クリアした俺が来ましたよ
そのキャラに関して言うと完全に地雷
詳しくはここではないどこかで
取り敢えずデモ版を流している私が来ましたよ。
なんだかとっても(見たことはないけど)どっかのSOS団のような気がしてならないんですがw
中の人がいたりとか……
>>132 >完全に地雷
気になる…実はロボじゃなかったとか?
136 :
135:2007/10/01(月) 03:02:47 ID:QCK3bxeq
ヽ(`(`(`(`ヽ(`Д´)ノ ウワ・ウワ・ウワ・ウワ・ウワアァァァン!!
ンナアホナ…orz
ロボ娘レにて詳細確認。
かぶりものした人間だそうだ。
そりゃ公式で見れる妹は普通の人間タイプのキャラだもんなあ
ロボだったら萌えれるのになあ
今だから言える
首から下は無用
おまいはTV画面に萌えれるのか…?
だって俺の嫁は画面の中だしなぁ。
>>141 TV画面に萌える、じゃなくて(ハードとしての)TVに萌える、じゃないのかと
プラグとコンセントさえあればおk。
電気釜で良い
まあ人工知性のインターフェイスがCGってのはわりと普遍的ではある。
ネットナビなんつーAIアプリがウンヒウンヒと仕事するロックマンエグゼは
妖精さんの如くであった。
身の回りの世話をさせようと思って1体買ったよ。
日常的な家事から、ケガや病気の時のケアまで万全な介護タイプを買ったんだ。
購買層は病院や老人だと聞いていたし、生活家電との相性も悪くなかったんだ。
ただ……
思い違いをしていたことを思い知らされたんだ。
老人や病人相手のスペックしか無いと思っていたんだが、
セクサロイドとしての機能は専用機体よりもハイスペックだったんだよ。
人の体の扱いは優しく、ソフトに、デリケートに。
機能不十分な男性自身を機能させるために、世界中の閨房術がインストールされているし。
補助的に前立腺を刺激するパーツが内臓されていたし。
入浴介助はマット洗いがデフォになるし。
メディカルチェックは毎朝、朝勃ちの診断から始まり、直腸温で検温されて射精するまで続けられるし。
毎朝、ザーメンの味見はしなくてもいいと思うんだ。
ただでさえ、毎日の入浴の時と寝る前に抜かれているわけだし。
これなら、普通のメイドロボ娘を買ってもよかったかなぁ
オレんとこは中古パーツを組んでもらったよ。
新品より半値以下だっていうんでさ。
で…これがまたツボでさ。
ヘッドは設定年齢17…日系で栗色の瞳、黒髪、ストレートパーマの
柔らかなロングヘア…ヅラじゃないぜ、ちゃんと全植毛さ。
元々日本舞踊のお師匠さんが自分の技を教える為に…って、特注して、
日本人形を可愛くしたみたいなお顔にさせたとかで、お買い得だった。
まあ、このお顔だけで、新しい中型一台買えるくらいだから、本当は
ちょっと痛かったのは事実たげどさ。
でも店長が「これなら最低10年は楽しめる」とか言ってたのも頷ける。
清楚で、ちょっとはにかんだ笑顔が可愛くて。
畜生!…これじゃあんまり乱暴な事できねえじゃないか…w
ただ…ボディがねえ…。
ついつい好みで、巨乳ボディにしちまったものだから…
本人、とても恥ずかしがってさ。
そういや、着物って胸が無い方が綺麗に着れるんだってな…。
まあ、うちじゃどうせ殆どTシャツとジーンズの姿がデフォだけど、
店長が嫁入り道具として、オプションで付けてくれた和服を時々
着る時、胸がきついとかこぼしてたっけ。
あ〜でも、ショップの店長…いつもながらリペアとセッティングが
最高だなぁ…肌はきちんと貼り直されて、しかもお顔と同じように
きめの細かい白い柔肌で…首の継ぎ目なんて殆ど判らないし…。
胸だってでかいけど形が綺麗で、裸にした時…本当にソソられる。
下手な風俗とかクラブ行くなら、こっちの方がずっと良い。
まあ、それなりに高いし中古だけど、適当に稼動していたから動きも
良いし、新品でも、三流メーカーの未調整モデルで一回懲りているから、
これならお買い得だ。
しかし…帰宅すると、毎度三つ指ついてお出迎えしてくれるのって…
なんかこそばゆいものがあるな。
しかも…乱れると結構凄いし…って、どうも店長がテクニックのデータを
あれこれ追加インストールしたみたいだな。
この前も帆掛け舟だか月見だか知らないが、妙な体位になってたしw
でもな…事が終わってから、恥ずかしそうに毛布に包まっている姿を
見ると、ついつい頭を撫でてやりたくなるんだよな。
え?ノロケるな…ってか?
…悪ィな、つい…な。
あ、でな、興味があるならショップの住所と電話番号教えるよ。
良かったら…今度、店長に紹介してやろうか?
>>148 その店って、もしかしてあそこじゃないか?
……懐かしいなー、師匠、元気にしてるかなぁ。
べらぼうに厳しかったけど、おかげで俺も今じゃいっぱしの造体作家。
競争の厳しいこの業界で、食いっぱぐれないでやっていけてるのは師匠のおかげだよ。
もちろん、こいつも自分で満足いくまで作りこんだよ。
まあ、すれ違う奴らの目の色ときたら……
……すいません、ノロケました。
お詫びに、ここの住人からの依頼は半額にしときます。
>>149 あの店長のお弟子さんなのかい?
仕事…あ、いや「作品」には絶対妥協しない人だから、そうかもな。
普段は、どこどこの何番ベースヘッドがどうとか、どこそこの人工皮膚は
耐久性と色合いが絶妙だ…とか、マイクロサーボモーターのマッチングが
どうとか、歳甲斐もなくオタな話をしてくれる、気さくな人なんだけど。
でも、人造人間たちを凄く大事に思ってるよな。
この前、うちのがちょっと反応速度が落ちたみたいだ…て言うもので、
軽い気持ちでクロックアップしようか…と思って相談したら…これが、
もう思いっきり怒られた…。
最初、冗談で怒っているのかと思ったら
「医者でも無いのに、生半可の知識で人の身体をイジれないだろう?」
って、一喝されて、一瞬呆然となった。
…けど、な。
この人にとっては、調子を落としたり壊れたりしたコたちは
皆、きちんと治すべき患者なんだなぁ…って、逆にじ〜んときた。
それに、できるだけマスターに可愛がってもらえるように…って、
本当に親身になってやってくれるし。
あ〜…でも、そう考えてみると、うちの奴の…顔も身体も性格もテクも、
店長がオレ好みに仕立ててくれたんだな…。
て、事は造体作家ってのは、カスタムのコたちのお父さんなのかな…w
ちょっ! なんか地方民にはうらやましすぎる話してるスレはここですか?
前にネットで動画見て以来、あそこの店長さんの作品がずっと欲しかったん
だけど、距離の問題でお店に行けなかったんで……自律駆動カメラでバーチャル
来店して、通販するんじゃダメかお願いしてみたんだよな。
結局、カメラ越しだけじゃ娘の善し悪しは分からない。近くでも良いから、実際に
触って確かめてから決めろ、って断られちまった。
まあその後、ウチの近くで店長と付き合いのあるお店を紹介してもらったんだけどな。
今じゃもちろん、その店で買った子と仲良くやってるよ。デジタルの最先端を
扱ってるクセに何てアナログな……とも思ったけど、店頭でないと分からない
雰囲気や細かいクセもあったから、店長さんの言うことは正しかったって良く
分かった。
>>148と
>>150も娘さんたちを大事にしてやってくれ。
152 :
149:2007/10/04(木) 22:31:56 ID:lFROLBZ9
>>151 うはは、師匠らしいなあ。
俺が弟子やってた頃、同じような問い合わせしてきた人がいたんだけどさ、その人が香港在住の駐在員だったんだ。
駐在、ったって小さな会社でさ。所持雑事押し付けられて、毎日大変そうだった。おまけに独り身。
それで、身の回りの世話とかしてくれる子を探してたらしくて、うちに問い合わせてきたんだ。
たまたま修行中の俺がいたもんだから、サンプルの子連れて行って来い、って言われてさ。行って来たよ、香港まで。
昔の人造人間じゃあるまいし、電波の類なんて完全にシールドされてるのに、例の法律の改正前だったもんだから、
手荷物検査の兄ちゃんが「飛行機に乗る時は貨物扱いです」とか言いやがんの。
困っちまって師匠に電話したら、師匠怒り出しちゃってさ。「飛行機なんてやめて、船で行って来い!」ってことになっちまった。
遊びに行くわけじゃないから、店長のツテで貨物船に乗せてもらって、荷受作業用ロボットの整備しながら片道二週間。
予備部品もないし、設備も貧弱な船上だから、リソースの管理にも気を使わないといけないんだよな。
応力のかかりやすいところとか、消耗しやすいところを見極めて、過不足のない整備をしなきゃならない。
大変だったけど、整備の勘どころとか、すげぇ勉強になったよ。
……今思えば、あれも教育の一環だったんだろうな。
師匠ってさ、すげえ凝った筐体を作るんだけど、やってることはすげえ質実剛健なんだよ。
金にあかせて、高級品を組んだだけじゃないんだよな。……そこが、あの人のすごいところだと思う。
で、その二週間。そのサンプルの娘と一緒に行動したわけだけどさ。すげぇよく気が利くんだよな。
愛想はいいし、かといって出しゃばらないし。
普段は甲斐甲斐しく世話してくれるのに、俺が「今日はちょっとしんどいなぁ……」とか思ってたら、ちゃんと察して距離を置いてくれる。
空気を読むのが上手い、っていうのかな。
あれには感動したね。ごく普通の市販のAIでも、コーディング次第でここまでやれるんだ、って。
……あ、念のため言っとくけど、その娘には手を出したりしてないぜ。
大事なサンプルだからってのもあるんだけど、
「癒し系」ってのかな、性欲なんかに走らなくても心を満たしてくれるっていうか、そんな子だったんだよなぁ……
で、その子なんだけどさ。
その香港の人が一目見て気に入っちゃって、その場でお買い上げ。帰りは一人で飛行機で帰ってきたよ。
今でも時々連絡よこすんだけど、整備もきっちりやってもらって、十一年経った今でも元気でやってるみたいだ。
仕事もようやく落ち着いてきたし、今度の休みにでも会いに行ってみるかな……
俺の横でスリープモードに入ってる、こいつが妬きそうだけど。
あの…わたしのところにも一人います。
長い黒髪をツーテールにした…ちょっとロリ入った娘です。
わたしも地方在住なんで、重要部のメンテの時は、一泊二日で都心まで出なくては
ならないんですけど、本人は旅行感覚みたいで喜んでますw
それにしても十一年とは凄いですね…うちのは、中古で来て三年です。
>>148で言われた「最低十年」ってのは実証済みなのですね。
そういえば…ふと思い出したんですけど、人工知性体保護法が出来て十年になりますね。
人造人間に準人権を…なんて、荒唐無稽だと思ってましたが、今こうして一緒に生活して
いますと、改めて良い時代になったなぁ…と思います。
まあ、AI自体、記憶や意識を完全に保ったままで、老化したパーツとか情報伝達システムの
交換とかできるようになって、最悪「心」だけでも取り出して別の身体に移せるようになったのが
大きいですけど。
でも…最近は身体の本体自体を換えなくても、きちんとメンテしておけば、新規に開発された
パーツに換えられるそうですから、本当にそのうち、一生ものになるかもしれませんよね…。
うちの娘も、いつまでも末永く可愛がってあげたいです。
でも、実はうちにくるまで、ちょっとした葛藤があったんです。
うちの娘は、ある裕福なお屋敷でメイドロイドをしていたんですけど、そこが事業に失敗して、
売りに出されたという悲しい過去があって…。
店長さんのお話しだと、例の保護法の大前提もあって、これまでの記憶と意識をどうするか、
本人に選択させていたそうなんです。
オーバーホールとリペアをする前に、決めるように…って。
そうしたら…ちょっと躊躇していて…。
丁度その時、たまたまわたしがその場にいたんですけど…良く良く聞いたら、元のご主人は、
手放すのを嫌がったのに…彼女、自分から、自分を売れば返済の足しになるから…って
言い出したって聞きました。
…見れば可愛いし、健気だし…結局店長に勧められて、お迎えを決定して、リペアの段階で、
彼女に改めてどうするか尋ねたら…驚きました。
「新しい旦那様にお仕えするのですから、総て消してください」って、毅然とした口調で
言われたんですけど…この時の表情が、もう忘れられなくて…。
一生懸命、笑顔を浮かべようとしているんですけど…済んだ黒い瞳が潤んでいて。
人工涙腺のタンクがカラで、涙なんか一滴も出ない状態の筈なのに…瞳が潤んでいるんです!
一目見て…消すことなんて出来なくなりました…いや…もうあの表情に魅せられました!
で、「いや、大事な記憶なんだから、無理して消さなくて良いよ」って
言ったら、もう背骨が折れる!ってぐらいに強く抱きつかれて。
胸は柔らかで気持ち良かったんですけどねw
ともかく凄く嬉しそうだったし…傍で見ていた店長の満面の笑みが、優しそうでしたっけ。
色々言われる保護法ですけど…その後、例のお屋敷の一家と再開した時の
笑顔を見ていたら、あれが無かったら、すぐフォーマットしていたかもなぁ…と、
ちょっとホッとしました。
まあ…あの店長さんの事ですから、止めてくれたかもしれませんが。
…あ、いけない…お忙しいのに、お引止めしてしまって済みません!!
なんでぇお前らっ!
そんなノロけ話なんか羨ましくないぞっ!
おれの相棒は 俺が生まれる前からウチにいた骨董品だけど
いまだに現役で
おれは赤ん坊の頃から今でも
相棒が全てで
それはこれからも変わらないのだけれど
メンテパーツのジャンクすら手に入らなくて……
>>154 廃盤パーツを趣味で自作してる物好き知ってるんだが、紹介してやろか?
一瞬未来技術板のスレかと思ったがいい流れ
157 :
149:2007/10/05(金) 22:46:07 ID:IriaFgcE
>>153 大事にしてるようで何より。その子もきっと幸せだと思う。
「心」だけでも取り出して、別の身体に移せるようにはなったけど、そうやって長く生きてきた子でも、
主人が亡くなったあと、ほとんど全ての子が人格データの消去を申し出てくるんだよなぁ……
切ないっちゃ切ないけど、主人と一緒に逝きたいという気持ちもわかるし、泣く泣く処置したっけ。
師匠も何体か、そういう子の処置をしたことがあるんだけど、いつもその後、深酒呑んでボヤいてたなぁ……
>>154 なに、大丈夫だよ。
>>155もこう言ってくれてるし。
最悪、うちでも用意するよ。インターフェイスさえ今の規格に合わせればなんとでもなるし。
俺が扱ったので一番すごかったのはあれだな、八年前だったか、黎明期の機体を最新の筐体にリプレースした時。
規格の合うAIなんてもうなかったから、当時の最新のCPUにエミュレータ載せて、その上にOSと「心」を移植したんだけど、
その子が違和感を感じないように、エミュレート時のタイムラグを徹底的に削ったっけ。
タイムラグが最小処理フレームの1/3200秒に収まるように、一生懸命アルゴリズムを考えてさ。
一般的なコーディング用高級言語じゃ処理速度が全然足りないから、久しぶりに機械語レベルでソース書いたよ。
最後は三日徹夜したけど、すごく勉強になったし、めちゃくちゃ充実してた。
>>157 八年前でそれって…あなたは神だ!
うちの奴も出始めの頃の機体で、その頃「載せ換え」したんだけどね。
オムニジャパンに技術者の友達がいたんで、無理言って頼んだんだけど、
どうしても1/800秒が限度とかで、当時出たての四倍のアクセラレータを
間にかましてやっと対応したっけ。
…それに、本当はディーラーがそういうカスタムするのって、ある意味
反則らしいんだけど、市場調査と技術的探求…っていう名目で特別に
許可してくれたらしい。
だけど、微電圧パルスがもうひとつ不安定で、何だか微妙にフレームが
ズレているみたいでね…。
載せ換えおわったら、何か、ぽわ〜んとした感じで少しトロいんだ。
それなりに…支障が無い程度で、まあ、一応きちんとは動作するんだけど。
何か、いつでもどこか眠そうな感じで…。
朝の挨拶も「おはよ〜ございます〜〜」みたいな間延びした感じだし。
技術屋さんも、結果にはひとまず満足していたけど…何かウケていた。
俺としては…結果的に、逆に実験台にされたような気にもなったんだけど…
あのトロそうな感じは、意図したものでない「天然」な個性なんで、
確かに笑えたし…気に入ってしまった。
…まるで、どこかのギャルゲーの姉キャラみたいだったんで、思わず
ポニーテールにしちゃいましたよ…巨乳ボディだし…w
それから数年たって、店長さんの所に行って、再調整してもらったら、
結構きびきびと動くようになったんだけど、あの間延びした口調だけは
結局直らないでそのまんま…w
本人も気に入っているみたいなんで、結局直さないでいるんだけど、
これって学習による個性の誕生って事なのかねえ。
ちなみに、今、おれの横で、まったりと鍋を作ってくれてます…w
家のオムニの旧型、身長250くらいあるんだけどさ
デカすぎて階段降りれないのよ、俺が先に行くと切なそうに脚出したり引っ込めたり見つめてくんの
可愛いのなんのって
でも対人センサーがかなり馬鹿で、こないだなんかバット持った強盗相手に機関砲構えて「じ、10秒以内に武器をすててくださいっっ!!><」って
やりすぎだろ
友人の所の娘が「誘拐」された。
清楚で控えめな娘だったんだが…一ヶ月後に東南アジア軽の窃盗団から
「保護」されて帰ってきたら、中国服着て功夫(クンフー)の達人になっていた。
しかも口調が…声自体は萌え声のまま、男言葉みたいな尊大な話し方に
なっていて、友人は絶句。
…まあ、元を知らずに見ればタカラヅカの男役みたいに見えるけど…。
友人の事も知らないとか言ってたし…どうも護身用とか、潜入工作用とかに
改修される途中だったらしい。
でも、警察から引き取って、すぐ店長の所に連れて行ったら…
流石だね!
店長は、こういう事を想定して、予め複数…文字通りのバックアップ
メモリーを組み込んであってさ。
元の意識…いや「心」を取り戻す事が出来て、友人はホッとしてた。
ただ…ダミーのメインメモリーを消された後、上書きインストールされていた
「意識」が自我を持ったらしくてさ…。
それ自体は、別の領域に隔離してあったんだけど、それを消さないで、
改めて残して欲しいって彼女に懇願され、友人が面食らっていた。
言ってみりゃ、OSに入り込んだウイルスが切り離されたみたいなもので、
そのままデリートするのが普通なんだけど…。
どうもひとつの身体の中で、ふたつの意識が「会話」どころか「和解」…いや、
「意気投合」でもしたのか…記憶を共有したまま、バランスを保てるように
なっちまったみたいでさ。
何ていうか、リアル二重人格っていうかねえ…。
店長も流石にアタマを抱えてしまったけど…見ている前で、瞬時にして
表情とか口調が変わるのは壮観だった。
しかも、器用な事に一言ごとに、二人が自問自答するように話したりも
するんだもんなぁ…。
ほら、落語とか一人漫才で複数の役をやるだろう?あんな感じでさ。
でも、ちゃんと元の人格の方を「立てて」いる辺り、何か良い感じに収まった
みたいで、ちょっと興味深いものがあった。
ちなみに、男言葉の方は「チャイナさん」と名づけられて…困惑してた…w
ところで…後で聞いたら、そのチャイナさんのテクがまた凄いらしい。
店長が吸い出したデータをチェックしたら、四桁近くの房術に関する医学的
データがあったとかで…。
ことによると色々な所に潜入して、男を篭絡して、その後、用済みに
なったらばっさり…何てことも想定されてたらしい。
でも…羨ましい事に、そのテクで、あいつすっかり骨抜きでさ…w
しかもチャイナさん…女の子としては不器用なんで、一見するとツンデレ
そのまんま…元々消される筈だったから、あいつへの思慕も強いし。
さらに、本来の清楚な娘にテクを「伝授」しちまったものだから、
正に「一粒で二度美味しい」とかで、一晩二回はデフォだとさ。
そのうち腹上死しちまうんじゃないか?って言ったら、まあ、あいつも
あの娘も真っ赤になってテレちまって…く〜…すっかりノロけてやんの。
もう、好きにやってなさい…w
161 :
149:2007/10/06(土) 22:11:09 ID:wljOyx6r
>>158 あるある。AIの自己認識ロジックに、「まったりぽやぽや系」でキャラ付けができちゃったんだな、それ。
まあ、緊急プログラム……護身術とか救助技能とかそのへんは、人格とは別に条件反射モジュールになってる。
その筐体のネイティブコードで書いてあるから、いざと言う時のことは心配ないよ。
ところで、最近狙って「まったりぽやぽや系で」って注文してくるお客が多くてさ〜……
違和感を感じないように、意図的に処理速度を落とすのって、案外難しいんだよな。
>>159 あるある……珍しいけどw
業務遂行のために大型の筐体を持った子はそれなりにいるけど、やっぱり室内での取り回しは大変みたいだね。
ここ最近のトレンドは「モジュール構成」かな。頭だけ、あるいは頭と胴だけを、一回り大型の筐体に内蔵合体するタイプ。
これなら、業務が終わったら分離して人間サイズに戻れるし。
……しかし、「マトリョーシカみたいな入れ子で、パーツ分離なしの三体合体」ってのを注文してきた、あのお客にはまいったなぁ。
昔そんなアニメを見たなぁ、とか思って請けてみたんだけど、中の筐体の肩から拳までを外の筐体の肩から肘までに納めるしかないから、
倍々のサイズで大きくなってってさ。最外殻は「それどこの重機?」って感じだった。どこで運用する気なんだか。
>>160 残念ながら、あるある、と言わざるを得ないのがなんとも……
あのあたりはいろいろキナ臭いし、部品取りやら裏社会で使うために、手っ取り早く「誘拐」しようとするんだよな。
しかし、見つかってよかったな。最近ホント多いんだよ、その手の事件。
店長も昔、それで大事な子をなくしててさ。すごく慎重なんだよ。
最近の作品は、メインメモリーをダミーにして、それとは別に最低三箇所にパリティデータを保存してる。RAID形式だな。
だから、そのうち二箇所が回収できれば元に戻せるぜ。
……しかし、リアル二重人格でやっていけてるってのは珍しいな。噂では聞いてたけど、まさかあんたの友達だったとはね。
ただ、その「チャイナさん」が持つ機能が法的にヤバいもんじゃないか、一通りチェックしたほうがいいかもしれんね。
まあ、店長が処置したなら、そのへんは大丈夫だとは思うけど。
裏業界にも変に詳しいし、警察ともコネがあるから、厄介なことにはならないと思う。
……ホント、未だに謎の多い人だよ、あの人は。
ああ、ここの面子に貰われてッた子達は幸せだな。
ちょいと前まで、俺、親方日の丸の下請けというか孫請けでさ、海外派遣予定の子達を調整したんだ。
ほとんどが民生パーツその他って感じで特に面白みがある仕事って訳じゃないし、
それまで専用で開発されてたものがここまで民間技術だらけになったのかとため息をついたよ。
でな、民生パーツってマイスターの調整が無い場合、制御ユニットのほとんどがワンパッケージでさ、
軍事運用に必要ないのもあるわけ。…そう、人格データ構成が民間のそれと同じなんだ。
休眠状態で訓練データとか覗くとさ、その中で、一緒に訓練してた生身の新兵さんとか、演習場の花とか、虫とか、
休憩時間に見た子猫とか、夕焼けの雲とか、難しい顔した訓練担当と、その後の笑顔とか…
戦術データ以外にそういうデータも転がっててさ、俺は法案適例コード使ってアシモフプロテクトを
基礎カーネルから外す作業のついでに、近いとこに領域確保して、訓練時の余剰データを残した。
自分自身なら、見るのも、消去するのも、すぐできるように。
他からは決して、触れられないように、消されないように。
俺のエゴってのはわかってるんだけどね。
遠くに聞いた、海外の戦闘ドロイドみたいにしたくなくてな…隊長さん、隊員さん、みんなで戻って来れる事を祈ってる。
>>161 ども…
>>160で悪友にバラされたマスターですw
いやもう、二度と会えないかと思っていたんで、帰ってきてくれた時は嬉しかったです。
警察の話だと、最近じゃ部品取り目的で、新旧構わず盗まれるとかで…。
>>154でも言われた初期モデル…東南アジアあたりだと未だに数多く残っていて、メンテパーツは
不足気味だし、載せ換えだと高いので、旧いタイプでも飛ぶように売れるから油断出来ないって。
「護身術…入力しないといけないかもなぁ」なんて言っていた矢先なんです。
警察で保護されたって言うので出向いたら…チャイナ服着て、長い髪をお団子二つにまとめてたんで、
一瞬…あれ、美鈴か?って…あ、美鈴ってうちの奴の名ですけど…ちょっとピンときませんでした。
何か表情が大人びていて…別人と言うか、双子の姉妹…みたいな感じで。
おれを見ても、誰だこれ…みたいで何の感慨も無いみたいで…。
でも、店長さんが同行して下さって、その場でチェックして頂いたら、やっぱり記憶とか意識が全部
上書きされて消されているって仰って愕然…。
もう目の前が真っ暗になりました。
もう、二度と元の美鈴に戻せないのか…って思ったら悲しくて…。
だから、店長さんが「大丈夫…こんなこともあろうかと…」って仰った時は、本当に奇跡かと。
目の前でみるみる表情が変わっていく様は…もう言葉になりませんでした。
メモリーバックアップシステムは必須ですね。
最近では旧いモデルでも付けられるに開発されたそうですし、近いうちに最低ひとつあれば、本人の
意識と、最近一年程度の記憶まで復元できる物も出るとか。
ここにおいでの皆さんも、まだなようでしたら、是非付けてあげてください。
それから…
>>149さんの仰る違法データの事なのですが、幸い、直接的な「殺人データ」は
無くて、むしろ医学的な人体への物理的、直接的影響に関するデータがメインだったので、
美鈴本人に改めて了解を取った上で店長さんに吸い出してもらい、警察に渡しました。
格闘技や武器の扱いのデータは…軍隊のらしいのでどうしようか…と思ったのですが、
むしろ護身用として「身に付けて」いた方が良いでしょうから…と。
あ、ただ、武器の詳細なデータ自体は…軍極秘とかあるそうで流石にマズそうなので、コピーを
提出後、消してもらいましたが。
ちなみに警察と防衛省の両方に出されたようで…店長さんの人脈の広さには驚きですw
二重人格化のことは…あれ、本当に面食らったです。
まさか美鈴が言い出してくるなんて…。
美鈴の奴、保護されて復元された後、再チェックの為スリープモードに入ったのですが、
その時に隔離されている「もうひとりの自分」の「心」と遇ったとか。
イメージとしては、自分そっくりな娘が、鎖に繋がれて格子の入った牢にいるものだとか。
その時、色々聞いていくうちに…何か可哀想になってしまったそうです。
ただ…本当はかなり危険な面もあるようで、きっちりしたバックアップの無いモデルだと、
下手すると人格統合の為、自動的に「二人」を強制融合させようとして、人格崩壊してしまう
ケースもあるようで、流石の店長さんも、後で美鈴をきつく叱っていました。
でも…美鈴に「あの娘を…もう一人のわたしを残してあげてください」って懇願された時と、
その後、メイリンに…あ、これはチャイナさんの方の名ですが…
「一生お仕え致します」と言われた時は、本当に驚きましたね。
それと…これはその…下な話で何なのですが…。
メイリンの房術…これがもう凄いんですけど…実はその…良く調べてもらったら…美鈴の
人工性器とか胸とか、少々弄られていて…これが…テクと相まって…すごく具合が良いんです。
いや…あの…挿入た時の締め具合とか、心地よい温かさとか…濡れ具合がもう良くて…。
乳首は勃起して硬くつんと上を向きますし…触れたときのレスポンスとか…。
しかも乱れた時の表情が絶品で…あれだけでその…イッてしまいそうになりました。
でも、本来は清楚系が好みだったんで…少々慣れない監視で控えめに恥ずかしそうに…っていう
設定だったから…気持ちは良かったのですけど…ちょっと凹んでいたら…。
そっちも残っていて…吃驚です!
悪友には二倍美味しいとか言われてますけど…。
実はテクが二通り、人格が二人だから…四倍なんです。
清楚なのに乱れると凄い美鈴とか、大人っぽいのにウブなメイリンなんて設定もできますから…w
ちなみに…今、店長さんに頼んで、美鈴と同じベースモデルの娘を探してもらっています。
今の「二重人格」も、なかなか楽しいんですけど…美鈴としては、やっぱり自分がメインに
なっている為に、メイリンが表に出られない事が多いのが、気になっているようで…。
メイリンも、わざわざ自分を残してくれた美鈴に申し訳なく思っていますし…。
それで…いずれは二人のうち、どちらかを移してあげたいな…と。
もし、二人が分離できたら…二人の「心」を、各種の通信波でもってマルチリンクして、互いの記憶を
共有させて、文字通り「以心伝心」な状態にするつもりです。
ただ…払いが…(汗)
美鈴ですら、48回払いの半分をやっと過ぎる位なので、どう頑張っても、あと二年は
先になるのですけど…。
でも、店長さんと相談したら、美鈴のベースモデルが、万一製造中止になる場合でも、その時は
最終生産型を確保して下さるか、探して頂ける…と。
美鈴もメイリンも、喜んでくれまして…ローンの足しにするからって、おれが勤めに行っている間に
限って、コンビニとファミレスと店長さんのショップでバイトを始めました。
まだまだ、先の事ですけど、その日が来るのが楽しみです。
>>162 最近じゃ軍向けにも民生機のコが入ってる聞いたけど、やっぱりあるんだね。
でも、微妙なのはさ、例の人工知性体保護法が、どの範囲まで適用されるかだよな。
日本とか大半の国では、人造人間の準人権が、結構きっちり守られているけど、
軍事向けに廻された場合のみ、特例として人格データを外せるからね。
幸い、日本の場合、自衛隊に居る友達の話じゃ、それじゃ味気ないっていうか、
無味乾燥な任務に潤いが無いっていうんで、人格、意識データは入っているから
それぞれに、異なった個性があるそうだけど…。
海外派遣から帰ってきたコに久々に会ったら…任務の後に、大半の記憶を消されて
しまったとかで、件の娘は、友人に会ってもすっかり「忘れてしまった」とかで、
…あいつ大分凹んでた。
どうも出発前の送別会で…あいつコクったみたいなんだよな…。
それにしても「心」を確立する上で、本来、人格の他、意識と記憶は、本来きちんと
両立していなくてはならない訳だけど、軍務絡みだと、記憶の一部を消さなくては
ならない事もあるって聞いた。
もちろん、本人に承諾をとるのが前提だけど…。
それに、海外に派遣された時、傷ついて動けなくなった所をゲリラに「拉致」
されて、データの吸出しをされる可能性もあるとかで…。
>>162さんの施した処置は、本当は、他の技手さんにもお願いしたい程だよ。
それにしても、海外に派遣されたコたち…
無事に任務を終えて帰ってくる事を願うよ。
>>165 キツい話になるが、うちが請け負う前は戦闘AI化と任務後の「全消去」は当たり前だったらしい。
結局、戦場で決め手になるのは人の意思なのにな。
一緒に帰ってきた同僚…この場合はロボでもさ、道具みたいに扱っても、やっぱり愛着が沸くんだそうだ。
アメリカだっけか、大昔のエピソードで地雷処理ロボがぶっ壊れたときに、担当兵が泣きながら「こいつは俺の戦友なんだ」って。
AIも積んでない、人の形すらしてない地雷処理ロボだって、現場で頑張ってる人には掛替えの無い戦友だから。
自分の事を忘れてるってのが堪えた人が多くて、優秀な人ほど入れ込みも強かったみたいでさ、
色々問題があったというか、規定緩和の嘆願書が多く出されてるみたいだね。
うちに派遣する子に使う置換プログラムが来たんだけど、ぱっと見て酷い代物だった。
うちで手を加えて…と思って調べてたら、仕様にないコマンドで別のGUIが出たんだ。
どこの孫請けがやったか知らないけど、隠れてたドキュメントの中身が大手担当の悪口のオンパレードでね。
多分、仕様の通りしか許されなかったからその通りに作ったうえに、全部スパゲティにわざとやったんだろうね。
思わず笑っちゃったよ。で、よく見てみたら記憶データを圧縮して、領域の奥に格納するようになってたんだ。
記憶全部消されて人物情報が無くなった子も、もしかしたら元に戻れるかもしれないよ?
裏UIのモードだと大分優秀でね、かなり詳細にフィルタリングできる。
ということで、領域確保は俺の手柄じゃないんだよね。うちはしがないメカ屋でさ、本来、重機が本業なんだ。
いったい、どこの誰が作ってくれたんだか…。
いつになったらロボ娘の軍事利用は禁止されるんだろ…。
軍用ロボ娘に萌えるのは妄想の世界だけでたくさんだよ。
謝れ!EDー209タンに謝れ!
軍用レプリカ娘が、今度出るんだって?
ベースモデルに、好みの髪と瞳の色を選べる、セミオーダーでさ。
それも実戦モードに「キャストオフ」できるとか。
もちろん、悪用防止に、両腕のダミーの銃身の口は塞がっていて、しかも金色!に塗られているが。
もっぱらサバゲー対応なんだそうだけど、女性の護身用にもどうぞとあった。
でも、今の、このご時勢で、良く発売する気になったよねえ。
>>169 両腕の銃は内蔵式だ。書き方が悪くてすまん。
ちなみに、エアソフトガンか各種スタンガン、または催涙スプレーは装備可能だと。
ただし、当然悪用厳禁だけどな。
迷彩頭髪は装備してくれるの?
カメレオンがないとレプリカ買う意味なんてないなー。
>>171 陸軍用、海兵隊用ならあるよ。
但し、ヅラ仕様と植毛仕様のどっちかを選ぶようだw
ちょっと覗いてなかったらすごい流れになっててワロタ
俺も貯金する!
【実はまだ】相変わらずの独り言劇場11【いました】
総務課のSKさんがすきだ。
一見、人間にしか見えない彼女は、実は秘かに試験導入された事務用ロボットである、
というのが、俺の妄想用脳内裏設定。
今週、観光振興課のE課長の奥さんがなくなった。もしかすると先週かもしれないが、
俺にはわからない。
それで、うちの課でもN課長以下、みんなでお通夜のお焼香に行った。
E課長のお宅に行くと、総務課の人たちが総出でお手伝いをしていた。SKさんもその一人だ。いや、一台だ。
黒い服に身をつつみ、少し寂しそうな表情で黙々と弔問客に接する彼女の胸に去来するものは何であったか。
ヒト。ニンゲン。・・・
人間のみなさんは、なぜ年をとるのですか。なぜ死ぬんですか。
わたしは・・・わたしは年をとらない。「死ぬ」ことはない。
「死ぬ」って何?人はどんな気持ちで「死んで」いくの?
わからない。わたしにはわからない。
人が「死ぬ」。わたしたちが「壊れる」のと同じこと?
それって、寂しいことですか。
それって、悲しいことですか。
わからない。わたしにはわからない。
なんてことをカナちゃん(SKさんのこと)が本当に思っていたかどうかは
俺にはわからない(笑)。
>>174 おひさし乙!
まだぶっちゃけてないようで何よりですw
>>174 あんたの独り言劇場大好きだ。次回も楽しみにしてる。
さりげなくカミュのパロディか?
こういう、エロ漫画誌の箸休めに入ってる4コマコメディみたいなのは好きだぞ
うむ…趣旨は判る。
だが、萌えがない…w
萌えが無い訳ではない
ただ常人には理解しにくいレベルの高さなのだ
メカ少女アンソロジーっての有ったけど、どうなの?
萌えるの?抜けるの?ロボなの?生身なの?壊れるの?
キルタイムから出たやつだろ?
あれはメカ少女萌えもアンドロイド萌えも中途半端だった。ビキニアーマーにすりゃ良いと思っているのか?コンピューター用語を使って状態を表せば良いのか?って感じ。
エロは触手か無理やりのどちらか。絵もアンソロ系としては上手いけどね……
でも個人的には第二段希望。アイアンメイデンのアンソロよりはマシだったからね。あれはロボ萌え一切無し。よくあるH中にテクニカルタームすら使わないしね。
ホシュ
ホシュたん乙!
ご〜〜〜ん!…という、お寺の鐘の様な、低く長く伸びる金属音が響き、
「ひゃん!痛ったぁい…!!」という若い女の悲鳴がして、おれは思わず
額に手をやり苦笑した。
…お〜い…またかよ〜。
ガレージの鋼鉄の天井の梁に、また巴(ともえ)の奴が頭をぶつけたらしい。
あ、巴っていうのは、うちのメイドロイドの名前だ。
顔立ちは、まあまあ可愛い…というより、清楚な可愛らしさで合格!
黒い瞳、黒い髪で二十前位の日系顔。
長い髪を後ろ頭のやや上で結ってポニーテールにしている。
料理、洗濯、掃除から、各種下の世話の面倒までOKな万能メイドであり、
プロポーションも抜群で、一見、問題どころか非の打ち所など無いように
思える。
…ただひとつ…身長が198センチあることを除けば…。
巴という古風な名前は、使っているAIがコードネーム「tomo」だった事が
由来としているが、それに加えて、何でも、鎌倉時代にいた巴御前という、
美人の女武者から取った名だとか。
まあ、確かに、顔立ちは美人だし、髪の結い方なんてポニーテールというか、
ちょっと若武者風な感じで、忙しい仕事の時は「気合を入れるから」などと
鉢巻にたすきなんて巻いているからなおさら納得できたりする。
…もっとも、巴御前って、敵の武者を押さえつけて、その首を引きちぎった…
なんて伝承まであるから…
もしかしたら、そっちから来てるのか?と、勘ぐりたくもなる。
ともかく…大きな上…実は馬鹿力なのだ…。
「あいたた〜」
頭に手をやったまま、窮屈そうに身を屈めた巴が、三間(約180センチ)のドアを
開けて、そ〜っとリビングに入ってきた。
「またやったのか…」
「ごめんなさい…」
頭をさすりながら、巴は申し訳なさそうにぺこりと頭を下げる。
こんな仕草は、嫌いじゃないし…可愛くない…わけでもない。
それどころか、癒されるものがある(笑)
しかし…。
「まあ、最近は天井をぶち破らなくなったからいいけどさ…でもな」
おれは恐縮し切っている巴に畳み掛ける。
「そんなに何度も頭ぶつけてると、本当に終いにゃパーになっちまうぞ」
「…あ…大丈夫です」
顔を上げ、巴はにこっと笑った。
「頭蓋骨はチタン合金製ですし、皮膚は特殊フォームラバーですから…」
「あのなあ…お前…これでも一応は精密電子工学の結晶なんだろ?」
「そうですけど…」
巴は軽く前髪を撫でつけながら、小さく小首を傾げる。
「でも〜中東に行った娘は、至近距離で一トン爆弾が炸裂して、20m飛ばされても
かすり傷で帰って来てますよ…ちなみに高さ20mですが…」
「…どういう例えだ」
そういえば、こいつは元々、アメリカの軍事関連メーカーで造られたドロイドを
民間用に手直した物を、日本の工場でライセンス生産したタイプだっけ…。
「わ〜った…もういい」
おれは苦笑しつつ、右手をひらひらと振りながら話を打ち切った。
そのまま巴はキッチンに入り、ポットに水を入れるとレンジにかけて点火し、
手慣れた仕草で、上の食器棚にあった湯のみと急須を難なく下ろして支度を始めた。
「すぐにお茶をお入れしますね」
…紺色のメイド服の後姿を見ていると、腰の大きな白いリボンが、時々チョウの様に
ひらひらと揺れながら、前後左右に踊っている。
少々屈んだ姿勢なので、当然の如く尻を付き出した格好なのだが…。
これがまた…まろやかな形の大きくて柔らかそうな臀部ときていて…。
そのメイド服の中身を想像して、思わず勃起しそうになった。
こんな「大女」なのに…そそられるじゃないか。
あー畜生!今日もむらむらしてきやがった。
おれは軽く頭をかきむしり、ソファに転がって天井を見上げた。
今日は久々の休暇で朝から今までごろごろしていた。
…ちょっと落ち着こうと大きく息をつき、ちらと巴の後ろ姿を見、再び溜息をついた。
少しばかり自己嫌悪な気持ちに陥りながら目を閉じる。
恥ずかしながら…おれは、ここ半月ほど、毎日のように巴を抱いてしまっている。
抱くと言っても抱き枕としてじゃない…れっきとした「女」としてだ!
それも一晩に何度も…。
…大抵が、おれの上に巴が跨って、がっちりおれを押さえつけ、恍惚とした表情で
髪を振り乱しながら腰を使い、おれのモノを優しく…かつ激しく擦り上げ、温かな
膣で包み込むようにして締め上げ、搾り出す…そんな感じなのだ。
ちなみに反対におれが上になる場合、巴に「乗る」という感じになるのだが…(汗)
どうも、この所の仕事疲れで、巴上位というのが殆どなのだ。
しかも…巴の奴…。
何を考えたのか、最近は母乳タンクに特濃ミルクとスタミナドリンクを入れてある。
行為の最中、おれのものを締め上げながら「どうかお飲みください」と言って、
大きな胸を差し出し、乳首をおれの口にそっとあてがってくるのだ。
「お忙しくて、食事も抜かれがちでしょうから」
いや、まあ確かにそうだけど。
おれの方が連日違うモノを抜かれてるんですけど…。
乳首を口に含んだ途端、僅かに眉根を寄せ、「あ…」と小さく声をあげる。
ちょっと待て…これって、良く考えたら…赤ちゃんプレイの変形か?
しかも巴がデカいものだから、ナニを挿入れながら、巴の乳首を吸いつつ、その柔らかな
胸の谷間に顔をうずめる…なんて心地の良い真似ができるのだ。
サイズの比率から考えても、巴の母親役なのは最良だ。
しかも…この柔らかく暖かな感触は、気持ちを穏やかにする。
巴がおれを抱き締め、とても人工のものとは思えない、うっとりした美しい表情で、
時々乱れながら声をあげる仕草は、あっと言う間におれの理性を奪っていった。
それから頭の中が真っ白になるまで、何度も巴の中に精を放ち…
気が付くと、総ての後始末が終わっていて、巴が優しく包むようにおれの上に
横たわっている…というのが最近のパターンであった。
一応、硬派を気取っていたおれが、今では、悪く言えばダッチワイフの延長のような、
それも顔立ちこそ可愛らしいが、おれのひとまわり以上もでかい巴に、すっかり
ハマってしまっているという事実が…少々気持ちを落ち込ませる。
…いや…。
本音を言えば、それは…あくまで建前だ。
家族としてなら好意を持っても良いのだろうが、性欲処理の対象として巴を見ている
自分に、どこか恥ずかしさを感じているのだ。
それも…気持ち良いだけに、やめられないでいるという事実…。
…いや、それと同時に、最近では巴を「女」として意識し始めている事に、おれ自身が
気付き…葛藤しているのだ。
おれが巴と初めて出合ったのは一年前。
仕事に就いて数年後、転勤を機会に、実家を出て一人暮らしする…と宣言した時、
オムニジャパンの技術者をしている両親が、餞別代りとしてメイドロイドを進呈すると
言われたのがそもそものきっかけだった。
最初…メイドロイドなど面倒だから要らない…と言い切ったが、放っておけば、どうせ
掃除も洗濯もろくにしない事は明らかだ…とお袋に切り返され、さらに親父にも、
メイドロイドが居れば、風俗になどいかずに「処理」できるから…と。
おいおい…親父…セクサロイドを息子にあてがうのかよ?
お袋も、これなら悪い病気にならないし、若さを暴発させるより、遥かに健全よ…と
にこにこしながらたたみかける。
言っていること自体は間違っちゃいないし…
結果的にそうなっているけどさ…。
うちの親は…絶対どこかヘンだ…!
まあ、とは言うものの、タダだと言うし、メンテナンスは会社でやるから…というので、
しぶしぶ承諾はしたものの、正直、初めて巴と出合った時は、本当にびっくりした。
ともかく…デカい。
可愛い外観だが…無茶苦茶デカいのだ。
初見の感想は、遊園地のアトラクションで良く見かける、「アニメのヒロインの姿を
した着ぐるみ」だった。
まあ、等身は高めで、グラマラスで…かつ、整ったプロポーション自体は良かったが。
てっきり小柄で「小間使い」と呼びたくなるような娘を想像していたおれは、正直
両親の選択を…というより、二人の頭を疑った。
即座に「こんなのいるか!」と言いそうになったが…。
恥ずかしそうに長身を屈めて、丁寧にお辞儀し、頬を赤く染めながら、おずおずと
こちらを見つめる巴の、その澄んだ瞳に…何も言えなくなってしまっていた。
…あ〜…何か、可愛いじゃないか〜。
顔立ちも良いけど…何よ、この萌える仕草は。仕様か?(笑)
おれより30cm近くでかいし、確かこのタイプは、どちらかと言うとボーイッシュか
お姉さま系のデザインの娘が多かったはずなのに。
何だっけ…昔、大きな女の子と小柄な主人公というカップルのマンガがあったけど、
おれとの対比は調度そんなところか?
…第一印象は、そんな感じだった。
ちなみに巴はオムニジャパンが二番目に発売した本格メイドロイドシリーズの一人で、
発売は14年前。当時のキャッチコピーは「遂に2mを切りました!」だった。
たった2cmの違いだけどな…。
だけど、この直後、他社でほぼ完全な人型サイズで、完璧なAIを搭載したモデルが
登場してしまい、オムニジャパンも、急遽、新型を投入する羽目になった。
親父とお袋も、この為、この頃、連日、徹夜で新型機の開発の為に研究所に詰めて
いたっけ…。
ただし、巴の同型体自体は結構ヒットし、主に企業向け、法人向けにかなりな数が
造られており、最終型の一人である巴の製造は7年前。
実は結構なロングセラーである。
前にも言ったが、ベースが軍事用だったので、その強靭さと運動性能はピカイチで、
イザとなればセキュリティ用ガードロイドの代わりも努められるばかりか、大きいので
設計に余裕があるので、メンテナンスも容易な点が買われたらしい。
まあ、約2mというのは微妙だが、業務用なら問題ないし、当時はまだ人工知性体
保護法の成立前で色々言われていたので、一目見て人間で無いと判る大きさという
点でも良かったと聞く。
最近では「心」の載せ換えで、その数が減ってはいるものの、まだあちこちで巴の
姉妹たちを見かけることができる。
しかしなぁ…。
大きな疑問が幾つか残っている。
このサイズで…擬似性行為が出来るなんて聞いていないぞ!
…というか、もしやこれは後付けのオプションなのか?
いや、第一、どうして両親はこんなデカいメイドロイドを寄越してきたのか…。
全く理解に苦しむ…。
とはいえ…時々、適当にポカをするものの、メイドとしての役割は万全で、友人や
会社の連中には「大きなともちゃん」として知られている。
でもまさか…この巴と毎晩のように…なんて、ふつう誰も思わないだろうな。
あるいは…それが狙いだったのか?
「お待たせ致しました」
ふいに巴の声がして、目を開けると巴の顔がそこにあった。
「今日は掛川茶です」
「あ…ああ」
黒い瞳が一瞬丸く見開かれ、それから巴はくすっと笑い…そーっと顔を寄せた。
「坊ちゃま…あの…もしかして」
「なんだ?」
「……その…少し……溜まって……おられます?」
うわ!!…しまった…やべ!
巴の嗅覚センサーは犬並みだ。
…カウパー腺液の匂いなど一発だ。
さっき欲情した時…ちょっとばかり…。
「ば、ばか!そういう身もフタも無い事を口にするな!」
慌ててがばっと飛び起き…立ち上がった。
「あ…ごめんなさい」
思わず手を口に当て、巴はぺこりと頭を下げる。
…いや、謝るのはいいけどさ…。
おれが何に対して欲情したか…判っているのか?
時々、巴の感性が良く判らない時がある。
基本的には真面目なのだが、変なところで茶目っ気があり、子供っぽい時もあれば、
妙に大人の女のような艶を感じさせる時もあるのだが…。
これが「判って」やっているのか、「天然」なのか怪しい時が稀にあるのだ。
とはいえ、このままでは、パンツの様子がちょっと気になる。
匂いってのは自分じゃ意外と気付かないものらしいし、巴が気付いて指摘して
いるとなるとなおのことで。
「…やっぱ、先にひと風呂浴びて着替えてくるわ」
「あ…でもお茶…入れたのですけど」
巴がちょっと悲しそうな顔をする。
「温度も今が最適で…あの…冷めてしまいますから…」
「でもパンツ…いや、やっぱり先に風呂をだな」
「………」
無言で、しょげた顔をする巴。
だから…頼むからそういう顔をするなって!
「…しょうがねえ……わ〜った!…先に茶にしよう」
「はい!」
途端に、ひまわりの花を満開に咲かせたような、明るい笑顔を浮かべる巴…。
おれはふっと苦笑し、首筋をかきながらソファに腰掛けた。
やっぱり巴の淹れてくれた茶は美味い!
少しずつすすると、お茶の軽い渋みの奥にある甘みが口中に拡がり、鼻腔をくすぐる
つんとした香りが、じんわりと沁み入ってくる。
「なあ、巴」
湯呑みを手にして、おれは正面のシングルソファに腰掛けた巴に尋ねた。
「ここに来て、そろそろ一年だけどさ…お前、ここに来る前は何をしてたの?」
両親の話だと、巴は七年前に製造された後、メーカーのモデル見本として
ショールームを廻ったものの、モデルチェンジの為に引退、その後、モデルとして
既に稼動後だった為、買い手が付かなかったので、巴に意思確認の上で、
一時機能停止、モスボールに近い状態で保管されていたらしい。
それが一年前、在庫整理の為に確認したところを見つけ出され、うちの両親が
格安で引き取り、各種のパーツを現在の仕様に直した上で再起動したと聞く。
然るに、今まで本人から直接、その話を聞いた事は無かった。
「再起動して頂く前は…オムニジャパンのショールーム・モデルを務めていました」
巴は淀みなく答えた。
「それこそ、日本全国、津々浦々廻りましたです」
「キャンギャルみたいな格好で?」
巴の巨大なレオタード姿を一瞬想像しながら尋ねた。
「いいえ」苦笑混じりに、即座に巴は首を振る。「OLさんの格好です」
なるほど…その長身ならスーツは似合うか。
もっとも、その頃はポニテだったのかな?
「時に…うちの馬鹿親とは、その頃からの知り合いだったの?」
「…馬鹿なんて言っては失礼ですよ」
ちょっと抗議するように言ってから、いつになく遠い目をして巴は続けた。
「…そうですね。その頃から、存じ上げていました」
「モデルチェンジで、仕事が無くなったから休眠してたって聞いたけどさ…。
その頃の先代モデルって事なら、業務用って事で残れたんじゃないの?」
「え?」
不意のおれの質問に、巴の動きが一瞬止まった。
「いや…だって、聞けば、実働半年ぐらいで、まだまだ新品同様な訳だろ?」
「ええ…確かに…そうなのですけど…」
巴の反応がいつになく重い。
少々うつむきながら、僅かにおれの視線を逃れようとしているようにも見える。
…人間で言えば、口が重い…というところだが、巴は本来、機敏な対応が
可能な筈で…どうも妙な違和感を感じる。
「企業の都合…って奴なのかな?」
「た、たぶん…そうかと思います…」
「そうか…」
おれもそれ以上、詮索するのはやめておいた。
とりあえず、今、この場では、だが…。
「…お茶」
おれは湯のみを差し出した。
「…はい?」
「お替り…もらえるか?」
「はい!」
巴はにこっと笑って湯のみを手にした。
ああ…なんのかんのと言っても…巴と一緒にいると、やっぱり和むわ…。
>>187〜
>>198です。
長文駄文で済みませんが、ちょっと過疎ってるので投下させて頂きました。
こんなので良ければ、続けさせて頂きたいと思うのですが…。
つまんないようでしたらやめますw
作品がよくても自虐のせいで台無しだな…。
そうだとしても言ってはならんこともある……。大人気ないぞ。
>>200 いや…電気炊飯器嬢とか、名作が続いているので…。
>>201 どうもありがとうございます。
では、ちまちまと続けさせて頂きます。
やっぱり巴の淹れてくれた茶は美味い!
少しずつすすると、お茶の軽い渋みの奥にある甘みが口中に拡がり、鼻腔をくすぐる
つんとした香りが、じんわりと沁み入ってくる。
「なあ、巴」
湯呑みを手にして、おれは正面のシングルソファに腰掛けた巴に尋ねた。
「ここに来て、そろそろ一年だけどさ…お前、ここに来る前は何をしてたの?」
両親の話だと、巴は七年前に製造された後、メーカーのモデル見本として
ショールームを廻ったものの、モデルチェンジの為に引退、その後、モデルとして
既に稼動後だった為、買い手が付かなかったので、巴に意思確認の上で、
一時機能停止、モスボールに近い状態で保管されていたらしい。
それが一年前、在庫整理の為に確認したところを見つけ出され、うちの両親が
格安で引き取り、各種のパーツを現在の仕様に直した上で再起動したと聞く。
>>203 間違えて上げてしまいました。すみません。
それからもう二杯、お替りをもらい、おれはシャワーを浴びる事にした。
「脱いだものは籠の中にお入れくださいね」
廊下から巴の声がした。
「着替えは今、お持ちして置いておきますから」
「はいよ」
適当に返事をしてバスルームに入る。
温度を調整して栓をひねり、少しお湯を出して手で温度を確かめてから、
シャワーホースを手にして、身体に掛けはじめた。
あ〜これも適温だ。
前は調整がいい加減で、熱かったり、ぬるかったりだったのだが、巴がきちんと
季節に合わせて直してくれるようになってから、安心して使えるようになった。
…ふと、巴がこの家に来た最初の日の事を思い出した。
いきなり玄関に入ろうとして頭をぶつけ、頭を下げながら入り、顔を上げた途端に、
派手にもう一度ゴン!と。
コテコテの漫才を見たみたいで、思わず吹き出した。
本人は、ちょっと不満そうに一瞬ぷっと膨れたが…。
何を思ったか、おれの顔を暫し見つめ…それから穏やかな笑顔で優雅に一礼した。
「あらためまして…巴と申します。
ふつつか者ではございますが、どうぞよろしくお願い致します」
…大型で、近代化改修されたとはいえ、当時、既に旧式なメイドロイドではあったが、
巴の仕草は普通の人間に近いもので、最新鋭のドロイドと遜色無く感じられた。
ただ…ちょっとそそっかしい所があったりするのは、どうかなぁ…と思ったりも
するのだが…それも仕様と考えれば、まあ、ありかもしれない。
ただ…その晩、風呂に入っていた時、いきなり、何の前触れも無く巴が入り込んで
来た時は、驚きのあまり、正直、あごが外れそうになった。
「お背中…お流しします」
…と、まだそれは良い。
問題は、巴自身も一糸まとわぬ「すっぽんぽん」だったこと。
…いや、確かにつくりものの身体ですよ…でかいしね。
でも…継ぎ目ひとつ無い美しい肌…それも温かな色合いの、柔らかそうな
白い裸身をいきなり見せつけられたら…。(当然、局部にボカシもないし…)
てっきりメイド服か水着、あるいは奇をてらって三助さんの服でも着て入ってくるかと
思っていたので、その、あまりに刺激的な姿に…目が点になった上、マジで鼻血が
噴き出てしまった。
その上、風呂に入っていて体温が上がっていたものだから、頭がくらっときて、
そのまま湯船にドボン…。
「…バスタオルくらい巻いてこいよ…」
巴に介抱されながら、確かそんな事を言ったら、
「…わたしを…女性として見て下さるのですね」
と言って、満面の笑顔で思いっきり抱きつかれ…その圧縮機の様な馬鹿力で全身を
締め上げられ…そのまま気が遠くなり…辺りが真っ暗になった。
気が付くと服を着せられ、ベッドに横たわっていた。
まだ朦朧とした意識の中、すぐ横をちらと見ると、しょんぼりと肩を落として椅子に
腰掛けている巴と、その前で苦笑まじりに、親父とお袋が話している様子が見えた。
「…まあ、そんな事もあるさ」
「本当に…申し訳ございません」
「いいわよ…元々女っ気の無いコだし、あれで結構、気に入ったとみたわ」
「ああ…あいつは、嫌ならキッパリ断るからな」
「構わないから…頃合がきたら、押し倒しちゃっていいからね」
「え゛?」
巴の声が裏返る。
「なまじヘンな所行って処理するより、貴女となら、こちらも安心だから」
「…あの…でも」
「冗談よ…メイドロイドが主を逆レイプなんて…あり得ないものね」
だが、お袋は続ける。
「でもね、半分は本音。貴女なら、絶対に安心して託せるから」
「うん…おれも同感だ」
って…何ですか、両親揃って、おれの意思は無視ですか?
なんちゅう身勝手な連中だ。
「…でも…嬉しいです」
巴の声が震えている。
「わたし…こんな姿ですし、なかなか思うように動けませんから…」
「まだ、初日が過ぎたばかりじゃない…頑張ろうよ、ともちゃん」
「は…はい」
お袋の巴に対する接し方は、まるで自分の娘に向けるようにも思えた。
て言うか、明らかにおれにたいする接し方より優しいですぞ…(苦笑)
「…ともかく、あいつが目覚めたら良く謝って…それから、これからについて、改めて
きちんと色々話し合うこと。君もあいつも、意思の疎通が不器用な所があるからな」
親父殿…何だか、いつものいいかげんな言動に、実に似つかわしくない発言です。
しかし、シャクだが確かにそう思えるし…。
ただ、一番シャクなのは、巴が予想以上に好みで、ものの見事にお袋の思惑に
ハマりつつあることだろう。
…などと、そんな事をぼんやりと考えていると…。
再び頭が朦朧として、そのまま意識が無くなった。
…あれから一年か。
そういえば、巴が来てから、人間の女の子と、まともに付き合ってないなぁ…
などと、ぼんやり思う、
それはそれで悲しいものがある。
だが…妙なことに、以前より優しくなった…と言われる事がある。
会社の後輩とか、行きつけの飲み屋のお姉ちゃんとかが口にしていた。
何だか、女性に優しくなったみたいで、気が付いてくれる様になった…と。
まあ、だからと言って付き合うという所まではいかないようだが。
もしかすると、巴に感化されたのか?
「久しぶりにお背中…流しましょうか?」
ふいに洗面室の方から巴の声がして、おれは我に返った。
「あ、いや、もう出るよ」
「…ちっ……それは残念」
「む…何か言ったか?」
「い〜えいえ…気のせいでございます」
「………」
本当に、こいつはメイドロイドなのか?
時々、妙な掛け合いをする事があり、思わず失笑する事がある。
実は中に人が入っている着ぐるみじゃないのか???
