女性の求めをエロカッコ良く押しとどめろ!2制止目

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117319 ◆lHiWUhvoBo
 (俺とした事がメシを頼むのを忘れていた。ドリンクバーを頼むか否か…)

 捜すも、ウェイトレスが見当たらない。席は背後から襲撃されないよう何時も壁を背に、店内の全てを見渡せる位置を
確保している。『今日のお勧めは…私…と言って見ますけれど…どうでしょうか?』頭の中にウェイトレスの言葉が反響
していた。それでつい甘いものを連想し、デザートに頼むはずだった「チョコレートパフェ」を連想してしまったのだった。
痛恨のミスだった。目の前のボタンを押して呼び出せば済む事だが、余計な手間を掛けさせたくない。しかし…! 男は
押そうか押すまいか、顎をつまんで悩んでいた。顎をつまむのは男の考えている時の癖だ。

 「御用でしょうか? 『私を』捜していらしたようなので…」

 ふと気付くとウェイトレスが傍に来ていた。鈍ったものだな、と男は苦笑した。戦場だったら既に自分は三回殺されている。
シャバに慣れて行くのが解る。ここはもう、『柵の外』。男の世界の統てだった駐屯地や演習場の外の、日常の世界なのだ。
あの時に嫌と言う程に想定していた危険要素などもう思考する事すら、はばかられるだろう人々の群れの中に居るのだ。

 「どう、されました? 」
 「いえ、何でも無いんです。有難うございます。唐揚げ定食の御飯大盛りと、ドリンクバーをお願いします」
 「承りました。ご注文は以上で宜しいですか? 」
 「ええ、以上でお願いできますか? 」
 「畏まりました。……なんだか、とても寂しそうでしたから…ついお声を掛けてしまいました。ご容赦下さい」
 「有難うございます。…貴女はとても優しい人ですね」
 「そ、そんな…し、失礼…致しました…」

 復唱と配慮を忘れない、非常に優秀な人材だと男は彼女について思う。4日前にふらりと始めてこの店に入った時、偉そうな
初老の男性が彼女に難癖をつけていたのを思い出す。とにかく責任者を呼べ、と仕切りに騒いでいたので、機転を効かせて
自分がそうです、とハッタリと話術と雰囲気で丸め込み、非常に満足してお帰り頂いたのだ。聞けば自分が来るまでの間、
体中を触りまくられたのだと泣いている彼女に、あの感触を忘れさせて下さいと泣いて『求められた』がその時も『至極丁重に』
お断り申し上げたのだ。それからこの時間、渋る上司に頼み込み昼食時間をシフトさせて通うようになった。理由は『誰も居ない
時間に仕事を覚えたいから』だが、実は来て1日で大体の事は把握している。下調べは転職を決断した際に終えている。

 (あのカラダであの服ならば、大抵の男は欲望を抱くさ…)

 遠ざかるウェイトレスの躍動する尻から足のラインをチラリと見て、男は思う。法学を専攻し、元自衛官だと言う枷が効いている
自分でも油断すれば見惚れてしまうだろう。不躾にそれを実行・実践しないのは男の矜持と自分の身体の遺伝情報と言う、特殊な
事情の御蔭である。心臓病因子を持つ男は、多感な少年時にそれを知らされた時、決して異性と性交渉は持つまいと決心したのだ。
性交渉は子供を為す為の行為であり、快楽を求めるための行為では無い。自分がもし女性に子供を生ませれば、9割5分の
確率で心臓に異常を持った子供が生まれる。…男は身体が成長するまでに心臓の痛みに耐え続けていた。自分の子にそんな
思いなどさせたくは無かった。それに第一、自分の選んだ女性にその事で悩ませたくない。だから…少年は他の誰かの幸せのために
生きると星空に誓い、今もこうして生きている。俺はずっと死ぬまで独りでいいのだ、と言い聞かせながら、生きている。
118319 ◆lHiWUhvoBo :2007/10/26(金) 15:35:20 ID:pt0ZFIRS

 (ならば何故、こうして俺はここに居る? )

 理由は簡単だ。自分が居る事で、誰かが守れるならばそれでいい。自分が誰かの為になればそれでいい。
ほんの少しの自分の骨折りで、誰かが幸せならば満足だ。俺の幸せは皆の幸せ。今ここに通うのも…彼女の
支えに少しでも為れれば良いと思ったから。あんな事が有ったのに、それでも彼女は踏み留まって戦っている。
陸上自衛隊では致命的な『男色家』の噂を立てられ、憤慨して退職届を叩き付けた短期な自分とは違うのだ。
そうだ。人間を、己を取り巻いて包囲している現実は…

 「甘くない、か…」

行き場の無いと言う子犬を拾ったツモリが子猫でした。
上司がイロっぽく誘って来て困ってます。
偶然助けてしまったウェイトレスに好意を持たれてます。
魅力的な大家さんが家賃は要りませんからその代わり大家になって…と毎回せがんで来ます。
少年の頃に涙ながらに交際を諦めてしまった幼馴染が子供なんて要らないキミが欲しいのと言って来ます。
昔の女性の部下が駐屯地からの外出の際にいつも自分の部屋に来て他の女の影が無いか目を光らせてます。
調査隊の女性隊員が不審行動が無いかいつも自分をマーク…いた。今日は向かいのビルの喫茶店に居る。
大学時代に知り合った親友だと思ってた良家の子女が私を連れて逃げてと言っています。
高校時代のホームステイで知り合った上品な金髪碧眼のあのやせっぽちな娘がばいんばいんになって消息を
聞いてやってきて、執事になれと今最高級ホテルのロイヤルスイートルームに宿泊中です。

それも全員『触れなば落ちん』雰囲気を纏わせながら。男は目を右手で覆い、思わず天を仰ぐ。

 「需要と供給のバランスって一体どうなってるのかねぇ…」

 鋼鉄の理性で魅力的な誘惑のそのどれもを今だ退ける己に幸あらんことを。そう、願わずには居られなかった。

 「お待たせ致しました。唐揚げ定食ライス大、ドリンクバーのカップをお持ち致しました。先のチョコレートパフェは
 その…あの…大変お時間が掛かりますので失礼ながら後にさせて頂きました。…ご注文は以上で宜しいですか? 」
 「ええ、結構です。ありがとうございます。…あの…チョコレートパフェですが…」
 「ご承知の通り、『容器』が『特別性』ですので…」

 男は先日のプリンアラモードの一件を思い出した。あの時、彼女はなんと直接、自分の豊かな胸の上に盛ってきたのだ。
即座にツッコミを入れたのだが彼女は無視して食べさせてくれた。今度も同じ事をするのだろう。当然、『器もご賞味を』と
言われたが、修辞法の限りを尽くして御辞退申し上げたのだ。店の責任者にこの事が知れたら彼女はどうなるだろうか?
一抹の不安を覚えながら、男は向かいに座ったウェイトレスの暖かい視線を浴びながら、合掌してから箸に手を付けた。