「島津……情けない話なんだけど、今、気がついちまったよ。
さっきお前に言ったよな?お前の事が気になってたって。
お前とよく話すようになってから、もっと気になりだしたんだよ。
さっきまではお前が面白いヤツだから気になるんだって思ってた」
「お、面白い?私がか?そういえばクラスメートにもそう言われたことがある」
結城とみんながそう言っているのだから、きっとそうなのだろう。
自分では面白いことなど何もしていないつもりなのだが、私のどういったところが面白いのだろう?
「でも違ってたんだよ。今、気がついた。やっと気がついたよ。
オレな、お前が気になってたんじゃない。お前が好きだったんだ」
「……す、好き?」
「あぁ、好きなんだ。お前、ヘンな勘違いしそうだから言っておくけど、L・O・V・Oの好きだぞ?」
顔を真っ赤に染め、アルファベットで自分の気持ちを説明する結城。
LOVO?聞いた事のない英単語だな。ロボとでも読むのか?知らないな。だが似たような単語は知っている。
その単語の意味は、愛や愛情、もしくは愛するなど、愛を伝える言葉として使われて……へ?
「ゆ、ゆゆゆ、結城?そ、そそその単語の発音は、ど、どどどどういった発音なんだ?」
ま、まさか、まさか結城が?まさか結城が私なんかを……そんなはずはない!
「お、お前やっぱりバカだろ?せっかく勇気を振り絞って言ったのに、こんな有名な英語も知らないのか?
……ラブって読むんだよ!何度も言わせんなよ、メチャクチャ恥ずかしいんだからな!
オレはな、お前が好きなんだ!愛してるんだよ!」
大声で叫んだ結城の言葉が頭の中でグルグルと回る。
え?……好き?愛してる?……ええ?好き?愛してる?…………ええええ?好き?愛してる?
「いきなりヘンな事言い出してゴメンな?でもな、オレ、バカだから、我慢できなかったんだ。
バカだから好きな子を前にして、自分の気持ちを黙っておく事なんか出来ないんだ。
ゴメンな?迷惑だろうけど、オレ、フラれるのには慣れてるから、思いっきりフッてくれ。
『このバカ!』って、ビンタでもしてくれたら、明日からはまた、今まで通りの付き合いが出来るから。
オレ、バカだから、そういうところは単純に出来てるんだよ。あはははは!」
……バカは私だ。言われて初めて気がつくなんて。
「……バカ。それはL・O・V・Oではなく、L・O・V・Eだ」
……バカは私だ。ホントにバカだ。バカだから、こんな簡単な英単語も知らないようなバカに……
「……結城、早く結城米穀店に行こう。お前がこんな大通りで叫ぶから、私達は注目の的だ」
「へ?うお!ホ、ホントだ。メチャクチャ見られてるぞ」
「まったく……ほら、行くぞ!」
周りから感じる視線を無視し、結城の手を握る。
結城の手を取り歩き出す。ギュッと強く握り締め、歩き出す。
「結城はホントにバカだな。結城と一緒にいると私までバカだと思われてしまうではないか」
「ぐぅ……ゴメン、よく考えたらそうだよな」
「……結城、みんなに手を繋げば分かるのではないかと言われていたんだ」
「は?なに言ってんだ?なにが分かるんだ?」
繋いでいた手を離し、結城の腕に手を回す。そしてギュッと抱きしめる。
「ふふふふ、手を繋ぐより、こうした方がより分かる。
手を繋ぐよりもずっとこっちの方がいい。これからはこうして歩くのもいいな。
さ、行こうか。おじさんとおばさんに私たちの関係を説明しなければいけないからな」
「え?ええ?なんで腕を組むんだ?説明ってなんだ?関係ってなんだ?」
まだ分からないのか?だからバカだというんだ!
「私も結城と同じく、つい今しがた自分の気持ちに気がついたということだ。
簡単に言えば……私も結城のことが好き、愛している。……ということだ」
「……へ?お前、ホンキで言ってるのか?オレの事が好き?お前……やっぱりバカだろ?」
「……ぷっ、あっはははは!そうかもしれないな!結城のような男を好きになったんだ。
きっと結城の言うように私はバカなのだろう。結城はバカな女は嫌いなのか?」
結城の腕をギュッと強く抱きしめる。
ふふふふ……腕を抱きしめる。ただそれだけなのに、何故こんなにも嬉しく思うのだ?
