリックは大慌てで彼を後ろから羽交い絞めにした。
「こらこらやめないか!というかやめてください力作なんですっ!」
「うるさい黙れこのヒキニートがっ!オペラ座ごと燃やされないだけマシだと思え!」
くんずほぐれつしている二人をクリスティーヌは微笑ましく思った。
(まあラウルったら私にもあんな口聞かないのに、エリックとは素のままでお話できるのね)
同時に切なくも思う。私のことなんて忘れたように二人で仲良くしているのだもの。
クリスティーヌは立ち上がるとパタパタと揉み合っている二人に抱きついた。
「ラウル、先生!私も混ぜてちょうだい!」
「うわっ!」
突然のことにバランスを崩したラウルは出来上がったばかりの台本を掴んだまま、窓枠の外へ身を投げ出した。
「ああ、私の作品が!」
作品が湖に落ちては一大事だとエリックは咄嗟に手短にあった白い襟首を掴んで引きずり戻した。
「ぐええぇ」
首を締められた可哀想な鶏の声も、今の彼の耳には入らなかった。
ただただ可哀想な鶏の握る紙の束だけが必要だったのである。
エリックは大切な作品をもぎ取ると、残った可哀想な鶏……もとい可哀想なラウルを床に放った。
4787/8:2010/04/09(金) 23:49:10 ID:j6wJKjP9
「ラウル!」
クリスティーヌは放り出されたラウルに駆け寄り、抱き起こした。
そして彼を放り投げた張本人であるエリックに向けて咎めるように呼びかける。
「先生、お二人が仲がよろしいのは私にも分かりますけど、こんなことしたらラウルは怪我してしまいます。
ラウルは先生のように丈夫ではないのですからもっと大切にしないと」
「それはどういう……」
「だって弟は大切にするものですわ!」
「は?」
クリスティーヌはエリックが怪訝そうに首を傾げたのを見て、不満そうに続けた。
「私にとってラウルは弟のような存在。ですから先生にとっても弟のような存在であってほしいの」
「……そうか」
エリックはクリスティーヌの純粋な思いに胸を打たれた。
同時に彼女の腕の中で放心状態になっているラウルを思って視線を逸らした。
「あらどうしたのラウル、ぐったりしちゃって」
「……クリスティーヌが僕のことを弟みたいだなんて」
「そうよ。私のことを守るって言ってくれたでしょう。その時のあなたが弟みたいに可愛くって。
お姉さんの気持ちになってしまって、キスをしたの!」
ラウルは文字通りorzとうなだれた。恋敵であるエリックも彼のためにひそかに涙を流した。
しかしこれでラウルは敵ではなくなったのだ。エリックは不敵な笑みを浮かべる。
といってもクリスティーヌにとってエリックは音楽の天使であり、それ以上でもそれ以下でもなかったのだが。
二人ともクリスティーヌから恋愛対象に見られていなかったのである。悲しいことに。
うなだれていたラウルがむくっと起き上がった。懐から細長い何かを取り出す。
ナイフでも取り出して自害する気かとエリックはうろたえた。
同時に自殺するにしてもここでないどこかでしてほしいと冷たいことを思った。

結論から言えば彼が取り出したものはナイフではなくペンであった。
彼は着席すると、散乱した紙の中からまっさら原稿用紙を引っ張り出し、インクを近くに引き寄せた。
「何をしてるの?」
クリスティーヌの問いかけにラウルは魂の抜け切った表情で淡々と答えた。
「僕も「オペラ座の怪人」を書く」
「なら私も書くわ!」
と宣言するや否や、クリスティーヌはラウルの隣に腰を下ろした。
ペンと紙がないわと喚きださないうちにエリックは彼女にペンと紙を献上した。
4798/8:2010/04/09(金) 23:50:10 ID:j6wJKjP9
いつからここは託児所になったのだろうか。
エリックは今日何度目かになる疑問を己が胸に投げかけた。
答えなど見つかるはずも無く、目の前にいる二人をただ眺めるばかりだ。
やがてエリックは口を開いた。
「ああもう、それでは袖が汚れる!クリスティーヌ、腕を出しなさい!」
「はい先生」
クリスティーヌは素直に従った。エリックはその細い手首が覗く袖口を器用に捲くってやる。
「これでよし。さあ続けなさい」
「はあい」
これでは本当に先生だ。それも小学校の。
エリックは自嘲しながら次にラウルに声をかけた。
「上着が汚れるから脱ぎなさい」
「ん」
書くことに集中している彼は脱ぐこともまどろっこしいのか、ペンを持たない方の腕を伸ばした。
脱がせろというらしい。エリックは小学校ではなく幼稚園かもしれないとひそかに訂正した。
上着を脱がせて、袖口を捲くってやると彼はまた原稿用紙に向かった。
まあ静かに書き物をして遊んでる分にはいいんだがね。
暴れまわって怪我をされるより一万倍マシだ。
上着をハンガーにかけて、エリックは二人を振り返った。
「私は疲れたから休む。暗くならないうちに帰るんだよ」
返事は無かった。二人っきりにするのは不安もあったが(部屋を破壊されるという意味で)
これだけ集中しているのだから大丈夫だと自分に言い聞かせた。
それにエリックは疲れきっていたのだ。
ここのところ昼間は二人の相手をし、夜は舞台の脚本に作曲、それは昼過ぎまで続くことがあり、
また昼から二人の相手をして……一睡も出来ない日が何日も続いた。
作品が出来上がった安心感もあり、彼の疲労は限界値を軽く超えていた。
「……おやすみ」
最後に仲良くお絵描き(違う)をする二人の背中を見やり、エリックは自室の扉を閉めた。
480名無しさん@ピンキー:2010/04/09(金) 23:52:07 ID:j6wJKjP9
以上「原作の皆さんが「新・オペラ座の怪人(仮)」を考えてみた。エリック編」でした。
クリスティーヌ、ラウル編は次回にでも。
あまりにネタがエロパロ板向きで無いようなら続きの投下は控えさせていただく所存です。
ご意見、ご感想、ご批判等お待ちしています。
「実はラウルが怪人だった!」ネタは嫌だスレからお借りしました。
この場を借りてお礼を申し上げます。ありがとうございました。
481名無しさん@ピンキー:2010/04/12(月) 22:28:47 ID:jkBH3bqi
なんか来てたー
いつの間に仲良くなってんだよw
仕方ないから仲良くしてやってんだからね!世話してやってんだからね!
でもちょっと嬉しい…みたいなファントム可愛い
482名無しさん@ピンキー:2010/04/13(火) 08:57:40 ID:hpe1OZH9
全員がそれなりに幸せw
ハッピーエンド版かw
4831/7:2010/04/17(土) 00:54:45 ID:8jyfmqra
原作の皆さんが「新・オペラ座の怪人(仮)」を考えてみた。
クリスティーヌ・ラウル編
・エロ無し
・キャラ崩壊
・我先にとギャグ方向へ突っ走る皆さん

「先生起きてください!起きてくださいってばぁ」
可愛らしい声と共に体がゆさゆさと揺すられる。
うっすらと目を開けるとそこにはクリスティーヌがいた。
けれどもエリックはこうして起こしてもらえることが嬉しくて、寝たふりを続けた。
ああなんて普通で、それでいて私にとっては夢のような現実!
「彼は疲れてるんだよ。寝かせてあげよう、クリスティーヌ」
そこに無粋な男の声が響いた。ああそういえばあの男もいたんだっけ。
エリックがムッとして目を開けると、目の前に黒い塊が落ちてきた。
咄嗟に腕を突っ張らせて受け止めるが、それはさらに力強く落ちてくる。
「ねえラウル。どうして棺を閉めようとするの?」
クリスティーヌの言葉にエリックはこれが棺の蓋なのだと漸く理解した。
そしてそれがラウルの手によって閉められようとしているのも!
「閉めた方がそれっぽいよ」
「そうかしら」
この頭の可哀想なラウル(頭髪的な意味ではなく)は
はたして棺が内側からは開かないことを知っていて、そんなことを言っているのだろうか。
それとも単に頭が足りていないだけなのか。
「ほら。だから手伝ってくれないか、可愛いロッテ」
「うーん」
クリスティーヌは迷っているようだった。
ぽけぽけと頼りなく見える彼女だが、少なくともラウルよりかは幾分マシらしい。
「ええい、やめんか!」
このまま棺を閉められ、永遠にさようなら〈オ・ルヴォワール〉になってはさすがに困るので、
エリックは怒声と共に棺の蓋を投げ飛ばした。
「あ、起きられたのですね!」
「チッ……お疲れなのですからこのままずっと眠っていらしても良かったのに」
エリックは、ラウルが舌打ちをしたのを確かに聞いた。
「まあそれでは困るわ。せっかく私の「オペラ座の怪人」が出来上がったと言うのに!」
クリスティーヌの小さな胸には原稿用紙の束が大切そうに抱かれていた。
「読んでくださいますか、先生」
4842/7:2010/04/17(土) 00:56:14 ID:8jyfmqra
――むかしむかしあるところにオペラ座がありました。
そこにはたいへんうつくしいむすめがおりました。
なまえはクリスティーヌ・ダーエ。とってもうたがうまいです。

「…………」
ひらがなばかりの文章にエリックはめまいを覚えた。
しかも《たいへんうつくしい》と?
事実かも知れないが自分で書くようなことじゃないだろ、常考。
「ロッテは《たいへんうつくしい》けど、自分で書くのはちょっと……
ああ、いや違うんだ!これでも足りないくらいだよね、可愛いロッテ。
君はたいへんうつくしくて可憐で上品でええっと正に絶世の美女だよねロッテ」
ラウルはうっかり口を滑らせ、すぐさまクリスティーヌに睨みつけられた。矢継ぎ早に訂正する。
口に出さなくて良かった。内心ほっとしながらエリックはそそくさとページを捲る。

――クリスティーヌのちちはオペラ座にあったうつくしいばらを、むすめのためにつみました。
それはオペラ座のかいじんがとてもたいせつにしていたばらでした。
くりすてぃーぬのちちはかいじんにつかまってしまいました。

「…………」
どんどん酷くなっていく。終いには自分の名前さえもひらがなで書かれている。
この子は大丈夫なのだろうか……。
「ああ、これは感動の超大作なんだねロッテ。可愛いロッテがお父様を助けに行く話なんだね!」
ラウルはひたすらクリスティーヌをよいしょしていた。
先ほどの睨みがよほど効いたのだと見られる。
「心にもないことを」と口を挟みたかったが、生憎エリックの背中にも矢のような視線が突き刺さっていた。
どうしようもないのでまたしてもページを捲る。

――こころやさしいむすめ、くりすちーぬはちちのかわりにみがわりになります。
おぺらざのかいじんはとてもらんぼうで、えばりんぼです。
なんかめんどくさくなったのでかじょうがきにします。

「…………」
本当に大丈夫だろうか……。
あんなに時間をかけて一生懸命書いていたというのに最後は箇条書きか。
「ええっと」
さすがのラウルも言葉を無くしたようだった。
そこへ追い討ちをかけるようにクリスティーヌが笑いかける。
「どうですか、素晴らしいでしょう?」
「……」
「……」
「ねえそうよね?」
「ソウデスネ」
「すごいよろってすばらしいよろって」
惚れた弱みか、男達は逆らうことができなかった。
4853/7:2010/04/17(土) 00:57:41 ID:8jyfmqra
――とうじょうじんぶつ。
くりすてぃーぬ・だーえ…とってもうつくしいむすめ。こころやさしい。うたがじょうず。
おぺらざのかいじん…とってもおそろしいおぺらざのかいぶつ。けむくじゃら。
らうる・と・しゃにい…とってもくりすてぃーぬのこんやくしゃ。つまんないいやみなおとこ。
くりすてぃーぬのちち…とってもやさしいおとうさん。ばいおりんがじょうず。

「うむ、舞台なら登場人物が少ない方がいい……ってアレ?」
エリックはもう一度、今度はゆっくり慎重に紙に目を落とす。
《おぺらざのかいじん…とってもおそろしいおぺらざのかいぶつ。けむくじゃら》
「かいぶつ……けむくじゃら……」
とってもおそろしいと書かれるのは致し方ないと覚悟していたとはいえ、けむくじゃらとは心外である。
思わず自らの手を見やる。骨ばってはいるが言われるほど毛は生えていない。
「そんな……僕が《つまんないいやみなおとこ》だなんて。どうして、どうしてだいロッテ」
確かに彼は《つまんない》ではない。一緒にいて退屈しないくらいだ。
《いやみなおとこ》でもない。嫌味が言えるようなら「頭の」可哀想なとは言われないはずである。
「あら、これは物語よ。現実とは違うの。面白くなるように脚色したのよ」
「そう、ならいいんだけど……。僕が気に障るようなことを言ったのかと思った」
なら《とってもおそろしいおぺらざのかいぶつ。けむくじゃら》も脚色なのだろう。安心だ。
「さあ先生、続きもお読みになって」

――おはなし。
・くりすてぃーぬがかいじんにつかまる。
・かいじんはくりすてぃーぬのやさしいこころにふれて、いいひとになる。
・かいじんはくりすてぃーぬをまちへかえす。
・らうるはくりすてぃーぬがかいじんをあいしているとおもい、かいじんをやっつけにいく。
・らうるはべらんだからおちてしぬ。
・くりすてぃーぬのきすでかいじんののろいがとける。
・かいじんはらうるのようなかっこいいわかものでした。
・ふたりはしあわせにくらしましたとさ。めでたしめでたし。

「呪い……この顔が呪いだったらどんなにいいことか」
「僕は死ぬんだ。ベランダから落ちてマヌケに死ねというんだね、ロッテ!」
二人の男を絶望の淵へ叩き込んだクリスティーヌは涼しい顔をして言った。
「だから全部物語なのよ」
「……」
「……」
「どうしてそんな悲しそうな目をするの?」
4864/7:2010/04/17(土) 00:59:26 ID:8jyfmqra
「で、でも《かいじん》が最後に僕の顔になるってことは、ロッテは僕の顔が好きってことだよね!
よかった……よかった、のかなあ?」
「さあ?」
涙目で必死に訴えかけるラウルにエリックは同情の意味を込めて肩を竦めた。
「んもう違うわ。このお話は《かいじん》が《つまんないこんやくしゃ》と同じ顔になっても
《くりすてぃーぬ》は《かいじん》を選ぶというところに意味があるのよ!
いくら姿が違っていても、やっぱり肝心なのは心よねってこと!」
「そう。じゃあ僕は《つまんないいやみなおとこ》だからベランダから落ちて無様に死ねというのだね」
ベランダから落ちて死ぬのがよほど気に食わなかったのだろう。ラウルは恨みがましく言った。
「そうじゃないのよ。これは物語なんだもの。
ほら昔を思い出して。お父様にお伽話を聞かせてもらったことがあったでしょう、ねえラウル」
クリスティーヌが拗ねてしまった幼なじみの手を小さな手でそっと包んだ。
「美女と野獣のお話は覚えてらっしゃる?
ふふっ、あなたはつまらなくて途中で眠ってしまったかしら?でも私は覚えているわ。
そのお話を参考にしてこの「おぺらざのかいじん」を書いたのよ」
エリックは納得する。道理でどこかで聞いたような話だと思った。
「なら、君は僕にベランダから落ちて死ねだなんて物騒なことは思わないんだね」
「もちろんよ!」
「本当に?僕の可愛いロッテ」
「本当よ。私の大切な幼なじみさん」
「本当に本当?」
「本当に本当よ」
エリックは二人の気の遠くなるようなやり取りにため息をついた。
あくびが出るほどまどろっこしい。
だが、こんなことを考えるエリックの対人スキルは二人より間違い無く低かった。
「ならいいんだ」
ラウルといえば単純なもので、すぐさま笑顔になった。
そして思い出したように(どこからか)原稿用紙の束を取り出す。
「そうだ、僕も「オペラ座の怪人」を書いたんだった!
さあ読んでみてくれ。きっとびっくりするぐらい超大作だから」
「自分で言うな」
エリックは思わず漫才師のようにツッコんでいた。
ツッコまれたラウルの方は何をされたかイマイチ分かっていないらしく、きょとんとしている。
「まあ楽しみだわ!当然、私は登場するのよね」
「もちろんだよ!君も登場するよ、エリック」
「……」
嬉しいやら悲しいやら。
とにかく読んでと急かされて、エリックは表紙を開いた。
4875/7:2010/04/17(土) 01:00:45 ID:8jyfmqra
――オペラ座には美しい少女がいた。彼女の蕾は音楽の天使によってやがて開花し始める。
ちょうどその頃オペラ座を脅かす怪人がひそかに活動を始め、彼女の元には幼なじみの貴族の青年が現れる。
彼女は自分を守るという青年と恋に落ちる。そして彼女の音楽の天使には知られざる秘密があった……。

「なんか出だしが私の書いたやつに似てるのだが」
「まあまあ気にしない気にしない」
「はやく続きを読みましょうよ」
いつの間にかエリックの両隣にはそれぞれラウルとクリスティーヌが座っていた。
エリックはまるで子供に絵本を読み聞かせる先生のような気分でページを捲った。

――なんと彼女が信頼する音楽の天使はオペラ座の怪人だったのである。
どうしても彼女を手に入れたい音楽の天使は、卑怯な手を使った。
例えば大道具主任を殺したり、シャンデリアを落としたりといった具合にだ。

「ちょっと待て。シャンデリアが落ちたのは私のせいではないぞ。ジョゼフ・ビュケも気絶させただけだ」
「まあ怪人のせいみたいなものだよ、うん」
シャンデリアの点検費用を事業仕分けだとか何とか抜かして滞らせた張本人シャニー子爵はしたり顔で頷いた。
「あれは元はといえばパトロンである貴様が」
「シャンデリアの上に人が乗るなんて想定していなかったもので」
「うう……」
そう言われると何も言い返せないエリックだった。
ちょっとみんなを脅かそうと思ってシャンデリアに乗った、その次の公演で落ちたのである。
因果関係があると言われれば、ああそうかもしれませんねとしか返せない。
仕方ないのでエリックは先を読み進めることにした。

――クリスティーヌを脅かす怪人の影!
彼女の父の墓地でついに勇敢なる彼女の騎士は怪人の影を捉えた。
彼は見事な剣捌きで怪人を窮地に追いやるも、心優しいクリスティーヌは怪人を逃がしてあげるのだった。

「ぷっ。あのマヌケにも凍死しかけた墓地での事件を、どこをどう脚色したらこんな話になるのやら」
「うるさい!ちょっとくらい格好よくさせてくれたっていいじゃないか」
「貴様はあそこで凍死した方がよかったのかも知れんな!ああ、凍死しかかったから頭が可哀想なのか!」
「違う!」
「なら、ずっと昔から君の頭は可哀想なのだろうね!」
「キーッ!!」
言い返すことが出来ないのか、ラウルは悔しそうに唇を噛み締めていた。
エリックは「ふふん」と鼻で笑い、ページを捲った。
4886/7:2010/04/17(土) 01:03:58 ID:8jyfmqra
――怪人の影に怯えながらもクリスティーヌはラウルと秘密の婚約ごっこを始める。
二人は屋上で愛を誓い合い、それを影から見つめていた怪人は絶叫するのだった。
(鼻水たらしてるとなお良い)

「……この鼻水のくだりは?」
「ト書き」
「…………」
むかつくけどまあ許してやろう。

――ラウルと逃げると決意したクリスティーヌは最後の舞台へ上がる。
その公演の最中、クリスティーヌは忽然と姿を消すのだった。
誰もが怪人に慄く中、勇敢なるクリスティーヌの騎士ラウルは彼女を救うべく地下へと降りていく。
怪人はあらゆる手段で彼女の騎士を痛めつけるも、騎士は諦めなかった。
怪人は彼女と彼女の勇敢なる騎士のお互いを思い合う気持ちに涙して、二人を地上へ帰すのであった。
めでたしめでたし。

「さも一人で勇敢に立ち向かったように書いているが、実際はただダロガの足を引っ張っていただけであろう」
「ひ、引っ張ってない!今回は舞台の脚本ということもあって彼には出演しないでいただきましたけど」
「足は引っ張る、戦力になってない、挙げ句死ぬ死ぬ詐欺。百害あって一利無しだな、子爵殿!」
「キーッ!」
またも言い返せなくなったラウルは悔しそうに唇を噛んだ。
さすがに言い過ぎたようだ。エリックは謝ろうとしどろもどろに口を開く。
彼はそれを遮り、癇癪を起こした子供のように叫んだ。
「いいじゃないか!いいじゃないか!少しくらい良い格好させてくれたって!
そうでないとクリスティーヌは僕のことを弟だというんだ。僕の方がお兄さんなのに!
だから!だから!僕はもっと活躍しなくちゃいけないんだ!
だから墓地で君を倒すし、屋上では力強く彼女を抱き締める、地下には自分ひとりで行く!
勿論クリスティーヌに引きずり回されていただけの仮面舞踏会だって改変する。
姫を守る騎士は勇敢でなくてはダメなんだ!だから……」
終いには泣き出すのでエリックは慰めに回らなければいけなかった。
子供のような泣き顔を人に見せまいと両手で覆い、さめざめと泣いている。
「そうだね。これでクリスティーヌも君を見直してくれたと思うよ、うん」
クリスティーヌに弟といわれたのがよほど悲しいらしい。
当のクリスティーヌはぼんやりと薄暗い天井を見上げていた。
彼女が慰めれば一発で治る病だと思うのだが。
4897/7:2010/04/17(土) 01:06:46 ID:8jyfmqra
「もう」
クリスティーヌが突然立ち上がった。泣いているラウルの元に行き、頭をぽんぽんと叩く。
「しょうがない子ね、泣き虫の幼なじみさん」
「クリスティーヌ」
「なんだか大きな子供が出来たようよ、ねえエリック」
「あ、ああ」
同意を求められても……エリックは困惑しながら相槌を打った。
でもこれはもしかして「私とエリックの子供みたいね!」という意味だろうか。
もしそうなのだとしたら嬉しい。いや、こんな子供はいらないが。
「エリックも大きな癖して私に泣きつくんだもの。大きな子供が二人もいて大変だわ」
そういう意味か。
しかしラウルはどういうわけかパッと笑顔に戻った。
「よかった。じゃあ僕は彼と同じレベルなんだね。出し抜かれてないよね」
「……納得するのならそれでいいです」
エリックは慣れないながらも必死に慰めていたのが急に虚しく思えてきた。
単純明快な彼のことだ。死にたいほど辛い出来事でも翌日には綺麗さっぱり忘れているに違いない。
慰める必要など無かったのだ。
「そうだ。君は年上に見られたいのだったな」
このまま引き下がるのも面白くないのでエリックは床に転がっていたペンを取った。
登場人物一覧のページを開き、ラウル・ド・シャニーのところに書き加える。
「大人の男たるもの少しくらい禿げていた方がいいのだ。ちょっと額が怪しいとつけたしておこう」
「なるほど!兄さんも意外と……いやなんでもない。支配人さんも……いやなんでもない」
「そうだとも!」
「言われてみると君も」
「うるさい!」
これが後の作品に多大なる影響を与える事となるのだが今はまだ誰も知らない。

「君のおかげでさらに力作になったよ。ありがとう」
「いや私は何も」
そんな笑顔で感謝されると、後ろめたい気持ちになるじゃないか。エリックは視線を逸らす。
「男の友情って……」
クリスティーヌがポツリと呟いた。
「さてと早速これを支配人さんに見せてこよう、クリスティーヌ!」
「ええ、行きましょう!」
ラウルに手を引かれたクリスティーヌが玄関のところで立ち止まり、後ろを振り返った。
「先生は?」
「ああ彼はいいよ。だってまだ昼だし」
「申し訳ないと思った私が馬鹿だった。当然の報いだ」
「はあ?」
「いいやこっちの話。私にだって昼間から外に出たい日もある」
「えーみんな怖がると思うな」
「……」
やはりこいつは拷問部屋の時点で殺しておくべきだったのかもしれない。
490名無しさん@ピンキー:2010/04/17(土) 01:07:39 ID:8jyfmqra
続く。次は両支配人編。
怪人がシャンデリアに乗ったとありますが原作にそのような場面はありません。
ラウルが書いた本のエピソードは内容自体は映画版ですが、今のところ原作と同じ順序で並んでいます。
491名無しさん@ピンキー:2010/04/19(月) 19:22:36 ID:8Nd4XJez
GJ!
クリスティーヌの一挙一動に上がったり下がったりする男二人がイイ
492名無しさん@ピンキー:2010/04/21(水) 23:35:51 ID:3MAXMBjQ
完全にクリスに振り回されてるなw
493名無しさん@ピンキー:2010/04/22(木) 18:08:58 ID:VlpeepvL
GJw
原作も04年度版も好きだから楽しいw
4941/8:2010/04/24(土) 00:41:33 ID:HcbuRW0i
原作の皆さんが「新・オペラ座の怪人(仮)」を考えてみた。
モンシャルマン・リシャール編
・エロ無し
・キャラ崩壊
・我先にとギャグ方向へ突っ走る皆さん
・ずっと支配人達のターン

モンシャルマン、リシャール両支配人は揃いも揃って真っ青な顔をして、
額に吹き出した冷や汗を双子のように全く同じ動作で拭っていた。
「君、お茶を持ってきたまえ」
同じく真っ青な秘書のレミーはこれは幸いと支配人室を逃げるように飛び出していった。
彼らがこんなに緊張しているのはひとえに特別な来客のせいである。
どんよりとした空気に耐え切れなくなったモンシャルマンが窓を開けるべく立ち上がった。
すると黒いマントが行く手を阻むように立ちふさがる。
「ひぃ!」
部屋には二人の支配人の他に、オペラ座の歌姫であるクリスティーヌ・ダーエ嬢、
オペラ座の若きパトロンであるラウル・ド・シャニー子爵、
そして一連の事件を巻き起こした悪名高きあのオペラ座の怪人がいた。
どういう取り合わせだかは知らないが、盆暮れ正月クリスマスが一度に訪れた気分だった。
「あのですね」
摩訶不思議な取り合わせの中で最もとっつきやすそうなクリスティーヌが口を開いた。
「次回公演の内容はお決まりですか?」
黙りこくったリシャールに代わって、モンシャルマンはぎこちない笑みを浮かべて答えた。
「いいや、まだ決まっていない。それがどうかしたのかね」
「まあそれは良かった!ねえ先生!」
クリスティーヌが突然怪人に話しかけるので、モンシャルマンは腰を抜かしそうになった。
どうにか耐えると、張り付いた笑顔のまま、怪人に視線を向ける。
怪人は顔全体にすっぽりと仮面を被せていた。表情は読み取れない。
どうしたものかと思いあぐねていると今度は子爵が話しかけてきた。
「僕たち、次回の参考になればと台本を書いてきたんですよ」
「それはどうも」
モンシャルマンは子爵にそう答えつつも、視線を絶えず怪人の仮面を向けていた。
食い入るように。そうしていなければ死んでしまうという程真剣に。
「あのー」
にゅうっと目の前にクリスティーヌの顔が出てくる。
モンシャルマンは止まりそうになる心臓を必死で励ました。
「聞いてますか」
「聞いてるとも、なあリシャール」
リシャールに呼びかけるが彼は心ここにあらずといった様子で宙を見つめていた。
出来ることなら自分もああなりたいとモンシャルマンは思った。
4952/8:2010/04/24(土) 00:42:53 ID:HcbuRW0i
クリスティーヌと子爵は顔を見合わせ、不思議そうに首を傾げて、再びこちらに向き直った。
「彼はどうしたのですか。気分が悪いのでしたらご自宅に帰られては?」
なんという天からの助け舟!
しかし一人だけ帰るだなんて不公平である。モンシャルマンは丁寧に説明した。
「いいえ心配には及びませんよ子爵。すぐによくなりますとも」
「そうですか。ではこれが僕の書いた台本です」
「これはこれはご丁寧にどうも」
「こっちは私が書きました」
「え?」
まさかクリスティーヌまで提出するとは思わなかったので、マヌケな声を出してしまった。
「僕たち」と子爵は話していたが、三人でひとつを作り上げたのではなく、
それぞれがそれぞれのものを作り上げたということらしい。
ということは……モンシャルマンは恐る恐る顔を上げた。
怪人がすうっと台本を差し出してくる。
叫びだしそうになるのを必死で堪え、震える腕を叱咤しながらモンシャルマンはそれを受け取った。
「あ、ありがとう」
モンシャルマンの心情を知ってか知らずか、クリスティーヌが一仕事終えた顔で体を伸ばした。
「さあ帰りましょうラウル、先生」
「そうだね。いっぱい頭使ったから疲れちゃったよ」
ねーっと二人は人懐っこい瞳で怪人を見上げた。
二人の支配人にとっては信じられない光景だったが、
現に目の前のクリスティーヌと子爵は怯えた様子も無く怪人に話しかけている。
「もう陽も暮れるから二人とも今日はおうちに帰りなさい」
怪人らしからぬ思いやりのこもった言葉にまたしても二人の支配人は我が目を疑った。いや、耳を疑った。
「えーもっと遊びたいわ」
「まだ陽は沈んでないよ」
恐ろしいことに二人は怪人に大変懐いているようだった。まるで趣味の悪い夢を見ているようだ。
「また明日にすればいい。君たちには明日はたくさんあるのだから」
「はあい」
「仕方ない。また明日ねロッテ、エリック」
「ばいばいラウル、先生」
ひらひらと手を振ってクリスティーヌと子爵が部屋を出て行く。
「気をつけて帰るんだよ」
部屋には怪人と哀れな二人の支配人だけが残った。
「……」
「……」
「……」
怪人はちらりと二人を一瞥し、踵を返した。
4963/8:2010/04/24(土) 00:44:25 ID:HcbuRW0i
支配人室に沈黙が訪れる。やがてモンシャルマンが重い口を開いた。
「もしかすると怪人もあれでいい奴なのかも知れない。子供があんなに懐いている」
「あの二人はもう子供という歳ではないだろう」
リシャールが冷ややかに訂正した。
確かに子供というには些か歳を食い過ぎているが、子供の持つ純粋さをそのまま残している。
その純粋さを子供と呼ぶのなら、彼らはまだ子供だろう。
ところでリシャールは恐怖の為に放心状態に陥っていたわけではないらしい。
問いかけに答えたのがその証拠だ。今の今までずっと覚醒していた。
なのに私一人に対応を押し付けるとは……モンシャルマンはもう一人の支配人を胸の内で呪った。
「お茶をお持ちしました」
そしてタイミングを見計らったように帰ってきた秘書のレミーを、
今度は二人の支配人が胸の内で呪うのだった。

