☆魔法少女リリカルなのは総合エロ小説_第29話☆

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551『stepwize』
「参ったなあ……」
 ユーノ・スクライアは手元のメモと目の前の案内板を見比べながら溜息をついた。
 ユーノは遺跡や古代史探索を生業とするスクライア一族の出身で、現在は時空管理局が
誇る超巨大データベース『無限書庫』の司書長として膨大な情報と戦い続ける日々を送る
いわば『探し物のプロ』である。そんな自分がまさか道に迷うとは……いくら建物の構造
が複雑にできているとはいえ、これはちょっとした自信喪失である。
「もういっそ、このまま帰っちゃおうか……でもはやてにしっかりクギをさされたしなあ」
 ユーノは旧知の仲である女性の顔を思い出す。


     §



「ユーノ君……私、一生のお願いがあるんやけど」
 それは一ヶ月ほど前の事だった。ユーノの旧知の友人であり、機動六課部隊長である八
神はやては、彼が待ち合わせの場所に着くなり両手で拝むポーズをとった。

 レリック事件から始まった、広域指名手配中の次元犯罪者であるジェイル・スカリエッ
ティが起こした一連の事件――今では彼の頭文字をとって『JS事件』と呼ばれるそれら
の事件は、はやてが指揮する機動六課の活躍もあって無事解決、首謀者であるスカリエッ
ティと彼が産み出した戦闘機人は身柄を拘束された。だが問題はそこからだった。
 事件の裁判を担当したフェイト・T・ハラオウン執務官が、

「彼女達は外見こそ大人だが、育ってきた環境や稼働時間から考えれば純粋で善悪の判断
がつきにくい小さな子供同然。そんな子供たちにとって、親の願いや命令がどれだけ大切
で逆らいがたいものかは法律でちゃんと証明できる」

という宣言と同時に憑かれたように裁判に没頭。SLB級の言葉の魔法を駆使して事件の
『重要参考人』である戦闘機人――ナンバーズ達の『保護観察』処分を勝ち取ったのであ
る。
 判決が下されるにあたっては事件を追求すれば管理局とスカリエッティの繋がりが明ら
かにされ、管理局そのものの存続が危うくなるため問題を深く追求できなかった、いざと
なればフェイトの友人であるはやてが持つこれまたSLB級のコネ(聖王教会や伝説の三
提督)がフルドライブする用意があった、保護観察を経て立派(過ぎるほど)に更正した
"前例"が今まさに目の前に存在していたなどフェイト側に追い風となる要素も多々あった
が、あれだけの事件を起こした実行犯達が保護観察という処分で済まされたのはやはり奇
跡に近い結果だったといえるだろう。
 とにもかくにも、こうしてクロノ・ハラオウン提督やカリム・グラシア理事官らを保護
監察官に据え、晴れてナンバーズは――宙ぶらりんの状態に陥った。
552『stepwize』:2007/09/20(木) 17:02:11 ID:Fehd42T4
 残念ながらこの執務官は裁判終了後の彼女達の身の振り方についてはうっかり失念して
いたらしい。
 管理局に恭順の姿勢を示していた"前例"達と違って、この娘達は隙あらば拘留中のスカ
リエッティを奪い返してまた管理局相手にドンパチをやらかしかねない危険人物である。
 それゆえ管理局側としても保護観察処分が決まったからといって彼女達を自由にするわ
けにはいかず、その動向を監視・コントロールできるよう彼女達を局内の組織に組み入れ
ておこうとした。
 だが、事件の事後処理やらなにやらで大混乱の局に新人の受け入れやそれに伴う研修や
訓練といった面倒事を引き受ける余裕がある部隊はなく、そもそもその新人達が混乱の元
凶となれば、むしろ露骨に嫌な顔をされるのも当然であった。ならばいっそ機動六課で全
員引き取って、という案も出たが戦力保有の問題で全員を引き取る事は不可能。
 苦肉の策として聖王教会と陸士108部隊、さらにスバル達とキャロが在籍していた陸
上警備隊第386部隊災害担当部と自然保護局にも頼みこむ事で、なんとかほとんどの姉
妹の受け入れ先を確保する事に成功したのだが、一人だけまだ引き取り先が決まっていな
い人物がいた。


「……で、その残った一人を無限書庫の方で引き取ってほしいと」
「迷惑は重々承知のうえや。せやけどもう他に当てがあらへん……まあ向こうでは情報処
理も担当しとったらしいから書庫の仕事に関しても問題あらへんと思うし、迷惑をかける
ことはないと思うんよ。せやから……」
「はやて」

