ここは、ヤンデレの小説を書いて投稿するためのスレッドです。
○小説以外にも、ヤンデレ系のネタなら大歓迎。(プロット投下、ニュースネタなど)
○ぶつ切りでの作品投下もアリ。
■ヤンデレとは?
・主人公が好きだが(デレ)、愛するあまりに心を病んでしまった(ヤン)状態、またその状態のヒロインの事をさします。
→(別名:黒化、黒姫化など)
・ヒロインは、ライバルがいてもいなくても主人公を思っていくうちに少しずつだが確実に病んでいく。
・トラウマ・精神の不安定さから覚醒することもある。
■関連サイト
ヤンデレの小説を書こう!SS保管庫
http://yandere.web.fc2.com/ ■前スレ
ヤンデレの小説を書こう!Part7
http://sakura03.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1180240137/ ■お約束
・sage進行でお願いします。
・荒らしはスルーしましょう。
削除対象ですが、もし反応した場合削除人に「荒らしにかまっている」と判断され、
削除されない場合があります。必ずスルーでお願いします。
・趣味嗜好に合わない作品は読み飛ばすようにしてください。
・作者さんへの意見は実になるものを。罵倒、バッシングはお門違いです。議論にならないよう、控えめに。
■投稿のお約束
・名前欄にはなるべく作品タイトルを。
・長編になる場合は見分けやすくするためトリップ使用推奨。
・投稿の前後には、「投稿します」「投稿終わりです」の一言をお願いします。(投稿への割り込み防止のため)
・苦手な人がいるかな、と思うような表現がある場合は、投稿のはじめに宣言してください。お願いします。
・作品はできるだけ完結させるようにしてください。
「朝歌ちゃん、どうしてここに?」
そう問う織倉由良の表情は硬い。
ある種の感情を無理やりに塗り込めたかのような相好。
無に見える有。
後輩の無とは明らかに違う外貌だった。
対する一ツ橋は先輩の無表情などどこ吹く風と僕を見る。
「約束通り迎えに来ました」
「え?」
約束?
迎え?
そんなことあったろうか。
僕が怪訝な顔をすると、心情を代弁するように織倉由良が口を開く。
「どういうこと、朝歌ちゃん」
「言葉通りです」
さ、往きましょう。
一ツ橋は僕を促す。
「ちょ、ちょっと待って!」
先輩は僕を掴む。
「・・・・どういうこと?」
なんで朝歌ちゃんと?
どういう約束?
無の隙間から噴出した憤怒を双眸に乗せて織倉由良は僕を見る。
やはり、最近の先輩はどこか変だ。
以前の彼女ならば、穏やかに「どうしたの?」と問うはずだ。
腕を掴むことも、睥睨することも無かったろう。
しかしどういう態度で問われたところで僕には答えようが無い。
迎えの約束なんてした覚えが無いのだから。
(どういうことだ)
目で後輩に訴える。
一ツ橋は僕を睨めつける先輩の間隙を縫って、人差し指を己の口の前に移動させた。
(静かに)
自分に合わせろと云わんばかりに。
「部長。先輩は今日日直なんです。それで私に起こすよう依頼されました」
「朝歌ちゃんに?なんで私じゃないの」
「部長の家は学校を挟んで正反対です。私なら、ここは通り道ですから」
ね。先輩。
「あ、ああ。そうだった。そうなんですよ。先輩。一ツ橋に頼んでたんです。僕がネボスケなのは
先輩も良く知ってるでしょう?」
後輩の思惑はわからないがこれは渡りに船だろう。もしもこのまま織倉由良の朝食を食べて、そのこと
が綾緒に知れたら、次は爪一枚なんて生易しい罰では済まなくなる。
幸いすでに着替えは終わっているし、荷物も揃っている。家を出ることに支障は無い。
僕は一ツ橋の発言に乗っかることにした。
「すいません、織倉先輩。そういうわけで、今日は急ぐんですよ」
「・・・・・日ノ本くん。私のご飯が食べられないの?」
「いえ・・・。そういうわけじゃありません。ただ、日直が・・・」
「日直なんてどうでもいいじゃない。貴方は私の持ってきた食材を無駄にするつもりなの?」
「ではそれは私が頂きます」
一ツ橋は遮って先輩の前に立つ。
「・・・・・・・・・・・・・」
織倉由良は暫く小さな部員を見つめていたが、
「そう。わかった」
呟いて、歩き去って往く。
「織倉先輩」
僕は声をかけるが聞こえていないのか聞くつもりが無いのか、答えることなく消えていった。
「・・・・・悪いことしたなぁ」
「平気です。あとでフォローしておきますから」
「すまん。助かる」
僕は一ツ橋に頭を下げた。
「それにしても、今日はなんで急に家に来たんだ?」
「なんとなくです」
後輩は呟くように。
「昨日、部長と先輩の連枝で一悶着ありましたので、なにか面白いものでも見れるかもしれないと
思って伺いました。私の勘、結構当たるんです」
一ツ橋は瞳だけこちらに向ける。僕の顔ではなく、左手に。
「あ、コレは・・・・ちょっと転んでな」
「・・・・・・」
包帯の巻かれた左手を隠す。
すると後輩は珍しいことに顔をこちらに向けた。
「嘘吐き」
「う・・・」
「昨日、そして今。私は先輩を助けました。その見返りを要求しても良いでしょうか?」
「・・・・・わかったよ」
僕は仕方なく“罰”を語る。
一ツ橋は相変わらず興味があるのか無いのか良くわからない無表情。
総てを聞き終えると「そうですか」とだけ呟いた。
「助かったってのは、食べずに済んだってだけじゃなかったってことだよ。綾緒との約束を破る訳には
いかないからね」
天井を見上げる。
口からは自然とため息が漏れていた。
「先輩」
「うん?」
「先輩は、そのイトコの方に迷惑しているんですか?」
「迷惑?まさか」
僕は体を後輩に向ける。
「“こういうの”は正直勘弁して欲しいけどね。でも、僕は綾緒が可愛くて仕方ないんだよ。
あんなに兄思いの妹はそうはいないさ。そりゃ多少往きすぎてるところもあるけど、その辺も含めて
僕は綾緒が気に入ってる。甲斐甲斐しく世話を焼いてくれるところも。おしとやかで穏やかな
ところも。怒ると怖いところもね。全部含めて、大切な妹だよ」
「貴方は莫迦です」
「今頃気づいたのか?」
「再確認です」
再び前を向く後輩。
そう云えば、この娘との付き合いも長い。小学校2年のときからだから、幼馴染と呼べなくも無いの
だが。
(いや――)
僕は首を振る。
幼馴染と云うよりはもう一人の――
「朝歌」
「なんですか。お兄ちゃん」
「・・・・ちょっと待て、一ツ橋」
「なんですか。先輩」
「なんで“お兄ちゃん”と呼ぶ」
「貴方が今、私を名前で呼んだんですよ、昔みたいに“朝歌”って。だから私も昔のように云った
だけです。“お兄ちゃん”と」
「・・・・・」
そう。
以前、僕はこの後輩を妹として扱っていた。一ツ橋も一ツ橋で僕に兄事していた。
中学に上がってから照れもあって呼び方を変えたが、そのときから彼女も先輩と呼称したのだ。
今――
僕は幼馴染と云うよりは妹に近いと考えたから、自然この娘を名前で呼んでしまったのだ。
「・・・・なんか、変に恥ずかしいな、この呼び方」
「いいえ」
憮然とした表情で首を振る。
「こっちの呼び方のほうが、長いです」
「いや、それはそうだけど・・・・って、ああ、そうか」
僕は拍手を打つ。
「どうやって家の中まで入ってきたのか疑問だったが、鍵を渡していたよな、昔」
小学生のときに。
「はい。持ってます。ですが必要ないと云えなくもないです。鍵の隠し場所、変わってないよう
ですから」
「・・・・」
確かに、子供のころから一度も変えていない。
僕は織倉由良を思い浮かべる。
だから先輩は合鍵を作れたのか。彼女も僕の家の鍵の隠し場所を知っているはずだ。
「なあ、一ツ橋」
後輩に問う。
「先輩、最近おかしくないか?なんか妙にあせってるって云うか、鬼気迫るものがあるって云うか」
「具体的にお願いします」
「だからさ、普段の先輩なら、僕を教室まで迎に来たり、朝飯を作りに来たりはしないと思うんだ。
ましてや、家の中に勝手に入ってくるなんて・・・」
「素養はありましたけどね、昔から」
「え?」
「今まで鉄壁だと思っていたガードに実は穴があった。それに気づいただけでしょう。あの人、そんな
に強くありませんから」
「どういうことだ?」
僕は首を傾げる。
後輩はあいも変わらず無表情。
前を向き、どこに意識が集中しているのかもわからぬまま。
「――人は、見たいと欲する現実を見る動物である」
そう呟いた。
かの有名な終身独裁官の言葉。
「唐突だな」
「あの人は私のもの。この人は私を愛している。先輩は良い人に違いない。彼女は兄思いの妹だ」
「何が云いたい?」
「MEGALO MANIA」
きついな、一ツ橋は。
「――なら、そう云うお前はどうなんだ?」
「je pense,donc je suis」
返ってきたのは澱みの無い仏蘭西語。
「それ、同類ってことかい?」
僕がそれに皮肉で返すと。
「立場が違います」
動じない後輩は瞳だけ向ける。
「私、唯の傍観者ですから」
「すまんね、急に呼び出して」
楢柴文人(ならしば ふみひと)は到着した僕に頭を下げた。
ここはさる高級レストラン。
時間は夜。
食事を摂るには少々遅い時間。
呼び出しがあったのは夕方のことだ。
綾緒の父にして、母の兄。
名閥・楢柴の総帥にして僕の伯父。
それが楢柴文人。
僕をここへ呼んだ張本人だ。
白いテーブルクロスのかけられた円卓の向こうに座る伯父の姿はやり手の紳士といった感じで、
立ち居振る舞い、表情、雰囲気、総てが良い意味で貴族的な人物である。
「左手、怪我でもしたのかね?」
挨拶を済ませると、伯父はすぐに僕の左手に目を向けた。
「あ、ちょっと転びまして」
「ふむ。そうか、気をつけたまえ。きみが怪我をすると、綾緒が悲しむ」
伯父は荘厳に微笑む。
僕は頷いてそれに返した。少しぎこちなかったろうか。
「きみは――まだ酒は呑めんよな」
ワイングラスを持った伯父は僕に勧めようとして苦笑した。
「ええ。まあ、建前は」
「そうだな。えてして実よりも虚。中身よりもラベルのほうが重要なものだ。ここではそれでいい」
伯父はグラスを口に運ぶ。唯、飲酒をする。それでもさまになる人はいるものだ。
「伯父さんて、日本酒党でしたよね?」
「ああ。日本酒は実に美味い。だがここで和酒なんぞ飲んでいても嫌味になるだけだ。付き合いで飲む
のもワインのほうが多いくらいだしな」
伯父はそう云ってにやりと笑った。
そこに料理が運ばれてくる。高級を謳っているだけあって味は良い。唯、根っからの庶民である僕には
こういう空気はどうも馴染まない。
「それで、今日はどうしたんですか?」
空気を払拭するように僕は問う。
楢柴の総帥でもある伯父だ。忙しくないはずが無い。身内相手とはいえ、無意味に食事に誘う暇など
あろうはずも無いだろう。何某かの意図ないし企図があるはずだ。
伯父は「うむ」と呟いて酒を飲んだ。
「どうだね、娘とは最近」
「綾緒ですか?仲良くやってますよ。あいかわらず僕が凭れ掛ってはいますけど」
「謙遜をしなくてもいい。押し掛けているのは娘のほうだ。ただ、あれもきみの世話焼きが楽しくて
仕方ないのだろう。往き過ぎた部分は多めに見てやってくれ」
その言葉に笑って返す。綾緒が往き過ぎなのは世話焼きな部分ではないのだから。
「わかっているとは思うが、アレは本当にきみの事を慕っていてね。家でもその事ばかり話すんだよ」
「光栄ですね」
「あの子は孤高、故に孤独だ。だからなのかな、きみがあの子の中で占める割合は私なんぞとは比較に
ならん。まるできみしか見えていないようにね」
「・・・・・・」
「正直、あの子に危うさを感じるときがある。恐怖と云ってもいい。海千山千の政治家や、やり手の
同業者、経済界の黒幕、ヤクザの首魁とも問題なく渡り合える私が、愛すべき実の娘に恐怖を覚える。
滑稽な話ではあるが、それが現実でね。夜叉と向き合うような違和感があるのだ。――きみはどうだ?
あの子と相対して、何か感じるものはないかね?」
「――」
それは――無くは無い。
綾緒は『従』の中に何かを潜ませている。
僕の左手。
剥がされた爪は、その何か――伯父の云う所の『夜叉』が顔を覗かせたのだと思っている。
けれど。
「・・・・それでも、僕は綾緒は良い子だと思っています」
「・・・“それでも”か」
伯父は目を閉じた。
何かを考え、逡巡している様子だ。
「創くん」
「はい」
「今日きみを呼んだのはね、娘に頼みごとをされたからなんだ」
「綾緒に」
「私自身、その頼みごとには丸で乗り気ではなかったんだが、とりあえず、きみを見ておこうと思って
ね」
「・・・・・綾緒はなにをねだったんです?」
「すまんがそれはまだ云えん。近いうちにわかるとは思うが」
伯父はため息を吐いた。
その吐息にはどんな意味が込められているのだろう?感情が読めない。
「――冬来たりなば、春遠からじ、か。しかし冬に死に絶えるものにとって、春の到来など何ほどの
意味を持とうかね。・・・・・・きみには迷惑をかけると思う」
伯父はそう云って頭を下げる。
その顔はどこか疲れているようにも見えた。
「にいさま、くすぐったくはありませんか?」
「ん〜。大丈夫。気持ちいいよ」
休日。
従妹は朝から家にやってきて、家事全般をこなす。
それが済むと従兄を膝枕し、耳掃除を始めていた。
つまり、今の僕は綾緒の太腿に頭を乗せていることになる。
従妹は朝から妙に機嫌が良い。
掃除をされる耳の中には先ほどから鼻歌が入ってくる。
「なあ綾緒、何か良い事でもあったのか?」
ついこの間の伯父の件もある。僕は思い切って聞いてみた。
「はい!わかりますか、にいさま」
「そりゃぁね」
ニコニコニコニコと笑う従妹の顔を見ていれば嫌でもわかる。
綾緒は耳掻きをどかし、僕の頭を撫で始めた。
「実はとうさまに以前よりねだっていたある事を許可されたんです。とうさまは、にいさまが本当に
望んだらと条件をつけましたが、にいさまが綾緒のお願いを拒絶することはありませんから、事は
成ったも同然です。綾緒はそれが嬉しいのです」
「僕?僕がどうかしたのか?僕に関係することなのか?」
つい身体を起こす。けれど従妹の手が僕の身体をやんわりと押さえ、再び頭を己の膝に乗せた。
「にいさまの、ではなく、にいさまと綾緒、二人のことになります。実は本日ここに伺ったのも、
その話をするためなのです」
従妹は妙に優しい手つきで僕を撫ぜる。
気味の悪いほどの穏やかな声。
『何か』を感じずにはいられない気配。
「・・・・・・それ、どんな話だい?」
僅かの戦慄を伴なって綾緒を見上げる。
従妹は笑顔を紅潮させて僕を見下ろしていた。
「女の立場からこのような事を申し上げるのは甚だ無礼であるとは心得ておりますし、面映くもあるの
ですが・・・・」
従妹は手を止める。
「にいさま。綾緒とどうか――夫婦(めおと)の約定を結んで下さいませ」
「――え?」
今、綾緒はなんと云ったのだろう。
「ま、待ってくれ、綾緒」
僕は身体を起こし、従妹と対面する。
「今――なんて云った?」
鏡が覗けば、恐らく蒼い顔があったに違いない。
僕は震える声でそう尋ねた。
蒼に対するは、赤。
従妹は頬を手で覆い、「何度も言わせないで下さい」と身を捩る。
「た、頼む、もう一度云ってくれ!」
今のは聞き間違いであるはずだ。
「にいさま・・・そんなに綾緒の口から祝事を聞きたいのですね」
祝事?
この子は何を云っているんだ?
従妹は背筋を伸ばす。破顔していた表情を凛と引き締め、
「楢柴綾緒は日ノ本創にいさまをお慕いしております。どうぞにいさま、綾緒との婚約を了承して
下さいませ」
「 」
僕は声が出ない。
この子は今なんと云った。
従妹とはいえ家族そのものと考えている相手だぞ。了承できるものではない。
「綾緒、お前・・・本気で云っているのか?」
「当然です。このような重大事に虚偽を用いるほど綾緒は落ちぶれてはおりません」
「・・・・・・・・・・・」
僕は頭を抱えた。
伯父の逡巡はこれだったのか。
「綾緒」
「はい」
「すまないがそれは出来ない」
「え?」
従妹は呆けた顔をする。
「僕は綾緒を大切な妹だと思っている。だから異性としては見れないよ」
「・・・・・・」
「伯父さんには僕から云っておく。綾緒と婚約なんて出来ませんって」
「・・・にいさま・・・」
綾緒が掠れた声を出す。
「いくらにいさまでも、このようなときに戯言を口にしてはいけません」
「いや、冗談じゃないよ。今更綾緒をそんな風には見れない」
わかってくれ。僕は従妹に手を伸ばす。
刹那――
「に い さ ま」
綾緒の雰囲気が一変する。
「あ・・・・」
僕は手を止める。
(まずい)
これは、
(まずい)
夜叉が覗いている。
従妹は耳掻きを手に取ると、ゆっくりと立ち上がった。
「にいさま。綾緒の言葉が聞こえませんでしたか?たった今御耳を掃除したと思っておりましたが、
まだ足りぬようですね」
綾緒は僕を抱き寄せて、耳元に口を寄せた。
「聞こえていますか、にいさま?」
「う・・・あ・・・・」
僕は頷く。
体中から汗が噴出しているのがわかる。
「そう。これくらい近ければ聞こえているでしょう。では、もう一度云いますね。――綾緒と夫婦の
約定を結んで下さいませ」
怖い。
恐い。
こわい。
コワイ。
(でも――)
こんなのは間違ってる。
「ご、ごめん綾緒。それは受け入れ――」
ずん。
何かが耳内を走り、勢い良く突き刺さっていた。
「――あ゛」
耳。
耳の奥が――
「ぎゃあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ
ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ
ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ
ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ
あああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
痛いいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい
いいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい
いいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい
いいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい
いいいいいいいいいいいいいいいいいいい!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!
頭!!!
痛みが頭に響く!
熱くて、痛くて!僕はのた打ち回る。
「こちらの耳は不良品ですかぁ?仕方ありませんねぇ。綾緒が掃除して差し上げます」
グリ。グリ。グリ。グリ。
「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!!!!!!!!!」
耳を!
耳掻きの入った穴の奥を!
従妹は何度も何度も突き刺し、掻き混ぜて往く。
「や、止めてくれええええええええええええええええええええええええええ!!!!」
ドクドクと血が流れて往く。
耳の中を何かが動いているのに。
こっちの耳からは何も聞こえない。
痛みだけが響くのに!
自分の絶叫が聞こえない!!
「にいさま。こちらの御耳はどうですか?綾緒の声、聞こえていますか?」
グリグリ。グリグリ。
『不良品』の耳を穿りながら、従妹はもう片方の耳に囁く。
「やめ・・・やめてくれえええええ!!!!」
「聞こえておりませんか。ならばこの御耳も――必要ありませんね」
綾緒はそう云って耳掻きを引き抜く。
見慣れていたはずのそれは、先から数cmまでもがぬめついた赤で染まっていた。
「き・・・!きこ・・・てる!きこぇてい・・・から・・・!!」
だからもう止めてくれぇ!!!
痛い。
痛いぃぃ!!
「それはようございました。聞こえているのですね?ではにいさま。にいさまのくちから、祝事を
語って下さい。矢張り女の口から云うべきことではありませんから。ささ、にいさま。殿方らしく
にいさまの口から綾緒に云うのですよ?」
僕は頷いた。
痛いけど、嫌だけど、それ以外になにが出来るんだ!
「あ・・・綾緒・・・・」
「はい」
涙が止まらない。
「ぼ、僕と、」
それは痛みのせいか。
「僕と――」
それともこの境遇のせいか。
その日、僕には将来を誓う婚約者が出来たのだった。
投下終了。
痛いのは苦手です
後輩がお兄ちゃんて呼んだこととか、従妹のプロポーズとかより、耳が、耳がああああ!
この難敵に対して、先輩はどう戦うつもりなのか?
もうこうなったら、去勢しか……
楽しみに待ってるかいがあったほど今回も痛面白かったです。GJ!
ただ、鼓膜突き破ってぐりぐりしての耳血は生爪はがすとかより危険で
即入院レベルだと思う。平衡感覚失うし、再生しないし、人工内耳だし。
なんかそこだけ気になったけど、一ツ橋さんも本格参戦でどう絡んでくるか期待してます。
>>12生爪剥ぐとか鼓膜突き破るとか読み慣れてないから正直キツい…
包丁で刺したり首締めたりは逆にニヤニヤしちゃうけど、
これも一般人にはキツいんだろうなぁ。
>>12 流石にグロ注意ぐらい書いてくれよ…
GJとは言えん
一回目読んだときは、『痛いなぁ』と思ったけど、二回目は逆にニヤニヤしてしまった。
ヤンデレスレでこのくらいでグロ判定?と思った俺は多分間違いなく病んでいる・・・
ドMな俺にはGJだったよ
日ノ本くんはラストまで生き残れるのだろうか・・・
慕ってる相手の事を傷つけるってのはどうもなあ・・・・、この間まで読んでなかったのは直感的なものだったのか
この間、ゴルゴシリーズに収録してある漫画が、かなりヤンデレしてた
男に別れてくれと言われた女が、基地外起こしてその場で自殺
で、男は別の女と結婚し娘が生まれたが、その娘は別れた女の魂が転生した姿だった
娘は成長し、母親を殺してしまう
男はやっと娘の正体がわかったが、時既に遅かった
男は何もかも諦めてしまい、娘(魂は別れた女)は永遠に愛する人を手に入れた
エロス分が無かったのが、唯一の心残り…
>>12 先輩の病みが進んで来たり
後輩が暗躍してくるのかな
とかwktkしていたが最後の耳で全部吹っ飛んだ
綾緒怖いよ綾緒
だがそれがいい
24 :
名無しさん@ピンキー:2007/06/28(木) 01:20:28 ID:yFEn8nKW
下げ
細川忠興ってヤンデレ入ってるよね。
27 :
名無しさん@ピンキー:2007/06/28(木) 09:41:15 ID:gPQiqZbI
綾緒みたいな妹がほしい!!
細川忠興はただのキモストーカー
最近こういうのを知ったのであれだけどもTOのカチュアとかはヤンデレかな?
いまだに強烈な印象の残ってるキャラだが
後輩には頑張って欲しい
過去の妹扱い設定にはキタ━━━━(゚∀゚)━━━━と興奮した
そして従姉妹に恐怖w
>>29 あれは良いキモ姉だった。義理だけど
思えばあそこから足を踏み外したのかな……
>>32 同志がいたか。 おれもよくよく突き詰めたらカチュアが可愛いって思ったところからこの属性に気づかされたよ
カオスルート二章冒頭の「こんな島からは抜け出して二人で静かに暮しましょう」ってところで頷きたかったなぁ
まさかのお兄ちゃん発言に驚くとともに、参戦への期待にwktk
綾緒はこの怖さがたまらんwww
先輩がどうでるのか楽しみ。作者さんGJ
>>30 奥さんが反逆者(今でいう犯罪者?)の娘でも離縁せずに監禁、
脅迫として周りの人の耳鼻を削ぐが本人には危害を加えず、
奥さんに目をつけた奴は即切り捨て。
奥さんが死んだ際に見捨てた奴は即効絶縁なんだっけ?
これを男女逆にすれば使えなくもないね。
36 :
名無しさん@ピンキー:2007/06/29(金) 18:50:01 ID:o9macKcb
父娘ネタが少ない気がする・・・何でだろう?
>>36 実の父と姉がそうだったらどう思う?
みんな嫌悪してるんだよ
39 :
名無しさん@ピンキー:2007/06/29(金) 23:19:00 ID:fFxB8GBX
?
そこかしこで
「オンリー同人即売会」「ヤンデレ音楽企画」「ヤンデレ同盟」
ってのがあって、なんだか萎えるな。
小説系リンクにも堂々と「ヤンデレ」という文字を入れちゃう作家も増えてるし、
これからの衰退っぷりがものすごく良く見える気がする。
ヤンデレ音楽企画はまだいいんじゃね?
愛故にとか、死ぬほど愛してるとか一応そこら辺は理解してるようだし。
そもそも衰退するほど興隆したジャンルでもない気が
44 :
名無しさん@ピンキー:2007/06/30(土) 04:49:30 ID:Or4OTajm
>>36 父親となると相当なロリヤンデレでないと中年になってしまう
↓
1:おっさん(父親)に感情移入したくない←脳内姉・妹はいても脳内娘は想定の範囲外(属性がない)な人が多いため
2:脂ぎった中年が恋愛の中心にいても華がない
3:そもそもおっさんと少女の恋愛関係は血縁でなくても爛れた印象を受ける
4:1に関連して、脳内自分は永遠の18歳だから
とか
sage忘れスマンorz
おっさんっていうなよ。ダンディーなナイスミドルって考えろよ。
>>46 1:現実にナイスミドル、ダンディ、ちょい悪と呼ばれているヤツにろくな男がいない
2:あの胡散臭いオーラは異常
3:住人の平均年齢がナイスミドルと呼ばれるにふさわしい年代より若いため、自分と重ね合わせて考えにくい
4:おっさんに美少女を奪われていくのは歯がゆい
・主人公は25歳。バツイチ。
・18歳でできちゃった結婚をした。生まれてきたのは娘。
・娘が7歳のとき、妻が事故死。主人公、以前よりさらに娘を大事にする。
・娘、母を失ったショックと、父の優しさを一身に受け、ファザコン化。
これならどうだ?
・主人公は18歳。男子高校生。大学生の姉に対して重度のシスコン。姉と父の馴れ合いを見てやきもきしてる。
一度告白するも見事に玉砕。
・姉20歳。女子大生。重度のファザコン。大好きなお父さんの為なら私の初めてもあげる!と息巻いてる。
・父45歳。会社員。上場企業に勤めてるが窓際族。中年太りと頭の後退・加齢臭に悩まされてる。
妻と似ても似つかぬ美人な娘に対して娘以上の感情を持っている。ラブラブ状態も満更ではない。
これどう?
主人公が不老不死で、気まぐれに拾った少女が十年後には見事にヤンデレておりましたとか、そんな厨設定しか思い浮かばない。
てか、兄妹ものとそんなに内容変わらん気がするぞ。
確かに父娘だったら、同じおっさんでも叔父姪の方がよく見る気がする。
年齢の制約が少しだけ軽くなるし、いやなおっさんの役割は父親役に押し付ければいい。
ところで。
ここの住人には皆、それぞれヤンデレに一家言あるだろうから聞きたいことがある。
先日たまたまリアルの知り合いとヤンデレについて話す機会があったのだが、
「ヤンデレってそもそもどんな感じの属性なんだ?」と聞かれて、俺は説明に窮してしまった。
周りの目もあったものだからあまり常軌を逸したことも言えず、
聞いてきた相手にはそういう方面の知識が少なかったから、具体例を探すのも難しい。
その時の俺は咄嗟に六条御息所みたいなもんって言ってしまったんだが、個人的には病み具合が足らない気がする。
非ヲタでも知っていそうな知識の中からヤンデレの具体例を探すとしたら、誰を挙げたらいいと思う?
阿部定
エロ漫画だとわりと多いぞ>娘の嫉妬もの
ヤンデレかというと、ヤンデレもの自体あまりないしなあ
恋敵を抹殺して行くっていうと、ギリシア神話のヘラとか?
嫉妬じゃなくて恋ゆえに暴走するタイプだと八尾屋お七
新井素子のひとめあなたに読ませりゃ良いんじゃないかね?
チャイニーズスープの奥さん?
48さんの設定でビビっと来たのですが。
48さん、書いてよろしいでしょうか?
期待
38の父と16の娘なら年頃でいいんじゃないか?
16歳ならもうエッチするには十分な体つきだし、
38ならまだ中年にも行かないキビキビした年頃だ。
61 :
48:2007/06/30(土) 18:35:36 ID:F4nzXjHd
>>58 俺が断るわけないじゃないか!
ワックワックテッカテッカ
25と7歳で超絶ファザコンヤンデレ娘で行こうかなと(`・ω・´)b
48さん、構想ありがとうございます。
投下します。
”本当の恐怖”を感じると、体は微動だにしてくれず、頭は悪い方向へどんどん想像を
膨らませていく――そんなことを聞いたことがある。
正直それは違うと思っていた。恐怖を認識したらすぐにそこから逃げようとするだろう
し、必死に状況を打破する策を考える為に思考を巡らせもするはずだと信じていたから。
事実今まで加奈には結構”見られちゃマズイもの”を目撃されてきたけど、その度に俺は
何とか乗り切っていた。保健室での一件は島村の助け――今となってはそれが本意だった
のかは定かではないが――を借りて丸く収められたし、体育館裏でのことも島村に対して
敵意を露わにしていた加奈を結果的に宥められた。それは、それらの状況が全て言い訳や
最善の行動でとりあえずはどうにかなる程度のものだったからだ。逆に言えば、そのこと
がわかっていたからこそ、心に巣食う畏怖を騙しながら行動を起こすことができた……。
――つまり、俺が加奈を見据えたまま立ち上がることができないのは、今までのような
生温かいものじゃない”本当の恐怖”を覚えているからなんだろう。
加奈に『上書き』されている時に似た冷え切った思考がそんな結論を導き出していた。
俺が島村に”傷付けられている”という現実を目の当たりにして、加奈がどんな行動を
取ってくるかなんてわかっている。加奈は俺に掠り傷ですら付くのを許しはしなかった。
放っておけばすぐ治るような本当に小さい傷を”汚された証”と称し、”自分が付けた”
ということに『上書き』してくる。自分の好きな人に他の人間が触れてほしくないという
当たり前の欲求を歪に肥大化させてしまった、俺の唯一無二の想い人――城井加奈。その
彼女が、俺の体が屈折した手段で汚し続けられているのを見れば、”それ以上に屈折した
手段で、それ以上に浄化する為に、それ以上に傷付ければいい”と考えるのは目に見えて
いる。ただでさえ気を失いそうなほど暴行を加えられているというのに、それを更に凌駕
する苦痛を与えられたとしたら、俺は多分――。
そんな末路をも冷静に受け止めることができるのは――受け入れるのを拒否して感覚が
麻痺しているだけかもしれないが――俺が諦観しているからだ。言い訳しようのない事態
を前にして、もう何をしても無駄だと心が訴えかけているんだ。今までと違い今回は加奈
に事の一部始終を見られてしまっている。どんなことを言ったとしても、それは加奈の耳
には届かないだろう。”今まで”と同じように。そして俺は『上書き』”される”……。
もしかしたら加害者の島村に対して何かするかもしれないが、だからといって俺の運命が
変わる訳でもない。結局俺の小ずるい努力なんて、二人の女の子を傷付けて、挙句の果て
は自身を破滅させるだけ……。滑稽過ぎる。何だか急に虚しくなってきた。今まで上手く
やっていけていたつもりだったが、それは俺のただの思い込みでしかなかったって訳か。
視線の先で肩を震わす加奈の存在が、俺に奇妙な絶望感を煽ってきた。
自分が恐い状況にあることはわかっているはずなのに、不思議と恐怖という実感が全然
湧かない。あまりにも大きい恐怖を感じることを心が拒否したということなのであろう。
俺、無意識下でも逃避している……。――そんな人間がどうして人を幸せにできるんだ?
「はは……」
自嘲気味に笑いながら、せめてもの意地で加奈から目を逸らすことはしない。今逃げて
いる分際で下らない自尊心なんかを持ち合わせているからこんなことになったのかな、と
思いながらほぼ生気を失った視線を加奈に投げ掛け続ける。機能としてだけは見ることの
できる加奈の表情は、予想通り”受け入れ難い現実”を突きつけられたことで色を失って
いる。それが嵐の前の静けさということを知っているだけに穏やかな気分にはなれない。
そんな顔を眺めていると――『上書き』してくる時もそうだが――、一つ疑問に思う。
――加奈はどうして俺のことが好きなんだ?
こんな『幼馴染』ってだけしか接点がなく、目立ったような美点もないような俺なんか
の為に、どうして”そんな顔”をしてくれるんだ? どうして『上書き』してくるんだ?
こんな疑問に答えなんてないのはわかっている。俺だってどうして加奈が好きなのかを
訊かれたら答えられない。だって、加奈とはずっと昔から一緒にいたし、それが当たり前
だと思っていたから。だが、俺の加奈への想いが思い込みなんかではないってことだけは
絶対に断言できる。
そう、理由なんてあってないようなものだ。どんなに探したって、絶対だと言い切れる
ような解答がある訳がない。
それでも俺がそのことを追究したいと思うのは、自責の念に駆られているからだ。この
ままではこんなにも俺のことを好きでいてくれている加奈に申し訳が立たない。何もして
やれずただ膨張した独占欲の赴くまま『過ち』を犯させてしまった。誰よりも加奈のこと
を知っているはずだった俺が――確実に狂気に蝕まれている加奈の様子を見てきたこの俺
が――、一番近くにいた存在であるはずの俺が何一ついい方向に事を進められなかった。
もう、この『罪』を抱えたまま死にたい。……いや、これから死ぬんだったっけ……。
「加奈さん……ッ!」
近くから島村の声が聞こえる。顔こそ俺は見ていないが、さっきまでの不気味なまでの
冷静さはどこへやら、動揺を隠し切れていないのが声色からわかる。そんな不安定な声を
聞いていると嫌でも、二週間前俺が島村に”遅過ぎる告白”をした時の様子を思い出す。
そこで不意に島村が俺のことを好きだという事実が脳裏に過ぎった。思い返せば、島村
も加奈と同じくらい俺のことを愛してくれていたのかもしれない。方向性こそ違えど、俺
を好きであるという点では加奈と同じ。そして今になってようやく気付いたが、結構加奈
と島村は似ている。二人共どっちかと言えばサディストなところとか、俺の為には形振り
構わないところとか――俺のせいで狂ってしまったところとか。
俺は加奈だけに止まらず、島村のことも滅茶苦茶にしてしまったんだ。島村は俺のこと
を好きになった『きっかけ』があるようなことを匂わせていたが、どんな理由にせよ普通
彼女持ちの男を手に入れようと思うか? それほどの理由ってのは一体何なんだ……?
興味はあるが、訊くほどの気力は最早残っていなかった。島村に痛みつけられた箇所の
苦痛のせいもあるが、何より心が後ろ向きな考えしかしてくれないのが一番辛い。恐怖を
感じることさえ放棄した完全な無気力状態――それが俺の結末だ。周りの人間を散々掻き
回した挙句、地面の上で無様に転がっているクズ男――俺に相応しい『最期』だったな。
「来ないで下さい……! まだ駄目なんです……まだ……まだ……」
頼りなさそうに震える島村の声が耳に入ってくる。そこから感じ取ることのできる露骨
に動じた様子は、正直かなり人間味に溢れている気がした。今までの島村の周りへの対応
には殆ど『素』が感じられなかった。ただの無意識的な行動なのか、それともトラブルを
避ける為に他者と壁を隔てる手段なのか、理由はわからない。しかし、俺に怪我をさせて
しまって何度も心配をして声を掛けてきた時や、クラスの人間に自分と俺の関係を知られ
そうになって赤面していた時の島村には”それ”が感じられる。何の歪みもない、純粋な
一人の女の子としての一面を垣間見ることができる。それが、島村の真の姿なんだろう。
……あれ? そうなると、俺はとんでもない勘違い野郎ってことになる。
俺は今まで危害を加えてくる島村の姿を『本性』として受け止めていた。しかし、実際
の島村は、いい意味で”普通の女の子”であって。俺は島村のことを理解せずに、自分の
都合に合わせて”良かれ”と勝手に思った道を選んでいた訳か。――最低だな。
「誠人くんは渡しません……! あなたになんか渡しません……絶対に」
突如首に腕を絡まれたと思ったらそのまま体を起こされた。そして俺の体は島村の体へ
と引き寄せられる。痛いほど強い力で島村は俺を離すまいと言いたげに抱き抱えている。
その力に反して押し付けられた島村の体は柔らかい。ずっと嗅いでいたいと思えるほどの
いい匂いもする。そこに『性』の違いを改めて感じる。島村は普通の女の子だ。きっと俺
なんかに惚れさえしなければ、他の男と付き合って真っ当な幸せを歩んでいたんだろう。
そう思うと罪悪感を覚える。島村は俺のことをこんなに好いているというのに、俺は今の
今まで島村に対して『勘違い』をし続けていたのだ。愛を受ける資格なんて俺にはない。
それでも島村の温かみに快楽を感じている自分に嫌悪しつつ、加奈に”最悪の光景”を
披露し続ける。今までの俺ならこんな状況を加奈に見られたらだとか色々考えて、すぐに
島村から離れていただろうな。それは自分の保身の為であり、加奈の為でもあった……。
手遅れな現実を享受し、俺は諦観と共に目を瞑ろうとする――刹那。
俺の目に映ったのは――。
俺に背を向け、走り出していった加奈の姿だった。
「加奈……!?」
自然と呆けた声が漏れた。
全く意味がわからない。加奈は俺を『上書き』する為に一目散に俺の下へ向かってくる
はずなのに、実際は俺に背を向けて行ってしまった。”今までの”加奈なら俺が傷付く様
を黙って見ているだけだなんて理性的な行動が取れる訳がない。それなのに何でなんだ?
ほぼ事実だと認識していたはずの推測が引っくり返ってしまって、俺は戸惑っている。
だけど、今俺の胸をじりじりと焼き焦しているのはそんな『疑念』だけではない。俺の
心を掻き回し、心臓を跳ね上がらせている真の要因――それは、『焦燥感』だ。
加奈に『上書き』されることを半ば諦め気味に享受しようとしていた――腹の底では、
傷付くことを恐れていた――その俺が抱くにしては明らかに矛盾している感情だ。だって
このままおとなしくしていれば自分に危害を加える存在である加奈から離れられるのだ。
なのに、既に視界から消えてしまった加奈の姿を追いかけたいと思っているのは何故だ?
――馬鹿野郎。そんなの、加奈が好きだからに決まってるだろ。
今まで呆れるほど痛感させられ続けたこと。俺はどんな加奈だって好きなんだ。たとえ
狂っていたとしても、そんなこと些細な問題でしかないと思えるくらいに。加奈を愛して
いる。だから失いたくない。離れていってほしくない。
初めて俺を拒絶するかの如く逃げ去っていった加奈を見て、どうしようもない不安が俺
の心中を支配している。このままでは加奈を失ってしまうのではないかという恐怖が余計
に俺の焦燥感に油を注ぐ。早く行かないと、二度と元に戻れない気がしてならない。
一緒にいるのが当たり前だった幼馴染を――加奈と離れてしまう。
その最悪の光景が脳裏に過ぎった瞬間、泥沼の奥底へと沈み続けていた『力』が完全に
奮い起こされた。有り余るほどの『意志』が爆発して、数分前までの自分を死ぬまで殴り
続けてやりたい気分だ。俺は何をやっていたんだ? ”何をやっても無駄”と勝手な憶測
で無気力という逃避手段への理由を作って『努力』を怠たる、なんてふざけ過ぎた話だ。
一番傷付いているのは、加奈なんだぞ? 『上書き』してくるのだって、俺が他の人に
傷付けられたことに――穢されたことに傷付いて、自分でその罪を被ってまで俺のことを
守ろうとしてくれているからだ。だけど、俺は油断が原因で傷を増やし続けた。それらを
何度も『上書き』していく内に、段々と制御が利かなくなっていて今の加奈が存在する。
――ということは、加奈を狂わしたのは、俺か?
最低最悪の解答だった。加奈の狂気の循環を助長していたのが自分だってことくらいは
わかっていたが、加奈が奇行に走るそもそもの原因は加奈の内に秘める大きい独占欲だと
思っていた。だが実際は、根源すらも俺が作り出していたんだ。俺が加奈を無意識の内に
煽って、それに反応した加奈をまた煽って、の繰り返しだ。『罪』を被っているのが加奈
なのをいいことに、俺に『上書き』してくる加奈を”狂っている”と解釈して、”救う”
だとか最もらしいことほざいて正当化してたんだ。自分の『罪』から目を背けてたんだ。
「加奈……! 待ってくれ、加奈ッ!」
恥も外聞もなく、対象のいない情けない声を張り上げる。行き場を失った音が静寂の中
に溶け込む虚しさに孤独感を感じつつ、そんなことを気に掛けている時じゃないと自らを
叱咤する。
幸いにも俺は腐り切ってはいない。何故なら今の俺は、はっきりと思っているからだ。
”謝りたい”と。今までの過ちを受け入れそれを悔い改め、その被害者となってしまった
加奈に謝罪をしたいと心から思えているからだ。”とりあえず”なんて軽いものでなく、
誠意を以って加奈に自分の好意を示したいという想い。それを俺は感じられているのだ。
後先なんてどうだっていい。加奈にとって最善であると思えることを遂行するまでだ。
俺は体中から漲る力を使って起き上がろうとする。が、
「! ま、誠人くん!? どこに行く気ですか! まさか……」
ほぼ本気で動こうとした俺の力は、それと同等かあるいはそれ以上の力によって虚しく
相殺されてしまう。そこでさっきまでの朧げな記憶が、俺が島村に抱き抱えられていると
いう事実を突きつけてきた。慌てて離してもらおうと島村の方へ顔だけを向ける。
「まさか、加奈さんのところへ行くんですか? まさかですよね、誠人くん……!?」
今まで加奈のことだけで頭が一杯だったせいか、懐かしく感じさせた島村の顔は、余裕
の笑みで塗りつぶされていたものから、涙が悲嘆を彩るものへと様相を変えていた。
「行かせませんよ……!」
抱きつかれる力が急激に強まる。細い腕から出てるとは到底思えない強い力でより一層
拘束の手を強めてくる。言葉通り、絶対に逃がさないという意志が痛いほど感じ取れる。
とはいっても女の子の力だ。本気を出せばすぐに腕の中から抜け出せるだろう。しかし
そうすることを俺が躊躇してしまったのは、涙に濡れた島村の顔を見てしまったが為だ。
その涙は俺が流させたものだ。誰も傷付けたくないと思いながら自分の保身も絶対に念頭
に置いていた、そんな利己的な俺の押しの弱さが招いた最悪の結果だ。そのことに対して
俺は責任を感じたいと欲しているのだ。”今すべきこと”から逃げ出す為の手段として。
それだけは絶対に、死んでもしてはならないことだ。
「ちょっと待ってくれればいいんです。すぐに私は『加奈さん』になります。そうすれば
わかりますよ! 私と加奈さん、どっちがいいかってことが! 私は”今は”誠人くんに
痛い思いをさせてしまっていますが、誠人くんが私を愛してくれるというのであればもう
何もしません! ”それ以上のもの”は望みません! 私は加奈さんとは違うんですよ!
幸福を噛み締めることも知らずに、子供のように欲を露わにするあんな人とは違います!
だから! だから……!」
島村が加奈を貶める発言をしていることに怒りはない。そんなことを言っているのは、
全て俺が原因なんだから。理性が理不尽な本能を押さえ込んでいる。今回だけはいつもの
呆れるくらい冷静な思考に感謝するしかないなと思いつつ、俺は体を思い切り捻る。
その勢いで、島村はいとも簡単に俺の体から放り出される。女の子にそんな対応をして
しまうなんて申し訳ないと思いながら、自由になった体に溢れる力で即座に立ち上がり、
そのまま島村から数歩距離を取る。精神的動揺から来る動悸を抑えつつ島村を見下ろす。
一瞬視線を泳がせた後俺を見つけて安堵したかの如く息を吐いた島村は、しかし緩んだ
口元とは裏腹に目を”信じられない”と訴えかけるように見開かせていた。制服を肌蹴て
涙を目の淵に溜めながら見上げてくる島村のその凄惨な姿を前に、またしても心中に常時
用意されている自堕落な道への一歩を踏み出しそうになるのを何とか堪える。
「島村……聞いてくれ」
そして、優柔不断な過去の自分への決別の為に、俺は言葉を――紡いだ。
「俺はどんなことがあっても城井加奈を永遠に愛し続ける――それを、”お前に”誓う」
”最善にして最悪の手段”で、俺は島村を守り、そして傷付けた。
「……聞きたくない……聞きたくない……」
体を震わしながら耳を塞ぎだした島村に、俺は更に残酷な仕打ちを続ける。
「頼む。聞いてくれ、島村。俺が好きなのは――」
「加奈さんなんですよね!?」
地面に座り込んでいた島村が瞬間の内に立ち上がり、精一杯の声を投げかけてきた。腹
の底から、そして心の底から搾り出しているような嗚咽混じりの声は、俺の心を揺さぶる
には十分過ぎるほどのものだった。
「だから私は加奈さんになるんですよ! その私を誠人くんが好きになってさえくれれば
誠人くんは幸せになれます! してみせます! 姿形が同じ人間がいたとして、常に暴力
を振るうような人と相思相愛になれば愛情を注ぐ――その二人のどっちを取るんですか?
お願いですから正気になって下さい。”あの人”じゃ誠人くんを幸せにはできません!」
捲し立てるように語り終えた島村は、胸の内にあった感情を全て吐き出したからか、肩
を上下させ怯えるような目線を俺に送っている。俺も視線を外さない。
島村の言っていることは正しいのかもしれない。加奈を選べば俺はこれからもその狂気
に身震いしながら生活しなければならないのかもしれない。それよりは島村のような女と
普通の恋人生活を送った方が客観的に見れば幸せなのかもしれない。だが、幸せは個人の
問題だ。――俺の幸せは、俺が決める。
一歩”前に”進みたい衝動を寸でのところで抑え、俺は一歩”後ろに”下がった。その
意図を理解した島村は、今まで天秤のように微妙な割合で揺れ動いていた表情を完全に黒
の絶望に歪ませた。そして俺は、その島村に追い討ちをかける。
「俺の幸せは――加奈を好きであり続けられることだ」
膝を地面につけて崩れ落ちる島村を見つめ続けながら、最後に、最低の一言を告げた。
「俺のことが好きなら、その幸せを――叶えさせてくれ」
そして――
「いやぁあああああ!!!!!」
発狂の如き叫び声を発す島村に背を向け、俺は走り出した。
一言だけ言わせてもらえるなら言わせて欲しい――”ごめん”って。
走る。頭の中でひたすら加奈の名前を連呼しながら。多分その様を”俺が”見たら非常
に無様なものに映るだろう。先程までのことを思い返せば、それは俺が泣かしてしまった
少女から逃げているようだから。勿論そんな気は全然ない。”加奈を追いかける”ことを
大義名分にして島村から逃げるだなんてことは絶対にしていない。そのことは断言できる
のだが、自分を好いてくれていた娘に対してあんな対応をしてしまったことに関しては心
を痛めずにはいられない。あれほど残酷な言葉をぶつけることが彼女にとって最良の対応
になってしまうまでの過程は俺が作り出したのだから、それに罪悪感を感じるなんて失礼
極まりないことだとはわかっている。だけど、それでもこんなことを思ってしまうんだ。
――二人共傷付けずに済む方法はなかったのか、って。
今でもこべりついている”中途半端な優しさを振りまく偽善者”な俺がそう語りかけて
くる。しつこく言い聞かせていたはずの答えを無理矢理捻じ曲げようとする未練たらたら
な自分が未だに存在することが恥ずかしい。人間、どんなに表層的な余裕の態度を装えて
もそう本心をリセットすることなんてできないもんだ――そんな風に開き直れたらどんな
に楽なことか。当然島村に大きな傷を残してしまった俺なんかにはできないことだ。何年
もの間培ってきた甘ちゃんな俺がそれを許すはずがない。そう、俺が島村を傷付けたのは
事実だ。それでも――俺は”正しい道を歩めている”。自尊心や自己満足や、そういった
身勝手な感情に振り回されながらも、やっと正解への一途を辿っている。
――それでいい。
たとえ心がついていけなくても、実際に周囲の人間に影響を及ぼす『行動』として俺は
頑張れている。今まで『自分』を軸にして考え行動してきた俺が、行動で以って他者への
労りを示せている。それは加奈が幸せになる為に俺が大いなる成長を遂げている証拠だ。
加奈の幸せを願う俺自信が良い方向に進めている。小さなことだがそれは重要なことだ。
だから走る。もっと『正解』に近付く為に。
――ただ、一つだけ気掛かりなことがある。今は加奈を探すことに専念していて冷静に
思考できないからなのかもしれないが、さっきの島村の発言が妙に引っ掛かているのだ。
警鐘のように繰り返し聞こえてくるその言葉を整理してみるが、中々答えはわからない。
何か素通りしてはならないことを聞き落としているような気がしてならない。喉に小骨が
刺さっているようなその感覚に不快感を覚える。
思い出せ。島村は何て言ってた?
「あ」
しかし、漏れた自身の呆けた声が過去への回帰を中断させた。知らぬ間に上がっていた
息を整えながら、前方を見据える。
いた。
学校中至るところを探したが見つからなかった。友達に「帰ってた」と言われて荷物も
持たずに慌てて学校を飛び出した。いつもの通学路を隈なく見渡した。
俺に”そこまで”させるほど大きい存在である――城井加奈がいた。
俺と加奈が幾度となく談笑しながら登下校を繰り返した通学路の途中にある簡素な土手
の真ん中で佇んでいた。俺に背を向けているから表情はわからないが、俺がすべきことは
決まっている。再確認するまでもない。俺は躊躇なく一歩踏み出しながら叫ぶ。
「加奈ァーーッ!!」
土手に響き渡る俺の声。加奈に届ける為に体中から搾り出した声。加奈はすぐにその声
に反応するように小さく体を震わした。そしてゆっくり体を九十度俺の方へ向けてきた。
それでも俯いたままの顔と長い黒髪が邪魔して、表情を見ることは叶わない。右半身だけ
をこちらに見せつけながら、加奈は無言でその場から動こうとはしない。俺までつられて
動くことが許されないような気がして数秒固まっていたが、すぐに業を煮やして重い足を
上げる。土手の急な傾斜を足早に下っていき、平地へと体を落ち着ける。
俺がいる坂の末端部と、その反対側にある川との間にいる加奈との距離は十メートルも
ない。同じ間違いをし続けて、それでもここまで詰めた『正解』との距離。手を伸ばせば
届きそうな、それでいて果てしない距離。しかし”見えている”。道標があるから絶対に
迷うことのない光明への一本道。手放さない。貪欲で純粋な決意を胸に秘め、口を開く。
「加奈、俺――」
「――誠人くん」
加奈と向き合ったらまず最初に言おうと思っていた謝罪の言葉。それは加奈の小さくも
聞き逃しようのない澄んだ声によってかき消された。俺に断ることなく、俯いたまま加奈
は続ける。
「あたし、守ったよ。『約束』」
「――約束? 何言ってんだよ……」
「誠人くんが言ったんだよ。『誰も傷付けちゃ駄目だ』って」
加奈のその言葉が、”あの日”のことを思い出させた。加奈を俺の家に泊めてお互いに
相手への愛を再確認し合った夜のことを。あの日、確かに俺は加奈にその約束をさせた。
それは加奈に自身の狂気を認めさせ、戒めとさせる為にやったことだ。それは理解できる
が、何故今そんなことを言い出すのかがわからない。その約束と加奈の行動とに一体何の
関連があるのかが全く見えてこない。加奈のことで”わからない”ことがあるという事実
が太い杭となり俺の胸に突き刺さる。その傷口から漏れ出す歯痒さに心が苛まれる。身を
焦がしながら、無言に徹するしか術のない自分に怒りを覚える。今まで如何に自分が加奈
との年月を無駄に垂れ流していたのか痛感させられる。それでも、深い自己嫌悪の闇の中
で無責任に感情を吐露し、自暴自棄に陥るなどという今までと同じ過ちを犯しはない。今
すべきことはそんな下らない自省なんかじゃないのだから。”わからなければ、知ろうと
すれば良い”――奇しくも今問題になっている”あの日”に俺が加奈に誓ったことが思い
起こされた。そう、”わからない”ことを嘆いていても前進はない。”わかろうとする”
ことの方がそれよりも大切なのだ。そのことを、自分本位に行動してきていたはずの過去
の俺は知っていた。
そういうことを思えていたから完全に腐食し切らずに済んだのかと一人で納得しつつ、
視線を前方に固定したまま固唾を呑んで加奈を見守る。長い沈黙が俺と加奈だけの世界を
徐々に作り上げていくような妙な感覚を覚えていること数秒――その世界は壊された。
「だから何もしなかった。誠人くんが傷付いているのを見ても、『上書き』したくても、
我慢したんだよ。何度も何度も、言い聞かせたんだよ――『我慢できなかったら誠人くん
から嫌われちゃう』って……。そんなの耐えられない……誠人くんから嫌われちゃったら
あたし生きていけない。それでもあたしの中の汚い心は誠人くんを傷付けようとするから
……『上書き』したいしたいって騒ぐから……逃げるしかなかった。傷付いた誠人くんを
直視しないようにすれば”あたしの中のあたし”を抑えられると思って。誠人くんから、
逃げるようになっちゃったのはごめんなさい……。でも、”そうすれば”何とかあたしは
平生を保てる。誠人くんを傷付けずに済む……。”離れれば”いいんだよ……」
ねぇ、と続けながら、加奈はようやく顔を上げた。そして、俺と目が合った瞬間、堰を
切ったように涙がその両目から零れた。顔だけでなく体もこちらへと向け、言葉だけでは
なく加奈は悲壮感を露わにした表情で俺に主張してくる。
「頑張ったよねあたし? 誠人くんの”望む通り”になれたよね!? 偉いよねあたし!
……だから、嫌わないで……。これからも誠人くんの言う通りにし続けるから、何だって
するから……だからお願い。あたしを嫌いにならないで……他の娘のとこ行っちゃったり
しないで……誠人くん。あたしを……あたしを彼女のままでいさせてっ!! お願い!」
俺の両目を逃がすまいと見つめ続けてくる加奈。長い独白を終えた彼女は、全てを吐き
出した反動から感情の代わりに涙を流し続けながら咳き込むように嗚咽を漏らしている。
その姿を見ながら俺は――打ちひしがれるしかなかった。
俺はまたしても知らぬ間に罪を――それも、死に値する大罪を踏んでいた。俺が加奈に
させた約束は、彼女との未来を心配してのことだった。事実この約束が果たされれば、俺
の身の安全は保障されるし、加奈が過ちを犯すこともなくなる。二人の幸せの為ならば、
良い事尽くめの選択だ。だが、やはり過去の俺は『自分』を軸でしか物事を考えられては
いなかった。だから気付けなかった。その約束が加奈にとって――『鎖』になるってこと
に。
それは残酷な『鎖』だ。加奈が俺の為なら何だってするなんてことはわかり切ってた。
だから、俺が「傷付けるな」と言えば加奈はそれに従う。でも、その無理矢理加奈の狂気
を抑え込む手段では、当然反発が返ってくる。その反発――俺を『上書き』したいという
衝動――を誤魔化す為に、加奈は「俺から離れればいい」と言った。確かにそうすれば、
加奈は限界ギリギリのところで理性を保っていられるのかもしれない。
だが、これは明らかに本末転倒なことだ。
だって、二人が幸せになる為に――、一緒になる為にやろうとしたことなのに、その為
に離れるだなんて、馬鹿げているにも程がある。
何でこんな矛盾が起こってしまったんだ?
自問自答の答えはすぐに導き出された。簡単なこと。わかってしまえば何てことない。
――俺は、”変わろうとしなかった”。
今まで俺は加奈を普通の女の子にしようということばかりに目を取られていた。しかし
加奈を変えようとしてはいたが、自分が変わろうとは一度もしなかった。表面では何度も
気合いを入れ直したようなフリして、実際は自分では努力せず加奈を自分の都合良い様に
変えようとしていた。自覚なしで。最も性質の悪い、無意識下の行動で。「加奈の為なら
何だってする」だなんて意気込んでおきながら、今まで一度も”狂気に呑まれた加奈”を
受け入れようとしていなかったのが何よりの証拠だ。肉体的な苦痛に意識を持っていかれ
て、俺への愛故に狂った加奈を愛しいと思えなかった。加奈の”いいところ”だけを見て
それだけを『加奈』だと認識していた。上辺だけで加奈を”決め付けていた”……。
「ふざけんじゃねぇ!!」
気付けば叫んでいた。必死に我慢し続けていた自身への怒りがここにきて遂に臨界点を
越えてしまった。加奈は俺から嫌われない為に苦渋の選択をしようとした。加奈だけじゃ
ない。島村だって、自分を捨ててまで変わろうとした。皆、”手に入れる為”に最大限の
努力をしてきている。なのに俺は一人何をしてきた? 何もしなくても自分を好きでいて
くれる娘たちに依存して、俺は生意気に踏ん反り返ってたんじゃないか。
そんな自分が情けなくて、許せなくて。
「ま、誠人くん? どうしたの? 泣いてるの?」
加奈のその言葉を受け目を擦ってみると手に涙が付着した。どうやら本当に泣いている
ようだ。格好悪いと思いながら、俺はその涙を止めようとするようにに天を仰いでみる。
もう夕方らしく、空は茜色に染まっている。その澄み切った空模様を見ていると、何だか
心が浄化されていくような錯覚に陥る。そんなことはしてはいけなことだとわかっている
が、”今だけは”そう思わせて欲しい。
――これからすることを、せめて綺麗な心で終えたいから。
一縷の願いと共に、俺は歩き出す。一歩一歩、加奈へと近付いて行く。
「誠人くん、駄目」
加奈が目と言葉で俺のことを止めようとしてくる。その強い意志に満ちた力に屈すこと
なく、俺は歩を進めて行く。
「駄目だよ、誠人くん。そんなに近付いちゃあたし……」
俺と歩調を合わせるように、加奈は後退りする。俺と視線を合わせたまま。その目線は
恐怖を感じているのか揺れている。俺が近付くことによって、俺が一方的に『駄目』だと
決めつけた”加奈の本当”が抑えられなくなると思っているのであろう。そして、それに
よって俺から嫌われることに、心底怯えているのだろう。
加奈を恐がらせていることに罪悪感を感じつつも、足を止めることはない。
「来ないで……お願い、来ないで!」
その叫びと共に加奈はゆっくりと後退っていた足を突然止め、制服のポケットから徐に
カッターを取り出した。見覚えのある形。それはそうだ。そいつは加奈が島村を切りつけ
ようとした時のものだから。
俺を威嚇するように睨みつけながら、カッターの刃を素早く出してくる。僅かに覗く陽
の光が、その存在を際立たせるように照らし出している。簡単に人の命を奪える凶器――
それにさえ臆することなく突き進んで行く。
加奈は驚きと戸惑いが混じったように表情を歪めながら、これ見よがしにカッターを俺
に突きつけてくる。きっと刃物を見せれば俺が止まると思ったのにそうならなかったから
状況を理解できないのだろう。だけどすぐわかる。これからその『答え』を示す。
「加奈」
一言告げてもう一歩近付く。俺と加奈の距離は加奈の腕とその手に握られたカッターの
長さの分だけにまで狭まっていた。殺意をまるで感じさせないその刃物を一瞥してから、
俺は”これからすることへの理由”を述べた。
「ごめん……好きだ」
そして、カッターを持った加奈の腕を掴み、それを――自分の首元へ刺し込んだ。
「え!?」
加奈の驚いた声が聞こえたと同時に、首元に冷たさを感じた。その寸秒後、それは一瞬
で生暖かいものへと変わる。肌にべたつく気持ち悪い感覚と共に、何かが流れていく認識
を覚えた。
「誠人くん!? 誠人くん! ……」
加奈の声が薄れかける。本格的にヤバイ。もたもたしていられない。このまま深い眠り
へと堕ちていきたい欲を抑えながら、俺はもう一頑張りする為に心の内で叱咤をする。
もう声は出ないけど、行動で俺の気持ちを示す為に、喉下に刺さったカッターをすぐに
引き抜き――加奈にも突き刺した。
既に俺の返り血で制服を赤に染めていた加奈の首元から、勢い良く血が噴き出る。それ
が俺の体をも赤く染め上げていく。俺たちの周囲が俺たちの血で、俺たちの赤に染まる。
これで良かったんだ。今まで加奈にばかり無理をさせて自分が変わる努力をしなかった
俺の、最後の思いやり――。”加奈を受け入れる”。一番簡単で、一番すべきはずのこと
を、俺はした。俺のことを『上書き』したいと願う加奈の願望を叶える為に、俺は自分の
身を捧げた。
だけど、一時的な満足感に浸った後、加奈が罪悪感に苛まれ心を病むということは目に
見えていた。だから、加奈を将来的に苦しませない為に、加奈も殺すことにした。
物凄く身勝手なことだってわかっている。もしかしたら加奈は生きててやり残したこと
があるのかもしれない。俺は加奈の『未来』を奪い去った。
でも、これが間違った選択だなんて風には、微塵も思っていない。だって。
目の前の加奈が、こんなに幸せそうに笑っているから。
俺の血を浴びながら、共に死の実感を共有し合いながら、まるで一心同体だとでも言い
たそうな表情で、俺のことを見上げている。
――これこそ、俺たちが目指した『幸せ』なんじゃないだろうか?
お互いに崩れ落ちながら先に倒れた加奈に覆いかぶさるように倒れる。加奈の温もりに
包まれながら逝ける――なんて幸せなことなんだろうか。
きっと加奈もそう思っている。俺がそう思っているから。
「 」
喉から息が漏れて言葉で伝えられなかったけど、きっと加奈には伝わったはずだ。俺の
言いたかったこと――理解してくれているよな?