温かい紅茶を口にしてに漸く生きた心地を取り戻した二人は
否応無しに受け取ってしまった例の台本を開いてみることにした。
「なんだこのダーエの本は!彼女は学校を出ているのかね」
「内容は「美女と野獣」の焼き直しのようだな。これはいかん」
昨今パクリだとかパクリじゃないとか世間様はうるさいのである。
こんな焼き直しを「オペラ座の怪人」ですなんて公演した日には炎上するに決まってる(色々な意味で)
「さて次は子爵の……おやこれも「オペラ座の怪人」か。なになに」
「先日の事件の概要のようですな。それにしても子爵はこんなに大忙しだったのか」
「ふっ、どうせあの若造のはったりに決まってる」
「それもそうでしょうな。はっはっはっ」
若きパトロンがいないことをいいことに二人の支配人は彼を嘲笑った。
「だいたい若い癖に態度がでかいのがいかんのだよ」
「静かに」
「どうしたのかね」
「気配がする。誰かが立ち聞きをしている!」
モンシャルマンのあまりの動揺っぷりに、リシャールはレミーに扉の外で見張っているよう命じた。
「しかし君は怯えすぎなのではないかね?まるで子羊のようにビクビクして」
「本当にいるんだ!」
結論から言うと確かに怪人が秘密の通路で立ち聞きをしていた。
だが彼にとって子爵の悪口などどうでもいいことだった。
もしこれが怪人の悪口だったら、二人は今頃悲鳴を上げていたことだろう。
暫くの間、二人はどちらがより臆病だなどと言い争った。
けれどもそれが不毛なことだと気付いたのか、二人は黙って最後の台本を開いた。
4974/8:2010/04/24(土) 00:45:45 ID:HcbuRW0i
「これは怪人が書いた本だったな」
「恐ろしい。あの怪人が机に向かっている姿など考えたくも無い」
「私もそうだとも。おやこれも「オペラ座の怪人」だな」
二人は顔を見合わせ、笑い転げる。
「オペラ座の怪人が「オペラ座の怪人」の脚本を書く。これは傑作だな」
「これは良い笑い話だ」
二人はひとしきり笑った後、真っ青な顔をして手を握り合った。
「この部屋には誰もいない。立ち聞きをしているものもいない」
「そうだとも!そうだとも!」
そうして二人は互いに勇気付けあい、台本を読み進めることにした。
「これも子爵のと同じ先日の事件の概要だな」
「いいや違うぞ。見たまえ、子爵が怪人だったと書いてある」
「なんということだ、あの若造め!」
「我々はあの青二才にまんまと騙されていたというわけだ!」
今にも焼き討ちだ!と言い出しかねない雰囲気に、もしそうなっては哀れと考えたエリックは
己が友人のために、一枚の紙をひらりと彼らの頭上に落とした。
彼らはすぐさま紙に反応した。やはり誰かいると喚きながら、紙に書かれた一文を読み上げる。
《なおこれはフィクションである。実際の事件とは異なる》
「ああそうか、子爵は怪人ではないのか!」
「そうだ、あの仮面の男も怪人ではない!」
リシャールは目を丸くしてモンシャルマンを見やった。モンシャルマンはうなだれて付け加える。
「なわけないか」
あの仮面の男は間違いなくオペラ座の怪人なのだ。二人は同時にため息を付いた。

「さてこれをどうするかが問題だ」
「問題?」
「三人が共同で仕上げた作品ならば問題は無いのだよ、モンシャルマン君」
聞き分けの無い子供に言い聞かせるようにリシャールが語りかける。
「しかし三人は別々の作品を持ってきた。誰の作品をやるにせよ、誰かの面子が潰れるというわけだ」
あっちを立てようとすればこっちが立たず、こっちを立てようとすればあっちが立たない。
「しかも今回のケースは特殊だ。オペラ座の怪人とパトロンの子爵、どちらの面子を立てるべきか」
ごくりとどちらかが、もしくは両方が息を呑んだ。
「で、では間を取ってダーエの作品にすれば。二人とも彼女にぞっこんですからな」
モンシャルマンはそう言い切ってから、それは出来ない相談だと悟った。
「彼女の作品は明らかにパクリだ。あれではオペラ座の面子が丸つぶれになる」
二人は天を仰いだ。
4985/8:2010/04/24(土) 00:47:29 ID:HcbuRW0i
程よい解決策も見つからず、二人は蛇の生殺しのような一週間を過ごした。
小さな物音にも怯える様子はオペラ座中の笑いものであったが、彼らはそんな笑い声にさえ慄いた。
「どうしようどうしようどうしよう」
「落ち着きたまえ、モンシャルマン君」
「そういう君も落ち着いたらどうだね」
リシャールはそう言われて漸く自分ががたがた震えていたことに気付いた。
二人は肩を抱き合い、お互いを勇気付けあった。
ちょうどその時、扉が開いた。二人は絶叫した。
「「ぎゃーーーーっ!!」」
「わっ!」
二人の叫び声にオペラ座の若きパトロンが飛び上がる。
「さ、最近お二人の様子がおかしいと聞いてお伺いしたのですが、お取り込み中でしたか」
原因のひとつが自分だとも知らず、子爵はにこやかに訊ねる。
気絶しかかったモンシャルマンをソファーへ座らせ、リシャールは自分も隣に座った。
「あ、ああ、子爵殿もお座りください」
「ええ」
子爵は怪訝そうな顔をしながらもそこに座った。
冷静に考えるとそこは下座であり、パトロンの彼が座るべき場所ではなかったのだが
頭も回らなくなった二人の支配人にその件を咎めるのはあまりに可哀想であったし、
まして頭の弱いパトロンはそのことに気づく由も無かった。
「それでこの間の台本の件ですけども」
「ひぃっ!」
台本という単語にモンシャルマンは涙目になった。小首を傾げつつ、子爵は続ける。
「どの台本でいくのですか?そろそろ資金を入金しようかと思っているのですがね」
「そ、それがまだ……」
「そうなのですか」
意外だと言うように子爵は目を丸くした。
「ええ、オペラ座の怪人がまた何か言ってくるかもしれません」
「ここは素直に怪人の台本を上演するのが一番かと」
二人は申し合わせたように矢継ぎ早に言った。顔が紙のようだった。
「なるほど」
子爵がすっと二人の目の前に小箱を差し出す。
受け取ろうと手を伸ばした瞬間それはサッと下げられた。
えっ?と顔を上げると若きパトロンはにっこりと笑みを浮かべた。
のちにモンシャルマンがうわ言のように述べた話によれば、
その笑みはまるで少女のようであり、それでいて悪魔のようでもあったという。
「それは残念だ」
背筋に冷たいものが走る。
4996/8:2010/04/24(土) 00:48:32 ID:HcbuRW0i
子爵はテーブルの上に置かれた自分の書いた台本を手に取った。
そしてふと思いついたようにこちらに笑みを向ける。
「そういえばこの近くに劇場が出来たと聞きました」
気まぐれに吹く風のように話題が変わる。リシャールは付いていけずに閉口した。
モンシャルマンは戸惑いながらも「ええ」と答える。
「ふうん。さぞお困りでしょうね」
「そうですね。客を取られては一大事です。オペラ座はただでさえ不祥事続きですから」
それは子爵もご存知でしょう?とモンシャルマンは付け加える。
「ええ勿論知ってますよ。でも残念だな」
「何がです?」
「だって僕の書いたこの本はオペラ座では上演されないのですよね?」
「……」
「本当に残念だ。僕の書いたこの本がオペラ座でない劇場で上演されることになるなんて!」
「ええっそれはどういうことですか、子爵!?」
二人の支配人は飛びつかんばかりに若きパトロンに迫った。彼はうざったそうに二人を払いのける。
「賢明なお二人ならばもうおわかりでしょうに。僕の本がオペラ座で上演されないのでしたら、
僕はこの本をあちらの劇場に持っていこう、とね。僕だって本当に残念に思っていますよ。
オペラ座には僕の可愛いロッテもいるんですから。けれども資金援助も今日限りです」
「えええええええええっ!?」
子爵は蝶の翅を毟り取る子供の無邪気さで、残酷にも哀れな二人の首筋に死神の鎌を振り落とした。
突然の死刑宣告に顔を真っ青にしたモンシャルマンは子爵の足に縋りついた。
「困ります、子爵!うちは資金難なんですよ」
「だって僕の本は上演されないのでしょう?」
「ですけどお」
「いいから離してくれませんか。服が汚れる」
若造め……パトロンじゃなかったらその何も詰まってない空っぽ頭を撃ち抜いてるところだ!
怒りに震えながらもリシャールは努めて冷静に彼の手を取った。
「あなたの本を上演しましょう。上演します。上演させてください!」
その言葉に若きパトロンはつき物が落ちたようにケロッと愛らしい笑顔に戻った。
「そうですか。あ、これ挨拶代わりの軽い軍資金とおみやげです」
分厚い封筒と小箱を二人は感涙に咽びながら受け取った。
「資金がさらに必要でしたら執事を通してください。じゃ期待してますねー」
そうしてオペラ座のうら若きパトロンは帰っていったのである。
5007/8:2010/04/24(土) 00:50:30 ID:HcbuRW0i
「あの洟垂れ小僧が」
モンシャルマンはガチガチと奥歯を鳴らして震えていた。
信頼できるはずのリシャールが若きパトロンの悪口を言いながら拳銃に弾をこめているからだ。
「いつか殺してやるきっと殺してやるぜったい殺してやる」
リシャールの目はもはや正気とは思えなかった。
しかしモンシャルマンは何も言うことが出来なかった。
口に出したら子爵の代わりと言わんばかりに撃ち抜かれてしまうかもしれない。
ただただ震えるばかりだった。夢ならどうか覚めてほしい。モンシャルマンは切実に願った。
しかしこれは夢で無く残酷な現実で、なおかつ現在進行形であった。
十字を切って祈るモンシャルマンの前に音も無く黒い影が現れた。
今度こそモンシャルマンは泡を吹いて気絶した。

拳銃に弾をこめていたリシャールは驚きに思わず引き金を引きそうになる。
寸のところで指を押し留め、影に向かって叫んだ。
「どこから入ってきた!」
「物騒なものをおしまいなさい。私はただ私の台本がどうなったのかを聞きに来ただけだ」
オペラ座の怪人……リシャールは口の中で呟くと、震える銃口を怪人に向けた。
「私は本気だ!すぐにでも貴様を撃ち殺すぞ!」
「もう一度言う。物騒なものをおしまいなさい」
心地の良い低い声。まるで耳元で囁かれたかように感じた。
怪人の言葉はあれほど警戒していたリシャールの胸の内へするりと、いとも簡単に滑り込んだ。
そして気づいたときには拳銃は引き出しの中だった。
リシャールは自分の身に何が起こったのか、咄嗟には理解できなかった。
ともかく同僚を守らなくてはならない。ここには自分しかいないのだからと心を奮い立たせ、
倒れたモンシャルマンを抱き起こし、怪人をまっすぐと見据える。
「申し訳ないが怪人殿、今回は子爵の本を上演することになった。ついさっき決まったことだ」
声は震えていたかもしれない。もはやリシャールを支えるのはちっぽけな矜持だけだった。
「ほうあの馬鹿な子爵が賄賂でも渡したのかね」
ハッとしてテーブルを見やるが既に貰ったものは金庫に入れてある。
怪人には金庫の中身まで分かるのだろうか。
実のところ盗み見ていただけなのだが、そのことを知らぬリシャールは恐怖に慄いた。
「彼のことはまあいい。まだわからないというのか。わからずやの支配人には全く困ったものだ」
怪人がすっと腕を振り上げる。
殺される――!
リシャールは咄嗟に目を瞑った。
5018/8:2010/04/24(土) 00:52:05 ID:HcbuRW0i
……何も起きない。
こわごわと目を開けると怪人の手には分厚い原稿用紙の束が握られていた。
「せっかく音楽も作ってきたのだがねえ」
「そ、そうか。上演しないつもりならシャンデリアを落とすと言いたいのだな!?」
「え?あ、ああそうだ。何度でも落としてやる!」
「!」
リシャールが声にもならない悲鳴を上げたとき、怪人――エリックはこんなことを思っていた。
本当はこんなこと言うつもりはなかったのだが……ちょうどよく誤解してるし乗っかってやるか。
しかし実はただの事故で落ちただけと聞いたら彼はどんな顔をするのだろうな。
仮面の下で底意地の悪い笑みを浮かべる。

「頼む、今度あんなことが起きたらこの劇場はおしまいだ!」
リシャールは半狂乱に陥りながらも必死に懇願した。
「そうだろう。だが私には関係の無いことだ」
「で、でもダーエは?君が大事にしているダーエはどうなる!?」
「君たち二人が路頭に迷うだけで劇場のスタアたちはきっと別の劇場へ行くなり、
新しい支配人の下で新しいオペラ座を支えるだけだろうな。
さあ私の本を上演すると誓え!でないと災いが起きるだろう!」
「わかりました。上演しましょう。上演します。上演させてください!」
気づけば子爵のときと全く同じ台詞をリシャールは口にしていた。
怪人がにやりと笑った気がした。顔全体に仮面を被っていて口元なんて見えないはずなのに!
「楽しみにしてますよ支配人殿。あ、これ楽譜とおみやげです」
出てきたときと同様に、怪人はあっという間に煙のように消えてしまった。
リシャールは尻餅をついた。
「夢を、見ていたのかもしれない」
しかしテーブルの上に残された楽譜と英国製のボンボン一箱が、夢でないことを証明していた。
「あ、あはは……どうしたら、どうしたらいいんだ……」
気絶してしまえればどんなに良かったことか。
リシャールはモンシャルマンを揺さぶり起こし、今見聞きしたことと自分の発言を事細かに伝えた。
そして二人の新たな悩みの種はすぐに芽吹き、二人の胸の内に根を広げ始めた。
子爵の本と怪人の本。どちらを上演したらいいのだろうか?
いいや、どちらを上演すれば我々に被害が及ばないのだろうか。
もはやオペラ座のことなどどうでもよかった。
二人は己の保身のみを考えていたのである。
けれどどちらを選んでも、二人が路頭に迷うことは確実であった。
二人の情熱のプレイ――もとい受難劇はまだまだ続く。
502名無しさん@ピンキー:2010/04/24(土) 00:52:49 ID:HcbuRW0i
今回は以上です。次もたぶん支配人達のターン(?)です。
ラウルが持ってきた小箱の話は長くなった&ノリが違うためカットしました。
あっても無くても今後の展開に影響することはありませんが、後日おまけとして投下します。
503名無しさん@ピンキー:2010/04/26(月) 11:58:59 ID:t/oStIJP
>>なおこれはフィクションである
怪人優しいなwww
504名無しさん@ピンキー:2010/04/27(火) 21:49:26 ID:czoh0QG6
力関係はラウル・怪人>支配人なんだけど、
ラウル・怪人<クリスだからなぁ…
505名無しさん@ピンキー:2010/04/28(水) 00:29:51 ID:Z1NLwLkv
でも支配人とクリスは雇用関係にあるから
クリス>惚れた弱みの壁>怪人、ラウル>決して逆らえない壁>支配人>雇用関係の壁>クリス>惚壁>怪人、ラウル
おや、支配人に逆転の兆しが…
5061/7:2010/04/29(木) 01:09:47 ID:OuJuGRtS
原作の皆さんが「新・オペラ座の怪人(仮)」を考えてみた。
ういろう編
・エロ無し
・キャラ崩壊
・食い意地を張る皆さん

「え、支配人達に何を渡したかって?」
大階段の踊り場でラウルはくるりと後ろを振り返った。
「そうだ」
問いかけの主は人々にオペラ座の怪人と恐れられているエリックであった。
ラウルもその数歩後ろを歩いているクリスティーヌも、彼のことをよく知っているため
特にこれと言った恐怖を感じることはなかったが、周りの人々はそうもいかない。
蜘蛛の子を散らすかの如く逃げていくので
彼の通った後はまるで花畑を整地したかのような有様だった。
しかしながら原因は彼だけでは無い。
その原因の一つが自分にあるとも知らず、ラウルは前述の問いかけに答えた。
「軍資金とおみやげを渡したよ」
「だからそのおみやげの中身だ。まさかヨウカンじゃあるまいな。
私に渡すはずのヨウカンを賄賂に使うなんて!」
「別に全てのヨウカンが君のためにあるわけじゃないけど」
「賄賂って何のこと?」
「ああええっと、渡したのはヨウカンじゃなくてういろうだよ」
クリスティーヌに疑惑の目を向けられ、ラウルは咄嗟に話を戻した。
幸い二人はすぐに食いついてきた。
「ういろう?」
「東洋のお菓子だよ。ヨウカンの親戚みたいなやつ」
「食べたい食べたい食べたい」
まるでお腹を空かせた雛鳥が親鳥を呼ぶように、エリックが鳴きだした。
ラウルは困ったなあと顎に手を当てる。
「ういろうはあの一個だけなんだ。今度来るのはひと月後かな」
しかしそれも必ずと約束できるものではない。
たまたまどこかの船が、たまたまとある国に寄り、たまたまういろうを仕入れ、
たまたま船長と兄が友人だったため、たまたま手に入ったものなのである。
ヨウカンもまた然りだ。
「おなかすいた」
ゾンビのような顔で――正確には仮面で顔全体を覆っているから表情は見えないのだが――エリックが迫ってきた。
ラウルは思わず後ずさる。
ここにないとわかったら、ラウルは頭からバリバリと食べられてしまうかもしれない。
「あっ、鬼ごっこしましょう!」
クリスティーヌがあまりにも唐突に提案した。有無を言わさずラウルの手を掴んで走り出す。
「エリックが鬼よー」

取り残されたエリックは呆然としながら自分が次にすべきことを考えた。
骨ばった手で仮面を覆うとゆっくりと息を吸い込んだ。
「いーち、にーい、さーん……」
5072/7:2010/04/29(木) 01:12:14 ID:OuJuGRtS
突然始まった鬼ごっこにオペラ座は上へ下への大騒ぎとなった。
それもそのはず。普段は人目の付かない所でひっそりと遊んでいる彼らが
そのままそっくり地上に引っ越してきたのだから。
クリスティーヌに手を引かれて、ラウルは階段を駆け上がり、また駆け下りて、
大道具係の魔法の手によって庭園へと様変わりしていた舞台を通り抜け、
公演直後にはたくさんの人で賑わうはずの定期会員用の楽屋入り口を横切った。
ラウルにはどこをどう走ってきたのかわからなかったが、気づいたら支配人室の前にいた。
「クリスティーヌ」
「さあ急いで、鬼がきてしまうわ」
「一体何だって言うんだ」
「はやくして!」
クリスティーヌが支配人室の扉を指差す。どうやらここに入れということらしい。
ラウルはドアノブに手をかけた。しかしドアは堅く施錠されているようで開かなかった。
「鍵がかかっていて開かないよ」
「なら開けてちょうだい。はやくしないと鬼がきてしまうわ!」
クリスティーヌは不安そうに何度も後ろを振り返っていた。
そんな彼女を見ているとこちらも気分が高まってくる。
ただ唐突に始まった遊びのはずなのに、捕まったら殺される残酷なおとぎ話を錯覚してしまう。
「はやく!」
そうだ。はやく扉を開けなくては二人は殺されてしまう!
完全にクリスティーヌのペースに飲み込まれたラウルは片手で彼女を胸元に引き寄せ、扉を叩いた。
ガタンと室内から物音が聞こえた。
「誰かいる」
「はやくはやく!」
クリスティーヌに急かされて扉を叩く勢いを上げると、今度は悲鳴が聞こえてきた。
「やっぱり誰かいる」
そりゃそうである。ここは支配人室で、まだ彼らの勤務時間なのだから。
しかしクリスティーヌに乗せられたラウルの頭からその事実は綺麗さっぱり抜け落ちていた。
「すみません、ここを開けてください!」
「はやくして鬼がくるわ!」
怯えきった様子でクリスティーヌがしがみついてくる。
ラウルは彼女を抱き寄せる腕の力を強めて、さらに扉を叩いた。
「あーけーてー!」
耳障りな金属音がして、漸く施錠が外れた。扉が開かれる。
こうして二人は悪魔の館から無事脱出したのだった!

「な、何事だ!ああ、子爵でしたか。いかがしましたかな」
扉の向こうにはモンシャルマンとリシャールがいた。二人は酷く怯えた様子だった。
「えっ」
ラウルはきょろきょろと辺りを見回した。そこは紛れもなく支配人室であった。
「えっ」
5083/7:2010/04/29(木) 01:13:33 ID:OuJuGRtS
「あれ?」
ラウルは困惑しながら、今にも爆発してしまいそうな頭を捻った。
ここは出口じゃない。逃げられない!
「こんなこと言いたくありませんがね、オペラ座はあなた方の遊び場ではないんですよ。
愛の逃避行ごっこでしたら外でやってください。こっちは色々と忙しいんです」
あなた方のせいでねとモンシャルマンが言外にちらつかせた。
「愛の逃避行ごっこだなんて。私たちは鬼ごっこをしていただけですわ」
クリスティーヌがおどけた仕草でスカートの裾を持ち上げてぺこりとお辞儀するのを
視界の隅に収めながら、ラウルはオーバーヒートした頭を押さえ、
頭痛が痛いなどとこちらの方がよっぽど頭が痛くなるようなことを考えていた。
「鬼ごっこでも何でも良いから外で遊びなさい!」
「ええ〜」
そうだ。僕たちは鬼ごっこをしていて、でもいつの間にかおとぎ話の残忍な怪物に追われていて、
クリスティーヌに言われて扉を開けたんだ。でもここは出口ではなかった。
いやちょっと待てよ。別にこれは残酷なおとぎ話ではないのだから怪物には追われていないはずだ。
あれ?いつの間にこんなことになったんだっけ?
「う〜ん……」
「彼は一体どうしたんだ」
「さあ頭でも弱いんだろ」
モンシャルマンとリシャールが向ける哀れみの視線にも気づかず、ラウルはさらに考えた。
自分でも何を考えているかわからなかった。
「でもどうしてここに」
「だって私も食べたかったんだもの」
譫言のような疑問にクリスティーヌが答えた。
「食べたかった?」
ラウルは瞬き、ああと手を合わせた。先ほど話していたういろうのことか。
だからクリスティーヌは鬼ごっこと称してここに連れてきたのだ。
他に無いのならご相伴に預かろうとそういうことだ。
「なら彼も一緒に連れてくれば良かったのに」
「エリックならすぐ来るわ」
言葉の意味をぼんやりと考え出すと同時に甲高い悲鳴が耳を劈いた。
モンシャルマンは尻餅をつき、リシャールは険しい顔をして唇を噛み締め震えている。
そしてクリスティーヌは身を翻すとラウルの影に身を隠した。
「見つけた」
振り返るとそこにはエリックがいた。足音も、扉を開ける音すら立てずにここに侵入したというのか。
彼は歩み寄るとラウルの肩にぽんと手を置いた。
「えっ」
戸惑いの声を上げると、クリスティーヌがサッと身を剥がした。
「今度はラウルが鬼よ!」
「えっ」
5094/7:2010/04/29(木) 01:15:31 ID:OuJuGRtS
そこで漸くエリックが鬼だったことを思い出した。
ラウルはなんでこんな大事なこと忘れてたんだろうとどうしようもないことを考える。
「遊ぶなら外に行ってくれ」
リシャールが苛立ちを隠す様子も無く、窓の外を指差した。
「じゃあ鬼ごっこはちょっと休憩ね」
「喉渇いた。おなかすいた」
クリスティーヌとエリックが申し合わせたように言った。ちゃっかりとソファーに腰を下ろす。
リシャールの頬が痙攣している。怒っているのだ無理もない。
彼が爆発しないうちに――いやエリックたちがラウルを頭から食べだす前にどうにかしなくては。
「そういえば先ほどお渡ししたういろうはいかがでしたか。お口に合いましたか」
「いえまだ食べてませんので」
何かの恨み節を呟き続けるリシャールを椅子に押さえつけながら、モンシャルマンが答える。
「よかった」
「はい?」
「こっちの話です。よければご一緒にお茶でもどうですか」
モンシャルマンの顔からぎこちないながらも浮かべていた笑みが消える。
お前が言う台詞じゃないだろと顔に書いてある。
でもだってこうでもしなきゃ頭から食べられちゃうかもしれないし。
「そ、そうですね。お茶に、しましょうか」
「私、準備しますね」
クリスティーヌが軽やかに立ち上がった。
よほど嬉しいらしく、今にも踊りだしそうな感じで手際良くお茶を入れ、例のういろうの箱を持ってきた。
「まあ白、小豆、黒、ピンク。カラフルね。どれにしますか」
「私は小豆で」
「じゃあ私はピンクにしようっと」
エリックとクリスティーヌがそれぞれの色のういろうを掴んだ。
「待って。丸々一本食べるつもりなのかい」
「ダメなの?」
「ダメじゃないけどお腹壊すよ」
そりゃ丸齧りしたいとか思わないでもないが……ラウルは続ける。
「それに太るよ」
カチンとクリスティーヌの額に青筋が浮かぶ。
「何か言った?」
「いいえなにもいってません。ごめんなさい」
「しかし我々が一本ずつ食べては彼らに悪いだろう」
エリックは固まっている二人の支配人を一瞥して、小豆のういろうを箱に戻した。
「切り分けますね」とクリスティーヌは終止不満そうであったが、
不揃いに切り分けた一つをお皿に乗せると満足そうに微笑んだ。
「それは私が戴こう」
「え〜」
「じゃあ二番目に大きいので」
「ありがとう、大好き天使様!ラウルは?」
「小さいので良いです」
5105/7:2010/04/29(木) 01:18:03 ID:OuJuGRtS
ういろうが全員行き渡るとクリスティーヌの号令に合わせて手を組んだ。
「いただきま〜す」
「いただきま〜す」
食前の祈りも済んだところでラウルは早速とフォークを手に取った。
配られたういろうの大きさはそれぞれの力の差を表しているようで滑稽でもあったが、
なるべくその辺は考えないようにした。
第一、支配人達に配られた向こう側が透けて見えそうなういろうを思えば、自分はまだマシである。
向かいに座るモンシャルマンがそっと身を乗り出してきた。小声で呼びかけられる。
「どうしましたか」
ラウルも身を乗り出すと、モンシャルマンがこう耳打ちした。
「彼は、怪人はどうするのですか」
「?」
質問の意味がわからず、ラウルは首を傾げた。
モンシャルマンがわかりやすく噛み砕いて続ける。
「ですから、怪人はどのようにして食べるんでしょう。あの仮面をしてては食べられない」
ラウルには質問の意図がわからなかった。何故そんなことを訊くんだろう。
そんなことを考えていると、モンシャルマンが耳元で悲鳴を上げた。
「ぎゃあっ!」
「!」
ラウルはぐわんぐわんする耳を押さえて、モンシャルマンの視線の先を追った。
ちょうどエリックが仮面を外しているところだった。
慣れとは恐ろしいもので支配人達が何に驚き怯え慌てふためいているのか、
今のラウルには全くわからなかった。
ともかくさっさと食べないと、自分の取り分を横取りされてしまうかもしれない。
「甘くておいしいわ。ねえラウルの分も食べていい?」
ほらきた。
「ダメ」
「いじわる」
クリスティーヌが頬を膨らませると、彼女の前に二枚のお皿が出てきた。
どうやら支配人達はいらないようだ。
ラウルにもう少し考える力があったのなら、彼らが食欲をなくした理由もわかったのだろうが、
もう少しだろうとほんのちょっとだろうと「考える力」なんて土台無理な相談だった。
「ありがとうございます〜」
クリスティーヌは目を輝かせてそれを受け取った。
「薄いわね」などと文句を言ってるが、切り分けたのはクリスティーヌである。

リシャールが突然テーブルをひっくり返さんばかりに立ち上がった。
「はっ、誰かが呼んでる気がする!行かなくては!」
「では我々はこの辺で」
彼に続いてモンシャルマンまで部屋を出て行ってしまった。
忙しいのかな。支配人って大変だなあとラウルはぼんやりと思った。
5116/7:2010/04/29(木) 01:19:16 ID:OuJuGRtS
「おいしい」
エリックが感慨深げに窓の外を見ている。
窓の外には眩しいほど陽の光に照らされた美しいパリの街が広がっており、
重厚な窓枠と合わせてそれはまるで一枚の絵画のようだった。
「ここで食べるからおいしく感じるのかもしれない」
「支配人室で食べるから?」
「こうして外の景色を眺めながら食べるからだ」
けれどラウルにはそこまで言うほどの美しい景色には見えなかった。
勿論パリが世界で一番美しい街だと思っていたし、それを誇りに思っていたが、
もっと素晴らしい景色は他にもあるはず。
「そうかな。特段美しい眺めとも思えないけど」
ラウルは言い終わってから、慌てて口を噤んだ。
エリックの言わんとすることを遅蒔きながらに察したからだ。
ラウルにとっては何気ないことでも、
生まれも育ちも住む場所も年齢も違う彼にとっては特別なのだ。
自分は如何に恵まれていることか。
「ごめん、そういうつもりじゃ……」
「今度は縁側で食べたいわね」
ラウルの言葉をかき消すように、クリスティーヌがあっけらかんと言った。
「東洋では縁側でお茶を飲みながら、お菓子を食べるのよね?
だからオペラ座の中庭に縁側を作って、みんなで食べるの。きっととってもおいしいわ」
クリスティーヌはうっとりと目を瞑った。ラウルも目を瞑り、想像する。
縁側に並び、和やかにお茶をする自分達の姿を。
「でも縁側だけ?」
「じゃあおうちも作る?天使様は建築家でもいらっしゃるから、天使様にお願いすればあっという間ね」
「ふむ、建ててみるか……子爵の金で」
「そうですね、子爵の金で」
「えっえっ」
何言ってるのかわからない。
「皆に天才と言われるこの私だが、さすがに日本家屋の作り方までは知らないな」
「私もわかりません」
いや、クリスティーヌには最初から何も期待してないから。
「日本に留学するしかないな、子爵の金で」
「でしたら私も観光ついでに一緒に行きますわ、子爵の金で」
「子爵の金でってどういうこと?」
「そのままの意味だが」
「なんで僕のお金で留学して、僕のお金で家を建てるのさ」
「それだけじゃないわよ。ラウルのお金でういろうも山ほど買うし、ヨウカンも山ほど買うわ」
「どうして?」
「どうしてってラウルはパトロンでしょ」
「そうだけど、それはなんか違う。僕は都合のいい財布かっ!」
「それ以上でもそれ以下でもありませんが、何か?」
「泣いてもいいかなあ」
5127/7:2010/04/29(木) 01:20:45 ID:OuJuGRtS
都合のいい財布呼ばわりにはさすがのラウルもグサッときた。
二人して僕のことをそんな風に思っていたのか……。
「冗談よ、泣かないでラウル」
「だいたい」
エリックが憮然とした態度で、肩を竦めた。
「僕のお金って貴様が何をした。貴様の兄が、父が、祖父が、
もっと遡って貴様の先祖が成し遂げた偉業のおかげであって、
貴様はなんら関与していないだろう!」
「!」
「先生の仰る通りですけど、ちょっと言いすぎなのでは……」
「そっか、そうだよね!言われてみると、僕は何もしてないや」
今日も単純能天気なんだからという声が聞こえたが気にしてはいけない。
「でも何もしていないわけじゃ……だって北海道に行くって言ってたじゃない」
「うん、北極ね」
「この前、一ヵ月後には出発するって言ってたけど」
クリスティーヌはそこで言葉を切った。宙を睨み、少し考え込む。
「もう一ヶ月経ってるわよね」
秘密の婚約ごっこだなんだと騒いでいた時期の話なのでとっくの昔である。
「なんか神経衰弱がどうのこうので来なくていいって言われちゃった」
「神経衰弱?」
「トランプ遊びのことだよね。あれが何だって言うのかなあ」
「さあ、私にもさっぱりだわ。ラウルには神経衰弱は難しいって意味じゃない?」
「僕にだって出来るよ。ロッテこそどうなのさ」
「当然よ」
クリスティーヌが誇らしげに小さな胸を張った。

さてエリックはというと、頭が痛くなるようなすっとぼけたやり取りを横目にこんなことを考えていた。
(あの事件のせいで少し頭がおかしいと思われたのだろうな。
船内などという狭い世界ではそういう人間が一人いるだけで大変なことになる。
警察相手に、馬鹿正直に証言するから……適当に言っとけばいいのに。
彼がどう思われてようと私には関係ないことだが)
一連の事件を起こしたのは自分ということをエリックはまるっと棚に上げた。

「頭が弱いのは皆知ってることだからともかくとして、君は先祖に感謝しなければいけない。わかるね」
「はい、わかりました」
「では子爵の先祖に感謝しながら子爵の金で肉の悦びでも味わいに行くか」
「まあ嬉しい。私もおなかぺこぺこだったの。ラウルのご先祖様に感謝しなくちゃ」
「わかった。馬車を呼ぶから着替えを、二分だよ!」

そうして僕らは安楽亭で肉の悦びを存分に味わいました。
とってもおいしかったです。
513名無しさん@ピンキー:2010/04/29(木) 01:21:09 ID:OuJuGRtS
今回は以上です。
ネタの大部分は嫌だスレよりお借りしました。ありがとうございました。
514名無しさん@ピンキー:2010/05/02(日) 18:57:42 ID:2+n1eop1
小ネタてんこ盛りで腹が痛いw
> 第一、支配人達に配られた向こう側が透けて見えそうなういろう
とりあえずクリスティーヌが支配人たちをも越えたことは理解した
5151/8:2010/05/08(土) 22:11:27 ID:BaO/lwTr
原作の皆さんが「新・オペラ座の怪人(仮)」を考えてみた。
オペラ座の人々編
・エロ無し
・キャラ崩壊
・我先にと自己主張しだす皆さん

モンシャルマンは神に祈った。夢ならどうか早く覚めてくれ!
オペラ座の怪人とパトロンの子爵が二人して無謀な要求をしてもう十日も経った。
次はいつ催促しに来るだろうか?明日?一週間後?それとも今日?
生きた心地がしなかった。まるで地獄の業火に焼かれているようだった。
モンシャルマンが唯一信頼していたリシャールはもうここにはいない。
目の前にいるリシャールはモンシャルマンの知らないリシャールだった。
彼は相変わらず拳銃に弾をこめていた。しかもぶつぶつとうわ言のようにこんなことを言っている。
「怪人の足に一発、怪人の腕に一発、怪人の腹に一発、怪人のこめかみに一発。
……永遠にさようなら〈オ・ルヴォワール〉だ!」
同じように子爵に対しても足に腕に腹にこめかみにそれぞれ一発ずつ弾をこめた。
モンシャルマンは目を閉じた。ああもし次の一発が「モンシャルマンのこめかみに一発」だとしたら!
恐ろしい。恐ろしい。恐ろしい。夢ならどうか早く覚めてくれ!

