親父と少女、姐さんと少年などなど
「愛があれば年の差なんて」な、エロと萌えを語るスレです
純愛・鬼畜、何でも来い
特殊傾向は事前表記の方向でお願いします
2 :
名無しさん@ピンキー:2007/04/18(水) 08:40:50 ID:n/VLCi5W
ちょw書き込みなさすぎw
俺は割りと好みのシチュだな。
思いつくのは成金と没落した名家のお嬢様とか、将軍とお姫様とか。
ヘタレな親父と小生意気な娘とか
萌え要素は高いな
振り回されてるオサーン萌えだ
どれくらいを年の差とするのか
キャラの年齢にもよるだろうけど、成人なら5才くらいは当たり前、学生には大きい
ケンシロウ・リンが初の年の差萌えだったから、でかい男と小柄な少女の組み合わせが好きだ
豪快な性格の大柄マッチョな親父と物静かな美少女の組み合わせはマジ萌える。
ただ、この組合わせのエロはマジで勘弁だったりするw
「私を月まで連れてって!」のダンとニナとか好みだが
エロは想像がつかんw
俺の萌えは、有りがちな所だと、先生×生徒とかかな。
萌えからエロに発展するまでが大変かもだが、職人さんには是非降臨して貰いたい。
>>7 いいな。
医者×患者の女の子とか
さん付け&敬語の会話にモエる
ただのロリスレになる予感
10 :
名無しさん@ピンキー:2007/04/19(木) 09:40:47 ID:BkcfCYEA
若い時に出会って、娘のように可愛がってた幼女が美少女に成長してアタックしてくるなんてのもいいな。
小さい頃の印象が強すぎるため、まったく女扱いしてもらえなくて拗ねたり、
男の元カノとかにやきもち妬きつつ「やっぱり大人の女の人のほうが好きなのかな」なんて落ち込んだり、
いろいろ萌えシチュ作れるような気がしてきた。
大人の男が幼養女を貰って、幼養女がそいつを好きになっていく。男も幼養女を好きになっていくってのも萌える
光源氏か。
13 :
名無しさん@ピンキー:2007/04/23(月) 06:00:38 ID:jVcTKsXr
中年の主人と若いメイド。
呼び方はご主人様より旦那様のがいいな。
14、5歳ぐらい年が離れた青年×幼女とか萌える
「お前が結婚できる年には…俺はオジサンだぜ?」
「だから?私は一切気にしないわ」
「おいおい、マジっすか?」
「もちろんマジっす!」
>>14 幼女が強気だと尚良し。萌える。
エロに繋げるまでが大変そうだがw
自分は40代くらいと20代くらいの組合せが好き。
これだとロリにはならないし、実際にも居るだろう。
青年と幼女、良いね
「お嫁さんのあてがないんでしょう?」
「おまえに言われたくないな」
「早くきれいなお姉さん連れてきたら?」
「そんなことしたら、おまえのその席が無くなるぞ」
「……。ここは、わたしの席」
「はいはい、そこはおまえの席だ」
と、二人でお茶を飲みつつ語り合うんだ
んで、そのまま
>>16ぐらいまで行くんだな、きっと
「お嫁さんのあてがないんでしょう?」
「おまえに言われたくないな」
「ずっと結婚できないなんて可哀想だから・・私がなってあげようか・・・?」
「子供の癖になに生意気なこと言ってるんだよ」
「子供じゃないもん!そんなこと言って後悔しても知らないんだから!」
「はいはい」
もいいな。
20 :
名無しさん@ピンキー:2007/04/25(水) 20:05:35 ID:SbSFmuGM
ベルセルクのガッツみたいなツンデレ大男と、病弱美少女のカップル萌え
21 :
名無しさん@ピンキー:2007/04/25(水) 21:15:16 ID:pSlT5BmO
ガッツツンデレか?
幼女→男はベタだから、あえて幼女←男とか
「彼女とかつくりなよ」っていってくる幼女に対して「○○ちゃん、俺のこと貰ってくれる?」なんて冗談を言いつつ
自分と一回りぐらい違う幼女を本気で好きな自分に内心自己嫌悪
時間が過ぎ幼女は少女になっていき、少女は初恋をする
男に相談する少女。男は少女の恋を応援することで踏ん切りと付けようとするが
少女の惚れた男はアナタって本当に最低の屑ね!だったりして、貞操の危機一歩手前で何とか回避
何があったか話さない少女の隣で、男はずっと少女を励まそうとし続ける
「どうしてそんなに私のこと……」「昔から言ってるだろ?俺は○○ちゃんのコト、好きだからって」
最初はいつもの冗談だと思ってたが、どうやら本気で言ってるらしいと気づいた少女
「馬鹿みたい。私達の年齢判ってないの?ロリコンじゃない」と言いながら、身を預けてくる少女
男の腕の中で、「でも、□□クンでもいっかな……」
もちろん本番じゃ、及び腰になる男と積極的な少女w
事後に犯罪者の仲間入りしたコトに凹む男。「別れたら訴えるから」と笑う少女
「……別れないよ。○○ちゃんのコト、俺はずっと好きだから」とそこだけは真っ直ぐ返す男
少女、少し照れて、「でも私□□クンに飽きちゃうかもよ……だから、飽きさせないでね」
第2ラウンド突入
みたいな
>22
萌え死ぬ
24 :
名無しさん@ピンキー:2007/04/26(木) 02:35:47 ID:glIOaAHI
自分は年の差主従が好きだな。
生意気な姫(お嬢様)に振り回される従者(ヘタレではない)
今書いている小説を、主従スレかこのスレどっちに投下するか迷っている
主従スレの方が大事な俺ガイル
でも最後は自分で決めるもんなんだせ
ヤメテクレ。
なんだこのスレ。
萌えすぎて涙出てきた。
「あの、OOさん……!」
「おう、どうした」
「私……今年で、二十歳になるんです」
「知ってる。なんだ、欲しい物でもあるのか?」
「そ、そうじゃなくて……あの、だから……」
「はっきり言えよ、なんだってんだ一体」
「……な、なんでもありません……」
「あぁ?」
「用事思い出したんで、出かけてきます!」
鈍感で無骨な継父に恋する養女。
二十歳になったから女としてみて欲しいけどイマイチ切り出せない猛烈なジレンマ。
>>22 そこまで考えておいて文章にしないなんて最低の屑だわ!
幼いころからお城に幽閉状態だったお姫様が、
そこを訪れた男によって自由の身に。
孵化したばかりのひよこが、初めて見たものを親と思うように、
初めて触れた男性に魅かれていくお姫様…
みたいなシチュエイションもいいな。
姫様→男の呼称は「おじさま」…なんかカリオストロっぽいがw
>>28 ゲド戦記の「こわれた腕輪」がまさにそれだ
エロは無いが、あれは萌え死んだ
ここでゲド戦記の名前を見るとは思わなかった
テナーがツンデレって印象しかないがw
↑テルーとちゃう?
誰か
>>28の設定で書いてくだたい。
>>24 このスレで頼む。
スレを活性化させるには最初のSSは重要なんだ。
ドイツやポーランドに伝わっている民話に、のんだくれの爺さんの兵隊が、
絶世の美女である16歳のお姫様の呪いを解いて結ばれる話があった。
黒いお姫様
昔、子供に恵まれない王がいた。ある日、王は子のないことに苦しむあまり
「悪魔が授けてくれた子でもかまわない!」
と言い放ってしまう。
その後、王妃は懐妊し、玉のような女の子、王女が誕生した。
なにしろ唯一の娘であったから、蝶よ花よと養育されたが、姫は16歳の誕
生日を直前にして、
「私は次の誕生日になれば死んでしまうでしょう。でも、私の棺桶の前で晩
をして下さる方が現れれば、蘇ることができますわ」
と言い、そしてその予言の通りに死んでしまい、体は呪いのためであろう、
炭のように黒くなってしまった。
王と王妃は嘆き悲しんで、教会の中に棺桶を安置させると、
「姫の棺桶の前で番をし続け、呪いを解いた者に娘を嫁がせよう」
とお触れを出した。勿論、若く地位の良家の子弟たちが名乗りを挙げた。
ところが、見張りをしていると、夜中になって棺桶の中から手が伸びてきて
見張りをしていた者の首に手をかけ、へし折って殺すと、黒い姫が地下室ま
で死体を運び、放り出すのであった。
こんなことが続いてしまったため、目ぼしい若者たちは次々とその姿を消し
てしまい、呪いは解かれないように思われた。
そこで名乗りを挙げたのが、老いた飲んだくれの兵士であった。
万年一兵卒であった彼は、このまま生きていても、どうせろくな死に方はで
きまいと思っていたので、一瓶のポーランド・ウォッカと引換に見張り役を
引き受けようと申し出たのである。
こんなのしか残ってないのかという人選であったが、何しろ代わりになろう
という者がいなくなっていたので仕方がない。その通りに事が運ばれた。
しかし、いざ見張りを引き受けてみると、夜が近づいてくるにつれて老兵士
を恐怖が襲って来た。そして、とうとう教会を飛び出してしまう。
すると、目の前に風変わりな老人が現れて事情を尋ねてきた。
「実は、これこれこういう訳でして」
「ああ、そのことなら大丈夫だ。あなたの持っている銃に帽子と外套をかぶ
せて棺桶の前に立てておき、自分は説教台の裏に隠れていなさい」
老兵士もそう言われてみるとやる気が出て来たので、教会に戻り、言われた
通りにして、説教台の裏で息を潜めていた。
やがて、真夜中になると、棺桶の中から黒い手がのびてきて、帽子と外套を
かぶせた銃に襲い掛かり、帽子も外套もバラバラに引き裂いてしまった。
勿論、中に兵士はいない。呪われた姫は怒りの声を上げた。
「おや、どこに行ったのよ?出ておいで!」
そう言ってうろうろと探し回っていたが、結局朝になるまで兵士を見つける
ことは出来ず、朝日が教会の中を照らし始めた時、棺桶の中に戻った。
翌朝、かけつけた人々は、死なずにいた兵士を見て驚いた。
しかし、まだ呪いは解かれていない、今晩も見張れと命令が下った。
今日もあの老人に会えるのではないかと老兵士が墓地に向かってみると、は
たしてその通り。今度は地下室の死体の中に隠れろと言われた。
教会堂の中を探していた姫は、地下室に下りてくると、
「足があたたかいのがそうだわ」
と言って、死体の足を触り始めた。老兵士は死体の下の方に隠れていたのだ
が、もう見つかると思っていたところで、姫が棺桶の中に戻ってくれたので
ことなきを得た。
今朝も死なずにいたと、教会に来た人々は前よりももっと驚いた。
三日目の夜。今度もまた件の老人と会うことが出来ていた。
真夜中になり、棺桶の蓋が開いて、姫が床に降り立つ。
その時、棺桶の置かれた台の下に隠れていた老兵士は、姫と入れ替わるよう
にして、棺桶の中に飛び込んだ。
驚いたのは姫である。
「お前、こんなところにいたのね?私のベッドから出ておいで!」
姫は、老兵士に対してののしりの言葉を吐き出したが、体には触れなかった。
老兵士の方も、棺桶の中で目をつぶったまま、微動だにしなかった。
そうしていると、段々姫の言葉が柔らかいものになっていった。
薄目を開け、チラリと見てみると、姫の体が少し白くなっていた。
二回目には一回目よりも、三回目には二回目よりも、更に白くなっていた。
そして、段々言葉も柔らかいものとなって行き、朝日が教会の中を照らすよ
うになると、姫は言った。
「可愛い兵隊さん、起きて下さいな。あなたは、私を救って下さったのです」
老兵士の体をそっと抱え起こしたのは、雪のように白い肌をした、これまで
に誰も見たことがないような美しい姫の姿であった。
姫は老兵士の手をとると、父王の前に行き、こう宣言した。
「お父様、この方が私の夫となられる方です」
二人は結婚して、幸せに暮らした。まだ死んでいなければ、きっとまだ幸せ
に暮らしていることだろう。
記憶はうろ憶えなので二つ以上の類話(同じ系統の話)が混じっているかも
しれないが、勘弁してくれ。
おお!わざわざ書き込んでくれて有難う!
楽しく読ませて頂いたよ!
>>36 うわ、ありがとう。実に民話っぽくておもしろい話だな。
>>36 グリム童話の『柩のなかの王女と番兵』というやつらしい。
グリムはエロコワくていいな。
そして白雪姫は7歳ということを思い出して萌えた。
昔、好きだった人の娘ってシチュに萌える。
母親の若い頃にそっくりだとなお良し。
年の離れた姉妹の妹でも可だな。
手が空いたら小説を書こうと思う。
47 :
名無しさん@ピンキー:2007/05/07(月) 15:14:39 ID:dsxhKkKu
今色んな意味の歳の差小説書いてるんですけど、
エロ無しってありですか?
年の差16歳の騎士と孤児が出会って、10年後に結ばれるまでを夢想した。
ありきたりだが、引き取られた先で虐待を受けていた幼女を見かねて騎士が引き取る。
数年間は一緒に暮らすが、やがて戦争が始まり、少女は彼の姉の元へ預けられ、別々に暮らすようになる。
数年後、戦地から帰還した騎士を待っていたのは美しく成長した少女。
だけど外見ばかり成長して内面は別れた日のままな彼女は、四六時中彼にべったりと甘え、一緒に風呂に入りたがるわ、ベッドにもぐりこんでくるわ、お前は年頃の娘だろう! ってアタフタするパパ。
そんな娘を意識してしまい罪悪感にさいなまれ、遠くにやろうとお見合いを持ってきて、少女になじられ怒鳴られ家出されちゃうパパ。
がんばれ、パパ。
って話。
どの辺がエロくなるのかわからないorz
プリンセスメーカーのお父さんと娘で一つ
乳の小さい娘に豊乳丸を与える父
効果を確かめるため娘の乳をもみもみする父
50 :
1:2007/05/07(月) 19:17:15 ID:04NbpcE+
エロ有り、エロ無し、どちらもカモン
『「エロ」と「萌え」を語るスレ』と表記したのは、エロに持っていくのが難しいシチュだろうと考えたから
エロパロ板だから、そりゃエロも欲しいけど、
想像の余地があるなら、エロ無し作品だって(個人的には)大歓迎
と、スレ立てした俺が言ってみる
長々とスマソ
名無しに戻る
52 :
名無しさん@ピンキー:2007/05/09(水) 02:35:42 ID:w0j5gqaT
実年齢は高いが精神年齢が低い女と、
実年齢は低いが精神年齢が高い男の話とか。
逆もあり。
>>48 その話、自分にとって一番萌える設定です。
なんという萌えるスレ…
自分は二十代の青年と幼女、おじ様と清楚な美少女の純愛が
激しく萌えだ。
前者は十数年後かに結ばれるオチで、後者は今すぐやるかやらないかで
悶々としているのがいい。
なにか書けたらあとで投下にくるよノシ
>清楚な美少女
真っ先に浮かんだのはこれだが、町の不良少女が中年〜初老相手に女らしく
なろうとするのもなかなか。
現代物なら今時の少女、ファンタジーものなら実は貴族or富豪のお嬢様で。
中年だとヨレヨレ、初老だといかにも「大人」というイメージがある。
そういや、ユング先生が良く見た夢に『老人と少女』ってのがあったとか聞いた事があるよな……。
なにを象徴してるんだったっけ?
昔のアメリカ映画だと、主演カップルが30代後半以上の「おじさま」スターと
10代末〜20代前半の「若い女優」の組み合わせってのが、けっこう多かったんだよな
そういえば、夫婦揃ってハードボイルドな役者だったハンフリー・ボガートとローレン・バコールは
45歳と20歳の時、映画共演で出逢って結婚だったなあ……
親子級の年の差なのに、ボガートが死ぬまで二人の夫婦仲はよく
共演した映画でも私生活でも、見事なコンビぶりを示した
(「彼が初めての男性だった」というバコールの自伝での主張は、ほんとかどうかわからないが)
しかし二人の主演作の一つ「三つ数えろ」の原作「大いなる眠り」の作者レイモンド・チャンドラーになると
30代後半の時に19歳年上の女と結婚……高年齢で男女逆だと違和感バリバリだな
これは萌えないというよりは、マザコンが母親代わりの女性を求めただけなんだろうが
むか〜し読んだ話で、女がかなり年上の純愛物があったな。
女の方はもう60代オーバー。結婚もせず仕事をバリバリにやって、興した企業を帝国と呼ばれるまでにする。
女帝として財閥に君臨するも、人生を振り返ってふと虚しくなった彼女が、ある時孤児の少年と出会う。
身よりも教養もないが、天使のような外見・内面を持つ十代の少年に心動かされた女帝は、少年を引き取って
最高の教育を与える。
周りは女帝の気持ちは「母性愛」的なものだと思っているが、女帝は密かに少年に初な乙女のように恋をしている。
やがて、少年は賢く成長していく。
自分の想いが彼の妨げにならないように、女帝は彼を寄宿舎にやり自分は隠居して少年から離れる。
夏休みに帰省した少年にも、女帝は自分の居場所を絶対に知らせない。
数年後、女帝は少年と再会することなく死に、その財産の全てを彼に残す。
が、莫大な遺産を譲られた少年は、企業とも関わりを持たず何故か貧乏暮らし。
訝った友人が、何に金を使ったのか尋ねると、少年は「どうしても欲しい物を手に入れたから、後悔はない」と言う。
彼の部屋には、全財産を投じて作った、女帝そっくりのロボットが。
「貴女には僕は子供にしか見えていなかったでしょうが、僕は貴女を愛していたんです。心から」
どうしようもないすれ違いっぷりに萌えた。
>>59 タイトルと作者思い出したら教えてくれ!!
「フィフス・エレメント」もいいよ。
美少女をいい子呼ばわりするくせに最後はおいしいとこ
もっていくおっさんモエス。
やっぱレオンだろう。
ロリでエロスなナタリー・ポートマンに萌えて、
おちゃめでかっこいいジャン・レノに燃える!!
>>60 59じゃないけど、里中満智子の「まちこの千夜一夜」の中に収録されている「ナルシスに捧ぐ」だと思います。
15ページの短編。帝国と呼ばれている場面はありませんでした。
自分はダイソーの漫画(一巻)で見ました。最近見ないから、もう絶版かな・・・
妻に先立たれた娘持ちの父親と娘の親友ってのはどうだろう。
同い年の母親ができ、しかもそれが自分の親友ということに戸惑う娘とか面白そう。
>>63 おお、thx!!
明日辺り、探しに行ってみるわ。
>>64 赤川次郎の吸血鬼シリーズは、齢数百歳の吸血鬼の父親が、女子高生の娘の
後輩と再婚して長男まで設けていた。
元後輩が結婚後は「先輩」と呼んでいた義理の娘を「エリカさん」と呼ぶ。
なんでか知らんが、赤川作品は若い娘と中年以上の恋愛譚が多い。
幽霊シリーズは40過ぎの女房に死なれた刑事と女子大生が恋人だし。
>>64 剣客商売を思い出した。あれは娘じゃなくて息子だし、別に親友でもないが。
その息子は“男装少女”とラブラブになっちゃうし、池波先生おそるべし、だぜ。
>>68 そしてようやく嫁に貰われてきた男装少女は炊事洗濯まるでだめ
女性らしいファッションセンスもなしという頭痛な状態
みんな頭を絞って、天明あたりからすれば100年ぐらい前の元禄風ヘアスタイル
(井原西鶴とかの本に、古拙味のある画風で載っているような挿絵の、あんな感じ)
でまとめてやったり、飯の炊き方から教えてやったり・・・
政界のフィクサーの娘に、
いきなり義母の立場になってしまった田舎女が「主婦」レクチャーするというのがまた楽しい設定だった。
さすがにエンターテイナーだったな、池波先生。
池波先生、毎回話はワンパターンで、文章も特に巧いという訳じゃなかった
が、それだけに多くの人間に毎回読ませてくれたなあ。
いい意味で(今時珍しい)大衆作家だった。
いや、あれは上手いだろう。
そんなに読んだ事は無いが、シンプルなのに奥が深い、
素敵な文章だと思う。
年の差と言えば「あしながおじさん」だな。自分のおじさま萌えの原点だ。
自分は銀英伝の憲兵総監と皇妃侍女だな。
おっさんがピチピチ少女に振り回されるというか、少女のほうが
がんがんいってるのが実にいい。
皇妃メッセンジャーにしてデートに誘うとか使える権力は使うあたりが
「女」の強みが出てて奥が深いww
>>71 でも原作だと、「実はあしながおじさん」の男性って、ヒロインと無茶苦茶な年の差でもないんだよね。
ミュージカル映画は「おじさん」が50過ぎのおじさんであるフレッド・アステアだったから、本当に親子レベルだったが。
あれ? 原作でもおじさま30代くらい、ジュディ大学生じゃなかったっけ。
10歳離れてるから「年の差」に含めてくれると嬉しい。
史実の人(しかも最近)で申し訳ないけど、WW2ドイツの英雄ハンス・ウルリッヒ・ルーデルとかもどうだろ。
WW2の間に500台以上の戦車と1隻の戦艦を撃破したエース・パイロットで、戦時中に片足が義足化。
戦後、20以上年下の女性と結婚した。
普通に考えると「かつての英雄が名声に任せて若い女を囲ってウハウハ」なんだけど、ここはあえて
ロシアを恐怖のどん底に陥れた空のエースが、地上にあって一人の女性に癒されたor振り回された、
と萌え変換してみるw
大モルトケは、42歳の時に16歳の義理の姪と結婚しており、仲がよかった。
妻は彼女が42歳の時に亡くなっているが、その後91歳までを一人で過ごした。
東ローマ皇帝ヘラクレイオスは、何歳差か知らないが妹の子=実の姪のマルティナ
と結婚して非難されたが、10人以上子どもがいた。当然仲は良かった。
>>72 小説だとそうおもわないけれどアニメ版だとまさしく犯罪っぽかったw
マリーカのちゃんと外堀埋めてかかるところが好きだった
自分はスケバン刑事の神とサキとかガラスの仮面の速水さんとマヤかな
今になってみると年の差カプってほどじゃないけど
>>75 実の姪と結婚て、ハプスブルク家だと普通にありそう。
スペイン国王フェリペ2世、3人目の妻は18歳年下のフランス王女、子供は二人。
4人目の妻は姪で22歳年下のオーストリア皇女、子供5人。
どちらも仲がよく幸福な夫婦生活だったといわれてる。
なんか不幸そうな王様なので、それ読んでちょっとほっとしたw
ちなみに1人目の妻は同い年、2人目は11歳年上。年上年下同い年、全部制覇。
>>77 漫画だと川原泉は年の差カプが多いな。
今も昔も利家とおまつの年の差ラブラブカポーには萌えまくりだ。
田中芳樹の現代モノとかも歳の差カップルだな。
タイトルとか忘れたが。
「夏の魔術」だっけ?
利家と松ねぇ……
親方様の愛人・犬千代は11の松を強姦したDQNだよな
たまたま夫婦仲が上手くいったから良かったけど
…そういわれるとそうだな
>>80 調べてみたら、19歳と12歳なので実はそれほど離れていない。
魔術師夫妻はどうだっけ。結構差があったような記憶があるが。
ヤン夫妻は7歳差だから大人になってしまえばたいしたことない
ただ初めて出会ってフレデリカが一目惚れしたのが14歳と21歳だから
年の差カプぽい印象があるのかな
耕平と来夢は確か九歳差。二十歳と小学五年だったと記憶している。
十五年ぐらい昔の記憶で悪いが。
そう言えば、ふくやま女史での漫画版も出てたな。最近。
保守代わりに既存作品から年の差カップル紹介を。
「ラーゼフォン」 ♂神名綾人(17) ♀紫東遙(29)
ジャンルは巨大ロボットアニメ。綾人はパイロットで、遙はその保護者という関係。
しかし実際は、彼らは15年前には東京の中学の同級生で、恋人同士でもあった。
遙の旅行中に東京が外界と隔離され、内部での時間の流れが遅くなったことで、
二人の間には12年という、実に大きな年齢の差が生まれることになったわけだ。
真相を知っているのは遙だけで、綾人にとって遙は単なる年上の女性でしかない。
そのことから生まれる二人の微妙な関係、それぞれの苦悩が見所になっている。
作品自体の評価はあまり高くないが、余計な設定や描写をことごとく切り捨てて、
「時間に引き裂かれた恋人たちのストーリー」という形で全編を構成しなおした
劇場版「多元変奏曲」には好意的な意見の方が多く聞かれる。今観るならこれを。
さらにハッピーエンド志向の方には、PS2用ゲーム「蒼穹幻想曲」をお薦めしたい。
ゲームオリジナルルートで、原作を越えたとすら言われる燃え展開の後に待つ
エンディングの会話が実に甘々ですばらしい(他のキャラにも言えることだけど)。
「……こうなったこと、後悔してない?」
「……わたしが、綾人の事を思い続けた15年が報われた喜びは、もしかしたら……
ずっと一緒にいる15年分の幸せよりも、大きいかも知れないわね……」
>86
ラゼポン好きだったけど、ゲームはやったことなかったが、
なんだかやりたくなってきた。
「一緒に大人になりたかった」というセリフを思い出すと、今でも泣ける。
歴史上だと劉備と孫夫人とか。女がじゃじゃ馬なのが萌えるw
女が年上なのは苦手だが、お馬鹿な女子高生と頭良くて生意気な小学生の男の子の組み合わせは好きだな。男の子特有の好きな子にはいじわる的な感情が良い。
お馬鹿な女子高生ではないが、ぼく地球を思い出した
そういやあれも年の差カプだ
91 :
48:2007/05/18(金) 09:37:36 ID:lwudpYSq
>>48 です。
保守代わりに1レス分書いてみた。神の光臨待ちの穴埋めに。
*
「アンー! アンジェリカー!!」
懐かしい声に振り向くと、若草色の麦畑に一人の男が立っている。
どさりと、木いちごが入った籠を取り落とした。
気にも留めず、手を振る彼の元へ走り寄ってくびすじに飛びついた。
勢いに押されて、ハインリッヒがしりもちをついた。
「ハイン!」
どうして、とか、いつ、とか、聞きたいことが多すぎて言葉にならない。
「……会いたかった…………!」
くびすじに顔をうずめて、やっとそれだけを言う。
お帰りなさい、より先に出てきた言葉は一番の思いだった。
ぽろぽろと涙がこぼれる顔をやっと上げて、ハインリッヒの顔を覗き込む。
ずっと会いたいと願っていたはずなのに、いざ顔を見るとどうしようもなく胸が痛んだ。
おぼろげになってしまった記憶の中より黒く日焼けをして、少しだけやつれたハインリッヒの頬にそっとキスをする。
そのまま、昔よくしていたようにくちびるにキスを落とそうとしたところで、ハインリッヒにぐいと頭を掻き抱かれた。
キスは諦めて、変わりに汗の香りのするその身体に腕を回す。
五年経っても、やっと後ろで指先が触るだけの、逞しくて懐かしいその胸に思う存分顔を埋めた。
「……おっきくなっちまったなァ」
緑の香りを乗せた風に溶けたハインリッヒの声色は、なぜだか少し寂しそうに聞こえた。
*
以上。続かない……。
GJ!
あなたこそ神だ!
激しく萌えたよ!
続きが無いなんて惜しい!
是非続きを書いて欲しい。
「……おっきくなっちまったなァ」
とPCの前の俺が言えるような作品希望。
携帯から投下
思いもよらず長くなったので、エロは随分先の話になるが、完結させるまでしばしお付き合いを
『ソレ』を相方に押し付けられた時は、そりゃあもう、どうしたモンかと頭を抱えた。
元々、『ソレ』は相方が面倒をみなければならない代物で、俺には一切関係がない。
なのに。
嗚呼、なのに。
相方は『ソレ』の存在を俺に教えた数週間後、何とも情けないドジを踏んで、この世とオサラバしやがった。
残されたのは俺と『ソレ』
その年、四歳になったばかりの『ソレ』の名は、ディアナと言った。
「ラーク、朝だよ。起きて!」
温もりの残る布団を情け容赦なく引き剥がし、夢の世界から無理矢理現実に引き戻す声に、俺は抱いていた枕に顔を埋めた。
「ラァァァクッ! 起きなさぁぁぁぁいっ!!」
……やかましい。
女子どもの声にしちゃ、ちょっとばかりキーが低いとは言え、耳元で叫ばれちゃ頭の芯まで痺れちまう。
「……うっせぇ」
「朝ご飯。起きてくれなきゃ、何度でも叫ぶよ」
まだ重い瞼を引き上げてディアナの方を見ると、彼女は俺の布団を掴んだまま、不機嫌そうに俺を睨みつけていた。
相方が死んで十四年と三ヶ月。
毎日のように繰り返される、日課とも呼べるこの遣り取り。
俺はゴロリと寝返りを打つと、ディアナの方に向き直った。
「昨日遅かったんだから…もうちっと寝かせてくれや」
「朝ご飯食べてから寝たら良いでしょ。片付かないよ」
「先に食っとけよ。……片付けるから」
「嘘。ラークが片付けた例しなんて、今まで一回もないじゃない」
ああ言えばこう言う。
こういうところは、死んだ相方に良く似ている。
四十を目前に控えた男が、ケツの青い娘に叱られる姿ってのは、端から見れば涙を誘うに違いない。
当の俺も、正直、情けなさに涙が出るが……こうしていても仕方ない。
ようやく体を起こした俺の姿に、ディアナはニッと歯を見せて笑った。
布団を俺の足元に置き、両手を腰にあてる。
「顔洗って、手も洗うんだよ? ちゃんと寝癖も直すようにね」
「うっせぇ。ガキじゃねぇんだよ」
苦々しげに呟くが、ディアナはくるりと踵を返すと、ダイニングルームへと去って行く。
勿論、俺の声を聞き留める様子なんて、これっぽっちもありゃしねぇ。
「ったく」
ガリガリと頭を掻いて欠伸を一つ。
一回起きたら、そう簡単にゃ眠れねぇっつの。
階層都市エルヴィオンス。
下は犬畜生同然の生活を与儀なくされる人々から、上は一国家の年間予算を軽く上回る破壊されきった金銭感覚の持ち主までが集う街。
その中間──第33階層の、薄汚れた雑居ビルの一室が、俺とディアナの暮らす場所だ。
俺の職業は通称「案内屋」。元々は、ディアナの親父である相方と二人で、細々と始めた物である。
現在はそれ以外にも、コネやツテで様々な事に手を出してもいるが、本職はと訊かれれば、俺は間違いなく「案内屋」と答えている。
この世界の中核を成す「ジェネレーター」を探しだし、通称「発掘屋」と呼ばれる者に案内するのが、俺達「案内屋」の仕事だ。
「ジェネレーター」は古代文明の遺産のような物で、各国が総力を上げて所持しようと躍起になっている代物だ。
大きな物なら、それ一つで、このエルヴィオンの街に住む人間の約三倍ぐらいを賄えるほどの、一種の「生命維持装置」である。
勿論、このエルヴィオンも「ジェネレーター」のお陰で、都市としての機能を維持している。
その名の通り「成長する機械」ではあるが、俺達「案内屋」も「発掘屋」も、その本当の姿は知らない。
大抵が人の手の入っていない未開の地に埋没しており、見付け出すのも一苦労。
まぁ、この荒れ果てた世界じゃあ、人の手が入っている場所の方が珍しいが。
それでも、引き当てれば国から多額の報奨が出るし、個人的に発掘すれば、曾孫の代くらいまでは、悠に遊んで暮らせるぐらいの生活が出来る。
「ジェネレーター」の場所を探し当てるのは、そう簡単な事じゃないが、そこはそれ。企業秘密と言うヤツなので、勘弁して欲しい。
着替えを済ませダイニングルームに行くと、ディアナは先に朝食を食べ始めていた。
去年、国の大学を卒業した彼女は、現在は俺の補佐として、親父と同じ「案内屋」としての道を辿り始めた。
ちなみに、それまでの学費は全額、彼女の親父である相方の遺産で賄ってきた。
赤の他人である俺が出す義理なんて、これっぽっちもないし、例え俺が出そうとしても、ディアナ自身が拒んだに違いない。
一流の「案内屋」だった相方の残した遺産はかなりの物だが、早くに嫁さんを亡くし、身寄りもなかった相方は、その全てを一人娘であるディアナに遺した。
今のところは俺が管理をしているが、彼女が二十歳を迎えたら、相方の遺産は正式に彼女の物になる。
それまでは、俺が身元引き受け人として、ディアナの面倒をみる事になっている。
「わっ」
「何だよ」
俺の姿を見るなり、ディアナは不快も露に眉を顰めた。
「髭ぐらい剃ってよ、もー。きったないなぁ」
「俺の勝手だろうが。お前にとやかく言われる筋合いはない」
「だからって、だらしない格好で良い訳じゃないでしょ。お客さんが来たらどうすんの」
「その時はお前が応対してくれ。俺は忙しいんだ」
「まったく……このクソ親父」
ぶつくさ文句を溢しながらも、ディアナは席を立つと俺のコーヒーを入れ始める。
動きはテキパキとしていて、見ていて気持ち良いぐらいだが、同じぐらい良く動く口はいただけない。
「そんな調子だから、いつまでたってもお嫁さんが来ないんだよ。あー、心配心配」
「放っとけ。お前みたいなコブ付きだから、迎えに行けねぇんだろうが」
「あ、また私のせいにした!」
こんな遣り取りもいつもの事。
もう、いつからなのかは覚えてはいないが、事ある毎にディアナは「嫁を貰え」と鬱陶しい。
実際のところ、仕事にかまけているうちに、そんな機会を何度となく逃してしまったのだが、その事とディアナは関係ない。
「だから言ってるじゃない。ラークがお嫁さんを貰うなら、私は独り暮らしでもなんでもする、って」
「馬鹿か。お前みたいなじゃじゃ馬、放っといたら何するか分かんねぇだろうが。俺はお前の親父に、お前が成人するまで面倒みるって約束してんだよ」
「モテない言い訳は結構。ハイ」
口の減らないディアナは呆れたように唇を尖らせ、コーヒーの入ったマグカップをテーブルに置いた。
俺だって、何も好き好んで独り身を貫いている訳じゃない。単に縁が無かった。それだけだ。
だが、そう言ったところで、悔し紛れの憎まれ口にしか聞こえないであろう事を、俺は重々承知している。
いつもの事だ。
「そう言えば、さっきアランさんから連絡が入ってたよ。昼までに、事務所に連絡くれって」
「アランが? 何か言ってたか?」
「別に。ベッドとデート中ですって言ったら、たまには俺とデートして下さい、だって」
あんにゃろう。
気持ちの悪い事ぬかすんじゃねぇよ。
アランは俺が懇意にしている「情報屋」の一人だ。
国の「ジェネレーター」の研究員で、俺や相方の学生時代の後輩にあたる。
さっきも言ったが、「ジェネレーター」を探し出すのは簡単な事じゃない。
様々な要因が複雑に絡み合い、それを解いてようやく、確かな場所が確認される。
俺達のような「案内屋」でも、本当にその場所に「ジェネレーター」があるのかどうかは、一種の賭けに等しいが、それを助けてくれるのが、アランのような「情報屋」の存在だ。
国にしてみれば、「ジェネレーター」さえ確保出来れば、その経緯なんざどうでも良いらしく、情報が流されても見て見ぬふりをしている場合が殆んど。
さっきはああ言ったが、個人で扱うには「ジェネレーター」の存在は極めて危険で、実際のところ個人的な「ジェネレーター」所有者は皆無に等しい。
アランの用件には覚えがある。
先日、新しい「ジェネレーター」が発見されたと言う情報が流れた。その件についてだろう。
ついでにもう一仕事ぐらい、押し付けられるに違いない。
「ディアナ、しばらく留守にするかも知れねぇけど、お前はどうする」
「へ?」
唐突な俺の問掛けに、サテライトニュースに意識を向けていたディアナが、きょとんとした顔で間抜けな声を出した。
「お前、まだ現場に行った事ないだろ? 行きたいってなら、ついてきても構わないが」
「い、行けるの!?」
「あぁ……」
身を乗り出したディアナの顔は、喜色満面。好奇心いっぱいです、と張り紙が貼られたみたいに、瞳を輝かせている。
「まぁ、アランと打ち合わせをしてからになるが──」
「行く! 行きますっ!! 行かせて下さいっ!!!」
「分かった。分かったから、乗り出すなっ。コーヒーが溢れるっ!」
ぐいぐいと体を乗り出すディアナのマグカップを、慌てて傍らに寄せる。
ディアナは心底嬉しそうに、へにゃりと顔を緩めながら、再び椅子に腰を下ろした。
「やったね。ラーク、大好きっ!」
「あー、はいはい」
きゃっほうい! なんて奇声を発するディアナを横目で見ながら、俺はコーヒーをすすった。
ディアナは決して無能じゃない。そろそろ本格的に仕事を覚え込ませても良い頃だ。
俺が十八の時には、もういっぱしの「案内屋」きどりだったし、相方のお陰もあって、そこそこ仕事をこなせるようにもなっていた。
もう二十年以上昔の話だが、ディアナを見ていると、その頃の俺がダブって見える。
相方に受けた恩は今でも忘れちゃいない。
俺が出来るのは、その恩をディアナを一人前にする事で返す事だと、俺は思っている。
アランの用件は、おおよそ、俺の推察通りの代物だった。
『お久しぶりです、先輩』
「おう。で、話ってのは例の?」
画面の向こうで、アランはチェシャ猫のようなニンマリ顔で頷いた。
『さすが先輩、話が早い。お察しの通り、先日存在が確認された「ジェネレーター」に、正式な発掘要請が下りました』
傍らのタッチパネルを操作して、アランから送られて来た情報をディスプレイに写し出す。
「EN-2地区……ライン渓谷周辺か」
『場所が場所ですから、百戦連磨とはいかなくても、なるべくベテラン、かつ体力の有り余ってる「発掘屋」でないと、厳しいですね』
「おい、かなり矛盾した条件じゃねぇか?」
思わず眉間に皺を寄せると、アランは益々笑みを深めた。
この笑顔を見る度に思うが、こいつ、本当にチェシャ猫が先祖なんじゃなかろうか。
『仕方ありませんよ。まぁ、先輩の人脈には期待していますから。頑張って下さい』
「ハイハイ」
『資料はいつものように、まとめて送信していますので。それからもう一件。こちらはまだ機密情報の段階ですが、EN-6地区に微量ながら「ジェネレーター」の反応が出ています』
やっぱり、と言えば良いだろうか。どちらかと言えば、そっちの方が本題だろう。
俺にとっても、飯の種になる重要な話だ。
「いつも悪いな」
『なんの。先輩の腕を信用していますからね。存在が確定すれば、ちゃんと情報料を頂きますよ』
EN-6地区と言えば、エルヴィオンスからランドカーゴで四日の距離。
ライン渓谷を通過して行ける場所だし、そっちの仕事は「発掘屋」任せで構わないだろう。
頭の中で算段を組み立てながら、資料に目を通す俺に、アランが声を掛けた。
『それにしても』
「ん?」
何か言いたげな様子に、そちらに視線を移すと、アランのにやにや顔が、ニヤリとした顔、ぐらいの変化を見せていた。
『ディアナさん、綺麗になりましたね』
ぶはっ!!
至って真面目な声で何を言うかと思えば、唐突にそんな事をぬかしやがる。
思わず吹き出した俺の様子に、アランは画面の向こうでハンカチを取り出して、ごしごしと画面を拭い始めた。
『やだなぁ、先輩。ディスプレイが汚れるじゃないですか』
「そっちが汚れる訳ぁねぇだろっ!」
『汚れますよ。先輩、知らないんですか?』
「んな訳ねぇぇっ!!」
白々しく笑った──と言っても、大抵の場合、こいつは得体の知れない薄ら笑いを浮かべているから、表情の変化が分かる奴は少ないが──アランは、丁寧にハンカチを折り畳みながら口を開いた。
『ゴードン先輩が亡くなって十四年、ですか。そろそろ、ディアナさんにも浮いた話の十や二十は──』
「ねぇな」
『おや、えらくきっぱり言い切りますね』
アランの言葉を遮って言うと、アランは両の眉を押し上げて首を傾げた。
「たりめぇだ。伊達に十何年も、親代わりをやってる訳じゃねぇよ」
『またまた。知らぬは親ばかりって言葉もありますよ。先輩が知らないだけで、あちこちからお誘いの声が掛っていても、不思議は無いと思いますけどねぇ』
「っ……」
『それに、ディアナさんも年頃でしょう? 男親に話せない事って言うのは、実の親子にだってありますから。先輩と彼女じゃなおさら、話せない事だってあるかも知れませんよ』
「…………分かってるよ」
くそっ。
痛い所を突いてきやがる。
例え長年一緒に暮らしていても、俺がアイツの親代わりだと思っていても、俺達は本当の親子じゃない。
仮に、書類の上での親子にはなれても、やっぱりあいつの父親は相方だけだし、どう頑張っても俺は相方にはなれない。
結果、俺とディアナの間に生じた薄いカーテンのような隔たりは、親子らしさを失った、何とも奇妙な同居人の関係を産み出していた。
けど……相方が死んだ時は、正直ディアナの扱いに困りもしたが、今は誰が何と言おうと、彼女は俺の家族だ。それだけは言える。
「……まぁ、あいつを手懐けられる男が出来たら、そん時は喜んで祝福してやるさ」
『本気ですか?』
「家族の幸せを願って何が悪い。本気だよ、俺は」
『そうですか』
面白くないとでも言うように、態とらしいまでの仕草で、アランは首を左右に振った。
こいつとの付き合いも長いが、相変わらず掴めない野郎だ。
「話はそれだけか?」
『えぇ。それじゃ、「発掘屋」の件、よろしくお願いします』
「あいよ。今日中に手配しておくよ」
『分かりました』
「それじゃあ」と言い終わるか終らないかのうちに、ブツリと回線が切断される。
完全にブラックアウトした画面を見つめて、俺は小さな溜め息を吐いた。
「なーに騒いでたの?」
「うぉったぁ!」
ノックもなく部屋の扉が開かれて、思わず背もたれに退け反る。
仰ぎ見ると、呆れた眼差しのディアナが、片手にマグカップを手に立っていた。
「外まで聞こえてたけど」
「何でもねぇよ」
お前の話だ、なんて言える訳もなく、俺は椅子を軋ませ体勢を整える。
アランから送られて来た資料をディスプレイに広げていると、背後からディアナが覗き込む。
手にしているマグカップから、コーヒーの香りが漂った。
「ライン渓谷? 此処に行くの?」
片腕を椅子の背もたれに乗せているらしく、僅かに椅子が軋む。
俺はちらりとディアナを見ると、タッチパネルに指を伸ばした。
「いや。こっちはジェスに任せる。俺達が行くのはEN-2地区だ」
「そっか」
画面をスクロールして資料を斜め読み。
耳元でズズリとコーヒーをすする音がやかましいが、行儀の悪さは俺譲りなので、言っても利かないだろう。
ジェスは、俺がこの仕事を初めてからずっと、世話になっている「発掘屋」の一人だ。
正確にはジェスの親父さんの代から世話になっているが、ジェス自身もガキの頃から先代にくっついて回っていたせいか、二十代半ばと若いながらも、優秀な「発掘屋」である。
アランの言葉じゃないが、ライン渓谷での発掘は、かなりの体力と技術を必要とする。
他にも何人かアテはあるが、ジェスなら、そう心配する事もない。
何よりあいつは、アランに貸しがある。奴からの話だと言えば、簡単に断られる事もないだろう。
概要を頭に叩き込み、今度はジェスへと通信回線を開く。
しばらく待つと、黒一色だった画面が白に染まり、次の瞬間、見慣れた奴の事務所に切り変わった。
『どうしたんすか、ラークさん』
恐らく用事の途中だったんだろう。椅子に座る事もなく、ジェスが画面を覗き込む様子が映ったが、
『あ、ディアナさんっ』
「おはよ、ジェスさん」
俺の真隣でディアナがヒラヒラと手を振ると、ジェスは慌てて椅子を引いた。
『おはようございますっ! お元気そうで』
「あははっ。ジェスさんもね」
『は、はいっ!』
女に免疫が無いのか、それともディアナに惚れているのか、騒騒しくも椅子に座ったジェスの顔は、見事に真っ赤に染まっている。
他の女と話す時も妙にしゃっちょこばってるから、ディアナに惚れてるって可能性は低いだろうが。
「ディアナ、向こう行ってろ」
「ちぇーっ。ケチ」
「ケチで結構」
一緒にいられると、どうにも話が進まなくて困る。
冷たく言い放った俺に、ディアナは尚もぶーぶーと文句を垂れていたが、素直に俺の傍を離れると、コーヒーをすすりながら部屋を出て行く。
画面越しにその様子を見ているのか、ジェスの視線は俺を突き抜け、背後の扉へと注がれていた。
まったく……どいつもこいつも。
「ジェス、仕事の話だ」
『あ、は、はい!』
わざと低い声を掛けると、ハッと我に返ったジェスが、慌てて俺に視線を向けた。
俺はアランから送られていた資料から、ライン渓谷の発掘作業に関する物だけを抜き出すと、画面の向こう側のジェスへと送信する。
「政府からの要請だ。依頼はアランの所属チーム。ちょいとキツいが、何とかなるか?」
俺の送った資料を広げたジェスは、傍らのサブモニターを眺めていたが、やがて小さく頷いた。
『何とかしますよ。最近、新しい削岩機を買ったんで、試してみたかったんすよね』
白い歯を見せて笑うジェスからは、さっきのような狼狽振りは微塵も感じられない。
ほどよく日に焼けた顔付きは精悍で、こいつほど「好青年」って言葉が似合う野郎も、今時少ないに違いない。
「そりゃ好都合だ。日程はそっちに任せる。あと、発掘が始まれば俺は別件で移動すっから、あとの処理なんかも直接アランと打ち合わせておいてくれ」
『分かりました。相変わらず、忙しいんすね』
「お前ほどじゃねぇけどな」
謙遜と皮肉を込めて返すと、画面の向こうの好青年は、困ったように笑った。
『相変わらずキツいっすよ、ラークさん』
「本当の話だろ」
『まったく』
ジェスはがりがりと頭を掻いて見せる。
素直と言うか素朴と言うか。真面目なのは良い事だ。
『あぁ、そうだ。ラークさん、ブレンダ・マグライアンって知ってます?』
唐突に話題を切り替えたのは、これ以上俺に突っ込ませないためだけではないようだ。
聞き覚えのない名前に、俺は無精髭の残る顎を撫でながら首を傾げた。
「いや。誰だ?」
『最近売り出し中の「発掘屋」……いや、ラークさんの商売敵って言った方が良いかな』
「「探索屋」か?」
『はい』
「ジェネレーター」を発掘するために関わる職業は、大きく分けて四つある。
アランのように「ジェネレーター」に関する情報を扱う「情報屋」
その情報を元に「ジェネレーター」を探し発掘までを手助けする俺達「案内屋」
要となる発掘を専門とし、依頼人に届けるまでを請け負う「発掘屋」
そして、自ら探索と発掘を兼ねる「探索屋」
「ジェネレーター」を探すだけでも相当な手間と時間が浪費されるため、大抵は「案内屋」と「発掘屋」はコンビを組む事が多いが、「探索屋」の数も少なくはない。
当然ながら「案内屋」と「発掘屋」両者の取り分を一人で貰えるため、憧れる奴も多いのだが、その分、危険も段違いに大きい。
『この間会ったんすけど、かなりの凄腕っすよ。オマケに美人』
「女か」
『はい。一度、一緒に仕事をしようって話になったんで、誘ってみますよ。ラークさんの話をしたら、興味があるって言ってましたし』
いったいどんな話をしたのやら。
気になりはするが、人脈は多い事に越した事はない。例え相手が商売敵であってもだ。
「分かった。日程が決まれば、また連絡してくれ。細かい打ち合わせはその時に」
『分かりました。じゃ、また連絡します』
アランからの資料を確認して、準備に掛る時間も必要だ。
出発は三日後ぐらいになるだろう。
通信を切った俺は、再び資料に目を通す。
そうこうしているうちに、俺の頭からは、ブレンダ・マグライアンの名前は消えていた。
今回はここまで
勿論、自分以外の投下も楽しみにしているので、職人さんは気にせず投下して下さい
乙!
今後の展開がどうなっていくのか、とても楽しみです。
続きを投下
相変わらずエロまでの道のりは遠いorz
事前にアランとジェスの三人で打ち合わせを重ね、ランドカーゴに機材と物資を積み込んで、エルヴィオンスを出発したのが、二日後の事。
ライン渓谷には二日、EN-6地区であるサンドレイクには、更に二日を要するが、一先ずはライン渓谷の仕事に目処をつけておかなきゃならない。
一旦居住区を出ると、灼熱の太陽から降り注ぐ情け容赦ない日差し。もしくは厚く黒い雨雲から降り注ぐ情け容赦ない雨か雹。
統制されきった居住区──特に、直接政府の管轄下に置かれている階層都市では、天候も気候も全ては中央管理局の「ブレイン」によって管理されている。
産まれも育ちもエルヴィオンスのディアナには、キツいんじゃないかと心配もしたのだが、彼女は至って元気で、今も俺の隣で簡易探索機──通称チップを操作しては、周囲の様子を調べている。
ポンコツランドカーゴの中は、機材と物資でひしめきあって、俺とディアナは昨日から、それぞれ運転席と助手席で寝起きを繰り返していた。
鼻唄混じりにチップをいじるディアナは、時折水を口にすると、また鼻唄を再開させる。
「ジェネレーター」は、発掘されなくても生命維持装置として半永久的に動き続けている代物だから、周囲の生態系を調べる事が、探索の第一歩に繋がる。
勿論、理由はそれだけじゃない。発掘以前に大型生物に食われて終り、なんて言う最期にならないためにも、この調査は初歩の初歩として非常に重要な意図を持っている。
今回は「ジェネレーター」の場所が特定しているから、それに関しては調査は不要だが、命に関わると言う点に於いては、生態系の調査はやっておいて損はない。
「あんまり大きい物は、いないんだね」
チップの小さな画面から顔を上げたディアナが、水を口に含んで呟いた。
それが何を意味するのかは、聞き返さなくても分かった。
ディアナも俺の返事など期待していた訳ではないらしく、チップに繋いでいたケーブルを抜いて、独り言のようにブツブツと呟きを続けた。
「渓谷ってぐらいだから、てっきりラウドホークとかグルーミーワームぐらい、居るかと思ったんだけど」
「んなもんを期待すんな。第一、グルーミーワームなんざ居たら、こんなポンコツ、一発で穴だらけだぞ」
「あははっ。それは困る」
ぐるぐるとケーブルを巻いてバッグの中に放り込んだディアナは、膝にチップを広げたまま、両手を上に大きく伸びをした。
「ラーク、運転代わろうか?」
「いや。まだ良い。お前は、ちっと休んどけ。あとで嫌になるぐらい、運転させてやる」
「はーい」
パタリと両手を下ろし、ディアナはチップを閉じる。
口を閉ざした彼女は、座席を申し訳程度に倒すと、トランクと化した後部座席から、ごそごそと膝掛けを引っ張り出した。
窓の隙間にそれを挟み、きっちりと窓を閉めて簡易遮光カーテンを作り、チップをバッグに放り込んで目を閉じる。
原野をひた走るランドカーゴから見えるのは、どこを向いても薄茶色の荒れた土地と真っ青な空だけ。
雲一つない青空の真ん中には、これでもかと熱を振り撒く大きな太陽。
空調の利きの良さだけが自慢のポンコツだが、日差しまでは防いではくれず、窓から差し込む光線に、肌はじりじりと焦がされていく。
もう少し金を出せば、遮光遮熱機能のついたランドカーゴに買い換える事も出来るが、俺はこいつが気に入っていた。
二昔ほど前の性能だが、使えるうちはこのポンコツでも充分ってもんだ。
しばらくランドカーゴを走らせているうちに、ふと隣の様子を伺うと、ディアナはあっさりと眠りに落ちていた。
切り揃えられたストロベリーブロンドの髪。同じ色の形の良い眉は、前方からの日差しに若干寄せられ、時折瞼がピクと動いているのが分かる。
幼い頃の面影を残すあどけない寝顔。けれど、確かに女性へと成長しているその顔は、嫌でも長い年月を思い知らされる。
子どもの頃は俺の腰にも及ばない背丈だったのに、今は頭一つと半分ぐらいに、その差は縮まっているし、伸びた手足もそうだ。
すらりと、と言うには些か抵抗がある物の、ずんぐりむっくりと言うほどでもない。年相応と言う表現が一番しっくりくるだろうか。
子どものようなぽちゃぽちゃとした丸さではなく、ほど良くふくよかな体つきは、女性らしい曲線を描きつつある。
何とは無しにそんな事を考えて、俺は密かに苦笑した。
これじゃあ、子どもの成長を喜ぶ親と言うよりは、単なるロリコンの変態親父だ。
誓って言うが、俺にそんな気は無い。
あったとしても、ディアナに手を出すほど飢えてもいないし、彼女をそう言った眼で見た事も無い。
「……あち」
ランドカーゴは原野をひた走る。
あと四刻ほどすれば、ジェスとの落ち合い場所に着くだろう。
差し込む日差しの熱さからか、背に伝う汗の不快感に眉を寄せながら、俺はハンドルを握り直した。
日差しが和らぎを見せ、空を茜色に染めながら、渓谷の向側に沈む頃、ジェス達の乗って来たランドカーゴの姿が見えた。
彼等も、今到着したばかりなのか、ベースキャンプの用意の真っ最中だ。
「あー、疲れた」
ランドカーゴを降り、強張った体をほぐすように、肩を叩きながら首を鳴らす。
ディアナも同じ時間、窮屈な座席に居たはずだったが、軽い伸びをすると、すぐにラーク達の方へと駆け出した。
若いってのは素晴らしい。
「お疲れっす」
弟のダニーと二人、簡易テントを張り終ったジェスが、ヒラヒラと片手を振る。
俺も片手を軽く上げると、ディアナに続いて二人の方へと歩み寄った。
「お疲れ。ご苦労さん」
「ディアナさんも一緒なんすね」
「おう。そろそろ現場研修が必要だからな」
前もってアランと話を進めていたので、ジェスも今回の仕事に関しては承知の上。
いつもなら、本格的に発掘が始まるまでが「案内屋」の仕事だが、今回は当たりがついているので、一緒に行動するのは明日一日で済んでしまうだろう。
「よろしくお願いしますね」
「こ、こちらこそ」
ぴょこりと頭を下げたディアナに、ジェスは照れているのか、しきりに手をジーンズで拭っている。
その様子をニヤニヤと眺めていたダニーにも、ディアナは礼儀正しく頭を下げた。
「よろしくね、ダニー」
「おう」
一回り近く年の離れた兄弟は、年が違えば性格も違う。
ジェスの好青年ぶりに比べると、ダニーは見事に不良少年だが、共通しているのは二人とも「発掘屋」としてプロ意識を持っていると言う事。
俺もダニーと一緒に仕事をするのは初めてだったが、年が若いからと甘く見る気はない。
本人が「プロだ」と言うのなら、こちらも対等に相手をするのがプロとしての礼儀だろう。
「あとはベースで終りだから、おっさん達も自分のテント、張っとけよ」
「誰がおっさんだ。行くぞ、ディアナ」
「はーい」
可愛げのないダニーの頭に一発をくれてやってから、俺とディアナもランドカーゴに戻る。
俺一人なら、ランドカーゴの中で寝起きしても構わないが──と言っても、出来る事ならテントの方が良いぐらい、俺のポンコツは窮屈だが──さすがにディアナと一緒だと、そう言う訳にも行かない。
面倒だとは思うが、一応ディアナも年頃の少女。保護者としては、気配りを忘れる訳にもいかないのが大変なところだ。
ジェス達と俺達のランドカーゴの傍らに、三組のテントが張られる。
二つは寝起き用。一つは食事や打ち合わせ、調査機材の置かれたベース用だ。
それが終ると、今度は食事の準備。
場所が場所だけに自給自足と言う訳にもいかず、食事は主に持ち込んだ物資で賄われる。
「そう言えばジェス、ブレンダって奴は?」
オートミールとジャーキーと言う、なんとも簡素な食事を終えた頃には、もう太陽は沈みきっていた。
夜の静寂と闇が広がる中、聞こえるのはダニーがチップから流すサテライトニュースの声だけ。
そのダニーはディアナと二人、外で片付けをしているから、ベースの中は俺とジェスの二人だけだった。
「まだっすね。今日中に着くとは言ってたんすけど」
「そうか」
「あんま遅いと心配っすね」
「あぁ……」
ただでさえ危険な居住区の外。
危ないのは昼でも同じだが、夜になれば危険度は何倍にも増す。
俺はコーヒーをすすりながら、自分のチップのスイッチを入れた。
ベースを拠点に、半径百キロ四方のチップの反応を探る。
チップ同士は互いに呼応するシグナルを発していて、シリアルナンバーさえ分かれば、持ち主を特定する事も可能だ。
こんな仕事をしていれば、持っていない奴の方が珍しく、俺がチップを立ち上げたのも、そう言った理由からだ。
何箇所かにポツリポツリと反応はあるが、移動しているチップの数は少ない。
そのうちの一つが、俺達の居るベースキャンプに向かっているのを確認して、俺はチップを閉じた。
「もうすぐ着くみたいだな」
「そうっすか」
「終ったよー。打ち合わせはまだ?」
バサリとテントの入り口が持ち上げられ、ディアナとダニーが顔を出す。
楽しくて仕方がないと言った様子のディアナは、俺の隣の席に腰を下ろした。
「もう一人が来たら、始めましょうか。ダン、地図の用意」
「へいへい」
ジェスに言われ、ダニーはモニターをテーブルの中央に移動させる。
ジェスがチップを取り出したのを見て、ディアナも慌てて自分のチップをジーンズから引っ張り出した。
「ね、もう一人って?」
耳打ちのような距離でヒソヒソと声を落としてディアナが訪ねる。
俺はダニーから受け取ったケーブルをチップに差し込みながら答えた。
「何でも、美人で凄腕の「探索屋」だそうだ。今回、サンドレイクまで一緒に仕事をする事になったんだよ」
「ふぅぅぅん」
「……なんだよ、その顔は」
俺の説明が気に食わなかったのか、ディアナは唇を尖らせてそっぽを向いた。
「べっつにー」とか何とか言いながら、手の中でチップを玩ぶ。
子どもだ。
つか、ここで不機嫌になる理由が分かんねぇ。
「ディアナさん、コーヒーで良いすか?」
「あ、うん。ありがと」
立ち上がったジェスがポットを片手にディアナに問う。
さっきまでの不機嫌具合いはなりを顰めてはいるが、俺の方を見ようともしないから、まだ完全に機嫌を直した訳でもないらしい。
なんなんだ、いったい。
「兄貴、俺のは?」
「自分で煎れろ」
気遣いの出来る男も、自分の弟には厳しいようだ。
チッと舌打ちを鳴らしたダニーは、サテライトニュースを切ると、ジェスと並んでコーヒーを煎れ始めた。
しばらく他愛もない雑談を続けていると、やがて外から唸り声にも似た地響きと、ランドカーゴ特有のエンジン音が聞こえてきた。
「来たみたいっすね」
コーヒーを飲み干したジェスが立ち上がる。
俺も続いて席を立つと、ジェスと並んでテントの外へ出た。
埃くさい乾いた空気は、夜になって気温が下がってきたせいか、ひんやりと冷たい。
エルヴィオンスを出てからと言うもの、シャワーを浴びていないから、汗ばんだ肌が気持ち悪いが、こんな夜だと風邪を引くかも知れない。
もっとも、汗を流すのは陽のあるうちと言うのが、この仕事の常識だから、そんな心配もないのだが。
俺の可愛いポンコツの隣に、一際大きなランドカーゴが停まる。
最近発売されたモデルの中でもかなりの高級品。値段も相当な代物だ。
「ごめんね、遅くなって」
ランドカーゴから降りた女性が、ヒラヒラと片手を振りながら、俺達の方へと歩み寄った。
「いや、大丈夫っすよ。ブレンダさん、彼が噂のラークさんっす」
「あら、ホント。噂通りの良い男ね」
ジェスの言葉に、ブレンダは青い目を丸くして俺を見つめる。
栗色の髪がふわりと揺れて、香水でも付けているのか、爽やかな柑橘系の香りが鼻をくすぐった。
「ブレンダ・マグライアンよ。よろしく」
「ラーク・ワイアットだ」
差し出された手を握り返すと、ブレンダはふふりと笑った。
確かに、話に聞いていた通りの美人だ。
女の年齢は見掛けじゃ分からないが、恐らく三十前後。
肉感的、とでも言おうか。タンクトップを盛り上げる豊満な胸。腰のくびれは見事なラインで、続く下半身は、これまた豊かなヒップラインを描いている。
ディアナもそれなりに成長してるとは思うが、ブレンダの前じゃ見劣りする。
こんな事を言ったら、半殺し決定だろうから、間違っても口には出来ないが。
「そっちの二人は?」
俺達の後ろを覗き見たブレンダの言葉に振り返ると、ディアナとダニーもテントの外へと出て来ていた。
「弟のダニーと、ラークさんの……被保護者のディアナさん」
「あら、娘さん?」
間違っちゃいない答えに、ブレンダは面白そうに俺を見上げる。
詳しく説明するのも面倒で「そんなモンだ」と答えると、ブレンダはにこやかに笑いながら、二人の方へと歩み寄った。
「ブレンダ・マグライアンよ。今回はよろしくね」
「うす」
「よろしくお願いします」
ぶっきらぼうなダニーと、頭を下げるディアナ。
躾た覚えもないが、この礼儀正しさは保護者ながら関心する。
目の前に反面教師がいるからだ、とはアランの言葉だ。
挨拶を終えた俺達は、揃ってテントの中へと戻る。
ブレンダは自分のランドカーゴで寝起きをするらしいから、テントを設置する手間もない。
明日からの発掘の打ち合わせを終え、それぞれがテントを出る頃には、月が高く昇っていた。
テントの割り振りは、ジェスとダニーで一つ。俺とディアナで一つ。
しつこいようだが、ディアナは俺の娘のようなもんだ。俺もディアナも、同じテントで一晩を過ごす事に異論はない。
だが。
「あら、二人一緒のテントなの?」
ブレンダが何気無く告げた言葉に、ジェスとダニーの視線が俺達二人に向けられた。
そう言えば、テントの割り振り説明はしてなかったっけ。面倒だから。
「え……っと」
三人の眼差しに、ディアナはおろおろと迷う様子を見せ、俺を見上げる。
そんな顔で見られても困る。
「ラークさん」
「はい?」
「良ければ、私のランドカーゴを使って下さい。私、ディアナとテントを使いますから」
……は?
