【ひぐらし】07th総合【うみねこ】

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649名無しさん@ピンキー:2007/10/25(木) 00:46:47 ID:oz/EIOcO
>>647 GJですぞ!!!!!
圭×梨好きな俺にとっては最高だった
梨花ちゃんのターンも見てみたいのは俺だけ?
650名無しさん@ピンキー:2007/10/25(木) 01:40:40 ID:rftHF9pn
我々はー>>647に抗議するー
何故梨花ちゃまのターンを見せないのかとー
全裸で断固抗議するー
651名無しさん@ピンキー:2007/10/25(木) 02:09:39 ID:pfjFsDhv
>>647
骨の髄からの圭梨好きな俺は貴方のような人を待っていた!いいぞGJ!!
やっぱこの二人はいいわ〜、作中の二人と>>647氏の今後に期待する!
652名無しさん@ピンキー:2007/10/25(木) 09:43:27 ID:plxk87HY
久々に圭梨分を補給できた
ところで梨花ちゃまのターンは(ry
653名無しさん@ピンキー:2007/10/25(木) 10:54:54 ID:7rMl8W48
>>647
GJだけど一つだけ。
16歳の梨花ちゃんはまだ処女だよね?w
絶対イタイわこれー、と思ってしまった私は馬鹿ですかorz
654名無しさん@ピンキー:2007/10/25(木) 11:31:54 ID:J0N+CmLo
梨花と沙都子の初体験っていつごろになりそうなんだろうな
655名無しさん@ピンキー:2007/10/25(木) 15:42:41 ID:FmGIAbBz
already.

そんな100年も同居してて性的悪戯のひとつやふたつしないわけないじゃないですか
656名無しさん@ピンキー:2007/10/25(木) 16:49:17 ID:7Z8ESpbp
毎日に決まってんだろ
657名無しさん@ピンキー:2007/10/25(木) 21:51:10 ID:L0MUtHK8
>>647です。
感想感謝!(^人^)
梨花ちゃんのターン、妄想してたら書きたくなってきたので書く。
ただ遅筆なんだ。てか保管庫に入れてくれた人ありがとうw見て吹いたw

>>653
梨花ちゃんのターンで。
無理やりっぽくなるかもだけど。
658名無しさん@ピンキー:2007/10/25(木) 23:42:31 ID:PAW7jpDP
>>647GJ
高校生の梨花ちゃまハァハァ
659名無しさん@ピンキー:2007/10/26(金) 00:48:15 ID:V11+Cv18
>>657
久々の圭梨ありがとん
GJだぜ☆
660名無しさん@ピンキー:2007/10/26(金) 01:23:27 ID:/8MtXMyS
>>647
GJGJGJGJGJGJGJGJGJGJGJGJGJGJGJ!!!!!!!!!!!
ものっそい萌えた!やはり圭梨はええのうww梨花受けもたまにはええのうww乙だぜー
661名無しさん@ピンキー:2007/10/26(金) 08:41:26 ID:qBBJoSWt
…あれ?
沙都子はターンエンド?
662 ◆CoudB9M4c2 :2007/10/26(金) 11:08:26 ID:wjRfaFDd
567で圭一×沙都子を投下すると予告していたものです。
 
遅くなりましたがようやく作品が完成しました。

しかし、ちょっとした短編並みの分量になってしまい、SSを超えてしまっている気がします。

冗長な文体、ご容赦下さい。では、「トラップバスター」と言う題で投下させて頂きます。
663トラップバスター ◆CoudB9M4c2 :2007/10/26(金) 11:09:46 ID:wjRfaFDd
トラップバスター

 秋の夕日に照る山もみじ・・・。
 日本の自然は、特に秋のそれは美しい。
 夏の盛りに青々と茂っていた木の葉が、寒さの訪れと共に色褪せ、やがて地面に落ちて土に還る。
 自然のサイクルの中で、木の葉に現れる色合いの変化。緑から黄色、そして紅に染まるその様子は、少女が着物を着せ替えしている姿に例えて良いのかもしれない。
 
 『ちょ、ちょっとアンタ!何見てんのよっ、このヘンタイ!!』

 だとすると、秋の山を訪れて紅葉を楽しむ旅人は、皆すべからく少女の着替えをのぞきに来るヘンタイとも言える。
 突然の来訪者に戸惑い、慌てて身を隠し、モノを投げつけるその様子は、まさにツンデレ。時折落ちてくる木の葉や木の実も、このように考えると趣があるものだ。
 だが膨らんだ妄想を愉しむ余裕は無かった。
 俺は今、古手神社の裏山を歩いている。獣道という言葉が相応しい、細く傾斜のついた道を。
 只でさえ息の上がる山道に、今日に限って夏を思い出したかのような真昼の熱気。しかも俺の背中には、どデカいリュックサックが負ぶさっている。
 終戦直後の買い出しみたく、丸々と太ったその中身は、これでも減ったほうだ。
 だが、これまでの疲れのせいで、最初よりも重く感じてしまう。俺は手頃な木の枝を杖の代わりにして、歩みを進めていた。
 そんな俺とは対照的に、軽やかに先を進む人影があった。
 俺よりも頭二つ分ほど小柄で、黒いカチューシャが乗った短髪を小刻みに揺らし、鼻歌まで歌っている。
 桃色の袖無しシャツに紺色の半ズボンを身に纏ったその人影は、まるで踊るかのように華麗なターンを決め、俺に向き直った。
 「あら、圭一さん。お疲れでして?」
 すました様子で八重歯を見せて、北条沙都子が笑いかける。
 「へっ、馬鹿野郎。俺を誰だと思ってるんだ?天下の前原圭一様だぜ・・・。」
 挑発的な瞳に、こちらも空元気で答えてやろうと思ったが、やはり最後は息が切れそうになる。
 言い終えると、自然に肩で息する。思ったよりも体力の消費は激しいようだ。
 「をーっほっほっほ。圭一さん、最近なまっているではありませんこと〜♪」
 沙都子の笑い声が聞こえる。顔を地面に向けていても、片手を腰に、もう一つの手を口元に当てて高笑いしている姿が目に浮かんだ。
 「て、てめぇ、沙都子・・・。俺にだけ荷物を背負わせて、どの口がそういうこと言ってやがるんだ・・・。」
 重装備の俺とは違い、沙都子は手荷物一つ持っていない。そりゃあ、疲れ具合も違うというものだ。
 「やれやれですわ。不甲斐なさを荷物のせいにするのは、男らしくありませんわよ。」
 「・・・その荷物を背負わせてんのはどこのどいつだよ。」
 「言い訳はもっと男を下げましてよ〜♪」
 この外道め。日曜日の朝っぱらから俺を呼び出して言う台詞がそれかい。
 俺は激しく後悔した。あぁ、あの時沙都子の口車に乗らなければ・・・。

664トラップバスター ◆CoudB9M4c2 :2007/10/26(金) 11:11:13 ID:wjRfaFDd


 深夜番組を愉しんで昼前まで寝るつもりだった俺を、お袋が起こしに来たのは午前の七時過ぎ。沙都子からの電話を取り次ぎに来たのだった。
 寝ぼけ眼のまま電話口に出た俺の耳に聞こえたのは、「圭一さんっ、助けて下さいましッ!!」という沙都子の悲痛な叫び声だった。
 「どうしたんだよ、一体!?」
 「圭一さん、緊急事態ですわ!今すぐ私たちの、梨花の家に来て下さいましッ!」
 「だからどうしたんだよ沙都子。説明してくれないと分かんねぇぞ。」
 「あ〜、う〜。口で説明するには難しいですわね。ともかく来て頂ければお分かりになりますわッ!」
 「う、う〜ん。いきなり言われてもな・・・。」
 正直、乗り気になれなかった。学校でのトラップ攻撃に慣れ親しんでしまったせいか、どうしても沙都子からの誘いには裏があるように感じてしまう。具体的な内容が説明出来ないとなると尚更だ。
 しかし、次に沙都子が発した台詞により、俺の顔色は一変した。
 「お願いですの、梨花が、梨花がぁ・・・。」
 「えっ、梨花ちゃんがどうかしたのか?」
 現在、沙都子と梨花ちゃんは二人で共同生活をしているはずだ。時折羽入や詩音が遊びに来るものの、お泊まりでもしてない限り、こんな時間帯に留守であるはずがない。
 嫌な予感がした。
 鷹野さん率いる山狗との戦いは終わったものの、「東京」の過激派が未だ梨花ちゃんを狙っている可能性が無いとは言えない。
 いや、仮面ライ○ーでもよくあるパターンじゃないか。倒した組織の残党が新たな敵として現れ、平穏だった日常に終わりが告げられる・・・。
 「レナさんや、魅音さん。詩音さんにも相談出来なくて・・・。圭一さんにしか頼める人が思いつきませんの。お願いです、圭一さん。助けて・・・!」
 電話口の沙都子の声は、何時しか涙声になっていた。
 くそぅ、何てことだ。まさか特撮やアニメのような展開がこの雛見沢に降りかかってくるとは!
 「わかったぜ、沙都子。今からそちらに向かう!」
 「・・・!本当ですの!?」
 「あぁ、待っていろ、1500秒、いや1000秒も掛からずに辿り着いて見せる!だから俺を信じて待っていてくれ!」
 「圭一さぁん・・・。圭一さんならそう言ってくれると信じていましたわ・・・。」
 沙都子の声が終わるのを待たずに、俺は受話器を置いて駆け出した。部屋着から着替えると、お袋に外出を告げ、食卓の上から食パン一枚を掴んでくわえる。
 靴を履き、玄関の傘立てに置かれている傘から手頃な一本を取り出して背中に挿し込む。金属バットやゴルフクラブには及ばないが、獲物の代わりにはなるだろう。
 自転車に跨りスタンドを蹴飛ばすと、全速力で古手神社へと向かった。
 もの凄い勢いでショートカットを繰り返す。漕ぎ過ぎで腿が痛くなるが、お構いなしだ。
 ・・・何か、前にも同じような事をしていたような気がするが、今はそんなことを考えている暇はない。
 その甲斐あってか、普段よりも三分の二は早い時間に神社へと辿り着く。放り投げるように自転車を石段の下に停め、石段を駆け上がる。神社の境内を過ぎれば、二人の住処である物置小屋はもうすぐだッ!
 「沙都子ぉぉぉっ!」
 小屋の前に沙都子の姿を見かけ、俺は叫んだ。
 敵は何処だ?いや、それよりも梨花ちゃんはどうなったんだ!?いやいやいやいや、沙都子の無事を確認するのが先決だ!
 「あっ、圭一さん。」
 俺に気づき、沙都子が振り向く。
 が、俺を見るとぎょっとした表情を浮かべ、一瞬怯えたような表情になった。畜生、間に合わなかったか?
 「大丈夫かぁっ!」
 刀を抜くようにして傘を背中から取り出し、横に構える。ほんの少し格好を付けた形だ。
 覚悟完了。さぁ、「山狗」の残党か、「番犬」の別働隊か、それとも北の国からの工作員か・・・。
 この前原圭一の輝きを恐れぬならば、かかってこい!!

