1 :
名無しさん@ピンキー:
ここは、ヤンデレの小説を書いて投稿するためのスレッドです。
○小説以外にも、ヤンデレ系のネタなら大歓迎。(プロット投下、ニュースネタなど)
○ぶつ切りでの作品投下もアリ。
■ヤンデレとは?
・主人公が好きだが(デレ)、愛するあまりに心を病んでしまった(ヤン)状態、またその状態のヒロインの事をさします。
→(別名:黒化、黒姫化など)
・ヒロインは、ライバルがいてもいなくても主人公を思っていくうちに少しずつだが確実に病んでいく。
・トラウマ・精神の不安定さから覚醒することもある。
■関連サイト
ヤンデレの小説を書こう!SS保管庫
http://yandere.web.fc2.com/ ■前スレ
ヤンデレの小説を書こう!Part6
http://sakura03.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1176605863/ ■お約束
・sage進行でお願いします。
・荒らしはスルーしましょう。
削除対象ですが、もし反応した場合削除人に「荒らしにかまっている」と判断され、
削除されない場合があります。必ずスルーでお願いします。
・趣味嗜好に合わない作品は読み飛ばすようにしてください。
・作者さんへの意見は実になるものを。罵倒、バッシングはお門違いです。議論にならないよう、控えめに。
■投稿のお約束
・名前欄にはなるべく作品タイトルを。
・長編になる場合は見分けやすくするためトリップ使用推奨。
・投稿の前後には、「投稿します」「投稿終わりです」の一言をお願いします。(投稿への割り込み防止のため)
・苦手な人がいるかな、と思うような表現がある場合は、投稿のはじめに宣言してください。お願いします。
・作品はできるだけ完結させるようにしてください。
>1さんには私だけがGJするの。
邪魔をする悪い人なんか消えちゃえ!
病んでる脳内彼女とか妄想力によっては現世に影響を及ぼしたりして
7スレ1番乗り。また昨日と同じぐらいの長さですが、投下します。
僕の今までの人生で、女の子との待ち合わせというものをしたことが何度かある。
もっとも、たかが18年程度しか生きていないわけだから、これから送るであろう
人生の中で女の子と待ち合わせの約束をすることもあるだろう。
確信としてではなく、「そうであったらいい」とでも言うべき希望を込めての推測だ。
人生初の待ち合わせの相手は、さつき姉だ。
いつごろに、どんな約束を結んだとかどこに行こうとしていたのか、といったことまでは
覚えていないけれど、さつき姉と出かけたことはあった。
僕とさつき姉は一緒にいる期間が長すぎた。
正確ではないけど、12年以上は近しい関係でいた。
僕たち2人の間は恋愛感情で結ばれているわけではなく、2人が一緒にいることが
当たり前で、理由も無く関係が成立していた。
惰性で結ばれている関係ではなく、逆に新鮮なものを求めて行動しようとしても
僕たち2人が離れることはなかった。
僕がさつき姉以外に興味をひかれる対象が現れるまでは。
僕は中学校2年生のころ、1人の女の子に惚れてしまった。
当時僕が抱いていた感情はどうしようもないほどに巨大で、さらに刺激的過ぎた。
授業中にその女の子のことを思うだけでため息が吐き出され、教科書をめくることを
忘れるほどのものだった。
心を締め付けるもののくせに、上手いところで加減をするから追い出すこともできなかった。
僕の恋愛感情は想うだけのものから、行動することへと変換された。
好きな女の子に興味を抱いて欲しくて勉強をしたし、明るく振舞って話しかけもした。
他にも思い出したくないほど子供っぽい、馬鹿なこともしでかしたりした。
結果的には高校1年生の冬に僕の恋は成就した。
僕と彼女は週に1回デートのために待ち合わせをした。
待ち合わせの場所は、学校の近くにある小さなお店の前だった。
2人で一緒に歩いて買い物に行ったり、散歩に出かけたり、公園でお弁当を食べたりした。
だけど、ある日僕が彼女を自分の部屋に連れて行ったせいで関係がおかしくなりだした。
さつき姉は僕がいないにも関わらず僕の部屋に上がりこんでいた。
僕の彼女はさつき姉を見て、すぐに帰った。
彼女がどんな感情を抱いていたのか完全には把握できないけど、やきもちをやくと同時に
失望したのだろうと僕は思う。
きっと、さつき姉が僕の部屋にいたことのフォローをしっかりしていれば大好きだった恋人を
失わずに済んだのかもしれない。
今となってはどうしようもないことだ。
僕が女々しくも泣いてしまったことだってどうしようもないことだ。
泣くこと以外にどうすればよかったのか。
質問を聞いてくれる相手は周りにいたけど、僕が納得できるような答えを返してくれる相手が
いたのかどうかは知らない。
いたとしても、僕はやっぱり聞かなかったんだろうけど。
朝の7時だというのに、日差しは夏らしく強かった。
アパートの前に広がる駐車場で山川を待ってからすでに10分が経過している。
部屋の中で待っていてもよかったのだけど、眠ったままのさつき姉を見て山川がなにを言うか
怖かったので、仕方なくこうやって直射日光を浴びて待っているのだ。
今日は僕の住んでいる町の夏祭りが行われる。
夜8時になれば数千発の花火が打ちあがるらしい。
実は、僕は花火大会というものがあまり好きじゃない。
夏祭りにいくのは結構好きだ。太陽の光が差さない時間帯に性別も送ってきた人生も違う
人たちが一箇所に集まってそれぞれに楽しむ。
路地の両脇に並ぶお店はたこ焼き、たい焼き、カキ氷、わたあめ、おもちゃ、かた抜きなど
さまざまなもので営業をしていて、活気がある。
僕はそんな人々の中を歩いたり、買い食いをしたりするのが好きだ。
けれど花火大会はなぜか好きになれない。
きっと人が集まりすぎることが好きになれない原因だろう。
他には一緒に見に行く人がいないことが原因なのかもしれない。
でも、どうだっていいことだ。
人から誘われた場合には僕も花火を見に付き合うのだから、僕にとっては花火大会はその
程度の存在でしかないのだ。
右から、浴衣を着た女性が歩いてきた。
今日は地元で花火大会で行われるということで浴衣を着た女性がいてもおかしくない。
しかし、朝の7時から浴衣を着ている女性というのはなかなかいない。
なかなかいないというのは、いるということを否定しているわけではない。
広い世の中だろうと狭い町の中だろうと、いることはいるのだ。
山川のように朝から浴衣を着ている人間は。
「おはよう、北河君」
「おはよう、山川」
「どうかな? この浴衣、どこか変じゃない?」
山川は両腕を上げて1回転してみせた。
浴衣は頭上に広がる青空を一段階濃くしたような青で、金魚の柄がプリントされていた。
帯は朱色で、山川の細い腰に少しだけ厚みを持たせていた。
よく似合っている。けれど、それ以上に気になることがあった。
「髪、切った?」
「おお、やっぱり気づいたね。髪型を変えたことに気づいてくれるのは君くらいだよ」
肩を通り過ぎるまで伸ばしていた髪をばっさり切って、耳が見えるくらいの長さに
していれば誰でも気づくだろう。
理由はだいたい想像がつく。でも、聞くのはやめておこう。
「短い髪も浴衣も、似合ってる」
「……ほんと、北河君の優しさが身にしみるよ。持つべきものは友達だね」
僕もそう思う。友人の少ない僕が言うのも変だろうけど。
夏祭りは、役場の下にある広場で行われる。
広場に着いたのは8時ごろだったけど、近くにある駐車場にはまばらに車が出入りしていた。
屋台や催しが行われる舞台の設営で広場は大忙しのようで、ダンボールを抱えた人間や
クーラーボックスを持った人が走り回っていた。
会場の入り口に立つはっぴを着た男性に聞いたところ、夏祭りのプログラムは9時から
行われるらしい。時計を見ると8時20分になっていた。まだまだ時間がある。
山川が手に持ったうちわを頭の上にかざしながら、喋りかけてきた。
「どうしようか」
「山川はどうしたいんだ? 僕は近くにある図書館に行って本を読みたいんだけど」
「私は小説を読む気分じゃないな。そうだな……」
山川は歩きながら腕を組み、頭上を見上げた。
つられて僕も空を見上げる。太陽から注がれる日光は、時間が経つごとに強くなっている。
とてもじゃないけど、外でぼんやりしながら過ごすには適さない日だ。
「おお、そうだ!」
首を下ろすと同時に山川がぱん、と音を立てて両手を合わせた。
「今からコンビニに行こう」
「僕はそれでいいけど、その後は?」
「大量にお酒を買おう」
「え?」
「北河君にお酒を持ってもらって、私の家で飲むとしよう。うん、それがいい」
反論する気は起こらなかった。
昨日山川に起こった出来事を考えれば、むしろ酒を飲んだ方がいいのかもしれない。
未成年者だから、というのは僕たちの行動を邪魔する要因にはならない。
山川やその他の数人を交えて飲んだことは何度もある。
2人だけで飲む、というのは未だ経験なしだけど。
タクシーを拾い、コンビニで6本入りのビールを3パックと大量のお菓子を買い込み、
山川の自宅へ向かった。
僕の住むアパートよりも新しいアパートで、家賃が少し高いけどそのぶん中は広かった。
そして、意外なことに散らかってはいなかった。
買ってきたポテトチップスとチョコレートをテーブルの上に広げて、つまみながらビールを飲んだ。
僕が飲んだ本数は4本。残りは全て山川が飲んだ。
4本飲んだ時点で僕は飲むのをやめてお菓子をつまむことに専念したのだけど、山川は
台所からビールを持ってきて、また飲んだ。
結果としては僕がお菓子を全部食べて、山川がビールを20本飲んだ時点で眠りに落ちた。
山川の頭の下に枕を敷いて、僕は寝顔を見つめた。
口からよだれを垂らし、頬にビールの跡を付けて、目からは涙を流していた。
山川が着ている浴衣はポテトチップスのカスが付いていて、ビールをこぼした跡が残っていた。
僕には山川の考えはわからない。
また、別れた男性に抱いていた気持ちも分からない。
ただ、山川の行動はこれでいいんだと思った。
山川が目を覚ましたのは、夜の7時だった。
僕は山川にまだ寝ていたほうがいい、と言ったのだけど、花火を見に行くと言って聞かなかった。
仕方なく山川の肩を支えてタクシーに乗せて、役場へ向かった。
腕時計の針が8時を1分過ぎたころ、1発めの花火が上がった。
続いて大きな大輪の花が夜空に咲き、同じものがもう一度上がった。
打ち上げ花火の次はパチパチという音と共に金色の光、赤と緑と黄色の光が無数に打ち上げられた。
僕と山川は役場へ向かう階段に座りながら、周りにいる人たちと同じように夜空を照らす
花火の競演を見つめた。
打ち上げ花火が再び打ち上げられる頃になって、山川が口を開いた。
「綺麗」
「綺麗かもしれない」
「私、綺麗?」
「僕の主観では、綺麗なほうかな」
「あの花火と、どっちが綺麗?」
「それを僕に聞くのは間違いだ。僕には花火が綺麗かどうかよくわからないから」
「なんで?」
「僕もよくわからない。たぶん、花火を綺麗だと思う感性が育っていないのかもしれない」
「ふーん」
山川はどうでもよさそうに言うと、僕の肩にもたれてきた。
肩の上に山川の耳が乗っていたが、ビールの酒臭さのせいでムードもへったくれもなかった。
「こんなふうにしてて、私達どう思われるかな?」
「恋人だと思われるかもね」
「だよね。本当は、今日一緒に彼氏とくるはずだったんだけどさ」
「うん」
「なぜか、彼氏の代わりに北河君と来ているわけですが、どうします?」
「なにを?」
山川は僕の肩から頭を離すと、顔を寄せてきた。
「キスでもしよっか」
「君に僕に関する情報を教えてあげるよ」
「なになに?」
「僕は友人と酒を飲むのは好きだけど、酒臭い匂いをさせた友人とキスをするのは嫌いだ」
「ちっ、この意気地なしめ」
「君は彼氏に捨てられたけどね」
「ふん」
山川はそう言うと、空を見上げた。
ただ、首の角度からいって花火よりも上を見つめているように見えた。
僕は、山川の顔から目を離して花火を見つめた。
大きな音を立てられて、付近に住む住民は迷惑じゃないのかな、と思った。
花火の最後の一発が上がってから、山川を送っていくことにした。
ベッドに山川を寝かせてからまた変なことを言われたけど、無視して部屋の電気を消した。
山川から受け取った合鍵で鍵をかけて、アパートの敷地から出る。
家族連れや酔っ払ったスーツ姿の男性、カップル数組とすれ違った。
地面が暗くて、酔っ払った足では上手く歩くことができなかった。
タクシーで自宅のアパート前に到着したのは、11時ごろだった。
201号室の明かりは、なぜかついていなかった。
鍵を開けて部屋の中に入り、電気をつける。
居間のテーブルの上にはビールの缶とお菓子の袋が大量に広がっていて菓子くずが
散らばって、畳の上にビールをこぼした跡まであった。
まるで山川の部屋のごときありさまだった。
さつき姉は畳んだ布団の上に座って、壁にもたれて目を瞑っていた。
僕の部屋を散らかした犯人がさつき姉であることは間違いない。
一言二言文句を言ってやろうかと思ったけど、起こすのもなんとなく気が引けるので、
電気を消し座布団を枕代わりにして畳の上に横になる。
酒がいい感じに回っていて、上手いこと眠りにつけそうだった。
けれど、さつき姉が僕に喋りかけてきたことで目を覚ますことになった。
「ねえ、惣一。どこに行ってたの? 何も言わずに」
「書置きしてたじゃないか。友達と花火大会に行く、って」
寝返りをうってさつき姉の方を見る。
暗くて顔までは見えなかったけど、壁にもたれたままの姿勢でいるようだった。
「さつき姉は、なんでビールなんか飲んだんだよ。しかもこんなに散らかして」
「ん……ごめんなさい。明日、ちゃんと片付けるから」
「忘れないでちゃんと片付けてね」
さつき姉の無言を肯定の意思と受け取った後、気になることがあったので聞いてみた。
「今日はさつき姉、どこに行ってたの」
「えーと……どこ行ったんだっけ。あ、花火を見に行ったんだった」
「そうなの? それなら電話してくれれば一緒に見られたのに」
「ううん、いいのよ。惣一の邪魔するのも気が引けるし、花火は見られたから、よしとするわ」
さつき姉の体が動いた。
壁から体を離し、布団の上に横になったようだった。
「ねえ。花火、綺麗だった?」
過去形ではあるけど、山川と同じ種類の質問だった。
だから、山川に返したのと同じ答えを返すことにした。
「綺麗だった、かもしれない」
「じゃあ、もうひとつ聞くけど……私、綺麗?」
また山川と同じ質問だった。
なんと答えようかと考えているうちに、さつき姉の寝息が聞こえてきた。
僕は考えるのをやめて、もう一度寝返りを打って眠ることにした。
次回へ続きます。
普通に( ;∀;)イイハナシダナー
でもこれは嵐の前の静けさ……か?
さつき姉がどう動くか極めてガクブルであると同時に、
山川の魅力に首ったけな俺ガイルw
何はともあれ、今回もGJですた!
15 :
名無しさん@ピンキー:2007/05/28(月) 15:35:16 ID:l2AUsLEJ
ホラーゲームとか映画ってヤンデレ多いよな
SIRENの恩田美奈とか
昨日初めて来て見て読んでたら鬱気味になるけどなんだか引かれる・・・(((;゚д゚)))
ヤンデレの妹が欲しくなった。
>>16
キモ姉&キモウト小説を書こう!スレか保管庫逝っといで
>>12 山川いい子だ…(つд`)
でもやっぱり病んじゃうのか!? そうなのか!? (0゚・∀・)ワクワクテカテカ
男の1番にこだわらないヤンデレも怖いと思うんだ
男が興味持った女を無理矢理連れてきて服従させる、とか?
新しい方向だけどいいかもしれん。
>>20 方向は面白いとは思うんだが男がやってる時点でヤンデレではなく
ただの調教に見えてくるのは俺だけだろうな・・・
ヤンデレは指輪ではなく眼球の交換をするとかいう想像を…ただの猟奇だな
すまん、適当に聞き流してくれorz
ただ男の傍にいることのみを望む、とかね
男がウンコしていようが別の女の子とセクロスしていようが
ただただ傍にいたい、と
シィルが思い浮かんだ
あんな感じか?
>>21 そうじゃなくて男がぽつりと「あの娘可愛いな」とか漏らしたのを、男が望む望まないに関わらず拉致って来て差し出すヒロインなんじゃなかろうか。
女「ん〜! んん〜!」
男「俺はこんな事……」
ヤ「望みましたよね? 気にしていましたよね? ですから私はこの小娘を貴方に差し出すのです」
みたいな
>>21イヤ、男に惚れている女1が、男が惚れている女2を男に献上する為に、女1が女2を調教する
っていう事なんじゃね?
いわゆる尽くしヤンデレだな
尽くすことが至上で、例え自分が愛されなくても尽くせれば満足
自分の早合点か、スマンちょっと釣って来るorz
21だけど、24の通り。
見直してみても言葉が足りなかったなあ……。物書きの端くれとして恥ずかしい限りですわ。
あ、間違えた。21じゃなくて20です。
ふと思ったんだが、スパイダーマンのヴェノムって限りなくヤンデレじゃね?
中身じゃなくて寄生体の方な。主人公にべったりくっついて周りとの関係断ち切らせてさ。
必死になって別れたら、今度は他の男利用して殺し愛。
結構当てはまると思うけど。
ベノムはあんな黒スパイダーじゃないやい!
投下、開始します
僕は今、意識をふわふわとうわつかせた状態で夢を見ている。
僕の見ている、あるいは見ていると錯覚している目の前には、山川がいる。
昨日着ていた浴衣ではなく、大学にいるときのように動きやすそうな服を着ていた。
髪の長さはばっさり切った状態のままで、僕にとってはまだ違和感があった。
山川は両手の指を絡めて、開いたり閉じたりという動きを繰り返し、僕の顔を
見たかと思うとすぐに目をそらす。
口が開いた瞬間目に強い力が込められたが、僕が真正面から見返すと
頬を変なかたちに緩ませて、背中を見せた。
そしてとぼとぼと歩き去る、と思わせて背筋をぴんと伸ばして振り返り、僕の
目の前に戻ってくる。
山川らしくない、というより普段の山川からは考えられない妙な動きだ。
僕は山川の一連の動きにハムスターと名づけてやりたくなった。
山川は僕に何かを伝えたがっているようだった。
どんな内容のものなのかは、ハムスター的動きを見ていればなんとなくわかる。
ここで自分に対してとぼけることもできるが、僕としては別に冗長的になる必要も
ないので、はっきりと意識してみる。
山川は僕に好意を伝えようとしている。
(夢の中だが、)山川が僕に向かって告白する、というのはなんとも奇妙な図だ。
キャベツとレタスが一緒にハンガーストライキしましょう、と言い合っているような
脱力感と空虚な感じを覚える。
こんな喩えをすると山川に悪いのかもしれないが、実際思ってしまったのだから仕方ない。
僕も山川も、お互いに友人だとしか思っていないのだ。
もちろん僕は山川の本音など知らないが、夏季休暇突入前に彼氏と遊びに行く計画を
熱心に立てていた様子を思い出すと、色気のある展開の予兆すら浮かばない。
昨晩の行動にしても、僕を含む友人グループにとっては当たり前のことなのだ。
山川の動きが止まった。今度はじっと僕の目を見つめている。
唇が動いて、意味のある言葉を発しようとする。
自分の見ている夢の馬鹿さ加減に呆れ、ふと山川の後ろを見た瞬間、変なものが飛び込んできた。
さつき姉が白い着物を着て、右手にジョッキを持って、左手にビールのビンを持って、
額に白いハチマキを巻いて立っていた。
ハチマキと額の間には栓抜きが2つ挟まっている。
ちっとも怖くないし、なぜ変な格好をしているのかも分からなかったし、どうしてそこまで
不気味な表情――目の下にくまを張り付かせて俯き上目遣い――をしているのかも分からない。
さつき姉の格好の不気味さと、山川の不可解な行動の理由について考えているうちに、
僕の目が覚めた。
すでに部屋の中は昼間の明るさになっていた。窓の外には青空と雲が点在している。
時計を見ると時刻は10時を過ぎていた。
口の中に残るべとべとしたものを洗い流すために、洗面所へうがいをしにいくことにした。
僕がいつものように朝の身だしなみを整えていると、さつき姉がやってきた。
昔から変わらない朝の合図であるかのように、目を閉じていてふらふら歩いていた。
僕は仕方なくさつき姉の分のパンを焼くためにキッチンへ向かった。
しかし、パンは無かった。
冷蔵庫の中にも、上にも、もちろん下にも無かった。
おかしい。昨日の朝部屋を出るときは一斤まるごと残っていたはず。
となると、僕が出かけているうちに無くなったことになる。
昨日僕の部屋にいたのは1人しかいない。
「さつき姉、もしかして食パン、食べた?」
「あー、うー……うん、全部食べた」
やはり予想していた通りだった。
仕方なく他のものを食べようと冷蔵庫をあさってみたが、あるものと言えばウーロン茶と
オレンジジュースと、さつき姉が買ってきたビールだけだった。
今の僕は飲み物だけで空腹を埋められる気分じゃなかった。
さつき姉が洗面所で顔を洗っているうちに、台所と居間を仕切る引き戸を締めた。
昨日飲んだビールの匂いがするシャツとジーンズを脱ぎ、黒いシャツと白い綿パンを着た。
ポケットに薄い財布を突っ込み、引き戸を開け放つとさつき姉と顔を合わせた。
寝ぼけ眼のさつき姉が口を開く。
「なに? いきなり目の前に現れて、どういうつもり?」
「さつき姉、寝てるでしょ」
「ああ、うん。分かってるって、ちゃんとお部屋のお掃除しますから」
会話が成立しない。やはり眠っているようだ。
さつき姉はテーブルに向かって歩くと、部屋に散らばったままの空になったビール缶を
一箇所に集め、お菓子の袋をゴミ箱に突っ込んだ。
続けて床の掃除をしてくれたら嬉しかったのだが、さつき姉は空いたスペースに横になった。
先ほどの行動は、寝床を確保するためのものだったらしい。
僕は肩を落として鼻から息を吐き出した。
「さつき姉、何か食べたいものある?」
「うーん、惣一を食べたいな」
「……わかった。適当なものを買ってくるよ」
「うん、って、ストーーップ!」
さつき姉が急に起き上がり、僕に向かって歩いてきた。
なぜか知らないが、目ははっきりと見開かれ、眼力がみなぎっている。
「1人では、行かせないわ」
「じゃあ、さつき姉も一緒に行く?」
「いや。眠いから」
「じゃあ僕が1人で――」
というやりとりをしているとき、玄関をノックする音が聞こえた。
「ごめんくださーい。北河君、居るー?」
目の前にいるさつき姉の顔を見ながら、はてこれは誰の声だろう、と僕は思った。
聞いた限りでは女性らしき声だったが、今日は誰とも会う約束をしていない。
「私ー。友達の山川があなたのうちにやってきましたよー」
その声を聞いてから、玄関に目をやる。
「山川か。ちょっと待っててくれ」
「はーい。外は暑いから、脱水症状にならないうちによろしくね」
山川の声の調子は、昨日よりもいいようだった。
今年の4月に、山川が彼氏ができたという自慢話をしているときと比較しても遜色の
ない弾み具合だった。
迷惑なことかもしれないが、山川にとってつい先日まで好きだった男性への想い
を完全に断ち切ってしまうというのはいいことなのだろうか、と思う。
もしかしたら、もう一度会って話をすればやりなおすことも可能だったんじゃないだろうか。
山川がどれほど彼氏に対して入れ込んでいたか、僕は知っている。
それはもう、弓道の達人が放った矢のように一直線に、到達地点を男性に設定
したら確実に射止めてしまうだろう、というほどのものだった。
否、一直線だったからこそ少しの風が吹いただけで見当はずれの方角へ飛んで
いってしまったのか。
だけど、(冷たいかもしれないが)僕が口を出すべきことではないのだろう。
僕が失恋した友人にすべきことはせいぜいヤケ酒に付き合ったり花火大会へ一緒に
行ったりするぐらいのもので、考えを改めさせることではない。
山川が彼氏とやりなおしたいと考えるならば、僕は視線で背中を押すべきだ。
僕が山川の立場になったとしても、そうしてもらったほうが嬉しい。
僕が玄関の前に立ち、鍵を開けようとしたら、さつき姉が隣に来た。
さつき姉の柔らかな右腕が、僕の左腕に絡んできた。
腕に汗はかいていなかった。
僕が視線で行動の意味を問い続けても、さつき姉の表情は応えない。
そして、さつき姉が玄関の鍵を解き、ドアを開けた。
玄関の向こうに立っていたのは、当然のように山川だった。
黄色のTシャツを着て、少し短めのデニムパンツを履いていた。
山川は僕に向かって白い紙製の箱を渡してきた。
「これは?」
「昨日のお礼。一日中付き合ってくれたんだから、ケーキぐらいは、と思って。
私としては、朝まで付き合ってもらっても一向に構わなかったんだけどね」
と言って、元気な顔で笑った。
山川はさつき姉を見ると、きょとんとした顔をつくった。
「あれ? 彼女できてたの? ごめんなさい、昨日北河君を独占しちゃって」
「いいえ、気にしなくてもいいのよ。……私も、昨日は花火大会の『現場』にいたんだから」
どことなくアクセントのおかしい喋り方だった。
さつき姉はご機嫌なようで、にこにこと笑っていた。
山川が持ってきたケーキは、どうやら無差別に選んできたものらしく全て違っていた。
いくら僕が甘いもの好きとはいえ6個もいらない、と言うと、
「半分は私が食べるつもりだったから」
と山川が答えた。
さつき姉は僕と山川をテーブルの前に座らせると、ケーキとジュースを持ってくる、
と言って台所へ向かい、引き戸をしめた。
僕が山川と何の話題も出せずにいると、さつき姉がジュースを持ってきた。
「山川さん、でしたっけ。オレンジとウーロン茶はどっちが好き?」
「えーっと、ウーロン茶で」
「そう。まあ、私としてはそれでも構わないけど……」
「え? 何か言いました?」
「いいえ。なんでもないわ」
さつき姉はウーロン茶を山川の前に置き、僕の前にオレンジジュースを置き、
自分が座る場所にもオレンジジュースを置いた。
透明なコップに注がれたオレンジ色の液体の中には氷が入っていて、水面に
透明なへこみを作り出していた。
コップにくっつき始めた水滴を見ていると、山川が僕の耳に口を寄せてきた。
「あの人、さつきさんだっけ。綺麗な人だけど、恋人?」
「高校まで近所に住んでいた友達だよ」
「幼馴染、ってやつね。ふふ、なんだか恋愛アドベンチャーゲームみたい」
断言してもいいが、さつき姉と甘い雰囲気になったことは一度もない。
僕は変な顔をしていたのだろうか。山川がじとりとした目で見つめてきた。
「北河君はわかっていないね。女の子の行動ってやつを」
「どういう意味だよ、それ」
「ふむ。……例えばだよ。誤解しないでね、くれぐれも」
「分かってるって」
「恋人と過ごしている甘い時間に突然のノックの音が飛び込んでくる。
誰だろう、と思って扉を開けると知らない女だった。
知らない女の癖に恋人とは仲良く話している。こいつは目障りだ、邪魔者だ」
「最後、いきなり怨念がこもったね」
「一服盛ってやろう、それっ」
山川はウーロン茶の上に鳥のくちばしのようにした指を持ってくると、パッと開いた。
「ウーロン茶を飲んだ女は倒れました。邪魔者は消えました。さあ続きをしましょう」
「……さつき姉がそんなことするはずないだろ」
一応、非難をこめたまなざしを山川に向ける。
山川は両手を上に向けながら首を振った。
「たとえ話だって。ほら、こんなふうに」
と言うと、ウーロン茶の入ったコップを口に運んで、3分の1くらい飲んだ。
「……ね、なんともないでしょ」
「当たり前だろ」
僕は特に何も思わず、そう言った。
「面白くないなあ、北河君は」
「悪かったね」
「ちなみ、もし私だったら恋人の飲み物には睡眠薬を入れるね。自由を奪うために。
そして、邪魔者の女には笑いが止まらなくなって腹がよじれる薬を入れる」
笑いが止まらなくなる薬があるのなら、僕が欲しい。
笑えないバラエティー番組を、笑いながら見ることができるようになるから。
「そうだ、こうしてみようか」
山川は僕の前に置かれたオレンジジュースと、さつき姉の席に置かれたオレンジジュースを
入れ替えた。水滴の跡が残らないように、コップを浮かせて移動させていた。
「もしかしたら、これでさつきさんがいきなり眠っちゃうかもね」
僕は山川の冗談のくだらなさに呆れつつ、嘆息した。
結果から言うと、山川の言うとおりだったということになる。
さつき姉が僕らの前にケーキを置いて、ケーキを食べながらオレンジジュースを飲み、3人で
話をしていると船をこぎ始めた。
さつき姉はテーブルの上に肘をつくと俯いて、時々肘をテーブルからずり落とした。
何か言おうとしたのだろう。素早く顔を上げると口を開いたが、意味のある言葉を発する前に
スローモーションで後ろに倒れた。
さつき姉のすぐ後ろには白い壁があり、当然後頭部を打ち付けた。
拳骨を食らわしたときとそっくりの音がしたが、さつき姉はすーすー、と寝息を立て始めた。
ちなみに、山川はさつき姉が眠りに落ちた時に口を開いたのだが、
「あらははは、やっやぱぱりあらららいのいうおおいいあっあええ」
と聞こえる、ろれつの回っていない声を出した。
笑っているようではなかったが、フォークを持つ手が小刻みに震えだした様子からすると、
体が痺れて動かなくなっているようだった。
僕は自分の体に何の異常も起こっていないことを確認すると、山川を背負って部屋を出た。
山川の体は細いが、痙攣しつつ脱力している体はおんぶしている僕の腕と肩を圧迫した。
歩くうちに僕の汗が顔に浮かび、山川の汗が背中に貼り付いてきたので途中からタクシーに
乗って、山川の住むアパートに向かった。
山川は自室に到着したときには体の異常から回復しつつあった。
それでも、立ち上がろうとしてしりもちをついたり笑顔を作ろうとして頬を強引に吊り上げ
たりしているので、まだまだ痺れが残っているようだった。
部屋から去ろうとする間際、山川にこう言われた。
「……気をつけてね。本気で危機感を持ったほうがいいよ」
僕はその言葉を聞いてから合鍵で鍵をかけ、新聞の投函口から合鍵を部屋に入れた。
せみの鳴き声と、髪を焼く日光の中を歩きながら考える。
さつき姉は、僕を眠らせて山川の体の自由を奪って、どうしようとしていたのか。
汗がうっとおしくて想像力は働かなかったけど、悪寒だけは沸いてきた。
今日はここまで。次回へ続きます。
GJ! てかワロタw
自爆するさつき姉可愛いよさつき姉
こんな状況なのにマイペースに事態を処理する
主人公は実は凄いヤツなんじゃなかろうか
改蔵の名取羽美はヤンデレだろ?
ドッキドキラブメール一曲歌う間街が火の海にwww
投下します。
空が青くて雲は白く、汗をかいた体に向かってときおり心地よい風が吹き、遠くの
アスファルトの上に陽炎が立ちのぼる午後の2時。
僕はアパートの近くの本屋で涼みつつ、立ち読みをすることにした。
最初はいつもの習慣でライトノベルコーナーへ向かった。
目当ての本はコーナーの目立つ場所にあってすぐ見つかったけど、新巻はまだ
発売していないようで、見飽きた拍子だけが並んでいた。
僕が目当てにしているライトノベルはファンタジーものだ。
作者はライトノベルを発行しているわりには固い表現を好む人で、僕はときどき
読むのをためらうのだが、挿絵の好みのせいで上手いこと読まされてしまう。
そうは言っても、読み始めるとそのまま流れるように最後まで読んでしまうほどには
面白い本ではあるのだ。
僕が残念に感じるのは、プロローグの突飛さが僕の好みと合致していないという
ことだろうか。
ライトノベルコーナーを離れて次に向かうのは、ホラー小説コーナー。
僕は別にホラー小説を好んで読んでいるわけではないのだが、好きな作家がいるのだ。
いや、その作家の選ぶテーマが好みである、と言いなおした方がいいかもしれない。
好きな作家がテーマにするのは、人間の嫉妬や執念といったものだ。
人間が執念をもつ対称が人であったり、金であったり、車や金品であったり、俗な欲求
であったりはするものの、読んでいる分には楽しめる。
時々胸の内側が痛むこともあるけど、ついつい読んでしまうのだ。
しかし、今日は新しい本を探しにきたわけではない。
僕が今参考にしたいテーマは、女性が男性へ向ける感情とそれが向かった先にあるもの。
もっと分かりやすく言えば、恋愛に関するものだ。
山川は言った。危機感を持ったほうがいい、と。
さつき姉の行動が、僕を想うあまりにしたことなのかはわからない。
なにせさつき姉の様子が昔と変わらなさ過ぎて、僕の心配が杞憂に過ぎないのではないか
としか思えない。だが、現時点ではなんとも言えない。
山川がオレンジジュースを入れ替えていなければ、僕は今頃深い眠りに落ちていた。
その後で僕と山川が一体どうなっていたのか?
女性が恋人の男性を動けなくして、恋敵の女性を無防備な状態にさせた場合、一体なにを
するのか?僕はそれが知りたかった。
棚から同じ作家の本を順に取り出して読み、参考にならないことを知って棚に戻す。
何度か繰り返すうちに目当ての作家の本は全てめくり終わったが、成果なし。
時刻は夕方の6時になっていた。
自動ドアを通り抜けると、夕方らしく気だるい雰囲気を纏わせた風がゆるく吹いてきた。
僕はさつき姉と顔を合わせた光景を想像し、なにを言われるのか予想した。
今までどこに行ってたんだ、と言われる可能性が高そうだ。
201号室の玄関を開けて部屋の中に入った僕を迎えてくれたのは、さつき姉の笑顔だった。
「おかえりなさい、惣一。待ってたのよ」
「……ただいま。ところで、待ってたって、なんで?」
「一緒に買い物に行きたかったから、惣一が帰ってくるまで待ってたのよ」
「ああ、そういうことか。ごめん、遅くなって」
「素直でよろしい」
意外なことに、どこに行っていたのか、とは聞かれなかった。
僕がさつき姉が眠っている間に外出していることについて何か言われるのではないかと
思っていたのだが、さつき姉はそんなことはどうでもいいような態度だった。
むしろ、僕と一緒に夕飯の買い物に行くことのほうが大事なようだった。
やはり、杞憂だったのだろうか?
さつき姉が僕をどうにかする、というのは僕の妄想に過ぎなかったのか?
それならば、山川の体が痺れたこととさつき姉が突然眠ったことの理由はなんだ?
「ほら、早く行きましょ。山川さんが持ってきたケーキだけじゃ、さすがにバランスが悪いわ。
さつきお姉ちゃんがしっかりとした料理を食べさせてあげる」
「……うん」
「元気ないわね。どうかした?」
僕は何でもないよ、というふうに首を振った。
夏の7時はまだ暗くなくて、日差しが強くない分散歩に適している時間帯だ。
歩道を歩いていて聞こえるせみの鳴き声と夕方の明るさの組み合わせは、どこか落ち着く。
今日の忙しい時間帯は終わりました。家に帰ってゆっくり過ごしましょう。
そんな空気をどこかから感じ取ってしまう。
僕はとても健やかな気分になっていた。
肌はさらさらで、地面につく足は軽くて、まるで扇風機に吹かれているように思えた。
前を向いている僕に向かって、さつき姉が声をかけてきた。
「惣一、なんだか嬉しそうな顔してるわよ」
「そんな顔してたかな」
「うん。まるで何も心配することなんかない、って安心してる人みたい」
「心配……」
「うん?」
「ううん。さつき姉の言うとおりだよ」
心配することなんかないのかもしれない。
僕のいる世界は、本当は混沌をはらんでいるくせにこれだけ涼しげだ。
耳が寂しくなるほどに静かで、せみは遠慮したように遠くで騒いでいる。
「ねえ、手を繋いで行かない?」
「うん……って、もう繋いでるじゃないか」
「事後承諾ってやつよ」
さつき姉の手の感触まで涼しくて、心地よかった。
スーパーからの買い物を終えて、自宅に帰り着くころには僕の腹はかなり空いていた。
さつき姉は料理を手伝おうとする僕を居間に座らせると、1人で料理を始めた。
僕は窓を開けて、外の空気を取り込むことにした。
2階から見下ろす民家はどこも明かりが灯っていて、人が住んでいることを主張していた。
遠くで救急車の音が聞こえた。距離感を掴みにくいサイレンの音はアパートに近づいて
くるかと思ったら、まったく見当違いの方向に音を向けた。
何の感慨もわかない、夜の光景。僕が望むもの。
僕はこんな平和な場所にいる自分が、本当はここではない場所にいるのではないかと思った。
平和すぎて、無駄なことを考えて、無為な時間を過ごしてしまうのは良くないことなのだろう。
でも、僕はここから動きたくなかった。動きたくなくなってしまった。
これが堕落なのかもしれない、と遠くの明かりを見ながら見当をつけた。
「お待たせ。チャーハンができたわよ」
さつき姉は両手にチャーハンの皿を持って、テーブルの上に置いた。
テーブル前に座ったさつき姉と向かい合うように、僕も座る。
「惣一。これ、いる?」
さつき姉は右手に粉の入ったビンを持って、僕に見せた。
たぶんコショウかなにかだろう。僕はさつき姉に向けて頷いた。
「ふふふ、じゃあ、さっそくふりかけましょうかね〜」
そう言うと、さつき姉はチャーハンに満遍なくコショウをふりかけた。
僕は上下に動く白い腕をぼーっと眺めていたけど、その腕がいつまで経っても止まろうとしない
ことに気づいて慌てて止めた。
「さつき姉、かけすぎだって!」
「あら、そう? まだ足りない気がするけど」
「あーあ、大丈夫かな、これ」
「平気平気。たぶんコショウとの比率はちょうどいいはずだから」
「……比率?」
「あ! ううん、なんでもないわよ。どうぞ、召し上がれ」
あやしくはあったけど、さつき姉の言動がおかしいのは以前からだった。
僕はスプーンを動かしてチャーハンを口に運んだ。
「……うん。あまり塩っ辛くはなってないね」
「でしょ。ねえ、もっとかけてみない?」
僕は否定の動作の代わりに、チャーハンを食べ続けることで応えた。
食後に本を読みながら考える。
一体、性欲というものはどこからやってくるのだろうか、と。
腹が減った場合には、空腹であることを脳が理解することで食欲が湧いてくる。
眠たくなる理由はよくわからないけど、おそらく脳に睡魔か何かが棲みついているのだろう。
時と場合によるだろうけど、食欲も睡眠欲も性質の悪いものではない。
1番性質の悪いのは、性欲というやつだ。
女の場合はわからないけど、男はときどき理由も無くセックスがしたくなる。
しかも性欲を喚起されるきっかけが、女性(一部例外あり)の体に接したり裸体を想像する、
という簡単なものだったりする。
根源的な欲求の中にエロスというものが存在しなかったら文明はここまで発達はしなかった。
性欲とは人間に必要不可欠なものだと思う。
だが、世界に存在するあらゆるエロスに対して、理性を強固にする役目を果たすものは
あまりに少なすぎる気がする。
完全に性欲が無くなってほしいと考えたことはないけど、体のツボを刺激しなければ性欲が
湧いてこないように身体構造が変わってほしいと考えたことはある。
そして、たった今もそんな起こりもしない幻想を見る自分がいる。
僕は部屋に置いてある文庫本を読んでいる。
現代日本文学を支える人の書いた小説である。が、たった数行読むだけで物語のあらすじを
忘れてしまう今の僕にとっては、有名であろうとなかろうと同じことだ。
さつき姉は僕と同じように本を読んでいるけど、ときおり僕の顔をちらちらと見てくる。
見られるたびに僕は落ち着かない気分にさせられる。
「惣一」
「……なに」
「ミニスカートとロングスカート、どっちが好き?」
「わからない」
「じゃあ、黒い下着とフリルの付いたピンクの下着、どっちが好き?」
「わからない」
「それじゃあ――」
さつき姉が言葉を紡ぐ前に、僕は立ち上がった。
本をカラーボックスに戻す。表紙が折れ曲がって入ってしまった。
このままでは、今度こそさつき姉を犯してしまう。
どこか、1人になれる場所を探してそこで解消しよう。
惨めだけど、もうそれしか方法が無い。
支援
僕が無言のまま玄関へ向かっていると、さつき姉が後ろについてきた。
僕は、なるべく突き放すように言うことにした。
「しばらく散歩に行ってくるから、先に寝てて」
「ちょっと、どこに行くつもり?」
「どこでもいいだろ」
さつき姉のいない場所なら、どこでもいい。
靴を履いて玄関を開けようとしたら、さつき姉が僕の腕を掴んで、胸に抱いた。
腕を柔らかい感触によって刺激される。もどかしすぎて喉が詰まる。
「1人では行かせないわ。惣一は、私と一緒じゃなきゃどこにも行っちゃいけないのよ」
「そんなこと、誰が決めたんだよ」
「私。だいたい、1人でどこかに行ったら変な女が近寄ってくるかもしれないわよ」
「むしろ、その方が好都合だ」
「は? なに馬鹿なこと言ってるのよ。こんな時間に男に寄っていく女が
なにを目的にしているか、知ってるの?」
「知ってる」
「それなら、なんで――」
しつこい。もうこうなったら、体でわからせるしかない。
さつき姉の顎を右手で上げて、唇を見る。小ぶりな唇。とても柔らかそうな唇。
とても美味そうだった。味わってみたくなった。どうしようもなく、欲しくなってしまった。
僕は、強引にさつき姉の唇にキスをした。
さつき姉はキスされた途端、びくりと動いた。
同時に唇も動き、僕の唇も形を変えた。
腰に両手を回し、強く抱きしめて、さらに強く唇を押し付ける。
「ん……んぁ……そうい、ちぃ…………めぇ……」
そう言いながらも、さつき姉は抵抗しようとはしない。
さつき姉のシャツの上から、背中を撫でる。
腰から上に這わせていくと、抱きしめている体がふるふると動く。
シャツの下に手を入れて、くぼんだ背筋に指先を当ててくすぐると、
さつき姉は身をよじらせた。
固い線のようなものが指に当たった。ブラジャーのホックだ。
僕はそれを外そうとすると同時に、さつき姉の唇を舐めて――――そこで止まった。
目前にあるさつき姉の両目から、涙が流れていた。
閉じられた目は僕の方を見ていない。だけどそれは僕の一方的な蹂躙に
耐えるためにしているだけで。
僕に、応えているわけではない。
腰から手を離すと、さつき姉はその場にへたりこんだ。
そして、何故か笑い出した。
「う、ふふふ、ふふふふふふふふ。
キス、したわね。私に、ようやく、キスを……うふふふふふふふふぅ」
僕は声をだせなかった。
自分がいくら冷静ではなかったとしても、さつき姉にやってしまったことはどうしようもない。
取り返しのつかないことをしてしまった。さつき姉を、傷つけた。
ずっと昔から友達だったのに。綺麗なままでいてほしかったのに。
「あ、ああ、あ……ご、ごめん……」
「謝らなくてもいいのよ。さつきお姉ちゃんは、あなたのことずっと見てたから。
惣一が私のこと、ずっとそういう目で見てたことも、知ってるんだから」
「こ、これは……僕は、違っ、て……」
「いいのよ。さあ、私を思うままにしてちょうだい」
「っ! ごめんっ、さつき姉!!!」
「あ! ちょっと!」
僕は勢いよく扉を開けて、外に飛び出した。
なんで、どうしてさつき姉を傷つけるようなことを、僕は……。
くそっ!くそっ!くそっ!僕の馬鹿!阿呆!変態!
もう、さつき姉は僕と会ってくれない。間違いなく。
もうすぐ、前みたいに仲の良い友達になれると思ったのに。
階段を3段飛ばしで駆け下りる。
夜の暗さのせいで、地面に足をついたときバランスを崩してしまった。
早く走りたい。走って忘れたい。何も考えたくない。
最低だ。僕は。
震えて上手く動かない足に力を込めて走り出そうとしたら、何かが右の地面に着地する音が聞こえた。
何だ?同じアパートの住民か?
と思い、音がした方を振り向いたら。
「惣一……あそこまでしておいて、逃げるってことは、ないんじゃない?
もしかして――私に、恥をかかせるつもり?」
さつき姉だ。地面に手をついて、しゃがんだまま僕を睨んでいる。
2階を見る。階段の手すりは目線よりもずっと上にある。あそこから飛び降りたんだ。
そこまで、僕を恨んでいるのか――。
「早く部屋に戻りましょう。さつきお姉ちゃんが、たっぷりお仕置きしてあげるから」
「あ、あああ……ごめんなさい! ごめんなさい!」
僕はそう言うと、さつき姉に背中を向けて、
「っへ? あ、ちょっと待ちなさい!」
さつき姉と、自分のやったことへの後悔から逃げ出すように、走り出した。
今日はここまで。ちょっと駆け足になってしまいました。
お姉ちゃんはターミネーターでした
ヤンデレのヒロインが総じてハイスペックなのは狩人の本能なのか…
>>50 たっぷりのお仕置きにwktk
久しぶりですが、投下します
注意 フタナリものです 苦手な方はスルーして下さい
十八時十五分 浅原沙紀
すっかり暗くなった五月の夜道を私は歩いています。剣道部の部
員さん達と別れ、一人で歩くこの道はなんだか妙に長く感じます。
私が高校に入るまでは、いつもお嬢様が隣にいて、共に歩くこの
帰り道は私の毎日の小さな楽しみの一つでした。お嬢様は何にでも
直ぐに興味を示されます。それは帰り道も例外ではありませんでし
た。お嬢様は、何度も何度も、それこそ何万回もこの道を通られて
いるのに、その度に、何か新しい発見をなさいます。
例えば、それは木々の紅葉であったり、
例えば、それは燕の巣であったり、
例えば、それはタンポポの綿毛であったりします。
そうして無邪気にはしゃぐお嬢様の姿はなんとも微笑ましく、そ
れだけで私はなんだかポカポカした気持になる事が出来ました。
それが変わってしまったのは、いつからでしょう?
私が高校に入った時からでは、なかったでしょうか?
お嬢様は高校に入った私に、何か部活に入るように熱心に勧めら
れました。最初は私も乗り気でした。私はお嬢様との連帯感をもっ
と深めたかったのです。勿論、私はお嬢様と十数年の時を共に過ご
していますから、それはそれは硬い絆で結ばれていることでしょう。
しかし、その頃の私の中には、「もっとお嬢様と語り合いたい」
「もっとお嬢様と解りあいたい」「もっとお嬢様と魂をぶつけ合い
たい」そんな要求が生まれてきていました。簡単に言うと、私の中
でお嬢様が足りなくなってきたのです。
だからこそ、部活に入るのに私は乗り気でした。部活に入り共に
同じ目標に向って自他を研磨する…お嬢様と私の絆を更に深める絶
好の機会だと想ったのです。そうして、それが身勝手な要求だと解
りつつも、もしかしたらお嬢様も同じ気持なのでしょうか…と思わ
ずにはいられませんでした。
しかし、直ぐに私はお嬢様の気持は、私が想像しているのと全く
違うと知らされる羽目になりました。
私が、新入生歓迎パンフレットを見ながら、何処の部活に入ろう
か考えている時、お嬢様は友達の源之助さんが入る剣道部に入って
はどうかと勧められました。私の入った高校の剣道部は、そこそこ
の強豪なので毎日厳しい練習があります。だからこそ、私は直ぐに
賛成しました。厳しい練習に共に耐えてこそ、より絆が深まる。そ
う思ったからです。
だからこそ、次の日の朝に、お嬢様が自分は剣道部はおろか何処
の部活にも入らないと聞かされた時はショックでした。
お嬢様と一緒に部活が出来ないのもそうですが、私が更に衝撃を
受けたのは「お嬢様が私から離れたい」という事実です。お嬢様は
自分のせいで、沙紀さんは自由な時間を取れなかったから、せめて
高校生活だけは…と仰せられましたが、お嬢様、そのような申し訳
なさそうな顔はやめて下さい。嘘であることがバレバレですよ。
それなのに、お嬢様がこんなにも強く、剣道部の入部を勧める理
由は一つしかありません。お嬢様は一人の時間が欲しくなったので
すね。
思えば、私がこの家に来たときから、お嬢様は一人の時間を取っ
てこられました。
日に一回はある、やたら長いトイレ。
決して、私とは一緒に入らないお風呂。
それはお嬢様が大きくなるに従って頻度がましていき、そして中
ニの頃はそれがピークを迎えられ、とうとうお嬢様は自分の部屋に
鍵をかけられました。そして、最近は昼休みになると必ず身を隠す
ようになられました。お嬢様…、私はそうしたお嬢様の変化を見る
たびに、複雑な気持ちになってきたのですよ。
お嬢様…私がうとましくなられたのですか?
そう思わずにはいられませんでした。
しかし、それをどうして聞けましょうか?しかしまた、それをど
うして聞かずにいられましょうか?
そうして結局、答えを聞かない事が答えのような曖昧な状態のま
ま無為に時を過ごしてきました。勿論、お嬢様と過ごす時はいつも
楽しかったですよ。しかし、お嬢様が部屋やトイレに篭られる度に
私の中でお嬢様が段々と足りなくなっていきました。こんなに近く
にいるのに、お嬢様が段々と遠くに行っているように感じるのです
もっとお嬢様と一緒にいたいのに…、結局私はこの思いをお嬢様
に伝える事は出来ませんでした。なんだか、それを聞いてしまった
ら全てが終わる気がしたのです。まるで獲らわれた麒麟(この時に獲
らわれた麒麟はお嬢様と同じく否命というそうです)よりも、もっ
とおぞましい何かが出現するような、そんな不気味な予感というよ
り確信に近いものが私を掴んで離しませんでした。
未だに、その答えは分からないままです。しかし、私は「お嬢様
は私から離れたがっている」その事だけは理解りました。
だから、私はこうして剣道部に入りました。お嬢様と離れるのは
心苦しかったですが、お嬢様がそう望んでいる以上、私はそれに従
います。
それに入ったら、入ったで剣道部はとても楽しいものでした。し
かし、その楽しい時間も、私は心の底から楽しむ事が出来ませんで
した。
まるで、最新の液晶テレビを見たあとで、昭和時代の白黒テレビ
を見るような感覚に襲われてしまいます。つまり、私はどうしても
お嬢様と過ごす時間と、剣道部の時間とを比べてしまい、結果、剣
道部の時間が本当に楽しいにも関わらずなんだか色褪せて見えてし
まうのです。私の心の何処かにはいつもお嬢様がいる故に…。
「難波潟短き葦のふしの間も 逢はでこの世を過ぐしてよとや」
って、これは恋歌ですね。自然と口をついて出た恋歌に私は思わ
ず赤くなりました。なんでこんな歌が思い浮かんだのでしょうか?
これではまるで私が…。
そんな事を考えているうちに、ようやく私は家に着きました。
お嬢様…、やっぱりこの道は一人で歩くには長すぎます……。
十八時二十分 秋月家
「あっ、沙紀さん」
「沙紀さん?」
そう言ってからの否命の行動は早かった。まず、さっきまであん
なにも隆起していたマラがみるみる萎えていく。
そして電光石火の速さでパソコンの電源をスイッチを押して切り
(パソコンのOSはXPである)、パンツとスカートを上げると、
足音一つ立てずに早歩きで自分の部屋へと駆け込んでいった。
「って、貴方、財布を渡しなさいよ!」
それからドタドタと足音を立てながら凛が今、まさに部屋に入ろ
うとしている否命の腕をガッチリ掴んで引き寄せる。
しかし、その拍子にドアに手を掛けていた否命は大きく体勢を崩
してしまい二人はもつれあう感じで倒れこんでしまった。
ガタンッ!!
「お嬢様…!?」
何かの倒れる音に驚き、慌てて廊下に向った沙紀が見たものは…
上着がはだけ、血まみれのシャツを覗かせている見知らぬ少女を押
し倒している否命の姿であった。
「………」
「………」
「………」
三人が三人とも、それぞれ万感の思いを込めて固まった。沙紀は
ただポカンと痴呆の如く口をあけ、否命はゆっくりと頭を動かし二
人の顔を見比べ、凛は突如現われた沙紀をひたすら凝視していた。
「ええと…」
気まずい雰囲気の中、最初に声を発したの凛だった。凛は視線を
自分の血まみれのシャツに注いでいる沙紀にニッコリと微笑むと、
「沙紀さん…でしたっけ?安心して下さい…このシャツの血は私の
血ではありませんから」
しばらくして…、沙紀の口から悲鳴が上がった。
投下終わります
>>50 惣一……なんで君はそんなに学習能力がないんだ、てゆーか鈍いんだ。
思わずニヤニヤしてしまったじゃないかw
>>56 久しぶりに続きキター
と思ったらまた気になる終わり方にwktkしてしまいますた
wkwktktk
おひさしぶりです
投下しますよ
「虎吉殿、さっきから唸ってどうしたでござるか?」
「ん?」
フジノが作ってくれた弁当を食いながら、俺は必死に考えていた。どこかで見たことが
あるとか、既視感とかいう類のものではない。過去に、それに何度でも見たことがある筈
なのだ。絶対に、それだけは間違いないと判断出来る。そこまでは出来るのに、答えは喉
まで出てきているのに、そこから先の部分が思い出せないのである。
接点を幾つか考えてみた。
例えば昔、近所に住んでいた。という線はどうだろうか。否、それは有り得ない。近所
に住んでいた者の顔は殆んど覚えているし、立花という名字も存在しなかった。少し年齢
が離れているが、俺とサキ程度の差であるとしたら間違えたり忘れたりする筈がない。
では、過去に会った罪人の身内ならば。
それは益々有り得ないと思う。管理局は仕事柄、罪人が身内に居た場合就職することは
不可能だ。娑場の組織である警察と似たようなものだ。それに国がきちんと調査を行い、
それで採用かどうかを決めるので誤魔化すことなど不可能だろう。
ならば、専門学校は。
「ん?」
そう言えば、昔、似たような娘が居たような。
「思い出した!!」
あいつは多分、専門学校の後輩だ。今まで忘れていた、と言うよりも気付かなかった。
学年の差が開いていなかったので同時に在籍することは無かったがプログラミング技術
の講習のときにOBとして呼ばれた際、俺はサキと何度も会っていたのだ。その当時サキ
の名前を知らなかったのは、今にして思えば不思議なことだと思う。何しろ毎回俺の講習
が終わった後に突っ掛ってきていたのだ、反抗的な目を今でも覚えている。
今までずっと気付かなかったのは、その目が感情を消していたからだろうか。特徴的な
部分が消え、当時かけていた眼鏡も無くなり、地味に彩っていたジャージも今では見事に
キマったスーツへと変わっている。まるで別人のようだ、と思う。今とて、先程の私服姿
を見ていなかったら気付かなかった。もしかしたら永遠に気付かなかったかもしれない。
随分と酷い話だ、と思う。喧嘩ばかりだったが、それでも一緒に飯を食ったり遊んだりと
結構仲良くしていたと思うのに。そんな相手に気付いてやれなかったなんて。
「なぁ、フジノ。例えばの話だ。ある友達同士二人が何か事情があって暫く離れててさ、
その間に片方の外見が別人みたいになったとするだろ。そのせいで気付けなかったなら、
その姿が変わった奴は悲しむか?」
言うまでもなく、俺とサキのことだ。因みに俺は悲しいと思う。何だ、俺達の繋がりは
この程度にしかなっていなかったのだな、と。女の心理では変わってくるかもしれないと
思いフジノに尋ねたのだが、やはり人間同士あまり変わらないようだ。フジノは腕を組み
視線を下げると、溜息を吐いてこちらを見た。
数秒。
「その事情が何かにもよるが」
悲しむでござろうなぁ、と一言。
「早い内にサキ殿に謝った方が良いでござるよ」
ぼかしたつもりだったのに、いきなりバレてしまった。無理もないか、サキを見るなり
唸り出して、それが終わってからの例え話だ。冷静な目で見れば、こんなものは誰にでも
分かるだろうということに気が付いた。それだけ後ろめたく思っていた、ということにも。
「やっぱり怒るか」
「拙者がサキ殿の立場だったなら怒り心頭、悲しみ燦々でござる」
そんなにか。
「もしかしたら、ズバッとやってしまうやもしれぬ」
それはお前が剣士だからだ。
「サキ殿の場合は空気弾で圧死でござるか」
何故そんなに残酷なことを言うのだろうか。
だが悲しいことに、俺が無惨にもやられる光景が簡単に想像出来てしまった。カオリに
最近やられまくっているから、それの影響もあるのだろう。しかし何より、サキが発する
独特の威圧感のようなものに勝てる気がしないのだ。例えは悪いが、まるでSSランク罪人
のような圧倒的なものを見せるときがある。
それに比べ、
「俺も落ち着いたもんだ」
悪いことだとは思わないが、たまに鏡を見ると、酷くふぬけていると思うことがある。
昔、と言っても十年も経ってはいないが、まだ管理局に入ったばかりの頃は獣のようだと
周囲に言われていた。血筋が原因なのか短気だったのは自覚していて、管理局に入る前は
当時幼かったカオリを怯えさせない為、苦労して乱暴な面を抑えていたことも覚えている。
今はそのようなことをせずとも、自然に過ごしているが、
「年かねぇ」
「余計な部分が消えただけ、でござるよ」
「そうか?」
渡された茶を飲みながら、首を傾げた。
「虎吉殿は元々、優しい人でござる。某達が付き合うきっかけとなったときのことは、今
でも覚えているでござるよ。あれが無ければ今頃、某は墓の中でござる」
「『邪』のときか。あれは俺が、そっち系統を専攻してたからだ」
「照れなくても良いでござる。確かに技術も大事でござるが、それ以上に言葉が」
「あ、虎吉ちゃーん!!」
フジノの言葉を遮るように、カオリの言葉が聞こえてきた。笑みを浮かべ、元気に手を
振りながら駆け寄ってくる姿は子犬のようだ。元々ドジなのにそんなことをしたら危ない
と昔から注意をしているが、それを全く気にしていないのは何故だろうか。
「虎吉ちゃ……ひゃぁ!!」
案の定カオリは転び、背後を歩いていたサキが無表情で手を差し延べる。カオリは手を
掴んで起き上がると、笑みを浮かべながら頭を掻いた。あまりにも穏やかな光景に、つい
口元が緩むのを自覚する。こうした時間が、いつまでも続けば良いのだが。
「ほら、先輩が視姦するから」
これだ、いちいち悪口を言ってくるのだ。
だが昔のことを思えば、それも大して気にならなくなった。
「なぁ、サキ。もしかして俺のことを先輩とか言うのは、俺がOBだからか?」
「今頃気付いたんですか?」
「本当にすまん。と言うか、さっき思い出すまでお前のことを忘れてた」
無言で空気弾を撃たれた。
一発目を避けたものの連続で撃たれ、とうとう五発辺りで脇腹に当たる。威力は手加減
してくれたのだろう、骨にまでダメージが来ることは無かったが、肝臓が悲鳴をあげた。
「し、仕方ないですよ、サキさん。あたしも今の格好を見たときに気付きませんでしたし」
カオリ、ナイスフォローだ。
「でも先輩の前では今の姿でしたよ?」
そう言われれば反論出来ない、カオリもフォローは不可能と判断したのか苦笑を浮かべ
露骨に視線を反らされた。再び怒りに火が点いたのか、サキは更に空気弾を撃ってくる。
心なしか威力が上がってきている気がするが、気のせいだと思いたい。背後からの着弾音
が激しいものになっているが、これも幻聴だろう。
「んな訳ねぇ!! サキ、すまんかった!! 堪忍してくれ!! フジノも早く『邪』を!!」
「いや、ここは手を出さないのが筋でござる」
そんな筋はドブにでも捨ててほしい、俺は今にも死にそうなのだ。フジノが言った圧死
という言葉も、あながち冗談で済まないレベルになってきている。弾などはもう、空気が
歪んで陽炎のようになっているのだ。兄貴や親父ならともかく、俺などは一撃で消し墨と
なってしまうだろう。圧死の前に、こんがりとしたウェルダンになる。
これは不味いと判断したのか、漸くフジノが動いた。『邪』を抜くと途端に圧縮された
空気が霧散し、稼働を停止させられた指輪が高い音をたてて余剰熱量を放出する。
「助かった」
空気が美味い、例え先程まで凶器になっていたものだとしても。
深く呼吸をした後、飲みかけだった茶を飲むと気持ちも落ち着いてきた。
「フジノ、俺はお前より先には死なないからな。だから安心して生きろ」
「今更格好付けても遅いのではござらぬか?」
告白のときと同じ台詞だったが、フジノは複雑そうな顔をした。
沈黙。
強い視線を感じて振り向けば、何故かカオリがこちらをじっと見ていた。
「何か虎吉ちゃんとフジノさん、まるで恋人みたい」
「そうですね」
言ったつもりだったが、うっかり忘れていたらしい。思い返してみれば、同僚の剣士と
しか紹介していなかったような気がする。管理局の中では皆が知っているので失念をして
いたが、こいつらはそれを知っている筈がないのである。サキは新人だし、カオリは会う
こと自体何年ぶりなのだ。
口にするのも照れがあったが、黙っておく程のものでもない。
俺は咳払いを一つして、
「みたいも何も、付き合ってるぞ?」
直後。
カオリは目を丸くして、サキすらも珍しく驚いたような表情をして、
「「嘘ォ!?」」
声を重ね、絶叫した。
今回はこれで終わりです
>>56 沙紀VS凛の戦いが勃発か?
それとも微笑ましい修羅場が展開するのか?
どちらにしても面白そうだZE!
>>65 こちらも修羅場フラグktkr
ファイトだ、虎吉ちゃん。運が良ければ2人相手に生き残れるぞ。
>>65 首吊りも久しぶりにキター!
