ヤンデレの小説を書こう!Part6

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1名無しさん@ピンキー
ここは、ヤンデレの小説を書いて投稿するためのスレッドです。

○小説以外にも、ヤンデレ系のネタなら大歓迎。(プロット投下、ニュースネタなど)
○ぶつ切りでの作品投下もアリ。

■ヤンデレとは?
 ・主人公が好きだが(デレ)、愛するあまりに心を病んでしまった(ヤン)状態、またその状態のヒロインの事をさします。
  →(別名:黒化、黒姫化など)
 ・ヒロインは、ライバルがいてもいなくても主人公を思っていくうちに少しずつだが確実に病んでいく。
 ・トラウマ・精神の不安定さから覚醒することもある。

■関連サイト
ヤンデレの小説を書こう!SS保管庫
http://yandere.web.fc2.com/
■前スレ
ヤンデレの小説を書こう!Part5
http://sakura03.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1174364890/
2名無しさん@ピンキー:2007/04/15(日) 12:08:13 ID:p1DwZiHa
>>1乙!
さらに続けて2get!


関連スレ候補

キモ姉&キモウト小説を書こう!
http://sakura03.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1176013240/l50
3名無しさん@ピンキー:2007/04/15(日) 12:20:01 ID:udCC2KtL
しまった……テンプレ切れてたorz

■お約束
 ・sage進行でお願いします。
 ・荒らしはスルーしましょう。
  削除対象ですが、もし反応した場合削除人に「荒らしにかまっている」と判断され、
  削除されない場合があります。必ずスルーでお願いします。
 ・趣味嗜好に合わない作品は読み飛ばすようにしてください。
 ・作者さんへの意見は実になるものを。罵倒、バッシングはお門違いです。議論にならないよう、控えめに。

■投稿のお約束
 ・名前欄にはなるべく作品タイトルを。
 ・長編になる場合は見分けやすくするためトリップ使用推奨。
 ・投稿の前後には、「投稿します」「投稿終わりです」の一言をお願いします。(投稿への割り込み防止のため)
 ・苦手な人がいるかな、と思うような表現がある場合は、投稿のはじめに宣言してください。お願いします。
 ・作品はできるだけ完結させるようにしてください。

スマソorz
4名無しさん@ピンキー:2007/04/15(日) 13:37:30 ID:Xq+m85Sd
>>1
次スレ立てる時>>3も合わせればおk
5名無しさん@ピンキー:2007/04/15(日) 13:41:28 ID:R6++UpGJ
お兄ちゃんどいて! >1乙れない!
6名無しさん@ピンキー:2007/04/15(日) 14:57:45 ID:kOVTLfn0
スレを立てちゃうような>>1には乙しないと兄さんが汚れてしまいますね・・・・
あははははははっ♪
7名無しさん@ピンキー:2007/04/15(日) 15:49:16 ID:FdqO75qF
男の方が病んでいくのもアリ?
8名無しさん@ピンキー:2007/04/15(日) 16:52:37 ID:baBwxNbN
>>1

>>7
とうぜんアリ!!!
9名無しさん@ピンキー:2007/04/15(日) 18:07:54 ID:gnhikWvI
>>7
でも男だけのヤンデレは荒れるぞ。
女のヤンデレに同調するのならあり。過程をうまく書くのが難しいけどね。
10名無しさん@ピンキー:2007/04/15(日) 19:55:59 ID:OuzPKYGi
男だけ病むと現実によくいるストーカーになっちゃいます><
11名無しさん@ピンキー:2007/04/15(日) 21:07:41 ID:Xq+m85Sd
男女を逆にしてみると「北斗の拳」のシンは究極のヤンデレ
って意見をどっかで見たな
12名無しさん@ピンキー:2007/04/15(日) 22:05:06 ID:tPlo66FB
男のヤンデレはただの「ストーキング→監禁レイプ」になるだけだしな
男がやるとキモいっていう感想しか湧かない
性別逆にするだけでこんなに萌えるのはやはり二次の女性表現文化の変なとこ
俺は迎合しまくりだけど
13名無しさん@ピンキー:2007/04/16(月) 00:13:02 ID:pLMuY7OV
まあ男って潔さが美徳だろ
ヤンデレとか対極じゃね
14名無しさん@ピンキー:2007/04/16(月) 00:17:18 ID:aMyDNClb
フィアンセが死んだあともなお愛し続けて剥製にしたとかいう話はよくあるよね
そういうのは男ヤンデレでありがちな希ガス
15名無しさん@ピンキー:2007/04/16(月) 00:24:45 ID:u5eP1ttY
そもそも狂ってる人間を魅力的に描くのも楽じゃないしね。
まぁ敢えて挑みかかっていった猛者もいるから、やり方次第では……
16名無しさん@ピンキー:2007/04/16(月) 10:38:44 ID:gDKJiSdv
警告とNGで充分だろ
17名無しさん@ピンキー:2007/04/17(火) 21:35:29 ID:2w2VBlqI
そういう問題じゃない。
18名無しさん@ピンキー:2007/04/17(火) 22:55:59 ID:jAOVH98f
これは理想じゃない。
狙うゴールじゃない。
19名無しさん@ピンキー:2007/04/17(火) 23:02:33 ID:EUD4icZp
なんで急にピロウズの歌詞
20名無しさん@ピンキー:2007/04/18(水) 22:08:47 ID:yG92ZErN
おーおおおおおー おーちゃーかーいっ
おっおおおー さらささらささらさー ささらさららさらさー
くらえ!先代ウサギの窓から飛び降り空中殺法!
21名無しさん@ピンキー:2007/04/18(水) 22:49:44 ID:0OSRgvHn
技をかける本人が死んだらいかんだろw
22名無しさん@ピンキー:2007/04/18(水) 23:07:23 ID:uRd9bWG+
>>21
いや、死ぬことによって無限の力を得るのだ!
オビワンのように!
23名無しさん@ピンキー:2007/04/18(水) 23:38:11 ID:++wN8WfN
オビワンは死んだんじゃなくて自らフォースと一つになったんだよ
24和菓子と洋菓子:2007/04/19(木) 00:48:16 ID:FAD2zTGd
前スレ498の続きを投下します


僕が北方さんの家を出たのは六時半だったが、思ったよりも遅くなってしまい、
家に着いたのは七時過ぎであった。
「ただいま、今帰ったよ。」
そういって、ドアを開けた。ドアの開閉音を聞いたのだろう、
誰かのこちらにかけてくる足音がした。
小柄でブロンドでやや短めに切りそろえられた髪。そして、ごくごく見慣れた顔だが
、いまだにあどけなさが残しながらも、整った容姿をしている。
「・・・お兄ちゃん・・・お帰りなさい。」
妹の理沙だ。よく見ると、小刻みに肩を震わせており、目にも赤みがさしている。
また、言葉もやっとのことで紡いでいるように感じられた。
それらは、ついさっきまで泣いていたことを容易に想像させる。
普通にしていても、やや虚弱体質のきらいがあるためか儚げな理沙だが、
今日は、気を失って倒れこんでしまいそうで、僕のほうが心配になってしまうほどだ。




25和菓子と洋菓子:2007/04/19(木) 00:49:28 ID:FAD2zTGd
「お兄ちゃん・・・・。どうして・・・今日は遅かったの?・・・私ね、とっても心配したの・・・。」
「ごめん。急に図書室の仕事を手伝わされちゃって、時間が・・・」
「でも、お兄ちゃんの授業は四時半に終わるはずだよね。」
「いや、思ったよりも仕事が長引いちゃって・・・」
この子に本当は仕事の後にクラスメイトの女子の家に行っていた、
などとは口が裂けてもいえないので、言い訳がましい事を言った。
理沙は泣き腫らした目をこちらに向け、僕の体の隅々の様子に視線を走らす。
「・・・お兄ちゃん、帰ってくる間に怪我とかしなかった?・・・・遅いから、
本当に・・・本当に、・・・・兄さんの身に、何かあったかと思ったんだよ・・・。」
「本当にごめん。気をつけるから、な?」
「・・・ううん。ごめんなさい。お兄ちゃんは悪くないよ。
お兄ちゃんには、お兄ちゃんの都合があるのに、それを責めて私こそごめんなさい・・・。」
「でもね、遅くなるなら、ちゃんと事前に私に知らせてね・・・。
じゃないと・・・・私・・・、ううん、なんでもない。」
正直に謝ると、わりとあっさりと許してくれた。
最後の良く聞き取れなかった部分がやや気になったが、それは深く考えない方がよさそうだ。

理沙が僕のことを心から良かれと思って心配してくれているのは、
僕だって木石じゃないから、痛いくらい分かる。
でも、それは度が過ぎているきらいがある。彼女が世話焼きが過ぎ、
粘着質すぎるこの家にいるのは、極端に言ってしまうと、針の筵にいるようなものだ。
どうにかならないものだろうか?
26和菓子と洋菓子:2007/04/19(木) 00:50:24 ID:FAD2zTGd
そんな事を考えていると、いつもどおりの優しい声で食事の準備ができている、と言ってきた。
それから僕の手を強く握り、引っ張ってリビングのテーブルにつかせた。
病弱な理沙の身体のどこに軟弱とはいえ、男一人を引っ張るだけの力があるのやら。
おとなしくテーブルに座らされると、すぐに、お茶を淹れに行ってしまった。

テーブルの上には二人分の食事。
どうやら、理沙は僕が来るまで食事に手をつけていなかったようだ。
湯のみを二つもってきたときの彼女の顔はすでに、ニコニコとした
明るいものになっていて、さっきの取り乱した姿が嘘のようであった。
その様子を見て、やっと僕は安堵することができた。

食事も、料理の得意な理沙が作っただけあって非常においしく、
話題も、学校のこと、最近のアニメのこと、この前読んだ本のこと、
などと尽きることなく、楽しいひと時を過ごした。
27和菓子と洋菓子:2007/04/19(木) 00:51:47 ID:FAD2zTGd
僕の家は最近ではよくあることだが、
親が共働きで共に家に帰ってくるのはどんなに早くても、
午後十時以降なので、早い話、今現在、僕の視界内に親はいない。
我々学生の本分は勉強だとは分かっているが、
そんなことを計画的に行えるほど僕は理性的じゃないし、この時間はアニメを見たり、
漫画を読んだり、ネットゲームをしたり、と命の洗濯をさせてもらっている。
なぁに、親がいなければ大概の学生の生活とはそんなものだ。
そういえば、仲間は連日午前三時まで、画像を集めてたっけ。
というわけで、今日もアニメ三昧といこうと思ったが・・・。
神速で午後の過密なるスケジュールが脳内スクリーンに投影される。
まずいなぁ、録画し忘れていたようだ。
「お兄ちゃん、夕方のアニメ録画しておいたから見る?」
デザートのプリンアラモードを上品に食べながら、そう言った。
何だかんだ言って、実にこの子は気が利くなぁ。
いやぁ、実にありがたい。生命線確保ですよ、ええ。

・・・・・。
・・・・・・・・・・。
三十分もののアニメと言うのはどうしてこんなに早く終わるのか未だに理解できない。
やはり、アニメもいいがマンガでも読むことにしますか。
何時間マンガを読んだり、さっきのラノベを読んでいたかよく覚えていない。
ふと、時計を見ると午後十時はゆうに過ぎているようだ。

こんな時刻になっても電話一本、連絡が家に来ないと言うのはおかしい。
「理沙、今日、父さんと母さん何時位に帰るって言ってた?」
「え、お父さんは出張で、お母さんは一泊二日の旅行で今日は帰ってこないはずだけど。」
何故かごくさりげなくではあったが、うれしげにそう答えたように感じられた。
28和菓子と洋菓子:2007/04/19(木) 00:52:38 ID:FAD2zTGd
しかし、今日はラノベを読んでいるときもそうだったが、疲労感と眠気が強く感じられる。
どうも疲れているようだから、親が帰ってこないなら、
特別起きていなくてもいいわけだし、さっさと寝ようか。
「あー、そうなんだ。じゃ、僕は疲れたし、そろそろ風呂に入ってさっさと寝るよ。」
「えー、お兄ちゃん、まだまだ時間はあるんだし、折角だから羽をのばそうよぉ〜。」
明らかに不満そうな顔をして、ワイシャツの袖を引っ張って、甘えてきている。

「ね〜、どうしても駄目?」
なかなか、粘っている様子で、いや、困った。
この子はこうなると、あんまりどころか非常に聞き訳がよくないからなぁ。
時々、理沙は精神年齢が実年齢よりも幼く感じられることがある。
現に今、こういうことを考えている間でも、腕にしがみついて、『いやいや』を繰り返している。
度を超えさえしなければ、こうやって甘えられることにさして悪い気はしないのだが。
「だめ、疲れたからもう寝るよ。はい、聞き分けて早く袖を離して。」
そう、幼子を諭すように優しく言う。
すると、あっさりと腕を解放したのだが、次の瞬間、
「じゃ、今日はお兄ちゃんと一緒にお風呂に入って、背中を私が流してあげるね〜。」
などととんでもないことをのたまった。

いや、その手の人にはたまらないシチュエーションですな。
ご都合主義万歳!なんて言っていると、手際よく僕のパジャマと自分のパジャマを用意して、
またしてもずるずると、腕を引っ張って風呂場に連れて行かれる。
そろそろ、兄と風呂に入ることに恥じらいを感じてもおかしくはない年齢のはずだが・・・
実際に、こうして一緒に風呂に入るのも数年ぶりなのだが、急にどうしたと言うのだろう。

そんな事を考えていると、それを見透かしたように、
「えへへ、お兄ちゃんと一緒のお風呂、何年ぶりかなぁ・・・。」
と満面の笑みを浮かべてから、感慨深そうに言った。
そうこうしている内に、彼女は一糸纏わぬ姿になり、透き通るような白い肌があらわになる。
無意識のうちに彼女の発展途上の双曲線に目が行きかけたが、
自分への恥ずかしさからか、視線をすぐに反らした。
理沙はと言うと、そんな挙動不審な僕をいぶかしげな目で私を見ているようだった。
29和菓子と洋菓子:2007/04/19(木) 00:53:29 ID:FAD2zTGd
さすがに理沙も僕が服を脱ぐのを見ることには恥じらいを感じたらしく、
先に浴室に入り、シャワーを浴びている。
はぁ、この歳になって、まだ妹と一緒に風呂に入らなきゃいけないんですかね?
ちょっと、どころかとても、彼女の気まぐれには困ったものです。
「お兄ちゃん、どうしたの?早く入ってこないと、風邪引いちゃうよ?」
ええい、ままよ。こうなれば、特攻!そんでもって、一撃離脱のヒット・アンド・アウェイ!

「開けるよ?」
恐る恐る、そう尋ねる。
「どうぞ、どうぞ。」
がらり、と扉を開けると、ガス中毒で誰かが倒れている、などということも無く、
さも当たり前のように、理沙は既に湯船に浸かっているようだ。
おお、いかん、いかん。眼鏡をかけたままだと、レンズが曇ってしまう。
いや、第一に理沙を意識してしまうじゃないか!
そんなあわてている僕の姿を見た理沙はあははっ、と声をあげて笑っている。
いやはや、ダメ兄貴ぶりを示す格好の機会になってしまったようだ。

眼鏡をはずし、シャワーをざっと軽く浴びる。
そのタイミングで、理沙が後ろから石鹸をタオルにこすり付けているようだ。
割と大雑把な僕は、タオルではなくボディブラシでガリガリ、というほうなので、
彼女のそれとは実に好対照だ。
それを自分の身体を洗うために使うと思いきや、次の瞬間僕の背中に優しい感触がした。

・・・・。
・・・・・・・・。
ごしごしと背中をいそいそとこすっていくと、小柄な僕の背中などすぐにこすり終わってしまう。
「お兄ちゃん、次は前だよ。」
「いやいやいや、ちょっと待ちなさいって、前は、僕が洗いますから!」
「えー、残念。」
いや、残念って、何が残念なんですか!いや、寧ろ僕は何も聞いていないし、聞く気もない、
断じてそうですから、ましてや、ロリコンなどではないですよ、ええ。
そんなこんなで、さっき僕が言っていた、ヒット・アンド・アウェイなど問題にならないくらいに
身体を洗う程度で、時間がかかってしまう。
それから、髪の毛を理沙が洗ってくれた記憶があったような、なかったような。
そして、理沙の体を洗った、もとい、洗わされたような記憶があったような、なかったような。
30和菓子と洋菓子:2007/04/19(木) 00:54:29 ID:FAD2zTGd
風呂を出てから、時計を見るとお風呂で一時間近く過ごしていたようだ。
異常に長い入浴で、顔は海老のように真っ赤になっていて、のぼせている
訳ですが、その理由はおそらく、単に長風呂だった訳ではないだろう。
ボーっとしたまま、椅子に腰掛けていると、
目の前にトン、とオレンジジュースの入ったコップが置かれた。
「お兄ちゃん、のぼせちゃったみたいだから、オレンジジュースだよ。」
のぼせていて、反応がやや遅れたが、感謝の言葉を述べてから、
一息にそれを胃に流し込む。


調子も良くなったところで、歯を磨き、口をすっきりさせると寝床に着くことにしましょうか。
いやはや、歯磨き粉というやつは眠気を取るには十分すぎる効果を持っていて、
歯がすっきりした途端、頭まで冴え渡ってきた。
いまなら、確実にフェルマーの最終定理ですら解くことができるだろう、それ位だ。


そんな感じで、ベットの中にもぐりこむ。
が、布団の入ったばかりに感じるほのかな涼しさとは違い、なにやら暖かなものを感じる。
そう、暖かいといっても、人のぬくもりのような、人の・・・・ということは。
「お兄ちゃん、今日は一緒に寝てくれるよね?」
やはり、そうですか。想定内ということにしておきましょう。
目が覚めていて、すぐに寝れるわけでもないので、少し相手したら部屋に帰らせることにしよう。


イエスともノーとも言わずに黙っていると、理沙が話し始めた。
いくつか四方山話をしているうちに、再び睡魔がちょうどよい感じに襲ってきた。
どうやら、理沙に部屋に帰るように言うよりも先に自分が寝てしまいそうだ。
ディスクをフォーマットされるが如く、真っ白な世界へと誘われる。
それに、さっきからなんだか暖かく、柔らかい感じで、穏やかでゆったりとした時間が流れている。
例えるならば、記憶の片隅にあったゆりかごの心地よさの中にいるよう。
・・・・・・・・。
・・・・。
31和菓子と洋菓子:2007/04/19(木) 00:55:31 ID:FAD2zTGd
松本理沙は自宅の兄の部屋で満ち足りた、穏やかな笑みを実の兄である弘行に向けていた。


お兄ちゃんは今、私の胸の中で静かに、すやすやと眠りについています。
本当は一緒にお風呂に入って、もう少しの間起きていてもらって、それからは言えませんが、
そうするはずだったのです。
でも、疲れているお兄ちゃんに無理をさせるのはあまりにかわいそう。
疲れているにもかかわらず、自分の思うままに強要したら、強姦と何一つ変わらない。
そんな獣がするような真似をあの常識人のお兄ちゃんが喜んでくれるわけがない。

だから、よく眠れるようにさっきお兄ちゃんに飲ませてあげたオレンジジュースに、
私特製の睡眠薬を混ぜて、静かに眠らせてあげることに急遽シナリオを書き換えた。
ちらり、と理沙はカプセルの残骸に目を向ける。
胸に顔をうずめて、平和そうに眠っているお兄ちゃんを見ているのもなかなか乙なものです。
お兄ちゃんのために、私、嫌いな牛乳を飲む努力したんだからね。
まだまだ大きいとはお世辞にもいえない胸だけど、満足してくれてうれしいなあ。

薬なんかに頼らなくとも、眠らせてあげることはできたけれども、
そうでなければ私、お兄ちゃんの部屋から追い出されちゃうから、それじゃ本末転倒だもの。
本当に今、幸せ。それはいわゆる、独占欲といわれるもののようなものなのかもしれないけど、
そんなことは私には関係ないと思う。
32和菓子と洋菓子:2007/04/19(木) 00:56:25 ID:FAD2zTGd
思えば、昔から私はお兄ちゃんに迷惑ばかりかけてきたものでした。
元来虚弱体質で、重度の喘息という持病を持っていた私は、
お兄ちゃんにとってはお荷物以外の何物ではなかったでしょう。
ましてや、うちの両親は共働きでそれほど私の面倒など見てくれる余裕はなかった。
だから、年子で一つしか年の離れていない私をお兄ちゃんは、広い包容力で包んでくれましたね。
発作ばかり起こしていた私に薬を飲ませ、静かに見守ってくれたり、
私の体調の良いときは、散歩に連れ出してくれたり、
私をひざの上に乗せて、本を読んでくれたり・・・思い起こせばきりがない。

だから、私はお兄ちゃんのためなら、なんでもしてあげたいし、この命をささげたい。
お兄ちゃんのためなら、何をされたって我慢できるし、そうするのは私にとっても義務であると思う。
私が願うことは唯一つ。お兄ちゃんとずっとずっと、これから両親が死んでも、
どんな困難が立ちふさがっても、そう私たちの邪魔をするような輩があらわれても、
ずっとずっと一緒に生きること。

だから、その邪魔をするような人、ううん、言葉は正確に使わなくちゃ。人じゃなくて悪い悪い雌猫さん。
その雌猫さんの欲望の赴くままにお兄ちゃんを蹂躙させたりなんかは人間である私がしないのだから。
体が弱くたって、お兄ちゃんは私に教えてくれましたよね。
お兄ちゃんの大好きな化学の楽しさを。
薬を作って困っている人を助けたい、そう言ったらお兄ちゃんは喜んでくれましたよね。
私はね、お兄ちゃんのために薬を作るの。
雌猫さんとは一合いも刃を交える必要なんてないと常々思う。
人間が猫なんかと戦うことの身の穢れを感じてならない。
だから、安心してね、雌猫さん。すぐに楽になれるようにとびっきり強力なのクスリを今作っているの。
いずれはお兄ちゃんと愛し合うための薬なんかも作ってみたい、かなぁ?
なんとなく恥ずかしいことをいった気がするけれども、恥ずかしくなんかないよね、お兄ちゃん?
33名無しさん@ピンキー:2007/04/19(木) 00:58:05 ID:FAD2zTGd
とりあえず、第二話こんな感じです。
続きいつかけるかわかりませんが、読んでくれる、という方がいれば
書いていくつもりです。
34名無しさん@ピンキー:2007/04/19(木) 01:36:34 ID:9e8kdSYE
GJです! 妹の方が一歩リードなのかな?
ゆっくりでもいいんで続きよろしく!
35名無しさん@ピンキー:2007/04/19(木) 01:46:08 ID:W3PJS4CO
うん、キモウトだね、いいね。

ヤンデレキモウトってなんで萌えるんだろ…
36名無しさん@ピンキー:2007/04/19(木) 18:44:20 ID:OP5C7pxP
>>35 単純明快!
ヤンデレキモウトだからさ!!
37 ◆dkVeUrgrhA :2007/04/19(木) 20:24:53 ID:iavPXILR
>>24-32 GJ。
お兄ちゃん・・・気づいてよ!あんた、命の危険すら迫ってんだよ!!

久しぶりに投下します。予定とは違いますが。

38おにいたん3(仮称) ◆dkVeUrgrhA :2007/04/19(木) 20:29:53 ID:iavPXILR
 その街は温泉が湧いていた。
 近くに大都会が存在したため、その街は都会の奥座敷として栄えた。
 −−−それも過去の話。モータリゼーションは日本全国と都会の距離を縮めてしまった。
 都会の人々は増えた選択肢を有効に活用しだした。
 距離以外のアドバンテージがなかったその街は寂れるしかなかった。
 この街で旅館を経営していたある人物は、旅館に見切りをつけて故郷を出て行った。
 それから十数年。飲食店業に手を出した人物は数店舗を持つにいたり、故郷に凱旋した。
 彼は故郷にも店舗を構えた。自分の成功の証として。赤字でもかまわないつもりだった。

 −−−その店は、『テュルパン』といった。『おにいたん、だいすき!3』開幕。

************

 「おにいさん!相席、よろしいですか?」
 「へ、俺?」

 夏、麻枝耕治は新たに受けた辞令を持ってテュルパン4号店へと向かっていた。
 『麻枝耕治は2号店店長代理兼マネージャーの任を解き、4号店店長代理兼マネージャーを命ずる』
 横滑り人事であったが、勤務先が「あの」4号店と聞きかなり鬱になった。
 万年赤字。店員は曲者ぞろい。客も曲者ぞろい。そして・・・。 
 テュルパンは現在5店舗存在するが、1〜3は街中にあり、5号店は郊外の海水浴場近くにある。
 4号店だけは、本部から車で高速道路を3時間ほど走ったところに存在していた。
 幹線道路沿いではあるが温泉街の中にあり、都会型店舗であるテュルパンとしてはかなり異質な店舗である。
 何でも創業者がこの温泉街の出身らしく、近くにはテュルパンの保養所も存在する。

 さて、耕治は4号店に向かう途中、他社のファミレスに食事に立ち寄った。
 他社店舗での食事も重要な仕事である・・・
 そう自分に言い聞かせて入ったのはテュルパンと客層がかぶるであろう洋食中心メニューの店。
 女性アテンダント(=ウエイトレス)に案内されて席に着き、メニューを眺めていたときである。
 「おにいさん!相席、よろしいですか?」
 「へ、俺?」
 メニューから声の主を上目遣いに見てみると、小柄な女の子が立っている。
 年齢は美衣菜ちゃんと同じぐらいか、もっと幼い感じがする。
 髪型はショートボブを無理に上でお下げをつくり、リボンでくくったような感じ。
・・・というか、ツーテール(ツインテール)のお下げを短く切ってしまったような?
 顔は小さく目は大きく、きれいというより可愛らしいという表現がぴったり。
 耕治は声をかけてきた女の子を数秒観察した後、店の中を見回した。
 店の中は込んではいたが決して空席がないわけではない。
 「だって・・・一人でさびしく食べるより、お兄さんみたいな人と一緒に食べたほうがおいしいから・・・」
 伏目がちにぼそぼそとそんなことを言われたら転ばないほうがどうかしている。
 「いいよ。前に座って」
 「いいですか?!おにいさん、ありがとうございます!」
 女の子はぴょこんとお辞儀をすると耕治の前のソファーに腰を落とした。
39おにいたん3(仮称) ◆dkVeUrgrhA :2007/04/19(木) 20:32:55 ID:iavPXILR
 「では・・・はじめまして!あたし、まなみっていいます!
好きな食べ物は太っちゃうのであんまり食べたれないけどショートケーキで・・・」
 「ちょ、ちょっと!」
 まなみと名乗った女の子は座るや否やいきなり自己紹介を始めた。
 早口で自分のことばかりしゃべりだす彼女にドン引きする耕治。
 「スリーサイズはぁ・・・恥ずかしいけどお兄さんにだけ教えちゃいますね。
77−57−79のBカップで・・・」
 「あ、あの・・・」

 「お客様、ご注文はなんにいたしましょうか?」
 先ほど席を案内してくれたアテンダントがやってきて注文を聞いてきた。ナイスタイミングである。
 「ビッグサイズハンバーグランチ、洋食ライスセットで。食後はアイスレモンティーシロップ抜き。
それと食後にジャンボストロベリーパフェを」
 まなみという女の子はメニューもアテンダントも見ずにすらすらと注文を言ってのけた。
 「かしこまりました。お連れ様は?」
 「同じものを。ドリンクはホットコーヒー、ブラックで。パフェはあたしだけね」
 「あ、あの・・・まなみちゃん?」
 「い・い・で・す・ね?」
 「は、はいぃぃぃ!!」
 睨み付けるがごとき視線付のまなみの異常な気迫に押され、
耕治は勝手に決められたオーダーを思わず承諾する。
 「御注文を繰り返します。ビッグハンバーグランチ洋食ライスセットをお二つ、食後にホットコーヒーと
アイスレモンティーシロップ抜き。あと食後にジャンボストロベリーパフェ。以上でよろしかったでしょうか?」
 「はい」
 彼女はやはりアテンダントに一瞥すらくれようとしない。彼女の視線は常に耕治のほうを向いていた。
 アテンダントは席を去り、まなみは再び話し始める。
 「しっかしあのウェイトレスさん失礼だと思いませんか?まなみはずっとお兄さんと
話をしている真っ最中だって言うのに、まるで話の腰を折るために現れたみたいに!」
 間違いなく話の腰を折るために現れたから。
 多分俺が困ったような顔をしたので気を利かせて来てくれたんだろうと耕治は思ったが、
なんとなくそのことを話すと命の危険が訪れるような気がしたので黙っておくことにした。
 もちろん耕治ではなくそのアテンダントさんに。
 耕治はとりあえずまなみの意見に頷くと彼女の話を聞き流そうと努力した。
 「まなみがウェイトレスの立場なら、絶対話しかけたりしません!・・・」
 自己紹介の続き。最近見たテレビ。読んだ小説、雑誌。好きなタレント。
 最近あった犬の話。ぬいぐるみの話。etc、etc。
 以後料理が届き食べ終わるまで、えんえん彼女は話し続けていた・・・。
40おにいたん3(仮称) ◆dkVeUrgrhA :2007/04/19(木) 20:36:28 ID:iavPXILR
 「おにいさんすいません!ご飯代出してもらって・・・」
 「仕方ないよ・・・無銭飲食させるわけに行かなかったし」
 食事後、店の駐車場。耕治とまなみは連れ立って店を出た。
 まなみはなんと財布を忘れたとの事で、彼女の分まで耕治が支払っていた。
 「で、まなみちゃん?ここまでどうやってきたの?」
 「実はタクシーで、下りるとき財布を車の中に忘れてきたみたいなんです」
 「たくしー?どこからきたの?」
 彼女が告げた地名を聞いて耕治は驚愕した。
 なんと、耕治が出発した街=テュルパン2号店付近だったからだ。
 「そんな遠いところから来たの?相当お金かかっただろうに・・・」
 「こ、このお店にどうしても来たかったから・・・ここのストロベリーパフェ、同じチェーン店でもここしかないから・・・」
 耕治の質問に節目がちに答える彼女。
 自己紹介してたときは耕治のほうばかり見てしゃべっていたというのに、今は耕治の目を見ようとしない。
 耕治はその理由に思い当たるところがあったがレが事実であるという確証が持てなかったし、
たとえ正しくても今後が困るので突っ込むのをやめて彼女を救う方向で会話を進める。
 「そうなんだ・・・。で、どうするの?俺はこれからある街まで行くんだけど、そこから帰る?」
 「え、その街に行くんですか?!うれしい!実はぁ・・・まなみもぉ、そこに行く途中だったんですぅ・・・
だけど、おにいさんはかまわないんですか?」
 「かまわないよ。一人で行くよりも、女の子が横に乗ってたほうが楽しいし。さ、乗って」
 「はい!おにいさん、大好きです!」
 「ちょちょちょちょっ!」
 ばふっ。まなみは両手を挙げて喜びを表すと、耕治に抱きついてきた。
 ちょうど首の辺りにまなみの頭が来る。シャンプーのコロンの臭いが心地よい。
 耕治はとりあえずまなみを引き剥がすとここを出ることを告げる。
 「んじゃまなみちゃん、扉開けるから助手席に乗ってくれる?」
 「はーい!」 

 「お兄さん、ありがとうございました」
 本人の希望があり、温泉街の駅前で耕治はまなみをおろした。
 ぺこりとお辞儀するまなみに耕治は苦笑しながら会釈する。車に乗ってから到着するまで、
彼女は耕治に対しひたすら話し続けていた。
 そのテンションの高さに辟易しつつも、耕治は彼女の話に相槌を打ったりして聞いてやった。
 「いやいや。こっちも楽しかったよ。運転してる感覚がなくなるぐらいよくしゃべったし」
 片眉を引きつらせながら作り笑いをする耕治。
 「おにいさん・・・あのう・・・」
 得意技なのだろうか。伏目がちにまなみは耕治の瞳を見る。
 「ずっと・・・まなみ、自分のことばかり話してましたよね・・・つまらなかったですか?」
 瞳に涙をためて話すまなみ。その瞳にくらっときかけたが、耕治は正気をどうにか保ちつつ、
それでもくらっときたフリをすることにする。
 耕治は少し腰を落とし、まなみと同じ目線の高さへ自分の目線を持ってくる。
 「そんなことないよ。まなみちゃんが、すごく一途な女の子だって事は分かったから」
 「はい!」
 にっこりと笑うまなみ。これは年下属性の人間にはかなりクるものがあるな・・・そんなことを耕治は考えていた。

 「ではおにいさん、しばしのお別れです!」
 彼女は一歩下がると耕治に別れを告げた。
 「・・・しばし?」
 「また会おうねー!耕治お兄さん!」
 「お、おう!」
 駆け去ってく彼女を見送ると、耕治は再び車上の人に戻った。
 目的地のテュルパン4号店はここから車で5分ほどのはずだ。
 「しかし、すごい女の子だったな」
 車の中、耕治は独り言をつぶやいた。そして耕治は用心のため、次の言葉は心の中だけでつむぐ。

 (対象M、ねぇ・・・)
41おにいたん3(仮称) ◆dkVeUrgrhA :2007/04/19(木) 20:37:19 ID:iavPXILR
とりあえず今回ここまで。次回、もう一人のヒロインと選択肢。
42 ◆dkVeUrgrhA :2007/04/19(木) 20:41:35 ID:iavPXILR
追記。今回エロ無きに等しいです。真面目に病ませます。
43名無しさん@ピンキー:2007/04/19(木) 22:00:23 ID:iCBaAwMl
>>33主人公の能天気さにワロタw
ヤンデレヒロイン二人相手にしてこのマイペースはある意味オソロシスw

>>42
>真面目に病ませます。
病んでればエロなんかいらんのですよ!
てか、まなみが既にかなり病んでるように見えるのは俺だけでしょうかw
44名無しさん@ピンキー:2007/04/20(金) 01:36:50 ID:X7tZcT+A
>>33
まさか、塩酸や硫酸で一方に・・・なんてことはないよな・・・
45名無しさん@ピンキー:2007/04/21(土) 01:12:36 ID:gXdY0xhS
何気に過疎ですか?
46名無しさん@ピンキー:2007/04/21(土) 01:54:58 ID:DO/N88ao
どこも過疎だよ・・荒らしのおかげでな
47名無しさん@ピンキー:2007/04/21(土) 11:25:27 ID:7EgbDAAY
荒らされてるの?
48名無しさん@ピンキー:2007/04/21(土) 14:05:56 ID:l9Kjchlk
規制関連とか?
荒らされると、お兄ちゃんにまとわりつく魔女を殺せないから困る。
49名無しさん@ピンキー:2007/04/21(土) 14:49:53 ID:pYnnfBkw
保管庫更新されてるぞ!!
今度は誤爆じゃないぞ!!
50名無しさん@ピンキー:2007/04/21(土) 15:34:42 ID:IxgvNTX3
前スレで俺が告知してるがな(´・ω・`)
51名無しさん@ピンキー:2007/04/21(土) 15:37:05 ID:IxgvNTX3
ちょwww
今見たら俺の前にもう一人いたorz
スマソ
52名無しさん@ピンキー:2007/04/21(土) 18:31:56 ID:lVSkVbv0
なんか自分の書いた文章が保管庫に載るとこっ恥ずかしいな
53名無しさん@ピンキー:2007/04/21(土) 18:35:24 ID:lVSkVbv0
スマン下げ忘れた、、、
54名無しさん@ピンキー:2007/04/21(土) 18:58:36 ID:pYnnfBkw
よし、お詫びにもう一作品か続きを・・・
気が向いたらでいいから
55ことのはぐるま ◆Z.OmhTbrSo :2007/04/23(月) 01:50:22 ID:jt1jcRSu
第9話、投下します。

第九話〜姫〜

・ ・ ・

 俺の足元には、なにやら高そうな絨毯が敷かれている。
 かなりの人数が同じ空間に集中しているというのに、コツコツ、カツカツといった靴の音さえしない。
 部屋の壁には、ところどころに絵画や美術品のようなものがあった。
 どれもこれも美術のセンスも感性も持ち合わせていない俺には理解できないものばかり。
 ど派手に飾られた花の群れを収めるのは、これまた高そうな花瓶だった。

 そして俺の周囲に居る人間達は、いずれもタキシードやら着物やらドレスやらを着込んでいる。
 仕事着にも使えそうなスーツを着ている人間など俺しかいないのではなかろうか。
 そう思うと、周囲の視線が自分に集まったような気がした。
 もちろんそれが錯覚だということは分かっている。
 だが、俺がこう思ってしまうのも無理ない話なのだ。

 どれほど有名なのか想像できないような家の当主のパーティなど、初体験だ。
 ついでに言うならば、こんな映画に出てきそうなパーティなど参加するのも初めてだ。
 俺の家は誰がどう見ても平凡な日本の家庭だから、俺にそんな経験があろうはずがない。
 だというのに、なぜ24歳になった今さらこんな場所にいるのだろうか。

 原因は二つある。
 まず。
「雄志君はまともな礼服というものを持ち合わせていないのかい?
 どう見てもそのスーツはオフィスでぐちぐち愚痴をこぼしながら仕事をして、
 帰ったら妻と娘にないがしろにされることを分かっているがそれでも働くしかない、
 と絶望しているサラリーマンにしか見えないよ。
 さらに悪いことに今の雄志君は名刺も持ち合わせていない。
 それではサラリーマンとは言えないね。サラリーマンへの冒涜だよ。
 今すぐ君のお父さんに謝った方がいい」
 一方的にまくし立ててくる十本松が一つ目の原因。
 この宝塚女がかなこさんから招待状なんぞを受け取って持ってきたのが悪い。
 
 次に二つ目。
「おにいさんの格好については、私も同感です。
 どうしてそんなしわの入ったのスーツしか持っていないんですか。
 さては収納するときにクリーニングに出さずに畳んでからしまいましたね。
 これだから一人暮らしの男性は……」
 場違いだと思い、参加する気を無くして部屋でくつろいでいるところに華が飛び込んで来たのが悪かった。
 目ざとく招待状を見つけた華は、一緒に参加しようと言い出した。
 そのせいで俺は今夜7時に行われるパーティに参加することに相成った。
 
 十本松はタキシードをばっちりと着こなしている。もちろん男物。
 華は薄いブルーの、胸元がフリルで飾られた落ち着いた印象のロングドレスを着ている。
 なぜお前らはそこまでパーティへの備えが万端なのかと問いたい。
 もしや、近頃の日本ではパーティというものが密かなブームだったりするのだろうか。
 最近は新聞もテレビも読まないから世間のことに疎いのだ。
 そんな世間に疎い俺が、いかにも社交的な人間達に混じってこの場にいるのは明らかにおかしい。

 なんだってかなこさんは俺をこの場に呼んだのだろうか?
56ことのはぐるま ◆Z.OmhTbrSo :2007/04/23(月) 01:52:03 ID:jt1jcRSu

 十本松いわく。
 今菊川家で行われているパーティは、菊川家当主である菊川桂造の誕生日が主旨である。
 菊川桂造という男は、傾きかけていた菊川家の事業を立て直した功績を持っているという。
 同時に、代々続く菊川家の歴史の中でも前例の無いほどの繁栄をもたらしたそうだ。

 その後もその手腕を発揮していくかと思われたが、7年前に手を引いて、
現在は悠々自適な生活を送っているという、うらやましい人間でもある。
 7年前に桂造氏が引退する時点で菊川家の携わる事業は放っておいても大丈夫、
というほどに潤っていたらしいから今でも彼の名前は一人歩きしているらしい。
 そのためこの場には直接的に彼と関係の無い、今日が初対面の人間――俺とか――も
このパーティに参加している。
 
 どう考えても俺はこの場にふさわしい人間ではない。
 さっきから聞こえてくる会話には、「株主」「先生」「総理」という単語が頻繁に飛び交っている。
 そんな単語にふさわしい返事のボキャブラリーと発想は俺の頭の中には入っていない。
 今俺の頭を占める思いは、「帰りたい」。それだけだ。
 
 十本松の昨晩の話では上等な料理や酒が振舞われるということだったが、
とてもじゃないが自分のペースで食べられるような雰囲気ではない。
 俺が自分のペースで食べるときは一言も話さず、ひたすら料理を口に運び、
その味に感動するという庶民的な行動をとることになる。
 周囲で行われているような片手にグラスを持ち片手でジェスチャーをするようなことはしない。
 この場では食べることが優先されるのではなく、社交的な会話が優先されるのだ。

「だから来たくなかったんだよ、俺は」
 誰に言うでもなくぼやく。
 すると、それに華が反応した。
「いい機会じゃないですか。
 せっかくですからこの場で社会人の社交術を思い出してください。
 いずれはおにいさんだってフリーターを脱却するつもりでしょう?」
「もちろんそのつもりではいるけどな。この場で行われている会話が役に立つとは思えないぞ。
 それに何を話せって言うんだ。俺に話せるのはコンビニ弁当を美味しく食べられる期間についてしかないぞ」
 この場にいる人間達がコンビニ弁当について熱く語ってくれるはずがない。
 某コンビニエンスストアの代表取締役でも来ていれば話は別だが。

「固くなる必要は無いよ。ただ愛想笑いを浮かべてへこへこしながら話しかければいいんだ。
 話なんて適当に相槌を打っていればいい。
 ここに居る人間たちは皆寛容だから雄志君が粗相をしても気にしたりしない。
 それにヘマをしたところで私の記憶中枢にその光景が刻まれるだけだ。
 堂々と偶然を装って淑女のバストに飛び込むがいいさ」
「……そんなことしたら社会的に抹殺されそうだからパスだ」
 なぜ十本松はここまで落ち着いているのだろうか。
 もしや、こいつもお嬢様なのか?
 かなこさんとも昔から知り合っていたみたいだし。
57ことのはぐるま ◆Z.OmhTbrSo :2007/04/23(月) 01:53:01 ID:jt1jcRSu

「とりあえず、誰かに話しかけてきたらどうだい?
 ほら、そこにいる黒いドレスを着て、これまた黒いその髪をアップにした女性などはどうだい?」
「ん……」
 十本松が差した方向を見る。
 肩の開いた黒いドレスを着て、艶やかな髪をアップにまとめた女性がいた。
 彼女は初老らしき男性の数人と会話をしている。
 それだけならこの場でよくある光景に過ぎないが、やけに男の腰が低いように思える。
 物理的な意味でなく、彼自身の、彼女に対する立ち居振る舞いが。
 
「……無理言うな。あんなえらそうなおっさんがかしこまる相手だぞ。
 もし話しかけてとんでもないところのお嬢様だったりしたらどうする」
 その光景から目を反らし、十本松の顔を見る。

 奴は、なぜか口を固く閉ざしたまま、目をぱちくりとさせていた。
 俺の顔を珍奇な動物を見る目で見つめてくる。

「どうした? 俺の顔に何かついてるか?」
「……今の君に私が問いたいことは一つだけだ。君の目は、節穴なのかい?」
 いきなり何を言う。
 これでも人を見る目はそれなりにあるつもりだぞ。
 どう見ても俺が話しかけていい相手じゃないだろう。

「華。この男気取りの無礼な女に何か言ってやってくれ」
「あの……今の、冗談じゃなくて本気で言ったんですか?
 あの人を見ても誰だかわからないんですか?」
 華までが十本松と同じ種類の顔をしていた。
 ただし、こちらの顔には多少非難する色が滲んでいる。
「おにいさんは服と髪型が変わっただけで誰だかわからなくなるんですね。
 ああ、そういえばこの間久しぶりに会ったときからそうでしたね。
 私の顔を見てもすぐに気づかなかったですし」
 そう言うと、呆れた様子で嘆息した。

 なんだっていうんだ二人とも。「あの人が誰だか分からないのか」?
 そんなことを言われてもな。
 昔お嬢様だったらしい親友はいるが、現役のお嬢様なんて、俺の知り合いには居ない……?

 待てよ。そういえば一人居たな。
 とんでもない有名どころのお嬢様で、この場にいてもおかしくない人間で、
さらに黒い髪を伸ばしている、場の空気を変えてしまいそうなほどの美人が。
 
 再度、先ほどの女性を見る。すると、いきなり目があってしまった。
 反射的に目を反らそうとしたが――できなかった。
 ただその女性から視線を向けられているだけだというのに、射竦められたような感覚を覚える。
 つまり、俺はその女性から目が離せなくなったのだ。

 女性がこちらにやってくる。
 そして、俺の一歩手前の距離で立ち止まった。
「こんばんは、雄志さま。パーティに来てくださって、とても嬉しいですわ」
 その人は、パーティの主役の娘であり、とんでもないところのお嬢様であるところの、菊川かなこさんだった。
58ことのはぐるま ◆Z.OmhTbrSo :2007/04/23(月) 01:56:08 ID:jt1jcRSu

 華と十本松が呆れたのも頷ける。
 事実、今の俺は二分ほど前の俺に対して呆れかえっている。
 ただ髪型を変えてドレスを着ているだけなのに、かなこさんのことがとっさに思い浮かばなかったのだから。

 頭の中でさらに自分にダメ出しをしようとしていたら、、かなこさんから話を切り出された。
「今日はスーツをお召しになっておられるのですね。お似合いでございますよ」
 褒められてしまった。
 さっきから俺の両脇を固めていた女二人は俺をけなしていたというのに、
かなこさんはなんて気配りのできる人なんだろうか。
 ……いや、同じ台詞を十本松に言われたところで嫌味にしか聞こえないということを
考えると、あそこでけなされていて正解だったか。

「かなこさんこそ、よく似合ってますよ。そのドレス」
「ありがとうございます」
 俺の言葉を聞いて、微笑を浮かべるかなこさん。
 思わず俺の口の端が上がる。
 この、明らかに俺の立場と嗜好とはかけ離れた場所でこんな落ち着くやりとりができるとは。
  
「あら? そちらにいらっしゃるのは……」
 かなこさんが俺から目を反らした。
 彼女の視線の先には、どこか固い表情をした華がいた。
「こんばんは、かなこさん」
 不機嫌であることを物語るかのようなぶしつけな口調だった。
「こんばんは。華さんのドレスも素敵でございますよ」
「……ありがとうございます」
 明らかにそうは思っていない、棒読みの台詞だった。

 かなこさんは、俺との少ない顔合わせの機会のいずれとも変わりない表情だったが、
華は長い付き合いをしている俺以外の人間が見てもわかるほど、機嫌が悪かった。
 どうしたことだろう。
 昨日の大学の中庭で起こった一件が尾を引いているのだろうか。
 
 華はつい、と顔を背けると無言でその場から立ち去ろうとする。
「おい、どこ行くんだ」
「少し外の空気を吸ってきます」
 と言い残すと、振り返らずにすたすたと歩き出し、重そうなドアをこじ開けて外に出て行った。
 
 俺が華を追いかけようと一歩踏み出したら、十本松が手を突き出して俺を制止した。
「私が行こう。君が行っても華君の機嫌をさらに損ねるだけだよ。
 そんなことより、かなこと話をしてやってくれ。
 かなこが君と話をしたい、というから雄志君をここに呼んだんだから、
 恋人に自分以外の男を近づけるという寝取られを覚悟しなければならない状況に
 あえて自分の身をおく私の厚意をありがたく受け取りたまえ」
 ……お前の厚意など受け取りたくもないが、かなこさんが俺と話をしたいと言うならば、
あえて受け取ることにする。

 俺の無言の意思を受け取ったのか、十本松は華の後を追いかけてその場から立ち去った。

------
連投規制を避けるため、前編のみ。一時間以内に続きを投下します。
59ことのはぐるま ◆Z.OmhTbrSo :2007/04/23(月) 02:42:20 ID:jt1jcRSu

 かなこさんは、ドアへ向かっていく十本松の背中を見送っていたが、
その背中が見えなくなってから俺に顔を向けた。
 そして、そのままじ……っと俺を見つめてくる。

「……」
 この沈黙は俺だ。
 かなこさんも沈黙しているが、彼女の視線が何か言っているような気がしたため、
沈黙だけが俺の聴覚を占めている。
 彼女の端正な顔に張り付いている瞳が何を言っているのか、これが華や香織であれば
的中率が低くともなんとか当たりそうな気がするが、かなこさんにそれは通用しそうにない。
 彼女が何を俺に伝えたいのか、全くわからない。

 俺が立ち尽くしていると、突然右手を掴まれた。
 白い手の持ち主である、かなこさんはさらに左手を添えると、俺に向かってこう言った。
「雄志さま。少々ご一緒していただいてよろしいですか?」
 断る理由などあろうはずもない。

 首肯する。と、かなこさんに手を引かれた。
「あの、どこに行くんです?」
 手を引かれて歩かされながら、問いかける。
「わたくしの部屋ですわ。
 ここではゆっくりお話ができませんので」

 ここで話してもいいのではないかと思ったが、ちらりと右を向いただけで考え直すことになった。
 やけに会場の視線が向けられている。
 主に、俺に向けて。

 左を向くと、俺の顔を指差しながら何かをささやいている人までいた。
 文句を言ってやりたい気分になったが、この状況を分析してみれば
なぜ後ろ指を差されているのかが理解できた。

 このパーティに来ている人間達はいずれも菊川家当主の誕生日を祝うことを目的にしている。
 俺の手を引いているかなこさんはその当主の娘である。
 彼女の恋人がいるとしたら、少なからず興味を抱くはずだ。
 もし彼女と親しくしている男がいたら、そいつを恋人と邪推してもおかしくない。

 そこまで考えると、周囲の人に文句を言う気もなくなってしまった。
 もちろん、俺がかなこさんの恋人であることなどありえないし、
三度しか会っていないのだからただの顔見知りに過ぎないわけだが――悪い気はしない。
60ことのはぐるま ◆Z.OmhTbrSo :2007/04/23(月) 02:44:21 ID:jt1jcRSu
・ ・ ・

 とはいえ、部屋に連れ込まれても甘い空気にならない事実は変わりない。
 この屋敷に集まっている人間達の反応から鑑みるに、かなこさんの恋人になるであろう男は
余程人間ができていなければ、彼らに向けられる嫉妬と羨望の視線に堪えられなさそうではある。
 もし俺がそんな状況に置かれたら耐えられないかもしれない。
 が――

「お茶をお持ちしました。……どうぞ」
 カップに透き通った紅茶を注ぎ、嬉しそうに俺の前にカップを置くかなこさんを見ていると
他人の視線などものともしない自信が湧いてくるから不思議なものだ。
 まったく、彼女の好意を独占できる男が羨ましくてたまらない。

 鼻腔を柔らかく刺激する匂いを堪能しながら、紅茶の味を味わうスキルを持ち合わせていない
俺はちびちびと唇をカップにつけていた。
 かなこさんの背中を見やる。
 彼女はペン立て以外何も乗っていない机の前に立っている。
 俺の座っている場所からは何をやっているのかは分からない。
 だが、ドレスを身に纏い髪をアップにしているその後ろ姿はよく見えた。
 髪を下ろした普段の髪型とは違い、うなじが丸見えになっていて、
さらに肩を丸見えにしているドレスと相まって、目に毒にしかならない。
 毒は毒でも、たちまちのうちに中毒にしてしまいそうな類のものであるが。

 俺がその背中をじっと見つめていると、かなこさんがゆっくりと振り返った。
 胸の前で大事そうに本を抱いている。
 テーブルの向かい側にやってきて椅子に腰を下ろすと、本をテーブルの上に置いた。
 既視感を覚えた。
 彼女と初めて遭遇したあの日、料亭になかば無理矢理連れ込まれて
食事をしたあとにもこんな光景を目にした気がする。

「話したいことというのは、この本のことですわ。
 この本の内容を、まだ覚えてらっしゃいますか?」
 かなこさんはそう切り出した。
 忘れるはずがない。以前何度も読み返したからな。
「もちろん覚えていますよ」
「……では、何か思い出されましたか?」
 …………。
 え?

 質問の意味が掴めない。
 目の前にある本の内容は覚えている。
 だが、何か思い出したか、と言われてもわからない。
「ぁ……申し訳ありません。言葉が足りませんでしたわ。
 言い直します。その本に記されていた出来事が起こったとき。……そのときのことを思い出されましたか?」
61ことのはぐるま ◆Z.OmhTbrSo :2007/04/23(月) 02:46:32 ID:jt1jcRSu
 
 さらに質問の意味が不明になった。
 からっぽの頭のなかにピンポン玉を放り込まれたように、思考が落ち着かない。
 「記されていた出来事」。これはわかる。
 姫さまが刺客に狙われて、最後は殺されてしまう。
 簡単に言えばそれがこの本の内容だ。

 「そのときのことを思い出したか」。
 そのときというのは、この本を読んだときのこと……では無いように思える。
 かなこさんの口調は、その場に居合わせたときのことを問うようだった。
 
 そんなこと、わかるはずがない。
 俺は生まれてきてからまだ20数年しか経過していないわけで、
その頃に武士や姫と呼ばれる人間が存在するわけはないし、
それ以前に俺の記憶に欠陥が無い限り人が死ぬ現場を目にして忘れたりはしない。
 
「……あの、もしかして俺のことをからかってますか?」
「? なぜそう思われるのですか。わたくしは真剣に言っておりますが」
 かなこさんの声には怒りが少し混ざっただけで、冗談を言っているようではなかった。
 とりあえず、質問に答えることにする。
「……覚えていませんよ。俺は人が死ぬ現場に居合わせたことは一度も無いし、
 それ以前に武士や姫らしき人間と会ったことも無いです」
「え……」

 俺の言葉を聞くと、かなこさんは目を見開いた。
「そんな……なぜ、なぜ忘れておられるのですか!」
 次の瞬間、かなこさんはテーブルに両手を叩きつけて身を乗り出してきていた。
 すぐに下を向いたので、彼女の表情は見えない。
「わたくしが…どれほどの間、このときのことを待っていたか……。
 貴方さまに会う日を、焦れながら……心を締め付ける切なさに耐えながら、
 待ち続けていたというのに……何故…雄志さまは……」

 呟きが止まり、かなこさんの顔がゆっくりと上がる。
 
「ぅっ……」
 思わず息を呑んだ。
 後頭部から背中にかけて一気に冷たいものが駆け抜ける。
 ナイフを眉間に突き立てられて、そのままえぐられているような気分さえする。
 
 この感覚を与えているのは、目の前にいる女性である。
「……忘れた振りをなさっているならば……許しませぬ………」
 白い顔に張り付いている恨めしげな眼差しと、彼女の放つ威圧感が俺に向けられていた。
62ことのはぐるま ◆Z.OmhTbrSo :2007/04/23(月) 02:48:49 ID:jt1jcRSu

 何と言って切り出せばいい?
 言葉の選択を間違うだけで飛び掛られてくびり殺されそうな雰囲気だ。
 かなこさんの瞳から放たれる眼光はまったく緩みそうにない。
 だが、何も言わないわけにもいくまい。
 彼女は俺が何かを忘れているから怒っているらしい。
 一体、俺に何を期待している?

「あの、かなこさん」
「なんでございましょう……」
 かなこさんの目がさらに吊り上る。
 まばたきの一つもしないその瞳は充血して紅くなっていた。
 声を絞り出そうとしてもなかなか出てくれない。
 喉に空気の塊が溜まっているようだ。もどかしい。

「俺が、何を忘れているって言うんですか」
 慎重に選んだ結果、出てきたのはそんな言葉だった。
 
 次の瞬間、かなこさんがテーブルを飛び越えた。

 肩を掴まれ、勢いそのままに椅子ごと押し倒される。椅子の背もたれが背中を強く打つ。
 衝撃を受けて喉からうめき声が吐き出された。
「あぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」
 かなこさんが叫び声を上げながら俺の首に手を伸ばしてきた。
 このとき、咄嗟に腕を動かして白い手を掴まなければ、首を絞められていたに違いない。

「ぐっ……」
 全力で押し返そうとするが、びくともしない。
 親指と人差し指がしっかりつくほど掴んでいる手首は細いというのに、
信じらないほどに彼女の力は強かった。
「わたくしのことを忘れるなど……許しては置けませぬ!」
「だからっ……なんのことだって言ってるだろ!」

 かなこさんの腹に膝を滑り込ませて、巴投げのように放り投げる。
 即座に前転して、その場から離れる。
 振り向くと、かなこさんはまったく変わりない様子で立ち上がっていた。
 そして、ゆっくりと歩み寄ってくる。
 それを見て危険を感じ、立ち上がろうとするが――力が入らなかった。
63ことのはぐるま ◆Z.OmhTbrSo :2007/04/23(月) 02:54:30 ID:jt1jcRSu

(なんだ、これ)

 体のどこを怪我をしているわけでもないのに、どんどん力が抜けていく。
 力が絞り出せない。――いや違う。眠い。
 何故だ。
 こんな状況で眠れるほど俺はアホじゃない。
 
 ふと頭に閃くものがあった。
 もしや、さっきかなこさんが淹れた紅茶に睡眠薬でも入れられたのではないか?
「うふ、ふふふふふ」
 睡魔におかされたまぶたは上手く開いてくれない。
 歯を食いしばって耐えようとしても、そもそも力をいれることすらかなわない。
 
(くっそ……)
 耐え切れずに目をつぶると、いままで手加減をしていたのか睡魔が一斉に侵攻を開始した。
 自分が倒れていると分かったのは、顔の皮膚に絨毯の感覚があらわれたときだった。
 
 心地よさに触覚まで手放したとき、暗い世界の中で透き通る声を聞いた。

「雄志さまが何を忘れているのか、教えてさしあげます。
 わたくしの護衛として尽くしていたときのこと。
 わたくしを守ることができず、涙を流したときのこと。
 そして、わたくしと過ごしたときの思い出。
 ですがご安心を。すぐに思い出させて差し上げます――」

 ――もう少しわかりやすく言ってください、かなこさん。
 脳内でぼやいた後、抵抗することを諦めて頭のスイッチをOFFに切り替えた。


-----
第9話はこれで終わりです。
64名無しさん@ピンキー:2007/04/23(月) 09:26:26 ID:4iSbWHjX
まさか輪廻転生?
GJ!
65名無しさん@ピンキー:2007/04/23(月) 10:44:42 ID:aHEdQbQo
睡眠薬キタコレ!さらに監禁キタカモ!
かなこさんの怒涛の追い上げにワクテカ!(*゚∀゚*)
66名無しさん@ピンキー:2007/04/23(月) 12:11:11 ID:bCr9w1uO
これはかなこさんいい病みっぷり(*´д`*)ハァハァ
監禁→調教コースクルー!?
しかし本当に前世が会ったのかかなこさんが病んじゃってるのかどちらなのだろうか?
先の展開が待ち遠しいぜ
67名無しさん@ピンキー:2007/04/23(月) 20:36:28 ID:rLuIv2fz
かなこさんの執着心が素晴らしいですね(*´Д`)ハァハァ
しかし主人公の鈍さにワロタw
こういうタイプだから修羅場を呼ぶのか……

保管庫の管理人さんもすばやい更新乙です
68名無しさん@ピンキー:2007/04/23(月) 21:48:19 ID:FN49ce+b
輪廻転生っていうシチュは大好きだぜ!
GJ!!
69 ◆WBRXcNtpf. :2007/04/24(火) 00:59:31 ID:rBKOmnMd
投下
70 ◆WBRXcNtpf. :2007/04/24(火) 01:00:07 ID:rBKOmnMd
第9章

『誠一さんはなぜか逃げてしまった。』

『何故帰ってきてくれないの?なぜ私を抱きしめてくれないの?
なぜ「ただいま」といってくれないの?・・・』

真奈美は考えても考えても解けない疑問に苛まれていた。

もうあの再会からかなりの時間が経っている、
太陽はもう沈みきり外は暗くなっている。
今、真奈美が居るリビングも電灯を灯さなければ真っ暗闇だ。

だが真奈美は電灯をつけることもなく一人暗い部屋でひざを抱えていた。

そんな時、ふと聞きなれた夫の声が聞こえた。
いつも自分と睦みあっていたときの声だ。
初めは幻聴かとも思ったが何故か妙にはっきりと聞こえる。
しかもその音源は何故か隣家から発せられたいた。

・・・

何がおこっているのか、真奈美は頭で理解していた。

だがその壊れた心は何が起きているのか理解することが出来なかった。

『夫が自分以外の人間と情事をしている。』

たったこれだけのこと。
だが真奈美にとっては明日世界が滅びることに等しい現実がそこにあった。
71 ◆WBRXcNtpf. :2007/04/24(火) 01:01:35 ID:rBKOmnMd
終了

酔っているのでもう_
アヒャ
72夫が隣に住んでいます ◆WBRXcNtpf. :2007/04/24(火) 01:03:42 ID:rBKOmnMd
題名忘れてたorz
73名無しさん@ピンキー:2007/04/24(火) 04:28:50 ID:1ATfAhUY
>>71
ちょwww
しかし1レスだけなのにいい病みっぷり
この思い込んじゃった状況からどんな反撃がくるのかwktk
74名無しさん@ピンキー:2007/04/24(火) 16:11:05 ID:qGV5j/89
言い訳の通用しそうにない、修羅場フラグが…!
75名無しさん@ピンキー:2007/04/24(火) 19:16:48 ID:JeOX++KE
展開的にはwktkdkdk


↓以下愚痴なのでスルー推奨
ただ、代用として愛するっていうのはややマイナスかなぁ。
代用ってことは、仮に本物がいたのならばその代用には見向きもしないって事だからなぁ。
その人自身を見ていないのにその人を見てる人から奪うっていうのはねぇ。
まあ、代用からその人自身を見るようになればいいけれど。
76名無しさん@ピンキー:2007/04/24(火) 21:07:02 ID:NbDIVBxn
wktkdkdk ってどんな意味?
77名無しさん@ピンキー:2007/04/24(火) 21:19:20 ID:3xpt8S7/
>>75
つーか自分でそう思うなら書くなよ、誘い受けしてんのか?
78名無しさん@ピンキー:2007/04/24(火) 21:21:48 ID:xFpqeBcR
ワクテカドキドキ

真奈美さんが主人公を完全に亡夫色に染め上げる(洗脳?)のか、
二人の違いに気付いたとしてそれでも……になるのか
どっちの展開でも面白そうw
79名無しさん@ピンキー:2007/04/25(水) 00:07:58 ID:DAq3gZAL
>>72ちょww酔っててこのクオリティてすげぇなGJGJ!
80名無しさん@ピンキー:2007/04/25(水) 00:35:08 ID:x6cMIs0H
>>77
とりあえず意見として。過剰反応する人がいるとまずいので念のため。
81名無しさん@ピンキー:2007/04/25(水) 00:45:17 ID:uk9yIfMC
スルー推奨とか書くと、余計に荒れる。
前から言われてなかったっけ?
82名無しさん@ピンキー:2007/04/25(水) 04:15:57 ID:x6cMIs0H
>>81
いや、悪い。知らんかった。
83名無しさん@ピンキー:2007/04/25(水) 04:40:23 ID:d4ZaRz57
>>79
実を言うと書いた時の記憶がおぼろげなんだ
84名無しさん@ピンキー:2007/04/25(水) 17:05:56 ID:GOZgQ1xe
じゃあ真奈美さんには神が酔った隙をついて
ドンドン暴走してもらおうw
85名無しさん@ピンキー:2007/04/25(水) 19:25:35 ID:fnedj0Gb
86名無しさん@ピンキー:2007/04/26(木) 12:19:44 ID:XQgeEHxa
また細分化か……
87名無しさん@ピンキー:2007/04/26(木) 16:06:52 ID:JCjhr2jr
キモウトスレにもあったからマルチじゃね?と言って見る
88名無しさん@ピンキー:2007/04/27(金) 01:11:02 ID:RTKA6El4
誰か投下してくれ
89緋口宗一:2007/04/27(金) 20:29:26 ID:74nAWJQm
初めまして。

中村さん

「ごめんねー、またやっちったよ」
「ああ、はいはい。部屋ですか?」
「うん。」
「手ぇ、動かないとかないですか?」
「ちょっとぴりぴりしてる・・・。血は、前みたいな
感じ」
「すぐいきますわ」
「ありがとー。・・・怒ってる?」
「はい」
「ごめん」
「はい。じゃあ、脇の下ちゃんと押さえててください。」
「うん。あ、あとさ、ゴムも持ってきて?」

通話を切って救急箱を持って中村さんの家に
向かった。
カウンセリングもあんまり効果がないみたいで、
相変わらずこんな真似を繰り返している。
90緋口宗一:2007/04/27(金) 20:52:18 ID:74nAWJQm
すでに中村さんの右手はムカデみたいな
縫いあとだらけで(彼女は左利き)、
だいぶ前から血管に届くぐらい深く切るように
なっていた。

救急車を呼ぶといやだいやだと喚いて逃げて、
気絶され、退院したあと
「知らない人に触られたから」
と腕の皮を剥ぎだしたりしたので、
それからは僕が応急処置をするようにしている。
惚れた弱みだよなー、と、少し笑えた。
すごく悲しく笑えた。

自転車を深夜の中でとばして中村さんの
家についた。
相変わらず広い。そして寒い。
「中村さーん」
「はーい。」
二階の、自分の部屋にいるらしい。
と言っても、この家にはずいぶん前から
彼女しかいないのだけど。
両親が鬼籍に入った後も、そのまま自分の
部屋に住み続けている。
91名無しさん@ピンキー:2007/04/27(金) 20:58:54 ID:pRpasZ1e
しかしあれだね、書きながらじゃなくまとめて投下しよう?
ね? あと、書き込みするときはメール欄にsageと入れようね、これ基本のルールだよ
92名無しさん@ピンキー:2007/04/27(金) 21:10:30 ID:kxMrQjWP
>>91
>メール欄にsageと入れようね、これ基本のルールだよ

そんなルールねーよww
93名無しさん@ピンキー:2007/04/27(金) 21:18:11 ID:fL7oUDxI
しかし、荒らしよ
あちこちと荒らして作品を罵倒する割には
この程度の作品しか書けないとは

本当につまらないな・・

145 名前:名無したん(;´Д`)ハァハァ[sage] 投稿日:2007/04/26(木) 10:41:15 ID:z9GXvD8R
例の荒らしは、分が悪くなると「煽り」という単語を好んで使うからな。すぐに分かる。
語彙が少ないからSS書いても褒められなかったんじゃないの?


