2010年6月13日
オーストラリア ウーメラ砂漠上空
はやぶさはカプセルを抱える。
このカプセルを回収地点に正確に落とす。それが彼女の最後の使命。
お腹に抱えたカプセルを、赤ん坊を撫でるかのように優しく撫でる。
「行ってらっしゃい。ちゃんと帰るのよ。あなたは私とあの人の絆なんだから」
カプセルを切り離す。
これで全部お終い?
いや、まだ体に少し力が残っている。
最後に振り返る。
七年前に旅立った内之浦。
あの頃、初めて会うお父さんに夢と憧れを抱いていた。
イトカワと出会って、別れて、それからの日々。
満足に動かない体を引き吊り、地球に向かった。
自分の中に孕んだ、この温かいものを届けるために。
(体が、崩れ始めた)
七年ぶりに触れる空気は熱となり、はやぶさの身を焦がす。
薄れゆく意識。はやぶさは空を仰ぐ。
自分の後輩。金星を目指したあかつき、イカロス。
彼女らは金星で何を見る? 何と出会う?
私のように、大切な星に巡り会えるだろうか。
(お父さん……)
遥か宙の彼方。
見えるはずもないイトカワが彼女の瞳に映る。
(お父さん。私は立派に使命を果たせましたか?帰還が三年も伸びてしまった。
サンプルを回収できなかったかもしれない。でも、私は……)
消えゆく意識の中。はやぶさは最後に想う。
(宇宙で一番、幸せな星です)
609 :
名無しさん@ピンキー:2010/06/13(日) 21:48:20 ID:Zu5lclUb
以上です。いやぁ、お父さんって言いながらヤるって背徳的ですね(台無し)
例のごとく解説
彼女がガスを吐き出した音――スラスタのガスのベーキング作業(排出作業)ですが何か。 いや、咳き込んでる女の子って萌え。
地球のうすださん。のぞみお姉ちゃん――うすださんはtwitter参照。臼田宇宙空間観測所
のぞみお姉ちゃんははやぶさよりも先に火星を目指し、
残念ながらその夢は果たせませんでした。
でも、不死鳥はやぶさと呼ばれたそのしぶとさは、
のぞみをロストした苦い経験が役立っています。
最後に振り返る。七年前に旅立った内之浦――カプセル切り離し後、
余裕があれば日本列島を撮影できるよう姿勢制御するという
話を聞いたので。
Jaxaのサイト重過ぎてどうなってるか不明だけど。
610 :
元601:2010/06/13(日) 22:38:51 ID:Od0xSpTo
>>609繰り返しになりますが投下お疲れ様、GJです。
午前の感想時は勘違いして「この感想書いてる時には云々」とか書いちゃいましたが本当は今頃ですよね、彼女の帰還は。
正直、はやぶさの存在は貴方のSSで知った身ですが、このプロジェクトがどれ程大きな物かってのはひしひしと伝わってきました、ありがとうございました。
彼女は無事に帰ってきたよ!!!
612 :
609:2010/06/13(日) 23:32:20 ID:Zu5lclUb
613 :
609の蛇足:2010/06/14(月) 01:01:10 ID:qgyqI7sZ
2014年X月X日
打ち上げに向けての最終チェックが行われる。
アクセスドアが次々と閉じられ、彼女は真っ暗なフェアリングの中でその時を待つ。
数百億の予算と数年の開発期間がかかった彼女にかかる重圧は大きい。
体がこわばる。地上試験で何度も繰り返してきたことなのに、
次にやることすら思い出せなくなってしまいそうになる。
動かない、体が思うように動かない。
打ち上げは成功するの? 太陽フレアには耐えられるの? エンジンはちゃんと動くの?目標の星に着陸することはできるの? 帰還時にちゃんとパラシュートは開くの?
彼女が思う不安の一つ一つが体を縛り付ける。一歩間違えれば、死。
そんな不安が、体を硬くさせる。
「「大丈夫だよ」」
風に乗って、ふと彼女の耳にそんな声が届いた。
彼女は振り返る。
お供のピギーパック衛星はいまはまだ休んでいる。
彼女の元まで地上の声も届かないはずなのに……
「あ……」
体から余分な力が抜けている。
今の声で落ち着いたのか、体が思うように動く。
笑みを浮かべ、フェアリングの向こうのソラを見つめる。
「さあ、行くよ!! お母さんを超えるんだから!!」
「SRB-A点火 リフトオフ!!