これがきっと、恋というものなのだろうな。
みんなが言っていた意味がやっと分かった。
『この病気にはつける薬はない』
当たり前だ。こんな素敵な病気に薬など必要ない。必要な物は……今、私の腕の中にある。
「し、島津……お、おお!オレ、バカな女は大好きだぞ!いよっしゃ〜!うおおおおお〜〜!」
突然大声で叫びだす結城。こら!いくら嬉しいからといって、叫ぶんじゃない!
またジロジロと見られてるではないか!
「こ、こら!急に大声を出すな!私までおかしい目で見られるではないか!」
「お前もバカなんだろ?だったらいいじゃん。嬉しい時は叫んでもいいと思うぜ?」
「……人前でもか?」
「おお、当たり前だ。恥ずかしがってちゃバカの名が廃るってもんだろうが!」
「そ、そういうものなのか?なら私もバカらしくするかな?」
ニコニコと嬉しそうに微笑んでいる結城の頬に、両手を添える。
私が何をするのかと、驚いている結城。私はそんな結城に顔を近づけて……ん。
「……ん。な、なかなかバカのフリをするというのも、恥ずかしいものだな。
さ、早く行こうか!おじさんやおばさんが待っている。
きちんと紹介するようにな。この人が自分の大事な彼女です、とな」
驚きで固まっている結城の腕を抱きしめて、引っ張るように歩き出す。
ふふふふ……この『恋』という病気にはつける薬がないのではない、治す必要がないのだ。
こんな素敵な病気を治してしまうのは、もったいないではないか。
「島津っち〜、聞いちゃったよ〜。人前での告白&キス、おめでとう!」
「アタシは見たけどね〜。まさかあんな大勢が見てる前で、キスしちゃうなんてね」
「島津っちだいた〜ん。告白してすぐキスなんて、大胆すぎ〜」
「そ、その、昨日のあれは、その……からかわないでくれないだろうか?……とても恥ずかしい」
結局昨日は、アルバイトにならなかった。
おじさんとおばさんに、2人が付き合うことになったと報告したところ、
おばさんは大喜び、おじさんは号泣してしまい、商売が出来る状態じゃなくなったからだ。
で、その日はそのまま結城とは別れた。家に帰り、ママとパパに報告をしたらおじさん達と同じ反応をした。
ママはとても喜んでくれ、パパは号泣をした。
『娘を……よくも娘を……』とブツブツ言いながら喜んでくれた。……喜んでくれたのだろうか?
で、翌日になって学校に来てみれば……クラスメートに囲まれた。
「いやぁ〜、でもよかったよ。島津っち、おめでとう」
「相手が結城ってのが意外だけど、天才とバカでつりあってるのかな?」
「島津っちは天才というか、天然だけどね〜。ま、友達が幸せになるのは嬉しいことだよ」
「そ、その、みんなありがとう。
クラスメートというだけで、私の相談に乗ってくれたり、心配してくれたりして……
私は今、このクラスでよかったと心から思っている」
恋をしていると気がついていなかった私を、みんなが励ましてくれたおかげで、
応援してくれたおかげで結城と恋人になることが出来たと思っている。
いくら感謝しても感謝しきれない。本当にありがとう。
「嬉しいこと言ってくれるねぇ。心配したかいがあるってものね!
おし!じゃあさ、島津っちの恋人出来ちゃった記念で放課後にパ〜ッといかない?」
「お、いいねぇ、パ〜ッといっちゃう?」
「惚気話を聞かせてよ。島津っちの惚気、聞いてみたいなぁ」
「そうそう!結城とキスした感想とかも聞きたいしね!」
好き勝手にワイワイと騒ぐみんな。とても恥ずかしくて照れてしまうのだが、不思議と嫌な気はしない。
「わ、分かった。放課後にみんなでどこかに遊びに行くのだな?」
「島津っちはどこがいい?好きなところ連れてってあげるよ。
もちろんお祝いしたげるんだから、お金は島津っち持ちね?」
みんなと遊びに行くなど……小学生低学年の頃以来だ。
小学生高学年の頃になると、みんなが私を特別扱いし、仲良くしてくれなくなった。
記憶力がいいというだけで、天才扱いをし、私を避けていった。
……そうか、だから私は結城に惹かれたのか。
結城が私を特別扱いせずに、普通の女として扱ってくれたから、彼が好きになっていったのか。
人間というものは不思議なものだな。ほんの少しの変化でこうまで変わるのだから。
結城がいなければ、きっと私はこうしてみんなと話すこともなかった。
放課後に遊びに行くこともなかったはずだ。ありがとう、結城。……私がお金を払うのか?
