地下鉄の中は、少し混み合っていた。
車両には男性が多く、世間的には夏休みだというのに、朝10時の電車の中には、
サラリーマンや学生様々な人種が入り混じっていた。
聡は、眉間にしわを寄せると、ふぅとため息をついた。
(じいちゃんち、自転車で行けば良かったな…)
暑さに負けて電車にしたが、混雑は予想外だった。一学期終了間際からイライラ
することが、多かったがそんな気持ちに拍車がかかる。
「わっ、私あんまり、二人で話したりしたくないの。」
紗枝は小さな声で呟くと、ツインテールと大きすぎる胸を揺らして、逃げるように
教室から出て行った。
「なんなんだ、それはよぉ。」
一学期最後の日のことを思い出し、聡の胸はムカムカとざわついた。
おまけに、通知表の成績も散々だったために、母からゲーム機もとりあげられた。
(じいちゃんにお願いして、なんとかしてもらえないかなぁ。)
あちこちから聞こえるヒソヒソ声が、聡の心を車内へと戻した。
「やっぱ、あの子乗ってきてるな。」
「でけー乳してるよな。幾つだろ。」
「いっぱいモミモミされてるんだよ。」
「小?中学生?男知らなきゃあんな乳してるわけねぇよ。」
「おれもチュウチュウしてぇー」
「さぁ。今日は誰が始めるかな?」
「オレも参加しちゃおっかな」
「犯罪だから、やめろって。見学見学。」
特に混みあった乗り口のコーナー付近で、男達が騒ぎ出す。
(うるせーな大人は。……こいつらまさか、痴漢か?)
少し身体をずらすと、男達の影に紛れるように、細い少女の身体が見えた。
大きな、ドッチボール位はありそうな胸が、胸にアップリケのついたポロシャツを
突き上げている。
何が始まるかと目を凝らしていると、背後から男の手が現れ少女の胸に触れた。
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なつやすみ:2007/08/10(金) 16:05:58 ID:rmJsfRE1
(まじかよ!)
聡が息を飲むと、その間にも少女の身体に、色々な方向から手が忍び寄ってきた。
ポロシャツの上から大きな胸を包み込むように手が握りこんでいく。
横から伸びた指は胸の先を、弄ろうと指先を動かす。
もう片方の胸は下から持ち上げるように、揺らされている。
話し声は大きくなるが、だれも止めようとはしない。
徐々に大胆になる数本もの手は、やがてポロシャツのボタンをあけようとした。
少女が微かに身を震わせたのか、手の動きは一旦止まったかに思われたが、広げられ
た襟元から、手が忍び込んでいった。
聡は、親友の勝也の家で見た、アダルトビデオさながらの光景に呆然と目を奪われた。
(すげぇ!こんな事ってホントにあるんだ!)
「…んっ。…―やぁ。」
少女の声らしき小さな哀願する声が聞こえたが、煽られたように男達の手の動きは、
ますますひどくなった。
携帯電話を持ち出し、ポロシャツからもう少しで見えそうな、少女の胸を撮影するも
のまでいる。
(ちょっ!止めさせた方がいいだろうけど、子どものオレがどうすりゃいいんだ…)
少女の頭がガクンと垂れて、震える。ふっと、あげたその顔は…
「紗枝!!」
大きな聡の声に、車内のざわめきが静かになり、男達の手も止まった。
強引に人ごみの中に聡が突っ込んでいくと、涙を浮かべた同じ5年1組の西山紗枝が、
そこにいた。
タイミングよく開いた扉に、紗枝の手をつかみ聡は二人で車内から逃げ出す。
無我夢中で走り、改札口をぬけると、そこは祖父の最寄駅だった。
「た、……助かったぁ。」
「……。」
蒼い顔をしたまま、紗枝は聡の手を握り返し、がたがたと震える。
「じいちゃんち、ここからすぐだからさ。とりあえず、行こう!」
「…ん。」
紗枝は搾り出すように声を出すと、聡に促されて歩き出した。