>>499 GJ!
さつき姉の依存可愛いよ依存
でも主人公は逃げたいんだろうなあw
これはこの先が楽しみ(*´д`*)ハァハァ
>>489 メンヘラってこと?
しかし羨ましい…。監禁されて死ねばいいのに
さあ、お前と彼女の出会いをSSにしたまえ
>>502 >492にもあるが精神疾患・誇大妄想と紙一重なんだよ。その紙一重を綺麗に隔ててるのがうちのなんだけどね
SS描いてもいいけど、ツンデレとかに比べてやっぱりネタにするのは難しいと思うよ。その相手も多少壊れてないといけないし
504 :
名無しさん@ピンキー:2007/05/24(木) 02:41:02 ID:qghtPmO4
>>503脳内彼女なら今すぐ書け。
実在彼女なら大事にしてあげて下さい。
>>498 これは素晴らしい期待の新作!
続きが楽しみでつ
でも携帯の料金案内ってことはまさか
惣一につながるまでランダムでかけまくってたって事か?(((;゚∀゚)))ガクブルハァハァ
>>503 なんという彼女……間違いなくこのスレは嫉妬される
>>503 お前のリアルの話なんてミジンコほどにどうでもいいから控えてね
そもそもここがなんのスレなのか考えてからレスしようね
何言っているんだこんなことが実際にある訳無いじゃないか
実体験風の作品と考えれば問題ない
512 :
名無しさん@ピンキー:2007/05/24(木) 21:19:23 ID:OqyWaXyt
実体験の報告と見せかけて日に日に病んでいく彼女を追ったSSだったのか!
昨日の続き、投下します。
さつき姉は携帯電話を折りたたんでポケットにしまうと、僕に向けて手の平をさしだした。
「鍵」
「鍵?」
「鍵は鍵よ。惣一の部屋の扉を開けるための鍵。
今日からしばらく惣一の部屋に泊まることにしたから、荷物を入れておきたいの。
荷物と言ってもバッグひとつだけどね。あ、あともう一つあったわ。
ねえ、部屋の中にキッチンと冷蔵庫はある?」
僕はある、と言ってから頷いた。
さつき姉はコンクリートの廊下の床に置かれている大き目の黒のバッグを右手に持ち、
大きく膨らんだビニール製の買い物袋を左手で持ち上げた。
ビニール袋の中には緑色の野菜と、肉の切り身が入れられているパックが入っていた。
「今からさつきお姉ちゃんが料理を作ってあげる。もうお昼時だから。
肉と野菜の炒めものを作れるぐらいのものは揃っているでしょ?」
「うん」
「じゃあ、早く扉を開けて。あ、あとこれ」
と言うと、さつき姉は僕に向けて真っ黒の旅行バッグを差し出した。
「いろいろ入っているから重かったのよ、それ。
惣一は知らないかもしれないけど、女の子が旅行するときに持っていく荷物は
結構な量になるのよ」
僕はさつき姉からバッグを受け取った。
確かに、僕がひとりきりでぶらぶらと旅行するときに抱える荷物より、さつき姉が
持ってきたバッグは重かった。
しかし、僕が近所のスーパーで3日分の食料をまとめ買いした帰り道で持つ
ビニール袋に比べれば軽いものではあった。
左手にさつき姉のバッグを持ち、右手でポケットの中を探って部屋の鍵を取り出して、
201号室のドアを開ける。
毎日嗅いでいる僕の部屋の匂いが、いつものごとく部屋の中に滞っていた。
僕がまず靴を脱いで部屋の中へ入ると、さつき姉が後に続いた。
さつき姉は買い物袋を入り口近くに設置してあるキッチンの上に置くと、深呼吸した。
「ああ、ここ、惣一の部屋の匂いがする。
鼻をつく匂いがなくて、甘い匂いもなくて。すっごく好きだな、この匂い」
僕は、口の代わりに鼻から息を吐き出した。
さつき姉の喋り方が、昔とまるで変わっていなかったことに安堵した。
僕のせいでさつき姉の心が傷ついて、変貌してしまっているのではないかと思っていたからだ。
さつき姉は僕の手から黒いバッグを受け取ると、台所の床に置いた。
キッチンには蛇口と流し口と、まな板と包丁と、蛍光灯と冷蔵庫とコンロが置いてある。
さつき姉はいずれも使えるものばかりであることを確認すると、調理を開始した。
まな板と包丁と手をまず洗い、続いてキャベツを水で流し始めた。
僕がさつき姉の行動を観察していると、さつき姉に声をかけられた。
「惣一は座ってなさい。20分もしないうちに出来上がるから」
僕は言われるがまま、キッチンとの居間を仕切るガラスの引き戸をしめてから、
居間に置いてあるテーブルの前に座った。
さつき姉がキッチンで料理する音を聞いていると、急に居間の掃除をしたくなった。
僕は普段から掃除を定期的にしていたし、文庫本を読んだ後は本棚にきちんと収めていた
から部屋が散らかったりしていないのだけど、自然と掃除を始めてしまった。
本棚の本を揃えて、机の上のペンとノートを片付けて、コンビニで買ったエロ本を隠した。
畳の上に散らばるホコリや髪の毛をあらかた捨て終わったころ、さつき姉が引き戸を開けて
片手に料理の乗った大皿、片手に皿2枚と箸2膳を持って居間に入ってきた。
両手に持っていたものをテーブルの上に置くと、さつき姉は居間に座り込んだ。
僕も少し遅れて、さつき姉とテーブルを挟むかたちで座った。
さつき姉は僕の前に皿と箸を置くと、同時に自分の前にも同じものを置いた。
「惣一、さつきお姉ちゃん特製の野菜炒めをどうぞ召し上がれ。
特製スパイスを使ったから、大学の食堂の料理よりはおいしいはずよ」
「特製スパイス?」
と、僕は聞き返した。
「そう。香りとコクが段違いに増すのよ」
大皿の上に盛られた野菜と肉の炒めものを、箸を使い手元の皿に移す。
鼻を近づけると、確かに香ばしい匂いがした。
昼飯時で空腹状態の僕にとって、野菜炒めのこしょうと油の匂いは刺激的だった。
いただきますと言った後は、無言のまま箸を動かし、小食のさつき姉と一緒に野菜炒めを
完食した。
箸と皿をテーブルの上に置き、満たされた胃を自由にしようとして手を後ろにつく。
少し食べ過ぎたかもしれないが、後悔はしていない。
1人暮らしを始めてから今まで、これだけ美味しい料理を食べたのは初めてのことだった。
自分で料理をしてみようとしたこともあるけど、時間が無いとつい簡単なものですませようと
して、結局は自宅で料理をしようともしなかった。
僕は手をついたまま座っていた。さつき姉が冷蔵庫から麦茶をとりだして、
僕の前にコップを置いて麦茶を注いでくれた。
僕は麦茶をすぐに飲まなかった。
まだ、胃が脈を打ったままの状態で何も受け付けてくれない。
テーブルの向こうに座るさつき姉を、ぼんやりと観察する。
さつき姉は肘をテーブルについたまま僕の顔を見ている。
僕は内心、いつさつき姉の癇癪が起こるのかと戦々恐々としていた。
さつき姉に何も言わず、引越しの前日にした約束を守らず、僕は今居るアパートの部屋に
引っ越してきた。
昔からさつき姉は僕が何も言わずにどこかへ行ってしまうと、眉間にしわを寄せて怒った。
けれども僕の目の前にいるさつき姉は眉間にしわを寄せるどころか、目尻と口の端を
緩ませて笑っているようであった。
僕が沈黙のまま胃を休ませていると、さつき姉の唇が動いた。
「惣一が今何を考えているか、当ててみましょうか。
ずばり、私が怒っているのではないかと思ってびくびくしつつ、なんと言って話を
切り出せばいいのか、と考えている。当たりでしょ」
少しは当たっている。僕は無言で首肯した。
「私が怒っているか、怒っていないか。どちらかと言えば怒っている、が正解ね。
久しぶりに惣一とデートできると思って待ち合わせ当日は5時に起きて、
化粧と服がばっちり決まるまで衣装合わせをして、待ち合わせ1時間前に
待ち合わせ場所に到着して、惣一が来るのを待つ。
はにかんだ表情で待ち合わせ場所にくるはずの惣一が引っ越してしまったことを
知ったのは、夜8時になっても帰ってこなかった私を心配した両親からの電話でだった。
10時間も立ちっぱなしだったから、足はパンパンよ」
僕はなんとなく正座をしてしまいそうになったけど、体をまっすぐに起こす程度にとどめた。
「でね、私思ったのよ。このことは絶対に惣一に罪を償ってもらおう、って」
支援
さつき姉はそう言ってから、黙り込んでしまった。
対して、僕の額からは汗が噴き出し始めた。
窓から舞い込んできた熱気とは別のもの――荒縄で締め付けられて縄が食い込んでいるが
拘束を解けない状況の焦りの心境――が原因だった。
さつき姉は空になった自分のコップを持って立ち上がった。
「そんなバツの悪そうな顔しなくてもいいわよ。
今すぐに罪を償ってもらおうってわけじゃないんだから」
「じゃあ、いつかはするってこと?」
「ええ、もちろんよ。とびっきりのタイミングで、ジョーカーの代わりに使っちゃうから。
悪いだなんて、私は思わないからね。躊躇無く、堂々とカードを使う。
私を騙したんだから、それぐらいのペナルティはあって当然よね、惣一?」
僕は、口を開けなかった。
さつき姉は、僕が約束を守らなかったことを咎めている。
心の中でさつき姉の言葉を反芻して、僕は自分のやったことについて自分自身を何度も殴った。
殴られ続ける僕のありさまをさつき姉が目にしたら、すぐに許してしまうだろう、というくらいに。
さつき姉は引き戸を閉めると、キッチンで洗い物を始めた。
僕はテーブルに両手を投げ出して、同じように体を乗せた。
開け放たれた窓の向こうからは、せみの声が特によく聞こえてきた。
時々アパートの前の路地を通る車の排気音が聞こえて、同じ道を歩く人たちの話し声が
聞きたくもないのによく聞こえた。
彼、もしくは彼女らの話で「暑い」という単語はよく登場していた。
話す相手が入れ替わるたびに口にしているようにさえ思えた。
僕の体は暑さのせいで熱くもなっていたが、あきらかに一部分だけが異常に熱くなっていた。
具体的には股間に血液が集まり、勃起した肉棒がとても熱くなっていた。
恋人は大学に通っているうちにはできなかったから、性欲を処理するためにマスターベーションは
定期的に行っていた。
加えて、僕はあまり(自分の判断では)性欲が強い人間ではない。
だというのに、今の僕は腰を振って女性の体を貫きたいという単純で強力な欲望に背中を
つつかれている。
引き戸の向こうで洗い物をするさつき姉に肉欲をぶつけないよう、腹筋を固める。
今さつき姉がやってきたら、何かの拍子に崩れてしまうかもしれない。
昼食で大量に皿を使っていればよかった、という種類の後悔をしたのはこれが初めてだ。
汗と一緒に性欲が流れ出していってくれればたちまち肉棒は静まってくれるだろうが、
現実では時が経つごとに性欲を強くしていった。
股間が膨らんだ状態では外出できず、またさつき姉が同じ部屋にいる以上マスターベーションを
することもできず、僕は惨めな状態のまま夜を迎えることになった。
投下終了。ちょっと話のきり方がおかしかったかな?もうちょっと長くした方がいい?