「そ、そんなバカな?こういう時はご馳走してくれるものじゃないのか?」
「だって島津っち、アタシ達にすっごく心配させてたんだよ?そのくらいしてもらわなきゃ割に合わないよ」
「そうそう、心配料払ってもらいましょうか?別に身体でもいいんですぜ?へっへっへっ」
「奢るのがイヤなら身体で払ってもらいましょうか?ちなみに今日の下着は何色?」
「いや、下着は白だが、その、あまり高いところは払えないので勘弁してほしい。
アルバイト代がいくらかあるから、一人1000円ほどなら払えるのだが」
「おおお!今日は白かぁ。そのうち島津っちも黒レースとかセクシー路線に走るんだろうねぇ」
「1000円かぁ。じゃあさ、カレーハウスでいいんでないかい?島津っちってカレー大好きじゃん」
「お?カレーかぁ、いいかもね。カレーを前にしてのキラキラおめめの島津っちをもう一度見たいもんね」
「じゃ、カレーで決まり!島津っち、ご馳走になりま〜す!」
その日の放課後、以前に結城にご馳走になったカレーハウスでみんなでカレーを食べた。
色々と聞かれてしまい、とても恥ずかしかったのだが、嫌な気はしなかった。
それに私がお金を払うものだと思っていたのだが、みんながお金を出し合ってご馳走をしてくれた。
私の恋人が出来たお祝いだと、ご馳走してくれたんだ。
みんなの優しさに涙が出そうになった一日だった。
わたしはこの2日間で初めての恋人と、大事な友人達が出来た。
これも全ては結城が私に話しかけてくれたおかげ。……長宗我部元親に感謝だな。
みんなのおかげで美味しいカレーを堪能できたし、何よりもいい情報をたくさん聞けた。
初めては物凄く痛いという意見と、そうでもないという意見があった。
みんながすでに経験しているという事に驚いてしまったが、
私のそのうち絶対に経験すると言われて少々戸惑っている。
……結城は私とえっちをしたいと思っているのだろうか?
私は……どうなのだろう?結城の事は好きだ。これは間違いない。
だが、えっちをするとなると……戸惑ってしまうと思う。
その証拠に、今結城とのえっちを想像すると……ダ、ダメだ!
よく考えたら私はえっちというものを、あまりよく知らない!
性教育で習うくらいしか知識がないんだ。こんな浅い知識で大丈夫なのだろうか?
どうしよう?友人達の話によると、男という生き物は、いつでもえっちをしたがる生き物だと言っていた。
だとすると、近い将来に結城も私を求めてくるに違いない。
それまでにはそれなりの知識をつけておかねば……ママにでも聞いてみるかな?
家に帰り、ママに聞いてみたら、初めては男に任せるのが一番いいと教えてくれた。
ただし、避妊具は必ずつけること!と念を押されてしまった。
ママは、いざという時の為、財布の中にでも入れて置くようにと、避妊具を数個くれた。
……パパはまた号泣して『……殺す……殺す』と物騒な事を呟いていた。
パパ……私を大事に思っていてくれることは嬉しいが、殺すというのは止めてほしい。
冗談だとは思うが、冗談に見えないパパの顔が少し怖い。
怖いといえば、この避妊具を使う日が来るのだろうか?いや、必ず来るのだろうな。
その時に私は……結城を受け入れることが出来るのだろうか?
ベッドに横になり、結城からもらった携帯ゲーム機を手に、結城の事を思う。
……明日のお弁当はハンバーグでいいかな?結城、喜んでくれるかな?
結城……早く明日にならないものだろうか?
早く結城に会いたい……声を聞きたいな。
恋につける薬、やはりあったほうがいいのかもしれない。
今の私には『恋人と会いたい気持ちを抑える薬』が必要なのかもしれない。
結城はどうなのだろうか?結城も私に会いたくて会いたくて仕方がないのだろうか?
