「大変お待たせ致しました…」
ドリンクバーのカップの中のミルクコーヒーを口に含んだ男は、自分の視神経全体が淫らな妄想に犯されているのでは
ないかとまず疑った。先日のプリンアラモードの光景は強烈だった。ガラスの器では無く白磁とも形容するべき乳肌の
上に直接盛り付けられていて、『ちょっと衛生的にそれは…』と思い口を開いたが、彼女の恥じらいつつも嬉しげな風情に
強く突っ込む事が出来ずに彼女の手により『あーん』と食べさせられた。その後残さずクリームも舐めて下さいねと言われ、
舐め、彼女の激しくも悩ましい息遣いの中、『器もご賞味を…』なんて言われてそれだけはご辞退申し上げますと修辞法の
限りを尽くし拒否したのだ。そして今度も、男の前に信じられない事態、いや痴態が展開されていた。
「融(と)けないうちに…どうぞ…」
視覚からの情報と、彼女の欲情に蕩けた声が男の勃起中枢を刺激する。…美容整形外科医も思わずひれ伏すほどの
天然美巨乳の間に、大きなチョコレートパフェのグラスがぴったりと挟まれていたのだ。当然、男は木石ではない。
哀しい雄の本能を持つ人間であった。下着の下のイチモツが鎌首をもたげて来る。それはスラックスの正面の合わせを
拡げ、閉じたジッパーの目が顕われる程のテントの支柱へと変化して行く。その膨張振りの全ては大きなテーブルの下に
隠されており、彼女には全く見えなかった。…男の剛直は既に下からテーブルをじわじわ押し上げつつあった。
「失礼…致しますぅ…」
越中雪乃(25+X)が男の隣に座る。そのボリュームに男は生唾を飲む。ふと、男は雪乃の白磁のような胸乳周辺の肌の
色の変色に気が付いた。自衛官時代の北部方面隊勤務時に、冬季に男が何よりも恐れた凍傷の兆候がそこに現われていた。
そして男の頭の中を半ば支配していた桃色の霞の如き情欲が、適切な処置を施さねばならぬと言う義務感に取って代わる。
それが事情を知らぬ他人から見ればどんなに破廉恥で羨ましい事か全く理解しないまま、男は行動に移ってしまっていた。
凍傷に対する、現在の男が出来るだろう緊急の応急処置を開始するために。
「ァ…んっ!」
雪乃の乳房の間からチョコレートパフェのグラスを力任せに引き抜きテーブルに置くと、代わりに男は自分の両手をその
開いた谷間に突っ込んだ。男の予想した通り、そこは冷え切っていた。…表皮組織の軽度の損傷であれば良いが、真皮組織
の損傷まで行くと、組織の壊死まで覚悟しなければならない。男の股間の天幕をようやく確認し、目元を赤く染める雪乃に、
男は真剣な顔をして尋ねる。
「僕の手の感触が、解りますか」
「…は、はいっ…」
「では、これは!? 」
「わ、わかります…」
男の声の真摯さに違和感を覚えつつも、雪乃は答えていた。胸をしきりに触られている。なのに全然、嫌では無い。むしろ
もっとこのままでいたい、触られていたいと雪乃の身体は甘美さを訴えていた。思わず切なさから太腿を擦り合わせてしまう。
男にしては重要な質問だった。これで感覚が無い、と言われてしまえば、重度の凍傷の疑いがあり、治療出来たとしても肌に
きっと跡が残ってしまう。男は飽くまでも、奇麗な女性には奇麗なままでいて欲しかった。
「いかんっ…」
己の手の冷たさを自覚する男は、もどかしさを感じ、制服のブラウスのボタンを2つ外して乳房を露出させ、ついに
マッサージを始めてしまう。男の勢いに圧倒され、雪乃はちょうどソファに押し倒された格好になった。徐々にその愉悦から
赤味を帯びてくる雪乃の肌に気付かず、男は患部のみを注目していた。…下着は豪奢な黒のレースの物を着用していたが、
男の興味を惹(ひ)くには至らなかった。
「ん…ァはぁ…ン! 」
「ヒリヒリするでしょうが、なるべく我慢して下さい」
雪乃の噛み締めた紅唇より漏れ出た喘ぎを、男は感覚が戻りつつある皮膚からの苦痛によるものとただ、思っていた。
今や雪乃の着ている制服の、ただでさえ短いスカートが捲くれ上がり、下着が丸見えになっている状態だった。じっくり
観察したならば、徐々にそれが本気汁と俗に呼ばれる白い蜜液で濡れていくのが解るだろう。そしてツンとそそり立った
陰核の状態までも。…その陰核を、男の同じくそそり立ったモノで強いマッサージの副産物としてリズミカルに擦られる
のだ。今の今まで、雪乃は男性に抱かれた事は無い。無論、同性にも。自慰とは違う、コントロールが出来ない刺激に
理性が翻弄され、そして駆逐されて行く。もっと、もっと強い刺激が欲しい…もっと…もっと逞しいものに縋りつきたい!