クールなサキの容赦のなさに萌え
サキ可愛いよサキ
あと、フジノに死亡フラグが立った悪寒が(´・ω・`)
昨日の続きを投下します。
夜の闇との区別が薄くなった歩道を、ひたすらに走る。
思考を捕らえて離さない性欲に抗うために。
自分の犯した罪の重さをごまかすために。
僕は、どこに行こうとしているのだろう。
どこに行っても、結局は逃れることなどできないのに。
衝動に任せてさつき姉の唇を奪ってしまったことは、消せないのに。
僕の記憶にしっかりと刻み込まれたさつき姉の涙と、おびえるように震えだした
体の感触は、今でも思い出せる。
そして、それを思い出すだけでまた興奮してしまう自分の下劣さに、腹がたつ。
呼吸が苦しくなってきた。足も、少しずつ動かなくなりだした。
かなりの時間全力で走ってきたから、心臓と肺が弱音を吐き出した。
何度か跳ねるようにして走り、ゆっくりスピードを落としていく。
立ち止まった場所は、自宅の近くにある公園の入り口だった。
どうやら、ぐるりと回ってアパートの近くに戻ってきてしまったようだ。
入り口近くにある自動販売機の前で立ち止まり、倒れるようにして背中で自動販売機にもたれかかる。
自動販売機の光に集まってきた小さな羽虫や楕円形の虫が体にくっついてきた。
膝の力を抜く。支えを失った体はすぐに地面に腰をつけた。
俯いて、周りを飛び回る虫を吸い込まないように深呼吸をする。
心臓の鼓動が邪魔をして、上手く息を吸うことができない。
でも、すぐに鼓動は静まってきた。
本当に、すぐだった。いっそのこと一晩中僕を苦しめてくれれば嬉しかった。
だけど、自分のあやまちを忘れるなどという安易な道は選ばせてはくれないようだ。
体が汗にまみれて、筋肉が痙攣を起こしているのに、思考だけは冷たかった。
幸いにも、性欲は頭の中からすっぱりと消えていた。
僕はさつき姉にキスをして、傷つけた。傷つけたのは体でなく、心。
僕は知らないけど、強引に唇を奪われるなど、さつき姉は経験していないかもしれない。
いや、経験していようとしていまいと同じことか。
僕がやったことは、許されることではないのだ。
両手で拳を作り、太腿を全力で叩く。右手で叩いて、左手で叩いて、右手で叩く。
何度やっても手に力は入らなかったし、足に痛みが走ることもなかった。
「惣一!」
地面に座って俯いていると、僕を呼ぶ声が聞こえた。
声が聞こえてきた方向は右側。目を向けると駆け寄ってくるさつき姉の姿が見えた。
自動販売機の明るさに目が慣れてしまっているから、さつき姉の顔は見えない。
僕はもう一度俯いて、さつき姉から目をそらした。
さつき姉は僕の前に立つと、しばらくしてしゃがみこんだ。
視線を、頭の皮膚で感じられる。僕はひたすら地面を見つめ続けた。
なにを言われても、覚悟はできている。罵倒でも、叱責でもなんでも。
それでさつき姉の心の傷が少しでも癒されるのならば、と最初は思っていた。
でも、それは違う。本当は、僕が癒されたかっただけだ。
さつき姉に責められることで自分の罪の意識を消したかったのだと、はっきり自覚した。
さつき姉の呼吸は穏やかで、夜の静かさの中ではよく聞こえてきた。
息を吸う音が聞こえた。さつき姉が口を開く。
「追いかけっこは、おしまい?」
さつき姉の声は、弾んでいた。
まるで迷子の子供を発見できた母親のように楽しそうに、嬉しそうにしていた。
「追いかけっこ?」
と、僕は聞き返した。
「そうでしょ? 私に背を向けて走りだすのは、惣一の役目だったじゃない。
そして、私が鬼の役。懐かしいわね、何年ぶりぐらいかしら」
「…………最後にやったのは、僕が小学校6年生だったころだよ」
「だとしたら、もう6年は経ってるのね。私は今でもはっきりと思い出せるわよ。
惣一が私から必死になって逃げ出す様子も、捕まったときの悔しそうな顔も。
でも、一度も勝ったことはなかったわね。今日もそうだったけど」
さつき姉はそこまで言うと、僕の隣に座った。
僕は、さつき姉の顔を見て話しかけることができた。
「ここ、虫がいっぱいいるよ」
「別に平気よ。どうせ走り回って汗をかいたんだからシャワーを浴びないといけないし。
でも、よく30分も走り回れたわね。やっぱり成長してるのね、惣一も」
「自分では、まだあの頃のままみたいな気がしてるけど」
「私も同じ。なんだか、体だけが大きくなっているみたい。
性格とか、考え方とか、好みとか、全部小さい頃と同じ。
小学生が大人の体を持つと、私みたいになるのかもね」
さつき姉は立ち上がると、自動販売機にお金を入れて、一本だけジュースを買った。
ペットボトルに入れられているスポーツドリンクは透明だった。
キャップを開けると、さつき姉は半分ぐらい一気に飲んだ。
そして、僕にペットボトルを押し付けた。
「喉、渇いたでしょう? 飲んで良いわよ、それ」
「ああ、ありがと。って、それはちょっと……」
「何か問題があるの?」
「だって、これって間接――」
そこで、僕は口をつぐんだ。
急に心を締め付けられた気がした。
自分がしたことを思い出して、後悔が形になって胃を圧迫する。
僕はさつき姉から目をそらそうとした。けど、不意の笑顔に動きを止められた。
「さっきのことは気にしなくていいわよ」
「でも、僕は無理矢理――」
「ふう。わかってないわね、惣一は」
さつき姉はかぶりを振ると、右手を振り上げた。
続いて振り下ろされた右チョップが直撃して、僕の鼻から空気が漏れだした。
脳から鼻に突き抜ける痛みが、僕の思考を止める。
「私はキスされたことに怒っているんじゃなくて、いきなり逃げられたことが不満なの。
男の方からキスしてきたくせに逃げ出すって、どういう了見よ。んん?」
「う……」
「本当は、責任をとってほしいところだけど。
他ならぬ幼馴染は反省しているようだし、初犯でもあるから許してあげるわ」
僕はさつき姉の言葉を聞いて、口を閉じるのを忘れた。
あまりにあっけなさすぎる。なんで、そんな簡単に許してくれるんだ?
「馬鹿な顔してると、虫が口の中に入るわよ。
仕方ないわね。惣一に教えてあげましょうか、許してあげる理由」
「理由があるの?」
「そ。大きな理由」
「どんな理由なのさ」
「ふふ。それはねぇ……」
さつき姉は僕の顔を見つめながら、微笑んだ。
僕はつい、見とれてしまった。
じっと見つめたままでいると、さつき姉が勢いよく立ち上がった。
「やっぱり、やめた!」
「ええ?!」
「それぐらい、自分で気づきなさい。胸に手を当ててみればわかるはずよ」
言われたとおり、胸に手を当てて考えてみる。でも、思い当たるフシがない。
シャツがすっかり冷たくなっていることだけはわかったけど。
アパートに帰りついて、2人が別々にシャワーに入り終わったら、すでに11時を回っていた。
電気を消して、布団を敷いて横になると、またしてもさつき姉は僕の横に潜り込んできた。
だけど、今日だけは何も言うつもりにならなかったし、疲労感から眠気がすぐに襲ってきたので
黙って眠りにつくことにした。
鼻から吸う息が心地よくて、吐く息が軽くて、すぐに眠れそうだった。
今夜は風が窓からよく入り込んできていたから、扇風機は必要なかった。
意識が闇に沈んできたころ、肩をつつく指によって起こされた。
首だけで、さつき姉の顔を見る。
「惣一。罰ゲームのことなんだけど」
「罰ゲーム?」
「今日、追いかけっこしたじゃない。昔から負けたほうが罰ゲームをする約束だったでしょ」
しまった。すっかり忘れていたけど、昔は追いかけっこをするたびに罰ゲームをやらされたんだった。
21歳になった今、さつき姉は一体どんな罰ゲームを言い渡してくるんだ?
「それね、一度家に帰ってからやってもらうから」
「家って、誰の?」
「私、明日家に帰るから。言わなかったっけ?」
「いや、聞いてないんだけど」
「そういえばそうだったわね。予定ではもっと後で追いかけっこするつもりだったし」
「何、それ?」
予定?予定っていうとさつき姉のか?
追いかけっこをする予定って、どういうつもりで立てたんだろうか。
「あ! ええ、っとね。久しぶりに会ったから、昔を懐かしむって目的でやろうと思ってたのよ」
「なんだ。それならいつでも言ってくれればよかったのに」
むしろ、これだけ自然に話せるようになれるなら自分から誘えばよかった。
僕は今、さつき姉と昔みたいに仲良くなれた気がしている。
ずっと心にわだかまっていたものがとれたように、安らかな気分だ。
「罰ゲームっていうのはね、あんまりやりすぎると意味がないのよ。
1回きりだから、無茶なことも相手に聞いてもらえるの」
「無茶なことをやらせるつもりだったの?」
「大丈夫よ。死ぬこととか、怪我したりすることじゃないし、惣一にできそうなことをしてもらうわよ。
というより、惣一にしかできないことと言ったほうがいいかしら」
なんだろう。僕にしかできないこと?
僕にしかできないことというと――何も思い当たらないな。
「楽しみにすると同時に、覚悟をしておきなさい。……それじゃあ、おやすみ」
「おやすみ、さつき姉」
さつき姉は僕に背中を向けると、無言になった。
寝息が聞こえ始めてから、僕は今日一日で起こったことを反芻した。
山川とさつき姉に起こった異変、衝動に任せてさつき姉にキスしてしまったこと、
そして、さつき姉と久しぶりに仲良く話せるようになったこと。
終わってみると、いい一日だったように思える。二度と繰り返したくは無いけれど。
今回は、ここで終わりです。
再会初日から主人公はクライマックスを迎えていましたが、物語はそろそろクライマックスを迎えます。
GJ
俺は最初からクライマックスだぜ!
ピンポーンピンポーンピンポピンポピンポーン
全くせっかちな郵便屋さんだ、ちょっと出てくる
>最初からクライマックス
俺も俺も
ドンドンドンドンドン
なんだNHKの集金か、今日はずいぶんしつこいな
ちょっと出てくる
>>66 虎吉ちゃんは生き残るだろう
某スレで数年後の生存が確認出来てるし
結婚もしてるみたいだが、相手はやっぱりフジノなんだろうか
今日は向日葵来ないのかな 残念
向日葵GJ!
言う間もなく俺もクライマry
プルルルルルルルル
ん?誰だ?あっ、隣のゲイじゃないか。なんだよこんな時間に・・・・
ちょっと文句言ってくるよ。
ネタ
男の一部分だけを愛するヤンデレ
例えばヤンデレはある少年の目を大層気に入って付き合う事になった
始めの内はなんとか仲良くやっていたけど次第に他のパーツが疎ましくなって行く
目があればいい、他の部分は要らない……あは♪邪魔な部分は取り除いちゃえばいいんだね
ってな具合のヤンデレ
>>80 海野十三のトンデモ小説「俘囚」を思い出した
>>80 それはヤンデレじゃなくてサイコさんじゃないのか?
本の一部分だけで残りは疎ましいって・・・。ヤンデレなら全体を愛してこそだろ。
流れを切って、投下します。
今回、惣一はとんでもない勘違いを犯します。
帰ったら連絡する、とさつき姉が言い残して実家に帰ってから、3日が過ぎた。
帰る当日、さつき姉は僕より先に起きて帰っていってしまったようだった。
僕は朝に弱いさつき姉が自分で起きたことに驚くと同時に、不満を抱いた。
早起きしてまで早く帰る必要はないんじゃないか。
早く帰りたい理由でもあったのだろうか。
せめて見送りぐらいさせてくれてもいいじゃないか。
僕はなんとなく不満を覚えつつも、いつものように起きて顔を洗い、ご飯を
食べて、歯を磨くことにした。
朝の行動が流れるように、なんでもないことに少しの寂しさを覚えた。
きっと、数日間とはいえさつき姉が一緒にいたというのは僕にとって不快な
ことではなかったということだろう。
トラブルもあったけど、楽しい数日だった。そう思う。
以前のように部屋に1人で過ごすようになったというのは、僕にとっては寂しくもなく、
不満を覚えたりするものでもない。
僕が住んでいる町は平和で、犯罪が起こる予兆すらなく、また(引っ越してからは)
事件が起こったことすらないところだ。
子供達は友達と町の中を遊びまわり、学生達は並んで歩きながら談笑したり、
働く人たちは周りの目を気にすることなく仕事に没頭する。
この町にいると、何も難しいことを考えずに一日を過ごすことができる。
日本中で犯罪が起こっていることなど、嘘の出来事に思えるのだ。
しかし、犯罪や事件事故といったものはどこかで発生する。
今日のニュースでは、飛行機がハイジャックされて数人の怪我人がでて、
数時間してようやく犯人が投降した、と報道していた。
高校の修学旅行で行った空港の名前もテレビの画面に映っていた。
不安になる。自分の部屋で過ごしている時間はかりそめのものでしかなく、
少しのイレギュラー因子によって破壊されてしまうものなのではないか。
18歳になった今までは運よく破壊の手から逃れてきただけで、本当はすぐそこに、
アパートの扉の前にまで迫っているのではないだろうか、と。
そう思うと、さつき姉が連絡をよこさないことに対してまで不安を感じてきた。
もしかして、さつき姉の身に何か起こったんじゃないか?
どこかに行くときには一言告げてからにしなさい、とさつき姉はよく言っていた。
そんな人が数日も連絡をよこさないのはおかしい。
さつき姉の携帯電話に電話をかけてみた。が、繋がらない。
電波の届かない場所にいるらしい。そんなことはよくあることだ。
僕は両親に電話して、さつき姉の実家の電話番号を教えてもらうことにした。
実家に連絡したとき電話に出たのは母親で、たまには帰ってきなさい、
と言っていた。僕は生返事をして手短に電話を切った。
さつき姉の実家に電話をする。電話の呼び出し音が何度か続く。
電話が繋がるまでの間に呼び出し音が鳴るのはいいことだ。
もし呼び出し音が鳴る仕組みになっていなかったら、自分がなぜ電話器を耳に
あてたまま立ち尽くしているのか忘れてしまいそうになるからだ。
電話の呼び出し音から意識をそらすと、せみの鳴き声。
気分によって心地よくさせたり、嫌な汗をかかせる音は、窓を開け放っている
部屋のどこから聞こえてくるのかわからなかった。
アパート前の路地をスクーターが甲高い音を立てながら走りぬけた。
スクーターの音が遠くに行って聞こえなくなったころ、呼び出し音が止まった。
「はい。橋口です」
控えめな、しかしはっきりとした口調で電話にでたのはさつき姉のお母さんだ。
僕は懐かしい声を聞けたことに安堵しつつ、名乗ることにした。
「北河惣一です。お久しぶりです」
「あら……惣一君。お久しぶりね」
「はい」
「電話してくれて嬉しいわ。もっと電話してくれてもいいのよ。
さつきにも連絡してくれなかったから、惣一君の声を聞けなくて寂しかったのよ、私」
「あはは……」
さつき姉の母親は、何故か僕にかまいたがる。
昔さつき姉の家に遊びに行ったときはしょっちゅうお茶菓子攻撃にあったし、
たまには抱きしめられることもあった。
さつき姉の母親はもう40歳を過ぎているんだけど、僕の主観では初めて会った日から
まったく容姿が変わっていないように見えている。
以前母親に頼まれて若さを保つ秘訣を聞いてみたが、帰ってきたのは
「いつまでも恋をすること。しかも若い男に」という答えだった。
言われたままのことを母親に伝えたら、しばらくさつき姉の家に遊びに行くことを禁じられた。
「あの、さつき姉は帰って来ましたか?」
「さつき? ええ、一度帰ってきたわよ」
「ええ……?」
おかしい。帰ったら連絡すると言っていたのに。
「どうかした? 惣一君」
「いいえ、なんでもありません。さつき姉は今家にいますか?」
「さつきなら、今――あ! このことか……」
僕の答えに対して、さつき姉の母親は驚いたようだった。
いや、何かに気づいたような様子でもあったが。
「どうかしたんですか? このこと?」
「いいえ、なんでもないわ」
さつき姉の母親は、電話の向こうで咳払いしたようだ。
「あの、実は……どこに行ったのかわからないのよ」
わからない?さつき姉が、母親に何も言わずにどこかに言ったということか?
出かける前は行き先を伝えること、と僕に言っていたのはさつき姉だ。
そのさつき姉が何も言わずにどこかへ行った?
「あとは、何を言うんだったかしら……。
そうそう。実はさつきね、大学で恋人ができてたのよ」
「…………え」
絶句してしまった。さつき姉に、恋人ができていた。
繰り返し、電話の向こうから聞こえてきた声を反芻する。
中学時代に1人きりで居残り勉強をさせられたことを、なんとなく思い出した。
取り残された気分がした。さつき姉に。
「ぇ……と……ほんとう、に……?」
「え、ええ。それでね、私の予想なんだけど」
さつき姉の母親は、僕の心臓が2回脈打つ時間をあけて、こう言った。
「恋人のところに言ったんじゃないか、って思うのよ」
僕も同じ予想をしていた。なぜかというと、納得ができるからだ。
恋人の家に泊まりに行くのなら、僕は家族には何も言わない。
もしくは、事実をぼやかして伝える。
きっと、さつき姉は母親に何も伝えずに出かけることにしたのだろう。
ごまかすくらいなら、何も言わずに出かけたほうがいいと判断したのかもしれない。
そこまで理解して、僕は窓際に座り込んだ。
「大丈夫、惣一君?」
「ええ。別になんともないですよ」
自分が強がっていることを、自覚しつつ返事する。
ショックを受けていることを悟られなければいいのだが。
「ふう。だからやめたほうがいいって、私は言ったのに」
電話の向こうからの呆れたような小声が聞こえた。
けど、耳に入ってきただけで受け流すことしかできなかった。
早く電話を切ろう。一言も話したくない気分だ。
「それじゃあ、また。実家に帰ったら遊びに行きます」
「ええ、待ってるわ……あと、ごめんね、惣一君」
謝罪の言葉を聞いてから、電話を切る。
窓際の縁に肘をつく。遠くを見ても民家と商店街しか見えなかった。
視線をアパート前の路地に落とす。自転車で走るおじさんと、電信柱が見えた。
心臓の鼓動が早い。体が暴れまわることを要求している。
けど、冷めた頭はこのままじっとしていることを厳命しているようで、結局は動けなかった。
何をしていても腹が減らない経験をしたことがある。
学校の修学旅行で誰が1番早く睡魔に負けるか勝負をしたとき。
遊園地で遊ぶことに夢中になってひたすらはしゃぎまわったとき。
話題のテレビゲームを親がいないのをいいことに一晩中プレイしたとき。
そして、今。
さつき姉の実家に電話をしたのは、午前中だった。
午前中から夕方の7時まで、ずっと寝転がったまま過ごしている。
ときどき本を読もうとして体を起こすけど、内容どころか漢字さえも読めないので諦めた。
トイレに行こうとも思わなかった。尿意も便意も起こらない。
さつき姉に恋人がいたという事実がここまで自分に衝撃を与えるとは思わなかった。
それは、僕がさつき姉に恋人ができないと思い込んでいた部分が影響している。
さつき姉がもてないという理由で言っているわけではない。
さつき姉はもてた。男からも女からも、年上からも年下からも。
僕と一緒に下校している最中に告白をしてくる人もいた。
告白をしにきた人が僕のクラスメイトで、しかも女の子だったということはショックだったが、
告白が真剣なものであるとわかったときはもっとショックを受けた。
「さつき先輩! 好きです、付き合ってください!」
「ありがとう。でもあなたとは付き合えないわ」
「え……そんな、どうしてですか」
「他に好きな人がいるから」
さつき姉はそれだけ言うと、振り返らずに女の子の前から立ち去った。
ショックを受けていた僕は、しゃがみこんで泣き続ける女の子に手を差し出そうとした
ところでさつき姉に呼ばれて、立ち去った。
さつき姉の好きな男性が誰なのか、昔から僕は興味を持っていた。
日常の会話のやりとりで、聞いてみたことがある。
さつき姉の好きな人って、誰?
「昔からずっと一緒にいる人よ」
それだけしか、教えてくれなかった。
僕は、さつき姉が僕以外の男性に心を奪われていることを知って、不機嫌になった。
僕以外に、さつき姉と昔から仲良くしていた男性がいるとは思わなかった。
きっと、嫉妬していたのだろう。さつき姉に想われている男に。
そして今、さつき姉は恋人のところにいる。
僕が気に入らないのは、さつき姉が僕に何も言わなかったことだ。
一度家に帰っていたのに、どうして僕に連絡をしてくれなかったのか。
いくら僕でも、恋人がいるのを黙っていることには不満を覚えない。
でも、恋人の家に行くのなら一言ぐらい欲しかった。
――あ。
思い出した。僕も、さつき姉に何も言わずにどこかへ行ったことがある。
僕が今寝そべっているこの部屋。アパートに引っ越してくるときだ。
さつき姉と前日遊びに行く約束をしていたのに、僕は約束をすっぽかした。
さらに、さつき姉には行き先を教えないでくれ、と親に頼んだ。
「――あはは……はは」
ははははははははははははは。
面白い。面白くて、心の底から笑いたくなる。
これが因果応報というやつか。ここまで同じ内容で報いを受けるとは思わなかった。
同じことをやられて、僕のやったことのくだらなさと、僕の幼稚さに腹が立った。
しかも取り返しのつかなくなった今、ようやく知ることができるとは。
僕が、さつき姉のことを好きだったということに。
近所に住む友達としてではなく、1人の女性として好きだったということに。
いつから好きだったのは思い出せないけど、思い出せないほどに昔から好きだった
なんて知らなかった。
初恋の女性はさつき姉だった。そして、僕は今までも想っていたんだ。
好きだということに気づいて告白して失恋するか、失恋してから好きだということに気づくのか。
どっちが傷つかずに済むのかな。――いや、がっくりするのはどちらも同じか。
そして、僕は肩を落としてはいけない人間だ。
自分の想いを伝えるどころか、引越し先すら伝えなかった。
さつき姉の言いつけを守らず、デートの約束さえ守らなかった。
想いを伝えず、約束も守らない僕は、相手にされなくて当然なんだろう。
ゆっくり体を起こす。なんとなく頭がくらくらした。
こうやって寝そべっている場合じゃない。
さつき姉への想いを断ち切ろう。さつき姉は今頃、恋人と一緒にいるはずだ。
僕がいつまでもさつき姉のことを想っていたら、きっとさつき姉は幸せになれない。
昔、父親が言っていたことがある。
死んだ人間への想いを断ち切らなければ、死んだ人間は成仏できない。
さつき姉はまだ健在だけど、理屈は同じこと。
僕がするべきことは、さつき姉の幸せを願うこと。
もうひとつは、空腹を訴える腹を満たすことだ。
お湯を沸かして、カップラーメンを作り、麺を食べて汁を飲み干す。
少しだけ胃は満たされたけど、なんとなく物足りない。
それは、さつき姉がいないことが原因なんだろうか。
僕は、目を瞑って嘆息した。
失恋すると感傷的になるのは、僕も山川も同じことか。
明日は山川とどこかへ遊びに行こう。
もしかしたら、山川みたいにすっきりした顔になるかもしれない。
面倒くさいので、今日はシャワーを浴びずに寝ることにした。
畳の上に横になり、枕に頭を沈み込ませる。
失恋したのに涙が出ないということもあるんだな、と思いながら僕の意識は沈んでいった。
今回は終了です。待っていた方、申し訳ありませんでした。
策士策に溺れるって所ですね
ともあれGJ!
>>89 リアルタイムktkr!GJ!
惣一鈍すぎw
さつき姉苦労したんだろうなあ……
最後には幸せになってもらいたいものです
続きが気になるw
>>89 GJ!
何か考えが回りに回って山川が死ぬかもとか思った俺ガイル
投下します。いつもの2倍の長さです。
朝の9時。山川の自宅のドアの前。
音符のマークが書かれているチャイムを押して、頭の中で3秒数える。
続いて3回、金属製のドアをノックする。反応はない。
だが、山川の自宅に来る前に連絡をしているから、起きていることは間違いない。
間もなくでてくるだろうと見当をつけて、ドアの前で待つことにする。
山川の住むアパートは築5年ほどの建物で、僕の住むアパートよりもだいぶ綺麗だ。
その分家賃は高いのだろうけど、娘を持つ親としてはそれなりにいいところに
住ませたいのかもしれない。
廊下の手すりに肘をついて、空を見上げる。
寂しそうな空だ、と思った。
空には青と、馬鹿みたいに白い雲が広がっている。
鳥が飛んでいる。時々現れては、円を描いて飛び、どこかへ行く。
空と地上を隔てるものは人工的な建物だけだった。
ここが田舎の村だったらまた違う景色が見られるのだろう、と意味も無く考えた。
昔――小学生のころだったか、詩を書いたことがある。
空を題にした詩だった気がする。いや、詩というよりポエムだったかもしれない。
まあ、どちらでもいいんだけど。
散歩しているときに見上げた空の青さに、僕は疑問を持った。
思いをそのまま文章にして、先生に見せた。
先生の感想はあたりさわりのないものだった気がする。
空がなぜ青いのか。それは、空の向こうにあるものの色が濃い青だから。
だんだん白やその他の色が交じり合っていき、地上から見たときにはすっかり薄くなった
青が見られる、というのが詩の内容だった。
今の僕が書いたなら、内容は違うものになる。
地上から見た空が青いなら、空の向こうから見た地上はどう見えるのだろう。
衛星からの写真では、地上の様子がそのまま映されている。
では、空はどこにあるのだろうか。
きっと空は存在していない。空の青は人の目が見せる錯覚。
とでも書くのだろう。
ここまで感傷的な気分になっているのは、失恋のショックから立ち直れていないからだ。
一晩寝たらまともになるかと思っていたら、むしろ逆。さらに憂鬱な気分になってしまった。
本当に辛い食べ物はあとになって辛さを知覚できるというが、失恋にも同じものが
あるのだろうか。
「そんなわけ、ないか」
「おはよう、北河君!」
後ろから山川の声がした。振り向いて挨拶を返す。
「おはよう、山川」
「……うわ、ひどい顔だね」
「失敬だな、君は」
どれだけひどい顔をしているのだろうか。
顔に手を当ててみる。特に変わった様子はないと思うのだが。
「今の北河君の顔を、喩えてみようか?」
「必要ないよ」
「まあ、そう言わずに。えっとね、念願の車を買えた男、が」
「が?」
「目の前で突然爆発した愛車を見てしまったときの顔、だね」
「それはひどいな」
「ちなみに、爆発はテロリストの仕業です。しかも生き別れの弟」
「そこまで詳しく設定を作らなくても良いから」
「全てを知った男は車の仇を取るために、生き別れの弟と戦う決意をするのです」
「そっか……さよなら」
背中を向けて、立ち去ることにする。
山川なりに元気付けているというのはわかるが、付き合う気分じゃない。
数歩進んだあたりで、山川が僕の肩を掴んだ。
「ま、ま。そう不機嫌にならずに、部屋に上がっていきなよ」
「……いや、もういいから」
「お姉さんが体と甘い言葉で慰めてあげるから」
「僕と君は同い年だし、慰めもいらない」
「そういや、そうか。じゃあ、お酒の力を借りるとしよう。
お酒を浴びるほど飲めばきっとエネルギーが充填されるよ」
「お酒? また?」
「そ」
山川が言うには、部屋に大量のビールと日本酒、焼酎まであるらしい。
僕はいろいろ考えた末、山川の提案をのむことにした。
僕はアルコールが好きじゃない。缶ビール一本にしても明らかに単価が高いし、
たいして美味いと感じることもないからだ。経済的じゃないし、味も悪い。
山川と飲んだときは同席した以上仕方ない、という感情が働いていたから飲んだ。
友人と飲むときも軽く飲む程度で、飲み屋のトイレや床に吐いてしまうほど飲んだり、
二日酔いになるほどコップを忙しく動かしたりしない。
けれど、今日は飲みたい気分だった。
僕は山川に手を引かれて、部屋の中へ入ることにした。
山川の部屋の中は、意外なほど綺麗で、まるで雑草を刈った後のようにさっぱりとしていた。
僕がビールを何本飲んだか忘れるほど飲んで、山川がビールを2本と焼酎一升と
日本酒を半分ほど片付けた時点で夕方の7時になり、僕は家に帰ることにした。
酔っているくせに正気を保とうとして目の前の光景をじっと見つめるのは僕の癖だ。
僕の目が狂っているのでなければ、山川がタクシーを止めようとして道路に寝転んだ
という光景は嘘ではないことになる。
大の字になって寝転んだ山川を僕は当然起こした。
車の通りが少ない場所でやったからいいものの、どこでも人の目はあるもので、
やはり僕と山川は奇異の目で見られることになった。
電信柱に寄りかかりながらタクシーが来るのを待ち、運よく目の前で止まったタクシーに
乗り込んで僕はアパートに帰ることにした。
しかし、なぜか山川までもが僕の家についてきた。
山川がついてきていることに気づいたのは部屋の鍵を開けて、中に入った時点でだったが。
山川は僕の部屋に入ると同時に、トイレへ向かった。
僕はその間に水を一杯飲み干した。
コップを2つ用意してインスタントコーヒーの粉を入れる。
空になっていた電気ポッドに水を入れて沸騰するまで待ち、電子音が鳴ってから
コップにお湯を注いでいく。全ての動作がいつも通りに行えた。
僕は居間のテーブルの上にコーヒーを置いて、口をつけずに山川を待った。
山川は勢いよくトイレのドアを開けて出てきた。
居間から山川の様子を観察する。
山川はまず、手を洗った。台所の流し台の前に立って、蛇口をひねり手を濡らして水を止めた。
その後居間に向かってくるかと僕は予想していたのだが、違う動きが見られた。
山川は首を下に曲げてじっとしたあと、しゃがんで流し台の下を見ながらぼーっとした。
そして、何故か笑った。
何が面白かったのかはわからないが、声も出さずに肩を揺らして満面の笑みを浮かべていた。
山川はしゃがんだまま、流し台の扉を背中にしてもたれかかった。
僕を見ると、左手首で手招きした。
「北河君、ちょーっと、こっち来て」
僕はおかしな山川の様子に不審を抱きながら、台所へ向かうことにした。
山川と目線の高さを同じにして、問いかける。
「なに? どうかした?」
「いやー、なに、聞きたいことがあってさ」
遊んでいるときと同じ声だった。
時々、笑い声を漏らさないようにして口を手で覆う。
「ぷくく……あのさ、北河君の好きな人って、誰?」
「誰って、それは……」
「部屋で飲んでいるときもさ、教えてくれなかったでしょ」
「別に言う必要ないだろ」
話をそこで終わらしたかったので、立ち上がることにした。
が、山川が僕の手をいきなり引っ張ってきたので、前のめりに倒れた。
危うく衝突しそうになったところで手を流し台について、こらえる。
「こら! いきなり……」
何をするんだ、と言葉を続けようとしたのだが、山川の予想外の動きに封じられた。
山川がいきなり僕の頭を抱きかかえた。
両手で僕の頭を包み、体で受け止めている。山川の胸に僕の顔は沈んだ。
僕は全力で山川から離れようとしたのだが、加えられている力は僕の力と拮抗していて、
拳ひとつ分しか距離をとれなかった。
「は、離せ……」
「それはできないよ。正直に答えてくれるまではね」
「誰が、言う、もんか」
喋り続けながらも離れる努力をしているのだが、状況は変わらない。
「もしかして……私?」
「…………は」
「北河君の好きな人って、私なの?」
それはない、という答えが最初に浮かんだので、言おうとして口を開いた。
だが、言葉は出てこなかった。山川の目が僕の目をまっすぐに見つめていたから。
山川の目が語っていた。本当のことを言え、と。
まず、山川の問いに答えを返す。
「僕が好きな人は……山川じゃない」
自分でも驚くほど、鮮明に言葉にできた。僕が好きな人は、山川じゃない。
山川は僕の答えを聞くとふーん、と言いながら何度か軽く頷いた。
僕を睨み付けているように見えるのは、目の錯覚なのだろうか。
「それはつまり、他に好きな人がいるってことでしょ」
「まあ、そうだけど……」
「誰なのかな? 北河君の好きな女性は」
僕の頭に加えられていた力はすでに弱まっていた。
逃げようと思えば逃げられた。けれど、今度は山川の問いに動きを封じられた。
僕が好きな人は、さつき姉だ。でも、それを口にしてもいいのか?
昨日、さつき姉への想いを断とうと決めたばかりじゃないか。
「僕は……」
「あ、迷っている顔。本当は誰が好きなのか自覚しているのに、答えることを躊躇っている」
「……違う」
「答えを口にしたら辛くなるとわかっているから、口にしたくない。そうでしょ?」
「違うって、言ってるだろ」
「ガキみたいな恋愛してんじゃないよ」
山川の顔と声が変容した。一瞬、情けなくも思考が停止した。
今まで見たことのない、厳しい目が僕を見つめている。
「まだ好きなくせに、なんでごまかそうとするの?」
「……」
「今日一日中観察してて思ったけど、自分をごまかそうとしているようにしか見えなかった。
それってさ、ただ嫌なことから逃げているだけだよね。自分の気持ちからさ」
「な……」
「何も言ってないんでしょう? 好きだとか愛しているとか。
面と向かって振られたわけでもないのに、なんで諦めるの?」
「それは……山川だって……」
山川は、一度不敵な笑みを浮かべてこう言った。
「私ね、花火大会の次の日に起きたら、すぐ電話して聞いたよ。彼氏に。
そしたらね、向こうから謝ってきた。色々あってむしゃくしゃしてたんだって言ってた。
あれは間違いだった、ごめん。って、そう言われた」
だからあの日、やけに声の調子が良かったのか。
僕が無言でいると、山川が優しい顔をして口を開く。
「もし私が諦めてたら、たぶん破局してただろうね。
諦めずにもう一度話してみたから、やりなおすことができた。
北河君も同じじゃないの? 想いが伝わるかもしれないよ。やってみる価値はある」
「…………そうかもしれない」
「そうかも、じゃなくて。やるだけの価値はあるの。私が言うんだから間違いない!」
説得力のある言葉だった。
持つべきものは友達。まさにその通りだ。
今なら、さつき姉に告白することもできそうだ。
「にひひ……すっかり乗り気になったみたいだね。
それじゃあ、言ってみなよ。私を相手だと見立てて、告白してみて」
「ちょっと待て。なんで山川にそんなことを……」
「予行練習ってやつよ。さあ、ばっちこい!」
「野球部じゃあるまいし……」
でも、冷めないうちに今の気持ちを言葉にするのもいいかもしれない。
今日は酔っているからさつき姉に電話はできないし、会うこともできない。
相手が山川というのはとても、すごく不満だけど。
「む、何か言いたそうな顔をしているね。私じゃ不満?」
「まったくもってその通り……じゃなくて、不満じゃないよ。うん」
「……いろいろ言いたいことはあるけど、今日はやめとく。
それじゃあさ、言ってみて。はっきりと、大きな声で」
大きな声では言わないけど、はっきりと口にする。
「僕が好きな人は、さつき姉だ。
今さら言っても遅いんだけど、自分の気持ちはごまかせない。
僕は、さつき姉と一緒に居たい」
僕がそう言うと、山川は紅くなり、俯いた。
あまりにおかしかったので、僕は笑った。山川が僕を見て紅くなるなんて、初めてのことだった。
「笑わないでよ、こっちだって笑いそうなんだから」
「だってさ……その顔を見て笑わずにはいられないって」
「北河君の告白の方が面白いって。しまったな、録音しておけばよかった」
のちのちネタにできたのに、と山川は呟いた。
僕が立ち上がると、山川もふらふらしながら立ち上がった。
山川が帰るというので、僕は電話でタクシーを呼んだ。
アパートの下まで送っていこうとしたのだが、山川は1人で大丈夫、と言ってドアをくぐった。
ドアの前に立って背中を見送っていると、山川が僕の方を振り向いてこう言った。
「流し台の下、開けてみて」
山川は千鳥足で階段まで向かい、手すりに掴まりながら下へ降りた。
僕はドアを閉めて、鍵をかけてから、座り込んだ。
続いてため息をつく。もう一度、今度は肺から息を全て吐き出すつもりで嘆息する。
「何をやってんだ、僕は……」
酔った勢いとはいえ、とんでもないことをしてしまった。
よりによって山川に、さつき姉へ向けた告白の言葉を聞かせてしまうとは。
恥ずかしい。録音されていなくてもこれから酔った勢いで同じ話をされてしまうかもしれない。
ため息を吐きながらドアに向かって、頭突きをする。頭に突き刺すような痛みが走った。
めんどくさいので、電気を消して玄関で寝ることにした。
頭がぐるぐる回っていていたが、混濁の渦に意識を置いているとすぐに眠くなった。
しかし、目が覚めた。部屋の中から物音が聞こえたのだ。
ドンドン、という音は流し台の下、さっき山川が背中をつけていた場所から発せられていた。
猫でも入り込んでいたのだろうか?立ち上がって、電気をつける。
まだ音は続いていた。おそるおそる手を伸ばし、流し台の下の扉を開ける。
「……」
絶句した。ここにいるはずのない存在がいたことに。
なぜ流し台の下にいるのか、理由がまったくわからない。
さっきのやりとりを聞かれていたことは当然聞かれていたはず。無性にさけびたくなった。
しかし、その人が持っているものが包丁であることがわかって、叫ぶ気は失せた。
「さつき姉、何してんの……?」
流し台の下にいたのは、さつき姉だった。口にハンカチをあてている。
僕が手を差し伸べると、さつき姉は手に捕まって這い出してきた。
ようやくハンカチを手から離すと、大きく深呼吸を数回して、僕に向き合った。
「早く気づいてよ! 流し台の下って臭いから息ができなくて声は出せないし!
驚かせようとして入り込んだはいいけど狭いから出てこられなくなったし!」
「いや、隠れる必要もないでしょ。……って、いつからいたの?」
「惣一が帰ってきたとき。声が聞こえてきたから、咄嗟に隠れたのよ」
「どうやって部屋に入ったの?」
「鍵、開いてたわよ」
「なるほど……」
思い出してみると、今日は部屋を出て行くときに鍵をかけなかったかもしれない。
さつき姉の着ている服は白いブラウスとジーンズだったが、上下共に黒く汚れていた。
さつき姉は右手で髪をいじって、汚れをチェックしている。
そして、左手には包丁が握られている。
「ねえ、なんで、包丁を持ってるの……?」
「え、それはもちろん山川さんを……」
「え」
「じゃなくて、暗闇に不安になったから握っちゃったのよ。防衛本能よ、防衛本能」
「あっそ……」
頭をかきながら俯いて、ため息をひとつ。まったく人騒がせな。
だいたい、なんで僕の家に来てるんだ?恋人の家にいるはずじゃないのか?
「さつき姉、恋人は?」
「恋人? ……あーあー、あれね……うふふ」
「なに、その勝ち誇ったような笑顔は」
「う、そ」
「う、そ?」
「あれね、お母さんに頼んで一芝居うってもらったの」
えっと、つまり……恋人がいるっていうのは嘘?
僕が昨日あれだけ落ち込んだのは一体なんだったんだ。
いくらなんでも悪質すぎるいたずらだろう、これは。
「さつき姉、さすがにこれは僕でも……」
「ここに引っ越すとき、惣一は何も言わずにどこか行っちゃったでしょ?
その仕返し。どう? 同じことをやり返された気分は」
「……返す言葉もございません」
満足そうな笑顔でうなずくさつき姉。
僕はさつき姉の笑顔を見て、からからになっていた心が潤っていくのを自覚した。
「結果としては、成功だったかしら。惣一は正直になったみたいだし」
「なんのことを言って…………あ」
今度こそ、僕は凍りついた。
僕は山川との会話で、さつき姉への気持ちを口にした。
そしてさつき姉は流し台の下にいて、それを聞いていた。
頭を抱えて座り込みたい。床を突き破って一階に下りて住人に謝って逃げ出したい。
顔から火が吹きそうだ。流し台の下に隠れたい。
「私のこと、好きなんでしょ?」
知っているくせにあえて言わせようとするさつき姉。
微笑んで、僕の言葉を待っている。
恥ずかしいけど、僕は言うべきなんだろう。
「うん。僕は……さつき姉のこと…………好きだよ」
面と向かって言いたいが、首が重くて持ち上がらない。
床に向けた視界の中に、さつき姉の足が現れて、白い腕がすぐ目の前に来た。
呆然とする僕の体を、さつき姉が抱きしめた。
耳元で、さつき姉の口から小さな呟きが漏れる。
「私も、もちろん惣一のことが好き。もちろん、1人の男として」
何を言われたか、わからなかった。
だって、さつき姉が僕のことを好きだ、って、今……。
「やっぱり気づいてなかったわね。今さらだけど、ここまで鈍いとは」
「だって、さつき姉他に好きな人がいるって、昔」
「あのね……昔からずっと一緒にいるのは、惣一だけでしょ。他に居た?」
過去の記憶を全て振り返る。そして出た結論。
「居ない、ね」
「ちょっと考えればわかりそうなものだけど。あの時はっきりと言っておけばよかったわ。
でも、いいか。結果としては、上手くいったんだから」
さつき姉の腕に力が込められた。僕は、より強くさつき姉を感じられた。
上手く動かない手を動かして、ゆっくり、壊さないように抱きしめ返す。
くすぐったかったけど、離れる気にはならなかった。ずっとこうしていたい。
「そうだ、惣一。罰ゲームのことだけど」
「うん」
「罰ゲームとして、惣一には私と結婚してもらうから」
……なんだって?
「けっ、こん?」
「そう、結婚。これでずぅっと、一緒に暮らせるわね」
嬉しさと驚き。思考が停止するかと思いきや、逆に冷静になってきた。
自分はまだ大学一年生であること、さつき姉とは離れて暮らしていること、
親御さんへ向けた挨拶の言葉、自分名義の銀行口座の残高。
それら全てを同時に考えていると、さつき姉が僕の耳元に口を寄せた。
溢れる感情を堪えきれないのか、さつき姉は涙声でこう言った。
「絶対に、離さないからね」
今回は投下終了です。
次回はエピローグのようなものになります。
104 :
すりこみ:2007/06/03(日) 14:11:45 ID:SM4FyFt7
投下します。
105 :
すりこみ:2007/06/03(日) 14:12:58 ID:SM4FyFt7
手の中でそれはゆっくりと潰れていく。
ぐちゅり…ぐちゅり…
奇妙な音を立てながらそれはもがいていた。
手の中から逃げたいのだと。
死にたくないのだと。
まだ死にたくないのだと訴えるように。
しかし運命は変わらない。
ぎゅっ…
指先に力を更に込める。
ぷち…ぷちゅ…ぷち…ぷちゅ………。
行き場を失った体液が内側から溢れ出す。
それはまだもがいていた。
助けて欲しいと懇願するかのように。
何故死ななければならないのだと嘆くように。
やがて、それの時間はゆっくりと止まっていく。
ゆっくりと…ゆっくりと…
まるで電池の切れかけた時計のように。
やがて完全にそれが動きを止めた時、手のひらは
汚らしい害虫の体液で汚れていた。
「どうして…どうして……嘘…だろ?…」
潰れた害虫をゴミ捨て場に向けて指先で弾き飛ばすと、夏海は背後から聞こえる兄、春樹の声に振り返った。
「あ、お兄ちゃん…どうしたの?こんな時間に…ゴミなら出しておいてくれたら私が出したのに……あ、もしかしてお腹が空いたの?じゃぁ手を洗ってすぐにお夜食作るね?」
自分の汚れた手を見られるのが恥ずかしいのか夏海は両手を慌てて後ろに隠し、いつもと変わらぬ笑顔で兄に微笑みかけた。
「…なんで…なんでなんだよ……ぅ…うわぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」
「え?お兄ちゃん…どうしちゃったの?気分悪いの?」
今にも吐き出しそうな表情で叫びながら春樹はその場に膝から崩れ落ちた。
夏海は自分の身体を一瞥した。
服も顔も手も指も足も靴も汚れていた。
そんな汚れた手や服で兄の身体に触れるのは躊躇われたのか、目の前にしゃがみ込み心配そうに兄の顔を覗き込んだ。
季節は初春。夜風はまだ冬の名残を残し、時折吹く風が体温を奪う。
106 :
すりこみ:2007/06/03(日) 14:13:48 ID:SM4FyFt7
「こんなところでじっとしていたら風邪引いちゃうよ?ね、家の中に入ろ?」
夏海の言葉にようやく我に返り、視線を上げゴミ捨て場を見据えると春樹は狂ったようにゴミ捨て場へと走り出した。
「お…お兄ちゃん?」
「くそっ…くそっ…くそッ…くそぉぉぉぉ!!」
春樹は全身をゴミで汚しながら狂ったようにゴミを掘り起こす。
穢れた害虫が這い回り飛び回る中、そんなものなど眼中に無いかのように一心不乱にゴミを掘り起こしていた。
そして、ようやく動きを止めると、呆然とそのゴミを手に取り見つめる。
「うわぁぁぁぁぁ!!!!!!!うぅあああぁぁぁああああ!!!!畜生…畜生!!」
ゴミを抱きしめ呪いの言葉を狂ったように吐き続ける兄に駆け寄り、後ろから必死に抱きしめる夏海。
「やめてよ!お兄ちゃん。汚れちゃうよ…服…汚れちゃうよ?…こんな汚いところに居ちゃ駄目だよ…お兄ちゃん…ね?お兄ちゃん…お風呂は入ろ?私…背中流してあげるから」
「夏海…お前…お前…っ…!!!」
…ぷち…ぷち…
春樹の口元から赤い血が頬を伝う。
ぽたり…とかすかな水音が聞こえる。
ぽたり…ぽたり…
「お兄ちゃん…血が…」
夏海はまるでそうするのが当たり前だと言うかのように、舌先でそれを舐める。
丁寧に…丁寧に…
一滴たりとも溢さないように丁寧に血を舐め取っていく。
ぴちゃ…ぺちゃ…
まるで猫がミルクを舐めるように。
舌先は気がつけば唇の傷痕をなぞっていた。
夏海は恍惚とした表情でそこから溢れる血を舐め続ける
やがて名残惜しそうにその舌先がゆっくりと唇から離れる。
二人の間にかかる架け橋…
春樹は両目を見開きそんな夏海を見つめ続けた。
そこにはいつもと変わらない優しい笑みがあった。
本当に兄の身を案じてくれている、いつもの優しい笑みがあった。
その足元に横たわる人形…どす黒い色に染められた人形。
もう、動くことの無い壊れた人形が…壊れた瞳で春樹を見つめていた。
107 :
すりこみ:2007/06/03(日) 14:14:38 ID:SM4FyFt7
投下完了です。
一応続く予定です。
109 :
名無しさん@ピンキー:2007/06/03(日) 18:10:44 ID:5dcURk8p
>>103 GJ!
でも惣一がさつき姉の病みに気付かないままくっついちゃったわけか
ヤンデレに鈍感で対抗するとは……惣一、恐ろしい子!
>>107 妹だけじゃなくてお兄ちゃんもなにか怖いよ((( ;゚Д゚)))ガクブル
詳しい状況が知りたい……続きを待ってまつ!
投下します。エピローグです。
今日は12月24日。クリスマスイブ。
僕が通う大学は今日から冬休みに突入した。
帰り道で近くのスーパーに寄って食材を購入し、ケーキ屋で予約していた
クリスマスケーキを持って、僕は自宅にたどり着いた。
住んでいる場所は、春から住んでいるアパートから変わりない。
実を言うと、さつき姉と初めて結ばれた夏休み、僕は窮地に立たされた。
さつき姉に、大学を中途退学してくれ、と言われたのだ。
さつき姉の言い分によると、夫婦は同居するのが当然であり、別居など許される
ことではない、とのことだった。
僕は当然、反対した。僕はまだ大学で文学を学びたかったし、なにより親の目もあった。
文学部という就職に有利ではない道を選ばせてくれた両親の期待に、僕は応えたかった。
小説家を目指しているわけではないが、それでも大学中退だけはしたくない。
僕がさつき姉にそう言ったら、さつき姉は条件付きで応じてくれた。
さつき姉から出された条件は、3つ。
まず、婚姻届を提出すること。
これに関しては僕自身さつき姉と結婚できるということに浮かれていた部分もあり、
すぐに条件を呑んだ。
さつき姉が、後は僕の印鑑を押すだけ、というところまで記入済みの婚姻届を
取り出したときにはさすがに驚いたが。
次の条件は、さつき姉が大学卒業したら同棲すること。
これは僕にとって願ってもない条件だったので、了承した。
どうやらさつき姉は夏休み前に、僕の住む町の企業で内定をとっていたらしい。
最初から僕と住むことを目的にして選んだらしく、僕は正直言って嬉しかった。
夏休み以前から僕の住所を知っていた、という部分に僕は首を傾げたが。
最後の条件は、毎日の朝昼夕、電話をすることだった。
夫婦が連絡を取り合うのは当然ということらしい。
これに関しても、僕は条件を呑んだ。もとより反対する理由さえなかったが。
僕は携帯電話を取り出して、さつき姉へ夕方の連絡をすることにした。
アドレス帳からさつき姉の番号を呼び出して、通話ボタンを押す。
1コール、2コール、3コール、と待っても出ない。
さつき姉にも忙しいときがあるのだろう。
僕は電話を切って、料理を始めることにした。
今日のメニューはさつき姉の要望により、鳥のから揚げを作ることになっていた。
クリスマスの時期は鶏肉は安く売られている。
僕自身から揚げが好きなところがあり、大量に買い込んでしまった。
鶏肉を適当な大きさに切り、味付けをして、卵と片栗粉の中にとおす。
全部の鶏肉の下準備を終えて次の手順に移ろう、としたとき。
「きったがーわくーん、開けてーー」
という、友人であり恩人でもある山川の声が聞こえた。
ドアを開けると、山川が片手にケーキ屋の箱を持って立っていた。
僕にケーキの入っている紙箱を渡すと、部屋にずかずかと踏み込んできた。
疑問に思ったことを、聞いてみる。
「なんで山川がここに? 今日は彼氏と過ごすんじゃなかったのか?」
「そのつもりだったよ。だったん、だけど……」
山川が肩を落として、絵に描いたようにしょんぼりとした。
まるで、遊園地に行く約束をしていたのに、父親に約束をすっぽかされた子供のような仕草。
もしかして、また……。
「昨日、アパートの階段で転んで骨折してね。今入院中」
「……それは、また。不運なことで……」
「ああ、なんで大切なイベント前には彼氏と一緒にいられないのかな。
しかもどうしていつも北河君と一緒にいるんだろ」
「それは山川が僕のところにくるからだろう」
「だって、他の友達は皆恋人と過ごすとか言って会ってくれないんだよ!
そしたらもう、北河君の家に来るしかないじゃん!」
「僕も皆と同じなんだけど」
「ああ、そうだったね。綺麗な奥さんと2人っきりで甘い言葉をささやきながら食事して、
とびっきり甘い言葉を交わしながら抱き合うんでしょ! ふん!」
山川はそこまで言うと、浴室へ入っていって、扉を閉めた。
扉の隙間から飛び出した手が、服と下着を床へ放り投げる。
水音が聞こえてきたので、山川を放っておいて調理を再開することにした。
フライパンに油を入れて、火を点けようとしたときだった。
マナーモードにしたままの携帯電話が振動して、着信を報せた。
取り出して、携帯電話の画面を見る。さつき姉からの電話だった。
通話ボタンを押して、電話に出る。
「あ、惣一? ごめんね、電話に気づかなくって」
「いや、気にしないで、さつき姉」
「……訂正」
「あ! ごめん、えっと、その…………さ、さつき」
電話の向こうから、キャー、という甲高い叫び声が聞こえてきた。
ちなみに、さつきと呼ばないとさつき姉は怒る。目の前で口にしたらまず手が飛んでくる。
鼻先をかすめて拳が振るわれるので、僕にとっては死活問題である。
心の中ではまだ、昔のままの呼び名だけど。
>>103 ヤンデレをハッピーエンドにもっていけるとは…まさに神!
激しくGJでした!
エピローグもwktkしてお待ちしてます!
「惣一、頼んでおいた食べ物は買ってきた?」
「うん、おかずもケーキも、全部買ってきた」
「よしよし、後はメインディッシュの到着を待つのみ、というところね」
「あはは……」
この辺りで、いったん通話を終えようとした時だった。
「北河君、バスタオルとってーー!」
浴室の扉から頭を出した山川が、僕に向けてそう言ったのだ。
僕はバスタオルをとって、山川を見ないようにして渡した。
一連の動作は、まったく自然に行うことができた。無意識のうちの行動だったと言っていい。
だから、気づいたときには遅かった。
さつき姉と電話が繋がっていることを忘れていたのだ。
「……ねえ、あなた?」
「な、何かな?」
電話の向こうから聞こえてくる声が、耳に痛い。
かといって耳をそらせば何か物騒なものが飛んできそうで、動けない。
「赤と白だったら、どっちが好き?」
「えっと、あの、これは……」
「じゃあ、パンクしたタイヤと絞り切られた雑巾なら、どっちが好き?」
「さつき、ごめ……」
「あら、つぶれたトマトの方が好き? わかったわ、準備するから家で待っててね」
僕が何か言おうとする前に、さつき姉は電話を切った。
「ふー、いい湯だった。北河君も入ったら?」
無邪気な山川の声。僕は反射的に頷きを返した。
申し訳程度に存在する台所の窓から、空を見る。
時刻は7時を過ぎていて、空には星がいくつか光っていた。
雪が降りそうな天気ではないけど、空気は冷えて、乾燥し、風が吹いていた。
窓から入り込んだ風を受けて、僕は少しだけ震えた。
思い出すのは、今年の夏のこと。
去年までの夏の暑さは覚えていないけど、今年の夏の暑さは覚えている。
初恋の人と再会して、勝手に失恋して、その後で告白してOKをもらったこと。
それらを思い出すと夏の暑さまで一緒に思い出せる。
思い出した夏の暑さと比べて、僕に吹き付ける風は嘘みたいに寒かった。
出来ることなら、来年の夏を無事に迎えたい。
さつき姉――訂正。本名、北河さつきと一緒に。
完
向日葵になったら、全話投下終了です。
書いていてこれってヤンデレか?とも思いましたが、皆さん認めてくださってありがとうございました。
タイトルですが、向日葵の花言葉「私の目はあなただけを見つめる」が元です。
だからストーカー女にするつもりでした、本当は。
ストーカーを書くには私にはまだ力不足だったようです。
この経験をもとに、またいろいろやっていこうと思います。
では皆さん、2週間ばかりお付き合いいただき、ありがとうございました。
ノシ
リアルタイムktkr
とりあえずGJ。
ストーカー女の話も期待してます
>>116 リアルタイムGJ!&割り込んでしまい大変申し訳ありませんでした!
リロードしなかったからリアルで遭遇してたことに気づかなかった…吊ってきますorz
でもとにかくGJでした。
大変楽しませていただきました。
また機会があったら投稿キボンです。
個人的にはこのスレ以外に「向日葵になったら」のその後を書いてほしかったりします。
とにかくGJ&お疲れさまでした!
>116
ヤンデレと鈍感のコラボレーションが凄かったですww
でも……あなたは嘘吐きね。 本当は恋人の所に行くんでしょ?
私絶対に許さないから。 あなたはここで私にSSを書くの。…・・・ずっと一緒にね。
>>116 超乙っす!
作品を完結させられる職人さんは尊敬します。
その上面白いんだから言うことなしです。
次回作があるなら超期待してます。
ぐらり、と大きく斜面のほうへ自転車ごと傾いた松本君はあっけないほどに、そのまま斜面を転がり落ちていった。
自転車の破損のために、彼は坂を転がり落ち、分解していく私の電気自転車がいくつかに分解し、その一部が松本君の体のあち
こちを強く打ちすえ、鈍い音がする、阿鼻叫喚の地獄絵図―。
つい先程まで談笑していたであろう、松本君の変事は私にとっては雷に打たれたような衝撃であった。
私に優しく接してくれた、私の特別な、松本君が死んでしまう!!
「いやああぁぁぁぁああぁぁぁぁ!!」
自分でもこんな大声が出たのか、とびっくりするくらいの声を張り上げていた。
そして、その声を上げ終えた後、へなへなとその場に座り込んでしまった。
私は周りには誰もいないから、どんな大声を出しても無駄だと言うことに気づかなかった。
でも、私だけの松本君が、こんなひどい目に遭っているのにもかかわらず、ただ立ち尽くして叫ぶだけで私は何もできなかった事
実は変わらない。
頬を涙が伝って、とめどなく零れ落ち、地面に水溜りをつくっていく。
私のサンドイッチや羊羹をほめてくれた彼が、私の長い黒髪をきれいだね、とほめてくれた彼が、
クラス内で誰一人として私を理解してくれないときも、私を理解しようと努めてくれた彼が、
私の家で私のくだらない話を聞いてくれた彼が、図書室の仕事を手伝ってくれた彼が、どんなときでも私の心の中心を占めていた彼が、いなくなってしまう。
あんなに苦しい思いをする彼が可哀想で、その苦痛をかわって受けることすら出来ない私自身が不甲斐なくて。
そう、私のせいで彼は死んでしまうのだ、私のせいで死んでしまうのだ、私のせいで死んでしまうのだ、
私のせいで死んでしまうのだ、私のせいで死んでしまうのだ、私のせいで死んでしまうのだ、
私のせいで死んでしまうのだ、私のせいで死んでしまうのだ、私のせいで死んでしまうのだ、
私のせいで死んでしまうのだ、私のせいで死んでしまうのだ。
私はいつも澄ましているが、こんな肝心なときには何にもできない役立たずではないか。
こんな役立たずのせいで、松本君が死んだら私はどうするの?役立たずどころか、私のせいで彼を殺してしまったようなものだ。
学校で私は人を殺してはいけないということすら習っていなかったのだろうか?
それにしても、彼が死んでしまったらどうすれば?すぐに首をくくるなりなんなりして、
後を追って死ぬべきなのか、それとも壊れた人形のように松本君のことを後悔し続けながら、
生きているのか死んでいるのかわからないようになるべきなのか・・・。
・・・・・・・・・否。
何を私は言っているのだろうか?
そんなことは愚問以外の何物ではない。
松本君の後を追う、追わないは別としても、彼が死んでしまうという前提の上で考えているのに違いはない。
そんなことで何が、掌中の珠だ。最大限の努力をしてから死ぬことは考えればいい。
とにかく、いつものように冷静になれば何かが見えてくるはずだ。この程度の困難を乗り切れずに、
私が今までの茨の人生を渡ってこれたなどとは考えられない。そう、松本君は、最愛の彼は、絶対に助けられる。
さっき私が倒してしまった自転車のかごに入っている、バックの中から携帯電話を取り出す。
とにかく、救急車を呼ぶのだ。そうして、病院へ一刻も早く搬送する。現在の彼の状況を電話の相手に伝えなければならない。
だから、そろりそろりと自分も坂を転がり落ちていかないように慎重且つ急ぎ足で土手を下りていった。
転がり落ちた彼は出血がおびただしく、草むらに血溜りをつくっていた。しかも、気絶していて意識はない。
そっと耳を松本君の口に近づけてみると、呼吸はしているようだった。
ぶるぶると震える指で携帯のボタンを押し通報した。
数分後に到着した救急車に担架の上の松本君を乗せ、私もそれに付随しては救急車に乗った。
救急車内ではこの時点でできるありとあらゆる応急処置が松本君に施されていた。
どうか、松本君、私の前からいなくならないでほしい、そういう気持ちが強くて、
私は彼の手を握り締めた。
「近くの病院は折り悪く、手術中で搬送できない。」
「な、何?患者の状態を考えると、これは厄介だ・・・。」
そんな不穏なやり取りがあって、私は居ても立ってもいられなくなり、携帯電話に十桁の番号を入力した。
「・・・もしもし、北方貿易会社ですが、どちら様でしょうか?」
「北方時雨です、父の利隆に電話を至急かわりなさい。」
「・・・しかし、会長は現在、立て込んでおりまして、不可能です。」
下らないところで時間が取られたのでは、本当に松本君は死んでしまう。そんなことは許されるはずがない。
「・・・・ふざけないで、すぐに替わりなさい!お父様の用事が何だというのですか!
人一人の命がかかっているのだから、すぐに取次ぎなさい!!!」
「は、はい、わ、分かりました。」
「時雨。何があったのか、いつも通り落ち着いて話なさい。
取次ぎに来た女の子がいささかびっくりしていたようだ。」
そんなに悠長に構えているのが、差し迫っているこちらとしては無神経に感じられたが、
気を取り直して手短に松本君の怪我と、受け入れる病院がないことを話した。
「ほう、なるほど、あの松本君がそんなことに遭ったのか・・・。」
「お父様、そんな事を言っている余裕はもうないので、お願いしたいことがあるのですが、
この近くにお父様と親しくしている病院がありましたよね?」
「うん、時雨が言わんとすることは分かっている。手配して、すぐに彼に手術を施させよう。
それよりも、時雨。もう少し落ち着きなさい。お前が落ち着いていれば必ず松本君は助かるよ。
彼が意識を取り戻したときにお前がそんなに、世界の終わりが来たように取り乱していては、彼も心が落ち着かないというものだよ。」
「・・・・。」
その頃、松本理沙は居間で妙にそわそわするのを読書でごまかしながら、これからかかってくるであろう一本の電話を待ち続けていた。
普段は気にならない、時計のカチカチという時を刻む音が、落ち着かない私の心を一層かき乱してくる。
読書をして気を紛らわそうとしても、あまり効果がないのは私が普段、あまり読書をしないからなのか、
それともこれから来る電話を焦燥感に駆られながら、待っているからなのだろうか。
そんなにも、矢も楯も堪らずに私が何を待っているか、というと・・・。
ある一匹の雌猫についての不運な知らせを待ち望んでいる。
もうちょっとだけ具体的に言うと、自転車の事故が起こったよ、という連絡を待っている。
何でそんなことが予言できるかは、もちろん、私があのお高くとまった鼻持ちならない人の自転車に細工を施したから。
引き立て役の分を知らずに、私だけのお兄ちゃんをたぶらかして、
横取りして自分の穢れた欲望のためにお兄ちゃんを弄ぼうとしていたというのが理由。
いや、寧ろ既にお兄ちゃんは私の至らなさ故、とも言えるが毒牙にかけられていた。でも、そんな事をされて黙っているわけがないよね?
お兄ちゃんが昔、私に読み聞かせてくれた本の中に、こんな言葉がありましたよね?
“カエサルのものはカエサルに”
この世のものはすべからく、本来あるべきところになければならない、という至極当たり前だけど、含蓄のある言葉。
お兄ちゃんに教わったとおり、お兄ちゃんを私の隣に戻すために、あの雌猫に警告の意を込めて、
自転車に細工した。あの細工の仕方だと自転車がばらばらになるから、かなり痛いかもしれないけど、
今までやってきたことを贖うことを考えれば、慈悲深いよね。
それに、ああいうふてぶてしい性格だから、そう簡単に死ぬわけがない。
お兄ちゃんの目の前で、流血があるのは少し嫌だったけれども、これが一番ストレート且つ効果的な方法だから我慢してね、お兄ちゃん。
あはは、でも怖がっていてるお兄ちゃんを慰めてあげるから心配いらないよ?
そんなことなんて問題にならないくらい、いっぱいいっぱいお兄ちゃんを愛してあげるから、
余計な心配はさせない。
もちろんだれにも、当然両親であろうと無粋な邪魔はさせない。
あはは、お仕置きといっても、生成している薬品のモニターが少し増えるだけだけど。
もちろん、その薬品は一度飲んだだけであの世へ誘ってくれる薬、だけど。
お兄ちゃんだって、家に帰ってきたら私の願い事を聞いてくれるって、言ってたのだから、
承諾は取り付けたようなものだ。
もう少しすれば、お兄ちゃんも悪い夢から覚めて、私がしたことが正しいって事、絶対に分かってくれるはず。
そうしたら、お兄ちゃんにあの優しいまなざしで褒めてもらえるかもしれない。頭をなでなでしてくれるからしれない。
それにしても、早く電話が来ないかな・・・。
そんなことを考えていると、電子音が二三、繰り返されたのに気がついた。
「はい、もしもし松本です。」
「あなた、松本弘行さんのご家族の方ですか?」
低いトーンの男の声がそんな事を聞いてきた。え、でもこの電話が病院からのものだとすると・・・
お兄ちゃんの家族かどうか確認するということは・・・・・視界が白けていくのが感じられたが、そうである、
とその男に返答した。
「ああ、妹さんでしたか。あなたのお兄さんの松本弘行さん、実は自転車破損と土手から転げ落ちたことによって重傷を負って現在、
緊急手術をしているので、ご家族の方にも病院に来ていただきたいのですが・・・。」
え、何をこの人はイッテイルノダロウカ?
そうでなければ、と思っていたことことが現実になってしまった。衝撃のあまり、医師がそれからいくつか補足説明を加えたり、
注意点を述べたりしていたようだったが、もうそんなことは何も聞こえなかった。そんな私には、その場に倒れるのを抑えるのが精一杯だった。
手術中、という物騒なランプが燈っている間、私は手術室の前で待機していた。
幸いにも、この病院は北方家の息のかかった人間が院長をしているので父に便宜を図ってもらい、すぐに手術させることができた。
私は父のことが毛虫のように嫌っているが、私のことを心配して仕事を擲(なげう)って、この病院にわざわざやってきてくれたので、
そこには素直に感謝したいとも思った。
長い長い沈黙とこみ上げてくる焦燥感と悲しみは必死に心の中に抑えこもうとしても、ため息になり、目頭が熱くなるばかりであった。
暫くすると、松本君の妹、あの害物が泣き崩れながらここへやってきた。
そのあからさまな泣き崩れかたに、嫌悪を感じた。
松本君を自分が振り回して苦しめていることを気づかないような醜悪な心の持ち主が、こんなときばかりは心から心配しています、
という面をして涙を見せる。
そのふてぶてしさにこの上なく不快感を感じた。
松本君はあの寄生虫が最近はおとなしくなってくれたとか言っていたが、そんなのは私を心配させないように取り計らってくれた心遣いだ。
その深い思慮からの心遣いが何気なくできることこそ、私が見た松本君の美徳の一つだと思う。
だから、必然的にあのふてぶてしい害毒はその本質を変えていない。むしろ、自分が正しいと狂信しているから、
あの涙はなんらかの計算があってのことだと思う。
そう思うと、自分の計算のために私の彼を利用する害毒の厚い面の皮を剥いでやりたい衝動にとらわれる。
その衝動の波を理性の防波堤で押しとどめ、再び思索をめぐらす。
少し落ち着いて考えてみると、いくつかこの事故には釈然としない点がいくつかある。
家を出発するときに、私は自転車に不調がないか二回調べたはず。
確かに私が彼のことを注意して、防ぐことができなかったとことも要因の一つかもしれないが、
自転車がバラバラになるというのは常軌を逸している。
私が確認したときには、全くと言っていいほど問題点はなかった。
確かに私が乗る自転車で、松本君が乗ることを想定していなかったからチェックが甘かったのかもしれない。
しかし、どう考えてもあれは人為的なものに違いないと思う。
でも、誰が?そして何故そんなことを?