結城もそうであってほしい。そんな事を考えながら目を閉じる。
夢の中で結城と会えることを祈って。……結城も夢で私と会ってくれていれば、嬉しいな。
今回は以上です。
GJ!!!
ニヤニヤが止まりませぬ。
甘〜〜〜〜っ
いいね
もっともっとやってくれ
誰かニヤニヤを止めてくれwww
仙台人が多いスレだから知ってる人も多そうだが、仙台駅構内にあった伊達政宗公騎馬像が岩出山に移されたそうな。
ヤクザっ娘を…
浮気されて落ち込むヤクザっ娘を…誰か…
それは切なさ乱れうちだ
相手が浮気したと思い込んで落ち込む→誤解が解けてデレパターン。
俺はありきたりな王道の方が好きだな。
ヤクザっ娘は浮気されたら
本気でどこかの海に沈めそうだな
沈めるなら海より大きな湖の方がいいらしいが
うむ懐かしきヤクザ娘ネタですな。
帰ってきたヤクザ娘リターンズはまだか?
ってか容量やばいけど次スレ立てなくていいの?
残りどのくらいなの?携帯からだから分かんないんだわ。
あと16kbくらい?この遅さなら残り10kb切ってからでも遅くないと思うが……
「暇だな……」
あたいは今、一人で街を歩いてる。本当ならあいつと一緒なのだが、どうしてもはずせない用が入ったとかで来れなくなってしまった。
まあ、たまにはいいかなんて思って一人で街に来てみたんだが……
「暇だ……」
正直、退屈死しそうだ。
あいつがいりゃこんなことにはならんかったのに。あたいとのでぇとより大事な用がこの世にあんのか!?そりゃなんだ!!?
………考えてても仕方ないな。退屈死する前に帰るか。
そう思って元来た道を振り返った時。
知らない女と手を繋いだ、あいつが居た。
「……っ!?」
な……なにやってんだあいつ!あたいという女がありながら、う……浮気だと!!
しかも……なんで…そんなに楽しそうに……
こんな……ことが……
そこから先のことは、よく覚えていない。気がついたら家の前にいたみてぇだ。
組のやつらがやたらと「お嬢、大丈夫ですか!」とか言ってた気がするが、適当かわして自室に入った。
そしたら……
「……うぅ……ぇぐ…」
涙が、止まらなくなっちまった。
あいつのあの笑顔。あたいも見たことがないものだった。
それは…つまり…あたいより、あの女の方が……大事ってことなのかな……
次の日、あたいはあいつを家に呼び出した。
もちろん、昨日の件について問いただすためである。覚悟は決めた。どんな結果だろうが受け止めてやるさ。
「で、話ってなに?緑さん」
「昨日のことについてだ」
きっと睨みつけてやる。
「恋人に嘘ついて浮気とは、いい身分だな」
「浮気?なんのこと?」
ブチン、という音がした気がする。
「とぼけんな!昨日街で見たんだよ!お前がどっかの女と手ぇ繋いで仲良く歩いてんのを見たんだよ!!」
思い出したら猛烈に腹が立ってきた。あたいは浮気野郎の首をつかんでギリギリと締め上げる。
人の気持ちを弄んだ罰だ。たっぷりとくらいやがれ!!
「ちょ…!う…浮気!?あ、もしかして…妹と歩いてたのを見たの?」
………は?
「ごほっ!ごほっ!……あー、昨日一つ下の妹にせがまれて街に行ったんだよ。訳あってたまにしか会えないから。あれ見られてたの?」
…つまりあたいは……一人で勘違いをしてた…いや違う!させられてたんだ!!
「この野郎!勘違いさせやがって!紛らわしいんだよ!」
「はは、ごめんごめん。でもさ」
ん、なんだ?
「嫉妬した緑も、すっごくかわいいね」
……う、うるせぇ!あんまふざけてっと太平よ(ry
速攻で書いたからいまいちな感じがする
特にオチが
>>565 リアルタイムGJ!
まあ一日も経ってないからね。欲を言えば証拠を見せろと迫ったりしてほしかったけど……
ネタの熟成には時間が掛るからな…
今回は住人の希望にすぐ応えた作者様に敬意を表して。
GOOD JOB
言ってよかった
ありがとう本当に書いてくれてありがとう!
