嫉妬嫉妬嫉妬嫉妬嫉妬嫉妬嫉妬嫉妬嫉妬嫉妬嫉妬嫉妬嫉妬
つまらん
埋めネタを考えている人もいるかもしれないから、雑談等以外で無駄に容量を使うのはやめにしないか?
何よ、それ……。
なによッ、それェ!
『今まで支えてくれてありがとう』
ですってぇ!?
ふ ざ け る な。
七梨はアタシのだッ! ずっと、ずっと昔からアタシだけの物だッ!!
あんなポッと出の雌豚なんかに七梨はやらない。いいやっ、他のどんなヤツにもやるもんか。
殺してやる。
美奈子。アタシから七梨を奪おうとする雌豚。アンタもあの御子神の泥棒猫とおんなじところに送ってやるっ!!!!!
35の語呂合わせが難しかった。
「ナナシくんはえらいわね〜」
そう言って、せんせいはアタマを撫でてくれた。
ミロクせんせいは、とっても美人で、すっごく優しい。
ボクはそんなせんせいが大好きだから、一番キレイなお花を摘んできてプレゼントした。
「ありがとね、ナナシくん」
ちゅ、って音とちょっとの温かいがほっぺに当たる。
家族以外のチューは大人な感じがして照れくさかった。
「ナナシくん、ここにいらっしゃい」
ご本を読む時間になると、せんせいはボクをヒザの上にのせてくれる。せんせいの吐く息が耳にあたってくすぐったかった。
気付いたらボクは、せんせいの腕の中で寝ていた。
「ナナシくん、わたしのうで掴んだまま離してくれないんだもん」
そう言ったせんせいの顔は、なんでかはわからないけど嬉しそうだった。
まわりを見てみると、みんなお昼寝していたからもう一回ねむることにした。せんせいの手を外そうとしたら動かなかった。ねむくなったから寝ちゃった。
お昼寝の時間が終わると、みんなはまたお外で遊ぶ。せんせいは、みんなが使っていたタオルを片付けてた。
「ナナシ、おままごとしよ」
そう声をかけてきたのは、保育園に入る前からの仲良しのミナちゃんだった。
保育園
wktk
>>915 おまwなにその焦らしプレイw
続き期待してますm( __ __ )m
前スレの梅ネタの三姉妹物は面白かった
今回も梅ネタとして書いてくれんだろか?
いや、新スレで本格連載でも一向に構わないのだが
吉村一男という男は高校生のくせに、朝5時には起きるような生活を送っている。
新聞配達をしているわけでも、牛乳配達をしているわけでも、食事の用意をするために早起きしているわけでもない。
この男が早起きする、いや、早起きするようになった理由。
それは。
「……今日こそ、一男の唇を……私のものに……」
モデル級のスタイルと長い黒髪と妖艶な笑みを浮かべる女が、何故か早朝から部屋に忍び込んでいるからだ。
この女、名前を倉子という。
一男の幼馴染であり、一男より3つ年上で、一男にとっては姉的存在だ。
職業は大学生。成績優秀、容姿端麗という女性として非の打ち所のない特徴を持つ。
しかし彼女の場合、性格に難がある。
「一男の朝の匂い……今日は誰にも…………組子にも恵子にも嗅がれていない、匂い……」
ああ! とうめきながら、一男の体の上で背中を仰け反らせる。
このように、年下の男の部屋に勝手に忍び込んだうえ、悦に浸るのだ。
倉子のこんな表情を見たら、いつも倉子を遠巻きに見ている大学の男達も引いてしまうだろう。
「まだ起きていないようだな……ふふ。昨日は夜の一時まで起きていたようだし、当たり前か……」
「…………」
ちなみに、一男はとっくに目を覚ましている。
倉子が自分の体の上に乗っていることを知っている。
それどころか、部屋のドアの鍵を無理矢理こじ開けて、部屋に忍び込んだ光景まで目撃している。
起きているのに、倉子に何も言わないのは、まだ眠いからだった。
それと、もうひとつ。
「今から恵子が起こしに来るまで、2時間。それだけあれば……アレもコレも、嗚呼、よりどりみどり……」
1人で変態のような独白を続ける倉子の表情が、見ものだからだ。
昼のうちは凛々しい表情をしている倉子も、今ばかりは頬を緩ませている。ひどく緩ませている。
ぜひとも写真に収めておきたい表情だ。
倉子にアイドル的な憧れを向けている一男の友人連中に高く売れるかもしれない。
「夏休み初日から、私は運がいい……一男、さあ、一緒にワンダーランドへと旅立とう」
倉子の両手が、一男の頭を掴んだ。
そして、一男の唇を奪わんと、顔を接近させてくる――が。
「む! ……ち……目を覚ましていたか……大人しくしていればいいいものを」
「おはよう、倉子さん」
倉子の唇と一男の唇が触れ合うことはなかった。
一男の右手が、倉子の喉元を掴んで止めていたのだ。
「おはよう、一男。ところで、その右手をもっといいことに使ってみる気はないか?」
「その、いいこと、の内容次第ですね」
「一男、女に恥をかかせるな。何をするかなんて……よくわかっているだろう? とっくに私で経験済みのくせに」
「倉子さんと一緒に過ごした経験はたくさんありますけど、そういう意味での経験はないです」
「ふふ……そのそら惚けた感じが、またそそる……」
倉子が一男の後頭部で、両手を組み合わせた。
サバおりの要領で、獲物を狙う目をした倉子が一男に顔を近づけていく。
しかし一男とて負けてはいない。
右手をそのままに、空いた左手を使って倉子の額を押し返す。
「倉子さん。いつも通り諦めてください」
「だが、断らせていただこう」
「何度やったって結果は同じですよ」
「遠い昔を生きた日本人は、いい言葉を残した」
「?」
「勝てば官軍、と」
倉子の言葉に、一男は一瞬気をとられた。
それが、致命的な隙になった。
突然体を離した倉子が、一男の股間の上に――膝を叩き込んだ。
一男の脳が、停止した。
だが次の瞬間、痛みが脳を再起動させた。
すまん、親父。母さん。俺……子供を作れなくなっちゃったよ。
と、一男は思った。
それほどのすさまじい一撃。
うめき声は漏れない。そもそも息が吐き出せない。息の代わりに内臓を吐き出しそう。
例えようのない痛みだ。
男にしか、この痛みはわからない。
その証拠に、倉子は悶絶している一男とは対照的に笑みをこぼしていた。
「ようやく大人しくなったな。さあ、早速……む? どうした、おい。一男? かーずーおー?」
死にそうになっている一男とは対照的に、倉子の声は呑気だった。
こうやって、一男の夏休み第一日目の朝は幕を開けた。
もしかしたら、俺の今年の夏休みはこんなんばっかか?