次の世代へ、小惑星探査機はやぶさ2を搭載したH-2A 25号機は、
平成26年X月X日XX時XX分XX秒に種子島宇宙センターから打ち上げられました」
カプセル発見記念
ビーコン音は心に響く音でした
エロ書くときはオチまで書くのがジャスティス
はやぶさが命に代えて届けたカプセルが、次世代につながると信じて
これが過疎……か
夜鷹の夢聞いてたらF-117擬人化のインスピレーションが湧いてきたがいかんせん文章力がなくて出力できねぇ……
615 :
名無しさん@ピンキー:2010/07/07(水) 22:37:19 ID:xnsgM0sE
前回はやぶさのエロ・・・・・・じゃなかった
健全SSを書かせてもらった物です。
自分のSSでスレ止まってて、1ヶ月間微妙な心境でした
でも、俺めげないぜ!!
ということで、今日は七夕
JAXA(当時NASDA)公認人工衛星カップリングの
きく7号(ひこぼし×おりひめ)
をお送りさせていただきます。
っていっても、7月7日中に前編仕上がるか微妙なので、とりあえず前編だけ
いつか星の世界で君に出会うための技術
広い宇宙で君を見つけること
見つめあうこと
抱きしめること
それは複雑で回りくどくて危なっかしいけど
とてもとても大切なこと
――現代萌衛星図鑑より
「ひこ〜 あれとって」
ひめが指差すものを、僕がアームを伸ばして捕まえる。
自慢のロボットアームは良好。問題なく動いている。
僕の上に乗ってるひめも満足そう。
技術試験衛星、きく7号として一緒に生まれた
僕ひこぼしと、彼女おりひめはいつも一緒。
今日まで問題なく地上試験をこなしている。
「打ち上げまでには間に合いそうじゃな。いよいよ宇宙に行けるぞ」
「でも、打ち上げはちょっと怖いよ。打ち上げが失敗したら・・・・・・」
「ふふ、ひこは怖がりすぎ。4号機までH−2ロケットは失敗なし。
打ち上げに失敗するわけなかろう?」
僕たちの目指す場所、宇宙。
そこにはきっと見たこともない場所が広がっている。
僕たちは宇宙で待ち受けるいろんなトラブルへのちょっぴりの不安と、
未知の世界への大きな期待に心を膨らませていた。
「第二段エンジン燃焼停止。制御系、飛行経路正常。きく7号分離」
打ち上げから続いていた加速と振動から切り離される。
虚空に放り出された僕たち。
完全に音のない、無音のセカイ。
「ひこ、見て見て!!」
ひめにぺちぺちと頭を叩かれ、
打ち上げからぎゅっと瞑っていた目をおっかなびっくり開ける
そこには・・・・・・
「うわぁ・・・・・・」
青く光る星。
これが、地球。
僕たちが今までいた世界は、すでに550kmも離れた場所にある。
「綺麗・・・・・・だね」
「うん」
地球を初めてみたヒト、ガガーリンは「地球は青かった」と呟いた。
でも、そんな知能も持たない僕らは地球の青さにただ呑まれ、
ただただ地球を眺めるしかできなかった。
「ひこ、太陽電池パネル!!」
あ、忘れてた。
慌てて太陽電池パネルを展開する。
漆黒の宇宙に広がったブルーメタリックの太陽電池が、僕に力を分け与えてくれる。
「ひこ、ぼうっとし過ぎ!!」
「ご、ゴメン……」
くすくすと笑い声が聞こえる。
僕でも、ひめでもない、誰かの声。
「Welcame to space. ようこそ、日本の衛星さん達」
優しい女の人の声。
「私はTDRS、NASAのデータ中継衛星よ。そちらの感度はどう?」
「え、あ、はい。ばっちりです。よく聞こえます」
そうだ、忘れてた。
僕たちのミッションの一つ。
NASAのデータ中継衛星を介しての地上との通信実験。
地球をぐるぐる周る僕たちは、常に日本からの電波を捕られる訳じゃない。
ドッキングというクリティカルなミッションに挑む僕たちは、交信できる時間を
増やすためにTDRSさんの協力を仰ぐ。
通信状態は良好。TDRSさんを介した地上との会話もスムーズに進んだ。
「臼田局の電波は捕らえられた? ん、OK。See you!!」