そこに天から救いの女神が舞い降りた。
ジリーおばさんが楽しげに体を揺すりながら二人の支配人の前に立つ。
「なんだね」
リシャールがうつろな目を上げた。彼がジリーおばさんに向けて発砲しなかったのは奇跡だった。
「聞きましたよ支配人さん、今度の舞台の台本が出来上がったんですって?」
ジリーおばさんはまるで世間話でもするかのように軽やかに喋りだした。
二人は心身ともに疲れ切っていたので、彼女の相手など到底出来そうになかった。
「頼むよジリーさん、世間話だったら他を当たってはくれまいか」
「いいえ世間話ではありませんよ支配人さん!」
「ならば何かね、怪人がまた何か言ってきたのか」
リシャールの手が震えだした。彼の指先がいつ引き金に触れるかわからないので、
モンシャルマンは用心深く慎重に彼から拳銃を取り上げて、引き出しの中にそれをしまった。
「違いますよ支配人さん。私が言いたいのは台本のことです」
「ああ台本がどうかしたのかね」
もう台本のことなど考えたくも無かったが、
あのジリーおばさんが素直に、それも静かに帰ってくれるとは思えなかった。
仕方ないので話に付き合うことを決めた二人は彼女に着席を促した。
5162/8:2010/05/08(土) 22:12:23 ID:BaO/lwTr
ジリーおばさんはソファーに座ると身振り手振りを交えて話し始める。
「聞きましたよ、お困りなのでしょう支配人さん。お気持ちは痛いほどわかります。
私がとっておきの提案をして差し上げましょう。
さあどうか二つの台本をお出しになってくださいな。そう、怪人と子爵の書いたあの本をですよ」
今にも歌いだしそうな雰囲気に気圧されながらモンシャルマンは二冊の本を彼女に手渡した。
「内容は読まなくてもわかります。
みんなもうとっくに知ってますよ、オペラ座はこの台本の話で持ちきりですからね」
「で、とっておきの提案とはなんだ」
堪りかねたリシャールが声を荒らげるとジリーおばさんはため息をついた。
「順を追って話そうと思いましたのに。まあいいです本題に入りましょう。
私をバレエ教師にしてくださいな支配人さん」
「は?」
「だから言ったでしょう。順を追ってお話しますと。では最初からお話しますよいいですか?
支配人さんは困っていらっしゃる。怪人は自分の本を上演しなければシャンデリアを落とすと脅し、
子爵さんは自分の本を上演しなければ余所のパトロンになると、支配人さんを脅したのでしょう?」
「ああ、二人とも撃ち殺してやりたいくらいだ!」
リシャールが引き出しから拳銃を取り出そうとするので、モンシャルマンは必死になってそれを止めた。
ジリーおばさんは二人に対して何の反応も見せなかった。呆れることも怖がることもなかった。
「支配人さんは困っていらっしゃる。どちらを上演すればいい?
いいえ、もっと簡単に、よりスマートに解決する方法があるのです!いいですか?
まずそれぞれの1ページ目を見ましょう。あら不思議!話が見事に似通っているじゃありませんか!
その次は?その次もそっくり!ちょっと違うのは怪人の正体だけでしょう?」
「うむ」
「だからね支配人さん。二人の我が儘な子供にはこう説明してやればいいのですよ。
《二人の本を掛け合わせてみた。それぞれ超大作だから超×超大作になっただろう》ってね。
どちらも単純だから納得するでしょうよ」
「なるほど」
「なるほど」
単純なのは……ジリーおばさんはちらりと二人を見やった。
この可哀想な二人の支配人も同じだけど。
「では結末はどうすればいいのだね、ジリーさん」
「そうですね私が思うに……現実通りに怪人は怪人でいいと思うのです」
「何故だい。怪人は怒ったりしないだろうか?」
「勿論最初の内は怒ると思いますよ」
5173/8:2010/05/08(土) 22:13:46 ID:BaO/lwTr
何か言いたげに口を開いたリシャールをジリーおばさんが遮った。
「だからこうしましょう。これはオペラ座の怪人と彼が愛した少女の美しくも悲しい愛の物語。
悲恋ものはいつの時代も純愛ものと並んで人気がありますからね。
そうだ、怪人の仮面は片方だけにしておきましょう。
顔の全てを仮面で覆ってしまったら、舞台では声も上手く通りませんものね。
謎の怪人、美しい歌姫、貴族の青年の三角関係!昼ドラ宜しくドロドロの愛憎劇!
意地悪な先輩に虐められても、純情を踏みにじられても、夢のために頑張る新人歌姫。
彼女を思うが故にヤンデレて、邪魔者を抹殺し、終いにはシャンデリアを落とす怪人。
怪人の狂気に当てられて、精神に異常をきたし、皮財布のステーキを振舞いだす子爵。
そしてクリスティーヌとメグの出生にまつわる秘密が明かされる時、各々の運命が交錯する……。
世のご婦人方が飛びつくこと間違い無しですよ!」
「……」
「あとは結末までの間に怪人と少女の絡みを存分に入れておきましょう。
そうしておけば最終的に子爵とくっついたところで怪人は何も言いませんよきっと。
むしろ男らしく潔く身を引く自分に惚れ直すかもしれませんねえ!」
「そういうものだろうか」
モンシャルマンは顎を撫で回した。
「まだ不安なのでしたら少女に「実は怪人に惹かれていた」とでも言わせましょうか」
「ダメだ。それでは逆に子爵の機嫌を損ねるかもしれない」
「観客の判断に委ねるのが一番かもしれませんね」
「昼ドラの件はともあれ、概ねジリーさんの言うとおりだ。
早速台本をまとめ合わせる作業に取り掛かろうじゃないかモンシャルマン君」
「急がなくては!」
二人は大急ぎでそれぞれの机に向かった。
「ああそれでさっきの話ですけども」
「なんだね」
「私の役柄のお話ですよ。五番ボックスの案内係ではなくバレエ教師にしてほしいのです。
バレエを踊るのが夢だったんですよ。さすがにプリマ・バレリーナにしろとは言いません。
それとメグをクリスティーヌの親友に。私の可愛い娘にどうか良い役を与えてやってくださいな」
「うむ」
モンシャルマンはジリーおばさんの要望をメモに取った。
彼女の案を採用したのだ。このくらいの我が儘を聞いてやっても罰は当たらないだろう。
「ありがとうジリーさん」
「いえ失礼します支配人さん」
ジリーおばさんは来たときと同様に体を揺すりながら部屋を後にした。
5184/8:2010/05/08(土) 22:14:55 ID:BaO/lwTr
生気を取り戻した二人の支配人は一心不乱に台本をまとめ始めた。
それぞれのエピソードを切り出し、パズルのピースのように繋ぎ合わせていく。
音楽は怪人が持ってきた楽譜をまるまる書き写した。
「このエピソードは前へ、これは山場に使おう」
「場面転換のことも考えねば。美術監督を呼んできてくれ」
「はい只今」
秘書のレミーとちょうど入れ替わるようにしてオペラ座の歌姫カルロッタがやってきた。
「支配人さあーん!」
きゃんきゃんした声に眉を顰めながらもモンシャルマンは応対する。
「どうしたのかね」
「聞きましたわ。今度の台本が出来上がったんですってねえ!」
「まとめているところだよ」
「今度のはこの間の事件を参考にしたそうじゃない!だからこの私自らお願いしに来たのよ」
カルロッタは煌びやかな舞台衣装のまま支配人室に上がりこみ、許可も求めずにソファーに座った。
「この間ってことは、あの思い出したくも無い事件も舞台にするってことでしょう?」
「カルロッタが《ゲコッ》た事件か」
「言わないでっ!」
カルロッタが金切り声を上げた。モンシャルマンは思わず耳を塞ぐ。
「あんな事件はもう忘れたいの!だからあそこは全部カットしてちょうだい!いいわね!」
「……」
「それとプリマドンナである私に相応しい彼氏が必要ね!あ、でも私は一方的に思われてるだけなのよ。
女が男を追い掛け回すなんてみっともないじゃない。そうねえ誰がいいかしら〜」
ふっとカルロッタの目が宙を泳いだ。
「あの子爵がいいわ。さっきそこで会ったのだけれど、彼ったら私のことをじいっと見つめて。
それはもうメデューサに見つめられて石にされてしまったみたいに、食い入るようにまじまじと!
「御機嫌よう。今日も凄いね」だなんて何が凄いのかしら?私の体?まあいやらしいわ!
ああいううぶな子も可愛いわね。きっと彼、私に気があるわ!」
カルロッタは自慢の美しい声で、長回しの台詞を一息に言い切った。
舞台衣装で歩き回ってるから「今日も凄いね」なのだとモンシャルマンは思った。
しかしモンシャルマンは大人であった――ついでに子爵に義理立てする理由も無かったので口には出さなかった。
「と・に・か・く!私の言うこと聞いてくれなきゃもう舞台に上がってやんないんだから!いいわね!」
そう言ってカルロッタは嵐のように去っていった。
リシャールは無言でメモ用紙にこう書き付けた。
《カルロッタ・わがまま娘》
5195/8:2010/05/08(土) 22:16:28 ID:BaO/lwTr
次にやってきたのはジリーおばさんの娘、メグ・ジリーだった。
「なんだね次から次へと」
「ごめんなさい。お二人が台本を手直ししてるって聞いて」
「うむ」
「お願いです。私の役を演じる方はぜひ金髪の方にしてほしいんです」
「はあ」
モンシャルマンはメグを頭のてっぺんから爪先まで舐めるように見つめた。
艶やかな黒髪、つぶらな黒い瞳、褐色の肌。
年頃の娘にしてはやけに痩せこけた薄い体からはこれまた細い手足が伸びている。
彼女は気恥ずかしそうに身じろいで言葉を紡ぐ。
「だって私の髪、黒いでしょう?あんまり好きになれなくて。だからせめて舞台の上だけでもって」
「……そうか。わかった参考にさせてもらうよ」
「ありがとうございます!」
メグはにっこりと愛くるしい笑みを浮かべて、跳ねるように去っていった。
黒髪も十分魅力的なのだがね。しかし……モンシャルマンは続けて思った。
しかしあの頃の少女というものは自分に無いものを求めたがるものだ。
隣の芝は青いという奴だろう。全く困ったものである。

その後も支配人室には引っ切り無しにオペラ座の人々がやってきた。
やれああしろ、こうしろ。私の役はどうのこうの。
新しく大道具を作るのは面倒だからなるべく既存の道具だけで。
新しく衣装を作るのは面倒だからなるべく既存の衣装だけで。
新たに練習するのは面倒だから劇中劇はなるべく既存の音楽だけで。
場面転換は大仕事で面倒だからなるべく少なく同じ場所で。
照明も大仕事で面倒だからなるべく楽な感じに薄暗く。
各々の我が儘を聞き入れながらの作業は一向に進まなかった。


「……モンシャルマン君」
リシャールの呼びかけに、モンシャルマンは人々の無謀な要求について考えるのを手放した。
「なんだい」
「私は舞台の上だけでも怪人や子爵、歌姫や踊り子達、
そして優秀なスタッフ達の我が儘から逃れたいと思うのだよ。
あんな奴らに煩わされたくない。平凡に生きていたい」
「ああ私も同じ気持ちだ」
二人は台本の登場人物一覧のページを開いた。
アルマン・モンシャルマン、フィルマン・リシャール、各々の名前に二重線を引く。
そしてそれぞれジル・アンドレ、リチャード・フィルマンに書き換えた。
二人の名前が書き換わったことに関して、オペラ座の人々はさして何も言わなかった。
彼らのささやかな、ほんのささやかな願いを察したのかもしれない。
5206/8:2010/05/08(土) 22:19:18 ID:BaO/lwTr
ところかわってオペラ座のプリマ・バレリーナ、ソレリ嬢の楽屋。
ソレリはぼんやりと鏡の中の自分を見つめていた。
まるで鏡の中の自分に心を取られたかのように、無心に食い入るように見つめていたので、
この場面を誰かが目撃していたら、慌てて彼女を鏡から引きずり離したかもしれない。
といっても彼女は鏡の中の自分に心を取られたわけはなかった。
ソレリはオペラ座中で話題の次回公演のことを考えていたのだ。
この間の一連の事件を舞台化するということは周知の通り。
ただ彼女には一つ気になることがあった。

控えめなノックの音に続いて男性の愛しい人を呼ぶ甘い声が聞こえた。
「こんばんは、ソレリさん」
ソレリは初めて恋を知った幼げな少女のように弾んだ心で扉を開いた。
「ああシャニー伯爵。最近いらっしゃらなかったので心配していたのよ」
フィリップ・ド・シャニー伯爵は子供のように抱きついたソレリを受け止めると、
広い胸の中に力強く抱き締め、小さく開いた扉から楽屋の中に滑り込んだ。
背中で扉の閉まる音を聞くと、ソレリは待ちきれないというようにフィリップの首筋に腕を回した。
「フィリップ、フィリップ!」
うわ言のように愛しい人の名を囁くソレリの小さな唇を、フィリップがそっと塞いだ。

彼――フィリップ・ド・シャニー伯爵はあの事件以来、オペラ座から遠ざかっていた。
クリスティーヌ・ダーエが舞台上から忽然と姿を消し、
彼の弟であるシャニー子爵が失踪したあの事件からずっと。
一時期あれだけ世間を騒がせていたのだ。閉じこもりたくなるのも無理はない。
人間とは醜いものでスキャンダルとあればすぐさま飛びつく。
幾ら悪趣味と言われようと他人の不幸は蜜の味。平たく言えばメシウマである。
彼らに関して、ゴシップ紙は根も葉もないことを書き連ねた。
――兄弟の間にクリスティーヌ・ダーエをめぐって恐ろしい悲劇が起きたに違いない。
――兄のフィリップが弟を思うあまり、二人を引き離し、どこかへ閉じ込めたのだ。
――いいや、フィリップの手によってクリスティーヌ・ダーエは既に殺されてしまった。
結局二人が無事に帰ってきたことで騒動は終結した。
人々は今回のことなどすぐに忘れてしまうだろう。
そして次のスキャンダルを求め、探し出し、喰らいつくのだ。

来づらかったのはわかってる。
けれどソレリは自分が嫌われたのではないかとそんなことばかり考えていた。
5217/8:2010/05/08(土) 22:20:59 ID:BaO/lwTr
羽根のように軽いソレリをフィリップが抱き上げた。長椅子へ座らせ、自らも隣に座る。
視線が絡み合う。ソレリは久しぶりのことに柄にもなく照れて、目を逸らした。
「弟さん帰ってきてよかったですね」
「それはいいんだ」
ソレリはきょとんとする。あんなに大事にしていたのに「それはいい」だなんて。
フィリップの方はというと、久方ぶりの逢引だというのに弟のことを持ち出され、困惑していた。
見つめ合って照れるような生娘でもあるまいに。

「クリスティーヌから聞きました。なんでも怪人と一緒にいたとか。
前からおかしな子だと思ってましたけど、やはりあの子は普通じゃありませんね」
フィリップの眉間に深い皺が刻まれた。
「機嫌を損ねてしまったかしら」
「いや」
よかったとソレリは続ける。
「けれど怖いわ。本当に怪人がいるなんて」
「彼は優しいよ」
「?」
「なんでもない。忘れてくれ」
「……」
私を守るとは言ってくれないのね。
ソレリは立場をわきまえてはいたが、ただの恋する我が儘な女でもあった。
こんなことを考えてしまうのは、クリスティーヌを羨ましく思うから。
子爵がクリスティーヌを守るために奔走していたのは有名な話である。

また二人は見つめ合った。次第に熱っぽいものに変わり、
今度こそソレリは視線を逸らすことなく、まっすぐと彼の瞳を受け止めた。
先に動いたのはフィリップの方だった。ソレリの細い首筋に口付ける。
「あ……」
ソレリは白い喉を仰け反らせた。ふと鏡が目に入った。
そして先ほどまで考えていたあのことがまた空っぽな頭の中を駆け巡りだす。
ああダメよ。今は忘れなくては……けれど。
「ねえ」
「怒らないでおくれソレリ。ずっと家から出られなかったんだ。どうか私を嫌いにならないで欲しい」
「嫌いになんてなるものですか。あなたが私を嫌ってしまったのだとばかり」
「私が君を嫌いになるはずないだろう」
「嬉しいわ」
守ると言ってはくれなくても、この言葉だけで十分。
ソレリは首を巡らせて、鏡の方を見やった。いや正確には鏡台の前にある台本を見やった。
「こちらを見てはくれないのかな、ソレリ」
フィリップの声色は普段通り優しいものだったが、どこか棘を含んでいた。
こんなときだというのに気もそぞろでいるソレリに苛立ちを覚えているのだろう。
ソレリはそんな自分を申し訳なく思いながらも、
あの疑問を彼に伝えないことにはどうしようもないとわかっていた。
5228/8:2010/05/08(土) 22:22:27 ID:BaO/lwTr
「今度の舞台のことを考えていたの」
「このひとときくらいは私のことだけを考えていて欲しいのだがね」
「そうしたいのは山々だけれど、頭にこびりついて離れないのよ」
「なら私が忘れさせてあげようか」
彼の申し出はとても魅力的だったが、この問題は自分だけの問題ではなく、
シャニー伯爵にも関係のあることだったので、ソレリは丁寧にそれを断った。
「嬉しいわ。けれどあなたにも関係のあることなのよ」
フィリップはソレリの言葉を聞いて笑い出した。
「私に関係ある?まさか次回の公演で私に歌えというんじゃあるまいな」
「そうではなくて。弟さんが」
弟という単語にフィリップはとうとう肩を竦めた。
「まさかラウルがまた何かやらかしたのか」
愛しい人の顔が帰ったら叱らねばと弟を思う兄の顔に変わる。
ソレリは慌てて続きを伝えた。勘違いで怒られては可哀想だ。
「悪いことをしたわけではないの。今度の台本はね、あなたの弟さんが書いたのよ。知らなかったの?」
「全く知らないね。オペラ座に毎日のように遊びに行ってたのは知ってるが」
「台本を読んで不思議に思ったの。この間の怪人が起こした事件を題材にしてるんだけど」
ソレリはそっとフィリップの顔色を窺った。
「続けてくれ」
「台本にあなたの名前が無かったの……私の名前も無かったんだけど。
いえ、私のことはいいのよ。別に何もしてないもの。でもあなたの名前が無いのはおかしいでしょう」
ソレリから見れば、いや誰が見たって二人はとても仲のいい兄弟だ。
ラウルが兄を嫌って存在を抹消したとも思えないし、さすがに兄を忘れるほどの馬鹿でもないだろう。
だからこそソレリは疑問に思ったのだ。
実のところは二つの脚本を擦り合わせた弊害だったのだが二人は知る由も無かった。
ソレリはつい先ほど受け取った台本の第一稿をフィリップに渡した。
フィリップはそれにざっと目を通し、見たこともないほど思いつめた表情で項垂れた。
「もしかして私は弟に嫌われているのだろうか。うるさい兄貴とでも思われているのだろうか。
消えてなくなれとでも思われているのだろうか。私が存在しない物語が理想なのだろうか。
あの小娘に惑わされてると口うるさく言ったせいだろうか。
それとも幼かった弟のおやつを盗み食いしていたことが今更ばれたのだろうか」
「……」
ソレリは閉口した。思いつめるとどうしようもないのは兄弟揃っての悪い癖だった。
523名無しさん@ピンキー:2010/05/08(土) 22:23:16 ID:BaO/lwTr
今回は以上です。
524名無しさん@ピンキー:2010/05/09(日) 17:14:40 ID:obqEVICW
普通の面白い小説になってきたなw
続きに期待している
525名無しさん@ピンキー:2010/05/11(火) 20:14:08 ID:RXdu4YJ1
wktkwktk
526名無しさん@ピンキー:2010/05/18(火) 19:26:28 ID:p1TS2rd1
少し前からここ通ってるけどみんなクオリティ高すぎで惚れたw
というか影響されすぎて自サイトのジャンルにオペラ座追加してしまった…
いつか自分も何か投下できたらいいな
とりあえず天使様万歳!
527名無しさん@ピンキー:2010/05/20(木) 22:26:49 ID:5Zf+CaL0
>>526
一年前の俺だ
5281/9:2010/05/24(月) 00:41:24 ID:6NIi9PPe
原作の皆さんが「新・オペラ座の怪人(仮)」を考えてみた。
〈ペルシャ人〉編
・エロ無し
・キャラ崩壊
・エロ方向に突っ走る男性の皆さん
大丈夫な方のみ以下をどうぞ。

「ん〜♪いやはや本を上演するにあたってさらに曲を書いてほしいとはねえ!
この間書き上げた『勝ち誇るドン・ジョヴァンニ』も
劇中劇に使ってくれるというし、なんて物分りのいい奴らだろう。
素晴らしい舞台になること間違い無しだ。なんたって私が曲を提供するのだからな!」
めったに無い人様からの頼み事にエリックはいつになく上機嫌だった。
いつもなら癇癪を起こしかねないオルガンの音色を遮る無粋なノックさえ、今日は気にならなかった。
また遊びに来たらしい。さて今日はどんな話をしよう。どんな歌を歌おう。
思いを巡らせながら扉を開ける。しかしそこにお目当ての人物はいなかった。
エリックはガックリと肩を落とす。
「私で悪かったな」
「いいやとんでもない。久しぶりだねえダロガ。さあ入って」
エリックは〈ペルシャ人〉を部屋に招きいれた。

「取り込み中でね。その辺に座っていてくれ。ワインでも出そう」
慣れない来客の対応にわたわたしている長身の男を眺め、〈ペルシャ人〉はふと笑みを零した。
彼がこのように明るくなったのも彼女のおかげだろうか。
「今日は何の用だい」
「君が熱心に取り組んでいる舞台についてさ」
「ああ「オペラ座の怪人」のことか」
〈ペルシャ人〉は頷くとグラスを受け取った。血のように赤いワインがなみなみ注ぎ込まれる。
「私が考えていたのとは少し違うが、いい作品になったと思う」
「そうだろうね」
〈ペルシャ人〉はワインを口に含むと、大事そうに置かれた台本を手に取った。
その台本はオペラ座の人々が持っていたものと少し違った。
表紙に書かれた名前だ。エリックのものは彼一人の名前しか記されていないが、
上の人々が持っていた台本には二人の名前が連名で記されていた。
さしずめ子爵が受け取った台本には子爵の名前しか記されていないのだろう。
支配人もよく考えたものだ。
お互いに単独の作品だと思い込ませることによって、あらゆる脅し文句は帳消しとなった。
けれど……と〈ペルシャ人〉は考える。
今のエリックであれば、一時は殺したいほど憎んだ子爵と連名であろうと
怒ることはないのではなかろうか。逆に喜ぶかもしれない。
〈ペルシャ人〉はくすりと笑った。
5292/9:2010/05/24(月) 00:44:23 ID:6NIi9PPe
「笑い出したりしてどうしたんだい。何かおかしい所でも?」
「いいや。そうそう忘れる所だった」
〈ペルシャ人〉は登場人物一覧のページを開いた。
まだ役者は決まっていないらしく、その殆どが空欄だ。
「何度読み返しても私の名前が無いのだがどういうことだね、エリック?」
「……ああいやそれはえっと」
エリックは大慌てで台本を取り上げ、ページを忙しそうに捲った。
「元々、子爵が怪人だったらという話だったのだよ。だからダロガのことは書かなかった」
「そうか。では彼の書いた本はどうだったのかね」
「子爵は自分の活躍度を上昇させたいが為に地下には一人でと言っていた。他も無駄に改悪していた」
そういうことか。〈ペルシャ人〉は悲しいかな理解した。
二つの台本をまとめたであろう支配人は〈ペルシャ人〉の存在など知らないだろうし、
知っていたとしても事件に関与していたなど夢にも思わないだろう。
そして〈ペルシャ人〉の存在を知っている二人は各々の都合で私を削除した。
「私はそういうつもりではなかったのだ。ダロガのことは、友人と思ってるし」
エリックは照れくさそうに「友人」と言った。〈ペルシャ人〉にはそれだけで十分だった。
「今から書き直そうか」
「この内容では上演時間カツカツだと聞いた。無理やり差し込めないだろう」
「だが……そうだ!」
落ち着きなさげに部屋を見渡していたエリックが戸棚の上にあったオルゴールを掴む。
オルゴールの上にはシンバルを持った可愛らしい猿の置物が乗っかっていた。
「これを君にしよう」
「どのように?」
「このように!」
エリックは突然裁縫を始めてしまった。
剥き出しの骨のように細く長い繊細な指先で器用に何かを作っていく。
彼の意図が全く見えず、〈ペルシャ人〉は困惑した。
手持ち無沙汰も何なので幾度も読み返した台本を読んで時間を潰すことにする。
台本には赤いインクで様々な言葉が書き加えられていた。
ここはたっぷり間を空けて。ここはカットしてもいいのではないか。ここに台詞を追加、などだ。
彼は作品作りに大変情熱を注いでいるようだった。同時に少し心配になる。
「食事はとっているのか」
何かに熱中すると寝食さえも忘れてしまうのが彼の悪い癖だった。
彼は曖昧にしかしやんわりと否定の仕草を見せた。
食事も取らずに作業を続けているのか。思えば痩せたかもしれない。
5303/9:2010/05/24(月) 00:45:32 ID:6NIi9PPe
「エリック、君がこの舞台にかける意気込みはわかっているつもりだ。
しかし体を壊しては元も子もないのだぞ」
「心配してくれるのか、ありがとうダロガ。けれどいいんだよ」
風が吹いたら消えてしまいそうなほど弱々しい声。
〈ペルシャ人〉にはエリックが死に急いでいるようにしか見えなかった。
命を削ってまで作り上げたい舞台とは何なのだろう。
誰がために舞台の幕は上がるのか。あの娘のために?
「私は、私が生きた証を残したい。音楽でもいい。悲しい物語でもいい。
人々を慄かせる怪談としてでもいい。この世に私が存在した証を残せたら!」
「……」
「舞台が完成したら旅に出ようと思うんだ」
あまりに唐突だったので〈ペルシャ人〉は返答に困った。
たっぷり2分ほどの時間を使って、頭の中を整理する。
「まさか、死に場所を探しに行くつもりか」
強張る喉を震わせて訊ねた。そうでないと答えてほしかった。
彼がいなくなったとしたら、彼の友人は嘆き悲しむだろう。
その友人はクリスティーヌであり、シャニー子爵であり、この私である。
彼はもう「可哀想で不幸せなエリック」ではなかった。
今にも胸が張り裂けそうだった。
沈痛な面持ちでエリックを見つめていると、彼は笑い出した。
「死に場所?考えたこともなかった。ただ前向きに学びの旅に出ようと思っただけだよ。
こんな地下でくすぶっていては勿体無いと気づいたんだ。君達のおかげでねえ」
「それはよかった」
〈ペルシャ人〉は胸を撫で下ろした。けれど続いた言葉がまた不安にさせる。
「だがそれもいいかもしれないね」
真意を掴みかねた〈ペルシャ人〉が身を乗り出す。しかしドアを乱暴に叩く音がそれを遮った。
「今度こそクリスティーヌだ。待っていてくれ、すぐに開けるから」
エリックがいそいそと玄関に向かう。
その姿は滑稽なほど可愛らしく、人々から恐れられていたオペラ座の怪人とは到底思えなかった。
「ようこそクリスティーヌ……と子爵」
玄関先で押し問答かと思いきや、エリックは案外素直に身を引き、二人を招き入れた。
いや招き入れるために身を引いたのではない。彼は驚きに後ずさりをしたのだ。
彼の驚きの原因、クリスティーヌはあの愛らしい小さな口をきゅっと閉ざしたまま、
いつになく落ち込んだ様子で隅の方にある椅子に腰掛けた。
一体何があったのだろうか。〈ペルシャ人〉はエリックと顔を見合わせる。
5314/9:2010/05/24(月) 00:47:15 ID:6NIi9PPe
「こんにちは、お久しぶりです」
もう一人のお客さんはというと普段と変わらぬ笑みで――違う所があるとすれば不健康そうな目の隈と、
充血しきって兎のように赤い目だろう――〈ペルシャ人〉に軽く会釈をした。
「ええ、こんにちはシャニー子爵」
「どうぞおみやげのチョコレートです」
次に彼はエリックにおみやげを手渡した。すぐそこの洋菓子店の包みだ。
「ヨウカンがよかった」
エリックがこれ見よがしに肩を落とすので〈ペルシャ人〉は彼を肘でつついた。
「こら、せっかくのご好意だ。そんなこと言うな」
「悪いけど持ってこられなくて。でもこれ、クリスティーヌが好きなんですよ。ね、ロッテ」
クリスティーヌを振り返ったラウルに釣られて、そちらに視線を向ける。
注目されていると気づいたのか、クリスティーヌはこれ見よがしにため息をついた。
何かお悩みのようだ。どうしたものかなと考えていると、エリックがラウルの襟首を引っ掴んだ。
「私の天使に何をした!?」
「何もしてないよ。今朝からずっとあんな調子なんだ」
「今朝からずっと?」
「そう。何を話しかけてもああだから、君と喧嘩したのかと思って連れてきたんだ」
「喧嘩などしていない。君こそ何かしたのではないのかね」
「Of course not!とんでもない!」
「ではその隈は?充血した目はなんだ?」
エリックの尋常でない怒りように〈ペルシャ人〉は些か不安になり、腰を浮かした。
何かあったら飛び出そうと思ったのだ。そしてその何かは案外すぐに起こった。
「それは……」
目のことを訊かれたラウルがあからさまな動揺の色を浮かべ、視線を逸らしたのだ。
恋に恋する少女の如く、気恥ずかしそうに頬を染めて。
それが逆鱗に触れたのか、エリックは彼を突き飛ばした。マントから紐を取り出す。
〈ペルシャ人〉は椅子を薙ぎ倒す勢いで立ち上がり、エリックと同時に叫んだ。
「くらえ!パンジャブの紐!」
「ラウル君、手を目の高さまで!」
「えっ」
紐は目にも留まらぬ速さで空気を切り裂き、〈ペルシャ人〉を見返り瞬いたラウルの首元に巻きついた。
幸いエリックにはまだほんの少しの良心が残っていたようで、即刻死ぬようなことはなかった。
「エリック、落ちつくんだ。彼を殺して何になる。君が後悔するだけだぞ」
「殺す?僕が殺されるって言うんですか?」
「黙っていてください。話がややこしくなる」
「死にたくないー!」
「ああもう!」
5325/9:2010/05/24(月) 00:48:20 ID:6NIi9PPe
パニックに陥ったラウルの相手をしつつ、エリックを説得するのは困難を極めた。
「とにかく落ちつきたまえ、エリック」
「死にたくないー」
「君は後悔するぞ」
「僕を裏切らないでくれ!」
「ええいうるさい、黙ってなさい!彼より先に私があなたを絞め殺しますよ」
「……」
パンジャブの紐に手を伸ばすと、ラウルは途端に静かになった。説得を再開する。
「彼は君の友人だろう。君はそう嬉しそうに話していたじゃないか」
「友人じゃないし、友人とも思ってない。同じ空気も吸いたくない」
「……まあ私も彼には時々イラッとさせられるがいい青年じゃないか。
足は引っ張る、泣き叫ぶ、結局最後は神頼み、挙げ句発狂しかかって死ぬ死ぬ言い出したときには
さすがの私も見捨ててしおうかと本気で悩んだがね」
「さりげなく酷いこと言ってませんか」
「いやいやとにかくいい青年だよ」
納得いかないとラウルがぼやいた。うるさい今度こそ見捨てるぞ。
エリックは〈ペルシャ人〉を無視して、紐を少し引っ張った。
「うぐぐ……」
「クリスティーヌに何をした!?」
「何も、してない」
「じゃあその隈はなんだ。何故充血している」
「それ、は」
思うところがあるのか、ラウルは再び目を逸らした。エリックが空に轟く雷鳴のような声で叫んだ。
「Curse you!おまえなんて殺してやる!」
「エリック、落ちついて話し合おう。話し合えばわかる」
「話し合ってもたぶん殺すと思う」
「ああ、殺すのは後回しにしてまずは話し合おう」
「結局殺すのかっ!」
「まあまあラウル君も落ちつきなさい。まずは座りましょう」
三人はテーブルを囲むようにして席に着いた。
相変わらずラウルの首には紐が巻きついていたが、気にしないことにする。
少し落ちついたらしいエリックがラウルにワイングラスを差し出した。
今から殺す相手にそんな情けは返って可哀想だと思うのだが。
「ワインでもどうだ」
「ありがとう。けれど遠慮しておくよ。昼間は飲まないようにしてるので」
「そうか」
「アルコールに弱いのだろう」
「弱くありません!」
「まだ子供だからな」
「子供じゃありません!」
「そうだったHA!HA!HA!」
三人は声を揃えて笑った。大変奇妙な光景だった。
遠くから彼らを見守っていたクリスティーヌはまたしても盛大なため息をついた。
5336/9:2010/05/24(月) 00:50:42 ID:6NIi9PPe
「さて私の天使に何をした?さっさと吐け!」
「神に誓って何も」
「ではその充血しきった目と精気根こそぎ吸い取られましたみたいな顔はなんだ!」
やはり思うことがあるのか、ラウルは目を逸らした。
「そうか。昨日はクリスティーヌとお楽しみだったのだな、エロパロ的意味で!」
「えろぱろ?」
「Curse you!楽に死ねると思うな!」
「と、止めてくださいよ」
〈ペルシャ人〉は呆れ果てて肩を竦めた。
「若気の至りか。そういうことならもう勝手にしてくれ」
「困ります!」
「無理やり手込めにされて……おお、可哀想なクリスティーヌ」
「Of course not!」
「どう違うと言うのだ」
「失礼な奴だな。僕は君と違って紳士だからね!」
「どどどど童貞ちゃうわ!」
あからさまに動揺しきったエリックがパンジャブの紐先を床に落とした。
〈ペルシャ人〉はそれを拾って、テーブルに置く。
解いてやらなかったのは女性を襲ったという疑いがまだ晴れていないからだ。
「エリック、彼は何もそこまで言っていない」
「そんな反応されるとこっちも困るんだけど」
「……ごほん」
エリックは仕切りなおしとばかりに咳き込むとパンジャブの紐先をまた手中に収めた。
「ならば何があったというのか。あれか、夜な夜なクリスティーヌを思ってあんなことやこんなこと
そんなことを致しちゃったというのか。せっかくなんだからここで晒せばよかったのに!」
「なんで君に見せなきゃならないんだよ」
「私にではない。エロパロ板の住民にだ!」
「えろぱろ?」
「まあ青少年たるものそういう日もあるだろう。何もそこまで責めずともいいのではないか」
〈ペルシャ人〉はラウルの疑問を遮った。エリックに語りかけるように続ける。
「君だってそうだろう」
「どどどど童貞ちゃうわ!」
「……」
「……でも僕、別に昨日はそんなことしてないです」
昨日は、ね。致し方あるまい。年頃の男の子なのだからそうでなくては逆に困る。
「私も昨日はしてない」
「君には聞いてないから」