と、一男は不安にならざるを得なかった。
*****
朝の7時。
どうにか体を蝕む最悪の痛みから回復を遂げた一男は、近所の公園に来ていた。
なぜ一男がこんな朝早くから公園に集まっているのかというと。
「手足の運動! イッチ、ニ、サン、シ……」
早朝から、小学生の夏休みの定番、ラジオ体操をしに来ているからだった。
ちなみに、一男は高校二年生。小学校からはすでに卒業している。
それなのに、なぜ朝から元気よく体操をする小学生達に混じっているのか。
もちろん、それにも理由がある。
一男は首を左に向けた。
目線の先には、一男の胸元ぐらいまでしか身長のない、小学生にしか見えない少女がいた。
少女は朝から眠そうな顔も見せず、明るい笑顔でラジオ体操を踊っている。
この少女、名前を恵子と言う。
一男の幼馴染であり、倉子の妹であり、一男にとって妹的存在である女の子だ。
公園に集まっている小学生に混じっても、恵子は違和感がない。
しかし、恵子は小学生ではない。卒業してから、すでに2年以上が経っている。
恵子は中学校3年生。高校受験を控えている、受験生だ。
一男は、恵子に誘われてラジオ体操に来ているのだ。
当然、一男は乗り気ではない。今すぐにでも眠れるぐらい、睡魔に侵されている。
それなのに恵子の誘いを断りきれないのは、一男が恵子に対して甘いからだ。
しかし、それも無理はないかもしれない。
胸の前で祈るように両手を組まれ、目に涙を溜めて頬を震わせ今にも泣きそうにな顔を見せられては、断れるはずもない。
というわけで、一男は公園に来ているのだった。
ラジオから流れる音楽が止まった。ラジオ体操第一番が終わったのだ。
本来は第二番まであるのだが、小学生は第一番までしかやらない。
町内会の当番で子供たちの面倒を見に来た青年も同様だ。
ラジオ体操第二番の音楽を流しだしたところで、ラジオの電源は切られた。
子供たちは、皆首にカードを垂らしている。
小学校の先生達から渡された、ラジオ体操のハンコを押すためのカードだ。
子供たちは一斉にハンコを持った青年の前に列をつくった。自分のカードにハンコを押してもらうためだ。
恵子も周りの小学生と同様、列に並んだ。首に垂らしているのは、自作のカード。
毎年ラジオ体操にでかけている恵子は、準備を欠かさない。
一男は小学生の列から離れて、恵子の後頭部をなんとなく見つめた。
なんで恵子はわざわざ俺まで誘うんだろうか。一人で行けばいいのに。
その答えは、いまだ謎のままだった。
恵子に聞いても、笑顔ではぐらかされるばかりで一度も答えてもらったことがない。
嫌がらせだろうか?とは思わない。
純粋な恵子がそんなことをするはずがないと一男は信じているからだ。
「お兄ちゃーーん!」
と叫びながら、一男に接近してくる小さな女の子が1人いた。
女の子は細い手足を精一杯振り回しながら、短い距離を全力疾走する。
一男の前につくと、罪を犯していないのに見に覚えの無い罪を認めてしまいたくなるような、穢れのない笑みを少女が見せた。
少女の背は一男に比べてとても低かった。が、恵子よりもさらに小さかった。
駆け寄ってきた女の子は、恵子ではなかった。
「見てみて! これ!」
「ん」
「夏休み第1回目のラジオ体操のハンコ!」
「あ……ああ、そっか」
と、女の子の勢いに押されて一男は締まらない返事をした。
途端に女の子の表情が曇る。
「どうしたの、お兄ちゃん。……元気、無いの?」
「いや、そんなことはないけど」
女の子の悲しそうな瞳が、一男の胸を締め付ける。
まずい。なんだか、今にも泣きそうだ。
一男は焦った。こんなときどうすればいいのか、わからない。
「どうしたの? ……もしかして、お兄ちゃん考え事してた? 美加、邪魔だった……?」
「いやっ! いやいや、そんなことないよ。美加ちゃん。よかったね、ハンコ、もらえて」
一男は中腰になって、美加と目線の高さを合わせると、柔らかい艶やかな黒髪を撫でた。
どこから来たのかわからない罪悪感に苛まれながら、精一杯の笑顔を見せる。
しばらく撫でているうちに、美加の顔に輝きが戻っていく。
「うん! お兄ちゃん、明日も、来てくれるよね! ここに!」
「え? えっと……」
「え……来て、くれないの……やっぱり、お兄ちゃん、怒って………………っふぇ……ぇっく……」
「もちろん来るに決まってるじゃないか! 俺はラジオ体操大好きだから!」
「え? ホントに……? よかったぁ……えへへ」
「はっはっはっはっは……ははは」
「あ、もう行かなきゃ! じゃあ、お兄ちゃん! またねー!!!」
美加は一男から離れると、手を振りながら去っていった。
一男は中腰のまま、美加に向けて小さく手を振った。
美加に負けた気分だった。女の子、しかも小学生に負けた。
これから、夏休みの間は毎日ラジオ体操にでかけなくてはならない。
朝から、散々だ。
「お兄ちゃん」
一男の目の前に、恵子があらわれた。
中腰のままだったので、ちょうど目線の高さが同じになっている。
このときの恵子の顔は、ムクれていた。
「……むー」
「どうしたんだ、恵子」
「……むー、むー!」
「何だ? むーって」
「むー、むー、むー!」
むーむー言いながら、恵子は一男に頭を近づけた。むー、と言うたびに頭が少し前に出る。
一男は恵子が何も言わないので、その奇妙な動きを見続けていた。
すると、こんどは恵子が自分の頭に人差し指を向けた。
「さっきの! やって!」
「さっきの、って……美加ちゃんの頭を撫でたやつか?」
「そう! やって!」
撫でるのは別に構わなかった。それぐらいならお安い御用だ。
だが、なぜ恵子が頭を撫でてくれ、と催促してくるのか一男にはわからなかった。
「お前、子供扱いされるの嫌じゃなかったっけ」
「い……いいの! 早く撫でて!」
「わかんないやつだな、お前も……」
一男は美加と同じように、頭を撫でた。
そうすると、つい恵子と美加の髪の柔らかさを比べてしまう。
髪の柔らかさは……同じぐらいだな。
けどなんていうか、撫で心地?は美加ちゃんのほうがいいかも。
と思ったのがいけなかったのだろう。
いきなり、恵子が一男の頬をつまんだ。続けて、力強く引っ張った。
「いててててて! 何すんだ、恵子!」
「今、美加ちゃんのこと考えてたでしょ!」
「か……考えてないぞ。………………本当に」
「嘘つき! 今絶対に美加ちゃんのこと考えてた! やっぱりお兄ちゃん、年下の女の子が好きなんだ!」
「な……何てことを言うんだお前は! 失礼な!」
