ふいに見上げれば、静かに煌めく星と満月がよく見えた。
「綺麗だね」
ライエルが広場の中央へと躍り出て、子供のようにくるりとその場で回ってみせる。
身軽そうなその動きに、そう言えば今はピアノがないのだと改めて納得する。
「明日も晴れるかな」
ライエルは星に見とれながら呟く。
空を見上げたままつっ立っているライエルに、ハーメルはゆっくりと歩み寄った。
「…それに、なんだよ」
ここまで来れば仲間たちに声が届くこともないだろう。
ハーメルはずっと宙吊りになっていた話題を再開させた。
「え?…ああ、それに、ね」
ライエルはその言葉に一瞬目を丸くして、すぐに破顔する。
「少しだけ、良かったかもって思ったんだよ」
「へ?」
今度はハーメルが目を丸くする番だった。
ライエルは草の上へと腰を下ろすと、ハーメルに隣へ座るよう促す。
「最初はね」
訝しげな顔のままハーメルが隣に座ると、ライエルは続きを語り始めた。
「やっぱり、嫌だったよ。こんなことで足止めされるなんて…さ」
「……」
その言葉にハーメルは黙り込んだ。
一体何を言えばいいのか見当がつかない。
「…でも」
俯いたハーメルの帽子を押さえるように軽く叩かれた。
驚いてライエルの顔を見る。
ライエルは目が合った瞬間にニコッと笑んでみせた。
「最近、こんな風にのんびりする時間なんてなかったな、って。みんなと日が暮れるまでただ話しをして、笑ってご飯食べて。羽休めってヤツかな」
「…ライエル」
ライエルは答えずに、再び空を仰いだ。
やわらかそうな金髪がそれにつられて揺れる。
「気付いたら結構、焦ってたみたいだ。…だから、さ」
ふうっと息を吐く。
ライエルの服の胸元がゆるりと動くのが、妙に艶めかしく見えた。