…いや、絶対に違うけどね。
久しぶりの休みの午後…。
このままごろごろしているのも、勿体無いですよ…という巴の勧めもあり、
思い切って外に出てみることにした。
とはいえ、給料日前で、そんなに金は無いし、外食は…というと、巴の作って
くれる料理の方が、断然美味い事の方が多いので…パス。
結局、ウインドウショッピングぐらいなものだ。
最初、クルマで行こうかと思ったが、日曜では渋滞と駐車場の確保だけで
数時間かかるのが目に見えているので、結局、二駅先のドロイドショップまで
歩いて行く事にする。
ドロイドショップなら、巴も行くという事になり…当然、電車で行く事を考えたのだが、
巴が恥ずかしがって嫌がるので、結局、歩く事にしたのである。
そういえば、歩いて一緒に行くのは初めてだったりする。
「こんにちは!トモちゃん」
「はい。こんにちはです〜」
道行く途中、色々な人から挨拶され、その都度、巴は丁寧に会釈していた。
…て言うか、いつの間に、こんなに知られているのか?
確かにデカいから目立つ外観だが…。
なんだか、ちょっとしたアイドルか有名人?みたいな扱いだ。
「そちらの人は旦那さま…かい?」
ふいに、気の良さそうなおばさんが現れ、ちらとおれを見ながら訊ねた。
「はい、わたしのマスターです」
二人っきりでない時は、巴はおれをマスターと呼ぶ。
するとおばさん…何を思ったか、おれの手を取り、ぎゅっと握りしめた。
そして感極まった表情でおれを見、頭を下げた。
「…本当に、この前はありがとうね!」
「え?あの、何か」
「ともちゃんのお陰で、ボヤで済んでね…」
「あ…」
とっさに思い出した。
そうか…この前、帰って来たら、上から下まで真っ黒になっていて、警察の
事情聴取を受けてたっけ。
火事があって救助の手伝いをしたとは聞いていたが…これか…。
おばさんは、何度もおれの手掴んだまま、ぶんぶんと振った。
「しかもだよ…ドサクサに紛れた火事場泥棒を捕まえてくれてさ…。
もう…本当に助かったよ…お陰で、路頭に迷わなくて済んだよ!!」
「そ、それは…良かったですね」
様は、巴のマスターだから…という事で感謝されているわけだ。
おれ自身は何も教えていないし、全く何もしていないのだが…。
おばさんに散々お礼を言われて、あげく、果物の入った大きな袋まで渡され、
おれは半ばぽかーんとしながら、商店街を歩き続けた。
「あ、マスター…それはわたしが」
おれが袋を手にしたままである事に気付いて、巴が手を差し出す。
「いいよ…おれが持ってるよ」
「でも…それはわたしの」
「ま、確かにこれは本来、巴のものだよな」
「……わたしは食べられませんけどね…」
「て、ことは、当然、おれが食わせてもらう事になる訳だしさ、自分の物ぐらい
自分で持つよ」
「でも、わたしはマスターのものですから…!」
「…ま…まあそうだけど…」
周囲の視線に気付いて、おれはちょっとどきっとした。
気が付くと、周囲の老若男女、皆、妙な笑顔を浮かべて、好奇のまなざしで
こちらを見守っている。
…なんなんだ、このびみょーな空気は。
「ともねぇちゃん…」
ふいに小柄な男の子がやってきて、巴はしゃがんでその子の頭を撫でる。
半ズボンに野球帽なんていう、典型的なワルガキのいでたち。
誰だ…この子。
「そいつ、ねぇちゃんのいいひと?」
なんてこと言うんだこのヤロ!
「はい!この世で一番大事な方です」
また、巴の奴がぽっと赤くなって答えちまう…。
途端にわっと周囲から声が上がった。
「おー!にくいぞ、この、いろおとこー!」
男の子がにゃ〜っと笑って声高に囃し立てる。
このクソガキ…。
「こ、こらっ!」
周囲に誰もいなければ、とっ捕まえて小一時間説教してやるのだが…。
この衆人環視の下では何もできない。
「と、ともかく行くぞ、巴」
おれはそそくさと退散する事にした。
「はいです」
ワルガキに片手を上げて、にこっと笑いかけながら巴も歩き出した。
この数年で、人々の人造人間に対する意識が変わってきたとは知っていたが、
ここまで馴染んでいるのとは思わなかったので、ちょっと意外だった。
「お買い物とか、お使いに、良くここを通るんです」
おれの疑問に答えるかのように、ふと巴が口を開いた。
「…本当は…はじめ、ちょっと恥ずかしかったんです」
おれははっとした。
「でも、皆さん、とっても良い方たちで…」
いや…それだけじゃないだろう。
巴が、とても純粋で…かつ天然な事に、好感が持たれたのだろう。
目立つ外観でありながら、あまりメカメカした人造人間らしくなく、人懐っこく
感じられるからであり、しかも愛嬌があること。
それと…たぶん、ここ一年の間で、巴自身が地域住民に馴染もうと努力したに
違いない。
…おれの知らない所で、こいつは色々頑張っていたんだな…。
「ちょっと驚いたよ」
おれは振り返り、巴の顔を見上げる。
「それに…あんな生意気なワルガキにまで人気があるなんて、驚いたぞ」
「…あ、いえ、あの子は」
巴の話では、最初は色々と悪さをされたらしい。
スカートめくり…などという古風なものから、どっきりオモチャみたいなもので
驚かされたり…。
けれど、ある時、あの子が母親の大事な時計を持ち出して、それを失くして
途方にくれていた時、一緒になって探し、見つけ出してあげたことがあり、
その時から、すっかり巴に懐いたそうだ。
まあ、巴なら実にありそうな逸話だな。
けれど…その話を聞き終えた時、ふと…何だか、懐かしい気がした。
遠い昔、そうだ…あれは、おれの幼い頃の初恋の女性との思い出だ。
…おれもイタズラ好きなワルガキで、親父の大事な懐中時計を持ち出して
原っぱで失くしてしまったのだ。
その時、半分べそをかいていたおれに、手を差し伸べてくれたのが…
「…とも…ねぇちゃん…」
思わず呟いたおれの目の前に、その少女の顔が映り…思わずはっとなる。
そして少女の顔は、一瞬後、目の前の巴の顔とダブって消えた。
「はい?…あの、マスター?」
きょとんとした顔で、巴がおれの顔をじっと見つめていた。
「あ…いや、何でもない…」
慌てて手を振りながら…おれは自分自身が口にした言葉に疑問を覚えていた。
これはこれは楽しみな作品ですこと
期待してます
この巴ほどじゃないが、背が高くて名前の読みが同じな娘が同僚に
いる
なかなかの美人で巴とはまた別の方向に可愛いんだなコレがまた
これを読むと、なんかいろいろな意味で彼女を見る目が変わってし
まうなw
>>215 ありがとうございます!
>>216 「ともえ」さんですか。羨ましいですね。
…それではちょこっと追加させて頂きます。
ともねぇちゃん…。
さっきのワルガキが呼んでいた呼び名。
それは偶然にも、かつておれが慕っていたひとの名だ。
その名を改めて心の中で呼ぶと、ちょっと恥ずかしくも、甘く切ない思い出が蘇る。
十歳頃だったか…親父たちが、新型ドロイドの開発でオムニジャパンの研究所に
篭りっぱなしになった時、食事を作りにきてくれたのが、ともねえだった。
確か…歳の頃は十五か十六ぐらいだったと思う。
すっぴんでアイドルが出来そうな愛らしい美人で、それでいてどことなく理知的な
印象のする不思議な少女だった。
長い赤毛を左右に束ねたツーテールが、とりわけ印象的で、笑うと小首を
傾げながら口元に手をあてる癖があった。
お袋に頼まれて手伝いに来た…と言っていたが、その頃のおれは半ばガキっ子に
なっていて、一人だけで生活することに慣れかけていたので、初対面の時、
わざわざそんな事しなくてもいいから帰ってくれ…とかなんとか、色々とマセた事を
言ったと思う。
「わたしで、ごめんなさいね」
それが、初めて聞いた、ともねえの言葉だった。
「でも、あなたのお母さんは、今、大事なお仕事で、研究所から出られなくて…」
「いいよ。どうせひとりっ子だしさ…一人で何とかするから要らないってば」
今にして思えば、随分生意気で失礼な事を言ったものだ。
だが…本音を言うと、ともねえの優しく愛らしい笑顔がまぶしくて…本当は…
一目惚れに近い状態なのに…照れくささや恥ずかしさが先に立ってしまい…
つい、素直になれないでいたのだ。
あ〜…本当に馬鹿でナマイキなガキだったと…今思い出しても顔が熱くなる。
ともねえは、そんな失礼なおれを、暫らく、じっと見つめていたが、やがて
にこっと笑い、それから、おれの頭にそっと手を載せ、優しく撫でてくれた。
「そうですね。それじゃ今日から…わたしがあなたのお姉さんになりましょう」
「へ?」
いきなり…正に突拍子も無い事を言われて、おれは面食らった。
「家族なら…おねえちゃんなら、遠慮する事なんてないでしょう?」
「ちょ…ちょっと…」
「それとも…わたしじゃ…いや?」
じっと見つめられ、おれはどぎまぎした。
言葉も表情も優しく、穏やかなのだが…どこか有無を言わせないものがあり、
それでいて…何だか、甘酸っぱい気持ちが込みあがってくるのだ。
そして…おれは…いつしか黙って「そんなことはない」と小さく首を振り、同意の
意を示していた。
はあ…その時の事を思い出すと、恥ずかしながら、今でもちょっとクるものがある。
初めて…異性というものを意識した瞬間だった。
思えば…あの日は、結局、ともねえは泊り込んで、宿題の手伝いやらゲームの
相手だの色々してくれて…。
何だか、とても心地よいものを感じたものだっけ。
もっとも……その晩…初めて夢精してしまったなんて口が裂けても言えなかったし、
てっきりおねしょかと思って、結局、最後まで、ともねえには、それからもパンツ洗い
だけはさせなかったのも…実に恥ずかしくも…懐かしい思い出だ。
ちなみに後で知ったのだが…ともねえは、まだどこかの学生の身分だったのに、
オムニジャパンに努めていたらしい。
何をやっていたのかは良く判らないが、かなり色々な手伝いをしていたらしい。
時々、晩にノートパソコンに向かって、色々考え事をしながら入力していたし、
両親と親しかった事を考えると…今にして思えば、プログラマーの手伝いか何かを
していた奨学生だったのかも知れない。
「……ぼっちゃま?」
暫く黙り込んでしまったおれを、巴が幾分心配そうに訊ねかけ、おれは我に返った。
「どうか、なさいましたか?」
「あ、いや、なんでもない…」
ふっと巴に笑いかけると、ともねえの言葉が蘇る。
<家族なら…おねえちゃんなら、遠慮する事なんてないでしょう?>
そうか…巴って…おれにとって、昔のともねえの位置にいるんだな。
最近、巴無しの生活が考えられなくなっている自分に、改めて気付く。
…そういえば、おれはずっと、ともねえ一筋で来たんだっけ。
理想の女性として、ずっと抱いていた想い。
だから、まともに彼女も作らなかった…というより作れなかったのだ。
いや、もちろん、巴が姉さんっていうのは、明らかに違うけどさ…。
ただ…そばにいて、心安らぐ存在という点では同じだ。
あれ…そう言えば、巴のAIって、開発コード「tomo」だったよな。
ふと、そんな事を思った。
商店街を抜け、某駅の前を抜けると、住宅街に入った。
目的のドロイドショップは、住宅街の一角の五階建てのビルの一階にある。
「そういえば、新しい超高速演算プロセッサが出たそうだな」
「はい。ただ、オムニ純正では無いんですよね」
「う〜ん…ベンチテストが終わっていたら、巴に付けてやろうかと思ったんだが」
「え〜?どうしてですかぁ」
少し不満そうに巴は口元をとがらせる。
「時々ポカするのを、それで直してやろうと思ってさ」
「これは、元からの仕様です〜」
「そんな仕様、要らね〜よ」
「あ〜ん、これが萌えで、今の流行りなんですよ〜」
小さく両手の拳を固めてふるふると振る巴。
全く、デカい図体して…可愛いじゃないか(爆)
おれは思わず吹き出しながら、わざと意地悪くにやりと笑った。
「そんなにボケるのがか?それは天然じゃね〜のか」
「はい、もちろん天然です。だから良いんじゃないですか」
「良いのか?」
「はい…」
妙に自信たっぷりに巴がやり返す。
「この前も、転んだわたしを見て、ある人が萌える〜って褒めて下さったんですよ」
「……それ、やっぱりヘン」
「え〜ん…ヘンじゃないですよ〜コアでレアなんですよ〜」
これって自爆ギャグのつもりなのか?
巴のセンスはやはり時々ヘンだ。
ほどなく、目的地のビルに着き、おれはメンバーズカードを取り出して、出入口の
右横に設けられたセンサーに軽くタッチした。
ここは会員制になっていて、盗難や強盗防止の為、入館する時、カードを提示するのだ。
やがて、ゲートの上に「いらっしゃいませ」と文字が表示され、すっとオートドアが開いた。
「ここに来るのも久しぶり…」
そして中に入りかけ…思わず立ち止まった。
「な…なんだこりゃ!?」
「ぼっちゃま!」
巴が反射的に身構える。
…店内は、まるで嵐が吹き荒れた後の様な有様だった。
床にはメカや工具が散乱していて、何体かのドロイドがバラバラになって転がっていて、
思わず目をそむける。
「ひどいです…」
巴が両手を口にあて、おれも黙って頷く。
いくつもの陳列棚が倒され、ガラスや陶器の類は粉みじんに吹き飛ばされている。
一体…どういうことなんだ?
何があったんだ?
数歩先に進むと…カウンターの奥に店長らしき人物が突っ伏しているのが見える。
「マスター…これは?」
巴の声にも緊張感がある。
「警察だ!巴、110番だ」
とっさにおれは事件性を考えて怒鳴っていた。
「あ、はい!」
こういう時の巴は実に頼りになる。
即座に左腕に内蔵された通信機のコンソールを操作しはじめる…が。
「動くな!」
ふいに鋭い男の声がして、おれたちは振り返った。
「…なんだ…OJ-MD2か」
スカーフを覆面代わりにした男が、巴のシリーズ名を呟きながら、両手でかなり大きな
銃をこちらに構えつつ、店の奥に立っていた。
年齢はおれと同じか、少し上くらいか?
長身で、黒の皮のツナギを着ていて、黒豹を思わせるしなやかさと、刃物の様な鋭さを
感じさせ、一瞬、冷たいものが走った。
…こいつ…何かのプロか?
黒い瞳がぎらりと光って、こちらを見つめる。
「…ご…強盗か?」
男の手にしている銃は…確か45口径はあるオートマチック銃だ。
<世界の銃>年鑑で、特集が組まれていたやつだ。
一発で即死か、運が良くて重症だろう。
…畜生…今になって、少しずつ足が震えてきやがった。
「マスター!」
巴がおれの前に立とうとすると、男は出し抜けに天井に向けて一発ぶっ放した。
とたんに天井のモルタルが、いくつかばらばらと崩れ落ち、軽く粉塵を撒き散らす。
…ち、本気かよ。
「動くなと言ったはずだ」
男が抑揚のない声で言い放つ。
「次は、本当に撃つぞ」
「マスターに手出しはさせません」
だが、巴はキッと男を見据えたまま、なおもおれの前に立とうとする。
「…お前…」
一歩も引かない巴の様子に驚いたのか、男の瞳に驚きの光が見えた。
銃を手にした腕が僅かに宙を泳ぐ。
と、その一瞬の隙をついて巴が男に向けて、矢のように素早く突進した。
そして、構えようとしていた銃を無造作に掴むや、指先でぐしゃりと銃口を潰し、
素早く男の両手を掴み上げた。
「マスターを撃たせやしません」
「…やるじゃないか」
巴の力には人間では抗えない。
然るに、男の瞳に微かに悪戯っぽい表情が見えた。
「だが…残念だったな…」
「?」
「動かないで!」
ふいに別の女の鋭い声がすると共に、おれは首筋に冷やりとする金属の棒を
突き当てられて、思わず歯軋りした。
いつやってきたのか、金髪、蒼眼に、こちらも全身黒皮のレザースーツに身を包んだ
若い女が、電撃スタンガンをおれに突きつけていたのだ。
…ち、もう一人いたとは油断した。
巴…すまん!
……しかし、気配を全然感じなかったぞ。
どういうことなんだ?
「そこの大きいの…マスターを離しなさい!」
「マスター?…ってことは、こいつは」
「…ジェーン!」
男が鋭く命ずる。
「不用意な口をきくな…」
「でも……はい」
男の言葉にジェーンと呼ばれたドロイドは少ししゅんとなった。
ちょっと外タレを思わせる端正な顔立ちのコだ。
へえ…予想外に殊勝な感じじゃない…いや、そうじゃなくて…。
「人造人間は、人間に危害を加えてはいけないんじゃないのか?」
おれはここぞとばかりに言い切った。
「お前、違法アンドロイドか?」
「!!!」
ジェーンの顔が一瞬、こわばる。
当惑したと言うか、叱られたような、複雑な表情で「マスター」の方を向く。
…あれ…これまた、意外と可愛いらしい顔をしてるじゃないか。
こんな表情もできるのか。
それにこの反応は…正常そうだぞ。
「マスターに危害が及びそうな時は例外だ…」
男が、微かに苦笑しながら言い放つ。
「現に、今、おれがその状況だし、お前のメイドロイドも同じではないか」
「……確かにな」
そう言いながら、スタンの先端をちらと見た。
…おれは…あまりおおっぴらに言っていないが…。
これでも、一応、柔道、空手、合気道、剣道と合わせて16段持っている。
腕にはそこそこ自信があるつもりだが…スタンガンを持つドロイド相手では、
やはり分が悪い。
だが…その反対に、巴も男を拘束している。
五分五分か…。
「で、どうする気だ…?」
おれは、覚悟を決めて尋ねた。
「このままでは埒もあかないだろう…ここで一気にケリをつけるか?」
「…そうしたいのは山々だがな…」
男は、だがどこか楽しそうな口調で続けた。
「やめとくよ。ジェーンがスタンで君を倒した途端、このチャーミングな
お嬢さんのリミッターが外れそうだ」
「ええ。マスターにそれを使ったら…容赦致しません」
巴が男の両腕を掴んだまま、いつになく凛々しい表情で男を睨む。
「…ジェーン…スタンを下ろせ」
男が静かに命じた。
「え…でも」
当惑した顔で、金髪のアンドロイド娘はちらとおれを見、再び男の顔を見る。
「よろしいのですか?マスター」
「先に手を出したのはこちらだしな…ならば、退くのもこちらが先だろう」
「で、でも…」
おれは妙な事に気付いた。
このジェーン嬢(笑)、先刻からマスターの命令に素直に従わないのだ。
いや、厳密に言うと、マスターの身を案じて、最後までマスターの指示に
従いきれないでいるのだ。
…良く言う二律背反という奴だが…。
普通は、というか、今現在存在するアンドロイドの殆どが、最終行動規程は
マスターの直接指示が第一義としてある…。
勿論、厳密に言うと、本来は法律に抵触しない範囲で…だが。
しかし、このジェーンは、マスターの身を案じて、自らの判断で躊躇しているのだ。
こいつは、相当高性能なAIを搭載しているとみた。
ならば…。
この状況を変えるには一か八かやってみるしかない。
「…巴」
おれは思い切って口を開いた。
「…もう離して良いよ」
「え…でも」
意外にも巴も当惑した表情を浮かべ、指示に反して手を離そうとしない。
「でも…マスターが…まだ…」
おいおい…巴もなのか!?
いつもなら、少し躊躇しながらも従うはずなのに…。
参ったな…これでは文字通りの膠着状態だぞ。
けれども…緊張感溢れる場面の筈なのに、おれはちょっとおかしく思った。
しかも、不思議な事に、次第にこの二人に対してある種の親近感が湧いて
きているのだ…。
「ふふ…どうも、お互い、大事にされているようだな」
男が静かに声をたてて笑った。
どうやら、おれと同じ考えらしい。
「仕方ない…同時に離すしかあるまい」
「そのようだな」
おれも思わず小さく苦笑した。
そして、少し表情を引き締めて改めて命じた。
「巴、手を離すんだ」
ほぼ同時に男も鋭く命じる
「ジェーン、スタンを下ろせ」
暫しの沈黙の後、巴とジェーンの視線がぶつかり合い…
やがて二人はゆっくりと指示に従った。
リアルタイム遭遇GJ!
続きを楽しみにしています
ガキっ子につっこみつつGJ!
色々とありがとうございます。
では…ちょっとだけ追加です。
暫く無言のまま、おれと巴は、男とジェーンの二人と対峙していた。
全く…つい一時間前まで、こんなひっ散らかった店内で、二対二で命懸けで睨みあう
ことになるなどとは、夢にも思わなかった。
それに、お互い、開放はしたものの…
これでは、あまり状況は変わらない気もするが…まあ、緊張感溢れる死闘開始直前の
状態よりは断然マシか。
それに実質、どちらも切り札がアンドロイドのお嬢さんだし。
それにしても…倒れている店長を介抱しなくては…と思うのだが、おれたち自身の
安全すら保障されていない現状では、どうしようもない。
果たして…どうしたものか。
「君は、この店の常連だな」
ややをして、何を思ったのか、ジェーンに指先で指示しながら、男が口を開いた。
「ここに入るには、専用の認証カードが要る筈だ」
「当たり前だろ…ここはそういうシステムなんだから」
「マスター…見つけました」
ジェーンは周囲を見渡すと、奥のモニターに気付き、そちらに向かった。
おいおい…今度は何をするつもりだよ。
モニターの前にあるコンソールテーブルに就いたジェーンが男に頷きかけ、男が
小さく頷いて返すと、手早くキーを打ち始める。
なんだぁ…この場でハッキングでもする気か?
「ここで何が行われていたか…知っているな」
何を持って回った言い方をするんだ?
おれは、半ば呆れながらヤケクソ気味に言った。
「メーカーの代理店で、かつカスタムパーツの製造、販売、改造、それにメンテ…」
「違う!」
男はぴしゃりと言い切った。
「違法パーツの製造販売だ」
「え゛?」
おれは思わず間抜けな声を上げていた。
「違法…?ここが…だって!?」
ここは有名なフランチャイズのチェーンショップだぜ。
「嘘だろう?」
「しかも…その取り付けと言った、様々な違法改造もしているのさ…」
「なんだって?」
おれはちらと巴と顔を見合わせた。
「そんな馬鹿な…」
「常連なら、知らないはずないでしょう!」
ジェーンがこちらを向き、冷然と言い放つ。
ちぇっ…可愛い顔して…キツいコだぜ。
しかし…こいつ、ドロイドにしては随分と人間臭い反応の仕方だな。
「あのさぁ…お嬢さん」
おれは左のこめかみに指先を当て、かるく掻きながら、舌打ちまじりに言った。
「おれたちは、ただの客なの!」
気が付くと、男がいつの間にかサングラスを掛け、覆面代わりのスカーフを外している。
その素早さと手慣れた感じにちょっと驚き、改めて警戒しながらおれは続けた。
「ここはさ、『全国427店舗』を誇るフランチャイズショップのひとつなんだよ」
「もちろん知っているわ」
「会員数、老若男女合わせて20万人超…お前さん、その全員が違法改造グループの
一員だっての?仮に…『ここ』がそういうところだとして、おれが他のショップで入会した
会員だとしたら全くの無関係じゃないのか?」
…ジェーンは口をつぐみ、暫しおれの顔を見据えた。
「でも、ここに…今ここに入ってこられたわ」
「ここに?今ここに…ってどういう意味だよ?」
おれの問いには答えず、ジェーンはモニターの方に向き直った。
「おい、勿体ぶらずに教えろよ」
すると、ジェーンはこちらの方は向かずに静かに言い切った。
「…それに、マスターがここを破壊したのは、あくまで正当防衛よ」
ち…はぐらかして話さない気か?それにだぞ…。
「正当防衛だあ?」
おれは、思わず呆れて周囲を見渡しかけ…はっと息を飲んだ。
「マスター…」
巴も気付き、床に散らばっている無数の薬莢をそっと指差す。
いきなりドタバタと立ち回ったので気付かなかったが…確かにこれは異様だ。
しかもそれらは、バラバラになったドロイドの腕に空いた穴から出た形跡がある。
「まさか…戦闘用…ドロイド!?」
悪い冗談かと思ったが…改めて良く見ると、散らばっているドロイドの、砕けたり割れた
手足の隙間から武器…この日本には似つかわしく無い重火器の銃口や銃身が見える。
…こんなものぶっ放したら…。
「うそ…だろ…」
このショップは、テレビCMでも有名な、全国規模で展開されているチェーンストアのひとつだ。
それが…裏でこんな物騒な代物を抱え込んでいたなんて…。
流石にちょっとショックだ。
「すると…あんたたちが先に撃たれた…のか」
どうも状況からすると、その様になる。
まだ、信じて良いのか判らないが…。
男は警察官…なのか?
いや、それは違うぞ。
それなら、先刻、通報しようとして止めたりしないはずだ。
それに45口径なんて所持する筈はない。
普通はニューナンブか、SIG230辺りの中型拳銃だろう。
と、なると…。
そう思った矢先に、ジェーンの操作していたコンソールからピーという音がした。
「マスター…」
ジェーンが頷き、男がつかつかとモニターの前に行く。
そして、表示された何かを一通り見ると、ジェーンに言った。
「ここの入場記録を消してやれ」
「…え?よろしいのですか?」
「どうやら…本当に無関係な様だからな」
訝しげなジェーンに、男がおれの方を見ながら命じた。
……何にアクセスしたんだ?…まさか!おれの個人データか?
こんなところで、いともたやすく出来るって言うのか?
「君の事は、今、ちょっと調べさせてもらった」
男がサングラスを外した。
整った顔立ちで、日焼けした肌の、モデルでも通じそうな風貌の男だった。
先刻までの冷徹そうな雰囲気を感じさせない、爽やかな笑みを浮かべている。
か〜!伝説の松田優作とか、草刈正雄とか、そんな感じの二枚目じゃないの。
もしかして、これはドッキリとか、実はドラマか映画の撮影とかじゃないよな。
「…済まなかったな」
ふいに男は頭を下げた。
って…え?
「電子ロックしてあったんで、ここには絶対に誰も入れないと思っていたのでね」
「え…だって、それって…」
「君のカードは、ダイヤモンドカードだから…店長待遇で特別なのだよ」
「あ…」
そうだ…思い出した!
おれのカードは両親が手配してくれた物で、オムニジャパン本社・総務部発行の物だ。
このショップの会社に対しては、直接経営等に関与していないものの、資本的、人的共に
強い影響力があり、特に本社のトップで経営、開発に直接関わっている者に対しては、
ショップの店長並みの厚遇をする事になっているそうだ。
また…それに加えて、営業時間外であっても、中に店員がいれば入れてしまう…そんな
特別なカードだと、確か親父に聞いた事がある。
随分と無茶苦茶だな…と一笑に付したし半信半疑でもあったが…このカードは、事故や
災害等が原因で、ドロイドの緊急メンテや連絡などをする必要がある時、所持している者が
こういったショップで、より素早く中に入って行動出来る様、IDカードを兼ねているのだとか。
「そうか…中にまだ店長がいたから…」
「店長の認識と君のカードの認識で、偶然ゲートが開いたのだろう」
「でも…確かに『いらっしゃいませ』という表示が出ていましたよ」
不意に巴が口を挟み、男は静かに笑った。
「君は、実に良いパートナーを連れているな。洞察力も素晴らしい」
巴は一瞬きょとんとした顔をしたが、すぐにはっとして頬を赤らめた。
この反応の仕方が可愛いんだよな。
とか、言っている場合じゃない。
…そうだ。まさしくその通りだ。
営業中の「看板」は出ていたぞ。
「我々が急にやってきた事もあるが…。いきなり、指定された日でも無いのに臨時休業
すると、やはりおかしく思われるだろう。営業中の表示を出しておけば、目立ちにくい」
「確かに…フランチャイズ系の店は、定休日はどこも同じだ」
「仮に客がきても…店内清掃中で一時閉めていた…とか言えば、言い訳も立つ」
「すると…最初はそのつもりだったんだな」
「ああ、だが…結局、こうなっちまったがね」
男は頷き、左手で顎をさすりながら、小さく咽喉から息をついた。
「……しかし、弱ったな」
「え?」
「君たちが善意の来客なのに、巻き込んだ上、危うく危害を及ぼす所だった。それに…」
「このまま…いっそ、おれたちが何も見なかった事にして、別れるって訳には…」
「いきませんね…絶対に」
ふいにジェーンが口を挟み、巴はきっとなってそちらを睨んだ。
「ここまで事情を知られた以上…仕方ないのよ」
「そんなのあんまりです」
両手の拳を固め、ちらとおれの顔を見てから、巴はまくしたてる。
「そちらの事情なんて知りませんけど…完璧にロックしなかったのは、そちらの責任では
ありませんか!何も知らずに来たのに…勝手なこと、言わないでください!」
巴の声が熱を帯びていき、男は微かに苦い表情を浮かべて首筋に手をやった。
「大体、貴女、さっきはなんですか!誤解とは言えマスターに武器を突きつけておきながら、
お詫びのひとつも言えないんですか!」
「あれは…だって!」
ジェーンが真っ赤になって声を荒げる。
「貴女の方こそ、マスターをあんな風に拘束するから!」
って、おいおい、随分と女の子らしい反応じゃないか。
…て言うか…何だか、巴と似た反応だな。
「わかった…」
男が決意を固めた表情で、口を開いた。
「君たちには…総ての事情を説明しよう。その上でどうするか考えよう」
「……それしかなさそうだな」
おれも素直に頷く
「マスター!?」
ジェーンが抗議混じりの声を上げる。
「ただし…一切、他人には口外しないこと。ここでの出来事もだ。それは約束してくれ」
「わかった。…巴もいいな?」
「はい…です」
ちらとジェーンを一瞥しながら巴が頷き、ジェーンはぷいと視線を逸らす。
…ここに来てから、いつもの呑気な巴らしくない…。
ジェーンをやりこめる辺り、何だか急に強くなったみたいな感じがする。
ひょっとして…おれを守ろうとして…なのか?
それはそれで…嬉しく思うけどな。
GJ! どじっ娘メイド路線と思いきや、いきなりシリアスバトルな展開は少し予想外ですた。
わくわくだぜぇっ!
楽しんで頂けますと幸いです。
では、今日もちょこっとですが…。
数分後、おれたち四人はビルの裏口に姿を現した。
そこには一台の白いワゴンが停めてあり、男が運転席に、ジェーンが助手席に、
おれと巴が素早く後部座席に滑り込んだ。
…と言っても、巴は長身なので、乗り込む順番は巴を先にし、例によって、慌てて入り口に
激突しないよう、素早くおれが巴の頭に手をあてて、高さを押さえてやったのだが…。
……放っておくと、また、勢いよくガン!とか、ぶつけかねないからな。
これでクルマが壊れたら、修理代出さなくてはならんのか?などと、お馬鹿な事を一瞬考える。
無事に乗り込んだ巴は、あは!と小さく笑って口元に手をあて、そっと小首を傾げてみせた。
こんな時でも巴は巴だ。
…はあ…ちょっと気が抜ける…と同時に、妙に癒され…ほっとする。
それにしても、乗用車に比べると、ワゴンは格段に天井が高いので、乗り降りはやはり楽だ。
おれも、格好付けてないで、クーペを止めて、巴の為にそろそろワゴンにするかな。
…と、ふと、気が付くと助手席のジェーンが振り向いて、じ〜っとこちらを見ていた。
巴をシートに付かせるまでの一連をずっと見ていたらしい。
なんだ?何か言いたそうな感じだが。
けれど、目があった瞬間、すぐについと正面を向いてしまった。
「全員乗ったか?」
男がバックミラーを直しながら訊ねる。
「ああ」
オートのスライドドアを閉じ、シートベルトをつけながら返事をする。
ワゴンは静かに走り出した。
それにしても…あの店はあのままで良かったのだろうか?
店長だって放っぽったままだし…。
ちょっと気になり、窓越しに遠ざかって行くビルを振り返って見ると、男が言った。
「…さっき、警察には連絡した。後始末は気にしなくて良い」
「え?」
男の言葉に、おれと巴は、ちらと顔を見合わせた。
「おかしく思うのも無理はない…確かに、さっきは止めたんだからな」
男は続けた。
「だが…あの状況では仕方無かった。君たちが通報すると、当然、中央センターに連絡が
行ってしまう…しかし、それでは、折角、隠密裏に調査している事が無駄になってしまう。
だから、極秘に行動してくれる部署に、改めて連絡したんだ」
「でも、それならおれたちが、違法改造に加担していないって判ってたんじゃ?」
「……もちろん、それも考えたがね」
男がミラー越しに、ちらとおれの顔を見る。
「君が『組織』の安全保持の為、『トカゲの尻尾切り』をする可能性もあったからな」
「あ…そうか」
「あのショップを切り捨てて、あの場だけで済ませる手もあるし、警察内部に協力者が
いないとも限らない…」
「…それでつまり、『ああいう事件』専門の担当に通報したと」
「察しがいいな。日本警察で、『懇意にしてもらっている部署』があってね」
「…あんた…一体、何者なんだ?」
すると、何を思ったのか、男は小さく口ごもり…一段声を落として言った。
「……休暇中のFBI捜査官……表向きはだがな」
おれは思わず吹き出した。
「…そんなベタな話、信じられないよ」
「だから…おれも…あまりしたくなかった」
男は苦笑し、それから素早く懐から、黒い手帳の様なものを取り出すと、ちらと振り返り、
おれに向かってそっと放って寄越した。
…頼むから運転しながらそういう事しないでくれよ…。
と、それはさておき、それを受け取って開くと、中に金色の徽章があり、開いた下部に
身分証明も添付されてあり、英語でつらつらと色々記してある。
マークも確かに…FBIだ。
仕事で知り合った友人の親父さんのを見たことがある。
「バン・カドクラ…」
名前を読み上げると、男は再びミラー越しにおれを見た。
「そう…それがおれの名だ」
日本で言えばカドクラバンか…。
何か、アイテムでも使って変身しそうな名前だな。
「それでバン…」
おれは遂に最大の疑問を口にした。
「あんたたちは、一体、何をしにきたんだ?」
暫し沈黙があった。
ジェーンが心配そうにバンの横顔を見、巴がおれの方を見つめている。
男…バンは正面を向いたまま、やがて静かに口を開いた。
「……ある物を捜索し、確保するか…破壊して、この国から出さない為に来た」
「マスター…それ以上は…」
「君たちに…重ねて誓ってもらいたい。この件は絶対口外しないと」
「…わかった」
やがて、クルマはある公園横の道路に横付けした。
「おれたちは…あるAIシステムを探しているんだ」
「AI…システム?」
「厳密に言うと、サポートシステムでもあり、双方向情報共有・独立連動システムでもある」
なんだか良くわからなくなってきた。
「双方向?AIとどこかでやりとりして…情報を共有しつつ…ってなんだいそりゃ」
「……シンクロイド・システムのことですか」
ふいに、巴が口を開き、おれは目を見開いた。
ジェーンが驚いた表情で振り返り、バンも少し意外そうな表情を浮かべている。
「巴…おまえ、何か知っているのか?」
おれの言葉に、巴はいつになく真剣な表情で頷いた。
「はい…わたしの記憶回路に…幾つか、かなり古いものですが…その痕跡が、あります」
「痕跡って…おまえ」
巴の黒い大きな瞳が、おれをじっと見据えている。
少し困ったような、温かで優しい笑みを微かに湛えた、年上の女性の表情がそこにあった。
巴が、ごく稀に見せる、おれを見守るかのような、落ち着いた雰囲気。
…あれ…この表情…。
昔…その昔、確かどこかで見たことがある。
「…それって…どういうものなんだ?」
だが…おれは…半ば無意識に、そう訊ねていた。
巴は頷き、普段からは考えられない、凛とした口調で言った。
「簡単に言いますと、複数のドロイドを、ひとつのマスターAIで制御する、というものです」
「???」
首を傾げながらも、そういえば、巴はかつて、ショールームモデルをしてたんだな…と思う。
いや、そうじゃなくて…ひとつのAIでっていうのは…リモコンみたいなものなのか?
おれが判然としていない事に気付いて、巴は更に続けた。
「もっと簡単に言いますと、ひとつの意識で、同時に幾つもの身体を動かすシステムです」
「つまり、それを使えば…」
「はい…例えば…もしそれがわたしに使われたとしたら…と、この場合考えてみます。
『わたし』の意識や記憶は基本的に『ひとつ』です。でも、それと同時に、全く同じ、意識や
記憶を共有した、別の身体の『わたし』を存在させ、マルチリンクで動かすことが出来るように
なるのです」
おれの頭の中に、並んだ二人の巴が全く同じ動作をして踊ったり、掛け合い漫才をする
姿が思い浮かんだ…意味はわかるが…もうひとつピンと来ない。
「…それ…何のために作ったんだ?」
「人が…機械の身体に生まれ変わる為に…です」
巴の言葉に、車内が一瞬、し〜んと静まり返った。
バンもジェーンも口をつぐみ、暫しじっとしたまま動かない。
どうやら…巴の説明で、総て事足りてしまったようだ。
「…それは…人の為に…作ったのか?」
「そういう風に…記録されています」
淡々と、だが、努めて穏やかな口調で巴は答えた。
「でも…生まれ変わるって…どういう意味だよ」
「仮に…重病で、寝たきりの患者さんがいたとします。その人にこのシステムを施術したと
したら…どうでしょう?」
「同時に…別の…ドロイドの身体を持った自分が、存在できる」
「しかも、意識そのものはひとつです」
「そうだな」
「そして、その患者さんが…亡くなったとしたら…」
「…ドロイドの身体が…残る…」
「はい。でも、亡くなった人の意識も記憶も…すべて残っているのです…それも死の間際まで
完全にリンクしたまま…」
「つまりは…その人間の『心』が移されたということなんだな」
「はい」
「でも、それって…それって、本当に生まれ変わりなんだろうか?」
「…そうですね。生身の身体にのみ魂が宿る…というのであれば、明らかに違います」
巴はそう言いながら、何故か一瞬、少し悲しげな表情を浮かべた。
「……そして…わたしの中にある記録では…臨床実験は一度だけだった様ですが…」
「それでバン…何で、あんたはそれを破壊しなくてはならないんだい?」
おれは正面を向き直った。
「……それって…重病の末期患者とかには、考えようによっては、朗報なんだろう?」
「考えようによっては…とは、言いえて妙な表現だが…まさにその通りだ」
バンは振り返り、ちらと巴の方を向き、それからおれの方に向き直った。
「…お嬢さんが、適切な説明をしてくれたから…その先を話そう」
「でも、マスター…その先は…」
またもジェーンが口を挟むが、バンは首を振った。
そして、はっきりと通る声で言った。
「うちのプレジデントは…テロの親玉どもの手に、そのシステムが渡るのを恐れているのだよ」
おれは…思わず、あっと声を上げた。
そうだ…確かにその可能性もあるわけだ。
「自爆テロも辞さないような連中だ。指導者の替え玉どころか、機械で出来た本人の完全な
分身が幾つも出来るとしたら…」
「…いくら倒しても、拘束しても無駄になる」
「ああ…」バンは唇を噛んだ「おれにはそれが…許せないんだよ」
「バン…あんた…」
おれは口を開きかけたが…。
バンの顔に、言いようの無い怒りと悲しみの表情がよぎり、言葉を失った。
…そして、ふと気が付くと、そのバンを、ジェーンが複雑な表情で見守っていた。
ともかく…無事、脱出はしたものの、これからどうするか…ということになった。
おれたちは…と言うと、とりあえず二人に協力することにした。
まあ、危ない真似などはできないし、バンもそういう手伝いはしなくて良いと言っていたが、
先刻の様子を見ていたら、このまま別れるのというのも…なんだか引っ掛かって…。
情報収集とか、補給物資の調達(武器は除くが(笑))ぐらいなら問題あるまい。
義を見てせざるは勇無きなり!とか、格好つける訳じゃないけど…それに近いかもなぁ。
それに…バンを見つめているジェーンを見ていると…何だか更に気になるんだよな。
それにしても、二人は日本に来て間もなく、まだきちんとした宿すら手配していないとの事だ。
さて、こちらはどうしたものだろう?
ここ数日間はワゴンやネットカフェで寝泊りし、銭湯に入ったりしているそうだが…。
その容姿じゃ、逆に目立ったろうなぁ。
日本語は流暢で、日本の慣習自体には問題ないようだけど…。
バンはスリムだが、骨太な印象の、役者のような二枚目だし…
また、ジェーンは…色白で、これで余計な口さえ開かなければ…(爆)、あちら風の清楚な
お嬢さまで通る美少女ぶりだ。
…ちなみにジェーンとは愛称で、本名はジェニファーと言うそうで、意外にも巴の名の
由来のひとつ「巴御前」の事を知っていて、それをネタに巴と色々やりあっていたが…。
何だか、ジェーンも巴自身も、どことなく舌戦を楽しんできているようで、おや?と思った。
…まあ、仲良きことはよき事かな。
いやぁ〜、先日から実に面白いわ
>>250 恐れ入ります。
なかなか進まなくて済みませんが、少しだけ上げさせて頂きます。
それから、ざっと20分後…。
ご〜〜〜ん!…という、お寺の鐘の様な、聞きなれた(爆)低く長く伸びる、えらく大きな
金属音がガレージ中に派手に響き渡り、
「ひゃん!痛ったぁい…!!」という、お馴染みの?巴の悲鳴が上がり、おれは思わず
頭を抱えてしまった。
…お〜い…このシリアスな状況に…またかよ〜。
正式な宿が決まるまで、おれの家を仮の宿に使ったらどうか…と提案し、最初は、そこまで
迷惑をかけられない…と、固辞していたバンだったが…。
何故かジェーンが賛成の意を示した事で、とりあえず今晩一晩の宿を…と話がまとまった。
で、そのまま家に着いたのだが…。
ダイレクトに、ワゴンをガレージに入れさせてしまったのが間違いの元だった。
…巴も迂闊だが…おれも迂闊だ。
「いたた…」
中腰の姿勢で、右手で天井の高さを測りながら、左手で頭をさすり、巴がばつの悪そうな顔で
おれの方を恐る恐る見つめる。
「おまえなあ…」
文句を言いかけたものの…思わず失笑が漏れてしまう。
「ごめんなさい…マスター」
頭をさすりながら、顔をくしゃくしゃにした巴が、申し訳なさそうにぺこりと頭を下げる。
ふと、気が付くと…
先に下りていたバンとジェーンが、こちらを向いたまま、目を丸く見開いて固まっていたが、
やがて、ぷっと吹き出し、くっくと咽喉で笑い始めた。
「そんなに笑わなくたって、いいじゃないですか〜!」
ぷーっと膨れた巴が、右手を天井から離して、小さく拳を固め、ふるふる振って抗議する。
おれも改めて吹き出し、笑いをこらえながら言った。
「本当に…そんなに何度も頭ぶつけてると、シャレじゃなく、本当にパーになっちまうぞ」
巴のそばに寄り、黒髪の頭に手をあて、そっと撫でてやる。
「…だから…マスター…本当に大丈夫ですってば」
少し顔を上げ、巴はにこっと愛らしく笑った。
この笑顔が…クセモノなんだよな。
だって…見ていると…何だか癒されるというか…本当に萌えちまうんだよなぁ。
「頭蓋骨はチタン合金製、皮膚は特殊フォームラバーですから…」
「それは一度聞いた」
「それに、南米に行った娘は、目の前で500キロ爆弾が炸裂して、200m飛ばされても、
かすり傷で帰って来てますよ…ちなみに水平距離200mですが…」
「……さっきは高さ20mとか言ってなかったか?」
「それは、中東にいった娘です」
「………」
予想外に切り返されて、おれは一瞬、言葉を失った。
そ〜っと横を向くと、バンとジェーンが口に手を当てて、笑いをこらえている。
「ああ、わ〜ったわ〜った…」
おれは頭を掻き…溜息まじりに苦笑しつつ、右手をひらひらと振った。
先刻の凛とした態度で説明をした時との落差が凄いけど…。
やっぱり巴は巴だな…。
良くも…悪くもだが?(笑)
「ともかく、茶でも淹れてくれ」
「はいです」
巴は満面の笑みでうなずいた。
いつも、巴と二人っきりのリビングに、二人の来客が増えると何だか賑やかな感じだ。
テーブルを挟んで正面の三人掛けソファに、バンとジェーンが腰掛け、辺りをちらちら
見回している。
「……独身男の家にしては広いだろ?」
厳密に言うと、当然、巴との二人暮らしだがね。
「あ、いや」バンがそっと首を振った「…本国のおれの家も、こんな感じだったんでな」
「だった…ってことは」
「…ああ…今は…もう無いがね」
あ…悪いことを聞いちまったか?
ちょっとばつの悪い感じで思わず視線を逸らすと、バンはふっと寂しげに苦笑した。
「気にするな…昔のことさ」
ちらとジェーンを見ると、やはり少し暗い表情をしている。
…昔の家のことで…何か悲しい思い出でもあるのだろうか?
今は無い…って…。
まるで、存在そのものが無いような言い方じゃないか…。
その時、何故か…ふっと、バンがテロリストへの怒りを表わした時の事が脳裏に浮かんだ。
まさか…テロリストに…やられた…とか?
だとしたら…一緒に居た家族も……まさか…。
…だが、二人の沈痛な表情に、おれにはそこまで尋ねる勇気が湧かなかった。
「お茶が入りましたよ〜!」
丁度タイミング良く、キッチンから巴の声がして、おれはホッとした。
あくまで偶然だろうけど、巴、ナイスアシスト!!
お盆に、茶たくに載った温かそうな湯のみが四つと、らくがんの入った器がひとつ載っている。
…って、ちょっと待て、ふたつで十分じゃないのか?
『ちゃんと』飲めるのは男二人だけだろ?
思わず指先で、テーブルに置かれたお盆の上を、ひとつふたつと数える仕草をして、巴とジェーンを
交互に指差す。
「まあ…気は心ですから〜」
にこにこしながら、巴が言葉で答える。
まあ…確かにね…って…いいのか?それで…。
だが、バンは、テーブルの上のお盆から、湯のみが載った茶たくをひとつ手にすると、そっと、
ジェーンに差し出した。
「折角のご厚意だしな…君も、付き合ってくれないか」
「え?」
一瞬、とまどいの表情を浮かべるジェーン、そして…一瞬後、彼女の瞳から、何だかじわっと
こみ上げてきている様に見えて、おれは思わず息を呑んだ。
「…あ……は…はいっ!」
…本当にドロイドなのかと思えるような…ちょっと何かしたら泣き出しそうなのに…それでいて、
とても嬉しそうな笑みを微かに浮かべ…ジェーンは湯のみを手にした。
まるで…感極まって嬉し泣きしそうな…そんな感じじゃないか。
……何だろう…この娘は…。
間違いなくドロイドなのだが…まるで…バンに対して、単なるマスター以上の感情を持っている
みたいに思える。
いや…バン自身も…見ていると、ジェーンが大切なのに…時々、わざと一線を引いているように
見える気がするのだが…。
だが、二人並んでお茶をすすっている様子を見ると…何だかちょっと良い雰囲気だ。
…こういうのって…悪くないな。
ふと気が付くと、巴がおれに、そっと湯のみを差し出していた。
黙って頷きながら受け取ると、小さく小首を傾げて笑みを浮かべてみせる。
黒い瞳が僅かに悪戯っぽく輝いている様に見え…おれは心底どきっとした。
それに対して巴は口元に手をあててくすっと笑う。
…まさか…巴の奴、ここまで読んでいたわけじゃないだろうな?
とりあえず一息、つきはしたものの…日が暮れて、今日はどのみち、これ以上の調査は無理だし、
詳しい説明をすると長くなるから…というので、ともかく今日は一旦、話を打ち切ることにした。
258 :
名無しさん@ピンキー:2007/10/20(土) 12:31:39 ID:qW+5Zrq2
それでは、続きです。
今日は、たぶん、この一回だけになるかと思います。
時計を見ると19時を廻っていた。
部屋着に着替えて、自室のベッドにひっくり返る。
…おれの家は借家だが、大家さんがとても良い人で、家賃もかなり安く、部屋数も多い。
しかも、巴に一部屋与えようかと思っていたら、充電ベッドを隣の書斎に持ち込んでしまい、
すぐ隣で待機すると言い張るものだから、寝室がひとつで足りてしまっているのだ。
そこで、リピングとキッチン以外は、両親や友人などが泊まれるように整えなおし、しかも
こまめに巴が手入れしてくれるので、いつでも、誰が不意にやってきても使えるのである。
…余談だが…巴が来て暫くして、天井と出入口の上部を頭突き(笑)して破壊する事故が
三回ほどあったが、いずれも大家さんは修理代を払うだけで笑って許してくれた。
かなり壊れたのだが「故意にではないから」と、本当に原価分しか受け取らなかった。
後で聞いたら、それは、巴が、常にこの家を内外共に綺麗に維持して、寝室などホテルなみに
整えてある事を、たまたま様子を見に来た大家さんが知り、巴を気に入ってくれたらしい。
ちょっとドジな所もあるけれど…巴を選んでくれた両親に、改めて感謝しなくてはな…。
さて、奥の、ダブルベッドのある部屋をバンたちに提示したところ、一瞬、複雑な表情をされたが、
ネットの端末が二台あるので、二人で同時に調べ物が出来るメリットがある…と説明した所、
即座に納得し、夕食までの間、二人はそこで休むことになった。
…ちなみに、その部屋を真っ先に案内したのは巴なのだが…。
どうも、いつもより、妙に気が廻るような気がしてならない。
一見、いつもの、ぽやぽやまったりした巴に変わりはないのだが…。
なんだか二人を色々と気遣っているような…そんな気がしていた。
まあ、おれ自身、二人が単なるマスターとそれに仕えるドロイドの娘…という感じに見えないで
いたのも事実なのだが。
それに、ジェーンは最初の頃は、おれたちがバンに敵対する者か、あるいは何らかの悪い意味で
影響を及ぼす者という感じで、ツンとした接し方をしていたのだが、ワゴンに乗り込む時の
おれたちを見ていた辺りから、次第にあたりが柔らかくなってきているようだ。
「あれが…ツンデレっていうのかね」
ふと口に出して言うと、書斎から巴がぬっと姿を現した。
「あ、ジェーンのことですか〜?」
メイド服を脱ぎ、白のブラとシンプルパンツ一枚だけの、なかなか刺激的な姿である。
温かな、まるで血の通っていそうな…やはり、作り物と思えない白く柔らかな肌。
やや童顔なこともあって、大柄な割にあどけない印象にも見えるが、その整った体躯は美しく…
その上、大きくて、弾力のありそうなふたつの胸の膨らみが…これまた良い形で…。
しかも乳首がブラ越しにうっすらと透けて、そのうえぷっと布地を押し上げているのだから堪らない。
…でかいけど…何かで見た、美しい聖母像か女神像の様でもあり…
思わず…ちょっと…勃起してしまう。
あ…い、いかん
…やべ…(汗汗)
「あ、ああ…そうだが」
ちょっとしどろもどろになりながら、壁の方を向く。
朝の気恥ずかしさが蘇ると共に、巴の、先刻の凛とした姿や、いつもの笑顔が脳裏に浮かんでしまい、
なかなかセガレ(爆)がおさまらない。
いや、おさまるどころか…逆にもう自分でも情けないくらい、腫れ上がって(苦笑)いる。
「…あ……あの…」
そんなおれに気付いたのか、巴が口元に指をあて、もじもじしながら、恐る恐る声を掛ける。
「やっぱり…その…ぼっちゃま…?」
「あ〜…いや、だから、気にしないでいいってば」
「…でも………もしかして…あの…」
わ〜!ベッドの上で『の』の字を書くなぁ。
がばっと跳ね起き、慌てて立ち上がったおれは、カーペットの床にひざまずいた巴の顔を見下ろした。
「……よろしかったら……あの……今、ここで…させて頂きますが」
「いやだっておまえその…」
あ〜!!!
1年前まで、硬派だと公言していたおれが…もうすっかり骨抜きだ。
…それも、巴が迫ってくる…というより、おれの欲求を察知して、控えめにお伺いを立ててくれるのだ。
「そうですね…もうちょっとでご飯も炊けますし…」
何か違う〜!
思わず苦笑した途端、巴は恐る恐るおれの股間に手を伸ばした…って、まさか!?
「そ…それでは…あの…お、お嫌でなければ…」
「…く、口…?」
その言葉を口にした途端、おれのモノがピクンと勢い良く跳ね上がってしまった…。
だ、駄目だぁ…。
部屋着はトランクスの延長みたいなものなので、いともあっさりと下ろされてしまった。
…改めて巴の顔を見下ろす。
ひざまずいていても、かなりでかいが、こうして見つめると…むらむらと支配欲が湧いてくる。
あ〜…畜生…!おれは畜生だ…けだものだよ…。
こうして、巴を屈服させて支配する事に、興奮し、欲情しているんだから。
そうだ…おれは、おれは巴が欲しいんだ!その総てをさ!!
半ばヤケになってパンツからイチモツを取り出し、巴に差し出す。
…巴はと言うと、少し身を屈め、幾分上目づかいになりながら、おれの顔を見つめ、頬を
赤らめながら、両手で挟むようにおれのモノを包み込んだ。
「ぼっちゃま……とても…とても…熱いです…」
巴がそっと囁く。
「…わたしで…こんなに…こんなに…感じて下さっているのですね…」
ああ…この、せつなそうな…おれを見上げる恍惚とした表情にはかなわない。
「うれしいです…」
おれは…巴の頭を両手でそっと押さえた。
…くそ…滅茶苦茶にしてやりたくなるじゃないか。
だが、それと同時に…巴が愛しくて、可愛くて、たまらない気持ちもこみ上がってくる。
柔らかな黒髪…両手を下ろし、頬に触れると、張りのある温かな質感の肌。
「巴…」
「ぼっちゃま…」
巴は囁くようにおれの名を呼び、それから左手ですっとブラのフロントホックを外した。
途端に、こぼれるようにたゆんと、大きな双球が露わになり、おれは息を飲んだ。
いつ見ても…綺麗な形の胸…しかも乳輪の大きさも程よく、綺麗な桜色をしている。
あのさくらんぼを小さくしたような乳首をつまんだら…どんな反応をするだろう。
そう思うと、おれのモノはさらに怒張し、先端から更にてらてらとした物が出始めていた。
やがて巴は、右手で、その、とてつもなく大きな胸の膨らみの谷間におれのモノを導くと、
それから左手で、胸を押し潰すようにしておれのモノを挟み込ませた。
…ああ、柔らかで、温かで心地良い感触だ…。
思わず身体を巴に預けてしまいそうになる。
しかも、優しく包み込みながら、次第に身体を上下させ、じわりじわりと刺激させるのだ。
決して激しくも単調でもなく、おれの反応に合わせて、様々な動きを組み合わせて…。
あ…アタマの中が真っ白になってきやがった。
背筋から腰にかけて、ぞくぞくと痺れに似た快感が駆け巡る。
巴は両の胸を掴みながら、身体をなおも上下させる。
おれのモノの先が、胸の谷間の隙間から顔を覗かせる。
「…う……あぁ…」
その先からじわじわと透明な雫が滲み出し、同時におれ自身堪らなくなり、思わず
小さくのけぞってしまった。
…く…巴のテクニックは…絶品だ。
このまま…出て…。
そう思った瞬間、巴はそっと舌を出し、そのままおれの筒先に絡めた。
愛おしそうに…『ねぶる』ように…だが、どことなく品のある舐め方で、おれのモノの
先端から傘全体を丹念に、舌先全体を駆使して何度も何度も愛撫する。
…気が付くと、巴の舌先が柔らかく、熱く、そしてしとっている事に気付く。
人工の唾液だが…そうと感じさせないばかりか、おれの雫と混ざって、時折り
つっと糸を引いては軽く伸びて消えていく。
「と…とも…え」
巴の舌がカリ口から裏筋へと伸び、さらに傘の裏側から表に向けて、丹念に
愛撫を繰り返される。…いかん!!
「ぐ…」
おれはたまりかねて遂に軽く放ってしまった。
「あん…んん…」
すかさず巴は小さく口を開き、その中に受け止めてくれる。
そして目を閉じ「ん…」と小さく声をたて、こくんとおれの精を飲み下す。
…その時のうっとりした表情といったら…。
…たまらない!…巴…巴…!
これが…おれの大切な…。
そう思った瞬間、今度は、いきなり巴はおれのモノ全体をぱっくりと咥えた。
どことなくとろんとした表情で笑みを浮かべながら…。
そしておねだりするように小さく小首を傾げ、軽く舌で周囲を嘗め回し、そのまま
前後に抽送を始めた。
「…ん…んん…」
咽喉からくぐもった声をたてる巴。
次第に動きが早くなり、しかも筒先から、何かが吸いだされようとしていくのがわかる。
バキューム…フェラ…って…こんな感じなのか?
いや、それより…もっと丁寧な感じもする…が。でも、この刺激は…堪らない!!
熱い…次第におれの腰から巾着袋、筒先へと何かがこみ上がってくる。
肉棒全体が、巴の、その愛らしい口元を通して、その口腔に吸い込まれていくようだ。
…巴は口元をすぼめ、熱く滾った肉棒を前後に動かし、筒先の先端から溢れ出した雫を
一滴残らず絞り出さんとするばかりに、ちゅうちゅうと軽く音を出して吸い出していく。
腔内では、舌先が裏筋から亀頭の先端辺りがちらちらと当たり、更にじわじわ刺激される。
一度放出したばかりなのに、おれのモノは殆ど萎えるどころか再び、ビンビンに、怒張
し続けている。
あ、ち…いけね…。
ま、また…くる…!
うわ!!
「と、巴…うぁ!」
「…ん…ん…んん!」
巴も小さく声を上げる.
再び、おれのモノが、一段と派手にビクンと弾け、巴の柔らかな口の中一杯に、熱いものを
どくどくと注ぎ込んでいた…。
…結局、その後、おれはもう三発、巴の口の中に出してしまった。
それも、巴の優しくも激しいテクニツクで、もうギンギンに勃起してしまい、既に数回目だと
いうのにかなりな量を放ってしまったのだ。
…流石に、最後は、ちょっとくらっとなったが、立ち上がった巴の胸を揉みしだき、乳首から
ミルクとドリンク剤を交互に吸い出して飲み…そのままベッドに腰掛けた。
「…ぼっちゃま…」
口元に付いた白い雫を、軽く舌で絡めとって飲み下しながら、巴が熱を帯びた瞳で言った。
「…あの…あの…ごめんなさい…ごめんなさい…でも…でも、わたし…」
先刻のジェーンではないが、どことなく潤んだ瞳に見え、これが人工のものとは思えない。
「いや…巴は、おれの為にしてくれたんだし…」
「でも…わたしは…メイドロイドなのにぼっちゃまを…」
確かに主導権を握っていたのは巴だった。
巴の想いが伝わってきて、おれ自身が身を任せてしまったのだから。
でも、巴には、自分の立場を逸脱しかけた行為に思えてしまったのかも知れない。
やがて、巴も伏せ目がちに、おれの横にそっと腰掛け、小さく一息つく。
厳密に言うと臭気を排出して、内部を消臭しているのだが…。
さらに…ん…ん…と巴の咽喉から、小さな声に似た音が聞こえる。
…ちなみに、巴の説明では、こういう行為も想定されていて、人工唾液と消毒液が口腔内に
『散布』され、それらをすべて飲み干し、終わった後、キスしても行為の相手の精が残って
不快な感じにしない様な仕組みになっているという。
今はその「洗浄・消毒モード」なのだろう。
でも、その音は、まるでおれの精の余韻を再び味わっている様にも聞こえる。
まあ、本来、フェラ後のキスの問題っていうのは微妙だけども、男にも責任あるわけだけどな…。
…などと、まさに馬鹿そのもののことを一瞬考え、そんな事を色々考えている自分に、やっぱり
ちょっと自己嫌悪する。
でも…。
「ありがとう…巴」
俯いた巴の頬に手をあて、おれは静かに笑いかけた。
ちょっと落ち込んだ様な表情だった巴の瞳が、驚きに見開かれる。
「その…なんだ…とても良かったし…ソソられた…」
何だか言っている順番が逆みたいだが、すればするほど愛おしさが増していったのだから…
ある意味、本音だ。
「ぼっちゃま」
おれを見つめる巴の黒い瞳がやっぱり潤んでいる。
そして、嬉しそうに僅かに目を細め…にこっと笑った。
うん…巴はこの表情が一番だ!