加奈のことを抱きながら、俺はようやく手に入れた幸せを噛み締めつつ、目を閉じた。
――――――――――――――――――――
投下終了。次回最終話です。
””と『』が多過ぎるのと主人公が果てしなくムカツクのが残念
74 :
実験的作品:2007/07/01(日) 00:18:28 ID:llysDH3v
投下します。
「ねぇ、P君はどういうのが好きかな?」
そのお店の中には、なんともいえない雰囲気が漂っていた。
一言で言えば特殊な衣装や特殊な用途に使う物品が並んでいるお店。
コスプレ……と言ってしまえばそうなんだろうけど、どうして黒や赤系統が多いのだろうかと、思ってしまう。
なんというか、普通のオタク系のコスプレ衣装を売っている店とは毛色が違うというか…
革やエナメルの質感がなんとも言えずにエロティックで、壁に並んでいる手錠をはじめとする拘束具や多種多様な鞭の数々がどうも本物っぽいといいますか……
もしかしてここは本物のSMグッズのお店なんでしょうか。
しかも、千鶴さんはまるでオタク系の店での俺のように、ボンテージなどを手に取り身体に併せ
「どうかなぁ……似合う?」
などと返答に困る質問をしてくれたりするのだ。
いや、似合いますとも、似合いすぎてまるで本職の女王様っぽいといいますか。
いえ、可愛いんですよ?可愛いのですけど、可愛い前になんと言いますか黒いオーラといいますか、
彼女食べる人、俺食べられる人って立場を自覚させられるんですけど……
「P君ってこういうのは嫌いだった?」
いや、嫌いじゃないです。寧ろ好きなほうだとは思うんです。
ただ、二次元で妄想しているのと実際に目の当たりにするのは違うんです。
なんといいますか、縛ったり鞭を打ってみたり、拘束してみたいと思いますけど、スキルも度胸も甲斐性も場所もないですし。
第一、千鶴さんにそんなことできっこないす。
緊張のあまり押し黙る俺。いや、人間緊張すると喋れないといいますか、
「嫌いじゃないけど……」
けど、なんだ!けどって。
素直に好きと言えなくて、といいますか俺Mじゃないと思うんです。
いや、そりゃいつも襲われてばっかりのヘタレな俺ですからMと間違えられるのも仕方がないのはわかるんですけど、妄想世界では何度も千鶴さんにあんなことや(以下文部省検閲につき削除)をしているんです。
と、気がつけば千鶴さんは手に黒い袋を手に持って俺の傍に佇み、
「じゃぁ、お昼御飯でも食べにいこっか。」
俺の手をとると、店の外に引っ張っていく。
えっと、その袋の中にはなにが入っているんですか?千鶴さん。
75 :
実験的作品:2007/07/01(日) 00:20:35 ID:llysDH3v
気がつけばいつものオタク系店舗にいる俺と千鶴さん。
って、どうして千鶴さんがこの店を知ってるんですかっ!!
俺はこの店の痕跡物を家に残したことはないはずだし、この店の話をしたことだってないはずなのに。
そんな俺の思いを知ってか知らずか店内を見て回る千鶴さんの姿。
おもわずその姿に驚き、そそくさとその場を立ち去り何事かと遠方から千鶴さんを窺う野郎に、動かざること山の如しとエロマンガを物色する猛者たち。
そんな中に立ち入り、おもむろに一冊のエロマンガを手に取り
「P君、こういうの好きでしょ?」
ええ、好きですけど周囲の視線が死ぬほど痛いです。なんというか、空気が悪いっす。
「この人の本持ってたよね?」
ええ、持ってますっていうか、どうしてそんなこと知ってるんですか?
「これまだ持ってないよね。買うの?」
買いたいですけど、今日はなんというか買えるような雰囲気じゃないですっす。
「こういう人形はP君興味ないの?」
いえ、あるんですけど、家に飾れないんです。ほら、俺覚悟が足りない人ですし。
というか落ち着いて買い物をする雰囲気じゃないというか、千鶴さんはどういう店舗なのか見学するために来たようで特に何を買うわけでもなく
一通り見終わると店を出てしまった。その際に言われた言葉が俺をどきりとさせた。
「今日は何も買わないの?」
今日はって……
76 :
実験的作品:2007/07/01(日) 00:22:12 ID:llysDH3v
次に向かったのは所謂ビデオレンタル……なんだが、どうして千鶴さんがそのコーナーにいるんですか?
「ねぇ、P君。どういうのが面白いの?」
おもいっきりアニメのコーナーの前でにっこり微笑む千鶴さん。
なんなんでしょう……この、死刑直前に刑務官が見せる
「何か最期に言い残すことはないか?」
ちっくな優しさというか違和感は。
しかし、無言でいるわけにも行かない。無難にアンパンマンをお勧めするべきだろうか。いやいや、ここはヅブリの映画を……
「あ、これ確かP君、これのゲームもってたよね?」
はい、よりによってそれですかぃ。
絶対にオススメしてはいけない上位ランキングぶっちぎりで1位のそれを選びますか。
って、待て。うえいとあみぬぃっと。
どーして千鶴さんがそのゲームを持っていることを知っているんでしょ?
あれはデスノートばりに厳重に秘密の机の奥にしまいこんだはずだし、侵入者の形跡もなかったはずだが……。
いや、まて。
待つんだ。
落ち着け。
ここは無難に否定してみるのはどうだろう……
いやまて19話や20話を避ければ単なるハーレムアニメに過ぎないのだから、1話だけ見せてみるのはどうだろうか?
いやいや、キャラクター物のアニメは避けるべきだろう。せっかくあの千鶴さんがアニメに興味を持ってくれているんだ。
内容のあるアニメを見せてみるのがいいのだろうか?ならなにがお勧めだ。お髭のモビルスーツ?いや、ルパンルパーン?或いは努力と根性?
と、とりあえず無難なものを4本選ぶと、素直に微笑む千鶴さん。
「へぇ、楽しみ♪」
……あの、あなた本当に千鶴さん?
77 :
実験的作品:2007/07/01(日) 00:25:12 ID:llysDH3v
家に帰り、ビールを片手に千鶴さんとDVD鑑賞。
夢のような光景のはずなのだが、どうにもこうにも千鶴さんの顔は真剣そのもので、まるで教育番組を見る留学生のように画面を凝視し続けている。
なにを考えているんだろうなぁ、などと推測するが微妙にわからない。急にオタク文化というか俺の趣味に理解を示してくれた背景に一体なにがあったんだろうか。
いや、仮にそうだとしても、人には見られたくない暗部ってものがある。
俺はこっそり隠れて独りこそこそとオナニーしたい性質だし、見られて恥ずかしい部分ていうのはある。
そりゃ千鶴さんとオタク系の会話ができるようになることはある意味歓迎するべきことなんだと思う。
だが、何かが違う気がする。
千鶴さんがこのことがきっかけで腐女子化してしまうのも俺のエゴなのかもしれないが千鶴さんにはこのままでいて欲しいと思っていた。
そりゃ確かに俺も男なんだから都合のいいことを思ったりもするさ。
だが、なんというか千鶴さんは高く気高い尊い存在であって欲しかった。
ある意味、俺なんかと付き合ってくれているだけで贅沢な話なのだが、それが原因で千鶴さんが駄目になってしまうのはいやだった。
だからといって千鶴さんと別れることなんてことも当然できない俺なのだ。
そうだ、認めよう。俺はこんなに駄目な奴なのにどうして千鶴さんは俺なんかと付き合ったりしてくれるんだ。
金も顔も名声も甲斐性も将来性もない俺なのにどうして千鶴さんはこうまでしてくれるんだ。
千鶴さんにいったいなんのメリットがあるんだろう。
その夜、千鶴さんはあの店で買ってきたあの衣装を着てくれた。
俺は初めて千鶴さんに命令をした。
いや、千鶴さんが命令して欲しいとお願いしてきたのだ。
わけがわからない。
でも、そうしないといけない不安に駆られた。
そうしなと千鶴さんがどこかに行ってしまうような気がした。
恐怖と背徳感。
いつもは見上げる千鶴さんの顔を俺が見下ろしている。
ぞくりとする。
そしてたった一言がきっかけで何かが弾けた。
「咥えてよ。」
その夜、初めて俺は無我夢中で千鶴さんを自分の物にした。
78 :
実験的作品:2007/07/01(日) 00:26:24 ID:llysDH3v
投下完了です。
>>72作者が意図したものか否か解らないが、いらっとする主人公だな。
グダグダ言い訳した挙句、自己完結の無理心中で問題放棄したように見えてしまう。
>>78お互いが今までちょっと遠慮してたぶん、千尋さんの方が一気にヤンデレ化しそうで楽しみ。
GJ!!
>>72 「やっぱり島村さんはいいなあ」とか呑気していたが
あああああ!
なにやってるんだ誠人!
リアルに( ゚д゚)ポカーンとしてしまった
>>78 地味に洗脳されつつあるような
このまま進むのかなにかのキッカケで爆発するのか
千鶴さんの危うさが出てきた感じでwktk
>>72 ふむ、主人公の行動には少し考えされらるものがあるな。
自分は正しくあれと思い、そう振舞うのは偽善だったと気付き自己嫌悪に落ち、
ならば偽善をなくそうとし、だけど偽善を意図的に振り払おうとするのもまた偽善。
結構深いものがあるな。
かなり出遅れた感があるけど空気読まずプロットを……
・主人公は過去に近所のキモ姉に監禁逆レイプされた経験がある
・幸運にも救出されるがキモ姉家族は居た堪れなくなって引越す
・数年たって事件のことを忘れ始めていた主人公の前に突然娘を名乗る女の子が現れる
・ずっと父親からの愛情に飢えていたため十数年分を取り戻すかのように甘える娘を主人公も次第に愛おしくなってゆくが……どうなる、みたいな
このプロットなら精通さえ迎えていれば小学生でも子供ができる
どこで読んだか忘れたんだが・・・・
ファンタジー物で、ある一人の魔道師(剣士だったかも)が戦場で一人の娘を拾い、その娘がヤンデレ化してセックスみたいなSSがあったんだが、こんなのはどうだ?
84 :
名無しさん@ピンキー:2007/07/01(日) 07:46:45 ID:86yV6aIp
ダディフェイスって言うから一瞬クールなほうを想像しちゃったじゃないか
あの女の臭いがする!
/\___/ヽ
/ノヽ ヽ、
/ ⌒''ヽ,,,)ii(,,,r'''''' :::ヘ
| ン(○),ン <、(○)<::| |`ヽ、
| `⌒,,ノ(、_, )ヽ⌒´ ::l |::::ヽl
. ヽ ヽ il´トェェェイ`li r ;/ .|:::::i |
/ヽ !l |,r-r-| l! /ヽ |:::::l |
/ |^|ヽ、 `ニニ´一/|^|`,r-|:「 ̄
/ | .| | .| ,U(ニ 、)ヽ
/ | .| | .|人(_(ニ、ノノ
ダディフェイスは是非読め、電撃から出てるから
>>72 前から誠人は理屈っぽい所があったが最後に壮絶に空回りしてしまった希ガス
最終回で二人が幸せになれますように(-人-)
>>78 >その夜、初めて俺は無我夢中で千鶴さんを自分の物にした。
しかし実情は千鶴さんにいいいようにもてあそばれてるのか……?w
このまま何も気付かない方がいいのかもしれんねw
>>87 あれはキモ嫁だべ。
長女や長男もやや依存っぽいが描写が出てきてるけれど、
姉弟間での絡みは無いしなぁ。
九頭龍 左龍鉄刃!!
ガリガリはキモかろ
>>50 すみません、その設定を頂いても宜しいですか?
>>88 主人公の設定が、幼い頃に嫁(便宜上の呼び名だが)を助けて半身不随の怪我をする。
その後嫁と離別して、強くなろうとして習得した仙術で半身不随を克服。
その後、半身不随にした事を心配に思っていた嫁が再会。だが再会初対面で気付かず、知らない人とはっきり言ってしまったため言い出せない。
その後、主人公が風邪をこじらせるのだが、体調が悪くなると仙術を維持できないため、半身不随状態に戻る。
それを診察した医者に、半身不随が残ってる事を聞かされた嫁は頭を掻きむしって頭血だらけ。
どうも離別した直後ぐらいは半身不随にした影響か頭をよく掻きむしっていたらしい。
58です、同じ内容で全く違う作品を書きました。
AとB、人気が高い方を書いて行きたいと思います。
Aは正規ヤンデレ娘でBは「頭を病んでいる」ヤンデレです。
稚拙な文ですが、暇潰しにどうぞ
96 :
試験作品 A:2007/07/02(月) 12:58:23 ID:67zPExO7
最愛の妻が他界してから早3年。
毎朝見慣れた光景とはいえ、頭を抱えずにはいられない。
横を見ると、10歳になる娘が安らかな寝息をたてて寝ているからだ。
「起きろ百合花。」
百合花の体を何回も揺らすと、のっそりと起きて部屋を見渡し、俺の姿を見るとニッコリと微笑む。
「おはようございますお父様。」
「おはよう、百合花。ところで何個か質問があるんだけど良いか?」
「何でしょうか?」
「どうして、ここで寝ているんだ?」
まるで何を言ってるのか分からないという風に首を傾げる。
「どこの世界に小学4年生の女の子が父親と同じ布団で寝るんだ?」
「ここに居るではありませんか。」
嬉々として返事する娘の事を考えると。
また一つ大きな溜め息が流れ、このやりとりは一体何度目なのか・・・と自問自答してしまう。
「いつも言ってるけどな、もう少し父親離れしたらどうだ?」
「嫌です。」
「でもなぁ
「嫌です。」
「だか
「嫌です。」
「・・・」
「・・・」
互いに無言になる。
俺はきっと渋い顔で百合花を見ていると思うが。
それとは対象的に百合花はまるで恋人を見るかのように俺を凝縮する。
「・・・馬鹿馬鹿しい・・・。」
「何か仰いましたか?」
俺は百合花の父親だ。3年前に妻を交通事故で亡くしてから、俺は父親として百合花に出来る限りの事をしてきたつもりだ。
「なんでもない、それより学校の準備しないとダメなんじゃないか?」
「はい、それではお父様失礼します。」
百合花は丁寧にお辞儀すると、静かに部屋から出て行った。
大きく背伸びをすると、まだ眠たい頭を我慢しながら顔を洗うために洗面所へと足をのばした。
97 :
試験作品 B:2007/07/02(月) 12:59:49 ID:67zPExO7
最愛の妻が3年前に他界した。
いつもと変わらない光景がそこにはあった。
「良い加減寝た振りを止めたらどうなんだ?」
「あら、お父様やっとお目覚めですか?」
横には娘の百合花が居た。
「いつ、忍びこんだ?」
「それは違いますわ、お父様。」
「どういうことだ?」
「忍び込んだのじゃなくて、夜這いです。よ ば い。」
今回で何回目だ?
百合花が入ってこないように、南京錠まで掛けたのに、容易く突破されてしまった。
「南京錠なんかで私達の愛は止められませんわ。」
身悶えする百合花を見ながら、俺はどこで教育を間違えたのか自問自答していた。
「お父様の真剣な姿も素敵ですわ、あ・・・涎が、失礼。」
じゅるりと出てきた涎を拭きながら、俺に近寄ってくる。
「なんで近寄る?」
「目覚のちゅーですわ」
「するかあああああ!!!!!」
俺は抱きついてくる百合花を振り払うと、本気で家から飛び出した。
以上です、色んな意味でやってしまいましたorz
GJ!
なんだがえーと……この展開は正規ヤンデレなのか?
それならばA!
最初Aで完結したらBきぼん
Bのほうが続き読みたいって思ったのでB
短編ならBが読みたいが
長編ならAが読みたいな
結論:両方
( ´∀`)σA
勿論どっちも
どっちもな意見が多かったので、まずAを完結させてからBを書きます。
執筆頑張るので、お待ちをorz
ヤンデレはある意味でヤンデレを発見するヤンデレな歴史を作る作業なんだよな・・
足の裏を山羊に舐めさせながら待ってます
僕が狂死するまでに書いてください
「
>>109くんの足の裏を嘗めていいのは、高校も中学校も小学校も幼稚園も保育園もずっと一緒でおうちも隣でずっと
>>109くんの足の裏を嘗めてきた、あたしだけなの……!」
「何を言う、私など
>>109が生まれたときから、姉として足の裏を嘗めてきたんだ。譲る気はないね」
一方その頃妹は唇を奪った。
111 :
名無しさん@ピンキー:2007/07/04(水) 06:46:48 ID:AKA28tOO
保守
スクイズ見レナ過多
>>110 (*´Д`)ハァハァ、こんなの実際に居たらいいね。
114 :
58:2007/07/04(水) 11:32:19 ID:KPfaKu2r
短いですが、投下します。
お楽しみ下されば幸いです。
115 :
家族A:2007/07/04(水) 11:34:41 ID:KPfaKu2r
朝、朝食を食べた後にコーヒーを飲みながら何気なくニュースを楽しんでいたのだがその静寂は声によって阻害される。
「お父様、今日は何時ぐらいにご帰宅なさいますか?」
洗い物担当の百合花が濡れた手をエプロンで拭いながら話しかけてきた。
「7時ぐらいかな。」
「分かりました、出来るだけ早くお願いします。」
「何か用事あるのか?」
「いえ、余り遅いと心配になりますから。」
親が子を心配するなら分かるのだが、子が親を心配するのはいかがなものだろう?
これじゃ、立場が反対だな。
思わず苦笑が洩れる。
「お父様、何か楽しい事でも?」
俺が笑っていると、百合花まで楽しくなるのか。
自分の事のようにくすりと微笑む。
「なんでもない、それより時間良いのか?」
「もうすぐ出ます、その前に・・・失礼します。」
それだけ述べると、百合花はエプロンを外して俺に抱きつく。
甘えん坊なところは昔から変わってない。
「やっぱり安心するなぁ」
普段丁寧語の百合花だけど、この時だけは本来の口調に戻る。
「ねぇ、お父様」
「ん?」
「お母様の事大好き?」
「あぁ、今も心から愛してるよ。」
「そっかぁ、それじゃ私は?」
「自分の娘を嫌うと思うか?」
抱きついたまま、百合花は頭を横に振り。
よりいっそう俺に抱きつく。
5分ぐらいそうしたであろうか、不意に離れると。
俺に向かって一礼。
「お父様、失礼致しました。」
「気をつけてな。」
「はい、行って参ります。」
制服の乱れを丁寧に直すと、リビングから出て行く。
玄関の音がした後、会社に向かう為着替えることにした。
朝、タイムカードを切ってから俺の仕事は始まるのだ。
「おはよう、白石さん」
「おはようございます、川内さん」
彼女は俺の部下でもあり、同じ大学で学んでいた友人でもある。
その美貌から求婚されるのは多いらしいが、全て断り。
今現在でも、独身キャリアウーマンとして頑張っている。
妻が亡くなった時最も悲しんでくれた人で。
俺自身幾ら感謝しても足りないぐらい恩を受けている。
って・・・そろそろ仕事しないと。
俺は深く深呼吸すると仕事に取りかかった。
116 :
家族 A:2007/07/04(水) 11:36:40 ID:KPfaKu2r
白石 小夜
「ただいま」
誰の返事も帰って来ないのは分かっているが、真っ暗な闇に対して帰宅を告げる。
ふと目に止まった電話機には親からのメッセージ。
聞かなくても内容が分かりきっているので全て削除する。
十中八九お見合いしろ・・・ということだろう。
全くもって下らない。
私には既に心に決めた人が居るのだ。
その人の名前は、川内 智也。
私が彼を見かけたのは大学2年の時、たまたま同じ講義を受けていた頃に遡る。
黒曜石にも似た、黒い髪に引き締まった体。
瞳は湖の様に澄んでいて、優しげな風貌を醸し出していた。
一目惚れだった。
それからというもの、私は彼との絆を築きたくて努力して友人になることができた。
嬉しかった、実際会話してみても想像していたものと一緒・・・いやそれ以上だった。
だが、私の至福の時は長く続かなかった。
彼には妻と娘が居たからだ。
それを聞いた時、私は絶望の本当の意味を知った。
叶わぬ恋・・・。
それでも彼と一緒に居たかった為に、卒業後。
同じ会社を受けた。
新人研修の時の彼の驚きは記憶に新しい。
ずっと、私の恋は叶わないと思っていた。
だが3年前のあの日、私の恋は再び始まることになる。
117 :
家族 A:2007/07/04(水) 11:40:13 ID:KPfaKu2r
忘れもしないあの日、洗い物をしていた時に電話がかかってきた。
「失礼ですが、白石さんのお宅でしょうか?」
相手は愛しいあの人、本来ならば暖かな声はガラガラに枯れていた。
「何かあったの?川内くんっ」
受話機を強く耳に充てるとひそかに泣き声がした。
「・・・妻が、香代が本日、な・・・亡くなりました・・・」
嗚咽と混じり混じりに言葉を紡ぎ出す。何だって?
妻が、亡くなった?
誰の?
「葬式を執り行いたいので・・・つきましては・・・」
愛しい彼のだ!!!!!
何たる幸運!!
彼にとっては悲報かもしれないが、私にとっては吉報だ!!
一生叶わないと思っていたのにこんな形で流れ込むなんて!!!
ふとすれば、流れ出てしまう歓喜の笑いを抑えつつ。
震える声で私は彼を慰めた。
「それでは失礼しました・・・」
「元気だしてね、今から会いに行くから」
「ありがとう」
その言葉を最後に電話が切れた。
電話が切れた後、私はどうやって彼を手に入れたら良いのか考えた。
だが、どうにも良い考えが浮かばない。
彼は私を只の友人としか見てないだろう。
私の気持ちにさえ気付いているか、疑問が残る。
彼を取り巻く、人間関係は、娘ただ一人。
両親からは大学卒業後、縁を切られたと聞いた記憶がある。
娘・・・彼に最も近く、切っても切れない関係・・・。
ならば利用してやる!
以上です。
歳は28と10でお考え下さい。
>28と10
( ゚д゚)
(つд⊂)ゴシゴシ
(;゚д゚)
(つд⊂)ゴシゴシ
_,._
(;゚ Д゚)?!
キモ娘10歳児だとぅっ!
これは新 境 地
続き楽しみにしてまつ。
今のところはむしろ白石さんに萌える、これから楽しみ
あとお父さんの過去が気になる
高校生でできちゃった婚したのだろうかw
お父さんが3月後半生まれなら、大学1年次の6〜7月までにヤっちゃえば
ぎりぎり18歳でパパになれる。
(人間の妊娠期間は大体266日=38週間前後、早産の場合を除く)
どちらにしても続きが楽しみだ。特に娘の方。
作者さんGJ!
123 :
名無しさん@ピンキー:2007/07/04(水) 18:17:51 ID:LZ1gtyEX
GJ!
娘さんガンバレ!!
この手のシチュは大好物なのでwktkが止まらない
キモムスメと白石さんに期待だぜひゃっはー!
保管庫更新乙です
更新乙
更新乙です
誰か、転載よろしく。
>>128 なぜそんなところに上げるのか理由を聞かせて貰おうか。
マジスンマセン
>>132 PC許可は無理なのかな?
携帯で見ればいいんだろうけど
あ、PC時間制限されてるのか
スマソ
VIPのヤンデレゲーム作ってるとこ、現在体験版公開中。
個人的に、
立絵 : ○
背景 : △
シナリオ : △
システム : ?
イベント絵 : ◎
>>135 シナリオはこのスレの作者さんにも来て欲しいな
そういえばお茶会のゲーム化の話って進んでるんだろうか
>>136 もうシナリオ完成してるんじゃないの?
ゲーム化企画ってだいたいSS師はあまるけど
絵師とか音師が足りなくてひーこら言うものだと思って敬遠してたが・・・
頻繁に関連スレに宣伝来てるよ
上ゲ
短編投下します
†
これから話すのは、少しばかり奇妙な体験談だ。といっても、私の身に起きた
ことじゃない。お話の中に私が登場しないし、したとしても物語の本筋に関係の
ない脇役、語り手、通行人、そういった役くらいのものだ。あくまでも主人公は
私の友人である三角・徹で――これは徹の物語で、彼の体験談だ。
他人の体験談を、私が語ることを許して欲しい。こればっかりは仕方のないこ
となのだ。なにせ、もう私以外に、あの事件について詳しく語るものはいないの
だから。
当事者は、もう、どこにもいない。
だからこれは、終わってしまったお話だ。体験談で、昔話で、御伽噺だ。
どこか遠くでおきた、いつかどこかでおきた、少しだけ奇妙で、僅かばかりに
おぞましい、愛情の話だ。
だから、語りだしは、自然とこうなる。
すべての御伽噺は、こうして始まるのだから。
昔々、あるところに――――
■ 狂人は愛を嘯く.Case1
「これ、恋人」
五月に入ったばかりの暑い日に、炎天下の下で三角・徹は前触れも前置きもなく、
いきなりそんなことを口にした。
暑さのあまり、蜃気楼でも見たのかと思った。
暑さのせいで、ボケてしまったのかと思った。
それくらいに――唐突で、脈絡のない、話だった。
「……ふうん」
それ以外に私にできる反応はなかった。むしろ、「ふうん」と返事を返せただけ
まともだったといえる。実際、私は「ふうん」の後に続く言葉を、何一つとして思
いつくことができなかった。
私の返事が気に喰わないのか、それとも十分だと思ったのか、徹は何も言わない。
徹の横に立つ女も――やはり、何も言わない。にこにこと笑って、傍に立っている。
「…………」
二人が何も言わないので、私は黙ったままに視線をめぐらせた。まだ五月だというのに、
直射日光があたる場所は暑い。大学のキャンパスには人が溢れていて、大多数は日陰を選択
して歩いていた。日向にぽつんと立っている私たちは、少しばかり奇異に見えただろう。
徹――さして古くもないが、そこそこの付き合いである彼はいつもと変わらない格好だった。
洒落っけはないが、清潔な格好。短く刈り込んだ髪と相まって、何かのスポーツをやっている
ように見える。
彼がこの上なくインドアな趣味を持つのだと、見た目からでは想像はできない。常に浮かべて
いるほがらかな笑みは、同人誌即売会よりはテニスコートのほうが似合っていそうだった。
人それぞれ、だ。
そちらのほうはさして問題はない。問題があるとすれば……
「……恋人?」
ようやく、私はそれだけを言えた。視線は、徹ではなく、その隣に立つ少女へと向けられている。
少女。
キャンバスにいる以上、年齢は多少前後する程度で、「女」と呼んだほうがいいのだろうが、私には
彼女を「女性」と呼ぶ気にはなれなかった。少女、と言葉がいちばんしっくりきた。それは、ただ単純に
背が低いというだけでもなく、どこか少女趣味な服を着ていたからでもない。
目だ。
子供のように純粋で――少女のように危うい目をしていた。取り出して磨けば、ガラス球のように向こ
う側が透けて見えるだろう。
経験上、こういう目をした相手は、大概が忌避すべき相手だ。
できるかぎり目をあわせないようにする私を、けれど、少女は見てはいなかった。その透明な瞳は、た
だ一点、徹にのみ注がれていた。
恋をする少女の熱心さで。
「ああ、恋人」
「……ふうん」
再び、徹は言った。話がまったく進んでいない。
仕方なく、私の方から、もう一歩だけ踏み込むことにした。
「付き合っているのかい」
「まあね」
「男女交際?」
「男々交際に見えるか?」
「さてね」私はそらとぼけて、ちらりと少女を見た。もちろん彼女は男には見えないし、
徹が実は女だということもない。健全な――健全かどうかは知らないが――男女交際だろう。
とはいえ、徹が何を言いたいのか、まだわからない。
まさか、ただ単純に自慢しにきただけだろうか。徹がそういう人間だとは知らなかったが、初めて
男女交際を味わえば、人間が代わってもおかしくはないのかもしれない。
愛情とは、そういうものなのだろう、多分。
「いつからだい」
胸ポケットから煙草を取り出し、火をつけながら私は聞いた。こんな話、素面でしたくなかった。酒
があればそちらのほうがいいのだが、生憎、真昼間から酒を持ち歩くほど不健康な生活はしていない。
ゆっくりと立ち昇る紫煙は、けれどゆるやか風に流されていってしまう。
「先月のイベントで出会ったんだ」
へえ、と私は頷いた。少しばかり興味がわいた。イベントで出会った、ということは、彼女はご同類
ということになる。書き手なのか読み手なのか、少しばかり気になった。
が、その僅かな興味は、徹の次の言葉に掻き消された。
「俺の本を――気にいってくれたらしい」
「…………」
危うく、煙草を取り落とすところだった。
今の私は間抜けな顔をしているに違いなかった――それだけの驚きを、徹はその言葉で与え
てくれた。
――本を読んで気にいった?
私は三度、少女を見た。いまだに名前も教えてもらっていない少女は、じっと、徹を見ていた。
徹以外の何も見ていなかった。その眼球の中に、私の姿は映っていなかった。
そういう出逢いがあることは知っていた。
けれど。
「……あの本を?」
「あの本を」
徹は頷く。彼も彼で、私しか見ていなかった。隣に立つ少女を、見ようとしていなかった。
ようやく――私は悟る。どうして彼が、恋人が出来たことを報告するように、私のもとへと
訪ねてきたのかを。
理由はわかった。
何がしたいのかは、わからないが。
「ふうん……」
私は灰を落としながら思考を一ヶ月前へと飛ばす。三角・徹が出した本というのは、
複数人のライターによる小説本で――ようするに、文芸サークルの身内本だ。地元の
即売会にも参加しているが、当然のようにほとんど売れない。同じようなサークルと
売りあったり交流するために参加しているようなものだ。
そのことについては、別にいい。
問題は――
「君の――話かい?」
「そうだ」
念を押すように言うと、徹は頷いた。かすかに、視線が泳いでいた。
仕方のないことだ。視線をそらすくらいはするだろう。なにせ、先月の本は、徹は――
原稿を落として、代筆を私に頼んだのだから。
あれは徹の本だが、
私の話なのだ。
友人に代筆を頼むことはそう珍しいことではない。この場合ただ一つ問題なのは、
作品が徹の名前で出ていることだ。私は自身の名前が出るのを疎ましく思ったし――
徹は自身の原稿を落とすことを拒んだ。そういう利害の一致で、徹の名義であの作品
は出されたのだ。
そして、
この少女は、それを読んで気に入ったのだと言う。
「あの本は――面白かったのかい」
徹にではなく、私は未だ名を知らない少女に向かって言った。
反応は、遅々としたものだった。
始めの五秒、少女は自分に向かって話しかけられているのだと、気付いていなかった。
私は辛抱深く待ち、十秒ほど過ぎた頃、少女はゆっくりと、言葉を咀嚼するようにして、
私の方を振り向いた。
視線が、あった。
あわなければよかったと――そう思う、瞳だった。
少女は、透明な瞳で私を見て、
――はい、大好きなんです。
細い声で、そう言った。
「……そうかい」
私は頷き、煙草を携帯灰皿へと捨てた。足元へと捨てたかったが、学生課に注意されて
以来慎むようにしている。少女はすぐに私から徹へと視線を戻し、私もまた、徹へと視線
を戻した。
彼は、私を見ていた。
私を見る彼に、私は言った。
「よかったじゃないか」
――つまりは、そういうことだ。
少女はあの話を読んで、徹と付き合うことを決めたのだろう。徹ではなく、本を大好き
だと言った少女の態度は、無言でそう告げていた。
ならば、
徹にとって、『真実』など疎ましいものに違いない。
言葉の裏に真意をこめて、私はよかったじゃないかと言ったのだ。
――黙っていてやるよ、と。
そう、意味をこめて。
「ああ、有難うな」
私にだけ通じる真意を言葉に込めて、徹は答えた。別に、有難いことだとは思わなかった。
わざわざ真実を口に出すつもりもないし、彼の幸せを壊そうとも思わなかった。
ただ、
徹がその少女に惚れていることが、少しばかり意外だった。彼の趣味は今まで知らなかったが、
こういう儚げな子が好きだったらしい。
「それで、今日は自慢でもしにきたのかい」
完全に興味は失っていたし、彼が私に釘をさすという用事も終わっていたが、一応言葉を
続けてやった。そのくらいの甲斐性は、私にもあるつもりだった。出来ることならば、今す
ぐ話を切り上げ、次の講義を休み、どこか昼間から開いている居酒屋で酒を飲みたいとそう
思ったが、実行はしない。
徹はかすかに安堵したように笑って、それから、
「いや――果敢那がさ」
「ハカナ?」
「ああ、こいつの名前」
言って、徹は隣に立つ少女を指さした。指をさされてもなお、少女は微動だにしなかった。
果敢那、というのが彼女の名前なのだろう。下の名前を呼ぶ程度には、仲が良いらしい。
「それで?」
話の続きを促すと、徹は「ああ、」と前置き、
「うちのサークルに入りたいっていうから――部長のところに、連れていくところだ」
「成る程」私は意味もなく形だけ頷き、「そのがてらに見かけたから、自慢をしにきたという所かい」
彼が話しやすいように誘導すると、案の定、徹はにやりと笑って、
「まあ――そんなところだ」
と、言葉をしめた。
これで、表向きにも、裏向きにも、用事は終わった。
これ以上この暑い場所にいる必要もない。私は「馬に蹴られる前に、退散することにするさ」と
だけ告げ、踵を返そうとした。
その私の背に、予想外の言葉が投げかえられた。
徹のものではない。
少女の――果敢那のものだった
「――さようなら」
ただ、一言だった。
その言葉が、どういう意味を持ったのか私にはわからなかった。とくに考える気もなかった。
振り返らずに、そのまま去る。振り返っていれば、彼女が私を見ていただろう。けれど、振り返
らなかった私には、彼女がどんな表情をしていたのか、最後までわからなかった。
振り返って、あの瞳と目があうことを考えると、それは正しい判断だったのだろう、きっと。
お話は、だいたいそんな風に始まった。徹と果敢那が付き合い始めたことは一気にサークル
の中に広がった。徹のような人間が交際を始めた、という驚きのせいかと思っていたが、話を
聞いていると、どうやらあのあと二人は、サークルの人間に手当たり次第に挨拶に回ったらし
い。新入生の挨拶というよりは――恐らくは、牽制のような意味で。その証拠に、後で知った
ことだが、あれは徹からではなく、果敢那の方から言い出したことらしい。
――付き合い始めたのですから。
――皆さんに知ってもらいましょう。
――私たちが付き合っているということを。
つまりはそういうことだ。彼らはカップルとなったのだ。無理矢理に、自他ともに
認められることによって。そして果敢那は、徹を自身以外の誰にも渡したくはなかっ
たのだろう。
その独占欲は、嫌いではない。好きでもないが、嫌いでもない。
よくあることだ。
ただし、辟易したことが二つある。一つは、彼らの『交際宣言』から半月ほどたった
日のことだ。私の家に、徹が菓子折りと酒を持って訪れてきた。
似合わぬ手土産に、嫌な予感がした。
案の定、用件は、予想したとおりだった。
「――次も頼む」
五月分の原稿も頼む、ということだった。果敢那があの作品を気に入ったということは、
それはつまり――徹の作品ではなく、私の作品を気に入ったということに他ならない。
徹の作品では駄目なのだろう。
私が書いたものでなければ、駄目なのだろう。
だからこそ、徹は私に頼みにきたのだ。締め切りを落としたわけでもないのに、代筆を
頼む、と。
辟易した。
代筆を頼まれる行為に、ではない。その理由にだ。
「そんなに彼女のことが好きかい」
下手をすれば土下座でもしそうな勢いの徹に、私はやる気のない声をかけた。確かに果敢那は
可愛かったが、それはどこか病的なものを含む可愛さだった。球体間接人形がおぞましさと美しさ
を備えているようなものだ。見て楽しむのは良いが、手に入れたいとは思わない。
が、徹は手に入れたがっているだの。
そして、手放したくないのだ。
だから、私に頼みに来たのだ。果敢那を手放さないためには、作品が必要だから。そのこと
を、徹はすでに気付いている。彼女の愛の本質がどこにあるのかを。
――作者は出力装置に過ぎない。
そんなことを言っていた人がいたなと、ふと思い出した。
「――ああ」
力強く。
嘘偽りのない強さで、徹は頷いた。果敢那のことが好きだと、彼は肯定した。
「……ふうん」
人の趣味に、それ以上とやかく言うつもりはなかった。書けるのならば、そして私の前に山
とつまれた土産をもらえるのならば、書く以外に道はなかった。
私は頷き、
徹は歓喜して返っていった。
その時点で――私はすでに結末が見えていたような気がしたが、それでも一応、締め切りまでに
作品をしあげて出した。作品は本となり、サークル内に配られ、果敢那の手にも渡った。
その結果。
二つ目の、辟易する事態が引き起こされた。
「…………」
さすがに――辟易した。
呆れ果てた。
「よぉ」
3号館の果てにある部室の扉を開けると、三角・徹は気軽に手をあげた。他にも幾人かが
部屋の中にいて、彼ら/彼女らは、一斉に助けを求めるように私を見た。
ただ一人、私を見なかったのは。
徹の膝の上に座る、小柄な果敢那だけだった。
「……やぁ」
私は恐らくは曖昧な笑みを浮かべて手を上げ返した。内心では部室に入ったことを後悔
していたが、今更引き返すわけにもいかなかった。助けを求めるような目にも納得がいく。
一目見ただけで、どういう状況なのか分かってしまった。
悪化したのだ。
多分、恐らく、間違いなく。
恋愛という病が。
「仲がよさそうじゃないか」
「そうだろう」
皮肉混じりに言った言葉に、徹は真顔で答えた。皮肉が通じていない、というよりは、
皮肉だと理解もしていないらしい。成る程、病は平等に進行しているらしい。果敢那だけ
でぇあなく、徹の方も、蝕まれているというわけだ。
――おめでとう、君達は両思いだ。
心の中でささやかに祝福して、私は空いた席――徹の正面に腰掛ける。そこだけ空いて
いる理由は単純で、そこに座れば、べたべたとしている二人を思い切り視界に治めなけれ
ばならないからだ。
ここは禁煙ではないので、思い切り煙草が吸える。私は煙草を咥え、火を灯す。部屋に
充満していた紙の匂いに、煙草のにおいが混じる。部屋の両側には本棚があって――それ
が物理的・心理的に問わず、部屋を圧迫していた。ほとんどが市販の本で、一角を発行し
た本が占めていた。
そのうちの一冊を手にとって私は広げる。一番手前にあった本は、つい先日出したばか
りの本だった。
『三角・徹』の名で書かれた話を開き、私は徹へと語りかける。
「いつもそうなのかい」
「まあな」
徹は即答した。いつも――ずっと、こうなのだろう。
文字通りに、ひと時も離れず。
恐らくは、この本を読んだときからだろう。それ以前は、此処までは酷くなかった。
一作目を読むことで、果敢那は徹と付き合い始めた。
そして、二作目を読むことで――更に仲が深まったのだろう。
「…………」
徹の胸元にすりつくようにして座る果敢那を見る。至極、幸せそうな顔をして、徹の
手を握っていた。小説を書く手を、大切な宝物のように握り締めて、果敢那は徹に甘え
えていた。
何も言わない。
それだけで、彼女は満たっていた。
取り返しのつかないほどに。
「徹の話は、面白かったかい」
『徹の話』にアクセントをおき、私は興味半分で訪ねた。果敢那は、ゆっくりと、ゆっくりと、
私の方を見た。
眼球が、私を見る。
一ヶ月前よりも――更に透き通って、見えた。
反対側に、私が映って見えるほどに。
――はい、大好きです。
変わらない、細く儚い声でそう言って。
ふうん、と私が頷くよりも早く。
果敢那は、付け足すように、こういったのだった。
――次の本が、待ち遠しいです。
六月の初めに、徹から一通のメールが来た。
題名はなく。
本文は、簡潔だった。
『次は、自分で書く』
――そうして物語は、坂を下るようにお終いへと加速する。
おお、リアルタイム?
日付はゆっくりと進み、梅雨が始まり、梅雨が終わった。蒸し暑いだけの日々が過ぎると、
からっと晴れた夏がやってきた。あまりにも暑すぎて、空調のきいた部屋からは出たくなかった。
自宅にいるよりも、大学へと出てきたほうが涼しいので、私はもっぱらそこで時間を潰していた。
だから、七月分の本を受け取ったのも、部室ではなく教室でだった。部室にはクーラーがついて
おらず、講義が行われている教室だけ空調は動いている。外は炎天下にも関わらず、私は汗ひとつ
流していなかった。
「……ふうん」
部長から受け取った本を、私は流し読むようにして目を通した。大きな節目の本ということだけ
あって、さすがに厚い。
一通り目を通すと、部長のほうから話を切り出してきた。
「どうだい、今回の出来は」
「そうですね、悪くないと思いますよ」
嘘ではなかった。さすがに新入生のそれは拙いが、それでも気合が入っているのは読めばわかる。
在学生のそれも、読み応えのあるものだった。
中でも、
「特に――徹のが良いですね」
素直に、率直に、そう言った。
君もそう思うか、と部長は言った。私は「ええ」と答え、もう一度、三角・徹が書いたものを読んだ。
二ヶ月ぶりに読んだ徹の小説は面白かった。彼は、彼なりにこの話にかけていたのだろう。自分が出せ
るものを全て出し切っているのが、読んでいるだけでわかった。恐らくは、今回のこの本の中ではもっと
も高い評価を得るだろう。
それだけに――惜しかった。
彼の努力が、恐らくは、報われないであろうのが。
「君も書けばよかったのに」
徹の本を読む私に、部長が心底残念そうに言った。
――そう。
私は今回、小説を書いていない。本当は書きたかったのだが、自制して書かなかった。
なぜならば。
「……徹が書いてますからね」
「ん? どういうことだい?」
「いえ――なんでもないですよ」
適当にはぐらかし、私は胸ポケットをまさぐり、そして舌打ちする。そこに煙草はなかった。
部長は吸わない人間なので、貰うわけにもいかない。今から買いに行くのも面倒だった。
何かを咥えていないと、口が軽くなって困る。
意識して私は話さないように口を閉じた。
そう、話すべきことではない。
書くわけにはいかなかったのだ。
『三角・徹』が書いたものが二つあっていいはずが――ましてや、別人の名前でかかれては――
それはまったく違う結果を、まねくことに他ならない。
それだけは、避けたかった。
ああいうものに深入りする趣味は、私にはないのだから。
「話は変わるのだけれど」
口を閉ざした私を慮るように、部長は自ら話題を変えた。
が、変わった先の話題は、私にとっては、あまり変化していないものだった。
「最近、徹を見ないんだが――君、知らないかな。あいつ、講義にもきてないみたいなんだ」
「……ふうん」
気のない返事を、私は返した。
もちろん、そのことを、私は知らなかった。
もちろん、そのことを、私は予測できた。
両方の意味をこめて、適当な返事を返し、私は想像する。
今、三角・徹がどこにいるのかを。
「大方、修羅場なんでしょう」
揶揄するように言うと、部長は苦笑いを浮かべた。
「締め切りはまだ少し先だよ」
「良いものを書くためには、缶詰になる必要となる場合もあるということですよ」
言って、私は立ち上がる。暑いのは嫌いだが、これ以上話を続けたいとは思わなかった。部長
は不思議そうな顔をしたが、私を引きとめようとはしなかった。その潔さが気に入ったので、私
は一つだけ、部長へと手助けをだす。
「部長。果敢那は部室にきていますか?」
「いや――彼女もきていないけれど、どうして?」
「いえ、特には」
それだけ答え、私は教室を抜け出して、暑い外へと脚を踏み出した。
教室の外は想像以上に暑くて、扉を開けるだけでむっと熱気が襲ってきた。ただ立っている
だけで汗が流れてくる。しかし、湿っぽい気持ちの悪い暑さではない。本格的な夏が間近に迫
ってきている証拠だった。
あの日と同じように、木陰ではなく、日向を歩きながら私は想像する。
三角・徹のことを。
そして果敢那のことを。
確かに――嘘偽りなく、三角・徹の書いた小説は面白かった。今回の本の中で最も面白く、
今までに彼が書いた作品の中で最高のものだった。それは自他ともに求めるだろうし、徹は
そういうものを書こうとして、見事に書きあげたのだろう。
果敢那に気に入ってもらうために。
果敢那を自分の手元に置き続けるために。
最高傑作を――書き上げた。
けれど。
それでは、駄目なのだ。
問題はレベルではなくクラス。技巧ではなく属性なのだから。
果敢那という少女が恋していたのは、
君ではなく、
君の作り出す小説でもなく、
あの日、『あの即売会で読んだ三角・徹の小説』なのだから。
だから。
君がどんなに傑作を書き上げたところで、
果敢那は、決して満足はしないだろう――
――ポケットに突っ込んでいた携帯電話が、無言でメールの着信を告げた。
「…………」
振動するそれを、私は取り出す。誰からのメールかは、想像するまでもなかった。着信欄には、
想像していたとおりに、『三角・徹』の文字があった。
携帯を開き、メールを読む。題名はなく、本文に、簡素に内容が書いてあった。
『書いてくれ』
たった五文字の、SOSだった。ついに根をあげたな、と私は思った。
彼は今頃――どこかで。彼の部屋か、彼女の部屋で。今までずっと、小説を描いていたに違いない。
彼女が望む小説を書くことができるまで、ずっと、書かされ続けていたに違いないのだ。
私は左手だけで携帯を操作し、徹にメールをかえす。題名はなく、本文の欄に簡素に書く。
『自分で書け』
五文字で返して、私は携帯の電源を切る。
木陰を歩いて、煙草を買いにいこうと、そう思った。
……とまあ、ここで唐突に、お話は終わる。
当事者たちは私の付き合いきれない遠い遠い彼岸へといってしまった。其処に辿り
つけるのは、常人ならざる者たちだけなのだろう。
だから、もはや語るべきことはそんなに残っていない。あの時にメールの返事次第では
また別の展開へとなっていたのだろうが――そうはならなかった。
その時点で、このお話は、終わりを迎える。
その少しばかり語れることを、ここに語っておこうと思う。後日談のようなものと捉え
てもらって構わない。
彼と彼女が、どうなったかということだ。
三角・徹との交遊はなくなった。私は彼のアドレスを携帯から消したし、彼から二度と
連絡はなかった。ただし――一度だけ、彼の姿を見た。
七月の、一番暑い日だった。
炎天下の中、コンクリートから湯気が立つような暑い真昼に、私は蜃気楼のように彼の姿を
見た。夢遊病者のように歩く、面影がかすかにしか残らない、死人のような三角・徹を見た。あ
まりもの変貌ぶりに、声をかけることすらできなかった。
彼は、私に気付いていなかった。
否――
ガラス球のように透明になった彼の瞳には、何も映っていなかった。彼は何も見ずに、ふらふらと、
ふらふらと、ふらふらふらと、どこか遠くへ去っていった。
彼について、語れることはそれだけだ。私はそれ以降、彼の姿を見なかったし――他の誰も、徹の姿
を見ていない。それが、最後の目撃だった。
そして。
私は手元にある、八月分の冊子を開いた。ぱらぱらと頁をめくると、ある一点で視線が停まる。
そこには、こう書かれている。
『題:ある愛の話 作:三角・徹』
いなくなってしまった徹の名で、小説が書かれている。私はそれを読む。幾度となく
読んだそれを、もう一度読む。何度読んでも、何度読み直しても、そこに書かれている中身は変わらない。
小説だ。
紛れもなく、それは――四月のような、五月のような――私が三角・徹の名で書いた小説と、同一の存在
だった。
三角がいなくなった今も、毎月のように、『三角・徹』の小説は冊子に載っている。私の書いた徹の小説が、
私の知らないうちに冊子に載っている。
――小説は、手で書くものだ。
夏の日に出会った徹は、両腕が肘の先から消滅していた。切り取られたかのように。
あの部室で、果敢那は、徹の手を愛しそうに握っていた。小説を書く、徹の手を。
あとは、蛇足だ。
物語は、ここで終わる。終わらざるを得ない。もはや私も、徹も、当事者ではない。
彼女は、彼女で完結している。
少しばかりゆがんでいて、おぞましくて、奇妙でも。
――彼女は、彼女の望む愛情を得たのだから。
END
第三者から見た病んだ愛情な話でした。
と、間があいた上に短いですが、『いない君といる誰か』の本編投下。
本当は間をあけるならここまで投下しておきたかったのですが……ごめんなさい
■いない君といる誰か資格
『・ハンプティとダンプティ
たまごは決して大きくなりませんでした。
周りの木々が大きくなっていく中で、卵だけはずっとそのままでした。
なぜってその卵は、生まれてしまったことをずっと後悔していて
塀の上から飛び降りることもできずに、ずっとそこに座っていたのでした。
その卵には、目も鼻も口もついていたけれど、
笑うことも泣くことも怒ることもありませんでした。
ちょっとだけ皹がはいった顔で、ただそこに座っているだけでした。
卵の顔には、白い文字でこう書かれていました。
ハンプティ・ダンプティ。
四千人の兵隊でも元には戻せない卵は、
けれど臆病すぎて、塀から飛び降りることを拒んでいました。
そんな彼を見て、アリスは言いました。
――臆病者。
そうかもしれないね、とハンプティ・ダンプティは答えました。
私は臆病者だ。きっと臆病者だろうし、ずっと臆病者だ。
そんな彼を見て、赤頭巾は聞きました。
――逃げないの?
逃げてきたのさ、とハンプティ・ダンプティは答えました。
私はずっと遠くから逃げてきて、逃げた果てに此処にいる。
そんな彼を見て、ピーターパンは笑いました。
――此処は君の場所じゃないよ!
そうなのだろうね、とハンプティ・ダンプティは頷きました。
ここは子供たちの楽園で、老いた私のいる場所じゃないんだ。
そんな彼を見て、シンデレラが問いかけます。
――なら、如何して貴方は此処に?
その問いに。
ハンプティ・ダンプティは、そのひび割れた顔を、かすかに動かしました。
笑っているような、泣いているような、はっきりとしない、
今にも割れてしまいそうな、そんな表情で、ハンプティ・ダンプティは答えます。
――卵の中身は、まだ新鮮だろうからね。
そのとおりでした。
その言葉のとおりでした。
ハンプティ・ダンプティは壁の上から飛び降りました。
長い時間をかけて、高い壁から飛び降りました。
幸せそうに飛び降りて、幸せそうに地面に粒かって、幸せそうに砕けました。
四千人の兵隊でも、もとの場所には戻せません。
王さまの力でも、もとの姿には戻せません。
けれど。
けれども。
割れた卵からは――彼の言葉のとおりに、新鮮な中身が飛び出ました。
中身は二つでした。中には、二人がいました。
アリスはこういいました。
――この子の名前はハンプティ。
すかさずピーターパンがこう答えます。
――じゃあ、この子はダンプティだ。
そうして。
ハンプティ・ダンプティは堕ちて砕けて。
ハンプティとダンプティの双子が、そのお茶会に加わったのでした。』
絵本を読み終えて。
僕は、そっと本の頁を閉じた。裏表紙には割れて砕けた巨大な卵と、中から生まれてきた二人の子
供が手をつないでいる絵がかいてあった。一番下には、筆記体で作者名が綴られている。
――ハンプティ・ダンプティ。
それ以外には、何も書かれていない。出版社も、値段も、書かれていない。
そもそも絵本は本屋で売っているような立派なものじゃなくて、いかにも手作
りといった雰囲気が作りからもにじみ出ていた。よく見ると――そもそも文字
や絵は、印刷したものじゃなかった。
直接書かれたものだった。
この世に、一冊しかない、本。
その本を机の上において、僕はもう一度、部屋の中を見渡す。扉の向こうには荒れ果てた如月更紗
の家。荒れ果てた家の中で、この部屋だけが守られているかのように荒れていない。窓にはレースの
カーテンがかかっていて、二段ベッドは天井からつるされたヴェールのようなもので覆い隠されてい
る。大きめのクローゼットが部屋の両端で存在を主張し、床には赤いカーペットがしかれていた。広
い部屋は少女趣味な小物で満ちていて――正に、女の子の部屋だった。
死体が転がってもいないし、血痕が残ってもいない。
如月更紗の、部屋なのだろう。
この家にあるのは部屋だけで、それ以外には生活感はなかった。人の住める家じゃない。ただの荒
れ屋だ。それこそ、四千人の兵隊がいたとしても、この家を下に戻すことはできないだろう。
死んでいる。
死に果てた、場所だ。
もう一度、
もう一度、僕はぐるりと、部屋の中を見回す。
死体が転がってもいないし、血痕が残ってもいない。
如月更紗は、此処にはいない。
下の冷凍庫には、彼女の母親の、生首が入っていた。
思う。
僕はようやく、そのことに思い至る。
「……あいつの――父親は?」
窓の外ではいつのまにか陽が堕ちてきていて、降り込む陽光は紅くなっていた。紅い光が、赤い部
屋を紅く染めていく。
探している時間はない。
あいつの父親『だったもの』を、探す時間はないし、探す意味はない。そもそも、生きているとは
思わなかったし、此処に『ある』とも思わなかった。
多分、
この絵本が、想像通りの代物ならば。
如月更紗の父親は――
「…………」
それ以上、考えることを僕はしなかった。
今は、考える時間じゃない。
動く時だ。
僕は一度机の上に置きなおした本を、持ってきた鞄の中に放り込む。代わりに、鞄の中に入っていた
魔術短剣を取り出しやすい位置に直す。ここから先はもう、常に臨戦態勢であったほうがいい。
如月更紗は言っていた。狂気倶楽部は、日常からかけ離れた場所で動くのだと。
夜は、その筆頭だ。ここから先、何時何が出てきてもおかしくはない。
覚悟を、決めなくてはならない。
僕は鞄を持ち、最後にもう一度だけ部屋を見渡して、
外へと、出た。
振り返ることなく、外へ。如月更紗の部屋を抜け出して、如月更紗の家を抜け出して、振り返ることなく、
夕暮れに染まる道をまっすぐに向かう。
彼女の待つ、学校へと。
すべてを――終わらせるために。
そして、夜が来る。
以上、終了です。
伏線全部張り終えてあとは回収しつつラストシーンです。
>>159 あなたと同じ時間に巡りあわせた狂気の神に感謝
目の前の目障りな害物へのあくまでも正当なけじめ、としてスタンガンの電撃を与えよう、そうすれば少しは反省して松本君の気苦労も軽減されるだろうと思い、
自分のこの報復の成功を信じて疑わなかった。
しかし、その矢先、私が害物のスタンガンを掴み取ったように、私は父にこうして愚かにも、スタンガンを取り上げられてしまったのである。
咄嗟のことに私は壊れた人形のように呆然としたまま、父のなすがままにスタンガンは取り上げられ、その物騒な装置のスイッチを即座に切られた。
父の目はいつものように陰のある目であり、どこか取り澄ましたような目をしている。
何事に対しても動じない父は、私の害物への報復を見て何と思ったのかしら?
娘が知らない女の子に対して凶行に及んでいる。悪くすると、殺そうとしている、そんな風に取ったかもしれない。
確かに、それを物語るように父の黒褐色の静やかな目からは、心なしか正反対の確かな憤りと悲しさを感受できた。
しかし、それは私に対して昔から無関心な父親故の誤解というもの。
私は、単にけじめをつけようとしただけなのだから。
白黒はっきりさせ、それなりの処遇を施すことが悪いことだというならば、何をもって、世の中の正邪の区別をしそれを正すというのか。
だから、父の突然の闖入は無粋でナンセンスなものであって、私にとっても憤りを感じるところ。
それなのに、父は私が悪いと思っているので、私の双眸に向けた目をそこから離さずにいた。
父は何も声を発していないのだが、そのまま話す以上に雄弁に目が語っていた。
謝って済むことでないが、早く彼女に謝りなさい、と―。
そして、何があったのか逐一、自分に話をするように、と―。
私にとっては、そんなことは歯牙にもかけない事。
なぜなら、私は松本君と私自身の幸せが最重要であって、それ以外のことは二の次で十分だと思っているからだ。
だから、今回も松本君のためにこの行為に出た訳であって、行為そのものに罪悪感とか良心の呵責とかいった物は感じない。
恐ろしさのあまり腰を抜かしているのか、あまりに突然の出来事と緊張の緩和からか、害物は気の抜けた顔でただ茫然自失としているのみであった。
そのため、誰一人として語を発するものがないという、異様な沈黙が生まれた。
その沈黙を破ったのは意外にも悠然とした態度をとっていた父だった。
「時雨、そのように黙っていたのでは何も物事は進まないものだよ。きちんと私に分かるように何があったのかをまず話しなさい。」
それから、父は視線をぼんやりとしてしまっている害物の方へとやり、君からも話を聞くので不公平はなく聞くつもりだよ、と安心させるような口調で優しく言った。
いつも、いつものことだが、父はこういうときだけ実情を知らなくて、問題を余計にややこしくするだけだというのに、訳知り顔で、父親ぶった行動をする。
それでも、きちんと話せば私が悪くないことを証明できるだろうか。
答えはダウト、などと松本君がいたら突込みを入れてくるところかもしれない。
別に父に理解してもらおうとは思わないが、私は父に今の事を話すことにした。
私の前で娘が今あったことの一部始終を話し出した。
私はその突起の穴から伸びている紐を腕にかけて、手のひらの中に銀白色の光沢が生々しい、
スティック状のスタンガンを確かに自分が保有していることを確かめるかのように、しっかりと抑えながら、娘の話す内容に耳を傾けた。
今日、私のすべき仕事自体は午前中に終わり、長らく無沙汰であった大学時代の友人から連絡があったので、
少しばかり話をしていたのだが、彼に急な用事ができ、すぐにお開きとなってしまった。
その彼の住んでいるという家は娘の学校の近くにあり、ここの学園長とは私の義父の友人であったことから、
今でも時折、会っては歴史の話をしているのだが、その例に漏らさず、学園長に会うためにやってきたが、今日は学校に来ていないようで、
何をするわけでもなかったのではなかったのだが屋上に出ようと思った。
そこで、私は時雨の凶行を目にした訳である。
しかし、それにはやや語弊があって、正しくは私は短いブロンドの小柄な少女に相対するような長身長髪、
黒髪のわが娘とが舌戦を繰り広げているところから、言ってしまえば最初から静観していたのだった。
だから、全ていきさつは知っており、最初にスタンガンを取り出したのは小柄な少女の方だということは知っている。
はじめにその少女が凶行に出ようとした時に止めに入ろうとしたが、すぐさま娘がスタンガンを取り上げてしまったので、止めに入る必要性を感じず、そのまま静観していた。
そして、その静観を破ったのは娘が凶行に出ようとしたからであった。
だから、正しく何があったかは私は完全に理解しているのだ。
その上で彼女らのあったこと、を話させて解決しようというのは角が立たないようにし、彼女らを一番納得させることができる、そう読んだからだ。
やや落ち着いてきたのか、朧気だった意識が明晰さを取り戻しつつあったブロンドの少女は時雨の話す内容を耳をそばだてて聞き、
彼女からすれば不公平に感じることがあったのだろうか、目には怒りの色をたたえていた。
それから、平板な印象の強い時雨の形式的な説明が終わると、怒りに満ち満ちた表情のブロンドの少女に落ち着いて話すようにと、
落ち着いて、というところを強調して促した。
人は皆大なり小なりとも、嘘をつくものだ。だからといっては私は取り立てて、嘘が悪いと声高に叫ぶこともないし、そう思いはしない。
というのも、嘘をつくことは自分に対して正直であると私は考えているからだ。
だから問題の解決には第三者の視点から見た主観の入っていないものが一番合理的に思える、が、この場合はそうではないのだ。
実際に二人に言いたいことをまず完全に言い切らせることで、一定の満足を与える。
それが問題解決に思わぬ効果を与える。
また、このブロンドの少女が何者か解らなかった私にとっては、彼女らの説明を聞くことで一層状況を深く把握できるという効果もあるのだ。
さて、このブロンドの少女、松本理沙と私の娘、北方時雨の双方の意見を聞き、彼女らの争いは例の松本君に起因している。
幸いにも今回誰も外傷を負ったものがいないわけなので、極端にどちらが悪いということは言い切ることができなかった。
また、松本君自身の病状を考えたならば、松本君がどう思うのか、精神的ダメージについて考えるようにいい、その病状を根拠に彼を安静に休ませてやるように合意させた。
具体的には完治するまで、理沙と時雨を松本君に会わせない、という方針を提案した。
流石にこれは逆効果かと思ったが、なんとか説き伏せて共に認めさせる事に成功した。
喧嘩両成敗という形をとり、何とかこの問題を解決できそうだ。
後は時雨自身ともう少し対話する機会を設けて、何とか松本君に私と同じ目にあわせないように努力してみることにしよう。
北方利隆は自身がこの問題を仲介し、自己の力で解決へと導けると信じて疑わずにいた。
ここで喧嘩両成敗という方針を採ったことで松本理沙、北方時雨の両名から恨まれる結果となるなどと、予想だにしていなかった。
北方時雨が所持する本では髪長姫の行く末を案じた優柔不断な彼女の父は結果的に皆から恨まれ、無残にも全員から惨殺の目に遭って死ぬ、そう綴られていた。
また、面白いことに彼女の妻もこの殺害に加わっていたのである。
彼女は言う―愛するが故に殺したのだ、と。
今日は綺麗な夕焼けが拝めるか、などと思っていると、急速に墨をこぼしたように暗雲が立ち込めてきた。
それは予想通り雨雲であったようで、激しい雨を降らせていく。
先程までの良いお天気もどこへやら、流石は梅雨の時期だけあるなどと、無駄に感心してしまう。
医者の話だと一ヶ月以上はこの脳細胞のゲシュタルト崩壊機能を目玉とする病人収容所に無料で
(いや、北方家が払ってくれるとか、何とからしい。それを聞いて親は一文も払う気がなくなったらしい。薄情め。)入所、体験実習できるらしい。
しかも、それだけでも腸をえぐられるような高邁な満足感があるのにも関わらず、平安貴族向けですか、
と子一時間問い詰めたくなるようなすばらしく高雅な味付けの楽しいお食事が三食付いて、寝ることが仕事、
という更なる鉛のような、真鍮のような、そんな金属とか言っても非金属だったり、単に比重が重いだけのお得感。
……妙に皮肉が浮かんできたので脳内でそれを紡いでこんな風に継ぎ合わせてみたが、いや、我ながらナンセンスだ、はは。
いや、笑えない、笑えない。
昨日はかなりの時間を北方さんの本を読むことに費やしていたが、今日はその本をそこまで長時間読んでいなかった。
北方さんが今日見舞いに来てくれる、そう一昨日に言ったのだが、その指定された時刻を大幅に過ぎても彼女はやってこないので、さっきから心配しているためである。
しかし、彼女にも用事というものがあるのだろう。急にできた用事のせいで僕のところに来れなくなった、ということがあってもそれは不思議なことじゃない。
そうこうしている内に、夕食が僕だけしかいない味気ない病室に妙に優しい看護婦さんの手によって届けられ、それを食べているうちに面会時刻は終わってしまった。
あれほどずっと傍にいた彼女が急にいなくなると、その寂しさが際立ってしまうものだ。怪我をして、こうして一人でいる時間が長いからか、なんとなく心細く感じる。
塩気が完全に抜けている味気ない鮭の切り身をいくつかに箸を使って分けて、その一切れを口にしながら、監獄に不似合いに取り付けられた一つだけの窓から外を眺める。
目を醒ました一昨日から時折眺めてきた、その窓だ。
外では、ざあざあと大粒の雨粒が音を立てて狂ったように踊っている。
そういえば、あの時もこんな陽気の日だった。
初夏の蒸し暑く晴れていた日、僕は珍しく体調が良くなった日が続いていた妹を連れて、近所の散歩をしたり、近くの公園へ遊びに行ったりした。
理沙は一時期かなり病弱で、入退院を繰り返し、家にいるときでさえ、寝たきりでいる時間のほうが長かった記憶がある。
そんな中、体調が極めて数日の間優れていた日があった。小康状態が時折訪れることはそれまでにはたびたびあったのだが、
そのときはそれまで以上で、医師ですら、狐につままれたような表情でもう少しで完全に治るなどといっていた。
そんなことがあって、僕は病院以外の理由ではめったに外に出ることがなくなっていた、理沙をその体調がいい日に連れ出して、
近所を散歩したり、公園へ連れて行きごく普通の子供ならば、普通に親しんでいるブランコに乗せたり、砂場遊びをしたりした。
皆、僕と同世代の子供たちは見慣れぬ妹の存在を物珍しげに遠くから眺めてはいたが、誰一人として理沙に話しかけてくるものなどいなかった。
僕以外の誰もが無視をしていることに気づいた理沙は時折涙を見せていたことがあった。
僕だけが理沙と話をして、家とは違った遊びに興じる、そういう構図に理沙自身が満足しつつあったとき、悲劇は起こった。
ひどい喘息の発作が起こり、僕は救急車を手配し、親に連絡を取った。幼心に妹が死んでしまうという恐怖心に震えていたことを覚えている。
病院へ運ばれた理沙は緊急手術を受けることになり、他の子が幼稚園を卒園するくらいまでの間ずっと、病院に入院するか、常に薬を常用しているかしていた。
思えば、理沙は病弱だった幼少期、こんなに閉塞感にさいなまれながら闘病生活を続けてきたのだろう。
どれだけ、心細かったことだろうか。それに対して、僕はその理沙に対してどれだけ力になってやれたのだろうか。
そもそも、僕が理沙を無理に連れ出すことがなければ、こんなことになっていなかったのかもしれない。
それは、そのままにしていても小康状態が終わり、このひどい発作が発生していたことも考えられるが、あまりに関係があるように感じられてならない。
そういえば、入院して以来、理沙の顔を見ていない。
あの子は確かに北方さんの自転車に細工をして、この僕が負っている傷を北方さんに与えようとした。
しかし、それは僕が自分の単なるうぬぼれに過ぎないかもしれないが、あの子の不安感や恐怖心を取り除く唯一の光であり続けたのに、
急にここのところ、北方さんといろいろと接近して、あの子のために時間を割いてやることが少なくなったのが原因なのだ。
理沙のことだから、当然、僕に対して不平不満を面と向かって漏らすようなことはしないだろう。
今になって考えてみると、理沙はかまって欲しいというサインを明らかに発していたと思う。
第一に、いつも学校に行く前に遅くなることを事前に言わなければ、必ずすぐに帰ってきた僕が、理由も言わないまま遅く帰って、
一緒にお風呂に入ろう、そう提案してきたとき。
第二に、僕が昼食を北方さんととっているときに取った理沙の不愉快そうな態度。
第三に、理沙が一緒に帰ろうといってきた申し出を面前で断って、北方さんの家に行ったこと。
特に、このときのサインを気づかずに、正しくは心のどこかでは、気づいていたのかもしれないが、
完全に理沙か北方さんかという、二択において拒絶してしまったことが大きかったのかもしれない。
少し考えるだけでもこれだけのサインが浮かび上がってくるのだ。
勝気な彼女は人前で悲しそうな顔をするだろうか。
いや、しないだろう。そういえば、あの北方さんの家の車に乗せてもらって帰ってきたとき出迎えた理沙の表情は笑っていなかっただろうか?