一番槍神GJ!
なんですかこれは?まさか媚薬ry
ところで本当に今更なんだがヤンデレ娘は99%料理になんかいれるよな・・・・
愛液やら媚薬やら血やら人肉やら。
いやいやそれが悪いなんて微塵にも思ってないよ。特に愛液入り料理を是非食べたいなんて欠片も思ってないぞ。
みんななら俺を信じてくれるよな?
>>518惣一……警戒感なさ杉だ
だがそれが(ry
投下については個人的には特に短いとも感じなかったですが
>>520うん、信じるとも。だからおまえの分の料理は俺が食べといてあげよう
なに、礼には及ばん
>>520 そう思えないやつなら俺達と友達になれないな
524 :
尽くす女:2007/05/25(金) 19:30:23 ID:ijfHRU+h
初投下だけど、これってヤンデレSSになるのか不安だわ。
そこは薄暗い部屋の中だった。
パソコンのディスプレイから洩れている明かりだけが薄青色に部屋の中を照らしていた。
あまり広いとはいえない部屋の中には、多くのモノが積み上げてあった。
DVD、ゲーム、CD…etc.
今にも何かの拍子で崩れてしまうのではないかと思うような有様。
足の踏み場なんてほとんど無く、中央にパソコンへと続く道とも呼べないような空間があるだけ。まるで片付けの出来ない子供部屋のような空間。
パソコンの傍らにはセミダブルのパイプベッド。
生活する人の性格を映すかのように昨夜起きたときのままの状態。
乱れた布団、毛布、枕
その傍らにおいてあるゴミ箱とティッシュのつぶれた箱。
ベッドの向かいにある本棚はきちんと整理がされており、たくさんの書籍がしまわれていた。
背表紙の巻数がきちんと並んでいる。
幾つも…幾つも…
その種類は幾種類あるのだろう。
最後のほうは本棚に入りきらなかったのだろうか、横向きに置かれ、無造作に本棚の前に積み重ねられていた。
すん…
鼻に匂いがまとわり付く
タバコと男性の匂い。
生活の匂い。
あの人の匂い。
恐る恐る周りのものを崩さないように奥へと足を一歩、また一歩進ませていく。
薄暗い部屋の中を。
「こんなところであの人は…寝ているのね…」
足元に落ちているよれよれのYシャツを拾い上げ、しわを申し訳程度に伸ばしながら畳む。
シャツからは汗とタバコと男性特有の体臭が漂っている。
「どうして、すぐにクリーニングにださないのかなぁ…」
苦笑しながらもベッドに腰を下ろし、床に散乱した衣類を丁寧に畳んでいく。
部屋の中を弄られるのを嫌がる性格なので、他のモノには手を触れない。
ようやく洗濯物を畳み終わり、衣服を洋服ダンスにしまう。
洗濯しなければいけないモノは手早く洗濯機に洗剤と一緒に放り込み設定してスイッチを入れる。
ジャー……
水が洗濯槽に満たされていく音が静かに暗い部屋の中に響いている。
その音色を背中で聞きながら、リビングのテーブルの上に散らばった菓子パンの袋や、要らないゴミをゴミ袋に詰め込んでいく。
ブックカバー、コンビニの袋、くしゃくしゃに丸まったティッシュ、お菓子の空箱…
そこに置いているものには手を触れないでゴミだけを手早く詰め込んでいく。
ごうん…ごうん…
給水が終わったのだろう。洗濯機が音を立てて回り始める。
静かで薄暗い部屋の中…ただひたすらにゴミを拾い集める。
袋がいっぱいになるとゴミ袋の口を縛り玄関の傍に置いておく
525 :
尽くす女:2007/05/25(金) 19:34:03 ID:ijfHRU+h
「はぁ…」
一息ついて、額の汗を拭う。
そしてぱたぱたとスリッパの音を響かせてリビングにある緑色の可愛いソファーに
倒れこむように腰を下ろす。ゆっくりと首をソファーに預け、
ぼんやりと天井を見上げる。
…何を思うでもなくしばらく呆けていると、手に何か硬いものが当たった。
何だろう……?
それを手に取ってみるとそれはビデオの箱だった。
…これって…
アダルトビデオ…?
恍惚とした表情を浮かべた女性がプリントされた表紙。
嫌がっているのか、喜んでいるのか解らないようなそんな表情の女性。
手にそれを持ったまま視線を前に移すとそこには大きなテレビがあった。
今流行のフラットでもワイドでもない、昔ながらの24型のテレビが置いてあった。
「ふ〜ん…こんなものを見ているんだ…」
手元を探すとコントローラーらしいものが二つ転がっていた。
ビデオ用とテレビ用。リモコンで電源を入れると
ブンッ…
という無機質な音と共にテレビに明かりが灯った。
526 :
尽くす女:2007/05/25(金) 19:35:11 ID:ijfHRU+h
真っ青な画面。
音は何も聞こえない。
次にビデオのコントローラーの再生と書かれたボタンを押してみる。
ウィーン…ガシャ…
ビデオの動く音が静かな部屋の中に木霊する。
画面には柱に縛られた着物姿の女性が髭の特徴的な着物姿の男が映し出された。
だが、音は聞こえなかった。
…いや、かすかに声が聞こえていた。
ソファーの上から微かに嬌声と男の声が聞こえていた。
手を伸ばしてみるとそこにはヘッドステレオが置いてあり、声はそこから漏れているのであった。
しばらくの間、手に持ってそこから聞こえてくる声に耳を傾ける。
擦れるような声。響く声。喘ぎ声。やめて欲しいとの嘆願。
…本当に厭なのかしら…
ビデオの停止のボタンを押し、テレビの電源を切り、ヘッドステレオを耳から外す。
膝の上にそれを置き、目を閉じる。
ピィー…ピィー…ピィー…
洗濯の終わりを告げる音が響きわたる。
ヘッドステレオをソファーに戻すと、ソファーからゆっくり立ち上がり洗濯機の前にゆっくりと歩いていき、洗濯籠に洗濯物をいれる。
「私…何を考えているの?」
ふと、洗濯物を取り込みながらそんなことを考える。
願望…何を望むの?
頭の中から余分な考えを振り払い、ただ作業に没頭する。
手早く取り込み、お風呂場に…室内乾燥機のあるお風呂場に手早く干していく、
パン…パン…
両手で挟み込むようにして洗濯物の皺を伸ばしていく。
パン…!
両手でひっぱりしわを伸ばす。飛沫が微かに顔にかかり、シャツがぴんと張る。
何かをしているときが一番落ち着く。
何も考えないで作業に没頭できるから。
考えてしまうのはいけない。
作業の邪魔になるから。
そうだよね。
そう…?
そうなんだよ?…ね?
部屋を見渡す。掃除は終わっている。洗濯も終わっている。
今はそれ以上にすることは無い。
だから私がここにこれ以上いる理由も無い。
私は部屋を後にした。
次にこの部屋に来る時は
あの人が私を彼女として連れてきてくれるときだと信じて。
528 :
尽くす女:2007/05/25(金) 20:18:24 ID:ijfHRU+h
はい、投下終了です。
と、最期に書いてなかったorz…
これは、もしかして……想い人の部屋に勝手に忍び込むストーカー!?
いや、違うか。きっと男を一途に想うあまり部屋に忍び込む、健気な女の子なんだ。うん。
>>529 そんな人を傷つけるような冗談言って………
いくら名無し君でも許さないよ?
私、こんなにこんなにこんなにこんなにこんなにこんなにこんなにこんなにこんなにこんなにこんなにこんなにこんなにこんなにこんなにこんなにこんなにこんなにこんなにこんなにこんなにこんなにこんなにこんなにこんなにこーーーーーーーんなに尽くしてるのに…
てな感じじゃね?
男が部屋に帰って来た時の反応を見てみたいな
>>531 重要な書類がねぇ!!
って感じじゃね?