「馬鹿馬鹿馬鹿ぁ! お兄ちゃんの馬鹿ぁ!」
「あだだだだだだ! さらに力を込めるな! 腫れる! 千切れる! 潰れるって!」
「お兄ちゃんの、小児性愛の意味でのロリータコンプレックスーーーーー!!!」
*****
「――で、今現在頬が赤くなっているからガーゼを貼っている、ってわけね」
セミの鳴き声と夏らしい日差しと暑さを紛らわしてくれる風の吹く、学校へ向かう道。
その道を、左頬にガーゼを貼ったままの一男と、スポーツバッグを肩にかけた組子が歩いている。
一男は学校指定の制服を着ている。
理由は、補習を受ける人は授業を受けるときと同じ格好をしなければならない、と先生に言われたから。
一男は夏休み前の期末テストで、5教科中3教科赤点をとった。
赤点だった教科は現国・英語・現代社会。
ちなみに、残りの数学と理科は高得点だった。
これほど顕著に自分の長所と短所がはっきりすると、むしろ自慢したくなる。
もちろん、自虐的な気分で。
「恵子もしょうがないわね。まだまだ子供で」
「おう。まったく、お前と倉子さんはどんな風に恵子をしつけたんだ? あれじゃ将来、困った大人になるぞ」
「そうね。どこかの理系バカみたいになったりしたら困るわね」
「だな。どっかの暴力バカ女みたいになったりしたら、俺の身が持たないな」
組子は一瞬顔を歪めたが、すぐに平静な表情をつくった。
いや、むしろ嬉しそうにも見える。
「ま、もしラジオ体操に行きたくなかったら私に言いなさい。ラジオ体操の代わりに、
私が朝のロードワークに連れてってあげるから」
「それはいいな。自転車に乗りながらお前の後を追走するんなら、トレーニングにもなるし」
「あんたも走るのよ」
「ならやめだ。恵子とラジオ体操に言ってるほうがいい」
「軟弱者」
「うるせえ」
組子は高校の陸上部に所属している。大会では長距離を走る。
陸上部の中では、特別成績がいいほうではない。
同じ部の中には、組子より速い人間がたくさんいる。
それでも勝つことを組子は諦めなかった。組子は努力家で、さらに負けず嫌いだった。
朝に行う自主的なジョギングを欠かさないのも、その性格ゆえのことだ。
「そういや、陸上部って練習でどれぐらい走ってるんだ?」
「そうね……ウォーミングアップで軽く10kmぐらい走って、それからシャトルランを20本やって……」
「あー、いや、いいや。聞いてるだけで吐きそうになってきた」
「慣れれば簡単よ。あんただってできるわ」
「慣れる前に体を壊しそうなんだよ。いや、壊されそうだな」
組子、お前にな。
「ん? 今、なんか言わなかった?」
「んにゃ。何にも言ってねえよ」
会話をしているうちに、2人は高校の正門をくぐっていた。
これから、一男は自分の教室で補習を受ける。そう考えると、どうしても足が止まる。
一男は空を見た。空は青かった。まるでプールのようだ。
今日は夏休み初日だっていうのに、俺的には記録的な猛暑だ。
プールに入って泳いだら、気持ちいいだろうな。
ああ、そうだ。
「組子、練習は何時に終わるんだ?」
「9時から始まるから、練習が終わって、シャワーを浴びて……12時前ぐらいかしら」
「俺も同じぐらいの時間に終わるんだ」
「そうなんだ。で、それがどうかしたの?」
「ああ、もしその後予定が無いんなら、プールでも行かないか?」
「……プール?」
「今日暑いだろ? なんだかプールにでも行きたい気分なんだよ」
組子は歩みを止め、一男を見た。
「あ、あのさ……それって、2人っきりで、だよね」
「別に誰か連れてきてもいいぞ。人が多いほうが色々遊べるかもしれないし」
「いっ、行かない行かない! 誰も連れてなんか行かない!」
組子はショートヘアを激しく振り乱しながら、首を振った。
次に、組子は首を前へ倒した。そうすると、自然と目は下を向く。
組子の目は、自分の体へと向けられていた。腕はせわしなく動いていた。
シャツの胸元を引っ張り、腕を伸ばしたり、シャツごと腹をつまんだり、両手で太腿を掴んだりする。
「体脂肪は……今朝はいい感じだった。この間測ったとき胸は……センチだったし、ウエストもオッケー。あとは……」
「組子?」
「えっ、ああ、いや、そのあの、あはははは。……なに?」
「行きたくないか? なら俺1人で行くからいいけど」
「なっ――!」
次の瞬間、一男は胸倉を捕まれていた。組子の手によって。
「行かないなんて言ってないでしょ? 連れていきなさい」
「あ、ああ。わかった。だけど何で俺の制服の襟を掴んでるんだ、お前」
「気にしないで。ものの弾みよ」
そう言うと、組子は一男を解放した。
肩にかけたスポーツバッグの位置を整え、歩き出す。一男も慌ててそれについて行く。
「じゃあ、昼飯を食ったら近くの町民プールで待ち合わせな」
「ええ。あんた、誘ったんだから絶対に来なさいよ」
「わかってるよ。じゃあ、また後でな」
その言葉を残して、一男は校舎の中へと入っていった。
残された組子は、一男の前では決して見せることの無い極上のスマイルを浮かべていた。
その目がギラギラと光を放っているのは、どういう意味なのか。
――全ては、組子のみぞ知る。
*****
夏休みの教室は蒸し暑く、また寂しかった。
なにせ、学期中には大量にいるクラスメイトが、今は一男と同級生の女の子の2人だけしかいないのだ。
「ねー、吉村くん」
「んー? なんだ、神川」
「暑い」
「俺だって暑い」
「……いっこだけ、聞いてもいい?」
「ああ」
「なんで私達だけしかいないの? 他にも何人かいたじゃん」
「皆適当な理由つけて休んでるみたいだぞ。
森園は風邪、慶太は入院、大島はおばあちゃんの三回忌、田中は太陽が燃えているから。
馬鹿だよな。補習に一日でも来ない日があったりしたら二学期中ずっとボランティア活動だってのに」
だが、一男も休んでいる連中と同じように補習をサボりたかった。
今でも県内一周旅行への情熱は心の中でくすぶっている。
旅行に行きたいと考えると、その炎はあっというまに一男の心のガソリンに火をつけた。
炎が、一男の脳の妄想スイッチを入れる。
ああ、今すぐ自習課題のプリントを紙飛行機にしてやりたい。
そして風に流されるまま、飛行機に乗って、あの雲の彼方へと、誰も知らない地へと飛んでいきたい。
おお、あの雲は倉子さんのおっぱいみたいじゃないか。
あそこでかくれんぼしている子供なんか恵子そっくり。
あれ?組子?なんでお前俺の背中に乗ってるんだ?
なに?今からプールに行きましょう?