うすださんの声が直接聞こえるようになると、TDRSさんの声は途切れる。
僕たち以外にもいくつもの衛星たちとの通信を受け持つ
TDRSさんと話せる時間は短い。
できればもうちょっとおしゃべりしていたいんだけど・・・・・・
「ひこ、何鼻の下伸ばしてるの」
ひめの声にはっと我に帰る。
「そ、そんなことないって」
「嘘ばっか。TDRSさんと話す時、いつもデレデレしてる。このヘンタイ」
へ、へんたい……
ぷいっとそっぽを向いてしまうひめ。
この後うすださん経由の地上からの指示でミッションをこなしていったけど、
ひめの機嫌はずっと悪いままだった。
第一回の分離試験。
今回のテストは分離機構の動作確認だけ。
分離したあとにそのまま結合するだけの、簡単な試験。
でも、宇宙でひめと離れる、はじめての経験。
「ひめ、大丈夫?バッテリーは足りてる?」
「別に、問題ない」
あれからひめはずっと機嫌が悪いみたい。
このままじゃ試験を続けるの、大変なんだけど……
「じゃあ行くよ。おりひめ分離」
ひめを掴んでいる手を離す。
手を離してもひめとの距離は変わらない。
空気抵抗のない、宇宙空間の慣性系。
スラスタを吹かさなければ、ひめとの距離は変わらない。
当たり前のことだけど、でも自分のすぐ側にひめがいることに安心する。
「ひめ、動作は?」
「全機能問題なく動作」
当たり前の会話。
でも、これだって無人衛星同士の宇宙空間での通信という、大きなこと。
「それじゃ、戻すよ。おりひめ、ドッキング」
ひめの腕をぎゅっと掴む。
あるべきところにあるべきものが戻った安心感。
でも、ひめの腕を掴んだとき、ひめの体が小さく震えたことに僕は気付いた。
「ひめ、何か異常があったの?」
「・・・・・・なんでもない」
相変わらず期限が悪いひめ。
こんなことで今後の実験、ちゃんと続けられるんだろうか。
「Congratulations! お二人さん」
TDRSさんの声。
「すごいじゃない。貴方達は今、世界初の無人衛星同士のドッキングに成功したのよ」
「あ、ありがとうございます」
緊張してて良く分からなかったけど、TDRSさんに言われて初めて実感がわいてきた。アメリカ、ロシアが世界の宇宙開発のトップを走り、それを追いかける日本。
アメリカやロシアと比べると周回遅れのレースだけど、
それでも日本にも誇れる技術がある。
「別に、ただアームを離しただけでしょ」
ひめの冷たい声。
「今回のは分離機構が正常に動作するかのチェックだけじゃない。
本番はこの後の離れてからのドッキングよ。ひこ、分かってるの?」
「わ、分かってるけど・・・・・・」
でも、TDRSさんも見てるとこでそんなこと言わなくても・・・・・・
「ごめんなさいね」
なんてTDRSさんに言えばいいのか言葉を考えあぐねているうちに、
TDRSさんが先に謝ってきた。
「え、あ、あの、TDRSさんは悪くないです」
「ひこぼしくんはよく分かってないかもしれないけど、おりひめちゃんに、ね」
なんだかよく分からない。
ひめはずっと僕のこと、横目で睨んでるし。
成功を収めた分離、ドッキング実験だったけど、
僕の中には何か煮え切らないものが残っていた。
とりあえず、前編は以上です
前回よりも資料が少ないため、一部妄想で補っています。
正確な情報は書籍等をご参考に
ちょっち解説
きく7号
NASDA(現JAXA)が打ち上げた技術試験衛星
チェイサー衛星「ひこぼし」とターゲット衛星「おりひめ」
セットできく7号です。
自動ドッキングシステムの開発のために開発された衛星で、
他にもひこぼしについているロボットアームの試験、
他の衛星を中継しての通信実験なども行います
TDRS
NASAの打ち上げたデータ通信衛星
静止軌道にあるこの衛星を中継することで、
地球の裏側にある衛星とも自由に通信ができる。
ちなみに8機のTDRSが軌道上にあり、衛星との通信を行う。
美人8姉妹萌え
書きあがり次第、後編投下します
うおお!!!GJ
まってる!