こいつの言う通りだね 語彙が少ないよ
94名無しさん@ピンキー:2007/04/27(金) 22:09:07 ID:pRpasZ1e
95緋口宗一:2007/04/27(金) 22:18:29 ID:74nAWJQm
すいません、完成してからまとめて
投稿します。
ルール読んでませんでした、
以後気を付けます。
96名無しさん@ピンキー:2007/04/27(金) 22:47:48 ID:EHmZSjkz
>>95
ガンガレ
正座してまってるよ
97名無しさん@ピンキー:2007/04/28(土) 01:01:16 ID:HKpxrRJf
ヤンデレがあれば百合展開でもここに投稿していいのかな?
98名無しさん@ピンキー:2007/04/28(土) 01:06:14 ID:P8pLkMlw
初期に百合ヤンデレを書いた人はいたよ。
既に保管庫でチェック入ってるが「終わるその時に」がそれ。
投下の前置きに百合であることを明示しておけば、苦手な人も避けられる。
99名無しさん@ピンキー:2007/04/28(土) 01:08:04 ID:MaUmRn+X
面白そうなので期待
100名無しさん@ピンキー:2007/04/28(土) 01:34:31 ID:T3frx2Ef
百合ヤンデレなら貧富の百合と希望してみる。
純真無垢な貧乏娘と、汚れを知ってる金持ちお嬢様
逆もいけるな、これ。
101名無しさん@ピンキー:2007/04/28(土) 01:58:54 ID:HWUaTON8
まあ、百合は百合スレでやれって人もいたし、そこら辺は注意。
102ことのはぐるま ◆Z.OmhTbrSo :2007/04/28(土) 10:51:01 ID:d5beOcdA
第十話、投下します
-----
第十話〜忘れていたこと〜

・ ・ ・

 頭がくらくらする。
 たった今眠りから覚めたけれど目を開ける気にならない。
 今の俺にとっては目を開けるだけでもかなりの重労働だ。
 頭の中を酸性の液体で溶かされてしまったようにぼろぼろになった気分。
 二日酔いと似ているが、吐き気を催さないだけまだマシではある。

 ぐるぐると思考がまわっている。落ち着かない。
 そもそも、何でこんな状態になっているんだ?
 俺はただ華と一緒にパーティへやってきて、十本松となんの得にもなりそうにないやりとりをして、
かなこさんに自室に誘われて、それから――

『……忘れた振りをなさっているならば……許しませぬ………』
『あぁぁぁぁぁぁぁぁっ!』
『わたくしのことを忘れるなど……許しては置けませぬ!』

 ――そうだった。
 激怒したかなこさんに襲われて、その後で何故か眠ってしまったんだ。
 あの時の彼女の様子は俺を食い殺さんばかりの勢いだった。
 無防備に眠ってしまった俺は格好の餌食だったはず。
 眠ったまま殺されていてもおかしくない。

 それなのに、何故俺は生きているんだ?

 もしかして既に死んでしまっていて、今いるところが死後の世界だとか?
 いや、それはないな。死後の世界なんてあるわけがない。
 心臓停止、もしくは脳死をおこせば人間はただの肉塊になるだけ。
 そうなったら、人生は終わりだ。
 コンティニューなんてものはありはしない。
 『その後、彼が再び立ち上がることはなかった……』みたいなテロップが表示されて、
エンドロールが流れておしまいだ。

 しかし、こうやって自分の意識を保っているということは、まだ死んではいないということだろう。
 死んでいないだけで、かろうじて生きているだけの状態かもしれないけど。
 
 ようやく思考も落ち着いてきた。
 まぶたを開けるくらいの余力もでてきた。

 ゆっくりまぶたを開く。そこには、間近で俺を見つめる女性が居た。
103無形 ◆UHh3YBA8aM :2007/04/28(土) 10:52:46 ID:mQwZBQ83
小人度し難し。
「屑な奴ってのは近づければ、つけあがり、遠ざければ、逆恨みする。手に負えねーよ」
と云う意味の孔子の言葉。
ところでヤンデレ娘。
近づければ、「愛してるのね!」
遠ざければ、「お仕置きしなきゃ」
・・・・・サイコーですね。

投下します。
104ことのはぐるま ◆Z.OmhTbrSo :2007/04/28(土) 10:53:19 ID:d5beOcdA

 かなこさんの顔が、目と鼻の先の位置にある。
 ため息を吐けばその微風を感じ取れる距離。そこに思わず目を奪われてしまう美しい顔がある。
 
 その顔はしきりに俺の顔の前で左右に、上下に動いていた。
 潤んだ瞳には歓喜が宿っているように見える。
 どうしてそんな瞳をしているのか、という俺の疑問は、自分の唇に触れる柔らかな感触と、
口内を這いずり回るやわい感触の何かと、ぴちゃぴちゃという水音を感じるうちに解けた。

「んん……んふ、……ふん…ちゅ……」

 かなこさんが俺にキスをしていた。
 それも唇に触れるようなものではなく、口内の液体を絡ませ、吸い取るような激しいものだった。
 時折かなこさんの髪が俺の顔に垂れてくると、彼女はそれをうっとおしそうにはらう。
 彼女は目を瞑ると、唇を強く押し付けて深く舌を挿入してきた。

 蜂蜜が垂れていくようなゆったりとした動きで、かなこさんの舌が動き回る。
 衝撃的な光景にとらわれていた俺は、その舌に応えることなどできなかった。
 自分の目の前で起こっていることが、とても信じられるものではなかったからだ。

 俺が呆然としている間にも口内は蹂躙され続け、かなこさんは俺の首を強く抱きしめた。
 抱きしめる力が強くなる。肢体を激しく動かしだした。
 その動きが激しさを増し、より強く唇を押し付けられた瞬間、目を開いた彼女と目が合った。

「んんっ……ん! んんんんんっっ!!!」

 繋がった唇から、緩やかな振動が伝わってきた。
 舌と唇を使い唇をこじ開けられると、口内に液体が入ってきた。
 仰向けに寝そべっていた俺は、喉にまで達したその液体を空気と一緒に飲み込んだ。

 荒い呼吸をつきながらかなこさんは上体を起こした。
 そのとき、俺は今度こそ自分の目を疑った。
 彼女のほっそりとした首から肩を通り腕へ伸びるラインを遮るものは一切なく、
さらけ出された肩の白さを邪魔する衣服さえ、目の前の女性は身に着けていなかった。

 そして、生まれたままの姿をしているのはかなこさんだけではなかった。
 腹筋の辺りに感じるぬめった感触と少しの重量感が肌を直接的に刺激している。
 さらに俺の四肢は縄で縛られていて、自由が利かないようにされている。
 俺はスーツを脱がされた状態でベッドに固定されていた。
105ことのはぐるま ◆Z.OmhTbrSo :2007/04/28(土) 10:57:19 ID:d5beOcdA
無形さん、先に投下してもいいですか?
106無形 ◆UHh3YBA8aM :2007/04/28(土) 11:00:13 ID:mQwZBQ83
すみません、かぶっちゃいましたね。
おさきにどうぞ
107ことのはぐるま ◆Z.OmhTbrSo :2007/04/28(土) 11:01:25 ID:d5beOcdA

「ようやく目が覚めたのですね。
 何度くちづけても反応がなかったものですから、不安になってしまいましたが、
 雄志さまと目が合った瞬間にはわたくし、いってしまいましたわ。
 キスでこれだけ刺激的ならば……雄志さまと繋がった瞬間にはわたくし、死んでしまうかもしれません」

 そう言うと、かなこさんは唇の周囲についた唾液を舐め取った。
 
「雄志さまの唾液を、たっぷりいただきました。
 これだけなめらかなものを口に含んだことなど初めてです。
 ほんとうに、どんなものにも勝る甘露ですわ。おいしゅう、ございました」

 かなこさんの小さな舌と唇がぴちゃり、という音を立てた。
 また顔が近づいてくる。頬に柔らかいものが触れた。
 頬にまで垂れ下がった唾液を舐め取ると、舌が首へ向かって移動する。
 喉仏を唇で包み込まれ、強く吸われる。たちまちぞくり、としたものが駆け抜ける。
 
「んちゅ…ああ、首の脈がびくびく、動いて……かわいい……」

 舌が首筋を舐め始めた。
 顎の舌から、鎖骨へ向かい、また折り返してくる。

「ああ、もう……こんなことって……んん、ふ……」

 かなこさんが口付けてきた。
 両手で俺の頭を掴み、髪を撫で回しながら舌で攻められる。
 息苦しさに首を軽く反らす。
「っ! 雄志さま!」
 大声をあげられて、首を正面に固定された。

「もはや、逃げることなどできませぬぞ……。
 このまま、わたくしと愛し合い続けるのです。明日になっても、日付が変わっても、ずっと、ずっとずっと。
 引き裂かれてから今までの分の肉欲を、わたくしにぶつけたいのでしょう?
 欲望を子種に宿して、わたくしの中にそそぎたいのでしょう?
 言われなくとも、わかります。先ほどから、雄志さまの肉体が疼いているのがつたわってくるのです」

 言われたとおり、俺の体は止めようもないほどに熱くなっていた。
 これほどの興奮を味わったことは一度もない。
 女性の方から犯されているという異常な状況だというのに。
 頭を冷やす材料が、ひとつもなくなっていた。
108ことのはぐるま ◆Z.OmhTbrSo :2007/04/28(土) 11:02:52 ID:d5beOcdA

「さあ、存分に……」

 小さな手が、肉棒を掴んだ。
 ひやりとした感触が熱におかされたものを包み込む。
 目を合わせながら手淫をされる。
 絶妙な愛撫だった。射精欲が高まっている状態で施されるそれはたやすく俺の理性を揺さぶる。
 数本の指の動きだけで、まるで俺の体を知り尽くしているかのように弱点ばかりをついてくる。

「うふふ。……やはり、ここを触られるのがお好きなのですね。
 もちろん、覚えておりますよ。雄志さまのお体のことは。
 そして、こうされるよりも――」

 かなこさんは手淫をやめると腰の上に座った。
 秘裂をぴたりと陰茎に合わせて体を揺する。

「わたくしの膣の中で果てることが一番お好きだということも」

 その言葉の後でかなこさんの腰が離れて、陰茎が開放された。
 真上を向いたペニスの先端に肉が触れた。
 
「あ、ああ、あ……ひろがって、る……」

 かなこさんの体が俺の肉棒を飲み込み始めた。
 まだ半ばまでしか達していないというのに、膣壁が強く張り付いているように感じる。
 そのときになって、本当の意味で自分が犯されている、ということがわかった。
 俺の感覚が全て肉棒に集中して、そこから全て吸い取られている。

「もう、すぐ…雄志さまがわたくしのものに、ぃ……あ、ぁはああああ……
 あ、あああ! イ……って、しまっ、……ふっ……ぁぁあああああああ!!!」

 彼女の膣が俺自身を全て飲み込んだ瞬間に締め付けられ、より強く絞り取られる。
 激しく痙攣する彼女の体は、耐えようとする力さえも奪い取ろうとする。
 理性を飲み込む快楽が俺の脳を支配したとき、肉棒から精液が飛び出した。

 腰がびくびくと動き欲望が吐き出される。
 脳から電流を断続的に流される。腰の動きが止まらない。
 快楽で呼吸するのを忘れ、息苦しさを感じるほどになってから、ようやく腰の痙攣が止まった。

「すご……、もぅ………どこにいる、か……。
 ……あ、あ、ぁぁ。 ゆ、しさまぁ……わたくしを、こわして………」

 彼女の言葉が耳に届くだけで下半身が力を取り戻した。
 それを待っていたかのように、かなこさんは腰を上下に動かしだした。
109ことのはぐるま ◆Z.OmhTbrSo :2007/04/28(土) 11:03:46 ID:d5beOcdA
・ ・ ・

 心臓が全力で血液を送り出している。
 腰の上にまたがり、剛直を飲み込んだまま離さず、締め付けてくる女性に応えるように。
 何度果てたか覚えていない。5回までは数えられたがそこから先は思考までも侵されてしまった。

「あああ! あ、はぁ、あ! はぁぁぁぁああああっ!」

 かなこさんが俺と体を重ねている、という信じられない光景は何度目をこらしても目の前にある。
 
「雄志さま。そろそろ思い出されましたか……?
 わたくしのことと、あの頃のことを……」

 情事の間を縫う問いかけは空虚なものしか俺にもたらさない。
 かなこさんの体以外のものが歪んで見えるのと同様、快感以外に閃くものが頭に無い。
 俺が忘れているらしい『なにか』を思い出す兆しなど、まったく見えてこない。
 
 俺が頭をベッドにつけたままにしていると、かなこさんはまたしても体を使い出す。
 唇を、胸を、へそを、ペニスを、肛門を、指の間を弄り、無理矢理に俺を勃たせる。
 そうして、再度を俺を飲み込み絞り取ろうとする。

 俺の体は動かなかった。
 筋肉が衰えて、機能が死んでしまったのではないかとさえ思える。
 情事の激しさが原因になったのではなく、気がついたときには既に体の自由がきかなかった。

「そうしてなすがままになっている姿は、本当にかわいいですわ。
 あれだけ凛々しい方が、こんなにあられもない姿になっているなんて」

 頬と頬を合わせて、胸と胸を合わせて体を摺り寄せる。
 隅々まで触り尽くされた体はその行動に対して拒否を示そうとはしない。
 むしろそうされることを待ち望んでいたかのように、下半身に血液を集めだす。

「まだ、わたくしが欲しいのですね。もちろん、そのようにいたします。
 わたくしの心と体は全て、あなたさまのもの。その代わり、あなたさまの全てもわたくしのものです。
 もっと、もっと雄志さまの子種を注いでくださいまし。
 そうすれば、必ず雄志さまとわたくしの二人の御子を授かりますわ。
 覚えておられますか? 子供は2人欲しいとおっしゃったことを。
 わたくしは、2人と言わず5人でも、10人でもよろしいのですよ。遠慮など、なさらなくともよいのです」

 肉棒を包み込まれて、締め付けられる。
 腰を打ち付けられる感触を肌に感じる。卑猥な水音が耳に届く。
 それが幾度も繰り返されるうちに、俺の意識は暗く沈んでいった。
110ことのはぐるま ◆Z.OmhTbrSo :2007/04/28(土) 11:05:18 ID:d5beOcdA


: 

 意識がつながったとき、俺は教室の中に居た。
 そこが教室だとわかったのは、中学時代に飽きるほど目にした光景そのままだったからだ。
 窓の外に見える茶色のグラウンドと、色とりどりの花が植えられた花壇。
 教室の壁の一部を成す濃い緑色をした黒板。
 習字の授業で書かされた、個性的な『努力』の文字たち。
 全てが俺の知る中学時代の教室だった。

 ただひとつ違うところは、目の前で床にうずくまる少女がいるところだった。

『ひっ……く、ひっく』
 その少女のセミロングの髪は微かな茶色に染まっている。
 中学時代に茶色の髪をしていた少女は思いつくかぎり一人しかいない。
『香織ちゃん、大丈夫?!』
 別の女の子がやってきて嗚咽を繰り返す少女の肩に手を置いた。
 泣いている女の子は、中学で初めてできた友人の天野香織だった。
 
 俺――夢の中の――は立ち尽くしたまま動こうとはしなかった。
 こうやって傍観者の立場になると自己分析ができる。

 自分が泣かせてしまった少女に対してかけるべき言葉を、当時の俺の頭ではひねりだすことができなかった。
 
 なぜ泣かせてしまったのか、今の俺には咄嗟に思い出せなかった。
 だが、香織の足元に転がる銀色の硬貨を見ているうちに、自責の念と共にその理由を深いところから掘り出せた。
 それと同時にこれだけ重要なことを忘れていた自分を殴りたい衝動に駆られた。

 俺が投げた硬貨が香織の顔に当たってしまった。それが香織が泣いている理由だ。
 なぜそんなことをしたのかはわからない。多分、何かのゲームをしていたのではないだろうか。
 熱中しているうちに周りが見えなくなり、俺が投げた硬貨が香織の顔に当たってしまった、
というのが事態のあらすじだろう。

 女の子の顔に怪我を負わせてしまったということ。
 中学時代の無知な俺では深く理解できなかったが、今ならわかる。
 
 俺は、香織の人生にヒビを入れてしまったのだ。
111ことのはぐるま ◆Z.OmhTbrSo :2007/04/28(土) 11:07:31 ID:d5beOcdA

 事件の翌日、香織は額にガーゼをつけて登校した。
 普段は笑顔を張り付かせている顔は、そのガーゼのせいで酷く痛々しく見えた。 
 休み時間、俺は香織と二人きりになって土下座して謝った。
 香織は「そこまでしなくていいよ」と言ってくれたが、俺は顔を上げなかった。
 そうしているうちに香織が泣き出した。

「やめてよ……そんなことしないで。
 雄志くんは悪くないって、運が悪かったんだってボクは思っているから……だから、頭を上げて」

 それでも俺は顔を上げなかった。いや、上げられなかった。
 取り返しのつかないことをしてしまった恐怖にかられ、情けなくも泣いていたからだ。
 そんなことをしているうちに、泣き止んだ香織が俺に向かってこう言った。

「わかった。じゃあ、こうしよう。
 本当に悪いと思っているんだったら、責任をとって。
 もしかしたらお嫁さんにいけないかもしれないからさ、だから…その、えっと……。
 そ、その先は言わなくてもわかるよね。じゃあ、そういうことで!」

 と言い残すと、香織はきびすを返してその場から立ち去った。

 取り残された俺――中学時代の――は香織の言葉を変な方向に解釈していた。
 『責任』の部分に強く反応し、香織に対してより申し訳ない気分になっていた。
 そのせいで、教室に戻ってから香織と距離をとるという行動をし始めた。
 
 今だから言えるが、中学時代の俺は馬鹿だ。それもどうしようもないほどの。
 さっきの言葉はいわゆるプロポーズだろう。
 それを変な方向に解釈して、距離をとろうとするとは。今すぐ修正を施してやりたい。
 まあ、数時間前の俺も馬鹿だけどな。こんな重大な出来事を忘れていたんだから。

 今度香織に会ったらあの時の話をさりげなく振ってみよう。
 いや、結婚の申し込みをするわけじゃないぞ。香織の方も忘れているかもしれないしな。
 もし覚えているんだとしたらどうしようかとも思うが……それはそのときに考えよう。

 
 しかしこの夢は長いな。一体いつまで続くんだ――?




112ことのはぐるま ◆Z.OmhTbrSo :2007/04/28(土) 11:10:08 ID:d5beOcdA
 突然に、唇の感覚が復活した。口の中に舌が入れられる。

 もしかして夢の続きか?事件のことを忘れていた罰として俺をどうにかしようというのだろうか。
 そうだとしたら、今まで事件のことを忘れていた謝罪を兼ねて、夢の中の香織に応えてやらねばなるまい。
 夢の中だけだぞ。現実で香織がキスを迫ってきたらやらないはずだ。多分。

 突き出された舌裏を舐める。すると、合わされている唇が強く押し付けられた。
 夢の中だというのにこの感触。いつもどおり不気味にリアルだ。
 口の中に唾液が入ってきていることまで感じられる。
 続けて頬の裏側、唇の裏、歯茎の裏へと舌を這わせる。
 俺の舌が舐める場所を変えるたびに唇だけでなく、体の上にある香織の体も動く。
 視界が闇に包まれていて相手が香織だとは断言できないが、多分そうなんだろう。

「あふっ……はっ、うぅぅん………ゆうしさま、だめぇ……」
 おい。こんなことしてるからって雄志様はないだろう。
 だいたい雄志様って呼ぶ人の枠は既にかなこさんで――――え?
「ああ……ああぁあ…んんんんんっ! ぷぁ………もう、こわれてしまいます……雄志、さ、ま……」
 目を開けたとき、そこにはかなこさんがいた。
 彼女は目を閉じ体を横に傾けると、体をベッドに投げ出して寝息を立て始めた。
 
 なんだ、香織じゃなかったのか。ちょっと残念――って、そうじゃない!
 かなこさんの体を確認する。
 彼女は生まれたままの姿で全身に汗を掻いていて、ところどころに白い液体を付着させている。
 それらから導き出される答えは、ひとつしかない。
(俺がかなこさんとセックスしていたのは、夢じゃなかったのか)
 セックスというよりは逆レイプだったが、体を重ねたことに違いは無い。
 そして俺が両手足の首を縛られて固定されているのも変わりない。

 かなこさんがこんなことをした理由など、倦怠感に包まれている今の脳みそでも思いつく。
 かなこさんは俺のことを好きだからこんなことをしたのだ。
 考えてみれば、出会った日に料亭に連れ込んだり、自室に呼んだりという行動は
好きでもない男に対してするものではない。逆レイプは恋人に対してすらやるようなものではないが。
 自分の馬鹿さ加減にあきれ果てて、壁に頭を打ち付けたくなってきた。
 気づいていれば何らかの対処ができたのに。
 
 もう一つ、疑問があった。なぜかなこさんは俺に惚れたのだ?
 俺は名のある家の生まれではないし、親戚に大富豪がいたりもしない。
 容姿の良し悪しを自分では判断できないが、少なくとも一目ぼれされるほどいいようには思わない。
 考えられそうな要素と言えば、かなこさんが探していた本の場所を俺が教えた、ということだけだ。
 
 俺の疑問に答えてくれそうな人は左で寝息を立てていた。
 陽だまりの中で昼寝をする猫のような安らかな表情を浮かべるかなこさんを見ていると、
彼女を起こすという行動をとることができなかった。
 体を包み込む倦怠感から眠気を覚えた覚えた俺は、見慣れた顔を思い浮かべた後で目を閉じた。
 その時に思い浮かべた香織の顔は、何故か不機嫌真っ盛りだった。

 この現状を打破するための方法を考えながら、再び俺の意識は闇の中へと沈んでいった。
------
今回は終わりです。では無形さん、どうぞ。
113無形 ◆UHh3YBA8aM :2007/04/28(土) 11:16:33 ID:mQwZBQ83
◆Z.OmhTbrSo さん、おつかれさまでした。
では、被って申し訳ありませんが、投下させて頂きます。
114ほトトギす ◆UHh3YBA8aM :2007/04/28(土) 11:18:52 ID:mQwZBQ83
鳴かぬなら 殺してしまおう ホトトギス

鳴かぬなら 鳴かせて見せよう ホトトギス

鳴かぬなら 鳴くまでまとう ホトトギス


有名な詩(うた)みたいです。

ちょっとした事件がありました。
学園生活にありがちな、恋愛感情のもつれと綻び。
あるいは歪な感情の発露による暴発と必滅。
外罰的な三角形が形成され、雲散霧消するまでの過程。
そして、終わりと始まり。

なんのことはない、少し異形だっただけの、日常。
その登場人物達――真面目に過ぎて滑稽な、道化達の物語。

三傑の評のうちの二つ。
即ち、第六天魔王と豊国大明神の寸評が、二人の女性に当てはまるのではないかと思いました。
尤も私の中では、


鳴かぬなら 死んでしまおう ホトトギス

鳴かぬなら 哭(な)かせてしまおう ホトトギス


こう評するほうが正しいのではないかとも考えましたが。
ともあれ、そんな話を聞いて貰おうと思います。

最後に自己紹介を。
私の名前は一ツ橋朝歌(ひとつばし ともか)。
茶番の傍にいた――唯の傍観者です。

――――――――――――――――――――――――――――――――――――

「イトコ?」
先輩は可愛い瞳をパチクリさせた。
昼休みの茶道部部室でのことである。
いつも通り先輩の作った美味しい弁当をご馳走になっていると、
「日ノ本(ひのもと)くん、晩御飯食べに来ない?」
親切な部長さんは、そう云ってくれたのだ。
僕の両親は家を不在にすることが多かった。そうなると自然、自炊をしなければいけない訳で。
ところが僕には家事の才能が微塵も無く、掃除をすればゴミをつくり、料理をすればゴミをつくる、
という有様でそれを見かねた先輩が昔から僕を助けてくれていたのだ。
織倉由良(おりくら ゆら)。
中学からの知り合いで、この茶道部の部長である。
僕も所属している茶道部は、厳しいことで有名だ。厳しい、と云っても、それは活動内容が、
ではない。
部長を務める織倉由良が、入部者のある一部の行動に対して、である。
銀河の暗黒を溶かしたような、幽邃な瞳。流動する黒水晶のような長髪。雪の肌。桜の唇。
清楚で、でも肉感的な肢体。育ちのよさを感じさせる立ち居振る舞い。朗らかな人柄。
教員からの信頼も厚く、文武の人でもある先輩は完璧な女性だ。
それ故、言い寄る男も多い。
先輩が厳しい、と云うのは、つまり自分目当てで入部するひとに対してだ。
元々茶道部は「まったり仲良く」を伝統としていた。
だから作法やら礼法やらは必要なく、部員はのんびりと雑談しているだけで良い。
それ故に場の空気を乱す人を、先輩は嫌った。
115ほトトギす ◆UHh3YBA8aM :2007/04/28(土) 11:20:20 ID:mQwZBQ83
だから、男の部員は僕だけだったりする。ほかは皆追い出された。
黒一点。
それが今の茶道部であるが、もとより先輩以外とはあまり喋ることが無いから気にならない。
唯一の例外は、小学校からの知り合いであり、後輩でもある一ツ橋朝歌だが、彼女はほぼ誰とも
喋らず、部室の隅で黙々と読書に励んでいる。
昼休みも。放課後も。勿論今も。
「図書館よりも、環境が良いですから」
それだけの理由で冬は暖かく夏は涼しい部室にいついている。
まあナンパ目的でなければ、本をよんでいようがプラモを組み立てていようが先輩は怒らないが。
先輩は優しい。
「来たい時だけ、来ればいいよ」
入学当時、そう云って僕をここに誘ってくれた。
中学のときから、先輩は僕に気を使ってくれる。入部のお誘いも、入学したてで知り合いの
少ない僕を気遣ってのことだろう。先輩は本当に面倒見が良いのだ。
だから、と云う訳でもないが、以来一年間。昼休みや放課後は部室で先輩と話し込む事が多かった。
先輩は僕と違って家事が得意だ。それで僕の両親が家を空けると、生活無能力者の後輩のために
ご飯を作ってくれる。
お昼の弁当も、時には晩御飯も。
流石に甘えすぎだ。
そう思いつつも、あまりに上手なご馳走の山に屈服してしまっている。
そして先日、またもや両親が家を空けたので、わざわざ先輩は気を使って僕を夕食の席に招待
してくれたのだった。
けれど。
「すいません、折角のお誘いなのに」
僕は頭を下げた。
今日はイトコが家に来る。だから先輩のお誘いを受けるわけにはいかなかった。
「あ、ううん、気にしないで。急に誘った私が悪いんだから。・・・でも、イトコかぁ・・・・・」
考え込むように天井を見上げる。寛容な先輩はとくに気分を害した様子は無い。
「ねえ、日ノ本くん」
先輩がこちらに瞳を向ける。
「もしかして今までも今日のようにブッキングしたことある?」
「ブッキング・・・・ですか?云われてみれば過去に何度か被ったことがありますかね」
「六回」
「はい?」
「日ノ本くんが、今までに私のお誘いを断った回数」
「・・・・よく・・・・憶えてますね」
「日付も云えるわよ?」
ニッコリと笑う。
流石に才女。記憶力が生半ではない。
「話を戻すけど、それって、やっぱり今回みたいな理由だった?」
「えーと・・・」
僕は手を拱く。
「云われてみれば、あいつが来る時だったような・・・・」
というよりも、他に先輩のお誘いを断るようなイベントは無い。
「ふぅん」
先輩は眼を細めた。
「そのイトコって、どんな人?」
「どんな?・・・・そうだなぁ・・“和風”・・・・・ですかねえ」
「わふー?」
「大和撫子の見本みたいな奴です。外国人が持ってる変な日本のイメージみたいな」
「そう。女の子、なんだ」
ぽつりと。
呟くように先輩はそう云った。
「どうかしました?」
質すると、先輩は何でもない、と笑顔をつくる。
「大和撫子って事は、その子ってお嬢様然としているの?」
「と、云うか、まんまお嬢様です。あいつん家、金持ちですから。母方交叉従妹なんで、
うちは中産階級ですけど」
まあ話し相手のこの人も十分セレブだけどね。
116ほトトギす ◆UHh3YBA8aM :2007/04/28(土) 11:21:49 ID:mQwZBQ83
「年齢は?」
「いっこした。今高1です。先輩、光陰館(こういんかん)って知ってます?」
「知ってるも何も、超名門私立校じゃない。ううん、本物かあ・・・」
唸っから、僕を見る。
「その娘、よく遊びにくるの?」
「月1〜2回ですからね、そこそことも少ないとも云えますが」
「・・・多すぎる」
「え?」
「ううん・・・。何でもない」
先輩は再び首を振った。
「それで、一番大事なことなんだけど」
大きな瞳が鋭く縮む。
「その娘、可愛い?」

――――――――――――――――――――――――――――――――――――

「にいさま、おかえりなさいませ」
家に着くなり、着物姿の美少女が三つ指ついて深々とお辞儀した。
「ああ、綾緒(あやお)。来てたんだ」
「はい。一時間ほど前に。失礼とは思いましたが、勝手に上がらせて戴きました」
「構わないよー。入っちゃ駄目ならそもそも鍵なんて渡してないし」
玄関から廊下にあがる。
綾緒は僕の靴を揃えると、「お持ち致します」と鞄を取り、しずしずと半歩後を後をついて来る。
この生ける市松人形が、従妹の楢柴(ならしば)綾緒である。
血の繋がりを感じさせないくらいパーツパーツの高級感が違う。
白子と間違うくらいに肌が真っ白で、唇は血のように赤い。
そのためかスッピンでも化粧をしている様に見えるのだ。
すこぶるつきの美少女で、これだけの造形美は、織倉先輩くらいしかお目にかかったことがない。
「御召替えなさいますよね?お手伝いしてもよろしいですか?」
綾緒はこうして僕の世話を焼きたがる。
「いや・・・それはちょっと」
「そう・・・・ですか・・・・残念です」
従妹は本当にひどく残念そうな――泣きそうな顔をする。
叶えてやりたくもあるが、着替えまでは躊躇われる。
「ここでいいよ」
部屋の前で綾緒に云う。
「あのぅ・・・本当にお手伝いは要りませんか?」
「うん」
「あう・・・」
しょんぼりとする綾緒から鞄を受け取り、部屋へ入る。
―――と。
「おい、綾緒」
「お手伝いですか?にいさま」
扉越しにウキウキとした声がかえってくる。
「そうじゃなくて、お前、僕の部屋に入ったな」
「あ、はい。失礼とは思いましたが、簡単にお掃除させて戴きました」
無頓着な僕でも気づくほどに室内はサッパリしていた。家具の配置も微妙に変わっており、
壁には不気味な能面が備え付けられていた。かわりに投げっぱなしだった雑誌の山がなくなっている。
ん?雑誌?
「まさか!?」
僕は慌ててベッドの下を見る。
「あー!無いっ!!」
「にいさま?どうかなさいましたか?」
扉越しの従妹の声。
「あ、綾緒!」
扉を開ける。
「お前、アレはどうした!?ベッドの下にあった、僕の宝物は!?」
「―――ああ、あの不埒な雑誌ですか」
ゾクッと。
背筋が震えた。
117ほトトギす ◆UHh3YBA8aM :2007/04/28(土) 11:23:23 ID:mQwZBQ83
目の前には笑顔の綾緒。けれど何か違和感。
この従妹はときどきこうして、纏う空気を変質させることがある。
「にいさま」
「な、なんだ?」
変貌した綾緒に、僕は気圧される。
「綾緒のにいさまは、あのような不浄のものに拘ってはいけません。そうですよね?」
「いや・・・でも」
「でも?」
たおやかな笑顔。
そして表情と相反する気配。
僕は「なんでもない」と答えるので精一杯だった。
「いいですか、にいさま。にいさまはあのような下賎者に発情してはいけません。
綾緒も殿方の『仕組み』が分からないではないですから、劣情そのものを否定はしません。
ですが、にいさまは綾緒と血の繋がった方です。情を向けるにしても、相手を選んで
戴きたいのです。下種下劣な下々の者に心動かされてはいけません。にいさまにはにいさまに
相応しい者がいるのですから」
わかりますね?と念を押される。意味が分からないが頷くしか出来ない。
「よくできました。それでこそ“綾緒の”にいさまです」
踵を上げて従兄の頭を撫でる。
「では、綾緒は夕餉の準備を致します。御召替えが終わりましたら、来てくださいな」
深々と頭を垂れ、しずしずと去って行く。
「・・・・・あいつ・・・年々強くなってくなぁ・・・・」
ため息を一つ。
昔はもっと儚い感じだった。否、今もそれは変わらない。
控えめで、大人しく、穏やかだ。
ただし、根の部分は誇り高く、他人を立てても下風に立つことも無い。
僕には特に丁寧に対応してくれるが、それでも時折、ああして主導権を握られる。
綾緒はどうも男女の『そういうの』に潔癖な部分があって、親戚の集まりでも僕が他の女の子と
話すことを許さなかった。
「毎日先輩に昼ご飯食わせてもらってて、たまには夜もご馳走になる、とかは云えんわなぁ」
云う度胸もないし、メリットもない。
どうせ僕は腰抜けだ。

キッチンでは綾緒が夜支度をはじめていた。
和装の上に白い前掛けをつけた姿は、和風のメイドさんのようだ。
元々尽くすことが好きな綾緒には、違和感は無いのだろう。
加えて、女の嗜みとして家事全般を習得しているのだから、能力的にも申し分ない。
ちなみに彼女は武芸百般、外崎(とのさき)流居合いと新衛(しんえい)流柔術の印可持ちである。
だから、男の僕が腕っ節でも手も足も出ない。
趣味は“面”を集めることで、彼女の家はもちろん、この家の至る所にも喜怒哀楽あるいは化生・畜生
を模った(不気味な)面が飾られている。今日僕の部屋に備え付けられたものもそのひとつである。
本人が気に入っているようなので、外す事は無い。触る気にもならないので、掃除は時たま
やってくる綾緒本人がやっている。
彼女はこうして月1・2回僕の世話を焼きに来る。
形の上では「遊びに来ている」はずなのだが、実際は僕が凭れ掛かっているだけだ。
「本当は毎日にいさまのお世話をしたいのですけれど・・・・」
それが綾緒の口癖だった。
椅子に座り、従妹の少女に目を転じる。てきぱきと手際良く晩飯を作り上げていく。
「もう暫くで出来ますから、にいさまは寛いでいて下さいな」
従妹の機嫌は良さそうだ。
「綾緒はさぁ」
「はい。なんでございましょう」
とんとんとん。テンポ良く刻む。
その姿は堂に入っており、良妻賢母の感がある。
「良いお嫁さんになると思うんだよな」
思ったことを口にする。
カシャン。
あ、包丁落ちた。
「に、にいさま・・・それは、綾緒を・・・」
118ほトトギす ◆UHh3YBA8aM :2007/04/28(土) 11:24:28 ID:mQwZBQ83
RURURURURU・・・・・・。
遮るように、ベルが鳴く。
「電話だ。出てくる」
「それでしたら、綾緒が・・・」
「いいからいいから。綾緒は飯つくってて」
片手をひらひらと振って、廊下に出る。子機は居間にもあるが、キッチンが隣だ。綾緒の調理の
邪魔はしたくない。それで電話機本体のある廊下へ移動した。
「はい、日ノ本ですけど」
余所行きの声で受話器に語る。
「あ、日ノ本くん?」
そこからは聞き覚えのある澄んだ声が聞こえてきた。
「あれ?先輩」
「あ、私の声、わかるんだ。嬉しいな」
やはり声の主は織倉由良先輩だった。
「どうしたんですか、家の電話にかけてくるなんて」
「ケータイにかけたら出なかったのはだれかな?」
「あ〜、すいません。部屋に置きっぱなしでした」
見えない相手に頭をさげる。
「で、どうかしましたか?」
「あ・・・うん。もうご飯は食べたのかなって」
「まだ夕方ですしね。鋭意製作中」
「昼間話してた従妹の娘?」
「です」
耳を澄ます。
ここまで届くはずの調理の音は、何故か聞こえない。
「う〜ん。そっかぁ。もしつくってなかったら、御馳走しようかなって思ったんだけど・・・」
「いやいや、そこまで気を使ってもらうわけにはいかないですよ」
「そう?別に気にしなくていいのに。いつも食べてるんだから。――そうだ、じゃあ日ノ本くん」
「はい」
「明日のお弁当は何が食べたい?」
「昼飯・・・ですか?」
「うん。今スーパーにいるんだ。だからリクエストがあれば、お姉さんに云って欲しいな」
「いや、先輩のご飯美味しいですから、何でも有難く戴きますよ」
「も〜。何でも良いが一番困るのに」
そう云いつつも、どこか声が弾んでいる。
そういや綾緒はもう作り終わったんだろうか。
キッチンから音がしないので、なんとなく振り返る。
――と。
「うわっ!!!!」
「ど、どうしたの、日ノ本くん!?」
「あ、な、何でも、ないです。ちょっと驚いただけですから」
目の前には綾緒。
いつの間に背後に立っていたのか。
口元だけ薄く笑って、僕を凝視している。

に、い、さ、ま

綾緒の赤い紅い唇が、音もなく動く。

『お断りして下さい』

従妹の可憐な唇がそう模った。
(いや、でも折角の厚意だし)
受話器を押さえ、小声で云う。
綾緒は表情を崩さない。
微笑したままゆっくりと首を振る。
(いや、でも・・・)
「・・・・・」
119ほトトギす ◆UHh3YBA8aM :2007/04/28(土) 11:26:17 ID:mQwZBQ83
笑みが、消えた。
表情(かお)のない従妹。
それだけなのに。
否。『そうなった』からこそ――僕の背筋は凍りついた。
僕は慌てて受話器をあてる。
「日ノ本くん?大丈夫?何があったの?」
「い、いえ、ちょっとコケただけです。それより先輩」
「ん?なぁに?リクエストはきまった?」
「あ、明日の弁当は、遠慮しときます・・・!」
「――え?」
信じられない、といった感じの先輩の声。
それはそうだろう、急に掌を返されたようなものだから。
「ど、どうしたの、突然」
「そんな世話になっちゃ悪いです・・・から・・・」
意識の大半は無表情な従妹にある。声が震えただろうか。
「そんな事今更気にしなくてもいいのよ?私が作るついでなんだから、一人分も二人、」
「とにかく、すいません」
遮って受話器を置いた。
「あ、綾緒・・・・?」
様子を伺う。
「お断りしたのですね?」
「あ、ああ・・・・」
「そうですか。それはようございました」
そう云って微笑。目元は凍てついたままに。
「ではにいさま、今の女性(にょしょう)について、綾緒に説明して下さいな」
従妹は穏やかな声でそう云った。

居間。
椅子に座らず、正座したまま、僕と綾緒は向かい合っていた。
先ほどの電話の内容は背後にいたためある程度聞こえていたようで、声の主――織倉由良
と僕の関係について説明させられた。
「なるほど。部活動の先輩ですか」
「あ、ああ、そうなんだよ。僕が家事無能力者なのはお前も知っているだろう?
それで先輩は気を使ってくれてるんだよ」
前に一週間で二キロも痩せたことがあってさ、そう説明する。
「にいさま」
じぃっと、僕を見つめる。
「楢柴の血縁ともあろうお方が他所様の御厚意に縋り付くようなことはしないで下さい。
ひとつにはにいさま自体の品格を損ない、二つには相手方に迷惑となります。
今後一切、その『織倉様』には甘えぬようにしてくださいませ」
「ま、待ってくれ」
「なにか?」
「その、確かに先輩に負担させちゃってるのは申し訳ないと思うけど、
こういうのもコミュニケーションのひとつだと思うんだ。だから・・・」
――あ。
僕は言葉を止める。
綾緒から再び表情が消えていたのだ。
「にいさま」
冷水のような声が響く。
「にいさまは綾緒の云うことが聞けませんか」
「あ、いや・・・」
「にいさまは、綾緒の云うことに逆らうのですね?」
綾緒の纏う気配が変わる。
この時の――
この時の綾緒に手向かってはいけない。
僕はそれを知っている。
だから慌てて首を振った
「そんなことない、そんなことないさ。ちゃんと、綾緒の云う通りにする、よ」
120ほトトギす ◆UHh3YBA8aM :2007/04/28(土) 11:28:47 ID:mQwZBQ83
「ほんとう、ですか?」
「ああ、もちろんだ。やっぱり迷惑かけちゃいけないよ、な・・・」
「そう・・・・。わかって頂けましたか」
先ほどの気配が消えて、従妹はにっこりと微笑む。
「それで良いのです。それでこそ“綾緒の”にいさまです」
立ち上がり、僕の頭を撫でる。
「良いですか、にいさま。親交を持つ事自体は構いません。ですが親しき仲にも礼儀ありです。
他者様に凭れてはいけません。それが特に女性と云うならばなおさらです。
今後は一線引いてその織倉様とお付き合いして下さいませ。宜しいですね?」
「あ、ああ。わかったよ」
「では、綾緒との約束ですよ。その方に甘えず、誤解させてはいけませんので二人きりで
あうことも禁じます」
「誤解?誤解ってなんだ?」
質すると、僕を撫でる手が止まる。
「あや、お?」
「わかりませんか?ならばそれでも宜しゅうございます。
にいさまはただ――綾緒の云う通りにしていれば良いのです」
従妹は小指をだした。
僕は逆らえず、自分の指を絡める。

ゆびきりげんまん うそついたらはりせんぼん のます

綺麗な歌声が居間に響く。
げんまんとは拳骨を万回浴びせると云うこと。
違反者はとことんまで殴りつけられ、針を呑まされる。
つまり指きりとは、破ったら“殺す”と云う宣言なのだと、昔綾緒に聞かされたことがある。
僕の背筋がぶるりと震えた。
「明日先輩になんて云おう・・・・・」
微笑む少女を見ながら、心でそう呟いた。




投下ここまでです。
◆Z.OmhTbrSo さん、かぶちゃって、ほんとすみませんでした
121名無しさん@ピンキー:2007/04/28(土) 11:31:53 ID:Kyvl3Yyc
>>113

こ れ は い い 従 姉 妹 で す ね
122名無しさん@ピンキー:2007/04/28(土) 12:01:59 ID:RizCuBjP
なんという投下ラッシュ…
伸びてるレス数を見てわかってしまった
次回も間違いなくwktk

   / ̄\
  | ^o^ |  
   \_/
123名無しさん@ピンキー:2007/04/28(土) 13:27:31 ID:MQGtUOos
久々の投下ラッシュキタ━━(゚∀゚)━━ヨ!!
wktkが止まらない!続き待ってる!
124名無しさん@ピンキー:2007/04/28(土) 13:54:26 ID:TZYHGcjC
連続投下キタ━━━━━(゚∀゚)━━━━━!!!!

>>112これはいい逆レイプ
かなこさんエロいよかなこさん(*´Д`)ハァハァ
しかし雄志はとことん鈍いんだなあw

>>120期待の新作ktkr!
主人公に付き従っているようで
精神的には逆に支配している綾緒が怖可愛いすぎます((((;゚∀゚))))ガクブルハァハァ
125名無しさん@ピンキー:2007/04/28(土) 14:08:36 ID:8ktmJXc0
ラッシュktkr
>>112
かなこ派の俺にはGJすぐるwwwwwww
126名無しさん@ピンキー:2007/04/28(土) 16:56:39 ID:9l2rn1S0
従姉妹が怖くて大人しく従う主人公がヘタレすぎて最高w
127名無しさん@ピンキー:2007/04/28(土) 19:19:39 ID:VgvFSGjL
>私の名前は一ツ橋朝歌(ひとつばし ともか)。
>茶番の傍にいた――唯の傍観者です。

とてつもなく泥棒猫の匂いがするんだが・・・(もちろん良い意味で)
128名無しさん@ピンキー:2007/04/28(土) 21:20:45 ID:w02QeYYF
投下ラッシュキタワァ.*・゜゚・*:.。..。.:*・゜(n‘∀‘)η゚・*:.。. .。.:*・゜゚・*!!!!!☆
かなこエロすぎそして従妹かわいすぎどちらもGJ!
でも言葉の端々で独占欲剥き出しの先輩の逆襲に期待wktk!
129名無しさん@ピンキー:2007/04/28(土) 22:43:25 ID:neOGUZgY
ヌォォォォォことのはもほトトギすもGJ!wktkが止まらないぜ!
130名無しさん@ピンキー:2007/04/29(日) 00:58:27 ID:Q+fm/rJ9
GJ!実は籠の中も楽しみにしてる…
131名無しさん@ピンキー:2007/04/29(日) 03:21:34 ID:Wg/OSgBR
二人とも神GJェ!

ついにかなことやっちゃったぁ。この後の展開が死ぬほど気になる。

キモ従姉妹かぁ・・・・。ツボついてくるなぁ。かなりの期待作
132名無しさん@ピンキー:2007/04/29(日) 07:30:52 ID:7S6YU+Zf
キモ従姉妹は人類の英知の結晶です
133名無しさん@ピンキー:2007/04/29(日) 14:47:38 ID:MWj5uOeg
どまー
134名無しさん@ピンキー:2007/04/29(日) 22:13:43 ID:7S6YU+Zf
能力者かなんかの家系で血を濃くするために近親婚を繰り返す一族。
主人公の(内縁の)妻の座を狙って、キモ姉が、キモ従姉妹が、キモ母が織り成す
ハートフル・ラブ・ヤンデレコメディ。
そして迫り来るは主人公との血縁は他の女よりは薄いもの、能力が高いために
争奪戦に参加が許可されたキモ馴染み(キモはとこ)の彼女。

今、彼女たちの戦いのゴングが鳴り響く!




まで考えて力尽きた。あとは誰か頼みます。
キモ姉は人類の至宝です。キモ従姉妹は人類の英知の結晶です。
キモ母は人類の至高の愛です。キモ馴染みは人類の最終兵器です。
キモはとこは人類の飽くなき探究心です。

なお、キモ妹は不可。
135名無しさん@ピンキー:2007/04/29(日) 22:24:06 ID:Vqjtm+cA
丸投げの癖してキモウト禁止はやだーとか何様ですかダボが
あんまりムカつくんであえてキモウトをメインにそれを書いてみたくなりました
136名無しさん@ピンキー:2007/04/29(日) 22:25:29 ID:Vqjtm+cA
>>135
「キモウト禁止はやだー」

「キモウトは禁止、やだー」

><;;;
137名無しさん@ピンキー:2007/04/29(日) 22:26:55 ID:7S6YU+Zf
>>135
是非お願いします。
キモ妹?好きですがなにか?



キモ妹は人類の…しまった考えてなかったw
138名無しさん@ピンキー:2007/04/29(日) 22:46:40 ID:UzZcM/hh
キモ妹は人類の大いなる慈悲です
139名無しさん@ピンキー:2007/04/29(日) 23:00:02 ID:C8Zwyxk/
「キモ妹とな?」
「スレを隔てたキモ姉&キモウト小説を書こうスレッドの……」
140名無しさん@ピンキー:2007/04/29(日) 23:00:49 ID:cTpZLRRE
>>134
漏れには書けないが、
日日日(ラノベ作家)とかっぽい、
辞書引いても絶対載ってない名前とか能力名(効果?)だけなら出せる。

それだけの愛があるなら書かないか?
あと、

キモウトはオレたちの原点(子宮)
141名無しさん@ピンキー:2007/04/29(日) 23:08:17 ID:fegsHe/M
キモ伯母(叔母)は我等の太陽



叔母といえばラブ○なのはるかさんを脳内でヤンデレ化させたことがある
あれは・・・いいものだ
142 ◆WBRXcNtpf. :2007/04/29(日) 23:12:56 ID:TJc4mKAj
ひゃっほー
今日も酔ってる
しかも現在仕事中
だが前回尻切れトンボだったから9章仕上げた。

投下
143名無しさん@ピンキー:2007/04/29(日) 23:13:33 ID:TJc4mKAj
いくら耳をふさいでも嬌声は止まなかった。
『ヤメテ!!!!』
と何度願ってもオゾマシイその音は止まなかった。

徐々にその音が真奈美の四肢の感覚を奪っていく。
そのことに気がついたとき真奈美の意識は途切れた。

_____________________________

掛け時計からオルゴールの音が聞こえる。
その音を聞いているうちに真奈美は自分がリビングにいることに気づいた。
おかしい。自分は夕食の準備のためにキッチンにいたはずなのに。
しかもあれから2時間も経っている。

未だぼんやりとした脳でそんなことを考えていると
隣家から女のコエが聞こえてきた。

そのコエで何が起こったのかすべてを思い出す。
だがその口からは先ほどまでの慟哭と違い静かな笑声と呟きが紡ぎだされる。

「ハハハ・・・そっか・・・2年も離れてたからいろいろ溜まってたんだ。そうだよね。男の人だもんしょうが無いよね。」
まるで、そこに夫がいるような口調で真奈美の独白は続いた。
「それに2年ぶりだからさっき会ったときも照れちゃってたんだ。うん、大丈夫。ちゃんとわかってるよ。
でも、いくら会えなくても動物相手に溜まったモノを吐き出すのはちょっと私嫌だな。」

「あ!だけど、それくらいで誠一さんのこと嫌いになったりなんかしないよ。
ううん、帰ってきたときすぐにしてあげられなかった私が悪いんだよネ。」

「安心してすぐに私があなたの溜まった物をだしてあげるネ。もうそんな動物相手にしなくてすむんだよ。」

「ずっと、ずっと繋がっていようね。もう2年も待ったんだよ。これからは朝も夜もずっと繋がっていようね。」

真奈美の目には誠一と自分が睦みあっている姿しか見えていない。
だが、それが自分の妄想だということを真奈美は理解できていなかった。

第9章終
144夫が隣に住んでいます ◆WBRXcNtpf. :2007/04/29(日) 23:15:55 ID:TJc4mKAj
我が心のアミーゴ達!また酉と題名付け忘れちまったよ。

orz
145名無しさん@ピンキー:2007/04/29(日) 23:46:51 ID:RskiJp8g
>>144
つまんない
146名無しさん@ピンキー:2007/04/29(日) 23:54:07 ID:NgvmZ4dR
>>144このうっかり屋さんめ( ´∀`)σ)∀`)

真奈美さんがいい感じに病んできたようでこれは続きがwktk!
147名無しさん@ピンキー:2007/04/30(月) 01:19:12 ID:qbgKt6B3
短すぎ。本当に酔った勢いだな。
投下しようという心意気はスゲーありがたいが、中途半端にされるよりは遅くなってもある程度体裁とかまとまってる方がいい。
148名無しさん@ピンキー:2007/04/30(月) 01:40:00 ID:JbQtwbLU
>>144超GJ!・・・なんだけどさぁ、いかんせん量がねぇ・・・もう少しまとめて投下してくれるとネ申なんだけど
149名無しさん@ピンキー:2007/04/30(月) 04:05:54 ID:YJRATSRv
>>144
GJ!
最後のあれは襲おうと計画を立ててるんじゃなくて妄想に浸ってるでFA?

しかしこのまま勘違いが続くと、真紀が真奈美さんの勘違いを防ぐため、
健一の顔を焼いて喉を潰す展開もありそうだ。
150 ◆8qoZSp/Vok :2007/04/30(月) 07:17:03 ID:ryOK51sf
もう荒らしがウザイので投下しないわ
また気が向いたら再開する
151 ◆8qoZSp/Vok :2007/04/30(月) 07:18:25 ID:ryOK51sf
誤爆orz
スル(ry
152名無しさん@ピンキー:2007/04/30(月) 08:53:03 ID:mlKqdfsj
ちょwww酔いすぎwww
まぁそういわずに投下して下さいよ。いつでも待ってますよ。
153名無しさん@ピンキー:2007/04/30(月) 11:52:21 ID:pDbxSYOG
agwwwww
154名無しさん@ピンキー:2007/04/30(月) 12:07:31 ID:wSQe6mkD
お茶会
ヤンデレ喫茶
上書き
言葉狂魔(ことのはぐるま)

の続きに期待
155名無しさん@ピンキー:2007/04/30(月) 12:08:07 ID:qbgKt6B3
うわあ……('A`)
156名無しさん@ピンキー:2007/04/30(月) 12:12:49 ID:uKpykXzw
酔っ払いってある意味ヤンデレだなあ
157名無しさん@ピンキー:2007/04/30(月) 12:22:41 ID:nfuYLXxm
つまらないSSだな。
158名無しさん@ピンキー:2007/04/30(月) 12:46:50 ID:K+ojM0gH
今度はこっち来たのかよwww

とりあえず、ヤンデレ喫茶の続編が読みたいw
159名無しさん@ピンキー:2007/04/30(月) 14:07:06 ID:XyPGalgv
>>120
お面の裏にはもちろん盗聴器が仕掛けてあるんだよね
160名無しさん@ピンキー:2007/04/30(月) 14:15:03 ID:uKpykXzw
>>159孔明あらわる
161名無しさん@ピンキー:2007/04/30(月) 17:39:05 ID:t3TbvX/p
ヤンデレの病みを上手いこと利用して邪魔な奴とか敵対してる奴を消して来た男
次第にヤンデレをコントロールすることが困難になりいつの間にかヤンデレに操られ始める


みたいな
162名無しさん@ピンキー:2007/04/30(月) 17:49:22 ID:qp9l6REf
>>161
似たような(?)パターンで
地味に寡黙に主人に仕えて来た女性秘書が
ある日主人の秘密を知り、それを盾に結婚をせまる……
というのを昔刑事コロンボで見て萌えた
163名無しさん@ピンキー:2007/04/30(月) 18:10:23 ID:5tWw4ib2
別れのワインか。

あれはよいものだ。
164名無しさん@ピンキー:2007/04/30(月) 18:13:40 ID:qp9l6REf
>>163
(・∀・)人(・∀・)ナカーマ
こんなに早く知ってる人が出てくるとは思わなかったw
165名無しさん@ピンキー:2007/05/01(火) 00:10:58 ID:mO+hg7Eq
4スレが今も残っている件について
166名無しさん@ピンキー:2007/05/01(火) 00:15:56 ID:RoBX6GTC
part4は2月25日に往生なされましたよ。
最期まで名無しくんを話さなかったと聞いています。バレンタインを迎えられて、幸せだったでしょう。
167名無しさん@ピンキー:2007/05/01(火) 01:57:24 ID:j0Xwt7sQ
その後>>166の姿を見たものはいない
168名無しさん@ピンキー:2007/05/01(火) 21:34:52 ID:TbkOLqhD
おにゃのこがラフファイトしてるのとか。

「ま、参りましたから、謝りますから、
ゆ、許し・・・」
べきいっ、と、かかとで手のひらを踏みつけて
骨とか腱を壊した。
「聞こえなーい聞こえなーいモノゆうときわ
相手の目ぇ見てはきはきはっきり言おうねえ
なんて言ったんいま?」
はひゅ、はひゅと激痛と絶望に満たされながら
トキコ(手ふんづけてるひと)にすがるような目を
向けた。
「−−−もうっ、逆らいませんッ、なんでも、しますから
許っ」
がぼん、とトキコの靴が沙桐(ふんづけられてるひと)の
口に叩き込まれた。
「うるさいよー大声ださんでも聞こえるよーあたし若いしー」

みたいなん。
あと錠剤ぼりぼり食べるシーンとかが好き。
169名無しさん@ピンキー:2007/05/01(火) 21:42:07 ID:TbkOLqhD
ミザリーって既出かしらん。キングの。
ファンに監禁されるてしちゅはなかなかのアイデアと思いますが。

戯言シリーズもヤンデレ率高いなあ。
絵本さんとか絵本さんとか絵本さんとか。青いのとか。
170名無しさん@ピンキー:2007/05/01(火) 21:48:32 ID:ckdthnns
>>169
戯言ヒロインは大部分が病んでるような…
171名無しさん@ピンキー:2007/05/01(火) 22:32:03 ID:mbseWvph
病んでてもデレてないのが大部分。
172名無しさん@ピンキー:2007/05/02(水) 00:35:29 ID:diV3gruv
病院坂は俺のもの
173名無しさん@ピンキー:2007/05/02(水) 01:51:10 ID:mlYGw0wA
夜月はすごくいいキモウトだと思う
174名無しさん@ピンキー:2007/05/02(水) 01:54:57 ID:D2eZKZC0
>>172
あんな誰とでも寝るビッチより夜月だろ、常識的に考えて・・・
175名無しさん@ピンキー:2007/05/02(水) 04:54:22 ID:XdSsBxnl
いない君といる誰かは続きないのかな
176名無しさん@ピンキー:2007/05/02(水) 18:05:40 ID:z2WhYwwJ
まだ続きはあるだろう。いつ再開されるかわからんが。
書き手の人たちはリアルで忙しかったりするんだろうな。

177名無しさん@ピンキー:2007/05/02(水) 22:04:26 ID:AIfJWyGa
>>168
サンデーGXでそういった感じの格闘少女漫画があったような気がする
178伊南屋 ◆WsILX6i4pM :2007/05/03(木) 00:18:04 ID:shH6gAhL
いない君〜は自分も待ってる。
つうわけでヤマネ
http://p.pita.st/?wcvso3em
179名無しさん@ピンキー:2007/05/03(木) 02:20:05 ID:iMDTrJQs
>>178
伊南屋さん、何か獣の匂いがするんだけど・・・気のせいだよね?アハ
180名無しさん@ピンキー:2007/05/03(木) 05:15:37 ID:A13rkAyY
伊南屋さんGJ。
久しぶりにいない君〜分が補給出来たwww
181名無しさん@ピンキー:2007/05/03(木) 12:32:18 ID:2qB57uPa
伊南屋氏お久&GJ
いない君〜もそうだけどいいところで中断している作品が多い
どれも再開をいつまでも待ってるぜ
182名無しさん@ピンキー:2007/05/03(木) 21:54:38 ID:IWzlZQOz
「お姉ちゃん♪一緒に学校行こう」

朝の通学路。
私はいつもの可愛らしい命の声に笑顔を返した。幼なじみの命が私の腕に抱きついてくる。高校生にしては小さい背とアンバランスに発育した胸…私よりでかいな…
命の胸は私の腕を挟み柔らかな感触を与えてくる

「命〜。恥ずかしいんだけど…」
「なんで〜?変なゆかりお姉ちゃん♪」

私達は寮から女子校に通っている。一年前、命が入学して来た時は嬉しかったな。けど…

「それともお姉ちゃん…命がうっとおしくなった?」
私が軽い追憶に浸っていたら、気付かない内に命のテンションが『ヤバイ』方向に…

「命ってウザイ?命の事嫌い?」
「な、何言ってるのよ!私は命が一番好きだよ」

私の言葉を聴くと顔を輝かせ命が喜ぶ

「エヘッ、私も世界で一番お姉ちゃんが好き!」

私は気付かれない様に溜め息をつく…
いつから命は『悪魔』に変わってしまったのか…

私の陰鬱な学園生活が今日も始まった…

「おはよう〜。ゆい」
「おはようございます。ゆかり王子様♪」

私は教室に着くと親友のゆいに挨拶をした。ゆいは冗談で返しながら私に笑いかける。
183名無しさん@ピンキー:2007/05/03(木) 22:41:05 ID:eSH92a+y
レズなら注意表記しとけよな。
184名無しさん@ピンキー:2007/05/03(木) 23:13:02 ID:oPfrUpr5
>>182
「命」って何て読むのかな……?
何にせよGJ!