堤防を決壊し、勢いよく溢れ出てしまいそうになる感情を押し殺しながら笑みを作ったのかもしれない。
北方さんを確かに僕は愛しているつもりだ。現に北方さんも僕のことを愛してくれているだろう。
彼女の暗い過去を受け止め、共有し、それを忘れてしまうような楽しい日々を一緒に送れたらいかに満足なことか。
彼女自身も僕と過ごす日々が楽しいと言ってくれた。また、彼女のお父さんも僕の存在を認めてくれたのだ。
でも、これだけの好条件が揃いに揃っていたとしても、今の僕の立たされている状態は順風満帆ではなかった。
問題はいくつかあって、曰く、北方さんを理沙よりも優先させることは理沙を明らかに破滅させる。
二に曰く、理沙を北方さんよりも優先させることは北方さんを完全に破滅させ、最悪の事態どんなことが起こるかわからない。
そう、この問題はアイロニーなまでに典型的な二律背反。アンチノミー。こんな選択をすることができるわけがない。
さらに、心のどこかでは未だに何とかなるのでは、という淡い期待を抱いている自分がいるようで、その自分がこの選択をさせないようだ。
コンコンと、病室のドアを叩く音が味気ない病室に響く。
どうぞ、と入室を許可してから、視線を開扉されたドアにやると、そこには年の割りに白髪が多く黒髪に交じり、瀟洒なスーツを着ている男性が立っていた。
北方さんのお父さんだ。
「松本君、君は私のことを覚えていないかもしれませんが、北方時雨の父、北方利隆です。」
「いえ、北方さんのお父さん、だとしっかりと把握しておりますが。」
北方さんのお父さんがいったい何のようであろうか、と咄嗟に何か理由となりそうなことが脳の引き出しの中から見つからず、率直にそう思った。
「……今日は、時雨が君を見舞いに来ることになっていたと思うのだが……」
「確かに、今日は…そうですね、一時間半ほど前までにはこの病室に来るということになっていました。」
目覚まし時計の今の時刻を確認した上で、そう答えた。
「そうですか、それで時雨からは何か君に対して連絡は来たのかね。」
「いえ、来ていません。」
「………そう、だったか。」
連絡が何も来ていないことを手短に相手に伝えると、驚きを隠せないといった表情で応答した。
「娘には自分で君に説明するように、と言ったのだが…」
あの賢く合理的でそつなく物事をこなす、あの北方さんが連絡しないというのは何かあるのかもしれない、
そう直感的に動物的感覚に近い何かで感じ取った。
いったい、その何か、とは何のことだろうか?
しかも彼女自身が言い出しにくいこと、敢えて強めて言うならば、僕に聞かせたくない言葉、となるのだろうが皆目見当がつかない。
「……どんなことを説明するのか皆目、僕にはわかりません。」
「そうだった、君自身が考えても、何を時雨が君に説明しなければならないか、それは理解できないはずだね。」
「単刀直入に言ってしまうと、君の身体が治るまで時雨には君に会わせないようにしたというところである。
また、君に対して指図するようで申し訳ないが、体調が良くなるまでの間は時雨に会わないでやってくれないだろうか。」
あまりのことに絶句した。
何を説明するのかと思えば、唐突に北方さんと会わないでくれ、という発言。
一体どういうわけでそうしなければならないのかわからない。北方さんのお父さんが言うことなのだから、
何らかの謂れがあるのだろうが、これを北方さんに説明しろ、というのはあまりに酷な注文だ。
いつだったか、北方さんは自身の父に対して、不平を漏らしていたことがあり、それどころか嫌いであるとまで言い切っていた。
今のこの発言で、彼女がそのような感情を父に対して抱く理由が理解できたと思う。
そう思っていると、僕のその心境を深く考えるまでもなく、すぐに察したらしく本当に申し訳なさそうな顔をしながら、口を開いた。
「あるときは傍にいてやってくれと言ってみたり、また今は離れていてくれと臆面もなく言う。
それがいかに、得手勝手で、厚顔無恥なことであるかは、私自身が一番、一番理解しているつもりだよ。」
「だがね、事は差し迫っているのだ。君が事故にあってから、一週間と経過していないのだが、こんなにも問題が大きくなってしまうとは思わなかったのだ。
どうか、この状況を理解してくれないだろうか。」
そこで、問題が大きくなった、という句にかかる箇所があって、そこに関して質問をしようと思ったのだが、もう北方さんのお父さんにはそれを意に介する為の余裕がなくなっているらしく、
そのまま話し続けてきた。
「……君は私が君を嫌っているという風にとったかもしれないが、それは違うとはっきり言っておきたい。
寧ろ、君は昔の僕と似ているような気がしてならない。だから、お節介だと知りつつも、余計なことに手出しをしてしまうのだ。」
「僕が、あなたに、ですか?」
「そう。だから、君に私が味わったような思いをさせたくなくてね。このままでは、君は私が味わった苦痛、耐え難い理不尽な不幸の連続、それ以上の苦しみ、
言ってしまえば煉獄の苦しみを味わうことになってしまう。それだけは私は絶対に、避けたいのだ。」
必死な僕に対する態度から、単に僕と北方さんの関係を嫌悪した故の行動とは割り切れないものである、むしろ異質なものであることがひしひしと伝わってきた。
しかし、一向に解せないのは、そもそも僕が置かれているという大変な状況、という奴である。
「解りました。北方さんのお父さんにそう言われては、当然、従わないわけにはいきません。」
「どうもありがとう。私が言っているのは滅茶苦茶で身勝手なことに他ならない。それなのに、本当に申し訳ない。
ただ、申し訳ないついでに一つ勘違いして欲しくないことは私自身の意見としては時雨と君の関係を肯定している、ということだ。本当にこれだけは信用して欲しい。」
「はい、それに関しては僕も理解しているつもりです。しかし、確認しますが、僕が病院を退院したならば、これまで通り北方さんと付き合ってよろしいですか?」
「時雨があれほどまでに信用するのは君だけだ。だから、君は時雨の傍に極力いて欲しい。だから、当然それは許すつもりだよ。」
「それともう一点ですが、僕自身、その大変な事態、というものがいまいち理解できていないのですが、細かく説明してもらえますか?」
それから、昨日の放課後に起きたことの一部始終が語られた。
正直なところ、理沙が北方さんを呼び出して、襲おうとしていたことに驚きを隠せなかった。
これによって、未だに女々しくも自転車事故は偶然の産物だなどと観測的な考えを滅しきっていなかったのだが、
これで完全に理沙によるものだと理解した。
が、それと同様に驚いたのは、北方さんもその取り上げたスタンガンで理沙に対する害意を持ったということである。
やはり、理沙に対しては今までのサインに気づいてやれなかったことが大きかったのだろうか。
このままでは、本当に大きな傷を作ってしまうことになりかねない。そもそも、理沙が北方さんを襲うことがなければ、
北方さんも理沙に対して攻撃しようとしなかったような気もする。
そうすると、やはり僕は理沙に対する接し方を大きく誤っていたのだ。
もし、そうだとしても今回は誰にも死傷者は出なかったのだ。
二度の理沙の暴走の結果、結局のところ、痛い思いをしたのは僕だけだった。
見方によってだが、言ってしまえば、これは三つのさいころが同時に全て、六の目を出したかのような幸運であるというべきかもしれない。
もっと具体的に述べるなら、まだ理沙ときちんと向き合って、問題を解決する為のチャンスがあるということだ。
その機会を活かさなくて何が幸運だ。
常々、不幸は幸せの三倍多い、などと言っているのだから、ここで幸運を活かさなくてどこで活かすというのだろうか。
幸いにも、北方さんのお父さんは理沙に会うことも禁じる、とは一言も言っていない。今度、この病室に理沙を呼び、きちんと話し合う機会を作ろう。
いまさら何を言っているのかと自嘲的に思ったが、兄として、少しでも理沙の暴走をきちんと清算しなければならないと思う。
話そうとした全ての話を全て語り終えて、自分の娘と松本弘行を彼自身の体調が回復するまで、会わせない、
という条件を呑ませた北方利隆は病室を後にした。
強酸のような濃密さの短時間で、自分の望むように話をつけたことに満足し、
肩をなでおろしていてもおかしくない状況だったが、利隆の表情はどこか空気の入ってしまった氷のようにくもったもので、
どこか浮かない表情だった。
その暗い表情の理由はごく簡単なことに起因している。彼は自身の娘である時雨と松本理沙の二人の調停をした際の約束の一つ、
一つであったが非常に重みのある一点において、約束を松本弘行に伝えず、違えようとしていたのだ。
その約束とは、北方時雨を納得させるために見繕った条件である、時雨が松本弘行に会わない間は、妹である理沙も兄に会わないで、
静かに完治するのを待つように、という条件であった。
利隆は仲介時の理沙の態度や思考といったその場で咄嗟に判断できる事柄から、約束を確実に反故にする、
また、実は実の娘である時雨以上に暴走する可能性があるのではないか、と踏んだのだった。
対して、時雨の場合、この条件に関しての松本弘行の同意があったならば、すぐに従うであろう事は今までのことから予想できた。
このことを活かして、利隆は弘行に理沙と極秘裏に、少なくとも時雨に伝わらないように会わせ、理沙に暴走に関して反省させ、この三角関係とも呼べなくなりつつある、
異常な状態にピリオドを打とうと画策していたのであった。
しかし、実の娘である時雨に毛嫌いされ続けながらも、父として娘に父らしいことをしたいと思っていた利隆にとっては、再び娘を欺くことは大きな苦痛であったようである。
夕立のように短い時間の内に降り終るであろう、と思っていた雨は、上空の黒雲が大粒の雨粒を降らせている為、未だに止みそうにない。部下を使って車に乗ることなく、
行きは傘をさしながら歩いてきた利隆であったが、帰りは傘をささずに、暑さと対照的に冷たい雨に瀟洒なスーツが濡れることを厭わずに、ただ雨に身を任せていた。
しかし、それが不快なものと感じることがないようで、自宅に繋がる道を暗闇の中、ただ歩を進めるばかりであった。
頬を雨粒が伝い落ちていく。しかし伝うものは雨ばかりでなかったようだ。
>>159 GJ!それと、直後に投下して申し訳ないです。
第10話でした。
最近、かなり忙しいので、不定期になるかもしれませんが、いずれ、また。
起きたらキテター!
>>159 待っててよかった!
久しぶりに更紗分を補給……まだ先か(´・ω・`)
でもラストに向かってwktkが止まらないぜ。
短編もGJ!
でも語り手は男女どちらなんだろうか?
個人的には女の方が萌える状況なんだけど。
>>179 苦悩する親父さんいい人なんだが
死亡フラグが……
まあ普通に善人なキャラに不幸が降りかかるのは
このスレではデフォかw
投下します。16話です。
第十六話〜犯行の動機〜
まぶたが重い。
上下のまぶたが糊でくっついているようにべとべとする。
服の袖で目をこすり、目やにを取り除く。
少しだけ軽くなった目を開けると、白い袖が見えた。
袖口から離れた位置には薄いブルーの横線が入っている。
腕を下ろし、目線を自分の胸元へ。
そこで飛び込んできたものもまた白だった。
俺の部屋にある掛け布団のカバーは、あまり洗っていないせいでくすんだ色をしている。
とてもじゃないが、今体の上にかけられている布団のような純白とは程遠い色だったはずだ。
違和感を覚えつつ、視線を上へ向ける。
天井が見えた。またしても白。合板の継ぎ目の色が違うせいで、そこだけが浮いていた。
首を左に傾けると、閉め切られている窓が見えた。
窓の向こうには、電信柱があって、その向こう側には曇り空が広がっていた。
雲は幾重にも重なっていて、日の光を通していない。
寒そうだ。外はかなり冷え込んでいるのかもしれない。
そう思うとずっとこうやって布団の中に潜り込んでいたくなる。
だが、それはできない。
今いる場所が病院だということはすでにわかっている。
俺はここで眠っているわけにはいかないのだ。
やらなければいけないことがある。
十本松にどういうわけかさらわれた香織を助けなければならない。
そのためには、まず動かなければ。
体をゆっくりと起こしていく。頭の中を軽い痺れが走った。
かけ布団を跳ね除け、ベッドの右に足を下ろす。
「おはようございます。遠山雄志さん」
不意に声をかけられた。視線を床から上げる。
ベッドの横にスーツ姿で小太りの中年男性が椅子に座っていた。
男性はジャケットの中に手を入れると、黒い手帳を取り出した。
手帳を広げると、俺にその中身を見せた。
「県警の刑事課の中村と言います」
「はぁ……刑事さん?」
「はい。あなたの自宅で起こった銃声について、質問をさせてください」
相手をする気分ではない。
しかし、相手は刑事。下手な態度をとるのはよくないだろう。
俺は焦る気持ちを抑えて、中村という刑事と向き合った。
「いいですよ。どうぞ、質問をしてください」
「ええ。それでは……あなたが覚えている事件の詳細を教えてください」
俺は言葉を選んでわかりやすいように説明した。
刑事は話を聞きながら、手帳にペンを走らせている。
「……なるほど。だいたいの状況はわかりました。
つまり、その十本松あすかという女性が、あなたの部屋のドアノブに向けて拳銃を発砲したと」
「たしか、6発撃ったと思います」
「鑑識も6発の銃弾を発見しました。それは間違いないです。
その後、あなたの部屋に忍び込み、あなたとあなたの従妹を気絶させ、女性をさらった。
お名前は天野香織さん。あなたとの関係は、恋人」
「……はい」
「この、天野さんがさらわれた理由について、何か心当たりはありませんか?」
俺は何も思い当たらなかったので首を振った。
「よーく思い出してください。どんな些細なことでもかまいません。
それが手がかりになるかもしれないんです」
「香織と十本松は、お互いの父親が知り合いだったみたいです。
2人は顔見知り程度の関係で、最近はあまり面識がなかったらしいです」
「ふんふん……他には、何かありますか? 父親同士で確執があったとか」
刑事から目を逸らして黙考する。
以前十本松に聞いた話では、香織の父親はビルから飛び降りて死んだらしい。
自殺か、それとも他殺かはわからないと言っていた。
十本松の父親は、なんで死んだのかわからないがこの世にはいないようだ。
そういえば昨日、十本松は俺に父親を殺されたとか言っていたな。
なんか、前世がどうとかも喋っていた気がする。
どうせ十本松の言うことだ。
深い意味なんかないだろうし、それ以前に信用に足るとは言えない。
もし本当に十本松や香織の父親が死んでいるのならば、警察が調べればそんなことはすぐわかる。
この刑事に喋る必要はないだろう。
「特に無いですね。2人とも父親を亡くしているらしいとは聞いてますけど、疑わしいし」
「疑わしいと、なぜ思うんですか?」
「事件の犯人から聞いた情報なんか、嘘っぽいですから」
「……ああ、なるほど。それは言えてますね。では、十本松という人物が住んでいる場所に心当たりは?」
「菊川邸に住んでいたみたいです。今はどうか知りませんけど」
「菊川ですか……またやっかいなところが……」
刑事は手帳をしまうと、椅子から立ち上がった。
「ありがとうございました。あなたの従妹さんとの話と合わせればかなり捜査が進みそうです」
「華にも話を?」
「聞きました。2人とも病院に搬送して、一夜明けた今朝、彼女に話を伺いました」
「……華も怪我をしていたんですか」
「も、ではなく彼女だけが怪我をしていました。あなたはただの脳震盪で倒れていただけです。
従妹さんは、肋骨にひびが入っていて、さらに吐血までしていました。
内臓に後遺症が残らなかったのは、不幸中の幸いでした」
「それで、華はどこに?」
「隣の病室にいます。彼女、あなたのことを心配していましたよ」
「後で行ってみます」
「ぜひそうされてください。では、私はこれで」
刑事は軽く頭を下げると、病室の扉から出て行った。
足音が聞こえなくなるまで待つ。……聞こえなくなった。
そろそろ動こう。香織を助けにいかなくてはならない。
ドアを開けて病室から頭を出して、周りを確認する。
廊下には白衣を着た病院の人間と患者らしき人間しか居ない。
さっきの刑事はいないし、俺を観察しているような人間も居なかった。
病室の壁に掛かっている時計の針は、昼と言ったほうがいい時間を差していた。
昨夜十本松が俺の部屋に来てから一夜明けて、今は昼。
十本松が俺の部屋に来たのは午後7時ごろ。あれから12時間以上経ってしまった。
十本松が香織をさらって何をするかわからないから、時間が過ぎるごとにまずいことに
なっていくのかは判断できない。
しかし、あそこまで強引に香織をさらっていった以上、冗談だよ何もするつもりはなかったんだ、
などとは言わないだろう。
もしそうだったらすぐにでも引きずりだして警察に突き出してやる。
が……十本松が本気だろうと冗談だろうと、俺にはどうすることもできない。
さっきのように、俺の自宅にやってきて拳銃を撃ち香織をさらった犯人が十本松だと
警察に言うだけで精一杯だ。
十本松がどこにいるのかがわからない。
もっとも、それがわかれば警察だって苦労はしないだろう。
わかっていればとっくに十本松を捕まえているはず。
わかっていないから、俺に話を聞きに来たんだ。
まだ菊川邸に潜んでいるのか、秘密のアジトに隠れているのか、何の変哲もない
民家に住んでいるのか、どれもありそうだけど確信を得ることはできない。
十本松は菊川邸の一室に部屋を持っていた。以前から菊川邸に住んでいたと考えられる。
菊川邸で起こった爆発事件の犯人は十本松。
直接聞いたわけではないが、昨日の行動から考えれば十本松がクロで間違いない。
だが、そんなことはどうでもいい。
香織は助けなければいけない。
香織に告白する前なら、警察にまかせっきりにして自分はじっとしていただろう。
けれど、今は違う。俺は香織を助けたいと思っている。
こうやってじっとしているだけでいらいらする。動きたくなってくる。
今度目の前に現れたら殺す、と十本松は言った。
ならば、俺はお前に殺される前に香織を助け出す。
それで、終わらせる。
隣の病室のドアを3回ノックする。返事はない。
ゆっくりとドアを引くと、さっきまで居た病室と同じ光景が広がっていた。
ベッドの上には華がいる。ベッドで横になって眠っていた。
置かれたままになっている椅子に座って華を観察する。
白い布団から、華の頭と手首が出ていた。
華は見られているとは知らず、無防備な寝顔をさらしている。
さっきの刑事の話では肋骨にひびが入るほどの怪我を負っているらしい。
それをやったのは、間違いなく十本松だ。
一体十本松は華に何をしたのだろう。
拳の一撃か、体当たりか、蹴りか。
ドアを開けるとき、銃弾を撃ちつくしておいてくれてよかったと思う。
もしかしたら、華が撃たれていたかもしれなかった。
華のやつ、俺と香織が付き合っていると知って何をしてくるかと思えば、俺の手が出せない
場所で香織に危害を加えようとしてきた。
そういう意味で考えれば、十本松が来てくれてよかったとも思うが……。
もし十本松が来なかったら、俺は華を止めて香織を助けられたのだろうか?
管理人のところに行って鍵を借りてきて、戻ってきたとき香織が無傷でいられたのか?
待て。そもそも、華は香織に危害を加えようとしていたのか?
直感で香織が危ないということはわかったが、実際にはどうするつもりだったのか。
仮に華が香織に暴力を振るおうとしていたとして、なぜ華がそれをする?
華が言った、「俺を奪った香織は許せない」という言葉。
言葉の通り、香織を許せなかったからあんなことをしたのか?
もしそうなら、華を放っておくわけにはいかない。
俺と香織が付き合っていることを納得してもらわなければいけない。
けれど、それをするのは今じゃない。
十本松の居場所を突き止めて、香織を助けてからになる。
ここに来たのは、華を起こすためではなく、華の無事を確かめるためだ。
華に協力してもらうわけにはいかない。
怪我をしているし、第一華の身が危険にさらされる。
それに、香織を助けるための協力をしてくれるかどうかもあやしい。
協力してくれる人が多いにこしたことはないが、華の力は借りられない。
眠ったままの華の頬に右手を当てる。
その途端、華がぴくりと身を震わせた。体を震わせただけで、起きる気配は無かった。
そのまま眠っていてくれ。
俺は今から、この病院を出て香織と十本松の居場所を探しに行く。
そんなことをするのは俺だけでいい。
俺のことを想ってくれる華の気持ちに応えられないのは悪かったと思う。
だけど、俺は華を傷つけたかったわけじゃない。自分に嘘をつけなかっただけだ。
華の髪の毛を撫でる。さらさらしていて、暖かくて、いつまでも触っていたくなる髪だ。
ごめんな。俺もお前のことが好きだけど、お前の気持ちにはやはり応えられない。
香織の代わりに俺を殴ってくれ。俺なら次の日には必ずケロッとしているはずだから。
俺が香織を助けられたら、そうしてくれ。
人に見つからないよう病院を出て、自宅へ向かう。
空は相変わらず曇りで、晴れ間を覗かせる様子は無い。
まだまだこの季節は寒い。今日は風が強くないのが幸いだ。
香織を助ける。そのためには、十本松を探し出さなければならない。
十本松は今どこにいるんだ?
可能性がありそうなのは菊川邸だが、いつまでもそこに留まっているとも考えられない。
それに、先日の爆発事件で菊川邸は警察にも注意を向けられているはずだ。
とすると他の場所。しかし十本松が居そうな場所なんて見当もつかない。
華の通っている大学で聞き込みをしてみるか?
だけど十本松と積極的に関わろうとする人間なんているんだろうか?
だめだ。聞き込みはあてにならない。時間もかかる。
なら、もう一度菊川邸に侵入してみるか?
俺と華が脱出するときに使った裏道を使えば、中に入れる可能性がある。
菊川邸の外を囲っている雑木林から県道に出た場所は、どこにでもありそうなわき道だった。
あそこなら人の目につかず侵入することができる。
問題はまだある。侵入できたとして、それからのこと。
どうやって十本松に繋がる手がかりを探し出すか。
脱出に使った屋敷からの出口は十本松の部屋だった。
部屋をあされば何か見つかるかもしれないが、全て隠滅されているかもしれないと思うとあてにはできない。
それなら、他の手段。屋敷の中をくまなく捜索する。
……これも駄目か。爆発事件の後でうろついている部外者が居たら、そいつは袋叩きの目に会うだろう。
俺が袋叩きの目に会うわけにはいかない。
せめて、菊川家に関係する人物でもいれば何かわかるかもしれない。
だが、どうやって探す? 誰一人として菊川家に関係する人間なんて知らないぞ。
かなこさんは知り合いといえば知り合いだが、連絡をとる手段がない。
連絡をとる手段があるならとっくに俺はそれを試している。
何の手段がないからこそ、かなこさんが無事か心配なんだ。
「さっそく手詰まりか……」
歩きながら、頭をかく。
なにか他に手はないのか?所詮俺1人ではどうすることもできないのか?
情けない。香織がさらわれたというのに何もできないなんて。
恋人の身が危険にさらされているというのに。
どうしたらいいんだ――?
考えながら歩いていたら、自分の住むアパートの前に到着していた。
2階にある自分の部屋のドアを見る。ここからではドアノブまでは見えない。
ドアの前に人がいる様子はなかった。警察もあらかた調べ終えたんだろう。
階段を登り、2階の自室のドアを開ける。
そこに、知らない人が居た。
玄関にいる俺の位置からは、その人物の顔は見えない。
見えるのは頭を覆う白髪と、スーツかタキシードらしき格好のみ。
スーツを見て、一瞬十本松かと疑ったが、あいつは白髪を生やしていない。
となると、別の人物だ。
誰だ?この状況で、勝手に俺の部屋に侵入する人間は。
警戒しながら靴を脱ぐ。声をかけるため、静かに息を吸う。
白髪の人物に向けて声をかけようとしたら、先手を打たれた。
「遠山様ですね」
低い声。髪の毛が全て白くなるまで年をとっている人物とは思えないほど声に力を感じられる。
俺の名前を知られている。なら、黙っているわけにもいかない。
「……ええ。俺が遠山雄志です」
「お待ちしておりました。私は――」
畳の上に正座している人物が、玄関にいる俺に体を向けた。
「菊川本家長女、菊川かなこ様の執事、室田と申します」
「かなこさんの、執事?」
「そうでございます」
今まで見たことがないけど、執事って本当に居たのか。
しかし、服装や姿勢は本当にイメージどおりだな。
勝手に人の家に入っているところだけは、イメージどころか予想すらしなかったが。
「勝手にお部屋に入ってしまったことはお詫び申し上げます。どうか、お許しくださいませ」
「もちろん勝手に入ったのには、理由がありますよね?」
「はい。火急の事態ゆえ、こうせざるをえませんでした」
「話してもらえますか?」
「はい。そのために遠山様を訪ねてきたのです」
白髪の執事、室田さんと向かいあって座る。
この人と向かい合っていると、勝手に足が正座を組んでしまう。
こういう雰囲気の人が嫌いなわけではないんだけど、一対一で話すのは得意じゃない。
とりあえず、事情を聞いてみるか。
「俺から質問します。なんで部屋に入ったんですか?」
「実は、私は命を狙われております。それゆえ、外で待っていることができませんでした」
「……誰に?」
「十本松あすかの手の者にです。もっとも、私を狙うのは安全策といったところでしょう。
本命は、かなこ様です」
「かなこさんは生きているんですか?!」
「はい。私が屋敷から追われる昨夜まで、かなこ様は無事でした」
よかった。肩の荷が一つおりた。
「しかし、今もかなこ様が無事であるかはわかりかねます」
「なぜ?」
「桂造様を殺害した十本松あすかが、かなこ様を無事でおいておくとは考えられません」
「桂造……菊川家の、当主の方?」
「はい。誕生パーティの翌朝、十本松あすかの仕掛けた爆弾の爆発に巻き込まれ、亡くなられました」
あの日、爆発は2回起こっていた。
1回目は俺と華とかなこさんの近くで爆発が起きた。
あれが2回目の爆発に注意を向けさせないためのものだったとすれば、
1回目の爆発の威力が低かったことにも合点がいく。
2回目の爆発が本命。当主の桂造氏の命が十本松の目的だったということか。
「昨晩のことをお話します。私は9時ごろ、ショックで寝込んでいたかなこ様に付き添っておりました。
そこへ、十本松あすかと屋敷の人間の数名がやってきました。
十本松あすかは私を拳銃で脅し、かなこ様をどこかへ連れ去りました。
隙を見て、私は屋敷から脱出したのです」
かなこさんがさらわれた?!
くそったれ。香織に続いてかなこさんもか。
十本松は何をするつもりだ?
「それで、屋敷に住んでいる人達は十本松を止めなかったんですか?」
「止めるものはおりませんでした。おそらく、あの屋敷の使用人全てが十本松あすかに従っております。
桂造様を殺害するために、ずっと準備を重ねていたのでしょう。あの女は」
「なぜ十本松がそんなことをしたのかはわかっているんですか?」
「……それは……」
室田さんは俺の目から視線を外した。
さっきまで詰まることなく話をしていた人物が見せるとまどい。
話しにくいことなのか?もしくは口止めされているとか?
「桂造様は亡くなられました。このうえ、かなこ様を失うわけにはいきません。
……お話しましょう。他言無用で、お願いいたします」
俺は無言で頷いた。
「十本松あすかは菊川家の人間を恨んでおります。
その理由は、桂造様が十本松あすかの父を謀殺したからです」
「え……?」
十本松の父親が、かなこさんの父親に殺されていた?
じゃあ、十本松は父親の仇を討つために桂造氏を殺害したということか?
それなら、あいつがかなこさんを連れ去る理由もわかる。
かなこさんは無事なのか?
あいつが菊川家の人間全てを恨んでいるなら、かなこさんに危害を加えない理由が無い。
いやむしろ、そうするのが自然だ。
「私は十本松あすかの父、十本松義也を殺す計画を、桂造様が立てていることに気づきました。
私が警告しても十本松義也は聞き入れませんでした。
数ヶ月が経ち、十本松義也が殺害されたことを知った私は、独自に調査を始めました。
そこで気づいたのは、十本松あすかが行っていた事業を桂造様ともう1人の人物が引き継いだことでした」
「もう1人?」
「はい。その人物の名前は、天野基彦といいます」
今まで起こってきたことの全てに納得ができた。
十本松は、かなこさんの父親と香織の父親に、父親を殺された。
これは、十本松が香織とかなこさんの2人をさらう動機になる。
そして、もしかしたらという推測が真実味をおびてくる。
香織の父親は、ビルから飛び降りて死亡した。
俺の推測が正しければ、おそらくは。
「その天野基彦という人は今、どうしているんです?」
「殺されました。十本松あすかの手によって。天野基彦は、10階建てのビルから突き落とされて死亡しました」
――やっぱりか。
十本松は、自分の父親を殺した人物を、殺した。
今は、その娘2人まで手にかけようとしている。
香織と、かなこさん。
香織をさらったのも、かなこさんをどこかへ連れていったのも、2人を始末するための行動だ。
最悪だ。知り合いの1人が殺人犯だった。
元知り合いの殺人犯は、俺の恋人と俺を想ってくれている人を殺そうとしている。
これが冗談ならどれだけ嬉しいことか。
だけど冗談じゃないんだろう。
そうでなければ目の前に執事さんがいたり、執事さんが真剣な顔で向き合っていたりはしない。
「まずいです。その天野基彦の娘の香織が、昨日十本松にさらわれました」
「天野基彦の娘? それは、何時ごろの話でございますか?」
「昨日の夜7時ごろです」
「ということは、昨夜十本松あすかがその香織さんをさらい、屋敷に帰ってきてからかなこ様を連れ去った。
自分の父親を殺した2人の男の、娘。十本松あすかが動くだけの理由は充分ですな」
「……今、十本松はどこに?」
「おそらく、まだ菊川の屋敷の中にいるでしょう。推測ですが」
それだけわかっていれば十分だ。
近くの警察署の番号に電話をかけるため、俺は携帯電話を取り出した。
「警察に連絡しても無駄です」
「……なぜです?」
「警察は菊川家に接触しないよう動いています。
最近のニュースを見ていれば、その理由がわかるはずです」
あの爆発事件のことか。
爆発事件が起こったというのに多くの情報を流さないマスコミ。
進展を見せない警察の捜査。
どちらも圧力がかかっていなければ、そんな行動をとりはしないだろう。
マスコミは最初からあてにならないが、警察すら同じ状況だとは。
「ですから、私達が動くしかありません」
「私達? 俺を含んでます……ね、その言い方は」
「はい。かなこ様から聞いておりました。
遠山雄志様は、何があろうともかなこ様を守ってくださると。
かなこ様の言うことに間違いはございません。
もし間違っていようとも……私はかなこ様の言葉を信じます。
そして、かなこ様が信じている遠山雄志様。あなたのことも私は信用します」
室田さんの目は嘘を言っていない。こんなまっすぐな目をして嘘をつく人などいるはずがない。
買いかぶりすぎです、かなこさん。
あなたはなんで俺をそこまで信用しているんですか。
――ああ、俺ってかなこさんにとって護衛役だったんだっけ。
自覚は一切ないんだけど。前世の記憶なんかないし。
だけど、これは願ってもないチャンスだ。
菊川邸のことを詳しく知っていそうな室田さんと一緒なら、香織とかなこさんの捜索もスムーズにいくはず。
やるしかない。多分、これが最後のチャンスだ。
「やりましょう、室田さん。俺は香織とかなこさんを助けなければいけません。
2人をみすみす見殺しにすることなんて、できません。絶対に」
「私も同じです。この事件は、桂造様が根になって起こったことです。
菊川家の執事として、解決のために動くのは当然のこと。
主を止められなかった私にも、責任があります。
十本松あすかを、必ず止めて見せます。たとえ、この身を砕かれようとも」
室田さんの目を見る。
黒い瞳は、まるで意思の塊のようだった。
この決意を砕くなど、誰にもできないのではないだろうか。俺はそう思った。
・ ・ ・
菊川邸へ向かう、室田さんの運転する車の中。
俺の部屋より広いわけではないが、どちらの居心地がいいかと問われれば間違いなくこの車の中だ。
シートは、シートではなくソファーと言ったほうがいいほどふかふかしている。
空調も完璧なようで、濁った匂いが全くしない。
座りながらぼーっとしていると、眠気がやってきた。
深呼吸して、背筋を曲げ伸ばしして、睡魔を追い払う。
「遠山様」
睡魔がブーメランして戻ってきたころ、室田さんに話しかけられた。
「なんですか?」
「かなこ様のことを、よろしくお願いいたします」
「え? それはどういう意味で?」
「かなこ様を幸せにしてください、との意味で言っております。
かなこ様を悲しませることだけはなさらないでください。もしそうなったら私は……」
「なんです?」
「遠山様を……いえ、何でもございません」
室田さんはそこで言葉を止めると、口を開かなくなった。
この人、俺をどうするつもりなんだ。
待てよ。俺はすでに香織を恋人にしてしまった。かなこさんは恋人の対象ではない。
もし室田さんの言う言葉の意味が「女性として」幸せにしてほしいというものだったとしたら……。
かなこさんと結婚してほしいという意味で今の言葉を口にしていたのだとしたら……。
いや、考えるのはやめよう。
今は、それより先に香織とかなこさんを助けなければいけない。
全てはそれからだ。それまで全て保留だ。
それからでも、きっと遅くはない。
スモークの入っていない窓から外を見る。
車は菊川家の敷地に入る玄関前を通り過ぎたが、敷地には入らずそのまま道路を走り続けた。
そこで一瞬見えた菊川邸には、明かりが灯っていた。
まるで、何の異常もないことを教えるためにそうしているようで、かえって不自然に見えた。
******
16話はこれで終わりです。次回へ続きます。
べっ、別にあんたなんか待ってなかったわよ!
たまたま暇だったから見ただけだもん!
……gj。
GJ!
>>159 お久しぶり!そしてグッジョブ!
催促も悪いなあと思ってたけど「いない君といる誰か」続きがくるのを楽しみにしてたよ。
私事に影響出ない程度に書き進めてもらえたら嬉しいです。
ところで前から気になってたんだけど、西尾維新とか好きですか?
文の雰囲気が似てるからなんとなく思ったんですが…・・・。
>>194 それは俺も思ったなー。
何気に「策戦」なんて言葉が出たりとか、会話文なんか化物語の影響が強いように思う。
1スレ目ではきのこっぽい言われてたなぁ。
ヒント:きのこと西尾は同じ作家のファン
>>191 十本松の目的は復讐だったのか。
ヤンデレ分ない回でも話の展開だけで面白い。GJ!
>>191 GJ!
かなこが生きてるとなると、まだまだヤンデレ分は消え無そうだな(*´д`*)
>>198 京極?お茶会は、文章の言い回しがそれっぽい
綾緒の親父や北方さんの親父、そして室田さんと
最近渋い親父さんたちがいい味出してるなw
んー。連投スマソ。
お茶会の人は京極さんは好きみたいだよ
雄志HP45
室田HP21
かなこHP120
10本松HP1200
華HP450
まっつあんの回し蹴りは300くらいくらうので雄志と爺さんではまず耐えれませんw
さて保守
アゲ
208 :
名無しさん@ピンキー:2007/07/09(月) 22:41:32 ID:qyOrTyQe
保
209 :
名無しさん@ピンキー:2007/07/10(火) 21:09:41 ID:QEpBNX7q
あげ
・21話
――そうして。
僕は独り、夜の校舎の前に立っている。
空に浮かぶ月はようやく真上にたどり着こうとしていた。真っ暗な夜の中、そこにだけ
ぽっかりと穴が空いたかのように輝いていた。近くに街灯はない。懐中電灯なんて持って
きていない。月明かりだけが頼りだった。
それでも。
闇の中、静まり返った校舎は、月明かりを浴びて――くっきりと浮かび上がっていた。
蜃気楼のように。
現実味もなく。
現実感の失われた景色。
日常から、遠く乖離した光景。
ソコにあるのは、昼間に通う学校とは、まるで別物だった。
――異界。
彼女たちの言う、ソレにこそ相応しいのだろう。
「…………」
異界となった学校を、独り、見上げる。
当然の如く、周りには誰もいない。僕独りだ。独りきりだ。
神無士乃は傍にはいない。
神無士乃は何処にもいない。
如月更紗は傍にはいない。
如月更紗は、向こうにいる。
向こう側で――僕を待っている。
「……行くか」
僕は独りごち、校舎を乗り越えようとして……止めた。夜中の学校に正面から忍び込んで
もし警報が鳴りでもしたら全ては台無しだ。
他の誰にも、邪魔されたくなかった。
幸い制服を着たままなので、闇の中に溶けるようにしてそう目立ちはしないだろう。と、思う。多分。
それでも補導でもされたら事なので、こっそりと、見つからないように気をつけながら校門沿いに裏手
へと周る。
「…………」
歩きながら――ふと、笑いそうになる。
補導。
見つからないように。
そんなことを、そんな当たり前のことを、当たり前のように考えてる自分に。
――しっかりしろよ里村冬継。そんな『日常』が、一体何処にある?
心の中で誰かが囁く。
頭の中で自分が囁く。
そんなものはありはしないと。
幼馴染は狂っていて。
幼馴染が殺されて。
実の姉は狂っていて。
実の姉は殺されて。
クラスメイトは狂っていて。
クラスメイトが殺して。
狂気倶楽部。
マッド・ハンター。
アリス。
三月ウサギ。
魔術短剣。
ハンプティ・ダンプティ。
そんなもののどこに――日常がある。
狂気しか、ないじゃないか。
誰も彼もが、狂っている。
「……は、」
乾いた笑いが出た。笑わずにはいられなかった。
――誰も彼もが狂っているのならば。
それは、彼ら/彼女らにとっては、日常に他ならないからだ。
基準点が違うだけの普通さ。アブノーマルなノーマル。
そこに――僕は今、自分から、脚を踏み入れようとしている。
「…………」
校舎の後ろに出る。グラウンドの端の方は一部がバックネットが低くなっていて、そこ
からならば乗り越えて入ることができた。裏門でも正門でもない第三の道。這入るならば、
ここからが一番いいだろう。
フェンスに手足をかけて、昇る。一歩上へと進むたびに、がしゃり、がしゃりとフェン
スは嫌な音を立てた。
「…………」
その音を聞きながら――僕は思う。
今、自ら、脚を踏み込もうとしている。踏み入れようとしている。踏み出そうとしている。
向こう側へ。
でも、
――何のために?
自問する。
自らに、問う。
――誰のために?
誰のために夜の校舎へと向かっているのか。誰のために夜の校舎へと向かっているのか。
姉さんの死の真相を知るために?
神無士乃の死に仇討つために?
それとも。
それとも、僕は。
如月更紗を――
「……考えるな」
自分に言い聞かせる。今は考えるときじゃない。余計なことを考えれば、動くことができなくなる。
考えるよりも前に、動け。
全ては。
事の真相を、真実を知ってからでも――きっと、遅くはない。
「…………」
フェンスを乗り越える。僅かな距離を下へと降り、最後はいっきに飛び降りる。グラウンドの土の上に
着地して、制服の裾を払った。
手に持った鞄が、やけに重く感じる。
中に入っているものは――いつでも、取り出すことができる。
グラウンドを横断して校舎へと近づく。間近で見上げるは、昼よりも一段と威圧感を放って見えた。
こうしているだけでわけもなく気圧されそうになってしまう。夜の校舎に明かりはない。どの教室も、
完全に寝入るように暗く静まっていた。この時間にもなれば、誰一人として学校内には残っていないの
だろう。
本来なら。
暗くて、分からないけれど――このどこかに。
彼女が、待っている。
「…………」
そこで、気付いた。
「……どこにいるんだよ……?」
おいおい、ちょっと待て。ここまでシリアスできてそれが分からないとか洒落になってないぞ……
というか洒落以外の何でもないじゃないか……まさか学校中を探せとか言うんじゃないだろうな。
いや。
思い出せ。
確か、あの時。
神無士乃を殺した彼女は、確か言っていたはずだ。なんだったか――その前後のインパクトが強すぎて詳しく
思い出せないけれど、確かに、言っていたはずだ。
――姉さんが死んだ場所に、『彼』を呼んだ。
そう、言っていたはずだ。
姉さんが死んだ場所。冬継春香が死んだ場所。
「……図書室、か……?」
直接に死んだ場所というのならば、それこそ『落下地点』なのだろうけれど……まさかそんな見通しのいい
場所を待ち合わせ場所に指定するとも思えない。そんな場所に間抜けにも突っ立っていれば、何かの際に外か
ら見られかねないし――第一そもそも、ここからも人影は見当たらない。
図書室、だろう。
そこに、あいつが待っている。
五月生まれの三月ウサギ。
姉さんを殺したかもしれない、相手。
『彼女』がそこにいるのかは――分からない。
「…………」
校舎を前にして、僕は考え込む。真実を知りたいのならば、全てに決着をつけたいのならば、迷わずに
図書室にいくべきだ。そこから全てが始まったというのなら、そこで全てが終わるはずだ。
でも。
僕は、知ることよりも――姉さんよりも。
あいつのことを大切だと――一瞬でも、思わなかったのだろうか。
疑惑がある。確信にまでは満たない、かすかな疑惑が。夕焼けの道で、夜の道で、
あの地下室で感じた、微かな違和感。違和感とすら気付かない、今になって、冷静になって
ようやく気付くような――些細な齟齬。
如月更紗の家にいって、その齟齬に、僕は気付いた。
もしかしたら、と。
ありえない、馬鹿げている、仮定にすらならない――狂った話だ。狂った道理だ。
けど。
狂ったものがまかりとおるこの世界でなら。
それは、あり得ないことじゃ――ないのかもしれない。
どちらにせよ。
決めなくては、ならない。
図書室へいくのか。それとも、僕は。
僕は。
僕は。
僕は――――――――――――――――――――
A-1 図書室へと行く。
A-2 屋上へと行く。
……以上で21話終了です。
調子を取り戻しながら書いているので、変なところ、読みにくいところがあったらごめんなさい。
ラスト分岐で二パターンエンドになります。よければどちらか選んでください
うおおおおおおお!
スマン、ちょっとだけ、ちょっとだけ悩ませてくれえ!
215 :
名無しさん@ピンキー:2007/07/10(火) 23:08:25 ID:QEpBNX7q
無難にA-1でたのむ
ちょw
そこまで言うのなら
A-2
更紗と冬継に幸あれ
>>213 うわあああ
ここで選択肢ってキツい(´;ω;`)
……冬継の齟齬を信じてσB
A-3 帰る
ごめん、嘘ですwwww
A-2お願いします
>>217 ちょwwwww
Bってなんだよ俺orz
スマソ、A-2で
Aー2だな
>>218 僕は――――――――――――帰ろう。
「もう夜も遅いし、帰らなくちゃな……」
時計を見ればもうすぐ十二時だ。こんな時間に出歩いてたら姉さんに怒られちゃうや。
だいたい夜更かしすると健康に悪いんだよな……明日も学校があるし、早く風呂に入って寝よう。
大体。
みっともないから言わなかったけど、夜の学校で、オバケが出そうで怖いんだよな。
僕の学校の七不思議のひとつにブリッジしながら高速で迫ってくるベートーベンというのがあるけど、
実際にそれを見たら間違いなく心臓ショックで死ぬ自信がある。
……まさかそれも狂気倶楽部が関わってないだろうな?
いくらなんでもそんなお間抜け団体ではないと信じたい……
とりあえず、僕はまだ長い長い復讐のロードを昇り始めたばかりだから、今日は帰るとしよう、うん。
「ああ……今夜も月が綺麗だ……」
そんなどこかで聞いたような言葉を呟きつつ、僕は踵を返し、
「――――待て!!」
そんな声に、呼び止められた。
聞き覚えがあるような、
聞き覚えがないような、
そんな声だった。
「………………」
かなり嫌な予感がしたけれど、声のあまりの迫力に、無視するわけにはいかなかった。
恐る恐る、
ゆっくりと、
僕は、
振り返る。
その瞬間――――
カッ、と。
――グラウンドの照明が、一斉に点灯した。
「――!?」
昼間以上の明るさに一瞬目がくらむ。野球の試合で使うような特大のライトがいつのまにかグラウンドを囲むように
設置されていて、それが一気にともったのだ。先までろくに見えなかったグラウンドは、今は夜の光の中に赤裸々とその
姿を見せている。
そして、そこには。
「お、お前は――!」
「何をしているの冬継! 貴方の戦いはまだこれからなのよ!」
姉さんがいた。
正確に言えば、姉さんだけじゃなかった。
姉さんがいた。神無士乃がいた。神無佐奈さんがいた。
須藤冬華がいた。須藤幹也がいた。ヤマネがいた。グリムがいた。裁罪のアリスがいた。白の女王がいた。
壱口のグレーテルがいて、名前すらなかった死体がいて、ニュースキャスターのお姉さんまでいた。
如月更紗がいた。
……なんでお前までここにいるの?
とにかく生きている人も死んでる人もいちゃいけない人もまだ出番のない人も全員いた。
明らかにおかしくておかしすぎるオールスター全員大集合だった。
その中で一人、須藤幹也が一歩踏み出してきた。
顔にほがからな笑みを浮かべていた。
「さあいこうぜ! 僕らの戦いはまだこれからなんだ!」
――キャラが違った。
そしてその言葉を合図に、全員が意気揚々と、まるでアニメのエンディングのように校舎へと駆け出した。
駆け出していった。
「…………え?」
跡には。
わけのわからず、僕だけが、ぽつんと一人で――――――
END.
A-3を見た瞬間気付けば勢いで書いていたた
反省している
ちょwwwwwwwwww
俺の冗談が実現したwwwwwwwww
手間かけてすんませんw
超GJ!!
>223
GJ。実に台無しだw
つーか仕事が速すぎるぞ貴兄w
俺もA-2で。
こんな時間なのに不覚にも笑ってしまった。超GJ
幹也っちのやたらハイテンションぶりに噴いたww
完全にキャラ違いだろwwww
選択肢はA-2で!
ああもう、いろいろと楽しませてくれるなあw
A−2でお願いします。
A-2キボン
ここで両方と言ってみるテスト
>>141 まとめも更新終わってるし荒らしいっぱいだし・・・。
大変だね、がんばって(´・ω・`)
>>231 電車の中で笑って回りに白い目で見られたぞwwどーしてくれるwwww
>>232 お前そのAAみて明らかにそのスレの住人に対する悪意をを感じないのか? 天然か? それとも
>>236 そういう系のAAにはキガーとキキーンとある
だがどちらもニダー関連AAだそうな
A-2/22話投下します。
今回は短めで、次が長めになる予定。
A-1ルートは、A-2ルートが書き終わったあとで書く予定。
>>231 覚悟してみたがそれでも吹いてしまった
……どうしてだろう?
どうしてだろうと、僕は考える。おかしい。冷静に考えてみればわかるはずじゃないか。
そんなことをする理由は、ひとつだってないはずだ。
なかった、はずだ。
……どうしてだろう?
僕は自問する。そして、自答を求める。頭の中に浮かんだのは、非論理的としか言いようの
ない思考だった。姉さんを愛していた。姉さんは死んでしまった。姉さんは殺された。姉さん
の死の真相を知り、姉さんの仇を討つ。
姉さんのために。
そのためだけに――生きているつもりだった。狂気倶楽部とかかわったのだって、姉さんの
死に関する真実を知るため、それだけだった。
それだけだったはずなのに。
「…………」
目を閉じる。頭に浮かぶのは、死んでしまった姉さんでも、死んでしまった神無志乃でもな
い。
如月更紗の、顔だった。
如月更紗。奇妙なクラスメイト。狂気倶楽部の一員。マッド・ハンター。男装の麗人。大鋏
を振り回す狂人。帽子屋。皮肉が好きでキスが下手で。諧謔的なことばっかりを口にする露出
狂で。
……ろくでもないぞ?
よく考えてみれば、よくよく思い出してみれば、ろくでもない人間だ。まっとうだなんて言
い難い。言うまでもなく真っ当じゃない。常識から外れている。変人で、変態で。狂人かどう
かは、わからないけれど、道を踏み外しえいるのは確かだ。
よく考えてみろ、僕。
そんな女と――姉さんと、どっちが大切なんだ?
姉さんの死の真実を確かめることと。
如月更紗の真実を、確かめることと。
「……考えるまでも、なかったのかもな」
僕は目を閉じたままに独りつぶやく。まぶたの裏に浮かぶのは、あの日のあの景色だ。如月
更紗と共にすごした、ごくごく短い――けれど、決して忘れることのできない日々だ。
屋上でキスをして。
保健室で語り合って。
一緒にチェスをして。
短い時間だったけれど。
短い時間だからこそ。
あの時、中途半端な位置に立っている、向こう側に立っているくせにこちら側の意識を持つ
と僕を称して、そんな僕の側が居心地がよいと如月更紗が言ったように。
僕は。
初めて、姉さん以外の人の。
隣にいて――楽しいと、そう思ったんだ。
あの地下室で、僕は明瞭と、そう思った。
その感情を何と呼ぶのか、僕は知らない。
その感情を何と呼ぶのか、僕は判らない。
けど。
選ぶべき道は――決まっていた。
「…………」
僕はゆっくりと、ゆっくりと瞼を開く。暗く昏い視界が戻ってくる。闇に慣れていた瞳には
、夜のグラウンドが、ぼんやりと見えた。
そこに。
そこに、姉さんが立っていた。
「――――」
グラウンドの端、校舎の側。レンガ造りの地面の上に、姉さんは立っていた。校舎の壁に寄
り添うようにして。制服に身を包んで。
笑うことなく、じっと僕を見つめていた。
……ああ。
悟る。姉さんは、あそこで死んだのだと。理屈ではなく、わかった。姉さんは、あそこに落
ちたのだと。
その場所に立って、姉さんは、歩み寄ることなく、僕を見ていた。
僕も姉さんを見返して――けれど、歩み寄らない。
わずかな距離。
夜闇の中でも姿の見える、わずかな距離。
それでも。
その距離は、決定的なまでに、遠かった。
「……姉さん」
声が届くと信じて、僕は死んでしまった姉さんに語りかける。
僕にしか見えない姉さんは、笑うことなく、言葉を返すことなく、ただ静かに耳を傾けてく
れた。
語るべき言葉は、なかった。
だから、僕は言う。
「僕は……行くよ」
姉さん。
里村春香姉さん。
僕を必要としてくれた人。
『自分を愛する誰か』を必要とした、弱くて脆い、僕の姉さん。
死んでしまった、姉さん。
きっと……満たされたのだろうと、そう思った。
僕以外の誰かの手によって。
『彼』の手によって。
姉さんは愛されて、愛されたから死んだのだと、そう思った。
だから、僕は言う。
かつて愛していた姉さんへ、僕は、言う。
別れの言葉だった。
「さよなら――姉さん」
そうして、姉さんは。
僕の言葉を聞いて――笑った。
にやにや笑いでも、
アルカイック・スマイルでもなく。
どこかさびしげで……どこか安心したような、
別れの、笑みだった。
その笑みを最後に、姉さんの姿は闇に溶けるようにして消えた。後には何も残らない。グラ
ウンドに立つのは僕だけで、夜の闇の中、僕はただ独りで立ち尽くす。側には誰もいない。誰
の姿も見えない。いつでも側にいて、達観した笑みを見せていた姉さんは、最後に人間的な笑
みを見せて消えてしまった。
もう会うことは、ないのだろう。
もう、姉さんの姿を見ることは――ないのだろう。
「…………」
どこか、寂しくて。
どこか、悲しくて。
わけもなく泣き出したくなって……けれど僕の瞳からは、涙はこぼれてこなかった。胸に開
いた小さな穴が、かけてしまった心が、ただ姉さんの残滓を残すだけだった。
欠落。
それでいい。
それで……いいんだ。
「…………行くかな」
僕は踵を返し、歩き出す。振り返らずに。振り返ることなく、歩き出す。夜のグラウンドか
ら、夜の校舎の中へと。
屋上を目指して、僕は歩みだした。
以上です。
GJ。
ここまで来たらもう何も言わん。
この選択肢がどう転ぶのか、無言でwktkしておきます。
>>241 wktkが止まらない
これほど先が楽しみなのは久しぶりだなあ
>>243 本文読んでから春香の絵を見たらちょっと泣けてきた
本人乙
■■■■■蠶蠶醴鬮醴髏醢儲ィ鑓テ羽Ы⊇■■■■■■■■■■■■■■■■■■■
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■■■■■蠶蠶蠶蠶蠶蠶蠶蠶蠶蠶監 ■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■
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■■■■■蠶蠶蠶蠶蠶蠶蠶蠶蠶蠶蠶蠢』 ■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■
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■■■■■蠶蠶蠶蠶蠶蠶蠶蠶蠶蠶蠶蠶蠶蠶■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■
よづりの新作まだかな・・・
+
+
∧_∧ +
+ (。0´∀`)
(0゚つと ) +
+ と__)__)
>>249 IE、火狐、月、Janeでは見れたんだぜ。
ほトトギすはまだかいな。
255 :
名無しさん@ピンキー:2007/07/13(金) 13:30:25 ID:474MCNay
310 :本当にあった怖い名無し :2007/07/08(日) 00:00:50 ID:yzbATqoHO
2年程前から、隣町に住んでる女に言い寄られてた
高校からの友達で性格は良いんだけど顔が好みじゃないから、
やんわりと付き合えないと断り続けてた
その頃仕事も上手くいかず、悪いことは重なるもので母ちゃんが事故で死んだんだ
同情だけは絶対にされたくないから、
母ちゃんが死んだことを誰にも言わず一人で落ち込んでた
母ちゃんが死んだその日の夜、その女から電話が
「お母さん亡くなったらしいね・・・。」
「・・・」
「今まで言わなかったけど、私もお母さん死んだんだ・・・
昨日だよ。家の階段から落ちたんだ・・・」
「・・・え?」
「・・・一緒だね」
・・・この一言で救われた様な気がした。彼女なら分かってくれると思った
同情なんていらないと思ってた。ただ甘えたかったんだ
抑えてた感情が一気に溢れ出し、大の大人がわんわん泣いちまった
そんな俺の醜態にも、彼女は一緒になってわんわん泣いてくれて、
いつしか彼女のことが好きになってた
これが俺と嫁のなれ初め
256 :
名無しさん@ピンキー:2007/07/13(金) 13:34:23 ID:ZlyLwyfl
風俗デリヘル運営者様へ
風俗ランキング|風俗・大魔神 ポータルサイトを運営しております、
サイト運営者の高橋と申します。何卒よろしくお願いいたします。
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書き込みをさせて頂いたしだいです誠に申し訳御座いませんがご協力お願い致します。
>>255 女が母親を殺したようにしか見えないwwww
>>257 だよなーw
このスレに毒されすぎてるのか?