 
665トラップバスター ◆CoudB9M4c2 :2007/10/26(金) 11:18:37 ID:wjRfaFDd
 「・・・って、戦う覚悟だったんだぞ俺は。」
 「それは圭一さんが勝手に勘違いしただけの話ですわよ。全く、どこをどう聞けばそんな話になるんですの。」
 「おい。あの言い草なら、誰が聞いても異常事態だと思うぞ。」
 先程の場所からほど近い場所にある木陰で、俺達はシートを広げて座っていた。
 業務用の二畳シートの上には、俺と沙都子の姿と、リュックから取り出された弁当包みがあった。
 「まぁ、私の説明不足もほんの少しありましたけど・・・。」
 「ほんの少しかぃ!」
 何事もなかったかのように、すました顔で包みから弁当箱を取り出していく沙都子を見ていると、怒りよりも呆れてしまう。
 こっちがどんな思いで飛ばしてきたのか分かっているのかよ・・・。
 「お前ぇが『梨花がぁ、梨花がぁ』って言うから、俺はてっきり・・・。まさか『梨花がお出かけだから、トラップ作りを手伝ってほしいのですの』って言われるとは思わなかったからなぁ!」
 沙都子が俺を呼び出した理由。それはトラップ作りの手伝いだった。
 何でも、今日は梨花ちゃんが羽入と興宮へ買い物へ行ったので、休日の日課であるトラップ作りの手伝いがいなかったらしい。
 「ごめんあそばせ。圭一さんならば、そのくらい察して頂けると思っていましたから〜♪」
 「くそ、絶対ワザとだろ。」
 「あらあら。男が細かいことを気にしていては、器が問われますわよ〜。」
 ぐぐぐぐぐ・・・。
 言いたいことは山ほどあるが、ここで言い争いをしても不毛なだけだ。俺は松○梅のCMに出てくる七曲警察署刑事課長のように、ぐいと、注いでおいた水筒のお茶を飲み干した。
  
666トラップバスター ◆CoudB9M4c2 :2007/10/26(金) 11:19:40 ID:wjRfaFDd

 「ほらほら、これでも食べて機嫌を直して下さいませ。」
 不機嫌な俺の表情を見て取ったのか、沙都子が蓋を開けた弁当箱をこちらに差し出す。
 「おっ、こいつは・・・。」
 弁当箱からは柔らかいクリームソースの匂いがした。表面に狐色が混ざった白色の絨毯が箱の表面を覆い、その間から肌色をした細い管がひょっこりと顔を出している。
 芸術の国フランスの家庭料理と情熱の国イタリアの魂の融合!その名もマカロニ・グラタンだッ!!
 「この程度で驚くのは、早ぅございましてよー!」
 次々と開けられていく弁当箱の蓋。それと共に中身が姿を顕す。
 「をほほほほ、こちらは特製の和風ハンバーグ。あちらはポテトサラダでございますわよ〜☆」
 こ、こいつはすげェ!普段みんなと学校で突っつきあうそれよりもレベルが高いんじゃないか!?
 あまりの眩しさに、俺は仰け反らざるを得なかった。
 「お、おい、沙都子。この弁当、どうしたんだ・・・?」 
 「虚弱体質の圭一さんにはこのくらい食べて頂かないと働いてくれそうにないですから、ほんの少しだけ奮発したんでございますことよ〜♪」
 普段は嫌味に聞こえる沙都子の謙遜だが、このお弁当に関しては謙遜のし過ぎだろう。
 形こそいびつではあるが、丁寧に丸められたハンバーグ。野菜分は少ないものの、彩りのあるポテトサラダ。流行りの冷凍食品やレトルト食品には絶対に出せない「まごころ」ってやつが込められている。
 「これ、自分で全部作ったのか?」
 「ま、まぁ・・・。ちょっとだけ梨花に手伝ってもらったくらいですわ。」
 なるほど、梨花ちゃんも絡んでいるならこの完成度も理解できる。だが、それ以上に心の込もった料理を作ってきてくれた沙都子の心遣いが嬉しかった。
 「ありがとな、沙都子。」
 俺は笑顔を作って沙都子の頭に手を伸ばす。ぽむ、ぽむと軽く触れた後、優しく撫で回した。
 「あ・・・。」
 悪戯心に満ちていた沙都子の瞳が急に細くなり、嬉しさに満ちた光を湛える。
 俺の手が肌を揺らす間、沙都子は両手を胸元に置いてうっとりとした表情をしていた。指が何度目かの往復を終えた時、桜色をしたその唇がかすかに動いた気がした。
 「そ、それよりも、せっかく作ったので食べては頂けませんこと?冷めてしまいますわよ。」
 一段落したところで急に沙都子が頭をどけ、慌てて箸を持ち出す。
 弁当はとっくに冷めているのにと茶化そうとしたが、その仕草があまりに愛らしいので、俺は箸を受け取ると「いっただききまぁ〜す!」と大きな声で手を合わせた。
 全く、俺も単純だ。他のヤツがすれば嫌なことも、沙都子が同じ事をするならばそれを許してしまう。
 いなくなった聡史の替わりにこいつの面倒を見ている内、情が移ったのだろうか。それとも、一人っ子の俺が欲しかった妹ってやつを沙都子に投影しているのだろうか。
 厳密に言えば、違う。
 沙都子とこう一緒にいると、ほんの少し心音が上がってしまう。こいつの前で本当の自分を晒け出すのが恥ずかしくて、憎まれ口が先に出てしまうのだ。
 幼稚園のころ、同じ組で一番仲の良かった女の子に抱いていた感情。それに似ている。
 自分にかまって欲しくて、誰よりも自分を見て欲しくて、色々な悪戯をした。不器用だったから、素直に「僕と仲良くして下さい」という言葉が言えなかったんだ。
 悪戯が過ぎて、その子が泣いて先生に告げ口して怒られて、それで終わっちまったんだよな。
 おいおいおいおい、前原圭一。つまりそれってことは、俺、沙都子の事を・・・?
 あぁ、くそ。沙都子はあくまで部活の仲間だろうが。それに生意気この上ないし、偏食家でおこちゃまで、腹黒で、スタイルだってレナや魅音にも劣るし。
 でも、それでいて甘えん坊で家庭的で、素直じゃないけど誰よりも気の置けなくて、あの膨らみかけの胸やちょこんと突き出たお尻も可愛くて・・・。
 うをををを。何を言ってるんだ俺はァッー!
 ええぃ、考えるのが面倒になってきた。とりあえずこの飯を食べよう。そうすれば、混乱した俺の頭も少しはKOOLになるはずだ。
 頭の中に浮かんだこの妙な感情を忘れるべく、俺はがつがつと音を立て、沙都子の弁当を頬張り続けた。
667トラップバスター ◆CoudB9M4c2 :2007/10/26(金) 11:20:25 ID:wjRfaFDd
  
 嬉しかった。
 圭一さんが私のお弁当を喜んで食べてくれている。それはもうもの凄い勢いで、次々に口に運んでいる。
 私の分が無くなってしまうのではないかと心配になってしまう程だ。
 でも何よりも嬉しかったことは、圭一さんが私のお弁当を褒めた時に、優しく頭を撫でてくれたことだ。
 こう、まるでにーにーのように優しく、その温かい手で私の頭をよしよしと。
 思わず泣きそうになってしまった。そして久しぶりに「にーにー」と呟いてしまった。
 
 にーにーがいなくなって一年と数ヶ月。私を取り巻く環境が大いに変わった日々であった。
 にーにーの家出と共に叔母が惨殺死体で発見され、叔父も祟りを恐れたのか興宮へと逃げ去ると、一人残された私は梨花と共に生活を営むこととなったのである。
 子供二人の生活というものは経済的な負担を想像以上に強いられるものだったが、私たちの窮状を見かねた監督、入江先生の新薬試験に協力することでお金をもらい、何とか日々の生活を送れるようになった。
 叔父、北条鉄平によって身も心もボロボロにされていた私だったが、梨花やこれまでも部活で面倒を見てくれていた魅音さんやレナさんに助けられ、どうにか叔父夫婦に引き取られる前までの生活に戻れたのだと思う。
 知恵先生を始めとするクラスのみんなや、にーにーを慕っているという園崎詩音さんに梨花の親戚という羽入さん・・・。
 みんながいなければ、私はこうまで笑顔になることは出来なかっただろう。
 そして、圭一さん。
 転校して日が浅いはずなのに、いつの間にかみんなの中心に居て、人を引きつける力強さ、いわゆるカリスマというものを持っている人だ。
 これまでに私の周りには居なかったタイプの人間でもある。
 私は基本的に男という人種を嫌っている。
 お母さんをセックスの対象としか見て無くて、弄んで捨てて、与し易いと思えば擦り寄ってくる。
 物心付いた時から襖の向こうでにーにーと身を寄せ合い、母親の喘ぎ声を終わるのを待っている生活を送れば、男というものがどんなに汚らわしい存在か、自然と理解できてしまうだろう。
 それを言えば圭一さんも同類に入る。だから、私は都会から男の子が転校してくると聞いた時に、軽い拒否感を覚えた。
 転校初日にトラップを仕掛け、痛めつけてやろうと思った。そうすればこのクラスに溶け込もうとは思わなくなるだろうし、少なくとも私を敵と認識し、近づいては来なくなるはずだった。
 転校の挨拶の前に襲いかかるトラップに、為す術無く圭一さんは沈んだ。
 これで良し。度肝を抜かれて、私たちには関わり合いになりたくないと思うはずだ。私の世界をかき乱そうとは思わないはずだ。
 「な、なんだこりゃぁ・・・。」
 「をーっほっほっほっ。ざまーありませんこと〜♪」
 あっけに取られている圭一さんに、私はトラップの仕掛け主として正体を現した。
 さあ私を憎んで、嫌って、そして私に近づかないで−。
 そんな覚悟だった。どんな罵声も覚悟していた。しかし
 「こいつは、てめぇの仕業か〜。」
 つかつかと近づいてきた圭一さんに、私は身構えた。一瞬、鉄平の醜悪な顔が重なって見えたのだ。
 しかし、圭一さんは目の前で顔を近づけると
 「へへっ、面白ぇじゃねぇか。こんな歓迎、初めてだぜ。」
 と、言って、満面の笑顔を作ってくれたのだ。
 これまでにトラップを喰らった人間とは、全く違う反応。私にとっても、こんな経験は初めてだった。
 ほんの少し、ちくりと。今までに無い感情が私の心に灯った瞬間だった。