マジでGJだぜ!
やっぱり嫉妬する気の強い娘はいいもんですね
えー、もう二日もカキコがないようですが…
では強気っ娘がしおらしくなるシチュでも語るとしよう。
神の降臨まで。
今まで幼馴染みだった隣家の少年に自分の親友が告白したのを知った時。
演劇部の少女。
今まで嫌っていたクラスメイトの男の子がいて、彼を嫌う原因が実は誤解で、
彼こそがいつも自分を励ましてくれていた「紫のバラの人」だったと知ったとき。
いつも喧嘩ばかりしている男友達から、
「○○ってやつから告られたんだけど、どうしたらいいかな?俺こういうの初めてでさ。ちょっと意見聞きたいんだけど」
とかいう相談を持ちかけられたとき
……ベターかな?
今まで好意の裏返しでいじめてたら
男の子に本気で怒られ嫌われた時
>>573 いいシチュだな。
男の側が優しすぎでなければ(すぐには許さないタイプなら)もっといい。w
好きな男にジャーマンスープレックスを仕掛けるが、カウント2で返された瞬間。
自分が負わせてしまったケガが原因で男が目標にしてた大会に出れなかったとき
お借りします。
================
第一話「ココア程度の甘さは必要か」
================
「この馬鹿」
楓は不機嫌に言った。
何も僕は間違ったことをしたわけではない。
五時に迎えに来てと言われたから、健気な犬よろしく愛車のぼろい軽四でぴったり五時に迎えに来たのだ。
なのに、だ。
いきなり馬鹿は酷いと思う。
優しい言葉の一つや二つをくれたりしないのか。
「なんで。時間通り来たじゃないか」
「馬鹿ね。雅紀今日暇だったでしょ。だったら五分前にはもう着いてなさいよ」
とんでもない理由だ。
「そんな理不尽な……」
しまったと思ったが、時すでに遅し、助手席の楓はぷうと不機嫌そうに頬を膨らませていた。
「あ、いや、何でもない」
あわてて謝るも無駄だ。
「へー、雅紀そんなこと言うんだー」
「いひゃいいひゃい」
助手席からぎゅぅと左頬をつねられた。
ただちゃんと手加減だけはされていて、やりすぎるといったことはない。
「痛かった」
「文句を垂れるから」
「全く、うちの楓ちゃんはどうしてこんなにすぐ手が出るのかしらお母さん悲しいわ」
「雅紀に育てられた覚えはない」
言われながらまたぎゅうとつねられた。今度はかなり痛かった。
まず僕が家に帰って最初にすることは夕飯を作ることだった。
楓は僕に対してあらゆることで理不尽だが料理当番とか掃除当番とかだけは平等である。
もっとも洗濯当番はさすがに楓の下着を扱うのは気が引けるので別だが。食事当番は各曜
日ごとにどちらがやるかが決めてあって、今日は僕の番だった。
「今日」
冷蔵庫の前にしゃがみ込んでいる僕に楓が話しかけてきた。
「晩ご飯何」
僕が見ている、ノートの切れ端。冷蔵庫にマグネットで止めてあって、今冷蔵庫に入ってい
るものが書いてある。食材を無駄にしないようにとの楓の知恵だ。
それを見ながら僕は言った。
「んーとな、シチューかカレーかなあ。どっちがいい?」
「シチューかな。カレーはちょっと前にやったし」
「んじゃカレーな」
「シチューがいいって言ってるじゃない話を聞け」
「冗談だって。……ちょ、そんな叩くな」
楓はばしばしと遠慮なく僕の頭を叩いた。
僕の母親と楓の父親は姉弟で、僕と楓はいわゆるいとこだ。昔は夏休みと正月などに合うだ
けだった。
僕より二歳年下の楓はほどよく僕に懐いていたように思えるし、僕もそんな楓をほどよくかわ
いがっていた。
実家は『ど』がつくほどの田舎だった。その分家は大きいが、近所に同世代の子供はいない。
そんなわけで楓の家族がたまに家に来たときは二人でよく遊んだ。二人で裏山を駆け回った。
二人で川で泳いだ。二人でかくれんぼをした。ある程度大きくなると本を読んだり話をしたり、映
画を見たりゲームをしたり。