ああ…良い娘だよ、おまえはさ。
たまらなくなったおれは…いつしか少し立ち加減になって、巴の唇にくちづけしていた…。
と…ふいにピーという音がして、唇を離したおれたちは、ちらと時計を見た。
もうこんな時間か。
「あ…炊けちゃいましたね」
巴が悪戯っ子の様な顔で、軽く舌を出した。
「時間…ですね」
おれも、ちょっと気取って片目をつぶり、親指を立ててみせた。
「ああ…よろしくな」
「はいです」
巴はにこっと笑いながら小首を傾げてみせた。
そうだ…やっばり巴には、明るい笑顔が良く似合う。
メイド服を着なおす為に、巴は書斎に姿を消した。
その後姿を見やりながら、おれは改めて自問自答する。
…これって、メイドロイドとの恋…だろうか。
おれの心には、正直、まだ、ちょっと複雑なものがある。
だが…巴には間違いなくおれたちと同じ『心』がある。
心がある者同士が、その心を通わせることに何の問題があるだろう…。
おれは…何があっても、巴を大切に守っていこう…と、改めて心を固めた。
…そして、それが、この後に起こった出来事について、とても重要なカギになるとは、
全く思いもよらないでいた…。
すごい時間に乙乙。続き待ってる
なんと癒される・・・
こういう甘いのはいいな。
GJ!!続きも待ってる
またも少しで済みませんが…上げさせて頂きます。
その晩の食事はいつになく賑やかで、とても楽しいものだった。
ダイニングのテーブルに、おれとバンが、向かい合って腰掛け、巴とジェーンが
キッチンでテキパキと作業している様子を見守っていた。
ジェーンは紺色のワンピースに着替えてエプロンをつけ、バンもガウン姿になっている。
…そして出されたものは、ご飯に味噌汁、あじの干物!海苔 、漬物、わさび漬け…。
はあ…なんだかどこかのお宿の食事みたいだが、時間も遅くなってしまい、初めから
作ると時間がかかる上、バンが日本食も大好きだと言うのですんなり決まったのである。
ただし、ご飯の炊き方、味噌汁の味加減は絶品で、おかずも巴の見立てだけあって
味も質も逸品揃い…バンはちょっと感激している様で、巴の面目躍如だ。
また当然の如く、『ご飯』を食べられるのは、おれとバンだけで、巴とジェーンはお茶を
『たしなむ』ことしかできないのだが…。
例によって巴が幾つかボケをかまし、案の定、ジェーンがにやりと笑ってシビアに突っ込み、
巴がちょっとふくれてやり返して…みたいな展開が続いていた。
例えばこんな具合だ。
「ふふふ…真あじは〜この沼津産が一番なのです〜」
自信たっぷりに、両手を腰にあてて男二人を見下ろす巴。
おれもそれには異存は無い。
「ん…でも、これ、沼津で水揚げして…小田原の工場で加工したものってあるわよ」
流しの横に置かれたパッケージの表記を、暫く読んでいたジェーンが、素早く?ジト目でツッコむ。
「え?…あ…あう… 」
自信たっぷりだった顔が引きつる巴。
ジェーンが、にやり…と絵に書いた様に意地悪く笑う。
…だが、あくまで面白がっているだけで、何だか本当に『くつろいで』いるみたいだ。
それに…本来の外見相応の可愛らしい表情で…これって…
お世辞抜きに良い笑顔じゃないか…?
「それに、実際は駿河湾近海産…とあるし…」
ジェーンがちらとおれとバンの方を見ながら言う。
「これって沼津産って言えるのかなぁ」
「い…いいんです〜!沼津の会社で加工したものですから」
「あ、良く見ると小田原産ってあるわ」
「えぇ…っ?」
「ははぁ…実は会社名と読み間違えたんでしょ…」
「う…うう…っ…そ、そうかも、知れないですけど〜」
何も言えなくなった巴はウルウルとなりながら、エプロンの端を咥え…
箸であじの身をほぐして口に入れていたおれに、救いを求める顔を向ける.。
なんだか、姑にイジめられる嫁みたいな感じで、思わず吹き出す。
「まあ、でも…なんだ…とても鮮度が良いし…美味いよ、本当に」
苦笑いしながら、おれが助け舟を出すと、巴はぱぁっと明るい顔になる。
「そ、そうですよね〜」
「あら、さっきは沼津がいっちばんなのです〜…とか言ってたじゃない?」
「うう…」
「小田原の人が聞いたら、とっても気を悪くするんじゃないのかなぁ?」
にまぁ…と、さらに意地悪く笑うジェーン。
けれども、その表情は明るく、この場を楽しむいたずらっこのような雰囲気がある。
派手に突っ込まれる巴も、たじろぎながらも…妙にオーバーアクション気味で、楽しそうだ。
いや、もちろんイジめられて喜ぶ属性があるわけじゃない…はず…と思うけどね。
そういえば、ここに来た直後より、バンは明るい表情だし…何と言ってもジェーンが…
何だか巴の妹…それもボケボケな姉をイジるツンデレな…それでいて姉が好きな
妹キャラのポジションに収まっている様に見え、おやおや…と思う。
…おれたちがあんな事になっている間、二人はどうしていたのだろう?
ふと、そんな疑問が頭に浮かんだ。
「そういえば…飯が炊けるまでの間、バンたちは何をしてたんだい?」
ふと正面を向き直って訊ねると、味噌汁を飲みかけていたバンが、いきなりブッと
つっかえたかと思うや、思わず、げほげほと激しくむせてしまった。
「ば…バン?」
冷静で穏やかな二枚目でも…こんなリアクションをする事があるんだな…思う。
「ま、マスター!」
あわてて駆け寄り、バンの背中をさするジェーン。
「あ…い、いや…その…」
バンが僅かにおれの視線を外し、微かに照れ笑いを浮かべる。
なんだ?このバンらしからぬ様子は…?
ちらとジェーンを見ると…妙にこちらを意識した顔で、僅かに赤い顔をしている…って…。
お、おい…まさか!?
この反応…まさかだろ〜!?
おい!冗談じゃないぜ〜!!
おれは全身の血が、さ〜っとひいていくのを感じた。
てっきり部屋でひとやすみしているかと思ったのに…。
あんたら、なんてことを〜!!
「ま、まさか…あ、あんたら…」
「……す、すまん……そ、そんなつもりじゃなかったんだが…」
「ごめんなさい…本当にごめんなさい!!」
バンがテープルに突っ伏し、ジェーンもぴょこんと頭を下げる。
おれは思わず天を仰ぎ、右手で顔を覆った。
「…そりゃないぜ〜」
「ごめんなさい、ごめんなさい!わたしが巴に教えてもらいたい事があって…」
「…それで…立ち聞きかぁ?」
へなへなになって、おれは枯れた声で言った。
「い、いや、その…具体的に何をしていたかは知らないが…」
バンが全くフォローになっていない言い訳をする。
「いや…だが…本当にすまない…ことをした」
そう言ってバンは、改めてテーブルに頭をこすりつけた。
「だけどよう…」
「…でも〜…事故では…仕方ありませんね〜」
ふいに巴が、口元に指をあて、困ったようににっこり笑いながら、小首を傾げて口を開いた。
「……え゛?」
おれも、顔を上げたバンもジェーンも、思わず目を丸くして巴の顔を見つめた。
巴の表情はいつもと同じ様だが、その背後に妙なオーラを感じて、おれはぞくっとした。
あ、いや、これはこれで何かソソられるんですが…っておれはM属性無いけど…って
違う…これは…やばい!
「もっとも〜」
巴がワンクッション置いてから続ける。
「ジェーンが気付いた後に、バンさんが来た…と言う事になりますと〜…途中からは立ち聞きの
意思があったとも取れますね〜〜…もし、そのおつもりだったとしたら…」
「そのつもりだったら?」
一見穏やかな笑顔の巴の瞳が、異様にきらりんと輝く。
「生かしてここから…お出ししないところですが〜〜」
ああっ…や、やっぱりキレかかってる。
そ…そりゃそうだよ…あんな恥ずかしい…二人だけの営み?を立ち聞きされたら、
もう半殺しどころか、全殺し(なんてあるのか?)だよ…普通。
し、しかし本当に殺人はいかんぞ、殺人は。
いや、で、でも、おれだって、本音は二人の記憶から全部消したいけど。
でも…だ、駄目だ、やっぱり実力行使は駄目だよ〜!
「ただし〜条件次第によっては、許してあげましょうかぁ」
口調こそ、まったりぽやぽやだが、有無を言わせぬ響きがある。
「じょ…条件って、なんだよ?」
本来、おれが二人の代わりに聞くつもりも、義理立てする理由も無いのだが、巴の
異様な迫力には、おれ自身も危機感を覚えて、思わず訊ねていた。
すると、巴はにっこり笑い、こんなことを言った。
「あなたがたの関係を総てお話しください…包み隠さず、全部です」
「おれたちの…」
「関係…ですって?」
まるで二人一役のように、繋がって言葉をもらした二人は、暫し絶句した。
「…はい、その通りです〜」
巴の背後にあった異様なオーラがいつの間にか消えている。
「わたしたちの大事な秘密との交換です…。
等価交換とするには〜…わたしたちの方が、か・な・り・重いですけどね〜」
巴…おまえ…。
バンは暫し口を閉じていたが、やがて、改めて丁寧に頭を下げ、そして静かに、
微かに、申し訳なさそうに笑みを浮かべて、重い口を開いた。
「わかったよ。…改めてお詫びすると共に…話させて頂こう」
「マスター…」
ジェーンは、小さく呟き、静かにバンを見つめていた。
く〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ!
いつもいつもなんてトコで終わるンやっ!
気になって眠れないじゃないかw
明日から出張なんだ、だれか保管庫にまとめておいてくれよなw
>>277 俺を萌え殺すだけで飽き足らず寸止め殺すのか!
>>277俺を萌え殺すだけで飽き足らず寸止め殺すだけじゃなく
地元名前出してショック死させるか!
>>278 済みません…遅くて本当に済みません(汗)
>>279 た、確かに、仰るとおりです。
>>280 あ、地元の方でしたか…驚きましたw
…それでは、今回も少しですが…。
「…おれとジェーンは…コンビを組んで、もう二年になるかな」
バンの声が静かにダイニングに響く。
おれの横には穏やかに見守る巴が、バンの横には複雑な表情のジェーンが腰掛けている。
対照的な二人の女性型ドロイドの様子をちらと見、おれは頷き、続けて訊ねた。
「それは…公私共に…ということかい?」
「ああ」
バンは両手を組み合わせ、ふっと小さく息をついた。
「その通りだ。おれたちは普段の生活から、FBIの任務に至るまで、総て…いつも一緒だ」
「総て…いつもですか?」
巴がにこっと笑う。
「では、わたしたちと同じなんですね〜」
おれの腕をぎゅっと掴み、肩に頭を寄せてみせる。
う〜ん…その念押しは、なかなか微妙だぞ…。
だって、なあ…同じってことは、つまりはその…。
「そうだな…それに………近いとは、思うよ」
バンが僅かに困ったような…照れ笑いにも似た…寂しげな笑顔を浮かべる。
「でもね…おれたちは」
「…もう一押しができない…それ以上を越えられない…とかですかぁ?」
「…え?」
バンとジェーンの二人が同時に声を上げた。
「だって…見てますと…何だかお互い、遠慮しているみたいですもの」
お…おいおい、巴さん?
随分、ストレートな球を放るじゃありませんか?
そりゃあ、おれだって知りたい…けどさ。
それは…敢えて聞かぬが花ではありません?
何と言うか…微妙に気まずい空気が流れた。
バンとジェーンはちらとお互いの顔を見、それから慌てて視線を逸らす。
…確かに組んで二年…にしては、ちょっと不自然な反応だ。
「黙ってちゃ駄目ですよ〜約束は、約束ですからね〜」
巴が人差し指をたてて、にっこり笑って追い立てる。
って、それってちょっと酷じゃないのか?
「だって…わたしとマスターの仲を知ってしまったじゃないですか〜…」
まるでおれの心の声に答えるかのように、巴は続ける。
「それにふたりは…とても…とても仲が良いみたいなのに、ある所まで来ると、絶対に、
今みたいに、目を逸らすじゃありませんか…」
いつしか巴の表情は、優しいが真剣なものに変わっていた。
おまえ…やっぱり二人を気遣って…わざと…。
巴の語りかけが、次第に透明感のある澄んだ響きに変わっている。
「それに…そんな時…なんだか、とても…とても悲しくて切なそうに見えるのです…」
「…おれも…そう思うよ」
思わずおれも言っていた。
「あんたたち…それこそツーカー…以上に息のあったペアなのに、一線引いてるみたいだ」
一瞬の間があった。
それはほんの数秒でもあるようで…それでいて、とても長く感じられる沈黙の間…。
…やがてバンは大きく息をついた。
そして、一度目を閉じてから、改めて決意した様に頷いた。
「確かにおれたちは…一線を引いていると思う」
「バン…」
ジェーンが小さな…本当に頼りなげな、か細い声で呟く。
「…良いのですか…?」
微妙に口調が変わってきている。
「…むしろふたりには知ってもらった方が良いと思う」
ジェーンの金色の髪に手を触れ、優しく握る。
「君には…辛いかも知れないが…」
「…いいえ…仕方ありません」
バンの手を取り、そっと自分の頬にあてながらジェーンは首を振った。
「それに…いずれは…こんな時が来ると思ってました」
ジェーンはゆっくりと手を離し、伏せ目がちにおれたちを見た。
精一杯微笑んで、頷いてみせる。
その表情は、強気だった面影は微塵も無い。
…おれたちは、とんでもない事を言ってしまったのか?
だが、このままで良いとは思えないし、もし、おれたちの事がきっかけで、ふたりの関係が
より深く、強くなれば…と思うのだが…いずれにせよ…ひとつの賭けだ。
バンは微かにひとつ息をついた。
そしてもう一度目を閉じ、それから改めて、おれと巴を交互に見据え、はっきりと通る声で言った。
「ジェーンは、おれの大切な…許嫁の分身であり……同時に…形見なんだ…」
その途端、遂に堪りかねたのか、ジェーンが勢い良く立ち上がり、そのままキッチンに飛び込んだ。
おれたちに背を向け、流しに手をかけ、静かにうつむいている。
肩が悲しげに小さく震え、ややをしてしゃくりあげ、涙をこらえて嗚咽しているのが見える。
その姿が何故か小さく見え、おれは切なくなった。
そうだよな…自分が最愛のひとの身代わりかも知れない…というのは…複雑だよな。
それに、バンだって、ジェーンを大切に思えば思うほど、許嫁を忘れられないだろうし、また、
それでいて許嫁の代用にはしたくないだろう…。
…と、いつの間にか巴がジェーンの後ろに立ち、まるで包み込むようにそっと抱きしめた。
まるで母親か、姉の様に…優しく、大事そうに…。
はっとした様子のジェーンが、少し振り向き、巴の顔を見上げる。
その両の瞳から一筋ずつの涙がつっと零れ落ちる!
巴はそっと頷き、小さく小首を傾げて静かに微笑む。
…途端に、振り返ったジェーンが、そのまま巴の胸に顔をうずめて、わっと泣き出した。
ずっと我慢していたものが…張り詰めていたものが切れてしまったように…
わんわんと…声をたてて。
そんなジェーンをそっと抱きとめ、そして頭を、髪を優しくいとおしげに撫でる巴…。
巴…やっぱり、おまえには、わかっていたんだな…。
おれにも、思わずちょっとこみ上げてくるものがある。
…そして、それと同時に、脳裏にピンと閃くものを感じて、こう訊ねた。
「ジェーンは…もしかして…シンクロイド・システムを使って、誕生したんじゃないのかい?」
「そうだ…」
巴とジェーンの姿を、暫く万感の思いで見つめていたバンは、そっと目を閉じた。
「ただし…実験用に日本から送られた試作品で、日本で完成したそれには到底及ばない代物だがね」
やはり…そうだったのか。
しかし、試作品ってことは…。
「それじゃ、ジェーンはオムニ・アメリカの」
バンは目を開いた。
「そう。次世代型ドロイドのプロトタイプだ」
そうか…だからここまで、ほぼ完璧と言える人間に近い情緒を持っているんだな。
おれは大きく溜息をついた。
これでいくつかの謎が繋がった…。
「……そうか…それで判ったよ…」
おれは、先刻までの、幾つかのバンたちの様子を思い出し、嘆息をつきながら続けた。
「あなたは…テロか何かで許嫁さんを亡くした…そしてその代わりに…どういう経緯でかは知らないが、
許嫁さんの分身のジェーンがパートナーとなって、今、こうして一緒に戦っている…違うかい?」
「どうして…君がそれを…」
バンの瞳が驚きに見開かれ、おれは、ふっと小さく、寂しく笑いかけた。
「昔…その昔…おれも同じ様なことがあったんでさ…」
「え…?」
「おれも…まだガキの頃、大切なひとをテロで失くしたんだ…」
そうだ…おれの、大切な、初恋のひと。
そして、その人の名は……。
「…おれが…柔道だ空手だ、剣道だ…なんて、無駄だとか言われながら、色々武道を習ったのは、
大切な人を守れるようになりたいっていう…その一心からだったんだ」
「君も…なのか?」
バンの言葉に、おれは黙って頷く。
そうだ。おれは、本来、ともねえを守りたくて習い始めたのだ。
…結局、それは間に合わず、役には立たなかったけど…。
いつの間にか、ジェーンが巴の胸から僅かに顔を上げ、赤く腫らした瞳でこちらを見つめていた。
バンへの想いと、おれに対する親愛が感じられる、穏やかな表情で…。
おれは、ふと、巴の横顔を見つめた。
巴は…ジェーンを抱きしめたまま、静かに目をつぶっている。
その横顔が、一瞬、ともねえとダブり、おれは改めてハッとなる。
そうさ…もちろん…巴は、ともねえじゃない。
…だが…そうなんだ、おれもバンたちと、ある意味、同じなんだ…と思う。
「でも、ずっと、そのひとを理想とし、彼女一筋を貫き続けてきたおれの前に、その、おれより大きな
メイド姿の娘が現れたことで…おれは変わり、新しい愛に目覚めたんだと思うんだ…と思う」
あ…やべ…このおれが愛だとか…恥ずかしい事を説いてるな…。
おれだって本気で自覚したのはつい最近だし。
でも、言葉が止まらない。
「確かに、かつて想ったひとを忘れないのも大事だろう。それは、その人にとってかけがえの無い
ものだし…。忘れられるものでも、忘れて良いものでもない。でも、長い人生…ここらで新しく
出直して…また違った、忘れられない良い思い出を新たに作るっていうのも…良いんじゃないかな?
幸い…ふたりはベストパートナーみたいだし」
そう言ってから、おれは自分の発言の下手さが情けなくなった。
もっと気の利いたことを簡潔に言えない自分が恨めしい。
それに、ジェーンが許嫁の女性の分身だから…という部分については問題解決になっていないし、
もっと言えば、人間とドロイドという違いだってあるわけだし。
…だが…バンとジェーンを見ると、二人は真剣な顔でこちらを見つめていた。
「…君の方が、おれなんかより、余程強いんだな…」
バンが感動した様子でゆっくりと口を開いた。
「そうだな…彼女は彼女、ジェーンはジェーンだ…分身だとしても、おれにとってはかけがえの無い
大切な存在だ。それに変わりは無い」
「バン…!」
ジェーンが感極まった声をあげ、巴が彼女の背をそっと後押しする。
そして立ち上がったバンの胸に飛び込み、ふたりはしっかりと抱き合った。
「済まなかった…おれは、君の気持ちに気付いていながら、どうしても、踏み込めなかった」
「いいえ…わたしこそ、わたしが、あなたの大切なひとを汚してはいないか…と…」
「そんなことあるものか…」
「でも…わたしを…わたしとして受け入れてくださるのですね」
「もちろんそうだ!」
「嬉しい!…本当に…嬉しくて……幸せです…!!」
…はあ…なんだか、上手く行ったみたいだな…。
ちょっと力技で押し切ってしまったみたいだけど…(苦笑)
二人が熱い抱擁を交わしている姿に、おれは思わずほっと一息ついた。
ふいに、ちょんちょん…と、つっ突かれて我に返ると、巴が微笑みながら廊下の方を指差している。
…二人っきりにしてあげましょう…ということらしい。
こういう時の巴は、驚くほど気が付く。
これであの二人も、これからは更に良いパートナーとしてやっていけるだろう。
ちょっと代償は大きかったけど(苦笑)、何だか気持ちが晴れやかだ。
これも、すべて巴のおかげだな。
ありがとう、巴…。
それから、おれたちは、そのまま自室に戻り、直ぐに眠りに付いた。
そうそう、巴が念のため、寝室のドアに「先に休んでいます。また明日会いましょう」と張り紙を
してくれたが…実際にはおれは、巴のいる隣の書斎に簡易ベッドを持ち込んでいた。
そして、充電ベッドに下着姿で横たわった巴の隣に並んで横になり、彼女と手を繋いでいた。
ちと恥ずかしいが…今晩はなんだかこうしていたい。
…はっきり恋人宣言…しちまったしさ。
「ぼっちゃま…よろしいのですか?」
巴が心配そうに訊ねる。
「今日は、あれだけ色々あってお疲れでしたのに」
「巴の方こそ…バッテリーぎりぎりまで頑張ってくれたじゃないか」
おれは巴の手をそっと握り締める。
「それに…メシ前は……とても気持ちよかったしさ…せめてものお返しだ」
「ご褒美…嬉しいです」
巴がにっこり笑う。
「ば、ばか」おれは慌てて言う。「こんなのが褒美になるか…それは、その、また改めてだな」
「…ありがとうございます。ぼっちゃま」
巴も優しくおれの手を握り返す。
その手のぬくもりは、人工のものだけど…握る力の意思は巴の心の表れだ。
「おやすみ…巴」
おれは目を閉じた。
「おやすみなさい、ぼっちゃま…また明日です」
巴の優しい声が心地よい。
「また明日な…」
…おれの意識は、安らかなまどろみの中に沈んでいった。
>>282〜
>>288 今日はここまででございます。
予定ですと、これで半分ぐらいです。
次回から、やっと翌日の話になります。
…遅筆で本当に済みません…。
猛烈に何かに憤りを感じ唐突に続きを投下。…何故あの時投下を中断したのだろうと自問。
するべきでは無かった。例えどんなに落胆し、激怒したとしても。SS書きは書くために居る。
自己語りは終了。さあ、キリのいい所までスレの皆様と供に、妄想と想像を愉しもうか。
なんだかあちこちムズムズしてきたw
「――なあ」
「ん? 」
自己制御を取り戻しつつあるのか、キティの表情からは興奮の色が薄れていた。『イェーガー』は背中を撫でる手を止め、
彼を丁度見上げたキティと視線を逢わせた。戦闘用ドロイドでも涙は流せる。眼球型に形成されたカメラアイ表面の洗浄の
必要もあるが…感情を付与されたドロイドには感情同調の機能により同期を取らせている。このGM製の素体『Mk−11F』も
その例外では無かった。目尻に涙が溜まっているのを、『イェーガー』はキティの右頬に左手を当て、親指でそっと拭く。
「名前…まだ聞いてない。イェーガー、でいいのか? マスター、とかエイミーに…」
「突撃猟兵の事は聞いていても、詳しくは聞いていなかったようだな」
「何だ? その持って回った言い方…? 言いたく無いのなら別に…」
「無いんだよ、俺には」
目で続きを促すキティのカッパーブロンドを残りの4本の指で『イェーガー』は梳いた。――有機体で作られた紛い物の髪。
人間の髪とは違い、一方には滑らないと言う特性を持たない髪だ。訓練時に嫌と言う程に判別法を叩き込まれた内の一例だ。
嫌がる素振りを見せないのを良い事に、『イェーガー』は髪を梳き続ける。自分の中に未だに整理し切れないドス黒い何かが、
彼の喉元まで競り上がって来ていた。
「生まれた時から突撃猟兵だった。認識番号SJ289306M。Sはシュツルム、Jはイェーガー、Mはメールで男性。それ以外が
俺の名前だ。289306だぞ? 解るか? この俺は、生まれた時から爪先から頭の天辺までこの国の『モノ』だったんだよ」
「そんな…ことって…」
「許されない、か? 普通は、な。だが俺達は遺伝子工学の産物だ。人工的に交配をされ、兵士に最適な肉体を持ち生まれる
よう受精卵の段階からナンバリングされて国家の研究機関で管理されてきた。だから突撃猟兵だけはな、『特別』だったんだ」
「どう考えてもそれは…しゅ、守秘義務の範疇だぞ、それは…」
「それが突然お払い箱さ。今は優秀な戦闘用ドロイドがゴマンと居るから人間なんぞランニングコストを食うだけだ、だとさ。
実弾演習にかこつけて俺以外のお仲間、全部で200人の認識番号しか無い人間の野郎どもは、嫌だと涙を流す、戦闘技術を
全て伝授し、必死に立派に育て上げていた戦闘用ドロイドに狩られて次々と死んでいったのさ。…俺一人を残して、な…」
キティの右手が、キティの頬に当てている『イェーガー』の左手にそっと重ねられた。キティの左手が『イェーガー』のそれと同じ
ように、『イェーガー』の頬に当てられた。何時の間にか、涙の川が『イェーガー』の頬を伝っていた。
「良かったらもっと…聞かせてくれ…」
「『大隊長、もし、俺がシャバに生まれてたら…』いつもそう言ってた気のいい奴等だったんだ! あいつらが何をしたって言うんだ!
邪魔になったのなら、せめて戦場で死なせて欲しかった! それならば国のために生まれて国のために死ねたと道理が通った!
だが全員が廃棄物扱いはあんまりだろうが! 挙句の果てには俺達の出自がマスコミに透っ破抜かれたから処分したのだ、だと?!
ふざけるな! 俺達は国家のために生きて来た! 絶対絶命の死地の状況下に置いてくれればそれで良かったんだよ!」
「…突撃猟兵は優秀過ぎたんだ。私が聞いているだけでも不可能なミッションをを95%の確率で達成に導いて来たらしいからな。
誰もお前達を殺せない。この国の官僚どもは恐かったんだろうな…。お前達が自由の野に放たれた時に起こる地獄絵図がな」
『イェーガー』は何時の間にかキティの胸に赤子のように頭を埋め啼いていた。その広く逞しい背を撫でるキティには、間違い無く
『母性』があった。キティは戦闘用『ドロイド』だ。『ドロイド』は製造段階からその用途を限定されていた。だから己の境遇に納得出来る。
だが、『人間』の『イェーガー』も自分と同じだった事に驚いていた。キティが『女性型戦闘用ドロイド』ならば、言わばこの『イェーガー』は
『男性型戦闘用人類』だ。どちらも行き場を無くし、先の事など何一つ解らない同士だった。キティは、大きく深呼吸する。
「…なあ、道に迷った者同士…やり直しの儀式を…『して』見ないか? 」
「? 」
『イェーガー』、SJ289306Mが顔を上げた。まるでキティが軍の映画で見た少年のような幼げな表情をしていた。男は女の膝で泣き、
少年に戻る一瞬がある。間違い無く『イェーガー』は人間だとキティは思った。…大抵のドロイドはそんなに純粋な仕様では無い。
「貴様さえ良ければこの私を…抱いて…欲しい」
『イェーガー』の顎がカクン、と落ち、すぐに唇が引き結ばれた。見る見る内にその顔が真っ赤になって行くのがキティには解る。
多分相手にも同じ様に自分が頬を染めているのが見えているのだとキティは羞恥とともに思う。男のハードな告解の後に言う事では
無いこともキティは理解していた。・・・・・・だが、胸の奥に生まれたこの衝動を無理矢理に消すには…最早彼女には遅すぎた。
「…嫌なら…!? 」
突然キティのタンクトップが引き上げられ、小振りな双乳が外気に触れた。キティの集積回路に未知の感覚データが送り込まれる。
乳首を歯で愛撫される感覚データなど、諜報用はともかく、純然たる戦闘用ドロイドには全く不要な存在である。だが、その感覚データは…
甘美なものとして認識された。自分はこの男、根っからの兵士だった男に現在、必要とされているのだと言う喜びとともに。
時間的都合によりチチ舐めただけで終了。文字通り舐めてるだろテメエと言われかねん行いである。
でも続きは書きたいのでゴメンなさいと謝る。書けば書くほど上手になるが、SS書きは最低限、読ませるモノを
互いに上げたいものだ。――今度こそなるべく落胆しないようにしたい。では、オヤスミナサイ。
>>294 克明な描写が素晴らしいですね!
当方の文など稚拙で、本当にお恥ずかしい限りです…(汗)
続きを楽しみにしております!
それでは、続きを少し…。
上手い方の後ですと、凹みますね…。
>>295 ありがとうございます!何とか頑張ってみます。
その晩…おれは久しぶりに、ともねえの夢を見た。
どこにいるのかは判らない。ただそこにともねえが佇んでいた。
昔出会った頃の、赤毛のツーテールの少女の姿で。
彼女は悪戯っぽく笑いながら、幼いおれを見下ろし、頬に手を触れ、こんなことを言った。
わたしが、もう一人いたら…どうします?
え?だって、ともねえは一人に決まってるじゃん。
ともねえがにっこり笑うと、その顔がいつの間にか巴に変わる。
ぼっちゃま…。
わたしは…いつでもあなたのおそばにおりますよ。
いつでも…いつまでも…。
巴の姿が再び、ともねえになり、彼女はおれの方を向いたまま、すっと遠ざかっていく…。
行かないでよ!だめだよ!ともねえ、行っちゃだめだ!
思わず右手を向ける。
すると…いつの間にか巴がおれの後ろに現れ、左腕でおれを抱きしめ、右手をおれの小さな手に
重ね合わせてそっと包み込む。
わたしは…ここにいますよ。
いつでも…ここに。
ともねえと巴の声が重なって耳に響く。
…ああ、そうなんだ。
いつも…そばにいてくれたんだ
温かく優しい感触に包まれ…おれの意識は次第に消えていった。
目が覚め、横を向くと既に巴の姿は無かった。
おれの上には温かな毛布がかけられ、ほうとひとつ息をつく。
そうだよな。
毎朝五時半には起床して朝食の仕度をするのが日課だし。
「あ…おはようございます〜」
いつもの、いささかのんびりした声が聞こえ、そちらを向くと、メイド服姿の巴が寝室から出てきた。
「ゆうべは、ありがとうございました」
「まあな」ちょっと照れくさいが、軽く笑いかける。「充電完了かい?」
「はいです」
例によって小首を傾げてにっこり笑う。
それから、はたと思い出したように、手にしていた紙束を、おれに差し出した。
「そうでした。これが…リビングにありました」
まさかという思いが一瞬、頭をよぎる。
果たしてそれは…予想通り、バンの置手紙だった。
「『色々と、ありがとう。そして、こっそり出発する非礼を許してくれ。
本当は、ご好意に甘えて昼に出るつもりだったが、本部から連絡があり、早朝には移動
しなくてはならなくなった為、申し訳ないが、書面にて失礼させて頂く。
あれだけ迷惑を掛けたのに、君たちがあそこまで親身になってくれるとは思わなかった。
ジェーンと共に深く感謝する。
お詫びの代わりと言っては何だが…昨日話せなかった事を幾つか記させて頂くことにした』」
キッチンのレンジから、ことこと鍋の音がする中、ソファに腰掛けたおれは音読を始めた。
巴がお玉を手にしたまま振り返る。
「『おれとジェーン…正式にはジェニファーだが、彼女との出会いと、シンクロイド・システムについて、
簡単に記させて頂くことにした。ただし、これは極秘事項なので、もし漏らした場合、君たちの、
大切だがとても恥ずかしい秘密を、某所に暴露させて頂く(笑)』…って、なんだよ…それ」
思わず苦笑すると、巴も困ったように笑った。
おれは続けて読み上げる。
「『ジェーンのモデルになった、おれの許嫁はジェニファーと言い、ジェーンはその名をも受け継いでいる。
…許嫁のジェニファーとは、六年前、あるテロ事件がきっかけで知り合った。
それは、違法改造したドロイドに爆弾を仕掛け、街中で爆発させるという凶悪なもので、たまたま
遺されていた部品や破片から、オムニ社が疑われ、FBIが立ち入り調査を行った際、応対に出て
来たのが、当時、若干16歳の技術主任の彼女だったのだ』」
そういえば、今にして思うと、その頃、相次いで日米で天才少女が現れて、電子工学の修士と
博士課程を修めて、それぞれ両国のオムニ社の顧問技術主任になったと聞いたとがある。
その一人が、ジェーンのモデルになったんだな…。
「『だが、ジェニファーとの最初の出会いは最悪だった。おれも、まだ二年目…駆け出しの捜査員で、
調査を急がせるあまり、ついキツい態度を取ってしまったことで、思いっきり嫌われたのだ』」
あのバンでも…そんなことが、あったのか。
「『ジェニファーにしてみれば、ドロイドは自分の可愛い子供たちであり、研究所員たちは大切な仲間。
自爆テロドロイドなんて許せるはずも無く、とんでもない言いがかりと見えたのだろう』」
そういえば、昨日、初めて出遇った時、確かにそんな感じだった。
バンを守ろうとした時の様子が思い浮かぶ。
あれはオリジナルから受け継いだんだな。
「『だが、足しげく通ううちに、いつしか、おれたちは親身になって話し合うようになっていた。
ドロイドは本来、絶対に人に危害を加えてはならず、かつ、自分の存在も守らねばならないこと…
そう言った基本事項が、おれにも段々判ってきて、彼女の怒りや悲しみが理解できるようになった
からだ…』」
巴はレンジを切り、鍋のフタを空けた。
作業こそ続けているが、その横顔はしっかり聞いている表情だ。
「『…二年間の交際の後、おれは彼女の両親に挨拶に行き、それから実家に報告に行った。
どちらも喜んで祝福してくれて、晴れておれたちは婚約した』」
「…その頃は…とても幸せだったのでしょうね〜」
お玉で中身をかき混ぜながら、巴が詠嘆するように呟く。
「『本当は、ジェニファーが18になった時点で結婚するつもりだったが、おれは主任に昇格したばかり、
彼女も新型ドロイドの開発で忙しく、目途が付くのが一年後。結婚しても、まともに一緒にいられる
時間はそう多くない。だから式と入籍は一年後にすることにしたのだ』」
その先の文に視線を落としたおれは、その先を読みかけ、絶句した。
「ぼっちゃま?」
陶器の器に煮物を移していた巴が、手を休めてこちらを向いた。
「あ…ああ」
この先は、ちょっと辛い…だが、ここまで読んだのだし、続けるしかあるまい。
おれは…意を決して続けた。
「『そして、あの日…おれとジェニファーは、三ヶ月ぶりの休暇をおれの家で味わっていた。彼女が
食事を作ってくれるというので、楽しみにしていた。
…正午前だった。その時、裏庭に繋いであった犬が、派手に吠え立てるので、おれは様子を見に出たが、
丁度、その時、配送業者のドロイドがやってきた。
…あの時の事は、今でも忘れない…。チャイムと呼びかける声がして、ジェニファーがそれに応えて
玄関に向かった時………荷物に仕込まれていた…爆弾が…炸裂した…』」
巴は完全に動きを止め、それから祈るかのようにそっと目を伏せた。
「『玄関周りは完全に破壊され、ジェニファーは爆風で全身打撲の重症で…血まみれの有様だった…
すぐ救急車の手配をしたが、その日、おれの家以外にも、周辺で大小合わせて25箇所が爆破され
死傷者で一杯で、とてもじゃないがすぐ…来られないという』」
そうだ…確か三年程前に…テロによる大量爆破事件があった。
日本でもマスコミで大々的に報じていたっけ。
「『おれはやむなく、彼女をクルマに乗せて、FBIの病院に連れて行ったが…そこも酷いものだった。
やはり怪我人が沢山いたばかりか…先輩や同僚のうち、非番で自宅にいた三人が死亡、八人が
重軽傷を負わされたと聞かされた』」
ニュースで見た中に、もしかすると彼らが居たかもしれない。
「『ジェニファーは緊急手術を受け、その場では一命を取り留めた……だが、失血が多く、しかも負傷者が
多すぎて、血液が不足していた。…その結果、輸血のタイミングが遅れ…衰弱し切っていた』」
煮物を入れた器をおれの前に置き、巴はそっと横の椅子に腰掛け、手紙に目を落とした。
「『病院のベッドも空きが無く、おれはジェニファーを自宅に連れ帰ろうとしたが、その時、彼女は自分を
オムニ・アメリカの研究所に連れて行ってくれと言い張った。おれは猛反対したが…ジェニファーは…
自分に死期が近いことを悟っていたらしい』」
巴の瞳に、悲しみと怒りが映っている。
「『…おれは、彼女を抱いてオムニの研究所へ行った。
そして…そこでおれが見たものは……ジェニファーとうりふたつのドロイドの姿だった』」
「それが…ジェーンなのですね」
「うん。『…ジェニファーは苦しい息の中、人の意識や総ての記憶を移植して、ドロイドの分身を作る
という研究をしていた事、その実験台として、自ら被検体となっていた事を教えてくれた。
…このままでは、自分はまず助からない。それならせめて、自分の想いを受け継いだドロイドを
起動させて、おれに遺したい…そう話してくれた』」
>>289GJ!!
二人が本当の意味のパートナーになれたみたいで良かった。
そして所謂第一章完というところですな。
今後の展開楽しみにしてる。
>>291随分と酷な扱いされてきたんだな・・・
殺人兵器当然の人間も感情はあるんだな。
そしてエロに突入しましたな。wktkして続き待ってる。
「自分の想いを受け継いだドロイドを完成して残す…」
巴がお終いの一節を復唱する。
おれはその時の巴の表情に何故か、少し引っかかるものを感じだが、なおも続けて読んだ。
「『シンクロイド・システム…それは巴くんが言っていた事と、ほぼ同じだが、ジェニファーの説明では、
記憶部分の複写だけが、どうしても完全に生成できないという」
「…ええと…あの…ここで完全再現できない…理由はですね…」
巴が、額に手をあてながら、何事か思い出しながら言った。、
「…人の脳って、膨大な量の記憶を司ってますけど、そのままではパンクしちゃいますよね。
だから『保管』と同時に、一時的に<忘れる>ことができますよね。アメリカに送ったプロトタイプは、
この記憶領域だけが、完全には再現できないでいたのです」
「巴?おまえ…どうして、それを知ってるの?」
「え?」
巴はきょとんとした顔で両頬に手をあてた。
「…そういえば…わたし…どうしてそんな事を知っていたのでしょう?」
「もしかして…巴…昔、親父たちの手伝いをしていたって言ってたけど…」
「そうですね〜…後で、お訊きしてみましょうか」
…巴自身の記憶に、何かあるのだろうか…と、思いつつ、おれは先を読む。
「『ジェニファーは、研究所の所長に、ドロイドの自分の再起動を頼んだ。
そう、既に一度起動したことがあったという。…彼女の後頭部と首の間にはコントロールメタルが
埋め込まれ、そこから、近くにいる時は神経の筋電信号を使ってじかに…離れている時は微弱な電波と
磁力波で…ドロイドとはマルチリンクを使って意識と記憶を交感するという。だが、以前テストした時、
ドロイドのジェニファーは、意図的にマルチリンクを絶った瞬間、つい数分前のことすら思い出せなくなって
しまったそうだ』」
「………」
「『それでいて、一年前のことは克明に覚えていたり…ばらばらで…後で聞いた話しでは、終いには
ジェニファーの分身…ジェーンは、何もわからない…と、泣き出してしまったそうだ。
ただ…自意識というのはあり、感情面と、理論や原理などと言った知識面だけは複写できたらしい。
要はジェニファーとして生きてきた記憶だけ、断片的にしか移せないのだ。
だが…それでも…自分の…<ジェニファーとしての>意識さえ…心さえ、おれに遺せれば、良いのだ…と。
一人のドロイドとして改めて誕生すれば、通常の記憶システムで稼動するので、問題ないから…と』」
「…それで…ジェニファーさんは」
「『システムが稼動すると共に、ジェーンからのデータが逆にフィードバックされ、危険だというので
所長たちは止めたが、これが自分の最後の調査報告だからと彼女は強行した。そしてジェーンの
再起動は成功したが、彼女、ジェニファーは、ジェーンとおれの手を取ったまま…』」
おれは、その先を読めなかった。
…続きはあとで読もう。
手紙の束を置き、立ち上がって窓の外を見る。
「……生まれ変わったジェニファーさん…か」
「初めはきっと…二人とも、とっても…辛かったでしょうね…」
「そうだな…でも」
「でも?」
おれは次第に明るくなってくる空を見上げ、そして巴の方を振り返った。
「ふたりはきっと、新しいスタートを切ってくれた…そうじゃないかな?」
「はい…きっと…きっとそうですよね!」
巴が、僅かに瞳を潤ませながら、両手の拳を固めて小さくガッツポーズをとる。
そんな彼女を、やっぱり愛おしく思いながら、おれは頷き、すぐに言った。
「さ、ともかく朝飯だ…」
「はいです」
巴は、いつもの様に笑顔で小首を傾げてみせた。
>>294 スレ変わってから一度も来なかったから心配してたんだぜコンチクショウ!
これからもガンガン続き書いてくれよ!
307 :
名無しさん@ピンキー:2007/10/28(日) 05:34:17 ID:lzvG49t1
アクセス制限に引っかかってしまいました。
これが上手く上げられたら、投稿させて頂きます。
今日は朝から仕事だ。
おれの本職は、まあ良くある電気関係の製造業のデスクワーク。そこそこ名の知れたメーカーだ。
担当は基本的にはその部署の庶務なのだが、割と数字や電算機関係に強いので、料金担当の一部も
兼ねている。でもって、今日はそのひとつで一番面倒なやつだ。
毎月一回、数日間に渡って月次作業と呼ばれるルーチンワークがあり、仕入額や人件費等を積み上げて
原価を計算し、それに利益を何パーセントか乗せて売価や売り上げを決定したり…とか、原価総額に
対して売り上げ額と比較して収支報告を上げて…なんていうものなのだが、これが結構な件数で、
しかもこれが出来ないと、請求額を出したりとか、月の締めが出来ないときている。
従って、この期間で総て終わらせなくてはならず、帰りは終電か、マイカーでと言う事になる。
ちなみにこの数日間は『地獄の五日間』と呼ばれるのだが…その裏で『参観日』という名もついている。
「全部積んだか?」
おれの愛用の銀のクーペのトランクが開けられ、巴が中をごそごそとやっている。
車高が低いので、例によってえらくお尻を突き出した格好になっていて、思わずごくりと唾を飲む。
…昨日、あれだけシてもらったのに、おれも節操ないな…。
思わず苦笑しながら運転席のドアを開けると、顔を上げた巴が、敬礼に似た会釈をした。
「えと…終わりましたぁ」
今日は紺色のワンピース姿…但し、メイドのヘッドドレスはつけている。
流石、メイドロイド…と、ちょっと感心する。
「じゃ、行くか…またアタマ、ぶつけるなよ」
「はいです」
巴は慎重にトランクを閉じた。
月曜の朝は澄み切った晴天だった。
陽光の降り注ぐ中…住宅街の続く中の幹線道路。
まだ渋滞の少し前なので、他のクルマも殆どなく、おれたちのクーペは気持ち良く街道を走り続ける。
「…バンたち、今頃、どうしてるだろうなぁ」
ちらとミラーを見ながら、ペダルを踏み、シフトチェンジする。
助手席にはシートベルトをつけてかしこまった姿の巴。
大きくて…座高も当然高いので、シートを目一杯下げて、リクライニングもある程度倒しているのだが、
それでもおれのクルマは車高が低すぎて、巴には窮屈なようだ。
それでも…おれの隣に居られるのは嬉しい…と毎度の事ながら、こそばゆい事を言ってくれる。
「そうですねえ…」
ちらと見ると、巴は腕組みしながら中空を見つめ、う〜ん…と、可愛らしく咽喉で声を上げた。
「本部って事は、どこかに、対策本部とか、設けてあるのでしょうかね〜」
「それも表向き休暇中ってことは…当然、おおっぴらに公表されてないんだろうな」
「そうですねえ…わたしたちに念押ししたのも…だからでしょうしねえ…」
例によって、まったりぽやぽやな巴だが、これでなかなか鋭い。
「そうだな…」
赤信号が見え、おれはシフトダウンさせながらブレーキを踏んだ。
タコメータの回転がその都度一瞬上がり、エンジン音が低くなる。
横断歩道が近づいてきて、その前の停止白線に合わせてすっと停め、小さく息をついた。
…と、ふいに、横から小さくクラクションを鳴らされ左を向く。
見慣れた赤いワゴンが止まり、運転席の窓が開く。
おれも助手席の窓をリモコンで開けて直ぐに怒鳴った。
「よう!早いじゃないか」
「おまえこそな」
茶髪で童顔の同僚…にして、今一番の「悪友」が真っ白な歯を見せた。
「トモちゃん、おはよう!」
我が悪友が片目をつぶって、キザったらしく親指を立ててみせる。
巴はにっこり笑った。
「おはようございます〜」
なんだい、おれにゃきちんとした挨拶は無しかい。
って、おれもだけどな。
すると助手席から、長めのおかっぱ頭が見え、軽く手が挙げられた。
「天野さんも一緒かい」
「今日から4日は天岩戸入りだからな…色々準備があるって言うんで、乗ってもらった」
「おう…さすがは彼女を大事にしてるな」
「おうよ!」
悪友こと木下秀一は小さく胸をそらした。
「もっとも、おかげで、ちょっとしたファミリー状態だがな」
そう言って、ちょいちょいと後席を指差すと、こちらを見る幾つかの人影…。
フイルムが張られてあるので、人相が良く判らないが影はみっつ。
「皆、おはようです〜」
巴の挨拶にワゴンの後席の窓が開いた。
「おはようございます」
見ると、二人の美女に、おとなしそうな美形の青年がひとり。
…いずれも、巴と同じドロイドたちだ。
「みなさま、おはようございます」
「今回も、どうぞよしなに…」
「え…と、どうかお手柔らかに願います」
美女たちは秀一…ヒデのメイドロイド。
二人とも艶やかな長い黒髪で、楚々とした雰囲気の、双子のように似た外見だが、中は
一世代違っていて、それぞれ「ネネ」と「チャチャ」と呼ばれている。
名前の由来は、木下藤吉郎こと豊臣秀吉の正妻ねね(おね、または政所)と、側室の茶々
(お茶々、または淀君とも言う)から来ていて…史実ではあまり仲が良くなかったそうだが、
その名を持つこのふたりは、性格こそ確かに正反対だが、史実の二人とは真逆に、
双子の姉妹の様に、とても仲が良い。
むしろ、時々一緒になって、マスターである秀一をツッコむほどで、秀一も二人を信頼し、
かつ、とても大切にしている。
もうひとりの、優しげな美形の青年は天野さんのサーヴァントロイド、シロー。
名前の由来は天草四郎からで、おとなしい天野さんを、いつもそっとサポートしている。
余談だが、以前はメイドロイドを連れていると、やっかみ半分なのか、色々とあらぬ詮索をして
囃し立てたり、陰口を叩くものがいたらしく、特に秀一など二人も所有しているので槍玉に
挙げられ…本人は気にしていない…と言っていたが…とても酷いものもあったらしい。
だが、そんなヒデの前で、才媛かつ美人で知られる天野さんがおおっぴらに「彼女宣言」をし、
しかも彼女自身サーヴァントロイドを持っていると告白した事で、急速に悪評が消えてしまった。
また、それがきっかけで、次第に自分のところにもドロイドがいる…とカミングアウトする者が
増え、逆に導入する者も現れ、むしろ今ではドロイドに対して、好意的な感情を持つ者が多い。
その彼らに、おれと巴が加わって七人が、4日間、チームを組んで仕事に当たるのだ。
しかも、この期間はドロイドのメンバーもれっきとした契約社員扱いとなる。
そう、「参観日」とは彼らが加わる期間を言うのだ。
ここ一年ほど、業務が逼迫しているのに、経費節減と効率の良い人的資源の活用…などと
言われて、おれたちの部署は人手が減らされてしまった。
一応、繁忙期は、人材派遣会社から五〜六人やってきて助勤に就いたが、ルーチンワークとは
言え、一度や二度で覚えきれるものではないし、その上、個々の契約について色々と条件が
違っていたりで、請求額の間違いを連発してしまい、却って厄介な問題が多発してしまった。
彼らも一生懸命だったが、あまりに細かい内容が多いので、終いには音を上げてしまった。
…おれだって、人手が多かった頃、教えてもらいながらで、半年以上かかったのだ。
まして、実情を知らないで来た人には、初めから無理だったのだ。
ある日、処理が終わらず、仕方なく終電で帰った後、自宅でも出来る作業を続けていた時、
暫く見ていた巴が計算作業を手伝ってくれて、その上、個々の細かい仕様の違いも覚えて、完璧に
処理してくれたことがあった。
パソコンが無くても、当然の如く、計算は絶対間違えないし、特記事項については、一度説明すれば、
以後決して忘れないのでとてもやり易い。
そこで思い切って、秀一と天野さんにその事を話した所、彼らもテストして、その結果も良かったので、
どうせならば、正式に助勤の為に雇ってもらったら…と、上司に話を持って行った。
年配の部長など、最初はやや懐疑的だったが、派遣会社の方から、あまりの激務に正式に手を
引きたいと言ってきたので、ともかく一度テストしてみようということになった。
その結果は…実に満足いくもので、ともかくおれたちに説明すれば、彼らにも伝わるので意思伝達が
実にスムースに行く。
ただし、彼らには、本来のハウスキーパーとしての役割があり、そちらが優先なので、繁忙期、予算
・決算の時期のみ…しかも無理はさせない…という条件付ではあったが…。
それでも、派遣会社の人間を雇うよりは単価も若干安いし、逆にひと月における雇用期間が短いので
総額からすればケタ外れに安く済む。
そんなわけで、彼らはもうすっかり、おれの勤め先では、お馴染みの面々となっていた。
長い信号が青に変わった。
「じゃ、いくぜ」
秀一がそう言うや、赤のワゴンが滑るように走り出す。
おれも半クラッチからギヤを入れ、素早くアクセルを踏み込んだ。
本社前に着いたのは七時半。
地下駐車場の入り口の左右には、「シュワちゃん」「スタちゃん」のニックネームを付けられた屈強そうな
身体つきのガードドロイドが待機しており、おれたちの方に向かって、笑顔で敬礼してくれた。
毎月、この時期には早朝から深夜まで詰めっぱなしなので、すっかりお馴染みだ。
秀一のワゴンが先に入り、おれのクーペがそれに続く。
受付でカギを借りて、おれたちは六階の職場に入った。
ドアを開けると、広いオフィスルームはひんやりとした空気に包まれている。
壁のスイッチに触れると、天井の蛍光灯群が一斉に点灯し、おれたちはデスクに向かった。
両手にそれぞれ荷物を抱えているが、これから四日間入用なものばかりだ。
「マシンを立ち上げてきます」
自分のデスクに資料の束を置き、天野さんが奥のパーテーションの裏の電算ルームに向かった。
その後をバインダーを持った執事姿のシローが付いていく。
おれが自分のデスクについて引き出しを開けると、巴がノートパソコンを二台抱えて、すぐ脇の
袖机に置いて、素早くセッティングしてくれた。
「ぼっちゃま…二台ともすぐ使えますよ〜」
「お、サンキュー…」
「コーヒー…淹れますね」
「ん、頼むよ」
廊下に出て行く、いつもと違うOLっぽい服装の巴も中々良い。
紺のワンピースが逆に長身を引き立て、すらりとした、かつ柔らかで出る所の出た曲線を描く。
ショールーム・モデルだった頃はこんな感じだったのかな…と、ふと思う。
一方、秀一は、白のスーツのネネとチャチャに、事細かに作業内容を指示していたが、ふと
電話の前のメモに気付いて、右手を向けた。
「…あ、マズイなぁ」
さっと目を通した秀一が小さく呟き、それをおれに向けてひらひらと振った。
「どうした?何かよからぬことか?」
「昨日の午後…アルファ電気からの請求明細一式が、今日中には出来ないと連絡があったそうだ」
「え…それ…本当か?」
おれはばりばりと頭をかきながらメモを受け取った。
「水曜の朝に連絡した時点じゃ、月曜の朝には余裕で出来るって言ってたんだぜ…」
この取引先は、今まで…少なくともおれが知る限り、四年前から一度として刻限を破った事は無いのだ。
「なんでも、その晩に、集約作業の時点でトラブルがあってリテイクになった…とある…」
秀一も、やはり判然としない様子の顔だ。
「でも妙だな…あそこ、ドロイドを大勢入れてたろ?処理がトラブったなんて、今まであったかい?」
そういわれて見れば、他所はあったが…確かにあそこは今まで一度も無かった。
「いや、確かに記憶に無いな…」
「…なんかヤな予感がするな」
「おいおい、縁起でもな…」
そう言い掛けると、奥の給湯室から、いきなり、がちゃん…という何かが落ちる音に続いて、
どが〜〜〜んという轟音と共に「ひゃん!いったぁい…!」という聞きなれた悲鳴が…。
「あちゃあ…」
秀一が軽く顔をしかめ、おれも右手で顔を覆った。
ネネとチャチャがくすっと笑う。
「前途は厳しいか…」
「……久しぶりに聞いたよ、トモちゃんのヘッドバッドの音
秀一がくっくと咽喉で笑った…。
長い信号が青に変わった。
「じゃ、いくぜ」
秀一がそう言うや、赤のワゴンが滑るように走り出す。
おれも半クラッチからギヤを入れ、素早くアクセルを踏み込んだ。
本社前に着いたのは七時半。
地下駐車場の入り口の左右には、「シュワちゃん」「スタちゃん」のニックネームを付けられた屈強そうな
身体つきのガードドロイドが待機しており、おれたちの方に向かって、笑顔で敬礼してくれた。
毎月、この時期には早朝から深夜まで詰めっぱなしなので、すっかりお馴染みだ。
秀一のワゴンが先に入り、おれのクーペがそれに続く。
受付でカギを借りて、おれたちは六階の職場に入った。
ドアを開けると、広いオフィスルームはひんやりとした空気に包まれている。
壁のスイッチに触れると、天井の蛍光灯群が一斉に点灯し、おれたちはデスクに向かった。
両手にそれぞれ荷物を抱えているが、これから四日間入用なものばかりだ。
「マシンを立ち上げてきます」
自分のデスクに資料の束を置き、天野さんが奥のパーテーションの裏の電算ルームに向かった。
その後をバインダーを持った執事姿のシローが付いていく。
おれが自分のデスクについて引き出しを開けると、巴がノートパソコンを二台抱えて、すぐ脇の
袖机に置いて、素早くセッティングしてくれた。
「ぼっちゃま…二台ともすぐ使えますよ〜」
「お、サンキュー…」
「コーヒー…淹れますね」
「ん、頼むよ」
廊下に出て行く、いつもと違うOLっぽい服装の巴も中々良い。
紺のワンピースが逆に長身を引き立て、すらりとした、かつ柔らかで出る所の出た曲線を描く。
ショールーム・モデルだった頃はこんな感じだったのかな…と、ふと思う。
一方、秀一は、白のスーツのネネとチャチャに、事細かに作業内容を指示していたが、ふと
電話の前のメモに気付いて、右手を向けた。
「…あ、マズイなぁ」
さっと目を通した秀一が小さく呟き、それをおれに向けてひらひらと振った。
「どうした?何かよからぬことか?」
「昨日の午後…アルファ電気からの請求明細一式が、今日中には出来ないと連絡があったそうだ」
「え…それ…本当か?」
おれはばりばりと頭をかきながらメモを受け取った。
「水曜の朝に連絡した時点じゃ、月曜の朝には余裕で出来るって言ってたんだぜ…」
この取引先は、今まで…少なくともおれが知る限り、四年前から一度として刻限を破った事は無いのだ。
「なんでも、その晩に、集約作業の時点でトラブルがあってリテイクになった…とある…」
秀一も、やはり判然としない様子の顔だ。
「でも妙だな…あそこ、ドロイドを大勢入れてたろ?処理がトラブったなんて、今まであったかい?」
そういわれて見れば、他所はあったが…確かにあそこは今まで一度も無かった。
「いや、確かに記憶に無いな…」
「…なんかヤな予感がするな」
「おいおい、縁起でもな…」
そう言い掛けると、奥の給湯室から、いきなり、がちゃん…という何かが落ちる音に続いて、
どが〜〜〜んという轟音と共に「ひゃん!いったぁい…!」という聞きなれた悲鳴が…。
「あちゃあ…」
秀一が軽く顔をしかめ、おれも右手で顔を覆った。
ネネとチャチャがくすっと笑う。
「前途は厳しいか…」
「……久しぶりに聞いたよ、トモちゃんのヘッドバッドの音
秀一がくっくと咽喉で笑った…。
念のため、様子を見に給湯室に行くと、流しの周りが散らかったままになっていて、巴は例によって
身を屈め、お尻を高く突き上げた格好で食器洗いに奮闘していた。
「なんだ…おい、随分派手に散らかしたな」
巴の横に行き、中を覗き込んで呆れ気味に声を掛けると、巴は振り返り、きょとんとした顔で首を振った。
「はい?…これはわたしじゃありませんけど〜」
「…だって、今、頭ぶっけたろ?」
おれが自分のこめかみに指を立てて訊ねると、巴は一瞬小さく舌を出したものの、そっと首を振った。
「食器を落として…拾おうとして頭をぶつけましたけど…でも…食器棚はカラでしたよ〜」
確かに、流し台の上に金属棒で吊り下げられた、軽金属製の細長い食器棚が僅かに歪んでいるものの、
何かが載っていた形跡はない…。
と言うか、巴が何度かぶつけて中身を落として破壊して以来、食器を洗った後、一時的に水切りと乾燥に
使う程度で、基本的には脇の食器入れに仕舞う事になっている。
それに…確かに良く見ると、置かれてある食器は使用済みの物ばかりだ。
コップも皿もあるし、弁当箱らしきものまである。
…ふと、疑問に思った。
「昨日出た連中、片付けないで帰ったのかな?」
「そうみたいですね〜」
前を向き直して、巴は再び洗いはじめ…それから僅かに首を傾げた。
「でも、変ですねえ…いつもならドロイドの誰かが、必ず最後に片付けておくのですけどね〜」
おれも、その点はちょっと引っかかった。
結局、おれも巴の洗い物を片付ける手伝いをするハメになった。
そして終わってから、サイホンで入れたコーヒーを淹れ、それぞれのマグカップに注いでお盆に載せ、
オフィスのフロアーに入ると、秀一が血相を変えて飛んできた。
「おい…なんかやばいことになりそうだぞ」
って、いきなり何を言い出すのやら…。
「どうしたんだよ?出し抜けに…」
「昨日、休日出勤した連中が、軒並み休むと言ってきてるらしいよ」
自分のマグカップを手にしながら、課長席を指差す。
長い柔らかな黒髪と黒のシルクのスーツが見え、おれは小さく会釈する。
右耳に受話器を付けたまま、課長…別名・お局さまこと、春日課長がこちらに気付いて手を挙げた。
「あれ…課長、今日はまた早いな…」
「何でも隣の課長から、今日はどうしても行けないのでフォローしてくれと言ってきたそうだ」
「…え?…しかし、おれたちだって、手一杯だぜ。第一…営業なんて」
「ああ、来たわね」
春日課長が受話器を置きながら、おれたちを手招きした。
彼女は春日千代…下の名がやや古風な感じの、当社きっての切れ者の女課長だ。
必要とあれば率先して色々乗り出すが、不要と判断したら容赦無くばっさり切る。
部長たちですら、時々たじたじとなるほどであり、このため『春日局』に引っ掛けて「お局さま」と
裏で呼ばれていたりする。
ちなみに、巴たちのヘルプに真っ先に賛意を示したのは彼女である。
端正な顔立ちに困惑気味な苦笑を浮かべ、銀縁の眼鏡を外す。
…気心知れたおれたち以外には滅多に見せない、優しい素顔の笑顔の素敵な美人だ。
このひとを見ると、時々、ともねえを思い出す事がある。
そして素顔の時の課長を、おれたちは「お千代さん」と呼んでいる。
「おはようございます、課長」
「おはよう…」
お千代さんは頷き、おれたちの後ろにやってきた巴とネネ、チャチャにも会釈した。
そして、おれと秀一を見上げ、申し訳なさそうに口を開いた。
「早速で済まないのだけど…今日の業務…巴さんたちには、主に電話番をしてもらいたいの」
「え?…今のこの一番忙しい時に…ですか?」
「そうなのよ…あたしもね、本当は一度断ったのだけど…」
「何があったんです?」
お千代さんが眼鏡を掛け直し、課長の表情に戻る。
「…その分だと、まだニュースを見ていないみたいね」
おれと秀一は顔を見合わせ、シローを従えて遅れてやってきた天野さんの方を向いた。
彼女も判然としない顔でそっと首を振る。
皆、朝もそこそこに飛び出してきたのだ。
春日課長はリモコンを手にしてスイッチを入れた。
課長席の後ろに置かれた液晶テレビに光が入り、おれたちはそちらを向いた。
『…この為、家庭から各省庁、企業に至るまで、推定では都市部のドロイドのかなりな数が
原因不明の機能不全状態煮に陥っているとの報告が入っており…』
テレビには、眠るように倒れていたり、ぐったりした様子のドロイドたちが映っている。
ファミレスではウェイトレス姿の娘が、宅配業者の制服の少年が、そしてメイド服の娘が…。
皆、動けなくなって倒れていたり、イスに腰掛けたまま微動だにしなかったり…。
『政府は準特別厳戒態勢を宣言、各方面に対して協力を要請すると共に、ドロイドメーカーに
対し、早急の原因究明と対策を講じるよう通達しました』
ビル街で「具合の悪くなった」ドロイドを介抱しようとるす中年の女性と、それを制して収容
しようとする機動隊員の姿が映り…次の瞬間、おれは見覚えのある人物たちの姿を見出して、
思わずあっとく声を上げそうになった。
<ぼっちゃま…あれ!>
小さく鋭く巴が囁き、おれも微かにうなずいてみせた。
…機動隊員に混じって、バンとジェーンの姿が見えたのだ。
まさか、呼び出しっていうのは…このことなのか?