なんの踏み絵だw
夫に先立たれた妻がもう一度葬式をしたいから子供を殺す話みたいじゃん
普通に両方の母親を殺したものだと思ってしまった
いや両方の母親殺したとしか読めないだろ…
262 :
名無しさん@ピンキー:2007/07/14(土) 11:55:38 ID:ThBKU7GD
すげえな・・・
>>255は
>母ちゃんが死んだことを誰にも言わず一人で落ち込んでた
>母ちゃんが死んだその日の夜、その女から電話が
>「お母さん亡くなったらしいね・・・。」
ここがミソ
さらに言えば女が言うお母さんが「お義母さん」という意味である可能性もある
規則的に一日二回、通いなれた道を自転車を走らせながら学校に向かう少女が一人いた。
まだ、さほど人通りが激しくない通路であったため、彼女の姿を目の当たりにする人はごくわずかであった。
しかし、その少女は梅雨の風物詩である紫陽花(あじさい)もあちこちにできている水溜りも目に入ることなく、
外界の刺激を受け流しながら、何か思いつめた表情で物思いにふけっているようなので、
黒髪で元来の怜悧な印象との相乗効果で近寄りがたいオーラを通路を往来する人に与えているようだ。
私があの害物に屋上に呼び出されてから、既にかなりの時間が経とうとしていた。
この期間は言い換えれば、私が松本君と一日のうちに一秒たりとも、顔を合わせることがなかった期間でもある。
というのも、父が私とあの害物の抗争を解決するために、松本君の体調が良くなるまでの間、
一度たりとも顔を合わせない事を私と害物に提案したから。
当然、条件があの害物と同じものだというのは、正直業腹であったけれど、あの場合は冷静に考えて、譲歩しておいたほうが後々、
得になると思ってその案を呑んだ。
だから、自分の選択の結果として、彼に会えずに二週間近くが過ぎようとしているのだが、
いまさら、昔のように彼のことを一方的に想い続けるだけの日々というものは、相当寂しく感じられ、
時折耐えられなくなることがある。
それで、私は何度となく、父を伝って手紙を渡そうとしたが、父は頑として受け付けなかった。
父が何故私にそんな理不尽なことをするのか、解らなかった。
ただ、面倒だったからなのか、問題がねじれていく可能性があると判断したからなのか、
それは私には推し量ることができない。
かつて、私が母に虐げられていたときも、見て見ぬ振りをしていたような父のことだから、
私に対する人間的な情などもともと期待すること自体が間違っていたのかもしれない。
いずれにせよ、私がありとあらゆる松本君との接点が絶たれている状況には他ならない。
幸いにもが異物も私と同じ条件が課されているため、これ以上彼が毒されることはない。
しかし、自分の事しか考えていないあの害物が、果たしてこの条件をどこまで遵守するかは保証されていないことに私は当然気づいている。
仮に害物が約束を違反したとしても、それを咎めたり実際に阻止しようとする人間は私とは違って傍にいない。
だから、実際にそうなってしまってから言っても詮無いことだけれど、私が約束を遵守するなど、馬鹿げている。
それから、最近気になっていることがある。
そもそも私は自分の価値観を理解することができる、ないし共有している人間とだけ付き合うことにしてきていた。
あくまでも私の世界は私のものであって、他の人間とは異なったものとして独立していた。
それは、自他共に認められていて、私は他との交わりは希薄なものであった。
私自身は他人に話しかけず、聞かれたことにだけ淡々と答える。また、相手も私に干渉しないし、口も利かない。
それが今までの構図であった。
けれども、その構造が崩れてきていると思う。
これは、松本君が事故にあったときを境にしていると思うのだが、他人が私の陰口をきくのは今に始まったことではないが、
最近それが著しくエスカレートしつつあった。前はごく一部の人だけであったため、歯牙にもかけなかったが、
最近では大多数の人間が私の人格侮辱語を発しているようだ。
中には正面から罵詈雑言を浴びせかける人すらもいる。
所詮は自分と価値観を共にしない私から見れば部外者の人間の言うことだから気にしないが、
これがエスカレートし始めた時期が自転車事故前後であることが妙に私の中で引っかかっていた。
そんな事を考えているといつの間にか、学校の校門を越え、既に自転車置き場にまで来ていた。
いつもの習慣から機械的な動作で自転車の鍵を施錠し、一直線にグラウンドを横目にしつつ、昇降口へと向かう。
名前の順でわりと早いほうにある、私の苗字のため、下駄箱は上から二段目の左から三番目にある。
北方、と書かれた名前カードの上の取っ手に何気ない動作で手を掛ける。
「痛っ!」
突如、指に電流が走ったような痛みを感じる。
取っ手から手を離して、痛みの走った人差し指を見ると、鮮朱の血が指を伝っていき、
床に真紅の小さな斑点がいくつかできているのがわかった。
血を見ると無意識のうちに、気が遠のいていくような感じがした。
無意識のうちに力を入れていたので、想像以上に血の量が多いようだった。
一瞬、私の脳裏は真っ白になり、何が起こったのか冷静に考えることができなかった。
少しして、指をかけていた取っ手の部分を蚤取り眼で見ると、裏の陰になって見えない部分にかみそりの刃が取り付けられていた。
見事なまでに一箇所だけでなく数箇所に取り付けられており、どの方向に手を入れても怪我をするように周到に計算されているようだった。
こんなことを仕掛けてくるのが誰であるか私は想像がついていた。
しかし、何と姑息な手を使うのか、と怒りよりも呆れが先立ってしまった。
あの害物は本当に自分中心の思考しかできないよう。
結局、害物は本当の意味で松本君が好きなのではなく、それを支配する自分が好きなだけなのかもしれない。
滴り落ちる血液の鉄の匂いが鼻につくので、私は鞄の中にある、応急処置セットを取り出すと、
消毒液をティッシュにとり、傷口を消毒し、その上から絆創膏を貼り、その上からガーゼで傷口を圧迫しておく。
取っ手に仕掛けられたかみそりを全てはずしてから、下駄箱の中の上履きや内側に仕掛けがないか入念に確認したが、特に問題はないよう。
上履きを取り出して静かに履くと、まだ誰もいない自分のクラスの教室へと向かっていった。
このとき、北方時雨は自分の後ろでわずかに小さな影が動いたこと気づかなかった。
そう、喜色をたたえた表情で肩頬を緩ませていながら、やや曇った目は微動だにせずどこか不調和な印象の、ブロンドの少女の存在を―。
人という字は二人の人間が支えあっているから立っていられる、ということを示しているのです―。
それはどこかで使い古された、言い換えるなら、手垢のついた陳腐な話だと引き合いに出しておきながらも、思う。
しかし、多くの人は気づかない事が多いけれども、身近な人がどれだけ自分たちの心の支えとなっていることか。
それはお互い様のことなのでどちらが片一方に、一方通行に貢献している、というわけではない。
多くの場合、それは失ってから気づくものなんだよね。
私自身はもともと、お兄ちゃんの存在は大きなものとしてとらえていたけれど、お兄ちゃんと会える機会が減ったことで一層、私の中における存在が大きくなったよ。
本当に失ってから気づくことだよね。
でも、これは私にとっては人災で、とばっちり以外の何物でもないよね。
だって、私は雌猫を退治しようとしただけだもの。それなのに、父猫がにゃーにゃー、うるさいものだから、私ね、すごく哀れになってきちゃったの。
私は動物を好き好んで殺す趣味はないからね。私にたてつく動物以外は。
私はあくまでも襲われた側にもかかわらず、何で行動を束縛されなければならないのかな。
お兄ちゃん、わからないよ、そんな問題。お兄ちゃんにも絶対に、絶対にわからないはずだよ。
だからね、こんな理不尽な思いをする事になった直接の原因のあの雌猫に少しだけ、
うん、小出しに報復してやることにしたの。
私が不当に味わった悲しみを何倍もあの雌猫に味あわせてやるつもりだよ、あはは。
やっぱり身近な人が死んでいったり、近くにいる人からいろいろと嫌がらせを受けるのは誰だって嫌だよね、
それが人間じゃなくても。寂しいと死んでしまうという動物は何だっただろう?その動物じゃないけど、
苦しい思いをしたから死んじゃった、なんていったら、それはそれで楽しい逸話が一つできて、
何かの本に載ったりしてね、あははは。
でも、それに比べてさっきのはつまんない。
せっかく苦労して、朝早く起きて取り付けた仕掛けを全て見破られちゃった。
しかも、あの泥棒猫は自分の傷口は取り澄ました表情で応急処置を何事もなかったかのようにしてしまう。
まだ、保険医の先生が来ていないから、もっと怖がると思ったのに、残念だなあ。
せっかく猫なんだから、猫らしく傷口をなめて、にゃーにゃー泣いていれば良かったのに。
まぁ、いいや。次はどんな仕掛けを使おうか考えておけばいいんだし。
それよりも、この前にお兄ちゃんに会ったのは、お兄ちゃんがまだ眠ったままのときだったっけ。
それから、何度もお兄ちゃんに会おうと思ったけどいろいろあって、
ごたごたしているうちに思った以上に日がたってしまった。
だから、今日の帰りには寄ってみることにしよう。
それで折角、あの泥棒猫の影響がないのだから、お兄ちゃんの誤解をといておかないと。
いや、それだけじゃ駄目だよね。プラスマイナスゼロじゃ意味がない。こういう好ましい状況はプラスにしなきゃいけない。
そうなると、学校で過ごす時間がわずらわしくなってくる。
でも、私が学校に行かなかった、お兄ちゃんが悲しい顔をするので、そうしないように私は仕方なく学校に通っているのだ。
それにしても、早くお兄ちゃんに会いたいなあ。
「と、いうわけでこの場合の摩擦力は垂直効力と動摩擦係数の関係から……」
物理担当の白衣に身を包んだ若い女教師が、聞き取りにくい小さな声で、教科書にある問題を説明しながら、
黒板に板書された図にいろいろな数値やら、計算式やらを書き込んでいく。
今日は一時間目に物理という、頭を使う学科がきているので、一様に眠そうな顔をしながら、理解しがたい話に耳を傾けている。
この言い方では、やや語弊があって、どんな授業でも必ず悪い意味で教師から目をつけられている人間がいて、
そういった連中は冷房でちょうど良い環境になっているため、堂々と居眠りをしたり、またある者はノートに思い思いのものを落書きしている。
最も、まじめに聞いているような振りをしながらも、先生の目を盗んでは、近くの人と話したり、学校に持ち込んではならない不要物の漫画を読んだりしている者もいる。
別に私は、他人は他人だと思うので、特別にどう思う、とかこうこう行動しよう、とか考えたこともない。
私自身、物理はあまり好きでない教科なので、特別に授業を聞きたいとも思わない。
「というわけで、この問題の解法を活かして、96ページの問2、発展、ですが解いてもらいます。」
説明を一通り終えるとこの教師は毎回恒例で発展問題を解かせるので、私のクラスは本来理系のはずなのだが、
文型肌で、特に物理が苦手な大半の人間にとっては、憎悪の対象となっている。
実際に越えのボリュームを下げた状態で、死ね、黙れ、調子に乗るな、などと言ったたわいもない陰口を叩いている連中も数人だが、確実にいた。
「ええと、34番・松本弘行さん、この問題を解いてください。」
もう二週間近くも入院している松本君を問題を解く人間に指名するとは、何を考えているのだろうか、と咄嗟に呆れてしまったが、その無粋な態度が私を非常に不愉快にした。
「先生松本君は入院しています、それなのに指名するというのはいかがなものでしょう。」
一歩間違えば、大爆発を起こしかねない負の感情を、すんでのところで抑えこみ、まるで吐き捨てるように早口でまくし立てるように言った。
「あ、そうでしたっけ?では、誰にやってもらいましょうか。」
急に椅子から立ち上がり、そう言い放った私の剣幕にたじろいだのか、相手からやや狼狽の色が読み取れた。
他のクラスメイトも呆気にとられてみていたが、再び自分が問題に当たるかもしれないという危惧から、急に騒がしくなった。
「おい、俺は解かないからな!」
「おまえ、ずるいぞ!お前が解けよ。」
「とにかく、俺は解けといわれても、わかりません、としか言わないからな。」
などと言い出す輩も通常よりも増えている。私には知ったことではないので、さっさと自分の主張も終わっていることもあって、
静かに座り、状況を静観することにした。
物理担当はまだ大学の教育実習生と言ってもおかしくないくらいに若い先生で、こうなってしまうと手のつけようがない。
必死に騒ぐ連中を黙らせようとするが、彼女の声は小さくて聞き取りにくいので意味を成していない。
オロオロしながら右往左往する教師と騒がしい生徒、冷めた目で見てしまえば、滑稽なものにしか見えず、
なかなかに見苦しいものなので、それを見ないようにするためか私は傍らに置かれている問題集に手をつける。
三問目に取り掛かりだした頃から、私は何人かの発言が気になった。
「何、あの態度。」
「えー、誰のこと?」
「北方……なんて人だったっけー?よくは覚えていないけど、松本が入院しているのでいません、とか言って、
で今はお高くとまっていやがってさ、気分悪くならない?」
「まあ、ね。第一、あいつは何を考えているかわからないし。」
口を利いたことのない女子の二人組、私から見れば特にとりえのない種類に属する人種だったが、
私に対する随分と辛口の中傷を展開しているようだ。
例によって最近、急速に増えだした私への個人攻撃だったが、こういう態度をとっている以上、
いつかはこうなっても仕方ないことは自覚していたので、私への中傷だけだった最初は私は聞き流していた。
ごたごたしたまま、物理の授業は終わってしまい、折角教えていた公式も解法も誰も覚えていない、
という感じであったが、そんなことは些事に過ぎない。
それからの授業は、いつも通り、味気なく淡々と決められたことを機械的に先生が板書し、それを書き取るという形態で、特に問題なく過ぎていった。
放課後は、私は図書室の片づけと蔵書点検、それから督促状の作成をしなければならないので、図書室に向かう。
施錠されている図書室の鍵の鍵穴に職員室からとってきた鍵を差込み、開錠する。
他教室より重い図書室の扉を開放し、図書カウンターの引き出しに鍵をしまう。
それから、図書室内を一望する。
そういえば、松本君と初めてこちらから積極的に話しかけたのはあのときが初めてだった。
半ば、強制させるような形だったけど、この図書室の片づけを手伝ってもらった。
私は本の片付けをして、彼には掃除をしてもらった。
何とも、味気ないファースト・コンタクトだったものかと今は思ってしまうが、それでも私にとっては大きな転機だったと手前の机に無造作に積まれている本を前にしながら、思う。
手際よく片付けるにはどうすれば良いかを考えて、作業に取り組むと一人でも一時間とかからずに全ての仕事を終えることができた。
図書館で司書の仕事をしている先生がわりと仕事をさばいておいてくれたおかげもあったが、これほどの時間で終わるというのは、驚きだった。
しかし、そのてきぱきと片付いた作業の達成感はあったにはあったが、なんとなく空虚な気持ちが心を掠めた。
何かが足りない。その何かが何であるかも当然、私は解っている。
そう、彼が傍にいない事が私の心にぽっかりと穴を作ってしまっているのだろう。
私は彼と話をしなかったこの期間は、前は話すことができないのが当たり前だったのに、ただただ侘しい。
何度となく彼には図書室掃除を手伝ったもらったが、いつもこの仕事が退屈で仕方のない私をいろいろと楽しませてくれた。
それから、私の話をきちんと聞いてくれた。
私は昔から自分から話をすすんでしようとはしなかった。
父に話せば、仕事のこと以外に興味のない父に無視をされ、母にはなせば、どんな内容でも揚げ足を取られて、虐待を受ける。
かといって、雇われていた使用人に話せば、仕事として義務として話を聞くだけであって、その対応は無味乾燥とした味気ないものだった。
母が私の前から姿を消した後、私は度々、習い事のために家の外に出て、同世代の子と触れ合ったが、同世代の相手とは話の内容がかみ合わず、
私の話す文学やアネクドートの類は他人には嫌味に映ったらしく、自然と人の輪から外れていた。そんな記憶しか思い出せない。
そんな中、嫌な顔一つせず話を対等にしてくれたのは、彼くらいのものだった。
気づくと、頬を温かく湿った感じのしょっぱい何かが流れていく。
泣かないように、と精一杯こらえてみるが、それはやがてくぐもった嗚咽になるだけだった。
こうなると、自分が情けなく思えてくる。
こうして泣いているだけでは何の意味を持たないことを私は知っているのに、実際に何をしたか、努力したかが、重要なのに、
堰をきったように溢れ出てくる奔流を押しとどめることができない。
自分は、一人で、誰とも接点を持たずに何事もこなしてきたが、自分ひとりの感情を抑えられないのだから、自分は決して強い存在などではなく、
もっと脆いものであると、再び確認する。
126という部屋の識別数字の下に松本弘行と書かれた紙が張られ、その部屋にいる患者名がわかるようになっているプレートが表に掲げられている、どこか空しい病室。
患者は自身の妹である理沙と面会していた。
手持ち無沙汰でベットに横になりながら、お気に入りのアニメ鑑賞で時間を潰していた兄は突然の来客に驚いた。
ましてや、その来客が来ることが考えられない人物であったからだ。
「り、理沙!どうしてここへ来たんだ。」
「確かに私はお兄ちゃんのところに行っちゃ駄目だって怒られたけど、妹が兄に会って、話をするのは普通のことだよね、そうだよね、お兄ちゃん?」
「いや、それは…」
「確かにお兄ちゃんの体調が良くなるまで、行かない、と約束したけど、それは、私自身にもその条件を呑まざるを得なかったからだよ。
だからね、あの場はああするしかなかっただけで、それを守るかどうかは私の勝手になっているのだから、そんなことには従えるわけがないよね、ねえ、お兄ちゃん?
お兄ちゃんは理沙の事、叱らないよね?」
約束を一方的に破った理沙はやはり間違っていると僕は思うが、やはり理沙に対する今までとっていた態度を考えると、
少しくらい甘くてもいいのでは、と思ってしまう。
第一、僕が帰るように諭してもこの子のことだから、こういう時は僕の言った事でも、頑として聞かないだろう。
とにかく、何か理由があってきたのだろうから、話しを聞くくらいはしてもいいんじゃないだろうか。
すぐに何かを言い出すのかと思っていたが、理沙は黙り込んでしまった。
それだけでなく、僕に愛に来たことでうれしげな表情を浮かべていたさっきとは打って変わって、沈みこんだ、
どこか申し訳なさそうな感じの表情になっている。
どこか気まずい感じの沈黙の時間が流れる。
こういうときは、相手の発言を待ったほうが良いのだろうか、それとも僕から話しかけたほうが良いのだろうか、と真剣に考えてみるが、答えは見つかりそうにない。
そうしていると、ついに覚悟を決めたのか、気のせいか、すう、と理沙が息を吸う声が聞こえた。
「お兄ちゃん、あの、今までお見舞いにこれなくてごめんなさい。」
「………。」
謝罪から始まった理沙の話に何と返せばいいのか解らず、僕の反応のための時間が三点リーダで埋まってしまう。
「お兄ちゃんがどう思っているかわからないけれど、妹としては恥ずべき行為だよね。」
「それと、もう一つ謝らなければならないことがあります。お兄ちゃんはもう既に知っているかもしれないけれど、
お兄ちゃんの今負っている怪我の九割は私が原因だということです。」
そこまで気丈に理沙は言い続けてきたが、申し訳なさそうな表情に加えて、涙をこらえているのが見て取れた。
もう既に知っていることであり、この事故については僕自身にも遠因となるものがあったと思うから、特別、理沙が悪いなどと僕は思っていない。
そう、ここで理沙の行っている途中に口をさしはさんだところで、彼女を混乱させてしまうだけだろうから、黙って、すぐにも泣き崩れそうな妹を見守りながら、なるべくなら話の聞き手に徹しようと思う。
「お兄ちゃんの怪我の原因になった……自転車は……うっ、ぐすっ、わ、私が……細工したものだったから、……私が、ぐすっ、お兄ちゃんを怪我させて………しまったようなもの………」
そこまで、既に泣くのを我慢できずに嗚咽を漏らしながら、弱弱しく話している理沙はそこまで話し終えると、正しくは中断し、感情が抑えられなくなったのか泣き出してしまった。
もともと自分が泣いているところを誰かに見られることを嫌う、健気な理沙の性格から彼女の心中を想像するのは難しくない。
このまま、聞き役に徹することは不可能だと悟ったので、声をかける。
「理沙、僕は理沙が自転車にいたずらした事くらい、当然知っているよ。
でも、僕が怪我したことについては僕自身、いろいろあって、納得しているんだ。だから、そんなに泣くことはないよ。」
涙にぬれ、抑えられなくなった感情から赤く染まった理沙の顔にきちんと目を向けて話す。
「うっ、ぐすっ、…………お、お兄ちゃん……。」
そう僕に許しを請うような表情で、理沙も僕の顔から目を逸らすことなく一心に見つめてくる。
二週間前、理沙について考えていた、あの時のことが脳裏によぎる。
だから、僕は理沙に対して冷たい態度を知らず知らずのうちにとっていたことを遅くならないうちに謝りたい。
何だかんだ言って、結果的に僕の選択が謝っていたがゆえに起こってしまった事なのだ。
やはり、こんな一方的に理沙が謝り続けるのはおかしいような気がする。
あの時は二律背反、などという難しい言葉を持ち出して、この理沙と北方さんとの問題はどうにもならないと思ったが、そんなことはないと今は思う。
努力という言葉はあまり好きになれないが、結局は人間の努力しだいなのだ。
どちらかを選べ、なんて酷薄な選択をする必要なんてどこにもない。
妹を捨てるような選択も好きな人を捨てるような選択も、やはり愚かだと思う。
「理沙、僕は、僕はこの怪我をしてから、考えた。なぜ、理沙がこんな行動をしてしまったのか、
自分が足りないところがあったからこんなことになってしまったのか、その足りないところは何なのか、という風に。」
「それで、僕はお前がこんな行動に出てしまったことは、僕が冷たい態度を取って、理沙が何を必要としている、
自分の行動によって理沙がどう考えるかを理沙の視点からあまり捉えようと、努力しなかった、ということに気づいた。」
「確かに、兄としては愚かしく、お粗末な限りだけれど、僕は今からその自分のミスを直すのでも、遅くないような気がするんだ。
理沙としては今頃になって、と思うかもしれないけれど、僕を許してくれないか?」
そう、僕が気をつけていれば理沙は北方さんと争うことなんてなかったに違いない。本当に僕は兄としては失格だろう。
理沙は嗚咽を漏らさないようにこらえながら、真剣に僕の発言を聞いていたようだ。
真剣なまなざしで僕に双眸を向けている。そして、再び沈黙が訪れるのかと思った瞬間、理沙が唐突に僕の胸に飛び込んできた。
「り、理沙!」
「……お兄ちゃんは悪い訳なんてないよ。それにね私、うれしいの。お兄ちゃんが私のこと、真剣に考えてくれているなんて思わなかったから。」
僕の胸に顔をうずめている理沙がくぐもった声でそう言った。
「それよりも、お兄ちゃん。お兄ちゃんに迷惑をかけた私のことを本当に許してくれる?」
「ああ、もちろんだよ、理沙。」
「でも、北方さんの自転車に細工をしたということは、理沙はけじめとして北方さんに謝らなければならないだろう。」
そう言いながら、こうされることが理沙は好きだということを知っているので、
丁寧に手入れされているブロンドの髪をゆっくりと人形を扱うようになでる。
「お兄ちゃんの言うことだから、もちろん北方先輩にも謝ります。」
そう言ってから、理沙は瞬間的なまでにわずかな時間であったが、邪悪さを含んだ笑みを見せていたことに松本弘行は気づかなかった。
また、同様に自身が入院した際に病室に妹によって取り付けられたはずの、盗聴器にも―。
第11話お終いです、ではまた。
GJ!
北方さんカワイソス
257 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/07/13(金) 14:42:13 ID:ZfoQN8lp
>>255 女が母親を殺したようにしか見えないwwww
258 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/07/13(金) 14:55:08 ID:+3Y+lSac
>>257 だよなーw
このスレに毒されすぎてるのか?
259 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/07/13(金) 23:28:14 ID:iRk0Fy1v
なんの踏み絵だw
夫に先立たれた妻がもう一度葬式をしたいから子供を殺す話みたいじゃん
260 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/07/13(金) 23:35:08 ID:162aYEan
普通に両方の母親を殺したものだと思ってしまった
261 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/07/14(土) 03:35:45 ID:q0VL5f0B
いや両方の母親殺したとしか読めないだろ…
263 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/07/14(土) 12:03:27 ID:zXz4WASI
すげえな・・・
264 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/07/14(土) 21:59:03 ID:j2rjd664
>>255は
>母ちゃんが死んだことを誰にも言わず一人で落ち込んでた
>母ちゃんが死んだその日の夜、その女から電話が
>「お母さん亡くなったらしいね・・・。」
ここがミソ
さらに言えば女が言うお母さんが「お義母さん」という意味である可能性もある
お前ら本当に文読んでるの?確かに、女が殺した可能性も大事だけど、最も重要な点は
>誰にも言わず一人で
だろ?この男はその前からずっと監s
あれ?隣に引っ越してきた新婚の奥さんが挨拶に来たわ
ちょっくら行ってくる
いちいちコピペして無駄に容量食ってんな
アンカーでいいだろうが
>>282 北方さんへの周囲の仕打ちが理不尽すぎる。
でもこれが松本君への依存を深めることになるのだろうか、
と思うと途端にwktkしてくる俺はもう駄目かもわからんね。
>>286 おそらくは妹の張った策なのではないかと。
周囲に彼女自身のキャラが理解されてないっぽいし、
負の感情を呼びやすい空気があるのを利用された感じ。
未来日記の由乃ってヤンデレだよね?
何をいまさら・・・
>>289 違うよ。ただちょっと愛が深いだけだよ。ヤンデレじゃないよ。純愛と言う名の淑女だよ。
俺この歌聞くとゾクゾクするなあ
愛し子よ いつまでも この胸に抱かれて眠りなさい
いとけない あなたのことを もう二度と逃がしたりはしない
彼女のことなら 忘れてしまいなさい
ざらついた猫撫で声が その耳を舐めないように
咽を締上げておいたから
ふたりだけでいい 他には誰もいらない
私だけがあなたを満たせるわ
あなたの足に銀の足かせをはめましょう
同じ過ちを犯さないように
ググったら出たよ。
295 :
名無しさん@ピンキー:2007/07/17(火) 21:41:13 ID:uhiw38+I
ググってみた。感動した!
296 :
名無しさん@ピンキー:2007/07/17(火) 22:06:17 ID:xuS1+OyT
ようつべで見た
PVや歌が最高にイカしたヤンデレだった
RURUTIA[ルルティア] - 愛し子よ、で検索すれば出るよ
わかったからsageてちょーだい
見てきた
明日ちょっとアルバム買ってくる!
三連休全部仕事だったよ…。ちょっとだけ投下。ヤンデレはまだ。
「みぃーくん、おはよぉ」
朝、僕がフラフラとおぼつかない足取りのまま台所でフライパンで目玉焼きをつくっていると、遅れて起きてきた先輩が爽やかな声を出して後ろから抱き着いてきた。
僕の方に顔を載せて、マッサージするようにあぐあぐと顎をうごかしている。
もちろん体はぴっとりという表現が似合うほど密着させていて、背中には先輩の柔らかな二つのふわふわした感触が押し付けられている。
「今日もいい朝だね」
いや、先輩。僕はいつものとおりいい朝とか言う余裕はないんです。
「おはようございます。先輩」
「んう、おはよぉ」
先輩の顔は見えないけど、多分物凄い癒されているような表情なんだろう。鏡があれば、口元を数字の3を横にしたようなネコ口でほんわかと和やかな気分に慣れそうな先輩が見えるはずだ。
が、そんな先輩の表情も、僕に密着するとすぐ変わる。
「昨日のね。みぃーくんがいっぱい注いでくれたのがね、まだあたしの中で感じるのぉ……」
そういって、先輩の腕がするすると僕からだのラインをなぞる様に動き、下半身に伸びていく。
「先輩、だ、だめですよ。危ないですから」
「いいからいいからぁ」
僕は制止の声を出すが、もちろん先輩は聞いちゃくれない。無理矢理止めようにも両手は菜ばしとフライパンを持っているので、すぐには止められない。
肩に顔を乗せた先輩の表情が容易に想像できる。エッチの時、やたらこっちをみながらうへうへとニヤけているときの悪戯モードの顔だろう。絶対。
先輩の手が僕のアレに到達する。起きてから10分近く経っているから、朝の生理現象は収まっている。ふにゃふにゃだ。
「んーん」
先輩はそのふにゃふにゃになったアレをまさぐる様に手のひらで刺激し始める。こちょりこちょりと全体を揉みこみ、指先で引っかくように先端部分をかりかりとなぞって来る。
「……へへ。エプロン姿が似合うねぇ、いいお嫁さんになれるよ」
先輩。僕は男です。男のシンボルを弄りながらそんなコト言わないでください。
「ちょ、先輩っ。朝はダメですよ。会社……」
「うなじもせくしぃだよねぇ。ちゅるり」
耳元で先輩が涎をすする音がする。あの口の中に昨日何度も出したことが思い出され、僕は頬が熱くなった。それと共に、先輩に刺激されて下のほうも熱を持ってくる。
「あつくなってきたぁ……」
悦ばしげに呟く先輩。うわぁ、本気になっちゃってる。それでも僕は耐えて、股間を弄られながらも完成した目玉焼きを二人分お皿にのせた。
「先輩、朝ごはんできましたから。もう止めてくださいっ」
「今日の朝食はみぃーくんです」
そのまま先輩は耳を甘噛み。
はみっ。
「ひぃっ」
フライパンを落としそうになる。
「耳弱いモンねぇ」
先輩に耳を重点的に攻められ、下半身はいつのまにかパンツの中まで手を突っ込まれている。形を形成し始めた僕のアレを先輩はおもちゃのようにうりゃうりゃと三本の指で擦っている。
僕は震える手で、フライパンと菜ばしを置く。そうすれば、後はもう先輩の独壇場だ。先輩は僕を抱きぬいぐるみを運ぶように台所から移動させる。その先は、昨日散々二人でむさぼりあったベッドだ。
そのまま押し倒された。
「先輩……」
「もうね。みぃーくんがいけないの。そうやって、仕草のひとつひとつがぜーんぶあたしを誘ってるんだから」
そんな覚えはありません。
そんな反論もする暇なく、先輩は僕を見下ろしながら意地悪く微笑み。唇をすぼめて、僕の顔へ重ねた。唇だけではなく、胸、手、足、腰すべてお互いのものと重ねていく。
こうして、いつものように僕と先輩の愛を確かめる行為へと移行するのである。
毎朝の出来事。すでに日常と化した僕らの行為。
先輩は美人だ。凛としたかっこいい顔立ちにきらりと光るまっすぐで綺麗な瞳。長い黒髪を後ろでまとめて、スーツを着込みきびきびと胸を張って仕事をする姿はまるで一厘の美しい薔薇のよう。
そんな先輩を彼女の出来た僕はもう世界で一番で幸せものなんじゃないかと思う。先輩に愛されていると実感できるこの日々は、僕にとって甘くて素晴らしい毎日。
でもね、先輩。
さすがに、そろそろこの毎日にも支障が出始めてるんですよ。
ほら、先輩。僕最近居眠り多いでしょ? あと僕の書類、最近ミスが多くなってきましたよね。エレベーターもよく使うようになりましたよね。それと最近先輩、職場でもボディタッチしてきますよね。
だから、先輩。なんというかー……。僕もね、先輩がしてきてくれて嬉しいんです。気持ちいいし。幸せだし。
ですけど。さすがにお互いもう学生じゃないですし。責任を持った社会人ですし。僕も十代のように若くないですし。先輩だってピー歳ですし。
だからここはオトナらしく、そろそろ節度を守ったほうがいいと思うんです。毎日これじゃあ僕も疲れますし、先輩だって辛いですよね。
ですから、なんというかー…、えーっと。ほら、ちょっとここらで冷却期間というか、いや、冷却じゃなくて、静養期間というか。
と、とにかく、そういうものを僕たちの間にも取りませんか……?
(続く)
よづりが全然すすまねぇ。
土日投下を目指して。
303 :
名無しさん@ピンキー:2007/07/18(水) 00:38:50 ID:P6XmKmjQ
>>302 お仕事お疲れ様です。
HPでも魅力的な作品で楽しませていただいていますが、やはり最萌はよづりさんです。
首をキリンさんにしてお待ちしています。
最近ageてるヤツが多いのは何でなんだぜ。
愛してる愛してるきみのことを愛してる心から頭から足先まで丸ごと愛してる本当だ。
昨日の夢にはきみが出てきた。 ぼくの隣にきみがいて、きみと、ぼくとで一緒に散歩をするんだ。
もちろんぼくの隣にはきみがいるから、きみとぼくときみとだ。
そしてきみの隣にもいる。ぼくだ。きみとぼくときみとぼくだ。
そしてきみの隣にぼくとぼくの隣にきみがいてその隣のぼくの隣にきみがいる。
きみとぼくときみとぼくとぼくときみ、それなら当然ぼくの隣にきみのもいるわけだ。
ならもちろんきみの隣にはきみとぼくがいる、そうしたら当然ぼくの隣にもきみもいる。
なんて幸せなんだ。
きみがいてぼくがいてきみがいてぼくがいるそしてぼくがいてきみがいる。これ以上の幸福はないんだよ。
あぁどうしてだろう。 どうしてここにはきみとぼくしかいないんだろう。
きみがいれば幸せなのに、きみがいれば、そしてきみがいれば。とうぜんぼくもいる。ぼくもいるしぼくもいる。
どうしてきみはいないんだい?きみは?きみは?きみは?
ひとりだけ?
ひとりだけなんだね?
じゃあぼくもひとりだけだからおそろいだ。 嬉しいな。きみとおそろいなんて。
嬉しいな。嬉しいな。大好きな人とおそろいだ。
ほかにもおそろいはあるのかな。探してみたいね。もっとたくさんあるといいな。
ぼくは幸せだ。
愛してるよ。きみを愛してる。
けどどうしてだろう。なぜぼくを見ないの?
ぼくの目が怖いかな。じゃあ目隠しをするよ。これでいいかな。まっくらだ。
ぼくが近くにいるのが怖いかな。じゃあ後ろにいくから。ゆっくりいくから。
だからもう震えないで。愛してるよ。愛してる。震えてるきみもすごくすごく愛してる。
全部全部愛してるけれどきみがみえないよ。
どうして見えないの?どこへ行ってしまったの?どうしてここはこんなに暗いの?
どこにいったの?きみはどこにいるの?教えて。ねぇ、どこ?
まだぼくの前にいる?一緒にいる?
愛してる愛してるよ愛している。だからお願い許してください。
お願いしますお願いしますお願いしますお願いします。
愛していることを許してください。
>>302乙です
早く病んでくれないかと期待
他のも期待して待ってます
>>302 お仕事頑張ってください!
作品も楽しみにしてます。よづり、今だに学校に着いてないしなぁ
着いたらどうなっちゃうんだろうか、とか勝手に妄想して待ってます(*´д`*)
>>307 ・・・・・・・・・・・・・・・・・。
(((;゚д゚)))
まとめはもう更新しないのかね?
まとめ管理人って唐突に消える事が多いよな・・・
Wikiで作るのが一番無難か?
てかこの位間隔開くことは前からあったが。
普段お世話になってるんだし
今忙しい時期だし待ちましょ
投下します。
久しぶりに帰る我が家は、先輩の姿なくがらりとしていた。
いつも僕より早く帰り、夕食の用意をして待ってくれていた先輩。
会社では氷のように冷たく鋭い表情もここへ来れば、夏の暑い日に大きく空を見上げて笑う向日葵のように明るく穏やかになる。
ネコのように喉を鳴らして、べったりとくっついて。お互いを暖めながら過ごす毎日だった。
でも、そんな先輩は今日は居ない。
そうだ。僕と先輩は昨日から期間を設けて逢わないことにしたのだ。長さにして、今日から日曜までの4日間。僕たち二人は一緒の家で過ごさないし、一緒にご飯も食べないし、一緒のベッドでも寝ない。
会社で顔を合わせても必要最低限の接触はしない。
こんな約束を、僕は先輩に取り付けたのだ。
先輩を別に疎ましく思っていたわけじゃなかった。
「でもなぁ、やっぱり一番は体が持たないって……」
昨日の会話が思い出される。
「みぃーくんはあたしが嫌いになったのね? そうなのね」
いやね。先輩。だから違うんですよ。嫌いになったとかじゃないんです。だからそんな世界全てに否定されたとか悲劇のヒロインみたいな膝を抱えてこっちをおびえるように見ないでください。逆に怖いです。
「じゃあ、どうしてそういうことを言うのかしら?」
えっとなぁ。
「先輩。いつもいつも僕と一緒に居て飽きませんか?」
僕は言葉を考えながら、先輩に出来る限り簡潔に答える。
先輩はふるふると首を振った。
「そんなことない。私、全然飽きないよ。みぃーくんの顔を見るだけで一日が終わってもいいくらいだもの」
幼児言葉がなんか、被虐感を醸し出していて辛い。普段はあんなにシャキッとキャリアウーマンしてるのに何でうちでパジャマを着た途端、女の子になっちゃうんだろう。
「自分のデスクのパソコンのスクリーンセーバーもみぃーくんにしてるよ。みぃーくん、本当はデスクトップにしたかったけど会社の人にバレたくないって言うからスクリーンセーバーで……」
ああ、先輩。会社のパソコンを自分好みにカスタマイズしまくるのはやめてください。あとそれ先輩が昼休みに席を外したら思いっきりそのパソコンに僕の顔が流れますね。どうりで全員にバレてるハズだ。
「ねぇ。それとも私に飽きちゃった……?」
「それはないです。自信を持って言いますよ」
先輩に飽きたなんてこれっぽっちも思ってない。
「じゃあ、どうして? 私、みぃーくんと一時でも離れたくないのに……、どうしてそういうこと言うの? 3日間も逢えないしおしゃべりも出来ないなんて酷すぎるわ。酷すぎるなんてもんじゃない。即死モノよ。即座に死ぬって意味よ」
「いやいや、先輩。たった3日間ですよ」
「3日もっ」
「『もっ』じゃないですよ」
「夜が3回来るまでもダメなのよ」
「先輩、3日でダメって。僕が出張とかの時はどうするんですか?」
「そのときは私の手腕で、大義名分を作ってその出張に着いて行けるようにする」
そんな時にだけ、キャリアウーマンの目にならないでください。
「えーっと、うーん」
僕は頭を抑える。いや、本当の理由はあるのだ。一番の理由。
むしろ、これがいま一番深刻だからこそ、僕はこの中休み期間を提案したんだ。
「なぁ。本当のことを言ってちょうだい。いままで私はみぃーくんにどんなこともしてあげたし、どんな恥ずかしいことでもやってあげたよ? いままでずっと一緒だったのに……。どうして、そんなこと言うの!」
……恥ずかしいこと……。そうです。それが理由です。
「じゃあ、言いますよ。本当のこと」
「うんうん」
「ショック受けないでくださいよ」
「……ごくり」
先輩は真剣な目つきで膝を抱えながら僕のほうを見つめている。
「エッチ……」
「へ?」
「先輩、エッチが……激しすぎるんです」
僕のほうが恥ずかしくなってきたじゃないか。でも、ちゃんと言った。
「エッチ?」
しかし、対する先輩の反応は薄い。もろ頭から?マークをだしてこちらへ顔を突き出している。
「エッチですよ! エッチ!」
「ええー?」
「先輩。昨日の夜僕と何回やりましたか?」
「13回」
全部僕が出しました。
「先輩。多いと思いません?」
「多いの!?」
……二桁いってる時点で気付いてください。あと、ちゃんと同僚とセックスの話もして情報交換してください。
「じゃあ3回ぐらい減らす?」
危機感なさげに言わないでください。
「多いんですってば!!」
僕は思わず声を荒げる。
「それにくわえて」
「咥えて?」
「『加えて』です。反応しないでください。それに加えて、朝で2回、朝食中にたまに1回、入浴中に6回……えーっと、入浴中はさすがに僕も悪いですけど、とりあえず人間が一日に出来る回数を軽く超えてるんですよ」
……先輩はなんだかだんだん青ざめている。
「……みぃーくんはあたしとのエッチが嫌いになっちゃったのね」
「……話をちゃんと理解してくださいよ。量の問題をしてるんですから……」
というか、先輩はどれぐらいの性知識を持ってるのかと不安になる。そういえば初めての相手は僕だって言ってたなぁ。嘘だと思ってたけど、この分だと本当かもしれない。
「だぁかぁらぁね。控えようって話なんですよ! こんだけ多いと、僕も病気になっちゃいますし、仕事にも支障が出てるんです! 最近部長に怒られてばっかりなんですから」
「あの部長か……」
「怒らないでください。僕が会議のプレゼン中に居眠りしたのが原因なんですから!」
だから鞄から取り出したその真っ黒いノートに部長の名前を書き足そうとしないでください。何リストなんですか。それは。
話を戻す。
「だからね、3日。3日だけ。一時的に関係を無くしましょう!」
「……わかった」
よかった、納得してくれたみたいだ。
「じゃあ。最後に1回だけ……」
やーめーいっ! 絶対その10倍搾り取るつもりな目つきで僕にのしかかって来ないでくださぁぁい!
そんなこんなで今日。僕は久しぶりの一人の夜をすごすことになる。
「着信、着信……」
電話の留守電を調べてみる。着信件数、22件。うわぁ、全て先輩からだ。よく見ると、僕の帰社予定時間から5分おきにかけているみたいだった。
あのヒトは本当に……。もう。
「でも、そこまで想われてるって幸せなんだろうなぁ……」
僕は一人にやにやと口元を緩めて、大きく鳴り出した電話の受話器をとった。
「ただいま、先輩」
僕と先輩の禁欲期間の一日目は何事もなかったかのように過ぎていった。
(続く)
以下次回。
いい感じに病み可愛い。
リアルタイム乙。
やは゛いかわいいよ先輩www
このまま平和に終わるわけがないと思いつつwktkしなか゛ら続きを待ちます。
作者さんGJ
投下します
夜の校舎には当然のように人がいない。その代わりに、人以外の何かがいそうな雰囲気で満ちていた。
日常とは違う非日常。現実とは違う非現実。昼間の世界から遠く隔離された、夜の校舎。
「…………」
ブリッジしながら歩くベートーベンの七不思議があったな、と思い返しながら僕は静かに歩く。他に七不思議
は何があったかな――と考えようとして、怖くなってやめる。怖いというか、下手にそんなことを考えて思わず
笑い出してしまったら全てが台無しだ。
シリアスに行こう。
笑い出していけない理由は単純で、今僕は、酷く気を払って音を殺している。電気すらもつけていない。校舎の
中は真っ暗だが、廊下が広いのと窓から振り込む月明かりのおかげで歩きにくいというほどでもない。
電気をつけてしまえば、見つかってしまう。
外から――ではない。
中にだ。
中で待っているであろう誰かに、気取られたくなかった。
だからこそ、靴を脱いでまで足音を殺しているのだ。上靴にはきかえることなく、靴下で足音を殺し、
静かに、静かに、静かに廊下を歩きつづける。片手に鞄、片手に靴。
なんだか泥棒みたいだ。
そう思った。
「…………、」
息をするときですら、気を遣う。廊下の月明かりが届かない部分には、真に濃い闇が沈殿していて
今にもそこから何かが出てきそうな気がした。
声を殺す。
息を殺す。
音を殺す。
見つからないように。
此処にいることに、気付かれないように。
「…………」
本当なら、しなくていい苦労だ。図書室に行くのならば、堂々といけばいい。そこで彼はきっと
待っているのだから。
けど。
僕が向かっているのは、図書館じゃない。
屋上だ。
だからこそ――図書館にいる彼に、校舎内に残っている人間に、僕が此処にいることを気付かれたくない。
僕が屋上へ向かっていることを、知られたくない。
これは、
きっと、正規の話の流れじゃない。
裏技、
裏道、
そんな、本当の物語から外れる、行為だ。
誰かが僕の――僕らのために描いた物語から、逸脱する行為だ。
――知るか。
その誰かに毒づいて、僕は少し脚を速めた。階段を昇り、一階から二階へ。二階の図書館には電気は
ついていなかった。けれども――そこに誰かが、いる気はした。心持ち身体を隠しながら、さらに三階へ。
階段を昇って、廊下を歩いて、階段を昇って。
そろり、
そろりと。
静かに、
僕は――
屋上の扉の、前に立った。
夜の校舎には当然のように人がいない。その代わりに、人以外の何かがいそうな雰囲気で満ちていた。
日常とは違う非日常。現実とは違う非現実。昼間の世界から遠く隔離された、夜の校舎。
「…………」
ブリッジしながら歩くベートーベンの七不思議があったな、と思い返しながら僕は静かに歩く。他に七不思議
は何があったかな――と考えようとして、怖くなってやめる。怖いというか、下手にそんなことを考えて思わず
笑い出してしまったら全てが台無しだ。
シリアスに行こう。
笑い出していけない理由は単純で、今僕は、酷く気を払って音を殺している。電気すらもつけていない。校舎の
中は真っ暗だが、廊下が広いのと窓から振り込む月明かりのおかげで歩きにくいというほどでもない。
電気をつけてしまえば、見つかってしまう。
外から――ではない。
中にだ。
中で待っているであろう誰かに、気取られたくなかった。
だからこそ、靴を脱いでまで足音を殺しているのだ。上靴にはきかえることなく、靴下で足音を殺し、
静かに、静かに、静かに廊下を歩きつづける。片手に鞄、片手に靴。
なんだか泥棒みたいだ。
そう思った。
「…………、」
息をするときですら、気を遣う。廊下の月明かりが届かない部分には、真に濃い闇が沈殿していて
今にもそこから何かが出てきそうな気がした。
声を殺す。
息を殺す。
音を殺す。
見つからないように。
此処にいることに、気付かれないように。
「…………」
本当なら、しなくていい苦労だ。図書室に行くのならば、堂々といけばいい。そこで彼はきっと
待っているのだから。
けど。
僕が向かっているのは、図書館じゃない。
屋上だ。
だからこそ――図書館にいる彼に、校舎内に残っている人間に、僕が此処にいることを気付かれたくない。
僕が屋上へ向かっていることを、知られたくない。
これは、
きっと、正規の話の流れじゃない。
裏技、
裏道、
そんな、本当の物語から外れる、行為だ。
誰かが僕の――僕らのために描いた物語から、逸脱する行為だ。
――知るか。
その誰かに毒づいて、僕は少し脚を速めた。階段を昇り、一階から二階へ。二階の図書館には電気は
ついていなかった。けれども――そこに誰かが、いる気はした。心持ち身体を隠しながら、さらに三階へ。
階段を昇って、廊下を歩いて、階段を昇って。
そろり、
そろりと。
静かに、
僕は――
屋上の扉の、前に立った。
「……ごくり」
先輩は真剣な目つきで膝を抱えながら僕のほうを見つめている。
「エッチ……」
「へ?」
「先輩、エッチが……激しすぎるんです」
僕のほうが恥ずかしくなってきたじゃないか。でも、ちゃんと言った。
「エッチ?」
しかし、対する先輩の反応は薄い。もろ頭から?マークをだしてこちらへ顔を突き出している。
「エッチですよ! エッチ!」
「ええー?」
「先輩。昨日の夜僕と何回やりましたか?」
「13回」
全部僕が出しました。
「先輩。多いと思いません?」
「多いの!?」
……二桁いってる時点で気付いてください。あと、ちゃんと同僚とセックスの話もして情報交換してください。
「じゃあ3回ぐらい減らす?」
危機感なさげに言わないでください。
「多いんですってば!!」
僕は思わず声を荒げる。
「それにくわえて」
「咥えて?」
「『加えて』です。反応しないでください。それに加えて、朝で2回、朝食中にたまに1回、入浴中に6回……えーっと、入浴中はさすがに僕も悪いですけど、とりあえず人間が一日に出来る回数を軽く超えてるんですよ」
……先輩はなんだかだんだん青ざめている。
「……みぃーくんはあたしとのエッチが嫌いになっちゃったのね」
「……話をちゃんと理解してくださいよ。量の問題をしてるんですから……」
というか、先輩はどれぐらいの性知識を持ってるのかと不安になる。そういえば初めての相手は僕だって言ってたなぁ。嘘だと思ってたけど、この分だと本当かもしれない。
「だぁかぁらぁね。控えようって話なんですよ! こんだけ多いと、僕も病気になっちゃいますし、仕事にも支障が出てるんです! 最近部長に怒られてばっかりなんですから」
「あの部長か……」
「怒らないでください。僕が会議のプレゼン中に居眠りしたのが原因なんですから!」
だから鞄から取り出したその真っ黒いノートに部長の名前を書き足そうとしないでください。何リストなんですか。それは。
話を戻す。
「だからね、3日。3日だけ。一時的に関係を無くしましょう!」
「……わかった」
よかった、納得してくれたみたいだ。
「じゃあ。最後に1回だけ……」
やーめーいっ! 絶対その10倍搾り取るつもりな目つきで僕にのしかかって来ないでくださぁぁい!
そんなこんなで今日。僕は久しぶりの一人の夜をすごすことになる。
「着信、着信……」
電話の留守電を調べてみる。着信件数、22件。うわぁ、全て先輩からだ。よく見ると、僕の帰社予定時間から5分おきにかけているみたいだった。
あのヒトは本当に……。もう。
「でも、そこまで想われてるって幸せなんだろうなぁ……」
僕は一人にやにやと口元を緩めて、大きく鳴り出した電話の受話器をとった。
「ただいま、先輩」
僕と先輩の禁欲期間の一日目は何事もなかったかのように過ぎていった。
「…………はぁ」
ようやく。
僕は鉄の扉の前で一息ついた。ここまでくれば、いくらなんでも音が下に漏れることはない。
扉の向こうに出てしまえば、よほど大声で会話をしない限り、声が漏れることもないだろう。校
舎の中を歩き回っていた間中に感じていた緊張が、ゆっくりと身体の外に流れ出ていく。
緊張。
本番は――これからだというのに。
「…………」
気の抜けかけた意識を貼りなおす。そうだ、今気を緩めるわけにはいかない。僕は何を確めた
訳でも、何を成したわけでもない。
すべてはこれからだ。
すべてはこれからなんだ。
終わってしまった――わけじゃない。
「…………よし」
片手に持っていた靴を履きなおす。少し考えて――鞄の中から魔術短剣を取り出す。もうここまで
きたら隠す必要もない。鞄は邪魔になるだけだ。扉の傍に鞄を置き、いつどこから襲われても大丈夫な
ようにしっかりと魔術短剣を右手に握る。
闇夜の中、
命を持ったように、魔術短剣は輝いて見えた。
――できることなら。
僕は、願う。
――これを、使わずにいられたら、いいけれど。
そして、笑う。
人知れず、僕の顔に笑みが浮かぶ。今、自分が考えたことが、自分が願ったことがおかしくて
たまらなかった。
姉さんの復讐を考えて、
その相手を殺すことを考えていた自分が。
この先にいるであろう相手に、それを使いたがっていないという事実に。
その事実に、僕は笑う。
嫌な気分は――不思議としなかった。
「――行くか」
気合を入れて。
僕は、左手で屋上へと続く扉のノブをつかみ、
躊躇うことなく、引き開けた。
「支倉……綾さんですか?」
「はい」
「あの……ひょっとして……陽一さんの妹さんですか?」
「そうなりますね」
どこか不敵な表情で言う綾。
夕里子は身を固くして、深く頭を下げた。
「お、お初にお目にかかります! 私、陽一さんとお付き合いさせていただいております、四辻夕里子です!」
「ええ、聞いていますよ。兄も嬉しそうに話していました」
「そそ、そうですか……」
改めて綾は四辻夕里子を見た。
髪は長く、綺麗な栗色をしている。
睫毛も長く、少し垂れ気味の目は、いかにもおっとりとした気性を伝えていた。
背も高い。
そして、スタイルは非常によい。
(別にコンプレックスがあるわけじゃないけれど……)
綾は自分の胸と夕里子の胸を、じっと見比べた。
「あ、あの……綾さん?」
「……そんなに固くならなくてもいいですよ。私と話すのは緊張しますか?」
「え、いえ、その……」
「夕里子さんの方が先輩なんだから、もっと気楽な口調でいいですよ」
「いえ、私、この喋り方の方が慣れていまして……誰と話すにも、こんな感じなんですよ」
言ってほんのりと笑う。
まだ緊張はしているようだが、懸命に綾と話そうとしているのが見て取れた。
「あのまま勧誘に引っかかっていたら、お兄ちゃんとデートできなくなっていましたね」
「すみません……何とか逃げるつもりではいたのですが」
「少し隙が多いようですね」
「はい……ボーッとしてると良く言われます」
赤い顔で縮こまる夕里子。
綾は信じられなかった。
この、四辻夕里子という人物に、兄を奪われたことが。
縁のような機知は感じられない。
アキラのような過激なまでの自己主張も感じられない。
隙だらけの、凡庸な人物に思えた。
(どうしてお兄ちゃんはこんな女に……)
兄にとって自分が今のところ女ではないのは、先日痛いほど良くわかった。
だが、なぜこの女なのか。
今目の前にいる女が、陽一にとって自分よりも魅力的だなんて、認めたくはなかった。
「夕里子さん……私、夕里子さんに会ったら聞きたいなと思っていたことがあるんですよ」
「あ、はい……何でしょう」
「お兄ちゃんは、あなたのどこが気に入って付き合う気になったのだと思いますか?」
「え、ええと……それは……私もわからないんですけど、こう言ってくださったことはあります」
夕里子はその時のことを思い出してか、はにかんで言った。
「その……裏表がなくていいって」
「……!」
思っていたよりも――考えていたよりも、扉は勢いよく向こう側へと引き開けられた。気圧差。そんな言葉が
頭に浮かぶと同時に、向こう側から新鮮な風が中へと吹き込んでくる。夏の匂いをはらんだ、夜の匂いをはらんだ、
強い風。暑さすら感じてしまう、涼しい風。
同時に、光。
扉によって防がれていた月明かりが、正面高くに昇った月の光が、僕の目に飛び込んでくる。夜のまぶしさ。思わず、
目がくらんでしまう。どこまでも続く空は暗くて、その最果てにぽっかりと、穴が開いている。開いた穴から注ぎ込む光が、
夜の街と、夜の校舎と、夜の屋上と、
そこに立つ、彼女の姿を照らし出していた。
規定どおりの制服。紺のプリーツスカートに白の半そでシャツ。凹凸の少ない、生きていくために必要な
肉付きすら少ない、抱きしめれば砕けてしまいそうな身体。長く伸ばした艶ある黒髪は、こまめに手入れし
てあるのか腰の辺りで綺麗に切りそろえられている――その髪が、今は風で微かに揺れていた。古いモノク
ロ映画に出てくる幽霊のような雰囲気。
現実味のない、姿。
現実感のない、姿。
月明かりを浴びて、フェンスに寄りかかって立つその姿を、
僕は、素直に――綺麗だと、そう思った。
シルクハットはない。男装のスーツも、杖も、そこにはない。彼女が狂気倶楽部であることを示すのは、
寄り添うようにしておかれた、赤のクイーンと白のクイーンを両面に模したトランクケース。
あの中に這入っているものを、僕は知っている。
そして――彼女の背中にしこんである、大鋏のことも。
触れれば壊れそうな、姿。
触れれば壊してきそうな、姿。
両刃の刀のような、
心中自殺のような――そんな雰囲気が、彼女には確かにあった。
今なら、わかる気がする。
おちゃらけていた時の彼女と、
狂気について語る、彼女。
そのどちらもが――全て、彼女なのだろう。
――今は、どちらなのだろう?
そう思いながらも、僕は、
「――如月更紗」
彼女の名前を、呼んだ。
思っていたよりも――考えていたよりも、扉は勢いよく向こう側へと引き開けられた。気圧差。そんな言葉が
頭に浮かぶと同時に、向こう側から新鮮な風が中へと吹き込んでくる。夏の匂いをはらんだ、夜の匂いをはらんだ、
強い風。暑さすら感じてしまう、涼しい風。
同時に、光。
扉によって防がれていた月明かりが、正面高くに昇った月の光が、僕の目に飛び込んでくる。夜のまぶしさ。思わず、
目がくらんでしまう。どこまでも続く空は暗くて、その最果てにぽっかりと、穴が開いている。開いた穴から注ぎ込む光が、
夜の街と、夜の校舎と、夜の屋上と、
そこに立つ、彼女の姿を照らし出していた。
規定どおりの制服。紺のプリーツスカートに白の半そでシャツ。凹凸の少ない、生きていくために必要な
肉付きすら少ない、抱きしめれば砕けてしまいそうな身体。長く伸ばした艶ある黒髪は、こまめに手入れし
てあるのか腰の辺りで綺麗に切りそろえられている――その髪が、今は風で微かに揺れていた。古いモノク
ロ映画に出てくる幽霊のような雰囲気。
現実味のない、姿。
現実感のない、姿。
月明かりを浴びて、フェンスに寄りかかって立つその姿を、
僕は、素直に――綺麗だと、そう思った。
「バカヤロウ!! 本気で言ってるのか?!」
「えぇ、本気ですよ。 冗談でこんなこと言えるわけないじゃないですか。 だから退いて下さい。
退いてくれないなら先輩も……」
「俺も刺すって言うのか? いいぜ……」
次の瞬間、先輩は私の手首を掴むと自分の方に向け……。
「せ、先輩何するんですか?!」
先輩は私の手に握られたナイフをそのまま自分の腕に突き刺したのだった。
手に伝わってくる肉を切り裂いた感触が、伝って流れてくる血の生温い温度に私は……。
「目を反らすな白波! コレがお前がしようとしてた事なんだぞ?!
こんな事をお前はしようとしてたんだぞ?! 分かっているのか?!」
先輩の言葉が胸に突き刺さる。 ナイフから滴る血は私の手にも伝ってきて――。
「う、うわああぁぁぁぁぁ……………!」
途端に恐ろしさが込み上げてくる。 人を傷つけてしまったと言う事の怖さ、
取り返しのつかないことをしてしまったという罪悪感――。
指先から力が抜けナイフから手が離れると真っ赤に染まった掌が目に飛び込む。
血塗られた掌に私はその場に崩れ落ちそうになり――。
「白波?! おい?! 大丈夫か白波?!」
――そんな崩れ落ちそうになった私の体を支えてくれたのは先輩の腕だった。
「ゴメンナサイ……ゴメンナサイ……ゴメンナサイ……」
「いや、俺の方こそ色々済まなかった……」
あの後泣き崩れる私は先輩に連れられその場を離れ、そして先輩の腕の手当てもして今に到ってる。
「先輩……、腕の方は……」
「あぁ……もう血も止まってるし、ちゃんと指も動くし神経とかも大丈夫みたいだ」
先輩の言葉に私は胸をなでおろした。 そしてホッとするとまた涙が溢れてきた。
そんな私の涙を先輩は拭ってくれて心配そうに覗き込んできた。
私を案じ顔を真っ直ぐに見つめてくる先輩の眼差しに私の荒んでた心は癒される思いだった。
「先輩……どうして、その、私なんかのためにココまでしてくれたんですか?」
私がそう訊くと先輩は一瞬困惑したような表情を見せ、そして僅かに視線をそらし口を開く。
「その……お前の事が、まだ……好き、だから……」
「え……? そ、そんな……。 だ、だって私……」
私は紅司を忘れられなくて、それが辛くて紛らわせたいと言う身勝手な思いで
その気も無いのに先輩と付き合った振りしてて……。
それで先輩を傷つけたのに…
彼女は。
クラスメイトにして狂気倶楽部の一員、マッド・ハンターでもある、彼女は。
如月更紗は、名前を呼ばれて、初めて気付いたように僕を見て――酷く驚いた顔をした。彼女の表情がここまで崩れる
のを、僕は初めて見たような気がする。大きく見開かれた黒い瞳が、じっと、真正面から僕を見据えていた。
言葉に表すまでもなく、驚いていた。
僕が、此処にいることに。
そして、驚いたその顔のままに――如月更紗は、僕へと、言う。
「……えっと、どちらさま?」
「ボケから入るのかよ!」
「ああ、挨拶がまだでしたね。初めまして、須藤冬華です」
「さらっと偽名使ってんじゃねえ!? お前の名前は如月更紗だろうが!」
「不束者ですが、よろしくお願いしますね。式はいつにします?」
「展開速いな――!」
思わず突っ込んでしまった。
突っ込まずにはいられなかった。
僕の突っ込みを受けて、ようやく如月更紗は一瞬顔に浮かべた動揺を、チェシャ猫のような薄い笑いで覆い隠した。
……ふん、本気でボケたのかと思ったが、どうやら驚きを隠すための時間稼ぎだったらしい。
しかし、ほんとに誰だよ須藤冬華。
口調まで違ったぞ、今。
「それで……一体何の用かな、冬継くん。私はそんなに、暇じゃあないんだけれど」
あっさりと話を元に戻しやがった。
しかも、前振りのボケを完全に流してる。この辺りの切替の早さだけはさすがと言わせてもらおう……
「……夜中の学校にいるような人間が、暇じゃないとは知らなかったな」
「私は夜行性なのよ」
「そんな気はしてたよ」
「具体的に言えば、夜中に鋏だけ持って街を徘徊するのが趣味――とも言えるわ」
「それはただの変質者だよ! いや、鋏持ってる分だけ変質者よりタチが悪いぞお前!」
「冬継くんはどんなときでもボケを忘れないから好きよ」
「ボケはお前のほうだ!」
本当にやりそうだから本気でタチが悪い。全裸で人の布団にもぐりこんだ姿が、未だに脳裏
からは消えていないのだ。
しかし――なんとなく、懐かしいやり取りだ。
こういう、馬鹿な話。
よく考えれば、如月更紗とこういう会話をするのは、もう一週間ぶりくらいになる。最後に交わしたのが
僕の部屋の中で……それからずっと、神無士乃に監禁されていたからな……。
――神無士乃。
そうだ。
そのことが――あるんだ。
明瞭させなければならない。楽しいやり取りをする前に。
全てを。
「――如月更紗」
僕はもう一度、彼女の名前を呼ぶ。きっと、一瞬前とは表情が変わって見えただろう。
ふざけあうのは……一時、おあずけだ。
それがわかったのか――あるいは、最初からわかった上で、馬鹿な会話へと話をそらしていたのか。
如月更紗は、つぅ、と唇の端をあげた。
笑っている。
月光の下、如月更紗は、僕を見て笑っている。
「何かな――冬継くん」
きしり、と。
フェンスが鳴った。如月更紗が体重を後ろのフェンスにかける。きしり。音が鳴る。
心のどこかが、きしむ音が聞こえる。
「そんな、物騒なものを持って。まるで私のように物騒なものを持って」
幽かに視線をそらし、如月更紗は僕の右手を見た。右手に握られている、魔術短剣を見た。
物騒なもの。
彼女が持つ鋏のように、物騒なもの。
神無士乃の首をはねたモノのように――物騒な、武器。
それを持ったままに、僕は言う。
彼女に、問う。
「お前は――――――――――誰だ?」
他の方と投下が被ってるので、中途半端ですが続きは明日に投下します。
話数はまだ途切れてません。
>>330 この作品でボケとつっこみが見られるなんて思わなかった。超GJ!!!
明日の続きも楽しみに待ってます。
修羅場スレでNGIDにしたヤツがこっちでも暴れててフイタwwwwww
ついでに言っとくけれど、阿修羅氏もここの保管庫の中の人も管理放棄してねーよwwww
更紗分補給完了ー!
期待と不安が綯い交ぜになってまいりました。
てことで今夜wktk
あ、今夜じゃなくて明日か(´・ω・`)
336 :
名無しさん@ピンキー:2007/07/19(木) 07:39:08 ID:GjboZ9Yl
>>336 パクリまで出てくるとは……。
ヤンデレ長門は人気だな。
>>296 他にこんな感じのいい曲ってないのかな?
個人的にはCoccoとか好きなんだが
投下。短め。
会社でふたり。僕と先輩はたまたま同じタイミングで廊下に並んだ。
「……どうも」
「…………どうも」
僕はできる限り目を逸らして声をかけるが、対する先輩は思いっきりこっちをガン見。ガンガン見ている。もちろん月刊の雑誌ではなく、物凄くこっちを見ているという意味。
視線は確実に僕のほうへ向いていた。穴が開くように見つめている。目を逸らしていても、先輩の焼け付くような視線は感じ取れる。
ああ、先輩。でもこれも先輩のためです。
「じゃあ」
「あ……っ」
僕は曲がり角で先輩と別れる。僕が何も話さず離れていくことで先輩は残念そうに声を漏らした。先輩のそんな感情の声を聴くのは久しぶりだ。しかし、僕は振り返らない。
先輩のためなんです。自分の心の中で何度も先輩に訴えかける。だって、今時一日二日逢えないだけで情緒不安定になるってどんな中学生カップルですか。先輩26ですよね?
逢えない時間が愛を育てるんですよっ。
……まぁ、本音は僕の体力が持たないからってのもあるんだけどさ……。
先輩にはこれを機会に、性欲を抑えるっていうことを覚えてもらわないと。
昨日電話して、二人で会話したときに一生分の「大好きだから」「愛してるから」を聞いちゃっているんだよなぁ。
それにしても。先輩、よっぽどイラついているらしいなぁ。
先輩の部下である僕の同僚に聞いたところ、先輩はまがまがしいオーラを職場中に放っていて、うっかりお茶をこぼしたドジっ子めぐみちゃんに800円投げつけてDSを買いに行かせるというリアルに痛い罰を施行したらしい。残りの16000円は自腹ですか?