・・・・。
・・・・・・・・。
私は何を言っているのだ?さっきまであれだけ憤っていたのに、害物の存在を忘れているなんて。
しかし、よくよく考えてみるとあの害物が細工を施したのは、私の自転車。
あれが、自転車を変えるという行為を予測できたとは考えにくい。
ならば、当初、あの邪悪な計算において松本君を標的としていなかったと考えることができる。
言い換えてみれば、自転車の所有者、つまり私、北方時雨を当初は半死半生の目に遭わせようとしていたに違いない。
つまり、私に対する殺意が運悪く松本君に大怪我をさせてしまった、そういう可能性も考えられる。
そうだとすれば、尚のこと、この害物は許すことができない大罪人。
あの害物には松本君の苦しみを身をもって味あわせてやる。
もし、松本君が後遺症が残ったら、拷問して、体が意のままにならない苦しみを植えつけて、それから殺してやる。
もし、最悪、松本君が死んでしまったら当然私も死ぬが、その前にあれを徹底的に痛めつけて殺してやる。
私に人間以下が殺意を持つこと自体、ふざけた話だがそれがよりによって松本君がその刃を向けられるなど、
その時点で死刑確定、冤罪なんてふざけたことは言わせない、裁判もいらない。
第一、私と松本君と共有する時間は誰にも邪魔させない。せっかく、彼と多くの時間を共にできるようになったのに、その幸せを奪うのは、誰であろうと何であろうと、ただでは済まさない。
どうやって殺そうかしら?
刺殺、絞殺、銃殺、毒殺、圧殺、扼殺、撲殺、轢殺・・・・生ぬるい。
生きながらにして四肢を切り落として、哀願するのを無慈悲に射殺するのもいいかしら?
家の地下牢で飢えに苦しませて餓死させるのも一興。
私の弓の的としてハリネズミのようにするのも楽しいかもしれないわね。
靴に火をつけて、童話の一説を再現するのも感興が尽きない。
でも、今回一番、悲惨だったのは私以上に松本君なのだ。
そんな、害物をどういう風に処分するかなんて、今は些事以外の何物でもない。
とにかく、彼の手術が成功裏に終わることだけを祈り続けるべき。
私の前にあの優しく接してくれる彼が現れるためなら、千金を積んだとしても惜しくはない。
だから、どうか、手術が成功しますように―。
落ち着かないリノリウムの壁に囲まれていたからか、それともその手術室前の空気が本当に重苦しいものであったからなのか分からないが、
その場所に私は立って、娘の友人の手術が終わるのを待っていられなかった。
私自身、松本君に対しては嫌悪どころか、好印象を持っていたのと、仕事はさほど急がなければならないものではないから、
あの手術が終わるのを待っていたとしても特に困ることはない。
しかし、どうしてもあの重苦しい空間から抜け出して、風に当たりたかったのだ。
ここは屋上だ。地方都市にも関わらず、私の会社が設立時に資金提供した病院で、無駄に背の高い病院なので、
視界を遮るものがない。何を眺めるわけでもないが、屋上から空の向こうをぽつねんと眺める。
まだ、昼の強い光が地上を照らし続けており、澄明な蒼穹にはいくつかのふんわりとした雲が浮かぶ。
心に浮かぶ暗澹とした黒雲をも取り払ってしまいそうな、清清しさも今の私には焼け石に水のようなものだ。
あの非社交的な時雨の唯一の友人であり、私が見たところ思いを寄せる相手だけに、
事故に対するあの悲しみ方は理解できないわけでもない。
彼女の信頼を置く人物とは、私でも妻でも、家の使用人でも、学校の先生方でもなく、
ただ唯一、松本君だけを指すのだから、極論で言うならば、彼は娘の全てだった。
それが目の前で無残にも失われてしまう光景を目の当たりにしたのだから、
あの悲しみ方でも、まだ娘は自分を統御しているのかもしれない。
しかし、私の仕事など松本君に比べれば些事だと言い切った時雨が、世界の終わりのように取り乱した時雨が、私が遥か数十年前に目にした、
妻の狂気と重なって見えてならないのだ。
私の深層部のどこかへと消えうせていた狂気の記憶が再構成され、走馬灯のように頭によぎり始めた。
また、松本君自身もあの若かりし頃の鈍感な私と、年こそ当時の私のほうが随分と上だったが、まる写しなまでにそっくりに感じられる。
松本君には悪いが、私の妻は死んでなどいない。しかし、現実に彼に告げたように精神は患っていた。
私はこの北方の家に婿に入ったのだが、もともとはこの会社の一社員だった私がこの北方の家と縁組できるはずもない身分だった。
しかし、大学時代から興味のあった歴史についての講座で義父さんと知り合って、結果的に妻の優衣と出会うことになった。
彼女は娘の時雨と同じように落ち着いていた人で、やや陰のある美しさが印象的であるのが昨日のことのように思い出される。
彼女が私に好意を持ち、私自身も義父さんと趣味の話をするために、わりと頻繁に北方邸を訪れるようになった。
そう、多少の違いはあるが今の松本君のように―。
当時、私は大学時代から付き合っていた女性がいて、私も彼女のことを愛しており、関係はかなり進展していた。
そのことを知った優衣は私を極力、彼女のところに行かせないようにした。
なぜそのようなことをするか当時の私には理解できなかったのが不幸としか言いようがなかった。
付き合っていた女性は最終的に事故死を遂げたのだ。
そのころには私を実の息子のように暖かく接してくれていた、義父さんは悲嘆にくれる私を慰めてくれた。
が、私はそこで見てしまったのだ。
優衣の禍々しいとでも形容すべき、悪趣味な笑みを。
当然、私は彼女を詰問し、事の真相を教えてくれるように頼んだ。すると、彼女は平然と自分が手を回したことを白状した。
怒りよりも呆然とするのが先立ってしまい、抜け殻のようになった私は彼女に捕らえられた、否、捕食された。
それからまもなく私は彼女と結婚し、北方の家に入った。
当然のことながら、私のような素性のわからぬものに対するバッシングはなかなかのもので、使用人にすら嘲笑われていた有様であった。
しかし、妻はそのように私を辱める者がいると誰であろうと容赦なく、苛烈に傷害を負わせ、ある時は殺し、私を自分だけの物として支配した。
私を支配するために、私に対して「お仕置き」と称して拷問を課すこともしばしばだった。
始終、私と同じく入り婿という境遇にあった義父さんは私の味方をしてくれたが、とうとう実の娘である優衣と対立し、
結果的に精神病院に送られ、かの場所で持病の内臓の病が悪化していた義父さんは尊厳死の名の下に、殺された。
妻は笑いながら、私の邪魔をするからいけないのだ、といっていた。
もはや、私にはなすすべもなく彼女に支配されるより他なく、仕事人間へと変貌していった。
血みどろの日々が続く中で、優衣に一人娘の時雨が生まれた。
時雨は私にとって唯一の心のオアシスであったが、妻は時雨にすら、私を奪うつもりではないのか、という疑念を抱き、
結果的に優衣は完全に発狂し、時雨は優衣から「しつけ」と称して、暴力をふるわれる日々をすごした。
問題が顕在化してから私は気づいたので、時雨は完全に私を信用しなくなってしまった。
その後、優衣は精神病院を盥回しにされていたが、相手先も困って家に戻ってきたので、最低限の従者をつけて、長野の別荘に静かに住まわせている。
その件があってから、すべてに絶望し、私は煉獄に身を置いた。そして私は家庭のことから目を逸らし続けてきた。
その結果として、時雨がああなってしまった。これは私に対する罪であることはわかっているつもりだ。
しかし、いまさらだが娘の時雨に、父親らしいことをしたいと思うようになり、昔の私である、松本君に私と同じ思いをさせたくないという気持ちがおこった。
だから、私は時雨の狂気と新たな悲劇をこの命に変えても回避してみせる。
そう決心すると、晴れているにもかかわらず、暗澹としたものと感じていた蒼穹が少しだけ心地よいものに感じられた。
六話終了です。
最初の方が読みにくくなってしまいました、すみません。
では、また。
楽しみにしてます。
妹よ……策士策に溺れる、という言葉をここまで体現してくれるとは。
松本君の無事を祈って、GJ!!
138 :
すりこみ:2007/06/04(月) 01:39:59 ID:APrSEPmV
投下します
139 :
すりこみ:2007/06/04(月) 01:42:39 ID:APrSEPmV
「お兄ちゃぁぁん…はぁ、はぁ…待ってよぉ」
人の姿もまばらで、時折ジョギングをしている老人ぐらいしか見かけない早朝の静かな通学路。日差しは柔らかくあたりは涼しげな空気に包まれていた。
その静寂を打ち破るかのような幼い声と駆けてくる足跡。
そんな声はまるで聞こえないかのように爽やかな景色の中を変わらぬペースで歩いていた。
「お兄ちゃん…歩くの早すぎるよぉ…はぁ、はぁ…もっとゆっくり…歩いてよぉ」
漸く追いついた妹の藤岡夏海はまるでマラソンを終えた後のように額から汗を流しながら、俺の顔を見上げるとにっこりと笑いやがるのだった。
「わざわざ走ってくる必要ないだろ。お前は別に急ぐ理由とかないだろ」
「はぁ、はぁ…だって…だって…」
こいつは昔からこうだ。親父が5年前にいなくなってからはそれこそ忠犬のように俺に付きまとってくる。俺の歩幅に追いつくために早足で歩いてくる。
そして俺と視線が合うとまるで散歩に連れて行ってもらって喜ぶ犬のようににっこりと笑いやがる。
「なぁに?お兄ちゃん」
「なんでもねぇよ」
何故だかこいつに微笑まれると胸の中がざわつく。こいつの笑顔が眩しければ眩しいほどいらいらする。
「おっ!夏海ちゃん、今日も早いねっ!」
バシン!!と俺の背中を平手で叩きながら、夏海に爽やかな声をかけているこいつは小泉八雲だ。
「てめぇ…毎朝毎朝ご苦労なこったな。」
「を、春樹もいたのかい?それは気がつかなかったなぁ」
「八雲先輩。おはようございます。」
「おはよう、夏海ちゃん。今日も可愛いね。」
「八雲先輩こそ、今日も元気ですね。」
「はっはっは、僕は元気だけが取り柄だからね。」
「そんなことないじゃないですか。昨日も1年の子にまたラブレターを貰って聞きましたよ。八雲先輩って1年の女子の間で人気があるんですよ?」
「はっはっは、そういう夏海ちゃんこそまた付き合って欲しいと告白されそうじゃないか。確かバスケ部の早瀬だったかな?」
「ど…どうして知ってるんですか?」
「ふふふ、僕の情報網を甘く見てもらっては困る。まぁ、種を明かせば早瀬から夏海ちゃんを紹介してくれと頼まれたのでね。だが、安心したまえ。きちんと断っておいたよ。」
夏海は少し困ったような表情でちらっと俺の顔色を窺うように見上げる。
くそったれ…確かにこいつは可愛い。
兄である俺が言うのもなんだが、いわゆる美少女というカテゴリーに属しているといっていいだろう。
昔はよく近所の悪がきどもがこいつをいじめやがったんだが、それもある意味あいつらの子供っぽい愛情表現だったのかもしれないとさえ思える。
実際、中学に入るようになって奴らの態度は変化し、ガキっぽい嫌がらせをするような奴はいなくなっていたが、
今度は夏海に付き合ってくれと告白するようになりやがった。
140 :
すりこみ:2007/06/04(月) 01:44:59 ID:APrSEPmV
「まぁ、もっともその様子だとまた断ったみたいだね。」
「え…、あ、…はい……」
夏海は こくん とまるで子犬のように押し黙ったまま頷いた。
「紹介を断った僕が言うのもなんだけど、早瀬は悪い男じゃないと思うんだけどね。
容姿はもちろん性格だって悪くない。スポーツも出来るし勉強も学年上位を常にキープしているし、
憧れている女子の数もそれは少なくないだろう。」
そういうお前だって性格以外は早瀬に負けてないだろうが…
道端の石を蹴りながら、小泉八雲という男の横顔を見る。こいつはまさに男版
「立てば芍薬(しゃくやく)、座れば牡丹(ぼたん)、歩く姿は百合(ゆり)の花」
を地で行く奴で、男ながらに美人とはどうなんだと思うのだが
そういう表現がしっくりくるんだから仕方が無い。もっとも、こいつの場合は黙っていればという条件がつく。
そう、こいつはとにかく女癖が悪い。二股どころか俺の知る限り六股をかけていやがる。いつか刺されるぞ…と思うのだが、
なぜかこいつの周りは殺伐とした雰囲気はない。それはこいつの能天気な性格によるものなのか、
複数の女性と同時に付き合っていることをこいつは隠さないからなのかは不明だ。
「僕は君だけを愛すことはできないけどそれでもいい?」
こいつの身勝手な回答は今では当たり前になっているが、一年の頃は、それは騒がしいものだった。それは二股をかけられることに耐えられなかった女子が泣き喚く光景なのだが、その結果今の六名に絞られていくための通過儀礼のようなものだったように思う。
だから、二年の頃には小泉八雲に告白するというのはハーレムへの参加が前提になっているという情報は学内に知れ渡っていたのだ。
しかし、こいつの奇妙なところはそんな状況になりながら同学年の男子にさほど嫌われていないという点にあった。こいつの人懐っこい性格と妙な付き合いのよさ
「あ、今日は春樹達と帰るから先に帰っておいて」
と、男友達を優先して付き合っている女たちを先に帰すのはよくある光景だ。こいつは男友達との用事を何よりも優先する奴だった。そして遊びに行くときは八雲の取り巻きの女たちが
カルガモ親子のようにくっついてくるのだが、八雲と付き合う女たちは八雲だけにべたべたすることをせずに満遍なくみんなと仲良くできるような奴ばかりだった。
中には八雲と別れてそいつと付き合い始めるような奴もいたが
「僕は去るものは追わず、来る者は拒まずだからね」
こいつに何事もなかったように平然と言われると何故だかむかっとくる。
141 :
すりこみ:2007/06/04(月) 01:46:32 ID:APrSEPmV
「誰か好きな人でもいるのかい?」
はっと、顔を上げて二人をみると、八雲のにこやかな笑顔と夏海の微かに赤らんだ表情とちらちらと俺の様子を窺う様子が目に入った。
「それは…いますよぉ………内緒ですけど。」
さらに耳まで真っ赤にし、指遊びをしながらそんな風に答えやがった。何故だか冷や汗が出る。くそっ…くそ…なんでこんなに胸がざわつくんだ。
「あははは、夏海ちゃんってわかりやすいなぁ。」
八雲は細い目を更に細め、何がおかしいのか俺の肩に手を置いて腹を抱えて笑い出した。
「ふん…付き合ってられるかよ。」
二人を置き去りにして早足で歩き始める。
「あ、お兄ちゃん、待ってよぉ…」
「はっはっは。おいおい、待ってくれよ。」
俺はそんな二人の声を無視して一人学校に急いだ。
くそ、今日は朝からついてないぜ。
まったく世の中って言うのは不条理に満ちているもんだと思う。
夏海や八雲に比べると俺の顔は贔屓目に見ても10人並。成績は中の下。唯一運動能力だけは人並み以上にあるが、それも子供の頃から続けている拳法と筋トレのおかげだ。
何気なく教室を見渡すとざわざわと喧騒が漂っており、そしていつものことだが何故か自分の周りの空間だけが一種の空白地帯になっているのを再確認する。
「おや、どうしたんだい?ずいぶんと疲れてるみたいじゃないか。」
そんな領域に無造作に立ち入ってくるのは、何も考えていない能天気な八雲だけだった。
「うるさい。朝のバイトで疲れてるんだよ…いちいち話しかけるな。」
「あっはっは、なるほど。貴重なHRまでの睡眠時間を邪魔しちゃってるのかな?」
「ふん…わかってるなら寝かせてくれよ。頼むから。」
「了解した。じゃぁ、手短に言うけど…」
にやり、と意味ありげな笑みを浮かべ
「春樹は彼女をどうしてつくらないんだい?」
八雲は珍しく真剣な表情でそんな突拍子もないことを言いやがった。
「親友の僕としては心配するわけだよ。ほら、僕たちは健全な青少年なわけだからね。恋の一つもするものだろう?なのに、
君といったらストイックを通り越して人と接することを拒んでいるようにさえみえる。
まぁ、君のことだからまさかとは思うが僕のことが好きで一途に貞操を守り通しているとかそういうことはないよね?
いや、もしかしてそうだったのかな?それなら春樹…早く言ってくれればいいのに。僕も春樹のことを…」
「それが遺言でいいのか?」
「あははは、まぁ冗談はさておき、どうしてなんだい?」
「…さてねぇ、あいにく俺はお前と違ってもてたことがないんでね。」
142 :
すりこみ:2007/06/04(月) 01:48:36 ID:APrSEPmV
「それは嘘だね。まぁ、我が妹の真剣な告白をカウントしていないならそうかもしれないが、君は断ったそうじゃないか。」
「………」
「君は香住に今は…付き合えないと言ったと聞いている。おっと、頼むから香住を責めないでくれよ?僕が無理やり聞きだしたんだからね。」
「………」
「いやいや、まぁ、香住は我が妹ながら出来た妹だと思うのだよ。身体の方はまた発展途上中だがあと2年もすればあれは美人になるぞ。僕が保障しよう。」
「そんな保証いらねぇよ。」
「まぁ、そう言うな。簡潔に言えばそんな可愛い妹が泣いて帰ってきたのだ。兄として何とかしてやりたいと思うのは当然のことだろう?」
「………」
「真面目な話だが、君は僕が兄だからといって香住と付き合えないと言う様な男じゃないことは僕が一番よくわかっている。
まぁ、君が特殊な趣味でないこともわかっている。
もっとも別に好きな相手がいるわけでないこともわかっている。そうでなければ、君は香住に「今は…」なんて言い方はしないだろう?
僕はそれが君にとっての現在における最上級の好意を示す言葉だと理解しているんだが…違うかな?」
「…何がいいたい。」
「端的に言おう、君が香住と…いや、別の女性とでもだ。付き合えないのは夏海ちゃんが原因なのかい?」
まるで名探偵のように、確信に満ちた眼差しで八雲は問い詰めてくる。こいつは別に俺の答えなんかを待っていない。こいつは確信して…いや、おそらく知っているのだろう。
知った上で俺にあのことを喋らせようとしている。その程度はわかる。
「どこまで…知ってやがる」
「そんなに怖い目で見ないでくれよ。僕は何も知らないんだよ。ただ、ある程度の予想はついているというだけなんだ。
もちろんこのことは誰にも言っていないし、今後も誰にも喋る気もない。もちろん香住にもだ。」
「………」
「君の反応を見るに夏海ちゃんが君に近づく女を許さないという噂はどうやら本当のようだね。
もっとも最近では君自身が敢えて女性を遠ざけているため、問題は起きていないというのが実情なようだけど…」
こいつも…そしてこいつの妹の香住ちゃんも恐ろしく鋭い。嘘をつけない相手に隠し事をしようと思えば沈黙しかない。だが、こいつや香住ちゃんはこっちが黙っていても心の中を見透かしたかのように理解しているように感じる。
143 :
すりこみ:2007/06/04(月) 01:50:08 ID:APrSEPmV
「わかりました…今は待ちます。私…先輩の言葉を信じてますから…」
そんな風ににっこりと微笑んだ香住ちゃんがあの後泣いていたのか…。
ちくりと胸が痛む。八雲の妹であるというのに香住ちゃんは兄とは違い、いや外面的には兄と同じく美人という形容以外が当てはまらないのだが、性格的な部分では兄とは大きく異なり、とても真面目な性格だった。
「私…心に決めた方がいるんです。…本当にごめんなさい。」
彼女はそういって数多くの同級生、果ては上級生からの告白を断り続けていた。
そして、その数が増えるたびに囁かれてきた噂
「本当にあの子好きな人いるのかしら?」
「さぁ?断るための口実なんじゃないの?」
「ふん…もったいぶっちゃってさ…何様のつもり?」
「男子もあんなのに騙されちゃってさ、みっともない」
「でも、あいつの好きな奴ってさぁ、案外…お兄様…だったりして」
「え〜!禁断の兄妹愛?」
「私…お兄様のことが…、香住…僕も君のことが…ってあはははは、やばすぎるよね〜」
女の陰口ってやつはどうしてこう陰湿なんだよ、と俺の握り締める拳が放たれる前に
「はっはっは、香住は確かに君たちと違い可愛い妹だが、残念ながら君たちと同じく僕の恋愛対象にはなりえないんだよ。」
まるで影の中からでも現れたかのように突如そこに現れたのは八雲だった。
その時の女どもといえば顔は引きつり、あの…とか、その…とか言い訳にもならない日本語を音飛びしたCDのようにただ発するだけだった。
だが、その誰もが八雲から視線を逸らしてはいなかった。
まるで逸らしてはいけないと知っているかのように…
八雲はほんの…ほんの一瞬だけ、俺の方に視線を向け
「それに香住には昔からの想い人がいるのだよ。なにせ僕とは違い控えめな性格だ。複数の愛を許容するほど器用な子じゃないのだよ。わかったかい?君たち」
普段から綺麗な顔のあいつだが、敵意をむき出しにした時のそれはさながら死神の死刑宣告のようだ。傍からみればいつもの笑顔だがその眼が笑っていない。
その眼は殺意を隠していない。
これは最後通告だよ?と、聞こえないはずの幻聴まで聞こえるようなあいつのあの目を見て逆らえる奴などいないだろう。
「動くと殺すよ?」
と、宣告されたにも拘らず動いてしまい、その手に持った凶器の餌食になった死体の隣で更に抵抗しようと勇気を振り絞れる奴がいるだろうか?目を逸らすことができるだろうか?
「言ったよね?殺すって」
そいつはどうでもよさげな顔で躊躇いなく殺した死体の前でそんなことを平然と告げる。
あいつはそういう奴なのだ。香住のためなら人を殺すことさえ厭わない奴なのだ。
それが俺にはわかる。あいつはそういう種類の人間なのだ。
「わかってくれたみたいだね。よかった。わかってもらえて…」
そんなにこやかな笑みを浮かべ、女どもなど最初からいなかったかのように俺のほうに向き直りゆっくりと歩いてくる。その表情はいつもの八雲に戻っていた。
女どもは今日のことを記憶の片隅に封印してしまうだろう。人に話すことなどおそらく考えまい。今、沈黙を代償に生きる権利を得た奇跡を喜ぶのであれば
沈黙と忘却以外の選択肢はあいつらには選べないだろう。
144 :
すりこみ:2007/06/04(月) 01:52:46 ID:APrSEPmV
そしてある日の放課後、香住は俺に告白してきた。
そしておれはその告白を断った。
その理由は八雲が推察するとおりだ。
夏海は俺に女が近づくことを許さない。
夏海は可愛い俺の妹だ。
だが、たった一つだけあいつがおかしくなるキーワードがある。
それは俺だ。
親父がいなくなってからの夏海は夜に一人でいると情緒不安定になった。
ある夜、俺が家に帰ると目に入ったのは荒れ果てた家の中だった。
泥棒でも入ったのか?そんな心配と同時に俺は夏海のことが気になった。
俺よりも先に帰っているはずの夏海の姿が見えなかった。
「夏海!どこだ!夏海!」
声を荒げて階段を駆け上り、夏海の部屋にノックもせずに飛び込む。
部屋の中は女の子らしい調度は少なく、相変わらず整理整頓が行き届いていた。そんなベッドの上に夏海の鞄を見つける。
…帰っている・・・
微かな安堵とともに訪れる焦燥感。じゃぁ、いま夏海はどこに居るんだ…どこに…
「夏海!どこだ!いたら返事してくれ!」
俺は狂ったように家の中を探した。そして台所の片隅で怯えている夏海を見つけたのだ。
割れた食器が散乱している床。そしてその片隅にうずくまる夏海の姿…
「ごめんなさい…ごめんなさい…ごめんなさい…ごめんなさい…ごめんなさい…ごめんなさい…
ごめんなさい…ごめんなさい…ごめんなさい…ごめんなさい…ごめんなさい…ごめんなさい…
ごめんなさい…ごめんなさい…ごめんなさい…ごめんなさい…」
小さくうずくまり、ただひたすらその言葉を繰り返す夏海。いったい誰に何に謝っているのか解らなかったが、
夏海はまるで壊れたラジオのようにただひたすらごめんなさいと繰り返していた。
その瞳は恐怖に彩られたまま虚空を見つめ、俺の姿も認識できていないようだった。
「大丈夫か?!夏海・・・しっかりしろ…!」
すぐさま傍に駆け寄り肩を抱きしめ、耳元で夏海に呼びかける。
「おにい…ちゃん?…」
呼んでいるのが俺だとわかると夏海は漸く安心したのか、迷子の幼児のように俺に飛びつき、
そして今度は「おにいちゃん」と言ってすすり泣くのであった…
落ち着いた夏海に訳を聞くと、
一人でいると何故だか怖いのだと…。
誰かが自分を見ているような気がするのだと…
俺がいるとその妙な視線は消えるのだと…
要領の得ない夏海の説明を俺は真剣に聞いた。
嘘をついているような様子はなく夏海は本当に怯えていたからだ。
そして夏海は俺から離れることを極端に嫌がった。
袖口をぎゅっと握り締め幼児のように駄々をこねるのだった。
そして最後には恥ずかしそうに、しかしすがる様な視線で俺を見上げて。
「ねぇ…一緒に寝ていい?」
そんなことを俺にお願いしてきたのだ。
だが、これは後から考えれば変な意味でもなんでもなかった。
夏海はその頃から夜は一人で寝ることさえ出来ない状態だったのだ。
その頃の夏海は寝るときも枕元に包丁を忍ばせており、
微かな物音に反応して包丁を手に起き上がっていたのだ。
145 :
すりこみ:2007/06/04(月) 01:54:49 ID:APrSEPmV
俺がそれを知ったのはある夜のこと。夜中に物音がするので夏海の部屋を見に行った夜のことだ。時間は深夜1時過ぎ。
なにやら夏海が叫んでいる。来るな・・・来ないでと。
俺はおそるおそるドアノブに手を掛け、隙間から中を覗いた。
ドン!!
という、音とともに目の前の木製のドアに出刃包丁が深々と突き刺さる。
その先には壊れた瞳の夏海が…逆手で包丁をドアに突きつけた姿勢のまま
俺を見上げていた。そしていつものような口調で言いやがった。
「なぁんだ…おにぃちゃんかぁ…よかった…間違えて…殺しちゃうところだった。」
安心した様子でにっこりと笑った夏海は突如、まるで操り糸が切れた人形のようにその場に座り込む。
それと同時に冷や汗が額から溢れ出す。もう少しドアを開いていれば…もう1秒ドアを開くのが早ければ
…もしも…
…もしも…
頭を振り、そんな想像を頭から振り払う。
なにやってんだ…俺は…
ドアを開き、手に包丁を持ったまま座り込んだ夏海の指に指を絡め包丁を奪い取る。
「お兄ちゃんを…殺しちゃうところだった…お兄ちゃんを…殺しちゃうところだった…」
瞳に涙が溢れるのと同時に夏海はようやく感情を取り戻したかのように俺に抱きつき泣きじゃくる。
「ごめんなさい…ごめんなさい……ごめんなさい…ごめんなさい…」
一体夏海は何をそんなに怖がっているのかは解らなかった。
だが、こんな夏海を一人にすることは出来なかった。
俺は夏海を抱きあげると自分の部屋に連れて行き、泣き続ける夏海にこう告げた。
「夏海。今日からは俺が一緒に居てやるから…ずっと一緒にいるから…それなら安心して寝れるか?」
こくん
夏海の小さなアゴが小さく頷く。
その日から俺は夏海と同じ布団で寝るようになった。
夏海はそれ以来、昔のように落ち着きを取り戻した…様に見えた。
なにも変わらない毎日。ありふれた日常。
夏海が家の中では今まで以上にべったりとくっついてくるようになった
…それ以外は昔の平和な日常だったのだ。
「えへへへ…こうしてると、なんだか新婚さんみたいだね。」
そんな夏海の他愛の無い言葉も元気になった証拠だと俺は笑って眺めていた。
146 :
すりこみ:2007/06/04(月) 01:57:12 ID:APrSEPmV
「駄目〜!絶対に駄目だからね!母さんはそんなこと絶対に許しませんからね!」
珍しく真剣な表情で大反対しているのは俺の母親…といっても義母の藤岡晶子だ。
そうだ。夏海は母さんの連れ子で俺と夏海は本当の意味での兄妹(きょうだい)ではないのだ。
その当時、母さんは親父がいなくなって昼だけでなく夜も働かなければならなくなっていたのだ。
その当時の母さんはどうみても10代後半にしか見えず…いや、今でも20代前半にしか見えないのだが
「当店は20歳未満の方はお断りしているんです。」
そう言われるたびに頬を膨らませて免許証を提示しなければならなかったそうだ。。
実際、俺も何度も一緒に買い物に出かけて姉弟(きょうだい)に間違われたもんだ。
そんな母さんも職が決まり、帰宅が深夜二時から三時頃、それから家事や家の片付けをする生活が始まっていた。
母さんが寝る頃には夜が明け始めているなんてことは珍しいことではなかった。
そんな母さんの姿に俺は母さんに学校を辞めて働くことを告げた。
母さんだけが苦労するのは筋が違うと思ったから。少しでも母さんの力になりたいと思ったからだ。
しかし母さんは俺の言葉を聞くや否や大反対したのだった。
俺がいくら食い下がっても
「なら、せめて高校だけは出ておきなさい。働きたいのならそれからでも遅くは無いから…ね?」
と、妥協案を示し、最後には
「母さんにもそれぐらい…親らしいことをさせて頂戴♪」
そしていつものようににっこりと微笑むのであった。
この微笑みは母さんの
「これ以上は絶対に譲らないからね?」
という意思表示で決して自分の意見は曲げないという決意表明なのだ。
そんな頑固なところは夏海にきっちりと遺伝されており、改めて二人が親子だと感じる瞬間でもあった。
結局、母さんを説得して中退して働くことをあきらめた俺は、せめて今の自分にできることをしよう。それからはじめようと考えたのだ。
「夏海、親父がいなくなった分、俺たちで母さんを支えるんだ。いいか?夏海。二人で家の事とか自分たちでできることはやっていこう。」
夏海はそれを聞くと目を輝かせ、俺の胸に飛び込みにっこりと笑った。
「うん、お兄ちゃんといっしょなら…夏海は頑張れるよ♪」
そういうこともあってから俺とあいつで家のことを見るようになっていた。
夏海が料理担当。俺は主に清掃担当。
夏海はそういった家事を喜んでやるようになっていた。朝は早くお弁当と朝ごはんを用意し、学校帰りに食材の買出しに行く。
それまで引っ込み思案だった夏海が家事をするようになってから元気になった様子に俺も安心していた。
夏海は家事をすることで自分に自信をもっていったように思える。
加えて夏海は努力家だった。料理も母さんに聞いたりするだけでなく、本を買い、メモを取り、めきめきとその腕前を上げていった。
「へぇぇ、美味いよ…これ」
そんな賛辞を送るたびに夏海はえへへと、照れくさそうに微笑んでいた。
夜、一人で寝られないのは相変わらずだったが、昔のような暗い影はなりを潜めていた。
そのうち、口癖もだんだんと母さんに似てきたように思える。
「お兄ちゃん。今日はスーパーで特売の日だから買い物に付き合ってね♪」
「もう、お兄ちゃん!胡瓜残しちゃだめじゃない!」
「お兄ちゃん。明日のお弁当楽しみにしていてね?」
そんなしっかり者になっていく夏海の様子に母さんも細い目を更に細めて
「あらあら、夏海ったら…これならいつでもお嫁さんにいけるわね♪」
「私…お嫁になんかいかないんだもん」
「あらあら、じゃぁ…お婿さんを取ってくれるの?」
「もぅ、お母さんったらぁ…早く御飯食べちゃってよぉ、片付かないでしょ!」
そんな平凡だけど暖かい日常がずっと続くと思っていたんだ。
147 :
すりこみ:2007/06/04(月) 02:00:06 ID:APrSEPmV
「ねぇ、春樹君。君の家に遊びに行ってもいいかな?」
気がつけば菊池裕子は俺の家の前に立っていた。
菊池裕子はその当時、同じクラスで学級委員長をしていた女の子で、特徴を一言で言えば男勝りな性格だった。
背は低く体重もおそらく軽い奴なのだが内側に秘めたエネルギーは永久機関を思わせるほどで
四六時中元気を辺りに振りまいているような印象を与える面白い奴だった。
また男女の区別なく友達の多い奴で俺もその例に漏れず菊池とは親しい友達付き合いをしていたといっていいだろう。
俺と菊池は単純にクラスで席が前後という以上の間柄ではなかったが、ただそれだけでしょうも無い話題で盛り上がっていた。
そんな菊池が俺の家の前に立っていた。
「って、なんでお前がここに居るんだよ」
「なんでって…ほら、前に言ってたじゃん。あの漫画読ませてくれるって。」
こいつは女のクセして少女漫画よりも少年漫画をよく読むような奴だった。
確かにそういう約束をしたような気もするがそれにしてもわざわざ家にまで来るか?
と思ったが無下に扱うわけにもいかなかった。
「まぁ…いいけどさ」
「そっか、それじゃぁお邪魔しまっす♪」
って、もう入る気満々かよ…と、突っ込む間も無く菊池は我が家に足を踏み入れていた
「んじゃ、取ってくるから大人しく待っててくれよ。」
「了解っす。大人しく待ってるから。」
にこりと愛嬌のある笑みで頷くと大人しくソファーに座り麦茶をストローで飲む菊池。
初めて女友達を家に招き…いや、招いてはいないんだが…入れた緊張から微かに心臓が高鳴る。
オイオイ、なんで俺は菊池なんか相手に緊張してるんだよ。
自分の心臓に手を当てると確かに少し動機が激しいように思える。
こつん
と自分の頭を小突き書庫に足を向ける。
書庫…かつては親父が使っていた書斎なのだが、今では俺と夏海の私物置き場と化していた。
がちゃ…
書庫の扉を開けると壁一面の本棚と、その前にもうず高く積み上げられた本の数々。そして無数のダンボールによって占拠されていた。
「うわぁ、またこれは…母さんだな」
母さんは何を隠そう衝動買いの達人で気に入ったものがあると迷わず購入してしまうといった奇妙な悪癖があるのだ。
これが高級品やブランド品を買いあさるのであればそれこそ家計の一大事なのだが、母さんが衝動買いするのは…漫画なのだ。
「あ、この表紙可愛い♪」
と、気に入ったものがあれば迷わずに購入。
しかし買うと満足してしまい結果的にこの書庫に積まれてしまうという…
まぁ、結果的に俺と夏海が読んで適時整理するといった流れが構築されてしまっていたのだ。
しかし、2週間入っていないだけでこの荒れよう…くっ…油断した。
俺は母さんの買ってきたであろう新刊を押しのけ目当ての漫画を探した。
くっそぉ…母さんめぇ、読んだら元の場所に戻せと何回言ったら…
いや、母さんはわかってるんだっけ。
まるで超能力者のようにこの混沌とした書庫の中から的確に目当ての品を見つけられる能力というか嗅覚というか直感。
理由を聞いたら
「う〜ん…なんとなく?」
確かに母さんは昔からぼぉっとしていて整理整頓が苦手で抜けているところもあるが妙なところで妙なスキルがあるんだよなぁ…
そんなことを考えながら10分ほど探すとようやく目当ての本を見つけることができた。
「菊池の奴…怒ってるかな…いや、待ちくたびれて俺の部屋とかあさってないだろうな…」
そんな妙な想像が頭をよぎる中、居間のほうから菊池の笑い声が聞こえてくる。
148 :
すりこみ:2007/06/04(月) 02:01:12 ID:APrSEPmV
「悪いな、待たせて。」
「ううん?おかげで君の自慢の妹さんと楽しくお話ができたからいいよ」
気がつけば台所には制服にエプロンをつけて台所で食材を冷蔵庫に仕舞っている夏海の姿があった。
夏海は俺に気がつくと少し怒った様子で
「もぅ、お兄ちゃん!お客様をほったらかしにしてなにしてたの?」
よく見れば新しいお茶とお菓子が菊池の前にきちんと置かれていた。ったく、わが妹ながらよくできた妹だ。
「いや、悪い悪い、ちょっとこの漫画を探すのに手間取っちゃって。あ、そうだ夏海。
今週末あたりにでも書庫を片付けないとまた大変なことになるぞ。」
「えぇぇぇ、お母さんまた買ってきたの?もぅ…でもしょうがないよねぇ。」
夏海はてきぱきと食材を片付け、俺たちに向き直り
「ねぇ、お兄ちゃん。菊池さんにご飯食べていってもらうの?」
菊池は少し驚いた表情を見せ、
「え?…でも、ご迷惑じゃない?」
俺の顔をじっと見ながら問いただしてきた。
「俺は構わないけど?って作るのは夏海だから味の保障はしなけどな。」
「もぉ、おにいちゃぁん!そんなこというならもう、ご飯作ってあげないからね?」
「だ、そうだ。遠慮せずに食ってけよ。母さんも今日も帰ってくるのは遅いし、大勢で食べた方が飯は美味いだろ?」
「じゃぁ…お言葉に甘えようかな…」
菊池はそういうと立ち上がり、台所に行くと腕まくりをして夏海の横に並んでいた。
「何か僕にも手伝わせてよね。それを剥いたらいいのかな?夏海ちゃん」
「あ、ありがとうございます。じゃぁ、人参の皮を剥いてもらえますか?」
「と、いうわけだ。御飯が出来たら呼びにいくから君はその書庫とやらの片付けでもしていたらどうだい?」
ちぇっ…女同士結託しやがって…
「了解。じゃ、お兄さんは一人寂しく片付けてるから出来たら呼んでくれよな。」
そういって、俺は書庫へと一人戻っていった。
149 :
すりこみ:2007/06/04(月) 02:02:18 ID:APrSEPmV
菊池さんが急に飛び上がって奇妙な叫び声を上げている。
「ごっごッ…ごご……」
まるで幽霊でも見たみたいに菊池さんは飛び上がり、椅子の上で体育座りの姿勢になってがたがた震えていました。
「どうしたんですか?なにか居たんですか?」
そう私が聞いた瞬間、小さな黒い影が私の顔目掛けて飛んできました。
ぶぶぶ…
指先で摘んでみるとそれはアブラムシでした。
「菊池さん。あぶらむしだよ。」
へぇ、菊池さんってこんなのが怖いのかな?変なの…
そんな風に思いながら手のひらでそれをいつものように
くちゃっ…
と指際で握り潰し、ゴミ箱に捨てました。
手を洗っていると、菊池さんはなにか信じられないといった様子で
「な…夏海ちゃんは怖く…ないの?」
「なんで?あぶらむしだよ?害虫や泥棒猫はね?すぐに殺さなきゃいけないんだよ?」
私にはどうして菊池さんがそこまで怯えるのかがよくわかりませんでした。
「もしかして菊池さんって虫が苦手なの?」
「え…ぁ……ぅ…うん」
「そうなんだ、変なの〜♪」
水道の水に手をつけ、石鹸でごしごしと手を擦りながらくすりと笑ってしまいました。
あんなに大人っぽい人なのに虫が苦手だなんて…くすくす…
菊池さんはようやく落ち着いたのか、椅子から下りて再び私の隣に並びました。
「あはは、みっともないところ見せちゃったね。」
「いえ、誰でも苦手なものってありますから…」
とんとんとん…とリズムを刻みながら野菜を切り刻む。
「じゃぁ、春樹君にも苦手なものとかってあるのかな?」
「お兄ちゃんの苦手なもの?…なんだろう?あんまりお兄ちゃんはそういう部分見せてくれないですし…」
「そっかぁ、じゃぁ、好きなものとかって何かな?」
菊池さんが鍋をかき回しながら聞いてくる。
「ん…カレーライスとかクリームシチューとか好きですよ?お兄ちゃん、ああ見えて子供っぽいんですよ?」
「へぇ…それは以外だな…ふふ…じゃぁ、今作っているのも…」
「はい。カレーライスです。茄子とひき肉のカレー…お兄ちゃんの大好物なんです。」
「夏海ちゃんは優しいんだな…」
「そんなことないですよ…私もカレー好きだし…」
「…ねぇ…夏海ちゃん…少し聞きたいことがあるのだが…いいかい?」
「?…なんですか?」
「いや…まぁ…大したことじゃないんだが…」
菊池さんは少し照れたような仕草で鼻の頭を掻くと、すぅっと息を吸い込み
「春樹君に…好きな人はいるのかい?」
突然そんなことを私に聞いてきました。
「どうして…そんなことを聞くんですか?」
野菜を切る手が止まる。視点が揺らいでくる。
ああ…虫が…うるさい…
「実は…私は春樹君のことが…好きなんだ…」
耳鳴りのように虫の羽音が聞こえる。
うるさい…うるさい…うるさい…うるさい・・・うるさい…
うるさい…うるさい…うるさい・・・うるさい…うるさい…
うるさい…うるさい・・・うるさい…うるさい…うるさい…
うるさい・・・うるさい…うるさい…うるさい…うるさい
気がつけば目の前には虫の死骸。
汚らしい体液を撒き散らして潰れて死んでいる。
ゴミはゴミ箱に。
でも流し台の横のゴミ箱には既にいっぱいのゴミが詰まっている。
「捨ててこなきゃ…明日は燃えるゴミの日だし…」
私は引きずるようにしてそのゴミをゴミ捨て場まで運んでいった。
150 :
すりこみ:2007/06/04(月) 02:03:52 ID:APrSEPmV
投下完了。
全然デレの部分が足りない気もしますけど、ようやく折り返し地点。
頑張ってデレの部分に取り掛かります!
GJ!!!キモウトいいよキモウト。
しかし六人の彼女はすごいなーwww
実は全員ヤンデレだったりしてwwwww
アルティメットヤンデリズムにGJ!
>>151 いやぁ、ろくに争いもなく穏健に関係を続けてるんだからそれとは真逆だろw
全員が全員ご主人様の望む事を何より優先するタイプの性格ならありえるけど。
155 :
すりこみ:2007/06/04(月) 16:45:44 ID:APrSEPmV
投下します
156 :
すりこみ:2007/06/04(月) 16:48:19 ID:APrSEPmV
目が覚めると俺は自分の部屋の天井を見つめていた。
「…あれは…夢…だったのか…」
枕を触れば寝汗でぐっしょりと濡れていた。
服はいつの間にかパジャマに着替えられており、
制服はいつものようにきちんとハンガーに綺麗な状態で掛けられていた。
「あれ…俺は…昨日……菊池が…ぅっ!!?」
頭がずきりと痛む。喉がかすれている。関節が痛い。
ずきん…ずきん…ずきん…
この感覚に覚えがある。
記憶の欠落。
あの後俺はどうした…?思い出せ…思い出せ…思い出せ…!!
親父の書庫で本を片付けながら、つい読みふけってしまった俺。
汚れた台所には誰も居らず、焦燥感に駆られた俺。
予想通りの場所に佇む夏海。
そして壊れた人形…
そうだ…なにがおかしいことがあるんだ?壊れた人形はゴミ捨て場にあるべきなんだ。
なのに、俺は何かがおかしいと感じている。
そう、夏海は壊れた人形を捨てに来ただけじゃないか。
俺がそうしたように。
夏海もごみを捨てにきたんだ。
………………………………………?
いや、よそう。
もう、考えるのはやめよう。
夢だ。夢に違いない。ふぅ…まいったな…
そんなふうにベッドの上でうだうだしていると、微かに階段を駆け上がってくる音が聞こえる。
きっと、夏海だ。
「お兄ちゃん!?いつまで寝てるの?もぅ…アルバイトに遅れちゃうよ?
早くご飯食べて…って…お兄ちゃん?どうしたの…なんだか…顔色悪いよ?具合悪いの?」
心配そうに俺の顔を覗き込む夏海の顔。
そうだ、こいつがあんなことできるわけ無いじゃないか…
「あ…ああ…いや、ちょっと悪い夢を見たせいかな…」
「本当に大丈夫?アルバイト…お休みする?」
「いや、大丈夫。直ぐに降りるから。先に行っててくれ。」
「うん…でも、無理しないでね?あ、お母さん、さっき寝たところだから静かに下りてきてね?」
「ああ…すまないな夏海…あ、そうだ…ちょっと馬鹿なことを聞くけどいいか?」
「?なぁに?お兄ちゃん。」
「昨日…誰か家に遊びに来てたっけ?なんか昨日のことがよく思い出せなくって…」
夏海は本当に不思議そうな表情で、しかしはっきりと俺に言った。
「?昨日は誰も遊びになんて来てないよ?お兄ちゃん…もう、惚けるにはまだ早いよ♪」
そんなふうにあいつはくすくす笑いながら階段を静かに下りていった。
そうか…やっぱり俺の勘違いか…
ふぅ…とため息をつくと俺は素早く着替えて一階に下りていった。
夏海の作った朝食をかき込むと、弁当箱を引っつかんで家を飛び出した。
出掛けにちらりとゴミ捨て場を覗くとそこには何も残っていなかった。
「ったく…夢に決まってるだろ…しっかりしやがれ…」
後ろを振り返らず自転車に跨りバイト先まで全力で漕ぎ出す。
くだらない夢で遅れてしまった時間を取り戻すように。
流れる景色と額に触れる早朝の空気の冷たさが気持ちよかった。
また、今日も変わらない日常が続くはずだった。
学校で菊池が行方不明になっていることを聞くまでは…
157 :
すりこみ:2007/06/04(月) 16:51:58 ID:APrSEPmV
小泉八雲は考え込んでいた。
珍しく彼の周囲には彼の取り巻きの六人が揃っており、
皆楽しげに談笑していたのだが,彼は一人自分の世界で誰かと対話しているようだった。
そんな様子を見かねた一之瀬京子が恐る恐る口を開いた。
「あの…八雲様。何かお悩み事でしょうか…」
「ああ、少し妹のことでね…」
「香住様…のことですか。」
それだけで総て心得たと言ったように、
二階堂愛、三鷹梓、四谷楓、五代瑞樹、六道洋子はそれぞれに口火を切った。
「それで…八雲様はどのように考えておられるのですか?」
「香住様に諦めていただくか…藤岡様に告白していただくか…でしょうか…」
「ですが、藤岡様も香住様のことは憎からず想って居られるように見受けられましたが…」
「では、なぜ香住様の告白を袖になさったのでしょうか」
「藤岡様にはよく懐かれている妹君が居られます。おそらくそこに何かの原因が…」
「藤岡様は香住様よりも、その妹さんを愛しておられると?」
「いえ、その逆でしょう。その妹さん…夏海さんでしたわね。
お姿を幾度か拝見いたしましたがとても可愛らしい方でしたが…
ただ、私の調べたところによれば既に数人の殿方の告白をお断りされているそうです。」
「その理由が兄への偏愛だと?」
「確証はありませんが…ですが、同じクラスにいる私の妹からの情報によれば、
藤岡様への好意を示す言葉を口にした女子に対して釘を刺してきた…そうです。」
「釘?…要するに脅しですか?」
「仔細までは不明ですが、取らないで欲しい旨を告げられたそうですが、
どうもその際に夏海さんの眼が怖かった…というよりも、殺されると感じた…のだそうです。」
「殺される?それは穏やかではありませんわね。どうします?」
「普段の素行に関しては問題なく、寧ろ優等生といってよい方ですが…
どうも藤岡様のこととなると壊れておられる…そういった方なのですね?その夏海さんは…」
「ええ…ですから、藤岡様が香住様の告白をお断りになられたのは、その辺りのことを懸念してではないかと…」
「藤岡様では夏海さんを抑えられないのでしょうか?」
「普段から壊れている方ならいざ知らず、普通に接している限りではとても可愛い妹さんだそうですので…
邪険にもしにくいのでしょう。」
「それでは、私たちで夏海さんに対して何らかの措置を講じますか?」
「それこそ、藤岡様が黙っておられないでしょう。大事な妹さんであることに代わりはないのですから…」
「結論から言えば、夏海さんが藤岡様以外の方とお付き合いいただくことが最良の解決策ですが、
早瀬さんも袖になさったと聞いておりますし、それ以上の素材となると…」
「それは無理でしょう。そういった程度の方に靡くようであればここまで悩みはいたしません。
簡単に考えれば私たちに八雲様を諦めさせる手段と考えてもよいでしょうね。」
158 :
すりこみ:2007/06/04(月) 16:53:07 ID:APrSEPmV
ふぅ…と、八雲はため息をついた。
そうだ。夏海ちゃんはこの子達と同じ…いや、僕と同じく壊れた人間だ。
この子達や夏海ちゃんが諦めるとすれば…
それは僕や春樹の死か、或いは自身の死によってか…
理想であれば僕や春樹の手にかかって死にたいと思うのだろう。
僕だってそうなんだから…。
そんな彼女たちだからこそ、僕が
「夏海ちゃんを殺してくれないか?」
と頼めば躊躇うどころか喜んで殺しに行くだろう。
だが、それでは春樹が悲しんでしまう。
それは出来れば避けたいことだ。
なら僕はどういう結末を望む?
それは春樹と香住が幸せになることだ。
それ以外の結末は望めない。
春樹と香住が同時に幸せになるにはあの二人が付き合わなければならない。
僕が愛する春樹と、僕の魂の分身である香住が付き合うことで僕は満たされる。
僕が春樹と付き合っても、香住と付き合っても駄目だ…
香住には春樹の子供を産んでもらわなくてはならない。
僕には春樹の子供を産んであげることはできないのだから…
そうだ僕が幸せになるには春樹と香住が笑っていられる世界が必要なんだ。
春樹は香住が好き。香住も春樹が好き。
であれば、やはり邪魔なのは夏海ちゃんだけか…
誰がやる?僕か?彼女たちか?…いずれにせよ上手にやらないとね…
でないと、僕が春樹に殺されてしまうよ…
いや…まてよ?それも悪くないな…ふふ…僕が春樹に殺されるのか…
それもいいな…
その場面を思い描くだけで…
小泉八雲は勃起していた。
159 :
すりこみ:2007/06/04(月) 16:55:27 ID:APrSEPmV
投下完了です。
まだ、もうちょい続くのですが…
だんだんと自分でも本当にヤンデレ?
とゆーか、デレ少ない(見当たらない)と思うのですけど
一応、ヤン&デレのつもりです。
160 :
名無しさん@ピンキー:2007/06/04(月) 18:16:32 ID:bjQ7XcoA
ちょwww八雲が一番やべぇwww
GJ!!ってか6人の彼女もみなヤンデレ会!
コワスでもwktk
162 :
名無しさん@ピンキー:2007/06/04(月) 18:38:33 ID:U7aMV7Sp
キモウトVSヤンデレw
どっちが勝つのかwktk
GJ!!!151だが、宝くじに当たった気分だwwwww
しかし八雲タソもヤンデレとは恐れいりますた。
まさにヤンデレハーレム!!!!
>>158 このSS、マトモな人間がいねぇ……!
GJ!
>165
凄いほめ言葉だwwww
唯一まともっぽい香澄ちゃんに期待w
果たして彼女は想いを遂げられるのか!
香住ちゃんだった……
誤変換申し訳ないっす。
途中まで八雲が実は女でしたー、という淡い妄想をしていたが……
イヤ、これはこれでいいかもしれん……
つーかイメージ的に薔薇のマリアのアジアンだなぁ
またマイナーなのをたとえだすなww
>>169 こんなところでその名を聞くとは
これはGJ!
>まだ、もうちょい続くのですが…
この話が「もうちょい」程度で収まるなんて想像できないw
早く続きこないかな、wktkが止まらない
173 :
すりこみ:2007/06/04(月) 23:58:22 ID:APrSEPmV
投下します。
174 :
すりこみ:2007/06/05(火) 00:01:12 ID:APrSEPmV
ぶんっ…!と凶器を振り下ろすと、それは西瓜のように紅い中身を曝け出した。
ぶん…ぐちゅり…ぶん…ぐちゅり…
奇妙な音を立てながらそれは潰れていく。
潰れながらもその指先はまだ動く。
ぴくり…ぴくり…
ぎゅっ…
指先に力を更に込める。
ぐちゅり…ぐちゅり…
行き場を失った体液が内側から溢れ出す。
それはまだ微かに動いていた。
助けて欲しいと懇願するかのように。
何故死ななければならないのだと嘆くように。
しかし、同時にそれは喜んでいた。
まるで、それを待ち望んでいたかのように…
まるで、それを待ちわびていたように…
やがて、それの時間はゆっくりと止まっていく。
ゆっくりと…ゆっくりと…
まるで電池の切れかけた時計のように。
やがてそれは完全に動きを止めた。
くっくっく…あははははは…あははははははははははは
笑い声が響く。押さえようとしても内側からこみ上げてくる。
何故だろう。何故こんなにもおかしいのか。何故こんなにも楽しいのか。
手に伝わる肉が潰れる感触も。断末魔の叫びも。溢れる血の匂いも。
その表情も。その壊れた身体も。その潰れた眼球も…あはははははは!!
やがて、それが完全に死んだことを確認した後、
遊びつくした玩具を捨てるかのように、
それをゴミ捨て場に捨てに行ったのだ。
175 :
すりこみ:2007/06/05(火) 00:02:35 ID:APrSEPmV
小泉八雲、一之瀬京子、三鷹梓 六道洋子 はいつものように午後のお茶を楽しんでいた。
「それで…間違いありませんか?」
「ええ、二階堂さん、四谷さんに続いて五代さんも昨日から家には戻られていないそうです。」
お茶を優雅に口元に運ぶと、三鷹梓は言葉を続けた。
「菊池さんを含めると行方不明者はこれで4名ですね。」
「やはり…といいますか、夏海さんに返り討ちにあったと見るのが妥当でしょうか?」
「それであれば自業自得ですね。八雲様からの指示なく動いた、云わば抜け駆け…独断専行の結果ですから…」
一之瀬京子は八雲の顔色を窺うと、八雲はいつものようににっこりと微笑むだけだった。
「あの3人が死んだと断ずるにはまだ早いのではないですか?」
「あら貴女はあの3人がまだ生きていると考えているの?」
「ええ、私なら拷問の末に殺しますから」
クッキーを齧りながら、楽しそうに自分の趣味を語り始める六道洋子を横目に一之瀬京子が話を進める。
「あなたのいい趣味はさておき、本当に…夏海さんがあの3人を殺したのですか?」
「あの人以外の誰があの3人を殺しまふの?」
「私たちの誰か…という線はありませんの?」
「…八雲様とのルールを無視する度胸のある人がここに居ると?」
「確かに…ですが、あの子にあの3人を殺すことが出来たとはどうも考えにくいのです。」
「油断があったのではないですか?」
「その可能性は捨て切れませんが…では、どうします?」
「春樹さまに事が露見しないうちに、夏海さんを誘拐、監禁。出来る限り外傷を抑え、可能であれば洗脳。最悪、春樹様の傍を離れるように説得する…」
「…やはり、一人で事を起こすのは困難ですね。」
「ですが、これが最も八雲様の意向にそった方針なのでは?」
八雲は微笑みながら微かに
こくん
と頷いた。
「…では、いつ決行しますか?」
「善は急げと申します。今夜はいかがですか?」
「ええ、丁度今夜は曇りですわ。」
「獲物はどうしますか?」
「まずは誘拐ですからクロロフォルム、ガムテープ、ブラックジャック、スタンガン程度でよろしいのでは?」
「移送手段は?」
「車は私が用意いたします。」
「免許は?」
「そんなもの必要ありません。動けばよいのです。」
「あとは香住様、春樹様に事が露見しないことが重要ですけど…」
一之瀬京子が八雲に指示を仰ぐようにその言葉を待った。
「香住なら大丈夫だよ。あの子はあれ以来、春樹とは距離をとっているからね。
それに春樹なら今日はアルバイトのはずだ。だから、6時から10時までの間に終わらせれば露見しないだろうね。
よろしく頼むよ?春樹の為に…いや…僕の為にね…」
八雲の言葉に一之瀬京子、三鷹梓、六道洋子の顔がぱぁっと輝く。
「はい!必ず…必ず成功させてみせますから!」
そう、声をそろえて宣言すると、喜び勇んで部屋を出て行くのであった。
そんな彼女たちの様子をいつもと変わらない優しい表情で見送ると、
携帯電話を取り出し電話をかける。
RRRRR……RRRRR…
呼び出し音を待つ間…その口元が緩み、
うふふふ…
と笑みがこぼれる。待つ時間さえも今は楽しい時間だった。そして…
がちゃ…という音と共に電話が繋がった…
176 :
すりこみ:2007/06/05(火) 00:04:11 ID:APrSEPmV
とりあえず、投下完了。
一気に投下したいのは山々なのですが、もーちょい
見直ししてから投下します。
相変わらず、デレ少なくて申し訳ないのッス。
お久しぶりです。13話を投下します。
第十三話〜無計画な2人〜
華に二度目の告白をされた。
それだけならいい。女性には何度告白をされても嬉しい。
俺が気になっているのは、華の告白に込められた想いの強さだ。
華に初めて告白されたとき、正直言って嬉しかった。だが、あまり真剣には受け止めていなかった。
男を美化するあまりに行われる、ごくありふれた告白と変わりないと思っていた。
しかし、昨日の華の様子を見ていると、その考えは吹き飛んだ。
俺のことを昔から思っていた、俺が他の女と付き合っていたとき悔しかった、
俺が就職して離れていったときには寂しかった。
どう考えても、幼馴染としての好意とは違うものだった。
執着心、嫉妬、怒り。
持てる感情の全てをぶつけるような華の様子は、普段の冷静なあいつとは程遠いものだった。
華の気持ちに対して、どう応えるべきなのか。
俺は華に対して好意を持っているが、華を性的な対象としては見ていない。
そんなものは付き合っていくうちに変わっていくだろうが、問題はそこではない。
華を受け入れてしまっていいのか、というところが問題だ。
あの時、かなこさんが死んでしまってもかまわない、とまで華は言った。
華とかなこさんが向かい合ったとき、絶妙のタイミングで爆発が発生していなければ、
華とかなこさんはぶつかっただろう。
その結果がどうなるのかはわからない。ただ、無事では済まないということはわかる。
取り返しのつかない事態になっていた可能性もある。
そう思うと、華の気持ちにどうやって応えるか、迷うのだ。
気持ちに応えるより先に華の性格を矯正してやるべき気もする。
それとも、華の性格が歪んだのが俺のせいだというなら、気持ちに応えるべきなのか。
だが、それだけの理由で付き合うというのもおかしい。
そんな不真面目な気持ちで付き合うのは、華に失礼だ。
……ふう。
肩の力を抜いて、ため息をひとつ。
大仰な動きをすると、店長に何を言われるかわからない。
ただでさえ今日は遅刻して大目玉をくらっているというのに。
俺は今、アルバイト先のコンビニでレジ当番をしている。
菊川の屋敷から十本松の案内に従って自宅に帰って、最初に思いついたのは今日はアルバイトの日だということ。
昨晩はかなこさんに襲われたせいもあり、体はとてもだるかった。
それでも体に鞭を打って全速力で自転車をこいで来られたのは、店長の教育の賜物だろうか。
レジのカウンターに立って雑用をしながら、昨日のことを思い出す。
かなこさんとの情事、前世の絆、華の告白、爆発事件。
どれもこれもが日常とはかけ離れているものばかり。そして、全てが俺と無関係ではないということ。
俺自身がどう動くべきか、それすら決まっていない。
午後4時。アルバイトを終えて、今は事務所の椅子に座っている。
今日は午前8時から12時までシフトが入っていたが、家に帰りついたのが11時だったため、
繰り下がって12時から午後4時までのシフトになった。
どうやら、香織が俺の代わりに入ってくれていたらしい。
本当に香織には世話になりっぱなしだ。後で何かお礼をするとしよう。
事務所のテレビをつけて、ニュース番組にチャンネルを合わせる。
予想通り、菊川邸で発生した爆発事件のことを報道していた。
今朝の午前7時ごろ、菊川邸にて二度の爆発が起こった。
犯人の名前や、犯行の動機などは不明。
死傷者の数は報じられていない。
二度の爆発以降、目立った破壊行為は見られない。
他の局にチャンネルを合わせてみても、内容は同じだった。
どこでも人的被害についての情報は一切流れていない。
せめて、かなこさんが無事かどうかだけでも知りたかったのだが。
俺が気になるのは、犯人の正体だ。一体誰が菊川家に爆弾をしかけたのか。
テレビでは菊川家当主を狙ったテロだ、恨みによる犯行だ、無差別テロだ、
と色々な可能性が議論されていたが、どれも的を射ていない。
被害者が公表されていないのが意見の混乱を煽っているのかもしれない。
せめて知り合い――かなこさんと十本松が無事でいてくれればいいのだが。
「あ」
今思い出した。十本松に無事に帰りついた、と連絡することを忘れていた。
アパートに帰り着いてから、すでに5時間が経っている。
いつまでに連絡しろとは言われていないが、早めに連絡した方が良いだろう。
「……連絡が遅れてすまん。……11時に帰り着いたぞ、と」
簡単な文章を打って、十本松宛のアドレスに送信する。
送信してからあまり時間を空けずに、メールが着信した。
十本松か?やけに早いな、もしかして連絡がくるまでじっと待っていたのだろうか。
携帯電話を見つめながらじっと待つ十本松……想像できるのがなんだか嫌だな。
メールを開いて送信者を確認する。送り主は十本松ではなく、華だった。
なんとも絶妙なタイミングで送ってくるものだ。
それに、華が俺にメールを送ってくるなんて珍しい。
アドレスを交換してから一度もメールを送ってこなかったのに。
本文には『おにいさん、アルバイトは終わりましたよね? 早く帰ってきてください』と書かれていた。
なんで華がアルバイトの終わる時間を知っているんだ?
アパートに帰ってきたらそれぞれ自分の部屋に入ったから、華は俺の部屋には入っていないはず。
カレンダーにはシフトの時間を書いているが、それを見なければわかるはずがないのに。
まさか部屋に入りこんだりは……さすがにしないか。
店に出て缶コーヒーを買って、事務所に戻って、缶コーヒーを飲み干しても十本松から連絡はなかった。
無理もないか。なにせ十本松は菊川の屋敷に部屋を持っているんだし、かなこさんとも知り合いだ。
事情を聞いたり、聞き出されたりで忙しいんだろう。向こうからの連絡待ちだな。
缶コーヒーをゴミ箱に突っ込んで、さて帰ろうか、としたとき。
「雄志君。ちょっと待ってくれないかな」
後ろから肩を掴んで、俺を制止する人物がいた。
振り返る。腰に手を当てて、俺を見つめる香織がいた。
俺の経験に基づく推測によると、香織は不機嫌なようである。
「最近、雄志君は遅刻が多すぎるよ」
「すまん。今朝はいろいろあったんだ」
「いろいろって、何?」
「えっと……」
まさか昨晩俺の身に起こったことを言うわけにもいくまい。
とりあえず、事実をぼやかして伝えるとしよう。
「友達と一晩中飲んでたんだ。そのせいで起きたのが11時だったんだ」
「嘘っぽい」
勘づかれた?そこまで俺は顔にでやすい人間だったのか?