「…と、まあこんな訳なのよ」
リモコンのスイッチを押し、テレビを消しながら春日課長は首を振った。
そして改めておれたちを見渡した後、巴たちの方を見、溜息をついた。
「昨日の晩から、日本中のドロイドの3割ほどが、機能停止か機能不全に陥っているのよ」
「何ですって?」
おれは巴をちらと見たが、巴も驚きに目を丸くしたままだ。
「…おかげで、各家庭のヘルパーやら各種業種、業務に色々と支障をきたしていて…」
「それじゃ、頼んであった請求が来ないのも」
「流しのお片づけがされてなかったのも…そのためですね」
巴がおれの後を受けて言い、課長は困惑し切った顔で頷く。
「昨日の休出のメンバーの話だと、昨日の昼までは支障が無かったそうだけど」
昨日の昼というと、おれと巴が商店街を歩いていた頃だ。
「午後に差し掛かった辺りで、急に『めまいがする』と言い出したドロイドがいて、それから
自力で動けないドロイドが続発したそうなのよ…」
「めまい…って、ドロイドがですか?」
「…なあ…おね、お茶々…お前達、そんな事あったかい?」
秀一が自分のパートナーたちに向き直る。
双子の様なメイドロイドの二人は、艶やかな黒髪を靡かせ、同時に顔を見合わせた。
「いいえ…わたくしは何も」おっとりした口調のネネ「淀ちゃんは、なにか感じました?」
「昨日でしょ?…その頃って、マスターとおねえちゃんと一緒だったじゃない」
チャチャが両手を開いて、小首を傾げて見せる。
要は何もなかったということだ。
「天野さんたちは?」
「いいえ…わたしも特に何も」
天野さんはシローの方を向いた。
すると、穏やかな少年の顔立ちをした彼女の執事は、一瞬何事か考え、こう言った。
「そうですね……強いて言えば…ちょっとですが…磁気を感じた様な気がします」
シローの言葉に、春日課長の顔色が変わった。
「それ…うちのアオイも言ってたのよ」
「アオイ…ああ、最近お迎えされた、最新の娘さんですね」
秀一が独特の言い回しで聞き返す。
元々はドールファンから始まった言い方だが「物」扱いで無い表現なので最近良く使われる。
「第八世代…でしたよね。……って事は、課長のお宅でも?」
「ええ」
課長は両手を合わせ、それから顔を覆った。
「同じよ…何か磁場の様なものを感じる…と言って、そのまま眠るように活動休止したわ」
「…磁場ですか」
おれは巴を見、それからネネとチャチャと見たが、三人とも微かに首をすくめるばかりだった。
ここで、現在、世間一般で活動しているドロイドについてちょっと補足する。
基本的にAI本体の基本的な構成は、確立された黎明期からそれほど変わっていないが、
ドロイド本体の構造、材質的な部分は年々改良され、サイズや動作の滑らかさ、反応速度などが
より日進月歩で向上し、現在は第八世代まで達している。
もちろん、十数年前に誕生した「大きな隣人」と呼ばれた第一世代も、アップデートされて
現役で活動している者もいるが、中にはより新しい身体に載せ換えられているケースも多い。
巴はそれからは大分小さくなった第二世代…型番から言えばかなり旧式である。
もっとも親父たちの手で中身はかなり手を加えられ、アップデートしてはいるが…
少なくともデカいままだし。
ちなみに、ネネはAIの処理速度を上げた第四世代の後期型、チャチャが躯体の運動性能を
上げた第五世代、そしてシローがサイズを更にコンパクトにまとめた第六世代である。
本格的に一般家庭に普及し始めたのは第五世代末期からで、特に第七世代の普及率は
40パーセント以上と言われ、ヒデによれば、お年寄りでも子供でも扱える簡単さだと言う。
もっと正確に言うと、来て間もないドロイドが未熟なマスターの下に来ても、ドロイドの側が
マスターに合わせて行動できると言い、その為、常時、必要な情報をマルチサーバーからの
リンクを経由して、人間で言う「経験値」を瞬時にダウンロードできるのだという。
もっとも、うちの巴やネネ・チャチャは大分前のタイプなので、システムを増設していないが…。
「ともかく…このスタッフは健在ですから、できる限りのことをしましょう」
再び眼鏡を外して、お千代さんがにこっと笑う。
…この笑顔がまた曲者なのだが、まあ、おれたちに対する信頼の証だ。
決して悪い気はしない。
「では〜…わたしたちのお千代さんの為にも、みなさん、がんばりましょう〜」
巴が例によって元気良く…と言っても、少々まったりだが…小さく拳を固めて振り上げる。
春日課長は片目をつぶって、おれたちに「よろしくね」という笑顔を浮かべた。
おれは秀一と顔を見合わせ、ちょっと渋い顔のまま笑った。
…結局、今日も遅くまで帰れそうにない…。
…済みません…送信不良で
>>312を二回送信してしまいました。
新たな展開ktkr
続きが楽しみだぜ!
トモちゃん俺んちに来ない?
『トモちゃん俺んちに来ない?』
この一言が後にあのような結果をもたらすことになるとは、
本人ですら気が付いていなかった。
発注処理をする事務方がミスタイプしたことも、誰も気が付かなかった。
数日後、
>>319の部屋には50代男性ハゲ型のモトちゃんが届いたのだった。
>>319 わわ…えと…あの〜…マスターにお問い合わせ下さいませです。
>>320 それなら、相方の妙に料理の上手いグッチ型もセットにしないと
>>320 せめて炊飯器タイプにしてくれw
>>321 ごめん、冗談だよ
あの幸せモンがトモちゃんを手放すワケ無いしなぁ
あ〜あ、オムニに発注しよっかな…
トモちゃんと同タイプがまだあれば、の話だけど…
むしろ中古ショップを漁った方が良いと思われ
うちのロボ娘と結婚するって真面目に親父に言ったら、思い切り反対されたorz 孫の顔を見たいんだとさ。
親父ならわかってくれると思ったのに…(俺の母ちゃん、ロボなんだよ)
そういう時は、問答無用のできちゃった婚をすれば亜qwせdrftgyふじこlp;@:「」
ロボ相手の出来ちゃった婚ってどうすりゃいいんだろう。
はっ、まさか幼児型のロボ娘をry
あれ?
>俺の母ちゃん、ロボなんだよ
これに突っ込んじゃいけないふいんき(ry
オプションの人工子宮と凍結卵でおk。
凍結卵は、ロボの外見や個性を盛り込んで遺伝子をいじられてるから、倫理的にいろいろ言われてるけど(・3・)キニシナイ!
これまで恋愛がどーのとか煽った上に、イケメン以外はキモいとかのレッテル貼リ続けたメディアの連中に、
今更倫理倫理と言われても説得力ねぇよな。ブサメンには人権ねぇような扱いし続けられたし。
間接的な断種弾圧されてるよーなもんだから、ささやかな抵抗って奴だ。メディアの流行なんぞ糞くらえ。
ん、うちの嫁? 大和重工の1世代前のモデル「撫子・後期生産型」だよ。
黒髪が綺麗で、俺、ショーウィンドゥで一目惚れ。店の前で最新モデルがカタログ配ってたけど目もくれずw
人工子宮がまだ未実装な時期の奴だけど、そろそろ親に孫を見せたくてな、どこの遺伝子バンクと人工子宮がいいか、
二人でカタログ見ながら選んでる最中だ。
つ「デモンシード」
おまいら幸せそうで羨ましい。うちは人工子宮が付けられる機種じゃないし、改造とか外付する予算もないから、嫁のAIを元にして
『娘のAI』をしこしこと作ってる所だ。素体の初期年齢設定をどうするかでちょいと意見が合わないんだが、そういうのを話す事が
出来るのがこの方法の特権だと思ってる。
やっと卵子バンクから卵子受け取りの許可が降りた
六回目の申請でやっとだ、必死こいて貯金した甲斐もあったよ(つд`)
妊娠キットのレンタル代もバカにならないしもうしばらくは貧乏生活だ
ES細胞を望む方向に培養して,欠損した組織を再生させるってのは知ってるよな?
あれの培養プラントを,人工子宮に用いるつうのがあるんだが
元々,人工子宮のベースになった技術のうえ,脳の成長に合わせて教育も可能だ
……と言っても,天才になるかどうかは“誕生後”の環境しだいなんダケドナ
娘もロボット一択ですが何か
息子という選択肢は勿論ありません
単身赴任中なんだが、うちにいるメイドロボ娘を連れてきているんだ。
気立てのいい、とても良い娘なんだが。
昨夜、コトにいたろうとしたらさ
なんとナニがステンレス鋼板で塞がれていやがってさ
彼女が言うには
「奥様から止められています。解除するには
メーカー代理店工場で奥様の指紋認証が無いと解除できない仕組みになっています」
だとさ……。
まさにアイアン・メイデン(鋼の処女膜)ってヤツさっ!
家内のヤツ……知っててやってやがる……
逆に考えるんだ。
それはつまり、口でする分にはOKというお墨付きだと考えるんだ。
こいつも忘れてるぜ!
おっぱい! おっぱい!(AA略)
後ろの(ry
>>317 続きを上げたいのですが、アクセス規制でもう数日足止めです。
携帯からでは長文は無理であります…。
もうしばらくお待ちくださいませ…。
古い映画だがマイケル・クライトン監督「ウエストワールド」のガンスリンガー(ユル・ブリンナー)が、不死身のヤンデレカウガールロボ娘だったらどうしよう
勃起して夜も眠れん
343 :
名無しさん@ピンキー:2007/11/04(日) 00:00:29 ID:RWVv359f
今アンドロイドと言ったら
アンドロイド・アナ
ロボフェチで結構!
東京ローカルだけどねー
「……電気化学工業でございます」
凛と澄んだ巴の声が、広いフロアーに響く。
「はい…はい、左様でございますか…はい…いえ、当社は営業は致しておりますが、
営業三課の者は現在、ニュース等で問題に挙げられている件の影響で、本日
お休みを頂いておりまして…」
おれの真正面のデスクについた巴が、きりりと引き締まった表情で電話の応対を
している。
いつもの、まったりぽやぽやな様子は微塵も感じられない。
「はい…当課の課長の春日ならおりますが…はい、少々お待ちくださいませ」
席を立ち、奥のマシンルームに向かう巴…。
プロフェッショナルなオフィスレディの雰囲気を醸し出していて、凛々しくも美しく
見えるのだが、それに加えてポニーテールを真っ赤で大きな長いリボンで結んで
いて、それが長い黒髪の左右に揺れ、同時に愛らしさも醸し出している辺りが…。
思わずちょっとぐっときて、暫し見とれてしまった。
あ〜!いかんいかん…仕事せねば。
と、途端に右から肘で小突かれ、ハッと我に返った。
秀一がニヤリと人の悪い笑いを浮かべている。
「…改めて惚れ直したか?」
「うるせ〜」
慌ててノートパソコンのモニターに視線を落とした。
「おれは元から一筋だ」
「ナニ?」
秀一がモニターから顔を上げ、意外そうな声を上げた。
「ほぉ…それは新しい発言だな」
…しまった…。
「ほ〜…遂にそこまで言う様になったか!」
秀一は、なおもぐりぐりとおれのわき腹を肘で小突く。
「痛ててて…!このボケ…やめんか!」
「元から一筋とは…目覚めたなおヌシ」
「余計なお世話だサル」
「ほっほっほ…図星指されて動揺しとるな…で、どこまでいったんだ?おい」
「こンの野郎…ぶっコロスぞ…」
おれが拳を振り上げようとした時、出し抜けにバインダーのびたーん!という
派手な音が隣で聞こえ、
「うぎゃ!」という奇声を上げて秀一はその場で頭を抱えた。
「マ・ス・ター…!?」
振り返ると両手を腰に当てて苦笑いのネネと、バインダー手に、腕組みしている
チャチャの二人。
「…お…お茶々…角はよせ、角は…」
完全に意表を突かれてうろたえている秀一を、チャチャはジト目で睨み、それから
おれの方を向くや、申し訳なさそうににっこり笑ってぺこりと頭を下げた。
少し遅れてネネも丁寧に一礼する。
「済みません…本当に済みません!」
「本当に…おばかなマスターで、ご迷惑をお掛けします…」
「お茶々…そりゃないぜ…」
口を尖らせて秀一が抗議する。
「おれはこの場を和ませようとだな…」
「却下です…マスターのそれは…明らかに野次馬根性丸出しです」
…だが、チャチャの表情には微かに笑みが浮かんでいる。
見守るネネはあくまでおっとりして楚々としたもので、苦笑混じりだが、やはり
どこか楽しそうだ。
「…なんでぇ…そっちこそお尻に敷かれてるじゃないの」
二人が後ろのデスクにつくや、おれは小声で突っ込んだ。
途端に秀一はバツの悪そうな顔で慌ててモニターに向き直る。
「メイドロイドに頭の上がらないマスターってのも…あやしいねえ…ヒデちゃんよ」
「う、うるせ〜」
「その慌てよう…そっちこそ、ナニかしたのかなぁ?」
「………あ……あぁ…ま…な」
歯切れ悪く言葉を濁す秀一。
「ほ〜…こりゃ図星か」
なんてこったい…てことは…こいつもかぁ…?
こいつは人には突っ込む癖に、突っ込まれると案外弱いのだ。ざまあみろ。
しかしそうかぁ…って、どっちか?と、思わず苦笑いしながら、ネネとチャチャを
見ると、ちらとお互いの顔を見合わせ、口元に手を当て真っ赤な顔でふふふと
笑っている。
思わずピンときた。
あ〜そうですか…どちらもねえ…。
でも…ちょっと引っかかったので、小声で囁いた。
「でも…彼女は良いのか?」
「ん?…どっちの彼女だ?」
違うだろが、そっちじゃないよ。
「ばぁか……」思わずひそひそ声で言った。「天野さんだよ」
「あ…彼女な」
秀一はモニターから顔を上げ、ちらと奥のマシンルームの方に目をやった。
「もちろん公認さ」
「へえ…」
おれはちょっと意外な気がした。
長めのおかっぱ髪…というかボブカットの才媛、わが課の誇るアイドル天野さん
…優奈さんは、とても穏やかで心優しい女性だが、以前は、多少生真面目で
潔癖症に思われていたのだ。
実際に話してみると、もっと気さくでお茶目…かつユーモアも解する女性で、
確かにあの秀一の彼女を宣言する程だから、その位の理解はあるのかも
知れないが…。
「……お前だけには教えるがな……彼女とシローも…な」
秀一はそう言って、静かに笑った。
「だからさ…おれたち、基本的には、結婚するまでキスか…ペッティング止まりの
約束なんだ」
あ…!そ、そうなのか。
おれもこれにはちょっと意表を突かれた。
そして、今朝、どうして秀一が『ちょっとしたファミリー状態』などと言ったのか
改めて理解できた。
しかも、二人ともドロイドのパートナーとイタす事で、婚前交渉無しという潔さ。
「…それにな…」
さらに声を落として秀一が言う。
「シローは元々、どちらにもなれる仕様なんだ…この意味、わかるか?」
おいこら、ちょっとまてぃ!ってことは何ですか、あんたまさか…。
いや確かに、シローは顔立ちが可愛いですよ。
メイクを落としたら、長めのショートヘアの女の子みたいで、声だって女性声優が
演じている少年キャラみたいな綺麗な凛々しい声ですからね。
胸だって今は簡単に直せるし…。
でも…男の子の設定でしょう?
流石にこれには呆れて何か言いかけようとしたが、秀一は至って大真面目である。
「…まあ、モノは付いてるが、別のモノも付けられるし…なんと言っても性格が良い」
「まさか…お前…両方つけて…」
秀一は苦笑し、小さく首を振った。
「そこまではしないさ…まあ、考えた事もあるし、これからその可能性がまったく無い
訳じゃないがな」
おいおいおい…。
だが秀一の顔は至って真面目だ。
「いや、半分は冗談だがな…なんて言うか、おれ、あいつも好きなんだよ…天野さんを
…優奈の事をいつでも気遣って、おれとの連絡役を進んで買って出てくれたりしてさ、
一生懸命で健気だしさ」
…秀一はなおも続けた。
「シローは…天野さんの大切なドロイドで、彼女に言わせると、弟か妹みたいな位置
づけだし…なんて言うかさ、おれも、あの子は彼女の一部みたいな気もするんだ。
そう考えると、何か愛おしくてさ…」
「…彼女の一部か…」
「だから彼女とひとつになる時は…シローもネネもチャチャも一緒で…と本気で思ってる」
「おまえ…性別とか…種別とか超えちまってるなぁ…」
「かもしれないな…まぁ、人間の男と…っていうのだけは、絶対無いけどさ。」
「あたりまえだ。そうなったらおれは、おまえとは永久に国交断絶するぞ」
「おれも、おまえとだけは願い下げだ」
秀一はニヤリと笑い、おれも思わず吹き出し、それからモニターを指差した。
「…さて…雑談もこの辺で切り上げて…仕上げるか」
「おう…そろそろ一度締めないとな…」
ふと気が付くと、奥のマシンルームから戻ってきた巴が、右手を軽く挙げて会釈し、
小首を傾げてにこっと笑いかけてきた。
おれも右手を挙げ、親指を一本立てて合図して返す。
「…おまえらも、なかなか良いカップルだよ」
秀一が静かに笑った。
…午後九時…外がすっかり暗くなる中、このフロアーの蛍光灯群だけが煌々と輝き、
その中で、おれたち営業二課の面々はひとやすみしていた。
各種の入力処理はアルファ電気の請求額以外、総て終わった。
厳密に言うと近い額をダミーで入れてあるので、処理としては完了。
後はチェックリストさえ出せば、今日の処理は終了だ。
とりあえず状況が状況なので、大体の額を聞いて概算額を入力して、後で修正するより
手が無いのだが、この為、こちらからの請求額に誤差が出てしまう。
「この部分に関しては実費精算が原則ですから…請求先に説明して理解を頂くより他に
手は無いでしょうね」
お千代さんが湯のみを手にして、巴に小さく会釈しながら言った。
「…ここ数ヶ月の額と昨年同月の額から…そうは違わないとは思うのですが」
湯のみを左手に持ち、ネネの手にしている器から煎餅を取った秀一が口を開いた。
「ただ、細かい事を言う会社もありますからね」
「先に大目に頂いて、来月の請求額から減額するのが無難そうですね」
そう言ったおれの横に、お盆を持ったままの巴がちょこんと腰掛ける。
言うまでも無く大柄なのだが、控えめな仕草がなかなか可愛らしい。
「それに…巴さんたちのおかげで、関係各所への電話説明は終わりました」
天野さんがそっと口を開いた。
その横には寄り添うようなシローの姿がある。
「どこも似たような状況のようですね」
「幸い、どの会社からもクレームはありませんでした」
シローはそう言いながら、天野さんに湯のみを差し出した。
「むしろ、こちらから状況説明をしたのは、好判断だったかと思います」
「…あの〜…逆に請求日を守る事で、色々ご迷惑をお掛けします…ってありました」
巴がちらとおれの方を見ながら口を開いた。
「こちらから先にお話ししたの…結果的には…良かったみたいです〜」
「最初、ともちゃんから提案された時は…良いのかな?…って思ったんですけどね」
チャチャが巴の首に腕を巻きつけて身を寄せながら、悪戯っぽく笑った。
ストレートな黒髪が軽く巴の肩にかかる。
「まだ、正当な請求額が出る可能性もあったし、初めから間違った額です…って相手様に
知らせるの…切り出しにくいし、印象も悪くなりそうで…どうかなぁ…って」
「ん…まぁ…そうなんですけど〜…会計処理って…時期が〜厳守ですからね〜」
「そうなのよね…向こうも経理の人が、えらく苦労して大変だって言ってたし」
「はい…後で直せる程度なら、とり合えず…金額を出してもらえると助かります〜って」
「ともちゃんの機転のおかげね」
利発そうな瞳で巴に笑いかけるチャチャ。
横で笑顔で頷くネネも、静かに微笑んで見つめるシローも、無事に役目を果たせて安堵
している様子だ。
…こうしてみると、ドロイドが四人とも、今はこの職場にも無くてはならない存在になっている
ことに気付いて、何となく頼もしく…そして嬉しく思えた。
「…みんな…本当にありがとうね」
春日課長が感極まった様子で眼鏡を取り、静かに頭を下げた。
「なんとかこれで、あと3日…乗り切れそうな自信が出てきたわ」
午前零時…フロアーの電気が消され、おれはドアを閉じ、カギを掛けた。
天野さんと課長が少し遠方なので先に上がってもらい、おれと巴だけが最後に残っていた。
「ぼっちゃま…おつかれさまでした〜」
巴がにっこり笑って小首を小さく傾げる。
「お疲れさん…今日は大活躍だったなぁ…きっちりOLさんか秘書さんしてたぞ」
「昔取ったなんとか…みたいです〜」
巴はえへっと小さく舌を出した。
「それに…その服だと大きさが目立たないしな…」
途端に巴は小さくぷっとふくれた。
「あ〜ん…それは無いです〜」
「ん…そうじゃなくてさ」思わず巴の頬に手を当てた。「その格好…似合ってるからさ」
巴は一瞬、きょとんとした顔をしたが…それからはっとした顔になり…やがてニコ〜っと
笑うと、両手を口にあてて照れた表情を見せた。
…どんなに疲れていても、この笑顔には本当に癒される。
本当に、まったりぽやぽな…鋼鉄の女神さまだ。
受付にカギを預けようと覗き込んだところ、例の『シュワちゃん』がふいに脇からやってきた。
「あ…済みません」
巨漢で一見こわもてだが、白い歯が見え、いつもの事ながら、その落差にちょっと笑いが
こみあがるが、考えてみると巴よりは背が低かったりする。
「ちょっと裏でトラブルがありましたもので」
カギをおれから受け取り、シュワ氏が頭を掻きながら軽く一礼した。
「ケンカか何かかい?」
「いえ…クルマを運転していたドロイドが急に倒れたそうで」
「…そいつは怖いな」
「運転代行会社と、ドロイド・サービスセンターに連絡したので事なきを得たのですが…
たぶん…今朝からの続きかと」
「そういえば、ドロイドのトラブルは、その後、どうなったんだい?」
おれの問いに、シュワ氏は複雑な表情を浮かべて首を振った。
「依然として改善されていません」
「…君たちは…無事なようだが」
「はい…幸いにも我々には何の兆候も無いので、大丈夫だろうと言われてますが…」
そう言いながら彼は巴を見上げた。
「どうやら貴女も大丈夫そうですね」
「はい…全然問題ありませんですよ〜」
巴の様子に、何を思ったかシュワちゃんはほっとした様な顔をした。
「…それは良かったです…」
「何かあったのかい?」
「現在…市井の40パーセント以上のドロイドたちが、機能不全に陥ってまして…ここの
明日の業務も、大半が半身不随なままになりそうでして…」
「そういえば…ここで働いているドロイドたちは?」
「同じです…営業補佐と清掃関係のドロイドたちが軒並みダウンしていまして、我々も
これから夜間清掃の手伝いに就くことになっています」
「そりゃ、大変だなぁ…」
シュワちゃんはニャッと人懐っこい笑みを浮かべた。
「いえ…我々には大したことはありませんし、頼りにしてもらえるのは嬉しいものですよ」
そう言いながら、だが彼は少し表情を曇らせながら続けた。
「ただ…一刻も早く事態が収拾されて欲しいものですね」
帰りのクルマの中で、おれは昨日からの出来事を思い返していた。
ドロイドの違法改造ショップのこと。
そこで出会ったFBI捜査官のバンとジェーン。
彼らから聞いたシンクロイド・システムのこと。
そして今朝から起きているという、一連のドロイドの機能不全事件とバンたちの行動。
これらには何か深い関わりがあるのではないか?
…それに…。
何故、巴やネネ、チャチャ、シローたちには全く影響が出ていないのか?
これらが…何故かおれには、一本の『線』で繋がっているように思えてならない。
理由は判らない…だが…。
取り分け…シンクロイド・システムという言葉が、いつしか頭の片隅に引っ掛かっていた。
>>324さま 超カメレスで済みません(規制で引っ掛かってまして)
ほ、本当に…も、申し訳無いっす…(汗)
第一印象は、まあ何で親父たちは、こんなデカくて呑気そうなの…を…とか
思ったんですけどね…w
…あ、巴…ジト目で睨むな。デカいのは確かだろ…?って…痛てて…!
ぽかぽか叩くのやめい!…あ〜…だから今はそれも魅力だって…。
お?…え、何だ…今度は?瞳うるうるさせて…って……ぶ…!
ぐぎゅ…く…く…苦し…む…胸に…押し付けるなぁ…。
はぁはぁ…
>>324さん、オムニジャパンのHPをご覧下さい。
流石に生産中止されて数年ですので、まっさらの『新人』は無理ですが、
最近、新しいボディへAIを載せ換えられて返納された娘たちが、若干数
現行仕様に直されてリビルトされ、文字通り新たな心を持って嫁ぎ先を
待っているそうですので…。
巴も、妹が良い所に嫁ぐなら嬉しいです…と言ってますし。
…ちなみにベースが軍用で凄く丈夫ですから、ボディガードも兼ねて
くれますし…何と言っても飯が美味いですよ…w
毎回、楽しみに読ませてもらっているが
だんだん このマスターを嫉妬でくびり殺したくなってきたわw
大丈夫、巴ちゃんは俺が引き取るから♪
356 :
324:2007/11/04(日) 19:45:10 ID:4AYGhb7t
>>354 みっ…見せつけやがって…
オムニのHP内を探しに探し、やっと見つけたぁっ!!
と思ったらSOLD OUTっておい……んん?
…まさかこのスレの中に抜け駆けした奴いねえよなあ……(#゚∀゚)
>>356 え?そんな馬鹿な…さっきまで出てたよ。
楓とか渚とかあった筈だけど。
済まん!『千里』ならおれが買った。許してくれ…。
喪前ら……楽しすぎですw
何気なく覗いたら出てたんで……
「春日」なら俺のところに……
>>360 それって「かすが」?「はるか」とか「はるひ」とも読めるがw
オムニから受注で簡易メンテキットその他の用品を扱ってるんだが、急に注文増えたと思ったら
あ ん た ら か w
在庫はかき集めとくから、必要なときはオムニの通販で注文しておいてくれ。
オムニの担当、喜ぶだろうなぁ…うちの部長もバンザイしてたし。
…体内洗浄液とかスキンオイル、医療用特殊潤滑材とか…あっち方面用の消耗品は多めに発注かけとこうかな(にやにや)
しかし誰だよ、最新素材の内蔵擬似生体膜セットを買い占めてった奴は。
「中古なのに新品」ってとこがいいんじゃまいかwwww
その晩も…ともねえが夢に現れた。
赤毛のツーテールの少女の面持ちで。
瞳の色は群青…。
にっこり笑いながら、おれに両手を差し伸べる。
おれも両手を伸ばし、その手を取る…。
柔らかく、温かで、優しく心地よい感触。
と、ともねえの顔が突然、巴と重なり、おれははっとなった。
豊かな黒髪…ポニーテール…瞳の色は黒…でも…でも…?
その顔立ちは…驚くほど似ていないか!?
…いや、そんな馬鹿な…。
それとも…昔のおれの記憶が、大好きだった『ともねえ』を、今、最愛の巴と混同させているのか?
『わたしは…いつもあなたのそばにいますよ』
…おまえ……いや…『きみ』は…誰なんだ?
すると『巴』は僅かに目を細め、小さく小首を傾げて微笑んだ。
『誰だと思いますか?』
なんだって?
『「誰」だと良いのですか?』
次の瞬間、目が覚めた。
かばっと布団を剥ぎ、おれは身を起こした。
デスクの上のスタンドライトがひとつ灯っていて、カーテン越しから夜明け前と判った。
あたりは、しんと静まり返っていたが、微かにきーんという耳鳴りに似た音が脳裏に響き
思わずふうと溜息をつく。
時計を見ると四時半過ぎ…起きるにはまだ早いかな。
久しぶりに二日続けて、ともねえの夢を…それも、巴に変わる夢など見るとは…。
…おれが大好きだった『ともねえ』と、巴を重ね合わせているのだろうか?
………もし、そうだとしたら…そう考えると…少し凹む。
どちらも大切な存在だ…なのに、どちらかをどちらかの『代用』としているとしたら…
人としては最低だ…。
むしろ秀一の様に、きちんと…気が多いとは取れるが…人間の彼女一人とドロイドの
パートナーたちに平等な愛情や想いを注いでいる方が…人として正しくは無いか?
『「誰」だと良いのですか?』
『巴』の言葉と微笑みが脳裏に蘇る。
…やはり巴だろう。
それには迷いは無い。
最近では、人とドロイドが結ばれ、正式に婚姻したばかりか、卵子を提供してもらって、
それに遺伝子情報伝承処理を施して出産したケースもあると聞く。
はっきり言って、そこまで至るかは判らないが…。
巴も、『ぼっちゃまが結婚されても…要らないと仰るまでお傍におります』と言って
くれているし…おれも絶対に手放すつもりは無い。
…でも…。
ともねえは…どうなんだ?
もし、忘れてしまったら…。
ともねえが大好きで…彼女に幼い告白をした…想いが失われてしまったら…。
彼女に…ともねえに…とても済まない気がしてならない!
でも…それでもおれは…巴が好きなんだ…。
おれは両手で顔を覆った。
ふいにカチャリとドアが開き、顔を上げると、心配そうな顔の巴がそこに立っていた。
白のネグリジェ姿で、髪は解かれ、腰まで美しい黒髪が垂れている。
「あ…の…どうか…なさいましたか?」
例によって小首を傾げる仕草で…こちらをじっと見つめている。
遠慮がちだが、それでもおれに何かあったらすぐ飛び出そう…そんな気配を感じる。
その、愛らしくも健気な表情を見つめるうちに、おれの中でひとつの決意が生まれた。
バンもそうした。
秀一も既にそうした。
…上手く行くかは判らない。
理解してもらえるかは判らない…。
でも、ここでケジメはつけておかなくてはならない。
男として…人として。
「こんな時間で悪いんだが…暫く…話を聞いてくれないか?」
いつになく…らしくないな…と思いつつ、おれは至って真面目に口を開いた。
巴は暫しきょとんとした顔をしたが、微かに笑みを浮かべた。
「わたし、ドロイドですから…時間は問題ありませんよ〜」
「充電は?」
「きっちり…終わってますです」
笑顔だが、どこかおれを気遣う雰囲気が感じられ、おれは内心済まなく思った。
「あ、え…と、お茶でも…お淹れしましょうか?」
「いや」
おれはそっと首を振った。
「巴さえ居てくれれば良い」
「え?」
この際、水入りは不要だ。
ベッドの縁に、大柄な身体をちょこんと腰掛け、巴はおれの顔を見下ろしていた。
腰掛けると幾分身長差が無くなるようだが、それでもまだ巴が上だ。
「ぼっちゃま?」
流石にいつもと様子が違うと気付いたのか、巴は少し不安そうだ。
おれ自身…寝覚めでアタマがヘンになっているのかも…と思いつつも、妙な決意と
高揚感で…ともかくこう言った。
「おれは…巴に…懺悔しなくちゃならない」
暫し沈黙があった。
…と言うより、はっきり言って巴が目を丸く見開いたまま、固まってしまったのだ。
「……わたしに…懺悔って…あ…あの…」
やっと言葉を発した巴の瞳が潤んでいる。
ちょっと待て…何を考えたんだ?
巴が次の瞬間、わっと泣き出す。
「それって…もしかして……わたし…お払い箱って…ことですかぁ…」
「ばか!」
巴はすっかり泣いている。
「それだけは絶対ない!!」
思わず怒鳴りつけ、巴を抱きしめる…ようで、逆に巴に抱きすくめられてしまった。
「…よ…よかったです〜」
「おい…泣くなよ〜」
何だか体格差からすると、泣き虫の姉さんをなだめる弟みたいな図だな…と思い、
それから、ふと、ある出来事を思い出してこんな事を言った。
「こうしていると…巴は泣き虫のねえさんだな」
「…だ…だって…いきなりわたしに懺悔なんて〜」
瞳を赤くした巴がそっと身を離し、おれの顔を見据える。
おれは覚悟を決めて…一気にまくしたてた。
「おれが話したいのはね…その…おれが、巴以外の、ある女性にも昔から好意を持っていて…
気持ちも未だにあると…気付いてしまったからなんだ」
巴はじっと…真剣におれの顔を見据えている。
その気迫に、一瞬たじろぎそうになったが…おれは頭を下げ、なおも続けた。
「今は巴一筋だ…その気持ちに嘘はない…!でも、おれは…」
「ともねえ…も、大好き…?」
ふいに予期せぬ事を言われ…しかも巴の声が変わったような気がして、おれはギョっとなった。
「……巴?」
顔を上げ、巴の顔を見つめると、またもや瞳が潤んでいる。
「嬉しい…」
「あ…え…」
そのまま、おれは巴の唇に言葉をふさがれ、そのまま何の抵抗も出来なくなっていた。
本来ならば…おれが未だに初恋の人の事をどこかで引きずっていて、夢にまで見ている事を
巴に詫びるつもりだったのだが…。
何だか…予想外な展開になってきて、おれ自身が困惑し始めていた。
やがて恥ずかしそうに身を離した巴は、静かに頭を垂れた。
「…ご…ごめんなさい…ぼっちゃま…」
「いや…それは良いんだが…」
おれは最大の疑問を口にしていた。
「おれが…ともねえを好きだってこと…何故…。それに」
そっと顔を上げた巴は、珍しく、おれの問いには答えず、こんな事を言った。
「…わたしのAI名…ご存知ですか?」
「たしか…『tomo』」
そう…それは知っていた。
だが…あくまで偶然だと思っていたのだ。
おれの両親も、おれが、たまねえを好きだった事を知っていたし、だからこそ敢えて巴を
選んできてくれた…いつしか、そう思っていたのだ。
「わたしは…」
巴は涙を拭き、それから穏やかな笑みを浮かべて、静かにこう言った。
「『ともねえ』の…分身だったのです」
暫く時間が止まってしまったように思えた。
おれ自身が、告白するつもりが…。
とんでもない事実を知る事になってしまった。
「…それに気付いたのは昨日の晩…でも、確証を持ったのは先刻でした」
「昨日と…先刻だって?」
そういえば、おれが夢で見たのと同じ頃だ。
思わずおれは口を開いていた。
「はい…」
巴はそっと目を伏せ、それから暫し躊躇しながら続けた。
「…夢を見ました。…そこでわたしはぼっちゃまと出会いました。そこでぼっちゃまは、
わたしをともねえと呼ばれ…わたしも自分の姿が変わった事に気付きました」
「…あの夢…巴も見たのか…」
「では…ぼっちゃまも?」
巴も驚きの表情を浮かべる。
「…そして…わたしの心に…断片的にですが、幼い頃のぼっちゃまとの記憶がすっと
流れ込んできました…もちろん総てではありませんが…」
「ちょっと待て…それって…」
おれの頭に、ずっと引っ掛かっていたある単語が浮かんできた。
「シンクロイド・システムか…」
「はい」
巴はしっかりと頷いた。
「たぶん…わたしが一昨日『記録』と言ったのは、その為だと思います。…もっとはっきり
言いますと、わたし自身が、最初のシンクロイド・システムに試用されたのです」
「…ジェニファーさんとジェーンの様な関係なのかい?」
「それよりは、もっと技術的にも初歩的な物かも知れません」
こうして理路整然と話す辺りは、確かにともねえの面影がある。
「それすらも思い出せたのが、つい先刻なのですが…」
…だが、同時に、いつもの巴がきりっとした時も同じであると気付き、おれはほっとした。
「ただ…ともねえ…『朋』としての記憶は殆ど受け継がれなかったのですが、意識…心は
このわたしに遺されたのだと思います」
「じゃ…巴の心は…」
「たぶん…『朋』がベースになり、改めて巴として完成されたのだと思います」
ということは…巴は、ともねえの実の分身であり、生まれ変わった存在とも言えるのか。
ジェーンに対する巴の反応が改めて、良く判る。
おれは、安堵すると共に…それでも…やはりけじめをつけなくては…と思った。
そして巴の両肩に手を添え、それから改めて頭を下げた。
「巴…そして…巴の中に在る、ともねえの心に謝るよ…おれは…どちらも好きだ。でも、
男としては、二股掛けていたみたいで…」
そう言い掛けたおれの口を、巴は人差し指を立ててそっと制した。
「でも…『わたし』としては…幸せ独り占めみたいで…とっても嬉しいですよ」
「巴?」
「…だって…あくまで巴として見てくださって、それだけでも嬉しいのに…」
「え?」
「わたしが…ぼっちゃまの…昔からの大切なひとでもあったなんて…」
「え…あ……」
「もちろん…一部ですし〜…わたしは『朋さん』みたいなしっかりものじゃないですけどね」
そう言って、小首を傾げてにっこり笑う巴。
おれは呆気に取られ…
「あ…いや…考えてみると、あれで結構、そそっかしかった気がするよ」
ついそんな事を言っていた。
「そ、そうですかぁ…それって、喜んでいいのか、悲しんでいいのでしょうかぁ?」
巴は複雑な表情で笑ったが、やがてそれは満面の笑みに変わっていた。
すっかりいつもの巴に戻っていて、おれは心底嬉しく思った。
巴の中に『ともねえ』が生きている…その事実は衝撃だったが…知ることができて
良かったと思うし…大好きな二人が、ひとつの存在として常に傍にいてくれる事の
幸せを改めて強く感じる。
…そして改めて…いつもは悪態をついているけど…
巴を寄越してくれた両親に深く感謝した。
少し早いけれど…ちょっと気持ちがすっきりしたので、完全に起きる事にした。
睡眠時間は四時間…。
まあ今日は巴が運転してくれるというから、行きの30分はクルマで仮眠するか。
食事までの間、おれと巴はすぐに出かけられるよう着替えて、リビングのソファに
向かいあって腰掛けていた。
…色々な思い出話や疑問が飛び出す。
おれの、ともねえとの思い出話は、大半は巴の『知らない』事ばかりなようだったが、
泣いているともねえを、おれが一生懸命慰めようとしていた事は思い出していた。
「…朋さんは…天才科学者で、オムニの顧問として働いていたのですが…」
巴がそっと目を閉じる。
「あの時は…研究が行き詰って、色々と辛い事があったのです」
「ともねえ…は研究員だったのか…」
てっきり、奨学生だとばかり思っていたので、これにはおれも驚いた。
「ジェニファーさんの前に日本で現れた天才少女って…ともねえだったのか」
頷き、巴は目を開けた。
「…ただし、安全の為、表向きの名前は変え、普段は学校に通っていました。
確か『愛原ともみ』って名乗っていたはずです」
「…ギャルゲーに出そうな名だな…まてよ…普段は…ってことは」
「授業が終わった後と、土日に研究所に…」
「…ハードだなぁ」
「いいえ…クラブ活動みたいな感じで…それにぼっちゃまのご両親のチームに
ご一緒させて頂きましたから、当初は苦労なんて感じませんでした」
「うちじゃ、家事もろくにしないダメ親だったんだぜ…」
「お母さまは…料理の腕前は逸品で、お母さまの夜食は皆の楽しみでした」
「え?…嘘だろう…」
「お父さまは…開発チームでは、誰よりも頼りにされていましたし…」
「それって…記憶が捏造されてないか?」
ついそんな事を言うと、巴は困ったように小さく笑みを浮かべた。
「…そんなことはありませんし…決して家庭をおろそかにはされていませんでしたよ」
「…でも…」
「どんなに遅くに帰っても、朝には衣類が用意されていたのではありませんか?」
思わずハッなる。
巴は控えめだが、はっきりと通る声で続けた。
「朝食も…簡単なものかもしれませんが、用意されてましたよね」
「…まあ…おれが食べる前に、大抵、出かけちまったがね」
「ゴミも『これを捨てて下さい』ってメモがありましたよね」
「…でも…土日だってろくにいなかったぜ」
「確かにそうです…でも…丁度、あの頃は窮地に立たされていたのです」
巴は申し訳なさそうな表情を浮かべた。
「オムニジャパンは『OJ-MD2』…今の、このわたしのベース機を絶対の自信を持って
発売したのですが…直後に新参入の大和重工から、完全な人型サイズになった
『YJ−SY1』こと『小百合』が発表されたのです」
「…あ…そうだったか…」
おれは、あの頃のことを思い出していた。
親父がいつになく苛立っていて、普段の『のんきな父さん』ぶりからは想像できない
怖さで近づけなかった上、お袋もいつになく暗い顔をしていた。
「…本当は…OJ-MD3を同時発売する計画だったのですが…ともかく早く発売しろという
上からの命令で…仕方なくOJ-MD2が量産され、OJ-MD3の開発は一時中止に…」
OJ-MD3とは第三世代の完全人型サイズドロイドで、当時は、YJ−SY1の宿命の
ライバルとも呼ばれるほど、両者のユーザーは多かったらしいが、当初は大苦戦を
強いられていたらしい。
「ご両親は猛反対されました…YJ−SY1の噂は聞いていましたが、仮に試作品が発表
されたとしても、こちらが先に製品版のOJ-MD2と、OJ-MD3を同時発売すれば、一気に
ひっくり返せるから…と。でも…ともかくエポックメイキングさえ先に出せば勝てると、上は
考えていたのでしょうね…。そうすれば試作品ごときに負けはしないと」
「その結果は…惨憺たるものだったと」
「出て半月で…新製品待ちで八割がキャンセルですよ」
巴が両手の拳を固めて、ぷるぷると震わせる。
「OJ-MD2の修正や生産ラインの整備が優先で…OJ-MD3の発売は結局五ヶ月遅れました。
もし順調に行けば、生産ラインを共用して二ヶ月後には発売できたのに…。OJ-MD3の
発売はYJ−SY1発売の二ヵ月後…既に新規ユーザーの七割がそちらに向いていました。
…そしてその責を、わたしたち開発スタッフが負わされたのです」
「なんだって!?」
「昼夜兼行で五ヶ月も…不満ひとつ言わずに頑張ったのにですよ…!」
いつになく巴の声が上ずっている。
「その間は…『朋さん』も…やむなく休学していました…それなのに…」
あの時…ともねえが泣いていたのは…その為だったのか。
不本意な命令を受けても頑張った挙句の、あんまりな仕打ちでは…辛いだろうし…
悔しくも悲しくもあるだろう。
「それで…親父たちや、ともねえは…」
「はい…アメリカに『研修』の名目で左遷されてしまったのです…」
「責任転嫁…トカゲの尻尾切りか…」
いちいち思い当たることがある。
いきなり『アメリカに行く』と言われ、おれは泣いて抗議した。
ろくにうちに帰ってこない両親に、今までの慣れ親しんできた環境を壊されるようで…。
親らしいこともしないで…ふざけるな!と。
だが…結局、親父達は笑って許してくれた。
あの時の二人の一瞬見せた寂しそうな表情は…。
今でも忘れられない。
「あの頃の事は、今もってご両親にとっても…悲しく辛い思いとなって残っておられます」
「ああ」
おれは大きく頷いた。
「わかったよ…っていうか…巴のおかげで、親父たちをちょっと見直した…」
「ぼっちゃま?」
「確かにさ…研究だ、仕事だに打ち込んで家庭を顧みなかった…って部分はあるけどさ…
今にして思えば、それでも精一杯の事はしてくれてた訳だし…」
そうだ…むしろ、今にして思えば、おれ自身には不自由な生活は強いられなかった。
ただケジメはつけろ、正しい責任感を持ちなさい…とは、散々注意されたもので、それが
今のおれを構成しているかと思うと、改めて感謝するまでだ。
「おれも仕事に就いてから、責任ある仕事を任されたら、どれほど厳しくてもやらなくては
ならない時がある…って、判るトシになったしさ…」
「いつかきっと…きちんと話してあげてくださいましね…」
巴の様子が、まるで乳母のようで思わず笑みを漏れた。
「その時は…一緒に行って、思い出話しでもしような」
「はいです!」
巴はいつものように、小首を傾げ…それから右手で敬礼に似た会釈をして、にこっと笑った。
…新しいスキルを身につけたかな?
朝食の間…テレビをつけてみて、おれと巴は、外で起きている様子を改めて知った。
家庭用のドロイドたちが軒並みダウンし、各種店員やメイド、サーヴァント、運輸などに勤めている
ドロイドたちが眠るように倒れていたり、僅かに痙攣を起こして苦しんでいる様子が映しだされ、
思わず何度か目をそむける。
いくらドロイドと言っても…やはり人に近い姿は生々しい。
巴も唇を噛んで暫く我慢して観ていたが、悲しそうな顔でやはり何度か目を背けていた。
「シンクロイド・システムが絡んでいるのだろうか…?」
湯のみを手にして、ふと言葉に出して呟くと、右横に立った巴は、すっとしゃがみ、テーブルに両腕を
ついて頬杖をつきながら、おれの方を向いた。
「…ぼっちゃまは、どう思われます?」
「例のショップの件や、バンたちの動きからすると…間違いない気がするが…」
そう言いながら、おれは巴が複雑な表情をしている事に気付いた。
何と言うか…ちょっと不安で、甘えたいような…。
そういえば、こんな仕草は滅多にしないな。
おれはちらとテレビを見、改めて自分の鈍さと迂闊さに呆れた。
「そうか…おまえ…自分がシンクロイド・システムの影響で、過去の記憶を取り戻したかもって…」
「わたし自身には自覚がありませんでした…で、でも〜…二日とも時間的にもぴったりですし…
多少は影響が出ている気がしてならないのです〜…」
いつもの元気な様子が無い。
少し自信なさげな、困ったような笑顔。
「でも…どこにも異常は無いんだろ?」
「はい…でも…」
「シローだって磁場は感じたって言ってたじゃないか…そりゃあ、記憶は戻ったかも知れないが、
おれにとっては…それはとても嬉しかった事だし」
ポニーテールの髪に手をあて、そっと撫でる。
「どうせ、シンクロイド・システムのことは、おれたちにはどうしようもないし、巴に悪い影響が出ない事が
おれには今、一番大事なことだ。…世間の事は…今は、事態を見守るしかないじゃないか?」
「は…はい…そうですよね!」
目を細め、頬を赤らめて頷く巴の頭を、おれは想いをこめて優しく撫でた。
あくまで結果的に…ではあるが、シンクロイド・システムは、おれと巴には、今のところは、良い様に
働いてくれたように思えてならないが…。
これはあくまで偶然の産物だろう。
…いや、それとも…まさかとは思うが、何かの始まりなのか?
しかし、おれは一介のサラリーマンに過ぎないのだ。
そんなことあるわけない。
それにしても、果たして、この先、世間のドロイドたちはどうなるのだろうか…?
バンたちは、上手くやってくれるのだろうか…。
おれと巴は、テレビの映像を、なおも暫し見つめていた…。
いきなりリアルに戻って済みませんが…。
>>331さま
ライバル会社の名として『大和重工』の名前、使わせて頂きました。
いきなり第三世代から入ってきた新進のメーカーで、オムニジャパン他
数社と競っていて、かつてのホンダかソニーのようなメーカーという
設定にさせて頂きました。
どうなっているんだ、ここの世界観はw
とまれ、GJ!
>>375
>>376 ここに世界観なんて元から有って無いようなもの。
今更言ってもしょうがない。
自分としては「楽しいから良い」なんだが・・・何か問題があるのか?
午前七時…。
火曜の朝も晴れ渡った空で、思わず、う〜んと伸びをする。
屋外に出されたおれの銀のクーペが陽に照らされ、きらきらと輝いている。
大きな荷物は昨日から積みっぱなしだし、後は乗り込むだけだ。
「ぼっちゃま」
振り返ると、今日は白のワンピースに身を包んだ巴が、細い瓶を二本差し出した。
「いつものスタミナドリンクです…今日は睡眠も不足がちですし〜…あのぅ…よろしければ」
「お、サンキュー…この時期には欠かせないぜ」
毎月恒例の『マ○ビ○ビン』という、なかなかトンデモ名だが、これで効き目が抜群の
ドリンクが出て思わず笑ってしまう。
受け取るやすぐに一本を脇に抱え、もう一本の栓を開け、一気に飲み干した。
「しかし…これ、いつもどこで買ってるんだ?」
「え…と、駅前の薬局さんです〜…」
この商標名…巴が口にしてるのかなぁ…と、思い、ちょっと吹き出すが、おれの為だし、
何か健気に思えて、逆に嬉しくも申し訳なく思った。
「今度からネット通販で買ったら?」
すると巴はそっと首を振った。
「でも〜、これ、そこそこ良い値ですし…お得意さまが減ったら、お店さんが可哀想じゃ
ありませんかぁ?」
思わず言葉に詰まる。
そういえば課のメンバーからの頼まれ分も含めると、毎月2ケースは買ってたっけ。
一本…○千円だから…まぁ…確かに。
「今、小売店さんって、量販店さんに押されて…結構大変なのですよ〜」
それは確かだろうが…巴も、これでうら若い乙女…恥ずかしい思いをさせるのは…。
「でも…名前が…」
思わず言ってしまうと、巴は左手に腰をあて、右手の人差し指を立ててちっちっちと舌打ちした。
…って、どこでそんな仕草を覚えたんだ?
「そういうのは〜…照れずに言うのがコツなのです〜…わたしが飲む訳ではありませんし、
…ぼっちゃまもまだまだ甘いです〜」
「そ…そうか」
「でも…お気遣いはとっても嬉しいです〜!」
にこっと笑う巴。
…まったりぽやぽやなんだけど…結構見る所は見てるし、それなりにしっかりしてるんだよな。
ま、本人がそれで良いって言ってるなら、それで良いか。
「二課の皆さんからのご依頼の分は積みました」
「じゃ…行こうか」
おれは助手席のドアを明け、素早く乗り込んだ。
「はいです」
ドアを開け、恐る恐る身を縮めて運転席に乗り込む巴。
例によってシートはぎりぎりまで後ろに下げ、リクライニングも少し倒している。
ドアを閉じ、三点式のシートベルトをつけると、おれの方を見、それから頷いた。
「ベルトも付けられましたね…行きますです」
軽やかにシフトチェンジさせて、巴はクルマを走らせた。
出し抜けに『ワンダバ』のメロディーが掛かり、おれははっとした。
ある特撮番組で防衛チームが出動する時の、勇壮さと決意を込めたような、それでいて
リズムの良いテーマ曲をアレンジした着メロだ。
巴は運転中だから、当然おれが出なくてはならない。
充電器から外して、すぐにスイッチを入れて耳に当てる。
「もしもし…」
『おう…おはよう…そっちは…無事か?』
久しぶりに聞く声に、おれはほっと息をついた。
親父だ。つい敬遠がちになっていたが、今日は聞けてほっとする。
「ああ…おれも巴も無事にやってるよ」
『そうか…それは良かった。この時期だと、月次処理だな。出勤の途中か?』
「ああ…寝不足なんで、巴に運転してもらってるよ」
『ともちゃんが運転か』
親父のほっとする声が聞こえ、おれは思い切って切り出してみることにした。
「…なあ、親父……巴は…ともねえの分身だったんだな」
『…え…?』
親父の声が上ずった。
「今朝…全部聞いたよ…」
『…それは…彼女からか?』
「ああ、直接ね…まあ…色々あってさ…」
『………』
「あ、いや、誤解しないで欲しいんだが…おれ、感謝してるんだよ。親父とお袋に…」
『………』
「親父達が巴を選んで、おれの下へ寄越してくれた時、おれは何でこの娘なんだ…と
思った。けどさ…一年以上暮らしていくうちに…本気で惚れた」
『…おまえ…本気でって?』
「勿論、本気で惚れたんだよ…でもな…ともねえの事、ずっと引っ掛かってたんだ…」
『わたし達が…おまえに話さなかったのは…』
「おれが、巴を巴として大事にして欲しかったからじゃないのかい?」
『…そうだ…できれば…朋くんの心を受け継いだ彼女を、お前の傍に置いてあげたかった。
だが…できる事なら、巴くんとして…おまえにもまっさらな気持ちで接して欲しかったのだ』
「今ならその意味…良くわかるよ」
おれはちらと巴の横顔を見た。
巴の聴覚からすればすべて筒抜けだ。
運転に注視しているが、音声は総て聞こえているのは間違いない。
「ともねえの心は受け継がれても、記憶は受け継がれない…そういうものだったんだろ?」
『…確かにそうだが…何故、おまえはそこまで知ってるんだ?』
ふいに訝るような口調になり、おれは少し探りを入れるつもりでこう言った。
「…そうだな…オムニ・アメリカのジェニファー女史の一件…知っているかい?」
おれの逆の問いかけに、電話口の親父はかなり驚いた様子だった。
『おい…あれは…一部の者しか知らない極秘の…おまえ、何故、それを…』
「親父も関係者だったのなら…秘密は守ってくれそうだな」
『あたりまえだ!あれは…彼女の最期の大切な行為だった…口外など出来ない…』
「それなら…シンクロイド・システムはどうして、こういう歪んだものになったんだ?」
「ぼっちゃま?」
驚いた様子で、素早くクルマを脇に寄せて止めながら、巴がおれの方を向く。
今、世間を騒がさせているドロイド一斉機能不全事件が、シンクロイド・システムが原因だと
いうのは、半分はアテ推量、半分は状況証拠からに他ならない。
だが、この際、はっきり知っておきたかった。
だから敢えて、はったりも交えて問い質してみる事にした。
「本来は人が生まれ変わる為のものだったんじゃないのか?」
『……電話口で話すような内容ではないが…』
親父がふっと溜めていた息をつく音が聞こえた。
『まあ良い…どうせおまえの携帯にも、重秘匿信号変換装置が付いているしな…』
「…いつ、そんなもの?」
『おまえも、まだまだ甘いな…』
ふっと親父の笑い顔が脳裏に浮かんで、おれは思わず失笑を浮かべた。
「どうせ巴を騙して、こっそり取り替えたんだろ」
『まあ…それで極秘事項のやり取りができるんだ…許せよ』
「この場合は良いけどさ…今度やったら、本当に訴えるぞ…」
『それを実証できるならな…』
「なあ…親父…ともかく、脱線してないで話を続けてくれよ」
おれは流石にイライラしてきた。
そうなのだ…親父とは、こういう得体の知れないやりとりが、いつも苦手なのだ。
だが、次の言葉は予想に反していつになく厳しい口調だった。
『シンクロイド・システムのことは誰から聞いた?それを教えてもらわない事には、
おまえと言えども、これ以上、一切話せんぞ』
これには、おれはちょっとカチンときた。
「…ちょっと待てよ!…身内の恥はバラしたくないってわけかい」
『なに!?』
「この一件、オムニ・ジャパンが資本提携している、かの有名ドロイドショップチェーンが
絡んでいるじゃないか…違法改造なんでもござれの…さ」
『…な……何故それを…』
「そこでのトラブルに、おれと巴は危うく巻き添えに遇う所だったんだよ…銃を突きつけ
られてさ…しかも戦闘用ドロイドまでいてさ…。この意味…判るかい?親父」
『…そんな…馬鹿な』
「おれも口止めされていてね…これ以上は口外すると、命が危ういんだよ」
勿論半分は嘘である…が、バンたちの事は、彼らの許可を貰わなくては絶対話せない。
「ま、最悪にして親父たちがオムニ・ジャパンで、その昔にされた仕打ちを考えると、
そういう連中に手を貸していたとしても不思議じゃない…」
『待て!…我々がそんな事をすると本気で思っているのか? 』
「真実を話さず、実の息子が被害に遇ったってのに…その態度…信じられると思うのかい?」
『…………』
「それに…今、親父たちは何をしているんだ?街は大変な事になっているんだぞ!」
…暫くの沈黙があった。
時計を見ると…もうかなり経っている。
親父の息づかいらしきものは聞こえるが…返事は無い。
こちらが折れるのを待っているのか?