>「命ってウザイ?命の事嫌い?」

こういう台詞見てると心から癒される。
後、>>183も言ってるが一応百合ものなら次回からは注意表記書いとくべきかと。

ところで百合ものといえば、「しまっちゃうメイドさん」が楽しみで仕方がない。
とりあえず否命は俺の嫁ってことでいいな?
185名無しさん@ピンキー:2007/05/03(木) 23:24:46 ID:31wySTw0
>>184
「みこと」とか「めい」じゃないか?
個人的には「いのち」でも面白いと思うけど。あとは野郎みたいな読みしかないし。
186名無しさん@ピンキー:2007/05/04(金) 00:01:22 ID:IWzlZQOz
「我が学園のプリンス…ゆかり王子様…あぁ…いつもながらカッコイイ」

芝居掛った声色でゆいが私をからかう
私の容姿は女の子にしては背の高く、髪も短い、祖父がイギリス人なので私の顔も何処となく北欧の雰囲気を醸しだしている。ついでに胸が全くない…

「別に…私はゆいみたいに可愛い女の子になりたいけど」
「ご冗談を♪学園の女の子を食いたい放題じゃないですか!」

ゆいはオヤジくさい…まぁ数少ない私の理解者だ。

「私はそういう趣味はない!普通に男の人が好きなの」
「昨日も三年に告白されたんだって?相手は誰よ!」
「可憐先輩…」
「うおっ!学園三大美女の一人じゃん!で?」
「断ったよ。当たり前でしょ」

チャイムが鳴ると私達はたわいのない会話を切り上げ勉強の用意をする。
あぁ…神様今日も無事に一日過ごせます様に…


その日の放課後、私のささやかな願いはあっさりと破られた…

「こちらにゆかりさんはいて?」

教室に凛とした声が響く。名前を呼ばれた私は先輩の元へ歩いていく

「あの…ご用は…」
「可憐を振ったそうね。二年の癖に」
187名無しさん@ピンキー:2007/05/04(金) 00:13:33 ID:JrL6+j8K
すいません…
いちよう病んだ娘ハーレム物です
レズ要素あり
注意遅れました申し訳ない
「みこと」でお願いします
188ゆかりの憂鬱な日々:2007/05/04(金) 01:14:15 ID:JrL6+j8K
「あの…可憐先輩が怒って来るならまだ、わかるんですけど…」
「なんで関係無い明日香先輩が来るんですか?」

明日香先輩は眉間に皺を寄せ更に激昂する

「わたくしの『可愛い』可憐が恥をかかされたのよ!」
「可哀想な可憐…あんなに泣いて」

…あれ。初めて明日香先輩と話したけど。
この人変だ…

「わたくしは可憐に頼まれて貴方に文句を言いに来たのよ!」

…あれあれ。可憐先輩も考え方変だぞ…何か頭痛くなってきた。

「取りあえず今からわたくしの屋敷に来なさい!わたくしの前で可憐ともう一度話し合うのよ」

「…わかりました。友達に伝えてくるんで少し待って貰えますか?」
「えぇ、よろしくてよ。校門に車が停めてあるから早めに来なさい!」

肩を怒らせながら廊下に戻る先輩。最後に

「逃げたら承知しなくてよ」

教室には、私とゆいだけが残っていた。

「おめでとうゆかり!遂に学園三大美女全員にフラグがたったわね♪」
「めでたくない!はぁ…、なんなのよ…まったく」

「真面目な話、明日香先輩には逆らわない方が良いわよ」
「なにせ、学園長の孫だし『退学だ!』なんてね♪」
189ゆかりの憂鬱な日々:2007/05/04(金) 01:16:08 ID:JrL6+j8K
ゆいは私に冗談ぽく注意をしてくれた。まぁ、退学はあり得ないが学校生活に支障がでる可能性はある…

「取りあえず行くわ。ゆいまた明日ね…」
「頑張って王子様♪」


私に訪れた不幸…
一年生の命
三年生の可憐と明日香
学園三大『病女』との闘いが始まった…
190名無しさん@ピンキー:2007/05/04(金) 01:23:54 ID:QAzIONX7

 国 語 力
191名無しさん@ピンキー:2007/05/04(金) 01:29:55 ID:agKcqBaj
>>189>>3を読むこと
192名無しさん@ピンキー:2007/05/04(金) 01:37:00 ID:1mE81rLC
>>190
 お 前 は 何 が 言 い た い ん だ ?
>>191
187でしっかり注意書きはしてるだろう、お前こそちゃんと読め

>>189
何はともあれ投稿乙、俺は嫌いじゃないぜ?
193名無しさん@ピンキー:2007/05/04(金) 02:16:52 ID:agKcqBaj
>>192 >>3読んだのか?
■投稿のお約束の項目を声に出して10回くらい読んでみ?
194名無しさん@ピンキー:2007/05/04(金) 02:33:02 ID:xYJ3JdGD
>>189
美女×3。俺好みのラブコメのにおいがする。主人公がレズ気をもっていないのが面白い要因になりそう。

亀レスだが、>>184
否命は沙紀の嫁だ(たぶん)。沙紀が拒否した場合は俺の嫁だ。
久しぶりです。投稿します。
      『おれはあいつが好きなのに、あいつのふるまいなおらない 
       すごいピストル買ってきて、あいつを墓に埋めてやる』 
                  ──リロイ・カー「日の出のブルース」

彫菊自身も女だてらに我慢(刺青)を背に入れている。弁財天女の刺青だ。彫師だからこそ、背負える代物だった。
極道社会において、天女の刺青は不吉なものとされている。
かの『ベラミ事件』において、当時の三代目山口組々長田岡一雄を襲撃した鳴海清もまた、その背に天女の刺青を彫っていた。
鳴海の放った凶弾が首に命中し、致命傷を負ったものの田岡組長は奇跡的に一命を取り留めた。
その後の山口組の報復により、六甲山の山中で鳴海清は惨殺体として発見された。犯人は不明、現在では時効が成立している。
天女の刺青は死の刺青なのだ。それゆえにヤクザの中には天女の刺青を忌避する者も存在する。
頭の芯に疲れが染み込んだ。ウイスキーグラスの氷をカラカラと鳴らし、彫菊が喉に水割りをゆっくりと流し込む。
彫菊はため息をついた。天井に吊るされたシャンデリアが淡いブルーの光りをグラスに注いだ。
アイスピックで氷を砕きながら、マスターが彫菊に尋ねた。しわがれているが温かく深みのある声だ。
「──彫菊さん、なんだか今日はお顔の色が悪いようですね。何かありましたか」
「ちょっと疲れが出てきてしまって。いや、心配をおかけして申し訳ありません」
「疲れが溜まっているんですね。それならもうこのまま家に帰ってお休みになったほうがいい。今日のお代は私のオゴリです」
「いえ、そういうわけには」
彫菊がハンドバックから財布を取り出すのを制して、マスターがにっこりと愛嬌のある笑みを浮かべた。
普段は無愛想だが、こういう時の微笑み方を心得ている。長年、客商売をやって身につけた微笑だ。
微笑むときの間の取り方が実に良いのだ。プロの笑みだった。
「今日は私におごらせてください」
「そうですか。じゃあお言葉に甘えて」
マスターに嫣然と微笑みかけ、軽く頭を下げると彫菊は店を出た。春も終わりだと言うのに風が冷たい。
酔った肌にはその冷たさが心地よかった。
(今頃どうしているのかしら……)
                 *  *  *  *  *  *
爪を噛んだ。肉ごと爪が千切れた。心臓が破裂せんばかりに激しく暴れまわり、胸壁をめちゃくちゃにぶっ叩く。
脳髄が憤怒に灼熱した。眼球が沸騰した。頭蓋骨をアイスピックで突き刺されたような凄まじい衝撃。
脳みそがショックに激しい勢いでシャッフルする。雪香はどうにかなってしまいそうな頭を両手で押さえた。
青い血管の浮き上がったこめかみが疼き、食道から熱い胃液がこみ上げた。
朧の姿──家中を探した。叫んだ──返事は返ってこなかった。
脈拍が飛び跳ねるように上昇した。寂寥感が頭を打った。濁音混じりに雪香は朧の名前を繰り返し叫んだ。
逆流する胃液が食道を灼いた。黄色みがかった粘つく胃液──口腔内から吐き出した。それでも雪香は叫び続けた。
生酸っぱい異臭が室内に充満し、鼻腔を突き刺す。己の叫び声が脳内で反響した。
瞼の裏に浮かんだ螺旋状の渦が激しい唸りを上げて理性を呑みこんでいった。
「あああああぁぁぁぁッ、どこにいるのォォォ!朧ッッ、朧ッッ!」
叫ばなければ頭がどうにかなってしまいそうだった。拳を握り締めた──指関節がギリギリと軋む。
半狂乱になりながら雪香は壁に頭を叩き付けた。額が裂けた。傷口からこぼれる真っ赤な鮮血が雪香の顔を濡らした。
(なんで……なんで……雪香の前からいなくなっちゃったの……ひどいよ……ひどいよ……)
雪香の双眸が煌々とした光りを放ち始めた。ベッドのシーツをたぐり寄せ、雪香がシーツに染み付いた朧の残り香を嗅ぐ。
(ああ……朧……)
青臭いザーメンの匂いが鼻腔をくすぐった。情事の後には必ず漂う匂いだ。シーツを舐めた。しょっぱい汗の味が舌腹に触れた。
幾分落ち着きを取り戻した雪香は身支度を整えた。朧を探しにいくためだ。台所に飛び込むと鈍色に輝く刺身包丁を引っ掴む。
雪香は眼を細めながら包丁をタオルで包んだ。もし朧に悪い虫がついていたらキチンと駆除をしなければならない。
そして朧が家に戻るのを拒んだらやはり殺してしまい、その場で自分も腹を裂いて死んでしまえば良い。
地面に流れる互いの血が混ざり合い、切り裂かれたふたりの腹腔からこぼれる桜色のハラワタがきつく絡みつくのだ。
永久の愛を誓うかのように。扇状に広がっていく幾条もの血液、鮮やかな臓物の色彩、雪香はビジョンを垣間見た。
鮮血と生暖かい臓腑によって彩られた愛執と死のビジョンを。
嘔吐を催すが如き異様な妄執に憑りつかれ、雪香は全身をブルブルと打ち震わせた。顔全体に恍惚の表情が浮かぶ。
神にかしづき、祈りを捧げる殉教者のように雪香は包丁を胸元に抱いて眼を閉じた。雪香の眦から一筋の涙が頬を伝った。
(死んじゃったら……小さな骨壷に朧と一緒にはいりたいなぁ……)
                 *  *  *  *  *  *
ひやりとした夜風が頬を横切った。運命的な再会──やっと捜し求めていた少年に出会ったのだ。巴の心が揺れた。
時刻は午前二時三十六分、ここは深夜の新宿中央公園だ。朧の羽織ったトレンチコートが風ではためいた。
声をかけようとした巴の眼に朧の露出した純白の素肌が、突然飛び込んできた。少年はどうやらコート一枚だけのようだ。
この少年は露出狂なのだろうか──巴はいぶかしんだ。
(そういう趣味の持ち主さんなのかな……だけどすごく綺麗な肌をしてるのね)
身頃を過ぎた桜の花びらが地面にぱらりと舞い落ちる。ハッと我を取り戻した巴は雑念を追い払うと朧に駆け寄った。
不思議そうに朧が巴を見やる。あたしの事、忘れちゃったのかな……巴が胸の内で呟いた。
少しだけ悲しかった。気を取り直した巴は朧に笑みを投げかけながら「こんばんわ」と小さな声で挨拶をした。
朧は無言だった。不思議に思いながら巴は朧の視線を追った。警戒するかのようにゆっくりと朧が一歩下がる。
「お前の右手から微かにだが血の匂いがする」
鼻をヒクヒクさせながら朧は巴の右腕を凝視していた。動物並の鋭い嗅覚だ。巴の皮膚が粟立った。
やはりこの少年こそ私の運命の人──常人なら決して嗅げ分けられないはずの血の匂いに反応を見せた朧に
巴は胸中からこみ上げる熱い思いの丈を声を張り上げて打ち明けたくなった。
(駄目よ……そんなはしたない事なんてできない……)
自分の世界にひたり切っている巴を朧はつまらなそうに眺めていた。少なくても相手に敵意が無さそうだ。
朧は空腹だった。何か食べ物が欲しかった。
巴に背を向けて朧が歩き始めようとした瞬間、巴は朧に慌てて声をかけた。朧が振り返る。
「あのッ……三ヶ月前の事を覚えてませんか?あたし、東郷神社であなたに助けてもらったんです」
朧は自分の記憶を手繰り寄せた──記憶の中にあったのは睡眠を妨げた六人の男達に襲い掛かったことくらいだ。
二日ばかりロクなものを口に入れずに過ごしていたので気が立っていた。
空腹を紛らわせる為に寝ていたのだが邪魔された。
頭にきたので男達を血祭りにしてやった。不意に怯える女の姿が脳裏をよぎった。
ああ、そうだ。確かに自分の目の前にいるこの女だ。
「そうだ。いま思い出した。確かお前は男たちに追い掛け回されてた女だ」
「思い出してくれたんですね。そうです。あの時は本当にありがとうございました」
ドギマギしながら礼を述べる少女──白百合のように楚々とした美しい顔立ちの女だが、どことなく気弱そうな印象を受けた。
雰囲気が昔の雪香に似てるなと朧は思った。朧は少女の顔をじっと見つめた。途端に巴が赤面する。巴は奥手だ。
十八歳を過ぎているのに未だにキスすらしたことがなかった。
それは彼女が持つ忌まわしい性癖も理由のひとつであったが、
もうひとつは自意識が邪魔をして好きな異性を意識すると引っ込み思案になってしまうのだ。
それでも今はそんな事を言っている時ではない。
そんな邪魔なものは捨てなければならない。呼吸を落ち着かせようと大きく息を吐いた。
「その……お礼をさせて貰えませんか」
「いらない」
巴の申し出を朧はこともなげに断った。面食らう巴に対して眠たそうに欠伸をしてみせる。
朧は瞼をこすりながら別の場所へと移動しようとした。
「ま、待ってくださいッ」
不意に巴の右手が伸びて朧の左手首を掴んだ。無意識にとった行動だ。掴んでから巴自身も驚いていた。
「離せ」
「いやですッ」
朧が邪慳そうに手を振り払いながら怒鳴った。眉間に皺を寄せて巴を睨む。
「離せッ」
怯むことなく、朧の鋭い眼差しを巴は確然と受け止めた。自分でも信じられなかった。
普段なら小学生にも睨まれれば竦んでしまう自分がこうして平然としていられる事に。
まして相手は複数の暴漢を血反吐を撒き散らすまで徹底的に痛めつけるような獰猛な男だ。
「礼はいらないって言ってるだろうッ、離してくれッ」
間が悪かった。朧は空腹のせいで苛立っていたのだ。腹部が空腹のあまりグウゥッと唸った。巴がキョトンとした顔になる。
「お腹……すいてるんですか?」
朧は頷いた。その仕草があまりにも子供じみていて可笑しい。巴は思わず吹き出してしまった。
「じゃあ、一緒にお食事しませんか。勿論あたしがおごりますから」
この機会を逃してしまえばいままの苦労が水の泡と化してしまう。巴は腹部を引き締めた。
(このチャンス、絶対に逃さないんだから……)

新宿御苑前にある深夜営業のレストラン──当たり前だが客はほとんどいなかった。
水商売風の格好をした女が三人ばかりグループになって雑談をしているだけだ。
日頃の鬱憤を晴らすかのように愚痴を言い合っているのが耳に届いた。ふたりは互いの名前を名乗ると窓際の席に座った。
朧は爪楊枝の先端を前歯で齧りながら食事が運ばれてくるのも待った。腹の虫が騒がしい。
最初は迷ったが飢えには勝てず、また一度は断ったものの巴の懇願に根負けして朧は食事を奢られることにした。
二人用のテーブルの向かいの席に座っている巴が紅茶をすすりながら朧にたずねる。
「朧さんは普段は何をなさってるんですか?」
「フーテン」
「フーテン……ですか?」
「そう。自由人さ。風の吹くまま気の向くままに生きてる」
爪楊枝をへし折ると灰皿に捨てた。笑顔を浮かべたままの巴を見て何がそんなに面白いのかと朧は不思議に思った。
愛想の良さそうなウエイトレスが注文のマルゲリータピザを持ってきてテーブルの上に乗せた。
朧はピザを鷲づかみにすると二つに折って口腔内に突っ込んだ。
口をモゴモゴさせながら必死になってピザを平らげようとする。
力任せにピザを口の中に押し込む朧を一瞥しながら巴は紅茶のおかわりを頼んだ。
「そんなに急いで食べると喉につまっちゃいますよ」
食べる事に集中している朧に巴の言葉は全く届いていなかった。端の部分まで食べ終わると朧は満足そうにゲップを漏らした。
「ごちそうさま」
イスにもたれかかり、朧はグラスの水を飲み干ほした。空になったグラスの中の氷をガリガリと噛み砕く。
「そういえば、その……服を着てないんですか?公園でコートがめくれた時に見えちゃったんですけど」
「コートしか持ってないんだ」
「よろしかったら、着る物を一緒に買いにいきませんか?」
「いらない。それにこの時間に洋服屋が開いてるとは思えない」
先ほどと同様に朧はにべもなく言う。着る物も今のところはコート一枚で充分だった。欠伸をしながら朧は窓際に視線を向けた。
とりつくしまもない朧に巴はどうすればいいのか思案した。思案しても頭には何も浮かばなかった。巴が何気なく朧に訊ねる。
「その……恋人はいらっしゃるんですか?」
「いない」
巴の瞳が輝いた。脈ありと睨んだのだ。恋人がいるかどうかはこの際関係ない。
重要なのはいないと答えた点にある。自然と顔の筋肉がほころんだ。巴は知らなかった。
雪香という朧を心から深く愛する狂人の存在を。
                 *  *  *  *  *  *
赤、青、緑のまばゆいディスプレイの光が雪香の瞳の奥で反射した。雪香は唇の端を歪めた。凄艶だった。凄艶であり悲愴な顔貌だった。
怒っているとも、笑っているともつかぬその表情──その類まれなる美貌はこの世の者ならぬ気配を感じさせた。
馥郁とした清純な色香は腐臭となって雪香の身体にまとわりつき、孤独によってもたらされた心の苦痛が燃えてたった。
中年の酔っ払いが雪香の姿を一目見るなり、横に顔をそらす。アルコールで麻痺した脳が酔っ払いに危険を発したのだ。
(寂しいよ……寂しいよ……朧、どこにいるの……)
幽鬼の如きおぼつかぬ足取りで雪香は朧を探した。人通りがまばらな路上、アスファルトにこびりついたチューインガムが眼に映った。
表面が靴底で踏まれ、汚れてはいるが吐き捨てられてそれほど時間は経っていないようだ。
雪香は焦点のあっていない瞳でガムを静かに見やる。屈みこんでガムに顔を近づける。靴の痕を見た。見覚えがあった。
匂いを嗅いだ。親指と人差し指で挟み、真っ赤な舌先でガムを舐めた。鮮明ともいえる朧と交わしたキスの情景が浮かび上がった。
雪香の前頭葉が朧の噛んだガムだと告げた。脳裏に横切る朧との思い出──絶対に朧を……幸福を取り戻したかった。
(そう遠くへはいってない……絶対に見つけ出してあげる……雪香と一緒に早くお家に帰ろうね、朧……)
身体が重い。溶けた鉛を流し込まれたように身体が重かった。何度も胸を撫でた。不安と焦りが広がる。
背筋に浮かぶ汗がべとついた。警告するかのように心臓が早鐘を打つ。胸騒ぎがした。
激しい衝動持て余しながら、朧の唾液の味を思い浮かべると雪香はガムを口の中に放り込んでゴクリと嚥下した。
                 *  *  *  *  *  *
喫茶店で巴に買ってもらったガムをクチャクチャ噛みながら路上の空き缶をつま先で蹴飛ばした。
コーンと音を立てて車道の方向に吹っ飛ぶ。
巴は黙り込んだまま、朧の手を握った。頬が紅潮している。身体を密着させながら巴は朧をそっと盗み見た。
相変わらずガムを噛んでは吐き出し、また新しいガムを噛み始めている。その表情からは何も読み取れない。
完全なポーカーフェイスだ。それでも嫌がっている素振りではない。
羞恥と自意識をかなぐり捨てて巴は朧に対して積極的にアプローチを試しみた。
巴はコートを少しだけ割り開いて朧の下腹部──柔らかいペニスを軽く握る。朧の体温を感じ、巴は熱く昂ぶった。
「こうされると……男の人ってよろこぶんですよね」
雑誌の受け売りを見よう見まねでやってみる。それでも朧のペニスは反応を見せなかった。だらけたままだ。巴に狼狽が生じた。
「気持ちよく……ありませんか?」
「よくわからない。気持ちいいっていうよりもくすぐったい」
あたし、いったい何をしてるんだろう……気まずくなった巴はコートから手を引いた。
こみ上げる自己嫌悪──巴は顔色が沈む。そんな巴を朧が覗き見る。
表面では無表情だったが朧は内心では面白がっていた。巴のころころ変わる表情が見ていて退屈しないからだ。
少なくても悪い人間ではないのだろう。朧が巴の額をベロリと舐めあげた。
「きゃっ」
突然額を舐められ、驚いた巴は声をあげた。朧の唾液にまみれた額がテカテカと光る。
「しょっぱい」
「い、いきなり何をするんですかっ」
「最初にちょっかいをかけてきたのはそっちだ」
巴は唾液をハンカチでぬぐった。犬か猫そのものだ。それともこれがこの少年──朧の愛情表現なのだろうか。
(もしそうならすごく嬉しいけど……)
千駄ヶ谷を横切り、ふたりはいつのまにか東郷神社の近くまで来ていた。空は暁闇に包まれてほの明るい。
軽い疲労を覚え、巴は足を止めた。朧に向かって振り返り、巴が東郷神社を指差す。
「私達が初めて出会った場所ですね」
「それがどうかしたか」
朧がそっけない返事をする。巴は苦笑を浮かべた。急に朧がソワソワしはじめ、首を後ろに回して眼を細めた。
朧の肩に手を置き、巴が耳元で何かを呟きかけたその刹那──激しい怒号が鼓膜を貫いた。
「雪香の朧からその薄汚い手を離してよッ、この泥棒猫ッッ!」
声のしたほうへ反射的に巴は振り返った。凄まじい形相でこちらを睨む少女の姿に一瞬、恟然となった。
少女の右手には刺身包丁が握られていた。元の造作が美しいだけに烈火の如く怒り狂う様は凶貌すら通り越し、醜い。
「雪香」
朧が少女に声を放った。雪香と呼ばれた少女は朧に向かって穏和な笑みを浮かべた。そして巴に視線を戻すとまた憤怒の表情に戻る。
朧と少女が知り合い──よりも親しい関係である事は巴にも容易にわかった。
「待っててね。いまそこの泥棒猫片付けちゃうから」
刺身包丁を逆手に持ちかえ、雪香が刃を水平に構えた。
ヤクザ同士がドスで喧嘩をする場合、相手を傷つけるだけならば刃を縦に命を奪う場合は刃を横にしてしまうのだ。
刃物を縦にして相手を刺せば肋骨が阻み、刃を通さない。斬りつける時も急所が少ないので殺すのは難しい。
逆に寝かせた刃は肋骨の間を通れば心臓を、首筋を狙えば動脈を切り裂く。
腹部を狙って体重をかけて突き刺すのも有効だが、人間は物体と違って避けるのでよほど手馴れていない限り突くのは至難の業だ。
雪香の憎悪と殺意が迸った。猛然と巴に向かって飛び掛る。素早い動きだった。刃が巴の首筋を襲った。

203ラック ◆duFEwmuQ16 :2007/05/04(金) 03:26:14 ID:OHkXmc5V
投稿完了。
204名無しさん@ピンキー:2007/05/04(金) 04:42:20 ID:nyhBTBMA
巴ー!!
つうか雪香ぶっ飛びすぎw
205名無しさん@ピンキー:2007/05/04(金) 11:59:04 ID:EofhHIwj
雪香の偏執っぷりがテラオソロシスw
206伊南屋 ◆WsILX6i4pM :2007/05/04(金) 17:50:41 ID:sQJ5dqqD
線画を二つばかし

http://p.pita.st/?a7ntp3wo
http://p.pita.st/?azrkpueo
両方縦にしてご覧下さい
207名無しさん@ピンキー:2007/05/04(金) 18:29:34 ID:CD3F0ZuH
>>206
乙!そしてPC許可にして下さいorz
208名無しさん@ピンキー:2007/05/04(金) 18:33:53 ID:mEPKyJh7
なんでこんな糞なアップローダー使うの?
209伊南屋 ◆WsILX6i4pM :2007/05/04(金) 18:49:47 ID:sQJ5dqqD
ゴメン設定し忘れてた。
アップローダーについては以前使ってたいめピタが一度、何故か閲覧できないという不具合があってから使用をやめてました。
んでもってアップローダーはどれが良いかとか分かんないからとりあえず@ピタを使ってたわけです。
だもんでなんか良いアップローダーあったら教えてくれると助かります。
210名無しさん@ピンキー:2007/05/04(金) 19:07:20 ID:tyRF4UCn
とりあえず久しぶりに更紗に会えて嬉しい!
伊南屋氏GJ!
うpろだは今のままでも気にならないけどなあ
211名無しさん@ピンキー:2007/05/04(金) 19:13:47 ID:CD3F0ZuH
>>209
設定どうもです。そしてGJ!!原作と同じくらい伊南屋氏のお茶会絵好きだ!
見れるようにしてくれるなら、ろだはどこでもOKですよ。
212ヤンデレ喫茶の床に、血が落ちる ◆Z.OmhTbrSo :2007/05/05(土) 00:26:23 ID:wHKFQGU5
投下します。ひどいことされる南です。
--------

 都内の国道に沿って続く大通りを囲うようにして存在する店舗たちの
すき間を通り抜け、小さな路地を進んだ先。
 そこにはいわゆるメイド喫茶と呼称される喫茶店があった。

 喫茶店の中には4つのテーブルとカウンター席があり、カウンターの内側では
男性ウェイターがグラスを磨いていた。
 その男性ウェイターの苗字は南と言う。
 アルバイトの店員からは南さん、恋人である女性店員からは南君、と彼は呼ばれていた。
 大学を卒業後、彼はこの喫茶店に就職しウェイターの制服に身を包んでいる。
 
 彼の仕事は主に軽食の調理、レジでの清算、その他の雑務全般であり、
接客業務などは行わない。メイド喫茶でウェイターが接客をするのはおかしいから、
というのがというのがその理由である。
 店内には彼以外の男性従業員の姿はない。男店長が事務所の椅子に座っているものの、
足首と椅子が手錠で繋がれている状態では出歩こうにも不可能であるため、
結果的に喫茶店の男性従業員は南しか姿をあらわしていない。

 カウンターで業務をこなす南の横には、メイド服を着た女性が付き添っている。
 南と彼女はこの喫茶店で出会い、告白も喫茶店の中で行われた。
 彼らの仲の良さは、副店長の女性に「お二人の結婚式はこのお店で行いましょうね」と
言わしめるほどのものであり、営業時間中も二人は付き添ったままの状態である。
 二人の姿は店内にいるメイド服を着用したアルバイト店員の目にも映っており、
彼女達の心に焦りと羨望の情を抱かせている。

 南の顔は、殴られたあとのように少しばかり腫れていた。
 恋人と喧嘩したわけでも、女性店員の着替えをうっかり覗いてしまって殴られたわけでもない。
 仮に後者であれば顔を腫らすどころか、病院の白い天井を拝み続ける退屈な日々を
送ることになるかもしれないが、まあそれは置いておくとしよう。
 
 南が顔を腫らしている理由はこの数日に起こった出来事にある。
 その出来事が分類されるべきジャンルは暴力的なものになる。
 いや、ここでは「あえて」、という単語を付け加えるべきか。

 男性が南に果たし状を叩き付けたときの光景は、時と場所をわきまえれば美しいものに見えなくもなかったからだ。
213ヤンデレ喫茶の床に、血が落ちる ◆Z.OmhTbrSo :2007/05/05(土) 00:27:21 ID:wHKFQGU5

 午後5時、喫茶店のドアをカランカラン、と鳴らして入ってくる男がいた。
 その男の特徴を表現するならば巨漢、というものがふさわしい。
 南よりも頭二つ分高い身長に、肩の筋肉の盛り上がりで異常に広く見える肩幅をして、
セカンドバッグかと思わせるほどの大きさの靴を履いている男だった。

 男は挨拶をしてくる店員に会釈をするとカウンターに向けて歩き出し、カウンターの向こうで
グラスを磨いたまま顔を上げない南を見下ろせる位置で立ち止まった。
 男は何も言わない。南も次に磨くべきグラスを手にとっただけで口を開かない。

 男がやってきた理由、それは南と戦うためである。
 別の言い方をするならば、喧嘩をしにきたのである。

 南と巨漢の男は知り合いである。南が大学に籍を置くと同時に身を寄せていた
格闘技研究会で、巨漢の男は南の後輩をしていた。
 その格闘技研究会では主に格闘技に関する情報を集めることを目的としていたが、
南と後輩の男は自らの身で技の実践を行っていた。
 技の威力・精度を高めるための鍛錬方法や、対人戦闘において留意するべき事項を
記録することを当初の目的としていたが、次第に目的が変わっていった。

 2人はどちらが強いのか、それを証明するために組み手を行うようになった。
 技の練度を重視する南と、力が全てと豪語する後輩。
 意見の異なる2人がぶつかり合うのは当然のことだったのかもしれない。

 学生時代の2人の戦いは、全てが南の勝利という形で決着がついた。
 ただ力押しでぶつかってくる後輩が、優れた格闘センスを持っているだけではなく
相手の心理・弱点をつく作戦までとってくる南に勝利することは不可能だったのだ。
 だがその結末は後輩にとって面白いものではなかった。
 勝ち逃げというかたちで卒業した南を追って、後輩の男はこの喫茶店にやってきた。

 南と戦い、勝利すること。後輩の男にとって、それが一番重要なものだった。
214ヤンデレ喫茶の床に、血が落ちる ◆Z.OmhTbrSo :2007/05/05(土) 00:28:42 ID:wHKFQGU5

「おに……こほん、ご主人様、ご注文はお決まりですか?」
 立ち尽くす巨漢の男に声をかけたのは、メイド服を着て長い髪をポニーテールにした背の低い店員だった。
 彼女がいかにも声をかけにくそうな男に声をかけることができたのは、彼女が巨漢の男の妹だからだ。

 巨漢の男の名前は、剛と言う。
 妹はたくましい兄のことを、『兄』としてではなく『男』として慕っていた。
 いじめられたときや困っているときにいつも助けてくれた兄の存在は、
彼女にとって何よりも大きな心の支えになった。
 兄と一緒にいるだけで彼女の心は安心感に包まれた。
 彼女は次第に兄から離れることを嫌がるようになり、兄のとなりにいていいのは自分だけだ、
と考えるようになっていった。

 兄に他の女が寄り付かないようにするため、彼女はさまざまは行動をとってきた。
 自分の友人や兄の友人に、自分達が義理の兄妹であると言いふらしたり、
そのうえ2人の間に既成事実が発生している、ということまで捏造して言いふらした。
 そんな妹に対して剛は困った妹だ、という程度の認識しか持っていなかった。
 結果、2人は仲のいい兄妹として先日まで過ごしてきた。

 しかし、妹はその現状に満足していなかった。
 兄をいかにして自分のものにするか、という懸案事項は常に妹を悩ましていた。
 剛は野生的な勘に優れているので、妹が不審な行動をとったらすぐに気づく。
 睡眠薬や痺れ薬などの劇薬を食事に混入したときにはそれを口にしようとはしなかった。
 力づくでものにしようと考えたこともあるが、兄に敵うほどの人間はそうそういない。

 ある日、実の兄を無力化するための方法を考えながら、ぼんやりと路地を歩いていた彼女に声をかける老人が居た。
 不思議なことにその老人は彼女の浅ましい欲望を全て看破した。
 驚く彼女に向かって老人は、「君のお兄さんに○○というメイド喫茶に南君がいる、と教えなさい。
そして、君もその喫茶店で働きなさい。そうすれば、君のお兄さんは永遠に君のものになる」と告げた。
 胡散臭い台詞ではあったが、その老人の言葉はなぜか信用に足るように思えた。
 彼女は老人の言うとおりに行動し、喫茶店のアルバイトを始めた。 
 彼女の言葉を聞いた剛は、翌日には喫茶店にやってきて、南に勝負を挑むようになった。

 それが今から8日前のことになる。
 現時点で南と剛が再会し、拳を交えた回数は既に8回。妹がこの喫茶店でメイド服を着た回数も8回。
 そして今日、彼・彼女ら3人を巻き込んだ事態は9回目を迎えようとしている。
215ヤンデレ喫茶の床に、血が落ちる ◆Z.OmhTbrSo :2007/05/05(土) 00:30:24 ID:wHKFQGU5

 剛は手元に視線を落とす南のうなじを見下ろしながら、こう言った。
「ウェイターさん。いつもの、お願いします」
 その言葉に込められた意味は店内にいる全員が知っている。
 つまるところ、今から喧嘩をしましょう、という意味である。

 その言葉に一番の反応を示したのは南の横にいる女性店員だった。
 彼女は一度剛の顔を睨みつけ、次に南の苦い表情を見つめると手で顔を覆った。
 また恋人が傷ついてしまうと思い、涙を流しているのだ。
 南の顔に張り付いている痣は昨日喧嘩したときについたものだ。
 ちなみに、おとといまで南の顔には傷一つついていなかった。
 では、なぜ昨日南は不覚をとってしまったのか?

 その原因は自分の恋人の女性にあると南は考えている。
 彼を責めないでほしい。自分の油断を恋人のせいにするのは彼にとって本意ではない。
 しかし、勤務中かまってもらえないからという理由で、8日前から前例に無いペースで
精力を搾り取られている南の体力はガタ落ちしており、それが昨日の不覚を招いた。
 昨日はかろうじて勝利を収めた南だったが、昨晩は泣き続ける恋人をあやすために
夜通し起きていたため、現在の彼のコンディションは赤一色に染まっている。

 だが、南の体に宿る闘争本能は燃え尽きてはいなかった。
 南の体の奥底から力が沸き始め、全身の血流を活発化させる。
 彼はグラスを食器棚に納めて手を拭うと、肩を震わせる恋人の肩に手をやった。
「南君……」
「大丈夫。今日は怪我なんかしないからさ」
 南は恋人の髪を撫でた。
 言葉と仕草で彼女を励ますのが、南にできる精一杯のことであった。


 喫茶店の前の路地で、2人の男が向かい合って立っている。
 中肉中背の男は腕を垂らして構えを見せていない。
 もう1人の筋骨隆々とした男は豪腕を見せ付けるように腕を組んでいる。

「眠そうですね、先輩。今日のところは日を改めましょうか?」
「慣れない敬語なんて使うな。いつもどおり喋れ」
「まあ、そう言わずに。僕の敬語を聞くことができるのは、これが最後なんですから」

 南は目を閉じると、かぶりを振りながらため息を吐き出した。
「残念だが、お前が俺を敬わなくていいようになるには10年早い。
 せめて言葉遣いだけでも馴れ馴れしくするのを許している俺に甘えろよ」
「それじゃあ、目いっぱい先輩の胸を借りるとしましょうか。
 下手すれば借りたまま失くしちゃうかもしれないから、気をつけてくださいね」
 剛は喜色満面の笑みをつくった。

 その顔を見て南も笑おうとしたが、笑えなかった。
 彼の心には、余裕など微塵もありはしなかったからだ。
216ヤンデレ喫茶の床に、血が落ちる ◆Z.OmhTbrSo :2007/05/05(土) 00:32:11 ID:wHKFQGU5

 2人が戦いを始める合図は存在しない。
 どちらからともなく襲い掛かり、殴り、蹴り、叩き伏せるだけである。
 この日、最初に仕掛けたのは剛であった。

 咆哮をあげながら全力で駆け出す巨体は、南の前に立ちはだかると、拳を振りかぶった。
 人間のものとは思えないほど巨大な拳が向かう先は南の顔面。
 その場に立ち尽くしたまま動かないウェイターは、殴られ吹き飛ばされる――
 かと思われたが、悲鳴をあげて後退したのは殴りかかった剛であった。
 見ると、南はその場から一歩踏み出した状態で右手を突き出している。
 剛の打ち下ろしの一撃に合わせたカウンターである。

「ちっ……やっぱ無理か」
「そんなワンパターンじゃ、結果は変わらないぞ」
「さて? ……そいつはどうかな!」

 剛は体をひねると、大振りの右回し蹴りを放った。
 それは標的の首から上を吹き飛ばすためのものだったが、即座にしゃがんだ南には当たらない。
 南は地を這う右足払いを放つと、体勢を崩した巨体の顔面を全力で蹴り上げる。
 続けて放たれる足刀をみぞおちに受けて、巨体が地に伏せた。

 冷徹な声が、せき込む巨体の男に投げかけられる。
「どうした? もう終わりか」
「っへへ……まだまだ!」
 立ち上がると、剛は力任せの攻撃を繰り出す。
 そのことごとくに、南はカウンターを合わせていく。振り回される拳を払い、かわし、急所をつく。
 一瞬の溜めの後に放たれる前蹴りに対しては、体を入れ替えて前進し飛び膝蹴りを顎に穿つ。
 長い間戦ってきた剛の攻撃を見切ることは、南にとってたやすいものだった。
 決して油断できる攻撃ではない。直撃を受けたら骨の数本は折れてしまいそうなものばかりなのだ。
 剛が立ち続ける限りその攻撃が止むことはない。
 決着をつける方法はただひとつ。巨体が地面に沈み動かなくなるまで打ち続けること。
 それすらもたやすいものであったはずだ――南のコンディションが万全ならば。

 剛の放った右ストレート。その軌道もスピードも南の目には写っていた。
 だが、ただでさえ神経をすり減らすカウンターは南の体力まで削っていた。
 ストレートに合わせたフックが剛の顔面に当たる。だが、当たっただけで振りぬくまでにいたらない。

 南の体力に限界が近づいていた。彼のスタミナに問題があるわけではない。
 連日繰り返された恋人との情事によって、彼のスタミナはエンプティラインの目前にまで減っていたのだ。
217ヤンデレ喫茶の床に、血が落ちる ◆Z.OmhTbrSo :2007/05/05(土) 00:35:03 ID:wHKFQGU5

(あと一撃で決めないと、やられる)
 と南は感じていた。
 自分が全力の一撃を放てるのは、あと一回が限度。ならば、渾身の一撃で剛を倒すしかない。
 剛が左手を真横に振りかぶる。次の攻撃はフックだ、と南は見切った。
 巨体のわずかなひねりを感じ取った南は、ためらうことなく右の拳を全力で突き出した。

 ぐきり、という音が空気と右手の骨を通って脳に届いた。
 確かな手ごたえ。これでまた、自分の勝利だと確信した。
 目の前にいる剛の巨体が段々と沈んでいく。だが、そのときにおかしなものが見えた。
 剛の口の端が吊り上って、顔が愉悦を形作っていたのだ。

(なぜ、笑っている――?)
 その疑問を浮かべた次の瞬間、南は内臓に衝撃を受けた。
 呼吸が止まり胃が締め付けられ、喉の奥から生暖かいものが飛び出した。
 たまらず顔を伏せた南の目に飛び込んできたのは、太い腕だった。
 剛の太い腕の先端についた拳が、自分の腹筋に突き刺さっている。
(そうか――)
 あえて自分の最後の一撃を受け、至近距離での一撃を放つ。
 それこそが剛の作戦だったのだ。

 
 脱力して地に伏せた南を見ながら、剛は震える膝を押さえつけていた。
 ここで立ち続けていれば、夢に見ていた勝利を掴むことができる。
 倒れたら、きっと起き上がることはできない。この勝利はおあずけになってしまう。
 だが彼の膝は勝利より、休息を一番に求めていた。
 剛の膝が折れる。そして地面に張り付いたように動かなくなった。

 動け、と強く念じても剛の腰から下が動くことはなかった。
 しばらく間を置いてから、彼の背中が地面に着いた。
 次第に、意識が遠くなっていく。
 必死で目を閉じることに抗う剛の目に、カチューシャを髪に差した妹の顔が映った。

 妹は泣いていた。ぼろぼろと涙を流して、自分を見下ろしている。
 一粒の雫が落ちてきた。剛の目に向かって、まっすぐに落ちてくる。
 その様子は、剛の目からはスローモーションに見えている。
 目前に雫が迫ってきたところで、剛は目を閉じ――そのまま、彼は眠りに落ちた。

 2人の戦いは、この日初めて相打ちという形で決着が着いた。

------
連投規制にひっかかりそうなので、とりあえずここまで。今日中に続きを投下します。
218名無しさん@ピンキー:2007/05/05(土) 01:22:53 ID:xYb6BMEQ
ジャイアンGJ
219伊南屋 ◆WsILX6i4pM :2007/05/05(土) 02:03:18 ID:9Xb35AVL
GJなのですよ?

ついでにこちら
http://p.pita.st/?q7j21cwi
http://p.pita.st/?brwtpzak
http://p.pita.st/?xtm6dxuv

まあ、男が描きたかったのです。それだけ。
220名無しさん@ピンキー:2007/05/05(土) 02:06:21 ID:MArrtHeG
>>217
wktkして待ってまつ
てか南ってそんなに強かったのかw
221名無しさん@ピンキー:2007/05/05(土) 02:09:46 ID:MArrtHeG
>>219
三枚目(・∀・)イイ!!
222ヤンデレ喫茶の床に、血が落ちる ◆Z.OmhTbrSo :2007/05/05(土) 04:31:24 ID:wHKFQGU5
・ ・ ・ ・ ・ ・

 2人の戦いから3日が経った。
 今、南は朝霧の立ち込める寺にて1人で座禅を組んでいる。
 剛との再戦に備えて精神集中をしているのだ。

 あの対戦のあとで南は2日間の有給休暇をとった。
 それは体の傷を癒すためというよりは、恋人と一時的に離れることが目的だった。
 剛との戦いで相打ちに終わった理由は、スタミナの不足である。
 その問題を解決するためには恋人との情事を控えることが一番だと南は考えていた。

 だが、後ろ髪を引かれる思いをしたのも事実だった。
 恋人に2日間会えないということを告げたとき、彼女は世界の終わりが来たときに浮かべそうな表情をした。
 立ち去ろうとしたときは、腰にしがみつかれて制止された。
 それでも南は彼女を振り払った。一緒にいると、どうしても彼女を抱きたくなってしまうことを自覚していたからだ。
 だからこうやって離れた土地にある寺にやってきたのだ。

 今日は剛との再戦当日。久しぶりに喫茶店へ出勤することになる。
 同時に喫茶店にいるであろう恋人にも再会できる。そう思うと南の心は躍った。
 この2日間、南は恋人のことばかり考えていた。
 すぐにでも帰って彼女を抱きたいと思っていたが、剛の笑い顔がその思いを止めた。
 戦うたびに自分に倒されていた後輩。その彼の顔が勝利を確信した表情を浮かべたときの悔しさ。
 それを思い出すたびに彼は自分を強く律した。

 手元にある携帯電話が振動し、6時を告げた。
 今から向かえば8時には喫茶店に到着する。
 寺の住職に挨拶をしてから、南は愛用のバイクに跨った。
 向かう先は、決戦場――自身と恋人が勤めるメイド喫茶。

 周囲に立ち込める朝霧を乱さぬつもりでスロットルを回し、南は寺を後にした。
223ヤンデレ喫茶の床に、血が落ちる ◆Z.OmhTbrSo :2007/05/05(土) 04:32:25 ID:wHKFQGU5
・ ・ ・

 喫茶店に到着したのは、まもなく8時になろうかという頃合だった。
 店の壁に張り付かせるようにバイクを停めてヘルメットを脱ぐ。
 そのとき、ヘルメットを被っているときには聞こえなかった音が耳に届いた。
 音がする方向は、店内。そこから騒がしい音がする。

 ドン、ドン、という太鼓を打ちつけるような音と、
「が、ぁっ、そんな、なんでぇ! があっ!」
 という男の叫び声が特によく聞こえた。時折、女の声がそれに混ざる。

「あんたの……せいで、…なみくんが、いなく……なったの、よ」
 聞き覚えのある声だった――というより、忘れられない声だった。
 南の最愛の恋人の声である。
 しかし、普段南が聞いているような声とは違った。
 暗くて、耳にこびりつくような恨めしげな音階をしていたのだ。

 さらに耳をこらすと、別の女の声もした。
「や、やめて…………おにいちゃんを、ゆるして……」
 その声は最近入ってきたアルバイトの女の子の声に似ていた。
 そう、たしか――剛の妹の女の子だ。

 何かを打ち付けるような音と、男の悲鳴と、自分の恋人の声と、剛の妹の声。
 それだけ整理しても、店内で何が起こっているのか分からない。
 南は店内を望める窓から中の様子を伺って、次の瞬間目を疑った。
 
 自分の恋人と、剛が戦っていた。
 いや、一方的に剛が押されている状況は戦っているというより、リンチのように見えた。
 剛が力なく拳を振り上げると、その瞬間に恋人の握る箒が動いて拳を突く。
 メイド服のスカートが広がると同時に箒が回転すると、次の瞬間には剛は顎を打ち抜かれて巨体を揺らす。
 その一方的な光景を涙目で見つめる少女は、剛の妹で間違いなかった。

 剛が膝をついた。首はうなだれて、白いTシャツには血がこびりついている。
 メイド服に返り血を付けた女が巨体の男のすぐ目の前まで近づいた。
 右手には赤く染まった箒が握られている。その箒が彼女の頭上に持ち上がる。
 左手で剛の顎を持ち上げると、箒の先端が剛の眼窩を貫ける位置に構えられた。

 そこまで目にしたで南の足はようやく動いた。
 勢いよくドアを開け放ち、店内に踏み込む。血の匂いが鼻をついた。
 恋人の後姿を確認した南は、彼女を止めようとした――が、何をしたらいいのか思いつかなかった。

 奇妙な感覚だった。
 勢いよく迫るトラックを止める方法を探しているときのような圧迫感と無力感を覚えた。
 その威圧感が最愛の恋人の体から放たれているものだと南が気づいたのは、振り向いた彼女の目に
狂気が宿っているのを察した瞬間だった。
224ヤンデレ喫茶の床に、血が落ちる ◆Z.OmhTbrSo :2007/05/05(土) 04:33:42 ID:wHKFQGU5

 血に濡れたメイドは、恋人の姿を目にした瞬間に巨体の男から興味を反らした。
 離れた位置にいるもう1人のメイドがそれを見て、必死な様子で巨体の男を奥に引っ張っていく。
 小柄なメイドと血に濡れた後輩の姿が店の奥に消えた時点で、南は変わり果てた恋人に声をかけた。

「ひ、久しぶりだな」
「……ねえ、みなみくん。どこ、いってたの」
 まったくと言っていいほど唇を動かしていない様子であったが、聞き逃すことなどできそうもない声だった。
「ああ、えっとだな……その……」
「……なんで、どもるの、みなみくん。
 どうして、どうして、ねえ、ねえ、なんで、なんで」
 首が左右に揺れると同時に、血に揺れたカチューシャのフリルも揺れる。ゆらゆらと。
「あ…………ち、違う」
「なにがちがうの。わたし、なにかまちがったこといったかな。
 みなみくんがいなくなったのに、しんぱいしちゃだめかな」

 血に濡れた箒は離さぬまま、にじりよってくるメイド服の女。
 その女が自分の恋人だと南は理解していたが、足は彼女から遠ざかろうと後ろにさがる。
「なんでにげるの。わたしが、こわい、の」
「違う! 俺はお前のこと、その……好き、だ……」
「じゃあ、はやくおそうじしよう。ふたりでいつもみたいに。
 わたしがゆかをはくから、みなみくんがガラスをみがいてね。
 そのつぎは、ひとりがふたつずつテーブルをふこうね。
 トイレそうじはそれぞれべつべつだよ。
 さいごはカウンターのおそうじしよう、ね」
 そこまで言い終わると、彼女は目を閉じて天井を見上げた。

「うれしいな、みなみくんに、好きだっていってもらえた。
 ずっと、ずっと、ずっとききたかったのに、ふつかもきいてなかったんだもん。
 でも、がまんしたかい、あったかも。いま、す、ご、く……ふふふ、うれし……
 あはははは、うふふふふ、きゃはははは、くひひひひひ」
 顔を天井に向けたまま、返り血を浴びたメイドは笑い出した。
 その様子は、欲しかった玩具をようやく与えられた子供のように無邪気であった。

 しかし、彼女から放たれる狂気が消えたわけではなかった。
 狂気に気圧され、南は後ろにさがり続けていた。が、その背中がドアに着いたところで下がれなくなった。
 来客を報せるためのベルが、カランカランと心地よい音を立てた。

「あれ……みなみくん、にげてるの。
 そんなにとおくにいっちゃだめだよ。へんなむしがくっついちゃうよ。
 みなみくん、かっこいいから、へんなおんながよってきちゃうよ」
「いや……逃げてるわけじゃなくて……」
「だめだよ。もう、わたしといっしょじゃなきゃ、そとにだしてあげない。
 ずっと、ね。ずーーーーっと、わたしといっしょにいるの」

 南は確かに見た。恋人の目の奥に宿る狂気と、闇がさらに濃くなっていく様を。

「まずは、おそうじ、しなきゃ、ね。みなみくんのからだを」
225ヤンデレ喫茶の床に、血が落ちる ◆Z.OmhTbrSo :2007/05/05(土) 04:35:55 ID:wHKFQGU5

 白いエプロンに赤い斑点をつくったメイドが南の元へと近づいていく。
 彼女はにこにこと笑っていた。狂気を宿した目を大きく開きながら。
 ほっそりとした手が南の肩へと近づいていく。
 その手には返り血がついているというのに、変わらぬ美しさを保っていた。
 あまりに場違いな美しさだった。だから、南は無意識のうちにその手を払った。
 そして、呆然とする彼女と勝手に動いた自分の手を見比べながら南は狼狽した。

「ごめん! その、つい……」
「……やっぱり、そうか。みなみくん、わたしからはなれちゃったからよごれちゃったんだね。
 わたしにまかせて。みなみくんの、こころとからだ、ぜんぶきれいにしてあげる。
 なかも、そとも、めんどうみてあげるよ。……だから、ちょっとだけよこになって」

 南は警戒心を解いていなかった自分を褒めた。
 もし油断していたら、恋人の箒に足を払われて倒れ付していたからだ。
 振り回される赤い箒を避けるため、南は距離をとった。
 距離をとっても彼女の放つプレッシャーが緩むことはなかった。
 彼女の放つ威圧感は、店内全体を覆っていた。
 そのせいでどこにでも彼女が存在しているような錯覚を南は覚えた。
「はやく、きれいにしなきゃ、よごれちゃうよ、みなみくん」
 彼女の放つ一言一言がこだまのように聴覚を混乱させる。

 南は眩暈を覚え、一瞬目を閉じた。次に目を開いたときには、恋人の笑顔が目前にあった。
 頭を伏せる。すぐに彼の頭上を箒が通り過ぎた。
 サイドステップでその場を離れ体勢を立て直そうとするが、目にも止まらない速さで
振るわれる箒はそれすらも許さない。
 女の持つ箒は南の居た地点を確実に突いて来る。
 鼻先をかすめる一閃は、一撃で気絶に至らしめてしまう速度で振るわれていた。
 南がテーブルを盾にして構えた。ただの箒であればテーブルを破壊することなどできないはずだ。
 ――と考えていた南の予想は別の意味で裏切られた。
 テーブル越しに一度衝撃が伝わった次の瞬間には、南の体はテーブルごと後方に飛んでいた。

 壁まで飛ばされ、背中を強く打った。
 顔を上げると、メイドが箒を振り上げて駆け寄ってくるのが見えた。
 振り下ろされる箒の速度を見切り、カウンターのタイミングを掴む。
 そらした頭をかすめて箒が振るわれる。再度攻撃が来る前に箒を掴んだ。
「あっは、はははは」
 しかし、振り下ろされていた箒は南の体ごと彼女の頭上に持ち上げられた。

 自分の目に見えている光景の不自然さを理解する前に南の体は放り投げられ、床に叩きつけられていた。
 南の頭の中はこの理不尽な状況を理解するためにフル回転していた。
 恋人の突然の変貌と、手も足も出させない圧倒的な彼女の戦闘能力。
 いかにして事態をひっくり返すか、それを考えても何も浮かばない。
 濁流に歯向かう力は、攻撃を受け続けた南には残されていなかった。
226ヤンデレ喫茶の床に、血が落ちる ◆Z.OmhTbrSo :2007/05/05(土) 04:38:25 ID:wHKFQGU5

「お、そ、う、じ、しま、しょ」
 床に伏せる南に対して、恋人の振るったバケツの中身がぶちまけられた。
 透明な液体だった。顔を伝うその液体の粘度は水道水のものではなかった。
 唇を舐める。すると苦味が味覚を刺激した。
「おい、これって、台所の洗剤じゃないか!」
「そうだよ。いまからおそうじするんだから、せんざいはひつようでしょう」

 メイドは南の体をうつぶせにすると、両手と両足に手錠をかけた。
 もう一度ひっくり返して仰向けにすると、手に持った箒をシャツの胸元からジーンズの裾まで挿入した。
 南が何かを言おうとしたが、その寸前に彼の恋人の手によって箒が動いた。
 箒の両端を掴み、一気に服を引き裂いたのだ。
 彼女の腕力によってベルトの金具までが破壊されて、南は見るも無残な姿に変貌した。

「じゃあ、こんどはあわで、あらってあげるからね」
 そう言うと、彼女は今度は自分の体にバケツの中身を被った。
 そして身動きの取れない南の半裸の体にのしかかり、細かく動き始めた。
 両手の五指をそれぞれ絡みあわせて、体を上下に動かす。
「わたしは、いまスポンジだよ。
 よごれちゃったみなみくんは、こうやってあらってあげないと、いけないから」

 実際にその通り、彼女の動きは南の全身をくまなく洗うためのものだった。
 頬にほおずりし、腕・足を絡ませて、胴体をこすりつける。
 仰向けの状態で全ての箇所を洗い終えると、今度はうつぶせにする。
 背中に両手が当てられるのを南は感じ取った。
 その手は肩の上から背中を通過し、臀部まで動く。
 足の指は、さすがに彼女にも難しかったようだった。
 だが、次に彼女がとった行動は南の予想を上回るものだった。

 スカートに溜まった泡と洗剤を口に含み、南の足の指を咥え込んだのだ。
 咥えるだけでなく、さらに舌までも絡めてきた。
 指の一本一本を舐め回し、爪と指の間を舌先で刺激してくる。
 
 その動きが終わった頃には、南の体で洗われていない部分などなかった。
 ただ、一つを除いては。
227ヤンデレ喫茶の床に、血が落ちる ◆Z.OmhTbrSo :2007/05/05(土) 04:41:00 ID:wHKFQGU5

「それじゃあ、つぎはここだよ」
 そう言った彼女の手は、さらけ出されている南の陰茎を掴んで上下になまめかしく動いているところだった。
 先ほどまでの動きで彼女の体の柔らかさを感じていた南は、男性自身をしっかりと硬くさせていた。
 その状態に加えられる恋人の絶妙な愛撫は、たちまちのうちに南の射精欲を高めていく。

「ああん……みなみくんの、にがくって、おいしいよお……
 まいにち……ほしかったのに……んむ、ひどいよ、みなみくん……」
 肉棒のすぐ近くで口を開く恋人の声が南の頭に伝わってくる。
 それだけの刺激でも射精してしまいそうになるほど、南は高ぶっていた。
「もうっ……やばい……」
 と、南が漏らした瞬間、恋人の愛撫が止まった。
 絶妙なタイミングでの寸止めだった。
 それは、付き合ってから先日まで培ってきた彼女の経験が成すものだった。
 もう一度何かの刺激を加えられたら、射精してしまいそうな位置に熱いものがある。

 物欲しそうにしている南の表情を見て取った恋人のメイドは、嬉しそうに笑った。
 それを見て南は続きをしてもらえるのかと思ったが、彼女が手に持っている物を見て驚愕の表情を浮かべた。
「お前、それって……」
「さいごはあ、そうじきでーす。
 しんぱい、ないよ。ちゃんと、すいこみぐちは、そうじしたし。
 くちのおおきさも、みなみくんのと、おなじぐらいだから」
 掃除機のスイッチが入れられた。
 ヴィーン、という規則的な音が律儀にも店内の空気を振動させる。
「ばっ、馬鹿! お前、やめろ!」
「やー、だー、よー」

 南の肉棒を包み込むかたちで掃除機のホースが入れられた。
 先に恋人が言ったとおり、ホースは勃起した南の肉棒と若干の誤差を残して適応していた。
 若干の誤差、それは南の陰茎と亀頭の大きさがホースの直径より少し大きかったということ。
 そのため、ホースが上下に動かされるたびに南の肉棒は擦れた。
「が、あ、あ、ぁぁぁ……」
 いきなりこのようなことをされたらたちまちのうちに肉棒は縮んでいくだろうが、
寸止めされた南の射精欲はまだ健在だった。
 掃除機相手に射精してたまるものか、というせめてもの抵抗が南の全てだった、が。

「んふふー、……えいっ」
 恋人が南の陰嚢を刺激してきた。
 その刺激は陰茎とは別方向からのものであり、巧みな手つきによって南の自制心を崩していく。
「うっあ! 頼む、抜い、って、くれ!」
「だーーめ。おそうじはしっかりとしなきゃ、ね」
 
 掃除機の出力が『強』になった。騒音がますます大きくなり、肉棒を強く吸引される。
 その間も陰嚢の刺激が止むことはない。
 執拗な双方向からの刺激が続くうちに、南の中にあるスイッチが強制的に入れられ、射精を迎えた。
 射精自体は興奮からではなく、痛みの拍子に起こったものかもしれないが、南にとってはどうでもよかった。
 
 掃除機に射精してしまったという事実が、南の何かを破壊した。
 ――その何かは、人としての尊厳であったかもしれない。
228ヤンデレ喫茶の床に、血が落ちる ◆Z.OmhTbrSo :2007/05/05(土) 04:44:10 ID:wHKFQGU5
・ ・ ・ ・ ・ ・

 それから数日が経ったある日。
 都内某所にある大学の構内でこんな会話が交わされていた。

「知ってる? 格闘技研究会の、あのおっきいひと――名前忘れちゃったけど、退学したんだって」
「あ、そうだったんだ。最近見ないなって思ってたけど」
「でも、何で退学しちゃったのかな?」

「これは噂なんだけどね。大学に退学届けを出したあと、箒、箒、箒って呟きながら帰っていったらしいよ」
「なにそれ? 箒のお化けでも見たのかな?」
「意外と小心者だったのかもね。人は見かけによらないってやっぱりほんとだね」

「そういえばさ、その人の妹さんも一緒に退学したらしいけど、これ本当?」
「あー、知ってる知ってる。サークルの男どもが騒いでたよ。
 うちの大学のミス・コンテスト優勝者が退学するなんて! って言いながら」
「もしかして、お兄さんについてってやめちゃってたりなんかして。
 あー、いいなー。私も頼れるお兄さんが欲しかった。聞いてよ、うちの貧弱兄貴ってばさ――――」


・ ・ ・

 ところかわり、都内某所に存在する喫茶店にて。

「野菜ジュース、1つオーダー入ったぞー」
「うふふふふ……。かしこまりました、南君」

 ヴィィィーーン

「ひいっ?!」

 ガチャン!

「うわっ! どうしたんですか南さん。あーあ、グラス割れちゃったじゃないですか」
「あ……ごめん。つい、音に反応しちゃって……」
「音? なにか変な音でもしましたか?」
「いやいや! なんでもないよ。忘れてほしいな、なんて……あは、あははははは……」


 喫茶店の床に血の跡がこびりついた日から、南はこんな調子である。
 ミキサーの音に反応してしまうほどに彼の心を穿ったものとは何なのか。
 事実を知るのは、当事者である南と彼の恋人と、店内を監視していた店長と副店長の四人だけである。
 それ以外の誰にもそのことを知られたくないと、南は思っている。
 同時に、自分の記憶からも消えてしまって欲しいと、強く思っている。



------
投下、終了です。
229名無しさん@ピンキー:2007/05/05(土) 05:38:09 ID:UqzVKsbw
よくやった。
うちに来て掃除機をファックしていいぞ!!
230名無しさん@ピンキー:2007/05/05(土) 09:36:10 ID:MArrtHeG
>>228
これはいい予想外の展開
思わず朝からニヤニヤしてしまいましたよGJ!
231名無しさん@ピンキー:2007/05/05(土) 10:05:01 ID:kov8OT2K
これはヤバイw

GJ!
232名無しさん@ピンキー:2007/05/05(土) 19:45:04 ID:B/m2+KjG
GJ!!

自分の振った話題が、ここまで膨らむとは予想出来なかった。
233ヤンデレ喫茶とは一切関係ありません:2007/05/05(土) 20:35:47 ID:B/m2+KjG
 昼下がりの喫茶店。
 緩やかに時間が過ぎていくこの場所で、空気の読めない、剣呑な空気を放つテーブルがひとつ。

「奏介くんを返して。」
 少女は来店してから一時間、同じ言葉を繰り返している。
「嫌、彼は私のモノだもの。
 誰にも渡さないわ。」
 答える言葉もこの一時間で変わることは無い。

 円が一周してもとの場所に戻るように、それは変わることはない。

 しかし、その円をひとつ繰り返す度に、少しずつ空気が張り詰めてくる。

 この均衡はしばらく保たれるだろう。
 ここに至るまでのいきさつをひとつ。


 続かない
234伊南屋 ◆WsILX6i4pM :2007/05/05(土) 21:52:20 ID:9Xb35AVL
百合絵注意
http://p.pita.st/?gmpqaafl
http://p.pita.st/?8tp4at3q

前に描いた絵でグレーテルの名前をグリムに間違えてたorz
235名無しさん@ピンキー:2007/05/05(土) 22:20:28 ID:OlCU5ecX
>>233遠慮せず続けるがよろし
>>234エロktkrGJ!
236名無しさん@ピンキー:2007/05/05(土) 23:12:00 ID:2ES4G9Lk
>>234
うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁGJ!
237名無しさん@ピンキー:2007/05/05(土) 23:40:44 ID:prXP1p17
>>228
妹ちゃんは、お兄ちゃんを奥に引きずってった後、これ幸いとそのまま監禁?
そこの描写があるととってもうれしいです
238名無しさん@ピンキー:2007/05/05(土) 23:51:23 ID:s5Km7snz
前スレでフライパン少女(彩 味香)のピンキー作ったものですが、
ようやく包丁の食玩手に入りました。
(買っても当たらないのでアキバのホビーショップで中身見て購入…orz)

あんな彼女でもまた見たいという奇特なかたが居たら続編(包丁編)書きますが…
239和菓子と洋菓子:2007/05/05(土) 23:56:07 ID:ZwzDwLr8
「・・・て、・・・きて、」
うん?なんだろうか?
「・・・起きて、・・・ねえ、起きて・・・」
全く誰だというのだろう、人の眠りを妨害するとはいい度胸だ、もう十五分ばかし寝てやろうか。
「・・・ちゃん、お兄ちゃん、起きてよ、」
お兄ちゃん?妹の理沙だろうか?いや第一、理沙は昨日の夜に自分の部屋に帰らせたのだから、
ここにいるわけがない。
「お兄ちゃん、遅刻しちゃうよ?もうすぐ八時半だよ?」
うん、八時半?ということは、急いで枕元の目覚まし時計を確認する。

こいつ、定時に鳴らなかったな!確かにセットしたはずなのだが・・・・、って、をいをい。
いきなり、OFFになっている上、セットしてある時刻が九時三十分とは、
いったいどんなことが起こったんですかね?

そんな事を考えている暇も惜しいので、てきぱきと着替えを始めつつ、理沙が持ってきてくれたトーストを食べる。
遅刻にトーストは王道ですなぁ、しかし、いかんせん喉に詰まらせることがあるのが難点だ。
実際問題としては、急いでいればどんなものを食べても同じなのだが。
割と順序良く着替え、授業の準備をすることができたので、要らぬ心配をしているのだが、
時計を見ると、出席を取り始める九時一分二十秒(当社調査)まで十分を既に切っている。

そんな状況でも、ニコニコしながら理沙は私が出発するのを待っている。
理沙は僕と一つ違いなので、同じ学校に通学しているから、遅刻するか、しないかの瀬戸際に立たされているのは
僕と同じはず。というより、何でそんなにニコニコしていられるんだ、君は?
240和菓子と洋菓子:2007/05/05(土) 23:56:44 ID:ZwzDwLr8
咀嚼するというより、丸呑みにしたという形で、なんとか朝食を食べ終えた僕は自転車にまたがる。
理沙もちょうど同じタイミングで後ろの荷台に乗ったようだ。
普通に考えれば、二人乗りはまずいことだろうが、状況が状況だ。致し方ない。
いや、それ以前に、理沙は自分の自転車はどうしたのか?って、まあいいか。

なけなしの体力を使って、閑静な住宅地を疾風のように走りぬけ、駅前の雑踏も間隙を縫うようにして突破し、再び住宅地を韋駄天のように駆け抜ける。途中で罵声を浴びたような気がしたが、馬耳東風。
理沙が振り落とされないように僕にしがみついて、さりげなくどこが密着していようとも、どこ吹く風。
さあ、急げ急げ急げ!
校舎に取り付けられた時計の針は既に八時五十八分を指している。
校門を通過した後、仕上げに大きな孤を描いてカーブし、自転車を置き場に停める。

妹の理沙はこんな切羽詰まった状況にもかかわらず、西へ東への自転車曲芸を楽しんでいたようだ。
「じゃ、理沙また後で。こっちはかなりまずいから急ぐからね。」
「また後でね、お兄ちゃん。」
彼女は教室が一階にあるからか、歩いてすらいるようだ。それに引き換え、こっちは四階だ。時計は九時三十秒前。
南無三だが、乾坤一擲、余力を残すことなく、心臓破りの階段を駆け上がった。

ガラガラという扉を開く音。
そこに先生はいなかった、などということも無く、担任の田並先生が堂々とおわっしゃった。
クラスメイトの視線がこちらと田並先生とに向けられる。
僕が教室に入ってきたのを確認すると、時計を見て、
「おい、松本、九時一分三十八秒だぞ。一分半オーバーだ。残念ながら、遅刻だな!」
クラス内は賭けに敗れてがっかりするもの、ニヤニヤしているもの、ああだこうだと雑談しているもの、様々だ。が、例によって燃料がある以上ざわざわと騒がしくなってきた。
しかしすぐに
「シャーラップ!」
という、田並先生の十八番で潮が引いていくように静かになった。
241和菓子と洋菓子:2007/05/05(土) 23:57:23 ID:ZwzDwLr8
田並先生の授業は数学なので自分は得意なので、さっさと定位置に着き、テキストとノートを出した。
さっきみたいにクラスががやがやと落ち着かないときも、隣に座っている北方さんは、
我関せず、とでもいう感じだ。
彼女から必要に感じない話題で誰かに話しかけるということもそうそう無く、それゆえ相手からも敬遠されるのは仕方ないが、ああまで感情を表に出さず、年齢不相応に自分を確立している彼女に驚きを禁じえない。

彼女について考えることは今まで無かったのだが、思ったよりも身近なところに
驚きというものは存在しているものだと感心してしまう。
おお、いかんいかん。授業が上の空になってしまったではないか。

「この問題は今の解法の応用で簡単に解ける。というわけで、松本、おまえ解け。汚名返上だ!」
な、なんだってー!
予習復習をせずに授業に望むこと幾星霜。肝心の授業を聞いてもいないのに、それを解けるわけもない。
「はい、分かりません。」
クラスが僕の即答にどっと沸く。
「とか何とか言って、解けるはずだろ?早く解いたどうだね?」
冗談だと思ったらしく、先生も半ば冗談めかして返してくる。
いかん。手も足も出ない。

すると、唐突に隣に座っていた北方さんが、ツカツカと黒板の前に歩み出て行って、サラサラと問題を解き始めた。
腰まであろうかという瀬戸黒のつややかな髪が、細長く華奢な四肢が、抜けるような肌の白さが、
自然と僕の目を引いた。
って、何なんでしょうかね、今日の僕は実にだらしない。
北方さんはごくごく当たり前のことのように、そう流れる水が如く、無駄が無い解き方をして、
チョークを置くとまた静かに自分の席に戻っていった。
おお、クールだな。
242和菓子と洋菓子:2007/05/05(土) 23:58:00 ID:ZwzDwLr8
あまりにも突然に、思いもよらぬ人が思いもよらぬ行動をしたので、皆、呆気に取られて静まり返っている。
先生が気をとりなおして、「正解です。」と、いかにもとってつけたように言うが、全員無視。
おお、助かったな。危機一髪で棚から落ちた皿を全て割らずにすんだ、そんな感じだな。
なんて、人事のように納得していると、こちらに視線をあわせてきた北方さんがクスリと笑っていた。
なんだか、別の意味で怖かったぞ。借りができた、とかそんな事を考えているような、そんな感じ。

それから空中分解しまくって、訳が分からなくなった数学の授業が終わり、午前の日課、四時間は
読んでいるラノベの内容を反芻したり、アニメ版の内容と比較するという激務に費やすとあっという間に終わった。
そうすると、昼休みだ。うちの学校は掃除がないという殊勝な環境なので、
四十分間まるまる遊んでいるなり、食事をするなりすることができるのだ。
そういえば、理沙は遅刻しなかったのだろうか?まあ、何とかなっているだろうが。

帰ったら何をするものか、などと寝そべりながら考えていると、
隣の北方さんが机の上板をトントンと軽く叩いた。
「松本君、お昼、暇かしら?」
「まあ、見ての通り手持ち無沙汰ですが。」
いやはや、彼女としては普通に話しているのだろうが、なんだか気迫に押されているぞ、俺。
「・・・そう、それなら私とお昼食べない?もちろん、無理強いはしないわ。」
言葉は遠慮している内容であるが、能面とでもいうべき無表情が有無を言わせない気迫を醸し出している。
「ではご相伴させてもらいましょう。」
あれ、何で敬語?声は裏返らなかったが。

四限目が終わってからも教室でのろのろとしていたせいで、学食へ向かう人の波に乗り遅れたので、
席は十中八九取れないということが想像できたので、屋上で風に吹かれながら昼食を食べることにした。
とは言ったものの、食費すらゲームやラノベに使い込んで、エンゲル係数が大暴走している僕は断食することにした。
学食で何も買わずに屋上に上っていったので、北方さんはこちらを少し怪訝そうな顔で見ていたが、気にしない。
243和菓子と洋菓子:2007/05/05(土) 23:58:38 ID:ZwzDwLr8
屋上は本来、開放禁止になっているのだが、鍵がかけられていないので拘束力はないに等しい。
屋上の扉を開くと、柔らかな風を頬に感じた。
こんなに心地よいにもかかわらず、今日は先客はいないようでした。
いやはや、眺めの良い屋上でこうやって風に吹かれながら、というのもなかなか風流なものだ。
用意周到な北方さんはビニールシートを鞄から取り出し、手際よく広げそこに慎ましやかに座り、
僕にも座るように促してきた。
屋上から何を考えるでもなく、新緑を眺めていると、僕の目の前で北方さんはサンドイッチとサラダを広げだした。

クスクスと笑いながら、
「食べるものがないなら、これを一緒に食べましょう。」
と言って、割り箸を渡してきた。
月の半ば位から、昼食に食べるものが無いのが当たり前なこちらとしては、何よりありがたいものだ。
そして何よりもサンドイッチは僕の大好物なんですよ、これが。
「おお、ありがたやありがたや。」
「ふふ、金欠なのは分かるけど、ほどほどにしないと体調を崩すわよ。」
さっき機嫌を損ねたかと気になったけれども、そうでないようで少し安心した。

サンドイッチに舌鼓を打つ。
このサンドイッチの味付けはなかなか大したもので、買った出来合いのものとは一味違った。
実際、北方さんは学食でこのサンドイッチを買ったわけではないから、彼女の家の誰かが作ったのだろう。
「このサンドイッチ、誰が作ったの?北方さん?」
「ええ、それは私が作ったわ。味に自信はないのだけれど、どうだったかしら?」
「とてもおいしくできたと思うよ。」
すると、昨日彼女の家で見たような自然で嬉しそうな表情をしていた。
244和菓子と洋菓子:2007/05/05(土) 23:59:16 ID:ZwzDwLr8
そんな感じで楽しく雑談しながら昼食を取っていたのだが、数分後―。
「あれ、お兄ちゃんこんなところでどうしたの?」
「理沙、理沙こそ屋上に何か用でも?」
「うん、食堂が人で一杯だったから、屋上で食べようと思って。」
「なるほど、この時期の屋上は風が心地よいから、いい選択だな。」
「そうだね。お兄ちゃんこそどうしたの?私はお兄ちゃんと一緒に食べられるからうれしいんだけどね。」
「え、まあ・・・」
さすがに、飯の代金を使ってしまい何も食べられなくて、彼女に恵んでもらっている、とは言えないだろう。

ふと、横を見ると北方さんの表情は先程までのにこやかなそれとは、一変しており、いつものポーカーフェイスだった。
しかし、それにはわずかながら険があるように感じられた。
僕は何故、表情が激変したのか理解できずにいる。
理沙のほうも心なしか、表情を曇らせている。北方さんを意識しているのだろうか。
面識が無いはずの二人だから、まあ意識するのは当たり前なのだろうが、
そういった意識する、とは違ったより不穏な空気であるともとれなくはない。
まあ考えすぎか。
「お兄ちゃん、お兄ちゃんと一緒に居る人は何?」
理沙の声から温かみが感じられない。僕が誰か他の女の子といることを快く思っていないのだろう。
僕がどうしたものかと対応に困っていると、北方さんは理沙に向き直り、淡々と自己紹介を理沙にし始めた。

北方さんが自己紹介を終わらせると、理沙はふてくされたような声で口を開いた。
「ふーん、なるほど、北方先輩はお兄ちゃんのクラスメイトなんだ。
でも、普通のクラスメイトなら、それだけの理由で相手が異性なのに一緒に食事をするかな?」
「別にいいじゃないかしら?松本君、今日は昼食の準備してきてなかったみたいだし、私、小食だから彼に分けてあげてた、ただそれだけだわ。」
それとも迷惑だったかしら?と静かにこちらに切れ長な目を向ける。
「え、あ、まあ、そりゃ助かったよ。」
「どういたしまして。」
するとすぐに表情を崩し、ニコリと微笑みかけてきた。
が、それが気に障ったらしく、横でそれを見ていた理沙は舌打ちをはばからずにした。
245和菓子と洋菓子:2007/05/06(日) 00:00:28 ID:ZwzDwLr8
「お兄ちゃん。お金がないなら私に言ってよね。」
半ばふてくされた感じでそう言い出した。
「もし、そうしてくれれば、お兄ちゃんの分の昼食も作ってあげるからね。」
「私はね、お兄ちゃんのためなら努力は惜しまないよ。」
今度はどんなことを言い出すか、と身構えていたので、かえって拍子抜けしてしまった。
「あ、ああどうもありがとう。」
「お兄ちゃん、私、少し感情的になりすぎてたみたい。ごめんなさい。
北方先輩もお兄ちゃんに良かれと思ってしてくれたはずなのに、それを無にするようなことをしてごめんなさい。
私のことを許してくれる、北方先輩?」
北方さんは無言のまま、険のある目で理沙をみていたが、
その理沙はすぐに昼食を取らずに階段を降りていってしまった。