どれだけ大きくなっても遊ばなくなったということにはならなかった。
こき使われるようにはなったが、特に嫌われているわけでもなかったと思う。
そして受験生になり都会に憧れた僕は、都会の大学を受験し無事受かった。
当然、自宅から通うことなどができるはずもなく、僕は一人暮らしを始めた。もともと手先が器
用で料理や掃除などは好きだったので、一人暮らしに慣れるのに時間はかからなかった。
そんな自由で勝手気ままな一人暮らしを満喫している僕の元に楓は転がり込んで来た。
突然だった。
近所のスーパーのタイムセールから帰ってくると部屋の前には大きな荷物と楓がいて、不機嫌
そうに「遅い」と僕に言ったのを覚えている。楓の家から今僕が住んでいるところまではかなり遠く、
しかも楓はここに来たことは一度もない。なぜ彼女がここにいるのかわからなかった。
とりあえずと楓を部屋に入れてここにいる理由を訊ねた。何か大変な理由で家出でもしてきたの
かと僕ははらはらした。
しかし楓のの言い分はただ一つ、「大学が雅紀と同じだからここに住ませろ」だった。
色々まずいことがあるのではないか。
僕はそう楓に言った。一応は男である僕がそのうち変な気を起こすかもしれない。彼氏でも夫でも
なく家族と言うには少し違う男と年頃の女の子が暮らすことは誰がどう見ても問題だ。それに僕の部
屋は六畳の一部屋で、もちろん分割した生活などは到底不可能であり、二人で暮らすとなるとプライ
バシーもクソもないような空間なのだ。というか二人で暮らすような部屋じゃない。
しかしそういった僕の説得を聞いた後の彼女の返事はただ一言、「そんなもの関係ない」で、僕がど
んなに説得を試みても彼女は頑なに「ここに住む」と言い張った。
しぶる僕に楓は、彼女の両親と僕の両親の許可はすでに取ってある、もう疲れた寝ると言って勝手
に僕の布団を押し入れから出して五分もしないうちにすやすやと寝息を立て始めたのだ。そのとき僕
はそういえば楓は周りのことなどあまり気にしない性格だったなあとしみじみと思い出した。
しかし僕は戸惑った。
当たり前だ。女っ気のなかった僕の生活に「女」という理解不能な生き物が混入してきたのだ。
目に見えておろおろとする僕に対して楓はいたって自然体であり、それまでと同じように僕に接した。
何も変わらずに接してくれる楓のおかげで、僕は変に気を張るのも馬鹿らしくなりすぐに二人暮らしに
慣れることができたのかもしれない。
――もっとも、多少の色気は欲しい気もしたが。
「雅紀」
ホワイトシチューの夕飯を食べ終え、二人交代で風呂に行き、いつものように二人自由な時
間を過ごしているとき。
ぽちぽちとパソコンのキーを叩く僕に、かりかりとノートにペンを走らす楓は言った。
「コーヒー」
たった一言。だけどそれは「コーヒーを用意しろ」という楓からの命令であり、僕に断る権限は
ない。
言われてから切らしているコーヒー豆をまだ買ってきていないことに気付き、その旨を告げる
とがりがりとペンを走らす楓にぐちぐちと文句を言われた。
代わりにバーゲンであまり飲みもしないのに衝動買いしてしまったココアを用意し、「甘すぎる」
と一蹴された。
「これが俺の楓へ向ける愛の甘さかな」
ふざけつつ言ってみると、楓は目をまん丸くして僕を見ていた。
「……本気?」
「冗談。……すまん、謝るから、そんな叩くなって」
ばしばしとそこらに置いてあったぬいぐるみ(ミニチュアダックスフンド・佐藤君。命名者・楓)で叩
かれながらもしてやったりとにやける顔を抑えきれず、その顔を楓に見られてさらに叩かれること
になった。
叩いて叩いて、楓は急に叩くのをやめた。頭をガードしていた腕の隙間から見えた彼女の目には
憐れみというかなんというか、そういった感情が浮かんでいた。
「はあ……そんなこと言ってるから彼女できないんだよ」
「いんだよ。お前だって彼氏いないだろ」