そうだったな。これが終わったら、大衆的地上の楽園、町民プールへ行こう。
「プール……行きてえなあ」
「いいよねー、プール。私も水泳部に入ってればよかったな。
そしたら練習にかこつけてプールで泳ぎ放題遊び放題なのに」
「俺は天井がある町民プールの方が好きだな。
学校のプールは水に浸かってるときはいいけどプールの横の通路なんか焼け石じゃねえか」
「そだねー……町民プールか」
一男は窓側の席から、グラウンドを見下ろした。
グラウンドでは、サッカー部、ラグビー部、野球部、陸上部、その他の面々が太陽の下で運動をしていた。
あれに比べたら、直射日光が当たらない分、教室の方が快適かもしれない。
しかし、運動部の連中を見ていると本当はあそこの方が過ごしやすいのではないかとも思える。
実際は、運動部のメンバーは暑さにやられそうになりながら練習に取り組んでいる。
少し考えればわかりそうなものだが、シャツを不快に湿らせる暑さをプレゼントする教室で補習を受けている一男には、
そんな判断もつかなかった。
だからだろうか。
こんなことを言ってしまったのは。
「神川。今日暇か?」
「午後からは暇だよ。デートのお誘い? おごりならついていくよ」
「別にデートに誘ってるわけじゃねえよ。暇だったら午後からプールにでも行かないか、って言おうとしただけだ」
「……それ、デートに誘ってるのと同じだよ」
「そうだっけ? まあどっちでもいいや。俺は午後から町民プールに行く。
そしてトロピカルバナナサンデーを堪能しながら夕方になって涼しくなるまでプールの中で過ごす。邪魔はするな」
「何言ってるかわかんないよ。……でもいいね、プールかあ……」
神川は、椅子の背もたれにもたれながらつぶやいた。
「去年の水着、どこにしまったかな……?」
時刻は11時を差していた。
太陽は地上を歩く人々に恨みを抱いているかのごとく、己の身を焦がし続ける。
この勢いはこれから一ヶ月、いや二ヶ月は続くだろう。
太陽が燃え盛っている間、ずっとプールに浸かっていたい、と一男は思った。
心の底から、そう思った。
次回へ続きます。
GJぃ!
これは危険な香りだなぁ
修羅場フラグ立てまくりじゃないかww
相変わらず埋めで終らせるにはもったいない出来ですGJ。でもヘタに本編出して流血沙汰も困るから、コレはコレでいいのかな。
続き楽しみにしてます。
918です
いや、言ってみるものだなぁ お陰でこんな素晴らしい作品が読めたGJ!!
恵子可愛いよ恵子
新キャラ増えてるし主人公わざわざ修羅場フラグ立ててるしwww
梅に拘らず出来上がったらジャンジャン投下してください
期待して待ってますから
>>929 (*^ー゚)b グッジョブ!!
埋めにはもったいないが
スレ終盤になればこれが読めるとなると
スレ消費が激しくなるからいいかも
まぁ、無駄に消費されても困るが (´・ω・`)
GJ
ヤベェ、普通に面白いから埋めには勿体ないぜマジで
このスレもまた35スレのように何週間も未練と呪詛を残し落ちていくのだろうか
要望があってから書いたわけじゃなく、予め書いてあったのを
張りつけたんだろうな。時間的に。
自演じゃね?って疑ってる訳ではなく、要は書き溜めしてるように
感じたって事だが。
書き溜めは大切だよ
予め書いておいて次スレが建った頃を見計らって投下してるんだろうな
捨てられるスレの最期の一撃みたいでいいじゃないか
このスレの住人は職人に限らず怖い例えを考える天才でつね。
つまり言葉様投身の図というわけか?
賭けないか?
1000いくのが先か500kbいくのが先か・・・
943
*****
一男は、学校で午前中一杯補習を受けたあと、自宅への帰路についた。
帰宅の手段は、徒歩。自転車通学をするほど学校から遠い場所に住んでいるわけではない。
もう少し離れた場所に家が建っていたならば、と一男は何度か思ったことがある。
一男の趣味は自転車に乗ること、そして自転車で旅行に行くこと。
今年の夏休みは自転車旅行に行くつもりだった。
期末テストの前日までに、旅行の計画はほぼ完成していた。
どこに行って、どこに宿をとって、どこで写真をとって、と行ったところまで考えていた。
あとは旅行に行って計画を実行するだけ、だったのだが。
結果的に旅行に行くことはかなわなかった。
こうなったのは誰のせいなのか? もちろん一男だ。
一男が普段からテスト勉強を行っていればよかったのだ。
勉強に向ける時間をアルバイトやら筋力トレーニングやらに費やしてきたのが悪い。
しかし、一男を責めるのも酷かもしれない。
17歳の男子高校生は、遊びたい盛りなのだ。
時々、一男は思うのだった。
期末テスト前、倉子・組子・恵子の三人に勉強を頼んだときのことを。
組子1人に頼んでいれば、何もかもが上手くいっていたかもしれない。
組子の成績は、一男にとって頭が上がらないほどのもの。2人の差は歴然としている。
数学と理科は一男も張り合えるレベルではあるが、それ以外の教科でどうしても差がつく。
それ以外、つまり現国・現代社会・英語の三教科。
だから、組子に苦手教科を全て教えてもらっていれば補習は免れたかもしれなかったのだ。
もしくは倉子に頼むか、だ。
倉子が高校に行っているころ、一男はまだ中学生だったので、倉子がどれほどの成績を誇っていたのかはわからない。
しかし、どうせ学年トップだったんだろうな、と予想はできる。
昔から倉子は賢かった。
一男が何を聞いても答えてくれたし、わからないことを聞かれても後になって教えてくれた。
道路を挟んで向かい側に住んでいるので、倉子が学校へ行く姿は毎日見られた。
小、中、高。毎日、倉子は学校へ通っていた。雨が降ろうと雪が降ろうと、必ず一男の家にやってくる。
そして一男を引っ張って学校へ通学するのだ。そのため、一男は病気以外で休んだことが一度も無い。
成績優秀、品行方正。絵に描いたような優等生だ。
性格に難はあるものの、そんなものは深く付き合わなければわからないものであり、倉子はどこまでも優秀な女子生徒だった。
勉強を教えてくれる相手が優秀であれば、一男にとっては組子でも倉子でも、どちらでも良かった。
少しばかり頼りないが、見た目小学校高学年、実際は中学3年生の恵子に頼んでも良かった。
補習から逃れられるのであれば、どんな手段でもかまわなかった。たとえ最良の手段ではなくても。
一男はここまできても、気づいていなかった。
10年以上幼馴染の三姉妹と過ごしてきているのに、未だに彼女達が自分に向けている好意に気づいていなかった。
その好意ゆえに彼女達が、誰が一男に勉強を教えるかで揉めに揉めて揉めまくったということにも気づいていなかった。
もちろん、先刻に自分が神川をプールに誘ったことが、一体どんな事態をもたらすのかという心配はしなかった。
さらに悪いことに――自分が組子をデートに誘ったという自覚すら、一男にはなかった。
一男は自宅の玄関前に立つと、かばんの中から家の鍵を取り出した。