どこかに意識だけを連れて行かれそうになる雪乃は、女の本能で男の逞しい背に腕を回し、抱き寄せていた。
「もう駄目ぇ! …貴方が欲しい…ほしいのぉっ! 」
そこで初めて男は自分のしている事の危うさに気がついた。…事情を知らない人間が見ればこれは明らかに…!
己の布地漉しの男根に何が当たっているのもようやく理解し、雪乃の言葉の意味がダイレクトに大脳に突き刺さる。
男が涙ながらに星空に誓った少年のあの日より、どんなに求められたとしても、それだけは、それだけは与えては
ならない!振り解こうするが、雪乃はその誰もが羨む脚線美を誇る長い脚でガッチリと男の腰をロックした。
「だめ、こわい、こわいの、いやっ、いやっ、いやっ、いやぁぁーーーーっ! 」
焦る男とは裏腹に、雪乃はついに達してしまった。スラックスと下着漉しに、下腹部に熱い物が噴き掛かるのが解る。
尿の臭いでは無い所を考えると、多分「潮吹き」と言う現象だろう。男は雪乃から離れようと、乳房に当てていた手を
腰の後ろに回し、雪乃の脚を外そうとするが、逆にガッチリと力を込められ、首を抱きかかえられて唇を奪われる。
待っていたのは、濃厚な接吻だった。男はどうやら雪乃の官能を叩き起こし、種火を付けて燃え広がらせたらしい。
雪乃は唾液の糸を引かせながら自分から唇を離し、男の耳に囁いた。
「…今度は…私の中へ…来て…ください…私の初めてを…奪って…」
男には地獄の責め苦に思えた。体は疾うに準備が出来ている状態だ。しかし、その心は、恐怖に脅え切っている。
いけない。それだけは為してはいけない行為だ。これまで自分は何のために耐え、幾人の求めを涙ながらに振り切った?
男は同じ様に雪乃の耳に口をつけ、静かに吹き込んだ。雪乃がくすぐったさに身をよじり、悶える中でそれを聞き取る。
「お気持ちは嬉しいのですが、僕には、出来ません」
「どうして…ですか…? 貴方はもう…こんなに…なってるのに…」
「なっている、からです。貴女が一所懸命の気持ちで働くこのお店で貴女を抱いたら…二重に貴女を侮辱する事になる」
男の言葉を受け、雪乃の脳裏に、6号店誕生からの記憶が走馬灯のように蘇った。設計段階から立会い、厨房器具を
選び、スタッフ人選、店長との掛け合い漫才にも似たやりとり、辛かった事、楽しかった事…このピア・キュロット6号店の
中で経験した全ての出来事が、雪乃の心に作用して、熱く滾る雪乃のカラダを冷まして行く。雪乃は何時の間にか泣いていた。
「済みません…・・・我を忘れてしまって……」
「いいんですよ。泣いている貴女も奇麗だ」
「最後に…もう一度…キスしても…いいですか? 」
「ええ、キスだけ、なら」
男の耳を舐め、頬に舌を這わせ、そして視線を交差させ、目を閉じる。男の唾液の味は、あの日飲んだミルクコーヒーの
味そっくりだった。諦めはしない。これは始まりなのだ。雪乃は男の口内に舌を這わせ心のままにむさぼりながらそう思っていた。
「わ、わたしの、わたしのカワイイゆきぽんに、何してるのよこの、この強姦魔ぁぁぁぁぁぁっ! 」
と言う、あのブラコンめ絶対にブチ殺す何がお兄ちゃんが呼んでるだ畜生この色ボケ戯(たわ)けオンナと散々以前に罵った、
下手な萌え系声優顔負けの営業用ロリ萌え声を怒声に変えてヒステリックに叫ぶ、女子校時代の先輩こと『店長』の声を聞くまでは。