まぁ、先輩もしばらく時間を置けば落ち着くだろう。どう足掻いても僕は距離を置くし。
「さてと、ご飯食べに行くかー……」
着信47件。ディスプレイには先輩の名前がずらり。
昨日よりも酷いなぁ。僕はまた鳴り始めた電話を取る。
「ただいま、先輩」
『出た…? 出た! 出た! 出た!!』
出ただけでそこまで興奮しないでください。宝くじじゃないんですから。
「先輩。かけすぎですよ。僕の着信履歴が全部先輩で埋まっちゃったじゃないですか。」
『えへへ。いっぱいかけたからねぇ』
得意げに笑う。
「もう……」
『ねぇ、みぃーくん』
電話越しに聞こえる先輩の声はとても楽しげだ。そりゃそうだ。先輩にとって、この甘い口調で僕と話が出来るのはこの電話だけなのだから。
「なんですか?」
『好きって言って』
「またですか」
僕は電話を肩と首に挟みながら、台所の冷蔵庫を開ける。ぺたりと冷蔵庫からスライスチーズが落ちてきた。それをひろって、冷蔵庫の棚に戻す。
「昨日、一生分の好きを言いましたよ」
好き、大好き、愛してる、電話をとってから僕が眠りに着くまで、先輩と僕との電話での会話ではこれらの言葉が三分に二回のペースで出ていたのだ。
『昨日は録音し忘れてたの』
……は? 僕はまたスライスチーズを落とす。ぺたりとフローリングの床に黄色くて四角いチーズが広がる。
「録音…ですか」
『うん。みぃーくんの愛の囁き。今日はみぃーくんの電話越しから聞こえる美声をぜーんぶ録音するの』
「………」
『だってみぃーくんがそばに居ないから。みぃーくんが寝ちゃったら私、どうやってもみぃーくんを感じられないじゃない』
先輩……。
僕はチーズを拾って、もう一度冷蔵庫の棚へ戻す。
『あ、そうだ。ipodに入れちゃえば通勤中でも仕事中でもみぃーくんの甘い囁きを聞けるね。じゃあ、パソコンでデータにしないと……。ちょっと待っててみぃーくん……マック立ち上げるから……』
ごそごそと動く音が聞こえる。電話越しに聞こえる衣擦れの音とジャーンというパソコンの起動音。その後にはコードをつなげているらしいガチャガチャとした端末口を弄る音が混じる。
かちり、かちり。クリック音。そして、先輩の荒い吐息がはぁはぁと受話器から僕の耳へ。心なしか先輩の呼吸が荒くなってきたような気がする。
「先輩、先輩っ。先輩!」
『できたっ。じゃあ、みぃーくん。まずは基本で「愛してる」と「大好き」からお願いね』
そんな可愛く言わないでください!
「なにやってるんですか! 先輩。なんのために僕が先輩と距離をとってると思ってるんですか!」
先輩に自制の心を持ってもらうためだ。
『ああっ。罵声もいいなぁ。あとで編集で繋げるね。みぃーくん、「愛してる」。言って』
しかし、先輩。何故か楽しげにえへへへと返すだけだ。
「先輩!」
『あ・い・し・て・る。 言って♪』
だめだ。聞いてない。
「もう! 先輩。もう電話は禁止です!!」
『えっ!?』
エッチを自制するための期間なのに……。
テレホンセックス以上のことしちゃったら、意味がないでしょう!
「それじゃあ!」
僕はコードレスの受話器を持って、赤いボタンを押して通話をきった。スライスチーズがまたおちたがもう無視した。
RIRIRIRIRI。
すぐさま鳴る呼び出し音。僕は電話線を引っこ抜くと、シャワーも浴びないままベッドにダイブした。
(続く)
以下次回。
>>342 gj! 先輩がさらに暴走気味なのも、またいい感じです
>>342 乙です。
危険なフラグをどんどん立てる主人公が素敵だぜ。
先輩がこの先どうなるのかオソロシス
遅くなりましたが続き投下します
その質問に、如月更紗は、微笑んで。
嬉しそうに微笑んで、言葉を紡ぐ。
「おや、おや、おや――どこかで聞いたような言葉ね、どこかで聞いたような言葉だわ」
「……そうだな」
彼女に言われてようやく僕は思い出す。奇しくもそれは、如月更紗が僕の部屋へと忍びこん
だあの朝に、彼女に向かって問いかけた言葉だった。
お前は誰だ、と。
あのときは、彼女の『二つ名』を知らなかったから。狂気倶楽部での立ち居地を知るために
訊ねたのだ。お前の二つ名は何だ、という意味で。
今は、違う。
お前は如月更紗なのかという意味で、僕は問うたのだ。
同じ言葉でも――意味が違う。
それがわかっていて、如月更紗は笑っているのだろう。思い出すように。思い返すように。
懐かしい記憶を。
「あのときは……はぐらかされて、答えは聞けなかったな」
そうだったかしら、と如月更紗は首を小さく傾げた。とぼけているのか、本当に忘れている
のか、それとも知らないのか。その態度からでは判然としない。
彼女が彼女であるのなら、きっととぼけているのだろう。
僕の知る如月更紗は、そういうやつだ。
にやにや笑いを浮かべたままの如月更紗へと、僕は一歩だけ、脚を進めた。月に照らし出さ
れた影が、如月更紗に近づく。右手に握った短剣が、月光を反射して輝いていた。
如月更紗は、何も言わない。
物騒な様相をした僕を見ても、何も言わない。逃げようともしない。
待っているかのように。
ただそこで、笑っている。
嬉しそうに。
嬉しそうに、笑っている。
その笑みから、視線をそらすことなく、僕は言う。
「返答次第では――僕は、お前の敵に回らなくちゃ、ならない」
その問いに、如月更紗は肩をすくめた。制服の襟口から覗く鎖骨が浮いて見える。月光のよ
うに白い肌に、一房、黒い髪が雨のように流れている。
肩を竦め、笑ったままに、如月更紗は答える。
「私は私さ、私は私だよ、冬継くん。如月更紗。それとも、もう一つの名前で名乗ったほうが
いいかい?」
もう一つの名前。
狂気倶楽部の中での、二つ名。
狂った芝居の中で、彼女が演じる役。
――マッド・ハンター。
イカレ帽子屋にして、狂った首狩人。
――違う。
それは違う、違うんだ如月更紗。僕はそんなことをお前に聞きたいんじゃない。そんなこと
を訊ねるために、そんなことを確認するために此処まできたんじゃ、ないんだ。
僕は、
ただ。
「……言い換えようか、如月更紗」
「……?」
わからないわ、と言いたげに首を傾げる如月更紗。とぼけようとしているようにしか見えな
かった。とぼけたいのだろう。
如月更紗は、きっと、僕が何を言い出そうとしているのか、勘付いている。
勘付いているから――そちらへと、話をもって行こうとしないのだ。
それは、向こう側へと踏み込むことだから。
一方的に僕の方へと踏み込んできていた、如月更紗の方へと、逆に僕が踏み込むことだらか
ら。踏み込んでしまえば、もう、戻ることはできないから。
――構うものか。
戻るつもりは……もうない。戻る場所も、もうない。
あるとすれば、如月更紗。
――お前の側くらいだ。
恥かしい台詞を口の中で押し殺して、代わりに、僕は言う。
彼女に対する、最大の疑惑を。
「神無士乃を殺したのは本当にお前なのかって――そう訊いてるんだ」
如月更紗は、即答した。
「なんのことか、なんのことだかわからないね冬継くん。わかられるように説明してくれない
かな」
「呂律が回ってないぞ」
「酔いが回ってるのよ」
「お前未成年じゃなかったのか!?」
クラスメイトである以上、同い年のはずだぞ。
それともまさか、五年以上留年してるのか……?
一瞬本気で悩んでしまった僕に対し、如月更紗はにやにや笑いを深めて、
「貴方の瞳に酔ったのよ」
「…………」
ボケか。
ここまできてボケるか。
どうあってもシリアスに持っていきたくないらしい……いや、ある意味それも如月更紗らし
いというか、僕ららしいと言うのだろうか。よく考えれば、あの時だって、あの時だって、シ
リアスの真っ最中にこいつは下ネタとボケを飛ばしてきていた。
シリアスの最中ですら――よくある日常だと、態度で彼女は表していた。
こんなことは、いつものことで。
いつものように、やるのだと。
――なら。
如月更紗、それがお前のやり方だと言うのなら。
僕は、それに付き合ってやる。
どこまでも。
「……もう一つの名前、か」
「そう、そうね、そうだわ。狂気倶楽部の最古参、狂った狩り人してイカレた帽子屋――」
「あるいは」
彼女の言葉を遮るようにして、僕は言う。
如月更紗の家で読んだ、あの絵本を思いうかべながら。
僕は、言う。
恐らくは――それこそが、彼女に対して核心となる言葉だと信じて。
「ハンプティか? それとも――ダンプティか?」
「――随分と」
今度もまた、即答だった。
微塵の間もあけずに、如月更紗は即答し、即断する。彼女の表情は変わらない。顔にはりつ
いたにやにや笑いは変わらない。それでも、この短い期間の付き合いからでも、彼女が焦って
いるのがわかった。
少なくとも――揺れている。
平常心じゃ、ない。
それでも笑みを浮かべたままに、如月更紗は言葉を続けた。
「懐かしい、懐かしい、懐かしすぎる、名前を言うものね」
「懐かしいのか」
そうね、と如月更紗は頷いた。
そうして、さらりと彼女は言う。
「それは、私が『マッド・ハンター』になる前の名前だから」
マッド・ハンターになる前の名前。
三月ウサギが代替わりするように。
狂気倶楽部がごっこ遊びである以上、役柄は、変わりゆく。
姉さんは、三月ウサギだった。
如月更紗は、マッド・ハンターだった。
――なら、その前は?
姉さんは、三月ウサギになる前は、ただの姉さんだった。新人である姉さんは、三月ウサギ
から始まった。
最古参である如月更紗は、違った。
マッド・ハンターになる前に、違う役を、経験していた。それがどんな役なのか、いくつの
役を演じてきたのか、僕にはわからない。それでも、マトモな人間がいない狂気倶楽部の中で
、役代わりは頻繁に行われてきたはずだし――如月更紗が演じた役のうち、少なくとも二つは
、はっきりしている。
ひとつは、マッド・ハンター。
そしてもう一つが――ハンプティか、ダンプティだ。
あの絵本を読んで、確信まではいかなくとも、その可能性に思い至ったのだ。
「……どうして」
如月更紗は。
笑いを浮かべたままに――それでもどこか、それは僕の気のせいなのかもしれないけれど、
泣きそうな顔をして――消え入るような小さな声で、僕に言ってくる。
「どうしてなのかな。冬継くんが、どうしてそんなことを知っているのかしら?」
「お前と同じだ。ここに来る前に、お前の家に寄らせてもらった。あれを家というのなら、だ
けどな」
「不法侵入は立派な犯罪ね」
「お前にだけは言われたくないな!」
玄関から侵入して窓から逃げてったお前にはだけは言われたくないな!
……。
そういえば、僕の家一週間も留守にしとておいてよく泥棒に入られなかったな……まさかあの
あと如月更紗が戸締りでもしてくれたのか……?
今更疑問が思い浮かぶが、とりあえずは後回しにしておく。確める機会があるとは思えないが、
まあ、確める必要もないだろう。
「自首することをお勧めるよ冬継くん」
「その時はお前も道連れだな!」
罪状で言うなら、間違いなく僕よりお前の方が多いぞ。
……その時は、狂気倶楽部まるごと芋蔓式に捕まるだろうけれど。
ん……そうか、だからか。如月更紗があの時言っていた、遺書を書くのと外側を巻き込まないと
いうのは、何かがあったときに自分ひとりで物語を完結させるためか。
仲間でありながら、横の繋がりは存在しない。
いつ死んでも、いつ殺されても構わない、閉じた輪。
――狂気倶楽部。
「…………」
実際――姉さんの死も、少しも話題にはならなかった。多感な少女が自殺しただけ。それだけで、
すべては片付けられた。その奥にあるものについては、何一つとして明るみにはならなかった。
明るみにしてはならないことだから。
それが――狂気倶楽部の、掟だから。
……なら。
今更にして、僕は思う。なら、と。
――神無士乃の場合はどうなる?
あいつは、狂気倶楽部のメンバーじゃなかった。遺書を用意していなければ、横の繋がりがあるわ
けでもない。家族もいて、多少歪でも普通に生活に生活していた、一般人だ。彼女が殺されたら――
何かしら問題が起こるんじゃないのか?
そんな疑問が、頭に浮かぶ。
それは先の泥棒の件とは違い、さらりと流してはいけないような気がしたが……どの道、今の最重
要目的は、如月更紗以外にはありえない。
僕はまた一歩、如月更紗へと近づく。目算で、あと五歩。五歩もあるけば、如月更紗に手が届く。
彼女が逃げない。
じっと、ずっと――僕を、待っている。
「お前の家で読んだんだ。『ハンプティとダンプティ』の話を。あれは――」そこで僕は言葉をくぎり、
一度大きく、息を吸って吐いた。言葉を出すのには、覚悟がいった。ゆっくりと、意識してゆっくりと
くぎるように、僕は続ける、「あれは――実話なんだろう?」
「そうさ、そうね、そうだとも」
あっさりと。
呆気にとられるほどにあっさりと、如月更紗は、僕の言葉を首肯した。
「狂気倶楽部には一つの伝統があってね。自分たちの物語を、自分で絵本にするというものさ。こちら
は強制ではないが……喫茶店グリムの地下には、本が山と並んでいるよ」
「メンバーの数だけ、か」
「かつていたメンバーの数だけ、よ」
いなくなってしまった人の、
失われた物語。
自身の手で――綴られた、絵本。
狂気倶楽部の、物語。
そして、如月更紗は。
「私の父も――本を書いたわ。狂気倶楽部の一員として、『ハンプティとダンプティの物語』を」
笑みを、消して。
ずっと浮かべていたにやにや笑いをかきけして、どこか困ったような、どこか寂しげな表情をして、
僕の疑惑を肯定する言葉を吐いた。
けれど、僕は。
「…………」
何を言い返すこともできずに、沈黙するしかなかった。
――父親?
父親……だって?
あれが彼女たちを描いたものだとは思っていたが、まさかそこまでとは思っていなかった。てっきり、
如月更紗自身が描いたものだと思い込んでいた。それが父親が書いたもので――しかも、父親すら、狂気
倶楽部の一員だって?
そんなの……筋金入りじゃないか。
血統のような。
連綿と続く、狂気の血統。
狂気の子は――また狂気。
そういう……ことなのだろうか?
はぁ、と、困惑する僕に対して、如月更紗はやるせないため息を吐いた。わざとらしく肩をすくめ、
やけに明るい声で、
「困ったものだよ、困ったものだわ、本当に。冷蔵庫の中は見たかしら?」
「…………」
「見た、って顔に描いてあるわよ」
「……ああ、見た」
見た。如月更紗にどこか似た、女性の生首が――入っていた。
頷く僕に対し、如月更紗は、からかうような笑みを再び顔に浮かべ、
「あれが私たちの母で……同時に、父の妹なのよ」
まったく困ったものだわ――と。
そう、繰り返した。
至極当たり前のように、繰り返した。
「…………」
母親。
……妹?
如月更紗の言葉を素直に受け止めるのなら、彼女は、実の兄妹から生まれた近親相姦の子ということになる。
言うまでもなく、常軌を逸している。
日常から、遠く乖離している。
狂気。
狂気――倶楽部。
「…………」
一体……どこまで根が深いんだ? どこまで辿れば、原因に辿り着く?
なにがおかしいのか。
誰がおかしいのか。
そんなことすら――わからない。
狂っている。
はじめから、狂っている。
はじまる前から、狂っている。
「ま、」
ぐるぐると、遠退きかけた僕の思考を呼び戻すかのように、如月更紗はさらに明るい声を出した。
その声に、意識が引き戻される。揺れかけていた焦点が、再び彼女に向けられる。
……しっかりしろ。
今は――考える必要の、ないことだ。
「考える必要のないこと、よ。それはそれで、また別のお話なのだから。それは私の物語でもなく、冬継くん
の物語でもなく、ましてや貴方のお姉さんの物語でも三月ウサギの物語でもない、また別の物語なのだから。
今は――」
「――そうだな、今は」
僕は如月更紗の言葉を受け継ぐようにして、言う。
頭に思いうかべるのは、あの部屋のこと。あの部屋で見た全て。廃墟とかした家。少女趣味な部屋。生首。
――二段ベッド。
そして、『ハンプティとダンプティ』の物語。
――『ハンプティとダンプティの双子が、そのお茶会に加わったのでした。』
その全てを、頭の中で反芻しながら。
僕は、言った。
「神無士乃を殺したのは、如月更紗じゃない。お前の――――双子の姉妹だ」
その通りだよ、と。
どちらともつかない彼女は頷いた。
ずっと感じていた、些細な違和感の正体を。
「一晩休んでゆっくり思い出してみれば……お前は僕のことを、冬継くんって呼ぶんだよ」
あの時。
神無士乃に地下室で監禁されていた時、僕を助けにきた――というよりも、神無士乃を殺し
にきた彼女は、僕を見てこう言った。
――里村くん、と。
違和感は、それだった。それだけだった。たった小さな、呼び方という違和感。冬継くん、
と名前ではなく、里村くん、と苗字で呼ばれたこと。
些細なことだ。
けれど、違和感を感じずには言われなかった。僕が決して、一度として、如月更紗のことを
フルネーム以外で呼ばなかったように、姉さん以外の誰かをフルネーム以外で呼ばない僕にと
って、呼び名というのは常に無意識を払っているものだったから。
加えて、『里村くん』だと、如月更紗が呼ぶ場合には、姉さんまでも含まれてしまう。
だからこその――違和感だった。
「成る程、成る程、成る程ね。呼び名の違いは、ミステリィの基本だよ――よく気付いたわね
、冬継くん。それとも本当に褒めるべきなのは、そんな些細な違和感を信じて行動したことか
しら?」
「……さぁな」
僕は嘯く。本当のことを言うつもりはなかった。これだけは、口を閉ざしておくつもりだっ
た。
確かに、違和感を感じたのは本当だ。
きっかけになったのも、事実ではある。
けど、僕はそれを、信じたわけじゃない。そんなことを信じて行動したわけじゃない。
ただ、信じたかっただけだ。
如月更紗があんな殺人を犯すような人間でないと――――信じたかっただけだ。
「…………」
恥かしいから、絶対に言わないけれど――もしも言ってしまったら、この先一生からかわれ
るのは目に見えているので、それこそ墓の中まで持っていくつもりだけど――結局のところ、
僕は如月更紗を信じたかったから、信じるための証拠を探しに、こいつの家までわざわざ脚を
運んだのだ。
何かないかと、探すために。
結果として十分すぎる何かは見つかったわけだけれど……それは結果論にしかすぎなくて。
ようするに。
あの時点で、僕は。
どうしようもないほどに……如月更紗に、心を奪われていたのだ。
ただ――それだけなんだ。
「…………」
……。
…………。
口が裂けても言えないなこんなこと……今にして思い返せば、思いっきりバカップルみたい
な発想じゃないか、これ。妄信的にも程が有る。『恋人のことなら何でも私信じるわ!』なん
て、大昔のラブコメじゃあるまいし、まさか自分がそんなことをやりだすとは思いもしなかっ
た、というか今でも思いたくない……。
妄信的な愛。
狂信的な愛。
そうなのかもしれないし、そうじゃないのかもしれない。僕はひょっとしたら異端で、如月
更紗は間違いなく異端だけれど――だからこそ、真っ当な恋愛がしたかったと、それだけなの
かもしれない。
自信なんてなかった。双子だという突拍子もない説を、心の底から信じていたわけじゃない。
今だって、信じているわけじゃない。
信じたいだけなんだ。
如月更紗に、人殺しをしてほしくなかったから。
如月更紗を、復讐の対象にしたくなかったから。
それだけ――なんだ。
それだけの、ことなんだ。
「……だから訊いたんだよ、お前は誰だ、って。少なくとも見かけだけじゃ、双子の姉妹なんて
僕には判別がつかないからな」
「そこは愛の力で」
「できるかよ、そんなの」
「そこはエロの力で」
「それができるのはお前だけだ露出魔!」
「つまり――脱いで証明しろということだね?」
「いつ! 誰が! 脱げって言った!?」
「前世からの運命で、冬継くんが言うことは運命づけられていたのよ」
「一山いくらなメンヘラみたいなこと言ってんじゃねえ! いつからお前は運命論者になったんだ!?」
「ふ、ふ、ふ、」
と。
今時聞くのも恥かしいくらいに典型的な笑いを如月更紗は言葉で表現した。笑っているというよりは、
ただ単純に、笑うという声を発したようにしか聞こえなかった。
「運命を信じたくもなる、運命を信じたくもなるわよ――だって、まさか」
そうして、如月更紗は。
僕を見上げて。
「冬継くんの方から、私の方へ歩み寄ってきてくれたのだから。運命ですら、信じたくなるものよ」
嬉しそうに――母親に褒められた子供のように――にやにや笑いとは似てもつかない、純粋な笑みを
浮かべたのだった。
以上で投下終了です。
……正規ルートをふっとばしていきなり裏ルートに突入したような、早いネタバラシでした。
A1に進んでいた場合当然の如く死亡フラグが。しかし物語的には(ヤンデレ的にも)やっぱりそちらが正規ルートで。
というわけで、裏ルート兼如月更紗ルート突入となります。
無事エンドを迎えるまでにはもう一波乱、最後の障害が。
最後までお付き合いいただけたら幸いです。
>>336 見てたらヤンデレ長門で長編を書きたくなるな……
>>伊南屋氏
春香姉さんの絵になんともいえない感慨を感じつつ
戯言パロの洒落にならなさに吹きました
>>355 リアルタイムで読めた! 感謝!
真実に驚愕、でもそれ以上に更紗切ないよそして可愛いよ更紗。
あと冬継君のデレっぷりに萌えたw
一番海苔GJ!
まさか双子とは……この展開は予想GUY。
そして来るべき最後の障害にwktkが止まらないっ!
GJ!
これからバイトだからあんま多くは語れませんが、兎にも角にも続き期待させて頂きます。
>>355 GJ!
裏ルートだろうとかまうもんか二人には幸せになってほしい。
でも前回の選択肢といい今回といい
スレ住人のほとんどは更紗ルートまっしぐらだったなw
俺の中でヤンデレのハシリは勝手に改蔵の羽美
羽美にはデレがないぞ
最後の最後で手を繋いでたじゃないかぁ!
>>355 いやあ、これは先にA1ルートを見ていたらもっと驚きがあったかもしれない展開ですね……。
ルート突入を機に今までの作品振り返させていただいたんですけど、伏線の張り方が凄まじいですな。お見事です。
……いや、更紗の妹の事についても何者かが見えてきましたし。
ここで終わったあとのお茶会のアレが絡んでくるんですか。
>355
毎回GJ!!
俺も「いない君といる誰か」は更紗派で違いないんだが、最近読みなおしたら佐奈さんに惹かれる今日この頃。
ということでBルートにも密かに期待。
しまったアドレス変えるとタイトル表示されないのか。
タイトルはそれぞれ
如月更紗/クビキリゴッコ
ヤマネ/クビシメゴッコ
グレーテル/クビツリゴッコ
となります
>>366 病んだ感じの目が(・∀・)イイ
特にヤマネ
昨日分を投下。
仕事を終えて、我が家へ帰ってくると。
僕の部屋の前に、先輩が居た。ドアに体をもたれさせて、僕の帰りをずっとずっと待っていたようだ。
「みぃーくん……」
「先輩……」
先輩はスーツ姿で、長い黒髪を纏めもせず垂らしたまま、出入り口である階段のあたりをじっと見つめていたようだ。
僕の姿が見えた途端、この世の終わりのように沈んでいた顔がぱぁっと明るくなる。ころころと変わるサイコロのような変化。
「やっと。やっと帰ってきたんだねぇ。おかえりぃ」
「た、ただいまです」
先輩はゆっくりと立ち上がる。そしてふらりふらりとこちらへ寄ってきた。足元はおぼつかず、僕のほうを見ながら少しずつ少しづつ距離を縮めてきて。
「みぃーくんんんっ」
はぐぅっ。
両手を広げて、大きくハグされたのだ。
「わっ。先輩!」
「ひさしぶりぃ。みぃーくんの温もりだぁ……。すっごいよぉ……」
まるで、薬物常習者のように意識が飛ばした囁き。先輩の体が僕に向かって押し付けられる。胸、腰、腕。僕の匂いを自分にこすりつけるように蠢く先輩の体。
「酷いよぉ、みぃーくん。電話も禁止だって……本当に出ないんだもの。私、あの後なんにも考えられなくなっちゃったんだよぉ……」
僕の肩に鼻と口を押さえつけて、すーはーすはーくんかくんかくんかくんかと汗を吸うようにぐりぐりとする先輩。
「みぃーくんみぃーくん。みぃーくんの汗のにおい……すっごくいいよぉ。」
まるで、なにかにとりつかれたように囁きながら、僕の体に体重を乗せていく。
「先輩。先輩っ!」
僕は慌てて声を出して。先輩の肩を掴み、体を離した。先輩の体は軽く、僕の行動にも抵抗しなかった。いや、肩をつかまれたことにより別のことを期待したようで。
「んー〜……」
「唇を突き出さないでください」
僕は先輩を離すと、先輩はふえぇぇと崩れ落ちた。僕と逢って安心して脱力したよう。ふにゃふにゃ笑って、こっちを期待を込めた目で見つめる。
潤んだ瞳と赤く染まった頬。口元は儚げに揺れてとろんとした桃色の唇から一筋の液体がたらりと流れていた。
「先輩。大丈夫ですか?」
「えへへ。みぃーくんに逢えたら、安心しちゃった……」
「とりあえず、ここ廊下ですから。廊下で抱きつくのは止めてください」
「うんっ」
僕が手を伸ばすと、先輩はそれを掴み体を起こす。先輩の手は強く握られ指の一本一本まで絡められる。
「えへへ。入ろう。これから逢えなかった分。全部返してもらうから♪」
もじもじと何かを期待するように下腹部を抑えながら、僕に向かって期待した目で微笑む先輩。頭の中では、今からこの部屋に入って、僕を押し倒しうにゃんうにゃんする映像が流れてるに違いない。
しかし、僕の返す言葉は決まっている。
「は? 何言ってるんですか。禁欲期間は今日までですよ?」
「え」
先輩がはとが豆鉄砲を食らったような顔になる。そして、明らかにわかるほど狼狽し始めた。
「先輩。3日間逢わないって言いましたよね。今日は金曜日ですからその三日目ですよ」
「………いやいやいや」
先輩。ないないといった風な顔は止めてください。
「だから、明日です。明日で終わりですよ」
「……じゃじゃあ。日付が変わるまであと3時間だからっ、それまで待つわ!」
「ダメです。ちょうど3日間、72時間だから明日の夜までですよっ」
「そ、そんなぁ」
本当は別に今日でもよかった。しかし、先輩のこの禁欲期間に対する意図をわかってもらえないことには、この3日間の意味がないのだ。
だから、僕は心を鬼にして言っているのだ。けして見ずに溜めていたAVを消化するのに間に合わないのが理由だからでは無いっ。……本当だよ?
「ねぇ、今日でもいいじゃないっ。もう私、今日で終わりだと思って……我慢に我慢を重ねてるんだからぁ!」
先輩の瞳からぽろぽろと涙が溢れていく。心が痛むが、これも今後の関係のためだ。
「ダメですよっ。先輩、それよりも何のためにこの禁欲期間を設けたか、先輩はわかってます?」
「……同僚から聞いたわ。何日か溜めたほうが極上の気持ちよさになるって!!」
焦らしてるんじゃないんですってば!
「だから、いっぱいいっぱい我慢したよ! それに普段恥ずかしくて出来なかったことも使用と思って、いっぱい持ってきたのに……!」
い、いっぱい持ってきたって……。
「ムチにローソクにロープにラップに動くアレにぬるぬるするヤツに妹の電話番号に……」
最後のは何に使うんですか! というか誰の妹ですかそれ!?
「……えへへ。ねぇ、みぃーくんは姉妹丼とか興味あるかな?」
「やめーい!」
さすがに、僕も我慢の限界だ。先輩の手を振り切るっ。
「先輩! いい加減にしてください! こうなったらもう一日追加です!」
「ええええ!」
「期間は明後日、日曜日まで延長ですっ。いいですね!」
「そんなぁっ。みぃーくん、勘弁してよっ! 私、もうだめなのぉ! みぃーくんとエッチしたくてしたくて、ほら! 見て、ここ!」
先輩がスカートをたくし上げる。露わになる先輩のショーツ。縞々のショーツはぐっちょりと濡れていて、溢れる涙と同じように湿らせている。
しかも、その三角の先端部分はなにかを仕込んだかのようにぷくりと膨らんでいて、心なしかぶぶぶぶぶと音を立てて振動しているような……。
「ダメです! ダメですっ! ダメですっ!! おやすみなさい!」
僕はすばやく体をひねり、自室のドアを開ける。そして、すばやく閉めて鍵をかけた。
「みぃーくん! みぃーくん! みぃーくぅぅぅん!!」
ガンガンとドアを叩く先輩。僕は心を鬼にして全力で聞こえないフリをする。
先輩の声はしばらく響いたが、やがてダメだと悟ったのか。先輩の声は止み、静かになった。
「……先輩」
もしかしたら、先輩とはもっと距離をとったほうがいいのかもしれない。
(続く)
以下次回。
エロス
374 :
名無しさん@ピンキー:2007/07/21(土) 12:41:28 ID:Gzqk6ITQ
主人公フラグ立てすぎワロタ
>>371 GJ! そしてワロタ
姉妹丼すら提供する先輩もすごいが、みぃーくんが
先輩に放置プレイを強いるSに見え
そして自分への欲求を求めているMにも見え
>>372 GJ!
好き好き言って来る女の子から逃げ回ってた小学生の時の快感を思い出した
今思えばあの時代が俺の頂点・・・
超絶GJ!!
主人公フラグ立てすぎワロタwww
先輩の壊れっぷりににやにやしながら次回を待ちます。
来世があるさ・・・
監禁フラグ達成率95%ってとこか
とうかします。
さてと。僕は自宅のベッドに転がって天井を眺める。時刻は午後6時。夏場だからいくらか明るい外もそろそろオレンジ色に染まり始める。
昨日の先輩の襲撃事件があって、一日あけた今日。僕は平和的な一日を過ごしていた。
一日中寝っころがってテレビを見て、洗濯をして、ゴロゴロして。うん、とっても健康的で堕落した休日の使い方だ。一切家から出ることなく、僕は一日を終えようとしているのだ。
だから。先輩とは一切逢っていない。たとえ、先輩が玄関のドアのすぐ傍にいようとも。
「せーんぱい。そろそろいいかげん帰ってくれませんか?」
「帰らないもん!」
玄関の向こうから聞こえる先輩の声は、あいも変わらず切なく寂しそうだ。
そう。先輩は昨日の夜襲撃して来てから一夜明けて、昼を過ぎてそしてこの今まで。ずっとこの玄関の前に張り付いていたのだ。
朝、コンビニへ行こうと玄関を開けたら驚愕したもんな。この玄関前の砂とほこりが舞う廊下で先輩が横になって寝ているんだもの。
覗き穴から覗いてみると、着のままのスーツと中に何かが仕込まれていたスカートを砂だらけにして、涙で腫れた瞼を閉じて時折口元で「みぃーくん……」と呟きながら僕の部屋の前を占領している先輩。
びっくりして思わずドアを閉めて、普段かけないチェーンも思いっきりかけたよ。
そして、思いを振り切るように眠りについて(嫌な夢を見た)、昼ごろ、僕はそろそろ帰っただろうと覗き穴を覗いてみると……。
まだ居るのだ。玄関前で体育座りをしながらずっとずっとまるで暗闇の中で明かりがそこにしかないように、僕の部屋のドアを見つめていた。
起きている。だが、意識はどこへ居るのかわからない。虚ろな表情でただじっと僕の部屋のドアを見て、パクパクと口を動かしている。
僕が少しだけ、ドアノブを動かしてみた。鍵をかけたまま、ドアノブを少しだけ捻る。
かちゃ……。
瞬間。
「みぃーくん!!」
瞬間。先輩はまるで先ほどとは別人のように跳躍し、驚くべきスピードでドアノブを掴み思い切り力を入れてがちゃがちゃと開けようとひねる。
が、鍵をかけてあるので、一向に開かない。
「……みぃーくん……みぃーくん……」
先輩はドアノブを話すと、絶望にうちしがれたような表情を浮かべて、へなへなと脱力した。
もう一度、少しだけドアノブを動かしてみる。
「みぃーくんっっ!!」
その反応だけは、何よりも早かった。またもや、掴まれる玄関のドアノブ。そしてがっちゃがっちゃと勢いよく動き……。
「……そんなぁ……」
またもや静かになる。
……怖い。僕はすこしだけ動かす度に、すぐさま開けようとする先輩の必死さに恐怖を覚えた。触ると動く。おもちゃだったら面白いけど、これがこんな状態だったらどうやっても楽しめない。
「先輩」
あまりの異常さに、僕はドア越しに声をかけたのだ。
「みぃーくん! お願いだから開けて! なにもしないから、なにもしないから、なにもしないから!!」
先輩の口から飛び出すのは「なにもしないから」という言葉だけ。どれだけ必死なんだ先輩は! たかだか4日間じゃないかっ。
「ダメですっ! 明日入れてあげますから! だから今日はもう帰ってください!」
「お願い、お願いよぉぉぉ……」
先輩のか細い声に僕も良心が痛めつけられる。
でも、開けてはいけない。昨日までは先輩のためと自分のためを思って開けなかった。しかし今日の様子は昨日と違う。
「ねっ? もうエッチもしないから。なにもしないから。ただみぃーくんの顔だけ眺められたらいいから。だから、一緒に居させて……。私を拒絶しないで……。見捨てないで……」
危険。この二文字が僕の脳内に浮遊し赤い光を放ちながらワーニングワーニングと警告音を鳴らしているのだ。
もはや、命の危険とも同じぐらいの危機感。 あ、いや、毎日の先輩とのエッチでも何度も命の危険は感じてたけど、それとは比べ物にならないぐらいの恐怖と異質さ。
「…………」
どうする? 今開けるか。それとも明日開けるか。
どっちが一番安全だろうか?
今開ければ、まだ間に合うかもしれない。エッチも30回ぐらいでギリギリ勘弁してくれるかも……(それに明日日曜だし)。
いや、先輩の体力も限界はある。明日なら、先輩の体力も落ちてむしろ最小限被害でいい方向へ転がる可能性も……。
そのとき。
RIRIRIRIRI
「電話だ……」
僕は受話器を取る。
「もしもし……、あ。課長」
電話の主は課長からだ。
「はい、はい、はい、え……?」
……緊急の仕事? 今から課の仲間を全員集めてミィーティングをして、すぐさま大阪に行くことになった? 休日出勤で悪いが、いますぐ支度をして会社に来てくれ……?
「はい、わかりました……」
……電話が切れる。課長はかなり慌てた様子だった。しかし、大阪まで行くって、なんて突然に。
でも何日かかるんだ? 明らかに泊りだって言ってたし。それよりも……。
「……先輩をどうしよう……」
さてと。ここで問題。どうせ休みだから篭城するつもりだったけど、この家から出ざるをえなくなった。
しかし、玄関には先輩が居て病的なまでにこちらを見張っている。先輩とは課やらなんやらが違うから、先輩も大阪に行くことは無いだろう。
しかし。この状態で外に出たら、先輩を振り切るのは辛そうだ。覗き穴から先輩の様子を確認する。
「みぃー、みぃー、みぃー、みぃー……はぁはぁ」
もはやあだ名でさえも君付けじゃなくなっている。僕の姿を見たらすぐさま押し倒し陵辱したりんという禍々しい紫色のオーラを放ってドア越しに居るであろう僕を見据えている。
「……こうなったら、方法は一つだ」
僕はそっと玄関から離れ、スーツを着込むとリビングを通ってベランダへ。
僕の部屋は二階で、しかもベランダの傍には電信柱が建てられている。つまり、やろうと思えばベランダから出入りすることが出来るのだ。
先輩に気付かれないように僕はベランダへと出る。電信柱に足をかけてするすると降りていった。
ふっ。この秘密の抜き道の存在は先輩も知らないはずだ。
(せんぱいっ。ごめん!)
僕は心の中で先輩に謝ると、走って逃げるようにアパートを離れていった。
(続く)
残ったのは誰も居ない部屋と先輩。次回へ続く。
idealの更新を待ってる俺
>>384 GJ!
でも先輩(´・ω・)カワイソス
このままでは最後みぃー君は
搾り取られて死ぬのではあるまいか
>>384 GJ
先輩もはや理性失ってるな・・・
こりゃ、次辺り大変な事になりそうだ (´・ω・`)
風船に空気を入れ続ければどんどんふくらむ
水槽に水を入れ続ければどんどん水かさが増す
しかしそれが破裂したり水があふれることには思い至らぬのが修羅場主人公
ちょwww先輩寺かわイソ巣www
これ見て思ったがヤンデレ物の話って男に問題があるパターン多いな…
てかほとんどか?
嫉妬が介入しないヤンデレもなかなかいいものだ
久しぶりに覗いた。
>>385 涙が滲んだ。有難う。
時間的に見て自演だな・・・
こういう風にしか思えない俺をどうにかしたい、と言うかこんな風に俺を変えたのは誰だ
394 :
名無しさん@ピンキー:2007/07/22(日) 02:48:11 ID:F2Rx83I9
ことのはおもすれいです
お前が時間的なタイミングがどうこうと口にするのかwww
ところで。
関連スレに単発での煽りが湧いてるんだけれど、心当たりは無いか?
今の所ここの他にはキモ姉妹スレにしか書き込んで無いな
>>384 主人公ヒドスw
悪意がないからかえってタチが悪い
先輩ガンガレ
>>392 idealは俺も気になってたから再開してくれると嬉しいなあ。
てか連載されている作品はどれも気になる
良いところで中断されている作品が多いし。
他の作者さん達も帰ってきてくれないかな
洋館に閉じこめてギタギタにしていくのはなんだっけ?
あれは完全に病んどる
まあ、俺はずっと全裸で待ってるわけだが。
余計なお節介かもしれないが追記しておくと、作品群は修羅場スレのまとめの方にある。
誤爆した…orz 俺気付くの遅い。
>>402 同士よ
こっちでも全裸で待とうじゃないか
作者様、頑張って!(*´д`*)
>>392 俺も期待してます!!
すばらしいヤンデレでてくるアニメ教えてくれないか?
ググレ
406 :
リッサ:2007/07/22(日) 19:14:14 ID:6I9RMany
こんばんは、まだこのSSスレを発見して二日目ですが、初めてながらもヤンデレSS投稿します。
乱文長文ご容赦ください
「ヴァギナ・デンタータ @時坂 歩」
タタタタタ…深夜、昼間の喧騒とは打って変わり今はもうすっかり一通りの少なくなった
街外の路地を、僕はわき目も降らずに走っていた。
…何故かって?それは勿論僕が「奴ら」に追われてるからさ…冬の寒い中で、だらだらと
汗をかきながら急いで走り出す僕の背後には巨大な化け物が迫ってくる…姿は蜘蛛によく
似ているがその全長は六尺近く、鋼のように黒光りする足とぎらぎら光る目玉が印象的な
生き物だ…やつらの目的はただひとつ、人間を食らうことだ…どてん!!と、慌てて走りす
ぎたせいか、地面に足を取られた僕は大きく転んだ。
「ヴシャアアアア!!」…蜘蛛形の化け物は奇妙な声を上げ、強酸性の涎を垂らしながら僕に
迫ってくる…最近はやりの伝奇ものならばここで刀でも持った小柄な少女が助けにくるんだろう
けど…僕の場合、実はそんな「少女」…後に説明する、まあ僕の知り合いなのだが…に助けを
求める前にまだやるべきことがあったりするのだ。
「ギシャアア!!」…かちん、バララララララララ!!!!。
グギャアアアアア…蜘蛛の化け物は絶叫を上げる。無理もない、僕が懐のホルスターに携帯し
ておいたサブマシンガン…TEC9のフルバーストを見事に顔面に食らったからだ。使用弾である
9ミリゴールデンセイバー弾の威力は伊達ではなく、見事に蜘蛛の化け物の眼球および口の部
分の装甲を吹き飛ばした。
「まだまだああああああ!!!」ババババババババババババ!!!!!…昆虫タイプの弱点は
関節の付け根がもろいことだ、目を潰されて暴れまわる蜘蛛の化け物の顔面周辺及び足の付け根
に容赦なくフルバーストで弾丸を叩き込んでいく。がちん!とTEC9が最後の弾丸を吐き出してホ
ールドオープンするのと同時に、蜘蛛形の化け物の足の一本が吹っ飛んだ…よし、このぐらいで
いいだろう。
「月乃、後は頼んだよ!!!」
僕がそう叫ぶと同時に、路地に面した三階建て雑居ビルの屋上から…「彼女」…月乃鞠は
一気に飛び降りた!
407 :
リッサ:2007/07/22(日) 19:18:55 ID:6I9RMany
「ヴァギナ・デンタータ @時坂 歩」
黒いセーラー服と、それにまとわり付いたように伸びる黒髪、さらに切れ
長の蒼い瞳が印象的な彼女が上空から飛び降りてくる姿は、ある意味とてもシュールだった。
「ギシャアアアア!」…涎をたらしながらなりふり構わず暴れまわる蜘蛛形の化け物の頭上
に彼女が接近したとき、月野の腰の部分から…ズブリ!という音とともに、まるでアバラ骨の
ように並ぶ牙が生え始めた、牙が一気に伸びると同時に彼女の体はそれこそアジの開きの
ように真っ二つに割れ始め、まるで口だけが空に浮いているような…そんな形容しがたい姿
になった。ばくっ!バリ!グチャ!グチャア!!グシャアアア!!!・・・鞠が変形した巨大な口
は一気に蜘蛛を飲み込むと租借した、時折むなしく蜘蛛が叫び声をあげるが、じきにそれも収ま
るだろう…。
懸命な方ならもうお気づきだろう、僕こと時坂 歩は彼女…月乃鞠の戦いをサポートする、いわば
おとり件罠として、ここ半年ほど彼女とともに化け物…エスという名前らしい…と日夜戦っていたのだ…。
どさ、という音とともに、口から人間に戻った彼女が地面に落下する、もともとエスと人間のハーフ
という生まれで、生まれたときからあの口に変身する力を授かって、日夜一人戦っていた彼女だが、
何故か変身直後にはこうして顔から地面に落下してしまう癖を持っている…日によっては受け止めて
あげているのだが、いかんせん今日は相手が相手なので、強酸性の体液を食らったらたまったもので
はないので非難していたのだ…いそいで彼女を抱き上げると、頭を打っていないか確認して、顔をウエ
ットティッシュで拭いてあげることにした…真っ赤に顔を染めた彼女の目は涙ぐんでいた。
「大丈夫かい?月乃?怪我とかは?」「…うん、平気…それより歩の方こそ大丈夫?指とか溶けてない?」
透き通るような声、それでいて今にも泣き出しそうな声を上げながら鞠は僕のほうを見た。
大丈夫だよ、という合図をこめながら軽く彼女の背中をぽん、とたたくと彼女は笑顔になった。
「…ごめんねいつも」 「気にしないでよ、僕が好きでやってるんだから」
408 :
リッサ:6I9RMany:2007/07/22(日) 19:21:25 ID:6I9RMany
「ヴァギナ・デンタータ @時坂 歩」
もともとこの力を持っていたせいで、小さいころから戦いの連続だった月乃は異常なまでに自分
以外の人間が傷つくのを恐れて、自分から心を閉ざしてばかりだった…そうだ、初めて会ったときも
服をボロボロにして血まみれになりながら敵と戦っていたっけ…でも、だからって彼女が傷つきながら
戦うのを眺めているだけなのははおかしい、そう思って僕は銃を手にして彼女を手助けすることをあの
日誓ったんだ…。
「お疲れ様、月乃…そういえば今日はもう遅いし何か食べてから帰ろうか」「…私今…あれを食べたか
ら…」ぐるるるるるううう〜…。
月乃のお腹からかわいい音がした、まああの口の状態で食べたからといってそれが栄養ってことに
はならないのだろう…顔を真っ赤にしておなかを押さえた月乃に僕は笑顔で話しかけた。
「そういうなって、この先の屋台のラーメンがすごくうまいから、なんだったらおごりでもいいんだよ?」
月乃はうつむいたまま、顔をこくん、と揺らした。僕は、じゃあいこうか、といって後ろを向く。その瞬間
学生服の服の袖をくいっと引っ張られた。
「いつも…ありがとう…」「…気にするなって…仲間じゃないか?」
月乃の顔はうつむいてはいるが、その顔はとても嬉しそうだった。
今までなかなか笑ってくれなかった彼女が、ここ最近になってようやく笑えるようになって来たのが僕に
はうれしくて仕方なかった…出来ることならその笑顔をずっと守ってあげたい、そのためなら何をしても
いいと僕は、この日心のそこからそう思った。
409 :
リッサ:6I9RMany:2007/07/22(日) 19:24:25 ID:6I9RMany
「ヴァギナ・デンタータA月乃 鞠」
「月乃ってさあ…告白とかされたことある?」
昼休み、ここ最近習慣になっていた彼…時坂くんとの屋上での昼食中、彼は私の作ったお弁当を
食べながらとんでもないことを言い出した。
「わ…私は…その…」
答えられるはずはない、本当なら今日ここで私は彼に告白をするはずだったのだ…好きです
付き合ってください…と…彼のそんな問いを聞くだけで、自分の心が見透かされているような…
そんな気がして…顔が赤くなって、声が出なくなって…とにかく心がたまらなくなる。
「実は今日さ…後輩の小野さんに告白されちゃって…」
途端、私は手に持った自家製小豆蒸しパンを地面に落とす、その女の事なら知っている…たしか
よく彼の周りにまとわりついている女の名前だ…どうしよう、あの子は見た目はかわいいし、それに
話だってうまい、友達だってたくさんいて…そう、私がないものをすべて持っている…ダメだ、ダメだ
ダメだダメだ、彼はこのままでは絶対に彼女を選んでしまうに違いない、どうせ私なんか友達もいな
ければ綺麗でもない、それに話だって…ああどうする?どうするどうするどうすれば…。
「あ、月乃、そのリボンつけてくれたんだ」
彼は急に笑顔になった、そうだ、このリボンは彼が「そんなに髪が長いと邪魔だろう?」といって買って
くれたものだ…本当は汚れるから普段はつけたくないのだが…でも、今日は言わなければならない、
そう…私は彼が…彼が大好きで・・・。
「歩…その、私…歩のことが…す−」
「先輩ー!委員会の時間ですよぉ!!早く行きましょう!」「あ!ごめんゴメン!じゃあね月乃、また
放課後!」
いきなり小野とか言う子が歩を連れて行ってしまった…私はただ一人、そのまま屋上に取り残さ
れる…目からは涙があふれ出ていた。
410 :
リッサ:6I9RMany:2007/07/22(日) 19:25:39 ID:6I9RMany
ヴァギナ・デンタータA月乃 鞠」
もう駄目なのかもしれない、そうとしか考えられなかった…残りの昼休みの時間はおろか、授業中
でさえ私の思考はマイナスな思いでいっぱいだった…クラスの違う彼から送られてきたメールのはこ
うかいてあったのだ…「少し見回りの集合に遅れます」と…確かに彼はクラス委員だからいそがしいの
だろうし、今日は曜日的にエスはものすごく出現しづらい日だ…でも、それでも、たとえそんなことは今
まで何度かあったとしても…おかしいとしか思えない、だって、だって彼は…。
急に頭の中に想像が浮かびあがる、あの女と手をつないで遊ぶ彼の姿が…そうだ、あの女だ、あの
女が悪いのだ…あの女が彼を…空想は急転直下する、彼はあの女を家に連れ込み、そしてその清純
な唇をあの汚らしいメス犬の唇に近づけて…。
「うあああああああああああああああああ!!!!」
だめだだめだ信用できない、きっと彼は裏切る、だって私は化け物だもの!きっともう愛想が尽きたんだ!だめだもう飽きられたそう父さんや母さんのようにきっと私を捨てる気なんだもうだめだきっと愛して
くれないみんなで私を笑いものにする気だもうそんなのは嫌だ一人は嫌だうああああああああああ…
叫ぶだけ叫ぶと私の意識はそのままどこかに吹っ飛んだ、目の前がブラックアウトする…。
…そうだ、それなら、あの女が消えればいいんだ、きっと彼は苦しむだろうけど私を見てくれるはずだ
…そのときは私が彼にされたように彼を癒してあげればいいんだ…そうだそうだ、事故に見せかければ
何も問題はないはずだ…ははは、あはははははははははは。
そのとき月乃の本能が直感した、エスが一体郊外に発生したと。
411 :
リッサ:6I9RMany:2007/07/22(日) 19:27:08 ID:6I9RMany
「ヴァギナ・デンタータB そして二人」
「エスが現れた、蜘蛛形タイプが1匹、郊外をうろついている、急ぐから逃げて」
小野さんとともに生徒会の買出しにいった帰り道、歩の携帯電話に月乃から打ち込まれたメールにはそ
んなことが書いてあった。しかしそんなことはどうでもいい…何しろ歩は今その蜘蛛から逃げ惑う最中で
急いで裏路地に入ったところなのだ。
「ああもうどうしよう…小野さん!とにかくそこのビルの中に入って!!」
「うあああ!!!は、はいい〜」
歩は小野の肩をつかむと叫んだ、そしてその背中を押す、蜘蛛タイプは跳躍力が低い上にパワーも弱い
のでビルなどには登ることができないのだ…ビルの階段を駆け上がった小野さんの背中を見送るとすぐ
に、歩は正面を向いてテック9と、ノズル取り付け式の榴弾砲を構えた…月の画くるまでのじかんは分
からないが、これだけの装備があれば、ある程度まで倒すことは可能だろう。
「ぎゃああああああああああ!!!!」
「小野さん!」歩が反応する、今のは小野の悲鳴だ、急いで雑居ビルの入り口に駆けつけると…そこ
には数秒前まで小野さんだった肉の破片と…血液が散らばっていた。そしてその正面には…花の形を
したエスが…中心部分に取り付いた仮面のような顔を真っ赤にして…小野さんの足をクチャクチャ音を
立てながら租借していた。
「う…あああああああああああああああああああああ!!!!」「ヒュー…ドガアアアアアアアン!!!!」
何がなんだかわからない、何でここにエスが?月乃はた鹿に一匹だって言っていたのに?そう混乱し
ながらも敵を倒さなければと歩は榴弾を発射した、爆風で一気に自分も後方に吹っ飛んだが構うこと
ではない、急いで受身を取って…ざしゅ!。
小気味いい音とともに歩の左手が何者かによって斬り取られた、目の前には蜘蛛形のエスがいる
…そう、蜘蛛方のエスのことをすっかり忘れていたのだ
412 :
リッサ:6I9RMany:2007/07/22(日) 19:30:45 ID:6I9RMany
「あああああああああああ!!!!!!」バララララララララララララララララ!!!!!
歩は泣き出しそうになりながらも蜘蛛型のエスの顔面にTEC9の弾丸をぶちまけた、玉が切れると
すぐにTEC9を蜘蛛の顔面に放り投げて、さらに腰のホルスターから取り出したバイジェスターモリナ
の引き金を引いた、片手の分グルービングは狂ったが、蜘蛛の片目をつぶすことには成功した…こう
なれば後はとにかく逃げて…。
ずるり、と歩は足を滑らせた、いや違う、靴が…いや足のひらが…蜘蛛の体液で溶けてしまったの
だ…。
「うわあ、うえあああ!あああああ!」
どうしようもない状態、それでも歩はあきらめまいと腰元に忍ばせてあった手斧を引き抜いたとき…
ばくん!!と、蜘蛛が、例の口によって食われてしまった…今日は租借することなく、蜘蛛は一気に
ごくり、と飲み込まれる。
「月乃…」
そう呼ばれた彼女は、姿を巨大な口から人間の姿に戻すと、いつものようにこけることなく地面から
着地した…。
その顔は、戦慄を覚えるほどに、まがまがしく笑っていた…。
「…あはは、かわいそうな歩、でも仕方ないよね、あの娘にだまされてこうなっちゃったんだから…
でももう大丈夫だよ、あのわるいこはおはなのえすがたべちゃったから、…でもそのえすはわたしがた
べたから、もうあゆむはわたしがまもってあげるんだから、てがなくてもあしがなくてもいいんだよ、わた
しはあゆむがそばにいてくれれば、あははははは・・・」
ぼろぼろと涙を流しながら、それでも笑って語りかけてくる月乃…歩は月乃の行動の理由を、ようやく理
解した。
「あははははは、そうだ、今度はあたしがもっとあゆむをたすけてあげる、きょうからわたしといっしょに
すめばいいんだ、しんぱいはいらないよあゆむ、ごはんのせわもといれのせわもわたしがしてあげる
からね、もうずっとずっと…」
「…ごめんね月乃、僕が…あんなことしたから・・・」「……」
月乃の口から笑い声が消えた、歩はかすれた声で話しかける。
「本当は今日、君に告白する予定だったんだ…大好きだ、って…でも君はいつも押し黙っていて、気
持ちがよくわからないから…君の気持ちを確かめたくて…小野さんに協力してもらってカマを掛けた
つもりが…生徒会の呼び出しが入って…本当にごめん、僕が軽率なことをするから・・・」
「それじゃあ…うそ…うそお!!わたしは!勘違いで…うあああああああああああああああああああ
あああ!!!!ごめんなさい!ごめんなさい!ああああああああ!!!!!」
月乃は大声を上げて泣き出した、それこそ子供のようにわあわあ泣いて僕に謝った…でももう、薄れ
る意識では、その顔も薄暗くてよく見えなかった。
「ゴメン鞠…もう、守ってあげられそうにもない…」
413 :
リッサ:6I9RMany:2007/07/22(日) 19:31:47 ID:6I9RMany
「ヴァギナ・デンタータB そして二人」
明らかな出血多量と蜘蛛の毒の効果か、僕の意識は薄れて、呼吸も荒くなっていった…それでも
彼女の想いに答えるべく、僕は彼女の名前を呼んだ。
「いやあ!歩くん!!!もう一人はいやなのお!!!」
「だったら…そうだな…僕を、食べるとかは、どう?…」「へ?」
「あの口の状態で人を食べるとどうなるのかは知らないけど…食べるほど君がパワーアップしてるって
ことは…きっと、君と一緒に戦えるって事だと思うんだ…」「…そんなあ…」
自分でも何言ってるのかよくわからないけど、それでも必死に思いついた、彼女の力になれる決断を
…彼女は僕の目が見えなくなるころにようやく了承した。
「じゃあ最後に…」「…すうう…」
呼吸が寝息に近くなり、意識がなくなりそうになる瞬間に彼女は僕にキスをした、そしてそのまま、
僕は彼女に飲み込まれていった、暖かくてやわらかい彼女の内部で、租借されて、自分という固体と
意識をうしなっていく感覚は甘美で…僕は意識を失った…。
「これで…ずうっといっしょだね、歩…ふふふ、あははははははは…」
月乃鞠は滅茶苦茶になった路地裏で一人涙を流し、ひざをついて笑っていた。
それから二日後、月乃はエス狩りに復帰した、でももう一人での戦いではない、歩も一緒なのだ。
「歩!!」月乃が口を開くと同時に、口の中心から飛び出た歩の手が、TEC9の弾丸を放つ。
「…ありがとう…歩」
そういって、怯んだエスを月のは一気に飲み込んだ、租借を終えてもとの姿に戻ると、ぽん、と肩
を押されて様な気がした、きっと歩が背中をおしてくれたんだろう、何せ月乃と歩は心も体ももう一
緒になれたのだから…。
「もう、これで一緒にいられるんだ…永遠に」
月乃の顔は、誰もが見たことがないくらいに幸せそうなものだった。 FIN
414 :
リッサ:6I9RMany:2007/07/22(日) 19:32:56 ID:6I9RMany
以上です、長文乱文失礼しました。
つづいて投下させていただきます。
よづりに絡まれながらも家から飛び出し、喫茶店にも寄りつつ……ようやく俺たちは我が織姫高校の校門の前へとやってきたわけだ。
時刻は午前12時過ぎ。もはや昼じゃねぇか。ふらふらと外の世界であっちへ行きこっちへ行きする榛原よづり二十八歳元引きこもり高校生を連れた登下校は三時間近くもかかってしまっていたわけだ。
明日からこいつと一緒に登校するときは確実に朝3時起きか? 朝のニュースキャスターじゃないんだからそんなの無理だっての。
「ほら、よづり。見てみろ。俺たちの学校だぞ」
「……そうだっけ?」
覚えてねぇのか。
俺の背中に隠れるように体をちぢこめてよづりは大きな校舎を眺めていた。生徒数三百人が勤勉に励む高校をまるで何かを恐れているように見ている。
なにを思ってるいるんだろう。
「よし、いくぞ。よづり」
「……」
俺がよづりに発破をかけて、俺の背の後ろから前へと進める。よづりは不安げに目を細めると、しぶしぶながらも自分の足で校門をくぐった。
昼休みだからか、グラウンドでは体操ズボンにジャージ姿の男子生徒たちがサッカーボールを蹴りあっている。足を使って地面に落とさないように相手に向かってボールを蹴り上げている。どうやら蹴鞠をやっているみたいだった。平安時代かよ。
まぁ、あの遊びは結構シビアみたいだから盛り上がりそうだけど。
グラウンドの隅では同じようにジャージ姿の女子生徒が木陰で集まって話でもしていた。
なんだか、遅刻して来るっていうのはむずがゆい。あの女子生徒たちがこっちを見ているような気がしてならない。
「ねぇ、かずくん。あの子たち……私たちを見てるのかな?」
歩きながらも、俺の背中に隠れながら進むよづりが不安げに聞いてくる。
「見てないよ。この学校で遅刻して来るヤツなんてザラだ。みんな気にかけてない」
そう言う俺だったが、あんまり確証は無い。あの女子生徒達だって遠くにいるんだ。何話てるとか、どこを見ているとか、正直わからん。でも、ほとんど気にしてないはずだ。そんなもの。
俺ら二人はグラウンドの横を通り過ぎて、昇降口に入る。昇降口には数人の生徒たちが居た。昇降口横にある自販機(紙コップのヤツ)でジュースを持ってダベっている。
「……今度は見られてるよね?」
「気にするなよ」
グラウンドの奴らとは違い、今度は確実に見られていた。
視線の先は間違いなくよづりだろう。見慣れない大人(二十八歳)が制服を着ていておどおどしながら俺の後ろに隠れているのだ。
まぁ、そりゃあ。気になるよな。いぶかしげに見ちゃうな。
「見られてるよ……かずくん……」
「大丈夫だ。いいから気にするな。教室へ行くぞ」
しかし、生徒達はすぐんび興味を失ったようで、また視線をお互いに戻した。
「ほら、大丈夫だろ? 誰もお前のことを気にしてないよ」
「……うん」
よづりは自分のことを引きこもりと言っていた。劣等感を強く持っているからか、どうも他人の目に敏感に反応しているようでビクビクと体を震わせている。
元引きこもりには酷だったか? いや、そんなことは無い。人は常に誰かから見られているものなんだから、これぐらい耐えられないと。
教室へ行けば嫌でも沢山の注目を浴びることになるんだから。
「よづり。俺の後ろばかりに隠れてないで、前へ出てこいよ」
「………いや」
「じゃあ、横に並べ。いつまでも後ろにいちゃダメだ」
「……うん。わかった。かずくんと一緒なら……平気」
そう呟いて。俺の横によづりが並んだ。二人揃って廊下を歩く。
廊下には多くの生徒が居た。みんな、いきなり俺と連れ立って歩く制服姿の大人に驚いたように奇異の視線を向けていた。
「……」
無言でよづりが俺の腕を握ってくる。まるで逃げたい、逃げたいと言いたげに弱い力で引っ張る。
「安心しろって。いまはただ珍しいだけで見てるんだ。すぐに誰も見なくなるよ」
そのとおりだった。生徒達は昇降口の奴らと同じく、一度だけ俺達のほうを見ただけだった。
それにしても。どうしてよづりはこんなに皆の視線を気にしてるんだろう? そんなことを考えながらも、よづりに腕を掴まれたままだというこの状態にも少し焦っていた。
俺ら、めっちゃ恋人みたいに見えてんじゃねーか? 急に顔が熱くなった。
「……えへへ」
そんなとき。ふと、隣にいたよづりが笑う。俺はびっくりしてよづりを見た。流れるような黒髪が顔の三分の一ほどを隠しているが、彼女の口元は嬉しげに緩められ、目元には笑い皺がとほっそりと寄っている。
どうしたんだ?
「かずくんの言うとおり、みんな、そんなに気にしてないんだね……。大丈夫……これなら大丈夫だよ……」
「そうか」
「うん……。あたしの制服姿って……変じゃないんだね」
……こいつ、もしかしてそこが一番怖くておびえていたのか? てっきり、学校や視線自体にトラウマがあったのかと思ったじゃねぇかよ!
まぁ、実際はちょっと浮いてるんだけど……。よづりが気にしないんだったらいいか。気にしすぎることは心身によくないとか言うしな。
「ここを上がって、すぐ傍にあるのが俺らの教室だ」
「本当に?」
なんで疑り深げなんだよ。
「ああ」
「じゃあ、そこへ行けばゴールだね……」
……いや、そこで俺にとってはそこからがスタートなんだけどな。
と、そのとき。
「あ! 森本くん!」
高いアニメ声で上から名前を呼ばれた。見ると、階段の踊り場から一人の少女が顔を出していた。少女は俺の姿を見つけるとぴょーんと階段からポニーテールを揺らして降りてくる。
ぱたぱたというイクラちゃんが歩くような足音が似合う、少女。いや、少女っていっても俺と同級生なんだけどな。ただ、身長139センチ(本人は140と言い張っている)で、くりくりな童顔。
ちっちゃな鼻とつぼみのような受け口でそこから発せられるのは新人声優が演じる子役のようなほど高くて響くアニメ声。
俺が今日の朝になでなでした、藤咲ねねこ(あだ名:ロリ姉)だった。
「どうしたのー? 朝いたと思ったら、教室には居なかったし……えいっ」
ねねこは能天気に言いながら、最後は階段を三つ飛ばしで飛んで下りた。
「と、ととっとっ、あいたっ」
着地を微妙に失敗した。しかし、そんなことは無理矢理おくびにも出さないで(若干痛がっている)ねねこは言葉を続けた。
「サボり? いいなぁー。あたしも一回サボってみたいよ。みんなやめろって言うんだけど……おりょ?」
くりくりとしたどんぐり眼を凝らせて、ねねこはよづりの存在に気付く。
「お、お、お?」
「………」
よづりも、突然現れた高校生とは思えない少女の存在に口をぽっかりとあけていた。
ねねこはふにゅと頭を傾かせて、しばらく考える。自分の記憶の中によづりが居たかどうか探しているらしい。ねねこの頭がかりかりと動き、ハードディスク上を検索している。
ただ、空稲恒が言うにはねねこの頭はウィンドウズMeぐらいの性能らしいのだが……。ま、まさかフリーズすることは無いだろ。
「むぅー……」
眉毛が八の字に傾く。まぁ、見つからないだろうな。
「えっと……、誰でしたっけ?」
「……」
よづりは相変わらず無言だ。無言のまま長く垂れた髪の毛の間からねねこを見つめる。しかし、見つめる時間は連続で2秒ほど、見つめるがねねこの戸惑う視線にすぐに目を逸らす。
「……えと……」
「………ん」
じぃー。
お前ら二人とも助けて欲しそうに俺のほうを見るなよ……。
「えーっと、ロリ姉。こいつはうちのクラスメイトの榛原よづりだ。今日から登校することになったんだよ。そして、よづり。この子はうちのクラスの女子の藤咲ねねこだ」
ロリ姉はふむふむと頷く。よづりは聞いているのか聞いてないのかわからないが、よく見れば同じように納得したように頷いているので多分聞いてるのだろう。まぁ、表情は相変わらず暗いからわかりにくいが。
しかし、ここでねねこに出会えたのは幸運かもしれない。
「へぇー、そうなんだ。はじめまして!」
すぐに無邪気な顔になってねねこは笑うと、よづりに手を出した。
「は、はじめまして……」
俺のときとはうってかわって、よづりは弱々しげにその手をとった。二人の間で軽い握手が交わされる。
ねねこは誰とでも仲良くできる(可愛がられる)うちのクラスのアイドル(というか愛玩動物か?)的存在だ。個性的なやつが多い、うちのクラスでは(ナリは個性的ながらも)かなり人畜無害な部類に入る。
……クラスメイトの中には常に木刀をもってるヤツとか居るしな。
元引きこもり二十八歳高校生でなおかつ暗く内気でかんしゃくもちというかなり萌え要素としてもかなり特殊な部類に入るよづりが、一番クラスに溶け込めやすくなるのはねねこと仲良くできることなのだ。
うちのクラスの友人相関構成はそこまで単純ではない。しかし、ねねこに関してだけは恋愛ゲームの主人公のようにすべてのクラスメイトと同じぐらいの友情度で通じている。
図にしてみれば、くもの巣の中心にねねこの顔を置いてその周りにクラスメイトの顔を乗せてみればわかりやすいかもしれない。
まぁ、いろいろ込み入っている、砕けて言うとねねこに認められれば自然と友達の輪も広がっていくということだ。
だから俺は偶然起きたこの邂逅を心の中でめちゃくちゃ喜んでいた。
俺が大粋な幸運を噛みしめているそのすぐ横でねねこは楽しそうによづりに話しかけている。
「なになに、転校生なの?」
「……違い…ます」
「ふーん、まいいや。今日から登校するんだよねっ。同じクラスなの?」
「同じクラスだよ」
俺がよづりの代わりに答える。ねねこはよづりのことを転校生と思ってるみたいだが、こいつは不登校なのでクラスは一緒だ。だいいち同じクラスじゃなかったら俺もよづりと逢うことはなかったな。
「そっかぁ。じゃあクラスメイトが一人増えるねっ」
枠は増えてないんだけどな。
「……ねっ」
「え?」
「………」
今なんて言った?