ドアの鍵穴に鍵を突っ込み、右に捻る。なぜか、手ごたえがない。
一男の家の玄関は、右に回せば開錠される仕組みになっている。
それなのに、右に回しても手ごたえがなかった。
つまり、帰り着く以前から、ドアの鍵が開いていたということだ。
しかし、一男はあまり不安を覚えなかった。
なぜなら、こんなことは日常茶飯事に発生する事態だったからだ。
いちいち反応していては一男の身がもたない、というくらいにありふれたこと。
簡単に言ってしまえば、知り合いが一男の家に入り込んでいるのだった。無断で。
そんなはた迷惑なことをする人間に、一男は1人しか心当たりがない。
心の中で三点リーダを読む。点、点、点。玄関を開ける。
途端に香ばしいカレーの匂いが一男の鼻腔をくすぐった。
日本の家庭であれば、帰ってきたときにカレーの匂いがするというのは珍しくない。
しかし一男の母親は出張に出かけている。そのため家の中で料理をしているはずがない。
父親についても同様であるし、そもそも父親は料理が得意ではない。一男についても以下略。
読破済みの漫画を読み返す、淡々とした心地で台所に向かう。
茶色のすだれを右手で避けて、台所の入り口から中を覗く。
そこに居たのは、予想通り長い黒髪をリボンで結って、これまた予想通りにエプロンを着こなして料理をしている倉子だった。
倉子は、聖火を掲げるように、小瓶を頭上に持ち上げていた。
「倉子さん」
「ふふ……あとは、これを入れれば……一男は……」
「ただいま、倉子さん!」
「――むっ!」
突然一男の顔目掛けて、スプーンが飛んできた。反射的にかばんで受け止める。
スプーンは床に落ちて、しまりの無い音を立てた。
そして、静寂。2人はしばし睨みあう。
先に口を開いたのは、投擲後の姿勢を崩さないままの倉子だった。
「……一男か。お帰り」
「ただいま。ところで……今の攻撃の意図はなんですか?」
「すまない。弾みでやってしまった。今は反省している」
「何の弾みですか。もしかして、なんかやばいことでもしようとしてたんじゃ……」
「はっはっは。時々一男はするど……面白いことを言うな。私がそんなことをするはずがないだろう」
それはどうだろう、とかずおは 思った。
そもそも、勝手に人の家に入り込んで料理を作っている人の言葉を信じろ、というのに無理がある。
勝手に忍び込んでも倉子が何もしないということは信じているが、未だに真意は図れない。
「その小瓶、なんですか? 香辛料じゃなさそうな感じですけど」
「一男。世の中には気にしなくていいことというものがある」
「……はい」
「この小瓶を気にするのなんて、でたらめな知識で小説を書く小説家の、知識の真偽を気にかけるようなものだ」
「……つまり?」
「細かいことは気にするな。終わり良ければ全てよし、ということだ」
そこまで言うと、倉子は一男に背を向け、ガスコンロの火を止めた。
「さ、もうできたぞ。この私特製のカレーだ。一緒に食べよう」
「はい。……ご飯、用意してもらってすいません。勝手に忍び込んだ人に言うのも変ですけど」
「何を言うんだ。ここは一男の家。ということは私の家でもある」
「遠慮しないんですね」
「これでも遠慮しているんだぞ。本当なら夜もこの家で眠りたいんだが、妹2人がうるさくてな」
「ああ、あの2人ってまだ倉子さんにべったりなんだ。なんだかんだ言いつつも倉子さんがいないと寂しいんですね」
「え……いや、そういう意味ではないが……」
はっ、としたように、倉子は目を見開いた。
台所の熱のせいで額にあらわれていた汗が、頬を伝っていく。
次に倉子は、床を見つめるように下を向いて、両腕を組んだ。
まさか、いやさすがにそれは、いやいや、という声が一男の耳に届く。
倉子は顔を上げると、一男の目を見た。
「一男」
「はい」
「私がなんでこんなことをしているのか、そしてそこにどんな真意があるのか、気づいているか?」
今度は一男が腕を組む番だった。天井を見つめて、思案する。
答えはすぐに見つかった。
「……えーっと、俺のことが好きだから?」
「おお! それだそれ! やっぱり気づいていたのか!」
「そりゃ、気づきますよ。10年ぐらいの付き合いですから」
「正確に言うと、17年だ。私は一男が0歳のときから好きだったんだぞ」
一男は感動した。目に涙が浮かびそうだった。
倉子さん、そこまで俺のことを弟として大事に思ってくれていたなんて。
しかも好きだ、とまで言ってくれるなんて。本当に倉子さんはいい人だ。
と、一男は思った。自分の答えを疑うようなことはしなかった。
一男は、倉子は自分のことを弟として好きなのだ、と本気で思っているのだ。
だから、自分の気持ちを伝えた。
「俺も、倉子さんのこと好きですよ」
もちろん姉として。
心の中で一男はそう付け加えたが、それが倉子に伝わるわけがない。
一男の台詞を聞いた倉子は、口を大きく開けて、声にならない叫び声を上げた。
「――一男! じゃんじゃん食え! 6人前くらいはあるが、全部食べてしまっていいぞ!」
「6人分は無理でしょ。って、倉子さんも食べてください」
「私は今の言葉だけで、パラソル一本で空を飛ぶことも可能とするエネルギーが補充された!腹一杯だ! だから一男が1人で食え!」
「はあ……じゃあ、そうします」
「ああ、ああ……ああ! もう、駄目だ!」
倉子はそう言うと一男に向かって突進した。
押し倒される?! と一男が思ったのも束の間。倉子は一男の脇を過ぎて家を飛び出していった。
また、倉子の叫びが聞こえた。家の中からではなく、外から。
ご近所からの苦情が倉子の家に殺到するのではないか、と一男は思った。
*****
倉子の作ってくれたカレーを一杯だけ食べたあと、一男は町民プールへ向かった。
町民プールは一男の住む町の役場に隣接する位置に建っている。
一男の家から町民プールまでは、車で約20分ほど。
プールへ向かう20分ほどの道を、一男は自転車で走っていた。
先日購入したばかりの自転車はロードタイプのため、並みの自転車以上のスピードがでる。
ゆっくり走っている50ccのバイクであれば、あっさりと追い抜いてしまう。
そして今、一男は普段の自分のペースより速いスピードで車道を走っていた。
それこそ車を全て追い越さんばかりの勢いで。
なぜか? 理由は2つ。
まず一つが、現時刻が一時を過ぎているということ。
家をでる前に組子を迎えに、向かいの家のチャイムを鳴らしたのだが、留守だった。
恵子はどこかに行っていてもおかしくないが、倉子すらいないというのは不思議に思えた。
留守だということは、すでに町民プールへ向かっているということ。
おそらく部活動の帰りにそのまま向かったのだろう。
遅れてはまずい、ということで急いでいるのだった。
これが理由の一つ。
もう一つは、一男の後ろをついてくる自転車の存在だった。
一度停止して先に行かせようとしたが、自転車は一男の後ろで停まったままで、先に行こうとしない。