「そ、そうっすよ。女性は女性同士の方が良いと俺も思います!」
……ちょっと待て。
いや、そりゃあ、俺だって倫理的と言うか道徳的と言うか、その方面からすりゃ、俺とディアナが同じテントってのは、多少は問題アリだとは思うが。
かと言って、今日知り合ったばかりの女のランドカーゴを使うのも、どうかと思う。
だったらポンコツを使えば良いだろうって話だが、生憎、俺のランドカーゴは宿泊に適していない。夜が冷えなきゃ、外で寝る方がマシな代物だ。
わざわざテントを積んで来たのだって、これから長期間の仕事になるからだ。
一泊ぐらいならまだしも、二日三日と続けて泊まれるほど、俺のランドカーゴは広くもないし、俺もそんな気力はない。
もしも本当の親子なら、ジェスは何も言わなかっただろう。
しかし、俺とディアナは血の繋がりなんてこれっぽっちもない。
本気でよこしまな想いを抱いてりゃ、絶対譲らない事なんだろうが、ブレンダもジェスも純粋に俺達に気を遣って心配しているに違いない。
だからこそ、俺は悩んでいるのだが。
「……どうするよ、ディアナ」
「私は……構わないけど」
結局のところ、決定権は俺にはない。
ディアナに決めさせるのが一番だと思い尋ねると、ディアナは悩みながらも小さく頷いた。
「なら決まりね。ラークさん、これ」
パッと顔を明るくしたブレンダが、ランドカーゴのキーを取り出す。
ここまで来て受け取らなければ、またなんだかんだと鬱陶しいに違いない。
渋々ながら右手を出してキーを受け取ったが、その様子にディアナが不満そうな眼差しを向けた。
「何だよ」
「……別に」
ふぃっとそっぽを向いて、ディアナはスタスタとテントの方へと歩き出す。
だから、いったいなんなんだよ。誰かあいつの頭の中を、俺にも分かるように説明してくれ。
「それじゃ、お休みなさい」
「おう……」
「お、お休みなさい!」
ヒラと手を掲げたブレンダは、足早にディアナの後を追った。
「……おっさん、どーすんの?」
女二人に見惚れるジェスの隣で、それまで興味無さげに欠伸なんかをかましていたダニーが、俺を見上げる。
果たして何の事なのか。
思い当たる事が多すぎて、俺は眉を寄せてダニーを見下ろした。
「何がだ?」
「ソレ、本気で使うのか?」
顎で指したのは掌中のキー。
どうやらダニーも、俺と同じ考えらしい。
俺はしばしキーを見つめたが、顔を上げるとダニーに右手を差し出した。
「お前、代わりに使うか?」
「冗談。おっさんが受け取ったモンを、なんで俺が使わなきゃなんねぇんだよ」
「馬鹿馬鹿しい」と可愛げのない調子で言い捨てて、ダニーは踵を返しテントに向かう。
その様子に、ようやく我に返ったジェスは、俺に申し訳程度に頭を下げて、慌ててダニーの後を追う。
残された俺は、二人の後ろ姿を見送ると、キーを見つめて溜め息を吐いた。
可愛いポンコツだが、寝不足だけは避けなきゃならん。判断力が鈍っちゃ、仕事にならないのは明白だ。
となればもう、腹をくくるより他にない。
「ついてねぇ」
ガクリと肩を落として、ブレンダの乗って来たランドカーゴに足を向ける。
結局、まんじりとも出来ず夜が明けたが、それは言う間でもないだろう。
今回はここまで。
SFって難しい……。
GJ!
世界観をさらりと説明してあってすごいなー。
自分だったら、説明が長くなって書いてるうちに
収拾が付かなくなったりするんで。
押せ押せディアナタンになるんでしょうか。
楽しみにしてます。
122 :
名無しさん@ピンキー:2007/05/24(木) 04:45:42 ID:61ZiNsad
面白い!!
続きが気になる!
123 :
名無しさん@ピンキー:2007/05/24(木) 08:20:48 ID:6/xxjU/S
偶然見つけたスレでこんなにいいものを読めるとは……!
今日の自分はついてる。とりあえず、物凄く期待してます。
GJ!続き期待しています!
年齢差カップルといえばサクラ大戦3〜4の大神さんとコクリコには萌え死んだなあ
GJです!
>>124 自分もコクリコはかなり上位だったなぁ
あと米田とかすみという超マイナーな妄想もしてますた
126 :
教師と生徒:2007/05/27(日) 19:12:11 ID:i5dRwh88
長い長い長い数式をチョークで黒板に刻み、塚原源蔵(つかはら げんぞう)は振り返った。
塚原はアゴの無精髭(今朝、新妻共々寝坊してしまい剃る暇がなかったのだ)を撫でながら、教室を見渡す。短く刈り上げた髪に精悍な顔立ち、ジャージに包まれた筋肉質な長身は体育教師を連想させるが、れっきとした来年四十に届こうという数学教師である。
鋭いのか鈍いのかよく分からない目つきが、今の状況を分析する。
秋陽高校2年3組の生徒は真面目半分、不真面目半分な生徒達で構成されていた。
……ま、誰かが答えりゃいいんだが。
そう思い、黒板に軽くチョークを突き立てた。
「ここの問題、分かる人――」
すると、勢いよく色白の手が上がり、
「はい――」
烏の濡れ羽色をした長い髪の、清楚な雰囲気の少女が立ち上がった。
「――お義父さ、……ま……」
声が……徐々にしぼんでいく。
まず、「やってしまった」的な気まずさが発生した。
次いで、教室がしんと静まりかえる。
さらに、真面目に聞いていた生徒も、雑談していた生徒も、一斉に彼女に視線を集中させた。
最後、クラスは爆笑の渦に包まれた。
うっかり。
凡ミス。
もはや、俯いた少女は耳まで真っ赤であった。
「……塚原、まあ落ち着け」
塚原は深々とため息をついた。まー、自分だって小学校時代、一度や二度、
先生の事を「母さん」と呼んでしまった恥ずかしい経験はある。
あまり笑うのも気の毒だろう。
とはいえ実際、塚原と少女――塚原響(つかはら ひびき)は血は繋がって
いなくとも、数ヶ月前までは親子関係にあったので、完全に間違いではないの
だが。
「ごめんなさい、旦那さ……」
響は塚原に途中まで言い、小さな口を両手でふさいだ。
「〜〜〜〜〜っ!!」
塚原は教壇に突っ伏し、教室内はもはや再起不能の極限状況へと突入しつつ
あった。あああああ、また職員室で教頭にネチネチ言われる事、確定だ。
「じゃなくて、え、えっと、その、先生! 違う! 違うんです、皆さん!
これはちょっと気が動転してですね!」
そして涙目の響がフォローを入れれば入れるほど、皆の笑いは大きくなって
いた。
つい数ヶ月前まで(色々とややこしい事情で)血の繋がらない親子関係だっ
た二人が、現在は婚姻関係にあるのはもはや周知の事実だ。
だが!
義理の親子だろうと新婚夫婦だろうと、ここは教室なのである。
教師と生徒のケジメは付けなければならないだろう。
「塚原、いいから問題を解け」
「は、はい……」
真っ赤な顔のまま、響はこちらにやって来た。
生徒の何人かが、酸欠状態になり、床に転がっている。
まあ、放っておいても大丈夫だろうと塚原は判断した。ここの連中は丈夫だ
し。
とか思っていると、申し訳なさそうな小声で、響が囁いてきた。
「……今晩、おいしいモノ作りますから、許して下さい」
ニヤニヤ笑う生徒どもを苦々しく見ながら、塚原は新妻に囁き返す。
「お前な、オレを食い物でつられる男だと?」
「日本酒……今晩は『羅生門』、お付けします」
「よし、許す」
即決であった。
教師と生徒のケジメよりも酒が大事な男、塚原源蔵であった。
ただ、響は少し心配そうな顔をしていた。
「あまり飲み過ぎないで下さいね。旦那様は、酔っぱらうとオヤジ様になって
しまいますから」
「……子虎になってジャレ襲いかかってくる奴に言われたくないがな」
「だ、だ、だって、旦那様がいつも、あんまりおいしそうに飲まれるから……」
羞恥に頬を染めた響が塚原を見上げ、唇をとがらせて抗議する。
あのゴム無し、当たってなければいいんだが……と、内心塚原は心配になっ
た。ちなみに今日寝坊した原因は、それだったりする。
なんて悩んでいる暇もなく、
「すみませーん、そこの新婚カップル、丸聞こえでーす」
「さっさと授業勧めやがれコンチクショー!」
生徒達――主に男子――が、教壇の二人に向かってヤジを飛ばし始めた。
「うっせー! 授業延長するぞコノヤロー!」
「だ、旦那様っ、職権乱用ですよ?」
響が塚原のジャージの裾を引っ張った。
塚原は、ぺーんと教壇を叩いた。
「いーからお前も、さっさと解いて席戻るっ!」
「はいっ」
「ったく……」
どうもこのクラスだと、娘……じゃなかった、女房が見てるからペースが狂
うんだよな。
などと深い吐息を漏らしながら、塚原は答え合わせを開始するのだった。
ネタを思いついたので保守投下。
一つめの投下に失敗してしまい、すみません。
正直、ここにするか結婚新婚スレにするか和風美少女スレにするかで迷いました。
他の職人さんお待ちしてます。
保守で終わらせるにはあまりに勿体無いため、継続を懇願いたします
同意です。切に続きを……
禿げしく同意
是非とも続きを!!
なれそめを聞きたい組み合わせだw
このスレ、レベル高けぇぇぇぇ!ww
136 :
名無しさん@ピンキー:2007/05/29(火) 18:34:28 ID:s8ybpa2S
女が年上って需要ないのかな。
好きなんだけど
ラークとディアナ、第三回投下します
世界観説明が長い&携帯投下で、大変申し訳ないですが、暇潰しになれば幸い
翌朝。
まだ日の出前だったが、俺はランドカーゴを降りると、ベーステントに向かった。
ブレンダのランドカーゴは、確かに上等だ。クッションも遮熱性も広さも、俺のポンコツの比じゃない。
だが、居心地が良いかと訊かれれば、それはまた別の話。
女盛りの美女が、生活スペースとして使ってるカーゴの中だ。俺がどんな想いで一晩を過ごしたのか──推して知るべし。
それはさておき、他の奴らはまだ起きてはおらず、テントの中も朝の冷たい空気で満たされている。
いつもなら朝食と風呂を済ませてから、仕事を開始するのだが、それよりも先に一仕事をすませ、奴らに朝食と風呂の準備を押し付けた方が良い。
チップのスイッチを入れてケーブルを取り出す。
「ジェネレーター」が埋まっているのは、ここから数キロ先の渓谷の中腹。大型獣の生体反応は皆無に等しい代わりに、雪原地方特有の植物が、川から山頂へと続いて生息しているから、それを目印にすれば良い。
問題があるとするなら気流だろうか。
ライン渓谷には、数刻に渡り強烈な谷風が吹くことで有名だ。
パターン化されていないそれを予測して動かなきゃ、あっと言う間に風に呑まれて谷底へ真っ逆さま。これまでも何度か、このライン渓谷で「ジェネレーター」が発掘されて来たが、命を落とした「発掘屋」も少なくない。
そうならないためにも、「案内屋」は、全ての場合に於いての対処法を考えておかなきゃならない。
もちろん、そんな目に遭わせないのが一流の「案内屋」の仕事でもある。
モニターとチップを交互に観察し、周囲の気温と風速を調べると、今度は事前にアランから受け取っていた「ジェネレーター」周辺の地形を計算に入れ、おおまかな予測を組み立てていく。
さすがに空きっ腹で仕事を続ける気にもならず、シャツに突っ込んだままだった煙草を咥えながらだが、幸いにも文句を言う奴はいない。
これが俺の事務所だったら、ディアナが「煙臭い」とか「機材に悪い」とか何とか言って、無理矢理にでも俺を追い出しただろうが。
そう言えば相方も、俺以上にヘビースモーカーだった。
もしも生きてたら、二人してディアナに追い出されてたんだろうか。
計測器からチップへとデータの移行を開始する。
高速処理だが、ここ数日分のデータを含めた予測データの量は、半端じゃない。
コーヒーを煎れるぐらいの時間はあるだろう。
席を立ち、タンクからポットへと水を移してスイッチを入れる。立て続けに二本、煙草を吸い終わる頃、ポットが保温表示になった。
一人分のコーヒーを煎れ席に戻る。
チップを確認。残るデータは二十パーセントもない。
音をたててコーヒーをすすりつつ、今度は「ジェネレーター」の大きさを測定する。
規模が大きければ反応も大きいという訳じゃない。
拳大の土塊の中に埋まるサイズの「ジェネレーター」でも、時には計測器のメーターを振り切るほどの反応を示す場合もある。
発掘してみないと、その大きさは分からないが、予測を立てないという訳にもいかない。
まぁ、そう無茶苦茶デカいこともないだろう。
仮にとんでもないサイズ──それこそ、ランドカーゴサイズの「ジェネレーター」が発掘されたとしても、その時はアランに連絡をして、直接引き取りに来てもらえば良い。
周囲の生態系の変化からみても、今回はせいぜい二メートル弱。「弱い犬ほどよく吠える」じゃないが、反応が弱い割に周囲に与えている影響は大きい。
反応よりも影響が、「ジェネレーター」の規模の目安になるのは、この仕事をしていれば、誰でも知っていることだ。
機械音が一つ。
計測の手を止めチップを確認して、俺は残ったコーヒーを飲み干した。
計測の片手間に、大したことのない雑用を二つ三つ終らせると、やるべき仕事はゼロになった。
あとは現場に行ってみないと、どうなるかは分からない。
仕事を始めたばかりの頃は、まだ薄暗かったテントの中だが、今は明かりも必要ない。
だいたい五刻ぐらいだろうか。仕事のペースからしても、そろそろ誰かが起きてきても不思議じゃない。
「……ふ」
まともに睡眠らしい睡眠をとっていなかったせいか欠伸が漏れる。
覚醒作用があるコーヒーも、俺みたいに毎日がぶ飲みしてる野郎じゃ、効き目もないんだろう。
カフェインも可哀想なこった。
「あれ……おっさん、早ぇな」
機材の電源を落とし、本日四本目の煙草を口にしていると、バサリとテントの入り口が開いた。
頭にタオルを巻いたダニーは、俺を見るなり、怪しい者でも見るかのように眉をひそめる。
「年寄りは朝が早いってのは、ホントだったんだな」
「なんだと、クソガキ」
ニヤリと笑ったダニーに顔をしかめて見せるが、強く言う気になれないのは、睡眠不足のせいだろう。
いつもなら拳骨の一つも見舞ってやるのだが、どうにも眠くて、面倒臭いという気持ちが勝った。
「ジェスは」
「もうすぐ来るよ……って、おっさん、仕事してたのか?」
「発掘屋」の最初の仕事は、本日の現場の天候調査。
だが、予測データを組み立てる時に、その調査は終らせている。
あとはそれぞれのチップにデータを移行させるだけだから、測定器を見れば、データは残っている。
「なんだよ……する事ねぇじゃん」
いきなり出鼻をくじかれたか、ダニーは唇を尖らせて、面白くないといった表情を浮かべる。
ざまあみろ。一睡もしてない気分の悪さも、この態度を見れば晴れるってもんだ。
「仕事ならあるぞ」
「なんだよ」
「風呂の準備」
「……っ」
灰皿に煙草を押し付けながら言うと、ダニーはますます眉間に皺を寄せる。
とはいえ、出来る仕事は何もない。
舌打ちを鳴らしたダニーがテントを出るのと入れ違いに、寝癖頭のジェスが顔を出した。
「おはようっす、ラークさん。早いんすね」
「おう」
弟と違い、俺が居ても訝しげな様子一つも見せず、ジェスがテントに入って来る。
スンと鼻を鳴らしたジェスは、俺の傍にある灰皿に目を留めると、少しだけ眉尻を落として苦笑した。
「ラークさん、程々にしといて下さいよ。余分な機材は持って来てないんすから」
「これっぽっちの煙草で壊れるかよ。それより、今日からの十日分、予測データ作っておいたから、チェックしといてくれ」
「ありあとやす。さすが、仕事が早いっすねー」
まさか一睡もしてないなどとは、思ってもいないのだろう。
早速、測定器に向かったジェスは、チップを取り出すと、俺の作ったデータを落とし始めた。
外からは、ダニーが──存外素直に──風呂の準備をしているらしく、ラジエーターの発する破裂音が聞こえてくる。
これだけうるさけりゃ、女共もそのうちテントに顔を見せるだろう。
風呂、と言えば聞えは良いが、実際は単なる簡易シャワーに過ぎない。
ただ、近くを渓谷から続く川が流れているので、水だけは思う存分使える。それをラジエーターで熱して、汗を流すのだ。
発掘場所によっては、近辺に水辺のない場合もあり、そういう時は、持ち込んだ物資でぎりぎりまで我慢するしかない。
それに比べれば、今回は恵まれてると言っても良い。
二杯目のコーヒーで眠気を追い出そうとしていると、ラジエーターの音に混じって、誰かの話声が聞えた。
やがてテントの入り口が持ち上げられ、顔を出したのはブレンダである。
「おはよう」
外から流れ込んだ朝の空気に混じり、彼女の香水がふんわりと漂う。
睡眠不足の原因の一つでもある香りだが、個人的には嫌いじゃない。
「おはようっす」
「おはようさん」
「ごめんね、遅くなって。何か、仕事ある?」
今日もまた露出の激しい服装のブレンダに、計測器から顔を上げたジェスが答えた。
「いえ、ラークさんが片付けてくれちゃったんで」
「あら、ありがとうございます」
「いや」
「じゃ、朝食の準備、してくるわね。ジェス、悪いんだけど、私のチップも頼めるかしら?」
「分かりました」
快く引き受けたジェスに、ブレンダがチップを投げ渡す。
そのままテントを出て行ったブレンダを見送り、俺は温くなったコーヒーをすすった。
艶美、と言うんだろうか。
ついぞ縁のないタイプの女だ。
その上、「探索屋」としても有能だってんだから、あちこちから誘いの声もあるだろうに。
「どうかしたんすか」
ぼんやりと出入り口を眺めていると、背後からジェスの声。
振り返ると、女にゃ弱いが仕事はきっちりこなすジェスは、ブレンダのチップにデータを落としに掛っていた。
「いや、別に」
欠伸が漏れる。
眠たげな俺の姿に、ジェスの押し殺した笑い声が聞こえたが、ジェスは何も言わずに、仕事に取り掛かった。
それから間もなく、ディアナもテントに顔を出した。
「おはようございまーすっ」
バサリと入り口が持ち上げられる。
隙間から入り込んだ日差しが眩しい。
人見知りをしない性格だからか、初対面の人間と一晩同じテントでも、ゆっくり休むことが出来たらしい。健康そのものだ。
「おはようございます、ディアナさん。良く眠れました?」
「うん。おはよ、ラーク」
「おう」
ディアナに軽く手を振って見せる。
昨日は不機嫌なまま別れたが、いつまでも引きずる性格じゃないディアナは、にっこり笑いながら、とててっと俺の傍まで歩み寄った。
「あれ? ラーク……」
「ん?」
チラとテーブルの上の灰皿に目をやったディアナは、ふと眉を顰めて、俺の顔を覗き込んだ。
「もしかして、寝てない?」
……やっぱバレたか。
他の奴らならいざ知らず、伊達に一緒に生活している訳じゃない。特に、事務所仕事じゃ、徹夜なんて珍しくもない。
俺の徹夜明けの姿を何年も見てきたからこそ、分かるんだろう。
「ちょっとは寝たよ」
「ホント?」
「嘘ついてどうすんだよ。仕事に支障はねぇから、安心しろ」
本当は、殆んど寝てないってのが正しいが、正直に白状してもややこしくなるだけだ。
少なくとも、体は休めたから、今日一日は乗り切れる。
ディアナは尚も俺の方を不審そうに見つめていたが、やがて顔を上げると、もう一度灰皿を見て溜め息を吐いた。
「無茶だけはしないでよね」
「はいはい」
返事をしながら、俺は漏れそうになる欠伸を噛み殺す。
ここで大欠伸をするほど、間抜けなことはない。
背後に座ったジェスは、俺達の遣り取りに興味を示していたが、俺は気にせず、小荷物を入れたバッグを手に席を立った。
外のラジエーターの音もさっきより収まってきている。朝食の前に汗を流した方が良いだろう。
「ディアナ、お前も朝食手伝って来いよ」
「あ、うん。ジェスさん、私もお願いして良いかな?」
「良いっすよ。朝飯までに終らせますから」
「ありがと」
ジェスにチップを手渡したディアナと共にテントを出る。
少し埃臭い乾いた空気に混じって、ブレンダが作る朝食の匂いが辺りに漂っていた。
今日の朝食は昨日と同じオートミールとジャーキー、それから簡単なスープのようだ。
俺は簡易シャワーの様子を見ようと、テントの裏手へ向かおうとしたが、
「ラークっ」
不意にディアナが俺のシャツを掴んだ。
「あ? ……って、おい!?」
足を止めた俺のシャツを掴んだディアナが、鼻先を寄せる。
くんくんとシャツの匂いを嗅ぐ姿は、犬か何かのようにも見える。
何だよ、いったい……。
ブレンダかダニーが来たら、怪しいことこの上ないが、ディアナは腕から胸許へと顔を移動させると、やはり鼻を鳴らしてから顔を上げた。
「……やっぱり」
「なにが」
「臭い」
そりゃあ臭いだろ。
一昨日、エルヴィオンスを出てから今まで、風呂もシャワーもお預けだったんだ。
「なに当たり前なこと言ってんだ」
ぐいと頭を掴んで押しやる。
ディアナは俺のシャツから手を離すと、ぶうっと頬を膨らませた。
「煙草臭いの」
そう言うことか。
「しゃあねぇだろ。飯の前に風呂に入って来るから、ぶつぶつ言うな」
「はいはい」
可愛くねぇ。
ふてくされた表情のまま、ディアナはくるりと踵を返し、三台並んだランドカーゴへと歩き出す。
いつもより少し早足なのが、ディアナの不機嫌さを物語っている。
「怒ることねぇだろ……ったく」
がりがりと頭を掻いて、俺は小さな溜め息を一つ。
ついでにシャツを鼻先に引き寄せて匂いを嗅いだが、これと言って煙草臭いとも思えない。
首を捻りつつテントの裏手へと行くと、ラジエーターの前にしゃがみ込むダニーの姿があった。
「準備出来たか?」
「あぁ。……入んのか?」
「入れるなら」
「じゃ、どーぞ。温くても文句言うなよ」
振り返ったダニーが、頭に巻いたタオルを取りながら立ち上がる。
俺は軽く手をヒラつかせると、幕を開けたが、ふと思い直してダニーへと向き直った。
「なぁ」
「なんだよ」
「俺、煙草臭いか?」
「……はぁぁ?」
いきなり何を言い出すんだとばかりに、ダニーの眉が持ち上げられる。
だが俺が、至って真顔で返事を待っていると、ダニーは眉間に皺を刻みながら、俺の肩口に鼻を寄せた。
「……別に」
スンと鼻を鳴らし、長い沈黙のあとで答えた顔は、不可解と言いたげにしかめられている。
「そうか。ならいい」
結局あれか。煙草嫌いのディアナが、過剰に反応しただけか。
そう一人納得して、俺は幕の向こうに向かおうとしたが、
「けど」
振り返った俺に、相変わらずぶっきらぼうな表情で、ダニーがボソリと呟いた。
「アイツの匂いがする」
「……アイツ?」
「ブレンダ・マグライアン」
…………は?
言われた意味を理解するのに数瞬。
瞬きを繰り返す俺の前で、ダニーは額の汗をタオルで拭いながら言葉を続けた。
「ほんのちょっとだけど。同じ香水の匂いがする」
…………ちょっと待て。
慌てて肩口に顔を近付けるが、それらしい匂いはしない。
鼻が麻痺した、と言うのが正解だろう。
「取り合えず、その匂い落としたら? おっさんにゃ似合わねぇ」
「お、おう」
目を眇て俺を見たダニーは、ジェスの様子を見てくると言って、背を向ける。
残された俺は、もう一度シャツの匂いを嗅いだが、やっぱりそれらしい匂いはしなかった。
だが、ダニーが言ったことが本当だとしたら、ディアナも当然気付いただろう。
煙草臭いんじゃなく、ブレンダの残り香に気付いて──それで機嫌が悪くなったってことか?
「にしても……何でだ?」
煙草の匂いで怒られるなら、まだ理由は分かる。彼奴は煙草が嫌いだからだ。
しかし、昨日今日会ったばかりの女の匂いで、不機嫌になる理由が見当たらない。
そもそも、ブレンダと一晩一緒に過ごしたのはディアナだし、特別不仲になるようなこともあったとは思えない。
「……まぁ、良いか」
考えても、どうやら俺には分からないことらしい。
だったら考えるだけ無駄ってもんだ。
理由は気になるが、ここで頭を悩ませていても仕方ない。
それに、とっとと風呂に入らなきゃ、後もつかえている。
気を取り直して幕の中に入った俺は、バッグから着替えを取り出して服を脱いだ。
今回はここまで
次回からは世界観描写を少なく出来るかと
とろくてゴメン
147 :
◆K4f74q9XQ6 :2007/05/29(火) 18:50:59 ID:cjR0BAPd
うわぁぁぁ、トリ間違えた!!!!!!
ごめんなさい!!!!
ほんと面白いです。
続きが早く読みたい……。今一番楽しみにしてる作品です。
保守
前回は本当に申し訳なく……orz
更に、「ずっと俺のターン!」状態ですが、完結させるためにも投下。
うざかったら別スレに移動するんで、遠慮なく言って下さい。
今回もエロ無し。短目。
以下、投下。
ライン渓谷での発掘は、それなりにゴタつきはあったものの、至って順調。
俺達「案内屋」が出来る仕事はここまでで、翌日には、俺とディアナ、ブレンダの三人は、予定通りE6-地区──サンドレイクへ向け出発した。
ブレンダには残ってもらおうかとも思ったのだが、彼女が俺達と来ることを望んだからだ。
ジェスとは以前一緒に仕事をしたことがあると言っていたし、それに、俺も彼女の仕事ぶりには興味があった。
断る理由もない。
ライン渓谷から更に東。
赤茶けた大地が、進むにつれて黄砂に覆われていく。
川を背に進むこと十数刻。やがて完全に地面の色が変わる頃には、太陽は地平線の彼方へと沈み、空は茜色から群青色へと、グラデーションを作っていた。
「今日はこの辺りで休むか」
ブレンダのランドカーゴと通信を繋ぎ、休憩の合図を送る。すぐに了承のサインが送られ、俺は隣でハンドルを握っているディアナに声を掛けた。
「ディアナ、停めるぞ」
「……」
「……ディアナ?」
ぽんと肩を叩く。
ぼんやりとした表情でハンドルを握っていたディアナは、ハッと我に返ると、俺の方を振り返った。
「あ、ごめん。休憩?」
「……あぁ。完全に日が落ちる前に、キャンプにしよう」
「了解」
いったい何を考えていたのやら。
こいつがこんなに、ぼんやりするなんて。
ランドカーゴを降りると、長時間の運転で肩が凝ったか、ブレンダがぐるりと首を回しているのが見えた。
「お疲れさん」
「ラークさんも、ご苦労様。キャンプはどうする?」
「簡易テント一つで良いだろ。明日中にはポイントに着きたいしな」
アランから話は聞いているが、反応のあったポイントは大まかで、かなりの広さがある。
「ジェネレーター」が埋まっているにしろ、いないにしろ、少しでも時間は有効に使いたい。
「ラーク、テント!」
「おう。ブレンダ、悪いけど飯の準備頼むな」
「ええ」
ランドカーゴから荷物を引っ張り出しているディアナは、もういつもと何一つ、変わった様子はない。
昨夜もディアナとブレンダは、同じテントで寝泊まりした。
俺は、さすがに二日連続ブレンダのカーゴを借りる気にはなれず、何とか自分のポンコツで一晩を過ごした。
今夜もそうだと思うと気が滅入るが、こればっかりは仕方ない。
ブレンダのランゴカーゴは質が良いが、やもめ男には刺激が強い。
自分で言ってて情けないが。
テントを張り終えると、ディアナは晩飯の準備を手伝うと言って、ブレンダのランドカーゴへと向かった。
グラデーションは群青が強くなり、ちらほらと星が輝き始める。
俺は煙草を咥えると、今宵も世話になるポンコツのドアを開け、ケーブルを繋ぎっぱなしだった自分のチップを取り出した。
ドアを開けたまま座席に腰を下ろし、チップを開く。
ジェスからのメールが一件と、何通かのダイレクトメール。
ジェス達の発掘は順調で、あと三四日もすれば、「ジェネレーター」に到達するとのこと。
心配していた谷風も、予測データが効を奏しているらしく、今のところは酷い被害もないらしい。
それにしても、と思う。
ふいとブレンダのランドカーゴに視線を向けると、二人が揃って食事の準備をしているのが見える。
楽しそうに笑いながら働く姿は、仲の良い姉妹のようにも見える。
ディアナはブレンダのことを気に入っているみたいだし、ブレンダもそうだ。
人見知りをしないディアナは、ブレンダとも上手くやっているようだ。
だから余計、時々ディアナが不機嫌になる理由が分からない。
ブレンダが原因なんだろうとは思うが、彼女自身が嫌いとか、そういったことはないらしいし。
「……もしかして、俺が原因か?」
咥え煙草のまま呟くが、心当たりはない。
いや──一つ、あるにはあるが、一番考えられない可能性だ。
焼きもち。
一言で片付けるなら、その単語しかない。
子どもが親を取られるのを嫌がる。それに似たような気持ちなんだろうが。
しかし、もうあいつも十八だ。
いつまでも俺にくっついて回るような歳でもないし、ディアナも、いつでも一人立ち出来るっつってるんだ。可能性は限りなく低い。
「……まぁ、良いか」
色々と考えを巡らせてはみるが、他にこれといった理由も思い当たらない。
俺は煙草を地面に捨てると、靴底でそれを揉み消して、晩飯が出来るまで一休みすることにした。
晩飯を終え、明日の打ち合わせを軽く済ませ、俺は一人、火の傍でコーヒーを飲んでいた。
今日の運転の殆んどを任せていたからか、ディアナは早々とテントに入り、ブレンダは自分のランドカーゴに戻っている。
チップから流す下らないバラエティー番組を右から左へ聞き流しつつ、ジェスにメールを送る。
昨日に比べれば気温は高く、僅かに湿った夜の空気は肌にまとわりつくようで、明日の雨を予感させる。
メールを送り終えた俺は、コーヒーを飲み干すと、チップのチューナーを合わせ直して、プログラムを切り替えた。
いくつかチャンネルを切り替えるが、これといった番組もない。結局、無難なサテライトニュースにチャンネルを合わせて、チップを閉じた。
空を見上げると、痩せた月が東の空に浮かんでいる。赤く輝く衛星が、不規則に点滅を繰り返し、星の輝きを殺している。
エルヴィオンスからは見ることの出来ない夜空は、深い青に染まっていた。
「あら、まだ休んでなかったの?」
声に振り向く。
厚手のブルゾンを片手に、ブレンダが俺を見つめている。
俺が軽く片手を掲げると、ブレンダはブルゾンに袖を通しながら、俺の隣に歩み寄った。
「ポンコツは窮屈だからな。ギリギリまで、外に居ようと思って」
「だったら、私のランドカーゴを使ってくれて良いのに」
「いや、そりゃ申し訳ない」
冗談じゃない。
ただでさえ、女から遠ざかってるんだ。これ以上女の匂いに刺激されたら、どうなるか分かったモンじゃない。
艶笑を浮かべるブレンダに、曖昧に笑って見せると、ブレンダは小さく首を竦めた。
「それとも、ディアナに遠慮してる?」
「え?」
「だって彼女、初日は殆んど寝てないのよ。ずっと外を気にしてたみたいだし……あれ、貴方の事を気にしてたんじゃないかしら」
──まさか。
明かりのないテントに視線を向けたが、ディアナはもう眠っているのか、物音一つない。
「気のせいだろ。初仕事だから、緊張してたんじゃねぇか」
「そう思う?」
ふふりと笑ったブレンダが、俺の方へと身を寄せたのが、ひときわ強くなった香水の匂いで分かる。
ブレンダの手が、胡坐を掻いていた俺の膝に乗せられて、思わずそこに視線を落とす。
知らず知らず、背筋の伸びていた俺を、ブレンダは下から覗き込むようにしながら、もう片方の手も膝に沿えた。
豊かな胸の谷間がブルゾンの隙間から見え隠れする。思わず目が行くが、これはまぁ、一種の本能だ。
もちろん、ブレンダだって分かっているに違いない。その証拠に、彼女の笑みは楽しそうに深められている。
「ラーク、貴方って案外鈍いのね」
「何がだ?」
俺の膝を撫でていたブレンダの手が、つうっと俺の太股を伝う。同時に、彼女は更に俺に体を密着させた。
柔らかく、それでいて弾力のある胸が、二の腕に押し当てられる。
ブレンダが距離を詰めた分、例の柑橘系の匂いに混じり、少し汗ばんだ女の匂いが鼻をくすぐる。
やばい。
色んな意味でやばい。
幸いなのは、そう簡単に理性が性欲に負けるほど若くはないのと、見境なく盛らないよう制御出来る程度には余裕がある、ということぐらいだろう。
ただし後者は、場合によってはあっけなく崩れる脆い代物ではある。
その証拠に、ブレンダの女の匂いに、俺の下着の中はやや窮屈になりつつある。そんなご立派なブツとは言わないが、このまま反応を続ければ、ズボンを盛り上げるに違いない。
「こうしないと気付かないの? そこも、魅力的だけど」
ブレンダの吐息が首筋に掛る。
片手を伸ばし、無精髭の生えた俺の顎をざらりと撫で、彼女は妖艶な笑みを浮かべた。
「ブレンダ、冗談なら他を当たってくんねぇか?」
何とか平静を保とうと、努めて冷静な口調で言うが、内心の動揺までは隠しきれない。
指一本動かせないのが、何よりも雄弁に俺の動揺を物語っている。
恋愛ゲームは嫌いじゃないが、最近とんとご無沙汰だっただけに、取り繕うので精一杯。
顎から首筋へと這わされるブレンダの指の感触に、俺は徐々に下半身が張り詰めていくのを自覚したが、体は硬直したように言うことを聞かない。
情けないったらありゃしないが、こうも積極的な姿勢を見せられちゃ、気弱になるのも仕方ないと思って欲しい。
「あら……つれないわね。こう言うのは嫌いなのかしら」
つつ…と、ブレンダの手が股間に伸びる。
頭をもたげ始めた俺の欲望の証を、ズボンの上から撫で摩りながら、ブレンダは俺の耳元に唇を寄せた。
熱い吐息が耳に触れる。
目尻を赤く染めて笑うブレンダの手は、絶えず俺の欲望を撫で、もう片手がシャツのボタンに掛る。
嗚呼、ますますマズい。
濃密な女の匂いに、頭がくらくらする。
若い頃なら、間違いなく押し倒してるだろうが、何とか堪えていられるのは、この場で事に及ぶ訳にはいかないと、自制心が働いているからだ。
少なくとも、ディアナにバレる訳にはいかない。
何故バレちゃいけないのか。理由はいくらでも挙げられる。
ブレンダのはしたない姿も、俺の欲望を丸出しにした姿も、あいつの前には晒したくない。
何より、こんな汚い部分を、あいつには知られたくないと、心の片隅でぼんやりと思う。
「ねぇ、ラーク」
耳元に唇を寄せたブレンダが囁く。
甘い麻薬のような声に、脳髄がジンと痺れたが、俺は誘惑を振り払うように、無理矢理体を動かした。
「──ブレンダ、仕事中だ」
シャツのボタンを外しに掛っていた彼女の手を掴む。
声音は思っていた以上に低くて、怒っているようにも聞こえただろう。
ブレンダはピクと肩を揺らすと、手の動きを止めて俺を見つめた。
「悪いが……続きは、仕事が終ってからにしてくれねぇか」
生まれた隙を逃さないよう、何とか声を絞り出す。
正直なところ、このまま誘惑に乗りたい気持ちはある。
四十を目前にしていても、俺も人並みの男だ。
ブレンダの肉体も、誘う声も、芳しいとすら言える体臭も、酷く魅力的だと言わざるを得ない。
それでも。
俺の意識の片隅にはディアナがいる。
少しでも声を出せば聞こえるところで、ディアナは何も知らず眠っている。
このままブレンダの誘いに乗って、欲望を晒け出したとして、明日の朝、何事もなかったかのようにあいつの前に立てる自信が、俺にはない。
それは酷い裏切りのように思えて、俺は奥歯を噛み締めながら、ブレンダの手を握る手に力を込めた。
「……悪い」
まともに彼女を見られなくて、視線を外し呟く。
ブレンダがどんな表情をしているのかは分からなかったが、彼女はしばらく黙って俺を見つめると、やがてそっと体を離した。
「分かったわ」
俺の手をすり抜けるようにしてブレンダが離れる。
伺うようにしてブレンダを見ると、ブレンダは変わらぬ笑みを浮かべながら、栗色の髪を掻き上げて、ディアナの眠るテントに視線を向けていた。
「やっぱり、貴方も同じね」
「……何がだ」
携帯燃料が尽きてきたのか、気が付けば火の勢いは弱くなっている。
はだけたシャツを直す気にもなれず、ぼんやりと火を見つめながら問い返すと、ブレンダは面白そうに俺を振り返った。
「彼女の事、気にしてるんでしょ?」
「……」
図星を突かれ、俺は返す言葉もない。
ブレンダは小さく笑い声を漏らすと、腰を上げてズボンに付いた埃を払った。
「彼女もそうだったの。私のランドカーゴで貴方が休むことになったあの日、あの子、本当に一睡もしなかったわ」
穏やかな口調は、嘘をついているようにも思えない。
黙りこくった俺をどう思ったのか、ブレンダはしばらく口を閉ざしていたが、フッと笑い含みの吐息を漏らした。
「身近だから、分からないのね。あの子はもう、子どもじゃないわよ?」
「何が言いたい」
「本当の娘じゃないんでしょう」
「……あぁ」
いったい何が言いたいのか、ブレンダは俺を見下ろしている。
緩慢な動きでブレンダを見上げると、ブレンダは少し悲しそうに笑った。
「早く気付いてあげなさいな。でなきゃ、あの子が可哀想よ」
可哀想?
一体全体どう言う意味だ?
謎掛けのような言葉を繰り返されるが、俺には皆目検討がつかない。
馬鹿みたいに見つめる俺の目の前で、ブレンダはもう一度テントの方に視線を向けた。
「それに気付いたら、さっきの続きをしましょう。もっとも、私がフラれる可能性もあるんだけど」
「さて……それはどうかな」
ブレンダの言葉の意味は分からないが、お相手を願えるなら、今の俺には断る理由はない。
ディアナが傍にいなければ、の話だが。
笑って答えた俺に、ブレンダは小さな笑みを返すと、「おやすみなさい」と一言を残し、ディアナのいるテントへと歩いて行った。
その後ろ姿を見送って、俺は深い溜め息を吐く。
俺が一睡も出来なかったのには理由があった。
ディアナもそうだとして、あいつにはどんな理由があったんだろう。
気丈なあいつが、眠れなくなるほどの理由。そしてブレンダの言葉から推察するに、その原因は間違いなく俺だ。
俺が、ブレンダのランドカーゴで休むことになったから。それ以外に考えられない。
ぐるぐるとループを繰り返しそうになる思考で、それでも何とか前進を続ける。
ほどなくして、
「……ちょっと待て」
焼きもち。
夕方思い当たったのと、同じ単語が頭に浮かぶ。
しかし、夕方とは大いに違う意味を持って、俺の思考を埋め尽す。
──まさか。
考えられない。
だが、単なる子どもの嫉妬にしちゃ、ディアナの変化は大きすぎる。
「……冗談だろ」
あいつが、俺を「父親」として見ていない。
あいつは、俺を──
「……有り得ねぇ。有り得ねぇだろ、それは」
呟いてみるが、否定的な要素はどれもこれも薄っぺらい。
それどころか、肯定的な要素ばかりが、次々と俺の頭には浮かんでくる。
「だって……あいつ、いつも言ってるじゃねぇか。「早く嫁さんをもらえ」って」
突然目の前が真っ暗になったみたいに、目の前に何があるのか認識出来ない。
浮かぶのは、ディアナ。
相方に引き合わされた時の、まだ幼いあいつの、はにかんだ笑み。相方が死んだ時の、これ以上ない泣きじゃくっていた涙。友達と喧嘩をしたと言って、途方にくれた憂い顔。
そして、いつも俺に向けられている、少し呆れたような笑顔。
「……有り得ねぇ」
もしも俺の考えに間違いないとしたら。
俺はこれから、どうやってあいつに接すれば良い?
いつもの笑顔を向けられて、それでも親父面をしていろって?
「……有り得ねぇから…絶対」
呟きは酷く弱い。
自分に言い聞かせながら、それでも確固たる自信がないからで、何度呟いてみても、心に浮かんだ思いは打ち消せない。
──あいつは、俺を男として見ている。
疑惑はいつしか確信に変わる。
夜風に混じる湿気は徐々に肌に纏わりつくが、その気持ち悪さも気にならないぐらい、俺は長い間、その場で座り込んでいた。
今回はここまで。
あと二回ぐらいで終れるかと。
GJです!
いつも楽しみにしてますよ!
いや、連投はしょうがないですよ。
それより毎度面白いもの読ませて頂いてるのが有り難く。この世界観で他の作品とかもいずれ読んでみたいです。
>>136 女が年上か・・需要はあると思う。
でも女の年齢にはある程度気を使わないと駄目だろうな。
さすがに40や50代の女性を好む人は少ないだろうし。
エロパロ板って場所考えるとやはり女が萌えにくいのは厳しい。
そういや昔男に見える72歳女と、少女にも見える12歳少年の
60歳差カップルのマンガがあったなあ
>163
30代後半までならギリギリセーフと言っておこう。
年下の年齢って未成年だとやばいんかな?
別に構わないんじゃない?
上にあるように、青年×幼女とか、個人的には好みのシチュだし
読んでみたいと思う
>>136 別に何歳でもいい。純情、純愛という言葉は、老年期にこそ似合うのさ。
169 :
名無しさん@ピンキー:2007/06/12(火) 04:53:57 ID:564Xz1EG
アゲ
某バラエティ番組で、25歳の彼女が実は35歳だったのを思い出した。
ぶっちゃけ20代にしか見えなかったぜ。
5回目の投下、いきます。
酷い雨がランドカーゴの屋根を叩く。フロントガラスは雨で曇り、前もよく見えない。
明け方頃に降りだした雨は、急激に勢いを増していた。
結局、殆んど寝ることも出来なかった今、この雨は苛々を募らせる。
昨日まで隣に居たディアナは、今日はブレンダのランドカーゴに乗せている。
昨日は丸一日、ブレンダは運転しっぱなしだったから、今日はディアナと交互に運転をさせるため。
建前に過ぎないが、立派な理由だと、我ながら思う。
単に俺が、ディアナの傍に居たくないだけだったが、ディアナは不審に思いもせず、素直にブレンダのランドカーゴに乗り込んだ。
あいつが素直な性格で良かった。
屋根を叩く雨音がやかましいが、何もないよりは遥かにマシだ。
余計なことを考えずに済む。
「ったく……とんでもねぇ天気だ」
居住区は天候が荒れることはまずない。
中央管理局の「ブレイン」に全てを委ねられた街では、通常の雨すらも珍しい代物だ。
居住区外──一般的に外の世界と呼ばれる場所だけは例外で、ちょうどこの時期は、短い雨季にぶち当たっているようだった。
忌々しい雨に舌打ちを鳴らす。
単なる八つ当たりだが、咎める者は誰もいない。
ケーブルを繋いだチップからは、ノイズ混じりに音楽が流れている。
どうやらこの天気で、通信機能も上手く働いていないようだ。
まったく……腹立たしい。
「どうしたもんかねぇ」
半ばぼんやりとランドカーゴを走らせながら、俺は一人溜め息を吐く。
昨夜、ブレンダとの一件以来、ふとした弾みで思い出すのは、ディアナのことばかりだ。
思考は泥沼に嵌ったように、まともに働きゃしないのに、あいつのことだけは、やけにはっきりと形になって、俺の胸を疼かせる。
ディアナが俺を男として見ている。
普段はそんな素振りなど欠片もないが、考えてみれば当たり前だ。
長年、親子同然に暮らして来て、いきなり男女の関係になるなんてこと、今時ドラマでもありゃしない。
だが、否定する要素は皆無に等しい。気丈で強がってばかりのあいつだからこそ、上辺の言葉を鵜呑みにしていちゃいけない。
素直な癖に、妙なところは頑固で意地っ張り。
その性格を知っているから、余計に言葉の裏を感じ取ってしまう。
今まで気付かなかったのは、俺が目を背けていただけなのかも知れない。
「……どーすんだよ、これから」
深い溜め息が狭い車内に満ちる。
ガクリと頭を垂れた拍子に、チップのランプが点滅するのが見えて、俺は助手席に置いてあったチップを取り上げた。
外部通信の信号は赤。緊急連絡の合図に、片手にハンドルを握ったまま、通信回路をオンにする。
小うるさい音楽を切ると、ノイズ混じりに誰かの声が聞え、やがて明瞭になった。
『先輩、お久しぶりです』
「なんだ、お前か」
チップのモニターを開けば、通信状況は悪くなる。
それに今は運転中だ。音声だけでも充分だろう。
サウンド・オンリーと表示されたモニターから、アランの含んだ笑い声が聞こえた。
『また、えらく不機嫌ですね。何かあったんですか?』
「別に。何の用事だ」
冷たく言い捨てた俺をどう思ったのかは知らないが、アランはいつものように掴みどころのない様子で話を続けた。
『EN-6地区の新しい情報が入りました。先輩、今何処ですか?』
「ちょうど入ったばかりだ。見事に雨季とぶち当たって、雨と砂以外にゃ何もねぇ」
『おや、それは大変』
「何がだよ」
馬鹿にしているのかとも思ったが、こいつはいつもこんな調子。まともに取り合えば疲れるだけだ。
『サンドワームの存在が確認されて、一回探索を打ち切った方が良いんじゃないかと』
「何だと?」
『それも、かなりの大物です。昨日の深夜、一度だけ生体反応が確認されました』
「場所は」
『EN-6地区の北側、ポイント52。探索ポイントの間近です』
なんてこった。
サンドワームは砂漠地帯に住む大型の肉食生物だ。デカいみみずを想像してもらえば分かりやすいだろうか。
地中深くに身を潜め、そのせいで生体反応をキャッチすることが難しい。
その住み家は蟻地獄のような擦り鉢状になっており、迷い込んだ物全てを餌とする。幸い、ランドカーゴのような無機物は好みじゃないが、好き嫌いがない悪食だ。
この雨じゃ視界も悪い。下手に足を踏み入れれば、ランドカーゴごと住み家に引きずり込まれる危険性がある。
「今まで反応は無かったんだよな」
『ええ。雨季で引っ越しの途中だったんじゃないですか。巻き込まれる前に引き返した方が良いと思います』
「そうだな。すまん」
『どう致しまして。こちらでもしばらく、生体反応の調査を続けます。落ち着いたら、改めて調査を依頼しますから』
「分かった」
俺が礼を言うより早く、向こうから回線が遮断される。あっちもあっちで忙しいんだろう。
ランドカーゴのスピードを緩め、ブレンダのカーゴに緊急通信の合図を送ると、寸間を置かず回線が開かれた。
『あら、大変ね』
事情を説明すると、大して大変そうでもない口調でブレンダが言った。
肝が座っているというか、度胸があるというか。さすが、女だてらに「探索屋」をやってる訳じゃなさそうだ。
『じゃあ、どうすんの?』
同じく通信を聞いていたディアナに尋ねられ、俺はランドカーゴを反転させながら考えた。
長丁場になるだろうと思っていたから、他の仕事は受けていない。一言で片付けるなら「暇」だ。
新しい仕事を探そうにも、アランがあの調子じゃ、すぐには無理だろうし、「案内屋」以外の仕事も今は開店休業中みたいなもんだ。
考えた末の結論は、きっとディアナを怒らせるだろう。
だけど、今の俺にはもう少し、一人で考える時間が欲しい。
「……ブレンダ、頼みがあるんだが」
『何?』
ディアナの問いに答えずに、俺は同じく来た道を引き返そうとするブレンダのランドカーゴに視線を向けた。
隣にディアナが居なくて、本当に良かった。
「すまんが、ディアナをエルヴィオンスまで届けてやってくれねぇか。俺はちょっと、寄る所がある」
『え!? ちょっとラーク、どういうこと?』
ディアナの疑問はもっともだ。
だが俺はそれには答えず、ランドカーゴを停車させて、ブレンダの返事を待つ。
雨の向こうに見えるブレンダのランドカーゴの窓に、見慣れたストロベリーブロンドの髪が見えた。
『私も一緒に行きたい。仕事の邪魔だけはしないから!』
──そういう意味じゃないんだ、ディアナ。
邪魔になるとか、足手まといとか、そんな理由でお前を遠ざけてるんじゃない。
これは仕事とは関係ない。
単なる俺の我が儘なんだ。
そう言ってやれれば、どんなに楽か。
けど……言えない。言える訳がない。
「頼む」
ディアナから視線を外して呟くと、フッとブレンダが溜め息を溢すのが聞こえた。
『分かったわ。気を付けて』
『え、ブレンダさん?』
「悪い。頼む」
『ええ』
『ちょっと二人とも! ラーク──』
まだ何か言いたげだったディアナの声を振り切り、俺は通信のスイッチを切る。
ついでにチップの電源も切って、俺は大きな吐息を漏らした。
隣に並んだブレンダのランドカーゴから、視線を感じる。
わざわざ振り向かなくても、ディアナが此方を見ているのが分かったが、俺は視線を無視して、ランドカーゴを発進させる。
擦れ違い様、酷く不満そうな眼差しを向けるディアナが視界に入ったが、敢えて其方を見ないようにして、俺は元来た道を戻り始めた。
まともな休憩もとらず、夜通しランドカーゴを走らせて、ジェス達のいるライン渓谷に到着したのは、ディアナ達と別れた次の日だった。
一日半掛けた道のりを、一日で消化したことから見ても、俺がどれだけ無茶をしたのか分かるだろう。
別れた地点からエルヴィオンスへ真っ直ぐ戻るなら、わざわざ此処に立ち寄る必要はない。ブレンダなら、きっと分かってくれるだろうと判断してのことだ。
昼過ぎにキャンプに到着したが、発掘作業に向かっているのだろう。ジェス達のランドカーゴの姿はない。
代わりに、外部通信用のアンテナが、ベースキャンプの中央に立てられている。
俺はランドカーゴを停めると、ベーステントに入った。
初日と比べ増えたデータに目を通す。
殆んどが発掘のためのデータで、俺が見てもあまり役立つ代物じゃなかったが、今後のためにも確認しておいて損はない。
谷風の予測データは日々更新しているらしく、俺の組み立てたデータとは若干誤差が生じている。
一番問題になっていた地層も、現場で色々と観測データを集めているらしく、ややこしいグラフやら統計資料が、新しくファイルされていた。
一通りをチェックして、誰もいないテントの中、椅子に腰を下ろして目を閉じる。
酷く疲れている。肉体的にも、精神的にも。
ジェスに事情は伝えてあるから、戻ってくれば、なんだかんだと雑用はあるのだろうが、今は取り合えず眠りたい。
シャワーを浴びる元気もなく、俺はテーブルに突っ伏すと、じわじわと這い上がってくる睡魔に身を委ねた。
「ラークさん、飯っすよ」
泥沼のような眠りから、一瞬にして目覚めさせたのは、肩を揺するジェスの声だった。
まるで二日酔いの時みたいに、頭の芯が重い。
緩慢な動きで体を起こすと、ジェスが日に焼けた顔で笑っていた。
「お疲れす。よく眠ってましたね」
「あぁ……」
つきまとう眠気を払うように、目元を揉み解す。
とっくに日は落ち、周囲は薄く闇に包まれているらしい。テントの中には明かりが点されていた。
「飯、並べますから。顔洗って来て下さい」
「わぁった」
テントを出るジェスに返事をして、俺は強張った体を動かした。
妙な体勢で眠っていたせいか、身体中が悲鳴を上げている。
連日の睡眠不足を、一気に取り戻そうとしたせいもあるんだろう。
欠伸を漏らしつつ、重い腰を上げる。
テントを出ると、皿を手にしたダニーと視線が合ったが、奴は何も言わずに、テントの中へと入った。
無愛想な餓鬼だ。
顔を洗い、面倒なのでシャツで拭う。
少しばかり汗臭いが、文句を溢す気力もない。
再びテントに戻った俺は、コーヒーの準備だけを手伝って、二人と共に晩飯を食った。
「ジェネレーター」を囲むようにして産まれた地層は、なかなか厄介な代物らしく、特にジュレ鉱石には手を焼いているらしい。
硬さもさることながら、下手に突付くと周囲の地層を液化させ、更に「ジェネレーター」を埋めてしまう。
明日からは、液化を防ぐ溶液をジュレ鉱石の埋まった地層に注ぎながらの作業になるらしい。
そんな事を話しながらの飯を終え、ダニーは片付けに、ジェスは自分のランドカーゴに明日の準備へと向かった。
俺は特に仕事もなく、ランドカーゴの狭い座席で、ぼんやりとしていた。
チップの電源は、あれから一度、ジェスに連絡を取るために入れたきり。
通信回路だけを遮断するって手もあるが、アランからも連絡が来るだろうし、それ以外にも色々と、不意の仕事が舞い込む可能性だってある。
恐らくディアナからは、何度も通信が入ってるだろうが、今はあまり見たくない。
あからさまに遠ざけているが、いつまでもこの状態を続けていられるなんて、甘い考えは持っちゃいない。出来て二日が限度だろう。
助手席にぽつんと置かれたチップを見つめ、溜め息を一つ。
怒ってるか、拗ねてるか。
ディアナの様子は気になるが、ここまできて、俺から連絡が取れるはずもなく。
「……考えすぎなら良いんだけどな」
そうであって欲しい。
あいつが、俺を男として見てるなんて、下手な冗談か何かであって欲しいが、それは飽くまでも希望的観測。
否定する要素がない今、そう願うぐらいしか、俺には出来ない。
それに、だ。
もしも俺の思い過ごしだとしても、今までのように振る舞える自信が、今の俺にはない。
一度有り得ない話じゃないと思ってしまうと、どうしても自然に振る舞えるとは思えない。
せめて、相方が生きていれば。
相方でなくても構わない。誰か、あいつのことを分かっている奴が他に居れば、こんなに悩む事もなかっただろうに。
「……どうすんだ、俺」
思考はループするばかり。
何度考えても、妙案は思い浮かばない。
結局、悩み続けたままの夜が明け、そうして、二日が経過した。
エルヴィオンスの自宅に戻ったのは、それから更に二日後のこと。
ランドカーゴを降り、自宅兼事務所のドアを開くと、待っていたのは不自然なほどに静かな部屋だった。
人の気配が感じられない室内はブラインドが下ろされ、部屋全体が薄暗い。
俺が──正確には、俺とディアナが部屋を出た時そのままの様子で、俺は怪訝に思い眉をひそめた。
ブレンダに頼んで、ディアナは先に戻っているはずだが、キッチンにも、リビングにも、それらしい痕跡は見当たらない。
「……ディアナ?」
呼び掛けた俺の声は、静かな室内にやけに響いたが、応える声はなかった。
不審に思いながら、事務所に続くドアを開けたが誰もいない。
何通かメールが届いているんだろう。モニター脇のコンピューターにランプが点いているのが見えたが、確認もせずに部屋を出た俺は、ディアナの部屋のドアをノックした。
「ディアナ、居るか?」
軽く二回。
ノックの音にも返事はなく、部屋は相変わらず静まりかえっている。
試しにドアノブを握ると、予想に反して鍵は掛っていなかった。
「……入るぞ」
内心の緊張を押し殺し、ドアを開く。
やはり暗い部屋の中、隙間から見えるのは、彼女が使っているデスクとパソコン。
更に開くと、ベッドの上に毛布の固まりが見えて、そこから僅かに人の足が覗いていた。
「ディアナ……?」
眠っているのかとも思ったが、どうやら違ったらしい。
何度目かの俺の呼び掛けに、ピクリと毛布が揺れた。
「……ただいま」
何と言えば良いんだろうか。
この四日──別れた日も含めれば五日になるか──、一切の連絡を断っていたのは俺の方だ。
今までも何度か、離れ離れで生活をしていたこともあったが、二日以上連絡を取らなかった日はない。
それだけに、何とも言えない申し訳なさとやりきれなさに、声が震える。
「悪かったな。その……連絡しなくて」
ゆっくりと一歩。
俺の気配を感じたか、唯一見えていた足が、毛布の中に引っ込められた。
「……っ」
本当に、何を言えば良いんだろうか。
上手い言葉が見当たらず、視線をさ迷わせる俺の目に、中途半端に開かれたチップが写る。
俺とベッドのちょうど中間。電源すら入っていないんだろう。なんの明かりも示さないチップが、ぽつんと床に落ちていた。
俺は歩みを進めると、体を屈めてチップを拾い上げた。
ディアナは何の反応も見せない。
パネルを開き電源を入れる。
いつもなら青い通電ランプが点滅した後、画面が切り変わるはずだが、チップは沈黙したまま。
一度充電すれば半年は不要の、半永久電池を動力にしているので、充電が切れたってことはないだろう。
仕方なくチップを閉じた俺は、またゆっくりとベッドに歩みを進めたが、
「……なんで」
微かに聞こえた声に歩みを止めた。
数日ぶりに聞いたディアナの声は、酷く掠れていて、毛布の中にいるからか篭っていた。
「……どうしてよ……ラーク」
怒っているのか、泣いているのか、声からは判断出来ない。
答えに困った俺が黙っていると、もぞもぞと毛布が動いたあと、再びディアナの声がした。
「なんで……連れてってくんなかったの……」
そのことか。
ディアナの言葉の意味が分かり、一瞬安堵の吐息を漏らす。
だが、その問いに答えようとして、俺は再び言葉を失った。
言い繕うのは容易い。
でもそれじゃあ、また元の中途半端な親子ごっこに逆戻りだ。
この数日、考えに考えた結論はただ一つ。
俺達の関係が何なのか、はっきりさせること。
ディアナが俺を親代わりだと思っているなら、それで良い。
俺も親代わりとして、彼女が二十歳になるまで、その役目を全うするつもりだ。
もし仮に、ディアナが俺を男として見ていたら──この後に及んで希望的観測を持ち出すあたり、俺の気の小ささが伺えるが──その時はその時で、ちゃんと俺も向き直ろうと、覚悟を決めていた。
中途半端な覚悟じゃなく、それこそ、あの世で相方に出会った時に胸を張れるように。
それだけに、口を開くには慎重にならざるを得ない。
長い長い沈黙が部屋を満たし、このディアナの部屋全体を包む暗がりが、いっそう重みを増した。
今回はここまで。
前回、あと二回ぐらいと書きましたが、エロを入れてプラス一回ぐらいかと。
トロくてすみませんorz
毎度毎度しっかりした骨太の物語、素晴らしいです。
自分も見習わないと……。
もうシリーズで読んでみたいくらいのクオリティですね!
184 :
名無しさん@ピンキー:2007/06/13(水) 23:30:32 ID:jp0VRCAg
続きが気になってしょうがない!!!!