保管庫の管理人さん、素早い更新乙です。
では、昨日の続きを投下します。
夏がくると、スイカを思い出す。
夏の風物詩といえるスイカであるが、実を言うと僕はあまり好きじゃない。
理由の1つが、赤い果肉の中に入り込んでいる黒い種だ。
大口を開けてスイカに噛り付くと、大量の果肉と一緒に種までもがついてくる。
ひと噛みするごとにいちいち邪魔をしてくる小さな種の存在が、僕にとっては不快だった。
もう1つの理由が、僕の父親の存在だ。
僕の父親はスイカを食べるとき赤い果肉だけではなく、皮まで齧っていた。
スイカをおやつとして出されるたび、僕は父親から赤身を残さずに食べろと
口うるさく言われてきた。
もちろん父親と同じようにできるはずもなく、僕はいつも赤身を少しだけ残した。
そして、父親に怒られた。スイカを全部食べなかったという理不尽な理由で。
それらのことがあったせいで、僕はスイカというものから距離を置くようになった。
夏休みに家で過ごしているとスイカを食べさせられるので、家にいない理由を
いつも適当に作り出した。
図書館へ宿題をやりに行ったり、さつき姉の家に遊びに行ったり――――
うなだれて、ため息をひとつ吐く。
また、さつき姉のことが浮かんできた。
たった今風呂に入っているさつき姉の裸体を想像しないために、まったく関係のない
ことを考えていたというのに。
1畳ほどの広さもないバスルームでさつき姉がシャワーを浴びている音が、
浴室のドアを通り抜けて僕の座っている居間まで聞こえてくる。
さつき姉がシャワーを浴びに行ってから20分が経とうとしているが、僕の主観では
2時間は経っているように感じられる。
さつき姉の作った夕食を食べ終えた後にシャワーを浴びてからも、僕の股間と
欲望は熱くなったままだった。
風呂上りに勃起している様を見られないよう隠すのには苦労した。
昼食後から現時刻の午後8時50分まで、僕はずっとこんな情けない状態のまま
部屋に閉じこもっている。
久しぶりに会ったからかもしれないが、さつき姉は僕によく話しかけてきた。
耳に優しいさつき姉の声を聞くたび、僕の体がうずいた。
奇妙な現象だった。いくらさつき姉が魅力的な容姿をしているからといって、
ここまで強く欲情したことはない。
まして、さつき姉とセックスしたいなど、実家に住んでいた今年の3月までは一度も
考えたことがなかったのに。
しかし、現に僕は今性欲を解消したくて仕方なくなっている。
僕の浅ましい欲望をさつき姉の体にぶつけたくないのに、全力疾走した後よりも強く脈を
打つ心臓は思いに応えてはくれなかった。
浴室のドアが開く音がした。しばらく体をタオルでこする音が続く。
足拭きマットを踏みしめる音が2つ聞こえた。さつき姉が出てきたのだろう。
さつき姉がしているであろう行動を背中で聞いているだけで下半身に血液が送り込まれ、
欲望を閉じ込める役目を任された腹筋が固くなる。
自分が吐く息すら強い熱を持っている気がする。
ふと、バニラのアイスバーに息を吹きかけたら溶ける様子が浮かんだ。
バニラアイスでもドライアイスでもいい。僕の欲望と熱を抑えてくれ。
居間とキッチンを仕切る引き戸が開くと、シャンプーの匂いがした。
匂いを大きく吸い込んでしまいそうになるのを必死に抑える。
さつき姉は僕の背中に向かって声をかけた。
「ねえ、惣一。ドライヤーはどこにあるの? 私持って来てないのよ」
「え……。なに、もう1回言って?」
「なにぼうっとしてるのよ。ドライヤーは、この部屋の、どこに、あるの?」
さつき姉は上の空の返事をした僕に言い聞かせるように言った。
そういえば、ドライヤーはどこ置いただろう。
部屋の空気に混ざり始めた鼻をくすぐる匂いのせいで、簡単なことの答えも見つからない。
そうだった。ドライヤーは浴室のドアの近くにかけてあったはず。
僕がさつき姉にそのことを伝えようとして顔を上げると、バスタオルを体に巻きつけて
部屋の中を探し回るさつき姉の姿が目に入った。
力を振り絞り、目と顔をあらぬ方向に向ける。
「どこにあるのよ、ドライヤー。早く髪の毛を乾かしたいのに」
「浴室の、ドアの壁」
「ん? 何か言った?」
さつき姉が、僕の目線の先でしゃがんで見つめてきた。
湯上りで湿った髪と、わずかに濡れた肩と膝と、タオルに収められた胸の谷間が見えた。
「浴室のドアの近くの壁にかけてあるから! 早く服を着てくれ、頼むから!」
「ああ、あそこにあったのね、気づかなかったわ」
さつき姉は立ち上がると、ぺたぺたと歩いて浴室の方へ向かった。
ドライヤーの騒音が聞こえる。髪を乾かしているのだろう。
時々大きくなったり小さくなったりするドライヤーの音を聞きながら、僕は長いため息を吐いた。
ドライヤーの場所を尋ねられて答える、というだけのやりとりで僕の精神力はかなり磨り減った。
大学の眠たい講義を受けていてもここまで疲弊しないだろう、というぐらいに。
さつき姉は髪を乾かしてパジャマに着替えると、僕の傍に座った。
僕がさつき姉から距離をとると、さつき姉は空けた距離をすぐに詰めてきた。
さつき姉からの逃亡は、僕の背中が壁についたことで幕を下ろした。
部屋は6畳しかなかったから、2人居るだけでも狭く感じられる。
「なんで逃げるのよ。そんなに怖がらなくてもとって食ったりしないわよ」
間近で声を出すさつき姉から顔をそらす。見ているだけで自制が利かなくなりそうだ。
「それに、なんだか顔が赤いわよ。もしかして夏風邪?」
さつき姉の手が、僕の額を覆った。風呂上りのせいだろう。額に手のぬくもりが感じられた。
「うーん。熱は無いみたいだけど、本当に大丈夫?」
今度は、身を乗り出して僕の顔を見つめてきた。
さつき姉の美しいラインを描いた二重まぶたがよく見える。
風呂上りから間の無い髪の毛はまだシャンプーの香りを漂わせていて、空気を柔らかくしていた。
僕は、さつき姉の唇にくちづけたかった。
上下の唇を舌で割り、歯と歯の間を舌の先でなぞり、唇の裏と頬の裏を舐めて、
さつき姉の舌を自分の舌で嬲りたくなった。
ピンク色のパジャマを震える手で急いで外し、ブラジャーをまくりあげ、胸の谷間に
顔を埋めるところを想像した。触感までも、想像することができた。
そして、さつき姉の足を開いて中へ入るところまで思考を泳がせたところで、自分の頬を殴った。
続けて左の頬を左拳で殴る。頬骨と、拳の尖った骨が思い切りぶつかった。
「いきなりどうしたの? 自傷癖でもできてたの?」
「……もう、寝よう」
「え、でもまだ10時にもなってないけど」
「いいんだよ。僕はいつも10時には寝るようにしてるんだから」
僕の言葉を聞いて、さつき姉は一度顔をしかめてからため息を吐き出した。
「仕方ないわね。じゃあ、もう寝ましょうか」
僕はさつき姉に背中を向けて、深く腰を曲げながら布団を敷き始めた。
歯を磨いて、部屋の電気を消して布団に潜り込んでから、僕は自分の行動を後悔した。
横になった僕と向かい合う形でさつき姉が布団に入ってきたのだ。
僕が布団から出ようとすると、さつき姉に肩を掴まれて動きを止められた。
「どこに行くつもり?」
「僕は台所の床で寝るよ。さつき姉は1人で布団を使って寝ていいから」
「別にいいじゃない、一緒に寝ても。昔はよくこうやって一緒に眠ったでしょ」
「今と、昔は違うよ」
僕が手を伸ばすまいと努力していることにも気づかず、さつき姉は言葉を続けてくる。
「ふーーん。も、し、か、し、て。さつきお姉ちゃんの体に興奮しちゃってるとか?」
否定しようとしたら、いきなりさつき姉が僕の首に手を回してきた。
吐き出す息まで感じとれる距離に、さつき姉の顔がある。
「でも、私を無理矢理どうにかしようとか、惣一にはできないよね」
その言葉は、僕をからかっているようだった。
体の中を駆け巡る欲望が、大きな津波のようになって押し寄せてきた。
できない、とさつき姉は言った。僕に、僕自身がしようと思っていることはできない、と。
僕がしたくなっていることなど、さつき姉は気づいていないようだった。
「ふふ、できないわよ。惣一には、まだそんなことはできないって」
さつき姉は、鼻から小さく息を吐き出しながら笑った。
僕は、さつき姉の笑顔を汚してやりたくなった。
苦痛に顔を歪めさせて、身を捩じらせて、僕の思うままに弄びたい。
いつまでも子供のままだと思っているさつき姉の考えをひっくりかえしてやりたくなった。
さつき姉を喘がせて、呼吸と体を乱れさせて、涙を流させて――――?
涙を流させる?さつき姉に、か?
初恋の人に、また涙を流させようというのか、僕は?
僕が高校時代に好きだった女の子は、さつき姉が原因で離れていった。
だから僕はさつき姉を無視し続けて、寂しい思いをさせた。そして泣かせてしまった。
最後には一言も言わずにこの町へやってきた。
僕と再会するまで、さつき姉が寂しい思いをしていたのは違いない。
久しぶりに僕に会いたいと思ってやってきたさつき姉を、僕は自分の欲望のままに泣かせて、
汚して、傷つけるのか?
今度こそ、決定的な傷をつけてしまおうというのか?
僕にそんなことができるわけ、ないじゃないか。
僕はさつき姉を嫌っているわけではない。むしろ、好きなままだ。
ただ、まだ時間が欲しいんだ。僕の頭が冷えて、さつき姉を心から許せるまで。
だから、今は。
「おやすみ、さつき姉」
こうやって、背中を向けていたい。
さつき姉と向かい合っていたときとは違い、僕の欲望は鎮まり始めていた。
緊張が解き放たれて、精神の疲労が心地よく眠りに導いていく。
まどろみの中で、さつき姉の声を聞いた。
「ふう、仕方ないわね。……まさか耐え切るだなんて思わなかったけど。
でもいいわ。今日のところはお休みなさい、惣一。また、明日ね」
開けたままの窓から入り込んだ夜風が、カーテンを揺らし部屋の空気を押し流していく。
昼間のうだるような熱気のない、肩を優しく撫でてくれる風だった。
今日はここまで。次回へ続きます。
>>538 乙です。風呂場なりトイレなりでヌくという考えは彼にはないのだろうか
同居人ができたのに?
そいつぁ勇者すぎますぜ旦那
>>540 昔のねらーは言いました
「オナニーは麻薬と一緒」
俺は排水溝が詰ろうがやります。ええ
>>538 GJです
しかし惣一はよくさつき姉の罠に耐えましたね
俺ならもう襲ってます
>>541 媚薬が盛られてたっぽいから、オナヌーしても収まらないんじゃね?
543 :
名無しさん@ピンキー:2007/05/26(土) 08:57:57 ID:/JKMoZI7
主人公にもうこれ以上自分の嫌なところを見せたくない、
でも私は主人公の永遠になりたい、思いを存分に打ち明けたい。
そんな思いから、主人公に愛してる愛してる連発しながら、
主人公の目の前で自殺する娘はヤンデレですか。
続きの投下します
さわさわと道の並木が揺れる。
僕が半歩前にいて。
従妹が半歩後にいる。
繰り返し繰り返し続けられる立ち居地。
前へ出ることも無く。
共に並ぶでもない。
けれど見えぬほど後ろにも無く。
唯、静かにそこに在る。
今は綾緒だけが、そこにいる。
5回。
それだけ春を遡ると、僕と綾緒の傍には、もう一人の少女がいた。
僕らの遠い親戚で、名族・楢柴の分家。
充分高貴と云える家柄なのに、良い意味でお嬢様らしさを感じさせない爛漫な女の子。
加持藤夢(かじ ふじめ)。
それが、彼女の名前。
僕らの傍にいた少女の名前。
僕の――初恋の相手の名前だ。
僕の父は5代前の先祖の名前もわからない、まさに一般人だった。
そんな父が愛したのは、名門・楢柴の長女。
どこで知り合ったのかとか、どうやって仲良くなったのかとか、そんなことを教えてくれたことは
無い。話を聞こうとすると、笑って誤魔化すだけだった。
唯、二人が真剣に愛し合っていることだけは子供心に感じられた。
楢柴は名家だ。
『高貴』な娘と『雑種』の雄の婚姻には、当然反対した。
その反対の『手段』は嫌がらせで済むレベルでは無かったようだ。
それでも結婚にこぎつけたのは本人達の意思と、一握りの協力者があったから。
父の友人達と、母の姉代わりだった分家の女性――加持家の当主の協力が。
『雑種』に娘をさらわれた楢柴本家の人間は父を深く憎んだらしい。けれど子供が生まれると、
次第に両家は打ち解けたようで、ついには挨拶程度ならば出来るようになったという話。
そんな縁があるからだろう。
母方の親戚とはあまり面識が無いが、加持家の人々とは長い付き合いになる。
だから僕と藤夢が出会ったのも、記憶に無いくらい昔の話。
当主の娘・藤夢は母親譲りの温厚な人柄と明るさを備えていた。
同い年というのも手伝って、僕と彼女はすぐに仲良くなった。
否。僕はそう思っていた。
加持の家は他県にあるから滅多に会うことは出来なかったが、それでもたまに会える藤夢の姿を
見ることが僕の楽しみだった。
初恋。
自身の感情をそう判断できたのは、歳も二桁になってからだ。
「藤夢ちゃんのことが好きなんだ」
どうしたものかと悩む僕は、綾緒にそう相談した。
「まあ、にいさまが、藤夢のことを?」
従妹は穏やかに驚く。
綾緒はひとつ年上の藤夢を呼び捨てる。対して藤夢は綾緒にさん付けをする。それは主家と分家の差