今日の昼食は成功だった、一部を除けばの話ではあるが。
というのも、私が作ってきたサンドイッチとサラダをあんなにもおいしそうに彼が食べてくれたから。
昨日の事であまり和食が好きではないのか、と思ったので私自身作ったことがないものだけれども、
サンドイッチを作ってみた。本来、私は薄味が好みなのだけれど、
彼の口に合うように少し調味料の量を多めにしてみた。
私は松本君はよほどおなかが空いていたのか、サンドイッチを受け取るとすぐに食べだした。
そんな彼の子供らしい所も私は好きだ。そんな無邪気な仕草や表情全てが私を和ませる。
反応が気になった私は松本君に気づかれないようにチラチラと視線を向けていたのだが、
彼は静かに黙々と食べ続けていた。
もしかしたら、慣れないことをして帰って不味いものを作ってしまったかもしれないという疑問がよぎった。
もしそうだとすれば、私は愚かなミスを二回も連続で繰り返すことになる。

『とてもおいしくできたと思うよ。』

その一言を聞けたときはそれが夢か何かのように感じられた。でも、それが夢であろうはずも無く、
現実のものとして半永久的に続くかのように喜びを噛み締めていた。
246和菓子と洋菓子:2007/05/06(日) 00:01:16 ID:V1BKRB24
彼はこの時期になると趣味にお金を使いすぎて食事に手が回らなくなる。
それは既に調査済みだったので、当然彼に昼食を食べさせないで、空腹に飢えさせるなんてするはずがない。
これからもあなただけの為にお弁当を作ってあげたい。
私以外の食事は彼にとっても私にとっても信用できないものだから。
そうよね、松本君?
だから、普通の出来合いの食事ならまだしも、あんな子の作る汚染しかなさないゴミなんかを
摂らせるわけにはいかない。
いずれ彼の食生活についても探りを入れなければならないだろう。

それにしてもあの子、理沙と名乗った害毒。
私が松本君と楽しく食事しているにもかかわらず、無礼にもいきなり割り込んできて、
空気を乱すだけ乱していって、さっさと去っていく。
しかも狡猾にも形だけ謝って自分が折れてあげた、みたいな形にしてしまった。

悪いことをしたものはそれなりの罰を受けるのが当たり前なのに、それすらも臆面も無く逃れようとする。
なんという子だろう。さすがは厚顔無恥なパラサイトだ、というところかしら。
害毒がどうして普通に生活していけるのか、と奇怪に感じるが、これがいわゆる憎まれっ子世にはばかる、だろうか。

昨日の彼の痛々しいまでの話を聞いて、私が予想したレベルをはるかに上回るものであった。
あんな子が近くにいれば、松本君の苦痛は尋常じゃないだろう。
昨日も夜寝るときですら、松本君がどんな思いで針のむしろにいるだろうか、と気が気ではなかった。
それにしても、かわいそうなのは松本君。
でも、大丈夫。私の傍にいるときは、私はあなたにとってのオアシスになるのだから。
乾いた心を潤し、病や穢れを取り払う禊(みそぎ)のためのオアシスの水―。
彼が今まで私のオアシスだった、だから私も彼にとってのオアシスとなる、なんとすばらしいのだろう。
もっと彼に接近し病状を把握することが火急となる。
247和菓子と洋菓子:2007/05/06(日) 00:02:01 ID:ZwzDwLr8
「松本君?」
「北方さん、本当にうちの妹が失礼しました。もしかして、機嫌を悪くした?」
「大丈夫よ。さして気にしていないから。」
自分が悪いわけでもないのに、愚かな害毒のために謝って、それどころか、
こんな私の心配までしてくれるなんて、本当に松本君は優しい人、それだけで私は目頭が熱くなってきた。
しかし、このタイミングで泣いてしまっては松本君の優しさを無にしてしまうので、本題に入った。
「連続で悪いけれども、今日も放課後に私の家に来てくれないかしら?」
「あ、はい。」
「承諾してくれてうれしいわ。今日は茶菓子は洋菓子にしておくわね。」
「わざわざどうも。」
せっかく松本君に私の家に来ていただくのだから、喜んでもらいたい。
下調べが十分ではなかったから、害毒の友人に聞き込ませて、午前中に調べをつけておいた。
あの害毒を伝って流れてきた情報を使って、彼をもてなすことは非常に不本意な事だけれども仕方ない。
松本君にとって、が一番なのであって、私がどう感じるか、はそれと比べられるものではないのだから。

248名無しさん@ピンキー:2007/05/06(日) 00:04:03 ID:V1BKRB24
黄金週間に仕事があってなかなか投下できませんでしたが、第三話です。
文章を書くのって難しいですね。
読んでいただければ幸いです。
249名無しさん@ピンキー:2007/05/06(日) 00:30:34 ID:s43fBmBF
>>248
GJ!
250名無しさん@ピンキー:2007/05/06(日) 01:35:16 ID:/UWQrl+n
>>238
安心しろ。このスレをのぞいている奴らは全員が変り種ばかりだ。気にせず投下したまえ。

>>248
クールな同級生といっしょに食べるサンドイッチはきっとおいしいんだろうな。
俺なんかこの連休中ずっとラーメンばかりだってのに……松本君がうらやましいぜ!
251名無しさん@ピンキー:2007/05/06(日) 01:48:05 ID:7Ksu412+
ヤンデレって精神が病ってるのだけ?
前、四肢がないおにゃのこの面倒みる(OR 遊ぶ)てアンソロが
あったと聞いて気になたのですが。

四肢なし、かつお嬢様OR女王様タイプにグリングりんひかれるんですが
いかが。
252名無しさん@ピンキー:2007/05/06(日) 02:22:33 ID:oQSwmyE2
>>251もしかして修羅場スレのSS「うじひめっ!」では?
暇と興味があるなら、修羅場スレのまとめサイトから探してみるのも一興。
253名無しさん@ピンキー:2007/05/06(日) 03:16:11 ID:7Ksu412+
ありがとごぜえますだ252の方。
なんかよさげですね。いやマジでありがとうございます。

ついでなんであといくつか気になたネタ思いついたネタ書いてみまふ。

ちょこちょこ見たのが、未来な舞台設定で人間を美食として食べちゃおうぜ
そのための牧場作ろうぜなお話。藤子Fフジオの短編とか、
家畜人ヤプーとか、今日本屋行ったらそんな本があって、
確かに興味深い設定だなあとおもたり。
本心から「どうぞお食べください(ハアト)」なこと言ってたら
ある意味ヤンかも。萌えるかは知らんけんど。
食っても食っても再生するんならコメディーで、
その場限りの消耗品として食われて終わるんならディープな話になるか。
考えてみたら食卓にはたくさんたくさん死体が並んでるんだにゃあ・・・。
254 ◆WBRXcNtpf. :2007/05/06(日) 03:32:42 ID:srHqALGf
>>250
安心しろ。
俺なんて前半ポカリと水だけ
現在入院して点滴だけだぜ。体重4k落ちたしな。
255名無しさん@ピンキー:2007/05/06(日) 03:36:15 ID:7Ksu412+
あと、壊れた部分と正常な部分がまだら模様に混在してるのが
かなり怖い。

すごいまともで明るい、美人な人の服脱がせたら常軌を逸した傷が
あるとかね。
「ちょっと驚かせちゃった?ごめんねー、ストレスでエスカレート
しちゃってさあ。
やっぱ無理がたまっちゃうんだわー、どうしても。」

「今は便利だよー、おくすり一発でハッピーで愉快になれるんだ。
医学っていいもんだね。」

「あんなに一生懸命アプローチしてきたんだからさあ、逃げたりなんか、
しないよね?
やっぱりあたしだって寂しいからさあ、あなたはあたしに
付き合ってくれるよね?」
そんなこと言って両手で頬を挟んできてにっこり笑われた日には
あばばばばなんですがどうっすか?
256名無しさん@ピンキー:2007/05/06(日) 04:02:55 ID:JvMYnfQp
>>255
そして家に帰ったら出迎えた妹に感づかれて、翌日目覚めたらベッドに拘束されたうえなんか朦朧として動けないわけだ。

「すぐわかった。
 あたし以外の血のにおいがした。雌豚の、腐った悪血のにおい」

「薬? それがどうしたの? そんなのあたしも持ってるんだから。
 いつもいつも、自分を抑えきれなくなったり、
 思ってることを言えなくてつらかったり悲しかったりしちゃったり、
 兄貴にちょっかい出してきた他の女の子を殺したいほど憎くなったり、
 そういうときに使うの」

「でもこういう使い方もあるんだね。
 もっとはやくこうすればよかった……なんで今までためらってたんだろ?
 うっ、うひひ、はははっ、あははははははははははははははははははは」
257名無しさん@ピンキー:2007/05/06(日) 04:03:18 ID:7Ksu412+
逆に、
タバコやらアルコールやら薬物ガンガンに摂取して、
ご飯たべないから骨に脂肪貼っつけたみたいになって、
でも目と髪だけはしっかりしてるのとか。
トロンとした表情の奥で鋭くこっちを見ている。
頬杖をつきつつ、気だるそうにコーヒーを混ぜながらも
こっちの顔から視線を外さない。

「あんたが何であたしにちょっかいだすのかが、
よく分かんないんだよねえ・・・。
トリガラな体が趣味とか?ビョーキなのが好みとか?」

「いや、いーけどさ・・・。あたし、飽きんの速えぜ?
鬱陶しくなったら容赦なく切るし。
あー、でもそっか、何回か食ってみるだけ、ってのなら
お互いちょうどいいかもね。」

「いやあ、別に否定はしないよ。蓼食う虫も好き好き、だっけか」
「虫って言うな」
「虫だよ。蓼食べんのは虫だ。」

みたいなの。
258名無しさん@ピンキー:2007/05/06(日) 04:33:17 ID:7Ksu412+
>>256
個人的にはそこで彼女がヘルプにやってきた→取り押さえて
「この子さあ、いらなくない?」

「甘やかすから勘違いするんだよー。いけないよ、変に希望もたせたら。」

「いい?あれ(主人公)はあたしの。あんた(妹)はどうあがいたって
手に入れられないの。絶対に。絶対に。何しても、無駄、なの。」
「−−−ちがうもんっ兄貴はずっと前からあたしのだもんっ
これからもずっと」
ガッッ、と摑んだ頭をフローリングの床にたたきつけて耳をつまんだ。
「あってもなくても一緒みたいだね、これ。とっちゃおっか。
それとも頭の方に問題があるのかな?あっははあ、大変だあ。
頭も顔も体もなにもかも不細工なんじゃあ、いいことなんて
ひとっつもないねー。
死んどいたら?」

→KOされた妹を置いといてとりあえず外へ

みたいなのが。
そうか、妹ですか。その発想は自分になかたですわ。
興がのってきたんでちょと続けてみます。
ぶつぎりな上完結もへったくれもなさそなルール違反とは
存じておりますが、ちょっとやらせて。
259名無しさん@ピンキー:2007/05/06(日) 05:02:19 ID:7Ksu412+
>>258の続き。
彼女はごっつ腕力あるということで。

「あれだね、なんか。」
「なにがですか」
「他人に暴力ふるうのは、案外楽しいね。」
そっちですか。
「あとね、タメ口でいいよ。」「ああ、・・・はい。」
「タメ口がいいな。」「ああ、ええと、じゃあ、分かr・・・・・・った。」
「ありがと。」
電灯の薄明かりのなか、川沿いをゆっくり歩いた。
月も出ていて、そんななかを恋人と並んで歩くというのは
割とロマンチックだった。
同時に、自分の家族に血を見させた人と並んで歩いているので
かなり怖かった。
「悪かったね。その、妹さんに、怪我させて。」
「・・・まあ、そうでs---だね。」
危ねえ、敬語つかいそになった。
「もう、しな・・・・・するなよ?」
「うーん・・・」
ふ、と歩みを止めた。
「・・・何だよ。」
「それなんだけどさあ・・・。
あの子、次あんたとあったら、かなり馬鹿なことすると思うんだ。
「あいつとあたしと、どっちとるの!」みたいなこと喚いて。」
「そう・・・かな。」
「まず間違いなくね。」
260名無しさん@ピンキー:2007/05/06(日) 05:17:53 ID:7Ksu412+
「だから、あたしが先に聞いとくわ。
---------どっち取るの?」
今気づいた。僕の後ろって川だ。
・・・付き合いだした初日からこれですか。
「・・・妹には悪いけど、まあ、・・・」
「・・・そっか。」
あれ。なんで笑うなりなんなりしないんだ?
「・・・やっぱり、妹には悪い、って思うんだね・・・。」
「・・・・・・・・・」
一転して、にかっ、と笑った。
「まあ義理堅いのは好きだ。よしとしよう。」

「で、さ。さっきも言った通り、あたしは目覚めちゃったわけで。
それには相手がいるわけで。」
「・・・・・・えーっと・・・・・・」
にっこりと、笑われた。
なんか、選択権はないらしい。
261名無しさん@ピンキー:2007/05/06(日) 14:02:21 ID:LpBIOaw7
>>254ちょwwwひょっとして飲みすぎか?w
>>260そーいえばヤンデレをヤンキーのデレと誤解される事が多々あるが
それに近いものを感じるな
ただこの設定はちゃんとしたSSに出来れば立派なヤンデレとして萌えられるような希ガス
262名無しさん@ピンキー:2007/05/06(日) 23:30:15 ID:JvMYnfQp
>>260
続きを書いてみる

「じゃ、あの子にきっちり引導渡さないとね。あたしが」
「……今からか?」
「今以外無いでしょ……だいいち、あんた家帰るのにどうすんの」
そういえば忘れてたけど、たしかにこのまま帰ったらまた監禁されるだろう。
というか忘れてたのは眼前にある死の気配のせいなんだが。
「ふん、さ、行くわよ」
彼女はそう言って、上機嫌に腕を振り上げ歩き出した。
ところで、彼女がさっき妙にぎらつく何かをポケットに隠したのが見えたんだ。あらためて、背後の川の流れが意識された。失血しながら水底に沈むのは、きっと寒かろう。
鼻歌でも歌っていそうな背中について歩く途中で、救急車とすれ違った。けたたましいサイレンと、鮮やかな赤い光が、本当にうれしそうな彼女の横顔を演出する。
俺を運んでくれ。
263名無しさん@ピンキー:2007/05/06(日) 23:48:26 ID:JvMYnfQp
家にたどり着いたら、開けっ放しの玄関と、その前にできていた人だかりが俺達を出迎えた。
人だかりのほとんどは見も知らぬ野次馬だったが、何人かは知っている顔があった。
そのうちの一人である近所のおばさんが、俺を見つけるや駆け寄ってきて、
何事か説明しようとしたけれど、すっかり動転してしまっていて要領を得ない。
応対をしている間に、腹の中から焦りが浮かび上がってきた。
家には妹しかいなかったはずだ。
開けっ放しの玄関、妹はここにいない。
すれちがった救急車。
ついさっき、家を出たときの妹はどんな様子だった?

「なんかたいへんねえ」
まったくどうでもよさそうな彼女の声が、遠くから響く。
焦りがいらつきにかわる……

いらだちのままに、振り向いて怒鳴りつけようとしたところで、誰かに肩をつかまれた。
反射的に振り払う――と、次の瞬間にはなぜか地面に引き倒されていた。
なんだこれ、柔道か?
ただでさえ薬の影響がまだ残っていて、体は思うように動かないのだけど、
いよいよ本格的に動かせない。動くのは首だけだ。
頭上からじっとりとした声が降ってくる。
「お兄さんだね。ちょっと署まで来てもらえないかな。
 君に訊きたいことがあってね」
264263:2007/05/07(月) 00:21:22 ID:2ypMhyqd
ここまで
265名無しさん@ピンキー:2007/05/07(月) 03:35:23 ID:fPsBJ6lz
ヤンデレをつい最近まで
「ヤンキー女がショタっ子相手にデレデレする」
と勘違いしてた
266名無しさん@ピンキー:2007/05/07(月) 04:26:41 ID:B2q6YLb/
ショタの意味が分からん
267名無しさん@ピンキー:2007/05/07(月) 14:13:03 ID:C0lzdI6j
なんで微妙に細かいんだよw
268名無しさん@ピンキー:2007/05/07(月) 15:42:23 ID:fPsBJ6lz
>>266
えっ? ほら、ヤンキー女がショタ相手に
「可愛い顔してるのに、必死に勃起させて、馬鹿みたい///」
とか萌えるじゃん
269名無しさん@ピンキー:2007/05/07(月) 16:18:42 ID:UOCLHOoX
気持ちは痛いほどよく分かるがそれはおかしい
270名無しさん@ピンキー:2007/05/07(月) 16:37:03 ID:SOE7mY/J
>>268
ヤンキー女ほどの高攻撃力ならスペック高めの男子に
絡ませたほうが面白い。
271名無しさん@ピンキー:2007/05/07(月) 17:12:19 ID:Ym4gvKpd
保管庫更新が来たァ! 管理人様、超乙!
272上書き ◆kNPkZ2h.ro :2007/05/08(火) 00:16:08 ID:l1rWfINJ
久しぶりです。「上書き」投下します。若干長いです。
273上書き ◆kNPkZ2h.ro :2007/05/08(火) 00:17:09 ID:l1rWfINJ
「眼鏡……?」
 困惑した俺の口から漏れたのは、何とも間の抜けた言葉だった。
 目の前で自分の眼鏡を情け容赦なく踏みつけてみせた島村を前に、俺は驚きを隠すこと
ができなかった。島村の足元に目をやると、踏み潰された眼鏡は最早原型を留めておらず
様々な部分が拉げた状態で地面に横たわっていた。
 その無残な最期を尻目に、俺は再び島村に目をやる。艶かしく濡れた瞳が俺のことだけ
を真っ直ぐ見つめてくる。決して大きくない眼を無理矢理開かせている様を見ていると、
まるでその眼球の中に自分が束縛されているような錯覚に陥りそうになる。きっとそんな
ことを考えてしまうのは、女子トイレから出てきたことを脅迫文句にして結構な仕打ちを
受けてきたという肉体の本能的察知と、島村が俺のことを好きだという事実――そして、
島村がたった今発した言葉が原因なんだと思う。
 俺は今とてつもなく不吉な想像をしている。俺が島村に”想いを捨てろ”という要求を
突きつけた後から、島村の様子は若干おかしくなっていた。行き所を失った視線を泳がせ
ながら、大切な玩具を取り上げられた子供のような絶望感漂う表情で、主人に捨てられた
子犬を思わせる震えた声で俺に必死に縋りつこうとしていた。
 そして俺が完全な拒絶を示した後の突然の奇行と言動――それらが示す答えは一つだ。

 ――島村は俺のことを諦めていない。

 もし、島村が俺の”好意を持つなら友達としても付き合わない”という言葉の対象を、
『島村由紀』という人物一人だという風に考え、そこから脱却すれば俺からの愛を受ける
資格を得られると勘違いしてしまっているとしたら俺は最悪のミスを犯したことになる。
 こんな常識では考えられないことを可能性として思いつくことができるのは、俺自身が
島村に翻弄されて狂っていった加奈と触れ合ったからだ。島村が加奈を『上書き』以外で
初めて狂気へと至らしめたからだ。つまり単純に物事をより受け入れやすくなったのだ。
 奇しくも俺はそのことによって加奈との愛を再確認し見直す機会を得られた。だから、
島村の想いを拒絶したのだ。加奈が一番だということを教えてくれた島村に感謝し、これ
以上傷付けない為の最良の道を選んだはずだ。
 しかし、結果的に島村は今虚ろな目で気持ち悪いくらいの笑顔を浮かべている。これは
完全に俺の誤算だった。俺は、島村の想いのほどを軽視していた。俺の加奈への愛がどれ
ほど大きいのか伝えれば諦めてくれると思っていた。普通他の人のことを絶対的に好きで
いる人間を好きでいられる人間なんていないと高を括っていた。
 島村はこの恋愛が『略奪愛』だと言っていたじゃないか。それは、たとえどんなに意中
の人間が他の者を好いていようとも奪ってみせるという絶対揺らぐことのない決意の表れ
ではないか。そこまでわかっていたなら、島村がどんな手を使おうとも俺を手に入れよう
とするなんてことは容易に想像できたはずだ。その手段が、”意中の相手が好きな相手に
なる”という単純且つ純真なものであったとしてもだ。
「用事が増えましたので今日は帰りますね、誠人くん」
 固定した視線をそのまま、島村はそう言い残すと俺たちに近付いてくる。
「帰るって、これから授業が……」
「取るに足らないことです」
 俺の言葉を遮り、島村は俺の横を通り過ぎると同時に視線を前に向けた。島村の足音が
俺の耳に鎖の金属音のように不気味に響き渡る中、俺は必死に何か言葉を紡ごうとした。
ここで何か言わなくては取り返しのつかないことになるという根拠のない想像が、脳裏を
過ぎったのだ。
 だが、俺は言葉を発することはおろか、振り向くことすらできなかった。冷汗が体中を
濡らし、足が地面に貼りついたように動いてくれない。最早自分の意志の範疇を超えた、
本能レベルの危険察知に俺はただ怖気づいていた。振り向いた時、島村は一体どんな表情
をしているのか、知るのが怖かった。
 俺が振り向くことは加奈を裏切ることに繋がるんだと自己正当化の論理を組み立ててる
最中、後ろから声が聞こえた。
「これから少しだけいなくなりますが、どうか寂しがらないで下さいね?」
 言い聞かせるような柔らかい声が耳に入る。その声を聞いて、俺ははっきりと震えた。
 島村の言葉の真意はわからなかったが、何か起こることは明白で、その”何か”に俺は
かつてない恐怖を感じていた。こんな時になっても何も言えない臆病な自分を心中で罵り
つつ足音が完全に消えるのを確認する。
 ――そして体育館裏に再び静寂が訪れた。
274上書き ◆kNPkZ2h.ro :2007/05/08(火) 00:18:33 ID:l1rWfINJ
 島村が立ち去ったことがはっきりわかった後でも俺は指先一つ動かせなかった。体が俺
の意志を無視して膠着を守っている。きっと金縛りとはこんな感覚のことだろうと思う。
自分の安全が表面上は約束されているはずなのに、”見えない何か”によってその自由が
理不尽に奪われている状態。それは非常に居心地が悪い。すぐ近くに見えるはずの景色に
いつまで経っても届かない時のような歯痒い気分と、可能なはずのことができない孤独に
似た恐怖が俺の背筋を擽った。
「誠人くん……?」
 加奈の心配そうな声で俺はようやく我に帰る。結構長い時間立ち尽くしていたようだ。
 さっきまで自分がいかに情けない表情で不安に息を荒げていたのか考えるとかなり恥ず
かしくなったのだ、俺は慌てて加奈へと目線を向け笑顔を取繕う。どんなことよりもまず
最優先にしなければならないのは、”加奈が笑顔でいる”ということだ。俺はこんな不安
な表情を加奈にさせたいと思うほど加虐的な趣味は持ち合わせていない。
 大体俺は島村を傷付けてまで加奈との幸せを選んだのというに、加奈までが暗雲を垂れ
込ましているのでは今までの決意が全て無意味なものになってしまう。島村の動向は気に
なるが、今すべきことは決まっている。
「大丈夫だ」
 俺は加奈の小さな肩を抱き寄せながら言う。それは加奈へだけではなく、自分自身にも
言い聞かせる為の言葉だ。
 島村はこれから十中八九何か仕掛けてくる。絶対だと思っていいだろう。それは確実に
俺と加奈にとってプラスなことではないことは明白。もしかしたら今までよりはっきりと
した形で俺たちの関係を壊しに掛かってくるかもしれない。そうなったら、歯止めをした
加奈には何もできない。俺がしなければならない。
 そこでようやく俺はもう一つミスをしてしまったことに気付いた。
 さっき島村がまだ俺のことを諦めないというニュアンスを含ませた発言をした時、俺は
どうしてその時点で島村を強く拒絶しなかったのだろうか? 島村が俺たちの関係を壊す
と宣言したも同じだと理解しておきながら、何故はっきりと「お前との関係は終わり」と
言うことができなかったのだろうか? 答えはわかりきっている。
 単純に、押しが弱かっただけのことだ。
 正直なところ俺は誰も傷付けたくなかった。それは相手を思い遣っているからだという
のが半分と、俺が罪悪感から逃げたいからという自分本位な勝手な欲望が半分だ。何とか
後者の感情を振り払ってまで俺は島村に胸中を告げたつもりでいたが、振り払ってなんか
いなかった。そんな風に思っていたのは俺の自己満足でしかなかった。
 結局俺は半端な想いが相手を傷付けることを知っておきながら自分の精神の保守を優先
してしまったのではないだろうか?
「大丈夫だから……」
 俺は下降気味になっていた思考に軌道修正を図る。こんな後の祭り的なこと考えること
には寸分の意味もない。過去の失敗は取り返すことができない。俺がどういった心持ちで
島村への対応をしたのか今ではもうわからないが、そんなことは関係ない。
 重要なのは、島村にまだ期待を持たせてしまっているという結果だ。
 島村がまだ俺のことを諦めていない、しかももしかしたら島村自身がやってはいけない
選択をしようとしているという事態は防がなければならない。島村が何をしたとしても、
俺が島村を異性として好きになることはありえない。だから、島村がいかなる努力をした
としてもその先に待ち受ける未来は『失恋』しかありえない。そのことよって傷付く程度
をこれ以上肥大化させない為に俺はこの道を選んだ。それは正しい選択だ。
 そして、俺の独り善がりで曲げていいものじゃない。
「チャイム、鳴ったな……。行こうか、加奈」
 始業を告げる鐘の音が校内に響き渡る。加奈にそう告げると、加奈は笑ってくれた。
 俺も、偽りの笑顔で場を丸く収めつつ、体育館裏を後にする。大丈夫と何度も何度も、
言い聞かせながら。



 その後、島村はしばらく学校に姿を現さなかった。
 前の席にいつもいたはずの奴がいないのは妙に違和感あることで、俺は全く授業に集中
できなかった。日常とは違う光景に気持ち悪い新鮮感を覚えたというのもあるが、やはり
その一番の原因は俺がまだ島村との関係を決別していないところにあると思う。勘違いを
続けている島村が俺の見えないところで何をしているのか、不安にならないはずがない。
 俺は早く決着をつける為に島村が学校に来てくれることを願い続けた。

 そしてあの日から二週間後、島村由紀はやってきた。
275上書き ◆kNPkZ2h.ro :2007/05/08(火) 00:19:56 ID:l1rWfINJ
「すみません、遅れました」
 ”そいつ”は前触れもなしに突然やって来た。日本史の授業中に俺が睡眠魔法にやられ
かけ意識を手放そうとしていた時、控え目な声を発しつつ勢いよく教室のドアを開けた。
 ドアの開く音にその声はかき消され気味だったが、俺には一体誰が入ってきたのか一発
でわかった。やっと会えると思い、俺は意気揚々と視線を声のした方向に向けた。
 その瞬間、絶句したのは俺だけではなかった。
 会話で騒がしく最早授業と言えるような空気ではなかった教室内が一瞬で静まった。俺
を含めた誰もが”そいつ”にそれぞれの思惑を乗せた視線を送っている。それは俺たちに
催眠術をかけていた日本史教師も例外ではなく、今にも壊れそうなボロい眼鏡をしきりに
動かしながら、”そいつ”のことを凝視している。
「失礼ですが、君はどこの生徒ですか?」
 教師は言葉の通り失礼極まりないことを”そいつ”に尋ねた。だが、誰も教師のことを
咎めることはしないし、することもできないだろう。だって、それは教室内の生徒全員が
抱いている疑問だと思うから。
 ”そいつ”は別段驚いた素振りを見せることもなく、視聴者に無料スマイルをばら撒く
アイドルのように不敵な笑みを浮かべながら答えた。
「一年B組18番、島村由紀です」
 その言葉に誰もが驚いた。静寂を保っていたはずの教室は瞬間騒然となる。こっそりと
話そうという配慮もなくお構いなしに近くにいる騒ぎ合っている、俺を除いて。
 当然だと思う。これは俺の想像だが、クラスメートが持っていた『島村由紀』に対する
イメージは、”眼鏡を掛けた沈黙キャラ”くらいのものだ。近くにいて愉快に思うことは
ないし、不快に思うこともない。どこのクラスにでも一人はいる、おまけ的存在。
 それが今自ら『島村由紀』だと名乗った目の前の女はどうだ。
 特徴的な大きな眼鏡は跡形もなく消え、若干ミステリアスな雰囲気を醸し出していたと
思う長い前髪も適度な長さに切り揃えられている。顔もちゃんと化粧が施されている。
 そして何より俺が恐怖を感じたのは――腰まで垂れ下がっている黒い長髪と、明らかに
小さくなった胸だ。
 二週間前に俺が見た島村の髪は肩に掛かるか否か程度の短髪だった。それがこの短期間
でこんなに長くなるなんて絶対にあり得ない。それに胸だってそうだ。別に意識して島村
の胸を見ていた訳ではないが、その変化は簡単に察知できる。人並、というかそれ以上は
あったと思われた胸が貧乳と言ってしまっていいほどの大きさになっている。ギャグでも
冗談でもなく、本当にそうなっている。島村が今までブラジャーにパットでも入れていた
ならそれを抜いただけと解釈していいのだが、突然取る理由もないし、それについ前まで
化粧を全くしていなかったような女が見栄を張って胸を大きく見せたいと思うともとても
考えられない。髪の方は付け毛なんだろうけど、胸は一体どういうことだ?
 俺が思考の旅に彷徨っている最中、島村は悠々と自分の席――俺の席の前まで向かって
くる。歩いている時に周りのクラスメートが次々と島村に声を掛けているのが聞こえる。
 その主な内容は「可愛い」や「綺麗」のような褒め称える言葉ばかり。男女問わず変化
を遂げた隠れていた美女に熱い視線を送っている。確かに島村は一般的視点から見れば、
かなり可愛くなったのだろう。俺も思っているから。
 だが、皆外面的な変化ばかりに囚われて重要なことを一つ見落としている。そのことに
気付いているのは多分俺だけだろう。だって、”どちら”とも関連を持っているのはどこ
を探しても俺以外いないからだ。
「またよろしくお願いしますね、誠人くん」
 いつの間にか着席していた島村が俺の方に振り向きながら笑顔を携えて言った。それは
俺からすれば悪魔の微笑にしか見えなかった。

 何故なら――『島村』の容姿は、限りなく『加奈』に酷似していたから。

 授業中、教師の説明を無視した生徒のほとんどが島村に質問攻めを浴びせていている中
で、俺は一人で考え事をしていた。
 俺は何を間違えたのか、俺は何をするべきだったのか、俺はこれから何をするべきなの
か……。目の前で揺れる長い黒髪に動揺しつつも必死に考えた。
 そして導き出した結論は、”わからないことが多過ぎる”、だった。
 島村の胸中も何もかもがわからない。ならば今すべきことは一つだ。
 俺は授業終了と同時に他の生徒に先駆け、島村に声を掛けた。
「”あそこ”に来てくれ……」
 島村は一瞬光った視線を向けた後、黙って頷いた。
276上書き ◆kNPkZ2h.ro :2007/05/08(火) 00:20:59 ID:l1rWfINJ
 俺が向かった場所は説明する必要もないだろうが、あの体育館裏だ。
 別に意識して向かった訳ではない。ただ、島村関連となると体が勝手にその方角目指し
突き進んでしまうようになっているだけだ。芸がないとかワンパターンだとか言われても
文句の『も』の字も出ないし、出そうとも思わない。それはほぼ形式化してしまったこと
なんだろう。それに、やはり全ての原点から反省したいから。
「誠人くんも随分ここがお好きなようで。それで、私に用ですか?」
 それがあるから呼び出した、という当たり前の言葉を飲み込んで、俺は授業中に思考に
靄をかけた疑問を片付けることから始めることにした。
「惚けるな。その髪は何だ? 二週間前に見た時より”かなり”伸びているようだが」
「あぁ、これのことですか」
 島村は興味なさ気に上目で自身の綺麗に揃えられた前髪を流し見した後、少々不器用な
動きでその長い黒髪を掴むと、ゆっくりと掴んだ手を下ろした。それと同時に非現実的な
様相を呈していた長髪が外れ、そこからマトリョーシカ人形のように更に髪が覗く。それ
は若干伸びていたものの、正真正銘俺が二週間前までに見ていた島村の地毛に相違ない。
「ただの付け毛です。ですが、髪はすぐに伸びますから安心して下さい。私の計算ですと
この地毛が付毛と同じ長さになるのに二ヶ月程度でしょうかね。それまで一日千秋の心持
で待っていて下さい。期待すればするほど、それが叶った時の喜びは大きいですからね」
 島村が慣れないウィンクを投げかけてくる。そんな嬉しそうに微笑みを見て俺は罪悪感
に苛まれる。だって、俺はそれを投げ返すことができないから。
「俺にはわからない。何でお前はそんなことをする?」
 俺が心に引っ掛かっていた――というより引っ掛かっているということにしておきたい
疑問を尋ねると、一瞬狐に抓まれたような呆け顔をした後、さきほどから張り付いている
ように変わらない笑顔を取り戻しながら一歩近付いてきた。
「それは本気で言っているんですか? 誠人くんから好かれる為に決まっているじゃない
ですか。その手段として、好きな人が好む容姿になるというのは当然のことです」
「俺が好む容姿だと? 俺がいつ長髪が好きだなんて言った? そんな覚えはないぞ……」
 俺はほぼ反射的にその質問をした。そしてその後激しい後悔に襲われた。俺はこの後に
くる返答の内容を予想できている。その答えを聞きたくない。聞いてもし当たっていたら
俺はその瞬間戦慄するだろうから。触らぬ神に祟りなしってやつだ。
 しかし、一方で俺は勢いに任せて言ってしまえてホッとしている一面もある。いずれに
しても俺は”そのこと”について問わなければならなかったからだ。どんなに俺が自分の
都合で言いたくないとしてもそうしなければ島村の心理を読み取ることは不可能だから。
 待つこと数秒、島村は更にもう一歩近付きながら今日一番の笑みを浮かべた。

「うふふ。……だって、”加奈さんは”とても髪が長いじゃないですか」

 その言葉に俺が凍りついたのは言うまでもない。
 俺が何か言おうとする暇も与えず、島村は次の言葉を紡ぐ。
「後ですね、先程から随分と私の『胸』を気にされているようなので言っておきますが」
 俺が島村の胸ばっかり目で追ってしまっていたという更衣室を間違えて女子の着替えを
覗いてしまった小学校時代以上に恥ずかしい事実を突きつけられ、俺は赤面してしまう。
 俯きつつ視線だけで島村の顔を覗くと、その頬はほんのり赤みが差していた。胸を見ら
れていたということを恥ずかしがっているのか、中々可愛らしいなと思えるほど俺が余裕
じゃないのは明白だが、それでもその羞恥に震えた姿は男心を僅かに擽った。
 普段からそうしていれば、今すぐにでも学園ミスコンでグランプリを取れるぞと言って
やろうかと一瞬迷った刹那――突然島村が制服のリボンに手を掛け、一瞬で外した。
「し、島村ッ!?」
「”私から”目を逸らさないで下さいね、誠人くん」
 慌てて視線を再び遠くに向けようとしたが、それを予期していたかのようなタイミング
で島村に制されてしまう。その言葉には言われた俺にしかわからないであろう意味以上の
”重み”があって、俺は目線を島村から外すことができなくなった。
 そんな俺をよそに、島村は上半身の制服を手際よく脱いでいく。友達と興味本位で一度
だけ見たAVで女優が確かそんな手つきで服を脱いでいたなんて不埒なことを思ってしまう
のは、もう俺が情緒不安定の域に達しているという証なのだろう。
277上書き ◆kNPkZ2h.ro :2007/05/08(火) 00:21:58 ID:l1rWfINJ
 制服が脱ぎ捨てられると、そこには見るからに小さい水色のブラジャーが露わになって
いた。別に下着なんかには欠片も興味がないが、バレているとわかっているのに尚下着を
凝視するというのは非常に気恥ずかしいものがある。本当に目を逸らしたかった。
 見たくないけど本心では見たくてでもバレているから恥ずかしいけど見ないとならない
なんてややこしい葛藤に苦しむ俺をよそに、島村はとうとうブラジャーにも手を掛ける。
 そして――
「見て下さい」
 ブラジャーも外れ、『雪』のように真っ白な島村の胸が俺の視界に飛び込んだ。
 それを見て色々と脱線を繰り返していた思考は完全に軌道修正を余儀なくされた。体中
が熱に絆され汗を垂れ流しているのに対し頭だけが凍結しそうなほど冷静になっていく。
 それは頭ではわかっていても心では受け入れたくないという心の表れなのだろう。

 何故俺がそんな精神状態にあるのか、それは――島村の白磁の二つの胸に痛々しい傷跡
が刻まれているからだ。

 濁ったところなど見当たらない純白の肌を汚すように、生々しい傷跡は刻まれていた。
 陸上競技場のフィールド上に野球ユニフォームで素振りをしている人間がいるような、
例えるならそんな違和感を瞬時に感じる。
 俺が確認する限り傷は三つある。
 二つは右胸と左胸にそれぞれ一つずつ付いているものだ。その傷は目立ちこそするが、
『比較的』小さいし綺麗に縫合もされている。故にそれを見たとしても「大変だったな」
と何かあったことを案じてやるくらいのことはするであろう、その程度の傷である。
 問題なのは右胸にあるもう一つの傷である。俺はこの傷を見て放心状態になりかけたと
言っても過言ではないくらいのショックを受けた。だってその傷は、島村の右胸を左右に
分けるかの如く上から下に長く引かれていたからだ。その有様は思わず目を覆いたくなる
ほどの悲惨さである。既に黒ずんでいるそれは、痛々しく腫れ上がっていて、俺が思うに
その傷は多分一生消えないのではいだろうか。それほどその傷は、島村が俺の前から姿を
消した二週間の間にしていた『痕跡』をわざわざと見せ付けてきた。
「やはりこんな”醜いもの”がある胸じゃ興奮してくれませんか……」
 俺が島村の胸に見とれていると、不意打ちのように島村の声が聞こえてきたので、半ば
現実逃避の意も含ませつつ胸から視線を外し顔を上げる。見ると島村が赤面しつつ一直線
に何かを見つめている。俺も島村の視線を辿り、その方向にあるのが俺の股間だとわかる
と一歩下がる。それ自体に全く意味はなかったが、今の俺には気持ち悪い恥じらいの声を
発しながら自らの股間を手で隠すような余裕はなかったので、せめてもの抵抗である。
 そして、同時に”赤面する島村”と”島村の発言”を受けて俺は一つの事実を知る。
 ――俺、さっきまで島村の胸を舐め回すように見ていたな……。
 別に下心はなかったが、花の女子高生にそんな陵辱をしてしまったことに罪悪感を覚え
つつ、俺は視線を空にやりながらジェスチャーで島村に服を着ることを促す。一瞬躊躇い
のような溜息が聞こえてきたが、それは聞き流すことにした。
「もう結構ですよ、お騒がせしました」
 和気藹々とした声を聞いて、俺は視線を島村へと戻す。さっきのことを思い出すと見る
のは悪い気もしたが、今はそれよりも重大なことがある。聞かなくてはならない。
「……さっきの『傷』は、一体どういうことだ……?」
「さっき言おうとしたのは、それに関連することについてなんですがね」
 俺の質問を待ってましたと言わんばかりに島村は速攻で言葉を返してきた。口元が僅か
にピクピク痙攣しているところを見ると、言いたくてうずうずしているようだ。好都合だ
と俺は思い島村の言葉に耳を傾ける。
「私って一般女子並には胸があったようなんです。だから脂肪吸引してもらったんです。
だからしばらく音信不通だったという訳です。”もう大丈夫だ”と言うのに看護婦さんが
しきりに”まだ駄目”って言ってくるので。二週間近く病室で誠人くんの写真を見続ける
生活は……それはそれで楽しかったんですが、やはり本物が一番ですね。まぁということ
で、誠人くん好みの小さい胸になれた訳ですよ」
 『俺好み』というのは”加奈の胸が小さいから”という事実が導き出した結論だろう。
 色々と引っ掛かることがあったがそれは全て些細なことだ。島村の二つの小さな傷が、
何かの手術の跡だというのは大体予想できていたから驚きはしない。
 問題は、もう一つの大きな傷の方だ。
278上書き ◆kNPkZ2h.ro :2007/05/08(火) 00:23:00 ID:l1rWfINJ
「じゃあ……右胸にあった、あのどデカイ傷は一体どう説明するつもりなんだ?」
 俺は理由もなく慎重に訊いた。
 あんな傷見せられて、見過ごせるほど俺は無神経じゃない。もしあれも手術の跡なんだ
というならその医者は間違いなくヤブ医者だから、一緒にそいつのいる病院まで行って、
慰謝料でも請求しに行こうということで済む。島村には悪いが、俺は一番それが平和的な
展開だと思っているし、それを望んでもいる。
 沈黙を守る俺を一瞥した後、ニヤリと笑って島村は言った。

「これは、”自分で”付けたものです」

 何の躊躇もなく、不思議そうにもせず、当たり前のようにはっきりと言ってのけた。
「こんなこと告白しちゃうと馬鹿扱いされちゃうかもしれませんがね、私”あの時”は気
がどうかしていたようで……。胸の脂肪落とす為に、間違えて胸を斬ればいいとか思って
しまったんですよ。血しか出てくるはずないのに、何を考えてたんでしょうかね。母親に
発見されて慌てて病院に運ばれて助かったから良かったものの、あのままでは私は今頃、
ここにはいなかったでしょうね。まぁ別に胸を刺しても痛くはなかったんですがね……」
 俺の名前を口ずさみながら刃物で胸を抉り笑っている島村の姿が脳裏に過ぎった。
 笑顔でそう語る目の前の女の子は、馬鹿なんかじゃなく『狂人』という言葉の相応しい
人間だった。何でそんな怖いことを平気で笑いながら語れるのかわからない。聞いている
俺の方が怖くなってくる。その証拠に、気を緩ませたら崩れるほど足は震えている。
 俺は、目の前の島村由紀を恐れている。
 俺に好かれる為に自らの胸を引き裂こうとまでする、そんな盲目的に俺だけを見ている
少女にはっきりと怯えを感じている。逃げ出したい。惨めに地を這い蹲っても、踏まれて
も、靴の裏を舐めろと言われても構わないから、今すぐに逃げ出したい。島村の全身から
発せられる『圧迫感』から開放されたいが為に、一秒でも早くこの場を去りたい。
 今にも傾きそうな体を何とか支えながら、俺は生唾を飲み込む。
「……お前……島村……」
 意味もなくその名前を口にする。
 俺が”初めて”会話した時の島村は必死に頭を下げてくる健気な女の子だったな。いや
”健気なのは”今でも変わらないな。俺に好かれる為に自らを傷付けるのだからな。
 思考の海原の中で溺れてしまいたいと思う俺に、島村は決定的な言葉を突きつけた。

「もう少しで、もう少しで誠人くんが好きな”加奈さんのように”なれますよ……」

 その時、俺は知った。
 島村は、”加奈のように”なれば俺から好かれると思っている。それは言い換えれば、
”加奈の容姿を手に入れれば”ということだ。
 つまり――島村は俺が”加奈の容姿”を好き、だと思っている。
 言い聞かせているだけかもしれないが今はそんなことどうでもいい。ということは島村
は、とんでもない勘違いをしていることになる。
 俺は加奈が好きだ。『容姿』も含めて。だが、それは”加奈が”好きだという前提の上
に成り立つ事象である。例えれば、加奈と全く同じ容姿の人間がもう一人いたとしても、
俺は加奈を選ぶ。つまり、俺が好きなのは『加奈』であり、”加奈の容姿”ではない。
 だからどんなに島村が加奈の格好を真似しようともそれは俺にとって偽りでしかない。
 そんなこと伝えていた気でいたが、俺が決着をつけようと島村に言った言葉は何だ?

 ――「俺には、”加奈しかいないんだ”」

 俺自身信じられないがこの言葉を島村が、”加奈しかいない、つまり加奈しか俺好みの
容姿をした人間がいない、ということは加奈と同じ容姿になれば自分も俺が好きになって
くれる可能性を得ることはできる”、と解釈していないという可能性は否定できない。
 現に島村は俺を手に入れるという些細な理由の為に自傷行為をするまでに狂っている。
 二週間前にも思い知ったことだが、俺は島村が『略奪』するとまで言ったその意識程度
を完璧に侮っていた。もっと『島村由紀』という人物を知るべきだったんだ。島村の精神
の保身を考えるなら、まず始めに俺の言葉によって島村がどう考えどう行動するのかを、
理解していなければならなかったんだ……。
 そんなこと言っても手遅れで、今島村は”俺のせい”で不気味な笑みを浮かべている。
 もう島村を傷付けないでフるなんて不可能な状況になっている。俺の言葉によっては、
島村は必要のない分まで傷付かなければならない。
 その全ての責任は俺にある。言い逃れなんてできない。だから――
279上書き ◆kNPkZ2h.ro :2007/05/08(火) 00:24:04 ID:l1rWfINJ
「島村……辛くないか?」
 島村の両肩を掴みながら目線を彼女へと固定する。島村は「はい?」と気の抜けた感じ
の声を発しながら、意味がわかりませんよと言いた気な瞳で俺のことを見上げてくる。
「”こんなこと”してて、虚しくなってこないか?」
「虚しい? 何がでしょう? 私は自分が着実に誠人くん好みの女へと近付いていること
に至高の幸福を感じていますがね。少々言っている意味が……」
 うんうん唸っている島村をよそに、俺は何も考えずに喋ることを決意した。
 余計なことを考えずに、心に思ったことを素直に口にすることにした。他人任せだが、
もう島村自身に俺の誠意を示してわかってもらうしかないと思う。色々策略を巡らした上
で言葉を選んだとしても今の島村にそれが届くとは到底思えない。それに、大体一番安全
な道ばかり選ぶような説得は不謹慎だ。島村を傷付けたくないと思うなら、本心を言って
俺の想いをぶつけるべきなのではないか? たとえそれで島村が傷付くとしてもその責任
は俺にあるんだから、全て俺が背に負ってやる。
「こんなこと言うのは無茶苦茶失礼だとはわかってるけど、俺は島村には化粧なんかして
欲しくないな。してない方が間違いなく”お前らしい”。流行なんかには流されませんよ
的なオーラが漂って神聖な感じがする。うん。眼鏡だってそうだ。あの明らかに昭和だろ
と思わせるちょっと古そうなのが逆に魅力的っていうか? 何て言ったらいいのか俺には
わかんないけど、とにかく俺は前のお前の方が」
「でも”前の私”は『加奈さん』より劣っているんですよね?」
 やっと見出した道を島村は一言で封鎖した。
 そして再確認させられる。島村の目的はあくまでも”俺から好かれること”。フられた
時に後味悪くならないようにする為の配慮なんかじゃない。だとしたら、最早俺にできる
ことは何もない。島村と付き合うのは無理だし、かといって今の島村を止める自信も体中
どこを探ってもどこにも見当たらない。
 ――全てが手遅れだったんだ。
 一度のミスが命取りだった。そして問題なのはそれがどんなミスだとか、どこでそれを
してしまっただとかそんな些細なことじゃない。”ミスをしたこと”自体が絶対にやって
はならないことだったんだ。その証拠に、結果的に俺は今までの努力が全て無駄だったと
悟り、ただ立ち尽くすことしかできない。
 万策尽きたとはこのことだな。もう笑うしかない。狂えるなら俺も狂ってしまいたい。
そうすれば、理性とか理屈だとか抜きにした本能のみで動けたんだろうか? そしたら、
俺は今頃見上げることしかできない壁を越えることができたんだろうか……?
 思考を止めてしまいたいと本気で俺が思った時、
「誠人くん、何故私があなたを好きなのか……知ってますか? 正直に答えて下さい」
 突然島村がそんなことを言い出してきた。
 俺は質問の意味を理解するのに数秒要した後疲れきった脳細胞に鞭を打ち考えてみる。
 それは時々思っていたがすぐに忘れてしまう程度の疑問だった。何故俺みたいなそこら
中に転がっているような男を何の接点もなしに好きになったのか? 接点といえば怪我を
させられたくらいだ。あ、後女子トイレのことを忘れていたな。あれは永遠に封印したい
記憶だ。それはいいとしてやはり島村が俺に特別恋愛感情を抱くような事件はなかった。
当然俺は一目惚れされるほどのイケメンじゃないし、その可能性もゼロだ。
 ……再び数秒考えた後、俺は首を横に振った。”正直に”と念を押されているし、仮に
嘘をついたとしてもそんなものはすぐにバレしまう。そうしたら俺の”不誠実な”行いで
島村を傷付けてしまうことになる。まさか島村だって、自分が好きな相手が大嘘つき野郎
だなんて思いたくもないだろう。
 そう思われてでもいいから嫌われた方が良かったのかななんて考えていると、島村の方
から大袈裟な風な嘆息が聞こえる。
 顔を上げてみると、島村は若干表情に悲哀の念を含ませつつ、厭らしいほどの笑みは何
があっても崩さないと言わんばかりに守っている。
「”覚えていませんか”。残念です……。まぁ”そういうところ”も好きですがね……」
 そう言った後、島村はゆっくりとした足取りで地面を踏みしめながら、俺の方へと歩き
出してきた。俺は既に戦意喪失しており、その不穏な気配を察知しつつも足を動かすこと
はしなかった。というよりできないし、しようとも思わなかった。一歩下がっても島村は
二歩近付いてくるだろうし、二歩下がれば四歩近付いてくるだろう。要は無駄。
280上書き ◆kNPkZ2h.ro :2007/05/08(火) 00:25:07 ID:l1rWfINJ
 距離はやがて胸が触れそうなほどにまで縮まる。互いの呼吸も感じ取れるほどの近さ。
 また「好きだ」とでも耳元に囁いてくるのかと考えていたのも束の間――激しい破裂音
に似た音を静寂が支配する体育館裏に響かせつつ、島村はいきなり俺の頬を叩いた。
「うっ」
 間抜けな声を発しつつ俺はその中々の強さに体を傾かせかけてしまった。ヒリヒリ痛む
右頬を押さえていると、今度は左頬をもぶたれた。しかもほぼ本気でだ。
 俺もマゾじゃないし、男の沽券に関わるので一応無言で平手打ちを繰り出す島村を睨み
つける。その俺の全力の覇気を乗せた視線をいとも簡単に交わすと、今度は腹を渾身の力
で殴られた――ってちょっと待て。
「ぐふっ、かはっ……!」
 女の力だから致命傷にはならないものの、普段から怠惰な生活をしていていたもんで、
腹筋なんて全然鍛えていなかった。だから、俺は島村のボディーブローをほぼ直撃の力で
受け止めてしまった。
 その痛みに情けないとは思いつつ地面に座り込んでしまう。肺から思い切り空気を絞り
出されてしまい呼吸が儘ならない。目を地面に向けながら手をつき、過呼吸を繰り返して
いると島村が今度は耳元に囁きかけてきた。
「痛いですか? その痛みが記憶として残るんですからしっかり痛感して下さい。いずれ
は加奈さんと”対等の立場”に立つことになるんですから、その時になって私と加奈さん
のどちらかを選ぶ時に有利にことは進めなければなりません。誠人くんが”あのこと”を
覚えていらっしゃらないのは残念でしたが、それは元々誠人くん好みじゃない時の記憶。
そんなものはいりませんよね? 私は理解しました。過去に縋り続けていては、何も奪う
ことはできません。過去は『上書き』して、新たな記憶を刷り込まなくてはなりません。
そうですよね?」
 俺がボヤけた思考で理解できたのは、島村が俺に振るっているこの理不尽な暴力の目的
が、『島村由紀』という存在を刷り込ませる為だということだけだった。つまり、島村は
いつかは加奈と全く同じ容姿になるつもりでいて、その時になれば自分は加奈と同じ土俵
に立っていると勘違いしている。そして同じ条件のものが揃った時に選ばれる為にはより
強い印象がある方が勝つ、その為に最も手っ取り早い方法が『苦痛』――そんな風な子供
じみた解釈をしたという訳だ。
 島村の言う『過去』というのが何かまではわからないが、俺はもうどうでも良くなって
いた。最早俺は抵抗を示すことのない島村の愛用サンドバック状態と化している。
 再び叩かれたり殴られたりを繰り返しながら、もうこの意識を手放そうとしていた。何
ももう考えたくない。俺は頑張った方だと思う。相次ぐトラブルを、要所要所でなんとか
乗り越えここまできた。だが、最後の最後で”俺は非常になり切れなかった”。
 島村を傷付けようが何をしようが諦めさせるという覚悟が俺にはなかった。だから今、
俺はこうして半笑いしている島村に嬉しそうに玩具にされている。これは俺が受けるべき
『罰』だ。目先のことばかり考えていたことへの『贖罪』だ。

 後何発殴られれば俺は許されるのかななんてことを考えながら俺が遠い夢世界へと旅を
しようとした刹那――
「あ」
 一言俺はそう漏らした後、自分の目の前にいる人間を見据えて、一瞬にして現実世界へ
と引き戻された。
「何……コレ?」
 加奈がいた。
 同時に見られた。加奈に見られた。島村に殴られているところを加奈に見られた。
 今まで保健室で島村との恥ずかしい行いやキスされかけたところを見られたりはした。
 でも、これは”初めて”だった。


 『上書き』すべき対象を刻まれ続けている俺の姿を加奈に見られたのは。

281上書き ◆kNPkZ2h.ro :2007/05/08(火) 00:26:31 ID:l1rWfINJ
投下終了です。駆け足で区切りまで持っていきました。
後二話で完結予定です。
282名無しさん@ピンキー:2007/05/08(火) 01:19:56 ID:SSyddKOe
>>281
加奈が可愛く見えてきて、島村さんが気持ち悪く見えてきます、
なんか凄いです。

続きを身悶えして待ってます。
283名無しさん@ピンキー:2007/05/08(火) 01:28:07 ID:CpR5nn3h
>>281
あと二話ですか!がんばって完結させてくれ!
284名無しさん@ピンキー:2007/05/08(火) 02:04:07 ID:F32i4tlD
おお、久々の上書き。楽しんで読ませてもらいました。
完結まであと少しですか。読みたいような、名残惜しいような。
何はともあれ、最後まで頑張ってください。
285名無しさん@ピンキー:2007/05/08(火) 09:15:12 ID:3pLi9+Ft
>>281
上書きキタワァ.*・゜゚・*:.。..。.:*・゜(n‘∀‘)η゚・*:.。. .。.:*・゜゚・*!!!!!☆
次回久々に加奈タンの上書き発動するのか?
島村さんと誠人の過去も含めてwktkが止まらないw

でも島村さん派の俺は今の狂いっぷりを素晴らしいと思う半面
前のメガネの島村さんでいて欲しかったとも思う複雑な気持ちだ(´・ω・`)
286名無しさん@ピンキー:2007/05/08(火) 18:30:18 ID:Ay/Zn+KB
なんという上書き・・・
誠人は一体どうなってしまうのか・・・
287名無しさん@ピンキー:2007/05/08(火) 20:48:28 ID:T4GIDryi
最近加奈の上書きがないから久々に楽しみにしてる人がいるかもしれないが、
ここはむしろ島村が反面教師になる方向でもあり。

なんか島村のキャラが初期の加奈にどんどん近づいてきてるもん。
上書きって言ってるし。このままだとお互いが交代で殴り続けて誠人が死にかねん。
288名無しさん@ピンキー:2007/05/09(水) 01:07:14 ID:Khfl/l1n
それもまた一興
289名無しさん@ピンキー:2007/05/09(水) 15:39:31 ID:7zeAbveM
ちょwww完結がバットエンドかよ
290名無しさん@ピンキー:2007/05/09(水) 15:59:45 ID:7DgrjfWC
まさにどうあがいても絶望
291名無しさん@ピンキー:2007/05/09(水) 20:17:10 ID:FI5DFS2+
ドロー!モンスターカード!
ドロー!モンスターカード!
ドロー!モンスターカード!
ドロ(ry
292名無しさん@ピンキー:2007/05/09(水) 20:27:32 ID:8eSFpCDp
もうやめて!
293名無しさん@ピンキー:2007/05/09(水) 20:50:14 ID:En41oRGD
ドロー!ヤンデレカード!
ドロー!ヤンデレカード!
ドロー!ヤンデレカード!
ドロー!ヤンデレカード!
ドロー!ヤンデレカード!
294名無しさん@ピンキー:2007/05/09(水) 21:43:59 ID:sSQKS6v2
もうやめて!○○君はわたしのものなのに!
295名無しさん@ピンキー:2007/05/09(水) 22:03:46 ID:y7zGlrsg
>>294
あら? まだ分からないのかしら?
まあいいわ……そこで見ていなさい、思い知らせてあげる。
七氏君が誰のものかっていうことをね♪

あはははははははははははははははは
296名無しさん@ピンキー:2007/05/10(木) 01:38:55 ID:bS5mvGfz
ずっと私の七氏って奴だな
297名無しさん@ピンキー:2007/05/10(木) 02:10:51 ID:xWUmz0EU
つまりこういうことか。
               _,. -‐ 、. /  ̄`~`''‐ 、
     _,. -ニ二γ⌒`/     `'          γ⌒丶`二ニ丶、
   え, '´ ̄γ⌒/                 人_ ,人、    K
    /   (/                     γ⌒`、^ヽ、_  ヽ、_
    ,!   , '                     乂__,.ィ    kー=='''゙
    l   /  l  !                 |   !     キ
.   k ,/ ,' │ l                     l  ! |     )
    k/ /./ | │     l          、   | | |  ,l    ,ノ
.   l/ / /l ! :l  |  |  |           \   !|l | /| /  ,/ !
    / / ./ ! | l  l  |  | ヽ. ヽ\ \ ヽ. ヽ. |│ ,.l /  ,/.l !
   `'k‐'、| l ヽ. ヽ.ヽ.  !   l\\`‐、ヽ、\ヽ.| レ', l  ノ ,! !          ∧∧∧∧∧∧∧∧∧
.    ヽ `‐、| 、ト、、_\:、 ヽ. l  トーz,、-‐ラ'ヂヽ!|!/_,ノソノ } |│         <ずっと私の七氏君!>
      ゝ、(, \ヽl\ `ー'`、\ヽ ∨ー`‐←'  ||!-、-、 /!|│           ∨∨∨∨∨∨∨∨∨
         ヽ  ヽト. ´ ̄ジヽN` -ゝ        |!  リ /| | |、          
             ! 〃/ ヽ     〃/〃 _iー< | | | |           
           |\.   \    ,ュ__、_      |    ̄`~` ''''‐'-
         |   `'' ー-ヽ、   ヽ,..::: 〉    ,.|          |
       .(ノ   |      :::::`‐、 `- '   / .|     , -.、    |
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      _,,. 、-‐''|        :::::::::`> -─ー|   `'ー'    ゞ'´
        ヽ`''ー-       :::::::::: |;;;;;;;;;;;;;;;;;;;|         /
298名無しさん@ピンキー:2007/05/10(木) 02:36:47 ID:1+rzUyJP
全くお前らは馬鹿だな(いい意味で)
299名無しさん@ピンキー:2007/05/10(木) 03:06:39 ID:BGPbChTd
>>297
これは萌え…


ねーわ
300名無しさん@ピンキー:2007/05/10(木) 08:17:08 ID:SQxViygR
>>297
マジで吹いたw

だけどそれはない
301名無しさん@ピンキー:2007/05/10(木) 20:46:58 ID:ime6LTpy
  そだ  |------、`⌒ー--、
  れが  |ハ{{ }} )))ヽ、l l ハ
  が   |、{ ハリノノノノノノ)、 l l
  い   |ヽヽー、彡彡ノノノ}  に
  い   |ヾヾヾヾヾヽ彡彡}  や
  !!    /:.:.:.ヾヾヾヾヽ彡彡} l っ
\__/{ l ii | l|} ハ、ヾ} ミ彡ト
彡シ ,ェ、、、ヾ{{ヽ} l|l ィェ=リ、シ} |l
lミ{ ゙イシモ'テ、ミヽ}シィ=ラ'ァ、 }ミ}} l
ヾミ    ̄~'ィ''': |゙:ー. ̄   lノ/l | |
ヾヾ   "  : : !、  `  lイノ l| |
 >l゙、    ー、,'ソ     /.|}、 l| |
:.lヽ ヽ   ー_ ‐-‐ァ'  /::ノl ト、
:.:.:.:\ヽ     二"  /::// /:.:.l:.:.
:.:.:.:.:.::ヽ:\     /::://:.:,':.:..:l:.:.
;.;.;.;.;;.:.:.:.\`ー-- '" //:.:.:;l:.:.:.:l:.:
302慎 ◆tXhMrjO4ms :2007/05/10(木) 21:03:43 ID:zGJa7IMm
お久しぶりです。慎太郎の受難続き投下します↓

---------------------------------------------------------------
さて今俺が向かってる駅前の周辺はこの市では、繁華街の中に入る場所だ。
実際のところは、再開発によってできた駅ビルぐらいしかないのだが、近くに港があり、
その港におおきなショッピングモールができたせいもあり、この前絵里と行った中心街を越える買い物スポットになろうとしてる。
また交通の要所でもある。この市を走るバスの98パーセント以上はこの駅前を通ってるとも思う。
そのため夜になっても人の流れが衰えることはない。
仕事を終え、ニュータウンへ帰りを急ぐ人々、出張から帰ってきた人、このあたりで買い物を楽しんだ人・・・さまざまな人がいる。
また、大きな歩道橋があり、広場になっている。
その広場ではストリートミュージシャンたちが夕方から歌い始める。
そしてそれを聞く人、待ち合わせをする人・・・鳩に餌をやる人…さまざまな人々がその広場にいる。
奈津子がいるとしたらそこだろう。そこじゃなかったら・・・長い時間探すことを覚悟しなければ。
待て。そもそも奈津子は駅前で今も待っているのだろうか?
何も考えずに飛び出して来てしまって、奈津子が駅前にいるという確認も取らずバスに乗り込んでしまった。
何故電話をしなかったかって?急に決めたからだ。俺はこんなときだけ決断が速い。
もっと速く決断しておけば・・・自分の優柔不断さを今更恨む。
俺は小さいころから、優柔不断といわれてきた。
そのくせ突然とっぴもない行動、決断をする。
つまり俺は慎重さと大胆さを併せ持つ。
こういうと聞こえはいいかもしれないが、はっきり言ってしまえば、行動に一貫性がない、ということ。
今回のことだって、自分が今頃決断しなければ、絵里を傷つけることはなかっただろう・・・。
この性格、どうにかして直そう直そう、とは思っていた。
だが生来のものはなかなか直らないようで。でも今回のことで今までで一番反省した。
だけど、いまさら後悔してももう遅い。俺は行くべき道を決めたんだ。
今からまた道を変えるのか?
そんなふざけたことはできるはずもない。
もう選択するものはない。俺が歩んでる道は一本になった。
街を過ぎた。駅まではあと県庁と市役所を越えるだけ。
もう少し、もう少し・・・
少しして、一個手前のバス停についたとき、俺はひどい渋滞になってることに気付いた。
この辺は、地方屈指の交通量を誇る。渋滞も珍しくないが、何だってこんなときに…
俺はバスを降り、ここから歩くことに決めた。
このバス停から駅までの区間はなぜか長い。結構な距離がある。
急ぐ気持ちからか、足取りが自然と速くなる。
ふと思ったのだがこの間を利用し、奈津子に電話をかけなければいけないのではないか?
携帯をとり、奈津子の携帯に電話をかける。
ワンコール、ツーコールで奈津子は出た。
303慎 ◆tXhMrjO4ms :2007/05/10(木) 21:04:30 ID:zGJa7IMm
「もしもし」
「もしもし、奈津子か!?」
「あ、慎ちゃん♪どしたの?」
「今どこだ!?」
「え?」
「今どこにいるんだ!?」
「え・・・駅だけど。」
「駅のどこ!?」
「上の広場だよ・・・ねぇ慎ちゃん今どこにいるの?どこから電話かけてるの?」
「えーと、そろそろ駅に着くぐらい」
「え、慎ちゃん来たの?本当に?」
「えーと、とりあえずすぐにそこに行くから、ちょっと待ってろ!」
「えっ・・・うん・・・わかった、待ってる。じゃあ・・・」
ガチャ。
駅の歩道橋まで来た。
階段を登り、歩道を進む。
広場が見え、奈津子はすぐに見つかった。
周りに制服着ている女の子は奈津子だけだったから否応無しに目立つ。
何かあったらどうするんだ、と心のなかでぼやきながら、走って行く。
奈津子は少ししてから気付いたようで、すごい笑顔で手を振ってきた。
「慎ちゃ〜ん♪」
あのばか、大声出しやがって。恥ずかしいじゃねぇか。周りの視線が俺に一瞬注がれる。
「何やってんだお前!」
奈津子のもとへつくなり怒鳴ってしまった。奈津子は驚いて少しびくっとして答えた。
「えっと・・・慎ちゃん待ってたの」
「何かあったらどうするんだ!事件とか事故とか・・・」
「でも・・・でも・・・」
「たくっ・・・」
「うぅ・・・でも来てくれたんだね・・・嬉しい・・・」
「あぁ・・・待ってるって行ってたからさぁ・・・絵里のとこから心配になって・・・」
「え・・・?」
「そう、飛び出してきたんだわ。」
「ねぇ・・・慎ちゃん・・・」
「なんだ?」
「・・・絵里さんには何も言わずに来たの?」
「あっ、ああ・・・ちょっといろいろあってさ・・・言えずに・・・」
「馬鹿!」
ぱんっ!!
304慎 ◆tXhMrjO4ms :2007/05/10(木) 21:05:33 ID:zGJa7IMm
痛い!
急のことに混乱する。
頬に痛みが走る。奈津子に平手打ちを食らったようだ。
「いきなり何すんだ!」
「なんで、なんで・・・」
奈津子は怒っているようだ。俺は何をとがめられてるのかわからないまま呆然と立ち尽くすしかなかった。奈津子は何を怒ってるのか?おれにはさっぱりわからない。
「なんで絵里さんに何も言ってこなかったの!?」
「そりゃ・・・急いでたからさぁ・・・」
「一言言えば済むことでしょう!?」
「・・・だいたいなんでこんなことでお前が怒るんだ!?絵里のことだろう?」
「当たり前じゃない!そんなことも分からないの!?」
「わからねぇよ!」
「馬鹿!絵里さん、何がなんだか分からないままほおりぱなっしじゃない!」
「それがどうした!」
「なんで分からないのよ!そんなことしたら絵里さん悲しむでしょう!?」
・・・へっ!?
「絵里さん…今泣いてるだろうなぁ…いきなろだもんね…」
おいおいこんなときに人の心配かよ。しかも自分の恋敵であろう人物の。
・・・ふぅ、どこまでも聖人君子なんだ…
「たくっ」
むぎゅ。
奈津子を抱きしめる。
「すまん」
「へっ・・・?」
突然のことに奈津子は目を丸くしている。
「謝る。だけどよ、俺どうしてもお前のことが心配で心配で…だからさ…」
「だからって、ちゃんと言わないのは駄目じゃない。慎ちゃんいっつもそうだよね。」
「えっ、いつもって?」
「だって急じゃない、いつも。今日だって、当日に断った、と思ったら来たりして。」
「でも来ると思ってたんだろ?だからここにいたんだろ?」
「えへへ・・・まぁね」
「じゃあもう一つ急なことやってもいいか?」
「え・・・なに?」
奈津子の目は、その疑問の言葉とは裏腹に輝いてた。ちきしょう、俺が言いたい事分かってやがる。
悔しいが、言うしかない。
俺は一呼吸おいて、はっきりと言った。
「奈津子・・・好きだ、俺の彼女になってくれないか?」
305慎 ◆tXhMrjO4ms :2007/05/10(木) 21:06:17 ID:zGJa7IMm
この言葉を聞いた瞬間、奈津子は待ってましたとばかりの笑顔になった。
「きゃ〜嬉しい♪慎ちゃんから聞けるだなんて♪でもずるいよ♪」
「何が?」
「私が先に言おうって思ってたのに・・・」
「あはは、まぁいいじゃん。もう恋人同士みたいに思ってただろ」
「でも不安で・・・ちゃんと言わなきゃって・・・ほかの人に取られちゃうかもって・・・」
この言葉は意外だ。普段はトンでも言動で驚かせてくれる奈津子から、不安だったと。
要は電波なことを言ってるんじゃなくて、不安だったからこそのあの言動…
かわいいなぁ。なんていってる場合じゃないか。
「いいじゃないか。これで正式に、恋人同士になれたんだし」
「そうだよね・・・ねぇ慎ちゃん・・・」
「なんだ?」
「その…苦しいよ・・・」
しまった!気付かないうちにぎゅ〜っと抱きしめってしまってた!
しかも公衆の面前で!あぁ周りの視線がいたい・・・なんか苦笑も聞こえる…
ぱっと離ししばし沈黙。奈津子も恥ずかしかったようだ。
うつむいている。おれもかなり恥ずかしい。
「ねぇ・・・」
奈津子が沈黙を破るように言う。
「何?」
「本当に私でいいの?」
「奈津子じゃないと駄目なんだ。じゃなかったらここにはいないよ」
「慎ちゃん・・・じゃあさ一つだけ約束して。
絶対に急に何かをしようってときは私にちゃんと言って。心配するから・・・」
さっきの話か・・・
「うん分かった約束するよ」
「絶対だよ?私、今日みたいなことしたら絶対に許さないから。そのときは・・・」
「そのときは?」
「青酸カリね♪」
殺す気か!でも今となってはこの言葉もいい。
自然と笑ってしまう。俺が笑えば奈津子も笑う。いつの間にか2人で笑っていた。
しばらく笑っていると、笑っていた奈津子の目が突如見開かれた。
「慎ちゃん危ない!!」
と、同時に俺の世界がひっくり返った。奈津子に押されて転んでしまったようだ。
何とか起き上がった俺に飛び込んできたのは・・・
包丁で刺されて血が出てきている奈津子と―