そう言うと、楓はつんと唇を尖らした。
「私はいーんですー。雅紀には関係ないんですぅー」
「負け惜しみ。……ちょ、図星だからって叩くな」
「うるさいうるさい、私にだって、私にだって、その気になれば彼氏の一人や二人簡単に」
「俺みたいなんかと暮らしてる時点で無理だって」
「うっさい!」
何が気に入らなかったのか楓は佐藤君を放り出すと今度はぱちぱちと平手で僕を叩き始めた。
当然手はぬいぐるみのように柔らかいわけではないのでそこそこに痛い。
「痛い痛い痛い! 手加減手加減!」
「馬鹿馬鹿馬鹿馬鹿馬鹿馬鹿馬鹿………」
言いながら楓は叩き続ける。
部屋の隅に逃げるも部屋は狭い。四つんばいで逃げる僕の尻を同じく四つんばいで追いかけなが
ら楓は叩く。。
追いつめられてばちばち叩かれること数十秒、楓はぴたりと叩くのをやめた。
「あーっ、すっきりした」
「俺はストレス解消の道具か」
「うん」
「うわぁあっさり言い切ったよ怖いよこの子」
「悪いか独り身」
楓はにやりと意地の悪い笑みを浮かべている。
「お前もお前も」
「私はできないんじゃなくて作らないんですー」
「なんでさ」
「雅紀には関係ない」
言いながら楓はぴしりとデコピンを僕の額に放った。
「痛い」
「それに、雅紀みたいに鈍感な人じゃわからないから」
ずいといつも保つ距離よりずっと近い位置で顔をのぞき込まれる。真っ黒な瞳が僕の目をまっすぐ
に捉える。楓にまっすぐに目を見られるのはあまり得意ではない。
軽く身を引きつつ、ふわりと香る楓の匂いにどぎまぎする。
「勝手に言ってろ」
これ以上は耐えられないと僕は目を逸らした。距離が近すぎた。今の僕と楓のよくわからない関係
にはふさわしくない距離だ。
「あとなあ、楓」
「?」
「お前を彼女にするような物好きは滅多にいない。……いてっ」
僕をもう一発叩いてから楓ははあと呆れたようにため息をもらす。
「でもね、雅紀」
ココアの入った楓専用のスヌーピーの描かれたマグカップを手に取って、一口飲む。
「たまにはこんなのもいいと思わない?」
そう言ってマグカップを床に置き、僕の肩に手を置き目をつむった。
キスをしろということなのだろうか。
「あー……たまにはな」
僕はそれだけ言って、ココアの味がする甘い唇にキスを落とした。
――続く。
お目汚し失礼。
GJ!ちょっと最後は急展開だったけど、楽しめた!
ところでスレの残り容量があとわずかなんで誰かスレ建ておねがいします。
携帯からなんで建てるの無理っぽいです。
584 :
名無しさん@ピンキー:2008/03/24(月) 14:01:14 ID:XoWcs4C1
おk、立ててくるぜ
なぜ立てられないorz 何もやってないのに
>>586 無理だったか…俺は今、仕事で出先だから明日にならないと建てれないんたよなぁ。
明日までに建ってなかったら俺が挑戦してみるよ。
ちょっと試してくる
ら抜き言葉に気をつけよう
>>589 乙!じゃあ俺は今から新スレ用のSS考えてくるよ
なによ、あいつ!!
転校してきた新洲 玲子(しんす れいこ)にばっかり引っ付いて!!
あんたがそのつもりなら、私だって他の男の子と…!!
…無理よね。私あいつにベタ惚れなんだから…。
はぁ、素直に「好き!!」って言いたいのになぁ………
という埋め。
お粗末。
乙です
……何してんの?
えっ?埋めてる?
…見ればわかるわよ。
私が言いたいのはなんで『あんたが一人で』埋めてるのかってこと!!
…みんなが新スレ行って誰もいないから、残った自分がやるべきだ?
はあ…
ほんと、あんたってバカが付く程のお人好しなんだから!!
そんなんだったらこの先苦労するわよ!!
…貸しなさいよ。
一人でやるよりかは、二人でやった方が早いし楽でしょ!!
…あんたとの共同作業も悪くないしね……
埋まってくれ――!!!!!!
支援しまっす!!
埋め立て