だったのだろう。
「どうすれば良いかな」
僕が問うと、綾緒はニッコリと笑った。
「勿論、藤夢に想いを伝えるべきです。“そのままにしておく”ことはありません」
「そうかな?」
「はい。綾緒はにいさまを応援致します」
「そうか、ありがとう。なら早速――」
「駄目ですよ、にいさま」
突然の静止に僕は振り返る。
「“今”は駄目です。明日以降。明日以降にして下さいませ。綾緒にも・・・準備がありますから」
「準備?」
「はい。準備です。ですからにいさま、藤夢に想いを伝えるのは、明日以降に」
従妹に念を押され、僕は翌日、藤夢を呼び出した。
子供とはいえなにか察していたのだろうか。
約束の場所に来た藤夢は、酷く暗い顔をしていた。
怪我でもしたのだろうか。
彼女は指先に包帯を巻いていた。
僕は一瞬迷う。
なにも云わないほうが良いのではないかと。
「好き」
そう伝えてどうなるかなんて、考えもしない。
交際という概念もない子供だった。
唯、想いを伝えたかったのだ。
僕は意を決して藤夢に想いを告げる。
彼女は僕の言葉を聞くと、目を見開いて泣き出した。
そして消え入るようなこえで、
「・・・・ごめんなさい・・・・」
そう云って泣き崩れた。
ショックだった。
藤夢も僕を好いてくれていると思っていたのだ。
だから勇気を出せたのに。
「藤夢ちゃん、僕のこと・・・嫌いだったのか?」
「ち、違うの!私だって、創ちゃんのことを――」
「にいさまのことを?」
凛とした声が響いた。
「――ひっ」
藤夢は身体を竦ませる。
「綾緒・・・・」
従妹がそこにいた。
綾緒は微笑みながら僕の傍に来る。
「申し訳ありません、にいさま。つい“心配”になって、来てしまいました」
従妹は僕に腰を折り、分家の少女に向き直る。
「ねえ、藤夢、にいさまの想いは聞いたのでしょう?それで、貴女はなんと答えたの?」
「う・・・・ご・・・・ごめん、なさい・・・・って・・・・」
「まあ」
綾緒は口元に手を当てる。
「信じられませんね。にいさまの御心を踏みにじれるなんて」
「・・・・・・」
「どうして?藤夢。にいさまのどこが気に入らないの?」
「そ、それ、は・・・・」
「それは?」
「・・・・・・」
「それは、何?云うのよ、藤夢」
「わ、私・・・・は、創ちゃんのことが・・・・・」
ぎゅうぎゅうと手を握っていた。
包帯の先が赤く滲む。
そして搾り出すように云う。
「創ちゃんのことが・・・・・だいっきらい・・・・・だか・・・ら・・・」
「――」
大嫌い。
そう云われて僕は放心した。
ずっと仲良くしてきた女の子が。
ずっと好きだった女の子が。
こんなに泣き出すほど、僕を嫌っていたなんて。
「藤夢」
綾緒は少女をを睥睨する。
「貴女、最低よ?断るにしても、もっと云い方があるでしょう?こんな人様を傷つけるような云い方を
するなんて、失礼だと思わないの?」
「う・・・・だって・・・・!それは、」
「それは?」
「ひっ・・・・」
少女はあとずさる。
「ごめん・・・・・。ごめんね、創ちゃん・・・・」
そう云って立ち去った。
僕は追いかけることが出来なかった。
大嫌い。
そう云われたショックで、頭の中が真っ白だったのだ。
「にいさまぁ」
綾緒は僕に取りすがる。
「辛かったでしょう?悲しかったでしょう?可哀想なにいさま。でも、安心してください。綾緒は、
綾緒だけは、にいさまの傍におりますから」
「綾緒・・・・だけ、は・・・」
「ええ。綾緒“だけ”です。綾緒だけはにいさまの味方です」
僕は泣いた。
膝を屈して泣いた。
従妹は僕の頭を撫でる。
「にいさま、藤夢はにいさまの良さを理解できなかったのです。でも、綾緒は違います。にいさまの
素晴らしさを理解しています。にいさまには綾緒だけなんです。ですからもう、藤夢には逢わないで
下さいませ。そのかわり、綾緒が傍におりますから」
「・・・・・」
「藤夢には後できつく云っておきます。二度と邪な感情を抱かないように、念を押しておきますから」
撫でながら従妹は云う。
そうして、僕の初恋は終わった。
藤夢と逢うことももう無い。
まわりにいる母方の親族も、今は綾緒だけになった。
「卒爾ながら、にいさま」
半歩後ろを往く従妹は、僕を追憶から呼び覚まして問う。
「先ほど、にいさまの学び舎に制服を着た童女がおりましたが、あれは一体何だったのでしょうか?」
「童女?ああ、一ツ橋のことか」
僕は苦笑する。
「部活の後輩だよ。アレでも一応、お前と同い年なんだよ?」
「まあ・・・・」
綾緒は口元に手を当てる。
「彼女は、綾緒と同学年なのですか。てっきり初等部の学生かと・・・・」
「お前の通ってるとこと違って、うちは初等部とかないよ」
従妹の通う名門私立校は、幼稚舎から大学院までを兼ね備える巨大な教育施設である。
幼少時から社会に出るまでの間を総て光陰館で過ごすものも少なくない。かく云う綾緒もその一人だ。
「彼女は、一ツ橋様と云うのですか」
「うん。一ツ橋朝歌。高校一年生」
そう答えると、従妹は考え込むような仕草をみせる。
「にいさまには、そう云った嗜好はないはず・・・。けれど一応は・・・・」
「綾緒?どうかしたのか?」
「いいえ。何でもありません。それよりもにいさま」
従妹は微笑む。
どこか醒めた瞳で。
「今日はきちんと、朝餉を摂って頂けましたか?」
「――」
僕は言葉に詰まる。
朝。
食べたのは先輩のそれ。
従妹の用意した食材は生ゴミとして処理されたのだから。
「あ、えと・・・」
「どうなされました、にいさま?」
綾緒は小首を傾げる。
薄い笑み。
心底の読めぬ貌。
「ご、ごめん・・・・」
「ごめん?何故にいさまは綾緒に謝罪なさるのですか?」
にこにこと。従妹は笑い続ける。
「その、今朝は・・・綾緒の料理を食べられなかった・・・」
「食べられなかった?寝過ごされたのですか?」
「そうじゃなくて・・・・・」
なんと云えば良いのだろう。
捨てられたとは云いにくいが、嘘を吐くのも躊躇われる。
「そんなに云い難いですか?綾緒ではなく、織倉由良の食事を選んだとは」
「――!」
僕は慌てて振り返る。
綾緒の顔に笑みは無い。
「ど、どうして」
「どうして?綾緒はにいさまをいつでも見ています。にいさまの事で解らぬことはありません」
「う、ぁ・・・・」
怒っている。
従妹は表情に出さぬ怒りを纏っている。
約束を破ったこと。
食事を摂らなかったこと。
先輩に世話にならぬと云えなかったこと。
その、総てに。
「さあ。帰りましょうにいさま。釈明は家で聞かせて頂きますから」
従妹は笑顔に良く似た――酷く歪な表情を作った。
「矢張り和装のほうが落ち着きますね」
目の前に座る従妹は着物姿。
この家には綾緒に着替えや私物も僅かながら置いてある。
今、綾緒の手に握られている『それ』も、そのひとつだ。
家に着いた綾緒は扉を開け、僕の靴を揃え、制服の埃を払い、私室まで荷物を運び、一礼した。
総てが完璧な、淑女としての所作。
その綾緒の前に正座する僕は、従妹の持つ器具に目を奪われ、動くことが出来ない。
従妹の傍らには白い箱が置いてある。
救急箱。
赤十字のシンボルがついたそれは、家の治療用具容れだった。
「さて、にいさま」
目を細めた綾緒は、僕を見据える。
「にいさまは綾緒との約束を破りましたね。それについて、弁解があれば聞いておきますが」
カチ。
カチ。
カチ。
カチ。
綾緒は手に持った『器具』を鳴らす。
ガチ。
ガチ。
ガチ。
ガチ。
僕は口の中を鳴らした。
「ご、ごめんよ、綾緒。僕が悪かった・・・・!!」
頭を下げる。
体裁もなにもない。唯ひたすらに許しを請う。
朝の一件。その総てを偽り無く話しながら。
「にいさま。それほど自らに非があるとお考えならば、何故綾緒との約束を破りましたか?」
「ごめん、ごめんよ・・・・」
何を云っても云い訳になる。だから頭を下げるしかない。
「嘘偽りなく話したことは評価しましょう。ですが罪は罪。罰は罰です。にいさま。お手を上げて
下さいな」
「う・・・・」
カチ。
カチ。
カチ。
カチ。
綾緒は笑顔で器具を鳴らす。
僕は震えながら右手を差し出した。
「左手で結構ですよ。正直に話せたご褒美に、利き手は勘弁してあげます」
「・・・・・」
云われたとおりに左手を出すと、綾緒は『ペンチのようなもの』を中指の爪に宛がう。
「にいさまは綾緒の大切な方です。ですから、手心を加えて差し上げます」
べきり。
嫌な音と、感触が響いた。
「――い」
そして僕は。
「い゛い゛い゛あ゛あ゛あ゛あああああああああああああ!!!!!!」
痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い
痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い
痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い
痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い
痛い痛い痛いぃぃぃぃぃ!!!
左手を押さえてのた打ち回った。
従妹の手にあったもの――爪剥がし用の『拷問具』。
綾緒は剥げた僕の爪を舐める。
「本来ならば、爪を砕いて割れたものを一つ一つ丁寧に剥がすのですが・・・・・にいさまに
そこまでの無道は出来ません。これは綾緒の慈悲と知って下さい」
「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛・・・・!!」
のた打ち回る僕を押さえつける。
そして、左手を取った。
「にいさま」
爪の剥げた中指に、綾緒は爪を立てる。
「い゛っ――!!!!!!!」
痛みで暴れだすが、身体はピクリとも動かない。
柔術の印可を持つ綾緒には、抵抗しても無駄なのだ。
「綾緒のにいさまは“良い子”ですよね?今回は折檻しましたが、次からは約束の守れる“良い子”
になれますよね?」
「あ、あ゛あ゛あ゛あ゛あ・・・・・っ」
頷いた。
泣きながら何度も頷いた。
「そう。それで良いのですよ。いつもにいさまは綾緒の思うがままにしてくださいますものね」
僕の傷口を舐める。
繊細な舌遣いは、鈍い痛みとなって脳髄に響いた。
『手心を加えた』
その言葉は、恐らく嘘ではない。
今の綾緒はそれほど怒っていないのだ。
僕が素直に謝ったから、たったこれだけで済んだのだ。
「わかって下さい。綾緒はにいさまが大切なのです。なによりも。誰よりも」
ちゅぱちゅぱと。
ぴちゃぴちゃと。
いつまでも従妹は僕の指をしゃぶり続けた。
朝早く目を覚ます。
左手がジンジンと痛い。
あの後――
あの後綾緒は実に甲斐甲斐しく、僕の指の治療をした。
爪を剥いだ本人だというのに、心底心配そうに手当てする。
「にいさま、あまり綾緒を困らせないで下さいませ」
そう云って、僕ともう一度『約束』をした。
「この家にはもう、織倉由良を入れないようにして下さいな。良いですね?」
僕は頷くしかない。
包帯を見る。
指先には、僅かに血が滲んでいた。
昨日のアレは、綾緒の『お仕置き』としては軽いほうだった。
そのことで僕にもまだ恐怖が残っているのだろう。二日続けて早朝に目が覚めるなんて。
身体はだるいが、眠気は無い。食欲も、ある。
だから、まだかなり早い時間ではあるが、朝食を摂った。
今日こそは綾緒の用意した食べ物を。
能面・『深井』と目が合う。
「綾緒はにいさまをいつでも見ています」
その言葉を思い出す。
「今日は・・・・今日からは気をつけないと」
身震いしながら後片付けをする。
まだ6時40分。
時間的にはかなりゆとりがある。
ガチャン、バタン。
「え?」
鍵の――そして扉の開く音がした。
家を空けている両親はまだ帰っていない。
従妹ならば呼び鈴を必ず鳴らす。
泥棒ならば、玄関から、しかも音をたてて入るようなことは無いだろう。
「な、なんだ・・・!?」
驚いていると、静かな足音が近づいてくる。
「え?」
音の正体を視認して、僕は目を見開く。
いてはいけない人が。
来てはいけない人が。
入れてはいけない人が、そこにいた。
「ああ、日ノ本くん。もう起きてたんだ」
先輩――
織倉由良は買い物袋を下げたまま、僕に微笑んだ。
「ど、どうして先輩がここに?」
「やだな。日ノ本くんのご飯を作るのは、お姉さんの役割でしょう?だから来たの。折角だから
起こしてあげようと思ったんだけど、もう起きてたのね」
「え、う、でも、鍵・・・」
混乱で上手く喋れない。
それでも意味が通じたのか、織倉由良は片手を持ち上げて見せた。
「これ」
うちの鍵と良く似たものが摘まれていた。けれどそれには見たことのないキーホルダーが
付いている。
「合鍵。この間作っておいたの。こうすれば、いつでもこの家に入れるでしょう?」
(合鍵って・・・・鍵なんて、渡したこと無いのに・・・・)
にこにこ。
にこにこ。
先輩は笑う。
(綾緒はいつでも)
まずい。
(見ていますから)
まずいぞ。
追い返さなければ。
昨日の今日でこんなことになったら、きっともっときつい『お仕置き』をされてしまう・・・!
