● シャイニング・ティアーズ総合エロパロ ●

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843Beyond the Ocean:2007/12/11(火) 01:11:52 ID:o+XdtPdZ
――数日経過
 慣れない土地での暮らしで最初は戸惑っていたキリヤだったが、気が付けばシルディアは彼にとっては庭の様な状態になってしまっていた。
 例えそれが何処であろうが容易く順応出来るのはキリヤにとってのある種の才能だった。
 ……そうして今日も今日とてキリヤは勇者亭へと向かう。
 日が没し、夜の帳が訪れる時、彼は夕餉と美味い酒を求めて最早馴染みとなった酒場の敷居を潜るのだ。
「ちわっす」
「おう。いらっ……またお前さんか」
 ヴォルグは短い間で常連になってしまったキリヤに対しそんな事を言っていた。
「また……は無いでしょう。こんなでも客ですよ?」
「まあ、経営難の酒場には有り難い事だけどよ。……一体、うちの何処が気に入った?」
 どうやら、相変わらず勇者亭は閑古鳥が鳴いているらしい。そんな状況で金払いの良い固定客が付くのは店側にとっては有り難い事なのだろうが、ヴォルグ本人としては未だに複雑な気分の様だ。
 何故なら、彼のキリヤに対する警戒心は解けてはいないのだから。
「マスターの顔を見に来ている」
「あ?」
「……そう言う事で一つ」
 だが、キリヤはそんなヴォルグの内面を無視し、軽口を叩いた。そうして、定位置となったカウンターの隅に腰を下ろす。
「ケッ。男に好かれて喜ぶ趣味は俺にゃねえよ」
「はは。それが普通でしょうね」
「からかうんじゃねえよ、餓鬼。……何時もので良いのか?」
「はい。頼みます」
 キリヤがこの店で注文するメニューは店に入った時点で決まっている。それが判っているヴォルグは厨房へと引っ込んだ。
「……ピオス先生は居ないんですか?」
「あーー?」
 ヴォルグは注文を捌く為に忙しそうだ。そんな彼にキリヤは質問を投げ掛けた。この店に居る筈のもう一人の姿が見えなかったからだ。
「先生が見当たらないんですけど」
「ああ……昼過ぎから往診に出てる、っと!……そう言えば、まだ帰って来ないな」
 鍋とお玉が忙しなく動く音がする。何かを炒めている様な香ばしい匂いも漂ってきた。その匂いでキリヤの空きっ腹は激しく蠕動を始めた。
「美味そうな匂いだなあ。やっとおまんまにありつける」
 ……此処に居ない人間の事を言っても始まらない。キリヤは自分の注文がやって来るのを黙って待った。

「頂き、ます」
「おう。飢えた狼の如く喰らいやがれ」
 漸く現れたヴォルグ謹製の定食を前にキリヤは手を合わせる。彼の味がすっかり気に入ったキリヤにとってはまたとないご馳走だ。
「がうがう!」
 そうしてキリヤは本当に欠食児童が如く目の前の皿を喰らい出した。
「……そう言えばよう」
「んあ?」
 ヴォルグは頬杖を付いて美味そうに定食を喰うキリヤを目を細めながら見た。
「あ、いや……喰ってからで良いけどよ」
「むぐむぐ……ごきゅごきゅ……っ。何ですか?」
 口腔に溜まった飯粒を酒と共に胃に収め、キリヤはヴォルグを見る。彼の仕草には何となくだが興味を注がれたのだ。
「お前さんは……シルディアに住んでいるのか?」
 ヴォルグが抱いた興味はそれだった。相変わらず、キリヤの素性についてヴォルグは殆ど知らない。だが、こうも連日自分の店を訪れる男を見ていると、寝床や金策についてはどうしているのかが気になったのだ。
「住んでいる訳では無いですよ。宿の一室を長期で間借りしてるだけです」
 キリヤはその質問に対して迷う事無く答えた。
844Beyond the Ocean:2007/12/11(火) 01:13:19 ID:o+XdtPdZ
「じゃあ何か仕事を……している風には見えんな」
「はは。仕事かどうかは置いておいて、昼間は汗水垂らしてますよ」
「へえ?」
 キリヤは一瞬だがニヤリとした。ヴォルグはそんなキリヤの顔に危険なモノを見た気がした。
「聞いて良いか?それは一体」
「ごきゅごきゅ……ぷはっ。……この辺りには野生のモンスターが多いみたいだ。手を出さない限りは安全だけど、近隣住民はそれを怖がっている。主にそれの始末とかを」
「……読めた。レグルスの丘でモンスターが減ってるって報告はお前さんの仕業か」
「後はゲートの浄化とかを少々。……報奨金は出ませんけどね」
「・・・」
 ヴォルグはキリヤの言葉を聞いて漸く合点がいった。それこそが今のキリヤの生業だったのだ。日々の糧を得る為にキリヤはモンスターを食い物にしている。
 今のキリヤにとって、モンスター退治なぞは取るに足らない事だ。得られる経験値も雀の涙程だが、狩り続けていればお金は確実に貯まっていくし、稀にレアな小物だって手に入る事だってあるのだ。
 そして、カオスゲートの浄化は一銭の得にもならないが、彼の心剣士としての重要な役割だったりする。
 しかし、セイランやフィリアスとは違い、シルディアでは大地の浄化に対する報奨金は一切出ない。シルディア国主のバルボアは超が付く程のドケチで有名なのだ。
 そんな誰もやりたがらない危険な仕事を率先してこなすキリヤを突き動かすのは、半分は使命感やボランティア精神だ。
「常に斬り続けてないと、腕が錆付いてしまうんですよ」
「!」
 そしてもう半分は自分の楽しみの為だった。それこそがヴォルグのキリヤに対する警戒心の理由だった。
「……って言ったらマスターはどう思います?」
「危ない奴。誰だってそう思うな」
「ふふっ。そうでしょうね」
 キリヤは冗談半分で言ったのだろうが、ヴォルグはその言葉が冗談には聞こえなかった。何故なら、キリヤの体からは数日前より遥かに強い死臭が漂っていたのだ。
「本来なら、俺の様な異邦人が出張る事じゃないんだろうけど、誰も引き受ける奴が居ないなら仕方がないですよ。その御蔭で飯の種には困らないけど」
「・・・」
 ヴォルグは何も言えなかった。それはシルディアと言う都市国家が抱える根源的な問題だった。商業によって発展したこの都市は何処よりも潤ってはいるが、その反面、国防面に於いては脆弱だった。
 だからこそ国主のバルボアは有り余る富で傭兵を雇い、国防に当てているのだが、彼等が活躍するのは有事の際のみ。誰だってモンスターハントに代表される汚れ仕事はしたがらないのだ。
 そしてその体制はシルディア戦役を乗り越えた今現在も変わっていないのだから。
「問題を起す気は無いんです。でも、俺は荒事には慣れてるから」
 一昔前はその手の仕事はヴァイスリッターが請け負っていたが、彼等は現在シルディアには居ない。だからどうしても人手が不足する。そんな時にこの地を踏んだキリヤにとって、それは一応僥倖らしかった。
「それなら……良いんだけどよ」
 一通り話を聞いたヴォルグはこれ以上立ち入った事を聞く気が失せた様だった。興味本位でこの男の内面に踏み込むのは危険過ぎると気付いたのだろう。
 キリヤはそんなヴォルグを気にする風でもなく、黙々と飯を喰い続けた。
845Beyond the Ocean:2007/12/11(火) 01:15:08 ID:o+XdtPdZ
「いや、すっかり遅くなってしまいましたよ」
 些か込み入った話が終わるとピオスが勇者亭に帰還してきた。
「お疲れさん。随分遅かったな」
「こんばんは」
 ヴォルグとキリヤが漸く帰って来たピオスを労う。ピオスは少しだけにっこりした。気の所為か、何処かピオスは嬉しそうだった。
「ええ。参りましたよ。お産に立ち会う事になるとは」
「お産だあ?お前、産婆の真似事も出来るのか?」
「だから参ったと言っているんです。しかし専門外でも何とかなるもんですね」
 それがピオスが嬉しそうな理由だ。新しい命の誕生に付き添ったと言う事は、医家にとっては輝かしい事であるのは間違い無いだろう。
「へえ、そりゃ凄い。新生児を抱き上げたんですか」
「ええ。そうです。……詳しく聞きますか?その時の様子を」
「……勘弁して下さい」
 取り合えず、キリヤはそんな事を言っていた。出産がどれだけ激しいモノなのかは一応知識としてはある。だからそう言った話は飯時には遠慮して欲しかった。
「冗談ですよ。……それより、団長?」
「ん?」
 今迄纏っていた嬉しそうな空気が一瞬だが取り払われた。ピオスは真面目な顔付きでヴォルグを見る。
「例の話は聞き及んでいますよね?」
「ああ」
 例の話?その内容が気になったキリヤが耳を欹てる。

「……文は受け取ったよ。帰って来るみたいだな、アイツ等」
「あれから三ヶ月。今戻ってくると言う事は大した収穫は無かったと言う事ですか」
「エンディアス全体を見たって、戦乱の種なんざそう転がってるモンじゃない。神器の情報なら尚更、な」
「本格的な活動はロウエン王が合流した後に……そう言う事ですか」
「そう考えて良いだろうな。まあ、尤もセイランも今は戦後復興でゴタゴタしてるって話だし、何時になる事やら」
「随分と豪気な御方の様ですね、ロウエン王は。王職を辞して海賊稼業に戻りたいとは」
「全くだ。引継ぎとかはどうするんだろうな」
 
「へえ」
 話の内容は全て理解できた。聞いた所によると、白騎士達が古巣であるこの場所に戻って来るらしい。闇の門での最終戦から既に三月が経過している。白騎士達は旧友を連れて新しい航海に出た筈だったのだ。
 そんな彼等が本陣に戻ってくる理由は……聞いた通りなのだろう。ロウエンがセイラン王を辞すと言う話はキリヤも聞き及んでいる。その後釜に座るのはヒョウウンだと言う事も聞いていた。
 だが、実際それを行うには様々な観点から未だに幾許かの時が必要な様だ。
「……まあ、戻ってくるってんならそれも良いさ。あれからずっと休み無しだろうからな、アイツ等は」
「命の洗濯も必要でしょう。それに何やら新しいメンバーも出来た様ですし」
「ああ。アイツの代わりらしいが……その面を拝むとするか」
 いよいよ核心に迫ってきた。彼等が言うアイツ、そして新しい面子の事もキリヤは当たり前の事の様に知っている。その始終は余す所無く両の目で見たのだから。
846Beyond the Ocean:2007/12/11(火) 01:16:26 ID:o+XdtPdZ

「また、逢えるのか。皆に」
 
心に油断が生じたのか、キリヤはうっかりそんな事を口走っていた。
「「・・・」」
 その瞬間、ヴォルグとピオスの矢の様な視線が集中する。
「お前さん……今、確かに」
「『また』って言いましたね」
「え?……聞き間違いじゃあありませんか?」
 吐いた言葉に後悔しても、それは後の祭りだった。。キリヤはすっ呆ける事を決め込んだ様だが、二人の追撃はかわせない。
「いや、確かに言ったぞ。お前さんは……アイツ等と面識が」
「あるって事ですよねえ?」
 ヴォルグもピオスも互いに顔を見合わせる。もう完全に自分の素性がバレたのは間違いなかった。
「まあ、これ以上の込み入った話は」
 キリヤはタンブラーに残っていた酒を飲み干すと席を立った。そうしてプラチナの貨幣を一枚カウンターに置くと一言呟く。
「皆が帰って来た時にでも」
 ニヤ、と厭らしい笑みを見せキリヤは勇者亭を出て行こうとする。そんな彼の背中に声が掛かる。
「待て」
「?」
「彼等はもうヴァレリアに入っています。恐らく、一両日中には着くかと」
「……了解。明日は勇者亭で待機してるよ」
 ヴォルグとピオスの言葉を受け、キリヤは明日の仕事を取り止める事にした。昼間から酒浸りになるのも悪くは無いとそんな事を思ったのだった。

