らき☆すたの女の子でエロパロ17

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 のんびりと歩く体が、これほど恨めしいことはなかった。
 あまり文を盗まれた事には気にしてないらしく、まるで時間つぶしのように邸の中を練り歩く。
 ……それにしても、居ない。
 雑色の身で、何処まで逃げたんだみさおのヤツ!
 というか邸の中にはもう居ない? いやでもさっき車宿にも行ったけどまだ牛車はあったし。
 さすがに置いて帰ることはないだろうけど……適当だからなぁ、あいつ。
「あれ、お姉ちゃんどうしたの?」
 とうとう行くところもなくなり、こなたの部屋にまでやってくる。
 習字の稽古中らしく、つかさが迎えてくれた。
「えっと、あの雑色の人来てない?」
「雑色……ああ、みさおさん?」
「んー、確かそんな名前だったっけ」
 覚えてねーのかよ!
 酷すぎるだろ! 常考!
「荷物持ったままどっか行っちゃったのよね、単ぐらいしか入ってないんだけど」
「さっき丁度来たよ。筆と紙借りたいって」
 筆と紙?
 何に使うのよ、そんなの。
「それ持って、どっか行っちゃった」
 どっかて!
 くぅ、あいつの適当ぶりが伝染してやがる。
「そう……ありがと、こなたのほうはどう?」
 つかさごしに部屋の中を覗くと、稽古に励むこなたの姿もあった。
 余程集中してるのか、こちらには気がついてない様子。
 ……そんなにお昼寝したいのか、こいつ。
「あははっ、凄いよ。もう終わりそう……いつもこんなだといいんだけどね」
 笑いながらも、はぁ……と最後にため息。
 そういやいつも稽古の時は逃げられるんだっけ。
 教え方が悪い、とか言ってたのは内緒にしとこう。
「終わりーっ!」
 と、賑やかな声が耳を劈く。
 その声の主がこちらに気がつき、突貫してくる。
「かがみーっ、お昼寝しよーっ!」
「はいはい、じゃあ部屋に行きましょ……つかさはどうする?」
「ごめん、私まだ今日は仕事あるんだ」
 今日は私は帰ってきたばかりなので、一応休み。
 こなたは……年中休みみたいなものか。
 ああ、駄目だ。
 これでもう私の体はてこでも動かないだろう。
 何せこなたと二人でお昼寝なんだから。
 夜を待つしか出来ないこの体が……ただ、憎い。
「これこなた、ちょっと待ちなさい」
「?」
 だが部屋に向かおうとした私の足が止まる。
「げっ、父さま」
 私を……正確にはこなたを呼び止めたのは、大臣様。
 つまり、おじさん。
 そしてあからさまに、表情を歪めるこなた。
 そうだった、こっちの世界のこの親子は……あまり上手くいってないんだった。
 その大臣様から隠れるように、私の後ろに隠れるこなた。
「はぁ……ほら、文が来ていたよ。目を通しておいてくれ」
 ため息とともに文の束を取り出す。
 どうやらまた、恋文らしい。
 こなたじゃ受け取ってくれないと分かっているからだろう、こなたじゃなく私に手渡す。
「かがみもよく戻ってきたね、具合は大丈夫かい? 熱が出たそうじゃないか」
「あっ、いえ。もう平気です……」
「まぁ、体を壊さないよう気をつけなさい」
 と、大臣様も自分の部屋にまた廊下を歩いていく。
「かがみ熱が出たの? 大丈夫っ?」
「うん、もう熱もないし……平気よ」
 まぁ熱なんて出てなかったわけだけど。
 峰岸が勝手についた嘘だしね。
 気絶してたのは本当だけど。
 まさか私本人も、春宮と帝の邸に侵入してたとは夢にも思うまい。
 春宮……みさおと。
 ……。
 私は、どっちが心配なんだろう。
 私に届いた文か、それを持って逃げたみさおか。
 早く夜になればいいと、こんなに願った日はなかった。