626 :
名無しさん@ピンキー:2010/07/10(土) 00:36:45 ID:2LKaQVEz
人工衛星のひとです
なんか書いてたらどんどん長くなって(笑)
とりあえず、中編ということでもう一度区切りいいところまで投下します
エロは後編から
・・・え、エロなんてないよ!!
7月7日
今日は僕たちの名前の由来になった織姫と彦星の七夕の日。
けれども、今日もひめは機嫌が悪い。
最近、機嫌の悪いひめに、僕はびくびくしてばかり。
どうしたら機嫌、直してくれるんだろう。
「ひめ、今日はちょっと距離を離してからのドッキングだよ。
大丈夫? 具合悪い部分ない?」
「いい。なんか悪いとこあったら自分で言うから」
相変わらず、ひめは自分のほうを見て話してくれない。
うう、やりづらいよぉ・・・・・・
「じゃ、いくよ。おりひめ分離」
おりひめから手を離し、今度はおりひめと距離をとる。
ずっと一緒にいたおりひめが離れていく。
前回の分離試験のときもそうだったけど、ひめがいないことがすごく不安に感じる。
僕は生まれた時からひめが一緒だけど、他の衛星はみんな一人で宇宙を飛んでいる。
みんな、寂しくないのかな。一人ぼっちで。
二メートル離れてひめと向き合う。
今まで一身同体だったひめが、たとえ2メートルでも離れているのに違和感を感じ・・・・・・
「!!!」
一瞬、動悸が走った。
思わずテレメトリーを調べた。全システム正常に動作。
僕のシステムに異常はない。
でも、どうしてだろう。初めて離れて見るひめの姿に鼓動が高鳴るのは。
「? ひこ、ドッキングは?」
「え、ああ、ゴメン。ドッキング開始します」
ひめの体の各所に付けられた反射材が、きらきらと光を返す。
僕が発するレーザを反射することで、位置のズレ、距離を計測する。
衛星の本能でひめとの距離を精密に捉えられるけど、
僕自身ははっきりひめを直視できない。
「ひこ? どうした? なんかおかしいよ?」
「な、なんでもない。ドッキング機構駆動します」
ドッキング機構が動き出し、ひめの腕をしっかりと掴む。
あるべき場所にあるべきものが戻った状態。
でも、何故だか僕の心は落ち着かない。
「ひこ、なんだかおかしいよ。どこか調子悪いの?」
ひめが覗き込む。
顔が近い、鼓動が高鳴る。そして僕は・・・・・・
顔を背けてしまった。
気まずい空気。
「そっか」
ひめが呟いた。
「ひこ、私のこと嫌いなんでしょ」
え、なんで、どうして・・・・・・
「ひこ、TDRSさんと話してるとき、すごく楽しそうだったし。
私なんかよりもTDRSさんのほうが好きなんだよね」
「そ、そんなこと」
でも、ひめにはその言葉は届かない。
「私とは仕事だから一緒にいるだけでしょ。もういい。
ちゃんと試験はやるけど、それ以外もうひことは喋らない」
ひめに何か言おうとした言葉は、すべて言葉になる前に消えていった。
僕は、なんてひめに声をかけるべきか分からなかったんだ。
いや、じぶんでもよく分かっていない。
どうして、ひめの姿を見たときに鼓動が高鳴ったのか。
ひめは自分のすぐ近くにいたのだけど、
でもその距離は、軌道と地上のあいだ、550kmよりも遠い、そう感じた。
初期離脱・最終接近実験飛行
ついに本格的な分離、ドッキングに踏み出すことになる。
今までとは違う。今回は500mも離れてからひめとドッキングする。
あれ以来、ひめとはまともに口を利いていない。
試験は僕たちの使命だから、ひめも最低限のやりとりはしてくれる。
でも、いままでのようにお喋りしたりとか、そういったことはなくなってしまった。
僕自身も、ひめになんて声をかければ分からないまま、この日を迎えてしまった。
「おりひめ分離」
ひめを分離して、距離をとる。5m、10m・・・・・・次第に遠ざかる距離。
距離をとって振り返る
ここまで離れると、ひめは本当に小さく見える。
ひめの位置はどれだけ離れていても分かるけど、それでもこれだけ離れたのは初めて。
「ひこぼし、ドッキングを開始します」
一歩一歩、ひめに歩み寄る。
ひめの体の反射材が、僕のレーザーを反射してキラキラと僕を導く。
やることは変わらない。
いままでのドッキングと同じく、正確にひめの手を取るだけ。
なのに……
「……っくっ……」
突然、何もない宇宙空間で僕は踏みとどまった。
足が動かない。
ひめを目の前にして、それ以上歩み寄ることができない。
ふらつく体。今はそこに立っているだけで辛い。
「ひこ、何か異常があったの?」
ひめの声。
反射的に体が動いて……
「うくっ……」
体がバランスを崩す。
とっさに頭によぎる不安。