「ヌッコロス!ヌッコロス!ヌッコロス!」
振り返るとクリスティーヌが自慢の巻き毛を蛇のようにうねらせ、
か細い腕で壁を殴りつけていた。
無理もない。思春期の女の子にこのような話は非常にきつすぎた。
というか本人の目の前でこんなこと宣言をする二人が異常なのだ。
「許してくれ私の天使」
「ごめんよロッテ」
「ヌッコロス!」
5347/9:2010/05/24(月) 00:51:47 ID:6NIi9PPe
クリスティーヌが壁をリズミカルに殴りつける。その都度軋んだ音が室内に響く。
「仕方ない。私はクリスティーヌしか女を知らないのだから」
「よくそんな白々しいこと言えるねえ」
「子爵はすっころんでろ!わかるだろうクリスティーヌ、私の音楽の天使。私はずっと地下にいたのだから。
地下にいてどうやって肉の歓びを知ることが出来る。私にはおまえしかいないのだ!」
なんとか弁明したいらしいがこれでは返って逆効果だ。
と思いつつも〈ペルシャ人〉は黙っていた。
触らぬ神に祟りなし。余計な口を挟んで彼らの怒りを買いたくない。
「僕を信じて。僕は彼と違って君を汚したりしてないよ」
「よくもまあ抜け抜けと」
「うるさい黙ってろ!わかるだろうクリスティーヌ、可愛いロッテ。僕にとって君は大切な存在なんだから。
そんな君をどうやって汚すことが出来る。君が僕を嫌いというなら僕はおしまいだ!」
クリスティーヌは壁をぶん殴る動作をやめた。今度は壁に額を打ちつけ始める。
「おお、クリスティーヌ」
「ロッテが壊れちゃった」
どこをどう見ても二人が原因なのは火を見るより明らかだったが、本人達に自覚はないようだった。
「お嬢さん、こんな奴らのために自分自身を傷つける必要は無い。放っておけばいいんですよ」
クリスティーヌはゼンマイ仕掛けの人形のようにぎこちない仕草で椅子に座りなおした。

「話を再開しよう。下世話なことは抜きで」
〈ペルシャ人〉の合図で三人は改めて椅子に座りなおした。
相変わらずラウルの首には紐が巻きついていたが、目に入れないようにした。
「何の話だったっけ」
「君が昨日何してたか」
「ああそうだった」
〈ペルシャ人〉は「元々はクリスティーヌが落ち込んでいる原因を探していたはず」とは言わなかった。
多少脱線したとしても結局はそこに辿りつくだろうし、余計な口を挟んで彼らの怒りを買いたくない。
「昨日は兄さんと一緒だったよ」
「仲のおよろしいことで」
「凄く怒ってたみたいで家に帰るとすぐに兄さんの書斎に連行されたよ」
「出来の悪い弟を持って兄上もさぞ苦労なさってるのだろうな」
「君、さっきから随分と突っかかるね」
「私は間違ったことは言っていないはずだが?」
「そうかな」
「まあまあ、落ちついて話し合おう。それでお兄さんは何と仰ったのですか」
〈ペルシャ人〉は二人の間に割って入った。先を促す。
「兄さんはいきなり僕のことを突き飛ばして……」
5358/9:2010/05/24(月) 00:52:59 ID:6NIi9PPe
兄弟の話し合いの場面はこうだった。
フィリップ――私が何故怒っているかわかるか?
ラウル――わかりません。
フィリップ――そこに座りなさい。
ラウル――はい(ソファーに座る)
フィリップ――違う!そこに座りなさい(床を指差す)
ラウル――ええ?
フィリップ――いいから座りなさい!(ラウル指示に従う)
フィリップ――誰が体育座りで良いと言った。正座だ、正座をしなさい!
ラウル――はい(正座する)
(ラウルは考える。兄はまたクリスティーヌのことで怒っているのだろうか。
毎日のようにオペラ座に遊びに行っていることだろうか。それともおやつを盗み食いした件だろうか)
フィリップ――これを見なさい(ラウルの足元に本が投げ置かれる)
ラウル――(本のタイトルを読み上げる)「オペラ座の怪人」これがどうかしましたか。
フィリップ――私の名前がない。
ラウル――(きょとんとする)
フィリップ――お前が書いた本だというのに、私の名前がない!
ラウル――あれ、確かに書いたんだけれど(本を開く)
フィリップ――お前の馬鹿さ加減にはほとほと呆れた。
ラウル――(必死に)本当に書いたんです!
フィリップ――もういい!これを読んで反省しなさい。(またラウルの足元に本が投げ置かれる)
ラウル――(本を手に取り)本当なんです。
フィリップ――朝までそこで正座して反省しなさい。私はもう休む。
ラウル――待ってください、兄さん!
フィリップ――ちゃんと反省するように。
ラウル――待ってください、兄さん!
(フィリップは出ていく)

以上がラウルのとりとめのない話から抜き出した概要である。
彼は目を潤ませながら延々とどうでもいいことも含め、話し続けた。
相当溜まっていたらしい(性的な意味ではない)
「それで朝まで正座してて、床は固いし足は寒いし……ほら青痣になっちゃった」
ラウルは裾を捲り上げ、膝を見せた。痛々しいほど青くなっている。
「ねえ聞いてる?見てる?」
「ああ聞いてるとも、見てるとも。災難だったねえ」
苛立ち紛れにエリックは紐をぎりぎりと締め上げた。
「ぐええ」
〈ペルシャ人〉は止めなかった。
それが戯れだということはわかっていたし、長話に付き合わされ疲れ果てていたのである。
5369/9:2010/05/24(月) 00:54:11 ID:6NIi9PPe
「それで何を読まされたのですか」
またしてもくだらない話を始めそうだったので〈ペルシャ人〉は先回りして誘導した。
「兄さんが手直しした「オペラ座の怪人」ですよ」
まただらだら長くなったのでまとめる。彼の話の概要はこうだ。
筋書きや結末は色々と違うがここでは詳細は述べないでおく。
でもって彼が嘆き悲しんだ最大の違いは
ラウル・ド・シャニー子爵にあたる男性がフィリップ・ドゥ・シャンドン伯爵になっていること。
そのシャンドン伯爵はソレリという歌姫から慕われていて、平たくいえば二股野郎ということだった。
「酷いよ……」
ラウルは文字通りorzと項垂れながら滝のような涙を流していた。
兄のフィリップは相当おかんむりだったようだ。
しかし怒っていてもやることはちゃっかりしている。
名前を変えちゃうついでにお気に入りで〈大変親しい間柄〉のソレリを付け加え、
さらに伯爵を慕っているという設定にする。なんて抜け目の無い人だろう。
「誠実で純粋で優しくて格好良くて幼なじみでクリスティーヌ一筋なのが僕の取り柄なのに」
「自分で言うな」
「とにかく二股呼ばわりなんて……」
「単純で能天気で愚直で人の話を聞かないヘタレで顔だけはそれなりが子爵の取り柄だからな」
「さりげなく酷いこと言ったよね」
「これでも褒めているつもりだが?」
「そっかありがとう。君って優しいね」
「いやいや褒めてない褒めてない。遠回しにおちょくられてるんですよ、子爵」
〈ペルシャ人〉は思わず椅子からずり落ちそうになった。
「優しいといえば兄さんも優しいんだ」
「私の話聞いてました?」
「朝起きてきた兄さんがね、
『まさか本気にして一晩中反省していたのか大馬鹿者め。
だがそれでこそ愛しい弟だ。可哀想にこんなに冷えて……』
って抱き締めてくれて、暖かくて小さい頃に帰ったみたいで嬉しくてそれで……」
「そうですか」
「そうですか」
まだまだ長く続きそうだったので〈ペルシャ人〉とエリックは声を揃えて遮った。
心配して損したと同じく揃えて肩を落とす。
目の隈は寝不足、充血した目は一晩中泣いていたから。
そしてそれを隠していたのは恥ずかしくて、というところか。
「でもどうして兄さんの名前がなかったんだろう。やっぱり書き忘れたのかな。僕って馬鹿だなあ」
それは二つの台本を刷り合わせた弊害であるが、彼は知らないようだった。
またエリックも知らないようだった。
537名無しさん@ピンキー:2010/05/24(月) 00:56:10 ID:6NIi9PPe
今回は以上です。
> 床は固いし足は寒いし
これを書いたときは寒かったのですが今は逆に暑いくらいかもしれません。
538名無しさん@ピンキー:2010/05/24(月) 16:02:36 ID:/S1kwrZe
ネタ満載乙。“Of course not!”ワロタw
ちょうどダロガ読みたいなと思ってたのでなんという俺得
539名無しさん@ピンキー:2010/05/29(土) 14:12:38 ID:9wU52wuT
フィリップやペルシャ人は実はすごく面白いキャラだよな
存在無かったことにされてるのが残念だ
540名無しさん@ピンキー:2010/05/30(日) 03:42:24 ID:nIqv6Z1y
童貞www
やっぱ先生の設定はソレかw
541名無しさん@ピンキー:2010/05/31(月) 22:02:02 ID:kKaQGPUo
クリスティーヌ電波過ぎるw
けど原作で本当に壁に額打ちつけてるからなあ
542名無しさん@ピンキー:2010/06/15(火) 00:22:20 ID:Jrci5gpS
ほしゅ
どこもかしこも静かだけどまた大規模規制か?
5431/10:2010/06/20(日) 23:57:38 ID:zThmCuUu
原作の皆さんが「新・オペラ座の怪人(仮)」を考えてみた。
引き続き〈ペルシャ人〉編
・エロ無し
・キャラ崩壊
・我先にとギャグ方向へ突っ走る皆さん

相変わらずエリックの家でお喋りしてます。
「よく出来てるな。君と違って兄上には才能がある。これを採用してもいいくらいだ」
「お断りだね」
「どうせなら」
エリックは楽しそうな声色で歌うようにアイディアを披露し始める。
「どうせなら君に恋のライバルを用意しよう。魅力的なオペラ歌手とか」
「恋敵は君一人で十分だよ」
「さぞ自分に自信が無いと見える」
「そんなことないよ」
勝手にすればとラウルは両手を天秤のようにして竦めて見せる。
「クリスティーヌを巡って恋の鞘当てを演じるパリ市警の警部ラウルとオペラ座のバリトン歌手アナトール。
本筋とは全く関係無いところで繰り広げられる二人のショートコント」
「アナトールって誰?」
「友人の名前も忘れたか、軽薄な男だな」
「知るはず無いよ。だってそのラウルは僕と違うラウルだもの」
「違うラウルって誰だよ」
「エリック、おまえは大切なことをわかっていない」
〈ペルシャ人〉は眉間を押さえた。
「子爵から爵位とお金を取ったら一体何が残るというのか。それは芸術を理解しないただの非凡な男だ。
だいたい警部になるには様々な試験をパスしなければならないのだぞ、アホの子には到底不可能だろう」
「手厳しいんですね」
「私は元警部として、真実を述べたまでです」
「……」
「さすがに言いすぎかと……」
涙目で黙ってしまったラウルに代わって、エリックが控えめに咎めたてた。
自分だってこれ以上に辛辣なことをズケズケ言ってる癖に……。
しかしこうして他人を気遣うとはエリックも変わったものである。

「じゃあさ、こういうのはどうかな」
ショックから立ち直ったラウルが負けじと提案する。
「怪人は殺人を犯して、オペラ座の地下に逃げ込んだクリスティーヌの父だった!
最後は娘を僕に託して瓦礫の下敷き。どうです、お養父さん」
「駄目だ、駄目だ、駄目だ!駄目に決まってる。誰がお養父さんだ!
クリスティーヌに父と呼ばれるのは構わないが、貴様にまでそう呼ばれる筋合いは無い!
第一、貴様が不用意に発砲したせいで生き埋めになったというのに……!
おまえはよほど死にたいらしいな」
「あれは元々壊れ……。く、くるしい……」
エリックは怒りに震える手でギリギリとパンジャブの紐を締め上げた。
5442/10:2010/06/20(日) 23:58:58 ID:zThmCuUu
「お養父さんなんてくだらないことぬかすなら恋愛描写は極力カットして
ホラーでエログロミステリーなサスペンスにしてやる。オペラ座で起こる不可解な連続殺人事件」
「高校生探偵の僕が幼なじみのロッテと一緒に、ジッチャンの名にかけて解決するんだね!」
「真実はいつも一つ!犯人はおまえだ!」
エリックはビシィッと犯人を指差した。
飛び上がった犯人――ラウルに追い討ちをかけるように付け足す。
「というかその可哀想な頭(頭髪的な意味ではなく)では事件解決なんて一生かかっても無理」
「可哀想な頭だなんて、ロッテの悪口言っちゃ駄目だよ」
「どう考えてもあなたのことです」
「紛うことなくおまえのことだが」
大ボケをかますラウルに〈ペルシャ人〉とエリックは割台詞で両側から裏拳を打ち込んだ。
「イタッ!じゃ、僕が犯人だとして誰が事件を解決するんだい」
「心配しなくとも私が解決するから問題ない。助手(ワトソン)はダロガくんだ」
元警部の私を助手扱いとは……〈ペルシャ人〉は眉を顰めた。
ここは元警部の名探偵である私と相棒
――突然転がり込んできた見た目は子供、頭脳は大人な小学生
いや、見た目は大人、精神は子供なエリックとの探偵ものにすべきだろう。
そんな〈ペルシャ人〉の身勝手な考えを察することも無く、エリックが話を進めていく。
「犯人は恋人を自殺に追い詰めた者達に復讐するため、ファントムの仮面を被った。
しかし名探偵エリックの登場でその復讐は中途に終わり、
犯人は自ら仕掛けたトリックにより自殺を計る……」
「あはっ、そっか」
ラウルの表情がパッと明るくなった。豹変した態度を見てエリックが怪訝そうに首を竦める。
「よかった。君も漸く僕とクリスティーヌが恋人同士だって認めてくれるんだね。
でもその話だとクリスティーヌは最初から死んでるってことになるけど?」
「やはり貴様は生かしてはおけん、ここで息絶えろ!」
「ま、待って、本当に死にそう、死ぬから!ゲホッゲホッ」
〈ペルシャ人〉の脳裏にふと生まれたばかりの仔犬が思い浮かんだ。
生まれたばかりの仔犬は力加減を全く知らない。
けれど他の兄弟達とじゃれあうことでそれを学んでいくのだ。
そうか。エリックもこうして人との適度な触れ合い方を学んでいくのだろうな。
目の前で繰り広げられている最早じゃれあいとは言えないやり取りを横目に、
現実逃避もいいところだが〈ペルシャ人〉はしたり顔で頷いた。
5453/10:2010/06/21(月) 00:03:28 ID:zThmCuUu
視界の片隅で、クリスティーヌがゆらりと立ち上がった。
雲の上を歩くかのような危なっかしい足取りでこちらに近づいてくる。
しまった!まるっと忘れていたが我々は彼女が落ち込んでいる原因について考えていたのだ。
なのにどこをどう間違ったか、雪山を転がり落ちるように話題は無意味な方に膨らみ、今に至る。
仏頂面のクリスティーヌを見上げ、次に室内を見渡し、じゃれあう二人を視界に収めた。
出来ることなら逃げ出したい。〈ペルシャ人〉は天を仰いだ。

「二人とも酷いわ。私のことを心配してくださっていたんじゃないの?」
愛しい少女の凛とした声に取っ組み合っていた二人がハッと顔を上げる。
「黙って聞いていれば終いには私のこと勝手に殺すし、薄情な方々!
二人して私のこと好きだ愛してるって言ってたじゃない。私はあなた達にだまされたのね?」
二人の男達は全く同じ動作でブンブンと勢いよく首を振って否定する。
しかしクリスティーヌはそれを完全に無視して、着席した。
テーブルに置かれたチョコレートの箱を抱え込む。
「つい最近まで私を取り合いしていたのに。でももう私のことなんてどうだっていいんだわ。
今は新しい玩具を貰った子供みたいに舞台の脚本を取り合いしてる。
飽きられてしまった古い玩具の私はゴミ箱に捨てられてしまうのね」
色つきのセロファンを乱暴に剥くと見目も美しいチョコレートに一瞥もくれずに、口の中に放り込んだ。
「だいたいもぐもぐ、いつも私のこと……パクッ。ないがしろに、するんだから!……もぐもぐ」
「お嬢さん、食べるか喋るかどちらかにしなさい」
「パクもぐパクもぐパクもぐもぐ……」
〈ペルシャ人〉の忠言を受けて、クリスティーヌは食べる方を選んだ。
手付かずのまま箱いっぱいにあったチョコレートは瞬く間に、彼女の口へと消えてしまった。

最後の一つを食べ終えたクリスティーヌの何気ない仕草――どこか口寂しそうに
ピンクの舌先で指を舐める様子――に〈ペルシャ人〉は得も言われぬ色気を感じた。
一回り、もしかしたら二回りは違うだろうあどけない少女を
そのような目で見てしまったことに酷い罪悪感と嫌悪感を覚える。
年頃にありがちな子供でありたい自分と大人に変わりゆく自分の危ういバランス。
ほんの一瞬の輝き。他と無い、そのときだけの色香。
けれどそれと同時に「ああそうか」と心のどこかで納得する。
そんな彼女だからこそ彼らを惹き付けてやまないのだ。
5464/10:2010/06/21(月) 00:06:42 ID:pqJfdo+r
クリスティーヌは空っぽになってしまったチョコレートの箱をまじまじと見つめ、
そのまま視線をスライドさせて目の前にあったワインのボトルを呷った。
止める暇もない素早い動きだった。
それを飲み干した彼女の目はとろんとして……据わっている。
まるで役者を入れ替えたかのように一瞬で変わったオーラに、二人の男が後ずさる。
クリスティーヌはそれを追い、二人の間にピンと張られた紐に体を引っ掛けた。
「キャッ!なあにこの紐、危ないじゃないの」
紐を退けようと引っ張ったところで、ラウルが悲鳴を上げた。
「ぎゃっ」
「どうして首に紐をつけているの?」
エリックはラウルが答える前に紐を気持ち引いて彼を黙らせた。代わりに答える。
「そういう趣味なんだよ」
「違う!」
「ふうん。じゃあ私は『犬ならワンとお鳴きなさい!』と言わなくちゃいけないの?」
「だから違うよ!」
「耳元で騒がないでよ。『犬ならワンとお鳴きなさい!』」
ラウルは信じられないというようにクリスティーヌを見つめた。戸惑いがちに訊ねる。
「クリスティーヌ、酔ってる?怒ってる?」
「酔ってないわ。『犬なら犬らしくワンと鳴いてそこにお座りなさい!』」
「ワン!」
凄みを利かせた睨みと高圧的な命令口調に、ラウルは素早く床に手を付いた。
「うわあ……」
「あっ、これは違うんだ。そういうんじゃなくて」
「きっと蝶よ花よと育てられたお貴族様は面と向かって命令されたことがないから、
こういうのに弱いのだろうな。うん、たぶん、きっと、そうだと思う、恐らく」
「フォローありがとう。
ほら僕、伯母と姉達に育てられたから気の強い女性には条件反射で
逆らえないようになっていて、いや兄さんにも逆らえないんだけど……」
「そういえば」
クリスティーヌはラウルの言葉などまるで聞かなかったかのように右から左へ受け流した。
「そういえばエリックも私の哀れな忠犬にすぎないとか言ってたわよね」
「ギクッ」
「あらあら犬の癖に二本足で立ってるだなんておかしいわ。『お座り!』」
「ワン」
エリックは屈辱に耐えるよう肩を震わせて、床に手を付き頭を垂れた。
「よしよし、いい子いい子」
クリスティーヌは満足げに頷いて二匹の忠犬の頭を撫でた。
しゅんとしおれていた忠犬達の見えない尻尾が引きちぎれんばかりに大回転している。
本人達が喜んでるのなら、私はもう何も言うまい。
〈ペルシャ人〉は深いため息をついた。
5475/10:2010/06/21(月) 00:08:41 ID:pqJfdo+r
クリスティーヌがはたと顔を上げる。
ばっちし視線が合ってしまった〈ペルシャ人〉は思わずうろたえた。
よもや私まで犬扱いかと絶望に打ち震えたところで、彼女はにこりと愛想のいい笑みを浮かべた。
「お見苦しいところを失礼しました」
クリスティーヌは足元の紐をひょいっと飛び越えると〈ペルシャ人〉の向かい側に着席した。
「い、いえ。お嬢さんがそういうご趣味だとは思いませんでした」
「カルロッタさんに教えていただいたんです。男性の方はこうすると喜ぶんですって」
「……それはちょっと違うような」
「ヒキガエルめ、クリスティーヌに余計なことを吹き込んで……いつか殺す」
物騒な台詞がどこからか聞こえたが、気にしないことにする。
「カルロッタさん、犬がお好きなんです。愛しい殿方に犬と同じくらい大好きよと
態度でお示しになってるんですね。とっても参考になりました」
「しかしこういうことは両者の信頼関係や性癖によるところが大きいというか、
同意の元に行うべき事柄なのではありませんか」
「大丈夫です。私は先生ともラウルとも信頼関係ばっちりですし、同意もしてるみたい」
「あれは世間一般では惚れた弱みで逆らえないって言うんですよ」
「?」
クリスティーヌはきょとんと小鳥のように小首を傾げる。
いつの世も女性に振り回されるのが男性の宿命なのである。南無三。

「あっ、思い出しました。私、犬と戯れに来たんじゃありません」
クリスティーヌがハッとしてポシェットを探り出した。
「そうでしょうな」
二人は犬でないし、それより何より彼女はいつに無く落ち込んだ状態でここに来たのだ。
何か悩み事でもあるのだろうか。と考え、〈ペルシャ人〉は苦笑した。
話が一周して、また元に戻ったのである。
そうしているうちにクリスティーヌがポシェットから例の台本を取り出した。
二人を振り返り、うんざりと口を窄める。
「二人で同じポーズしちゃって、仲が良くて羨ましいわ」
「それは君が」「命令したから」
二人は申し合わせたように言い合った。
それがまた気に食わないらしくクリスティーヌは頬を膨らませた。
「仲良しじゃない」
「これっぽっちも」「仲良くない」
「この台本だって二人でお作りになったんでしょう。私のこと放っておいて。
ほら二人の名前が仲良く並んでる。私が入る隙間なんてないくらいだわ」
クリスティーヌが例の「オペラ座の怪人」の台本を、二人にこれでもかと見せ付けた。
5486/10:2010/06/21(月) 00:10:33 ID:pqJfdo+r
「そんなわけないよ、僕が貰ったのにはそんなの書いてないもの」
ラウルがどこからか自分用の台本を取り出した。
同時にエリックがテーブルまで(二本足で)歩み寄って、自分用の台本を引っ掴む。
三人は額をつき合わせてそれぞれの台本を交互に見やった。
「あれ?」
「どういうことだ」
「おかしいことなんて何も無いわ」
穴が開くほどそれぞれの台本を見つめていたエリックとラウルが怪訝そうに問い返す。
「どうして?」
「まさかそれぞれ内容が違うのか」
「だって二人の脚本を掛け合わせたって支配人さんが仰ってたもの」
「!」
「!」
こうして支配人達の計画は脆くも崩れ去ったかのように思えた。
しかしエリックとラウルはそれぞれジリーおばさんが予想した通りの思考回路で納得するのだった。
(愛する人を思い、光の世界へ送り出す。男らしいじゃないか。思うところはあるがまあいっか)
(最終的には僕とクリスティーヌが結ばれるってエンドだし、思うところはあるけどまあいっか)
どちらも全くもって救いようの無いくらい単純である。

ニヤニヤと考え込む男達に対して、クリスティーヌは「とにかく」と話を戻した。
「この台本は二人の本が元になったってことよ。私も書いたのに……。
ううん、私の本はちょっとアレだったから仕方ないかもしれないけれど」
アレだった自覚はあるようだ。
「でもどうせなら私も一緒に作品を作りたかったの。一緒がよかったのに」
クリスティーヌの大きな瞳が揺らぎ、真珠のように丸い涙が零れ落ちた。
次々と溢れてくる涙が彼女のスカートに染みを作っていく。
エリックがこの作品にかける情熱と同じように、彼女にもこの作品に思うところがあるらしい。
突然泣き出したクリスティーヌを見て、エリックが哀れなほどにうろたえだした。
どうしたらいいのかわからずにあわあわと腕を振り回している。
対照的にラウルの方はクリスティーヌの隣に腰を下ろして、指先で頬に伝う涙を払った。
折り目正しくたたまれたハンカチを取り出して、小さな手にしっかりと握らせる。
「泣かないで、ロッテの可愛い顔が台無しだよ」
「ありがとう」
クリスティーヌは受け取ったそれをくしゃくしゃになるほど強く握り締めて、
どうにか涙をこらえようと唇を噛んだ。しかしその努力も虚しく、涙はとめどなく溢れていく。
声も無く泣き続けるクリスティーヌの背中を、エリックがおずおずと労わるように擦った。
「クリスティーヌ」
5497/10:2010/06/21(月) 00:12:28 ID:pqJfdo+r
「クリスティーヌ、私の音楽の天使」
歌うようにエリックが呼びかけた。クリスティーヌがハッとして顔を上げる。
「おまえは台本だけが舞台を作ると思っているね。だがそれは間違いだ。
舞台は本だけでは作れない。役者がいて初めて完成するものだ。
そしておまえはプリマドンナ。
この意味がわかるかい――お嬢さん〈マドモアゼル〉」
「……」
クリスティーヌはぼんやりと口を開き、ややして俯いた。
「おまえが舞台で「クリスティーヌ」を演じることによって、私の作品は完成する。
役者がいて、舞台があって、初めてこの物語は輝く。
クリスティーヌ、歌え!私のために!
いいやどうか私のために歌ってほしい。
おまえが歌い続ける限り、私はこの物語の中で永遠に生き続けることが出来る。
おまえが歌い続ける限り、この物語は永遠に終わることなく続いていく。
人々が歌い語り継ぐ限り、この物語は永遠に失われることなく色鮮やかに輝き続ける。
そして私の物語は永遠のときを生きる」
「私も天使様のお力になることが出来るのですね」
クリスティーヌが熱に浮かされたように、うっとりとエリックを見上げる。
安堵感からか、涙はとうに消えていた。