 煙の様に消え去ったキリヤを見送った二人は緊張した面持ちをしていた。
「で、どうなるのかね?」
「悪い様にはならない……そう信じたいですが」
「気にはなるよな。……ふむ」
「……取り合えず、明日は歓迎会ですね」
「ああ。今日はもう看板だな」
 これ以上考えても判る事は何も無い。それよりも今は帰って来る戦友達の為の歓迎会の準備が必要な状況だった。
 勇者亭はその日、珍しく早い時間に店を閉めた。
847Beyond the Ocean:2007/12/11(火) 01:17:23 ID:o+XdtPdZ
――翌日
「先生、飾り付けはこんなモンで宜しいか?」
「ええ、結構。次は垂れ幕を……」
「はーーい」
 朝の早い時間帯からキリヤは勇者亭に来ていた。案の定、歓迎会の準備に追われる男二人を可哀想に思った彼は率先して準備の手伝いを申し出ていた。
 その言葉に怪訝な表情をするヴォルグとピオスだったが、キリヤが吐いた『昔の馴染みの為に』と言う台詞に二人はあっさりと警戒心を解いた。そうして彼等はキリヤの助っ人の申し出を丁重に受けたのだった。
「飾り付けはこの位で良いでしょう。次は団長を手伝ってあげて下さい」
「こっちはもう良いんで?」
「ええ。そろそろ、酒や食材の納品がある筈です。行ってあげて下さい」
「判りました」
 キリヤはもう手伝う事が無い事を確認するとヴォルグの加勢へと駆け出した。
「……昔の馴染み、ですか」
 キリヤが取り付けた『熱烈歓迎』と書かれた垂れ幕を見上げてピオスは呟いた。
「それは一体、誰なんでしょうねえ」
 しかし、ピオスの頭脳をもってしてもそれは判らなかった。

「いやあ、しっかし助かったぜ。まさかお前さんが手伝ってくれるたあな」
「お役に立てたんなら幸いですよ」
 キリヤは非常に段取りが良いのか、ヴォルグの手伝いも手早く終えて自分の定位置となったカウンターの片隅に座っていた。ヴォルグもそんなキリヤに感謝の言葉を述べつつ、カウンター越しに談笑していた。
「後は、料理を皿に盛り付けて、アイツ等の到着を待つだけだ」
「もう直ぐ、来るんですよね」
「ああ。まあ、待ってろ。……ほれ、こいつでも飲んで」
「あ、どうも」
 キリヤが何時も飲む酒がタンブラーになみなみと注がれて出てきた。ヴォルグなりの心遣いだろう。
 キリヤはその好意を受け取る事にした。少しだけ啜って口に含ませると、何時も以上に濃いその酒に少し咽そうになった。
「ぅ……ぐっ」
「うん?少し濃かったか?」
「え、ええ。ちょっと」
 本当は少し所ではありえないのだが、ヴォルグの気持ちを無視したくないキリヤ黙ってそれを飲み始めた。

「なあ」
「はい?」
 時刻は正午に差し掛かった。酒も半分に減った時、ヴォルグが真摯な表情をキリヤに向ける。
「そろそろ話してくれるんだよな、お前さんの事」
「ええ。……と、言うか厭でも話さざるを得なくなりますよ、絶対」
「ヴァイスリッターが到着したら、か?」
「はい」
 ヴォルグは勿論、ピオスだってキリヤの正体については察しが付いている。だが、判らないのは彼が何故此処に居るのかと言う事だ。それが気になって仕方が無いヴォルグは何とかキリヤの口からそれを聞き出したかった。
 そうしてその時がとうとう訪れた。
「なら、大いに語って貰おうじゃねえか。……お客さんだ」
848Beyond the Ocean:2007/12/11(火) 01:20:18 ID:o+XdtPdZ
 店の外から何やら喧騒が聞こえてくる。ガヤガヤと非常に賑やかなそれは直ぐに騒音に近い姦しさになった。
「お前さぁ!他人に自分の荷物を押し付けんなよな!」
「何よ、男の子でしょう!?レディの荷物持ち位は黙って引き受けてなさい!」
「私は預けていないからな」
「アタシも同じく!」
 ……聞いた事のある懐かしい声が直ぐ外から聞こえて来た。賑やかな一団は勇者亭の入り口付近までやってくると一端立ち止まった。
「此処がそう、なのか?」
「ええ。うたう勇者亭。私達ヴァイスリッターの本拠にして、家みたいなものね」
「お前は初めてだったな、此処は」
「きっと直ぐに慣れるよ。……慣れて貰わないと困るけどね」
 一瞬戸惑った男の声がした。それは紛れも無く自分の旧友の声だ。その狼狽した様な声にキリヤは吹きそうになる。
「えーと、そう言う訳で……懐かしの古巣にただいまにゃん!」
 威勢の良い声と共に白騎士の団長であるビーストクォーターが我先にと勇者亭に足を踏み入れた。
「ただいま、団長」
「やっほー」
 続いて、ルーンベールとフォンティーナの姫君が内部に突入。そうして……
「お、お邪魔します」
 何やらカチンコチンになった銀月の心剣士がギクシャクとした足取りで敷居を跨ぐ。
 遊撃傭兵騎士団ヴァイスリッターが古巣へと戻ってきた。
849Beyond the Ocean:2007/12/11(火) 01:21:11 ID:o+XdtPdZ
「漸く帰ってきやがったか!このじゃじゃ馬娘が!」
「ちょっと開口一番に酷いじゃない!久し振りに帰って来た義理の娘に向かってさ!」
「誰が娘だ阿呆!さっさとディオクレスの処に行っちまえ!」
「何ですって!?」
 マオはその容姿に似つかわしくない子供っぽさを全開にしてヴォルグに食って掛かっていた。ヴォルグが彼女にとっての育ての親と言う事実はあまり知られてはいない。
「予想はしていたが……」
「しょっぱなからこれなのね」
 ブランネージュ、そしてエルウィンがもう呆れたと言った感じに呟く。嘗ては日常茶飯事だった光景が久し振りに見られた事に何処か懐かしさを感じている様だった。
「まあ、放っておいてあげましょうか」
「……ピオス先生」
「お久し振りです」
 彼女達に近寄ったのはピオスだった。藪医者と言われる彼も軍師としては類稀なる才を発揮していた事を二人は知っていた。だから、彼女達は恭しく頭を垂れた。
「変わりは無い様ですね、お二人とも。結構な事です」
「「はい」」
 にっこり微笑むピオスにブランネージュとエルウィンの声がハモる。
「兄さんは……来てませんか」
「クピードも居ないわね。ったく、久々の全員集合だってのに」
「一応、便りは出したのですがね。彼等も何かと忙しい身ですので、運が良ければ」
 彼等は此処には居ないカイネルとクピードについて言っている様だった。……因みにリュウナとラザラスは残念ながら欠席だ。
「えーー……っと」
 白騎士達が再会を楽しむ中、一人だけハブられている男が居た。彼こそが白騎士のニューフェイスだ。
 それに気が付いたヴォルグは義娘との喧嘩を一時取り止め、その青年を値踏みする様に見た。
「……成る程。お前さんがそうか」
「あ、は、はい……」
「ふっ。そんな畏まらなくて良いぜ。俺はヴォルグってモンだ。今はこいつ等の家を守りながら隠居中の老兵だ」
「あ、アンタが……ヴァイスリッターの前の」
「ああ」
 ヴォルグについての武勇伝はマオからしっかり聞いていたのだろう。だが、今の彼は自分で言った通りに閑職中だ。
「私はアスクレイ=ピオス。今は町医者をしています。以後お見知り置きを」
「は、はあ。どうも」
 そうしてピオスもヴォルグに続いた。柄にも無く緊張を露にする旧友にキリヤの我慢はもう限界に近かった。
「は、始めまして。俺はソウ……」
 そうして、彼はヴォルグとピオスに対し自己紹介を始めた。だが……それは途中で止まってしまった。
「「?」」
 二人は何事かとその男を注視する。だが、彼は止まったまま動かない。その理由は明白だ。
「な、な……!」
 彼の視線は遠くの席に座るキリヤのそれとばっちり合っていたからだ。
「はっ……」
 そうして、漸くキリヤが動いた。体に既に回っている酒精の赴くままにキリヤは旧友の前に歩み出る。

「久し振り、だな。アキヅキ=ソウマ(秋月蒼真)」

「!!?」
――ズザザ!
 ソウマはその場から1mは後ずさった。それ程迄に彼の衝撃は大きかったのだ。
「「「!?」」」
 そんなソウマの異変を感じた残りのメンバーはその元凶であるキリヤに視線を向け、皆一様に顔を歪ませた。そうして……
「「「あーーーー!!!!」」」
 マオが、エルウィンが、ブランネージュがキリヤに絶叫し、一斉に指を差した。
「いや、久し振りって程じゃないか。あれから未だ三月だし。って言うか、指差さないでくれ。失礼だなアンタ等」
 白騎士達の帰還に合わせて用意されていたとんでもないサプライズが発露した。
「何が、どうなってんだ?」
「さあ。私にもさっぱり……」
 ヴォルグとピオスは努めて冷静だったが、目の前で起こっている事態については残念ながら理解出来ていなかった。
850Beyond the Ocean:2007/12/11(火) 01:23:01 ID:o+XdtPdZ
「で、マスターも先生も」
歓迎会は一時中断と相成った。そんな事にうつつを抜かす場合では無くなったのだ。現団長であるマオの号令と共にキリヤに対する査問会が開かれる。当然キリヤはこれを予想していたので別段慌てる様子も無く、定位置でのんびりと酒を啜っていた。
「どうしてキリヤが此処に居る事を黙ってたのさ」
「黙ってた訳じゃねえ。ただ伝えられなかっただけだ」
「貴方達が帰って来るほんの少し前でしたよ、彼が現れたのは」
 マオはヴォルグとピオスを問い詰めるが、彼等に非は無かった。
「二人は知ってたの?キリヤがどんな奴なのかって」
「まあ、何となくそんな気はしてた。確証は得られてなかったけどな」
「ええ。それ位は。でも、彼は自分で口を開かなかった。だから、我々も問い詰める真似はしませんでした」
「いや、そこは敢えて問い詰める冪処だと私は思うが……」
 エルウィンの疑問に対して、ヴォルグもピオスもとっくに答えを出していた。だが、ブランネージュは知りつつも何もしなかった二人を手緩いと思ってしまった。
「んな事ぁ、もうどうでも良いぜ。実際、コイツはこうして俺達の前に居るんだからな」
「「「「「・・・」」」」」
 ソウマが一喝すると周りは一斉に黙った。今議論すべきはそんな事じゃない位、皆も本当は判っていた。
「それより判らねえのはお前がどうして未だエンディアスに残ってるかって事だ。シルディアに居る事も無視出来ないけど、お前は何で」
「何で、とは?」
 周りの混乱は他所に、キリヤは相変わらずマイペースだ。そんな飄々としたキリヤの様子にソウマは苛立ちを募らせている様だった。
「勿体振るな!……エルデに帰ったんじゃなかったのか?クレハは、シーナは一体どうしたんだ」
「……」
 今にも掴みかかりそうなソウマをキリヤは軽く一瞥した。そうして、ほんの少しタンブラーの酒を飲むとキリヤは口を開く。
「帰ろうとはした。でも、止めたんだ」
「何だって?」
 ソウマはキリヤの言葉が判らなかった。だから、聞き返した。
「帰る事は何時だって出来る。だけど、俺はこの世界に愛着が湧いた。だから、帰る前にこっちでの地盤を固めておこうと思ったんだ」
「何の為にだよ」
「半分は自分の。もう半分は友の為、だな」
「・・・」
 聞けば聞くほどに訳が判らない。地盤だの友だのと言われた所でソウマが理解出来ないのは当然だった。
「だからこそ、俺は未だ未だ知らなくちゃいけないんだ。こちら側の根幹に関わる事を、さ」
「一体、何を」

「ゼロボロス」

「「「「「!」」」」」
 喧騒を繰り返していた周囲が一斉に静まった。その単語は或る意味に於いて禁忌とも呼べる言葉。それを吐いたキリヤに視線が刺さる。
「そ、そいつは……確か」
「俺も、そして彼も全てを把握している訳じゃない。だが、俺はゼロ……否、今は敢えてシオンと呼ぼうか。彼の心に踏み入って、そして知ったんだ」
851Beyond the Ocean:2007/12/11(火) 01:24:38 ID:o+XdtPdZ
「帰る前に俺は知りたいんだ。この世界の根幹に関わる事象だ。混沌の支配者……その事柄に関わる情報を」
 ゼロボロス。それこそがシオンが人を辞めざるを得なかった元凶だ。キリヤはその正体を求めて已まなかった。
「シオンの……為?」
「有体に言えば、だけど。……リーベリアで得られる情報には限りがあった。だから、こっちに渡ったんだ。シオンの心に深く刻まれたこの場所になら手掛かりはある筈ってね」
 キリヤはマオの問いには的確に答えてやった。妖魔王と戦う為に触れざるを得なかったゼロの心。心剣を研ぎ澄ます為に踏み入ってしまった調律者の心の底。
 その時触れた彼の心がキリヤを離さない。
「それで、見つかったのかよ」
「断片的には」
「断片?」
 その情報とやらは既に見つけているとキリヤは言っている。だが、それが全体の一部分と言う事にソウマは目を細めた。
「そこに居る、ピオス先生とか」
「・・・」
 キリヤの言葉をピオスは黙って受け止める。確かにアスクレイは混沌の支配者についての情報を持ってはいる。
「でも、それだけじゃ足りない。シオンの母親であるゼノヴィア、神弓のクピード、聖騎士ケイロン辺りからも情報を得なきゃならない。だが、それが難しいんだよな」
 これは単純な理由だ。居場所が特定出来ているのはアスクレイとケイロンのみ。ゼノヴィアとクピードについては何処に居るのかすら定かではない。そして、全員に言えることだが、会った所で素直に話をして貰えるとも思えない堅物ばかりなのだ。
「一筋縄ではいかないけど、俺は謎を残したままでエルデには帰れない。それが、俺がこっちに未だ在り続けている理由だ」
 その気になれば、キリヤは元の世界に帰る事が出来る。だが、一度帰ってしまえば今度エンディアスに跳んで来られるのは何時になるのか判ったものではない。
 可能な限り、心残りの種は摘んでおく。それこそがキリヤがエンディアスに残る理由だった。
「お前……自分の使命、忘れてないよな?」
「無論だ。エルデでやる事があるってのは重々承知している。だけど、遣り残しを放置するってのは精神衛生上宜しくない。主に俺のな」
「……ゼロは何て言ってた?」
 ソウマはキリヤに尋ねた。自分に後釜を託した男について。残念ながら、キリヤがゼロと交わした友情は自分が及ぶべき所では無いと言う事をソウマは知っていた。
「呆れてたな。でも、最終的にはシオンの方が折れた。好きにしろってさ」
「……クレハ達は?」
 そしてもう一つ。自分と同じエトランゼ達の動向がソウマは気掛かりだった。キリヤは嘘偽り無く淡々と事実を告げた。
「未だ帰らないって言ったら目を丸くした。お前達だけ送ってやるって言ったら、首を横に振ったよ。今はリーベリアで戦後処理に当たってる。ルミナスナイツの最後の仕事だって言ってな」
「そうか」
 ああ、安心した。
 ソウマはほっと胸を撫で下ろす。気掛かりが減った事への安堵からだ。シーナは兎も角、クレハに対する彼の思いは並々ならぬものがあったからこそ故だった。