僕の体は、ひめよりもずっと大きい。
自慢のロボットアームは、一歩間違えれば凶器にもなる。
バランスを崩した僕が、このままひめに近づいてしまったら・・・・・・
「ひめ、ゴメン!!」
回避シークエンス作動。
とにかく今はひめの安全をとるため、ひめから距離をとる。
ひめとの距離が、見る見る離れていく。
星の海に取り残されたひめ。
僕は、ひめを捨てて逃げ出したんだ。
「リセット、接近シークエンススタート」
その後、僕は何度も再接近を繰り返す。
ひめに向かってスラスタを吹かす。
でも・・・・・・
「うっ・・・・・・」
崩れるバランス。何もない空間で転ぶ僕。
気付けば500メートルだったひめとの距離も、今では12km。
バランスを崩すたびに、ロボットアームがひめに激突してしまう、
そんなイメージが頭から離れられなくて、僕はひめから遠ざかる。
「はぁっ……」
姿勢が崩れてしまう原因。
地上の先生たちのお陰でその原因が少しづつ分かってきた。
化学スラスタの異常。
でも、それは克服可能なレベルの異常。
スラスタの制御を改善すれば、安定する。
ミッションを中止しなくちゃいけないレベルの異常じゃない。
それでも自分がドッキングに成功できないのは……
「僕が、臆病だからだ」
ひめを傷付けないため、そう言っていつも自分は逃げ出していた。
でも、違うんだ。
怖い、ひめと手を繋ぐのが。
生まれてからずっと握っていた、あの手を再び握るのが。
「ひこぼしくん、聞こえる?」
TDRSさんの声。
一人ぼっちの世界に響く、僕以外の声。
「ひこぼし、通信正常です。テレメトリー送信します」
TDRSさんの声も暗い。
無言の時間に堪えられなくなり・・・・・・
「あ、あのっ、ひめは・・・・・・」
「これ、おりひめちゃんのテレメトリー」
本来ならやり取りする必要のないデータ。
正規のデータに混ぜて、こっそりとひめのテレメトリーの要約が届く。
「こ、これ・・・・・・」
僕が離れたあの日から、ひめのバッテリー電圧が低下し続けている。
電源の喪失。それは間違いなく衛星にとっての死。
「TDRSさん、ひめは・・・・・・」
「おりひめちゃん、電圧の低下が激しくてね、今必死に電力を節約して動いてるの。
もう今は半分眠っているような状態でね。最低限のデータをやり取りするので精一杯
僕のせいだ。ひめに電力を分け与えてないから、
ひめの太陽電池を太陽の方に向くように姿勢を直してあげられないから。
でも・・・・・・
「僕は、ひめに嫌われちゃってるから・・・・・・」
「テレメトリーの最後、見た?」
テレメトリーデータの最後? データの末尾のデータを確認してみる。
スリープモードに入る直前。通常だったらノイズとして切り捨てられる部分。
復号・・・・・・H・・・I・・・K・・・
「ひこ・・・・・・ごめん・・・・・・」
なんで、どうして・・・・・・
もしかして最後の通信になるかもしれないのに、どうして・・・・・・
「TDRSさん、ひめはまだ、助かるんですか?」
「先生たちの努力でね、なんとか電源を落とさなくていいようにしてくださってる。
あとはひこぼしくん。彼女を助けられるのは貴方だけなの」
TDRSさんから送られてくるデータ。
それは僕のスラスタを制御するための、新しいプログラム。
数年間かかって開発された僕のプログラムを、先生たちは10日で書き換えてしまった。
多分、寝る間も惜しんで僕のためにこのプログラムを書き換えてくれたんだろう。
ポタリ・・・・・・しずくが落ちた。
みんな、ひめを助けるために頑張ってくれている。
あとは、僕が頑張るだけ。
「TDRSさん、ドッキングの予定日は?」
「8月27日。お願い、おりひめちゃんを助けられるのは君だけなの」
プログラムを頭にいれ、復唱する。
スラスタを労わって動かすこと、そして何よりも重要なのは逃げないこと。
変態無人機HTVのパパとママのお話ですね大いに期待
みちびきさん最凶伝説
こんな場所があったとは……気が向いたら投下してみます。
旅客機擬人化方面で。エロは期待しないでください。
640 :
携帯から:2010/07/11(日) 00:38:38 ID:YPox+Jss
衛星の人です
本日づけでPCが規制食らいました
ひこぼし×おりひめは規制解除までちまちま校正してます
その間
>>639さんの旅客機擬人化をお楽しみください
……とイカロスくん並の無茶ぶりしてみる
641 :
639:2010/07/11(日) 00:50:30 ID:Lh06HDxS
ごめんなさい私のPCも絶賛規制中ですごめんなさい!