 
668トラップバスター ◆CoudB9M4c2 :2007/10/26(金) 11:21:40 ID:wjRfaFDd
 「ん?どうしたんだ、沙都子?」
 物思いに耽っていた私は、圭一さんの声で我に返った。
 圭一さんはお弁当を半分ほど平らげ、水筒の蓋に注いだお茶を飲み干したところだった。
 「な、何でもございませんわ、おほほほ・・・。」
 見つめられてしまっているのに気づくと、自然と頬が紅くなる。いけない、いけない。またその優しい瞳に引き込まれるところだった。
 照れ隠しに、おかずに箸を伸ばす。梨花から教えてもらった和風ハンバーグを一つ摘んで、口に運んだ。
 「しっかし、いつもこんな事してんのか?トラップ作り・・・。」
 「えぇ。モグ・・・。特に、ング・・・。こないだ・・・ハグ。使ってしまいましたから。」
 「食い終わってから喋れよ。」
 この間と言ってもしばらく経つが、私が山に仕掛けていたトラップは、鷹野さん率いる「山狗」との戦いでそのほとんどを失っていた。
 数年がかりで作り上げた私の作品が、半日足らずで役目を終えたというのは皮肉だが、自衛隊を相手にして私たちの命を救ってくれたのだから充分すぎる働きをしてくれたものである。
 「でもすげえよな、本物の軍隊を翻弄してたし。『番犬』の人も、外国の戦場でしかお目にかかれないシロモノだって言っていたからな。」
 「をほほ、それは私が作り上げた作品ですから。そこんじょそこらのものと一緒にしては、困りますわぁ〜♪」
 本職の軍人すら手玉に取る私のトラップ。
 2年前、私が叔父夫婦に引き取られて虐待を受けていた時期、偶然出会った人に教えてもらったものだ。
 名前は何と言っていたのだろうか・・・。
 ゴウ?ゴウジ?確か名前のどこかにGの付く人で、外国人のような名前をしていたと思うが、詳しくは思い出せない。
 その人はこの山で組木をアスレチックのようにして、黙々と訓練をしていた。何でも次の仕事のために、ナマった体を鍛えていたらしい。
 無口で人を寄せ付けない雰囲気のある人だったが、私が地元の抜け道などを教えると気を許し、ほんの少し身の上話もしあう仲になった。 
 話の中で、私が叔父夫婦に虐待されていることをしった彼は、私に簡単なトラップ作りの方法と、その心得を教えてくれた。私の持論である「トラップは心理の裏の裏をかく」というのも、彼の言葉だ。
 予定が急に繰り上がり、彼がこの山から姿を消したのは、その翌日のことだった。
 「ふ〜ごちそうさま。美味かったぜ。」
 いつの間にか、圭一さんが食事を平らげていた。綺麗にご飯粒一つ残していない。
 ご飯を作る側としては、こんなに嬉しいことはない。最近、都会では食事を少し残すのがエレガントだという風潮らしいが、作りすぎ不味すぎならばいざ知らず、作り手に対する冒涜としか思えない。
 「あらあら、がっつかれまして。もう少しエレガントに食べられないものですかね?」
 それでも、つい憎まれ口が出てしまう。いけないとは分かっているが、圭一さんの前ではどうしても言葉が意地悪なものになる。
 「美味いんだからしかたねぇだろ。あ〜。食った食った・・・。」
 満足げにお腹を抱える圭一さんを見ると、こちらまで幸せな気分になってしまう。
 私は笑い出してしまいたくなる気持ちを押し隠し、すっかり空になった弁当箱の片づけを始めた。

 
669トラップバスター ◆CoudB9M4c2 :2007/10/26(金) 11:22:34 ID:wjRfaFDd

 「ふぅ。ここを、こうすればいいのか?」
 「えぇ、こちらの柏の幹にロープを仕掛けて頂ければ、今日は終わりですわ。」
 思ったよりも早く、今日のトラップ作りは終わった。重い物を運ぶという点においては男の子だけあって、私や梨花よりも遙かに能率が良い。
 私は圭一さんがロープをしっかりと張るのを見届けると、切り株に立て掛けておいたリュックからタオルを取り出し、圭一さんに手渡した。
 「おっ、サンキュな。」
 「帰りも背負って頂くのですから、お駄賃代わりですわ。」
 「もう弁当箱の空しか入ってねぇから、自分で持てよ・・・。」
 「をーっほっほっほ。私、箸よりも重たい物は持ったことがありませんことよ〜♪」
 「さっき丸太ん棒抱えていたのはどこのどいつだよ。」
 愚痴を言いながらも、リュックを背負ってくれるあたり、圭一さんは本当に人が良い。
 本当に、口の悪ささえ無ければにーにーそのものなのに。いや、これは言い過ぎか。
 「さてと、帰るとするか。誰かさんのせいで汗だくだから、早くウチでひとっ風呂浴びたい気分だぜ。」
 「それには私も同感でしてよ。ベタ付いて仕方ありませんもの。」
 秋の半ばとはいえ、重労働をしていた私たちの体は汗にまみれていた。確かに、帰宅して早めのお風呂に浸かるのも良いだろう。
 「よっと・・・。忘れ物はないか。おや?」
 辺りを見回していた圭一さんが、何かを見つけて立ち止まった。
 目を凝らさなければ分からないと思うが、木立の合間からうっすらと、朱色をした二本の柱が見える。裏山から奧に連なる山脈へと続く、古びた吊り橋であった。
 「へー、こんな橋があったのか。トラップ作りに夢中で気づかなかったぜ。」
 「あら、圭一さんはご存じありませんでしたの?確か県境へと続いていたはずですわよ。」
 「面白そうだな。ちょっと見に行ってみようか?」
 「私は何度か渡ったことがありますけど、仕方ありませんわねぇ。」
 先程までの疲れ切った顔はどこへやら、圭一さんは目を輝かせて吊り橋へと向かっていった。男の子というものは、どうしてこう吊り橋とか断崖とか危険な場所が好きなのだろう。
 私は呆れた顔をして、走り去る圭一さんの後を追いかけた。
 
 
670トラップバスター ◆CoudB9M4c2 :2007/10/26(金) 11:23:18 ID:wjRfaFDd
 
 「うおっ、こりゃ結構高いな・・・。」
 谷河内から興宮に流れるこの川の渓谷は、驚くほどに深い。
 高所恐怖症の人でなくても、切り立った岩壁や清流に所々顔を出している岩を見ると、恐ろしさを感じるに違いないだろう。
 おまけに、予算不足か計算ミスか、この橋は良く揺れるし脇のロープの縛りも甘い。そのためか、向こう岸に渡る数十メートルの間が非常に遠く感じられた。
 「あらあら、流石の圭一さんも怖じ気付いてしまいましたこと?」
 欄干に手を掛けて下を眺める圭一さんを、いつもの癖で挑発してしまう。
 「へっ、橋があれば渡りたくなるのが男ってモンだぜ。噂じゃあ、来年公開されるあの考古学者の冒険映画の続編にも、吊り橋のシーンがあるって話だしな。」
 それに乗る形で、圭一さんが吊り橋に足を踏み出す。ぎしり、と綱が軋む音がして橋桁が揺れた。
 「へぇ、意外に揺れるな・・・。」
 中程まで来ると、圭一さんはロープに手をかけ下を覗き込んでいた。静かに後を付いてきていた私の心に、ふと悪戯心が宿る。そっと圭一さんの背後に近づき、無防備な背中に向けて手を伸ばそうとした。
 わっ、とでも言って驚かすつもりだった。驚いた圭一さんの顔を見たいと思っただけだったのだ。
 だから私の手が、圭一さんの背中に触れた瞬間。あの忌まわしい記憶が蘇るとは、想像だにしなかったのである。

 『死んじゃえぇぇ!!人殺しぃぃぃぃっっっ!!!!』

 え、え、え?
 何これ?
 こんなこと私はしていない。圭一さんを橋の上から突き飛ばすなんて、そんなこと・・・。

 (何をおっしゃっているのですか北条沙都子ッ!)
 (忘れてしまいましたの!?あなたが圭一さんに何をしたのかを!!)
 
 あああああああああ!
 やめて、やめてっ!思い出させないでぇッ!!
 圭一さんはここに居るんだ。だからするはずない、私が圭一さんを殺すなんてするはずがないぃぃッ!!

 (あは、あははははははは。本当にお目出度い人ですわね、あなたは。)
 (覚えていないのでいらっしゃいますこと?ここではない、どこか、しかし現実にあった世界のことを)
 (いいこと?あなたは圭一さんを橋の上から突き飛ばして、殺した。)
 (地獄を見せられていたあなたのために誰よりも尽くし、励まし、鉄平を殺すことまでした圭一さんを)
 (疑って、恨んで、最後には自分自身が生き残るために、殺した。)
 (本当は覚えているんでおいででしょう?自分が勘違いによって圭一さんを殺してしまったことを)

 いやああああああああああああああ!!!
 覚えている。私は覚えているッ!
 圭一さんに殺されると思った。「自分が呪った人間が死んでいる」との言葉を真に受けて、そして梨花が腹を割かれて殺されているのを見て。
 だからこの橋に誘い出した。背中を向けさせて橋から突き落とした。
 最後まで呪いの言葉を浴びせかけて。

 (それだけじゃありませんことよねぇ。あなたは三年前も殺していたんでしたわねぇ)
 (お義父様とお母様を、展望台の上から突き飛ばして、殺した)
 (あなたと仲良くなりたいために、家族旅行に連れて行ってくれたのですのよねぇ)
 (あなたに嘘を付かれてから、あなたに好かれようと、懸命に自分を変えようとしていたお義父様を)
 (自分を殺そうと思っている?を〜っほっほっほ。そんな馬鹿げた妄想で殺されてしまったのですねぇ。可哀想なお義父様とお母様)
 
 うあ、うあ、うあぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!
 殺した、私が殺したッ!
 無防備な両親を、背中から、無慈悲に突き飛ばして、殺したッッ!!
 私がお義父様に意地悪したから、仲良くしようとして遠くに連れて行ったことを、私を殺す算段をしているのだと思って、先手を打った!!
 
 (ああ、そうだ。にーにーもあなたのせいでいなくなったんですっけ)
 (そうそう、叔母様のイジメからあなたを守るために庇ったから、疲れ果てて)
 (酷い人ですわね、あなたは。この人殺し。)
 (何が死んじゃえ、人殺しですの?あなたこそが、人殺しではなくて!?)

 えぁ、おぅ、を、をををををを。
 あああああああああああああっっ!!!
  
 
671トラップバスター ◆CoudB9M4c2 :2007/10/26(金) 11:23:57 ID:wjRfaFDd
  
 最初は、俺が振り向いた顔があまりにも恐ろしかったので、沙都子が驚いたのだと思った。
 そりゃあ、橋の上で突然背中に触れられたら誰だって驚いた顔をするだろう。
 しかし、沙都子の様子を見ると、その様子は俺の顔だけに驚いたものではないのだと、すぐに分かった。
 「さ、沙都子・・・?」
 俺は両手で顔を覆った沙都子の肩に手を置いた。その瞬間
 「ご、ごめんなさい。ごめんなさい、ごめんなさい圭一さんっ!!」
 俺の手が、強く打ち払われた。数秒遅れで痺れるような痛みが掌に伝わる。
 「ど、どうしたんだよ。いきなり?」
 沙都子の気に障ることでもしたのだろうか?俺は努めて優しく声をかけた。
 しかし、沙都子は俺を見据えたまま首を振るだけで、徐々に後退りを始めていた。あの、ごめんなさいという謝罪の言葉を繰り返しながら。
 「おい、沙都子。一体どうしたんだよ?俺、何かしたのか?」
 「け、圭一さん。近づかないで、私に近づかないで下さいましッ!」
 「ご、ごめんよ。気に障ったことをしちまったのか?」
 「違いますの、圭一さんは何も悪くございませんの・・・。悪いのは私なんですのッ!!」
 話が噛み合わない。俺は沙都子に何が起こったのか理解できず、戸惑うことしか出来なかった。しかし、次に発した言葉は、俺の混乱を更に加速させるものだった。
 「ごめんなさい、ごめんなさい圭一さん。圭一さんを殺した私を、どうか許して下さいましッ!!!」
 はぁ?沙都子は何を言っているんだ。俺を、殺して、ごめんなさいだと・・・?
 「ば、馬鹿言うなよっ!俺は生きてここにいるだろっ!?訳が分かんねぇよっ!!」
 本当に訳が分からない。何かの拍子で、沙都子は錯乱してしまったのだろうか。
 俺は沙都子に駆け寄り、その肩を強く掴んだ。「しっかりしろ!」と声をかけたかったのだが、その前に沙都子の叫び声が、俺の言葉を遮った。
 「い、嫌あぁあぁぁあぁぁぁッッ!!」
 想像以上の力で、沙都子は俺の手を振りほどく。あまりに勢いが付いたため、それが腿に当たって激しく音を建てた。
 「だ、駄目です圭一さん。私に近づくと、私はあなたに酷いことをする!だから私に近づかないで!!」
 「お、おい。俺は何もしない。何もしないんだ。だから落ち着いてくれよ。」
 「私がするのですッ!このままでは私はもう一度圭一さんを殺してしまうッ!いや、みんなを殺してしまうんだ。梨花も、詩音さんも、魅音さんもレナさんも羽入さんも、お義父様とお母様を殺した時のようにィッ!!」
 一際大きく叫んで沙都子が踵を返し、全速力で元来た方向へ掛けだす。
 「おいッ!待てよ沙都子!!」
 あまりにも一瞬のことで、伸ばした俺の手は空を切った。急な動きに橋が揺れ、バランスを崩した俺と沙都子との距離が開く。
 橋を渡り終えた時には、沙都子の姿がようやく見えるような状況だった。