ならば振り切ろうと思い、あえて混んだ道を走ったり、全力で置き去りにしようとした。
しかし、後方にいる自転車はいつまで経ってもつかず離れずの位置をキープしたまま追走してくる。
始めのうちこそ不気味ではあったが、今、一男は楽しんでいた。
一男の住んでいる町では、ロードバイクが街中を走っていることが少ない。
時々目にはするものの、一男が自転車に乗っているときに遭遇する確率というとほぼゼロだった。
なぜロードバイクに遭遇したいのかというと、答えは一つ。勝負したかったから。
とはいえ実際に遭遇したところでレースまがいのことなどできるはずもない。
そう思い、ほぼ諦めかけていた一男の前、いや後ろに現れた白いドロップハンドルのロードバイク。
後ろを一瞬振り返ったとき、乗っている人間はサングラスをかけていた。
車体の色はわかったものの、それ以外の特徴はつかめなかった。男か女かそれすらもわからない。
だがどうでもいいことだった。自転車でスピード勝負ができるなら、それでよかった。
道路が下り坂に差し掛かった。この坂の中腹に、町民プールはある。
一男は、最後のスパートをかけた。ギアをトップに入れペダルを踏み、下りの慣性を利用してさらに速度を上げる。
後ろから音は聞こえてこない。それはそうだ。ロードバイクの走行音はほとんどしない。
ましてや必死に走っているときに走行音が聞こえるはずもない。
しかし、背中に言いようのないプレッシャーは感じられる。追走者はまだ、諦めていない。
100メートル前方の右手にわき道がある。あそこから町民プールの駐車場へ入ることができる。
それはつまり、この勝負も終わりだということだった。
駐車場の入り口が目前に迫る。一男は残念に思いつつ、ブレーキをかけた。
ありがとう、楽しかったよ。そう思いながら。
追走していたロードバイクは、さきほどの勢いのまま坂道を下っていった。
その時、どこからともなく、一男ー! という叫び声が聞こえてきた。
なんとなく倉子の声に似ていた気がしたが、一男は深く考えずに駐輪場へ向かった。
一男は駐輪場に自転車を停め、ワイヤーロックを屋根の支柱と車体と前輪のホイールに通して、
施錠すると、町民プールの入り口前へ早足で向かった。
プールの受付前には、やはり組子がいた。
シャツと短パン、そして肩にはスポーツバッグ。家には帰らず、そのまま町民プールまでやってきたようだった。
一男が駆け寄ってくると、組子は片手を挙げた。
「ここ、ここ」
「おう、悪い。遅くなって。待ったか?」
「待ったわよ。まったく今までなにやってたのよ、おかげでこっちは汗でびしょびしょ……じゃなかった。
待ってないわ。ついさっき来たところよ」
「……なんで今、わざわざ言いなおした?」
「男が細かいこと気にしないの」
そういい残すと、組子は受付へ向かった。一男もそれについていく。
このプールの受付は外から見えるようになっていて、払わないと中へ通してもらえない仕組みになっている。
受付口の中にいる係員に2人分の利用料金を払えば、プールを利用できる。
一男は高校生1人分の料金を払った。
そして、中へ向かおうとしたのだが、料金を払っていない組子までついてきた。
「組子?」
「ん?」
「お金、払わないのか?」
「あんた、払ってないの? なんで?」
「なんでって……お前はどこのお姫様だ。自分の分くらい自分で払え」
「は? 今日はあんたが払うんじゃないの? あんたがここに誘ったんじゃない」
「行かないかとは言ったけど、おごるとは言ってないぞ」
「……あんた今日、デートに誘ったじゃない」
デート? 何を言っているんだこの女。
「悪いけどな、デートに誘ったわけじゃないぞ。俺が行くついでにお前を誘っただけで――」
「払いなさい」
「おい、人の話を」
「払いなさい」
「……怒るぞ」
「これで最後。……は、ら、い、な、さ、い」
組子の喋り方が変貌していた。
一男の脅しなど気にした様子も無く、顔も見ずに、料金を払うことを強要してくる。
一男はこのまま1人だけで中に入ってしまおうかとも思ったが、それを思い直した。
まったく、金が無いんなら、かっこつけずにそう言えよな。
「わかったよ。仕方のないやつだ」
「そう、それでいいのよ。……初デートくらい、おごってよね」
一男は疑わしい目つきで見つめてくる係員に組子の分の料金を払った。
男子更衣室で着替えを終えた一男は、早速プールへと向かった。
町民プールの中は、2種類にわかれている。
一つが大人用。深さは中学校のプールくらいで、縦に25メートル、横は10レーン分の長さがある。
一男が泳ぐのはもちろんこちら側だ。
もう一つは、子供用。高校生の一男の膝ぐらいまでしか深さがない。
今日は夏休みということもあって、子供の姿が多かった。中には高校生らしき一団もある。
一男は壁際に立って、準備運動を始めた。
屈伸、伸脚、前屈、上体反らし、といった感じで黙々と体を動かす。
さきほどまで謎の自転車乗りとレースを繰り広げてきた体はすでに温まっていて、準備運動だけで汗が浮かんでくる。
ふと、周りの視線が自分に向けられていることに、一男は気づいた。
年齢や容姿、性別に関わらず、一男の前を通るとき、チラチラと一男の体を見る。
無理も無い。一男の体はぱっと見、マッチョなのだ。
筋肉量は平凡であるものの、脂肪量の少なさのせいで筋肉の形がはっきりわかるようになっている。
腹筋は綺麗に六つに分かれているし、背中にも深い溝が見える。
すべては、自転車馬鹿である一男のトレーニングの賜物だ。
プールに来ている人たちはある人は羨ましげに、ある人は奇異の視線で一男を見る。
学校の水泳の時間で同級生のさまざまな視線にさらされてきた一男は、視線を受け流しつつ準備運動を続けた。
「一男」
声をかけられ、一男は振り向いた。そこにいたのは。
「組子……か?」
「うん」
「…………」
「なによ、その目」
普段一男が目にしている、体育の水泳の授業でワンピース型のスクール水着を着たよく知る組子ではなく、
上下に別れたピンクのビキニを着た初めて見る組子だった。
少しくせのあるショートの髪はそのまま。
プールに入る際に被る水泳用のキャップを手に持っている。
首から始まり、肩へと流れていくなだらかなカーブは、ほっそりとした組子の腕へ。
ビキニに包まれた胸は大きさを主張しない程度の大きさだ。
しかし、組子の最大の武器は、機能美を思わせる美しさにある。
具体的には、バスとからウエスト、そしてウエストからヒップへ続くラインの美しさ。
痩せすぎてもおらず、かといって余分なものもついていない。
ヒップから太腿へ下るラインなど人類が目指す理想の極地。
本当、今日は組子をプールに誘っておいてよかった。
今さらながらに一男は自分のやったことを褒めるのだった。
「組子。いえ……組子さん」
「何よ、いきなりさん付けで呼んだりして」
「ありがとう……本当にありがとう。お前が幼馴染で、本当によかった」