「ん、どしたの?」
ねねこが俺のほうを見上げて首をかしげる。
「……」
俺の視線に、よづりはぷいとそっぽを向く。
……たぶん、だが。今よづりはねねこのセリフを少しだけ真似ていた。ねねこの語尾が上がる特徴的な喋りかたを口から発したのだ。それもどことなく楽しげに……。
「そうだ。榛原さん、今日がこの学校初めてよねっ。あたしが案内してあげる!」
ねねこはよづりの手を取って、向日葵のような笑顔で笑いながら引っ張っる。
「お、おいおい。ねねこ」
「あたしねっ。転校生に校舎を案内する役、一度やってみたかったの! ねぇ、あたしに榛原さんを案内させて!」
話を自分で進めていくなよ。あとねねこ、お化けの噂があるからって通らないから開かずの茶道室は案内できないだろ。
「い……いや………」
よづりは抵抗するが。
「いいからいいから!」
ねねこはそれを遠慮していると勘違いして、無理矢理引っ張っる。
そんな、ねねこの天真爛漫な笑顔によづりも毒気を抜かれたのか、徐々に抗う様子も抜けていき。
「う、うん……」
少しづつ、よづりはねねこに手を繋がれ、俺の傍から離れていく。
さすがだ、藤咲ねねこ。その笑顔はよづりの心を覆った鎧を浄化していく程だ。浄化って言葉の響き、なんか恥ずかしいがな。
というか、委員長。コレだったらよづりを迎えに行く役は俺じゃなくてねねこに行かせればよかったんじゃねぇか?
「まず、あたしたちの教室から案内してあげるね!」
ねねこがよづりの手を引いて階段を昇る。連れられながら、よづりは不安げに俺の顔を見るが……。
「よづり。いってこいっ」
「う……うんっ。えへっ……」
俺の言葉に、よづりははにかんで笑う。そして、ねねこの手をしっかりと掴んだ。
まるで、自分の育てが娘が嫁に行くような感覚がする。寂しいとかそういう感じかな。よづりと出会って数日しか経ってないけどさ。
いや、でもこれでいいんだ。
俺の目的はよづりをちゃんとした人間に治してやることだ。そんな、寂しいとかいった感傷で俺が我侭を言ってはいけない。
心を開かせるのは俺より適任が居たということ。ただそういうことだ。
「ねねこ! よづりをちゃんと案内してやってくれよ!」
俺は階段を昇っていくねねこに大きく声をかけた。
「うんっ! がんばるねっ!」
ねねこはいつもと変わらない笑顔でこっちを向いて返事をする。
そう、いつもとかわらない笑顔で。
いつもとかわらず。
ずり。
「あ」
よそ見しながら階段を駆け上がっていたせいか。足を踏み外したのだった。
「きゃあっ!」
「……あんっ」
犬が右向きゃ尾は左。ねねこが足をすべらしゃ、手をつないでいたよづりもこける。
どがらっしゃん!!
ねねこはよづりを道連れに階段を転げ落ちたのだった。
「お、おいっ!」
一番下まで、転げ落ちた二人。
落ちたねねことよづりの二人は天地がひっくり返っていた。
本来足のあるところに頭があり、頭のあるところに足。
体育の授業で前転しているときとまったく同じ格好で、よづりとねねこは俺の前できゅぅと伸びていた。
で、体育と違ってこいつら二人は体操服ではなく制服を着ていたわけなので……。
「……げ」
二人のスカートがめくれあがっていた。
俺の目の前には二つの白い布が晒されてしまっていた。
一つは色気もへったくれもない、ねねこのお子ちゃま的なしろおぱんつ(防御力2)。
そして、もうひとつは……。
「……毛糸…?」
よづりがはいていたのは本気で色気のかけらも感じられない、毛糸のパンツであった。
毛糸パンツ。
毛糸で編んだパンツ。
氷攻撃耐性は20%ぐらいだろうか?
氷の精霊フェンリルと闘う時には是非事前に買って装備しておきたいシロモノだな……って。
でんぐり返ししたままで意識を回復させ、自分がどんな状態か自覚したらしいよづりと、視線が交錯した。
「うわわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁああああん!!」
よづりは俺の視線が自分のぱんつに言ったことが気づくや否や、顔を真っ赤に染めて立ち上がると、叫び声を上げながら走り出す!
「よ、よづり!!」
よづりは俺の横を通り過ぎ、廊下を奥に向かって走り去ってゆく。
「まて、よづり!」
「うわぁぁぁああああん!!」
クラスメイトの空稲恒の言葉を思い出した。恒曰く「ロリ姉は人畜無害だけど、たまにどでかい爆弾を落とすから注意にゃ!」と。
ああ、今なら恒の言ってることがわかるっ。ねねこめ、こんな所でドジなんて起こすな! ドジなら人の迷惑にならない形でやってくれ!!
俺は、よづりと同じようにパンツを晒してのびているねねこを放置したまま、廊下を曲がり消えていくよづりを追いかけた。
(続く)
遅まきながら真夜中のよづりです。
ちょっとづつ書いています。
>>421 よづりキター!
ヤンデレというより不思議キャラ路線を突っ走っているような気がするが
これからどうなるのであろうか
>>421 GJ!!
どれくらい待ったと思うのよ!バカ!バカ!バカ!
>>421 GJ!
のんびりと期待しながら待ちます
一週間の方も待ってます(*´д`*)
毛糸のパンツわろたww
そうだよな、20代後半だもんな。冷え性だったりもするよなww
投下します。17話です。
第十七話〜クイズ〜
菊川邸の中に潜入するのは拍子抜けするほどに簡単だった。
室田さんの運転する車で屋敷の裏について、室田さんが取り出した鍵で裏口の門を開けて敷地内へ侵入。
携帯電話のディスプレイは7時を過ぎる時間を報せていた。
空に浮かぶ月は光を地上に降り注いでいて、うっそうと生い茂る草木の作る影を強くさせていた。
手入れもされていないらしく、数年は誰も使ったことのない道だ、と室田さんが教えてくれた。
暗い獣道を2人で歩き、ようやく開けて見えた場所には物置のような建物が建っていた。
建物のドアを鍵で開け、中にはいると階段があった。そこから屋敷の中に入れるということらしい。
階段を降りきって、目の前を見るとずっと先まで続くコンクリート製の通路が、
天井についている蛍光灯に照らされている光景があった。
無言の沈黙と、革靴の立てる音と、俺の立てる静かな――緊張でつい足音を立てないように歩いてしまう――
足音がカビ臭さと動物の死骸の匂いのする通路に響いた。
室田さんの後に続いて通路の突き当たりにあるはしごを上りきると、今度は暗い部屋に出た。
いや、明かりがないわけではない。ただ部屋を照らし出すだけの光量がないだけで光はあった。
光は四角い形で、壁に無数に貼りついていた。
室田さんが部屋の明かりをつけた。
同時に、先ほどまで暗闇に浮かんでいた光の正体が知れた。
正体は、無数のテレビだった。
テレビは、キーボードやスイッチの並ぶ机の上から天井近くまで積み重なっていた。
画面は絨毯の敷かれた廊下、手すりのついている階段、黒一色の光景に浮かぶ窓などを映し出していて、
さらにどの画面も違うものを映し出しているように見えた。
見ていると、目がチカチカして不快感を覚える。
室田さんは部屋の椅子を引き寄せるとキーボードを手繰り寄せ、指を忙しく動かしだした。
タイピングを邪魔しないよう、慎重に声をかける。
「ここは何ですか? ひょっとして、監視室か何か?」
タイプ音をそのままに、執事の声が返ってきた。
「ご明察の通りです。ここは、私が準備した、屋敷全体を監視するための部屋です」
「ってことは、十本松がどこにいるのかもわかるってことですか?!」
「いいえ。誰もが行き来できる場所である客間や厨房などにはカメラを設置しておりますが、
屋敷に住まう個人の部屋には設置しておりません」
「あ、そうなんですか……」
「しかし、廊下に誰かが歩いているのであればすぐにでもわかります。
今から私が留守にしている間の監視カメラの記録をあさってみます。
が、少々時間がかかりそうです」
「じゃあ、俺も手伝いますよ」
俺がそう言うと、室田さんは指を止め、俺の方を振り向いた。
「遠山様には、別のことをしてほしいのです」
「なんです、それ」
「ここから出て、かなこ様と、天野基彦の娘を探し出してきてほしいいのです」
室田さんは机のひきだしを引いて、片側だけあるヘッドホンのようなものを取り出した。
差し出されたそれを受け取る。プラスチックのみでできているおもちゃみたいな軽さだった。
「それを耳につけてください」
言われるままに耳にヘッドホンを装着する。
つけてみて、違和感は覚えなかった。つけているのかどうかも忘れてしまいそうだ。
「私が記録をみて手がかりを見つけたり、また屋敷内の使用人や十本松あすかに発見されそうになりましたら、
その通信機に連絡を入れます。その後でどうされるかは、遠山様が判断してください」
「判断? 逃げるんじゃなくて?」
「はい。逃げるも、戦うも、遠山様の判断にお任せします。
願わくば、かなこ様は無傷のままで保護されていただきたいですが」
「戦うったって、俺には……」
何の力も無い。
華と香織が危険にさらされたとき、俺は何もできなかった。
人より優れた筋力もなければ、格闘技を習ったこともない。喧嘩をした経験すら、数えるほどしかない。
そんな俺が、俺をたやすく気絶させた十本松を相手にできるか?
十本松の言葉が脳裏によぎる。
近づいたら、殺す。姿を現したら、殺す。
記号としてしか意識していない死。
今の俺の傍には、死が居る。
屋上から飛び降りれば。トラックの前に飛び出せば。人は簡単に死ねる。
だが、それは普段意識することのないものだ。
自分が決してやらない、やることはない。そう信じているから。
今から俺がやるのは、自分の身の安全を守ろうという意思に反することだ。
ここから一歩踏み出して、もし行動を誤れば――十本松に見つかれば、死ぬ。
「怯えておられるのですか?」
言葉がでない。反論ができなかった。
俺は怯えている。目の前にはいない十本松に。あいつが残していった言葉に。
「いえ、失礼いたしました。悪気はありませんでした。機嫌を悪くなさらないでください。
ですが、もし気が乗らないのでしたら、私が救助へ向かいます。
かなこ様は、必ず私が助けます」
室田さんは、きっぱりと言った。
迷いは一切感じられなかった。あらかじめ用意してあった言葉を言っているようだった。
室田さんにとって、かなこさんを救うというのは当然のことなんだ。
では――俺は?
俺は、香織とかなこさんを助けたいと思っていないのか?
思っている。
思っているが、意思が形を持たない。落ち着き無くふらふらと頭の中で漂っている。
室田さんが、懐に手を入れた。出てきたものは、拳銃。
リボルバータイプとは違う、角が丸っこい小型のオートマチックの拳銃だ。
続いて、今度は別のものを取り出した。今度は鞘に納められているナイフ。
長さは全長で見積もって、成人男性の手の中指の先端から手首までの長さ程度。
2つを右手の上に乗せ、室田さんは俺に差し出してくる。
差し出されても、どうしたらいいのかわからない。
俺に、拳銃とナイフを持てということを言っているのか?
拳銃は、グリップを握り空いた片方の手でスライドを引き狙いを定めて引き金を引く。
モデルガンの場合はそんな感じで弾が出てきた。
けど、今目の前にある拳銃から発射される弾丸はプラスチックでできた数ミリの弾丸ではなく、鋼鉄製の弾丸。
人に当たれば、問答無用で命中した箇所を抉る。
簡単な操作でそれを行ってしまうことのできる武器だ。
ナイフは柄を握り相手の体に刃を刺し込めば、対象を傷つけることができる。
使うための手順はいらない、銃のような弾数制限もない、簡単な武器。
そして、人を刺した手ごたえを感じられる武器でもある。
目の前にある、鞘に納められたナイフが、俺自身に向けられているところを想像した。
相手は俺。無表情で、だらりとしている右手でナイフを握っている。
刺した感触と、刺された感触が、実際に刺したことも刺されたこともないくせに想像できた。
室田さんが差し出している手は、さっきからずっと動いていない。
俺が武器を手にとるのか、その手を払いのけるのか、それを待っている。
――選べ、遠山雄志。
香織とかなこさんを助けたいのか?
それとも2人を見捨てるのか?
――助けたい。いや、助ける。
もともと、俺は2人を助けるためにここに来たんだ。
香織は、昔から俺の友達として傍に居て、俺のことを想ってくれていた。今では恋人だ。
かなこさんは、前世からの恋人だという理由だけで俺を慕ってくれる女性だ。
だけど、俺はかなこさんが俺のことを純粋に想ってくれていると知っている。
2人とも、俺のことを好いてくれる。
2人の気持ち両方ともに応えることはできない。
だからといって、2人を見捨てることなんてできない。
もし十本松に鉢合わせしたらどうするのか?
そんなことは考えるな。そのときに考えろ。
決断。それさえすれば、このもやもやとした状態を落ち着かせられる。
右手を伸ばす。2種類の武器は俺の手を待っているように――いや、どうでもいいような感じでそこにいる。
こいつらに目的意識はない。目的を与えるのは、使う人間。人を殺すのも、木を削るのも、人間がやることだ。
だから、どういうふうにこいつらを使うのかも、俺次第だ。
最初に拳銃を手にとり上着の内ポケットに突っ込んだ。
続いて、ナイフの鞘を掴んで上着の右ポケットに入れた。
拳銃は内ポケットの中にしっかりと収まったが、ナイフは少しだけポケットからはみ出した。
*****
明かりに照らされ、夜の静寂が染み込んで静まりかえった廊下を歩く。
「遠山様。次の突き当りを左へ」
「はい」
通信機から送られてくる室田さんのナビの声を頼りに向かうのは、十本松の部屋。
ここを最初に当たろうと思ったのは、一番気になる問題を早く消化してしまいたかったからだ。
十本松が住んでいた部屋ということは、あいつが居る可能性があるということ。
ならば、いきなり拳銃を向け合う事態になるだろう。
しかし、考えてみると香織とかなこさんを自分の部屋に連れ込んで、なおかつ十本松がそこに留まっている
なんてありえない気もしてくる。
おそらく、室内には誰も居ない。
こういう場合の悪役は地下室に閉じこもっているか、もしくは最上階にいるはず。
十本松が典型的な悪役であれば、そうなるはずだ。
「そこの突き当たりのドアが、十本松あすかの部屋です」
案内に従ってたどり着いた場所。廊下の突き当たりにあるドアの前。
そこは、先日華に連れられてやってきた屋敷から脱出するために使った場所、十本松の部屋のドアだった。
ドアに耳をあてて中から音が聞こえてこないか確かめる。
何も聞こえてこない。廊下がしん、と静まりかえっているのと同じように、ドアを伝ってくる聞こえてくる音も静かだった。
右手を上着の内ポケットに入れる。ポケットの中にあるのは、拳銃だ。
自分の体温で少しだけ暖まった銃のグリップを握る。冷たさは感じない。
右手はそのままにして、左手でドアノブを捻る。
タン、タン、と心の中で2回足踏みをする。
ドアを引き、右手から拳銃を取り出して部屋の中に向けて構える。
そこには誰も居なかった。
明かりが点いていない室内には、窓の向こうの夜空に浮かぶ月しか見えない。
銃を正面に構えたまま左の壁に背をつけ、室内へと移動する。
左手で壁を探る。腕を上下させていると、壁とは違う感触があらわれた。
おそらく部屋の蛍光灯のスイッチだろうと見当をつける。
スイッチを押し込もうとしたとき、息を吸う音が聞こえた。――誰かいる!
飛びのく。
目の前を何かが通り過ぎた。床が軽く揺れて大きな音が立った。
舌打ちの音が聞こえた。
飛びのいて着地した場所はドアのすぐ近く。体を振り回すように動かして廊下に出て、壁を背にする。
心臓の音が聞こえる。鳥肌が立った。冷や汗が額に浮かんだ。
弾む心臓を静めるつもりで深く呼吸をする。――少しだけ落ち着いた。
今のところ、相手が攻撃を仕掛けてくる気配は感じられない。
俺が動くのを待っているのかもしれない。
相手は十本松か?それとも他の誰か?わからない。暗くて何も見えなかった。
室内からは何の音も聞こえてこない。さっきはこれに安心していた。
今は室内に敵がいることがわかっている。
それを知っていて不用意に中に踏み込むことはできない。
逃げるという選択肢もある。相手が屋敷の使用人であれば相手をする必要も無い。
いや、相手を取り押さえて十本松の居場所を聞き出せば。
相手は銃を持っていない。持っていれば暗闇の中で俺を撃っているはず。
だとすれば、俺が持っている銃は威嚇の武器になる。
撃つかどうかは――相手の出方次第か。
大人しく従ってくれるならそれでいい。従ってくれないなら、腕を撃って止める。
上手くいくのかは置いておくとして。
目を閉じる。鼻から大きく息を吸い込む。肺に息を溜める。口から息を吐きく。目を開ける。
祈るつもりで一連の動作をして、部屋に飛び込む覚悟を決める。
左足を軸に回転し、体を部屋の入り口の前へ。両手で握った銃の口を室内の暗闇に向ける。
認識が遅れた。人が立っていることに、一瞬気づかなかった。
やられた! ――と一瞬思った。
だが、体に衝撃は走らなかった。
室内にいたのが、
「おにいさん?! なんで、いや、さっきのってもしかして!」
両手で持った木刀を今にも突き出さんとしている、華だったから。
黒のコートに灰色のジーンズ、靴まで黒。
華の髪の毛の色は黒だから、上から下までほぼ黒一色に染まっていることになる。
眼鏡はかけていない。以前屋敷の使用人に変装したときといい今回といい、行動を起こすときは眼鏡を外すようだ。
拳銃を構えている腕はそのままに、忘れていたものを思い出す心地で考える。
……なんでこんなところに華がいるんだ?
午前中まで入院していたのに。
「ごめんなさい、おにいさん! てっきり十本松が来たのかと思って、私、あんなこと……」
あんなこと? 明かりを点けようとした俺を狙ったさっきの奇襲攻撃のことか。
「本当、おにいさんだって知らなくって、私、それで……」
華は振り上げた木刀を下ろすことなく、構えた状態で慌てた表情を見せた。
俺が腕を下ろすと、華は同じように木刀を下ろした。
「あの、その手に持っているのは?」
華は、視線を下に落としてそう言った。
その視線の先。そこには俺の手の中に握られている拳銃がある。
「ああ、これは……」
「拳銃ですよね、それ。もしかして、危ないことをしているんですか?」
「……当たりだ」
「どうして危ないことをしているんですか?」
「香織とかなこさんを助けるためだよ。悪いか?」
「悪いですよ。なぜあの2人を助けるんですか?」
「なんでって、香織は恋人だし、かなこさんは見捨てられないし」
「それだけの理由でですか?」
「……なに?」
「意味、わかりませんでした? それだけの理由で、あの2人を助けるためにおにいさんが身を危険にさらすんですか?
って意味で言ったんですけど」
華の奴、何を言っているんだ?
それだけの理由?恋人や、助けたいと思う人を助けるのは理由としては充分だろ?
「おにいさん?」
華が答えを催促するようにそう言った。
「それだけの理由だよ。それだけの理由があれば俺は危険な目に会ってもかまわない。
お前だってそうじゃないのか? 例えば――俺が、十本松にさらわれたら、同じことをするだろ?」
俺がこう言えたのは、華が俺のことを好きだと告白したのを聞いたからだ。
そうでなければこんな自意識過剰なことは言わない。
華が口を開く。
「愚問ですね。そんなわかりきったことを、今さら聞かないでください」
「だったら、俺がこうやって助けに来ているのだって同じことが言えるだろ? 好きな人を助けに来て、何が悪い?」
「まだ好きだっていうんですか? あの2人のこと」
「当たり前だ」
「それじゃ――あの人達がいなくなってしまえば、さすがに忘れられますよね。
本当は十本松に怪我のお礼をするためにここに来たんですけど、邪魔しないほうが良さそうです」
「なんだと?」
華の言葉に不快感を覚えた。
あの2人が、いなくなってしまえば?
まさかこいつ、また。
「おにいさん、帰りましょう。あのポケポケ女と痴女のことなんて見捨てて」
「お前、自分が何を言っているのかわかっているのか?」
「もちろんです。きっと十本松なら、あの2人を綺麗に始末してくれますよ」
「始末……?」
不愉快な言葉だった。特に、今の俺にとっては。
「きっと、私達の目の前に現れないよう、誰も知らないところに埋めたり、それか海外に売り払ったり――」
「華ぁっ!!!」
言葉を遮って叫び、右手に持ったままの拳銃を華に向ける。
手が震えている。
それは拳銃の重みのせいではなく、華の豹変に対するおびえでもなく。
知人の命を簡単に切り捨ててしまう従妹の台詞に逆上した、自分の怒りによって。
拳銃は音を立てずに震えていた。
銃身は小刻みに動き、頼りなく華の体に狙いをつけていた。
華は銃口を向けられてもひるむことなく、怪訝な表情で見返してきた。
「なんでおにいさんが私にそんなものを向けるんですか? やっぱり私のことが嫌いですか?」
銃を向けられていても、華の調子は変わらない。
――もう、華の言葉は無視だ。
「帰れ、華。どうやって入ってきたのかは知らないが、早くここから出て行け」
「え? あの」
「そして、あのアパートにも戻ってくるな。どこか別のところに住め」
「そんな、なんで、おにいさん」
「言っていることがわからないか? なら、わかりやすく言ってやる」
華の着ているコートの襟首を捕まえて、引き寄せる。
目を丸くした華は、なすがままになっている。
その華に向けて、俺は、
「俺の前から消えるんだ。そして、二度と現れるな」
怒りの感情を込めて、吐き捨てた。
華の体を引きずり、廊下へ押し出す。そしてドアを閉めて鍵をかける。
ドアを閉めると部屋の中は一気に暗くなった。
一寸先も見えない状態だ。
床にしゃがみ、ドアに背中をつける。
ドアが乱暴に叩かれ、背中が揺れる。涙まじりの華の声が聞こえてくる。
顔を上に向け、憂鬱な心地で、それを聞く。
「おにいさん! なんで、どうして私がおにいさんの前から居なくならないといけないんですか!
今までずっとおにいさんを想って来たのに、なんでおにいさんはこんなことをするんです!
好きなんです! 私だって、香織さんやかなこさんに負けないくらい、いえ、誰よりも!
なんでもします! なんでも言うこと聞きます! 絶対に逆らいません!
だから、だから開けてください、顔を見せてください、傍に居させてください!
嫌! いや……いや、いやぁ……おにいさん、おに……おにい、ちゃん……お兄ちゃん。
いい子になるから……華、いい子にしてるから……言うこと、なんでも聞くから。
また、昔みたいに一緒にいようよ……お兄ちゃんが前に立ってくれないと……だめなの。
お兄ちゃんの邪魔するやつらなんか、全部やっつけてあげるから……。
昔、お兄ちゃんが華のこと守ってくれたみたいに、ちゃんと、するから。
そしたら……会ってくれるよね。昔みたいに頭、なでなでしてくれるよね?
一緒に学校行って、一緒に遊んで、一緒にご飯食べてくれるよね?
お兄ちゃん。華、頑張るから。だから……また、昔みたいに、仲良くしてね……」
華の言葉と、ドアを叩く音がそこで掻き消えた。
「遠山様」
右耳につけていた通信機から室田さんの声が聞こえる。
「なんです?」
「先ほどの女性の方は、ドアの前から離れていきました」
「そうですか。それで、今は?」
「屋敷内の部屋を調べながら歩きまわっています。止めなくてもよろしいのですか?」
「……すいません。今、あいつの話はやめてもらえますか」
「はい。わかりました」
通信機を耳から外し、マイクを塞いで嘆息する。
さっきの華の様子、それに喋り方は、小学生のころと同じだった。
いつも落ち着いている華がこれほど取り乱すなんて。
俺は華も好きなのに、怒りに任せてとんでもないことを言ってしまった。
華に二度と会わないでくれと言われたら、俺だって悲しい。
それをわかっていて、あんなことを言ってしまうなんて。
華よりも、俺の方がどうかしている。
気持ちを切り替え、通信機を再度耳に付け、立ち上がる。
壁に手をつきながらさっき見つけた明かりのスイッチを探す。すぐに見つかった。
6つ並んだスイッチを手のひら全体で押す。
光が瞬くことなく、部屋全体が明かりに照らされた。
改めて見る十本松の部屋の中は、俺が住んでいる部屋に比べてかなり広い。
俺の部屋と比較するのが間違いか。この部屋の中に俺の部屋は4つほどなら楽に入りそうだ。
以前屋敷から脱出するときに使った扉。その前には以前、本棚が立っていた。
今、その本棚は前のめりに倒れている。
本棚の背が足の形にへこんでいるところから察するに、華はここから侵入したのだろう。
他には変わったものは見つからない。どこも安物とは違う品格の漂う物が置かれているだけ。
部屋に入ったものの、誰もいないうえ変なものもないとくれば、ここに留まっている意味はない。
きびすを返し、部屋から立ち去ろうとしたとき、ベルの音が鳴った。
室内を見回す。机の上に乗っている一昔前を描いた映画に出てきそうな電話機が振動していた。
通信機に手を当てる。
「室田さん?」
「はい」
「今、屋敷の中で電話をかけている人はいますか?」
「いいえ。カメラに映っていた映像には、それらしき人影はおりません」
とすると、どこかの部屋からかけているということか。
この部屋に誰かがいるということを知っている人間、というと華だ。
だけどあいつがこの部屋に電話をかけてくるはずはない。
この電話は華以外で屋敷の中にいる人間の、誰かがかけてきている。
電話のベルは鳴り止まない。規則的な高い音を繰り返し鳴らし続けるだけ。
棒状になっている受話器の取っ手を掴んで、耳につける。ベルの音が止まった。
「…………」
電話の相手は話しかけてこない。
しかし、この状況で電話をかけてくるような奴は、俺の予想が正しければ。
「十本松か?」
「…………」
「黙ってないで早く返事しろ。お前、俺がここに来てるのを知っててかけてきてるだろ」
「ニブチンのくせに、変なところの勘は鋭いんだね、君は。
ご名答だよ、雄志君。私、十本松あすかが今、君に電話をかけている」
勘……というより消去法と言ったほうがいいかもしれない。
十本松の支配下に置かれた屋敷の中で、わざわざ電話をしてきそうなやつを考えたとき、思い当たるのはこいつしかいない。
「なんで俺がここにいるとわかった」
「私の部屋の明かりが点いたから、もしかしてと思って見てみると君がいた。それだけのことさ。
別に君の匂いを嗅ぎ取ったとか、君の気配を感じて胸が高鳴ったとかいうわけじゃないから安心してくれ」
「お前……どこかで見てるのか?」
「そこは私の部屋だよ? 監視カメラがいくつか置いてあっても不思議じゃあるまい?
面白いやりとりだったよ。さっきの華君とのやりとりは。本当に君は女泣かせだね」
返事はしない。こいつの遊びに付き合っている場合ではない。
「香織とかなこさんを、どこに隠した」
「さっそくそれか。もう少しムードというものを意識するべきだよ。せっかくの、ドラマチックな展開なんだから」
「……ふざけてるのか?」
「ふざけているとも。私は今、上機嫌だからね。君という駒がここに来てくれて嬉しいんだよ。
君にもこの台風の翌日の青空のような気持ちを分けてあげたいくらいだ」
「俺は、お前という俺の人生でも類を見ない変態犯罪者のせいで、ちっとも嬉しくなんかないんだがな」
「それはよかった。そこまで君が不快感を覚えてくれて光栄だよ。――そのお祝いに、クイズでも出題しようか」
なんでくそ面白くもない回答役をたまわらねばいかんのだ。しかもこんなときに。
「誰が答えるか。お前をはり倒して2人を助け出せば全部済む」
「それでは同じこの繰り返しになるよ? 私は必ず、2人を捕らえて君をおびき出すということを繰り返す。
君も、私も、そうせざるを得ないんだ。現にそうなっている」
「そうせざるを得ない……?」
何を言ってるんだ、こいつは。
まるで誰かに強制的にやらされているみたいな言い方だが……。
もしかして、こいつに指示をしている人間がいるのか?
そうだとすれば、そいつをどうにかしないかぎり香織とかなこさんの安全はいつまでも保証されない。
「もし全問正解した暁には、2人を開放しよう。約束するよ」
仕方ない。言うことを信用するわけではないが、クイズに答えることで2人が助かる可能性があるなら。
「……とっととクイズの問題を教えろ」
「乗り気になったようだね。結構。
では、私の机の上に乗っている二冊の本を見てもらえるかな?」
電話機が置いてある机の上には、言うとおりに二冊の本があった。
一冊は俺がかなこさんと出会うきっかけになった、姫と武士の話を綴った本。
もう一冊は以前十本松にもらった、大事な女を失った男が女の仇を殺し復讐を果たした後で、
仇だった男の娘に殺されてしまうという救いようのないストーリーの本。この本は、俺の部屋に
入り込んだときに持っていったのだろう。
どちらもなかなか面白い本だったが、今さらこんなものを持ち出してどうするつもりだ?
「実はその二冊は続けて読んでようやく全体のストーリーになるんだ。
あるところに姫様と武士が居ました。姫様はある日、2人の刺客によって命を奪われました。
ここまでで、一冊分」
十本松はここでしばらく間を空けた。
俺は続きを聞き漏らすまいと耳を凝らした。
「姫様を愛していた男は、当然怒ります。姫様の仇をとることを決めました。
刺客の1人は簡単に殺せました。しかしもう1人の刺客の男はなかなかに手ごわい。
残された刺客の弱点は、たった一つだけありました。刺客の男には、最愛の娘がいたのです。
元武士の男は、言葉と体で娘を惚れさせて、娘の父親であり、憎悪の対象である刺客に近づきます。
その後は簡単でした。父娘が寝ているところに襲撃をかけ、父親を殺しました。姫様の仇をとったのです。
元武士の男はそこで目的を見失い、故郷へ帰ります。故郷には、両親や昔の恋人が住んでいるのです。
昔の恋人に再会し、武士は昔の気持ちを思い出しはじめます。
これからは、故郷で平和に暮らそう――そう思っていた男の心臓を、貫く刀がありました。
男を刺したのは、最愛の父親を殺された娘でした。
娘は自分が騙されていたことに気づき、男へ向けていた愛を裏返し、憎悪を向けたのです。
最後に立っていたのは、男の元恋人と、かつて愛していた男を殺した女と、倒れた男の胸に刺さった刀だけでしたとさ」
十本松はそこまでよどみなく言うと、言葉を区切った。
「とまあ、こんな話のわけだがね」
「で、クイズの問題は?」
「少しはねぎらいの言葉くらいあってもいいんじゃないか? ……ま、どうでもいいがね。
では、第一問。この後で、残された二人の女はどうしたでしょう?」
……簡単だな。
残された二人。男の元恋人と男を殺した女。
よくある昼ドラ的展開なら。
「元恋人が、男を殺した女を、殺害した。ってところだろ」
「正解。まあ、これはジャブだ。難しくなるのは第二問から。
先ほどのストーリーの主役である武士の役に、十本松あすかを起用した際、
刺客に殺されてしまうお姫様役になるのは、誰?」
「……は?」
あの本の武士が、十本松あすかだったら?
相手役は……かなこさんか?前から婚約者、とか言っていたし。
「よーく、考えたまえよ。つまらない回答をした場合、かなこと香織の命はない。
いや……女としての尊厳を失うような目に会って、社会的に抹殺されるだろう」
くそったれ。余計なこと言うんじゃねえよ。焦るだろうが。
十本松が好きな人間……誰だ?
誰か居るはずだ。十本松と今まで交わした会話の中にヒントがあるはずだ。
俺じゃない。あいつは俺のことなんかどうでもいい存在に思っている。
かなこさんでもない。武士(十本松)が姫様を守っていたというのなら、十本松がかなこさんの命を狙うはずがない。
十本松が仇を討つために努力するほどの、相手は――――いた!
「お前の親父さんだろ。小さいころから好きだった、昔死んでしまった、って話を、お前から聞いた」
「……正解。少しは頭が回るようになってきたね、雄志君。
その調子で、次の問題――最後の第三問にも、正解してくれ」
「本当に最後か?」
「最後だとも。ただし、答えるのは電話越しではなく、私の前で直接行ってくれ。
私は、この屋敷の第448地下室にいる。場所は室田にでも聞けばいい」
「なんでわざわざそんな面倒なことを……」
「決着をつけるなら地下室か建物の上。これはクライマックスの舞台の王道だよ」
どうでもいいところにこだわりやがって。
「……まあいい。言われた通りにするから、問題を出してくれ」
「うむ」
十本松は短く答えた。
そして、クイズを出題する。
「第三問。第二問での配役はそのままに、物語を展開していった場合。
菊川かなこ、遠山雄志はどの役を担当することになるでしょう。
あなたの身の回りで起こった出来事を考慮したうえで、お答えください」
問題の内容は、全て聞き取れた。
が、意味がさっぱりわからなかった。
何かヒントをくれ、と言おうか迷っているうちに、十本松が電話を切った。
次回へ続きます。
ややこしい話にしてしまって申し訳ないです。
なかなか読めるけど、なんだか話の大筋自体にはヤンデレがあんまかかってないな
いや、これはこれでいいものだと思うのだが
いいかもしれないけど
スレ的にどうなんだ?って事じゃね?
>>414が(作品投下の)処女を散らす様をしかと見届けた!
これからも色々書いてくれたら嬉しいです。乙でした。
>>437 物語として純粋に面白いな
一応問いを考えてみたが登場人物は、
雄志・華・香織・かなこ・十本松・十本松(父)だから、
その内該当してるのは
十本松=武士
十本松(父)=姫
残りは、刺客1・刺客2・刺客2娘・幼馴染のポジションか・・・分からん
>>437 今回の華の哀願に激しく萌えた。
俺の頭もこんがらがってきたので保管庫で読み直してこようかな。
刺客1=かなこ
刺客2=香織
刺客2娘=雄志
幼馴染=華
じゃないかね。
だとすると、最後雄志は十本松を倒すけど、その後華に殺されるわけか。
今回はそのフラグって事ね。
そういう勝手な展開予想はやめろって
萎えるしその上作者さんにもプレッシャーかけちまうだろうが
>そういう勝手な展開予想はやめろって
>萎えるしその上作者さんにもプレッシャーかけちまうだろうが
?
ただ物語中の問いを考えただけだぞ?
何もこうなるだろう何て言ってないし、これ位は良いだろ
流れ武っ汰魏って一週間の続きマダー?
>>447 先輩じゃなくて俺たちが干上がっちまうぞってことだよな?
焦らしプレイはより楽しめるらしいぜ
それにしても、このスレは文才のある職人が多いよな
確かにこのスレは当たりが多いな
まさにヤンデレの時代!
>>440 まあヤンデレ分薄くても十分楽しめる作品多いし、
いいんじゃない?
そのシリーズ
最初は良かったけど2番煎じ3番煎じでどんどん質悪くなってくよな・・・
ずっと同じ人に作り続けて欲しかった
かっわいいフリしてあの娘は、きっと殺るもんだね、と♪
すまん誤爆した。ち○ちん切られてくる
誤……爆……?
ヤンデレ総合と間違えたんじゃね?
保守
461 :
名無しさん@ピンキー:2007/07/25(水) 21:47:26 ID:yHEe5Ptq
おれはみくるバージョンかな
歌詞が一番上手い気がする
一週間マダー?
>>462 恐らく、俺らは焦らされる先輩の気分を味わってるんだ!
先輩・・・ (´;ω;`)
あんまりそういうのやめた方がいいよ、と。
確かに奮起する場合もあるけど、プレッシャーに耐えかねてどうでもよくなっちゃう場合もあるし。
他の人の場合は知らないけど、自分が書く場合だと1日に20kbぐらいが限界だし、限界を超えた執筆速度は無理なわけで。
ま、作者さんのペースで書いて頂けるのが一番。
そしてそれを電柱の影から見守る俺たち。
お茶飲んでゆっくり待ってるからのんびり投下してくれて全然いいのに・・・
>>464 1日20kbって・・原稿用紙何枚なんだ?
2バイトで全角1文字分。400字詰原稿用紙25枚半ってとこだね。
あぁ……ツンデレとヤンデレの複合型が浮かんではきえていくぅ
いかん、かぶったorz
471 :
464:2007/07/26(木) 10:54:37 ID:zFj9Y3I/
休日にずっとPCに向かって、推敲も何もなしにただ書き散らした場合の話なんですけどね。
実際には微調整しながら書いたり、何かの気分転換に書いたりすることも多いから平均的な執筆量は大分少なかったり。
名無しで自己主張する作家は大抵ウザイ
>>471 |ω・`) ヤンデレ作品、期待して良いか?
月曜日に投下予定でしたが、今日になってしまいました。
投下します。
ふぅ。まさか一日仕事になるとは思わなかったな。日曜日は一日中大阪で仕事だったよ。
僕はぼさぼさの頭を掻きながら家路に着く。アパートの階段をカンカンと昇り、僕は部屋の前までやってくる。
そういえば、先輩は……。
「居ない……」
部屋の前に先輩の姿は無かった。
まぁ確かに、僕が出てからほぼ二日経ってるんだ。帰ったのかも知れないな。
郵便受けにささっている二日分の新聞紙を掴むと、僕はカバンから家の鍵を出した。鍵穴に差し込んで軽くひねりガチャリと開ける。
「さてと……明日は臨時休日だし……なにしようかな」
玄関の扉を閉めて、鍵をかける。革靴を脱いでカバンを玄関先に置くと、僕はのびをしながらリビングの簾を開けた。
次の瞬間目に入ったのは。
「な、なんだこれ……」
荒らされまくった我が家だった。
部屋の至る所に散らばっている僕の服、服、服。普段着ているポロシャツや仕事の時のカッターシャツ、さらには下着に至るまでリビングに散乱している。
特にベッドの周りに散乱しているのが気になる。手持ちのパンツやTシャツ類のほとんどがベッド近くに密集していた。
「なんだ、この染みみたいなの……」
ちょうどそこにあったパンツを掴む。妙に湿っている……。青いトランクスの股の部分が水分を吸って変色している。なんだか粘りとしていて気持ち悪いな。
「甘いにおいがする」
匂いをかいで見ると、蜂蜜のようだ。甘ったるい蜂蜜とそれ以外の何かによって汚された下着。僕はトランクスをゴミ箱に突っ込もうとして、
そのゴミ箱の中身も荒らされていることに驚いた。
ゴミ箱はひっくり返され、捨てられていたティッシュやガス料金の明細の紙、菓子のクズが乱雑に広げられている。ゴミ箱なんてあさってどうするんだ。
ゴミしか入ってないぐらいわかるだろうに。それなのにティッシュの一枚一枚に至るまで、いくつも中身を点検したようにくしゃくしゃのまま開かれていた。いくら僕でもゴミ箱の捨てたティッシュの中に貴重品は隠さないぞ。
「泥棒に入られたか……」
ベランダから入ったのだろうか。僕はベランダに手をかけてみるが、鍵は閉まっている。ガラスを破った後も見られない。ベランダからじゃないのか。じゃあ玄関かな? いや、玄関も鍵はかかっていた。ピッキング?
タンスを見ると全ての引き出しが乱雑に開かれている。
「あ、そういえば!」
僕は慌てて上から二番目の引き出しを覗く。
中を大きく開けて、一緒に入れていた大量のミニアルバムの中を探る。ミニアルバムの束に挟まれて僕の全財産が記された預金通帳と判子があるのだ。
「あ。よかったっ。あった……」
大量の写真の束の中に埋もれた中に、幸いにも預金通帳と判子があった。取り出してみるが、どうやら無傷のようだ。通帳も印鑑も無事とはなんたる幸運だろう。
ぱさり、
安堵していると、乱雑に詰まれたミニアルバムから一枚の写真が落ちた。ひらりと宙を舞い僕の足元へ。
何気なくひろう。
「うわっ」
その写真は僕が一年前、家族と一緒に宮島に行ったときに撮った写真だ。
僕と妹が、瀬戸内海に浮かぶ厳島神社をバックに撮った女子高生の妹とのツーショット写真。撮影者は母。どこにでもある普通の家族旅行写真である。
「……なんでこんなことを」
しかし、今手に持っている写真には、僕の隣でにこやかに笑ってピースしている妹の顔部分が、その部分だけ焼け落ちている。正確にはそこだけ火で燃やしたような穴が開いているのだ。
そのせいで、隣に居る妹の首は無い。写真の向こうが覗ける。ちくわと同じだね。
慌てて、僕は他のミニアルバムも開いてみる。
「顔が……」
黒線。ミニアルバム中の写真に移された人間の顔が、油性マジックで潰されていた。特に僕の母親から高校生の修学旅行のときのクラスメイトまで、全員ぶちゅぶちゅと塗りつぶされていた。
潰されているのは全員女性だ。僕や男友達は顔は潰されておらず、女性の頭だけが消滅。
特に酷いのは妹だ。妹の写真だけは何故か黒線だけでは治まらず、宮島の写真のようにすべて顔だけ燃やされている。
……異常。異常すぎる。
「これは、泥棒じゃない……?」
全ての写真に写る女の子の顔が丁寧に消されている。それなのに、貯金通帳は一切手をつけていない。
そんな泥棒。いるか? いるわけない。金品目当てじゃないんだ。
一気に背筋が凍る。
「……まさか、せんぱ……」
そのとき。
シャァァァァー……。
……水音!?
音が。聞こえる。
惨状に気をとられて気がつかなかったけど。
バスルームから、シャワーの音が聞こえるっ!
キュッキュッ。
止まった。
誰か居る?
「だ、誰か居るのか!?」
僕はちらばった衣服に足をとられながら、バスルームに振り向く。
……人の気配。明らかに、バスルームの中から。
「……ごくり」
まてよ。僕は今日帰って普通に家に入ったが、僕は一昨日この家から出るとき、ベランダから出たんだ。だから、玄関にはチェーンが掛かっているハズだ。
それなのに、普通に入れた。
もっと言えば。ベランダから出たんだから。出たはずのベランダは鍵などかかっておらず開いたままのハズだ。
なのに。閉まっていた。
僕の脳内名探偵、夢水清志郎がめんどくさりがりながら答えを導いている。
「…………」
がちゃり……。
バスルームから出てきたのは。
「うふ。おかえりぃ。みぃーくん」
先輩だった。
濡れた長い髪の毛を体に絡ませ、ぽたりぽたりと雫をたらしたまま、小さなバスタオル一枚を胸に当てて、この嵐が過ぎた直後のような部屋の中を平然と歩いてくる。
左手には僕のトランクス。右手にはキッチンにあった厚手のフライパン。
「遅いよ。みぃーくん。ずっと私を我慢させただけでも酷いのに。一人で出かけちゃうんだもん」
先輩はくすんだ笑顔で僕に話しかける。
「せ、先輩……」
先輩はベランダから入ったんだ。僕が中に居ないことに気付いて……。
「待ってる間、ちょっと模様替えしてみたの。えへへ、みぃーくんが浮気してないかと思っていろいろと漁ったけど、合格。写真しか見つからなかったものね」
じゃあ、やっぱり。この惨状は先輩が……。
「あ、う、あ……」
声が出ない。僕はただ口をパクパクあけて、裸で近づいてくる先輩に恐れて動けない。
先輩が淀んだ瞳で僕を見ている。そして情欲に溺れたように口からつつつーと唾液をたらしている。
そして、待ち望んでいた欲望を満たす期待で、体を艶やかに震わしていた。
「せ、せんぱぃっ お、落ち着いて……」
「みぃーくんっ!!」
先輩は右手に持ったフライパンを大きく振りかぶった。
耳元で何かがはじけた。
(続く)
次回で最後です。
GJ。ちくわ吹いた。
>>477 こ、こえぇ…ガクガクブルブル…マジGJ!
>>477 うむ。
しかし
「みぃー君、自業自得」
とか
「キャッホーイ! 先輩! やっちゃって下さい!」
と言った感想しか浮かばない俺はもう駄目かも分からんね。
>>477GJ!!ヤンデレ先輩の大逆襲\(^o^)/ハジマルー
>>477 GJ!
先輩キタワァ*:.。..。.:*・゚(n‘∀‘)η゚・*:.。..。.:* ミ ☆
>>477 GJ!!!!!!
先輩かわいいよ先輩
>>480 俺も含めてここの住人は大抵そうだと思うから大丈夫♪
484 :
リッサ:6I9RMany:2007/07/27(金) 03:24:20 ID:E9zzpRL6
どうも今晩は、リッサ:6I9RManyです、415 さん、441さん共々前回私の書いた小説に感想を書き込んでいただいき本当にありがとうございました。
ここのところ実生活ではいやなことが続いたり、ラノベ大賞に落ちてしまったりと不幸続きでしたがその分感想のお言葉は
SS製作の上で大変励みになりました。というわけでまたSS投下です、長文乱文と誤字脱字に対する苦情はご勘弁を
485 :
リッサ:6I9RMany:2007/07/27(金) 03:25:17 ID:E9zzpRL6
マリオネッテの憂鬱@
「おはようございます、お姉様…」僕は今日も最愛の妹である晃(あきら)の可愛らしい声で目を覚ました、寝室の端、窓のカーテン
を押し開く彼女はこぼれるような冬の朝日を全身に浴びる…晃のその美しいウェービーな栗色の頭髪と、ピンク色のネグリジェは…
今日もまた血がべっとりとついていた…。
僕はベッドから起き上がってスリッパを履くと、精一杯の笑顔で彼女に尋ねた。
「今日は誰を食べたの?」「メイドの牧野さんですわ…あの方、未だ日は浅いですけど…お姉さまの…洗濯用の…下着の匂いを…」
ビリビリィィィィ!!!!晃は巻き取ったカーテンを爪で一気に引き裂くと、肩をわなわなと震わせた。僕はそれにいたたまれなくなって …思わず彼女の肩をつかむと…その華奢な体をそっと抱き寄せた…彼女の体は…とても硬くて冷たい。
「ん…ちゅ…」何かを悟ったように彼女は僕に唇を重ねた、僕は彼女の腰に手を回す、彼女はそのつぶらな瞳を閉じると…僕の口腔
内部に舌を侵入させた…くちゅ…くちゅ…と、唾液の混ざり合ういやらしい音が僕の…そして彼女の口の中に響く。彼女の口腔は…
生臭い肉の味がした。
「…ぷはぁ…安心してよ晃…僕にはもう…君しかいないんだから・・・」
「…でもぉ…ぐず・・・私…おねえさまがぁ…ひぐ…誰かに汚されたかと思ったらぁ・・・」
晃は駄々っ子のように、精気のない顔で大粒の涙を零しながら嗚咽した、もういてもたってもいられなくなった僕は…一気に晃を床
に押し倒した、晃はなすがまま…といった感じに僕に服を脱がされる。
…経過は順調みたいだね…嬉しいよ晃…
僕はそんな彼女を見て、くすりと笑った。
−事後、つかれきった彼女をベッドに寝かしつけると僕は一人台所に向かった、もちろん食事のためじゃあない。彼女のしたこと
の後始末があるからだ…。
台所のいすには革ベルトで縛り付けられたメイドの牧野さんの…無残な姿があった。昨日までの美しかったその顔はゆがみ
つめはすべて剥がれ、目は潰れ、三つ編みの頭部は…まるで詰め物をするためのトマトのように、綺麗に切り開かれて・・・
脳みそは綺麗に繰りぬかれていた。
「血って家庭用洗剤で落ちるんだった…かなあ?」
僕は牧野さんを固定する革ベルトを外すと、彼女の糞尿と血液のにおいに鼻をつまみながら、死体を処理することにした。
拍手を打つような体制で深呼吸をすると、合わせた手を一気に離す、するとそこに黒い例えるならブラックホールのようなもの
…が現れる。
ヒュウウウウウ…そんな音を立てながら、牧野さんの死体は一気に穴に飲み込まれた。
「あと一人、か…」
僕はそう呟いて、薄く笑った…そりゃあもうなれたさ、一月もこんなことを繰り返してればね…ははは、ははははは…。
自分のいかれた思考に狂いそうになりながらも、僕は必死にそれを堪えた。
ここで狂ったら…晃を…人間に戻すことができなくなる…狂うな、狂うな…あんな冷たい体じゃあない、生身の晃ともう一度…
僕を大好きな晃ともう一度交わるんだろ?…そう必死に言い聞かせる。
あの日…僕が晃を殺して、そして彼女が生まれた日から、もう一月がたとうとしていた。
486 :
リッサ:6I9RMany :2007/07/27(金) 03:29:24 ID:E9zzpRL6
マリオネッテの憂鬱A
そもそも僕は恋ってものを知ったあの日から二歳年下の妹…晃のことが好きだった、特に理由なんてなかった。
でも本気で彼女を愛していたんだ…彼女の手を握ってどぎまぎした、だんだん女らしく成長していく彼女の体を見て欲情した
何度となくその手の感触を思い出して自慰もした…とにかく僕は男の人と変わらないくらいに彼女を愛していたんだ…でも、
でも一月前のあの日、僕は彼女こと実妹である久住 晃のことを殺した、理由は些細な誤解からだった…だって誰だって思うだろう
衆目美麗で繊細な妹が…自分の家に男を連れ込もうとしたんだから…自分の気持ちを言えば破局する、でもこの気持ちを抑えて
…汚らしい男なんかに彼女を渡すくらいなら…もう殺すしかないッテ…。
「あ、お姉ちゃん…?どうしたの、そんな怖い顔して…!!」
ざく!!…と、まるでキャベツでも切るかのように、応接間に飾ってあったマチェットは、綺麗に晃の胴体を貫いた、もちろん妹に
だって手は抜かない、そのまま刃に回転を加えて致命傷を与える。
「か・・・は・・・!!」
ぽたぽたと血をたらし、腹部を押さえて倒れこんだ晃、僕はそれを見ていやらしい笑みを浮かべると…晃の服を脱がし始めた。
「あ…いやあ…」 「晃の肌って真っ白だね…ふふふ…あははははははは・・・」
もう僕に自分の感情は制御できなかった、晃の服を引きちぎって、僕は死に掛けの彼女の血の暖かさ…体温を感じながら、彼女
と交わった…晃は驚いたことに…いや、嬉しいことに処女だった。僕は嬉々として彼女の秘裂を広げ、ディルドでその幕を破った。
「ハハハはは…」「ひゅう…ひゅうぅ…」
彼女の処女を、そして命を奪った僕は最後の灯火といわんばかりに息をあらげる晃にこういったんだ…多分そのとき僕は…
泣いていた気がした。
「あははははは…どうしてだろうね!僕はこんなに晃が好きなのに!君は好きになってくれなかった!でも僕はもういい
!ここで君と死ぬ!そうすればもう僕は誰にも目はくれない!君が死んでも大丈夫だ!あははははは…」
「…すう…私みたいな子でもそんなにいいの…嬉しいなあ…えへへ…」「…へ…」
「…私も大好きだったよ…お姉ちゃん…」「へ…?あ!ああああああああああああ!!!ひ!ああああああ!!!!」
そういうと妹は大きく息を吸って…事切れた、僕は狂ったように叫んだ…。
487 :
リッサ:6I9RMany :2007/07/27(金) 03:30:27 ID:E9zzpRL6
マリオネッテの憂鬱B
幸いというべきか、僕の家は結構な財閥で力もあったため、妹の死は交通事故として葬られ、僕は失踪扱いになり、
以後は屋敷に軟禁された…いや、そうすることを望んだ…
僕は屋敷の軟禁場所である晃の部屋で晃の生活品に囲まれて…日々後悔と狂気に見舞われる日々を送っていた。
彼女の言っていたことも嘘ではなかった、机の中にあった晃の日記には毎日のように僕のことが書いてあった、晃
も僕と同じく…日々悩んでいたのだ、姉をである僕を好きになったことで…。
最初から気持ちは一つだったのだ、でも僕は彼女を信用できなかった、だから殺した。
彼女は僕を信じていた、だからこそ日々の日記には僕がどうしたとかが事細かに書かれていたが、誰かに嫉妬した
様子は一切なかったし、わざわざ付き合いの薄い男子…時坂歩というらしい…にそのことを涙ながらに相談して、あの
日僕に告白することを決めていたらしい…全部馬鹿だったのだ、僕一人が…。
神様、悪魔様、僕は何でもします、命も心もいりません。だからどうか晃を生き返らせてください…僕は日々そう願った
そしてあの日…あの男が僕の前に現れたのだ。
「始めまして、僕の名は…まあいいや、悪魔みたいなものです」「…はあ…」
シルクハットにタキシード姿の黒髪の男、彼は今まで現れたどの幻覚よりもしっかりした声でそうささやいた。
彼は青い瞳を輝かせて笑顔でこういった。
「妹さんを生き返らせて上げましょう、でも条件があります」「お…お願いします!魂でも何でもあげますから!どうかあの子を」
それを聞いた男は笑顔で僕の手を握ってこう言った。
妹さんの死体を使って人形を作りなさい、人形が十人の人を食らったとき、妹さんは下の肉体を手に入れる、死体の処理は
手を合わせて…魔王の口に食べてもらうといいでしょう。
そういうと笑顔で消えていった、男の霧散した後には、大きな…ちょうど晃ほどの大きさの稼動人形の入ったケースが残って
いた。
後は簡単だった、夜に屋敷を抜け出した僕は館の裏手の墓地から土葬されている晃の死体を掘り返し、屋敷の地下室に篭って
製作に取り掛かった…お父様の趣味でそろえられた機材で、冬の寒さで奇跡的に痛まなかった晃の皮をはぎ、髪を抜き取って内
臓を取り出して…口を呼び出す方法で内臓を始末して・・・張子の要領で人形に皮をかぶせて、彼女の人形を作ったのだ。
誰もが僕を狂っているとののしった、でも僕は狂ってなんかいなかった…だって、服を着せた晃は…いや、彼女は動き出したんだ
から…。
「お久しぶり、会いたかったですわ、お姉さま…」「うん、僕もだよ…」
そういって、彼女の冷たい唇に、僕はキスをした。
それからだった、彼女が…僕に気があるらしい人間を拉致しては、拷問に掛けて、その脳味噌を食べ始めたのは…。
彼女は信じられないほどに、残酷な嫉妬心を見せて彼…もしくは彼女たちを殺し始めた…彼女の最初の犠牲者は…
生前、大好きといって抱きしめていた、両親だった…。
「ねえ…お姉さま」「…?」「ずうっといっしょにいてね…」「うん…」
日が暮れて、夜。彼女との事後、彼女はそういって僕を抱きしめた。
…そうだよ、僕が望んでいたのはこれなんだ。あとはそう、彼女が人間の体に戻ればいいんだ…もう、ほかに望むことはない
この幸福があり地獄みたいに真ッさかさまに崩壊していくものだとしても構わない…ずうっといっしょなら。
もう、この時間は長く続かない。本能的にそう感じながらも僕は彼女の体をむさぼった…あとは明日、最後の犠牲者である
時坂 歩…そう、二人が愛し合う事実を知っているたった一人の人物を殺せばすべてが終わるのだ。
…何が終わるんだ?そもそも終わったら一体何が始まるんだ?何が…一体…。
意識が遠のいていく、明日もまた、彼女と幸せに暮らせますように…。
488 :
リッサ:6I9RMany :2007/07/27(金) 03:31:16 ID:E9zzpRL6
マリオネッテの憂鬱C
「う…うううう…」
僕は地面に転び、むなしく唸っていた、その足は折れ、這おうにも腕は二の腕から消滅し、逃げ出すことすら間々ならない。
「月乃…もういい、頼むからやめてくれ」
男…時坂歩は手にもったショットガンをおろすと、僕の腕を食った本人である 月乃 鞠に懇願した。
「…わかった」
何が何なのか、さっぱり分からなかった、この男を誘い出して、彼女が襲いかかろうとした瞬間…月乃とかいう女が現れて
…私の魔王の口よりも大きな口で…私をかばおうとした彼女を…晃と、わたしのうでを…いやだ、いやだいやだいやだ!!!!。
「う!うあああああああ!!!!かえせ!あきらをかえせ!ぼくのあきらあきらあきらうあああああああ!!!!!」
「…あの子は晃ちゃんじゃない、あなたの思い出と、人の思い出を記憶から直接食らって変化したエス…つまり貴方にとって」
「…都合のいい存在だった、でも…でもそれでもよかったんだ!!!だって!もう信じられない!だからみんな無くなって!全て
全て壊して終わればよかった!ぼくなんか晃はよみがえっても絶対に信じない!だから!だから!!!うああああ!!!」
もう僕の思考はグチャグャダッタ…アレハ…ボクガノゾンダソンザイデ…彼女は偽者…デモ…デモ。
「…あなたは悪魔にだまされた、そして彼らの手助けをした…妹さんを信じられないから…でも彼女を忘れられないゆがみ
があるから…貴方は付け入られて魔王の口を手に入れた…」
「…ならあなたはどうなの?貴方も口を持ってるじゃない!どうせ偉そうに言っていても…きっといつか貴方も彼を殺して…
あはははは!そうよそうよ!きっと貴方は!私と同じ!同じ!あはははははは!!!」
彼女は狂ったように笑い声を上げると…力尽きたようにぐったりと倒れこんだ、両手を失なったのが原因か、出血多量といったところだろうか…。
「晃…」
最後の彼女は、まるで意識が正常に戻ったかのように、透き通った声でそういって事切れた。
…私が、そのうち歩を信じられなくなって殺しちゃう…そう言われた月乃は呆然としていた、彼女のいっていることはあながち
間違ってはいない。全てを飲み込む魔王の口の能力を持ったものは…その力をどう使おうが、いつか人を信用できなくなって
死んでいく…なら、私は…。
歩は落ち込む月乃の肩を抱いた、そして彼女の体を手でぽん、と叩く。
月乃は、歩むの腕を抱き返すと、大声を上げて泣いた。
彼女のようになるのが怖かった、でも、今は歩を信じたかった。
そんなあの冬の出来事より少し前の、そんなお話 FIN
489 :
リッサ:6I9RMany :2007/07/27(金) 03:34:18 ID:E9zzpRL6
以上で終わりです、乱文、長文、グロに今しがたまで書いていたせいで
ろくすっぽ遂行していないことなどお許しください。
読んでくれた方、どうもありがとうございました。
うーん。投下を見てるとsageとかトリップ等知らないように見える。
まず2ちゃんの使い方を読んできた方がよろしいかと。
まあ、使い方云々はともかく、話しは上々だよ、うん。
少なくとも俺の好みではあるし、
SS書ける力がうらやましいぜ…
メリッさと言われてすぐにポルノに繋げてしまったのは俺だけでいい
眼前の鏡に映る自分の顔は最悪だった。
既に夜着から制服に着替えてしまっているので、規格に従った、整っている印象の制服にたいそう似つかわしくなかった。
目は真っ赤に泣き腫らしており、一睡もしていない疲労からか、目の下にはうっすらとくまができている。
昨日の夜は泣いて過ごしてしまったようなものだから、それは当たり前のこと。
寝起きということも重なってか、平衡感覚がなく、ふらふらしている。さらに悪いことに、さっきから寒気がとまらない。
単に寝不足からくる体調不良という気もしたが、風邪を引いているかもしれないので、後で体温を計ってみることにしよう。
目覚めが悪さをごまかすように洗面台で顔を洗う。
ざあざあと流れていく水の音がやけに耳に響いて聞こえたので、少し目が覚めたのかもしれない。
そして、顔を事前に取り出しておいたタオルで拭い、そのまま居間にむかい、救急箱の役割を果たしている
桐箱の上から二段目の引き出しから、体温計を取り出し、脇に当てる。
それから、テーブルの上にそれとなく視線をやると、一枚のわら半紙が乗っていた。
達筆でありながら、一文字一文字が小さい為にどこか、書き手の気弱そうな性格を彷彿とさせる字は父の字の特徴だ。
そこには、自分は仕事で何日か山口に向かうことと、基本的には家をはずす三日間の間、
契約しているお手伝いさんに家にいてもらうことになっているので、特に心配することはない、などといった内容だった。
その内容をどこか明晰さを欠いたままの状態で一通り読み終えた頃、電子音がした。
脇から電子音の音源を取り出すと、35.8℃。普段、低血圧で低体温な私からすれば平熱といったところのよう。
お手伝いさんはこの時刻には来ていないので、自分で用意できる範囲でごく簡単な朝食を作る。
私は基本的に料理は得意なほうなので、特に困ることはない。
寧ろ、料理は食べるほうも作るほうも好きである。
実際に、入院する前は松本君にもかなりの回数、昼食を作っていたりしている。
……失敗した。昨日、あれだけ嘆いていたのも松本君に関してであるにも拘らず、
こんなことを悠長にも思い出して一人、悦に入っているなんて…。
そう、今は彼については何もかも想像することしか許されないことを忘れていた……いや、むしろ忘れてしまいたいのだろうか?