「雄志君に、ボク以外でそこまで仲のいい友達、いた?」
「……ああ、そういう意味か」
何気に失礼な発言だな。
俺に友達がいないみたいじゃないか。……あながち外れてもいないけど。
「もしかして、その相手って……華、ちゃん?」
「は?」
「華ちゃんじゃないの? 一緒に飲んでいた相手って」
「なぜそうなる。あいつはまだ未成年だぞ」
正論を言ったつもりだった。
が、香織は疑惑の眼差しを俺に向けたままである。
「お酒に酔った華ちゃんを、無理矢理どうにかしようとしたとか……」
「そんな犯罪行為に身を染めるほど俺は馬鹿じゃないぞ」
第一、華にそんな手が通用するはずがない。
「華ちゃん、可愛いから。雄志君が華ちゃんを選んだとか」
「……安心しろ。まだ選んではいないから」
言い聞かせるように静かな口調で言う。
香織は俺に好きだと言っていた。だから隣に住む華のことが気になっているんだろう。
俺自身、自分の気持ちに整理がつかない。いろいろありすぎて。
香織を選ぶか華を選ぶか……かなこさんの思いを受け入れるのか、迷っている。
香織は俺の言葉を聞いて、少しだけ表情を柔らかくした。
「あ、そ……そうなんだぁ、よかった……」
安堵した表情。香織が変わっていないことに、つい和んでしまう。
俺と香織の関係は、少しずつ変わっているのだろう。
変わって、変わって……最後にはどうなるのかはわからないけど、悪いことではない。
できるなら、良好な関係でいたいものだ。
香織は自分のバッグを持つと、事務所から出て行こうとした。
「じゃあね、雄志君。……また」
俺は香織を見送ろうと思ったが、あることを思いついた。
「香織、今から予定があるか?」
「え? ううん、今日は特にないけど」
「じゃあ、どっか遊びに行かないか」
香織は俺を見つめながら、何回か瞬きをした。
そして。
「いいの!? じゃあ、今が、っら」
噛んだ。
香織は口を抑えながら後ろを向いた。
何度かうめき声を上げるとようやく回復したのか、俺に向き直って口を開いた。
「今から、付き合って欲しいお店があるんだ」
「いいぞ、どこだ?」
「あのね……」
耳に口を寄せて、香織が伝えた場所。
俺はそれを聞いて、自分の発言を後悔した。
誘う前に、せめて目的地だけでも設定しておけばよかった、と。
・ ・ ・
俺の住むアパートからバスに揺られて、50分ばかりして降りると、隣町の駅前に到着する。
駅前を歩く人々の人口密集度はなかなかのもので、それに比例して店舗も集まっている。
そのうちの一つの店舗。歩道を歩く人から見ればいかにもな喫茶店。
しかし、その実態は喫茶店ではない。実は甘味処である。
店のドアに張り付いているお店の名前は、この町ではところにより有名なもの。
あえて名前は伏せる。重要なのは名前ではない。
『カップル限定 40%OFF』と壁に貼られているチラシの方が重要なのだ。
言うまでもなく、熱々のカップル達が集う場所である。
そして、香織の手によって恋人でもないのにここに連れてこられた。
意図はわかる。恋人としてお店に入りましょう、ということだ。
自分の注文したショートケーキを食べ終え、コーヒーを飲みながら目の前の女を見る。
甘いものを食べられる嬉しさによるものか、俺と一緒にいるせいなのかはわからないが、
幸せそうな顔をしている。
女の前にはパフェやらモンブランやら、甘いものが大量に並んでいる。
その全てに少しずつ手をつけながら、女は言う。
「おいしーっ! やっぱりおごりで食べるのって素晴らしいね!」
普通の店――1人でも入れるところなど――であれば、香織が出している大声は迷惑だろう。
だが、ここは一種の異空間。まわりでもカップルが似たような声を出している。
テーブルによっては女の子だけの集団もあるが、女の子にとって甘いものは麻薬の一種なのか、
値段を気にせず食べているようだ。
対して俺は、香織の胃がいつになったら満たされるのか、と不安になっている。
香織に向かって奢るなんて、言うもんじゃないな。
近くを通った店員にコーヒーのおかわりを注文する。
店員はかしこまりました、というと俺と香織を見て、微笑んだ。
予想どおり、恋人同士に見られているらしい。この店に男女で入ったらそう思われて当たり前だが。
店内にいる人間で、俺たちのような関係にあるカップルはいくらいるのだろう。
窓際に座っている中性的な顔をした男と、男の向かいに座る背の高い女などは姉弟なのではなかろうか。
が、女がフォークでケーキをくずし、ケーキを男の口に運ぶ様から鑑みるに、やはりカップルだ。
日本にはここまで甘い空間が存在していたのか。
そして俺は甘甘な空気に満ちた店で何をしているのだろう。
俺が思案に暮れていると、店員がコーヒーを持ってきてくれた。
息を何度か吹きかけて少しだけ飲む。甘い。
この店ではコーヒーは甘いのがデフォルトであるらしい。
コーヒーを注文して加糖したコーヒーが出てくるというのはいかがなものか。
そんな些細なことすら脳内議場で議論対象になるほど、今の俺はおかしい。
香織を見る。チーズケーキをフォークでつついていた。
ぼんやりと観察していると、香織が口を開いた。
「欲しいの? チーズケーキ」
「いいや。チーズケーキは好きだけど、欲しいわけじゃない」
「ふーん……」
香織は俺からチーズケーキへと視線を移した。
薄い黄色のスポンジを切り、フォークで突き刺す。
それは香織の口へと運ばれていくのだろうと思った。が。
「なんで、俺にそのフォークを向ける?」
「あーん」
「……いや、食べないぞ」
「あーーん」
こいつ、俺にいわゆる恋人的な行いをさせるつもりか?
冗談じゃない。そんな恥ずかしいことができるか。恋人でもあるまいし。
俺が口を頑なに閉ざしていると、香織の声が沈んできた。
「……あーん、してよぉ……」
涙目で見ないでくれ。突き出したフォークを小刻みに動かさないでくれ。
周りの人たちの視線が痛い。遠巻きに俺の行動を期待するのはやめてくれ。
香織の口から、小さな嗚咽が漏れた。途端、周りの空気が濃くなる。殺気さえ感じられる。
……くそう、覚えてろ、香織。
少しだけ身を乗り出して、軽く口を開ける。香織の顔がまぶしいほど輝いた。
「あーん」
という、香織の声と共にチーズケーキが口の中に運ばれた。
「美味しい? 雄志君」
半眼で香織を見つつ、頷く。
チーズケーキは美味しかった。だが、香織の行いが影響しているわけではない。
考えを口に出すことはこの場ではばかられるので口にしないが。
まだ食べる、という香織を半ば引きずるかたちで店を後にする。
携帯電話で時刻を確認すると、すでに7時。1時間近くは甘味処に居たことになる。
40%引きとはいえ、香織の食べたケーキがあまりに多かったせいで俺の財布から紙幣は消えてしまった。
香織の体のどこにあれだけのエネルギーが収まるのだろう。……たぶん胸だな。
そういえば華は小食だった。だから胸が慎ましいサイズなのか。納得。
隣で歩く香織のふくらみを見ていると、手のひらで視界を覆われた。
「……えっち」
「誰が?」
「雄志君に決まってるでしょ! なんでボクの胸をじーっと見てるのさ!」
なんとなく。というのが答えだが、別の答えを返してみる。
「悪いか?」
「え? 悪くは、ないけど……じゃない! 悪いに決まってるじゃないか!」
「はいはい、もう見ませんよ」
香織から目をそらして、町並みに目を向ける。
7時を過ぎると日はすでに沈んでいて、空には月と星が浮かんでいた。
駅前に並ぶ店の前には看板がある。ネオンの紫、青、緑の色が看板を彩っていた。
周りを歩く人たちはまばらになったが、構成は変わっていない。
スーツを着たサラリーマンやOL、自分で選んだファッションに身を包んだ同年代の男女、
学校帰りの小中高校生、道路脇で客を待つタクシーの運転手。
人の流れに乗りながら歩き、駅前のロータリーでバスの時刻表を確認する。
アパートの近くへ行くバスの、最終時刻は……
「……6時、45分」
「だね」
明るい声でうなづく香織の声を聞きながら、俺はうなだれた。
自宅までの距離は、バスで移動して50分ほど。移動するための手段はバスしかない。
自宅近くには駅がないので電車は利用できない。
ヒッチハイクは上手くいくとは限らない。リスクも大きい。
となると、タクシーか?
「香織、いくら持ってる?」
「えっとね……4000円と小銭が少々」
「俺は帰りのバス代しか残ってない」
「……タクシーの料金、足りるかな?」
「わからん。でも香織の家にいくらか置いてあるだろ。家に着いてから払えば大丈夫だ」
「無いよ」
髪の毛を揺らしながら首を横に振る香織。こいつ、なんて言った?
「残りのお金は全部銀行に預けてあるから、部屋には置いてない」
「……ほう」
「雄志君は?」
「香織と同じ」
見つめあいながら、沈黙。そして、自分達の無計画さに、後悔。
料金がいくらかかるかわからないタクシーに乗って帰るか。潔くこの町で一晩過ごすのか。
心の中で、救いの手を差し伸べてくれる人が現れることを望んだ。
今時、そんな甘い話はないよな、と自覚しながら。
13話は終了です。
次回もこんな感じかもしれませんが、しばらくお付き合いください。
すりこみ氏andことのはぐるま氏一番槍GJ!!
こんな良作品を連続で見られるなんて幸せ。
続き待ってますね〜
wktkと書き込んでからすぐに投下が来て凄くびっくりしました
お二方ともGJです
なんだなんだこの投下ラッシュは
素晴らしいGJ!
>>176 男のヤンデレなんて見たくないと思っていたが八雲には負けたw
>>183 雄志が自爆している件w
wktk
スマソorz
4月1日ネタだと思ってたんだが…
本当に作る気なのか
ダンスしてるドット絵が可愛いなw
>>191 aboutにある一番下のリンク先とか。
止マナイ雨ニ病ミナガラとか、最早立派なヤンデレゲー。
早く出ないものか。
なんというタイムリー・・・・
結婚か?
>>193 ガイシュツ。
そして、そこの分派も既にガイシュツ。
現在のヤンデレゲーは同人で一つ、VIPで二つが開発進行中。
スマソorz
>>183 香織ファンにはたまらない展開にwktk
sage忘れたorz
何も言いません。ごめんなさい。投下します。
■■■■■■
祐人が首輪に繋がれて4日が過ぎた。時間は平穏極まりなく過ぎて行く。
「祐人」
「ああ真弓、愛してるよ」
姫野真弓がせがむような目をして見上げれば聖祐人は彼女の頭を撫でながら応じる。
それこそ機械的に、反射的に。だがあくまで手つきや声はやさしくまるで恋人のように。
真弓は満足そうに笑いながら甘えかかる。
真弓は、祐人がやっと素直になってくれたと思っている。
祐人は、助けが来るまで波風立てずに生きれば良いと思っている。
その2人を姫野亜弓は薄く笑いながら見ていた。
「仲が良いのね…」
そう呟くと亜弓は自室に下がろうと席を立った。
祐人はまだ気付いていない。彼はこの異常な状況が早くに終わると思っている。
彼がまだ芯から変わらないで居られるのはいつかこの状態が終わると思っている
からだった。それまでは機械的に真弓に従う。終われば全て忘れて元に戻れば良い。
無駄に抵抗して痛い目に合うのは避けたい。
だが、彼はまだ気付いていない。真弓に好きだと告げるたびに上辺から少しずつ
変化していくことを。虚構だって何度も重ねれば少しは本物に見えてくることを。
祐人は理性の鈍い頭に自分自身で暗示をかけているようなものだった。真弓、愛してると。
時間をかけたり衝撃を与えれば上辺からの変化だって芯に届くことがある。もしそれに
気付いていれば名前を呼んで頭を撫でて好きだと告げて自分の中の何かを少しずつ
真弓に渡すことがどんなに危険かわかったろうに。
亜弓は少し憐れむような笑みを浮かべた。
「仲が良いのはいいことだと思うわ」
そのうち、何もかも普通になる。
今日も昨日と同じように寝て、明日も同じように起きるのだろう。
亜弓の読みではそろそろ真弓が焦れて次の手段に出る頃だ。
それと恐らく、外の世界も動くだろう。今日か明日か明後日か。
■■■■■■
■■■■■■
首輪に繋がれてから5日が過ぎた。真弓は今は学校だ。今日は亜弓まで外出していた。
おそらく彼女が外出するのはこの何日間かで初めてだろう。
祐人はぼんやりと考えた。彼は相変わらず真面目に食事をとっていたので
テキパキと思考を組み立てることなど到底でくなかったのだが。
ああ、とふと思いつく。自分の今の姿勢が何かに似ていると記憶を転がしていたが
あれだ。何かの映画で見た拷問具の椅子だ。あまりに簡単な連想なのに
思いつかなかった自分に苦笑する。
背もたれに首輪、両手首両足首をも拘束されてる姿勢なんてそうは無いだろう。
むしろそのものズバリと言うべき合致なのに。思考力が鈍っているどころの騒ぎではない。
まるっきり無いじゃないか。
5日目だ。もうすぐこの生活も終わるはずだ。朝起きて、日によっては椅子や
ベッドに磔にされて真弓を送り出して亜弓と昼食をとって帰宅した真弓と会話して
時折頭を撫でて好きだと言う生活もあと少しで終わる。休日ですら登校という部分が
抜け落ちただけでほとんど変わらなかった。
早く時が過ぎて終わりが来るように祐人は祈った。
■■■■■■
■■■■■■
「それでね、お姉ちゃん」
「真弓……学校の話はもういいから早く本題の相談を始めたら?」
祐人が家で椅子に繋がれている時、亜弓は真弓と向かいあって近所の喫茶店にいた。
「わざわざ私を外に呼び出したんだもの……学校の話がしたかったのでは無いでしょう?」
亜弓が微笑むと顔を赤らめてうつむいたまま真弓がポツリと言った。
「……祐人さ、なんで私に手を出さないんだろう。やっぱり私色気無いのかな?」
「真弓は体薄いから……腰も細いし。でも少女特有の色気みたいなものはあると
思うのだけど。手足が細い方が危うい感じがしてぐちゃぐちゃに犯したくなる
ものじゃない……?祐人くんがそういう好みかはわからないけれど……
でも胸もちゃんとあるし……」
「お姉ちゃん……よくそんなことためらいもせず言えるね」
「あらでもそうだと思うわ。肌も綺麗だし鎖骨の形綺麗だし……舐めたくなるもの」
「お願いですもうやめて下さい」
真弓は耳まで赤くなってうつむいて少し肩を震わせていた。
「真弓……可愛いわね」
「なんで久しぶりにたくさんしゃべると思ったらそんなことなのよ!」
「涙目になって……よくこれで祐人くんも耐えられるわね」
「褒めてどうするのよ」
「わからないわ。祐人くんだって手を出しかねてるだけかもしれないじゃない……」
「じゃあどうしたらいい?どうしたら先に進めるかな?」
顔を正面から見るのが恥ずかしいのか少し斜め下に視線を逸らしながら聞く。
「真弓から迫ってみたら?」
「女の子からなんて……出来ないよ」
「でもこのままだと真弓は我慢出来ないのでしょう……?
大切過ぎてかえって手が出せないのかもしれないわ」
「私から仕掛けるの……ありだと思う?」
「私は思うわ」
真弓は顔を赤くしたまま口の中で無理だよ、と呟いた。
■■■■■■
■■■■■■
投下は以上です。
本当にごめんなさい。一万と二千回謝っても足りませんね。
書きかけ放置だけはしない約束をします。
恋人作りだ! リアルタイムGJ!
真弓が祐人を……何て展開だ!wktkするしかないじゃないか!
謝るなんてとんでもない。これからも作者様のペースで頑張って下さい!
>>207 待っていた……お前のような作者が戻ってくることを……
祐人はすでにグロッキー。対して真弓はやる気まんまん(性的な意味で)。
逆レイプ、くるか?それとも薬物が出るのか?楽しみだ。
210 :
すりこみ:2007/06/06(水) 10:22:16 ID:CEzbNnHt
投下します
211 :
すりこみ:2007/06/06(水) 10:23:22 ID:CEzbNnHt
「ねぇ、春樹君。君の家に遊びにいってもいいかい?」
「…それはなんの冗談だ?」
「冗談?僕が君に冗談を言ったことがあるかい?」
「…いや…覚えがないな。」
気がつけば小泉八雲…いや、小泉八雲の姿をした香住が俺の家の前に立っていた。
「だろ?まぁ、この姿で居るのには訳があるんだけど…君にならわかるだろ?」
「…ああ」
「それじゃぁお邪魔するよ。あはは…なんだかドキドキするなぁ」
まるで本物の八雲がそこに居るように思えるほど、香住の立ち居振る舞いは八雲のそれとまったく同じだった。
「夏海ちゃんは今頃、駅前のスーパーで買い物だね。帰宅はおそらく5時半頃かな…」
香住は壁掛けの時計を見ながら独り言のように呟いた。時刻は4時8分を指していた。
「君の部屋に行くのがいいのかい?それともこの場所でも問題はないのかい?」
「部屋に行こう…」
「ん…なるほど…了解した。」
いつもと変わらないにこやかな笑みのまま、香住は俺の後ろをついてくる。
まるで本当にそこに八雲が居るような気分にさえなってくる。
「へぇ…思った以上に整理されていて綺麗な部屋だね…」
香住は遠慮なくベッドに腰をかけた。
俺はしかたなく、椅子を引っ張り、背もたれに身体を預けて香住と向かい合った。
212 :
すりこみ:2007/06/06(水) 10:26:17 ID:CEzbNnHt
「そんなことを言いに来たわけじゃないのだろ?今は…付き合えないと
…この家には近づくなといったはずだ!」
香住はようやく八雲の仮面を外し、柔らかい笑顔のまま
「はい、わかっております。私もまだ春樹さんと付き合えるとは思っておりません。」
そんな風ににっこりと微笑んだままベッドに寝転ぶ香住。
「ですから、今日は色々と確かめに参りました」
「何を…確かめに来たんだ?」
「藤岡冬彦…春樹さんのお父様ですが、5年前から行方不明。生きていれば45歳。
職業はサラリーマン…で間違いありませんか?」
「ああ…」
「冬彦という方は、見た目はよろしいのですけど、その中身に多少…難のあるお方で
…女癖がお兄様と同じく来る方は拒まない性格だったそうです。
その際に春樹さんがお出来になったそうです。」
「…それで……?」
「5年前に冬彦という方が行方不明になられたときはその女癖の悪さから、
新しい女と駆け落ちした…と考えられたそうで、現在に至っても行方不明…なのですが…」
香住は言葉を区切り、俺の顔を見つめて…
「私はそうは思わないのです。だって…春樹さん…」
「あなたが冬彦さんを殺した……そうですよね?」
「……」
俺の沈黙を肯定と受け取ったのか、否定と受け取ったのかはわからない。
だが、そんなことはどうでもいいというように香住は淡々とした口調で言葉を続けた。
213 :
すりこみ:2007/06/06(水) 10:28:09 ID:CEzbNnHt
「冬彦さんのことをさらに調べると…ある特殊な性癖の持ち主だった可能性が浮かび上がるのです。それはペドフィリア(小児性愛)の可能性です。」
…香住が小児性愛なんて言葉を使うなんて意外だった…いや、八雲なら使いかねないか…
香住と八雲…こいつはどっちなんだ…いや…今はそんなことはどうでもいい…
「冬彦さんが小児性愛の代償行為として晶子さんと結婚なさったのであればある意味…理性的な行動と考えられなくもないのですけど
…私はある仮説…というよりも直感なのですけど…冬彦さんが晶子さんと結婚なさった決定的な理由
…それは夏海さんにあったのではないかと考えているのです。」
「…何故そう思う…」
「女の感…といいますか…春樹さんと夏海さんを観察してみると何となくそんな風に感じるのです…」
「……」
「夏海さんの中身は様々なコンプレックスの集合体…ファザコン・ブラコン・ユディットコンプレックスが混ざり合った歪んだ感情。
夏海さんは春樹さんのことを愛している。
でも、心のそこでは男というものに怯えている…
それはおそらく…春樹さんと冬彦さんの面影がだんだんと重なってきているからではないでしょうか…」
「……」
「だから、夏海さんは春樹さんのことを好きだとしても直接的に行動を…同じ布団を共にしながら春樹さんを誘惑できない
…いえ、誘えないのでしょうね。もし、そういう関係に至っていれば…今はつきあえない…あなたはそんな曖昧な言葉は言わないでしょ?」
「……」
「にも拘らず…夏海さんは春樹さんを取られることを極端に恐れている…まるで春樹さんが居なくなると冬彦さんが戻ってきてしまうかのように
…くすくす…
春樹さんにとっては生殺しの状態ですよね。
夏海さんは身体を許さない…
なのに、他の女が春樹さんに近づくことを許さないだなんて
…くすくす…
本当に酷い仕打ちですね。」
「……」
214 :
すりこみ:2007/06/06(水) 10:30:30 ID:CEzbNnHt
ベッドに仰向けに寝転がり天井を見上げたまま、
香住は突然思い出したかのように口を開いた。
「そういえば菊池裕子さん…行方不明だそうですね?彼女を殺したのは…どちらなんですか?」
「どちら…?」
「はい、夏海さんですか?それとも…春樹さんですか?」
「何故…そう思うんだ?」
「菊池さんは春樹さんに好意を持っておられたそうです。だから夏海さんがそれをもし、何らかの形で知ったとしたら…
…例えば、家に遊びに来た菊池さんの口から聞いたりしたら…菊池さんはただじゃすまないでしょうね…。」
「そうじゃない!何故…なんで俺に菊池を殺さなきゃならない理由があるんだよ!」
自分の声が部屋の中にこだまする。息が荒い…くそ…くそ…くそ…。
香住は微かに不思議そうな顔を見せると
「春樹さんが菊池さんを殺す理由ですか?そんなのは決まっているじゃないですか」
香住はにっこりと微笑みながら
「そうしないと夏海ちゃんが菊池さんを殺したことになっちゃうじゃないですか。」
と、まるでその場に居合わせたのだといわんばかりに…
まるで俺の心を見透かすように…
「ですから…私は春樹さんの言葉…『今は…』というのは夏海さんが生きている間は
ずっと…そう理解しています。」
そんなとんでもないことを、平然と俺に言いやがったのだ。
215 :
すりこみ:2007/06/06(水) 10:32:34 ID:CEzbNnHt
「じゃぁ…お前も…お前もあいつらみたいに夏海を殺そうとしているのか…」
「私がそんなことをするわけないじゃないですか…」
「じゃぁ…あいつらは一体なんだったんだよ…」
「一之瀬さんたちですか?…あの人達は兄を愛しておられた方ですから…
きっと間違われてしまったのではないでしょうか…いえ、兄はきっとわかっておられなかったのでしょう」
「…間違えた?わかっていなかった?」
「ええ…決して夏海さんに手を出してはいけないってわかっていなかったんです。
だからお亡くなりになられたのですよね?」
「………」
「兄が私に手を出す何人にも容赦しないのと同じように…
春樹さんは夏海さんに手を出す何人も許さない…
夏海さんに手を出す者は殺されて当然…いえ、寧ろ殺すべき害虫…
そう…壊れているのは夏海さんだけじゃない…
寧ろ、夏海さん以上に壊れているのは春樹さんです。そのことを兄も理解していなかったんです。」
「ですが、いかがでしたか?プレゼント…喜んでいただけましたでしょうか?」
「…なにがだ…」
「電話…致しましたでしょう?夏海さんを誘拐、拉致しようとする不届き者が居ると…」
「……」
「一之瀬さんたちは二階堂、四谷、五代の三名を殺したのが夏海さんだと思っていたようですから
…きっと油断なさったのではないでしょうか?あの方たちの心意気は素敵なのですけど…
殺すことに関しては初めてだったようですから…」
「香住……お前…」
「それで…一之瀬さんたちはいかがでしたか?お電話差し上げた通りの時刻にちゃんと見えられましたか?」
「…お前…なにを言ってやがるんだ…」
「私一人ではあの方達を処分することは出来ませんでした…ですから私に出来ることをしただけです。
いつ来るかわからないのでは…厄介だと思いまして…」
216 :
すりこみ:2007/06/06(水) 10:35:01 ID:CEzbNnHt
「八雲は……八雲はどうした…」
「兄ですか?…兄は私がきちんとおしおきしておきましたのでご安心ください。」
そういって、香住はベッドに膝を立て、ズボンのジッパーをゆっくりと開き…
そこから真っ赤な血に染まった男性器を取り出した。
その勃起した男性器はまるで香住の股間から生えているかのように雄雄しくそそり立っていた。
「兄からの伝言です。これを貴方に受け取って欲しい…のだそうです。」
そういって香住はそれをそのままゴミ箱に投げ捨てた。
「ゴミは…ゴミ箱に捨ててよろしかったですか?」
「ああ……」
「他のゴミは…どこに捨てられたのですか?」
「ゴミはゴミ捨て場に捨てているぞ…?」
「ゴミ捨て場…ですか…」
香住は怪訝そうな表情を浮かべて、俺の言葉をかみ締めているようだった。
「?…それ以外のどこに捨てるって言うんだ?」
俺の言葉を遮るように香住はベッドから立ち上がり、服装を直しはじめる。
「そろそろ夏海ちゃんが戻ってくる頃だね。僕はそろそろお暇するとしよう。
それじゃ、春樹…また明日学校で会おう。夏海ちゃんによろしく伝えておいてくれないか?」
それは八雲の笑顔なのか、香住の笑顔なのかわからないまま
「春樹が性欲を持て余すようであれば僕が処理してあげてもいいと…」
その紅い唇が動き中から紅い舌がみえる。
「僕は夏海ちゃんのことも嫌いじゃないんだ…だから春樹…僕は八雲なんだ…
君の親しい友人の小泉八雲だよ。だから君が望むのなら…いつだってこの身体を使うといいさ。
…君のことだからまさかとは思うが僕のことが好きで一途に貞操を守り通しているとかそういうことはないよね?
いや、もしかしてそうだったのかな?それなら春樹…早く言ってくれればいいのに。僕も春樹のことを…」
香住と八雲の姿が完全に一致する。違いなんて見当たらない。
いや、はじめからこいつは香住だったのか?その笑顔もその声も八雲のものだ。
じゃぁ、香住は…香住はどこに居る?
いや、こいつは八雲で香住なのか…いや、香住が八雲なのか…何故だ…何故だ…
世界がぐらりと歪む。どうしてこいつは…何故……何故……何故…
…何故……何故……何故……何故……何故……何故……何故…
こいつらはこんなにも狂っている?
何故俺に…何故俺なんだ…何故俺でなければならないんだ…どうして…何故…
八雲の声が聞こえる。静かな世界の中で八雲の声だけがはっきり聞こえる。
まるで俺の心を見透かしたかのように
「春樹…君は炎だ。そして僕らは飛んで火に入る夏の虫なんだよ…その身を焦がしてでもその明るさに惹かれてしまう
・・・いや、寧ろその身を焦がすために火の中に飛び込みたいと願ってしまう…これは理屈じゃない…本能といってもいい
…僕も君のその歪みに惹かれているんだよ?春樹…」
気がつけば部屋の中には誰も居ない。
全てが自分の妄想であって欲しいと思った。
だが、ゴミ箱の八雲だけが…それが夢でなかったことを教えてくれた。
217 :
すりこみ:2007/06/06(水) 10:37:17 ID:CEzbNnHt
投下完了っす。
多分、次で完結予定(?)
蛇足を足そうか足すまいか検討中ですが、とりあえずシンプルに
最終章で終わらせる予定です。
正常な人間が一人もいない!(褒め言葉)
最近の作品投下スピードは異常
>>207 恋人作りが帰ってキター!
祐人がじんわりと洗脳されていっているのが怖い
でも真弓がんばれw
>>217 まさか香住まで病んでいたとは
もうこうなったら誰か一人だけでもいいから幸せになってほしい
実験作を投下。
エロもなければ脈絡も続きも補完もありません。
222 :
実験作:2007/06/06(水) 22:15:13 ID:cQRlnMcP
「あっはははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははは!!」
少女の哄笑が響き渡る。其れは闇に、地に天に。
黒く、暗いその眼の鋭さを彩るのは墨汁交じりの朱の色殺意。
はや沈み掛けの黄昏すら届かぬ、薄汚れた狭い路地の中にて、対峙するは二つの影法師。
其の片割れは退治の為に、もう片割れは泰事の為に。
響くたった一人のオーケストラは前者の壊れた喉笛より撒き散らされる。
ああ、ああ! それは人間の、人間のみに許されたカプリチオ。
狂想の曲は独唱を終え、第二幕をバイオリンを加えて始めたいと願う強く尊く醜い人の意思は数多を捻じ伏せ唯一。
既に弓は彼女の手に。弓の名は“草刈鎌”。
うるはしき其の御手にて喉の肉の弦を掻き切り給えよ人の御子!
さすればひゅう、ひゅうなる音、そなたの打ち倒さんとする肉塊より漏れ出でん!
「あっはははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははは!!
よくここまで逃げられたね逃げられたね売女ぁああああああ!
あっはははははははは! でも終わりだよお、すぐに、すぐにわたしと××ちゃんの世界から消してあげる。堕としてあげる。潰してあげる。抉ってへし折って叩き割って引き裂いて磨り潰して焼き尽くして撒き散らして……あああああああああ!!
わたしのばか、ばか、ばか!
本当に神聖な××ちゃんの名前をこんな溝鼠の前で言うなんて穢しちゃう!
それもこれも全部あなたのせいだよ、失せろ、失せろ失せろ失せろ失せろ失せろ失せろ失せろ失せろ失せろ失せろ失せろ失せろ失せろ失せろ失せろ失せろ失せろ失せろ失せろ失せろ失せろ失せろ失せろ失せろ失せろ失せろ失せろ失せろぉおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」
夕闇に煌くは鎌の刃、沈む陽の紅に飽き足らぬ貪欲が求めしは何か?
熟れに熟れたトマトの赤? 否!
天空に輝く蠍の心臓の赤? 否、否!
紅玉の如き葡萄酒の赤? 否、否、否!
其は偽者にあらず、真実人の血。
晩餐にて取り繕うな娼婦の子、大工の継子! 我らが血潮は何者にも代えられぬ!
飛沫くは赤。漏れるは赤。
求めに従い銀弧は飛ぶよ、其の刀身を乙女を貫き血に濡らす為に!!
「死ぃいいいいいいいいいいいいいいいいいねぇえええええええええええええええええええ!」
ああ、されどされど。されどされどされどされど!
悲しきかな哀しきかな人よ、人の力は人の御技によって御されるが定め。
其れは文字通り御す為の技なのだから。
「嗚呼、神よ感謝します。素晴らしい」
「………………っ!!」
振り下ろされたる死神の愛道具。
其れを容易く抜け、スケイプゴウトは己が裁定者を抱きしめる。
その硝子よりなお蒼い眼球に滲むは涙。其れは歓喜。
喚起するは万感の想い。
見ているのですか偉大なりしヴィーザル!
斯くして兄殺しの盲目者は己が咎の源、かつてヤドリギに貫かれしものに許されるということを!
「は、放せ……! 放せ放せ放せ放せ放せ放せ放せ放せ放せ放せ!」
「刃をお納めを。私はあなたの存在に非常に感激しているのですから……」
「……、何を言っているの。あなたが居なければ、あなたが奪おうとしなければ!!
うわあああああああああああ!!」
藻掻き藻掻くも万力はぴくりとも動かず。
宣教の真言は故に、否応無しに羊の耳に入り込む。
223 :
実験作:2007/06/06(水) 22:15:55 ID:cQRlnMcP
「私はあなたから彼を奪うつもりなどないのですよ。
そもそも何故に彼を奪う必要などあるのですか。」
「決まっているよ、そうしないとわたしを見てくれないから!
ううん、そんなはずはない××ちゃんは何よりわたしをアイしてくれてるのそしてわたしもなによりアイしてるのだから他の人に××ちゃんのアイが行くのは許せないの一片たりともわたしに向けてくれるアイが減るのは許せないんだから!!」
歓喜の笑みは慈愛の笑みに。
……否、之は自己愛。故に慈愛などでは決して有り得なく。
「いと気高き私の同志にして先達よ。あなたは正しい」
「さっきからなに言ってるの……!だったら早く死んで、死んでよ!! さっさと死んで死んで死んで、」
「しかし、たった一つだけ勘違いしていることがあります」
「間違ってるはずない間違ってるはずないそれよりさっさと死んで死んで死んで、」
「彼の愛が有限だと考えること。それがあなた様の唯一の間違い……。
彼の愛は無限です。ですから、あなた様に向けられる愛が減ることなどありえません。
無限は割り切れない故に無限なのですから」
「うんそうだったらいいかもしれないけどでもそんな保証はないんだよだからさっさと死んで死んで死んで、」
「偉大なる彼の寵愛を何より早くより受けたる聖女たるあなた様が彼を信じなくてどうするのですか。
いいえ、あなた様が分かっていないはずがないでしょう。彼がそれほどまでに大きな存在かを」
「うんそれはそうだけど××ちゃんはすっごい人だけどそれは当然の事だしそれはともかくさっさと死んで死んで死んで、」
「なればこそです! 私が彼の本当の価値を、いいえ価値などという尺度に換算する愚かな私めが此処に至りようやく啓示された真実を生まれながらに知るあなた様ならお分かりかと……!」
「……何を?」
漸く詩の朗読より戻りたる聖女。浮かぶ表情は人形よりなお雄弁に無為を語る。
絶対者を崇められ、自身を讃えられることが彼女に何をもたらしたのか。
下賎の女に見出せしものは果たして殺意か同意か無視かそれとも。
ゆうらりと万力を緩め、陽炎の動きにて距離を取る下女。
―――――いずれにせよ、次の言葉にて全ては決す。
「嗚呼、何と寛大なのでしょうさすがあの方に選ばれた方!
ええ、故に私は提言します!
あなた様とこの私め、彼の素晴らしさを知る二人は同志であると!
否、私はあなた方二人の下につくものであると!
故に、あなた様が私を退ける必要はないと!
ええ、それだけ、それだけの事なのですよ!!」
「……ふーん。」
聖女の言葉に込められた思いは何か。
夜の帳は下りた。鎌に集うは星の光、蠍の赤い光。
襲う為か捨てる為か、それは、一瞬揺らめくように掲げられ――――――
「―――――――嗚呼。美しい。何もかもが美しい。
素晴らしいよ、僕の為にここまでしてくれるなんて。」
うーん、ほんとになに書きたかったんだろ。
鎌と体術のバトル書くつもりだったのに。
ちなみに鎌は有効な攻撃が突き刺すのと掻き切るくらいしかないので、見た目の割に殺傷力は低めだったりする。
う〜ん…とりあえず、壊れた時に、あんまりそこまで
「あはははは」とか「くけけけ(ry」とか書かなくてもいいと思う。
前スレの最後辺りに書いてあった躁状態のヤンデレってやつか?
なんつうか文章が自己陶酔入ってる気がする。
もっと普通に読みやすい文章の方が良いと思われますが如何?
まあ病む過程とかそっちのけと言うか、鬱々とした感じではないからなぁ。
いきなりテンション高杉て、ぶっちゃけ読んでて吹いた。
でも面白いと思うけどなぁ。
ヤンデレとしては今ひとつなのか。
最後の主人公のセリフは入れるなら次が良かった。
続くなら期待。
誤字というか、幾つか用法の間違いがあるね。
あとは好みじゃないかな。
他人が読むことを考えていない自己陶酔な文章だな。
すまないが、チラシの裏に(ryって言いたくなる。
あはは(ryとか消えろ消え(ry無限だ神だとかボトムズかなんかか?
ハンターハンターのパームってこれでもかって言うほどのヤンデレだよな。
投下します。14話です。
第十四話〜雄志の告白〜
「1170円になります」
コンビニ店員の声を聞いて、千円札と100円玉を2枚レジに置く。
店員はそれを素早く手にとると、慣れた手つきでレジを打つ。
「30円のお返しになります。ありがとうございました」
レジ袋を手にとって、コンビニエンスストアの自動ドアを通り抜ける。
季節はまだ2月。昼間の格好で出歩くには少々寒い。
俺が1人でコンビニへやってきた理由。それは、今日の夕食と明日の朝食を買うためだ。
夕食と朝食だけで1170円も払うほど、俺はブルジョワジーではない。
ではなぜ1170円分の食料を買い込んだのか?もう1人の非ブルジョワジー人間のためだ。
天野香織の胃袋は、世間的によく囁かれるように甘いものは別腹、というものらしい。
俺は2食共カップラーメンだ。合計しても300円を越すことはない。
残り900円近くのパンや弁当は香織の分である。その差、3倍。
歩きながら考えてみる。
香織が活動する際に消費されるエネルギーは俺の3倍を越すのだろうか?
高校時代にリサーチしたところ、香織の身長は165cmだという。
ちなみに俺は就職していたころに受けた最後の健康診断で、171cmだった。
体格ならば俺のほうが大きい。よって香織の燃費の悪さは別の要因が絡んでいることになる。
男女の身体構造の違いによってエネルギーの消費量が異なる、というのはどうか。
女性が活動する際、男性よりもエネルギーを多く消費する。
なるほど、1番合点がいく仮説だ。しかし、納得のいかないところもある。
なぜ若い女性はあれほどダイエットに熱心なのか?
女性の内臓と筋肉のエネルギー消費量が男の数倍あるならば、女性がダイエットをする必要はないはずだ。
女性全員が男の数倍の食料を毎日摂取しているとも考えられるが、昔から知り合いである幼馴染の
食事量を考慮してみると、疑問点が残る。
以上を踏まえた結果、身体構造説は否定される。
……馬鹿なことを考えて退屈を紛らわすのはやめよう。答えはわかっている。
香織の食欲が人一倍旺盛である。これが答えだ。
そうでもなければ、2人合わせた所持金5720円からビジネスホテル代4500円を引いた結果残る、
1220円いっぱいに食料を買ってきてくれ、とは言わないだろう。
ホテル代を出してくれた香織の手前、俺に反対する権限はなかった。
そんなに食べたら太るぞ、と危うく口にしそうにはなったが。
ぼんやりと思考しながら歩いていると、ビジネスホテルに到着した。
壁に貼ってある料金表を見る。シングルルームに一泊して4500円。
高いのか安いのかはわからないが、2人で宿泊しても値段が据え置きだというのはお得だ。
贅沢は言えないが、できるならば2部屋あれば有り難かった。
今夜、俺は香織と同じ部屋で一晩を越さなければならないのだ。
仕切りでもなければ、落ち着いて寝られるものではない。
今夜俺たちが泊まる部屋は3階のエレベーターの近くの部屋、301号室である。
エレベーターから降りると、すぐそこにカードの自販機があった。一枚、千円。
このカードを使うと部屋のテレビである種の娯楽番組が見放題になるという、特殊なカードだ。
以前旅行をしているときはお世話になったものだ。だが、もう利用しようとは思わない。
なぜなら、翌日になると購入したことがとても馬鹿馬鹿しく感じられるから。
その寂しさたるや、1人で対戦型の戦術シミュレーションゲームをおこなったがごとし。
今夜は、いかなる理由があろうとも購入しないし、そもそも購入できない。
寂しさを味わう心配はしなくてもよさそうだ。
部屋をノックして、しばらく待つ。ドアの隙間から声がした。
「……残酷の」
「世界史」
合言葉を交わすと、ドアが開いて香織の姿が目に入った。
香織は俺の手からコンビニの袋をひったくると、数個のパンと弁当を取り出して奥へ向かった。
放置されたビニール袋の中にはカップラーメンが2つ。
さすが長年の付き合い。俺が何を買ってくるかよく分かっている。
俺は味噌ラーメンをとりだすと、包みを破り、沸かしておいたお湯を注いだ。
そして3分待つ。待つ時間は嫌いではない。食べる時間は大好きだが。
椅子に座って味噌ラーメンを食べながら、ベッドの上で食事する香織を見る。
手に持って集中して食べているのはチキン南蛮弁当だ。香織の好物らしい。
ときどき顔をしかめると、むせたように胸を叩く。
そのたびに手が胸に沈むが、あさっての方向を向いて意識しないことにする。
実は、俺は緊張しているのだ。香織と一晩を過ごすというこの状況に。
いくら親友相手とはいえ、俺の審美眼が麻痺することはない。
香織は可愛い。これは、中学時代から俺が思っていたことだ。
目は綺麗な形をしているし、肌にはしみひとつない。
香織のちょこまかした動きに合わせるように動く髪には茶色が軽く混じっていて、
柔らかい雰囲気をかもし出している。
さらにスタイルもいい。24歳になっても保たれている童顔と、出るところが出て引っ込むところが
引っ込んでいるスタイルの組み合わせは、人によってはたまらないものだろう。
俺自身、高校時代はときどき香織に見とれていた。
昔を思い出しながら香織を見ていると、容姿にほとんど変化が見られないことに改めて気づく。
うらやましいやつだ、と心の底から思う。
香織は弁当を残らず食べ終わると、両手を合わせた。
「ごちそうさま。……ああ、美味しかった」
目をつぶりながら喋る香織の頬は、嬉しそうにほころんでいた。
俺もカップラーメンを完食して、ゴミ箱に突っ込んだ。
香織はベッドから下りると、テレビのリモコンを掴んで、またベッドの上に座った。
その一連の動作をなんともなしに見ていたのだが、不意にここがどこであるのか思い出した。
ビジネスホテル。男も利用する場所である。
男が何もない場所で一晩すごすとき、一体何をするのか。
言うまでもなく、俺はわかっている。だというのに、なぜ気づかなかったのか。
テレビの電源を入れたとき、最初に映るものがなんであるかということに。
テレビの電源を入れる音が聞こえたときには、遅かった。
もしかしたら違うものが映るかも、という俺の期待にテレビは応えてくれなかった。
リモコンの信号に応えたテレビが、音を出す。女性の嬌声を。
「あ、あっあっあっあんっ、だ、めぇぇぇ」
テレビに映し出されたのは、予想通りエロ番組だった。
一瞬目に入った画像から推測するに、OLが会社でセックスをしているようだった。
すぐに目をそらし、うなだれて、ため息を吐く。
こんなものを見たら、香織は一体どんな反応を示すものやら。
首を倒したまま、ちらりと香織を見る。
「…………」
ベッドに座り、リモコンを持った手は伸ばしたまま、呆然とした顔でテレビを見ている。
まばたきをすることすら忘れたように、じっと前を向いている。
意外な反応である。てっきり顔を紅くしてテレビを消すかと思っていたのだが。
テレビから漏れる音は、男と女の体がぶつかりあうものだった。
時々水音が混じり、段々ペースが速くなっていく。
「あぁぁぁあ、く、るぅっ! いっちゃう、いっくう、い、っっくぅぅぅぅ!」
香織の目が大きく見開かれた。……と思った瞬間だった。
「……以上の理由から、私は法案成立には反対です」
テレビの画面が、男女の裸がぶつかり合うものからスーツを着た初老の男たちが意見を述べる
ニュース番組へと勝手に切り替わった。
今日ほどテレビの向こうにいるおっさんの声に安らぎを覚えることはない。
今だけ、感謝の言葉を述べるとしよう。たまには役に立つな。ありがとう。
香織はというと、あからさまに面白くなさそうな顔をしていた。
玩具を取り上げられたような子供の表情は見ていて面白いが、変でもある。
何を不満に思っているのだろうか。
「香織」
「ふひゃぁっ! ……あ、なに、雄志……くん」
「どうかしたのか? ぼーっとして」
「あ……ううん、何でもないよ」
「何でもないようには見えないんだがな。もしかして、お前……」
「え、えっ! ち、違うにょ、ボクはそんなつもりじゃ……」
「ああいうのを見るのは、初めてなのか?」
首をすさまじい勢いで振っていた香織は、俺の言葉を聞いて動きを止めた。
天井を見ながら何かを考える仕草をすると、無理矢理つくったように笑う。
「そ、そう! 実は見たことがなくって、それでびっくりして」
「まあ、女なら無理もないか」
「……うん、聞いたことがあるだけで、どんなものかは……」
そこで言葉を止めると、香織は俺の顔を見た。
そして、ちらりと視線を下に動かした。
「あんなもの、入るのかな……」
「あんなもの?」
「あ……なんでもない! ボク、お風呂に入ってくる!」
香織はベッドから飛び降りると、浴室へと飛び込んで、勢いよく扉を閉めた。
2人とも風呂から上がり、歯磨きを済ませたころには窓の外はすっかり暗くなっていた。
香織は部屋にあらかじめ用意されていた浴衣を着ていた。
せっかくだから着てみた、と言うのだが、見ているほうが寒くなる。
風邪をひかないよう暖房を入れて、さて寝ようかと思ったのだが、ここで問題が発生した。
「実は俺、ベッドで寝ないとむちうちになるんだ」
「それは初耳。ボクが華ちゃんと一緒に雄志君の家に泊まったときはそんなこと言わなかったよね」
「ああ……実は違うんだ。枕が代わると俺は寝られなくって」
「中学と高校の修学旅行では爆睡してたよね」
手ごわい。どんな理由を並べても反論でねじ伏せてくる。
この部屋にあるベッドはひとつ。当然、ベッドの上で眠れるのは1人だけ。
香織は床では眠りたくないようである。それはそうだろう。俺だって同じだ。
「香織、俺は寝癖が悪いらしいんだ」
「……それで?」
「寝ている間にベッドをひっくり返すこともあるらしい。そうならないためにも、ここはひとつ……」
「しつこいよ、雄志君。ボクがホテル代を出したんだから、ボクがベッドで寝るの!」
「ぐっ……」
代金のことを言われては、どうしようもない。
しかし、こうなったのは俺のせいなのか?
俺が普段から金を持ち歩いていないわけではないのだ。
香織が俺の財布の中にいる千円札を全滅させるほどケーキをバカスカ食べたのが悪いのだ。
奢ると言ったのは俺だが、いくらなんでも遠慮というものをすべきだろう。
香織は俺がひるんだ隙に、ベッドに横になって布団を被った。
「雄志君は床に寝ること! 枕だけは恵んであげるから」
「……この暴食女」
「ん、何か言った? 廊下で寝るほうがいい?」
「わかったわかったわかりました! 寝ますよ、寝ますともさ」
仕方なく部屋に用意されていた予備のシーツを被って、床に寝転ぶ。
絨毯が敷かれているが、眠れるほどの弾力はない。
これなら俺の部屋にあるつぶれた敷布団のほうがマシである。
枕に頭を埋めて、目を閉じる。眠れ眠れ、と念じてもやはり眠くならない。
それは床の固さのせいではなく、部屋の電気が点いたままだからだ。
「おい、香織」
「ひぇっ! 待って、まだ準備が……」
「ベッドの横に蛍光灯のスイッチがあるから、消してくれ」
「……ああ、そうだね。電気が点いてたら、眠れないもんね」
香織の言葉とともに、部屋の電気が消えた。
「おやすみ、香織」
「おやすみなさい……雄志君」
・
・
・
「また、泣いてるのか? 香織」
「だって、もう雄志君と会えなくなる、なん、って……」
「あのなぁ、一緒の会社に就職できなくても、会うことはできるだろ?」
「でも……この町じゃなくて、ずっと遠くの町に引っ越しちゃうんでしょ。
そしたら、偶然会うことだってなくなっちゃうよ」
「たまに連絡をとりあえばいいだろ。電話してくれればちゃんと話すって」
「嘘だよ……就職しちゃったら、忙しくってボクのことなんか気にしなくなって……
同じ会社の女の子にかまうようになって、電話の相手もしてくれなくなるんだ……きっと」
高校からの帰り道、嗚咽を漏らす香織をなだめながら俺は歩いている。
数週間前、俺と香織は同じ企業の面接を受けた。
結果として俺は内定をもらったが、香織には薄っぺらい封筒が届いた。
香織と同じ会社に就職できたらいいな、と俺は思っていたが現実はやはり甘くない。
「ね、内定を蹴ったりは……しないよね、やっぱり」
「さすがにそれはできないな。他の会社は全滅だし」
「うん……あ、そうだ! ボクと一緒に暮らさない?」
「はあ?」
「雄志君が引っ越したところに、ボクも一緒に住むの。
ボク、家事はそれなりにできるし、アルバイトもする! だから……ね?」
「ね?じゃないだろう。まったく……そんなに嫌なのか? 俺と会えなくなるのが」
「……そんなの、当たり前でしょ。雄志君は違うの?」
「そりゃ、同意見ではあるけどな」
「だったら!」
「駄目といったら駄目だ」
「うぅぅ……」
香織が顔を覆って立ち止まり、再び泣きはじめた。
髪の毛が顔を隠していて、香織の顔は見えない。
けれど、地面に落ちていく涙は見える。どうしたものか、これは。
俺と会えなくなるのが嫌、俺と連絡を取れなくなるのが嫌。
……なら、連絡が取れればいいのか?
「香織、携帯電話貸してくれ」
「……ぅぇ? ケータイ……?」
「メールなら電話より気軽にできるし、いつでも見られるから。それならどうだ?」
「ボク、ケータイ持ってないんだ」
「なら、買えばいいだろ」
「今月、お金ない……」
「はあ……わかった。俺が買ってやるよ。新規で買えば安くつくし」
「…………いいの?」
「ああ」
このときに浮かべた香織の笑顔は、見ている俺が嬉しくなるほどに輝いていた。
次の日に2人で電気店へ行き、香織のために携帯電話を買った。
銀色の、1番安い携帯電話だったけど、香織はすごく喜んでくれた。
・
・
・
ふと目を覚ました俺は、まだ夢の中にいるのかと錯覚した。
香織のむせび泣く声が、静かな部屋に響いていたのだ。
体をベッドの方へ向ける。香織の姿は見えないが、泣き声はよく聞こえるようになった。
「ひっ……く、ひっく………う、ぅぇぇぇ……」
俺はまず、何かしてしまったのか、と自分を疑った。
今日一日を振り返ってみても、香織を泣かせてしまう理由は見当たらなかった。
まとわりつくシーツをどけて体を起こし、ベッドの上に肘を乗せて香織を見る。
布団は肩にかかっていて、寒そうには見えなかった。
部屋の空気に触れているのは頭と、両手。両手で何かを握っているように見える。
暗くてよく見えないが、目をこらすと形だけはわかった。
たった今見た夢の中で、香織に買ってあげた携帯電話だ。
「……あ…い、たいよ……会っ…話し、たい…………の、っく……に……
いなく、な……ぁないで……ボクと……いっしょに……いようよ……」
続けて、寝言で俺の名前を呼んだ。消えてしまいそうな声だったが、確かに呼んだ。
寝ている香織に喋りかけても、聞いてはくれないだろう。
香織の手を握る。ひんやりと冷たい。細すぎて、簡単に折れてしまいそうだ。
「ん……あったか…………だぁれ……」
香織の声が、少し覚めた。聞こえるか、聞こえないかぐらいの声で呼びかける。
「起きたか? 香織」
「ああ、うん……雄志君だぁ……あれ? なんでボクの手を握ってるの?」
「え、ああ、これはだな……」
つい香織の手を握ってしまったが、俺は何をするつもりだったのだろうか。
香織の目が俺を見ている気がする。とりあえず、話を逸らそう。
「その携帯電話って、俺が買ったやつか?」
「……これ? うん、そうだよ」
「もう4年以上経ってるのに、なんで替えないんだ?」
「……これじゃないと、駄目なんだ。他のケータイは持ちたくない」
「そっか」
短く答えて、それ以上は問い質さないことにする。
香織にも好みがあるのだろう。それに、物を大事にするのはいいことだ。
「ねえ、雄志君。理由は聞かないの?」
「理由があるのか?」
「理由がなくちゃ、同じケータイを使い続けたりはしないよ。
……理由はね、雄志君を身近に感じられるからなんだ。
雄志君を身近に感じたいから、ボクはずっと同じものを使ってるの」
「そうだったのか……」
香織がそこまで俺と会いたがっていたなんてな。
昔から何をやっているんだ俺は。香織を泣かせてばかりだ。
ベッドの脇にあるランプのスイッチを入れる。
控えめな明かりは、香織の顔と、ベッドを照らしてくれた。
目を細めて光の明るさに慣れてから、香織の様子を再確認する。
肩には布団が乗っていたが、足は布団の外に出されたままだ。
香織は浴衣を着ているので、自然と生足が目に入る。
白い足から、慌てて目をそらす。見とれてしまうところだった。
「どうかしたの?」
「いや……それより、さっきから足が出てるぞ。それじゃいくら暖房を効かせても同じだ」
「……ニブチン」
「誰がニブチンだって……、!?」
香織は布団を跳ね除けると、俺に全身を見せた。
さっきまで眠っていた香織が着ている浴衣は乱れていた。
浴衣の端から下着がのぞいていて、ふとももは丸見え、胸の谷間まで見える。
「ボク、やっぱり魅力が無いのかな」
「いや、そんなことはないぞ」
この場にいるのが俺以外の男なら、すぐに狼になっているだろう。
「じゃあ、どうして雄志君はボクを……抱いて、くれないの?」
予想外の言葉に心臓をつかまれて、揺さぶられたような気がした。
俺が、香織を、抱く?
「ごめん。今日、ケーキをたくさん食べたのは雄志君と一晩過ごしたかったからなんだ。
いっぱい食べてゆっくりして、最終バスの時間を過ぎるようにしたんだ。
お金が無ければ、2人でホテルに泊まることになるだろうって、そこまで計算して」
……全然、気づかなかった。
「一緒の部屋に泊まれば、もしかしたら雄志君がボクを抱いてくれるかな……って。
でも、やっぱりボクじゃ無理なんだね……雄志君をその気にさせるのは」
香織は手で顔を覆い、体を丸めた。そして、泣き始めた。
「ごめん、ごめんね……勝手なことしちゃって」
泣かないでくれ。俺は、お前を泣かせたり、悲しませたくないんだ。
「ただの友達には、そんなことできないよね……」
違う。俺にとって香織は親友で……。
親友?本当に、それだけなのか?
俺は香織のことを、ただの親友としてしか見ていなかったのか?
……違うな。香織を泣かせたくないと思う気持ちは、それだけじゃ説明がつかない。
俺は、他の友達よりも近くにいて、1番近くで香織の笑顔を見続けていた。
いつのまにか俺は、香織の笑顔をずっと見ていたくなっていた。
ああ、そうか……きっと、この気持ちは――ただの友達には湧かないものだ。
「香織、俺の話を聞いてくれ」
「いいよ、もう。慰めなんて……」
「好きだ。香織」
香織の嗚咽が乱れた。顔から手を離すと、涙に濡れた目で俺を見つめる。
「ぇ…………今、なんて……?」
何度も言わせるな。恥ずかしい。
「俺は、香織のことが好きだ。友達としてじゃなく……女として」
香織の目から流れる涙は止まっていたが、その代わりに目は大きく開いた。
口は半開き。顔はでたらめに赤色系を塗りたくったように赤い。
「す、すすすすす、好きって、今、ぁ……雄志君、言った……?」
「ああ、言った。はっきりとな」
まっすぐな香織の目から目を逸らしたくもある。だが、ここで逸らしたら真剣さが伝わらない。
対する香織は目を逸らさない俺の様子に、何かを感じ取ったようだ。
「好き……ボクのこと、好き……雄志君が、ボクのことを、好き……」
ベッドに顔を伏せ、自分が聞いた言葉を忘れないよう、反芻している。
香織は呟きを止めると、ベッドの上に正座した。
「香織はどうなんだ? 俺のことがまだ好きか?」
「はい! もちろん、当然、なにがあっても、好きなままです!」
「じゃあ……恋人になってくれるか?」
告白したんだから、あえて言うまでもない質問である。
しかし、俺と香織のような仲になるとお互い好きだと言い合っても、変化が薄い。
今までの関係とは違うとわからせるためには、聞く必要があるのだ。
「こ……恋人……雄志君と……」
「……」
「もちろん、OKです……こちらこそ、不束者ですが、よろしくお願いします」
ベッドの上で座礼をする香織。俺も同じように礼をした。
俺の中に常に存在していた、香織を泣かせたくないという思い。
その思いを抱く理由。それは、香織に対しての好意によるものだったのだ。
「……ふわぁぁぁ……へへへ」
香織はとろけた、ふにゃりとした表現が似合う顔で俺を見ている。幸せに浸っているようだ。
さて、このまま眠りについてもいいんだが……興奮して眠れそうにないな。
「香織」
「うん、なあに……?」
「抱いてもいいか?」
とろけた表情が一変、唇を横一文字にして固まった。
「抱くって、あの、テレビみたいに……?」
「まあ、そういうことだ」
香織の体を抱きしめて、ベッドに押し倒す。暖かいうえに、柔らかい。特に胸の辺りが。
「ま、待って……まだ、心の準備が……」
「安心しろ。やっていくうちに覚悟ができてくるから」
体の下にいる香織の顔を覗き込む。いったいどこまで紅くなるのだろう。試してみたくなってきた。
唇にキス、をするように見せかけて、頬にキスをする。触れた途端に柔らかくかたちを変えた。
続けて額、耳の下、顎の下にくちづける。一段と香織の顔が紅くなった。
最後に、唇にキスをする。
「んん…………ん……んんっ、……ぁ……………………ふぁ」
数秒唇を当てていると、香織の顔が横に向けられた。俺を避けたわけではなく、気絶してしまったようだ。
肩をゆすっても、頬を叩いても起きる気配はない。おあずけである。
香織を仰向けにして着衣の乱れを直し、布団をかける。俺は床に寝ることにした。
同じベッドで寝ていたら、ついイタズラしてしまいそうだったからだ。
……次の機会があったら、香織をあまりからかわないようにするとしよう。
・ ・ ・
電話の音で目が覚めた。携帯電話の着信音ではなく、室内に置いてある電話から音が出ていた。
かかってきたフロントからの電話によると、10時になる前に部屋を出てもらわないと追加料金がかかるらしい。
時刻は9時半。かなりギリギリである。
電話を切り、ベッドで寝息を立てたままの香織を起こす。
「起きろ、香織」
「ああ、ううん……おはよ、雄志君……、!!!」
香織は俺を見ると、ベッドを転がって、床に落っこちた。
「大丈夫か?」
「うん、なんとかね……って、駄目だよ! 朝から、その、し、しようだなんて……」
「何を根拠に言っているのかわからんが……そういうつもりじゃない」
いぶかしげな顔の香織に事情を説明する。
事情を聞くと、時間がないということにすぐ気づいて身支度を始めた。
「着替えるから、あっち向いてて!」
「見たら、駄目か?」
「いや、駄目じゃ……違う、駄目ったら駄目!」
香織が着替えを終えてから、荷物をまとめて部屋を出る。
ホテルのフロントに行き、鍵を返す。追加料金は請求されなかった。
近くの銀行でいくらかお金をおろし、バス代を確保する。
駅前に行くと、運よく自宅近くへ行くバスが停まっていた。
バスに乗る。結構広いバスだったが、他の乗客はいなかった。
俺が窓際に座ると、香織がくっつくようにして横に座った。
「変なこと、しないでね」
「するか、こんなところで」
バスが動き出した。眠くなりそうなほどにゆっくりと、国道へ向かって進んでいく。
窓の外を見たまま、手探りで香織の手を握る。
香織の手は一瞬躊躇したが、すぐに俺の手を握り締めた。
指の間に香織の指が絡まっていて、くすぐったかった。
バスが香織の自宅近くの信号で停車したタイミングで、話しかける。
「香織、明日は暇か?」
「うん。今日はバイトがあるけど、明日は入ってないし。……ねえ、どっか行かない?」
「俺もそのつもりだったんだ。それじゃあ明日、香織の家に行くよ」
「うーん……ううん、ボクから行くよ。いいでしょ?」
「ああ」
こだわる理由も無いので、うなずきを返す。
間を空けないうちに、香織の自宅前にバスは到着した。
バス停の前で手を振る香織を見ながら、バス代を用意する。
片道料金は720円。昨日あんなことがあったからか、これだけの金額でも大きく思えた。
5分ほどして次のバス停へ到着した。
バスから降りたとき、目の前に広がっていたのは懐かしい光景、俺が住むアパートの外観。
緩む頬をそのままに、アパート前の駐車場を歩きながら、2階にある自分の部屋を見る。
そのとき目に飛び込んできたものを見て、俺は一瞬歩みを止めた。
「……」
部屋の前に、華が立っていた。無表情のままで俺を見つめている。
部屋の前に立っている華の手が動いた。携帯電話を耳に当てている。
もしかしてと思っていると、ポケットに入れていた携帯電話が振動した。
ディスプレイには、華、と表示されている。
ごくり、と喉を鳴らしてから、電話に出る。
「……もしもし?」
「おにいさん、おかえりなさい。……ずっと、待ってたんですよ。ここで」
2階に立っている華が携帯電話を下ろすと、通話も同時に切れた。
そういえば、昨晩外泊するということを華に伝えていなかった。……間違いなく、怒っているな。
華に出会い頭で何を言われるか不安に思いながら、俺は2階の自室へ歩き出した。
支援ズサー
 ̄ ̄V ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
∧ ∧
⊂(゚Д゚⊂⌒^つ≡3
14話はこれで終了です。
なんとなく最終回っぽく感じられますが、まだまだ続きます。
遅かったorz
でもGJ
てか雄志が地雷踏みまくりワロタw
こ、こここれから寝ようって時に何てもの見せてくれやがりますかッ!?
神よ、ありがとう。
GJ
ん?今はコンビニで24時間お金が下ろせるよな
手数料はかかるけど宿代ほどじゃない
>>246 GJ!
でもああああああ
香織に告白してるう!
個人的にはまさかの展開だw
>>249 地方銀行は夜間おろせないところもあるよ
香織は気付いても黙ってる
雄志は鈍感だから(ry
とか思った
>>251 でも大抵は9時までだろ?
バスがないのに気付いたのが7時すぎなら間に合ったんじゃないか?
一番病んでないヒロインを選ぶか、主人公よ
しかしそれは恐怖の双鬼から己も女も守らなければならぬ茨の道ぞ
と言ってみる俺ナッシュ!GJ!
ヤンデレも記号化が進んできたような気がする。
嫉妬 憎悪 殺害 異物混入 笑い声 トラウマ
白痴 オナニー ストーキング 自己完結 やたら地雷を踏む想人
妄想 未発達の社会性 偏愛 結界依存 残虐性 想人の偶像化
ヤンデレの記号って大体、こんな感じかな?
>>249>>251>>253 ・香織は気付いていたが黙っていた。雄志は気付いていない
・辺境だったので近くにコンビニがない
・時代設定が昔だからコンビニでおろせない
さあ、好きなのを選べ
>>257 ここはヤンデレを愛でるって感じだが、vipの奴らは遊んでるって感じだな
あと、あんまりメジャーになりすぎると女共が介入してきてそのジャンルは滅ぶ
>>259 そういや、すでにヤンデレ同盟とかあったんだよなぁ……orz
ヤンデレを理解するのはいいが、一度はヤンデレの魅力を体感しないとものは作れんと思う。
とは言え、このジャンルだけは女は立ちいれんと思うが。
男が病むゲーム作るのがせいぜい。
>>259ツンデレみたいに女性週刊紙に取り上げられる日が来るのか。
病的なわがままの免罪符になりそうだ。
「あなたを愛し過ぎて、あたしヤンデレになっちゃった。」
「家事やって。ブランド物買って。合コンくらい行かせて。」
「愛の証し見せないと、あたし狂って殴っちゃうかも」
自分で書いてて胸糞悪くなってきたわい。
>>262 それ、ヤンデレの意味を知らない人からすれば頭の弱いわがまま女にしか見えない。
ツンデレにしてもヤンデレにしても、二次元の美女・美少女がやるからウケるということをあの手の雑誌は理解していない。
いや、女に間違った行動を起こさせて自爆させるのが狙いなのかもしれないが。
264 :
名無しさん@ピンキー:2007/06/09(土) 09:20:08 ID:Szxqy9dS
このての奴は基本的に二次元だから許される部分があるからなぁ
ツンデレ喫茶も明らかに勘違いしてるし
THE 地球防衛軍【さ、3だー!】
誤爆した……。
とりあえずヤンデレブームが起こらないことを祈る。
>>260 うわぁ、なんか凄く趣旨を間違えて活動してそうだな
ヤンデレ同盟より抜粋
□管理人の独断と偏見で、勝手にヤンデレ分析
▼移動動作が極端に遅い
▼そのわりに攻撃速度となると、異常なほど速い
▼身振り手振り、大げさに振舞う
▼声高らかに笑う
▼でも目が笑ってない
▼ごめんなさい、大好きなど、同じ言葉を連呼する
▼連呼しながら相手を殴ったり蹴ったり、果てには刺したりする
▼人の話を聞かないというか、聞けない
▼病めば病むほど本人は陶酔状態に、周りは不安を覚える
▼根は純粋…のはず
※当同盟は暴力行為を推奨するものではありません。
>>268 なんだかなぁ……
なんでもかんでもヤンデレにするなって感じだ
>>268 どうみてもアスペルガーにしか見えないw
てか、ここで定義しているヤンデレって、元々精神を病んでいる女が
男(女?)を愛すことであって、男(女?)を愛して病むのではないと思う。
ヤンデレはこうだ!とか自慢げにやたら細々狭々定義しても寒いだけ。
考えるんじゃない、感じるんだ
>>268 こんな感じか?
夜の帳が落ち、アスファルトが黒く塗りつぶされて足元があやしく感じられる、深夜2時。
街灯の明かりはすでに消え、歩道を照らすものは月明かりのみ。
洋介は、自分が走っている場所がどこかもわからずに走り続けている。
洋介は自分の身に起こったことがまだ理解できていなかった。
夜、いつものように部屋でくつろぎながら恋人と会話をしていると、ナイフを持った女が部屋に入ってきた。
「見ぃつけた! 洋介君!」
闖入してきた女はまず、洋介の恋人に目をつけた。
恋人は目の前にやってきた女を睨み返した。
そして、女の凶刃を首筋に受けて、血を噴き出して倒れた。
恋人の近くに座っていた洋介は、血の雨が止まるまで、返り血を浴び続けた。
しばらくは、目の前で何が起こったのか理解できなかったのだ。
それもそのはず。洋介の目には、突然恋人の首に切り目が入り、突然血が噴き出したようにしか見えなかったのだ。
闖入してきた女の振るったナイフの軌道はおろか、初動さえも見て取れなかった。
「邪魔者は消えたよ、さあ、次は……」
大仰な仕草でナイフを空に向けて振るい、洋介の目の前にかざした。
「き・み・だ・よ」
ナイフの輝きを見て、洋介は目が覚めた。
女を足で蹴り飛ばし、洋介は家を飛び出した。
一度家の外で立ち止まり、女がでてくるのを待った。
女が出てきたのは、洋介の冷や汗がひくころだった。
緩慢な動作。右手にナイフを握り、だらりと両手を垂らしている。
一歩一歩、地面を確かめていくような歩き方は、非常にゆっくりとしたものだった。
女は洋介を視界に捉えると、声を上げて笑った。
「あはははははははははははははははははははははははははははははは
くけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけ
ぎゃはははははははははははははははははははははははははははははは!」
洋介から見て、女の目は笑っているようには見えなかった。
家から全力で走り、ひたすら走りぬいた洋介は壁に手をついた。
止まっても、誰かが追ってくるような足音は聞こえてこない。
緊張感を解き、洋介は地面に座り込んだ。
その時、洋介の前に光が広がった。
夜の闇に慣れた瞳では、その光を直視することはできない。
目をつぶり、顔をそらしてしばらく待つと、光の気配が消えた。
洋介がゆっくりとまぶたを開いていくと、バイクに乗った人の姿を確認した。
目が慣れていくに従い、やってきた人が恋人を殺した女だということがわかった。
女はバイクに乗って、洋介のあとを追ってきていたのだ。
女はゆっくりとした動きでありながらも、停滞を感じさせない動きでバイクから降りて洋介と向き合った。
右手に握られているのは、当然、恋人の命を奪ったナイフ。
月明かりをナイフが受け、そこだけが鮮明に、はっきりと見えた。
洋介は女に向かって、初めて怒声を浴びせた。
「なんなんだよ、お前! あいつを、なんで殺した!!!」
「洋介君、ちょっと痛いかもしれないけど、我慢してね」
「てめえ、人の話を聞けよ! なんであいつを殺したんだ!」
「すぐに、私のものにしてあげる」
この女は話を聞いていない。洋介はそう思った。
ただひたすらに、自分の目的を完遂することしか考えない。
そのために邪魔をするものは、なんであろうと排除する。
草も、木も、犬も、猫も、鳥も、そして人間でさえも。
洋介の心に、言いようもない怒りがこみ上げた。
幼馴染の恋人。いつも自分の傍にいて支えてくれた恋人。
栄養が偏ると言って、洋介に食事を作ってくれた。
毎日のように河川敷を通ってふざけあいながら帰った。
初めて抱いたときには洋介の名前を呼びながら、抱きしめ返してくれた。
その命を、目の前にいる女はたやすく奪った。
恋人の命を、何でもないもの、どうでもいいものだと考えている。
あいつのことを何も知らないくせに。俺がどれほどあいつを思っていたのか知らないくせに!