笑顔のまま包丁で奈津子の腹を刺している絵里の姿だった。
306慎 ◆tXhMrjO4ms :2007/05/10(木) 21:06:51 ID:zGJa7IMm
絵里が包丁から手を離すと、奈津子は崩れるように倒れた。
「あ〜あ、避けられちゃったかぁ…ちょっと残念。でも結果オーライ♪慎ちゃんにつく悪い悪魔が払えたんだから♪あはははははは…」
・・・絵里が何か言ってる。笑い声で。でも奈津子が、奈津子が・・・
「おい、奈津子、大丈夫か!?」
奈津子は苦しそうな表情を一瞬見せたが、俺を見るとすぐに笑顔に戻り、
「慎ちゃん・・・大丈夫?よかった…大丈夫…みたい…」
俺の身の安全を心配した。
というか、奈津子のやつ、こんな状態になっても俺を心配するとは…
いまはお前のほうがはるかに危ないだろうが。
馬鹿としか言いようがない…本当に馬鹿だ。
「よくねぇよ!お前のほうが今は心配だよ!大丈夫かよ!おい!」
俺は混乱していた。
奈津子が刺された。誰に?絵里にだ。
血まみれになり倒れている奈津子。
手に包丁を持ち、狂気に満ちた笑顔を見せている絵里。
いったい何が起こってるのか、この状況で理解できる人はいる人はいるのだろうか?
おれはそういう人のほうが希少なほうだと思うが。
とにかく俺は何をしていいかわからなかった。
「そっとしてあげて」
そんな時、俺は後ろからいきなり声をかけられた。
「傷も深くないし、危ないところではないみたい。119はしてもらってるから…。それにそんなにぶんぶん揺らしたら、傷口が開くかもしれないし…」
「あの、えーっとあなたは…」
「看護師。駅の中に病院あるでしょう?そこの。まったく、あなたたち、なにをやってるの…」
すいません。しかし、なんと幸運な。看護師さんに出会うなんて。
人生の運を全部使い果たしたようだ。
「すいません、ありがとうございます」
「今はお礼より…」
その通りすがりの看護師さんの目線が一瞬奈津子から離れ、
そして…絵里のもとへ行った。
「あの子、どうにかできる?」
そこには普段明るく笑ってる絵里の姿はなかった。
笑ってはいる。しかし、その顔はどこか歪んでいる。
その手には血に濡れていない2本目の包丁が握られている。
その姿は圧倒的で狂気じみたオーラを放っていて、他の人をまったく寄せ付けない。
周りの通行人の誰もが俺のほうをチラチラと見る。「お前がなんとしろ」と。
俺がまいた種だ。どうにかしなきゃならない。奈津子のためにも、絵里のためにも。
307慎 ◆tXhMrjO4ms :2007/05/10(木) 21:07:41 ID:zGJa7IMm
だがちょっと待ってほしい。
俺は自体がこうなる原因になるような何か悪いことをしたか?天に誓っても何も悪いことはしていないと言いたい。
…いやもうそんなことはいえないか。
俺は裏切ったんだ、絵里の気持ち、奈津子の気持ち…いろいろなことを。
それでも、奈津子は信頼してくれた。でも普通はそうじゃない。
怒り、憎しみ、絶望…あまりの聖人君子過ぎる奈津子になれてしまい、甘えてたのかもしれない。
いずれにせよ、こんな風になってしまったのは、優柔不断な俺のせいだ。
蒔いた種から成長したものはどんなものであれ自分でどうにかしなきゃならない。
もう逃げ道はない。俺は腹をくくった。
「よう、絵里、よくここがわかったな」
「当たり前よ。あんたのいる場所なんか、すぐにわかるんだから」
「そうか、まぁまずはその右手に握ってる物騒なもん、どうにかしてくれないか?」
「嫌」
「絵里!」
「じゃあ慎君あたしのとこへ帰ろ♪一緒にお勉強の続きしましょ♪」
…今までの俺なら、躊躇なくこう答えただろう。
yes。でも、もう決断した。迷わない。
「断る。俺は、帰る気はない。少なくとも絵里のところにはな。」
空気が死んだ。周りからは敵意のまなざしが向けられる。
それもそうだ。こんな物騒なものを持ってる人間、しかもどうかなってるような人間の頼みを、
何の躊躇もなく断ったのだから。
下手して暴れられて、自分に被害が来てはたまったものではないだろう。
でも、ここでyesといって何の解決になるだろう?
バッドENDまっしぐらな気がしないでもない。
でも…ここで終わらせなきゃいけない。この話のすべてを。
そのさきにどんなENDが待っていたってな。
「ふふふ。いいもん、あんたがその気じゃなくても」
「ほう、それはそれは。で、どういいんだ?」
一瞬にやりと絵里が笑った。
その刹那、包丁を向けて俺に向かって絵里が突っ込んできた。
すかさず身を翻してかわしたはいいが、そのスピードに驚いた。こんなに運動神経よかったか?
このスピード…油断してたら、俺も奈津子のように血まみれになっていただろう。
そんな血まみれの奈津子のほうは、引き続き応急処置を受けているようだ。
詳しいことはわからない。長い時間目を離すと、絵里が襲い掛かってきたときわからないから。
そうなったら一巻の終わりだ。包丁で体に穴が開くのは正直勘弁だ。
なんと言う恐怖感。これじゃ確かに誰も手が出せないし、出したくないもないだろう。
「そんな避けなくてもいいじゃない、運命からは逃げられないのよ。」
308慎 ◆tXhMrjO4ms :2007/05/10(木) 21:08:19 ID:zGJa7IMm
…運命だって?
「そう運命。あたしたち二人はどんなことがあろうとも結局結ばれる運命にあるのよ!」
な、なんだ…いやいやいや。何だこの電波は…
奈津子みたいだな。何の脈絡もなくこんなこというなんて。どうしたんだ?
こんなこと聞いたら、奈津子がヒートアップするからやめてくれ。怪我人なんだし。
「障害を乗り越えて深まる2人の愛…あぁ最高♪」
気が付くとサイレンが近くで止まって救急隊員が歩道橋を登って来た。
これで奈津子はおそらく大丈夫だろう。そう信じたい。
さて、絵里…今の絵里は言うなれば完全に壊れてる状態だ。
自分と俺以外のことはまったく見えていない。俺を連れ帰ること、その一点のみに思考が回ってる。
「ねぇ、そろそろ終わりにして帰ろう?ねぇ…ねえ…帰ろう…」
「…断ると言ったろ?」
「もう、そんなことばっかり言うなら…」
絵里がすばやく寄ってきて、左腕で俺の右腕をつかんできた。
「お仕置きが必要ね!」
すかさず俺は握られた右手をひじを曲げすばやくあげた。
この方法でつかまれてた腕をはずしてすばやく距離を離す。
相手は刃物を持っている、とりあえず間合いをはずそう…なんて思考が働いたのではない。
本能だ。本能がすばやく離れろと訴えかけてきた。
「じゃあ…これなら」
こんどは左腕をつかんできた。これではさっきのはずし方が使えない。
「うふふ…さぁ帰りましょ♪それとも、お仕置きされたい?」
お仕置きなんてお断りだ、とばかりに体が勝手に動く。
左腕をくっとあげる。
できたスペースに右手を入れる。つかむのは手首。
そのままひねるように、持ち上げる。
「きゃっ!?」
そのままの勢いで絵里を倒す。
うつ伏せに倒れたら、腕を背中に回す。どこぞで習った護身術だ。
何とか絵里を捕まえることに成功した。いや内心ひやひやだったがな。
なんせ右手には包丁、それで動きとめられたんだ。刺されててもおかしくなかった。
そう、別の未来は、奈津子と同じように血まみれで倒れている未来。
奈津子のように致命傷にならなかったという保証もない。
いずれにせよ、いまはほっとしてもいい。じたばた絵里は暴れているが、抜けられるはずがない。
それほどこの、護身術の効果は絶大だ。教わったときも一度も抜けられなかった。
しばらく暴れた後、絵里は、救急車にほんのわずか遅れてきた警察に、連れて行かれた。
わめきながら暴れながら…そして最後にこんな一言を残して、パトカーに乗せられた。
「絶対に迎えに行くから!助けに行くから!」
309慎 ◆tXhMrjO4ms :2007/05/10(木) 21:09:36 ID:zGJa7IMm
さて、絵里が連れられたその後のことだが、
まずは奈津子だ。
救急車に乗せられ、大学の付属病院に連れられた。
そこで、処置を受けたが、幸いというか、そこまで大きな怪我ではなかった。
いやもちろん全治に月単位の時間はかかるが、そう重体だとか、そういうことにはならずにすんだ。
病院に行くまでの駅前では、周りの通行人から、俺がとっさにした護身術への喝采と、この若さで殺し合いに発展するまでこじれてしまったことへの恐怖などが混じった視線が送られた。
当然テレビは大騒ぎ。
こんなネタ、めったにないからな。
でも俺らの生い立ちなんか追われるのは勘弁だし、何より今日の過程をしゃべられるのは、
忍びない。…いろんないみでな。
どう考えても今日のことは俺の責任である。
どうしようもないへたれな行動をとってしまったことで、奈津子は不安になり、絵里は壊れた。
この責任は、俺の背中にのしかかることだろう、重い十字架として…
テレビの取材は全部断った。高校側も取材はほぼシャットアウト状態のようだ。
さすがだと思う。まぁなんにせよ死人が出なかったことは、よかった。
でてたら、これ以上の騒ぎになっていたさ。
取材シャットアウトなんてできないほどにな。
親からは大目玉食らった。
当然さ、世間を大きく騒がせていろんな人に迷惑かけてしまった。いやいや何より人一人死なせるところだった。
しばらく小遣い無しですんだのは、幸いか…いやめちゃくちゃ痛いけど。
学校からは謹慎処分食らった。
担任は、死人がでなかったことに安心しながら、このような事態を招くことになってしまったことにはきっちりと反省を促してきた。まぁ要は頭を冷やせと言うことか
まぁここで授業に出てもしばらくクラスでもこの話題で持ちきりになっちまうだろうし。
授業どころではなくなるだろう。そういうわけでしばらく家でおとなしくしとけとさ。
部活の先生からも怒られるだろうな。同じパートの人間、しかもこれから3年が抜ける時期に、1年生が2人も抜けるんだ。しかも何ヶ月か。
あぁ部活の仲間たちに合わせる顔がねぇ…
何はともあれとりあえずはしばらくはおとなしくしするしかない。
学校側の申し付けどおり頭冷やさなきゃな…やれやれ。


こうして俺はしばらく謹慎生活を送ることになった。
そして2週間目。さすがになにもない生活にも飽きてきた。そこで、奈津子のもとへお見舞いに行くことにした奈津子のところへのお見舞いはこの日まで禁止されてた。
親からは、行ったら家に入れない。学校からは期間延ばすぞって脅されちゃどうしようもない。
でも、俺がずっと要求し続けたおかげか、今日やっとお見舞いに行くことが許可された。
310慎 ◆tXhMrjO4ms :2007/05/10(木) 21:10:36 ID:zGJa7IMm
病室のドアを開ける。
今日は誰もお見舞いに来てないようだ。
「よう」
「あ、慎ちゃん、やっほー」
奈津子は笑顔で俺を迎えてくれた。
「元気そうだな」
「うん、おかげさまで。もう痛みもだいぶなくなってきたよ。激しい動きは駄目だけど…」
「…悪かったな」
「何が?」
「いや、その、こんなことになっちまって…」
沈黙が流れる…
重苦しく、永遠のように感じられる沈黙。しばらくたった後、
「なんで?謝らなくていいんだよ」
奈津子が沈黙を破った。
「私が…その…いなかったら絵里さん、壊れなかっただろうし」
「いやそれは…」
「絵里さん不安だったんだろうなぁ…」
「へ?」
「いままでライバルなんかいなくて、慎ちゃんもきっちり絵里さんのほう向いてくれてて。でも高校が変わった。そしてその高校でライバルが現れて…だんだんそっちのほうに慎ちゃんが向いてきて」
「俺を奈津子のほうに向かせたのはほかならぬ奈津子だろ?」
「ふふふ、そうだけどさ…でもね慎ちゃん私だって不安だったんだよ?あの時好きだ、って言ってくれるまでは。だからねなんとなくわかる気がするの」
俺は何も言葉が返せなかった。ため息しか出ない。
「ねぇ慎ちゃん…多分ねすごい責任感じてると思うの、今回のことで…まぁ普通の人ならそうだよね。でもねやってしまったことはさ、もう戻らないんだよ。覆水盆に帰らずっていうじゃない」
「でもさ…」
「だからさ…これから責任取ればいいじゃない♪」
「どうやって?」
ふふふと笑う奈津子。
さり気なくカーテンを閉め始める。ちなみにここは個室だ。
そしてカーテンをしめ終わると一気に抱きついてきて俺はあっけなく引き倒された。
「私を幸せにして♪」
うげ、いきなり、チャックに手をかけ始めやがった!
「やめろ、お前怪我人だろ!自重しろ!」
「えへへ、関係ない♪自重ってなに?おいしいの?」
「関係あるだろ!あと自重は食いもんじゃねぇ!ちょっと待て!うわやめい!」
「えへへへへへへへへへへへへへへへ♪逃がさないぞぉ♪」
311慎 ◆tXhMrjO4ms :2007/05/10(木) 21:13:31 ID:zGJa7IMm
…その後どうなったかって?
やめさせたさ、さすがに、本番まで行くのは。さっき激しい運動はだめって言ったくせに…
その代わり、つたなかったが口でやってもらった。看護士さん来るかどうかかなりひやひやした。
終わった後は消臭剤まで買ってきて証拠隠滅。
こんなことばれたら、謹慎処分延びるどころじゃないだろうし。
お預け、そうお・あ・ず・けだ。
残念ではあったがな。
退院した後はしばらく注目は浴びたが、時間がたてば、注目も減ってきて、それなりに普通に生活はできるようになった。
絵里は医療少年院に入れられることになった。精神に異常が見られるとのこと。
でてきたときどうなるかはわからない。この絵里のことは俺にに背負わされた十字架になるだろう。
忘れることはできない…消して消えることのない十字架…でもどうすることもできない。
もだしかしく情けない感じだ。絵里にはもう会うこともないだろう。この奇妙な関係は完全に終わった。
その後、俺と奈津子は首都圏にある大学にそれぞれ進学した。
別に近くということをを狙ってはない。本当だ。
同棲はすんでのところで阻止した。付き合ってみてわかったのだが、奈津子は大食いだった。
何故太らないのかと失礼ながら尋ねたこともある。答え?右ストレート一発。以上。
とにもかくにもそんな大食いと生活してりゃ生活費がいくらあっても足りない。
だったらな、就職するまでは我慢しようぜ、ということにしたわけさ。
かなり渋られたが。何度別れると言われたことか。われながらよく粘った。
まぁ同じ首都圏というだけで、同棲したら二人とも通学で大変なことになるがな。
そうそう、奈津子は最近ネットはじめたらしく、見つけてきたことをたびたび報告してくる。
休日は大抵どちらかの家に行くので、そのときに話してくれる。
今日も俺のうちに来て、その話ってわけさ。
「ねぇねぇ〜慎ちゃんこれ見て」
奈津子が自分のノートパソを開く。
「ヤンデレ?」
「そう、そのヤンデレっていうジャンルの小説の保管庫」
「で、これがどうしたのか?」
「でねこのヤンデレってので一つ話を思いついたの。」
「へぇ〜」
「あのN市長選での銃撃事件。その事件の裏で、事件が起こるの。きっかけは…子供のころのなんでもない約束。それがきっかけで、後々大変なことになるの。面白そうじゃない?」
「うん、興味はあるね」
とは言いつつ軽い生返事。ちょっと長くなりそうな気がして聞く気が…
「聞いてくれるよね?」
顔は笑ってはいるが、声が笑っていない。聞かなきゃ何されるかわかんねぇ…
「はいはいわかりましたよお嬢様」
「でね、でね…」
まぁこれも一つの責任さ。俺が背負わされたな。え、奈津子の話?それはまた別の機会で。
俺の話はここまでだ。
さぁ気合いいれて奈津子の話を聞くぞ!今日は寝れるかなぁ…明日授業だよ…
あいつは全休らしいが。やれやれ…

でもそんなこといやいやながらと言っても、俺は今幸せだ。今はそれで十分すぎるのさ。


                                    「責任・幸せ」
                                     
                                      to be continued
                                      でも、とりあえず、おしまい。
------------------------------------------------

投下終了します。
312名無しさん@ピンキー:2007/05/10(木) 21:49:50 ID:lzukLvNJ
>>311
久しぶり&完結乙です
奈津子でこんなほのぼのENDになるとは個人的には予想外だ(´・∀・`)
残りのルートもwktkして待ってます
313名無しさん@ピンキー:2007/05/10(木) 22:14:55 ID:LVA1tyw9
一番の危険人物だった奈津子が凄くいい人になってるーっ!?
そんで哀れ絵里がぶっ壊れて悲惨なエンドにw という事は別ルートだと・・・?

GJです。続き楽しみにしています。
314和菓子と洋菓子:2007/05/11(金) 01:56:00 ID:Nqnf7ECO

あの後、僕は北方さんの家に行くと、例の庭に面した客間に通され、茜色に照らされている庭先の木々を眺めたり、彼女の作った僕の好物でもあるプリンを食べながら、取りとめもない話をしていた。
しかし、理沙と一悶着あった後だから、話しているうちに妹の理沙の話になっていった。
当然のことながら、彼女にとって見れば世間話などどうでも良いことであって、理沙に関してのほうが耳寄りな情報であろう。
彼女が僕に聞いてきたことはこれといって特別なことはなく、彼女の性格や趣味、休日は何をしているか、
等といった当たり障りのないことであった。

僕はこの日帰りが遅くなることを放課後に理沙に告げてから、北方邸に向かったので、三十分ほどかけて自宅まで歩いて帰ることになった。
家に着くと旅行から帰ってきた母が理沙といろいろ話していたようだったが、
僕が帰ってきたのを見るといろいろと旅行中の武勇伝を聞きもしないことを話し出した。
第一なんだって、旅行から帰ってくるなり、途中の何々を値切って買っただの、なんだのと、バーゲンセールで買いたいものをすべて買ったような顔をしておられますか、この母者は?

理沙は僕の帰りが遅いと非常に心配するのだが、同性ということもあって母がいるときは例外だ。
だから、今日は平然とラノベとネット三昧できるわけですよ、これが。
こういう甘い汁を全国の一人っ子は日夜吸っているかと思うと、少子化反対などと思ってしまう。
父は出張のときは一週間位、行ったきり帰ってこないことがよくあるが、今回もそれ例にたがうことないだろう。

それから一週間、特に代わり映えのない日々をすごしていった。
ただ、変わったこととしては、今まで接触のなかった北方さんの家を何度か訪れた事、それともう一つ、理沙が僕の分の昼食を毎朝、作ってくれることくらいだろう。
315和菓子と洋菓子:2007/05/11(金) 01:56:56 ID:Nqnf7ECO
金曜日の帰りのHR―。
僕の通う学校は私立にしては珍しく、週休二日制で随分ゆとりがある。
そんなわけで金曜のHRというのは各々が開放感に満ち溢れ、週末の予定に思いを馳せる。
映画館に映画を見に行くことになっていたので、僕もそういった生徒の例に漏らさず、こみ上げてくる喜びに浸っていた。
まあ、そんな感じでみんな気が抜けているから、必然的に月曜日の忘れ物や遅刻、更なるツワモノならば休んだりするものが増えてしまうのだが、その程度は許容範囲の必要悪ですな。

「じゃ、これで金曜もおしまい。週末はお前ら生徒の顔を見ないので先生も骨休めになります。」
おお、田並先生、実に思い切った発言を何気なくしているぞ。
満面の笑みを浮かべながらそういったので、先生も週末は何か楽しい予定でもあるのだろう。
「号令な。」
「起立、礼。」
「ありがとうございました。」

それでは今日もひとっ走りすることにしましょうか。僕の席は窓際にあるので教室の出入り口からは最も離れているのだが、そこで縮地法でも使ったのか、とでも思わせるように迅速に、狭小な隙間をするりするりとうなぎのようにすり抜け教室から出る。これで第一関門を突破。
広がる廊下は未だに人で埋め尽くされていないので、他の教室も含めて、生徒が部屋から出てくる前に矢のように走り抜ける。
それから、一階の昇降口まで直通になっている最後の砦である、階段を二段抜かしで降りていく。この方法はリスクも大きく、頭から転がり落ちて、天性の運動能力のなさ故に、かつて骨にひびが入ったことがあったが、毎日の積み重ねで慣れきっている僕はそんな真似はしない。
316和菓子と洋菓子:2007/05/11(金) 01:58:01 ID:Nqnf7ECO
そうして、三学年共通で使用する昇降口に到着したら、右端の二年理系クラスの方へ向かう。
が、その刹那、強い衝撃を全身で感じた。
と同時に聞こえたのは、よく聞きなれた声、目に入ったのはブロンドの短い髪・・・。
「いたたた・・・、誰ですか?危ないですよ。」
僕が正面衝突したのは図ったように妹の理沙だった。
理沙は年不相応に小柄なので、家でも時々ぶつかってしまうことがある。
「あー、お兄ちゃん。今日は用事あるの?ないなら一緒に帰ろうよ。」
ぶつかった箇所を軽くさすってから、そう言った。
ニコニコと屈託のない笑みを向けてくる。やはり、理沙も週末だから少しばかり浮かれているのだろうか。
「そうだな。じゃ、たまにはそうしようか。」

昇降口に程近い、二年F組というプラカードが掲げられている駐輪場から自転車を出し、校門の前で理沙を待つ。
一年の駐輪場は昇降口から遠いので少しばかり時間がかかるので、
廊下や教室で抜かしていった連中が、少しばかり脇の校門を出て行くのが見えた。
317和菓子と洋菓子:2007/05/11(金) 01:59:06 ID:Nqnf7ECO
「あら、誰を待っているのかしら?てっきりいつも通り全速力で帰ったと思ったのだけれど。」
他のクラスメイトにはないような清冽な声。少しばかり慣れたとはいえ、
不意にこの声で後ろから声をかけられるとうろたえかねない。
そう、それは北方時雨さんの声だった。

「驚かせたみたいね、ごめんなさい。でも、あんなに急いでまで誰を待っているのか、不思議に思うでしょ?」
訂正する、うろたえかねない、ではなく狼狽している、だ。
「え、あ、ははは、そうだね。」
そんな狼狽しているが故の、気のない返事をするとおもむろに僕と三歩の位置にまで近づいてきた。
い、いかん。図書館の片づけをさせられた時の怖さを超越している。
当然こうなってしまうと、わが軍は極端に不利なのに戦線離脱できません・・・。
しかも、この構図だと僕が北方さんに叱責を受けているようにしか見えない。
「そんなに、おびえてどうしたのかしら?私が怖いのかしら?」
サンドイッチを屋上で食べたときも、彼女の家にたびたび訪れたときも、こんなに怖さを感じたことはなかった。
今日の授業中も普段となんら変わったことがなかったというのに、いったいどうしたことだろう。
「い、いや、そ、そんなことはない、よ。」
「・・・そう。まあいいわ。今からまたうちに来てくれないかしら?」
「え、まあ今日は・・・」

今日は理沙と帰って週末の計画を立てるから不可能、と断ろうとした時に、
「あれ、北方先輩、お兄ちゃんに用ですか?」
という、理沙の不機嫌そうな声が自転車を転がす音と一緒に聞こえてきた。
おお理沙、ナイス・タイミング!
ちょっと例は悪いが、ハブに睨まれているところへマングースがやってきた、みたいだ。いや、例が悪すぎか・・・。
318和菓子と洋菓子:2007/05/11(金) 02:00:01 ID:Nqnf7ECO
不機嫌そうな声を歯牙にもかけずに、北方さんは短く答えた。
「ええ、少しばかり。」
「そんなにお兄ちゃんに近づかないでいただけます?お兄ちゃんを苛めているように見えますよ。」
理沙は理沙で、おざなりに答えた北方さんに対し真っ向から、機嫌を逆なでするような発言で報いた。
北方さんに理沙の話をしているときにも思ったが、何故こんなに険悪になるのか僕には理解できない。

「くすくす、本当にあなたは松本君が好きなのね。でも、依存しすぎるのはどうかしら?」
その発言で完全に理沙は切れた、そう確信した。
「私たち、もう帰らせていただくので。」
「あら、さっきも言ったでしょう?松本君に用事があると。」
「先輩は随分と勝手なんですね。先輩が用事があってもお兄ちゃんは先輩に用事がないかもしれませんよ?」
怒気を含んだ声で躍起になって言い返した。空気がぴんと張り詰めていて、
かなりいただけない状況なのは重々承知だが、何をしたら良いのか分からない。
何かしても、結局どちらかにとっては良い状況に、もう片方にはそうでなくするのは目に見えているからだ。
「松本君、あなたは約束、きちんと守る人よね?」
こちらに向けられた北方さんの声は清冽さをたたえていた。
が、それと同時にほのかな柔らかさがにじみ出ているように感じた。
おそらく、北方さんは僕が彼女の思うように答えてくれる、と期待して、
いや、寧ろ確信に近いようなものを持っているから生じる柔らかさなのだろう。
319和菓子と洋菓子:2007/05/11(金) 02:00:45 ID:Nqnf7ECO
僕はなぜか、その彼女の期待ないし確信を裏切ることができなかった。
「理沙、ごめん。今日は北方さんに英語を教わることになっていて、用事が入っていたのを忘れてた。本当に悪いけど、先に帰っていてくれないか。」
ゆっくりと一語一語をかみ締めるように言った。
「お兄ちゃん・・・・そんな・・・・分かりました。」
思いもよらぬ僕の回答が理沙を苦しめるのは分かる。・・・本当に悪いことをしているのは分かる。僕の一言で我慢して潔く身を引いたために、それがより、僕に罪悪感を感じさせる。
「・・・お兄ちゃん、でも何かあるといけないから、なるべく・・・・なるべく早く帰ってきてね・・・。」
そう最後に一言だけ言うと、理沙は転がしていた自転車に乗り、車輪を走らせた。

理沙が行ってしまうと北方さんが口を開いた。
「・・・ごめんなさい。悪いことをしたのは、私にだって分かる。でも、意地を張ってしまって・・・。」
「・・・まあ、いいよ。理沙には後でフォローしておくから。それよりも用事って何?」
「この前、私の家に来たときに忘れ物があったので、それを取りに来てもらおうと思って。」
ああ、そういえば前回、家についてから何かないと思ったが、彼女の家で忘れ物をしていたのか・・・。

320和菓子と洋菓子:2007/05/11(金) 02:01:42 ID:Nqnf7ECO
松本理沙は悲しみと悔しさにさいなまれながら、自転車を走らせていた。

何でこうなってしまったのだろう。
私は久しぶりにお兄ちゃんと一緒に帰りたかっただけなのに―。
最近の学校生活についてやこの前読んだ本について、とか取りとめもない内容を話していたかっただけなのに―。
そうする事をお兄ちゃんも選択してくれましたよね。
いきなり、ぶつかってきてとても痛かったけど、
そのぶつかったのがお兄ちゃんだったから、私ね、うれしかったんだよ。
一緒に帰る段取りができたのに、それを横から入ってきて、いきなり根拠のない『用事』を持ち出してきて・・・。
それを排除して、一方的に迫っているのを排して、帰ろうとすることは間違っていないのに―。
これほどまでにお兄ちゃんのことが大好きなのに―。
何故、どうして、お兄ちゃんは失礼な先輩との約束を重んじたの?

お兄ちゃんはずっと私だけのお兄ちゃんだった。私が小さいときからずっと。
だから、こんなことになるとは露ほども思っていなかった。
いつだったか、雌猫の存在について考えていたけれども、そんなことは絶対にないなどと、勝手に心のどこかで錯覚したまま置き去られていた。
だから、北方先輩の存在を知ったときも、当然癪な感じはしたが、数あるクラスメイトの一人でお兄ちゃんの周りにいあるお兄ちゃん引き立て役、程度の認識で済ませていた。

でも、私は大きな勘違いをしていた。
彼女がうわべだけは清潔だが実際は汚らわしい雌猫である、という事実を誤解していたのだ。
雌猫は私をうまく出し抜いてお兄ちゃんを自分の玩具にでもしようと思っているに違いない。
でも、そんな奇襲が通用するわけがないよ。だって、お兄ちゃんが私を捨てるなんてことはありえないから。
お兄ちゃんは私の胸の中で眠ることはあっても、わざわざ猫の家に入るはずがない。
さっき、私はお兄ちゃんに何かあるといけないから、と言ったけれども、問題の温床になるのは雌猫さんなんだよ?
今、お兄ちゃんは悪い悪い雌猫さんにだまされているだけだよね?
当然、お兄ちゃんの本意からの行動じゃないはずだよね。
心優しく良識的な、お兄ちゃんだもの、きっと相手を傷つけないために気を遣っているだけのはず。
もし、もう既に毒気にあてられているなら、解毒剤を作って、猫さんを駆除する薬をすぐに作ってあげるからね。
そうすれば、いつもの優しい、私だけを見続けてくれる、『お兄ちゃん』になってくれるよね?
321和菓子と洋菓子:2007/05/11(金) 02:02:18 ID:Nqnf7ECO
これまでにも既に何回か訪れた北方さんの家だが、視界を完全に遮る高い壁、重厚で威圧感あふれる威風堂々とした母屋、落ち着いた佇まいの中に季節を感じさせる整った純和風の庭。
この物々しさには一般庶民の自分には馴染めるものであろうはずがなく、ただただ圧倒されるばかりであった。
「松本君。来ないのかしら?」
いやはや、圧倒されるを通り越して呆然としているようにでもとられましたかね?

今日はいつもの客間には通されずに北方さん自身の部屋に通された。玄関の靴箱にいくつか大人用の靴があったから、おそらく彼女の両親の仕事の関係なんだろう。まあ、僕には関係のないことだが・・・。

北方さんの部屋は和室で几帳面に片付けられており、本棚には所狭しと活字の本が埋め尽くされており、どれもラノベと漫画で長年熟成されてきた脳の思考回路ではオーバーヒートしてしまいそうな内容の本だった。
その部屋からは、よくある女の子女の子したそれではなく、非常に瀟洒な印象を受けた。
部屋の状態が頭の中身、だと物の本で読んだが見事にそんな感じだ。
322和菓子と洋菓子:2007/05/11(金) 02:02:58 ID:Nqnf7ECO
テーブルの近くには腰掛が二つしつらえてあり、そこに腰掛けるよう北方さんが勧めてきた。
「はい、この前の忘れ物よ。クスクス、悪いけれどもそのラノベ、読ませていただいたわ。」
例によって、唐突に忘れ物の話が振られたのですぐに何のことを言っているのか分からなかった。
忘れ物は読みかけのラノベだったのだが、内容としてはかなり脱力系の内容だったはずだ。
いかん、僕のキャラが頭の軽いやつ、ということになってしまうではないか!

「え、そんな本、北方さんには物足りないのでは?」
「いいえ、いろいろなジャンルの本を読むことは良いことだわ。」
この程度ならわざわざ北方さんの家で帰さなくてもいいのでは、という至極当たり前な疑問が今頃になって浮かんできた。別にこの程度なら、学校で帰してくれても良かったのに。
そんな事を考えていると、北方さんはお茶請けを用意するといって、部屋を出て行ってしまった。

もう一度、部屋の中を見回してみた。本棚には名前しか知らない哲学者の本、心理学、歴史やら政治やらの本が収納されていた。
次に目がいった飾り棚には掛け軸が掲げられ、茶道具がおいてあった。庭に面した窓の近くに机があり、その周辺に学校の教科書や参考書があった。
この部屋に入って、部屋の主が女の子という以前に学生から逸脱しているような気がするのはおそらく僕だけではないだろう。
机の端のほうに置かれていた写真立てに彼女が家族と写った写真があったが、こういうところを見るとやはり彼女も普通の女の子らしい一面もあるのだな、などと思い片頬を緩ませる。
それから、机の上に置かれていた真紅のハードカバーの本に目がいった。
本の題名は”Albtraum”となっていて、英語とは違う感じなので意味が分からなかったが、その豪華な装丁から普通の本でないことは分かる。
323和菓子と洋菓子:2007/05/11(金) 02:03:49 ID:Nqnf7ECO
何とはなしにページを送っていると、北方さんが部屋に戻ってきた。
その本を僕が読んでいるのに気がついて話しかけてきた。
「その本に興味を持ったのかしら?」
「まあ、少し。でも、僕に理解できるわけがない。」
「その本の題名はアルプトラウム―。ドイツ語で『悪夢』って意味よ。」
「アルプト・・・?」
本の内容を分かりやすくかいつまんで僕に話してくれた。何でも、
ドイツのグリム童話の一つである、髪長姫とかいう話のアンソロジー的内容で、グリム童話といえば、白雪姫に出てくる王子のネクロフィリアのようにアンダーグラウンドについても深い内容だといわれるが、この本もそういった方面に目を向けた小説だった。

そんな本の話やら、彼女の趣味の話やらをしているといつものように日が暮れてしまっていた。
そろそろ帰ろうかと変える頃合を見計らっていると、誰かが部屋の扉をノックしてきた。
北方さんがどうぞ、と言うとやや白髪が混じってごま塩頭になっている男が入ってきた。
写真に写っていた人にそっくりだったので、おそらく彼は彼女の父親だろう。
「どうも、君の名前は・・・松本君、だったかな?」
「ああ、はい。松本弘行です。お邪魔してます。」
324和菓子と洋菓子:2007/05/11(金) 02:04:52 ID:Nqnf7ECO
そういうと、僕は彼に連れられて自身の書斎に入っていった。
基本的に部屋の内装は時雨さんのものと同じようだ。
お茶を僕に勧めると、彼は取りとめもない世間話を始めたが、暫くすると彼女の話になった。
おそらく、これが本題であろう。
「いつも学校で、娘がお世話になっているそうだね。」
「そうでもないですよ。僕なんかは逆に迷惑をかけているかもしれないです。」
そういうと彼は、ははは、と静かに笑った。
「時雨は君も知ってのとおり、人付き合いが苦手でね、今まで同性の友人ですら連れてこなかったものだった。」
「でも、君が良くしてくれるようで、最近、娘が家でも明るくなってきたようで、本当に君には感謝している。」
同性の友人すら家に呼んだことがない、そう確かに彼は言った。それはやはり尋常ではない。
いったい何があって、彼女は人付き合いが苦手になってしまったのだろうか。
「本当にこれからも娘と仲良くしてやってくれ。あの子の話し相手は君だけなのだ。情けないことだが、私は時雨に嫌われているようでね。あの子には母もいないし、話し相手が必要なのだよ。」
うなるような声でゆっくりとそう述べた。

しかし、母もいないし、というところは驚きであった。
そんな話を彼女から一度も聞いていないし、こちらから聞いてもいないのだから、
知らなくても当然といえば当然だが。ふと机の上の写真が反芻される。
あの写真には確かに母親らしき人物は写されておらず、父親とも微妙な間を置いて写真に写っていた。
もし、それが昔からの彼女の家族の状態だというのなら、これほど悲しいことはない。
325和菓子と洋菓子:2007/05/11(金) 02:05:44 ID:Nqnf7ECO
「母がいない、とは?」
「ああ、娘から聞いていないのか。時雨の母、まあ私の妻だが、妻は恥ずかしい話なのだが、私が家庭をないがしろにしたせいで精神をわずらっていてね。長らく、精神病院に入院していたが、二年前に他界したよ。
さらに妻は、実の娘でありながら時雨のことをひどく嫌っていた。
時折ひどい折檻を時雨は受けていたのだが、私自身知っていながら、どうすることもできずに、放っておいた。
それで時雨に嫌われているのだから、当然の報いなのだが・・・。」


それから、彼はにぎやかに夕食を三人で取りたいと提案したので、せっかくなのでご相伴させてもらった。
北方さんは父と一緒に食事をすることに難色を示していたが、僕も一緒であることを知って承諾した。
食事は非常に良いものであったのだろうが、あまり美味しく感じられなかったのはさっきの話が原因だろう。
北方さんにこんな辛く、悲しい過去があったとは知らなかった。
僕などは家族内にこれといった問題もなく、これがごくごく普通の家族だと思っていたが、実際はそうではないのだ。
彼女のような不運な例も世の中には山ほどある。
自分がいかに非力とはいえ、自分から僕にアプローチして立ち直ろうとしている、時雨さんの助けになりたいと思った。


326名無しさん@ピンキー:2007/05/11(金) 02:07:46 ID:Nqnf7ECO
第四話ここまでです。
327名無しさん@ピンキー:2007/05/11(金) 10:26:47 ID:DioKE6CB
このラノベ兄貴! 妹と帰ってやれよ!
俺にもし妹がいたら毎日一緒に帰ってそれからあれやこれy(ry
328名無しさん@ピンキー:2007/05/11(金) 13:20:07 ID:9B/kDN8/
>>311
ヤンデレ対決になるかと思ったら奈津子が普通にいい子でハッピーエンドでよかったよかった
でも本音では……残念だ!もっと修羅場を!
と思ってしまう俺はもう駄目かも分からんね(´・ω・`)
続きも待ってますw

>>326
時雨さん大幅リードか?
ここからキモウトがどんな風に病んで反撃するかにwktk!
329名無しさん@ピンキー:2007/05/11(金) 18:01:24 ID:6Pae6zRB
>>314
とてつもないGJ!!
最高です!

つかぬ事をお尋ねしますが、前に何らかのヤンデレ作品を執筆したことはありませんか?
330名無しさん@ピンキー:2007/05/11(金) 20:36:45 ID:wB3f3cOT
それでもキモウトなら、キモウトならきっとなんとかしてくれる!(AA略
331伊南屋 ◆WsILX6i4pM :2007/05/12(土) 00:32:36 ID:DFTgfRRy
携帯の機種変に伴い送信サイズが強化され、更にデカい絵をはれるようになったんだがさて、ちゃんと表示されるだろうか。
http://p.pita.st/?xsumijtz
332名無しさん@ピンキー:2007/05/12(土) 00:38:24 ID:ZJPt79ce
おお、GJです!
取り合えずPCでは見れますな。デカイけど。
333名無しさん@ピンキー:2007/05/12(土) 09:15:01 ID:KsNNBbDE
>>331
GJJJJJ!
アリス可愛いよアリス
334名無しさん@ピンキー:2007/05/12(土) 10:08:23 ID:pNAx/EdK
>>311
乙〜。今まで一番の危険要素だった奈津子が急に聖人君子になったのには違和感があるけど、
精神的に余裕ができたからでしょうか?話をまとめるにはいい結果なんでしょうね。
その分選ばれなかったらどうなるか気になりますが。
335伊南屋 ◆WsILX6i4pM :2007/05/12(土) 22:19:20 ID:DFTgfRRy
またデカい
http://p.pita.st/?srhii7at
336名無しさん@ピンキー:2007/05/13(日) 09:01:13 ID:oKLPW8iQ
>>335毎度GJ!
更紗可愛いよ更紗
337名無しさん@ピンキー:2007/05/13(日) 20:09:46 ID:5hRdrVG0
保管庫更新乙!
338名無しさん@ピンキー:2007/05/13(日) 20:43:48 ID:WG3NrSy+
おおマジだ。
保管庫更新お疲れ様です。
339伊南屋 ◆WsILX6i4pM :2007/05/13(日) 23:34:33 ID:5hRdrVG0
一日一枚お茶会絵強化期間
須藤冬華
http://p.pita.st/?dkiab7rs
描いてから義手の事を思い出したが既に手遅れ。
そして冬華の両眼を描くのが初めてだと気付いた。
34051 ◆dD8jXK7lpE :2007/05/13(日) 23:54:28 ID:6xMqvPde
間空きまくりやがりました。
とりあえず投稿します
34151 ◆dD8jXK7lpE :2007/05/13(日) 23:56:02 ID:6xMqvPde
鬼葬譚 第二章 『篭女の社』

ごばんめのおはなし
==============================
「…う…ん…?」

 あたしは、ゆっくりと目を覚ます。
 どうやら、あたしは社の縁側ですっかり寝入ってしまっていたようだ。
 耳に届く、ヒグラシの鳴き声。
 気が付けば、あたりはもうすっかり夕暮れになっていた。

 …何があったんだっけ。

 寝ぼけた頭で、それまでのことを思い出そうとする。
 たしか…やってきた儀介に思わず激昂して、父のことを思い出して
大泣きして、そんなあたしを儀介が優しく抱きしめて、そして―――

 儀介が、あたしに結ばれて欲しいと。

「!!!!」

 そこまで思い出して、あたしは自分が儀介に膝枕をされている
事に気がついた。
 …そうだ、結局泣き止む事が出来なかったあたしは、儀介に誘われる
ままこの縁側で横になりそのまま泣きつかれて眠ってしまったのだ。

「…あ、あ、あたしっ!」

 あたしは慌てて体を起こし、服の袖で乾いた涙の後をごしごしと拭い去る。
 今更ながら、泣き顔を見られた気恥ずかしさと、儀介の告白の言葉に、
顔がかぁと熱くなっていくのをあたしは感じた。
34251 ◆dD8jXK7lpE :2007/05/13(日) 23:57:16 ID:6xMqvPde
「ぎ、儀介…?」

 あたしは、恐る恐る儀介の顔を覗き込む。
 一体、儀介にあたしはどんな顔をすればいいんだろう。
 いや、その前に儀介のあの言葉にあたしはなんと答えればいいんだろう。
 あたしの頭の中をぐるぐるぐるぐるといくつもの考えが浮かんでは消えて行く。
 だが。

「…ぐぅ」

 …当の儀介は、縁側の柱に背を預けて気持ちよさそうに眠っていた。

「こいつは…」

 …ああ、そうだった。こいつはこういう奴だ。
 いつだってあたしを振り回して、迷惑をかけて、そのくせ悪びれない。
 あたしは、がっくりと肩を落として、大きくため息をついた。
 
「…ふ…ふふっ…ふふふふふふ…」

 わたしの口から苦笑にも似た笑い声が漏れる。
 思い返せば…ずいぶんと久しぶりに笑った気がする。
 あたしは、顔を伏せて眠る儀介の姿をちらりと見た。

「あーあ…人に迷惑かけるだけかけるくせに、なんで嫌いになれないんだろ」

 こいつは、いつだってそうだ。
 迷惑をかけるくせに、どうしてもこいつを嫌いになる事が出来ない。
 無防備な寝姿に、あたしはくすりと小さく笑う。
34351 ◆dD8jXK7lpE :2007/05/13(日) 23:58:09 ID:6xMqvPde
「きっと、信じられるから…なのかな。
 あんたは…絶対、間違った事はしないって、裏切ったりしないって…
 信じられるから…」

 ヒグラシの鳴き声。
 暑い夏の日差しも沈み、少しずつ心地よい夜風が吹き始めている。
 境内に居るのは、あたしと、儀介の二人きり。
 …あたしは今、一人じゃない。
 それが、こんなにもあたしの不安を和らげてくれる。

「だから、ね。あんたと一緒なら、きっと…うんきっと。
 辛い事も、悲しい事も乗り越えられると思う。
 あんたとなら…一緒になってもいいかな…なんて」

 当人が聞いていないとなるとずいぶんと大胆な言葉が言えるものだ。
 そんな自分に苦笑しながら、 あたしは儀介を起こすために
手を肩にかけようと手をのばした。

 ―――その瞬間。

「ん、ありがとな。しっかり聞かせてもらった」

 儀介が、にやっと笑いながら顔を上げる。

「…へ?」

 この時のあたしは、物凄く間抜けな顔をしていたに違いない。
34451 ◆dD8jXK7lpE :2007/05/13(日) 23:58:54 ID:6xMqvPde
「あ、あ、あ、あんた起きて―――?!!」
「いやーその…なんだ。語り始めちゃってなんか声かけづらくってさあ」

 ああ、つまり今までのあたしの恥ずかしい話は全部聞かれて
いたというか、あんなどう考えても求婚の承諾にしか聞こえない
言葉を聴かれてしまったというか、ていうか何でこいつはこんな
罠のような真似事をしてくれたのか、ええ、つまり―――その、なんだ。

「あー…紗代? おーい?」

 儀介の声。
 真っ白になったあたしの頭の中。
 次の瞬間、あたしの体は本能の命ずるがままに―――

「うわぁぁぁぁぁぁっ!!!」

 儀介の顔面に向かって盛大に拳を叩き込んでいた。
34551 ◆dD8jXK7lpE :2007/05/13(日) 23:59:33 ID:6xMqvPde
==============================

「ゴメンナサイ、いや、マジで反省してます」

 顔面がある種特殊な形状に変形した儀介が、あたしに平伏する。
 無論、やったのはあたしだ。
 あたしは、ぜいぜい荒い息をしなんがら儀介の顔を鬼の形相で睨みつけていた。

「いや、確かにお前を騙すような真似事をしたのは悪かった、反省してる」
「まったくよ! 騙されて恥をかいたこっちはいい迷惑なんだから!」

 あたしは両手を胸の前で組むと、儀介から視線を晒すように明後日の方を向く。
 そんなあたしに儀介ははぁと小さくため息をつくと、ちらりとこちらを見上げた。

「でも、逆に言えばさっきのは…本気だったんだろ?」
「うっ…!」

 …それを言われると実につらい。
 確かに、あの時の言葉は私の本心だ。それは間違いはない。

「そ、それはそうなんだ…けど…」
「けど、なにさ?」

 顔は見ていないが、儀介がにやりと勝ち誇ったような笑みを浮かべて
いるのが判る。
34651 ◆dD8jXK7lpE :2007/05/14(月) 00:00:05 ID:6xMqvPde
「ええと…それは、その…つまり…」
「つまり?」

 …困った、一瞬にして攻守が逆転してしまった。
 なんと返したものだろうか、思いつかない。
 考える、考える、考える、けれど、答えは出ない。
 …いや、答えはある。それは既に得ている。
 でも、それを認めてしまうことが、口に出してしまうのは、あたしは。

「…聞かせてくれないか。今度は、確かに」

 躊躇するあたしの耳に届く儀介の優しい声。
 その声に、あたしは思わず儀介の顔を見た。
 …そこには、いつもの軽薄な笑顔はない。
 あの日、あたしを呼び出したとき――いや、それ以上に
真摯な思いをあたしは感じた。
 その顔を見たとたん、あたしの胸中の思いを閉ざしていた
戸惑いや躊躇はまるで氷が溶けるかのように消え去っていく。
 代わりに浮かび上がってくるのは、深い深い思慕。儀介を愛しいと
思う、切ない想い。

 そうだ。

 答えを得ているのなら、それを知っているのなら。
 それに素直になればいい、その答えを、ただぶつければいい。
 単純な――あまりにも単純な事じゃないか。
34751 ◆dD8jXK7lpE :2007/05/14(月) 00:01:08 ID:NkYkZKe6
気付いてしまえば、何も悩む事などない。
 あたしは、小さく微笑むと儀介の顔を見つめ返す。

「わかった…うん、言うよ」

 あたしは床に膝を着き、頭を深々と儀介に向かって下げる。

「儀介…様。此度の縁談、謹んでお受けいたします。
ふつつかな娘ではございますが、どうぞ末永くよろしくお願いします」

 …なんだか、畏まった物言いがこそばゆい。

「…く、くはは、あははははは…!」

 笑い声。顔を上げれば、儀介が腹を抱えて笑っている。
 そんな姿に、おもわずあたしの頭にかぁと血が上ってきた。

「わ、笑うなぁッ! あ、あたしもなんか変な感じだなーとか思ってるんだから!」
「い、いやでも、似合わない…その物言いは…似合わなすぎる…」
「う、うるさいうるさいうるさいー!」

 …やっぱり言うんじゃなかった。
 あたしは、むっとしたまま儀介に背を向ける。
 そんな背を向けたあたしに後ろから手が回され、優しく抱きしめられた。
34851 ◆dD8jXK7lpE :2007/05/14(月) 00:02:41 ID:NkYkZKe6
「…ありがと、なんつーか、その、嬉しい」

 耳元で囁かれる、優しい言葉。
 これがこいつの常套手段だとわかってる。
 …わかってはいるのだが。それでも、その言葉にあたしの心がきゅうと
締め付けられるような心地よさを感じてしまう。

「あんたの…そういうところ。あたし、嫌いよ…」

 囁くように呟く、あたし。

「じゃあ…そういうところも含めてさ、好きに…なってもらいたいな…俺としては」

 重なり合う、影。
 その光景を見ていたのは、空に浮かぶ新円の満月、ただそれだけで。

==============================

…申し訳ない、遅れた上に今回はここまで…
デレ長すぎ。
349ことのはぐるま ◆Z.OmhTbrSo :2007/05/14(月) 00:10:05 ID:Phq6Y94j
>>339>>348
お2人とも、GJです。
では、続けて投下します。
-------
第十一話〜前世の否定〜
・ ・ ・

 目隠しをされたうえベッドに長時間縛り付けられていると、無性に不安な気分にさせられる。

 もしかしたら目隠しを隔てた向こう側には刃物を持った殺人鬼がいて、俺をどうやって殺そうか
考えているのかもしれない。
 身じろぎをしただけで殺されるかと思うと、うかつには首を動かすこともできない。
 それとも、どこか人目につかない場所にベッドごと閉じ込められているのかもしれない。
 もし誰も来なかったら、この惨めな状態のまま死んでしまうだろう。

 不意に、ベッドの下や天井を這うムカデやゴキブリの姿を想像してしまった。
 無数の足を持った黒い虫たちがベッドの足を登って、または天井から落下して俺の体にやってくる。
 奴らはうじゃうじゃと体中のあらゆる穴へと入り込んでいくが、手足の自由を奪われている俺は
成す術もなく害虫たちに蹂躙し尽くされてしまい、やがてショック死を迎えるだろう。

 もちろん全部が俺の想像だが、何十分、何時間も横になっていれば無駄なことを考えてしまう。
 暇だったら歌でも歌って気分をごまかそうかと思ったが、近くに誰かいたら恥ずかしいし
他人から同情を買ってようやく褒められるくらいの歌唱力しか持っていない俺は沈黙していた。
 無駄な想像や馬鹿な行動以外にも、頭を使って考えるべきことはある。
 俺をこんな状態にした張本人、菊川かなこさんについて。

 彼女は俺のことを以前から、というよりもかなり昔から関係があったかのように言う。
 それもただの知り合いや友達では無く、まるで恋人だったかのように。
 俺が誰にも話していないようなこと(俺の体の弱点や、口でアレをされるのは好きじゃないという性癖とか)
を彼女は当たり前のように、確信に満ちた声音で口にした。
 そのせいで、過去にかなこさんと付き合っていたのではないかと自分を疑ってしまった。

 しかし、最初の記憶にある幼稚園の送迎バスに揺られているところから、頭脳と身体にアンバランスな
パラメータ振り分けがされていった10数年の回想を何度繰り返しても思い当たるフシが無い。
 俺の記憶が渡り鳥に乗って日本を飛び出してアジアのどこかへ向かっていったのかもしれないが、
そんなものを抱えて越冬しようなどとはニワトリの脳でも考えまい。
 つまり、俺がかなこさんと会ったのは、図書館で顔を合わせたときが初めてで間違いない。

 ここまで考えて、俺の脳の回転は停滞した。
 最後に辿り着くのは、俺はかなこさんと顔見知り程度の仲でしかない、という現状認識。
 その程度の仲だというのに彼女は俺を部屋に連れ込んで犯したうえ、このベッドに縛り付けた。
 何度考えてもそこで止まり、その先にあるはずの動機を掴み取れない。

 まったくわけがわからない。
 俺の偏った審美眼が10点満点をつけて賞賛するいかにもなお嬢様な雰囲気を纏った女性が、
知り合って間もなくどこの馬の骨ともしれない――自分でも言うのも変だが――男を監禁する、
という喜ぶべきなのか嘆くべきなのか迷うこのシチュエーション。
 かなこさんが俺を監禁した理由は、彼女は俺を好きだからだ、ということで納得できる。
 しかし、何故惚れられたのか、それがわからないのだ。
350名無しさん@ピンキー:2007/05/14(月) 00:10:54 ID:1Y4fZ/4D
貯めが長い分いずれ来る病みとのギャップが楽しみDAO(´・∀・`)
351ことのはぐるま ◆Z.OmhTbrSo :2007/05/14(月) 00:12:28 ID:Phq6Y94j
 ガチャリ、と音がして誰かが部屋に入ってくる気配がした。
 足音はしなかった。聞こえてきたのは、トン トン トン、という空気を伝わる軽い音だった。
 その音が自分の方に近づいてきて、みぞおちの辺りにもどかしい不安を感じとったところで音は止まった。
 続いて左側にベッドが軽く傾くと、陶器のカップにスプーンを入れたときの音がした。
 チィン、とも、チン、とも表せる小さな音。

 その音の正体が物騒なものでないことを祈っていると、視覚を覆っていた目隠しの布が外されて
閉じたまぶたの向こうに光の気配を感じられた。
 数秒かけて目を光に慣れさせてから開くと、なんとなく予想していた通りにかなこさんが目の前にいた。
 ベッドの左縁に腰掛けて俺の顔を緩やかな笑みで見つめている。
「おはようございます、雄志様。よい夢をご覧になれましたか?」
 おはようございます、と言ったということは今は朝か。
 でもパーティの翌日の朝なのか、それとも何日も経ってしまっているのかはわからないな。

「なぜ、不安な表情をしておられるのですか? 何一つ心配などしなくてもよろしいのに」
 かなこさんの嬉しそうな顔が俺の視界を寡占すると同時に、一度唇が触れ合った。
 俺がここにいることを、その行動で確かめるように。
 くちづけの後で彼女は頬に薄紅を浮かび上がらせて、感嘆したようなため息をついた。
「ああ……本当に、雄志様がわたくしの傍に来てくださっている……。
 そして、もう引き離されることがないなんて。なんという幸せものなんでしょう、わたくしは」
 そう言いながら彼女は俺の体を跨いで上に乗り、ベッドに縛り付けられた俺の体を抱いた。
 真上に乗られているのに、布団か何かであるかのように重さを感じない。
 ちなみに俺は全裸の状態で、白いシーツを体の上にかぶされている。
 彼女の手が俺の背中から胸までを余すところなく撫で回し、かろうじて胴体を隠していたシーツを捲りとった。
 俺を見下ろす彼女の口からは透明な液体が垂れていて、荒い息が一定間隔で吐き出されていた。

「辛抱、たまりませんわ。……雄志様、お食事の前にもう一度体を重ねましょう」
 食事とはなんのことだ、と思って左に視線を向けると、ベッド脇に置いてあるテーブルの上にトレイが
置かれていて、その上にはサンドイッチらしきものとコーヒーカップが1つ乗っていた。
 かなこさんは俺のために朝食を持ってきてくれたのだろうが、どうやらその目的すら忘れてしまっている
ようで、身に着けている上着に手をかけて脱ごうとしていた。
 その先に何が行われるのか予測できていた俺は、
「待ってください!」
 と、何も考えずに声を出した。

 だが、きょとんとする彼女を制止してから、二の句を継げなくなった。
 なんと言えば、彼女の興味をそらすことができるんだ――?

「わたくしを、拒むのですか?」
 言葉を探しているうちにかなこさんの表情が険しくなってきた。
 緩やかな変化ではあったが、彼女の目は数秒前と比較すると明らかに違う色に変わっていた。
 とろけるように潤んだ瞳から、俺を射抜くような冷たい瞳へと。
 まずい。何か言わないと――
352名無しさん@ピンキー:2007/05/14(月) 00:12:32 ID:rQHIT2/K
>>348
GJです。
ここからどうヤンでいくのか考えただけでも震えが止まりません。
353ことのはぐるま ◆Z.OmhTbrSo :2007/05/14(月) 00:13:44 ID:Phq6Y94j
「えっと……あの、なんで俺はベッドに縛られているんですか?」
 間抜けな質問だとは思う。だが咄嗟に出せる質問はこれしかなかった。
「決まっているではありませんか。雄志様を一生お世話するために、ですわ」
「へ……」
「そして、二度とわたくしのもとから離れさせないため、でもあります」

 また、口にした。俺は知らないのに、かなこさんは知っている俺の過去の断片。
 二度、と彼女は言った。それはつまり一度目があったということだ。
 そうだった。俺が彼女に聞いておかなければいけないことは、過去のことについてだった。

「これから俺がする質問に、真剣に答えてもらっていいですか」
「ええ、もちろんですわ」
 即座に返答された。その躊躇いの無い返答から鑑みて、彼女が嘘を吐かないと確信した。

「俺と初めて会ったのは、どこでしたか?」
 図書館で初めて出会った、と俺なら答える。しかしかなこさんは、
「その頃のわたくしはとても幼かったからはっきりとは覚えておりませんが、城内だったことは覚えていますわ」
 まったくの予想外の返答をしてきた。
 いや、予想外の返答をしてくること自体は予想していたのだが。
 城内?それとも場内?今の発音からすると城内、だったように思うが……。
 それに、幼かったころだって?いったい何歳ごろのことを言っているんだ。

「……俺との付き合いは、どれぐらいになりますか?」
「初めてお会いしたときから数えれば、今日で34年10ヶ月と3日になりますわ。
 雄志様は覚えておられないのですか? わたくしは3つの頃からずっと数えてきたというのに」
 34年!?それに3つの頃から?
 だとしたら、かなこさんは37歳になるが……どう考えてもそれはないだろう。
 何より俺はまだ24だ。37になるまで13年ばかり足りない。

「城内にいた頃に13年、この時代で21年を過ごしました。
 しかし、この時代では1ヶ月もお会いしていないので正確には13年、となるかもしれませんが」
 ……何か、おかしい。
 かなこさんの返答がおかしいというのもあるが、俺と彼女の間に何か大きなものが隔たっていて、
それが俺の理解を妨げているような気がする。

 城内にいた頃と、この時代でのかなこさん。
 この時代以前に存在していた、もう1人の俺。
 ――そういや、結構昔に読んだ本に似たような設定があったな。
 前世で引き裂かれたカップルが再会して、結ばれるとかいうご都合主義のストーリーだった。
 そういえば、かなこさんが図書館で探し求めていた本に登場する殺された姫と護衛役は、その本の
主人公とヒロインに繋げようとすれば繋げることができる。
 まさか、そんなはずが。いや、もしかしたら……。

 こんな頭を疑われるようなことは聞きたくない。聞きたくないが――聞かなければ話が進まない。
「もしかして前世で俺がかなこさんと知り合っていたとか、無いですよね?」
 俺は、今の言葉を聞いたかなこさんが俺をかわいそうな人を見る目で見ていることを期待した、が。
354ことのはぐるま ◆Z.OmhTbrSo :2007/05/14(月) 00:14:54 ID:Phq6Y94j
「やはり、覚えていらっしゃったのですね……」
 彼女は目に涙を一杯に溜めて、震える両手を組み合わせて胸の前に持ってきていた。
「その通りです。わたくしと雄志様は、前世で将来を誓い合っておりました。
 雄志様はわたくしの護衛であると同時に、恋人でもあったのです」
 唖然とした俺の顔を見つめながら、かなこさんは涙を流しはじめた。

 彼女の流す涙はとめどなく流れだしていて、止まる気配を見せないところから嘘泣きだということは
考えられないが、それはつまり彼女の言葉が嘘ではないことの証明でもあった。
 かなこさんの嗚咽はその頻度を増していて、今にも泣き声へと変わろうとしていた。

 両腕が動けば彼女の涙を拭ったりしたのかもしれないが、あいにく今の会話のやりとりで明らかにされた
前世云々の設定を理解することに必死で、そうはできなかっただろう。
 それほど頭が混乱していた。同時に呆れてもいた。
 かなこさんと初めて会った日に連れて行かされた料亭で聞かされた前世を信じるかどうか会話を、
まさか本気でされるとは思わなかった。
 ましてや俺にあの本の武士役を俺に当てはめられるなど、予想外の極みだ。
 それだけの理由で監禁されていたのか、俺は。

 かなこさんは俺がその護衛役の武士だったころの記憶を思い出した、とでも思っているのだろうが、
俺の頭の中は曇り空が広がっていてその中をカラスが飛び回っているところだった。
 三点リーダしか浮かばない。なんだ、これは。
 何故俺の知らない間に俺に関する奇天烈な設定がかなこさんの頭の中で展開しているんだ?
 目の前で涙を流す女性には悪いが、前世の記憶など何も呼び起こされない。
 これがご都合主義な本ならばここで俺の頭に電流でも流れて、お姫様との関係を育んでいって、
障害に遭いながらもハッピーエンドへと邁進していくのだろう。
 かなこさんの脳内ではすでにその光景が広がっているに違いない。

「雄志様は、これからずっと……わたくしと一緒にいて……愛してくださるのですね。
 本当に思い出して……くださるなんて。わたくしの想いが、伝わるなんて……」
 かなこさんは俺がそう思っていることに気づくことなく、涙を流している。
 まずいぞ。初めて会った日からどこか彼女は変わっていると思っていたが、さすがにここまで
いくともはや危険すら感じる。
 どうする。逃げようにも四肢をベッドに固定されていては逃亡不可能だ。
 だが、このままでは俺は前世で恋人同士だったからという理由でかなこさんと結婚でもさせられかねない。

 かなこさんと結婚する――もしそうなったら俺の人生がいい方向に進むことは保証されるだろう。
 政治的な影響力まで持っているらしい菊川家だ。そこの長女と結婚すれば、親類同士のいざこざは
あっても裕福な暮らしを送れるのは間違いない。
 今のように六畳一間のアパートに住むフリーターから、一気に資産持ちへとランクアップだ。
 その結婚に両親は反対などしないだろう。
 基本的に俺を放任している人たちだから、俺が誰と結婚しても反対などしないだろうし、その相手が
大金持ちであったらむしろ結婚を推すに決まっている。
 かなこさんを受け入れてしまってもいいんじゃないのか?
 誰も反対などしないだろうし――香織と華はどうするかわからないが、あの2人も俺が自分の意思で
かなこさんを選んだと知れば何も言わないだろう。

 どうする。かなこさんを受け入れるのか、それとも否定するのか。
355ことのはぐるま ◆Z.OmhTbrSo :2007/05/14(月) 00:15:41 ID:Phq6Y94j
 ………………。
 俺は――やっぱり嫌、というよりは無理だな。
 前世で恋人だったという理由で恋人になり結婚するなど、俺は御免だ。
 なにより、俺の前世が武士だったりすることなどありえない。かなこさんの勘違いだ。
 仮にかなこさんの言うとおりだったとしても、俺は結婚などしたくない。
 そう思うのは前世の記憶が無いからかもしれない。
 だが事実無根である以上、彼女を受け入れることなどできない。

 そう結論付けたところでかなこさんを見ると、彼女の口から漏れていた嗚咽は止まっていた。
 そして俺の顔へ目を瞑って接近してこようとするが、
「待ってください」
 と、俺は本日二度目の制止の声を上げた。今度は否定の意思を込めて。
「……俺は、あなたが想っている人物じゃないです」
 目前にあるかなこさんの顔から、喜びの色が減り始めた。

「勘違いですよ。俺が前世でかなこさんと恋人だったなんて、ありえません」
「ぇ……冗談でございましょう?
 雄志様のお姿も、性格もすべてあの頃のままで……」
「それが勘違いなんですよ。
 きっと他人の空似です。だって、俺には前世の記憶なんて無いんですから」
 諭すような口調で言ったつもりだった。
 しかし、かなこさんは俺の言葉を信じていないようで、小さくかぶりを振っていた。
「勘違いしているのは、雄志様のほうですわ。
 間違いなく、雄志様はわたくしと前世で恋人だったのです。
 その事実は、絶対に覆ることなどありえません。
 あ……わかりましたわ。わたくしをからかっているのでしょう?」
「いえ、ですから」
「焦らすのはおやめください。もう、わたくしは我慢などできませんわ」

 目の前にあるかなこさんの顔が再び近づいてきたので――俺は、無言で彼女の唇をよけるように顔をそらした。
「いまさら恥ずかしがらずとも。昨夜は一晩中まぐわった仲ではありませんか」
 彼女には、俺の行動の真意など伝わっていないようだった。
 彼女を傷つけまいと今まで言うことを躊躇っていたが、このままでは同じことの繰り返しだ。
 ――もう、終わりにしよう。
356ことのはぐるま ◆Z.OmhTbrSo :2007/05/14(月) 00:16:26 ID:Phq6Y94j
「こんなの、やめてください。
 前も言ったでしょう。俺は運命とか前世とか、そんなことは信じていません。全部嘘っぱちです。
 そんなもの、人の幻想で――」
「雄志様っ!!!」
 言葉を途中で遮られると同時に、彼女が俺の首に手をかけた。
 喉を強く圧迫され、呼吸を、血の流れを強制的に止められた。
 悪寒が脳に、体に走る。

 両手の動きを封じられた俺には彼女を止める術などなく、その苦痛を受け入れることしかできない。
 かなこさんの瞳には俺の顔どころか一切の光も映していなかった。輝きの無い瞳。
 その不穏な眼差しから読み取れるものなどなかったが、それが彼女の行動の目的を際立たせていた。
 ――かなこさんは、俺を殺そうとしている。

 呼吸ができない。たった今も締め続けられている喉は空気を通さない。
 かろうじて動く口でやめてくれ、と言ったつもりだったが声など出るはずもない。
 かなこさんの目は淡々と、まっすぐに俺を見つめたままだ。
 彼女の手の力が緩められなければ、間違いなく俺は死ぬ。

「以前、お食事をご一緒したときにわたくしは伝えたはずです。
 運命から目をそらし逃れようとしたものは、その運命に押し潰される、と。
 雄志様は、わたくしからは逃れられないのですよ」

 鼻と目から血が噴き出しそうだ。息を吸いたい。頼む、呼吸をさせてくれ。
 
「これで雄志様は永遠に、わたくしのものですわ――――」

 目の前が霞む。体が冷たくなってきた。もう、だめか――
357ことのはぐるま ◆Z.OmhTbrSo :2007/05/14(月) 00:17:57 ID:Phq6Y94j
 と思った瞬間、いきなり首が開放されて、呼吸が自由になった。
 息を大量に吸い込むと、体中の感覚が復活した。
 それと同時に、目の前にあったはずのかなこさんの顔がなくなっていたことに気づいた。
 いや、顔だけではなく、体の上に乗っていたはずのかなこさんの体までがどこかへいっていた。

 息を吸えるありがたさを実感しながら乱れた呼吸を鎮めていると、左に誰かの気配を感じた。
 おそるおそるその人物を確かめる。
 そして、驚いた。思わず、ゲッ、と言ってしまうところだった。
 なぜ、こいつがここにいるのだろうか。
 この場に誰が来ても納得などできなかっただろうが、だからといってこいつがここにいることへの
疑念がなくなるわけではない。

 昨晩までパーティ用のドレスを着ていたはずだが、今は藍色と白で構成されたエプロンドレスを着ている。
 心配に思えるほどに細い腰のラインがよくわかる。
 普段は眼鏡をかけているが、今はかけていない。もしかしたらあの縁無し眼鏡は伊達だったのかもしれない。
 リボンでまとめられていた髪の毛は、今は結構長めの三つ編みになっていた。三つ編みも悪くないな。
 普段は化粧をしていないそいつの唇が赤くなっているのを見て、こいつの格好がいつもと違うのは
変装しているからか、ということに気づいた。

 家政婦に変装したその女は、ゆっくりと振り返くとまず俺の両手足の縄を解いてくれた。
 久しぶりに自由になった体を起こす。その女に声をかけようとしたら、いきなり服を投げつけられた。
 顔を背けたその女の頬は、普段より朱がさしていた。

「早く服を着てください、おにいさん。この部屋から逃げますよ」
 俺のことを「おにいさん」との呼称で呼ぶ人間は現時点で1人しかいない。
 従妹であり、幼馴染である、この女――現大園華だけである。
358ことのはぐるま ◆Z.OmhTbrSo :2007/05/14(月) 00:19:41 ID:Phq6Y94j
 華に背を向けて下着、シャツ、スーツの順に身に着ける。ネクタイは外しておこう。
 服を着ていると安心感が生まれて落ち着くものだ、と初めて気づいた。
 命の危機にさらされると今まで当たり前にやっていたことの何もかもが貴重なものに思えてくる。
 この感覚は大事にしたいが、もう二度と首を絞められたくはない。

「よし、もう着替え終わったから、こっち向いていいぞ」
 そう言って振り向くと、すでに華の顔が俺に向けられていた。
「なぜ、顔が赤くなっているんだ」
「なんでもないです。別に着替えを見ていたりとかはしていませんから、安心してください」
 ……そういった蛇足はむしろ相手の疑念を強くさせるだけだと思うのだが。

「ところで、なんでお前がここにいるんだ。もうパーティは終わっているんだろ」
「十本松先輩に忠告されたんですよ。かなこさんがおにいさんを監禁しようとしている、って。
 この屋敷の中にある十本松先輩の部屋に泊まって、変装してここに来たってわけです。
 まさかこの人がそこまで強引な手をとってくるとは思わなかったんですけど」
 そう言って後ろを向いた華の視線の先には、倒れ伏したかなこさんがいた。
 おそらく俺が解放された瞬間からあの状態なんだろうが、ぐったりとしたまま動かない。
「おい、大丈夫なのか?」
「気絶しているだけですよ。私はただ放り投げただけですから」
「放り投げたって、お前……」
「首に手を回して空中に投げました。首から着地しないかぎり死んだりはしませんよ」

 成人女性を放り投げたのか、こいつは?
 小さい頃から俺の後ろをついて回っていた幼馴染は、いつのまに武闘派へと成長をとげたんだ。
「私としては、あのまま一生目を覚まさないでほしいんですけどね」
「それはまずいだろ、さすがに……」
「まずいって、何がどう、まずいんですか」
「そりゃ、お前……?」
 なんだ、この違和感と、居心地を悪くするプレッシャーは?
「死んでもいいじゃありませんか。あんな女は」

 ……これか。華の体から放たれる不穏な気配と突き放すような声がその正体だ。
「おにいさんを監禁したんですよ、あの女は。
 昨晩何があったかなんて、私にだってわかりますよ。だからあえて聞きはしませんけどね。
 ですけど、私はそのことを許すつもりなんてありませんよ」
「華、お前、何を言って――」
「当たり前のことを言っているだけですよ。
 自分の好きな男性を寝取られて、心中穏やかでいられますか? 少なくとも私にそんなことはできません。
 憎しみしか覚えませんよ、あの女に対しては。
 女性に甘いおにいさんを部屋につれこんで、無理矢理行為に持ち込んで、そして奪い取ろうとする。
 そんな卑怯な手をとる女を許せるわけないでしょう!!!」

 腰がくだけそうだ。俺を見る華の目が、怖い。
 こんな風に考えたことなんか一度もないのに、俺は――心の底から華に恐怖していた。
359ことのはぐるま ◆Z.OmhTbrSo :2007/05/14(月) 00:21:33 ID:Phq6Y94j
「さっき、あの場に1分でも遅れて到着していたら、おにいさんは死んでいました。
 私はおにいさんを守るって誓っていたのに……もう少しでその誓いを破るところでした」
 ベッドの右側にいる俺のもとへ、ベッドを迂回して華が近づいてきた。
 普段から華は無表情をベースに俺と会話をする。このときも無表情のままだった。
 だが、今ばかりは感情を読み取らせないその表情から、抑え切れていない怒りが噴出していた。
「でも、もう大丈夫ですよ。二度と他の邪魔者につけいる隙は与えませんから。
 だから、早くこの部屋から出てあの女から離れましょう、おにいさん」
 華の言葉を聞いて、悪寒と一緒に俺がさっき殺されかけたことを思い出した。
 かなこさんが起き上がる前にこの部屋から出ないと、また彼女に襲い掛かられるかもしれない。
 そうなる前にこの部屋から脱出しなければ。

 華が右手を俺の前に差し出した。俺がその手を握ろうとしたとき、唐突に空気を切り裂く音が聞こえてきた。
 反射的に手を引っ込めると、一瞬前まで手を伸ばしていた空間を何かが通り過ぎて、間を空けてくぐもった音がした。
 その音がした方を見る。右側の壁にかけてある油絵が、縦にまっすぐ伸びた線を入れられて台無しになっていた。
 油絵の下では、床の上に落ちた銀製のトレイがぐわんぐわん、と音を立てながら動き続けていた。

 トレイが飛んできた方向を見ると、斜め下へ向けてだらりと右手を伸ばしたかなこさんがベッドの向こうにいた。
 彼女の足元にはサンドイッチやカップが散らばっていて、こぼれたコーヒーが絨毯にしみをつくっていた。

「――逃がしませぬぞ、雄志様。いざとなれば、四肢を切り落としてでもこの部屋からは出しませぬ」
 その言葉が冗談じゃないということは、さっき俺を殺そうとした事実が証明している。
 どんな方法で切断するかはわからない。だが、彼女はやると言ったら本当に実行してしまうだろう。

「そんなことを、私が許すと思っているんですか」
 そう言った華の瞳はかなこさんの姿を捉えて、視線で焼き殺そうとしているようにも見えた。
 俺にその視線が向けられていたら、一言も声を発することなどできないが、
「この、泥棒猫が。わたくしから雄志様を奪おうとするなど……身の程をわきまえろ!」
 対峙するかなこさんの気は、一歩も引こうとしていない。
 空気が重くなっていくのを感じられる。息を吸うことすら躊躇いそうになる。
360ことのはぐるま ◆Z.OmhTbrSo :2007/05/14(月) 00:24:45 ID:Phq6Y94j
「――おにいさん、先に部屋を出てください」
 華は俺に背を向けて、かなこさんの方へと歩き出した。
「待て! お前、一体何をする気だ!」
「あの女を、終わらせます。二度とおにいさんに近づけないようにしますから」
 終わらせる?まさか、殺す気か!?
 殺す、なんて簡単に使う言葉ではないけど、この場の空気では殺人がたやすく行われてしまいそうだ。
 いけない。人殺しなんて誰もしてはいけないけど、華がそれをするなんて絶対に駄目だ!