「だがクリスティーヌ、忘れてはいけないよ」
クリスティーヌの目の前にエリックの細い指先がひらりと翳される。
彼女はそれを見るともなしに眺め、ゆっくりと息をついた。
「舞台は役者だけが作るのではない。まして台本だけが作るのでもない。
殺風景な舞台を一瞬にして宮殿に変え、またあるときは草原へと変える美術係。
真っ暗な舞台を照らし、役者を引き立たせ、またあるときは天気さえも操る照明係。
おまえたちを気高い貴婦人に、全てを失った奴隷に、勇ましい騎士に変えてしまう衣装係。
優美な音色で会場を包み込み、臨場感溢れる音楽で全てを飲み込むオーケストラ。
他にも大勢いる。オペラ座に携わる全ての人間が、舞台を、作品を作り上げるんだ」
エリックは茶目っ気たっぷりに付け足した。
「そう〈ドア閉め係〉も〈ネズミ捕り〉もね」
「うふふっ」
「クリスティーヌ、おまえは笑った顔が一番素敵だ」
「まあ。天使様と一緒ならいつまでも笑っていられると思いますわ」
「可愛いことを言う」
「……ありがとう天使様。心が楽になりました」
クリスティーヌがくすりと笑みを浮かべ、涙の跡が残る頬をハンカチで拭った。
再び顔を上げた彼女はとても晴れやかな表情をしていた。
5508/10:2010/06/21(月) 00:14:27 ID:pqJfdo+r

彼はいつも一人だった。彼は優秀な芸術家であり、奇術師であり、建築家でもあった。
彼は孤独だったが、
彼がとある皇帝のために設計し、作り上げた宮殿は何も彼一人で完成させたわけではない。
もしそうであったのならさらに何十年と時間がかかっていたことだろう。
複数の建築請負業者が彼の指示を受けて一緒に作り上げたのだ。
けれども彼は
「あれくらい私一人で作れた。いやあれは私一人が作ったものだ」と、よく言っていたものである。
そんな彼が「携わる全ての人間が舞台を作る」とそう言ったのだ。
〈ペルシャ人〉は目頭が熱くなるのを感じた。

「あら泣いてらっしゃるの」
クリスティーヌが異変に気づき、そう声をかけてきた。
それを聞いたエリックは酷く動揺し、しきりに〈ペルシャ人〉の背中を擦った。
「もしかして私が何か悪いことを言ってしまっただろうか」
違う。安心させようと口を開くが喉からは嗚咽しか出てこない。
「私のせいですまない」
「私のハンカチでよろしければお使いになってください」
クリスティーヌはレースで縁取られた白いハンカチを差し出し、
代わりに先ほどラウルから受け取ったハンカチを綺麗にたたんでポシェットに閉まった。
彼女からハンカチを受け取り、〈ペルシャ人〉は申し訳ない気分でいっぱいになる。
「すまない」だなんて、私はエリックにそんなことを言わせたかったわけではない。
「ダロガ」
エリックが不安そうに顔を覗き込んでくる。
〈ペルシャ人〉は今度こそ安心させようと微笑んだ。
上手く笑えただろうか。頬は引きつっていないだろうか。
涙で滲む視界の奥にエリックがいる。
相変わらず仮面をつけていて表情はわからなかったが、なんとなく仮面の奥で笑みを浮かべているような気さえした。
どうにか搾り出すようにして〈ペルシャ人〉は言葉を紡いだ。
「大丈夫、目にゴミが入っただけだ。素晴らしい作品が出来ることを祈っているよ」
「……ああ。ならこれを今すぐにでも完成させないといけないな」
エリックは作業途中の猿の置物を近くに引き寄せた。
クリスティーヌが珍しそうにそれを見ている。
「まあ可愛らしいお猿さん」
エリックは作業の片手間にオルゴールの仕掛けを作動させた。
懐かしいメロディーに合わせて猿がシンバルを叩いた。
「ふふっ、お利口なのね。このお猿さんをどうするんですか」
「服を着せてあげるんだよ」
「お洋服?」
クリスティーヌが不思議そうに瞬く。
5519/10:2010/06/21(月) 00:16:49 ID:pqJfdo+r
エリックは魔法のように鮮やかな手つきであっという間に猿に着せる服を仕上げてしまった。
シンバルを奏でていた猿に素早くそれを着せる。
「シンバルを持ったお猿さん、異国の服を着ているわ……あ!」
クリスティーヌが零れ落ちそうな大きな目をさらに大きく見開いた。
猿と〈ペルシャ人〉を見比べて、口元をほころばせる。
「ペルシャのお洋服ね」
〈ペルシャ人〉は驚きを隠しきれなかった。情けなくも飛び上がり、改めて猿を見る。
クリスティーヌの言うとおり、猿は〈ペルシャ人〉の故郷の服を着ていた。
「エリック……!」
「君を登場させなかったせめてものお詫びだよ」
〈ペルシャ人〉は再び目頭が熱くなるのを感じた。

「お次は猿のオルゴールをどの場面に登場させるか決めないと」
お決まりの赤いインクで何かに取り付かれたように原稿用紙に書き殴る。
そんなエリックの姿に〈ペルシャ人〉はやはり不安を感じた。
「プロローグがパッとしないと支配人が言っていたな。うむ、これを使うか」
黙々と本を書き進めていたエリックが突然顔を上げて、クリスティーヌに穏やかに語りかけた。
「そうだ、薔薇も使おう。おまえの書いた本には薔薇が出てきたからね」
「まあありがとう」
クリスティーヌが書いた「オペラ座の怪人」
――もとい「美女と野獣」の焼き回しに置いて薔薇は重要な役割を果たしていた。
ではエリックの作るこの作品で薔薇はどんな役割を果たすのか。
室内はペンの滑る音だけに支配されていた。
誰もが彼の邪魔をしてはいけないと黙り込んでいた。


そうして暫くするとエリックがペンを置いた。
「よしこれで完成と。早速奴らに見せてこなくては」
「その前に私に見せてくださいな」
クリスティーヌのお願いにエリックは指先を振った。
「駄目だ。だが支配人室まで一緒に来ることは許可しよう」
「では一緒に行きます。そうしたら聞かせてくださるのでしょう?」
「君はどうする、ダロガ」
話を振られた〈ペルシャ人〉は立ち上がった。
「これからちょっと野暮用があってね。君の素晴らしい作品は舞台で拝見することにしよう」
エリックは明らかに残念そうだった。
気を落とすなと〈ペルシャ人〉は彼の肩を叩く。
その様子を和やかな表情で見ていたクリスティーヌが思い出したように隣を見やった。
「ラウルったら、どうしてずっと黙り込んでいるの」
55210/10:2010/06/21(月) 00:18:16 ID:pqJfdo+r
「どうしたの、眠ってしまったの?」
あまりにも静かだったので存在を忘れていた。〈ペルシャ人〉達もそちらを見やる。
ラウルはぐったりと項垂れていた。怪訝に思ったクリスティーヌが彼を揺さぶる。
「気持ち悪い……」
ラウルは蚊の鳴くような声で答えた。顔は真っ青で、額に脂汗が滲んでいる。
「熱でもあるのかしら」
「寝不足かもしれんな」
少なくとも熱がある顔には見えない。クリスティーヌとエリックに任せておくと
状態が悪化しそうだったので、〈ペルシャ人〉は彼らを脇に退けた。
ぐったりと俯いたラウルの首からは何かがのびていた。
クラバット?ネクタイ?スカーフ?――違う!
〈ペルシャ人〉は叫んだ。
「パンジャブの紐!エリック、紐はどうした!?」
いくら死なない程度にとはいえ、首にずっと紐を括りつけられていては気分も悪くなる。
完全に忘れていたが彼は首にパンジャブの紐を括りつけたままだったのだ。
「どうして忘れてるんだ、しっかりしてくれ!」
〈ペルシャ人〉は自分もすっかり忘れていたという事実を棚に上げて、エリックを罵った。
「え、えっと」
エリックは自分の手のひらを見やる。その手に紐先は無かった。
よもやこんなことになるとは思いもよらなかったのだろう。
いつになくおろおろと落ちつきの無い様子でパンジャブの紐先を探し始めた。

「クリスティーヌ……クリスティーヌ……」
ラウルが息も絶え絶えに愛しい少女の名を呼んだ。
クリスティーヌはすぐさま駆け寄り、抱き起こす。
「大丈夫よ、すぐに良くなるから」
「僕は、もう駄目だ……。兄さんに、伝えてくれ」
「弱気になっては駄目よ、ラウル」
「チョコ食べたかった……」
「ああ、ごめんなさい。私が全部食べてしまったばっかりに!」
くだらない遺言で今際の際ごっこをして遊ぶくらいなのだから、結構余裕なのかもしれない。
「クリスティーヌ……」
「ラウル……」
名前を呼び合って見つめ合って、二人だけの世界を作れるようなら、全然余裕なのかもしれない。
もう死ぬなり焼くなり溺れるなりどうにでもしてくれ。
〈ペルシャ人〉は心底どうでもよくなり、心の中で悪態をついた。
「あった!」
エリックは原稿用紙の散らばったテーブルからパンジャブの紐先を見つけ出した。
〈ペルシャ人〉が止めるより早く、その紐先を勢い余って高く掲げる。
「――!!」
断末魔の悲鳴が地下中にこだました。
553名無しさん@ピンキー:2010/06/21(月) 00:20:03 ID:pqJfdo+r
今回は以上です。
あ…ありのまま今回起こった事を話すぜ!
参考にしようと某少年の事件簿のオペラ座関連を軽く読んだら
いつのまにかドラマ版を全巻レンタルしていた。
な…何を言っているのかわからねーと思うが
おれも何をされたのかわからなかった…あやうくジッチャンのシリーズまで借り始める所だったぜ…(AA略)
554名無しさん@ピンキー:2010/06/22(火) 11:13:47 ID:yh/BLsnm
まさかここでアナトールの名を見る日が来るとは…
アナトールは埋もれるには惜しい良キャラ
カルロッタポジの子も可愛い
評価低いけど43年版オススメ
555名無しさん@ピンキー:2010/07/06(火) 18:46:24 ID:SM/jTo0F
やっと規制とけた・・・
>>553
今回もGJでした
ちょくちょくほろりとさせられるなw
ところでおまいさんは最近オペラ座にはまったのかい?
556名無しさん@ピンキー:2010/07/16(金) 16:42:59 ID:xV5QXCex
ラウル、遺言?にチョコ…w
なんだか上手いことやっている先生に
目頭が熱くなるダロガ、いい人だw
5571/10:2010/07/31(土) 00:16:15 ID:c0AROvZs
原作の皆さんが「新・オペラ座の怪人(仮)」を考えてみた。
オルゴールと赤い薔薇編
・エロ無し
・キャラ崩壊
・やや恋愛っぽい描写あり
・でも基本的にはギャグ
・やはり下ネタに走りたがる皆さん

「いやあ大事にならなくて良かった良かった」
「良くない!」
前を歩いていたラウルが階段の踊り場でくるりと勢いよく振り返った。
あまりに唐突だったため、エリックは咄嗟に立ち止まりきれず、つんのめる。
倒れこむ寸前でクリスティーヌが後ろからマントを引っ張って支えた。
「おっと危ない」
「危ないのはこっちだ。もう少しで死ぬところだったんだぞ。お花畑の向こうに父の姿が見えたよ」
「ほう、良かったな。私に何か言付けはあったかね。
出来の悪い息子が迷惑かけてすみません。これからもどうぞ末永くよろしくお願いしますと?」
「そんなこと言うわけ無いだろ」
父親のことには触れてほしくないようで、彼は拒絶の表れとして唇を噛んだ。
エリックも個人的に母親については触れてほしくないのでお互い様である。
「ともあれ再会出来たのなら感謝してほしいくらいだな」
「再会してたら間違いなく死んでる。三途の川渡りきって死ぬ」
「なら再会出来るように今度こそ確実に送り届けてやろう。
罠にかけてじわじわいたぶり殺すのもいいが、一瞬でサクッと楽になれる猛毒も捨てがたい。
フッ、怖がらずとも良い。私は優しいからな。
どちらにせよ苦しまずに逝けるよう気分がよくなる薬も用意してやる」
「勘弁してくれ……」
ラウルは泣きだす直前のくしゃくしゃな顔をして、力無く首を振った。
「まあまあ」と心優しいクリスティーヌが間に割って入る。
「先生も反省してるんだし、もう許してあげて」
「反省してるようには見えないけど?」
「これでも反省しているつもりだが?」
「……」
「ふふっ、エリックはあなたをからかって遊んでいるのよ。だってあなたおかしいんだもの」
「僕が、おかしい?」
「それよりはやく出来上がった物語が聞きたいわ」
クリスティーヌは腕を広げるとくるりとターンした。柔らかそうな巻き毛がふわりと広がる。
まるで天使が舞い降りたようだと夢のようなことを思いながら、エリックは天使に言い聞かせた。
「支配人達にも聞かせなくてはいけないからね。そのとき一緒に聞かせてあげよう」
「じゃ、はやく行きましょう」
エリックは天使に腕を取られ、天にも昇るような勢いで階段を駆け上がった。
5582/10:2010/07/31(土) 00:18:50 ID:c0AROvZs
エリック達の訪問に二人の支配人はとても驚いたようだったが、歓迎してくれた。
共に台本を煮詰める作業をしたためか、以前より距離が近くなったように感じる。
それでもエリックのことをあのオペラ座の怪人だとして恐ろしく思っていたようだが。
「プロローグを書き直してきた。読め」
エリックは先ほど書きあがったばかりの原稿をリシャールに投げつける。
彼が目を落として読み始めようとした途端、堪り兼ねたクリスティーヌが挙手した。
「私も読みたいです」
リシャールが宙を睨んで数秒考え込む仕草を見せた。
結論が出たのか、原稿をそのまま隣に座るモンシャルマンに渡す。
受け取ったモンシャルマンは困惑げな表情を浮かべ、迷った挙げ句、目の前に座るラウルに渡した。
ラウルは受け取ったそれと隣に座るクリスティーヌを何度か見比べた。
目を輝かせたクリスティーヌが「ちょうだい」と手を差し出す。
そしてラウルは何を思ったか、クリスティーヌを挟んで反対側に座るエリックにそれを渡した。
「意地悪なのね。どうして私にくれないの?」
「回し読みするなら読んでもらった方がいいと思ってさ」
「私に読めと?」
「君が書いたんだから、当然だろう」
それもそうだ。エリックは表紙を捲った。

プロローグ――1919年・パリ。
オペラ座ゆかりの品が次々にオークションにかけられていく。
そこに初老の男性が車椅子で現れる。競売人が槌を叩き鳴らす。
NO.665・手回しオルガンの形をした張り子のオルゴール。
箱の上にはシンバルを叩くペルシャ衣装のモンキーが競売にかけられる。
入札が続き、初老の男性はついに30フランでオルゴールを落札する。
「30フランでシャニー子爵が落札です。ありがとうございます、子爵」

「だーっ!!」
ラウルが突然雄たけびを上げて立ち上がった。
読み上げていたエリックは思わず舌を噛みそうになる。
「ちょっと待って、シャニー子爵ってまさか僕のこと?」
「他に誰がいるのかね」
リシャールがこめかみを揉みながら言った。いい加減にしてくれと顔に書いてある。
「ピチピチ(死語)な僕が初老……嘘だ。どうしてこんな酷い仕打ちを」
「未来の話なのだから致し方あるまい。私にだって若い頃が……」
「切実ですね。ま、僕には遠い未来の話ですけど!」
「一発撃ち込みましょうか?」
「ごほん、続きを読みます!」
血生臭い諍いが始まっては堪らないのでエリックは先を読み進めることにした。
5593/10:2010/07/31(土) 00:20:53 ID:c0AROvZs
――ラウルはペルシャ衣装のモンキーに語りかける。
「何もかも彼女の言っていた通りだ。我々が皆死んだ後も、おまえはシンバルを叩くのか」
競売人が槌を叩き鳴らす。
NO.666・壊れたシャンデリアが競売にかけられる。
競売人は〈オペラ座の怪人〉の事件にまつわる品だとそれを紹介する。
シャンデリアに光が灯る。
序曲が流れ始め、曲と共にオペラ座はかつての輝きを取り戻してゆく。
1870年・オペラ座へ続く。

「納得できない」
ラウルは仏頂面で足を投げ出す。リシャールが微かに眉を顰めたが、その行儀の悪さを黙殺した。
「老人になるのは僕だけなの?クリスティーヌは?他のみんなは?」
「さあ?」
おどけたようにエリックが肩を竦めると、ラウルの身に纏った空気ががらりと変化した。
一触即発な雰囲気にモンシャルマンがハラハラと両者を交互に見る。
ややして身を乗り出すと、エリックに小声で話しかけた。
「救いはあるのか。でないとまた資金を出さないと駄々をこねかねない」
「ええ勿論」
エリックは自信たっぷりに答えた。彼はすぐに小躍りしだすだろうとも付け足す。
「それでは続けて会心の出来のエピローグを」

エピローグ――再び1919年。
とある墓地。ラウルは墓石の前にあのオルゴールを置き満足げに微笑む。
ふと彼が墓石の影を見やると、そこには隠すようにして置かれた一輪の薔薇。
薔薇には黒いリボン。そしてかつてラウルがクリスティーヌへ贈り(中略)
クリスティーヌが怪人へ贈ったあの指輪があった。
ラウルは辺りを見回すが当然誰の姿も無い。
ただ燃えるように赤い薔薇が怪人とクリスティーヌの愛の証のように思えた。
めでたしめでたし。

「全然めでたくない」
ラウルはさらに不機嫌になった。子供のようにぷくっと頬を膨らませて怒っている。
今にも暴れだしそうな雰囲気に、モンシャルマンが慌ててエリックに泣き付いた。
「どこに救いがあったというのだ。余計怒らせてどうする」
「それは」
エリックは原稿に視線を落とした。読み飛ばした一文を目でなぞる。
書き上げたときは最高に素晴らしいと思ったものだが、いざ本人らの前で読むとなると癪に障る。
ちらりと横目でクリスティーヌの様子を窺うと、彼女は何が不満なのか眉間に深い皺を刻んでいた。
仏頂面は可愛くない。皺が残ったらどうするのだ。
あとでやめるように言って聞かせないと……エリックはお節介ながらそう思った。
5604/10:2010/07/31(土) 00:22:07 ID:c0AROvZs
「ラウルはいいじゃない」
クリスティーヌが唇を尖らせた。
「私なんてプロローグにもエピローグにも出てないのよ。クリスティーヌの「ク」の字も。不公平よ」
「出てるじゃないか。オー「ク」ション。ほら「ク」の字」
「まあよかった!……ってふざけたこと言ってると本当に怒るわよ」
「最初から怒ってるだろ。君こそ羨ましいよ。僕なんか老人にされた挙げ句当て馬扱いだよ」
「プロローグにもエピローグにも出るなんてラウルの癖に生意気よ。
私の方がよっぽどメインに決まってるのに!脇役はすっころんでてよ!」
「いいや僕が主役に決まってる。創元版では僕の名前が最初に書いてあるんだから。
脇役は君の方だろう?主人公の可愛い相手役さん!」
「そんなこと言ったら角川とハヤカワ版は私が主役ですからね!
……いいわ、主役をかけて勝負しましょう!」
「望むところだ!」
そうこうしているうちにクリスティーヌとラウルが取っ組み合いを始めてしまった。
エリックはあまりにもくだらない言い争いに憮然とした。
どちらが主役かって、タイトルにもなってるこの私に決まってるだろう。
それこそ脇役の二人はすっころんでてもらいたい。
主役の私を輝かせるために、脇役の二人は馬車馬のように働くべきである。

しかしながらこのままでは埒が明かない。
止めてもらおうにもリシャールは宙を見つめて我関せずだし、モンシャルマンはおろおろと役に立たない。
エリックは肩を竦め、あの一文をゆっくりと読み上げた。
「墓石にはこう刻まれている。
『良き妻、良き母であったクリスティーヌ・ド・シャニーここに眠る』と」
それは泣く子にキャンディーほどの効果があった。
取っ組み合っていた二人がぴたりと動きを止める。
「良き妻、良き母であった?」
「クリスティーヌ・ド・シャニー?」
クリスティーヌとラウルはそう呟くと同じようにぽかんと口を開けて、互いを見つめた。
穴があくほど見つめ合っているので、逆にこっちが気恥ずかしくなりエリックは咳き込んだ。
「ごほん。お見合いではないのだからそんなに見つめ合わなくとも」
「きゃっ」
「あっ」
二人は顔を真っ赤にして身を剥がした。胸を押さえてそっぽを向き合う。
エリックはめっきり老け込んだ気分になってぼやいた。
「これが若さか……」
「では後はお若い二人だけで」
「本当にお見合いにしてどうする」
あまりお若くない三人が揃ってため息をつく。
「「「はあ……」」」
5615/10:2010/07/31(土) 00:27:09 ID:c0AROvZs
お若い二人のせいで桃色空間と化した室内は
エリックにとって(支配人らにとっても)居心地の悪いものだった。
クリスティーヌは真っ赤になった頬を手で押さえ、金魚のように口をパクパクさせている。
ラウルの方はエリックからはよく見えなかったが、首筋まで赤くなっているのがわかる。
どんだけうぶなんだこいつら。
そういうエリックも相当のうぶなのだが、本人は気づいていなかった。
取っ組み合っていた先程とは打って変わって、
二人は視線も交わせなければ、口も利けない人形のようにピクリとも動かない。

二人がそうしている間に、秘書のレミーが全員にお茶を配って回り、
エリックは支配人達と舞台について話し合い、ついでに世間話もして、
なんだかんだとやってる間に、やがてお茶は冷めてしまった。
どうしたものかと思いあぐねているとラウルが上ずった声で話し出した。
「結婚するんだね」
「えっ、ええ」
そう言葉を交わすと二人はまた黙ってしまった。
仕方ないのでエリックは茶化す方向で現状を打破しようと考えた。
「あのようにして地上へ行ったのだからそうでなくては困る。
あれで結婚しなければ人間として終わってる。男として欠陥があるとしか思えない」
ラウルは思った通り単純だったので、すぐさま餌に食いついた。
「失礼なこと言うな!」
「欠陥って具体的には何ですか」
クリスティーヌの純粋な疑問にエリックは出来るだけ端的に答えた。
「種無し、玉無し、甲斐性無し」
「どっかの続編じゃあるまいし、ありえない!」
「そこまで必死だとよもや真実ではと勘ぐりたくなるな」
「……」
むっつりと黙り込んでしまった。
ここは盛大に否定してもらわないと反応に困るのだが。
「お若いのに」
「子作りのみが人生の意義では……」
モンシャルマンとリシャールが生暖かい視線を送っている。
「生物学的に生きる価値も無いとは支配人殿も手厳しいですな」
「私は何もそこまで」
「酷いわ。この世に価値のない人間なんていないのよ。
例えラウルに 人 間 と し て 欠陥があっても、頭の悪い世間知らずのお坊ちゃんでも、
貴族でなくお金持ちでないとしても、私は彼を見捨てたりしないわ!
……でもやっぱりお金持ちじゃなかったら少し考えるかも」
「クリスティーヌ……。これほどの辱めを!決して許しはしないぞ!」
「それは私の台詞だ」
「とにかく今に見てろよー!」
捨て台詞を残して彼は出て行ってしまった。
5626/10:2010/07/31(土) 00:30:02 ID:c0AROvZs
「行っちゃった……。みんなして虐めるからですよ」
「私にはクリスティーヌが止めを刺したように見えたのだが」
「……ところで」
クリスティーヌはしらっと話をすり替えた。
「種無しって何ですか?種が無いとだめなんですか?ブドウですか?」
彼女の無知な純粋さは美点でもあったが、同時に欠点でもあった。
エリックは慎重に言葉を選びながら説明する。
「花には「おしべ」と「めしべ」があって、例えばカボチャは男の子の花と女の子の花が……」
「よくわかりませんけど、ラウルはカボチャということですね」
「違います」
「じゃ、カボチャ頭?」
「そうだけど違います」
頭の痛いやり取りをしていると先ほど出て行ったばかりのラウルが戻ってきた。
ベルトを締め直している彼を指差してクリスティーヌが声を上げた。
「あ、カボチャ!」
「え、カボチャ?」
「ええ、先生が言ってたわ。カボチャだって」
「そうだね、おいしいね。僕はパンプキンパイが好きだな」
「共食いするの?」
「は?」
「いやいや」
エリックはクリスティーヌの口を手で覆うと、ラウルを一瞥して続けた。
「トイレか、心配して損した」
「違う!」
ラウルは声を張ると何かをこちらに放った。
「剣?」
「武器を取りに行ってたんだ。僕と勝負しろ!」
「子爵殿はフェンシングがお得意なので?」
「こう見えて運動神経はいいんだ」
「見た目通り頭は弱いが」
「海軍兵学校だって優秀な成績で卒業したし」
「金の力で?」
「うん、金の力で……って違う!また僕を辱めたな!」
「ならお家柄で成績が底上げされたのだろうな」
「僕だけならまだしも兄や家族まで侮辱した!絶対に許さない!」
はやく立って勝負しろと促すのでエリックはのっそりと重い腰を上げた。
「言い忘れていたことがある」
「謝るのなら今のうちだぞ。後で泣いて縋ったって知らないからな」
「私は昔ペルシャで猛獣を剣一本で殺したがあってだねえ。
猛獣だけでなく、襲い来る人々をもちぎっては投げ、ちぎっては投げ……。
貴様こそ謝るのなら今のうちだぞ。跪け、命乞いをしろ!」
ラウルの顔色が鮮やかな朱から冷やかな蒼へと移り変わる。
「まさか怖気づいたのではあるまいな」
「ギクッ!馬鹿にするな!」
ラウルが剣を大きく振り被り、エリックはマントを翻した。
「一撃必殺!パンジャブの紐!」
「紐なんて切り刻んでやる!」
「卑劣な!」
「君には言われたくない!」
5637/10:2010/07/31(土) 00:31:02 ID:c0AROvZs
「ダーエ、二人を止めろ。さもなくば全員撃ち殺す!」
リシャールが血迷った叫び声を上げる。
クリスティーヌはおろおろとするばかりだったが、やがて意を決したように顔を上げた。
鈴を転がしたような軽やかな歌声が響き渡る。

「けんかをやめて 二人をとめて 私のために争わないで もうこれ以上♪」

エリックは盛大にずっこけた。
クリスティーヌはなんと歌った?酷く懐メロだった気がする。気のせいだといいのだが……。
どうにか起き上がったエリックが懇願するように見上げると、彼女は微笑み繰り返し歌う。
「けんかをやめて 二人をとめて 私のために争わないで もうこれ以上♪」
「ク、クリスティーヌ、どこでそんな歌を……」
「まあけんかをやめたわ!ママの言った通り!」
「ママ?」
エリックは首を捻った。するとクリスティーヌの肩越しにラウルが説明する。
「ヴァレリウス夫人と言ってクリスティーヌの母親代わりなんだ」
「彼女は電波?」
「クリスティーヌがこの歳になるまで音楽の天使の存在を信じ込む程度には」
「なるほど。クリスティーヌが電波なのも納得だな」
二人の会話を聞いたクリスティーヌが頬を膨らませた。
「ママの悪口言わないで」
「言ってないよ。それよりさっきの歌だけど」
ラウルはクリスティーヌの抗議をさらりと受け流し、話を逸らした。
「さっきの歌?私のために争わないで♪」
「別に君のためじゃないよ」
確かにその通りなのだが、言って良いことと悪いことがある。
空気が凍りつき、クリスティーヌの背後にゆらりと何かが立ち込める。
「じゃあ、何のために?」
「男のプライドのために」
「小さいのね」
「は?」
「そんなだからナニが小さいって言われるのよ!」
「ナニってナニが?」
「だからナニよ」
「見たの?」
「ナニを?」
「だからナニを」
全く頭が痛くなるような会話である。エリックは二人の間に割って入った。
「二人とも日本語でおk」
「だってラウルが」
「だってロッテが」
「はいはい。それでクリスティーヌはナニを言いたいのだね」
「だからラウルはナニが小さいって」
「いつ見たの?」
「ナニを?私が言いたいのはここが小さいってことよ」
クリスティーヌは小さな胸に両手をあてた。
「心が狭いってこと?少なくとも彼よりかは広いつもりでいたんだけど」
「勿論天使様もナニが小さいわ」
「誤解を招くような言い方をするな!心が狭いと言いなさい、心が狭いと!」
5648/10:2010/07/31(土) 00:36:18 ID:c0AROvZs
閑話休題。
「話がだいぶ脱線してしまいましたけれど」
クリスティーヌが珍しくマトモなことを言った。
長い睫毛が僅かに震える。桃色の頬に影を落とし、ぽつりと悲しそうに呟いた。
「先生は意地悪だわ」
「意地悪?」
エリックはうろたえた。さすがに彼のことを虐めすぎただろうか。
クリスティーヌはこんな私を嫌いになってしまっただろうか。
だがしかしあれほどまでに加虐心を煽るあの男が悪いのである。
この感覚自体はクリスティーヌもわかってくれるはずだと思っていたのだが。
「だって私はラウルとは結婚できないわ。身分が違いすぎるもの」
クリスティーヌは寂しげに微笑み、俯いた。
彼女が非難しているのは虐めたことではないらしい。
エリックはホッと胸を撫で下ろす。
「そのくらい私でもわかります。馬鹿な私とラウルならわからないとお思いになったの?」
「さりげなく僕のことまで馬鹿って言ったよね」
「ラウルは黙ってて。先生は酷いわ。出来っこないとわかっていて期待させるんだもの」
「期待?」
エリックは何気なく――特に深い意味も持たずに、彼女の言葉を繰り返した。
しかしクリスティーヌはそれを咎められたと感じたのだろう。ばつが悪そうな顔をする。
エリックには彼女が何故そのような表情をするのか、よくわからなかった。
ただ彼女を納得させる必要があると思い、言葉を続けた。
「正体もわからぬ怪人に立ち向かった勇気があれば、
家族や親戚を納得させるために奔走することなど簡単なことだと思うが」
「そうですね」
クリスティーヌの強張った顔がまるで野に咲く小さな花のようにほころぶ。
「それに劇中の二人の話であって、全ては物語。現実の君達がどうこうという話ではない」
クリスティーヌとラウルがハッと顔を見合わせた。声を立てて笑いあう。
「ふふっ、そうよね。私達が結婚するなんてありえないわよね」
「あはっ、そうだね。名前が同じだから、勘違いしちゃったね。
ああ、どうしたんだろう。目から水が……」
「どうしたの?おなかが痛いの?頭が悪いの?目が壊れたの?」
「心が痛い」
「まあお医者様に見ていただかないと」
エリックはクリスティーヌの肩を叩き、首をゆるゆると振った。
「医者では治せない病なんだよ」
「そんな!ラウルが不治の病だなんて!」
「違います」
「ならラウルはどうしてしまったの?」
「今はそっとしておいてあげなさい」
「?」
5659/10:2010/07/31(土) 00:37:36 ID:c0AROvZs
「で、猿のオルゴールとは何だね」
漸く出番が巡ってきたと言わんばかりにリシャールが問うた。
「私も気になります。さっきの異国の服を着たお猿さんのことですよね」
「それを僕が落札して、クリスティーヌのお墓に供えることに意味でもあるのかい」
「だから「僕」じゃなくて「劇中の子爵」だ」
また勘違いが始まると面倒くさいのでエリックは訂正した。
「そっか。それに舞台に立つのも僕じゃない。僕は君達みたいに上手には歌えないからね」
「あらラウルも天使様に教えてもらったら、私みたいに上手になるかも」
「そうかな」
「仮に上手くなるとしても子爵にレッスンを施すのは断固として拒否する」
「まあ天使様ったら意地悪なのね」
何とでも言え。他の誰でもないクリスティーヌだからレッスンしたのだ。
そのクリスティーヌの頼みだろうと、他の誰にレッスンするつもりは無い。
「じゃあラウルには私が教えてあげる」
「お手柔らかに頼むよ」
「私には見えるわ!あなたがブロードウェイの舞台に立っている姿が!」
「僕にも見えるよ!君がメトロポリタン歌劇場に立っている姿が!」
「なら私が教える!わけわからんこと言うな!見つめ合うな!トリップするな!」