「他には?」
 他に何かあるのならば受け付ける。キリヤはそう言っていた。
「ああ。あるぜ。重要なのがな」
 そして、ソウマにはそれがあった。
「この……」
 ソウマは一瞬笑った後にギリと奥歯を噛んだ。
「どうした、ソウマ」
 キリヤはソウマが何をしようとしているのかを察知したのだろう。だからこそ、キリヤは無防備な自分の姿を晒した。

「馬鹿野郎がっ!!」

――ガッ!
 ソウマは己が心の赴くままにキリヤの横っ面をぶん殴っていた。腰の入った重い一撃がキリヤの頬に突き刺さる。
 ザワザワ……。周囲が二人のやり取りに沸いていた。だが……

「……気は済んだ?」
 ソウマの一撃はキリヤには通っていなかった。殴られた痕をボリボリ掻くキリヤは格の違いをソウマに見せ付けている様だった。
「へっ……敵わねぇな、お前には」
ソウマはお手上げだ、と言う風に諸手を上げた。自分の使命を無視し、あまつさえクレハやシーナをそれに付き合わせているキリヤを殴らざるを得なかったソウマ。
 だが、キリヤは抵抗する素振りすら見せずにそれを甘受した。その程度の責め苦は背負って然る冪とキリヤは踏んでいたのだ。だからこそ、彼は無抵抗だった。
 この一撃を許す事でソウマとの件はチャラになる。キリヤはそこまでを計算していたのだ。
852Beyond the Ocean:2007/12/11(火) 01:27:05 ID:o+XdtPdZ
「さて」
 キリヤは漸く滲んできたソウマの拳による血を拭いつつ、場を閉めようとしていた。
「俺からの話は以上だ。部外者はこれで消えるから、後は身内同士で宴会の続きを」
「ちょっと待って!」
「マオ?」
 だが、それを止めたのはマオだった。ピクピクと彼女の猫の耳が震えている。
「ゼロ……ううん。シオンは、今何処に?」
「気になるの?」
「(コクン)」
 恥も外聞も捨てたのだろうか?マオはキリヤにシオンの居場所を聞かざるを得なかった。
「……何処に居るのかは判らない。少なくともリーベリアやヴァレリアには居ないみたいだ」
 だが、ゼロが何処に居るのかはキリヤも知らない。ヴァイスリッターと行動を共にしていない以上はまた何時もの単独行動に彼は戻ったのだろう。
 行き先を仲間にも伝えないのはゼロの持つ悪い癖だ。
「……そう」
 そうキリヤが語るとマオは残念そうに頭を垂れた。しゅん、とマオの耳がお辞儀したのは彼女の心をそのまま示しているみたいだった。
「でも」
「え?」
「呼ぶ事は出来ると思う」
だが、幸運な事に今のキリヤには鍵があった。他の誰にも真似できない彼だけの特技が。
「……は?」
 ピクン、とマオの耳が立った。だが、それは一瞬で、次の瞬間には元気が無い素振りを見せる様に萎れてしまった。マオは内面を読むには苦労をしない女だとキリヤは今更ながらに気付かされた。
「距離は離れていても、心は常に繋がっている。お互いが生きている限りは。例えそれが人外の者であっても例外は無いんだ」

「おい。そりゃ、どう言う」
 ソウマが訳が判らないと言う風に聞いてきた。キリヤはそれを無視して言葉を紡ぐ。
「俺に心の内を晒したシオンの最大の汚点って訳だ。……知ってるか?心剣士の力はエンディアスの秩序すら超越するんだぜ?」
 キリヤの顔が歪んだ。キリヤは元来、エルデの民。エンディアスの秩序には当て嵌まらない規格外の存在だ。故に、この世界の理を無視した裏技の使用が可能となる。

「呼んでみる?シオンの事」

 キリヤの発言は正に鶴の一声だった。シオンを呼ぶ為の手段が存在するらしい。
既に皆の心は一つだった。
「是非呼んで。アイツが居ないとこの場は締まらないわ」
「呼んでくれ。アイツの顔を久々に見たい」
「言いたい事が山程あるの。横っ面引っ叩いてやらないと気が済まないわ」
「おう。頼むぜ心剣士。取っておきの酒を用意してあるんだ」
「出来るなら、是非。彼だけ仲間外れと言うのは些か寂しい」
 これぞ人徳と言うものなのだろうか?シルディア戦役を駆け抜けた嘗ての英雄は仲間達の心を鷲掴みにしていた。
「オーケー?」
 キリヤは彼等の願いに応えるべく、全身に力を込めた。そして、大きく息を吸うと肺全体に酸素を満たす。そして……
――スウ

「助けてぇぇーーーー!!!!ゼローーーーッ!!!!」

「うをっ!!??」
 側に居たソウマが思わず耳を塞ぐ程の絶叫だった。キリヤは全身全霊を賭した魂の叫びを、世界を見守る存在である親友に対して送っていた。
「……さて、後は座して待つのみ、と。カモンマイフレンド」
「ちょっと待て。何じゃそりゃ」
 晶喚の儀式は完了した。ソウマの疑問に答える事もせず、キリヤは自分の席に戻り再び酒を呷り始める。ソウマ以外の面子は皆ポカンとしていた。
853Beyond the Ocean:2007/12/11(火) 01:28:23 ID:o+XdtPdZ
――一分後
 ゴゴゴゴゴゴ……
 大気が突然振動を始めた。軋み上がる空間は歪み、裂け目を生じさせ、その深淵を覗かせる隙間からは白と黒の翼が姿を表す。
 裂け目を通って現れる青年の姿。先ずは上半身。次いで下半身。現れた青年の両の指には彼等が見知った指輪が嵌められている。
 双竜の指輪の所持者。その名は――――

「「「「「「シオ――『キリヤッ!!!!』
 ゼロは皆が呼ぶ真名を掻き消して、彼にとって一番大事な存在の名を叫んだ。
「ゼロ……来て、くれたんだね」
「君の……叫びが聞こえたんだ。僕を求める」
 周りの一切合切を無視してとんでもなく怪しい空間を醸し出す野郎二人。良く言えば耽美。悪く言えばうほ……な世界だ。
「……じゃあ、後は任せるよ。俺にはどうしようも無い面子だから」
 そうしてキリヤは掌を返した。ゼロ……否、シオンに状況を確認させるかの様に回りに向かってアピールをする。
「――――え」
 シオンの内面を如実に語る驚天動地の呟き。調律者として人を捨てた彼にも敵わない者があると言う事が立証された瞬間だった。
「キリ、ヤ?これは……一体?」
 シオンの声は爆笑を誘う程に上擦っている。キリヤはそんな憐れなシオンに対し止めの一言を放った。
「済まん、シオン。死んでくれ」
 キリヤはシオンにそっぽを向いて合掌した。調律者に生死の概念があるのかは知らないが、人としての部分を多く残す彼にとって、この状況は致命的だ。
「……さて。行こうか、ソウマ」
「え?俺?」
「部外者が居て良い場所じゃない。此処は身内同士で盛り上がって貰おう」
「お前……ひょっとして気を利かせたのか?」
「さて……それは」
 間違い無く、今のキリヤには悪魔が憑いていた。
「じゃ、行こう。この街を案内してくれ」
「いや……俺はシルディアは初めてなんだけど」
「そうだったな。じゃあ、僭越ながらこの俺が」
「俺より詳しいじゃねえか!……って言うか、俺、朝飯食ってないんだけど」
「あーー……俺が奢る。だから、付き合え」
 無理矢理やり取りを終結させるキリヤ。ソウマはそんな友に黙って頷くしかない。
「へいへい……お前、キャラが違くね?」
「何周も繰り返してたらこうなるって」
「周とか言うな!世界が壊れるぞ!」
 不気味に哂うキリヤにソウマは背筋が寒くなる思いがした。
 周回を重ねれば、人はこうも変わってしまうものなのか?
 自分はそうなるまいとソウマは固く心に誓ったのだった。