185 :
名無しさん@ピンキー:2007/06/14(木) 00:55:30 ID:Ge8Ono6C
何だこの神スレ胸の高鳴りが止まらねーぜwwww
ここにいる皆生まれてきてくれてサンクスwwww
思いの外早く推敲が終ったので、六回目の投下、行きます。
ディアナと初めて出会ったのは、彼女が三歳、俺が二十四歳の時だった。
相方と共に始めた「案内屋」の仕事も軌道に乗り、しばらく顔を見せなかった相方が、久しぶりに顔を見せたある日、相方に抱かれ、眠りこけていたのが最初の出会いだ。
十六歳の時、両親に先立たれ、路頭に迷っていた俺を助けてくれたのが、四つ年上の相方だった。
当時駆け出しの「案内屋」だった相方は、仕事を手伝う代わりに、俺に住む場所と大学へ行く援助を申し出た。
元々、俺の両親は政府の調査員で、相方も俺の両親に色々と恩義があったからだと言うが、詳しい事は何も知らない。
最初は怪しい奴だと思っていたが、相方は笑いながらこう言った。
「今更失うモンもねぇんだろ? だったら、俺を利用するぐらいに考えちゃどうだ」
あっけらかんとした口ぶりは、裏表のない相方の性格を、よく表していたと思う。
相方の、仕事でのこき使い方は相当な物だったが、プライベートじゃ至っておおらかで、しょっちゅう、犬やら猫やらを拾ってきては世話をする、そんな男だった。
俺も犬猫と同じように拾われたのだと思うと可笑しかったが、いつしか俺は、相方に対して素直に恩を感じるようになっていた。
その相方が、ふらりと居なくなったのが、俺が二十歳の頃。
一年ほどで戻った相方は、また俺と共に「案内屋」の仕事を再開し、更に三年後、「しばらく留守にする」と言って行方をくらました。
そして、戻った時に連れていたのが、ディアナだった。
母親が誰なのかは、俺は知らない。
ただ、相方は一言、嫁さんが死んだので引き取ったのだと言い、俺もその言葉を信じた。
書類上では、認知していなかったのか、養子という形でディアナを引き取った相方だったが、ディアナは相方に良く似ていた。
赤みの強いストロベリーブロンドの髪も、気の強そうな目元も、相方を小さくして女にすれば、双子に見えるぐらいに。
それから数週間後。
相方は仕事帰りに事故に遭い、帰らぬ人となった。
事故の原因が、通り掛った野生の動物の群れに突っ込まれるという、笑い話にもならない原因で、
動物好きの相方にしては何とも情けない最期だった。
そうして、俺とディアナが遺された。
一度に両親を失ったディアナだったが、俺は彼女の母親も知らず、相方にも親類と呼べる人間がいなかった。
探せばディアナに親類も見付かったのだろうが、俺はそうはせず、ディアナと共に暮らすことを選んだ。
たった数週間とはいえ、相方と三人で暮らした思い出は大きかったし、なにより、俺が相方に受けた恩を返すには、
この方法しかないと思ったからだ。
それが、十四年と三ヶ月前の話。
以来、喧嘩みたいなことも何度か経験してきたが、今みたいな状況になったことは一度だってない。
ディアナのとっておきのプリンを食ったとか、俺の秘蔵の酒を割ったとか、喧嘩の理由はくだらない物ばかりだったし、
ディアナが頭を下げたり、俺がお詫びに好きなものを買ってやったり、
そういったことで仲直り出来る範囲のことばかりだったから。
だが、今は違う。
ディアナに何も言わず、連絡も断った状態を続けたのは、明らかに俺が悪いのだが、そうさせたのは
──責任転嫁をするなら、事の発端は間違いなくディアナだ。
だが、ディアナだけが悪い訳じゃない。それは俺も分かっている。
敢えて原因を挙げるとするなら、十四年と三ヶ月の間、中途半端な疑似親子という関係を続けていた、
俺達二人が原因。
だからこそ、この中途半端な関係を、はっきりとさせなきゃいけない。
また、こんなことが起こるなんてのは嫌だし、何より、相方に顔向け出来ないことが、俺には一番堪える。
一年と九ヶ月待てば、ディアナは二十歳になるし、それまで騙し騙し付き合うことだって不可能じゃないが、
中途半端な関係と気付いた今、自分を誤魔化すには、一年九ヶ月は長すぎる。
毛布の固まりは微動だにしない。
妙に緊張するのは、沈黙が続いたせいだろうか。
耳の奥が、張り詰めたみたいにわんわんと鳴って、俺はディアナのチップに視線を落とした。
「連れて行かなかったのは、少し、一人になりたかったからだ」
考える時間が欲しかった。
そのことに嘘はない。
思っていたよりも冷静な声で答えられたが、毛布の固まりは相変わらずで、俺の言葉は吸い込まれていく。
「少し、考えなきゃならん事があったから……だから、お前を遠ざけた」
「……」
決して、ディアナが嫌いだとか、そんな理由じゃない。
それだけは分かって欲しくて、俺は意識的に息を吸うと、ベッドに視線を戻した。
「一度、ちゃんと考えるべき事だったんだ。……勝手な事をして悪かった」
もぞり、と、毛布が動く。
酷く緩慢な動きだったが、毛布の端は持ち上げられ、ディアナの細い指先が見えた。
少しだけ顔を覗かせたらしいディアナの眼差しを感じる。
薄暗い部屋じゃ、本当に俺の方を見ているのか確認出来ないが、痛いぐらいに感じる視線は、間違いなく俺に向けられていた。
「……それで」
たっぷり三回は深呼吸出来る沈黙のあと、ディアナが口を開いた。
掠れた声に感情の色は見えない。
「……なに……考えてたの」
「俺と、お前の事」
覚悟を決めたとは言え、不安がなくなった訳じゃない。
気をしっかりとさせておかないと、何処かに飛んで行ってしまいそうで、腹に力を込めて告げる。
ディアナは再び沈黙の中に埋もれたが、俺が一歩、ベッドへと歩み寄ると、ビクリと毛布が揺らいだ。
「お前が、俺をどう思ってるか。俺が、お前をどう思ってるか。……このまま一緒に生活を続けるつもりなら、一度、はっきりさせるべきだと思ったんだ」
「……っ」
「俺の答えは決まっている。けどそれは、お前の考え次第だ」
更に一歩。
ベッドとの距離は、もう何歩もない。
いつもなら大したことのない距離が、今は酷く遠く感じる。
俺の答えは一つ。
ディアナが俺のことをどう思おうと、彼女が二十歳になるまでは、このまま一緒に生活を続ける。
彼女を一人前の「案内屋」に育てるまでは、俺は絶対、ディアナを見捨てない。
全てはディアナの想い次第だ。
「……変だよ、ラーク」
「何が」
「そんなこと……今まで、一回も言ったことなかったじゃない」
「……あぁ。そうだな」
ディアナの声は震えている。
怒っているのか、泣いているのか、声だけじゃ判断出来ないが、恐らくはその両方だろう。
俺だって、伊達に十四年、こいつの親代わりをやってきた訳じゃない。それぐらいは分かる程度には、まだ、冷静さを保っていられる。
「ディアナ」
持ち上げられた毛布が、再びベッドに落とされる。
その様子を見つめながら、俺は少しだけ目を伏せた。
「俺は「父親」で良いのか? それとも、俺に「父親以外」の者でいて欲しいのか──どっちだ?」
我ながら、酷なことを答えさせようとしている。
けど、これは罰だ。
俺達の不自然な関係に、気付いていながら今まで目を背けていた報い。
俺が悩み続けたこの数日も、ディアナが取り残されたことも、全ては、このことが原因だから。
ディアナは沈黙を守ったまま、答える様子はない。
もう一歩。
俺とディアナを阻む物は、薄い毛布が一枚だけ。
俺がゆっくりとベッドに腰を下ろすと、俺の重みで、ギシとベッドが悲鳴をあげた。
手にしたチップを枕元に置いて、ディアナの様子を伺うが、微かに呼吸が聞こえるだけで、声は一つもない。
息を殺し、何かを耐えているようなディアナから伝わる緊張感に、動悸が早くなるのが分かった。
「ラークは」
沈黙は居心地が悪かった。
けれど、今更引き返せるはずもなく、ただただディアナの返事を待つ俺の耳にディアナの声が届いたのは、かなりの時間が経過した頃だった。
「ラークは……どうしたいの?」
当然、訊かれるだろうと思っていた。
俺は毛布の固まりを見下ろしたまま、少し眉尻を下げた。
「お前が一人前になるまでは、一緒に生活したいと思ってる」
そう答えた俺に、毛布の中からディアナは口を開いた。
「そうじゃなくて」
「……?」
「それは、パパに約束したからでしょ。パパに借りがあるから、私を一人前にしなきゃ駄目って思ってるだけでしょ」
意外なことに、ディアナは怒っているようだった。
思わぬ言葉に、俺は口を閉ざして毛布を見つめる。
ディアナはもそもそと毛布から顔を出すと、俺を睨み付けた。
数日ぶりに見るディアナは、少しやつれていたが、その瞳にはしっかりと光が宿っていた。
「それは、ラークが望んでることじゃない。私が訊きたいのは、ラークがどうしたいのかってことよ。
パパは関係ない」
「……」
きっぱりと否定され言葉を失う。
確かに、俺がディアナと暮らそうと決めたのは、相方がいたからだ。
相方に恩を感じているから、ディアナを一人前にしたいと思う。
それは、裏を返せば、相方がいなければ思わなかったかも知れないということ。
改めてそのことを突き付けられて、初めて気付いた俺は、ディアナの眼差しを避けるようにして
目を伏せた。
相方がいなければ、ディアナと出会う事もなかったというのに。
俺は、どうしたいんだろう。
冷静さを取り繕うことも出来ず、俺は必死になって考える。
この数日、悩み続けていた以上に、突き付けられた問いは難問で、重要な事なのは分かったし、
それだけに、不用意に答えられない。
唇を噛み締め頭を垂れた俺の耳に、追い討ちをかけるようなディアナの言葉が届いた。
「私は、ラークと一緒に居たい。ラークが望むなら、親子でも構わない。今までそうだったみたいに、
ラークをお父さんだと思うから……だから、ずっとラークの傍に居たい」
怒っているような口ぶりだったが、きっぱりと言い切ったディアナの声は、しっかりとしていて冷静だった。
なんてこった。
今更、ディアナが俺を「父親」として見ていなかったことに、驚きはしなかった。
それ以上に、ディアナが自分の気持ちをはっきりさせていることに動揺を隠せないでいた。
相方も何も関係ない。
ただ「ディアナ」が、そうしたいと望んでいる。
「俺は……」
ディアナは真っ直ぐに俺を見据えている。
茶色の瞳は、いつもそうであったように、俺を写し出している。
「ラークが嫌なら、諦める。今すぐここを引き払うから。でも……そうじゃないなら、傍にいることを許して欲しい」
もしも。もしもディアナがいなくなったら。
そんなこと、今まで考えもしなかった。
こいつは俺の傍に居るのが当たり前で、例え「独り暮らしをする」ってのがディアナの口癖であっても、
本当に俺の傍からいなくなるなんて、考えたこともなかった。
「俺は……」
声が震える。
何か喉に栓でもされたみたいに、声を出すのが難しい。
膝の上で拳を握り締め、俺は必死になって声を絞り出した。
「──俺も……っ」
時間の感覚は既にない。
長いような短いような逡巡のあと、俺が出した結論は、自分でも思いもよらない答えだった。
ディアナが俺の傍を離れることはない。
それが当たり前のことならば、それは俺にも言えること。
ディアナが俺の傍を離れないように、俺もディアナの傍を離れない。
今までずっと、そうして来たんだ。これから先だって、そうなんだと、当然のように考えていた。
それが当たり前のことなら、どうしてディアナを拒否する必要がある。
偽物の親子だろうが、関係ない。俺はずっと、「ディアナ」に支えられていたんだ。
「俺も、お前の傍に居たいよ。……お前がどう想おうと、傍に居たい」
血を吐くような想いで告げた言葉は、薄暗い室内に、やけに大きく響いた。
傍に蹲っていたディアナの緊張が緩んだのが気配で分かる。
ゆっくりと視線を戻すと、ディアナは酷く疲れているようにも見えたが、その表情は穏やかで、
笑みが溢れていた。
「ラーク……」
唇が微かに動き、俺の名前を紡ぎ出す。
「……すまん」
「なんで謝るの……ラークが悪い訳じゃないよ」
「……いや」
そう言ってくれるのは嬉しいが、俺の心に浮かぶのは、後悔の念が殆んどだ。
ディアナに言われなきゃ、俺はずっと、彼女を「相方の娘」としてしか、見ていなかったに違いない。
俺達の関係が中途半端だった訳じゃない。
俺がそうさせていたことに、気付かせてくれたディアナに、酷く申し訳ない。
俺が望むのは「相方の娘」じゃない。ディアナ自身なんだと、ここに来てようやく気付いた。
そして、毛布越しに感じるディアナの体温に、心の底から安心して、抱く腕に力を込めた。
「ちょ、苦しいってラーク!」
「うっせぇ。ちょっとぐらい安心させろ」
「何よソレ。人の気も知らないで」
もごもごと蠢くディアナの言葉に、自分勝手な言葉を返しながらも、少しだけ力を緩めてやる。
ディアナは恨めしそうに俺の腕の中で顔を上げ、ぶぅっと頬を膨らませた。
「ほんとに心配したんだからね! 全然連絡も寄越さないし、チップだって電源切りっぱなしで」
「だから、悪かったって」
「バカ」
「バカたぁなんだ、バカたぁ」
「バカバカバカ。くだんないことで悩みすぎだよ。そんな理由で連絡寄越さなかったなんて、
絶対許さない!」
いつもの調子を取り戻したように、ディアナの口はよく動く。
それが本心なのかどうか、俺にはよく分からなかったが、ディアナは毛布からするりと腕を伸ばすと、
俺の背中に腕を回して、胸許に頭を擦り付けた。
「バカ。……ほんと、バカ」
甘えるように目を閉じたディアナの手が、俺のシャツを握り締める。
二日前にライン渓谷を出て以来、風呂にも入ってないというのに、ディアナは気にする様子もなく、
力を込めて俺にしがみついた。
そんなディアナが無性に愛しい。
毛布の上から、子どもをあやすように背中をぽんぽんと叩いてやりながら、俺もディアナを抱き直した。
「なぁ」
「なに」
「煙草臭いか?」
「……少しだけ」
そんなはずはない。
なんせ、今ランドカーゴに乗れば、慣れた俺でさえ染み付いた臭いに眉を顰めるぐらい、
煙草の本数が増えたんだ。少しの訳がない。
だがディアナは、俺の胸許に顔を押し付けたまま、小さな声で呟いた。
「ラークの匂いがする」
…………。
ちょっと待て。いや、待たなくても構わないんだが。
今の一言は……やっぱアレか。
こないだの、ブレンダの香水の件が、ディアナの意識に擦り込まれてるってことか。
思わずディアナをあやす手が止まる。
少し不思議そうに俺を見上げたディアナの視線と、俺の視線が交わった。
「……お前、本気なんだな」
「何が」
「本気で、俺を父親って思ってなかったんだな」
「……っ!」
失言に気付いたか、ディアナの目が大きく見開かれる。
慌てて俺の傍から離れようとするディアナだが、そうはさせまいと、俺はディアナを抱き直した。
「気にすんな。それはそれで嬉しいから」
「や、あの、ラーク!?」
「そりゃあ、散々悩みもしたけどよ。今となっちゃ、馬鹿馬鹿しいわな」
「何が!? て言うか、ごめん、今のなかったことに──」
「俺もちゃんと好きだわ。だから、離せねぇ」
ぴた、と、ディアナの動きが止まる。
考えてみれば、さっきまでの遣り取りは、互いに「どうしたいか」であって「どう想ってるか」は
問題になっちゃいなかった。
ディアナの気持ちは分かったが、俺はディアナには告げていない。
別に、わざわざ言う必要もないんだろうが、これが原因で、また面倒な事にはなりたくない。
どうせなら、一回で済ませた方が良いだろう。
「な、何言って──」
「俺も父親は嫌だっつってんだよ。好きでもない女を傍に置いておけるほど、生活も心も余裕はねぇ」
さっき自覚したばかりってのが情けないが、そんなことはおくびにも出さず、わざと軽い口調で続ける。
ディアナは俺の腕の中で硬直したまま、身動きもしない。
嗚呼、可愛いトコあんじゃねぇかよ、こいつ。
馬鹿な事を考えながら少し体を離すと、ディアナの顔を覗き込む。
「意外か?」
「……凄く」
コクリと存外素直に頷いたディアナの顔は、真っ赤に染まっている。
恥ずかしいのと驚きと、それから数限りない動揺が露になった顔は、ついぞ見た事のない表情だ。
「嘘じゃないよね」
「今更疑うかよ」
「や、だって、今まで全然、そんな素振りなんてなかったし!」
そりゃそうだ。俺だって、ついさっき自覚したばかりなんだから。
だが、素直に告げるのは癪に触る。
いまだ、もにょもにょと文句とも言い訳ともつかぬ言葉を漏らすディアナの頬を両手で挟む。
途端、口を閉ざしたディアナは、怯えたように俺を見上げた。
「ラ、ラーク……?」
「んな顔すんなよ。キス出来ねぇだろ」
「キ……っ!?」
俺は何回こいつを驚かせることになるんだろう。
目を丸くするディアナを見つめ、そんな事を考えながら唇を重ねる。
これ以上ないほどに目を見開いたディアナが息を飲んだのが分かるが、やがて、ゆっくりとディアナの目が閉じられる。
それを確認して俺も目を閉じると、力の抜けていたディアナの手が、再び俺のシャツを握り締めた。
重ねた唇は柔らかい。
俺は少し唇を離すと、今まで遠ざけていた距離を埋めるように、今度は深くディアナに口付けた。
角度を変え、何度も何度も口付ける。
心拍数が跳ね上がり、耳の後ろに心臓が移動したみたいに、ドクドクと血の流れる音が聞こえる。
唇を唇で挟み、吸い上げ、舌を這わせる。
俺が何か一つ動く度に、ディアナの体が震え、それが興奮を呼び起こす。
全身の血が身体中を駆け巡り、下半身に熱が篭る。
今まで何度か女を抱いた事はあるが、これほど夢中になったことは他にない。
それほどまでに、ディアナの唇は甘く、まるで初めての餓鬼のように、俺は無心でディアナに口付けた。
今回はここまで。
こんな所で終わらせてごめん。
あと一回ですが、お付き合いいただければ幸い。
投下ミスorz
6と7の間に、以下の文を加えて下さい
※※※
今まで見たこともないような、心底安心したような表情に、俺は突き動かされるままに、ディアナを抱き寄せた。
※※※
重要な部分が抜けてるよ……
198 :
名無しさん@ピンキー:2007/06/15(金) 22:07:29 ID:qDiKZFja
続ききたああああああああ
ちょっとしたミスなんてご愛嬌ww萌えに悶えて197を抱きしめたいw
ラストまで期待してまーす!
GJ&いい所で寸止めキターー!
キャラもいいし世界観も好きなのでもう少しで終わりなのが惜しい
シリーズ化とかその後とかクロスオーバーとかどう?
こんなところで!!
勢い余って脱いだ自分はどうすれば!!
ラークもディアナも本当によかったね……!
GJ!!
201 :
ヴァリーン・ハイド 1 ◆spNHzqZtBI :2007/06/16(土) 02:31:29 ID:cqL4gDai
エマニュエル街の貴族、ヴァーセント家の屋敷は、街から少し離れた場所に
ひっそりと存在している。
屋敷の裏に広がる森は、真っ直ぐ突き抜ければ隣町のネージュレーブ港に
続く道に出るのだが、屋敷から街までまた距離があるので、周り道になるが、
森の外の道を馬車で行った方が早いので、森を訪れる者は滅多にいない。
木漏れ日が暖かくて気持ちがいい。鳥が飛び立って梢が揺れた。
少女はこの森が好きだった。ここでは嫌いな継母の嫌味を聞かなくてすむ。
開いた本を胸の上に乗せ、草の上で寝転がり寝息を立てて眠っていた。
「お嬢様、こんな所で寝ていると風邪をひいてしまいますよ。」
少女の顔に影がかかった。上から降ってきた声にゆっくりを目を開ける。
背の高い、服を着ていても分かる鍛えた体躯。中途半端な長さの、黒髪
と茶色の優しい瞳。
「…ヴァリーン?」
「おはようございます。」
「ん…、わたし寝てた?」
「はいぐっすりと。」
影の主、ヴァリーン・ハイドは笑って言い、手を差し出す。
「そろそろ冷えてきますから、お屋敷に戻りましょう。」
屋敷に戻る。少女は嫌そうな顔をしてもぞりと寝返りを打つ。胸の上に
あった本がばさりと落ちた。腕を枕にして、 ヴァリーンを見ない。
「やだ。」
「お嬢様…」
「だって、あの人の顔見たくないんだもん。」
あの人とは、少女の継母の事だ。少女と継母の仲の悪さは屋敷中の
誰もが知っている。
ヴァリーンは困った様に息を吐くと、少女の隣に座り、上着を脱いで
少女にかけてやる。そして落ちた本を広い表紙を見た。
兜を被りマンとを纏った少年が剣をかかげている絵が描かれている。
タイトルは
「勇者ポールの物語。お嬢様は本当にこの本が好きなんですね。」
「うん。だって面白いのよ。特にポールがトマトのたくさん乗った荷台から
飛び出してきたとき、潰れたトマトで全身真っ赤になって、ライバルの
ジョーに逆に心配されるところとか、ポールが海で溺れたときに、
人魚に助けられるんだけどねその人魚がしわくちゃのおばあさんで、
ポールはびっくりして気絶しちゃうの。それに人魚が傷ついて、仲間に
それを話すのよ。怒った人魚達がポールをボコボコするシーンとかが特に
面白いのよ。」
本の話なった途端、碧色の瞳を輝かせて話すのを、ヴァリーンは微笑んで
聞いていた。
白い肌にまだ幼い、可愛らしい顔立ちに、金色の長い巻き毛は背中に
流していて、今は草の上に広がっている。金色の長い睫毛。
襟と袖と裾の部分にレースをあしらったピンクのワンピースと靴下。靴は
飛ばしたのか、靴の裏が見える状態で草の上に転がっていた。
まさか貴族の娘−しかもまだ子供といっていい年齢−の護衛として屋敷
に仕える事になるなんて、昔の自分では考えられないだろう。
「ヴァリーンは人魚を見たことある?本ではおばあさんだけど、本当の
人魚は若くて綺麗な女の人の姿をしていると聞いたわ。」
寝転がったまま視線だけをヴァリーンに向けた。黒い髪が日に当たって、
少しだけ輝いて見えた。
「遠目にだったので、綺麗かどうかは分かりませんが、一度だけ見たことが
ありますよ。」
「本当!?」
少女は驚いて身を起こす。上着がずり落ちた。
「すごいすごい!いつ?どこで見たの!?」
ヴァリーンはずり落ちた上着を今度は肩に羽織らせて、そうですね、と
昔の記憶を辿る。
「確か、15、6歳くらいの時だったかな…」
現在ヴァリーン・ハイドと呼ばれる男が育った国の大陸の近くには小さな島が縦にいくつも浮かんでいて、
その中で大陸から一番離れたところに、シバニア島があった。
白い断崖と人の手が一切加えられていない豊かな自然と緑が広がる、
碧色の海に囲まれた美しい無人島。
島周辺ではよく人魚が目撃された事から、ついた別称は人魚島。
彼は仲の良かった仲間と何人かで、打ち捨てられた小船を漕いで
人魚島に向かったのだ。
1日と半分かけて島についた時はすでに夕方で、腹が減ったと島に生っている
果物を探して食べたらすぐに夜になった。
その日は雲一つ無く、月が明るく輝く夜だった。
何人かはあっちで人魚を探しに行くと、島の対側の海岸へ行ってしまった。
今この海岸にいるのは特に仲のいい2人が残っていた。
黒髪の少年と、茶色いの髪をした少年。
2人は息を潜めて、夜の黒い海岸を見つめていたが、海からは波の音が聞こえる
だけだった。
「あーあ、やっぱり昨日今日で見つかるもんじゃねえんだなぁ。」
黒髪の少年が暇に耐え切れなくなり、砂浜に大の字に寝転がった。
「お前の日頃の行いが悪いからだよ。」
「んだと?」
少年は気色ばむ。
「なんだよ本当の事だろ。」
お互い睨みあう。
「てめえ人の事言えんのかよ喧嘩売ってんのか。」
「売るなら買うぞ。」
「上等だこのやろう!」
2人は立ち上がり、今まさに拳を振り上げた瞬間、遠くで水飛沫が上がる音がした。
振り返ると、上半身は人間の女、下半身は魚の形をした影が月と重なった。
「い、いまのって」
「人魚…?」
拳を振り上げたまま少年たちは顔を見合わせた。
次の瞬間、また飛沫が上がった。
次々と人魚が海の中から飛び出し、海面を跳ねる。
まるで月を目指してるような、優雅なダンスを踊っているようなそんな光景だ。
2人はそれをぽかんと口を開けて見ていた。
ほんの一瞬の出来事だったが、それは神秘的で、しかし圧巻の一言だった。
「あの後、戻ってきた連中は悔しがって寝てしまったんですが、俺たちは
興奮して眠れなかった眠れなかったんですよ。」
実は人魚島は禁足地で、人魚を見に行ったのではなく捕まえに行くつもりだったのだが
それは黙っておく。実際、本物を見た後は本来の目的など忘れてしまって素直に感動
していたのも事実だった。
「すごい!素適な思い出ね。いいなぁ。わたしもいつか見てみたいわ。」
碧色の瞳が驚きと感動で輝いている。
そう言えば、次の日の朝見た海の色は確かこんな色だった。
「そういえば、ヴァリーンが自分の昔話をしてくれるなんてはじめてじゃない?
なんか嬉しい。他にも色々聞かせてほしいわ。」
「え」
ヴァリーンはぎくりと肩を揺らした。
少女はここぞとばかりに詰め寄ってにやりと笑う。
「ねえその大陸ってどこにあるの?ここに来る前はどんなお仕事をしていたの?
一緒に人魚を見たお友達はお元気?」
質問責めだ。
まいったなぁ。
困った顔で、口の端には苦笑を浮かべる。片膝を曲げ、肘を乗せて手の平で口元を
隠してうぅんと唸る。
昔の自分の事で、人に言えるよう話なんてそう多くはない。むしろ人には言えない
事だらけだ。
物心ついたらスラムにいた。親の顔なんて知らないし、生きるために喧嘩だって
盗みだって、人を殺すのだってなんだってやってきた。
5年前、二十歳の時、この少女に拾われる以前の事。
ヴァリーン・ハイドと名乗る前の、昔の自分のはなし。
「随分昔の事ですから、もう忘れてしまいました。」
「えー!?」
「思い出したら教えて差し上げます。さあそろそろ戻りましょう。日も落ちてきましたし、
本当に風邪をひいてしまいますよ。」
ちぇーと唇を尖らす少女を横目に立ち上がり、脱ぎ捨てられた靴を取りに行く。
白いエナメルで、甲の部分にはりボンがついている小さな靴。
ヴァリーンは少女の前に片膝をつき、少女の踵を持ち上げて靴を履かせる。
「戻りたくないなあ。」
「お嬢様がどうしてもと言うならしょうがないですね。今日のデザートは苺のアイスだと
料理長が言っていましたが、お嬢様の分を残すのはもったいないので、俺が全部
食べちゃいましょう。」
「それはダメ!」
「なら帰りましょう。」
ヴァリーンは笑った。
少女はむぅと頬を膨らませて睨んだが、迫力はなかった。
継母と顔を合わせるのは嫌だったが、苺のアイスが食べられないのはもっと嫌だった。
「………帰る。」
ヴァリーンは手を差し出し、少女は今度こそその手を取って立ち上がる。
髪や服についた草を払ってやり、行きましょうと少女の隣を歩く。
206 :
ヴァリーン・ハイド 6 ◆spNHzqZtBI :2007/06/16(土) 02:55:17 ID:cqL4gDai
―― 一緒に人魚島に行ったお友達はお元気?
そういえば、あいつとはもう何年もあっていない。
一緒にスラムで育った仲間の中で、喧嘩ばかりしていたけれど、一番仲の良かった
茶色の髪をした少年。
風の噂でネージュレーブ港にいると聞いた。意外と近くにいると知って
驚いたが、それでも何年もあっていない。
あいつ元気かな。
…多分元気だろうな。
考えにふけるヴァリーンを少女は見上げた。何となく手を繋ぎたくなったので
そっと握ってみた。ヴァリーンは一瞬驚いた顔をしたが、何も言わず握り返してくれたので
少女は嬉しくなった。
大きな手だなあ。といつも思う。
ヴァリーンの昔の話のこと、はぐらかされてしまったけれど、
私が大人になったらいつか話してくれるかしら?
それまでヴァリーンは私のそばにいてくれるのかな。
夕日が沈んで森を赤く染め上げる。草を踏む二つの音がする。
苺のアイスは目の前だ。
とりあえず終わり。
207 :
名無しさん@ピンキー:2007/06/16(土) 03:18:04 ID:fqoiJXQw
ラークの続きと新作がいっぺんにキテター!!!!!!
二人ともGJ!
ヴァリーンとお嬢様の話は、年の差萌えと主従萌えの自分にとってはたまらん話だ。
心がホンワカしますた。
ラークとディアナ、最後の投下です。
今までと比べると長め。
こんな時間に何やってんだ、ってのは言わない方向で。
ひきつるような呼吸を繰り返すディアナの手が、俺の背中を弱く叩く。
それでもしつこく唇を重ねていると、ディアナは拳は力を増して、ドンッと俺の背中を殴りつける。
訴えるような仕草に唇を離すと、唾液に濡れた唇の間で、細い糸が垂れ、切れた。
「ラ、ラーク……容赦なさすぎ…」
呼吸の隙間から、途切れ途切れにディアナが呟く。
遠慮も糞もなくキスを続けていた間、ディアナは呼吸も出来なかったらしい。
初々しいったらありゃしねぇ。
ディアナを見下ろす俺の頬が、思わず緩む。
ディアナは俺をねめあげると、悔しそうに唇を噛み締めて、俺の胸許を強く叩いた。
「やらしい顔」
「そうか?」
「そうだよ」
言われなくても自覚はある。
だが、こんな姿を見せられて、喜ばない男がいるもんか。
情けないぐらいに相好を崩した俺の腕の中、ディアナは両手を突っ張って、離れようともがく。
意地っ張りなディアナの性格を知る俺は、されるがままに、彼女を解放してやることにした。
俺の腕から逃れたディアナは、大きく鼻から息を吐きながら、毛布を掻き寄せ、頬を膨らませる。
けれど、チラチラと俺の方を見るあたり、少しは残念だと思ってるんだろう。
「……バカ」
耳まで真っ赤にしながら、口許まで毛布で覆い、俺を横目で睨みつける。
俺はわざと平然と構え、ディアナと距離を取るように、彼女とは反対側に片手を突いた。
「卑怯だよ」
「何が」
「だって」
視線を外して口篭る。
恥ずかしそうな姿に、俺は喉の奥で笑いを溢し、ニヤリと意地の悪い笑みを浮かべて見せた。
「好きだからキスした。それ以外にねぇよ」
「だから、それがずるいの!」
女の考えることは良く分からん。
首を捻りはしたものの、頑な様子のディアナに、突いていた手を離して、毛布の裾を引っ張った。
「ずるくねぇ」
「ずるい! 心の準備ぐらいさせてよね!」
そういうことか。
俺が毛布を剥ぎ取ろうとしているとでも思ったか、ディアナはぎゅっと毛布を握り後退さる。
「いきなりするなんて卑怯だよ」
「なら、いきなりじゃなきゃ、良いのか?」
「それは……」
つんつんと毛布を引っ張り遊びながら問掛ける。
ディアナはしっかりと毛布を握り締めて離さない。
むくれた顔付きはいつもと変わらない子どもの顔だが、その中には、確かに女としての
戸惑いの色が見えた。
「どうなんだよ」
「うぅぅ……」
小さな唸り声をあげるディアナは、俺の方を見ようともしない。
普段は腹の立つこともある意地っ張りも、こんな時ばかりは可愛く見える。
今まで気付かなかったのが、もったいないぐらいだ。
「ディアナ?」
痺れを切らした訳じゃないが、このままじゃ、いつまでたっても埒があかない。
顔を覗き込むようにして名前を呼ぶ。
ディアナは大袈裟なくらい肩をビクリと震わせたが、やがておずおずと俺に視線を合わせ、
尖らせた口先のまま、ポツリと呟いた。
「い……いいよ……」
答えておきながら、これ以上は耐えられないとばかりに、ディアナは毛布に顔を埋める。
ここまで恥ずかしがられちゃ、勘弁してやりたい気もするが、それよりも欲求の方が限界だ。
「なら、もっぺんだ」
力を込めて毛布を引っ張る。
ディアナも観念したらしく、身体中に緊張を走らせながらも、毛布ごと俺の方へともたれ掛った。
さっきまで意識もしなかった、ディアナの匂いが鼻をくすぐる。
髪を掴むように頭を引き寄せ、毛布の中へ、もう片方の手を差し込む。
こんな形でディアナに触れるなんて、ついこの間までは考えもしていなくて、そう思うと少し可笑しい。
顎に手を掛け、上を向かせる。
ディアナは少しだけ首を捻って、顎に掛る俺の手を見ると、戸惑いながらも俺に視線を合わせた。
鼻先がくっつく距離にまで顔を近付け、髪を撫でてやる。
しばらく、近すぎるぐらいの距離と、手に触れる髪の感触を楽しんでいると、ディアナは一度
目を伏せて、またも口先を尖らせた。
不満そうな様子に笑みが溢れる。
何か言おうかとも思ったが、それも無粋だ。
突き出された唇に、掠めるだけのキスをする。
ディアナは首を竦めようとしたが、俺の手に遮られて、それもままならない。
その代わり、俺の胸許にやった手が、強くシャツを握り締めた。
唇を食み、舌を差し込む。
薄く開かれた唇の隙間から、熱を孕んだ吐息が漏れる。
顎に遣った手で毛布を剥ぐと、ディアナが体を擦り寄せた。
深く口付ける度、ディアナは意地を張ることも忘れたか大胆になり、強請るように俺の舌に
自分のそれを絡めていく。
ぎこちない動きではあるが、それが更に俺の欲望を刺激した。
靴を脱ぐのももどかしく、ベッドに上がり込んで、ディアナを引き寄せる。
その拍子に、絡めていた舌が解かれて、ディアナが大きく息を吐いた。
目尻を赤く染めたディアナの眼差しは潤んでいたが、ストロベリーブロンドの髪が半分ほどを隠している。
額に掛る髪を掻き上げてやると、ディアナはくすぐったそうに目を細め、俺の首筋に腕を回して
顔を埋めた。
「……ね、ラーク」
密着させた体が心地良い。
俺も、無精髭の生えた顎を彼女の頭に擦り付けるようにして、両腕をディアナの腰に回した。
「もっと……いいかな」
「……もっと?」
言われた意味が分からない訳じゃない。
ただ、予想もしていなかった言葉で、俺は馬鹿みたいに同じ言葉を繰り返す。
ディアナが呼吸する度に、掛る吐息がくすぐったくて、考えようとする俺の思考の邪魔をした。
「だって、まだ信じらんないよ。夢みたい」
「夢じゃねぇって」
さんざんキスを交したってのに、ディアナの声には不安が見え隠れ。
俺は腰を抱き寄せると、一度大きく息を吐き、ディアナの背中を優しく撫でた。
「これ以上続けたら、それこそ夢かと思うぞ」
冗談めかして言ってみるが、ディアナは俺にしがみついたまま、ふるふると首を左右に振った。
「それでも良い。もっとラークが欲しいの」
聞き間違いかと思った。
これより先なんて、やる事は一つしかない。
それが分からないほど馬鹿じゃないし、ディアナだって子どもじゃない。
だが、子どもじゃないディアナは、自分の言葉の意味をちゃんと理解しているらしく、見上げた瞳は、
扇情的な色を帯びていた。
「いや?」
小悪魔が、腕の中に居る。
さっきまでの余裕は何処へやら。今度は俺が固まる番だ。
不安と情欲を瞳に宿らせ、ディアナは熱の篭った眼差しで俺に向ける。
少しやつれた顔。色付く頬。濡れた唇。背中を這う指。その何もかもが俺の熱を煽る。
そんな風に見つめられて、首を横に振れる野郎がいるなら、お目に掛りたい。
さっきのキスで、下半身は痛いほどに張り詰めている。
それが分かるからこそ、ディアナの大胆さにも、研きが掛っているのかも知れない。
降参だ。
「手加減出来なくても、文句は言うなよ」
「言わないよ」
肩を落とした俺に悪戯に笑うディアナ。
十八とはいえ、やっぱりこいつも女なんだなと、今更ながら感心してしまう。
そして、彼女より十一年上の俺も、やっぱり男だ。
だが、再び口付けようと距離を詰めると、ディアナは俺の唇から逃れるように顔を背けた。
「ラーク、忘れてる」
「何が」
ここまできて拒む事もないだろうに、ディアナは顎を引いて俺の顔を近付けまいとすると、
上目遣いに俺を見上げ、眉を寄せた。
「避妊」
「…………」
本当に、俺が思ってる以上に、こいつはしっかりしてやがる。
「出来て困るのは私なんだから。持ってない訳じゃないでしょ?」
「あ……ああ」
いつ俺の部屋をガサ入れしたんだ、とか。さっきまでのムードは何処に行った、とか。この状況で
言える勇気が偉い、とか。
そんな事を考える俺の体を引き剥がし、ディアナはにっこり笑った。
「早く取って来て。待ってるから」
「…………」
本物の小悪魔だ。
とはいえ、俺だってここで強攻に事に及ぶほど馬鹿じゃない。
「わぁった。すぐ戻る」
素直にベッドから降りた俺は、裸足のまま自分の部屋に引き返す。
雑多な部屋は、数日換気をしていなかったせいか熱気が篭り空気も淀んでいたが、そんなことは
どうでも良い。
サイドボードの引き出しを開け、しばらく使っていなかったゴムの箱を探し出す。
その紙箱を掴んでディアナの部屋に取って返すと、ディアナはまたも毛布に包まり、ベッドの上に
鎮座していた。
「早っ」
「茶化すな、馬鹿」
緊張を誤魔化そうとでもしているのか、軽口を叩くディアナに苦い笑みを返す。
その時になって気付いたが、ベッドの足元に、さっきまでなかった物が見えた。
折り畳まれた服と下着。
しつこいぐらいに毛布を手放さない理由。それが頭の中を掠めた瞬間、背筋が震えるような興奮を覚えた。
手にしていた紙箱を枕元に放り投げ、シャツを脱いで床に捨てる。
ベルトを外す時の掠れた摩擦音が、何故か耳の奥に残る。
ディアナは目を細め、俺の動きを黙って見つめている。
ズボンを脱ぎ捨て下着一枚でベッドに乗り上げると、ディアナが毛布から両腕を伸ばし、
俺の首筋にすがりついた。
ディアナが幼い頃は、一緒に風呂に入った事もある。
その時と比べて成長したな、と、くだらない事を考えながら、俺もディアナの背に腕を回す。
滑らかな肌。そこから僅かに浮き出た背骨に指先が触れたので、肌の感触を楽しみながら指を
這わせる。
ディアナの体は、思いの外薄かったが、直接触れ合う温度が心地良い。
女らしい丸みを帯びた柔らかな胸が俺の胸に当たり、潰される。
背中を撫で摩りながら、啄むような口付けを交し、もつれ込むようにしてベッドに横たわる。
ディアナの足の間に俺の足を潜り込ませると、ディアナはやはり緊張しているのか、滑らかさを
感じさせる太股で俺の足を挟み込んだ。
一糸纏わぬディアナの肌を、確認するように掌で撫でる。
横抱きの体勢で背中から腰、脇腹へ。ゆっくりと右手を腹部へ回し、胸に触れると、瞬間、
ディアナが唇を引き結ぶ。
眉を寄せ目を閉じたディアナの首筋に、唇を滑らせながら胸を撫でる。
固く尖る乳首に触れるが、俺はわざと優しく胸を撫で続けた。
首筋に吸い付き、舌を這わせ、掌と唇で全身を優しく解していく。
ディアナの唇は結ばれたままだったが、鼻に掛った声が途切れ途切れに聞こえた。
背中に回していた左手を徐々に下へと移動させ、ディアナの弾力のある尻を掴む。
力を込めて揉みながら、しこった乳首を指で摘むと、ディアナの体が小さく跳ねた。
「や、……んんっ」
声を出すかと思ったが、ディアナはすぐに口を閉ざすと、俺の肩を掴んで小さく首を左右に振る。
拒否にも似た仕草だが、俺は気にせず、やわやわと尻を揉みながら、同じ刺激を今度は胸全体に
与える。
指先で乳首を押し潰しながら、緩急をつけて胸を揉む。
俺の肩を掴むディアナの力が強くなり、ディアナは刺激に耐えるように唇を噛み締めた。
「ディアナ」
少し手の動きを弱め、名前を呼ぶ。
薄く目を開けたディアナに笑い掛けると、ディアナも少しだけ俺に微笑んで見せた。
その様子を確認し、俺は唐突にもう片方の胸に吸い付く。
ちゅうときつく吸い上げると、ディアナは大きく体を震わせ、俺の足を強く挟んだ。
「あ、や、ああぁっ!」
足を擦り合わせるディアナの口から、小さな悲鳴が上がる。
その声をもっと聞きたくて、乳首を甘噛みしながら吸い上げる間に、両の手の動きを再開させると、
ディアナの喉が震えた。
「や、あんっ……ああっ」
耳に心地良いディアナの声。
俺の刺激に併せ、ディアナの唇から溢れる甘い悲鳴に、思わず
目尻が緩む。
尻の割れ目から更に奥へと左手の指を這わせる。
汗で湿ったその部分に、汗とは違うぬるりとした感触を指先に感じ、俺は右手を下へと移動させ、
唇も腹部へと滑らせる。
浮き出た肋骨や、ひくつく腹に唇を落としながら、尻に回していた手を太股に掛け割り開く。
僅かに抵抗感はあったが、右手が恥毛を掻き分けると、込められていた力が緩んだ。
右手がクリトリスに触れる。
俺が膨らみを見せるそれを人指し指と中指で挟んで緩く擦ると、動きに併せてディアナの腰が浮いた。
「あぁっ、や…やだぁ」
「嫌じゃねぇだろ。そんな声出して」
「や、ちが……ひゃぅっ!」
意地っ張りなのか素直なのか。加虐心を煽られて、挟んだ部分を強く擦ると、息を飲むような悲鳴を上げ、ディアナの指先が
俺の肩に食い込んだ。
「ちゃんと濡れてきてんな」
「っ…! そ、そういう、こと、言わないのぉっ!」
「言った方が感じるだろ?」
「や、も……っ…!」
顔を上げてディアナを見ると、ディアナは俺を睨み付けていたが、眼差しは蕩けたように力がない。
思わず含み笑いが漏れた俺は、両手でディアナの足を割り開くと、ぬらぬらと光るそこに顔を近付けた。
鼻を抜ける、汗と女の蜜の匂い。
情欲を掻き立てる匂いに、頭の芯がくらくらする。
クリトリスを舌先で舐めると、女性特有の少し酸味のある愛液の味。
「や、ラーク……っ」
腕を伸ばしたディアナが、俺の髪を掴む。
溢れる愛液を舌で拭い、クリトリスに押し当てる。
露になったクリトリスをこねるように刺激する度、ディアナの声は、より熱を孕んで嬌声となる。
絶え間なく上がるディアナの声は、酷く淫らに室内に響いた。
ぱっくりと開いた膣内からは、透明な愛液がとろとろと溢れ、薄暗いさもあってか、淫美に光る。
ゆっくりと指を差し込むと、周囲の肉壁が締め付けたが、抜き差しの度にひくついて、ディアナが
感じているのだと知れる。
今まで男と付き合ったと言う話は聞いていない。
アランの言葉通り、俺が知らないだけかも知れないが、この様子を見ると、どうやら
他の男の物になった事はないらしい。
それが嬉しいなんて、俺も相当ヤられてる。
固い肉を解すように、指を抜き差ししながら上体を起こす。
ディアナを様子を伺うと、彼女は両目を強く瞑りながら、掴む物のなくなった両手で口許を覆っている。
噛み締めた唇が綻び、指の隙間から篭った声が漏れて、俺の指の動きに併せ肩が揺れる。
二本三本と徐々に指を増やしながら、潤いを絶やさぬように親指でクリトリスを刺激する。
痛みはないようだが、慣れないうちは膣内の感覚は鈍いと言うし、ディアナだって辛いだろう。
もっとも、外からの刺激も慣れてないだろうが、確実に快感に変わるうちは、刺激してやるに
越したことはない。
こんな余裕を持てるのも、年を重ねたお陰だとすれば、無駄に年を食うのも悪くはない。
とは言え、正直そろそろ限界だ。
心も体も、欲望を吐き出したくて、はち切れそうになっている。
ずるりと指を引き抜いて、枕元の紙箱を掴み取る。
俺が下着を脱いで準備を済ませる間、ディアナはあえかな呼吸を繰り返しながら、薄く目を開いて
俺を見つめていた。
「ディアナ」
今までも、行為の最中だって、何度も呼んだ名前なのに、やけに緊張するのは気のせいだろうか。
下着を床に放り投げ、改めてディアナに向き直ると、ディアナは口許を覆っていた手を俺の顔に伸ばし、
弱々しく笑って見せた。
微かにディアナの唇が開き、俺の名前の形に動く。
吐息混じりでまともな声にはなっていなかったが、それだけで、もう充分だ。
ディアナの掌が、無精髭まみれの俺の頬を撫でる。
その動きが、愛されているのだと実感出来て、思わず涙が出そうになった。
硬く勃ちあがったペニスに手を添え当てがう。
ぬちゃぬちゃと愛液を絡めながら、時折クリトリスを突くと、ディアナの口から小さな声が漏れた。
「力、抜いとけよ」
「ん……」
優しく声を掛けながら、なるべくゆっくりと入り口に分け入り、先端を埋める。
頷いたディアナだったが、一瞬腰が引けて、俺は逃さないように両手で腰を掴み、下腹に力を込めて
腰を押し付けるようにディアナの中にペニスを埋めた。
うなり声にも似た吐息が、ディアナの鼻先から漏れる。
熱く絡み付く肉壁の収縮に、根刮ぎ精気を持って行かれそうになるが、俺は奥歯を噛み締めて、
深く息を吐くことで遣り過ごす。
喉を震わせるディアナの手が、不安定に彷徨う様子に、俺はディアナに覆い被さり、しっかりと
その体を抱き締めた。
それに倣い、ディアナの手も、俺の背中に回される。
思っていたよりもディアナの体は開かれていて、俺の発する熱は根本までディアナの中に沈み込んでいた。
喘ぐような呼吸を繰り返すディアナだが、その表情に苦痛の色はない。
「痛いか?」
頬に口付けを落とし尋ねると、ディアナは瞼を押し上げて俺を見つめ、それからゆっくりと
首を左右に振った。
「へーき……なんか、変な感じはするけど」
「そか。……ま、痛くねぇなら、それに越したことはねぇよな」
「……そういうもんなの?」
ディアナの瞳は不安そうに揺れている。
「初めては痛い」なんてのは飽くまで一般的な話で、どう感じるかは個人差がある。
たまたま、ディアナが痛みに強くて、中の感覚も鈍いだけの話だろう。
「そういうもん。下手に血まみれよか、俺は全然良いよ」
「……そう、かな」
圧迫感を忘れるように、軽い口調で告げるが、ディアナは息を顰めながらも怪訝そうに眉を寄せる。
だが俺は、ディアナの鼻先にちゅっと音を立ててキスをすると、額をくっつけて視線を合わした。
「そうだよ。次にする時に躊躇すんだろ? また痛い思いをさせんじゃねぇか、とか、拒まれたら
やだな、とか」
少しでも不安を和らげてやりたくて、冗談めかして言ってみる。
そんな俺の言葉に、ディアナはようやく安心したか、ふふっと笑い声を溢した。
「そうかも。私もやだな……ラークに触ってもらえないのは」
呟くような声量だったが、甘い囁きは俺の耳にしっかりと届く。
こういう時に素直になられるってのは考え物だ。
たった一言で、我慢が利かなくなる。
密やかに笑い合っていたい気もするが、俺の下半身を覆う熱は、じわじわと締め付けを強くする。
俺はディアナに軽く口付けると、彼女の顔の横に両手を突いて、体を起こした。
「痛くなったら言えよ」
「うん」
ディアナが頷いたのを見て、ゆっくりと腰を引いていく。
半分ほどを抜いた辺りで、ディアナの膣は固く閉じようとしたが、もう一度ディアナの中に入り込む。
肉をえぐるような錯覚と、微かに聞こえた粘ついた水音。
ぐちゅりと篭った響きはディアナにも聞こえたようで、ディアナは固く目を閉じて、俺の腕を掴んだ。
ディアナの様子を伺いながら、緩やかに腰を動かす。
指で解したとはいえ、彼女の中は窮屈で、蕩けんばかりの刺激が腰から脳髄へと走り抜ける。
徐々にスピードを上げていくと、ディアナは何かを堪えるようなうめき声を漏らしたが、もう気にする余裕はない。
汗が顎を伝い、ディアナの額にぽたりと落ちる。
腰が砕けそうな熱と、耳の奥に響くディアナの声に、快感は急速に俺を昂みへと追い遣る。
「あぁっ…ん、ラークぅ…っ」
抽迭を繰り返す俺の名を呼び、ディアナが首筋にすがりつく。
噛みつくようなキスを与え、ひときわ深くディアナの中をえぐる。
ディアナが愛しい。
本能のままに腰を打ち付ける俺の胸に残るのは、ただそれだけ。
「ディアナ、……っ!」
臨界点を越えた欲望が弾けた瞬間、俺はディアナを抱き締めて、例え様のない幸福感に身を委ねた。
快楽の余韻に体が小さく震える。
腕の中のディアナは、俺と同じように肩で呼吸を繰り返しながら、そろそろと俺の背中に腕を回す。
しばらくそうして抱き合っていたが、何とか波が引き落ち着くと、俺は疲れた体に鞭打って、
ディアナの中から自分の体を引き抜いた。
さっきまでの昂ぶりが嘘のように、力を無くしたペニスからゴムを外し仰向けになる。
ついでに、ふと沸き上がった悪戯心に、俺の隣のディアナの胸許に外したばかりのゴムを乗せると、
ディアナは僅かに目を見開き、そして思いきり眉を寄せた。
「何してんの」
「いや、何と無く」
「何と無くでやんないでよ! ムードぶち壊しじゃない!」
俺の悪戯がお気に召さなかったらしく、ディアナはぶすくれだった顔付きでゴムを摘んだが、
ご丁寧に口を縛ってゴミ箱に投げ捨てた。
「余韻とか、そう言うのあるじゃない」
ぶつくさ文句を溢す姿は、本気で怒っているようにも見える。
下着を付けるのも面倒で、毛布を引き寄せた俺は、少し目を細めると、ディアナの腰を抱き寄せた。
「それは今から。そう怒んな」
ぽすりと俺の胸に倒れ込んだディアナは、存外素直に毛布の中に潜り込んだが、不満気に
俺を睨み上げる。
その様子が可愛いと思ったけれど、俺は頬を緩めただけで何も言わず、両手でしっかりと
ディアナを抱き締めた。
心地良い疲労感に瞼が重い。
ディアナの背を撫でながら、髪に顔を埋めて目を閉じる。
ディアナはしばらく、居心地が悪そうに、もぞもぞと腕の中で動いていたが、やがて居場所を定めたか、
その動きもなくなった。
髪に口付け、指先に髪を絡ませる。
ディアナの指が顎に触れたが、されるがままに目を閉じていると、ディアナは指先を俺の唇に這わせ、
ふふっと肩を震わせて指を引っ込めた。
「どうした?」
薄目を開けて問掛ける。
ディアナは目を細めて俺を見つめていたが、ふるりと首を左右に振り、俺の胸に頭を預ける。
「何でもない。ねぇ、ラーク」
「ん?」
「……大好き」
囁く声は甘い響きでもって、俺の体の隅々まで行き渡る。
──嗚呼、まったく。
相方も、厄介な置き土産を遺して逝ってくれたモンだ。
指先で遊ぶ髪にもう一度口付け、俺は訪れた睡魔に身を委ねた。
それから数日。
俺とディアナは、ランドカーゴを走らせて、エルヴィオンスから少し離れた場所にある墓地を
訪ねていた。
手入れの行き届いた墓地の中、相方の眠る墓標の前で、ディアナは両手を併せ目を閉じている。
俺は相方の好きだった酒を墓前に置いて、乾いた風に目を細めた。
「パパもびっくりしてるだろうね」
帰り道、いまだ沈黙したままのチップを手の中で転がしながら、ディアナが口を開いた。
「そりゃ……そうだろうな」
「ラーク、怒られるかも。俺の娘を手籠めにしやがって! とか」
「……やめてくれ。すげぇ有り得そうだ」
ディアナは冗談のつもりだろうが、相方のことを良く知る俺には、嘘でも心臓に良くない。
苦い顔付きの俺を見たディアナはくすくすと笑う。
開けた窓から流れ込んだ風に、ストロベリーブロンドの髪が揺れ、午後の日差しに煌めいている。
「じゃ、お次はチップの修理だな。いまどき、床に叩き付けて壊したなんて、修理工が聞いたら呆れるぞ」
ハンドルを握り直して俺が言うと、ディアナは誤魔化すように「えへへー」と笑った。
以上、投下終了です。
今まで感想をくれた皆様、本当にありがとうございます。
世界観を気に入ってもらえた事は、物書き冥利に尽きるの一言。
書ききれたのも、励ましの声があったからこそ、です。
充電期間を置いて、もう一つクロスオーバー的な代物も考えてたりするので、
その時はまた、お邪魔したいと思います。
以上。名無しに戻ります。
223 :
名無しさん@ピンキー:2007/06/17(日) 04:02:38 ID:AjGOu+Ou
めちゃめちゃGJ!!!!!
お疲れ〜 これで昼間っからそわそわ不審な動きをせずに済むww
自分としては今すぐにでも続編なり何なり読みたいわけだが、ペースを大事にして
もっと萌えるやつをいっちょお願いしますww
マジでありがとうございました!
>>222 最初から最後まで、日曜の朝なのに一気にチェックしちゃいました。
半裸になりながら楽しませてもらいましたよ、GJ
クロス物にも期待してます!
「……どうしたのよ、それ」
開口一番そう呟いたのは、館の主の姉──クロエであった。久方ぶりに嫁ぎ先から戻ってきた彼女は怪訝な顔で弟──ギュスターヴ・クロード・デュ・ボアを見る。
「拾った」
クロードの膝の上で大人しく絵本を広げている少女──リュシーは六つか七つといったところだろう。見るからに幼い。
(盛んな男だと思ってはいたけど……大人の女だけでは飽きたらず、ついにそっちに走ったのね)
弟が常識を逸脱しかけているのを止めるべきなのか、諦めて見守るべきなのか、彼女は真剣に頭を悩ませる。
「だんなさま」
リュシーが飴玉のように大きな目でクロードを見上げる。
「ん?」
「これはなんとよむのですか?」
絵本を指さすリュシーに顔を近づけ、クロードは絵本の一節を口にした。
そうして、請われるままに絵本のページをめくり、リュシーのわからない部分を教えてやる。
「いい子だ、リュシー。お前は賢いね。聡い子は好きだよ」
ふわふわとした巻き毛に片手を添えて、クロードはその柔らかな髪に唇を寄せる。
「な……っ」
くすぐったそうにしながらも、嬉しそうに受け入れているリュシーを見つめ、クロエは絶句した。
(う、うそよっ!? あのクロードが?)
齢二十のクロードはまだ二桁に満たない年の頃から可愛げのない冷めた態度でクロエを苦しめてきた。愛情表現がすこぶる歪んでいてわかりにくいのだ。
家庭教師や使用人をいびり倒して辞職に追い込んでいたクロードが実は彼らを気に入っていたのだと気付いたのは辞めた人数が二桁を越えてからだった。皮肉めいた彼の言葉が愛情の裏返しだと誰が気付くだろう。
彼が女性と親密な関係を結んでもそれを維持できないのは、そのせいではないかとクロエは踏んでいる。
そのクロードが目に見える形で、非常にわかりやすく、リュシーに対して愛情を示している。
(え、まさか、本気で幼児趣味が……)
髪に顔を埋めてリュシーを抱き寄せるクロードを眺めていると、真剣に眩暈がしてきた。クロエはくらくらし始めた頭に片手を添えて、弟を睨みつける。
「正直に言いなさい。あなた、その子をどこで手に入れたの?」
不機嫌に眉根を寄せたクロードが冷ややかにクロエを見据える。クロエは一瞬怯みかけたが、デュ・ボア家の威信を守るためにも毅然として弟の視線を受け止める。
「半年前に街を歩いていたら落ちていた」
「落ちてた?」
「ポケットに入っていた飴をやったら最初は怖がって、でも口に放り込んだら嬉しそうに笑って…………気に入ったから拾ってきた」
「いかがわしいことしてないでしょうね?」
「まさか。子どもに手を出すほど不自由していない」
淡々とクロードは語る。
得体の知れぬ場所へ赴く弟の素行の悪さに呆れ、しかしそれならば孤児を拾っただけだと安心し、クロエは複雑な心境で二人を眺める。
親子というには年が近すぎ、兄妹というには少々遠い。微妙な年齢差が気にかかりはするが、どうやら弟はまだ道を外れてはいないらしい。
「いけない! だんなさま。あの、わたし、ごあいさつを」
二人の顔を交互に眺めていたリュシーが唐突に立ち上がる。
「ん。ああ、私の姉のクロエだ」
つぶらな蒼い瞳がまじまじとクロエを見上げてくる。
「クロエ。リュシーだ。これから末永く私に尽くしてくれる」
「リュシエンヌともうします。いごおみしりおきを、おくさま」
行儀良く頭を下げるリュシーにクロエもつられて微笑みを返す。
「よろしく、リュシエンヌ。私もリュシーと呼んでかまわないかしら」
「はい、おくさま」
リュシーははにかむような笑顔を見せる。
(半年でよくもまあうまく躾たものだわ)
年に似合わぬ挨拶にクロエは素直に感心する。
「上出来だ。よく出来たね、リュシー」
ひょいとリュシーを抱え上げ、クロードは再び膝に乗せ頬に唇を寄せる。
(それにしても)
二人の間に流れる甘ったるい空気をクロエは苦々しく感じる。
「先行きが不安だわ」
ぽつりと呟いたクロエの言葉は聞かぬふり。クロードは心配性の姉はお構いなしに、始終リュシーと戯れていたのだった。
おわり
以上、エロなしですが旦那様×メイド見習いでした。
以上、旦那様×メイド見習いでした。
青年と幼女のほんわか甘々が好きなんでこんなんになったけど、また書けたら投下しにくるかもしれないです。
229 :
名無しさん@ピンキー:2007/06/18(月) 02:35:35 ID:Gm31UZ9U
>>228 メイド見習いが成長した後ご主人様がどう扱うのか気になるw
もしも続き書けそうだったらよろしくお願いします。
素敵な萌をありがとん
>>228 主従スレから誘導されてきますた。
過去話も萌え死んだ。
続き楽しみに待ってます。
>>229 主従スレで先の話が少しだけ読めるよ。オススメ。
GJ!!リュシー可愛い。
それからご主人様からSの香りがするw
232 :
名無しさん@ピンキー:2007/06/22(金) 01:44:52 ID:reayyqFc
保守
233 :
名無しさん@ピンキー:2007/07/01(日) 02:36:49 ID:gfwe3nLT
保守age
234 :
名無しさん@ピンキー:2007/07/02(月) 19:50:39 ID:p9QrkxR8
実に好みのスレだ
保守
235 :
名無しさん@ピンキー:2007/07/02(月) 20:30:11 ID:9aQ/TwiQ
少年と大人のお姉さんのスレじゃないのか
アニメオリジナルのカプだけど
幽白の左京さん×静流さんには萌えたなあ、当時。
見た目は大人同士の雰囲気漂う二人だけど実は
男36女18という、隠れ年の差カプ。
237 :
名無しさん@ピンキー:2007/07/05(木) 23:08:33 ID:5al9zTmN
上げ
とあるゲームにハマってる。年の差カプ量産できてかなり萌え。
男にイケメンがいないのがちょっとアレたが、渋いのはいるのでおk。
男主人公を選ぶと38歳の未亡人を落とせるし、女主人公だと最高42歳のオッサン落とせる。
ちなみに主人公は18歳。エンディング後には二十歳。
男主人公で幼女が落とせりゃ完璧だったんだけどな…
考えてみたら「量産」ではなかった。あくまで主人公と誰かの組み合わせだしな。ロリ要素がないのがな〜。いまいちなんだよな。
女主人公も清楚系でないし…年上の未亡人とかは美人でイケる。そういうシチュ好きな人にはお勧め。ただし、ゲーム自体がかなり特殊。パチンコゲームなんでw
パチパラ13か?
女主人公の攻略対象でまともなのが16歳離れたおっさんくらいだと
本スレでもよく言われてたな。
書いてみたいネタがあるがなかなかエロに絡めるのは難しいな・・・
こんなスレがあったのか。
聖職者と少女みたいな、年齢と社会的立場で二乗に悩むカプが好きだな。
高三と小六は年の差カップルに入りますか?
18と12?まあ離れてるような。むしろr(ry
ほ
し
248 :
名無しさん@ピンキー:2007/07/21(土) 02:38:32 ID:n566K7x5
あげ
煮れ
蒸しますねえ
おっさんと少女が好きだった
それからしばらくして妄想に近いが、幻水2のシエラとカーンが好きになり
女性年上でもいけるんだな、と思ってたらランスシリーズのパットンとハンティでクリティカル食らった
見た目少女の年上女性とおっさんはかなりいいな
>>251 ちょっと話があるから来てくれ。酒とつまみならあるから
ほほししゅ
jほしゅう
hosyuage
待ちながら保守
保守しつつサンソン×マリー萌えと呟いておく
当時マリーとほとんど年が変わらなくて羨ましさに嫉妬炸裂だったけど
今思えばあの二人が自分の年齢差カプの原点だった…
あれ?俺がいる
同士がいっぱいいて嬉しいサンマリスキーな俺が通りますよ
261 :
名無しさん@ピンキー:2007/08/16(木) 13:31:43 ID:836dyNXS
バックトゥザフューチャーのマーティが女だったらドクとラブラブなんだろうな…
>>252 仲間なのか?
それならなかなか知ってる奴がいないので嬉しい
そして俺もサンマリ萌えと付け足しておこう
いい年した男が年齢を気にして気持ちを秘めたり気持ちを受け入れなかったりするのも
少女が釣り合わないと思って諦める姿も年の差なんて!みたいに若さでガンガン行こうとするのもどっちもいいなぁ
264 :
名無しさん@ピンキー:2007/08/21(火) 17:23:24 ID:rJyGAswx
小説書いてたの間違えて消してもうた、
オワタ
265 :
名無しさん@ピンキー:2007/08/23(木) 22:47:43 ID:5b/4ybPX
上げる
266 :
名無しさん@ピンキー:2007/08/28(火) 15:40:40 ID:6UnAQHiX
age
大学の教授と学生ってのはどうなの?
30過ぎたおっさんと女学生……
講談社文庫に「全てがFになる」という小説があってだな…
>>268 その時点で助教授30代だったっけ?