閑話休題。
エリックは地下から持ってきたオルゴールを支配人達に披露する。
「この猿のオルゴールは(劇中の)怪人が幼い頃より大切にしていたもので、
また(劇中の)クリスティーヌとの思い出の品でもある。
(劇中の)彼女はあの時のことをずっと忘れられずに、(劇中の)子爵に時に楽しげに、時に悲しげに語り続ける。
そして時は流れ、オルゴールのことを語り続けた(劇中の)クリスティーヌを失って
抜け殻ように生活していた(劇中の)子爵の元に一通の招待状が届く。
オペラ座で開かれるオークションへの招待状だ。
(劇中の)彼は猿のオルゴールのことを思い出し、それを(劇中の)クリスティーヌの元に届ける」
「うむ。だがこれでなくともいいのではないかね」
リシャールは猿のオルゴールを眺め、髭をしごいた。
「もっとわかりやすく……怪人の仮面とかな」
「いやこれでなくてはいけない。この猿はただの猿ではない」
「ただの猿ではない?」
片眉を上げて先を促すリシャールに、エリックはもったいぶって答えた。
「そう、ただの猿ではない。私の友人であり、彼らの友人でもある」
「彼ら」と横に座るクリスティーヌ達を示す。
56610/10:2010/07/31(土) 00:39:39 ID:c0AROvZs
猿が友人?とリシャールはモンシャルマンと顔を見合わせ首を捻った。
しかし深くは追求せずに、さらに疑問をぶつける。
「ではそれを届けるのが(劇中の)子爵である理由は?
薔薇を贈るついでに(劇中の)怪人自身が持って行ってもいいのではないのかね」
「私がクリスティーヌを舞台上から浚ったあの日、子爵は彼と共に私達の元へやってきた。
だから猿のオルゴールを届けるのは(劇中の)子爵でなければいけない。
届けることではなく(劇中の)子爵と共に来ることが重要なのだ」
「そういえば」
ラウルがふっと思い出したように口元に手を当てた。
「どうしてこの台本には彼が出てこないんだろう」
「どうしてかしらね」
さも不思議そうにしているが原因は彼自身にある。彼はすっかり忘れているようだったが。
「って僕だけに責任を押し付けないでほしいな。
君だって、クリスティーヌだって彼のこと一言も書かなかったんだし」
「さてどうだったかな」
「魔法で食器にされてしまった従者の役にすればよかったのかしら……」
クリスティーヌの書いた例の作品を思い出した一同は何も言わずに視線を逸らす。
露骨に無視されたクリスティーヌは何か言いたげに口を窄めたが、何も言わなかった。

そしてその愛らしい表情が徐々に崩れ、真顔に戻ると静かに訊ねた。
「猿のオルゴールはラウルが届けてくださるのだとしたら、薔薇は?
薔薇は天使様が届けてくださったのですよね?だって指輪もあるんですもの。
天使様が私のために持ってきてくださったのよね」
「さあ」
エリックは肩を竦め、宙を仰いだ。クリスティーヌも同じように宙を仰ぐ。
「怪人が置いていったのかもしれないし、怪人に頼まれた誰かが置いていったのかもしれない」
「……」
クリスティーヌの白い小さな手がエリックの大きな手を包み込む。
彼女は愛おしそうに骨ばった手の甲を撫で、それでいてどこか切なげだった。
「これは全部物語なのでしょう。このクリスティーヌは私ではない。
なら本当の私が死んだとき、天使様は私に薔薇を届けてくださいますか」
クリスティーヌが私より先に死ぬことなどありえない。
けれど懇願するクリスティーヌはとても美しく、また可憐であった。
泣きだす寸前の顔をしていながらもそれを堪えるように笑みを浮かべていた。
だからエリックも僅かながらの微笑と彼女の望む答えを返すしかなくなる。
「約束する」と。
567名無しさん@ピンキー:2010/07/31(土) 00:42:41 ID:c0AROvZs
以上です。
今回分で書き溜めていたストックが切れました。

>>555
小説はだいぶ前から。映画は最近になって視聴した新参者です。
映画を見た後、小説を何度も読んでるうちにこうなりました。
568名無しさん@ピンキー:2010/08/04(水) 22:55:24 ID:J1l5el4D
トイレタイムや金の力については「違う!」と盛大に否定してるのに
種無しについては「ありえない!」としか言ってないね
ラウルさん、全力否定しなくていいんですか?w
否定出来ないってことですかw
569名無しさん@ピンキー:2010/08/20(金) 10:47:03 ID:PpFShJHT
うわあああいつの間にうpしていたんだ
今回も最高ですた!
ラウルノリツッコミのスキルが確実にアップしているな
570名無しさん@ピンキー:2010/08/25(水) 18:36:34 ID:mhGEY2YR
保守
571名無しさん@ピンキー:2010/08/30(月) 18:32:49 ID:cwRiU3RS
エリックが「日本語でおk」とかなんなの?意味が分からない
まったくキャラ壊してんじゃねーよもっとやれ
5721/11:2010/09/04(土) 23:55:30 ID:SDujHC5G
原作の皆さんが「新・オペラ座の怪人(仮)」を考えてみた。
カルロッタ編
・エロ無し
・キャラ崩壊
・我先にとギャグ方向へ突っ走る皆さん

台本の決定稿も上がり、練習も佳境を迎え、それぞれが自分の役を固め始めた頃。
エリックは今日も今日とて練習の様子を遥か高みから眺めていた。
盗み見と言われればそれまでだが、堂々と見に行くほどの勇気は生憎持ち合わせていない。
「ご苦労様です。今日こそは舞台装置の点検をさせていただきたいのですが?」
大道具主任のジョゼフ・ビュケが謙った態度で腰を折る。
エリックが手を振ると、彼は途端に青ざめて見えない尻尾を巻いて逃げて行ってしまった。
以前にや さ し く絞めたのが相当効いているらしい。
邪魔者がいなくなった静かな舞台の梁の上でエリックはそっと覗き込むように身を乗り出した。

舞台上では台詞と立ち回りの確認が続いている。
クリスティーヌが台詞を読み上げようと息を吸い込むと、遮るような甲高い声が被さった。
「どうして私が端役なの!しかもこの小娘がヒロインですって?許せないわ!」
劇場中を揺らすカルロッタのきゃんきゃん声に、クリスティーヌが怯えた小鹿のように頭を垂れた。
「ごめんなさい」
その仕草さえ気に食わないのか、カルロッタは床を踏み抜きそうな勢いで地団太を踏む。
「私を誰だと思ってるの!?プリマドンナよ!!」
また始まったよと、周りの役者達は肩を竦める。
だが誰一人としてクリスティーヌを庇う者はいなかった。
カルロッタの癇癪はちょっとやそっとでは治らないということ皆知っているのだ。
しかしメグだけは違った。彼女は物怖じせず、カルロッタを睨みつけると早口で捲し立てた。
「決まったことを蒸し返さないでください!ヒロインはクリスティーヌ。これは決定事項です!」
「あんたは引っ込んでなさい!」
「引っ込まない!」
何故メグがそこまでクリスティーヌを庇うのかというと、それはひとえに舞台のためであった。
親友同士という役柄を貰った二人は、舞台上だけでなく
普段からも仲良くなるようにと言われ、寄宿舎で共同生活を送っている。
同年代の同性の友達が出来たのがよほど嬉しかったのだろう。
クリスティーヌは何をするにもいつもメグと一緒だった。
彼女はまるで彼女に恋する男達のことなど忘れたかのように振舞ったので、
エリックは(勿論ラウルも)打ち捨てられた玩具のように切ない気分を味わったのである。
5732/11:2010/09/04(土) 23:57:04 ID:SDujHC5G
「ヒロインはクリスティーヌに決まってるわ!だってこれは怪人さんが彼女のために書き上げたんだもの!」
「やめて、メグ。カルロッタさんが怒るのは当然だわ」
「言われっぱなしでいいの?」
クリスティーヌは大きな瞳を揺らし、視線を落とした。
「いいのよ、悪口を言われるのは慣れてるもの」
「悲劇のヒロイン気取りがムカつくって言ってるのよ!……まあいいわ。やはり主役は私ね。
だいたいよくわからないオペラ・ゴーストに推薦された小娘が主演なんて土台無理な話だったのよ!」
「ええその通りです。我が劇場のプリマドンナ、歌の女神カルロッタ!」
「私達も主演はあなたが良いと思っていましたが、怪人に押し切られたのです!」
どこからか湧いて現れた両支配人が打てば響く太鼓のようによいしょした。
この裏切り者が!エリックは二人の支配人を焼き殺さんばかりに頭上から睨みつけた。
何が我が儘なカルロッタには辟易している――だ。

「そうよねぇ。だってあの子を推してるのは不愉快なオペラ座のゴキブリと
芸術の崇高なる精神すら理解してないのにパトロンやってる坊やくらいだものねー」
カルロッタはどこにいるともわからない怪人と、不在のパトロンを罵った。
おとなしく脇に控えていたクリスティーヌがムッと眉を吊り上げる。
「天使様は黒くて、こそこそしてて、暗くてじめじめした所が好きですけど、ゴキブリではありません!」
「そういうのをゴキブリって言うのよ」
「それにラウルは頭悪いし、ボンボンですけど、芸術を全く理解していないわけではありません!たぶん」
「あんた可愛い顔して酷いこと平気で言うのね……」
「私のことは構いませんが、二人のことは悪く言わないでください」
「私は事実を言ったまでよ。というかあんたの方が酷いこと言ってるでしょ」
「謝ってください!」
「うるさい小娘ねっ!」
カルロッタの金切り声に一同は耳を塞いだ。
「私こそが主演に相応しいというのに!ほら、あんた達のために歌ってやるから心して聞くがいいわ!
――思い出して、優しく私を想って さよならを……ゲコッ」

『身の程を知らぬようだな、醜いヒキガエルめ!』

響き渡る低い声に、その場にいた全員が不安そうに天を仰いだ。
しかしカルロッタは気後れせずに声を張り上げる。
「言いたいことがあるのなら出てきなさい!どうせこの声もあんたの仕業ゲコッゲコッ」
『ほう、最近のヒキガエルは歌も歌えるのか』
5743/11:2010/09/04(土) 23:58:35 ID:SDujHC5G
エリックは梁の上から勢いよく飛び降りた。
着地するか否かのタイミングでカルロッタの抗議が耳を劈く。
「私を端役にするだなんていい度胸してるじゃない!」
「そっくりお返ししますよ、カルロッタお嬢さん。私に歯向かおうだなんていい度胸だ。
端役で舞台に立てるだけありがたいと思え!」
「馬鹿にしないで!もういいわ、こんなところやめてやる!
わけのわからない幽霊がいる劇場なんて真っ平だわ!」
カルロッタは顔を真っ赤にして踵を返した。
「カルロッタ!」
モンシャルマンが彼女の背を追いかけ、リシャールがエリックを睨んで舌打ちをする。
彼女が出入り口の重厚な扉に手を伸ばし触れようとした瞬間、扉が突然に開いた。
「キャアッ!」
「あ、失礼!」
仰け反り倒れそうになったカルロッタの腰を、扉の向こうから伸びてきた腕が支えた。
細く開いた扉の隙間からにゅうっと青年が入ってくる。
エリックはめんどくさい奴がきたと肩を竦めたが、クリスティーヌは歓迎に頬を緩ませた。
「ラウル!」
クリスティーヌの呼びかけに彼はにっこりと微笑を返した。
そしてその微笑をそのままそっくりカルロッタにも向けた。
「こんにちは、カルロッタさん」
カルロッタは整った形のいい眉を顰めてあからさまに嫌そうな顔をする。
「いつまで触ってるのよ」
「ああ、すまない」
「子爵、ちょうどいいところに」
「何かトラブルでも?」
モンシャルマンから不可思議な歓迎を受けたラウルは目を丸くする。
彼の問いかけには誰も答えなかった。代わりにカルロッタが金切り声を上げる。
「聞いてくださる?みんなして私を馬鹿にするのよ!あなたから私を主演にするように言って!」
「そんなことより」
「そんなことよりぃ!?」
ラウルは酷く鈍感な耳をしているのか、カルロッタの超音波を間近で受けてもケロッとしていた。
彼は育ち故の怖いもの知らずなマイペースさと船乗りの持つ勇敢さで
強引に舵を切ると話を全く別の方向へ持っていく。
「クリスティーヌ、君のために庭の花を摘んできたんだ。受け取っていただけますか、お嬢さん」
「まあありがとう。嬉しいわ。綺麗なお花ね」
「君の方が綺麗だよ」
「真顔で言われたら照れちゃうわ」
同じくマイペースなクリスティーヌは小ぶりな花束を受け取り、はにかんだ。
「あはっ」
「うふっ」
「キャッキャウフフうるさいのよ!お黙りなさい!」
カルロッタが怒鳴ると笑い声がぴたりとやんだ。
5754/11:2010/09/04(土) 23:59:44 ID:SDujHC5G
ゼンマイを巻き忘れた玩具のように動かなくなってしまった二人に、
カルロッタが気を良くしてしたり顔で頷く。
「そうよ、黙って私の話を聞けばいいの」
しかしそれもつかの間、二人は会話を再開させた。
「気に入ってくれて良かった」
「でもね私、本当は甘いものが良かったの」
「じゃ、おやつに取っておいたチョコレートをあげるね」
「ありがとう!」
「あはっ、ロッテの食いしん坊さん」
「もうっ、ラウルはいじわるさんね」
「だから私の話を聞けえええっ!!」
さすが人の話を聞かないことで有名な子爵。華麗なる完全無視である。
見習わないと、という表情でモンシャルマンが彼を見ていた。
あれは見習わない方がいいと思うのだが……。

カルロッタがゼイゼイ言っていると、今度は彼女の背後の扉が開いた。
大きな花束を抱きしめた女性が上機嫌にくるくると舞いながらやってくる。
その様子が気に食わないカルロッタが彼女の前に立ち塞がったが、彼女はそれを無視した。
無視どころか、体当たりでカルロッタを押しのけた。
「きゃあっ!」
「みて、この花束!綺麗でしょう」
女性は花束を恭しく頭の上に掲げて、メグに同意を求める。メグはこくこくと頷いた。
「綺麗ですね。どなたからの贈り物ですか」
待ってましたと言わんばかりに女性が捲し立てるように説明を始める。
「フィリップ……シャニー伯爵が私のために手ずから摘んできてくださったの!」
ついさっきどこかで聞いたような話である。
メグは咄嗟にクリスティーヌ達を背後に隠しながら相槌を打った。
「素敵ですね」
「伯爵ったら、今日はお忙しいのに私にこれを贈りたいからってわざわざ来てくださったの。
帰りにまた顔を見に来てくださるんですって。うふふっ」
花束の女性――ソレリはエリックも知っている通り、この劇場のプリマ・バレリーナだ。
そしてそのプリマ・バレリーナと大変親しいのは……。
エリックはなんとなく察してソレリとラウルを見比べた。
その視線に気づいたソレリがエリックを見上げる。
意志の強そうな目に見つめられ、エリックは思わずうろたえた。
「あ、いや、私は決して怪しいものではなく……怪人とは言われているが、幽霊ではなく、
ただの人間で、えっと、台本を書いたので演技指導に来たというか」
ソレリは顔色一つ変えずに、長身のエリックを押しのけた。
メグの機転も虚しく、彼女の目には彼女が愛しいと思う男性が愛しいと思う弟が映っていた。
5765/11:2010/09/05(日) 00:01:20 ID:SDujHC5G
「ラウルさん?あなたがフィリップの……」
呼びかけられたラウルはきょとんと目を瞠った。
「フィリップは僕の兄ですが、どちら様ですか?」
「今日は気分が良いの。私のことはお義姉様と呼んでくれて構わないのよ」
「どうしてですか?」
「私のことをお兄様からお聞きになってないの?」
「はい」
ソレリは複雑そうに唇を噛んだ。
「兄はあまりお喋りな方でないので、一緒にいるときはもっぱら僕の方から話しかけてます」
「それはおまえがあまりにお喋りすぎるので聞き手に回らざるを得ないだけでは……」
エリックはうんざりと肩を竦めた。心当たりがありすぎる。
彼は他人のことなどお構いなしに自分の話を延々としだすし、他人の話などこれっぽっちも聞いてない。
もしかするとそういう彼の性格は、彼の兄自身が作り出したものかもしれない。
何度か見かけただけではあるが、伯爵は弟をひどく甘やかしているようだった。
「そうなの?フィリップは私にはよくお話ししてくださるけど……」
それは彼女が聞き上手で、伯爵が彼女を信頼しているという証だろう。
不思議そうに小首を傾げるソレリが抱いている花束を認めたラウルが目を和ませる。
「その花、僕が摘んだんです。クリスティーヌのために摘んでいたんですけど」
知らない方が幸せなこともある。
黙らせようとエリックとメグが腕を伸ばしたが、ラウルは身を捩ってその腕を払った。
「兄が自分も親しい友人に贈りたいからって。なのでそれを譲ったんです。
本当はクリスティーヌにも大きい花束を贈りたかったんですけど、
残った花ではこの程度の大きさにしかならなくて」
「あーあ」
「KY」
エリックとメグは頭を抱えた。ソレリがゆらりと花束を振り上げる。
「そう伯爵ではなくて、あなたが!手ずから!摘んだのね!」
「ちょっ、花束で叩かないでください!」
「伯爵が私のために花を手折るはずないわね……」
しゅんとしおれた花のようなソレリをメグが必死で励ます。
「伯爵は自然を愛していらっしゃるから。子爵は考え無しに摘んでしまったんだと思います」
「僕が悪者みたいじゃないか」
「どこをどう見ても女性を落ち込ませた悪者だが?」
「子爵も怪人さんも少し黙っててください」
「私も大きな花束がほしかった」
「クリスティーヌもお願いだから黙ってて」
「私の話!」
「カルロッタさんも黙っててください!」
「……ハイ」
メグの一喝にカルロッタまでもが押し黙った。
5776/11:2010/09/05(日) 00:02:33 ID:2QHyz595
「伯爵が会いに来たのは弟を送ったついで。帰りに来るのも弟を迎えに来るついで。
私のことなんてどうでもいいのだわ。だっていつも弟の話ばかりだもの。
例えば子供の頃はどれほどおとなしくて内気だったとか、泣き虫で怖がりだったとか。
幾つまでおねしょしてたとか、一人で眠れなかったとか、今も好き嫌いが激しいとか。」
「お嬢さん、おねしょの話kwsk」
「怪人さん、嬉々としてそんなこと聞かないでください」
「弱みを握るチャンスだ!」
「聞きたくないです」
メグが凛と頑なな態度を取るので、エリックは仕方ないと諦めた。
この少女はおとなしいように見えて、ジュール夫人の娘らしく意志はしっかりしている。
ちょっとばかりやっかいなタイプかもしれない。

「他にも何歳頃に精通したとか、初恋はいつとか、好みのタイプとか、何度失恋したかとか」
「へー、私の前にも女がいーたーのーねー」
「ど、どうして君に過去のことで責められなきゃならないのさ」
「女の子は嫉妬深いの」
クリスティーヌはぷくっと頬を膨らませてそっぽを向いた。
「その点、私は潔白。我が人生云十年、女性の影など全くなかった」
と言い切ってからエリックの身にとてつもない悲しみが襲った。言うんじゃなかったと後悔しつつも、
よくよく思い返してみると放浪していた時期にそういうチャンスがあったような気もした。
しかし過ぎたことであり、それを知ればクリスティーヌが嫉妬するに違いないので言わないでおく。
「へー、今度ダロガさんに聞いてみよっと」
「勘弁してくださいお願いします」
ダロガのことだから退屈しのぎに面白おかしく適当な脚色を入れて話すに決まってる。
クリスティーヌに嫌われてしまう!エリックは光の速さで頭を下げていた。

「でもとてもうぶでシャイだったからいつも好きな子に話しかけられなくって、気づいたら失恋してる。
なのにクリスティーヌにはやけに積極的なのね。幼馴染というアドバンテージのおかげかしら」
「な、なんでそんなことまで」
「クリスティーヌとの件は有名なお話ですけどね」
ソレリがニッコリと笑みを浮かべた。目は笑っていなかった。
彼女の言うとおり、それは有名な話だった。ゴシップ紙があることないこと書き立てたのだから。
そのことを知らないのは当事者であるクリスティーヌくらいなもので、
ラウルも意に介していなかった――もしかしなくとも彼の方も失踪後の騒動は知らないかもしれなかった。
5787/11:2010/09/05(日) 00:04:53 ID:2QHyz595
ちくちくとラウルといじめていたソレリが急に虚しそうな表情になる。
いくら彼をいじめたところで無意味だとわかったのだろう。ついには自分の話を始める。
「去年の暮れ頃――寒い冬の日だったわ。その日は久しぶりのデートで、とても楽しみにしていたの。
でもね、当日になって手紙が届いて……なんて書いてあったと思う?
『弟が熱を出して寝込んでいるから今日は会えない』ですって!
小さな可愛い弟さんならわからないでもないけど、こんな大きな弟のために?
心細いだろうから?付いていてあげたい?笑ってしまうわ!」
恐らく例の凍死しかかった事件の後日談であろう。
エリックは自分には関係のない話と高を括っていたばかりに、少々居心地が悪くなる。
私があんなところに彼を放置して帰らなければ彼女は楽しみだったデートに行けたのだろうか。
しかしもう済んでしまったことである。ここは彼女にそれを悟られぬよう知らぬ存ぜぬを通して……。
「それはきっとぺロスから帰ってきた日のことですね。元々の原因は彼ですよ」
「話をこっちに振るな。それを言うならクリスティーヌが」
「私のせいですか?」
「いややはり私のせいだったかもしれない」
「どう考えても君のせいだし」
「あれしきのことで凍死しかかる方が悪い」
「あの寒さじゃ誰だってああなるよ」
「そもそもクリスティーヌの後をつけたストーカーが悪い」
「君自身のことを言ってるのか?」
「私がストーカーだと?」
「そんなことどうだって良いのよ……」
ソレリの声があまりにも絶望に満ち満ちていたため、それ以上の口論を続けることは出来なかった。
「せっかく三人で行ったのだから三人でパパにご挨拶すれば良かったのにね」
クリスティーヌが話を混ぜっ返そうとするので、エリックは「今度機会があったらね」と聞き流す。
「本当に笑い話ね。そんな男を一途に思ってるだなんて、哀れで笑ってしまうわ。
嫌いになれたらいいのに……いえ、もうあんな人知らないんだから!」
ソレリは小さな手で顔を覆った。嗚咽が漏れ聞こえる。
(もしかしてこの人は兄のことが嫌いなのかな。話を合わせておくか)
ラウルがぼんやりと呟いた。
――本当に彼のことを嫌いになったわけではあるまい。嫌よ嫌よも好きのうちである。
しかし複雑な乙女心を理解できるほどラウルは経験豊かではなかったし、空気も読めなかった。
「そうなんです。兄は少し過保護すぎるんですよ。うっとうしいですよね」
5798/11:2010/09/05(日) 00:06:20 ID:2QHyz595
静まり返る劇場。どこからともなく「あーあ」といった嘆きが聞こえた。
ソレリが再び花束を振り上げ、ラウルに向かって勢いよく振り下ろした。
「ああ悔しい!血の繋がりがあるからって余裕ぶっこいてんじゃないわよ!
所詮踊り子風情がって思っていらっしゃるでしょう?許さない……絶対に許さない!」
「思ってないし……ってイタッ、叩かないでください!ちょっとメグ、君も止めてよ」
「今のは子爵が悪いと思います」
「どうして」
「ソレリさんは子爵が無自覚で愛されてるのが気に食わないんですよ」
エリックは彼らの間に割って入った。
「お嬢さん、あなたが手を煩わすことはない。ここは私に任せなさい」
「あなた誰?」
エリックはソレリの質問に答えなかった。というか答える暇がなかった。
マントを翻してラウルの細い首筋を引っ掴んだ。
鳩が豆鉄砲を食らったような顔をしているので、エリックは優しく言い聞かせてやる。
「私もおまえのそういうところが気に食わない。
無条件で愛されて、愛されることに慣れすぎていて、それを価値のあることだと思わない」
「誤解だよ――うぐっ」
黙らせる代わりにエリックは彼を持ち上げた。
彼とは到底分かり合えないのだと思った。
彼はきっと誰からも愛され、大切にされ、穢れも悪意も何一つ知らぬまま育ったから。
そうして出来上がったのが眩しいほどまっすぐで純真な彼で、私とは何もかも違う。
最初から決まりきっていたこと。分かり合えるなんて期待した私が愚かだった。
「願っても祈っても愛されない人間もいるのに……」
「ち、がう……降ろしてくれ……!」
宙に浮いたラウルがエリックの手首に爪を立てて抵抗する。
鋭い爪先がついに柔らかな皮膚を切り裂き、手首から血が滲む。
鮮やかな血の色に躊躇したのか、爪の間に入り込んだ皮膚を気持ち悪いと感じたのか、
はたまた死臭のする手に恐怖を覚えたのか、ラウルはサッと青ざめて手の力を緩めた。
彼の指先を見やると右手の中指の爪が剥がれ落ちていた。彼はその痛みで青ざめたのだ。
「だから私は貴様が大嫌いだ!殺してやりたいほど憎い!」
「!」
剥がれ落ちた爪はそのまま手首に刺さっている。
エリックは痛みなど気にも留めなかった。痛みの意味など考えもしなかった。
細い喉をへし折ってやりたいという激情が胸を揺さぶり、それに身を委ねる。
だからエリックは気づきもしなかった。大きく見開かれた瞳から零れ落ちた涙の意味など。
5809/11:2010/09/05(日) 00:07:59 ID:2QHyz595
――

「私もおまえのそういうところが気に食わない。
無条件で愛されて、愛されることに慣れすぎていて、それを価値のあることだと思わない」
怪人さんの声はそれはもう甘く優しく、子供をあやすような恋人に甘えるようなそんな声色。
けれどもそうでないことは発言の内容からわかったし、怪人さんの行動からも理解できた。
「誤解だよ――うぐっ」
怪人さんは子爵の言葉を最後まで聞かず、白い喉元を引っ掴んでそのまま持ち上げる。
いとも簡単に浮かび上がる体。子爵の爪先が床から離れた。
失礼な話だが、彼は私――メグよりずっと大きかったが、怪人さんよりかは小さかった。
「願っても祈っても愛されない人間もいるのに……」
「ち、がう……降ろしてくれ……!」
宙に浮いた子爵が最後の抵抗とばかりに怪人さんの手首に強く爪を立て、足をばたつかせる。
「だから私は貴様が大嫌いだ!殺してやりたいほど憎い!」
「!」
子爵は信じられないと言った表情をして顔を伏せた。
同時にその無意味な抵抗をやめる。怪人さんの手首を掴んでいた手が力無く落ちた。

「二人を止めないと!ねぇ、クリスティーヌ」
「どうして?」
のほほんとクリスティーヌが振り向いた。きょとんと目をまんまるにしている。
メグは困惑しながらも続けた。
「どうしてって……見るからに危ないでしょ。止めなきゃ!」
「どうして?」
メグはめまいを感じ、こめかみを揉んだ。
「クリスティーヌは子爵が死んでもいいの?怪人さんが殺人犯になってもいいの?」
「そんなのいや」
「なら二人を止めないと」
「どうして?」
また最初から。メグは早口で捲し立てた。
「だからクリス(ry子爵が死(ry怪人さんが殺(ryいいの?」
「そんなのいや」
「なら二人を止めないと」
「どうして?」
「だーかーらー!」
いい加減付き合ってられない。
メグが声を張り上げるとクリスティーヌが怯えたように小さくなった。
少し強く言い過ぎたかも。メグは反省し、彼女の背に腕を回し、やんわりと撫でた。
「ごめんなさい。でも二人を止めないと大変なことになっちゃう」
「どうして?」
どうしてってそんなの決まってる。練習中に死人が出た舞台など誰が見に来るものか。
第一、この劇場で死人だなんて後味悪いじゃない。
「どうして?二人はあんなに仲良しさんなのに……止めるだなんて酷いわ」
「……」
メグは言葉を失った。
駄目だこいつ……、早くなんとかしないと。
58110/11:2010/09/05(日) 00:09:05 ID:2QHyz595
私がしっかりしないと、私がしっかりしないと、私がしっかりしないと。
メグは心の中で必死に三回唱えた。
だいぶ落ちついてきたので、クリスティーヌをじっと見つめて復唱する。
「仲良しさん?」
「ええ、とっても仲良しさんだわ。ほらじゃれあって遊んでる」
「私にはそうは見えないけど」
どこをどう見ても仲良しには見えない。
怪人さんの目は本気と書いてマジだし、完全に殺しに掛かってる。
喉元を掴まれ、持ち上げられてる子爵は諦めの境地って感じだ。今は平気そうだが、長くは持つまい。
「あんなに仲良しさんなのに」
クリスティーヌはさぞ残念そうに口を窄めた。理解して貰えなかったのが悔しいみたい。
「ねぇメグ、好きの反対は何か知ってる?」
「へ?」
あまりに突拍子もない質問だったので、メグは思わずマヌケな声を出してしまった。
それとこれとどう関係があるのだろう。そんなことを思いながら、でも答える。
「好きの反対は……嫌い?」
「ううん、違うわ」
クリスティーヌがふるふると首を横に振った。
「好きの反対はね、無関心よ」
「無関心?」
メグは思いがけない答えに首を捻る。好きの反対は無関心?
「本当にどうでもいいって思っているのなら、好きでも嫌いでもなく無関心なはずだわ。
だって興味無いんだもの。好きにも嫌いにもなりっこないわ」
「そういうものかな」
「そうよ。相手をいっぱい意識してるから好きにもなるし、嫌いにもなるの。好きと嫌いは同じなのよ」
そういうものかもしれない。クリスティーヌの言葉には妙に説得力があった。
身近に参考物件があるからかも。メグはちらりとカルロッタとソレリを見やった。
二人は目の前で繰り広げられている生死を賭けたじゃれあいに困惑し、怯えていた。
本人達は気づいていないだろうが二人は無意識にお互いを庇い合っている。
「じゃカルロッタさんとソレリさんもお互い意識し合ってるから喧嘩するのね。
仲がいいから喧嘩するとはよく言ったものね」
きっとプリマ同士にしかわからないこともあるのだろう。
だからこそ二人はいがみ合いながらもお互いを認めている。