洋介は拳を振り上げて、立ち止まる女に殴りかかった。
腰をひねり、腕、肩、背中の筋肉を総動員してパンチを放つ。
腕が伸びきったとき、衝撃が走ったのは、拳の先ではなく、頬。
女の放った拳が洋介の頬を完璧に捉えていた。
よろけながらも立ち続けようとする洋介は、女の蹴りを股間に受けた。
内臓が締め付けられる。息がつまり呼吸が出来ない。脳が圧迫される。
股間を押さえて倒れた洋介を蹴りながら、女は喋り続ける。
「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい。
本当はこんなことしたくないの。だって、私洋介君のことが好きなんだもの。
あ…………今私、好きって言った? 好きって言った? 好きって言った?
キャー、恥ずかしい! もう、こんなこと言わせないでよね! 洋介君の馬鹿!
でも……やっぱり好き! 大好き! 大好き! 大好き! 大好き!」
女は洋介の体をでたらめに蹴り続けた。
洋介の顔がブーツに踏みつけられ、鼻が折れ、涙が流れる。
みぞおちに蹴りを叩き込まれ、胃の中のものが逆流する。
骨のあちこちが軋むたび、脳が危険信号を放つ。
このままでは死ぬぞ、と。
女の蹴りが止まったころには、洋介は痛みで声もあげられない状態になっていた。
涙が視界をぼやけさせ、吐瀉物が口に貼りついて、ぐちゃぐちゃの気分だった。
女は洋介を仰向けにすると、体の上に乗った。
両手を天に向けてかざしているようだったが、今の洋介には何も見えなかった。
「これで、洋介君の一番大事なものが手に入るよぉ。
いぇへへへへへへへへへへ。いひひひひひひひひひひひひひ。
ずっと、私が永久に愛し続けてあげるから、心配する必要はないよ。
あの女よりも、幸せにしてあげるから。だから、ちょっとだけ――」
女の手が、振り下ろされた。
「おやすみなさい」
夜の闇に、鮮血が舞った。
男の胸から噴き出す血は、女の顔を隅々まで濡らしていく。
大口を空けて笑う女の口に、血が入る。
女は血を味わった後、いまだ血を噴き出し続ける男の胸に口を当てた。
流れ出していく血を、女は飲み続けた。
渇いた喉を潤していくように、貪欲に吸い続ける。
この光景を見た人間は、女が狂っているとしか思わないだろう。
だが――女の目の輝きは、狂っている人間の物ではない。
子供のように、純粋に輝いていた。
いきなり
>>268みたいなことをやられても、俺は萌えないな。
だって……デレがないやん!デレがなきゃヤンデレとはいわへん!
いきなりそのシーンはどうかと思うが
座敷女を思い出した
普通の女が恋していく過程で狂っていくのにカタルシスを感じる
俺はエロスを感じる
つい最近ヤンデレってのを知ったペーペーだけどこんな感じでいいの? 題材はアイマスの黒春香
プロデューサーさん・・・私・・・ずっとプロデューサーさんの事好きでした。気付いて・・・ませんでしたよね。
プロデューサーさんは私の事見てくれなくて・・・・・千早さんしか見てませんでしたよね? あははっ。いいんですよ、別に気にしてませんから。
でも、千早さん意外と怖がりなんですよ?私が包丁でケーキを切ってるだけなのにガタガタ震えて、突然大声で叫んだりして。
ヒドイですよね。そりゃあ私の作るお菓子はあんまり美味しくないかもしれないけど、不味くは無いと思いますよ。 だからあんまり騒いだら近所迷惑だから少し注意したんです。そしたらそのまま大人しくしてくれました。
千早さん、いつもは厳しいけど、ああ見えて本当は凄く心が弱い人なんです。すぐ何かあれば自分に甘えて・・・レッスンだって直ぐサボるんですよ。アイドルとして自覚が無いですよね。
私はどんな事があってもレッスンをサボるような事はしません。だって、どんなに辛い事があってもプロデューサーさんの顔を見れば嫌な事、全部忘れちゃいますから。
・・・・って私の声、もう聞こえてないですよね。あはは、大丈夫ですよ。プロデューサーさん、私はもう一人でもアイドルやっていけますから。だから、そこで見てて下さいね。プロデューサーさん・・・・・・
アハハハハハハハハハハ!アハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!アハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!!!
こうですか?わかりません><
>>281 元ネタ知らないからなんとも言えんが、独り立ちするよりは
「これでやっと二人きり……私はプロデューサーがいないとダメなんです。さあまた二人だけでやっていきましょう?」
の方がいいような
だな、基本的にヤンデレは好いている相手は見捨てないイメージがあるから
むしろ絶対に離れさせない為にどんな手でも使うのがヤンデレだと思うんだ
284 :
280:2007/06/09(土) 21:31:21 ID:eLLWmt14
>>282-
>>283 評価、アドバイスありがとうございます。うーん・・・ヤンデレ少女の中にも独り立ちするような芯の強い面があってもいいかな?と思って書いたんですがそれだと逆にマイナスになる事が分かりました。これからも頑張るッス(`・ω・´)
まあ…ヤンデレは「弱いからこそ」狂うのだと思うぜ…
依存の果てとかな
変人の女性が恋をしたというパターンなら強い面があっても変じゃないと思うが
恋するあまり病んでしまったパターンだったら監禁とかはしても見捨てはしないと思うな
>>284 いや、元ネタ的には君の解釈で正しいんじゃないかな?
といっても元ネタもノリで構成されてるところがあるから正しい解釈というのはないのかもしれないけど。
つまりは、あんまりヤンデレキャラではないということだよ。病みはしてるのかもしれない。
「相手への異常な執心により、常軌を逸した思考または行動を取る」ぐらいかな、俺が定義するとしたら。
ヤンデレはひとつの属性とされてるけど、まだ最小単位ってことはないだろう。
289 :
すりこみ:2007/06/10(日) 08:44:43 ID:eTE5kQkN
投下しまっす。
290 :
すりこみ:2007/06/10(日) 08:46:49 ID:eTE5kQkN
私は何の為に生きているのだろう…
ふと、自分自身のことであるのに他人事のように思えるときがある。
生きる目的…人は何の為に生きて、そして何を成して死ぬのだろうか…
私はその目的を遂げる為には手段を選ばなかった。ううん…それしか選べなかった…
でも手段を選ばなかった結果…大切な目的が遠くに感じるようになったら…
やはり、その手段は間違っていたのだろうか?
だけど、あの時選んだ選択肢の他に私に選べる道があった?
人生にもしも…はないってことを知ってる。だから私は自分の選択に後悔なんて無い。
後悔なんて微塵も無いはず…
でも、じゃぁどうして私はそんなことを考えてしまうんだろう…
「生中お代わりお願いね〜♪」
空になったジョッキを振り回し、姿の見えない店員に向かって叫ぶと「はぁい、よろこんで♪」と、元気な返事が返ってくる。
そんな私の様子を呆れ顔で見つめているのは高校時代からの悪友、遠山景子だ。
「それで…君はまた…なんで地雷を踏むかな?」
「…地雷じゃないよぉ〜…ん…敢えて言えば…運命?」
「あれを地雷と呼ばずしてなんと呼ぶのだ?君の脳細胞は学習能力がないのか?それとも懲りるという言葉が辞書から消えうせているのか?」
「前の…そりゃぁ失敗だったけどさぁ…でも、今度のは…ちょっと違うんだよぉ?」
同じような会話を前にもした覚えがある。それはさっき?それとも前回?
景子の主張は要約するとこうだった。
「君は男運が決定的に悪いんだ。」
確かに、前の夫との離婚の際には景子には世話になった。
いや、正確には景子のお陰で離婚できた…そのことはすごく感謝している。
前の夫は結婚当初は本当に優しい彼だった…でも、優しかった笑顔はたった半年で霧散し、
彼は仕事がうまく行かないのはお前のせいだ、
夏海が泣くのはお前のしつけがなっていないからだって…
何かことあるごとに私をなじり、殴り…そして犯した…。
その当時の私は自分自身の至らなさが彼を怒らせたんだ…もっと頑張らなきゃ
…そんな風に自分自身を責めていた。だって、そう考えないと
…あの優しかった彼が変わってしまった理由が思い浮かばなかった…そう思うことで救いを求めていたのかもしれない。
そんな私の様子を見かねて景子が力になってくれなかったのなら…今頃私はどうなっていたのだろうと今でも思う。
この街に住むことも、前の夫と別れることも…そしてあの人に出会うこともきっとなかった・・・
そう思うと景子にはどれだけ感謝しても、したりなかった。
「って景子・・・なにをやってるの?」
「いや?君が私をほったらかしにしてまた自分の世界に入っているものだからな。
どうせその新しい男のことでも考えていたんだろ?そんなわけで、退屈しのぎに君がどれくらい気づかないのか実験していたところだ。」
気がつけば景子は大きなカメラを片手に私の頭にネコミミのカチューシャを被せ、ぱちりぱちりと写真を撮っていた。
……我ながら…ど〜してここまでされてて気がつかないかにゃぁ…
ぱちりという音とまぶしい光
「まぁ、また何かあったら相談するように…いいな?まぁ、落ち着いたら一度様子を見に家の方に遊びにいくからその時はよろしく」
しゅたっ!と右手で南無〜のポーズを取る景子の姿はまるでお母さんみたいだった。
291 :
すりこみ:2007/06/10(日) 08:48:08 ID:eTE5kQkN
「えっ!晶子さん…結婚するの!?」
「そ〜なんですよ♪だからフグタさん…お祝いくっださいね♪」
「いや、だから僕は福田(フクタ)だって…」
賑やかな店内にフグタさんの声が響き渡る。フグタさんはよく店に来てくれる常連さんで週に五日ぐらいのペースで通ってこられる。
今日もいつものように一人、開店時間から店に足を運んでくださった。
「晶子さん、今度美味しいものでも食べに行きませんか?」
「う〜ん…ごめんなさい。また今度誘ってくださいね?」
「うん、じゃぁまた…今度誘うよ。」
そんな挨拶代わりのやり取りも今日で何回目だっけ?と指折り数えて…いち…にぃ…さん……たくさん?
フグタさんは何でも大きな会社の偉い人…らしいんだけど、全然偉ぶってないし、他のお客さんを連れてくるわけでもないし…
一度もスーツ姿を見たことはないし…とてもそんな風には見えないところはフグタさんの謎で面白いところだと思う。
「そっかぁ……それで…相手はどんな人なんですか?きっと…いい人なんでしょうね。それじゃぁ…晶子さん…お店辞めちゃうんですか・・・」
「いえ、まだ再来月まではお店に居ますよ?だからぁ…遠慮しないでお祝いくださいね♪」
いつのもようにまんだむのポーズで考え込むフグタさんは、ぼぉっと壁に掛かっている絵…
なんとか言う有名な画家の作品らしいけど私はあんまり好きじゃない…絵を見つめていた。
「あの…絵と高価なものはいらないですよ?」
「あ…そうなんですか……じゃぁ…晶子さんは…なにが欲しいですか?」
「ん…欲しいものですかぁ…」
幸せな毎日…不安の無い毎日…穏やかな日々…でも、プレゼントでもらえるようなものじゃないよね?…う〜ん…う〜ん…う〜ん…」
「遠慮せずに言ってください。私でできることでしたら・・・」
「…欲しいもの…ですかぁ………今は思い浮かばないですね♪」
「…そうですか…それでは、私のほうでも何かいいものがないか考えておきますね。」
フグタさんはそういってグラスの中のウイスキーを飲み干した。
結果から言えば私はフグタさん…いえ福田さんに退店の時に大きな花束を貰った。
「晶子さん。お幸せに…」
祝福の言葉と、初めて貰うような真っ赤なバラの花束に感極まって瞳に涙が溜まる。
「はい、フグタさんも…お元気で」
できる限りの笑顔で微笑み、タクシーに乗り込み、もう一度フグタさんに手を振る。運転手さんに行き先を告げると、
フグタさんとの距離が少しずつ広がっていく。ネオンの光の中にその姿が見えなくなるとまた涙が溢れた。
「幸せに…か…」
今までの人生をふと振り返りながら、ふと花束に目を移すと小さなメッセージカードが添えられていることに気がつく。
「へぇ…」
ちょっと意外だった。あのフグタさんがこんな可愛いメッセージカードを私の為に選んでくれている姿を想像すると、
くすりと笑みが零れると同時に涙が溢れてきた。
「なにが書いてあるんだろう…」
私は可愛い封を丁寧に剥がした。
292 :
すりこみ:2007/06/10(日) 08:49:18 ID:eTE5kQkN
「じゃぁ、次はこれを着てくれるかい?」
彼はいやらしい笑みを浮かべながら私にその衣装を手渡した。
体操服にブルマー…部屋の中を見渡すと無数の制服…制服…制服…
私は俯きながらそれを受け取り…躊躇いながらも…ゆっくりと着替え始めた。
結婚後、私と夏海は冬彦さんの家に引っ越しすることになった。
それというのも、冬彦さんは郊外に大きな古いお屋敷…小さな蔵もあるような大きな家を持っており、そこに春樹君と二人で暮らしていると言っていたからだった。
「いやぁ…家が広いのはいいんだけどね?広すぎちゃって困ってたんだよ。ほら、掃除も行き届かないしね。」
タクシーにお金を払い、荷物を下ろすと大きな屋敷が目に入った。
「……おっきぃね…」
「うん…これ広いとかって…レベルじゃないよね…」
その夏見の言葉どおりに冬彦さんの家…いえ、私たちの家はとても大きかった。
しかし、その中身はといえば
「……きちゃないね…」
「うん…でも、これは…汚いって…レベルじゃないよね…」
家に一歩足を踏み入れると、黒いゴミ袋が無造作に積み上げられ、机の上にはインスタント食品の容器や菓子パンの袋、ジュースの缶やパック、
開けっぱなしのお菓子の袋…台所には洗いものが山のように積み上げられ、洗濯物はあちこちに散乱していた。
冬彦さんは器用に飛び石を歩くように物の置いてない床を選んで奥へと進んでいく。
「いやぁ、あっはっは。なにせ男所帯だからさぁ…」
そんな風に笑っていたが、時折その隙間を縫うように足元を黒い物体がかさかさと我が物顔で這い回っているんですけど…
とんとんとん…
ゆっくりと視界に入ってくる小さな足。
木製の階段をゆっくりと下りてくる影があった。
「おぅ、春樹か。ちょうどいいや、ほら、ちゃんと挨拶しろ。今日からお前のお母さんになる晶子さん
…は、前に会っていたっけ?まぁ、いいや。あとお前の妹になる夏海ちゃんだ。」
「おかあ…さん?…いもうと…?」
春樹くんは突然のことに呆然とした様子だった。あれ?…なんで驚いているんだろ…
そんな風に考えていると
「あれ?言ってなかったけ?父さんな…再婚したんだ。で…今日から一緒に住むことになったんだ。」
「…あの…冬彦さん?もしかして…春樹君に言ってなかったんですか?」
「ああ、うっかり…」
「うっかりじゃないですよ!ほら、春樹君だって驚いているじゃないですか!」
驚く春樹君の前にしゃがみ、目線を合わせて頭を撫でる。
「お…香亜…さん?」
「うん……でも、春樹君が私をお母さんって呼ぶのが嫌だったら…晶子さんでもいいからね?
でも…夏海とは仲良くしてあげてね?」
背中に隠れてもじもじしている夏海の手を引き、春樹君と引き合わせる。
「ほら…夏海?ご挨拶は?」
「……小西夏海です…」
「……藤岡春樹です…」
「夏海?今日からあなたも藤岡…なのよ?」
「……藤岡?」
「そう、あなたの名前は今日から藤岡夏海。私も…藤岡晶子になったのよ♪」
「藤岡…夏海…」
「とりあえず…よろしく」
「…あ…あの…」
そういって春樹君は手を差し出した。夏海は胸の前で手を組み戸惑っているようだった。
…しょうがないわねぇ…私は二人の手をとって握手をさせた。
「ほらっ、あ・く・しゅ♪二人とも仲良くしてね?」
顔を真っ赤にして俯く二人。でも、私は二人の小さな声が聞こえていた。
「…ぅん」「…ぅん」
二人の微笑ましい初々しさに思わず笑みがこぼれる。
…でも、まずはこの家をなんとかしなくちゃねぇ……かさかさと動き回るそれを横目みながらそう思った。
293 :
すりこみ:2007/06/10(日) 08:50:28 ID:eTE5kQkN
翌日から大掃除に明け暮れる毎日が始まった。
ゴミを片付けゴミ袋にまとめ、家の中からゴミを一掃していく。殺虫剤を振りまき、炊事場を磨き、洗濯機を回し、たまった洗い物を片付ける。
…これって…終わるのかしら?ゴキブリほいほい満員御礼の状態に思わずそんな独り言が漏れる。一匹見つけたら三十匹…って言うけど……ふぅ…とため息をつきながら丸めた新聞紙で闊歩するそれを叩き潰す。
「でも、最初の頃に比べると…少しはマシに…なったのかなぁ?」
頬に手を当て思わずため息が漏れる。あんな環境で育った春樹君は少しだけ…世間とずれているところがあった。ゴミを捨てるという習慣と…
「この虫を見てもなんとも思わないところよねぇ…」
冬彦さんはなんとも思わなかったのかしら…そんなことを思いながら、ふと微笑む。夏海は相変わらず泣き虫だったけど、春樹君は素直で面倒見のいいお兄ちゃんになってくれていたのだ。しかも、春樹君は私が教えたことを
「いいか?ゴミはちゃんとゴミ箱に捨てなきゃいけないんだぞ?」
「?うん、わかりましたぁ♪」
夏海にちゃんと教えて…まぁ、内容はともかく、面倒を見てくれることが嬉しかった。
二人の仲のよさは私にとって微笑ましく、またこの家での生活を明るくしてくれていた。
冬彦さんは仕事の関係で忙しいらしく、家に帰ってくることは少なかった。でも、家に居る時には積極的に子供たち
…夏海とも遊んでくれるいい夫…だった様に思う。なにより、前の夫と違い私に暴力を振るうことはない。
景子が心配した悪癖…冬彦さんの女癖の悪さ…も結婚前の約束を守って治まっているように感じていた。
その代わりに私は彼の要求に全て応える。それが結婚前に彼と交わした約束だった。
「きっと君に似合うと思うんだ…」
そういって彼は私の手を引き、この小さな蔵に誘った。
薄暗い蔵の中には外面とは裏腹に、まるでテレビ局のような撮影機材と無数の制服と大量のビデオテープが所狭しと並べられていた。
ここだけ家とは違いきちんと整理整頓が行き届いた空間だった。
私は異様な匂いを感じ…すん…と鼻をならした。鼻腔に浸入してくる奇妙な匂い…男と女の汗の匂い…
ここで一体過去になにがあったのか…考えるまでもない。ここは冬彦さんの城だった。
ここに冬彦さんは連れ込み…ここで…
部屋の中央にはマットレスが無造作に置かれ、その上には白いシーツ。それを取り囲むようなライトとビデオカメラ…
冬彦さんは嬉しそうに鼻歌を歌いながら部屋の隅で衣類を物色していた。
「ど・れ・に・し・よ・ぉ・か・なぁ…ふふふ」
それが私と冬彦さんの夫婦生活の始まりだった。
結婚し始めた頃はそれこそ毎晩、子供たちが寝静まると蔵の中に誘われていた。
…そういうものなのかな…そういうものなんだ…
私は冬彦さんの趣味…嗜好を受け入れていた。
人に言えない部分。
人に明かせない…明かしにくい部分を冬彦さんは正直に打ち明けてくれたんだ。
受け入れよう。彼の望むことを受け入れよう…
恥ずかしさはもちろんあった。
でも、冬彦さんが誉めてくれるたびに私は満たされていた。
294 :
すりこみ:2007/06/10(日) 08:51:53 ID:eTE5kQkN
「…え?…なんで……なの…」
ゴミ捨て場で背中から包丁を生やして横たわっている冬彦さん。
そして、その傍らで荒い息を吐いている春樹君…そして蔵の中から聞こえる夏海の泣き声…
何?何?何…なにが…どうして…
心臓がばくばくと高鳴る。
何が…どうなって…
春樹君が…冬彦さんを…刺した…ころ…した…?
冬彦さんが…し…んだ…?しんだ?…嘘…嘘…嘘…嘘…
救急車!?…でも、なんて言えばいいの…春樹君が冬彦さんを刺したって…
それに、死んで…死んで…死んで…春樹君が…捕まる…
警察…!?でも、なんで…どうして…どうして…どうして…
…落ち着いて…落ち着いて…落ち着いて…落ち着いて…落ち着いて…
でも、なんで…どうして…なんで…どうして…
どうすれば…私はどうしたらいいの?
私にはわからなかった。
冬彦さんが死んでいることも受け入れられなかった。
目の前に横たわる冬彦さんを目の前にしてもそんな事実は受け入れられなかった。
春樹君が刺したなんて事実も受け入れられなかった。殺してない…殺してない…
春樹君がそんなことをするわけが無い…あんないい子がそんなことをするわけ無い…
夏海が蔵の中で泣いているわけが無い…そんなはずはない…だって…だって…
…夢…悪い夢…醒めて欲しいと願った・・・誰かに嘘だといって欲しかった。
こんなのは嘘だって…こんなのは嘘だって…こんなのは嘘だって…
295 :
すりこみ:2007/06/10(日) 08:52:53 ID:eTE5kQkN
「晶子さん…大丈夫ですか…?」
気がつけば目の前にはフグタさんが心配そうな顔をしている。
春樹君の姿も夏海の声も聞こえない。
…あれ?…なんでフグタさんがこんなところに居るんだろう……
あ…そうか…私がフグタさんに電話したんだ…
「あのぉ…フグタさん?お久しぶりです」
「あ…晶子さん!お…お久しぶりです。ですが、こんな夜更けに一体どうされたんですか?」
「あのぉ…私…人を殺しちゃったんです。」
「な…なにを…言っているんですか…あの…大丈夫ですか!」
「はぁい。大丈夫です。私がぁ…冬彦さんを…刺して…殺しちゃったんですよ?」
「と…とりあえず落ち着いてください。今どこです?直ぐに行きますから!」
「今ですか?今はぁ…家にいますよ?」
「そこから動かないでください!直ぐにいきますから!」
…なんかそんなことを電話した気がする……
手を見れば真っ赤な血の付着した包丁がしっかりと握られていた。
…あれ?・・・…あ、そっかぁ…私が冬彦さんを刺したんだ…何度も何度も…
「とりあえず…この包丁は処分しますので…こっちに渡していただけますか?」
いつの間にか目の前に居たフグタさんが包丁の刃先をつまみ、落ち着いた様子で私に話しかけていた。
…フグタさん…どうしてこんなに落ち着いているんだろ…
「はい、ゴミはゴミ捨て場に捨てておいてくださいね?」
「…ゴミ…ゴミですか?」
「はい、だってここ…ゴミ捨て場ですし…」
フグタさんは携帯電話をポケットから取り出して…何かを喋っていた。ぱちんと携帯電話を閉じポケットにしまうと。
「わかりました。それならゴミはきちんと回収業者が回収に来るそうなので…安心してください。」
「よかったぁ…ちゃんと引き取って貰えるんですか?」
「はい…ちゃんと責任もって処分させますので…ご安心ください。」
フグタさんの顔が頼もしかった…なんでだろう…何故だかほっとする。
「晶子さん…冬彦さんは…申し訳ないのですが女と失踪した…そういうことになりますので…」
…失踪…女と?…失踪……なんだ…死んだわけじゃなかったんだ…よかった…本当によかった
…生きてさえ居ればきっとまた会える。
あの人はきっと私のところに帰ってくる…あの人はきっと…帰ってくる…いつかきっと…
「そうですか…本当にしょうがない人ですね。もぅ♪」
微笑みながら、ふと服を見ると随分と汚れている…
「あらあら…どうしましょう…この服は…クリーニングに出さないと駄目かしら…」
「いえ…あの…晶子さん。それももう…処分した方がよろしいかと…」
「あ、そうですね。じゃぁ…お願いできますか?」
汚れた服を脱ぎ始めると、フグタさんがなんだか慌てた様子で背中を向けた。
…どうしたんだろ…ふっと、力が抜ける。どうしよ…お風呂に入って…今日はもう寝よう…
なんだか今日は…とっても…疲れた…
背中越しにフグタさんもタイミングよく
「晶子さんは…もう、今夜はお休みください。あとは私が責任をもってきちんとしておきますので」
その声に安心した。…よかった…フグタさんが居てくれて…
「はい、それではおやすみなさい。フグタさん♪」
軽く会釈し、家に戻る。熱いシャワーを浴びると疲れも一緒に洗い落とされていくようだった。
「冬彦さん…浮気しちゃったのかぁ…また景子にお説教されちゃうのかなぁ…」
そんなことを私は考えた。
それはとっても悲しいことのはずなのに…
なのに…何故だか私は安心していた。
大丈夫…いつか冬彦さんはきっと帰ってきてくれると…
296 :
すりこみ:2007/06/10(日) 08:56:15 ID:eTE5kQkN
投下完了。次回で完結…といいながら微妙に長くなったの
次回に続きます。
申し訳ないorz
>>296 GJ!
しかしこの話の結末はどうなるんだろうか
全く想像できない
>>296 GJ!いえいえ素敵なヤンデレが拝めて幸せです
↓投下します
磔にされた日は帰宅するなり真弓が上に乗ってきて1つずつ枷を解くというイベントが
待っているものだった。しかし今日は亜弓があっさり外して行った。
姫野真弓が聖佑人の上に馬乗りになって、必要以上に顔を近づけ吐息のかかるほど
近くで外して行く。何となく圧迫感のような恐怖感を覚える行為だったがなければ
無いで拍子抜けした思いだった。
「お帰りなさい」
「……ただいまっ」
祐人が真弓に声をかけるとはじかれたように振り返って、すぐに視線を逸らしてしまう。
「真弓?」
これもまた今日だけは亜弓が繋いだ手錠を佑人が引くと無言のままそっぽを向く。
「ご、ご飯にしよう」
真弓は明らかに挙動不審だった。
■■■■■■
■■■■■■
「き……今日は別々にお風呂入りませんか」
夕食後に真弓がこう言い出すに当たってさすがの祐人も突っ込んだ。
「真弓今日変じゃないか?」
「そんなこと無いと思うよ!いつも通りだよ!!」
「そうか?」
問い返すとまた目をそらす。真弓は決して佑人の目を見ようとしなかった。
「真弓?」
佑人はそれでも顔を覗きこもうとして、肩のあたりに凍るような気配を覚えた。
振り返ると亜弓が微笑んでいる。
「……不毛な言い争いはもういいから……2人ともお風呂入ってきなさい……」
「おっお姉ちゃんっ私の話聞いて」
「今更何を恥ずかしがっているの……?」
「恥ずかしがってる訳じゃないよ!」
亜弓はなおも言い返そうとする真弓の耳に何か囁いた。
途端に真弓は赤い顔を更に真っ赤にして俯く。
「さあ入ってらっしゃい……」
■■■■■■
■■■■■■
ちゃぷ……
湯を掬って手から零す。片手しか使えないから本当に児戯のようだ。佑人は
真弓がシャワーカーテンの向こうで体を洗っている間この意味の無い動作を
繰り返していた。風呂の間は2人とも良くしゃべるのだが今日は無言だ。
体を流す音がした。真弓が体を洗い終えたのだろう。彼女が体を洗い終えると
その日の風呂は終了。洗った後に彼女も湯に浸かった方がいいと佑人は言ったのだが、
真弓は恥ずかしいという全くもって今更な理由でそれを固辞していた。
佑人が出るか、と真弓に声をかけようとしたとき。
なんの前触れも無く2人を隔てていたシャワーカーテンが開いた。
「………」
佑人は思わず見惚れてしまった。色白の薄い肩、綺麗に浮き出た鎖骨、控えめだが
形の良い胸、平坦な腹から細い腰。少女の裸体は透明に輝いて見えた。明るい茶の髪が
うなじに張り付いて妙に色っぽい。
「今日寒いから一回入る」
そうぶっきらぼうに目を伏せながら言い放つと真弓は浴槽に入ってきた。姫野家の
風呂は標準サイズなので2人入ると当然窮屈でたまらない。というよりは体が密着する。あくまで腕などの側面同士だが。
「……真弓?」
「たまにはいいじゃない」
真弓は顔を真っ赤にして半ば湯船に沈みながら答えた。
可愛い。正直に言えば可愛い。佑人は思わず頭を撫でようとして手を上げる。
カチャリと鎖が音を立てた。
一瞬迷う。俺はいつの間にかこの状態を許容している。最初は抵抗しないように
していただけの筈だったのが手錠や首輪を当然のものとして受け止め始めている。
これでいいのだろうか。この生活は本当に終わるのだろうか。
一瞬迷うが、すぐにそれを振り切る。大丈夫だ。必ず外から誰か俺を探し当てるだろう。
中途半端に上げた手を真弓の頭におろす。
「本当に今日はどうしたんだ?」
軽く撫でてやると頭を上げた驚いたような目をしている。少し顔を近付けて
問いかけるように覗きこんだ。
「佑人……」
真弓の薄い桜色の唇が名前を紡いで、そっと佑人のそれに触れた。
■■■■■■
■■■■■■
以上です。
GGGGJ!
真弓かわいいよ真弓ぃ!祐人は早く陥落されてしまえばいいんだこの野郎!
>>303 っしゃあああ!エロktkr!
しかし、監禁しておきながらいざするとなると恥ずかしがる真弓、イイ!
「・・・く・・・・・・くん。」
急に掌にかかる力が痛いほどに強くなった。そう、誰かに握られているように。
「・・・つもと・・・くん。・・・・くん。・・・・まつもとくん。」
誰かが、清涼感のある声で僕の名前を呼んでいる。
おぼろげながら聞こえていた声が次第に存在感のあるそれとして聞き取れるようになっていく。
その声はどこかで、いや、もっと身近なところで聞いたことのある声のようだ。
そして、重い瞼を緩慢な動きで見開くとすぐに味気ない天井のクリーム色が視界に入った。
自分が今、横たわっているのは雪白の整えられたベットの上であり、横にはテレビが載っている棚が置かれている。
今、僕がいるのはこの光景からは百人が百人、間違いなく病室というだろう。
何故こんなところに自分がいるのか、という疑問はすぐに浮かんだが、その回答は記憶回路の中に存在しない。
「松本君。目が覚めたのね。」
手を握っていたやや長身、黒髪の少女は、心からうれしそうな笑顔を浮かべつつ、静謐に言った。
「あなたは、三日間の間、ずっと、この病室で寝ていたのよ。」
「・・・・・。」
自分の頭はなぜこんなところにいるのか、という疑問が占めてしまっているため、急にそんな事を告げられても混乱するばかりで、返す言葉に窮した。
明晰な反応を得られなかったことが理由か、北方さんの笑顔が崩れ、事故の様子を回顧したためか、やや哀切さを含んだ憂いのある表情に変わった。
「覚えていないのかしら?あなた、土手から転がり落ちて、出血もひどかったのよ。それですぐに手術になって・・・。それで、あなたはこうして今、病室にいるの。」
「・・・・もしかして、私のこと、・・・覚えていないのかしら?」
そういった彼女は、より強い力で僕の手を握り締め、今にも泣き出してしまいそうな悲しげな表情で、漆黒の吸い込まれてしまいそうな瞳を潤ませて、見つめている。
当然、僕が彼女のことを覚えていないはずがない。
「北方さん、僕は北方さんのことを忘れているわけではありません。ただ、少し何が起こったのか良く分からないので、もう少し説明をしてもらえませんか?」
彼女の話を要約すると、僕は北方さんとサイクリングをしていた途中、訳あって自転車をお互いに交換し乗っていたところ、
僕が乗っていた北方さんの自転車が分解して、その結果僕は土手を8メートルほど転がり落ちて、その途中で四分五裂した自転車の部品と、
土手に身体を打ち、大きく身体を切り、出血がおびただしく、内臓にも損傷があったりしたためこの病院へ搬送され、すぐに緊急手術が開始された、という所だ。
話を聞いていると、北方さんは自分の責任でこうなってしまったのだと思い込んでしまっているようだった。
「・・・ごめんなさい、松本君。・・・私が自転車を換えなければ、あなたは無事だったのに・・・。」
僕はこの事故が北方さんのせいであるなんて、毛頭思っていない。
第一、自転車を交換したい、と言い出したのは僕なのだから、北方さんが悪いわけがないのだ。
「北方さんは、僕が言うままに自転車を交換しただけなんだから、北方さんが元凶だ、なんて思ってないですよ。」
「・・・・でも、あの自転車の欠陥に気づけなかったせいで、あなたが、私の・・・。」
そう言い掛けて、彼女は言うのを中断した。なぜ、中断したかは理解できなかった。しかし、彼女は本気で自分がこの事故の原因だと思っているのかもしれない。
もし、そうだとすれば、彼女を苦しめるだけのその誤解をといてあげたい。
それにしても、そんな目に遭っていながら生きていた僕自身のしぶとさには驚きだった。
体力がない、と自認していた僕が大出血や手術に耐えられるなどと思いもよらなかったのである。
何かのラノベで読んだ敵役の、まるでゴキブリのようにしぶとくあれ、などという件を咄嗟に思い出し、つい失笑を禁じえなかった。
なんというか、シュールなネタという奴は思い出したときはいつでも、思い出し笑いをしてしまうんですよ、これが。
状況認識が甘い、なんて父親から怒られることがあるが、こんな時にこんな馬鹿げたことを考えるとはまさにその通りだ。
でも、北方さんが曇った表情でそれを咎めてきたので、心配してくれたのにやはり失礼かと思って謝った。
それから、いろいろと僕が眠っていた間の話をしてもらった。
北方さんは淡々とその間に起きた出来事や、連絡事項を話し始めた。
僕の手術中に理沙が泣き崩れて、まるで抜け殻のようであったこと。北方さんは理沙を慰めたが何も口をきかなかったらしい。
僕の家族が心配してくれて、いろいろと面倒を見てくれるはずだったのが、父は出張で、母は運悪く僕が事故にあった翌日に死亡した、
近親の葬式の手伝いと参列のために両親ともに家をあけていること。
さらに理沙は自室に篭ったきり出てきていないこと。
また、あの子はよくできた子だから、おそらくこんなことになってしまったことが自分のせいだと責めているに違いない、と付け加えて言った。
そして、両親も理沙もこの病室には何度か訪れて荷物を持ってきてくれたようだが、その間、僕の世話をしてくれたのは北方さんであったようだ。
確かにずっと眠っていたわりには僕の寝巻きは清潔で、荷物も几帳面な彼女らしくまとめられている・・・
って、そんな重要なことを僕は気づかなかったのか。
・・・なんという鈍感・・・なんという恩知らず・・・。
身の回りに心配かけるだけかけておいて、周りの人が何をしてくれたか気づかないとは、我ながら恥ずかしいものだった。
第一、今回も自転車が壊れると予兆がありながら、それに気づけなかったから、こんなひどいことになったはずだ。
もしこんな鈍感さのままだったら、どっかであっけなく死ぬかもしれない。
しかし、僕は自分が鈍感だと知ったところでそれを直せる自信がない。
生まれつき、気の利く何事にも敏感な人がいるが、ああいうのとは対極にあるようだ。
まぁ、要するに馬鹿は死んでも直らないと言うように、鈍感は死んでも直らない、のかもしれない。
でも馬鹿な事を考えられるようだから、僕もすぐにいつもどおりの僕に戻れる、そんな根拠のない考えを抱いた。
やはり愚かな考えだろうが、僕にはネガティヴな思考よりこういったほうが似つかわしい。
そんな場違いなまでにのんきな考えを僕のそれとは比にならない、北方さんの洞察力は察したらしく、
時折見せてくれるくすくす、という微笑を垣間見ることができた。
慰めが功を奏してか、明るく振舞っていた北方さんだったが、何か言いたいことがあるような感じがしたのが気になったが、
彼女が切り出さない以上、こちらが詮索しても詮無いことだと思ったので、特に突っ込まないでおいた。
それから、北方さんが病院食は食べるに忍びないという理由から作ってきてくれた夕食を二人でとり、
彼女の家に遊びに行ったときと同じようにいろいろと話をして過ごした。
学校関連の話では、田並先生が心配して駆けつけてくれたことが意外だった。
また、病室から出て来れないことから、気分転換にと花を買って持ってきてくれたらしく、
花瓶にその優美な花が飾られていた。
特に強烈な印象はなく、落ち着いていて香りも良い花で、いつも面倒なことが嫌いで、
不精な担任、というイメージからは考えられないハイセンスさだと、北方さんも感心していた。
他の生徒は僕が事故で怪我したと聞いても、奴は死ぬわけがないから大丈夫、などと公然とのたまった猛者がいたそうだ。
こいつめ、後の事を考えずに何を言っているのか?シベリアに送られてしまえ、人でなしめ。
まあ、学校に復帰したら少し遊んでやれば気が済む程度だが。
そんなこんなであっという間に時は過ぎていき、既に外は暗くなりつつあった。
とすれば当然、面会時間ももう少しで終わりになるだろう。
母が持ってきた荷物の一つでもある、目覚まし時計を見て確かな時間を確認すると、もう七時に近い時刻であった。
そろそろ家に帰るようにしてはどうか、と北方さんに勧めた。
「・・・どうかしたの?時計なんか見て。」
「え、ああ、うん。もうかなり遅いから、そろそろ帰ったほうがいいんじゃないかな、と思ってさ。」
「・・・そうね。」
普通、そんなに考えるところでもないにも関わらず、帰るか帰らないかの返答にわずかながら間を取ったことが変に気になった。
何を考えたのか分からないが、さっきは詮索しなかったが、やはりまだ黙っていることで言いたいことがいくつかあるのかもしれない。
その証拠に返事したにもかかわらず、彼女自身の荷物が多くて荷物を片付けなければならないわけでもないのに、
僕の病床の傍の椅子から立ち上がろうとすらしていない。
「北方さん、どうかしたの?やっぱり無理をしたから疲れているんだよ。早く、家に帰って休んだほうが身体にいいと思うよ。」
しかし、その問いに対する返答はなく、暫く遠い目で、何かを考えているようなそぶりを見せた後、
やおら立ち上がると、病室の扉の傍へ行き、なんとドアの鍵をかけてしまったのです。
そして、暗くなってしまった外でこうこうと光が燈っているこの病室で、北方さんは感情を読むことができない、
固有のポーカーフェイスを浮かべて、歩み寄ってきました。
この彼女特有のポーカーフェイスは学校でももはや、お馴染みのものと言えるかもしれないけれど、
今までの彼女のそれとは比にならず、言葉では表現しきれないほどの怖さがあった。
ゆっくりと歩み寄っているのにもかかわらず、かえってその威圧感は強く感じられ、
金縛りにあったようにというべきか、腰が抜けてしまってか、動くことができずにいた。
体と体がぶつかるくらいの所にまで彼女が来るまでに、
理由は明確ではないが僕は体中から冷や汗を流し、恐怖に駆られていた。
さっきまでいた位置と変わらないくらいの距離に彼女はいるだけなのに、
急にそれが異物感や恐怖感となって伝わり、身の毛をよだたせる。
「き、き、北方さん、急に、いったい、どうしたの?」
やっと紡ぎだした言葉は自分でも呆れ返るほどに、
どもった高い声で恥ずかしいものだったが、そんな事を言っている場合でない。
その質問には答えずに、その冷徹な双眸を僕の瞳に向けるだけであった。
そういえば、こんな恐怖感を何度か抱いたことがあったが、
そのどの回でも彼女はここまで近くに来ていないし、鋭いまでの視線を向けていたこともなかったと思う。
「・・・本当に、北方さん、どうかしたの?」
そんな再三再四の質問には取り合わずにポーカーフェイスを崩さないまま、僕に唐突に質問した。
「この事故の真実について知るつもりはないかしら?」
この事件の真実?いったい何のことであろうか。僕には当然のことながら、
そんなことは見当のつかないことではあったため、すぐさま鸚鵡(おうむ)返しにしてしまった。
「そう、文字通りの、真実。嫌ならば、話さないけれど・・・。」
冷静な声でさらりと告げたが、非常に意味深長な発言であった。
もしかすると、さっきから話そうかどうか考えていたことはこれのことなのかもしれない。
仮にそうだとすれば、ここで彼女の話を聞くことは良い選択だともいえる。
しかし、真実ということは現在、僕が認識している事故の経緯は虚偽であるということに他ならない。
ならば、いったい何故、虚偽の認識を僕に持たせる必要があったのか、それが理解できない。
しかし、意を決して彼女の話を聞くことにした。
「・・・そうね、どこから話そうかしら・・・。」
彼女は僕から視線を逸らさずに、もう一度、淡々と事故の経緯を語り始めそれを終えると、
自転車の異常が原因になったことから、自転車の状態を分析させたことを話した。
あの自転車は北方さんが彼女の家を出発前に確認したので壊れているはずがないのにも関わらず、
人の手でボルトが緩められていたり、ブレーキが時限式で利かなくなったり、
といった明らかに人為的な悪意ある工作が仕掛けられていた痕跡があるらしい。
「・・・ということは、誰かが僕たちの命を狙っていたということ?」
「ええ、極論で言えば、そうなるわね。」
「でも、いったい誰がそんな事を・・・。」
しかし、その質問には北方さんは明快には答えなかった。彼女の態度から言って、彼女は心当たりがあるのだろう。
僕には主な心当たりがなかったが、彼女の自転車に細工がされていたとするならば、
僕ではなく、彼女だけを当初は狙っていた可能性も当然出てくる。
誰かがそんな悪意を彼女に対して抱いたと仮定すると、
彼女の話では事前に北方邸で彼女は自転車のコンディションを確認してきたのだから、
その後に僕の家に一度停めて、北方さんは家に上がって少しの間、休憩した間にしか、その自転車に細工はできない。
そうすると、おのずと細工をした人間は絞られてくる。
・・・はずだが、あの間に誰かが自宅に訪れた様子もない。
となると、内部犯しか考えられないが、両親はあの時まだ寝室で寝ていたし、
理沙だって僕たちの行く支度をしてくれていた。そうすると、誰かが特別怪しい、と断言することができない。
いったい誰を疑えばよいのだろうか?
北方さんにとって、僕の考えていることなどは洞察することなど簡単なようで、
腕を組みながら考えている僕に彼女の分析の結果の『答え』を冷厳な裁判官の判決のように告げた。
「理沙さんが、細工をしていたとしか考えられないわ。」
しかし、到底その内容は信じられるものではなかった。
「いや、それはない。理沙は北方さんも知ってのとおり、僕たちのサイクリングの準備をしていたのだから、
不可能だろう。」
ほぼ即答だった。やや粘着質なところがあるが、兄想いの優しく賢い理沙が人を傷つけるような馬鹿げた真似をするはずがないからだ。
「・・・そう。」
そう静かに言うと、五枚程度にまとめられた分析結果の冊子を取り出し、自転車の破損部分の写真と分析が記されているところを僕に読ませた。
『・・・・自転車に残された痕跡などから、犯人が大人ほどの力の持ち主の仕業ではないと考えられる。
わずかではあったが、確実にねじが緩められていたために、
うまく時限式に近い形で分解させることに成功したと考えられる・・・。
これらのことから、被害者の身近にいる、女子ないし子供程度の力の持ち主が確信犯として、
自転車の所有者・北方時雨さんに何らかの危害を加えるためにこの細工を施したと思われる・・・。』
この結果は恐るべきものであった。
こんな分析が正しいという確証はどこにもないじゃないか、と叫んで目の前の事実を否定してしまいたかった。
しかし、自分でもそんなことが無意味であること位分かっている。それだけに悲しいのだ。
誰も望んでいないのに、涙が堤を破るようにして、あふれ出てきてとまらない。
北方さんの前なのにも関わらず、恥も外聞もなく涙を流すことができた。
なぜ、理沙が急に、そんな事を・・・。本当に理由が分からない。
「・・・やっぱり、こんな話、しないほうが良かったわね。ごめんなさい。」
北方さんが僕の取り乱した姿を見て、申し訳なさそうに言った。しかし、そんな彼女の声は僕には届くわけもなく。
ただただ、理沙が何故こんなことをしたのか、また、予兆を察知できなかったことを悔いた。
今回は怪我したのは僕だから、まだ良かったようなものだが、他人が怪我をする事を考えただけでも恐ろしい。
さっきは肯定したが、やはり僕の天性の鈍感さは災いにしかならないのだ。到底肯定すべきものではないのだ。
「どうして・・・どうして、僕はこうなるのを止められなかったんだろう・・・。」
何の意図があっても、理沙が行ったことは誤り、ひいては犯罪以外の何物でもない。
でも、あの理沙がこんなことを行うのを止められなかった、自分にも同等の責任があるともいえる。
それは、身近にいる兄としての責任を欠いためでもある。
今頃になって、最近の理沙とのかかわり方が走馬灯のように思い出されてきた。
僕は明らかに、今までのあの子への接し方に比べて、おざなりな対応をしていたように感じられる。
もしかしたら、あの子と同じ視線で話すように心がけていれば、こんなことはならなかったのかもしれない。
少なくとも、予兆だけでも察知できていただろう。
・・・どうして・・・彼女のことを考えてあげられなかったのだろう・・・
・・・・・何故、予兆を察知できなかったのだろう・・・
結局、僕は兄としてふがいなく、失格だったから、こんなことになってしまったんだ・・・。
・・・こんなはずじゃ・・・・僕は・・・・
松本君はうわ言のようにそんな事を繰り返し続けていました。
きっと、今の松本君はやり場のない、虚ろさと怒りを抱えているのでしょう。
信頼していた妹が暴走してしまい、それを止められなかった、それを断腸の思いでいるのは重々承知しています。
ただでさえ、うわ言で聞き取りにくかった声は一層小さくなり、しかも震えだして聞き取りにくくなってきました。
「・・・・松本君。あなたは何も悪くないのよ・・・それに・・・・これはどうにもならなかったこと。だから、自分を責めないで・・・。」
そう、悪いのはあなたじゃない。松本君。
本当に悪いのは、勝手に勘違いを繰り返して、私を狙った挙句、あなたをそんな半死半生の目に遭わせたあの寄生虫なのだから。
日々、松本君を友人のなかった私に相談しなければならないほどにまで、追い詰めるだけでは飽き足らず、結果的に自分の兄を
傷つけて、それなのに、こうして松本君が悲しんでいるときには自宅でのうのうと過ごしていて、自分の罪に気づかずに、謝罪すら
しない。
これは人間のする事ではない。やはり、あれは害物、松本君を苦しめるだけの駆除されるべき寄生虫なのだ。
私はあれを絶対に許さない。
それにしても、松本君が可哀想だ。
私が毎晩寝る前に見ている、写真の彼は明るい笑顔の松本君だ。
私の彼を慕う心の中にいる彼もまた笑顔だ。
学校でも私に見せてくれる表情は非常に豊かなものではあるが、決してこんなに悲しい顔などしていない。
その笑顔一つが、言葉一つ交わしていなかった時でも、いかに重要な糧であったことか―。
それをあの害物は一瞬にして奪ったのだ。
本当に松本君は可哀想で可哀想でならない。
「・・・理沙・・・・どうして・・・・」
「・・・・・・」
その時、私は無意識のうちに立ち上がり、彼の涙にぬれた顔を胸元に抱き寄せた。
そんな姿はもう見ていられなかったから。
私は慰め、勇気付けられてきたのに、彼に何もできないのは悲しすぎたから。
「かわいそうな・・・松本君・・・」
私はできる限り強く、松本君を強く抱きしめた。
あんな寄生虫のために心を痛める必要はないから。早く立ち直って欲しいから。
それに、彼の傍には、負の影響しか与えない害物だけじゃなく、私が居てあげられるのだから。
「・・・もう、涙を流さないで・・・あなたには、私が居てあげるから・・・。」
一つ一つやっとのことで紡ぎだしたように、震えた小さな声で彼は聞き返しました。
「・・・・どうして・・・・どうして北方さんは・・・何もできない・・・・僕のことなんかを・・・」
「・・・それは、あなたの事が好きだから。いいえ、愛しているから。」
疑うことなく、私はそう心から思ったことをはっきり言いました。
未だに流れる涙を押しとどめることができない、松本君の充血した瞳をひたすらに見つめ続けて言った。
「そう、あなたの事を本当に愛しているのは私。あなたの痛みは全て私が代わってあげたい。
あなたの喜びは全て、私にとっても喜ぶべき事よ。そして、あなたの望みは私の望むところ。」
「それから、もう自分を卑下しないで・・・。あなたは気づかなかったかもしれないけれど、
あなたは立派に皆の役に立ってるわ、現に私はあなたに救われた。だから私もあなたのことを慰めてあげたい。」
そして、驚きを隠せずにいる松本君に鼻と鼻がぶつかるほどにまで、顔を近づけ、唇を重ねた。
今まではどれだけ想像の中の事でしかなかったことが、現実としてそこにある。
柔らかな唇の感触と彼の確かなぬくもり。
松本君も最初は少し驚いていたが、拒否することなく、寧ろ受け入れてくれている。
「・・・・北方さん・・・ありがとう。僕も北方さんを愛していると思う・・・」
そう言うと、松本君も涙を流すことをやめ、積極的に私を求めてきてくれた。
こんなときに不謹慎とは思いながらも、松本君と結ばれる喜びが自然と泉の水のように湧き上がってきた。
それから私は身体を痛めている松本君に注意を払いつつも、私たちは文字通り一心に肌を重ね合わせた。
地下の薄暗い一室―。
試験管やビーカー、そして様々な試薬の入った薬瓶といった化学の実験室にあるような種々の実験器具が、
所狭しと置かれている薄暗い部屋。
何度となく涙を流したことが伺える、疲れ果てた表情でこの部屋の主である、松本理沙は薬品を混合させながら、
ヘッドフォンを耳にあてる。
本来、細心の注意を払うべき薬品の精製や実験において、ヘッドフォンを耳につけるというのは邪道ではあったが、
そのヘッドフォンから聞こえてくるであろう、兄である弘行の温もりを何よりも彼女は欲していた。
彼女は、手術後に兄の部屋になるであろう部屋を先に洗い出し、盗聴器を複数個仕掛けておいたのである。
だから、目が覚めていない昏睡状態であっても、その部屋のわずかな音ですら聞こえてくるのだ。
その節々に兄の温もりを見つけようと彼女はしているのだ。
しかし、その願いは残酷でナイフのように鋭利な逐一、聞こえてくる事実によってずたずたに切り苛まれてしまった。
聞こえてきたあえぎ声は紛れもなく、あの憎むべき雌猫のもので、体中の力が抜け、めまいがするのが感じられた。
こんな事実は嘘に決まっているに違いない、あの雌猫がお兄ちゃんを襲っているに違いないのだと思いました。
そして、自分の愛する兄を救うために病院へ駆けつけようと思いましたが、
その考えもヘッドフォンから聞こえてくる事実によって脆くも否定されてしまった。
「あ、あんっ……ふあっ……松本くん、激しい……!」
「……じゃあ、ゆっくりする……?」
「意地悪……」
自分だけの兄が強要されたわけではなく、自ら望んで、自分以外の誰か、
しかもよりによってあの雌猫と睦みあっているという事実を知り、魂の抜けた抜け殻のように、力なくその場にへなへなと座り込んでしまった。
第七話ここまでです。
酔っていたので、誤字脱字はいつもより多いかもしれないです。すみません。
323 :
すりこみ:2007/06/11(月) 02:02:57 ID:KB9hD5g0
最終話投下しまっす。
324 :
すりこみ:2007/06/11(月) 02:04:09 ID:KB9hD5g0
「あ、いらっしゃい♪」
いつもの時間にドアが開くいつもの光景、いつもの挨拶。
静かな店内に流れる音の中、フクダさんの姿が見える。
背広を預かりハンガーに吊るしている間に、フクダさんはいつものカウンター席に腰をかけていた。
「いつものでいいですか?」
「はい、いつもので…」
手早く氷とボトルを用意し、グラスに氷を割り入れウイスキーを注ぐ。
とくとく…とく…
コースターの上にグラスを静かに置くとフクダさんと眼が合った。
「今日はお一人なんですね。」
「ええ、今日は……」
チーズを切りながら言葉を交わす。
そういえば、ゆっくりフクダさんとお話しするのは久しぶりかもしれない。
ふと、そんなことを思った。
325 :
すりこみ:2007/06/11(月) 02:05:16 ID:KB9hD5g0
「…で?…なんだって?」
「だからぁ……冬彦さん…女の人と…逃げちゃった…えへ♪」
「…だぁかぁらぁ…あれほど地雷だと忠告しといただろうがぁ!!」
景子は珍しく語気を荒げて怒っているように見えた。
いつもの居酒屋で私と景子は結婚後初めて会うことになった。誘ったのは私。
「あ、生中お代わりお願いね〜♪」
「人の話を聞け!」
「聞いてるよぉ…だから景子に相談してるんだよ?」
「…まぁ、いいさ・・・それで?相談内容はなんだ?離婚の手続きか?それとも逃げた冬彦を探し出すのか?」
「ううん…きっとね?冬彦さん…戻ってきてくれると思うんだぁ…だってあそこが冬彦さんの家なんだし…」
「ほぉ…なんだ?離婚する気はないのか?」
「うん…春樹君のこともあるし…」
「ふぅん…」
ぐびり…
とビールを飲む景子。なんだろう?…珍しくなにか考え込んでいる様子だった。
「で?…じゃぁ、相談ってなんなんだ?」
「それは…」
私は自分の就職活動の苦労話を率直に打ち明けた。
冬彦さんがいなくなって、昔の貯金を少しずつ削って生活していること。
もともとある程度の貯金はあったのだけど、このままではいずれ虎の子貯金にまで手をつけなきゃいけないこと。
お金を稼ぎたい…でも、お昼の仕事だけだと子供二人を養う金額は稼げず、また水商売をしようと考えていること。
以前、勤めていたお店に相談することも考えたけど、通勤に時間が掛かりすぎること。
この近くで探したのだけど、なかなか採用してもらえないこと。
「そうだね。この近辺だと…今は難しいだろうね。」
「うん…もう私もそんなに若くないし……そんなに仕事を選べないこともわかってるの。
…でも変なお店は…できたら…いやかなぁ…って」
「……まぁ、心当たりがないわけじゃないけど…」
「ほんと!?お願いっ!景子!一生のお願い!」
「……君の一生は一体何回あるんだ?」
326 :
すりこみ:2007/06/11(月) 02:07:41 ID:KB9hD5g0
…そんな経緯でこのお店のママを引き受けることになったのだ。
場所は市内の歓楽街の中心地。そのオーナーは意外なことに景子だった。
「いやね?知り合いのお姉さんが引退して田舎に帰るというのでこのお店を買わないか?
と持ちかけられていたんだよ。まぁ、大赤字にならない程度にやってくれたらいいから。」
お店の内装は以前のお店のまま…ダークブラウンの壁に敷設された棚には無数のレコードやCDがずらりと並び、
スポットライトの僅かな明かりがお店の中を幻想的に照らしている…
そんな落ち着いた大人の隠れ家のような素敵なお店だった。
「前のママがね…ジャズが好きで始めたお店なんだ。それを辞めるにあたり大切なレコードも進呈してくれたんだよ。
そんな訳だからできたらこれはそのままにしておいて欲しいけどいいかな?」
それが景子の出した唯一の条件だった。給料は稼いだ分だけ貰っていいよ?と言ってくれたものの
一等地でのお店の立ち上げはもちろん、ママの経験だってない私にはどうしていいのかさっぱりわからなかった。
景子が仕入れや会計なんかに関しては力を貸してくれたものの、当初はお客さんの数もまばらで…大赤字にはなんとかならなかったものの
「本当にこれでやっていけるのかなぁ…」
そんな不安な毎日だったように思う。疲労もピークに達していた頃かもしれない。
その当時の私は多分…不安そうな表情を子供たちにも見せていたのかもしれない。
春樹君が学校を辞めて働く…そんなことを私に言ってきた時期でもあったから…
その時の事を思い出すと今でも心臓が止まりそうになる。
春樹くんを必死で説得し、なんとか思い留まってもらえた時の安堵感は同時に焦燥感だったように思える。
確かに春樹君と夏海が進んで家事の手伝いをしてくれるようになったことは嬉しいと同時に悲しかった。
本当ならもっと友達と遊んで、自分の時間を楽しみたいはずの子供たちに苦労をかけている…
冬彦さんがいないせいで…私のせいであの子達に苦労をかけている…
でも、その時の自分には仕事と家庭を両立させるだけの余力は残っていなかったんだと思う。
その時私にできたことはあの子達の前では笑うこと…
余計な心配をこれ以上かけないこと…
それだけしかその当時の私にはできなかった。
327 :
すりこみ:2007/06/11(月) 02:08:50 ID:KB9hD5g0
そんな毎日が変わり始めたのは一本の電話からだった。それはフグタさんからの電話だった。
「お久しぶりです。何か変わったこととかはありませんか?一応、家のほうは定期的には見回らせていただいているんですが…特に今のところ異常は…ないようです。」
「あ…そうなんですか?ありがとうございます。変わったことですか?…あの実は…」
このお店でママをやっているんです。そんな風にお伝えしたその日にフグタさんは大きな胡蝶蘭を幾つも持ってお店にお祝いに来てくれた。
「いい店ですね…とても落ち着いていて…」
そんな風に誉めてくれたように思う。私の手柄じゃなかったけどやっぱりお店を誉めてもらえると嬉しかった。
そしてその日はいつものように、フグタさん以外のお客さんの姿は見えず、ゆっくりと久しぶりにお話ができたように思う。
お店をやめてからのこと。冬彦さんがいなくなるまでのこと…何故だかフグタさんには素直に話すことができた。
フグタさんは言葉数少なかったけど真剣に私の話を聞いてくれていた。
「なんだか…私ばっかり喋っちゃって…ごめんなさい…」
気がついたときには日付が変わっていた。人とゆっくり話すのも…しかも男の人とこんなに長時間話すだなんて…本当に久しぶりだった。
「いえ、今日は本当に楽しかったです。また来ます…必ず…」
そういって店先で見送ったフグタさんは、それからは必ず誰かを連れてお店に来てくれるようになった。
連れて来られる方の業種も職種も様々で、主に会社の役員や役職者、文化人、芸能人などが多く…
フグタさんとどういった関係なんだろ?と思って聞いてみると
「仕事の関係です。」
とフグタさんが笑って答えるのが決まりになっていた。
フグタさんの連れてきてくれたお客さんは、今度は別のお客さんを連れて来られ、
そして、そのお客さんがまた別の方を連れて来てくれていた。
…そんな風にお店は少しずつ軌道に乗り、昔のように誰も来ない日のほうが珍しくなっていた。
328 :
すりこみ:2007/06/11(月) 02:10:24 ID:KB9hD5g0
だから、フグタさんが一人で来られるのもお店に他に誰もいないことも、
あの時以来だなぁ…そんな風に思い出に浸っていた。
「久しぶりですね…こうやってフクダさんと二人きりでお話しするのって…」
フクダさんは驚いたような顔のまま、何故か固まっていた。
「フクダ…さん?」
「あ…いえ、あの…少し驚いてしまって…初めてきちんと福田って呼んでくれたので…」
「そう…でしたか?」
…そういえば何故なんだろう?…来られるお客さんが
「フクダさんにまたよろしくお伝えください。」
判を押したようにそう言われ続けたからだろうか?…なんだろう?そういえば…
私はいつからこの人のことをフクダさんと呼んでいたのだろう…
…何かが心に引っかかる…なんだろう…
「あの…」
「なんでしょう…?」
「どうして…こんな私に…私にこんなにも良くしてくれるんですか?」
フクダさんはごくりとウイスキーを飲み干し、俯いたまま動かなかった。
「あの…すみません…変なこと聞いちゃって…ごめんなさい…」
すると急にフクダさんは顔を上げ…そして真剣な表情で口を開いた。
「貴女の笑顔が…見たいだけなんです…」
329 :
すりこみ:2007/06/11(月) 02:11:38 ID:KB9hD5g0
出勤前に、いつものようにぶらりと本屋に立ち寄り、いつものように本を買う。
ジャンルは何故かいつも少女漫画だった。
ハッピーエンドな話がいいな…
そう願うもののヒロインに悲劇が訪れたら読むのをやめてしまう私は…
いつまでたってもハッピーエンドにはたどり着けなかった。
「どうしてなのかなぁ…」
少女漫画のヒロインたちが本当にみんな最期には幸せになっているのかさえ、確かめられなかった。
店員さんに「これはハッピーエンドですよ?」と勧められて購入したものでさえ、最後まで読んだものは一冊も無かった。
ハッピーエンドのはずなのに必ず訪れる不幸。
不幸なしにハッピーエンドを迎えるお話は本当にないのだろうか?
それとも…不幸が無ければハッピーエンドにはたどり着けないの?
それとも…お話だから?
ううん?最後には報われなきゃ嘘だ。だって、こんなに不幸なんだから…
でも、本当に幸せになれるの?
私のように…幸せになって終わった次の瞬間…
どうしようもないほどの絶望に襲われるのだと知っていたら。
彼女たちはその道を選ぶだろうか?
でも、不幸だったらハッピーエンドにたどり着くことが本当にできるのだろうか…
いつの日か…幸せだって本当に心のそこから笑える日が来るのだろうか…
330 :
すりこみ:2007/06/11(月) 02:14:25 ID:KB9hD5g0
日に日に冬彦さんの姿と重なっていく春樹君。
日に日に私の姿と重なっていく夏海…
同じベッドで眠る二人の姿が私と冬彦さんの姿に重なっていく。
私の居場所は本当にここにあるのだろうか…
冬彦さんは…いつ帰ってくるのだろうか…本当に帰ってくるのだろうか…
いえ、もしかしてもう…帰ってきているの?
毎日、家に帰宅する時はいつもゴミ捨て場を眺めてしまう。
最期に冬彦さんを看た場所。どうして私は冬彦さんと喧嘩をしてしまったのだろう?
冬彦さんが怖がって逃げだすのも仕方がないと思う。
悪いのは私。
包丁で刺したりしたら誰だって逃げ出すと思う。
怖いと思う。
だから冬彦さんは他の女に逃げてしまったんだ。
冬彦さんは悪くない。悪いのは私…
でも、どうすれば冬彦さんは許してくれるのだろう…
それとも…もう…私のことは許してくれないの?もう…許せないのかなぁ
331 :
すりこみ:2007/06/11(月) 02:15:47 ID:KB9hD5g0
ある日、気がつくとゴミ捨て場には死体が転がっている。
冬彦さんじゃない女の死体が糸の切れた人形のように転がっていた。。
制服…春樹さんの学校の制服…女の子が死んでいる。
死体…この死体は…だれ?誰なんだろう…どうしてこんなところに…?
どうしてこんなところで死んでいるんだろう…私が殺した?
どうして?…どうして?
…もしかして…冬彦さんと逃げた女?
そっか…だから私…殺しちゃったんだ…そっか…そっかぁ…
じゃぁ…冬彦さんは…戻ってきてくれたのかなぁ…
家の中に…冬彦さんいるの?
帰ってきて…くれたの?