今のシリーズはもう読んでないから、現時点ではわからないけど。
「F」で30代前半と19のはず。11か13歳差だったと思う。
出会ったのは大学生と小学生の時という設定。
意識せずに普通に二人に萌えてたが、そうか歳の差萌えもあったのか。
>>270 大学生と小学生の時にであってとか犯罪の香りがしてステキすぐる
272 :
名無しさん@ピンキー:2007/09/03(月) 15:31:53 ID:DMv33laO
age
自分に年の差属性があるのは承知していたが、
まさかkiller7のダンと楓にハマるなんて予想もしてなかった。
凶暴俺様33歳暴君と鬱傾向20歳裸足とか…ばかやろう萌えるじゃねえか…
ここで51作品の名前を見るとは思わなかったw
ダンと楓は俺も好きだ
あの幸せになれなさそうな雰囲気が、何とも言えず堪らん
>>274 一緒に酒でも飲もうか
副読本の「乙女心」はずるいと思うんだぜ51…
気がついたらゲーム中にもそれらしき要素探してしまう俺になってしまった
(「笑顔」での衣装カラーリングが同じとか)
つーか調べたらシルバーのモリカワとハチスカも13歳差か…
51ゲって何処かに破滅感漂ってるから、
あの二人もどうあっても幸せにはなれなさそうな…というか本編が…OTL
保守代わりのつもりで書いていたが、思いもよらず長くなった
職人待ちの暇潰しになれば幸い
エロ無しスマソ
>>275 コヨーテの報われ無さも好きだが、やはりあの二人の刹那的な雰囲気には負けると思う
FSRのトリコとスミオに萌えた俺は異端かも知れない
瀬能博生は、マンションの階段を昇りきるなり、足を止めた。
自宅の玄関扉は目と鼻の先。距離にして三メートルもない。
いつもと違うのは、その扉の前にしゃがみ込んでいる子どもがいる、それだけだった。
が、それだけ違えば充分過ぎる。
もしや階数を間違えたかと思ったが、生憎と瀬能の部屋は二階にある。独り暮らしを始めて数年になるが、
いまだかつて、シラフで部屋を間違えた事はない。
訝しく思い、足を止めたは良いが、退いて貰わねば瀬能も部屋に入れない。
一瞬、考えを巡らせて、それから口を開こうとした瀬能だったが、それより早く子どもが顔を上げた。
「あ、瀬能のおじちゃん」
「…………美春?」
見覚えのある顔。
ここ一年ほど会ってなかったせいか、名前を思い出すのに寸間を要したが、井口美春はにへっと締まりの
ない笑みを浮かべると、ズボンに付いた埃を払いながら立ち上がった。
美春の父親、井口治樹は、瀬能の高校時代からの親友である。
二十歳の時、大学在学時に所謂「出来ちゃった婚」で結婚してから、かれこれ七年になる。
その時産まれたのが、美春であり、瀬能の記憶違いでなければ、この五月で七歳になっている筈だ。
疑問は多々あれど、取り合えず美春を部屋に招き入れた瀬能は、かばんをベッドに放り投げて、
美春の待つキッチンと戻った。
と言っても、狭い1Kである。
就職してから引っ越した部屋だが、学生時代に暮らしていたワンルームよりも、一部屋多い程度という
認識しかない。
美春はリュックサックを床に置き、所在無さげに、それでも興味深そうに、あちこちに視線を
飛ばしていた。
以前会った時は髪も長く、間違いなく少女と思えたが、今は長かった髪は切り揃えられ、見た目は
少年のような風貌だ。
「何やってんだ、お前」
冷蔵庫から緑茶のペットボトルを取り出しながら尋ねる。
美春は瀬能に視線を移したが、まるで「質問の意味が分からない」とでも言うように、きょとんとした
表情である。
水切籠に伏せてあったグラスを取り、緑茶を注ぎ入れる。それを美春に手渡して、瀬能は眉を寄せた。
「一人で来たのか? 治樹とか、みちるさんはどうしたよ」
「来てないよ。私一人」
緑茶を飲む美春の言葉に、瀬能はますます眉を寄せた。
美春の荷物は、大きなリュックサックが一つ。
遠足にでも行くかのように、パンパンに膨れ上がったリュックには、母親のみちるが書いたのであろう、
名前と連絡先の書かれた名札がぶらさがっている。
「あのね、おじちゃん」
「ん?」
「今日、泊めて」
「……」
やっぱりな、と。思わず溜め息をついた瀬能に構わず、美春はぐぐっと緑茶を飲み干すと、
至って真面目な表情で瀬能を見上げた。
「家出してきたの、私」
「……家出?」
「うん」
力一杯頷いた顔は、子どもながらに真剣その物。
瀬能は眉を顰めた。
「何で?」
「だって私、いらない子なんだもん」
「はぁ?」
きっぱりと言い切った美春は、唇を尖らせそっぽを向いた。
「お父さんもお母さんも、千秋ばっか可愛がるんだもん。私なんか、居なくても良いんだよ、きっと」
独り言のように呟いて、美春はフンと鼻を鳴らす。
(そりゃあ……二歳の妹の方が、手は掛るわな)
内心、そんな事を考えた瀬能は、どうしたもんかと頭を悩ませた。
子どもの扱いは馴れていない。
とは言え、ここで追い返しても、美春が素直に言う事を聞くとも思えない。
幸い明日は日曜で、瀬能も仕事が休みである。
一晩たてば、美春も家が恋しくなるだろう。
今日中に井口に連絡をしておけば、大事になる事はない筈だ。
「……まぁ、別に良いけど」
もともと、物事を深く考えるタチではない瀬能は、あっさりと頷く。
それを見た美春は、満面の笑みを浮かべると、両手を高々と掲げて万歳をした。
「やった!」
「ただし、家には連絡しとくぞ。警察沙汰なんかになって、誘拐犯扱いされんのは御免だからな」
「えー」
「えー、じゃない。じゃなきゃ、今直ぐ家に帰れ。送ってく」
「やだ!」
「じゃ、連絡しとくぞ」
半分本気で脅しを掛けると、美春はまだ不服そうな表情だったが、渋々頷いて見せた。
その日の夜は、二人揃ってファミレスで食事をする事にした。
基本的に自炊の瀬能だが、夕食の殆んどは、買ってきた総菜とビールといった代物で、美春には
まだまだ早い。
料理も、面倒臭いという理由で、簡単な物しか作らない瀬能が、ファミレスを選んだのも当然と
言える。
美春は至って上機嫌で、ハンバーグプレートにデザートにはアイスまで頼み、それをペロリと平らげた。
家に戻ると放置してあったゲームに興味を示したので、先に風呂に入れてやれば、瀬能のする事は
無くなった。
格闘ゲームに熱中する美春の隣で、瀬能はチビチビとビールを飲みながら、夕食前に井口と交した
会話を思い出していた。
美春の妹、千秋は、二日前からおたふく風邪に掛っていたらしい。
ただでさえ手の掛る年頃なのに、流感となれば、美春に神経を払ってやれないのも無理はない。
何より、美春はまだ、おたふく風邪に掛った事がないのだと言う。
一日だけでも、美春と千秋が離れている事に、井口は心底安心した様子だったが、瀬能は内心
面白くない。
井口の気持ちが分からないでもなかったが、それで何故、赤の他人の自分の家を美春が選んだのかも、
面白くない理由の一つだった。
「美春」
「なにー」
体を傾けて画面に集中している美春は、瀬能の声にも生返事。
ベッドにもたれていた瀬能は、よっこらせと体を起こすと、ビールの缶を床に置き、空いていた
コントローラーを拾い上げた。
「何でウチに来たんだよ」
「何でって?」
「祖父ちゃんチでも良かったろ? 俺んチよか、そっちの方が近いんだし」
ゲームに乱入してやると、美春はふいっと瀬能を見た。
「だって、おじちゃん格好良いんだもん」
「はい?」
思わぬ言葉に指が滑り、選択したキャラクターは、瀬能の苦手とするスピードファイターだった。
しかし美春は、父親譲りのにへっとした表情を浮かべると、また画面に視線を戻した。
売店で買った餌をキリンにやり、猿山の猿を飽きもせず眺める。
動かないライオンに野次を飛ばして、怖がる美春をからかいながら爬虫類館を見て回ると、時間は
あっと言う間に過ぎて行った。
動物園を出ると、また揃って電車に乗る。
駅を出て家に近付くにつれて、美春の口数は減っていったが、瀬能は歩みを止めはしなかった。
変わりに、しっかりと手を繋いで、歩くスピードを併せてやる。
空いた手に、動物園で買ってやった熊のキーホルダーを握り締めた美春は、瀬能に付いて来ていたが。
「おじちゃん」
「ん?」
「お父さん、怒ってないかな……」
もう少し歩けば家に着く、その距離になって、美春が足を止めたので、瀬能も歩くのをやめて
美春を見下ろした。
さすがに不安なのか、その表情は曇っている。
一日一緒にいれば、愛着も湧くと言うもので、瀬能は苦い笑みを浮かべたが、美春に目の高さを
合わせると、ポンと頭に手を乗せた。
「大丈夫だって。ちゃんと連絡してあるし、怒らないように俺からも言ってあるから」
「うん……」
柔らかな髪を撫でてやる。
美春は困ったように俯いて、やはり歩き出そうとはしない。
「それに、治樹もみちるさんも、お前のこと心配してたんだぞ? 絶対怒られないから、安心しろって」
「ほんとに?」
「ホント。もし怒られたら、また俺んチに家出して来い。嫁さんにしてやるから」
冗談混じりに告げながら、わしゃわしゃと乱すように頭を撫でると、ようやく美春は顔を上げた。
「おじちゃん、私が大きくなるまで待っててくれる?」
「とびきりの美人になるなら、いつまでも待っててやるよ」
少年のような風貌だが、あと数年もすれば、美人になるに違いない。
そんなことを考えながら、やはり冗談っぽく笑い掛けると、美春はにっこりと微笑んだ。
「じゃあ、帰る」
「よし、行くか」
小さく頷いた美春に、瀬能は再度頭を撫でて、握った手に力を込めた。
十三年後、この時の約束が果たされる事になるのだが、それはまた別の話。
何故か5が入ってなかった…orz
5と6、投下し直します
「私ね、大きくなったら、おじちゃんのお嫁さんになるの」
「……それと今の質問と、どう繋がんだよ」
「だからね」
色違いのキャラクターが、画面の向こうで対峙している。
合図と共に先制攻撃を繰り出したのは、美春の使う赤い衣装のキャラクターだった。
「だから、今のうちに、おじちゃんと一緒に暮らす練習しようと思って」
「……で、俺の所に来た訳ね」
ギリギリで攻撃を避けた瀬能の操る白い衣装のキャラクターは、カウンターで一撃を入れる。
途端、美春はぐぃっと体を傾けて、コントローラーを握る手に力を込めた。
所詮は子どもの言うこと。
二十歳も年の離れた、しかも親友の子どもに手を出すほど、瀬能も切羽詰まっている訳ではない。
夢を見るのは自由だ。
やりたいようにやらせてやろうと、敢えて夢を潰すような事は言わず、瀬能は馴れないキャラクター操作に
集中した。
***
結局、午前二時を過ぎるまで、二人はコントローラーを握ったままで、目を覚ましたのは昼も
近くなってからだった。
美春はいち早く目が覚めていたようだが、瀬能を無理矢理起こすこともなく、良い子にしていた
らしかった。
美春の希望でフレンチトーストを作ってやり、朝食兼昼食を終えると、二人は揃って家を出た。
美春を家に送るためだったが、普通に戻っても三十分程度しか掛らない。
夕食に間に合えば良いだろうと、電車で二駅離れた動物園まで足を伸ばした。
サーバーの具合いが悪そうな時間に、投下した俺が悪かったorz
スレ汚しになるので、以降名無しに戻らせてもらう
>>285 十三年後を書いて戻ってくるべきだと思うんですよ
40で独身てのもきついなw
>>285 13年なんていわずに、10年くらいで手を打たないか?
振り回される「おじさん」が見たい。
こんな電波を受信した。
思春期になれば寄り付かなくなるだろうと思っていた瀬能の予想を裏切って
「三つ子の魂百まで」を地で行くくらいの押しかけ女房っぷりで瀬能を振り回す
美春。
年月が経ち、瀬能のことを「ヒロ」と呼び捨てにする美春。
超ミニスカの制服で学校帰りに瀬能の部屋を悪態つきながらも掃除・洗濯し、
残業で遅くなる瀬能のために夕飯、風呂の支度をする美春。
>>290 ちょww
あくまで保守ネタのつもりだったから、そこまで考えてなかったwww
しかしスレ活性化のために、ちょっくら続編考えてくるノシ
今月中に一本書くよ
292 :
名無しさん@ピンキー:2007/09/08(土) 01:12:14 ID:J5NNsgIV
みなぎってきたな
大人の女性→少年
もしくは逆 なシチュが好きな俺はここじゃ異端かな?
>>293 アリアリ、そのシチュもいいと思うよ!!
がんばってその気持ちを形にするんだ!!
このスレまだあったのか
>>293 そっちも好きだ。お姉さんでも、親友の母親の未亡人でも、老女でもいい。
純粋な気持ちと、自分の思いをつげられないことに葛藤する姿にこそ惚れる。
保守がてら書いたぜ!
年上女性と、高校生。
夕焼けに染まった実験室。
控えめな甘い香りがふわりと鼻腔をくすぐって、浅尾 総一郎は胸を軽く高鳴らせた。
小笠原 茜の香水の香りだ
。
常にパンツスタイル、化粧も控えめ、髪も後ろでシンプルに一つに纏めただけの彼女が、香水をつけていると知った日の衝撃は忘れられない。
女としての自分を認めているのだ、と漠然と思ったのち、そういえばこのヒトは女だったとヘンな自覚が沸いてきて、気がついたらどうしようもなく茜を意識するようになっていた。
確か二十七歳だったはずだ。
総一郎より十歳も年上。
顔だけ見れば、まだまだ二十代前半で通りそうな童顔だが、無機質な眼鏡と老成したその雰囲気が彼女の年齢を一層不詳なものへとしている。
「浅尾」
心地よいアルトでそう呼ばれると、体温が一度ほど上昇する。
彼女を見やると、右手に試験管、左手にビーカを持って、目線だけで総一郎を呼んでいた。
なんですか、と面倒そうに聞こえるように呟いて、席を立って茜の一メートル側に立つ。
「アルコールランプの火を消してくれないか。先に消せばよかったのだが、うっかり持ち上げてしまった。余熱が引くまでは手が放せない」
感情の読めない声音だ。
淡々とした喋りは限りなく論理的で男性的で無駄がない。
目線だけで頷いて、アルコールランプにキャップを被せた。
ありがとう、と抑揚のない謝辞も耳に心地よい。
化学部などという部活動が機能しているなんて奇跡だと総一郎は思う。
ただし、活動しているのは主に小笠原茜。
それを眺める浅尾総一郎、あとは幽霊部員という図式が、部活動の詳細だ。
茜は本当に化学が、というか実験が好きなのだなと見ていて判る。
大学院に残りたかったと聞いたことがある。
経済的理由で教師になった、と。
何故高校なのかと聞けば、高校教師は響きがエロい、とにやりと口元をあげた。
まったく意味が判らない。
ふと、頭一つ分小さい彼女の白い横顔を見つめる。
化粧気のない頬、目元、くちびる。
それでも眉は綺麗に整えられ、洒落っ気のない銀色のフレームの奥にあるまつげは長く伸びている。
「センセイ、」
「なんだ」
「化粧ってしてるんですか」
「してない。マスカラだけは塗っている」
「肌、キレイっすね」
「そうか」
「そうです」
そうか、ともう一度呟いて、急に茜はこちらを仰ぎ見た。
思わず身を引いた。
「浅尾」
「…………ナンでしょう」
「顔が赤い。熱でもあるのか」
「ないと、思います」
ふむ、と低く口にすると、おもむろに手にしたビーカと試験管を置いて、総一郎の手首を掴む。
普段のぼんやり具合からは想像も出来ないすばやさで、抵抗をする暇もなく手を取られて総一郎は動揺する。
「…………心拍数上昇。やはり風邪か。今日はビタミンを摂取して早く寝るといい」
淡々と告げ、すっと手を伸ばした。
ふわりと、控えめな甘い香りが漂う。
何の香水を使っているか、聞こうと総一郎は思った。
そんな事を考えている隙に、茜の白いひやりとした手が総一郎の額に触れた。
ちょっと、と上げた声はすがすがしく無視をされた。
「熱いな」
「………………センセイの手が、冷たいんです」
「む」
「さっき試験管洗ってたでしょ」
「そうだった」
重々しく頷く。
彼女はいつも、無駄にシリアスだ。
「センセイ」
思わず、手首を握っている茜の冷たい手を握りしめた。
「結婚とか、しないんですか」
「したいと思う相手が現れたらするだろう」
「恋人いるんですか」
茜がそっと首を左右に振る。
総一郎は安堵した。自分でも驚くぐらい、ほっとした。
「いないな」
「ずっと?」
「過去にはいたこともある。なんだ、浅尾は私の婚期を心配してるのか?」
「してないっす」
「ほう。じゃあその質問の意図はなんだ」
「センセイの好きになる男ってどんなヒトですか」
「考えた事もないな」
西日が差し込む実験室。茜の着ている白衣が、茜色に染まる。
ちょっとした言葉遊びだ、と雰囲気に耐えかねて総一郎が苦笑を漏らす。
「可笑しいか?」
「いえ、えーと。考えてみて、もらえません?」
「そうだな…………手は、暖かいほうがいい」
「は?」
「冷え性なんだ。浅尾は暖かいな」
「…………コドモ体温ですから」
「そうか。君はいい湯たんぽになりそうだ」
湯たんぽっすか、と胸のうちで呟く。
それは、もしや裸でベッドにもぐりこむという、卑猥で素晴らしい状況下でのことですか。
「他には」
「化学や物理が好きだと、面白いかもしれない」
好きになります、好きになりますとも。
「浅尾こそ、どうなんだ」
「俺?」
「学生らしく青春を謳歌しているのではないのか。
化学は好きそうでないのに熱心に顔をだしているのは、誰か女子生徒の部活動の終りを待っているのだろう?」
「違いますよ」
「違うのか」
「違います」
「違うのか」
「どう違うのか聞いてはもらえませんか」
「どう違う?」
「センセイを見に来てるんです」
「……手を、放してくれないか。記録を取りたい」
素直に手を放した。
だけど代わりに肩を引き寄せて、強引に腕の中にその細い身体を収めてしまう。
茜は身じろぎをしたが、抵抗をする気配はない。
「浅尾」
「…………」
「浅尾、」
低い声音。感情が読めない。
「放してくれ」
「センセイ、俺、センセイのこと、」
「駄目だ、浅尾。君は私の教え子だ」
「……再来年には卒業です」
「十も年が違う」
「関係ない」
「君のそれは若気の至りだ」
「まずは十年続けて、証明して見せます」
「確証がない」
「俺のことスキじゃないとか嫌いだとかって言わないんですね」
「感情は曖昧だ。理論は揺るがない」
らしい、と総一郎は思った。
茜はまるで授業の時のように淡々と言葉を続ける。
「君が思っているより私は脆い。次に捨てられたら、きっと立ち直れない。ぬくもりを失うのが怖い。だったら知らない方がいい」
「すっげーマイナス思考」
「認めよう。私は臆病だ。頼むから放してくれ。いつまでもこうしていたくなってしまう」
更に強く抱き寄せた。
あるかなきかごとき、と思っていた両のふくらみが、総一郎の胸に当たる。
どきんとした。
有体に言って欲情した。
やっぱりこのヒトは、総一郎とってどうしようもないほど女だった。
どうしようもなく、好きな女だった。
「浅尾、私はヘンタイなんだ」
「…………………………は?」
「気がつくと四六時中君の事を考えている。君に触れる事ばかりを。うっかり実行してしまった。許して欲しい」
「はぁ、」
そのくらい別に、と言う前に、茜が言葉を続ける。
「君が好きな食べ物だとか、得意な教科だとか、休日の過ごし方だとか、もし誰かを待っているならどんな女生徒なのだろうか、等、どうでもいいデータを集めたくて仕方ない」
「俺って観察対象?」
「そうかもしれない」
「好きな食べ物は、メロン」
「贅沢だな」
「得意な教科は、本当は数学」
「おお」
「休日はゴロゴロしてる。そんで誰も待っていない、いつもセンセイを見ている」
「……………………なぜ」
「俺も、ヘンタイだから。センセイに触れたくって仕方なかった」
「じゃあ今は満足か」
「うん。他に聞きたいことは?」
「……何だろうな、思い出せない」
茜が、その白い頬を総一郎の胸に摺り寄せてきた。
おずおず、と言った緩慢な動作で、両の手を総一郎の背に回して上着を引いた。
そっと黒い頭を撫でた。
驚いて顔を上げた茜と、至近距離で視線がぶつかる。
珍しく驚いたように両の目を見開いたその表情は、始めて見るものだった。
「好きです」
「オーケィ、浅尾。私も君が好きだ」
「……マジで?」
「大マジだとも」
茜の鉄面皮が白衣と同じぐらい真っ赤に染まっていたのは、夕焼けの所為ばかりではあるまいと総一郎は願った。
彼女が、本人の申告どおり少々ヘンタイであると、しばらく後に知る事になるのだがそれはまた別の話。
303 :
総一郎と茜:2007/09/09(日) 02:37:42 ID:FHxW5nIp
十歳程度ではどうかと思ったが勢いでやりました。
やっぱり、逆はちょっと苦しいな。
お付き合いありがとうございました。
瀬尾と美春の続きも切望している。
このスレが盛り上がりますように。
GJ!GJ!続き切実希望。
氷の女が湯たんぽに溶かされていく続きが読みてえっっ。
>>303 導入部だけでも軽く3回は殺された…なにこの破壊力満点な年上女教師www
>>303 ハァーーーーーーン!!
殺傷力高すぎる…茜先生かわいいよ先生!!
>>291 GJ!正座して待ってる。
つかおまいがそんな事云うから…立てちゃったじゃないかghmスレ…!
ghmって なに?
308 :
総一郎と茜:2007/09/12(水) 01:02:44 ID:VS9netOJ
前回感想くれた方、本当にありがとう。
調子に乗ってまた書きました。
でもエロなし。
自分ばかり好きなんだと思っていた。
やっぱりガキだから相手にされないんだと。
「私の秘密を教えよう」
飛び上がりそうに嬉しい提案だった。
だけど、珍しく笑ったその表情は、何か企んでいそうな笑顔だった。
*
夕焼けに染まりかけた実験室。
中庭のイチョウが見事なからし色に染まり、秋も更けたと柄にもなく思いをはせる。
しかし物悲しい秋よりも重要なのは、目の前の机に腰掛けた愛しの先生だ。
今日はテーマが見つからないから実験はなしだ、と茜がいうので、膝を交えて会話を楽しもうとうきうきしたのだが、会話のテーマも見つからない。
あの衝撃的な愛の告白から一ヶ月。
毎日のように放課後を実験室で過ごす日課は幸福に続行中だ。
たまにこうして実験を休んで語りあうものの、その内容はもちろん愛について、などではない。
友人同士でも話さないような、たわいもないことばかり。
だけど信じられないほど総一郎は浮かれた日々を過ごしている。
ただ、幸福も、慣らされてしまえば日常だ。
浅尾と呼ばれるだけで心躍ったあの日にはもう戻れない。
あの日以来触れていないその手を握って、細い身体を抱きしめたい。
あわよくばその先も。
割と隙だらけの彼女にそれを実行できないのは、総一郎がチキンだから、という理由だけではない。
茜は揺るがない。
彼女の顔を見るだけで自然と笑みがこぼれる総一郎とは、違うのだ。
「大マジだとも」
そう言った数分後、身体を離した頃にはもう教師と生徒の距離で、その後日々少なからず縮まるのだと期待していた関係は相変わらずそのままだった。
顔を見れば、やあ、としか言わない。
他の生徒と同じ待遇だ。
大マジで好きなら、ちょっとぐらい特別扱いしてくれてもいいはずだ。
別にテストの山を教えて欲しいと言っている訳ではない。
やあ、の後に、待っていた、と付け足してくれればいいのだ。
ハードルの高すぎる望みだろうか。
それとも、茜の「好き」という感情は、自分のそれとは違うのだろうか。
ため息を落として、茜の入れてくれたインスタントコーヒーをずず、とすすりながら、総一郎は端正な横顔を見つめた。
行儀悪く机に腰を下ろした小笠原茜は、両手に湯気のたつマグを抱えて、ぼんやりと外を眺めている。
色気のない眼鏡の奥の瞳は動かない。
まるで人形のようで、きちんと呼吸をしているのか心配になるほど動かない。
時折思い出したように瞬きを繰り返して、総一郎を安堵させる。
だけどもしや目を開けて寝ているのかもしれない。
この人だったらやりかねない。
「……センセイ?」
「……………………」
ためしに呼びかけてみても、茜のガラス玉のような瞳は虚空を見据えたままだ。
「小笠原、先生?」
「…………」
「センセイ!」
びく、と茜の肩が震えた。
その拍子に眼鏡がずれる。
奇跡的に手の中のマグからコーヒーはこぼれなかった。
「ああ、浅尾」
冷静にずれた銀色の眼鏡のふちを持ち上げながら、ゆっくりと茜は総一郎と視線を合わせた。
「どうした?」
「考え事ですか?」
「いや、イチョウの葉が何枚落ちるか数えていた。今日の隠れテーマだ」
「……あ、そう」
はぁ、とため息を落とす。
で、何枚だったんですか、と尋ねた総一郎に、茜は声のトーンを少々上げて答えた。
「ちょうど108枚だった。マーベラス」
「……へー」
興味なさそうな総一郎の相槌に、重々しく頷き一言、深い、と呟いた。
「人間の煩悩は本当に108個だと思うか?」
「そんだけあれは十分でしょ」
「いや、煩悩を欲求と言い換えたなら、とても足りないと私は思う」
「センセイにも、欲求ってあるんですか」
「あるとも」
「どんな?」
総一郎からちょっと視線を上へ外し、考えるようなしぐさを見せる。
だがすぐに、ふ、と軽く息を落として、ゆるゆると首を左右に振った。
「教えられないな」
「……ちぇ」
「聞きたいか?」
「聞きたいです」
ふむ、と低く口にして、総一郎を見つめた。
「じゃあ浅尾。君の秘密を教えてくれ。代わりに私の秘密を教えよう」
ワンダフルなサプライズだ。
少なくとも総一郎に興味がある、という証に違いない。
そして秘密を共有してもいい間柄、と茜は思っている、はずだ。確信はないが。
ともかく、こんないい話に乗らない手はない。
「いいよ、センセイ。何が聞きたい?」
「駄目だ、君が自主的に恥ずかしい秘密を暴露してこそ意味がある」
まて。妙な形容詞が追加されたぞ。
秘密は秘密でも、恥ずかしくなければいけないのか。
くそう、ヘンタイめ。
胸のうちで暴言を吐き捨て、じっとこちらを見据える茜の瞳を見つめ返した。
「………………センセイは、何を教えてくれるの?」
「私の本当の年齢」
「は? 27じゃないんですか」
「これ以上は駄目だな。君が先だ、浅尾」
「ちっ」
軽く舌打ちをして、恥ずかしい秘密を探す。
とっさに思いついたのは、何日周期で自主トレに励むか、そして一日の最高回数というデータだった。
駄目だ、こんな暴露をしては、卒業までからかわれるに違いない。
「…………妹と、弟がいます。妹が中一で、弟が小四」
「ほう、君は長子なのか、どうりで。ちなみに私には姉が一人と兄が二人いる」
「末っ子ですか。ぽいですね」
「よく言われる。で?」
「えーと、一昨年まで三人で風呂に入っていました。今でも弟と入ります」
「奇遇だな。私も去年まで下の兄と入っていた」
「………………………………………………マジで?」
「イッツジョーク、浅尾。君は素直だな」
なんでそんな意味不明な嘘をつくんですか。
本当に訳がわからない。
「その話のどの辺りが恥ずかしい? ただのよい兄としか思えないが」
「俺には恥ずかしいんです。もういいでしょ」
「そうだな、君が恥ずかしいというなら納得してやろう」
そりゃどーも、と今更湧いてきた気恥ずかしさを打ち消すように、そっぽを向いてぼりぼりと耳の上を掻いた。
ちらりと盗み見た茜は、再び窓の外を見つめて満足げな笑みをうかべている。
その口元を隠すように、マグを傾けた。
こくんとコーヒーを飲み下した白い喉を、食い入るように見つめてしまった。
顔の前からカップがどいた頃には、もういつもの無表情で、かたん、と空になったカップを腰の隣に置いた。
「じゃあ次はセンセイの番。本当の年齢ってどういうこと?」
「実はな、浅尾。私は32歳なんだ」
「………………………………」
マジで、と聞き返すことも出来なかった。
年は関係ない、と言ったのは総一郎のほうだった。
だけどさすがに、15の年の差は大きすぎやしないか。
血液が逆流して、どんどんと背中が冷えていく。
からからに渇き始めた喉から、やっと声を絞り出す。
「うそ、だろ……?」
「もちろん嘘だ」
身体中から力が抜けて、額を木製の机にしたたかに打ち付けた。
がん、と大げさな音が上がった。
痛い、と呻くより先に、痛そうだなと冷静なアルトが降ってきた。
「32に見えるのか。少なからずショックだぞ、浅尾」
「だからどうしてそういう意味のない嘘をつくんですか!」
がば、と上体を起こした勢いで立ち上がって、茜に詰め寄った。
つばが飛び散らんばかりの距離で怒鳴っても、彼女は鉄面皮を崩さない。
あくまでクールにマイペースに、淡々と会話を続ける。
「時に浅尾。君の誕生日はいつだ」
「……10月8日ですけど」
「おうし座か」
「てんびん座です」
「そうか、すまない」
「興味ないなら無理に言わなきゃいいのに」
「以後そうする。私は1月31日生まれだ」
「二ヵ月後?」
「そうだ、それまで私はまだ26歳だ。……その、君が誤解しているようだから訂正しておく。当面、年の差は9だ」
別に一つぐらい変わらないのに、と喉元まで出掛かって飲み込んだ言葉を読んだかのように、茜が否定する。
「10と9ではまるで違う。判るな?」
二桁と一桁だからだろうか。
ただのイメージの問題と捉えれば、総一郎にも合点が行く。
素直にはい、と頷いた総一郎に、少なからず茜は安堵したようだ。
「くだらない固執だと自覚している。聞き流してくれて構わない」
「や、覚えました」
「そうか」
「そうです」
「そうか。あー………………ありがとう」
消え入りそうな小さな音でアルトが響き、声の主は顔を背けてうつむいた。
胸が高鳴った。
いつでも断定的で、理論的な茜が、感情を露にするのは非常に珍しい。
稀にしか見ることの出来ない照れたようなこの表情。
ときめくなという方が無理だ。
はたと気がつく。
立ち上がった総一郎の顔と、机に座る茜の頭の高さが一緒だ。
一歩近づいた。
顔に影が落ちて、総一郎の気配に気付いた茜が視線を戻す。
そっと、机の上にふわりと乗った茜の両の手の甲に、自分の両の手のひらを重ねる。
やはり冷たい。特に指先が。
「浅尾?」
「年なんて、気にしないって、言ったじゃないですか」
「そろそろ気が変わったかと……思った」
「ホントにすっげーマイナス思考」
「自覚は、ある。治す努力をしよう」
「不安なのは、センセイだけじゃないのに」
「浅尾、」
身体をゆっくりと寄せていく。
緊張で、手が震えそうだ。
控えめな甘い香りが、余計に緊張を誘う。
重ねた手がもぞもぞと動く。
両手に体重を乗せて、逃げられないようにしてしまう。
「……っ、浅尾、近い……!」
茜の声が珍しく上ずった。
総一郎から距離をとるべく白衣の背中が丸まって、接近と同じスピードで茜の身体が離れていく。
動悸が激しすぎて胸が痛い。
こんな極限状態は、高校入試の面接以来だ。
それでも、逃げようと引いた背に、腕を回した。
マーベラス、俺。
今の動きはナチュラルだった。
この行動はおそらく、本能だ。
無機質な銀の眼鏡の向こうにある茶色い瞳が、慌てたように瞬きを繰り返している。
「……センセイ」
息のかかる距離まで顔を近づけて、そっとささやく。
「キス、していいですか……?」
「駄目だ」
きっぱりとした拒絶とともに、下半身に衝撃が走る。
ぐお、と呻いて自分の身体を見下ろせば、黒いパンツスーツのすねが見事に下半身にめり込んでいる。
痛い。
もんどり打つほどではない辺り、手加減はしていただけたようだがそれでも痛い。
茜はゆっくりと足を下ろし、空いた手のひらで、とん、と総一郎の肩を押しのけると、ひらりと机から飛び降りた。
股間を抱えてうずくまる総一郎を見下ろす気配がする。
「………………ひでぇ」
「酷いのは浅尾だ」
「くそ、ちゃんと聞いたのに」
「そこは褒めてやる。だが遅い」
「もっと早かったら、オーケーしてもらえたんですか」
「するか馬鹿」
「……口、ワルっ」
む、とうなって、咳払いを一つ。
ああ、鉄の仮面を被ったこの人も、動揺したりするんだなと総一郎は思った。
「横着はするもんじゃないな。逃げ場がない。二度と机には座らない」
「好きって言ったくせに」
「その通りだとも」
「好きな男に取る態度じゃねぇ」
「それとコレとは話が別だ、浅尾」
別? と膝を床について顔を上げる。
「ここは学校だ。誰が見ているとも知れない。言い訳が効かない行動は慎むべきだ」
ああ、そういうことか。
でもだからって外で会ってくれるわけじゃない。
「君がこんなつまらないことで退学にでもなっては、親御さんに申し訳が立たない」
つまらないことなんかじゃない、と言いかけて、この場合、責任を問われるのは茜のほうだと気がついた。
よくは判らないが、多分、退職は確実なんだろう。
女子生徒にわいせつ行為を働いた男性教諭の辞職のニュースは幾度か耳にした事がある。
そして、茜はそれを口にしない。
クビはまっぴらだ、とはっきりと言えばいいのに。
「……判った、スミマセン」
「いや、こっちこそ手を上げてすまなかった。先に言っておくべきだったな。なぜか君は安全だと、思い込んでいた」
「安全です、安全ですとも!」
「そうか。信じよう」
すっと茜の白い手が伸びて、ひやりとした指先が額に触れた。
総一郎の前髪を撫で上げて、軽く眉根を寄せる。
「赤いな」
「そういえばそっちも痛いです」
「うん、悪かった」
すっと上体をかがめた茜のくちびるが、額に軽く触れた。
それはたった一瞬の出来事。
「………………せ、んせい」
「もう一つ言わせてもらえば、襲われるのは趣味じゃない。迫るほうが好みだ」
くちびるの端を悪人よろしくにやりと歪めて、高らかに宣言をする。
――センセイ、あなたはつまり、ドSってことですか!?
きっとこの人に勝てる日はやってこない。
そんな予感を胸に、青少年はハイ、と力なく頷いた。
以上です。
この二人書くの楽しくなってきた。
でもエロなくてホントすみません。
あと
>>303で名前間違えました。
瀬尾じゃなくて、瀬能……。
本当に失礼をいたしまして、申し訳ありません。
心よりお詫び申し上げ、そして続きをwktkして全裸&白衣で待っています。
>315
初めてリアルタイムってやつに遭遇した!!
そして内容に悶えたGJ!!
続きも楽しみにしてます
GJ!
これだけ萌えがあれば、エロなくたって無問題ですよ。
続きも期待。
せ ん せ い …!うおおおおおおおおおおおお…!
画面前で顔を覆ってプルプルしちまったじゃないかGGGGGJ!!!
保守
ところで保管庫ってないよね?
320 :
名無しさん@ピンキー:2007/09/18(火) 12:33:33 ID:4T+bkbj1
上げる
年どころか世紀の差があるんだが、児童書で
「死んだときに体から抜け落ちて石になった海賊の心臓」を拾う女の子の話があったなぁ。
物語中でその石の海賊は少女の父性(本当の父親は居ないも同然)を補う位置に居るんだけど、
「こいつがこの子のお父さんならいいのに…ッ!」と何度口走ったか知れない。オヌヌメだぜ。
322 :
総一郎と茜:2007/09/18(火) 23:57:48 ID:ur9JFBkB
12月の話。投下行きます。
またしてもエロなし。
>>321 そのタイトルを是非……ッ! 読みたい!
大人は自由だと、思っていた。
ただの想像だけど。
「言い忘れていたが」
そんな大切な事なのに言い忘れてしまえる程度の存在なんだ、と悲しくなった。
自由に、気ままに、自分のことなど置いて、どこにでも行ってしまえるのだ、と。
*
「テストを返す。今回の平均は72点。順番に取りにくるように」
化学の教科担任・小笠原茜の凛としたアルトが、教室に響き渡った。
「1番、浅尾」
はい、と立ち上がって教壇まで歩み寄る。
茜と目をあわせると、彼女はにやりと笑って、頑張ったな、と低く言った。
93点。ワンダフル。
その後、ずっと茜がテスト返却する様子を観察していたが、他の誰にも別段声をかけたりはしなかった。
特別である証をもらったような気がして、顔のにやけが止まらなかった。
その日の放課後の実験準備室。
日に日に夕暮れが早くなり、今年も暖冬だと言われつつも冷え性の茜はすでに辛いであろう毎日だ。
北校舎の西一階にある実験室は、日当たりがとても悪く底冷えをする。
ビーカや試験管や三角フラスコやマグカップを洗ったあとの茜の白い手は、指先が真っ赤に腫れて痛々しく、氷のように冷えてなかなか温度を取り戻せない。
やっと、役得の日々が訪れた。
洗い終えるタイミングを見計らって、拭ったばかりの手を攫って強引に包み込む。
毎度の事なのに、いちいち照れて逃げるように手を引く様子は見ていて楽しい。
それでも離さなければ諦めるが、うつむいてじっと総一郎の手を見つめて、決して顔を上げない。
その間、吐息が聞こえそうな至近距離で茜の顔を見つめ続けられる。
最後には、もういい、ありがとうと淡々と述べて身を離す。
その割には総一郎が洗い役を申し出れば、自分の楽しみだと言って譲らない。
なんだかんだで、彼女も悪くは思っていないようである。
真意の程は定かでないが。
半月ほど前にストーブが設置されたが、石油の節約を言いつけられているため、5時限目に化学の授業のある火曜以外は、化学部の活動は自主的に休止となっている。
火曜以外は、温風器のある実験準備室で、ぽつぽつと会話を交わしたり、茜が仕事をしている向かいの机で課題を終わらせたり、もちろんテスト期間中には勉強をさせられた。
別に見張られている訳ではないが、勉強以外を許さぬ沈黙を茜が作り出していた。
おかげで、というべきか。
かなり手ごたえはあった。
成績アップは確実だ。
もちろん一番時間を割いたのは化学だったし、一番点数がよかったのも化学だ。
「失礼します」
がらりと準備室のドアを開けると、カーディガンの上に白衣を着た茜が顔をあげて、やあ、と言った。
「グレイト、浅尾」
熱々のインスタントコーヒーが入った彼の専用マグを総一郎の前にかたんと置きながら、茜の声音はいつになく弾んでいた。
「いただきます。俺、頑張った?」
「ああ、よく頑張った。B組で1位、学年で5位だ」
「……5位ですか」
まだ上に4人もいるのか。
満点はいない、と聞いていたので、もしかすると、ひょっとすると、1位じゃないかと淡い期待を抱いていたのに。
次こそは、と新たなる決意を固めて、いつから自分はこんなに勤勉になったのだろうとびっくりする。
暗黙の了解で、テストが返却されるまでは二人ともそれに触れない。
期間中、いくら総一郎が的外れな質問をしても茜は軌道修正を促したりしない。
授業に関しては他の生徒と同列だ。
その潔癖さが好きなのだ、と総一郎はつくづく思う。
そうそう、と総一郎は返ってきたばかりの答案を取り出す。
「今回テスト作ったの、センセイでしょ?」
「む、判るのか」
「判るよ」
最初は基礎的な問題、応用問題、疲れてきたところでまた点を取れるサービス問題、再び応用、最後に難関が用意されたテストは、アメとムチを上手に使い分けつつ、おちこぼれを出さない配慮を含んだ、茜らしいものだった。
「この問12さ、センセイの性格出てますよね。すんげーやらしー」
「簡単に満点を取らせてなるものか。テストとは生徒と教師の仁義なき戦いだ」
何か嫌な思い出でもあるのだろうか。
口調は普段より幾分か熱っぽいが、銀色の眼鏡の向こうの瞳はぎらりと剣呑だ。
その目を、ふ、と柔らかく細めて茜は総一郎を見つめた。
「だがな、浅尾。問12に正解したのは君だけだ。おめでとう」
「マジ?」
「マジだ。負けを認めよう。しかし夢中になりすぎて見直しをおろそかにしたな。ケアレスミスで7点マイナス。12を捨てたほうが高得点だった」
「センセイからの挑戦状だと思ったので」
「その通り。これは君への愛だ」
愛ですか。
激しい愛だ。
厳しくて、湾曲しすぎている。
俺じゃないととても受け取れないですよね、と口に出そうか迷った。
でもちょっとそれは、自意識過剰すぎるだろう。
「じゃあセンセイ、ご褒美ください」
「おお、見返りを要求するか」
「もちろん。だってセンセイに褒めてもらいたくて頑張ったんですよ?」
「褒めたじゃないか、3回も。不足か? ならもっと褒めて差し上げよう。浅尾、グレイト、ハラショー、シェイシェイ」
「………………からかってる?」
「いいや? 気に入らないなら要望を聞こう。言ってみたまえ」
「……………………キ」
「駄目だ」
ぴしゃりと鋭い声で制止される。
まだ言ってないのに、と反論する間もなく、茜が一歩後ずさる。
さすがに、それを無理やり腕の中に閉じ込める、なんて強引な事はしない。
以前に痛い目を見てこりごりだ。
学習機能はついている。
「アバンチュールは対象外だ。残念だったな」
残念です。非常に残念です。
恨みがましい目で、ちらりと上目で茜を見やった。
胸の前で両腕を組んで、威厳たっぷりに総一郎を見下ろしている。
「不服そうだな。しかしだ、浅尾よ。私は満点を取るなら君だと、君ならやってくれるに違いないと信じていた。裏切りに対する代償はないのか?」
「むちゃくちゃだ……」
「そうだとも。君のその要求も同じぐらい理不尽だ。勉学は己の為に励むものだろうに」
「聞くだけ聞いてくれてもいいのに」
「では言ってみたまえ。次は完膚なきまで叩きのめす」
「やめときます」
「賢明な判断だ」
実際完膚なきまで叩きのめされたら自分はどうなってしまうのだろう。
きっと立ち直れないぐらいズタボロにされるに違いない。
この人は容赦がない。本当に恐ろしい。
しかし何故そんな頑固に総一郎の接近を拒むのか、どうしても理解できない。
たとえばクラスの女子のほうが、よっぽど積極的だ。
いつキスしたとか誰が初体験をすませたとか、耳をそばだててなくても入ってくるような大声で毎日のようにはしゃいでいるというのに。
大人のくせに、思春期の女子より純情、というワケはないだろう。
何で駄目なんですか、と聞けば、学校だからと返ってくる。
準備室は内側から鍵をかけられるし、カーテンだってきちんとついている。
あえてそれをしてまで、という事なのか。
それとも本当は総一郎に触れられるのが嫌なのかと勘繰りたくなる。
とにかく、拒否されたものは仕方ない。
あらかじめ用意しておいた代替案を出してみる。
「もうすぐ冬休みですね」
「そうだな」
「しばらく会えませんね」
「うむ」
「休みになったらすぐにクリスマスですね」
「おお、そうだったか」
「そうです。恋人と過ごす日です」
「違うな、元々は家族で過ごす慣習だ」
「家族で過ごすんですか?」
「いいや?」
「じゃあ、デートしてください」
「…………………………あー、」
茜が口ごもった。
あーと数度くちのなかで繰り返して、白い指で顎を撫でた。
茶色がかった瞳をぱちくりと瞬かせ、軽く眉根を寄せる。
ノリ気ではないらしい。判りやすい。
ああ、そんなに否定されると、結構ヘコむ。
「……だめ、ですか?」
勇気を出して、声を絞り出した。
「駄目、ではない。が、言い忘れていた。24日から私は旅に出る」
「はっ? どこに!?」
「アンコール・ワット」
「世界遺産かよ! 誰と!」
「琴子」
「コトコ?」
「久本先生だ」
「そんなに仲良しだったんですか?」
「うむ、バリかプーケットに行こうと誘われてな。リゾートには興味がない、サグラダ・ファミリアかピラミッドかアンコールワットかカッパドギアなら、と返事をしたら、アンコールワットを見に行く事に決まっていた」
「チョイスが渋い……それでいいのか久本先生」
「スペインは高い、エジプトは日程が強行、トルコは治安が不穏、消去法でカンボジアだったらしい。ついでにベトナムも行くそうだ」
「センセイ、そんなとこ行って、生きて帰ってこられるんですか?」
「どういう意味だ?」
茜は白くて線が細い。太陽の光や薄着が似合わない。
快活にジャングルや遺跡を動き回る姿よりも、薄暗い図書室かなんかでじっと座って本を読んでいるほうが想像に容易い。
ついでに街や人ごみも、もちろんビーチもきっと似合わない。
あ、それってあれかな、引きこもり……。
さすがに引きこもりっぽい、とは言えず、総一郎は慎重に言葉を選ぶ。
「生命力足りてなさそう、というか」
「おお、我ながら不安だ。まあ琴子がなんとかしてくれるだろう」
あー、久本先生ならバイタリティあふれていそうだもんな、と、記憶の中から彼女の容姿をさぐる。
確か国語教師だったはずだが、一度も担当されていないので記憶は曖昧だ。
唯一、体育館の女子バトミントン部にて軽く熱血指導する姿だけが思い浮かぶ。
「不安ならなんでオーケーしたんですか」
「実は、琴子が別の人を誘うという展開を期待していた。しかしこう歩み寄られては無下に断れない」
もしかしてこの人は、押しに弱いのかもしれない。
思い当たるフシがないでもない。
プライベートも聞けば案外素直に何でも答えてくれるし、手を握ったついでに抱きしめるぐらいなら、少しだけお願いしますと懇願すれば拒否はされない。
頑なに拒否をするのは、彼女の言うところのアバンチュールだけだ。
ふぅん、と総一郎は白衣の教師を見上げた。
無機質な銀のフレーム。
後ろできゅっと一つにまとめられた黒いつややかな髪。
色素の薄い肌と眼。
よく似合う真っ白な白衣の下の、全体的に華奢な身体と、耳に心地よいアルト。
冬休みに入ってしまったら、しばらくお目にかかれない。
たった2週間程度の話なのに、何か、とんでもない事のような気がしてくる。
「いつ、帰ってくるんですか?」
「元旦。そのまま実家へ帰る」
「遠いんですか?」
「いや、電車で1時間程度だ」
クリスマスに茜は女二人で海外旅行。
久本琴子はそんな日程を組む辺り、彼氏がいないんだろう。
茜と総一郎の関係も、知らないに違いない。
知られていても困るが。
そして正月には茜は家族で団欒。
それ自体を否定はしない、しないけど。
ちらりと時計を見た茜が、そろそろ帰るか、と二人分のマグカップを洗い始める。
白衣の背中に向かって、少々大声で話しかける。
「クリスマスも正月も、会えないってこと?」
「……まぁ、そうだ。不都合でも?」
「ありまくりです」
「む、そうか?」
「そうです」
出来るだけぶっきらぼうに響くように答えて、ぷいと背をむけた。
机にひじを付いて、行儀悪く頬を載せる。
水音が止まった。
いつもならとっくに隣でスタンバイしているタイミングだ。
だけど、今日はとてもそんな気分になれない。
耳に馴染んだアルトが背にぶつかる。
「………………浅尾、もしかして怒っているのか?」
「怒ってません」
「じゃあヘソを曲げている?」
「どっちかっていうとそっち」
「なぜ」
「さあナンでしょう」
「……………………あー、その、旅行の件を伝え忘れていたから?」
「ちょっと違います」
「クリスマスに旅行だから?」
「違います」
「元旦に実家に帰るから?」
「帰ったほうがいいでしょ」
「だったらなんだ」
「別に」
「別に、か」
茜の大きなため息が聞こえた。
ちらりとその姿を盗み見れば、白衣のポケットに両手を入れて、相変わらずの無表情で立っていた。
その視線の先は、総一郎にない。
ああ。
総一郎は胸のうちで嘆いた。
違う、違う。
言い争いがしたいわけではない。
茜は大人で、大人には大人の事情も予定も楽しみもあって、それを総一郎にわざわざ伝える必要はないと、ドライでクールな彼女が判断しただけのこと。
まだ誘ってもいないのに、さあどこへデートしようと勝手に胸を躍らせていた自分がガキなだけだ。
きっと茜は呆れている。
面倒に思っているに、違いない。
「頭を冷すように」
なんて、淡々と告げて、準備室を出て行ってしまうかもしれない。
「浅尾」
これが世に聞く死の宣告、というやつか。
胸を弾ませるはずの声音が、冷たく響く。
振り返る事は出来なかった。
背後で茜が動く気配がする。
「うわっ!」
顎の下ががひやりと冷えて、驚いて肩をすくめた。
視界の端に、茜の細い指が見える。
ふわりと、控えめな甘い香りが漂う。
「…………浅尾、」
ささやくような穏やかな声。
たったそれだけで、張り詰めていた何かがふっと緩んだような気がした。
肺に、逆流してきそうなほど大量にたまった重苦しいガスが、一気に全部抜けたような。
「拗ねないで、くれないか。どうしたらいいか判らない」
「……困ってる?」
「うん、とても困ってる。手がつめたい」
やっぱり俺ってどこまでも湯たんぽか。
でもそれでもいいや、と総一郎は柔らかく思う。
自分の首もとへと手を伸ばし、そっとひんやりした指に重ねた。
体温を失っていた指先が、徐々にぬくもりを取り戻し始める。
「私は、手だけでなく心もつめたいらしい。知らずに君を傷つけたのなら、謝る」
「……傷ついたわけじゃない。ただ、」
「ただ?」
「俺は、週末に会えないだけですごく寂しいのに、センセイは違うんだな、って思ったら、悲しくなった」
「………………うん」
「センセイは大人で、どこにでも行けて、大事なものもたくさんあって、俺だけ、センセイに夢中で」
「浅尾」
「全然、追いつける気がしない」
言い終えると同時に、重ねた手をぎゅっと握って指を掴んだ。
そのままぐいと引いて、胸の前で一つにしてしまう。
茜は、逃げようとしなかった。
少し乾いた、その手の甲をやわやわと撫でた。
くびに回る、茜の腕の体温が心地いい。
「ごめん、言ってもどうにもならねーのに」
「浅尾。大人は、結構楽しみが少ないんだ。私は君が羨ましい。これから、なんだって出来るじゃないか」
「そんな」
「私は、いろんな事をずいぶん前に諦めた。情熱も根気もなくなって、毎日をだらだらと過ごしているナマケモノだ。
せめてあと5年、遅く生まれてきたら、輝かしい時間を君と共有できたかと、幾度も思った」
たぶん、茜は凄くいい話をしているんだろう。
片耳で聞きながら、それよりも唐突に後ろから抱き締められて困惑する。
特に、背中に当たる、ふくらみが気になって仕方がない。
耳元で低く穏やかに響く声音も、吐息がくびすじにあたってくすぐったい。
「だけど5年前の私を、君が受け入れる保証はないし、その逆も然りだ。今と、先を見て生きていくしかない」
「ちょっと難しい、です」
つまり、と低く囁かれた。
音よりも息が多くて、ざわざわと腰から這い上がるむずがゆさを誤魔化すように、きゅっと手を握りこんだ。
「年なんて気にしないと言った君が、負い目を感じないでくれ。不安に、させないで、欲しい」
「……うん、じゃあ」
何がじゃあなのかよく判らないが、ブレザーの胸のポケットから紙切れをとり出して茜に握らせた。
いつか渡そうと、ずっと忍ばせておいたのだ。
「コレ、携帯の番号とメアド」
「誰の?」
「俺の。で、メールください」
「…………ああ」
「携帯って持ってますよね? メールとか嫌いそうだけど」
「持っている。メールはめったにしない」
「やっぱり」
「………………………………浅尾、」
「はい?」
「教えて、なかったか?」
ああ、もう、一人でぐずぐずと悩むのは止めにしよう。
何でもとりあえず聞く事にしよう、と浅尾総一郎は誓った。
番号を教えてもらえないのはやっぱりどこかで線引きされているからで、こちらから聞くタイミングもつかめないまま、悶々と悩んだ日々が馬鹿らしくなって、一人でひとしきり笑った。
急に笑い出した総一郎に、茜はすっと手を放してしまった。
少し不服に思ったが、茜の手はもう充分に温まっていたし、なにより彼女から総一郎に歩み寄ってきてくれた今日はいい一日だった。
*
その岐路のこと。
未登録のアドレスからメールが届いた。
差出人がよく判るクールさで、たった一言だけ。
『機嫌は治ったか?』
治ったどころか上機嫌だ。
しかしそれをストレートにリプライすべきか、総一郎は幸せな葛藤にしばらく浸る。
今更ながらゲットした茜の番号とメールアドレスは、しばらくの間彼を上機嫌にさせた。
展開が遅い、と我ながら呆れるが、これが自分たちのペースだから仕方ない。
こののんびりも悪くないかな、と総一郎は思い始めていた。
*
以上です。
お付き合いありがとうございました。
なぜ化学などにしたのだ、と絶賛後悔中。
化学やってないに等しいので、妙なところはスルーしていただけると幸いです。
GJ!
美人な先生なんて居なかったなぁ・・・こんな恋愛してみたかった
ななな、なんて素晴らしいスレに巡り会えたんだ………!
GJ過ぎて、言葉もないよ。>330
なんかもう、なんかなぁ…!GJとしか云えない自分をどうにかしたいぜ…!
>>321のタイトルは「海賊の心臓」で、作者はベノ・プルードラ。
図書館で見つけたから探してみるといいよ。そして悶えちまえ。
Gj!!!
もちろん続きますよね?
>>322 GJ! 二人の関係に身悶えしてしまう
書くのが早くて羨ましいよ……
てな訳で、瀬能と美春の続編投下
エロ分無し
一度は結婚したものの、生活サイクルのズレやら、妻の浮気やらで離婚。
今年で三十六になる瀬能は、通い馴れた道を歩きながら、人生なんてこんなもんだ、と妙に悟ったような事を呟いた。
結婚から離婚までの経緯は、瀬能的には黒歴史で、二年前のことではあるが、既に記憶の遥か彼方へ追いやっている。
家に帰れば、人気のない部屋が待っていて、それが無性にもの悲しく感じたりもするのだが、かと言って取り立てて不満もない。
ようするに、馴れた独り暮らしは、何一つ不自由がない、と言うことだ。
今日もそんな一日だった。
いや、そんな一日になる筈だった。
階段を昇った先で、見覚えのある少女の姿さえなければ。
「お帰り」
にっこり笑って手を振るのは、親友の娘である美春だった。
「遅かったね、瀬能さん」
「……なんで居るんだ、お前」
先日中学を卒業したばかりの美春は、時々こうして瀬能の部屋を訪れる。
珍しいことではなかったが、今日は平日。しかも、もう午後八時を回っている。
いくらなんでも、外に居るには遅い時間だ。
しかし美春は、にこにこと笑いながら、携えていた紙袋を持ち上げると、にい、と口許を緩めた。
「いーもの持ってきたんだ」
「こんな時間にか?」
「瀬能さんが遅いの」
「明日も学校だろ」
「まだ春休みだよ」
ぽんぽんと、気持ちの良いぐらいの会話の応酬。
部屋の鍵を開ける瀬能に、扉の前を譲った美春は、にこにこと笑ったままだ。
「何だよ、良い物って」
「それは見てのお楽しみ。お邪魔しまーす!」
訝し気に眉を顰める瀬能を無視し、美春はぽいっと靴を脱ぎ捨てると、部屋の中へと上がり込む。
あとに続いた瀬能は、呆れを隠そうともせずに靴を脱ぐと、寝室兼居間へと足を伸ばした。
「ちょっと待っててね」
「はぁ……」
先に上がった美春は、紙袋を持ったままでトイレに駆け込む。
何が何やら分からないが、取りあえずは好きにさせようと、瀬能は背広を脱いでベッドの上に放り投げた。
キッチンに戻り、冷蔵庫からビールを出して、部屋に戻る。
いつもと同じように床に胡坐を掻き、ビールのプルタブを引き上げたが、内心は疑問符の嵐である。
いつの間にか「瀬能のおじちゃん」から「瀬能さん」に呼び方が変わったが、美春の中身は今も昔も変わりない。
突然部屋を訪れるのも、突飛な言動も、ほんの子どもの頃から変化がない。
妻が居た頃は、流石に美春も遠慮がちだったが、この二年、美春の辞書には「思慮」と「遠慮」の二文字が欠けているのではないか、と思うほどである。
しかし、なんだかんだと言いながらも、それを許してしまう辺り、自分も大概甘いなと思いながら、瀬能はビールで喉を潤した。
「せ、の、う、さんっ」
テレビを付け、くだらないバラエティー番組を見るとも無しに眺めていると、不意に背後から声が掛った。
残り僅かだったビールを飲み干し、瀬能は美春の方を振り返ったが。
「じゃじゃんっ!」
「…………」
満面の笑みで見下ろす美春に、瀬能は言葉を失った。
白のブラウスに紺のベスト。胸許に深紅のリボンに、膝上十センチの灰色のスカート。
腕には、ベストと同じ紺のジャケットを掛けているが、それに袖を通す気はないらしい。
「高校の制服。瀬能さんに見てもらおうと思って」
言いながら、美春はくるりとその場で身を翻す。
その拍子に、短いスカートが捲れて、白い太股が瀬能の目に焼き付いた。
「ば、おま…!」
「へへへっ。可愛い?」
「それ以前の問題だ! パンツ見えるっつの!!」
相手は二十も年下だが、いくらなんでも無防備過ぎる。
狼狽の余り、慌てて視線を外して、犬を追い払うように手を激しく振ると、美春は少し不満気に頬を膨らませたが、瀬能の様子に、ぺちゃんとその場に座り込んだ。
「可愛い?」
「……スカートが短い」
「普通だよ、これぐらい」
「短い。目の毒だ」
眉間に皺を寄せながらも、内心は気が気ではない。
不意打ちに動悸が激しくなった気がするが、アルコールのせいだと自分を誤魔化す。
実際は照れ隠し以外の何物でもないが、そんな瀬能の姿に、美春は怒っているとでも思ったようだ。
「……可愛くない?」
ぽつりと呟かれた声は、心底残念そうで、瀬能は慌てて美春の方を振り向いた。
「んなことねぇけど」
「じゃあ、可愛い?」
もしかして、わざとやっているのではなかろうか。
そう思えるほどに、美春の態度はしおらしく、ハの字眉毛に上目遣いで、瀬能の言葉を待っていた。
切り揃えられた髪は、相変わらずボーイッシュだが、態度とのギャプが激しい。
「…………可愛いよ」
噛み締めた歯の隙間から、なんとか声を絞り出す。
ノせられた感は否めなかったが、瀬能の言葉を聞いた途端、美春は表情を明るくして、両手を高々と掲げて見せた。
「やった! 嬉しい!」
「って、おい!!」
勢いのまま抱きつかれ、瀬能はまたも狼狽したが、美春はまったく気にした様子もなく、やはり無防備にも瀬能の胸に体を預ける。
「ちょ…こら、引っ付くな!」
「あ、ごめんなさい」
肩に手を掛け押しやると、美春は存外素直に体を離す。
そして、嬉しそうに笑ったまま、床に置いてあったジャケットを手に取った。
その姿に、瀬能はようやく落ち着きを取り戻し、少しは「思慮」を覚えさせた方が良いなと思いながら、深い溜め息を一つ吐いた。
「ったく……女がほいほい男に抱きつくもんじゃアリマセン。気を付けろ」
「えー」
「「えー」じゃない。俺だったから良いけど、他の男だったら間違いなく襲われんぞ」
やや誇張した物言いで告げる瀬能だが、心の中では動揺しっぱなし。
しかしそれを、表に出さない術ぐらいは心得ている。
表面的には、いつもと同じように見えているはずだ。
だが、
「瀬能さんにしかしないよ、こんなこと」
「……」
あっさりと言い切られてしまえば、返す言葉も見当たらず。
がしがしと頭を掻き乱す瀬能に、美春はにへっと顔を緩めた。
「だって好きなんだもん」
「…………」
ストレートな物言いは、照れなど微塵も含んでいない。
思春期の娘がこれで良いのか、と、頭を抱えたくなった瀬能だが、そこに追い討ちが掛けられた。
「だから、瀬能さんになら襲われても良いかなー、なんて」
「思うな、んな事」
洒落にならないから、とは、流石に言えなかった。
その代わり苦々しい面持ちを崩さずにいると、美春は「ちぇーっ」と呟いた。
「いっつも子ども扱いするんだ、瀬能さん」
「実際子どもだろ」
「子どもだけど、大人だもん。少なくとも、瀬能さんが考えてるよりは、ずっと大人だよ?」
上手い言葉が見付からないのか、美春はジャケットに視線を落としながら、首を傾げてブツブツ。
聞かされた瀬能も、言いたい事は分かるのだが、どう返してやれば良いか分からず首を捻った。
「だからさ、瀬能さん」
「ん?」
「大人だと思った時は言ってね。プロポーズするから」
「…………」
文字通り、目を点にした瀬能に対し、美春は至って真面目な表情。
普通は男からだろ、とか。他の男に目を向けろ、とか。俺なんか単なる親父だぞ、とか。
そんな言葉が浮かんでは消えたが、結局、瀬能は何も言わず、代わりに大きな溜め息と共に一言だけを返した。
「大人になったらな」
「うん!」
子どもの戯言と言うには、美春は成長しすぎている。
恐らく、彼女は彼女なりに、真剣に瀬能の事が好きなのだろう。
それが分かるだけに、適当にあしらう気も起きず、呆れ混じりに告げた言葉に、美春は嬉しそうに頷く。
少しだけ──本当に少しだけ、女の色気を感じた事だけは、告げてやらないようにしよう。
そんな事を考えながら、瀬能は美春の頭をぐしゃりと撫でた。
以上です
携帯からなので、区切り改行を忘れて投下してしまった
読みにくくてスマソ
>>340 リアルタイムGJ!!
瀬能が美春にオトされるのが楽しみw
342 :
290:2007/09/20(木) 03:47:27 ID:IU3pJ5Oe
>>340 受信した電波を数倍にも増幅した素晴らしい仕上がりに全米が泣いた。
343 :
名無しさん@ピンキー:2007/09/21(金) 06:21:36 ID:4KPD7qSH
これは良い
賑わってきてうれしい。
そろそろ保管庫ほしーなーと思ってます。
wikiがいいかな、と考えますが、いかがでしょう?
でもwiki触った事ないので、誰か手伝ってくださいませんか……。
フォーマットって、例えば主従スレの借りてもいいんでしょうか。
借りるならあっちにもお伺いたててくるべき?