「お前も一緒に逃げよう! そうすればそんなことしなくてもいい!」
 華の肩に手を置いて歩みを止める。しかし、すぐにその手をはらわれた。
「止めないでください。あの女に、これ以上おにいさんの周りでうろちょろされたくないんです」
「だから、待てって言って――」
 もう一度手を伸ばしたとき、かなこさんの叫び声がした。
「雄志様にっ! 触れるなぁぁ!!」
 呪詛の言葉を吐きながら駆け出す女性の顔は、般若のように目が開いていて、白い歯が牙のようにむき出しになっていた。

「おにいさん、離れて!」
 華に強く突き飛ばされて、しりもちをついた。
 見上げたときの華は握り拳をつくって、腰を落としていた。
 この体勢から起き上がっても、もう2人を止めることはできない。
 ――間に合わない!
 目を瞑って下を向き、2人がぶつかる音が聞こえてくるのを覚悟して待った。


 しかし、聞こえてきたのは人がぶつかる音でもなく、
また2人のうちどちらかの声でもなく――鼓膜を破られそうな爆発音だった。

----
話の切り方が微妙かもしれませんが、11話はこれで終了です。
361名無しさん@ピンキー:2007/05/14(月) 00:28:53 ID:D3qnn5tJ
リアルタイムGJ!
しかしかなこ派の俺にとってはちと悲しい展開になりそうだなぁ・・
362名無しさん@ピンキー:2007/05/14(月) 00:30:37 ID:hhicvyk/
一番槍ならず……。

>「――逃がしませぬぞ、雄志様。いざとなれば、四肢を切り落としてでもこの部屋からは出しませぬ」

これを言っている時のかなこさんの表情を想像して悶え死にそうになった。とにかくGJ!
363名無しさん@ピンキー:2007/05/14(月) 00:47:41 ID:rQHIT2/K
>>360
GJです。続きがメチャクチャ気になります。

追伸
さっきは割り込んでしまいすいませんでした。
364名無しさん@ピンキー:2007/05/14(月) 00:48:02 ID:QcmVYqU1
初めてリアルタイムGJ!
まだ来てない香織の活躍が楽しみだ。
365名無しさん@ピンキー:2007/05/14(月) 01:08:32 ID:760VHSHH
こ れ は い い 具 合 に や ん で ま す な 。
神GJ!神GJ!
366名無しさん@ピンキー:2007/05/14(月) 01:10:13 ID:dMoXMz6W
投下ラッシュGJ!!
>>348 このデレの後にどう病んでいくのか楽しみ
>>360 自分もかなこ派だから展開がちょっと怖い…
続き期待してる!

>>363 ここはsage進行だからメ欄はsageで
367名無しさん@ピンキー:2007/05/14(月) 01:18:13 ID:cEH9gtNW
てか、悉く俺の巡回先に現れてはスレを上げていく
『yuuki3090』をNGワードに登録したんだけれど、目欄に有るから消えてくれない……。

何がしたいんだろう?
自己主張?
368:2007/05/14(月) 02:02:14 ID:Zal5WawL
ツール → 設定 → あぼーん → NGAddr → 『yuuki3090』追加
369名無しさん@ピンキー:2007/05/14(月) 03:33:03 ID:2Kx/Iwid
そういや今週の遊戯王
速攻魔法、狂惚女魂(バーサーカーソウル)か・・・
370名無しさん@ピンキー:2007/05/14(月) 06:44:10 ID:Hwjk+Ytc
各々方グッジョブ!

ところでイラストのCG彩色版をまた見たいのは俺だけ?
371名無しさん@ピンキー:2007/05/14(月) 07:07:52 ID:b4WLrMmY
しかし、現世にいる主人公本人ではなく前世の侍にデレてる罠w
372名無しさん@ピンキー:2007/05/14(月) 21:25:37 ID:9io3RlwA
言葉車キター

これで今週も生き抜いて行ける
373名無しさん@ピンキー:2007/05/15(火) 11:26:27 ID:+V/fhWCo
ヤンデレの小説を書こうが一気に過疎化している件について
374名無しさん@ピンキー:2007/05/15(火) 13:00:04 ID:+3Hd2uD9
>>373
嵐の前の静けさ
375無形 ◆UHh3YBA8aM :2007/05/15(火) 17:54:50 ID:HLEzbkKD
ひっそりこっそり、続きを投下します
376ほトトギす ◆UHh3YBA8aM :2007/05/15(火) 17:56:56 ID:HLEzbkKD
朝。
僕はペタペタと米を盛り付ける。
帰る前に綾緒がタイマーをかけていった炊飯器。
晩御飯と一緒につくり仕込んだ、弁当のおかず。
あんなことがあって、昨日は良く眠れなかった。
だからこんな朝早くから、綾緒の作った弁当を完成させている。
「にいさまのお食事は綾緒が何とか致します。ですからくれぐれも、織倉さまとやらには
関わらないようにして下さいませ」
微笑んで念押しをされた。
流石に詰め込むだけなら僕でも出来る。
配置の才はないが、作り終わり充分冷ました弁当を自室の鞄にしまう。
続いて朝ごはんに取り掛かる。
実はそれも綾緒が用意していった。
普段口にすることの無いような、高級な食材たち。
原型はすでに出来ているので、温めるだけで食べられる。
そうして電子レンジとテーブルの往復をしていると、こんな時間なのに呼び鈴がなった。
「珍しいな、何だろう?」
ピンポン。
歩く間もなく、2回目の呼び鈴。
ピンポン。
歩いて間もなく、3度目の呼び鈴。
ピンポン。
ピンポン。
ピンポン。
ピンポン。
大して距離のないはずの廊下を往く間、耳障りな呼び出し音が響き続ける。
ピンポン。
まるで「早く出ろ」と云わんばかりに。
ピンポン。
余程に急な用事なのだろうか?
ピンポン。
しつこく鳴り響く。
ピンポン。
いい加減煩いな。一体なんだろう?
首をひねりながら扉を開ける。
「え?」
僕は呆けた声をあげた。
「おはよう、日ノ本くん」
響いてきたのは、流麗なソプラノ。
そこには、朝は逢うことの無い織倉由良が立っていた。
学校の制服を着込み、手には鞄と、ビニル袋。
そして、いつもどおりの優美な笑顔。
「ど、どうして、先輩が?」
突然のことに、思わず尋ねる。
彼女とは家の方角がまるで違う。通学路が重なる知り合いは一ツ橋くらいしかいないはずだ。
「朝ごはんまだでしょう?つくりに来たの」
そう答えてビニル袋を持ち上げる。スーパーマーケットのロゴがプリントされたそれのなかには、
種種の食材が見え隠れしている。
「え、あ、でも」
僕がくちごもっていると、その間に先輩は靴を脱いで廊下を歩いて行く。
「あ、ちょっと、先輩・・・・!」
僕は慌てて後を追う。
「あら?これは?」
キッチンに入った先輩は、つくりかけ、否、並べかけの朝食を見て振り返る。
「日ノ本くん、朝はいつも食べてないんじゃなかったけ?起きるのもつくるのも苦手だって」
「えと、それは綾緒・・・・イトコが」
「そう」
喋り途中だと云うのに、先輩は僕を遮ってテーブルのお皿を掴む。
ドサッ、ドサッ、と音が響く。
377ほトトギす ◆UHh3YBA8aM :2007/05/15(火) 17:59:39 ID:HLEzbkKD
それが皿の食材を廃棄している音だと気づくのに、暫く掛かった。
「せ、先輩、なにを・・・・・!」
「だめよ、こんなの食べちゃ」
振り返る。
先輩は笑顔。
けれどそれはいつもの気品と慈愛に満ちた笑顔ではなかった。
「新鮮なものを食べなきゃね。“これ”、昨日の残りか何かでしょう?そんなものを日ノ本くんの
口に入れるわけには行かないわ」
「でも」
「なぁに?」
先輩は目の前へ。
そして、僕の肩を掴んだ。
「痛っ」
「そう云えば日ノ本くん。どうして昨日は急に電話を切ったのかなあ?私、話してる途中だったよね」
「あ、その・・・・それは、すみませんでした」
「すみませんは良いの。私は“何で”って、聞いてるのよ?ねえ?私が悪かったの?貴方が悪かった
の?それとも――」
グッと、僕を掴む手に力が入る。
「一緒にいたって云う、イトコの女のせい?」
「い、痛い、先輩、痛いです」
「痛い?こうすると痛い?でもね、今はそんな話ししてる訳じゃないでしょう?私はどうして
“許可無く”電話を切ったのかって聞いてるの。わかるかしら?」
「昨日はその、ちょっと慌ててて・・・・すみませんでした」
痛みをこらえながら謝ると、先輩はとりあえず手を離した。
「昨日は私の晩御飯を食べに来なかったんだもの。朝ごはんは食べてくれるわよね?」
「・・・・・」
綾緒の用意してくれていた食材はすでにゴミ箱に叩き込まれていた。他には何もない。
「返事は?まさか食べないなんて云わないわよね?」
「あ、い・・・・頂きます・・・・」
「そう」
先輩は漸く笑顔をつくる。
「それでいいのよ。日ノ本くんは私の作ったご飯をたべ続けなきゃ。待っててね。腕によりをかけて
つくるから」
掛かっていたエプロンをつけ、腕をまくる。
「一緒にお弁当も作ってあげるから、楽しみにしててね」
「あ、それは」
「なぁに?」
「いえ、・・・・何でもありません」
綾緒がすでに用意している。
その言葉を飲み込んだ。
先輩はニコニコと笑いながら調理を開始する。
一方の僕は気が重い。
顔を上げると飾られている不気味な面と目が合った。
「そんな目で見るなよ」
呟いて目をそらす。
『深井(ふかい)』。
従妹がそう呼んでいた“面”は、恨みがましく僕を見つめていた。

空が蒼い。
屋上でははしゃぎながら昼食を摂る学生達の姿。
皆あんなに楽しそうなのに。
他方の僕は吐息する。
傷んだベンチに座る僕のひざの上には、二つの弁当箱。
云わずと知れた先輩と綾緒がつくったそれだ。
僕はあんまりものを食べるほうではないので、二つも平らげることはできない。
さりとて残すわけにも行かず、片方だけ食べるという選択肢も許されないだろう。
「どうするかなぁ」
空を仰ぐ。
すると、
378ほトトギす ◆UHh3YBA8aM :2007/05/15(火) 18:01:21 ID:HLEzbkKD
「辛気臭い顔ですね」
ちいさいのに良く通る澄んだ声がした。
幽かな軋みを伴なって、すぐ横のベンチが撓む。
「ああ、お前か」
僕は視線を横――やや下に落とす。
そこには、無表情でとても小さい少女が座っていた。
一ツ橋朝歌。
小学校のときからあまり見た目の変わっていない古い知己。
弁当箱の入っているであろう小さな巾着と、三冊の文庫本がそばに置かれている。
「珍しいな、部室に居ないなんて」
僕は云う。一ツ橋は学校に居る間は殆ど部室に篭りっきりだ。
「たまには、むしぼししようと思いまして」
「本のか?」
「私のです」
文庫本に目を遣った僕を遮るように云う。
この娘はいつも淡々と喋る。のみならず、顔を話し相手に向けないので、独り言を云い合っている
よう感じられる時がある。今もそうだ。顔は勿論、視線も向けない。
「先輩のほうこそどうしたんですか」
前を向いたまま口を開く。
「いつもなら部室で部長といちゃついているでしょうに」
「別にいちゃついてなんてないさ」
「そうでしょうか」
「そう見えるのか?」
「ちんちんかもかもです」
「・・・・・・・」
絶句する。色々突っ込みたいが無視することにした。
「ここに来る前、部室に寄りました」
一ツ橋のちっちゃい手が文庫本を撫でる。これを取りに行った、ということだろう。
「部長、今日は先輩と一緒のお弁当だと浮かれていましたが」
「・・・・・・・」
「また辛気臭い顔になりましたね」
フェンスの一部を指差す。
「あそこ、実は金網が腐ってまして、体当たりすればダイブ出来るはずですよ」
抜本的な解決策を提示する後輩。有難くて涙が出る。
「気に入りませんか」
「当たり前だ」
「そうですか」
巾着を開けて弁当箱を取り出す一ツ橋。
彼女の弁当箱は縦に長い。段々になっていて、保温性に優れている水筒のようなデザイン。
「食べないんですか?」
「食べるよ」
2つの弁当箱を見る。
豪華な御重と、普通の弁当箱。
綾緒と、織倉先輩のそれだ。量も気も、重い。
「本物の漆塗りですね。今まで先輩が持ってる姿を見たことがありませんでした。
誰にもらったんですか?」
「・・・・・」
「二人の女性からお弁当をもらって困っている。先輩の変な顔の原因は、そんなところでは?」
「ぐっ・・・」
「当たりですか」
「だったらなんだ」
「賞品を下さい」
弁当箱を指差す一ツ橋。
「食べ切れなくて困っているのでしょう?なら、食べきれる分だけ取り分けてください。残りは
私が引き受けますから」
「え?いや、でも」
後輩を見る。
こんなにちっちゃい身体に、この量が詰め込めるとは思えない。
「問題ありません」
379ほトトギす ◆UHh3YBA8aM :2007/05/15(火) 18:03:10 ID:HLEzbkKD
一ツ橋は僕の考えを見越したように口を開く。
「食べられるのか?・・・かなり多いぞ?コレ」
「多多、益益良し」
表情を変えずに少女は頷く。
――で、十数分後。
「・・・・・凄いな、お前」
視界には空になった3つの弁当箱。
無表情な後輩は特に苦しそうな様子も無く、すぐ横で本を読みふけっている。
6対4・・・いや、7対3くらいの割合で大量の食材は二人の腹に消えたわけだが、勿論僕が
『小』である。各おかずを一品ずつ食べて、それで終わりだ。弁当一個でも食べ切れなかったかも
しれない。なんにせよ残さずに済んだのは僥倖だった。
「助かったよ、一ツ橋。で、おなか、大丈夫か?」
「問題ありません。それよりも先輩」
「うん?」
「恩に感じているというのなら、交換と云う訳ではありませんが、事情をお聞きしても
宜しいですか?」
一ツ橋は本を読みながら独り言のように呟く。聞く気があるのか無いのか、今一つ判然としない。
「別に構わないが、なんでそんなこと聞きたいんだ?」
「好きなんです」
「え?」
「他人の人生を傍観するのが」
「あ、ああ・・・そういうことか」
びっくりした。
一瞬告白でもしてきたのかと思った。我ながら恥ずかしい奴・・・。
「本を読むのと同じです。他人の人生はそれがどんなものであれ観測する価値があります。
特に先輩のように大きく乱れそうな人は、最高級の娯楽です」
「娯楽・・・・」
「どうぞ先輩の口から茶番を紡いで下さい。拝聴させていただきますので」
「僕の人生は茶番か?」
「演じる人間と観覧する人間の差です。お気になさらず」
「それ、フォローのつもりか?」
僕は肩をすくめる。
一ツ橋が気にした様子は無い。仕方ないので斯く斯く然然と昨日今日の情景を告げた。
語っている間、後輩は相槌ひとつもうたない。唯、黙々と本を読んでいるだけであった。
全部を聞き終えると漸く、
「そうですか」
とだけ呟いた。
「それだけ?」
「はい」
無関心に頁をめくる。
イラストも写真も扉絵も無い無骨な文庫本。
表紙には、ただ英文でタイトルが一行。
「・・・・それ、なに読んでるんだ?」
「burlesque」
一ツ橋は抑揚なく呟いた。

ホームルームが終わる。
クラスメイト達が思い思い、予定予定に向けて歩いて往く中、僕はのたのたと帰り支度に務める。
「今日はどうしようかなぁ」
部室に往くべきか、道草でも食うか、さもなければ真っ直ぐ帰るか。
唯、なんとなく先輩には逢い辛い。
先輩は優しいから、多分今日も晩御飯に誘ってくれるだろう。
けれど、それは出来ない。
綾緒に念押しをされている。
今朝の――
今朝の一件ですら、従妹に知れたら、説教されることになるだろう。
いや、もしかしたらそれ以上のことがあるかもしれない。僕は身震いする。
懊悩し、逡巡していると廊下からざわめきが聞こえてきた。
それは次第に数を増やし、距離を詰めてきているようだった。
380ほトトギす ◆UHh3YBA8aM :2007/05/15(火) 18:05:07 ID:HLEzbkKD
なんとなしに振り返る。
それで、ざわめきの理由を知った。
「織倉先輩・・・」
数多くのギャラリーに囲まれた学園最高の美少女がそこにいた。
先輩は微笑みながら僕の前へやって来る。
「迎えに来たのよ、日ノ本くん」
「む、迎、え?」
「ええ、そう。迎え。今日も部室に来てくれるんでしょう?一緒に往こうと思って」
織倉由良は笑みを浮かべたまま腕を取る。ギャラリーたちが「おぉ」と沸いたが、僕は困惑する。
「あの、先輩」
「なぁに?」
「その、今日はどうするか、まだ決めてないんですけど」
「そう。じゃあ今決まったわね。いきましょう?」
有無を云わさず腕を引っ張る。
廊下。
そして階段へと。
「ねえ、日ノ本くん」
引っ張りながら問う。前に進んでいるのでこちらを見てはいない。
「今日、お昼はどうしてたの?」
「え?」
「来なかったでしょう?部室に。どこにいたのかなぁ?」
一緒に一緒のお弁当を食べようと思っていたのに。
先輩はそう呟いた。
なんだろう。
どうも今朝から先輩の様子がおかしい。
妙に強引と云うか、焦っているみたいだ。
「えと、それは・・・・」
なんと云えばいいだろう?
弁当の処理に困っていた?綾緒に一線引くよう云われたから?
上手く言葉が見つからない。
「まあ良いわ。部室に着いたらたっぷり話を聞かせてもらうから」
握る腕に力を込める。
その直後――
「日ノ本先輩」
ちいさいのによく通る声がした。
僕も先輩も声の主に顔を向ける。
「一ツ橋」
「朝歌ちゃん」
ハードカバーの重そうな本を小脇に抱えた後輩がそこに立っていた。
一ツ橋は感情の篭っていない会釈をして、僕らを――繋がった腕を見る。
「ちんちんかもかもですね」
ぽつりと云う。果たして先輩には聞こえただろうか。聞こえていないほうが良い気がする。
「朝歌ちゃん、こんなところで声をかけてくるなんてどうしたの?」
「先輩に用がありまして」
先輩――僕のことだ。一ツ橋は織倉由良を部長と呼ぶ。
「・・・・」
織倉先輩の腕に、また力が篭った。
「朝歌ちゃん、日ノ本くんに何のよう?“今”、“ここで”、“私にも”聞かせてくれる?」
「それは無理です」
「・・・・どうしてかしら?私には聞かせられない?」
「用があるのは私ではありませんから」
淡々と云う。先輩には殆ど視線を合わせず、用事の対象――僕に無機質な瞳を向ける。
「どういうことだ、一ツ橋?」
「来客です。先輩の連枝と主張している人が外に」
「兄弟?日ノ本くんって、一人っ子よね?」
「ええ、そうですが・・・・」
答えながら距離をとろうとする。が、先輩はそれを許さなかった。がっちりと腕を掴みなおされた。
「朝歌ちゃん、聞いての通りだけど?」
「真偽は関係ありません。そう語っている人が外にいて、先輩を“待っている”と」
381ほトトギす ◆UHh3YBA8aM :2007/05/15(火) 18:07:18 ID:HLEzbkKD
「“待つ”?呼んでいる、じゃなくて?」
織倉由良は首を傾げる。
「はい。“待つ”、です。兄の君(せのきみ)を呼びたてするような無礼はできない。そう云って
ましたけど」
「・・・・それって」
僕は顔をあげる。
「なあ一ツ橋、その娘、着物姿じゃなかったか?」
「いいえ。学生服でした。光陰館学院の」
「綾緒だ・・・」
他に光陰館に知り合いはいない。更に連枝を名乗るものとなると、一人だけだ。
「日ノ本くん」
すぐ横から、冷たい声がする。
「“それ”って、昨日、夕食の邪魔をしたイトコの女?」
「え?・・・邪魔?」
「なんでもない。ねえ、どうなの?イトコの女?」
「多分、そうだと思いますけど・・・」
「ふぅん、そう・・・」
織倉由良はつまらなさそうに呟いた。

「御初御目にかかります。日ノ本創(はじめ)が連枝。楢柴綾緒と申します。以後お見知り置きの程
宜しく御願い申し上げます」
市松人形は深々と腰を折った。
ここは学校の裏門。それほど人通りの無い――けれど僕にとっては通学路にあたる場所。
下校する生徒の幾人かが、この絶世の美少女を遠巻きに見つめている。
かくいう僕も一瞬見入る。家に来る綾緒は、いつも決まって和装だからだ。
超名門私立校・光陰館学院は、その制服のデザインでも有名だ。
優美にして可憐。軽くなく、さりとて野暮ったくも無いその意匠は評価が高い。
スカートは当然長い。光陰館では靴下は白か黒のハイソックスか、ストッキングと決まっており、
目の前の従妹の細くて長い足は黒のストッキングで包まれている。綾緒の洋装は滅多に見れないので、
なんだか新鮮だ。ちなみにうちの制服は何の可愛げも無いブレザーである。
そのブレザーに身を包んでいる女生徒二人は、それぞれ意味の異なる沈黙をする。
一人は傍観。もう一人は睥睨を。
「・・・綾緒、どうしてここに?」
“待って”いた従妹に質する。綾緒はいつも通りの穏やかな微笑で僕を見つめた。
「昨日(さくじつ)の言葉通りです。炊事一切を任されましたので、推参致しました」
その言葉に先輩が震える。僕は気づかない振りをする。
「家じゃなくてこっちに来たのか」
「はい。にいさまの学び舎を見ておくのも悪くないかと思いまして」
綾緒は笑う。すると、先輩が前へ出た。
「貴女・・・楢柴さん、だっけ?」
「はい。楢柴綾緒に御座います。織倉さま、でしたね。いつも兄がお世話になっております」
完璧な所作でお辞儀をする。先輩はどこか冷たい瞳だ。
「そう。私が日ノ本くんのお世話をしているの。今、貴女炊事がどうとか云ったけど、それは必要
ないの。彼の食事は全部私が作るんだから」
「まぁ・・・」
綾緒は上品に驚き、僕を見る。
「にいさま、織倉さまには、まだ告げていないのですか?」
「あ、いや・・・」
「左様で御座いますか」
一瞬。
従妹の瞳が細くなり、すぐにまた笑みを作る。
「織倉さま」
「なにかしら?」
「以前まで創さまの食(け)のお世話をして頂いたことには心より御礼申し上げます。ですが、以後は
その必要はありません。創さまのお世話は、妹であるわたくしが取り仕切りますので」
「なに云ってるの。日ノ本くんの食事は全部私が作るの。貴女の出る幕は無いわ」
「お心遣いは嬉しいのですが、赤の他人の織倉さまに縋るような真似は出来ません。身内事は身内が
負うべきである、と心得ておりますので」
382ほトトギす ◆UHh3YBA8aM :2007/05/15(火) 18:09:06 ID:HLEzbkKD
「身内とか、そんなの関係ないでしょう?これは私と日ノ本くんの話なのよ?」
「左様で御座いますね。わたくしも創さまが御心に従う所存です。もしも織倉さまの言が創さまの
希望であれば、差し出がましい口はきくつもりありません」
綾緒が一礼すると、先輩は僕に振り返った。
「ねえ、日ノ本くん、毎日私のお料理を食べたいでしょう?」
鬼気迫る――どこか威圧めいた様相。他方の従妹は穏やかに微笑んでいる。
なのにだめだ。――綾緒のほうが“怖い”。
「先輩、やっぱりこれ以上は迷惑かけられないよ」
「なっ・・・・」
「礼節を知り、遠慮を知る。それでこそ殿方。それでこそ楢柴の血縁です」
先輩は絶句し、綾緒は頷く。まるでそれが予定調和だったかのように。
「待ってよ、日ノ本くん。私は別にめいわ、」
「織倉さま」
先輩の言葉を綾緒が遮った。
「織倉さまの恩情の深さはよくわかりました。ですが、創さまの気持ちも汲んであげてください。
織倉さまの厚意などいらぬ、と云うその御心を」
「ちょ、ちょっと、待ちなさいよ」
先輩が綾緒に手を伸ばす。その瞬間――
「え」
ふわり。
織倉由良は天に浮遊し、一回転して着地する。
元通りの立ち居地。
コンクリートの上。
「御無礼。つい“叩きつける”ところでした。わたくしは創さま以外のかたに触れられると
手がでてしまうもので」
くつくつと笑う。穏やかなのに、まるで嘲笑。
「にいさま」
従妹が僕を見る。
「あ、ああ。先輩、すみません。今日は、その、帰ります」
呆然とする先輩に頭を下げる。
「一ツ橋、先輩のこと、頼む」
黙って傍観していた後輩に云う。一ツ橋は無表情に頷いた。
「にいさま、鞄をお持ち致します」
荷物を取り、半歩後ろに立つ従妹。
僕はもう一回頭を下げて、逃げるようにその場を離れた。
先輩と綾緒。
この二人は合わせるべきではなかったのではないか、と考えながら。
383無形 ◆UHh3YBA8aM :2007/05/15(火) 18:11:16 ID:HLEzbkKD
投下、ここまでです。
まだ『ヤン』でおりませんがご容赦下さい
384名無しさん@ピンキー:2007/05/15(火) 19:05:14 ID:pOLYYkFL
ヤンの気配が漂ってきますな
これは続きが楽しみです
385名無しさん@ピンキー:2007/05/15(火) 19:22:24 ID:uszXS//j
後輩がかなり気になります…
386名無しさん@ピンキー:2007/05/15(火) 19:29:35 ID:zVDQoadv
>>383
GJJJJ!!
>顔を上げると飾られている不気味な面と目が合った。
ここで監視カメラが隠されてると深読みしてしまった俺マジどうかしてる。
それにしても、朝歌からなんとなく泥棒猫の匂いが・・・
387名無しさん@ピンキー:2007/05/15(火) 19:36:31 ID:krSIx0Ga
>>383
こっそりひっそりGJ



で済むわけない、ほトトギすキタ━━━━━(゚∀゚)━━━━━!!!!
焦って必死な先輩が可愛い&カワイソス
そして主人公のヘタレっぷりがナサケナスw
でももう病んでると思ってたけどまだこれからなのか(0゚・∀・)wktk
388名無しさん@ピンキー:2007/05/15(火) 20:37:03 ID:O1pVBFU5
>>383
導火線を放置する鈍感へたれ主人公にどきどきっす。
389名無しさん@ピンキー:2007/05/15(火) 21:23:24 ID:Efi2GD+e
こ、これでヤンでねーのー!?(゜Д゜; GJ!!
390名無しさん@ピンキー:2007/05/15(火) 22:17:21 ID:svjqIyH6
イイヨイイヨー!GJ!!
ところでさっきサムスピ零の動画見てたんだがナコルルの絶命奥義が
いい感じでヤンデレっぽくて俺bokki
391名無しさん@ピンキー:2007/05/15(火) 22:22:24 ID:svjqIyH6
392名無しさん@ピンキー:2007/05/15(火) 22:29:34 ID:mpQ6LJbX
返り血を顔面に浴びるナコルルたん……悪くない。むしろイイ
393名無しさん@ピンキー:2007/05/15(火) 22:38:18 ID:2tvhu6pb
ホトドギスキタ━━━━(゚∀゚)━━━━!!!!
やっべぇよコレでヤンでないなら二人とも最終的には何処まで行くんだよ!
そして何気に後輩があの部長に対して一歩も引かない所に隠しスペックを感じるw
394名無しさん@ピンキー:2007/05/16(水) 00:34:56 ID:WoFmhmsB
次あたりで爆発しそうなヤンにwktkです!神GJ!!
395名無しさん@ピンキー:2007/05/16(水) 00:54:34 ID:sGhvCEXz
後輩地味にスゲェw GJです!
396置き逃げ:2007/05/16(水) 02:40:04 ID:hcICivob
「妖を愛した子」


暁の赤 

薔薇の紅  

少女の胸を貫く銀

全てを混ぜて

海の青に流していく

少女は憎しみも

憂いも

悲しみすら浮かべてなかった

ただ

最後に微笑みながら

彼女は愛してる永遠にと言った

多分彼女をやっと私だけのものにできた喜びだろう

頬に冷たい露がながれてるのは
397置き逃げ:2007/05/16(水) 02:40:54 ID:hcICivob
「人間を愛した妖」


見えるのは彼女の笑った顔

音は何も聞こえず

ただ澄んだ海とお日様が見えた

不快な胸の違和感

彼女の手には黒い筒のようなもの

後悔はない

悲しみもない

もう一緒にはいられないから

最後に彼女に私を奪ってもらえて

嬉しいからだろう

この頬を流れる不思議な熱い雫が流れてるのは
398置き逃げ:2007/05/16(水) 02:42:09 ID:hcICivob
彼女がいるのはいつもそばにいたあの子の家、りっぱなお屋敷に薔薇の匂いが仄かに香る
ちょっと古ぼけたお屋敷。
もう何年も彼女のお屋敷で彼女と一緒にいる。
彼女はもう動かないからだになってしまったけどすっとそばに居るって約束したから、
私が動かなくなるまで彼女を抱えて一生を過ごす

彼女も私もまだあの時の姿でここにいる。
誰にも邪魔されないこの空間で
あなたと二人で
ずっと
永遠に

彼女が聞いたら笑ってたかな
それとも悲しんだかな
もう分からないけど
私は今でも彼女を愛してる




可愛い寝顔に接吻をして、私も眠りにつく彼女と会うために
[END]
399名無しさん@ピンキー:2007/05/16(水) 02:51:01 ID:/efg0sfr
予想
部長→噛ませ犬。転落死
後輩→真のボス
400名無しさん@ピンキー:2007/05/16(水) 10:16:49 ID:sGhvCEXz
悪いとは言わんが、予想なんぞやめとけ。
俺らが幾ら考えてもそういうのはネタ狭めにしかならない
401名無しさん@ピンキー:2007/05/16(水) 12:46:21 ID:XREc24mI
そういう時は
「予想」ではなく「希望」とか「期待」と書けば
……あまり変わらんか。でもこれなら職人さんも書きにくいって事はないような希ガス。
402名無しさん@ピンキー:2007/05/16(水) 13:28:10 ID:WumWaub4
いや、書きにくいだろ……
というか、希望とか期待だと
作者に自分の考えを押し付けてるわけで、
よけい性質が悪い
403名無しさん@ピンキー:2007/05/16(水) 14:21:31 ID:LyMQbtCS
一書き手の意見としては
どんな形であれ出された予想、意見は良い意味で裏切りたくなる。
404名無しさん@ピンキー:2007/05/16(水) 14:38:29 ID:ieDOLy3w
オンドゥルルラギッタンディスカー!?
405名無しさん@ピンキー:2007/05/16(水) 19:17:51 ID:1xPlibKL
我等名無しは職人さんの励みになるよう
努力するであります(・∀・)ゞビシィ!
406名無しさん@ピンキー:2007/05/16(水) 21:22:12 ID:mhVyjahV
>>399
ホトトギスともう一つ有名な句があるだろ。

『織田がつき

羽柴がこねし

天下餅

座して食らうは

徳川家康』
407名無しさん@ピンキー:2007/05/16(水) 22:24:38 ID:vTH+2oGv
>>406
つまり織田が羽柴を突き刺し、羽柴が織田の首をひねて両者ノックダウンのあと、
徳川が主人公を掻っ攫うでFA?
408名無しさん@ピンキー:2007/05/16(水) 23:17:28 ID:mhVyjahV
無茶苦茶深読みすると、


「織」田⇔「織」倉

羽「柴」⇔楢「柴」

天下⇔日ノ本

座して食らう⇔傍観者?
409名無しさん@ピンキー:2007/05/16(水) 23:19:59 ID:/0GYxAgA
徳川が一ツ橋か
410名無しさん@ピンキー:2007/05/16(水) 23:28:24 ID:gj/1UeoL
徳川には一橋と言う分家があってだな(ry
411名無しさん@ピンキー:2007/05/16(水) 23:34:52 ID:/0GYxAgA
それぐらいは分かるかなと思うよ
412名無しさん@ピンキー:2007/05/17(木) 00:19:16 ID:kNtxKg7Z
>>407
織田は人間の頭蓋骨を器にして酒を飲むような人だったしそんなもんじゃ済まないようなw
413名無しさん@ピンキー:2007/05/17(木) 03:23:29 ID:M/O+T7Ja
むむ、話題についていけない俺ガイル。
つまりこう考えればいいわけか。
戦国武将全員女性化、とか。
信長だしヤンでないはずがねー、とか。
秀吉だし報われねーだろうとか、可愛い顔して良いとこどりかよ家康ぅ、とか。
で、題名はドキッ!女だらけの戦国史、愛姫†無(ry


正直スマンかった。空気読めないコで。
414名無しさん@ピンキー:2007/05/17(木) 07:37:11 ID:bG6YP8Ga
それならばメジャーどころの明智は外せないだろう。
きっと昔ほど構ってくれなくなった信長をを……
415名無しさん@ピンキー:2007/05/17(木) 09:36:54 ID:WCvibJdX
……で、あるか
416名無しさん@ピンキー:2007/05/17(木) 10:10:01 ID:AlVL4NCf
実は本能寺の変は泥棒猫の蘭丸を始末して信長を監禁するのが真の目的
ところが信長は蘭丸との死を選択
絶望した光秀は自暴自棄になり秀吉への勝ち目のない戦に向かったのだった


こんな妄想をした俺はもうダメかもわからんね
417名無しさん@ピンキー:2007/05/17(木) 10:26:35 ID:EUjb/p4L
>>416
自覚があるなら大丈夫だ。
まだ間に合う。

はやく妄想の内容を具体的にここに書いて相談するんだ!
418名無しさん@ピンキー:2007/05/17(木) 10:28:02 ID:dqbns04T
戦国テニスでいいじゃない
419名無しさん@ピンキー:2007/05/17(木) 10:31:12 ID:t4LbtF7U
信長→蘭丸
秀吉→信長
家康→?
明智→信長
蘭丸→信長


なにこの四角関係w

SS作れそうだしw
420名無しさん@ピンキー:2007/05/17(木) 13:25:27 ID:pSj5PKIE
ア----ッ




な展開にしかならない・








ウホッ
421名無しさん@ピンキー:2007/05/17(木) 14:25:16 ID:AlVL4NCf
女人化すればいいじゃないか

光秀→クールな委員長タイプ。
ただしそれは外面だけで内心では情念を溜め込んでおり
あるキッカケで爆発すると手がつけられなくなる

秀吉→依存っ子タイプ
相手に尽くすのが生き甲斐
てゆーか何か命令されていないと不安になるため
自分が必要とされるような揉め事が起きるよう常に画策している

蘭丸→キモウトw


これは完全にダメかもわからんね
422名無しさん@ピンキー:2007/05/17(木) 16:12:01 ID:SDlGfvhX
終わりではない
始まりなのだよ
423名無しさん@ピンキー:2007/05/17(木) 16:47:02 ID:7QgyJbXl
信長にはお市という某ゲームで剣玉振り回してるある意味イッちゃった妹がいてだな
424名無しさん@ピンキー:2007/05/17(木) 17:02:10 ID:XNRJPn3L
史実でさえ旦那裏切って兄貴にしかわからない伝言送るしな
425名無しさん@ピンキー:2007/05/17(木) 18:55:42 ID:W/52R5T/
ここ見るたびに思うよ


妄想って楽しいな。誰にも迷惑かけねーし
426名無しさん@ピンキー:2007/05/17(木) 21:33:53 ID:aR1fCMb8
そこで前田慶次の登場ですよ
427名無しさん@ピンキー:2007/05/17(木) 22:02:03 ID:gBk8IY7/
どこでヤンが出るんだ?
428名無しさん@ピンキー:2007/05/17(木) 23:07:00 ID:xXgj+qJD
>>427
    /        ,  iii ゙!,ヽ,  ,ヽ, ゝ、.. ;;;, ゙ヽ,
    i゙       ,  ,! , ili l i., l;, i, l;;;;,`ミ゙ヾ';;;, ゙i i
    !i゙ ;'   ,i  ,! ,/!,i,iハト, i, !! |i', ゙i; i;;;';';,,_ミ:: ;;, リ
    lv',ィ' ,;;;i 〃;/ リ.リl| !l゙:,ト,゙:、li;'、 i:.゙i;..;;;;;;;,ヾ ;;:〈
   ,ィ,ィ/ ,,;;:;;イ,/シノン' ノ ゙l! ゙'いミ`ミゝミゝ、゙';;;;;;;;;;;;;'v;;;i
  '" / ,;;-''シr--=、∠,,__゙、 ゙ゝ,;≧-─ミーi;;;;;;;;;;;;;;;;;;l
   i゙i゙  ;;ヘ | ーt‐:ァミ:`、` ' '<"t::ラー- |;;;ハ;;;;;;;;;;i゙
   ゙;゙、 ( ハ,!  `""´'  ゙:   `' ` ´   ノ;リ ,i;;;;;;ノ
    ゙:,゙:、.ヽ,ミト:       ,  :.      ケノ./;;ャ'′
      `:、`ー;      ,'.  :::,     '゙フー';;l゙
       ノ,;;;;゙ト     `ー-‐'゙     /};;;;;;;l、
      ,ィ'ス、;;;|`、   -‐ - ─-   /,.};;;;;;;;;;「
      _」 ゝ、;;;l ;゙:、   '''''''   ,ィ゙ 'ク;;;:;:;;;;」
  _//   `:'、 ゙; ゙' 、      ,ィ'゙ ;'ク:::::::::::;`;、_
 '"/  l    r‐`i゙:,  `ー---‐''゙  「..:::::::::;ィ^!;;;;;;;;;;;;
     ゙!   |:::::P"⌒`ヽr〜''⌒`く! ::::::::i゚_ノ,;;;;;;;;;;;;
      |   ,l:::::::|   / バ    ,l :::::;:;:;:;;;;;;;;;;;;;;;;;;
      ゙: /:::::::::゙i    ヽノ    l ::;:;:;:;:;;;;;;;;;;;;;;;;;;;
429名無しさん@ピンキー:2007/05/17(木) 23:39:02 ID:isWZdANn
銀英伝だとやっぱりラインハルトがヤンデレか?
430名無しさん@ピンキー:2007/05/18(金) 00:26:56 ID:/y35bQ8S
むしろフレデリカだよ。
ヤン(に)デレであり少女のときの一目惚れをその類希なるストーキング能力で成就させたヤン(病)デレ。

一目惚れから14歳の少女が軍人を志しその事務能力とコネをフル活用してヤンの副官の座をゲットし、
7歳も年上のヤンと結婚した上にヤンが謀殺されそうになると反乱を起こして助けている。

間違いなく彼女こそヤンデレ!
431名無しさん@ピンキー:2007/05/18(金) 13:58:30 ID:aPfSpHhB
前田慶次は直江へのラブラブっぷりがヤンだら面白そう
432名無しさん@ピンキー:2007/05/18(金) 19:47:56 ID:CfGWN/LE
保管庫が見れないよ。
433名無しさん@ピンキー:2007/05/18(金) 20:03:32 ID:HPWwql/V
>>430
おまえのせいでフレデリカを見る目が変わった。ありがとう
434名無しさん@ピンキー:2007/05/18(金) 20:12:48 ID:5k7Yr7X4
そういえば
ヤンが側にいてくれさえすれば
全宇宙が原子に還元しても構わない
とか言ってたな
アニメの声は榊原女史だし……

ちょっと読み直してくる(/^^)/
435名無しさん@ピンキー:2007/05/19(土) 07:00:46 ID:ro9+w9uH
>>421
 あれか、秀吉は「暖めておきました」って
 人肌にぬくもった靴やら下着やらを懐から
 取り出すんだな。無論、妙な湿り気つきで

436名無しさん@ピンキー:2007/05/19(土) 15:39:41 ID:s1dY0daX
>>435
そ れ だ !
437名無しさん@ピンキー:2007/05/19(土) 15:44:42 ID:FlD9gq+C
戦国ものはリアルな顔が思い浮かぶからキッツいなぁ。
438名無しさん@ピンキー:2007/05/19(土) 17:05:10 ID:eKNE42cd
じゃあ平安ものなんてどうだ?




ここは平安学園。
この平和な学舎では毎夜屋上から叫び声が聞こえるという怪奇現象が起こっていた。
隣接する男子寮に住む近衛(このえ)君は騒音のため眠れず成績も下がって困っていた。

「…というわけなんだ」
「近衛君も大変ねぇ、よしっ!私がなんとかしてあげる!」
「ありがとう水原(みずはら)さん!」

その夜、学校の屋上にて

「犯人はあなただったのね、夜鳥(よるとり)さん!」
「ハァ、ハァ、こ、近衛君…好きぃ…こ、近衛君っっっ!!ぁぁああああっっっ!」
「近衛君を思って毎夜屋上で自慰に耽るなんて…成敗っっっ!!」




勢いで書いた。反省なんてしてやるもんか。
近衛君→近衛天皇 水原さん→源頼政 夜鳥さん→鵺(ぬえ)
439名無しさん@ピンキー:2007/05/19(土) 19:01:11 ID:OlIwhBt+
ちょっと噴いたw
ちなみに鵺というのはトラツグミのあだ名としても
使われるから夜鳥の下の名前はつぐみとか・・・
440名無しさん@ピンキー:2007/05/20(日) 00:37:08 ID:dHsEQHd/
北条政子は普通にヤンデレなんだからそれでいいじゃないか。
441名無しさん@ピンキー:2007/05/20(日) 01:10:04 ID:SjPLFf8e
北条政子のwikiを見てきたんだが、彼女の嫉妬は物凄いな。
更に娘の大姫もヤンデレの素質がある。
6歳のときに婚約した木曽義高(11歳)とラブラブだったが、義高が殺されてから精神を病んで廃人に。
頼朝の甥である公家と縁談を進められるも拒みつづけて20歳で病死。
442ことのはぐるま ◆Z.OmhTbrSo :2007/05/20(日) 12:18:26 ID:Fj6FOqqI
流れを切って申し訳ないです。12話、投下します。
-----

第十二話〜華の告白・二度目〜

 爆発は室内で起こったようではなかったが、部屋に近い場所で起こっていた。
 なぜそうわかったのかというと、音波が心臓を余分に収縮させるほどのものだったからだ。

 目を開けて立ち上がり周囲の状況を確認する。
 部屋の中は薄い煙が立ち込めていて、部屋の入り口のドアの片方がかろうじて立っていて、
片方はどこかに消えていた。
 まさか、ドアのすぐ向こうで爆発が起こったのか?だとしたら、華とかなこさんは?

「華! かなこさん!」
 床に座ったまま大声でよびかける。すると、
「……おにい、さん……?」
 俺を呼ぶ、華のか細い声が聞こえた。
 華は右の壁に背中を預けるようにして床に座っていた。

 駆け寄って肩に手をやる。完全に開ききっていない目に見つめられた。
「だいじょうぶ、ですか……? おにいさんは」
「俺は平気だ。そんなことより自分の心配をしろ。どっか怪我してるとか、痛いとかないか?」
 見たところ華の体から血が流れている様子は無い。
 華は手を握り、足を曲げ、身じろぎして、その後でさっきよりは大きい声を出した。
「平気です。いきなり大きな音がしたから、びっくりしてしりもちをついただけですし。
 おにいさんは……本当に大丈夫そうですね。よかった」

 そう言ったときの華の安堵した笑顔を見ているとなんとなく恥ずかしくなった。
 ごまかすように立ち上がり、再び周囲の状況を確認する。
 さきほど目にしたように、部屋の入り口のドアは半分だけが健在で、もう半分のドアであったものは
大きさがばらばらの木片に成り果てていた。
 部屋の床上に満ちた煙はドアの向こうから流れ込んでいるようだった。
 ドアの向こうにある窓はことごとくガラスを割られていた。
 朝の日差しが煙を通過し、床をぼんやりと照らしている。
 部屋の中は煙と散らばったドアの欠片のせいで、荒れ果てているようにも見えた。

 壁のどこかに時計が掛かっていないか探しているうちに、ここが昨晩かなこさんに連れられて入った
部屋だと言うことに今さらながら気づいた。
 俺が住んでいるアパートの居間と台所と風呂場と便所の面積を足しても、この部屋の広さには敵うまい
というほどの広さだったが、装飾するようなものはほとんどなかった。
 壁に沿って置いてある本棚とそこに収まる本、客が席についていないレストランのテーブルのように
物が乗っていない簡素な机、壁の中に埋め込まれているクローゼットのドア、何を基準にしているのか
わからない間隔で壁に貼りついている額に収められた絵画たち。
 爆発のせいでどこかにいってしまったのか、もとからこの部屋に無いのか、時計らしきものは見つからなかった。

 時計が無いことを確認してから、室内にいた人間が1人足りないことに気づいた。
「そうだ、かなこさんは!」
 今度は絨毯の上に意識を向けて目を凝らす。
 すると、ベッドを隔てた向こう側、俺から見ればちょうどベッドに隠れるような格好で床に倒れるかなこさんを見つけた。
 彼女は俺に背中を向けたまま動かず、また動く兆候すら見て取れなかった。
 爆発が起きたのはドアの向こう側。そして、かなこさんは俺たち2人よりもドアの近くにいた。
 ということは、まさか――!
443ことのはぐるま ◆Z.OmhTbrSo :2007/05/20(日) 12:19:44 ID:Fj6FOqqI
「かなこさん!」
 倒れるかなこさんに近づこうとしたら、後ろから両肩を掴まれた。
「だめですよ、おにいさん」
 華の声をすぐ近くで聞いて、首だけを動かして後ろを振り向く。
 即、華の強い眼差しと目が合った。

「離せ! もし怪我でもしてたら――」
「もしそうだったら、なおのこと好都合です。手間が省けました」
 そう言うと、俺から目を反らして倒れたままのかなこさんに目をやった。
「逃げるのなら今しかないです。何で爆発が起こったのかはわかりませんけど、犯人に感謝です。
 目覚めてから自分の屋敷で爆発テロがあったと知って、そのうえ自分の好きな男性が目の前から
 消えてしまったことを理解したとき、あの女はどんな顔をするんでしょうね?
 いっそのこと、発狂してしまえばいいのに。……あ、すでに発狂してましたか」
 華が顔を伏せながら肩を震わせて、くっくっ、といった声を漏らした。

「……おい、いくら怒ってるからって、その言い草はないだろ。
 さっきから終わらせるだのなんだの、本気で言ってるのか?」
「さて? 私が本気かどうか、その目で確認してみたらどうですか」
 そう言ってから華が正面にやってきた。俺の顔より少し低い位置にある顔にまっすぐ見つめられた。
「どうです? 何かわかりますか、おにいさん」
 予想を裏切り、華の言葉が本気かどうか、俺を確信させるものは見つからなかった。
 わかったことと言えば、その目が実に嬉しそうに弾んでいるということだけ。
 華の口の端は緩やかな斜を描き、奥深くまで黒い瞳は、光を映していた。

 じっと見つめたまま何も言えなくなった俺の顔から離れて、華が言葉を紡いだ。
「そこまで心配しなくても、どうせあの人は無事ですよ。
 爆発の衝撃で死んでしまっているのなら私がこうして立っていることは無いはずだし、
 木片が当たったとしてもせいぜいかすり傷ぐらいです。
 だってそうでしょう、部屋の中に置いてあるものは絨毯以外、何も荒れてませんよ」
 そう言われてから気づいた。華の言うとおり、不思議なことに木片は室内に置いてあるものに命中せず
ただ床の上に落ちているだけだった。
 ――でも、何かおかしい。

「変だな。仮にかなこさんに危害を加えようとして爆弾かなにか仕掛けたのなら、もっと威力を強くしているはずだ」
「さあ? テロリストの考えていることなんてわかりませんし、わかろうとも思いませんから
 犯人が何を考えてこんなことをしたか、見当もつきませんね。
 ありうるとしたら、中にいる人間を足止めするつもりだったとか――」
 瞬間。
 意識を無理矢理振り向かせるようにして、二度目の爆発音がした。
444ことのはぐるま ◆Z.OmhTbrSo :2007/05/20(日) 12:20:44 ID:Fj6FOqqI
 今度は一回目の爆発音より遠くから聞こえてきた。
 爆発の規模は――俺の感覚がおかしくなっているのでなければ――今回の方が大きいようだった。
 ぐらぐらと俺と華の体が揺れて同時に床が動いた。入り口のドアは少し遅れたタイミングで音を立てずに
揺れた。数秒間それが続いた後は、何も起こらなかった。
 何か起こったとすれば、爆発があった場所。
 そこにあったモノは問答無用で粉々にされてしまっているかもしれない。スッ―、と一瞬だけ寒気が走った。

「今のは――」
「間違いなく、この部屋の近くで起こった爆発より大きかったですね。
 きっと、誰かの殺害か建物の破壊を目的にしたものでしょう。
 早く逃げますよ。既に事件に巻き込まれてますけど、ここにいたらもっとやっかいなことに巻き込まれます。
 もしかしたら、建物まるごと倒壊するかもしれません」
「ああ。……って、なんでお前はそんなに冷静なんだよ」
 俺は浮き足立っている状態だってのに。
「ふふふ……どうして、でしょうね。私が犯人だからかもしれませんよ?」
「アホかお前は」
 しかし、華の言葉に奇妙な説得力があるのはなぜだろう。
 こいつが犯人である可能性はここにいる時点で消えているわけだが、なんとなく不安になる。

 俺たちの会話が止まった瞬間、
「……さま…………し、様……雄志様……」
 あやうく聞き逃してしまいそうな声が聞こえた。
 声の主がかなこさんだとわかり、彼女が無事であることに安堵して、次に彼女に襲い掛かられた
ことを思い出した。
「雄志様……離れ、ないで……。もう、1人は……耐え、られ、ませ……ぬ……」
 再び聞こえてきた声は、俺を殺そうとしたことなど、微塵も感じさせない声音だった。
 かなこさんは床に倒れてうわごとのように弱弱しく俺を呼び続けている。
 今のかなこさんは、消えてしまいそうに儚い、ただの女性だった。

「駄目ですよ、おにいさん」
 かなこさんの声につられて歩き出そうとしていた俺を、華が抑揚のない声で制止した。
「あの人に近づいたら、またおにいさんはとらえられて監禁されます。
 そしてきっと、さっきみたいに何かの拍子に首を絞められます。
 そうなったら今度は二度と目を覚まさないかもしれません。
 私は、おにいさんをそんな目に会わせないためにいるんです。
 だから、私はおにいさんを、意地でもあの人に近づけさせません。」
 華の声には冷たいものが含まれていなかった。
 訴えかけるように、懇願するように、強くてはっきりとした口調だった。

「お願いですから、このままこの部屋から立ち去りましょう。
 あの人はおにいさんが助けなくても、誰かが助けてくれます。
 でも、おにいさんに協力してくれるのはこの屋敷の中に誰もいません。
 私だけしかいないんです。私だけが、おにいさんを助けられるんです」
445ことのはぐるま ◆Z.OmhTbrSo :2007/05/20(日) 12:22:30 ID:Fj6FOqqI
 たしかに華の言うとおりだ。
 この屋敷にいる知り合いは、かなこさんと華だけ。
 もしかしたら十本松もどこかにいるのかもしれないが、あいつは居ても居なくても大差無い。
 すぐ近くで爆発が起こっているんだ。ここにいたら、今度こそ吹き飛ばされるかもしれない。
 早く逃げないと――って、おい。ちょっと待て、俺。

「ここにかなこさんをほったらかしにしたら危ないだろ。
 だいいち、こんな状況じゃいつ助けが来るかわからないんだぞ」
「私は、その人なんかどうだっていいって言ってるじゃないですか」
「悪いけど、俺はどうでもよくないんだよ」

 俺は慈悲深い人間じゃない。自分を殺そうとした人間を見捨てたい気分にもなる。
 だが、彼女が豹変したのはきっと、俺の言葉が原因なんだ。
 俺が下手なことを言わなければ、もしくは言葉を慎重に選んでいればあんなことはされなかったはずだ。
 おそらく、俺はかなこさんの心を傷つけてしまったんだ。ならばあれは因果応報ってやつだ。

「華。お前は他人から告白されて、迷惑か?」
「おにいさん以外の人から告白されても嬉しくはないですけど、迷惑ではないですね」
「その人を見捨てようと思うか?」
「積極的に見捨てようとは、思いませんね」
「俺だって同じだよ。かなこさんは俺のことを好きだって言ってた」
「……それがどうかしましたか?」
「俺はかなこさんのことを迷惑だとは思っていない、だから見捨てたりもできない、ってことだよ」
 きっぱりと、華の顔に投げかけるようにそう言った。

 華はしばらく首を傾げていたが、眉間のしわを消すと首をまっすぐに戻した。
 閉ざされていた口が小さく動いて、ぽつりと言葉を漏らした。
「好きです……おにいさん」
「……へ」
 華の顔は、近くで見ればわかる程度に紅くなっていた。
「好きです。大好きです。ずっと昔から、おにいさんを初めて見たときから好きでした。
 私が覚えている最初の記憶は、おにいさんが小さい私からお菓子を奪ってその後で
 はしゃぎ過ぎてつまずいて窓ガラスに頭から突っ込んだときの光景ですけど、その時には既に惚れてました」
 なぜそんなことをいまだに覚えているのか、と最初思った。
 が、すぐに突然始まった華の告白の不自然さと、唐突さに対しての疑問が大きくなった。

「もっと好きになったのは、小学校に入学した日でした。
 私は着慣れない小学校の制服に身を包んで、その日から同級生になる人たちと会いました。
 おにいさんに比べてなんて子供っぽいんだろう、っていうのが感想でした。
 年が離れているから当たり前なんですけどね。それでも惚れ直すきっかけにはなりましたよ」
「待て、そこで止まれ」
「完璧に心を射止められたのは、おにいさんがいじめられていた私を助けてくれたときです。
 いじめとは言っても、私はちっとも堪えてなんかいなかったんですけど……やっぱり、嬉しかったです。
 おにいさんも私のことが好きなんだ、ってことがわかったから」
「――喋るのをやめろ、華!」
446ことのはぐるま ◆Z.OmhTbrSo :2007/05/20(日) 12:24:24 ID:Fj6FOqqI
 喉から声をしぼりだして華のしゃべりを止める。
 華は不機嫌そうに眉をしかめている。
「なんで止めるんですか? 私の告白は聞きたくありませんか?」
「違う、そうじゃなくて……なんで改めて告白なんかはじめたんだ」

 華は、2回まばたきをしてからこう言った。
「おにいさんはあの人から告白されて嬉しかったんでしょう?」
 3秒ばかり溜めを置いて、首肯する。
「告白されたのが嬉しかったから、あの人をかばうんでしょう?」
 今度は何秒かけて考えても頷けなかった。
「おにいさんがあの女をそこまでかばう理由なんか、それだけしか思い当たりません。
 告白されて嬉しいんなら、私がずっとしてあげますよ。
 さっきの続きから、一緒に登校していたときのこと、何年間もずっと会えなくて寂しかった日々のこと、
 先日再会してから昨日までのこと、おにいさんに関する記憶を全部語ることができます」
「あのな、俺は告白されたのが嬉しかったからかなこさんをかばっているわけじゃない。人道的な観点で――」
「嘘、ですね」
 華は目を瞑って、左右に首を振った。

「おにいさんは告白されたらほいほいついて行っちゃうような人だって、私は知っているんですよ。
 昔っからそうでした。たいして美人じゃなくても、性格が悪そうな人とでもおにいさんは付き合ってました。
 私がそれを見て、どう思っていたか理解できますか? 思い出すだけで歯軋りしてしまいます。
 ずっと昔から一緒に居て、誰よりも早く一緒にいたのに、他の女にとられる。
 私が従妹だからおにいさんは敬遠するだろう、って遠慮していた隙をつかれて」
 華の拳は、握り固められていた。時々、ふるふると動く。

「昔は、おにいさんと毎日会えたから怒りをなんとか抑えられたんですよ。
 学校がある日には一緒に手を繋いで帰ったし、学校が休みの日には一緒に遊べた。
 怒りと癒しのバランスがとれていたからなんとかなってました。――ましたけど!」
 華はその場で、右足を床に叩き付けた。
 絨毯とパンプスがぶつかりあう音は、大きくはなかった。
 もう一度、今度は左足で床を勢いよく踏みこんだ。
 床は、冴えない音しかたてなかった。

「おにいさんが高校を卒業して、就職して遠くに行ってから、私がどうなったか知ってますか?
 それはもう、自分でもひどい日々を送っていたと思いますよ。よく自殺しなかったもんです。
 朝家を出て、おにいさんの家に行こうとしてもおにいさんはもういない。
 胸がからっぽになったまま学校に行って、からっぽな人たちと一緒に過ごす。
 下校するときだってもちろん1人。隣にいるのは錯覚が生み出したおにいさんの気配。
 夜眠れなくて、おにいさんを想って自慰をして、もっと寂しくなって泣きながら眠りにつく。
 毎日、家を出ておにいさんと一緒に暮らしたい、って思ってました」
 言い終わったところで、右手首を華の両手で包み込まれた。
 触れるときも、握るときも、ゆるい力しか伝わってこなかった。
447ことのはぐるま ◆Z.OmhTbrSo :2007/05/20(日) 12:26:54 ID:Fj6FOqqI
「志望高校を決めるときはそのチャンスでした。
 おじさんにおにいさんの住所を聞いて、近くにある高校を探しだしました。
 もうすぐ一緒に暮らせる! って思ってたまらずおにいさんに電話をかけました。
 そのときのこと、覚えてますか?」
 問いかけられて、答えをひねり出せずにいたら、
「返ってきた応えは『そんなことで電話してくるな』ですよ。『そんなことで電話してくるな』」
 飼い主に捨てられた犬が出すように切なく、弱弱しい声でそう言った。

「私、馬鹿みたいでした。なんでしょうね、その程度の存在なんだって思い知らされましたよ。
 電話をかけることだって久しぶりだったんですよ。忙しいんだろうって自重してましたから。
 雄志、おにいさんですか? 『華か。何の用だ』 実はいいニュースがあるんですよ。 『何だ』
 私、おにいさんと一緒に住むことにしました。 『はあ?』
 志望する高校、おにいさんの自宅の近くにしたんです。 『……』
 これからは、おにいさんと一緒に暮らせますよ。 『そんなことで電話してくるな』 ガチャン。
 こんな感じでした」
 華が中学3年生になった頃、というと就職して2年目のことだ。
 当時は与えられた仕事をこなすことで精一杯だった。
 もしかしたら、ストレスが溜まっていてまともに電話の応対をしていなかったかもしれない。

「おにいさんは私のことより今の生活の方が大事なんだろうって、思いました。
 結局、志望高校は実家の近く、おにいさんが通っていた高校にしました。
 予想したとおり、中学時代となんら変わらない退屈で救いの無い日常が始まりました。
 高校生活のことは何も思い出せません。学校に行って、授業を受けて、家に帰るだけの日々。
 体が軽くって、風が吹いただけでどこかに飛んでいきそうな、薄っぺらな毎日。
 それでも成績は良かったから第1志望の大学には通りましたけど」
「そこが、かなこさんと十本松の通う大学だったのか」
「大学の近くにおにいさんが住んでいるって知ったのが、だいたい2ヵ月前です。
 両親を説得して、引越しの準備を進めて――」
「そして、俺の隣に引っ越してきた」

 華は右手を広げて、俺の顔の前に掲げた。
「5年ですよ。5年かけてようやく願いが叶ったんです。5年といったら私とおにいさんの年齢差です。
 何でそんなに時間がかかっちゃったんですかね? 
 いえ、答えなくてもいいです。自分でもわかってますから。
 おにいさんに自分の気持ちを告白しなかったのが悪かったんですよ。
 告白していればもっと早く、いえ、そもそも私から離れなかったはずです」
 華の右手に、左手をつかまれた。
 今、俺の両手はそれぞれ華の手に握られている。
 顔を上げた華と、目が合った。

「これだけ長く告白したんだから、もうしてもいいですよね」
 何をだ、と聞く前に華の顔が素早く近づいてきて、
「ん…………ふぅぅ……」
 唇を重ねられて、次いで息を吹き込まれた。
 キスされていたのはほんの数秒のことだっただろう。
 それだけでも、華の好意がどういった種類のものか理解するには、充分すぎるほどの時間だった。
448ことのはぐるま ◆Z.OmhTbrSo :2007/05/20(日) 12:29:49 ID:Fj6FOqqI
 顔が離れても、華は目をそらさなかった。
 俺も、目をそらさなかった。正確には、呆然としていて視線を外すことを忘れていた。
 華はふふっ、と短く笑うと顔をそらし、部屋の出口へ向けて歩き出した。
 俺は両手を握られて変な体勢になったまま、華に引っ張られた。

 部屋を立ち去る前に、華は一度立ち止まり、後ろを振り返った。
 華の目はどこか一点を凝視していた。
 しばらくそれを続け、口の端を上げて少し笑うと、再び前を向いて歩き出した。


 華に手を引かれたまま廊下を歩く。華の足は迷うことなくどこかへ向けて進んでいた。
 廊下では誰ともすれ違わなかった。
 爆発が起こったことなど蚊帳の外であるかのように静かで、かえって不自然だった。
 華は廊下の突き当りにあるドアの前に着くと、3回ノックをした。
 部屋の中からの返事らしきものは聞こえてこなかった。

「いないみたいですね」
「ここ、誰の部屋だ?」
「十本松先輩の部屋です。屋敷の奥にあるらしくて、人が滅多にこないって言ってました。
 じゃあ、着替えますから待っててくださいね」
 外開きのドアを開けると、華は部屋の中へ入っていった。
 手持ち無沙汰になったので、腕を組み壁にもたれる。

 今からでもかなこさんを助けにいったほうがいいんじゃないのか?
 二回目の爆発音から大きな音は聞こえてこないけど、犯人はどこにいるかわからない。
 犯人の目的はかなこさん、もしくは当主の桂造氏に危害を加えることが目的だと考えるのが妥当だ。
 爆発が殺傷を目的にしたものなら、かなこさんは無事だが、桂造氏はどうなっているかわからない。
 カモフラージュだとしたら、気絶したままのかなこさんは格好の標的だろう。
 助けにいくか? いや、爆弾をしかけるような人間に対抗する手段を俺は持っていない。
 返り討ちに遭うのがオチだろう。だけど――
「あぁ、もう!」
 左手で頭を掻く。考えがまとまらないから、行動さえも決められない。いらいらする。

「どうしたんだい? 頭にノミでもわいて、痒いのかな?」
 誰だ、こんなときにわけのわからないことを言う奴は。
「んなわけねえだろ! 確かに昨日は風呂に入ってないけど」
「それはいけない、髪の毛は大事にしないと。
 朝シャンはしなくても構わないが、夜は髪を洗わないと髪と頭皮の健康を損なうよ。
 雄志君は寝癖がつきやすいという理由で朝シャン派なのかな?」
「俺は夜シャン派だ」
 夜シャンなんて言葉、聞いたこと無いけど。
「いいことを教えてあげよう。
 まず、タオルを水に濡らして絞り、レンジで1分少々チンする。
 蒸しタオルができあがるからそれを髪にあてて――」
「そんなことは知っているし、俺は寝癖ができにくいから必要ない――っ?!」

 即座にサイドステップ。左にいたそいつとの距離をとる。
 さっきまでいた地点には、壁にもたれる十本松がいた。
449ことのはぐるま ◆Z.OmhTbrSo :2007/05/20(日) 12:31:54 ID:Fj6FOqqI
「いつの間に来たんだ、お前」
「生涯の伴侶でない人間に、お前、などと言われる筋はないな」
「……いつの間に来たんだ、十本松あすか」
 言い直すと、十本松はこくりと頷いた。
 壁から背中を離し、毎度のホームポジション、顎に右手をやるポーズで俺と向き合った。
 左手は右肘に添えられている。
「雄志君が目を瞑って天井を見上げている隙にさ。ところで、雄志君はなぜここに? もしや――」
 華が中で着替えているから待っている、と言おうとしたら、

「夜這いならぬ、朝這いかな?」
「いや、まったくぜんぜんちっとも、ナメクジの触覚の先ほども当たっていない」
「ふっ……やれやれ、私も罪な女だ。知らぬ間に雄志君の心を奪っていたとは」
「人の言葉に耳を貸せ!」
「ちなみに私のスリーサイズはウエストから5――」
「聞きたくないし、それに何故真ん中から教える! 普通上からだろ!」
 なぜだろう、こいつの相変わらずの変人的言動の相手をしていると落ち着くのは。
 まさか、知らぬ間にこいつに心を奪われたりしてないよな、俺?