「……はーん。なるほど、あんた今頃私のよさに気づいた、ってわけね」
「ああ」
本当に、今さらだった。
同じ学校に通って、さらに同じクラスで、あまつさえ幼馴染だというのになぜ組子のスタイルの良さ、
レベルの高さに一男が今さら気づいたのか。
それはおそらく、組子が一男の前で女の子らしい格好をしなかったからだろう。
ただでさえ一男は男女の機微に疎い。そのうえ自転車馬鹿。
同級生で幼馴染であっても、女らしさのアピールをしなければ一男の印象を変えられるはずがないのだ。
組子は一男の前では露出の低い格好しかしない。髪型や化粧でおしゃれをしたりもしない。
さらに生来の気の強さで一男に対して弱い面を見せようとしない。
その点、組子は反省すべきだろう。
組子には今、チャンスが訪れている。
初デートで、人の目がある町民プールだというのに、一男は組子の体に釘付けになっている。
組子が登場してから今まで、一男は組子のウエストと脚ばかり見つめている。
この状況で密着して、誘いの言葉でも囁き続ければ一男はいとも容易く組子の手に落ちるだろう。
一男は、17歳の男子高校生が抱く程度の性欲は持ち合わせていたからだ。
しかし、それは組子も同じことだった。
性欲はもちろん、異性の体についても。
学校の授業で見る一男の体と、初デートの場所で見る一男の体では、後者の方がはるかに貴重だった。
そのうえ、一男が組子に向けている眩しそうな視線。
そろそろ、組子も限界に近づいていた。
具体的には、いろいろ我慢できなくなってきた。
「……一男。プール、出ない?」
「へ……? いや、何言ってるんだ。今日はここに泳ぎに来たんだぞ、俺は」
「あら、そう……。ごめん、ちょっと……すぐ戻ってくるから、先に泳いでていいよ」
「? わかった。そんじゃ、お先」
一男はプールサイドに立つと、人のいない水面へ向かって飛び込んだ。
周りで泳ぐ人々も同様に、頭から飛び込んだり腹から飛び込んだりする。
その光景に背中を向け、組子は歩き出した。
着替えて帰るわけではない。トイレへ向かっているのだ。
具体的に何をするのかは言わない。
ただ、組子の後で女子トイレに入った女性は、色っぽく男の名前を呼ぶ声を聞いた、とだけ言っておこう。
残り容量を埋められるよう、残りの文章を調整します。しばらくお待ちください。
*****
ひとしきり泳いだ一男は、プールから上がって空いたベンチに座っていた。
壁に貼りついている時計を見る。2時30分。泳ぎ始めてから1時間以上経過している。
まだ一男は帰ろうとは思わなかった。まだ泳ぎ足りないし、組子がさっきから戻ってきていないからだ。
帰ってしまったのだろう、と一男は思っていた。そして、その方がいい、とも思っていた。
一男は、組子の水着姿に戸惑っていた。
正確に言えば、はまりすぎている組子の水着姿を見て思考を停止させる自分に戸惑っていた。
組子を見ていて、一男がこんな反応を示すことは今まで全くなかったのだから、無理は無いだろう。
一男はもう一度、組子の水着姿を思い浮かべた。
直接的に性欲の対象になる体つきではない。だが、そのできすぎたバランスに芸術性を見出してしまうほど、組子の体は綺麗だった。
一男は、いけない方向に思考が働きそうだったので、もう一度水の中に入ることを決めた。
ベンチから腰を浮かし、背筋を伸ばそうとしたところで――頭に固いものがぶつかった。
痛みはないが、突然のことで不意をつかれてしまった。
不機嫌そうに眉をしかめ、周囲を見渡す。何者の仕業かを見分けるために。
すぐ傍に居た。右に見知ったクラスメイトが。ジュースの缶を持って。
「神川か」
「お待たせ。ごめんねー、水着がなかなか見つかんなくってさ」
神川が着ていたのは、ワンピースタイプの水着だった。
学校指定の水着と異なる点と言えば、脇の下から脚の付け根までラインが入っているところと、
水着が背中で×を描くようになっているところだった。首の下から腰の辺りまで、ほぼ丸見えになっている。
いわゆる競泳用の水着だった。
「実は私ね、中学校まで水泳部だったんだ。去年まではジムで泳いでたりもしたんだけど、今年に入って水泳はやめちゃった」
「そうだったのか」
「で、どう? 似合う?」
「うーむ」
一男は、目の前の神川の姿とビキニを着た組子の姿を比較した。
色っぽさといった点では組子に軍配があがる。しかし、神川の主張しない色っぽさもいい。
なにより、胴の部分を見せていないところに慎ましさを感じる。
具体的には脱がす楽しみ、想像する楽しみがある。
以上を踏まえて出した結論。
「似合う。いや、似合いすぎてこれ以外に神川にふさわしい水着などないのではないかとも思えるな」
「言いすぎだよ。でも嬉しいな、この水着、お気に入りなんだ」
「それ、どうやって着るんだ? スクール水着もそうだけど、その手のやつって着るときに無理したらやばそうじゃないか?」
「それは女の子の秘密だよ。それより、はいこれ。ジュースあげる」
「お、サンキュ。気が利くな」
「トロピカルバナナサンデーじゃないけどね」
一男は神川の差し出したスポーツドリンク入りの缶を受け取った。
プルタブを開け、一気にあおる。250ml入りの缶は、あっという間に空になった。
「さて、それじゃあ泳ごっか」
「おう」
くずかごの中に空き缶を捨て、一男と神川がプールサイドへ向かったとき。
「一男」
突然、名前を呼ばれて一男は後ろを振り向いた。
そこにいたのは、潤んだ瞳を無理矢理に尖らせている組子だった。
着ている水着はビキニのまま。シャワーでも浴びたのか、全身が濡れている。
「組子、遅かった……じゃない。一緒に泳がないか?」
「その前に、こっちの質問に答えなさい。その子、誰?」
「え、私?」
組子の指に差され、それに流されるように神川は自分を指差した。
「やだなー、組ちゃん。私だよ、私。神川」
「神、川さん?」
「水泳用のキャップ被ってるからわかんない? これでわかるかな?」
神川は被っていたキャップを脱いだ。押し込められていた髪の毛が重力に従い下りて行く。
神川は学校では髪を短い三つ編みにしている。
今日のように泳ぐときは三つ編みを解いているため、素の髪型があらわになっている。
黒のショート。組子よりも少し長め。
「どう?」
「神川さんだっていうのはわかったけど……私が問題に思っているのは、それじゃないわ。一男」
突然話を振られ、一男はプールサイドに座って体に水を浴びせている手を止めて振り向いた。
「なんだ?」
「どうして、あんたと神川さんが一緒にいるの?」
「どうして、と言われてもな。俺が神川をプールに行かないかって誘ったから神川がここにいるわけだが。
なんか悪いことしたか?」
「それって何よ、つまり……デートに誘ったってこと?」
「そんなつもりはなかったぞ。たまたま暑かったからそんな話の流れになってしまっただけだ」
「たまたま? 暑かった? それに、デートに誘ったつもりはなかった、ですって?