「エリックはラウルのことを大嫌いって言ったでしょう?」
「あ、うん」
クリスティーヌは話をじゃれあっている二人に戻した。
「好きと嫌いは同じなの。だからね、エリックは本当はラウルのことが大好きなのよ!」
「ブッ!」
背後で怪人さんが吹き出した。終いには咳き込んでいる。
58211/11:2010/09/05(日) 00:10:13 ID:2QHyz595
「……そういうものかな」
「そういうものなのよ、メグ」
ちょっと納得がいかない。好きと嫌いが似たもの同士なのはわかった。
ならどうして怪人さんは子爵を殺しに掛かるだろう。好きな相手なら殺したくないはずだけど。
「あっそうか!好きだから殺したくなっちゃうヤンデレなあれね!」
「メグ・ジリー!覚悟しておけ!」
「ごめんなさい!」
雷鳴のような声にメグはバレリーナとしての条件反射でしゃんと背筋を伸ばした。
怪人さんが超絶睨んでいる。
仮面越しだというのに焼き殺された気分になって、メグは咄嗟にクリスティーヌの背中に隠れた。
怪人さんの視線が追ってくる。怪人さんはクリスティーヌを見ると、張りのある声を響かせた。
「クリスティーヌもでたらめなことを!」
「あら天使様、図星だから焦ってらっしゃるの?」
くすくすとクリスティーヌがおかしそうに笑う。
怪人さんに睨まれても笑っていられるのはクリスティーヌくらいだと思う。
図星と言われた怪人さんがプルプル震える。天に向かって叫んだ。
「絶対に、絶対に、絶対に、違あぁーーーーうっ!」
絶叫した瞬間に力んでしまったのだろう。
子爵の白い喉がビクンとはねて、やがて糸の切れたマリオネットのように動かなくなってしまった。
これにはさすがの怪人さんも動揺したようであわあわと子爵を丁寧に床に寝かせた。
「まずい、どうしよう」
と言いながらも怪人さんは的確に彼の手首を取って脈を測り、同時に口元に手を当てて呼吸を調べる。
メグは恐る恐る彼らに近づいた。
メグ以外の面々も(ただしクリスティーヌ以外)ガクブルしている。
「し、死んじゃった?」
「……」
怪人さんはふっと俯いた。
「そんな……」
「もー、ラウルったらそんなところで寝たら風邪引いちゃうわよ」
クリスティーヌは相変わらず能天気なことを言っていた。
支配人さん達は早速子爵の兄に何と説明するかを相談し合っている。
「毛布持ってくるわねー」
クリスティーヌの天然さが今は羨ましい。
「怪人さん……」
メグが震える声で呼びかけると怪人さんはゆっくりと顔を上げた。
彼が何か言い始めるより先に、クリスティーヌが引き返してきた。
毛布を持って来たにしては随分と早い帰りだ。
それもそのはず、彼女は毛布を取りに行っていたわけではなかった。
「ラウルー、お兄さんが来てるわよー。天使様にも会いたいってー」
万事休す。メグは十字を切ると天に祈りを捧げた。
583名無しさん@ピンキー:2010/09/05(日) 00:11:01 ID:2QHyz595
カルロッタ編、改めソレリ編。
今回は以上です。
584名無しさん@ピンキー:2010/09/05(日) 17:07:15 ID:ZMxnLbYt
↓ここから下ラウルへのお悔やみの言葉↓
585名無しさん@ピンキー:2010/09/16(木) 02:26:41 ID:DVsJKKWO
保守
5861/12:2010/09/23(木) 23:18:20 ID:WC+vmlNt
原作の皆さんが「新・オペラ座の怪人(仮)」を考えてみた。
今度こそカルロッタ編
・エロ無し
・キャラ崩壊
・我先にとギャグ方向へ突っ走る皆さん

「やっぱりアレって本当だったんですよ!」
まるでこの世の栄華をぎゅっと凝縮したような聖堂に少女の声が響く。
少女は目の前に置かれたテーブルを、板を抜かんばかりに叩いた。
まさに芸術作品と言える家具など少女にとってはただのガラクタにすぎない。
それもそのはず。その全ては本物と見紛うような模倣品であり、よく見るとやはりガラクタだった。
彼女達がいるのは聖堂でなく劇場の舞台で、そこにある数々の物は全て作り物。背景は美しい書き割り。
多くの人間が知恵を絞り、血と汗と涙を流しながら作り上げた仮初の世界。

「アレって何よ」
ワイングラスを傾けていたカルロッタが眉を顰める。
彼女達は只今練習の合間の休憩真っ最中であった。
ちなみに舞台上の道具や書き割りなどは今回の劇とは何ら関わりの無いものだ。
休憩に使う為だけに、持ち出されたのである。そんな我が儘が許されるのもスターの特権。
「クリスティーヌが言ってた「寝てるときに聞こえる天使の声」です」
「真に受けてるの?子供ね」
「本当なんですってば!」
メグがもう一度テーブルを叩く。
同席していた数名が各自のカップと皿を持ち上げ、被害を回避する。
「私も信じられなかったけど……でも私の頭の中にも聞こえてきたんですもん!」
「はあ?」
「眠っていると男の人の声がするんです。声は私の歌うパートを歌っていて、練習しようと。
それで私は夢の中で歌って……途中で眠ってしまってよく覚えていないんですけど」
「そりゃあいいや。メグ、今度は僕のところに美しい女性の天使を派遣するように言ってくれよ。
音楽だけでなく他のことも手取り足取り教えてほしいとね!」
食卓についていた男性のうちの一人がけたたましく笑い始める。
彼は一般男性としては細みのすらりと引き締まった体に燕尾服を纏っていた。
小柄な体格と言えるが、彼が演じるラウル自身はさらに華奢な体つきをしているので、
ラウルはこれでもかなり我が儘を言って体格のいい役者を選んだのである。
見栄を張りたい気持ちはわかるが、あまり違いすぎると恥をかくことになるぞ――エリックは思う。
「もー、冗談じゃないんですってば」
メグは黒のつぶらな瞳で彼を睨みつけた。
5872/12:2010/09/23(木) 23:19:03 ID:WC+vmlNt
「勘弁してくれ。君がそれ以上うまくなったら、私の立場はどうなる」
もう一人の男性が両手を天秤のようにしておどけてみせた。
彼も先述の男性よりずっと体躯の良い体に燕尾服を纏っている。
違うのは眉目麗しい顔の半面を仮面で覆っているところ。
そう彼が――あまり認めたくないが――この舞台の主役・怪人役の役者である。
背がだいぶ低いのが許せないが、それは仕方あるまい。
エリックがずば抜けて長身でそれに見合う役者がいなかったのだから。
さて、歌のレッスンのことに話を戻す。
本当のことを言うとメグよりも彼に歌を教えたかったが、
如何せん成人男性と会話する機会など殆ど無かった為、億劫に思えた。
まあ彼も自信が無いだけで主演を張れるくらいの実力はあるのだから、レッスンなど必要ないかもしれない。

「しかしその天使とやらは……やはり」
仮面をつけた男が意味ありげにこちらに視線を寄こした。
彼の言わんとすることがわかったのでエリックは完全に無視する。
変に言い訳をして取り返しのつかないことになってはたまらない。
「軽く聞き流して貰って構わないのだが、夜分に女性の部屋に押し入るのは天使だとしてもちょっと」
「そうだよねえ」
女性の天使を派遣するよう言っていた男もニヤニヤとこっちを見ている。
だが断言しよう!私は決して変な気は起こしたことはないし、これからも起こさない!
「でもね、不思議なことに部屋には私とクリスティーヌ以外誰もいないんです。
いくら調べてもいないから、最初はとても怖かった」
「天井からあなた方を覗いてるんじゃなくて?」
カルロッタが目を細め、女の敵!といった顔でこちらを睨んでくる。
そんなことは断じてない!私はただメグにも歌を教えているだけである。
時々は寝相の悪い二人のためにブランケットを掛け直してやったりもしたが、
それ以上は何もないし、これからも何もない。
「やっぱり才能がある人の元には天使が来るんですねー」
メグがうっとりと言うものだから、その場にいた全員(クリスティーヌを除く)が凍りついた。
天使が来ないということは才能が無いという意味になる。

話も終わったところで……聞き耳を立てていたエリックの注意は眼前のものに向けられた。
真っ白な顔をしたラウルが長椅子に横たわっている。
彼の体には毛布が掛かっており、これはクリスティーヌが先ほど持ってきたものだ。
エリックは彼の顔をまじまじと見つめ、ぼんやりと思った。
こうして目を閉じているとこれはまるで彫刻のようだ。
不老不死の代償として永遠の眠りに落ちたエンデュミオン。
糸車に指を刺されて約束のときまで永い眠りについた茨姫。
そのどちらもこの彫刻には負けるだろう。






彼はすぐにでも目覚めるから。
5883/12:2010/09/23(木) 23:19:35 ID:WC+vmlNt
エリックはふと先ほどの件を思い返す。
しんみりお悔やみムードになったはいいが、彼の兄が納得するわけもなく。
パニックを起こしかけた伯爵を、皆で(クリスティーヌを除く)宥めていた。
ちょうどそのとき安らかな寝息が聞こえてきたのである。
安堵したのも確かだが、同時にそこはかとない殺意も覚えた。


「うーん……」
「おはよう、坊や。痛いところは?」
「大丈夫……ってぎゃあっ!」
長椅子に横たわっていたラウルが起き上がる。
彼は覗き込んでいるエリックの姿を認めると、飛び上がり仰け反りかえって椅子から転がり落ちた。
頭を勢いよく床にぶつけ、うめき声をあげる。エリックは思わず失笑した。
「随分なお目覚めだな。私が怖いか?」
「ち、違う。起き抜けに顔があったら誰だってビックリする」
「それも仮面の顔が?」
「……」
ラウルは何も答えなかった。
揺れる視線。動揺を隠そうと、ブラウスの合わせ目をギュッと掴んでいる。
エリックはその態度を見たことがあった。
彼が地下の屋敷で初めて目を覚ましたときのことだ。
あのときの彼は警戒心の塊で、私に決して心を許すまいと頑なであった。
では今は心を許しているのか?と聞かれればそうではない。
今も群れからはぐれた羊のように怯えている。私を恐れている。
(こちらが本気でないにせよ)何度も殺されかけて、信頼しろというのは無理な相談だ。
けれどわかっていながら、胸に僅かな痛みを覚えた。慣れたと思っていたはずの拒絶される痛み。
エリックが黙りこむと、二人の間に奇妙な沈黙が訪れた。
クリスティーヌは私達のことを仲が良いと言っていたが、全然仲良くない。
彼はきっと私のことを嫌っている。そして私は彼の心が読めずにいる。
人の心を読むことに長けたエリックにとって、本心が読めない相手といることはとても苦痛だった。
苦痛だったので、彼を突き放した。
傷つけられないように心に鎧を着こんで、逆に傷つけてやる位の態度を取った。
されど幾度となく突き放しても、彼は何度でも起き上がってまた向かってくる。
それは少しだけ恐ろしく思えることであり、ほんの少しだけ嬉しくも思えた。

「クリスティーヌ達は?」
ラウルの掠れた声が長く感じられた沈黙を破った。
「向こうでケーキを食べているはずだが」
「ケーキ?それを早く言ってよ!」
「ああ悪い。先ほど君の兄上が来て陣中見舞いを……って人の話は最後まで聞けー!」
5894/12:2010/09/23(木) 23:20:43 ID:WC+vmlNt
「僕の分は?」
「もぐもぐ……」
食べるのに一生懸命で答えられないクリスティーヌに代わって、メグが答えた。
「ごめんなさい、クリスティーヌが食べてるのが最後の一個なんです」
「あのね、誰もいらないっていうから二個貰ったの」
「へー」
「スポンジはふわふわでね、クリームもふわふわでね、イチゴおいしいの」
クリスティーヌはケーキがどれだけ美味しいのかを拙い言葉で説明し始めた。
神経を逆撫でされたラウルが仏頂面で相槌を打つ。
「でね、一口食べるとイチゴの甘さがふわって」
「そういえば彼女は?」
「ソレリさんなら伯爵に同伴を頼まれて行っちゃいましたよ」
メグはちらりとクリスティーヌを見やると、自身のカップに視線を落とした。
先ほどのことに思いを巡らせているのだろうとエリックは察する。

伯爵は弟が伸びているのをクリスティーヌのせいだと勘違いしたらしく
――その大半はエリックの「クリスティーヌが余計なことを言ってこうなりました」という
わかったようなわからないような曖昧な説明のせいなのだが……
ラウルために毛布を持ってきたクリスティーヌに対して
「悪魔のような小娘め!」と騒ぎ立てたのだった。兄弟揃って失礼な奴らである。
暴言を投げかけられたクリスティーヌはケロッとしていたが(正確に言うとケーキに心を奪われていたが)
それを聞いていたメグの方はと言うと今にも噛みつかんばかり。
エリックは彼女を宥めると、伯爵に対して「弟さんのことは私にお任せください」と言い、
またしても感謝されたのだった。

「怪人さんが変なこと言うから誤解されたんですよ」
メグがムッと口を窄めて抗議の顔を作る。
「勝手に勘違いした方が悪い。いやもっと言えばあれしきのことで気絶した方が悪い」
「おいおい。……で、二人はどこへ?帰りは遅くなるのかな、迎えに来てくれるのかな」
「一人では家にも帰れんのか」
「なんかガラスの会社がどうとか言ってましたから、まさか朝帰りはないと思いますけど」
話を横で聞いていたカルロッタが身を乗り出した。
「クリスタルよ。誰かさんが落としたシャンデリアを買い替えるために頭下げに行ったんでしょ」
「一体誰が落としたのだろうな」
エリックはもっともらしく言った。カルロッタが眉を吊り上げる。
「白々しい。あんたがやったんでしょ」
「あれは凄惨な事故だった。ああ、事故だったとも」
「胡散臭い」
5905/12:2010/09/23(木) 23:21:36 ID:WC+vmlNt
「あ、お兄さんがあなたにこれを」
ケーキを食べ終えたクリスティーヌが今思い出したというように、
テーブルの上にあったカードをラウルに手渡した。
「ありがとう。なになに〈怪人さんに迷惑をかけないように〉?」
「日々迷惑千万被ってるからな」
「私も迷惑被ってまーす」
「メグにまで言われたくないよ。でもどうして……兄さんに何かした?」
「おまえがダロガと私の屋敷に忍び込んだその日、地下の湖で溺れていたところを偶然助けた。
命の恩人だと大変感謝された。危ないから帰りなさいと忠告したら、彼は弟を探しに来たと。
なので私は「弟さんは私が助け出して、無事送り届けましょう」と言って、彼を地上に返した」
「助け出して?送り届けましょう?」
ラウルがジト目でこちらを見てくるのでエリックは胸を張って頷いた。
「全くもってその通りであろう」
「助け出す所か殺しかけたよね?」
「あれは勝手に我が屋敷に忍び込んだおまえらが悪い。
というかその後、しっかり介抱してやったのだからチャラだ」
「今日だって」
「今日もその後、しっかり介抱してやったのだからチャラだ」
釈然としなさそうなラウルにクリスティーヌが耳打ちする。
「エリックはずっとあなたについて看病していたのよ。ちゃんとお礼は言った?」
「そっか、ありがとう。ケーキ食べられなくて悪かったね」
「気にしてない」
ケーキが食べられなくて不平を言うのは彼くらいなので、エリックとしてはどうでもよかった。
が、感謝されることはあまり慣れていないので、つい声が強張ってしまう。
それをラウルは怒っていると解釈したのだろう。指を組み、こちらを見上げる。
「今度ケーキを持ってくるから許してほしい」
「気にしてない」
また奇妙な沈黙が訪れる。やはりこの男は苦手だ。憎き恋敵だし、だいたいこいつがいなければ……。
そんなことを考えているとカルロッタがはたと顔をあげた。何やら余計なことを思い出したようだ。
ずっと忘れていてくれた方が良かったのだが。
「さっきはソレリやらあなた方のせいでお話がおじゃんになってしまったけど」
「何のお話でしたっけ?」
先ほどカルロッタの話を強引に明後日の方向へ投げやった張本人であるラウルが首を傾げた。
「私とこの小娘、どちらが主演に相応しいかというお話ですわ」
「ふーん」
ラウルは心底どうでもよさそうだった。
5916/12:2010/09/23(木) 23:22:27 ID:WC+vmlNt
「もっと真剣に考えなさい!」
どうでもよさげな態度が気に障ったのか、カルロッタがテーブルを引っ繰り返さんばかりに叩いた。
「私かこの小娘か、二つに一つ。勿論、子爵様は私を推薦してくださいますよねえ?」
「何言ってるんですか。子爵は最初からクリスティーヌ押しじゃないですか」
「いいのよ、メグ。私は天使様のお役にたてるだけでいいの」
「おお、クリスティーヌはなんと清らかな天使のような娘であろうか!
それに比べてヒキガエルは身も心もなんと醜い」
「うるさいわね、あんたは黙ってなさい!」
「ダブルキャストにすればいいのに……」

ざわめいていた劇場が静まり返った。
エリックは口をあんぐり開けて(といっても仮面がある為、誰にも見えないのだが)ラウルを見た。
他の面々も同じような顔をして彼を見ている。
ここまで注目を集めるとは思ってもみなかったのだろう。ラウルがたどたどしく続ける。
「もしかして変なこと言ったかな。この間、兄と見てきた劇場では……」
「おまえには兄の他に出掛ける相手はいないのか」
エリックには何の他意もなかったのだが、心を酷く抉ったようで彼はハッとして俯く。
クリスティーヌがフォローのつもりかこんなことを言った。
「エリックったら、ラウルに友達がいないだなんて言わないであげて。
私も友達少ないのよ。エリックに、ラウルに、メグに、それとネズミさん」
またわけのわからんことを……。
だがおとぎ話の可憐なヒロイン達は普通に動物と意思疎通出来たりするし、
クリスティーヌもまた物語のヒロインなのだからネズミと意思疎通出来たり……しない。
エリックはふと我が身を振り返り、思った――少ないと言ってもそれだけ友達がいれば十分だろう。
「失礼なこと言うな。ちゃんといるに決まってるじゃないか。た、例えば、エリザベト二世とか」
「ほう女性か。それはれっきとした人間なので?」
「エリザベトとは今朝もブローニュの森を遊びまわったんだ」
「彼女に跨って?」
「女の子に跨るとか不潔……」
「違うんだクリスティーヌ。エリザベトというのは馬で」
「でも女の子なんでしょ?」
「そうだけど」
「女の子に跨るとか鞭打つとか最低……」
「そうだけど、なんか違うよね?」
いの一番に馬の名前が出てくる辺りラウルも――お察しください。
「友達は馬だけ……哀れな」
「そういう君は?」
「さあ話を戻そうか!」
エリックも――お察しください。
5927/12:2010/09/23(木) 23:23:11 ID:WC+vmlNt
「この間、行った劇場ではヒロインと相手役がそれぞれ三人ずついて、
当日まで誰が演じるのかわからないトリプルキャストでしたよ。
様々な組み合わせが楽しめるので概ね好評のようでした、けど……」
自信が無いのか、声がだんだん小さくなっていく。
モンシャルマンとリシャールが顔を見合わせた。
「なるほど!」とどこからともなく納得の声が上がる。
確かに毎回となると疲れてしまうだろうし、怪我をすることもあるかもしれない。
クリスティーヌが怪我をしては大変だ。そう考えるとダブルキャストもアリか。
待て、冷静になるんだエリック!――エリックは激しく首を振り、カルロッタを見やる。
カルロッタはクリスティーヌのイメージからかけ離れすぎている。
「まあ子爵様ったら頭が良くていらっしゃるのね。ちょっと支配人さん、メモはおとりになった?」
「ええ、まあハイ」
このままカルロッタがその気になっては困る。

エリックはそっとラウルに耳打ちする。
「子爵はカルロッタがクリスティーヌでいいので?」
「それはどういう意味だい。特に問題はないと思うけど?僕には関係ないし」
僕は舞台には立たないからと彼は言った。そう、彼も私も舞台には立たない。しかし。
「カルロッタがクリスティーヌを演じるなどありえない。言語道断!」
「でもこういうのは丸く収めないと後が怖いよ」
ラウルの言うことはもっともだった。
空気を読む能力は欠けているが、対人関係をバランス良く捌く能力は多少なりともあるらしい。
だからなんだ?対人関係など ど う だ っ て い い 。
「ほら、子爵より背が高くて大人っぽくてイケメンで遥かに歌もうまい子爵役の彼が困惑している」
「もしかしなくとも喧嘩売ってる?」
「私は真実を言ったまでだが?」
ラウルはうんざりと肩を竦め、暫くして納得したのか、何度か頷く。
「そうだね。君よりイケメンでワイルドで女性受けする容姿で歌もうまい怪人役の彼も嫌がってる」
「子爵はこの私に喧嘩をお売りになっていらっしゃる……」
「僕は真実を言ってただけだけど?……って殴らないで!顔だけはやめて!」
エリックが拳を掲げてにじり寄るとラウルは顔を庇うようにして後ずさった。
彼の金と身分以外の価値は容姿端麗な外見だけなので賢明な判断と言える。
5938/12:2010/09/23(木) 23:24:00 ID:WC+vmlNt
エリックが拳を見せびらかせながらさらににじり寄ると、ラウルが喘ぐように言った。
「訂正する、訂正させてください!えっと君より多少歌唱力は落ちるけど
君よりちょびっとだけ舞台映えする見た目の怪人役の彼も嫌がっているみたいです!」
「気に食わないが許す。ま、ダブルキャストについては、子爵自身がカルロッタを抱き上げて
ぐるぐるチューしても良いと言うのなら、私は口出しするまい」
「それは勘弁」
「ならきちんと撤回しておけ」
「やはりダブルキャストはやめましょう」
「はあぁぁあああ?」
カルロッタが盛大に眉を顰める。彼女にに凄まれて、ラウルが首を竦めた。
「もう決まったことなんだから蒸し返さないでください!」
二人の間にメグが割って入った。カルロッタに睨みを利かせ、ラウルに檄を飛ばす。
「やっぱり撤回を撤回とか言ったら怒りますからね!」
「あらどうかしら?子爵様は私の味方よね?さっさと撤回なさい!」
「いやあの……」
「ヒキガエルの肩を持つようなら私は貴様の首を絞めなければならない」
「……」
青ざめた顔をしてラウルが黙りこくる。これで暫くは大丈夫そうだ。

さて問題は完全にその気になってしまったカルロッタである。
エリックはどうしたものかと思いあぐね、なるべく彼女を怒らせないようにと下手に出てみた。
「おいヒキガエル……で、なくてカルロッタお嬢さん」
「お嬢さんですって?馬鹿にしないで頂戴!だいたい誰よ、彼をここに呼んだのは!」
逆に怒りを買ってしまった。エリックにしてみればカルロッタなんぞ小娘に等しいが、
彼女にしてみれば得体も知れない人物に小娘呼ばわりは許せないのだろう。
クリスティーヌが小さくなってエリックの大きな背中の影に隠れた。
マントを頭から被り、時折その端から顔を覗かせてカルロッタの様子を窺っている。
「誰も呼んでないけど」
数々の睨みから解放されたためか、のんびりとラウルが薄情なことを言った。
「そうよねぇ。困ったものだわー」
カルロッタが猫なで声でラウルに近づく。
「追い払ってくださらない?」
「……」
ラウルがさり気無くカルロッタから距離を取る。しかし彼女はさらに近づいてくる。
ぎこちない愛想笑いを浮かべてラウルが文字通り尻尾を巻いて逃げだした。
こちらに逃げてくるのでエリックは犬猫にやるように「しっしっ」と追っ払う。
逃げ場を失ったラウルが頭を抱えてぐるぐる回りだした。目障りである。
5949/12:2010/09/23(木) 23:24:32 ID:WC+vmlNt
「ねえ子爵様!」
カルロッタは彼のことをそれなりに気に入っているようである。
少なくともゴキブリ呼ばわりのエリックよりはかなり。
彼の話なら、カルロッタも素直に聞くかもしれない。
エリックは先ほどとは打って変わって、ラウルに対して「おいでおいで」と手招きした。
ラウルは犬猫のように尻尾を振って、すぐにこちらにやってきた。
「私に協力しろ」
「僕を助けてくれるなら」
「よかろう」
「で、何をすれば?」
「歌え、私の音楽の天使、私のために!」
「は?」
「おっと違った。とにかく歌え、私のために!」
ラウルは困惑げに笑みを作り「でも」と躊躇した。
「でも僕、歌は自信ないから」
「この際、壊滅的……いや殺人的音痴でも構わない。というかそれは大した問題ではない」
「音痴じゃない!ただ自信がないだけ!」
「では私の後に続けて歌いなさい」
「はあ……」
何を歌おうか……エリックは現状にぴったりな歌を思いつき、にやりと笑みを浮かべた。
すうっと息を吸い込む。

「かーえーるーのーうーたーがー」
「!?」
周囲がさざめき立つ。カルロッタの顔色が変わったが気にしない。
合図を送るとラウルもおずおずと息を吸い込んだ。
「きーこーえーてーくーるーよー」
「かーえーるーのーうーたーがー」
緊張で震えたとてもお上手とは言えない細めの歌声が続いた。
時折裏返る歌声を耳で聞きながら、エリックは自分の声色を調整していく。
それはピアノの調律と同じようなもので、いやむしろピアノの調律よりも楽かもしれなかった。
「ぐわ〜ぐわ〜ぐわ〜ぐわ〜」
「きーこーえーてーくーるーよー」
「げろげろげろげろ、ぐわっぐわっぐわっ」
「ぐわ〜ぐわ〜ぐわ〜?」
歌い終わるまでにはエリックの声は完全にラウルと同じ声色になっていた。
ラウル自身も勘違いするほどで、彼はエリックの歌が終わると自分も歌うのをやめてしまった。
彼は自分の歌声が最後まで歌い終わったので、自分自身が一曲歌いきったと勘違いしたのだ。
しかしさすがに違和感を覚えたようでしきりに首を捻っている。
「あれ?今、音声多重放送になってなかった?」
「さあ?」
エリックはしれっと答えた。
「まさか僕にホーミーの才能が……」
「無い」
59510/12:2010/09/23(木) 23:25:20 ID:WC+vmlNt
「あーんーたーたーちー」
カルロッタが怒りに満ちた低い声でこちらにやってくる。
エリックは素早く後方に退いた。反応が遅れたラウルが一人で彼女の怒声を受ける。
「わざとやってるでしょ!?私のことを馬鹿にしてくれちゃって……!」
「うーん……」
しかしラウルはというと先ほどの輪唱がまだ気になるようで、怒声など全く届いていないようだった。
その態度にカルロッタは逆上し、腕を振り上げた。勢いよく平手打ちする。
ぶたれたラウルはそれによって初めて事態に気づいたという顔をして、赤くなった頬を押さえる。
数秒して、何が起こったのかを漸く理解したらしく痛みに顔を歪めて口を開いた。
「うっ、殴ったね」
「殴って何が悪いのよ!」
「整った顔が歪んだらどうしてくれるんだ!」
この台詞にはさすがのエリックも怒りより呆れが先行した。
そのキレイな顔をフッ飛ばしてやろうかと拳を握るが、カルロッタの方が早かった。
彼女は手をひらりと返し、反対の頬を打つ。
「二度もぶった。兄さんにもぶたれたことないのにー!」
「もう付き合ってらんない。帰る!もう二度と舞台に上がってやんないから!」
カルロッタが取り巻き達を引き連れて出ていこうとする。
彼女がいなくなったところで、エリックとしては痛くも痒くもなかったが、役が空いては困る。

エリックはラウルの声色で呼びとめた。
「――止まれ、ヒキガエル!」
「……はあ?今、なんて言った!?」
まずい。ついいつもの調子で話しかけてしまった。
「違う、僕は何も!」
「あんたが言ったんでしょ?私がヒキガエルですって!?」
「Of course not!僕じゃない!」
「あんたじゃなかったら誰だっていうのよ!」
「……でも僕は何も」
「――失礼、カルロッタさん。場を和ませようと思って」
エリックは今度こそ、ラウルが使うであろう言葉を使って呼びとめた。
カルロッタは怪訝そうにエリックとラウルを見比べ、話を続けなさいと頷く。
「――歌ってみてわかったことがあるんです」
「何が?」
「――歌うのって難しいですよね」
「……」
「――カルロッタさん?」
「いいわ、もう少しだけ付き合ったげる」
何がおかしいのか、カルロッタがけたたましく笑いだした。なんて不愉快な女。
普段だったら間違いなく罵っているところだが、今はラウルを演じているので我慢する。
「――歌声を自由自在に操るあなたを尊敬します」
59611/12:2010/09/23(木) 23:26:10 ID:WC+vmlNt
「――さすがプリマドンナ。あなたの代わりはどこにもいません」
「待って!」
ラウル本人が喉を押さえて、声をあげた。
さすがの彼も自分の意思に反して自分の声が出ている異変に気づいたのだろう。
「今、僕何か言ってた?」
「は?」
何言ってんだこいつはとメグを始めとした面々が呆れ顔になる。
「だって僕は喋ってないのに、僕の口から声が出ていて」
「――失礼。先ほど頭を打ったので少しおかしくなってるのかも。で、先ほどの続きですが」
「あ、そうか!」
ラウルがぱたんと手を打ち合わせる。
余計なことを言いだしそうだったのでエリックは彼の首筋に手刀を打って黙らせた。
「うっ」
前のめりに倒れこみそうになるラウルの襟首を掴んで直立させる。
暫くしてラウルは漸く事態を把握したらしく、後頭部を押さえながらこちらをチラチラ見てくる。

「――カルロッタさんはこの劇場の歌手になって何年ですか?」
「忘れてしまったわ」
「――そう、忘れてしまうほど長く舞台に立ち続けている。それは素晴らしいことです」
「そんなにお褒めにならないで、恥ずかしいわ」
話は順調に進んでいくかに思えた。が、そこに邪魔が入る。
クリスティーヌが怪訝そうな顔をしてこちらにやってきたのだ。
彼女はエリックとラウルの周りをくるくると回って、小首を傾げる。
「天使様がカルロッタさんのことを褒めてる。嫉妬」
「――やっ、何を言っているんだい。えっと……ロッテだっけ、グリコ?メージ?モリナガ?
いやとにかくチロルちゃん、今お喋りしているのは僕だよ」
「……」
「……」
さすがにチロルちゃんはまずっただろうか。
クリスティーヌが疑惑の目で、ラウルが呆然とした目でこちらを見てくる。
「私のラウルはそんなこと言わない」
「ごめん。場を和ませようと思ってさ、チロルちゃん」
フォローをしてくれるのか、ラウルが答える。けれども声は緊張で強張っていた。
「クリスティーヌはチョコレートが大好きだからぴったりだと思うんだ」
「もー、私の「ロッテ」はチョコレートの「ロッテ」じゃないのにー」
「わかってるよ。ロッテが好きなものは沢山あって選びきれないくらい。お人形、妖精のお話、赤い靴」
ラウルが唱えだした幼い二人だけの秘密の合言葉に、
ふくれっ面だったクリスティーヌが花のような笑顔を咲かせた。
「なぞなぞ、ドレス、パパのヴァイオリンを聞くのも好き!」
「屋根裏部屋でのピクニック、甘いチョコレート」
59712/12:2010/09/23(木) 23:26:57 ID:WC+vmlNt
「でも何よりも好きなのは眠りにつくとき音楽の天使の歌声を聞くこと!
ああよかった、やっぱりラウルなのね!私、てっきり誰かに操られているのかと」
「僕はずっと僕だよ。今お喋りしているのも僕だし、さっきお喋りしていたのも僕だ」
ラウルはクリスティーヌに微笑みかけ、そしてエリックに対して目配せをした。
エリックは感謝の意味を込めて小さく頷くと二人の合言葉をメモした手帳を閉じた。
――これは使える。役者も揃っていることだしこの場で台本を修正しよう。
そしてクリスティーヌはというと、納得してくれたようでニコニコとエリック達を見ている。
またのほほんと「二人は仲良しさん」とかくだらないことを考えているのだろう。

「――さてと。どこまでお話ししましたっけ、カルロッタさん」
「私が長く舞台に立ち続けているというお話までですわ、怪人さん」
「――!」
「な、何を言ってるんです?最初から最後まで僕があなたにお話ししているんですけど」
エリックはどうにか動揺を押し隠した(つもり)が、ラウルの方は激しく動揺しているらしく
救いようがないくらい声が裏返っている。もういいから黙っていてほしい……。
「――お話を戻しましょう。あなたは長く舞台に立ち続けている。
でもこの物語の中のクリスティーヌは新人の歌姫ですよね」
エリックが話し始めるとラウルがアドリブで身振り手振りを加え始めた。
なんだかどこかの見た目は子供、頭脳は大人になった気分でエリックは続ける。
「――カルロッタさんの歌は貫禄がつきすぎていて、いえ悪いことではありませんよ」
「そうねぇ、私の華麗なる歌声は新人の小娘には向かないかもしれないわ」
「――ですからね、歌のお上手なカルロッタさんにぴったりな役があるんです」
「まあお聞きしたいわ。私にぴったりな役とはどのような役かしら?」
カルロッタはわざとらしく目を瞠り、大仰な仕草で口元を扇で隠した。
「――長年オペラ座の舞台に立ち続けた、えらくプライドの高いプリマドンナの役です」
「うふふっ。まあいいわ。楽しませてもらったし、主演の座は譲ってあげる」
「――何を仰りたいのか、よくわかりません」
「だから」
扇をパチンと閉じて、それの先端をエリックとラウルに向ける。
「あなた方の猿芝居に免じて主演の座は譲って差し上げてもよくてよ!」
「――何を仰っているのか」
「さ、猿芝居……」
エリックはあわあわと手足をばたつかせてうろたえた。同じようにラウルもあわあわとうろたえる。