「今日はパスタにしようと思うんだけど、どうかな。少し軽めにして――」
僕を無視するように喋っていた先輩は、洗い場を見て言葉を止める。
「あら?」
食器に触る。洗い立てのそれは、当然のごとく湿っていた。
「日ノ本くん、もうご飯食べたの?」
先輩は振り返った。
「そ、そうです。もう食べて、おなか一杯なんで、今日のところは・・・」
「トイレ往って来て」
「え?」
「トイレに往って、全部吐いて来て。おなかの中を空にすれば、充分食べられるでしょう?」
「そ、そんな・・・」
「なぁに?まさか“食べない”なんて云わないわよね?」
先輩が近づいてくる。
(どうしよう・・・。どうしよう・・・・)
「おはようございます」
「「!?」」
突然の声。
ちいさいのに、良く通る澄んだ声がした。
僕らは慌てて振り返る。
「朝歌ちゃん?」
「ひ、一ツ橋?」
僕らは驚く。
こんな場所で会うことの無い人物。
ちいさな後輩がそこにいた。
なんでここに?
僕の疑問を他所に。
「どうも」
一ツ橋はいつもの調子で感情の無い挨拶。
言葉もないまま。
僕と先輩は顔を見合わせた。
投下ここまでです。
では、また
爪〜〜
>>552 GJ!
綾緒怖いよ綾緒(;´Д`)ハァハァ
どう転んでも地獄になりそうな主人公うらやまし……いや、カワイソスw
さすがに主人公に同情したw
イヤ包丁で刺されるとかだってまさしく死ぬ程痛いんだろうけど
拷問はリアルに痛さが想像できる分主人公に同情できるわw
>>552 盗撮か…?盗撮なのか!
嘘だといってよバー(ry
>>552 日ノ本君……今まで君の事ヘタレとか言っていたけどゴメンね(´・ω・`)
こんな目にあわされていたら、そりゃ綾緒が怖くなるわw
遂に後輩が来ちゃってこれからどうなるのか次回が楽しみ過ぎでつ
火に油のような気もするけど先輩ガンガレ!
流れを断ち切るようで悪いが、ヤンデレがたくさんでる作品には良心があるキャラが一人ぐらいいると良いと思うのは俺だけか?
>>552 GJすぎw
もうヤンデレお腹いっぱいだぜwww
一ツ橋ならなんとかしてくれるっ!
キモウトとキモアネから主人公を守るんだ!
仄暗くじめじめとした、陰気なオーラがあるのに加えて、鍵がついている地下室は人の寄り付かない場所のひとつ。
ホラー映画の舞台になるといっても過言じゃない。本来は家の倉庫になっているのだけれど、私はその一部を借りて、薬用植物を育てている。
また、薬品を作るときにもこの部屋は利用する。
この部屋に人が入ってくることはほぼないけれども、私はこの部屋の鍵を内側から掛けた。
一人泣いていることしかできない惨めな姿を誰にも見せたくなかったから―。
他の家族はともかく、お兄ちゃんならば私に対して優しくしてくれるから、
私がいないとなればまずこの部屋を探すだろう。
でも、私の大好きなお兄ちゃんでも、今の私は見せたくない。
否、お兄ちゃんだから見せたくない・・・。
帰ってきてから高ぶった感情を抑えきれずにいるため、持病の喘息の発作が出てしまっている。
ぜいぜいと肩で息をするのに混じって嗚咽している光景は我ながら惨めで、ただただ痛ましい・・・。
薄暗い部屋にぼうっと浮かび上がる蛍光塗料の塗られた時計の針は八時少し前を指している。
まだ、お兄ちゃんは帰ってくるかもしれない時刻だ。
もし、いつもの『用事』が雌猫につき合わされているということと同義であれば、だけどね。
私の座る椅子の付属の机にある写真立てのお兄ちゃんの写真に目がいった。
こんなときでもお兄ちゃんの事を考えるだけで不意に笑みがこぼれてくる。
と、同時に何故なのか分からないが再び涙腺を刺激し、
目にゴミが入ったわけでもないのにとめどなく涙が頬を伝う。
私はお兄ちゃんを横から取っていくようなデリカシーのない、
というよりは非常識な人の存在というものを考えなかった。
というのも、私はお兄ちゃんの周りの女子は皆、
お兄ちゃんの引き立て役としか見ていなかったし、現にそうだったから。
私を見捨てていくようなことをお兄ちゃんがする訳ないし、疑うなんて恥ずべきだ、なんていうのもちょっぴり。
でも、あの北方とか名乗った雌猫は違った。まさに不意打ちだった。
自分勝手な理屈に正論で返したにもかかわらず、さも私が悪いかのようにされてしまった。
まさに盗人猛々しい、そんな感じだった。
お兄ちゃんも私と帰ってくれなかった。でもそれは圧力が掛けられていたからで責めちゃいけない。
当然、相手に悪意があるのだから私だって座視しているわけにはいかない。
お兄ちゃんに圧力をかけて無理やり振り回す、なんてことが許されるわけがない。
そんな事をするのはあれが人じゃないから。あんなさも落ち着き払った嫌味な表情の下には、
醜い本性が隠されているのは明確。そんな雌猫は早く駆除して、しかるべき方法でお兄ちゃんからも解毒する。
それでおしまい。
ただそれだけのことなのだ。
あはは、なあんだ、すごく明快で簡単。
奇襲されたからといってそれで終わっちゃうわけじゃないんだから、今考えるのはあれの駆除法だけ。
でも、毒で駆除するにしても、時期というものがある。もう少し雌猫について情報を得なきゃいけないよね。
軽率な行動で猫さんを倒しても犬さんに連れて行かれちゃ、話の種にもなりはしない。
そこで私は寛大だから、動物でも少しくらいは猶予を与えてやることにした。
もちろん、その間に警告は発し続けてあげよう。
警告に応じたからといって、必ずしも助けてあげるとは言っていないけどね。
気づけば喘息の発作も幾分和らぎ、頬をとめどなく伝った生暖かい涙もひいていた。
ガラリと机の引き出しを開けるとそこには、去年私が栽培してた、ベラドンナの根がある。
ただの植物の根っこだなんて思わないでね。
実はこれから毒が造れるのだから。アトロピン―。正しく使えば薬、でも誤った使い方ならば毒にもなる。
雌猫の駆除には十分すぎるかなぁ?
上で人の声がする。おそらく、お兄ちゃんが帰ってきたのだろう。
それにもかかわらず、迎えにいかないなんてやっぱり失礼だ。失礼どころか妹としては不覚、である。
対策も決まったのだから、何もなかったかのように、私の最高の笑顔でお迎えしなきゃ、ね。
一階にのぼっていき、
「お兄ちゃん、お帰りなさい。」
と言ったはいいものの、お兄ちゃんは玄関にいなく、むしろ家の外にいるようだ。
玄関の扉を開けると、そこにはお兄ちゃんが立っていたのだが、それとお母さんと、面識のないスーツのおじさんとそれから、何よりも驚いたのはあの雌猫、全ての悪の権化がいたことである。
端に大きな黒塗りの車があったような気がするが、そこまで気が回らずにいる。
とっさに何が起こったのか理解できなかった。まさか、私を殺しに来たなんてこともないだろう。
「どうかしたのですか?」
率直な疑問を口をつついて出てきた。
「遅くなったので、あなたのお兄さんをお送りさせていただきました。」
「本当にわざわざありがとうございました。」
慇懃な態度でお母さんが頭を下げている。
「あれ、お兄ちゃん、自転車はどうしたのかな?自転車で学校に行くから必要だよね。」
「ああ、自転車も運んでもらえてさ。じゃ、どうもありがとうございました。」
クスリと例の悪意ある、虫唾を走らせる笑いを頬に浮かべながら、あの雌猫はそれに応じた。
「では、失礼しました。」
スーツの男はそう言って一礼すると、車にあの雌猫を馬鹿丁寧に乗せてどこなりへと、帰っていった。
「すごいわね、お抱えの運転手なんて、さすが資産家。」
車が去ってしまってからお母さんが驚きを隠し切れずにぽつりと言った。
お母さんはそれからいろいろとお兄ちゃんに、北方家についてや、
雌猫について話題を振っていたので、私としては不満だった。
それよりももっと不満だったのは、あの嫌味な笑いに含まれていた、
私に対する勝ち誇ったような態度である。
本当にあれを早く駆除しなきゃいけない、
ということをあの毒々しさによって改めて再認識させられる。
お兄ちゃんとお母さんの話を聞くところによれば、北方家は維新期に政府側
として戦った小大名の子孫らしく、廃藩置県以後に貿易と政略結婚で莫大な資産を築き上げたのがもともとらしい。
また、明治期以降は子供に女ばかり生まれて、女系の家だったそうだ。
そんなどうでもよいことが耳に入った。
お兄ちゃんが帰ってきたにもかかわらず私は不機嫌だったが、
とりあえずここは自分を抑えてチャンスを待とうと私は決めたので、
さっさと床につくことにした。起きるのが遅れて、お兄ちゃんのお昼ご飯が粗末になったらいけないから。
ピピピピという無機質な電子音が数回すると、いつものように起きるわけでもなく、耳障りな音を早く止めるために松本弘行は枕元にある目覚ましに手を伸ばしたが、視界をまばゆいばかりの光が覆った。
寝ぼけ眼でベットに面した窓を見ると、厚手の遮光カーテンは窓の両端に留めてあった。
そのせいで直射日光をもろに食らっていたので、この部屋はまだ梅雨にもなっていないというにもかかわらず、夏を先取りしたように蒸し暑い。熱いだけなら許せるが、最近はむしむしと蒸してくる日もある。
さらに+α、暖房が入ってたみたいだ。23℃だったが。
ありゃりゃ、やってしまいましたか・・・。あるときは冷房20℃で切タイマー無しで一晩中かけて、シベリア気分を満喫し、今日はここだけ時空転移して常夏の東南アジアですよ。
常夏のハワイやタヒチなら涼しくて許せようが、この蒸し暑さは東南アジアだ。
落ち着いてみるとこの寝衣も寝汗でびっしょりだ。
シベリアでも東南アジアでも風邪はデフォルトで引けそうな感じだ。
とにかく、窓を開け風を取り入れることにする。
もう、梅雨も近いから焼け石に水だか、そこで敢えてこうすることにしよう。
スイッチが入ってないコンピュータに制御されながら、ゆっくりとクローゼットの中から制服を取り出し、それを機械的に着ていく。一番上に着るブレザーのボタンを留めている途中、理沙が僕を起こしにきた。
「お兄ちゃん、朝だよ、早く起きてね。」
そういいながら、ドアを開ける。
「ああ、理沙、おはよう。」
とっさに欠伸が出てきたので、口を手で押さえながら間の抜けた声で言った。
ということで、今現在おきましたよ的オーラをもろに放ってしまっている、をいをい、じつに間抜けだな。
「あはは、お兄ちゃん、今、間抜けだって思ったよね?」
はい、残念ながら見透かされていました。いや、ポーカーフェイスは苦手なんだから仕方ない。
でも敢えて反論してみたくなった。
「わが妹よ、僕はこの良き日の清清しい健康的な朝の目覚めを満喫していたのだよ。」
と、ラノベに出てきたキャラクターならこういうのだろう、という感じで言い切ってみたい年頃なんですよ。
「いや、部屋が蒸してて、ぜんぜん清清しいとかじゃなくて・・・」
と言った理沙の視線がカーテンへ行き、エアコンのリモコンへと向けられる。
「まあ、一人で起きたんだから、お兄ちゃんは成長したんだよ、きっと。」
と今にも笑い出しそうなのを抑えてます、という感じでのたまわれた。
はいはい、一歩前進しましたよ、亀の一歩前進。
早起きしたので、朝食を流し込むように食べていたいつもとは大違いで、一口一口きちんと咀嚼しながら食べ進める。
今日の朝食は和食で魚なのでまさに早起きしていないと厳しい一品である。
ゆっくり朝食を堪能し、歯を丁寧に磨き終わった頃、見事なまでに見計らったようにインターフォンが鳴った。
ピーンポーン
朝の忙しい時間に誰だろう、といらだつ母がインターフォンに出ると、すぐにやや驚きを含んだ顔で僕に受話器を替わった。
しっかし、こんな時間に誰だろうか?