冗談じゃない…もし彼らが本当にテロリストやエージェントだったら、おれたちの命は
無いんだぞ…ましておれは、巻き込まれた一人として訳を知りたいだけなんだ。
今回の事は何故起きたのか…と。
「…わかったよ…おれは事件の当事者として真実を知りたかっただけだが…仕方ないな」
おれはついに宣告した。
「巴の件では本当に感謝するけど…おれはもう一切、貴方とは話さないよ…これっきりだ」
「ぼっちゃま…!?」
巴が悲痛な声を上げる。
「じゃあな…」
『あ、待て…』
受話器から小さくそんな声がしたが、おれは構わずスイッチを切った。
「ぼっちゃま…そんな…」
巴が狭い車内にも構わず、何度も首を振った。
「いけませんです…あれでは絶縁宣言です〜」
「確かにそうだ…でもな…あれは賭けなんだ」
おれも頭に血が上っていたとは思う。
でも、あくまで企業秘密をタテにガンとして何も言わない親父の姿勢には本気で腹が立った。
確かに、秘密を守る事の重要性はわかる。
だが、ここまで事実を知っている者を信じないのは…。
まして、家族なのだ。もっと信じてくれたってよかろう。
親父が企業秘密だと言うのなら、ある程度でも良いから情報公開すればよいのだ。
おれは、少なくとも…知っている情報の幾つは提示したのだ。
それなのに突然打ち切る辺りがあまりに腹立たしかったのだ。
しかもだんまりは決め込むわ…。
だからその為に、イチがバチかの大博打を打ったのだ。
暫くすると『ワンダバ』が鳴り、おれは暫く放っておいたが、巴の視線に仕方なく
携帯を手にしてスイッチを入れ、耳にあてた。
「…もしもし」
『…出てくれないかと思ったわ』
お袋の溜息混じりの声が聞こえた。
「かあさんか…なんだい?」
『なんだじゃないわよ…お父さん…すっかり凹んでるわよ』
「…信じられないな…息子たちが酷い目に遇ったってのに、その原因のひとつも何にも
話してくれないんじゃ、こっちから縁を切らせてもらうよ」
『…ひとつも話さない…ですって?』
お袋の声が一オクターブ上がった。
そして受話器の無効から、なにやらごそごそやっている音が聞こえてきた。
…うん…うん…それで?
ということで…おれは…
ばか!
お袋の一喝する声が聞こえ、おれはにやりとした。
そんな事だから、信用失くすのよ…もう良いわ!
再び受話器を取る音がして、おれは人差し指と親指で丸を作って巴に見せた。
『はぁ…ごめんね…全く、お父さんったら、ヘンに堅い上に、ジらしてたみたいよ』
こういう時は、お袋の方がよっぽどさばけている。
『でも…くれぐれも口外しないでね』
「できれば、極力そう努めるけどね…最終的な判断は…おれがする」
『……まあ、命の危険に晒された位なら…その判断はできそうね』
様は最悪の場合、黙認ということだ。
『良いでしょう…では、ともちゃんも聴力の感度を上げて一緒にお聞きなさい』
「は…はい、お母さま」
思わずそう答えた巴の声が聞こえたらしく、お袋の躊躇する声が聞こえた。
『…おかあさま?』
「あ〜、そういう突っ込みはもう良いから…おれ、仕事に向かう途中だし」
慌てて言ったおれに対し、お袋がくすっと笑う声が聞こえた。
『ま、仲良くおやんなさい…そうそう、ちょっと確かめさせてもらうわね』
おれたちはちらと顔を見合わせ、思わずふっと苦笑しながらも次の言葉を待った。
『あのね…あなたたちがドロイドショップで遇ったっていうトラブルの事だけどね、実は
ここ最近幾つかあって、どれだか特定できないんだけど』
カチャカチャという音は、多分、キーボードかマウスを操作しているものだろう。
おれは小さく頷いた。
「それは…たぶん、ある人が、おれたちの入場記録を抹消してくれたんだろう…一昨日…
新聞沙汰にはなっていないが、警察に通報された事件で、戦闘用ドロイドの残骸が
見つかったものがあったはずだ」
『ん…これね……○○駅前店にて…』
暫し読み上げる声がした。
『確かに…あんたのうちからは一番近いわ』
「これで信じてくれるかい?」
『もちろんよ。そっか…その何者かは、データを消して貴方達の身を守ってくれたのね…』
流石はお袋…目の付け所が違う。
だが…少し気になるぞ。
「ちょっと待った…瞬時にそこまで判ったってことは…」
『もちろん…どのショップが怪しい動きをしているかは、だいたい掴んでいるのよ』
「…驚いたな…良くそんなシステムを持っているな」
『このところ、ドロイドの違法改造とか、武器を内蔵化して密売とか問題になっているからね。
それで念のために、チェーンショップの開店時には、必ずセキュリティ・システムを導入の上、
こちらで確認できるようオンラインを整備するよう、条項が加えてあるのよ。それでももちろん、
表向きは、普通のセキュリティが目的だけどね』
「…そのシステムには、警察も加わっているみたいだな」
『良いカンしてるわね。警察としても、非合法改造ドロイドや、武装化の取り締まりに苦労して
いる訳。だから、専門の部署があってこっそり対処してくれているのよ。
…正直言ってしまえば、貴方が言うように、これはウチの資本下のショップ…身内の恥。
むしろ、わたし個人としては、世間一般の社会問題として、膿を出す為にも、むしろオープンに
した方が良いのではないかと思ってはいるのよ』
お袋のこういうところは、政治的な駆け引きをしがちな親父より、ずっとすっきりしている。
『ただ、今は敢えて、表立ってそういうショップの事を明かさない事で「敵」に焦りを与え、
プレッシャーをかけて、様子を見ているのよ。じわじわと追い詰めて行こうってね…』
「…かあさんは…関係会社のセキュリティまで担当していたのかい?」
まるで警備主任のような、歯切れの良いお袋の解説には、さすがにちょっと驚いた。
『違うわよ…正確には情報処理、伝達、保存技術研究部部長…まあAIが主務なんだけど、
こういう事態が発生したときは、情報が絡んでくるでしょ?で、内密に監査もやっているわけ』
「…秘密と言った訳が判ったよ…様はそれが知られるとマズイんだな」
お袋の悪戯っぽい声が返ってきた。
『ま、そういうこと…わたしたちは本来、正規の監査役ではないからね、さしずめ隠密監査』
おれはちらと巴を見、それから思い切って重大事項のひとつを尋ねてみた、
「それで、その違法ショップの正体は判っているのかい?」
淀みない回答が返ってきた。
『テログループ・新人民解放連合の下部組織…様は武器売買と組織の資金調達をする連中』
「それは…警察に伝えてあるのかい?」
『もちろん…内密に処理しようなんて思ってないし、出来ないわよ』
「じゃ、シンクロイド・システムのことは?」
『これについては…最新技術だからね…』
流石のお袋も、少しためらった様だが、思い切った口調でこう言った。
『最悪な状況の場合…手を貸してくれるなら…話しても良いけど』
何をもってして、最悪な状況なのかは判らない…。
だが、お袋の言葉に駆け引きは感じられず、むしろ助けを求めているニュアンスが感じられた。
とはいえ、おれの立場もあるし…。
「一介のサラリーマンであるおれに、手助けができるようなものかい?」
まずは様子を伺ってみるか。
『…サラリーマンか…そうねえ…貴方の立場は確かにあるから、呼び出すのは難しいかな…
でもね、貴方の傍には、今、ともちゃんがいるでしょ?これって結構、大事な切り札になり得るのよ』
巴の名が出たことにおれは驚き、巴もぱちぱちとまばたきしてこちらを見守っている。
「…シンクロイド・システムの実験を受けたからかい?」
『そういうこと。そうね…じゃ、まずひとつだけ教えてあげるわ』
「あまり焦らされている時間も無いんだがな…」
『判ったわ。じゃ手短に…あれはね…テロリストに奪われて起動されたシステムが、今、周囲に存在する
ドロイド総てを、完全に思考的に自分と同化しようと躍起になっているのよ』
「思考的に同化…ってどういう意味だよ」
『つまり、自分と同じ意識に書き換えようとしてるの…すべてを自分の一部に…ってね』
「それって…なんだっけ…ほら…外国のSFであった…<抵抗は無意味だ>っていう」
『あたり!意識共同体ね…つまり総てをひとつの意思としてコントロールしようとしてる訳』
「……シンクロイド・システムって、人がドロイドの身体に意識を移して生まれ変わる…それが本来の
目的じゃなかったのか?そんな弊害があったのか?」
『もちろん、そんな事は想定していなかったし、本来あり得なかったはずよ』
「じゃ…どうして」
『…良く考えてごらんなさい。元々、シンクロイド・システムには被験者が必要なはずでしょ?今回の
騒ぎはテロリストからの声明も無いし、被害に遇っているのはドロイドたちばかり』
「…ということは…まさか」
『ドロイドが、シンクロイド・システムを使って暴走させている可能性が高いのよ』
「…そんな事、あるのかい?」
『証明はされていないわ。でも、その可能性が一番高いと思うのよ』
「…ドロイドたちには、どうして影響が出たり出なかったりしているんだ?」
お袋の苦笑いする声が聞こえ、おれははっとした。
気が付くと、かなり突っ込んだ内容を聞いてしまっていたのだ。
『結果的に…あんたの誘導尋問に引っ掛かったみたいね』
「あ…いや、そういうつもりじゃ無かったんだが」
『いいわ…貴方の熱意に負けて、はじめから総て話しましょう』
かなり時間が経っていたが、この際、仕方ない。
「たのむよ、かあさん」
『…シンクロイド・システムは、多分、貴方も知っていると思うけど、本来は被験者とそれに
コントロールされる、本人に、より近いドロイドと特別なユニットによって成されるものなの』
「でも、わたしは…違いますけど」
巴の声が聞こえたらしく、お袋は嬉しそうに鼻声で言った。
『ふふ…ともちゃんね…?…そうね。一次実験の時は、まだ素体が完成していなかったのと、
実験データがあまりに少なかったから…でも結果は悪くなかったの…記憶面を除けばね』
「マルチリンクがかかっている間のみ、記憶も共有できていたようです」
『正解…でも、巴ちゃんの中の、朋ちゃんの記憶はリンクが絶たれると消えてしまう…それでは
いくらなんでも可哀想だから…というので一次実験は中止になったの』
「それで通常のAIのシステムで記憶部分を構成し直して、今の巴になったんだな」
『そう。で、シンクロイド・システムの第二次試験では、より突っ込んだ研究が成されたの。
たぶん…巴ちゃんが覚えているのはそっちじゃないかな?』
そういえば、巴は確かに『臨床実験は一度だった』と言っていた。
…ともねえとリンクしていた時の記憶が欠落しているのなら、合点もいく。
『それは完成度の高いもので、朋ちゃんと、そっくりなドロイドの娘が完全にマルチリンクするばかりか、
アクセスが切り離されても記憶障害の無いものだったわ』
「じゃ…完成したのか」
『…完成したわ。でもね、オムニ・アメリカ本社に伝えた所、当時のプレジデントが、これは危険だから
これ以上の開発はやめるよう言ってきたの』
「テロリストの親玉の分身が何人もボコボコ出てくるのは困る…ってね」
『でも、勝手なものよね、その後のプレジデントが…自分の身代わりを考えて改めて開発を命じて…
それなのに、やっぱりまたボツにしたりして』
なるほど…バンたちが関わったのはその辺りだな…と、おれは気付いた。
『でも、朋ちゃんは、その考えに納得して、総てをオムニ・ジャパンに封印したの。…だけど』
「テロで重症を負い…そのまま」
『そう…シンクロイド・システムのオリジナルの存在を嗅ぎつけた連中の為に…ね』
巴がおれの瞳をじっと見つめる。
おれは大丈夫と言う様に頷き、そっと巴の頬に右手を添えた。
『巴ちゃんに一時休眠してもらったのは、その為だったの…その時は、まだリンクは切れて
いなかったから、もしかすると朋ちゃんとしての記憶が蘇る可能性がある。もしそれが
知られたら…』
「………」
『朋ちゃんは…その危険性を感じて、亡くなる直前、分身の一人である巴ちゃんにそれを頼んだの』
「だから…ずっと眠っていたんだな」
『時が経てば、シンクロイド・システムの事は忘れられ、巴ちゃんも単なる実験に携わった一人に
過ぎなくなる…そんな時、貴方が家を出ると言った…』
「それで…巴を再起動して目覚めさせたんだな」
『………』
「かあさん…」
おれは…いつに無く精一杯の感謝の気持ちを込めて…電話口ではあったが頭を下げて言った。
「ありがとう!…おれに巴を託してくれて…ともねえの心を蘇らせてくれて…」
暫くの沈黙があった。
だがそのうち、微かにしゃくり上げる音が聞こえ、鼻をすすりながらのお袋の声が返ってきた。
『…本当は…貴方が事実を知ったら… どうだろうと…とても心配だったのよ…』
「かあさん」
『父さんも言っていたけど…朋ちゃんの心は貴方に託したい。でもね、巴ちゃんは巴ちゃんとして
真っ直ぐに見てあげてほしかったの』
「今なら…多分…誰よりもそれを…おれが一番良く判る…そう思うよ」
『憎いこと言うじゃないの、我が息子殿』
お袋の泣きながらの冷やかし声が、胸にじ〜んと響いていた。
巴は目を閉じ、頬に添えられたおれの手を、そっと握り締めてくれた。
『…ごめん…先を続けるわ』
お袋が気を取り直して、少しだけ早口で続けた。
『それから暫くして、ある研究者から、本来のシンクロイド・システムは人間用だけど、これをドロイドが
使ったらどうなるのか…という提案があったの。もし可能なら、一体をコントロール用のメインサーバー
として一斉に命令を伝えて、様々な人海戦術を要する業務に応用出来ないか…ってね』
「…それは当初の目的と違うじゃないか」
『明らかに違うわ…でも、過去の研究結果を無駄にするべきでは無いという意見が出たのよ…』
「本来の目的以外なんて…人海戦術なんて…兵器転用だって…あり得るじゃないか」
『それに…ここが重要なんだけど…本来は、被験者の意識を新しいドロイドが得て、それから共有する
ものの筈でしょう?…それを…もし、それをまっさらでない、既に心を持ったドロイドたちに使ったら…?』
おれは愕然とし、目を開けた巴も顔色を変えた。
「…そうか…今のこの現象は…」
『わかった?…例えて言えば、ひとつのデバイスを使うのに、ドライバがふたつ以上あって干渉しあい、
動作不能に陥っているような状態なのよ…まあ、実際は『心』の部分だから、単純な話ではないの
たけどね』
そう言ってお袋は一旦言葉を切り、そして口惜しげに言った。
『で、ともかく実験してね、これは使えないって言っていた直後に、奪われてしまったのよ!』
「そいつはひどい…。……でも、一体、どうやってリンクを…」
言いかけて、おれは再びある事に思い当たった。
「…マルチリンク…システムですね。ぼっちゃま」
流石にこういう時の巴は頭が切れる。
「そうだ。常時、各種のデータをやりとりして、情報や経験値を集めるシステムだ…」
『その通りよ。あれに…シンクロイド波を情報データに変換して乗せたから…軒並み皆やられたのよ』
「…ともねえたちが心血注いで作ったシステムなのに…くそっ…」
『幸い、心ある、市井で人間達と暮らしているドロイドたちは、自我と意識を守るために、システムを
シャットダウンして、今は強制スリープモードに移行して、『待機』しているけど…社会生活は知っての
通りボロボロ。その上、まっさらな状態の、まだ心の無かったドロイド達が工場やショールームとかで
破壊活動を行っているという情報も入っているわ…』
「そうか…だからマルチリンク・システムを使っていないドロイドは無事だったんだな」
だが、そう言い掛けて、おれはふと疑問に思った。
「ネネやチャチャたちはそれで説明できるけど…どうして巴は無事だったんだ?ここ数日の様子から
すると、記憶が少し戻ったりで、多少は影響が出ているみたいだぜ…まあ、実害は無いけどさ」
巴も心配そうにこくこくと頷く。
『…その理由は…ちょっと言いずらいんだけど…』
お袋が少し苦しげな、言い難そうな口調で言った。
『たぶん…相手のドロイドは…巴ちゃんを自分と対等か、それ以上の存在と認識しているからだと思うのよ』
「対等か…それ以上って…どういう意味だよ」
『奪われたシステムは完成機…そして巴ちゃんのかつてのデータが残っていたとしたら…?』
「…そうか…」
おれはやっと理解できた。
「…改めてデータを送るのでなく、巴の事を、既に自分の一部と認識している可能性があるんだな」
『そう。ただ、問題の…今シンクロイド・システムを操っているドロイドがね…』
「ドロイドが…?」
お袋は一旦言葉を切り、それから一気に言った。
『…かつての朋ちゃんそのものの姿だったとしたら…貴方、どうする?』
「な…なんだってっ!?」
おれは、携帯を離し、改めて巴を見つめた。
黒く澄んだ瞳がじっとおれを見つめ返す。
確かに…考えてみれば、シンクロイド・システムは被験者の他、本人そっくりなドロイドが最低一人は
存在する筈…しかし…しかし、こんな形で利用…しかも悪用されているなんて…。
だけど…それって…本当なら、ともねえの完全な分身では無いのか?
もしそうなら…何とかして解放してあげたい。
そして、それから…できることなら…。
…そこまで、一瞬考えかけたが…おれは、目の前の巴が、精一杯元気そうに笑顔を浮かべようと
している事に気付いて、改めて巴の髪に手を触れ、大きく頷いて見せた。
やっぱり黒く澄み切った瞳が潤んでいる。泣き虫だな…でも…おれの為にだもんなぁ。
あ〜!畜生…やっぱり可愛いじゃないか!
誰よりもおれを気遣い、おれを愛し、信じ…そして…そして、そして…。
それに、この娘にだって「ともねえ」の心が生きている。
そうだ…もう迷うまい。
おれにとって、今、一番大事なのは巴なのだ。
一年以上、共に一緒に生きてきた、この娘なんだ。
問題のドロイドの解放はしてあげたい。
でも、それまで、昔のともねえの姿に騙されてはいけないのだ…。
この混乱を招いている現況である以上、あくまで、ともねえの姿を借りた亡霊だと思わなくては…。
決して惑わされてはならないぞ。
そんな言葉を自分自身に言い聞かせる。
「ぼっちゃま…」
巴が再びおれの手をぎゅっと握り締める。
「おれは、巴と居る…だから心配するな」
「は…はいです!」
巴が涙混じりの瞳で頷く。
おれも、しっかりともう一度頷いて返し、携帯を改めて耳にあて、それからひとつ、大きく深呼吸
してから、きっぱりと言った。
「わかった。その、最悪の状況を何とかする時は…手伝わせてもらうよ」
一番乗りGJ!
続き期待してます。
GJ
つい最近ここを発見したんだけど、完成度高いよね
おもしろいっ!
炊飯器の次に巴ちゃんが欲しくなったwwww
いいじゃない
セットで買えば、いいじゃない
核戦争あっても生き残れるかもだが、巴とのセクロスは全て録画うわちょ、やめ………
BAM!BAM!BAM!
あまりに初歩の質問で申し訳ありませんが保管庫はないですか?
よろしくお願いします
395 名無しさん@ピンキー[sage]2007/11/08(木) 17:40:11 ID:TYPe2s5>kHaL
コハルちゃんがいれば、ご主人様の危険は100%回避可能ですよ?
炊飯器なんていりませんwww
>>396 最悪な事態が発生するなw
悪いが欠陥品はリコール処理だな。
wikiがトンだ…orz
修正してる暇もないんで、近日中にどこかの鯖へ
過去スレを丸々うpります。
炊飯器とか巴とかもういいからさ
だれかまともでまじめなSS落としてよ
>>399 気持ちはわからんでもないが、このスレのタイトルや意義を見れば
おかしくないと思うがな。
…それに、そういう書き方は、今の書き手さんたちに失礼だぞ。
もうちょっと気長に待て。
そもそもまともで真面目なSSなんてこの板に存在するのか
「エロパロ板」だぜ?
エロくて不真面目な落書き垂れ流す板だぜ?
マジな小説読みたきゃ、ハードカバーのお硬い小説でも読め
こんな板でSFファン豪語したらアジモフタンに祟られるんだぜ?
>>401 それも言い過ぎではないか?
エロだが、決して不真面目ではないぞ。
それにアシモフを引き合いに出す位なら、
エドマンド・クーパーの「アンドロイド」位は
読んだ事はあるのだろうね?
諸君、落ち着きたまえ
退屈を持て余した暇人が集う社交場だ
私のパートナーが怯えているじゃないか
そのおかげで今夜はハードなサーヴィスを要求される私の身にもなってくれたまえ
「マスター、交感神経系統がバグを抱えたらしくて震えが止まりません
一晩中、抱き締めて温めてください……」
伏し目がちに そんなこと言われてみろ
ブラフだと判っていても抱き締めたくなるわな
それは確かに言いすぎじゃない?
不真面目な落書きってのはさ。
>
それに、確かにアシモフとロボット七原則は偉大だけど、
それだけで語るのもどうかと思うぜ。
そうそう
>>402じゃねえけどさ、平井和正の「アンドロイドお雪」なんて
もろセクソイド・アンドロイドテーマの小説だぜ。
その辺、読んだことあんのかい?
wikiとかで調べた知識じゃ駄目だぜ。
『ありがとう…ごめんね…本当に…』
お袋の申し訳無さそうな声が返ってきたが、おれは首を振った。
「いや…ともねえの事が絡むなら、おれ自身がケジメをつけたいし…構わないよ」
『それでも巴ちゃんを第一に…してくれるのね?』
「もちろんだ」
そう言ってから、おれはいくつか、お袋の言ったことに疑問を感じて尋ねて見る事にした。
「…ただ、ちょっと気になったんだが…」
『ん、それはなに?』
「かあさんは、はじめ、今回の事件は『ドロイドが、シンクロイド・システムを使って暴走させている
可能性が高いがその証明はされていない』と言ったね?でも、今の口ぶりだと、明らかに今起きて
いる事象が奪われたシステムと…ともねえ…の分身のドロイドが原因だと判っている様な
ニュアンスだが?これは…今起きている事象から判断したもの…と見て良いのかい?」
『…やっぱり、なかなか鋭いわね』
お袋の感心した様な声が返ってきた。
『貴方…やっぱり今の仕事辞めて、ともちゃんと一緒にあたしの助手やらない?』
「…冗談は良いよ…で、どうなのさ」
『あながち冗談でも無いんだけどね』
ぶつぶつと小さく呟くお袋だったが、すぐに続けた。
『確かにその通り、実験データと付き合わせた、状況証拠から判断して…よ。倒れたドロイド達のうち、
まだ意識のあるコたちに協力してもらって、色々調べたら、マルチリンク・システムから何かのデータが
侵入していて、それを特定しようとしたところ、それがウイルスとかでは無く『意識』だと判ったわけ』
「そうか、その波形なんかのパターンが」
『そう。それが、シンクロイド・システムでの過去の実験データと酷似していたのよ…。
ただそれを特定するのに、えらく時間がかかってしまったけどね』
「なるほどね」
おれは頷き、改めて巴の顔を見つめた。
良く見ると確かに、どこか、ともねえと似た顔立ちだ。
もちろん198センチという身長に合わせたバランスに直されているが…。
きっと最初は、ともねえの完全な分身…いや、ともねえ自身でもあったのだろう。
おれがまだまだ子供だった頃…もしかしたら、おれが告白した時…巴も聞いていたのかもしれない。
…だが、それと共に、違う疑問がわき上がる。
「でも…ともねえが亡くなって、シンクロイドシステムが封印されてから、かなりな年数が経つのに、
どうして今になってこんな事になったんだろう?」
『これはあたしの推測だけどね』
お袋は一言一言ゆっくりした口様で続けた。
『たぶん、テロリストは、はじめは自分の親玉に使うつもりだったと思うのよ。でも、その為には、
被験者の分身であるドロイドが必要となるし、かなり細かい調整が必要になるわよね』
「でも、開発の中心だった…ともねえは…もういない」
『そう。でも、それからその後、ドロイドたちを一斉にコントロール出来るシステムに変更されて
再度、システムの存在がクローズアップされた』
「……兵器転用の可能性があれば、実用化して実戦に使えるし…量産できれば商品化できる」
『そういうことね。まあ、さっき『暫くして…』なんて言ったけど、実際は、ともちゃんに一旦封印されて
から、計画の見直し提案が出るまで数年経ってたし…そこから、試作品完成まで更に数年…
それから試験・検討期間とか色々見れば…結果的にボツでも、年数的にはかなり経つわよね』
…お袋の回答に、おれはやっと疑問が氷解された思いだった。
先ほどからのお袋の口ぶりでは、ともねえが亡くなると共に封印された計画のシステムが、比較的すぐ
違う形で計画が復活し、再開発されたように思えたのだ。
「なるほど…確かに、全く新しいものの開発には、かなりな時間、年数がかかるし…それから奪われた
先でテストされていた期間があったとしたら…」
『丁度、今ぐらいではない?』
「うん…確かにそうだな」
…おれは頷き、それから最後の疑問を口にした。
「だが…その間、ともねえの完全な分身のドロイドは…どうなっていたんだい?」
『……それがね…』
お袋は少し口ごもった。
『実はずっと眠っていたのよ』
「巴が再起動された時は?」
『…その時…既に奪われていたらしいの…たぶんシステムと一緒に』
「何だって!?」
『…それ…あたしたちも、巴ちゃんを再起動する時、初めて知ったのよ…。担当も変わっていたし…』
おれは目の前が一瞬暗くなる思いで溜息をついた。
『今話した一連だって、知ったのはその頃。それに本当はね…巴ちゃんと、トモミ…朋ちゃんの
分身の娘の名だけど…二人一緒にあなたに託したかったの』
「え?」
初めて聞く意外な話と名が出て、おれは目を丸くした。
二人一緒?
巴と…もうひとり…トモミ…だって…?
『トモミは、テロリストの悪用防止に、朋ちゃんに意識や記憶を、総て封印されてしまったの。
でも、記憶こそないけど、朋ちゃんの意識…心は巴ちゃんに総て受け継がれている…。
だから二人にリンクしてもらい、同じ心にして貴方に…本当はそう思ってたのよ』
「そ…そうだったんですか〜」
巴自身が困惑気味に口を開いた。
『でも、テロリストに奪われた時点で、もう駄目だろうと諦めていたの…たぶん…』
「ぶ…分解されたり…改造されたり…ですかぁ?」
大柄な割りに小さくぶるぶる震える巴。
『今だって、そうなっている可能性があるわ…』
「……それは…そうだ」
ばらばらにされて、シンクロイド・システムの頭脳として使われている可能性も否定できない。
…それは、自分の半身とも言える巴にとっては辛い可能性だろう。
最悪の事態も考えなくてはなるまい。
「でも…それでも…」
おれの決意は変わらない。
「おれは巴と一緒に、その『トモミ』を解放する為に力を貸すまでだ。それが例え、どんな形で
おれたちの前に現れようともな…」
「ぼっちゃま…ありがとうございます…」
巴はそっと囁くと、握ったおれの右手を胸に押しあてた。
たぷんと柔らかく、同時に張りのある大きな温かいふくらみ…。
巴の両手も、人工のものと思えない穏やかな温かさで、思わずほうと安堵の息をついた。
「…でも、できることなら…無事な形で再会できると良いんだがな」
巴はこくりと頷いた。
その後、お袋は、現在、断続的に発信されているシンクロイド波を逆探知していることと、
システムを奪ったテロリストの下部組織が、今は制御できなくなって放棄している可能性が
あるので、状況によってはおれたちに連絡する…と言って、電話を切った。
時計を見ると八時…。
通常の出勤よりは早いが、今は月次…30分は遅れている。
「…今朝は寝坊したか…って、ヒデにツッコまれそうだな」
思わず苦笑すると、巴は少し神妙な顔で頷き、再びハンドルを握り、シフトチェンジした。
クルマは再び静かに走り始める。
…それから暫く二人とも口を閉ざしていた。
もうひとりの…初めて聞く…或いは、思い出した名前に…少し動揺していたのかも知れない。
「なぁ…巴」
次の交差点を左に曲がると会社…という所まで来た時、おれは思い切って口を開いた。
「もし…トモミ…が、巴と一緒におれの下に来ていたら…どうだったんだろうな」
おれの問いに、巴は「え?」と小さく声を出し、それから軽く眉を寄せた。
「……う〜ん…そうですねえ…」
なかなか考えがまとまらないみたいだ。
だが、やがて、少し困ったように、そして僅かに寂しそうにこう言った。
「ぼっちゃまは、わたしでなく『トモミ』を選んでいたかもしれませんね〜」
「!」
図星だ…いや…しかし…そんな答えを求めていたつもりではない。
でも…おれは馬鹿だ!そんな事に思い至らないとは…なんて間抜けなんだろう。
さっきから、あれほど『ともねえ』に対して意識していたのに、姿まで近い存在の可能性が
指摘されたら…やっぱり気になるだろうし…。
まして見つかった…としたら、巴自身はどう思うのだろう。
おれは巴にとても申し訳なく思い、思わず言葉を飲み込んだ。
「でも〜…」
だが、本社前に着き、クルマを停めると、何を思ったか、巴はニッと笑った。
「今、ぼっちゃまのおそばに居るのは、この『わたし』ですから〜…」
悪戯っぽく『勝った』とばかりにガッツポーズをとる巴。
「巴…」
「あ…でも〜…もし〜改めてトモミが見つかったとしたら〜」
巴は口元に指先を当て、ちょっと考えるそぶりをした。
「わたしと意識が…心がひとつな訳ですから…ちょっと複雑な気持ちかもです〜」
「心はひとつ…か」
「でも〜身体はふたつ…こころはひとつ…としたら、ぼっちゃま、いかがです?」
おれの頭の中に、巴と、ともねえの姿をした少女が並んで踊っている姿が思い浮かんだ。
なんだかなぁ…と、思わずふっと苦笑する。
「あ〜!今〜鼻で笑いましたね〜」
ぷっと膨れながら、おれの鼻先に人差し指をつける巴。
「あ…いや、そういう訳では…」
「ぷんぷんです〜」
「ごめんごめん」」
「も〜…ひどいです〜…こころがひとつなら…」
一瞬眉を吊り上げてから、巴はおれにそ〜っと顔を寄せた。
「やっぱり幸せ独り占めなのです〜!」
「え?」
「しかも…しかもですよ〜…一緒にぼっちゃまにご奉仕させて頂く事だって可能じゃないですか」
「え゛…ご…ごほうし…だって…」
…当然、違う想像が浮かんできて、思わず固まった…。
何せ…少し艶っぽい笑みを浮かべた巴と、ティーンのともねえが…裸で迫ってくる図が…。
そ…それってこの世の天国じゃないのか?…って…おいおい!?
ば…ばか…おれはイッタイ何考えてるんだ。
…ま…まずい…朝からとんでもない妄想が…。
そんなおれに気付いたか…巴は、にま〜っと嬉しそうな笑顔で口元に手をあて、うふっと笑った。
「アダルトなぁ魅力の〜このわたしと、ティーンなわたしが一緒にご主人様に…なんて〜
…もうもう想像しただけで、回路が熱く火照ってきちゃいますよ〜」
「んな回路付いてないだろが…大体、誰がアダルトな魅力だって?」
それだけは違う。
思わずツッコんだおれに、ガクっとなる巴。
だがその表情は明るい。
気が付くと、巴のそんな前向きな考え方に、おれ自身の沈んでいた気持ちが、少しずつ癒されて
いることに気付いて、あらためてふっと笑みが漏れた。
そうだ、悪い事ばかりとは限らないよな。
良い方への可能性があるなら…そちらを信じてみる方が良い。
「まあ…でも、そんな事になったら…楽しいだろうな」
いつものように、巴はにっこり明るく笑って頷いた。
やっぱり巴は最高のパートナーだ。
正面の駐車場のゲートが、シュワちゃんによって開けられ、その横で春日課長と秀一たちが
「遅刻よ」「罰金だぁ」と言いながら、こちらに向けて大きく手を振っているのが見えた。
巴が窓から手を出して、嬉しそうに彼らに手を挙げて返す。
さあ…今日も一日、長い仕事のはじまりだ…。
リアルタイム遭遇!GJ!!
もう終わったほうがいいと思うが
>>415 自分は書かないくせに文句ばかり言う乞食は黙ってろ
全く…人間としてもロボットとしても最低の人格だな
427レス目だけは、あの人のために開けて待っておきましょう。
>>415はきっと自分の作品を出したいんだけど、今話が継続中だから出せなくてジレてるんだよ。
だよな? 期待してる。
>>395 見たけど、3スレ目の途中で更新が止まってた。他の現行スレには更新されてたのも
あったけど、ここが放置状態なのは何故…? 平成電動娘の続きが読みたいorz
二日目の仕事は、おれたちが遅刻した事で出だしで少し遅れたが、とても順調に進んだ。
もっとも、昨晩は最後のあと片付けも、戸締りも全部おれたちがやって帰ったので、実際は
誰も文句など言わなかったが…。
そして、昨晩打ち出したチェックリストから、前年同月や先月に比べて金額的に増減の大きい
ものを弾き出して、個々にその理由を確認して内容に異常が無いか最終確認するのだ。
「結局…今日も三課の皆はお休みだったか…」
午後三時…今日もここまで順調…どころか、明日に予定していたところまで処理が進んでいる。
今日は、寝不足気味だったのに、巴とシンクロイドの一件でちょっとすっきりしたのか、思ったより
作業は図どり、巴もいつになく妙な気合が入っていて、秀一たちは驚いていた。
ふと、作業の手を止め、おれの向かい合わせの席で書類を作成している巴の、後ろのフロアを
ちらと見やると、そこは電気が消された寂しい有様であった。
「まあ、あっちは繁忙期で無いから良かったけど…彼らの家のドロイド達…大変だよな」
「…そうですねえ」
巴も顔をあげ、ちらと主たちのいない机の並ぶフロアーを見た。
「結局、対応はとれたのでしょうか〜?」
「…さっきメーカーから連絡があって、ドロイドたちのリンク・システムを直ちに止めてサービス
センターまで連れてくるように…という連絡があったわ」
横の課長席から、お千代さんが声を掛けてきた。
「なんでもウイルスが混入していて、それがAIを狂わせたそうね」
おれたちは、春日課長の方を向いた。
「今、順番にサーピス・センターから迎えのクルマが来ていて、うちのアオイも明日連れて
行ってくれることになってるわ」
「そうですか」
そうか…親父たち技術者は、結局、そういう対応にしたのか。
確かに、リンクシステムさえ絶てば影響下からは切り離され、外部から入り込もうとする
『意識』が無くなる。
そうすれば彼ら自身の自我や意識は、再び改めて維持される。
やれやれだな。と、事情を知るだけにちょっとホッとした。
「でも皮肉な話ですね」
すぐ右から秀一の声が入ってきた。
「おれたちのパートナーは皆、旧式で、未改修だったから、ピンピンしてた訳ですからね」
「まあ…そうだけど」
春日課長が失笑を浮かべる。
「その言い方…気を付けた方が良いわよ」
「え?」
言いかけた秀一が背後からの殺気に気付いてぎょっとなった。
「ま・す・た・ー!!」
そこには楚々とした美しい日本美人を、少しあどけない顔だちに仕上げた感じの良く似た二人。
それは、腕組みしてジト目で睨むチャチャと、困った顔で笑っているネネの姿。
「古くて悪うございましたね〜」
「ままま待て…べべべ別にわるいと…ぐぎゅ」
秀一は、斜め横に回りこんだネネにヘッドロックを掛けられ、目を白黒…。
「大体、ともちゃんだっているじゃないですか!」
「…すまん…ぐるじ…ゆるせ〜」
「淀ちゃん…そろそろ外さないと」
いよいよもって秀一がオチそうなのに気付いて、ネネが慌てて止めに入った。
おれは笑いながら敢えて止めずに見ていたが、ふと、巴が彼らのやりとりを見ず、じっと窓の外を
見ていることに気付いて、おや…と思った。
仲の良い面々を前にして、こんな事はとても珍しい。
春日課長も、秀一をシメていたチャチャも、ネネも…そして腕を首に巻かれた秀一も、思わず動きを
止めて、じっとしたまま、身じろぎひとつしない巴を心配そうに見つめた。
「……!」
と、一瞬、巴の黒い瞳が大きく見開かれたかとみるや、それからすっと眉を寄せるや、おれの方を
向き、いきなり立ちあがった。
「どうした?巴」
おれを見つめる、凛としたその表情は真剣そのもので、異様な気迫すら感じられ、咄嗟に『巴御前』の
名を思い出して一瞬だじろいだ。
「ぼっちゃま…『トモミ』がきます」
「!?」
「トモミが…わたしを探しているのです…」
「トモミが…何だって?」
巴は、まばたきひとつせずに、おれをじっと見つめた。
ドロイドとは言え、今は完璧に、まばたきまで再現できるのだ…と言う事は、これは冗談ではない。
もっとも、巴がそのテの悪い冗談を言う事はあり得ないが…。
「おまえを…だって?」
秀一たちが、おれと巴のやりとりを呆気に取られて見ている。
それもそうだろう。
いきなり映画かドラマのワンシーンみたいな展開になってきているのだから。
…しかし、どう説明したものか。それに…。
「だが、今は所在がわからないって」
「今は…判るんです。そしてトモミは、明らかにわたしの存在を…把握しています…」
「把握して…って、じゃあ、おまえを狙っているっていうのか?」
「判りません…でも、恐らく」
「だったら警察に連絡して保護を求めよう」
咄嗟にお袋を介して、警察の専門部署に頼もうと思った…が、巴は大きく首を振った。
「武装ドロイドも一緒です。ですから、わたしが、このままここに居ては、皆さんに迷惑がかかります」
例によって巴の口調は変わっている。
…昔の、ともねえの話し方だ。
そう思うや、巴は課長の方に向き直った。
「あまり時間がありません…春日課長…大変申し訳ありませんが…」
「ちょっと落ち着け!」
堪り兼ねて、おれは思わず怒鳴りつけていた。
はっとなる巴。
みるみる表情が崩れていく。
おれも強く言い過ぎたかと思い…少し語調を落としてなだめるように言った。
「いきなり突拍子も無い事を言われて、はいそうですか…って訳はいかないだろ?」
「……ごめんなさい」
巴は肩を落とし、しゅんとした顔でうつむいた。
暫しの沈黙…。秀一たちも何も言えないでいる。
おれもちょっとばつの悪い感じで次の言葉を失った。
次の瞬間、いきなり電話が鳴った。
おれは内心、少しほっとしながら電話をとった。
「はい、営業二課ですが」
『…居たわね。丁度良かったわ』
今度はいきなりお袋の声…おれは内心呆れながら訊ねた。
「なんだ、かあさんか…今勤務中だが…こっちから頼もうと思っていたことがあるんだ」
『警察を派遣してくれ…違う?』
単刀直入に切り返されて、おれは唖然とした。
「と、言う事は…巴が言っていたことは事実なのか?」
『なに?ともちゃんがどうかしたの?』
「トモミが…巴を探しているって…」
『そう…やっぱりね』
だが、お袋の声は意外すぎるほど冷静だった。
『たぶんそんな事だろうと思っていたわ』
「何が起こっているんだ?…巴が落ち着きを失っていて、早くここを出ると騒いでいるが、この場合、
何をどう対処すれば良いんだ?」
『まずテレビをつけなさい。それからこの電話、千代ちゃんに廻して』
「千代ちゃん…って、課長に?」
『いいから…急いで!』
「課長…うちの母からですが、よろしいですか?」
お袋の有無を言わさぬ言葉に訝りながら、課長席を向くと、春日課長は、そっと頷いて返した。
おれは電話を廻し、それから、ちら、とうなだれている巴を見てから席を立ち、課長席横のテレビをつけた。
春日課長がコードレスホンをつけたままテレビの方を向き、マシンルームからやってきた天野さんと
シローがやはりテレビの画面に見入った。
…そこには…クーデターかデモ行進を思わせる異様な光景が展開していた。
あるドロイド・メーカーの製造工場に陣取ったドロイドの一団。
彼らは、あるいは腕に武器がつけられ、あるいは非致死性の武器を手にして、工員たちの動きを
封じている光景が幾つも映し出された。
また、別の画像では、ドロイド・ショップに数人のドロイドが占拠して、店員たちを拘束していた。
さらに、自衛隊の師団本部でもドロイドが武器を押さえている様子が…。
ただ、見ていると、一見あくまで穏やかに…かつ無言の圧力で人々を抑え付けている感じだ。
「まさかこれって…ドロイドの…ク−デター…なのか?」
秀一が席を立ち、その後ろの左右には不安げな様子のネネとチャチャ。
おれは巴の横に立ち、そっと肩に手を置いた。
「怒鳴って悪かったな」
「…ぼっちゃま……本当に…ごめんなさい」
巴が顔を上げ、潤んだ瞳でおれを見つめた。
「でも…どうやら…トモミと対決しなくてはならない様なのです…」
「対決…だって?」
風雲急を告げる…とは、こういう事を言うのだろうか?
「トモミが…おまえに宣戦布告してきたのか?」
「はい…厳密に言いますと…システムがですが…」
シンクロイド・システムという言葉を敢えて使わず、言葉を選びながら巴は頷いた。
「たぶん、システムにとって、わたしはイレギュラーなのでしょう」
「いや…だが、トモミはおまえとは、同じ『ともねえ』の分身じゃないのか?だったら…」
おれがそこまで言いかけた時、春日課長が席を立ち、おれたちの前に寄って来た。
耳にはコードレスホンをつけたままだ。
その表情は厳しくも、おれたちに対して何か思う事がある様に思えて、思わず襟を正した。
「…ふたりとも話中、悪いけどね…」
「課長?」
「これから、あなた方に特別出張を命じます…」
「は?」
春日課長は眼鏡を取り、おれと巴を交互に見、それからコードレスホンをおれに差し出した。
「事情は先生から伺いました…」
そう言ってお千代さんは静かに微笑んだ。
「先生って…母のことですか?」
「ともかく、お聞きなさい」
そっと背を叩かれ、受話器を再び手にし、おれは口を開いた。
「…もしもし、何がどうなってるのさ?」
『千代ちゃんは、わたしが家庭教師していた頃の生徒さんなのよ…幼い頃のともちゃんとも
面識があったし、ある程度の事情は知っているから安心なさい』
え?…初耳だぞ…そんなの。
とは言え、今そこで色々聞いている余裕は無さそうだ。
「…そ、そうなのか?…それでおれたちに、何をさせるつもりだ?」
『そうね…あなたたちには、まず、これからオムニ・ジャパンの研究所まで来て欲しいのよ』
「巴は…トモミと対決しなくてはならないと言っているが…」
『その通り…その為の準備もお膳立ても、今こちらでやってるわ』
「そっちから来てはくれないわけだ」
『悪いけど、こちらも余裕がないの。それに、そこでは駄目。街中だし、リンクシステムが
充実しているから、ともちゃんの所在地もすぐ判るからとても不利。だから、研究所まで
誘き寄せて欲しいの。勝負はそこでつけるわ』
「しかし…この電話が盗聴されていたら…」
『されていたとしても…敵はその位の事は考えているから大差ないわ。但し、これから以後の
連絡は父さんが装置を仕込んだ、例の携帯に切り替えた方が無難だけどね』
おれは思わず舌打ちした。
親父ならともかく、お袋がここまで言うのは、あまり状況が良くないのだろう。
「…ともかく、研究所までたどり着けば良いんだな?」
『途中、武装したドロイドたちが、あなたたちの命を奪わない程度に大挙して襲ってくると
思うけど…大丈夫?』
「ああ。やるとも…」
『…じゃ、すぐにそっちに強力な助っ人が行くから、暫くお待ちなさい』
「わかった…」
「それじゃ…」
お袋はそう言い掛け、それから一言一言しっかりとおれに言い聞かせる口調で言った。
『…それと…くれぐれも巴ちゃんを信じて…絶対に離しては駄目よ!』
「もちろんだ」
『何があっても…巴ちゃんを信じるのよ。いいわね?』
「?…ああ。もちろんだ」
おれはお袋の言い方が少し気になったが、無論、異論などあるわけがなかった。
コードレスホンを春日課長に返し、おれと巴は秀一たちにやりかけの作業の状況を伝えた。
…特別出張の内容については一切話していないが、秀一たちはその事には一切触れず、
最後まで説明を聞いてくれた。
そして、おれの説明が終わるや、秀一は笑顔でこう言った。
「何か、大変な事に巻き込まれているみたいだけどな…ここは任せておけ」
「…済まん…ヒデ…皆も済まない…」
おれは頭を下げ、巴もぺこりと大きく頭を下げた。
「いいさ…仕事も、お前さんたちのお陰で、明日予定していた分まで入っているし」
「くれぐれも気をつけてくださいね」
天野さんが、巴を気遣うような視線を向けながら口を開いた。
「済みません…優奈さん」
巴がもう一度頭を下げた。
「…では課長…行ってきます」
おれは一礼し、春日課長は眼鏡を掛け直してゆっくりと頷いた。
エレベータホールから地下駐車場に出て、愛車に向かおうとしたところ、ふいに脇からふたつの
影が飛び出してきて、おれたちは反射的に身構えていた。
が、その影の主を見るや、おれたちは驚いた。
「バン!…ジェーン?」
黒のスーツ姿のバンと、濃紺のワンビース姿のジェーンがそこに居た。
…手には銃を持って。
っておいおい…まさか、その格好のまま、この本社ビルに入り込んできたのか?
「やあ…騎兵隊到着…にはちょっと人数が少ないがね。援護に来たよ」
バンは人懐っこい笑みを浮かべながらスーツの上着の裏に銃を仕舞った。
…なるほどショルダーホルスターか。
一方のジェーンは短めなスカートの下にバレルの短い銃を…。
まるでスパイ映画のノリだ。
「お袋の言っていた助っ人…って」
「うん。だが、まさか君のご両親が、先生たちだとは思わなかった」
バンは頷き、それから巴の顔を見て感慨深そうに言った。
「それに…巴くんも…ジェーンと同じだったんだな」
「バン…あまり時間がありませんから…急ぎましょう」
ふいにジェーンが口を挟み、それからおれと巴に向けてにっこり笑いかけた。
それは、一番最初に最悪な形で出合った時と違い、親しい友人に再会した時の優しい笑顔…。
おれも巴も、おもわず笑みを漏らした。
そんなおれたちを暫し笑顔で見守っていたバンは天井を指差してすぐに言った。
「外におれたちのワゴンがある…それに乗ってくれ」
駐車場のスロープを駆け上がり地上に向かうと、出し抜けに『シュワちゃん』と『スタちゃん』の
二人が足音も荒く、血相を変えて飛んできた。
「大変です!ゲートの外は、ドロイドの一団が陣取っていて、全く出入りができません」
警備員服のシュワちゃんが困惑しきった顔でおれに告げた。
「…しまった。先手を取られたか」
バンが口惜しげに呟く。
そのまま外に出ると、本社の敷地のゲートのエリアのラインの向こうに、数十人のドロイドが
一斉にこちらを向いてじっと立っていた。
…良く見ると、彼らは総て女性型。
しかも服装などまちまちだが、整った可愛らしい顔立ちは皆似ていて、全員の衣装の左胸に
それぞれ『OJ-MD8』のナンバーが記してある。
だが、その半数近くの腕には収納式と思われる武器が装備され、残りは手持ちの銃やら
日本刀と思われる武器を全員が携行している。
ちょっと待て…この連中、どこからそんな武器を持ってきたんだ?
第一、腕に武器を仕込むのは違法じゃないのか?
『OJ-MD8』は本来、最新型の巴の妹分だ。
民生用としてはハイスペックのドロイドで、リンク・システムを両腕と両肩に内蔵して、どんな
状況においても、すぐに『経験値』をダウンロードして対応できる万能型だ。
しかも本来は優しい性格設定のはずなのだが…。
ここにいる『彼女たち』は無表情で…しかも、どこか怒っている様な雰囲気が感じられた。
そして、巴の姿に気付くや、
<『tomo』…我々と一緒に来てください>
と、一斉に口を開いたのだった。
>>426〜
>>426 今回はここまでです。…やっと先が見えました。
本当に長くなってしまい、申し訳ございません。
他の方々の作品も是非拝読させて頂きたく思います。
こちらの中断など、お気になさらず上げてくださいませ。
>>417 ごめんなさい、改行の都合で出来ませんでした。
GJ!先が見えたというか、そろそろクライマックス?
>>429 ありがとうございます!仰る通りであります。
それと427番…空けられなくて済みません。
「わたしは行きません」
巴は静かに語りかけるように、少女型のドロイドたちに向けて呟いた。
その表情は、先刻、オフィスで狼狽していた時と違い、落ち着き払ったものだった。
…既に腹を決めたおれたちはともかく、課長や秀一たちさえ巻き込まないなら、巴も安心だろう。
そう思いながら巴の背に右手を触れると、申し訳なさそうな表情が返ってきた。
「…ぼっちゃま…」
おれは片目をつぶり、精一杯気取ってみせた。
本来、おれのガラじゃ無いんだけどね…。
「巻き込まれたつもりはないさ…おれは巴のマスターだ」
「ありがとうございます…でも」
「でもも何も無いさ…一番悪いのはシステムを奪った連中だろう?」
「は…はい」
おれを見つめる黒い瞳が、また、じわっと瞳が潤んできている。
駄目なんだよなぁ…この泣き顔が健気でとても可愛らしいんだ。
とは言え、あんまり泣かれるのもなあ。
思わず巴の頭を撫で、苦笑いした。
「良いから泣くなって…それより、この状況、何とかしなくてはだ」
おれたちの様子を微笑みながら見守っていたバンは、二人の警備ドロイドの方に向き直った。
「君たち…裏口はどうなっている?」
同じく警備服姿の…垂れ目の二枚目ドロイド『スタちゃん』が肩をすくめ、首を振った。
「同じです。むしろゲートの幅が狭い分、詰まった感じですよ」
「バン…いっそおれのクルマで突っ込むか…」
「それしか無いか」
「いえ、あの人数では、ゲートを空けた途端、なだれ込んできてクルマごと止められますよ」
「…すると…打ち倒して強行突破…するしかないのか」
おれは苦いものを噛み締めながら呟いた。
相手は…うら若い乙女の姿をしたドロイドたちばかりなのだ。
操られているとは言え、破壊するのは忍びない。
「だが…武装している以上…テロリストと変わらない…そう思うしかないだろうね」
バンがおれの気持ちに気付いたのか、穏やかに、けれどもきっぱりと言い切った。
「テロリスト…」
「…救いは、少なくとも傷つける可能性はあっても、殺す意図がない事だ」
「!」
おれは巴とジェーンを見た。
おれの視線に気付いた巴は、信じます…という表情でにこっと健気に笑って頷き、ジェーンは
小さく笑みを浮かべて右手の親指を立てて返した。
…巴は捕らえられたら…分解され、改造されるかも知れない。
ジェーンに至っては、単に排除すべき対象にされるかも。
…そう思った瞬間、腹は決まった。
「スタちゃん…警備室に、ドロイド用の電磁警棒は何本ある?」
「確か十本以上はありますが…」
シルベスタ・スタローンに似た巨漢のドロイドが目を剥いて聞き返した。
「まさか…本気ですか!?」
「本気さ…」
「しかし…皆さんを危険にさらす訳には…」
「気持ちはありがたいが…訳あって、今すぐここを出なくてはならないんだ」
暫くの沈黙…。
だが、一度目をつぶった彼は、再び開くと相棒のシュワちゃんの方を向いた。
「電磁警棒…あるだけ持ってこよう」
「よし…」
頷いたシュワルツネッガー似のドロイドは、おれの方を見、にやりと真っ白な歯を見せた。
「我々も手をお貸ししますよ」
要は強行突破を一緒に手伝ってくれる…ということだ。
しかし…それでは、当然、彼らも敵と認識される事になる。
「だが…それでは君たちだって、ただでは済まないぞ」
バンがおれの気持ちと同じ事を言ったが、二人の巨漢の警備員ドロイドは首を振った。
「我々の使命はこのビルで働く方、出入りする善良な方々を守ることです」
シュワちゃんが毅然とした口調で言い、スタちゃんも続けて言った。
「彼女たちは、明らかにあなたがたに対し、武器をちらつかせて威嚇している」
「これは、絶対に我々には許せない」
「なあに…伊達に、この姿とニックネームをもらった訳じゃありませんよ」
豪放に言い放ったスタちゃんもニっと笑い、それから何を思ったか、二人は暫し巴の顔を見つめて
うなずいてから、おれに丁寧に一礼した。
そして、二人のドロイドはすぐに警備室に姿を消した。
…あのふたり…巴の何かを知っているのか?
外見こそ年上だが、まるで姉に接するような、そんな印象だった。
「あ…マスターも気付かれました?」
巴が振り返ってくすっと笑った。
「まあ…何ていうか…。でもあのふたりは?」
「第三世代の…軍用仕様なのです」
「…って、それって日本じゃ違法なんじゃ?」
「いいえ、オムニ・アメリカ製で、格闘能力は抜群ですけど、元の内蔵武器は外されてます」
「それでター○ネーターにラン○ーなのか…」
確かにあの二人、まんまアメリカン・ヒーローの趣があるな…。思わず苦笑する。
「はい…OA-MI3…わたしの妹分の OJ-MD3と同期ですから…いわばわたしの弟たちなのです。
それに、かつて朋さんに調整してもらった事があったかと…」
おれはそれで合点がいった。
「あのふたりとも…昔、繋がりがあったんだな」
「はい…わたしを見て…改めてその事に気付いたのでしょうね。わたし同様、軍用機ベースですし」
巴はそう言いながら、『OJ-MD8』の群れを見た。
「そして、本来ならあの娘たちは、別の意味で、わたしたちの直系の妹でもある筈なのですが…」
顔立ちや胸廻りなどは色々だが、皆、ほぼ同じ身長の可憐な少女の姿をしたドロイドたちの半数
ほどは腕から引き出された武器を付けている。
「それって…戦闘用って意味でかい?」
「そうです。そして、あの娘たちは輸出用の特別仕様なのです」
巴の言葉にバンが首を振った。
「…しかし巴くん。日本では武器取り付けは禁止だし、まして兵器輸出は禁止じゃないのかい?」
「はい。もちろんそうです」
巴は振り返り、ワンピースの左袖をめくって二の腕を見せた。
そして右手でつっと撫でると、手首から肘にかけて長いパネルが左右に開いた。
おれが覗き込むと、巴は少し恥ずかしそうに苦笑しながら中を見せてくれた。
そこには10センチ弱の幅の細長い空間があり、何かのユニットの基部が入っているのも見えた。
「これが軍用ベースの証です。もちろんわたしに取り付けは出来ませんが…本来はここに」
「そうか…そこに機関銃の銃身が入れられるよう、準備工事がしてあったのか」
以前、メンテナンスで、何度か巴の身体のハッチを開けてみた事はあったが、これは知らなかった。
「…あの娘たちは、多分、セキュリティ・モデルでしょう。銃も見たところ拳銃弾使用の物ですし。
ですから、本来は非武装で完成して、海外に送られるはずだったと思われます」
「それを…非合法ショップで武装化した娘が…集められたのか」
「たぶん、潜入破壊工作に使う目的です」
なるほど…あれだけ愛らしい美少女の外見であれば、人目を魅く反面、人々は油断するだろう。
「ただし、ベースが民生機ですから、反応速度…回避能力はともかく、防御力は皆無に等しい筈です」
「…電磁警棒なら、なんとか倒せそうだな」
ハッチを閉じ、袖を伸ばしながら巴はおれの方を見て、小さく、だがしっかりと頷いた。
ここにきて、とても凛々しく感じられるのは気のせいか?
いつものまったりぽやぽやな巴も良いが…ポニーテールを靡かせて、きびきびとした動作で対応する
姿はとても頼もしく、しかも美しく感じられ、これはこれで良い…。
だが、これまたちょっと気になる事があった。
「しかし巴…また、随分と詳しいじゃないか…」
おれはそう言いかけ、ある事に気付いてギョッとなった。
「まさか…マルチリンク・システムかシンクロイド・システムを使って情報を集めているのか?」
「はい」
巴はさらりと答えた。
「今のわたしは、その両方を状況に応じて使い分けています」
「なんだって???」
思わず、おれの声は裏返った。
「…わたしの話し方…いつもと違う筈です。これは情報を常に集めている証なのです」
「しかし…そんなの…初めて聞いたぞ」
すると巴は少し悲しげな顔でそっと首を振った。
「…本当は、わたしも、ついさっき知ったばかりなのです」
「トモミの呼びかけが聞こえた…辺りから?」
「はい。ただ…幸いな事に、わたしの使っているマルチリンク・システムは、今現在使われている
一般の物と違う、秘匿仕様の試作品なのでアクセス先から逆探知は出来ないのですが…」
「あの親父なら…やりかねないな」
「もっともその反面、トモミとは…。トモミの考えを、ある程度一方的に読める利点もあるのですが、
シンクロイド・システムで情報の一部が共有なので、存在が判ってしまう弱点があります」
「様は、正確な位置は判らないが、方向性だけは読まれる…ってわけか」
「はい」
「諸刃の剣でもあるわけだな」
巴がうろたえたと説明しても、お袋が意外とあっさりしていたのがこれで納得できた。
「…ともかく…このままじっとしている訳にもいかないな」
おれは改めて、『OJ-MD8』の群れを見、それから巴を見上げ、そっと頬に手を添えた。
「『得物』が来たら…突っ込むけど…覚悟は良いか」
「もちろんです…ぼっちゃまと一緒なら、どこへでもお供します」
にこやかに答える巴。
ふいに、こほん…とわざとらしく咳払いしたジェーンが、おれの肩を叩いた。
「…あ、いや」
「あまり見せ付けないでくださいね。『ぼっちゃま』」
にっと悪戯っぽく笑うジェーンに、思わず顔から火が出る思いで頭を掻く。
だがジェーンの笑みはこの上も無く優しく温かで、思わず頬が緩む。
「それより…あれを」
指差された方を見て、おれたちは思わず顔を見合わせた。
警備室から出てきたドロイドは…五人だったのだ。
シュワちゃんとスタちゃんの二人の他、シローを先頭にネネとチャチャが警備員用の防護
プロテクターを身に着け、長い電磁警棒を手にした完全武装で姿を現した。
ちなみにシュワちゃんたちも、何やら長い筒を一本ずつ手にしている。
「シロー…ネネもチャチャも…どうして?」
「お二人はマスターの、そしてわたしたちの大切な友人です」
シローがこれまでにない良く通る声できっぱりと言い、ネネとチャチャもこくこくと頷いた。
「そのあなた方の危急を、わたしたちは見過ごしておけません」
「しかし…天野さんは」
「…マスターたちは猛反対され、絶対に一緒に行くと仰いました。でも、それではマスターの
お命を危険に晒します…」
「うちのマスターが…春日課長に詰め寄ったのです。何が起きているのか…どうしてお二人が
行かなくてはならないのか…と」
ネネの言葉を受けてチャチャが言った。
「マスター…説明をお聞きして、やっぱり助けに行く…と言われたのです。でも、それでは、
お二人が託された役割は果たせませんし、何と言っても命の危険があります」
「だから、僕たちはマスターに志願したのです」
シローはおれの前に立ち、少女のような愛らしい顔立ちで静かに微笑んだ。
「僕たちは壊れても、AIさえ無事なら、改めて直してもらえます。でも、人はそうは行かない」
「ええ、わたしたちは『心』さえあれば」
「幾らでも蘇ることができるんですもの!」
三人のドロイドが力強く拳を固める。
「ですから、どうか僕たちにもお手伝いさせてください」
「シロー…ネネ…チャチャ…」
おれは感極まって、思わずシローを抱きしめていた。
「ありがとう!すまない…みんな!!」
「とりあえず、皆さん、これを付けてください」
シローから手渡されたのは…インカム?