「うふっ。怪人さんが私のことをここまで買っていてくださったなんて嬉しいわ」
「げふんっ。この私がヒキガエルを褒めるわけ無かろう!自惚れるな!」
咳一つで元の声色に戻すとエリックはいつも通りの唯我独尊な態度でそっぽを向いた。
誰がカルロッタのことを認めただと?私は彼女を歌手だと認めない!
長年舞台に立ち続けられるだけの実力があることは認めるが……。
取りとめないことを考えているとエリックの耳に、カルロッタの高笑いがこだました。
「オペラ座の怪人が私をプリマドンナだと認めたわ!今更取り繕ってもざまあないわね!」
「私は認めない、認めたくなーーい!!」
5981/2:2010/09/23(木) 23:36:37 ID:WC+vmlNt
今回は以上です。
以下、今回と前回で使おうと思って書いたけど使えなかったネタ。
書きかけなので台本形式。

その1・りんごを分かち合う歌
ラウルが持ってきたのは花束でなく、大量のりんご。
表にいた行商から籠ごと買ったので手持ち以外の残りは馬車に積んである。
皆に配り終えたのはいいけど、なんと自分の取り分が無くなっていた!
というわけで歌ってみた。

ラウル 「言ってほしい 僕と分かち合うと
     たったひとつのりんごを たったひとつのケーキを
     そう言ってくれるなら 僕は君についていく
     クリスティーヌ 君こそが全て」
クリス 「ねえ言って 全て私のをものだと
     たったひとつのりんごも たったひとつのケーキも
     そう言ってくれないなら 私はあなたについて行けない」
ラウル 「えー」
クリス 「あなたが私にってくれたのに、分けてくれだなんて都合が良すぎなくて?
     だいたいどこにケーキがあるというの?」
ラウル 「だって僕の分が無くなっちゃったから」
クリス 「とにかくイヤなものはイヤなの。このりんごは私のなの!」
ラウル 「歌にあるじゃないか。ひとつのりんごを分かち合うと」
クリス 「ブー。違いますぅ」
ラウル 「ひとつを二人で分かち合えば幸せって歌だから間違ってない」
エリック「変な替え歌するな!」
クリス 「ラウル、あなたの素敵な馬車にりんごを取りに行ったら?」
ラウル 「そして君は僕の隣に座る(キリッ」
クリス 「座りません」
ラウル 「クリスティーヌ〜」
エリック「たかがりんごで喧嘩しない。ほら、私のをやるから。さて、ごほん
     言ってくれ 私が必要だと
     たったひとつの愛を たったひとつのりんごを
     そう言ってくれるなら 私は君についていく
     クリスティーヌ 君こそが……」
クリス 「仮面剥ぎますよ」
エリック「おぅ、クリスティーヌ……」
クリス 「二人して同じ歌を歌って。とっても仲良しさんなのね。私とでなくお二人でデュエットなさったら?
     たったひとつのりんごを、ケーキを、愛を、一度きりの人生を分かち合ったら?」
エリック「何が悲しくてこの男とりんごを、愛を、人生を分かち合わねばならん」
ラウル 「彼についていくとしたら命がいくつあっても足りない」

本筋に関係なかったのでカット。
5992/2:2010/09/23(木) 23:38:09 ID:WC+vmlNt
その2・いつまでたっても練習が始まらない
クリスティーヌが主演ということに決まったものの一向に進まない練習。
2は役者さんの台詞。

クリス 「思い出して、私を優しく想って、さよならを言ったあの日を……♪」
ラウル2「ブラ」
ラウル 「ブラボー!可愛いよー、クリスティーヌ!」
クリス 「みなさぁーん、応援ありがとーぅ!続きましてぇ、私のデビュー曲を歌いまーす!」
ラウル 「ひゅーひゅー!」
エリック「クリスティーヌ、客席と会話するな!いいから稽古を続けろ!」

ラウル2「もうやだこんな生活」
怪人2 「いつになったら通し稽古が終わることやら」
カーラ 「何度繰り返せばいいのよ」
メグ  「私、二桁の時点で数えるのやめた」
カーラ 「ほんといい加減にしなさいよね、あんたたち!」
ラウル2「どうせならラウルさんが舞台に立ったらどうです?よっ、期待の大型新人!」
ラウル 「あーそれいいねー」
エリック「嫌みを言われていることに気づけ」

その3・べたべたする度に中断する練習

エリック「近い、近すぎる。私のクリスティーヌに近づくなああぁぁぁああ!」
ラウル 「自分で台本書いたんでしょ」
エリック「なら子爵殿はクリスティーヌに他の男が近づいてもいいのか」
     私の宝物に手を出すとは許せない!社交界に傅く奴隷め!
     恋敵は一人で十分!いや一人でも余分!全員パンジャブの餌食にしてくれる!」
ラウル 「でも演技だし」
エリック「演技ならキスしてもいいと?」
ラウル 「そりゃ嫌だけど、嫌だけど、嫌だけど……刺していい?」
エリック「駄目」
クリス 「二人ともやめて。私は近づかれたって触られたってキスされたって平気よ」
エリック「……」
ラウル 「……」

怪人2 「身の危険を感じる……」
ラウル2「生きてるうちに稽古が終わるといいんだけど」

おわり。
600名無しさん@ピンキー:2010/09/26(日) 18:13:10 ID:Gr0BsurM
GJ
原作は腹話術出来るんだったか
というかてっきり舞台には本人が立つんだと思ってたのにw
腹話術スキルを有効活用して役者が演技、裏でエリックが吹き替えれば歌ウマ怪人になるよ!
601名無しさん@ピンキー:2010/09/29(水) 08:49:00 ID:yqY+Ypql
GJ
602名無しさん@ピンキー:2010/09/29(水) 10:38:05 ID:zGQC91dE
GJ!!
603名無しさん@ピンキー:2010/09/29(水) 11:36:01 ID:R53zEZGq
クリスの幼児化というか天然化というか
電波化が加速してきているwww
604名無しさん@ピンキー:2010/10/01(金) 00:31:55 ID:Ng2fCmV8
鑑賞メーターっていうサイトで「オペラ座の怪人」と検索したら、こんな広告が出た↓

http://www.i-ost.com/
605名無しさん@ピンキー:2010/10/01(金) 06:12:59 ID:1CsVnmyV
>604
乳腺ファントム
超音波ファントム
弾性評価用ファントム・・・
従来のファントムは使い捨てなんだw
606名無しさん@ピンキー:2010/10/02(土) 08:20:53 ID:yJaAEkuq
> 60: 小説家(広西チワン族自治区)
> 2010/10/01(金) 21:39:34.18 ID:pOI5DzagO
> ちょっと前にフランスで、生まれてからずっと純潔でいた二人がついに結婚したのはいいけれど、なかなか子供を授からないので医者に行ったら
> 医者「セックスしてる?」
> 二人「なにそれおいしいの?」
> ってニュースがあったな
>
> この件とは何の関係もないけど

このレスでふとクリスとラウルが思い浮かんだ
庭でキャベツ栽培しつつコウノトリがやってくるのを待ち続ける二人
607名無しさん@ピンキー:2010/10/08(金) 00:11:17 ID:wTHuE4Nu
アリプロの汚れなき悪意という歌の歌詞が、ファントムにくりそつでビックリ
厨二っぽいというところを除けば
6081/9:2010/10/15(金) 23:43:22 ID:wgx1MqMX
原作の皆さんが「新・オペラ座の怪人(仮)」を考えてみた。
エリック編
・エロ無し
・キャラ崩壊
・酷く三角関係
・でもオチるよ
・基本的にはギャグ

木漏れ日の下で純白のドレスを着たクリスティーヌが笑っている。
彼女はドレスの裾を翻して、駆け出した。
その光景はさながら夢のように美しく、夢のように優しかった。
「はやく私をつかまえて!」
何故このような場所にいるのか。太陽の下で、こうしてクリスティーヌと笑い合っているのか。
エリックはそのことを特に疑問には思わなかった。
今までは恐ろしくさえ思えた太陽の突き刺すような陽射しも、明るさももう怖くない。
隠れることも逃げることも許されない昼の光の世界。
全てを優しく守って覆い隠してくれる夜の闇の世界。
自分には夜の闇が似合いだと思っていた。けれど。

「こっちよ、こっち!」
白い影が視線の隅で揺れる。振り返るとクリスティーヌが手招きしている。
なんだか幸せな気分になって、彼女の方へ向かう。
いつも夢見ていた。こうして太陽の下で大好きな人と笑い合えたらと。
ああ、こうして広がる光景は夢の続きか、現実か。
逃げるクリスティーヌを殊更ゆっくりと追う。少しでもこんな時間が長く続けばと思った。
やがて追いついてしまうとエリックは腕を伸ばした。
しかしどうしたことだろう。指先は宙を切るばかり。
怪訝に思っているとクリスティーヌの影が揺らぎ、そして消えた!
たった一人、太陽の下に取り残されたエリックの胸に大きな感情の波が飛来する。
「クリスティーヌ!」
名前を呼べど、返事は無い。不安という名の大きな波に胸が押し潰されそうになる。
また一人になってしまった。
いや一人は平気だ。いつも一人だったのだから……何度も言い聞かせる。
しかし胸には不安だけが降り積もってゆく。いつから私はこんなにも弱くなってしまったのだろう。
彼女と出会ったから?彼女と出会って、誰かと共にいる喜びを知ったから。

「天使様!」
優しい声に慌てて振り返るとそこには先ほどの純白のドレスに加え、
真っ白なベールを被ったクリスティーヌが佇んでいた。
「ここにいたのか。心配したよ」
「うふふ」
はにかんで頬を赤らめたクリスティーヌの手にはブーケが握られていて、まるで小さな花嫁さん。
ああ、美しいクリスティーヌ。天使のように清らかな心を持った乙女。
彼女が自分のためだけに微笑んでくれているなんて夢のようだ。
6092/9:2010/10/15(金) 23:45:04 ID:wgx1MqMX
クリスティーヌが手を差し伸べてくる。エリックはその手におずおずと触れ、握り締めた。
その瞬間、精霊達が歌いだしたかのように一陣の風が二人を包みこむ。
エリックは咄嗟に目をつぶった。そして再び目を見開くと小さな教会の前。
その突然の変化にクリスティーヌは何とも思わなかったようで無反応だった。
なのでエリックも何とも思わなかった。

小さなお嫁さんと平凡な家庭を築くこと。私のささやかな夢。夢が現実になろうとしている。
クリスティーヌの手を引くが、彼女はためらいがちに立ち止まったまま。
「クリスティーヌ?」
「私、幸せです」
「可愛いことを言う。私も幸せだよ、クリスティーヌ」
「ええ。だって天使様とこの道を歩けるんだもの。ずっと夢に見てきたの」
クリスティーヌも私と同じ夢を?
「私ね、天使様のことをパパみたいだって思うんです。だから嬉しい」
クリスティーヌが満面の笑みを浮かべて、道の先を見やった。
赤い絨毯のバージンロードの先を。
エリックはどう答えたら良いものか言い淀んだ。胸がざわめく。その先の言葉を聞きたくない。
けれど彼女は無情にもこういうのだ。
「今までありがとう天使様。私は幸せになります」
折り目正しくお辞儀をして、彼女は再びバージンロードの先を見やった。
しかし道の先にはまだ誰もいない。そう、いるはずがない。
安堵するもつかの間、まばゆい光の粒子が人の形を作り出した。
そしてそこに真っ白のタキシードを着たラウルが文字通り「出現」する。
彼はこの世界を見渡し、小さな花嫁を見つけると柔らかく笑んだ。
小さな花嫁――クリスティーヌは彼の手を取ってはにかむ。
二人はエリックのことなど意に介さない。神々の前での誓いの儀式が続く。
エリックは目を背けることも、叫ぶことも出来ずにそれをじっと見つめていた。

「さよなら、私はラウルと一緒に行きます」
クリスティーヌはうっとりと彼にしなだれかかり、彼もそれに応じた。
「もう邪魔してほしくないの。二度と私の前に現れないで」
彼女はいつもと寸分変わらぬ笑みを浮かべて、別れの言葉を落とした。
「だからさよなら天使様」
忘れないでいてほしい。心の片隅に留め置いてほしい。しかしそれさえも叶わないというのか。
たった一人で取り残された世界。抜けるように真っ青な空。突き刺すような陽射し。
太陽は私を守ってはくれない。隠してはくれない。
一際強い風に吹かれて、エリックは目を閉じた。
6103/9:2010/10/15(金) 23:45:38 ID:wgx1MqMX
目をあけて最初に飛び込んできたのは見慣れた天井。ここは棺の中。
ぼんやりとまだ目覚めぬ頭で考える。ああそうかあれは夢。
「夢でよかった」
エリックは起き上がると寝汗をぬぐった。
「おままごとではあるまいし、結婚なんてありえない」
二人はまだ子供で、まだおままごとで遊ぶような幼さだというのに。
ほんの数ヶ月前にだって、地下のここでワインとビスケットを使った本物のおままごとをしていた。
勿論そんな子供じみた遊びにエリックが加わることはなかったが、
少し目を離した隙に貴重なビンテージワインを7本も空けられ、悔しい思いをした。

だいたいあんなヘタレのどこに魅力があるのか……。いや、ヘタレだからいいのかもしれない。
古今東西、ヘタレに惹かれる女性の多いこと。
例えば某国民的青狸アニメのヒロインだって頭も性格もいいイケメンを棒に振って
優しいだけが取り得のうだつの上がらない男の子と結ばれる予定だし、
誰がどう見ても明らかに駄目男なのに何故か女の子からモテまくりのハーレム物だってある。
少し抜けているくらいが程よく母性本能をくすぐられるのかもしれない。
「ま、夢の中だけでなら結婚するなりアツアツするなり勝手にしてくれ」
軽く肩を回して、身支度を整えるとマントを羽織った。ふと視線を部屋の隅へ送る。
「もし現実のものとなったら拷問部屋送りどころの騒ぎではないがな」
だがクリスティーヌが望むのであれば。私は彼女を快く送り出さなくてはならない。
私に彼女を引き止める権利は無いのだから。
「おままごとではあるまいし、結婚なんてありえない話だがね」
最初の言葉を繰り返し唱えていると玄関の扉を叩く音が聞こえてきた。
誰だろうか。まさかクリスティーヌ?
普段なら喜び勇んで扉を開けに行くところだが、今はどんな顔をして会えばいいのかわからなかった。

強張る体を少しずつ前に押し進め、玄関までやってくる。
扉を叩く音は尚も続いていた。諦めてはくれないようだ。
深呼吸をして扉の向こうに呼びかける。
「誰だ?」
扉を叩く音が止まる。沈黙の一瞬が永遠のように思えた。
「私だ。中に入れてはもらえないか」
聞き間違うことのない声。エリックは慌てて鍵を外し、扉を開け放った。
「やあダロガ、久しぶりだねぇ」
「ああ、それはそうとチケットをありがとう」
エリックはその辺に座っているように言うと、彼を歓迎するために奥へと引っ込んだ。
6114/9:2010/10/15(金) 23:46:23 ID:wgx1MqMX
彼のために用意したワイン――うち7本はクリスティーヌ達に空けられてしまった。
コンテチーズを数切れと薄くスライスしたパン。それらを持ってリビングに戻る。
「ありがとうだなんてよしてくれ。私と君との仲じゃないか」
「随分と奮発していい席を取ってくれたので嬉しくてね。高かっただろう?」
「支払いは子爵の財布からだがね」
「そうだろうと思っていたよ」
静かにガラスを触れ合わせる。
芳醇な香りが鼻をくすぐるがエリックはどうも飲む気にはなれなかった。
「飲まないのか?」
「ああ、うん……」
客人に失礼だと思いながら、しかし先ほどの夢が頭から離れない。
〈ペルシャ人〉が何かを話している。たぶん舞台のことだ。だが耳には届かない。
気にしないようにと思えば思うほど、夢は色鮮やかによみがえり見せ付ける。

「エリック?」
〈ペルシャ人〉が怪訝そうにこちらを覗き込んでくる。もう誤魔化せそうになかった。
彼はすぐにでも私を訝しみだすだろう。そして低い声で訊ねるのだ「何があった?」と。
「何があった?」
ほらきた。彼はいつも言っていた。おまえが悪さをしないように監視するのが私の仕事と。
彼は私がまた何かしでかしたのではと思っている。
答えることが出来ずにいると彼は不安げな瞳で私を捕まえた。
「体調が悪いのか?私は時々本当に心配になるよ。全て身の内に抱え込んでいてはつらいだろう?」
〈ペルシャ人〉の瞳は嘘を言っているようには見えなかった。
私を心配してくれている。監視されているだなんて彼を疎ましく思った自分が少し恥ずかしくなった。
「舞台のことで悩み事か。それとも私には言えない話か」
「悪い夢を見ただけ。なんてことのない夢さ。聞いたら君は笑いだすだろう」
「笑ったりするものか。私も夢見が悪くてね」
〈ペルシャ人〉は「昨日は二時間サスペンスの探偵役だったね。私の華麗なる名推理と思いきや
途中であっけなく殺されたけど」と複雑そうな顔をした。
エリックは思わず吹きだしてしまい、大慌てで謝る。
彼は気にしてないと手を振り、淡々と言葉を紡ぐ。
「夢とはそういうものさ。暑かろうが寒かろうが、辻褄が合わなかろうが続いていく。
それがうなされるほどの残酷な悪夢だろうと、正視に堪えない事実だろうと、
つらい現実から目を逸らそうとした逃避であろうと、本人の意思とは関係なく夢は続く。
夢の内容なんぞ気にしない方が良い。ただの夢なのだから」
6125/9:2010/10/15(金) 23:47:10 ID:wgx1MqMX
エリックもわかっていた。夢の内容を気にしすぎだと。
「わかってはいるがあまりにリアルだったから」
現実の続きかと紛うほどの出来だった。いや実際に現実の続きなのかもしれない。
あの二人がいつ結婚すると言いだすか、私は恐れている。
結婚でなくとも離れていく機会などごまんとある。別れとはいつも唐突であっけないもの。

「夢の中で私はクリスティーヌと一緒に教会にいて、彼女の願いで共に歩いていた」
誰にも話すまいと心に決めていたはずなのに気がつけば話しだしていた。
彼は笑ったりしないと思ったし、彼は信頼出来る友人だ。
「しかし道の先には子爵がいて、私は祝福しなければと思った。けれど誓いの儀式が終わると
『二度と私の前に現れないで』と彼女は言った。私は耳を疑ったね。
彼女は、彼女達は私を邪魔者だとそう言ったんだ。そこで目が覚めた」
〈ペルシャ人〉は目を細めて頷く。
「それは夢だろう。現実の彼らがそう言ったのか?」
「しかしそれに近いことは思っているに違いない」
「何を根拠に」
「根拠など必要ない。嫌われることには慣れてる」
「いやだから」
何か言いかけた〈ペルシャ人〉を無視してエリックは熱弁を振るった。
「何も死ぬまで付きまとおうとは思わない。時々思い出して、時々おうちに招待してくれればいい。
毎日とは言わないがこっそり覗きに行ったりして、子供が生まれたらその子に音楽を教え、
出来ることなら屋根裏に住みつき……いやいやそんなことは決して思っていない。
それなのに『二度と私の前に現れないで』とは酷いと思わないか」
「……で、現実の彼らがそう言ったのか?」
「しかしそれに近いことは思っているに違いない」
先ほどと同じ答えに〈ペルシャ人〉がうんざりと肩を竦める。
彼が何と言おうと考えを改めるつもりはない。彼女達は私を嫌ってしまった。

――嫌ってしまった?
それではまるでついさっきまでは好いていたかのような言い方ではないか。
違う。二人は最初から私を嫌っていた。そうに違いない。
「彼らがおまえを邪魔者に思っているわけがないだろう。
もし仮にそうだとしたら彼らはここには遊びに来たりしないし、親しげに話しかけたりしない。
本当に嫌だったら二人は地上に帰ったっきり、遠くへ逃げてしまうのではないかね?」
〈ペルシャ人〉の言う通りだった。
わざわざこんな薄暗い地下に、ご丁寧におみやげまで引っ提げては来ない。
なら彼女達は私を好いている?
6136/9:2010/10/15(金) 23:47:50 ID:wgx1MqMX
「クリスティーヌがこんな私を好いてくれているのなら嬉しい。
だがならばどうして子爵はここに?彼女を守るために?」
「初めのうちはそうだったのかもしれないが、今はおまえを好いているのだと思うよ」
「まさか。彼は私を嫌っている。この間も怯えた双眸で私を見ていた」
声が震える。平静を装うとエリックはワイングラスに口をつけた。
しかし〈ペルシャ人〉はそれを見逃してはくれなかった。
「拒絶されておまえは傷ついた」
的確に痛いところを突いてくる。だがそういうところも嫌いじゃない。
心情を吐露するのはいつになっても苦手だったが、心配してくれる彼に報いるためにも答えた。
「まるでこの胸から心臓を抉り取られて、握り潰されたようだった」
今まで幾度となく経験してきたはずの、慣れていたはずの、鋭い痛みがこの胸を襲う。
「彼を好きになりかけているんだよ。だから深く傷つく」
「与太話はやめてくれ。あの青二才とは何もかもが違いすぎる。いつもへらへら笑っていて、
何の不自由もなく、何の悩み事もなさそうな顔をして。好きどころか、存在も認めたくない」

嫌い。嫌い。すき。嫌い。好き。嫌い。きらい。キライ。
気持ちが行ったり来たり。
でももう感情の振り子は動かない。
嫌いの極限まで達して止まってしまった。

「おまえが彼を好きでいるように、彼もおまえを好きでいると思うよ」
「どうかな?」
「少しは他人を信頼した方が良い」
「君のことは信頼しているつもりだがね。君は二人がいなくなっても私の傍にいてくれるだろう?」
「どうかな?」
〈ペルシャ人〉は同じ言葉で応じた。
けれども彼は優しい笑みを浮かべていて、それが肯定であることが窺い知れた。

その後、お互いの近状を報告し終えると〈ペルシャ人〉は席を立った。
「そろそろお暇するよ」
エリックはもう帰るのかと残念に思ったが引き留めては悪いと玄関まで見送る。
帰る直前〈ペルシャ人〉が思いだしたように言った。
「明日のことは話したのか?」
「話さないつもりだ」
「きちんと話しておくべきだと思うが」
「どちらにせよこれからクリスティーヌに会いに行くつもりだ」
エリックはふと背後のトランクを見やる。あとは黙って旅立つだけ。邪魔が入らないように祈ろう。
「次に会うのはどこだろうねぇ、ダロガ。海上かな?」
「ああ、会場で会えることを楽しみにしているよ、エリック」
意味深な笑みを浮かべて〈ペルシャ人〉は去って行った。
6147/9:2010/10/15(金) 23:48:31 ID:wgx1MqMX



事情を話さないと言っても彼女の姿を目に焼き付けるくらいはしたい。
鏡の裏から楽屋を覗くとやはりというか、当然クリスティーヌがいた。
小さな机に向かって何か熱心に作業している。
ここからでは彼女の手元は見えないがどうも書き物をしているらしかった。
時折手元の辞書や資料と思われる紙と便箋を見比べている。
邪魔をするのは申し訳ないが、これ以上ここから覗いているのも悪趣味だ。
鏡の仕掛けを作動させようと手探りをしていると、ラウルがやってきた。
「こちらの準備は終わったよ。クリスティーヌは?」
「これで完成」
クリスティーヌは最後の一文を書き終えると達成感に満ち溢れた表情で顔をあげた。
ラウルの姿を認めると表情を和らげる。ラウルも表情を和らげ、向かいの椅子に座った。

「招待状ってこんな感じかしら」
「見せて」
「おかしくない?」
「良いと思うよ」
「良かった!」
クリスティーヌは非常に大切そうに便箋を抱きしめ、暫くしてそれを封筒にしまった。
その様子を見るともなしに眺めていたラウルがはたとこちら――正確には大きな姿鏡を見る。
エリックは思わず飛び上がりかけたが、寸で留まった。
こちらからは楽屋の様子が手に取るように分かるが、楽屋からはこちらの様子は見えない。
これは夢の続きだろうか。夢と同じ冷たい目で彼がこちらを見ている。

「天使様は喜んでくださるかしら」
「……そうだね」
鏡を見つめる瞳が伏せられ、何事かに思いを巡らすように揺れた。
そして意を決したようにクリスティーヌを見据える。
「あのことを知らせなくても良いのかい?」
ラウルのまっすぐな視線に射抜かれたクリスティーヌは途端に視線をさまよわせた。
慎重に言葉を選んでいるようにも見える。
「だって話したらエリックは恥ずかしがって来てくれないもの」
二人が私のいないところで、私の話をしている。
声のトーンが落とされたのをみるにエリックには聞かせられない類の話題らしい。
だが皮肉なことに当のエリックは鏡の裏にいて、二人の話を聞いていた。
「だからこれは秘密なの。当日までの秘密」
「どうして?話してしまおうよ」
「お願い、内緒にしていて。明日になれば全て終わるのだから」
クリスティーヌが懇願するようにラウルの手をギュッと握り締める。
ラウルは頬を赤らめ、少しして丸めこまれた!と顔を顰めた。
しかし彼女の手から自分の手を抜き去ろうとはしなかった。
6158/9:2010/10/15(金) 23:49:07 ID:wgx1MqMX
あの夢は正夢だったのだ。
二人は私には秘密で婚約をしていて、あの便箋は結婚式に私を誘い出すための招待状。
(俄かに信じがたいことだが彼らは「明日」と話していた!)
私の前では子供のように振舞い、油断させておいてこの仕打ちとは。
筆舌に尽くしがたい感情が胸を襲う。
きっと彼らは夢で言っていたように私の前から永遠に消えてしまう。
いや私が彼らの前から永遠に消えることになる。
もう今まで通りの関係ではいられない。心の片隅にも留め置いてもらえない。

「明日になれば……そうだね、うまくいけばいいね」
ラウルはそう言って、またこちらを見た。
今度こそ確信する。彼は私がこちらにいることを知っているのだ。
しかし彼の顔に優越感のそれが浮かぶことはなかった。
「でもまずは明日の舞台を成功させて喜んでもらわないとね?」
「あ、すっかり忘れてた」
えへっとクリスティーヌが軽く握った拳を自分の額にコツンと当てる。
おいおいしっかりしてくれ……。
「でも大丈夫よ。天使様と一緒にしっかり練習したもの」
「そうだね。ねぇ耳貸して」
「うん」
二人が身を寄せ合う。声が聞こえずとも唇を読めばいい。しかし口元を隠されてはそれさえ出来ない。
クリスティーヌが首を傾げる。
「なあに、ちゃんと喋ってくれないとわからないわ」
僅かに声が聞こえる……気がする。
良く声が聞き取れるようにと身を乗り出し、鏡に耳を押し付ける。
それでも聞こえない。
もっと……と体重を掛けると、鏡が突然回り出した!
エリックはそのままぐるんと鏡と一緒に回転して、楽屋の床に叩きつけられる。

「キャッ!え、エリック!?」
クリスティーヌが駆け寄ってきて、床に屈みこんで抱き起こしてくれた。
「心配無い」と仮面にずれが無いのを確認しながらエリックは起き上がる。
立ち上がろうと足に力を入れたとき、ちょうど頭上から声が降ってきた。
「やっぱりね。隠れてないでこっちくればいいのに」
ラウルはやはり鏡の裏にエリックがいることに気づいていたらしい。
するとあの耳打ちもなんてことはないおびき出すための作戦ということだ。
「えっ、えっ、隠れてって……もしかしてお話聞いてました?」
「何のことだね。私は今し方ここについたばかりだ。そこで足を滑らせてしまってね、ハハハ。
それよりも何かね、私に聞かれては困るようなことでも?」
「な、なんでもありません」
明らかに目が泳いでいる。怪しい……。
6169/9:2010/10/15(金) 23:49:43 ID:wgx1MqMX
エリックが訝しんでいるとその視線に耐えきれなくなったのか、
クリスティーヌはパタパタと机まで戻り、封筒を手に取った。
「今から天使様のところに行こうってお話してたの。ねっ、ラウル」
「そうだっけ?」
ラウルがけろっと答えた。
エリックには敢えて空気を読まなかったようにしか見えなかった。
「もう、話し合わせてよ!」
「じゃあそうだった気がする」
クリスティーヌに小声で訴えられ、ラウルは投げやりに頷いた。
「というわけなんです。招待状をお渡ししたくて。受け取っていただけますか?」
「……」
差し出された封筒を凝視し、エリックは躊躇した。
受け取りたくない。けれど受け取らなくてはいけない。
先ほども考えた通り、私にはクリスティーヌを引き留める資格はないし、
何よりも私はクリスティーヌに幸せになってもらいたかった。
それが彼女の望みで、彼女の幸せなら……。

「エリック?」
クリスティーヌの大きな瞳の中に自分が映っている。
不思議な気持ちでそれを眺めていると、瞳の中の自分が揺らいだ。
クリスティーヌが不安そうに瞳を揺らしている。
「どこへ招待してくれるというのだね」
動揺を悟られたくなくて、エリックはクリスティーヌから視線を逸らした。
「えっと何だっけ。完全?完成?」
クリスティーヌが小首を傾げてラウルに助けを求める。彼も同じように小首を傾げる。
「披露、会?」
「ほうパパラッチ完全シャットアウトの披露宴?それはめでたい」
小癪な、この期に及んでまだ私を騙し通せると思っているようだな。
しかも披露宴の招待状だと?挙式には招かないつもりか。
クリスティーヌの願いならバージンロードを一緒に歩いてやるくらいと思っていたが、
それすら願い下げですか。そうですか。わかります。
「私は披露宴になんて出ないからな!仲人も死んでもごめんだ!
よもや私の海より深く、山よりも高く、空の青さにも負けぬほどの恩情を忘れたわけではあるまいな。
一流の歌手になれたのは誰のおかげだ?息も絶え絶えなおまえを介抱してやったのは誰だ?
恩を仇で返すとは無礼者!これほどの辱めを!決して許しはしないぞ!
一生付きまとってやる……屋根裏の怪人になってやる〜〜!!」
と捨て台詞を吐いて鏡の中へと走り去る自分を想像すると心底情けなかったが、
エリックはそうせざるを得なかった。
ぽっかりとあいた穴のような丸い瞳から今にも涙が零れ落ちそうだったから。
617名無しさん@ピンキー:2010/10/15(金) 23:50:41 ID:wgx1MqMX
今回は以上です。
当初の終わり方は書いててつらかったので、別の終わり方を模索したらこういう方向性になりました。
予定していた方も半分ほど書き上がってるので、終わったらぼちぼち書こうと思います。
618名無しさん@ピンキー:2010/10/20(水) 22:01:51 ID:03wumAEv
GJ
泣けばいいのやら笑えばいいのやら
619名無しさん@ピンキー:2010/10/21(木) 15:33:48 ID:ZCgdBNul
思い込み激しい+人の話を聞かないの
魔のコンボw原作準拠w
ダロガがいないと話が進まないところも
原作準拠だ…。
620名無しさん@ピンキー
もうすっかりこのシリーズのファンだ
素晴らしい
>>ダロガがいないと〜
確かにそうだ・・・