いずれにせよ、現状は不変のもの。だから、そんな想像はもはや妄想とでも言うべき、無意味なこと。仮に一心に『想像』したところでそれが報われることがないのだから。
それならば、いつまでも嘆いていても仕方がないではないか。
とにかく現状を受け入れること。私はあの信じがたかった自転車事故という現実を受け入れたではないか。
それで、私は彼により近づくことができたではないか。
こんなところで躓(つまづ)いてしまうような私ならば、あの時にいっそのこと死んでしまえばよかったのだと思う。
とにかく、昨日、私はあれだけ悪辣な罠や態度に憤慨し、寂寥感に涙したのだ。
もう、感情に流されるのは十二分のはず。
報われない想像をするよりは、より現実的な次善の策を考えることにしよう。
私と彼がよりよくあるために―。
だから、所詮は第三者である、クラスメイトという名の傍観者ごときが何を言ってきたとしても、私は気にしないことにしよう。
例え耳に痛いことが聞こえようとも、今までどおり、相手にせず取り澄ました表情をしていればよい。
仮面舞踏会で仮面をするくらいなんということはないのだ。
一時間目は基本的に受動的な動作のみになる、中年の女教師が教える、いかにも型に嵌った英語である。
だから、予習さえすれば問題はない授業なので問題はない。
例によって、始業時間よりも数十分単位で早く学校に来た私は既にノートと教科書といった勉強用具を机の上に広げている。
特別に勉強が好きなわけではないし、英語に思い入れがあるわけでもないのだが、話し相手がいない今の私のする事といえば妥当すぎる選択としか言うよりほかない。
こう言うと、どこか突き放した感じに取れるかもしれないが、こうしているのが一番無難であることを私は知っている。
簡潔な部分と冗長な部分とがアンバランスに積み重ねられている、傍から見ても退屈な教科書の文章をいつもそうしているように、ノートの左半分に写していく。
十分もあればすぐに終わってしまう作業。
ノートの左の黒々とした横文字の羅列と対照的な右の空白部分に、今度は日本語を連ねていく。
電子辞書を片手に長ったらしい単語の意味を見開きの右ページに書いたりもした。
"hallucination"という聞き覚えのない単語の意味を電子辞書で引いている途中、教室のドアのガラス部分に、一瞬間だけかなり小ぶりな頭が見えたかと思うと、すぐさま見えなくなり、
左右に開閉する形式の教室のドアの片方が右へと動き、そのドアの半分よりかろうじて高いかどうか、という感じの少女が視界に入った。
………。
その少女の顔には見覚えがあるものだった。相手が何をしに来たのかわからないので、出方を伺うようにしてその小柄な少女に焦点を合わせる。
黒板の拳二つほど上に掲げられている、白い文字盤をやや塗装が剥げている黒い秒針が律動的に回っていく、時を刻む音が妙に耳につき、心を着実にかき乱していく。
「あ、あの…、北方先輩…ですよね?」
怯えた表情が私の警戒心丸出しの態度にあることがなんとなく察せられたが、まだ警戒心を緩めるつもりはない。
「そう、ですけど。」
なぜなら、その少女はつい先日会ったばかりで、例の手紙入りの便箋を持ってきた少女だったから。
「こ、この前は……あの、その、お気の毒なことをしました。」
咄嗟に何を言い出すかと思えば、唐突にも謝罪の言葉が出てきたため、疑問符が頭を埋め尽くしそうになる。
「…………。」
「あの手紙にあんな内容が書かれているなんて、知らなくて…。」
「そう。」
特別に彼女に対して思うところはない。しかし、本人がこういっていても彼女自身はあの害物の伝書鳩をするくらいなのだから、当然親密な関係にあるのだろう。
だから、呪詛の言葉の一つでも投げかけてやりたい気分ではあった。
そんな直情径行気味な自分の感情をとどめ、とにかく相手の話を最後まで聞くことにする。
「ええと、私は、ただ単に理沙ちゃんからこの手紙を渡してくれと頼まれて、先輩に渡しただけなんです。」
「理沙ちゃんは私の仲良くしてる友人の一人で、疑うことなく、先輩に渡しただけです。本当にあのときの理沙ちゃんの態度は、私といつも話しているときと変わらない感じだったので、何も気づかなかったので……すみません。」
「そう。」
機械的に聞いたことを把握した、という意味合いでそう、という語を用いたが、彼女が話している内容は、自分はこの件に関して何も関係する所がなかった。
だから、私のことをうらむような理不尽なことはやめてくれ、という所だろうか。
「言うことはそれだけかしら?」
彼女が私の発言を欲しているのは、とっくに洞察してはいた。けれども、ここで彼女に優しくしてやる謂れはないので、思った疑問をさらりと口に出した。
「あの、お、怒っていますか?」
「私の言っていることが聞こえないのかしら?言うことはそれだけかどうか、ということを私は質問しているのよ。」
再び一瞬の沈黙が二人の間に壁となった。
沈黙のせいか教室の外、校庭のテニスコートに面している窓を通じて、テニス部が練習をしながら発する掛け声が耳に入った。
少ししてから彼女は口を開いた。
「す、すみません。」
見るからに申し訳なさそうな心持ちがその恐々とした動作から窺い知れた。
が、それは私を不快にする以外の効果をもたらさなかった。
それで私はため息をついてから、再び口を開く。
「本当にそれだけなら、あなたの言いたいことは理解しましたから、それで結構でしょう?」
早く去れ、というニュアンスの言葉を解りやすいようにアクセントをつけて言うと、わずかに震わせていた肩の振幅が大きくなった。
「わ、私、理沙ちゃんがあんなことをするなんて、思わなくて!」
が、息を吸うと彼女は意を決したのか、ややどもりながらも感嘆符がついた発言をした。
「だから、私もスタンガンで襲うなんてショックでした。と、ともに正直なところ、嫌気が差しました。」
「それで、私自身としてはとにかく先輩に謝りたいと、そう思ったので、僭越でしたが申し訳ありませんでした。」
気づけば、小ぶりなランドセル風のバックを持った彼女はその震えが止まり、はきはきと発言していた。
「わかったわ。あなたが私に悪意を持っていないことは理解したわ。」
彼女自身が私に害意を持っているか否かは本心ではどちらでも良かった。
けれども、彼女自身がこちらに罪悪感を持っており、あの害物に親しい、という二点の特徴から、私はあることを思いついた。
「理解はしたけれども、これから私が言うことをあなたは聞いてくれるかしら?」
「は、はい。」
考えなしに、即答したようだ。ということは、それなりにこちらの要求を聞いてくれるかもしれない。
「単刀直入だけれども、あなた、松本さんの友人なんですよね?」
「は、はい。よく、話していますが。」
「それなら、私に彼女について、何か変わったことや疑問に思うことがあったら、私に知らせてくれるかしら?」
「………あの、それは、私にスパイになれ、ってことですか?」
「……嫌なら無理に、とは言わないわ。」
「………わ、解りました。気づいたことがあれば、伝えたいと思います。」
しかし、そうは言っても相手は名前すらわからない相手なので、名前とクラス、住所、電話番号くらいは聞いておくことにする。
すると、彼女はテレホンカードほどのやや固めの紙に氏名や住所と言った項目を書き連ね、それを手渡してきた。
そのカードに書かれている内容を一瞥してから、背丈が著しく低い彼女に丁度良いように手を差し出して、握手を求め私は言った。
「ご協力ありがとう、……村越、智子さん。」
「……は、はい。」
相も変わらずどもっていたが、差し出された手を握り返す彼女の手に込められている力は、協力の意思があると十分にみなせる、確固たるものだった。
次に彼女は返す刀で一つ要求を提示してきた。
「できれば、できれば、ですが、先輩も松本先輩の状況を教えていただけませんか?」
私の要求を呑んだ上なので、わたしがこの条件に逆らわない、そう思っていたのであろうか。
これを交換条件とみなす、と解釈するならばこの条件に私は抗うことはできない。
何故、松本君と何にも関係がないはずの彼女がそのような要求をしてくるのか、それを理解することができなかった。
しかし、彼が退院するまでの間は協力できる人間は他学年であっても、一人でも多くいたほうがいいかもしれない。
「わかりました。よろしいでしょう。」
すると、私に話しかけてきたときから、否、おそらく私に話かけようと決意したときから、緊張し収斂していたであろう肩を一気になでおろし、大きな偉業を成し遂げたかのような満足感が醸成されていた。
本当にこうまでも、線を引いたようにわかりやすい子であることに驚き、呆れに近い驚きを感じた。
しかし、本当に彼女がこちらから情報を得ようとする真意が計り知れない。
そう考えると、彼女特有のあのおどおどとした、頼りなさげな印象を見る人に植え付ける、その言動の一つ一つすら疑わしく思えてくる。
この子が天然でなく、全て計算のうちで動いているという確証になりえるほど、今までに彼女について何かを知っているわけではない。
けれど、このとき私は直感的になぜかこの眼前の付和雷同、協力者としては心もとない、不安この上ない茫漠とした彼女が恐ろしい存在になるのでは、
という既視感のような何かに支えられたはっきりとした予測ができた。
訳もなく人を疑い続ける、という心の闇は私は紛れなき悪徳だと思う。けれども、どんな状況にも転びかねない私の置かれている今の状況を背景とすると、それを私は悪徳と断じることができない。
そんな事を考えていると、ランドセルのような学校の規格外の洒落たバックを持つ、村越という名の少女の姿はどこにもなかった。
時計の刻む音はもう耳につくこともなく、教室は静謐としていた。
……そして時計を覗くと、針は始業十五分前を指していた。
にも拘らず、教室は依然として静けさの中にあり、微動だにしない。外のグラウンドでは運動部の連中が練習している姿もまばらなものとなっていた。
ふと、私はあることに気がついた。
そして、並べられている机を教室の後ろから全体的に見回す。
いつもなら運動部の人間は一二限目の授業道具やら、休み時間の話しの種になるものやらを机の中や上に置いておいたり、
単純に鞄を横のフックにかけていたりしている。
しかし、今日は一人としてそうしているものがいない。また、部活が終わったはずの連中がこのクラスに一人もいないのもおかしな話。
私のクラスだけならばそのようなことがあると言えるかも知れないが、他クラスも同様のようだ。
そんな事を確かめた所で、急に教室の後ろのドアが開放された。
私のクラスの学級委員のめがねをかけた女子が私の存在を確認すると、語気荒く私に怒鳴りつけてきた。
「北方さん!今日は、が、学生総会ですよ!いったい、あなたは何をしているんですか?
議員のあなたには学校の問題点に関して指摘と質疑を行う役割が割り当てられているんですよ!
あなたが来ていないことで、議事が進まないなんていうことは許されない!
それに、あなたは議事に際して、質疑の内容を記した討議用紙を先生に提出していませんよね!
とにかく早く体育館に来なさい!」
私にはいったい何のことを言っているのか、全く解らなかった。
学生総会の存在自体は知っていたものの、討議用紙の存在はおろかそんな重要な仕事をなさなければならないことなど、露ほども知らなかった。
おそらくこういったことはLHRの時間に決めたのであろうが、私は全くそんな事を聞いていない。
私が知らない間に私が面倒な仕事をすることが決められている、という予期せぬ事態に戸惑いを隠せない。
手を万力のような強さで学級委員に引かれながら、体育館に連行されていった。
既に同学年のクラスの人間はほぼ全員揃っているようで、それぞれのクラスの議員は既に準備を完了していることも察するることができた。
学級委員は私を連れてくる、という独善的な自己満足と言ったほうが正しい、義務を果たして得意な表情をしていた。
それが非常に癇に障るものであったが、それに私が狼狽するのも馬鹿馬鹿しい。
そもそもこの議事に関しては松本君の為に私が休んでいた際に決められていたものであるらしく、
私への連絡不十分であることを知り、担任の田並先生は憤怒の形相を呈していた。
なみなみならぬ怒気を帯びた担任の声が響く。そして、多くのクラスメイトは顔を伏せて嵐が過ぎ去るのを待っていた。
が、多くのクラスメイトの敵意ある視線を私にちらちらと向けてきていた。
理不尽だ。私が話したこともないような連中の罠にかかって、こんな風に敵意を向けられるなどと―。
当然、納得はいかない。しかし、私は彼ら大多数とは違って、スケープゴートとなってしまっているため、ただ田並先生の嵐が過ぎ去るのを待つだけでは解決しない。
まさか、私に決められていた議員役を他人にすることなどできまい。
一番の良策は私のクラスは議事を放棄する、ということであろうが、私が言ったところで認められまい。
またしても崩れてしまいそうになる。
仮面、寧ろ、鍍金に近いのだろうか、その鍍金がはがれてきてしまいそうだ。きっと、私がこんな理不尽な仕打ちを受けたとしても松本君が傍にいてくれれば、私は自分を保つことができる。
彼だけは、彼だけは私を理解してくれるはずだから。
理不尽な目に遭っていてどうしようもない事態であった、ということが聡明で思いやりのある彼ならば気づかないわけがない。しかし、ここには私の味方が一人もいないから―。
だから、貴金属に見せかけた卑金属は鍍金がはがれて、脆くもその存在する意味を失ってしまう……。
そうこうしている内に、何か良い方策を考えつくことなく、議事開始の時刻を迎えた。
田並先生は私に思いつくことを言うだけでよいから、と言ってきたが、本来、生徒による自治を創立以来何よりも尊んでいるこの学校の学生総会の議論は異常なレベルにまで白熱することがある。
思いついたことだけならば、簡単に揚げ足を取られかねない。
体育館内、ステージ前に数脚配置されている議員の定位置である長机のうち一年のクラスの議員の中に、あの名前を出すのすら忌まわしい害毒がいることに気がついた。
相手は既に、私の存在に気がついているようで、こちらを凝視していた。
それから二時間もの間、学校内に関しての議論が繰り広げられた。当初は最低限の発言だけ済ませて、じっとただひたすらに、嵐の過ぎ去るのを待とうとしていた。
しかし、この作戦もあの害毒によって封じられた。
概して生徒はこういった学校内の細々とした議論には興味がないものなので、何とかやり過ごすことができるかと思ったが、執拗な個人攻撃に近い揚げ足取りと、
事前に協力していたと思われる一年と二年の他クラスの三人から、つまり四対一の集中攻撃を受け続け、どのように発言しても、必ず否定してきた。
私の論に対して反証をしようというのではなくあくまでも私に対する反対であった。
この様子を見ていた私のクラスメイトは怒りをあらわにするどころか、私を嘲笑の対象としていたようだ。
全く予想できなかった状態ではなかったが、私にとってその苦しみは今まで経験した、母の虐待と同等に辛いものであったとすら感じる。
価値観を共有しない彼らの言うことなどに耳を貸さないつもりでいても、当然のことながら無傷ではいられなかったのだ。
二時間目が終わり、休み時間になると、私の姿を見てヒソヒソと話していたクラスメイトの刺すような視線が耐えられなくなり、考えることなしに屋上に向かった。
少し風に吹かれたかった、ただそれだけである。
不快だったが、終わりがなかなか来そうにない梅雨の湿って生暖かい空気が頬をなでていく。グラウンドからみえる新緑が目にしみるほどに美しい。
しかし、私は視線をそこから離し、グラウンドを離れ、校門を出て、住宅地を飛ばし、やや小高いビルを望んだ。
そこは、私にとっての唯一の心の支えとなってくれる人がいる場所―。
しかし、今の私は会いに行くことができない。そこに行き、逃げてしまいたいという欲求は強い。しかし、その奔流を理性をダムとして抑える。
相手は約束を守らないだろうが、そうなると私は尚の事、その約束を反故にすることはできないのだ。
私はそう思いながらも、ある事実が心に引っかかっていた。
曰く、父は三日間の間、家を離れてしまっているため、私の行動を把握できない、ということ。
もし、それを生かすとしても、この三日間という限られた時間だけ。
ならば、行動に移るのは極力、早くしなければならない。
しかし、私には約束を破ることに臆したわけではないのだが、その行動に踏み切る気が起こらなかった。
私の問題を彼に波及させて余計な心配をさせてしまうわけにはいかない、と思ってしまったから。
私は以前、私は自分を癒してくれた彼にとってのオアシスとなりたい、そう決意した。
そのため、私は踏み切ることができなかった。
放課後、小高いビルの中にある一階の狭小な部屋は一人の来客を迎えていた。
それは、この部屋の主の妹であった。
「ねえねえ、お兄ちゃん。」
「うん?どうしたんだい?」
年上の兄は身体に傷を負っていたが、妹に優しく問いかける。
「お兄ちゃん、この本はどうしたの?」
テレビの近くに置かれていた、真紅の本の金文字を上から指でなぞりながら、妹は兄に尋ねる。
無粋なこの部屋のしつらえと乖離し、浮き上がってしまっているその本を妹が見つけ出すのは容易なことであった。
「………。」
兄は何かを案じるように顔色を一瞬だけ歪めるたが、すぐにいつも通りの表情に直し、自分がかつて買ったものである、と妹に告げた。
それを聞くと、妹はその本を取り上げ、愉快そうな表情を浮かべながらページをめくっていった。
しかし、妹は知っていた。
その本が自分の敵の本であることを―。
その本を自分の兄が既にいくらか読んでいることを―。
その本の内容が自分たちの状況にいくらかでも似通っている、ということを―。
だから、彼女はその本の中に登場する人物と自分とを重ね合わせて微笑んでいたのだ。
本の中途にしおりが挟まっていることに気がついた。
自分の兄がしおりを使っていることをあまり見たことがないため、妹はそれをいぶかしんだ。落ち着いた色合いの洒落ているこのしおりが兄のものでないことがわかった。
そして、この本の所有者が自分の敵であることから類推して、このしおりの所有者が誰であるかも、想像がつく範囲であった。
それは一瞬のことであった。ビリビリという厚めの美しい紙でできたしおりがあっけなく破れていく音が生々しかった。
そのしおりは兄にとって特別なものであったらしく、唖然として間が抜けた表情のまま、兄は動かなくなっていた。
「どうしたの?お兄ちゃん。」
「このしおり、だったら気にしなくていいよ。私が持っているもので、もっと良いしおりがあるからそれをお兄ちゃんにあげるし、そんなものは必要なくなる。何でだと思う?お兄ちゃん?」
「………。」
あはは、と笑い声にしてはやや乾いたような印象の笑い声を上げると、まじめに考えてよぉ〜、と妹は兄に甘えた。
それから、ややまじめな表情に妹は立ち直ってから言った。
「私が傍にいて、本は読み聞かせてあげるから何もしおりなんか、使う必要なんてないんだよ、お兄ちゃん。」
そう言い放った後、妹は兄の傍にじりじりとにじり寄っていった。
その妹に兄は少なからず恐怖感を覚えたのか抵抗していたが、身体が本調子でない兄は妹の思うがままであった。
やがて、妹はベットの上に正座し、そのひざの上に兄の頭を乗せた。
膝枕をしながら、妹は兄の為に自身と登場する人物とを重ね合わせている特別な本を読み始めた。
そう、それはあたかも、自分が敵である北方時雨を倒して、自分だけが兄の傍にいられるということをはっきりと宣言しているようだった。
第12話でした。
GJ!
GJ!
ずっと理沙のターンで、北方さんカワイソス
>>510 ああ、妹が憎たらしいw
北方さんガンガレ超ガンガレ
ヤンデレスレがなかったのでここに書き込むが・・
リトルバスターズの神北 小毬がほんの少しだけヤンデレだったw
いや、主人公の事を想って病んでいるわけじゃないから
ただの痛い人かな
保管庫の中の人です。
すいません。民主党の圧勝にショックを受けたので、もうしばらく更新は遅くなります。
とか言ってみるテスト。
> 517 名前:名無しさん@そうだ選挙に行こう[sage 嘘] 投稿日:2007/07/29(日) 20:19:04 ID:G+ZFAkPb
> 名前:名無しさん@そうだ選挙に行こう[sage 嘘]
> [sage 嘘]
> [sage 嘘]
> [sage 嘘]
うれしい?
どう反応すべきか迷うんだけど☆
投下します。
「みぃーくん。気がついた?」
気がつけば、僕は先輩は衣類が散らばるベッドに縛られていた。
腕と足首をロープで巻かれ、体の自由を奪われた僕。服は乱暴にはだけられている。僕についている布はボタンの開いたカッターシャツとトランクスだけだった。
「……うっはっ」
そんな僕に、先輩がのしかかっている。
先輩の姿は裸だった。白くぷるりと光る先輩の汗ばんだ肌が、ベッドの横の間接照明を反射させている。目線を外に向けようとする。首は動かないが明るさはわかる。
暗い。夜。この証明が無ければ真っ暗闇。
「みぃーくん。おはよう」
「……!」
先輩っ。僕はそう呼ぼうとするが。声が出てこない。喉から出てくるのは、しゅこしゅこという空気を吐く音だけ。
先輩はそんな僕の頬を愛しそうに撫ぜる。その指先一つ一つが僕の肌に触れるたびに、僕の心臓が爆発しそうなほどの早鐘を打ち始める。
体が燃えそうな熱を放ち、熱くなっていく。
僕は焦って、口をパクパクさせながらよがるが、先輩はそんな僕を見てただ笑っている。
その笑みはまるで自分の策略が上手く言った策士のごとく、黒く、舌なめずりをして自分の欲望をさらけ出している。
僕の下のほうが熱くなって起立し始めると、先輩は情欲に染まった瞳をさらに潤ませて、もう片方の手を僕の規律したものに這わせる。
愛しげに上下にさする先輩の手。その力強く膨らんだものに満足したように先輩は僕に向かって囁きかける。
「えへへ。効いてるね」
な、なにが?
僕は声が出ない分、視線で先輩に聞くしかない。先輩は僕のほうを見て静かに笑う。
「これ」
そう言って、先輩が取り出したのは。一本の注射器。
「……なんだと思う?」
僕に向かって訊いてくる先輩の無垢な笑顔が怖い。
「……あぐあぐ」
「うふっ」
ぷすり。
「……!」
先輩はなにも説明せずに、僕の首元に注射針を刺した。
空気抜きも無し、さらには消毒も無しの乱暴な注射。首にちくりとした鋭い痛み。僕は恐怖で先輩の目を見つめたまま固まってしまって抵抗も出来ない。
「うふふふふふふふ……」
先輩が抑えきれない興奮を溢れる不気味な笑み浮かばせながら何かを注入してゆく。
「……はっ、うぅ!」
何を僕の中に入れてるんですか! 先輩! じたばたしたいが、弛緩しきった体はいうことを聞かず、のしかかっている先輩の体でさえどかすことが出来ない。
しばらくそのまま数秒たって、きゅぽんと注射針が抜かれた。先輩は僕に空っぽの注射器を見せ付けると、ぽぉいと投げ捨てた。注射器の使い方としては0点だ。
「うふふふ、こんどは即効性だよ」
もしかして、この力が入らない体は、もしかして今の薬のせい? 先輩の言葉から、僕の体にはすでにこの薬を注入しているようだ……しぃ……?
「……あぁ、あ、あ、あ、あぁぁぁぁぁぁぁ」
なんだっ。なんだ!?
先輩に注入された部分、体の部位が熱くなっていく!
「ああああああ、あああ、ああ」
体の中の血液の流れが一気に加速する。そして、首もとの熱源が分裂し、血液の流れに沿って体中を移動していく。
獲物を誘い込む毒物のように甘くて魅惑的で狂ったような感覚。その感覚を自覚したときにはもう僕の首から下は、完全に別の何かに支配されてしまった。
「うふふ。ビクンビクンになったね……」
何かを注射された僕の体は、感度がものすごく上がり、先輩と接触した肌、先輩の息遣いに大きく反応するようになった
「いいでしょう。コレ……いっぱいいっぱい気持ちよくなれるおくすりなの」
そう言うと先輩ははだけられた僕のカッターシャツごと、乳首に吸い付いた。一つしかない口は右へ。もう片方は残ったほうへ。
僕に対しては100戦練磨の先輩。僕の快楽のツボを的確に抑えていた。
「いぎぃぃぃぃ!」
僕の脳内に麻薬のように分泌される激しい快楽の痛みと刺激。
そして、先輩に撫でられた僕のトランクスに包まれ半立ちとなっていたアレが、突然意思を持ったようにトランクスを突き破らん勢いで頂点に向かって膨張し、僕のトランクスの股間部分に大きなテントを作り出したのだ。
まるで昇り龍ごとく、天に向かって吼えるように起立するアレ。
さらに、アレはびくりびくりと震え口からよだれ汁を噴出し、僕のテントの頂点はみるみるうちに色を変えてゆく。
「あうぅうあうううう」
「うふふ。何度も使うと中毒になっちゃうんだって。でもいいもんね、私だってみぃーくん中毒だし。みぃーくんも中毒になっちゃっていいもんね」
「あうぃううう」
せんぱい、わけがわかりません。
あ、あれ…だんだん視界がぼやけてきた。靄を張ったように先輩の顔がかすみだしてくる。先輩は僕のほうを見つめながら狂ったように笑っていた。
「好き。好き。大好き。だいしゅき……」
「えんはぁい……あぅう」
せんぱいってよびたかった。でも声は出ない。そのうち僕のしかいとともにのうないの理性もとろけだしていく。
とろけ、とろけ、とろろ、せんぱい? せんぱい? な、なんだこれ、あ、あたまが、あたまがおかしくなるっ。
ああ、あああああ、ああああああああ。
あ……あぅ、せんぱいがぼくのあれをにぎりだした。トランクスにてをつっこんで、あう、あう、あう、しごいて、しごいて、しごいてくれてるぅ、き、きもちいい!
あれ、なんだかなにもかんがえられなくなってきた。ぼくのあたまのなかがきもちいいことでいっぱいになってゆく、しごいてくれるせんぱぁい。あうっ、あうっ、せぇんぱい、きもちいいよぉ。
「よだれ出しちゃって、可愛い。ねぇ、みぃーくん。みぃーくんはあたしのものだよ。だからいっぱいいいことしてあげる」
いいことぉ、いいことぉ。きもちいいこと、うん、して、してぇ! もっとしてぇ、もっとしごいて、しごいてぇ!! もう、せんぱいならなにされてもいいですからぁ!
「もう何も考えられないって顔してるね、そうそう、みぃーくんはそんな風に私に可愛がられていればいいの」
いいよぉっ、こんなきもちいいのぉ、うまれてはじめてぇだよぉ、しゅごしゅご、しゅごしゅご、せんぱぁいきもちよすぎぃいぃ! どんどんやってぇ、どんどんしごいてぇ、どんどんめちゃくちゃにしてぇくださぁい!
「震えてるね、いっぱいいっぱい出したいんだね。いいよ、出しなさい。出したらご褒美にもう一本注射してあげる」
ほぉんとに!? もっときもちいいおくすりくれるんですか!? うん、いあっぱいだします! いっぱいせんぱいにあげますっ。びゅくびゅくします、びゅく、びゅく、びゅく、
くる! びゅくびゅくがぁ、せんぱぁい、きます! だから、おちゅうしゃおねがいしますぅ、びゅくびゅくびゅくびゅく!? びゅく! びゅく!びゅく! おくすりぃー!
「あわぁはぁはぁわぁはわぁぁぁああああああ!!」
どびゅる、どびゅるるる、びゅくり、びゅくびゅくびゅくっ、びゅるる! どびゅるるるるるるるるるるる!!
………。
「ただいまー」
「ただいま」
玄関を開けて、僕は部屋に帰ってくる。
僕の後ろから先輩も入ってきた。この部屋はもはやほとんど僕と先輩の共同生活の部屋と化しているため、先輩も「ただいま」と言うんだ。
先輩は玄関のドアを閉めると、いつものように冷蔵庫に直行し、中から牛乳パックを取り出した。その間に僕はスーツを脱いで壁にかかったハンガーにそれをかける。
ごきゅごきゅと先輩の牛乳を吸引する音が響いていた。
「ぷはぁ、うまい!」
先輩は毎朝仕事に出るときと、仕事から帰ってきた夜に飲む一本がたまらないらしい。
「ふんふふふん♪」
先輩は鼻歌を歌いながら冷蔵庫の中に牛乳を仕舞う。
それを聞きながら僕はネクタイを外して、カッターシャツを脱いで、ズボンを脱いで……。
先輩が手馴れた動作で、注射器と注射液を取り出す。
その横で、僕はタンクトップも脱いで、トランクスさえも脱ぎ捨て……。
「先輩、お願いします……」
「うふふ。ちょっと待っててね。今用意してあげてるから」
注射液からちゅうと吸い取って、空気が入らないように何度か振る。ぴゅくちと先端から薬品を滴らせる。
僕も毎朝仕事に出るときと、仕事から帰ってきた夜に打つ、一本が、とってもたまらない。
「先輩………」
「ふふふ。みぃーくんったら。もう……」
先輩は裸になった僕の姿を見つめて満足そうに微笑むと、僕を正面からぎゅっと抱きしめた。
「「大好き」です」
そう言い合うと、先輩は僕の首筋に注射針を押し付けたのだった。
(おわり)
注射器は素人が簡単に扱ってはいけません。
よづりでヤンデレのペースが崩れてしまったので、定番ヤンデレを書いてみようと思って作りました。
簡単に作ったものなので穴があるかと思われますが、ヤンデレ分の足しになればと思います。
GJ!
薬漬けとは・・・恐ろしい子・・・!
>>524 ( ;∀;)イイハナシダナー
先輩もみぃーくんも末永くお幸せに!
……あれ? 何か間違ってますか?
やっぱハッピーエンドが一番だな!GJ!
>>524 GJ!
二人とも幸せになってくれて良かったぜ。
これは道徳の教材にするべきだろう。
/. ノ、i.|i 、、 ヽ
i | ミ.\ヾヽ、___ヾヽヾ |
| i 、ヽ_ヽ、_i , / `__,;―'彡-i |
i ,'i/ `,ニ=ミ`-、ヾ三''―-―' / .|
iイ | |' ;'(( ,;/ '~ ゛  ̄`;)" c ミ i.
.i i.| ' ,|| i| ._ _-i ||:i | r-、 ヽ、 / / / | _|_ ― // ̄7l l _|_
丿 `| (( _゛_i__`' (( ; ノ// i |ヽi. _/| _/| / | | ― / \/ | ―――
/ i || i` - -、` i ノノ 'i /ヽ | ヽ | | / | 丿 _/ / 丿
'ノ .. i )) '--、_`7 (( , 'i ノノ ヽ
ノ Y `-- " )) ノ ""i ヽ
ノヽ、 ノノ _/ i \
/ヽ ヽヽ、___,;//--'";;" ,/ヽ、 ヾヽ
>>524 一週間禁欲しただけでハッピーエンド
迎えられるなんて、ほかのヤンデレ系
主人公たちがハンカチ噛み締めて羨ましがるぜw
ちょっと引っかかるといえば引っかかるけど
まあ、これがヤンデレ流のハッピーエンドなんだろうな・・・
>>531 そのハンカチは両端が頭の後ろで結んであるんだよな
>>524最高のハッピーエンドにGJ!!
そういえば最近
>>524のSSハッピーエンドじゃないよなと言っていた友人見かけないなぁ・・・
まさか・・・な・・・
>>535 その友人はきっと今ごろハッピーエンドを迎えてるところだよ
羨ましい限りだ
すまん、ちょっといいか? 童話をパロった作品を書いているんだが
原作は米国では著作権が切れてないらしい。bbspinkのサーバー設置場所って
米国だった気がするんだけど、これって著作権違反か?
ごめん言葉が足りなかった。上のは、このスレで書いたらって意味ね
すまん。自己解決した。スレ汚しすまんかった
以下なにごともなかったようにドゾー
「法律なんか守ってたら恋愛は成就しないのよ」ってばっちゃが言ってた!
その後ろでじっちゃは震えてた。
法律を守らなかったんだよ
具体的には民法734条
>>540 ばーちゃん・・・(((;´Д`)))ヒー
うちのばーちゃんは昔の女は結構独占欲が強かったって言ってた。
今日の仰天ニュースはヤンデレでしたね
いいえ、あれはただのボーダーでした。
ヤンデレとボーダーってどう違うんだ?
ヤンデレ・・・それは愛故の凶行
第18話、投下します。
第十八話〜事の歯車〜
菊川邸の地下にある、第448地下室。
俺は今、そこに向かっている。ナイフと、拳銃をポケットに入れたまま。
室田さんの誘導に従って、屋敷のロビーに向かい、二階へ向かう階段の裏にあるドアを開ける。
そこに、地下へ続く階段があった。
おそらく、十本松と香織とかなこさんがこの階段を下りた先にいる。
壁に手をつき、暗い階段を下っていく。明かりはない。運の悪いことに携帯電話の充電まで切れている。
下りていくにしたがって、1階から差し込んでくる光が弱くなる。
踏み出した足がちゃんと地面についているのか疑わしい。
第448地下室と十本松は言っていたが、実際は菊川邸の中には448も地下室はなく、2つしか存在しない。
448地下室というのは、ただ十本松がその地下室のことをそう呼んでいるからそんな名前になっているだけ。
俺が今から向かっている地下室は、十本松がこの屋敷に住み込んでから作られたものだという。
もう一つの地下室は、室田さんがこの屋敷に住み始める以前からあったそうだ。
当主の言いつけで、長年菊川家に仕えてきた室田さんも下りたことがない地下室。
何があるのかはわからない。そもそも地下室があるのかどうかすらよくわからない。
この屋敷の地下へ向かう階段の先は、謎に包まれている。
室田さんから教えてもらった情報は、十本松が448地下室に頻繁に通っていたという事実のみ。
十本松は屋敷に帰ってきたら、何をするよりも先に地下室へ下りる。
そして、毎日1時間地下室から出てこない。時には、翌朝になるまで1階に上がってこない。
何をやっていたのかを聞いた者はいない。聞こうとする者もいない。
十本松は屋敷の使用人を全て自分の息のかかった者にしたらしいから、当然だろう。
暗い視界の中、手探りでポケットからナイフを取り出し、鞘を掴む。
刃は抜かない。抜いたところで、振り回すくらいしか使い方が思い浮かばない。
脅しの道具に使うのが精一杯だ。
上着の内ポケットの中に入っている拳銃には手をかけない。
さっきは銃口を華に向けてしまったが、あのとき、スライドは引いていなかった。
スライドを引かなければ、オートマチックの拳銃に弾丸はセットされない。
俺はそんなことすら忘れていた。
俺の手には余る武器だ。
この銃は俺には撃てない。
せいぜい、恐怖を少しだけ紛らわせるくらいの効果しかもたらさない。
それでも、持っていないよりはだいぶ気分が楽になる。
相手は、堂々とアパートの前で拳銃を発砲し、俺を気絶させたうえ、香織をさらっていくような女だ。
さらに、菊川家の当主まで爆死させたときている。
そんな奴が俺に襲い掛かってきたとして、俺が生き残れるかというと……正直、無理そうだ。
成す術もなく、殺されてしまうだろう。
だけど、引き返そうと思わないのはなぜなのか。
なんだか、現実感が無い、今置かれている状況が嘘っぽい、そんな感じがする。
自分がこれから殺されるかもしれないとは理解している。
極度の緊張感にみまわれると、人はこうなってしまうものなのだろうか。
黒そのものの視界の中に、わずかな光が差してきた。
長方形の四角い光が、階段の下の方から足元を照らしてきた。
わずかな光を頼りに、壁に手をつきながら階段を一歩一歩下りる。
階段を下りきったその先にあった光は、ドアのすき間から漏れてきていた。
ドアのすき間から漏れているのは、光だけではなく、匂いもそうだった。
砂糖を大量に鍋の中に注ぎ、さらにチョコレートを流し込み、思いっきり煮詰めて焦げ付かせて、
その上に蜂蜜を大量にかけてかき混ぜているような、そんな感じの想像が浮かぶ、甘ったるい匂いだった。
ドアのすき間からの匂いでここまで甘いのだから、中はどれほどひどい匂いがするのだろう。
思わず、ドアを開ける手を引っ込めてしまう。
そのときだった。
目の前で、がちゃり、という音がしたのは。
呼吸を止める。体の動きも止める。
ここにきたことを勘付かれたのか? いや、勘付いていなければドアの鍵を開けたりはしないだろう。
視界が悪く、隠れる場所のないドアの手前で、待つ。
あの忌々しい、男女の声が聞こえてくるまで。
「入ってきたまえ、雄志君」
待っていた相手の声が聞こえてきた。
ここ最近で聞きなれた声ではあるけど、やはり女声で、下手な演技をしたような低音だ。
ドアを蹴破って入ろうかと思った。が、無意味だということに気づいた。
冷たいドアノブを捻る。奥に押していくと、音も無くドアは開いた。
ドアを開けたその先にいたのは、十本松あすかだった。
部屋は薄暗くて、壁の辺りまではよく見えない。
部屋の真ん中に立つ十本松の上に小さな電球があって、その下だけが照らし出されている。
ここまでは予想していた光景の通り――だったのだが。
「お前……十本松か?」
そこにいたのは、俺が知る、スーツにオールバックのいでたちをした十本松あすかではなかった。
白いハイネックのセーターに、グレーのロングスカート。足元には黒いブーツ。
一言で言うと、女らしい。冬の街ならどこにでもいそうな感じだ。
普段ジャケットとシャツに押し込められていたのか、セーターの胸元が押し上げられ、双丘ができている。
オールバックにしていた髪を下ろしているせいで、さらに女らしく見える。
おまけに化粧までしているのか、アイラインがはっきりとしていて、肌は白くてまっさらだった。
明らかに、俺の知っている十本松あすかとは違っていた。
感想を述べるなら――可愛い。
不愉快にもそう思った。
「呆然としているね。そんなに魅力的かな? 私のこの姿は」
「…………そんなわけないだろ」
「今、返事するまで一回深呼吸をするほどの間があったね。
なるほど。異性から見て、やはり私は魅力的な容姿をしているということが証明されたな」
十本松は両手を広げ、くるりとターンした。短い髪とロングスカートがふわりと浮かぶ。
カツン、という音が地下室に静かに響く。
「ふふふ……あはは……ああ、嬉しい。嬉しいよ、雄志君」
「俺に褒められたら、嬉しいってのか?」
「君に褒められるのが嬉しいわけじゃないよ。君という異性が私のことを可愛いと思ったということは、
父も、私を可愛いと思っている可能性があるわけだ」
父親だと? 十本松の親父さんは、死んだはずだろ?
まさか、生きているってのか?
「――聞こえる? お父さん。私、可愛いんだって」
薄く笑いながら、十本松は天井を見上げた。
天井は暗い。なにかしみのようなものは見えるが、詳しくはわからない。
「お父さんも、今の私を見たら可愛いって言ってくれる? 言ってくれるよ、絶対そうだよ。
それとも――綺麗だって、言う? 抱きたいって、言う?」
十本松の様子がおかしい。
普段のおかしさとはまるっきり違う。
喋り方が違うとか、服装が違っているとか、そんな違和感ではこの感覚は説明できない。
俺の感覚で例えるなら、十本松は空中に浮かんでいるようだった。
暗い部屋の中でくるくる回り、倒れるとみせかけて軽く踏み出した足で跳ね、また回る。
ふらふら、ひらひら、という感じで流れるように踊りまわる。
「お父さん、お父さん、お父さん――義也さん、だぁい好き」
くるくると回って、部屋の真ん中、電球の真下に戻る。
そして、十本松は右手を頭上に高く上げた。
パチン。
十本松の指が、小気味いい音を立てた。
途端、パッと部屋中が明るくなる。
明かりは隅々まで地下室の中を照らし出した。さまざまな方角から照明が光を放ち、影を消滅させる。
眩しさに閉じたまぶたを薄く開き、部屋の中を確認する。
――そこには、大量の男の顔があった。
天井、奥の壁、左右の壁、振り返って見た後ろの壁、天井、唯一の例外である床以外の全てに男の顔が浮かんでいた。
壁中貼りつき、びっしりと隙間を作ることなく、男は俺と十本松を取り囲んでいた。
男は、肖像画や引き伸ばされた写真の中で、さまざまな表情を見せていた。
あまりに種類が多すぎて、数えることができそうにない。
気持ち悪い。落ち着かない。透視されている気分だ。
「義也さん。今日も、とっても素敵……そんなに、見つめないで」
よく見ると、部屋の壁を取り囲んでいる男は、一点をじっと見ていた。
写真の目が動いているわけではない。男の視線が、部屋の一箇所に集中しているのだ。
恥ずかしそうに、部屋の中央で身をよじる十本松に向けて。
「恥ずかしいです。そんなに見られたら、私、また……体が熱くなって……」
十本松は肩を抱いて、首を伏せた。
顔が赤くなっている。この分だと、言ったとおりに体も熱くなっているのかもしれない。
「義也さん。早く、会いたい。――うん、待ってて。もうすぐ、会いに行くから」
十本松は以前、父親に欲情していた、と言っていた。その言葉は嘘ではなかった。
今の十本松は、惚れた男の前で恥らう女そのものだ。
だが、どうしようもなく、異常ではある。
人前で、死んでしまっている人間に向けて、生きているように話しかけ、恥じらいを見せる。
死んでしまった家族の位牌や形見に話しかけるものとは、明らかに種類が違う。
十本松は、父親の写真だらけの部屋の中にいることで、満たされなかった父親のぬくもりを満たしているのか?
それとも――父親がまだ生きていると、本気で思っているのか?
「さて、雄志君」
普段どおりの喋りになった十本松が、声をかけてきた。
「なんだよ」
「羨ましかったかな?」
俺は目をしばたたかせた。
「何に?」
「私の父に」
「なぜ、俺がお前の親父さんを羨ましく思わなければいかん」
「死んだ父に話しかける私を見て、君が父のことを羨ましがるのではないかと」
「それはない。俺はお前に好かれてもちっとも嬉しくないからな」
できれば、接点すら持ちたくなかった。
こいつと出会っていいことなんか一つもなかったんだ。
「それは残念。昔の君はあんなに、私に好かれようと必死だったのに」
「いつの昔だ。俺はお前に好かれる努力をしたことはないぞ」
「わからないのかい? さっきも電話であれだけのヒントをあげたのに」
「なんについてのヒントだよ」
「わからないのか? それとも、わざととぼけているのか? 前世の君についてのヒントをたっぷりあげただろ」
また前世かよ。
こいつといい、かなこさんといい、どうしてこうも電波系の台詞ばかり口にする。
「前世なんかあるわけないだろ、馬鹿馬鹿しい」
「まだそんなことを言っていられるとは……もしかして、と思っていたが、本当に何も覚えていないらしいね」
「お生憎様。生活に必要じゃない知識は端から削除していってるんだ」
「やれやれ。かなこが処女を捨ててまで説得に臨んだ夜は、無駄だったというわけか」
なんでここでかなこさんの名前が――いや、処女? 説得? 夜?
処女と夜の2つからすぐに連想できるキーワードというと、セックスだ。
確かに、この屋敷で爆発事件が起こる前夜、俺はかなこさんに縛り付けられて、犯された。
俺とかなこさんが一緒にいた夜のことを言っているんだとしたら、もしかして。
「……知っているのか?」
「いい声で啼くんだね、2人とも。特にかなこの達した瞬間の声は、素晴らしかった。
背筋にぞくぞくとしたものが突き抜けるのを感じたよ」
「盗聴かよ。この変態が」
「普段は盗聴器などしかけていないよ。あのパーティの夜だけだ。
あの時、君とかなこを2人きりにしたのは、ああするためだった。
雄志君を部屋に連れ込めば、必ずかなこは君をレイプするだろうと、わかっていたからね」
こいつ、かなこさんが俺のことを好きだとわかっていて、どう動くかもわかっていて、行動していたのか。
十本松は、全てを計算している。その上で動いている。
ということは、無意味なことはしないはずだ。
俺とかなこさんを接触させたのも、香織とかなこさんを誘拐したのも、何か理由がある。
「雄志君とかなこをセックスさせれば、君の記憶が全て戻るかも、と思っていたのだけど。
ひと欠片も戻っていないとなると、事は簡単に運びそうにないな。さて、どうしようか」
十本松は腕を組み、右手で顎に手を添えるポーズをとった。
久しぶりに見る気がする、十本松のホームポジション。
女装をしていてもやはり中身は変わっていないらしい。
十本松はなにやら考えている。
飛び掛って取り押さえるなら、今がチャンスだ。
しかし、問題は距離だ。一足飛びにたどり着けるほど近くに十本松は立っていない。
ナイフを投げて、ひるんだ隙に飛び掛るか?
それとも、拳銃で足を撃つか?
どっちにしても、成功率は低い。少し間違えば返り討ちだ。
せめて、もう少し近ければ。
「ああ、そうだ」
閃いたように、十本松が顔を上げた。そして、俺の方へ向かって歩いてくる。
俺は一歩後ろに下がる。
「なにも逃げなくても。私は君の答えを聞きにきただけだよ」
「答えだと……さっきのクイズの答えか?」
「うむ。答えは見つかったかな?私が武士、私の父が姫だとしたら、雄志君の役とかなこの役はなにか?
かなこの役はなんとかわかったとしても、君の役はちょっと難しいから、まだわかっていないかな?」
どっちもわかっちゃいねえよ、くそったれ。
考えろ、俺。
性別は無視しろ。十本松親子でそれはひっくり返っているんだ。
姫、つまり十本松の父親。
彼を殺したのは、室田さんの話によると、香織の父親とかなこさんの父親。
父親2人が、一冊目の本でいうところの刺客の2人。今2人とも、死亡している。
殺された父親。その父親の仇をとる娘。殺された父親2人の娘というと――――あ!
「かなこさんの役は、最終的に武士を殺してしまう、刺客の娘だ」
これが正解だとすれば、香織もその役になってしまうけど。
「どうだ?」
十本松に問いかける。
問いかけた途端、十本松が両手を叩いて、拍手をした。
「ほうほう! 本当に冴えているね雄志君! もしかして君は地下室では頭脳が冴えるタイプかな?」
「ボケ。俺は普段からこうだ」
「いやははは。君が私の期待を裏切らない程度の脳みそを持ち合わせていると知れて嬉しいよ。
今日は嬉しいことがいろいろ起こるな。明日はハットトリックかな?」
十本松はしばらく拍手を続け、少しずつ音を小さくしていき、最後は拍手を止めた。
「さあて。残るは一つ、雄志君の役だけだ。果たして君にわかるかな?」
わかんねえよ。
俺は香織とは付き合いをしているが、かなこさんと十本松とは付き合いが浅い。
3人の父親となると、まったく付き合いがないんだ。
あの本に登場していて、今のところまだ割り当てられていない役は――武士の、元恋人しかいない。
物語で語られない部分、最後の最後で刺客の娘を殺す役しかもう残っていない。
「おや、わかったかな?」
いやいやいやいや、待て。
そうだとすると、俺は武士の恋人、イコール十本松の恋人ってことになるぞ?
ありえない。そんな事実はない。俺の恋人は香織だけだ。
けど、余っている役は元恋人の役しかない。
俺が武士の元恋人役になるなら、全ての役が埋まってしまう。
まさか、本当に、そうなのか――?
答えてもいいのか?
現実と照らし合わせても、俺が十本松と恋人であった事実などないのに。
待てよ、これはもしや。
「わかったよ、十本松」
「して、答えは?」
「これは引っ掛け問題だ」
「……ほう」
「本当は俺の役なんかない。残されているのは、武士の元恋人だけ。
俺とお前が恋人だった事実なんか、過去を探ってもでてこない。
ということは、これは引っ掛け問題としか、考えられない」
この推理に破綻はない。
極めて慎重に選んだ結果が、この答えだ。
十本松からの反応を待つ。
こいつは、俺の答えが正解だと言うしかない。
俺が、十本松が殺されたことに怒ることなど、ありえない。
俺の役はあの本の筋書きの中には無い。
「まさか、そう答えてくるとは……予想通りと言えば、そうではあったけど」
「さっきの答えであってるんだろ? どうなんだ?」
次の瞬間、地下室に笑い声が反響した。
十本松が、口を大きく開けて、両手を広げて天を仰ぎながら、笑っていた。
この笑いはどういう意味だ。
正解を当てられて笑っているのか?
それとも、間違っているという意味か?
「――っははは! 残念、ざーんねーん! 間違っていて、おまけにとてもつまらない回答だ!」
なんだと!?
そんな、馬鹿な!
「君が否定した答え、それこそが正解だ! 君の役は、私が殺されて逆上し、刺客の娘を殺してしまう役だよ!」
「嘘をつけ! 俺がお前の恋人だったことなんかない!」
「君の無知が、無理解が! 君にそう思わせているだけだ!」
「こんのっ……」
「ははははっ、君と私が無関係? 関係をもたなかった? よく思い出したまえよ、前世のことを」
「前世なんざどうでもいい! わかるように説明しろ!」
「雄志君はかなこから聞いているだろう。君の前世が一体、なんだったかを」
俺の前世は、かなこさんが言うには――武士の役だ。
「君は姫、かなこを殺されて復讐を誓った。かなこを殺した刺客の男――私の父を殺そうと思った」
かなこさんは姫様の役。
そして姫様を殺した刺客は、十本松の父親だった?
本の筋書きでは、武士は仇を討つために刺客の娘に近づいていた。
じゃあ、刺客の娘は。
「そのために、父に近づいた。父に気に入られるために、娘である私を惚れさせてね!」
俺は、前世で十本松を恋人にしていた……?
嘘だろ。ということは。
「昔、といっても大昔ではあるけど。君は私の恋人だった。君が前世を思い出していれば、わかったのにね」
十本松は、落胆したように肩を落とした。かぶりを振って、ため息を吐き出した。
「残念だったね。最後の最後で、クイズに不正解。これでは、香織とかなこを無事に帰すわけにはいかないな」
やっぱりそうなるのか。
このままじゃ、香織とかなこさんが。
「どうしようかな? 2人とも顔のつくりがいいから、高く売れるだろうな。ふふふふ」
女としての尊厳を失うような目に遭う、っていうのはそういう意味か。
どうすればいいんだ。2人を解放させるためには、どうすれば。
「やはり殺すべきかな。天野も菊川も、私の父の仇だから」
もう――これしか、手が無い。
「十本松」
「ん?」
「頼む、この通りだ。2人を解放してくれ」
十本松に向かって土下座をする。
土下座をするのは、香織に向けてして以来、人生で二度目だ。
額が床にくっついていて、床以外のものは見えない。
十本松の声が背中で感じられる。
「不可解だな。どうして君がそこまでする? 香織はともかく、かなこは君にとって赤の他人だろう」
「わからない」
「理由もわかっていないのに、土下座までするのかい?」
「そうだ」
「ふうん。底抜けのお人よしか、正義感に酔っているのか。どちらにせよ、世間知らずであることには代わりないがね」
頭を踏みつけられた。額が固い床に押し付けられた。
十本松のドスを利かせた低い声が聞こえてくる。
「少しだけ、私の話をしてあげるよ。父が亡くなったところからね。
12歳の頃、私の父は香織の父とかなこの父に殺された。父が私に残したものは何もなかった。
服、家、食料、金、安全、ありとあらゆるものは私の前から消えうせた。
それでも私は生きたかった。生きて、父を殺した人間を殺してやりたかった。
そのために、私は働いた。具体的に言えば、売春をした。成長しきっていない小学生の体を売ったんだ。
公園に住んでいるホームレス、酔っ払いのサラリーマン、集団でたむろっているチーマー、トラックの中で眠る運転手。
金を払ってくれそうな相手なら、誰でも相手にした。時には、強引に犯されることもあった。
今の雄志君のように、土下座を何度もしてきたよ。けれど、私は土下座をして許してもらったことが一度もない」
後頭部から、足をどけられた。今度は襟首を掴まれて無理矢理立たされた。
十本松の顔がすぐ目の前にある。
「土下座なんて、許すつもりのない人間にとっては面白い見世物でしかない。
それを知ったのは、15歳になった頃だった。商売相手の、ある組の若頭に気に入られたんだ。
その人は私の話を聞いて同情してくれてね。私が動くための手助けを色々してくれた。
そこからはトントン拍子に事が進んだ。金づるがいると、世渡りが楽になるとよくわかった。
菊川家に侵入できたのは、17歳の頃。菊川桂造の助手として、雇われた。
菊川の当主は悠々自適な生活を送っている、というのは嘘っぱち。
裏では武器密輸、麻薬取引、人身売買、汚いことばかりやっているような人間だった。
殺されて当然の男だよ」
「お前が香織の父親を殺したのはその頃か」
「天野基彦は私の父を殺した片棒を担いでいたくせに、いいやつだった。
殺すときも楽だったよ。酔っていたから軽く突き飛ばすだけで窓から落ちて行ってくれた。
しかし菊川桂造を殺すのはなかなか難しかった。
私が十本松義也の娘だと知っているから警戒していたし、知恵は働くし。
今となっては、私の仕掛けた爆弾で体中をバラバラにされて、腐った肉塊になってしまったがね。
結果的に、私は復讐を果たせた。悪党は報いを受けた。
陵辱と屈辱と泥と地にまみれた数年間は報われたんだ。もう、望むことはない。
あの本の筋書きの通り、姫役を負わされた父は2人の男に殺され、私は父の仇をとった。
あとは残された役で、物語の続きを回していくだけだ」
十本松は、俺の襟を右手で掴んだまま、左手で指を鳴らした。
壁に貼られていた一際大きな顔写真が剥がれた。
隠されていた壁は、奥深くに向かって四角にへこんでいた。
中にはベッドが置かれている。そのベッドの上に横になっているのは。
「香織! かなこさん!」
「まだ薬で寝ているよ。じきに起きるだろう。かすり傷ひとつつけていないから安心したまえ」
「お前、あの2人を殺すつもりじゃ……?」
「逆だよ。あの2人のどちらか――おそらく、かなこだな。どちらでもいいが、どちらかに私を殺させるためにああしたんだ」
十本松が自分を殺させるために、香織とかなこさんをさらった?
なぜ十本松がそんなことをする。なんの意味があるんだ。
「武士は、姫様を殺した2人の刺客を殺し、仇を討ちました。
次は、武士が刺客の娘に殺される番です」
え?
「その後は、君が動く番だよ。――筋書き通りに回ってくれ」
十本松の顔が近づいてくる。右手が襟を、左手が後頭部を掴んでいる。
俺は動けない。このままでいたら、どうなるかわかっていても。
遠くから、声が聞こえてくる。
「んん……雄志、くぅん……たすけてよ……」
これは、香織の声だ。
「お父様……雄志様……」
今度は別の声。かなこさんの声だ。
小さな声だったが、静寂に包まれた地下室ではその声まで大きく響く。
2人の声を聞き終わると同時に、俺は十本松からキスをされた。
十本松は、目を閉じていた。
唇を舐められ、口内に舌を入れられ、舌を絡ませられた。
不思議なことに、キスを拒む気にはなれなかった。
それどころか、どんどん気持ちが昂ぶっていく。
どうしてだ?
この女に、色気を感じたり、愛情を抱いたりしたことなど一瞬たりともないのに。
なぜ、俺は――十本松のことを、愛しく思っている?
次回へ続きます。
ややこしい話は今回で終わりです。……たぶん。
>>559 > 陵辱と屈辱と泥と地にまみれた数年間は報われたんだ。もう、望むことはない。
陵辱と屈辱と泥と血にまみれた数年間は報われたんだ。もう、望むことはない。
『地』は『血』でした。誤変換してすみません。
GJ!
どうなることやら。
つまり雄二は前世ではやっぱり武士だったのか? これだと配役がぴったり合うし。
十本松は前世の因縁すら捻じ曲げようとしているって事なのかな。
まあとにかく
十本松カッコヨス。
十本松の生い立ちに泣いた・・・
次回は修羅場かな?
これから私たちで殺し合いを始めてもらいます。
>>565 私たち「で」?
私たち=武器→凶器→狂気
よって「私たちは狂気である」
とか考えちまったゼイ
wktk
これから私をめぐって殺し合いをしてもらいます。
だがことわる!
投下します。19話です。
第十九話〜復讐者が滅ぶ〜
柔らかい。
十本松の唇も、密着させている体も、後頭部にまわされている手も。
十本松の存在の全てが、愛しく感じられる。
わけがわからない。
さっきまで俺は十本松に敵意を抱いていた。
俺と華を気絶させて香織をさらい、かなこさんと一緒に地下室に閉じ込めた。
こんな犯罪者を俺が好きになるはずがない。
そのはずなのに、俺が今抱いている感情は一体なんだ。
十本松が欲しい。
俺の舌で、口内を貪りたい。
抱きしめて押し倒して、俺のものにしたい。
いきなりこんな愛情を抱くなんて、どういうわけだ?
催眠術か?
それとも、この部屋に立ち込める甘い匂いに媚薬作用でもあるのか?
わからない。
全てが甘くて、心地いい。
このまま、この感情に溺れたい。
「……はぅ……ちゅ……」
口の中に、十本松の唾液が入り込んでいる。
唇の裏、舌の裏側、いや、口の中の全体に俺のものではない唾液が塗りつけられている。
――飲み込みたい。
馬鹿か、俺。何を考えている。
こんな気持ち悪いものが飲み込めるわけがあるか。
今すぐ十本松を突き放して、拘束してしまうのが正しいんだ。
わかっている。わかっているのに。
なぜ俺の手は、十本松の体を抱きしめたくて、うずうずしているんだ。
やめろ。
今、こいつのキスに応えても、体を抱きしめても、その先はない。
俺には香織がいる。恋人がいるのにそんなことはできない。
(どうでもいいだろう、そんなこと)
変なことを言うな。俺は香織が好きなんだ。
(本当にそうか? そこにいる十本松あすかよりも)
こんなやつ、香織に比べたら……。
(比べたら?)
比べたら……なんだ?
なんで、どっちがいいのかわからないんだ。
俺は、香織のことが好きなんだろ。
十本松のことなんて、どうでもいいと思っているだろ。
じゃあ、どうしてすぐにその結論が出てこない。
(それは、お前が)
俺が?
(十本松あすかを愛しているから。天野香織より、現大園華より、菊川かなこより、愛しているから)
十本松を愛している、から?
(そうだ)
嘘だ。そんなことはありえない。
ありえない、はずなんだ。
背中全体に衝撃が走った。体中に感覚が復活する。
ぼやけていた視界が復活し、俺の体の上に座る人物を認識する。
「十本松……」
「ふふふ、間抜けな顔」
「何?」
「顔の力が抜けている。目に敵意がこもっていない。体に拒絶反応が無い。
それほどに気持ちよかったかな、私のキスは」
「……馬鹿を言って!」
胸の上に座る十本松をひきずりおろそうと、腕を動かそうとした。
だが、自由が利かない。両腕の手首が合わさったまま、体の前で固定されている。
「なすがままになっていたから、つい手首を縛ってしまったよ。それにも気づいていなかった?
おかしいねえ。君は、私のことなんか、嫌いだろう?」
「ああ。中学校の部活動で知り合いだった先輩とか、頭が固くて理解のない俺の親父より嫌いだね」
「そのはずだよね。それなのに……」
首筋に、冷たい手が触れた。
「こんなに心臓が激しく脈を打っているのは、どういうわけかな。どきどきしているみたいだ」
「手を離せ! この変人が!」
「言葉ではそう言っていても、体では拒否していない。素直になれないタイプなんだね、雄志君は」
胸の上にかかっていた重量感が喪失した。代わりに、腰の上に重さを感じる。
十本松が、腰の上に乗っていた。
「私も同じ。素直になれないタイプなんだ。だから」
そして、俺と体を重ねてくる。
お互いの体の同じ部位が、正面から服越しに触れ合っている。
「今も、こんなにドキドキしている」
紅い顔が目の前に来て、俺を見ている。
垂れた髪が、俺の額に落ちてくる。
鼓動の波を感じる。俺の鼓動と、十本松の鼓動。
ペースは異なるが、どちらの鼓動も忙しく動いていた。
目を逸らす。今、目を見られたらやばい。そんな気がする。
もしかしたら、俺の目はその先を期待するような目になっているかもしれない。
話の流れを変える。
「こんなことして何になるんだ。お前が俺をどうにかしても、俺の気持ちは変わらない」
「変わる、変わらないは君の意思によってどうにかなるものではない。
いずれにせよ、私の思うままに事が進めば、君は私を好きになる。いや、もう好きになっているかな?」
「反吐が出る。お断りだ。寝言は寝てから言え」
「結構。君の反応はそれで正解だ。君は私のことが嫌いなままなのに、体の反応は意思に反する。
それこそが君にとっての苦しみになる。私はそうなるのを望んでいる」
俺が十本松を嫌いなままでいたら、こいつの思い通り。
俺が十本松をもし好きにでもなったら、胸糞悪い。
どっちにしろ、俺にとって不愉快なことになるのは変わりないじゃねえか。
「ではそろそろ、雄志君をいただこうかな」
「……は?」
この女、今何を言った?
