「おにゃのこを改造」スレから来ました。良スレ保守として拙作投下させて下さい。
元ネタは、フレドリック・ブラウン「雪女」(原題"Abominable")という、
四ページ強のSS(創元SF文庫『未来世界から来た男』所収)。
だいたいこんな筋です――ローラ・ガブラルディはデビュー作一作で
全世界の男を虜にした映画女優。彼女はデビュー作出演後、ヒマラヤの奥地で
「雪男(イエティ)にさらわれた」という目撃情報を最後に姿を消す。
金持ちのプレイボーイ、チョーンシイ・アサートン卿はローラの生存を信じ、
イエティからローラを救出し、ローラとイイ仲になろう、と考えて
ヒマラヤへ向かう。そしてイエティを一匹しとめるが、直後に別の
イエティに背後から抱きすくめられてしまう。
イエティの話では、自分たちは何世紀か前に秘薬によって姿を変え、
寒冷な高山で暮らし始めた人間なのだという。だが仲間の数が減ってきた
ため、登山者をさらっては秘薬を飲ませて仲間にしているのだと。
そして先ほどチョーンシイが撃ち殺したイエティこそローラであり、
仲間を殺した仕返しをする気はないが、代わりに仲間になって
自分と結婚しろ、と迫る。背後のイエティは雪男ならぬ雪女だった、
というオチ(訳者はタイトルでSSのオチをばらすという
信じがたいことをやっていますが、原題は「おぞましいもの」とか、
「あぼーん確定」とか、多分そういう意味で、ネタバレではない筈)。
…で、大昔、高校のときにこれを友人に借りて読んでから、ローラや
チョーンシイ卿がイエティ化する過程を何度となく夢想しました。
そして、今になってそれを形にしてみたいと思った次第です。
予め言っておくと、SSである、という点と設定が同じという点以外、
原作のドライでスマートな雰囲気に似たものははありません。ご了承を。
――以上、前置き長くてすみません。全部で三話くらい考えていますが
とりあえず7レスで終わります。
わたしはヒマラヤの奥地・オブリモフ山で、突如醜悪な毛むくじゃらで
巨大な生き物にさらわれてしまった。けだものは身長8フィート。
人間のように二足で歩いているが、毛だらけで筋肉質のその姿はむしろ
ゴリラかオランウータンに近い。雪男とかビッグフットとか言われる、
雪山に出没するという噂の怪物だとすぐにわかった。
わたしを抱えて歩く雪男の腕は太く強力で、その中のわたしは身動き
一つできない状態だった。この腕を振り払って逃げ出すのがまず
できないことは明らかだった。こうして運ばれるまま、どこかに連れて
行かれるのを甘んじて受け入れるしかないようだった。ただし、凶暴さや
敵意は感じられなかった。厚い毛に覆われたその胸は暖かかった。
ゴリラがそうであるように、恐ろしげな外見と裏腹の、優しい動物なので
あろうと思われた。わたしを食べたりするわけではなさそうだ、という
ことだけは直感的に分かった。諦念と疲労感と温かい胸の感覚は睡魔を
呼び寄せ、わたしはそのまま眠りについた。
目覚めたとき、わたしは薄暗い穴ぐらの中にいた。日光の差し込まない
穴だが、壁のあちこちが強く光っていて、周囲の様子がわかる程度には
明るい。多分、ヒカリゴケとかいう発光植物の仲間が生えているのだろう。
やはりわたしは雪男に抱かれていたが、先ほどとははっきりと違う感触に
気がついた。全身の皮膚に、直接雪男の柔らかく長い体毛を感じる。
…つまり、わたしは衣服をすべて剥がされているのだ――スキーウェアや
シャツはもちろん、下着の一枚すら残さずに。
わたしはほとんど本能的に悲鳴を上げた。この醜悪な化け物が発していた
「好意」のおぞましい正体が分かったような気がしたのだ。つまり、この
化け物はわたしをメスとして犯そうとしていたに違いない。ことによると、
わたしが眠っている内に、すでにそのありうべからざる欲望が満たされて
しまっている可能性すらあった。
悲鳴を上げながら逃れようとするわたしに雪男が気づいたらしかった。
雪男はわたしが逃げないように腕に力を込めた。軽い圧迫感でわたしは
息苦しくなったが、その力はわたしの息の根を止めてしまうほどの強さでは
なかった。そして、信じられないことに、雪男は流暢な英語でわたしに
話しかけてきた。
「心配することはない。あんたを取って食べたりする気はないし、あんたの
意向を無視して、強引にあんたと交わろうというつもりもない――まあ、
あんたがその気になったとしたらこっちは大歓迎だが。だが俺としては
あんたがこのまま生き永らえてくれさえすれば、まずは満足なんだ」