とりあえずアレです、規制明けたら投下する(予定です)ので
>>640さん、ひとつご勘弁を(笑)
オォウ、何という規制ラッシュなんだ・・・・・・
何はともあれ規制解除されるまでお待ちしておりますので焦らずに推敲して下さい。
643 :
名無しさん@ピンキー:2010/07/17(土) 01:18:31 ID:7SICdRGi
書けるようになった?
お久しぶりです。
やっとこさ ひこぼし×おりひめ 投下できます
皆さんお待ちかねのエロ・・・・・・はないですがラストが!!
それでは投下します
「ひこぼし、最終接近開始します」
一歩一歩、虚空を踏み締めてひめとの距離を詰める。
点だったひめが、だんだんと大きくなってくる。
ひめが近づく、一刻も早くひめを・・・・・・
「くっ……」
スラスター異常。
頭に悪夢が浮かぶ。
バランスを崩した僕のアームが、ひめを……
「違う!!」
その悪夢をふり払う。
作動しそうになる回避シークエンスを押し止どめる。
まだ距離はある。
逃げちゃダメだ。助けるんだ、ひめを。
「ひこ……」
ひめの顔色が悪い。
自分の太陽電池だけで電力をまかないきれないひめ。
先生たちが機能維持を第一にひめのプログラムを書き換えてくれたお陰で、
ひめのバッテリーを節約し、いままで生き延びることができた。
でも、残された猶予も少ない。
早く、でも正確に。
「アウターマーカー通過」
電力が足りないのが、ひめはぼうっとしている。
でも、GPS位置計測、レーザー反射で僕を精密に導いてくれる。
ひめの服についている反射材。
僕の放つレーザーを正確に反射することにより、精密な誘導を可能にしてくれる。
自分ひとりでドッキングできるわけじゃない。
ひめが助けてくれるから。
あと少し。
僕は腕を伸ばす。
大切なものを、もう二度と手放さないために。
ひめの体が僕の腕に入る。
「ドッキング機構、駆動開始します」
そして僕は、ひめを抱き締める。
「ドッキング完了しました」
僕の腕の中のひめは、僕の胸に顔を埋める。
「ひこ……ゴメン。私が悪かった」
「え、どうして?」
ひめを放り出して逃げ出したのは、全部僕が臆病だったからなのに……
「怖かった。ひこがTDRSさんと楽しそうに話してるのが。
ひこが、取られちゃうかと思って。だから私、あんなこと。ねぇ、ひこ……」
そんなひめがかわいくてどうしようもなくて、僕は唇でひめの口をふさいだ。
暖かくて、柔らかいひめ。
誰にも渡さない、僕だけのひめ。
「ねぇ、ひこ。私のこと、好き?」
当たり前じゃないか、そう言おうとして気が付いた。
そうだ、当たり前と思い過ぎてて、口に出してなかった。
織姫と彦星、惹かれ合うのが当たり前と思ってた。
でも、改めて口に出すと、ちょっとこそばゆくて、気持ちいい。
「大好きだよ、ひめ」
僕の言葉をまっすぐに受け止めて、恥ずかしそうに僕の胸に顔を埋めるひめ。
「ひこ、私達の仕事、あと何が残ってるか覚えてる?」
頭の中、実験のタスクを思い返す。
複数回用意されていた接近、離脱パターン。
ふらふらとひめとの離脱、再接近を繰り返すうち、
いつのまにか実験予定のタスクをこなしてしまっていた。
あとは……
「宇宙給油試験?これって……」
顔を真っ赤にしたひめが、こくんとうなづく。
軌道上は無重量。
アームを使って他の衛星に模擬燃料を受け渡すこの試験は、
姿勢制御を行いながらアームを動かす技術、軌道上での物の受け渡しなど、