 部屋の扉が開き、青のセーターとロングスカートを履いた華が現れた。
 十本松の姿を確認すると、袖を握って両手を広げた。
「あ、十本松先輩。すみませんけど服を借りますね」
「一向に構わないよ。もう着なくなってしまった私のお下がりだけどね。
 なんならもらってくれて構わない。その方が服も喜ぶはずだ」
「それじゃあ、お言葉に甘えて」
 にこやかなやりとりだが、疑問が一つ。

「こんな女の子らしい服も持ってたのか?」
「当然だろう。今でもときどき身に着けて鏡の前で悦に浸るからね」
 鏡に向かって衣装合わせをする十本松を想像する。
 が、想像力の限界が来てしまった。そんな面白映像は作り出せない。
「もちろん、冗談だ」
「……あ、やっぱり」
 呆気にとられていた華が呟く。対して俺は、ほっ、と息を吐き出した。

 十本松は自室のドアを開けると、中へ足を踏み込んだ。
 振りむいたときの十本松の表情は、緊張しているように見えた。
「私の部屋から、屋敷の外に出る扉がある。2人とも早く脱出したまえ」
「なに?」
 なんでこいつが俺たちを逃がそうとするんだ?
 注意深く、不審なところが無いか、十本松を観察する。……不審なところだらけだ。
「相変わらずのニブチンだね、雄志君は。
 屋敷で爆発が起こった、犯人は誰だ、部外者に違いない、とくるのが人間の思考だ。
 この屋敷にいる部外者は、現在君達2人しかいないんだよ」
「それはそうだが……もし俺たちが犯人だったらどうするんだよ」
 もちろん、そんなことはありえない。
 だけど、十本松が俺たちを信用する理由が見当たらない。
 罠にはめようというんじゃないだろうな。
450ことのはぐるま ◆Z.OmhTbrSo :2007/05/20(日) 12:35:16 ID:Fj6FOqqI
「雄志君は信用できないが、華君は充分に信用に足る人物だから、とでも言えばいいかな。
 ……ああ、冗談だよ。そんな怖い顔をしないでくれ、華君。可愛い顔が台無しだよ」
「こんなときぐらい、本音で会話してくれませんか」
 十本松を睨みつける華。視線をあてられてたじろぐ十本松。
 なかなかレアな光景だが、今は楽しく鑑賞している場合ではない。

「昨夜、かなこと雄志君を2人っきりにしてしまったことへの謝罪、とでも受け取ってくれ。
 あとは、冤罪で捕らえられる君たちを見たくない、という私の意思だよ」
「今の言葉に、嘘は無いですね?」
「ああ、私の父と――ご先祖さまに誓ってもいいよ」
 十本松の目が俺を見つめる。何を伝えようとしているのだろう。
 アイコンタクトで意思疎通できるほど俺とお前は親しくないぞ。
 嘘を言っているようではないから、とりあえず頷いておくけどな。

 外へ出るための扉は本棚の後ろにあった。
 扉を開けると、朝の日差しに照らされて緑色に彩られた、樹木と草葉の光景が広がっていた。
「草が踏まれた跡を辿っていけば県道の歩道にでる。歩いていって、20分かからないはずだ。
 右へ進めば国道にでるから、タクシーをひろって帰ることはできるだろう」
「わかった」
 珍しく無駄の無いしゃべりをする十本松に応えるように、頷く。
 
「ありがとうございました、十本松先輩」
「なに、華君のためならお安い御用さ。お礼として私ともっと仲良くし」
「では、さようなら」
 簡潔に言い残し、華は扉の向こうへ出て行った。
 華の後に続いて、部屋の床とは段差のある地面に飛び降りる。
 十本松に礼を言おうと振り向く。振り向いたタイミングぴったりに、目前に白い小さな紙を突きつけられた。
 二枚折の紙を受け取り、開く。メールアドレスらしきものが書いてあった。
 
「このやけに長い英数字の羅列は、誰のメルアドだ」
「私の携帯電話のものだよ。不審な目で見ないでくれ。メル友になってくれというわけじゃないんだから」
「じゃあ、どういう意味だ」
 十本松は後ろを振り返り、またこっちを振り向いた。俺の耳に口を寄せると、ぼそぼそとつぶやいた。
「無事着いたら、メールを送って欲しいんだ。やはり不安だからね」
「それは別に構わないけど……なぜそんなに近くで喋る」
「ふうむ」

 呻く十本松は、さらに口を寄せてきた。そして、何を思ったか、耳の穴に息を吹きかけてきやがった。
 驚きと、気持ち悪さでその場に崩れ落ちる俺。
「あっはっはっはっは! それじゃあ、しばらくのお別れだ。連絡を待っているよ」
 言い残すと、十本松は部屋のドアを閉めた。ガチャリ、という簡単な音が聞こえた。
「どうしたんです、何を言われたんですか」
「なんでもない。別に落ち込んでなんかいないぞ、心配するな」
「……なんだか、悲しそうですね」
 耳の穴に息を吹きかけられた初体験の相手は、幸運にも女だったが、十本松だった。
 背中にのしかかる重いものを意識しないために立ち上がり、脱出ルートへ足を向ける。
 後ろから聞こえる華の足音が、やけに耳に心地よかった。
451名無しさん@ピンキー:2007/05/20(日) 12:35:39 ID:75b5O5a2
支援……していいのかな?
452名無しさん@ピンキー:2007/05/20(日) 12:36:11 ID:Fj6FOqqI
今回はこれで終了です。
453名無しさん@ピンキー:2007/05/20(日) 12:45:29 ID:75b5O5a2
GJ-!
>おにいさんに関する記憶を全部語ることができます
こんなセリフ言われてみたい
華可愛いよ華(*´д`*)ハァハァ 
454名無しさん@ピンキー:2007/05/20(日) 14:58:51 ID:NtPrSrEQ
>>452
先生!!十本松のヤンデレ化が見たいです!!
455名無しさん@ピンキー:2007/05/20(日) 19:43:32 ID:z2IE15bc
ことのはぐるまキタワァ.*・゜゚・*:.。..。.:*・゜(n‘∀‘)η゚・*:.。. .。.:*・゜゚・*!!!!!☆
前回までは個人的に「邪魔しやがって」な存在だった華の好感度大幅うp!
神GJ!
456名無しさん@ピンキー:2007/05/20(日) 22:45:22 ID:uXTEgJAP
今日のサザエさんに出てきた小学生、ヤンデレの素質あるな
457名無しさん@ピンキー:2007/05/21(月) 00:40:53 ID:W4hW7bxe
>>456
小学生であれだぜ?あのまま中学生になったら…マスオさんが大変なことにwww
458名無しさん@ピンキー:2007/05/21(月) 00:44:24 ID:7aunjPDi
>>457
見逃してしまった漏れにkwsk
459名無しさん@ピンキー:2007/05/21(月) 10:43:23 ID:i9i9V/g3
マスオさんの通勤友達で、マスオさんが来ないから迎えに来る(平気で中に入ってくる)
460名無しさん@ピンキー:2007/05/21(月) 11:08:57 ID:hfRrfju9
ワカメ「私のマスオ兄さんよ!!」


萌えっ!
でもこれじゃあキモウトスレか
461名無しさん@ピンキー:2007/05/21(月) 18:10:35 ID:xP+f+QqO
>>460
 /⌒゛~ ̄ ̄ ̄\
/  ____|\__\
|_し  ⌒  ⌒ | ̄
 |∴  (・)  (・) | <私のマスオ兄さんよ!!
 (6      つ  |  
 |   ___  | 
  \   \_/ /   
    \___/
462名無しさん@ピンキー:2007/05/21(月) 18:23:18 ID:Gy8B2q8K
>>461
髪の部分隠すとカツオに見える罠











アッー
463名無しさん@ピンキー:2007/05/21(月) 18:36:11 ID:LB1W3hkg
保管庫更新、乙!

……って、ここ(BBSPINK)で言ってもいいのかね?保管庫のBBSの方がいいかな?
464名無しさん@ピンキー:2007/05/21(月) 18:36:22 ID:8UnTv3cQ
流れを無視して
かなこさん(´・ω・)カワイソス
いや、まだだ……かなこさんなら、かなこさんならきっとやってくれる……!
465名無しさん@ピンキー:2007/05/21(月) 18:37:25 ID:8UnTv3cQ
>>463
ここでいいんジャマイカ
更新の告知にもなるし
466赤いパパ ◆oEsZ2QR/bg :2007/05/21(月) 23:24:46 ID:vreY5nDW
二ヶ月ぶりです。少し短めですがある方に宣言しちゃったので投下します。
467真夜中のよづり5 ◆oEsZ2QR/bg :2007/05/21(月) 23:25:43 ID:vreY5nDW
 俺の腕をがっちりとホールドしたよづりを連れて、俺は学校までの国道沿いを歩いていた。
 朝の十時ほどの住宅街を抜ける道は、車の往来は数多いが歩く人というものは少なく、俺らの存在は際立っていたであろう。
 普通の格好で俺ら二人が歩いていたら仲の良い過保護気味の姉と反抗期の弟とかに見られると思う。もしくは仲の良い兄嫁と義弟といった感じか。って嫌だよ、兄嫁と義弟が腕組んで歩いていたら。
しかし、そんな想像を破壊し、この場から大幅に浮いているのがよづりの制服姿だ。なんつーか、恋人同士にも見づらい、なんとも変な組み合わせ。
 車で俺らの横を通り過ぎていくドライバーが全員俺らを見ているような気がして、なんとも落ち着かない。緑色のタクシーの運ちゃんが明らかに俺らの横を徐行して通っていった。
 ヘタするとよづりはコスプレだからな。不気味なコスプレ。しかもその格好で年齢とは不釣合いなほどの天真爛漫な笑顔がさらに不気味さを強くかもし出す。
「えへへ、学校ぉ。学校ぉ」
 そんな他人の目なぞ気にせずはしゃぐよづりが少し羨ましくも思う。
「友達、できるといいな」
 俺は連れ立って歩くよづりにそう言って笑いかけるが、
「ううん、友達はかずくんで十分だもん」
 対するよづりは満足げなセリフでこれだもんな。これから更正させようってのに、こういうことを素で言うから少し困ってしまう。これからだんだんと離していくつもりなんだけどな。
「かずくんとずーっと一緒でいいもん。他の人なんかいらない」
「いや、ほら。でもさ。学校は友達を作る場所だぞ? 俺だけでいいってわけにはさ……?」
「いいの。あたしはかずくんだけでいいの」
 そう言って、ホールドされた腕が強く締められる。そうなったらこれがまた離れられない。
 宣言された言葉の決意は固く、俺は眉をひそめる。なんだよ、一体。この俺への盲目的な信頼はなにがきっかけなんだ? 俺はただ迎えに来ただけなんだぞ?
 お前のことをちゃんと考えてたのはどちらかといえば委員長のほうだったんだぞ?
「かずくんだけでいいって……」
俺の心の中にはある種の不安が渦巻いて離れない。
 そして、俺の内心がよづりは透けて見えたようだ。
「……かずくん。やっぱりあたしと一緒は嫌なんだ……」
 ぎゅう。俺の腕によづりの細い指が食い込む。俺の腕をへし折りそうなほど思いっきり握り締めて、きちちちち……と歯軋りの音とともに俺に不安げな顔を向けた。
 目の奥に光る淀んだ光は俺に対する妄執と依存をおびて光っている。しかし、それと同時に俺に拒否されたら……という不幸な妄想を抱え込んでいるかごとくの表情もしている。
「ちげぇよ」
 今日の朝、俺が来なかったことにより、よづりは俺が居ないという恐怖を体験している。
 俺がそばに居ると言った事も、心の底では実は信じていないのかもしれない。だからこそ、こうやって俺を放すまいと腕を掴んで俺の顔色を伺っているのだ。
「そんなわけないだろ。一緒だよ」
「本当に?」
「本当だ」
 だから俺はそう言って、よづりの頭を撫でてやる。ぐりぐりと撫でる手のひらの感触がいいのか、よづりは眉間によった皺を緩めてまた百合の花のような笑顔にもどる。
「えへへ……」
犬みたいだ。俺はころころ変わるよづりの表情を眺めてそう思っていた。スキンシップをとりたがって飛びつくところもよく似てる。もし尻尾がついているのなら千切れんばかりに振っていることだろう。
「私、かずくんが好き」
 よづりが言う。
「好き、好き、好き、大好き」
468真夜中のよづり5 ◆oEsZ2QR/bg :2007/05/21(月) 23:26:39 ID:vreY5nDW
 俺はなんと返せば良いのだろう。俺より十歳も年上の同級生の告白。ストレートだが、まるで呪文のような囁き。
 というか、これは告白なのか? ほら、告白っていうのはもう少しムード作って良い雰囲気でやるもんじゃないのか? 場所も体育倉庫の裏とか、誰も居ない放課後の教室とか、あと……土手とかで。
 魔法で幻を見させられてるみたいに現実味が感じられない。俺は何も居えず、よづりの頭をただ撫でるだけだった。
「えへへへへへ、えへへへ……」
 よづりのおとなしい笑い声が俺の耳と心に刷り込まれていくようだった。
 と、突然。よづりが俺の腕を離した。ふわりと腕にかかっていた重みが消える。そして、なにかに向かって操り人形のように走り出した。
 とんとんとんとふらふら揺れながら走る彼女の後姿が、俺からどんどん遠ざかっていく。
「……お、おいっ。よづり。どうした?」
 俺も後を追うに走る。よづりの走るスペードはとても遅い。すぐに追いついた。その途端、よづりはスピードを落として……なにかにもたれかかるように、ガラス壁にひざまずいたのだった。
「どうしたんだよ、一体?」
「…………おなかすいた」
「は?」
 よづりがもたれかかっていたのは、洋風喫茶店のショウケースだった。ひざまずき、彼女の目線の位置には赤や黄色、緑のサンデーに様々なフルーツを乗っけた色とりどりのパフェの見本品がずらりと並んでいた……。
「そういえば、私。朝ごはん食べてないの」
 ……まぁ、あの惨状ならなぁ。ぐちゃぐちゃの部屋を思い出した。あれ、いくらか軽く掃除しただけだけどよかったんだろうか。
「だから……」
 よづりはひざまずいた格好のままこちらをむいて上目づかいの視線で俺を見据える。ばさりと長い前髪(昨日切ったが、それでもまだ長かった)を口元までだらんとさせてふるふると唇を光らせていた。
「かずくんもおなかすいてる?」
「……食べたいのか?」
「うんっ」
 子供か。
 俺は頭を押さえた。どこの世界に学校へ行く前に喫茶店でパフェを食う元引きこもりが居るんだ?



 意気揚々としたよづりに手を握られ、喫茶店に引っ張り込まれる。
 止めようとしたが、どうせすでに一時間目は遅刻だ。二時間目ももうすぐはじまるから、今行ったらちゃんと出席を取ってくれるのは三時間目からだった。別に皆勤賞を狙ってるわけじゃないし、俺はそのまま引っ張られてみることにした。
店内はけっこう広々としていて、4人がけのテーブルが7つもある。まだ開店して数分も経ってないのにすでにぱらぱらとお客がいた。モーニングか?
おそらくバイトであろう若い店員に案内されて、俺たちは4人がけのテーブルの席に座る。
 よづりが歳不相応な笑顔で案内された席に着くと。俺はよづりの正面の席に座った。よづりは早速店員から渡されたメニューを掴み、開いて二秒で間髪要れずに「抹茶パフェクリーム」と注文を入れた。
 多少寝ぼけた顔で案内していた店員も、ようやく俺たちの特異さに気付いたようだった。制服姿のよづりを見て、露骨に表情が変わる。すごい不審そうな目でじとりと、メニューの写真を見て溢れるよだれをずるずると啜っているよづりを見ていた。
「あ、それとジンジャエール!」
 慌てて俺はよづりから関心を外そうと、店員に大きな声で注文した。
 店員はやはり、よづりを見ながらも「かしこまりました」と頭を下げてテーブルから離れていく。
 そんなによづりが目立ちすぎるかと俺は思った。しかし、よく考えれば俺らはこの喫茶店の近くの学生だった。
こんな喫茶店が開店して間も無いような時間に、すぐそこの制服ブレザー姿の生徒二人が来ている状況って、店員からしてみればただの不良学生カップルにしか見えないんだよな。
 俺は厨房へ去っていく店員の後姿を眺めながら今日何度目かのため息をついた。
「………かずくん」
 ふと、よづりに視線を戻してみると。
 よづりがいきなり不安そうな顔でこちらを見つめていた。ひぃっと背中に冷たい汗が流れる。
申し訳なさそうに顔を歪ませているよづりはいまにも膝を抱えんとするようにこちらを虚ろに見ていた。
「かずくん。こんなところ来たくなかった?」
469真夜中のよづり5 ◆oEsZ2QR/bg :2007/05/21(月) 23:28:19 ID:vreY5nDW
「な、なんでさ?」
「さっきから、ため息ばっかりだもん」
 くそっ。何度も聞かれてたか。
「そんなことない」
「……私のこと、実は嫌い?」
 なんだろう。この問い詰められているような感覚は。
「そんなことんないって」
「……本当に?」
 よづりの表情が暗くなり、だんだんとあの家の時のようにきちきちと音を立てて歯を食いしばり始めている。
 彼女が震える指で冷たいお冷を掴んだ。それを口元まで運び、ちびりと飲むと見せかけて……そのままテーブルの反対側に置く。そして、両手をふちにかけると、少し首を曲げて淡く揺れる瞳で、俺の真意をたしかめるように顔を寄せてくる。
 テーブルはそんなに広くないため、よづりの顔がテーブルの中央を超えて俺の鼻に髪の毛の毛先が触れそうなほど近づいている。目の奥に光る光は暗く、何かを呼び覚まそうとしているようだ。
「本当だよ。俺、ここ初めてきたからさ。なんだか落ち着かなくてさ。ただそれだけ…」
「………」
 俺はなんとか冷静を保って、青白いよづりのひきつった表情を貼り付けた頭を先ほどのように優しくなでてやる。
 さっきまで幼児っぽかったのに。ふとした瞬間にこいつは年相応の妖艶さを持って俺の砦に攻め込んで来る。
「………えへっ」
 おっ。
「……………えへへへへへへ」
 よづりの表情が、ころりと笑顔に変わった。俺は胸をなでおろす。
「えへへ。じゃあかずくんは私のこと好き?」
 そうして無邪気に投げてくる答えづらい質問。
「……えっと」
 さぁ、俺。どうする? どう返す? カードが出てきたぞ。「転職」「独立」「焼死」。なんのCMだよ一体!
まずひとつ。こちらも「好きだ」といえば波風は立たない。ただ、それは自分の気持ちに嘘をつくことになる。俺はそんなのは嫌だ。それに最後には絶対こいつ、よづりのためにならない。そんな気がする。
 じゃあ、「好きじゃない」と答えるか? 答えたらこいつがする反応は何が予想が出来るだろう。もしかしたらまた暴れだすかもしれない。いや、でも朝もあんなに暴れていたんだから、意外ともう暴れる体力は残ってないかも……。
「やっぱり……」
「好きだよ」
 よづりの顔がまた首切り人形のように暗黒に変化しそうになって、焦って思わず、口から出してしまった。
 げっ。ダメだ。俺、よづりを怖がってどうするんだよ! それじゃあ意味ないだろ!
「えへへへへへへへ、えへへへへ、えへっえへへ……」
 よづりは頬を桜色に染めて身悶えていた。その笑顔はまるで恋する中学生のようで、先ほどの黒さは微塵にも感じられない。
 ……俺、怖がっている場合じゃないだろっ。なに喜ばしてるんだよ……。
 だが、ふと悔しがる自分の感情に俺は違和感を覚える。

 まてよ。俺は最終的にこいつをどうしたいんだ? 更正させるって決めたのは良いが……。具体的にはどうやって更正させる? というか更正させた結果が俺には想像がつくだろうか?
 ………そうだよ。考えなきゃいけないことは山積みなんだよ。解決すべき問題は沢山ある。
くそっ、俺は学校の成績もそんなによくないんだぞ! 三次関数どころか二次関数も結構危ないんだぞ。俺。スピークのスペルが出てこなかったこともあるんだぞ!?(sp……えーっとkはあったのは覚えてるんだよ。あとはeと……c?)
 とりあえず。とりあえずだ。まずはこいつのことをイロイロと調べなきゃいけないな。委員長はもちろんのこと、先生や先輩たち、もしかしたら二十八歳のOBにも話を聞きに行く必要があるかもしれない。
 そうだ、そもそもなんでこいつは引きこもってたんだ?
 二十八歳で高校生である理由も知りたいところだ。もし10回留年していたとしたら俺とヤンキー達の大先輩である意味尊敬すべきようこそ先輩になるんだろうか。いや、ならんな。
「お待たせしました。抹茶パフェクリームとジンジャエールです」
「わーい」
 俺らのテーブルに並べられる、大きな緑色のパフェと黄色のジンジャエール。
「いただきまーす」
 よづりはパフェが出てきた途端、きらきらと目を輝かせてじゅるりと溢れるよだれをすする。ついてきた長いスプーンを右手に取り、テーブルに備え付けられている大きいスプーンを左手に持った。
 そして、器用に二つのスプーンでもりもりと抹茶クリームを頬張る。
 両手装備かよ。器用なヤツだ。
 俺はしばらくの間、ストローでジンジャエールを飲むのを忘れ、両手を上手く使ってパフェを食うよづりに目を奪われていた。
 そんな俺の視線に、よづりはふっと気付いたのか。パフェに向けられていた視線をこちらに向ける。
470真夜中のよづり5 ◆oEsZ2QR/bg :2007/05/21(月) 23:29:02 ID:vreY5nDW
「おいしいよ。これぇ」
 そう言って、くすりと笑うとよづりは長いスプーンで抹茶クリームを掬うと、俺に向かって差し出す。
 俺の顔、特に口元に向かって伸ばされるスプーン。この形は間違いなく。
「はい、あーん」
 やっぱりかぁ……。
「あーん。美味しいよ」
 美味しいといわれても、俺はその抹茶クリームが業務用アイスにただ生クリームとコーンと缶詰のあずきで作られた原価を聞いたら驚きそうなほどお粗末な値段のシロモノだと知っているし……。
 いや、それはいい。ただ、こういうのは好きあったものどうしがラブラブっぷりを見せ付ける目的でやることであって……。
 って、俺さっき「好きだ」って言っちゃってるんだった。しまった、今の俺らはまさに「好き合うものどうし」じゃないか。
「……あーん」
「えへへっ。なんだか夫婦みたいだね」
 ……この寒気は抹茶クリームの冷たさのものではないのかもしれない。俺は二十八歳のよづりが笑顔で言った一言に妙なリアルさを感じてしまった。
 ああ、くそ。なんだか泥沼だ。いままでずっと、こいつの、よづりのペースで引っ張られている。
 このままじゃどんどんよづりを甘えさせてしまうだけだ。
 なんとか。なにか策を練らないと。なにか良い方法を考えないと。なにか、なにか。
いやそれよりも。悩むよりも、今この現実で俺がすべきことは一つ。
「間接キスだね。えへへ、かずくんが食べたスプーン……。 えへ、えへへ……じゅるり。じゅる。じゅるる、じゅるるるる。えへへ、かずくんの唾液の味がするよ……。すっごく美味しい……。じゅるるるる……」
 目の前で俺が食べたスプーンを美味しそうに音を立ててしゃぶるこの馬鹿を止めることかな……。
(続く)
471赤いパパ ◆oEsZ2QR/bg :2007/05/21(月) 23:31:31 ID:vreY5nDW
いろんなものがバレました。
二ヶ月ぶりですが、覚えてますでしょうか?
次回はなんとか二人を学校に連れて行く予定です。これでようやく4ヶ月前の伏線を回収できるぞー。
472名無しさん@ピンキー:2007/05/21(月) 23:36:28 ID:NwJqrVwQ
よづりだ!赤いパパ氏GJ!
よづりの不気味さヤンデレがいい具合に混ざっててイイ!
かずくんの泥沼ぶりと学校編が楽しみです
473ラーメン屋とサラリーマン:2007/05/22(火) 06:29:05 ID:t0NRggZl
>>471
28歳の女子高生……あと、学年が一つ下で「先輩」とか言われたらもう、たまらんです。
よづり可愛いよよづり。

では、続けて投下。
************

 啓太は、今年の3月末から企業に勤めるサラリーマンになった。

 大学に入学してすぐの頃には資格取得に励んで就職を有利にしようと
もくろんでいたが、気がつけばアルバイトに明け暮れる生活を送っていた。

 大学4年時には就職活動に必死になって取り組んだ。
 面接の本を買い漁り、履歴書を大量に書き、革靴の底をすり減らして取り組んだ。
 ようやく内定をもぎとったころには、サークルの後輩に何時間も苦労話を
できるほど多くの企業の面接を受けていた。

 大学を卒業し、入社式を無事に終えて、会社では総務部に籍を置いた。
 啓太に与えられる仕事は難しいものではなかった。
 新入社員に難度の高い仕事を任せる上司はいないだろうが、そのことを
差し引いても簡単すぎる仕事だった。

 PCの使い方に慣れていたため、文書作成を任されたが、過去に作成
された書類をもとにすればあっさりとつくることが出来た。
 電話の応対は、人並みに明るい性格をしていたせいで注意されなかった。
 来客の応対は上司が率先して行っていたので、啓太がすることといえば
すれ違ったときに元気よく声を出し、会釈することだけだった。

 啓太は、1ヶ月経たないうちに会社に、会社の仕事に飽きていた。
 一体なぜ、就職することがあれだけ難しくて、働くことは楽なのだろうか。
 疑問に対して、世の中はこんなものだ、と啓太は結論付けた。

 しかし啓太は酒が入るとうかつになる癖があった。
 先日行われた新入社員歓迎会で、酔った勢いで上司の前で思っていたことを
全て言ってしまったのだ。
 自分の口が滑ったことに気づかなかった啓太は、目の前にいる上司の口が、
頬が、目が笑みを形作っていたことにも気づかなかった。

 翌週から、啓太の仕事量は同期の新人を圧倒するほどのものになった。
 加えて、来客の案内、お茶くみ、さらには取引先との接待にまで駆り出された。
 はじめのうちこそ新人の謙虚さで熱心に取り組んでいたものの、休日を挟んだ
翌月曜日には出社することもおっくうになっていた。

 啓太は、五月病の症状である無気力とは一味違うエネルギー不足に陥っていた。
474ラーメン屋とサラリーマン:2007/05/22(火) 06:30:11 ID:t0NRggZl
 金曜日の夜、取引先との接待の帰り道。
 啓太は上司と一緒に、大通りとは離れた場所にあるラーメン屋に入った。
 接待の帰りで啓太がいつも利用しているラーメン屋だった。

 時刻はすでに深夜1時を過ぎており、他の客はいなかった。
 啓太と上司がカウンター席に着くと、店の奥から店主の女性が現れた。
 店主の容貌は、夜の仕事に就く女性達とは違う魅力を放っていた。

 頭の後ろでくくった髪は艶やかで、蛍光灯の光を反射していた。
 身に着けた三角巾とエプロンは青く染まって、若い女性の体をぴったりと包んでいた。

「何にしようか、お2人さん」

 女店主が2人に向けて言った。
 メニューは『ラーメン』と『白米・餃子セット』の2つだった。
 啓太はラーメンを注文した。上司は白米・餃子セットを注文した。
 2人がぽつぽつと会話をしているうちに、ラーメンと、白米と皿に乗った餃子が
カウンター席に置かれた。
 酔った体は満腹中枢を若干麻痺させており、啓太は数分でスープまで飲み干した。
 上司は啓太より少し遅れて、茶碗と皿を空にした。

 コップに注がれた水を飲みながら、男2人と店主を交えて会話していくうちに、
上司の言葉が卑猥なものになってきた。
 具体的には、女店主の容姿をいやらしく褒めるものになってきた。

「あっははは、ありがと、お客さん。でもちょっと酔いすぎだよ。
 早く帰ったほうがいいんじゃないかい?」

 上司は、お姉ちゃんの部屋に泊めてくれよ、代金を体で払ってもいいぞ、
と言いながらへらへら笑っていた。
 上司と女店主のやりとりは同じことの繰り返しだった。
 上司が社会人にあるまじき発言をして、女店主があしらう。

 啓太は無言でやりとりを見つめていたが、会話が止まったタイミングで上司を
店から出るようにさりげなく促した。
 上司はそれでも腰を動かそうとはしなかった。

 困りかねた啓太は、自分の分の代金を置いて立ち上がった。
 女店主は代金をつつ、と啓太に向けて押し返した。

「先に帰りなよ。兄ちゃんの分はこのおじさんから払ってもらうから」

 上司はおう、早く帰れ、と言っていた。
 しぶしぶ啓太は頷いて、店を後にした。
475ラーメン屋とサラリーマン:2007/05/22(火) 06:30:55 ID:t0NRggZl
 翌日は土曜日で、啓太が勤める会社は休みだった。
 起きたとき、時刻は午前10時を差していた。
 休日はバイクに乗って遠出することが啓太の趣味だった。

 顔を洗い歯を磨き、しわがしっかりついたスーツから、ジーンズとジャケットという
スタイルに着替えて、啓太は自宅の外に出た。
 空は青く日差しが強かったが、風が程よく吹く絶好のバイク日和だった。

 愛用する250ccのバイクに跨りエンジンをかけ、ギアを1速に入れて発進する。
 自宅から路地を通り、国道に合流する地点の一時停止線で停止する。
 左から車がやってきていたが、右からは車がやってこなかった。
 左折して空いた道路に合流して、特に感慨も無く走り出す。

 啓太は目的地を持たず走ることが好きだった。
 目的地を設定する遠出のツーリングは義務感と意地が湧いてくるからだった。

 家を出てから8時間が経った。
 8時間のうちに昼食をとり、1回ガソリンスタンドに入り、2時間おきに休憩して
自動販売機で缶コーヒーを買って飲んだ。

 7時になり小腹が空いて来たので、昨日行ったラーメン屋へ走った。
 上司がちゃんと帰ったか聞きたかったし、上司の代わりに謝っておきたかったからだ。
 ガラガラ、という耳に障る音と一緒に、ラーメン屋の引き戸を開ける。
 厨房には女店主が立ち、仕込みをしているようだった。

「いらっしゃい。あ、昨日の兄ちゃんか、今日も来てくれたのかい」

 女店主に会釈して、カウンター席につく。
 ラーメンと白米・餃子セットを注文しようと思ったが、今日はメニューが増えていた。

 『とんこつラーメン』と書かれた紙が壁に張り付いていたのだ。
 なんとなく気になり店主に尋ねてみると、すぐに答えが返ってきた。

「メニューを増やしてみようかと思ってね。
 とんこつはいろいろごまかせるから、作りやすいんだよ。
 匂いを消すのが難しいけど。兄ちゃんはとんこつ、好きかい?」

 啓太は好きだ、と言ってから頷いた。
476ラーメン屋とサラリーマン:2007/05/22(火) 06:32:09 ID:t0NRggZl
「じゃあ、第1号ってことで、サービスだ。さらに、餃子もつけたげるよ」

 女店主はそう言うと、とんこつラーメンと餃子をカウンターに置いた。
 れんげでとんこつスープを汲んで、舌で味わう。
 臭みは特に感じられなかった。味は濃厚で、油はしつこくなかった。
 美味しいです、と啓太は言った。

「そうかい? ふふ、ありがとさん」

 餃子を食べて、麺をすすり、スープまで飲み干してから、啓太は、昨夜のことで謝罪した。
 酔っていたとはいえ失礼なことをして申し訳ありませんでした、と。
 女店主は特に気にしていなかった。

「女が夜中にラーメン作って餃子焼いてりゃよくあることだよ。兄ちゃんが気にすることじゃない。
 上司のおじさんには代金受け取った後で、大人しくかえってもらったし。
 どうしても気になるってんなら、これからも来ておくれ。兄ちゃんは貴重な常連さんだからね」

 言い終わると、女店主はけらけら、と笑った。つられるように、啓太も微笑んだ。

 席を立って、代金を払おうとしたが女店主は頑として受け取ろうとはしなかった。
 仕方なく、深く頭を下げて店のドアを開けて外にでる。女店主も一緒に外へ出てきた。
 女店主は啓太のバイクを見ると、しゃがみこんで興味深く観察した。

「ちゃんと掃除してあるんだね、今時珍しいよこんなに綺麗なバイクは。
 どうだい兄ちゃん、お店で働いてみないかい?」

 女店主は立ち上がると、啓太に向かってそう言った。
 話を聞くうちに、啓太は少しだけ心を動かされた。
 店の奥には空き部屋もあるから住み込みで働けるし、働きぶりによっては
給料も弾む、という条件だったからだ。
 逡巡した結果、啓太は折角ですけど、と断った。

「残念だね。店と部屋を綺麗に掃除してもらおうと思ったんだけど。
 ま、いいか。気が向いたり、リストラされたりしたら来なよ。雇ったげるから」

 本気とも冗談ともつかない喋り方だった。啓太はその時はお願いします、と言った。
 ヘルメットをかぶり、バイクのエンジンをかけて、啓太は店を後にした。
477ラーメン屋とサラリーマン:2007/05/22(火) 06:33:36 ID:t0NRggZl
 日曜日を隔てた、次の月曜日。
 総務課の事務所がいつもの朝とはうってかわって騒々しかった。
 話によると、啓太の上司との連絡が土曜日からつかない、ということだった。

 昼の休憩時間に、啓太は失踪者と接待に向かった人物ということで、来客室で
警察から事情聴取を受けた。
 ラーメン屋に立ち寄ったことを言おうと思ったが、女店主は大人しく帰ったと言っていたので、
啓太は結局口にしなかった。

 終業の時刻になった。
 今日は上司がいなかったので、啓太は特に仕事を任されなかった。
 接待に駆り出されることなく家でゆっくり過ごせる、と啓太は安らかな気持ちになっていた。
 同僚の女性が声をかけてくるまでは。

「啓太君、今夜は何か用事ある?」

 声をかけてきたのは、1年先輩の志保だった。
 総務課は女性の多い職場だったが、志保は一際異彩を放っていた。
 啓太より背が高く、黒い髪は清潔感があり、鼻は高かった。
 同僚の男性社員と同じく、啓太も志保のことが気になっていた。

 同僚の女性社員の中でも、志保は啓太によく話しかけていた。
 今までは全てが仕事に関する内容であったが、今日は違うようだった。

「これから、2人で飲みにいかない?」

 啓太は何も考えず、1回、2回と素早く頭を下げた。
 

 志保に連れて行かれたバーで、啓太と志保はカクテルを飲みながら、いくつか話をした。
 上司のこと、志保が今任されている仕事のこと、お互いバイクに乗るのが趣味だということ。
 2人は意気投合し、続いて居酒屋で焼酎を飲み、志保だけがべろべろに酔っ払った。

「ねえ、けーたくん。この後、どこ行こっか?」

 ろれつの回らない志保を肩で支えながら、啓太は考えていることを実行に移そうかどうか、
迷っていた。
 志保をホテルに連れ込もう。いや、酔った女性に無理矢理するなんて最低だ。
 啓太の脳内に住む天使と悪魔が、激しくせめぎあっていた。
 勝利したのは、理性をつかさどる天使だった。
 まだほろ酔い状態だったことと、自分が新人であるという要素が悪魔の侵攻を妨げたのだ。

 志保が回復するまでどこで休憩しようか、と考えていると、ふとラーメン屋のことが浮かんだ。
 カウンターに寝かせていれば、ほどなく回復するはずだ。自分はラーメンを食べて待っていればいい。

 柔らかい志保の体に欲情する自分を抑えて、啓太はラーメン屋へ向かった。
478ラーメン屋とサラリーマン:2007/05/22(火) 06:34:49 ID:t0NRggZl
 ラーメン屋の引き戸を開けると、女店主がカウンター席に座ってテレビを見ていた。
 女店主は啓太を見ると口を開いたが、志保を見てから口を閉ざした。

「どうしたんだい、兄ちゃん。……その女、彼女?」

 啓太は違う、と言った。事情を説明する啓太を、女店主は憮然とした目で見つめた。
 志保をカウンター席に座らせる。志保は自分の腕を枕にして眠りについた。
 啓太は志保の隣に座ると、女店主にラーメンを注文した。
 女店主は、志保にちらりと視線をやった後でラーメンを作り始めた。

「はいよ、お待ち」

 箸を割り、目の前に置かれたラーメンに箸を向ける。すると、女店主に止められた。
 女店主の手には、小瓶が握られていた。『こしょう』と書かれたラベルが張り付いている。

「こいつを入れると、すっごく美味しくなるんだ。そりゃもう、天国にいけるぐらいにね」

 そう言うと、女店主はラーメンの上で小瓶を降り始めた。
 白い粉が、ラーメンのスープに混ざり、麺の上に乗った。
 啓太は箸で麺とスープと粉をかき混ぜて、食べ始めた。
 女店主は美味しくなると言っていたが、軽く酔っている啓太の舌には判断がつかなかった。

 啓太が箸を置くと、女店主はラーメンの器を下げた。
 隣に座る志保が起きる様子は見て取れない。
 仕方なく椅子に座っていると、女店主が隣にやってきた。

「どうだった? 美味しかったかい?」

 啓太は、いつも通り美味しかったと言った。女店主が言葉を続ける。

「ねえ? ……変な感じになってこないかい、兄ちゃん」

 言葉を聞いて、啓太は突然、柔らかい感触が欲しくなった。
 欲望が次第に大きくなり、落ち着かなくなっていく。
 隣に座る女店主のエプロンの、胸元に目がいく。
 首の下から少しずつ起き上がるふくらみを見ているうちに、目を離せなくなった。
 脳内で、エプロンを強引に引き裂いて、柔らかい乳房を撫で回し、乳首をつまんだ。
 体が求めるものが目の前にある。思考と欲望がどろどろに混ざり始める。
 女店主が啓太に近寄り、背中に手を回し、柔らかい体を押し付ける。
 押し付けて、離し、押し付けて、離れる。啓太の欲望を、体の奥から引きずり出す。

 啓太は、必死に、手を出すまいと歯を食いしばる。
 しかし、女店主の柔らかな唇の味を、自身の唇で味わったとき。

 啓太の理性の壁は決壊した。
479ラーメン屋とサラリーマン:2007/05/22(火) 06:36:58 ID:t0NRggZl
 翌日の火曜日、啓太と志保は、出社しなかった。

 水曜日、木曜日、金曜日になっても2人は姿を見せなかった。
 会社から警察へ連絡がいき、前日に失踪した上司を含めて捜査が始まった。

 同じ会社の男性社員は志保と同時にいなくなった啓太に、疑念と嫉妬を覚えた。
 女性社員は上司が自殺し、啓太と志保の2人が駆け落ちした、との噂を流した。
 噂は一時期こそ熱心にささやかれたものの、時が経つにつれて風化していった。


 同じ町にある、美味しいとんこつラーメンを出すと一部で噂になったラーメン屋は、
9日間だけ営業したのち、何の前触れもなく閉店した。

 終わり

*************
投下終了。わかりにくい点とか、つじつまが合わない部分があったら、教えてください。
480名無しさん@ピンキー:2007/05/22(火) 07:28:52 ID:7hYUZGCO
>>471
久しぶりによづりキター!
かずくんペース握られ過ぎ
だがそれがいい

>>479
GJ!
でも主人公は監禁されてハァハァなんだろうけど
上司と女の子がどうなったのかが気になる((( ;゚Д゚)))ガクブル
481名無しさん@ピンキー:2007/05/22(火) 07:53:09 ID:j3PtxiOO
>>471
時間はいくらかかってもいいですから、これからも頑張ってください。楽しみにしてます。

>>479
怖…! あれですか、人肉出すデパートの肉屋系。
こういう単発ものもいいスパイスです。


ところで、同人だけどやんデレなる直球なタイトルでADVつくってるらしい。
夏コミに期待大。
482名無しさん@ピンキー:2007/05/22(火) 08:00:36 ID:k4In9tJQ
GJ!!
ながれで行くと監禁ってことでぉkなのかな?
その後を補完するSS書いてくれると有難いのだが。
483名無しさん@ピンキー:2007/05/22(火) 21:04:34 ID:T07nhhFS
>>480>>481>>482

「そんな女はほっといてさぁ、兄ちゃん、私と一緒にラーメンにならないかい?」



バッドエンドA〜ラーメンエンド〜


これだ!!
484名無しさん@ピンキー:2007/05/22(火) 21:39:36 ID:X8neiNR1
>>483
お前のその発想力を社会の為に役立ててくれ
485名無しさん@ピンキー:2007/05/22(火) 22:16:31 ID:E0B9i5ac
>>483ワロタwww
486名無しさん@ピンキー:2007/05/23(水) 00:12:22 ID:hSICfvPU
保管庫の管理人さん、SSまとめの更新&文字色の変更、乙です。
487名無しさん@ピンキー:2007/05/23(水) 05:58:39 ID:34eb16kY
なあ
やっぱそのとんこつラーメンて上司の・・・
488名無しさん@ピンキー:2007/05/23(水) 07:06:50 ID:4UD1QEvK
材料が少なくて品切れしたから9日間で閉店したのか……?
((( ;゚Д゚)))ガクガクブルブル
489名無しさん@ピンキー:2007/05/23(水) 17:43:38 ID:amTYPuYH
ヤンデレ(だと思うが)の彼女がいるが、ヤンデレって基本的に感情の起伏が激しいんだと思う
ネガティブ志向とか偏性志向っていうよりは、2重人格的要素があるかな
490名無しさん@ピンキー:2007/05/23(水) 18:18:23 ID:JOP6MUjH
>>489 お前はすでに死んでいる









kwsk
491名無しさん@ピンキー:2007/05/23(水) 19:09:18 ID:GEQEEmSz
>>489
言っておくが、お前を溺愛して執着して依存して、それで病んでなきゃダメだぞ。
別にお前を好きなわけではないが、単にプライドが高くて捨てられる事を嫌がるただのメンヘラはダメだぞ。
しかも他の男に目がくらむ女なら論外だからな。
492名無しさん@ピンキー:2007/05/23(水) 22:37:03 ID:amTYPuYH
一時はかなり依存してて、ある日向こうが自分の家に帰ってまた俺の家来て…を3回位繰り返したこともある

>>491
でもな、お前がいうヤンデレの定義ってメンヘラやストーカーと大差ないじゃん。むしろ、ヤンデレ枠にその2つがある感じ
493名無しさん@ピンキー:2007/05/23(水) 22:56:02 ID:GOXCL1BR
>>491なんという理想の高さ……

だ   が   そ   れ   が   い   い

まあ俺たちが望むヤンデレってそういうもんだよな
「狂ってしまうほどの愛」というか
494向日葵になったら ◆KaE2HRhLms :2007/05/23(水) 23:24:25 ID:hSICfvPU
投下します。

***

 僕の知り合いに、近所に住む仲のいい年上の女の子がいた。
 過去形にすべきではないのだけど、もう会おうとは思わないから過去形にすべきだろう。

 彼女の名前は橋口さつきといって、僕よりも3つ早く生まれていた。
 僕と、僕の同年代の友達はさつき姉、と彼女のことを呼んでいた。
 さつき姉と僕は、昔からとても仲が良かった。
 僕とさつき姉の家は、小さい子供が1人で歩いて行っても迷わずにたどり着けるくらいの
距離しか離れていなかった。
 だから、自然にお互いの家に行き来して遊ぶようになった。

 さつき姉が言うには、昔はよく僕の方から訪ねていっていたらしい。
 僕はよく覚えていないのだけど、たぶん真実なんだろう。
 さつき姉は僕のことで嘘を吐くような人ではなかったから。

 小学校に通っていた頃は、当然のようにお互い手を繋いで登校した。
 3年生の頃までは手を繋いで歩くことに抵抗が無かったけど、いつからか僕は
クラスの友達にからかわれるようになって、さつき姉と手を繋がなくなった。
 さつき姉は僕と無理矢理手を繋ごうとしてきたけど、手を繋ぐことを恥ずかしく
思っていた僕は、つい走って逃げてしまった。
 だけど、僕とさつき姉の仲が悪くなることはなかった。
 学校が休みの日と、学校からの帰り道ではよく一緒に遊んでいた。
 僕が持っている小さい頃の楽しい記憶のほとんどには、さつき姉が一緒だった。
495向日葵になったら ◆KaE2HRhLms :2007/05/23(水) 23:27:05 ID:hSICfvPU
 よくやった遊びは、おいかけっこだった。
 さつき姉が鬼で、僕が逃げる役。
 僕の家の中と庭、さつき姉の(僕の家より大きい)家の中と広くて綺麗な庭、
学校から自宅までの帰り道、僕の家の裏にある雑木林の中、子供の足で入り
込めそうな場所は、ほぼ全てが追いかけっこの舞台になった。

 おいかけっこを始める前に、2人のどちらが勝ったらなにをする、という罰ゲーム
を毎回設定した。
 罰ゲームの内容はよく覚えていない。
 よく覚えていないということは、きっと身の危険をおびやかすほどのものは罰ゲームに
設定していなかったということだろう。
 もし危険なものであったら、僕の体にはもっと傷の跡がついているはずだ。
 僕と比べて、さつき姉の走りは圧倒的に上だった。

 僕がさつき姉を避け始めたのは、高校1年生のころだった。
 高校1年生の冬、僕はクラスメイトの女の子から告白されて付き合いだした。
 さつき姉は大学に通っていたけど、平日は相変わらず僕と一緒にいたし、
休日には僕の家へ遊びに来て部屋に居座った。
 クラスメイトの女の子は、家へ来るたびに僕の部屋に座っているさつき姉を目にした。
 僕に出来た初めての恋人は、ひと月もしないうちに自然消滅した。
 ちなみに、初めての恋人は僕が中学校の頃から好きで、彼女を目当てに一緒の
高校へ通うほど、強く想っていた女の子だった。
496向日葵になったら ◆KaE2HRhLms :2007/05/23(水) 23:29:53 ID:hSICfvPU
 高校2年に進級した頃には、僕はさつき姉を無視するようになった。
 親の手前どうしても話さなければいけないときもあったけど、そんなときは
居心地の悪さを感じながらも、さつき姉とにこやかに会話した。
 高校3年生になってからは、受験勉強に忙しいという理由でさつき姉から逃げ回った。
 それでも僕の部屋のドアをノックするさつき姉に対抗して、僕は塾という安全な
逃げ場へと避難した。
 勉強の甲斐あって、僕は実家から遠く離れた大学の受験に合格した。

 1人暮らしを始めるアパートに引っ越す前日、僕はさつき姉と久しぶりに街へくりだした。
 さつき姉は、お店に入ったときは突き抜けるほど晴れ晴れとした笑顔を浮かべて、
公園のベンチで会話したときには自身の胸のうちを明かしながら涙を落とした。
 僕の人生で、寂しかったという単語を何度も繰り返し使われたのは、その時が初めてだった。

 翌日、僕は朝早くからバスと電車を乗り継いで新生活の舞台となる町へ向かった。
 本当は、前日にさつき姉と一緒に遊びにでかける約束を結んでいた(約束しなければ帰して
もらえなかった)のだが、僕は約束とため息を一緒にして、見知らぬ風景の空気へと吐き出した。

 アパートの住所は、さつき姉には教えなかった。
 両親にも、住所のことはさつき姉には教えないでくれ、と頼んでおいた。
 僕はさつき姉を忘れたかった。
 初恋の相手だった人に対して、これ以上冷たくあたりたくなかったからだ。

 そうして新しい生活が始まり、大学生活と1人暮らしの生活に慣れだしてそろそろアルバイトを
始めようかと考えているうちに、大学は夏季休暇へと移行していた。
497向日葵になったら ◆KaE2HRhLms :2007/05/23(水) 23:31:23 ID:hSICfvPU
***

 コンビニで求人情報誌と一緒に、缶コーヒーを購入する。
 自動ドアを通り抜けて外へ出ると、眩しい日差しと体にまとわりついてくる熱気が
額にじっとりとした汗を浮かび上がらせた。
 コンビニから自宅へ向かう途中には、小学校のグラウンドと同じぐらいの広さの公園がある。
 公園を取り囲むようにして緑の葉っぱを広げた木が立ち並び、公園の中心にある大きな木の周り
には芝生が広がっていて、芝生の上には犬と散歩をする人や色つきのボールを蹴る子供達がいた。

 公園の入り口近くにあるベンチに腰を下ろす。
 後ろに生えている木は太陽の光を上手に遮り、僕とベンチの周囲を暗くして、同時に地面から
立ち上る熱気を抑えてくれた。
 歩いているときとは違う風の心地よさを味わってから、まだ冷たい缶コーヒーを開けて口にする。
 微糖のコーヒーは乾いた喉にひっかかることなく流れていった。

 求人情報誌には、僕の住むアパートから歩いていっていける距離で働ける場所があった。
 めぼしい条件のページに折り目をつけながらコーヒーを飲んでいると、携帯電話に着信があった。
 見知らぬ番号ではあったが、090から始まる番号だったので通話ボタンを押して電話に出る。

「もしもし」

 と言っても、相手からの返事がなかった。
 一呼吸してから同じことを言おうとしたら、ツーツー、と音が聞こえてきた。
 間違い電話だったのだろう。僕は携帯電話をジーンズのポケットに入れて、コーヒーを飲み干した。
498向日葵になったら ◆KaE2HRhLms :2007/05/23(水) 23:35:41 ID:hSICfvPU
 僕が住んでいるアパートは、公園から歩いて10分ほどの場所にある。
 10分とはいえ、今日の気温はこの夏の最高気温を記録しようかというほど高く、
Tシャツと下着は汗に濡れて、手に持ったハンカチは汗で重くなってしまっていた。

 僕の住む201号室は2階にあり、当然のように階段が立ちはだかっていた。
 階段を4つ登るごとに、僕は1回ずつハンカチで額の汗を拭う。
 階段を登る間に、額を4回拭った。2階に着いてから、もう一度額を拭う。
 201号室という名前のくせに、階段を登ってすぐの位置には203号室があり、
突き当たりまで行かないと僕の住む201号室はなかった。

 僕が向かう201号室の前には、女性が立っていた。
 女性は長い髪の上に白い帽子を被り、白いワンピースと白い靴を身に着けていた。
 肌の色も白で、違う色をしている部分といえばつややかな黒髪と薄紅の唇と、
ほっそりとした指に包み込まれた赤い携帯電話だけだった。

 女性は親指を動かしてから、携帯電話を持ちかえると耳につけた。
 途端、僕のポケットに入っている携帯電話が振動した。
 携帯電話を開いて画面を見ると、公園で着信のあった番号と同じ番号が表示されていた。
 呼吸を止めてからその場で立ち止まり、電話に応対する。

「……もしもし」

 なんとなく、慎重に声を出してしまった。
 僕が立ち尽くしていると、携帯電話の音声と共に女性らしき肉声が耳に届いた。

「ふふ、やぁっぱり、惣一の番号だった!」

 目の前にいる女性が僕の方を向いて、大声を出した。
 ちなみに惣一というのは、僕の名前だ。北河惣一、それが僕のフルネームだ。
 僕の名前を知っているのは、この町では大学の友達だけだが、目の前にいる女性は
大学でできた友達のいずれでもない。
 当然だろう。だって彼女は。

「久しぶりね、惣一。元気そうじゃない。
 てっきり私がいなくて寂しい生活を送っているんじゃないかと思ってたんだけど」

 懐かしい笑顔と、聞きなれた声と、変わらぬ容姿。
 携帯電話を切らずに、僕に語りかけてくる。
 女性の空いた手には、携帯電話会社から送られてくる料金案内の封筒が握られている。

「惣一のところに、遊びにきちゃった!」

 さつき姉――本名、橋口さつきが、1人暮らしを送る僕のところにやってきた。 

-------
今回は投下終了。病んでいるところを書けるか不満ですが、なんとかやってみます。
499名無しさん@ピンキー:2007/05/23(水) 23:38:09 ID:hSICfvPU
不満じゃなかった、不安だった。スマソ
500名無しさん@ピンキー:2007/05/23(水) 23:38:57 ID:TsEvUpxt
GJ! 携帯料金通知、これはやっぱり必須ですね
501名無しさん@ピンキー:2007/05/23(水) 23:48:17 ID:4UD1QEvK
>>499
GJ!
さつき姉の依存可愛いよ依存
でも主人公は逃げたいんだろうなあw
これはこの先が楽しみ(*´д`*)ハァハァ
502名無しさん@ピンキー:2007/05/24(木) 00:11:27 ID:8GU3YkqK
>>489
メンヘラってこと?
しかし羨ましい…。監禁されて死ねばいいのに

さあ、お前と彼女の出会いをSSにしたまえ
503名無しさん@ピンキー:2007/05/24(木) 00:29:05 ID:yN48jtzo
>>502
>492にもあるが精神疾患・誇大妄想と紙一重なんだよ。その紙一重を綺麗に隔ててるのがうちのなんだけどね
SS描いてもいいけど、ツンデレとかに比べてやっぱりネタにするのは難しいと思うよ。その相手も多少壊れてないといけないし
504名無しさん@ピンキー:2007/05/24(木) 02:41:02 ID:qghtPmO4
>>503脳内彼女なら今すぐ書け。
実在彼女なら大事にしてあげて下さい。
505名無しさん@ピンキー:2007/05/24(木) 04:07:44 ID:YyUG2hwv
>>504
優しいなおまい
506名無しさん@ピンキー:2007/05/24(木) 07:09:15 ID:kzRjzNuz
>>498
これは素晴らしい期待の新作!
続きが楽しみでつ
でも携帯の料金案内ってことはまさか
惣一につながるまでランダムでかけまくってたって事か?(((;゚∀゚)))ガクブルハァハァ
507名無しさん@ピンキー:2007/05/24(木) 10:12:24 ID:F61T5MS9
>>503
なんという彼女……間違いなくこのスレは嫉妬される
508名無しさん@ピンキー:2007/05/24(木) 13:33:45 ID:z4clNpUs
>>503
ま、死なない程度にガンガレ

>>506
携帯料金の通知
509名無しさん@ピンキー:2007/05/24(木) 15:58:54 ID:jYFvTvzG
>>503
お前のリアルの話なんてミジンコほどにどうでもいいから控えてね
そもそもここがなんのスレなのか考えてからレスしようね
510名無しさん@ピンキー:2007/05/24(木) 16:32:34 ID:t0ugCRBU
何言っているんだこんなことが実際にある訳無いじゃないか
511名無しさん@ピンキー:2007/05/24(木) 16:51:33 ID:u7hFlb7P
実体験風の作品と考えれば問題ない
512名無しさん@ピンキー:2007/05/24(木) 21:19:23 ID:OqyWaXyt
>>511
成る程、既に始まっているということか
513名無しさん@ピンキー:2007/05/24(木) 23:57:39 ID:UCAJAwE5
実体験の報告と見せかけて日に日に病んでいく彼女を追ったSSだったのか!
514向日葵になったら ◆KaE2HRhLms :2007/05/25(金) 00:59:51 ID:JCvlFL/5
昨日の続き、投下します。


 さつき姉は携帯電話を折りたたんでポケットにしまうと、僕に向けて手の平をさしだした。

「鍵」
「鍵?」
「鍵は鍵よ。惣一の部屋の扉を開けるための鍵。
 今日からしばらく惣一の部屋に泊まることにしたから、荷物を入れておきたいの。
 荷物と言ってもバッグひとつだけどね。あ、あともう一つあったわ。
 ねえ、部屋の中にキッチンと冷蔵庫はある?」
 僕はある、と言ってから頷いた。

 さつき姉はコンクリートの廊下の床に置かれている大き目の黒のバッグを右手に持ち、
大きく膨らんだビニール製の買い物袋を左手で持ち上げた。
 ビニール袋の中には緑色の野菜と、肉の切り身が入れられているパックが入っていた。

「今からさつきお姉ちゃんが料理を作ってあげる。もうお昼時だから。
 肉と野菜の炒めものを作れるぐらいのものは揃っているでしょ?」
「うん」
「じゃあ、早く扉を開けて。あ、あとこれ」
 と言うと、さつき姉は僕に向けて真っ黒の旅行バッグを差し出した。
「いろいろ入っているから重かったのよ、それ。
 惣一は知らないかもしれないけど、女の子が旅行するときに持っていく荷物は
 結構な量になるのよ」

 僕はさつき姉からバッグを受け取った。
 確かに、僕がひとりきりでぶらぶらと旅行するときに抱える荷物より、さつき姉が
持ってきたバッグは重かった。
 しかし、僕が近所のスーパーで3日分の食料をまとめ買いした帰り道で持つ
ビニール袋に比べれば軽いものではあった。

 左手にさつき姉のバッグを持ち、右手でポケットの中を探って部屋の鍵を取り出して、
201号室のドアを開ける。
 毎日嗅いでいる僕の部屋の匂いが、いつものごとく部屋の中に滞っていた。
 僕がまず靴を脱いで部屋の中へ入ると、さつき姉が後に続いた。
 さつき姉は買い物袋を入り口近くに設置してあるキッチンの上に置くと、深呼吸した。

「ああ、ここ、惣一の部屋の匂いがする。
 鼻をつく匂いがなくて、甘い匂いもなくて。すっごく好きだな、この匂い」

 僕は、口の代わりに鼻から息を吐き出した。
 さつき姉の喋り方が、昔とまるで変わっていなかったことに安堵した。
 僕のせいでさつき姉の心が傷ついて、変貌してしまっているのではないかと思っていたからだ。
515向日葵になったら ◆KaE2HRhLms :2007/05/25(金) 01:01:35 ID:JCvlFL/5
 さつき姉は僕の手から黒いバッグを受け取ると、台所の床に置いた。
 キッチンには蛇口と流し口と、まな板と包丁と、蛍光灯と冷蔵庫とコンロが置いてある。
 さつき姉はいずれも使えるものばかりであることを確認すると、調理を開始した。
 まな板と包丁と手をまず洗い、続いてキャベツを水で流し始めた。
 僕がさつき姉の行動を観察していると、さつき姉に声をかけられた。

「惣一は座ってなさい。20分もしないうちに出来上がるから」
 僕は言われるがまま、キッチンとの居間を仕切るガラスの引き戸をしめてから、
居間に置いてあるテーブルの前に座った。

 さつき姉がキッチンで料理する音を聞いていると、急に居間の掃除をしたくなった。
 僕は普段から掃除を定期的にしていたし、文庫本を読んだ後は本棚にきちんと収めていた
から部屋が散らかったりしていないのだけど、自然と掃除を始めてしまった。
 本棚の本を揃えて、机の上のペンとノートを片付けて、コンビニで買ったエロ本を隠した。

 畳の上に散らばるホコリや髪の毛をあらかた捨て終わったころ、さつき姉が引き戸を開けて
片手に料理の乗った大皿、片手に皿2枚と箸2膳を持って居間に入ってきた。
 両手に持っていたものをテーブルの上に置くと、さつき姉は居間に座り込んだ。
 僕も少し遅れて、さつき姉とテーブルを挟むかたちで座った。
 さつき姉は僕の前に皿と箸を置くと、同時に自分の前にも同じものを置いた。

「惣一、さつきお姉ちゃん特製の野菜炒めをどうぞ召し上がれ。
 特製スパイスを使ったから、大学の食堂の料理よりはおいしいはずよ」
「特製スパイス?」
 と、僕は聞き返した。
「そう。香りとコクが段違いに増すのよ」

 大皿の上に盛られた野菜と肉の炒めものを、箸を使い手元の皿に移す。
 鼻を近づけると、確かに香ばしい匂いがした。
 昼飯時で空腹状態の僕にとって、野菜炒めのこしょうと油の匂いは刺激的だった。

 いただきますと言った後は、無言のまま箸を動かし、小食のさつき姉と一緒に野菜炒めを
完食した。
516向日葵になったら ◆KaE2HRhLms :2007/05/25(金) 01:04:54 ID:JCvlFL/5
 箸と皿をテーブルの上に置き、満たされた胃を自由にしようとして手を後ろにつく。
 少し食べ過ぎたかもしれないが、後悔はしていない。
 1人暮らしを始めてから今まで、これだけ美味しい料理を食べたのは初めてのことだった。
 自分で料理をしてみようとしたこともあるけど、時間が無いとつい簡単なものですませようと
して、結局は自宅で料理をしようともしなかった。

 僕は手をついたまま座っていた。さつき姉が冷蔵庫から麦茶をとりだして、
僕の前にコップを置いて麦茶を注いでくれた。
 僕は麦茶をすぐに飲まなかった。
 まだ、胃が脈を打ったままの状態で何も受け付けてくれない。

 テーブルの向こうに座るさつき姉を、ぼんやりと観察する。
 さつき姉は肘をテーブルについたまま僕の顔を見ている。
 僕は内心、いつさつき姉の癇癪が起こるのかと戦々恐々としていた。
 さつき姉に何も言わず、引越しの前日にした約束を守らず、僕は今居るアパートの部屋に
引っ越してきた。
 昔からさつき姉は僕が何も言わずにどこかへ行ってしまうと、眉間にしわを寄せて怒った。
 けれども僕の目の前にいるさつき姉は眉間にしわを寄せるどころか、目尻と口の端を
緩ませて笑っているようであった。

 僕が沈黙のまま胃を休ませていると、さつき姉の唇が動いた。
「惣一が今何を考えているか、当ててみましょうか。
 ずばり、私が怒っているのではないかと思ってびくびくしつつ、なんと言って話を
 切り出せばいいのか、と考えている。当たりでしょ」
 少しは当たっている。僕は無言で首肯した。

「私が怒っているか、怒っていないか。どちらかと言えば怒っている、が正解ね。
 久しぶりに惣一とデートできると思って待ち合わせ当日は5時に起きて、
 化粧と服がばっちり決まるまで衣装合わせをして、待ち合わせ1時間前に
 待ち合わせ場所に到着して、惣一が来るのを待つ。
 はにかんだ表情で待ち合わせ場所にくるはずの惣一が引っ越してしまったことを
 知ったのは、夜8時になっても帰ってこなかった私を心配した両親からの電話でだった。
 10時間も立ちっぱなしだったから、足はパンパンよ」
 僕はなんとなく正座をしてしまいそうになったけど、体をまっすぐに起こす程度にとどめた。

「でね、私思ったのよ。このことは絶対に惣一に罪を償ってもらおう、って」
517名無しさん@ピンキー:2007/05/25(金) 01:07:08 ID:LmAIOnL5
支援
518向日葵になったら ◆KaE2HRhLms :2007/05/25(金) 01:11:36 ID:JCvlFL/5
 さつき姉はそう言ってから、黙り込んでしまった。
 対して、僕の額からは汗が噴き出し始めた。
 窓から舞い込んできた熱気とは別のもの――荒縄で締め付けられて縄が食い込んでいるが
拘束を解けない状況の焦りの心境――が原因だった。

 さつき姉は空になった自分のコップを持って立ち上がった。
「そんなバツの悪そうな顔しなくてもいいわよ。
 今すぐに罪を償ってもらおうってわけじゃないんだから」
「じゃあ、いつかはするってこと?」
「ええ、もちろんよ。とびっきりのタイミングで、ジョーカーの代わりに使っちゃうから。
 悪いだなんて、私は思わないからね。躊躇無く、堂々とカードを使う。
 私を騙したんだから、それぐらいのペナルティはあって当然よね、惣一?」

 僕は、口を開けなかった。
 さつき姉は、僕が約束を守らなかったことを咎めている。
 心の中でさつき姉の言葉を反芻して、僕は自分のやったことについて自分自身を何度も殴った。
 殴られ続ける僕のありさまをさつき姉が目にしたら、すぐに許してしまうだろう、というくらいに。

 さつき姉は引き戸を閉めると、キッチンで洗い物を始めた。
 僕はテーブルに両手を投げ出して、同じように体を乗せた。
 開け放たれた窓の向こうからは、せみの声が特によく聞こえてきた。
 時々アパートの前の路地を通る車の排気音が聞こえて、同じ道を歩く人たちの話し声が
聞きたくもないのによく聞こえた。
 彼、もしくは彼女らの話で「暑い」という単語はよく登場していた。
 話す相手が入れ替わるたびに口にしているようにさえ思えた。

 僕の体は暑さのせいで熱くもなっていたが、あきらかに一部分だけが異常に熱くなっていた。
 具体的には股間に血液が集まり、勃起した肉棒がとても熱くなっていた。
 恋人は大学に通っているうちにはできなかったから、性欲を処理するためにマスターベーションは
定期的に行っていた。
 加えて、僕はあまり(自分の判断では)性欲が強い人間ではない。
 だというのに、今の僕は腰を振って女性の体を貫きたいという単純で強力な欲望に背中を
つつかれている。

 引き戸の向こうで洗い物をするさつき姉に肉欲をぶつけないよう、腹筋を固める。
 今さつき姉がやってきたら、何かの拍子に崩れてしまうかもしれない。
 昼食で大量に皿を使っていればよかった、という種類の後悔をしたのはこれが初めてだ。
 汗と一緒に性欲が流れ出していってくれればたちまち肉棒は静まってくれるだろうが、
現実では時が経つごとに性欲を強くしていった。

 股間が膨らんだ状態では外出できず、またさつき姉が同じ部屋にいる以上マスターベーションを
することもできず、僕は惨めな状態のまま夜を迎えることになった。


投下終了。ちょっと話のきり方がおかしかったかな?もうちょっと長くした方がいい?
519 ◆KaE2HRhLms :2007/05/25(金) 01:19:37 ID:JCvlFL/5
>>517
支援、サンクス!
520名無しさん@ピンキー:2007/05/25(金) 03:25:27 ID:x1ThHaHH
一番槍神GJ!
なんですかこれは?まさか媚薬ry


ところで本当に今更なんだがヤンデレ娘は99%料理になんかいれるよな・・・・
愛液やら媚薬やら血やら人肉やら。
いやいやそれが悪いなんて微塵にも思ってないよ。特に愛液入り料理を是非食べたいなんて欠片も思ってないぞ。
みんななら俺を信じてくれるよな?
521名無しさん@ピンキー:2007/05/25(金) 12:24:40 ID:ecKyJSHh
>>518惣一……警戒感なさ杉だ
だがそれが(ry
投下については個人的には特に短いとも感じなかったですが

>>520うん、信じるとも。だからおまえの分の料理は俺が食べといてあげよう
なに、礼には及ばん
522名無しさん@ピンキー:2007/05/25(金) 12:38:05 ID:dCXaBLH1
>>520
そう思えないやつなら俺達と友達になれないな
523名無しさん@ピンキー:2007/05/25(金) 16:54:21 ID:sxTPIx9V
>>522
よう革命の同志
524尽くす女:2007/05/25(金) 19:30:23 ID:ijfHRU+h
初投下だけど、これってヤンデレSSになるのか不安だわ。


そこは薄暗い部屋の中だった。
パソコンのディスプレイから洩れている明かりだけが薄青色に部屋の中を照らしていた。
あまり広いとはいえない部屋の中には、多くのモノが積み上げてあった。
DVD、ゲーム、CD…etc.
今にも何かの拍子で崩れてしまうのではないかと思うような有様。
足の踏み場なんてほとんど無く、中央にパソコンへと続く道とも呼べないような空間があるだけ。まるで片付けの出来ない子供部屋のような空間。
パソコンの傍らにはセミダブルのパイプベッド。
生活する人の性格を映すかのように昨夜起きたときのままの状態。
乱れた布団、毛布、枕
その傍らにおいてあるゴミ箱とティッシュのつぶれた箱。
ベッドの向かいにある本棚はきちんと整理がされており、たくさんの書籍がしまわれていた。
背表紙の巻数がきちんと並んでいる。
幾つも…幾つも…
その種類は幾種類あるのだろう。
最後のほうは本棚に入りきらなかったのだろうか、横向きに置かれ、無造作に本棚の前に積み重ねられていた。

すん…
鼻に匂いがまとわり付く
タバコと男性の匂い。
生活の匂い。
あの人の匂い。

恐る恐る周りのものを崩さないように奥へと足を一歩、また一歩進ませていく。
薄暗い部屋の中を。

「こんなところであの人は…寝ているのね…」
足元に落ちているよれよれのYシャツを拾い上げ、しわを申し訳程度に伸ばしながら畳む。
シャツからは汗とタバコと男性特有の体臭が漂っている。
「どうして、すぐにクリーニングにださないのかなぁ…」
苦笑しながらもベッドに腰を下ろし、床に散乱した衣類を丁寧に畳んでいく。
部屋の中を弄られるのを嫌がる性格なので、他のモノには手を触れない。

ようやく洗濯物を畳み終わり、衣服を洋服ダンスにしまう。
洗濯しなければいけないモノは手早く洗濯機に洗剤と一緒に放り込み設定してスイッチを入れる。

ジャー……
水が洗濯槽に満たされていく音が静かに暗い部屋の中に響いている。
その音色を背中で聞きながら、リビングのテーブルの上に散らばった菓子パンの袋や、要らないゴミをゴミ袋に詰め込んでいく。
ブックカバー、コンビニの袋、くしゃくしゃに丸まったティッシュ、お菓子の空箱…
そこに置いているものには手を触れないでゴミだけを手早く詰め込んでいく。

ごうん…ごうん…
給水が終わったのだろう。洗濯機が音を立てて回り始める。
静かで薄暗い部屋の中…ただひたすらにゴミを拾い集める。
袋がいっぱいになるとゴミ袋の口を縛り玄関の傍に置いておく
525尽くす女:2007/05/25(金) 19:34:03 ID:ijfHRU+h
「はぁ…」
一息ついて、額の汗を拭う。
そしてぱたぱたとスリッパの音を響かせてリビングにある緑色の可愛いソファーに
倒れこむように腰を下ろす。ゆっくりと首をソファーに預け、
ぼんやりと天井を見上げる。
…何を思うでもなくしばらく呆けていると、手に何か硬いものが当たった。
何だろう……?
それを手に取ってみるとそれはビデオの箱だった。
…これって…

アダルトビデオ…?