672トラップバスター ◆CoudB9M4c2 :2007/10/26(金) 11:25:20 ID:wjRfaFDd
「沙都子、沙都子ぉーっ!」
 山道を全速力で追いかける。俺と沙都子との距離は、橋からわずかに縮まっていた。
 しかし、この場所は沙都子の庭みたいな場所であり、おまけに自衛隊お墨付きのトラップがあちこちに仕掛けられている。
 言うなればここは地雷原。文字通り「地雷を踏んだらさよなら、さよなら、さよなら・・・。」だ。
 だが、地雷の炸裂は意外に早くなってきた。それも、前を走る沙都子の身に。
 「あッ!」
 叫び声を上げて、沙都子が地面に激しく叩き付けられた。ほんの少し道を外れた所に仕掛けられたロープに足を取られたのだった。
 「お、おい。大丈夫か!?」
 「ひッ、圭一さん!・・・あああ、ごめんなさい。ごめんなさい!!」
 助けようと駆け寄った俺を見ると、沙都子はもつれる足で立ち上がり、さらに走り出した。衝撃のせいで血が滲み出ている膝小僧が痛々しい。
 だが俺は、沙都子が自分で作ったトラップに引っかかった事に衝撃を覚えていた。
 この地雷原を誰よりも理解しているはずの沙都子が、混乱のために恰好の餌食となっている。普段言っていたじゃないかよ『相手が混乱すればするほど、トラップは華麗に決まるものですわ〜♪』って!
 沙都子、お前が混乱しちゃ駄目だろ・・・!
 俺の心配をよそに、沙都子は次々とトラップに引っかかっていった。
 丸太落としのロープに足を引っかけて下敷きになりそうになるわ、落とし穴に寸手の所で落ちそうになるわ、胡椒入りの袋の直撃を受けるわ・・・。
 竹林に偽装した武者返しのトラップに掛かりかけた時は、流石に肝を潰した。誰だよ、あんな竹の槍襖みたいなモンを教えたヤツは!刺されば下手すりゃ死ぬぞ!!
 
 幸か不幸か、トラップのおかげで沙都子の足が遅くなってきた。かつて山狗のリーダーと魅音が一騎打ちをしたあの小屋の近くで、俺は沙都子に近づくと、ラグビーのタックルをするような感じでその腰に飛びついた。
 ザッ、と音を立てて、二人の体が地面に倒れ込む。庇うように沙都子の体を抱え込むと、埃を吸い込まないよう、背中を地面に付けるようにした。
 「いっ、嫌あぁぁっ!!離して、離してェッ圭一さんッッ!!」
 戒めから逃れようと、沙都子は手足と体を必死で動かした。それを押さえるため俺は沙都子の手首を掴み、足を膝で押さえて馬乗りの形になった。
 「くうっ!」
 それでも、沙都子の爪が俺の手首辺りに食い込む。激しく立てられた爪が肌を抉る嫌な感触がした。
 しかし離すわけには、これ以上沙都子をトラップの海に放つわけにはいかない。俺は痛みに耐えながら沙都子を正気に戻すべく、声を掛けた。
 「へへっ、捕まえたぜ。もう、逃げられねぇぞ・・・。」
 落ち着かせるために、努めて普段通りを装う。その甲斐あってか、沙都子の焦点が俺の目に合わさった。

 
 
673トラップバスター ◆CoudB9M4c2 :2007/10/26(金) 11:26:18 ID:wjRfaFDd

 捕まってしまった。
 私は必死に圭一さんの手に爪を立て、この場を何とか逃げようとした。
 だって、そうしないと私は圭一さんを殺してしまうのだ。今は良くても私という存在がある限り、私に関わった人は不幸になる。
 両親も!にーにーも!梨花も!みんなも!そして圭一さんも!!
 私は狂ってしまって、いずれみんなを殺してしまうんだぁぁ!
 「へへっ、捕まえたぜ。もう、逃げられねぇぞ・・・。」
 そんな私に、普段と変わらぬ圭一さんの声が聞こえた。何故?私に抵抗されて、爪を立てられて痛くてたまらないはずなのに、どうして?
 私は圭一さんの顔を覗き込んだ。遊んでいる時と同じ、悪戯っぽくて優しい顔。
 だが、口元が歪んでいる。耐えているのだ。私によって与えられている痛みに、耐えているのだ・・・!
 「けい、いちさん。」
 指から力を抜く。爪の間に圭一さんの血肉がこびり付いた感触がある。
 「いきなり、どうしたんだよ。闇雲に走っちゃ危ねぇぞ。」
 言われてみて初めて、体のあちこちに鈍痛があるのを感じる。覚えているはずのトラップの位置が思い浮かばず、引っかかってしまった時に出来た傷の痛みだ。
 「だ、駄目ですわッ。私に近づいては!私は圭一さんを殺したくないんですのッ!!」
 「いい加減にしろ沙都子ッッ!俺を殺すとか、近づけば不幸になるとか何言ってんだよ!!」
 「・・・私は覚えているんですの。ここではない、でもここに良く似た世界で、私は圭一さんを殺してしまった!この手で、お義父様とお母様にしたように、突き飛ばしてッ!!」
 「え?何だって・・・!?」
 圭一さんの目が驚きに見開く。
 何という、失言。私が一生抱え続ければならない罪が、圭一さんに知られてしまった。
 人類最大の罪悪、親殺しの罪。
 「嫌ああああああああああっっっ!!!」
 私は思い切り体を動かす。思いもよらない言葉に衝撃を受けたのか、圭一さんの膝からは力が抜けており、案外簡単に足が外れた。
 その足が、正確には膝が偶然にも圭一さんの鳩尾に入る。
 「ぐふっ!」
 圭一さんの両手から力が抜ける。私はその手を振り解くと崩れ落ちる圭一さんを尻目に、元来た道へと駆け出した。
 もう、終わりだ。
 私が一番秘すべき罪を、一番知られたくない人に知られてしまった。それはこれまでの関係の終わり、「友人としての沙都子」から「罪人としての沙都子」への変化を圭一さんに強いること。
 ごめんなさい、圭一さん。私はこれから罪を償いに行きます。
 関わった人間を不幸にする、本当の「オヤシロさまの使い」は消えるべきなのです。
 もう一度あなたを不幸にする前に、私は自分自身に決着を付けます。
 にーにー。もう一人の私のにーにーを守るために、私に力を貸して・・・。  
 
  


674トラップバスター ◆CoudB9M4c2 :2007/10/26(金) 11:27:01 ID:wjRfaFDd
  
 迂闊だった。俺ともあろうものが、あんな事でショックを受けるなんて・・・。
 リュックを捨て、痛む腹を押さえながら、俺は沙都子の追跡を再開していた。
 沙都子は元来た道を戻っている。その歩みは遅いが俺も先程の一撃で力が出ず、追い掛ける速度は沙都子とさほど変わらない。
 
 『ここに良く似た世界で私は圭一さんを殺してしまった!』
 『お義父様とお母様にしたように突き飛ばしてッ!』

 さっき沙都子が言った言葉が蘇る。
 ここと良く似た世界・・・。前に梨花ちゃんが言っていた別世界での出来事ということか?
 今、俺達の目の前にあるように、本来世界というものは一つしかないものだ。この世界での出来事は歴史となり、この世界での死はそのまま存在の永遠の喪失となる。
 しかし梨花ちゃんによれば、世界というものは一種のゲームにおける選択の内、最終的に選択されたものの積み重ねなのらしい。
 親父の持っている「信長の野○」(今年の四月に発売)というゲームに例えてみよう。あのゲームはプレイヤーの選択と、コンピューターがランダムに選択した行動により展開が様々に変化する。
 それでいて途中経過を記録することができ、結果に満足のいかないプレイヤーは保存した記録から世界のやり直しが可能となるのだ。
 ここで問題となるのは、プレイヤーが記録しなかった世界はゲームの登場人物にとって存在しない世界となるが、当のプレイヤーにとっては、かつて存在した世界として記憶に残っているのだということである。
 梨花ちゃん(もしくはその上の存在)をプレイヤーとするならば、俺達のようなゲームの世界の登場人物が、起こりえなかった世界の記憶を持つことは本来ありえない話なのだ。
 そのありえないことが、沙都子に起こっているということなのか・・・。
 もしもそれが幸せな世界の記憶だったら、沙都子にとって幸福だったのだろう。しかし、蘇ってしまったのは俺を殺したという悪夢のような世界の記憶。
 胸が痛んだ。俺にも忘れたい、思い出したくもない忌まわしい記憶がある。
 無力な幼女達を狙った連続襲撃事件。その記憶を無理やり蘇らされる羽目になるなんて、考えたくもない。
 加えて、別の世界での記憶は両親を突き飛ばして死に追いやったという、封印されていた記憶まで揺り起こしてしまった。
 二年目の綿流しの祟りと言われるあの出来事について、俺は断片的な情報しか知らない。しかし、梨花ちゃんや大石さん、監督に赤坂さん達の話を総合して考えると理解できる。
 その真相は、雛見沢症候群による疑心暗鬼が引き起こした悲しく、残酷な事件。
 沙都子は自分の身を守ろうとしただけのことだった。しかしその目的は、両親を死に追いやるという最悪の形で敢行されてしまったのだ。
 気づけば、俺の目に涙が浮かんでいた。
 遠い、うっすらとしか覚えていない記憶。
 俺にもそういうことがあったのかもしれない。殺されると思って、俺を救おうとした仲間を逆に殺してしまった喜劇にも似た悲劇。
 思い出せないが、知っている。俺はその悲しみを!辛さを!苦しみを知っている!!
 「そうなんだよな、お前が一番、辛いんだよな。沙都子・・・。」
 多分、沙都子の悲しみを癒せるのは俺しかいない。いや、俺が癒す、救う、絶対に助け出して見せるッ!!
 沙都子に殺されたという世界の俺も、同じことを考えるはずだろう。例えもう一度殺されるのだとしても、あいつの笑顔を守るためならば、惜しむものはないッ!!
 