「どちら様ですか?」
「おはよう、ご機嫌いかがかしら?」
相手に感情を読み取らせないまでの澄明な声の響きだった。
「驚いたかしら?あなたのクラスメートの北方時雨よ?」
さらり、と同じ声のトーンで続ける。前までは彼女に気が引けてしまう、というかびくびくしている感じだったが、
何日か彼女と接するうちに随分と慣れてきたのか、平然と答えられた。
「ああ、北方さん。おはようございます。こんな時間にどうしたの?という感じですが、インターフォンでというのもなんですから、とりあえず家に入ったらどうですか?」
「いいえ、あなたを迎えに着ただけだから、気は使わなくていいわ。」
まぁ、実際のところ僕はもう学校へ行く支度ができているに等しかったのだが、まだ理沙が準備できていないので少しばかり待ってもらうことにした。
「お兄ちゃん、今の人、誰だった?」
すかさず理沙が聞いてきた。
「ああ、北方さんが迎えに来てくれたみたいだけど、理沙の準備ができるまで少し前で待ってて貰ってる。」
北方さん、という固有名詞が彼女の感情を少し逆なでしたようだが、曇らせた顔をすぐに元の笑顔に戻して言った。
「ううん、お兄ちゃん。お弁当の準備はできてるから、私のことは気にせずに、先に行っていいよ。でも、そのかわり今日の昼食、私、お兄ちゃんと一緒に食べれたらいいな、って思っているんだけど、お兄ちゃん・・・いい?」
「あ、うん。いいよ。じゃ、悪いけど僕は先に学校行ってるからね。」
「じゃ、気をつけてね、ロードレースはほどほどにね。」
いやにあっさりしているのが、少し気になったが、大した変化ではなかろう。
玄関のドアを開けると、自転車の傍に立っているのは目が覚めるような美人。
その美人、北方さんは僕に向かって柔らかに微笑んだ。
僕ははっきり言うと、彼女のポーカーフェイスがわずかながら崩れた感じがするこの笑みが好きだったりする。
最初に口を開いたのは僕のほうだった。
「やあ、北方さん。おはよう。」
「二度目だけれど、おはよう、理沙さんはどうしたのかしら?」
「ああ、先に行ってていいといってたから、先に行くことにしようと思って。」
「あら、てっきり私、理沙さんに嫌われているのかと思ってしまって・・・いい妹さんね。」
そんな事を話しながら、自転車を学校に向かってこぎ始める。
しかし、素朴な疑問が一つ。
「あれ、北方さん、教えてないはずなのにどうして僕の家知ってるの?」
「昨日、松本君をあなたの家まで、私は家の者に送らせたでしょう、
そのときに松本君が教えてくれたルートを通ってきたから、知っていて当然ね。」
「ははは、そうだったっけ。」
適当に笑ったが、一度通っただけのルートを覚えられるというのは、なかなかすごいことだ。
いつもは疾風怒濤の勢いで通り抜ける閑静な住宅地や駅前をゆっくりと通り抜け、授業開始十五分前には学校に到着。
いや、なんという、計画的且つ健康的な朝だ。しかも北方さんは僕の家によっていない場合、遅くとも授業開始の五十分前、
すなわち八時十分には学校に到着しているらしい。
全く、どんな一日のスケジュールで動いているのか見てみたいものだ。
ぜひその情報機密をわが国の科学技術の発展のために、って、どうせ計画性と実行性のない三日坊主の僕には役に立ちませんよ。
「ああ、松本君。」
自転車置き場に自転車を停めながら、思い出したように言った。
「今週の週末、そうね、土曜日は休日だから、土手のほうへ、サイクリングにでも付き合ってくれるかしら?」
「梅雨になってしまうと、そうそう晴れることもないから、たまにはいいかしらと思って。」
唐突な申し出で、あまり考えられなかったが(もっとも、考えようとしなかったが)、二つ返事で承諾した。
というのも、昨日の北方さんのお父さんの話を聞いて彼女の力になりたいと思ったからだった。
その日は何の代わり映えのない、よく言えば平和な一日を過ごした。
昼休みに理沙と洋食系のお昼ご飯を食べて、いろいろとお互いのクラスについて話したり、なんだりして当たり障りなく過ぎていった。
北方さんは図書委員の仕事が大変らしく、昼休みと放課後の時間を取られてしまったようで、今日はあっさりと家へ帰ることになったので、
最大戦速で戦域離脱を果たし、ラノベ・アニメ・ネットの三本仕立ての大巨編の激務をこなすことができた。
いやはや、過去の自分を省みないのが漢と思っている僕は省みないのだが、こういう革命的生活が共産主義なテスト結果に繋がって、
先生にマークされるという結果に繋がっているわけですよ。
というわけで、激務で体力を消耗したのでさっさと寝ることにしますか。
この日の夜に階下の地下室に明かりが燈っていたことは、松本弘行には知るよしもなかった。
うららかな陽気の日々が何日か続き、北方さんは僕を毎朝迎えに来て、何度か彼女の家に招かれ、
理沙は昼食を準備してくれて、お昼休みに一緒に食べて、いつだったかの北方さんと理沙の火花散らすような紛擾はなく、
日めくりカレンダーを何枚か重ねて破ってしまったのではないか、という感じで時は過ぎ去っていった。
そして、今日は土曜日。北方さんとサイクリングする予定の日である。
理沙はその事を承知しており、最初は自分もその日に予定があったから、そっちに来てくれないか、
と粘っていたが、すぐに折れて、昼食を用意してくれることになった。
どうも理沙は北方さんのことが好きでないらしく、距離を取りたがっているように感じられたが、
それでもこんな兄のためにいろいろとしてくれる妹というのも、古今東西探しても珍しいものだろう。
僕が幸せ者であることを痛感させられます、はい。
ピーンポーン
北方さんが来たようだ。
「松本君?出発の準備、できたかしら?」
「いや、まだ少し時間がかかるので、中で待っていてください。」
「じゃ、悪いけれど、そうさせて貰うわ。」
それでリビングでコーヒーを出して少しばかり待っていてもらうことにする。
「どうぞ、もしかしたらブラックコーヒー、ダメかもしれないと思ったけれど、大丈夫なら、どうぞ。」
そういって勧めた。
「ありがとう、いただくわ。」
言葉だけからは、いつもの清澄というかクールな声が機械的に想像されてしまうのだが、
ごく普通の体温のこもった暖かい印象の言葉が返ってきたので、驚きを隠せなかった。
「あら、私の顔に何かついているのかしら?」
その暖かさの分だけ、冷ややかな視線があることにそのとき、僕は気づかなかった。
それから十数分ほどして、理沙がピクニックに行くときのような装備をいくつか持ってきて、
出発する準備ができたことを教えてくれた。
やはり、これだけ用意してくれたのに、理沙を連れていかない事に気が引けたので、
理沙にも来るように勧めたのだが、遠慮がちにやんわりと断った。
「お兄ちゃん、お兄ちゃん。今日帰ってきたら、私の、理沙のわがまま一つだけ聞いてくれるかな?」
理沙はあまり僕にいろいろと要求することなどないのだが、珍しく何かおねだりするときは、
彼女の一人称は私、から理沙、に代わる。
今日はいろいろと準備して貰ったし、いつも僕のために弁当を作ってくれる理沙のわがままの一つや二つくらい、
聞いてあげてもいいんじゃないか、そう思ったのですぐに受け入れた。
「じゃあ、お兄ちゃんが帰ってくるまでに考えておくからね、楽しんできてね。」
にこにこと屈託のない愛らしい笑顔に自然とひきつけられそうであった。
しかし、その後に続いた、くれぐれも気をつけてね、という小さくつぶやくような言葉に僕は気づかなかった。
理沙から渡された荷物を自転車の大きな前かごに入れ、先に自転車を走らせていた北方さんの後に続く。
通学途中の住宅地や駅前を通り抜ける。
いつもはわき目も振らずに帰ってくることが多いのだが、時々外食するときに使う店の前も通っていった。
途中、登下校時に全速力で走っていく僕のことを知っているクラスメートの何人かに会って、
北方さんと一緒にいることを物珍しそうな目で見られ、またあるものは冷やかしてきたのだが、
北方さんに倣ってさらりと受け流してみた。
これには、北方さんもご満悦であったようで失笑していた。
そんな感じで、北方さんといろいろと話しながら、車輪を走らせていたが、これが結構疲れるものだ。
彼女の言う川べりの土手というのは、サイクリングロードとして整備されており、
桜の並木道があるところでもあった。
季節はもう遅いけれども、あそこで毎年のようにお花見をしに来る人が多いそうである。
もう梅雨が近くなっていたので、この土手周辺に見える人影もまばらで閑散としていたが、
周りに住宅地や無粋な工業地区もなく、田んぼや畑が広がるばかりで、ここがどこか非日常な、
それでいて新鮮さのある風景だった。
追い風が吹いているせいと僕が疲れているからなのかも分からないが、北方さんは異常に自転車をこぐのが早かった。
ふはは、追い風なら僕にも吹いているはずなのに、不公平だ、不平等だ。
運動不足の僕には持久力がないからか、いやはや、さっぱり追いつくことができない。
途中、間が開いてしまって、何回か北方さんに待っててもらった。
「くすくすくす、疲れた?」
いたずらっぽい笑顔を向けて僕にそう聞いてきた。
いや、だから、疲れたとかそんなレベルじゃなくて、それを既に通り越してしまっている。
「見ての通り・・・、第一、何でそんなに自転車をこぐのが早いのかわからない。」
「なぜでしょう?」
いや、そんなにこりと質問されても、分かるわけがないってば、いや、何か彼女のことだ。
また、悪巧みでもしてこっちの自転車が遅くなるようにでも細工しているのだろうか?