十本松の目、いや、顔全体が笑っている。
この笑顔に似た顔を見たことがある。あの夜の、かなこさんの顔にそっくりだ。
もしかして。
「そんなに不愉快な顔をしないでくれよ。……滅茶苦茶にしたくなるじゃないか」
「やっぱりそういう意味か! やめろ、この……っ!」
また唇をふさがれた。
十本松の腕で頭を正面に固定されている。唇を外せない。
唇を繋げられたまま、また体位を変えられた。今度は胸の上。
唇を一度舐められて、ようやく唇が解放された。
「ところで、雄志君は足フェチかな? それとも胸フェチ? 両方?」
答えは返さない。沈黙で拒否をする。
「答えてくれないと困るじゃないか。……仕方ない」
十本松は、一度ため息を吐き出した。
そして、着ているセーターに手を添えて、脱ぎだした。
細いウエストがあらわになり、次いでライトイエローのブラジャーに包まれた胸が見えた。
「答えないなら、両方でいくしかないな」
「やめろ、そんなもん見たくなんかねえ!」
「とは言いつつも、雄志君は目を逸らさない、と。スケベだね、男というものは」
そう言われて、十本松が脱いでいくのをじっくり見ていたことにようやく気づいた。
慌てて目を背ける。なんですぐに目を逸らさなかった。なんでこいつの体に釘付けになった。
「しかし、それが男として正常な反応だ。目の前で服を脱いでいく女を見ていたい。
その誘惑に勝てなくても、誰も責めたりしないよ」
俺が許せないんだよ。くそったれ。
衣擦れの音が続く。耳がその音を余すことなく聞き続け、目の動きをそそのかす。
見るな。俺は見たいなんて思ってない。
「――よし、終わった。こっちを見ていいよ」
誰が見るか。
「遠慮せず、じっくり見たまえよ。ほら」
首を強制的に動かされた。
目を開けてはいけない。開けたら、きっと目の前に……。
「強情な。なら、無理矢理にでも」
両のまぶたに、指を添えられた。まぶたをこじ開けようとしてくる。
きつく目を閉じても指の力には対抗できない。
薄く開いたまぶたのすき間から見えたのは、上半身をさらした十本松の姿。
白い肌、鎖骨、こぼれ落ちそうな胸、薄紅色の乳輪と乳首の先端、全てが見える。
さっきから激しくなっていた鼓動が、また強くなった気がする。
下半身に勝手に血が集まっていく。
まぶたに添えた指をそのままに、十本松が耳打ちしてきた。
「見ても、いいんだよ。今だけは、今このときだけは私の体は君のものだ。
両腕が動かない分、その目に存分に焼き付けるといい」
「やめろ……その邪魔そうな乳をしまえ」
「それはできない。かなこか香織が起きるまではね。
私と雄志君の交わっている姿をあの2人に見せないと、思い通りにいかなさそうだから」
「香織とかなこさんに今の姿を見せて、どうするつもりだ」
「まだわからない? さっきも言っただろう、あの2人のうちのどちらかに私を殺させるためだと。
どちらかがこの姿を見て、逆上して私を殺す。それこそが私の狙いだ」
「だから! なんで自分を殺させるためにこんなことをするんだよ!」
「そうしなければいけないんだ。配役が変わろうと、物語は進めなければ」
「お前は、毎度毎度……わけわからんことばかり、言ってんじゃねえ!」
叫ぶ。顔を近づけていた十本松が体を起こした。
また裸の上半身が見えたが、構っていられない。
「わけわかんねえよ! 自分を殺してもらうためとか、前世とか、台本だとか!
そんなもんは自分の妄想の中でやってろ! 周りの人間を巻き込むな!」
「妄想じゃない。現実にそう行動しなければ――」
「運命がどうとか言うのか。そうなるのが運命だって。かなこさんにも言ったけどな、俺はそんなの信じてないんだ。
無視しちまえばいいだろうが、そんなもの! 自分の命までかけるな!
お前が死んじまっても、死んだ親父さんに会えたりなんかできないんだぞ!」
「――いいや」
否定の動作。
首を振り、そしてまっすぐに俺の目を見下ろしてくる。
その目に、怒りはこもっていない。
「会える。あの世ではなく来世で。生まれ変わっても、必ず出会える。あの本があれば、それができるんだ」
「あんなうすっぺらい二冊の本ごときで、そんなことが起こるか!」
「実際にこうして出会えているんだから、信じるほかないだろう? あの本にはその力がある。
あの本が『適当』に振り分けた配役を、演じさえすればいい。
そうすれば、何度生まれ変わっても出会い、また父を愛することができるんだ。
だが……あの本に無理矢理でも逆らった行動をすれば、輪廻の輪を超えても、二度と出会えなくなる。
そんなことはさせない。また父と会うためにも――私は今ここで殺されなければならない」
十本松は本気で言っている。本気で運命を信じている。
何がこいつをここまで必死にさせる? 父親への執着心か?
命が惜しいとか、そんなことは思わないのか?
「君は私をおかしいと思うだろう。狂っていると思うだろう。
だが、私には父しかいないんだ。どうしても、あの凛々しい父のことが忘れられない」
「なんでお前は、そこまで自分の父親のことを……」
「なんで? それを雄志君が言うのか? あの時に私を裏切った君が?
あの時、君が私を裏切らなければ、君を恨み父を求め続ける、こんな歪んだことを繰り返さなくて済んだ。
私を虜にさせておいて、その後で父に近づいて殺したりしなければ!
君が裏切らなければ……ずっと、私を心から好きでいてくれたのなら、私は君と父に囲まれて、幸福でいられたのに。
あの本は、君と私が出会うために書いたのに。……あの後で、書き足さなければよかった」
前世の俺が十本松の父親を殺したから、こんなことになった。
じゃあ、十本松の父親が死んだのも、俺が今こうしているのも、全部俺のせい?
嘘だ。俺は悪くない。
(いや、お前が悪い。お前が復讐心に駆られていなければ、こんなことにはならなかった)
違う。俺はただ、姫様の仇を討とうとしただけで。
(それが全ての歪みの元。死んだ女のことなど忘れていればよかったのだ)
俺には姫様しかいなかったんだ。だからこの女を利用した。
(そのせいで、この娘が巻き込まれた。全て、お前のせいだ)
知らない。姫様以外の女なんか、どうなったっていい。
――姫様?
何を言っている。前世が姫だって言い張っているのは、十本松とかなこさんだけで。
あれ?
十本松って、誰だっけ。かなこさんって、どんな人だった?
「さあ、続きをしよう)
目の前に裸の女がいる。胸の上に座って、スカートをめくりあげて、中身を見せている。
綺麗な足だ。さわったら気持ちいいだろうな。
かわいらしいショーツが顔を覗かせている。三角形だ。
「ちょっと、これを借りるよ」
女が俺の服のポケットから何か取り出した。
刃物だ。ナイフだ。たしか、――さんにもらったものだ。
女はナイフでショーツを切り裂いて、脱ぎ捨てた。
眼前に、数十センチ前に、ひくひくと動く秘裂がある。
「ここに今から、雄志君のものが入るんだよ」
雄志って誰だ。俺の名前は……なんだっけ?
ズボンのベルトが外され、ジッパーをおろされ、パンツを脱がされた。
押さえ込まれていた肉棒が立ち上がるのがわかった。
それを、冷たい感触が包み込んだ。女の手だろう、きっと。
「すっかり硬くなっている。ふふふ、女にのしかかられて興奮するなんて、変態そのもの」
一物を包み込む女の手が、上下に動き出した。
下がるたびに性欲が溜まっていく。上がるたびに精液を吐き出しそうになる。
手の動きに合わせて、女の豊満な胸も小さく震える。
片手はまだ、スカートを持ち上げている。女の入り口は見えたままだ。
早く挿れたい。この女がどんな味をしているのか知りたい。
「とうとう諦めたか? だけど、それでいい。正直になるのが一番だ」
いっそう激しく、肉棒を扱かれる。
荒っぽくも感じられる。だけど、今はこれぐらいのほうが気持ちがいい。
「膨らんできているよ。出したい? 吐き出したい?」
ああ。これ以上抑えられたら、どうにかなりそうだ。早くしてくれ。
「あっははは! 可愛い顔だ! ご主人様の餌を待つ犬みたいだ!
それじゃあ、ここで一度抜いておこうか……と思ったけど」
ぴたりと、止まった。渦巻く肉欲が、女が手を離すと同時に消えうせた。
なんでだ。気持ちいいうちに、そのままイかせてくれ。
「一回出したら、次に出すまで時間がかかるからね。そろそろ2人とも起きるころだし。
もうちょっと遊んでいたいけど、中に挿れさせてあげるよ」
女がスカートから手を離した。そして体の上を這うように動き、腰のほうへ向かっていく。
肉棒を捉まれた。先端が湿った部分に触れている。
ぬるぬるとした女の秘部に、肉棒が飲み込まれていく。
根元まで飲み込まれると、強烈な締め付けが襲い掛かってきた。
俺のモノを締め出そうと、食いちぎろうとしているようにも感じられる。
腰を突き上げる。膣壁とカリが擦れるたび、頭が痺れる。
「ひぅ! 待って、急に……あっ!」
女の嬌声。さっきの上から見下ろす声と比べて、随分と音が高い。
腰を叩きつけるようにして、女の中を抉る。
ピストン運動で、女の乳房までが上下に暴れる。
縛られたままの手で、乳房を掴む。柔らかな肉が手の中で歪む。
「……っ、……ぅ…………はっ……、また……膨らんでいるよ。
……まだっ、数分も経っていない、のに……早漏だね、きみ……っは」
黙れ。挿れられて感じている女が言うな。
女の胸を握りつぶすつもりで力を込める。悲鳴があがる。
これ以上はこらえきれそうにない。もう、出そう。
少しでも多く精液を吐き出すため、全力で腰を打ち付ける。
忍耐の壁が決壊した。腰が痙攣する。
「……く、ぁ……ぁ、は……あつ、いぃ……」
女は背中を仰け反らせたあとで、脱力した。
伏せている顔から目を逸らす。スカートを捲りあげて、女との結合部分を見る。
白い精液が漏れ出して、秘所の周囲は濡れ、ふとももの裏側まで垂れている。
脱力。なぜか体に力が入らない。
女とセックスするたびにこんな状態になっているわけではないのに。
なぜこの女としただけで、一回出しただけでこうなる。
頭がぼんやりと、眠気を受け入れていく。
女の声が聞こえる。
「おやすみ。また、来世で会おう」
この台詞は、何度か聞いたことがある。
その後で、この女は俺の前から姿を消した。いや、俺がこの女の前から消えたのか?
どっちなのかわからない。けど――この台詞が別れの台詞だということは、なぜかわかる。
そしてまた、いつか出会うだろうということもわかる。
だから俺は、安心して目を閉じた。
*****
「お時間をよろしいですか?」
と、後ろから声をかけてきたのは、姫だった。
ここは城内の庭を一望できる廊下。俺は今から姫のところへ向かうところだった。
「もちろんです。何か御用ですか?」
「これを読んでいただきたくて。わたくしが書いたのです」
姫が差し出してきたのは、数十枚の紙の束。
受け取って目を通してみると、全ての紙に文字が綴られていた。
「日記……ではありませんね」
「恋文でもありませんわ。それはさすがに、あなたももらい飽きているかもしれませんから」
姫がやわらかな、年相応の笑顔でほほえむ。
姫は3つのころから、俺と共に過ごしてきた。付き合いは13年になる。
出会ったとき俺は15を迎えていて、姫の護衛役の1人を任されていた。
初めて2人きりで話したのは、姫がかくれんぼで蔵に閉じ込められていて、それを助けに行ったときだったか。
それ以来姫は俺にべったりくっついてくる。務めのある時間の他は、片時も離れようとしない。
姫が俺に好意を向けているのがわかったのは、姫が言葉と文字を習い始めたころ。
文字の練習という題目で書かれる恋文を受け取ったときがそうだった。
それ以来ずっと恋文をもらいつづけてきたせいで、俺の部屋にある籠からあふれそうなほどにまでなっている。
「今日お持ちしたものは、少しばかり趣が異なります」
「と言いますと?」
「私が夢に見た、もっとも恐ろしくて現実に起こって欲しくないことを、その紙に綴りました」
見ると、一枚目から順に物語が始まっていた。
最初から中ほどまでは俺と姫の、現実に起こった日常を書いたもの。
その後に書かれていたものは、姫が殺されてしまうというものだった。
姫が不安そうな顔で覗き込んでくる。
「手が震えておりますが……そんなに、酷い文でしたか?」
「いいえ。ただ、このようなことは起こって欲しくないと思っただけです。
いえ、書かれているようには、絶対にさせません。私が」
「はい。もちろん、信じておりますわ」
「しかしなぜ、このような不吉なものをお書きになられたのです?」
「それは、その……恥ずかしいことですが、笑わないでいただけますか?」
「はい」
「紙に綴ることで、厄を避けようと思ったのです。
恐怖は形の無いもの。ならば、形にしてしまえばそれは恐ろしいものではなくなる。
こう教えてくださったのは、あなた様でしたから」
「まだ覚えておられたのですか。……お恥ずかしい」
確かに、暗闇に怯える姫を見て、耐えられなくなった俺が教えたことだ。
かくれんぼの一件以来、姫は暗闇を恐れていた。
夜も眠れなくて困っていた姫に、その場しのぎで『恐怖とは形の無いもの』と教えた。
それから眠れるようになったのだから、結果としては成功だったが。
俺が返した紙の束を抱いて、姫は言う。
「これがある限り、もう恐怖は訪れませんわ。ずっと、あなた様と引き裂かれることなく、共に居られます」
本当にそうであったらいいと、ずっと傍に居たいと、俺も思った。
それから姫が殺され、数年が経った。
姫を殺した男の行方を捜し、ようやく突き止めた。
男には、溺愛しているらしい娘がいた。
その男の娘は、今俺に寄り添うようにして同じ布団の中にいる。
可愛らしい娘だった。それに正直で、器量もよかった。男が溺愛するのも無理は無い。
この娘を騙すのは、俺も気が乗らなかった。
だが、何度殺しても、臓物を撒き散らして粉々にしても気が済まないあの男を殺すために、自分を殺した。
娘は世間を知らずに育てられたせいか、俺の言葉で簡単に惚れさせることができた。
それどころか、どこにいくにもべったりとひっつくようになった。
その様子がまるで姫のように見えて、ますます俺の罪悪感は強くなった。
ふいに夜風を浴びたくなった。体を起こす。
すると、眠っていた娘がもぞもぞと動いた。
「……あ、れ…………どこに行くんですか?」
「すまない、起こしてしまったな」
「気にしないでください。ずっと起きていたんですから」
「ずっと?」
「はい。こうして、あなたの体に直に触れていられるのは、夜だけですから」
こういう恥ずかしいことを平気で言うのだ。
そのせいで何度か姫への気持ちを捨てそうになった。
その度に、こんな感情は無駄だと、何ももたらさない愛だと自分に言い聞かせた。
そう思えたのは、憎たらしいあの男、この娘の父親のせいだったかもしれない。
あの男に助けられたかもしれないと思うと虫唾が走るが。
娘を見ると、不安そうな顔をしていた。腕を掴む手も、震えている。
「怖い顔……怒っているんですか?」
「そうではないよ。君の父に、なんと言って挨拶をしようかと思ってね」
「ふふふ。大丈夫ですよ、父は私に甘いですから。私が強く言えば、結婚だって許してくれます」
「そうだといいがね」
そう。明日、あの男に会う。今まで内緒にしてきたこの娘との交際を明かすために。
決行は明日。奇襲をかけてあの男を殺す。それで、仇をとることができる。
そうなると、この娘ともお別れか。
なにを考えている。この娘はあの男に近づくための道具に過ぎない。
そして決行すれば、この娘とはもう一緒にいられない。
わかっている。だから今だけは、この娘を満足させよう。
娘の唇を奪い、布団の上に押し倒す。娘は無論のこと、拒絶をしない。
「また……愛してくれますか?」
「ああ。今夜は、君が壊れるまで、そうしよう」
「嬉しい。……また、日記に書くことが増えました」
「まだ日記をつけているのか? 飽きないな」
「だって、あなたとの日々は忘れたくないですから。そうだ……またあのお話を聞かせてくれますか?」
「もちろんいいよ」
「もう聞くのは、何度目かしら。忘れないよう、あのお話も日記に書かないといけませんね」
暗闇でも、この娘が笑うのは気配で知れる。
この娘が好んで聞く話は、姫様を殺された武士が仇をとるために奮戦する話。
武士が仇役の男の娘に近づいて仇を討つという展開が、この娘は好きらしい。意外と悪趣味な娘だ。
もちろん話に登場する娘が自分自身であることなど、この娘は知らない。
もうすぐ自分が同じ目に会うとも知らず、娘は俺の話に耳を傾けた。
*****
「――し様、雄志様」
俺の名前を呼ぶのは誰だ。
「もう、起きても大丈夫ですわ」
この喋り方は、かなこさんか。目が覚めたんだな。
それに無事だった。かなこさんが無事ということは、香織もたぶん無事だろう。
目を開けて、体を起こす。着衣は乱れていなかった。
壁中に男の写真が貼られている。場所はまだ地下室の中だった。
「ああ、よかった。もう二度と目を覚まされなかったら、どうしようかと思いました」
「かなこさん……ですよね?」
「はい。なんでございましょう」
あれ? なんだ、この違和感。
別にかなこさんがおかしいというわけじゃない。
お人形のようになめらかな髪も、真っ白な肌も、黒い瞳も、全てかなこさんだ。
だが、俺はどこかに違和感を覚えている。
「雄志様?」
「ああ、ええと……なんでもないです」
「……しばらくぶりに会えましたのに、どうしてそんなに冷たいのです?」
「別にそんなつもりじゃ、ないです」
「雄志様は、わたくしに会えて嬉しくないのですか? 輪廻の輪をめぐってまた会えたというのに」
また、違和感。
以前はかなこさんの電波な台詞に危機感を覚えていたのに、今はそれがない。
それどころか、かなこさんに会えて嬉しいとまで思っている。
けれど、俺が一番会いたい人はこの人じゃないと、体が反応を示している。
誰だっけ。俺には恋人がいたはずだ。――そう、香織だ。
「ここには他に誰かいます?」
「ええ、昔お会いした……天野香織さんがベッドに。あと、現大園華も」
「華も来てるんですか?」
ここに華が来て、かなこさんは無事だったのか? あいつ、かなこさんを恨んでいたはずじゃ。
「最初はあの顔を見たとき腹がたちましたが、協力してくださったのですから、今日だけは許します。
あの女が戦ってくれたおかげで、とどめをさすのが簡単にいきました」
「……協力って、何の?」
「十本松あすかを殺す、その協力ですわ」
心臓が踊った。
何故だ。十本松の名前を聞いた途端に、胸が熱くなり、同時に不安が訪れた。
落ち着かない。あいつの、十本松の顔が見たい。
――いや、何を考えている。十本松だぞ? 変人で、犯罪者だぞ?
「十本松は、今どこに……?」
「あちらにいます。正確には――かつて十本松あすかだった存在ですが」
かなこさんが指差した方向、その先に居たのは、寝転がっている2人の人間。
黒ずくめの服を着て倒れているのは、たぶん華だ。
あざを作った顔は、苦しげに歪んでいる。大丈夫だ、華は生きている。
もう1人、壁にもたれて座っている女がいた。
ひどい有様だった。裸の上半身を血で濡らし、あちこちにみみず腫れがついている。
左胸にはナイフが突き立っていた。そこから、血が大量にあふれていた。
目は閉じていた。頭は床に向けて伏せられていた。両手はだらりと床に落ちていた。
額には、黒い穴。後ろの壁には、男の写真と、赤黒い血とピンク色の塊が一緒に貼りついていた。
――頭を銃で撃ちぬかれたんだ。
まさかと思い、ポケットの中を探ると、あるはずの拳銃がない。
「失礼かとは思いましたが、少々拝借いたしました。心臓に刃物を刺すだけでは、あの女のしたことは償えません」
じゃあ、あそこで、血に濡れて座っているのは。
「じゅっ、ぽん、まつ……?」
嘘だろ。だって、さっきまで、生きて……。
なんでだよ、なんでこんなに、気持ち悪い? 頭が割れそうに痛い?
この、吐き気を催す感情は一体なんだ?
「どうか、なさいましたか?」
この、呑気な声は、かなこさんか。
十本松が死んだのに、どうしてこの人は平気でいられるんだ。
腹がたつ。腹が立つな。――ああ、この人が殺したのか。
そうか、俺が抱いている感情は、怒りなのか。
怒りに悲しみが混じって、吐きそうになっているのか。
でも、なんで。十本松が死んで、俺が悲しいんだ。俺が怒っているんだ。
なんでだ。
(それは、さっきも言ったとおり、お前が十本松あすかを愛しているからだ)
そう、そうだ。俺は、十本松を好きなんだ。だから怒っているんだ。
じゃあ、これからどうしたらいい。
(それは自分でわかるだろう。お前のやりたいように、すればいい)
そうだな、そうするよ。
十本松が殺された。なら、俺がすることは――ひとつしかない。
復讐しよう。十本松を殺した奴を、殺してやる。
誰だったっけ?
確か、あの本の通りに行くと、十本松は武士の役。
十本松の親父が姫様の役で、そいつを殺したのが天野基彦と菊川桂造。
その娘が天野香織と菊川かなこ。
武士を殺したのは、父親を殺された娘だ。
余った役は、武士の元恋人役。十本松が言うには、俺はその役らしい。
じゃあ俺は――香織と、かなこさんを殺せばいいのか。
その役をこなせばいいんだな。
ああ、目が回る。
気分が悪いな。やっぱり今はやめよう。
起きたら、殺そう。あの2人を、殺そう。
あれ、でも……香織は何もしてないよな。
それになんで俺、十本松のことなんか好きになったんだ?
いいや。考えるのは止めよう。寝よう。起きたらきっと、なにもかも上手くいくさ。
でも――目が覚めても、十本松は生き返ったりなんかしてないんだろうな。
生き返ってたら、嬉しいんだけどな。本当に。
19話はこれで終わりです。
久しぶりに猫丸堂見にいったらグロCGがあってどうしようかと思った
>>583 GJ!
十本松死亡な上に雄志も狂っちまって、どんな結末を迎えるのかwktk
登場人物全員揃って振り回されっぱなし……
おそろしいわおそろしいわわたくしまったくおそろしいわ
>>583 やっと記憶が戻ってニブチン返上かと思ったら病んじゃうとは
雄志と十本松の悲恋が切なかった直後だけになおさら(((;゚д゚)))アワワワとなってしまった
GJ!とんだ洗脳術だ。まさしく蜜柑鳥が木乃伊。
ところで、ヤンデレ大全が発売されるようだが、大丈夫かね?
ひぐらしのレナをヤンデレだと勘違いしてる内容だったら出版社に不買運動起こしちゃる。
レナや朝倉をヤンデレだと評したのならバッド
評せずに取り上げないのならトゥルー
あえて、ヤンデレじゃないとバッサリ斬ったのならハッピー
デレないで病んでるのをヤンデレと評するのはおかしい
デレててもデレと病み部分が相互関係を起こしてなければヤンデレと評するには難しい
病むほどにデレデレ、それがヤンデレさ
レナはともかく朝倉は長門を愛する余りの行動だと思ったんだが違うのか
レナはなぁ…ヤンデレじゃなくてヤンデルだもんな
スレ違いだろうか、すまん
ツンデレ大全とかヤンデレ大全とかって
なんかずれている気がするんだよな
バジリクスの陽炎がヤンデレ大全載ってたら認める
そりゃそうだ
ブームに後乗りして来た人用に、適当に一儲けしようという程度の志で作るからだろ
ある程度普遍的なものならブームを超えるけど、元がニッチなものはブームで食い散らかされて消えていくものらしいから恐ろしい
うーむ、志がまるでティファやかすみの同人誌を流行に乗って描こうとするプライドのない同人作家と同じだな。
>>583 GJ!
かなこさんがあれだけやっても全然駄目だったのに
十本松相手だとアッサリ前世の記憶が戻ったところに複雑な心情が垣間見えて
なんか泣けた。
姉妹百合ヤンデレもの書こうと思うけど、ここでいいんかね?
キモ姉・キモウトスレとどっちに書くべきか悩む。
>>595 お好きな方を。というか住人は被ってると思うw
俺はあっち見てないぞ。
まあスレの雰囲気って違うから自分に合いそうな方でいいんじゃないかな。
ヤンデレってどんな育て方したらなるんだろうな。
俺は生まれつきだと思って書いてる
でもよっぴーみたいに育った環境も重要かも
>>596-597 トン。
が、どうもキモ姉妹スレでは百合がスレ違いということで荒れたようなので
百合板やら百合スレ覗いて考え直してくる。
まあ百合モノの扱いとしてその辺は慎重にお願いします、マジで
いや、こことあそこで一部の潔癖症が騒いだだけなんだぜ……。
しまっちゃうメイドさんは荒れたな…、まぁ一人が騒いでいただけだが
読み返して見ると、否命の序章での散々な言われっぷりに吹いたw
てか、凛のすることなすこと全て笑えるw中断されたのが惜しいんだぜ
投下に関しては、最終的にスレチでは無いという風に落ち着いたからwk
tkして待ってるぜ!
保管庫が更新されている!!!……って気付くの遅いですか、そうですか……
いつの話をしてるんだおまいは
_, ,_ パーン
( ‘д‘)
⊂彡☆))Д´)←
>>604
>>598 挫折を感じたことのない人間や、恋愛至上主義、相手に全力で尽くすタイプがヤンデレになりやすいらしいよ。
言葉様もお嬢様だから欲しいものは何でも手には入ったけど、誠にふられてから『あれ、おかしいな?こんなはずじゃなかったのに』ってふられたことを認められずに病んでいったんじゃないかな。
>>605 いや中身のほうは更新されてるんだぜ。
なぜか、トップページは更新されてないけれど……。
本当だ!
>>607正直スマンかった<(_ _)>
管理人さん乙!
>>598 ろくに構ってもらえず、愛情に飢えてたりするとヤンデレっ娘になるような気がする
ss投下します、前回はご迷惑をおかけしてすいませんでした、以下、長文乱文ご容赦ください
キ道戦士ヤンダム〜狂気の鼓動は愛〜
遠い未来、地球に巨大な隕石が海に落ちた。途轍もなく巨大な隕石によって打ち上げられた巨大
な波は地表面の三分の一を覆い、人々は…あるものは海上の上に浮島を作って粗末に暮らし、また
あるものは狭い陸地を求めて血で血を洗うような戦争を起こすという陰惨な生活を送ることを余儀
なくされた…この年より西暦は海中世紀と名を改める事になる…しかしこれは西暦を改めることに
より、この最大の危機を人類全体が協力して生きていくという崇高な思想による命名を…まるで
あざ笑うかのように、限られた陸地という椅子をかけた命がけの椅子取りゲームの開始…すなわち
全世界戦争の始まりの年でもあった…。
これはそんな世界での、少年少女たちの、純愛と狂気で彩られた物語。
パプアニューギニア沖、10時18分
ドガガガガガアアアン!!…普段は波音しか響かないようなだだっ広い洋上に
巨大な爆音が鳴り響いた、爆音の正体はロボットと呼ばれる巨大人型兵器同士
による戦闘の副産物だ。海中戦争が始まると同時に開発されたこの兵器は、両
足に装着されたホバーシステムによって高速で自在に洋上を駆け巡ることのでき
るという特性を生かして各地で戦況を好転させ、いつしか型遅れの戦艦や空母艦
よりも戦争を左右するというような存在にまで祭り上げられていった。
ドゴオオン…!!すさまじい爆音を上げて一機のロボットが海中で爆発した。
それにつられる様に破壊されたロボットの左右後部に構えていたロボット達も
次々に爆破四散していく。
「うおっしゃあ!!沙紀!!次は!?」
一度に三機ものロボットを撃破したことで、極東アジア軍第十八天国舞台所属
南慶介少尉待遇の声は普段の覇気のないものと違って、かなり気合の入ったものになっていた。
「アイアイ!前方より二時と四時の方向より敵影二十機を確認、さら駆逐艦が一機近づいてる!」
それに釣られるかのように副座の操縦席に座った 倉内 沙紀少尉待遇の声も、普段ののんびり
したものとは格段に違った、やる気の満ち溢れた声になっていた。
「アイアイ!それじゃあ…一気に砕いてやるか!ミサイルランチャー!オープン!」
…ドガガガガガァン!!!海上にて左右より挟み撃ちをかけようとしていた敵…北イタリア及び欧州
連合軍の量産型ロボットであるMRB≠002 スクアーロの編隊は慶介と沙紀の操るロボット…JRB≠055
覇洋の50発に及ぶ連続マイクロミサイルの攻撃を受けて次々に爆破四散していった。
「すごいよ慶介…少尉殿!全ミサイルが敵に命中ですよ!」
喜ぶ沙紀、しかしこれはある意味当然のことだった、何せこの機体…覇洋はスクアーロに比べれる
のが失礼なくらいに高コストな機体だったからだ。
全長は18mのスクアーロをはるかに上回る30m、機体を覆う装甲は通常の三倍を超える硬質金属で形成
され、巨大な機体に見合うように武器も過剰なまでに火力過多に搭載されているのだ。
「慶介…少尉!敵を前方に確認!指揮官用スクアーロです!」
「沙紀少尉!クローアームを!」
通常の三倍の速さで迫る指揮官用スクアーロが接近戦用のスピアで特攻を駆ける!しかしそんなものに
負ける覇洋ではない、スピアが近づくぎりぎりの距離でも後退せずに、左手に装着された有線式のクローアーム
をスクアーロの胸部にめがけて打ち出した。
…ドオン!クローアームに挟まれるような形で攻撃を食らった指揮慣用スクアーロは一気に後方に吹っ飛んだ
その先には後退しようとした駆逐艦があった。
「地獄に落ちろ!もちろん死ね!!」
慶介はそう叫ぶとコントロールスイッチのパネルを押した、強力なクローアームはボタンひとつで暴導索に早代わりするのだ。
ドガガガガガアアアン!!!…数珠繋ぎの有線とクローアームは一気に爆破した、そして指揮官用スクアーロと、それに巻き込ま
れた駆逐艦も次々に爆破されていった。
「…ふー…今日も…生き残れたね」
生気のない顔で沙紀がつぶやく、どうやら無線で帰還命令が下ったようだ。
「ふー…ふー…ああ…今日も助かったな…」
先ほどの威勢と打って変わって、つかれきった顔で慶介は穏やかに、かつ沙紀
のそれに合わせるかのように慶介も呟いた。
常に死と隣り合わせの恐怖と終わりの見えない戦争は、十代の少年少女の心には
かなりの負担となっているようだった。
慶介と沙紀は疲れきったまま、戦闘領域から母艦であるヴァリアント号に帰還した。昇降用エレベーターで覇洋のコクピットから地面に降りたとき
二人は初めて全身から力が抜けるのを感じた。
今日も生き残れた、この感覚が二人の体から力を奪っていった。まあ無理もないのだろう、子供のころに大津波を体験し、やっとの思いで生き残
ってみれば災害の混乱で家族と引き離されてこの戦争に送り込まれてしまったのだ…もはや生きていることは彼らにとって異常だった、ありえない
事態に巻き込まれていつ死んでもおかしくない状況下で、こうして二人でいられることが異常だった。
「なあ沙紀…」
格納庫を後にして、狭い通路で慶介がそう呼びかけた瞬間、沙紀は膝をついた…その体は小刻みに震え、可愛らしい口元からは嗚咽がこぼれる…
先ほどまでの名オペレータ振りとは打って変わって、彼女の体は今にも崩れ落ちてしまいそうなほどに弱弱しさを感じさせた。
「う…う、うああああああ」目元に涙を浮かべて叫ぶ沙紀、彼女は完全にパニック状態になっているようだった。
「くそ!時間切れか…大丈夫だ沙紀、今すぐ医務室に…!!」「あ、あああああああああ!!」
慶介は沙紀を両手で抱えると医務室に向かって走り出した、赤ん坊のように泣き声をあげる沙紀を、慶介は力強く抱える…。
「いやだ!いやだ!死にたくない!うああああああああ!!」「もう大丈夫だ、お前は俺が守る…」
戦争に借り出された多くの子供たちはたいていの場合、津波の大災害による心的外傷を抑え、更に優秀な兵士やパイロットに
なるために、精神強化薬と呼ばれる薬を服用していた…倉内沙紀も例外ではない…前述のとおりその効果は絶大であったが、彼
女の場合はその副作用が強すぎた。
沙紀は薬が切れると一気に当時の記憶を脳内でフラッシュバックさせて混乱してしまうのだ、パニックになるくらいならいい
が、最悪は手がつけられないほどに暴れまわることもあった…。
「よし、これで大丈夫。あと数時間もすれば落ち着くでしょう」
ヴァリアント内部の医務室−先ほどの混乱から処置を受けてようやく落ち着いた沙紀は、ベッドの上で空空と寝息を立てていた。
「…彼女はこのままでは任務の遂行も難しいかもしれません…南少尉、申し上げにくいですが…」
「この子を止めるのは無理です、多分もし俺からこの子を…倉内少尉を離せば…この子は自殺するかもしれません」
慶介は陰鬱な表情でそう答えた、その目には涙を浮かべていた。
「この子…もともと幼馴染だったんですけどね…あの災害で家族全員を目の前で失って…それ以来施設でも…軍に入ってからもずっと
一緒に生きてきたんです、そうしなければ…俺がいなければ必ずパニックを起こして…」
「…典型的なタイプですね、戦争の傷を癒そうとするうちに、その心の支えに依存していくっていう…」軍医はそう言った、その顔は
今まで異常に事務的な顔だった。
「…取り合えず少尉の薬の量は当分の間増やしましょう、後は貴方が支えてあげるといい、緊急時のパニックに対する処置方法も教えます…でもね」
「何が言いたいのですかな?軍医殿」
「人の心に開いた穴ってモノは…埋めようとするもの全てを飲み込むこともあるんです、それをじっくりとお考えください」
「…覚悟は当にできてます、それに…埋めるものはもう手に入る直前だ…明日襲撃する船にはあれがたっぷり詰まっている」
「…欧州連合の…ヤンダムを狙っているのですか?」
ヤンダム…欧州連合の開発した新型の精神強化薬の名前だ、曰く、それを常飲すれば心的外傷によるフラッシュバックなどを
起こさずに、確実に今以上の能力を発揮できるという。
「…けいすけ…たすけて…」
ベッドでは沙紀が魘されていた、悪夢の内容は多分、あの大災害で両親を失った日の夢なのだろう…慶介は先の手をそっと握
った。
「大丈夫だ沙紀、俺が助けてやる」
慶介はあの日、そういって泣きじゃくる沙紀の手を握った時と同じように、その言葉を口にした。
…自分だってあの災害で母と妹を失ったのだ、もう残っている心の支えは沙紀しかいない…なら、それを救おうとするのは当然
のことだ。
慶介に手を握られた沙紀の顔は、どことなく幸せそうだった。
医務室の外で松高軍医は苦々しくつぶやいた。
「ヤンダムでは人の心は救われない…待っているのは破滅だけだ…」
ヤンダムを多量に載積した欧州軍の輸送船がこのルートを通るまで、
それほど日はかからなかった。
取り合えず前編を実験的に投下です、長文乱文失礼しました。
>>612 ヤンダム、ロボットの名前じゃ無いのかよ!!
>>599 やっぱ生まれつきってのが一番多いのかな。
>>606 言葉様って誰だか知らないけど情報d。相手に尽くす人は嫉妬のときもすごそうだな。
>>609 今そんな家庭が多いから気をつけないと・・・(((;゚д゚)))ヒー
ヤンデレの資質は生まれ持つものじゃなくて
誰もが持っていて、それに気付くか否かってFESTA!の翔様が言ってた
もうそろそろ次スレ?480Kで立てるの?
ヤンデレヒロインはやっぱり純粋な女の子がなるんじゃないか。
あまりに純粋すぎて、恐いほど純粋すぎて、病んでしまう。
ヤンデレは恐いけどどこか純粋な美しさを感じる。
新井素子の「おしまいの日」を文学最恐ヤンデレヒロインに推薦。
>>616 今までは450KBで次スレを立ててきた。
せっかくなので俺が今から立ててくる。
622 :
うめネタ:2007/08/07(火) 23:43:39 ID:du6FDjhP
最近姉がべとべと近づいてきて困っている。
以前から姉は俺に対してスキンシップ過剰だったが、今はそれがより酷くなっている。
姉がよりおかしくなった、と俺が気づいたのは、ある朝のことだ。
朝起きたら、姉がベッドの前でナニをしていた。
しかし、自分の手を使っていたり、道具を使っていたわけではなかった。
眠っていた俺の右手を使ってナニをしていたのだ。
俺は高校3年生、18歳。
姉はニートというかフリーターというか家事手伝いというか、そんな感じの社会的地位にいる19歳。
学校の友人たちはすでに性の初体験を済ませている奴がいるが、俺はまだ経験していない。
それ以前に、彼女すらできたことがない。
仲のいい女友達は何人もいる。さりげなくいい感じの雰囲気に持っていかれたこともある。
だというのに、未だ未経験だ。
何故か?
このブラコンの馬鹿姉のせいだ。
うちの姉は、家族である俺から見ても美人だと思う。色眼鏡を外した素の目で見ても、だ。
目はぱっちり、鼻筋まっすぐ、唇はつやつやぷるぷる。
背は俺と同じぐらいで、胸は見栄えがするほど大きい。そのくせウエストは細くて、ヒップのラインもいい感じ。
どこの美容院で切っているのか知らないが、髪は姉のイメージにぴったりのショートヘアをしている。
ジーンズを履けば股下の長さに驚くし、スカートを履けばとても可愛く見える。
モデルになれば結構な売れっ子になれることは間違いないだろう。
それなのに、モデルのスカウトを全て蹴り続けている。
理由は一つ。
さっきも言ったように、姉がブラコンだからだ。
この姉は俺から離れようとしないのだ。
なぜ俺が未だにセックスをしたことがないか、という話をしよう。
俺が今までに女友達と彼氏彼女の関係になろうとしたときに限って、この姉が邪魔をするのだ。
デートの日、俺が普段よりめかしこんでいると姉はすぐに事情を察する。
もちろん、姉は俺を家から出すまいとする。
時には包丁を持ち出したこともある。特に怖かったのは鉈だったが、それは置いておくとしよう。
そんな姉を振り切って俺は家を飛び出す。
待ち合わせ場所には、俺がかすかな好意を抱く女の子がいる。
女の子のところへ駆け寄ろうとした時、絶妙のタイミングで姉がやってくる。
そして腕を組み、胸を押し付けて、腰を摺り寄せてくる。
傍から見ればバカップルそのものだ。女の子からもそう見えたらしい。
待ち合わせ場所から無言で立ち去って行った。
それからその女の子とはよそよそしくなり、あまり会話もしなくなった。
こんなことが何度も繰り返されたため、俺は彼女いない歴18年という経歴を持っているのだ。
ではそろそろ、姉が眠っていた俺の手を使ってオナニーをしていたときの話をしよう。
聞きたくないだろうが聞いてくれ。俺だって本当は話したくない。
だけど話さずにはいられないんだ。気持ち悪くて、黙っているのが辛い。
誰かに話さなければどうしようもないんだ。
623 :
うめネタ:2007/08/07(火) 23:45:42 ID:du6FDjhP
その朝の前夜、俺はナニをしている現場を、姉に目撃された。
すでにこの時点でアウトだ。男ならナニの現場を目撃された恐怖を想像できるだろう。
ちなみに、オカズは巨乳の女の子が輪姦されているCGだ。
この一枚絵のCGは俺の好みにジャストミート。夜はかなりお世話になっている。
誤解のなきよう言っておくが、俺はレイプ願望を持ち合わせていない。
CGと現実は別物だ。それぐらいの認識は当然持ち合わせている。
時刻は二時。俺は、とっくに姉も寝静まったころだろうと思っていた。
だから部屋の鍵をかけなかった。
そして、それが終わりのはじまりだった。
し始めて何分か、何十分か経ったころ。
そろそろくるな、と思ってティッシュをとり、その中に全て吐き出した。
そして、ティッシュをくるみ、ポイッ、とゴミ箱に投げた。
ティッシュはゴミ箱の中に吸い込まれるように落ちて行った。
次の瞬間、突然部屋のドアが開いた。入り口にいたのは馬鹿姉。
「だめじゃない! もったいないおばけが出るわよ!」
とか言いながら、姉がゴミ箱を掴み、さっきのティッシュを取り出した。
そして何事も無かったかのように姉は部屋を去って行った。
あとに残された俺は、まず事態を理解し、次に頭を抱えて声にならない悲鳴をあげた。
そのままベッドに倒れ、俺は眠りについた。やけに枕が湿っぽかったことを覚えている。
で、朝起きてみれば姉が俺の手を使ってオナニーをしていたのだ。
俺はしばらくまどろみながら、姉の痴態を眺めることにした。
見たかったからではなく、昨晩のことで起きる気力さえ無かったから。
「あっ、あ……だめよ、そこ、だめぇっ……やぁぁん……」
AVにでも使えばそれだけで男を勃たせることができるような、艶声だった。
しかしながら俺は興奮など一切しない。
朝勃ちはしていたがそれは生理現象であり、姉との関係性は一切無い。
寝ぼけ眼で見つめていると、姉が俺の視線に気づいた。
姉は途端に頬を紅くして、身をよじった。
「だめっ、見ないで! おねえちゃんの恥ずかしいところ、見ないでぇ!」
なんだか芝居がかった声だな、と俺は思った。
そのままじっとしているうちに、姉が俺の腕を太腿で挟んだ。
柔らかくはあったが、べとべとしていて気持ち悪さしか感じなかった。
「いやぁ、そんな目で見ちゃ、いやぁっ! いく、イクよ、イっちゃうよぅ! 見ないでっ、みちゃ、やぁぁぁぁぁぁぁぁっっ!!!」
一際大きく叫ぶと、姉は俺の手を離し、脱力して座りこんだ。
大声を聞いて不機嫌になった俺は、ベッドから這い出して顔を洗いにいくことにした。
馬鹿姉、ちゃんと床を掃除しとけよ、と言い残して。
姉がおかしくなりだしたのは、この朝からだった。
もしかしたらその後で何か起こったのかもしれないが、この姉の身に何が起ころうと知ったことではない。
だから俺の手を使ってナニをしていた朝からおかしくなったと考えることにする。
おかしかった、もとい変態的なブラコンだったのは元からだったが、それからより姉の行動は活発化した。
次に姉が狂気の片鱗を見せたのは、その数日後。
夕方俺が学校から帰宅するときだった。
624 :
うめネタ:2007/08/07(火) 23:48:45 ID:du6FDjhP
数日前まで、俺は学校まで迎えにきた姉と一緒に帰っていた。
どこに隠れているのか知らないし、いつからいたのかも知らないが、姉は必ず正門を出た俺を捕まえる。
もちろんメールも電話もしていない。前もって帰る時間を告げたことなど一度も無い。
それでも正門を出た俺を捕まえるのは何故なのか。
一番可能性がありそうなのは、俺が学校にいる間ずっと正門の前で待っているというものだ。
まさかそんな、と俺も思う。が、そこまでしそうな気がするのだ、俺の姉は。
午後四時、帰りのHRが終わってから、俺は帰宅することにした。
この日は姉に会いたくなかったので、別の方法で帰ることにした。
仲のいい男友達に頼み、彼の自転車の後ろに座って、二人乗りで正門をでた。
例のごとく、姉は俺を迎えにきていた。
俺が自転車に乗っているのを見ると、止めようとしたのか駆け寄って来た。
だが止まるわけにはいかない。今日は家には帰らない。
運のいいことに今日は金曜日。俺の通う学校は週休二日制で、土曜日は休みなのだ。
土日は家に帰らず、友達の家に泊まる。
変態姉とは気まずくて会えないし、たまには友達と馬鹿をして遊びたい。
だから、姉を無視して自転車で走るよう友達に告げた。
二人乗りの自転車は、姉のすぐ目の前を横切り、帰路へ着いた。
異変に気づいたのは、その後すぐ。
激しい足音が耳に届いた。誰かが後ろから走ってきている、とわかった。
ちらりと後ろを見る。そして俺は息を呑んだ。
姉が自転車を追いかけている。いや、正確には俺を追いかけてきている。
俺は友達にハッパをかけた。今から時速30キロで走ったら晩飯を奢る、と言った。
彼は、時速20キロなら、と言って自転車のペダルをさらに激しくこぎ始めた。
が、突然がくん、となって失速した。
後ろから引っ張られている気がした。おそるおそる振り返る。後ろに追いかけている姉の姿はなかった。
いや、姉はいた。荷台を両手で掴み、引きずられていた。
俺は友達にさらにスピードを上げるよう伝えた。そしてその通り、スピードは上がった。
スピードを上げていけば姉はいずれ手を離す。と思っていた――が、甘かった。
姉は手を離さなかった。
スピードののった自転車の荷台を掴み、引きずられ続けていた。
なにが姉をそこまで駆り立てるのだろう。俺が姉の手を外そうとしてもびくともしない。
姉はジーンズを履いているようだったが、いくらなんでもダメージは感じているはず。
いつか手を離すだろう、と俺はタカをくくっていた。
後で考えてみると、このときにどうにかして姉を後方に置き去りにしていればよかったのだろう。
まさか次の瞬間、隠し持っていた警棒を後輪に突っ込み、強制的に止めてしまうとは思わなかった。
護身用の武器として警棒を携帯しているのはおかしくない。
だが、警棒を使って自転車を止めるなどか弱い女性はやってのけない。
イコール、この姉は警棒を持つにふさわしい女性ではないということになる。
まあ、そもそもどこにでもいるようなか弱い女性であれば俺がここまで警戒したりしないのだ。
むしろ俺が警棒を持つべきだろう。この姉という痴女対策として。
625 :
うめネタ:2007/08/07(火) 23:51:03 ID:du6FDjhP
自転車が止まって呆けている友達に、俺はタクシー代の代わりに千円札を渡した。
すぐにその場からダッシュで逃げる。このままでは姉に捕まってしまうからだ。
後ろから悲鳴が聞こえてきた。やけに甲高い声だったが、姉ではないだろう。
すまん。我が友よ。お前を見捨てる俺を許してくれ。
普段から朝のジョギングをしてきた甲斐もあり、俺はどうにか姉から逃げ切った。
一分ほど立ち止まってみたが、姉が追ってきている気配は感じられなかった。
携帯電話を見ると、17:00。1時間近く逃げ回っていたことになる。
俺は行き先が決まらず途方に暮れていた。
約束をしていた友達はもう頼れない。家に帰るとあの姉と顔を会わせなければいけない。
こうなっては、駄目元で他の友人に頼むしかない。
友人にコンタクトをとるため、メールを打つ。
泊めてくれ、という意味を込めた本文を打ち、誰にメールを送ろうかと考えていると、携帯電話が振動した。
学校は携帯電話の持込を基本的に禁じている。
マナーモードの解除をいちいちするのが面倒なので、俺の携帯電話は着信音を鳴らさない仕様になっている。
着信していたのはメールだった。本文はない。
タイトルに一文字、『ま』と入力されているだけだ。
送り主は俺が一番会いたくない駄目姉。当然返信などしない。返信しようも無いし。
さて誰に送ろうか、とアドレス帳を開く。と、またメールが送られてきた。
またしてもタイトルだけ。今度は『つ』だ。
先ほどのメールと合わせると『まつ』となる。『まつ』とはどういう意味であろうか。
少し思案している間に、またメールが送られてきた。
『て』というタイトルのメール。メールを開いて確認するまでも無い。送り主は姉だ。
これだけ短い間隔で送ってきているということは、俺に携帯電話を操作させない策だろう。
確かに悪い策ではない。だが、あの変態姉は一つ見落としている。
俺にメールを送っている間は、他のことがおろそかになるということだ。
メールを打ちながら走って追いかけるなど不可能だろう。
対して俺はメールを無視し続けていればいい。その間に姉からさらに距離をとることができる。
携帯電話の電源を切る。こうしていればわずらわしい振動もない。
いや――待てよ。これをあの姉は狙っていたのか?
友達へ連絡を取らせないためにメールを送り続け、携帯電話の電源を切らせる。
こうなっては、友人へ連絡をとることができない。いちかばちかで家へ行き直に頼むしかない。
それで上手く泊めてもらえればいい。だが、必ずしも上手く行くとは限らない。
友人宅を転々としているうちに姉と遭遇してしまったら、その時点でアウト。
俺を捕捉した姉は、どんな行動に出るかわからない。
もしかしたら警棒以外の武器、例えば飛び道具を用いて俺を気絶させ、連れ帰ろうとするかもしれない。
まさか、ここまで頭が回るとは思わなかった。
これは、俺も慎重に動かざるを得ない。
今夜は家に帰るつもりはない。別の場所に宿をとる必要がある。
幸い、財布の中には一万円札が入っている。これだけあれば、どこかに泊まれる。
木を隠すには森だ。ホテルが立ち並ぶ場所へ行けばどうにかなる。
俺は繁華街へと足を向けた。
627 :
うめネタ:2007/08/07(火) 23:53:38 ID:du6FDjhP
建物に入り、黄色いビラビラを通り、鍵を受け取ってから一泊料金を機械に払う。
俺がやってきたのは繁華街の一角にある、ラブホテルだ。
他にもカプセルホテルやビジネスホテル、オールナイトの料金を払えばホテル代わりになるカラオケボックスなどが
繁華街には並んでいたが、俺はあえてラブホテルに1人で泊まることにした。
プレイボーイの友達いわく、最近のラブホテルは自動化されていて男1人でも泊まることができる。
また、旅行先で宿泊先に困って、金にも困っているときは自分も利用している、とも言っていた。
まさか今日ラブホテルを利用することになるとは夢にも思わなかった。
しかも、初のラブホテルが1人で一泊。あの姉のせいでろくでもない経験をすることになってしまった。
キーについていた部屋番号を頼りに、今夜泊まる部屋を探す。
見つけた。廊下の突き当りから二番目の部屋。
鍵を差しこみ捻ると、安っぽい音と共にドアが開いた。
オートロックにはなっていないらしい。まあ、1人で泊まるのだからこんなもんで充分だ。
ドアを閉めて、さらに鍵をかけるためツマミに手を伸ばす。
しかし、ツマミに指先が触れる前に、ドアが廊下側へ開いた。
ドアが勝手に動くということは、建物が傾いているのだろうか?ラブホテル業界は厳しい世界なんだな。
一歩踏み出してドアノブを掴む。が、引っ張っても動かない。
何か引っかかっているのだろうか。廊下へ出る。
そして俺は見た。何を見たかって?ものすごく嬉しそうに笑う姉をだよ。
「う、ふへへへへへへへへへへへへ」
姉が笑う。目がブーメランみたいになっている。漫画に出てくるスケベ親父を思いだした。
追い詰められた獲物というのは、まさしく今の俺のような気分をしているのだろう。
部屋の中へ後ずさる。望んでもいないのに震える足が勝手に動く。
姉が部屋に入ってきた。後ろ手でドアを閉め、鍵をかける。
カチン、という金属音が聞こえた。
死の宣告、詰め、チェックメイト、アンパンチ、戦争が終わったら俺結婚するんだ。
終末を意識させる言葉が次々と浮かぶ。その間にも体は後退していく。
姉の行動は素早かった。一歩、二歩と跳んだだけで距離を詰めてきた。
肩を掴まれ、押し倒された。背中を打った。胃に衝撃が走る。
なにをする、馬鹿姉。
「ききき、決まってるでしょ、そんなの。いまっから、お姉ちゃんが、気持ちいいこと教えてあげる、よよよよよ」
ろれつが回らないのか、はたまたろれつが回りすぎているのか知らないが、喋りがおかしい。
姉が俺を押し倒して何をしようとしているのか、知らないわけではない。
とぼけてみただけだ。姉が俺をどうしようとしているのか、確認したのだ。
その結果、姉は興奮している、俺を食べようとしている、ということがわかった。
姉が落ち着きを取り戻す確率は、0パーセント。それが覆ることはない。
だが、俺が大人しく犯されるかというと、ノーだ。
痴女、しかも姉に犯されるなど絶対に御免だ。近親相姦ダメ、絶対。
姉が頭を後ろへふりかぶった。
頭突きではない。おそらくベロチューでもかますつもりだろう。
しかし甘かったな、姉よ。
貴様の次の動きを読むなど、幼稚園児でも容易いわ!
628 :
うめネタ:2007/08/07(火) 23:55:30 ID:du6FDjhP
姉が目を瞑って、顔を振り下ろしてくる。
対して俺は、首を前に倒した。ちょうど頭頂部を姉に向ける形になる。
顔と頭がぶつかったらどちらが勝つか。
勝敗は次の瞬間に決した。
もちろん、顔で俺の頭を攻撃してきた姉の負けだ。
「い、っつぅぅぅぅぅ?! 何すんのよ!」
首を床につけて、姉を見る。鼻をおさえている手のすき間から零れ落ちるのは、真っ赤な血。
かなりの勢いで頭を振り下ろしたのだろう。目から涙が溢れている。
俺の顔に、透明な液体と紅い液体が落下してくる。
口の中に一滴落ちてきた。しょっぱい。
「大人しくなさいよ! お姉ちゃんが全部搾り取ってあげるから!」
何を絞るつもりだ。
「あのティッシュについてた、真っ白でとろとろの精液よ。すっごく臭くて、おいしかったぁ。
ついティッシュまで飲み込んじゃった」
ヤギでもあるまいしそこまでするなよ。
「てへっ」
てへっ、じゃねえ!
いかん、あれだけの一撃を受けてもこの姉はひるまない。
どうすればいい。どうすれば俺の貞操を守れる。
「せーえきの代わりにぃ、お姉ちゃんのミルクを絞っていいよぉ。赤ちゃんみたいにちゅーちゅーって、飲んでいいよぅ。
えへ、その栄養でぇ、もっと白くって濃いせーえき出してねぇ。ぐるぐる循環して回るんだぁ、うひはへふふふふふふほ」
この顔はひどい。親父が見たら泣くぞ。おふくろが見たら実家に帰るぞ。
それに、子供産んでなくても母乳って出るのか?
俺がなんとかこの場を切り抜けるには、この姉を気絶させるしかない。
考えろ、俺に残された手数を駆使して逆転するんだ。
「朝の指よりぶっといの、ちょうだい。お姉ちゃんの、アソコに」
朝、指――そうか!
姉さん、聞いてくれ。
「なあに? やめてくれってのはなしだよ」
姉さんがジーンズを脱がないとできないだろう。もう俺も我慢できないんだ。(この吐き気に)。
「あ、そっかぁ。こんなにされたら、我慢できないよね。お姉ちゃんも同じ」
姉がベルトを外し、ジッパーをおろし、片足ずつジーンズを脱いでいく。
ショーツはぐしょぐしょになっていた。ふとももに透明な筋が垂れている。
「見て、ここ……もう、とろとろのどろどろどろ、だよ。大洪水に、なっちゃった。ね……早くぅ……ちょおだい?」
ああ、じゃあ目を瞑って……。
「うん……」
629 :
うめネタ:2007/08/07(火) 23:58:02 ID:du6FDjhP
右手の人差し指と中指を重ねる。左手で姉の秘所を覆うショーツをずらす。
「ぁ……ほんと、に……やるんだぁ。うれしい……」
愛液を垂らしながらひくひくと動くそこに、重ねた指を突っ込む。
中で第一関節を曲げて、出し入れする。
「あ、ぁあ……おっきいい。朝より、ずっと大きいよ……すっごい……」
円を描くように動かす。姉の体も踊るように回りだす。面白い。
「や、やぁ……いじめ、ちゃやぁ」
じゃ、やめる?
「駄目。やめないで……欲しいの。お姉ちゃん、実の弟に犯されたいの!」
やっぱり変態だな。しかも淫乱。他の男にも同じこと言ってんじゃないの?
「なんでそんなこと、言うの……お姉ちゃんの、気持ちはずっとまっすぐなの、にぃ……あひゃぅっ!」
言葉と嬌声を交えて、姉がもだえる。
姉は自分の乳を掴んで揉んでいる。乳を手の形に歪ませている。
「も、だめ……あ、あ、ぁはっ、ああ! 出して、いっしょにぃ……イこ……?」
ああ、一緒にいこう。
そういえば、プレイボーイの友人が言っていた。絶頂の瞬間に淫核をつねると、女はより激しい快感を覚えると。
無修正の動画では、淫核はたしかここに――あ、やっぱりここか。
「い、く……もうイクっ! いい、いいよぉ! もっと、か、かき混ぜて! はぁ、は、あ、あっ!」
左手で淫核を軽くつねる。
「あ、ぅ、なっあ――――――――――――っは、あぁぁぁぁぁぁ、あっ!!!」
姉が背中を仰け反らせて、叫んだ。
脱力した体が前に倒れていく。ぶつかる寸前で肩を掴んで止める。
姉の顔に浮かんでいるのは笑顔。さっきの職務質問を受けること間違い無しのものとは明らかに種類が違う。
嬉しそうだ。小学生のころの姉はいつもこんな顔で笑っていた。
なんだか、悪い気もした。本当は指を入れただけなのに、姉は俺のモノが入っていたと勘違いしている。
でも、やっぱりこうするのが正解だろう。
変態とはいえ、俺の姉だ。俺と結ばれたとしても、幸せにはなれない。
まだ見識が狭いから、俺以外の男に目が向かないだけだ。
例えば――就職でもすれば、他の男を好きになる。そして結婚する。それが姉の幸せのためだ。
「あ、ぅ……発信機……忘れちゃだめよ、あなた。あと、――ちゃん。ママの子供……」
ここに来れたのは俺に発信機つけてたからかよ。やっぱ油断も隙も見せちゃいかんな。
「だめよ、浮気しちゃ……うめちゃうわよ、その女」
どんな夢を見ているのだろう。うなされてはいないようだが。
姉の股をタオルで拭き、大きいベッドの真ん中に寝かせる。
とりあえず俺はシャワーでも浴びよう。
あ、本当にラブホテルのガラスって透けてるんだな。
彼女を作ったら、ラブホテルに来よう。そんで部屋から彼女のシャワーシーンを見るんだ。
だが、姉とは絶対にこない。来てたまるか。姉のシャワーシーンなんか、絶対に見たくねえ。
「あー……いーい、お湯」
投下終わり。
and
埋めぇぇぇ!!!
>>630 ちょww生殺しwww
これ続きあんのー?
続きがてら気になる
埋めネタ。 〜おれらの本音〜
昨日、近所の吉野家行ったんです。吉野家。
そしたらなんか人がめちゃくちゃいっぱいで座れないんです。
で、よく見たらなんか垂れ幕下がってて、竜宮レナ、とか書いてあるんです。
もうね、アホかと。馬鹿かと。
お前らな、レナ如きで普段来てない吉野家に来てんじゃねーよ、ボケが。
レナだよ、レナ。
なんか親子連れとかもいるし。一家4人でひぐらしか。おめでてーな。
よーしパパお持ち帰りしちゃうぞー、とか言ってるの。もう見てらんない。
お前らな、鉈やるからその席空けろと。
ヤンデレ好きってのはな、もっと殺伐としてるべきなんだよ。
Uの字テーブルの向かいに座った奴といつ喧嘩が始まってもおかしくない、
刺すか刺されるか、そんな雰囲気がいいんじゃねーか。女子供は、すっこんでろ。
で、やっと座れたかと思ったら、隣の奴が、Windのみなも!、とか言ってるんです。
そこでまたぶち切れですよ。
あのな、みなもなんてきょうび流行んねーんだよ。ボケが。
得意げな顔して何が、みなも、だ。
お前は本当にヤンデレ好きなのかと問いたい。問い詰めたい。小1時間問い詰めたい。
お前、ヤンデレって言いたいだけちゃうんかと。
ヤンデレ通の俺から言わせてもらえば今、ヤンデレ通の間での最新流行はやっぱり、
未来日記の我妻由乃、これだね。
由乃ってのは雪輝への愛情が多めに入ってる。そん代わりストーカー。これ。
で、それに「ちょろいっ!」。これ最強。
しかしこれを頼むと次から店員にマークされるという危険も伴う、諸刃の剣。
素人にはお薦め出来ない。
まあお前らド素人は、らき☆すたでも見てなさいってこった。
とある掲示板で知り合った年上の女が突然、写メを送って来た、まあ2ちゃんみたいな掲示板だったので、メアド交換する様なことはほとんど無い…が、俺は怖いもの見たさと暇潰しで毎日晒していた(顔も)からほとんどのコテと一部の匿名とメル友だった。
特にその女のコテはほぼ毎日の様にメールを送って来ていた。
でも俺はメールも電話も嫌いで、時々返信する程度だった。
その時まで、明るくて面白そうな女の人だな〜、とか思ってたいたのだが…
送られて来た写メは普通に肩から上をとったものだった。
俺は当たり障りなく、褒める様なメールを返しんだ。
その日から、『会いたい』という様な内容のメールが異常な程送られて来た。
まあ何時ものテンションではぐらかしてたんだが、5日くらいたっても続くので、
出会い系池粕
しねばいいのに
て送ったんだ。
リスカ画像送って来やがった。
どうしても会いたいの……ってさ。
もちろんコテとしてはこれ以上のネタはねぇと、掲示板で晒したさw
それからその女コテは掲示板に来ていない。
ただその後で
好きだったのに
て延々と書かれていて最後に、会いたい てメールが来た時はちょっとキュンとした。
ね、名無し。お姉ちゃんのこと、好き?
あは、やっぱり?
そんなに好きなんだ。
じゃ、これ飲んで。
これはね、天国に連れてってくれるクスリなんだよ。
大丈夫、怪しくなんかないって。
こうやって、ごくり、って飲むだけ。簡単でしょ?
お姉ちゃんは飲んだから、次は名無しの番だよ。
ほら……早くぅ。
うふふ、どう? 体が熱いでしょ?
アソコも、固くなってきて、――体が動かないでしょ?
そんな顔しなくても、乱暴なんかしないよ。
私は、名無しにずっとここに居てほしい、だけ。
あの子――九子ちゃんだっけ。
あんな乳ばかりでかい馬鹿な女には名無しは渡さない。
名無しは、私と、ずぅっとここで繋がったまま、●んでいくんだよ。
――大好きよ、名無し。
埋め!
うめ。
まだ埋まんないか…
∧∧
( ・ω・)
_| ⊃/(___
/ └-(____/
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
<⌒/ヽ-、___
/<_/____/
【埋】
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_,,..,,,_/ 。ω゚ヽ/ ゚ω。ヽ,..,,,,_
./。ω゚ ヽ,,..,,,,_ l _,,..,,,,_/ ゚ω゚ヽ
| / 。ω。ヽ/ ゚ω。ヽ l
`'ー--l ll l---‐´
`'ー---‐´`'ー---‐´
いや、無理に埋めなくていいから
そのうち誰かが埋めネタ投下してくれるのを待てよ
>>641 1~2kbで何ができるというんだっ!!!
, --Λ-- 、__
( > < `ヽ、
,`= ====、_ ) 新スレに移動ですよ〜
/ イ / | 、 , `ヽ_,ノ ヽ,
レ L_/-,_|」Vヽ-,_ヽi ヽ, i _
(`,`(i ,i i''''-,._ L__iノ i// ̄ ` 〜 ´⌒/
イ.i"`´ .i、_ノ´ ,イ // 病み /
(人 i - , _ "" (Y. //─〜 , __ ,─´ , -- 、_
Yイヽ 、_ノ_,,, イノ .//| .|. , -- 、_ i・,、・ /
[>ノイ´ヽ人_, イ(イノ// | | , -- 、._ i・,、・ / ゝ____ノ
(イ/イ イ `−[=//」i_」.」 , -- 、._ i・,、・ / ゝ____ノ ::::'::::'::::
/~<,__三__イ(⌒ヽ, i・,、・ / ゝ____ノ ::::'::::'::::
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