 
675トラップバスター ◆CoudB9M4c2 :2007/10/26(金) 11:28:37 ID:wjRfaFDd
 吊り橋に戻った頃には、俺と沙都子の距離は大分縮まっていた。しかしあと一歩のところで、橋桁への進入を許してしまう。
 橋の真ん中に至った所で沙都子はこちらに向き直り、脇のロープを握り締めた。俺との距離はあと三歩といったところか。
 「圭一さん。もう来なくてようございましたのに・・・。」
 沙都子が力なく笑った。その笑顔には全く精気が無くて、まるで人形のような瞳をしている。
 「でも、最期の最期で、圭一さんのお顔が見れて幸せでしたわ。本当に、良かった。」
 目を閉じて、すっ、と沙都子がジャンプする。その動作はまるで垣根を乗り越えるようで、本当にあっけなかった。
 「さよなら、にーにー。」
 消える間際の沙都子の声が、俺がお前のにーにーだと認めてくれたその声が、幸せそうに響いた。

 
 
676トラップバスター ◆CoudB9M4c2 :2007/10/26(金) 11:29:16 ID:wjRfaFDd

 ほんの少しの浮遊感。あとは自然落下に任せてはい、おしまいのはずだった。
 しかし、最後までロープを掴んでいた左手が離れるのが一瞬遅くて、その手首が強い力で引っ張られた。
 「に、にーにーッ!!」
 死ぬまで開くことがないと思っていた私の目に映ったのは、信じられない光景だった。
 脇のロープを右手で掴み、圭一さんが私の手首を堅く握り締めている。身を乗り出すという段階ではない、私と同じように全身がロープの外にあったのだ。
 「くっ、間一髪ってとこかな・・・。」
 手を伸ばしただけでは届かないと思ったのだろうか、圭一さんはロープの隙間から飛び込んだのだ。一歩間違えば自分が飛び降りる羽目になるというのにッ!
 「駄目です、手を離して下さいましッ!このままではにーにーが・・・。」
 「い〜や、駄目だ。上がる時は沙都子、お前と一緒だぜ。」
 重いわけではないが、私の体重は圭一さんの半分以上はある。この状況が長く続くわけが無かった。
 私は圭一さんの手を振り解こうとした。私が落ちることで、圭一さんの負担を軽くする必要があった。
 しかし、圭一さんの手は堅く握られており、放す気配も無い。逆に私が暴れることで圭一さんが力尽き、巻き込む恐れがあった。
 やむなく、私は抵抗を止めて圭一さんに身を任せた。
 「どうして、どうしてッ!私みたいな疫病神、死んだ方が良いのですわッ!!」
 「馬鹿野郎。沙都子が死んだらなぁ、みんなが悲しむんだよ。何より一番、俺が悲しい。」
 「駄目ですわ、私が生き残ったら圭一さんに、にーにーに不幸が降りかかる。そんなのは嫌なんですのッッ!」
 「沙都子。お前ぇ、勘違いしてねぇか・・・。」
 「え?」
 「お前がいなくなること以上の不幸なんて、俺にはないんだよォッ!!」
 咆哮と共に、私は物凄い力で圭一さんに引っ張り上げられた。徐々に私の体が持ち上がっていき、圭一さんの胸元まで引き上げられる。
 「つ、掴まれ、沙都子・・・。」
 圭一さんの言葉に、思わず手を圭一さんの首に回す。厚いとはいえない圭一さんの胸元に顔を沈めると、柔らかな香りがした。
 「けっ、これ以上上げるのは、無理みてぇだ。『火事場のクソ力』って訳にはいかねぇなぁ・・・。」
 「も、もう充分でございますわ、にーにー。私をお離し下さいまし!それなら、にーにーだけは助かりますわ!」
 「ば〜か。俺は欲張りなんだよ。俺も沙都子も助からねぇと、満足出来ねぇんだよ。」
 そこまで言うと、圭一さんは顎で橋桁を指して私に昇るよう促した。
 死ぬのは構わないが、圭一さんを巻き込む訳にはいかない。仕方なく私は圭一さんの体をよじ登ると、ロープを潜って橋桁に辿り着いた。
 「さっ、圭一さん。手を・・・。」
 すぐに圭一さんに振り返る。圭一さんは両手でロープを握っていたが、その手が既に震えていた。残された時間は少ないのだ。
 手を伸ばした時、私は圭一さんが微笑んでいるのに気づく。諦観の入ったその笑みに、私は不吉な感触を覚えずにはいられなかった。
 「沙都子、お前じゃ支えきれねぇだろ。それにもぅ、手の感覚が無ぇんだ。」
 残酷な宣告だった。私を支えるのにすら苦労した圭一さんだからこそ分かる冷静な分析。
 「そ、そんなッ!圭一さん!何とかならないのですのッ!?」
 「無茶言うなよ。これでも、無理してるんだぜ・・・。」
 苦しげな圭一さんの声、伸ばしても決して受け取ろうとはしない、頑なに閉じられたその両手。全てが私の心を突き刺す。
 「あああああっ!私のせいで、私のせいでこんなぁ・・・。」
 「泣くなよ、沙都子。俺が消えても、笑っててくれ。新しい生活を迎えて、笑ってくれ。それだけは、約束してくれ・・・。」
 思い出す。最期の、あの時の圭一さんの言葉を。私に突き落とされて、殺される直前にも私のことを思ってくれていた圭一さんの言葉を。
 私の心がこれ以上傷つかないように、怖がらせないように、落ちる時まで笑っていた圭一さんの顔を。
 繰り返すのか、私は。圭一さんを目の前で失うことを。両親を失うことを繰り返すのか!?
 もう嫌だ!もう、自分の目の前で人が死んでいく様を見ることは、もう嫌だぁぁぁぁっ!!
 「うわあぁぁぁぁぁぁっ!!」
 圭一さんの手が離れた瞬間。私はロープに足を絡め、圭一さんの右手をしっかりと掴んだ。
 圭一さんが私に離すよう叫ぶが、聞こえない。離すもんか、絶対に離すもんか。
 「もうにーにーを殺すものかぁぁッ!二度と、私は二度と失わないんだああっ!!」
 どんなことがあってもこの手を離さない。疑うのならば試してみろ、この北条沙都子の覚悟を試してみろォォッ!!

 
 
677トラップバスター ◆CoudB9M4c2 :2007/10/26(金) 11:30:02 ID:wjRfaFDd
 
 必死になって俺を支える沙都子を見て思う。
 出来るじゃないかよ。お前、人を救おうとしているじゃないか、罪を償おうとしているじゃないかよ・・・。
 しかし、人間の力には限界がある。苦痛に顔を歪める沙都子に、その限界が近づいているのは明らかだった。
 「畜生ォォッ!誰か、俺はどうでもいいッ!沙都子を、沙都子を助けてくれぇっ!!」
 来るはずの無い助けを求める声が、山中に響く。神様でも、悪魔でも、オヤシロさまでもいい!誰か沙都子を助けてくれぇ・・・。
 全てのものに俺が祈った瞬間。奇跡が起きた。
 「どうしたんだっ!」
 近くで響く、力強い男の声。さらに俺が叫ぶと、まるで機関車が走るような地響きが近づいてきた。
 「「富竹さんっ!!」」
 まさか、ありえない。沙都子を抱え上げた姿を見るまでは信じられなかったが、その頼りなさそうな顔は正しく富竹ジロウさんだ。
 「沙都子ちゃんは大丈夫、次は圭一くんだね。三四さん!手を貸してっ!」
 信じられないことに、鷹野さんまでそこにいた。俺達との戦いの後、行方知れずになっていたのに、どうして・・・?
 「よっと・・・。もう、大丈夫だね。驚いたよ、こんな所で二人がぶら下がっているなんて。」
 橋桁に足が付いて始めて、俺は自分が助かったことを実感した。腰が抜けたような気がして思わずその場に座り込む。
 少し向こうでは、鷹野さんが沙都子の介抱をしていた。沙都子自身も突然の再会に戸惑っているようで、目を白黒させている。
 「本当に、有難うございます、富竹さん。もし、富竹さん達がいなかったら・・・。」
 「いやぁ、人の命を救うのが自衛官の使命だからね。礼には及ばないよ。」
 照れ隠しに笑う富竹さんに、この場所にいる理由を聞いてみた。何でも、鷹野さんのリハビリを兼ね、偶然この辺りを散策していたらしい。
 戦いが終わった後、鷹野さんには雛見沢症候群の発症が認められたらしく、現在は入江診療所で秘密裏に治療を受けているということだった。
 謹慎に近い形で外出もほとんど許されていないそうだが、富竹さんが来た時は尋問のためという名目で、このように気分転換をかねて遠出をすることが許されているそうだ。
 理由はともかく、本当に助かった・・・。
 「そうね。罪というものを償うことなんて、本当は出来ないのかもしれない。」
 富竹さん持参の魔法瓶に入っていたコーヒーを飲んでいると、鷹野さんと沙都子の話が聞こえてきた。
 鞄の中から消毒液を探す富竹さんを尻目に、その話に耳を傾けてみる。
 「罪を償っても死んだ人は、お義父様もお母様も帰ってきませんわ。それならば、私はどうすれば許されるんですの・・・!」
 「ねぇ、沙都子ちゃん。罪の償いと言うものは、許されるためにするものなの?」
 「それは、違うのですか?」
 「許されないならば、罪を償う必要はないの?私は許されなくても、罪は償い続ける必要があると思うの。許すべき人がいないならば、尚更の事とおもうわ。」
 「許されることがないと分かっていてもですの?」
 「ええ。沙都子ちゃん、私の手はあなた以上に血みどろよ。直接手を下さなくても、多くの人の命を私は奪った。死刑台に登れと言われても、何の弁解の余地はないわ。」
 「死刑台・・・。」
 「でも、死んで許されるほど、私の罪は甘くない。それこそ百回死んでも足りないかもしれないわ。それでも沙都子ちゃん、私は自分が断罪されるその日まで生きてやろうと思うの。」
 「許されなくても、生きるのでして・・・?」
 「私を殺したいという人がいたら、いつでもこの命を差し出す覚悟は出来ている。でもその直前まで、私は自分が選んだ贖罪の道を進んでいくつもり。」
 「許されるためではなく、償うために生きるということですの?」
 「それはとても険しい道よ。でも、私は一生この十字架を背負って生きる。私のしたことで罵倒を受けるならば甘んじて受けるし、牢屋にだって死刑台にだって行っても良い。それでも」
 ふと、鷹野さんが富竹さんを見る。その目はとても優しくて、俺達と戦った時からは考えられないほど澄んだ瞳だった。
 「私を支えてくれる人が、大切な人が求める限り、私は自分からその命を投げ出そうとは思わない、どんな罪悪感に苛まれても、人としての生を全うしていこうと思うの。」
 「・・・・・・。」
 「自分の罪に背を向けないで、ずっと見つめていくのは辛いことよ。でもね、一人では重すぎる荷物も、傍にいてくれる人が居ればきっと耐えられるから。」
 鷹野さんの目が俺に向けられる。何を言いたいのかが痛いほど伝わり、俺は鷹野さんに力強く頷き返した。