あんたね、女の子にプールに一緒に行かないか、って誘うのはデートに誘ってるのと一緒なのよ。
私をプールに誘ったうえ、神川さんまで誘うなんて……あんた、わざと私を怒らせようとしてない?」
「馬鹿を言うな。俺はそんなことはしねえ」
組子を怒らせたら怖い、ということを知っている一男が、わざわざ組子を怒らせようとするはずもない。
しかし、怒らせるつもりはなかったとしても、怒らせてしまうことはある。
例えば今のように。
「でも、あんたを見てるとどうもねえ……私を怒らせようとしているようにしか思えないのよ」
「それはお前の目に変なフィルターがはまっているからだ。本当の俺は、嘘一つつくことのない真面目な人間だぞ」
「たった今嘘ついてるじゃない。……ああ、やっぱりあんた、私を怒らせたいのね?」
「いや待て。すでに今お前は怒っているわけで、それ以上怒りを濃くしたらさらに酷いことに……」
「見られない顔になるって? へええ、誰のせいでそうなっていると思っているのかしらねえ。一男は」
事実、組子の表情はすごいことになっていた。
眉間に眉が寄りそこが皺を浮かべ、綺麗な二重まぶたが奥に沈み一重まぶたに。
右側の頬は筋肉が痙攣していて、右目尻をひくひくと動かしている。
さらに濡れた髪が額や頬に貼りつき、水に関わるホラー映画的な形相を作り出している。
「別に私は怒ってないわよ? いつもどおりよ、いつもどおり」
いつもどおりの表情の記憶を塗り替えてしまいそうな顔で、組子は笑う。
その顔と整いすぎたボディラインの組み合わせのせいで、首と、首から下が違う生物であるように見えてくる。
まるで何かの仮面でも被っているかのようだ。
「ね?」
「ね、じゃねえだろう。ま、いいや。機嫌が直ったんなら、泳ごう」
「ええ、そうね。と言いたいとこだけど……なんで、神川さんをここに誘ったの?」
「またそれかよ。さっきも言っただろ、なんとなくだよ」
「本当に? それ以外に目的があったんじゃないの?」
「ねえよ。なあ、お前なんかおかしいぞ。神川をプールに誘ったら悪いのか?」
「悪いに決まってんでしょ! だいたいあんた私の…………あ」
組子が言葉を止めた。先ほどから神川を放っておいたことに、今さら気づいたのだ。
焦った顔をして、神川に弁解をする。
「あ、あのね? 神川さんが来たらいけないってわけじゃなくって、これはいろいろな理由があってね?」
組子の苦しい言い訳の言葉を聞いても、神川は怒らなかった。
むしろ、笑顔を浮かべた。面白い玩具を見つけた子供のような笑顔だった。
「えっと……だから、悪いのは一男であって、神川さんは悪くないの」
「うん。わかってるわかってる。組ちゃんは悪くなんかないよね。悪いのは、組ちゃんの気持ちに気づかない人」
「えっ?」
「私を先に誘ったくせに、他の女の子を誘うなんて! って感じでしょ?」
神川が喋るたびに組子の顔は赤くなり、同時に驚愕の色を濃くしていく。
「わ……わかっちゃった?」
「わかんない人の方がどうかしてるよ。組ちゃん、露骨すぎ」
「あ、ああ……あぅ」
「んふふー。どう、しよ、っかな」
「んー! んんー!」
腕を組んで組子を見つめながらにやにや笑う神川。
さるぐつわをされているわけでもないのに、口を封じられたようにうめき声をだしながら首を横に振る組子。
傍で見ていた一男は、2人の様子が変だということには気づいていたが、その理由までは察していない。
だから、不思議そうな顔をして首を傾げるしかできない。
そんな一男に声をかけたのは、組子の肩に手を回して笑顔をつくる神川だった。
「吉村君、ちょっと待っててね」
「ん、話終わったのか?」
「いやいや、たった今から乙女同士の戦略会議をするのですよ」
ぐふふふ、と神川は笑う。
「会議? よくはわからんが……先に泳いでてもいいか?」
「ああ、だめだめ。吉村君はプールサイドで待ってて。予想外の行動をとられたら困るから」
「いいけどさ、早めに済ましてくれよ」
「はいはい。そんじゃ、ちょこっと待ってておくれ」
神川が組子の肩に手を回したまま更衣室へと歩き出した。
2人は、「どこまでやる? イクとこまで?」「ええっ! そこまではさすがに。せめて告白を……」という感じで
話をしながら、奥へと消えていった。
残された一男は、泳ぐな、という神川の言葉を忠実に守って、プールサイドに座り込んでいた。
プールの中では、水着を着た大小さまざまな男女が各々に水泳を楽しんでいた。
ビーチボールで遊ぶもの、水をかけ合うもの、助走をつけて飛び込み台からプールに飛び込むもの。
その光景を見ていると、一人でプールサイドにちょこんと座っている自分が寂しい人間に思えてきた。
いっそのこと神川の言葉を無視してやろうか、とも思ったが、結局一男はプールに入らなかった。
一男は文句を言いながらも人の言葉を無視しない、律儀な男だった。
まもなく時刻は3時になろうとしている。
一男はプールサイドに座ったまま、プールの外側を囲む鉄柵の向こう側を見た。
プールの天井は日差しを避けられるようになっているが、プールの外は直射日光が当たっていてまだまだ暑そうだ。
涼しくなり始める夕方まで、まだ時間はある。
夕方まではプールの中にいようと、一男は誓うのだった。
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長くなりそうなので、残りは37スレの終盤、埋めネタとして投下します。
|∀・)イイヨイイヨー
埋めネタにしておくには惜しいですな
全裸でまってる
i | ミ.\ヾヽ、___ヾヽヾ |
| i 、ヽ_ヽ、_i , / `__,;―'彡-i |
i ,'i/ `,ニ=ミ`-、ヾ三''―-―' / .|
iイ | |' ;'(( ,;/ '~ ゛  ̄`;)" c ミ i.
.i i.| ' ,|| i| ._ _-i ||:i | r-、 ヽ、 / / / | _|_ ― // ̄7l l _|_
丿 `| (( _゛_i__`' (( ; ノ// i |ヽi. _/| _/| / | | ― / \/ | ―――
/ i || i` - -、` i ノノ 'i /ヽ | ヽ | | / | 丿 _/ / 丿
'ノ .. i )) '--、_`7 (( , 'i ノノ ヽ
ノ Y `-- " )) ノ ""i ヽ
ノヽ、 ノノ _/ i \
/ヽ ヽヽ、___,;//--'";;" ,/ヽ、 ヾヽ
さよならを言えたならと鬼ごっこを全裸で待つ、信じて待つ