未だに足が安定して地に着いていない感じで、いかにも考えていますという表情をして、
こめかみに人差し指を当てて考える人のポーズを取る。
「今、私が細工したとか、そんなこと考えたでしょう?」
おお、いかん。またしても見透かされていたようだ。思ったことが顔に出る体質、
というかここまでラノベの世界じゃないとありえないような把握のされ方をすると病気だよな。
しかし、この病気はいい加減、何とかならないのか、小一時間問い詰めたいところだ。
「ふふふ、あなたの私に対するイメージはどんなものなのかしらね?」
うわぁ、唐突に学校で見せるようなポーカーフェイスで聞いてきた。冗談で聞いていると分かっていても、
何か漠然とした、恐ろしいものがある。一種の白痴美に似たような美しさ、と最近では感じられるのだが、
いや恐ろしいもんは恐ろしい。
「疲れたなら、ここで休憩でも取る?」
ふと見ると、今まで気づかなかったが、少し落ち着いてみると、ちょうどここに一里塚のように木が植えられて、
しかもあずまやまであるという、まさに休憩には絶好のポイントであることに気がついた。
しかしうまく謀った、もとい計算したような感じで、北方さんの如才のなさに恐れ入った。
「じゃ、そうしようか。」
「理沙さんが用意してくれた食事を食べるには少し早いから、これでもどうぞ。」
と言って、羊羹を一切れ、手渡してきた。
確かに腕時計をみると十時になったばかりだった。たしかにこれでは昼食には早すぎる。
羊羹は嫌いじゃないし、糖分は貴重なエネルギー源だしちょうどいいだろう。
「前に和菓子、好きじゃないって言っていたけれど、それ、私が作ったのだけれど・・・・食べてくれないかしら?」
そう、少しはにかんだように言ってきた。
一口、口にする。
和菓子が嫌いと言うことはないのだが、大概甘さがしつこくて、嫌になってしまうことが多い。
けれども、北方さんの作ってくれたものは非常に甘さを抑えた上で、素材自体の味を生かしているようだった。
外見も几帳面な北方さんが作っただけあって、端正に仕上げてあり、
手作りではそうそうお目にかかることのできない一品だろう。
だから、少しもためらうこともなく、自然と賛辞の言葉が出てきた。
「とても、美味しいよ。」
彼女の抜けるように白い肌が少しだけ紅潮して見えたのは、
きっと陽気のせいだけではないだろう。
お茶とサンドイッチに舌鼓を打ちながら、休憩をしているときにさっきの質問をしてみることにした。
「北方さん、何であんなに自転車こぐのが早いの?」
「ふふ・・・・あれ、電動自転車よ。」
「へ、電動?電気ですか?」
「そうよ、じゃ自転車を取り替えてみる?随分、楽よ?」
なんという、そんな落ちでしたか・・・細身の彼女が疲れずいられるのも何か理由があると思ったが、いくらなんでもそれはないだろ・・・・。
「あー、ブルジョアに負けた!!!」
「くすくす、では労働者のあなたに命じます、はやく乗ってみたら?」
で、結局お互いの自転車をかえることになった。
いわゆる電動自転車というのが、こんなに楽なものだとは思わなかった。
さっきとは打って変わって、心に余裕がある状態であるから、土手から見える新緑の光景もまた一味違っていた。
対して、僕の自転車に乗っている北方さんは表情にこそ出さないが、結構きつそうな感じだ。
少し、ペースを下げて話をすることにポイントを置くことにした。
最初はこの前の中間試験で化学は点が取れた、とか英語が厳しかったとかの話をしていたが、彼女の両親の話になっていた。
支援
私怨
「そういえば、松本君。うちの父がこの前、何か失礼なこと言わなかったかしら?」
「え、失礼って・・・普通に人のよさそうな人だと思ったけれども・・・。」
彼女のお父さんは娘に嫌われていると言っていた記憶がふと、蘇った。
北方さんはフッと短く冷笑してから、僕にどんなことを話してきたのかをもう一度聞いてきたので、
話された内容をいくつか話した。
「・・・父は私のことを娘などと考えてくれたことなどなかったくせに、今頃になって・・・。」
「あんまり、話さないほうが良かったみたいだね。機嫌を悪くしたなら謝るよ。」
「いいえ、あなたは悪くない。それより、続きを話して。」
「それから、北方さんのお母さん、もう既に他界されていることと、
僕に北方さんと親しくしてほしいということ。」
両者ともを自分の口で言うのははばかれる内容であったが、
聞かれたのであらかたの内容をしゃべってしまった。
「・・・・・。」
内容を聞いて、切れ長の目に一刹那、強い光が宿ったのに気づいた。
彼女の持っていた家族の集合写真にも母親がうつっていなかったが、
母親には随分ひどい目に遭わされた、そう聞いていたので嫌悪が表れたのであろう。
少ししてから、北方さんは口を開いた。
「私の母は本当はまだ、死んでいないの・・・。」
開口一番、僕が想像した答えとは別の答えが返ってきて驚きを隠せずにいた。
「私の母は・・・」
そう北方さんが言いかけたとき、僕は土手の端のほうを走らせていた自分の自転車が急に鈍い音を立てたのに気がついた。
そして坂の傾斜に向かって、ぐらりと大きく傾いたような感覚がして―。
危ない―、そう直感で感じ取ったときには壊れていく自転車ごと土手を転がり落ちていた。
不思議と何とか自分で転がり落ちるのを止まろう、いや、止めようとできなかった。
何度か、体を打ちそのたびごとに痛みの感覚が薄れていく。
そのいくつかも体を地面に打ち付ける痛みだけでなく、何かもっと重くて硬い何かも体を打った。
慣れてきた?いや、痛みに慣れるというよりは寧ろ気絶する、そういったほうが正しかった。
さっきまで自分が乗っていた自転車が突然壊れ、自分の何よりも愛する人が体を自転車の一部や
地面に打ちながら土手を転がり落ちていくのを、北方時雨はなす術もなく立ち尽くして見ていることしかできなかった。
絹を裂くような叫び声と嗚咽が誰もいない川辺に響いた。
紫煙
うわー、無駄に長くなってしまった、そんな感じの第五話です。
読んでくださった方ありがとうございます。
こんな感じですが話は続けるので、今後もよろしく。
支援
どーしてもケンゾーさんの髭面が浮かんでしょうがない、、、
>>580 おバカな主人公の松本君に似合わぬシリアスなピンチktkr
まあ彼なら大丈夫なような気がするがw
次回wktk
さつき姉が僕の住むアパートの一室にやってきて一晩が過ぎた、二日目。
今日は朝から雨が降っていた。
朝に目が覚めたときカーテンのすき間から空を見ると、青い色が見えなかった。
部屋の空気はわずかに湿っている気がした。
雨は強く降っているわけではなく、雨雲から命令されて嫌々降っているように思えた。
風は弱く、空を覆う灰色の雲は長く居座るつもりのようだった。
実際、(僕の勘よりはあてになる)天気予報も僕の感じたままのことを言っていた。
さつき姉は朝に弱い。
その事実を知ったのは僕がまだ小学校に通っていたころのことだ。
登校するときは僕がいつもさつき姉の家に行った。
おばさんに挨拶をしてから、さつき姉が家から出てくるまで待つ。
玄関を開けるときのさつき姉は、いつも目を瞑っていた。
僕の記憶の中に、さつき姉が朝から活発的になっている様子は存在しない。
いつもさつき姉はふらふら歩いた。僕はさつき姉に声をかけながら歩いた。
学校に着く数分前になるころさつき姉の意識はようやく覚醒しはじめ、隣を歩く
僕を確認すると手を握ろうとしてくる。
僕は手を握られないようにランドセルに手をかけたり、走って逃げたりする。
その繰り返しが、小学生のころの僕の日常だった。
さつき姉は相変わらず朝に弱いようだった。
時刻はすでに7時数分前をさしているから、僕の目ははっきりと覚めている。
だというのに横になったままのさつき姉は身じろぎ1つしない。
昨晩さつき姉にからかわれた仕返しに起こしてやろうかとも思ったけど、
やめておくことにした。
特に理由はない。しいて言うならば、早く顔を洗いたかったからだろうか。
洗面所に行き、顔を濡らして髭を剃り、顔を水ですすぐ。
蛇口から流れてくる8月の水は、目を覚ましてくれるほど冷えてはいなかったけど、
変わりなく水としての役目を全うしてくれた。
さっぱりとした思考で考える。
今日は雨が降っているけど、さつき姉はどうするんだろう。
本でも読みながらじっとしてくれたら嬉しいんだけど。
焼いた食パンを台所で食べ終わった頃、さつき姉がやってきた。
「惣一、おはよ」
「おはよう」
「ね、今何時?」
台所には時計を置いていない。
全く必要がないというわけではなく、単に狭い部屋に数多くの時計は必要とされないからだ。
居間の壁にかけてある時計を見て、両手で指を8本立ててさつき姉に見せる。
「そっか。よかった、早起きして。今日はいろいろやりたいことがあるから」
さつき姉はそこまで言うと、洗面所で蛇口をひねった。
鏡に向かって顔を向けているが、2つのまぶたは閉じられたままだ。
あの様子ではまだ意識が覚醒していないと思われる。
僕は居間に敷かれたままの布団を畳むと、続いてテーブルを定位置に置いた。
買い物に行こうとさつき姉が言い出したのは、パンを食べ終えたあとだった。
実を言うとそれまでの間にさつき姉は一度倒れた。
僕が駆け寄ってさつき姉の体を抱き起こすと、小さな寝息が聞こえてきた。
寝ていた。大きく口を開けながら。
口は開けたままなのに、鼻で呼吸をしていた。
僕は肩から力を抜くと、さつき姉を仰向けにして頭の下に枕を敷いた。
さつき姉は僕の左で、雨に濡れたコンクリートの地面を踏みしめながら歩いている。
「もう! 惣一が起こしてくれなかったのが悪いんだからね!