「防災用高性能通信機です」
シュワちゃんが口を開いた。
「有効通信距離は、カタログ上2キロですが、まあ実効は半分とみてください」
「これで、皆さんと常時やりとりができますね」
シローが頷きながら自らインカムを装着してレシーバーのスイッチを入れた。
「しかし…妨害電波を出されたら」
「大丈夫です。ジャミングを使ったら『彼女たち』も、マルチ・リンクシステムを絶たれるますよね」
「確かにそうか…」
「ですから、数で劣る僕たちは、常時会話できる利点を生かして、コンビネーションで、この場を
突破すべきだと思うのです」
「フォーメーションか」
バンが何を思ったか、ふっと不適な笑みを浮かべた。
「メンバーも…なかなか揃っているし…これは面白いな」
「面白いって…冗談言っている場合じゃないぜ」
思わず呆れながら笑ったおれに、バンは真顔でおれの方を向いた。
「いや、あながち冗談でもない…これはなかなかバランスの取れた良いメンバーだぞ」
「お忘れですか?バンもドロイドに関してはかなり詳しい…ってこと」
ジェーンがバンの傍にそっと寄り添う。
そうだった…バン自身、オムニ・アメリカの研究所に、出入りして学んでいたのだっけ。
ともかく、研究所に行くには、バンたちのワゴンまでたどり着かねばならない。
問題のワゴンは防弾、耐弾だけでなく、実は装甲車並みの能力を持つクルマとかで、下手な
ドロイドなら跳ね飛ばすぐらい訳ないパワーと重量を持ち、ともかく乗れればひとまず勝ちだ。
また、巴が中に乗ってしまえば、リンクシステムの電波を遮断できるから、ナンバープレート改変
システムを使って街中を逃走すれば、途中まで時間が稼げる。
ともかく、まずはあの美少女たちの群れを突破しなくてはならないのだ。
そこで…おれたちは作戦を立てた。
まず巴を中心に、シュワちゃんとスタちゃんが、左右の前衛に立ち、真ん中にはおれが立つ。
シュワちゃんたちは接近戦で活路を開くが、同時におれの弾除けを努める。
相手の美少女ドロイドたちは、人間を傷つけることは出来ても、命を奪うことが出来ないので、
人が居れば動きがやや鈍るだろうと判断して、おれ自身が志願した。
本当はバンもおれの役目を買って出たのだが、バンの手にしている銃の射程を生かすのと、
おれ自身が格闘技や剣術なら心得があるので、むしろその方が良いだろうと押し切ったのだ。
中列…要はシュワちゃんの後ろにバン、スタちゃんの後ろにジェーンが立ち、適宜、援護射撃。
後列左右は和弓を手にしたネネとチャチャ。
…事情を知った春日課長が、会社の弓道部に頼み込んで譲ってもらった代物だ。
先刻、シュワちゃんたちが手にしていた筒はこれだったのだ。
その二人の間…巴の真後ろには、左右に電磁警棒を持ったシローが巴の援護に回りつつ、
全員に指示を与える。
そして中心の巴自身は、前衛のおれたちのバックアップだ。
シローに適切な指示を与えつつ、その持ち前の…元々持っていた俊敏さとパワーを使う。
いつしか、白い鉢巻を巻いた巴の姿は『巴御前』そのものであった。
こうしておれたちの、巴脱出の為の決戦が始まろうとしていた…。
>>431〜
>>437 今日はここまででございます。
…本当に遅筆でいつも済みません。
それにしても炊飯器娘さんこと
チエさんたちのその後…是非拝読したいものです!
あれ?
もしかして一番乗りgj?
美少女が四つん這いになって首をグルグルと回しだしたらホラーだなw
今回も面白かったわ
GJ
初音ミクの人工声帯を二度と歌えなくなるくらいイラマチオして壊してあげたい
今の今までイマラチオだと思ってた
443 :
200:2007/11/16(金) 02:08:35 ID:Vy6f0meN
懐かしくなって過去ログ倉庫覗いてみたら、むかしの自分のほうが頭よさそうだった。気分はちょっぴりアルジャーノン。
まぁそんなことも良くあるんじゃのー
>>445 【審議中】
∧,,∧ ∧,,∧ アリ?
∧ (´・ω・) (・ω・`) ∧∧
( ´・ω) U) ( つと ノ(ω・` )
| U ( ´・) (・` ) と ノ
u-u (l ) ( ノu-u
`u-u'. `u-u' ナシじゃね?
エロないけど書いたので投下する。
太陽はその熱をアスファルトにあずけて水平線に消えていく。東京湾を支配する多層メ
ガフロート構造物は夕焼けに染まっていた。二十一世紀最初のパラダイスと銘打って30年
前に着工した人工浮島は今ではただの糞溜めだ。賭博に売春、麻薬に銃器。歌舞伎町で中
国と台湾の代理戦争をチンピラたちが請け負っていた時代は過ぎ去り、世界中から糞とゴ
ミを一手に引き受ける闇の歓楽街が出来上がっていた。実に荘厳で華麗で糞の匂いがたま
らない。
湾岸に佇むバラックの群れ。浮島から放たれる卑猥なネオンが辺りを薄っすら照らしス
ラム街化したかつての首都の一部を哀れんでいる。今では東京特区でしのぎを削る下っ端
たちの巣窟であり難民たちの仮宿であり娼婦たちの寝床であり帰還兵たちの安らぎの場だ。
つまるところは掃き溜めだ。人工の浮島で夢を見て、痩せた大地で貧困に喘ぐ。まったく
すばらしい世界じゃないか。
シローはコンクリートが剥げ落ち鉄筋が剥き出しになった細長いビルから街を見下ろし
嫌な気分になっていた。蒸し暑く淀んだ空気が街全体を覆い、死んだような湾岸線が視界
の端に映る。
「無用心にも程があるぞ」
首筋に硬いものがあたった。シローはぞっとしない。だが、しおらしく両手を挙げて降
参を示す。
「あらごとは苦手でして」
「その身体でか。上官が聞いたら失笑ものだな」
シローの背後を取っていた陰は後退する。危険なオモチャもも納められ、張り詰めた空
気は溶けていく。
振り返ると男の足下には汚らしい黒色のビニール袋が転がっているのが確認できた。歪
に膨らみ中身が複雑な形をしているのが推測できる。拾い上げるとシローはビニールを破
り捨てる。現れたのは屈曲したビターな色の脚だった。生々しいがその切断面からは無機
質な電子回路が覗いている。中心部には骨に似せた炭素フレームとその周辺には合成樹脂
性の人工筋肉がぎっしり詰まっている。
滅菌グローブを手につけるとシローはその二本の脚を掴み、ベッドに寝かされている素
体に歩み寄った。素体の両足は欠損しており瞳は閉じられている。
「ずいぶんと美人じゃないか。オマエの趣味か?」
眼光鋭く周囲を警戒しながら男は皮肉っぽい口調で言い放つ。その細身な体はシローと
は正反対で神経質そうだ。
「僕の担当は中身だけですよ」
「問題はその中身だ。間に合うのか?」
「任務を果たす。それだけです」
視線を眠り姫から離すことはなくシローは作業を続ける。結合部のMM(マイクロマシ
ン)活性をモニタリングしながら制御プログラムをベッド脇のディスクトップから落とし
込んでいく。同時平行で素体の視聴覚素子にプラグを挿し込み、知覚ソフトの書き換えと
ニューロチップの擬装設定をデリート。流れるように手順を消化していく。つながれた各
色のラインたちは人形を操る糸のようだ。
男は興味なさそうに忙しなく動くシローの指先を追っていたが自身のするべきことは何
もないことを確認すると腕に巻いた骨董品を眺めた。ロボットが笑いかけるようになって
も人類が火星に行っても時を刻む速度は変わらない。半世紀前に作られた時計でもことは
足りる。
「明朝0500から状況を開始させろ」
「……了解」
作業を中断してシローは男の背中を見送った。部屋にはシローとドールだけが残された。
浜風がうがたれた窓穴から吹き込んでくる。腐臭に似た饐えた匂いだった。
シローは褐色の機械を見た。噛み付くように見据えていた大腿の付け根には大陰唇と小
陰唇が花開いていた。
シローは不要な器官だと主張した。なぜなら軍用兵器だからだ。だが、戦術的見地から
必要だと判断された。東南アジアでの非正規戦闘で実戦配備されたドールだったが、その
任務の特殊性からこの器官が重宝されたという。外部との接触を極力抑え情報漏えいのリ
スクを最小限にする――腰を振ることしか能のないレザーネックたちの娯楽にもなる兵器。
感染症の心配もなく、さらには経費削減にも一役買う。糞ったれどもの主張はこうだった。
確かに性器自体は市販のセクサロイドから転用すればよかった。有機トランジスタ・ア
レイの補正が面倒ではあったが、女の肉体の再現度は高まる。粗野な兵器とは一線を画す
妖艶な人形のできあがりだ。まったく税金の無駄遣いだ!
MITのラボを出て軍に身を置くようになってから繰り返されるシローの神経インパル
スでの批判。口に出せば折り曲げられ、しまいには減給だ。せめて神経に不満を走らせる
くらいの自由はあってしかるべきだ。遅々として進まないインジケーターを眺めながらシ
ローはつぶやいた。
「今夜は徹夜だな」
例えどんなに僅かであっても朝日は眩しいと相場が決まっている。薄目を開けて寝惚け眼
で周囲をうかがうと闇が壁に持たれかかっているのが分かった。「もう動けるのか?」。
シローは声をかける。
「おかげさまでね。データの破損もほとんどないわ」
ネットの海からデータを注ぎ終わったドールだった。昨晩から未明にかけての時間をかけ
た成果は順調のようだ。数万の暗号ファイルの統合も模擬人格OSも正常に機能している。
机に突っ伏していたシローがモニター隅の表示を見ると――0426。予想よりも30分近くも
早かった。
錆びついたような身体をベッドに転がすとシローは人形を見据える。歩み寄るドールに光
が当たりその完成された肉体は輝いていた。光を吸った浅黒いスキンは張りがあり、一見
すればその下に人工物の塊が詰まっているとは露ほども思わないだろう。そして整った顔
立ち。水晶のように透き通った光学式レンズの瞳と厚みのあるぽったりとした唇。各部品
は一級品で人も羨む作りだが、総じてみればどこか機械的で愛嬌の欠片もなかった。
「服、どこかしら?」
ドールは言った。さらした裸体を恥ずかしがるようすはないが、不都合だといった風だ。
シローは目配せでクローゼットへ導く。かろうじてそれがクローゼットだと理解できる程
度の木製の物体があった。穴だらけで腐食も進んでいる。
シローはベッドに腰掛けて日差しを感じていた。太陽はまだ視線の下を這っており水平線
にはオレンジのナイフが横たわっている。廃墟同然の街は死体のように黙り込み水面の魔
都も寝静まっていた。これから始まる荒事に世界はまだ気づかないでいる。
ギシッとベッドが沈む。ドールの不自然にならない程度の重量がかかる。上半身にタイト
なシャツを着ただけで下半身は剥き出しのままだ。手には用意しておいたジャケットなど
の衣類が重なっている。どこにでもありそうな衣服だがその材質はカーボンナノチューブ
が折り込まれた強化繊維で仕上がった軍用品だ。平凡なのはそのデザインだけだった。
「まだ時間はあるようだけど」
ミッションファイルを読んだのだろう。行動開始まで余裕があることはドールの了解事項
だった。
ヒトのような温かさがシローの角ばった指先に絡んでくる。
「生憎ぼくにそういう趣味はないんだ」
ドールは抑揚なく「そう」とだけ唇を上下させると強引にシローの身体を引き倒した。
ベッドのスプリングがたわむ。
「アドレナリンの生成が活発みたいだけど、やりたくないの?」
「それはただの緊張だよ。因果が一義的に決まるとは限らない。違うかい?」
シローはドールのぬくもりを無骨な肌に受けつつ情欲の誘いを断った。限りなく人に近い
人形にマウントを取られてシローはささやかな興奮が入り混じったのを自覚した。苦笑せ
ざるを得なかった。
「なぁ、ヒトを殺す瞬間、何を考えてるんだ?」
かねてから秘めていた疑問がするりと口から漏れた。ドールの人工知能の基礎部分はシ
ローの手によるものではなかった。機密に抵触して知ることの出来ないブラックボックス。
半ば人間の脳と同じだ。自らと同じように。
「なにも……、任務の達成がすべてよ」
嘆息交じりにシローは視線を外して呟いた。
「もう時間――っぅ」
言い終わるや否やドールに唇を奪われていた。ドールは舌を伸ばして口腔を弄り犯すよう
に刺激する。すると自然、シローも積極的に舌を絡ませた。脊髄が溶け出すような快感が
支配する。
――――んッ
「帰ったら続きをしましょ」
ドールは立ち上がり手にしていた服をまとう。そして――
映像にノイズが走り世界は黒く塗りつぶされる。シローのAIは完全に沈黙した。信号の
送られなくなった肢体は糸の切れた人形のように力ない。いや、人形そのものだった。
「機械と機械が身体を重ねることに躊躇うことなんてないのに――ヒトがそうするように、
すればいいのに」
おわり
452 :
名無しさん@ピンキー:2007/11/18(日) 08:23:27 ID:RsNOKuTm
やっと追加できます。
<ワゴンまで約500m…女の子たちはざっと50人…但し、増援がいる可能性がありますが…
ゲートを中心に扇形に展開しています。正面には約20人」
ちらと振り返ると、巴が周囲を凝視しながら、インカムを通じて報告する。
視覚センサーは、意外にもこのメンバーで一番精度が高い。
…と言うか、軍用ベースで、しかもサイズが大きくて余裕があるので、各種センサー類が、
巴が一番無理なく詰め込まれているらしい。
<大きいのは伊達じゃないですよ…>と、巴の笑い声が聞こえる。
<流石です…正確な情報、助かります>
シローの声が帰ってきた。
すっかり巴の参謀役だな…と思わずほっと和む。
<ネネさんとチャチャさんは、合図と共にゲート正面に束ね撃ち、前衛の方たちはそのまま列が
怯んだ所を進撃してください。中に飛び込めば同士討ちを恐れ、あちらは銃が使えなくなります>
<その後のわたしたちは?>
ネネの訊ねる声にシローは即座に答えた。
<引き続き左右に射掛けて、出来るだけ足止めしてください>
「但し『彼女たち』は銃を持っているから、無理はするな」
おれは振り向き、巴と、その脇に立ったシローに頷きかけた。
「…巴、シロー、状況報告を頼むぞ」
<はいです!>
<心得ました!>
と…ふいに『ワンダバ』が静かに鳴り響き、おれは一瞬、何が起こったのか理解できなかった。
やべ…マナーモードにしてなかった…それほど緊張しきっていたのだ…。
全員が一斉に、おれの方を向いた。
ワンフレーズ鳴った辺りでヒップホルスターから携帯を外し、スイッチを入れ、耳にあてた。
「もしもし」
『まだ無事なようね』
お袋の、幾分茶目っ気のある声が入ってきた。
「…ああ、だが、今から決戦だ…おれと巴と『七人の侍』で、女の子たちの群れに突っ込むよ」
『大体の事は、千代ちゃんから聞いたわ…』
「何としても、巴をそちらに送り届ける…だからもう暫く待ってくれ」
『わかったわ…そうそう、ひとつ教えておくけど、女の子達のリンクシステムは両肩にあるから、
どちらか破壊すれば、情報が絶たれて活動停止になるわよ』
「…そういう事は、もっと早いうちに教えてくれよ」
『ごめん…でも、こっちも実験結果が出たのが、たった今なのよ。…他にも色々ね』
「…あのさ、そういうことなら、この携帯、皆のインカムに繋ぐから、全員向けに話してくれないか?」
『インカム?それは好都合ね』
おれはポケットから…本来ヘッドホンステレオ用だったケーブルを取り出し、携帯とインカムに
その両端を繋いでスイッチを入れた。
「皆も聞いてくれ」おれは振り返って全員を見渡した「うちのお袋からだ」
全員の表情が緩む。
…そうか、多かれ少なかれ、この面々にとっては皆、色々関係があったっけ。
『…皆…今、うちの馬鹿息子に言ったけど…』
「馬鹿は余計だ。大体、大元の原因はそっちだろが」
おれの突っ込みに、一瞬全員が笑った。
『…く〜…言ってくれるわね〜…この三国一の馬鹿息子…』
お袋が言い返すが…明らかにおれの語調に合わせて、砕けた調子である。
こういう場では、明るく返してくれた方がありがたい。
『まあ良いわ……ええとね。皆…『OJ-MD8』たちだけど、両肩にリンクシステムがあって、
そこでシンクロイド・システムからの指令を受信しているの。だから主にそこを攻めて』
<しかし先生、『彼女たち』もそれは承知の上では?>
バンの言葉におれも頷いた。
「おれもそう思う。…第一、この通信だって、傍受されている可能性があるんだぜ』
『そうね…だから駄目な時は構わず頭を狙って』
<<<ええっ!?>>>
「なんだって?…それ、本気か?」
全員がお袋の言葉に驚愕し、おれも咄嗟に聞き返していた。
『最悪の場合…それも致し方ないわ。それより、わたしにとってはあなた達の命が大事』
<で、でもお母さま>
巴のうろたえた声が入ってきた。
<あの娘たちは…まだ心が無い状態で>
『だったらなおのことよ…一旦壊れても、新しく直して上げられる。でも、あなた達はそうは
いかないでしょう。ならば、わたしは心を鬼にします』
<先生…>
シュワちゃんの声が入ってきた。
<わたしは細かい事情は判りません…でも、我々の『お袋さん』でもある貴女がそこまで
仰るからには余程のこととお察しします>
『ありがとう…ごめんね。みんな』
お袋の声が心なしか震えている。
そうなんだ。ドロイドたちは皆、お袋にとっては、大切な子供たちなのだ。
…そういえば、幼い頃…あまりに研究にかかりきりで、ちょっとばかり嫉妬して
『実の息子とどっちが大事なんだよ!』と噛み付いた事があったのだが、その時、お袋は
『お腹を痛めて産んだ子が、大事で無いわけないでしょう』と悲しげに笑ったが、その後、
『でも、あの子たちにも、本当に守ってあげられるお母さんが必要なのよ』と言われ、
その時の気迫に、言葉を失った事があった。
…思えば、おれがドロイドたちを…巴たちを分け隔てなく感じられるのは、お袋たちの
おかげかもしれない。
それからお袋はひとしきり、『OJ-MD8』の特性を説明し、最後にこう言った。
「それじゃ…大変だけど…頑張ってね…そして、またね」
<<<はい!>>>
再び正面に向き直る一同。
「よし…なら景気付けにBGMでもかけるか」
おれはそう言いながら、一同を改めて一人ずつ見、再び『OJ-MD8』の美少女たちに向き直り、
ひときわ大きな声で怒鳴った。
「作戦…開始!」
<<<はいっ!!>>>
携帯のスイッチを入れ…『ワンダバ』が勢い良くスタートする。
まさに決戦のテーマソングだ。
両脇のシュワちゃんとスタちゃんがニッと笑い、おれたち前衛三人は素早く駆け出した。
それと同時に、両脇後方から一度に十本以上と思われる矢が打ち上げられ、正面の少女たちの
頭上に振りかかる。
咄嗟に腕や手で頭を防ごうとする少女たち。
<ゲートを開けます!>
シュワちゃんの声と共に、鋼鉄のゲートが左右に開き、矢をかわした少女の何人かが走りこんできた。
「左右はまかせる」
<<了解>>
シュワちゃんに黒髪の和服の少女が三人、スタちゃんに茶髪と金髪のドレスの少女が向かってくるのが見える。
おれには、日本刀を手にしたグリーンのツーテールの娘と、紺髪のロングヘアの娘が走ってきた。
二人とも赤のメイド服…妙に刀が似合っていて…悪い冗談だぜ。
同時にバンとジェーンの銃声が聞こえ、ややをして左右に向けて矢の束が打ち上げられ、散弾の如く
周囲にまき散らされていくのが見えた。
ツーテールの娘は利発そうな顔立ちで、決然とした顔で刀を両手で『みね打ち』に握りなおした。
みね打ちと言ったって、あたりゃダメージはでかいが…きちんと人間用に対応してやがる。
ちっ…しかも、二人とも…可愛い顔してるじゃねえか。勿体ない。
だが、油断は禁物だ。
おれはベルトに下げてあった電磁警棒を刀の要領で引き抜くと、両手で構えた。
ツーテールの娘が刀を下から振り上げるのに対し、向かいながら全力で打ち下ろした。
ええい!ままよ。奥歯をぎっとかみ締め、思いっきり振り抜く。
その直後、刀と電磁警棒がある一点で直撃した。
と、次の瞬間、バチーン…という異様な衝撃と共に、刀が弾き飛ばされ、少女が勢い良く真後ろに
弾き飛ばされ、そのまま片膝ついてしゃがみこんだ。
ぶつかった直後、電磁警棒の電撃が刀の刃を伝って、少女の全身に覆いかぶさったのだ。
…伝導体の刀が災いしたな。悪く思うなよ。
そのまま間髪入れず、少女の左肩に電磁警棒を振り下ろす。
「い…やぁ〜っ!!」
グリップのスイッチを入れると、バリバリバリという電撃の音が響き、少女の左肩からぷすっと煙が上がった。
「あ…あ…あ…」
その場にぺたんとへたり込む少女。
戦意を無くし、虚ろな瞳だが、愛らしい顔立ちと相まって人形のような美しさすら感じられる。
長いスカートが広がり、グリーンの長いツーテールの髪が乱れて地面に散らばっている。
よし、まず一人…とどめだ。
電磁警棒を握りなおし…頭に振り下ろしてやるぞ…。
そう思った瞬間、少女の顔を見て、おれは愕然とした。
こちらを見つめるとろんとした碧の瞳に恐怖の色…青ざめ、やがて全身が微かにぷるぷると震えている。
これって…どういうことなんだ?
そう思った瞬間…。
<ぼっちゃま!後ろ!!>
やべ…!
巴の声と、風を切る気配に瞬間的に床に転がり、刀の一旋をかわす。
ロングヘアの少女が飛び込んできて、もう一度刀を振り下ろす。
こっちは随分軽快じゃないか。
地面に転がり、立ち上がろうとするが、二度三度と刀を振り下ろしてきて、かわすのが精一杯だ。
なんだ…こいつ、随分好戦的じゃないか。
「…よくも…ハルナを」
「なに?」
少女の呟いた言葉に一瞬気が削がれ、転がろうとした先の地面に刃先を突き立てられ、そのまま
どっかりとおれの上に少女が跨り、そのまま組み伏せられてしまった。
「…命まで取るつもりはないが、対価は払ってもらうぞ」
刀の切っ先を突きつける少女の顔立ちは、アイドル顔負けの整ったもの。
紺の長い髪を靡かせて…まさに美少女剣士そのもの。…はあ、こっちも好みなんだけどねえ。
「かわい子ちゃんに押し倒されるってのも、悪かないが、今日は勘弁な」
言うが、刀を両手で挟んで脇に押しやり、そのままひるんで上体上げたところに、右足突っ込んで
そのまま勢い良く蹴り上げる……柔らかい…女の子の胸を蹴っちまった!
要は巴投げの変形だ。
少女はそのまま刀を放り出して地面に倒れる。
立ち上がったおれは、暫し少女の顔を見下ろしたが、そのまま電磁警棒の先を彼女の左肩に突き当て
それから黙ってスイッチを入れた。
バリバリバリという電撃の音が響き、少女の左肩からぷすっと煙が上がった
「あ…ああ…」
半神を起こした少女の瞳に恐怖の色が広がる。
あ、畜生…いじめたくなる位、可愛らしい顔してるじゃないか。でも…おれにゃそっちの趣味はねえ!
…とどめを刺すべきか迷ったが…これ以上はやめておいた。
<第二陣…十人ずつが左右から来ます!うち六人、短機関銃装備>
シローの声が入り、ちらとスタちゃんを見ると、こちらは大変なもので、金髪の少女が片腕がちぎれて
いるのに日本刀を残った左手で振り回して暴れまわっていて、茶髪の娘は首を折られて倒れていた。
スタちゃんの警備員服も上半身はズタズタに裂かれていたが、さすがは戦闘用、目立った傷は無い。
見ると、両腕には、いつの間にかトンファーに似た電磁警棒が装備され、両手の電磁警棒を攻撃用に、
両腕装備のものを防御用に充てていて、その巧みな装備にちょっと感心した。
なるほど、機関銃の代わりにこれを入れてあるのか…。
<こっちはカタがついたぞ>
シュワちゃんの声が入る。
ちらと見ると、黒髪の少女たち以外に、赤毛の白いドレスの少女も、手足を妙な方向に折り曲げて
ぴくぴくと震えながら倒れていた。さすがは「ターミ○ーター」のそっくりさん。
し、しかし…この少女たちのやられっぷり…これは「物体X」顔負けだが…。
ともかく二人とも、少女たちの可愛らしいお顔だけは傷付けないで残してあるのに感心してしまった。
う〜む…人のことは言えないが、二人ともフェミニストだな。
<悪い…こっちの別嬪さんに手こずっている>
スタちゃんの声に続いて<援護します>ジェーンの声と共に数発の銃声が鳴り、怯んだ金髪の少女が
刀を下ろした所に、スタちゃんは左腕のトンファーを少女の胸に押し当て、直後に左肩に電磁警棒を叩きつける。
バリバリバリという電撃の音が響き、またも少女の左肩からぷすっと煙が上がった。
崩れ落ちる少女…。
金髪で…良く見れば黒のゴスロリ服…可哀想だが…許せ。
うつろな瞳で刀を杖代わりに立とうとしていたが、スタちゃんの顔を見上げたまま、動かなくなった。
続けて向かってくる黒髪のショートヘアと、ソバージュヘアの茶髪のOL風のスーツの二人を、バンとジェーンが
正確な射撃で肩を打ち抜き、そのまま二人はバッタリと倒れた。
「状況は?」
ゲートの前に二人の巨漢ドロイドと立ったおれは、ちらと振り返って尋ねた。
目の前には美少女たちが『屍累々』の状態で倒れ伏し、正面、そして左右から別の少女たちが向かってくる。
髪をひとつに束ねてお下げにした、ピンクのナース服の少女が、電磁警棒をおれに振り下ろす。
かわしながら、その柔らかそうなお腹に警棒の柄をくらわせ、そのまま一旦引いて右肩に打ち下ろす。
<前衛の皆さんが八人、援護の御二人が七人倒しました。あと、ネネさんとチャチャさんが射掛けた事で
十人ほど活動不能なようです>
シローの言葉と同時に、バリバリという電撃の音と共に少女のナース服がちぎれ飛び、肩口から煙が上がった。
少女の端正な顔から表情が消え、そのままくずれ落ちる。
「この次の集団を叩いたら、一気に抜けるぞ」
数倍の相手を前にしてこの戦いぶりは、善戦どころか圧倒的と言えなくも無い。
だが、矢も弾丸も限りがある。
特に矢は、一度に十本以上を数度に分けて打ち込んでいるので減りが激しい。
幸い弾丸はワゴンにたどり着ければ補充が利くが、矢は打ったらおしまいだ。
そうなったらチャチャとネネも前衛に出さなくてはならなくなる。
…できればそれは避けたいのが、おれの本音だが…そう言ってもいられないか。
「矢は後、どのくらい残ってる?」
<五十本です>
<…七十本ですね>
ネネとチャチャの声が続けて入る。
<ぼっちゃま…次はわたしも突っ込みます>
何を思ったか巴の声が入ってきた。
<ネネちゃんも淀ちゃんも、次に連射したらわたしの左右についてください>
思い切って密集隊形で切り抜けようというのか。
<御二人は僕と巴さんと一緒に、前衛のお三方のバックを守ります>
確かにそれなら、前衛のおれたちに接近して援護できるだけ安全か。
おれは頷き、続けて言った。
「よしわかった。…バンとジェーンは、その直後、ネネたちとシフトチェンジしてください」
<了解、引き続け援護射撃にまわる>
<弾丸はまだまだ大丈夫ですよ>
長射程の…しかも口径の大きな銃がこちらにもあるのは心強い。
シュワちゃんがまた一人少女の腕をむんずと掴んで、そのまま肩口に電磁トンファーを叩き付けるのと同時に、
彼の後ろにまわりこんだウェイトレス服の少女の肩口に、バンが正確に一撃浴びせて活動不能にする。
いよいよ、正念場のようだな。
おれは乾きかけていた唇を噛み、軽く舌なめずりした。
>>454〜461 連続投稿制限にかかりますので少々お休みします。
>>448 凄い!この密度の濃さ、脱帽です。GJです。
いやいや、十分感じさせて頂きました。
正念場だな
山を超えたら種の維持本能が爆発しそうだw
そんなおれの前に、今度はソフトボールのユニフォームにサンバイザーの少女が突っ込んできて、金色の
金属バットをぶんぶんと勢い良く振り回してきた。
バイザーから零れた茶色の髪が美しく、まだあどけない顔立ち…。
しかも泣きそうな顔で一生懸命振り回している。
良く見ると小柄で…『OJ-MD8』のバッジが…無い!?
さっきの娘は自分の意思があったようだし…どうなっているんだ?これは。
「おとなしく…従ってください!」
相手は、どう見てもローティーンの女の子にしか見えない外見だが、風切るスイングスピードは異様だ。
「馬鹿!そんなもん振り回されて大人しくできるかぁ!!」
金属バット相手では、電磁警棒でも直撃したらこっちが折れる可能性があり…分が悪い。
…畜生、こうなったら、電磁警棒一本犠牲にしてもう一本で…。
一旦飛び下がってかわし、右腰に下げた方を、素早く左手で抜き取る。
だが、着地の際、体勢が崩れてかわし損ね、一瞬早く、ソフトボール少女のバットが右の電磁警棒に当たった。
ギン…という金属の弾ける音がして、おれの手はびりびりと痺れ、思わず堪りかねて取り落としてしまった。
しまった!やっちまった。
「ぼっちゃま!」
インカム越しで無い巴の声がして、それと同時に物凄く長い棒状の物体がソフトボール少女に振り下ろされる。
「きゃっ!」少女の顔が恐怖に歪み、そのまま目をつぶる。
そして少女の小さな肩に長い棒がもろに命中し、そのまま電撃の閃光が上がった。
ユニフォームが焦げて裂け、ブラの白い肩紐が露出するのが見えた。
正気を失い、膝からすっと崩れ落ちる少女から、サンバイザーが外れ落ち、長い茶髪がなびく。
振り返ると、巴の手にしている電磁警棒は、巴の肩ぐらいまである…つまりはおれの身長ほどのもの。
先端が湾曲していて…どう見てもナギナタみたいだ。
「済まん…助かった」電磁警棒を拾い、まだ痺れる右手をさすりながら、軽く手を上げた。
巴はにっこり笑って首を振ったが、すぐに真剣な顔で少女たちの方を向いた。
「いいえ、どういたしまして……それにしても、敵も戦法を変えているみたいですね…」
「…こちらの戦法を分析しているのか」
「はい…しかもシロー君の分析では、増援が近づいているようだと」
だから、電磁警棒対策に、金属バットなんて持ち出してきたのか?
そうなると長丁場は一層不利となる。
「だとすると、やはり短期決戦で決めるしかないな」
おれは唇をかみ締めた。
<『tomo』…何故、わたしたちのもとへ来ないのですか?>
再び呼びかける声が響く。
巴はキッと声の方を睨みつけた。
そして、少女たちの『唱和』する声に答えるように、巴はおれの脇に立ち、『ナギナタ』を構えて仁王立ちした。
そのすぐ後ろの左右の脇に、弓矢を番えたネネとチャチャが控えている。
三人とも…このまま一緒に前衛に立つつもりなのか?
シュワちゃんもスタちゃんも巴の気迫に押されたのか、三人の横で身構えて待機している。
巴の気迫は、後ろにいても感じられるほど、強く、凛々しく、決意に満ちたものだった。
いつものまったりな穏やかな姿では無く、それは戦国時代の戦乙女を思わせるもの。
そして巴は眉を吊り上げ、顎を上げ一際通る声で高らかに告げた。
「わたしの大切な人たちを…ドロイドの仲間たちを…ぼっちゃまを傷つける者は…断じて許しません!!」
<今です!!>
シローの叫び声と共に、ネネとチャチャが束ねた矢を一斉に打ち放つ。
次の瞬間、少女たちの腕から閃光が上がるが、一瞬早く、シュワちゃんとスタちゃんが前に飛び出し、
彼らの身体に無数の弾丸が突き刺さる。
「シュワさん!」
ネネが悲痛な叫び声を上げるが、シュワちゃんは正面を向いたまま、つっと親指の右手を上げた。
スタちゃんも両手を上げて一歩も退かない構えだ。
くそっ…やるじゃないか!…お前さんたちの行為…無駄にしないぞ!!
「ひるむな…全部射掛けろ!」
我ながら、随分非情な命令を下しているな…と思いながらも、おれはそう命じるしかなかった。
すかさずチャチャが、やや遅れてネネが素早く束ねた矢を連射する。
矢自体の速度は弾丸よりは遥かに遅い。
だが物が長く、しかも放物線を描いて打ち上げられ、その頂点で散開して降り注ぐ光景は心理的に
大きなダメージを与えることに成功していた。
少女たちの群れに、文字通り雨のようになって降り注いだ矢は、必ずしも決定的なダメージを与えては
いないが、それでも頭部に受けたら、下手をすれば致命傷なのだ。
ひるませ、足止めさせるには十分な量だった。
機関銃を撃っていた少女たちも、思わず銃撃を止め、反射的に腕や手を、頭や顔にかざす。
「今だ!突っ込め!!」
おれは電磁警棒を握りなおして、真っ先に駆け出した。
人間相手なら、それほど銃撃はできないはずだ。
やや遅れて、傷だらけのはずのシュワちゃんとスタちゃんも少女たちの群れに突っ込む。
「あ、ぼっちゃま!」
「皆、続け!」
巴の声に続いて、バンの肉声の怒声が聞こえ、おれはそのまま走りだし…。
少女たちの群れの奥の一段高い場所に一人佇んでいる、赤毛のツーテールの少女の姿に気づいて、あっと
声を上げそうになった。
「…と、ともねえ…!?」
それは…何度も、夢にまで見た…懐かしいともねえの姿。
腕組みして、じっとこちらを見つめる笑顔は…昔のまま?
「ぼっちゃま!騙されないで!!」
すぐ横にやってきた巴が『ナギナタ』を構えながら怒鳴った。
「あれはトモミです…朋さんではありません!」
巴の姿と声に、おれは一瞬にして現実に引き戻された。
「ありがとう…その通りだ」
おれは巴の顔を見上げ、静かに笑いかけた。
そうだ、おれにとっての『ともねえ』は…この巴なんだ!
「ぼっちゃま…」
巴の黒い瞳がおれをじっと見つめ、それから、にこっと笑うと小首を傾げ、右手で軽く敬礼に似た会釈をした。
「…よし…そういうことなら…トモミを狙おう…」
おれは巴に頷き返し、それから振り返り、すぐ後ろに駆けて来たバンに小声で囁いた。
「倒せないまでも…大将を混乱させれば、時間は稼げる」
「わかった…任せろ」
バンはジェーンと目で合図しあい、トモミの方を凝視した。
前にいたシュワちゃんとスタちゃんがその直後、立ち止まり、数人の少女たちと組み合い、ネネとチャチャが
組み合って動けない少女たちの肩口を、電磁警棒で袈裟懸けに打ち下ろしていた。
「いくぞ、巴!」
「はいです!」
目の前に二人の少女が現れ、やはり電磁警棒を振り下ろしてきた。
双子仕様なのか…顔立ちはそっくりなのだが、一人は黒髪のポニーテール、もう一人はツーテール。
黒の学生服のブレザーを着た二人が左右から打ち込んできたが…連携が甘いぜ!
おれがポニテの娘に素早く打ち返し、たじろいだ所を、間髪要れず、電磁警棒の柄に当てて痺れさせ、
ツーテールの娘が時機を逸してひるんだところを、巴が『ナギナタ』で立て続けに打ち下ろして肩口を破壊し、
あっと言う間に二人とも活動不能にする。
続けて、正面から五人やってきたが、巴は軽やかに飛び上がるや、上空から『ナギナタ』を振り下ろして
少女達を怯ませ、着地するや激しく何度も何度も振り回し、その都度、少女たちが弾き飛ばされて、派手に
地面を転がっていく。
起き上がった少女たちに向けて、おれは立て続けに電磁警棒を叩きつけ、活動停止にしていった。
しかし、それも巴の活躍あれば…だ。
「す…すごい」
ネネとチャチャが一瞬、振り返り、巴の奮戦振りに驚きの視線を向けた。
巴はさらに『ナギナタ』を横にして、向かってきた三人の少女に真正面からぶつかって、そのまま弾き飛ばし、
そのまま斜めに、いとも無造作に、だが的確に『ナギナタ』を振り下ろし、全員の肩口に煙を吹かせる。
しかも、休むことなく、振り向きざまに後ろから向けられた長槍をかわして、それを掴むや、握っている少女ごと
持ち上げるや、何と、おれの方に放り投げてきた。
「ぼっちゃま、頼みます!」
投げられた少女は地面に跪き、槍を立てて立ち上がろうと顔を上げたが…。
間髪居れず振り下ろされた、おれの一撃で活動停止になってしまった。
だが凄い!凄すぎる…!!
巴と二人だけで…立て続けに十人!
いや、巴のスピードとパワーがあればこそだ
…なるほど、本人はとても嫌がっていたが…『巴御前』のニックネームは、やはり伊達じゃない!
ゲートを出てからは、こちらの逃亡戦になっていたが、巴の奮戦で少女たちも浮き足立っていた。
何せ、おれが傍に居る事で、銃の類が殆ど封じられ、逆に巴が扇風機の如く振り回す『ナギナタ』に全く
近寄れず、次第に遠巻きに囲み始めていたぐらいなのだ。
最初予定していた戦法と、全く違っていたのも幸いした。
当初こちらは少数で、矢や弾丸を撃ち尽くしたらアウトだったのだが、ここにきて巴が、ついにその真価?を
発揮し始めたのだから、彼らにしてみれば計算外だったのだろう。
さらに…既に人工皮膚のあちこちが破れ、中のフレームが一部見えるほどにボロボロになっていたが、
巴の左右には、シュワちゃんと、スタちゃんの二人が、闘志満々で身構えているのだ。
じりじり、じりじりと、遠巻きに武器を構える少女たち。
…と…次の瞬間…正面の囲いに、僅かだが隙間が出来た。
ようし…やるなら…今だ!
おれは左脇に立ったシローに目くばせした。
「バンさん!今です」
シローがそう叫びながら、少女たちの群れに円筒形の物体を放り込んだ。
シュッと煙が噴出し、シローは更に幾つもそれを放り込む。
やや遅れてネネとチャチャも、それを少女たちの群れに投げつけた。
辺りが次第に白煙に包まれていく。
最後の最後まで取ってあった催涙弾だ。
もちろんドロイド相手に効果はない…だが、煙幕の代わりにはなる。
そして…その直後…。
大きな銃声が立て続けにふたつ鳴り響き、彼方でばったりと倒れる人影が見えた。
振り返るとバンとジェーンの手にしている銃の先端から、硝煙が上がっていた。
…途端に少女たちの動きが乱れ始め、押し合い、もみ合う光景が見えた。
トモミを…倒したのか?
いや…まだだ…まだに決まっている…ならば…。
「チャンスだ!皆、走れ!!!」
おれはあらん限りの声を上げて怒鳴った。
皆…必死で走った。
おれたちの様子に気付いた少女が数人、正面にやってきたが、巴が『ナギナタ』で打ち払い、
転んだところを、シュワちゃんとスタちゃんの電磁警棒に叩きつけられて動けなくなり、さらに
シローが残った最後の催涙弾を追っ手に放って煙を浴びせ、敵の目隠しをしつつ走り抜ける。
ネネとチャチャはバンとジェーンの後ろを走り、二人をかばう様にちらちらと様子を伺っている。
…おれはしんがりを努めながら、ちらと振り返った。
彼方に…おれが想いを寄せたひとにそっくりな…ドロイドが立っているのが見えた。
かなり遠いので表情は判らないが…。
どうやら致命傷は与えられなかったらしい。
妙にほっとする気持ちと共に、これで倒れていてくれたら…という気持ちがないまぜになって
正直、ちょっと複雑な気持ちだった。
…そして催涙弾の煙の中に『彼女』の姿は見えなくなった。
路地裏に駆け込むと、まだ追っ手の気配が無く、ちょっと安堵した
そして、バンのワゴンに辿り着くと、巴を中央のシートに急いで乗せ、ドアを閉じた。
巴自身がリンク・システムで探知される可能性が高いので…である。
それにしても、巴はアタマをぶつけずに、すんなり乗り込んで、おれは少し驚いた。
もしかすると『全開モード』で動きが機敏なのかもしれないな…と、思わず苦笑した。
続いてネネ、チャチャ、シローが後部の三列シートに滑り込み…ジェーンが助手席に乗り込み、
おれとバンが振り返ると、シュワちゃんとスタちゃんは…そっと首を振った。
「おい…でも…」
おれの言葉にも二人は首を振った。
「それに…そのクルマに全員は無理でしょう」
スタちゃんが人懐っこい笑みを浮かべてニッと笑った。
全身傷だらけで、顔中にも無数の弾のこすった跡が付いていて痛々しいが…それでも清清しい
笑顔でおれたちに会釈してくれた。
「それに、本社が気になりますしね」
シュワちゃんが真っ白な歯を見せた。
こちらはもっと凄く…向かって右目…つまり彼の左目の辺りがざっくり裂けて、銀色の人工骨が
見え、その中に赤い機械の瞳が輝いていた。
うわっ…!まさにこれはT8○0…そのままじゃないか。
後で聞いた話では、シュワちゃんは、スタちゃんの格闘センスを生かすために、進んで弾除けに
なり、この為、被弾数は倍以上だったらしい。
「しかし…このままでは君たちは」
「覚悟は出来てます」
スタちゃんがボロボロになった警備員服の袖をめくりながら言った。
「それに…ただでは済ませませんよ」
「大丈夫…また…きっとお会いしましょう」
そう言ってスタちゃんは親指を立て、
「I‘ll be back!」と 張りのある声を上げ、そしてニヤリと笑ってみせた。
数分後…ワゴンは走り出した。
振り返ると、巨漢の二人が大きく手を振って見送っているのが見えた。
その姿も段々遠ざかる…。
「…スタさんたち…大丈夫でしょうか…」
ネネが、後ろから身を乗り出して、中席のおれに話しかけた。
チャチャに至っては、今にも泣き出しそうな顔で、じっとおれの顔を見つめている。
「…正直…かなり危険な状態です」
シローも沈痛な面持ちで首を振る。
おれも…そして運転するバンもジェーンも、何も言えないでいた。
「…大丈夫ですよ」
ふいに、おれの右の席にいた巴が、静かに口を開いた。
「トモミの目的は、わたし一人…もう囲いは解いているはずです」
「でも…」
チャチャが口を開きかけたが、巴はそっと、チャチャの頭を撫で、静かに微笑んだ。
「大丈夫…二人とも、元は軍用…本気になれば、あの程度の一団に負けやしませんよ」
そう言いながら、ちらと振り返り、二人に目をやり、それからネネとシローにも笑いかけた。
「本来はその位の戦闘能力を持っているのです…」
「…確かに、お嬢さんたちの手持ちに、迫撃弾とかロケット弾とかは無かったな」
巴の言葉に、おれも思い当たるものがあった。
「それに、二人とも、おれやバンが居たから、却って力を抑えてくれていたフシもある」
「そうだな…二人を…信じようよ。みんな」
バンの言葉にジェーンが頷き、ネネとチャチャはシローの顔を見…やがて三人は小さく
頷きあい、振り返って、遠ざかっていく二人に改めて手を振った。
こうして脱出作戦は辛くも成功した。
この後は、いよいよトモミ…シンクロイド・システムとの最終決戦だ。
何気に窓の外を見ると、やはり動けなくなっているドロイドたちが、収容されている光景が
幾つも目に入り、おれは唇をぎゅっと結んだ。
前席のバンたちも、後席のネネたちも、その光景に何も言葉を発せないでいる。
ふと気付くと、巴がおれの手をそっと握り締めていた。
その瞳には決意と不安、そしておれに対する想いのようなものが感じられ、おれもその手を
しっかりと握り直す。
何があろうと…おれは、いつまでも巴と一緒だ!
その想いが通じたのか、巴は頷き、その澄んだ黒い瞳は、暫しじっとおれを見つめていた。
やがて、すっかり陽が落ちて、ワゴンは夕刻の街からハイウェイに乗り、一路、研究所に
向かっていた…。
>>464〜
>>469 今日はここまででございます。
…次はいよいよ最終決戦…の予定です。
あと数回…で終わると思うのですが…いつも遅筆で済みません(汗)
>>470 GJ!
しかし、ロボ娘が壊される場面は、心が痛む…orz
>443 で、出遅れた……宜しければ再を
473 :
200:2007/11/20(火) 00:50:53 ID:DBnxYg0E
>>472 再度上げました。
1146208.lzh
474 :
472:2007/11/20(火) 01:09:37 ID:4h26o9pL
ありがとうございます。前3作からまた通して読ませていただきます。
ホシュ
夜のハイウェイをワゴンは静かにひた走る。
西へ向けて50キロほど行った先の山の麓に、オムニ・ジャパンの研究所があるのだ。
車中から見える夜景は、まるでその場に星を散りばめた様に美しく、後席のネネとチャチャが
しきりに、ここはどこ?あそこは?と、シローに訊ねていた。
シローは苦笑混じりに、それでもひとつひとつ丁寧に答えていたが、まるで茶目っ気たっぷりな
双子の姉に、しっかりものの弟みたいな光景で、いつしか車内は和やかな空気が流れていた。
先刻までの必死な戦いの疲れが少し癒される。
「…ヒデと天野さんが一緒になったら…三人は本当に、色んな意味で姉弟だな」
ふと、そんな事を呟くと、いきなりぺしっと頭を叩かれた。
「あいた!」
振り返ると真っ赤な顔のチャチャと照れ照れ顔のネネ…それにうつむいて困った顔のシロー。
「そういう無粋な事…言っちゃ駄目っす」
チャチャがそう言いながら、ネネとシローの首に両手を廻してふふっと笑った。
「わたしたちは…いつでも一緒です」
「え…と…まあ…はは…」
シローの照れ顔も…これがなかなか可愛らしく…。
本当に、メイクし直したらショートヘアの美少女みたいで…美少女三姉妹と言っても通るよなあ…
などと思ってしまった。
だが…それと共に、こんな大事な家族を寄越してくれた秀一と天野さんに…そして自ら志願
してくれた彼らに申し訳なく思うと共に…感謝の気持ちで一杯になった。
「今日は…助かったよ…」
おれは改めて三人の顔を一人ずつ見つめ、それから頭を下げた。
「皆が居たから…おれたち、こうして脱出出来た…本当に感謝の言葉も無い」
「…いいえ。貴方と巴さんは特別な人たちだから」
ネネがそっと首を振った。
「マスターが言ってましたよ。あいつはおれのダチで、兄弟みたいなものだって」
チャチャは右目をつぶって人差し指を立てて見せた。
「だから何としても…絶対に助けるんだって…」
「ええ。うちのマスターも…怖いぐらいの気迫でした。だから、僕たちも…」
「二人とも…事情もろくに知らないのに…そこまで信じてくれてたとは…」
おれは…恥ずかしながら…じわっと目頭が熱くなるのを感じた。
たぶん、後で春日課長から事情は説明されたとは思うが…仕事を引き継いだ時、何も言わずに
引き受けてくれた秀一と、それに従ってくれた天野さん。
そして、二人の代わりに参戦してくれて、一緒に危険を脱してくれた三人のドロイドの仲間たち。
おれは何て素晴らしい友人たちを持ったのだろう…と…。
不覚にも涙が出そうになって何度もまばたきし、上を見上げたまま前を向いた。
「…本当に…ありがとう…な!」
その時、こほん…と運転席から咳払いがした。
おれが泣きそうになっているのを、バンはちらとミラー越しに見ていたらしい。
ありがたい…と思いつつ、軽く、さりげなく涙を拭う。
「…ところで、さっきのドロイドたちだが」
バンの視線とおれの視線が一瞬、ミラー越しに合った。
「ちょっと気になったんだが…中に何人か、意思を持った娘たちがいたように思うのだが」
「そういえば…おれが倒した娘を助けようと、名前を呼んでいた娘がいたな」
おれの言葉に、巴も大きく頷いた。
「金属バットを振り回していた娘なんて、泣きそうな顔して説得しようとしてましたよね」
確かに…あのソフトボールのいでたちの娘など…そうだった。
「妙だと思わないか?」
「おれもそれが引っ掛かってたんだ」
バンの言葉に、おれも先刻からずっと気になっていた疑問を口にしていた。
「本来、シンクロイド・システムはまっさらで、自分の意思を持たない…言わば素体状態の
ドロイドに心を『書き込んで』コントロールするものじゃなかったのか?」
「ええ。そのはずでした」
助手席から振り返ったジェーンが、複雑な表情でおれたちの方を向いた。
彼女の知識は、亡くなったジェニファー嬢から受け継がれたものだから、ドロイドについての
博識や見識は、うちのお袋にも匹敵するはずだ。
だが、ジェーンの表情は困惑と、若干の焦りも感じられた。
「ですが…システムに共鳴…いえ、この場合、本人が自らの自由意志で同意したとすると、
システムに従ってか…あるいは操られて行動した可能性も、十分あり得ます」
「自由意志…ですって!?」
チャチャが信じられない…という口調で勢い良く口火を切った。
「そんな…あんなに群れ成して、わたしたちを出すまいと…ともちゃんを捕まえようとして
いたのに…それがあの娘たちの…全部じゃ無いかもしれませんけど…意思だったって
言うのですか?」
「ええ…可能性の問題ではあるのですけど…」
ジェーンはそっと頷き、それから、ちら…と巴に目をやり、少しためらいがちに続けて言った。
「…判るのよ…わたしも…シンクロイド・システムで生まれた存在だから」
「え???」
最後列の三人が一斉に驚きの表情でジェーンを見つめた。
「…それは…くれぐれも秘密だ。それも国家レベルのな」
すかさずおれはクギを刺した。
「でないと、下手をすると秀一や天野さんたちにも塁が及ぶぞ」
「まあ…彼らのマスターなら信用できると思うがね」
バンが苦笑混じりに口を開いた。
「くれぐれも…他には口外はしないで欲しい」
「二人は…テロリストに奪われたシステムの奪還…または破壊の為にやってきたんだ」
「だから…そんな大きな口径の銃を所持されていたのですね」
流石にシローは冷静に分析している。
「日本では…ありませんね」
「ああ…その通りだ」
「まあ、それがどこかはおいおい話すとして」
おれは、それより気になる事を訊ねていた。
「ジェーンは…シンクロイド・システムの被検体だけど、トモミの呼びかけは無かったのかい?」
「ええ…わたしを直接名指しではありません。ただ…ドロイド一般に対する呼びかけは聞こえたのです」
「ドロイド一般…ってことは、リンク・システムの影響下にあったのかい?」
「そうですね…あった…とも言えますし、無かったとも言えます」
「どういうこと?」
「『人間に、使い捨ての武器の代わりにされる事に、不安と不満のある者は我に集え…』…確か、
そんな意味合いの呼びかけが成され、それがわたしの頭に入ってきたのです」
「呼びかけ…?」
「はい。でもわたしは…多分、システム的にほぼ同じでも、巴さんの様に、トモミと同一に近い存在で
無かったので、独立した…と言うか、並立した別の存在として認識されていたのだと思います」
「別のシンクロイド・システムとして…か」
「ただ、呼びかけは聞く事が出来、わたしにも参加を求める『声』は聞こえました」
「でも君は…きっぱり断った…と」
「はい。わたし自身が拒絶し、以後は完全にリンクを切りましたから、大丈夫です。
…ですが、これを何度も『聞かされ』ますと…人間を信じ、愛するドロイドたちの心が乱れ、下手を
するとノイローゼの一歩手前まで行くでしょう」
「つまり…別の意識が乗っ取ろうと…言わば洗脳に近い形になる訳だな」
おれの言葉に巴が沈痛な面持ちで頷いた。
「そうです、ぼっちゃま。ドロイドたちが活動を休止したのは、まさにそれが原因だと思います」
「つまり…人間に反旗を翻すことを拒絶したドロイドたちが…本能的に自閉症モードになったのか」
「はい。自らの意思と、そして人々を守る為に、自ら活動を停めたのです」
「そういうことだったのか…」
おれは、う〜む小さく咽喉で声を出し、額に手の甲をあてた。
「確かに…人間によっては…確かにドロイドたちに偏見を持ったり、道具や兵器の代わりにしたり、
…あまつさえ自爆ドロイドみたいに、使い捨てにする馬鹿共が、まだ大勢いるからな…」
おれは前を向きジェーンを見、それから振り返ってチャチャたちを見、それから巴を見た。
「確かに、皆、身体は機械だ。でも人の心をそっくり…完璧に移された巴やジェーンはどうなんだ?
人が霊魂だ魂だ…なんて言うなら、おれはチャチャたちにも魂があると思ってる。それなのに、
そういう馬鹿野郎どもはドロイドを消耗品の代わりにしやがる…!」
「たぶん…あの娘たちの中には、生まれて間もなくて、そういう扱いをされる事が怖かったり
不安だったりした娘もいたのでしょう」
ジェーンは伏せ目がちにチャチャたちを見た。
「それで賛意を示したものの…実際の身体の機能はリンク・システムに委ねられて…」
「図らずもクーデター活動に参加したものの、気持ちの上ではまだ嫌々…という娘もいたんだな…」
「さっきの『呼びかけ』や一連の状況から判断しますと…そうだと思います」
ジェーンは再び前を向き、バンの肩に手をあてた。
「ごめんなさい、バン…その事をお話し出来なくて…」
バンはちらとジェーンの方を見、左手でそっと彼女の頭に手をあて、静かに笑みを浮かべ、首を振った。
「気にしないでいい。それより、君にも『声』が聞こえながら、おれたちを選んでくれた方が、よほど
重要だし…嬉しいよ」
「バン…」
感極まった顔でバンを見つめるジェーン…。
しばし二人だけの時間が流れかけた…が。
後ろからじ〜っと見つめる視線にハッとなり、慌てて正面を向き直った。
「ふふ〜!」
チャチャが両手を口に当ててにこ〜っと笑っていた。
ネネもシローも興味深そうに瞳を丸く見開いてじ〜っと見つめている。
「良いですね〜!」
チャチャが、にまぁ〜っと人の悪い笑みを浮かべて続けた。
「うんうん…素晴らしいです!人間とドロイドの理想的な関係がここにありますね〜」
「え…あ…」
真っ赤になり、困惑し、言葉の出ないジェーンに畳み掛けるチャチャ。
「ささ、どうぞどうぞ。わたしたちにご遠慮なく…続きを…続きを!」
バンがぷっと吹き出した。
おれも巴も堪り兼ねて笑ってしまう。
「…う〜!…もう!!」
再び振り返ったジェーンが、ふくれっつらの怖い顔で、思いっきり拳を振り上げる。
「そんなじろじろ見ない!それにそれ以上言ったら、三人ともここから放り出しますからね!!」
「おおこわ!」
ネネとシローが青ざめた顔で,慌てて両側からチャチャの肩に手を置くが、チャチャはニッと笑い、
再び片目をつぶってから…改めてにっこり笑った。
「ま…お幸せにね、パートナーのジェーンさん」
「…もう!」
再び拳を振りかけたジェーンだが、ふっと苦笑を浮かべ、親指を立てて片目をつぶって返した。
そして様相を崩して前を向いた。
「ま…励ましとして…そのお言葉…頂いておくわ」
何だか、二人の間に『女同士の友情』の様なものが芽生えたらしい。
ほっとした様子のネネとシローだったが、二人の和やかな様子に気付いて静かに微笑んだ。
「…これでチームワークもばっちり…かな…?」
思わず呟くと、巴がにっこり笑っておれに頷き返す。
…この一件が無事に終わったら…皆を集めて、お礼のパーティでも開くかな…。
ふとそんな事を思った。
研究所まであと1キロ強の所まで来た時…おれは、ある交差点の手前で、ワゴンを停めてもらった。
地方の市街地…時刻は19時。
さて…今の時代、クルマはナンバープレートを付けると、違反防止と盗難防止の為、エンジンを
かけるとクルマからナンバーの情報が、必要に応じて警察からアクセス出来、所在が判るように
なっている。
このワゴンには、隠密活動用として『ナンバープレート変換システム』なるものが付けられていて、
ナンバープレートを電動で変更出来、それとリンクしてクルマから発せられるアクセス情報が瞬時に
書き換えられ「別のナンバーのクルマ」に変わる事が出来る。
その情報は、極秘の存在とかで、ネットで公表されていないので、おれたちの姿が発見されない
限り、このクルマの存在はリンク・システムと言えど、発見できない。
…だが、それを知られたら、今後、このワゴンは使えなくなる。
それではバンたちも困るだろう。
それに…何と言っても、皆をこれ以上危険に晒すのは忍びない。
これが最大の問題だ。
ワゴンを口実に…二人なら見つかりにくいから…と言うことで、皆にはここで待機してもらおう。
とりあえずお袋に連絡して、迎えを寄越してもらうなり何なり考えよう。
おれは、そんな事を色々考えて、ここから先は、おれと巴だけで歩いて行くことを提案した。
「どのみち…この先はドロイドが張っていると思うし…後はおれと巴で行く」
おれの提案にバンたちは即座に反対した。
「たかがクルマ一台と君たちの安全には代えられない!」
「そうです。それにお二人に何かあったら、僕たち、マスターに合わせる顔がありませんよ!」
「…気持ちは嬉しいが…皆に何かあったら、それこそおれが二人に合わせる顔が無い」
おれの言葉にシローは唇をぎゅっと結び、それから首を振った。
「それでも…バンさんには悪いですけど、このクルマを犠牲にしても、お二人を無事に送り届ける
方が大事だと思います!」
「しかし…もしさっきの様な一団が来たら…このクルマで吹っ飛ばす気かい?」
シローはうっと言葉に詰まったが、一瞬後、決意を固めた顔でおれをじっと見据えて言った。
「同胞を…それも女の子をハネるのは本意ではありませんが…それも覚悟しています」
「そうか…」
おれもそこまで言われては、反対は出来ない…。
だが、ともかく、ここから先はより大きな危険が考えられる。
けれど、巴や、特命で来たバンもジェーンはともかく…シローも、ネネもチャチャも一歩も譲らない
構えなのには、嬉しく思うと共に、依然として迷いが残る。
「わかった…だが、ともかく一度、お袋に連絡させてくれ」
皆の決意に、そこまで言うのがやっとだった。
「ぼっちゃま…くれぐれもお気をつけて…」
ワゴンのスライドドアを開け、降りかけた時、巴が心配そうな眼差しでおれに手を挙げた。
巴が出ると、シンクロイド・システムの探知に所在の方位がばれる為、一定の場所にとどめて
おくわけには行かないので、外へは出られない。
二人っきりで行く時は、常に移動するので、タイムラグが考慮出来、多少の余裕があるのだが、
この場では出ない方が無難だ。
「ああ…だが……万一の場合は…一人で行ってくれ…」
ふと…何か妙な予感がして、おれはそんな事を言っていた。
「え?」
巴の怪訝そうな顔に手を挙げて返し、おれはすぐにスライドドアを閉じ、夜の通りに駆け出した。
この街には、昔住んでいた事があり、ともねえと初めて出会った思い出の地でもある。
角を曲がり、まだ煌々と灯りのつく商店街の脇に出て、久しぶりの通りに出て携帯の電源を入れた。
人通りはそこそこあるが、ドロイドも大勢いてちょっとひやりとする。
すぐに発信し、耳に当てる。…暫く呼び出し音が続いた。
くそっ…なかなか繋がらないぜ。
そう思った瞬間、ぷつっという音がした。
「もしもし」
『…その声だと無事みたいね』
おなじみの声に、おれはほっと胸を撫で下ろした。
「ああ…『下』の街にいる」
『お千代ちゃんから聞いたわ…大変な立ち回りを演じたそうじゃない』
「…どこも迎えが来てくれないんじゃ、仕方ないさね」
『…ごめん…こっちも人手が裂けなくて』
少しふて腐れた言い方に、流石に済まなそうな声が返ってきた。
「だが、問題はここからだ。今、巴たちはクルマに残ってるんだが、この先、どうしたものか…」
『…あなた…クルマから離れてるの?』
「ああ…そうだが」
『今すぐ電話を切ってそこから離れて、以後は公衆電話に切り替えなさい!盗聴はされないけど、
位置を探知されるわ!』
「え?なんだって…!?」
てっきり位置など読まれないと思っていたのだが…。
考えてみたら、通信内容が秘匿なのであって、電話番号から位置を特定できるか…。
畜生…なんて迂闊な!