多くの知見をもたらしてくれる。
でも、僕たちにとっては……
「ひ、ひめ。いいの?」
僕たちの使命として決められてることなんだからいいも悪いもないんだけど。
でもその意味に、聞き返さずにはいられなかった。
「ひこだから、いい」
僕の腕の中のひめが呟く。
「お願い、ひこ。私に……ください」
誰もいない、二人だけの軌道上。
受け渡しを行う給油口を覆うカバーを、ゆっくりと外す。
ひめは僕の腕が触れる度、怯えたように震える。
「ひめ……」
僕の言葉に涙を浮かべた瞳を開くひめ。
安心させるために、僕は優しくひめに唇を重ねる。
「ふにゃぁ、ひこっ、そんなとこっ」
唇同士のキスから、首筋、肩、胸、お腹。
ひめの体に怪我がないか確かめながら、
ひめの体のあちこちに僕の印のキスマークをつけながら、口づけを繰り返す。
ひめの体に異常はない。
「綺麗だよ、ひめ」
そしてもう一度、優しく口づけを交わす。
僕が体に触れるたび、可愛い反応を返してくれるひめ。
ひめの体は上気して、もうすでに僕を受け入れる準備は調っている。
模擬燃料準備よし。
あとはこれをひめに……
「行くよ、ひめ……」
模擬燃料をひめの給油口に近付け……
「え、あ、あれ?」
ひめの給油口を見失った僕は、一瞬パニックに陥った。
え、えっと、あれ?
こんな時はどうしたら……
「くすっ」
ひめの細い指が、僕の目指すところを指差す。
「ご、ゴメン。初めてだったから……」
「私だって初めて。ううん、私達だけじゃない。
無人衛星同士の物の受け渡しは、きっと世界でも初めて。だからね・・・・・・」
僕の下になっていたひめが、上体を起こして、今度はひめからの口付け。
「ひこ。一緒に頑張ろ」
その一言で僕の理性はもうとろけてしまった。
模擬燃料をひめに押し当てる。
「ひめ、いくよ」
ひめの大切なところに押し当てて、力を入れる。
微かな抵抗を押し切って、模擬燃料パッケージがひめの中に入る。
「くぅぅっ・・・・・・痛っ・・・・・・」
ひめの小さく押し殺した悲鳴。
すぐに燃料を注入するのはこの状態じゃ危険だ。
そっと舌でひめの涙を掬う。
ひめの痛みを少しでも抑えられるよう、優しく体を撫でる。
ひめが荒く息をつく、数回。
「ひこ、もう大丈夫だから」
まだひめの息は荒い。
「ひめ、大丈夫?辛かったら一度中止しても……」
ひめは小さく首を横に降る。
「初めて……だからっ、私とひこのっ、世界で最初の初めてだからっ。
だから、最後まで……」
そこまで言われて、僕は引き下がれない。
ぎゅっとひめの体を抱きしめ、注入を開始する。
はじめは強張っていたひめの体。
でも、繰り替えすうちの僕のものに馴染み、声にも色が混じり始める。
体の相性が悪いわけがない。僕はひめと一緒になるために生まれてきた衛星だから。
「ひゃうん、ひこぉ、ひこぉ・・・・・・」
耳元であがる、ひめのかわいらしい声。
もっと一つになりたい、ひめと僕はもともと一つの衛星だから。
ひめと僕、二人で「きく7号」だから。
「ひめっ、いくよ・・・・・・」
「うん、ひこ、出して、いっぱい、お願いっ!!」
ぎゅっとひめの体を抱きしめる。
はじける感触。
接続された模擬燃料パッケージから、模擬燃料がひめに流れ込んだ。
荒い息を静めながら、乱れたひめの髪を指で直す。
「ひめ、大丈夫?」
ちいさく、こくりとうなづくひめ。
これでミッションコンプリート、かな?