今日は久しぶりに一緒にでかけようと思っていたのに!」
だったら早めに言っておいてほしかった。
さつき姉がしっかりと伝えてくれていれば僕は頬をつねってでも起こした。
いや、それぐらいでは起きないか。
さつき姉は一度眠ってしまうと、死んだように動かなくなるのだ。
以前さつき姉が夏休みの宿題を片付けるために徹夜をしたことがあった。
徹夜した次の日には、丸一日ベッドの上で眠りこけていた。
僕は、その時のことをよく覚えている。
なにせ、丸一日中僕の手を握ったまま眠っていたのだから。
アパートを出て、50分ほどバスに乗って、近くにあるコンビニで弁当を買い、
案内板を頼りにして海水浴場にやってきた。
さつき姉の予定では、今日は海水浴場にくるつもりだったらしい。
雨が降ったから予定を中止するかと思いきや、さつき姉はこうやって海を見に来ている。
さつき姉は傘を持ちながら、人の居ない砂浜を見下ろしている。
ため息をひとつ吐くと、まぶたを少し下ろして憂いの目をつくった。
「残念ね。せっかく惣一と一緒に海に来たのに、これじゃ面白さ半減よ」
「半減しただけ?」
「そ。水着を買って、泳ぎもしないのに海水浴場にやって来て着替えて、
貸し出されたパラソルの下でのんびりとして、というのをやってみたかったから」
疑問に思った。
ただ海にくるだけならいつでもできるだろうし、なにも今日である必要は無い。
ぼんやりするだけなら、僕は居てもいなくても同じじゃないか。
僕が思ったことを口にすると、さつき姉はうーん、と呻いた。
「違うのよ。惣一と来るっていうことに意味があるの」
「僕と?」
「うん。私が惣一の部屋に泊まっているうちにやっておきたかったから。
こんなところ、1人でくるものじゃないわよ。基本的にはね。
男の人はナンパをするために1人で来たとしてもおかしくないけど、
女の人が1人で海水浴場に来てぼんやりとしてたらなんだか変じゃない」
僕は目を動かして灰色の空を見たあと、さつき姉に対して頷いた。
頷いたのを見て、さつき姉は思い出したように声を出した。
「ねえ、もしかして惣一もナンパとか、したりするの?」
「なんでそう思うのさ」
「いいから質問に答えなさい」
さつき姉は少しだけ眉根を寄せた。
別に隠すようなことはないし、そもそも隠すものが無いので正直に答える。
「ナンパはしない」
「本当に?」
「しようと思ったことはあるよ。……ちょっと違うか。
僕の想像の中にいる僕が、ナンパしようかどうか考えたことがある」
「……よかった。駄目よ、ナンパなんかしちゃ。
遊びに行きたいんなら私を誘ったらいいわ。私はご飯は割り勘にする女だから。
今日みたいにね」
さつき姉は時刻を確認すると、屋根のあるベンチのところへ向かった。
僕もベンチに座り自分の弁当を取り出して、次にさつき姉の弁当を差し出した。
さつき姉の後ろにある雨の降る様子を見ていると、さつき姉に問いかけられた。
「想像の中の僕、とかいう言葉をよく使ったりするの?」
「普段は使わないよ。今日はさつき姉が二度寝した横で小説を読んでたから、
なんとなく言ってみたくなっただけ」
ふーん、と呻いてから、さつき姉は食事を再開した。
海水浴場から離れてバス停に向かう途中、お土産屋に立ち寄った。
遠く離れた街までやってきたから、家族や友達に買うためのお土産を選ぶのだろうと
僕は思ったのだが、さつき姉はどうやら違うことを目的にしているらしかった。
さつき姉はキーホルダーが大量に吊るしてある回転式ディスプレイを、何度も熱心に
回しながら難しい顔で睨み付けている。
お土産屋の中は人がいなくて閑散としていた。
店内の広さは僕の部屋をひとまわり大きくしたくらいのもので、壁にまで商品が置かれていた。
外観はお土産屋の看板がなければ素通りしてしまうほどに地味で、あまり繁盛していない
のではないかと僕は思った。
今日は、雨が降っているせいで誰も店内に入ってこないどころか、路地を歩いている人すらいなかった。
「惣一、これ」
さつき姉の声に振り向くと、目の前に目玉が現れた。
形容しようもなく、目玉そのものだった。本物ではないが。
目の前にかざされた目玉のキーホルダーは直径が1cm少々の大きさでとても軽く、
銀色のリングには200円と書かれたシールが貼ってあった。
「それ、買いなさい」
「なんで? キーホルダーなら間に合ってるんだけど」
「いいから買いなさい」
同じやり取りを繰り返しても、さつき姉は強硬な姿勢を崩さない。
仕方なくレジに行って会計を済ませると、さつき姉も同じものを購入した。
さつき姉は右手で目玉のキーホルダーをぶら下げ僕に差しだし、左手のひらも差し出した。
「交換しましょ、このキーホルダー」
「……なんで? 同じものじゃないか」
「別々に買った、って点では別物でしょ。
私は惣一のものを持つから、惣一は私のを持ってちょうだい」
買わされた理由もわからないうえに、交換する意味も掴めない。
とはいえ、断る理由はない。
僕はキーホルダーをさつき姉に渡して、さつき姉のキーホルダーを受け取った。
「今日から私が居なくて寂しくなったときは、それを見て紛らわしなさい。
私も寂しくなったときは同じことをするから」
2人でお土産屋の外に出ると、空の色はたいして変わっていなかったものの、雨はまったく
降っていなかった。
バス停に着いて到着したバスに乗り、降りてから自宅に帰るまでの間、僕は右のポケットに
入った目玉のキーホルダーを適当にいじった。
何度触っても変わりなく、プラスチックの滑らかさしか感じられなかった。
部屋に戻ってきてから、僕は携帯電話を置きっぱなしにしていたことに気づいた。
着信を確認すると、大学の友人の1人から何度か電話がかかってきていた。
かかってきた番号に、折り返し電話をかける。
4コール目で繋がった。
『もしもし? 北河君?』
「うん」
『どうして出なかったの? どこかに行ってた?」
「まあ、ちょっと散歩にね」
『ふーーん』
部屋の時計で時刻を確認すると、長針は4時を差していた。
時刻を確認できるだけの間隔を空けて、友人の声が聞こえた。
『聞いてくれますか、北河君』
「それって、聞いてくれることを前提にしての質問だよね」
『実は私、山川は本日朝7時に目を覚ましたところ、隣に彼氏が寝ていないことに気づきました。
あれ? どこにいっちゃったの? と口には出さず彼氏を探して部屋を右往左往する私。
トイレ、浴室、冷蔵庫の中、ゴミ箱の中を覗き、首を傾げながらテーブルを見ると!』
「見ると?」
『合鍵は返しておく 俺たちはこれで終わりにしよう。 と書かれたメモを発見しました』
僕はほう、と言いそうになった自分を抑えて、次の言葉を待った。
『というわけで、明日の夏祭りアンド花火大会は北河君と行くことが決定されました。がちゃり』
「がちゃり、じゃないよ。なんで勝手にそんなことを決めてるんだ」
『いいから付き合いなさい! これは決定事項です!』
「……まあ、別にいいけどさ」
『よろしい。では明日の朝北河君の自宅へ迎えに行きます。シャワーを浴びて待っていてください』
友人の山川はこういう冗談をしれっと口にする。
性質の悪さが子供っぽくて面白いから、僕にとっては気の合う友人の1人だ。
「わかった。じゃ、明日会おう」
と言ってから、僕は通話を終了した。
携帯電話をテーブルの上に置いてから水でも飲もうか、と後ろを振り向くとさつき姉が
真後ろに立っていることに気づいた。
「惣一、今のは誰? ずいぶん楽しそうだったけど」
言葉の中に隠しきれない不満の色が混ざっている。やけに機嫌が悪そうだ。
「大学の友達」
「女の子でしょ? 女の子よね? 女の子なんでしょう?」
「う……ん。そうだけど」
なぜ言葉を繰り返したのはわからないが、喋るごとに目と眉がつりあがるさまから察するに、
さっきの電話の内容が面白くないものだったらしい。
山川の声はよく通るから、真後ろに立っているさつき姉にも聞こえていたはずだ。
さつき姉は不機嫌から微笑へと表情を変化させた。
「そうなんだぁ。女の子の友だちねぇ」
頷く動作を繰り返しながら、さつき姉は台所へ向かい夕食の準備を始めた。
包丁とまな板のぶつかる音が、昨日とは違い甲高く響いた。
次回へ続きます。
最近投下も多いし保管庫も順調で調子がいいな
職人様と保管庫管理人様GJです
>>590 一服もった翌日とは思えないほのぼの展開にマターリ
でもさつき姉はまだ何かたくらんでそうでw
いつの間にか480KB越えてるな、次スレ立ててきます
>>594 ねぇ、どうしてみんなPart7のところにいっちゃうの・・・?
どうして私を一人にするの?なんでかな?どうしてかな?
あっ、そうか、そうだよ私わかっちゃった!
P a r t 7 が あ る か ら い け な い ん だ 。
乙
ねえ、ど、どうしても行っちゃうの?
わかった・・止めないよ。行って欲しくないけど・・ でもきっと戻ってきてくれるもんね!
だから私、悲しくないよ。じゃあ、行ってらっしゃい。帰ってきたら、ずーっといっしょだからね!
じゃあいってらっしゃい!!
http://sakura03.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1176605863/ あれ、どうしたの?行かないの?・・ふふ、やーっぱりあなたも一緒にいたかったんだね。
ダメだよ、クリックしても行けないってことは、ほら、もともとそういう運命だったんだよ。
だ・か・ら、ずーっと一緒。あなたは、私と一緒にいるの。
・・・行かせないんだからっ!!!
「電波的な彼女」(集英社スーパーダッシュ文庫)に登場する堕花雨はヤンデレっぽいな。
前世から主人公に仕える騎士とか言ったり、主人公のピンチには駆けつけたりするところはかなりイイ。
>>597 雨はヤンデレとは違うと思うんだ。むしろ美夜こそがヤンデレだと、私は主張したい。
雨は主であるジュウ様が例えば他の女とくっついても
辛くても黙って我慢するからな、単に前世云々言っている電波美少女だ
美夜の方がよっぽどヤンデレだしw
昔レイプされたせいで心が壊れちゃって
ジュウ様が好きなのに素直に好きと言えないで、いい友達止まりでいて
んでジュウ様に好意を寄せていた委員長殺す時は歓喜していたからな
最終的にはジュウ様を殺してジュウ様との思い出を完結させて美化しようとして
んで殺す寸前にジュウ様助けにきた雨に対し
「……なんで、邪魔するの? せっかくジュウ君と二人きりで、いい感じに終わりそうだったのに、台無しじゃん」
で「邪魔なのよ、あんたは! 邪魔なの!」
あの切れ方はいつもジュウ様と一緒にいる雨に対しての嫉妬を感じたねw
そして雨に護身用のスタンガンまともに喰らっても怨念で立ち上がり、雨を殺そうとするあの姿はまさしく病んでいるw
んで結局雨を庇ったジュウ様をナイフで刺しちゃって、刺された痛みを無理矢理抑え込みながら微笑むジュウ様と流れる血を見て正気に戻って
「こ、こんなの違う、こんなの違う、ジュウ君、違うんだよこれは、これは違うの、これは、信じて、わたしは、わたしはね、本当は……」
まぁ全て言い切る前に雨にスタンガンで止め刺されたんですがw
しかし長いな、コレ。まぁ埋めネタだと思って流してくれたら幸いッス