 こなたとお昼寝をして、夕餉を食べて……。
 いつもならこの後に食事の片付けや掃除などがあるのだが、今日は免除。
 あとは空が暗くなり月が出るのを待つだけ……なのだが。
「そーいえばさ、ゆーちゃんの所から文来てた」
 私の部屋に、こなたの声が劈く。
 そうよね……仕事がなくても、この子のお守りなのは変わらないのか。
 なんか今日はずっと近くにいるし。
 夕餉の後も、ずっとよ? いつもなら部屋に引きこもってるくせに。
 ゆーちゃん……ああ、ゆたかちゃんか。
 こなたの従妹だからえっと……おじさんの妹の娘、でいいのかな。
「それで、なんだって?」
 文に目を通していくこなた。
 どうやら大臣様に貰った文の中に見つけたらしい。
 でもあまり……表情は浮かばれない。
「ゆい姉さんからみたいだけど……最近あんまり、ゆーちゃんの具合良くないんだって」
 声が沈む。
 そういえば、私の知ってるほうのゆたかちゃんも体が弱かった気がする。
 こんなまだ未知の病気もあるような時代じゃあ、死活問題だよなぁ。
「だから遊びに来て、元気付けてやってくれって」
「ふぅん、いいんじゃない? そんな遠くなかったはずでしょ?」
「んー、すぐそこ。明日行ってみよっかなっ」
 明日て。
 思ったらすぐ行動するところは、そのままだよなこいつ。
「そしたら早く寝ないとね、もう暗くなっ……て」
「?」
 私の言葉が止まる。
 それにこなたも首を傾げる。
 そのこなたを……窓から漏れた淡い月光が照らしていた。
 そう、今代わったんだ……『私』に。
「どったの? かがみ」
「え、えと。うん、早く寝ないと……駄目よ」
 ようやくだ、ずっと待ってた。
 ええと、どうしよう……そう、みさお! みさおを探さなきゃ!
 最後に車宿を見たのが夕餉前、まだ内大臣家の牛車はあったはず。
 そうだ、もう一度見に行ってみよう。
 牛車があればまだ居る可能性も……!
「んがっ!」
 立ち上がり、外に出ようとしたときだった。
 首が思いっきり後ろに持っていかれる。
 そのまままた尻餅をつく。
「な、こなた……?」
「駄目だよかがみっ、熱出たんだから今日はもう安静にしてなきゃ」
 見ると後ろでこなたが私の髪を掴んでいた。
「で、でもちょっと……外に用があって」
「駄目ったら駄目っ!」
 不機嫌、というよりは怒っているのが伝わってくる。
 こなたの両手に髪を掴まれ、立ち上がることも許してくれない。
 http://bbs.freedeai.com/src/up6081.jpg
 もしかしてずっと私の近くに居たのは、安静にしてるよう見張ってたのか。
 うう、そんな気を回すヤツだったっけこなたって。
 私は今すぐにでも駆けて行きたいのにっ。
 ああ、仕方ない。
 こうなったら……またやるか。
「あ……あいたたたたっ!」
「!」
 うずくまり、腹痛のまね。
 やばい、前より上手いかも。
 こんなんばっかり上手くなってどうする!
「ど、どったのかがみっ! 大丈夫っ!?」
 こなたが慌てて私の髪から手を離し、駆け寄ってくる。
「ちょ、ちょっと……駄目かも」
「え、ど、どうしよどうしよっ!」
 軽くパニックになるこなた。
 うう、後ろめたいが、仕方ない。
「だ、大丈夫よ。誰か……そう、つかさ、呼んできてくれる?」
「う……うんっ!」
 自分が役に立てることが見つかり、そのまま部屋を走って出て行くこなた。
 つかさは確か今日はまだ仕事があると言っていた。
 居るなら寝殿、ここからは行って戻っても五分はかかる!
 でも五分で帰ってこれる? 愚問よ、やるしかない!
 そのまま、私も部屋を抜け出した。