 
678トラップバスター ◆CoudB9M4c2 :2007/10/26(金) 11:30:52 ID:wjRfaFDd

 送ろうかという富竹さん達の誘いを丁重に断り、俺達は小屋の前まで戻ってきた。捨てたリュックを取りに戻る必要があったし、今は落ち着く時間が必要だった。
 小屋の扉を開けると、埃っぽい臭い。元々は営林署の機材置き場だったというこの小屋は、今現在使われていないため沙都子の別荘のようになっていた。
 備え付けの毛布を敷き、並んで座る。見渡すと、四畳半ほどある室内に、トラップに必要な機材や備蓄用のお菓子等が置かれている。
 それ以外は証明用だろうか、古びたカンテラが棚に座っていた。
 「大丈夫か、沙都子。」
 富竹さん達と別れてから思うことがあったのか、沙都子はあまり喋らなかった。もしかして痛みがぶり返したのかと心配になる。
 「私は大丈夫ですわ。それよりも。」
 沙都子は俺の手首を見た。爪で抉られた傷が、生々しく残っている。
 「あ、ああ。これか。んなもん、唾つけときゃすぐ治るよ。それよりも、俺は・・・。」
 「唾を付ければ治るんですの・・・?」
 沙都子の膝の事を言おうとしたのだが、俺の言葉を遮って沙都子が俺の手を取る。顔が間近に迫って、心音が高鳴った。
 「って、おわっ、沙都子ッ!?」
 手首にわずかな刺激と、そして湿り気を帯びた粘着感があった。沙都子が俺の傷口に唇をつけ、舌を這わせたのだった。
 ちろちろと、赤く染まった傷口に桜色をした沙都子の唇が重なり、舌がそれを優しく舐める。
 手首に対するキス。一つ一つ丹念に舐め取る沙都子の唇にはとても色気があって、俺はしばらく放心していた。
 「ん・・・。私のせいで、こめんなさい、圭一さん・・・。」
 贖罪の言葉を告げながらの口付け。ぞわぞわと背中から背徳感が込み上げてくる。
 「気にするなよ。俺だって沙都子に、怪我、させてる・・・。」
 俺は沙都子に膝を立てさせた。すりむいた膝小僧は鷹野さんに消毒してもらっているが、包帯も絆創膏もしていないためか、また赤く滲んでいた。
 その膝に、沙都子がしたように口付ける。やはり刺激があるのか、沙都子がわずかに声を漏らす。
 普段は嫌悪感しか覚えない血の味だが、沙都子のものだと思えば甘さすら感じる。ほんの少し吸血鬼の気分が理解できる気がした。
 薄暗い小屋の中で傷口を舐めあう俺達。それは体だけじゃくて、心の傷を舐めあうということでもあった。
 「沙都子。もう、死ぬなんて言うなよな。」
 傷口を舐めながら、沙都子に囁く。
 「さっきも言ったけど、お前がいなくなること以上の不幸は俺にないんだからよ・・・。」
 「・・・私にとっても、圭一さんがいなくなること以上の不幸はありませんでしてよ。」
 「ははっ、じゃあお互いいなくならなきゃ問題ないってことだ。」
 傷口から唇を離して、沙都子を見つめる。沙都子はまだ手首へのキスを続けていたが、俺の視線に気づいてキスを止め、目を伏せた。
 「でも、私は親殺しの犯罪者で、雛見沢症候群の患者で、とんでもない人間なのですわ、こんな人間−」
 「馬鹿っ!」
 沙都子の自己嫌悪をこれ以上聞きたくなくて、俺は沙都子を抱きしめた。思ったよりも小さな、それでいて柔らかな体が密着する。
 「あ・・・。」
 電撃に遭ったかのように、沙都子の体が震えた。拒否ではなく、嬉しさで、自分を受け止めてくれる人を見つけた喜びによって。
 「お前がどんな人間でも、俺はお前の傍にいる。お前が泣いていても、俺がすぐ笑わせてみせる。駄目なんだ。俺はお前が笑っていないと駄目なんだ。」
 「圭一さん。私、生きていてもいいんですの?私笑っていてもいいんですの?」
 「ああ、どんな奴がお前を罵ろうとも、お前を不幸にしようとも、俺だけは傍にいるぜ。だから沙都子、俺だけのためでもいいから、生きると言ってくれないか。」
 「圭一さん、圭一さんッ!!私、生きます。お義父様やお母様、にーにーに謝りながらでも生き続けてやりますわっ!う、うぅ・・・うわああぁぁぁぁぁん!!」
 堰を切ったかのように、沙都子はこれまで我慢していた涙を流した。こんな小さな体でとても重たい十字架を背負っていたんだ。我慢した。よく我慢したんだよな、沙都子。
 俺は泣くだけ泣いた沙都子の涙を拭い。思い切りその頭を撫でてやった。
 その、撫でられて微笑む沙都子の顔があまりにも可愛いかったから、何の予告もなしに、俺は沙都子の唇にキスをしてしまったんだ・・・。


 
 
679トラップバスター ◆CoudB9M4c2 :2007/10/26(金) 11:31:36 ID:wjRfaFDd
 
 ファースト・キスがこんな形で奪われるとは思ってもいなかった。もっと、こう、優しく。お互いの了解を得て行うものだと思っていた。
 萎んだゴムのように圭一さんの唇は私の唇に絡みつき、不器用に動く。全然ロマンチックじゃない、無骨そのもののキス。
 でも、嫌じゃない。シチュエーションに違いこそあれ、相手は私の理想とする人だったのだから。
 
 良かった。相手が圭一さんで。そして、圭一さんが私の罪を全て知っても私を受け入れる人で良かった。
 鷹野さんが語ってくれた罪に対する償いの姿勢。許されるために償うのではなく、償うという覚悟を貫いて生きるということ。
 本当に辛い、苦難の道。きっと私の人生が終わるまで続く終わりの見えない旅。
 でも、その旅を支えてくれる人がいる。一緒に十字架を支えてくれる人がいる。それは罪深い私に起こった奇跡。
 私はこれからも周りの人を不幸にする運命なのかもしれない。だが、圭一さんが傍に居れば、その運命すら打ち破って見せてくれる気がする。
 
 「圭一さん。も、もう少しだけ下ですわ・・・。」
 日が傾きかけてきた頃、私は一糸纏わぬ姿で圭一さんを受け入れようとしていた。
 背中には乱雑に脱ぎ捨てられた私と圭一さんの服と下着があり、目の前には分身に手を当てて私自身に沈み込もうとする圭一さんの姿がある。
 「こ、ここか・・・。」
 何度目かの挿入に失敗し、圭一さんは焦りの色を隠せないようだった。朱色に染まった太い圭一さんの分身が、何も生えていない私の恥丘を滑っていた。
 「大丈夫ですわ、こうすれば・・・。」
 自分でも驚くほど淫らに、男性を受け入れる部分に指を当てて広げる。何も隠すものがない私の女性自身が圭一さんに晒されていると思うと、形容しきれない快感が私の中に込み上げてくる。
 『時には情婦のように』という歌があるが、私は圭一さんのための娼婦になることに、何の抵抗も無かった。
 「いくぞ、沙都子・・・。」
 痛みと共に、圭一さんが侵入してくる感触があった。ほんの少し、先端が埋没しただけで全身を引き裂かれるような衝撃がある。
 「だ、大丈夫か。沙都子!?」
 「く、思ったよりは痛くございませんわね・・・。もっと、奧によろしいですわよ・・・。」
 嘘だ。母がこんなものを好んでいたとは信じられないくらいに痛い。
 圭一さんが私の奥底に入り込むため腰を進めるが、その度に激痛が走る。見ると私と圭一さんが繋がっている部分からは、うっすらと血が滲んでいた。
 「おい、我慢するなよ。痛いんだろう!?」
 「だ、大丈夫ですわ。この程度の痛みなんて、痛みなんて・・・。」
 歯を食いしばりながら答える。圭一さんのためなら自分の全てを捧げる覚悟はとっくに出来ていた。圭一さんが望むなら、命だって差し出しても構わないんだから・・・ッ!
 だが圭一さんは、私の膣内からゆっくりと分身を引き抜いた。粘液と血液の混じったものが、夕日を受けて輝く糸を引く。
 「け、圭一さん・・・。」
 私では、幼い私の体では圭一さんを満足させることが出来なかったのだろうか?
 落胆に私の顔が曇る。そんな私の頭に、圭一さんの右手が伸びた。
 「沙都子、俺も初めてだからよく分かんないけど、こういうのってお互いが気持ち良くならないと駄目だと思うんだ。」
 いつものように、温かい手の平が私の頭を優しく撫でる。それだけで、私は全身が悦びで満たされていくのを感じた。
 圭一さんは、母を抱いていた男達とは違った。あの連中ならば、欲望のためなら相手の事も考えず、ただ腰を振り続けただろう。
 しかし、圭一さんは快楽を目前にしても私のことを気に掛けて、その欲望を抑えた。
 男の欲望を嫌と言うほど知らされた私だから、その決断にどれだけの重さがあったのかが分かる。
 思春期の男子というものについては雑誌くらいでしか知らないが、女の子の事が欲しくて欲しくて、たまらなくなるらしい。
 そんな時に、目の前に自分から求めてくる女の子が居る。それは空腹時にご馳走を出されたようなものだ。
 しかもそれは初めての体験。誰もが夢見る大人の世界への甘く、甘美な扉だ。
 だが、後少し進めば得られる快感を前にして、圭一さんは行為の中止を選んだ。自分の欲望よりも、相手の身を案じる道を選んでくれたのだ。
 本当に、圭一さんの心遣いが嬉しい。でも、私だって相手に悦んでもらいたいんだ・・・。
 
 
 