「あの……僕はもう帰って良いかな?」
「駄目に決まってんでしょ。ふざけんじゃないわよ」
「このまま何事も無く帰れると思ってるのか?御目出度い奴だな」
「んーー……と。取り合えず、殴らせてくれるかしら?」
「シオン。お前の為に用意した酒がある。取り合えず、空けてってくれや」
「胃薬ならありますから。遠慮せずに逝って下さい」
 ゼロ……否、シオンはキリヤの願いを安請け合いした事に後悔した。若しあの時に冷静だったのなら、転移先の座標を確認する事も出来た筈だった。
 ……それが出来なかったのは、単にキリヤの危機に対して気が気でなかったからに他ならない。そうして、その先にこんな罠が待ち受けていようなどは調律者でも予想出来ない事だった。
 見渡せば、周りには霊獣が召喚出来そうな仲間達に溢れている。
 ピクシーやら、マンモスやらだったら何とかなる。だが、酒樽を抱えた紅玉鬼神やら、酒瓶を咥えた金狼の群れは危険過ぎる。
「恨むよ……キリヤ」
 この瞬間、世界の調律者は死を覚悟した。
854Beyond the Ocean:2007/12/11(火) 01:30:56 ID:o+XdtPdZ
――数時間経過 山猫通り
「んーと、これで目ぼしい場所は大体回ったかな」
 キリヤは自分で吐いた言葉の通り、ソウマにシルディア観光をさせていた。勇者小路を出発し、中央通り商店街、鍛冶屋通りにドワーフの洞窟。そして今は此処山猫通り。
 一年前はしょっちゅうベスティアの隠密が侵入する厄介な場所であったが、今ではそんな事は全く無いシルディアに於けるB級スポットと化していた。
「ハア、ハア……お、お前タフだね」
 キリヤに彼方此方連れ回されたソウマは草臥れたと言った感じに肩で大きく息をしている。
「うん?……案外、だらしないんだな。エルデで見せてたスポーツマン振りは実はフェイクだったとか?」
「あ、あの時とは状況が違うぜ」
 実際、ソウマのエルデでのそれはスポーツマンを超えて、超人の域だったりする。スズメバチの動きすら見切れる動体視力を持つ彼は存外に持久力が足りない様だ。
「なら、少し休むか?連れて来て悪いんだけど、ここは見る冪物が殆ど無いんだよな」
「な、何だよそりゃ」
 キリヤは往来の真ん中でぐるり、と周囲を見渡した。通りにはキリヤ達も含め通行人が殆ど居らず、閑散とした状況を厭でも伝えてきた。
「それとも、他の場所に移動するか?……って言っても鳥人の集落位しか残ってないけど」
「いや、暫くは此処で良い。休ませてくれ」
「そうか?それじゃあ、息抜きにコインゲームでもやってみる?」
「それは?」
 キリヤは顎でコインゲームの主催者である獣人の居る方角を指した。
「コインの裏表を当て続ければ掛け金が倍々。でも外れた時点で掛け金は没収。参加費は何時でも100Gから。……試すか?」
「結構。賭けに興じる気分じゃない」
「何だよ。つまらないなあ」
「そう言うのは俺のライフが回復してからにしてくれ」
 それだけ言うとソウマは道端にどっかりと腰を下ろした。どうやらHPの自動回復に期待している様だが、彼がその効果を持つ装備品を装備しているのかは疑問だった。
「……どっこいせっと」
 キリヤもまたソウマの隣に腰を下ろした。些か行儀が悪いが、キリヤはそんな事は気にしない。
「態々俺の隣に座らなくても良いじゃねえか」
「気にするなよ。俺とソウマの仲だろ?」
 それから暫くはキリヤもソウマも言葉を交わさず、ただのんびりと空を見上げて、風に乗って移動する雲の動きを見ていた。
855Beyond the Ocean:2007/12/11(火) 01:32:09 ID:o+XdtPdZ
「中々、良い街だよな。此処は」
「ソウマ?」
 脚を路上に投げ出しながらソウマはそんな事を呟いていた。
「未だ来て一日と経ってないけど……お前に色々連れ回されて、少しだけ愛着が湧いて来たって言うかさ」
「へえ。どんな処が」
 ソウマの語りをキリヤは胡坐の姿勢で聞いていた。彼がこんな殊勝な言葉を発する事は滅多に無い事だとキリヤは知っていた。
「何よりも活気に満ちてるよ。俺はべスティアにもセイランにも居たけど、此処はその何処とも違う。何より大きいし、街並みだって綺麗だ」
「都市国家だからな。街が広いのは当たり前だし、人口だって多い。でも、此処が他と違うのは多くの種族を抱えてるって事だろうな」
「そうだな。ドワーフにエルフ、それに獣人だって。これだけ雑多な種族を抱えた都市は他には無ぇよな。だからこそ活気があるんだろうが」
「見えない所でのいざこざは多いみたいだけどな」
 キリヤは少しだけ寂しそうな目をしていた。種族が違うと言う事は住む世界が違うと言う事に他ならない。それが原因で喧嘩は起こるし、酷い場合は戦争に発展する事もある。
 嘗てキリヤはセイランとフィリアスの抗争を目の当たりにしていたのだから、その呟きは重たい。セイラン側の人間だったソウマにとってもそれは同様だった。
「仕方がねえよ。人間だからな。種族が同じだろうと違かろうと、二人以上集まれば争いは起こるんだ」
「確かに。でも、治安の方は大分マシって話だよ。一年前に比べればだけど」
「一年前……ああ。シルディア戦役な」
 キリヤもソウマもその時の戦いについては伝聞記録で多少は知っていた。
 遊撃傭兵騎士団ヴァイスリッターを伝説の存在にまで昇華させた大きな戦乱。それを乗り越えたシルディアは確かに変わらない部分も多く存在するが、良い方向に変わっていっている部分もあったのだ。
 それに代表されるのは治安の強化と種族を超えた住民同士の繋がりだった。
「この美しい街並み……ゼロや皆が守ったんだな」
「美しい、か」
 ソウマは遠くの家々を眺め、素直にそう零した。耳を澄ませば子供達の無邪気な笑い声や小鳥の囀りが耳に入ってくる。キリヤもソウマと同じ感慨を得ていた。
 だが、キリヤはソウマとは一つだけ違う考えを持っていた。
「まあ、綺麗な街だよな。でも、それが崩れ去るのは一瞬だ。今だってそうなんだぜ」
「キリヤ?」
 心なしか、キリヤは闇を纏っている様に見えた。ソウマはそんなキリヤの様子にドキッ、とした。
「確かに、表面上は美しい。でも、この街が何の上に乗ってるのかって事を忘れちゃならない」
「獣神の器、だったけ」
 キリヤが言いたいのはそう言う事だ。シルディアは獣神の器が格納された古代遺跡の上に発展した街。一年前はその街から溢れる人々の負の感情を吸い、器はとうとう覚醒してしまったのだ。
「でも、獣魔王はゼロ達が破壊したじゃねえか」
「話ではそうなってるよな。でも、本当に完全に破壊されて、起動が不可能な状況になったのか?」
「それは……判らないけど」
「だろ?誰も確認してないんだ。……俺達の時だってそうだよ。エルファーレンを俺達は倒したけど、完全な破壊を確認する前にキルレイン達が俺達を門の外に跳ばしちまったからな」
 キリヤが危惧しているのはこれ等の器が再び目覚めてしまう可能性があると言う事だった。そうでなければ、態々門に究極心剣を使ってロックなど掛けないだろう。
 否、それ以前に神器は完全に破壊する事は不可能だと言う説すら存在するのだ。絶対と言う言葉がこの世にありえない以上、恐らくキリヤの危惧は現実のものになるだろう。
「おいおい……幾ら何でも考え過ぎだぜ」
「ソウマは気にならないのかよ」
「気にはなるけど。でも、完全に倒し切れていないとしても、今日明日に復活する様な代物でもないだろ」
「・・・」
 キリヤの心配も尤もだったが、ソウマはキリヤ程にその事については重く考えていない。考えても仕方が無い事だからだ。
「十年先、百年先か知らないけど、そん時は俺達は墓の中だ。もう少し気楽に考えねえか?」
「……そんな、ものかな」
「そうだよ。お前、ネガティブな思考をし過ぎだ。……本当に魔王様が起きちまうぞ?」
「うわ、そりゃいかんわ」
 ネガティブと突っ込まれ、キリヤは慌てて何かをしようとしたが、結局おたおたするだけで何も出来なかった。そんなキリヤの様子を見たソウマはゲラゲラと笑い転げるのだった。
856Beyond the Ocean:2007/12/11(火) 01:35:40 ID:o+XdtPdZ
「はあ。話してたら幾分か回復したぜ」
「ん?行くのか?」
 よっこいせ。ソウマが爺臭い掛け声と共に立ち上がる。キリヤもまた立ち上がった。
「さて、次は何処遊びに行く?」
「ああ……他の場所行く前に詩人の卵の所に寄っていこう」
「卵?……何か、面白い事でもあんのか?」
「その人間にとって一番大切な人物を教えてくれるんだ」
 山猫通りの名物と言っても過言ではない詩人の卵。一年前はシオンも頻繁に利用していたらしい。残念ながら小鳥のサービスは現在休止中だ。
 キリヤはその場所にソウマを連れて行こうとした。

「大切な、ねえ」
「ああ」
「はは。当然、お前にとってのそれは俺だよな?」
 ニヤリとした怪しい笑みを顔に張り付かせるソウマ。それに寒いモノを感じたキリヤは顔を少し歪めた。
「いや……残念だけど、お前の名前が出た事は一度たりとも無いな」
 キリヤの答えはソウマにとっては酷なものだった。現実とは常に非情なものである。
「何ぃ!!?」
――ガーーン
 そんな擬音が確かにソウマの背後の空間に浮かんだ。ソウマはこの世の終わりが訪れた様な表情を晒し、がっくりと項垂れてしまった。
「おい……そんな気落ちするほどの事でも」
「一体、何なんだよそりゃあ。じゃあ、俺がお前から心剣を抜いたのは嘘だったってのか……?」
 キリヤはいじけるソウマにちょっとだけ苛立ちを募らせた。大の男が小娘宜しく泣きそうな空気を纏っているのは見ていて気持ちの良いモノではない。
「あのなあ。ソウマの俺に対する評価が高かったってだけだろ?でも、俺のお前へのそれはソウマ程には高くなかったってだけだ。それだけじゃないか」
「薄情な奴だな、お前は。この絆は揺るぎ無いモノって信じてたのに……ハア」
 ……ふらふらしていたお前が悪い。キリヤはソウマにそう言いたかった。共に悩む事も戦場を駆ける事も無かったのだ。幾ら旧知の仲だと言っても、それすらこなさずに仲良くなる事は出来ないのだ。
 キリヤは半分出かかったその言葉を何とか飲み込んだ。
857Beyond the Ocean:2007/12/11(火) 01:36:32 ID:o+XdtPdZ
「……それじゃあ、お前にとっての一番って一体誰だったんだよ?」
 自分がキリヤにとってのそうでないと気付かされたソウマは当然の様に尋ねていた。
「え?」
 ズイッ、と顔を寄せてくるソウマの目はマジだった。
「やっぱり、シーナ?それとも、まさかクレ……」
「どっちも有り得ないから安心してくれ」
「そ、そうか。……ふう」
 キリヤがそう答えると、ソウマは安堵の溜息を漏らす。やはり彼はシーナは兎も角として、クレハに対して未練を残している様だ。
 ……あの時、自分に彼女の全てを丸投げしたソウマが悪い。
 キリヤは冷静にそう判断していた。ある意味自業自得なので慰める様な言葉を掛ける事もしなかった。
「それじゃ誰だろうな。残ってるのは……フィリアスの姫さんに戦闘妖精だろ。
……ま、まさかあのちびっ娘軍師だとかそう言うんじゃあ」
「ん?んーー……信頼も尊敬もしてる人達だけど、一番って訳じゃ」
「あ?また外れか?」
 取り合えず脈がありそうな女の事を連呼してみたが、そのどれもがキリヤの大切な人では無いと言う。ソウマは困った顔でキリヤを見る。
「じゃ、誰なんだよ」
「当ててみるんだな」
「・・・」
 キリヤはヒントの一切も出さず、ソウマに再び考えさせる。目を閉じて、思案に耽るソウマの姿は普段の彼のそれからは想像も付かない程似合わなかった。
「やっぱり、ゼロ……か?」
「ああ。彼の名前も出たな」
「・・・」
 どうやら、正解の一部に辿り着いた様だ。だが、名前が出たと言うのはどう言う事なのだろうか?ソウマは混乱した。
「もう正解言っちゃうけど……名前が出ただけでヒョウウンだろ、ロウエンにジンクロウ、ゼロもそうだし……あ、後はカリスか。……取り合えず、これだけ居るよ」
「お前、一番が何人居るんだよ!しかも皆野郎じゃねえか!」
 キリヤのサプライズな回答にソウマは思わず叫んだ。女の名前一つ出て来ないとは、暑苦しい事この上ない。加えて汗臭い。
「いや、俺もおかしいと思ったんだけど……何か条件を満たしてるのが大勢居たみたいなんだ」
 それが真相だ。心に踏み入り、戦場ではプラチナペアを量産していれば、絆がこれ以上上がらない所まで来るのは必定だった。だが、それを五人分やってのけるキリヤは相当にアレな人間かも知れなかった。
「マメだとかそう言う次元を超越してるだろ。しかも野郎だらけって。もう少し、こう……浮いた話の一つでもあった方が良かないか?」
「ソウマと一緒にするな。それに俺は、愛よりは義に生きる男なんでね」
 嘗てロウエンの心に触れた時、キリヤはそう答えていた。そしてそれは今も変わっていないらしい。
「お前、それ絶対何か履き違えてるよ……」
 ソウマはキリヤに呆れる様に零した。友達付き合いを考え直した方が良いのかも知れないと、一瞬思ってしまったのはキリヤには秘密だった。

「……アレ?」
「どうした?」
「いや、居ないんだよな」
 雑談をしつつ、通りを移動したキリヤとソウマは詩人の卵が何時も屯している場所に辿り着く。だが、キリヤはその場所に目当ての人物が居ない事を知った。
 折角訪れたと言うのに、詩人の卵が居ない事に肩を落としそうになったキリヤだったが、実際そうはならなかった。
――ポロン……ポロン♪
 聞こえてくる竪琴の旋律がキリヤとソウマの耳小骨を振るわせる。何時も詩人の卵が居るその場所には竪琴を奏でる詩人風の男が音を紡いでいた。
 その奏でられる旋律には聞き覚えがあるキリヤ。嘗て、カリスの心象世界で聞いた曲とそれは一致していた。
 詩人の周りには音色に引き寄せられた聴衆が挙って集まり、その優しい旋律に耳を傾けている。
「あの男……確か」
ソウマは少しだけ驚いた顔をしてその男の複雑な運指を目で追っている。
「・・・」
 対してキリヤは聴衆の中に居る或る一人の男を吸い寄せられる様に見ていた。
 両腕に刺青のある長身の男だ。その男は目を閉じて、他の聴衆達がそうする様に曲に聞き入っている。
 左目に傷を持ち、布が巻かれた長い棒状のものを手に持っているその男はキリヤが知っている誰かに似ている気がした。
858Beyond the Ocean:2007/12/11(火) 01:38:38 ID:o+XdtPdZ
 ……曲が終わると、聴衆達は詩人に向かって雨の様な拍手を送った。詩人は仰々しくお辞儀をすると次の曲を奏でる準備を始める。
「……驚いたな」
「ソウマ?」
 漸く言葉を発する事を許されたソウマは詩人を見ながら呟く。キリヤの方は一切見ない。
「彼が此処に居るって事は……全員集合ってのは本気だったのか」
「知り合いなのか?あの詩人と」
 キリヤもソウマの方は見なかった。キリヤが見ていたのは聴衆の中の男の方で、その男もまた鋭い視線でキリヤを見ていた。
 ……只者じゃあない。キリヤは瞬間的にそれだけは判った。
「ああ。以前、会った事がある。彼もヴァイスリッターだ」
「何だって」
 キリヤは驚きを隠そうともせず大きな声を漏らす。そうすると、聴衆達は何事かと思いキリヤ達の方に視線を向けた。
 その中心に居る人物……吟遊詩人はキリヤ達に語りかける。
「よう。お兄さん達」
 バンダナによって耳が大きく隠れた男だった。長い金髪が風に靡き、にやけた蒼い視線がやんわりとだが突き刺さって来た。