 放っておくとそのままずっと喋り続けそうなはやてをユーノは制した。
「君だってなのはやフェイトたちと同じ、ボクの大切な親友だよ。はやてが困ってて、ボ
クがその解決を手助けできるんならなんだってする……むしろ先にボクに相談しないなん
て水臭いよ」
「ユーノ君……」
「それに無限書庫なら万年人員不足の状態だから一人くらい増えたってちっとも構わない、
こっちから引き取りを申し出たいくらいだよ」
 それはユーノの偽らざる本音だった。
 彼が『闇の書事件』をきっかけに無限書庫で働き始めて約十年。全くの未整理状態に近
かった書庫はなんとかデータベースとして活用できるレベルにまで整理されたが、未だ手
付かずの状態で大部分が残されているのが現状である。
 『優秀な人材なら過去や出自に文句はない』と管理局のスタイルも、実際に局で働くよ
うになってから賛同できるようになった。借りられるものは猫の手でも借りる(ていうか
十年前に借りたし)、情報処理の経験がある人間ならばなおさらだ。
「ホンマ!? おおきになユーノ君!!」
「うわっ……ちょっ、はやて……」
553『stepwize』:2007/09/20(木) 17:02:41 ID:Fehd42T4


     §


「あの時は思わず安請け合いしちゃったけど……」

 その後はやてから『なぜその彼女一人だけ引き取り先が決まらなかったか』についての
理由を聞かされ、ユーノは思わず背筋が凍った。

 ――ブラスターモード3での、カートリッジ5発(自己申請、さらに追加されている可
能性あり)を用いたディバインバスター(ファイアリングロックシステム解除済)直撃。

(全身の基礎フレームに及ぶ大ダメージ……そりゃ、それだけの砲撃を受けたのなら無理
もない。むしろ原型を留めてたって事のほうが奇跡に近いよ。元のように動けるようにな
るまで、時間がかかって当たり前だ……でも、問題はそんな事じゃない……)

 本当の問題は、砲撃の威力がどう考えても相手の動きを昏倒させて捕らえるためとかそ
ういったレベルではないこと。AMF状況下だったとか、両者の間に距離と障害物があっ
たとかそんなチャチな問題では断じてない、これは完全に相手の息の根を止めるつもりで
放ったとしか考えられない強さだ。

(しかも、その砲撃を撃ったのが、あのなのはだなんて……)
 ユーノは高町なのはの事をよく知っている。彼女もはやて同様、いやそれ以上に深い絆
で結ばれた友人同士だ(恋人と言えないのが悲しいが、まあしかたない)。
 彼女はとても優しい女性だ。戦技教導隊のエースとして、訓練や教導に望む時は時折厳
しい一面を見せることはあるが、それとて本当に相手の事を思いやっているからこそ厳し
く接するのであり、根底には相手に対する彼女なりの優しさがある。それに彼女はとても
真面目な人間で、仕事に個人的な事情や感情を持ち込むような人間でもない。
 そのなのはに手加減を忘れさせたなんて、一体その彼女はどれほどの悪事をしでかした
というのだろう。果たして自分はちゃんとそんな女性を部下に迎え入れて、扱いきれるの
だろうか……ただでさえ女性に関しては苦手だというのに……。
 ユーノのこんな苦悩を予想していたのか、はやては去り際にこんな事を言っていた。
「ユーノ君、私らの世界に伝わる古い言葉に『男に二言はない』っちゅうのがあってな…
…」

(迷ってるのは、道じゃなくてボクの方かも……)
 そんな事を考えながらようやくその女性がいる部屋を見つけると、ちょうど扉が開き若
い女性が出て来たところだった。会釈してそのまま通り過ぎようとすると、その女性がユ
ーノに声をかけてきた。
「あの……クア…姉さんに面会の方ですか?」
「ええ、まあ……って『姉さん』?」
 女性の話しぶりにユーノが違和感を覚える。戦闘機人として作られた彼女に妹? いや、
そういえば彼女達は『親』であるスカリエッティに姉妹として育てられたと聞いている。
ということは……

「君もその……戦闘機人?」
「……はい。元ナンバーズ10番、ディエチといいます」
554『stepwize』:2007/09/20(木) 17:03:34 ID:Fehd42T4