680トラップバスター ◆CoudB9M4c2 :2007/10/26(金) 11:32:17 ID:wjRfaFDd

 「こういうのって、お互いが気持ち良くならないと駄目だと思うんだ。」
 苦痛に耐える沙都子の顔を見ているのに、これ以上耐えられなかった。
 俺は突き進みたい欲望を必死に押さえ、分身を引き抜くと沙都子の頭を優しく撫でた。
 そりゃぁ、俺だって沙都子の全てを貪りたい。でも、沙都子の小さな体では、俺の全てを受け入れることは無理なようだった。
 隠された部分に出来た肉の筋に先端を入れるだけで、万力に挟まれたかのような圧力が分身に走る。それは俺自身に形容しがたい快感を与えてくれたが、同時に沙都子に苦痛を強いることであった。
 本当に子供のような甘い考えだとは思うが、セックスというものは、片方だけが気持ち良いだけでは駄目だと思うんだ。
 だが、頭はそう思っていても、いきり立った俺の分身は欲望を吐き出したいと自己主張をしている。
 家に帰ったら机の奧からビニ本を出す必要があるな・・・。
 「うわっ!」
 そんなことを考えていたら、俺のその部分が柔らかいもので包まれた感触があった。見ると、沙都子が両手で俺の分身を包み、まじまじと見ている。
 「さ、沙都子!?」
 「・・・圭一さんの、苦しそうですわね。」
 先端と、竿の部分にかかった指が俺の快感を刺激して、分身が大きく跳ねる。
 「あちらなら無理ですけど、ここでなら・・・。」
 どこで覚えたのだろうか、沙都子は分身を包み込むと、上下にしごき始めた。ぎこちなく、力も自分でするのとは違って弱い。
 しかし、そのもどかしさがかえって俺に快楽を与える。年端もいかぬ少女に奉仕させる背徳感。
 ああ、今ならイリーの『沙都子メイド化計画』が理解できる。あの、強気で生意気な沙都子が俺のために懸命になっているんだ・・・。
 「なあ、沙都子・・・。擦るのも良いけど、くわえてくれないか・・・?」
 だから、俺も調子に乗ってそれ以上の事を求めてしまう。下の口が駄目なら、上の口が欲しいと。
 「こう、ですの・・・?」
 小首を傾げながらも、沙都子が俺の先端をくわえ込む。快感が電撃のように走り、一気に射精感がこみ上げた。
 「くっ、沙都子。もっと」
 優しくと続けたかったのだが、沙都子には強くと聞こえたのだろうか。先端部分が下で転がされ、強く吸われた。
 「うおおぉぉッ!!」
 どくん、どくんと欲望が放たれる。それは一気に沙都子の口中を汚し、逆流してが口元から吹き出た。
 「けほ、けほっ!?な、何ですの、これ。おしっこ・・・?」
 液体の正体を知らぬ沙都子が、口元に付いた白濁のそれを舌で舐め取る。
 その姿がとても淫らに見えて、俺は再び擡げようとする分身を収めるのに必死になってしまった・・・。


 
681トラップバスター ◆CoudB9M4c2 :2007/10/26(金) 11:33:22 ID:wjRfaFDd

 結ばれた私達が梨花との家に帰ってきたのは、日が落ちる直前の事だった。
 セックスという意味では失敗なのかもしれないが、私達は肉体的な結びつきよりも強く結ばれた気がしていて、幸せだった。
 あまりにも幸せ過ぎて、ここまでずっと両手を繋いでいた程だ。
「あっ、沙都子っ!探したのですよ!!」
 小屋の前では梨花が立っていた。圭一さんと一緒に居ることを冷やかされると思っていたが、血相を変えて走ってくる。
 「どこに行っていたのですか、鉄平が、鉄平が帰ってきたのですよ!!」
 梨花からもたらされたのは最悪の報せ、私を虐待していた叔父が、北条鉄平がこの雛見沢に戻ってくるという報せだった。
 またあの日々が戻ってくるのか、しかも今回は私を守り続けてくれていたにーにーが、居ない。
 私は膝から力を抜けるのを感じていた。鉄平の帰還はこの楽しい日々の終わりを意味する。梨花もその事を悟っているのだろう、沈鬱な表情を浮かべていた。
 「あ・・・。」
 膝がカクン、と曲がる。しかし、曲がった膝は土に付くこと無く、強い力で引き上げられた。
 「どうしたんだよ、沙都子。」
 私を引き上げてくれたのは圭一さんだった。
 そうだ、私には誰よりも心強いもうひとりのにーにーがいる。どんなことがあっても私の傍に居てくれる、誰よりも愛しい私の恋人がいる。
 覚えていないはずの記憶の中、圭一さんが見せてくれた運命への挑戦と打破。その光景がありありと浮かぶ。
 そうだ、私がトラップマスターならば、圭一さんはその罠を打ち破るトラップバスターなのだ。
 仕掛ける者と打ち破る者が一緒なら、怖いものなど何も無いではないか・・・。
 「をほほ、を〜っほっほっほっほっ☆」
 私は笑った。北条鉄平!?それがどうした。
 お前よりも辛く、高い壁を乗り越えた私が、今更チンピラ風情に屈するわけがないだろう。
 「みぃ、沙都子。どうしたのですか?」
 心配そうな顔を浮かべて梨花が尋ねる。大丈夫だよ、梨花。私はもう負けないから。
 「梨花も心配性ですわね。あんなチンピラ、私のトラップでお茶の子さいさいですわ。を〜っほっほっほっ〜♪」
 こんなに愉快に高笑いしたのは久しぶりだった。今の私ならどんな運命にも、どんな罪の重さにも耐え切れることが出来ると思う。
 圭一さん、あなたが傍にいてくれるのならば、私は無敵だ。
 秋の月が夜空にかかろうとする中、戦いの始まりを告げる私の笑い声が、いつまでも高く響いていた。


 終わり


682トラップバスター ◆CoudB9M4c2 :2007/10/26(金) 11:43:27 ID:wjRfaFDd
以上で投下終了です。

私なりの沙都子に対する「救い」を書いてみたのですが、本当に読みにくくて申し訳ありません。

罪の償いに対する考え方は、諸氏諸兄それぞれだと思います。鷹野に語らせた償いの方法も、誰もが納得できるものではないと思います。

それでも、ひぐらしの中で最も重い罪を背負っている沙都子を救う話は作れないかと、ない知恵を絞って考え付いたのがこの作品でした。

他の職人さんならばもっと良い形で纏められたかもしれませんね。

圭一と羽入の作品も、出来次第投下していきたいです。今回も乱文乱筆失礼しました。
683名無しさん@ピンキー:2007/10/26(金) 12:42:46 ID:MVo7DLws
現在486kb。
次スレ立てた。

 【ひぐらし】07th総合part13【うみねこ】
 http://sakura03.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1193370066/


>>682
あとで読ませてもらうよ
684名無しさん@ピンキー:2007/10/26(金) 13:22:55 ID:F+wWFz8y
>>682
乙、面白かったよ。
他は文句ないできなんだがエロパートが薄くないかな。
ま、童貞処女じゃあんなもんなんだろうけど…。

あとパイナップルARMY噴いた
685名無しさん@ピンキー:2007/10/26(金) 15:24:14 ID:g/nhaWar
>>682
GJ! 圭一と沙都子が愛し合ってるってのが伝わってきて良かったよ。
たしかに>>684が言う通りエロは少なめだったけど、俺としては十分だと思う。
圭一×羽入にも期待してる。自分のペースで良いからがんばってくれ。
686名無しさん@ピンキー:2007/10/26(金) 18:09:01 ID:5zP1vdPs
エロは確かに少なめだけどエロに至る展開がすごく良かった!羽入のターンも超期待!
687名無しさん@ピンキー:2007/10/26(金) 18:27:46 ID:CZCz+kFJ
ゴーシって

パイナップルアーミーかよw
688名無しさん@ピンキー:2007/10/26(金) 22:30:46 ID:TYMxFtsK
>>682
圭一×沙都子成分を補充させてもらったよ。GJ!

>>俺は松○梅のCMに出てくる七曲警察署刑事課長のように
あー年代的に分からない人が多そうだなーwww
つか、懐かしすぎw
689名無しさん@ピンキー:2007/10/26(金) 22:37:33 ID:dEU8FkVv
>>647はゴムすればもっとよかった
ちゃぷちゃぷして遊ぶ梨花ちゃまが読みたい
690名無しさん@ピンキー:2007/10/26(金) 23:34:34 ID:wkE8h8C3
>>682
圭沙は報われないものが多いからこういう終わり方でホッとした。
保管庫の方には分割して入れておきました。
羽入にも期待してます。
691名無しさん@ピンキー:2007/10/26(金) 23:40:49 ID:gR+kTEG2
>>682GJ
エロよりもそれまでの展開が
素晴らしかった つり橋での二人の
セリフがいい
692682 ◆CoudB9M4c2 :2007/10/27(土) 09:40:32 ID:jxsR8nWp
ご感想と激励ありがとうございます。

読み返すと、ご指摘のとおりエロ分を強化しないといけないと思いました。

自分は行為そのものよりも、それに至るまでの過程を重視する性質なので、次回は内容の充実に力を入れたいです。

あと、パイナップルARMYネタと裕次郎ネタを分かってくれる人がいて、驚きです。スルーされるだろうなと思っていたので嬉しかったです。

保管庫に更新して下さった方も、分割整理して頂きありがとうごさいます。

また、満足できる作品を投下することで、お礼に代えさせて頂くつもりです。
693名無しさん@ピンキー:2007/10/27(土) 10:47:52 ID:tSRXUqA2
松竹梅は俺的には渡哲也だったんだが
そういえば裕次郎もやってたっけな。
何にしても乙だぜ
694名無しさん@ピンキー:2007/10/28(日) 13:35:41 ID:oDgPLtxw
>>647です。

「梨花ちゃんのターン」完成したので投下する

俺は梨花ちゃん受けが好きなのかもしれない…
695梨花ちゃんのターン:2007/10/28(日) 13:39:56 ID:oDgPLtxw
 

 前回(梨花への求婚)のあらすじ

「求婚! 求婚!」
「断婚! 断婚!」
「えぇっ!? そんなぁ梨花ちゃんっ!」
「あ、男根の間違いだったわ」
「愛してるっ!」
「ああんっ」


『梨花ちゃんのターン』


「くぅっ……」
 ペニスを左手で撫で回す。濡れた私の性器で何度か擦っていたので、すべりはいい。早すぎず遅すぎず。
緩急、強弱を入れ替えながら、圭一がそのたびに全く違う快感に支配されるように。
 じれったいのか気持ちいいのかよく分からない声を上げる圭一。改めて、その裸を見つめた。
 当たり前といえば当たり前だけど、私より広い肩幅に無駄のない肉の付き方。どんな運動でも軽々とこな
せるのではないだろうか。色も健康的。そして……。
「……っ」
 こうやって触ってはいるけれど、実はまだ、ペニスを直に見ることができないでいた。大きさを触覚で
確認しながら、こんな大きいのが私の中に入ったのか、とじんじんする股を見る。いじられて、入れられて、
狂ったように喘いでいた自分を思い出して赤面した。
 圭一がそんな私に気づいて何か言おうとしたので、一際強くペニスを握った。
「いだっ!」
「あら、ごめんあそばせ」
「いや、それ沙都子だから……」
「私としている最中だっていうのに沙都子のことを考えるのね圭一は」
「梨花ちゃんのせいじゃん……つあっ、ごめんなさい俺が悪うござんした……」
 そう言ってまた苦悶の表情を浮かべて喘ぐ。
 その顔に、幼さはもうない。それはつまり、百年以上見続けた中学生の頃の圭一はもういないということ。
時間は確実に経過しているのだから、顔が大人びるのも当然だった。そんな圭一に私が託すのは、私の全て。
いや、もう託したといってもいい。ついさきほど、私の処女は捧げたのだから。
「……んぁ…んん…んむん……ん」
 今度は私が上になり唇を交し合う。経験してわかったことだが、下のほうがディープキスはきつい。おまけに
圭一があまりに激しすぎたし。喉に流れてくる唾液が絶え間なくて、何度しゃくりあげただろうか。首を伝って
胸にまで流れて、乳首が刺激されたせいで熱くもなった。
 眠たくなりそうなほど単調なリズムで粘膜を弾く音が響く。時々顔を放しては、まっすぐに見つめてくる瞳に
私が映っているのを確認する。
「ん…ふふ……あむ…んぅ」
 頭が真っ白になって、そのときの記憶すらうろ覚えになるくらいに激しいのもいいけれど、やっぱり私には、
こうして圭一のことだけを考えながら自分のペースで事を進めていくのが合っているのかもしれない。だから焦れる圭一には悪いと思う。
 頭でっかちな思考。百年続けたそれはこれからも変わらないだろう。
 そして、私にはない行動力。それを備えているのが圭一。きっと私が惹かれた理由の一つ。
「…ぷはっ…っ梨花ちゃんキス魔だな……」
「…………」
「んんっ!?」
 何も返さずキスに戻る。圭一から口を離したときの物足りなさ、名残惜しさに引かれて唾液の橋が形状を失う前に。
子どもみたいだと思った。いや、子どもなのだろう。どこまでも自分が自分でいられるような気がして、それはきっと私の考えるとおり。
 ――愛してるからな。
 ありがとう。私も愛してる。
 だから。ずっとあなたの傍にいさせてください。