345 :
名無しさん@ピンキー:2007/09/23(日) 11:37:30 ID:j5B3DgYj
美春はいつ落とすのか?wktkしつつ待ってます
保管庫GJ!
男女どっちが年上でどのくらい離れているのかが一覧にあるとイイと思うんだけど
Wikiだし勝手に弄っても問題ないかな?
>>347 いいと思いますよ。
>>346 乙です。そしてGJ!
青年・おっさんと幼女に萌える。懐く幼女、懐かれて表面上迷惑そうな男
エロパロ板で言うことじゃないかもしれないけど、エロくなくていい
そういうのは幼女が成長してからでいい
「ねえ、おじさん」
「俺はまだ○○歳だ。おじさんじゃない。おじさんって呼ぶな」
「うん、わかった。……ねえねえ、おじさん」みたいなやり取りが大好きだ
これが幼女でなくて中高生だったら「○○歳ならもうおじさんじゃん」
その「○○歳」が二十代後半だとして
>これが幼女でなくて中高生だったら「○○歳ならもうおじさんじゃん」
だったら泣く
350 :
名無しさん@ピンキー:2007/09/23(日) 16:05:58 ID:jr4vI0LS
>>346 保管庫乙。
>>348 青年と幼女だったらスク○ニの「死が二人を分かつまで」ってのがある
実際幼女とは言っても中1のようだが、懐く幼女、懐かれて迷惑そうな男と言う所はぴったりだ
>>346だよ。
>>347 そうだね、あるといいかも。
いじってくれると嬉しい。なぶってくれてもいい。
ちょっと出掛けるもので、よろしくお願いします。
>>348 おっさんと幼女だったら、ゲームだけど
DS「ウィッシュルーム」のカイルとメリッサが萌えだ
(別にゲーム中ではカップルじゃないんだが)
メリッサは登場時は小生意気だけどあとは素直に懐いてやたらかわいい
閉じ込められたメリッサを助けたりヌイグルミ修理してやったり
クリスマスツリー探すカイルはいい。とてもいい。
IDが多分、変わってるけど347です
なかなかイイ表現が分からなくてあんな感じになったけど
どなたかイイ表現方法とかあったら貴女色に染めてください
おっさんと幼女というと、自分の思い出の中にはどうしても
アニメの「不思議の海のナディア」に出てきたサンソンとマリーが浮かぶ
最終回の締めで、本来の物語から10年くらい経ったマリーが
もうすぐサンソンの子どもが生まれるんだと笑顔だったのが衝撃的で…
でも、自分に年の差属性が生まれた瞬間でもあったなぁ
>>353 ありがトン。見やすくてよかった!
リアルで13歳差カップルの結婚式に行って来たよ。タイムリーだな。
別の友人は24歳差。
自分の10歳差なんてまだまだだ……。
でもリアルはあんま萌えない。やっぱり萌えはファンタジー。
年上が年下を超子供扱いするのが好きだ。
可愛くって仕方ないぜ! みたいな。
投下お待ちしてます。
>「○○歳ならおじさん」
このフレーズを見る度に、りびんぐゲームという漫画でヒロインの女の子が
三十路で区切っていたのを思い出しちまうw
よくよく思い出すと自分は歳の差カップルの漫画を読んだのはこれが最初かもしれないな
クレヨンしんちゃんの映画「アッパレ戦国大合戦」のおまたのおじさんこと井尻又兵衛は30で、
廉姫は見た目二十歳前後(当時の人間は老け顔みたいな描写だったから十代?)だから、
身分以外にも障害のある恋だったのかなぁ。
又兵衛さんみたいな人情侍と年下お姫様の恋話とかも萌えるのぅ。
「又兵衛、だっこじゃ」
「ひ、姫様! いけませぬ、そのようなはしたなきこと……」
「又兵衛は……妾のこと嫌いか?」
「! そのようなことは決してありませぬ!」
「本当か?」
「侍の誓いにかけて!」
「ならだっこじゃ!」
とか。
いわゆる「年の差コンプレックス」は、最初は年下が一方的に持っていて
10年、20年後とかになると今度は年上が持つようになるんだよな
修羅の刻の織田信長編の狛彦と蛍がすごく好き
最初の出会いは狛彦18歳、蛍5歳ぐらい
最初は大好きな父親を倒した男ってことで蛍は狛彦を毛嫌いしてるんだけど
数年後に父親が信長に殺された後は二人協力して打倒信長を目指すみたいな感じ
その時点で10歳と23歳ぐらいかな
女側が年上ってのも好きなんだがなー。
>>360 男の二桁以上は、余裕でストライクゾーンなのに
女の二桁以上は、やはり微妙に、もにょってしまう自分は、負け組み?
女性の方が長く生きるのだから、年上なくらいでちょうどいいんだ!
って少年が年上の女教師に告白する小説がかなり前にあったね。
主人公が男で上ならヒモ系、下なら奴隷系
主人公が女なら上がドリーマー系、下なら飼育系ってお約束があるような
テンプレずれのも読みたいです
>>363 ごめんちょっとイミフ。もう少しkwsk。
主人公が女で、年上だと、ドリーマー系? ってなに?
にしてもにぎわってきたな。いいぞ。
365 :
363:2007/09/24(月) 23:38:46 ID:ByWO6gjc
>>364 >>主人公が女で、年上だと、ドリーマー系? ってなに?
女性作家?に多い気がするの逆ハー設定もの
世界は彼女のために回っていて、本命以外にもいろいろ秋波を送られるような感じのものをと考えてますがどうでしょ?
皆さんGJすぎる!神スレ。
外国人と日本人の年の差も萌える。
40代のちょい悪紳士と10代の生意気な少女とか。
紳士が少女を拾って同棲とかしちゃってなんか芽生える。紳士の方は気持ちをごまかす為にキツク当たる。
という妄想で悶えてる。
>>366 かつて米国に日本人外交団が初めて訪れたとき、
アメリカ人は小柄ながらその堂々たる日本人の姿に驚いたという。
このとき、世に知れ渡ったのが「サムライ」であった……
1938年のロサンゼルスオリンピックの馬術金メダリスト、
西竹一陸軍中佐は身長180センチを超えるスマートな男性で、
アジア人のルックスなど欧米には足下にも及ばないという当時の差別的風潮の中でハリウッド女優とのスキャンダルが報道されるなど、
当時としては異色の人物だった。
こういう逸話は結構ある(さすがに軍人の例が多いけれど)んで、
私は日本人のナイスミドルと外国人少女とかも萌えまつな。
368 :
364:2007/09/25(火) 21:51:36 ID:5EiTcLmG
>>365 むむむ、まだよくわからない。
1.主人公が男の場合
a-男上×女下=ろくでなしおっさんとしっかり者の少女
b-男下×女上=破廉恥なマダムに捕まって、あれやこれや。
2.主人公が女の場合
a-男下×女上=ああ、こんな私でいいの? モテモテ系
b-男上×女下=子供の頃に攫われてきて、1から仕込まれる。
……上下の解釈逆か?
あたま悪くてごめん。も一回教えて?
>>368 >a-男上×女下=ろくでなしおっさんとしっかり者の少女
舞台は大正時代かなんかで、昼行灯なだらしないおっさん探偵と
住み込み助手(ワケあり)の少女とかもいいなあ
・・・と、個人的な好みを言ってみる。
>>369 おまえ……!! そんなこと書くから、こんな夢を見た。
思い出して書き起こした。
おっさん探偵と住み込み少女1/2
「高江洲さん、お客さまはお帰りになりましたか?」
革張りのソファに行儀悪く背を預けながら、おーと気の抜けた返事をする。
洋風にしつらえた木製のドアが控えめに開いて、盆を抱えた少女がおずおずと部屋に足を踏み入れた。
桜色の着物の上から、生成りの前掛けをきちんと身につけて、ゆっくりとした所作で机のすぐそばに両膝をつく。
「お客さま、なんておっしゃっていました?」
「お前の珈琲を褒めてたよ。流行りのカッフェより美味い、だとよ」
「もう、そうじゃなくて。お仕事のご依頼だったんでしょう?」
「あー、まー、断った」
「え?」
「断った。俺にはできん仕事だよ」
お天道様に顔向けできない仕事は受けない、と決めている。
馬鹿馬鹿しい自尊心だと自覚はあるが、この探偵事務所を開く際に、金を出してくれた祖父に誓ったのだ。もうその祖父もずいぶん前に亡くなってしまったけれど。
――お天道様に顔向けできないってどんなこと?
玻璃のようなきらきらした目で、そんなことを聞かれても困るから、今日もいつものようにのらりくらりと会話をはぐらかす。
卓上の木箱から煙管を取り出して、そういえば煙草はずいぶん前に切らしていたと思い出し、またぽいとそれを投げ出した。
茶碗を片付けていた娘が、困ったように顔をしかめた。
「高江洲さん、どうしていつもお仕事断っちゃうんですか?」
「俺ァ、怠けモンだからなぁ」
「お金、ないんですよ。みのやさんへのツケも溜まってます。今日も女将さんがいらしてました」
「おー、そうだなァ」
「高江洲さん、わたし、心配なの。まじめに聞いて」
「お前、いくつだっけ?」
「13です……どうして?」
「いやァ? 大人になっちまったなァと、思ってさ。こーんなちびだったのによォ。俺もじじぃになるはずだよな」
「ほ、奉公へいけとおっしゃるなら、まいります。でも、し、娼館は嫌です……」
うつむいた顔を泣きそうに歪めて、語尾をかすれさせて小さく震えた少女の、黒い頭にぽんと手を置いた。
ぐりぐり、と乱れるのも構わず撫で回す。
「んなこた言ってないだろ。俺とお前が食ってくぐらいは蓄えてあるさ」
綺麗に上げた前髪をぐちゃぐちゃに崩されても、少女はほっとしたような息をついて柔らかく微笑んだ。
371 :
2/2:2007/09/26(水) 12:01:46 ID:DDgQ/Zq2
それにそこに無造作に飾られているつぼを売れば、お前の花嫁衣裳代ぐらいにはなるぜ。じーさんの道楽に感謝だな。
言いかけて、胸が詰まった。
湧き上がる痛みの正体を、高江洲は知らないふりをする。
娘を嫁にやるってのはァ、寂しいモンだねェ。まぁそういうことだろ。
「今度、写真撮りにいくか?」
「え?」
「髪も乙女に結ってよォ。似合うぜ、きっと」
ぱっと少女が嬉しそうに頬を緩めて、しかしすぐにはっと気がついて綺麗な眉根を寄せる。
「でも、お金……」
「心配すんなって。明日は真面目に働くさ」
「ほんとう?」
「ああ」
「きっとよ?」
「うん」
「約束ね。一緒に写真、撮ってくださいね」
あれ、いつの間にか一緒に写ることになってらァ。
にこにこと嬉しそうに顔を輝かせる少女を見て、まぁそれもいいかと息を吐く。
こんなむさいジジイが隣にいたんじゃ、お見合い写真なんてなりゃしねェな、と薄く笑った。
*
以上。続かない。
つづけ?つづけ!つづいてよおーー!!
何が言いたいかといえばGJ
「シャンドライの恋」という小説もなかなかですぞ。
初老の英国人ピアニストと、まだ若い黒人のメイドさんの話。
映画化もしてるけど、原作をより一層オススメ。
旦那様の恋の告白が淡々として、でも情熱的で、きっと痺れるよ。
おおう、これは娘の小説スレでも通用しそうですな。
まあ何はともあれ良い仕事です。
続き。投下。相変わらずエロなし。
1月のはなし
>>333 読んだよ! ところどころ、それは愛の告白ですかッって悶えた。
父性とはちょっと違う悶え方で申し訳ない。
>「きみはおれを見つけた。それでじゅうぶんだよ」
>「シャイラよりきみのそばにいたい」
とか。
ありがとう、いい本に巡りあえた。
顔も知らない他人に感謝したのは生まれて初めてだった。
それどころか、道行く人すべてに、ありがとうやったぜ、と握手を求めたくなった。
「そんなに嬉しいか」
うん、嬉しい。極限までに浮かれている。
どうしようもなく小笠原茜に夢中だ。
*
終業式の日。
ちょっと早いけどクリスマスに、と毛糸の手袋とハンドクリームを手渡した。
「カンボジアで凍死しないように」
気を利かせたつもりだったが、茜は低い声で浅尾、と顔を上げずに呼んだ。
「カンボジアは熱帯モンスーン気候だ。防寒具は必要ない」
「ああ、そう……」
しばらく会えないというのに茜はやっぱりクールでドライだった。
「日本で使うことにする。ありがとう」
くちびるの端を素敵にあげて、茜は少し嬉しそうに歪めた顔を、だけどすぐに曇らせた。
「君は気が利くな。私は何も用意できていない。少し待ってくれないか」
「いや、あの、期待してないですから、気にしないで」
まぁ、そうだろうとは予感がしていた。
あからさまにイベントに興味がなさそうな茜のことだ、学期末の雑多な仕事に追われてクリスマスのクの字も忘れていたに違いない。
実は彼女への贈り物を用意するのもためらった。重荷になるのは本意ではない。
だからごく些細な、だけど必要なものを選んだのだ。
まるで母親へのプレゼントの様だけど、悪くないチョイスだと浅尾総一郎は自賛する。
茜は自分自身を飾ったり守ったりすることに非常に無頓着だ。
お似合いの白衣はかろうじて上着代わりらしいが、放っておくと準備室の暖房を付け忘れたまま長時間過ごした後、手が動かない、と一人首をかしげている。
きっと夏には、自宅で熱中症になるに違いない、と総一郎は予想している。
以前「たまたま」一緒に帰ったときに手袋もマフラーもしていなかった。
どうして、と聞いたら、去年どこに仕舞ったか思い出せない、という。
休日に探そうと思ってもいつも忘れる、らしい。
もしかしてどこかに忘れたかもしれない、なんて、それすらも覚えていないってどうなんだと不思議に思う。
また化粧も、眉は手入れされているしマスカラは塗っているそうだが、そのほかは一切塗っていない。
気まぐれに口紅を塗ったりする程度だ。
しかもマグカップについた赤い紅を、眉間にしわを寄せて苦々しげに親指で拭う様子を何度か見た。口紅を憎んでいるのでは、と推測している。
以前、なぜ化粧をしないか尋ねてみたら、淡々と返事が返ってきた。
「1、眼鏡を外すと何も見えない。2、眼鏡があると化粧ができない。大いなる矛盾だ。そして朝は時間がない」
実に論理的な返答だった。
最低限、身奇麗にはしているがそれ以上は興味がないし必要も感じない、ということか。
だからなのか想像も付かないが、洗い物が好きな茜の手は少々乾燥気味だ。
まだあかぎれなどは出来ていないが、これからますます冷えが込んで乾燥が厳しくなる。
彼女にはいつでも滑らかな手でいてもらいたい。
まぁ、そんな理由だけだ。
だから茜が気に病む必要はまったくない。
しかし「期待していないから」の言葉は、ドSの魂に火をつけたらしい。
「いや、そう言われては立つ瀬がない。新学期を楽しみにしていたまえ」
新学期までやっぱり会わないつもりか、とクリスマスなんかよりそこが気になったが、そりゃどうもと、どうにか曖昧に微笑んだ。
*
冬休みも半分ほど終わってしまった。あっという間だ。
茜はいまごろ何をしているだろうか、と考えている時に携帯電話が鳴った。
表示は「通知圏外」。
……圏外?
そこはどこだ、と恐る恐る通話ボタンを押す。
「はい?」
「…………浅尾?」
少し遅れて、耳になじんだ穏やかなアルトが聞こえた。
「セン、セイ?」
「ああ、そうだ。今、いいか?」
「あ、はい、どうぞどうぞ、暇です」
暇とは我ながら情けないが、それよりも思い返せば茜から電話がかかってきたのは初めてだ。
旅行へ行く前に、空港から辛うじてメールを貰ったが、それ以来のコンタクトに総一郎の胸は高鳴った。
携帯電話を握る手の平に、じっとりと汗が滲む。
「あー、元気か?」
「うん、元気ですよ」
「課題は?」
「…………まぁ、ぼちぼち?」
「そうか。早めに終わらせるように」
なんだ、せっかくの国際電話でもセンセイなのか?
らしい、といえばとてもらしい会話に、小さく笑った。
「センセイは? 元気? おなか壊してない?」
「む、おなかは壊してない。が、ちょっとダウンだ。今日の半日観光はキャンセル。琴子一人で行ってもらった」
「え、そうなの?」
「やっぱり体力不足だ。だめだな、浅尾の言うとおりだ」
「大丈夫?」
「ああ、さっきまでぐっすり寝ていた。明日はもう大丈夫だろう」
「そっか。今どこ?」
「ベトナム」
「そうなんだ。旅行、楽しい?」
「うん、楽しい…………が、そろそろ日本が恋しいな」
恋しい、という言葉にドキリとした。
茜が恋しいのは日本であって、別に会いたいと言われたわけじゃない。
いやしかし、2日後に帰国したらそのまま実家に帰ってしまうドライな茜が、恋しいなんて感情を持っていたとは仰天だ。
「……浅尾?」
「ん?」
「あの、正月は、どうしてる?」
「ああ、元旦と2日は親戚のうちに行きます」
「そうか、えーと、…………初詣にでも、行かないか?」
「……え?」
「いや、もし君が暇だったら、と思っただけだ。忙しいなら、別に」
「行きます!」
とっさに叫んでいた。
初めて、誘われた。
きっとこれは奇跡だ。
「……そうか」
いつもと同じそうか、という言葉に、どこか安堵が含まれているように思えた。
海を越えて、茜の吐息が耳に響く。
不思議だ。
心地いい穏やかなアルトが近くに響くだけで、そこにいないのにいる錯覚に、簡単に陥られる。
生まれて初めて、グラハム・ベル博士を心の底から尊敬した。
電話はきっと、恋人同士のために存在しているに違いない。
何か言おうとした矢先に、受話器越しにインターホンの音が聞こえた。
「すまない、琴子が戻ってきた。また、日本に帰ったら電話する」
「……あ、はい。じゃあ、気をつけて」
「ああ。…………ありがとう。おやすみ」
ぷつ、と通話が途切れた。
もの寂しさを感じたが、それよりも充足で一杯だった。
今の会話を何度も頭のなかでリピートして、ついでに茜の体温と、匂いを思い出す。
早く帰ってこないかな、と思った。
海外にいるのと日本にいるのでは、まるで違う。
会えないと会わない、ぐらい違う。
急に正体不明なエネルギーが沸いて来て、総一郎は課題へと粉骨砕身取り組んだ。
もちろん、茜に会ったら「課題? 終わりましたよ!」と誇らしげに告げるためだ。
総一郎は、自分にうそをつく才能がない、と知っていた。
多分、うそつきでポーカフェイスの女性に恋をしているせいだ。
*
驚くべきことに、元旦にまた電話があった。
「浅尾? 明けましておめでとう」
「おめでとうございます。いまどこ? 実家?」
「いや、空港だ」
「帰ってきたばっかり?」
「そう。帰国ほやほやだ。無事に帰ってこられた、ただいま」
茜は挨拶を欠かさない。教師だからか、もともとの性格なのか、もしくはその両方なのか。
おはよう、も、やあ、も、お疲れ気をつけて、も、ごく自然にさらりと口にする。
今も、総一郎がおかえりなさい、という前に、さっさと口に出してしまう。
「……おかえり。体調は?」
「ああ、何ともない」
「よかった。……おかえりなさい」
「ん? 二度目だ」
「うん、帰って来てくれて、嬉しいから」
「………………う、ん」
「センセイ?」
「いや、ちょっと驚いた。君は、すごいな」
「なにが?」
「……今度言う。また、夜に掛けてもいいか?」
「あ、はい、もちろん」
「じゃあ。あ、」
切れる、と思ったが、通話は続いていた。
たっぷり5秒間。
何か言うのかな、と気配を察して待っていた総一郎に、極微な声が届く。
「……ありがとう、ただいま」
空にも上る心地だ。
ありがとう、だなんて、ありふれた言葉だ。
だけど茜がそれを口にするだけで、まるで魔法のような言葉になる。
何を感謝されたのか、イマイチよく判らないまま、総一郎は天まで昇った。
*
3日に会うことになった。
ちなみに初詣の名目は「大学受験必勝祈願」らしい。
まだ来年ですけど、と尋ねると、早い方がいい、とのこと。
茜が言うならそうに違いない。
そんなことより初デートだ。
しかも、茜から誘ってくれた。
うきうきと、20分も早く待ち合わせ場所に到着した自分を、我ながら可愛らしく思う。
ぼんやりと行き交う人の頭を眺めながらヒマを持て余して、柄にもなく自己分析などを始めてしまう。
今日がこんなにも待ち遠しいのは、彼女の方から会いたい、と考え、その口実を作り出してくれたせいだ。
求めて、応えてもらえるのは嬉しい。
だけど求められるのは、もっと心地いい。茜は大人であのようにドライで、一人で何でも出来てしまうだけに、余計。
普段、クールな彼女は総一郎に何も求めない。
触れたい、と言われても、触れられたい、とは言われない。そして茜から総一郎へ触れるなんて滅多にない。
つまり、そういうことだ。
自分は、茜の最初の宣言どおり、観察対象で、ただの愛玩物なのも知れない。
ほう、と煙草のような白い息を吐いて、携帯電話を開いて時間を確認した。
あと10分。
早く顔を見たい、と思った。
寂しい、会いたいとこの数日何度も繰り返し切望した。
女々しい自分に嫌気が差して、彼女はこんな自分をいつまで好きでいてくれるか不安になる。
早く顔を見て、この不安の塊を払拭したい。10分を永遠に感じたのは、初めてだ。
往来にはたくさんの女性が歩いているのに、自分が会いたいのは彼女だけだ。
綺麗な人も可愛い人も、たくさんいるのに、スキだと思うのは鉄の仮面を被ったクールなセンセイだけだ。
ああ、例えば、そう。あの茶色いコートの人なんて、かなり美人だ。
ちょっとセンセイに似ている、と思った。でも似ていても、本人じゃなかったら意味がない。
あまり他人を見つめては不躾だ、と携帯電話に視線を落とした。
あと9分。
待ち遠しい。
ぽん、と肩を叩かれた。
振り返ると先ほどの美女が、驚くほど至近距離に立っている。
「おはよう」
耳慣れたアルト。
控えめな甘い香り。
茶色い瞳と、白い頬。
見覚えのある、手袋。
「……セン、セイ?」
トレードマークの眼鏡がない。
いつも後ろに束ねられている黒くつややかな髪は、ゆるくウェーブを描いて肩に落ちている。
そして、いつもは病的なほど白い頬がこの寒さにも関わらず桃色に色づき、まぶたは鮮やかなグリーンが乗り、くちびるは濡れたような朱色が差されている。
一番驚いたのは、足元のブーツにかかる、ふわりとしたベージュの布地だ。それは、総一郎の見間違いではなければ、多分、スカート。
白衣のようなラインのコートとパンツルック、なんてスタイルを想像していた彼は、度肝を抜かれた。
「やあ、浅尾。明けましておめでとう」
「……おおお、おめでとうございます。センセイ」
「ん?」
「眼鏡は?」
「コンタクトレンズが入っている」
「その、髪は? 化粧も」
「…………………………非常に不本意だ。歩きながら話そうか」
すっと身を翻して、すたすたと歩き始める。
慌ててその隣に並んだ。
10歩歩いて、ようやく茜が重々しく口を開く。
「以前、姉がいる、という話をしたかと思うが」
「あ、うん。あとお兄さん二人ですよね」
「そうだ。昨日、実家を出ようとしたら姉に捕まってな。両親が寂しがるからもう一泊していけと言うんだ。初詣にいく約束があるからと説明をしたら、誰と、とそれはそれはしつこく聞かれた」
「何て応えたの?」
「生徒だ、と。『じゃあ変装ね』と言い出し、今に至る。あの人は思い込みが激しい」
今朝インターホンが鳴って、開けたらお姉さんが立っていた、らしい。
朝から大張りきりで、茜に化粧をしたり髪を巻いたり服を決めたり、出掛ける前から消耗したと淡々と語った。
お姉さん、ありがとう。
会ったこともない他人に感謝したのは初めてだ。
キレイな横顔を見つめながら、そんなことを思った。
この展開は、いつの時代の漫画だと、ついでに思い至って可笑しくなった。
ちがう。漫画の中では「眼鏡を取ると意外に美人」だが、茜は眼鏡をしていても美人だ。
眼鏡も似合うが、なくてもいい。普段は知的で隙がない印象だが、今日は柔らかくて優しげで、まるで別人に見える。
確かに、変装は完璧だ。今の彼女を化学教師の小笠原茜だと気がつく人間が何人いるか。
女性の髪形と化粧は偉大だ。
「センセイ、今日もキレイっすね」
「らしくないと自覚している。無理しなくていい」
「本気なのに。マイナス思考」
「む」
「ホント。今日はすっごい可愛い」
口に出したものの、気恥ずかしくなってぴょん、と両足で跳ねた。
どうしようもなく子供っぽい行動だ。
正月も3日を過ぎたというのに、同じことを考える人間は無数にいるようで、神社への道行きは適度に混雑をしていた。
混んでいる方が人に紛れて誰かに見つからずにすむのか、それとも人が多いと単純に出会う確率が増えるのか、ふと疑問を持った。
でも、学校から二駅もとなりまでわざわざ足を運んだのだ。
茜も「変装」をしていることだし、油断をしても大丈夫だ。
根拠もなく確信して、茜の右手を攫って握った。
手袋がじゃまだな、とちょっと思った。
茜は驚いたように手を軽く引いたけれど、総一郎が目をあわせてにっと笑うと、小さく白い息を吐いてくちびるをいつものように軽く上げた。
「ご機嫌だな」
「まぁね」
そりゃご機嫌だ。やっと会えたのだし、彼女は自分と会うためにおしゃれをしてきてくれた。例えそれが、お姉さんの策略とはいえ、広義で解釈すれば総一郎のために違いない。
「そんなに嬉しいか」
「うん。いつものカッコいいセンセイもいいけど、今日のセンセイも好きだな。髪、下ろすのも似合うし、眼鏡ないのもいい」
「………………………………あ、ああ、そうか。それはよかった」
「うん」
大きな鳥居を同時にくぐって、玉砂利をざくっと踏む。
まるで新雪を踏むようなこの音を、こんなに意識して聞いたのは初めてだ。
茜といると、何もかもが新鮮で、周り中の出来事に敏感に反応できる。アンテナが四方八方に広がっているようだ。
丸い石の一つが、茜のブーツの先に当たって飛んだ。
手水舎で手を洗った。実はいつも省略するのは内緒だ。
古臭いイラストどおり、左手、右手、左手、と水をかける。
その水は予想通りきりりとよく冷えていて、茜が顔をしかめた。
やっと脱いでくれた手袋をはめてしまう前にその手をぎゅっと握って、拝殿へと続く列に向かう。
茜は無言で、さっきまで右手にはめていた手袋を差し出した。
総一郎は普段から、ポケットに手を突っ込むだけで充分だから手袋を持ってきていなかった。
ありがたく受け取って、右手にはめる。
また茜のつめたい左手を握って、列に並んだ。
長蛇、とは行かないが、そこそこ長い。
頭一つ小さい隣の茜を見やる。気配を察して、彼女も顔を上げる。
まるで、恋人同士みたいだ、と思った。
いや、たぶん、恋人同士で間違いないとは思うのだけど、イマイチ自信がもてない。
話題を探して口を開く。
「旅行どうだった?」
「ああ、楽しかった。浅尾もいつか行くといい。自分がちっぽけに思える」
行くならセンセイとがいい、と思ったが、口には出さずうん、とだけ呟いた。
「正月は? なんか面白いことあった?」
「面白いこと…………ああ、プロポーズをされた」
「…………は?」
あまりのことに上手く声が出せなかった。
記憶違いでなければ、プロポーズとは求婚のことだ。
「だ、誰に?」
「ハヤト」
誰だそれは。
でもなんとなく、聞けなかった。
「…………で、何て返事したんですか?」
「ありがとう、と。そのうち己の間違いに気付くだろう。わざわざ恥をかかせることもない」
その人が間違いに気がつかなかったらどうするつもりだ。
まさか、責任を取って結婚しちゃうとか?
結婚。
その言葉は、17歳の総一郎に途方もなく重くのしかかった。
自分はまだ、結婚も出来ない年齢だし。なんとなく将来結婚するのだろうなとは考えていても、そんな先のこと、想像もできない。相手は茜がいい、としか。
「…………結婚、するの?」
「浅尾?」
「プロポーズされて、ありがとう、なんて、結婚するってことじゃないんですか」
「何を怒っている?」
「怒ってない。ただ、あと10年早く生まれたかったって、思ってるだけ」
「ほう、盛大に誤解をしているな。隼斗は小学5年生の甥っ子だ」
はぁ? と間抜けな音が漏れた。
彼女の人を喰う性格は熟知していたつもりだが、最近は発言が微妙にリアルになり見抜けない。
またやられた。
「5歳の頃からの恒例行事なんだ。会うたびに『茜ちゃん、僕が18になったらケッコンしてね』と言う。そろそろ幻想を捨てるか現実を知る年頃だと思うのだが」
総一郎にも覚えがある。妹が小さい頃、「大きくなったらパパとお兄ちゃんとケッコンするの」とのたまっていたアレと同質なんだろう。
まぁ「茜ちゃん」にちょっと引っかかったが、相手は小学生で親族なのだ。つべこべ言っても仕方ない。
「…………ヤキモチか?」
「ぐ」
「そうかそうか。浅尾は可愛いな」
眼鏡のない横顔が、くすぐったそうに肩をすくめて笑った。
ひとしきりにやにやと笑った後、急にこちらを仰ぎ見る。
「禁断の愛は、君とだけで充分だ」
ノックダウンだ。
なんだ、アンタは俺をどうしたいんですか。
萌え殺したいんですか、そうなんですか、このドSのヘンタイめ。
人目をはばからず、肩を抱こうと思った矢先に参拝の順番が回ってきた。
先にがららと大きな鈴を鳴らしカラフルな紐を手渡すと、同じように茜ががらんと鳴らした。
5円玉を投げ入れて、珍しく神妙に祈る。
――今年も、来年も、その先も。センセイとずっと一緒にいられますように。
その願いは我ながら乙女チックで気恥ずかしく、慌てて、無病息災と合格祈願を重ね合わせた。
あまりにも真剣に祈りすぎて、存外長く時間がかかった。
隣の茜が、目線だけで驚いたように総一郎を見つめていた。
「熱心だな」
「まぁね。センセイは何をお願いしたんですか?」
「ヒミツだ。願いごとは他人に明かしていけない」
「そうなんですか?」
「そうだ。でも、まぁ、たぶん、君と同じだ」
また萌え殺された。
もしかして「合格祈願」のほうかも知れないが、そこはプラス思考で乗り切ろう。
この後どこへ行きたい、と聞かれて、センセイと一緒ならどこでも、なんてまた乙女チックな回答が浮かんで口ごもった。
何とか、映画は? と尋ねると、今度は茜が口ごもった。
「暗闇で二人っきりは、よくない」
映画館だし、きりってことはないだろうに。
「……の、」
俺の?
浅尾の、と言っただろうか。ちょっと聞き取りにくかった。
言いにくそうに、茜は続ける。
「理性が、」
俺の理性を心配されている。
そんなに困らなくても人前で襲ったりしないのに。
「じゃあ、水族館は?」
「ああ、いいな」
茜が柔らかに笑う。
絶好のデートスポットだ。
聞けば、10年ぶりだそうだ。それもすごい。
ナチュラルに入館料を二人分払われてしまい、しかも「学生料金はいいな」と言われて少し落ち込んだ。そして休日まで生徒手帳を持っている自分を恨んだ。
でも、色とりどりの魚たちと、それを食い入るように見つめる茜の横顔に癒された。
茜が一番長く居座った水槽が、ペンギンでもアシカでもシャチでも熱帯魚でもなく、クリオネとクラゲである事実に、らしい、と笑いながら、幸福な初デートは幕を閉じた。
以上です。
いつもGJいただきまして、本当にありがとうございます。
とても励みになっています。書くエネル源です!
二人の展開が遅すぎて我ながら焦れていますが、なんとか最終的にはエロまで持っていこうと決めています。
トリもつけたので、スルーもしやすいかと存じます。
よければお付き合いください。
書けたら落とすという方針のですで、書かれた方はどうかお気になさらずに投下なさってください。
では。
お待ちしてました、GJです!!
ちょww先生www『禁断の愛』てwwwww
悶える〜。
読んでる自分も萌え殺されそうだ。
誰の理性ですかハアハア
私の理性ですかハアハア
かわいいなー
かわいいなー
ありがとう!
388 :
名無しさん@ピンキー:2007/09/28(金) 10:49:47 ID:pVpzOmNT
相変わらず乙
悶えるなぁ
年の差カップルの原点と言えば、やっぱりブラックジャックとピノコだろ
娘扱いする男と妻を自称する幼女
でも要所要所で幼女が男を支えている
最高だぜ
>>389 ぴのこはあの体だからきっとBJより先に死んでしまうんだろうなあ
二人の最後の会話を思い浮かべると泣けてくる
392 :
1/4:2007/09/28(金) 22:54:20 ID:xZLXYs7H
…何時からだろう
彼女を家族として見なくなったのは
たまたま路地裏で見つけた彼女
見た目からすると15、6位だろう
もはや目には光が無く衰弱しきっていた
彼女を助けたのはほんの気紛れ
しかし連れ帰ってから事の重大さに気がつく
―獣耳?それに尻尾まで…
今年で30丁度になるがいまだかつて獣耳の女の子なんて聞いた事が無かった
信じられなかったが今実際目の前にある以上信じるしか無いだろう
393 :
2/4:2007/09/28(金) 22:58:08 ID:xZLXYs7H
おそらく(勝手な推測だが)どっかの研究所から逃げた実験体という小説やら漫画やらでよく聞く設定に違いない
とりあえず食事を置いて待つ事にする
彼女は目を覚ますといきなり俺から逃げたが害が無い事を分かってくれたのかおそるおそる食べ始めた
その日から彼女は独り身だった俺の唯一の家族になった
5年経った今日
恐れていた【研究所からの刺客】みたいな奴は未だに来ない
もう死んだと判断したのか
よく分からないが結果オーライにしておく
今彼女―"アイ"と名付けた―は台所で朝食の準備をしている
394 :
3/4:2007/09/28(金) 23:00:26 ID:xZLXYs7H
最初の1年はずっと警戒していたが最近では身の回りの世話までしてくれる
「レウス!ご飯、出来た!一緒、食べる!」
止めろ!その獣耳を近付けないでくれ!
尻尾を振らないでくれ!
理性がきかなくなる!
面倒見は良く、ルックス・スタイル共に特上、そして獣耳
俺の好みに気持ち悪いぐらい当てはまる
だからだらうか
俺はアイが好きになった
しかし、俺は悩んでいた
この感情をアイに言うべきか迷っている
俺とアイは15(推定)も離れている
それにもう少し待てば俺よりイイ奴が出て来るんじゃねぇか、ってのもある
395 :
4/4:2007/09/28(金) 23:01:52 ID:xZLXYs7H
だが、アイの戸籍こそあるが世間に出せる訳ない
下手すれば研究所行き、なんてことになりかねない
要は今まで家族同然だったアイと付き合うのも年が離れているし、嫁に出す当ても無いしその気も無い
故に悩んでいた
…オイ、誰だ?ヘタレだなんて吐かした奴はそりゃあ、周りからみたら焦れったいが俺にとっちゃあ大事なんだよ!
「レウス、どうし、た?」
そんな可愛い目で見るな!
畜生…!生殺しだ!
そんなこんなで今日もいつも通り過ごす
先が思いやられる…
続かない
エロが無くてゴメン
>>391 「ピノコ生きてる」の手術室の麻酔直前のセリフがそんな感じだな
「おまえに生きててほしかった」
「ピノコミステリー」のラストのエロさは異常
なんだこの神スレ
今日見つけたのに、一気に最後まで読みきってしまったよ。
全ての作家さんにGJを捧げます。
唐突に話が変わるけど、このスレ的には、大学生(20)と中学生(14)ってのはありかな?
ロリ萌え妄想 〜小学生・中学生〜ってのもあるけど、どっちでもおkだと思う
年齢が男<女なら向こうは×だけどw
400 :
名無しさん@ピンキー:2007/09/30(日) 03:24:20 ID:kCDHxZj4
500ゲト
>>398-399 それじゃあ、一つ書いてみるよ
ただ、遅筆なもんだから、投下は来週以降になるかと
書き忘れたけど、男が中学生ね
空気が読めなかった
>>392ですがあぁいうのでもいいですかね?
>>402 中学生が男の方か!
めちゃくちゃツボなんで、楽しみにしていますハァハァ
>>403 どうだろう、獣属性が無いので分からん・・・。
年の差カップルつーと思い浮かぶのは、一条ゆかりの「砂の城」だな。
死んだ父親の恋人だったナタリーに育てられるフランシス。(母親は父親の後を追って自殺)
16〜18歳違いくらいだったかな?
すみません……
戦国時代の年の差カップル話を書こうと思うのですが、
武士の方が年上か、それとも年下か、どっちがいいでしょうか?
エロゲの「奴隷市場」をやって、その日本版をやりたいなぁと。
南蛮船が難破して、そこに没落貴族で奴隷として売られるはずだった女性(か少女)が乗っていて、
それを助けた武士と女性は次第に……
という話なんですが。
自分の書きたい方、書きやすい方を書くのがいいと思うのですが。
待ってます。
訂正といえばローマ
ローマの年の差カップルといえばポンペイウスとカエサルの子ユリア
スキピオの娘コルネリアとグラックスなんてのもすごい年の差カップルだった
たしか20歳以上違ったんじゃなかったかな
もっとも言うほど珍しい話でもないが
>405
原作読んだこと無かったのだが、そんな名前だったのか。
数年前、昼ドラで日本を舞台にやってて、ものすごい名前にされてた気がw
いっちょ原作読みに漫喫行ってこようかな
投下行きます。エロなし。
2月のはなし
1月31日。
日付が変わると同時に、浅尾総一郎は小笠原茜にメールを送った。
『誕生日おめでとうゴザイマス』
年の差に拘泥している茜にとって、果たして誕生日はめでたいのかどうかいささか疑問だったが、何もせずにはいられなかった。
電話か返信が来るかと思ったが、こなかった。
嫌味に取られた?
もしや怒ってる?
チキンな総一郎は人知れずビクビクする。夜中の勢いも手伝って、どんどんと思考はよくない方へと転がった。
大人にとって、誕生日が特別でない、となんとなくは知っていた。
総一郎の母親は、誕生日のたびに一つずつ若返るそうだ。正確な年齢は兄弟の誰も知らない。
だけど茜がこだわるのは自分の年齢じゃなくて、総一郎との年の差だ。
「私はまだ26歳だ」
淡々と告げたあの声音が、時折耳の中で響く。
茜のマイナス思考を刺激しないように、とは常々心がけている。
だけど誕生日は一年に一度なのだ。
祝いたい、と思う自分は、まだ子供なのだろうか。大人になったら、クールでいられるのだろうか。
いや、祖父母を見ていても、やはり何歳になっても誕生日は特別に思える。
大人ではなく、「茜」にとっては、嬉しくない日なのだろうか。
悶々と眠れぬ夜を過ごすハメになったが、朝になってさらりと、おはよう、ありがとうと返事があった。
寝てただけか、と、やっと緊張が抜ける。
少し早めに家を出て、生徒の少ない学校に到着するとすぐに実験準備室へと向かった。
底冷えのする準備室に、彼女はいた。
コートを着たまま、振り返って、おはよう、と白い息を吐きながら柔らかく微笑んだ。
気のせいかも知れないが、最近はこういう、気を許したような表情をごく稀に目にする。
役得だ。
「おはようございます。センセイ、おめでとう」
直接顔を見て言おうと、決めていた。
茜はありがとう、と頷いたあとにちょっと眉をひそめて、複雑そうな顔をした。
「これから10ヶ月間は10歳差か」
「あー、じゃあ、今日から永遠の20歳になったらどうですか?」
「ああ、それはいいな。いつか君が追い抜いてくれるわけだな」
「そう。だから待ってて」
総一郎のばかばかしい提案に、茜はにやりと笑った。
否定されなかったのが嬉しくて、総一郎は急に茜に触れたくなって、衝動的に抱きしめた。
抗議されるかと思ったけど、茜は何も言わなかった。
控えめな甘い香りが、すっと胸に入り込んだ。
「……やっぱり君は暖かい」
「専用湯たんぽですから」
「私の湯たんぽくんはマメだな。0時きっかりにメールが来ていた。ありがとう」
「寝てました?」
「ああ、すまない」
「起こした?」
「その程度では起きない」
その程度って、どの程度だろう。
無駄に自信満々で茜が言い放つものだから、おかしくなって小さく笑った。
む、と少々不満げな声が、腕の中で上がった。
逃げちゃうかな、と思ったが、意外にも茜はぎゅっと総一郎のコートを握った。
ああ、なんかいい雰囲気だ。
もしかして、今日はキスしてもいい日なのかもしれない。
少しくせがあるが、柔らかくてさらさらな、その黒髪に指を埋めた。
以前は後ろで潔くまとめていた、背の中ほどまである長い髪をなぜ下ろすようになったか、総一郎だけが知っている。
首が温かいから、と茜は言うが、たぶん、総一郎がうぬぼれていい理由のはずだ。
滑らかな指どおりを楽しむと、茜はくすぐったそうに肩をすくめた。
白い頬を、そっと指の背で撫でた。
ぴくりと肩を揺らして、茜が身を引いた。
反射的に総一郎を仰ぎ見た、銀のフレームの奥の瞳と目線がぶつかる。
くちびるが、何か言いたげに動いたけれど言葉は聞こえず、ただ、白い吐息だけが漏れた。
「センセイ……」
「あ、浅尾」
ガラスの奥で、慌てたようにまばたきを繰り返した瞳がすっと逸れる。
「……あー、職員朝礼の時間だ」
行かなくてはああ名残惜しい、とちっとも名残惜しくなどなさそうに、茜が腕の中からするりと抜けて、そそくさと職員室へと逃げてしまった。
呆然とそれを見送って、しばらく準備室で立ちすくむ。
――あれ、おかしいな。いい雰囲気だと思ったのに、気のせいだったのか。
もしかして俺って空気の読めない男なのかと延々と思い悩む。
最近、茜のマイナス思考がうつってきたようだ。下らない悩みから抜け出せない。
のんきなチャイムの音ではっと我に返り、慌てて教室へと走った。
夜中に引き続き、悶々とした一日を何とか終えて、じゃあ放課後に続きを、と目論んでも、見えないバリケードを貼られてしまっていた。
一分のスキもない。
さすがである。
一体いつまで待てば、アバンチュールにたどり着けるのだろう。
何でも話そうとは思っていても、コレばっかりはハッキリと聞くわけにも行かない。
なにせ安全の太鼓判を押された男なのだ。
下心を、見抜かれては、このバリケードが厚くなるに違いない。
――だけど、まぁ。
総一郎の贈ったうさぎ柄のマグカップへと嬉しそうに口をつける茜を見て、まぁいいか、とのんびり思った。
くすぐったそうな柔らかいこの笑顔は、今のところ独り占めなのだから。
*
そんな茜の誕生日から半月ほどが経過した。
冬はイベントが目白押しだ。
クリスマス、茜の誕生日、バレンタイン、卒業式、ホワイトデー。
今年もやってきてしまったのだ。
ついに、バレンタインデーが。
今日は学校中が朝からそわそわしている。
男も、女も。
もちろん、総一郎も。
茜がイベントごとに興味がないのは知っている。
知っているけど、どこかで淡い期待を抱いてしまう。
知ることと、理解することは別なのだ。
やけに長く思えたホームルームが終わると、一番に教室を飛び出した。
今日もわくわくと、いつもより倍は軽い足取りで北校舎へと向かうのだ。
「失礼します」
がらりと準備室のドアを開けて、立ち止まった。
やあ、といういつもの返事がない。
小首をかしげながら、そっと、後ろ手でドアを閉めて準備室に立ち入る。
お似合いの白い白衣を着た茜はそこにいた。
ただし、事務机に突っ伏して見事に寝入っている。
茜の寝顔など初めて見る。
外れた眼鏡のフレームを左手に握って、組んだ腕の中に頭を埋めている。
まぁ、スタンダードな居眠りの体勢だ。
音を立てないように茜に近づき、その顔を見つめた。
伏せた瞳。長いまつげ。
うすく開いたくちびる。
背の中ほどまでの、長くつややかな髪が真っ白な頬に落ちている。
少しくせのあるその黒髪は、柔らかくて指どおりも滑らかだと、総一郎は知っている。
そっと指を伸ばして、頬にかかる髪をすくい上げて耳にかぶせた。
ぴくりと綺麗な眉が動いたが、茜が起きる気配はない。
かすかな寝息すら聞こえてこなくて不安になるが、白い背がわずかに上下する様でようやく息をしている、と知る。
「センセイ」
囁くように呼びかける。
うん、と彼女が言ったような気がしたが、やはり身じろぎもしない。
手にした自分の黒いコートを、そっと彼女の肩にかけてやる。
まるで、ジェントルマンになった気分だ。
ちなみに総一郎のコートは重い。重い割りにあまり暖かくない。
茜のコートは信じられないほど軽くて暖かい。きっと値段の差だ。コレばっかりは仕方ない。なにせ総一郎は扶養されている身分だ。
コートから手を放すと、その重みで、茜が、ん、と小さく声をあげて眉根を寄せた。
「カゼ、ひきますよ」
呼びかけると、ゆっくりと上体を起こして、焦点の定まらないぼんやりとした瞳で総一郎を見上げて、浅尾、と小さく呟いた。
「ゆめを、見ていた……」
「なんの?」
「浅尾が、」
そう言ったきり、開ききっていない眼をまた閉じてしまった。
何か、思い出しているのだろうと次の言葉を待ったが、十分な沈黙が流れても茜のくちびるは開かれない。
「センセイ? 俺が、なに?」
「……うん」
うん、じゃない。
気になるじゃないか。
センセイ、ともう一度小声で呼んで、肩に手を置いた。
ぴくり、とその細い肩が揺れたが、やはりまぶたは持ちあがらない。
うっすらと開かれたくちびるが、呼吸を求めて時折ふるえる。
まるで、欲しているようだ。
何を?
キス、を?
今の茜は、まるで総一郎のくちびるを待っているかのように無防備だ。
いいや、そんなはずはない、と己を戒めたところで、茜の頭が小さく傾いて、たったそれだけのことなのになぜだか理性が飛んだ。
気がついたら、上体をかがめて、盗むように柔らかいくちびるに触れていた。
もちろん、自分の、少しかさつくくちびるで。
触れた瞬間に我に返り、慌てて身を引いた。
茜は相変わらずぴくりとも動かない。
やばい、バレたら殺される。
身の危険を感じた。
すぐさまこの場を離れるべきだ、と本能が語りかけるが、今この手を離したら茜がきっと額を机に打ち付けるだろう。
適度に体重を預けられている状態なのだ。
いろんな意味での緊張のあまり、手が震えてきた。
茜が起きてしまう。
いや、起こしたほうがいいのか?
いやいや、もしかしたら起きているのかもしれない。
じゃあどうしてなにも言わない?
やっぱり寝てるのか?
身体を、起こしたまま?
ぐずぐず悩んでいても仕方ない。
意を決して、肩に乗せた手に力をこめて軽くゆする。
「センセイ!」
茜がぼんやりと、再びまぶたを上げた。
総一郎を見上げるその瞳は、少し潤んでいて儚げで、青少年のいたいけな心臓は気の毒ほど、どくどくと脈打った。
またいつ理性の糸が切れるか知れない。
早く離れるのが得策だ。
「コーヒー、入れますね」
すっと肩から離した手を、茜がすがるように掴んだ。
予想だにしない突飛な行動と、あまりの手の冷たさに、驚いて動きを止める。
その顔を見下ろせば、茜はぱちぱちと瞬きを繰り返し、子犬のようにぶるると小さく頭を振った。
大きく息を吐くと、繋いでいるのと逆の手で前髪を悩ましげにかき上げて、総一郎の手を握ったまま頬に摺り寄せた。
その頬は、かろうじて人間らしい体温を持っていて安堵する。
手の甲のぬくもりを楽しむかのように鼻先をこすりつけて、くすぐったそうに柔らかく微笑むと、あろうことかその甲に柔らかいくちびるを押し付けた。
猫のようだな、と思った。
茜の、熱く湿った吐息が、囚われた甲にかぶさる。
ぞわり、と悪寒のような快感が背筋を通り抜けて、総一郎は身動きが取れなくなり、茜の顔を凝視する。
眼鏡のない茶色い両の瞳を、ぎゅっときつく閉じたかと思うとゆっくりと見開いて。
人が覚醒に向かう様子をこんなにじっくりと観察したのは初めてだった。
初めてだけど、多分、他の人よりずいぶんと遅い目覚めに違いない。
徐々に、総一郎の手を握る指が緩む。
「……センセイ?」
かすれた吐息混じりの声音になった。
そこではたと気がついたようにくちびるから離したその手を見つめて、少し眼を見開いて総一郎を見上げた。
繋いだ手と、顔と、数度見比べるうちに、徐々に瞳が本来の光を取り戻す。
比例するように、どんどんと頬が赤く染まり、ひえた指先から力が抜けていった。
どさり、と肩にかかっていたコートが床に滑り落ちた。
それを合図にしたかのように、ついにその手をぱっと離すと机に肘をついて両手で顔を覆ってしまった。
耳が赤い。
「…………………………悪い、」
やっとそれだけを言うと、なぜだか頭皮のマッサージを始めた。
髪がぐちゃぐちゃと乱れるのもかまわずに、うつむいて、時折小声でうなる声が聞こえる。
何か、苦悩しているようだ。
見ているのが気の毒になって、ついに声を掛ける。
「あの、コーヒー、飲みます? 入れますけど」
「ああ……うん、頼む」
苦悩をしたまま返答をよこした茜に、ばれないように小さく笑ってコーヒーの準備を始めた。
いつの間にか茜は、床に落ちていた黒いコートを拾ってひざ掛け代わりにしていた。
眼鏡をきちんとセットし、落ち着きを取り戻したかのように見える。
髪さえ乱れていなければ、多分いつもの茜に見えただろう。
ポットのお湯を使ってインスタントコーヒーを入れるだけの短い時間で、ここまで平静を装えるとは、さすが年季の入ったポーカフェイス、と総一郎は絶賛しながらマグを手渡す。
「どうぞ」
「……ありがとう」
湯気の立つうさぎ柄のマグカップを両手で受け取って、茜は指先をあたためる。
熱いですよ、と声を掛ける前に口をつけて、あつ、ともらしながら表情を変えずに一口すすった。
猫舌の総一郎は絶対に飲めない温度に思えるが、茜は舌に温感センサがないらしく、いつももうもうと湯気の上がったままのコーヒーをすする。
銀色のフレームのガラスが曇った。
む、と呟いたが特に処置は取らなかった。
ちょうどいいサングラスだ、などと思っているかもしれない。
「起きましたか?」
「起きた」
総一郎の顔を見ないまま、そっけなく応える。
あんなに盛大に寝ぼける大人を初めて見た。
そのあとあんなに動揺を露に苦悩する茜も、初めて見た。
「………………」
「……………………」
「………………………………さっき、」
「忘れてくれ」
絶妙なタイミングでぴしゃりと告げられ、総一郎は言葉を失う。
「頼むから」
ずいぶんと不遜な態度の懇願だ、と意地悪く思った。
だけど曇りが引いた眼鏡の横顔は、気の毒なほど悲愴に、見えた。
「その、普段言ってることと、今日の行動が違う、と言われてしまえばそれまでだが……。低血圧なんだ。だから、寝ぼけて、あの、君を……」
あまりにも痛々しく弁明を始めるので、どうにかして慰めたくなった。
――やー、大丈夫っすよー、俺もさっき寝ぼけたセンセイにキスしちゃったからー。
能天気に頭の中で語るもう一人の自分を速攻で殴り倒した。
そんなことを口走ったら、この準備室に血の雨が降るに違いない。
慰めになんてならない。待っているのは病院送りだ。
「あー珍しいですね、居眠りなんて」
「ああ…………、弁解の余地もない」
「いつも何時に起きてるんですか?」
「6時だ」
「家を出る時間は?」
「7時」
「朝、大変じゃないです?」
「苦労している。コーヒーを飲まなければ起きられないが、起きなければコーヒーを入れられない」
ああ、それで、と一人納得する。
起きてから出発まで、1時間もあるのに化粧ができない理由が、やっと腑に落ちる。
一人暮らしで苦労しているであろう茜に、朝のコーヒーを入れてあげたい、と総一郎は思った。
寝ぼけて迫られるなど、本望だ。湯たんぽ以外の役得が、そこにありそうだ。
夜明けのコーヒーを二人で飲もう、と言った古い歌があったなと、無関係にも思い出す。いや、あれは徹夜する歌だったか。
起きられないなら早く寝ればいいのに、と、至極まっとうな発想から疑問が浮かんだ。
「じゃあ、何時に寝てるんですか?」
「………………………………」
茜が口ごもった。
いつも無駄のない断定的な喋りの彼女が返答に困るなど、珍しいものだと片眉を上げる。
「……センセイ?」
「………………9時だ」
「は?」
くじ、と言っただろうか。小さすぎて聞き取れなかった。
いや、もしかして、にじ、かもしれない。
「にじ?」
さすがに9時ってことはないだろうと、淡い期待を胸に問い返す。
2時だったら、夜更かしを咎めなければ。大人に、茜に怒れる機会などめったにない。
うつむいた顔の、眉根を苦々しげに寄せながら言いにくそうに茜が口を開く。
「……21時。夜の9時。笑わないで欲しい、私はロングスリーパなんだ」
「ロングスリーパ?」
「一日に9時間以上の睡眠を必要とする体質だ。私はギリギリまで削って、9時間。それ以下だと日常生活に支障をきたす」
「へー、初めて聞きました」
いや決してぐうたらなどではない、と何も咎めてなどいないのに言い訳を始める。
相変わらず視線は、湯気の少なくなったコーヒーに落ちたままだ。
「ここ最近は7時間睡眠で過ごしてきた。やはり体調が思わしくない。授業に身が入らない」
「はぁ、体質なら無理しないほうがいいんじゃないですか?」
「…………ああ、今日からそうする」
今日から? と問い直した総一郎に、軽く肩をすくめて見せて茜が引き出しを開ける。
これ、と差し出された包みをおごそかに受け取る。
大きいものと、小さいもの。まるで舌きりすずめのように選択を迫られるのかと思ったが、両方とも総一郎のものらしかった。
すぐに開けていいものかためらって、茜の顔を見据えた。
いつもの無表情は、心なしか穏やかに見える。
眠いせいかもしれない。
「開けて、いい?」
「もちろん」
小さい方の包みを丁寧に開く。
チョコレートだった。丸いころころとしたトリュフが詰まっている。
「バレンタインのチョコレートなど初めて買った」
「そうなんですか?」
「ああ」
そうか、俺が初めての男か。
ひっそりとにやにやする。
「だがそっちはオマケだ」
じゃあこっちは、と大きいほうの包みを開ける。
黒い、マフラーだった。黒がベースだが時折毛糸の色が白や紺色に変わり、ストライプのような模様になっている。
手編みか? と感激しかけたが、タグがついていてあからさまにがっかりしてしまった。
その様子に気がついた茜が、言いにくそうに声を掛ける。
「…………手編みかと、からかわれたら申し訳ないと思って」
「は?」
「いや、正月に姉に、クリスマスを忘れていたと言ったら激怒されてな。編み棒を強引に手渡して、マフラーを編めと強要するんだ。今からやればバレンタインに間に合うから、と」
お姉さん、ぐっじょぶ!!
総一郎は会ったこともない茜の姉に再び感謝した。
「手編みなんて流行らないし、手編み風、に見えるようになんとか目をそろえて、まだ不安だったから偽装を加えた。そのタグは、私がつけた」
さすが筋金入りのマイナス思考だ。
そこまで心配しなくても、誰も他人のマフラーなんて気にしない、とは思うが、それで茜が安心できるならお安いものだ。
そんなに心配ごとが多くては夜も眠れないのではないか、と一瞬考えたが、毎日9時間も寝ているのなら大丈夫だろう。
「すっげー、うれしー。センセイ、ありがと」
マフラーに鼻を埋めて呟いた。
そうか、とほっとした声が聞こえた。
「そっか、それで寝不足?」
「恥ずかしながら、そうだ。張り切ってしまった」
「ごめん」
「いや、自己満足だ。君が、嬉しい、と言ってくれて報われた」
「大事にします」
「……ありがとう」
お礼を言うのは、こっちのほうなのに。
やっぱり茜はちょっとヘンだ。
ありがとう、といいながら、そんなに嬉しそうに笑うなんて。
含み笑いが止まらない。
残り少なくなった冬を、暖かく過ごせそうだ。
世界一幸せなバレンタイを過ごした男だ、と自負をする浅尾総一郎は、このマフラーを一生大事にしよう、と誓った。
ついでに抱えたキスというヒミツは、胸の奥の、奥の、奥のほうにそっと仕舞い込んで――――。
以上です。お付き合いありがとうございました。
申し訳ないけどまだ続きます。
>>421 グウウッジョオオオブ!!あなた、神ですよ。
もー、こちらまで何かむずむずしてしまう作品で、続きが待ち遠しいです。
文庫本になったら確実に買いますよ!
これからも良い作品を期待しています。
GJ!!!!!1!!!
二人が一緒に夜明けのモーニングコーヒーを飲むまで応援してます!
GJ!!!!
総一郎がかわいいなぁ。もちろん茜もですが。
手編みのマフラーかぁ。
続きも禿しくお待ちしております!!
うむ、引き込まれますです。良い仕事です。
……でも、先生って結構家での仕事もあって、必然的に寝る時間がおそ……ゲフンゲフン
GJ!