「俺様の曲はお気に召さなかったかい?」
「そんな事は無い。結構なお手前だった」
 キリヤは詩人に対し直ぐに答えた。実際、見事な演奏だったのだ。不満などある筈もない。
「そうかい。じゃあ、あんまり曲に集中してなかったのは何か理由があるのか?」
「それは……」
 途端にキリヤは声を詰まらせる。確かに良い曲だったが、彼の言う通りにキリヤもソウマも余り集中して聞いては居なかったのだ。詩人はそれを見抜いていた。
「ああ。あるぜ」
 ソウマがキリヤを庇う様に一歩前に出た。
「……お前さんは」
 ソウマの顔を見た詩人から軽薄な空気が霧散した。
「よう、クピード」
「なっ」
 再びキリヤが叫んだ。クピードと言えば、神弓と呼ばれる程の弓の名手だ。シオンの嘗ての仲間であり、四勇者の一人にも数えられる偉人だった。
「アンタ……こんな処で何やってんだ?シルディアに居るって事は、皆が帰って来ている事は知ってる筈だろう?」
「勿論だ。ヴォルグから手紙を貰ったからな」
「じゃあ、何だってアンタは」
「見て判らねえか?弾き語りだよ」
 クピードは再び飄々とした空気を纏いソウマに答えた。だが、ソウマが聞きたいのはそんな当たり前の事じゃない。
「そうじゃないだろ。もう皆、集まってるぞ?」
「お前さんがここに居るって事はそうなんだろうな。じゃあ、お前さんは何だって山猫通りに?」
「っ、それは」
 今度はソウマが言葉を詰まらせる。困った様にソウマはキリヤを見たが、それは一瞬で、次の瞬間にはクピードの方を向いて小さく呟いた。
「……居辛くなったから、抜け出して来たんだよ」
「へえ」
「俺は未だ白騎士の中でも部外者に近いからな。話に加われないから、逃げてきた」
「成る程」
 そんなソウマの呟きを聞いたクピードはニヤリ、と哂った。
859Beyond the Ocean:2007/12/11(火) 01:40:50 ID:o+XdtPdZ
「俺もそうだよ」
「あ?」
「そこに居るカイネルもな」
 クピードはやっと勇者亭に赴かない理由を話し出した。むっつりと黙っている刺青の男……否、カイネルも少しだけ頷いた。
「カイネル=フランベルジュ……」
 キリヤはその男が誰だか理解するに至った。ルーンベールの第一王子。そして第一王女であるアイラ=ブランネージュが溺愛するお兄様。一年前はシオンの親友だった男だ。
「行き辛いって事なのか?」
「まあな。俺も昔を懐かしんで酒を飲むほど若くは無いって事だ。それに俺様が一番会いたい奴はあそこには居ないだろうし。……そんな場所に駆けつけたって、な」
「・・・」
 それがクピードの言いたい事だった。嘗ての古巣が目と鼻の先にあるこの場所から動けないのは彼なりに理由があっての事だった。
「まあ、カイネルは少し違うんだろうけどな」
「「?」」
 クピードはカイネルに話を振る。キリヤとソウマの視線がカイネルに向かうが、カイネルは動じなかった。
「久々に逢うだろう麗しの妹君に戸惑ってるのかもなあ」
「……っ」
 一瞬だが、確かにカイネルの体から殺気が放出された。
「なあ……妹って、誰の事だ?」
「ブランネージュだろ?」
「ぅえっ!?ア、アイツの兄貴かよ……!」
「知らなかったのか?ソウマ」
 その様子を見る限りではどうやらソウマは知らなかったらしい。だが、これは或る意味仕方が無い事だ。ブランネージュは自分の事を語らないし、仲間達だって聞かれなければ決して答えない事柄だろうからだ。
「……俺が、そんなタマに見えるのか?クピード」
「違うって言えるのか?ん?」
「寧ろ逆だな。アイラの面は直ぐにでも拝みたいが……奴が居ない場所に態々行ってもつまらなそうだ」
「薄情な兄貴だねえ。ブランネージュは待ってるぞ?お前の事」
「……そうだろうな」
 カイネルもまたクピードと同じ事を言った。行っても出会えない人物の事が頭にあって、その想いが彼等に最後の一歩を踏み出させないのだ。

「一寸、良いかな」
「「?」」
 此処に至って殆ど黙っていたキリヤが動く。カイネルともクピードともキリヤは初対面だが、キリヤは臆さない。初対面なのはクピード達も同じだ。
「貴方達が勇者亭に行かない理由って、まさか」
「「・・・」」
 キリヤはその理由が判った。だからこそ、彼等に伝える事にした。慎重な面持ちをするクピードとカイネル。キリヤは言った。

「ゼノヴィア?」

「……は?」
「ぶっ!」
 此処で敢えてキリヤは的外れな事を言い、二人の出方を伺う。カイネルは予想通りのつまらない反応を返し、何故かクピードは盛大に噴出した。
 ……何となくだが、クピードの反応は怪しい。
「何だってここでアイツの名前が出るんだよ!焦ったじゃねえか!」
「いや、失礼。今のは冗談」
 クピードにしては珍しい類の反応だ。彼はシオンの母親について何か想う所があるらしかった。

「シオンが居ないから貴方達は行きたくない……そう言う事ですか?」
「「・・・」」
 キリヤの言葉に二人は息を飲んだ。それで正解だった。
「……まあ、そうとも言うな」
「アイツを知っているのか、お前は」
 正解を当てられたクピードは視線を外し、カイネルはキリヤに対する警戒心を強める。
 だが、それも直ぐに解かれた。
860Beyond the Ocean:2007/12/11(火) 01:42:46 ID:o+XdtPdZ
「ゼロなら、今勇者亭に居るけど」

「「……なぬ?」」
 タイミングを計ったかの様なソウマの一声にクピード達の目が丸くなる。
「ど、どう言うこった?」
「こいつが召か……いや、晶喚?しやがった。どこからともなく」
「召喚だと?」
 ソウマもその時の始終を見ていたが、そうとしか表現出来ない現象だった。
「おい、クピード」
「ああ。判ってる」
 居ないと思っていた彼等にとっての目当ての人物は実はとっくに勇者亭に居て、彼等は無駄な時間を過ごしていたのだった。
 こんな所でのらりくらりしている場合では無くなった彼等は撤収の準備を始めた。
「行くのか?」
「ああ。今日はもうお開きだ。そんな場合じゃないしな」
 竪琴を仕舞い込むクピードに集まっていた聴衆達は至極残念そうな顔をしていた。
「先に行くぞ、クピード」
「おう」
 カイネルはさっさと準備を完了しその場を離れようとした。だが、駆け出す前に彼はキリヤの方を向いて言葉を投げつける。
「お前……」
「え?」
「何者なんだ?」
「ソイツは俺のダチでキリ――「俺については、ヴォルグ団長かピオス先生にでも聞いて下さい」
 割って入ってきたソウマの言葉を掻き消して、キリヤはカイネルにそう言って場を閉める。語るには少しだけ長くなるからだ。
「カイネル!何やってる!」
「……判った」
 クピードに促され、何か言いたそうな顔をしながらもカイネルは離れていった。

「……行っちまった」
「ああ」
 ポツン、とその場に残された二人は小さくなっていくクピード達の背中を見送りながら呟いた。
「俺達、何しに来たんだっけ」
「さあ……何かどうでも良くなったな」
「……違いねえ」
 ここにやってきたのは何かしらの意味があった気がするが、それはもう瑣事に成り下がった。
「次、行くか?」
「そうだな」
 ソウマとキリヤは次なる場所を求め、山猫通りから離れる決心をする。
 ……その数十分後、勇者亭に敵性勢力の増援が届いた。
861Beyond the Ocean:2007/12/11(火) 01:45:01 ID:o+XdtPdZ
――更に数時間後 フォンティーナ 精霊の森
「いやあ……何時来たって此処は空気が美味い。流石はエルウィンの故郷。……ソウマもそう思うだろう?」
 森の木々が来訪者を祝福している様だった。清々しくまた清涼な森の空気を胸一杯に吸い込んでキリヤは満足そうに漏らした。
「お、お前は……」
「うん?」
 だが、ソウマはそんなキリヤの胸中に興味など無い。寧ろ、足が棒に成る程連れ回された事に豪くご立腹の様だった。
「こんな場所まで連れてきやがって!シルディアの外じゃねえか!」
「……ここの鑑定屋は安いんだぞ?経費の削減にはうってつけだ」
「そんな事を言ってるんじゃねえ!!」
 そうしてソウマはまたしてもその場にどっかりと腰を下ろした。キリヤが垂れる能書きにも興味は最早無かった。
「もう無理だ、これ以上は。俺を勇者亭に帰してくれ」
「無理って……俺は未だイケるんだけど。次はエトワールにでも行ってみる?」
「てめえ、ふざけんじゃねえぞ」
 キリヤのその一言にキレそうになったソウマは得物に手を掛けた。
「判った。判ったよ、もう。……はあ、もう十分に時間は稼げただろうからな」
「……腹が減ってひもじい。もう日が暮れちまうよ」
 陽はとっぷりと傾いていた。西日を顔にモロに受けながら、疲労困憊と言った様相を呈するソウマ。彼はもう擦り切れそうだった。
「あれだけ喰っておいてもう腹が減ったって?……燃費が悪いのか?」
「何時間前の……話だよ……」
 体力値の違いか、燃費の違いかは判らないがもうこれ以上ソウマはキリヤに付き合う事が出来なくなっていた。
 昼に食べた飯はソウマの中ではとっくに消化されていて、血肉に変わってしまっている。ソウマの腹は新たな食事を切実に欲していた。
「もう、勘弁して下さい。お願いだから」
「じゃ、帰るか」
 許しを懇願するほどに消耗したソウマを置いて、キリヤはシルディアに向かって歩き出した。
「ううぅ……」
 グーグー腹の虫を鳴らしながら、ソウマは幽鬼の様なふらつく足取りでキリヤの後を追った。

 夕暮れの街道を北上しながらキリヤは勇者亭の様子がどうなっているのかを考えた。
「少し……シオンには気の毒だったかな」
 あの場に残り、矢面に立った友人の顔を思い出して思案に耽る。
 査問会……否、宗教裁判や魔女裁判にも似た私刑が行われているのは恐らく間違い無い。しかも、あの場所に自分達は図らずも援軍を送り込んでしまったのだ。
「シオン……ちゃんと生きてるかな」
 キリヤは心にも無くシオンの心配を始めた。あの連中が嘗ての仲間の命を奪うとは考えられない。でも、五体無事であるかどうかは判らない。
 ……ひょっとしたら、シオンは簀巻きにされて逆さに吊られているのかも知れなかった。
「……ま、シオンだから大丈夫だよな」
 そう思い至ったキリヤは思考の一切を閉じた。シオンであるならば無事である筈。そんな根拠の無い自信が彼の内を占めたのだ。
「・・・」
 死体の様に黙りこくったソウマを連れて、キリヤは勇者亭へと急いだ。

〜続く〜
862名無しさん@ピンキー:2007/12/11(火) 01:51:31 ID:o+XdtPdZ
長駄文失礼。誤字や脱字が結構あって凹みます。
需要があるのならエロ有りの続きを投下しようと思います。
一発目はシオン&マオを予定
それでは
863名無しさん@ピンキー:2007/12/11(火) 04:41:13 ID:w7deWG3A
大作乙
個人的には他の予定しているカップリングも聞いておきたい
864862:2007/12/11(火) 17:23:58 ID:qYfFvXlu
今手がけているのがカイネルとブランネージュ絡み
未定なのがキリヤとルミナスナイツの誰か
シーナ&クレハかそれともホウメイか
865名無しさん@ピンキー:2007/12/11(火) 18:34:48 ID:w7deWG3A
>カイネルとブランネージュ
これは期待せざるを得ない
866名無しさん@ピンキー:2007/12/11(火) 18:37:53 ID:CeqPlGh9
ホウメイとのサシがあるのなら座して待たざるを得ないのですが?
端折って読んだがなかなかだったよ
まぁ俺が光風しか知らんのってーのもあるが…
867名無しさん@ピンキー:2007/12/11(火) 23:48:53 ID:p4dTQAGi
>>862
全裸で待ってる
868名無しさん@ピンキー:2007/12/14(金) 01:14:07 ID:jxLGFKYO
男はシオン以外死ね
869名無しさん@ピンキー:2007/12/14(金) 01:50:24 ID:69P7ydpg
>>868
ブラン乙!
870862:2007/12/14(金) 10:14:51 ID:QpVD35iv
――勝手に予告

「迷惑だよね。アタシみたいなしつこい女はさ」
 マオの想いはシオンに届くのか?