私は急いで携帯電話を取り出す。
「フクダさん…冬彦さんと逃げた女を見つけたんです」
「そんな…それで…どうしたんですか!?」
「殺しちゃいました。だって……気がついたら死んでいるんですよ?」
「とりあえず…そこから動かないでください!」
「はぁい♪」
私はその場で待った。どうしてだろう。フクダさんの言葉は素直に聞ける。
フクダさんだけは…信用できる。フクダさんはいつだって力になってくれる。
フクダさんが動くなと言うんだから動かないほうがいい…きっと動かない方がいい…
30分ほどでフクダさんと回収業者の方が来られて手際よくゴミ捨て場を片付けてくれた。
「これで…冬彦さん戻ってくるのでしょうか?」
期待の眼差しでフクダさんを見つめる。フクダさんは言いにくそうに
「いえ…どうやら冬彦さんは…別の女のところにいるらしいんです…」
そっかぁ…そうなんだ…この人は冬彦さんに捨てられちゃった人だったんだ。
捨てられて…ゴミになっちゃった人だったんだ。
なんだか可愛そうだった。必要が無くなって捨てられたその人が可愛そうだった。
でも、やっぱり冬彦さんはその人には満足できなかったんだと思う。
だから、きっと帰ってくる。
最後には必ず…
冬彦さんは私のところに帰ってくるんだと…
強く願った。
332 :
すりこみ:2007/06/11(月) 02:16:56 ID:KB9hD5g0
…気がつけば目の前には3体の死体。
ゴミ捨て場にまるでゴミのように打ち捨てられていた。
また、同じ春樹さんと同じ学校の制服
…冬彦さん…やっぱり若い女の子が好きなんだ…
だから私から…逃げちゃったのかなぁ…
また、3体の死体。
同じような死体。
春樹さんの学校の制服
…冬彦さん…もしかして学校に…いるのかな…
333 :
すりこみ:2007/06/11(月) 02:18:24 ID:KB9hD5g0
初めて仕事を休んだ…
学校に冬彦さんがいるかもしれない
…そう思うと…いてもたってもいられなかった。
学校が終わる頃…学校近くの喫茶店で冬彦さんの姿を探した。
永遠とも思える時間…氷が全て解け落ちた瞬間
…私は信じられないものを見てしまった。
冬彦さんと…そしてその隣で楽しそうに微笑んでいる私。
腕を組んでいる。冬彦さんに甘えている私。
その私は今の私じゃなかった。
冬彦さんが好きそうな…
いえ、冬彦さんが今愛しているのは…あの若い私なんだ…
あれ?…どうしてなんだろう…
ハッピーエンドじゃない?
私と冬彦さんが幸せそうに歩いている。
不幸なんて微塵も見当たらない。
そっか…そうだよね。あはは…バカみたい…
違ったんだ…あの子達じゃなかったんだ…
冬彦さんはちゃんと…私のところに帰ってくれていたんだ。
ずっと昔から…私の傍にいてくれたんだ…
でも、それはこんな年老いた私じゃなくて…
ずっと若くて綺麗な私のところに…帰っていたんだ…
じゃぁ…私は誰なんだろう…
どうして私は…私は…冬彦さんの隣にいないんだろう…
私は…だれ?…私は…誰なんだろう?
あの冬彦さんと幸せそうに歩いているのが私なら…
私は私であってはいけないんだよね…
じゃぁ…私は…私の名前は……
334 :
すりこみ:2007/06/11(月) 02:19:27 ID:KB9hD5g0
「大丈夫ですか!?晶子さん!晶子さん!」
気がつくと目の前にはフクダさんが心配そうな顔をして私を見つめていた。
…ここは…どこだろう…
「あの…ここは…」
「失礼かと思いましたが…私の車の中です。
知人が喫茶店で具合を悪そうにされている晶子さんを見かけまして…
それで私が…すみません。余計なことをしまして。」
「いえ…いつもすみません。なんだか恥ずかしい姿ばかり見せてしまって…」
晶子…それが私の名前?…でも…喫茶店……ずきりと頭が痛い。
なんだろう…なにか頭が痛い。だって…冬彦さんの傍にいるのは私…
じゃぁ、冬彦さんの傍にいない私は誰なんだろう…
車のミラーに映る私の姿を見つめると、私じゃない私が虚ろな瞳で私自身を見つめていた。
「ねぇ…フクダさん…私…とっくに冬彦さんの傍にいたんです…
なのに、そのことに気がつかなくって…
冬彦さん…やっぱり私のことが好きだったんですよ。
だって、ずっとずっとずっとずっとずぅっと…私の傍に…
私の一番近くにいてくれて…私のこと守ってくれてたんです。
なのに、私はそんなことにも気がつけなくって…
…奥さん失格ですよね。
だから冬彦さんは…私じゃない私の傍に…
もう、こんな私のことは…見てくれないのかな…
こんな私に…生きている価値なんってあるのかなぁ…」
涙が瞳から溢れる。冬彦さんの傍にいない私には価値はない。あの死体たちと同じように価値はない。
いらない…いらないから捨てるんだよね。
でも、冬彦さんは私を選んでくれたんだよね?でも、その私は私じゃない…
そんな思考を遮るようにフクダさんは私の身体を強く抱きしめていた。強く…とても強い力で…。
そして耳元で囁くように
「冬彦さんは…晶子さんのことを今も大切に想って…いるはずです」
「なんで…どうして…」
「冬彦さんは…まだあの晶子さんを抱いていないそうです。」
「どうして…ねぇどうして…あの人に抱いてもらえないの!?」
「あの晶子さんは…冬彦さんを拒んでいるらしいんです…」
そんな…酷い…
…なんで私は冬彦さんを受け入れてあげないんだろう…
あんなに冬彦さんのことを愛していながら受け入れないなんて…
違う…あれは私じゃない
…私じゃない…私なら冬彦さんを拒んだりしない。
冬彦さんを受け入れたい…冬彦さんの望むことならどんなことだってしてあげたい。
なのに…その私は拒んでいる…
「もしかして…偽者なの?」
突然、脳裏に閃く一つの可能性を口にする、
「…おそらくは…」
「そっか…冬彦さん…また騙されちゃったんですね。本当に仕方ない人ですね。」
そうだったんだ…そうだったんだ…よかった…よかった…あの私は偽者だったんだ…
安堵とともに危機感がつのる。冬彦さんが騙されているなら…助けてあげなきゃ…
そんな私の心を見透かしたように
「…その件に関しては…私に任せてもらえないですか?」
「フクダさんに…ですか?」
「ええ…いくら偽者とは言っても晶子さんの分身には違いありません。
その方を殺したら…」
「冬彦さんが悲しむ…ですね。わかりました。
それじゃぁ…その件はフクダさんにお願いしてもよろしいですか?」
「ええ…お任せください。」
335 :
すりこみ:2007/06/11(月) 02:21:25 ID:KB9hD5g0
その言葉通り…翌日、冬彦さんの傍にいた私は姿を消していた。
冬彦さんは慌てていた。慌てて必死に私の姿を探していた。
電話でも慌てている様子だったのがわかった。
嬉しかった…そっかぁ…冬彦さんは私がいなくなったら…
こんな風に探してくれるんだ。
「母さん!夏海が…夏海がいないんだよ!」
かぁ…さん?冬彦さんは私のことを母さんって呼んでたのかな?
…でも、子供たちの前では…そんな風に呼んでくれていたよね。
うん…確かそうだったよね♪
夏海?…そういえば…夏海…は…どこに行ったのかなぁ
…小さくて可愛らしい夏海…もしかして誘拐…されたの!?
「私も心当たりを探してみるけど…アナタの方には心当たりはないの?」
あなた…なんて久しぶりに使う気がする…懐かしい…
冬彦さんは電話口でもわかるぐらいにはっと…何かに気がついた様子だった。
「なんでもない…母さんも心当たりを探して」
そっか…冬彦さんには心当たりがあるんだ…
じゃぁ…冬彦さんに任せておけば…大丈夫よね。
家に帰ると1体の死体…男?女?…
でも、もうそんなことはどうでも良かった?
「フクダさん?ゴミ…また増えているみたいなんです…
回収業者の方によろしくお伝えしていただけますか?」
「な…!?また…それは…」
「お願いしますね♪」
かちっと…電源を切る。
わかる。家の中にはあの人がいる。
もう、あの悪い私はいない。
私なら大丈夫だよ?もう、怒っていない。ううん…大丈夫。
私は全て許すよ?世界中があなたの敵になっても…
私だけはあなたのことを愛しているから。
あなたが私を裏切っても、私はあなたを裏切らないから…
その夜…私は冬彦さんに抱かれた。
泣いている冬彦さんを受け止めた。
私も涙が溢れた。
やっと逢えた。
やっと触れることができた。
やっと抱いて貰えた。
やっと…冬彦さんが私のところに…
本当に私のところに帰ってきてくれた…
私たちは何度もお互いを貪った。
逢えなかった時間を埋めるかのようにお互いを貪った。
ごめんなさい。
刺してごめんなさい。
殺してしまってごめんなさい。
心の中で私は何度も冬彦さんに謝った。
謝りながら何度も絶頂に達していた。
子宮の中に冬彦さんの迸りを感じるたびに
頭の奥が真っ白になる。
私は幸せを感じていた。
冬彦さんに選ばれた喜びと…
女としての悦びを…
336 :
すりこみ:2007/06/11(月) 02:24:02 ID:KB9hD5g0
気がつけば病院の中…白い天井…夢…?
幸せな夢を見ていた。まるで少女漫画のような幸せな夢を見ていた。
嫌なこともあった…不幸な出来事もあった…だけど最後にはハッピーエンド…
そんな幸せな夢を見ていた。
「母さん…大丈夫かい?」
私の顔を心配そうに覗き込んでくれるあの人の顔。
よかった…夢じゃない。ちゃんと私の傍にいてくれる…
「うん…少し怖い夢を見ちゃった…あなたがいなくなっちゃう夢…」
「僕は…いなくなったりしないよ…」
「うん♪」
大きくなったお腹を擦りながら、眩しい彼の笑顔に笑顔で応える。
「そうだ…母さん…その子の名前…もう決めたの?」
「うん…ゆっくり考えられる時間もあったし…
あなたもきっと…気に入ってくれると想うの……」
ずっと心のどこかに残っていた名前を口にする。
彼はきっと喜んでくれる。
いい名前だね…
って誉めてくれることを期待しながらその名前を口にした。
「夏の海と書いてなつみ…いい名前だと思わない?」
337 :
すりこみ:2007/06/11(月) 02:32:08 ID:KB9hD5g0
「すりこみ」は以上で完結です。
文章の拙さももちろんのことながら、消化不良が多すぎると自分自身
反省しまくってます。どーにもこーにも推敲が足りません。orz…
最後になりますが、最後まで読んでいただいたお暇な方々に多大な感謝を…
ヤンデレって難しいねぇ…
ちょ、ダブルで投下て何だw
幸せすぎてコメントに困るぞ。
まあ取り合えず一言だけ言わせて貰う。
> 「あ、あんっ……ふあっ……松本くん、激しい……!」
> 「……じゃあ、ゆっくりする……?」
> 「意地悪……」
重症なんだから自重しろよ松本弘行。
……いいぞ、もっとやれ!
投下ラッシュktkr! GJ!
>>322 北方さん派の俺としては嬉しい展開だが
でも理沙ガンガレ!
きっとまだ病みが足りないのさ
>>337 完結乙でした
って、うわあああああああああ! 母親エンドか! 他の皆全員死亡!?
これだけのキャラが揃ったんだからこの話は長編で読んでみたい
キャラごとの個別の話とか
>>337 GJ!
母親もまた病んでいたとは・・・
予想の斜め上を行かれた・・・
>>337個人的な意見なんだが、病んでる登場人物が多過ぎて物語が散漫になってるように感じた。
え?フクダさん何者?とか、へ?八雲兄妹死んだの?とか…
GJとか萌えとかより「?」が胸に残った。
俺は他の住人より読解力が足りないんだろうか…
完結乙でした。
>>341 オレの拙い想像力を総動員した結果
夏海を殺害して春樹を食っちゃった、でFAかと
すまん。少し読み間違えていたな
おそらく八雲兄弟と八雲の恋人たちも全員死んだんだろうけど
それを今まで脇役とすら呼べなかった存在感の母親が処分してしまったせいで
うまくオチがついていないように感じる
母親が一人勝ちするのはまだいいとしても八雲一派や夏海視点での終焉描写が欲しいところだ
視点変えた補完は読みたいな
あと、八雲兄妹中心の番外編とか
これだけ狂っていた二人とこのままサヨナラは惜しい。
ふと閃いたんですが、ヤンデレカップルを眺める第三者の視点のSSってのはアリですか?
以下プロット。
主人公の両親はヤンデレ行為の末強引に結ばれた姉弟だった。
ふたりは法的に結婚はしていないものの2児の親として(ヤンデレ的に)幸せな家庭を築いていた。
そんな家庭を普通の物として見ていた主人公は社会(学校)に出て少しずつ違和感を覚えていたが
あるとき彼の弟がヤンデレ女に惚れられてしまいその相談を受けていると…
「兄さん、彼女のしていることは異常だよ。でも父さんや母さんも同じ事をしているし」
「しっかりしろ弟よ。そうだ言いたくないけど父さんや母さんは異常なんだ。
だから僕たちは反面教師として真っ当な…げっ!彼女さん!?」
「お義兄さん、私と弟クンの仲を引き裂くんですかー!?(のこぎり上段構え」
「「うぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっっっっっ!!!!!!」」
ドタバタギャグやないか。
ドタバタギャグええやないか。
今更なんだが『戯言遣いsaraの戯言部屋』の「病んだ心を持つ少年」もかなりのヤンデレだよな。
あそこ更新遅いし、基本最強系だし、文法おかしかったりで癖は強いんだが、何故かこのSSだけは大好きなんだよな。
更新再開すれば直ぐにでも読みにいくんだが……
流れぶった切る話でスマソ。
ここに投下してる職人さんたち愛してる。
第三者視点じゃなくて、親子二代のヤンデレじゃない?
きみあるナトセルートで、ナトセは夢とレン以外の家族を殺してしまうのでは!!
と考えた俺は間違えなく病んでる…
>>345 いいなそれw
それなりに仲のいい兄弟がヤンデレ夫婦とヤンデレ彼女に振り回されるドタバタヤンデレコメディwww
久しぶりに来て空気の読めない発言をするのだが、
お茶会の人はもう長く来てないのか?
まとめサイトでも最近名前が上がってないような気がするのだが…。
>>352 しばらく来てない。
ただ、リアルで忙しいみたいだ。
ここでの連載以外にも色々と創作活動があるようで
まあ、マターリ待つのがよろし
俺も更紗に会える日を楽しみにしてる
>>353 そうか。それを聞いて安心した。
俺も気長に待とう。
ヤンデレも ヒロイン次第で サイコホラー
字余り
保守
>>337 もはやここまで来るとヤンデレ云々というよりサイコホラーだな・・・
なにはともあれGJ
質問。此処ってゲームパロとかファンタジー、SFなど
オリジナル現代モノ以外の二次創作系のヤンデレとかってOKなんでしょうか?
359 :
すりこみ :2007/06/14(木) 01:04:12 ID:1SfiEejc
>>357 私もそー思うっす。
とゆーか、ヤンデレって実はバランスとプロセスが重要なのかと
思ったり。
と、その教訓を生かせるのか悩み中。
確かにヤンデレはカレー味だな。
大丈夫だとは思う……けど、期待したとおりの反応がもらえるかは微妙だよ。
元ネタ知らなきゃ楽しめないわけだし。
元ネタ知らなくても大丈夫って触れ込みの作品も多いけど、二次創作は残念ながら読み飛ばされる傾向にある。他のオリジナル系スレでは。
元ネタのスレ尋ねて、作品内容軽く紹介して投下してもいいといってもらえたらそっちに投下した方が良いと思う。
その作品のスレでやれ
やっちゃ駄目ってことはないだろうが、その作品のスレのほうが選択としては無難。
でも、あんまり元のキャラとイメージが違ったり酷い扱いにすると、それはそれで叩かれるからなぁ
ヤンデレなんて元からヤンデレキャラでもなければ厳しくね?
age
365 :
実験的作品:2007/06/14(木) 09:14:49 ID:1SfiEejc
投下します
366 :
実験的作品:2007/06/14(木) 09:16:39 ID:1SfiEejc
「やっぱり、こういうのが好きなの?」
にっこり微笑む彼女の目はどうして…こう…笑っていないんだろう。
「いやいや、別に好きってわけじゃぁ…」
「もう、なんでそこで隠すの?どうして好きって言わないの?それとも嫌いなものを買っているって言うの?」
「…いや、そういう訳じゃないけど…」
彼女の手にあるのは『涼宮ハルヒの憂鬱、5。孤島症候群・前編・後編』のDVDだった。
ジャケットイラストは雨に濡れて胸元で腕を組んでいるハルヒの絵。
わっちゃぁ……しまったなぁ…昨日の夜、見たままテレビのとこに置いたままだった。
いつもなら彼女の目が届かない保管場所に持っていくのに…しくじった。
俺が彼女からそういう類のものを隠すのには理由がある。
といっても、そんなに複雑な理由じゃない。
事の発端というか、まぁ、僕がそうなってしまった理由というのは単純な話。
彼女に『涼宮ハルヒの憂鬱、1〜3』のDVDを見せたのが発端になる。
なんでそんなことをしたのかは今となっては思い出せないのだが、単純に面白いと思ったことと、
自分の趣味の一端を彼女に知って欲しかった…そんな程度の動機だったと思う。
彼女は笑うでもなく、退屈そうにするでもなくじっとテレビ画面を凝視していた。
時間にして約2時間が経過し、何事もなく鑑賞終了。
期待…僕は一体どんな回答を彼女がすることを期待していたのだろう。
「このハルヒって子…なんかむかつく。」
…えっと、第一声がそれですか。しかし、会話を繋ぐべく必死でその打球を拾い上げる。
「あの…どのあたりがむかついた?」
「ん〜…全部かな?」
全部かよ!でも、ここで「あ、そうなんだ。」と言おうものなら会話終了。さらになんとか打ち返してみる。
「えっと…例えば?」
「自分勝手で我が侭で、世界の中心は自分だって思っていそうなところ。」
…それはお前のことじゃないのか?…そう思った俺は思わず口がすべり
「…同属嫌悪?」
などと暴言を吐いてしまう。しまったぁぁぁ!今のなし。カットォォ!
しかしというか、当然と言うか時間は戻らなかった…のだが、案外というか、意外なことに彼女はなにやら考え込み
「…ん〜…そうかもね…でも、私はここまでエキセントリックじゃないけどね。」
怒るかと思いきや、それほど怒っていない様子に安堵したのも、つかの間。
「で?この話のどこが面白いの?要するに変な女の子が神様で、
宇宙人とか未来人とか超能力者が実は傍に居て、
それが全員可愛い女の子でナイフを持った可愛い女の子とかと戦ったりする話でしょ?
これってあれ?ツンデレって奴?」
…そういっちゃうと、見も蓋もないんだが。
「で、あなたはどれが好きなの?胸の大きいの?あの無口な子?それともナイフ?」
…いや、強いて言えばナイフと無口とハルヒだが、やっぱりそっちに話がいきますか。
「やっぱり、こういうのが好きなのね?」
「こういうのって?」
「女子高生とかロリっぽいのとか」
「いや、誤解がある!そうじゃないって!」
「じゃぁ、巨乳が好きなの?」
「…えっと、なんと言っていいんでしょうか…」
「別にいいよ?こういうのが好きでも。」
そういって彼女は手元のPSPを取り出すと電源を入れ、MHP2を始めたのであった。
367 :
実験的作品:2007/06/14(木) 09:18:03 ID:1SfiEejc
まぁ、要するにそういうことがあってから大っぴらに彼女の前でオタク系のDVDや漫画、小説、エロゲなんかは
控えるようにしているというわけだ。いや、別に見られてまずいというわけじゃない。
そもそも、そういう物品を所持しているということは彼女だって知っている。
ただ、それを俺が鑑賞している時の彼女の冷ややかな視線とか電波がそうさせるのだ。
例えばある時…『Fate』をプレイ中に突如背後に現れ
「ふ〜ん…やっぱりこういうのが好きなの?」
…画面にはセイバーとイリアの姿が…って、いや、敢えて言えばアーチャーなんだが…
また、ある時は『マブラブ・あんりみてっど』をプレイ中…
「やっぱり…胸の大きいのが好きなの?」
と、気がつけば背後から画面 ― 御剣冥夜の立ち姿 ― を覗き込んでいる彼女の姿が…
別にオナニーをしていたわけじゃないのだが、
あの冷ややかな視線&セリフの後に継続できるほど俺は漢(おとこ)ではなかった。
そりゃ開き直って
「そうだよ?俺はこういうのが好きなんですよ…」
と、高倉の健さんみたく渋く言い放ってみたい!
…だが、そんなことはできない。
え?…なんでかって?
そんなのは決まってるじゃないか。
怖いからだ。
彼女だってゲームはするのだが、好きなゲームはバイオハザードにサイレントヒル。
彼女の家に遊びに行って、どんなゲームをしているのかな?と思って覗いてみると、
『それ系』しかなかった。その理由を聞くと
「ロケットランチャーとか、マシンガンでゾンビとか殺すと楽しいじゃない?」
との完結明瞭な回答。
…まぁ、ゲームの話しだしね…と思うことにし、そのことは気にしないようにしていた。
俺が勧めたゲームで受容してくれたのはMH2くらいで、今ではMHP2を一緒にプレイするほどになっていた。
…わかりやすい傾向だなぁ…というか、要するにオタクっぽいのは駄目らしかった。
いや、別にこのエピソードは彼女を怖いと思う理由とはあんまり関係ない。
要するに、趣味関係で彼女と出会ったわけじゃないんだよ?と、いうことを強調したいだけなのだ。
じゃぁ、どんな関係なんだ?と問われれば友達関係と答えるしかない。
友達の友達は皆友達だ♪…その言葉どおりにお互いを知っている程度の関係。
それが当初の俺と彼女の関係だったはずだ。
なのに、俺は何故か彼女と付き合うことになったのだ。
368 :
実験的作品:2007/06/14(木) 09:19:31 ID:1SfiEejc
そのエピソードを人に話せば
「それなんてエロゲ?」
と茶化されるのだが、事実なんだからしょうがない。
ここで俺のスペックを簡単に箇条書きすると。
身長:183センチ 体重105キロ 体型はプロレスラー体型。
学生時代は日本拳法部に所属し段位は3段。
職業は普通のリーマン。
趣味はドライブと中途半端なオタク
外見的特長はアメリカ系チャイニーズマフィアのボディーガードっぽい…らしい(彼女談)
で、肝心の彼女のスペックは
身長:152センチ 体重:不明だが確か40キロ程度。 体型はスレンダー系。
スリーサイズはシラネ。が、貧乳属性や巨乳属性ではない…のだが、傾向としては前者。
学生時代に剣道部に所属し段位は3段。
職業は看護婦。
趣味は…俺?とか言っているが…おそらく手芸関係。意外と言うかなんというか、よくマフラーやセーターを作ってくれる。
外見イメージを敢えて言えば
『鬼になった柏木千鶴(Leaf)が髪を肩の辺りまでの長さに切った感じ。』
…判りにくいことこの上ないのだが、要するにそんな感じだ。
そんな二人なのだが、付き合い始めたきっかけを率直に言えば意見が分かれる。
…ここから俺のことを仮に『P』、彼女のことを『千鶴』としよう。
彼女…千鶴が言うには
「きっかけ?ん…Pから『好きですオーラ』が出てたからかな?」
…好きですオーラってなんだよ…と突っ込むと『好きですビーム?』
いや、どっちでも一緒だ。
で、俺が主張する彼女と付き合い始めたきっかけ…といえば…
そこに至るまでの二人の関係といえば先述の通り、俺は彼女を知っている。彼女も俺を知っている…そんな程度の関係だったのだ。
まぁ、なんと言うか俺自身、彼女のことをどう思っていたか?と聞かれれば『高嶺の花』という表現がしっくりくる。それぐらいに
「あ、無理だな。これは」
と戦う前から付き合うなんて目標どころか「どうすれば友達になれるんだ?」と言うレベルで悩んでいたわけだ。
だから俺自身から怪しげな『好きですオーラ』或いは『好きですビーム』が出ていたと言われれば、それを否定することはできなかった。
いや、色々な意味で。
…だからこそ、もし本当に怪しげなオーラやビームがきっかけだとすれば俺は無自覚の内に超能力にでも目覚めたんじゃないだろうな?と錯覚しそうになる。
もっとも、それが超能力だとすれば随分と効果範囲の限定されている超能力だな、おい…と言いたいのだが。
で、平たく結論を言おう。
「きっかけですか?…彼女に押し倒されて…そのまま…食べられちゃったんです。(プライバシー保護のため、音声は変えております)」
…なんか突き刺さるような視線が痛いのだが、彼女の視線に比べればまるでハワイの日差しなので気にもならない。
まぁ、実際のところ俺自身『なんで、俺?』って部分が全くわかっていない。
自分で言うのもなんなんだが、決して美形とかイケメンなんかではない。
さらにはっきりいえば人生26年生きてきて初めての彼女が彼女なのだ。
さすがに童貞ってわけではなかったが、それでも女性に押し倒されるのは人生で二度目だ。
一度目は中学生のときに家庭教師のお姉さん(大学生)に部屋に連れ込まれ、上に跨られ…
って、この話は本編には関係ないので割愛するのだが…その時の様子をダイジェスト版で説明するとこんな感じになる。
369 :
実験的作品:2007/06/14(木) 09:23:53 ID:1SfiEejc
その当時の俺は彼女に憧れていた有象無象の一人だった。
付き合う?そんな贅沢というか夢を見るほど子供でもなく「当たって砕けろ!」と、告白できるほど勇気もなかった。
まぁ、そんな俺と彼女が携帯電話の番号を交換する機会を得たのはまさに偶然だった。
ご近所に住む『コードギアス・反逆のルルーシュ』に登場する『コーネリア』にそっくりなお姉さん(以下、こーねりあさん)
とは近所ということもあり、ほどほどには親しかった。まぁ、近所だしね。
そのときの俺は迷惑メールにうんざりしており、偶々メールのアクセス制限をしていたのだ。
にもかかわらず、俺はそのことをすっかり忘れてこーねりあさんにメルアドを教えていたのだった。
ぶっちゃければこーねりあさんも高嶺の華だったのだが語学関係の話題で盛り上がり、それがきっかけで…と言うわけなのだ。
「ねぇ、こーねりあさんがPさんにメール送っているんだけど届かないみたいって言ってるんだけど?」
そんな風に話しかけてきたのは千鶴さんだった。すぐさまメールの設定を確認すると思いっきりアクセス制限。
うわぁっちゃぁ〜…やってもぉた…と焦りながら制限を解除する。
「ねぇ、ついでに私にもPさんのアドレス教えてよ。私のアドレスも教えるしさ。」
そんな突拍子もない提案が突如真後ろから聞こえる。え?なんで?と思いながらも快諾し、彼女のメルアドをゲット。
「これで、もし、こーねりあさんに連絡がつかなくても私経由で連絡できるでしょ?」
とは彼女の言だが、よく考えなくても制限を解除した今となってはその必要ないんじゃぁ…などと思いはしたものの、
『断る理由?はて南蛮渡来の飛び道具でござるか?』
と素直に友達への道を一歩前進したことを喜んでいたわけだ。
で、まぁそこからは別段『今、どこで何してるの?』とか『どうしてメールくれないの?どうして?どうして?どうして?』
と、ヤンデレ的な展開があるわけでもなく、まぁ、適当に日常的などうでもいい内容でメールのやり取りをしていた。
内容は『こんど飯でも食べにいかね?』とかそういう類のものだったと思う。もちろんこーねりあさんを交えて…のつもりだった。
が、ある日のメールのやり取りのどこにそういう要素があったのかは皆目見当がつかない。だが、結果的にとんでもないことになった。
会社も終わって家に帰る途中、何気なく、彼女宛にメールを打ったのだが、その内容は
『今日は寒いね〜♪こんな寒い日は鍋なんかいいよなぁ。最近は一人鍋とかあるしジャスコで買い物して鍋でも食べて温まるに限るね。』
こんな程度の他愛もないメールだったと思う。
『鍋いいねぇ♪そーいや、私も最近鍋なんて食べてないかも…こんな話をしていたらおなかすいたかも…』
と、結構迅速に返信メールが届く。別段深く考えず
『じゃぁ、一緒に鍋食う?』
と短いメールを送信。はっきりと断言できるが期待なんてしていなかった。むしろ
『あはは、また今度。みんなで一緒に鍋でも食べようね♪』
これが俺の予想した最上級の返信だったはずだった。しかし、実際の返信メールは俺の予想の斜め上を行っていた。
370 :
実験的作品:2007/06/14(木) 09:24:38 ID:1SfiEejc
『食う、食う(゜ワ゜)ノはらぺこり〜にょだから鍋食べるよ〜♪』
……え〜!…っていや、まて。これは策略だよ。『げぇっ、関羽!』と驚いては負けだ…
ごしごしと目を擦り、もう一度画面をみるとそこには間違いなく、
『食う、食う(゜ワ゜)ノはらぺこり〜にょだから鍋食べるよ〜♪』
の文字が見える。冷静に考えれば『はらぺこり〜にょってなんだ?』
と突っ込みを入れたいところだが、まぁその当時の俺にはそんな余裕はなかったわけだ。
…どうする?どーするよ!とりあえず、鍋は鍋でも居酒屋か『さと(和食レストラン)』あたりで鍋でも突くか?
家に呼ぶ?ちょっとまて、そんな選択肢は常識的に考えてないだろう…
と、ここまでの思考に費やした所要時間はおおよそ5秒。神速の速さで返信だ!
『えっと、どこか居酒屋か「さと」あたりでいい?それとも別の店でも行く?』
…我ながら微妙な返信だが、まぁこのあたりが無難な線だろうと思っていた。
ぴろ〜ん♪
をっ、もう返信か。
『外で食べるのは嫌だなぁ〜。君の家で食べよ?』
えっと…この人は男の家に一人で乗り込んで鍋を食うと仰っているのですか?
ってマジで?いや、冷静に考えるんだ。be cool…be cool…
ふむ、読めたわ…もし万が一俺が千鶴さんに手を出すとする。
…するってぇと間違いなくこーねりあさんに通報される
…俺死亡(byこーねりあさん)の図式が読めておられるから安心しておられるのだな?
ふむふむ、しかし、これは友達になる千載一遇のチャンス!逃す手はない!と、喜び勇んで返信する俺。
『おっけぇ、じゃぁどうしよ?俺の家知ってたっけ?』
『んっと、メールめんどくさいから後は電話で話しよ?』
って電話番号ですか!早速メールに添付されていた電話番号を『ぴぽぱ』と押せば聞きなれた千鶴さんの声。
まぁ、ちょいと端折ると千鶴さんの家の近所に迎えに行き、
一緒にジャスコでお買い物♪
その時点で鍋の具材&鍋&コンロ&器を購入…
いや、一人身の家に大きい土鍋はないんだってば。
371 :
実験的作品:2007/06/14(木) 09:26:09 ID:1SfiEejc
買い物を済ませ一路自宅へ。走らせる車はマツダのデミオ君。道中の会話は
「今日は寒いね」「そだねぇ」「鍋なんて久しぶりだから楽しみ」「そだねぇ」
緊張しすぎだ…俺。それもそのはず、助手席の千鶴さんはやっぱりというか可愛い。その上、二人だけの空間。
まるで外から見たら所謂(いわゆる)「かっぽぉ」って奴ですか?
な状態なわけだ。緊張しないほうがどうかしていると言うものだ。
ほどなく自宅に到着し千鶴さんをエスコートし、自宅に招きいれる。
ああ、日頃からこういうこともあろうかと部屋を掃除していてよかったなぁ…と思う瞬間だった。
こつ…こつ…こつ…
時計の針の音だけが静かに部屋の中に響いている。時刻は既に12時を5分程回っている。
楽しい鍋タイムは3時間前に終了し、コーヒー片手に雑談タイムに突入して既に2時間が経過していた。
俺と千鶴さんはその居場所をテーブルからシットアップベンチ(俺)と、椅子(千鶴さん)に移し、向かい合って座っていた。
正直にそのときの俺の心境を表現するなら。
「えっと…いつになったら『そろそろ帰るね。送ってくれるかな?』と言い出してくれるんだろう?…いや、ここは
『もう、遅い時間だから、そろそろ送るよ』
とでも言えばいいのだろうか?いや、千鶴さんと過ごす時間が嫌とか言うわけじゃない。むしろ、嬉しいし楽しい…のだが、
なんで俺は理由もわからずに緊張しているんだろうか…」
こんな感じだった。イメージで言えば蛇に睨まれた蛙。要するに『唐突過ぎて何がなんだかさっぱりわからん。』という状況なのだ。
なんで?Why?と言った単語が頭の中で踊りだす。思わず、『もしかして千鶴さんも俺のことが?…』とあり得ないことを想像してしまいそうになる。
落ち着け…落ち着け…それは妄想だ。俺が千鶴さんをいいなと思うのは当然だとして、千鶴さんが俺に興味を抱く要素がどこにあった?ないだろ?ないはずだ。
ということで、その可能性は却下。あり得ない。
そんな出口のない問題が頭の中で無限回廊を形成し始めたとき、突然目の前の彼女は立ち上がり
「あなた…私のことが好きなんでしょ?」
千鶴さんは深く静かだが力ある落ち着いた声で俺を見下ろしていた。
372 :
実験的作品:2007/06/14(木) 09:28:58 ID:1SfiEejc
えっと…え?…あ、まぁ、そうなんですけど…え?なんでそんなこと聞くんですか?
…パニックと言うのはこういう状況を指すんだろうなぁと思うのだが、
そのときの俺にできた行動は彼女から目を逸らし「え…」と呟くことだけだった。
「私にはわかるのよ。あなた私のことが好きなんでしょ?」
曇りのない目でじっと見つめられる。
「目を逸らさないで…」
駄目だ…目を逸らしてはいけない。嘘を言ってもいけない。
嘘…なぜ嘘をつく必要がある?彼女のことが嫌いなのか?そんなわけはない。
だが心の準備ができていないだけだ。
誰だってそう思うだろ?この場で『うん。君のことが好きだったんだ』と言ってその後どうなる?
『私もあなたのことが…』そんな展開があると思うのか?
『じゃぁ、なぜ彼女はそんなことを俺に聞くんだ?』
『もう、二度と誘わないで。迷惑だから』か?
いや、今はそういう話じゃないはずだ。先ほどまでの和やかな時間はなんだったんだ…
ああ、もう、訳がわからない!
人間パニックになったり、追い詰められたりすると、開き直るか、或いは更に閉じこもるしかないのだが、
私のこの時にとった行動は後者だった。
少しでも彼女から好意を感じていれば多少の自惚れをもって希望的な観測に身を委ねられたのかもしれないが、
残念ながら、そういう予兆も前兆もなかったのだ。
「あなた…私のことが好きなんでしょ?」
もう一度、同じ口調で彼女が尋ねる。
なんというか、こういうシーンには見覚えがある。
イメージするのは、
『耕一さん…あなたを、殺します』
と告げる柏木さんちの千鶴さんの姿。
夜とはいえ、電気はちゃんと点灯しているはずなのに、どうしてこんなに部屋の中が暗いんだろう…
いや、別に殺すもなにも言っていないのにそういう風に感じるってどうよ?
いや、違う。これは最後通牒?振り絞るんだ…勇気を…
逃げちゃ駄目だ…逃げちゃ駄目だ…逃げちゃ駄目だ…逃げちゃ駄目だっ!
「…うん」
…これの何処に振り絞られた勇気っていうのが存在しているのか夜通し聞かせてもらいたいもんだ。
しかし奇跡が起きたのか、想像していた千鶴さんによるファイナルヘブンの発動はなんとか避けることができたようだった。
373 :
実験的作品:2007/06/14(木) 09:31:41 ID:1SfiEejc
千鶴さんはその言葉を聞くと私に歩み寄り、ネクタイをぐいっと引っ張り、
「そっか…じゃぁ…私としたいの?」
にやっと邪悪な(そう見えたんだから仕方がない)笑みを浮かべると、再び私の瞳の奥を覗き込んでいた。
…死体?…いや、したい?何を?えっと、
ここってば回答を間違うと一気に死亡フラグ発生のヘブンズフィール?いや、まて。彼女はなんていった?
『私としたいの?』…これは間号ことなく、『あれ?』いや『それか?』…いや…もしかして…
A キス B 肌に触れる。 C えっち D ゲーム
さてどれを選ぶ?間違えれば包丁で『超究武神覇斬』が飛んでくるかもしれない…そんな恐怖に負けた俺は勝手に答えていた。
「えっと…なにを?」
…やってしまった…タイムオーバーにこそならなかったもののこれ最悪の回答じゃないか!
思わずドラえもんがいれば過去の俺を抹殺して欲しいと真剣に思ったものだ。
「なにって…えっち、セックス、メイクラブ、性交…要するにそういうことがしたいの?…って聞いたんだけど?」
…ど真ん中直球ストライクですか!
…いや、千鶴さんはそういう意味での恥じらいと言う部分ではちょっと感覚がほかの人とずれているなぁと感じることは多々あったけど、
ここまで直球に言われたのは初めてだった。
したいか?したくないか?決まっている!
したいに決まってるじゃないですか。しかし、これが何かの罠だとしたら?
『Pさんは私の身体が目当てなんですか?』
いえいえ、そんなわけはないです。
千鶴さんのキャラクターというか性格と外面全部がいいなぁ…と想い憧れていたのです
…なんてこっぱずかしいことを言えるわけもなく、かといって「したくないです」なんて言えるわけがない。
「…うん…」
「うんって…どういうことなの?したいの?したくないの?」
「…それは…したい…です。」
「じゃぁ、しよっか?」
えっと…どういう話の展開があればそういう結論に達するんですか?
…え?あ…戸惑う俺を無視し、押し倒し、ネクタイを剥ぎ取り、手首を縛り、ワイシャツのボタンを外し……
…気がつけば朝の5時。
いや、悪いのだがエロシーンは皆の心の中で想像してくれ。
そしてその想像はきっとそう間違っていないはずだ。
…夢か?と一瞬思ったのだが、俺の隣で可愛い寝息を立てて眠っている千鶴さんの姿に
「夢じゃなかったんだ…」
これまた陳腐な台詞を吐き、さらに陳腐なことだが自分の頬をつねる。
…痛い…やっぱり夢じゃねぇ!えっと…えっと…どうする?もうすぐ俺は会社に行かなきゃならない。
えっと…えっと…えっとぉ!と俺が相変わらず混乱していると、
「あ…おはよ♪」
可愛くシーツから顔を出している彼女の姿。
「おはよ」と挨拶を返す俺。うっわぁ、顔はおそらく真っ赤だ。
「会社…行くの?」
「ああ」と、ぎこちない返事をし、「君はどうするの?」と、尋ねる。
「今日は仕事お休みだから…このまま寝てていい?」
くわぁっ!可愛い…とゆーか、いいのか?俺。こんな幸せで…まさかこれって死亡フラグじゃないだろうな?
…いや、まぁ、まて。まずは彼女に返事をせねば!
「うん、どうする?鍵…渡そうか?」
「え?…鍵…もらっていいの?」
…え?それってもしかして「一緒に住まないか?って意味でのいいの?」
いや、俺的にはおっけぇ過ぎる位におっけぇなんだが、なんか話が早くない?と、思うものの。
「…うん」
と短く返事をする俺。嬉しそうに微笑む千鶴さん。千鶴さんは身体にシーツを巻きつけベッドから降りると、
「行ってらっしゃい…お仕事頑張ってね?」
そういうと唇に『ちゅっ♪』と可愛いキスをしてくれたのだった。
…えっと、このまま押し倒したい!そう思った俺を誰が責められようか…
「じゃぁ、行ってきます」
軽く手を振り、千鶴さんに見送られながら家を後にする。
世界が変わって見えるとはこういうことか!…そんな人生最良の朝を俺は迎えたのだった。
374 :
実験的作品:2007/06/14(木) 09:32:41 ID:1SfiEejc
以上、回想終了…その後は冒頭に書いてあるように、彼女は仕事の時間以外は
家に遊びに来たり、
ご飯を作ったり、
掃除をしたり、
一緒に寝たり、
えっちしたり
…半同棲のような関係になったわけなんだが…
『本当に俺でいいのか?』
そう聞くたびに
『嫌だったらとっくに傍にいないし、こういうこともしないと思わない?』
千鶴さんはそう笑って答えるのだが、しっくりこない。
『ねぇ…俺なんかのどこがいいの?』
『どこって言われると困るかも…全部?』
そんな風に言われて嬉しくないわけはないのだが、心の中の疑問符はなかなか消えてくれないのだ。
そんな千鶴さんとの関係なのだが、基本的には良好だといっていいと思う。
「そっか」と笑って受け流せばそんな疑問符なんて気にならないと思っていた。
375 :
実験的作品:2007/06/14(木) 09:34:27 ID:1SfiEejc
さて、話を戻そう。
例のDVD(涼宮ハルヒ)の件は
「ま、いいんだけどね」
絶対にどうでもよくなさそうな雰囲気を漂わしながら千鶴さんがそのDVDを俺に渡すと、何事もなかったように掃除機をかけ始めるのだった。
どういうわけだか、千鶴さんは妙にオタク系の物品に対する嫌悪感というか、忌避感が強かった。
「浮気?できるのならしてもいいし、できれば私にわからないようにしてね?」
とか
「別にオナニーをしちゃ駄目なんて言わないわよ?おしっこするのと一緒で生理現象でしょ?」
…いや、まぁ…なんというか浮気に関しては甲斐性もその気もないので出来ないしする気もないのだが、オナニーに関しても「理解のある彼女でよかった」と安直に喜べなかった。
俺は性癖的に見られて悦ぶ属性っていうのは皆無な性質(たち)で、要するに一人せっせと自家発電をしたい!と主張するわけです。
で、ある日、TUTAYAでAVを借りたわけですよ。及川奈央の『裏・及川奈央』だったと思う。まぁ、若者なら誰でも経験のある行動だと思うのだが、急いで家に帰りレッツ・セットアップ!
そして画面上で繰り広げられる痴態。ズボンをずらす俺。速度を上げるピストン。…ぅっ…行きそうだ…
『へぇ…いきそうなんだ…手伝ってあげよっか?』
…ぇぇぇぇぇ!心臓がどっきゅんと奇妙な音を立てて跳ね上がる。椅子から飛び上がり振り替えると、見慣れた千鶴さんの姿が…
「え…え…ぁ…」
浮気の現場を押さえられた間男の気持ちってどんなんだろ…いやいや、まずは言い訳だ…
ってここまで決定的な証拠(現行犯逮捕)があってなんの言い訳ができるっていうんだ…
「別に?…P君の射精までコントロールしようとは思ってないし…いいよ?続けて」
…いやいや、続けてってそんな千鶴さんに見られながらオナニーできるわけないだろ!…
とは言えずに、あうあう言っている俺の隣にちょこんと座り、
「あれ?ちっちゃくなっちゃった…・・・えぃ!えい」
って、千鶴さん!何やってるんですか!指先でつんつんと俺の愚息を突き、指先でつつぃとなぞる。
すると愚息は正直にまたむくむくと大きくなって…って、駄目ですよ!
「うふふ…大きくなってきちゃったね?ねぇ…P君…どうして欲しい?」
…どうしてって…え?…どうして?…え…
「このまま指でして欲しい?それとも口?それとも足?…それとも…私に入れたい?」
…えっと…大変嬉しい申し出なのですが、こう、なんというかそういう問題なんでしょうか?
とまぁ、このように色々な意味で理解ある彼女なのだが、何故だか二次元系に関しては冷たい視線と、僅かな殺意を感じる。
それとは対照的に、及川奈央であろうと笠木忍であろうが三次元エロDVDに関しては別に怒ったりしないのだ。
なんでなんだろ…
本人に恐る恐る尋ねても
「別に?」
どう見ても不機嫌そうな顔でぴこぴことMHP2をプレイするばかりだった。
376 :
実験的作品:2007/06/14(木) 09:37:12 ID:1SfiEejc
とりあえず、序章の投稿完了。
実験的な作品なので気長にお付き合い下さいませ。
これってヤンデレ?って思われると思いますが、
そこは大目に見てやってください。
>>376 乙です
今のところはヤンデレというより不思議系の彼女か?
この先の展開に期待。
しかし
>…え?あ…戸惑う俺を無視し、押し倒し、ネクタイを剥ぎ取り、手首を縛り、ワイシャツのボタンを外し……
サラっと流されたが縛られていた件w
>>376 GJ!
続きも期待してます。
ここと、嫉妬、キモウト、お姉さん、姉御、いもうと、無口、盲目、ほのぼの純愛スレを
巡回してるオレとしては、SSが面白ければ各スレの趣旨などかざ(ry
>>376 あたり前のように現実にあるアニメやらゲームの名前出されると読みにくくて困る
そこら辺はぼかしてその作品がどんな内容なのかを簡潔に文中で説明したほうがいいと思う
380 :
名無しさん@ピンキー:2007/06/14(木) 19:45:29 ID:71tiwQZt
>>379 同意。
現実にあるアニメやゲームの名前をだす必要性がない以上ださなくてもいいんじゃないかな。
適当にぼかしてこんな風なアニメみたいな感じでは駄目なの?
コードギアスとバイオハザード以外、分からなかった……orz
それも含めて実験的な作品って事なのかな
例えをゲームとかのキャラにされると知ってる人はそれでいいかもしれないけど、
知らない人は全く分からないからやめた方がいいような。
そのゲームの二次創作スレなら説明省くのにそれでもいいかもしれんけど、ここはそうではないし。
つまり知ってる人は犠牲にしろと。
知ってる人は別に犠牲にならないだろ。
この場合は知らん人は犠牲にしろだろ
389 :
名無しさん@ピンキー:2007/06/15(金) 07:09:39 ID:CcLCSFIe
でも現実の事件やものを組み込むとリアリティーがでない?
※スルー推奨
391 :
実験的作品:2007/06/15(金) 20:05:03 ID:WMTXN3Wm
投下しまッス。
392 :
実験的作品:2007/06/15(金) 20:07:46 ID:WMTXN3Wm
「なんでだと思う?」
「死ね!」
…相談する相手を間違えたのだろうか…
目の前には高校時代からの悪友、上杉達也が烏龍茶を片手に睨みつけている。
まぁ、そうだろう。本人は気づかれていないつもりなのだが、上杉も千鶴さんに憧れていた口なのだ。
「そもそも、千鶴さんがいるのにオナニー?
お前が千鶴さんと付き合っているっていうだけで万死に値するってのに……お前、やっぱり死ね。」
「いや、違うだろ。それ(えっち)とこれ(おなにー)とは別だ。」
「つーかさ、そもそもお前が2次元から卒業すればいいだけの話だろ?」
「う…そこまでしないと駄目か?」
「はっはぁん…俺にはわかったね。今のセリフを千鶴さんの前で言えるか?
千鶴さんと2次元どっちを取る?と聞かれて一瞬でも躊躇するお前の姿を千鶴さんに見せられるのか?」
「いや…それは…」
…想像するだに恐ろしい。
『別にいいよ?』
なんて千鶴さんに氷の微笑で言われる場面なんて想像したくないね。
まぁ、とは言うものの、俺だって上杉の意見は当然考えた。
千鶴さんと2次元…なら迷わず千鶴さんを選ぶ…のだが、なんとか両立できないものかと考えてしまう…
もしかすると俺のそんな心を千鶴さんは見抜いているんじゃないだろうか?
…そう考えれば、何となく理解できる部分はあるのだ。
3次元のエロDVDと千鶴さんなら俺は迷わず一片の後悔もなく千鶴さんを選ぶ…
「でも、なんか違うんだよなぁ…千鶴さんのはそーゆーんじゃない気がする。」
「…その根拠は?」
「……ん〜…何となくだ。」
「やっぱり、お前は死ね。」
『ねぇねぇ、なんの話をしているの?』
背後から音もなく忍び寄り、話しかけてくるのはやはりというか…千鶴さん!
って…ちょいまった!千鶴さん30分くらい遅れてくるって言ってなかったっけ?
今、待ち合わせの時間から5分しか経過してないんですけど…
『あはは、予定より早く用事が済んじゃってさ…それともなに?私が居るとできない話でもしてたの?』
「えっとだなぁ…」
「P君は黙っててね?」
…うぅ…釘を刺された!まずい!ピンチだ
…どうする?<コマンド >逃げる! …しかし回り込まれてしまった!
こうなったらアイコンタクトだ!届け!俺の電波っ!
(…上杉…とりあえず黙っておいてくれ!)
(いくら出す?)
(ここは俺が奢る!)
(…戦う変身ヒロインがやられちゃうADVと新感覚寝取系アドベンチャーゲーム…もう、お前いらないよな?)
(ちっ…この野郎っ…だが、仕方ない…貸すだけだぞ?)
(まあいい………それで手を打とう!)
…この間、約3秒。伊達に高校時代からの付き合いじゃない!
「いやぁ、こいつ千鶴さんと漫画やゲーム…どっちを取る?って聞いたら一瞬迷いやがるんですよぉ。」
…上杉…お前…さっきのアイコンタクトはなんだったんだぁぁぁぁ!
おそるおそる千鶴さんの顔色を窺う…と、口元でふふんと笑っていた。
「そっかぁ…でも、一瞬でしょ?それに…P君にとって漫画とかゲームは趣味だから…仕方がないんじゃない?」
…あらら…って、まぁ確かに漫画やゲームを止めろ…なんて言われたことはないしなぁ…
気がつけば千鶴さんはビールを注文し、メニューを熱心に眺めていた。
しかし、千鶴さんは『へぇ…で、どっちを選ぶの?』なんて聞かないんだなぁ…
「やっぱ…お前は一回死んで来い」
上杉は呆れ顔でぐぃっとビールを飲み干していた。
393 :
実験的作品:2007/06/15(金) 20:08:41 ID:WMTXN3Wm
じょぼぼぼぼぼ…じょぼぼぼぼぼ…
便所に響き渡る和音。
「おう『P』よ、おぬしも傾くか!おお、何と立派なイチモツだ!隆々と…」
「お前はそっちのけもあるのかよ!」
「わはははは、だがいいのか?俺にそんな口を聞いて…」
「なんだ?…妙に勿体つけやがって…っと…ぅぅ…ぶるぶる」
「ふっふ〜ん…まぁ、聞け。実は千鶴さんから相談を受けたんだわ…と、もちろん千鶴さんには内緒だ…いいか?っと…ぅぅ…」
うんうん、と首を縦に振る。なんだ?千鶴さんがこいつに相談だなんて…うわっ!雫を飛ばすな!
「千鶴さんがな?『Pってどんな女の子が好きなの?』って聞いてきたんだよ。」
「それで…お前はなんて答えたんだ?」
千鶴さんが?…一体何故だ?
「まぁ、むかつくが…『千鶴さんが一番好きなんだと思いますよ?』って答えておいてやったよ…大いに感謝しやがれ」
「それは…素直に感謝だが…それでどうしたんだ?」
「まぁ、焦るな…話にはまだ続きがあるんだ。
『そうじゃなくて…その…漫画とかゲームとかのどんな女の子が好きなのかなって思ってさ…上杉君知ってる?』
…だってさ」
「…お前が千鶴さんの声色を真似るな!気持ち悪いわ!…で?お前はなんて答えたんだ!」
…くそぉ…心臓がばくばくする…まさか…ただの人間には興味がない団長様とか、対有機生命体コンタクト用ヒューマノイド・インターフェイス?
或いは、おしるこドリンクを愛飲している運動音痴な潜水艦の艦長?それとも…
「いや?『じゃぁ、今度Pが好きな奴を選んで貸しますよ』って言っておいたから…希望の物品があれば早めに渡しておけよ?」
…上杉…お前…いい奴だな…
「あ、そうそう…報酬はスイス銀行の例の口座に振り込んでおいてくれ…でないと…
ついうっかり、BL(べーこんれたす)系とか、女子色少年のススメ系とかを渡しちまうかもな、」
…全言撤回…お前はやっぱり鬼だ…
394 :
実験的作品:2007/06/15(金) 20:11:50 ID:WMTXN3Wm
それから数日後、俺は千鶴さんがいないときを見計らって上杉に手渡す物の吟味に余念がなかった。
…いくらなんでもエロゲはまずいよなぁ……ちょいと古いが最近パチンコにもなった…あれあたりは無難か?
うぅむ、とはいえ最近見てもいないしなぁ…となれば、とりあえず、ツンデレ系を入れておくか…?
いやまて、だが注釈を入れずに渡すとなると俺がどれを好きなのか伝わらずに千鶴さんに致命的な誤解を与えてしまうかもしれない。
魔法少年がでてくる、焼き鳥みたいな名前のあれも同じ理由で却下…そう考えると難しいな。いや、深く考えずに渡したほうがいいのか?
そもそも、それを渡したからといって何かが変わるのか?
「いっぺん…死んでみる?」
…それは洒落になってないな…寧ろ
「あ、あんたの為に練習したんじゃないからね!」
これは嬉しいかも…だがそんなことを千鶴さんが言うのか?
「月に代わってお仕置きよ!!」
「えっちなのはいけないと思います!」
「バカばっか」
…ぇぇい!俺は馬鹿か!一体なにを考えているんだ…素直に好きなものを渡せばいいんだ…えっと…えっと…
「で…その結果がこれか?」
…俺が最終的に上杉に渡したのは
『伝記活劇ヴィジュアルノベル』
『携帯からはじまるLoveStories…』
『至上最弱の男が格好いい地域制圧型SLG』
の3本だった。
「…無難な線だと思うんだけどなぁ…駄目か?」
「まぁ…エロゲの中ではエロスはほどほどな部類だからなぁ…
アニメ化されたり、今度されたりだしな。まぁ、お前がいいならいいけどな…」
そういって、上杉は俺の手からその3本が入った紙袋を引ったくり、手を振って横断歩道の向こう側に消えていった…
…言い忘れてたがちゃんと返せよ…
それからというものの、俺は期待と不安に包まれた毎日を送っていたわけだ。
なんでかって?そりゃ彼女が何かに感化されて、俺の写真が携帯の待ち受けになっていたり、
『……駄犬の分際で主人に逆らうなんて。去勢するところだわ、この早漏』
とか言い出したりするのか?と期待したり。或いは我が家にあるその手の物品を
『汚物は消毒よっ〜!』
と燃えるゴミの日に捨てられてしまうのではと怯えていたわけだ。
そう…人呼んで、【至上最低の男】とは俺のこと?…
いや、まぁ、要するに審判の日を待っていたわけだ。
しかし、一向に彼女の様子に変化は見られない…
「ん…どうしたの?」
…ベッドに寝転がっておせんべいを齧りながらぴこぴこゲームをする千鶴さん。
千鶴さんは上杉に借りた(正確には俺が貸した)ゲームをプレイしてるのかな…
それでやっぱりえっちなシーンで興奮して、気がつけば千鶴さんの手は下腹部に伸び…
『P君…こんなにえっちなのを見て…おなにーしてるのかなぁ…』
千鶴さんの頬は上気し、指先が秘芯に触れ…
『P?…どしたの?』
うわぁぁぁぁ!べっくりしただぁぁ…。気がつけば目の前で千鶴さんが俺の顔を覗き込んでいた。
…やばい!俺のエクスカリバーがっ…って千鶴さん、気づくの早いです!
395 :
実験的作品:2007/06/15(金) 20:12:46 ID:WMTXN3Wm
『なんで…大きくなってるのかな?』
…うわぁ…千鶴さん。悪戯っ子モードですか。
うう…もしかして、君が主で執事が俺ですか?いえ、それは望むところなんですけど…
しかし、俺の期待を裏切るかのように千鶴さんは一瞬何かを思い出したかのように、
『…P君がしたいようにしていいよ?』
上目遣いで小首をかしげてそんな可愛いことを言う千鶴さんッ!!?
…えっと…あの、それはどういうことでしょうか?
俺は至上最弱のへタレ野郎の流法(モード)を余すところなく用いていた。
…したいように…俺のしたいようにする…といわれましても、
『わぁい、じゃぁお言葉に甘えてあんなことや、こんなことを…』
なんてできるわけがない。寧ろ、
『そう…そのまま飲み込んで。僕のエクスカリバー…』
とでも、言うほうが男らしいとさえ思うほどのへタレなんだ。
う…うろたえるんじゃないッ!ドイツ軍人はうろたえないッ!いや、俺日本人だし。
そもそも、千鶴さんはどちらかといえば攻撃型奉仕系。そして俺はマグロ系(最低)。
千鶴さんの巧みなリードによってなんとか無事にパイルダーオンできているわけで…
そんな俺がしたいように?…できるわけがない!断言するがAVやエロゲで得た特殊知識は実戦では役に立たない!
だが、まて。まぁ、まて。一体千鶴さんは何故突然こんなことを言い出したのだ?
まさか例のエロゲ?…いや、でも、そんなセリフあったっけ?
いや、ないはずだ。というか、千鶴さんがそんなセリフを覚えるか?
なら、無難に『メイド服を着て「お帰りなさいませ。ご主人様」と言ってもらうか?』駄目だ、メイド服がない!
ならば、ナース服で『お注射してください…』って言ってもらうか?…無理!絶対無理!
そんなことが言えるなら最初に言っている!第一ナース服は千鶴さんの仕事着。
それを持ってきて貰ってご奉仕だなんて…だが、落ちつけ。万が一それが千鶴さんのNGだったら?
流石にそれは変態?第一、エロゲのシチュエーションでえっちしたいだなんて言えるか?
無理。それが原因で別れるなんてなったら目も当てられない!
…ふと、気がつけばベッドに戻り、またぴこぴことゲームに忙しそうな千鶴さんの姿。
あら?…投影した俺のエクスカリバーが消えている…夢?
いやいや、えっと…千鶴さぁん…
「?…なに?」
…いえ…なんでもないです。
396 :
実験的作品:2007/06/15(金) 20:32:28 ID:WMTXN3Wm
投下完了。病み成分はまだ少なめ(あるのか?)ですけど、
大目に見てくださいませ。
ご指摘のあった部分を修正するなら下記の通りでよろしいですか?
わかりにくい文章なのは1000ほど承知しておりますので、ご承知の程を。
1.『涼宮ハルヒの憂鬱、5。孤島症候群・前編・後編』
変更 「非日常的学園ストーリー」
2.ハルヒ
変更 自己中心的で傍若無人、猪突猛進かつ変人な女の子
3.PSP
変更 携帯ゲーム機
4.MHP2
変更 ハンティングアクションゲーム
5.Fate
変更 伝記活劇ヴィジュアルノベル
6.セイバー
変更 アーサー王
7.イリア
変更 聖杯
8.アーチャー
変更 エミヤ
9.まぶらぶ・あんりみてっど
変更 あいとゆうきのおとぎばなし
10.バイオハザード サイレントヒル
変更 生物災害 静岡
11.MH2
変更 TNKSN
12.鬼になった柏木千鶴(LEAF)
変更 料理が下手な鬼姉さん
13.『コードギアス・反逆のルルーシュ』に登場する『コーネリア』
変更 女王様っぽい人
14.ジャスコ
変更 GMS
15.ファイナルヘブン 超究武神覇斬
変更 FF7 ティファ、クラウドのリミットブレイク(必殺技)
16.ヘブンズフィール
変更 黒桜ルート
17.及川奈央 笠木忍
変更 AV女優
>>396賛否両論ありそうだが、俺はもうちょっと読んでみたい。
アニメゲームネタ以前にヤンデレじゃないじゃん
いや、これから病むんだろ。
……ああ、また釣られた?
壮大な釣りSSですな。
小ネタは適度に入れるからいいもので、過剰に入れられるとちょっと困る。
自分以外の他人が読んでいるということを少しは考えたほうがいいと思う。
もさもさもライアー戦に参戦か。
すみません、誤爆です・・・
おいおい、読んでからじゃないと合う合わないの判断はできないだろ
次からは読まないさ
おめえもすぐ噛み付いてるじゃねえかと
ウヒヒヒヒヒ・・・・我が手札には言葉・楓・詩音が揃っている。
いでよ!ヤンデレフォースEX・ザ・ライトルーラー!!
読み手を意識しなくなったら書き手はおしまいだよね
上手い下手以前の姿勢の問題
まだ続けるんすか?
412 :
名無しさん@ピンキー:2007/06/16(土) 02:13:43 ID:lc/rXywl
なんだかなぁ・・・・
小ネタの内容がさっぱり分からないからしっくり来ないんだよなぁ
頑張ってはいるが、基礎情報0からの脳内補完じゃどうしても限界があるし
まあこれから病んでくれればそれでいいやw
『そう…そのまま飲み込んで。僕のエクスカリバー…』 に吹いたw
さて、千鶴さんはどんなエロゲに影響されるのか。
そこからディープに病む可能性もあるので期待大。
415 :
実験的作品:2007/06/16(土) 09:07:15 ID:usoBQbIB
投下します
416 :
実験的作品:2007/06/16(土) 09:08:48 ID:usoBQbIB
かち…かち…かち…
ただひたすらマウスをクリックする。
流れていく文字と画面のイラスト。
耳からはBGMや女の声が延々と聞こえ続ける。
かち…かち…かち…
内容を吟味する。
殺し合い、魔法、幻想、呪い、三角関係、精神異常、
壊れた人間、嫉妬、怨嗟、裸、血、セックス、暴力、
傷害、殺人、抗争、犯罪、理不尽、後悔、死亡、妊娠、涙、自殺。
平和な日常とは程遠い異常な世界。
これが…彼が好きな世界?
かち…かち…かち…
彼も同じようにこの画面を見ながらどんなことを思ったのだろうか。
この世界をどう思うのだろうか。
こういう世界に憧れを感じるのだろうか?
こんな異常な世界だからこそ惹かれるのだろうか?
ふと、指を休め以前、彼が見せてくれたDVDの内容を思い出す。
内容はSF。エキセントリックな女の子、宇宙人、未来人、超能力者が登場する。
エキセントリックな女の子の妄言が、実は事実であることを語り手の少年が理解していく。
しかしエキセントリックな女の子はそのことに気がつかない。
そのことを不満に思ったのか語り手の少年を連れて無意識に世界を再構築しようとするが、
少年の説得によってあきらめる…そんな内容だったと思う。
もう一度、じっくりと彼があの作品をどうして私に見せようと思ったのか考えてみる。
あのエキセントリックな女の子が私に似ていると言いたいのだろうか?
確かに、初めての夜に私は劇中の女の子と同じように彼のネクタイを掴んだりした。
しかし、私は幽霊や、宇宙人、超能力の存在を否定はしないが、自分が信じていると公言することはない。
我が侭なところが似ているといわれればそうかもしれないが、それでもあそこまで理不尽ではないと思う。
それとも、幼い顔立ちで胸が大きく男に媚びているような女の子や、
無口で何を考えているのかわからないような女の子に囲まれたいと思うのだろうか。
それとも、彼の青春時代を思い出すような何かがそこにはあるのだろうか。
それとも、彼はあんな奇妙な世界が好きなのだろうか…
417 :
実験的作品:2007/06/16(土) 09:10:01 ID:usoBQbIB
かち…かち…かち…
目の前で自殺する女。
嫉妬に狂い女の喉を刃物で切りつけ殺害する女。
妊娠した挙句、男の身体に刃物をつきたてる女。
浮気、優柔不断、そしてその結果の刃傷沙汰。
繰り返される嫉妬と浮気。
まるで昼ドラのようなどろどろとした内容。
上杉君…これが本当に彼の好きなものなの?
「ありがとう…上杉君。これ返すね。」
「いえいえ…あの…それで…どうでした?」
駅の傍のファーストフード店で上杉君から預かった袋を渡すと、
上杉君はなんだか落ち着かない様子でそういった。
「どう…って?」
「いや…まぁ、その…内容とか…どうだったかなぁと思いまして。」
なんだろう…妙に歯切れが悪い。
「ねぇ、上杉君。あれって…本当に彼が好きそうなものなの?」
「え…ええ、たぶん。間違いないと思うんだけど…」
「だけど…?」
「えっと…Pには言わないで欲しいんですけど、それPが選んだんですよ…
ただ、そのチョイスに問題があると…俺なんかは思ったりするわけで…」
「Pが?…」
「あ、違うんです。もし、千鶴さんに勧めるなら…って風に聞いたんですよ。
でも、なんていうかPの奴…格好付けようとして、
たぶんあんなのを選んだんじゃないかなって俺は思うんです。」
「…そうなの?」
「だから、俺からみたら…本当はこっちなんじゃないかなと…」
そういってテーブルの上に上杉君が置いたのは以前と同じような紙袋だった。
418 :
実験的作品:2007/06/16(土) 09:11:54 ID:usoBQbIB
かち…かち…かち…
ただひたすらマウスをクリックする。
内容自体はよく理解できなかった。
ただ、シンプルに女の子がひたすら嬲られる内容。
学生やサラリーマン、浮浪者、触手、虫、獣に精液をかけられ、犯される女の子。
扇情的なコスチュームを身に纏い、ただひたすらにレイプされる女の子。
妙に説明的な口調で自分がされている行為について語る女の子。
異常なシチュエーション。
屋外、屋内、学内、公園、衆人観衆、見知らぬ場所、水着、制服、レオタード…
様々なシチュエーション。
でも、嬲られる女の子も嫌がる様子ではなく快楽を享受して…
いや、寧ろ積極的に快楽を求めているようにさえ見える。
一方的な性欲処理。
都合のいい女。
都合のいい状況。
でも、理解できる。
支配欲。独占欲。性欲。愛欲。
セックスの時は私がいつも主導権を握っているから…
だから、P君が主導権を握り、まるで物のように
私を蹂躙し、
監禁し、
組み伏せ、
嬲り、
陵辱し、
汚し、
見下し、
貶め、
犯したいという願望はわかる。
だって私自身がそうしたいと思っていることなんだから。
これを見てP君が性欲を処理しているの?