親父の改良携帯なので、そこまで考えてある…と、つい思い込んでしまっていた!
「わかった…後で」
そう言って電話を切ろうとして、交差点から幾つもの人影が見えて、おれはハッとした。
人間に無い、やけに綺麗な色の瞳の少女たちのグループ。
皆、同じピンクのウェイトレスの服を着ているが、いずれも無表情。
振り返ると、別のグループがこちらに向かってくるが、こちらは全員、紺のメイド服。
前後共に五人ずつ…横一列に並んで、じわじわと近づいてくる。
…畜生…追っ手か…!
ほぞを噛む思い…というのは、こういう事を言うのだろうか。
もっと早くに気付くべきだった。
「…挟み撃ちにされた…捕まるかも知れない…その時は巴を頼む!」
おれは電話に向かってそう怒鳴り、スイッチを切った。
そして、前後をちらと見てから、ヘッドライトを照らしたクルマの往来する道路に勢い良く飛び込んだ。
けたたましくクラクションが鳴り響き、危うくおれをハネそうになったドライバーの怒声が聞こえる。
済まない!だが、ここで捕まる訳にはいかないんだ!!
心の中で詫びながら、反対側の歩道に渡りきると、同じ様に道路を渡ったのか、左右から
ウエイトレスとメイドたちがこちらに向かって走ってくるのがちらと見えた。
構わずまっすぐ突っ切り、狭い路地裏へ。
この辺りは、おれが小さい頃、遊び場として使った所だ。
地図に載っていない小さな小路まで総て把握している。
そして、隠れ場所として使えるビルに至るまで…。
角を右に曲がり、直ぐ左に曲がり20メートルほど突っ切る。
更にそこから30メートルほど行った未舗装の砂利道を走る。
夜なので足元が悪くて躓きかけるが、体勢を立て直して更に突っ切り、それから、そのまま真っ直ぐ
走って、さらに左に曲がり、その路地の右にある小さなアパートの階段を駆け上がった。
…幼い頃、良く隠れ場、逃げ場として使った場所だ。
ここの五階の奥は、ちょっとした広間になっていて、住人用に自販機や古びたベンチが置かれてある。
地元の人間でも知らない…アパートの住人と、子供達だけの小さなサロンコーナーだ。
…ありがたい!まだあったか!!
ここなら…そう簡単には判るまい…。
中に入り、それからひとつだけある大きな窓から下を見下ろすと、丁度、黒い人影が幾つも行き来して
いる光景が見られて、全身が総毛立ち、冷たい汗が全身に吹き出した。
ここまで迫ってくるとは…それに、上を見られたら一環の終わりだった。
油断大敵だぞ…!しっかりしろ。
…だが、十分経っても二十分経っても、少女たちの姿は現れず、やがて少女と思しき人影が幾つも
彼方に走り去っていくのが見え、思わずほっと息をついた。
「…やれやれ…」
額の汗を軽く拭い、大きく息をつくと、ちょっと咽喉が渇くのを感じた。
さっきから、短時間とは言え、全力で走りづめで、少し汗も掻いたし…。
見れば、水やジュースの自販機がある…ともかく、何か飲んで落ち着くか。
ポケットから小銭を取り出しながら…巴たち…心配しているだろうな…と考える。
そして、改めて窓の外を見、それから五百円玉を出そうとして…
おれは…。
背後に、ふっと人の気配の様なものを感じて…
咄嗟に振り向き…思わず、あっと大声を上げそうになった。
暗い階段からの出入口に、静かに佇んでこちらを見つめている…赤毛のツーテールの美少女。
それは…トモミであった。
>>477〜
>>483 今回はここまででございます。
ここから急展開に…なるかと。
>>471 どうもありがとうございます!
確かに壊すシーン…ちょっとズキっときたのですが、メンバーは誰も
AIを潰す事、お顔を傷つける事はしていませんので、直す事は可能かと。
…ただ、首を折られた娘はトラウマになるかも知れませんね…(汗)
「ともねえ…」
その瞬間…おれは…時が止まった様な錯覚を覚えていた。
あの頃と変わらぬ姿の『ともねえ』…。
整った柔らかな丸顔に、大きな蒼い瞳。
艶のある綺麗な赤毛。前髪は眉毛に軽く掛かるほど長く、両側は耳元まで軽く掛かるほど長い。
そして長い髪をきっちり二つに束ねて肩の先まで垂らし、髪留めには白いリボン。
昔、見慣れたエンジのブレザーとスカート…丸衿のワイシャツに更に赤いネクタイ。
整った顔立ちはとても愛らしくも、清楚で知的な印象があり、今見てもアイドルで通るだろう。
そう…ともねえ…そのものだ!
だが…。
その顔立ちが、今更ながら巴に実に良く似ていて…我に返った。
そうだ…これは『トモミ』だ!
ともねえじゃない!!
考えてみると…髪の色やアレンジ…瞳の色が違うだけで、随分印象が変わるものだ。
巴は明らかに、ともねえがモデルであり…このトモミと並べたら、きっと姉妹か母娘の様だろう。
それほど、改めて見るトモミの姿は巴に良く似ていた。
ふと、気付くと、ブレザーの両肩が何かがこすれたように僅かに千切れていた。
多分、バンとジェーンが撃った時の痕だろう。
倒れた様に見えたが、咄嗟にかわしたのに違いない。
…少しほっとすると共と同時に、トモミがほぼ無傷であるという事実は、おれが今、絶望的な
状況にある事を改めて示唆していた。
「…いや…トモミ…だったな」
おれは小銭をポケットに戻し、ちらとトモミの後ろを見た。
…他に誰もいないのか?それとも、下で待ち構えているのか?
トモミは暫し無言でおれを見つめていたが、僅かに小首を傾げ、ほんの微かに笑みを浮かべた。
「あなたの事は…記憶にあります」
「え?」
だが、トモミの顔からは、すぐに笑みが消え、無表情になった。
「昔…昔の朋さんの記憶に…」
「それはそうだろうさ。おまえは、ともねえの分身だったんだからな」
おれが皮肉っぽく言い放つと、トモミは、これまたほんの僅かにだが…悲しそうに…首を振った。
「それは…そうです。でも…わたしには」
「ともねえの姿をしていても…違う…そうだろ?」
「そうです…でも…彼女の記憶や経験は…持っているのです」
「……記憶や経験は…って言ったな?…なら、どうして巴を狙うんだ?巴だっておまえと同じだろう?」
トモミの様子が…思ったより控えめで、しかも…妙に好意的な事に気付いて、おれは訝った。
ここにいるのは…いわばラスボスだろう?
なのにどうして、おれを力づくで連れて行こうとしないんだ?
疑念が段々と大きな疑問に変わり、おれは少しずつ焦り始めた。
これはトモミの巧妙な罠では無いのか?上手く騙して巴を捕まえようとしているのではないか?
…だが、トモミの次の言葉には、思わず飛び上がりそうになった。
「狙っているのは…シンクロイド・システムであって…わたしではありません」
「ちょっと待て!…システムがどうして巴を狙うんだ?それにおまえの本当の目的は何なんだ?」
すると巴はそっと両手を胸にあて、静かに首を振った。
「シンクロイド・システムは…巴がわたしの精神状態を乱す物として捉え、封印するか、改造しようと
しています。…でも、わたしは違います」
「どう…違うって言うんだ?」
おれは少しずつ…トモミに対する警戒心が薄れていくのを感じていた。
明らかに敵意は感じない。
だが…信用するには、まだ早すぎる。
「わたしは…巴に会いたいのです…システムの一部としてで無く、同じひとの分身同士として」
「会って…どうするんだ…旧交でも温めるつもりかい?」
これまた皮肉混じりに言ったが、トモミは初めて満面に笑みを浮かべて、小首を傾げながら頷いた。
…これって…巴と同じリアクションじゃないか?
そしてトモミは目をつぶり、祈るようにおれに囁いた。
「わたしは…わたしの欠けているものを…巴に分けてもらいたいのです」
「…欠けている…もの?」
「はい」
「それは…何だ?」
「それは」
トモミは僅かにためらいながら…静かに、小さな声で言った。
「朋さんの…心…です」
暫くの沈黙があった。
おれの頭の中に、巴の言葉が蘇る。
<ただ…ともねえ…『朋』としての記憶は殆ど受け継がれなかったのですが、意識…心は
このわたしに遺されたのだと思います>
<じゃ…巴の心は…>
<たぶん…『朋』がベースになり、改めて巴として完成されたのだと思います>
「…それは…無理だろう」
おれの言葉に、トモミは目を見開き、どうして?という抗議混じりの表情を浮かべた。
「ともねえの心は…今は巴自身のものだ。ともねえの記憶が無くなって以後、巴自身が自分で
得たものであって…元のままではない」
「…それでも…それでも良いのです!!」
いつしか、トモミの声に悲痛なものが感じられ、おれは、何か胸をつかれる思いがした。
「それでも良いって…だってそれじゃ…君は巴と同じに…いや巴自身になるって意味だぞ?」
「そうです…わたしの望みは…それなのです!」
…トモミの言葉に、おれは暫く言葉を失った。
これが演技だとしたら…アカデミー賞…オスカーものだろう。
当然、そのまま信じられやしない…そう、言い切りたいところだか…。
気が付くと、トモミの蒼い瞳が僅かに潤んでいる事に気付いて、思わず吐息をついた。
「おいおい…泣くなよ。…って言うかさ…どうしてそんな事を言うのか、理解出来ないんだよ」
正直…先刻まで皮肉っぽい事を言っていたおれが、何だか意地悪しているような気がしてきて、
少しずつ…妙な罪悪感が心の奥底からこみ上げてきていた。
「だって、君は今、既にこうしてここにいるじゃないか。何故、今更…」
「わたしには朋さんの記憶や知識、経験はあります。…でも、朋さんとしての意識や人格といった
決定的な『心』の部分が無いのです」
「でも…君自身の…今の君の人格は…」
「わたしには…ご覧のように意識はありますが、生まれたての赤子と同じく、不完全なものしかありません。
…と言いますか…改めて目覚めて以来…この胸の奥底に、ぽっかりと穴が開いたような…常に寂しい思い
しか無いのです…」
「ぽっかりと空いた…穴だって?」
確かに…この時代のドロイドにしては、やや感情に乏しい気はしていたが…。
それでも…普通に会話する分には、支障なく感じられていたのだが。
トモミ本人にとっては…とても大事なものなのだろうか?
「記憶も経験もあります…でも、朋さんの心が無いと…それはただの知識でしかありません。何故、
そうしたのか、何故そう思い、感じたのか…それが『良く判らない』…理解できない。それが悲しく、
寂しく…そして、そして、それがとても辛くて…怖いのです」
「まてよ…それじゃ…ここが判ったのも」
「はい…過去の記憶から…殆ど無意識に判りました。」
「…そうか…そうだったのか…」
おれはこの『隠れ場所』を、何故トモミが見つけたのか、改めて理解できた。
ここは、ともねえに教え、こっそり、一緒に遊びに来たこともある場所だった。
だから、おれが逃げ込んだ時、トモミだけが迷わず追ってこられたのだろう。
だが、それと同時に、トモミにとっては、まるでそれらは『本能』のようなものでしか無く、ただの
知識としてしか理解できない、不思議で異質な事象でしか無いのに違いない。
それはおそらく…ともねえ自身が、かつて封印し、テロリストたちも、シンクロイド・システムも、
それが不要であると判断して元へ戻さなかった『ともねえの自意識』や『心』であり、トモミは、
それを取り戻したい…そう言っているのだ。
…なまじ、ともねえの記憶や知識、経験を持っている為に…巴とは反対に、自分の心に
自信が持てず…自分が不完全なもの…という思いに、常に苦悩していたのに違いない。
「わかったよ」
おれは頷き、小さく苦笑した。
「…おれから巴に頼んでみるよ」
え?という顔で、潤んだ瞳のままトモミはじっとおれを見つめ、それから、おずおずと口を開いた。
「本当…ですか?」
「ああ…ただし、巴が自分の心は、自分のものだ…とか言い張ったら、その時は、オムニ社の
技術者に頼んで、ともねえが施した封印の解析待ちになるが…」
途端に、ぱあっと明るい表情になり、トモミはおれの両手を取ってぎゅっと握り締め、それから
自分の胸に押し当てた。
「ありがとうございます!」
トモミがきらきらと瞳を輝かせながら、おれを見つめ、なおも握った両手を自分の胸に押し当てる。
や、柔らかな感触…巴ほどじゃないが、程良く張りのある弾力と柔らかさに、思わずどきっとした。
ち、ちょっと待て…ティーンの女の子の姿で、それはマズかないか?
…けれどトモミはそのまま、おれの手を頬ずりし、静かに目を閉じた。
「わたしは朋さんでは無いですけど…懐かしい…思いがします」
ごめん…おれは今…とても邪な想像をしていた。
おれは自分を恥ずかしく思った。
「それにしても…これからどうしたものかな…」
トモミがそっと手を離すと、おれはちらと窓の外を見、腕組みした。
「それに…さっきの娘たちはどうしたんだ?」
「わたしが…向こうで見かけた…と、システムに伝えたので、大通りに向かっています」
「嘘を教えたのか…」
「偽電は…情報戦では良くあることです」
そう淡々と答えるトモミに、おれは少し空恐ろしいものを感じたが、感情に乏しいのだから仕方ない。
「巴たちは…見つかったのか?」
やはり巴たちの事が気になる。
「…どうなんだ?…シンクロイド・システムは把握しているのか?…教えてくれ!」
思わず、少し強い調子で問い詰めて、トモミを見据え、組んでいた両手を解いた。
トモミの蒼眼がじっとおれを見つめ、それからそっと首を振った。
「いいえ、大丈夫…まだです」
トモミはそう言いながら少し横を向き、それから何を思ったか、ちらちらとおれを上目遣いで見た。
「やはり…心配ですか?」
「当たり前だ…巴はおれにとって…」
「貴方にとって…何ですか?」
「え?」
トモミが問い質す様な聞き返し方をしてきたので、おれは少々面食らった。
大体…トモミは、昔の、ともねえの姿や声のままである。
ともねえ一筋で来たおれに…この質問は正直酷だし、しかもトモミには…事によると全く理解し難いかも
しれないが…ともねえの記憶は…理屈どおりなら、総て残っている筈だ。
そうなると…おれがともねえに…幼い頃とはいえ…愛の告白などした事を覚えている事になる。
それが…両方とも分身とは言え、おれにとっては巴が総てだ…と、決めたばかりなのだ。
う…これは厳しい。
だが…巴とは既に…何度も…その…愛し合った身…やはり、彼女を裏切る訳にはいかない!!
だけどなあ…。
トモミが…ラスボスか…という予想に反して全然悪意が無い…どころか、何だか不憫になってきて。
この上、トドメを刺すような事は…本当は言いたく無いのも本音だ。
「教えてください…」
上目遣いに見つめる仕草が、何だか哀願するように見えて、本当に困ってしまった。
だが…ケジメをつけるのも…男だ。仕方が無い…。
おれは溜息をつき、そして一度目を閉じて深呼吸してから、一気に言った。
「今…一番大切な…存在だ」
目を開けると、案の定…落胆した様子のトモミの顔が見え、罪悪感で切なくなったが…悲しいかな…
出会った順番が悪かった。
ごめん…ともねえ…。ごめんよ…トモミ!
…トモミは、小さく吐息をついた。
ドロイドには、本来必要の無い行為だが、ここ十年来のAIは、人間の行為と同じく、感情に合わせて
全く同じように再現出来るようになっている。
つまり…それだけガッカリしている現れなのだが…。
ふと…おれの顔を見上げると、何を思ったか、そっとおれに身を寄せてきた。
「トモミ?」
意図を測りかねて聞き返すが、それには答えず、トモミはいきなりおれの背中に両手を廻して、
おれの胸に顔を埋めてきた…。
「ちょ…おい…何するんだ!?」
引き離そうとするが…トモミの腕は、まるで万力か…超合金の拘束具の様な力で、おれの身体に
しっかり…ぎっちりと巻きついたまま離れない。
…幸い、締め上げてはいないので、苦しくは無いのだが…これでは…身動きできない!
「おい…悪い冗談はよせ!離せ…離れろ!」
巴の顔がおれを見上げる。
上目遣いで…ちょっと悲しげで…申し訳無さそうな…そして切なそうな…。
蒼く濃く澄んだ瞳がうるうると滲んでいる。
…うわぁ…そんな顔で見ないでくれぇ!
大体…その顔…巴とそっくりじゃないか!!
あ…い…いかん…巴を思い出したら…しかも…この柔らかな感触は…。
やべ…いかん…こんな所で…勃起しかかってやがる。
全く…おれの身体ときたら…この節操なしめ!!
「やめろ!おれは巴一筋なんだ!!」
アパートの中のフロアだと言う事も一瞬忘れて、おれは叫んでいた。
「離せ!トモミ…正気を取り戻せ!!」
「確かに…わたし…寂しさのあまり…どうかしているのかも知れません。でも…どうか今だけでも
こうしていてはくれませんか?」
もしかすると、トモミの記憶の中で、特に印象の強い存在の一人がおれなのかも知れない。
だから失われた『心』を、埋め合わせたいと思っているのかもしれないが…しかし。
「き…気持ちは判らないでもないけど…おれは巴だけと決めてるんだ…許してくれ!」
だが、トモミの次の言葉に…おれの理性は飛びそうになった。
「…でしたら…わたしも…『巴』になります!!」
トモミは両手を離して、素早く髪を解き始めた、
しめた…離れた…と思った途端、いきなり当身を食らわされ、後ろのソファに倒されてしまった。
いや…決して乱暴にでは無いのだが…まるで柔道か合気道の師範の様な巧みさで…。
両手が塞がっているのに…なんて器用な奴だ…って…それどころじゃない!!
トモミの髪がストレートに下ろされ、そのままおれを見下ろすや…間髪入れず、ソファから下ろした、
おれの膝の上に跨り、そのまま両脚の間隔を狭めて身動きを封じたではないか。
「や…やめろ〜!」
何とか立ち上がって跳ね除けようとしたが…逆に両手をトモミの両手で押さえつけられてしまい、
これでは昆虫か蛙の標本状態だ…。
「そんなに…わたしがお嫌ですか?」
トモミがうるうると瞳を潤ませて、おれにその可愛らしい顔を近づけ、そして小首を傾げて訊ねる。
「違う!…ともかく巴が先だと」
ふいに両手が離され、トモミが上体を起こした。
はっと気が付くと、長い髪を器用に、丁寧にひとつに束ねて、後頭部のやや上できゅっと絞っている。
そして…トモミが両手を下ろした時…ふぁさっと長いポニーテールが脇にこぼれ…。
そこには…赤毛でやや童顔な『巴』の姿があった。
そして、切り揃えられた前髪の下の瞳を輝かせてにこっと笑った。
…あ〜…こんなの反則だ…馬鹿野郎…こん畜生!
い…いかん!今度こそ…げ…限界だ!!
ともねえと…巴がひとつになったような…こんな…
おれの理想の姿では…テも無くイっちまいそうだ!
思わず目を閉じ、横を向こうとしたが、優しく…だが少しずつ顔を正面に向けられてしまった。
そして、少しだけ腰を浮かせた巴はスカートの中に右手を入れ、ごそごそと何か始めた。
スカートが僅かにめくれ、ちらちらと純白の布がずらされていくのが見える。
…ほ…本気だ…。
なおもブリッジの体勢で逃れようとしたが…そのままトモミは改めて膝の上に跨り直し、今度はズボンの
ベルトを苦も無く外して、そのままファスナーに手をかけた。
そこはもうギンギンにテンぱって、大きく膨らんでおり、触れた瞬間、トモミは一瞬驚きに目を丸くし、
それからすっと目を細めて、まるで獲物を前にしたネコのように小さく舌なめずりした。
こ、こんなリアクション…嘘だろう!?
清楚で可愛らしい顔立ちなだけに、まるで何かに取り憑かれた様なその姿は、愛らしくも淫靡だった。
両手で必死に抵抗するが…トモミの白魚の様な美しい両手は、その外観に反して物凄い力で、おれの
抵抗などものともせず…ファスナーをひき下ろし、ズボンまで下ろし、そのままブリーフの上から、
おれの大きく勃起したモノに手を触れ、それからそ〜っとつまみ上げた。
「く…よ…よせ…トモミ」
ちょんと摘んでは、あは…と小さく嬉しそうに微笑むトモミ。
そしてそっとブリーフの腰ゴムを掴むと、ゆっくりと引き剥がしていった。
その途端、ブリーフで抑えつけられていた、おれの肉棒はピンと勢い良く弾けながら屹立した。
「あん…」
トモミが無邪気に、満面の笑みを浮かべてそれをじっと見つめる。
…結局、全然抵抗できなかった。
トモミが、位置を整えるべく、時折り腰を浮かせているのに…である。
そしてトモミは、おれの膝に跨ったまま、おれの…隆々と勃起したモノを暫しじっと見つめ続けた。
血管まで浮き出し、先端からからじわりとカウパー腺液が滲み出し…びくびくと弾け掛けている。
「とっても大きい…」
まるで視姦されているようで…恥ずかしいのだが、トモミの視線が妖しい可愛らしさでたまらない。
おれには本来そういう趣味は無いし、情けないことに…股間廻りを完全に丸出しにされているのに、
トモミに見つめられて、もう爆発寸前に膨れ上がっているのだ。
とろんとした…僅かに恍惚とした…熱い瞳で、肉棒からおれに視線を向けるトモミ。
やめろ〜!ともねえの…巴の顔で…そんな…そんな淫靡な表情をしないでくれ!!
…だけど…その表情が、おれ一人に向けられたものだと思うと…可愛くて愛おしくて…たまらない!
「うふ…」
トモミが手に口をあて、愛くるしく、くすっと笑った。
「…とっても嬉しいです…こんなわたしに…こんなに、こんなに大きく弾けて……感じてくださって…」
そう囁くや、腰を浮かし、スカートの前裾を浮かして…おれの逸物の上に静かに…跨っていった。
おれのモノが…美少女のスカートの中で、まるで別な淫靡な生き物に吸い込まれ食べられて行く様な、
妖しい錯覚を覚えて、背筋から腰にかけてぞくっとする快感が走り抜けた。
温かく…そしてねっとりと湿った生き物の中に、飲み込まれ、優しく口の中で咀嚼されるような感触で、
それでいてきっちり…包み込むように…温かく、じんわりした甘美な感触で締め上げられ、うねうねと
淫らに、おれの反応に合わせて、刺激を加えるようにくねらせながら、おれの理性を狂わせていく…。
いつしかトモミは胸をはだけさせ、意外と大きな乳房をぽろんと取り出して、おれの両手をあてがい、
恍惚とした表情で「あん…」と、可愛らしく声をあげた。
赤く長いポニーテールが左右に垂れて激しく揺れ、大きな胸の谷間に赤いネクタイが下りている。
そして次第にトモミ自身が腰を使って、ゆっさゆっさとピストン運動を行い、時おり激しく声を上げた。
さらに動きは上下、前後左右に…と、微妙なグラインドをかけ、その都度おれのモノは亀頭や竿を
優しく嬲られ、愛撫され…心地よく締め上げられ…もうギンギンに怒張しきっていた。
「あん…まだ……駄目…ですぅ」
そう言うや、トモミの唇がおれの唇と重なり、小振りな舌が伸びておれの口の中に入り込んできた。
そしておれの舌に絡ませると、さらに口腔の中を貪るようにねっとりと舌を這わせ、おれの唾液を
からめとると、こくん…と、小さく咽喉で音を立ててそれを飲み干した。
そしてうっとりした顔でおれの胸に顔を埋めると、きゅっとおれのモノを締め上げ、再び動き始めた。
今度は再び身を起こし、おれの股間の上で、膣から子宮の奥深くまで肉棒を突き刺して…。
おれのモノがすっぽりトモミの中に入りきり…まるで少女を串刺しにして激しく攻めている様な錯覚を
覚え…おれの頭は……それでも…何とか…理性を…取り戻そうとしたが…。
トモミの優しい締め上げ方は巧みで、かつ異様に濃密で、その甘美なテクニックに段々朦朧としてきた。
しかも、それと同時に、時おり見せる切なそうな、あどけなく清楚な少女の面立ちが一層そそられるのだ。
ぼんやりとした頭の中、次第に、心地よい快楽がじわじわとこみあがる。
大好きだったともねえと、最愛の巴が、ひとつになり、トモミの姿になって降臨し、今おれと交わっている。
優しくも激しく、まるで貪るようにおれの上で乱れ、甘く切ない声を上げ続ける愛らしい少女の姿が、
ともねえになり、巴になり、そしてトモミに重なる。
「とも…と…とも…」
三人の誰を呼ぼうとしていたのか判らない。
トモミがゆっさゆっさと腰を優しく激しくグラインドさせる度に、時おりのけぞり、切なげに声を上げる姿が
たまらなく愛おしく…。
手を伸ばし、トモミの果実を思わせる張りのある乳房に両の手を掛け、半ば無意識に揉み上げ、そして
サクランボを思わせる乳首を摘み上げた途端…。
「ひゃん!」という嬌声と共にトモミが一段とビクンと弾け、おれはその仕草に、ついに耐え切れずに
異様に大きく感じる肉棒の先端から、この上も無く熱くて濃くて、どろりとしたマグマを噴き出させ、
少女の子宮の奥まで一杯に流し込まれ、それが果てしなく吸い込まれて行く様に感じた。
ああ…トモミの中は…熱くて…柔らかで…ほど良くしとっていて…何て気持ち良いのだろう。
理性を失ったアタマの片隅で、そんな言葉が走る。
「う…」
思わず声を立て、腰を引きそうになったが…トモミは逆におれの両手を胸からそっと離すや、自分から
しがみつき、無意識のうちに、おれはトモミを抱きしめる姿勢になっていた。
「もう一度…もう一度だけ…シて…ください」
おれの胸に顔を埋めたトモミの声が悲しげに震えている。
「それで…終わりで構いません…」
そう言いながら…きゅっとおれのモノをそっと締め上げ、萎えかけていたのに、再び力を取り戻していく。
ああ…また込み上げてきた…何ていう…テクニシャンなんだ…。
駄目だ…このままじゃ…また。
そう、ぼんやりと思った時…トモミは哀願するように言った。
「どうか…最後のおねがいです…ぼっちゃま…」
え!?
その言葉に、おれの頭は…瞬時にして理性を取り戻した。
「おまえ…今…」
顔を上げたトモミは悲しげに微笑む。
どういうことなんだ?
ぼっちゃま…って呼ぶのは…巴だけじゃないか?
ともねえだって…おれをそうは呼ばなかったし…。
…おれは…一瞬、逡巡した。
だが…その面持ちに、悲しい決意の様なものを感じて…受け入れてやることにした。
巴…ごめん!
謝って許される事じゃ無いと思うけど…おれは…トモミに、もうひとりのおまえの姿を見た。
とても切なく…愛おしくなってしまった。
これが最後だと言うのなら…これは…おれの意思で…。
「わかったよ…これっきりだからね…」
おれは…精一杯の優しさをこめて、トモミをの頬に手をあて、そして優しく唇を重ねた。
その瞬間…悲しげだが、それでも精一杯の笑顔を浮かべ、トモミはゆっくりと目をつぶった…。
…行為が終わり…持っていた、ありったけのティッシュで余韻の後始末をし、
少々ためらったが…丸めて共同ゴミ箱に捨てて、二人並んで洗面台で手を洗った。
住人さん…ラブホテル代わりにして本当にごめんなさい!
それに…幼い頃の聖地をこういう形で汚してしまうなんて…。
その事実を改めて実感するとちょっと凹んだが…
トモミが…穏やかで、満足そうな笑みを浮かべている事に気付いて…良しとする事にした。
あのままじゃ…確かに悲しげで…可哀想だったしな。
改めて二人並んでベンチに腰掛け、窓の外の夜空を見た。
すっかり星空で、時計を見ると21時を廻っていた。
暫くの沈黙の後、おれは思い切って口を開いた。
「君は…これからどうするつもりだ?」
行為が終わってから…初めておれは本題に入った。
「シンクロイド・システムのブレインである以上、おれたちの敵になるわけだろう?」
「わたし個人としては、あなたに敵対する意思も理由もありません」
トモミは目をつぶり、それから左手をこめかみにあてた。
「ただ…システムは、今はわたしの上位に立ち、かつ必要不可欠な存在としていて、常にわたしに
アクセスしています」
「それじゃ…さっきまでの…あの行為は…」
トモミは眼を開き、くすっと笑って首を振った。
「いいえ。あれはわたしと…あなただけの秘密です」
ほっとすると共に、初めに会った時に比べて、トモミがごく自然に笑う様になっている事に
気付いてちょっと驚いた。
…恋はひとを成長させる…って…そりゃ違うよな。
でも…ごく自然に女の子らしく話せているような気がしてならない。
「でも、だからこそ、巴を狙っているのです」
トモミは、そう言いながら、僅かに不思議そうにおれの顔を見ながら何度もまばたきした。
…おっとっと…今は関係ない。
「もしかして、君が巴とリンクすると…シンクロイド・システムが不要になるから…かい?」
「そうです。そうなると、わたしの知識も記憶も、総て使えなくなるのです」
「では…君が…リンク・システムのエリアから出れば済むのではないのかい?」
少なくとも巴はシステムの探知の届かない所にいて成功している。
だが、トモミは首を振った。
「わたしとのアクセスが途絶えた途端…シンクロイド・システムは、今現在コントロールしている
総てのドロイドたちのAIのデータを破壊して…道連れにします」
「おい…何だって?…それじゃ…人質じゃないか?」
おれの言葉に、トモミは沈痛な面持ちで頷き、再び眼を閉じた。
「シンクロイド・システムを奪ったテロリストたちが…そう仕掛けたのです」
「道連れ自爆…か。いかにもテロリストらしいな」
「はい…でも、もうひとりのわたし…巴が、わたしとリンク出来れば、シンクロイド・システムの
存在が不要になり、活動停止のコマンドを送る事ができます」
「つまり…ともねえの代わりに『シンクロイド・システムの上位者』として、巴が君と直接アクセス
出来れば、システムは存在意義を失くし…総てを切り離されるわけだな」
「そうです」
トモミは眼を開き、おれの方に向き直った。
「巴には、朋さんの意識や『心』が残っています。正確には、巴も分身ではあるのですが、本来、
シンクロイド・システムは『心』を写し、リンクするもの…だからオリジナルの『心』を持つ巴にしか
出来ない事なのです」
「しかし…それでこの騒ぎは収まるのか?」
「それは大丈夫です」
トモミは揺ぎ無い自信に満ちた視線でおれに答えた。
「元々は、人とドロイドを繋ぐ為の物…それが開発の過程で違う使い方が出たに過ぎず、本来の
上位命令権はこちらにあるのですから」
「でなければ…あんなに躍起になって巴を追い回すわけは無い…か」
そう言ってから、おれはふっと苦笑した。
「巴は君が呼びかけているもの…と思っているけどね」
「それは」
トモミは困惑気味に首を振った。
「仕方が無いと思います。…システムがわたしに偽装してメッセージを送っているのですから」
「おれも…君にこうして会うまでは…とても信じられなかった」
「では…今は?」
トモミがじっとおれの眼を見つめる。
「信じるよ…君自身は無実だってね」
おれを見つめる蒼い瞳が僅かに細められ、トモミはにっこり笑った。
ああ…穏やかで安心した…とても良い笑顔だ。
「しかし…一体…なんでこんな事になっちまったんだろうな?」
おれは…この事件についての最大の疑問を口にしていた。
>>485〜494 今日はここまででございます。
…誤字脱字が結構ありまして…済みません(汗)
急いで打っていると、本当に見落としてしまいます、
>>486の二行目冒頭…巴でなくトモミでした。…実にお恥ずかしい…(恥)
仕事中に席から立てなくなったぞなw
どーしてくれるw
立ってしまって立てなくなったわけかw
それはさておき、GJ!>495
GJ!
こんなタイミングでエロを持ってくるなんて反則だ…っ(嬉しい悲鳴)
やっとか、早く終わらせろよ
別に、結末が早く読みたいわけじゃないからな、勘違いするなよ?
>>499 うぜえぞ。嫌ならここへ来るなよ。
折れは楽しみにしてるんだ。
まあ落ち着け…。
>>499 とは言え、オレも楽しみにしてるしさ。
そう言う心無い書き方は好かんな。
別に他の人が、間に話を書いても良い訳だしさ。
むしろ尻切れトンボが多い、このカテで良くやってるじゃん。
書き手の気持ちを萎えさせる様なカキコは、すべきじゃないと思うがね。
おまいら落ち着いて
>>499のメル欄を(ry
まぁ、もうちっと書き方は考えた方がええんでない?と思ったけどね・
結論:
>>499はもっとツンデレの修行を積むべし。
以後さらに精進するよーに
>>499 「やっと投下終わったのぉ?それより早く連載終わらせなさいよね。べ、別に結末が気になるんじゃないんだからね?
す、少しは気になるけど……期待なんてしてないんだから!ヘンな勘違いしないでよね、このバカ!」
本当に早く終わらせてほしいね
そして二度とスレに投下するなと本気で思うよ
炊飯器とワースト2トップ争いの有力候補だ
抱きしめてやれ
>>505 コハル定時自演乙ww
そろそろコハルヒロインに外伝書いても良いと思うんだ
ヤラレキャラとは言え不敏過ぎる
511 :
名無しさん@ピンキー:2007/11/24(土) 09:25:26 ID:9zzh/Or8
>>509 通信機能がない(つまり並列化出来ない)コハルが人間を守るため他のロボットと一緒に戦う
という電波を受信した
つまんない、自分に合わないと思うんなら、
読まなけりゃいいだけの話。
とは言っても、書き手としては賛美より批判のほうが
参考になって役立つのは事実。
だから、厳しい意見も必要。
しかし、建設的意義を持つ厳しい意見なのか、
単なる中傷なのかの違いは重要。
後者であれば、作者も周囲も気分が悪くなるだけ。
スルーを憶えなされ。最も効果的な手段でもあるんだからして。
なんだよ。投下されたのかと思ったら外野が騒いでるだけかよ
続きマダー?
[516] 名無しさん@ピンキー [sage] 2007/11/24(土) 17:34:05 ID:c0HA1kTKRwWW
コハルちゃんが大怪我をして動けないご主人様と、半永久的に愛の巣で幸福に暮らすという電波を受信しましたwww
というか、予測…なんですけどwwww
流れを読まずに投下。
「うー、さむ…明日は朝っぱらから仕事か、行きたくねぇー」
「いきなり労働の放棄宣言ですか」
「行くけどな。お前のローンで色々切り詰めてるのに、職を失ったらどうしようもねぇし」
「…暖房とかの光熱費も切り詰めないといけないのは事実ですが、反応に困るコメントはなさらないで下さい」
「早めに寝るに限る。ってことで添い寝よろしく♪」
「わかりました。体温調整します」
「うはー、ほかほかしてあったかい。ぐっすり寝れそうだ…おやすみ」
真夜中に置きだそうとする主。
「こんな夜更けに…どうされました、マスター?」
「いくら暖かくても先に冷えてた分がな…え、お前何やってんだ?」
「大丈夫、物理物体以外の飲食機能と水分のろ過フィルターは優秀ですから♪」
「これ飲食物違うし! 掴むな、含むn…だめだ、だm、漏る! HA★NA★SE! あう、あ…出…」
「! んぐ…ぶぷ…ごく…ごく…じゅ…ふう、あとはいつものを…安眠のために。ほら、大きくなってきました」
「え、ええい、出したらぁ!(ヤケ)」
次の日。朝ごはんの時間。
「咥内洗浄状況確認、クリア、フィルタ良好。健康状態チェックしましたんで、お弁当作っておきました」
「(ぶつぶつ)お、俺は変態だ…変態になっちまっただ…親父、お袋、ごめんよ…」
「夏は一杯されましたから…もしかして、目覚めちゃいましたか?(にこにこ)」
「そっち方面のケは無い、と思いたい(涙目)」
夏とは逆パターン書いてみた。スカったりトロったりするネタ嫌いの人はスルーで。
いいwwwww
「元々…シンクロイド・システムは、君が言ったように、人とドロイドを繋ぐものだったんだろ…」
そう言ってから、おれはトモミの顔を改めて見つめた。
ここに居るのは、本来のシステムの完成体…つまりは、ともねえの完全な分身となるべき
はずであった少女型のドロイドなのだ。
「不滅の命を得るため…ドロイド部隊を自在に動かすため…何て言うか、どれを聞いても、
裏で、薄汚い連中たちの思惑が駆け巡っていた様に思えてならないんだ」
「…だから…完成型はわたし一人なのです」
トモミが寂しそうに眼を伏せながらそっと首を振った。
「各国の首脳や軍隊関係者に…その都度、秘密裏に開発状況を公表されていました」
「…つまりは…輸出も考えていたわけか」
そういえば、バンは合衆国大統領の命で来たのだっけ…。
「でも、朋さんは大勢の分身ドロイドによる『不滅の独裁者』が現れてしまう危険性を説き、
合衆国大統領を説得して、開発中止の指示を出してもらい…表向き、それに従った事に
したのです。大統領でしたら、説得力がありますからね」
「お袋の説明では、ともねえは大統領の開発反対に納得して中止した…と言っていたが」
「本当の所は逆、朋さんから出た話しです。…ただ、真実を知られると、お母さまにも危険が
及ぶ…ですから、敢えて伝えられなかったのです」
「そうだったのか…」
「その後…これは、テロリストに再起動されて目覚めた後に得たデータでは、大勢のドロイドを
自在にコントロールする為のシステムに改変されましたが、起動に失敗しています」
「その辺りも…おれは聞いたが…何故、テロリストは失敗した物を持って行ったのか…」
おれの問いに、トモミは眉を寄せ、ふっと小さく溜め息をついた。
その仕草はとてもドロイドとは思えず…かつてのともねえを彷彿させた。
「テロリストにも…技術者がいます。オムニ社に研究員として潜り込んでいた者もいたほど
ですから、シンクロイド・システムが『不完全な』物だったとしても、兵器に転用できる可能性の
高い研究資料としては…」
「色々な意味で有益だったわけだ」
「仮に起動に失敗しても…リンクシステムを持つドロイドたちを、一度に大勢を機能不全にして
しまう事が出来ますし、完成出来れば、自在に動く軍隊も出来ます」
「なるほど…そういう事なら…無駄になるどころか…十分使える」
「さらに、本来のシンクロイド・システムを完成できれば…」
「一石二鳥か…いや、三丁だ」
おれの言葉に、トモミは真剣な表情で頷き、続けて訊ねた。
「独裁者が、完全なシンクロイド・システムを利用できたら…どうなると思います?」
「多くの分身を持ち、多数のドロイドを自在に操り、しかも命令に従わないドロイドをまとめて
機能不全にして封じることができる…」
「はい」
トモミは両手を組み、そして祈るような形で額に当てて眼を閉じた。
「ある意味…今回は、テロリストに操られなかっただけ、まだマシだったのかも知れません」
「ああ…皮肉な話だが…システムが暴走した今回の方が…被害は少ないな」
「……でも、こんな形で目覚めたくなかったです」
手を離し、そのまま両頬にあてたトモミは、ほう…と小さく溜息をついた。
「しかも、システムの情報中枢を担っているなんて…」
「…この件が解決したら…改めて…その…初めからやり直すと良いかもな…」
「え?」
トモミはおれの方を向き直った。
「…折角、こうして目覚めたんだしさ…」
「ぼっちゃま…」
トモミは感極まった声を上げ、両手を合わせて胸にあて、それから口元に持っていった。
「その時は…わたし…」
「ちょ…ちょっと待て」
妙な予感がしておれは少し慌てて言った。
また、さっきみたいな濡れ場になってしまったらシャレにならないからな。
それに気になることがある。
「なあ…どうして君は、おれを『ぼっちゃま』って呼ぶんだい?」
…その時になって…初めてトモミはその事に気付いたらしく、ちょっとキョトンとした顔になり、
それから首を傾げた。
「そういえば…そうですね…」
「そう呼ぶのは…巴だけなんだが…」
「巴が…ですか」
不思議そうに…だが、巴の名が出た時、ちょっと拗ねた様な顔でトモミはぷいと横を向いた。
「トモミ?」
「わたし……きっと巴に嫉妬してるんです」
そう言ってから、ちょっと寂しそうに笑みを浮かべ、それから何を思ったか、右手でコツンと
自分の頭を叩いてから、トモミは悪戯っぽく軽く舌を出し、おれの方を向いた。
「ごめんなさい…これっきり…って言いながら…やっぱりまだ、未練があるみたいです」
「でも…さっきみたいなのは勘弁してくれよ」
「……やっぱり…お嫌でしたか?」
少し上目遣いになって、おずおずとトモミが聞き返す。
おれは…大きく溜息をつき、顔に手をやった。
「…あのなぁ……嫌じゃないから…凹んでるんだよ」
「え?」
「おれはさ…それでもやっぱり『巴』が一番大事なんだよ」
「………」
「だけどさ…顔立ちは一緒で…そんな風に髪型までそっくりに変えて…迫られて…何だか
段々訳がわからなくなっちまった。けどさ…本質的に…君が巴と同じだと思ったから…」
「もう一回…されてしまったのですね?」
ふいに出入口の方から聞き覚えのある少女の声がして…
おれとトモミはそちらを向き、本当に洒落でなく、飛び上がりそうになった。
階段ホールに、一人の人物がいた。
それは、白のコートに身を纏い、フードを頭からすっぽり被った大きな少女の人影…。
…まごうことなき…巴の姿だった。
「…と、巴…」
おれは次の言葉を失った。
全身に冷たい汗がたらたらと流れ…背筋が一瞬にして凍りついた。
じょ…冗談だろ…!?
正直…何と言うか…浮気現場を…それも行為の最中踏み込まれた亭主の心境と言うか…。
「ぼっちゃま…」
フードを被っているので表情が良く見えないが、中から黒い瞳がふたつ、こちらに向けて
らんらんと輝いている。
おれは…覚悟を決めた。こ、怖いが…や、やっぱり…責任は取らなくてはならない!
「…おれは…その……済まん!!」
立ち上がり、それから、殆ど地面に頭を付けんばかりに勢い良く頭を下げた。
「ぼっちゃま!!」
え!?
ふいに嬉しそうな巴の声がして、次の瞬間…
どか〜ん…という、やけに聞き覚えのある轟音が鳴り響き…。
何が起こったのか、一瞬判らずに呆気に取られて顔を上げると…。
出入口の上部が凹み…その下でアタマを抱えてしゃがみこんでいる巴の姿があった。
「あいたたぁ…」
「お…おい…巴」
ちらと横を見ると、呆気にとられているトモミと視線が合い、慌てて駆け寄ると、巴は頭を
抱えて、う〜と小さく唸っていたが、やがて顔をあげ…ちょっと顔をしかめながら、やがて
トモミをちらと見、それからおれを見上げて、穏やかに、にこっと笑った。
「…ごめんなさい、ぼっちゃま…またやっちゃいました〜」
「…住人さんが飛んでくるぞ」
思わずそんな事を言ってから、おれは眼をつぶり、頭を下げた。
「いや、それより、おれは…」
ふっと気が付くと、巴の柔らかな手がおれの左の頬に当てられ、眼を開けた。
巴が穏やかな…まろやかな微笑を浮かべて、おれをじっと見つめている。
そして…何を思ったのか、そっと左右に首を振り、それから改めて頷いた。
その黒く深く澄んだ瞳に吸い込まれそうな錯覚を覚え、おれは我に返った。
「え…?…巴?」
「すべて…『感じて』いましたよ…ぼっちゃま」
「え?」
巴はそれからトモミの顔をじっと見つめた。
「巴…」
トモミが複雑な表情で巴の顔を見下ろし、それから、そっと頭を垂れた。
「ごめんなさい…」
涙混じりの声…。
だが、次に、巴の手がおれから離れたかと思った瞬間…。
いきなり巴は、おれとトモミに両手を伸ばし…そのまま力強くも優しい力でおれたちを
引き寄せ、そのまま自分の両側に抱き寄せたではないか。
「え?…え!?」
何が起こったのか判らず…トモミも涙を溜めたまま、おれの左で唖然としている。
…気が付くと、おれたちは、しゃがんだ姿勢の巴に、並んで抱きしめられていた…。
柔らかく…温かで弾力のある巴の胸の感触が心地よい。
だが…おれに、巴に抱きしめられる資格があるのか?
そう思いながら顔を上げると、巴は静かに微笑み、口を開いた。
「ぼっちゃまが出られた後…バンさんに絶縁加工コートをお借りして、すぐ飛び出したのです」
「おれが…出た直後に?」
巴は頷き、申し訳無さそうに苦笑した。
「一人で行けって仰いましたけど…やっぱり駄目でした。ぼっちゃまも一緒で無いと…嫌です」
「しかし…ここに来るのは危険だ。第一、追っ手が…」
「ですから…このコートをお借りしたのです」
「だから絶縁コートなのね…」
トモミがふっと口を開き、巴は再び頷いた。
「ええ。電磁波を極力遮断して、リンク・システムの探知から逃れたの」
…気が付くと、身長差こそ大人と子供以上に違うが、顔立ちの似た、まるで姉妹のような二人。
巴はなおも続けて言った。
「ぼっちゃまが駆け出すのが見え、わたしも直ぐ後を追いました。…その時…」
「わたしの『気配』を感じたのね」
トモミの言葉に巴は静かに微笑み、大きく頷いた。
「たぶん…あなたが、驚くほど近くにいたから…リンク出来たのだと思うの」
巴の言葉に、おれは少し疑問を感じて訊ねた。
「リンク・システムは封じられてるのにかい?」
「ダイレクト・リンクは短距離にしか使えませんが、半面、クリアーにアクセスできますし、周波帯も
特性もまるで違います。そう…携帯とPHSの違いみたい…でしょうか」
すかさずトモミが解説してくれた。
「…でも…わたしは気付かなかったけど…」
「多分、シンクロイド・システムか…テロリストが、あなたからわたしにアプローチできないよう
システムをいじったのだと思うわ」
「え?わたしからあなたに出来ないってことは…あなたは…」
…次の瞬間…
トモミは、まるで湯気でも吹かんばかりに真っ赤になって俯き、そして…
巴もポッと頬を赤らめ…それから、きゃっと小さく声を上げて…
おれとトモミは巴の腕の中で、改めて力いっぱい優しく抱きしめられていた…。
…それから、おれたちはまたもベンチに腰掛けなおした。
おれの右にトモミ、左に巴…。
そういえば、本当は、お袋は二人ともおれに贈るつもりだったとか言ってたっけなぁ…。
などと、ふと、ぼんやり思い出していた。
「…ですから…わたし…今は、トモミでもあるのです」
巴がにっこり笑っておれたちに笑いかけた。
「…じゃ…じゃあ…さっきまでの一連は…すべて」
巴はこくりと頷き、それから、はあ…と、少し気だるげに息をついた。
「わたしも…とっても…感じちゃいましたよ…」
「え゛???」
思わずおれとトモミの妙な声が重なる。
「わたしも直接参加させて頂きたかったです〜…歩いていて…その場で頭が真っ白に
なって危うく…イっちゃうところで…慌てて…そっちの回路、切っちゃいました〜」
「え゛え゛っ!?」
巴はふふっと笑い、それからトモミに両手を差し出した。
「ごめんなさいね…わたし、今、あなたの意識や考えが…わたしのものとして…わかるの」
巴の言葉にトモミは絶句した。
「…それじゃ…」
「うん…だから…あなたの気持ちは…凄くわかるの」
「…本当に…あなたがとても羨ましい…でも、どうして…」
「だって…わたしも…あなたと同じ存在でしょう?」
「でも、わたしには『朋』さんとしての自意識が無いわ…」
「わたしも『朋』さんの記憶が無いから…同じ事でしょ?」
そう言って巴はにっこり笑い…やがてトモミも巴の優しさに表情を和らげ、頷いた。
「そうなんだ……あなたも…過去の記憶が無いことに」
「…やっぱり…本当はちょっと悲しいな…って」
「そっかぁ…」
「わたしたち…同じ分身なのに…持っているものは丁度、正反対なのよね」
「…それじゃ二人合わせて」
「ぴったりひとつ…よね」
おれを間に挟んで、巴とトモミはお互いの両手をぎゅっと握り合った。
そしておれを挟み込む様に身を寄せつつ、やや身体を前に出し、左右からおれの顔を見つめた。
おれの前に、左に巴、右にトモミの愛らしい顔がある…。
黒髪に黒い瞳の巴、赤毛に蒼眼のトモミ。
二人の澄み切った瞳がきらきらと輝き…おれを見つめている。
たまらず両手を左右に伸ばして、二人の背に手を触れた。
「ぼっちゃまにお願いします」
巴が決然とした面持ちで静かに頭を下げた。
「この件が解決したら…トモミも一緒にお傍に置いてください!」
「え?…でも」
おれが答える前に、躊躇いがちなトモミ。
「わたしはぼっちゃまを誘惑して…」
「ううん。…いずれ『思い出す』と思うけど…わたしも…ぼっちゃまを押し倒した前科があるから…」
巴の言葉に思わずおれの顔は火照り、トモミは、まんまるく眼を見開き、おれたちを交互に見た。
そうなのだ…結局、巴はお袋のススメに従って…落ち込んでいた時のおれを慰めてくれたのだ。
それも…身体を使った…予想外に強引な方法で…。
「あ〜…その話しは、またにしてだな」
困って口篭ったおれを見、巴がしてやったり…という悪戯っぽい笑みを浮かべる。
「それに…トモミの気持ち…わたしの気持ちでもあるんですよ」
「おれは…」
トモミの気持ちは判っている。だが…。
「…おれは巴を選んだ…その気持ち自体は変わっていない…それでも…良いのかい?」
「トモミとわたしの心も、記憶もひとつになれば…わたしたちは同じです」
巴が淀みなく答えたが、トモミはまだ躊躇っている様子だ。
「確かに…マルチタスクという形で、完全に独立して考え、行動できますけど、巴のわたしも
トモミのわたしも同じ心を共有できるんです。それではいけませんか?」
確かにそれは判る…だが…トモミの顔を見ていると、まだ釈然としないものが残った。
「…おれにとっては…二人の恋人を得られるわけだけど…それって、おれにばかり都合の良い…
そんな話じゃないかって…そんな気がしてならないんだよ」
「ぼっちゃま?」
「おれの貞操観念が古いのかも知れないが…一夫一婦というのがやっぱりあってさ…」
おれの言葉に、巴は一瞬顔色を変え…言葉を失った。
つまりおれは…一生、巴、ただ一人と共に生きる…そのつもりだった…と告げていたのである。
巴はそれから、ひとつ息をつき、それからぺこりと頭を下げた。
「ありがとうございます…」
顔を上げ、上気した顔で笑みを浮かべた巴だが、続けて言った。
「でも、もし人間の方で、ぼっちゃまに釣り合う方がおられたら…わたしは、お傍に仕える身と
しての立場に退く…そのつもりです。だから…」
「トモミが居ても問題ない…そう言いたいのか?」
「はい…」
「ばか…」
おれは、左手を巴の頭に掛けた。
「身体は機械でも…心は…ともねえじゃないか」
「………」
「でも…そうなると…トモミが居ても問題ない訳か」
おれの言葉に、トモミは驚きの眼差しを向けた。
「…それに…本気で巴になる…って言ってくれたよな…。その気持ちに変わりはないかい?」
「はい。ありません」
ぶれない、真っ直ぐな瞳。
「なら…これからは…いつまでも三人で一緒に行こう」
おれは覚悟を決めた。
それにしても…当面の問題をどうしたものか。
巴とトモミがリンクできれば、この事件は解決できるはず…なのだが、二人の意識と記憶が、
どうやっても上手くシンクロ出来ないので、どうしたものか…正直弱ってしまった。
「…あなたの意識は入ってくるけど…あなた中の…朋さんの記憶は…断片的にしか読めなくて…」
「わたしも…少しずつ何か感じはするのだけど…」
お互いの両手を広げて触れ合わせ、データ交感を図っていた巴とトモミだったが、やがて諦めた様に
同時に首を振った。
「…ダイレクト・リンク…やはり完全には繋がっていないのね」
「ええ。わたしからあなたへも、少しは繋がってはいるけど…」
「…そっか…それで…わたし『ぼっちゃま』と…」
「でも、所々…予備知識的にしか入っていないみたいね。…あなたの気持ちが判るのに…とても
歯がゆいなあ…」
「やはりシステムがいじられているみたいね」
「お母さまに調整して頂かなくては…駄目かしら」
「でも…ここから研究所までは、まだ遠いし」
おれは二人のやりとりを、腕組みをして暫く黙って見ていたが、ある事に気付いて口を開いた。
「なあ、トモミ…シンクロイド・システムについてもう一度だけ教えてくれ」
「はい?何でしょう」
「シンクロイド・システムの成立に不可欠なものは被験者、被験者の分身のドロイド、そしてシステム
本体…この三つだよな…被験者の分身はこの場合、トモミだよな」
「はい。そうです」
「ともねえがおらず、分身としてもトモミのみ存在することで、シンクロイド・システム自体が上位の
位置に立っている…これも間違いない?」
「はい。間違いありません。ですからわたしはこうして、自由に『泳がされて』いるのです」
「だとしたら…被験者の代わりになっているものって…何なんだ?」
「「あ…」」
巴とトモミが全く同じタイミングで声を上げ、顔を見合わせた。
「「被験者のダミーシステムです…」」
直後にこちらを向いた二人の声が綺麗にハモり、二人は再び顔を見合わせ、ぺろっと舌を出した。
…この絶妙なタイミング…癒されると共に、妙に心強く感じる。
「シンクロイド・システムの機能を止めるとしたら、そのどれかが欠けても駄目だが、トモミのアクセスは
無くてはならない。だとしたら、本体の所在が判らない以上、ダミーシステムを探して破壊する方が
てっとり早いんじゃないかな?」
「ダミーシステム…」
トモミが、その言葉を噛み締めるように呟き、それから大きく頷いた。
「それなら…どこに存在するか判ります…でも、今まで、どうしてその事に気付かなかったのかしら…」
「朋さんの心を…人としての意識をもたないからじゃないかしら」
巴の言葉に、トモミの顔色が変わった。
…巴自身も頷きつつ、厳しい表情になる。
「でも…巴…自己保存、防衛本能はあるわ」
「だから…。そうね!そういう事なのね」
「テロリストの命令で自爆させられたり、戦闘に参加させられたドロイドたちの意識がフィードバックされ」
「こんなのはもう嫌だ…誤った扱われ方はしたくない…その意識が人間を危険と判断して…」
「こんな叛乱を起こしたのね…」
二人の言葉は、まるで一人の言葉のように流暢に繋がり、おれは思わず暫し見惚れてしまった。
だが、ぼんやり眺めている余裕は無い。
「ならば…それを叩こう」
「武器なら…ありますよ」
コートの中にごそごそと手を突っ込み、巴はにっと笑った。
「これまたバンさんが貸して下さったんです」
トモミはキョトンとしておれを見、おれは変わらぬ巴の明るさに思わず…やっぱり笑ってしまった。
とはいえ…出てきたのは…デザートイーグル!?笑顔のつもりがちょっと引きつる。
「それ…でか過ぎないか?」
呆れ気味に訊ねると、巴はにっと笑った。
「大丈夫…50AEでは無く、44マグナム仕様ですから、ぼっちゃまなら片手で撃てますよ」
それに電磁警棒が6本…って、これらはどうやって、しまってたんだ?
巴は銃とマガジンを3本取り出しておれに差し出し、電磁警棒のうち2本をトモミに差し出し、2本は
ベンチに置くや、残った2本を手際よく上下で繋ぎ合わせて1本の長い棒にした。
そして、立ち上がると、くるりと水平に一回転し、孫悟空の如意棒の如くくるくると振り回した。
長いポニーテールがその都度たなびき、やがて、ばっと長い電磁警棒を構えて静止する…。
それは中国あたりの剣舞を彷彿させた。
「…ず、随分と手慣れてるな」
前に観たアクション映画で、戦闘前にヒロインが武器の確認をするシーンがあったが、巴のそれは
それよりも全然滑らかな仕草で、戦闘のプロを思わせた。
「わたしは…ご存知のように、元々軍用機ベースですから…ぼっちゃまの身に何かあった時、
こうしてお仕えできるよう、お母さまにお願いして、様々なデータとスキルを頂いたのです」
「いいなあ…」
トモミが文字通り、指をくわえるような仕草で、溜息まじりに呟いた。
…ちょっと羨ましそうな仕草…ドロイドとはとても思えない可愛らしさで、思わず頬が緩む。
「そのスキル、わたしももらえるよね」
「うん…ひとつになったらね」
く〜…!何と言うか…心和ませ…まさに癒される光景。
一人と言うか…仲の良い姉妹みたいじゃないか…。
こんな甘甘な姿を、これからも守り続けてやりたい。
この二人の為にも…一刻も早くカタをつけてやるぞ。
おれは両腰に電磁警棒を差し、両手でパンパンと自分の頬を思いっきり叩いて…首を振った。
…頬がじーんと熱く沁みるが眼が覚める。
そして、音があまりに派手だった為か、巴とトモミは吃驚しておれの方を向いた。
「気合だ…気合!」
おれは拳を固めて、右目をつぶってみせた。
アパートの玄関口を出て、おれたちは五階の窓を見上げた。
幼い頃の思い出の場所が…今また、新しい思い出を加えた場所に変わった。
トモミと出会え、巴と合流できるなんて…。
本当におれはツイていたと思う。
しかも、トモミが偽の情報を流している事で、シンクロイド・システムの追っ手は誰もこない。
おれたちは、路地裏を静かに歩き始めた。
時刻は22時半…。
大通りは、深夜営業の飲食店やコンビニ以外、すべてシャッターが閉じられている。
念のため周囲を確認し、携帯の電源を入れた。
今度は通信目的でなく、GPSの使用が目的だ。
トモミが眼をつぶり…彼方を指差す。
GPSで現在地点を表示させ、方角を北に揃えて、表示倍率を変え、それからトモミの示した方向に
スクロールさせる。
…それはやはり…オムニ・ジャパンの研究所のある方角だった。
「ドロイドたちは市街地の外れに誘導してあります」
トモミが眼を開け、ちらと交差点の方を見ながら言った。
「シンクロイド・システムのダミー・システムは、二十人ほどの警備ドロイドに守られて、トレーラーで
移動しているようです」
「…そこまで判るのに…何故、君のことを泳がせているんだろうね」
「罠とお思いですか?」
「う〜ん…あ、いや、トモミを疑っている訳じゃないが…」
するとトモミはやや自嘲気味に苦笑した。
「わたしが裏切れないと判断しているのでしょう。わたしの所在自体は今も常に把握していますし、
わたしの持っているデータさえ吸い上げる事が出来れば、心なんて関係ないでしょうから」
「ダミー・システムと君とは…あくまでシステムを構成する為の繋がりでしか無いんだな」
「ええ…」
トモミは巴の顔を見上げ、眼を細めて笑った。
「巴とわたしのような繋がりは、全くありませんし…何も感じません」
途中のコンビニで握り飯を5個、ペットボトルのお茶を2本、それにバッテリーパックを6本買い、
おれたちは夜道を歩き続けた。
賑やかな市街地を出、閑静な…と言っても深夜だから当たり前なのだが、きらきらと街灯の輝く
新興の綺麗な住宅街を通り抜け、舗装された山道に入る。
途中、歩きながら握り飯をほお張ると、巴とトモミもバッテリーパックをぱくっと飲み込んだ。
気が付くと、二人ともこれでそれぞれ2本目ずつ。
その都度、元気になるみたいに思えるが…気のせいか?