どっちもいいキャラしてるな〜
投下いきます。エロなし。
3月のはなし。
「浅尾、私はヘンタイなんだ」
なぜ口が滑ってあんなことを言ったのだろう。
実に汗顔の至りで、今でも思い出しては後悔をしている。
浅尾は詳細について言及をしてこないが、油断は出来ない。
本当の私を、まだ知られる訳にはいかない。
*
本当に私はヘンタイなのだ。
時折、自分の頭がおかしいのではないか、と不安になる。
こういう場合、受診するのは神経科なのか精神科なのか、どう症状を説明すればよいのか悩ましい。
暇があれば浅尾総一郎に触れることを、もっと言えば抱かれたらどんなに心地よいだろうかといった想像を繰り返しているのだ。
私は、かなり正確に物事を記憶し、それを再生が出来る。
その日起きたこと、温度や湿度や、音と色。
残念ながら人の顔は識別しても名前と一致しない、という精度に欠けた特技だが、とても重宝している。
浅尾に初めて出会ったあの日を、今でも正確に再生できるからだ。
*
新年度のファーストミッションは、担当を持ったクラスの出席番号1番の男子生徒の顔と名前を覚える、というものだ。
私は、授業中にここが何組なのか判らなくなり、生徒に設問をぶつけられなくなり困ってしまうことがたまにある。
いやたまにではなく、よく起こる。週に2度ほどそうなる。
3学期になってやっと覚えた頃に学年が変わってまたイチからやり直しだ。
対処法として、1番の生徒の顔を見て名簿を取り出す、というわけだ。
実験室では常に出席番号順に着席をする。1番の生徒の場所は、常に南側の一番前だ。
実は名簿を事前に準備しておけばいいのだ。しかしこれは毎回忘れる。
他人は私を思慮深いだとか慎重だとか評するが、実はウッカリさんなのだ。
ちなみにそれを自己申告しても誰も信じない。浅尾以外は。
そういうわけで、2年B組1番の浅尾総一郎は、今年度最初に覚えた生徒だった。
堂々と居眠りをしてくれたおかげで、顔を覚えるのに若干苦労させられた。
「化学は嫌いか?」
そう尋ねたら、少々困った顔をしていた。
いい感じに困るやつだ、と顔をまじまじと見つめた。
「…………嫌いじゃ、ありません」
それが、初めて聞いた浅尾の声だった。
高校生のくせに色気のある声を出す、と4月に思った。
*
誘ったらうっかり化学部への転部を果たしたばかりか(私以上のうっかりものがここにいた)、妙に熱心に参加しているので驚いた。
青春を、部活にかける。
これぞ高校生の正しい姿だ、と一人感慨にふけるものの、化学部ではさして手軽な大会があるわけでもないのだから、美しい血と汗と涙を流せない。
浅尾は、情熱的に実験に参加するわけでもない。
私のだらだらと続く取り止めのない講釈には、にこにこと人懐っこい笑顔を見せながら素直に耳を傾けるが、肝心の実験の間はぼんやりと手元を眺めるのみだ。
細い割りに黒目が大きい、犬のような目を時折不思議そうに瞬かせて、例えばマグネシウムの燃焼をじっと見つめる。
まるで私が見つめられている錯覚に陥る。
浅尾は、一体何がしたいのだろう。
5月はそれを考えていた。
*
浅尾は手の形が綺麗だ、と気がついたのは、梅雨の湿気の中だった。
差し出したマッチを受け取る手が、自分のものよりもずいぶんと太くて筋張っていた。
爪を見せてくれ、と頼んだら素直に手の甲を向けた。
他人を簡単に信じるやつだな、と好ましく思った。
そういう人間に出会ったことが少ないのは、自分が変人と多々評されるのと無関係ではないはずだ。
私が何か頼みごとをすると、「なんかコワイからやだ」とよく言われたものだ。
ともかく、爪を見る大義名分で浅尾の指に触れたら想像よりもずっと硬かった。
何より彼の持つ温度にビックリした。
熱でもあるのかと顔を仰ぎ見たら、浅尾は眉根を寄せてまた困った顔をしていた。
ああ、コイツの困った顔はいい、と改めて思った。
「健康に難ありだ。夜更かしは程ほどに」
適当に伝えたら図星だったようで、またいい感じに慌てていた。
*
どこからかいい香りがしたのだ。
原因を探れば、浅尾だった。
浅尾は、なぜかいい匂いがする。彼の体臭だろうか。オトコ臭さは全くない。
香りには疎いが、おそらく、白檀とか香木とか、そんなような。
浅尾の側に寄れば、ふわりと心地よい香りに包まれる。
それで周期的に訪れる頭痛が緩和される日もままあった。
衝動的に香水を買っていた。
「白檀っぽい香りで、甘すぎないもの」
髪を金色に染めた男性店員が、少々いぶかしげな顔をして奥に引っ込んだ。
店員が持ってきた数本の中から、気に入った瓶のものを買った。
香りは、悪くはなかったが、浅尾の匂いではなかった。
いっそ調香師にでもなってあの匂いを作ろうか、とも考えたが、一瞬で諦めた。
私みたいな面倒な客が来たら、相手に出来ない。
柄にもなく香水を使い始めた、夏だった。
*
夏休みは浅尾に会えない。
だけど特に不便には思わなかった。
一学期の情報を、適度に整理する期間となったからだ。
「浅尾、」
誰も聞いてないのをいいことに、口にしたら不思議と心地よかった。
口の中で浅尾と繰り返しながら、情報整理を楽しんだ。
整理がすべて終わる頃に、新学期が来た。
文化祭のための掲示物作成に、浅尾は誰よりも熱心に取り組んだ。
当日の店番も、率先して引き受けた。
店番が必要とも思えなかったが。
生徒がいるのに顧問が不在、というわけにもいかず、文化祭の二日間は不覚にも二人で実験室にこもる時間が多かったのだ。
その時、恐ろしい妄想が私の中にむらむらと沸いてきた。
いまここで、無防備な浅尾につかつかと歩みより、その頬に指を沿えてくちびるを奪い、口腔を蹂躙したい。
癖のないさらさらの黒髪を、くしゃくしゃに撫で回したい。
暑そうなネクタイを奪ってシャツをはだけさせて、動揺する浅尾を見たい。
浅尾の、裸体が見たい。
時折、袖から覗く引き締まった二の腕を、制服のズボンの上からでもそれと判る、形の良いヒップを、触りたい。
痩せ型の彼は、きっと贅肉など一切ない綺麗な胸板をしているだろう。
嫌がる彼を無理矢理に組み敷き、濡れた瞳で懇願をして欲しい。
あの色気のある声音で、センセイ、と呼ばれたい。ついでにお願いだから、などと言われたら、ないはずの男性器から射精してしまうだろう。
その裸の胸に頬をすりよせて手触りを確認したい、そしてそのまま……。
などというハッキリとした欲求に突如支配をされた。
もちろん実行はしないが、自分が浅尾に夢中なのだと自覚した。
出会いから半年も消費しなければ、そしてこんな妄想を繰り広げてからでなくては、彼を好きだと気が付けない自分に驚いた。
まったく、浅尾には驚かされてばかりだ。
あまり困らせないでくれ、マイハニー。
…………ハニーは言いすぎか。
ともかくその欲求を解消するため、とりあえず「包帯を巻く練習をさせてくれ」と頼み、意味もなくその手に触れた。
浅尾はいいやつだ。この要求を飲んでくれた男は、今までに彼一人だ。
残暑には少し暖かすぎるその手に触れながら、そんなことを考えていた。
*
そしてあの10月。
あの日のことを思い出すと、思春期のように鼓動を早める自分がいる。
夏が終わる頃から、浅尾はどことなくよそよそしくなっていた。
私の危険な妄想がよくないオーラとなって彼を怯えさせているのでは、と勘繰った。
自重していたが、にじみ出ているのかもしれない。
ああしかし、いくら私が彼を好きでも、教師と生徒ではどうこうなるわけにもいかないし(禁断、という響きには惹かれるが)、第一に10も年上の女を浅尾が相手にするはずがなかった。
例えば、そう。
文化祭の実験室で、「浅尾くん」と可愛らしく彼を呼び、掲示物の説明を求めた女子生徒。
確か彼女もB組の生徒だ。名前は出てこない。
背が低く、スカートは適度に短く、少女らしく肩の辺りで切り添えられた柔らかそうな髪。
黒い大きな澄んだ瞳で熱っぽく浅尾を見上げるその表情には心辺りがあった。
――そうか、彼女は恋をしているのだな。
ハラショーと無感動に思った。よくお似合いだ、と。
浅尾もまんざらではなさそうで、にこにこといつもの人懐っこい笑顔で解説を始めた。
それならそれで、というだけのことだった。
幸い、諦めるのは得意だったし、色恋は不得手だったし、欲しいものを欲しいと口に出すのは一番苦手だった。
恥ずかしながら、四人兄弟の末っ子として甘やかされて育ってきた。自覚は、ある。
両親や年が少々離れた姉と兄たちから、あれはどう、これは、とかいがいしく世話をやかれ、大抵は自分が望む前に与えられてきた。
これは嫌だ、と意思表示はしても、これがしたい、との意思は、思えばあまり持ったことがない。
そして家族が示す道は、大概が正しいものだと信じていた。
食事やお菓子、おもちゃも読む本も、時には恋人さえも。
実は専攻もそうだった。
「茜は化学が好きか」
当時大学院生だった上の兄に問われて、嫌いでなかったから頷いた。底意地の悪い兄を怒らせたくなかったのも本音だ。
だけど頷いたからにはマッドサイエンティストを目指して突き進む、そんな単純な私だった。
人生において選択肢は無限にあって、どれを選んでも正解じゃないのならどれも選ばなければいい。間違えるのだけは避ければいい。間違うのは恥だ。
そんな風に、考えていた。
――浅尾が欲しい。そして欲されたい。
倫理に反する感情だ。
私の気の迷いや一時的な欲求である可能性も捨てきれないし、まして相手に何かを求めるなんて、愚の骨頂だ。
だったら、封じ込めてしまえばいい。簡単な結論だ。
私は持ち前のドライさで、上手にそれらを胸の中にしまいこんでいた。
なのに。
浅尾が私の手を握った。
正確に言えば、掴んだ。
熱でもあるのかと、先に触れたのは私の方だった。
だけど触れるのと触れられるのでは重みが違う。
まるで違う。
かつてないほどの緊張が走り、そのうえ浅尾が結婚は恋人はと尋ねるものだからいつになく動揺をした。
浅尾の持つ温度に、私は酔い痴れたのだ。
柄にもなく欲した。
その感情を押さえつけようとすればするほど激しくなる動悸を持て余した。
どうにかして落ち着かせようとする私の努力虚しく、いつの間にか私は浅尾の腕の中にいたのだ。
あの、心地よい香りで肺が一杯になる。
欲しかったものはこれだと、確信した。
あろうことか浅尾は私に愛の告白を始めた。
ああ、それはいけない、浅尾よ。
教師と生徒なんて、とても美味しそうな禁断の果実だが、誰が許しても教育委員会が許さない。
だがここで、卒業まで待ってくれないか(実際に待つのは私だが)と提案をしても、君はきっと心変わりをするだろう。予感があった。
彼の1年と私の1年では体感する長さが違う。
再来年のことなど、17歳の浅尾にとっては100年も先に思えるはずだ。
教師として、はっきりと拒否をすべきだと、知っていた。
年長者として諭すべきだと。
だけど更に強く抱かれて、柔らかく響く声が耳のすぐ近くで聞こえて、ああ手放せない、と私は陥落したのだった。
むしろそれは堕落だったのかもしれない。
浅尾がいれば何を失ってもいい、と思ってしまったのだから。
そんな情熱が自分の中にあるのだと、また驚いた。
気がつくと私は、浅尾の愛の告白を受け取っていた。
*
そしてその後。
彼の言うところ「マイナス思考」な私は、彼に過剰な期待をしないよう、万全の注意を払ってきた。
臆病な私の態度が時につめたく彼を傷つけた、と反省もしている。
それでも浅尾は、懲りずに私に会いにやってきてくれる。
まめにメールも寄越すし(浅尾が拗ねるので返信は怠っていない。面倒に思わない自分にまた驚いている)、出不精の私を外に連れ出してもくれる。
浅尾は素直だ。きっと、親御さんが愛情に溢れた人にちがいない、と思わせるほど、まっすぐで純情だ。
率直に思いを口にし、世間ズレした私を戸惑わせる。同時に、大いに私を喜ばせる。
反応に困るが、浅尾が私を褒めるたびに、会いたい、触れたいと言うたびに、得も知れない充足が全身を駆け抜ける。
そんな彼を愛しく、そして眩しく思う。
引き出しからハンドクリームを取り出し、それを丁寧に塗りながらまた思考を続ける。
旅に出る、と告げた時、なぜ浅尾が拗ねたのか理解が出来なかった。
2週間程度会わないことなど、どうという問題ではないと思っていた。
夏休みの前例があったし、それに比べればたった三分の一程の期間だ、という認識しかなかった。
クリスマスにデートしてください、と言われて初めて、そうか外で会うという選択肢もあったのか! と目を見開いた。
学校がなければ浅尾に会えない、と思い込んでいた。
盲点だった。
しかしそれまでは特に困っていなかった。
休みの間中、浅尾の声や、指や、体温、可愛らしく慌てる様子を思い出しては、楽しんでいたからだ。
だけど旅先で。
4日目で浅尾の体温を忘れ、5日目で声を思い出せなくなり、6日目で顔が曖昧になった。恐ろしい。寄る年波には勝てないらしい。
浅尾が危惧していたのはこれだったのか、とその時に初めて思い至った。
彼は、私などより数倍も頭がいい。想像力が、きちんとある。
浅尾の声が聞きたい。
出来るなら、会いたい。
ものすごく、会いたい。
己の中の情熱を、また発見した。誰かに会いたいと切望するなんて初めてで戸惑った。
勢い余って琴子にすべてを打ち明けてしまいそうになるほど、私は追い詰められていた。
「会いたいなら会えばいいじゃない?」
オブラードに包みまくった私の告解に、琴子は事もなげにそう言い放った。
「や、でも忙しいかもしれないし」
「そんなの聞いてみてなくちゃ判んない。電話したら?」
おお、もっともだ。私のマイナス思考は根が深い。
「今は聞かないけど、上手く言ったら教えなさいね。そんで、彼の友達との合コンよろしく」
浅尾の友だちだと生徒だぞ、と喉まで出掛かったが、何とか飲み込んだ。
琴子が出掛けている間に、国際電話をかけた。
受話器越しに聞いた浅尾の色っぽい声は、私をホームシックにさせた。ほんとうに、なんてやつだろう。
その後、初詣を皮切りに、外で数回会った。
なるほど、新鮮だった。
悪くない、と一人にやにやしている間に、春の気配が近づいてきた。
あと一年、一年で浅尾は卒業だ。晴れて教師と生徒ではなくなる。
その時まで、私の理性は持つだろうか?
彼が私の手を温めるたびに、気まぐれに抱き締めるたびに、あの恐ろしい欲望が内側から沸いて来て私を支配する。
ああもう駄目だ、と何度思っただろう。
あと一歩の所で、センセイ、と彼が柔らかく呼んでくれるので、何とか正気に戻ってこられた。
こんな、純真な彼を辱めてはいけない。
これは私のエゴだ。
悪者になりたくない私の弱さだ。
君が、肉体的接触や性交渉、有体に言えばキスやセックスに興味を持つ年頃だとは知っている。私を、欲してくれていることも。
だけど、どうしても駄目なのだ。
言い訳がないと、私は動けない。教え子という肩書きを持った君と、どうこうなるわけにはいかないのだ。
くちづけぐらいなら、と悪魔があまく囁くこともあるが、一度くちびるを触れてしまえば溺れる自分は目に見えていた。
学校では絶対にアバンチュールに陥らない、ときつく自分を律した。
そうでもしないと、所構わず彼を襲ってしまうだろう。
何も知らない、純粋な浅尾を。
浅尾、淫らな私を許して欲しい。
君は信じないかも知れないが、女にも、私にも性欲というものがあるのだよ。
今の私の8割を形成するものは、紛れもなくその性欲なのだ。
「センセイ?」
いかん。目の前の浅尾が不審な顔をしている。
なんだ、と平然を装って、眼鏡を押し上げた。
ポーカフェイスには定評がある私のこと、こんな危険な女だと、まだ浅尾には知られていないはずだ。
これ、と差し出されたのは浅尾にも私にも不似合いなファンシーな小袋だった。
受け取ると、ほのかに甘い香りが漂う。
「ホワイトデー。昨日、妹と焼いたから」
「おお」
精一杯の感動を込めて、私は呟いた。
こういうところ、浅尾は私なんかよりよっぽど女らしくて気が利く、と常々思う。
私はお菓子の手作りなど絶対にしない。いや、正直に言おう。出来ない。
クリスマスも、先にプレゼントを用意したのは浅尾だった。
実は、バレンタインだクリスマスだと、外来のイベントを大事にしたい気持ちが判らない。
先日のバレンタインは柄にもなく張り切ってしまったが。
思い出しても少々恥ずかしい。
とにかく、それのお返し、というわけか。
「君の手作りか。それはそれは。早速いただいても?」
「……うん」
照れて耳の上をぼりぼりと乱暴にかきむしる浅尾の表情を、脳内にすばやくインプットする。
もちろん、思い出して楽しむためだ。
見つからないように、にやにやと笑いながら、丁寧に袋のシールを取り外し、早速一枚を取り出して眺める。
くまさんか。実にファンシーだ。
くまの形のクッキーは、そういえば姉がよく作っていたなと思い出す。
さて、浅尾は妹さんになんと頼み、なんとからかわれ、なんと返事をしてきたのだろう。
鼻に抜ける甘さと、さくさくと心地よい歯ごたえを楽しみながら、あとでそれを聞かねば、と心に決める。
「うん、美味しい」
「センセイ」
小さく笑って浅尾が呼ぶ。
顔を向けると同時に、私の好きな親指が伸びてきて、私の口元を拭った。
「ついてるし。コドモみてー」
穏やかに笑って、指に拭い取ったクッキーの残骸をぺろりと舐めた。
赤い舌がちろりと見えて、また私は欲情した。
ああ、駄目だ、浅尾よ。
こんな生殺し、私はとても耐えられそうにない。
誕生日だ、誕生日でいいじゃないか、と私の中の悪魔が、天使をノックダウンさせて高らかに笑った。
とりあえず淫行条例に引っかからない年齢なら倫理的に間違っていない気がする。
そうだな、うん、そうしよう。
浅尾。君とのアバンチュールは、君が18になるまでお預けだ。
さりげなく半年ほど期限を早め、私は浅尾に軽く礼を言って、自覚できるほど火照った顔を逸らすためにコーヒーの準備を始めた。
うさぎ柄のマグカップが、荒んだ私の心を癒してくれているようだった。
――ただ、問題は、どうやってそれを浅尾に伝えるか、だ。
3秒思い悩んで、まぁいいか、そのうちなんとかなるかと放置を決めた。
臆病な私は、厄介ごとも後回しなのだ。
しばらくは、顔を赤らめて動揺したり、焦れて苦悩をする浅尾を愉しむことにしよう。
以上です。2年生終わり。
お付き合いありがとうございました。
ちょっと相談。
センセイのエゴにより10月までお預けですが、これ以上エロなし作品の投下を続けてよいものだろうか。
今後の話は4月5月7月8月10月+後日、を予定していて、実は4.7.10月+後日は書き上がっています。
そろそろ板違いだから、さくっと10月を投下して、残りはエロくないスレに行こうかとも考えたけれど、出来たら続けてここに落としたいです。
ご意見いただきたいです。
途中読まなくても話が通じるなら、さくっと10月
エロ無しでも充分ドキドキするんでココに投下してください
過程をすっ飛ばしてエロって味気ないと思う
でもこれを延々と続けられるのってどうよ?
直接エロはなくても、雰囲気エロだからここでOKではダメかな
どちらのスレに落とすとしても438と同じく過程をすっとばして結末だけ読むより
二人の関係の微妙な移り変わりを味わいたいのでできれば順番に読みたい
>>436 自分は過程を踏まえた上で濡れ場を楽しむタイプだから無問題。
ただ、待たされる側としては、これで濡れ場があっさりだと拍子抜けしてしまうかも。
二人が結ばれる⇒即後日談では淋しいし。
毎回楽しみにしているから、最後までこのクオリティを保ってほしい。
年の差設定でエロ必須だとハードルが高いから
スレタイに『萌え』って入れたってのが、最初の頃のレスにあったような気がする
というわけで、最後までこちらで読みたいです!
センセが内心エロエロ熱望状態というのがたまらん
沸騰点まで達する過程をしばらく読みたい
このまま順番に投下してくれるのをキボン
せっかく書いて、こうして今まで投下したんだから、
このあとも楽しみにしてる。
なんか好きなんだ、この文体も話も作中の二人も。
新着がたくさん入っていて、
名前欄に総一郎とあるとわくわくして
読む前にコーヒーを淹れに行く。
くらい好きなので、是非ここで最後までお願いしたい。
後日談までいったらスピンオフで
どこかで続けてくれないかと願うくらい好きだ。
エロと萌えを語るスレ、なんだから、折角なので全部ここに投下して欲しい
初めて先生の裏側を読めて、ちょっとドキドキしてしまった
続きが楽しみだ
みんなありがとう。
じゃあお言葉に甘えて、順番に行きます。
0レス目にエロありなし入れるスタイルで。
ちなみに後日は後日談じゃなくて、後日エロね。
5月が書けたら4月投下しに来ます。
みんな焦らしプレイが大好きでよかった。
>>436 今さらだがバッチコーイなんだぜ。
俺も今書いてる奴(男が年上)はエロ成分少なめで書いてるしね。
色々な意味でこのスレの「エロ萌え」は正解だと思う
浅尾と小笠原の話を面白く読ませてもらってるんだけどさ
あのさ。とても面白いんだけどさ・・・
任意の中日ナインが脳裏に浮かぶんだよ!1
どう足掻いても萌えねえよ!どうしてくれる!
このスレ的にガンダム00の刹那とマリナはおkなんだろうか?
男16女24だが
版権物は該当スレがあるならそこに書いたほうがいいかと。
>>452 あぁ、そういう意味でなくてこれ位の年の差でもいいのかな?と
もう少し離れてたほうがいいのかな?
>>453 いいんじゃない?
俺そのぐらいが好きだ
>>454 そうか、これ位でいいのか
まぁ、女性が年上だしな
159 名前:名無しさん@ピンキー 投稿日:2007/10/06(土) 12:41:15 ID:uvnZLrns
過疎スレとはいえ、
・連続エロなし
・感想にお礼レス
・コテトリ雑談
・住人の希望調査
な書き手が現れた。
いつ荒れるかビクビクしている。
160 名前:名無しさん@ピンキー 投稿日:2007/10/06(土) 14:56:18 ID:CUph/gev
なんというwktkな状況…
161 名前:名無しさん@ピンキー 投稿日:2007/10/06(土) 22:51:13 ID:iN03Ik7D
>>159 嫌われる行為の多重攻撃ktkr
他人事だから言えるがこれは楽しみだw
経過報告よろ
総一郎と茜シリーズ好きだぁ
エロないとこでも、萌え要素あるからいいじゃん
>>440 雰囲気エロとは違う気が…。
過程が大事過程が大事って言うけど、
その過程を重視して何十スレも費やして、
それに見合うだけのエロシーンになっているのかな。
他にもさ、ただ延々と会話するんじゃなくて、
妄想しながらオナニーするとかさ、
入れるまではしなくても触っちゃうとかさ、
そういうエロだってあるわけなんだけど
そういうのも一切なくて、ただひたすら日常と悩み告白で何十スレなのか。
名探偵コナンみたいに薬かなんかで同年代になって、年下の子とくっつくのって
年の差カップルって言えるのかな・・・。
じゃあ
>>458はエロの部分だけ読めばいいじゃない。
という訳で総一郎と茜の
続き待ってます
>>459 ここは エロ萌え だ
エロだけではないんだよ。
そんなにエロみたいなら自分で書け
こらこら、459には罪が無いだろう
>459
そこに葛藤があれば、自分的にはご馳走になる
463 :
461:2007/10/09(火) 15:32:53 ID:WAS9NgvG
コピペに釣られるなよお前ら…
エロとパロの板なんだから、いつかエロがくるなら長編だって歓迎だ
いやむしろエロがなくても十分に俺の煩悩を刺激する内容だから問題ない
だから茜先生の続きを(ry
俺だけの茜先生
総一郎と茜のエロなしが読みたくない、という人はタイトルでNG登録してみては?
職人さんには、エロありのときのみNGに引っかからないように
タイトルを多少変えてもらうとか。
自分は>465と同様に、最終的にエロが入るならここでやってもらって全然OK。
いつも楽しませてもらっています。
今後、エロにつながるんだったら尚更支障ないはずだ
何度も言われているように、もともと「エロ萌え」とも言われてるし
そもそも歳の差カップルでここにはぴったりの内容だからね
いつも楽しみにしているよー
まあ正直つまらんから仕方ない・・・
なに? つまらんって作者に嫉妬してんの?
>>470 禿げあがってツルピカになるくらい同意だ
読む読まない・投下するしないの権利は誰にでも平等にあるはず
自由にやろうぜ。嫌ならスルーだ。スルー検定と思って
くだらない論争でスレを埋めるのは不毛だと思わんかね
以下何事もなかったかのように投下or雑談どうぞ↓
このスレにいるぽまいらなら、一度はおいコーを読んだことがあるはず。
妻に先立たれ、男手一つで息子を育ててきた父親。
とある理由で若返ってしまったので仕方なく、息子と同じ学校に通うことに。
息子の恋路を応援するために、彼が憧れている学校のアイドル的な女の子との仲を取り持つためにいろいろやるが、
人生経験豊富さゆえの頼もしさからか、その女の子に自分が惚れられてしまい、困惑する父親。
年下に興味がなく、息子の片思いの相手ということから、最初はそっけなくしていたが、
時間が経つにつれ、しだいに彼女に惹かれていく。
そして親子間の修羅場やら、正体ばれやらのイベントを乗り越えて、ついに二人はゴールイン。
元の姿に戻った父親に寄り添う、幸せそうな彼女を祝福しつつも、好きな女の子が母親になって涙目な息子以外はハッピーエンドで終了。
という長い電波を受信してしまった。
おいコーは好きだけど年の差萌えとして見たことなかったな
あれは年上のお姉さん萌えっていうか、めぞんの響子さんと同じ感覚
いや、年の差だしどこが違うかって言われても困るんだけどなw
>>475 あれは年の差萌えのバイブルじゃないですか
あれは俺が年の差萌えに目覚めた本だ
美人教師っていいよな
はじめておいコーという単語を聞いた
ぐぐった
通販と本屋ととどっちが先に手に入るが問題だ
>>476 息子にも若返った年上の人を…
父の同級生で、原因作った科学者とかで
そして同い年の娘が出来て困惑する父を
>>482 それでドタバタのバランスが取れるな
父親の同級生よりは、部下の方がいいかな
男年上の年の差カップルのオススメ教えてくれ
このスレに上がってるやつはブラックジャックとピノコぐらいしか分からねえぜ
男年上なら、犬夜叉の殺生丸とりんとか、幻想水滸伝のルックとセラとか、
剣心の蒼紫と操とか好きだったな。銀英伝のヤンとフレデリカも年の差だったような。
しかし、本当はおっさんと幼女が好きなんだが。
何かいいのがあったら自分にも教えてくれ。
ハチミツとクローバーなんか大概だったと思う
光源氏の紫の上育成計画はさらにあの上をいくけど
>>485 銀英伝ならケスラーもそうじゃなかったか?
>>484-485 自分も知りたい。
原作で年の差カップルになってるのはあんまりない。
「○○と△△、仲良いんだな」ぐらいの親愛の間柄から
勝手に自分の脳内でカップル化ならいくらでも出来るが、
一ファンの妄想に過ぎんのだよなあ。公式っぽいのが見たい。
ディック・ ロクティの「眠れる犬」が42歳の私立探偵と14歳の女子学生だった。
赤川次郎の「秘書室に空席なし」は74歳と17歳の年の差カップルだね。
森博嗣のS&Mシリーズもそうだし、ミステリーとか書いてる小説家に
年の差カップル好き多いように思えるがどうだろう?
古典的なところで源氏物語かなー 自分がはまった大元かもしれん
藤壺でも若紫でもどっちでも可w
ハインラインの「夏への扉」も(まあ年齢差変わるが)年の差だったなー
昔、読んだ当時はロ(ryと思ってたけど
ラノベになるが、
神曲奏界ポリフォニカのブラックシリーズは公式でおっさん少女だと思う。
田中芳樹の魔術シリーズも歳の差だっけ。
銀英のケスラー×マリーカには萌えたw
後、ラノベでは野梨原花南の「占者に捧げる恋物語」も良かった。
少女漫画では、ひかわきょうこの「時間をとめて待っていて」が年の差
前作「荒野の天使ども」はその9年前で、青年と幼女だ。
ちなみに今3巻まで出ている「お伽もよう綾にしき」でも一応年の差を書いてるよ
海外ファンタジーならデイヴィッド・エディングスの「エレニア記」。
若き女王の擁護者たるおっさん騎士が主人公の物語だけど、
二人はちゃんと結婚し、エピローグでは子どもも産まれている。
続編の「タムール記」は女王一家と仲間たちの冒険談という趣。
全編に横溢する軽妙な会話と暖かくラブラブな雰囲気が特徴の、
一種海外ファンタジーらしからぬ読みやすい作品なのでお薦め。
なおこのエディングス、別シリーズ「ベルガリオン物語」他でも
妙に男年上の年の差カップルが多く、憶測を呼んでいたりする。
瑣末なことだが訂正。ベルガリアード物語、だ。
ナルニア国物語しか知らんがな(´・ω・`)
おいコーの村山由佳作品は大概年の差カップルだな
年の差じゃない話を思い出す方が難しい
>>495 その作品読んだなぁ。
年の差好きにはオススメの作品だよ、ホント。
映画『シベールの日曜日』は既出?
31歳のパイロットと12歳の女の子の切ない映画。モノクロだけど
>>495, 499
エディングスはもちろんだけど、洋物ファンタジーだと男年上年の差は
そこまで珍しくない気もする。
挙がってないのを挙げるとすると、D&D小説の中から『竜剣物語』の
フリンとジョー。
……話は変わるが、『貧しき人々(ドスト)』とかダメ?
今NHKでやってるドクターフーもそうだな
900歳のおっさんと19歳の女の子
みんな洋物くわしいな・・・
プリティウーマンしか思い浮かばなかったよ
公式で・・・ってなると全然判んないな
自分が妄想好きだって思い知ったよ
「男のロマン」っぽくなってるのはちょっとなーと思ってしまう
そりゃ、男としてはヒロインは若いほうがいいわけだが
確かに。年の差に関して、多少は逡巡する素振りが欲しい!
あ、『ガラスの仮面』速水氏については、もう良いから!早く手を出して!!と言いたい
少女マンガだと、河原和音「先生!」とか、
マツモトトモ「キス」「英会話スクールウォーズ」「ビューティーハニー」とか。
どれも社会人の男に恋した女子高生が頑張る話。(あ、「英会話〜」は違うか)
小説で泣かされたのは「アーク島年代記」の魔法使い夫妻だったな。
魔法使いの夫が長生きできる存在なので、二人の別れがどういう形で迎えられるかは明白だったけれど、
実際に訪れた結末はそれすら超えた。
タムール記では、元泥棒で、現在騎士見習いのタレンと王女が萌える。
日本のラノベの一押しなら、スレイヤーズかな。
体格差カップルの主役二人が、くっつきそうで、くっつかなさそうな距離感が堪まらん。
スレイヤーズにそんな年の差カップルいたっけ……
素で思い出せない
>>509 えーと。外伝の短篇集の方じゃなくて、
長編(本編)の方は、フツー?にボーイミーツガール話。
♀15、♂推定22(おそらくそれ以上)の凸凹カップルだ。
ああ……7歳差くらいでは年の差と思えなくなっている自分がいた
それならば、オノ・ナツメの「リストランテ・パラディーゾ」がお勧め。
イタリア老眼鏡紳士とヒロイン(21)の年の差は、確実に30歳以上。
物語の雰囲気も、落ち着いて、アッサリとしているようで濃密。本気で老紳士静かな色気は、
くる。
>>511 自分も10ぐらい離れていないと歳の差と思わなくなってしまった。
某小説で、5歳も年の差があると、年の差をうたい文句にしてて、首を捻ったことも。
世間じゃその程度でも立派な年の差なんだなとズレを感じたよ。
>>513 その小説って女が年上か!?
そうなら教えろ!
そうじゃないならおっぱい触らせろ!
それが嫌ならおっぱい触らせろ!!
それが嫌ならおっぱい吸わせろ〜!!
恩田陸のライオンハートの一シーンにすごくぐっときた記憶があるんだけど、
あれ、年の差ってよくわかんないんですよね……。
ライオンハートは年の差じゃなくて、幽霊・精霊のような人外もの+自己愛ものだと思ふ
>>514 すまん。男が年上の上司部下もの。
オッパイ触らせてもいいが、男でもいいのか?ww
なんという自分の為のスレ。
上の方でBJとピノコが話題になっていたが、この2人の二次創作もいいのだろうか
手塚のエロパロスレおちちゃったんだよね…
とはいえ文章自信ないし、まだ脳内アイディアでしかないんですが
保守
521 :
名無しさん@ピンキー:2007/10/18(木) 14:45:06 ID:hfbaIHMh
下がり過ぎなのであげ
522 :
名無しさん@ピンキー:2007/10/19(金) 00:30:48 ID:06E6p7f6
剣客商売が萌える
うんと年下の妻がかわいくてしょうがないって感じが(´∀`)
でも20と60ってどうなんだろ?
今、佐々木丸美の『雪の断章』を読んでるんだが……
すごくいいよ!
帯より
「雪よ、もっと降れ。愛を守るために――
口にしてはいけないのだ。こんな形でしか会えなかった運命を哀れだと思った。
育てられた恩はいっさいの恋心を禁じた。
気持ちを伝えることも優しさを求める夢も芽を出すそばから摘み取らなければならない。
雪振る札幌で
青年・祐也と出会った
天涯孤独の少女・飛鳥
二人の運命と
苦しいほどの愛を描いた
珠玉の名品」
まだ途中までしか読んでないけど、
ミステリだからこの先に鬱展開きちゃうんだろうなあ
ヱデンズボゥイに出てた剣士のおっちゃんと魔導士の姉ちゃんが年の差だった気が
おっちゃんが姉ちゃんの母親と旧知みたいな描写あったし
こんなスレあったのか・・すげぇ萌えるわ
「モンテクリスト伯」とかどうだろう
孤児の少女が拾ってくれた復讐鬼に想いを寄せるのとかツボなんだが
さすがにエロシーンはないけど告白シーンは萌えすぎて禿げた
FE聖戦のフィンナンナ、フィンアルテナが好きだ
前者は育ての親(場合によっては実子)で後者は主の娘
両方ツボだぜ
勿論実子でもな
惜しむべくはゲーム中でくっつくことが出来ないことだ
ワシは「EDEN」って漫画のヘレナって娼婦の姐さんと主人公の恋路が良かったなぁ。
「あたしみたいなのが初めてじゃ、嫌か?」
「いつか娼婦なんかやめて……貯めた金で店を開くんだ」
「将来を約束された少年と十歳も歳の離れた娼婦のカップルなんて、
あまりにもノーフューチャーだとはおもわんか?」
完璧な姐さんに見えるヘレナが、時折主人公に見せる弱さの描写が切なかった……
この漫画、基本的に善人も悪人も平等に不幸になるから結末もやるせない。
>>525 「私は、自分の復讐の為だけにお前を拾ったのだよ!」
「な、なんだって(AA略)」
展開があったら更に萌えたのに。
エデには萌えるけど、伯爵との仲は彼にとって限りなく都合のいい展開だ。
>>525 巌窟王を思い出してしまってワロタwww
>>527 ヘレナがあっさりと男変えたのには心が痛んだ・・・
>>530 1. アレクサンドル・デュマが書いた伝奇小説「モンテ・クリスト伯」
2. 「モンテ・クリスト伯」の日本版に付けられたタイトル「巌窟王」
3. 「モンテ・クリスト伯」を原作に、SF設定を加味して作られたアニメ「巌窟王」
>>529は3. のことを言っているのかもしれない。
瀬能と美春の続きがものすごく気になる
エロ展開になるまで期待
>>532 うん、そうなんだ
俺が言いたかったのは3のことなんだよ(´・ω・`)スマンコ
レオン検索でひとつのレスしか抽出できなかったことに意外。
俺の原点なんだけどなあ
レオンは、子供の頃見たときは
「クールで素敵な殺し屋がかよわい少女を守ってくれる話」だと思っていたが
大人になってから完全版で見返したら
「ピュアなおっさんが魔性の娘に誑かされて命を落とす話」
だったということに気がついた
>>536 おっさんがピュアっていうのがたまらなく萌えだなw
それゆえにカッコイイんだけどね。
殺し屋は世間知らず
>>533の期待に応えた訳じゃないけども、瀬能と美春の続編投下
元々保守代わりのつもりが、待っていてくれる人もいるようなので、エロまで書ききります
今回はエロ無しだけどorz
NGワードは「瀬能と美春」で
以下投下
事の発端は、相変わらず唐突な美春の訪問だった。
高校で中学から続けていたバスケ部に入部した美春は、通学途中にある瀬能の家を、前よりも頻繁に訪れるようになっていた。
曰く「晩ご飯までもたないから、何か食べさせて」だの、「疲れたから、ちょっと休ませて」だの。
野良猫が立ち寄るのと同じような感覚なので、瀬能もついつい美春を家に上げるのだが、よくよく考えてみれば不自然な関係とも言える。
しかし、取り立てて迷惑でもないし、別段やましい気持ちもない。
美春が瀬能に淡い(と思われる)恋心を抱いている事さえ頭から切り放せば、懐かれて悪い気はしないので、深く考えないようにしていた。
そんなある日曜の事である。
夕方近くなった頃、部活帰りの美春が、スポーツバッグを肩に瀬能の家を訪れた。
高校に入って伸ばし始めた髪を二つにくくった姿は、高校二年と言うよりも中学二年に見える。
「お腹空いたー」
「いきなりソレかよ」
部屋着姿の瀬能がドアを開けるなり、美春はへにゃりと表情を崩して部屋に上がり込む。
勝手知ったる何とやらで、冷蔵庫に向かう美春を置いて、瀬能は居間兼寝室へ戻った。
持ち帰った仕事を片付けるため開いてあったノートパソコンを閉じ、散乱してある資料をファイルに戻す。
お茶の入ったグラスを手にした美春は、部屋に来ると物珍しそうに瀬能の様子を見つめた。
「瀬能さん、仕事してたんだ」
「何だよ、その口調は」
「珍しいなー、と思って」
「珍しいよ。俺だって出来れば家でまで仕事したくねぇもん」
本当にやらねばならない時以外、サービス残業など、瀬能は死んでもやりたくない。
会議の資料を作るだけなら、家でも充分事足りる訳で、昼からずっとパソコンに向かっていた次第である。
「大変なんだね、大人って」
嫌味にもとれる美春の台詞だったが、美春が心底感心しているようなので、瀬能は敢えて何も言わず、机の脇に資料を寄せた。
「それよりもさ、瀬能さん、DVD見て良い?」
「ん? あぁ、何か借りて来たのか?」
「うん」
グラスを机に置き、スポーツバッグを漁り始めた美春に、瀬能は机の上を譲る。
美春の家では、父親の治樹が機械に疎いせいもあってか、まだDVD機器がない。
いくら瀬能が「ビデオと同じだ」と説明しても、必要に駆られない限りは購入する予定も無いらしい。
それどころか、別段必要でもないのに購入した瀬能の方が不思議だ、と言わんばかりの態度なので、それ以降瀬能は治樹にはDVDの話は一切しない事にした。
しかし美春には、それが格好の理由になる訳で。
時折友人からDVDを借りてきては、こうして瀬能の元を訪れている。
美春が取り出したのは、少し前に話題になった恋愛映画だった。
三十年ほど前に流行ったドラマのリバイバル作品で、瀬能も子どもの頃にドラマを見た記憶がある。
母親が見ていたので、必然的に見る結果になったのだが、欠片も興味が無かったせいか、殆んどまともにストーリーも覚えていない。
それならそれで楽しめるだろうと、瀬能が机を脇に寄せている間に、美春はDVDをセットした。
開口一番「お腹が空いた」と告げた美春の胃も考慮して、昼食の残りの菓子パンを渡し、自分の分のコーヒーを入れる。
嬉しそうに菓子パンを頬張る美春の隣に座ると、美春はリモコンを操作した。
***
元がドラマだったせいか、やや物足りない感じもしたが、終ってみればそれなりに面白い映画だった。
日頃、恋愛映画を見ない瀬能でもドキドキハラハラしたし、最後の主人公達が再会するシーンなど、不覚にもホロリとさせられる物があった。
そのせいだろう。思っていたよりも集中していたからか、瀬能は美春の様子に気付かなかった。
もう一杯、コーヒーを飲もうと立ち上がった瀬能は、その時になって初めて、美春がぼろぼろ泣いている事に気付いたのだ。
「ちょ……おい」
ぐずぐずと鼻を鳴らす姿は見た事がある。顔を真っ赤にして怒った姿も、大口を開けて笑う姿も、記憶の中にはあるのだが。
「お前、泣きすぎ」
「だ、だってぇ……」
しゃくりあげながら涙を流す美春は、お世辞にも可愛いとは言い難い。
しかし感情表現豊かな美春が、ここまで泣く姿を初めて目にした瀬能は、困惑のあまり、持ち上げたばかりの腰を下ろした。
「んな泣くなよ、映画だろ?」
「泣くよ…! 瀬能さん、なんで、平気、なのぉ」
「そりゃ……男だし。つか、鼻水出てんぞ」
こうまで泣かれると、自分が悪い訳でもないのに、申し訳ない気持ちになるのは何故だろう。
瀬能の指摘にも、美春は制服の裾で鼻を擦るだけで、また直ぐにひぐひぐとみっともなくしゃくり上げた。
「あー、はいはい。泣くな泣くな」
感動の涙はとどまる事を知らないのか、美春は声を殺して泣き続ける。
思わず苦笑した瀬能が頭を撫でてやると、美春は瀬能のシャツを掴み、ぐいと顔を押し付けた。
「良かったよぉ……ほんと、良かったぁ」
(こっちは良くねぇよ)
美春は映画の事を言っているのだろうが、抱きつかれた瀬能は堪った物ではない。
これが本当の娘なら、背中を撫でるなり抱き締めるなり、涙を止めてやる方法は幾等でもあるのだろうが。
(勘弁してくれ……)
悲しい涙なら慰めれば済む。怒りの涙なら落ち着かせれば何とかなる。
だが、感動の涙は、どうやれば止める事が出来るのか。中途半端な言葉は、折角の感動を台無しにするしかない事ぐらい、瀬能も分かっている。
台無しにしてでも止めるのは、あまりに身勝手な気がして、結局、瀬能は美春が泣き止むまで胸を貸し続けていた。
***
「じゃ、またね瀬能さん」
「おう、気ぃ付けて帰れよ」
午後七時過ぎ。
泣きやんだ美春は、目を真っ赤にしてはいたが、いつもと何一つ変わらない態度で、瀬能の夕食の心配をしながらも、存外素直に帰路についた。
家の近くの交差点まで送り届け、冬の寒空の中、瀬能は早足で来た道を戻る。
だがその心中は、平静とは言えない。
「あんな泣くかねぇ……たかが映画で」
ぽつりと呟いた声は、白い息と共に散っていく。
何事もなかった風を装うのは慣れている。
だがそれは、傍に誰か居る場合の話である。
一人になると、途端に先程の美春が思い出されて、瀬能は胸が締め付けられるような感覚を味わった。
「つか……子どもだろ。何、動揺してんだ、俺」
女の涙はこれまでにも何度だって見ている。それなりに年を食っているし、仮にも数年所帯を持った事もあるのだ。見た事がないと言えば嘘になる。
だが、美春の場合は少し違う。
あれほどまでに自分に素直に、故に純粋な涙など、今まで見た事があるだろうか。
「……風呂入って寝よ」
ひときわ冷たい風が吹き、瀬能は歩みを早くする。
自分に抱きついた美春の暖かさが、冷たい布団の中で思い出されるなどとは知るよしもなく、瀬能は深い溜め息を吐いた。
以上です
純粋さに勝る物は少ない、と言う話w
他の職人様方の待ち時間の、暇潰しになれば幸い
うまいなぁ、集中して読んでしまったよ。
エロなしでもいいから続きを読みたいです!
神キタ━━━━━━━(゚∀゚)━━━━━━━!!
GJ!!
GJ!
548 :
290:2007/10/23(火) 08:22:10 ID:ffgN/fJB
専ブラのスレッドブックマークに更新のマークが点灯するたび
瀬能と美春更新キター?とwktkしております。
なんか受信した電波が妨害電波だったのかと思うくらい、いい
作品に仕上がってきてるのには脱帽です!
楽しみにしてます、マジで!
作者の名前が思い出せないが『朗読者』って本は良かった。
18の少年と36の女のカポー
最後に女が自殺しちゃうけど、フツーに面白かった
ベルンハルト・シュリンクかー
前に一回流し読みしたがそこに萌えを見出す人がまさかいるとは思わんかった
確かに親子と偽って二人で自転車旅行とかいいよな
若いころの一時の過ちではなくその後の一生全てを懸けて関わる二人にじんときた
>>544 待ってました!
やっぱこの二人はたまらん
リアルでドキドキさせられる
美春に早くオトされてしまってください
いいよいいよー
他のカップルたちにも早く再会したいよ
>>550 人生経験は女の方が上だが、学は少年のほうがあるってのがレアな組み合わせだよな
今まで出た作品を、適当に編集してまとめてみた
特徴も付けておいたので、選ぶ際の参考に
知らない作品は間違っていたらすまん
まとめて見てみると結構な量に
女が年上のも、もっと出ると嬉しいかもしれない
これからも、良い年の差作品の紹介と投下を願って
555 :
リスト1:2007/10/25(木) 20:49:36 ID:LN2fGp+L
○男が年上
・漫画
竹宮惠子「私を月まで連れてって!」 ダンとニナ
三浦建太郎「ベルセルク」 ツンデレ大男と、病弱美少女
川原泉の漫画 「笑う大天使」など
星里もちる「りびんぐゲーム」
川原正敏「修羅の刻」織田信長編 狛彦と蛍 10歳と23歳ぐらい
手塚治虫「ブラックジャック」ブラックジャックとピノコ
高橋留美子「犬夜叉」殺生丸とりん
和月信宏「るろうに剣心」蒼紫と操
羽海野チカ「はちみつとクローバー」
ひかわきょうこ「時間をとめて待っていて」
ひかわきょうこ「荒野の天使ども」上の9年前 青年と幼女
ひかわきょうこ「お伽もよう綾にしき」
美内すずえ 「ガラスの仮面」
河原和音「先生!」
マツモトトモ「キス」「英会話スクールウォーズ」「ビューティーハニー」 社会人の男に恋した女子高生
オノ・ナツメ「リストランテ・パラディーゾ」 イタリア老眼鏡紳士とヒロイン(21)
天王寺きつね「ヱデンズボゥイ」 剣士のおっちゃんと魔導士の姉ちゃん
556 :
リスト2:2007/10/25(木) 20:50:30 ID:LN2fGp+L
・小説
グリム童話の『柩のなかの王女と番兵』
赤川次郎の吸血鬼シリーズ 齢数百歳の吸血鬼の父親と女子高生の娘の後輩
赤川次郎の幽霊シリーズ 40過ぎの女房に死なれた刑事と女子大生
赤川次郎「秘書室に空席なし」 74歳と17歳
池波正太郎「剣客商売」妻に先立たれた息子持ちの父親と息子の友人
ウェブスター「あしながおじさん」 続編も
田中芳樹「銀河英雄伝説」ケスラーとマリーカ ヤンとフレデリカ
田中芳樹「夏の魔術」二十歳と小学五年
森博嗣「全てがFになる」などS&Mシリーズ 30代前半助教授と19学生
ベノ・プルードラ「海賊の心臓」 「死んだときに体から抜け落ちて石になった海賊の心臓」を拾う女の子の話
ジェームズ・ラスダン「シャンドライの恋」 初老の英国人ピアニストと若い黒人のメイドさんの話 映画も
ディック・ ロクティ「眠れる犬」 42歳の私立探偵と14歳の女子学生
紫式部「源氏物語」 藤壺(女が年上)若紫(女が年下)
ハインライン「夏への扉」 SF
ラノベ「神曲奏界ポリフォニカ」ブラックシリーズ おっさんと少女
ラノベ 野梨原花南「占者に捧げる恋物語」
デイヴィッド・エディングス「エレニア記」 若き女王と擁護者たるおっさん騎士
デイヴィッド・エディングス「ベルガリアード物語」
デイヴィッド・エディングス「タムール記」 元泥棒で現在騎士見習いのタレンと王女
D&D小説『竜剣物語』 フリンとジョー
ドストエフスキー「貧しき人々」
ジョナサン・ワイリー「アーク島年代記」 魔法使い夫妻
ラノベ「スレイヤーズ」 ♀15、♂推定22(おそらくそれ以上)
佐々木丸美『雪の断章』
アレクサンドル・デュマ「モンテクリスト伯」 孤児の少女と復讐鬼
557 :
リスト3:2007/10/25(木) 20:51:06 ID:LN2fGp+L
・ゲーム/アニメ
「サクラ大戦3〜4」 大神さんとコクリコ 米田とかすみ
「幽遊白書」(アニメオリジナル)左京さん×静流さん 男36女18
パチンコゲーム「パチパラ13」男主人公と年上未亡人(20上) 女主人公と16歳年上
「不思議の海のナディア」サンソン×マリー おっさんと幼女
「killer7」ダンと楓 凶暴俺様33歳暴君と鬱傾向20歳裸足
「シルバー」 モリカワとハチスカ 13歳差
「FSR」トリコとスミオ
スク○ニ「死が二人を分かつまで」懐く幼女、懐かれて迷惑そうな男
「ウィッシュルーム」カイルとメリッサ おっさんと幼女
「幻想水滸伝」ルックとセラ
「FE聖戦」 フィンナンナ・フィンアルテナ 前者は育ての親(場合によっては実子)で後者は主の娘
・映画
「フィフス・エレメント」
「レオン」 殺し屋と少女
クレヨンしんちゃん「アッパレ戦国大合戦」 人情侍(30)と年下お姫様(見た目20くらい)
『シベールの日曜日』 31歳のパイロットと12歳の女の子
NHKドラマ「ドクターフー」 900歳のおっさんと19歳の女の子
「プリティウーマン」
558 :
リスト4:2007/10/25(木) 20:52:28 ID:LN2fGp+L
○女が年上
・漫画
里中満智子「まちこの千夜一夜」の中に収録されている「ナルシスに捧ぐ」
日渡早紀「ぼくの地球をまもって」
一条ゆかり「砂の城」 死んだ父親の恋人 16〜18歳違いくらい
「EDEN」 ヘレナって娼婦の姐さんと主人公 10歳以上
・小説
村山由佳「おいしいコーヒーのいれ方」
ベルンハルト・シュリンク「朗読者」18の少年と36の女
・ゲーム/アニメ
巨大ロボットアニメ「ラーゼフォン」 劇場版「多元変奏曲」PS2用ゲーム「蒼穹幻想曲」♂(17) ♀(29)
幻水2 シエラとカーン
ランスシリーズ パットンとハンティ 見た目少女の年上女性とおっさん
「ガンダム00」 刹那とマリナ 男16女24
>>554 GJ。そして乙!
これも保管庫に載せたら良いかも知れないな。
女が年上っていうと、
昔「花とゆめ」で連載していた奴が思い浮かぶ。
タイトル思い出せないんだけど、
高校生(のちに大学生)の女と、小学生の男の子が付き合うやつ。
久美子と真吾だったかな?
>>560 確か題名が単行本ごとに変わっていった奴だよな…
最終的に『大人になる方法』って名前で落ち着いた気がする
男が年上だと、尾崎かおりの「メテオ・メトセラ」も入れてくれ
不老不死の男と殺し屋の少女なので外見に年の差はあまりないが
>>554 GJ!似たようなことローカルでやろうかと思ってた。リスト作成乙!
こうして見るといろいろ気になる作品があってわくわくするな
>>554 GJ!
他に、ロマサガ3のシャールとミューズとか
「九年目の魔法」のポーリィとリンさんとか挙げとく
>560
作者の両親がモデルなんだっけ?
なつかしいな…
女年上だとホイッスル!の西園寺と椎名は好きだったな。
なんだか文庫版のおまけで打ち砕かれた気もするが。
>年の差カポー
マンガなら「BLOOD ALONE」のミサキとクロエが年の差カップルだな。
ミサキは吸血鬼なので実年齢はアレだが。
他はライトノベルだと賀東招二の「ドラグネット・ミラージュ」に出てくる的場圭と
ディアナ・エクセディリカの組み合わせか。
せっかくだから思いつく限り……
漫画:ひまわり幼稚園物語 あいこでしょ!
幼稚園に居候することになった浪人生・水明くんと園児あいこちゃん。
あいこちゃんが水明くんに惚れまくり。
おかげで水明くんは周囲からロリコンと蔑まれることに。
クライマックスで離れ離れになる二人。
最終話では15、6になったあいこちゃんがおっさんな水明くんを訪れる。
ほのぼのなコメディ。
ミステリ小説:浅倉卓弥「四日間の奇跡」
事件で指を失ったピアニストと、ピアニストが指を失う原因になった少女。
ピアニストに好意をよせる女性の幽霊が、少女に憑依しちゃう。
映画化されたらしいけど、俺は見ていない知らん
四コマ漫画:ちとせゲッチュ!!
役場の近くにある小学校の女子児童が、役場職員に猛烈アタック
ミステリと四コマにはまだまだ年齢差モノが埋もれてそうな気がする
おおっと、忘れていたぜ
小説:ジェニーの肖像
画家の卵の主人公はひとりの少女ジェニーと出会う。
数日後、再開すると、少女は何年もたったかのように成長している。
次に会ったときも、その次に会ったときも、少女はぐんぐん成長している。
ジェニーは普通の人間とは違った時間軸で生きているのだ!
「もうすぐ追いつくからね…」
ジェニーの肖像にインスパイアされた小説:梶尾真治「時尼(ジニイ)に関する覚書」
主人公は画家。
幼少の頃、きれいなおばさんと出会う。
おばさんと再会したとき、彼女は若返っていた。
その次会ったときにも、その次会ったときにも、彼女はぐんぐん若返っている。
彼女は普通の人間とは逆の時間軸で生きているのだ!
他にも、ジェニーの肖像の主人公を
画家から写真家に変えたインスパイア作品が角川ホラー文庫からでているらしい。
立ち読みしたら、文章がいまいちだったんで読んでないんだが
連投長文ごめん
幻水2のシエラとカーンはどうだろう
外見少女の始祖吸血鬼とおっさん吸血鬼ハンター
記憶が曖昧だけど仲は悪くなかったような
この場合、脳内カップリングは除外だろう
少なくとも作中で恋愛関係にあるか、もしくは恋愛感情があるか、とかじゃない?
とりあえず、幻水なら1のレパントとアイリーン(何気に幼な妻な過去)かな。
想像の上でのカップリングだと膨大な量になるぞw
>>558 待った。
>「ガンダム00」 刹那とマリナ
これまだ確定してないじゃないか?
OPから想定してるかもしれないかもしれないがあれマリナなのか?
>>570 >想像の上でのカップリングだと膨大な量になるぞw
確かにw
>>569 幻水2のシエラだと、どっちかってぇとクラウスじゃね?
愛があるのかは定かじゃないけど、クラウスに対してだけ血を欲するし
シリーズを通すならナッシュの方が「らしい」けど
投下行きます。エロなし
4月のはなし。
「そういちろー」
妙な発音で呼ばれた。
くすぐったかった。
普段の浅尾、も好きだが、これも物凄くいい。
*
青少年は欲求不満と戦っていた。
わざとらしく大げさに、木製の机に突っ伏して時折うめき声を上げる。
そんな彼のアピールにも、茜は絶対に動じない。
「センセイ」
「なんだ、浅尾」
「触っていいですか」
「駄目だ」
「……触って、もらえませんか」
「断る」
「手、冷たくないですか」
間に合ってる、とちらりともこちらを見ずに言い退けた後、ビーカの中ををガラス棒でかき混ぜながらもう一言付け足す。
「気持ちだけ受け取っておく」
茜なりにそっけなさ過ぎた、とでも思ったのだろうか。
願わくば、もう少し早く気がついて欲しい。
無駄のない言葉はまるで刃のように鋭い。
繊細な青少年の心など、一瞬でずたぼろだ。
そんな氷のように冷ややかな彼女を好きになってしまった自分が悪いのだ、と浅尾総一郎は頭を抱えた。
「浅尾」
「…………はひ」
「2分37秒」
「は?」
「記録。サンプルBの凝固まで2分37秒」
次、サンプルCの凝固実験開始。
見事なほどに淡々としている。
絶対零度とはこういうことか。
夕暮れ色の実験室。
目の前にはお似合いの白衣を着た愛しいセンセイ。
机の上には色とりどりの実験サンプル。
今日のお題は「スライムを作ろう」。
今どき小学生でも喜ばないスライムを作っているのは、今週が新入生の部活動見学の為の期間だからだ。
もちろん客は誰も居ない。
客どころか部員も居ない。
なのに茜は律儀にスライムを作り続ける。
普段の活動のほうがマシだと悪態をつつきつつ、ノートに「サンプルB:2分37秒」と書き留めた。
いつ来るとも知れない客を待って延々とスライムを作り続けるよりは、茜が自分の好きな実験をしている様子を見ていた方が、何万倍もマシである。
もっとも当の本人は、スライムも嬉々として(きっと他人にはわからないだろうが、少なくとも総一郎にはそう見える)作っている。
「許可なく触れることなかれ」
この部活動見学週間の初日に淡々とに宣言をされた。
常だったら手に触れてちょっと抱きしめるぐらいなら怒られないのに。
ああ、冬の間はよかった。
心底実感する。
冷たい水のせいで氷のように冷え切った茜の手を温める役得は、春の到来とともに消え行くのか。
これからは暑いからそばによるなと、ものすごい暴言を投げつけられる予感がする。
もちろん、ただの被害妄想だ。
「小笠原先生……」
「なんだ」
「…………なんでもないです」
「言いたいことがあるならはっきり言いたまえ」
言いたまえ、なんて言葉、このヒトの口以外から聞いたことがない。
「僕たちって付き合ってますよね」
「付き合うという定義が難しい。恋人、愛人、だと問うなら答えはイエスだ」
あいじん。
総一郎は絶句する。
茜はふと顔を上げて、天井を見つめながらにやりと一人笑みをこぼした。
なんていうか、悪人顔だ。
「ああ、愛人は響きがエロくていいな」
エロという言葉は茜のお気に入りのようである。
何故スライムかと聞いたときも、感触がエロいからだとのたまった。
エロが好きなのか? と思ったがその割には必要以上に総一郎に触れさせないし、触れることもしない。
あの衝撃的な愛の告白から実に半年ほど経つはずなのに、未だ手を握って抱きしめるだけという実に美しいプラトニックな愛人だ。
ちなみにバレンタインのあのキスは、もちろんノーカウント。
くそう、常に寸止めか。このドSのヘンタイめ。俺が焦れている様をみて楽しんでいるに違いない。
ことあるごとにそのセリフが脳内をよぎるのだが、もちろん総一郎の壮大なる被害妄想だ。
耐え切れなくなって席を立つ。
サンプルCのビーカを熱心にかき混ぜている茜の隣に立って、おもむろにそのビーカを取り上げた。
おや、と無感動に教師は呟いた。
「君も作りたいのか」
そんなわけはない。
ビーカをかたんと木の机に置いて、細い手首を握り締めた。
む、と低い声をあげて、逃れようと引いた手首を逆に引き寄せて、腕の中に細い身体を抱き込んだ。
ああ、久しぶりのこの柔らかい身体。
感無量である。
「センセイ……」
「浅尾、客だ」
浸る間もなく無情にも心地よいアルトが告げる。
慌てて身を引き離すと、茜はくるりと踵を返して実験室のドアを開いた。
ドアの外では、まだまだガキくさい三人の男子生徒が、いきなり開いた扉に目を丸くしていた。
音もなく立っていたはずなのに、何故判ったのだろう。
あわあわと顔を見合わせた三人組の一人の肩に、ぽん、と白い手を乗せる。
「よくきた。入りたまえ」
見事な営業スマイルで、茜が三人に入室を促した。
すばらしい変わりようである。
年に一度の大安売りだ。
ちくちょう、そういえばあの笑顔に騙されたんだった。
一瞬、ぽかんと口を開いたズッコケ三人組のような新入生が、さあ、ともう一度声をかけた茜に会釈をして、慌てて中に入る。
「君たち、名前は?」
「山井です」
「岡本です」
「中田です」
「山井と岡本と中田だな。化学部へようこそ。私が顧問の小笠原、あれが部長。今はスライムを作っている。スライムに興味は?」
立て板に水の勢いに、ますますぽかんと口を開く三人組。
何も言わないのをいいことに、淡々と、しかし幾分か口調は柔らかく茜は話を進める。
「スライムはいいぞ。原材料は洗濯のりとホウ砂、たったこれだけだ。色は絵の具で自由自在。
今回はでんじろう先生の著書を参考にした。でんじろう先生は知っているな、よし。
コレが完成品のスライムだ。持ってみたまえ。ああ、遠慮は要らない。
単純に手にとって遊ぶおもちゃだが、人肌に暖めればオ」
「うおーっ! 部長の浅尾ですっ。君らどこの中学出身ッ? 部活見学はたくさん回ったか!」
慌てて叫んで茜の言を遮る。
嫌な予感に備えておいてよかった。
話に勢いがついた茜は何を言い出すか判ったものではない。
ちらりとこちらを見やったその目線はもしかして不服を訴えているのかも知れないが、とりあえず顧問を無視して、あっけに取られる下級生の相手を部長らしく務めた。
*
化学部が欲しいのは一緒に実験を楽しむ仲間ではなく、形ばかりの部員だ。
部費は部員数におおよそ比例する。
その部費は多いに越したことはない。
そして万が一、部員が一人も入らなければ廃部が決定だ。廃部だけは避けたい。
すなわち、幽霊部員の確保が毎年の最重要ミッション。
幸い、この学校には帰宅部が存在しない。
帰宅部希望の学生は、いかに楽な部活動に在籍するかが4月の目標となる。
化学部の活動は一応火曜日と木曜日。人がいれば実験するし、いなければしない。
実験内容は希望があればそれに沿うし、なければ茜が適当に選ぶ。
年に一度の文化祭に掲示物を作成して展示する以外は、特にコレといった活動はない。
という旨を説明すると、三人に一人は入部を決める。
他にも帰宅部への抜け道として山岳部(ただし、月に一度集団で学校の周りを歩く姿はいい笑いものだ)、天文部(夏にはやぶ蚊の中で合宿がある)、
美術部(芸術家肌の一派とのいざこざが面倒だ)などがあるが、顧問が少々変人で、冬場の実験室が寒いといったデメリットを抱えた化学部も、今年は十人の新入部員を無事にゲットした。
先程のズッコケ三人組も入部届けに記名をすませ、お願いしますと形ばかりの礼をする。
「うむ、こちらこそ宜しく。放課後はだいたいいると思う。平井と山本と佐藤、好きなときに来るといい」
山井と岡本と中田です、と入部届けを手に総一郎は心の中で突っ込む。
微妙に惜しい。
本人たちは訂正をしなかった。
あいつらはもう来ないかもしれない。
コレが茜の作戦だったら大したものだが、残念ながら本当にヒトの名前を覚えるのが苦手らしい。
去年の部長の小林は、最後まで高橋と呼ばれていた。
まぁ小林の姿を見かけたのは合計3回だから、無理からぬ話かもしれないが。
そういえば、と総一郎は思い出す。
初めて呼ばれたときから、名前を間違えられた事は一度もない。
だから彼女が名前を覚えられないと知ったのは、ずいぶんと後になってからだった。
「君は2年B組1番の浅尾だな」
一年前のこの時期、偶然入ったこの実験室で。
顔を見てそう言われた。
はぁ、と生返事を返せば、茜は柔らかく笑った。
「昨日の授業、一番前で寝てくれただろう。化学は嫌いか?」
「…………嫌いじゃ、ありません」
昨日の自分を後悔した。
化学の授業では絶対に眠らない、と一人誓った。
「そうか、よかった」
心から安堵したような微笑。
その笑顔に吊られて、卓球部から化学部に転部して、何故か部長にまで上り詰めてしまったのだが、今思えば営業スマイルだった。
あれ以来、あんな笑顔は見た事がない。
入部届けの束を受け取って、茜が満足げに総一郎に頷いてみせた。
「今年は十人。部長、ご苦労だった」
「センセイ」
「なんだ、浅尾」
変り種の転部組み、というインパクトのせいか、茜が総一郎を違う名前で呼ぶことはない。
間違えるどころか、このひとはことあるごとに浅尾、と呼ぶ。
「もっかい笑って」
「今年は終わりだ。慣れない筋肉を使って頬が痛い」
「じゃあ俺の下の名前って知ってる?」
「…………はて、何だったか」
「ひでー……」
むに、と茜の両頬を挟んだ。
ついでに軽くつまんで引っ張る。
マッサージのサービスだ。
痛いな、と全然痛くなさそうに茜が小声で呟く。
眉根を寄せて、首を振って総一郎の手から逃れた。
「ジョークだ、浅尾総一郎。日本人らしくていい名前だ」
「どうも。茜ってのもいい名前ですよ。センセイにぴったり」
「む、そうか。似合っていないと思っていたが、浅尾がそういうなら信じよう」
「あの、下の名前で、呼んでもらえません?」
「…………………………あー…………そういちろー……」
少し間をおいて聞こえたそれは、消え入りそうなほど小さな声で、しかも妙な発音だった。
くすぐったかった。
凄くいい。
名前を呼ばれることが、こんなにも嬉しいとは思ってもみなかった。
抱き締めたくなって手を伸ばした。
しかし流石に二度目は掴み損ねた。
「さあ、帰るぞ。浅尾、今日は君も洗うのを手伝ってくれ」
ひらりと身を交わした茜が、スライムをビニール袋に突っ込み始める。
もう浅尾に逆戻りですか、と残念に思ったが、とりあえず今日はこれ以上望まない事にする。
珍しく鉄面皮の崩れた場面を目撃できただけで、贅沢というものなのだ。
*
以上です。
お付き合いありがとうございました。
結局エロなしを延々と続けるのか
GJ
むしろ この焦らしにエロスを感じる
>>580 文句言うなら見なきゃいいじゃん
しかし焦らし上手だな、エロ早く見たいぞww
つーか580のツンデレっぷりに萌えwww
一番槍でそのコメント、実は投下待ってただろ
好きな子いじめたいタイプだな、と釣られてみる
総一郎の自制心が少しずつ崩壊してきてますなぁ
はたしていつまで保つやら、楽しみ
乙であります!