 車宿に着くと、目立つ牛車が目に入った。
 唐庇車(からひさしのくるま:屋根が唐破風造のような形状の最高級の牛車)なんてものが、この邸にあるはずがない。
 私が朝乗ってきた、内大臣家のものだ。
 この月夜にそれが目立つのは……灯火の所為。
 中から漏れる淡い光は、篝火の乱暴な光とは別物。
 蝋燭の、静かに揺れる炎の揺らぎ。
 誰か……中に、居るんだ。
 誰か? 一人しか居ない、こんな所に居るのは。
「みさお……居るの?」
「ぬおぉっ!」
 外から声をかけると、大きな音と共に声が漏れた。
 相変わらず、分かりやすい……。
「い、居ないぜー?」
 ……返事をしてどーする。
 と、私の心の声が届いたのか、気まずい表情でみさおが屋形から簾を開けて現れた。
 そして私の前まで降りてくる。
 う……どうしよ、どんな顔していいか分かんない。
「よ、よぅ。あの……これ、さ」
「?」
 適当に挨拶した後に、私の前に何かを差し出すみさお。
 見覚えのあるそれは……文だ。
 そうあの、三枚目の大学ノート。
「悪い、えと……恋文かなんかと、勘違いしちゃってさ」
 どうやら中を見たらしい。
 あの一辺倒の意味の分からない文がさすがに恋文だとは思わなかったらしい。
 字もこの時代のものとは少し違う(旧仮名を使うのは女性のみ)し、読むのすら難しいか。
「あ、うん……勘違いじゃ、仕方ないわよ」
 とその文を受け取る。
 勘違い?
 じゃあ、恋文だったら……どうしたんだろ。
 だ、駄目だ。顔がやばい。目玉焼きぐらい焼けそう。
「……」
「……」
 沈黙が続く。
 どっちも顔が真っ赤。
 どうしよう……言葉が、続かない。
「あの、さ」
「う、うんっ?」
 突然出たみさおの声に大げさに反応する自分が、恥ずかしい。
「こ……これ!」
 すると何かを差し出す。
 暗闇の中でそれが月光に淡く照らされた。
 ……文、だ。
 さっきの大学ノートの入ってるそれとは違う、剥き出しで折りたたまれた文。
 そうだ、つかさが言ってたじゃないか。
 筆と紙を持っていったって。
 じゃあそれでずっと……文を書いてたの? こんな夜まで?
 ……私のため、に?
「受け取って……くれないかな?」
 その中にはきっと、私の知ってる下手な字が広がっているのだろうか。
 情緒とか、そんなのとはかけ離れた一辺倒な文が。
 でもそれは……私だけに書かれたもの。
 これはそう、告白だ。
 ……。
 私はまだ、躊躇している。
 私がみさおに惹かれ始めてるのは確かだ。
 でもそれは好意を寄せられていると思うと、どうにも意識してしまうだけのこと。
 好きというにはまだまだ、淡い感情。
 だけど……いい、よね?
 この手紙を受け取るぐらいならいいよね?。
 それぐらいのワガママぐらい……許してくれるよね?。
 そう、自分に言い訳をして私は手を伸ばそうとする。
 でも――その時だった。
 世界が、歪んだ。
「一目惚れ、って……やつだったのかも」
「え……」
 伸ばそうした手が止まる。
 みさおの口から漏れたその一言が私の脳を弛緩していくのが分かる。
「初めて会った時からずっと……勝手に目で追ってた。ちびっ子の面倒見てるときも、給仕してる時も」
 脳が痺れだし、手足が麻痺していく。
 待って。
 待って……。
 それって、じゃあそれって……!
「ははっ、耳引っ張られて叱られたのなんか、初めてだったし」
 いつもの笑顔が、眩しい。
 何で……そんな顔して笑うの?
 何で、何で?
 自分が何を言ってるのか、分かってる?
 だって、それ……『私じゃない』よ?
 ……。
 そうだ。
 みさおは私に告白してるんじゃない。
 この世界の、この体の私に……してる。
 ……だって、そうじゃない。
 私はいわば、上澄み。
 この世界の体に宿る、ありえるはずのない存在。
 誰も、私に気がつくことない。
 私は私であって……私でないのだから。
 あは、あははははっ。
 なにそれ。
 ナニソレ、馬鹿ミタイ。
 私は……自惚れていたんだ。
 自分に好意が寄せられてると勘違いしていた。
 それで赤くなって、狼狽して、逡巡して……。
 でもそれもこれも全部……違ったんだ。
 世界が、暗転。
 まるで世界が……闇に包まれたみたい。
 ……いや違う。
 私の世界は最初から、闇だけだったんだ。
 あるのは微かな、淡い月光のみ。
 その下のみ許される、自由。
 その下のみ許される、存在。
『貴方は永遠に、平安の夜に囚われるでしょう』
「あ……」
 その時、体に稲妻が走る。
 そうだ。
 思い出した。
 最初の手紙の……忘れていた、一文。
「お、おいっ。かがみ?」
 みさおが驚きの声を上げる。
 何時の間にか私の頬からは、涙が落ちていた。
「ご……めんっ」
 落涙は止まる事を知らず、その言葉だけを何とか振り絞った。
 ……。
 あとは……覚えてない。
 逃げた、気がする。
 その場所から……みさおから。
 ううん、その呼び方はもう駄目。
 そう呼んで欲しいって言ったみさおの……日下部の言葉もまた、私に向けられたものじゃない。
 上澄みであるだけの私に、そう呼ぶ資格なんて……ない。
 どうしてこうなったんだろう。
 どうしてこんな世界に来てしまったんだろう。
 何がいけなかったんだろう。
 私が何をしたんだろう。
 私はただ、皆が居るだけの世界で満足していたのに。
 私が何かを失くした? 知らない、そんなの知らないっ!
 同じもの? 違うもの? そんなの、分かんないっ!
 だって、皆一緒じゃないっ!
 日下部だって、結局何も与えてはくれなかった!
 失くしたもの? 鍵?
 そんな、形も分からないものを探すのなんて無理に決まってる!
 だってもう、ずっと探した!
 でも……ない!
 そんなの、何処にも……ない。
 そうだきっと、見つからない。
 私はずっと……永遠に囚われるんだ、この平安の夜に。
 そしてただ一人の存在になる。
 孤独な……この平安の、月夜にのみ自由を許される存在に、一人。
 そこには何があるの?
 たった一人の、孤独な暗闇に……。
 ねぇ、誰か私を見つけてよ。
 私を……助けてよ。
 声にならない嗚咽だけが、私の……私だけの、月夜の世界に響いていた。

――どうか、心折れぬように。
――どうか、心挫けぬように。
――それだけを、切に願っています。

(続)