     §


「そうですか……姉さんの上司の方」
「正確にはまだ予定、だけどね。彼女の方が話を受けないかもしれないし」
 自動販売機の前に置かれたベンチに、ユーノとディエチは並んで座っていた。
 あの後なんとなくそのまま別れづらくてちょっと世間話でもとこうしているのだが、元
々お互いに全く面識がない相手であり、自然会話も途切れがちとなる。
「彼女を推薦してくれた八神部隊長からは、『彼女なら無限書庫でもバリバリやれるだろ
う』ってお墨付きをもらってるんだけどね」
「……私も、そう思います」
「そっか」
「……はい」
 また沈黙。自動販売機が稼動している事を示す振動音がやけに耳に入った。
「……あ、ところでディエチさんは今どこで何を?」
「今は『スプールス』っていうこことは違う管理世界で自然保護隊のアシスタントをやっ
てます」
「仕事は楽しい?」
「はい……時々密猟者を見つけて、小競り合いになったりとかはあるけど……モニター越
しに見る風景に向けて、トリガーを引く事はもうなくなったから……」
 ディエチはそう言うと、安堵と悔恨が入り混じったような複雑な表情を見せた。
「……君は優しいんだね」
「へ?」
「君はとても優しい人だな、って」
「……そんな事、ないです。私は……私達は『JS事件』で大勢の人を傷つけた。色々な
物を壊して……私も何度もトリガーを引いた……途中からは、自分達がやっている事は間
違ってるんじゃないかと薄々気づいていたのに、それでもトリガーを引き続けた……それ
が自分に与えられた運命だからと割り切って。止める事だってできたのに、私はそれをし
ようとしなかった。そんな私に、優しいなんて言ってもらえる資格なんてない……!」
「でも君はスカリエッティの命令に従っていただけだ。それは裁判でも立派に証明されて
る……」
「あんなのは茶番だよ! あのフェイトとか言う人は、巧い言葉で相手を騙して、ほとん
ど無罪みたいな結果を勝ち取ったけど、でも私達がやった事はそれじゃ消えない! 聖王
の器って言われてたあの小さな女の子やそのお母さんを私は撃った……もしかしたら、二
人は死んでたかもしれないんだ……!!」
 ディエチは吐き捨てるようにそれだけ言うとそのまま俯く。
 ユーノもそんなディエチにかける言葉を見つけられず沈黙した。
 『JS事件』の詳しい経過に関して、ユーノはあまり知らない。おそらく彼女は戦闘機
人として創造主であるスカリエッティの命令に従い、何度も破壊の為のトリガーを引いた
のだろう。そして今はもうそんな事をしなくてもよくなった事を喜びながら、一方では受
け入れられないでいる。自分の犯した過去の罪を償いもせずに、今を生きる資格は得られ
ないと思っているから。
 (そっか。彼女はきっと同じなんだ。それなら……)
「ディエチさん」
 ユーノは慎重に言葉を選び、ディエチに語りかけた。
555『stepwize』:2007/09/20(木) 17:04:12 ID:Fehd42T4
「昔ね……ある次元災害未遂事件が起きて、一人の小さな女の子が重要参考人として裁判
にかけられたんだ」
「なんの、話ですか……?」
「いいから、最後まで聞いて」
 ユーノは手に持っていた空き缶を握りつぶすと、ゴミ箱に放り投げる。
 カコン、という音を一つ残して、缶は見事にゴミ箱に納まった。
「その少女は愛する母親のために、それが間違っているかもしれないと思いながら違法な
行為に手を染め続けた。本当なら『数百年以上の幽閉が普通』っていう重罪、でも事件の
裁判を担当した執務官が優秀だった事もあって、彼女は『保護観察』という結果に落ち着
いた。『彼女はただ母の願いを叶えたかった、幸せになってもらいたかった……それため
に必死に頑張っていただけ』、そんな風に少女を弁護してね」
「……」
「裁判は……法は彼女の罪を『保護観察』という形で裁いた。でも彼女自身はその結果に
は満足できなかった。自分は罪を犯した人間で、罪を償うためには罰を受けなくてはいけ
ないと思っていたから。だから彼女は自分の手で自分を罪を償う方法を探し始めた……そ
して彼女は見つけた。彼女なりの償い方を……
 彼女は嘱託で管理局の仕事を手伝い、それから執務官になる事を決めた。今の自分があ
るのは、罪を犯してしまった自分を償うチャンスをその執務官がくれたから。だから……
どうしようもない状況で、過ちを犯してしまった人達を、今度は自分が救えるようになる
と決めたんだ」
「それって……」
「フェイト・T・ハラオウン……ボクの十年来の親友、そして君達の裁判を担当した執務
官。今言った事件にはボクも少なからず関係していてね。彼女のために証言台に立った事
もあった……ねえディエチさん。裁判は、何を裁くためのものだと思う?」
「……え?」
「……いいから。答えて?」
 ディエチは少し考えた後口を開く。
「……罪を犯した人……私達みたいな犯罪者を、裁くため……」
「……そうだね。ほとんどの人はそんな風に考えてる。でも、ボクは違うと思うんだ」