「アレ、おかしいな。何か、目から汗が」
 キリヤの頬を伝う涙の訳とは?

「んっ……兄さん……」
「随分と露骨だな、アイラ」
 二人の関係はイケナイ領域まで進んでしまっているのか?
「あばばばばばばば……!」

『さあ、行くんだ勇者』『二人を見届けるのです』
「ありがとう。二人とも……!」
 キリヤの脳内に巣食う暇人とは一体?

「いや……無理無理。もう無理」
 何が無理なのか?

「黙れ、阿呆が」
 怒りの矛先とその理由とは?

「○○○なんて下らねえぜ!俺の歌を聞けぇ!」
 歌の人、降臨!?

「愛してるよ、シオン」
「僕もだ」
 果たしてこの結末をマオとシオンは拝めるのか!?

次回 捏造シャイニング
SPEEDY CAT
〜気紛れ猫娘とその飼い主〜

「何で、こんなに悲しいんだろうなあ……!」
――君はヴォルグの涙を見る――

明日にでも投下?
※内容は八割方冗談です。
871名無しさん@ピンキー:2007/12/15(土) 08:51:42 ID:GCEjZfeH
          ニフ/ゞ   
    /i,/i   <)^] Г
   ミ,,^(叉)  /   ⌒i
   /   \     | |
  /    / ̄ ̄ ̄ ̄/ |
__(__ニつ/  MOF2 / .| .|____
    \/____/ (u ⊃
「あばばばばばばばば」
  「あばばばばばばばば」

872862:2007/12/15(土) 12:30:46 ID:CLHEExD3
※読む際の注意

シオン×マオ

独自解釈と俺設定の嵐。キャラが壊れているので肌に合わない方はスルー推奨。

誤字脱字、用法の間違い、改行については最初に謝っておきます。
873SPEEDY CAT:2007/12/15(土) 12:33:16 ID:CLHEExD3
SPEEDY CAT
〜気紛れ猫娘とその飼い主〜

――勇者亭 夜
 精霊の森とシルディアは実はそんなに距離が離れていない。死にそうになっているソウマに負担をかけない様にキリヤは早足で獅子の鬣の中に戻ってきた。
 そうして勇者亭の前に辿り着いたとき、陽は完全に地平線の向こうに隠れてしまった。
「はあああ〜〜……漸く、漸く飯が喰える」
「あ、おい!ちょっと!」
 ソウマの頭にはもう食べ物に関する事柄しか無い様だ。ソウマはキリヤの静止を聞く素振りも見せず、勇者亭の中に入ろうとする。
「……仕方が無いな」
 キリヤとしては内部の様子を伺ってから入店しようとしていたのだが、ソウマがこの有様ではそれは出来なかった。
 意を決して、キリヤはソウマと一緒に勇者亭の敷居を潜った。
――ギッ
 木製のスイングドアを押して中に入ると、途端に吐き気を誘うほどの酒の臭いが漂って来た。

「5番、マオ!脱ぎますにゃん♪」

「ヒューヒュー!」
「マオってば、素敵!」

「「・・・」」
――パタン
 キリヤとソウマはドアを閉め、勇者亭の外に出た。
 ……今、何やら有り得ない光景が目の前に展開していた気がする。
「なあ、ソウ、マ?」
「何だよ……キリヤ?」
 感情を押し殺した表情を二人はしていた。今のは何かの間違いであるとそう信じたかったのだ。
「俺、疲れてるのかな?それとも、目と耳がおかしくなったか?」
「んーー……前者が俺。後者がお前だな」
「……そうか」
 どんな言葉を返されようと、キリヤは構わなかった。取り合えず、ソウマの何らかの言葉が欲しかっただけだ。
「……うん。気の迷いだよな。有り得る筈が無い」
「ああ。幻覚や幻聴の類だよ」
 きっとそうなのだろう。……否、そうであると勝手にキリヤ達は自己完結した。白騎士の現団長がそんな醜態を晒すとは到底考えられない事だからだ。
――ギィ
 気分を入れ替え、二人は再びドアに手を掛けた。そうして、恐る恐る中を覗き込んだ。

「いや〜〜ん♪シオンくんってば視線が熱いぃ♪」

「「・・・」」
 残念ながら、先程見た光景は間違いではなかった事を改めて認識させられたキリヤ達だった。
874SPEEDY CAT:2007/12/15(土) 12:35:56 ID:CLHEExD3
 マオはテーブルの一つに上って、ストリップの真似事に興じている様だ。本気の下着を着込んだ彼女は熱視線をシオンに対して送っている。
「……目が、腐るよ」
 憮然とした表情を張り付かせたシオンは見る価値すら見出せないと言いたげに呟いた。
「酷い!」
 そんなシオンの言葉が許容できなかったマオは幻影脚であっと言う間にシオンの席まで詰め寄ると、一切の迷い無くシオンの胸の中に飛び込んだ。
「う、うおっ!?」
「んふ〜〜どう?これでも目が腐るって?」
「っ……酒臭くて、序に獣臭い。引っ付かないでくれるかな?」
「イ・ヤ♪」
 本気で迷惑そうにシオンはマオを睨むが、マオがそんな言葉を素直に聞く訳が無かった。
 じゃれる猫宜しく、体をシオンに擦り付けるマオは本気で嬉しそうだった。
「マオったら大胆!」
「おいおい。見せ付けてくれるねえ」
 ……浴びるほど飲んだのだろうか、すっかり出来上がっている他の面子がマオを止める様な真似をしないのは或る意味凄い。
「シオンが圧倒されてる……滅多に見れない絵だ」
「何かショックだな。あんな一面を持ってたんだ、マオ」
 キリヤとソウマはそれぞれの感想を口に出した。キリヤもソウマも此処まで乱れた白騎士達を見るのは初めてだった。
「……本気の下着装着って処が妙に気合入ってるよな」
「勝負下着も兼ねるからな、アレ」
 つまりそれだけ本気だと言う気持ちの現われだろう。だが、そう言う事は他人の見ていない場所でやって欲しいと思うキリヤとソウマだった。

「ん?……おお、お前等!」
 二人が入り口で固まっていると、ヴォルグが声を掛けてきた。
「何処ほっつき歩いてやがったんだ!……オラ、さっさとこっち来て座れ!」
 ヴォルグは大きく手招きしていた。当然、それに抗う事はせず、二人はカウンター席に腰を落ち着ける。
「何か、俺が想像していたのと違う……」
「ああ?何がだよ」
 ヴォルグから手拭を受け取り、キリヤは手を拭きながら呟く。ヴォルグは怪訝そうに聞き返した。
「いや……シオンが此処に居るのにこの喧騒ぶりが信じられない。もっと険悪な事になっているとばっかり俺は」
「険悪?そんなムードに見えるのか?」
「いや、全然?」
 キリヤは首を横に振る。この空気は何処からどう見ても宴会モードだ。
「じゃあ何だってんだ?」
「ひょっとしたら、シオンが吊るし上げ喰らってるかもって。最悪、達磨にされてる可能性もあるかって考えてた」
「おい、キリヤ?」
 突然、不穏当な事を言い出したキリヤを信じられない様な目で見るソウマ。だが、キリヤは本当にそう思っていたのだ。嘗ての仲間を殺し、逃亡した人間が古巣に帰ると言う事はそれだけ危険を伴うと言う事だ。
 自分で呼び出しておいて無責任だが、キリヤはそのとばっちりを喰らうのが厭でソウマを連れて退避したのだ。決して、身内同士の再会に水を差したくなかったからではない。
「俺達がシオンにそんな事をすると本気で思ったのか?」
「・・・」
 ヴォルグは半ば呆れ顔でキリヤに聞く。キリヤは何も言わなかった。
「そんな事は有り得ない。有る訳が無い」
「……そうだな。悪い」
 ヴォルグの言葉は説得力に満ちていた。それでやっと判ったキリヤは邪推を払い、素直に謝った。
875SPEEDY CAT:2007/12/15(土) 12:39:15 ID:CLHEExD3
「それで、何にする?」
「取り合えず、食い物。腹が減って死にそうだぜ」
 遅く到着したキリヤとソウマにヴォルグはそう聞いた。ソウマは間髪入れずに答えた。
「食い物?その辺のテーブルから適当に持って来い」
「そうか?んじゃ、遠慮無く」
 ソウマは席を立ち、食い物を求めて近くのテーブルに突撃して行った。
「っしゃあ!次は俺だ!」
 ソウマがカウンターを離れると同時にカイネルの元気の良い声が店内に響く。
「6番、カイネル=フランベルジュ!俺の歌を聞けぇ!」
 ……先程会った孤高の剣豪はそこにはいなかった。酒の所為で開放的になっているのかは知らないが、カイネルは宴会部長の才能がある。

『宇宙を全部くれたって 譲れない 愛もある』

「久々に聞いたな、アイツの歌」
「?」
「こう言う場じゃないと、カイネルの歌は聞けないんだよ。滅多に無いぞ」
「はあ」
 ヴォルグの話では、カイネルは歌う事が滅多に無いらしい。だが、滅多に聞けないだけあってそのシャウトには魂が込められている様だった。
 そんな彼の後ろにはクピードが控え、リードギターのコードを紡いでいる。
 ……竪琴でギターの代わりをこなすのは神技を超えた変態技の域だろう。

『見つめ合うだけじゃ 朝は遠すぎる 抱き締めたい今夜だけ』

「上手いもんだなあ、ブランネージュの兄貴」
「きっと、歌の人がカイネルあんちゃんに降臨してるのさ」
 取り皿に山盛りに食料を盛ったソウマが帰って来た。見るからに胸焼けを誘う量だが、きっとこれでもソウマには足りないのだろう。

『ヒ・ヲ・ツ・ケ・ロ』

「にいさぁあ〜〜〜〜んっ!!」
 ……ブランネージュの矢鱈と黄色い歓声が耳に残るキリヤとソウマだった。

「飲み物はどうする?」
カイネルが歌い終えて暫くはスタンディングオベーションの嵐だった。アンコールを求める声すらあったが、結局それは無かった。
そうしてやっと静かになった所でヴォルグが飲み物のオーダーを聞いてきた。
「一応聞くけど、酒以外の飲み物ってあるのか?」
「あ?」
 キリヤがそう聞くと、ヴォルグは鼻で笑って予想通りの答えを提示した。
「ふっ……んなもん無ぇよ」
「うん。予想通り」
 思った通りだった。これはいよいよ明日は二日酔いを覚悟しなければいけない。
「えっ……マジか?」
 ソウマはその言葉を聞いてぎょっとしている様だった。キリヤはそんなソウマを宥める様に言う。
「ソウマ?俺達は宴会に顔を出してるんだ。素面のままで居られると思ったら大間違いだぞ」
「そうだけど!俺は、酒は得意じゃ」
「諦めるんだな」
「キリヤの言う通りだぞ、新入り。……オラ!駆け付け一杯ってな!」
――ドンンッ!
 ヴォルグがキリヤ達の前に置いたのはピッチャーだった。それに並々と注がれた度数の高そうな琥珀色の液体。ソウマの顔が引き攣った。
「好い加減、覚悟決めたら?」
「……勘弁してくれよ」
 もう最初からこうなるであろうと知っていたキリヤを尻目にソウマはこの期に及んで未だ逃げ道を探している様だったが、それは徒労に終わったのだった。
876SPEEDY CAT:2007/12/15(土) 12:42:48 ID:CLHEExD3
――凡そ一時間経過
 宴の熱は全く冷めやらない。それ所か、際限が無い様に温度は上がり続けている。今に至るまでブランネージュやエルウィンが何か芸らしきモノをやっていた気がするキリヤだったが、彼はそれに全く集中出来なかった。
「それでなあ。アヤネが息を引き取って、此処を間借りする様になった頃のアイツは本当に可愛かったんだよぉ。こんなにちっこくてなあ」
「は、はあ」
 ……迷惑なオッサンがこの身に纏わり付いていた。
 酒の回ったヴォルグが紡ぐ愚痴の様な昔話を肴にしつつ、キリヤは一向に減っていかない酒を飲み続ける。酔いは全く回ってこない。
「ダンチョー、ダンチョーって俺の後をついって回って来てなあ。……それが今じゃあ、なあ」
 ヴォルグは赤い顔をしながら、遠くの席に座る義理の娘をじっと見つめていた。

「シオンくぅん……さっきからずっとノリが悪いよぉ?」
「君が離してくれないからテンションががた落ちだよ」
「んもう。可愛くないんだから。
……じゃあ、こんなのはどうかにゃ?」
「んなっ!?……ちょ」
「……どう?興奮する?」
「そ、そんな場所を押し付け……!こんな処じゃ拙……!」
「あんっ♪……シオンくんのえっち」
「う、うう……妙な気分になってきた」

