女性の求めをエロカッコ良く押しとどめろ!2制止目

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302319 ◆lHiWUhvoBo
 
 「誰だ!? ……女、か」

 望月が煌々と闇夜を照らす中、髪を振り乱し、眦を決して必死に逃げて来た男は、ふと何者かの気配を感じ振り向いた。
男が普段の状態であるならば、溢れんばかりの詩想を用いて、詩を幾編でも詠み上げるであろう『佳人』が微笑んでいた。
唯、男にとって不幸だったのは、追われている身で有る事と、つい先頃に親友とも呼べる男と別れたばかりであったことだ。
『曹孟徳よ、汝(なれ)はなんと言う事をしてくれたのだ! この冷血漢め! 恥を知れ!』その男、姓は陳、名は宮、字は
公台の怒声が耳に残り離れない。

 「冷血漢の孟徳とやら、主に礼をせねばならぬ。主の御蔭で夕餉に在り付けたわ」

 月光に映える麗貌の口元が、黒く汚れて見えた。風に乗って薫るは、鉄錆の臭い。男の両手にも残る、血の臭いだった。
男は暴虐に逸る餓狼にも劣る輩を諫戮(ちゅうりく)せんとし、事破れて親友と逃げ込んだ先の一家を誤解から皆殺しにした。
供応の宴に屠る家畜の屠殺法を、猜疑心から自分達の処置と誤解し、男が『殺られる前に殺れ』と行動した結果の、臭い。
それを夕餉と言うからには…? 死体を貪り喰ったか? いや、血を飲んだに違いない。男は『佳人』優雅な風情から、貪り
喰う姿など想像出来なかった。

 「冷血漢…だと! 」

 男は激昂した。錯誤の上でも結果的に、始めて無辜の民を手に掛けてしまったのだ。疚(やま)しさもある。そして何よりも、
純粋な怒りだ。親友の陳宮なら…いや公台なら、男の行為も『むべなるかな』と認めてくれると信じていた。共に大事を成せる男。
己の目に狂いなど無かった筈だった。しかし…公台は男の元から去ってしまった。袂を分(わか)ってしまった。親友の優しさを
過信し過ぎたのか? 何故だ? ここまで一緒に逃げて来て、何故独りで行くと言う! 何故だ、公台! 何故俺を…曹孟徳を…!

 「共に謀りもせずに主が独りだけでやるから、そう言われるのだ、曹孟徳とやら」
 「黙れ、何も知らぬ癖に! 」

 優しい宮の、公台の手を血に染めさせたくなかったのだ。一家の年端も行かぬ息子に字を教え、覚えの良さに相好を崩していた
あの笑顔を、苦渋に染めさせたくは無かった。だから…! ふと『佳人』が袂で血に汚れた口元を拭う。望月がもう一つ地上に
生まれたと錯覚する程に輝く白皙の微笑みが男の目の前に現れる。だが、それは無念にも、男の我知らず流す涙で滲んで見えた。

 「人の身には言葉の乗せて語らねば分らぬ事があろう? 年端も行かぬ童でもあるまい? 」

 一家を殺してしまった後でも、公台は男を慰めてくれると思っていた。赦(ゆる)してくれるだろうと思っていた。しかし結果は…
待っていたのは親友の侮蔑と誹り、そして……『汝(なれ)は汝の信ずる道を往け! 某(それがし)の行く道は汝とは金輪際違う!』
と吐き捨て、停める手も振り払い、『見下げ果てた奴め、恥を知れ! 目が腐るわ!』とずんずん肩を怒らせ歩いて行ったのだ。
303319 ◆lHiWUhvoBo :2008/03/15(土) 06:17:20 ID:a4Cbsiju
 
 俺は公台に捨てられたのか? 共に大事を成す資格無し、と! 行き場の無い羞恥にと激情に駆られ、男は『佳人』の手首を掴み、
羽林の軍籍に在った時に習い覚えた白兵の技を極めて組み伏せ、衣を剥ぐ。……皇(すべら)かなシミ一つ無い肌が目を焼いた。
朱鷺色の乳首を含み、舌を使い舐め転がし、歯を立て甘噛みすると、『佳人』は幽かな喘ぎ声を漏らす。

 「ほう…赤子のようにしゃぶり、甘えて見せるか。…乳は出ぬがそれでも良いか? んぅ? 」
 「俺は赤子では無いわ! 女め! 女め! 女め! 」

 男は逸(はや)る逸物(いちもつ)をまろび出させ、艶然と笑う『佳人』の太腿に擦り付ける。都の妓女や迫る女どもを散々
啼かせてきた自慢の逸品(いっぴん)だった。ぶち込みさえすれば女は黙る。ふと、猛り狂う分身を掴まれ、扱(しご)かれた。

 「……さてもさても、主の矜持はほんに小さき事よの……? 考えても見よ? まだ挽回は出来るでは無いか」
 「?! 」
 
 その一言で男の心の怜悧な部分が復活した。『佳人』の手より逸物を引き抜き仕舞うと、剥いだ『佳人』の衣を自らの手で
整え、頭を下げ謝罪する。そうだ。ここで女を抱き、脱力して追手に捕縛されては元も子も無い。失態に失態を重ねるのみ。
そして何よりも……!

 「…貴女に礼を言わねばならぬ。俺の目を見事に醒まさせてくれた。…俺を捨てた公台に、俺の凄さと志を見せ附ける。
  奴以上の人材を見つけ、未だ見ぬ、そ奴らとともに奴以上の事を成せる俺を見せるためにも…留まっては居れぬのだ」
 「フム……主、なかなか見所が在る男(おのこ)のようじゃな」

 どうやら許してくれたらしい。快活に笑う『佳人』に男、孟徳は含羞の笑みで答えた。しかし、女の背後に追手を見た男は
恐怖に顔を引き攣らせる。土煙から見るに、追手は騎馬で10騎。男が幾ら鍛えたとは言え、馬の速さに勝てる脚は持たない。

 「逃げよ。妾の事なら考慮などするな。夕餉の礼に主に抱かれてやらんでも無いと思うたが、気が変わった」
 「な……! 恩を受けた女性を置いて、おめおめと士大夫を名乗るこの俺、曹氏の操が逃げられるか! 」
 「安心せい。妾の肌に傷を付けられた勇おし者は、後にも先にも未だ項氏の籍しか居らぬわ。往け、曹孟徳とやら! 」

 項氏の、籍? 聞き返す間も無く『佳人』は衣を翻し天高く跳び、宙を舞った。そして、奔(はし)る騎馬の前鞍に立ち、
兵の首を捉え造作も無く捻(ひね)る。騎兵の、頚骨を折られる高く澄んだ音が満月の夜に響く。『佳人』が男に向かって
艶やかに微笑んだ。

 「妾の手にかかればこの通りよ。疾く往け、曹操! 主は赤子では無いのであろう! 大事を成し遂げて見よ! 」

 男は自らが、鬼神に逢った事を知った。一顧だにせず男は逃げた。……やがて身を立て世に出でて、大事を成し遂げるために。