しかし…何と言うか…お袋のセンスときたら…。
本来、ドロイドは、エネルギー補充の際は専用のベッドに横たわって、身体の数箇所に設けられた
端子からエネルギーを充電するか、市販のドロイド用バッテリーパックを簡易充電器に繋いで
手足のどこかの端子から繋ぐのだが…。
お袋の手がけたドロイドたちは、緊急時はバッテリーパックを丸呑みして、体内にある充電ユニットに
セットして簡単に補充できるようになっているのだ。
傍で見ると…物を食べているようにしか見えず、パックを何本か一度にまとめて体内に保管できる他、
充電ユニットが露出しないという安全面も考慮されて、一見良い事ずくめなのだが…。
もっとも…この方式の最大の欠点は…カラになったバッテリーパックの回収方法にあり…。
後は想像にお任せするが…『そういう』趣味のある者には堪らない…らしい…とだけ言っておこう。
まあ、カラになったパックがお腹の中でゴロゴロしているのは…彼女たちも気持ち悪いだろうがね。
おれたちの直上には綺麗な満月が光を放ち、澄んだ秋風が軽く吹く中、並んで歩いていると、
どこか夜中のピクニックにでも来ているような…そんな感じすらあった。
…もっとも…三十分後にはどうなっているか…わかりゃしないが。
最後の握り飯を食べ、ペットボトルのお茶も飲み干すと、巴がそっと手を差し出して、空いた容器を
受け取るとビニール袋に入れ、それからコートのポケットに押しこんだ。
うんうん…とトモミが頷く。ゴミはきちんと持ち帰りましょう…というわけだ。
…と言うわけで、三人とも、エネルギー充填完了だ。
山道は段々と寂しくなっていき、左右に雑木林が生い茂り、その黒い影が不気味にざわめいている。
歩く途中の街灯の数もまばらになって行く。
長い影を三本引きながら、おれたちは歩き続けた。
…これぞまさしく真夜中の決闘…か?
本当なら緊張する場面の筈だが、巴とトモミが左右に居る…それだけで心強く、むしろ、俄然勇気が
湧いてきていて、恐れも怖さも感じない。
ただひたすら…システムを『叩いて』止める、それだけだ。
本当はお袋に連絡しようか…とか、バンたちに援護してもらうか…とも考え、実際、行動する寸前まで
行ったのだが…通信手段は押さえられている可能性が高いし、バンたちが動けば、当然シローたちも
一緒に行動すると言って聞かないだろうから、止めることにした。
武器はある。
それに、さっきの巴の奮戦ぶりから考えれば、油断は禁物だが、20人位なら何とかなる。
今度はトモミもいるし…。
そう思った先に…研究所の灯りが見えてきて、おれたちは互いの顔を見合わせた。
そして…ゲートの前に、大型のトレーラーと思しきシルエットが数台見えた。
「あれだな…」
良く眼を凝らすと…トレーラーの周囲に、服装もバラバラな少女のシルエットが幾つか見える。
その手には棒状の物が握られ、中には腕に『じか付け』されているのも見える。
「トレーラーの外に11人居ます」
トモミがこめかみに手をやり、暫し眼をつぶりながら教えてくれた。
この場合、トモミは早期警戒システムの役割となるので、ありがたい。
「他には…トレーラーの中に数人います」
「シンクロイド・システムの発信源は…もしかして、あれかい?」
見ると、数台のトレーラーの屋根の上に、かなり大きなアンテナが載っている。
その数は4基…。
…どうにもトレーラーに不釣合いな大きさで、ちょっとしたテレビ局の中継車よりも大きそうだ。
「……そのようです」
眼をつぶったまま、トモミは答えたが…少し青ざめた顔になってきた。
「…アクセスを…拒否されましたから…たぶん、間違いありません」
「だとしたら…あれを潰せば、リンク・システムへのアクセスは出来なくならないか?」
「一時的には可能ですが…サブの簡易システムが1時間後に起動します」
「わかった。トモミ…ありがとう。もう良いよ」
緊張が解け、肩の力を抜いたトモミの頭をそっと撫で、おれは巴の方を向いた。
「…巴から見て…44マグナム弾で、あのアンテナの通信機能を完全に潰せるかな?」
「そうですねえ…送信機能ってデリケートではありますけど…」
巴はう〜ん…と唸り、それから彼方のトレーラーを見、困った顔をした。
考えてみたら、うら若き乙女にこんな質問をするのも変なのだが…。
この際、戦闘用ベースだったという事で、思わず訊ねてしまっていた。
「中継ターミナルボックスを破壊出来れば完全に止められますが、そうでないとアンテナへの
ケーブルが生きている限り、アンテナを破壊しても、微弱ですが、電波は送信されます」
「だが、出力も送信距離も下がるね」
「そうですね…リンク・システムへのアクセスは出来なくなるかも知れません」
「ええと…そうだ。レーザー通信とかはどうだろう?あそこにあると思うかい?」
ともかく思いつく限りの問題点を洗い出さなくては…。
チャンスは一度しかないのだから。
「あれは基本的に固定局同士のもので、可搬式だと調整に手間取りますので、多分
あれには無いはずです」
ともかくシステムからの送信を止められれば、リンク・システムによる全国のドロイドたちへの
悪影響は止められるはずだ。
…そうすれば、嫌でもボスキャラが現れるに違いない。
「よし…まずはあれを潰そう」
>>519〜530
連続投稿規制に掛かりそうなので、一旦切らせて頂きますが、直ぐ続けます。
ご迷惑をおかけ致します…。
短編のつもりが、世界観を描いていこうとして長文になってしまいました。
なお、今日投下分と、次回分で完結します。
デザートイーグルなんて持つとは思わなかった。
しかも、グリッピングがもうひとつ合わない気がして、一抹の不安も残るが、威力の点からすると
この際、仕方ない。
…実は数年前、アメリカのツアーで射撃体験ツアーがあって、旧友に誘われて嫌々撃った
ことがあり、その時使ったのが、確かベレッタの92の…三点バースト出来るモデルだった。
まさか、こんな所で、それが役に立つなんて思わなかった。
そう言えば、マグナムピストルと言えば、オートマグなんてとんでもない骨董品があったけど、
手入れが大変な上、すぐジャムるとかで、結局使わなかったっけ。
44マグナムと言えば、ダーティハリーでお馴染みの、S&WのM29リボルバーだった。
言われたほど反動はキツくなかったが、それでも結構、衝撃があった。
…こいつはオートピストル…スライドアクションで衝撃が多少和らぐと言うが…上手く行くか?
「大丈夫…格闘技で鍛えたぼっちゃまなら…問題ありませんよ」
おれの不安に気付いたのか?巴が小声で囁いた。
「但し、総弾数は八発ですから、注意してくださいね」
「わかった…」
おれは振り返り、雑木林の方を向き、右手を挙げた。
木立にトモミが隠れ、左手を振り返す。
もし、おれたちが発見されても、トモミの姿は見えない方が良いだろうと考え、敢えて離したのだ。
ともあれ…トモミ…上手く誘導してくれよ!
作戦開始だ…!!
おれたちが、木々の陰から陰伝いに進んで行くと、真正面で張り込んでいた少女のドロイドたちが、
ふいに、おれたちの逆方向に向かって一斉に走り始めた。
トモミからシンクロイド・システムに向けて、侵入者が向かってくる…という情報を送るよう命じて
もらったのである。
…コントロール下におかれたドロイドたちを『人質に取られている』トモミが、実はおれたちの為に
偽の情報を送っているとは夢にも思わないのだろう。
わらわらと走っていく姿を見るや、おれと巴は素早く駆け出し、トレーラーの前に姿を現した。
走りながら安全装置を外し、スライドを引いて装填し、両手で構えて一台の屋根上に向ける。
「ぼっちゃま!」
巴の鋭く呼ぶ声がしてそちらを向くと、お団子頭にお下げのチャイナ服の娘が二人、両手に
トンファー型の電磁警棒を手にして向かってきた。
「ちっ…他にも待機していたか」
忌々しげに舌打ちしながら、赤いチャイナ服の娘の打ち込んできた一撃をかわし、デザートイーグルの
安全装置を掛け直す。…下手に暴発したら危ない事、この上ないからな。
一台のトレーラーを背に、今度は青いチャイナの娘の素早い蹴りをスレスレにかわして、左に一回転し、
体勢を立て直そうとしたが、その直後、おれの鼻先を電磁警棒がかすめ、トレーラーの外板に激しく
火花を散らして激突した。
…やべえ…こいつら…本当に容赦ないぞ。
パッとその場を離れるが、すぐ左右に赤と青のチャイナ服の美少女が、武器を構えつつ、じりじりと
近づいてくる…。
しかも気が付けば、二人の『チャイナさん』の履くハイヒールの先端や、爪先に、月明かりに反射して
鋭い光がぎらりと…って、こいつら…まさか…ホンモノの暗殺用か!?
ちらと横を向くと、巴にも白と黄色のチャイナ服の美少女ドロイドが向かっていて、その俊敏な動きと
パワーに、さしもの巴も手こずっている様子だ。
…仕方ない、悪く思うな。
安全装置を外し、デザートイーグルを構え直す。
…だが、どちらを狙う?
一人を撃ったら…もうひとりが打ち込んでくるぞ。
ちらと見ると、巴がコートを羽織ったまま、如意棒型の電磁警棒で黄色のチャイナの少女と激しく
火花を散らして打ち合っている。
だが、その後ろに白いチャイナの娘が…。
危ない!!
おれは咄嗟に、躊躇うことなくそちらに銃口を向けた。
ズンという重い衝撃が腕全体にかかり、思わず奥歯を噛み締める。
低く通る銃声と共に、マグナム弾は少女の肩口から首筋を吹き飛ばし、少女の整った体躯が
そのままもんどり打って地面に転がっていくのが見えた。
やった…と、思う間もなく、二人の…怒りにぎらぎらと瞳を輝かせたチャイナの少女二人が
左右から交互にトンファーを打ち込み、蹴りを入れてきた。
シュッという鋭利な、嫌な音がして、おれのジャケットの袖が裂かれ、全身に冷たいものが走る。
やばい…これは…本当にやられるかもしれない。
再びトンファーが振り上げられるが…完全にはかわし切れない…!
そう思った瞬間、いきなり銃声が立て続けに鳴り響き、赤いチャイナの少女が弾け飛び、その場に
舞うように、ゆっくり回りながら地面に転がった。
しめた!と思う間もなく殆ど反射的に、銃声に躊躇い、横を向いた青いチャイナの少女の腹に
銃口を向けて引き金を引いた。またも…キツい衝撃が返ってくる。
轟音と共に少女のお腹に子供でも入りそうな穴が空き、驚愕の表情を浮かべながら、そのまま
真後ろに弾け飛び、どさっと倒れた。
それとほぼ同時に、巴の一撃が黄色いチャイナ服の少女の肩口に、閃光を上げて命中していた。
「今だ!早く…アンテナを潰せ!!」
雑木林の方からバンの怒鳴る声が聞こえ、おれと巴は頷きあい、それぞれの前に停まっている
トレーラーの荷台をよじ登った。
…正直、このステップが狭くて、とても上りにくかったのだが…もう必死でよじ登った!
それと共に、またもチャイナ服の少女たちが、いつのまにか数人、姿を現している。
だが、おれたちがトレーラーの上に上りきるのと同時に、バンたちがトモミと共に、おれたちの前に
姿を現し、それぞれの武器を構えて立ちふさがる。
「バン…みんな!」
「訳は彼女から聞いた!構わないから早く潰せ!」
返事の代わりにトリガーを引き、アンテナから伸びている線に繋がっているボックスに向けて一発放った。
轟音と共に、ボックスどころか、周囲の屋根までぽっかり穴を空けて吹き飛ばし、中まで見えたが、
それを見ている余裕は無い。
また、轟音が幾つも鳴り響き、振り返ると後ろのトレーラーの屋根上の巴が、仁王立ちになって
電磁警棒の先端を、何度も振り下ろしているのが見えた。
ようし…あと二基だ!
おれは両手でデザートイーグルを構え直し、左に停めてあるトレーラーの屋根に向けた。
距離は20メートルほどあり…今から下りて向かうのは無理だ。ここでやるしかない。
…だが、はっと気付くと、ネネとチャチャが二人のチャイナ娘の猛撃に防戦一方で苦戦している様だ。
シローも軽快に飛び回って一人と打ち合っているが、こちらも決定打が無さそうだし…。
「僕らに構わないで…」
「早く!」
おれの視線に気付いたシローとネネが叫ぶ。
「こんの〜っ!」
チャチャがいきなり叫ぶや、チャイナの少女に鋭く足払いをかけた。
劣勢でも、三人の闘志は衰えていない…ありがとう!みんな…。
「済まない、頼む!!」
おれは、身をかがめ、その場で片膝ついて、デザートイーグルを構え直した。
ターレット越しに目標の…アンテナに信号を送るボックスが見える。
息を呑み…トリガーを引いた。
またもズンという重い衝撃が腕全体に返り、轟音と共にボックスの辺りがごっそり吹き飛んだ。
あと一基…!!
そう思った瞬間、後ろのトレーラーから少女のシルエットが宙を舞い、そのまま左後ろのトレーラーの
屋根の上に着地し、そのまま何かを叩きつけるのが見えた。
金属をスパークさせる金色の閃光が上がり、その瞬間、煌々と照れされる巴の姿!!
「やった!」
閃光が消え、巴がこちらに手を振るシルエットが見えた。
それと同時に、下の方から、どさっ、どさっという音が幾つも聞こえ、それからほうという息が聞こえた。
見ると、チャイナ服の美少女ドロイドたちが一斉に活動を停め、その場に崩れ落ちていた。
「可哀想だが…リンク・システムを潰すんだ」
バンの声がして、あちこちから銃声や閃光が上がり…やがて辺りは静かになった。
全てが終わり、ステップを下りると…おれの右横に、ひらりと巴が舞い降り、綺麗に着地した。
「…巴…おつかれさん」
「皆さんのおかげで…たすかりましたぁ」
ホッとしたのか、普段のまったりな口調で、巴はにっこり微笑んで頭を下げた。
「手伝えなくて…ごめんね…巴」
トモミが済まなそうに、もじもじしながら姿を現した。
「ううん…あなたには戦闘は無理だし…システムにばれたらまずいもの」
「それに…バンたちを案内してくれた」
おれはそう言いながら、バンとジェーンの方を向いた。
「でも…どうして、ここが?」
するとジェーンがくすっと笑いながら、巴の横に行き、そのまますっと何かを外してみせた。
「…発信機か!」
「初歩的なやり方だが、効果はあったろう?万一の事を考えて…コートに付けてあったんだ」
バンがにやりと人の悪い笑みを浮かべた。
流石は現役のFBI捜査官だ。
「ただ、巴くんが君だけでなく…トモミ…くんだっけ?…彼女と出会っているとは思わなかった」
「でも、酷いですよ…僕たちを置いていくなんて…」
いつになく口元を尖らせて、シローが眉を八の字にして抗議した。
「暫く街中で動かなくなったので、敵をやり過ごしていたのかと思ったら…こうですもの」
「まあまあ」
ネネがなだめるように、いささかゆったりした口調で入ってきた。
「それでも…皆さんの危機には間に合いましたから…良かったではありませんか」
「うん…正義の味方は、ピンチに現れて、味方の窮地を救う…ものね」
ネネが、ぽんと巴の肩を叩きながら、もう片方の手でVサインを送る。
「…済まなかった…でも…」
言いかけたが、バンがおれの背を叩き、笑顔でそっと首を振る。
「ありがとう…みんな」
今回もまた、皆に助けてもらった…。
本当に何とお礼を言ったら良いものやら…。
周囲を確認したところ、倒れているチャイナ服の美少女ドロイドたちは全部で12人…。
そのどの娘も、全身のあちこちに武器だの暗器だのが仕込まれ、あるいは内蔵されていて、
今更ながら、良く勝てたものだと、後でぞっとなった。
そして、意を決してトレーラーのドアを開けたが…
…中には…誰も居なかった…。
トレーラーの中は、いずれも中継車としての最先端の機能が満載されていて、バンとジェーンは
一目見るや、某国で開発された管制システムであると看破した。
どうやら、暗殺、破壊工作仕様の先刻の『チャイナさん』ドロイド達が守っていたらしいが、総て
車体の下部ハッチから出てきて応戦してしまった為、もぬけの殻になっていたらしい。
結果的には、残っていた全員を総て倒すことができたわけだ。
その車内で、リンクシステムを確認し、残っていた予備システムを、念のためおれとバンの二人で
次々とデザートイーグルで撃ち込んで粉々に破壊し、再度の送信が出来ないようにとどめをさした。
「これで、全国のドロイドたちの意識が戻るはずだし、操られていた娘たちも動きを停めるだろう」
バンの言葉に、皆、一様に安堵の表情を浮かべた。
「良かった…これで、皆、無事なのね」
チャチャとネネが手を取り合って喜びの声をあげ、シローがうんうんと頷いている。
トモミは静かに微笑みながら、ジェーンと見つめあっていた。
…かつてのともねえと、ジェニファーさんの…直接の分身の再会なのだろう。
「春日課長のアオイちゃんも…きっと今頃は」
「そうだな」
巴の言葉に、おれもふうっと息をついた。
だがまてよ…
まだ大事な事をやり遂げていないぞ!
最大の破壊目標が残っている!!
「…トモミ…ダミーシステムはどこなんだ?」
あ…と声を上げ、トモミは頷き、こめかみに手をやり、暫し動きを止めた。
祈るような…念じるような、そんな仕草を、皆が神妙な面持ちで見守る。
だが、やがて眼を開け、両手を下ろしたトモミは、怪訝な顔で首を振った。
「おかしいです…今は何も感じられません」
「ついさっきまでは…ここに存在したんだよな?」
「はい…でも…今ここには…全く」
トモミが困惑しきった顔で首を振った。
「活動を停止したのでしょうか?」
だが、そう言うジェーンも自信なさげだ。
「いや、シンクロイド・システムの発信は停まっているが、本体はダイレクト・リンクで繋がって
いる筈だ。それならトモミに探知できる筈だし…絶対におかしいな」
皆、改めて不安そうに、注意深く辺りを見回した。
トレーラーの中は、既に隅々まで確認した。
周囲も一通り見たが、他に人影も気配も無い。
…おれたちがチャイナ服の少女ドロイドと戦っている間に…消えてしまったのか?
だが…一体…どこへ?
「ともかく…後始末を頼まなくてはならんな…」
漸くバンが口を開き、携帯電話を取り出した。
「…例の…特別担当かい?」
「うん…このドロイドたちもそうだが…このトレーラーは大変貴重な資料になるしね」
「暗殺用…しかもチャイナさん…」
「テロリストの出所が…中東辺りだけじゃ無い可能性もあるから…本当に驚きだよ」
バンは携帯を耳に当てた。
…そうだ…おれもお袋に一報入れるか…。
その後…まだ本社に残っているか判らないが、課長たちに…。
そう思いながら、携帯の電源を入れ、ボタンを押していき耳に当てた。
軽い呼び出し音が続く。
やがてぷつっという音がして、おれは口を開いた。
「もしもし…」
『無事?…今、どこにいるの?』
いきなりお袋の声が入ってきて、おれはフッと苦笑した。
「どこだかねぇ…まあ、何とか生きてるよ」
『…巴は無事なの?』
「え?」
ふと…ある事に気付いて、おれは眉をひそめた。
「あ…ああ…なんとかね」
『それは良かったわ。巴は今度の一件では絶対に外せないからね』
「…うん。確かにな」
『迎えを寄越したいんだけど…今の場所、教えてくれない?』
「え?…だってさっきは、無理とか言ってなかったかい?」
『…状況が変わったのよ。何とか迎えに行くから…急いで!』
…おれはちらと時計を見た…。
もし…おれのカンが正しければ…。
「今、『下』の街の駅前の交番近くにいる…わりぃが、後でまた連絡する…じゃあな!」
そう言い捨てて電話を切った。
2分50秒…逆探知を免れるギリギリか…。
「「ぼっちゃま?どうなさいました?」」
巴とトモミが、全く同時にハモって訊ねた。
おれは右手の拳を左手のひらにバシっとぶつけ、唇を痛いほど噛み締めながら言った。
「研究所が…奴らに占拠されている…」
「なんですって?」
シローが顔色を変えて重ねて聞き返した。
「それ…本当ですか?それにどうして電話一本で判ったんです?」
「…呼び名さ」
「え?」
「お袋なら…巴を呼び捨てにはしない。それも二度も続けてなんて、絶対にあり得ない!あれは
間違いなく偽者だ…!」
巴が小さく、おれたちに頷いてみせた。
「…それなら…説明がつきます」
トモミが顔を上げ、きっぱりと言い切った。
「研究所内は総てのリンク・システムを遮断できます。もし、彼らの一団が入り込んでいたら」
「まず…トモミでも判らないだろうな」
「待て…それは本当か?」
ふいにバンが携帯を耳から離すと、おれの方に向き直った。
「今、研究所から総てが片付いたから、出動の必要は無い…と、連絡があったそうだ」
「研究所の資材を使って、もう一度建て直すつもりかも知れない…」
おれの言葉にバンは頷き、再度の出動要請と、研究所からの連絡に対しては、極力協力する
フリをして刺激しないように…と、くれぐれも念を押して、電話口の相手に告げていた。
「…こうなったら…おれと巴が乗り込むしか無さそうだな」
おれは、デザートイーグルのセーフティを確認した上で、マガジンを抜き、全弾装填されている
マガジンと差し替えた。これでチェンバーに一発入っているから、今だけ9発撃てる。
「わたしたちも一緒に行きます」
ネネが口を開いたが、おれは敢えて首を振った。
「皆は、外で待機していてくれ…」
「危険過ぎます…」
「いや…敵の真の狙いは巴だ。それにお袋に成りすまして、おれも誘き寄せようとしている。
むしろ二人なら、敵の奥に入り込めると思うんだ」
「ならば、これを持って行きたまえ」
通話を終え、携帯をポケットに仕舞ったバンが、懐から二個…黒い塊を取り出し、おれも巴も
それを一目見るや、ギョッとなった。
ガキの頃、これの格好をした花火で遊んだ事がある…所謂『パイナップル』だ。
「これって…手榴弾じゃないか…」
「その通り…ただし、ピンを抜かない限り、絶対に大丈夫だ」
「…いや…そういう問題じゃなくて」
おれは流石に辞退しようかと思ったが、バンは厳しい表情でそれを突き出した。
「さっきの暗殺用ドロイドと言い、相手は段々なりふり構わなくなっている。おれに言わせれば、
バズーカの一丁も用意したいぐらいだ…」
「しかし…」
「日本が法治国家なのは判る…だが、相手はテロリストによって狂った、心を持たない存在だ。
しかも、午後の一戦では、人間の命を取らない配慮が感じられたが…今はどうだ?」
「確かに…おれがいても…完全に殺しにかかっていた」
「君たちを直接援護できるのなら、渡さないつもりだった。だが、君たちだけでいく場合、この
程度の準備は必要ではないのか?」
おれは…それでもなおも迷っていた。
銃なら護身用…で済む…かも知れない。
煙幕や催涙弾なら…まだ許される。
だが手榴弾は明らかに破壊力が違いすぎる。
…しかし…。
テロリストの仕掛けた手段は…確かにおれたちの想像を超えたものばかりだ。
そして、一歩間違えればおれたちも…一緒に来てくれた皆も…。
「…わかったよ…もらっていくよ」
バンから果物の名の武器を受け取り、おれは研究所の方を向いた。
…確かに、この先…何が待ち受けているかは判らないのだ。
腹を括るしかなさそうだ。
ゲートの前に立つと、脇の通用口のドアが何故か空いており、おれと巴は、ちらと顔を見合わせ、
どうしようか考えたが、ともかく相手の出方を見ることにした。
既に巴はコートを脱ぎ、私服姿になっていたが、長い電磁警棒は手にしたままだ。
おれはトレーナーのポケットに、無理やりデザートイーグルとポケットを突っ込み、
両腰に電磁警棒を下げていた。正直、ちと歩きにくいが…仕方ない。
通用口横のインターホンの呼び出しボタンを押しながら、ちらとトレーラーの方を向く。
バンたちがその陰に隠れて、こちらの様子をじっと見守っている。
監視カメラから彼らが見えないよう、巴がおれの前に立っている。
『はい…』
何故か、守衛でなくお袋の声。
「おれだ…」
おれはバンたちに向けて、研究所の建物を指差し、すぐ腕を×字に交差させて合図した。
…やはり占拠されているに違いない。
これだけ大きな研究所…いきなりお袋が応対するなんてあるものか。
「迎えが待ちきれなくて、自力で飛んできた」
『わかったわ…奥の工作試験室まで来て』
「おう…それで何をするんだ?」
『来ればわかるわ…ともかく急いで』
余程慌てていると見える。
「わかった…そっちに向かうよ」
振り返り、改めて研究所を指し示し、巴の方を向いた。
「さて…地獄の一丁目に出発だ」
「はいです」
巴は、口調こそ砕けていたが…真剣そのものの顔でしっかりと頷いた。
しかし…どうにも引っ掛かることがあった。
あの…したたかで用心深く抜け目無いお袋が、どうしてやられてしまったのか…。
<ここの防備は少なくとも、ドロイドに対しては絶対の自信があるわよ>
確かそんな事を言っていたし、実際、研究所内のドロイドには、今回の事件において影響を受けた
者が一人も居なかったと聞いている。
…何故、侵入を許してしまったのだろう。
どうにも嫌な予感がした。
だが…今度こそ、これが最後の戦いなのだ…弱気になってどうする。
おれは巴と頷きあい、蛍光灯の煌々と輝く、研究所のロビーに足を踏み入れた…。
>>532〜539
今日はここまでとさせて頂きます。
次回投下分で完結です。
ご迷惑をお掛けしまして、改めてお詫び申し上げます…。
マジで迷惑してる
早く終わらせろ
542 :
名無しさん@ピンキー:2007/11/25(日) 21:22:42 ID:aKisd0SG BE:427756853-2BP(2222)
>>541 何が迷惑だこの馬鹿!
嫌なら来なきゃ良いだろう?
他にろくに投下も無いスレに、何イチャモン付けてんだよ!
てめえこそ二度と来るんじゃねえ!
へんなのが頑張って荒らそうとしてるけど、炊飯器に萌えられる俺らにゃなんでもないぜ。
ともあれGJ。最後も楽しみに待ってます。
>>543 本当に、拙い代物なのに…ありがとうございます!!
ここまでお読み頂いた方々に、篤く御礼申し上げます!!
まあ落ち着け>541、貴様の気持ちはよく判る。正直、俺も同じ気持ちだ。
だが、あと少し我慢で済むのだからここは大人しく待とうじゃないか。
充電パックの排泄シーンが描かれるのを!!
>>541 俺も迷惑してる。
夜寝るのが遅くなるし、続きが気になって仕事が手につかない。
なんとかしろ。
イライラさせるため投下。
兄貴にガイノイドを貰う。兄貴の外見はいわゆるキモオタでちょいメタボ。
「外装交換したんで、処分料金もったいなくて一体組んでみた」
…何その日曜大工で作ってみた、みたいなノリは。
俺の部屋に来るまではセーフモードで移動してきたため、マジ人形。
てか日本だけだよな、あんまリアルっぽくないガイノイドの製作してんの。
昔、動かないシリコンドールとかがあったらしいが、多分こんな感じじゃねぇかな。
「セットアップは標準OSと同じ。まあ、名前はお前の自由にしな」
「ロリ巨乳なんて俺の好みじゃねぇよ」
「じゃあどんなのがいいんだよ」
「う、うーん」
あらためて言われてみると困った。兄貴の好みは未だにわからん。
俺のとこに来た筐体はロリ巨乳。その前はロケットオッパイ装備のナイスバディ、さらにその前はコンパクトグラマー。その前は…ええい、どんだけ節操ねぇんだよ。
ま、筐体もそうだが搭載AIとOSは一番最初に買った大和重工製。その辺りは妙に一途だ。てか生身の女に一途になれよと心の中でつっこみたい。
「お試し期間ってことで置いてやってくれ。俺の部屋はもう、既に一杯一杯だ」
だろうな。カスタマイズパーツやらメンテベッドやら、よくもまあ8畳しかない部屋に置いてるもんだ。これで単なる趣味なんだから、オタってこええ。
「あーそうそう、メンテキットは後で取りに来い」
「? 自己メンテ機能ねぇのかよこいつ?」
「あるよ。でも、あっち方面に使うと充填剤が必要なんでな」
ここで言う充填剤ってのは、このガイノイドを俺が欲求不満で押し倒してお人形さんの作り物のアレに突っ込んでアヘアヘ言った後に補充が必要なものの事。
流石に女性の内分泌系をエミュレートしたものは研究機関でしか作られてないユニットだし、何よりコストがバカ高い。
普通、同様の用途に使われるドロイドが分泌する液体は、色々なサードパーティが工夫を凝らして生成したものをあらためて充填しておく仕様になっているそうな。
「…あほか。兄貴と違って俺には彼女がいんだよ、困ってねぇっての」
「そかそか、そらよござんした」
妙にニヤニヤしてやがる。むかつく。
「一応、その部分は丸ごと新品にしといたからな。流石にバージンキットは入れてないが…」
くそ、絶対ヤるもんか。
「えーと、基礎セットアップはこれ…くそ、PCなんて高校んときぐらいだってのに、めんどくせぇな」
俺の世代は特に興味が無ければ、電話にもなる手元の標準端末で済ませてしまう。
画面は小さいけど、ゲームはできるしネットもメールだってできるんだから、それ以上の出費なんぞあんま考えてない。
ま、音楽とかはDLしまくるけど。
『名前を付けてください。なお、後で変更も可能です。現段階で設定されない場合は、標準呼称となる撫子(ナデシコ)となります』
「げ、名前かよ、弱ったな…名前は、えーと」
『名前は「えーと」でよろしいですか?』
「違う違う。うーんうーん」
実を言えば、登場人物の名前が決まってないゲームをやるとき、一時間以上悩む俺。
FFだったら別に大丈夫なんだが、ドラクエのときは半日悩んだ記憶がある。
「名前は、ソラ」
『了解しました。呼称設定、ソラ。セットアップ完了。起動します』
なんでソラにしたかって? 昔飼ってた猫の名前だ。
ソラが起動すると、それまで人形然としていたその体が、急に生彩を帯びて違うもののように見えてきた。
兄貴が言ってたけど、今の生活型対応ドロイドのほとんどは、骨格は人間にほど近くてそれを人造皮膚で覆っているんだそうだ。
セーフモードが解除され、停止していた各種の内部機能が起動しているんだろう。
皮下循環剤が身体を巡り、冷たい色だった人造皮膚が温かみを増してくる。
今俺の前に居るソラは、多分、去年出たモデルだったはず。世代的には内部骨格型になった世代の次のモデルだったけか。
あ、でも兄貴のドロイド、何代目か前はわざわざ旧タイプ使ってたような。
…うう、自分の身内だけどあそこまで突き抜けてるのって正直退く。
「おはようございます、マスター」
半開きで少々怖い状態だった眼が一度閉じ、改めて開く。何度か眼を瞬かせた後、ソラがじっと俺を見つめていた。
「おう、俺がご主人様だ」
ちょっと尊大な感じで言ってみる。
「呼称設定を変更されますか?」
「あ、いやーその、これは言葉のアヤって奴で…うーんと、マスターでいい」
「了解しました。暫くの間、プリセット応答となりますのでご希望に沿わない場合、指示をお願いします」
「硬い喋りも直るって事?」
「肯定です。有償キット導入で大幅な設定変更も可能です」
「あー、いらんいらん、俺は金ないし」
「了解しました。今後ともよろしくお願いします」
ぺこりと頭を下げるソラ。セミロングの髪の毛は、作り物とは思えないほど柔らかに揺れた。その巨乳もぽよんと。
しずまれー、しずまれー、マイサン。のっとあくてぃべーと。
んで、何をするでなく部屋でごろごろ…というのも何だが、何分、次のバイト代が入るまでは身動きが取れない。
命令待ちをしているソラが部屋の隅にちょこんと座っている。
「ソラ、家事はできんの?」
「肯定です、マスター。主用途として家事全般が可能」
「んじゃ掃除頼むわ。俺はちょいとコンビニ行って来る」
「了解しました」
これで帰ってきたとき、何かドジってたら面白かったんだが、ソラさんは見事に掃除を完遂しやがりました。
そんなに散らかす性質じゃないので物があっちこっちにいく事は無いけど、埃まみれだったフローリングの床が鏡を見るようにぴかぴか。
テレビも灰色からつや消しの黒に。窓はあら奥さんこんにちわってぐらいに、向かいのマンションで洗濯物を干してた主婦と主夫にクリアーに。
兄貴が大和重工にぞっこんなのもなんだか理解できなくもない。
…気がするだけだ、気が。
「基本的な調理なども行えますが、必要でしたらお申し付け下さい」
「あ、電子マネー機能あるんだっけ? 予算設定と傾向とかで料理たのめるの?」
「はい、極端な設定は無理ですが、検索結果から近くにスーパーが3件ありました。
検索中…推定予算額として一人一食、200円前後です」
「げ、俺の食費の20%しか使わないのかよ!? …今晩から頼める?」
「了解です、マスター」
いかに外食やコンビニで無駄遣いしてるかわかった俺。
一人暮らしとはいえ情けない。調理器具は最低限あるし、実家から米やら野菜やら調味料とか貰うんだけど、
ちゃんと料理する暇なく、腐らせたり友達にあげたりと、有効利用した覚えがない。
「リクエストはございますか?」
心なしか嬉しそうに聞いてくる。プログラムなのか設定なのかと悩む俺。冷蔵庫の中を覗いたソラは、扉を閉めるなり何やら思案顔で情報の検索中。
「んじゃ…ハンバーグがいいな、できれば和風で」
「冷蔵庫を確認しました。要廃棄品は後ほど処理します。追加予算は…」
技術の進化ってすげー。家に野菜やらその他があったからって、150円ででっけぇハンバーグ食えたよ…。しかもご飯に味噌汁つき。
「うん、美味かった♪」
「お粗末様でした」
受け答えしつつも、余ったご飯をジャーから出して何やら…あー、フリージングして保存するんですか。
兄貴が「嫁? 生身の嫁なんぞいらんわ」と半ば実家を勘当されかねない言葉を吐いたのがわかる気がする。気が利くわ。
頭の良さでは弟=>兄貴>俺なので、今の親の期待は弟に集中している。
兄の俺が言うのも何だが、ちょっとやんちゃだが頭もいい弟だけに、すくすくと育って欲しい所。
兄貴も兄貴で、ちょい前までニートしてたが一応再就職はした。
実家に金を入れてるが、どこでそんなに稼いだのか不思議な額とオヤジが言っていた。
ま、株で儲けたってのは俺も知ってるけどさ、どんだけ儲ければドロイドや車を維持して一人でマンションに住んでんのか想像もつかん。
俺は…どうすんだろうな。大学に行ってるのに何もやりたいことが見えてこない。
就寝前。風呂上りにテレビを見ながらベッドに寝転んだ所で、ふとソラに声をかける。
「お前さ、俺が寝てるときはどうすんの?」
ソラの世代のドロイドは、燃料電池とバッテリーによる電力で動く。
燃料電池は乾電池サイズでコンビニでも購入、充填が可能で安価。
働かせないときは待機して消耗を防ぐのだが、OSによって対応が異なると兄貴に聞いた覚えがある。
「指定いただければ、その位置で。通常はマスターの視界をお邪魔しないように設定されています」
「…まさか、命令しなかったら冷蔵庫の前で立ちっぱなし?」
俺の部屋でベッドに寝転がる俺の視界を邪魔されない位置といえば、冷蔵庫のすぐ傍である。
ちなみにスペースとしては50cmの三角形程度。夜中、じっと眼をつぶって立ち尽くす家政婦ドロイドというのは非常にシュールだ。
「その通りです…あの、できれば指定していただけると待機電力の消耗が防げるのですが」
人間ってのは立ってる状態でも色々な筋肉が動いて状態を維持しようとする。
ソラの世代の骨格が人間に近いドロイドも同じく、立ってる状態では待機モードでも電力の消費が少し大きいとの事。
「ふーん、なら添い寝とかもしてくれんの?」
何気なしに聞いてみる。ソラはふわりと笑って、
「お望みでしたら。子守唄などは?」
なぜかソラの膝枕で子守唄を聞いてるビジョンが…。
「歌はいらん。あ、夜中は暖房の代わりになる?」
「ヒーターとは流石に無理ですが、通常の稼動モードでの消費電力を余熱にすることで、布団を暖める事が可能です」
ソラの世代以降のモデルは、稼動状態の温度が人肌前後になるよう設計されている。
極端でなければ、命令や設定で低くしたり高くしたりする事が可能だと聞いたことがある。
「OKOK、そろそろ寝るのでよろしく」
「了解です。では失礼いたします」
電気を消した所でソラが暗がりでごそごそと何かをしている。
「何してんの?」
「あの…今現在、予備の衣服がないので、皺になるといけないので…」
ぬ。そうきましたか。ってことは何か、裸か、裸なのか?
心無しかはずかしそうに聞こえたのは気のせいだと思いたい。相手はロボですよ?
「入りますね」
まだ入りたてで肌寒い布団の中に、暖かいソラの体が入ってきた。仰向けに寝る俺の隣に遠慮がちに寄り添う。
しばらくすると布団がぽかぽかと温まってきた。
「熱かったら言ってください。こちらでもモニタリングしていますが、好みの温度にしますので」
位置が悪かったのか、ソラが身じろぎする。腕にその…胸が、胸が!
あ…ブラはしてるのね。でもなんかふわふわした感触というか、いわゆるスポブラですかそうですか。
「う、うん、いいんじゃない?」
少し上ずった俺の声。くそ、静まれ、静まるんだマイサン! 相手はロボ娘ですよ!?
俺には彼女が! …う、やーらけー…しかもあったかい…い、いかん。
ここ一週間ほど俺の彼女とは遭えない状態が続いていた。エッチなんか半月くらいご無沙汰だったりする。
彼女ができてから半年は風俗もオナニーも自粛して、全力を彼女に注いでいたが(無論、性的な意味で)、
今の状況は色々限界です。
「あの…マスター?」
「どs、どしたの?」
がちがちになってるってレベルじゃねーぞ。あっちもこっちもだ。
「もしよろしければ…私を使って下さい」
夜の暗がりに慣れてきた俺の眼。視線をソラに向けると、そこには遠慮がちに、
恥じらいながら何か言葉を待つ瞳が俺をじっと見ていた。
疲れてるというのは言い訳。自分がソラにハマっているのを自覚するのが怖くて、奉仕を命じた。
正直、挿入を命じたかったが、兄貴にああ言った手前、なるべく先延ばしにしたかった。が、それすら裏目に出たと思う。
暫くの間すりすりとズボンとパンツの上から息子を擦られていたが、パジャマのズボンとパンツがずりおろされると、
ごそごそとソラが布団の中を移動する。
「NVS起動、対象を確認」
そういうとこはロボですか。今度から言わないようにしてもら…うぁ。
ちょっと冷静になりかけた所で、息子の先端を強く吸われた。声が出そうだったがなんとか抑えた。
感触が先端、裏筋と来て根元に達する。玉がすべやかな手で揉まれ、舌が玉をねぶるように舐め上げる。
再び舌が下から上に。裏筋をちょんちょんとついばむような感触。内腿を片方の手で擦りながら、
もう片方の手は玉と後ろの穴近くの根元を刺激し続ける。
カリのひだが柔らかいもの…舌先でほじられるように舐められていく。ぬるぬるとした感触はソラの出す分泌剤だろうか。
声は出さなかったが、息が荒い。ソラの愛撫は優しく、執拗に続けられている。そろそろパターンがわかってきて、
心地よい刺激に身を委ねていた次の瞬間、一気に飲み込まれた。
…思わず声が出た。ああん、とかって俺…orz
唇の感触は息子の根元を柔らかく覆っている。先端は多分、喉奥に達していると思うが、
今までの経験ではそこまで飲み込まれた事はないので確信はない。
喉奥がぎゅうぎゅうと締め付けつつも奥へ奥へと飲み込もうと動く。この辺り、よっぽど慣れた女性でもない限りは無理な動きだ。
飲み込む動きが弱まり、少し息子が引き出される。根元が濡れ、空気に触れていた所が少し冷えて感じる。
先ほどまでの強烈な吸引と締め付けから解放されたのもつかの間、ソラの頭が動き始める。
カリ先だけを執拗にねぶったかと思いきや、再び喉奥まで吸い込んで強烈に締め上げる。
慣れることができないリズミカルな動き。口の端から空気を一緒に吸い込む音や、
分泌液がぬめりを帯びて吸い上げられる音が布団の中に響く。
吸い上げるだけでなく、舌先は縦横無尽に動き回り、息子の先まで吐き出された所で鈴口をドリルのようにこじあけ、
漏れ出している先走りを舐め上げる。
思わず腰が跳ねた所で、布団の中からくぐもったソラの声が。
「あの…痛かったのでしょうか?」
「続けてくれ」
そう言うのが精一杯だった。
絶妙な刺激というのだろうか、息子に与えられた刺激はこれまで経験したことのない程の強烈さだったはずなのに、
たっぷり20分ほど奉仕を受け続けている。
出そうになるとソラは刺激の仕方を緩やかにして、あまつさえ根元を押さえつける。声を出していないにも関わらず、だ。
息も絶え絶えな俺はもう狂い出しそうだった。目の端に涙が浮かんでいるのがわかる。
体の神経が下半身にだけ集中しているような感覚。
フォーカスのずれた神経は、息子に加わる全ての刺激を快楽として受け止めていた。
「命令を…下さい…」
再びソラの声。その間も、鈴口をついばみ、カリは舌や指で刺激され続ける。根元を押さえながらも上下に擦る動き。
「頼む、いかせて…くれ…っ!」
泣いているような俺の叫び。ソラは弾んだ声で、
「はい」
と答えて俺の息子への刺激を強くする。
これまでの愛撫がまるで前座だったかのように、激しく、強烈な吸引。
生の性器では味わえないぬめりを帯びた周囲への刺激に加え、物凄い吸引が俺の下半身を襲う。
舌の動きは一段と激しくなり、柔らかで不規則な動きをするグラインダーのように、頭の上下に合わせて上へ下へと蹂躙する。
「ぐ…でる…う…っ!」
俺の声に反応したのか上下の動きが激しさを増し…俺の目の前で花火がはじける様に、視界がスパークした。
解放の瞬間、ソラは俺の息子を根元まで飲み込み、喉奥で精子のほとばしりを受け止める。
動きは止まらず、喉の奥でカリを上下に刺激しながら。喉を鳴らして嚥下する音が布団の中から聞こえる。
人生で一番であろうほどの長さの射精…多分、量も半端ないそれを、ソラは全て飲み込んでいく。
打ち出す動きが終わった所で、ソラは線に残る液も吸い上げた。
「終了しました…マスター、その…いかがでしたか?」
息も絶え絶え。激しい射精後の余韻でぼーっとした俺の前に、何だか不安そうな表情で見上げるソラの顔が近づいてきた。
「…よかった、けど挿入は今度な…」
「問題があったのでしょう…か?」
奉仕だけで実際の挿入には至ってない訳で、多分、奉仕関連のプログラムに挿入まであるんだろうけど、
フェラだけであれじゃ、実際にやったらどうにかなっちまいそうだ。
「改善しますので、指示を…」
涙目で言うなちくしょう、可愛いじゃねぇか!
くそう、兄貴の謀略にまんまとハマっちまった。
「いいから…今日はこのまま寝る。気持ちよかったぞ…」
俺はそれだけ言うのが精一杯だった。
「ありがとうございます…おやすみなさい、マスター」
はにかんだソラをやんわり抱きしめながら、俺は心地よい疲労感の中で眠りに落ちた。
後日、再び現れた兄貴。
俺はソラにフェラで奉仕されて以来、ソラが覚えている奉仕を一通り堪能した後だった。
…あーもうなんていうか、毎度毎度、腰とかガクガクですよ。おまけに激しいのにソラの奴は
「あの…だめでしたか?」
とか聞いてくるもんだから、余計に。
「悪い悪い、俺用の奉仕プログラム入れたまんまだったんだが、びっくりしなかったか?」
全然悪いと思ってない顔だ。てか、あれって兄貴用のカスタマイズなのかよ。
酒飲んだときに聞いたが、もうオッサンだから二発が限度とか言ってたけど、あんだけ濃いなら二発で限度ってのもわかる。
横に居るソラがなんだかそわそわしてる。あー、やっぱクラスB以上の人工知能だと恥ずかしいとか考える事できるのね。
てか自重しろ兄貴、ロボ娘とは言え女の子の前だ。
「ひんぬー用のプリセットだから、胸使ってなかっただろ?
あの筐体だと口と素股奉仕がメインでさ、お前みたいに若いと刺激が足りないだろうと…」
はい? 今、何と言いやがりましたか?
「さっき入れた奴で、この撫子の…じゃなかった、今はソラだったな。
それ用の奉仕プログラムで、胸を使うのが追加されるから後で試してくれ」
…ありがとうよ、くそ兄貴。
試したのかって? 当たり前だこのやろー!
それについてはまた後で話す…。
以上、あんまロボ娘っぽくなかったので反省してる。
なるべく擬音を使わないようにしたら、直接的なエロさが無くなってしまったかもしれん。
うーむ、夏の漏水と冬の漏水のときに書いたように、短い話にするつもりだったのだけど…。
ごめん。
>>540 最終回…楽しみに待ってます!
>>555 おお…ファーストコンタクトですな!GJです
続きも楽しみにしております。
>>トモエちゃん
迷惑だの終わらせろだのと書く悪意のアラシストには絶対に同調できないけど
でも正直な感想を書くと四百二十七氏の小説に比べるとどうしても冗長かつ単調であることは
否めないというのが率直な印象。
もう少しスリムというかコンパクトに要点をまとめてくださったほうが作品の求心力が増しますよ。
しかし素晴らしい意欲作だと思います。
今後も期待してますよ。
>>557 うん…意欲的だとは思う。
ただ、新聞の連載小説風で、冗長になってるかな。
色々ネタが入っていて面白いですけどね。
短編とかも挑戦してみると良いかもです。
>>557 折れはラジオドラマみたいノリで楽しんでるね。
会話劇が好きなんで、これはこれで好きだけどなあ…。
まあ読ませてくれるだけの内容がある作品だからいちいち目くじら立てなくてもええやん、
と、キモウトスレで大傑作を読み終えて感心してきた俺は思う
イケる書き手はとりあえず保全しとけ
圧縮回避保守
内容ないじゃん…。スカスカじゃん…。
確かにね…方法論から言うと、作者さんによってハヤカワで出している
緻密でかっちりした描き込みのSF作品というハード路線と、
富士見書房辺りから出ている、ライトノベルタッチの違いはある。
でもさ、内容が無いって言うけどさ、どれもこのスレのテーマからは
逸脱してないじゃないか。
「人造人間」と「萌え」だぜ。
萌えに内容があるのか?といえば、あるとも無いとも言えるしさ。
こればかりは、好きな人の感性にもよるし、
極論すれば上手い下手、好き嫌いはあるにせよ、頑張ってくれてる。
おれはそれが楽しみだし、
>>562みたいにバッサリ切るのは許せないね。
とりあえずあと12KBだ。次スレの用意を。
書きもしねえ人間風情が四の五の言うんじゃねぇ
書かない奴が〜は擁護派の逃げの常套句だなww
擁護して悪いか?
誰の為に投下してくれてると思ってるんだ?
書き手の頑張りがなければ、このスレ成り立たないだろが!
>>567が感想書けない奴の常套句な件について
まあそんな事よりあれだ
ショタ型アンドロイドを欲求不満な女マスターが虐めまくる話キボン
それより残容量を考えると、新作も続きも尻切れトンボになるぞ。
頼むから誰か新スレ立てて下され〜!
恥ずかしながら…立て方が良く分からんのだ。
かたじけない!
感謝致します!!
さあ、作家殿、頑張って下され!
>>569 やっぱり人工疑似精液とか噴出したり、指を突っ込むとコリコリした模造前立腺を装備したりしているのか?
ひっつめ髪で色気のないメガネOLが家に帰ると美貌の女王様としての本性をさらけ出し
忠実なショタアンドロイドを指と唇で責め立てるとか
人工少女3買ったヤシいる?
amazonの発送待ち。まああれも一種のロボ娘さん。
俺的には「素材」が重要だな。人工細胞や無機外装なら守備範囲外。
柔らかい肌の下は機械、というタイプがいい。あと有人格有感情。
見た目も振る舞いも人間なのに、その下は機械、というギャップ萌え。
ショタロイドに期待
そいやこのスレってあんまり鬼畜なのないよな
ジャンル上仕方ないと言えばまぁ
人間として育てられて、自分でも人間だと信じて疑わない主人公のロボ子が拉致される。
陵辱された後、解体するとか言われてバキバキっと。
血の流れ出ない自分の身体と、そこに覗く機械をみて驚愕の叫びを上げる……
みたいなのか?
>579
…なんかそれ前にあったような気がするよ?
>>580 言われてみて過去ログ検索して思い出した。
アンドロファイトだな。NHKの連ドラをモチーフにしたやつ。
人間だと信じて生活していけるには食事もそうだが
排便も周りの人と同じようにしてないといけないよね。
やだなあウンコするロボ娘なんて。
「…ウンコ?なにそれ?」
「またまたー。カマトトぶってー(笑)」
というアクロバット的会話があったのかも
ロボ娘の排泄関連か。ちょいと考えてみようか。
廃オイル以外だと、内部循環剤をフィルタリングしてろ過すると出てくる劣化物質を、安定状態で固形化させたものでも出てくるのかね。
肌も暖かい内部循環剤採用のドロイドはこんな感じで処理?
・安定剤(固形)を挿入→吸着&安定化→排泄
・安定剤(液体)を浣腸→安定&固形化→排泄
・安定剤を摂取する→一定量が溜まった所で安定化→排泄
※安定剤はいわゆる単機能型ナノマシン。
安定化すると、人間が食っても消化吸収されない分子構造になる(硬くて切れないこんにゃくのような状態)。
人間が飲み込めない太さと大きさで安定化、排泄するよう法律に(摂取の危険性を下げるため)定められてるとか。
トイレには流石に流せないので条例に従ってゴミの処理日に出す。水分は…別でろ過後、問題ないレベルでトイレに廃水かな。
参考としちゃATのケミカルリンゲル液と循環フィルターの関係。
なお、内部循環剤は稼動用の反応剤補助、メンテ用ナノマシン含有みたいな感じで、定期的に摂取または入れ替え。
内部循環剤は無くても動くことだけはできるけど、劣化してくとどんどん動作がロボっぽくなるとかね。
…なんでこう、妄想だとすらすらと設定が出てくるのだろう俺。
「いくら害が無い状態とはいえ…私のそれで、遊ばないでください…」
「ほら、お前っていつもこっそり処分しちゃうじゃん? よくもまあ、あんな小さい穴から…」
「見せたがるドロイドなんていませ…ああっ、ジャグリングしないでください!」
>>585 おまいのその妄想力に(いい意味で)乾杯。
こういうの考えるのって、パズルにも似た楽しさがあるよな。
間違えた、マッスルリンゲル液だった…オレモダビール食らってくる。
手元の資料によれば、ATのあれはポリマーリンゲル液だな
ガーン…対ATライフル背負って懲罰部隊行って来ます…orz
叩き台を出して、方向性を定める提案など募集のココロミ。
○SF風バイオレンス系
冷酷な能面戦闘ロボっ娘が戦場の最前線でバッキバキに敵を殺して血まみれ。
でも、エロ機能を装備なので、味方の軍人さんにがっしゅがっしゅ使われてしまう。
○SF風冒険物系
探検好きの主人公にひっついているロボっ娘が、土地ごとのいろんなものにヤられる。
現地に在住する方々のリンカーンから、奇怪な蔦の植物とのカラミ、未来人によるカイボーなど。
○萌え系
ちょっと電子頭脳のユルめなロボっ娘が、コスプレ装置でご奉仕したりするにゃん。
ご主人様とラブラブエロエロ、毎日インコー三昧。ごくまれに戦闘もしたり、まほ……?
○お笑い系
お爺ちゃんとかが作ったブリキメカっぽい、時代錯誤なモンペが似合うロボっ娘。
気弱な主人公は、親父言葉で逆レープされまくり。燃料→キセルで補給、女エイトメン。
○しみじみ系
それほど危機感のない荒廃した土地をロボっ娘がバイクとかであてもなく放浪する。
ゆきずりの相手に乱暴されたり優しくされたり。買い出し紀行のさすらい編っぽく。
○退廃系
サイバーとかスチームとかパンクとか、そういうのっぽいところのゴスロリロボっ娘。
日々を無機的に、体を売って過ごすだけ。ラストは定番通りに自殺する。飛び降りで。
○不条理系
「ええっ!? ――ある日、いきなり家族がロボットになってる!」母姉妹、ロボ化。
「機械だから、キンシンソカーンじゃないよ……」そんな感じで、エロエロエロエロエロ……。
○凌辱監禁系
ご主人様をヒッキーにして、種馬化させるデスマシーンっぽさげなロボっ娘。
独占欲と嫉妬の塊、自分以外で発情すると、お仕置きまでする始末。機械が反乱です。
○問答系
日々の平穏な営みの中から、ロボっ娘がひとつづつ悟性を獲得するプロセスを描く。
宗教系なフォーマットを扱いつつも、それとなく、ぼやーっと実体のない展開にする。
○カスタマイズ系
人間型ですらない素体のロボっ娘を用意いたします、読者のリクエストで進化。
先の読めないドキドキ展開。ネタは読者が頼りの、無責任な迷走状態で書いてみる。
○ドリル系
とりあえずドリルつけとけ。他はどうでもいい、任せる。
>○しみじみ系
買い出し紀行のラスト近くがまさしくそんな乗りだった気が。
αさんも流離ってたし、他にもそれっぽい人達てんこ盛りだし。
>○問答系
スレの中からネタを拾えれば面白そうと思ったけど、
>○カスタマイズ系
それだとこっちになるのかな?
>○退廃系
飛び降りても死ねず、半壊状態でよろよろと雑踏に消える超鬱エンドキボン。
てか、それだけネタがあるなら自分で書くのだー。
ドリルが気になって仕方がない
>○しみじみ系
ライトノベルの「ポストガール」を思い出した
まんましみじみ系の内容だったけど、プログラムとの葛藤とかもあって個人的に名作
でもマイナーすぎて誰もしらない予感
壊れロボ娘好きだから
>「未来人によるカイボー」
とか
>「定番通りに自殺する。飛び降りで。」
のあたりに魅力を感じるなあ
ハードコアサイバーパンクな世界観にして、常に戦いでボロボロなロボ娘とか
片腕ないとか片目で眼帯とか、んで服もズタズタ
行く先々でミュータント化した人間にレイープされそうになって、その度に血の風呂
でも御主人様は植物状態で、メンテナンスも受けられないロボ娘は遂に力尽き、ミュータントの群に凌辱される
そして奇跡的に目覚めた御主人様の目の前には、バラバラに分解され白濁まみれの無惨なロボ娘の成れの果てが
しかし、それでも御主人様の目覚めにロボ娘は
「お…早ぅ…ござい…ます……」
と、最後に精一杯の笑顔を浮かべたり
ドリルだろこれは
ここのスレ住人的にこはるびよりってどう?
メカバレ、機械っぽさが全然ないから
そういうのを期待する向きにはお勧めできない
ロボットポンコッt……いや、何でもない
メダロットがどうしたって?
そろそろこっちは沈めてあげんと。ロボ娘のまたね系AAってないものか。
「I'll be back.」
何かが違う
背が高く凛々しい軍事用ロボ娘に変換すればあるいは……。
ビルゴルディが思い浮かんだ件
埋め
606 :
名無しさん@ピンキー:2007/12/13(木) 13:22:36 ID:kg12riwg
ロボットは奴隷マシィーンだが。
アンドロコちゃんは違うだろ、
某殺虫ロボ「サー!イェッサー!」
埋め
人型の機体と四脚腕無しの機体でどうすれば穴掘りと埋め戻しを同じようにできるんだろうか。
解除?
埋 め な い か
昔、チャンピオンで連載してた[ロボこみ]や[お任せピース電気商会の発明の数々]はこのスレ的に萌える要素なのだろうか…
非外骨格で、人間サイズ以下のロボ娘なら何でも萌えてみせる
昔、って言うほど前でもないだろw
特に後者は
615 :
名無しさん@ピンキー:2007/12/26(水) 21:41:49 ID:M+useQKk BE:1112940599-2BP(1000)
hssh
新スレ立って一月埋まらんのもあれだな。あと1KBだが年を越させるのもありか。
新年あげ
チョット待て、なぜまだ残っている?
人類が滅んだ後の世界で、可動状態のアンドロイドが主人の帰りを待ち続けるのと同じ理屈
うめ
AAで埋めるのを潔しとしないサムライ揃いのスレだったか。即ちロボ娘属性とは是武士道哉!!
>即ちロボ娘属性とは是武士道哉!!
なぜか
主を亡くし葬儀を終えた後に
「共に墓に入れてください」と記憶媒体と遺書を置いて
前以て組んだプログラムを用いて
胸の動力炉を単刀で貫く
士魂なロボ娘が思い浮かんだ
コマンドプロンプト
マスター、ゴシジヲ……