私をこんな想像の中で汚して、その先端から精液を吐き出しているの?
でも、これは上杉君の主観…
でも、これがP君の好みであって欲しい。
理解できる。受け止められる。ううん…寧ろ嬉しいかもしれない。
彼の欲望を吐き出して欲しい
彼には正直になって欲しい
彼には隠して欲しくない
でも、もしこれがP君の好みじゃなかったら…
私はP君を受け止められる?
私はP君を理解できる?
…理解しよう。どんなことがあっても私だけは理解しよう。
例え心の奥底にどんな暗い部分があっても私は理解してみせる。
離れない。
私は近づいてみせる。
理想の女になってみせる。
彼が望むことは叶えてあげたい。
こんな妄想に浸らなくてもいいように。
彼が私だけを見てくれるように。
彼の欲望を私にだけ打ち明けられるように。
彼の欲求を私が処理できるように。
でも、私はまだ期待していた。
上杉君の主観こそが真実であることを。
419 :
実験的作品:2007/06/16(土) 09:20:23 ID:usoBQbIB
とりあえず投下完了。
賛否両論(多分、否8割)はあるとは思うので、
不快に思われる方は読み飛ばしちゃってください。
ただ、否の意見は大変参考になっています。
わからないオタク系小ネタはできる限りわかりやすそうな
ポピュラーなものを選んでいるつもりだったのですが…orz反省
まぁ、漠然と「そういうのがあるんだな」程度で読み飛ばしてもらうと
ストレスはないかと思います。
残念ながら、もうちょこっと続くのでお付き合いくださいませ。
滑ったネタをいちいち説明せんでいい。SSよりお前さんが痛々しい
>>419 千鶴さんが病み始めてキター!!
エロゲ妄想からの病みになるのか?
wktkしてきたので彼女にはこのまま突き進んで欲しい。
てか、姉妹スレの嫉妬スレでパロネタを使う作家居たような気がするわけだが・・
誰だったけ?
>>419 エロパロじゃ卑屈過ぎる態度は荒らし並に嫌われる
覚えておいたほうがいい
それと、そんな否が8割もあると自分で思うなら投下すんな
お前が作り上げたものだろう?そんな弱気でどうするよ
あとがきをダラダラ書かなければいいと思う
>>419 もしかしたら、主人公に無理矢理レイプさせるというシーンが見られるかもしれない。どぎついエロに期待wktk
まあ
>>427、それは受け狙いか?それとも本気か?
悲鳴を上げる同年代の女学生を見ながら、凛は必死にこの状況を誤魔化す言い訳を考
えていた。別に否命に押し倒されている状況は言いつくろうと思えばなんとでも云える。
しかし、この血まみれのシャツについては、なんて言えばいいのだろうか?
(いやぁー、ちょっと本職の方から財布を掏ったら、バレて路地裏で囲まれちゃって…、
いえ、別にもめたわけじゃないッスよ?ただ、ナイフを出されちゃったたものッスから、
そうする気はなかった………とも言い切れないッスけど、ついというか、うっかりという
か、つまりノリでこちらもナイフで切りかかちゃってHAHAHAHA!)
「とは、絶対に言えないわね…」
そう、凛が呟いた瞬間であった。
「お嬢様!」
沙紀はハッと息を呑むと、凛を押し倒している否命にパッと駆け寄り、そのまま抱きか
かえるようにして凛から距離を取り、凛をキッと睨みつける。
その沙紀の文字通りの必死な表情を見て、思わず凛は苦笑した。知らない人間が血まみ
れのTシャツを着て、自分の家で同居人に押し倒されていたら、そりゃあ誰だって警戒す
るだろう。しかし沙紀のこの反応はあまりにも…。
「お嬢様、大丈夫ですか!?」
「うん…、大丈夫だよ」
沙紀は安堵の溜息を吐くと、それから直ぐに凛に視線を戻し
「それで…、貴方は何ですか?」
そう問いかけた。
「何って言われても…、デーヴィッド・カパーフィールド式に答えればいいのかしら?」
「…………」
「…………」
「…………」
そうして言葉に詰まる二人の間から、否命がおずおずと声を発した。
「えっと、沙紀さん、凛ちゃんは…」
「この方を知っておられのですか?」
驚いたように目を見開く沙紀に、うんと頷くと否命は言葉を続ける。
「凛ちゃんはね、悪い人では…」
そう言って、否命も言葉に詰まってしまった。凛は掏りであり、尚且つ傷害犯であり、
更に見方によってはこの家に不法侵入し、あげくに自分を恐喝しているのだ。
どう考えても悪い人であった。
「お嬢様?」
「あの、えっと…」
困惑する否命の目に、親指と一指し指で輪を作り、その輪の中に舌を入れレロレロと動
かしている凛の姿が映る。
書き忘れましたが、投下します それとフタナリ注意です
(凛ちゃん…、急にどうしたのかな?って、私を見てるの?だけど、なんで?)
凛は舌を動かしながら否命の呆けた顔を横目でチラチラ見、そして表情を硬くしていった。
段々と凛の顔に苛立ちが浮かんでいく。
(気付かないのかしら?この子は…。ならこれならどう?)
凛は一旦、舌を口に引っ込めると今度は右手を浅く縦に握り、それと口を近づけチュパ
チャパと音を立てた。
「あの…凛様?一体、何をなさっておいでなのですか?」
沙紀がおずおずと「奇行」を始めた凛に声を掛ける。
「もちろん、ナニを………いえ、聞かないで頂戴」
「????」
凛にとってこの行為は屈辱的な行いであったが、表情は晴れていた。これならばいくら
なんでも、否命は自分の気持に気付いてくれるだろう…、そう確信していた。
しかし、否命は凛のこの行為を見てもただオロオロと呆けた顔をしているだけであった。
白けた空気の中に、凛の発するチャパ音だけがリビングに響く。なんとも哀しい光景であ
った。自信満々な顔をしていた事が、更にそれに拍車をかける。
(クズがっ・・・・・・・・・・!
何故気付かんのだ・・・・・
わしの・・・・・わしの気持ちに・・・・・!)
凛は込上げてくる憤怒をカロウジテ抑え、左手をプルプル震わせながらゴミ箱とパソコ
ンを交互に指差した。
「凛ちゃん?」
「〜〜〜〜〜〜!」
否命のこの疑問の言葉に凛は声にならない叫びを上げた。
(って、まだ気付かないの?この子は私の髪の毛とはいわず、ケツ毛まで抜くつもりに違
いないわね)
凛はまるで、夢遊病者のようにひたすらパソコンとゴミ箱を交互に指し続ける。それで
も首を傾げる否命を凛は恨めしそうに睨むと、ゴミ箱を指しながらヒステリックに腕をブ
ンブンと振り回し初めた。
しかし凛の努力も虚しく、否命はただ首を更に傾げただけであった。完全に凛が何をし
たいのか分からないと…といった風である。窒息しそうな沈黙だけが後に続いた。
「お嬢様…、この方は果たして、その……正常なのでしょうか?」
そうして、ポツリと漏らした沙紀の言葉と、自分を哀れむような視線に凛はとうとう限
界に達した。
「貴方とゴミ箱の関係!!」
凛がそう叫んでからしばらくたって、ようやく否命は自分が何を求められているか理解
した。
「そうすると…凛様は裏路地で喀血していた方を、同じく裏路地にいられたお嬢様と共に
病院に運んだというわけですね?」
「ええ。その時に血がシャツにかかってしまって…、病院で洗濯しても良かったのだけど
やっぱり知らない人の服と一緒に洗濯するのは抵抗があって…、それで秋月さんの家で洗
濯させて貰うことになったのよ」
「すると……」
「う、うん、そ、そうなの!わっ私がりっ、凛ちゃんをい、家に誘ったの!」
「はい…」
沙紀の疑問の声を遮るように否命は凛の言葉を肯定する。さっきからずっと、こんな調
子であった。凛が立て板に水を流すように喋る話に、完全にテンパッテいる否命が間髪い
れずに合いの手をいれ、そうしてまた凛が話す……。
落ち着いて喋る凛に、何か鬼気迫る程に言葉に力を込める否命。
結果、沙紀は凛の話しに所々オカシナトコロを感じつつも、それを問いただせずにいた。
否命の様子があまりに必死なことも沙紀に疑念を抱かせたが、それが余計に沙紀の口を重
くしていた。
「そうですか…。そんな事とは露知らず、先ほどは凛様を不快な気分にさせてしまって申
し訳ありませんでした」
雰囲気に呑まれる形で一応、沙紀は凛の説明に納得する。
「いいのよ。あんな状況だったもの…」
「それで、病院はどちらの方ですか?」
沙紀の問いに凛と否命は
「き、北!」
「南よ」
っと、同時に答えた。
「?????」
「つまり北南(ホクナン)ってことよ」
「????????????」
「うん、びょ病院は、ホッ、北南だったの」
「????????????????」
この二人の勢いの中で異論を唱えることは不可能であった。否命と凛の間にはある種の
確固とした連帯館が出来ていた。
こうして沙紀への説明が終わると凛はシャツを脱ぎ、それを洗濯機に入れた。秋月家に
は乾燥機があるが、それでも洗濯が終了するまで一時間半ぐらいは時間がかかるので凛は
夕食のカレーをご馳走してもらうことになった。
「悪いわね、シャツまで借りちゃって」
そういって否命のシャツを着た凛は穏やかな微笑を浮かべた。そこには見事に(?)難
局を乗り切った心の安堵があった。
「ううん、元々、私が提案したことだから…」
若干、前かがみになりながら否命は言う。凛が着替える際、不覚にも否命のマラは反応
してしまったのだ。
「お似合いですよ」
何か釈然としないものを感じつつも、この状況を受け入れた沙紀が言う。
「有難う。ただ欲を言えば、胸がちっちゃくて少し苦しいわ」
「ウエストはどうですか?」
「緩いわね」
「はぅぅ…」
否命のマラは萎えた。そして、それを見つめる凛は自分でも気付かない程、微かな笑み
が漏れていた。
投下終わります
>>433 ってか、ホントにそのスレ見てる?
割と最初のほうで「もうヤンデレじゃなくても良くね?」って雰囲気になってたと思うんだが。
436 :
実験的作品:2007/06/18(月) 20:10:05 ID:SV3zZ8/2
投下します
437 :
実験的作品:2007/06/18(月) 20:10:54 ID:SV3zZ8/2
職員室に呼ばれて教師にお説教されるなんて何年ぶりだろう?
長い沈黙に思わずそんなことを考えていた。
目の前には無言でコーヒーを啜るコーネリアさん。
「ええと…今日はいい天気ですね。」
「…ああ、そうだな。」
うわっ…むっちゃ機嫌悪っ!俺なんかしたか?
と、言っても、まぁ、99%千鶴さん関係の話で間違いないだろう。
千鶴さんとコーネリアさんは同じ職場の同僚でもあるわけだから自然と会話を交わすこともあるだろうし、その中で千鶴さんがコーネリアさんに何か俺に関する悩み事や愚痴…しかも、直接俺に言いにくい類の相談をしたとしても不思議ではないだろう。
その上、コーネリアさんは見た目こそどこかの国のお姫様や女王様の類なのだが、中身は案外というか意外と乙女ちっくな女の子なのだ。普段のつんとした少しお高く見える仮面の裏側には甲斐甲斐しい可愛い女の子の内面に
「コーネリアさんって犬気質よね。ほら番犬みたいに外に向かっては吼えるけど、ご主人様には忠義を尽くすって感じの…P君にわかりやすく言えばツンデレ?」
…いや、それはなんとなくツンデレじゃない気もしないでもないこともないのだが…
まぁ、そんなコーネリアさんは面倒見もよく千鶴さんの世話や、俺なんかの相談相手にもなってくれるみんなのお姉さん的存在だった。
その少し怖いお姉さんからの呼び出し。おまけに隣に千鶴さんがいないとくれば、もう、これは高確率でお説教。そこは凄みのあるお方。黙っていると、どこぞのウォーマニアックな大尉みたいな迫力がある。
「Pさん…千鶴とは上手くいってるの?」
「え…!?ぇ…ええ…」
突然の質問に脊髄反射的に答える。思わず、『サー!イェス サー!』と立ち上がり、此処がホテルの喫茶店であることを忘れて返事しそうになるのを押さえ、辛うじて肯定の意を促す。うわぁ…既に心臓がばくばくと鳴っている…
「セックスは週に何回?」
「え…ぇえええ?」
『何でコーネリアさんにそんなことを言わなくちゃいけないんですかっ!!!』
喉の奥まで出掛かったそれをごくんと嚥下する。
「何回?」
「…今は…3回くらいです。」
「ほぉぉ…」
少し意外そうな表情を浮かべながらタバコを咥え、それを上下に動かしながら
「思ったよりはしてるのね。それに今はってことは、以前はもう少ししていたわけだし…
若いっていいわねぇ。」
438 :
実験的作品:2007/06/18(月) 20:15:57 ID:SV3zZ8/2
…いや、コーネリアさん俺たちと同い年じゃないですか…などと突っ込みは恐ろしくて言えない。
コーネリアさんはどうも、男運が悪いのか寄って来るのは「女王様〜もっと罵ってください」というような類か、
渋い叔父様(家庭持ち)である場合が多い。
その内、付き合うことになるのは後者らしいのだが、どうも、と言うか、やっぱりというか長続きはしないらしい。
千鶴さんに言わせれば「コーネリアさんは理想が高すぎるのよ」…らしいのだが。
まぁ、そのあたりは俺にはよくわからない話だ。
「まぁ、率直に言えばどうも千鶴の様子がおかしい、というか落ち込んでいる、というか悩んでるような感じなのよね。
本人に聞いてもなんでもないって笑って言うだけだしね。それでPさんに何か心当たりがあるかなって思ったんだけど?」
そりゃそうだろ。千鶴さんは案外頑固であまり人には弱みを見せたがらないタイプだ。
作業や段取りなど自分が知らないことについては率直に聞いてくるのだが、自分の考えていることなどはあまり人に話したがらない。
逆に言えば千鶴さんがそれだけ物事をそつなくこなしているってことなのだが。
まぁ、要するにコーネリアさんはそういった千鶴さんの異変をいち早く察知し、俺にその事実を伝えてくれた。
さらにあわよくば千鶴さんの悩みを解決してあげたい…と、そういうことなんだろうなぁ…。
自分の胸に手を当てて考えてみる…なんだろう…そう、考えると思い当たる節があった。
「…違うかもしれないですけど…」
「ふむ、心当たりはあるようね。」
「はい…」
確かにコーネリアさんも心配をしてくれているのはわかる。
しかし、二人の話をそこまで赤裸々に話してもいいものだろうか。
とはいえ、親切心で千鶴さんが何か悩みを抱えていることを教えてくれたんだし…
「たぶん、ですけど。この間、そのえっちできなくって…」
「あら…勃たなかったの?」
「いえ、寧ろ勃っていたんですけど…その、千鶴さんが『したいようにしていいよ』って言ってくれて…
それでなんていうか…パニックになっちゃって…それで…」
「へぇぇ…千鶴が?したいようにしていいって?」
「はい…」
「それでPさんがあまりにも変態的なことを要求したの?」
「そんなことしませんよ!…あ…すみません。いえ、そうじゃなくて…頭のなかが真っ白になっちゃって、
それで何もできなくって。」
「はぁぁぁぁ…な・る・ほ・ど・ねぇ…」
コーネリアさんは咥えたタバコを灰皿に置くと、なんと言うか犯人がわかったベルギーのちょび髭探偵のように俺の顔を見ると。
「そりゃぁ…千鶴もへこむわぁ…でも、あの千鶴がねぇ…くくっ…」
俺の頭の上には『?』マークが天使の輪のようにくるくると回っていた。え…なんで千鶴さんがへこむ?…Why?…
「え?…それって…なんでなんですか?」
訳のわからない俺の様子に、コーネリアさんはまるで教師のような見下ろすような視線を投げかけてきた。
439 :
実験的作品:2007/06/18(月) 20:18:28 ID:SV3zZ8/2
「Pさん…あなたは千鶴のこと…どんな女だと思ってるの?」
千鶴さん…綺麗で可愛くて気が強くて優しくて…料理も上手で掃除とか細かいところも気がついて、
少し変わったところもあるけど、ちょっとえっちな女の子…
「千鶴はさぁ…どっちかといえば猫気質?…というか虎気質なの。気位は高いし、我がままで気分屋…
それにいざとなったらがぶぅって噛み付く牙や爪だってある。なんていうか…
手負いの虎って表現がぴったり合うような気がするかな?」
…そういうあなただって、千鶴さんは犬気質って言ってましたけど…どっちかといえばドーベルマン…
いや…狼とかヘルハウンド、或いはケルベロスみたいな人間には変えない類の犬気質っぽいんですけど…
などと思っていることは言えずにコーネリアさんの言葉に耳を傾ける。
「その…千鶴が甲斐甲斐しく尽くしているっていうだけでも驚きなんだけど、えっちの時に相手にしたいようにしていい…
そんなことを言った事自体が驚きなんだけど?」
そう言われれば千鶴さんはえっちがしたくなったら、俺の意思とは関係なく自分から誘う…というか始めることが多かったなぁ。
いや、マグロな俺から誘ったことってもしかして一回も無いんじゃぁ…
「な・の・に……あの千鶴が勇気を振り絞って赤面しながら誘ったのに…何もしないんじゃぁ…そりゃ怒るし拗ねるし落ち込むって。」
…そうなのか?千鶴さんはあのときに何もできなかった俺を責めているのか?って、別に変わった様子もなかったけど…
でも、コーネリアさんがそういうなら間違いないだろうなぁ…えぇぇぇ…どうしよう、どうしよう…
「どうしたらいいんでしょうか…」
思わず、口をついて出る本音。
「ん…とりあえず謝ってみるとか?まぁ、あとは何を想像して固まったか知らないけど、
『したいようにしていい』って言ってくれているんだからしたいことを考えておいたら?
緊縛の仕方とか、そういう特殊プレイで使う道具とかが必要だったら安く分けてあげるけど?」
「え…ぁ、それはまた改めて…」
ふぅ…と安心したのか全身から力が抜ける。それにしても…千鶴さんがそんなことで悩んでいたなんて気がつかなかったなぁ…
でも、俺のしたいこと?…したいことってなんだろう…第一していいって言われたからって…言えないことだってあるよなぁ…
とりあえず、今日会ったら…謝るか…
その時はまだ、俺はそんな風に安易に考えていた。
440 :
実験的作品:2007/06/18(月) 20:20:17 ID:SV3zZ8/2
投下終わります。
「…」の乱用のせいでやけに文章が諄く見える。
まあひとまずはGJ!
三点リーダは二つセットで。
日はもうかなり前に沈み、窓からは深い漆黒の海の中で瞬く星と静かに佇む弓張り月が見える。
この病室の電気は既に消灯時刻を過ぎているために、消されている。
今の時刻というのは病院に入院する人々の生活サイクルの上ではかなり遅い時刻であるのだ。
現に、枕もとで蛍光塗料独特の薄ぼんやりとした優しい光を放っている時計の針は夜の十二時を過ぎていることを告げている。
部屋の中も外もまっくらなので、瀬戸黒の海で物静かに落ち着いて光り輝く月や星は一層美しく見えた。
今まで私はこの暗闇の中で孤独を感じ、心細さと悲しさで心が締め付けられそうになったことが何回あっただろう。
伝えたくても伝えられなかった想い、悪夢のような幼少期の記憶、自分の存在理由、そのときによって様々なことを考えたり、
回顧したりしたものだったが、最後はただただ侘しさと悲しみだけが残っているという点において共通していた。
しかし、その寂寥感あふれる、負の記憶しか生み出さなかった暗闇でさえ、気分が昂揚している現在の私ならば好きになれると思う。
周りにあるどんな些細なことさえも、私を祝福してくれているように感じられた。
今までは私は彼に対しては、写真を毎晩眺めるか、彼に時々、料理を作ってあげるか、ないし家に招く程度のアプローチしか取ってこなかった。
まして、触れ合うことなど今までにはあろうはずもなかった。
しかし、私にはその程度が分相応だと思っていたので、それで十分だとすら思っていた。
私はもともと、ずっとずっと、彼の傍にいたいという願望があったので、私は彼に尽くし傍に居ることが満たされれば、満足だと思っていた。
当然、彼と結ばれたいという願望もなかったわけではなかったが。
だから、自分の想いを伝えたところで、それをあれほど真剣に受け取ってもらえ、回答をもらえるとは思わなかった。
そして、先程まで続けられていた情事に思いを馳せる。
彼とこれまでになく愛し合い、何かの誓いであるかのように、何度となく交わった。
当然のことながら、これが初めての事なので、苦痛がなかったかと言えばそれは嘘になるかもしれない。
けれど、その苦痛は自分の生きる目的となってくれた、何物にも勝る松本君と結ばれた事を雄弁に証明していた。
ただ、結果的に重病の彼に無理をさせてしまったことが少し残念だった。
でも、そんな無理をしてまで私を求め、愛してくれたのだと思うと自然に嬉しくなってくる。
北方さん、と私を呼ぶ声がしたので隣で静かな寝息を立てて眠っていた松本君を見たが、寝言だったようだ。
寝ながらも私の事を呼び続けてくれるなんて、本当に嬉しいことだ。
私はあなただけを愛している。
他には誰も要らないし、誰にも干渉させない。たとえあなたが愛してくれなくとも、私はあなたを愛している。
あなたの痛みは私の痛み、あなたの願いは私にとっても望むところ―。
彼に想いを伝えた時に言った言葉を彼の優しい顔を見つめながら、反芻する。
咄嗟(とっさ)に机の上にこっそりと置いておいた小箱の存在を思い出し、拾い上げる。
それは、もし叶うならば―、と一抹の期待から用意しておいたペアのプラチナのリング。
想いが通じた今、彼の指と私の指にはめるべきだ。
彼のよくクラスメイトに文化部の手と揶揄されている華奢な指にリングをはめる。
そして、私も松本君と同じ指に月明かりを反射するリングをはめる。
それから私は眠っている彼の唇に静かに口づけた。
願わくば、あなたの傍で過ごす、この良き日々が永遠に続きますように―。
松本理沙はつい先程まで大きく震わせていた肩をとめて、恍惚とした表情で、やおら立ち上がると薄暗い部屋の一角にある、
背もたれのある椅子におぼつかない足取りで腰掛けた。
私が今まで経験した苦痛は常に外からやってきた。
もっと私が小さかったとき、今よりもはるかに持病の喘息の症状がひどかったときからそう。
家の中で静かにすごしている分には生活には影響を与えなかったのに、外に出て遊ぼうとすると、
いつも決まって苦しい思いをする。
お兄ちゃんはいつもそんな病弱な私を精一杯助けてくれたのを幼心に覚えている。
でも、当たり前の話だけどお兄ちゃんは私と家の中で一緒に居られるわけじゃないし、お兄ちゃんだってまだ子供の頃だから、
外で仲間と遊んでいることだってあった。
そのお兄ちゃんについていこうと外に出ると、すぐにぜいぜいと息が切れ、歩くのがきつくなってきて、そのうち立っていられなくなり、
ひどいときはそのまま病院に搬送されてしまった。
お兄ちゃんはそんな病弱な私のことを、見捨てずに少しずつでいいから治していこうね、と常に励ましてくれた。
私のお母さんは何度となく、発作が起こるたびにため息をつき、困った厄介者だとでも言いたげに見てくることも何回かあった。
お母さんは当時、専業主婦ではなく仕事をしながら家事を両立させなければならなかったから、そんな風に感じるのも仕方ない、と思うけど、
やはり薄情なものだ。
お父さんは今もそうだけれども仕事が大変で、しょっちゅう出張で家をはずすことが多く、発作の知らせを受けるたびに、
心配していると言う言葉を発していたらしいが、本当はそんなこと気にしていられるほど余裕はなかっただろう。
両親でさえ、こんなぞんざいな対応をとるのにお兄ちゃんは見捨てることがなかった。
私の成長と共に喘息の発作の回数は少なくなり、そのひどさも弱まってきた。
そういえば、この頃だったっけか、お兄ちゃんと初めてデートしたのは。
お兄ちゃんは始終私のことを妹、としてだけしか見てくれなかったのが少し残念だったけど、今まで外に出ることが危険と隣りあわせだった、
幼い頃の私から考えれば、大きく状況が好転したと思うし、とてもお兄ちゃんも楽しんでくれたからおおむね満足だったかな。
そんなこんなで、ようやくお兄ちゃんと絵本の中に出てきそうな幸せな兄妹だけの生活ができると思ったのに―
再び外界から忌むべき苦痛が訪れた。
その苦痛は人に由来するものでなく雌猫なのだが、抜け目なくお兄ちゃんを惑わしていった。
だから、処分する前にご丁寧にも警告してあげたのに、逆に雌猫は私だけのお兄ちゃんに、
怪我を負わせて手術しなきゃいけないほどの半死半生の目に遭わせた。
その事実を知ったとき、とっても、悲しかった。胸が張り裂けるくらいの悲しみがこみ上げてきた。
もしかしたら、お兄ちゃんが、私の唯一のお兄ちゃんが、世界で一番大切な人が死んでしまったら、
と考えると夜も眠れなかった。
手術のあった日はずっと涙で湿ってしまった折り紙でずっと、折鶴を折っていた。
幸いなことにお兄ちゃんは手術が成功したので本当に良かったよ。
けれど、あの時、お兄ちゃんに万が一のことがあったら、あの警告を受け止めず、
無罪のお兄ちゃんに必要ない苦痛を与えて、行動を束縛する大怪我を負わせる原因を作ったあの雌猫を即座に殺していたと思う。
もともと、警告に応じても応じなくても殺すのと同じくらいの苦痛を与えてやるつもりだったしね。
だから、現に私はさっきもそうだったが、人を殺すに十分な量の毒を生成している。
じゃあ、今の私はあれに対して殺意を持っていないかといえば、当然、否。
あの猫は、私の悪口をあることないこと吹き込んで、小難しい理屈や御託を並べ立てて、さも自分が世界の法の権化でもあるかのように尊大に振舞った。
それから私は猫ゆえに傲慢な態度を取るのか、と怒りを抱きつつ、どういう手法で殺してやろうかと考え、調薬の作業をしていた。
が、それは大きな仇となってしまった。
お兄ちゃんが自分に逆らえない事を知っていながら、お兄ちゃんがお人よしなのを知っていながら、あの猫はお兄ちゃんを襲った。
しかも、完全な計画的な確信犯で、周到に強姦するまでに自分の論理を押し通すことによって、
お兄ちゃんをマインドコントロールしているあたり、いやらしさを感じる。
いや、誰が見てもいやらしいなんてレベルじゃない。
前に、何かの事件でストックホルム・シンドロームとかいう、被害者が加害者に親近感を覚えることが起こる、
とお兄ちゃんから教わったけれども、お兄ちゃんはそれとは明らかに違うと思う。
それは、あの雌猫がお兄ちゃんが私と帰ろうとしたのを邪魔した際にもお兄ちゃんはあの雌猫におびえに近い態度を取っていたことからも明白だと思う。
自分の欲望が正攻法では達せられないことを知っていながら、お兄ちゃんの心を支配したいという自分の醜いわがままを通すためにあんなことをするなんて、
心を操作されているお兄ちゃんがかわいそうだ。
あの手のエゴばかり強い人間は、お兄ちゃんに飽きたら、ぼろくずのように、あっさりと冷たく捨ててしまうのは既に見えている。
そんなことは許さない。
私が"警告"に失敗したこともお兄ちゃんが穢されてしまったことの原因かもしれないが、あの雌猫が一番悪いのは当たり前の話だよね。
それに、私のお兄ちゃんが妹である私を裏切るはずなんてないんだから―。
優しすぎるお兄ちゃんだから、成り行きでこんな悪夢みたいな事が起こっているだけだよね。
でもね、お兄ちゃん。終わりの来ない悪夢なんて絶対にないんだよ?
その終わり、は私がお兄ちゃんを受ける謂れのない束縛から解放したときにやって来るんだよ。
そうしたら、お兄ちゃんは私のもので、私はお兄ちゃんのものになる。
あはは、そのためにどうしたらお兄ちゃんが一番喜んでくれる方法であの雌猫を殺せるのかな。
お兄ちゃんは自分を苦しめた元凶はどんな方法で殺されるのが見たいのかな。
あ、そうか。あんな奴が死ぬ無様な光景なんか見たくないに決まってるよね。
それに、あのいかれた雌猫なら、最後までお兄ちゃんと一緒に居られる、とか言って逆に喜ばせしまうかも。
それなら、逆に身の回りの人が一人ずつ雌猫の前から離れていってしまって、最後にひとり残された状態で心細く、
誰にも見取られずに冷酷に殺せばいいのかもしれない。
あははは、お兄ちゃんが満面に笑みをたたえて喜んでくれる光景が今にも浮かんでくるよ。
あははははははははは、うれしいなあ。そんなにお兄ちゃんになでなでされたら恥ずかしくて困っちゃうよ。
でも、本当に私が…なでて欲しいのは頭だけじゃないんだよ………
それにしても、私がお兄ちゃんの心を読めればいいのに。
そうすれば、どうやってお兄ちゃんを解放すれば一番喜ぶか、どうすればお兄ちゃんの中の雌猫の記憶を消し去ってあげることができるのか、
それに…どうやったら、お兄ちゃんをあの雌猫以上に気持ちよくしてあげられるのか、今私が知りたいことがはっきりと解るのに……
お兄ちゃん、それでも私、がんばるからね。
翌日、私は三日の間休んでいた学校へ久しぶりに行くことになった。
自転車は例の事故で使い物にならなかったが、新しい自転車を用意したのでその車輪を転がしながら学校に向かう。
不幸な事故だったけれど、自転車で学校に行く、という彼と私の共有の習慣になりつつあった自転車通学をやめようとは思わないし、
松本君がトラウマに感じることなく、再びそうすることを望むなら、また一緒に学校にいきたいとも思う。
松本君が昏睡状態を脱したことによって、こなす仕事の量は必然的に減ってしまったのだが、その手持ち無沙汰で学校に行くのではない。
それは松本君の居ない学校など行くことに意義があるなどと思わない私にとっては至極当たり前。
しかし、松本君は欠席することで私に迷惑をかける事と、早く日常生活に戻りたいという理由から、私には学校に行くように勧めてくれたため、
いったん彼の元を離れることにした。
松本君は自分のほうがよっぽどひどい状況にもかかわらず、私の心配をしてくれて、優しさが身にしみる反面、
逆に彼のことが心配になってくる。気を遣いすぎる事で治りが悪くなったりしないかと思ってしまう。
学校まであまり距離がないので、いつも通りに松本君の家の前まで来てから、学校に向かうというルート選択をしたのだが、
いつも傍にいる松本君がいないだけで本当につまらなく寂寞(せきばく)としたものに感じられてしまう。
彼と話しながら学校に行く、という何気ないコミュニケーションからも、私が彼に助けられているということがわかる。
その寂しさを同じものを松本君にもはめた、光を反射して輝く、銀色のリングで紛らわしながら、足を動かした。
授業が始まると、無味乾燥とした英語の授業を淡々と聞き、指名された時は問題をそつのないようにこなしていった。
いつもならば、隣に座っている松本君が眠りそうになるのを注意してあげたり、苦手な問題でああでもないこうでもない、
などともがいている松本君を観察したり、微妙な表情の変化から考えていることを想像してみたりなどと、彼と話すようになる前からしていたことや、
直接に話をしたりすることで時間を有効に活用することができた。
でも、今はそうはいかないので、昨日の事をいろいろと思い出して、いまだ覚めやらぬ余韻に酔いしれながら時間を潰すことにした。
時間が通常よりも数倍もはるかに長く感じられた午前中の授業を終え、食堂にやってきた。
自分で作ったサンドイッチを一つ、落ち着いた風合いのランチボックスから取り出し、少しずつ食べて始めた。
サンドイッチをゆっくりと咀嚼していると、松本君の事故について話をしている人たちがいたので、耳をそばだててそれを聞いた。
声から察するにどうやら、うちのクラスの男子の何人かが松本君の話をしているようだ。
「何でも、松本は土手から転がり落ちたらしいぜ。」
「ああ、確かに俺もそんな事を聞いた。しかも、自転車の破損が原因らしいが、バラバラになった自転車が直撃したらしい。」
「それがひどかったらしくて、内臓にダメージがかなりあったらしい。」
「それで、奴は緊急手術をする事になったんだな。」
「すぐに病院へ運ばれて、しかも手術を安全に受けたらしい。普通、あんな土手じゃ、誰も気づかないはずなのに、どれだけ運がいいんだよ、あいつ。」
「ああ、お前知らなかったのか?あれは一緒にデートしてたうちのクラスの北方さんが松本のために救急車を呼んだんだぜ。」
「ええ、デート?あの北方さんが松本と?信じられねぇな。非社交的な北方さんが松本と、か。」
「まあな、だが、うわさで聞いたから信憑性はないんだが、ただ北方さんが救急車呼んで、運が良かったな、だけではすまないようだぜ。というのも、
この事件には裏があるようで…」
「え…、事件の裏だって?細かく話してくれよ。」
それから彼らは、情報をどこから仕入れてきたのか、事件の裏として、自転車の破損が不自然であることを話していた。
少しすると、私の聞き覚えのない、かすれ気味の声の女子が話に入ってきた。
彼女は小さい声で話したり、耳打ちしながら話したりとまるで私を憚っているような感じであった。
どこの誰だかはわずかながら聞こえた、話している内容からは特定できなかったが、彼女が私に何らかの悪意を持っていることは察することができた。
「…だから、自分の…に細工して……を………怪我さ……」
おそらく、松本君が乗っていた電気自転車は私のものだから、私が彼に意図的に怪我を負わせた、とかそんな意味のない事を言っているだけなのだろう。
そんなことを一々、気にしても詮無いことなので聞かなかったことにする。
しかし、それが不愉快なことには違いない。
サンドイッチとサラダを食べ終わり、私はあまり飲まないのだが、和食でないから、という理由で水筒に入れて持参した、
澄んだ紅色の紅茶をカップに静かに注ぐ。
この紅茶のかぐわしい香りには精神を安定させる効果がある、と何かの本で読んだことがある。
松本君について話している不穏な連中を横目で見ながら、紅茶に口をつける。
水筒に保温能力があるといっても、限界があるため、やや味は劣ってしまうのは仕方ない。
しかし、それが問題にならないくらい苦みが強い紅茶がそこにはあった。あまり味を見極められる方ではないが、今日は紅茶を淹れる時点でかなり失敗したようだ。
松本君の好きなケーキと一緒に振舞ってあげられるように、もう少し練習しなくては。
松本君の話をしていた連中が食堂を出て行った後も、私はすこしのんびりと食堂で過ごしていたが、
突如トントンと、肩を指で二回ばかり軽く叩かれた。
私に好き好んで話してくるような人はそうそういないので少しびっくりしたが、すぐに振り返り、肩を叩いた人の方へと向き直る。
すると、そこには少しおびえているのか、緊張しているのか、どちらともつかない表情で肩を微動させている小さな女の子がいた。
背丈はかなり低く、小学生低学年であると聞いても驚かないほど。
相手が私を呼んだにもかかわらず、なかなか話を切り出さずにもじもじしたままだったので、もどかしく感じられた。
「あなた、私に何か用があるのよね?」
はっきりとそれと解る頷きは肯定の意と取ってよいのだろう。
「それなら、何かしら?」
「…あの、…いくつか…この前の事故について伺いたいのですが、……松本先輩の乗っていた自転車は北方先輩の物ですか?」
「ええ、そうよ。けれど、これを見てくれるかしら?」
またしても事故の内容だったので、この前に松本君にも見せてあげた事故の調査資料を見せてあげた。
彼女を観察しながら、食べ終わったランチボックスや水筒を片付ける。
彼女は妙に神妙な手つきでそれを受け取ると、内容を恐る恐る確認し始めた。
内容を読んでいく内に彼女が目を白黒させているのが解った。
彼女は私に蚤取り眼で自分が観察されていることに気づいて、途中、大げさに肩が跳ね上がった。
「な、な、な、何ですか?」
「あなた、さっきから怯えているみたいだけど、どうしたのかしら?」
「い、いいえ。別に怯えてなんて…」
そう、否定したがその釈明の仕方そのものが、その釈明が正しくないことを雄弁に語っていた。
彼女のことがやはり不審に思えたので、指の動き一つまでも見逃さないくらいのつもりで、観察することにした。
彼女と目が何回か合ったが、すぐに彼女のほうから、隠すことなく怯えながら、目を背けた。
「あなた、失礼ね。私はその資料をあなたに提示している。そしてあなたはそれを見せてもらっている立場なのに、そんな怯えた態度を取るなんて。」
「…す、すみません。わ、私…この事件で松本先輩が怪我をしたって聞いて、本当にびっくりしました。
それから、北方先輩がその場に居合わせた、とお聞きしたので、いろいろと確認したかっただけです。
決して、失礼な態度を取ろうと思ったわけではありません。」
気弱そうな印象を抱いたそれまでの態度からは不似合いに最後の部分を強調して言った。
「それなら、あまり時間ないけれども、何か確認したいことは?少しなら答えるわ。」
「…いえ、あらかた確認したいことは確認できたので。」
「そう。それなら、私は失礼させていただくわ。」
「…あ、あ、…待ってください。あの、お手紙を先輩に渡すように、って友達から言われているんです。」
そういいながら、まるで小学生が背負っているランドセルに近い感じにデザインされている、小ぶりのバックから何も書かれていない、封がされた茶封筒を取り出した。
「あの…、これ…です。」
「そう、誰からかしら?」
視線を手渡された茶封筒から元に戻し、そう尋ねるとさっきまでそこに居たはずの名前を知らないあの子はいなくなっていた。
バックの中に入っている文房具入れから、はさみを取り出し、中の手紙を切らないように封筒の端を切った。
その中に入っていたものは松本理沙からの手紙で、白無地の便箋には放課後に屋上に来るように、と小さく走り書きされた文字で記されていた。
投下終了です。
では、また。
南斗水鳥乙拳
投下乙です。
毎回面白く読ませてもらってます。
物語が進むごとに着々と北方さんに死亡フラグがたってますが、
どうか死なないでほしいなあとファンとして思いますが
このスレのファンとしては殺したほうが面白くなるかなとかよくわからない感情になってます。
理沙がいい感じに壊れてきて北方さんピンチの予感。
北方さん派としては次回が怖いけどさらに北方さんが病んでくれるかもしれないと思うと(0゚・∀・)ワクワクテカテカ
GJ!
>>461 感想はいいが今後の展開について口出しするな。職人さまに要らん気遣いをさせてしまうだろうが
また痛い人が来たね。
普通に受け流しておけばいいのに
難癖つけじみてる過敏症
指摘厨(笑)
批評厨(笑)
(笑)厨
厨々ロケット
厨厨トレイン
はじめての厨
きみと厨
何と言うカオスw
流石はヤンデレスレだぜ!
厨学生日記
厨inガム
誰かこの流れをぶった切って投下してくれないかな?
じゃあどうでも良い話を。
こないだ友人に、今部屋に人が来てるからという理由で電話を一方的に切られたのでその直後に送りつけたメールの内容。
別にですね? 電話が切られて寂しいってわけじゃないんです。
いえ、本当に全く寂しくないかって言われたら寂しいっていうのが本心なんですけど大切なのはそこじゃなくて、私がそう想ってる事を貴方に気付かれて心配かけたくないんです。
だってそうじゃないですか。私は貴方のお荷物にはなりたくないですから。
……でもだからってこんなメールしてる時点で寂しいって貴方には分かるし心配かけてしまうんですよね?
だって貴方は優しいですから。
そんな貴方を好きになったんですから。
そうですよね。貴方に心配かけるくらいなら私なんか死ねば良いんです。
でもそうするとまた貴方に迷惑をかけてしまいます。
――まったく、ままなりませんね?
だからせめてお詫びがしたいんです。
好きにして良いんですよ?
詰っても、殴っても、踏みつけても、慰みものにしても。なんなら全部一緒にっていうのはどうでしょう?
あなたに言葉で責められて、その大きな手を叩きつけられて、家畜のように足蹴にされて、あなたの性奴隷になる。
……ああ、いけませんね? 少し興奮しちゃいました。
でも仕方ないですよ。きっと貴方になら何をされても私は喜ぶんです。
貴方がそばにいれば私は幸せなんです。
ああ――だから。
そばにいてください。はなれないでください。こえをきかせてむしをしないでわたしをみつめていてめをそらさないでこころをつないでこころをとざさないで。
どうして――
ソバニイルノガワタシジャナインデスカ?
当方男で相手方も男ですが何か?
>>476 > 当方男で相手方も男ですが何か?
モッキモッキした俺のオニンニンに謝れ
478 :
名無しさん@ピンキー:2007/06/21(木) 15:42:24 ID:Ok5I6wGg
>>476 ネタだよね?男の友人にこんな痛いメール送るわけないよね。
ネタとしてリアルに送りつけたよ。
あっちもヤンデレとか理解してるから大丈夫。勝手知ったる幼なじみだからな。
なんかいろいろ惜しい話だな。
─┬─┬┬─┬─ ─┬─┬┬─┬─ ─┬─┬┬─┬─ ─┬─┬┬─┬─
└┐  ̄ ┌┘ └┐  ̄ ┌┘ └┐  ̄ ┌┘ .└┐  ̄ ┌┘
│ 女 │ │ た ,│ ..│ ら │ ,│ し .│
│ │ │ │ │ .│ ,│ │
└──┘ └──┘ └──┘ , └──┘
麗鬼キター
485 :
名無しさん@ピンキー:2007/06/22(金) 01:22:56 ID:azavkz3I
梓がノミネートされてることに驚いた。
意外と知られているのか?
インパクトは強いが、かなり昔のマンガなんだが。
桜はヤンデレじゃねぇただの欝ビッチだ('A`)
じゃぁアバズレ
アレは生活環境とか周囲の外道からの抑圧のせいであって、
主人公を愛するあまりに心が病んだ、というわけではないからな。
でもいいんだ。唯一のきょぬーだから。
薬漬にされるようなモンだからなぁ
>>490 依存度など、個々の性格にもよるが基本的に
外圧や環境変化での変化と後はライバルや相手への変化が殆ど
病むってのは当人だけのもんじゃないさ。
SEEDのフレイ・アルスターなんてただの我が侭御嬢様から
父親が死+キラの事情でビッチヤンデレにレベルアップしてるし
初心者が間違えやすいけど狂ってるのとヤンデレって違うんだよなぁ…
いやいや。月厨の俺から言わせてもらえば、
桜は薬漬けや蟲責め、肉体改造、義兄からの陵辱その他でも心を閉ざすばかりで壊れなかった。
主人公の一途さや無謀さに惹かれ、そして通常あるべき『普通の生活』を教えられたからこそ病んでいった。
その心の闇につけ入れられて狂ったんだべ。
>>494 それって狂ってるとはいわねぇよ
むしろ正式なヤンデレさ
つかFateも月房にはいるのか…
>>494 ていうか、姉と仲良くなってからおかしくなったと思うんだが
主人公を思うあまりってよりは姉を妬むあまりって感じだよな
なんか10000のキリ番踏んだんだが
大丈夫なんだろうな・・・
最後の穴をクリックしたらビビッタ・・・
違うブラウザで見たらまたキリ番だったからシカトする
502 :
名無しさん@ピンキー:2007/06/22(金) 23:10:17 ID:3QLbj67n
>>498 昔見た時は「恐ぇ…」だけだったが、今見ると物凄く魅力的だな
sage忘れた……orz
吊ってくる…
箱庭とか懐かしいな
箱庭?
>>498のこと、あれ初めてみた時おもしろかったな
2、3年前に箱庭見たときはキリ番踏んじまったって大慌てした記憶がある
天下餅マダー?
投下します。
*******
第十五話〜遠くに居た知り合い、遠くへ行った恋人〜
階段を上がり、上りきったところで自分の部屋の扉を見る。
特に変わった様子は見られない。玄関前に荷物が届いていたり、動物の死骸が置かれたりはしていない。
ただ、俺の方をじっと見ながら無表情で立ち尽くす華がいるだけだ。
ぱっと見では怒っているように見えない。しかしここで安心してはいけないことを俺は知っている。
階段を上るとき以上の重い足取りで歩き、華の前に立つ。
「おにいさんおかえりなさい。――これはさっき言いましたね。
どこに行っていたんですか? 私に一言も告げずに外泊してくるなんて。
私がどれだけ心配していたかわかりますか? わかるわけないですよね。
不安だったんですよ、あの女の屋敷で起こった爆発事件は解決していない。犯人は捕まっていない。
もしかしたら町にでて無差別テロをしたりコンビニ強盗をしているかもしれない、
そうしたらおにいさんの身が危険にさらされる。早く帰ってきて欲しい。
そう思って送ったメールを、おにいさんは無視しましたね? 一体どういうつもりだったんですか」
予想通り、小言の絨毯爆撃を喰らわされた。
心配してくれるのはありがたいがそこまで心配しなくてもいい。……などと今の華に言うと逆効果だ。
だから、俺がしなくてはいけないのは華に謝罪の意思を伝えることだ。
「すまん。メールを返信しなくてもいいかと思っていたんだ。悪かった」
「では、なぜ早く帰ってこなかったんですか?」
「ああ、それは……」
香織と一緒に隣町まで行っていたからなのだが、正直に言わないほうがいいだろう。
多少の真実を含ませてごまかすことにする。
「友達と隣町まで行っていたんだ。帰りのバスに乗り遅れてしまってな。
金はあまり持っていないからタクシーでは帰れなかったんだ」
「なんで、私に連絡してくれないんですか?」
「連絡してどうするんだよ。迎えに来てくれるのか?」
「当たり前でしょう。おにいさんの無事のためなら往復のタクシー代くらい安いものです。
それに、後になって利子をつけて請求することもできますし」
嬉しいことを行ってくれるものだ。最後の一言がなければもっと良かった。
「それで、昨晩はどうしました?」
「ああ、ビジネスホテルに泊まったよ」
「1人で?」
「…………ああ」
つい嘘をついてしまったが、仕方がない。
香織と一晩同じ部屋で過ごしたということがばれたら恐ろしい目に合わされそうだ。
香織の身に危険が及ぶ可能性もある。
「……ちょっと、失礼します」
華は俺に近寄ってくると、左手を掴んだ。そして、鼻をよせると匂いを嗅ぎ始めた。
犬じゃあるまいし、と思ったが真剣な顔を見ているとつっこめない。
華は顔をしかめると、一度顔を離してからもう一度匂いを嗅いだ。
まるで、俺の手の匂いを再確認するように。
華は俺の手を離すと、ぽつりと呟いた。
「……嘘を言いましたね、おにいさん」
「何?」
顔を上げた華の目が向けられた。目を吊り上げて俺を睨んでいる。
まさか華のやつ、気づいたのか?手の匂いを嗅いだだけで?
「女性の匂いがします。しかも、この匂いは……どこかで嗅いだことがあります」
冗談だろ?わかるはずがない。……ない、はずだ。
「この匂いは、天野香織さんですね」
華の言葉を聞いて一瞬体が固まった。
驚きの表情を作らないようにするだけで精一杯だった。
なぜ、手の匂いを嗅いだだけで相手までわかるんだ?香織は香水をつけたりしないのに。
「もしかして、さっきまで香織さんといたんじゃないですか?
本当のことを言ってください。今なら、まだ許せます」
いや、待て。いくらなんでも手についた匂いで人物まで判断できるか?
まさか、俺にカマをかけているんじゃないか?
「おにいさん、どうなんですか?」
どうする。もう一度嘘をつくか、本当のことを言うか。
華が俺にカマをかけているのか、そうでないのか、どちらだと思う?
「…………」
考えた結果、俺は。
「すまん、嘘をついた。昨晩は香織と一緒にホテルに泊まったんだ」
包み隠さず、本当のことを言うことにした。
華は俺の言葉を聞くと、目を瞑って息を吐き出した。
「やっぱりそうでしたか……それで、泊まったところはどんなホテルですか」
「普通の、ビジネスホテルだ」
「さっきまで香織さんと一緒にいましたね?」
「ああ」
「香織さんに昨晩、なにかしましたか?」
「……いいや」
これだけは真実だ。抱こうとしたのは事実だが、未遂に終わっている。
返事を聞いた華は、俺の目を覗き込んできた。
「……なるほど、それは嘘ではありませんね。
ですが、一度嘘をついたことは事実です。おにいさん、歯を食いしばってください」
言われるがまま、奥歯を噛み締める。
華の右手から放たれた張り手が、左頬を打った。
強制的に右を向かされて、振りぬかれた華の右手が見えた。
「これで許してあげます。でも、今度嘘をついたときはこれだけじゃ済ませませんからね」
華はそれだけ言うときびすを返し、自分の部屋へと入っていった。
鍵を開けて、自分の部屋に入って、洗面所の鏡を見る。
「うあ……手の形がついてやがる……」
とてもじゃないが、こんな顔を他人にさらすことなどできそうもない。
もしこんな顔でバイトに出ようものなら店長に失態を叱られた上、
レジにやってきた客に奇異の目で見られることは間違いない。
香織に見られたら……どうなるだろうな。
やりすぎだ、と華に怒りをぶつけるか。正直に話さなかった俺を怒るか。
考えても仕方がないか。もとより、見せるつもりもないし。
洗面所で顔を洗うと、頬を張られた痛みも引いてきた。
畳の上に座って壁にもたれながらテレビの電源を入れる。
何度かチャンネルを変えてニュース番組を探す。
「……どこも、やってないか」
普通のニュースを報じているところはあったが、どこも目当てのニュースをやっていなかった。
菊川家で発生した爆発事件は一日経っても進展していないようだった。
もしかしたらマスコミに報道規制がしかれているのかもしれない。
というより、その線しか考えられない。
一日経って何ら進展がないのはよくある話だが、一切ニュースで報じないというのは明らかにおかしい。
もしかしたら予想以上にまずいことになっているのかもしれない。
となると、心配になるのがかなこさんのことだ。
彼女については……正直言うと、このまま会えなくなった方がいいと思う。
かなこさんは変わったところはあるけど、いいところのお嬢様だ。
俺みたいなやつに会ったせいで勘違いを起こして、将来をつぶすことはない。
前世のことは、きっとかなこさんの勘違いだ。
仮に前世の繋がりがあったとしても、必ず現世で結ばれなければいけないわけではない。
もちろん、かなこさんのことを俺は嫌っていない。
けれど、俺には香織がいる。俺は香織のことが好きだし、香織も俺のことが好きだと言っていた。
俺は、自分の気持ちに嘘をついていつまでも平気でいられる人間ではない。
だから、かなこさんの気持ちには応えられないんだ。
世の中には俺以上に凄い男はたくさんいる。むしろ、そのような男の方が多いだろう。
俺と付き合ってあまりのつまらなさに失望するより、話の合う男や身分の釣り合う男を
相手にした方がかなこさんは幸せになれる。
こんなことを聞いたらかなこさんは悲しむかもしれない。だが、失恋の悲しみはいつまでも続かないものだ。
きっとかなこさんは立ち直ってくれる。俺はそう確信している。
会うつもりはないにしても、かなこさんの安否はだけは気になる。その件だけは事実が知りたい。
偽善者と言われようがかまわない。気になるものは気になるのだ。
あの時、俺たちが立ち去るとき、かなこさんは床に放置されたままになっていた。
無防備な良家のお嬢様は、犯罪者にとって格好の餌食だろう。
誘拐されるか、もしくは恨みを持った人間であれば――
「……ふう……」
こうして気にしていても仕方がないとはわかっている。
俺が心配のあまり一日飯を食わなかっただけで事態が進展することはありえない。
それでもやはり、どうしても気になって仕方がない。
こんなときはどうすればいいのか。
そういえば、1人だけあてがあった。
あの屋敷に住んでいる人間の知り合いに、十本松がいる。
十本松に聞けば、何かがわかるかもしれない。
昨日連絡がなかったのはどういうわけかはわからないが、あいつは無事だろう。そんな気がする。
十本松は爆発事件があったというのにあっけらかんとしていた。
非常事態だというのに動じないのは変人たる証拠だろう。
あまりに普段と変わらなさ過ぎるのも妙ではあるが。
挨拶抜きで、爆発事件についての質問メールを打つ。
事件の被害、犯人が判明したかどうか、かなこさんと十本松の無事。
他にも聞きたいことはあったが、3点に絞って、メールを送る。
寝転がり、天井を見ながらぼんやりしているとメールが着信した。
送信者は十本松。本文は2行程度のものだった。この時点で十本松の無事は確定したな。
「夜になったら雄志君の家に向かう。
そこでいろいろ話を聞かせたり、聞かせてもらったりするよ、ね」
夜か。今は昼の1時だから、まだ時間があるな。
華は今頃大学へ行っているだろう。
今日はすることもないし、ここ数日で変なことばかりあったから出かける気分でもない。
「……寝よ」
枕を頭の下に敷いて、目を閉じる。
昼間の明るさの中でも、頭の奥の睡魔は絶好調のようだった。
・ ・ ・
「――華ちゃん、どいて。ボクは雄志君に会いに来たんだから」
「おにいさんは寝ています。お引取りください」
女の声が目覚まし代わりになったのか、目がしっかり覚めた。
暗くなった部屋の電気を点けて、目を慣れさせてから時計を見る。
7時をとっくに回っていた。どうりで窓の外が暗くなっているわけだ。
「あれ、今電気がついたよね。起きたんじゃないの? おーい、雄志くーん!」
「香織さん、大声を出さないで! 他の住人の迷惑になります!」
2人の声が寝ぼけた脳の中に叩き込まれた。
言い争う声は玄関の向こうから聞こえているようだった。
どちらかと言えば、華の声のほうが耳に障る。贔屓無しで見ても。
玄関を開ける。最初に見えたのは華の後ろ姿。ドアに背を向けて立っている。
華の肩越しに視線を送ると、香織の姿が目に入った。
「よう、香織」
「うん、久しぶりだね、雄志君!」
笑顔全開。喜色満面。途端に上機嫌になる香織。ここまで幸せそうな人の顔はなかなか拝めない。
「久しぶりって、朝会ったばかりだろうに」
「ちょっとでも会えなかったら、それだけでも久しぶりなんだよ」
「そいつはどうも。そんなに会いたがってくれて嬉しいよ」
嫌味のないように言ってみたつもりだったが、香織はしかめっ面になった。
「もしかして、ボクに会いたくなかったの……?」
「あー、落ち込むな。会いたかったに決まってるだろ」
「……ホント?」
「本当だとも」
「ホントにホント?」
「こんなくだらない嘘はつかないぞ。俺は」
「うん、そうだよね。雄志君は嘘つかないもん。昔の約束も守ってくれたし」
「……昔? 何か約束してたか?」
「ほら、雄志君がいたずらでボクにコインをぶつけたときのことだよ!」
「ああ、あれか」
この間思い出したのにすっかり忘れていた。
昔俺が香織の額に怪我をさせたあと、香織が「責任をとって」と言ったときのことか。
別にあれは約束でもなかった気がするが。俺は数日前まで覚えてすらいなかったわけだし。
けど、勘違いしているならそれでいいか。変に蒸し返す必要もない。
2月の冷えた空気の中で立ち話はよくない。香織と華を部屋にあげよう。
「2人とも、俺の部屋に――」
「おにいさん、ちょっといいですか」
「なんだ」
「今のやり取りから推測するに、お2人はもしかして……」
「!」
――しまった。
俺が言葉に詰まっていると、華が軽くうつむいた。
後ろに立っている俺からは、華の顔は見えない。
「やはり、そうでしたか。お2人は……」
「あ……ごめん。雄志君、喋っちゃった。あと……ごめんね、華ちゃん」
申し訳なさそうに香織は頭を下げた。
香織は、華の好意が俺に向けられていることに気づいていた。
自分が抜け駆けをしてしまった、と思っているのかもしれない。
華は頭を下げる香織をじっと見つめていたが、やがて口を開いた。
「いいんですよ、香織さん。おにいさんが貴方を選んだのなら、仕方のないことです」
華は頭を下げる香織に向けて、怒気を含まない穏やかな声で言った。
頭を上げた香織は、意外そうな顔をしていた。
俺にとっても、華が簡単に引き下がるということは意外だった。
「でも華ちゃんだって、昔から雄志君のことを」
「私はおにいさんが誰を選んでもいい、そう思っています」
「じゃあ、ボクが付き合ってもいいの?」
「はい」
「あ……ありがと」
香織は遠慮したような笑みを浮かべた。
俺は心の中のつかえがとれたような気がした。
香織と付き合うことになって、華が心を痛めるのではないかと危惧していた。
けれど、それは杞憂だった。華はそんなに弱いやつではなかった。
思っていた通り、俺がいなくても生きていけるような強い人間になっていた。
「では香織さん、どうぞ中へ」
「うん、お邪魔しまーす」
香織は言われるがまま、俺の部屋の玄関を通って中へ入っていった。
残された俺は、いつもの調子を保っている華に話しかけた。
「華、黙っていたことは……」
「お昼に話を聞いたとき、なんとなく気づいてましたから、そのことに関してはいいですよ」
華は俺の顔を見ずにそう言うと、部屋の中へ入っていった。
俺も部屋に入ろうとしたのだが、靴を脱いだ華が背中を向けて立ちはだかっていて入ることができなかった。
「私が許せないのはですね……」
華は振り返って、言葉を続ける。
「私からおにいさんをとったあの女だけですよ」
何か言う前に華に突き飛ばされて、玄関前に放り出された。
ドアが閉まり、鍵のかかる音がした。
ドアノブを回す。やはり開かない。
「いきなり何をする! ここを開けろ!」
白いペンキで塗られた鉄製のドアを手で叩く。
叩く度にうるさい音がしたが、そんなことを気にしている場合ではない。
「開けろ、華!」
「おにいさん、静かに」
声がした方を向く。華が台所の小窓から俺を見ていた。
「近所迷惑ですよ、夕方はみなさん仕事から帰ってきて疲れているはずです。
ゆっくりさせてあげてください」
「……お前、ドアに鍵をかけて何をしようっていうんだ」
「あの女に少しだけお灸をすえてあげます。もう二度と、おにいさんに近づけないように」
華の目が笑っていた。だが、声はものすごく暗かった。
いつまでも聞いていたら、自分が泥の中へ引きずり込まれてしまいそうな声。
笑っている目と暗い声のギャップが激しくて、今見ているものが何なのかわからなくなりそうだ。
「それじゃ、そこでしばらく待っていてくださいね」
華の声を聞いて、ようやく我にかえった。
この状況、そして今の華は、まずい。香織が危ない。
「香織、逃げろ! 華に近づいたら――」
「10分で済みますから、それまで大人しくしていてください」
華の顔が窓から離れる。続いて小窓が閉め切られた。
これで部屋の中の様子はまったくわからなくなってしまった。
華は一体、何をする気だ?お灸をすえる?
まさか、香織に危害を加えるつもりなのか?
冗談じゃない。ようやく自分の気持ちに気づいたのに、すぐトラブルに見舞われるなんて。
香織を傷つけさせるわけにはいかない。華にそんなことをさせるわけにもいかない。
絶対に止めなければ。
だが、どうする。
部屋の中に鍵を置きっぱなしにしているから、玄関をあけることはできない。
ドアは頑丈にできているから壊せそうにない。
部屋の窓から入るのは不可能ではないが、時間がかかりすぎる。
こうなったら、1階の管理人のところに行くしかない。
管理人室へ向かうため、振り向いて一歩踏み出した。
その時だった。数メートル前から俺の方へ向かって歩いてくる十本松を目にしたのは。
「やあこんばんは、雄志君。健やかな夜を過ごしているかな?」
「悪い、今お前の相手をしている場合じゃないんだ」
十本松の脇を走って通り抜けようとしたら、腕を掴まれた。
「何を急いでいるんだい? そんなに生き急いでも寿命は変わらないよ。
死に急ぐというのなら寿命どころか命が磨り減るけれど」
「それどころじゃないんだよ! 早くドアを開けないと香織と華が……」
俺の言葉を聞くと、十本松は表情を変えた。
最初は軽い驚きの表情。その次は嬉しそうな笑顔。
何度か首を縦に振ると、呟いた。
「香織がいるのか、そうか……手間が省けたよ。ではさっそく、邂逅といこうか」
十本松は俺の手を離すと、部屋の玄関へ向かって歩き出した。
部屋の前で立ち止まると、ジャケットの内ポケットに手を入れた。
「雄志君、メールに書いてあった質問のうちのひとつに、今から答えるよ」
「なに?」
昼に送ったメールの答え?
事件の被害、犯人の正体、かなこさんの無事……どれについてだ?
十本松がジャケットから手を出した。
その手に握られているものを見て、俺は自分の口が間抜けに開くのを自覚した。
木製のグリップが十本松の手の中におさまっていた。
鈍い銀色をした砲身が、人差し指の先から、腕を延長するように伸びていた。
昔は似た形をしたものを何度か見たことがある。だが、モデルガンなど偽者にすぎない。
今十本松が握っている回転式拳銃に比べれば、玩具そのものだ。
十本松は、ドアを見つめたまま喋りだした。
「もう少し遊んでいたかったのだけどね……まあ、どんなものでも終わりはくるものさ。
人の関係も、人の命も、日常の平穏も。捲れば変わる。アイスクリームの蓋と同じだ」
十本松は右手に握った拳銃を、ドアノブに向けた。
途端、発砲音と金属音が響く。
1回、2回、3回、4回、5回。最後の6回目の音だけは耳に強く残った。
十本松はハンカチを取り出してドアノブに当て、引いた。
そして拳銃を内ポケットにしまうと、部屋の中へ入っていった。
……なんだ、これ。
十本松が、今……拳銃でドアノブを撃って、こじ開けた。
十本松が拳銃を持っていた。なぜ、拳銃を持っているんだ?
拳銃を持ち歩いて撃つのは……まともな筋の人間ではない。
あいつはかなこさんと華の友達で、俺と香織の知り合いで……それだけじゃないのか?
十本松は一体、何者だ?
さっき、質問メールのうちのひとつに答えると十本松は言った。
回答方法は、ドアノブに向けて拳銃を発砲すること。
常軌を逸した、まともではない答え方。そこから導き出される答え。
俺は十本松の正体を察した。どこからともなく、答えがやってきた。
答えを追い払って、もう一度考えても、導き出される答えは変わらない。
信じたくない。俺の身の回りにいる人間が、そうであることなど。
だが、もうごまかすことはできない。
答えは、これだ。
十本松は犯罪者だ。
今の行動は、菊川邸を爆破した犯人を教えるためのもの。
つまりあいつは、自分が爆弾犯だと俺に教えたんだ。
――まずい。
部屋の中には香織と華がいる。さっき十本松は部屋の中に入っていった。
あいつは、もしかしたら2人を目的にしているのかもしれない。
だとしたら、すぐ助けに行かなければ。
左足を踏み出して、地面につく。足が震えて足元がおぼつかない。
おじけづいてるのか、俺は。十本松に怯えているのか。
今は怯えている場合じゃないんだ。
自分の好きな女と、自分にとって大事な幼馴染。
どちらも失うわけにはいかない。
ここで動けなくて、後悔するのは嫌だ。
とにかく守らなくては。どんな方法を用いてでも。
武の心得がなくとも、止め方すらわからなくとも、動かなくては。
部屋に向かって駆け出し、中に飛び込む。
そこで見た光景を見て、一瞬思考が停止した。
うなだれた香織が、十本松の腕の中にいた。
華は床に手をついて苦しそうな咳を何度も繰り返していた。
十本松は香織を抱えたまま、俺に背中を向けていた。
まさか、もう――?
