17:36 *** Konata has joined channel #泉家
17:36 *** #泉家 = @Konata
ふう、これで大丈夫かな。
色々なホームページを回って探した末に、ようやくいいチャットツールが見つかった。
「CHOCOA」ってツールで、HDDを換える前はよく使ってたんだけど……うーん、盲点。
あとは、これでお母さんが接続できればいいんだけど。
お母さんは首をかしげると、しばらくウインドウを見上げたあと、ひらめいたようにぽんと手を打った。
そして、ウインドウの中に新しい行が加わる。
17:36 *** Kanata has joined channel #泉家
よし、来れた。
これから、私とお母さんの初めての会話が始まるんだ。
−−−−−− 「てけてけかなたさん」 その4・おはなし −−−−−−
ツールを探し始めたとき、一番言いたかったこと。
『おかえり、お母さん』
私がそれを打ち込むと、ウインドウの中のお母さんは嬉しそうに笑って、
『ただいま、こなた』
聞きたかった言葉で、返事してくれた。
『赤ちゃんだったこなたが、私そっくりになっちゃって……』
『お母さんゆずりの体つきだよー』
その言葉に、お母さんは苦笑いする。
『お母さんは、もっとちっちゃくなっちゃって』
『うう、ちっちゃいっていうのは禁句ですよー……』
『大丈夫、私もちっちゃいんだから』
どうしよう……
『追い打ちはやめてー』
このやりとりだけでも、なんだか楽しくてたまらないや。
『お母さんってば、かわいい』
文字だけのはずなのに、ちっちゃいお母さんの姿があって、
『よく、そう君にもそう言って抱きしめられました』
『……犯罪者と被害者に間違われなかった?』
『ひ、否定できないです……』
知らないはずのお母さんの声が、聞こえてくる気がする。
今ここにいるのは、プログラムじゃない。
正真正銘、私のお母さんなんだ。
『"神様からのごほうび"って言ったら……信じる?』
ちょっと照れながらの、お母さんの言葉。
普通に言ったら、誰も信じないはずだけど……
『だって、お母さんがここにいるんだもん。絶対信じるよ』
今なら、何を言われても信じられる。
−−−−−− 「てけてけかなたさん」 その5・りゆう −−−−−−
『ずっとそう君とかなたを見守ってきて……そのごほうびにってね』
そう言うと、画面の中のお母さんの背中にぽんっと小さな翼が現れた。ごていねいに、
頭には輪っかまであるし。
『本当ならただそばにいるだけでもよかったんだけど、それだとすぐに力が無くなっちゃうから。
それで、他の人から『無機物に依れば、力の消費が抑えられるから』って聞いて』
『……で、私のパソコンに?』
『ええ。ケーブルで繋ってるから、そうくんのパソコンにも』
ああ、だからさっきお父さんも叫んでたんだ。
『それは嬉しいんだけど……エロゲを捨てることまでしなくても』
『親としての監督責任です』
うわ、1秒で返事が来たよ!
『まったく、こなたったらネットゲーム以外はほとんど美少女ゲームなんか入れて。
そう君もそう君です。私みたいな体つきの女の子キャラだけじゃなくて、胸の大きい
キャラの美少女ゲームも大好きだなんて……ぶつぶつ』
あ、あの、おかあさーん。翼でウインドウをぺちぺちしながらいじけないでー。
『というわけで、連帯責任で二人の美少女ゲームは全部捨てさせてもらいました』
『うー、まだクリアしてないゲームもあるのにー……』
『プレイしたいなら、18歳になってからです』
『あの、ついこないだ18歳になったんだけど?』
『えっ……』
……お、お母さん?
『……ま、まあ、それはそれとして』
ちょ、おまっ! えっ、勘違いーっ!?
そうツッコミを入れようとしたけど、次の言葉でキーを打つ手が止まった。
『そういうわけで、しばらくこなたのパソコンのお世話になりたいんだけど……いい?』
……まったく、ダメなんて言うわけないじゃん。
私の、たった一人のお母さんなんだから。
『エロゲーをインストールしてもいいなら』
『ハードディスクをフォーマットしてもいいなら』
『うー、厳しいんだからー』
そう打ち込んで、私と画面の中のお母さんは思わず笑い合っていた。
――よろしくね、お母さん。