696梨花ちゃんのターン:2007/10/28(日) 13:45:47 ID:oDgPLtxw


「……んんんっ!」
 圭一が声、というか漏らした息を荒げる。知らぬ間にキス自体が荒くなっていたのだ。
 舌先、頬の内側、それは頭がくらくらするほどに全部圭一の匂いだった。唾液交換をすると
かすかに私の匂いも紛れ込む。それを残さず飲み込んでくれる圭一がただただ愛しい。
 長い間、自覚がなかったのだろう。私は愛情を求めていた。お母さんとお父さんがいなくて、
動き出した時の中で日々広がりゆく縁の見えない空白。包み込むでも、ぶつけるでも、
その裏返しでもいい。私を愛してくれる存在が欲しかった。そんな人を私は愛せると思っていた。
 今まさに、圭一と契りを交わしている。
「……はっ、はぁっ」
 身体を起こす。圭一が息切れしながら私を下から見つめて、
「梨花ちゃん…エロい顔してるなぁ……」
 なんて勝ち誇ったように言うもんだから。
 夏休みが終わり、また暫く圭一と会えなくなることを考えて泣きそうになっていた私は、
別れを惜しむよりいついかなるときでも忘れられないような私との思い出を圭一に植えつけてやろうと思い立ったのだった。
 圭一のペニスを見る。
 掌で感じた雄雄しさなんて、こうして見てみればなんてことない。大きさや太さのことを言っているのではない。
それはひとえに、今の私の百八十度変わった視点による。天を突く、なんて大仰な表現がひどく滑稽に思えた。
ひくひくと空中を掻く様は、そこに何もないことに慌てふためいている一人では何もできない幼子そのものではないか。
 でもその行き場をいやらしく濡れた私のあそこに求めているのなら、それも悪くないわね。
 私は圭一に問う。ペニスを指でさすりながら。
「ふふ…他のところも舐めてほしい?」
「えっ、あ……。あ、ああそう……だな。梨花ちゃんの、したいように…してくれよ…」 
 明らかに下半身を意識した反応。そうさせるのが悪いと思っている気持ちと本能には逆らえない気持ちが混じり合った
複雑な表情を見せる。プラスそれを押し隠そうとしている意図ね。そうして、選択権を私に委ねたのだ。圭一は。
 詰ってやろうかとも思ったけれど、まぁいいか。そういう認識、つまり圭一へのアドバンテージさえあればいつだって、
私は余裕綽々の顔でいられるのだから。
 ただ、圭一の希望通りにペニスに顔を埋めるのは面白くないので、ふと思いついた別の行為をしてみることにする。
「まったく。何を期待しているのかしら。圭一のここは」
 私は股を開いて右脚を圭一の顔に突き出すと、そっと顎に指先を下ろし、正中線をなぞってそのままペニスへと導いていく。
そして、裏筋を指の間で挟み込むようにして擦った。
「私に舐めてほしかったのかしら? 私の舌で。禍々しく浮き出た血管を圧迫して、カリを包んで頬の肉と挟んで、
私の思うように動かせる今だけの性器の中で、慰めてほしかったのかしら? そうして最後には喉奥を精子の行き所として……。
ねぇ、圭一? でも、だめ。そんなの文字通り足蹴にしてあげるから」
「うぁあっ、梨花ちゃん全開っ……」
「ほら、また大きくなった。私の小さい指の隙間ではもう十分にしてあげられないわ」
 両足で挟み込んだ。そのまま上下運動を繰り返す。俗に言う足コキ。
「くっ、あっあぁあ……」
 
697梨花ちゃんのターン:2007/10/28(日) 13:48:36 ID:oDgPLtxw


 圭一が気持ちよさそうに喘ぐ。手とは違って不器用にしか動かせない足。こうすれば気持ちいいだろうと思って、
ただの上下運動に加えた別の力では望みどおりの反応を得られず、逆に探るようにして加えた動きでは至高の反応を得られる。
こうして、自分の一番大切なところを手中(厳密に言えば足中)に収められていて、なおも逆らおうとするのか。圭一のここは。
私は興奮する。
 そして私の圭一への嗜虐心は強まっていく。
 やがて、快感に対する認識のずれが正されてくると、私は言うのだ。
「ほらっ、こ、ここが気持ちいいんでしょっ……っ」
 ずっと股関節に力を込めたままだから、こっちも少し疲れる。そのために投げかける言葉も焦ってとげとげしさを余計に含んでいく。
「びくびくって…、震えてるわよっ……! イっ、イきたいのっ? そうなんでしょうっ?」
「そ、それやばいっ! あ、あぁっ! もう、で、射精るかもっ……!」
 圭一がそう言ったのを確認すると、私は足を止めた。
「なっ……」
 非難の眼差しを向けてくる。虚ろな瞳の奥にドス黒い感情を読み取ることができた。男の本能といえばいいだろう。
精子のように粘っこい視線が私を絡めとろうとする。圭一の意識上では、すでにもう私に欲望を放っているはずなのだった。
背筋がぞくぞくと奮える。
「はぁぁ……」
 その奮えはお尻を伝って私の中心にたどり着く。そしていやらしく涎を垂らした。
 ぬちゃ…。触るまでもなく理解していたことだけれど、とうに準備はできていた。
 圭一の上に跨る。
「一人でイクなんてだめよ、圭一。ちゃんと、こうして……ん…」
 膣口にペニスの先を宛がうと、触れてはいけないものに触れてしまったかのように腰が跳ねた。そこまで敏感な膣を
これから、奥の奥まで圭一のもので埋めていくのだ。
「ん…ふ、ふぁ…あ…あああぁ…」
 時間をかけて腰を下ろしていく。圭一の呻き声が聞こえたが気にする余裕はなかった。
「あっ! あっ、ひぅっ!」
 膣壁を押し広げて圭一が昇ってくる。昇り詰めてくるに従って快感が二乗三乗になっていった。圭一の熱さが触れている場所が、
まだ触れていない場所への快感を期待させて、もう止まれない。そうして、一番奥にまで達した。
「あぁあああっ」
 同時に、快感も軽く達した。身体が痙攣して膝が圭一のわき腹を何度かつついた。
「はっ、あっ……かはっ…」
「……梨花ちゃん、もしかしてイった?」
「…………」
 息切れしながら申し訳なく頷いた。ちらりと圭一の表情を窺うと、今にも私を犯そう襲おうとしていたさっきまでの雰囲気はなかった。
目の前でイってしまったのだからそれも当然かもしれなかった。何となく、負けたような気分。
 だから。
「イっ、イってないわよ……っ」
 と鋭い視線を飛ばした。
「今痛いほど締め付けられたんですが……」 
「けっ、圭一のが大きくなったのよ! ほ、本当に節操のないおちんちんねっ。圭一は遺伝子レベルで、
え、Mに違いないから、い、苛められて悦んだんでしょ」
 息をつかず捲し立てた。
「えーと、反論していい?」
「だめよ。そんなことしたらもうしてあげない」
「ぐっ……それは卑怯だぞ」
「そう思うなら黙って私のされたいようにされてなさい」

698梨花ちゃんのターン


 ゆっくりと腰を動かし始める。ああ、気持ちいい。
 ぬちゃり、と艶かしい音を聞きながら私は考える。
 どうも、セックスをしているとき私は情緒不安定になりがちなのかもしれない。自分のことで恥ずかしいの
だけれど、身体がかなり感じやすいようだ。圭一を苛めようと気を張っても、挿入された瞬間から全てが飛んでしまう。
快感が全ての感覚を支配してどうにもならなくなる。私が私でなくなるような感じなんだけれど、きっとそれも私に違いないのだろう。
 ……こういった行為を重ねるうち、圭一が私より優位に立つ場面が増えてくるのかもしれない。
覚悟しておかなければならない、が、それは悔しいことだった。
「うぁぁあ……気持ちいい」
 その言葉に私は嬉しくなってさらに腰を振るスピードを早くする。
「はぁっあっはん、ぅあんっ、やぁっ、あぁっ」
 圭一が子宮口を突いているのがわかる。一際感じる場所だった。膣壁をえぐられる快感がペニス状の波になって子宮口へと集約される。
そうして体中を駆けていく。胸が疼き始めたので圭一の手をとって握らせる。
「ひぅっ!」
 待ちわびたとでもいわんばかりに反応する乳首。圭一の手で圧迫されたせいか、自分の鼓動がより響いて感じられる。
もう、全てが敏感になって何もかも感じずにはいられない。私という生の息吹はたった一人の愛する人との交わりにおいて、
最も激しくなる。女に生まれてよかった、という感情の発露。
 そして、もし、このまま中出しされたら、という考えが頭を過ぎった。
「ね、ねぇ、け、あっ、けいいちっ」
「な、なんだ…梨花ちゃん…くぅ」
「このまま、ひゃあっ、膣に出して、ひっ、みない……っ?」
「うぁっ、し、締まるっ! って、え? な、中出しっ?」
「そ、そう、よっ、あんっ、また圭一が大きくなった」
「な、中出しは……って俺じゃなくて梨花ちゃんのが締まってるんだよっ、…ほらまたっ」
 腰を止める。何か聞き逃せない言葉があったからだ。
「り、梨花ちゃんっ? う、動いてくれよっ」
「圭一の言い分だと、私が中出しって言葉のたびに反応するいやらしい女みたいじゃないっ」
「えっ? ってまた締まるっ!」
「ち、違うわよっ。圭一のが大きくなってるのよっ」
「いや、そうは言っても……。こればっかりは…、なぁ……、俺が正しいように、思う……のですが……いかがでしょう……?」
 喋っている途中から睨みつけたので、圭一の言葉は尻すぼみ&敬語になる。
 それにしても、腑に落ちないことを言う。淫語に反応するなんてまるっきり変態じゃない。
そういうのはいつだって圭一の役目であるはずでしょ。これは試してみるしかないわね。
「な、中出しっ」
「へっ?」
「妊娠っ」
「なっ!? って、くっ……、あの、締まってます……」
「っ!? ち、膣内射精っ」
「それ中出しと同じ意味だからっ、あぁっ、でも気持ちいいっ」
「…………」
 圭一の反応は嘘には見えない。それだけに、納得できないものがある。このまま淫らな女という烙印を押されてしまうのだろうか。
 私は腕を組んで考えるポーズをとる。胸が火照っているのが両腕で感じられた。
「うおっ、ボリュームアップ?」
 という圭一の馬鹿みたいな声が聞こえたが無視した。