悪い考えを追い払うように、頭を振る。
まだだ。まだ全員生きているはずだ。諦めるな。
「十本松!」
自分が今出せる精一杯の声を絞りだして吼える。
ゆっくりと十本松が振り返った。
「……雄志君か。遅かったね。遅すぎるぐらいだよ。もっと早く来ないといけない。
私の目的がもし、2人の命を奪うことだったら……」
十本松が床で咳き込む華を見下ろした。
「2人とも、いくつ命があっても足りなかっただろうね」
「てめえ……」
「そんなに憤らなくてもいいじゃないか。2人とも、まだ息はあるんだから。
……まあ、もし私が命を奪うつもりだったら雄志君がいようといまいと同じことだがね」
「香織を放せ、十本松」
「おや、どうしてかな、それは? 君達はただの友達じゃないのかい?」
「お前には、関係ない」
「それはそうだね。私には関係ないことだ。……だけど」
十本松は気絶した香織の首を掴むと、片手で上に持ち上げた。
香織の表情が苦痛に歪む。
「雄志君のその態度は気に入らないな。
香織を生かすも殺すも、私の気分次第だということがわかっていないのかな?」
「くそったれが……」
「話す気になったかな? なぜ、香織をそこまで気にかけるんだい?」
「……香織は俺の恋人だ。手を出すな、十本松」
「ほう」
俺の答えを聞くと、十本松は香織の首から手を放した。
香織の腰を片手で抱えると、俺に話しかけてくる。
「憤るわけだ。大好きな恋人に暴力を振るわれて、平然としていられる男は変態だ。
つまり雄志君は変態ではないということが証明されたよ。おめでとう」
「……いい加減にしろ。香織を放す気はないのか」
「こういう場合に雄志君がすべき行動はね、私に向かって殴りかかることだよ」
十本松が香織を開放した。気絶していた香織は床に落ちても動かない。
十本松の行動がいちいち癪にさわる。言われるまでもない。殴ってやるさ。
拳を握り締めて十本松に近寄り、殴れる間合いで立ち止まる。
「ふむ……悪くない。感情を暴発させないよう、コントロールしている。まだまだ制御できていないけどね。
自分をコントロールできない人間に、明日はない。私が人生で学んだことの一片だ」
「逃げねえのかよ。鼻の骨が折れても知らねえぞ」
「できないことをいうものじゃないよ、雄志君」
拳を固く握り締めて、力任せに右腕を振るう。
十本松の顎を狙った一撃は空を切った。
右足を蹴り上げる。つま先が十本松の胴体に突きささった。
腹を蹴られた勢いで、十本松は後ろに下がった。
「痛いな。さすが若い男。自堕落な生活を送っていようと力だけはあるものだ」
平然とした口調。全力で蹴りを放ったというのに、一度も咳き込まない。
「雄志君、君にとって残念なことを教えてあげるよ。
さっき私は華君の蹴りを受けたのだがね、それも何発も。
君の一撃は、華君の蹴り半分ほどの威力しかないよ」
十本松が近づいてくる。俺の手が届かない位置で止まった。
そして半身をずらすと、突然十本松が回った。
回ったように見えたのは、体を捻ったから。
体を捻ったのは、俺の頭に向けて回し蹴りを放ったからだった。
十本松の蹴りを受けて脳を揺さぶられると同時、えぐられるような痛みが走った。
頭を振りぬかれ、首を強制的に曲げられ、俺は倒れた。
畳が見える。十本松の姿は、俺の目には入っていない。
「今の一撃が、華君の蹴り一発分だよ。どうだったかな。君と、君の従妹の差を思い知ったかい?」
頭が割れる。鼻から下の感覚がなくなったみたいに、体が動かない。
十本松が何か言っていたのはわかったが、頭には入ってこなかった。
「まだ終わりじゃないんだろう? まさか、この程度だとは言わないよね?」
終わり……終わる。俺が終わるのか?
「……返事はなし、か。仕方がないか。
少しは期待していたんだけどね。大昔の君は、とても強かったから。
やはり昔は昔。今は今。前世は前世。その程度のものか」
前世?お前もそれか。かなこさんと同じことを言いやがって。
「関係も少しばかり変わっているしね……。以前は、君が私の父を殺したんだから」
体はまだ動かないくせに、思考だけはまともになってきた。
誰がお前の親父さんを殺したって?
お前が自分で自分の父親を殺してしまったんじゃないのかと疑わしく思えてきたぜ。
ああ、くそ。眠くなってきた。まだ寝るには早い時間だってのに。
今は寝ている場合じゃないっていうのに。
香織と華を逃がさないといけないのに。
「それじゃ、さようならだ、雄志君。香織は頂いていくよ。
今日ここに来た目的は、香織をもらっていくためだったんだ」
「……待、て」
必死に声を絞り出したらかすれた声が出てきた。
息を吐くのと大差ない、呟きよりも小さな声だった。
「悪いけど、私は忙しいんだ。私も無職だけど、やることはそれなりにあってね。
まあ、今回の件が最後だからきっちりとやることにするよ」
「待て……香織を、置いてけ……」
かろうじて動くようになった右腕で体を浮き上がらせる。
すぐに背中を踏まれて、床に押し付けられた。
「香織、香織、香織か。想いが報われず、華君も可愛そうに」
華?そうだ、華は?無事なのか?なんで床に伏せていたんだ?
くそったれ、十本松がなにかやりやがったな。
「こん、ちきしょうが……」
呟いた途端、頭を後ろから踏まれた。
十本松の履いている靴が、ぐりぐりと後頭部をにじる。
口と鼻が畳にくっついているせいで、乾いた匂いの混じる空気を吸わされた。
固い靴の感触がなくなったら、今度は左耳を引っ張られた。
耳を頭ごと持ち上げられて、耳の付け根に引きちぎられそうな痛みが走る。
「最後に言っておくよ。
二度と私に近寄るな。近づいたり、目の前に現れたりしたら……殺すからな。遠山雄志」
耳を放されて顔が畳につくと同時に、横っ面に固いものがぶつかった。
次いで、わき腹を思い切り蹴られた。痛みで呼吸が詰まり、頭が朦朧とする。
そのまま自分がどこにいるのか、どうなっているのかもわからなくなり、俺の意識は途切れた。
******
次回へ続きます。
リアル更新ktkr!!
>>519 華がどんなお仕置きをするのかとwktkしていたら
まさか十本松が正体出してくるとは
予想外の急展開だ……! GJ!
それにしても雄志ナサケナスw
>>519 香織の返り討ちかとwktkしてたら・・・。
GJだけど、寝取られ展開ならヤァダァァァ!!
雄志が理不尽な目にあいすぎで涙が止まりません(´;ω;`)
>>521 逆に考えるんだ!
ずっと俺のターンで有名な羽蛾戦も最初は王様は情けなさの頂点だったが
最後には顔芸とともにドローモンスターカー(ry
カテジナってこのスレ住人的にはヤンデレなの?
カテジナはかなり好きなキャラだけど、ヤンデレとは違う気がする
225 名前: 本当にあった怖い名無し 投稿日: 2007/05/04(金) 15:47:39 ID:O6X1pjZN0
異常に嫉妬深い彼女に別れ話を持ちかけた。
やさしい人だったが妙にネガティブでさびしがり屋だった。
本格的に付き合いだしてはじめて彼女の異常さに気付いた。
俺の携帯がなるたびに誰からなのか何の話だったか執拗に問い詰める。
休日には必ず自分と一緒にいるように強制。
やむをえない仕事などの理由で一緒にいられない特はそれこそ十分おきに連絡が来る。
とにかく俺の行動のすべてを管理したがった。
また自分以外の女性と俺が会話するのを一切認めない。近所の人に挨拶もさせない。
レストランとかでも店員が女性のときは必ず彼女が注文をとった。
仲のよかった姉が急に連絡してこなくなったのも彼女がさまざまな嫌がらせをしていたからだと知った。
さすがにやばいと思って彼女の実家に相談してみたが
「うちの子は前の男にふられてからだんだんおかしくなった。あなたと付き合うようになって(あれでも)だいぶ落ち着いた。
少々変なところもあるがかわいそうだから見逃してほしい」
言外にこれ以上娘がおかしくなるようなことをするな(分かれるな)といってきた。
警察にいる友人にも相談してみたが、警察は色恋沙汰には死人でも出ない限り関わろうとしないらしい。
しかしさすがにこれ以上面倒も見切れない。話し合うにも言葉が尽きた。
これ以上一緒にいると俺が狂う。
彼女のマンションに行きできる限り穏やかに遠回りに別れ話を持ち出してみた。
とたんに人とは思えぬ形相でめちゃくちゃに俺につかみかかる彼女。
必死で抑えつつ説得を試みるも執拗に俺の眼球を引っかこうとするさまに恐怖をおぼえ突き飛ばす。
思いっきり転んだ彼女は飛び起きながら台所に走りこむ。
今までに感じたこともない悪寒を覚え彼女が台所にいるうちに靴を残して彼女の部屋を飛び出した。
エレベーターをそわそわしながら待ってると彼女がドアをぶち破るように部屋から出てきた。
裸足で、手には包丁を持っている。それだけ確認して来ないエレベーターを見限り階段に走る。
マンションの階段を転がり落ちるようなスピードで駆け下りるが追いすがる彼女の声を引き離せない。
こええなぁ
一階正面ゲートから駐車場に着くより早く彼女が追いついてくる。
必死で走っている耳に彼女の荒い息が聞こえてくる。
逃げ切れないと判断してぎりぎりまで彼女が追いすがってきたところで急にしゃがみこんで足を払った。
彼女は俺につまづく形で勢いよく顔面からアスファルトに突っ込む。包丁を落としたので柄を蹴って遠くに飛ばした。
彼女が起き上がるより早く自分の車に駆け寄りながらポケットを探りカギを取り出す。
カギを開けてドアを開け中に滑り込むのをほとんど同時にやってのけエンジンをかける。
バックして方向転換、駐車場の外に向かってアクセルを踏もうとしたとき運転席ががばっと開いた。
え!?
これで終わり? ウソだろ!
koeeeeeeeeeeeeeeeeeee!!!
ググれば出るよ
いや、普通に萌えてしまったんだが…
その筋(ヤンデレ好き)には有名な話だな
>>525 う〜ん・・・・
俺もカテジナはヤンデレとはなぁ・・・・・
カテ公はヤンデレじゃないと思う。
ヤンデレってないからな。
クロノクルにはデレてたみたいだけど、ウッソには悪感情ぶつけてただけだし。
ありゃただの病気女だ。
一昔前、ツンデレという言葉が流行りだしたころ、こんなレスがあったんだ
「芝村舞はツンデレだろうか?」
「何いってんだ、芝村は芝村だろう」
俺は感動でうちふるえたね
芝村舞ってどなた?
>>539 愛の伝道師で、刀を携えた袴姿のゴーグル常備、筋肉質で帽子をいつも目深に被り車椅子で移動、靴下を集めていてタライがしょっちゅう頭に当たるオカルトチックな外人ハーフの守銭奴、実は成長を止められている幼女で本名はブータ
>>540 すごすぎてよくわからんw
ゲームのキャラ…だよな?
アニメ版Giftのアナザーはいろんな意味でヒロイン脇役3人組みが病んでいた・・
アレもヤンデレの一種だな
>>544 ラフィールとは全然違う
芝村は芝村を“やっている”んだ
良く知らん者には全然解らないと思うが
「芝村」と言うのは一種の思想であり、主義であり、倫理観である。
「弱者救済」「滅私奉公」「自分達は芝村であると言う自意識」の宗教でもあり
それを政治や軍行動に持ち込んだりする集団の総称。
特徴はゲームなどのフィクションでは苗字に「芝村」を名乗るのと
「芝村的な行動と結果」を残す。誰も見て無くても記録に残らなくてもやる。
それぞれ個々の思想で千差万別だが、元は現実世界に「芝村」と言う思想の元を作った
同じ苗字のゲームプランナーがおり、それを共感したり自ら「芝村化」するファンも現実に数人居る。
普通に「芝村と言う規格」にカテゴリーで篩を落とすと自然と為ってる人間が多いので
基準は曖昧だし、「芝村」してる人が芝村ではないと言う事も多々ある。
芝村は「芝村」である事を強要しない、基本的に自己申告制と登録制みたいなもんで
朝鮮人認定とは違い、勝手に芝村にはしない。
ま、砕けて言えば、ドジっ子、高飛車、ツンデレ、天然、電波
コミュニズム、ナチズム、ファシズム、キリスト教、仏教、武士道、騎士道ってのと一緒で
「芝村」ってカ区分けがあるのよ。性格や人物の形容の一つ。
具体的に言うなら「傲慢に見られがちだが現実的な実力主義の元、弱者を救済する滅私奉公の不屈の思想」
って感じかね。
故に芝村舞は「ツンデレ」であり、「ファッショ」であり、「ポニテ」であり、「釣り目」であり、「芝村」である。
ああいう設定として万能の天才で美人っていうキャラはどうにも好かん
>>546 芝村が何かはわからんが、お前がキモいことは分かった
>>547 ああ、芝村は天才じゃないよ。
同じ世代は遺伝子操作で肉体強化してるが芝村舞は「素の努力」でああなってるから。
日常生活や一般常識を欠乏するほど、努力をした結果がアレであって
ある意味努力の天才(変人)ではあるけど、得意なことに関して
滅茶苦茶時間を掛けさせられただけ。
小説でその内容や裏話は出たが幽々白書やH×Hの修行訓練より酷いぞ。
>>548 言われてんでもレス打っててコレはキモイと思ってるよ。
俺自身も芝村ある種キモイし、それを説明してる俺もキモイなぁっとは実感しておる。
ただ、「芝村」と言う思想が「病的」であり「病んでる」と認識されると
自動的に芝村舞もヤンデレになるんだよなorz
まぁ、行動として相手に盗聴器を仕掛けたり恋敵を抹殺も辞さないし
「相手は自分と恋仲になるべきである」と思う節もあり、条件は満たしてるがなw
551 :
名無しさん@ピンキー:2007/06/24(日) 23:11:51 ID:hRoLkwmk
触れてはいけません。
リアルに病んでる人だ
なりきりに帰れ
>>544 マジレスすると製作会社は「芝村舞はラフィールを元にしている」ことを公式に認めている
一人の馬鹿のせいで好きなゲームを貶められるのは我慢ならんな
GPMは恋愛関連の行動次第で女性キャラに刺されることのできるゲームだぞ
GPM厨自重しろ
レスすればするほどドツボに嵌ってるって気付け
そのレス必要ないかと。
別にスレ違いではないしいんじゃね?
ここはヤンデレスレだろ
その前はカテジナの話で盛り上がってたんだから
565 :
実験的作品:2007/06/25(月) 22:58:29 ID:0J8+YbRQ
投下します。
がちゃり
ドアを開け、家の中に入るといい匂いが漂ってくる。
「ただいま。を!いい匂いだね。今日はカレーライスかぁ。」
とんとんとん
台所で玉葱を包丁で切っている千鶴さんの後姿が目に入る。
「あ、お帰り〜♪」
いつもと変わらない微笑で俺に振り返ると、再び包丁をリズミカルに動かし始めた。
「もうすぐご飯できるから、テレビでも観て待っててね。」
微かに聞こえる鼻歌と、綺麗に片付けられ、掃除されている室内。
いつもと変わらない千鶴さんの様子に先ほどコーネリアさんから聞いた話が本当だったのかと思ってしまう。
よし、シミュレーションをしてみよう。
俺が千鶴さんだとして、いきなり「ごめんなさい」と謝る俺。
『なんのことですか?』と千鶴さん。まぁ、そうなるわな。
「前に千鶴さんが好きなようにしていいって誘ってくれたのに、何もできなくて。
それで、千鶴さんを怒らせちゃったんじゃないかと思って。」
『別に怒ってないですけど……でも、突然どうしてですか?』
「え、あ、いや。その」
『私……そのことで怒っていましたか?』
「いえ……怒っているようには見えませんが……」
『ですよね?じゃぁ、どうしてP君はそんなことを言い出したんですか?』
「えっと、その、あの……コーネリアさんが……」
『コーネリアさん?どうしてそこでコーネリアさんの名前が出てくるのかな?かな?』
……駄目だ!自分で墓穴を掘るようなものじゃないか。これで千鶴さんが
『むすぅ……ぷん♪』
と、口も聞いてくれない状況になっていれば謝罪のしようもある。
(いや、そんな状況を期待しているわけじゃないけど)
しかし、どう見ても普段通りの相手にいきなり謝ったら俺のほうが何かやましいことがあるみたいじゃないか。
ソファーに座りながらぼんやりと終わりの無い脳内シミュレーションを繰り返していると、突然QP三分間クッキングの着信音が室内に響く。
なんだ、上杉かと思いながら電話を手に取り、いつものように他愛も無い雑談。
「でだ、明日買い物に行こうぜ。ほら、前に言ってただろ?」
この場合の俺たちの買い物=所謂一つのオタク系店舗へ、そういう系統の物品を買いに行こうという合図なんだが……ちらりと台所の千鶴さんの様子を見る。
「ああ、了解。じゃぁ、いつものところでいいか?」
「おっけ、まぁ、また何かあったら連絡するわ。」
そういって電話を切る。そういえば、長いこと行ってなかったよなぁ。
千鶴さんと付き合うようになってから、オタク的な部分を押さえつけていた反動もあったのだろう。何故だか妙にうきうきしていた。
しかし、千鶴さんに面と向かってカミングアウトすることができなかった。
「上杉さんと何話してたの?」
「あ、いや、明日買い物に行こうぜって誘われてさ。」
やばっ!これで千鶴さんが『じゃぁ、私もついていっていい?』なんて言い出した日には落ち着いてエロゲや同人誌(えっちなのを含む)を検分できないじゃまいか。
「そうなんだ。私も明日はちょっと用事があるんだぁ。でも、夕方には終わると思うからどこかで待ち合わせて御飯食べようよ。」
「あ、そうなんだ。じゃぁ……」
566 :
実験的作品:2007/06/25(月) 22:59:17 ID:0J8+YbRQ
久しぶりに来るそこはある意味いつもと変わりなく、週末ということを差し引いても微妙な熱気と汗臭さに包まれていた。耳に聞こえる今流行の「曖昧3cm♪そりゃ……」がエンドレスで流れ、真剣な表情でエロマンガを検分する同類たち。
……見事に割合が95対5だな……
何の割合かってもちろん店内の男女比に決まっている。
まぁ、カップルで来ている奴っていうのもいないわけじゃないけど、見事にオタップルだし、あとは少し腐っていそうな女の姿がちらほらと見受けられた。
そう、所謂『東の秋葉原、西の日本橋』と並び証される場所のある店舗なのだ。
しかしと言うか、やっぱり千鶴さんとはここには来れないな。
色々な意味で。しかし、懐かしいなぁ……
たかだか半年きていないくらいで懐かしいと感じる俺ってどうよ?と思いながら適当に店内を物色。
なんでだろう、妙に楽しい。表紙を手に取り、裏表紙を眺め、内容を吟味する。ただ、それだけなのに楽しい。気がつけば5冊ほど既に購入決定。
彼女がいるのにエロ同人やエロマンガってどうなんだろうな。
これって別腹?浮気?いや、二次元は浮気にはならないだろ。でも、何故か後ろめたい。
その後ろめたさが何故か、余計に楽しくどきどきさせるんだよな。うんうん。
「ほどほどにしとけよな。」
そういったのは上杉だったが、そういう上杉の手には20冊ほど……ってお前買いすぎ!
「ばぁか、俺はお前と違って彼女がいねぇんだよ。で、これは頼まれ物なんだよ。」
よく見れば俺の購入したのはきっちり押さえてあるあたり、やっぱり趣味が似ているというかなんというか。
こいつも、見てくれと性格はいいんだから彼女くらい……って俺が言う台詞じゃないか。
俺だって千鶴さんでなければ彼女なんて作ってないだろうし、そもそも作れないってばよ。
「じゃぁ、いつものメイド喫茶にでも行くか?」
店を出て、程よく戦利品を獲得した俺は上杉にそう提案した。いつも……と、言うほど頻繁に行くわけではないけど、2回に1回くらいは行っているはずだからいつものでいいはずだ。
「いや、今日は普通の茶店でいいんじゃね?」
携帯電話を見ながら上杉はすたすたと駅の方へと歩いていく。なんだろう?微かな違和感。
上杉は無類のメイド好きなのに、メイド喫茶に行かないだなんて……病気か?
そんな風には流石に聞けずに上杉の後を追いかける。まぁ、気分的にそんな日じゃないんだろう。このあと千鶴さんにもあるわけだしな。
その後、俺と上杉は適当に店舗を巡りながら、夕方には千鶴さんと……見慣れない女の子と御飯を食べることになった。
その女の子の名前は朝倉美波。大人しい感じの小柄な可愛い女の子で千鶴さんの職場の後輩……だそうだ。上杉はガチンガチンに緊張して固まっていたようだが、
美波ちゃんの趣味が上杉と同じカメラということで話が盛り上がり、それがきっかけとなったのかなんだか二人はいい雰囲気になっていた。
「ねぇ、今日は何を買ったの?」
お酒を飲んで程ほどに出来上がった千鶴さんは美波ちゃんの胸を揉みしだきながら、俺の紙袋をじぃっと見つめていた。
「えっとね…」
こんなこともあろうかと……こんなこともあろうかと!
この時の為に買ったダミー(いや、あそぶけど)ゲームが2本、少しえっち風味の漫画を2冊(チャンピオン系)。あとPC関連の書籍を千鶴さんに見せる。
「やっぱりこういうのが好きなの?もぅ、しょうがないなぁ。」
ふぃぃぃぃぃっしゅっ!!!!!
かかった!くっくっく、本命(見せられないもの)は既に駅のロッカーに退避済みよっ!
と、まぁ、物は上杉ルートで回収する予定だったりするのだ。
ふと、上杉の様子を見ると美波ちゃんとなんだか和やかムードに。
上杉の奴、ちゃんと持って帰ってくれるんだろうな?
567 :
実験的作品:2007/06/25(月) 23:00:28 ID:0J8+YbRQ
「ごめん、俺、今日も用事があってさ。」
なかなか例の物を持ってこない上杉に電話をするとそんな回答が毎度のように返って来るようになっていた。
「おいおい……あれから何日が経っているんだよ。」
もう、あれから2週間が過ぎていた。そう、あの飲み会以降、俺は上杉と会っていない。
家にとりにいくにしても家にいない。理由を聞いても用事の一点張り……
仕事が忙しいのか?と思えば、どうもそんな様子ではない。
「すまんなぁ……なんだったら郵送するぜ?」
「上杉……お前彼女でもできたのか?」
「………………!?」
冗談のつもりだった……えっ、マジで?誰?まさか……、
「この間の美波ちゃんか?」
「いや、まだ彼女ってわけじゃないけどさぁ……チャンスなんだよ。俺にとって多分最初で最後のチャンスなんだ。頼む……俺を男にしてくれっ!」
携帯電話を切り天井を見上げる。そうかぁ、あいつ……美波ちゃんと仲良くやっているのかぁ。上杉と美波ちゃんが並んで歩いている姿が脳裏に浮かぶ。
カメラの話で盛り上がっていたってことは、やっぱり撮影旅行とか行くのかねぇ。でも、上杉って女の子と話すのって苦手じゃなかったっけ。
よく、美波ちゃんをデートに誘えたもんだなぁ。いや、美波ちゃんが誘った?でも、美波ちゃんってそういう印象の子じゃなかったよなぁ。
いやいや、俺が女の子の心情を洞察するなんて100年早いか。そうでなくても、千鶴さんが何を考えているのかさえわからんのだしなぁ。
などと、考えているとチャイムと共に鍵をあける音が聞こえ、
俺が千鶴さんだなと思うのと同時にドアを開けて千鶴さんが家の中に入ってきた。
その手には野菜や牛乳などがたくさん詰まったスーパーの袋が見える。今日の夕飯はなんだろうなぁ、などと思う俺に千鶴さんが話しかけてきた。
「ただいま。今から御飯作るね。」
いつものにこやかな様子に俺も思わず微笑んでしまう。
「お疲れさん。俺も何か手伝おうか?」
ソファーから起き上がり、台所に入り食材を冷蔵庫にしまいこむ。
「ありがと。あ、そうだ。今週末予定ある?」
「いや、ないけど……どこか出かける?」
上杉に会って例の物を受け取る計画も丁度破綻したところだしね。
「じゃぁ、日曜日に連れて行って欲しい場所があるんだけどそこでいいかな?」
そういって千鶴さんはいつもと変わらない微笑を浮かべたのだった。
☆続きます
ほのぼのな展開。
日曜日一体どこに連れて行かれてしまうのか……
まさか、アレ系のクラブとかじゃないよな?
>>567 千鶴さんなにか画策&暗躍しているヨカーン
ところで謝るのをすっかり忘れている件w
機動戦士Vガンダムって投票チャンネルだとぶっちで一位だけど、
シャッフルやギフトやスクールデイズ並みのヤミシーンがあるの?
見所を誰か紹介して下さい
>>570 ヤンデレはない
ただの気違いがかつて友人だった主人公を殺そうとするだけ
投票は何か勘違いしたアホがやってるだけ
チャイムが六時間授業、つまり一日の授業全てを終えた事を告げていた。
録音された味も素っ気もない、しかも毎日十数回と聞いているために、ありがたみが薄れているチャイムではあったが、
この六間目の授業終了となると、そのありがたみも一入(ひとしお)なもの。
実際のところ、この脱力感の直後には帰りのHRなどという興を大いにそがれるものがあるが、そんなものは所詮は些事に過ぎない。
私も正直なところこのHRが嫌いなのは確か。今日など、貴重な松本君と共有する時間を減殺してしまうのだから。
あるものは部活動に勤しもう、あるものはぶらぶらと購買や食堂に向かい本日三度目の食事に舌鼓を打とう、
はたまたあるものは帰ってから何をしようか、等等、めいめいが赴くままに思いを馳せている。
私は先程の趣旨を測りかねるごくごく簡素な手紙の内容を思い起こしながら、私の席から手の届きそうなくらいの位置にある、
正方形の窓を通して外を眺めた。
白無地の便箋にボールペンで走り書きされた字というまさに思いつきで行動したことが伺える点とその手紙をわざわざ購買でも売っていない、
封筒に入れるという計画性を匂わせる点とが、矛盾しているように感じられた。
ただ、いずれにせよ計画的であるならば、私を長期間企んできた何かの罠にはめるため、そうでなく思いつき、運が悪ければ、
つまるところ、それがその場の激情による思いつきならば、私は物理的な危害を加えられるかもしれない。
おそらく、今頃あの害物は手ぐすね引いて、私が来るのを待ち望んでいるのだろう。
そもそも、今までのあの害物との直接的な接点というのも、非常に乏しいものであり、また、知りたいと思わなかったこともあるが、害物自身に関してもあまり知らなかったため、
あの寄生虫が何を意図しているのか皆目見当がつかなかった。
しかし、どちらに転んでも私にとっては好ましくない結果になるのは明らか。
でも、見方を変えれば、相手から手を出すということは私自身が正当防衛を名分として、害物に攻撃できるのも確かだ。
松本君にあんなにひどい思いをさせておきながら、ただで済ませるわけがないのだ。
現に昨日、妹による事故であることがわかって打ちひしがれる松本君を見て、報復を誓ったばかりではないか。
それならば、相手がどんな悪意を持っているかわからないが、それを私と彼にとって、プラスに転化すればいいだけなのだ。
しかし、実際報復するとなると、その方法は乏しい。
まさか接近している相手に、どんなに得意とはいえ弓で矢を放つわけにもいかない。
害物の悪意に対処する方法に特別有効なものが見つかったわけではないが、未だに浮かれているからなのか、
それとも、報復できる貴重なチャンスであるからなのか、不思議と彼女の屋上に来るように、という申し出を無視するつもりはなかった。
味気ない病室で、特別何をするわけでもなく、無為に退屈な時間を過ごすという奴はひどく苦痛なものだと思う。
何でも僕は数日前の事故で内臓を損傷し、肋骨を三本ばかりありえない方向に折り曲げ、大量の出血をしたらしいが、実に実感がない。
流石に昨日はいろいろと事故の話を聞いて、感情の大きな起伏が生じて、結果的に北方さんに迷惑をかけることになってしまった。
しかし、今日はそれに比べたらいくらか落ち着き、不遜な言い方だが、無為に時間を過ごせてしまうのは病人だけの特権ではないかと思ってしまう。
実際のところ僕自身も本来は重傷なので、無為に時間を過ごせるはずなのだが。
そこで敢えて、無為に時間が過ごせないのは重傷にも関わらず、
ふざけたことを言っていられるほどの余裕が生まれてきたということ、と言えばプラス思考でハイセンスに近い考え方なのだろうか。
すると、俄かに内臓が痛み出した。
あー、痛い痛い。内臓の損傷が並みのレベルでない事を改めて実感しました、もう馬鹿なことは言いません、はい。
そういえば、北方さんが前に話していた内容で、肝臓は“沈黙の器官”だとか言っていたような。
そう、肝臓は負担がかかっても痛みというシグナルを発しないから、そのまま放っておいて、
最終的に肝臓が痛み出したらそれは末期で、手の施しようがないから将来的に節制したほうがいい、などとのたまっていた。
まあ、今回は肝臓ではないようだから、痛んでいても末期ではないのだが、なかなかこういったことを知っていると、あんまり気分はよろしくない。
きりきり痛む腹を今日の朝、北方さんがかわいい、と評した手でさすりさすり、いかにも規格的、
ありきたりの病室の窓から外を不意に眺めてみた。
北方さんには、今日までも迷惑をかけるわけにはいかないので、学校に行くように促したが、
今は何をしている頃であろうか。
テレビの傍の棚にいつの間にやら動かされている、目覚まし時計の丸い文字盤に視線をやると、
時刻はもう六時間目が終了したくらいの時刻だった。
田並先生がわさわさと開放感に浸り、騒いでいる連中を十八番の“シャーラップ!”で即時黙らせる光景が浮かんできて、
ふと笑いがこみ上げてきた。
そして、担任の田並先生が持ってきてくれた、植物の名前に疎い自分には名称を知らないが、
優美な花弁を眺みながら、昨日今日と北方さんと過ごした時間を反芻する。
それにしても、毎回北方さんと話していて驚くのは、彼女自身の知識量の多さである。
しかも、それも広い方面をそれぞれ深く知っている。
歩く辞書?図書館?いやいや、そんなレベルじゃない。
コンピューター、電算機、電子計算機、そんなレベルだろう。
人は彼女をスーパーコンピュータ内臓のインテリゲンチア、と呼びます。
っておい、何か昔やってたリフォーム番組みたいなことを言ってしまった。
いずれにせよ、彼女と話していると飽きを感じないのだ。彼女は幼い頃から不遇で人と接触を取らなかったと、そう彼女のお父さんと自身から聞いていたのだが、それを感じさせないくらい、
彼女は話し上手であり聞き上手だ。
さらに言えば、人とかかわりを持たなかった間に読書で培ってきた知識が彼女にとって、大きな戦力にもなっていると思う。
であるにもかかわらず、人は彼女のことをポーカーフェイスでいつも澄ましていて、何を考えているのかわからない、ひどい人であれば不気味などと、
得手勝手に評している。
僕からすれば、そんな連中の目は本当に開いているのかと、問いただしたくなってくる。
僕自身、彼女に対して恐れに似た感情は以前持っていたことは確かだった。
彼女自身の僕に対する警戒みたいな物がその原因だったのかもしれないが、それは彼女の今までの人間関係から言えば至極当たり前に生じた、
自己防衛、別の言い方をすれば傷つきたくない気持ちの裏返しではなかろうか。
それにプラスできる原因としたら、人間関係などは自分と価値観が合う人間とだけ築いていけばいい、と割り切っている事だろうか。
それらは一種、達観したが故の考え方や行動なのだろうが、僕は彼女に共感できた。
その達観は彼女の過去に由来するものだけれども、それから立ち直ろうとする北方さんを助けたい、
そう思ってから彼女の気持ちも良く解り、恐れも自然と雲散霧消してしまった。
彼女の本質的な良さを全ての人に理解しろ、ということは非現実的で不可能なことはわかっている。
しかし、彼女から受ける薄っぺらな印象だけで、彼女の全人格を否定しかねないような、貶めるような事を言うのは許せない事だ。
こんな考えを抱くのはおかしいことだろうか。確かに僕は彼女のことを好きだ、いや、それ以上に彼女が僕を愛してくれるように、彼女のことを純粋に愛しているつもりだ。
だから、当然彼女に関して思うところは、主観が大なり小なり入っているのは仕方ないことである。
しかし、愛する人が不当に貶められるような事を嫌い、相手のことを考えるのは誤りでない、そう思う。
思えば、人のことについてここまで深く考えるなんて事は久しくしていなかった。
自分が気づいてあげられなかった事を嘆いていた、理沙の変化に関しても、特別微に入り細にわたらなくとも、少し考えてみれば、解ることだったのだろう。
そう思うとやはり悔しいものだが、これから気づいていけばいいのだ。今回の事故で結果的に被害に遭ったのは兄妹の僕であって、その僕もこうして生きている。
他の北方さんや近所の人、クラスメイトなどではなかったのだし、この怪我は勉強料代わりとでも思えば、安いものだ。
田並先生の花が飾られている花瓶の隣に、真紅に金文字という豪華な装丁の本が置いてある。
どこかで見たことのある豪奢な本を手にとって間近に見ると、そのハードカバーの表紙には金文字で”Albtraum”と書かれていることがわかった。
そんな題名と装から、いつか北方さんの家に行ったときに机の上に置かれていた本であることを思い出した。
彼女の説明ではグリム童話の髪長姫に関する内容だと言っていた。その髪長姫をアンダーグラウンド的な観点から捉えた物であるらしい。
この本はおそらく、彼女がここへ来て僕の世話をしながら読んでいたものだったのだろうが、それを持って帰るのを忘れてしまった、大方そんなところだろう。
あの時は特別に興味があったわけではなく、さほど細かい点に注意を払いながら読んでいたわけではなかった。
しかし、今回は特別、これといって何かをするわけでもないので、彼女の読む活字の本を読んでみたい、などと単純な考えから読んでみることにする。
ええ、迷路なのに外壁沿いに右回りに行けば簡単に外に出れてしまう、白痴もびっくりな位に単純ですよ、僕の頭は。
ついでに言っておくと、迷路の外は何もない。真っ白。そこまで考えられるほど複雑じゃない。
ページをめくっていくと、最初の方のページだけ流し読みした前回とは違って、いたるところの活字に几帳面な彼女らしく、ラインマーカーの緑の蛍光色の線引きを使って引かれたラインに気がついた。
場所によっては一言、二言程度書き込まれた付箋紙が貼ってある。
こんなところにも彼女の性格が出るのだろう、などと内容そっちのけで感心してしまった。
僕なら掛け値なしで適当にボールペンでひん曲がった線を引いていそうなところだ。しかも、引いていた線が活字にかかって、
勝手にショックに感じていそうなところだ。
それから気を取り直して再び読み返していくと、
登場する髪長姫の設定が背丈はやや高めで、美しい光沢のある漆黒の黒髪、そして涼しげな切れ長の目というもので、自然と北方さんと重なった。
それだけに感情移入しやすくさくさくと読み進めることができた。
そもそも、この話は髪長姫自身が子供に恵まれてこなかった夫婦の間に生まれるところから始まるのだが、
それは難産で、妻は母子共に安全にお産をするために、魔女のラプンツェルを望むが、魔女はそのラプンツェルと引き換えに生まれた子供をもらうことを交換条件として提示する、
というのがプロローグである。
童話として描かれる場合には、夫は子供を魔女に預け、魔女が死んだら娘を取り返そうという意思があったかもしれないが、あっさりと配偶者である妻を選択している。
しかし、このストーリーでは、優しいが優柔不断な夫は嫉妬深い妻と自分の待ち望んできた娘とのジレンマに陥っている。
あくまでもこのストーリーの主人公は娘の髪長姫であるのだが、この板ばさみにあっている夫の心理描写は難しいものではあったが、精緻で、真に迫るものがあった。
そんな本の内容に引き込まれ、ラノベ以外の活字に抵抗感を感じる僕でも楽しく読むことができた。
学校の屋上―。ここは、何度か松本君と昼食をとった場所。あの時はまだ初夏になっていなく、そよそよと心地よい風が吹いていて、
のどかな天気が続いていたが、最近では湿度も気温も上がり、かなりじめじめとしてきて、
ここから学校内の緑を見ながら食べる余裕などなくなっていた。
だから、最近では冷房がよく効いている食堂で快適に過ごしていることが多い。
現に今日も私は食堂で食事をとっていた。
それで、今ここに来ているのは食事をするためでも、学校内を見渡すためでも、悲嘆にくれるためでもない。
その食堂であまり見かけない子を伝って、私に届けられた、あの害物からの手紙にあった通りに、
この屋上の上で相手が来るのを待っているのだ。本来、放課後に屋上に立ち入りする事はできないようになっているはずだったのだが、
なぜか周到に鍵が開けられていて、私は屋上であの害物がやってくるのを待っている。
やはり、事前に私が踏んでいた通り、用意周到さの垣間見える感じから考えて、私に対して何らかの害意を持っているのは明らかだろう。
相手は松本君にとって足手まといで、それどころか彼に害を振りまく事すらするような害物だ、一方的に私を逆恨みしているの事も考えられる。
下手をすると、屋上という位置から言っても、私は死ぬ可能性すらある。
松本君のために命を落とすことならば本望。けれど、その後に松本君に苦しい思いをさせる展開になってしまうなら、それは私にとって痛恨の極みである。
私自身も、彼の傍にいたいと思うので、当然、あの害物の手にかかって死ぬ事は絶対に阻止しなければならない。
昨日は事故の犯人があの害物であることを話したために、松本君は感情を高ぶらせていたが、
最近ではあの出来損ないの妹のことで嘆くことが一時に比べて少なくなったように感じられる。
あの害物に毒されていて重病だった彼の容態を少しでも良くする事に貢献できたのだという実感が沸きあがり、
彼に恩返しが少しでもできているのだと思う。
そう、だから、恩返しのために、いくらか病状が小康状態になったあたりで、劇薬を用いて一気に解決へ導くのも手。
昨日の今日にいきなり劇薬を用いるのは、松本君のことが心配だから、そこまで手荒なことをしようとは思わない。
けれど、相手が私に対して悪意を持っている事と、松本君をあんな目に遭わせたことの報復という事から、
多少は強い薬を使って治癒に役立てるのが良いだろう。
松本君の持っているものとお揃いになるように、いろいろとお店をあたって探し当てた、
松本君のセンスのよさを感じさせる、つや消し銀のフレームにコバルトブルーの文字盤の腕時計を見ると、
既にHRの終了から二十分近くが経過しようとしているようだ。
人を呼び出しておきながら、自分は遅れて恥じることなくやってくる、というのはやはり厚顔無恥な害物だからなしえることなのだろうか。
怒りを通り越して、呆れてしまった。
おそらく、私に対して心理的な効果を生むことを期待しているのだろうが、そんなことは全く無駄。
後、十分しても来なかった場合には、学校を出て、松本君のいる病院へ向かうことにしよう。
と、そんな事を決めていた矢先、その決定は無意味なものになった。
部活に所属している下級生が上級生にするそれのように、会釈程度に頭を下げて、松本君のそれとは違ったブロンドの髪の害物、松本理沙はやってきた。
「北方先輩、お待たせしてしまってすいません。」
「いいえ、この程度気にしないわ。……それよりも、あなたが私を呼び出さなければならない程の理由、何かしら?」
例によって、私が松本君以外のその他大勢に対するように、顔色一つ変えずにそう問う。
「…………」
その質問を受けて、いつものはかなげな印象を完全に滅し、冷静に構えて、不敵な笑みを浮かべていた相手の顔が一瞬、怒りに満ちたものに変わったのを感じ取れた。
害物が私を逆恨みしていることから、理由、というフレーズが相手からすれば白々しく、癪に障ったのだと思う。
「……単刀直入に言うと、北方先輩、これ以上……これ以上、お兄ちゃんに近づいて変なことするのやめてもらえますか?」
相手としては最大限、込みあがる害意を抑えに抑えて、もどかしく感じるだけの下らない前置きを全て省いて、伝えたいことを歯に衣着せず、正面を切って言った。
しかし、私が害物の言うことなどに聞く耳を持つわけがない。だから、はっきりと拒絶の意を示す。
「ふふ、それはできない相談ね。」
今、仮に私が松本君に近づかなかったとしたら、私のことはどうでも良いことなのだが、松本君は再び毒に塗れ、病状も再び悪化してしまうだろう。
病は治り際が大切。
「っ………」
間髪を入れずによどみなくなされた返答に、害物は眉間にしわをよせて、不愉快であることが手に取るように分かる。
相手を挑発するような行動をとっている、ということは分かっているが、
ここで毅然とした態度で害物の毒手から松本君を守ることをはっきりと宣言しないと、本当の意味での平穏が訪れないような気持ちがした。
「どうしてですか?お兄ちゃんに近づかないし、話しかけないだけでいいんですよ?頭のいい先輩なら造作もないことじゃないですか?」
「くすくす、それはどうかしら?私、嫌なことを人に強制されることは嫌いよ。…もちろん、あなたもそうでしょう?
それなら、自分ができないこと、人に勧めるのはどうかと思うのだけれど。」
幼子を諭すかのように、ゆっくりと言い聞かせる。すると、ただでさえ曇り始めていた表情から完全に余裕が消え、さらに顔を歪ませた。
自分の言っていることに無理があるのにもかかわらず、自分自身だけがそれを知らないために、反論できないことを歯がゆく感じているのだろう。
「はい、でも先輩も自分さえ良ければいい、そう思っているのだから、私だって同じ様にしているだけです。」
それで、苦し紛れにこんな言葉を吐いた。正気の沙汰とは思えない。
「あらあら、交渉は一人で成り立つものではないのよ。相手に譲歩させたいなら、もう少し相手のことを考えないとどうにもならないと思わないかしら?」
結局、自分が間違っていることは何があっても認めないのだろう。あの松本君の妹とは言っても、その差は歴然としていて雲泥の差ほどもある。
それにしても、こんな身勝手な自分中心な寄生虫が近くにいながら、十数年もの間、生きてこれた松本君に驚きを隠しえない。
自分の論理に破綻を来したことを悟り、返す言葉が見つからないのか、害物は俯いて一言か二言、聞き取れない位の声で何かを呟いていた。
相手の敗北は一目瞭然。だから、こんなところで油を売っている必要などない。ぶつぶつと言っている害物を相手にするよりは、松本君の傍にいたい。
「……もう、用は済んだかしら?」
それなら、帰らせてもらうわね。といいかけた刹那、顔をあげ私に向かってはっきりと言った。
「お兄ちゃんは私のモノ。誰にも渡さない。そう、誰にも…もちろん両親にも、そして、絶対に、先輩だけにはもう、指一本触れさせない……。」
いったい何様のつもりなのか、と怒りがこみ上げてきた。第一、自分のせいで松本君が今、苦しい思いをしていることを忘れたのだろうか。
それなのに、害物は謝罪の一つもしていないではないか。
そんなのに松本君をモノ、あまつさえ所有物のように扱われたのが腹立たしくてならない。
相手から伝染したのかと疑いたくなるほど、強くこみ上げてくる殺意をぎりぎりのところで理性で押しとどめ、
歯牙にもかけていないことを示すため、表情に変化がでないようにしながら、冷然と反論した。
「松本君をモノ扱いしないでくれないかしら?あなたは松本君の妹であって、松本君はあなたを恋愛感情という形で愛していない。
そこを勘違いしているみたいね。」
反論すると、害物は再び俯きながら、少しずつこちらににじり寄るようにゆっくりと近づいてきた。
完全に今の反論が相手のスイッチを入れる結果になってしまったようだ。
私は少しずつ相手から間を取りながら、階段のある方向へと後ずさっていった。
近づいてくる害物の顔に感情の欠片もなく、視点は定まらずに、空虚な笑みを浮かべながら、聞き取れない独り言をぶつぶつと呟いていた。
それから、おもむろに制服の内ポケットに手を伸ばし、細長い棒状の何かを取り出し、突如私に向かって駆け出した。
咄嗟にそれがスタンガンであることを悟り、後ずさる足を反転、前へ向けて不意打ちをかけた。
確かに無謀であったが、このまま相手に背を向けて、逃げ出したとしても、電撃をうけることはほぼ確実。
それならば、逆にわずかな期待でも、相手からスタンガンを奪いとるという奇跡に賭けてみるべき。
やっと、松本君と一緒になれたのに、こんなところで死ぬわけにはいかないのだ。
前進しながらも、スイッチに指をかけた状態でスタンガンを持っている相手の右手に最大限の注意を払う。
突き出されたスタンガンの空を切る音とバチバチというスパーク音に恐怖心をあおられるが、すんでのところで電極を避ける。
それから、すぐに攻撃に転じて、相手の右手首を下から掴み、電極がこちらにあたることがないように、腕を突き上げた。
突き上げた腕を左右に大きく動かしながら激しく抵抗したが、その抵抗もすぐに終わりをむかえ、スティックタイプのスタンガンを取り上げた。
害物は苦しそうにその場に倒れこんでいたが、そんなことはどうだっていいこと。
それよりも取り上げたスタンガンの柄の部分にあるスイッチを安全のために切る。
しかし、そんなときにふと思い出した。―松本君の怪我と、昨日の哀れなまでの姿を。
私は松本君が許しても、この害物を許さない、そう思っている。
早々に松本君に謝罪していたとしても、私は許さないだろうが。
それならば、ここでこの害物に罰を受けてもらうというのも一興かもしれない。しかも、まさに私を襲おうとしていた、このスタンガンで。
人を襲うならば、返り討ちにあうことも当然考えているはず。
人を襲っておいて、ただで済むほど世の中は甘くないのだ。
幼少期の自分の母親から受けた折檻から考えれば、この程度の罰を受けたところで不公平ではない。
出力を最小レベルにまで電圧を下げた状態で、再びスイッチを入れる。
それでも、出力を最低にしてあげたのは私の温情だと思って欲しいところだ。最もそんな事を考えないだろうし、
感謝などされたところで私はうれしくないのだけれども。
私としては、殺しても構わないくらいだが、肉親を失う苦しみまでも松本君に与えようとは思わないからだ。
スパーク音を迸らせながら、相手に近づいていく。ブロンドの短めの髪が目に付いた。
私自身が黒髪な事もあるが、私はブロンドの髪に対して嫌悪を抱いている。
松本君自身は黒髪なので、何故、妹はブロンドなのかと思ったが、いずれにせよこのブロンドの髪を害物がしていることも重なって、
私はブロンドは好きになれそうにない。
そのブロンドへの嫌悪と害物への嫌悪とが重なって、スタンガンの出力をもう一段階上げた。
害物は恐れと身体の痛みから動けずにいたまま、私を睨みつけている。
しかし、もうそんなことはどうでも良かった。
そしてスティックの先をさっき自分がそうしたように、害物へと向け、身体に電流を迸らせ、相手は筋書き通り見事に気絶するはずだった。
しかし、その完璧で崩しようがないと思われた詰みのシナリオは不意に現れた男の手によって阻まれた。
スタンガンを掴む私の右手をその男に掴まれて、さっきの害物のように止めを刺す前に武器を取り上げられてしまった。
その無粋な闖入者は他でもない、私の父である北方利隆であった。
こんな感じですが、第9話投下終了です。
>>461 >>462 感想ありがとうございます。
当初、このあたりでけりをつけてしまおうと思っていたのですが、
理沙をもう少し暴走させたいなどと思ったので、もう少し続けようかと
では、また
>>588 親父! いいところで邪魔しやがって!
とか思ってしまった俺はもう駄目かも分からんね
よく見たらもう480KBだった。
次スレ立ててきます
593 :
うめネタ:2007/06/27(水) 23:22:13 ID:k5iSZYuE
最近お兄ちゃんが消極的で困っている。
私と距離をとりたいのか、顔も合わせようとしない。
ちょっと前まではこんなことなかったのに。
朝、お兄ちゃんが寝ている間に忍び込んで生理現象で勃起した男性器を舌で嘗め回すのは私の日課。
ばれなければそれで良し。舐める前にばれたらお兄ちゃんの怒る顔を見られるからそれもまた、良し。
それなのに、最近では寝袋で寝ているから手を出すこともできない。
お兄ちゃんの雄の香りは私にとってまさに、麻薬。
近頃の汗の匂いが染み込んだシャツも格別のものではあるけど、お兄ちゃん自身の匂いには敵わない。
あの匂いを嗅ぐだけで、私の目が、口が、胸が、乳首が、子宮が快感に緩む。
逞しい匂いのもとの、お兄ちゃんの肉棒が私のお腹を貫いて、激しく出入りして――ああ、考えるだけで幸せ。
おかげで私のアソコは毎朝トロトロになっている。
お兄ちゃんのお昼の弁当を作るのは、私の大事な仕事。
ううん、お兄ちゃんは私の恋人同然の存在なんだから、仕事じゃない。
もう、私の一部みたいなもの。全部含めて、私自身。
私の恥ずかしいおツユを入れたお弁当。
以前ならお兄ちゃんは残さず食べてくれたのに、今では半分も口をつけていない。
確かに最近はかなり濃いけど、だからって味はそんなに変わっていないはずなのに。
やっぱり、私の血液の方がお兄ちゃんの好みに合っているんだろうか。
明日のおかずはハンバーグにしよう。たっぷり血を混ぜれば、お兄ちゃんも食べてくれるはずだ。
学校へ登校するとき、お兄ちゃんと肩を並べて歩くのは前から変わっていない。
ここ数日では、この時間だけが私の心が安らぐ時間になっている。
横で歩くお兄ちゃんの顔。とっても凛々しくて、男らしい。
すぐさま首に抱きついて、びっくりしたお兄ちゃんの唇を奪いたいくらいに愛しい。
同級生の男子生徒なんか比べ物にならないくらいかっこいい。
私に告白してくる男子も、せめて1mmだけでもお兄ちゃんに近づける努力をすればいいのに。
まあ、男子がいくら努力しようと私の心はお兄ちゃんと一心同体だから離れたりはしないけど。
594 :
うめネタ:2007/06/27(水) 23:23:01 ID:k5iSZYuE
学校へついたら、お兄ちゃんは自分のクラスへいくために私から離れていってしまう。
これからお昼まで、いや、お兄ちゃんはお昼休みいないことが多いから、放課後まで会えないかもしれない。
そう思うと、お兄ちゃんの手を放したくなくなってしまう。
どうしてなの、お兄ちゃん。
私がお兄ちゃんを傷つけちゃったの?
お兄ちゃん宛に届いた年賀状を切り刻んだ後で全部焼却したり、
バレンタインデーに机の中に入っていたチョコを私が義理チョコとしてクラスの男子に配ったり、
卒業式の日にお兄ちゃんに告白しようとした卒業生にボタンをぶつけて蹴散らしたり、
体育大会でお兄ちゃんと踊ろうとした同級生をエアガンで狙撃したり、
クリスマスイブにお兄ちゃん目当てで家にやって来た女に冷水をぶっかけてやったり、
それ以外にもいろいろしてきた私に、どうして冷たく当たるの?
たまたま部屋に忍び込んで、お兄ちゃんがオナニーしている現場を見ただけなのに。
そんなの、全然恥ずかしいことじゃないよ。
だって、私なんか朝3回、学校で7回、帰ってきてから6回もしているんだよ。
近頃はお兄ちゃんのオナニーしている姿が夢にまで出てきて、
夜起きたら両手が勝手にアソコを弄ったりしているから何回しているかわからないんだよ?
もしかして、私だけが見ちゃったからいけないのかな?
お兄ちゃんも私の淫らな姿を見れば、機嫌を直してくれるかな?
うん、そうだ。絶対にそう。100パーセント正解だ。
お兄ちゃんの前で足を広げて、顔の5cm前までアソコを近づけて、指で弄るの。
きっと、いつもより興奮してずっと激しくしてしまうはず。
お兄ちゃんの舌がいつ私の花弁を舐めてくれるのかドキドキしたり、
いつまでも舐めてくれなくてもどかしさに潮を吹いてしまったり。
ああ、考えるだけで顔がほてって、熱いため息が出る。
あ……いけない。早くトイレに行かないと。
妄想が爆発して、どこまでも広がって、視界にあるもの全てを覆ってしまいそうだ。
すでに脳内がピンク色。吐く息も桃色吐息。自然と手が胸にいってしまう。
今、ちょっとでもお兄ちゃんのことを考えるだけで堰がきれてしまいそう。
始業のチャイムが鳴るまで、あと20分はある。
今からすれば、3……4回はできるはず。
あまり人が寄り付かない女子トイレに入り、ドアに鍵をかける。
ショーツを下ろすと、しとしとと愛液が垂れてきた。
熱い呼吸をなだめながら、軽く淫核をつねる。
それだけで、膝が折れて、腰が砕けて、背中がのけぞるほどの衝撃が走った。
すごい。お兄ちゃんに冷たくされる前と比べると、段違いの強さだ。
お兄ちゃんとスキンシップをとれない欲求不満で、日が経つごとに快感が強くなっていく。
595 :
うめネタ:2007/06/27(水) 23:23:48 ID:k5iSZYuE
このままお兄ちゃんに冷たくされ続けたら、どうなるんだろう。
絶頂に達するごとに気絶するほどの快感が走るのかもしれない。
ああ、本当にお兄ちゃんは麻薬だよ。有害だよ。
こんなに強烈な禁断症状が起こるなんて、魅力的すぎるよ。
もう、ずっとこのままでもいいかも……。
いや、やっぱりお兄ちゃんに貫いてほしい。
今の私がお兄ちゃんに襲われたら、挿れられるだけで絶頂に達する。
お兄ちゃんの肉棒が私の中を往復するたびに私の思考が犯されて、
揺れる私のおっぱいをお兄ちゃんの手が掴むだけで腰が激しく動いて、
お兄ちゃんの荒い息が私の耳に届くだけで私は涙を流す。
早く、早く抱いて、お兄ちゃん。
もう、私の体は熟れているんだよ。
ずっと、完熟のままでお兄ちゃんの陵辱を待っているんだよ。
お兄ちゃんが私の胸をチラチラ見てるの、知ってるんだからね。
同級生、いやグラビアモデルと比べても遜色のない私のおっぱいは天然もの。
地道な努力を重ねてきたのは、全てお兄ちゃんの欲望を受け止めるため。
お兄ちゃんの部屋にあるえっちぃ本の女の人じゃ、お兄ちゃんの欲望は受け止められない。
性欲も、精液も、お兄ちゃんの愛の言葉も、私じゃないと受け止められない。
他の女には、絶対に、少しのおこぼれも譲らない。
奪おうとした女、奪った女は抹消する。
たとえ地の果てへ逃げようとも、必ず追い詰めてやる。
手足を折り、爪を引き剥がし、舌を抜き、耳を潰し、目を焼き、腹を裂き、はらわたを引きずり出し、
体中に杭を打ち、髪の毛を引きちぎり、体を覆う皮膚を剥がし、それから■してやる。
え……そんなことしちゃだめ?
そんなことする子には、おしおきだ?
ああ、そんな……そんなにしちゃ、だめぇ。んっん、んん!
ふぁ、あっ、あ、あっ、あ、だめぇ……また、いっちゃうよぅ!
あ、ああああああ、あぁはあぁぁああああん!
ん、あ……また、いっぱい……赤ちゃんできちゃうよ、お兄ちゃん。
え、なに?……おっぱいが、いいの?
じゃあお兄ちゃん、私のお腹に乗って……そう、そうやって……。
ん……んん、むちゅ……あはぁ、はぅうん……。
気持ちいい?お兄ちゃん。私のおっぱい、気持ちいい?
もっと揉んでもいいんだよ。おっぱいも、アソコもお兄ちゃんの好きにして。もっと、もっと……。
え?!強制するな?ごめん、ごめんなさい、お兄ちゃん。
謝るから、私何回でも謝るから。だから……やめないで。
え?謝れば許してくれるの?うん、わかった。言うとおりにする。
……私はお兄ちゃんの奴隷です。お兄ちゃんの肉便器です。
そうなるために私は生まれてきました。……はい。これは運命です。
あ……なでなでしてくれた……。続き、してくれるの?
ありがとう。お兄ちゃん。――大好き。
596 :
うめネタ:2007/06/27(水) 23:24:37 ID:k5iSZYuE
*****
ふと目を開けると、女の声が聞こえた。
かばんから時計を取り出して時刻を確認すると、4時だった。
寝ぼけた頭を必死に動かして、自分の行動を思い出す。
そう。お兄ちゃんとする妄想を、トイレの中でしてたんだった。
気持ちよかったぁ。……もう1回、しちゃおうかな?
うん、どうせサボっちゃったし、いいよね……お兄ちゃん。
体勢を立て直して、もう一度しようとしたときだった。
「頼むから、止めてくれ……」
他ならぬ、愛しい愛しい、愛しくて愛しくてたまらないお兄ちゃんの声が聞こえた。
「はっ、はっ、はぁはぁ、あぁ、あああ、また、膨らんできたわよ……」
そして、女の声と、肉体のぶつかる音と、水の音が聞こえてきた。
なに、これ……。
「これだけだされたら、きっと孕んじゃうわっ、うぅ、んん……」
「そんなのっ、く……駄目だ。まだ俺たちは学生なのに……」
「うふふ……私のほうは、とっくに準備済みよ……あ、あっ!」
「な、に?」
「子供を産む準備は、とっくにできているってこと。今日だって……危険日だしね」
危険日?危険日って、つまり……孕みやすいってこと?
孕む危険……孕む可能性のある行い……まさか、今……!
「なっ! やめろ、今すぐ離れて……」
「い……やよ、もう……い、くっううぅ……」
「や、め、ろ……」
やめて。
「やめてくれ、……頼む」
やめなさい、離れなさい。
「こんなの、嫌だ」
こんなの、認めない。
この女は……この女、この女、このオンナ、オンナああああああぁぁぁぁぁぁぁ!!!
うあああああああああああああああああああああああああああああああぁぁぁ!!!
597 :
うめネタ:2007/06/27(水) 23:26:06 ID:k5iSZYuE
立ち上がり、鍵がかかったままのドアを全力で蹴る。
鍵は木製のドアから外れて床に転がった。
開け放たれたドアは、半分ほど開いてから、何かに当たった。
「っ、がぁっ!」
トイレの個室から飛び出すと、そこにいたのは。
「な、お前……なんで、いつからそこに?!」
全裸になり、手足を拘束されたお兄ちゃんと、
「いっつうう……なに、この子……」
制服を乱れさせ、背中を押さえた女の姿があった。
「あら……妹さんじゃない?」
喋るな。耳が腐る。
「何怖い顔してるの? ……ああ、うふふ。残念ね〜〜。愛しのお兄ちゃんを奪われて」
お前に何がわかる。
「ブラコンで有名な妹さんも、さすがにわかったでしょ?」
知ったような口を聞くな。
「お兄ちゃんは、もうあなたのものじゃないのよ」
この女、消してやる。
生まれてきたことを後悔させてやる。
不良どもにレイプさせてやる。
変態の慰みものにしてやる。
挽肉にしてやる。
豚の餌にしてやる。
滅ぼしてやる。
掃除用具入れに入っていたモップを手にとり、女の顔面目掛けてふるう。
女はつまらなさそうな顔をして避けた。
「ふん」
女は一歩踏み込むと、右拳を繰り出してきた。
右足を引き、かろうじてかわす。
女は突き出した右拳の軌道を変えて、裏拳を放った。
拳の先に鼻が触れて、鼻血が垂れた。
制服の袖で鼻血を拭う。お兄ちゃんを前にして、だらしない顔は見せられない。
「なかなかやるわね。正直見誤ってたわ」
女は制服の乱れを軽く直すと、ステップを踏み出した。
女の胸は揺れない。貧乳だ。
貧乳のくせに、お兄ちゃんを惑わした。
お兄ちゃんの好みはボンキュッボンだということを知らなかったらしい。
思わず、鼻で笑ってしまった。
598 :
うめネタ:2007/06/27(水) 23:27:40 ID:k5iSZYuE
挑発したつもりだったが、女は顔色を変えなかった。
怒りで襲い掛かってきたら私の棒術で体を貫いてやったのに。
貧乳のくせに戦い慣れているらしい。ならば、私も全力で相手をするとしよう。
呼吸を落ち着けて、意識を集中する。
怒りの感情を全てモップにそそぎこむ。肩から肘、肘から手首、手首から指先へ。
指の爪の先を柄につけて、軽く引っかく。体をめぐる気の流れがモップにまで行き渡るのがわかった。
お兄ちゃんを守るために身につけた棒術。
いじめられていた私を守ってくれたお兄ちゃん。かっこいいお兄ちゃん。
お兄ちゃんみたいに強くなりたかった。だから、私は武を学んだ。
けど、守りきれなかった。お兄ちゃんが負った傷は消えない。
だけど、この女を潰せば少しは回復するはず。
私も及ばずながら、傷の回復に協力するから。
だから、待ってて。お兄ちゃん。すぐに、決着をつけるから。
私は、静かに口にする。
「想い人にはこの愛を、奪う者には理不尽を。我は余すことなく与えよう。
心を解せぬ行いを、それを与える者たちを、研いだ爪をもって引き裂こう。
掲げるものは我の背中。免れぬことを恐れずに、心に符を貼り付けん。
鉄を統べる者の名にかけて、貴の行いに、人罰を下す」
女の体目掛けて、右手に持った棒を突き出す。
体が軋み、食いしばった歯が折れ、腕の血管が破裂した。
棒の先端が、女のみぞおちを捉えた。女の肉体を貫くつもりで、さらに突き出す。
皮と血と肉と内臓と骨の感触が、棒を伝わって私の手中にある。
そして、私は気合を吐き出した。
*****
高台にある学校の下には野球グラウンドがある。
そこに、何かが落ちてきた。
「おいおい、なんか飛んできたぞ」
「あそこの学校からじゃねえ?」
「なんだこれ? ……うわ、グロ!」
「うっ! ぉうおぇえええ……あ、カハっ……ぅぉええ……」
野球部員の1人が、落ちてきた何かを見て、嘔吐した。
地面に伏せる部員の背中を、他の部員が軽く叩いている。
「なんだよ、あれ……」
「人……だよな。しかも女だ」
「警察呼ぼうぜ! やべえってこれ!」
部員達は顔を見合わせると、通報するために更衣室へ向かった。
血だるまになった女は、目をゆっくり開けて、次に口を開いた。
「く、くっくっくっく……まだ子宮は無事よぉ……。
絶対に、産んであげるわ……産めって言われなくても、産んであげるから。
うふふ……くきゃっははははははははははへあぁらぁぁははは!!!」
埋め!
おしまい。
>>599 GJ!
普通に萌えていたけどオチでワロタw
>>599 こ、こええ・・・。とくに最後・・・(((;゚д゚)))bGJ・・・
>>599 お兄ちゃんを傷つける奴は絶対に許さない……!
“モップ”に“掴”を加えた力!!
えぇ、そうですね、サンデ〇の読み過ぎですよ
GJ!
俺は3ヶ月前、痴女に暴行を受けた。
「お兄ちゃん知ってる?『桜の木の下には死体が埋まってる』って言うじゃない。
桜じゃないけど、紫陽花の木の下に死体を埋めると花が赤くなるのは本当みたいよ」
その女は以前から俺をストーカーしていたらしい。
そして3ヶ月前とうとう我慢できなくなって俺を暴行、いや、犯したんだそうだ。
「死体が埋まってると、死体をバクテリアが分解する過程でアンモニアが発生して、
土壌がアルカリ性になるんだって」
そして昨日、その女は再び俺の前に現れた。
俺の子を宿し産むと宣言して結婚を迫った。
「で、紫陽花の花の色は土壌のPh値によって赤くなったり青くなったりするんだって。
酸性だと青にアルカリ性だと赤にって」
俺はその女から逃げるため妹の手を借りた。
「大丈夫だよお兄ちゃん。これは梅の木、紫陽花じゃないもの。
さぁ、ちゃっちゃとこの肉の塊を埋めて海外旅行へ行きましょう?」
俺のスコップを持つ手は震えていた。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
『産女を梅に埋め』と言いたかっただけだった。
埋めネタなら何でも良かった。
今でも反省はこれっぽっちもしていない。
あやつり左近思い出した
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蠶蠶蠶蠶蠶蠶蠶蠶蠶蠶蠶蠶蠶蠶蠶蠶蠶蠶蠶蠧止. ベシ 旧疆
可愛い可愛い私の名無しちゃん。
今からどこへいくつもり?もしかして八子ちゃんのところ?
いっちゃ駄目よ。ママから離れたら名無しちゃんは死んじゃうのよ?
名無しちゃんは七子ママの前から居なくなったりしないわよね?
名無しちゃんはママが産んで、ママが育ててきたんだから。
だから、これからもずっと一緒にいなければいけないのよ。
さあ、自由になって。体を楽にして。
ママにたっぷり甘えていいのよ。おっぱいもおマンコも好きにして。
ママと一つになりましょう。心も体も、元通りになりましょう。
ああ、本当、名無しちゃんは、柔らかそうね。
埋め!!!
>>607 かわいそうな人。
自分が抱いているものをよく見て御覧なさい
分かったでしょ? それはただの人形。
名無しは……ほら、ここにいるわ。
あら? まだ分からないの? そんなに叫んだって事実は変わらないのに……
仕方ないわね。
そんなに夢の世界にいたいのなら、その願いかなえてあげる。私からの最後の慈悲……遠慮しないで受け取って頂戴。
名無しは……弟は私が幸せにするから安心して。
さようなら、お母さん。
埋め!