>>574 ついに続きキタ━━━━━━━(゚∀゚)━━━━━━━!!
待ってましたよGJ!!
4月と聞いて、新入部員との確執や三角関係かとも思ったのですが
こうきたかー。
いいよいいよー
自分の通っていた学校の化学準備室がいつも思い起こされます。
GJ!! 支援
焦らしプレイ確信犯か?総一郎は。かわええぞw
しかし、この二人のエロって。つい妄想してしまいそうだ。
続きを楽しみにしているぞ。
>>574 GJ!!!
名字は中日の選手から取ってたのかw
新入部員の名前でやっと気付いたwww
風林火山の勘助とリツは妄想の部類に入っちゃうのかな
結構好きなんだが
590 :
名無しさん@ピンキー:2007/10/29(月) 04:45:09 ID:qah6HuM2
今日の風林火山では、養女として入ってもまだリツが勘助の子供を産む気満々なのが良かった。
婿をとったとしたらリツは好きな男と一緒に暮らしながら、その男のそばで別の男に抱かれる事になるんだな。
ZOE アヌビスのケン・マリネリスとディンゴ・イーグリットも
年の差カップルにいれてくれ。
男が年上だが、なかなかオイシイぞ
ZOE ANUBISの ケンとディンゴいいねえ。
何歳くらい年の差があるのだろうか……。
ケンの父親がディンゴの部下だからねえ
20くらいか?
マイナーゲームでスマンが、夜光列車というPSゲームが
年の差萌えにはなかなかいいと思う
主人公を男女から選べてそれぞれ
28歳男主人公×14歳中学生
58歳自称科学者×24歳女主人公
とコンビ組んで話が進んでいく。
後者は終始先生と生徒みたいな関係だが最後のキスに悶え
男主人公は中学生を愛するあまり他の人間を××する姿に引きつつ少し萌えた
595 :
名無しさん@ピンキー:2007/10/30(火) 21:41:16 ID:eRW9i5rF
>>592 ディンゴが30でケンが19って聴いた事あるから、9歳差か。ウマー
おや?
投下行きます。エロなし
5月のはなし。
来週にはエロまで到達したいので駆け足で行きます。
スレ占領しますがご容赦ください。
「期待を抱くな。勝手に期待して勝手に失望するなどもってのほかだ」
鉄の仮面を被った女性教諭・小笠原茜はそう言い放った。
そういえば命令形で話をされるのは初めてだ、とふと思った。
*
今年から副担任をもった茜は、職員室にいる時間が長くなった。
つまり、化学準備室で仕事をしなくなったということ。
ついでに三年生の化学は受け持っていない。非常にがっかりだ。
部活動でしか顔を合わせられなくなった。
その部活動も、ついに二人っきりの活動ではなくなってしまった。
見学が終われば落ち着くと、信じていたのに。
すべては茜のせいだ。
珍しく参加者が多かった先々週火曜日の部活動。
一年生の朝倉悠基がビーカーを床に落として派手に割った。
触らないように、と言い残して茜がホウキを取りに行っている間に、何を思ったか朝倉はガラスの破片に手を出して指を切った。
「いてっ」
その声に茜が素早く飛び戻ってきて、朝倉の手を強引に掴んで水道まで引っ張った。蛇口をひねって、流水で傷口を洗う。
「いてぇ」
「我慢してくれ。部長、悪いがガラスを片付けてくれないか。くれぐれも触れないように」
言われなくたってそんなことぐらい熟知しているが、素直に頷いてホウキを取りにいく。
戻ってきて目にした光景に度肝を抜かれた。
茜が、朝倉の人差し指を両手で握りこんで、息がかかるほど間近で傷を覗き込んでいた。
そのままぱくりと口に咥えてしまいそうな距離だった。もしそんな、ありがちな治療をしたらどうしよう、とドキドキした。
ふと朝倉を見ると、ぽかんと口を開けて、茜の横顔を見ている。
朝倉が何を考えているか、総一郎には判りすぎるほどよく判ってしまった。
おそらく、肌がきれいだとか、まつげが長いとか、目が意外と茶色いとか、この銀のフレームを取ったらどうなるんだろうとか、
甘いにおいがするとか、恐ろしく手が冷たいとか、吐息がやわらかくてくすぐったいとか、そういう類のこと。
自分も何度も同じことを思った。
小柄な朝倉は、茜とほとんど頭の高さが一緒だ。彼女の長いまつげも、横からだったらよく見えるだろう。
「部長?」
一年生の長峰に声を掛けられて、はっと我に返る。
慌てて散らかった破片をホウキでかき集めた。
茜は朝倉の手を自分のハンカチで丁寧に拭うと、白衣から絆創膏を取り出して指に巻きつけた。
準備のよろしいこと、と嫌味に思う。
「破片はキズに入っていないと思う。おそらく大丈夫だ」
「あ、はい」
「朝倉、今回はただのヨウ素液だから問題ないものの、毒性の強い物質だったら傷口から直に入り込んで大変危険だ。割れたガラスには絶対に素手で触らないこと」
「…………すいません」
自業自得で身を小さくしていた朝倉に、茜はふわりと笑いかけた。
「うん。次回から気をつければいい」
新入生は現金にも、その微笑みに笑顔で頷いた。
お前は自分の罪を反省したのか、と破片でずっしりと重いちりとりを片手に毒づいた。
ただの八つ当たりだ。
男前にして女神のような小笠原茜に、新入部員数名が男女問わずとりこになった。
ハラショー、センセイの魅力は性別を超えて理解される。
そんな彼らが律儀に部活動に参加するようになって、開店休業中だった化学部はにわかに活気づいてしまった。
茜と二人っきりだった夢のような時間は終わりを告げた。
女子部員などは「茜ちゃん」などと親しげに呼んで、手を握ったり頬に触れたり髪を撫でたり、やりたい放題で羨ましい。
そもそも教師をちゃん付けで呼べるなんて、ニュータイプは恐ろしい、と総一郎は思う。二つ年が違うだけでもう彼らは新人類だ。
茜はその呼称についてなんとも思わないようで、なんだ、と淡々と顔を向ける。
その様子がまた新鮮らしく、まるで珍獣を見たかのようにきゃあとはしゃぐ。
化学部は、健全な部活動とおしゃべりの場となってしまった。
茜のせいだ。
……盛大な、八つ当たりだ。
今日はどんな奇跡か珍しく二人っきりで夕焼けに染まる実験室にその身を置いている。
実に、2週間ぶりである。
うきうきと握ろうとした手を、ぱちんとはじかれた。
触れないでくれ、と感情の読めない声音で低く告げる。
「浅尾よ。学校でのアバンチュールは危険だ」
あまりに今更過ぎるその宣言に、度肝を抜かれて声が出ない。
「突然そのドアが空いて、忘れ物を取りに来た生徒に遭遇したらどうする。
学校で触れるのも甘い囁きも禁止だ。オンとオフを切り替えてくれ」
そもそもそのはずだったのに、最近は気が緩みすぎていた、と茜がクールに告げる。
「…………でもただのデートじゃ、人目があるからダメだって言うじゃないですか」
「そうだとも。衆人に晒すものでもあるまい」
その理屈は判る。判るのだが。
じゃあどこで茜に触れればいいのだ。
ただでさえ、湯たんぽの季節は終わったというのに。
「センセイ、オフがありません!」
「む、そうか」
「センセイ、一人暮らしですよね?」
「そうだが?」
「……遊びに、行ってもいいですか」
喉が渇いた。緊張して手が震えそうだった。
ダメだって言われたら、少しの間立ち直れない気がしていた。
茜のプライベートを知りたい、と常々思っていた。
例えば、部屋のカーテンは何色で、どんなレイアウトで家具が置かれていて、毎日9時間も過ごすベッドはどんな風だろうか、と。
ずっと、一人胸の中に抱えていた疑問だ。
プライベートすぎて、踏み込んではいけないのだろうと勝手に推察していた。
「ああ、いいとも。招待しよう」
意外にあっさり了承されて、気が抜けた。
「気がつかなかった。その手があったな」
気がつかないってどんだけ老成しているんだ、と胸のうちで呟く。
これは、下心があるかないかの違いなのか。
「しかし遊びにきて何をする? うちには遊ぶものなどない」
痛いところをつかれた。
ただのおしゃべりなら外ですればいい。
希望としては、手を握ったり抱きしめたり髪を触ったり、あわよくば、なのだがそれをストレートに口にするのはさすがに気が引けた。
そんなことを言ったら、来なくてよし、とか言われそうである。
考えに考えて、苦渋の結論を口に出す。
出来ることなら、これだけは避けたかった。
でもこれ以上に茜を納得させられる言葉は思い浮かばなかった。
「…………べ、勉強を」
「ああ、なるほど。いいとも、専属の家庭教師を引き受けよう」
家庭教師も響きがエロいですね、と言おうとして、――――やっぱりやめた。
*
狭いけれど、と招き入れられた。
女性の部屋なんて、妹のしか知らない。ドキドキする。
予想通り物が少ない茜の部屋は、十分な広さに思えた。
ローテーブルと小さなデスクとテレビとベッドと、少々の本棚と。最低限の家具しかない。
もしかすると総一郎の部屋よりシンプルだ。
クリーム色のカーテンのすぐ下に、淡いブルーのカバーのベッド。
そのベッドの枕元に、大小二つのうさぎのぬいぐるみが置いてあってちょっと意外に思った。
ぬいぐるみを飾る人種だとは思っていなかった。
「適当に座っててくれ。くつろいでくれて構わない」
「うさぎ」
総一郎の目線を追った茜が、ああ、と低く言う。
「もらいものなんだ。似合わないだろう?」
やっぱり自分で買ったわけじゃないのか。
でも年季の入った二匹のうさぎを見て、あの時送ったマグカップの柄は間違えてなかったと嬉しく思う。
携帯電話にうさぎがぶら下がっていたという理由だけで当てずっぽうだったのだけど、己はなかなかいい勘してる。
「好きなの? うさぎ」
「……うん、まぁ。すごくって程じゃないが」
ちょっと照れたように顔を背けて、茜はコーヒーでいいかと言いながら、返事を聞く前に背中を向けてしまった。
部屋中に香ばしい香りが漂っていて、幸せな気分になる。
せっかく茜が淹れてくれたコーヒーなので、いつもより熱めの温度で口につける。
インスタントと一緒にしては申し訳ない気がしたからだ。
でもやっぱり温度が馴染まなくて、舌がちょっとしびれた。
「おいしい、です」
「ん、それはよかった。しかし、浅尾よ」
「はい」
「一つ言っておく。私はもてなしが苦手だ」
「意味がわかりません」
「……つまりだ、私が料理を用意して君をもてなすだなんて幻想を持つんじゃない」
あ、料理できません宣言か。
別にそんなこと思ってもいなかったのに。
「期待を抱くな。勝手に期待して勝手に失望するなどもってのほかだ」
きっぱりと言い切られて、そういえば命令形で話をされるのは初めてだ、とふと思った。
じっと見つめると、その視線に気がついた茜がぷいと顔を背けた。
これは、女としてのプライドなのか年上としてのプライドなのか、どっちが刺激されているんだろう。
「ちょっと聞いてもいいですか」
「…………………………なんだ」
「料理できないんですか」
「出来ないのではなく、しないだけだ」
「普段のごはんはどうしてるんですか」
「……………………あー、まぁ、適当に」
「コンビニ?」
「いいや」
「外食?」
「しない」
「お姉さんが作りにきてくれるとか」
「そこまで甘えられない」
「じゃあなに?」
「浅尾」
「はい」
「例えば、6時に家に着くとするだろう?」
「うん」
「シャワーを浴びて、ちょっとした仕事を片付けているとすぐに9時なんだ。不思議だろう」
全然不思議じゃない。
つまりは食べてないってことか。
なんてだめな大人なんだろう、と総一郎は思った。
「不健康にもほどがあります」
「うん、そうなんだが、その、食事を作ろうとすると食べ終えて片付けるまでに軽く3時間はかかるだろう? 平日は食べるより寝たい」
3時間もかかるか? 一人だったらせいぜい1時間、ゆっくり食べても2時間ぐらいじゃないか?
一人分の食事を作った経験はないので上手に計算は出来ないが、たぶん、茜の手際は恐ろしく悪いに違いない。
そうか、センセイにも、対人関係以外で苦手なことってあったのか。
大人は、茜は何でもできてしまう、一人で生きて行けてしまう人間だと思っていた。
付け入る隙を見つけたような気がして、嬉しくなる。
思わず湧き出た笑いをかみ殺したら、変な顔になった。
「そんなに可笑しいか。笑いたければ笑うがいい」
拗ねた。
子供みたいだ。
「いいです、もちろんごはん前には帰ります」
ここで俺が作ります、とか言えたらカッコいいのだろうけど、あいにく、チャーハン以上のスキルは持ち合わせていない。
何の前準備もなく、いきなりよその家で料理を作れない。
どうせ食べてもらうなら、自信作を食べてもらいたい。
ふと思いついてしまった。
それはとってもワンダフルな発想に思えた。
「……もし、俺が料理出来るようになったら食べてくれます?」
両眼だけを少し見開いて茜がこちらを見上げた。
眼鏡の奥の茶色い瞳が、いつもより早く瞬いた。
「あ、うん。食べる、けど、無理はしなくていい」
「うち、共働きだからさ、妹と交代で台所手伝わされるんですよ。味付けは母さんがやっちゃうから自信ないけど」
「偉いな」
「だからセンセイよりは手際いいと思うよ。ちょっとオフクロの味を教わってきます」
どう、と目線だけで尋ねると、もう3度ほど目を瞬かせた茜が、ふわりとその瞳を細めて微笑んだ。
「判った、楽しみに、してる」
「うん」
にっこりと笑いかけて、嬉しくなる。
こうやって、自分の居場所とか、役割とか、見つけていけばいいのかと、茜の隣にいていい理由が判った気がした。
そんなものがなくても、茜は、総一郎全部を受け入れてくれているのだろうけど。
「じゃあノートを出して。当初の目的を果たそうじゃないか」
……くすぐったく流れたあまやかな空気は、一瞬にして色を変えた。
茜はリアリストだ。非常に残念だ。
*
なかなかにスパルタで濃密なお勉強の時間を過ごした帰り際。
名残惜しい思いを抱えながら、たたきに腰を掛けてくつを履いていると、茜がすぐ後ろで膝をつく気配がした。
「浅尾、」
穏やかなアルトで呼ばれて、振り向くと同時に顔の横に両手をつかれた。
追い詰められて、どん、と壁に後頭部をぶつける。
囲い込まれて逃げる暇もなく、茜の顔が近づいて、くちびる同士がそっと触れた。
思わず見開いた目に、茜の閉じた瞳とまつげがアップで映りこむ。
そういえば、迫るほうが好みなんだっけ、とぼんやり考えているうちに、くちびるが離れた。
「……今の、なに?」
「アバンチュール」
「そう、ですか」
「……初めてか?」
非常に不本意だが黙って頷いた。
茜は満足げにそうか、と言うと、くちびるの端を素敵にあげて、にやりと笑う。
「それはどうも、ごちそうさま」
何かに負けたような気がして、身を引こうとした茜の肘をとっさに掴んだ。
「ん?」
「…………もいっかい、お願いします」
「ほう」
低く呟くと同時に、再び眼鏡の顔が迫ってきてくちびるに触れた。
今度はちゃんと目を閉じられた。
羽のように軽く触って、すぐにぐいとくちびるを押し付けられたかと思ったら離れてしまった。
名残惜しげに息を吐いて、もう一度、と目だけで訴えてみたが、茜はゆるゆると首を振った。
「今日はもう終りだ」
「なんで?」
「分散させた方が味わい深いから」
意味が判らないが妙に説得力のあるその言葉に不承不承、首を縦に振る。
茜は眼鏡の奥の茶色い瞳を柔らかく細めて、総一郎の頭をそっと撫でた。くすぐったくて、心地いい。
「送っていく」
「一人で帰れますよ」
「うん、そうじゃなくて…………名残惜しい」
ギリギリ聞こえる程度の大きさで、早口にさらりと呟くとさっさと靴を履き始める。
また萌え殺された。
どうしてこう、タイミングよく自分が欲しい言葉をくれるのだろう。
同じように自分は、茜を幸せな気分に出来ているのだろうか。
「……また、遊びに来てもいいですか?」
「うん。また来てくれると嬉しい」
「ごはんも、楽しみにしてて」
「ああ、それは嬉しいけど、勉強もな」
「ちゃんとやりますよ、大丈夫」
「そうか」
「そうです」
そうか、ともう一度呟いた茜の手を握って歩き出す。
その手は一瞬触れたくちびると同じように柔らかくて、納まりを見せたはずの胸がまたどきんと高鳴った。
二人で歩く初夏の夕焼けはあまりに赤くて、物悲しさを増幅させる。
明日も学校で会える、と、なんとか自分に言い聞かせて、さて最初に作るのは何にしようかと、無理矢理に楽しいことを考えた。
*
以上です。
お付き合いありがとうございました。
おいおい、なんか切なくなちゃったじゃないか
あー、キュンキュンする
うわー GJ
駆け足か、すごい楽しみにしてる
やべーGJ!
ニヤニヤが止まらないw
どきどきした。
ハッピーエンドが待ってますように。
GJ!!!
エロ到達となると終わりも近いということになるのか?
いつも楽しみにしてる作品なので、寂しい・・・
切ねーよ
なんともかわいいじゃないか、この二人
どうなっていくんだ?
今夜も投下待ってるぜ。
この毎回少しずつ進んでいく展開がたまらないなぁ・・・。
駆け足でいくと言っていたようですが、自分はクオリティを落としてまで早めなくてもいいと思います。
期待を背負って大変ですが、無理なさらずに書いて下さい。
投下行きます。エロなし キスのみ。
7月のはなし。
「浅尾、キスをしようか」
キスは好きだ。
短いのも、長いのも。
くちびる同士を触れ合わせるだけの、子供のようなキスしかしたことないけど、それでも好きだ。
まるで空に飛んでいけそうな心地がする。
キスは、好きだ。
「エロいキスを」
ああ、最近暑いから、とうとうセンセイの頭もおかしくなっちゃったんだな、と思った。
*
7月に入り、遅い梅雨明けが宣言されたら急に暑くなった。
茜はお似合いの白衣を着ないようになり、下ろしていた髪をまた後ろに一つでまとめ始めた。
しっぽのように垂らすときもあるし、くるりと丸めてしまうときもある。
まとめられてしまうと、もう触る余地はそこに見出せない。下手に触って崩したら、無駄にご不興を買ってしまう。
手を温める必要もないし、抱きしめると暑い、とたまに文句を言われる。
早く冬が来ないかな、と思う。夏になったばかりなのに。
たとえ冬がきたとしても、去年のように二人っきり、とはいかないだろうけど。
冷え性の茜は暑さにも弱いようだった。
いつもクールだが、そこにダウナーがプラスされているようだ。
冬の間は病的に白かった頬も、今は赤味が差しているが今度は目に生気がない。
梅雨入りのころから物憂げに、ぼんやりとした目をすることが増えてきた。
湿気が多いとだるい、と低く呟く。あと、暑くて寝られない、とも。
冬は手足がつめたくて、夏は気だるくて、一年中で健康な時期は非常に短くて難儀だな、と総一郎は同情する。
同情はしても、夏はなにもしてあげられることがない。
せいぜい食事を抜かないように見張って、無理やりにでも食べさせるぐらいしか出来ない。
本当に、所々で駄目な大人だ。
俺がしっかりしないと。
そんな名目で今日も茜の部屋に入り浸るのであった。
デスクに向かって真剣に仕事に励む茜の背中を穴のあくほど見つめた。
学期末最後の休日はとてつもなく忙しい。
定期考査の採点が終わると間発入れずに成績表、という大仕事が待っているからだ。
仕事をするときは2メートル以内に近寄らないように、との言いつけをハチ公並の忠実っぷりで厳守している。
人には踏み込んでならないテリトリーがあるものだし、万が一破れば二度とこの部屋に入れてもらえないと知っている。
彼女は本気で実行するだろう。
だから大人しく、与えられたスペースで、せっせと課題や受験勉強にいそしむのだ。
――ああ、俺ってケナゲ。
そんな自画自賛に浸りつつ。
せめて自分だけでも自分を褒めてやらないと、自信喪失で生きていけなくなりそうだ。
ちらりと時計をみやる。二時間経過。
そろそろ集中力の限界だ。
キーボードを叩く音が途切れるタイミングを見計らって、声を掛ける。
「センセイ」
「うん」
「休憩。アイス食べませんか?」
かたんとノートパソコンの蓋を閉じる音がした。
うぅんと大きく延びをすると、簡単にデスクを片付けて立ち上がる。
「食べようか」
茜にとっても甘い誘惑だったようで、素早く冷凍庫からアイスクリームを2本取り出して、1つを総一郎に手渡した。
今日、総一郎が買ってきた、チョコレートのバーだ。
受け取って、白い壁に背を預けながら袋を破る。
茜もクッションに腰を下ろすと総一郎に向かって目を細める。
「ありがとう、いただく」
白い手が優雅な手つきで袋を破り、アイスクリームを赤いくちびるに含む。
食べる、という行為はエロティックだ、と、テレビで誰かが言っていた。
なるほど、そうかもしれない。
極限まで冷えたアイスが、茜のくちびるをさらに真っ赤に彩って、時折ちらりと覗く舌が器用にうごめく様を目の当たりにする。
目の毒だ。
視線を逸らして、黒いバーに目を落としてかぶりつく。
ぱきんとチョコレートが折れたあと、カカオの香りとバニラの甘さが鼻を抜けた。
総一郎にとって、アイスといえばこのチョコレートだった。毎年、夏になると母親が買ってきてくれて冷凍庫に常備されている幸せの食べもの。そんな印象だ。
「やっぱ夏はアイスですね」
「ん? ああ、そうか、そうかもな」
「アイス、嫌いでした?」
「いいや、美味しい。ただ、一人で暮らしていると買うのを忘れる。だから夏はアイスという発想がない」
「……それは、食に対する欲求が全般的に乏しいセンセイだからじゃないですか」
沈黙が訪れた。
何かまずいことを言ったか、と茜を見やれば、ぼんやりと窓を見つめている。
バニラが溶け出して、今にも床に垂れそうだった。
「センセイ、落ちます」
慌ててティッシュを引き抜いて、その手に握らせる。
ああ、とやっと意識を取り戻した茜が、バニラの雫を舐め取った。
なにか、見てはいけないものを見てしまった気がした。
元の位置に大人しく戻って、咎めるような視線を向ける。
「子供じゃないんだから、ちゃんと食べてください」
照れ隠しで言い放ったセリフは、思いのほかきつく響いた。
だけど茜の耳にはそうは届かなかったようで、うん、と呟いてアイスの消費に集中をする。
相当疲れているみたいだ。
睡眠時間も削られているに違いない。
じゃなければ、このドSのヘンタイが、妙な野次も飛ばさずに大人しくアイスにかじりつくはずがない。
普段ならアイスはエロい、とかなんとか、オヤジのようなセクハラを飛ばして総一郎を戸惑わせるのに。
「…………浅尾、」
総一郎よりもかなり遅れてアイスを食べ終えた茜が、後に残った棒とティッシュをゴミ箱へ放り込みながらポツリと呼ぶ。
「なに?」
「キスを、しようか」
「…………………………」
はぁ、とか、なんで、とか、どうしたんですか急に、といった類の否定の言葉をすべてとっさに飲み込んだ。
それらを口にしたら最後、じゃあいい、とこの天邪鬼は言うだろう。
キスは好きだ。
触れるだけのキスしか知らないが、それでも好きだ。
ここに遊びに来た帰り際に、いつも盗むようなキスを一瞬だけ茜がくれる。
たったそれだけで、触れ合ったくちびるから魂が吸い取られる気がする。
茜とのキスが好きだ。
うん、と頷いて、腰を浮かしかけた総一郎に、畳み掛けるように茜が呟く。
「エロいキスを」
今度は意図的ではなく絶句した。
何を言われたか、全く理解が追いつかなかった。
――ああ、最近暑いから、とうとうセンセイの頭もおかしくなっちゃったんだ。
きっととんでもなく間抜けな顔で、茜を見つめ返しているであろう総一郎に、彼女は焦れたようにきつく続ける。
「するのか、しないのか」
「ししし、します」
「そうか」
くるぶしまでのロングスカートのひざをずるりと引きずって、おもむろに距離を縮めてくる。
思わず身を引いたが、いかんせん真後ろは壁だった。
「浅尾。己で試行錯誤するのと、私の実技を受けるのと、どちらがいい?」
「は?」
「5秒で決めたまえ。5……4……」
残酷なカウントダウンが始まった。
何を問われたのか、また判らなくなって混乱する。
ただ一つ判るのは、0になる前に返事をしなければキスができないだろう、ということ。
「……1、」
「実技で……!」
「ほう?」
「…………お、教えて、ください」
「了解。誠心誠意取り組もう。手加減はしない、覚悟したまえ」
ドSは恐ろしい宣言をしながら銀色のフレームの眼鏡を外して、ローテーブルの上に置いた。ちょうど、総一郎のノートの真上に。
「……なんで眼鏡外すんですか」
「邪魔だから」
もう一歩詰め寄って、今度はカーディガンを脱ぎ捨てて、タンクトップ一枚になった。
「なんで、脱ぐんですか」
「暑くなるから」
目のやり場に困る。
細い二の腕と鎖骨が見えて、いつもはずいぶんと首の詰まった、隙のない服を着ているんだな、となんとなく思った。
茜が目の前まで迫っていた。
立ててだらしなく開いていた膝の合間に入り込み、膝立ちで総一郎を見下ろしている。
後ろでまとめていた髪を解くと、軽く頭を振った。
くせのついた髪が、ふわりと踊る。
「雰囲気作りだ。浅尾、」
なんで、と聞いてもないのに楽しそうにそう言うと、そっと、白い手で彼の顎と肩に触れた。
その手が夏なのにつめたいのは、さっきのアイスのせいだろうか。
「判っているとは思うがキス以上はない。君は私に触れないでくれ。いいな?」
この上なく理不尽な宣言だが、総一郎は頷くよりほかない。
床に置いた拳を、ぎゅっと握った。
茜の顔が、吐息のかかる位置まで近づいてきている。
いつもの甘い香りがして、くらりとした。
家なのに香水をつけているんだ。
総一郎の好きな、この香りを。
センセイ、と声を絞り出そうとしたくちびるを、細い指がそっと撫でた。
「……喋ってはいけない」
小さく頷いた。
茜は目を細めると、囁くような声音で、目を閉じて、と言った。
素直に従って、目を閉じると同時に柔らかいものがくちびるを塞いだ。
当然、茜の赤いくちびるだ。
角度を変えて数回触れて、位置を定める。
突然、下のくちびるを熱い舌で撫でられてびくりと肩が震えた。
上のくちびるも同じように触れられて、軽く吸われた。
甘く歯が当てられる。
握ったこぶしに汗が滲む。
顎に触れていた指が、すっと頬を撫でて耳たぶを挟んだ。
一つ一つの動きは緩慢でじれったく、いちいちびくびくと反応をしてしまう自分が恥ずかしくなった。
うすく開いたくちびるの隙間から、熱いぬるりとした何かが入り込んできて、総一郎の舌に触れた。
甘いバニラの味がして、ああセンセイの舌か、とぼんやり思う。
ゆっくりと、まるで総一郎の舌を吟味するかのように先端に幾度も触れ、くすぐったさに思わず奥へと引っ込めたらついに囚われた。
茜の口腔へと誘いこまれ、突き出たそれを甘いくちびるで挟まれる。
自分のくちびるを、舌を、まるでさっきのアイスのように食べられている。
白い雫になったバニラが、脳裏をよぎった。
溶けそうだ。
耳たぶに触れていた手が、総一郎の前髪をくしゃりと弄んだ。
肩に置かれた手は、猫の喉をくすぐるようにくびすじを撫でる。
背筋からぞわりとした悪寒にも似た快感が這上がってきて、思わず茜の腕をすがるように握った。
何かを掴んでいないと、どこかに連れていかれてしまいそうだった。
舌を歯で緩く噛まれて、重なったくちびるを食むようにうごめかされて、もう、訳が判らない。
時折、唾液の絡まるぴちゃりという音が響く。
さらりとした髪が、総一郎の頬に落ちてくすぐる。またぞわりとした。
もしかしてこんなものまで武器にしているんだろうか。
とんでもない。
呼吸ができない。どう息をするのかも思い出せない。
おまけに興奮しすぎて心臓が痛い。
くちから飛び出してしまいそうだったがそんなはずはなく、代わりにたっぷりと溜まった唾液が溢れて、くちびるの端からあごへとつたった。
「……っ、う……」
悲鳴のような吐息が漏れた。
もっと続けたいのに、もう無理だ、と思った。
角度を変えながら延々と続く口づけ。
茜の二の腕を掴む指に、どんどん力が入っていく。
茜はゆっくりと総一郎の舌を押し戻すと、もう一度くちびるをやわらかく食んで、のろのろと顔を離した。
荒い呼吸を繰り返しながら、うっすらと目を開ける。
目の前の茜は、視線を合わせてにやりと笑い、手の甲で乱暴に自分のくちびるを拭った。
男前だ。
身体中の力が変な風に抜けて、なのに指先だけは妙に力んでしまって、小刻みな震えを止められないでいる総一郎の前髪を、茜はまたそっと撫であげると、優しく握ったままの手を腕からほどいた。
やっと力ぬけた指が、茜の腕を滑ってずるりと床に落ちた。
ああ、いつもは夏でもひんやりとつめたい肌が、確かに熱を持っている。
総一郎の身体も、てのひらだけでなく背中までうっすらと汗ばんでいる。
茜の言うとおりだ。暑い。どうしてこんなに暑くなるんだろう。
センセイも興奮して暑くなったのかな。
焦点をあわせられずにぼんやりと茜を見つめる総一郎に、彼女は目を細めた。
「エロいだろう」
「…………エロい、です。もうムリ」
だるい腕をなんとか持ち上げて、前髪をかきあげた。
額にもじっとりと汗がにじんでいた。
両手で頬を挟む。熱い。
振り向いてテーブルの眼鏡に手を伸ばした茜が、とても余裕に見えて憎らしい。
優雅に眼鏡を装着して向き直り、低いいつものアルトで、む、と唸る。
その目線を辿れば、総一郎の股間へと落ちている。
しっかりと、反応を見せて膨らむ股間へと。
「あ」
「……コーヒーをいれよう。アイスでいいか?」
「……ハイ、お願い、します」
「うん」
茶色い瞳をゆっくりと瞬かせて、身を翻した。
落ちていたカーディガンを拾い上げて、バサリとまた男前に羽織った。
あまりに彼女が男前すぎるので、自分が何かのヒロインになった気さえする。盛大な勘違いだが。
立ち上がった茜の、素足に見とれた。
足の指は細くて長く、つめも手と同じように丁寧に切りそろえられていた。
きゅっと引き締まった足首とくるぶしのバランスが絶妙で、キレイな足だな、と思い、もしかしていつかこの足で踏まれたいと思う日がくるんじゃないかと恐ろしくなって目を逸らした。
部屋を出る直前に思いついたようにその足が止まり、前ぶれもなく振り向いた。
「煩悩を抑えるためには暗記がいい。コーヒーを入れる間に元素記号を35まで暗唱するように」
余韻もへったくれもない無情な宣言を残し、茜はキッチンへと消えて行った。
それでも自分を取り戻せないでいる総一郎がはっと我に返ったのは、コーヒーの香ばしい香りが部屋中に漂いはじめたころだった。
慌てて参考書を手にするも、実はもう30まで暗記していた安堵感でちっとも集中できず、残りのたった5つはどうしても覚えられなかった。
アイスコーヒーを2つ盆に乗せて戻ってきた茜は、やっぱりいつものクールフェイスで、すげえなと思った。
何がすごいのか判らないけど。
元素記号はあと5つ覚えられなくても特に咎められはしなかった。
受験に関係ないせいだろうか。
「気分転換になった。ありがとう」
淡々と告げて仕事へと戻っていく茜は、何を考えているかよく判らない、としみじみ実感するのだった。
*
その後、幾度もこの「エロいキス」を反芻しては悶絶する。
次はいつ、あのキスができるんだろう。
っていうかドコで覚えてきたんだろう。
やっぱ大人だから経験豊富なのかな、くそ。
あー誰とあのキスしてきたんだ?
いや、過去に嫉妬するなんて見苦しいにも程がある。
それにしても万事が万事、センセイのペースで進んでいくんだろうか。なんだかなぁ。
ああでも、あの髪は反則だよな、ホントに。
センセイ、またぷっつんしてくれないかなぁ。できたら、早いうちに。
などと延々と繰り返し考えては、床をのたうち回ることになる。
茜は気分転換になったかもしれないが、総一郎にとっては受験勉強の大いなる妨げである。
いつか文句を言ってやりたい、と出来もしない希望を胸に、元素記号をついに50まで暗唱した自分にハラショーと呟いた。
*
以上です。
お付き合いありがとうございました。
GJ!!!
もうあなたの作品がハラショーですよ、ホント。
続きが気になって気になって溜まりません。
ついでに中日日本一おめでとう!
総一郎の戸惑うとこが、おにゃのこぽくて、なんかもうそれだけで、萌える。
続き頼むよ〜。
それと、中日、オメデトサンだね。
乙〜。
だが中日にオメデトはしない!
GJ!
また先生視点のヤツも読みたいぜ
大人のチッスキタ━━━━━━━(゚∀゚)━━━━━━━!!
GJ、実技エロくていいね実技
622 同意
始めから読んでいるけど、かなりツボw 超GJ!
ひととおりの完結後でもいいから
腹でエロいこと考えながら
しかし淡々としている様のセンセイバァージョンを読みたい。
過疎ってんなw
歳の差欲求が高まりすぎて
遂にハーレクインにまで手を出した俺終了orz
>>626 別にいいじゃないか。
・・・で?ほら、何か萌える話はあったか?
俺の知ってるハーレクインって、童貞乙女じゃないしね
ドラマちっく展開と体験談だと、ここにはあわなそうな気が
投下行きます。エロなし キスのみ。
8月のはなし。
ぱん、と乾いた音が響いて、頬がじんじんと熱く痺れた。
だけど頬よりももっと胸が痛んだ。
茜の胸はもっと痛いんだろうなと勝手に想像したら、どうしようもなく自分を嫌いになった。
*
夏休みはネックの英語を徹底的に、と家庭教師が宣言をした。
そのひとはもちろん、本職・教師である小笠原茜だ。
食事のお礼で単なる趣味だ、と彼女は言うが、やると言ったら徹底的に、がモットーであるかのように、激しく厳しく家庭教師を続けてくれている。
嬉しいような、苦しいような日々である。
もちろん補習授業もきちんとこなした上でのことだ。
恐ろしいほど勤勉な総一郎に、家族よりも自分が一番驚いている。
煩悩のたまものだ。
茜と一緒に過ごす口実が欲しい、ただそれだけの理由なのだ。
そもそも夏休みは教師も休みだと思っていた。だから補習がなければ毎日会えるんじゃないかと自分勝手に期待をした。
普通に週に何度かは出勤する、と聞かされていささかがっかりした。
2学期の準備の他になにするの、と尋ねれば、茜は「文化祭の準備とか?」と曖昧に返事をよこした。
とか、なんだろう。
要するに暇なのか。
「大変ですね」
「いや、そうでもない。職員室はなにせ涼しい」
大人の特権だ、とにやりと笑った。
生徒たちは暑苦しい教室でせっせと補習に励んでいるというのに、授業のない先生方は涼しい職員室でのんびりと一日を過ごすのか。
そりゃずるいな、と口を尖らすと、茜はますます楽しそうに喉の奥でくすくすと笑う。
「大丈夫、君の家庭教師は続行するから」
――受験生の因果は、やはりのうのうと甘い時間を過ごさせてはくれないらしい。
家庭教師、とは言っても茜も万能ではない。
たとえば彼女が苦手な古文などに丁寧な説明を求めても、解説を朗々と読んでくれるだけである。
今日はこれ、と課題を与えて見張りをしつつ採点をして、間違いは己で克服をしろ、という微妙な方針だが、一から十まで教えられては息苦しい。
解答を教えるのが教師で、勉強の方法を教えるのが家庭教師なのだ、と茜は言う。
たぶん、総一郎にはそれが合っているのだ。
1週間ぐらい前のことだった。
ネックの英語の成果はちゃんと出ていて、文法、構文、熟語は着々と目標をクリアしつつあるものの、どうしてもスペルミスがなくならない。
それなら、と重々しく頷いた茜の提案により、なぜか毎回単語の小テストを受ける羽目に陥った。
小テストなんて絶対に好きになれない。断固拒否をしたかった。
だけど教えてもらう立場の人間が、拒否などできるはずがない。
「じゃあ全問正解したら」
勉学は己のために励むもので、受験生の自分に付き合ってもらっているという自覚はあったけれど、ご褒美があれば頑張れそうな気がして、軽い気持ちで口にした。
「キス、していい? ……エロいやつ」
ちょっと目を見開いた茜が視線を落とし、その細い指を顎に当ててしばし沈黙した。
何を考えているんだろう。
断り文句か?
ぷる、と震える指の上でくるりと回ったシャープペンが、バランスを崩してノートの上に落ちる。
茜は、それを追っていた瞳を軽く伏せて、ほう、と息を吐いた。
「いいだろう。ただし、夏休み限定だ」
絶対に、夏休み中に全問正解してみせる。
平和主義の総一郎の胸に、珍しく闘志が燃え上がった。
煩悩に向かってまっしぐら、自宅でも単語帳を片手にする総一郎に、母親が病気かと言いだすほどだった。
その約束から1週間が経過した。
今やすっかり通例となった単語の小テストは、現在解答確認中だ。
さらさらとペンが走る音が小気味いい。
小テストとは、丸が多ければなかなかどうして楽しいものである。
とくに、まる、と流れるさららという音に快感すら覚えるこの頃。
実を言えば今日の手ごたえは、微妙に足りていなかった。
いつも自信満々で茜にノートを差し出すのに、必ず、さら、とバツの音がする。
過剰な自信は昨日から捨てた。
だけど、今日は、まださら、という音が聞こえない。
もしかするともしかすると、ひょっとするんじゃないか。
総一郎の胸はどきどきと早鐘を打った。
かたん、と置かれたペンが、投げ出すような音をたてて、投げ出した主は複雑な感情のこもった深い深いためいきを吐いた。
「――満点だ」
煩悩ってホントすげぇな。
呑気にそんなことを思うのだった。
ペンを投げ出したその手を額に当てて、両の瞳をぎゅっと閉じた茜をそっと呼ぶ。
「…………センセイ?」
「ん」
「約束」
「いい、何も言うな」
そんなに苦悩を露にされると、物凄く傷付く。
茜は自分とのキスがそんなに嫌なのだろうか。
試しに身体をずる、と引きずって、距離をつめてみる。
案の定茜は身を引いて、たった今総一郎がつめた距離の半分ほどを後ずさった。
「嫌なの?」
「そうじゃない」
「じゃあなに」
「べつに」
べつになら、と更に距離をつめる。
このひとに任せておいたら話が進まなそうだ。
「こっち、向いてください」
しぶしぶ、といった様子で身体の向きを変えた、茜の両肩に手を置いた。
緊張してきた。茜が妙な反応を見せるせいだ。
うつむき加減の顎に指を添えて、そっと仰がせる。
びく、と片手の乗ったままの肩が震えた。
「なんですか。そんなヘンな反応して」
「……迫られると逃げたくなる心理だ」
「センセイってちょう天邪鬼」
「そうだとも」
「じゃあ約束なしにする?」
「…………それは、信頼関係にひびをいれそうだ」
「確実に入ります。地球が割れるぐらい大きなひびが」
む、と呻って茜が押し黙った。
その隙に、盗むようにくちびるを重ねる。
触れてしまえば、もう止まらなかった。
薄く開いたくちびるから舌を割り入れ、熱い茜のそれに絡ませる。
あの実技を何度も思い出して反芻をしたのだ。
事前シュミレーションはばっちりだ。
ただ、予想以上に、心臓が高鳴りすぎて、息苦しくて、身体が熱い。
「…………ッ、んん……」
塞いだくちびるから切なげな声が漏れ聞こえて、ますます興奮を強くする。
もっと貪りたくて、浮かれた頭でも自覚できるほどみっともなく舌を蠢かす。
茜が、実践して見せたようなエロいキスではない。
余裕がなくて、意地汚くて、何も生み出さない、ぶつけるだけのキスだった。
だらしなく漏れた唾液はとても色気がなく、なんか違うと思った瞬間に腕の中で茜が耐えかねたように身を捩る。
だけど、意識とは別の意思を持った総一郎の身体は、茜の細い身体から離れてはくれず、
それどころか気がつくと肩に置いた手に力を込めて、床へと押し倒していた。
ごん、と鈍い音が片耳に届いた。
重なったくちびるの下で、茜が息をのむ。
痛かったらしい、と理解はしたものの、勢いのついた青少年の欲望は止まらない。
「んぅッ!」
茜が、珍しく大声を出している。
だけど塞がれた口から漏れるのははくぐもった悲鳴のみで、抑止剤になりはしない。
力をこめて総一郎の胸を押し返す細い腕が邪魔くさくて、仕方なく顔を上げた。
乱れた呼吸が、お互いの顔の間で混じり合う。
長い黒髪が床に散らばっていた。
そんなものにも、興奮をした。
起こそうとした身体の、片手ずつを交互に攫って、顔の横に縫いとめた。
茜の顔色がさっと変わる。
「あ、浅尾、」
くちびるを再び寄せると、すっと顔を逸らされた。
仕方なく、白い頬に口づける。
ちゅ、湿った音をたててくちびるを離して、本能のままくびすじをぺろりと舐めた。
「んっ」
ぴくり、と組み敷いた身体が揺れた。
「待て、話せば判る!」
どういった犯人を説得しようとしているのだ。
まだ茜は余裕だ。ジョークを言っている。
自分を、からかっている。
そう思ったら、どうにも悔しくなった。
自宅でしか見られないスカートを履いた下肢が、蹴り上げようと暴れる気配を察した。
また蹴られては堪らない。
細い腰の上に跨って、体重を乗せた。
茜は、押さえつけられた両手にもぐっと力を込めて、顔を目一杯反らして総一郎を拒否している。
嵌めたままの眼鏡が危ない、どこか冷静な自分がそう思ったけれど、どうにもできないまま顎に舌を這わせた。
また、茜の全身が震える。
「浅尾、嫌だ……ッ!」
そうは言っても押しに弱いこのひとのことだ、このまま続ければなし崩しに望んでいた肉体関係に持ち込めるのではないか。
耳を舐めながら、そんな卑怯なことを考えた。
「いやだ、放してくれ。……んっ、お願いだから……」
茜が放してほしいと思うのと同じぐらい強く、自分は茜に触れたいと切望してる。
知らないとは言わせない。
散々にアピールをしてきたのだから。
手をつないだ。
抱きしめた。
キスをした、エロいキスも。
順調にステップは踏んできたはずなのに、待てども待てども気配の見えてこないその先に、脅えていた。
茜が何を考えているのかあと一つピンとこなくて、からかわれているんじゃないか、考えたくないけれど、もしかして、弄ばれているんじゃないかと、実は脅えていた。
否定しないで欲しい。
受け入れて欲しい。
こんなにも何かを欲しいと強烈に願った記憶は、覚えている限りこれが初めてだ。
「センセイ……俺、もう無理」
くちびるを放して、じっと茜を見つめる。
眉根をきつく寄せて総一郎を睨み返す瞳が、少し潤んでいた。
その意味を察することなく、自身が高ぶる。
ぴんと張って揺るがない、といつも思っていた身体は、予想以上に容易く倒れてしまった。
こんな、簡単なことだったのだ。
もっと早くに、実行に移せばよかった。
待っていては何も変わらない。
うっかり愛の告白をしてしまったように、うっかり触れてしまえばいいのだ。
なんてシンプルなんだろう。
せっかくこっちを向いたのだから、と貪るようにまたくちびるを重ねる。
唐突に呼吸を奪われた茜が、逃れようと首を振る。
だけどその顔を捕らえたままに、そっと絡めた利き手を離して服の上から胸に触れた。
初めて触れるその柔らかさに、蜘蛛の糸のような細さを残していた理性がぷつんと切れる。
ぐ、と思わず力がこもる。
「……っ、い、たい!」
暴れて身を捩りながらずり上げた細い身体を追った。
逃がさない、とくちびるを寄せた瞬間に、ぱん、と乾いた音が響いて、頬がじんじんと熱く痺れた。
殴られた、と理解するには少々の時間を要した。
その隙に、ゆるんだ手の下から茜がずるりと身を引き起こす。
総一郎から充分に距離をとって、自分の洋服の胸のあたりを握り締めて乱れた息を整える。
「……ってー」
頬が熱かった。
息が苦しくて胸が痛くて、緩みかけた涙腺をぐっと引きしめた。
「せ、性交渉は合意のもと行うべきだ」
全くその通りだが、釈然としない。
大人のくせに、部屋に男を連れ込んでおいてそんな純情ぶったことを言われても納得できない。
「……その合意は、いつ得られるんですか」
「二ヶ月後」
「は?」
「君の、誕生日」
意味が判らなくて、茜をじっと見つめ返す。
プレゼントは私、なんて言い出すひとではないはずだ。
「……18歳未満の青少年との性交渉は淫行条例に引っ掛かる」
「はぁ?」
今時、誰がそんなものを守っているというのだ。
同級生の中には、小学生の頃に童貞を捨てたと公言する者もいる。
笑いそうになったが、大真面目な茜の顔にそれは引っ込んだ。
「私は一応教職者だ。犯罪は、起こせない。
君が教え子だという事実は一生変わらないが、年齢は、時が過ぎれば超えられる」
急に、バレンタインの時にもらったあのマフラーが思い出された。
あのタグと同じなのだ、とぴんときた。
茜にとって総一郎の年齢は苦悩の種なのだ。
結局、自分が悪いのだ。
まだたった17でしかない、自分が。
とても、茜と釣り合わない、自分が。
現実を突きつけられた気がして、泣きたくなった。
「浅尾。これは私のエゴだと自覚している。その、悪者にならずに済むなら、その道を選びたいんだ」
間違えるのが怖くて、道を踏み外したくなくて、考えすぎてしまって。
自制が強く働きすぎて踏み出せないと以前に言われたことがあった。
最悪のパターンを常に予測して、逃げ道だけは絶対に残して、ずるいやり方だけど、と。
「その、浅尾の同意が得られないなら、君が卒業するまで待つが、」
そっちか。
同意が得られないなら今日でも、と言い出さないところが実に茜らしいではないか。
「待てません。18でいいです」
「……そうか。あの、申し訳ないが、付き合ってもらえるか?」
いつも揺るぎないくせに、口ごもって、言い淀んで、総一郎をじっと不安げ見つめ返す茜を、ほんとうにずるいと思った。
そんな顔をされたら、頷くしかないではないか。
こっくりと深く首を振った総一郎に、茜は眼を細めてありがとう、と小さく言った。
「聞いていい?」
「なんだ?」
「エロいキスしたの、なんで?」
「……あー……、君に、欲情をした」
よくじょう。
とっさに漢字変換ができなくて眉をひそめた。
欲情。
無欲で仙人のように達観している、と思っていた茜にも、本当に欲求があったらしい。
同時に、少しだけ悔しくなる。
「自分だけしたいときにして。理不尽だ」
「全くその通りだ。だからあれ以来、極力君に触れないよう努めてきた。実はその前から私から触れないようには努力していたんだが」
言われてみればそんなような気がする。
そのことを不満に思っていた時期もあったはずだが、総一郎から手を伸ばす分には嫌がられないからすっかりそんなことは忘れてしまっていた。
「じゃあなんで、ご褒美のキスにオッケーしたんですか」
「…………言ったら君が怒りそうだから、言えない」
そんなずるい問答はないだろう。
「怒りません」
こう言うしかないじゃないか。
「絶対?」
「うん」
「よし。……えー……1、満点取る確率は半々だと思っていた」
ぴ、と人差し指を立てて、茜が淡々と告げる。
半々か。いい読みだ。
今日満点が取れたのも、たぶん偶然だ。
つづいて茜が、もうひとつ指を立てた。ピースサインのように。
「2、勉強に張り合いが出たらいいかと考えた」
うん、確かに張り合いは出た。
今までにないくらい真剣に、英単語を覚えようと努力した。
こんなにも英語と向き合ったのは、生まれて初めてだ。
また指を立てながら、さん、とはっきりと発音した後、総一郎を見据えたまま茜が口ごもった。
「さん……?」
「実は私がしたかった」
言ったあとに、顔を俯かせてしまった細い身体を、抱きしめたくなってなんとか思いとどまった。
さっきの今で、それはないだろう。そんなことをしたら、もう一度殴られるに違いない。
「呆れただろう?」
「呆れて、ない。嬉しいです……」
三つの指が立ったその手がゆっくりと開いて、総一郎の頬を撫でた。
「……痛むか? すまない、手加減できなかった」
あの状況で手加減されたら、もっと自分は傷ついていた。
マイナス思考で不安だらけの彼女の心中など何も察することなく、ただ茜に甘えていた自分を、思いっきり殴ってもらえてほんとうに良かった。
確かに頬は痛い。
だけど頬よりももっと胸が痛んだ。
茜の胸はもっと痛いんだろうなと勝手に想像したら、どうしようもなく自分を嫌いになった。
じん、と痺れた頬を摩る白い手が、小刻みに震えていた。
「…………ごめん、」
「違う、浅尾は悪くない。後回しにせずちゃんと話しておけばよかったんだ」
「でも」
震えてる、と掠れた声で告げて、そっとその手を握り締めた。
ああ、と茜がくちびるを歪めた。
「身体が期待をした。本能は正直だ。私の鉄の理性を褒めてくれないか」
出来たらその理性をどこかに捨ててきて欲しい、と心から願ったが、そのジョークに深く追求はしないでおく。
うん、と神妙に頷いた総一郎の額を、茜のひんやりとした手がそっと撫でた。
「ごめん。許してほしい」
そっと首を振る。
許してもらうのは自分のほうなのに。
形のいい指が前髪をかきあげて、顔を覗き込んでまっすぐに視線をぶつけた後に、にこりと笑った。
せっかくの笑顔だったのに、全然心は躍らなかった。
今まで見た中で、一番好きじゃない笑顔だった。
胸が締め付けられる、とはこのことか。
「仲直り、しよう」
「うん……えと、俺……ごめんなさい」
「じゃあ一つだけ。腕力にものを言わせてはいけない。基礎体力が違うのだから」
まったくその通りだ。
物心ついてからは、弟妹との喧嘩にだって本気を出したことはなかった。
押さえつけたら絶対に自分が有利で、力を込めたら痛い、と知っていたはずなのに。
甘い香りのする華奢な身体を抱きしめるたびに、折れそうで怖い、と感じていたはずなのに。
自分が何をしたのか、理解をして赤くなった頬がますます痺れた。
セックスはしたい。だけど、ただしたいわけじゃない。
茜の丸ごと全部が欲しくて、彼女に自分を全部認めてもらいたいのだ。
その茜に、塞いだくちびるの下から何度も嫌だと言われたのに。
17の自分では受けれられない、と茜が言うならどうにもできないのに。
「…………はい」
「覚えててくれればいい。頼んだ」
「うん」
くしゃり、と前髪をなでられた。
くすぐったくて心地よかったけれど、心はまだ晴れない。
「気分転換だ。コーヒーを飲もうか」
「……俺に、淹れさせて」
茜がその両眼をぱちくりと瞬かせた。
軽く頷いた後にふわりと笑いながら立ちあがった。
「おいで」
握ったままの手をぐいと引いて、総一郎を立ち上がらせてくれた。
手をひかれてたどり着いたキッチンで、茜がコーヒーの豆の在り処から淹れ方までを教えてくれた。
三回目、ケトルのお湯を注いで、芳香に包まれながらの沈黙が息苦しくなって口を開く。
「あの」
「なんだ?」
「二ヶ月後って、泊まらせてくれるの?」
ケトルを握る手に、ぐっと力が籠る。
現金にも訪ねた問いに、茜がこちらを見ないまま頷いた。
もちろん、とくちびるがゆっくりと動く。
「…………じゃあ、そんときの朝のコーヒーも、淹れさせて」
「あー……最後まで抽出すると渋みが出るから、量が入ったら途中でもドリッパを離すこと」
実験の時のように淀みなく解説をしながら、ドリッパを引き上た。
サーバに蓋をかぶせて、氷をたっぷりと詰めたマグに注ぎいれながら、小さな、小さな声で茜がつぶやいた。
「…………楽しみに、してる」
「楽しみに、してて」
ぱきん、と氷の割れる音が、胸につんと響いた。
早く二ヶ月が過ぎればいい、と切実に願った。
早く、茜に相応しい自分になりたかった。
とりあえず年齢だけでもいいから、早く。
実はあの言い淀んだ「さん」には続きがあって、「4.君が判り易く苦悩をあらわに身悶えている様子に一種の悦楽を覚えていた」と聞かされたのは、
二ヶ月後からさらに半年ほど後の、総一郎が高校生という肩書を捨ててもう一つ彼女に追いついたと実感したころの話である。
*
以上です。お付き合いありがとうございました。
たまたま覗いたらリアルタイムでキテター!
茜さんエロカワイイよ茜さん
2ヵ月後の話が楽しみでならないです、GJでした。
自分も、念のため覗いたら……!!
8月の話も、切ねえーっ
二人のせりふじゃないけど、続き楽しみにしてる。
GJ!!!
切ないし、最後にしっかりオチもつけてくれてもう言うこと無しです!
ドSかわいいよドS
たまらない、たまらないよー!GJ!!
文章から滲み出るエロス、丁寧に描かれる青少年の葛藤と情景描写。
濡れ場がなくてもエロいというのはこのことかっ!!
このまま付き進んでくれー。
ちょっと2ヶ月後の未来に行ってくる。
┗(^o^ )┓三
┏┗ 三
ありがとう
二人ともかわいいなー
10月にエロなんかになったら
受験大丈夫かいな
また1回だけてでお預けか…?
投下行きます。エロなし キスのみ。
9月のはなし。
化学部一年生の長峰一葉は、確かに可愛いと思う。
目が大きくて声が高くて小動物のようだし、セミロングの髪は柔らかくて細い猫っ毛で、どんな原理か毛先がくるんとカールしていて、思わず触ってみたくもなる。
制服のスカートも潔く短くしているが、そこから伸びた足はとても健康的だし、何より小さな身体に大きな胸、というアンバランスな感じが素晴らしい。
元気で素直で明るくて、怒ったり落ち込んだり、笑ったり喜んだり忙しい。茜とはまったく正反対だ。
たとえば何てことない実験でも、「すっごーい!」と誰よりも喜んで結果を眺める。
そんな彼女に、茜も目を細めて嬉しそうにする。
張り合いが出てよかったですね、と話したこともある。茜はそうだなと頷いた。
彼女の高い声で、「浅尾先輩」と笑顔で屈託なく呼ばれると少しだけうきうきする。
長峰はとても懐いてくれていた。次期部長は、二年生をすっとばしてあたしが、と張り切っている。
妹がもう一人出来たみたいだ、と総一郎は思っていた。
だから必要以上に距離をつめすぎていたと、気がつくのがとても遅れた。
*
進路指導が長引いて、部活動への参加が大幅に遅くなり、廊下を小走りに急いでいた浅尾総一郎の耳に、大声が実験室から聞こえてきた。
「うるせー、このアンドロイド!」
実験室の扉5歩手前にいた総一郎は、慌ててドアに走り寄ってがらりと開けた。
3つの影が、はっとして一斉にこちらを振り返る。
夕焼けに染まる実験室には、変な空気が流れていた。
「…………朝倉?」
声の主はおそらく朝倉だ。
総一郎に呼ばれた彼は、行儀悪く舌打ちをして俯いた。
少々の沈黙を破ったのは、長峰の高い声だった。
「……あんた、茜ちゃんに何てこと言うのよ! 謝んなさいよ!」
「ホントのことじゃんか、何でも判ったような顔して。先生がそんなに偉いのかよ!」
「なに子供みたいなこと言ってんのよ、意味わかんない!」
「どうせオレは子供だよ、悪いかっ」
「次は逆切れ!? あんたホントにサイテー!!」
「長峰、」
抑揚のない茜の声が二人を制した。
興奮した猫のようにいからせた長峰の肩をそっと抱いて、まぁまぁ、というように落ち着かせる。
「茜ちゃん」
「朝倉。私の無神経な発言が君を傷つけたのなら謝ろう、すまなかった。だから君も長峰に謝るべきだ」
「……オレ、ホントのことしか言ってねーし」
「………………そうか。朝倉、頭を冷やすように。今日は解散。
明日また今日の続きを作る。ちゃんと来なさい」
展開についていけない総一郎を置いて、事態は収束を向かえた。
朝倉は子供みたいな膨れっ面を隠そうともせず、机上の鞄をひったくって総一郎の脇を無言ですり抜けていく。
長峰の肩を抱いていた茜が、彼女の顔を覗き込んでそっと頭を撫でた。
ああ、あれは反則だ。
長峰が女の子じゃなかったら、ヤキモチで自分がどうなってしまうか判らない。
「長峰は優しいな。自分のことだけに傷ついていていいのに」
「朝倉のバカなんて気にしてないもん」
「そうか。大丈夫、君は可愛い。自信を持っていい。朝倉は過渡期なんだ」
「カトキってなに?」
「思春期ってことだ。そのうち、今日のことを恥ずかしく思う日が来る」
状況の説明を求めたかったが、口を挟める雰囲気ではなかった。
口を情けなく開けて、ぼんやりと二人を見つめる。
「明日、朝倉と顔を合わせたら、できるだけ普通に接してやってくれ。君が嫌じゃなかったら」
「もちろん、大丈夫」
そうか、と柔らかく頷いて、もう一度、長峰の細い髪をくしゃりと撫でた。
茜のクールさは、人見知りと照れと緊張から来ているらしいと、この一年生二人を見ていて知った。
ちゃんと活動に参加している朝倉も長峰も、きちんと名前を覚えられた。
独り占めをしていたはずのあの柔らかな笑顔を、最近はこの二人に、特に長峰にはよく見せているし、ああやって目をしっかり合わせて話もする。
授業とはずいぶん違うその様子が嬉しくて、彼らは部活動に熱心に参加しているに違いない。
いまや化学部の活動部員の参加動機は、全員が茜だ。
特に、長峰には、自分の居場所をまるまる取って変わられた気すらする。
二人で楽しそうに話していると、男子二人はそこに絶対に入っていけない。
今まで、部活動において唯一の信頼を置かれていたのに。
一学期の半ばごろまでは、長峰の名前がどうしても出てこない茜が助けを求めるように総一郎を見上げたりしていたのに、今はもうそんな役得は一つもない。
もちろん茜は平等だ。平等に話しかけるし、順番に実験役も記録係も任命するし、掃除も片付けも全員で取り組む。
平等じゃ嫌なのは、総一郎の我がままだ。よく知っている。
秘密の家庭教師や、携帯電話のメール、休日のデートで、ようやく自分を保っていられる。
「じゃあ解散。部長、せっかく来たのに悪かったな」
「いえ、別に。あの、何があったんですか?」
「ん、まぁ、大したことじゃない。朝倉の名誉の為にヒミツだ」
茜はずいぶん朝倉に甘い。
穿った目線だろうか。
アンドロイド、などと言われて、なんとも思ってないのだろうか。
「鍵を取りに行ってくる。二人とも帰っていい」
「あ、はい」
「うん。判った」
「お疲れ、気をつけて」
軽く片手を挙げて、茜はさっさと実験室を出て行ってしまう。
その淡々とした様子を見て、朝倉のアンドロイド発言はもしかして的を射ているのかなとふと思った。
「あのさ、長峰。結局なんだったの?」
鞄をごそごそと整理している長峰に、声をかける。
「茜ちゃんがヒミツって言いました」
「そうだけど、気になるじゃん」
「うーーーん。朝倉は、茜ちゃんが大好きねってハナシかな」
「朝倉が?」
そう、と長峰が頷いた。柔らかそうな毛先がふわりと揺れた。
朝倉が、センセイを?
それはどういう意味の好き、なのか。
まさか恋ではあるまいな。
10以上も年上の教師に恋するバカなんて、自分だけだと思っていた。
「先輩も、ですよね?」
長峰の大きな瞳がこちらをじっと見ていた。
まるで観察を、するように。
「……俺?」
「そう」
心の準備が出来ていなくて動揺した。準備が出来ていてもきっと動揺しただろう。
何せ嘘や隠しごとには自信がない。
「そりゃセンセイは美人でカッコイイとは思う。長峰もそうだろ」
「うん、そう。でも、先輩のはもうちょっと不毛な感じ」
「なんで?」
「なんとなく」
女の第六感、てやつか?