 聞き耳を立てて会話を拾う限りでは、何やら非常にいかがわしい事が行われている感じがする。だが、キリヤにはそれを邪魔する気は一切無い。馬に蹴られるのは御免だった。
「えっと……憎たらしくて堪らない、とか?」
 相変わらず下着姿でシオンに絡みつくマオから目を背け、頭に浮かんだ適当な台詞をヴォルグに言うキリヤ。
「・・・」
 だが、ヴォルグはマオとシオンを注視したまま微動だにしなかった。
「あの……団長?」
 ピクリとも動かないヴォルグが気になったキリヤは彼の顔を覗き込む。
「……なっ!?」
 そうしてキリヤは息を呑んだ。
 ……端正な顔だった。歴戦の重みと熟練の業が証としてその顔には刻み込まれていた。その象徴である皺の上を走る青と白の体毛。それが、濡れていたのだ。

「大きく……そして、綺麗になりやがって……」

――ヴォルグは泣いていた
877SPEEDY CAT:2007/12/15(土) 12:43:38 ID:CLHEExD3
「え、ええ!?」
 キリヤには何が起こっているのか判らなかった。だから困惑するしかない。ヴォルグはただ泣いているのではなく、男泣きしているのだ。
「アイツは……アヤネに似てきた。容姿の細かい部分なんて本当にそっくりだ。ずっと側で見てきたから判る」
「・・・」
「それだけ、俺も年を食ったって事だ。そして、マオももう年頃の娘。色を知る時期だってのも判ってる。……だが」
 ぽつりぽつりと語られるヴォルグの言葉をキリヤは黙って聞いている。口を挟む様な真似はしたくなかった。
「何で、こんなに悲しいんだろうなあ……!」
 そうしてぶわっ、とヴォルグの両の目から心の汗が噴出した。滝の様なそれにキリヤは顔を歪めながら、手元にあった布巾をヴォルグに手渡した。
「……ああ。すまねえな」
 そうしてそれを受け取ったヴォルグはチーン、と鼻をかんだ。

「それは……きっと、アレだ」
「……アレ?」
 差し出がましいとは思いつつも、キリヤは語らざるを得なかった。一度だけマオとシオンの方を向いてキリヤは切り出す。
「結婚間近の花嫁を見ているその父親」
「っ」
「若しくは、男に年頃の娘を取られて悔しい男親」
 キリヤの言葉は実に的を射ていた。表面上は仲が悪い風に装っても、マオはヴォルグにとっては娘の様なモノだ。それが男を作れば気が気で居られなくなるが男親の宿命である。例えヴォルグだろうとそれに例外は無い。
 その証拠にヴォルグは何も言えなかった。
「男親ってのは娘には気を遣うモノって言うし……まあ、避けては通れない道だと俺は思うよ?」
「・・・」
 男親とはそう言うモノだ。例えその娘の相手が、自分が認めた男であったとしても、悔しがらずには居られない。……実に難儀な事だ。
「まあ、取りあえず」
 そうしてキリヤは空になっていたヴォルグのタンブラーに酒を注ぐと、それをヴォルグに手渡した。
「今は邪魔しないであげましょうよ」
「お前さんは優しいなあ。こんなおっさん相手によぅ」
 親として苦しい立場にあるヴォルグを労う様にキリヤは微笑んだ。そんな優しさが心に沁みたヴォルグは注がれた酒を一息で呷り、再びくだを巻き始める。
「おら、お前も飲め」
「……飲んでますってば」
 キリヤはヴォルグの心を真の意味では理解していない。結婚経験がある訳でも、子供が居る訳でも無いキリヤにヴォルグの心が解かる筈も無いのだ。
 ……でも、出来るならこうはなりたくない。
 それだけはキリヤにとって嘘偽り無い思いだった。
878SPEEDY CAT:2007/12/15(土) 12:45:40 ID:CLHEExD3
――更に数時間経過
 勇者亭に帰ってきてからもう時計の長針が三周はしただろうか。宴はもうお開きに近かった。
 ふと気が付いて周りの様子を見渡せば、先程までは確かに居た面子が消えている事に気付かされた。
「何か、皆居なくなって静かになったな」
 明らかに熱が冷めつつある光景だった。
 飽きる事無くシオンに絡み続けていたマオはシオン共々何時の間にか居なくなっているし、エルウィンは先程駆け込んだトイレから未だに出て来て居ない。そうして、カイネルとブランネージュはほんの少し前に勇者亭を出て行ってしまったのだ。
 その場に残っているのは黙々と酒を消費し続けるクピードと、片付けの準備に入り始めたヴォルグとピオス。そして、明らかに気分が悪そうな青い顔をしたソウマとその横に座る自分だけだった。
「ぅ…ぐ、うう……っ」
「ソウマ……平気か?」
「そう、見えるっ……か?お前、には」
 苦しそうにしているソウマは間違いなくギリギリの所に居るとキリヤは瞬間的に判った。どうやら、完全に酒量を超えてバッドトリップの領域に入ってしまっているらしい。
 キリヤの行動は早かった。
「トイレで、イジェクトしてこいよ。気分が悪いならさ」
「やっぱ……そうした方が、良いのかな」
「いや、そう思ったんなら迷わず行けよ。我慢したって誰も褒めてくれないぞ?」
 キリヤの言う事は正論だった。もう何かを言う気すら失せたソウマは自分の胸を擦りながら危なっかしい足取りで自分の席を離れた。

「やれやれ……昔とは逆で手が掛かる奴になっちまったなあ」
 ほんの一年前はソウマが居たポジションこそがキリヤの立ち位置だった。だが、多くの戦いを経て成長したキリヤはソウマを追い越してしまったのだ。それ故に、背負い込まねばならない気苦労が増えてしまっている。
 キリヤ本人にとってそれは喜ばしい事では無かった。
879SPEEDY CAT:2007/12/15(土) 12:47:51 ID:CLHEExD3
「う、うぷっ……」
 そんな事を考えていると、青い顔を通り越して土気色した顔のソウマが戻って来た。
「随分早いな。もう済んだのか?」
「むっ…っ、し、使用中」
「何だって?」
 本当は胃にあるものを吐き出したいソウマだが、残念ながらトイレは使用中だったので泣く泣く引き返してきたのだった。
 キリヤが知る限り、最後にトイレに駆け込んだのはエルウィンだ。それが未だに出てきて居ない事を考えれば、彼女はトイレの中で眠りこけているのかも知れなかった。
「?……どうかしたのか」
「あ……ソウマが気分が悪いって」
「何ですって?」
 流石に異変に気付いたのだろう。ヴォルグとピオスが声を掛けてきた。
「い、や……未だ、平気……っ」
 ソウマはそう答えるだけで苦しそうだ。見るからに全く大丈夫ではなかった。
「おいおい、ソイツの顔色は危険だぞ。さっさとトイレにでも……」
「それが、今使用中らしくて、どうしようも」
「何!?……エルウィンの奴、中で寝てやがるな」
 クピードの言葉に困った様に返答したキリヤ。どうやらクピードも同じ結論に至ったらしい。だが、至った所でどうしようも無かった。
 ソウマの胃の内容物は着実に食道を昇って来ている。トイレの解放を待つ前に堰は決壊してしまう事だろう。キリヤはほとほと困り果てた。
「まったく、仕方が無い奴だな。……キリヤ、済まんがソイツを宿舎に連れて行ってやってくれ」
「宿舎って……此処の裏手でしたっけ」
「そうだ。そこにもトイレがある。吐くならそこにしろ」
 ……つまりそれは、吐くならそこで。最低でも外で吐いて、此処では吐くなと言う意思表示に他ならない。キリヤは引き受けたくなかったが、ソウマを見捨てる事だけは出来なかった。
「わ、かりました……」
「ほれ、部屋の鍵だ。……ピオス!そいつに胃薬を持たせてやれ」
「ええ。……これを。吐いた後に飲めば明日が違いますよ」
 ヴォルグから部屋の鍵、ピオスから胃薬を受け取るとキリヤはソウマの手を引きマッハの速度で外に出て行った。

「……ったく。あんなんで大丈夫なのか?あの新入りは」
「まあ、団長。此処は時間を掛けてゆっくりと頼もしくなって貰いましょう」
「そうだぜ。最初は誰だってあんなもんだろ」
 消えたキリヤとソウマを見てヴォルグは心配になった様だが、ピオスもクピードも暖かい目でそれを見守ろうとしている。大人達には大人達なりにそれぞれの考えがあるらしい。
「しっかし、侮れないのはキリヤの方だな。アイツは俺以上に飲んでる筈なんだが」
「ええ。私も驚きました。殆ど素面ですよ?アレ」
「年端もいかない餓鬼だと思ったが、俺様の酒量の上をいかれるとは……いやはや」
 そしてそれ以上に、ヴォルグ以下はキリヤの蠎蛇(うわばみ)っぷりに戦慄していた。
880SPEEDY CAT:2007/12/15(土) 12:49:36 ID:CLHEExD3
――勇者亭 敷地内
「もう少し!もう少しだから!気合で耐えれソウマ!」
「ぐっ、ぐぅぉ……っ」
 キリヤはソウマの手を引きつつ宿舎を目指すが、その途中でソウマは限界を迎えてしまった。……最初からソウマを別のトイレに牽引するなぞ、無理な話だったのだ。
 ソウマは全てを諦めた様に手を振って言った。
「いや……無理無理。もう無理」
「う、うわ……!」
 キリヤは焦った。
……幾ら友人だと言っても、そのリバースの現場には立ち会いたくない。
そんな事を思いながらもキリヤはソウマを物影へと誘導し、黙ってその背中を擦ってやった。

――暫くお待ち下さい

「……で、気分は良くなったのかよ」
「少しはな。……でも、未だ気持ち悪」
 胃の内容物をぶちまけて、多少顔色が良くなったソウマだったがバッドトリップは解消されていない。寧ろ、新たな嘔吐感がソウマを襲っていた。
「じゃあ、続きはトイレでやってくれ。……な」
「ああ。……しかし、お前は何時の間にそんな大酒飲みになっちまったんだ?」
「……飲みが無い時でも、日頃から竜泉酒で鍛えてるからな。糞不味いけど」
 自分が悪酔いと格闘している時に平静を保ち続けるキリヤが放った言葉がソウマの脳味噌を揺さ振った。
「お前、その裡肝臓壊すぞ?」
「ハハハ。今ならコウリュウの爺様にだって勝てそうだよ」
「そりゃ、良かったな」
 ソウマはそんなキリヤの言葉は文字通り他人事だった。今は一刻も早く胃腸の不快感を取り除き、部屋で休みたかった。

「……ハア。終わった」
 明らかに貧乏籤を引いた気がするキリヤはミッションが終わった事を自分の中で確認して少しホッとした。ソウマに鍵と胃薬を渡して宿舎のトイレに打ち込んだ後にやっと訪れた静かな時間をキリヤは堪能したかったのだ。
 ……良い夜だった。時折、雲の切れ目から月明かりが差して辺りを仄かに照らし出す。吐く息はほんの少しだけ白くて、虫の声すら聞こえない静けさ。こんな夜は深夜徘徊にうってつけなのだが、今のキリヤにはそんな元気は無かった。
「ったく……何つーか、もう……!」
 誰も周りに居なくなった事で漸く自分の真なる心を曝け出せる様になったのだろう。キリヤは案の定、憤慨していた。
「今日はもう大人しく寝ててくれよ、ソウマ……!」
 自分がシルディア周遊の旅に付き合わせた事自体が失敗だったのかも知れない。……そう考えても後の祭りなのだが、これ以上世話を焼きたくないキリヤはソウマを安らかな眠りの内に引き止めたかった。
 ……否、この際寧ろ永眠でも構わないと本気でキリヤは思ったのだった。

 そして、それから凡そ十数分が経過して、キリヤはやっと空いた自分の両手を見つめて大きく息を吐き、そして安堵する。
今日に限ってはもうこれ以上、ソウマが何かをする事は無さそうだった。
「……悪い奴じゃないんだけどなあ」
 ソウマが悪人では無い事はキリヤ自身が良く知っている。寧ろ、自分の方がよっぽどの悪人だと言う事もだ。
 しかし、ソウマは悪人ではないが聡明では無い。その一点については幾らか自分の方が優れているとキリヤは本気で思う。今日の一件を総合的に見ればそれは明らかだった。
 だが、所詮それは自分の中での勝手な評価だと言う事もキリヤは気付いていた。
「考えた処で、空しいだけか」
 それが正解に最も近い答えだ。
 少し自嘲気味に笑い、キリヤは宿舎を離れて勇者亭に戻る。
881SPEEDY CAT:2007/12/15(土) 12:53:26 ID:CLHEExD3
「……ん?」
 その途中、キリヤは行きは気付かなかった連中に気付く事が出来た。
「ブランネージュ?それに、カイネル?」
 薄暗がりで視認は容易ではなかったが、二人とも容姿が特徴的なのでキリヤには判別が付いた。二人は何かを話している様だ。こちらには気付いていない。
「なっ……」
 目が慣れてきて、二人が何をしているか漸く判ったキリヤは絶句した。二人が宴会を早々に切り上げた理由が判った気がした。