そう言うと雪男は部屋中に生えているヒカリゴケをはがすと、それを
わたしの口に運んだ。
「食べな。身体が温まり力が湧く。どうしてもこれを食べて生き延びる
つもりがないなら、悪いがあんたには外で凍死してもらうことになる」
励ましなのか、脅しなのか、よく分からない言葉をかけてくる雪男に、
わたしは従わないわけにはいかなかった。長い時間意識を失っていたに
違いないわたしは、猛烈な空腹感を感じていたのだ。わたしはたまらず
その光る植物を口の中に入れた。
ヒカリゴケは猛烈に甘く、くどかった。空腹だったにもかかわらず、
わたしは軽い胸焼けを感じた。恐らくとてつもない高カロリー食品だと
いうことがわかった。わたしは雪男が水代わりに差し出した雪玉で
喉の渇きをいやしつつ、その甘ったるい植物を夢中で食べ続けた。
やがてコケが喉から胃に、そして腸に下りてくるに従い、猛烈な熱が
わたしの中に発生した。穴ぐらの中の温度は零度前後だったはずで、
雪男の腕の中ですら空気に触れる頬や素肌にはひんやりとしたものを
感じていたのに、今やわたしは、全身からだらだらと汗を流し、
とめどもなく湧き上がる体内の熱をもて余していた。
「ああ、熱い!熱い!雪をちょうだい!もっと!もっと!!」
わたしは雪男にそう求め、雪男がもってきた純白の粒の細かい雪を
大量に頬張った。
「そろそろ、俺が温めなくとも大丈夫かな」
そう言うと、雪男はわたしを、部屋の隅に大量に盛ってある雪の山の前に
下ろした。たしかにもう寒くはなかった。喉の渇きが収まらないわたしは、
なりふりも構わず、全裸でその山に飛びつき、思う存分雪を食べた。
「じゃあ、俺はこれで退散する。いずれまた、外で会おう」
そう言うと雪男は穴ぐらの出口に向かい、出口をふさいでいる巨大な岩を
信じられない力で横に動かし、外に出ると、再びその岩を動かして出口を
ふさぎ始めた。
「待って!閉じこめないで!」
だがわたしの身体はコケの副作用か、しびれ始め、思うように動かなく
なっていた。そしてまた強烈な睡魔が訪れ、わたしは眠りについた。
どれぐらい眠ったのか、わたしは目を覚まし、ヒマラヤ山中のどことも
知れぬ穴ぐらの中に全裸で閉じこめられている、というあまりに異常な状況が、
決して夢ではなくて現実そのものであることを改めて確認した。雪男が
軽々と動かしていた岩の扉をどうにか動かせないものかと試みたが、
無駄な努力だった。もっとも、仮に動かせて外に出られても、こんな全裸の
状態では一瞬で凍死してしまうのがおちだっただろうが。
部屋の天井はわたしの背よりも少し高い程度。横幅は五メートルほど、
奥行きは十メートル以上あるだろうか。入り口近くの大量の雪の山と、
部屋中に繁茂するヒカリゴケ以外には何もない空間だ。部屋の一番奥には
やや深い穴が掘ってあり、上に木片がかぶせてある。おそらくこれを
トイレとして使うのだろう。部屋の中央には、長さ三メートル弱、
幅二メートルの長方形の区画に、干からびたヒカリゴケがマットのように
敷き詰めてあった。雪男用のベッドなのだろうと思えた。
扉を調べた後で最初にわたしがしたのは食事だった。目覚めて間もなく、
猛烈な空腹感が戻ってきていた。そしてあの濃厚なヒカリゴケの味がすでに
忘れがたくわたしの脳裏に焼き付き、食欲を煽っていた。わたしは雪と
ヒカリゴケを交互に食べ、食欲を満たし、それから排泄をした。満ち足りた
わたしは、先ほどの固く冷たい地面の上にではなく、ふかふかの雪男用ベッド
の上に、ゆったりと身体を横たえた。頭がしびれ、あまり複雑なことは
考えられなくなっていた。先ほど起きたばかりだというのに、もうまぶたが
重くなってきた。あの猛烈な熱がまたもや襲ってきて、雪が溶けないほどの
寒い部屋の中でも、軽く汗ばむほどだった。
わたしは眠りに落ちながら、手の甲を額にあてて汗をぬぐった。
ぞりぞりという奇妙な感触を額に感じたが、その意味を突き止める間もなく、
わたしの意識は薄れていった。
異変をはっきりと自覚したのは次に目覚めたときだ。立ち上がり、
喉の渇きを癒すために雪を食べようと歩き出したとき、わたしは自分の頭が
天井に当たることに気づいた。目覚める前は、部屋の端から端まで歩いても
こんなことはなかった。しかし今は部屋のどこに移動しても頭がつかえるのだ。
考えられる理由は二つだけ。天井が低くなったか、わたしの背が急激に
高くなったかのいずれかである。最初考えたのは天井が低くなったという