「裁判っていうのは『人』を裁くんじゃない。その人が犯した『罪』を裁くものだと思う」
「そんなの、屁理屈だよ……だって『罪』を犯すのは、『人』じゃない……」
「そうだね……でも、罪を犯してしまった人にも色々な事情がある……中にはもちろん同
情できない理由だってあるけど、でもその逆だってある。例えば、大切な家族のために…
…とかね。そんな理由の一つ一つまで判断して裁けるほど、法は完璧なものじゃない」
「じゃあみんなが納得してくれる理由さえあれば、罪を犯しても罰を受けなくてもいいっ
てこと!?」
「ううん。犯してしまった罪は償わなくちゃならない。でも法が定める罰はその人が犯し
た罪に対する罰であって、罪を犯した人に対する罰じゃない」
「そんなのやっぱり屁理屈……じゃあ罪を犯した『人』はどうやって裁かれればいいの?」
「……誰でもないよ。『人』が『人』を裁く事なんて、きっとできない。もしできる人間
がいるとしたら、それは『罪』を犯したその人自身」
「……その人、自身……?」
「そう。犯してしまった『罪』を償い、そして自分が何をできるのか考える。自分は何を
するべきかなのか、どう生きるべきなのか。フェイトはそれを考えて、自分なりの答えを
見つけた。だから君も探して、見つけるんだ……君なりの答えを。そのための時間と、見
つけた答えを実行するチャンスを、フェイトは君や他の姉妹達にくれたんだから」
「で、でも……私がもし答えを見つけたとしても、それが正しいかどうかなんてわからな
い。私の答えを、私が傷つけた人達は認めてくれないかもしれない」
「そうかもしれないね……でも、答えを探して示さなければ、それが正しいかどうかなん
て一生判らない。間違えたならまた別の答えを探せばいい。そうやっていくうちに、君は
きっと答えを見つけられるとボクは思う」
556『stepwize』:2007/09/20(木) 17:04:47 ID:Fehd42T4

 それだけ話すと、ユーノは立ち上がった。自分のできる事、与えられるヒントはここま
でだ。後は彼女自身が探して答えを見つけるしかない。

「……ユーノさん」
「……なに?」
「ありがとう。私、探してみるよ。自分の答えを」

 そう言ってユーノを見据える彼女の瞳には、確かな力があって。ユーノは自分の勘が誤
りでない事を確信した。きっとこの子なら大丈夫だ。
「……なら、ボクも安心。……そういえば、一つ言い忘れてたけど君が今まで砲口を向け
た人のうち……少なくてもオッドアイの小さな女の子とその母親は、君の事をもう恨んだ
り怒ったりはしてないと思うよ?」
 ディエチの表情が驚きに変わる。
「え、なんで……ユーノさんにそんな事がわかるの?」

「わかるよ……だってそのリボン、彼女達から貰ったものなんでしょ」
 ユーノが指差したのは、ディエチの髪を結んでいる紺色のリボン。
「そのリボン、どこかで見た覚えがあるとずっと考えてたんだ……そりゃ見覚えがあるは
ずだよね。ボクはその二人の事もよく知ってるから……とても強くて、とても優しい二人
だ」


     §


「それじゃ、ボクは本当に帰るよ」
「姉さんのところ、行かなくてもいいんですか?」
「顔見せ程度のものだから、そこまで急ぐものでもないし……今日はもう遅くなっちゃっ
たしね」
「……ごめん、なさい」
「あ、いや別にそんなつもりじゃ……」
「あの、ユーノさん」
「はい?」

「姉さんの事、よろしくお願いします」
「それは、もちろん」


 今日ディエチと話してみて幾つかわかった事がある。
557『stepwize』:2007/09/20(木) 17:05:42 ID:Fehd42T4
 まず、戦闘機人といっても血も涙もない殺人兵器なんかじゃないって事。
 優しい心を、ちゃんと持っている事。
 そしてこれから自分の部下になる女性は、そんな優しい心の持ち主に愛されている人物
だということ。
「姉さんは普段は『無力な命を弄んだり蹂躙したり、もがく様を観察するのが楽しい』み
たいな事を言ってるし、陰では私の事も馬鹿にしたりしてるけど、きっと本当は優しい人
だから……たぶん」

 だから、そのクアットロという女性も、本当は目の前にいるディエチのような、優しい
心を持っているに違いない……たぶん。

「……もちろん、ドーンと任せといて……ハハ……」