そういえば妹にもお兄ちゃん彼女できたでしょって言われた。結構早い段階で。
本当に女は恐ろしい。
「でもダメだよ、全然ダメ。茜ちゃんが先輩を相手にするとは思えない」
ちょっとホっとした。
相手にされている、とは知られていないらしい。
「そんなの、」
「だから、…………あたしに、しませんか?」
一瞬何を言われたか判らなかった。
長峰は怖いぐらい真剣な表情で総一郎を見つめている。
冗談だろ、なんて、冗談でも言える雰囲気じゃなかった。
急に腕を取られた。長峰は手が冷たくない、と少し驚いた。
とっさに引く前に、胸に抱きこまれて身動きが取れなくなる。
「長峰」
「はい?」
「当たってるんだけど」
「当ててるんです」
最近の若者は、と年寄りみたいに思った。
自分は、先日うっかり茜を押し倒して殴られたというのに。
「おっきいでしょ?」
「おっきいな」
一瞬触れた茜の……3倍ぐらいか。
こんなこと口が裂けても言えないが。
「おっきいの、好き、ですか?」
「まぁね。でも離れてほしいな」
「どうして?」
「どうしてって……どきどきしちゃうから」
「どきどきして欲しいの。先輩……あたし、どうですか?」
どうと言われても。
質問の意味が判らなくて、困惑する。
長峰が、上目でこちらを見上げている。
「先輩」
「………………あー……」
「ずっと、好きだったんです。気付いて、もらえなかったけれど」
それは部活の間中茜に見とれていたせいだろう。悪いことをした。
気づいていたら、気安く頭を撫でたり軽口を叩いたり、メールを交換したりはしなかった。
長峰のメールは、朝倉からのメールと同類ではなかった。
今になって知った。必要以上に距離をつめすぎていたと。
「つ、付き合って、欲しい、です」
非常に困った。
こういう空気は苦手だった。
こう、甘酸っぱい感じが。いかにも青春って空気が。
去年、うっかりクラスメイトに愛を告白されたときも恥ずかしいほど動揺して、裏返った声で「好きな人がいる」と言うのが精一杯だった。
長峰は確かに可愛い。
可愛いし、話していて楽しいし、年もぴったりだし、理想的で健全なお付き合いができそうな予感がする。
この大きなバストも青少年には魅力的だ。
でも長峰は妹だ。妹とは恋愛できない。
そうじゃなくても、総一郎には、茜しかいない。
好きなのは、キスしたいのは、触りたいのは、一緒にいたいのは、ドSでヘンタイで天邪鬼な愛しのセンセイだけだ。
「だ、ダメですか?」
長峰が、泣きそうな顔でこっちを見ていた。
「……ダメっていうか、」
「返事! 今じゃなくていいんです。考えておいてください」
考えたって答えは一つだ。
答え方を考えろってことか? できたら、長峰には嫌われたくない。
とっさに言い返せないでいるうちに、長峰はじゃあと言って出て行ってしまった。
厄介ごとを後回しにすると、ろくな展開にならないと、知っていたはずなのに、どうにも対処できなかった自分が歯がゆかった。
甘酸っぱすぎる余韻にどきどきしながら実験室を出ると、ちょうど鍵を手に茜が戻ってきたところだった。
やあ、気をつけて、とだけ言うと、彼のほうをちらりとも見ず実験室へと入っていってしまった。
その空気に一瞬あれ、とは思ったが、後ろめたさのほうが上回っていた。
なにせ自分は、長峰の迫力あるバストにときめいていたところだったのだ。
翌日の化学部は、一見日常を取り戻したかに見えた。
けれど確かにそれぞれが何か思惑を抱えていて、口数が少なくて妙な雰囲気だ。
朝倉は実験室にやってきたもののまだ拗ねたような態度を取るし、長峰はさすが平素と変わりなく振舞うものの、時折何かを訴えるような目で総一郎を見つめる。
そして茜は、普段の数倍クールだった。
メールもあまり返事をくれないし、休日の家庭教師も文化祭前で忙しいからと断られた。
何か怒っているのか、と聞きたくても、長峰にちゃんと返事をしていない自分がそれを言ってはいけないような気がした。
居心地の悪い妙な空気は、翌週の文化祭まで続くことになる。
普段は顔も見せない幽霊部員たちが、義務感たっぷりとても面倒くさそうに参加するこの期間は、果たして救いだったのかそうじゃなかったのか。
*
去年もこうして二人で、ちょっと暑い実験室にぼんやりと座ったな、と思い出した。
こっちを見て欲しくて、面倒な掲示物一生懸命作ったし、もしかして二人っきりになれるかもと店番を買って出た。
案の定だった。
茜はどうだったか知らないが、ものすごくどきどきして幸せな二日間だった。
……思い起こせば甘酸っぱい。
だけど今年は重苦しい。
せっかく二人っきりなのに、会話もない。
今も、話しかけようと口を開く前に、席を立って準備室へと消えてしまった。
戻ってきた彼女が、総一郎の前にコーヒーのマグカップを置いてくれた。
茜も自分のうさぎ柄のマグを片手に、総一郎から遠く離れた教壇付近のいすに座り、足を組んで教科書を捲り始めた。
まだ暑いのにホットとは、と思ったが、おとなしく礼を言って、冷めるまで待ってから口をつけた。
「……あまっ」
極限に甘かった。フルーツ牛乳にさらにガムシロップを溶かしたかと思うぐらい甘かった。
コーヒー色をしているのに、ちっともコーヒーの苦みが感じられない。
ちょっと格好をつけて飲み始めたブラックコーヒーはすでに口に馴染んでいるというのに、いったいどういう仕打ちだ。
「センセイ、甘いです」
「唐突に溶解実験をしたくなった。100ccのコーヒーに何gの砂糖が溶けるか」
「……何gでしたか」
「6g入りスティックシュガー10本」
60g。砂糖過多で死んでしまう。
そうか、それでマグカップ半分なのか。せめてものの優しさか。なんて見当違いな優しさだ。
耐えられない、こんな空気は耐えられない。
だめもとで、声をかけてみる。
「…………センセイ」
なんだ、と小さく聞こえた。
どうやら返事はしてもらえるらしい。
「文化祭も、もうすぐ終わりですね」
「ああ」
「俺、引退ですけど」
「そうだな」
「……寂しい?」
「別に」
「………………………………」
嫌だな、ほんとうに何を怒っているんだろう。
思い当たるフシは長峰しかない。
あの時、自分より先に実験室を出て行った長峰は、茜とすれ違ったはずだ。
そのときに、もしや。
「俺が引退しちゃったら、化学部どうなるんでしょうね」
「長峰が来なくなるかもしれない」
そこで長峰ですか。
長峰から何か聞いたのか。だったらはっきり言えばいいのに。
だいたい好きになられたのは自分の責任じゃない。
茜だって、朝倉を甘やかしているくせに。
長峰の名前は覚えられなかったくせに、朝倉は一度も間違えたことがないのはどうしてなんだ。
「……そしたら朝倉と二人っきりですね」
「そうだな」
「次は朝倉に、暖めてもらうんですか?」
「君がそうしろと言うのなら」
言うわけない。口が裂けても言わない。
苛立って席を立つ。
大またで近づいて、茜の前に立った。彼女はやはりちらりともこちらを見ない。
「長峰に何か聞いたんですか」
「なにも?」
「じゃあ何を怒ってるんですか?」
「怒る? 私が?」
「怒ってるでしょ。こんな地味に嫌がらせするぐらいなら、ハッキリ言えばいいじゃん。
なんで長峰をちゃんと振らないのかって」
「君と長峰の問題だ。私が干渉する権利はない」
「……センセイって、そういうとこホント冷たいですよね。俺が、長峰に誘惑されてもいいんだ?」
茜がようやくこちらを見上げた。
いつもの無表情だ。
「勝手に誘惑されてればいい」
自分は熱くなってイライラして、口調もつっけんどんになってきているのに茜はいつもように淡々と低く話す。
本当に彼女が怒っているのか、自信がなくなってくる。
浅尾などもういらない、と、考えていたらどうしよう。
だけど不安に思う心情とは別に、口が滑る。
「センセイって実はアンドロイドなんでしょ。俺が誰とどうしようと、気にならないんだからさ」
茶色い目が少しだけ見開かれた。
ひどい暴言だと自覚していた。
だけど止められなかった。
「俺にだけヤキモチやかせて自分は涼しい顔して、いつも俺のことからかって、振り回して、自分だけ淡々としてて冷静で、」
「浅尾」
低く呼ばれて身体が硬直する。
茜が急に立ち上がった。
殴られる、と目を閉じたが、白い手は飛んではこず、総一郎の手首を強く握って歩き始めた。
ぐいと引きずられるようにその後に続く。
細い指が手首にめり込んで、骨が痛い、と思ったが振りほどけなかった。
実験室から続きとなっている準備室のドアを開けて、投げ出すように総一郎を中に入らせた。
茜も身を滑らすと後ろ手でドアを閉めながら、そこに座りなさいとハッキリと言った。
大人しく、事務椅子に腰を下ろす。キィと間抜けなトーンで椅子が軋んだ。
かろうじて窓は開いているようだが、遮光のために引かれたカーテンが風を遮っていてむっと熱い。
背中を、汗がひとすじ流れていった。
茜が一歩近づく。
その顔に感情は何も浮かんでいない。
目の前に立った茜に、まっすぐに顔を覗き込まれた。
暑さのため、軽く緩めていたネクタイを掴んで、ぐい、と引いた。
「甘えるな。君の感情は君にしか判らない。結論は自分で出すしかない。
私が『長峰に惹かれないでほしい』と言ったところで、強要や拘束は不可能だ」
いつもより口調が緩やかだ。
それが余計怖い。
「……間違っているか?」
迫力に押されながら、それでも何とか首を左右に振る。
顔が近い。
こんな状況でも襲いたくなるから、あまり近寄らないでほしい。
「君は、思い違いをしている。私はアンドロイドではない。嫉妬も、独占欲も、性欲も、ちゃんと持っている。ただ、見せられないだけだ」
白い指がそっと顎に触れて、かと思ったら赤いくちびるが近付いてきた。
軽く触れた次の瞬間には、下くちびるを強く噛まれて身体が震えた。
思わず開いたくちびるの隙間から、コーヒー味の柔らかい舌が入り込んできて総一郎の舌に絡んだ。
驚きすぎて、ただされるがままになっていた。
茜の舌がゆっくりと先端に触れて、軽くつつく。舌と下あごの間に入り込んで、好きに這い回る。
強く吸われて、意識が溶けた。応えようと必死に舌を蠢かす。
はめたままの銀のフレームが、頬に当たってちょっと痛い。
カーテンを押し上げて、生暖かい風がふわりと室内に入り込んで火照った頬を撫でた。
「……ふ……」
茜のくちから声が漏れて、更に驚いた。
今、これはどういう状況?
ここはどこだったか。
息苦しくて長いキスは、唐突に終りを告げた。
名残惜しそうにもう一度くちびるを食んで、茜が顔を離す。
ほぅ、と息を吐いた茜が、睨むようにこちらを見据えて眉根を寄せる。
「くちの中が甘い」
「……溶解実験のおかげです」
「そうか」
「センセイ、あの、ここ学校ですけど」
「知ってる。我慢できなかった。二度としないから、今日だけ許してほしい」
鉄の理性が崩れるなんて、思いも寄らないこともあるんだと少し嬉しくなる。
茜の両手が、首に回ってふわりと抱きしめられた。
控え目な甘い香りが、肺の奥まで入り込んできた。
だらりと垂らしていた両手の所在を決めかねて、おずおずと白衣の背中に手を回す。
ぴくりと薄い身体が揺れて、息を深く吐いた茜がますます強く、総一郎の頭を抱き込んだ。
意外にもアンドロイド発言を気にしている茜は、間違いなく人間だ、と改めて思う。
こんな素敵なぬくもりを持った、生身の人間だ。
「……センセイ、もしかして、ヤキモチ?」
「まぁ……そうだ。君と長峰が並んでいると、あまりにお似合いだから……身を引こうとか、考えてみた。
でもだめだ。長峰には渡せない」
「渡されるつもり、ありませんけど」
「ん、そうか」
「そうです」
「……そうか」
ほっとしたように茜がつぶやく。
これだ、とふと思った。
欲しかったのはこれだと。
去年の衝撃的な愛の告白から、お互いなんとなく好きあってきたけれど、思えばあれ以来ハッキリと好きだと口にしたこともされたこともなかった。
照れが混じって、とてもとても言えなかったが、茜は何げない動作や言葉で、ちゃんと総一郎の想いを受けとってくれていた。
だけどたまには、ハッキリと、声に出して伝えてもらいたかったのだ。
嫉妬、という形で、自分は茜の想いを確認したかったのだ。
気が付いてしまえば、子供っぽい我がままでしかない。
茜がさっき言ったことは、1から10まで正論だ。
急に自分が恥ずかしくなる。
「あの、さっき、暴言吐きました。取り消させてください」
「ああ、うん。私のほうこそ……すまない、八つ当たりをした」
「時々子供みたいですよね」
「衝動が抑えられなかった。盗み聞きもしたし、らしくなくて少々恥ずかしい」
あの日、実は鍵がポケットに入っていたのに実験室を出てから気がついた、と頭上から言い訳じみた言葉が降ってくる。
立ち聞きのほうだったのか。
「…………浅尾、長峰は可愛いな」
「まぁ可愛いですね」
「あの胸はいい。私でもうっかり揉みしだきたくなる」
「オヤジですか」
「否定はしない。あの大きさがあればパイズリも可能だ」
パイズリ。
何てことを言うんだ。
長峰の、あの胸で……パ、
「今想像しただろう?」
「……してません」
「生憎、私では不可能だ」
「してほしいなんて言ってないでしょ」
「私が出来ることと言えば足コキぐらいか」
「いりません、っていうか下品です」
「下品で結構。君にも我慢を強いているが、私もかなり限界だ。知らないだろう?」
自業自得のくせに何を言う。
別に自分は、今すぐにここでそのボーダーラインを越えてしまってもいいのだけど、それは無理な話だし、一応納得済みなので追求はしない。
「………………知りませんでした」
「なのに君は長峰の胸を楽しんでいた。アンフェアだ」
実験室の扉の窓から、長峰の迫力ある胸に触ってちょっと嬉しそうな顔をしていたのを見られていたのか。
そりゃ怒るわな、と他人事のように思った。
しかしこれは、総一郎が他人に触れたことに対してなのか、長峰の胸に触れたことに怒っているのか、微妙な発言だ。
意外にオヤジだから確証は持てないが、たぶん前者で間違いないと思う。
「…………2週間か……長いな」
苦々しげに低く呟いて、茜が身体を離した。
2週間後にはもう総一郎の18歳の誕生日だ。
待ちわびているのは自分だけではないらしい。
もしかして一緒にその日を迎えられないのでは、と少々びくびくしていた総一郎はほっとため息をおとした。
「先に、戻ってくれ……あたまを冷やしてから行く」
いつかのように、自分の事務机で苦悩を露に頭を抱えていた。
「早く戻ってきてくださいね」
「……努力する」
年季の入ったクールビューティな茜のことだから、きっとすぐに戻ってきてくれるに違いない。
準備室のドアを開けようとして、降りた鍵に気が付いた。
ぷっつんしててもさすがの冷静さだ。
ドアを開ける一瞬前に、振り返って声をかける。大事なことを言い忘れていた。
「センセイ」
「なんだ」
「どっちかっていうと、貧乳萌えですから」
「誰が」
「俺。ってかセンセイのならどっちでもいいんですけどね」
ちょっと面食らったように茶色い瞳をぱちくりとさせた茜に、彼女がよくそうするようにひらひらと手を振って準備室を後にした。
実験室は相変わらず無人でほっとした。
5分と予想したが案外大きくそれを裏切って、10分後に茜は戻ってきた。
ちゃんといつものポーカフェイスだ。
「……今日、長峰にちゃんと言うつもりだったんです」
「なんて?」
「妹にしか思えないって。とりあえず受験でいっぱいだから、困る、とか」
「長峰だったら、受験が終わるまで待つと言うだろうな」
「……その頃には違う人を好きになってないかな」
「さぁどうだろう。断る相手に期待をさせてはいけない。
彼女の気持ちに応えられない以上、君はきちんと傷つけないといけない。
残酷なようだが、嫌いになれたほうが楽だ」
「経験談?」
「一般論。あいにく語るほどの経験はない」
ちょっと安心した。
長峰の話をしているのに、自分は茜のことしか考えていない。これは本当に重症な恋の病だ。
今回も茜センセイ可愛いよ!
文章も読みやすく、丁寧な仕上りですね
今後も楽しみだ ああ、楽しみだ〜w
このままずっと続いてくれれば良いのに…。
しかし長峰を傷つけて、彼女はどうなってしまうのだろう。
思考を読んだかのように、茜が続ける。
「大丈夫、人はそんなに弱くない。長峰には友人も多いし、朝倉が慰め役を買って出る」
「朝倉?」
あれ、朝倉は茜にご執心ではなかったか。
「知らなかったのか?」
「センセイに夢中で気付きませんでした」
化学部がそんなややこしい人間関係になっていたとは。
朝倉とも長峰とも、普通に仲良くしてきたつもりだったのに、全然知らずにいた。
どんだけ茜に夢中だったんだ。
「部活内恋愛禁止にした方がいいのかな……」
「それは君と私が言える立場ではない」
もう引退だからどうでもいいが、自分が吸ってきた甘い密を後輩たちに禁止するのは確かに気が引けた。
先週のあの日に何があったのか、茜はヒミツだと言いながら教えてくれた。
実験中にいつものようにふざけた朝倉を、いつものように長峰が高い声で怒った。
「茜ちゃんに構ってほしいからってふざけないで! やる気ないなら帰りなさい、あんた何しにきてるのよ!」
なかなかにキツイ言葉である。
実験などやる気はなくただ茜を見に来ている自分がその場にいたら、人知れず傷つきそうだ。
「何だよ、ブス! オマエだって一緒だろ」
二人の夫婦漫才のような口げんかには常々傍観を決め込んでいた茜も、さすがにこれは気になって、思わず口を挟んだ。
「ブスはよくない、朝倉。言葉の暴力だ。取り消したまえ」
「ホントのことだろ! オマエみたいなブス、だれも相手にしねーよ!」
「朝倉よ、気を引きたいなら逆効果だ」
うっかり言ってしまったらしい。
そしてあの「アンドロイド」に繋がるわけだ。
ヒートアップしている所へ茜の淡々とした声音は火に油だし、直球で図星を付かれた朝倉が素直になれないのもよく判る。
長峰が自信喪失で思い余って総一郎に告白してきた経緯がよく理解できた。
聞いてしまえば大した事件でもない。当事者には悪いが。
長峰一葉は間違ってもブスではない。
ぱっと輝くようなその笑顔は印象的で可愛らしい。その笑顔が見えないと心配にもなる。
甘え上手な割にしっかりしていて、裏表がなくてまっすぐで、よく笑ってよく喋り、場の空気をとても和やかにしてくれる。
朝倉が好きになってもおかしくはない。
言いたいこと言い合っている二人はお似合いな気がしてくるから不思議だ。
うっかり朝倉と長峰がうまく行けばいい、と無責任に思った。
*
数十分後に長峰が交代をしに戻ってきて、茜が職員室に戻る、と言っていなくなってしまった。
ちゃんと言え、と無言のプレッシャーを感じる。期待に応えないといけなくなった。
「あのさ、長峰」
「なんですか」
いつもの高い声が、今日は弾んでいない。
「こないだの、返事なんだけど」
「……うん、」
「言いそびれたんだけど、俺さ、彼女いるから」
「…………そうなんだ、知らなかった」
「そういうわけで」
「どんな人ですか?」
「え?」
「彼女」
「うーん、年上。家庭教師なんだ」
ギリギリ嘘ではない。茜は教師兼家庭教師だ。
大学生? と尋ねた長峰に、総一郎は曖昧に微笑んだ。
「年上好きなんだ。やらし」
「たまたま好きになった人が年上だっただけ」
「ふーん……年上って、優しい?」
ちょっと返事に困った。
茜が優しい、と思ったことは実はあんまりなかった。
勉強に関しては間違いなくスパルタだ。
「優しいよ」
「美人?」
「うん」
「どのくらい付き合ってるの?」
「一年ぐらい」
「茜ちゃんは?」
「センセイが、なに?」
「好きなんだと思ってました」
「俺が好きなのは今の彼女」
同一人物だけど、と意地悪く思いながら、こうやって煙に巻くやり口はセンセイにそっくりだなぁと痛感する。
性格悪くなりそうだ。
だけどほんとうのことはどうしても言えない。
長峰を信用していないわけではないけど、どこから何が漏れるか判らない。
生徒に手を出した、なんて噂が立ったら、困るのは茜だ。二度と教鞭を取れなくなるに違いない。
総一郎が高校を卒業するまでは、誰にも知られてはならない。そのことは何度も話し合ってきた。
ぎゅっと引き結んでいたくちびるを、かすかに震わせながら長峰がにっこりと微笑んだ。
「判った、ありがとうございます。その人とダメになったら声かけてね」
「……だめにならない、と、思うよ」
「いじわるぐらい言わせてよ」
今にも泣きそうに笑う彼女に、長峰は可愛いよ、と声をかけたくなって何とか思いとどまった。
いい人になど、なってはいけない。
長峰になんと思われようと、自分が認めてほしいのは茜だけだ。
それを間違えてはいけなかった。
少し一人にしてもらえます、と懇願をした長峰に、素直にうなずいて実験室を出た。
最初の角を曲がった踊り場に、白衣のポケットに両腕を突っ込んで、壁に背を預けた茜がいた。
「ちゃんと言いましたから」
そう言った総一郎を見上げると、ちょっと寂しそうに微笑んだ。
長峰を傷つけた罪悪感を、茜も感じているに違いない。
彼女をただ泣かせてやることすらも、出来ないのだ。
ありがとう、と低く呟いた声音を漏らさず聞き取った。
茜も不安だったのだ。
不安にさせるなと常々言われているのに、本当に己は甲斐性なしだ。
今すぐに抱きしめたい衝動をなんとか抑えて、自分の教室へと向かった。
茜も隣に並んで、職員室へと向かう。
一瞬だけつないだ手は、残暑に似つかわしくなく冷たかった。
誰かを傷つけたばかりなのに、こうして並んで歩けることが嬉しくて仕方ない。
恋とはなんて、盲目なものなのだろう。
他人に言えない恋愛なんて、不道徳で非常識であるはずなのにこんなにも溺れている。
茜の冷たい手は、それを咎めているような気がした。
*
以上です。
2レス目の番号間違えました。申し訳ないです。
お付き合いありがとうございました。
GJ!!!!!!!!11
なんか先生って、ネットでエロ小説を読むのが好きそうだなー。
耳年増っつーか。
>>657 今回もGJ!!
この背徳感、たまらない・・・!
次はいよいよ十月か、エロを、容赦なく激しいエロを渇望する!!
ああ、また念のため覗いて、ヨカッタ!!!
どきどきしたよー。
そいでもって、次もどきどきするよー。
GJ!!!
これだけのクオリティでこの投下ペース・・・本当に恐れ入ります。
次回の投下も楽しみです
>>658 既に年増・・・ ゲフン、ゲフン!
9月はもともと予定外でしたので、続いて10月行きます。
エロあり。
>>657 GJ!
相変わらずの高クオリティですね。
んで、次は遂にエロか。堪らんね。
正直、先生より長峰に萌えてしまった。
くちびるがそっと触れ合った。
何かを確かめるように何度も触れるだけのキスを繰り返して、茜の細い身体を抱きしめた。
小さく身を震わせた茜は、定位置を決めかねるようにもぞもぞと動く。
構わずに、舌を差し入れようとするものの、そのくちびるはぴったりと閉じて開く気配がない。
仕方なく、くちびるをぺろりと舐めた。
腕の中でその身体がぴくりと震え、総一郎の身体を引き離すように両手が胸を押し返す。
驚いて茜の顔を見やると、眼鏡のない茶色い瞳を幾度か瞬かせて、ゆっくりと総一郎を見上げた。
「な、なに?」
「……あー……なんでもない」
「どうしたの?」
「ああ、ちょっと……」
そう言ったきりうつむいてしまった茜の白い頬を見つめた。
湿り気を帯びた黒い髪が、頬に影を落としている。
先程から鼻腔をくすぐる、ふわりとした甘い香りは彼女のシャンプーだろうか。
いつもの香水とは違うが、これもいい。こんなものにもときめいている。
そもそも待ちに待った今日という日に、何日も前からドキドキしていたのだ。
センセイ、と呼びかける代わりに、華奢な手首を握った。
また驚いたように腕を引いた茜が、どんどんと深くうつむいていってしまう。
「……センセイ?」
「あ、ああ、すまない……」
「どうかした? まさか、またお預け?」
「いいや、そうじゃない」
茜が首を左右に振ると、またふわりとシャンプーの香りが漂う。
今まで散々、焦らされてきたのにまたここで生殺しか、とふと思う。
そうなったらどうしよう。
ほう、と大きく息をついた茜が、その頬を総一郎の胸に摺り寄せた。
部屋着を、ぎゅっと握られてドキリとした。両手の位置を定められないまま、茜が低く呟く。
「白状しよう、ちょっとビビッている。……ちょっとじゃなくて、かなり」
ビビる。
また珍しい言葉がこのくちから飛び出したものだ。
わが道を淡々と進む、が、このひとの持ち味ではなかったか。
だけどからかう気にはなれなかった。
ほかならぬ自分自身も、かなりビビっている。
「…………俺も、ビビってますけど」
「うん、知っている。さっきから妙な空気だ」
「ですよね。で、何をビビってるの?」
「その、ほんとうにこれでいいのか、とか。まだ浅尾は教え子だ」
「うーん、まぁいいんじゃないですか。何とかなるって」
「軽いな。あとは、まぁ、どんなもんだったか思い出せない」
「何が?」
「セックス。優しくフォローを、と思ってみたものの、自信がない」
「そんなの、俺のほうが自信ないですけど」
「君はいいんだ。まだ若いし、初心者なんだから。私がいい年して純情ぶってみたところで得るものはなにもない」
見栄っぱり。
ふと出てきた言葉はそれだった。
くだらないプライドのように思えた。
しかしそもそもプライドとは弱い自分を隠して守るためのものだ。……現国の例題文の受け売りだが。
彼女は、10も歳が上だからというコンプレックスを、総一郎を振り回すかのように自分のペースに持ち込むことで覆い隠してきたのかもしれない。
だからどんなにくだらなくても、否定だけはしちゃいけないと何となく思った。
「ちゃんとできないと、なんか困る?」
「君が自信喪失でトラウマにならないか心配だ」
「ああ、そう……そりゃどうも」
でも、と低く呟きながら、居場所を決めかねていた両腕を茜の背に回して抱き締めた。
「いつものセンセイのほうが、いいな」
「いつも?」
「ドSでヘンタイで、天邪鬼でうそつきでクールなセンセイ」
「ドS……そんな風に思っていたのか。ものすごい悪人に聞こえるな」
総一郎の好きな、指どおりのいい黒髪を弄んでさらさらと撫でた。
茜はくすぐったそうに肩をすくめたが、大人しくされるがままになっている。
猫みたいだ、と思った。
「だってそうじゃん。迫る方が好きとか言ってキスも、エロいキスもセンセイからだったし」
「……言わせてもらえば、愛の告白は君からだ。勝手に手を握ったり抱き締めたり、結構自由にやってるじゃないか」
「嫌がられないもん」
「む」
「俺が18になったらってのも一人で決めちゃうし」
「…………まぁ、そうだ。謝ろう」
「いや、別に謝ってくれなくていいです。だから、そういう風に我が道をいってるセンセイが、いいなって思うわけですよ。今日のセンセイ無理してる感じするし」
「無理ぐらいはする。……だが……この、『さあ致しましょう』という空気はちょっと辛い。こう、何となく始まるのが一番盛り上がる」
「…………経験談ですか?」
「あー、トップシークレット。ともかく、明確に時間を区切りすぎた感があるな。……身構えてしまってどうにも」
今日はよく口ごもるな、と場違いに感じた。
普段は大抵の場面においてよどみなく淡々と滑るその口が、今は言葉を選びながら、慎重に発言をしている。
「別に、また後日でもいいですよ? そしたらなんとなく始められるじゃん。今日は一番におめでとうって言ってもらったし」
それで充分、と続けようとしたら、腕の中の茜が急に起き上がった。
キレイな眉を中央に寄せて、面白くなさそうな顔をしている。
「そう言われては立つ瀬がない」
天邪鬼め。
折角、ものすごい決意で身を引く宣言をしたのに。
この人はこうやって自分で自分を追い詰めるに違いない。
「そうか、柄にもなく君に身を任せようなどと殊勝なことを考えたのがこの居心地の悪さを招いたのだな」
「は?」
ドSの目が輝いてきた。
するりと総一郎の腕から抜け出すと、彼の足の間に膝を立てて上から見下ろす。つややかに湿気を含んだ黒髪が、さらりと白い頬に影を落とした。
ひんやりとした白い手が、前髪をかきあげて額を撫でた。
突然の出来事に、ぼんやりと茜を見上げるしかない総一郎に向かって、くちびるの端を素敵に歪めた。
「私に、君の童貞を奪わせてくれ」
絶句した。
セクハラだ。心外だ。
これこそトラウマになりかねない。
しかしそこには揶揄の含みは一切なく、単純に嬉しくて仕方ない、といったような、柔らかくてくすぐったそうな茜の表情がだけがある。
……元気が出たなら、それで、いいか。
つくづく自分は、茜に甘い。
ほれた弱みだから仕方ない。
覚悟を決めて、初夜の花嫁のような面持ちで、うやうやしく告げた。
「………………………………優しく、してください」
「努力しよう」
頷くと同時に頬を両手で挟まれて、くちびるが落ちてきた。
ああ、あのエロいキスかな、と身を引き締めたが、予想とは裏腹に、すぐに離れて額へと触れる。
ちゅ、と軽い音を立てて離れた後、こめかみとまぶたを掠めて、耳へと落ちる。
茜の柔らかいくちびるが耳の端をかぷりと噛んで、生暖かい舌が触れる。
びくり、と身体を振るわせたその耳に、小さな笑い声と熱い息が落ちてまた背中がぞわぞわした。
耳たぶまで丁寧にねっとりと這った舌は、ついに耳の穴にまで入り込み、頬を撫でていた手のひらはいつの間にかくびすじを伝って鎖骨に触れている。
「……っ、ふ……セン、セイ」
変な声が漏れそうになるのを何とか抑えて、途切れ途切れに呼ぶ。
呼ばれた茜はそれはそれは楽しそうに、喉の奥をで小さく笑いながら、なんだ、と答えた。
「質問」
「どうぞ」
「今日は、触っていいんですか」
「……………………どうぞ」
いつもの心地よいアルトがすぐ耳元で響いて、理性を奪った。
部屋着の上からまるい肩に触れる。
柔らかい二の腕をなぞって、ひじ、手首と順番に撫で、総一郎の好きな白い手の甲に、自分の手を重ねた。
さてこれからどうしようか、と思いあぐねているうちに、茜のくちびるが頬に軽く触れ、そして総一郎のくちびるのすぐ端に音を立てて落ちた。
焦らす動きについに耐えかねて、茜の顎に軽く指を添えてくちびるを塞いだ。
今度は薄く開いた隙間から舌を差し入れると、彼女の熱い舌がゆっくりと絡まる。
時間をかけて、味わいつくすようにゆるゆると舌を絡めあう。
時折くちびるを離して目を合わせれば、茜が嬉しそうに目を細めた。
熱い、と思った。
茜の指が、くちびるが、手のひらが触れた場所すべてが熱くて、茜に触れた自分の指先も、ぶつかり合った膝も、まだ触れられていないはずの胸も熱かった。
なぜか泣き出したいような気分になって、細い背に手を回した。
「センセイ、」
「ん?」
「………………好き、です。すっげー好き。ワケわかんないぐらい、好き」
何か伝えたいのに、何を伝えればいいのか判らなくて、なんのひねりもないこんな言葉しか出てこない自分がちょっと情けなくなった。
いつか、こういうときに気の利いたことが言えるようになるのかな。
ぼんやりと見上げた茜は、ちょっと困ったような顔をしていた。
違う、これは困ってるんじゃなくて、照れているんだ。
暗いから、顔の色が判らないだけで、たぶん正解。
「…………浅尾は、可愛いな」
「センセイは? 俺のこと、好き?」
「うん、ちゃんと好きだ。安心してほしい」
よかった、と笑ったくちびるを、また塞がれた。
ああ、今日もセンセイは男前だ。さっきからセリフも行動も、男女逆転をしている。
茜の細い手が、部屋着のすそから入り込んで背中を撫でた。
今日は手が冷たくないんだな、となんとなく不思議に思った。
同じように、茜の服のすそから手を入れる。直に触れた肌はびっくりするほど柔らかい。
ぴくり、とその細い腰が揺れた。
揺れたものの、総一郎の手のことは無視を決め込んだらしく、くびすじに、ほとんど噛み付くように歯を立てて、ぺろりと舐めながらシャツを捲くる。
これは高等技術だ、真似できない、などと考えているうちに、鮮やかな手際で脱がされてしまった。
別に鍛えているわけでもないその胸に、茜は満足そうに頬を摺り寄せて、撫で回す。
左の乳首の辺りで手を止めて、くすくすと笑った。
「すごいな、心拍数が異常に高い」
「興奮、してます」
「そうか」
同じように、滑らかな腹を撫でて手を這わすと、総一郎にはない柔らかなふくらみにたどり着く。
初めて直に触れるその柔らかさに心底感激をして、恐る恐る揉んでみた。
力の入れ具合が判らなくて、おっかなびっくり、といった手つきになってしまう。
だけど指の腹に、どくんという確かな鼓動が伝わり嬉しくなる。
茜も、自分と一緒で興奮している。
それを与えているのは、紛れもない自分。
指先が突起に触れると、とうとう無視をしきれなくなったのか、飛びのくように茜が身を起こした。
「っ、」
「……センセイも、脱いで」
つん、と服のすそを引っ張ると、茜が少し嫌そうな顔をした。
「む」
「……俺だけ脱がしといて」
「脱ぐとも。脱ぐけど、あー……あまり見ないでほしい」
「なんで? ずるいじゃん」
「……貧相だ。君の期待には答えられそうにない」
……まだ巨乳好き疑惑をもたれていたのか。
否定を受け入れてくれたと思っていたのに、本当に筋金入りのマイナス思考だ。
「判った、努力します。けど見えちゃうのは仕方ないですよね?」
「ああ、うん。目隠しプレイは今後に取っておきたい」
そんなプレイをする予定があるのか。
ちょっと恐ろしくなった。
「……ていうかセンセイ、ノーブラだし」
「どうせ脱ぐ」
「アレ外すの、夢だったのに」
「それは申し訳ない。次回は気をつけよう」
とりあえず、次回がその目隠しプレイじゃないといい、と希望を抱きつつ、寝間着のボタンを丁寧に一つずつ外す。
茜は俯いて、大人しくその様子をじっと見詰めている。
大きなボタンを、1つ、2つ、と脳内でカウントしながらすべてを外して、そっとはだけた隙間に手を差し込んで、右手でふくらみにふれた。
「…………っ、」
茜が小さく息を呑んだ。
先端を指の先で軽く引っかくと、ビクリと大きく肩が震えて茜の腰が引けた。
へー、と思いながら、両方の肩から寝間着を滑らす。一瞬だけ手首に絡まったそれを、茜は優雅に脱ぎ捨てた。
ウエストのゴムに細い指がかかる。腰を浮かせて、逆らわずに脱がされた。
お返し、とばかりに、茜の華奢な腰に手を伸ばして、下着ごとヒップを滑らせて脱がせてしまう。
白い裸体が、薄闇に浮かび上がる。
確かに、本人の宣言どおり細すぎる、と思った。食が細いせいだ。
胸の大きさは、まぁ、大きくはないよな、と言ったところか。片手にぴったりと収まってしまうだろう。
でもちゃんと柔らかさを持っているし、揉むこともできるし、充分だ。
だからあまり気にはならないが、それよりも健康が心配になる。これからはもっと食べてもらわなくては。
じっと見つめていると、咎めるような声音で茜が浅尾、と呼んだ。
慌てて顔を上げると、すぐにくちびるを塞がれた。
とっさに目を閉じて、キスを堪能する。
ああ、ちょうどいい目隠しだ。
茜の手のひらが、くびすじから胸と腹を撫でて、下肢へと伸びた。
十分に張り詰めて立ち上がったそこを、ふわりと撫でられてまた身体が震える。
自分で触れるのとはまるで違う、くすぐったいような、じれったいような、それでいて背筋を駆け抜ける強烈な快感に抗えず、熱い息を漏らす。
触れられているだけなのに、これはヤバイ。
あんまり見てはいけないが、触るのはいいはずだ。
茜の腕をかいくぐって、すべすべの腹を撫でて、もう一度胸へと触れる。
全体で包み込むように持ち上げて、先端に指を置いた。
ぴくり、と小さく身体が揺れて、総一郎から手を引いた。
「センセイ、お願い……触らせて」
「………………、うん」
掠れたため息のような返事を何とか聞き取って、両手でその胸に触れる。
ずっと、触りたくて仕方なかった。
想像より数倍も柔らかくて、魅力的なそれに夢中になる。
つんと尖った蕾を指で挟むと、茜の熱い吐息がこめかみに落ちてきた。
「……浅尾、」
何か言われる前に、背筋を伸ばしてそれを口に含んだ。
「っ!」
逃れようと引けた腰を抱きこんで、ぺろぺろと嘗め回す。
総一郎の肩に乗せた手に、引き離そうとするように力がこもるが気にしない。
舐めているが、見てはない。近すぎて何も見えない。
茜がキスのときにそうするように、くちびるではさんで吸い上げるととうとう引き結んだその口から、高い声が漏れる。
「…………んっ」
聞いたこともないような甘い声に、またくらくらした。
「……あさ、お……くすぐったい……」
途切れ途切れのささやきが頭上から落ちてきて、思わずくちびるを離して茜を見上げた。
いつもはクールな瞳が、うっすらと潤んでいる。
ぎゅっと目をつぶって、ほう、と息を吐くと総一郎の後頭部をゆるやかに撫でた。
まるであやされているような気分だ。
くすぐったいような嬉しいような、ちょっと情けないような複雑な気分のまま手を滑らせて、下肢へと伸ばす。
太ももを撫でて手を止めると、茜が不思議そうに小首をかしげる。
「触って、いい?」
「…………いちいち、聞かなくていい。その、君の、好きに触ってほしい」
また萌え殺された。
このヒトは何度自分を殺せば気が済むのだろう。
これから、何度こうやって悶絶させてくれるのだろう。
茂みの奥へと指を滑らすと、そこはぬるぬるとした湿り気を帯びていて驚いた。
「……なんかぬるってする」
「言わなくても、いい、そんなこと……」
低く怒られた。
そうか、これが濡れるってことか、と一人納得をする。
その、ぬるりとした水分を指に絡めるように溝をなぞると、茜の身体がびくびくと震えた。
「……っあ」
漏れた声があまりに切なげなので、驚いて手を止める。
「あ、ごめん、大丈夫?」
「うん、もう少し、ゆっくり……」
「う、うん」
ゆっくりと、まるで傷口に触れるかのように軽く撫でる。
くちゅ、と卑猥な音が響いた。
幾度か往復させて、茜の反応をうかがう。
「……こう?」
「う、ん……っ」
指が突起に引っかかるたびに肩が揺れる。
息がどんどん荒くなり、とうとう総一郎の肩にすがり付いて、くびの根元に額を埋めてしまった。
「……っは、ん……んん、……」
押し殺したような引きつった声が漏れ聞こえる。
指に絡まる水分はどんどんとその量を増やし、ねちゃねちゃと耳に届く音が大きくなっていく。
茜の身体が熱い。心配になるほど熱い。
辞めたほうがいいのかな、と茜を見やるが、あいにく顔が見えない。
嫌がってる様子はないし、だめならだめって言うだろう、と結論付けて、愛撫を続行する。
彼女の荒い呼吸が、胸にあたってくすぐったい。
そういえば穴ってどこだろう、と指を少し大きくスライドさせると、入り口は案外簡単に見つかった。
「ぅ、あ、さお……」
甘い声音と共に肩を握る手に力が入る。
ここに自身を埋めるのだ、と思ったらとてつもなく興奮した。
人差し指をぐいと押し入れる。
意外と簡単に指が滑り込んだその中は、茜のものとは思えないぐらい熱かった。
「ああっ、ん……」
背中がゆるく反れて、茜が熱い吐息で、浅尾、と途切れ途切れに何度も繰り返す。
その声に、総一郎の身体もますます熱くなった。
一気に奥まで押し入れた。
「あ、いやだ、まっ……あッ、んんっ!」
好奇心たっぷりに、2・3度ぐるりとかき回すと、盛大に背中が反れていっそう高い声が響いた。
まて、と言われたのはなんとなく聞き取れたので、大人しく手を止める。
腕の中の茜は、荒い呼吸を繰り返しながらぐったりと力なく総一郎に体重を預けている。
空いた手で背中に触れるとうっすらと汗がにじんでいた。
す、と撫で上げたら、またその背中がぴくりと震えた。
「大丈夫?」
「…………不覚だ……」
まだ整わない息でそんなことを呟く。
「な、なにが?」
「…………いい、いつか言う」
気だるげに髪をかき上げながら顔を持ち上げると、目を合わせて薄く笑った。
ちょっと、嫌な予感がした。
「次は、君の番だな」
ああ、はい、と力なく呟いたくちびるを軽く塞がれた。
腰を引いてずるりと総一郎の指から逃れると、すぐにくちびるを離す。
総一郎の脇をすり抜けて、枕もとへと手を伸ばす。
振り返った茜の手には、避妊具が握られていた。
「……あの」
「ん?」
「センセイが、買ってきたの?」
「あ、ああ、まぁ。ないと困るのはお互い様だ。言っておくがないときはしない」
茜の鉄の理性はよく知っている。鉄壁のバリケードも。
彼女が流されることは、たぶん、ないんだろう。
いや、2度ほど茜のぷっつんに遭遇した。
自分ではその暴走を止められない。
困るのはお互い様、には全面的に同意なので、せめて、いつ彼女が理性を飛ばしてもいいようにこれを切らさないようしようと密かに誓う。
誓うけど、なんだか釈然としない。
「女の人が買うもんじゃないと思うんですけど」
「そうか?」
「そうです。俺も、買ってきたのに」
「…………ああ、あ、そうか、それは、余計な気を回した。次回から君に頼むことにする」
「うん」
そんなところまで男前に振舞われては、今度はこちらの立つ瀬がない。
これこそくだらないプライドだが、なんでもかんでも茜に甘えっぱなしには、どうしてもなりたくなかった。
ふと、その男前を見やると、彼女は薄闇の中で懸命に目を凝らしてそのビニールを眺めていた。
「なにしてるの?」
「裏表がわからない」
ひょいとそれを奪って確認する。
こっちが表、と差し出そうとして、別に差し出す必要はないと気がついた。
勝手に袋を破って取り出すと、茜がむ、と唸った。
「なに?」
「やらせて欲しい」
「なんで!」
「興味本位だ」
出来たらそんな変な興味を抱かないで欲しい。
でもきっとそれは無理な相談なんだろう。じゃなければ実験好きになどならないはずだ。
しぶしぶ手渡したそれを茜が受け取って、身をかがめる。
吐息のかかる距離で凝視され、耐え難い恥辱を覚えた。
「…………近いです」
「見えないから」
そうか、眼鏡がないんだった。
だけどそれにしたって近いだろう。
見慣れた自分のものと、茜のきれいな顔の夢の2ショットにくらりとする。
――酷く、エロい。
細い指に握りこまれて、どく、と脈打ったその反応に茜が小さく笑う。
笑うと、また熱い息がかかって、腰がぞくぞくとする。
先端から滴る液を興味深そうに指で掬って擦り付けたかと思うと、柔らかく揉まれて身体が震えた。
襲い来る射精感を、必死で堪えて声を絞り出す。
「…………センセイ、やめて……ヤバイんですけど」
情けない自己申告に、茜はうんと答えると、するすると薄いゴムをすべり下ろして、滞りなく装着を完了した。
身を起こして腰にまたがると、総一郎の首に片腕を回してふわりと笑った。
その笑顔に見とれた。
今まで見た中で、一番好きな笑顔だった。
触れ合ったくちびるから、茜の含み笑いが漏れた。
あれ、この体勢? と思った次の瞬間、先端が柔らかい肉壁に埋まってぞわりとする。
「……う、わっ」
へんな声が漏れた。
目の前の茜は、眉根を寄せてちょっと苦しげに、でも満足そうに微笑むと探るようにゆっくりと腰を落としていく。
ぎゅうと絞めながら奥へと奥へと熱い内部へ誘い込まれて、総一郎の目の前が白く濁る。
時折、あ、とか、ん、とか、音にならない息をもらしながら、どんどんと総一郎を咥え込んでいった。
とうとうすべてを飲み込んでしまうと、添えていた手も総一郎の肩に回して口づける。
吐息と唾液が混じって漏れる。
細い背中に手を回して、ぎゅっと抱きしめた。
肩に置かれた手が震えている、と思ったけれど、強烈な快感に支配されて気遣う余裕はなくなっていた。
もっとこの快楽をむさぼりたくて、茜を見上げる。
もう、焦らさないでほしい、どうにかなってしまう。
しかし彼女の顔からも笑みが消えている。きつく眉根を寄せて、苦しげに息を吐く。
「……ちょっと、ごめん」
「え?」
茜の背を抱いて繋がったまま押し倒す。
マーベラス、本能。
どさり、と大げさな音がして、白い身体がベッドに沈んだ。
痛かったかな、とどこかで思ったが、どうかする余裕も知恵もなくて、ただ刺激が欲しくて腰をゆすった。
「あ、んんっ……!」
乱暴とも思える動きで、茜を突き上げる。
一つ動くたびに切なげな声が聞こえて、ますます夢中になった。
キスがしたい、と思ったがどうやったら出来るのか判らなかった。
やっと手に入れた主導権、とも脳裏をよぎったが、意地悪を仕返す余裕もなかった。
ただ、本能のままに身体をぶつけて、快楽をむさぼった。
程なくして、堪えていたたがが外れる。
中に埋め込んだものがびくびくと震え、薄いゴムの中に精を吐き出した。
ベッドについた両ひじも、肩も、背中も、腰も、がくがくと震える。
茜の胸の上に倒れこんで、荒い呼吸を繰り返した。
すごい、と、額に流れる汗を感じながら思った。
今まで感じたことのない充足感だった。
満たされている、とこんなにも強く思ったのは初めてだ。
よく耳にする「一つになる」の意味が、やっとわかった気がした。
やがて息が整うころ、ぽん、と優しく背中を叩かれた。
「あ、ごめん……重い?」
「いいや、大丈夫。それよりも、そろそろ抜いて欲しい。収縮が始まると思われる。中身がこぼれてはせっかくの避妊の意味がない」
淀みなく喋られて、ちょっとげんなりしながら身体を起こした。
ふと見下ろした茜と目が合った。
どうしよう、というように瞳を揺らして、顔をぷいと背けてしまう。
照れてるのかな、と顔を近づけると、こちらを向いてくちびるを受け入れる。
火照った吐息が混ざり合って、またちょっと変な気分になってきた。
名残惜しみながら身体を離し、ずるりと自身を引き抜いた。
茜も腰をぴく、と震わせて、上体を起こす。
枕元のサイドランプをつけた茜に差し出されたティッシュを受け取りながら、下半身を眺めた。
先端にたっぷりと白濁液が溜まっている。
卑猥、というか、なんというか。表現に困る光景だ。
中身が零れないようにそろそろと外す。ちょっと情けないような、くすぐったいような、妙な感じだ。
茜は、といえば、さっさと下肢を拭うとごろんとうつぶせに寝転んで、避妊具の箱からうすっぺらい紙を取り出して懸命に眺めている。
総一郎の視線に気がつくと、くちびるを軽く歪めてひらひらとその紙を振ってみせた。
「5.射精後は、すみやかにコンドームを抑えながら、ゆっくりと膣外へ抜き出してください。
6.使用したコンドームは水洗トイレに流さず、各自治体の処分方法に従ってください……だ、そうだ」
朗々と読み上げないで欲しい。
余韻、とか、そういうのを楽しもうという気がこのひとにはないんだろうか。
「事前に読んだか?」
「…………ちゃんと読みました」
「うむ、偉いな」
家に帰るまでが遠足です。
片づけまでが実験です。
後始末までがセックスです。
どうでもいい標語が浮かんできた。どこに応募しろと言うのだ。
「で、自治体に従うとどうなるんですか?」
「さぁ、どうだろう。精液は体液だから可燃で間違いないはずだが、問題はゴムの成分だな。今度燃焼実験を」
「しません」
「…………そうだな、さすがにそれは、マズい」
口を縛ってティッシュにくるんだそれを、ぽいとゴミ箱へとほおり捨てて茜に覆いかぶさった。
まだ余韻を残してうっすらと火照った肌が触れ合って、気持ちいい。
「シャワーは? このまま眠るか?」
「うん、ごめん、眠い、です。センセイは? 眠くない?」
「かなり眠い。明日は絶対に起きられない」
「いいじゃん、休みだし……」
寝間着に手を伸ばした茜を、ぎゅっと腕の中に抱き込んだ。
「気持ちいいから、もうちょっとこのまま」
「寝てしまうぞ?」
「俺、湯たんぽだから大丈夫……」
言いながらうとうととしてきた。
すごく気持ちよかった、とか、朝起きたら約束どおりコーヒー入れさせて、とか、前よりももっともっとセンセイが好きで仕方ない、とか。
話したいことはたくさんあるのに、どんどんとまぶたが重くなって逆らえない。
起きたら話そう、と心に決めて、なんとか掛け布団を引き寄せる。
「あ、も一回だけ、キスさせて……」
「おやすみのキスか」
「そう、それ」
くすぐったそうに笑った茜のくちびるに軽く触れて、舌を差し入れようとした矢先に睡魔に襲われた。
充足と、安心と、ぬくもりとを感じながら、気だるい心地よさのなか眠りへと落ちていった。
*
二度目に目が覚めたら当然朝だった。ちらりと時計を見やる。
茜が起きるまで、たぶんあと30分。いい時間だ。
夜中に寒気を覚えて起きた時のことを思い出す。
これ着よう、と言って差し出した寝間着を、眠りながら羽織った茜はさすがだとひっそり笑った。
羽織るだけ羽織って、ボタンをたった一つだけ止めてまた寝てしまった。
相変わらずそれ以外が外れているのがなんだか可笑しい。
以前弟によくそうしてやったように、昨夜両手で外したそれをまた丁寧に嵌めていく。
ほんとうに、時々子供みたいだ。
だけどそれが嬉しい。必要とされているような気がする。
もっと無防備になってほしい。
昨夜身体を預けてくれたように。
寝顔を見つめながら15分程まどろんで、そっと布団を抜け出す。
いつか望んだ夜明けのコーヒーを入れる日が、やっと来た。
幸せだ。
電気ケトルで湯を沸かす。
豆は冷凍庫、フィルタは引出しの二番目、ドリッパとサーバは食器棚。
ちゃんと覚えた。
豆はスプーン2杯、フィルタをドリッパに密着させるように少し湯を注いで蒸らす。
「ろ紙とろう斗をそうするように」
茜がそう教えてくれた。
家でも実験しているような気になる。
ああ、コーヒーの抽出は実験に似ているかもしれない。
だから茜はコーヒーを入れる役目を、なかなか譲ってくれないのか。
温めたお揃いのマグカップに、湯気のたつコーヒーを注いで、部屋へと戻る。
ベッドの上で、コーヒーの香りに誘われた茜が極限にぼんやりとした顔をで身体を起こしていた。
「センセイ、おはよう」
「……おはよう…………」
あくび混じりの声で、目を閉じてしまいそうになりながら答える。
「コーヒー、飲む?」
「ん、ありがとう……」
ベッドから這い出した茜にマグを手渡す。
やはり、あつ、と言いながらそのまま啜った。
熱いコーヒーは、茜の体温を確かに上げてくれたようで、定まらなかった焦点が徐々に普段の色を取り戻し始める。
目が覚めたような彼女に、今日はどうする、と聞いたら、意外にも買い物に付き合ってほしい、と言われた。
物欲がなさそうな茜が食べ物以外の何かを買うところなんて、滅多に見ない。
「なに買うの?」
「コーヒーメーカ」
「なんで? ドリッパあるじゃん」
「…………二人分なら、あったほうが楽かと思って。その、君がたまに淹れてくれるのなら」
ずっと考えていたんだと茜が柔らかく笑う。
確かなものを受け取った気がした。
最高の誕生日プレゼントだ。
たまにではなく、本当は毎日でも淹れてあげたい、と思った。
だけど今は無理だ。
18程度ではまだ子供だ。
昨日までは18になってしまえば、と考えていたのに、実際になってみれば
どうしてあと5年早く、いやせめて3年早く生まれてこなかったのかと歯がゆくなる。
早く大人になりたい、と、泣きそうな幸せの中でそれだけが切なく残った。
その日二人で選んだ白いコーヒーメーカは、ずいぶんと長い間活躍をすることになるが、
それはまだ、誰も知らない、未来の話。
*
以上です。
あー、タイトル間違えたorz
「二度目の10月」です。
これまで、連投、エロなしでスレ占領してごめんなさい。
エロまで長々とお付きあい下さりありがとうございました。
また他の職人の皆さま方、投下のお邪魔をしておりましたら大変申し訳ありませんでした。
このスレの発展を願って。
ブラボー!すばらしい!素晴らしかった!!
先生も朝尾も、結ばれてよかった。
楽しませてくれて、本当にありがとう。
素敵な作品に出会えてよかった。
>>675 いや、ほんと、職人さんGJ!!!!!!!!!!
もちろん、後日談もあるんだよね??
これで終わりだなんていわせないくらいいい作品です!!
GJ――!!!
一瞬、コーヒーの香りがした気がしたよ
総一郎、可愛かったよ。なんだか妙に感情移入した。
最後まで読めて、ウレシイよ
乙かれさんでした
ありがとう、幸せになったよー
ところで後日談……
うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお
センセイいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい
総一郎ううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううう
興奮して眠れねええええええええええええええええええええええええええええええ
なんというハッピーエンド・・・ぜひ次作も読みたい
長い間お疲れ様でした。マジありがとう。超GODJOB。
ついに初、なんだけど致すまでの充実っぷりが半端なかったもんだから
とんでもなく幸せになれたし寂しくてしょうがない…
可愛いよこの二人マジ可愛いよ可愛すぎる
花嫁的な意味でゴールインするまで書いてほしいと思うくらい大好きだ
ハラショオオオオオオオオ!!
もう番外編でも次回策でもなんでもいいからテカテカしながら待ってます!
ああ、今日ほど「Aスレで●●の話を書いてた作家さんがBスレで新作書いてるよ」って
こっそり教えてくれる妖精さんがどっかにいないもんかと思う日はない
ごめん、次回策→次回作ね
あと●●は別に深い意味は無くて
「まるまる」と打って最初に変換されただけなんで
今回も胸が熱くなる良いお話をありがとう。
職人さんGJですっ!
そして、ここまで到達するまで本当にお疲れさまでした。
このスレ見てて本当によかったと思う瞬間でしたw
これで終りと思うと、もうっっ………!!
お疲れ様ッ!
エロで一区切りって感じで、まだまだ続けて欲しい
この大量投下にたくさんのGJ!とありがとうを!!
*・゜゚・*:.。..。.:*・゜(゚∀゚)゚・*:.。. .。.:*・゜゚・*
>436
だと後日エロがある……んだよね?
どうか、お願いしたい。
あまり続くとだめなのかもしれないけど
当初に書き上がっているものだけでも…
GJ!
毎回ドキドキしながら読ませてもらいました!
卒業式とか、卒業してからとか、ネタが浮かんだらこれからも是非投下してって下さい
お疲れ様でした!
ところで、そろそろ次スレの季節だと思うんだけど
テンプレってあった方が良いよね
保管庫もあるし
案としては
・エロと萌えを語るスレ(エロ必須ではない)
・特殊な傾向は明記必須
の二つかなと思うんだけど
皆の意見も聞いてみたい
GJ!!!
Hの描写も今まで同様、丁寧ですごく読みやすい!
それにしても告白から一年間の物語があっただけにHの感慨もひとしおですな
個人的にはエロ無しでも良いからもう少し続いてほしい・・・
総一郎はひとつだけ重要なミスを犯しただろ…
な ぜ 足 コ キ を 断 っ た の か
センセイの足コキを断るだなんてとんでもない!!
>>689 次スレの季節だね。
その案でいいと思うよー。
もう立てる? 490だもんね。
エロは必須ではない はいらないと思う
>>691 ドS好きで貧乳萌えの総一郎だが、まだ経験値が足りないようだな
>>694 諸スレでもたびたび、また本スレでも「エロ無しはこちらへ」発言があり、
また1氏による発言
>>50もあった以上、建スレ理念の注釈はあってよいと思います。
個人的には、年の差シチュそのものがエロスだと思います。
絶対エロがなくてはいけない、エロなしはダメだ、という意味ではなくて
エロなしに関して表記するのは反対。
あと、正直エロは欲しい。
エロのためのエロなしは大好きだが、ホントに健全な話では物足りない。
というか「年の差カップル」の話なのに、エロが無かったら
ただの血のつながりの無い親子・兄妹の話になってしまうのでは
エロ描写は最悪無くてもいいけど、エロスは漂わせて欲しいw
絶対にエロがなくてはいけないって言うわけじゃないけど、
18禁掲示板でわざわざエロなしをやらんでも
専門のサーチもあるんだし、エロのないのを読みたければそっちを回る方が確実だろうに
エロくないスレに投下して誘導してもいいんだし
面白きゃどっちでもいいや。
てか、自分にとって年の差の楽しみは
葛藤だったり、自分の気持ちに驚くことだったり
気がつくとイニシアティブが逆転している事だったりするので
エロも大切だけど、
いきなりの濡れ場シーンではそこはかとなくさみしい。
エロ必須、の表記は無くて良いかもね
1に「エロと萌えを語るスレ」って書いておけば、あとは職人様の判断に任せて良いだろうし
て事でちょっと立ててくるノシ
704 :
703:2007/11/07(水) 17:38:02 ID:q+X9I3xE
テンプレ変更とかスレルールに関わるようなことを話すなら、
せめて3日くらい待ってほしい。
意見を言う間もなく短時間で決めないでくれ。
今回は同意見が多かったからいいけど。
クロードとリュシーを保管庫から削除してもらいたいのですが管理人さんがいらっしゃるなら削除お願いできますか?
wikiは誰でも編集できるらしいのですが携帯からではやり方がよくわからなくて。すみません。
携帯じゃむりだろう…jk
>706
今回は容量ギリギリだったし、しかたないんじゃ?
誘導が最優先。
それ新スレにも書いておかないと、次回も同じようなことになるぞ。
3スレ目があるか判らんけどな。
>>707 編集は誰でも可能だが、削除はID持ちか承認されたユーザーじゃないとできないっぽい。
削除しました。
おそくなってごめん。
他の職人さんも、削除要請があったら遠慮なくどうぞ。
>>710 削除ありがとうございます。素早い対応感謝。
削除はID持ってる人じゃないとできないんだな。覚えとく。
712 :
名無しさん@ピンキー:2007/11/10(土) 22:28:37 ID:zpItby0X
埋めようぜ、梅。
うめ、うめ & あげ
女が年上というと、江國香織「東京タワー」とか、山崎ナオコーラ「人のセックスを笑うな」とかが出てくるが、
不倫ものは好きじゃない…
IWGP、1巻の、誠と加奈はかなり萌えた
ジャイアンツ・ハウスってちょっと良かったよ
オチ的にはここのスレじゃなくなるがw
女が年上……
西村しのぶ「ライン」はブティックの女店主と男子大学生の話、
「SLIP」は男子高校生が社会人になっていた社会人の女性と再会して、という話。
映画のハロルドとモードは差がありすぎか。
総一郎と茜、今さらながら初めて読みました!
今までこのスレを知らなかったが悔しいくらい面白かった!
なんか自分も年の差カップルを書いてみたくなってきましたよ。
埋め協力age
717 :
名無しさん@ピンキー:2007/11/11(日) 01:21:07 ID:LC851BM+
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埋め兼、質問
例えば世界観だけ2次創作とかアリ?
……設定だけガンダムとかから持ってきてキャラはオリジナルとか。。。
…
歳の差を成り立たせる背景として言い訳として便利そうなんで………
メアリ・スーにならなければありかな、と思う。
>>719 d、元より版権キャラは名前すら出す気ないし話的には原作と関与させる気もない
そういう意味でなら心配ないと思うが…
…
この手のSSってある程度自分の願望が入ると思うんだ。
それを言われているのであれば設定云々関係なく無理だなw
単純に少女×無骨なオッサンでエロありという無謀に…
なおかつ話として男として筋が通るモノに挑戦してみようかと思ったんだが。
…まぁしばらく様子見るよ
, '´ ̄`ヽー─- 、
__ / / 、 \ 、 \, -‐- 、
/ / :/ /イ !ヽ:ヽ\丶=ヽ }
,ゝ-/〃./ / { { i: :} } } ハ:∨ '-‐ く
/ !:l..:/.:l ! !| | i: :| !l ! !:l..:!彡 ! ',
人. | ! j!:.:lィナテ`! !! | ナテヽl |::l|〃,} ノ
/:. ゝ-| ハ::.|{!,ィ゙fk{ !i j /乂rくj |.:ll<ノ‐‐<
/:. / :∧{ |ル´、 {tイヾ 〃 ´{t;リ ヾレ'| }`、 .:ヽ | ̄ ̄ ̄ ̄
/:. ' .〃:∧_|`.:} `¨ , ¨´ | :|_人 `、 .:ヽ < はい♪
' ' :,' .:' 川|:八 v ┐ ィ ;厶ヾ\ `、 :ヽ |____
.l:. :(⌒ヽ^ヽリヽ、 >.,、 ヽノ イヽ/ / y'⌒)_ 丶\丶
l:. (´\_.ヽ-' ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄'ー〈_/ ノ- 、 \
l:. :につ-チ´ 1ヽ `rて_,ィ夭‐- 、. \
l:. \ __| 三 <`ー┘└┐ |ー< ヽーヾ、. \
!: 厂"| 年 r-、 | にl lニl.| |ヘ `l ヽリ ヽ \
l ,| | 一 r-、//  ̄ |_/ ゙̄ | {{_\__/::::::/ \
l /"! | 組 __フノヽ〉_ __ _ ,、 . |\ヾー:::::‐:彡 ′ 、\
l / │ | ヘ‐ァ,ィ r-、_〉 /∠j L!:.| |__ノ``==≦- 、__ヽ 丶 \
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l | ん rー―‐┐ ゝ ニ=' .|/;;/ /::::::::::ハ \ \ \丶 \
l | `ニl lニ`' |;;/ /::::::::::::::::::ハ \ \ \丶 ヽ
l. | ヽ二二二ヽ |__ ノ::/:::::::::::::::::::::入 ヽ ヽ \ヽ 丶\丶ヽ
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