可能性だ。ありがちなサスペンス映画に「吊り天井」に囚われてピンチに
なる美女、というシーンがある。あんな具合に、柔和そうなふりをして
実は残酷な雪男が、わたしをじわじわと押し潰そうとしているのでは
ないか、そんな想像をしたのだ。
だが、わたしは間もなく、もう一つの、ある意味ではもっとずっと
恐ろしい可能性の方が真実に近いらしい、と気づかざるを得なかった。
それは薄暗い部屋の中で、自分の手足をじっと見つめ、そしてそれに
触れてみる中で、否応なく認めねばならない事実だった。
――つまり、いつの間にかわたしの手足、それに腹部や背中には、
濃い体毛がみっしりと生え始めていたのである。手の甲から肩、そして
乳房を除く腹部一面が、毛深い男性のすねのように黒々とした毛に覆われて
いる。そして陰部の毛はその範囲を拡げ、足の付け根から腰の横にまで、
その「三角地帯」の範囲を拡げていた。
変化は体毛だけではなかった。足、腕、それにあごなどの筋肉がひとまわり
強靱に成長し、犬歯も以前よりも長くなっていた。皮下脂肪もその量を
増しているようだった。明らかにわたしの身体は、あの醜悪な雪男の肉体に、
そして雪山の中で裸体でも生きていける肉体に、変貌しつつあるのだった。
そして、最も信じべからざることなのだが、わたしはこんな恐ろしい
変化が自分に生じていることを認めながら、当然感じねばならない
はずの恐怖心や絶望のような感情がほとんど湧いてこないことに気づいた。
そして、この変化をもたらした元凶に違いないあのヒカリゴケを、
それでも食べ続けたい、という猛烈な欲求をこらえきれなくなっている
自分を見いだした。しかもその欲求は単なる食欲でもなく、あるいは、
麻薬に対する禁断症状のような衝動的なものでもなく、むしろはっきりと
自覚された「雪女になりたい」という欲求である、ということを
自分自身に認めねばならなかった。
そう。わたしはこのコケをもっと食べて、早くあの生き物の仲間に
生まれ変わりたくなっていたのだ。人間のか弱い肉体を捨て、温かな体毛を
身にまとい、たくましい筋力をふるって雪山で生き続ける、あの美しい
生き物の一族に、早く溶け込みたい、そんなイメージをはっきりと伴った
強い欲望がわたしの中に生まれていたのである。わたしはその願望を早く
実現しようと、ヒカリゴケを存分に食べ、水分を補給し、そして眠りについた。
目覚めたとき、わたしの肉体の変貌はほぼ完了していた。「雪男用ベッド」
は今やわたしの身体に丁度いい大きさだった。全身の体毛はその量と長さを
増し、ごわごわした剛毛ではなく、ふわふわした厚い毛皮になった。
その下には寒さを寄せ付けない暑い皮下脂肪と強靱な筋肉の層が発達していた。
この、雪山という世界に適応した機能的な肉体のどの辺に、人間だったときの
わたしは醜さを感じていたのか、わたし自身がすでに分からなくなりかけていた。
そればかりか、人間だったときの思い出そのものが、遠い異国の別な生き物の
物語のように、疎遠なものになっていた。
わたしはこの穴の中での最後の食事と排泄を済ませた。そして、本能の
命じるまま、自分の溜めた排泄物を壁に塗っていった。こうしてヒカリゴケに
養分を与え、やがて来るであろう新しい仲間を迎え入れるための準備をする
ことが、この部屋を去る者の務めであることを、本能が教えてくれたのだ。
わたしは出口の扉に手をかけた。あのときとは異なり、岩は易々と動いた。
外に出たわたしを待っていたのは、沢山の仲間たちの祝福の声だった。
「おめでとう!新しい仲間の誕生だ!」
雪男と雪女たちが口々にそう言ってわたしの手を取り、肩をたたいた。
「ありがとう!ありがとう!こんな風になれて、とてもうれしい!」
わたしは涙を流しながらその声に答えた。
そして、他の仲間から少し距離を置いて、あの人が立っていた。
「おめでとう!…あんたはとても素敵だ。どうかな…俺と、その、結婚しては
くれないだろうか?」
目の前の雪男は強いセックスアピールを放っていた。その下腹部の
ものが明らかにわたしを求めていることを、彼は隠そうともしなかった。
あの映画以来急に増えたどんな求婚者よりも魅力的な姿がそこにはあった。
わたしを抱えて雪山を疾走した、あのたくましい腕の感触が脳裏に甦った。
そして、今のこの自分がこの人に抱きすくめられている情景を想像し、
わたしの性器もじっとりと湿ってきた。
「もちろんよ!」
幸福感に包まれたわたしは、愛しい人の胸にまっすぐ飛び込んでいった。
<了>