「ひこ・・・・・・」
彼女の求めにしたがって、僕はもう一度彼女に優しく口づける。
「ねぇ、ひこ。どんな子になるんだろうね。私たちの子」
あ、え、えっと。僕たちのやってたのは宇宙給油試験で、
そのエッチなことじゃなくて・・・・・・
「えっと、後継機の話?」
そう、とひめは頷く。
「私たちの成果は、今後も受け継がれていく。
私たちの技術は、国際宇宙ステーションへのドッキングや、
他の衛星の修理技術へと繋がる。きっと私たちの技術を生かした子が作られるよ」
僕らは技術試験衛星。
僕らの生まれた意味は、次の衛星に引き継がれる技術を生み出すこと。
「そうだね、きっと生まれてくる。これからの宇宙開発を支えてくれる、僕たちの子供たちが」
「第二段エンジン燃焼停止」
下からの強烈な加速が唐突に止まり、私の周りが静かさにつつまれる。
「HTV分離!!」
突き放されるような感覚とともに、私は宇宙へと放り出される。
ゆっくりと私は、目を開ける。
「うわぁ・・・・・・」
そこには、青。
一面の青い海、白く光る雲、緑の大地。
高度350kmの宇宙空間に私はいる。
「・・・・・・」
青い地球から、今度は漆黒の宇宙に目を凝らす。
遥か遠くの星以外に、私の目に映るものはない。
人工衛星の打ち上げで過密になってきている宇宙空間とはいっても、
視界に他の衛星が入るほど距離が接近してたら、それは異常事態だ。
「お父さん、お母さん・・・・・・」
この私の軌道上とそう違わない高度に、私のお父さんとお母さんはいる。
私のドッキング技術の元となったお父さんとお母さん、きく7号は、
いくつものトラブルを乗り越え、1999年12月にすべてのミッションを完了。
2002年10月30日15時56分に停波コマンドを受け、永遠の眠りについた。
その後も、この軌道上を回り続けているという。
「よし、私も頑張るんだから!! お父さん、お母さん、見ててね」
この軌道のどこかで回っているお父さんとお母さんに声が届くよう、叫ぶ。
きく7号の娘の名に恥じぬよう、私は行く。
与圧部、推進装置を持ち、日本で初めての「宇宙船」とも呼ばれる私。
次のステップ、有人宇宙飛行を目指すためにも、失敗は許されない。
私は目指す、国際宇宙ステーションへ。
私の「初めて」を、次の世代へ繋げるために。
以上です
いや〜 こういったパターンは初めてだったんで頑張りました
ラブラブセッ・・・・・・模擬燃料給油試験
ドッキング=えっちなこととイメージしちゃいますが、
きく7号はよくよく考えると打ち上げ時にはドッキングした状態で打ち上げるので
「仲のいい幼馴染がお互いを異性と意識してギクシャクしてからくっつく」のパターンで
おりひめはデレツンデレ
解説・・・・・・もとい言い訳
給油口を覆うカバーを、ゆっくりと外す
正直模擬燃料給油試験の資料はさっぱりないので、このあたりは100%都合よく妄想
萌衛星図鑑P57のイラストからイメージ。以下のシーンはすべて妄想
このあたり詳しい資料ご存知の方がいたら教えて・・・・・・
ひめの体に怪我がないか確かめながら
ほ、ほら、ひこぼしのアームにはカメラあるからさ、
こう異常がないか撮影して確かめたりするんよ。うん。
だからエロいことないんだよ!!きっと!!
微かな抵抗を押し切って、模擬燃料パッケージが・・・・・・
ほ、ほら。きっとぎゅっと力を入れるとカチっとはまる感じ。
あんな感じなんだよ・・・・・・多分
HTV
まあ、この子父母より先に大気圏突入しちゃうんですけどね。
当初予定では男の子でしたが、ニコニコ大百科の絵を見て女の子に
HTV1号機は2009年11月2日に大気圏再突入し、燃え尽きました。
きく7号は2007年〜2012年の間に大気圏突入するとニュースで見かけましたが、
「突入した」のニュースは発見できなかったので、まだ落ちてないのか?
ご存知の方あれば情報ください
653 :
名無しさん@ピンキー:2010/07/31(土) 15:00:36 ID:E6rDWF6y
中学生の頃、数学の問題集を解きながら
「値を求めよ」とあるのがどうしても頭の中で
「アタイを求めよ」と変換されてしまっていた。
理系の女の子に「アタイを求めよ」なんて言われてみたかった。
654 :
名無しさん@ピンキー:2010/09/09(木) 08:58:10 ID:n+k20+tK
持ちageマース
ほー
復帰
657 :
名無しさん@自治スレで設定変更議論中:
浮上開始・・・・