「んっ……兄さん……」

 ブランネージュは兄であるカイネルの胸に顔を埋めて悶えていたのだった。

「うわ」
 中々に刺激の強い光景が展開している。クールガールの代名詞が自分のお兄ちゃんに抱き付いてハアハアしていると言う事実はキリヤの中に何とも言えない甘酸っぱい背徳感を生じさせた。
「・・・」
 カイネルは悶える妹を尻目に、何も言わずブランネージュを抱き締めている。
 最早、言葉など必要が無いほど二人の絆は強固なのだろうか?……否、きっと強固なのだろう。キリヤは勝手にそう思った。
「もっと……ギュって、強く抱いて。兄さん」
「これでは未だ足りんのか?アイラ」
「全然足りないわ。今迄離れていた分……兄さん分を補給したいのよ」
「今、この場で全てを満たす必要は無いと思うがな」
 カイネルは妹の注文通りに抱擁をきつくしてやる。少しだけブランネージュは苦しそうな声を出したが、次の瞬間に聞こえてきたのは悩ましい吐息だった。
「っ……ふっ、んん、ん……♪」
 聞いているだけで何かを催してくる様な官能的な息遣い。キリヤの視線はイケナイ事に興じる兄妹に釘付けだった。
「随分と露骨だな、アイラ。お前、そんなに俺に逢いたかったのか?」
「聞くまでも無いでしょう?……ずっと、寂しかったんだから」
 カイネルあんさんは妹とは対照的に冷静な振る舞いを見せている。意志が固いのか、それともこう言う場面にはもう慣れっこなのかは判らない。
 だが、ブランネージュの吐いた寂しいと言う言葉を反芻して少しだけキリヤは彼女の気持ちが解かった気がした。ブランネージュはヴァレリアをずっと離れていたのだから、今の様にカイネルと逢うのも数ヶ月……否、もっと久し振りなのかも知れなかった。
 彼等がどれ程深い関係にあるのかは未だ完全には読み取れないが、ブランネージュはずっと、それこそリーベリアに救援としてやって来て働いていた時にも兄への想いを内に飼っていたと言う事は間違い無い。
 ……自制が利かなくなるのも納得だ。彼女もまた若い婦女子であるのだから。
882SPEEDY CAT:2007/12/15(土) 12:55:12 ID:CLHEExD3
「そうだな。……本当を言うと、俺もお前の事は言えない」
「兄さん?」
「おっ?」
 カイネルが動いた。キリヤは少しでも近くで見ようと物陰から身を乗り出す。
「俺も、アイラに触れたかったよ」
 半ば殺し文句の様な台詞があんさんの口から飛び出す。カイネルはブランネージュ……否、アイラへの抱擁を解いて、その顎に手を添えると自分の方へと向かせた。
 ……何とも生臭い台詞だ。逢いたい、では無くて触れたいと来た。空気がべた付く程に甘ったるいのは間違い無く気のせいでは断じて無い。
「……嬉しい」
 アイラはその台詞にやられてしまったのか、一言呟くと兄の顔をじっと見た。
「お、おお!?」
 そうして彼女は背伸びしてほんの少しだけ唇を突き出す様な格好を取った。頭二つ分は大きなカイネルにはそれでも届かないが、カイネルはその妹の動きにあわせる様にちょっとだけ身を屈めた。
――そこ迄イってしまわれておられのですか
 キリヤは揺れる二つのシルエットに引き寄せられる様に更に一歩歩を進める。何が目の前で行われているのか確かめずには居られなかった。
 ……だが、その行動が命取りだった。

――ガサッ
「ぬっ」「ふえっ!?」
「げえっ」
 ……しまった。そう思っても手遅れだった。身を乗り出しすぎて足元が疎かになってしまっていたのでキリヤはこの重要な局面で物音を立ててしまった。
「「・・・」」
「あいたたたた……」
 貫通効果を秘めた絶対零度、且つ麻痺しそうな斬りつける刃の様な視線がダブルで飛んできた。
 憎悪を超えて殺気すら見え隠れするそれには虹の心剣士も竦みあがった。
「チッ……水を差されるとは」
「邪魔は入らないって思ってたのに、もう」
 行為を中断させられた二人は揃って肩を落とす。やっと二人っきりになれたと思っていたらこの仕打ち。キリヤに見つかった兄妹はひたすらに運が悪かった。
「場所を移すか。此処ではどうも、な」
「仕方無いわね。……私の部屋、来る?」
「……構わんのか?」
「兄さんなら、何時だって歓迎するわ」
「そうかい」
「……うん」
 何やら一頻り喋った後のカイネルとアイラは手を取り合って何処かに行ってしまった。その場を去る瞬間、二人はもう一度傍観者の方を見たが、その視線には最初とは対照的に何の感情も見受けられなかった。

「……バレたかな?俺だって」
 寿命を数分間縮めたキリヤが大きく息を吐いた。覗く気は無かったが、結果的にそうなってしまった事について、もう議論の余地は無い。そして、若し彼等が根に持つ様な性格だとしたら、非常に危険な事になるだろう。
顔が割れていた場合、最悪明日は月下乱舞とフリーズが飛んで来る事になる。それはキリヤにすれば有り難くない。
「……しかし、惜しかった。もうちょっとで、なあ」
 そんな現状に在って、キリヤは全く懲りていなかった。
883SPEEDY CAT:2007/12/15(土) 12:57:10 ID:CLHEExD3
 少し、寄り道してしまったがキリヤは起こった事の一切合財を頭の隅に寄せて、勇者亭に戻った。
「……アレ?」
 だが、中に入る前にキリヤは勇者亭から灯りが消えている事に気付かされる。
 ……もう、皆出掃ってしまったのだろうか?
 キリヤは店の正面から中に入る。幸いにも鍵は掛かっていなかった。

 中は火が消えた様に真っ暗だった。只一つ厨房を覗いては。そこにはヴォルグが一人残り、ゴソゴソと何をしていた。
「ヴォルグ」
「ん?……キリヤか」
 カウンター越しに声を掛けるとヴォルグの声がした。暫く待っていると、ヴォルグは帰り支度を済ませたと言った感じで現れた。
「今日はもう看板なのか?」
「ああ。宴会もさっき終わった。俺も、今日は帰って寝る事にする」
「そっか」
 ソウマを送っている最中にこっちの方はとっくに終わっていたらしい。ヴォルグが残っていた最後の一人だ。戸締りか何かをしていたのだろう。
「お前さんは……そうか。宿を別に取っていたんだったな」
「ああ。……にしても、随分と汚したね。流石と言うか、何と言うか」
「全くだ。片付ける方の身にもなれってんだ」
 ヴォルグに対してすっかりタメ口に落ち着いたキリヤは店の惨状に顔を引き攣らせた。
 彼方此方に食べ物のカスや酒瓶が転がっている。酒場としては衛生面で失格だった。
「流石に今日は何もする気になれん。明日に持ち越しだ」
「通常通りに開店出来るの?」
「ま、無理だろうな。起きれる気がしねえ」
 流石のヴォルグも酒を残してしまっている様だ。だが、そんな所が道楽商売の強み。普段から客がいない勇者亭だからある程度の適当はこの際許されるのだ。
「……じゃ、俺は帰るわ。またな、キリヤ」
「え、ええ。お疲れさん」
 そう言ってヴォルグは店を出て行ってしまった。キリヤは完全に灯りの消えた暗い店内に一人だけ残された。
「あ、あれ?俺、独り?」
 その独白に答えるものは居ない。
 ……と、言うか俺は此処に残っていて良いのだろうか?そんな疑問が頭を過ぎったがキリヤは直ぐに思考する事を止めた。

「……ふう」
 キリヤは自分の定位置である馬鹿でかい蓄音機の隣に腰を下ろすと、ソウマが飲み残してそのままにしていた酒を自分のタンブラーに注いでそれを呷った。
「騒がしい一日になったけど、まあ」
 それも悪くは無かったと今日一日を振り返り、零す。
 ……久々に出会えた懐かしい面々。旧友のソウマと街を巡り、その一方でシオンの信頼度を下げつつ、カイネルとブランネージュの面白いやり取りだって目に出来た。
 部外者である事は変わらないが、それでも宴会に参加出来た事は無駄にはならなかった。
「明日からも忙しそうだよな」
 自分がここに留まる限りは、今日の様な事は頻繁にあるのだろう。当事者としてではなく、傍観者としてその始終をニヤニヤしながら眺めるのはきっと楽しいに違いない。
 キリヤはそれを本気で楽しみにしている。
「でも……」
 だが、キリヤには今、それ以上に自分を突き動かすモノがある事を知った。そうして、タンブラーの中身を空にするとキリヤは席を立つ。そうして、テーブルに置かれたキャンドルの一つに火を点けた。

「……片付けよう」

 この店の状況が気になって仕方が無い。キリヤは誰に頼まれた訳でもなく、勇者亭の掃除を始めた。
――俺、何やってんだろう
 片付けの最中、キリヤの頭には常にそんな声が鳴っていたが、彼はそれを考えない様に努めた。考えたら終わってしまうからだ。
884SPEEDY CAT:2007/12/15(土) 12:58:17 ID:CLHEExD3
――数十分後
「もう、これ以上は弄れないな」
 表面上は粗方片付けたキリヤはこれ以上手を出すとヴォルグに怒られかねないので手を止めた。そうして、もう本当に自分に出来る事が無い事を確認すると、キャンドルの火を消して今度こそ店の外に出る。
「……っはあ」
 ドアにクローズの板が掛かっている事を点検した後にキリヤは入り口から離れ、そして懐から何かを取り出した。
 瓢箪で作られた器だった。その天辺にある栓を抜いて、中身の液体をゴクゴク、と喉を鳴らして飲んでいく。
「……不味い」
 酒を調合して作られた仙女の秘薬。味の不味さに比べ、滋養の効果は非常に高く、キリヤが常時手放せない酒だった。
 抜けてしまった酒精を再び入れる様にそれを飲んだキリヤは胃に落ちた液体が熱を放っている事を感じながら、竜泉酒を懐に仕舞った。
「俺も帰るかな」
 良い感じの疲労感が体を包んでいた。酒によって暖かくなってきた体を解しながら、キリヤは家路に就こうとした。
 これ以上、彷徨った所で暇潰しの種は落ちていないだろうし、今はそれよりは徐々に体を蝕む睡魔の方が重要だったのだ。だから、キリヤは自分の滞在する宿に戻りたかった。
 
 ……だが、そうは問屋が卸す筈も無く、今日最後のイベントがキリヤを待っていた。

『――、――……っ』

「……?」
 家路への一歩を踏み出す。……その一瞬前に誰かの話し声が聞こえて来た。
「何だ?」
 勇者亭裏手の桟橋の方からだった。キリヤはその話し声に興味を持ってしまった自分にハッ、とした。
「……っ」
 もう時刻は真夜中だ。本当なら、そんな雑多な事象には取り合わず部屋に帰って寝たいキリヤだったが、内に涌いた好奇心には抗えない。
 ……こう言う場面は常に首を突っ込みたがる自分の性分が恨めしいキリヤだった。
「今度は何のイベントだ?」
 迷いは一瞬だ。キリヤは先程のカイネル達の時の教訓を生かし、身を隠せて尚且つ、退路が確保されている場所に陣取る事を決めた。
 もう、何が来ても驚かない。キリヤは覚悟を決めると、その人物達の姿と声が確認出来る場所へと移動する。
「っ」
 そうして、その人物達が誰だか判った時、キリヤは息を呑んだ。

「シオンに……マオ」

 酒場から何時の間にか居なくなっていた二人が何かを話していた。
885862:2007/12/15(土) 13:20:48 ID:CLHEExD3
すいません。一端切ります。
スレ容量は大丈夫でしょうか?
886名無しさん@ピンキー:2007/12/15(土) 15:46:53 ID:ZL9isJYW
乙。続きが気になるが、それは次スレ?
887名無しさん@ピンキー:2007/12/15(土) 16:12:10 ID:U+NSItPn
492KB
888862:2007/12/15(土) 18:51:34 ID:CLHEExD3
書きこめなくなりそうなので続きは次スレが立った場合、そこに投下しようと思います。
長駄文失礼しました。
889名無しさん@ピンキー:2007/12/15(土) 23:56:06 ID:/ZJOuIXH
>>885
GJ!!
890名無しさん@ピンキー:2007/12/16(日) 00:38:20 ID:OJicxfPg
次スレ
● シャイニング・ティアーズ総合エロパロ 2 ●
http://sakura03.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1197733063/
891名無しさん@ピンキー:2007/12/16(日) 00:40:29 ID:OJicxfPg
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892名無しさん@ピンキー
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