恍惚とした表情を浮かべた女性がプリントされた表紙。
嫌がっているのか、喜んでいるのか解らないようなそんな表情の女性。
手にそれを持ったまま視線を前に移すとそこには大きなテレビがあった。
今流行のフラットでもワイドでもない、昔ながらの24型のテレビが置いてあった。

「ふ〜ん…こんなものを見ているんだ…」
手元を探すとコントローラーらしいものが二つ転がっていた。
ビデオ用とテレビ用。リモコンで電源を入れると
ブンッ…
という無機質な音と共にテレビに明かりが灯った。
526尽くす女:2007/05/25(金) 19:35:11 ID:ijfHRU+h
真っ青な画面。
音は何も聞こえない。

次にビデオのコントローラーの再生と書かれたボタンを押してみる。

ウィーン…ガシャ…

ビデオの動く音が静かな部屋の中に木霊する。
画面には柱に縛られた着物姿の女性が髭の特徴的な着物姿の男が映し出された。
だが、音は聞こえなかった。
…いや、かすかに声が聞こえていた。
ソファーの上から微かに嬌声と男の声が聞こえていた。
手を伸ばしてみるとそこにはヘッドステレオが置いてあり、声はそこから漏れているのであった。
しばらくの間、手に持ってそこから聞こえてくる声に耳を傾ける。
擦れるような声。響く声。喘ぎ声。やめて欲しいとの嘆願。

…本当に厭なのかしら…
ビデオの停止のボタンを押し、テレビの電源を切り、ヘッドステレオを耳から外す。
膝の上にそれを置き、目を閉じる。

ピィー…ピィー…ピィー…
洗濯の終わりを告げる音が響きわたる。
ヘッドステレオをソファーに戻すと、ソファーからゆっくり立ち上がり洗濯機の前にゆっくりと歩いていき、洗濯籠に洗濯物をいれる。

「私…何を考えているの?」
ふと、洗濯物を取り込みながらそんなことを考える。
願望…何を望むの?
頭の中から余分な考えを振り払い、ただ作業に没頭する。
手早く取り込み、お風呂場に…室内乾燥機のあるお風呂場に手早く干していく、
パン…パン…
両手で挟み込むようにして洗濯物の皺を伸ばしていく。
パン…!
両手でひっぱりしわを伸ばす。飛沫が微かに顔にかかり、シャツがぴんと張る。

何かをしているときが一番落ち着く。
何も考えないで作業に没頭できるから。
考えてしまうのはいけない。
作業の邪魔になるから。
そうだよね。
そう…?
そうなんだよ?…ね?

部屋を見渡す。掃除は終わっている。洗濯も終わっている。
今はそれ以上にすることは無い。
だから私がここにこれ以上いる理由も無い。
私は部屋を後にした。
次にこの部屋に来る時は

あの人が私を彼女として連れてきてくれるときだと信じて。
527名無しさん@ピンキー:2007/05/25(金) 20:10:44 ID:JCvlFL/5
>>526
投下終了ですか?
528尽くす女:2007/05/25(金) 20:18:24 ID:ijfHRU+h
はい、投下終了です。
と、最期に書いてなかったorz…
529名無しさん@ピンキー:2007/05/25(金) 20:26:13 ID:JCvlFL/5
これは、もしかして……想い人の部屋に勝手に忍び込むストーカー!?
いや、違うか。きっと男を一途に想うあまり部屋に忍び込む、健気な女の子なんだ。うん。
530名無しさん@ピンキー:2007/05/25(金) 21:32:45 ID:R/9SE1rC
>>529 そんな人を傷つけるような冗談言って………
いくら名無し君でも許さないよ?
私、こんなにこんなにこんなにこんなにこんなにこんなにこんなにこんなにこんなにこんなにこんなにこんなにこんなにこんなにこんなにこんなにこんなにこんなにこんなにこんなにこんなにこんなにこんなにこんなにこんなにこーーーーーーーんなに尽くしてるのに…


てな感じじゃね?
531名無しさん@ピンキー:2007/05/25(金) 23:37:50 ID:wZ7WS3Cn
男が部屋に帰って来た時の反応を見てみたいな
532名無しさん@ピンキー:2007/05/26(土) 01:23:44 ID:0AcTYoI0
>>531
重要な書類がねぇ!!

って感じじゃね?
533向日葵になったら ◆KaE2HRhLms :2007/05/26(土) 01:24:23 ID:KA6YcRrv
保管庫の管理人さん、素早い更新乙です。
では、昨日の続きを投下します。
534向日葵になったら ◆KaE2HRhLms :2007/05/26(土) 01:25:40 ID:KA6YcRrv
 夏がくると、スイカを思い出す。
 夏の風物詩といえるスイカであるが、実を言うと僕はあまり好きじゃない。

 理由の1つが、赤い果肉の中に入り込んでいる黒い種だ。
 大口を開けてスイカに噛り付くと、大量の果肉と一緒に種までもがついてくる。
 ひと噛みするごとにいちいち邪魔をしてくる小さな種の存在が、僕にとっては不快だった。

 もう1つの理由が、僕の父親の存在だ。
 僕の父親はスイカを食べるとき赤い果肉だけではなく、皮まで齧っていた。
 スイカをおやつとして出されるたび、僕は父親から赤身を残さずに食べろと
口うるさく言われてきた。
 もちろん父親と同じようにできるはずもなく、僕はいつも赤身を少しだけ残した。
 そして、父親に怒られた。スイカを全部食べなかったという理不尽な理由で。

 それらのことがあったせいで、僕はスイカというものから距離を置くようになった。
 夏休みに家で過ごしているとスイカを食べさせられるので、家にいない理由を
いつも適当に作り出した。
 図書館へ宿題をやりに行ったり、さつき姉の家に遊びに行ったり――――

 うなだれて、ため息をひとつ吐く。
 また、さつき姉のことが浮かんできた。
 たった今風呂に入っているさつき姉の裸体を想像しないために、まったく関係のない
ことを考えていたというのに。
 1畳ほどの広さもないバスルームでさつき姉がシャワーを浴びている音が、
浴室のドアを通り抜けて僕の座っている居間まで聞こえてくる。
 さつき姉がシャワーを浴びに行ってから20分が経とうとしているが、僕の主観では
2時間は経っているように感じられる。

 さつき姉の作った夕食を食べ終えた後にシャワーを浴びてからも、僕の股間と
欲望は熱くなったままだった。
 風呂上りに勃起している様を見られないよう隠すのには苦労した。
 昼食後から現時刻の午後8時50分まで、僕はずっとこんな情けない状態のまま
部屋に閉じこもっている。

 久しぶりに会ったからかもしれないが、さつき姉は僕によく話しかけてきた。
 耳に優しいさつき姉の声を聞くたび、僕の体がうずいた。
 奇妙な現象だった。いくらさつき姉が魅力的な容姿をしているからといって、
ここまで強く欲情したことはない。
 まして、さつき姉とセックスしたいなど、実家に住んでいた今年の3月までは一度も
考えたことがなかったのに。
 しかし、現に僕は今性欲を解消したくて仕方なくなっている。
 僕の浅ましい欲望をさつき姉の体にぶつけたくないのに、全力疾走した後よりも強く脈を
打つ心臓は思いに応えてはくれなかった。
535向日葵になったら ◆KaE2HRhLms :2007/05/26(土) 01:27:30 ID:KA6YcRrv
 浴室のドアが開く音がした。しばらく体をタオルでこする音が続く。
 足拭きマットを踏みしめる音が2つ聞こえた。さつき姉が出てきたのだろう。
 さつき姉がしているであろう行動を背中で聞いているだけで下半身に血液が送り込まれ、
欲望を閉じ込める役目を任された腹筋が固くなる。

 自分が吐く息すら強い熱を持っている気がする。
 ふと、バニラのアイスバーに息を吹きかけたら溶ける様子が浮かんだ。
 バニラアイスでもドライアイスでもいい。僕の欲望と熱を抑えてくれ。

 居間とキッチンを仕切る引き戸が開くと、シャンプーの匂いがした。
 匂いを大きく吸い込んでしまいそうになるのを必死に抑える。
 さつき姉は僕の背中に向かって声をかけた。
「ねえ、惣一。ドライヤーはどこにあるの? 私持って来てないのよ」
「え……。なに、もう1回言って?」
「なにぼうっとしてるのよ。ドライヤーは、この部屋の、どこに、あるの?」
 さつき姉は上の空の返事をした僕に言い聞かせるように言った。

 そういえば、ドライヤーはどこ置いただろう。
 部屋の空気に混ざり始めた鼻をくすぐる匂いのせいで、簡単なことの答えも見つからない。
 そうだった。ドライヤーは浴室のドアの近くにかけてあったはず。
 僕がさつき姉にそのことを伝えようとして顔を上げると、バスタオルを体に巻きつけて
部屋の中を探し回るさつき姉の姿が目に入った。
 力を振り絞り、目と顔をあらぬ方向に向ける。

「どこにあるのよ、ドライヤー。早く髪の毛を乾かしたいのに」
「浴室の、ドアの壁」
「ん? 何か言った?」
 さつき姉が、僕の目線の先でしゃがんで見つめてきた。
 湯上りで湿った髪と、わずかに濡れた肩と膝と、タオルに収められた胸の谷間が見えた。
「浴室のドアの近くの壁にかけてあるから! 早く服を着てくれ、頼むから!」
「ああ、あそこにあったのね、気づかなかったわ」

 さつき姉は立ち上がると、ぺたぺたと歩いて浴室の方へ向かった。
 ドライヤーの騒音が聞こえる。髪を乾かしているのだろう。
 時々大きくなったり小さくなったりするドライヤーの音を聞きながら、僕は長いため息を吐いた。

 ドライヤーの場所を尋ねられて答える、というだけのやりとりで僕の精神力はかなり磨り減った。
 大学の眠たい講義を受けていてもここまで疲弊しないだろう、というぐらいに。
536向日葵になったら ◆KaE2HRhLms :2007/05/26(土) 01:28:50 ID:KA6YcRrv
 さつき姉は髪を乾かしてパジャマに着替えると、僕の傍に座った。
 僕がさつき姉から距離をとると、さつき姉は空けた距離をすぐに詰めてきた。
 さつき姉からの逃亡は、僕の背中が壁についたことで幕を下ろした。
 部屋は6畳しかなかったから、2人居るだけでも狭く感じられる。

「なんで逃げるのよ。そんなに怖がらなくてもとって食ったりしないわよ」
 間近で声を出すさつき姉から顔をそらす。見ているだけで自制が利かなくなりそうだ。
「それに、なんだか顔が赤いわよ。もしかして夏風邪?」
 さつき姉の手が、僕の額を覆った。風呂上りのせいだろう。額に手のぬくもりが感じられた。
「うーん。熱は無いみたいだけど、本当に大丈夫?」
 今度は、身を乗り出して僕の顔を見つめてきた。
 さつき姉の美しいラインを描いた二重まぶたがよく見える。
 風呂上りから間の無い髪の毛はまだシャンプーの香りを漂わせていて、空気を柔らかくしていた。

 僕は、さつき姉の唇にくちづけたかった。
 上下の唇を舌で割り、歯と歯の間を舌の先でなぞり、唇の裏と頬の裏を舐めて、
さつき姉の舌を自分の舌で嬲りたくなった。
 ピンク色のパジャマを震える手で急いで外し、ブラジャーをまくりあげ、胸の谷間に
顔を埋めるところを想像した。触感までも、想像することができた。
 そして、さつき姉の足を開いて中へ入るところまで思考を泳がせたところで、自分の頬を殴った。
 続けて左の頬を左拳で殴る。頬骨と、拳の尖った骨が思い切りぶつかった。

「いきなりどうしたの? 自傷癖でもできてたの?」
「……もう、寝よう」
「え、でもまだ10時にもなってないけど」
「いいんだよ。僕はいつも10時には寝るようにしてるんだから」
 僕の言葉を聞いて、さつき姉は一度顔をしかめてからため息を吐き出した。
「仕方ないわね。じゃあ、もう寝ましょうか」

 僕はさつき姉に背中を向けて、深く腰を曲げながら布団を敷き始めた。
537向日葵になったら ◆KaE2HRhLms :2007/05/26(土) 01:30:34 ID:KA6YcRrv
 歯を磨いて、部屋の電気を消して布団に潜り込んでから、僕は自分の行動を後悔した。
 横になった僕と向かい合う形でさつき姉が布団に入ってきたのだ。
 僕が布団から出ようとすると、さつき姉に肩を掴まれて動きを止められた。
「どこに行くつもり?」
「僕は台所の床で寝るよ。さつき姉は1人で布団を使って寝ていいから」
「別にいいじゃない、一緒に寝ても。昔はよくこうやって一緒に眠ったでしょ」
「今と、昔は違うよ」
 僕が手を伸ばすまいと努力していることにも気づかず、さつき姉は言葉を続けてくる。

「ふーーん。も、し、か、し、て。さつきお姉ちゃんの体に興奮しちゃってるとか?」
 否定しようとしたら、いきなりさつき姉が僕の首に手を回してきた。
 吐き出す息まで感じとれる距離に、さつき姉の顔がある。
「でも、私を無理矢理どうにかしようとか、惣一にはできないよね」
 その言葉は、僕をからかっているようだった。
 体の中を駆け巡る欲望が、大きな津波のようになって押し寄せてきた。
 できない、とさつき姉は言った。僕に、僕自身がしようと思っていることはできない、と。
 僕がしたくなっていることなど、さつき姉は気づいていないようだった。

「ふふ、できないわよ。惣一には、まだそんなことはできないって」
 さつき姉は、鼻から小さく息を吐き出しながら笑った。
 僕は、さつき姉の笑顔を汚してやりたくなった。
 苦痛に顔を歪めさせて、身を捩じらせて、僕の思うままに弄びたい。
 いつまでも子供のままだと思っているさつき姉の考えをひっくりかえしてやりたくなった。
 さつき姉を喘がせて、呼吸と体を乱れさせて、涙を流させて――――?

 涙を流させる?さつき姉に、か?
 初恋の人に、また涙を流させようというのか、僕は?
538向日葵になったら ◆KaE2HRhLms :2007/05/26(土) 01:32:33 ID:KA6YcRrv
 僕が高校時代に好きだった女の子は、さつき姉が原因で離れていった。
 だから僕はさつき姉を無視し続けて、寂しい思いをさせた。そして泣かせてしまった。
 最後には一言も言わずにこの町へやってきた。
 僕と再会するまで、さつき姉が寂しい思いをしていたのは違いない。
 久しぶりに僕に会いたいと思ってやってきたさつき姉を、僕は自分の欲望のままに泣かせて、
汚して、傷つけるのか?
 今度こそ、決定的な傷をつけてしまおうというのか?

 僕にそんなことができるわけ、ないじゃないか。
 僕はさつき姉を嫌っているわけではない。むしろ、好きなままだ。
 ただ、まだ時間が欲しいんだ。僕の頭が冷えて、さつき姉を心から許せるまで。
 だから、今は。
「おやすみ、さつき姉」
 こうやって、背中を向けていたい。

 さつき姉と向かい合っていたときとは違い、僕の欲望は鎮まり始めていた。
 緊張が解き放たれて、精神の疲労が心地よく眠りに導いていく。
 まどろみの中で、さつき姉の声を聞いた。
「ふう、仕方ないわね。……まさか耐え切るだなんて思わなかったけど。
 でもいいわ。今日のところはお休みなさい、惣一。また、明日ね」

 開けたままの窓から入り込んだ夜風が、カーテンを揺らし部屋の空気を押し流していく。
 昼間のうだるような熱気のない、肩を優しく撫でてくれる風だった。



今日はここまで。次回へ続きます。
539名無しさん@ピンキー:2007/05/26(土) 01:52:56 ID:0AcTYoI0
>>538
乙です。風呂場なりトイレなりでヌくという考えは彼にはないのだろうか
540名無しさん@ピンキー:2007/05/26(土) 06:21:51 ID:yvIB6vFC
同居人ができたのに?
そいつぁ勇者すぎますぜ旦那
541名無しさん@ピンキー:2007/05/26(土) 06:52:08 ID:0AcTYoI0
>>540
昔のねらーは言いました

「オナニーは麻薬と一緒」

俺は排水溝が詰ろうがやります。ええ
542名無しさん@ピンキー:2007/05/26(土) 08:24:25 ID:zg8xC8XD
>>538
GJです
しかし惣一はよくさつき姉の罠に耐えましたね
俺ならもう襲ってます


>>541
媚薬が盛られてたっぽいから、オナヌーしても収まらないんじゃね?
543名無しさん@ピンキー:2007/05/26(土) 08:57:57 ID:/JKMoZI7
主人公にもうこれ以上自分の嫌なところを見せたくない、
でも私は主人公の永遠になりたい、思いを存分に打ち明けたい。
そんな思いから、主人公に愛してる愛してる連発しながら、
主人公の目の前で自殺する娘はヤンデレですか。
544無形 ◆UHh3YBA8aM :2007/05/26(土) 12:06:11 ID:OltU+Q9A
続きの投下します
545ほトトギす ◆UHh3YBA8aM :2007/05/26(土) 12:08:02 ID:OltU+Q9A
さわさわと道の並木が揺れる。
僕が半歩前にいて。
従妹が半歩後にいる。
繰り返し繰り返し続けられる立ち居地。
前へ出ることも無く。
共に並ぶでもない。
けれど見えぬほど後ろにも無く。
唯、静かにそこに在る。
今は綾緒だけが、そこにいる。
5回。
それだけ春を遡ると、僕と綾緒の傍には、もう一人の少女がいた。
僕らの遠い親戚で、名族・楢柴の分家。
充分高貴と云える家柄なのに、良い意味でお嬢様らしさを感じさせない爛漫な女の子。
加持藤夢(かじ ふじめ)。
それが、彼女の名前。
僕らの傍にいた少女の名前。
僕の――初恋の相手の名前だ。
僕の父は5代前の先祖の名前もわからない、まさに一般人だった。
そんな父が愛したのは、名門・楢柴の長女。
どこで知り合ったのかとか、どうやって仲良くなったのかとか、そんなことを教えてくれたことは
無い。話を聞こうとすると、笑って誤魔化すだけだった。
唯、二人が真剣に愛し合っていることだけは子供心に感じられた。
楢柴は名家だ。
『高貴』な娘と『雑種』の雄の婚姻には、当然反対した。
その反対の『手段』は嫌がらせで済むレベルでは無かったようだ。
それでも結婚にこぎつけたのは本人達の意思と、一握りの協力者があったから。
父の友人達と、母の姉代わりだった分家の女性――加持家の当主の協力が。
『雑種』に娘をさらわれた楢柴本家の人間は父を深く憎んだらしい。けれど子供が生まれると、
次第に両家は打ち解けたようで、ついには挨拶程度ならば出来るようになったという話。
そんな縁があるからだろう。
母方の親戚とはあまり面識が無いが、加持家の人々とは長い付き合いになる。
だから僕と藤夢が出会ったのも、記憶に無いくらい昔の話。
当主の娘・藤夢は母親譲りの温厚な人柄と明るさを備えていた。
同い年というのも手伝って、僕と彼女はすぐに仲良くなった。
否。僕はそう思っていた。
加持の家は他県にあるから滅多に会うことは出来なかったが、それでもたまに会える藤夢の姿を
見ることが僕の楽しみだった。
初恋。
自身の感情をそう判断できたのは、歳も二桁になってからだ。
「藤夢ちゃんのことが好きなんだ」
どうしたものかと悩む僕は、綾緒にそう相談した。
「まあ、にいさまが、藤夢のことを?」
従妹は穏やかに驚く。
綾緒はひとつ年上の藤夢を呼び捨てる。対して藤夢は綾緒にさん付けをする。それは主家と分家の差
だったのだろう。
「どうすれば良いかな」
僕が問うと、綾緒はニッコリと笑った。
「勿論、藤夢に想いを伝えるべきです。“そのままにしておく”ことはありません」
「そうかな?」
「はい。綾緒はにいさまを応援致します」
「そうか、ありがとう。なら早速――」
「駄目ですよ、にいさま」
突然の静止に僕は振り返る。
「“今”は駄目です。明日以降。明日以降にして下さいませ。綾緒にも・・・準備がありますから」
「準備?」
「はい。準備です。ですからにいさま、藤夢に想いを伝えるのは、明日以降に」
従妹に念を押され、僕は翌日、藤夢を呼び出した。
子供とはいえなにか察していたのだろうか。
約束の場所に来た藤夢は、酷く暗い顔をしていた。
546ほトトギす ◆UHh3YBA8aM :2007/05/26(土) 12:10:01 ID:OltU+Q9A
怪我でもしたのだろうか。
彼女は指先に包帯を巻いていた。
僕は一瞬迷う。
なにも云わないほうが良いのではないかと。
「好き」
そう伝えてどうなるかなんて、考えもしない。
交際という概念もない子供だった。
唯、想いを伝えたかったのだ。
僕は意を決して藤夢に想いを告げる。
彼女は僕の言葉を聞くと、目を見開いて泣き出した。
そして消え入るようなこえで、
「・・・・ごめんなさい・・・・」
そう云って泣き崩れた。
ショックだった。
藤夢も僕を好いてくれていると思っていたのだ。
だから勇気を出せたのに。
「藤夢ちゃん、僕のこと・・・嫌いだったのか?」
「ち、違うの!私だって、創ちゃんのことを――」
「にいさまのことを?」
凛とした声が響いた。
「――ひっ」
藤夢は身体を竦ませる。
「綾緒・・・・」
従妹がそこにいた。
綾緒は微笑みながら僕の傍に来る。
「申し訳ありません、にいさま。つい“心配”になって、来てしまいました」
従妹は僕に腰を折り、分家の少女に向き直る。
「ねえ、藤夢、にいさまの想いは聞いたのでしょう?それで、貴女はなんと答えたの?」
「う・・・・ご・・・・ごめん、なさい・・・・って・・・・」
「まあ」
綾緒は口元に手を当てる。
「信じられませんね。にいさまの御心を踏みにじれるなんて」
「・・・・・・」
「どうして?藤夢。にいさまのどこが気に入らないの?」
「そ、それ、は・・・・」
「それは?」
「・・・・・・」
「それは、何?云うのよ、藤夢」
「わ、私・・・・は、創ちゃんのことが・・・・・」
ぎゅうぎゅうと手を握っていた。
包帯の先が赤く滲む。
そして搾り出すように云う。
「創ちゃんのことが・・・・・だいっきらい・・・・・だか・・・ら・・・」
「――」
大嫌い。
そう云われて僕は放心した。
ずっと仲良くしてきた女の子が。
ずっと好きだった女の子が。
こんなに泣き出すほど、僕を嫌っていたなんて。
「藤夢」
綾緒は少女をを睥睨する。
「貴女、最低よ?断るにしても、もっと云い方があるでしょう?こんな人様を傷つけるような云い方を
するなんて、失礼だと思わないの?」
「う・・・・だって・・・・!それは、」
「それは?」
「ひっ・・・・」
少女はあとずさる。
「ごめん・・・・・。ごめんね、創ちゃん・・・・」
そう云って立ち去った。
547ほトトギす ◆UHh3YBA8aM :2007/05/26(土) 12:11:59 ID:OltU+Q9A
僕は追いかけることが出来なかった。
大嫌い。
そう云われたショックで、頭の中が真っ白だったのだ。
「にいさまぁ」
綾緒は僕に取りすがる。
「辛かったでしょう?悲しかったでしょう?可哀想なにいさま。でも、安心してください。綾緒は、
綾緒だけは、にいさまの傍におりますから」
「綾緒・・・・だけ、は・・・」
「ええ。綾緒“だけ”です。綾緒だけはにいさまの味方です」
僕は泣いた。
膝を屈して泣いた。
従妹は僕の頭を撫でる。
「にいさま、藤夢はにいさまの良さを理解できなかったのです。でも、綾緒は違います。にいさまの
素晴らしさを理解しています。にいさまには綾緒だけなんです。ですからもう、藤夢には逢わないで
下さいませ。そのかわり、綾緒が傍におりますから」
「・・・・・」
「藤夢には後できつく云っておきます。二度と邪な感情を抱かないように、念を押しておきますから」
撫でながら従妹は云う。
そうして、僕の初恋は終わった。
藤夢と逢うことももう無い。
まわりにいる母方の親族も、今は綾緒だけになった。

「卒爾ながら、にいさま」
半歩後ろを往く従妹は、僕を追憶から呼び覚まして問う。
「先ほど、にいさまの学び舎に制服を着た童女がおりましたが、あれは一体何だったのでしょうか?」
「童女?ああ、一ツ橋のことか」
僕は苦笑する。
「部活の後輩だよ。アレでも一応、お前と同い年なんだよ?」
「まあ・・・・」
綾緒は口元に手を当てる。
「彼女は、綾緒と同学年なのですか。てっきり初等部の学生かと・・・・」
「お前の通ってるとこと違って、うちは初等部とかないよ」
従妹の通う名門私立校は、幼稚舎から大学院までを兼ね備える巨大な教育施設である。
幼少時から社会に出るまでの間を総て光陰館で過ごすものも少なくない。かく云う綾緒もその一人だ。
「彼女は、一ツ橋様と云うのですか」
「うん。一ツ橋朝歌。高校一年生」
そう答えると、従妹は考え込むような仕草をみせる。
「にいさまには、そう云った嗜好はないはず・・・。けれど一応は・・・・」
「綾緒?どうかしたのか?」
「いいえ。何でもありません。それよりもにいさま」
従妹は微笑む。
どこか醒めた瞳で。
「今日はきちんと、朝餉を摂って頂けましたか?」
「――」
僕は言葉に詰まる。
朝。
食べたのは先輩のそれ。
従妹の用意した食材は生ゴミとして処理されたのだから。
「あ、えと・・・」
「どうなされました、にいさま?」
綾緒は小首を傾げる。
薄い笑み。
心底の読めぬ貌。
「ご、ごめん・・・・」
「ごめん?何故にいさまは綾緒に謝罪なさるのですか?」
にこにこと。従妹は笑い続ける。
「その、今朝は・・・綾緒の料理を食べられなかった・・・」
「食べられなかった?寝過ごされたのですか?」
「そうじゃなくて・・・・・」
548ほトトギす ◆UHh3YBA8aM :2007/05/26(土) 12:14:00 ID:OltU+Q9A
なんと云えば良いのだろう。
捨てられたとは云いにくいが、嘘を吐くのも躊躇われる。
「そんなに云い難いですか?綾緒ではなく、織倉由良の食事を選んだとは」
「――!」
僕は慌てて振り返る。
綾緒の顔に笑みは無い。
「ど、どうして」
「どうして?綾緒はにいさまをいつでも見ています。にいさまの事で解らぬことはありません」
「う、ぁ・・・・」
怒っている。
従妹は表情に出さぬ怒りを纏っている。
約束を破ったこと。
食事を摂らなかったこと。
先輩に世話にならぬと云えなかったこと。
その、総てに。
「さあ。帰りましょうにいさま。釈明は家で聞かせて頂きますから」
従妹は笑顔に良く似た――酷く歪な表情を作った。

「矢張り和装のほうが落ち着きますね」
目の前に座る従妹は着物姿。
この家には綾緒に着替えや私物も僅かながら置いてある。
今、綾緒の手に握られている『それ』も、そのひとつだ。
家に着いた綾緒は扉を開け、僕の靴を揃え、制服の埃を払い、私室まで荷物を運び、一礼した。
総てが完璧な、淑女としての所作。
その綾緒の前に正座する僕は、従妹の持つ器具に目を奪われ、動くことが出来ない。
従妹の傍らには白い箱が置いてある。
救急箱。
赤十字のシンボルがついたそれは、家の治療用具容れだった。
「さて、にいさま」
目を細めた綾緒は、僕を見据える。
「にいさまは綾緒との約束を破りましたね。それについて、弁解があれば聞いておきますが」
カチ。
カチ。
カチ。
カチ。
綾緒は手に持った『器具』を鳴らす。
ガチ。
ガチ。
ガチ。
ガチ。
僕は口の中を鳴らした。
「ご、ごめんよ、綾緒。僕が悪かった・・・・!!」
頭を下げる。
体裁もなにもない。唯ひたすらに許しを請う。
朝の一件。その総てを偽り無く話しながら。
「にいさま。それほど自らに非があるとお考えならば、何故綾緒との約束を破りましたか?」
「ごめん、ごめんよ・・・・」
何を云っても云い訳になる。だから頭を下げるしかない。
「嘘偽りなく話したことは評価しましょう。ですが罪は罪。罰は罰です。にいさま。お手を上げて
下さいな」
「う・・・・」
カチ。
カチ。
カチ。
カチ。
綾緒は笑顔で器具を鳴らす。
僕は震えながら右手を差し出した。
「左手で結構ですよ。正直に話せたご褒美に、利き手は勘弁してあげます」
「・・・・・」
549ほトトギす ◆UHh3YBA8aM :2007/05/26(土) 12:16:01 ID:OltU+Q9A
云われたとおりに左手を出すと、綾緒は『ペンチのようなもの』を中指の爪に宛がう。
「にいさまは綾緒の大切な方です。ですから、手心を加えて差し上げます」
べきり。
嫌な音と、感触が響いた。
「――い」
そして僕は。
「い゛い゛い゛あ゛あ゛あ゛あああああああああああああ!!!!!!」
痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い
痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い
痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い
痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い
痛い痛い痛いぃぃぃぃぃ!!!
左手を押さえてのた打ち回った。
従妹の手にあったもの――爪剥がし用の『拷問具』。
綾緒は剥げた僕の爪を舐める。
「本来ならば、爪を砕いて割れたものを一つ一つ丁寧に剥がすのですが・・・・・にいさまに
そこまでの無道は出来ません。これは綾緒の慈悲と知って下さい」
「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛・・・・!!」
のた打ち回る僕を押さえつける。
そして、左手を取った。
「にいさま」
爪の剥げた中指に、綾緒は爪を立てる。
「い゛っ――!!!!!!!」
痛みで暴れだすが、身体はピクリとも動かない。
柔術の印可を持つ綾緒には、抵抗しても無駄なのだ。
「綾緒のにいさまは“良い子”ですよね?今回は折檻しましたが、次からは約束の守れる“良い子”
になれますよね?」
「あ、あ゛あ゛あ゛あ゛あ・・・・・っ」
頷いた。
泣きながら何度も頷いた。
「そう。それで良いのですよ。いつもにいさまは綾緒の思うがままにしてくださいますものね」
僕の傷口を舐める。
繊細な舌遣いは、鈍い痛みとなって脳髄に響いた。
『手心を加えた』
その言葉は、恐らく嘘ではない。
今の綾緒はそれほど怒っていないのだ。
僕が素直に謝ったから、たったこれだけで済んだのだ。
「わかって下さい。綾緒はにいさまが大切なのです。なによりも。誰よりも」
ちゅぱちゅぱと。
ぴちゃぴちゃと。
いつまでも従妹は僕の指をしゃぶり続けた。

朝早く目を覚ます。
左手がジンジンと痛い。
あの後――
あの後綾緒は実に甲斐甲斐しく、僕の指の治療をした。
爪を剥いだ本人だというのに、心底心配そうに手当てする。
「にいさま、あまり綾緒を困らせないで下さいませ」
そう云って、僕ともう一度『約束』をした。
「この家にはもう、織倉由良を入れないようにして下さいな。良いですね?」
僕は頷くしかない。
包帯を見る。
指先には、僅かに血が滲んでいた。
昨日のアレは、綾緒の『お仕置き』としては軽いほうだった。
そのことで僕にもまだ恐怖が残っているのだろう。二日続けて早朝に目が覚めるなんて。
身体はだるいが、眠気は無い。食欲も、ある。
だから、まだかなり早い時間ではあるが、朝食を摂った。
今日こそは綾緒の用意した食べ物を。
550ほトトギす ◆UHh3YBA8aM :2007/05/26(土) 12:17:59 ID:OltU+Q9A
能面・『深井』と目が合う。
「綾緒はにいさまをいつでも見ています」
その言葉を思い出す。
「今日は・・・・今日からは気をつけないと」
身震いしながら後片付けをする。
まだ6時40分。
時間的にはかなりゆとりがある。

ガチャン、バタン。

「え?」
鍵の――そして扉の開く音がした。
家を空けている両親はまだ帰っていない。
従妹ならば呼び鈴を必ず鳴らす。
泥棒ならば、玄関から、しかも音をたてて入るようなことは無いだろう。
「な、なんだ・・・!?」
驚いていると、静かな足音が近づいてくる。
「え?」
音の正体を視認して、僕は目を見開く。
いてはいけない人が。
来てはいけない人が。
入れてはいけない人が、そこにいた。
「ああ、日ノ本くん。もう起きてたんだ」
先輩――
織倉由良は買い物袋を下げたまま、僕に微笑んだ。
「ど、どうして先輩がここに?」
「やだな。日ノ本くんのご飯を作るのは、お姉さんの役割でしょう?だから来たの。折角だから
起こしてあげようと思ったんだけど、もう起きてたのね」
「え、う、でも、鍵・・・」
混乱で上手く喋れない。
それでも意味が通じたのか、織倉由良は片手を持ち上げて見せた。
「これ」
うちの鍵と良く似たものが摘まれていた。けれどそれには見たことのないキーホルダーが
付いている。
「合鍵。この間作っておいたの。こうすれば、いつでもこの家に入れるでしょう?」
(合鍵って・・・・鍵なんて、渡したこと無いのに・・・・)
にこにこ。
にこにこ。
先輩は笑う。
(綾緒はいつでも)
まずい。
(見ていますから)
まずいぞ。
追い返さなければ。
昨日の今日でこんなことになったら、きっともっときつい『お仕置き』をされてしまう・・・!
「今日はパスタにしようと思うんだけど、どうかな。少し軽めにして――」
僕を無視するように喋っていた先輩は、洗い場を見て言葉を止める。
「あら?」
食器に触る。洗い立てのそれは、当然のごとく湿っていた。
551ほトトギす ◆UHh3YBA8aM :2007/05/26(土) 12:19:13 ID:OltU+Q9A
「日ノ本くん、もうご飯食べたの?」
先輩は振り返った。
「そ、そうです。もう食べて、おなか一杯なんで、今日のところは・・・」
「トイレ往って来て」
「え?」
「トイレに往って、全部吐いて来て。おなかの中を空にすれば、充分食べられるでしょう?」
「そ、そんな・・・」
「なぁに?まさか“食べない”なんて云わないわよね?」
先輩が近づいてくる。
(どうしよう・・・。どうしよう・・・・)
「おはようございます」
「「!?」」
突然の声。
ちいさいのに、良く通る澄んだ声がした。
僕らは慌てて振り返る。
「朝歌ちゃん?」
「ひ、一ツ橋?」
僕らは驚く。
こんな場所で会うことの無い人物。
ちいさな後輩がそこにいた。
なんでここに?
僕の疑問を他所に。
「どうも」
一ツ橋はいつもの調子で感情の無い挨拶。
言葉もないまま。
僕と先輩は顔を見合わせた。
552無形 ◆UHh3YBA8aM :2007/05/26(土) 12:21:03 ID:OltU+Q9A
投下ここまでです。
では、また
553名無しさん@ピンキー:2007/05/26(土) 12:23:31 ID:YJ8cNPrc
爪〜〜
554名無しさん@ピンキー:2007/05/26(土) 12:27:13 ID:WX8xEiZW
>>552
GJ!
綾緒怖いよ綾緒(;´Д`)ハァハァ
どう転んでも地獄になりそうな主人公うらやまし……いや、カワイソスw
555名無しさん@ピンキー:2007/05/26(土) 14:56:36 ID:3K59P5rZ
さすがに主人公に同情したw
イヤ包丁で刺されるとかだってまさしく死ぬ程痛いんだろうけど
拷問はリアルに痛さが想像できる分主人公に同情できるわw
556名無しさん@ピンキー:2007/05/26(土) 16:15:47 ID:0AcTYoI0
>>552
盗撮か…?盗撮なのか!
嘘だといってよバー(ry
557名無しさん@ピンキー:2007/05/26(土) 17:29:11 ID:zTh7TY+t
>>552
日ノ本君……今まで君の事ヘタレとか言っていたけどゴメンね(´・ω・`)
こんな目にあわされていたら、そりゃ綾緒が怖くなるわw
遂に後輩が来ちゃってこれからどうなるのか次回が楽しみ過ぎでつ
火に油のような気もするけど先輩ガンガレ!
558名無しさん@ピンキー:2007/05/26(土) 19:25:17 ID:ExTkJAZ4
流れを断ち切るようで悪いが、ヤンデレがたくさんでる作品には良心があるキャラが一人ぐらいいると良いと思うのは俺だけか?
559名無しさん@ピンキー:2007/05/26(土) 20:11:35 ID:RjUUasya
>>552
GJすぎw
もうヤンデレお腹いっぱいだぜwww
560名無しさん@ピンキー:2007/05/26(土) 20:45:40 ID:NkwawKEU
>>559
とらー!
561名無しさん@ピンキー:2007/05/26(土) 21:40:10 ID:5a4nIDKp
一ツ橋ならなんとかしてくれるっ!
キモウトとキモアネから主人公を守るんだ!
562和菓子と洋菓子:2007/05/26(土) 23:50:46 ID:f0v1EcC1
仄暗くじめじめとした、陰気なオーラがあるのに加えて、鍵がついている地下室は人の寄り付かない場所のひとつ。
ホラー映画の舞台になるといっても過言じゃない。本来は家の倉庫になっているのだけれど、私はその一部を借りて、薬用植物を育てている。
また、薬品を作るときにもこの部屋は利用する。
この部屋に人が入ってくることはほぼないけれども、私はこの部屋の鍵を内側から掛けた。

一人泣いていることしかできない惨めな姿を誰にも見せたくなかったから―。

他の家族はともかく、お兄ちゃんならば私に対して優しくしてくれるから、
私がいないとなればまずこの部屋を探すだろう。
でも、私の大好きなお兄ちゃんでも、今の私は見せたくない。
否、お兄ちゃんだから見せたくない・・・。
帰ってきてから高ぶった感情を抑えきれずにいるため、持病の喘息の発作が出てしまっている。
ぜいぜいと肩で息をするのに混じって嗚咽している光景は我ながら惨めで、ただただ痛ましい・・・。
薄暗い部屋にぼうっと浮かび上がる蛍光塗料の塗られた時計の針は八時少し前を指している。
まだ、お兄ちゃんは帰ってくるかもしれない時刻だ。
もし、いつもの『用事』が雌猫につき合わされているということと同義であれば、だけどね。


私の座る椅子の付属の机にある写真立てのお兄ちゃんの写真に目がいった。
こんなときでもお兄ちゃんの事を考えるだけで不意に笑みがこぼれてくる。
と、同時に何故なのか分からないが再び涙腺を刺激し、
目にゴミが入ったわけでもないのにとめどなく涙が頬を伝う。
私はお兄ちゃんを横から取っていくようなデリカシーのない、
というよりは非常識な人の存在というものを考えなかった。
というのも、私はお兄ちゃんの周りの女子は皆、
お兄ちゃんの引き立て役としか見ていなかったし、現にそうだったから。
私を見捨てていくようなことをお兄ちゃんがする訳ないし、疑うなんて恥ずべきだ、なんていうのもちょっぴり。
でも、あの北方とか名乗った雌猫は違った。まさに不意打ちだった。
自分勝手な理屈に正論で返したにもかかわらず、さも私が悪いかのようにされてしまった。
まさに盗人猛々しい、そんな感じだった。
お兄ちゃんも私と帰ってくれなかった。でもそれは圧力が掛けられていたからで責めちゃいけない。
当然、相手に悪意があるのだから私だって座視しているわけにはいかない。
563和菓子と洋菓子:2007/05/26(土) 23:52:12 ID:f0v1EcC1
お兄ちゃんに圧力をかけて無理やり振り回す、なんてことが許されるわけがない。
そんな事をするのはあれが人じゃないから。あんなさも落ち着き払った嫌味な表情の下には、
醜い本性が隠されているのは明確。そんな雌猫は早く駆除して、しかるべき方法でお兄ちゃんからも解毒する。
それでおしまい。
ただそれだけのことなのだ。
あはは、なあんだ、すごく明快で簡単。
奇襲されたからといってそれで終わっちゃうわけじゃないんだから、今考えるのはあれの駆除法だけ。

でも、毒で駆除するにしても、時期というものがある。もう少し雌猫について情報を得なきゃいけないよね。
軽率な行動で猫さんを倒しても犬さんに連れて行かれちゃ、話の種にもなりはしない。
そこで私は寛大だから、動物でも少しくらいは猶予を与えてやることにした。
もちろん、その間に警告は発し続けてあげよう。
警告に応じたからといって、必ずしも助けてあげるとは言っていないけどね。
気づけば喘息の発作も幾分和らぎ、頬をとめどなく伝った生暖かい涙もひいていた。

ガラリと机の引き出しを開けるとそこには、去年私が栽培してた、ベラドンナの根がある。
ただの植物の根っこだなんて思わないでね。
実はこれから毒が造れるのだから。アトロピン―。正しく使えば薬、でも誤った使い方ならば毒にもなる。
雌猫の駆除には十分すぎるかなぁ?
上で人の声がする。おそらく、お兄ちゃんが帰ってきたのだろう。
それにもかかわらず、迎えにいかないなんてやっぱり失礼だ。失礼どころか妹としては不覚、である。
対策も決まったのだから、何もなかったかのように、私の最高の笑顔でお迎えしなきゃ、ね。
564和菓子と洋菓子:2007/05/26(土) 23:53:43 ID:f0v1EcC1
一階にのぼっていき、
「お兄ちゃん、お帰りなさい。」
と言ったはいいものの、お兄ちゃんは玄関にいなく、むしろ家の外にいるようだ。
玄関の扉を開けると、そこにはお兄ちゃんが立っていたのだが、それとお母さんと、面識のないスーツのおじさんとそれから、何よりも驚いたのはあの雌猫、全ての悪の権化がいたことである。
端に大きな黒塗りの車があったような気がするが、そこまで気が回らずにいる。
とっさに何が起こったのか理解できなかった。まさか、私を殺しに来たなんてこともないだろう。
「どうかしたのですか?」
率直な疑問を口をつついて出てきた。
「遅くなったので、あなたのお兄さんをお送りさせていただきました。」
「本当にわざわざありがとうございました。」
慇懃な態度でお母さんが頭を下げている。
「あれ、お兄ちゃん、自転車はどうしたのかな?自転車で学校に行くから必要だよね。」
「ああ、自転車も運んでもらえてさ。じゃ、どうもありがとうございました。」
クスリと例の悪意ある、虫唾を走らせる笑いを頬に浮かべながら、あの雌猫はそれに応じた。
「では、失礼しました。」
スーツの男はそう言って一礼すると、車にあの雌猫を馬鹿丁寧に乗せてどこなりへと、帰っていった。
565和菓子と洋菓子:2007/05/26(土) 23:56:02 ID:f0v1EcC1
「すごいわね、お抱えの運転手なんて、さすが資産家。」
車が去ってしまってからお母さんが驚きを隠し切れずにぽつりと言った。
お母さんはそれからいろいろとお兄ちゃんに、北方家についてや、
雌猫について話題を振っていたので、私としては不満だった。
それよりももっと不満だったのは、あの嫌味な笑いに含まれていた、
私に対する勝ち誇ったような態度である。
本当にあれを早く駆除しなきゃいけない、
ということをあの毒々しさによって改めて再認識させられる。

お兄ちゃんとお母さんの話を聞くところによれば、北方家は維新期に政府側
として戦った小大名の子孫らしく、廃藩置県以後に貿易と政略結婚で莫大な資産を築き上げたのがもともとらしい。
また、明治期以降は子供に女ばかり生まれて、女系の家だったそうだ。
そんなどうでもよいことが耳に入った。
お兄ちゃんが帰ってきたにもかかわらず私は不機嫌だったが、
とりあえずここは自分を抑えてチャンスを待とうと私は決めたので、
さっさと床につくことにした。起きるのが遅れて、お兄ちゃんのお昼ご飯が粗末になったらいけないから。

566和菓子と洋菓子:2007/05/26(土) 23:57:28 ID:f0v1EcC1
ピピピピという無機質な電子音が数回すると、いつものように起きるわけでもなく、耳障りな音を早く止めるために松本弘行は枕元にある目覚ましに手を伸ばしたが、視界をまばゆいばかりの光が覆った。
寝ぼけ眼でベットに面した窓を見ると、厚手の遮光カーテンは窓の両端に留めてあった。
そのせいで直射日光をもろに食らっていたので、この部屋はまだ梅雨にもなっていないというにもかかわらず、夏を先取りしたように蒸し暑い。熱いだけなら許せるが、最近はむしむしと蒸してくる日もある。
さらに+α、暖房が入ってたみたいだ。23℃だったが。
ありゃりゃ、やってしまいましたか・・・。あるときは冷房20℃で切タイマー無しで一晩中かけて、シベリア気分を満喫し、今日はここだけ時空転移して常夏の東南アジアですよ。

常夏のハワイやタヒチなら涼しくて許せようが、この蒸し暑さは東南アジアだ。
落ち着いてみるとこの寝衣も寝汗でびっしょりだ。
シベリアでも東南アジアでも風邪はデフォルトで引けそうな感じだ。
とにかく、窓を開け風を取り入れることにする。
もう、梅雨も近いから焼け石に水だか、そこで敢えてこうすることにしよう。

スイッチが入ってないコンピュータに制御されながら、ゆっくりとクローゼットの中から制服を取り出し、それを機械的に着ていく。一番上に着るブレザーのボタンを留めている途中、理沙が僕を起こしにきた。
「お兄ちゃん、朝だよ、早く起きてね。」
そういいながら、ドアを開ける。
「ああ、理沙、おはよう。」
とっさに欠伸が出てきたので、口を手で押さえながら間の抜けた声で言った。
ということで、今現在おきましたよ的オーラをもろに放ってしまっている、をいをい、じつに間抜けだな。
「あはは、お兄ちゃん、今、間抜けだって思ったよね?」
はい、残念ながら見透かされていました。いや、ポーカーフェイスは苦手なんだから仕方ない。
でも敢えて反論してみたくなった。
「わが妹よ、僕はこの良き日の清清しい健康的な朝の目覚めを満喫していたのだよ。」
と、ラノベに出てきたキャラクターならこういうのだろう、という感じで言い切ってみたい年頃なんですよ。
「いや、部屋が蒸してて、ぜんぜん清清しいとかじゃなくて・・・」
と言った理沙の視線がカーテンへ行き、エアコンのリモコンへと向けられる。
「まあ、一人で起きたんだから、お兄ちゃんは成長したんだよ、きっと。」
と今にも笑い出しそうなのを抑えてます、という感じでのたまわれた。
はいはい、一歩前進しましたよ、亀の一歩前進。
567和菓子と洋菓子:2007/05/26(土) 23:58:18 ID:f0v1EcC1
早起きしたので、朝食を流し込むように食べていたいつもとは大違いで、一口一口きちんと咀嚼しながら食べ進める。
今日の朝食は和食で魚なのでまさに早起きしていないと厳しい一品である。
ゆっくり朝食を堪能し、歯を丁寧に磨き終わった頃、見事なまでに見計らったようにインターフォンが鳴った。
ピーンポーン
朝の忙しい時間に誰だろう、といらだつ母がインターフォンに出ると、すぐにやや驚きを含んだ顔で僕に受話器を替わった。
しっかし、こんな時間に誰だろうか?
「どちら様ですか?」
「おはよう、ご機嫌いかがかしら?」
相手に感情を読み取らせないまでの澄明な声の響きだった。
「驚いたかしら?あなたのクラスメートの北方時雨よ?」
さらり、と同じ声のトーンで続ける。前までは彼女に気が引けてしまう、というかびくびくしている感じだったが、
何日か彼女と接するうちに随分と慣れてきたのか、平然と答えられた。
「ああ、北方さん。おはようございます。こんな時間にどうしたの?という感じですが、インターフォンでというのもなんですから、とりあえず家に入ったらどうですか?」
「いいえ、あなたを迎えに着ただけだから、気は使わなくていいわ。」
まぁ、実際のところ僕はもう学校へ行く支度ができているに等しかったのだが、まだ理沙が準備できていないので少しばかり待ってもらうことにした。

「お兄ちゃん、今の人、誰だった?」
すかさず理沙が聞いてきた。
「ああ、北方さんが迎えに来てくれたみたいだけど、理沙の準備ができるまで少し前で待ってて貰ってる。」
北方さん、という固有名詞が彼女の感情を少し逆なでしたようだが、曇らせた顔をすぐに元の笑顔に戻して言った。
「ううん、お兄ちゃん。お弁当の準備はできてるから、私のことは気にせずに、先に行っていいよ。でも、そのかわり今日の昼食、私、お兄ちゃんと一緒に食べれたらいいな、って思っているんだけど、お兄ちゃん・・・いい?」
「あ、うん。いいよ。じゃ、悪いけど僕は先に学校行ってるからね。」
「じゃ、気をつけてね、ロードレースはほどほどにね。」
いやにあっさりしているのが、少し気になったが、大した変化ではなかろう。
568和菓子と洋菓子:2007/05/26(土) 23:59:35 ID:f0v1EcC1
玄関のドアを開けると、自転車の傍に立っているのは目が覚めるような美人。
その美人、北方さんは僕に向かって柔らかに微笑んだ。
僕ははっきり言うと、彼女のポーカーフェイスがわずかながら崩れた感じがするこの笑みが好きだったりする。
最初に口を開いたのは僕のほうだった。
「やあ、北方さん。おはよう。」
「二度目だけれど、おはよう、理沙さんはどうしたのかしら?」
「ああ、先に行ってていいといってたから、先に行くことにしようと思って。」
「あら、てっきり私、理沙さんに嫌われているのかと思ってしまって・・・いい妹さんね。」
そんな事を話しながら、自転車を学校に向かってこぎ始める。
しかし、素朴な疑問が一つ。
「あれ、北方さん、教えてないはずなのにどうして僕の家知ってるの?」
「昨日、松本君をあなたの家まで、私は家の者に送らせたでしょう、
そのときに松本君が教えてくれたルートを通ってきたから、知っていて当然ね。」
「ははは、そうだったっけ。」
適当に笑ったが、一度通っただけのルートを覚えられるというのは、なかなかすごいことだ。
いつもは疾風怒濤の勢いで通り抜ける閑静な住宅地や駅前をゆっくりと通り抜け、授業開始十五分前には学校に到着。
いや、なんという、計画的且つ健康的な朝だ。しかも北方さんは僕の家によっていない場合、遅くとも授業開始の五十分前、
すなわち八時十分には学校に到着しているらしい。
全く、どんな一日のスケジュールで動いているのか見てみたいものだ。
ぜひその情報機密をわが国の科学技術の発展のために、って、どうせ計画性と実行性のない三日坊主の僕には役に立ちませんよ。
「ああ、松本君。」
自転車置き場に自転車を停めながら、思い出したように言った。
「今週の週末、そうね、土曜日は休日だから、土手のほうへ、サイクリングにでも付き合ってくれるかしら?」
「梅雨になってしまうと、そうそう晴れることもないから、たまにはいいかしらと思って。」
唐突な申し出で、あまり考えられなかったが(もっとも、考えようとしなかったが)、二つ返事で承諾した。
というのも、昨日の北方さんのお父さんの話を聞いて彼女の力になりたいと思ったからだった。
569和菓子と洋菓子:2007/05/27(日) 00:01:00 ID:f0v1EcC1
その日は何の代わり映えのない、よく言えば平和な一日を過ごした。
昼休みに理沙と洋食系のお昼ご飯を食べて、いろいろとお互いのクラスについて話したり、なんだりして当たり障りなく過ぎていった。
北方さんは図書委員の仕事が大変らしく、昼休みと放課後の時間を取られてしまったようで、今日はあっさりと家へ帰ることになったので、
最大戦速で戦域離脱を果たし、ラノベ・アニメ・ネットの三本仕立ての大巨編の激務をこなすことができた。
いやはや、過去の自分を省みないのが漢と思っている僕は省みないのだが、こういう革命的生活が共産主義なテスト結果に繋がって、
先生にマークされるという結果に繋がっているわけですよ。
というわけで、激務で体力を消耗したのでさっさと寝ることにしますか。
この日の夜に階下の地下室に明かりが燈っていたことは、松本弘行には知るよしもなかった。


うららかな陽気の日々が何日か続き、北方さんは僕を毎朝迎えに来て、何度か彼女の家に招かれ、
理沙は昼食を準備してくれて、お昼休みに一緒に食べて、いつだったかの北方さんと理沙の火花散らすような紛擾はなく、
日めくりカレンダーを何枚か重ねて破ってしまったのではないか、という感じで時は過ぎ去っていった。
そして、今日は土曜日。北方さんとサイクリングする予定の日である。
理沙はその事を承知しており、最初は自分もその日に予定があったから、そっちに来てくれないか、
と粘っていたが、すぐに折れて、昼食を用意してくれることになった。
どうも理沙は北方さんのことが好きでないらしく、距離を取りたがっているように感じられたが、
それでもこんな兄のためにいろいろとしてくれる妹というのも、古今東西探しても珍しいものだろう。
僕が幸せ者であることを痛感させられます、はい。
570和菓子と洋菓子:2007/05/27(日) 00:02:20 ID:slnBDuWI
ピーンポーン
北方さんが来たようだ。
「松本君?出発の準備、できたかしら?」
「いや、まだ少し時間がかかるので、中で待っていてください。」
「じゃ、悪いけれど、そうさせて貰うわ。」
それでリビングでコーヒーを出して少しばかり待っていてもらうことにする。
「どうぞ、もしかしたらブラックコーヒー、ダメかもしれないと思ったけれど、大丈夫なら、どうぞ。」
そういって勧めた。
「ありがとう、いただくわ。」
言葉だけからは、いつもの清澄というかクールな声が機械的に想像されてしまうのだが、
ごく普通の体温のこもった暖かい印象の言葉が返ってきたので、驚きを隠せなかった。
「あら、私の顔に何かついているのかしら?」

その暖かさの分だけ、冷ややかな視線があることにそのとき、僕は気づかなかった。
それから十数分ほどして、理沙がピクニックに行くときのような装備をいくつか持ってきて、
出発する準備ができたことを教えてくれた。
やはり、これだけ用意してくれたのに、理沙を連れていかない事に気が引けたので、
理沙にも来るように勧めたのだが、遠慮がちにやんわりと断った。
「お兄ちゃん、お兄ちゃん。今日帰ってきたら、私の、理沙のわがまま一つだけ聞いてくれるかな?」
理沙はあまり僕にいろいろと要求することなどないのだが、珍しく何かおねだりするときは、
彼女の一人称は私、から理沙、に代わる。
今日はいろいろと準備して貰ったし、いつも僕のために弁当を作ってくれる理沙のわがままの一つや二つくらい、
聞いてあげてもいいんじゃないか、そう思ったのですぐに受け入れた。
「じゃあ、お兄ちゃんが帰ってくるまでに考えておくからね、楽しんできてね。」
にこにこと屈託のない愛らしい笑顔に自然とひきつけられそうであった。
しかし、その後に続いた、くれぐれも気をつけてね、という小さくつぶやくような言葉に僕は気づかなかった。

571和菓子と洋菓子:2007/05/27(日) 00:03:24 ID:f0v1EcC1
理沙から渡された荷物を自転車の大きな前かごに入れ、先に自転車を走らせていた北方さんの後に続く。
通学途中の住宅地や駅前を通り抜ける。
いつもはわき目も振らずに帰ってくることが多いのだが、時々外食するときに使う店の前も通っていった。
途中、登下校時に全速力で走っていく僕のことを知っているクラスメートの何人かに会って、
北方さんと一緒にいることを物珍しそうな目で見られ、またあるものは冷やかしてきたのだが、
北方さんに倣ってさらりと受け流してみた。
これには、北方さんもご満悦であったようで失笑していた。


そんな感じで、北方さんといろいろと話しながら、車輪を走らせていたが、これが結構疲れるものだ。
彼女の言う川べりの土手というのは、サイクリングロードとして整備されており、
桜の並木道があるところでもあった。
季節はもう遅いけれども、あそこで毎年のようにお花見をしに来る人が多いそうである。
もう梅雨が近くなっていたので、この土手周辺に見える人影もまばらで閑散としていたが、
周りに住宅地や無粋な工業地区もなく、田んぼや畑が広がるばかりで、ここがどこか非日常な、
それでいて新鮮さのある風景だった。

572和菓子と洋菓子:2007/05/27(日) 00:04:38 ID:slnBDuWI
追い風が吹いているせいと僕が疲れているからなのかも分からないが、北方さんは異常に自転車をこぐのが早かった。
ふはは、追い風なら僕にも吹いているはずなのに、不公平だ、不平等だ。
運動不足の僕には持久力がないからか、いやはや、さっぱり追いつくことができない。
途中、間が開いてしまって、何回か北方さんに待っててもらった。
「くすくすくす、疲れた?」
いたずらっぽい笑顔を向けて僕にそう聞いてきた。
いや、だから、疲れたとかそんなレベルじゃなくて、それを既に通り越してしまっている。
「見ての通り・・・、第一、何でそんなに自転車をこぐのが早いのかわからない。」
「なぜでしょう?」
いや、そんなにこりと質問されても、分かるわけがないってば、いや、何か彼女のことだ。
また、悪巧みでもしてこっちの自転車が遅くなるようにでも細工しているのだろうか?
未だに足が安定して地に着いていない感じで、いかにも考えていますという表情をして、
こめかみに人差し指を当てて考える人のポーズを取る。
「今、私が細工したとか、そんなこと考えたでしょう?」
おお、いかん。またしても見透かされていたようだ。思ったことが顔に出る体質、
というかここまでラノベの世界じゃないとありえないような把握のされ方をすると病気だよな。
しかし、この病気はいい加減、何とかならないのか、小一時間問い詰めたいところだ。
「ふふふ、あなたの私に対するイメージはどんなものなのかしらね?」
うわぁ、唐突に学校で見せるようなポーカーフェイスで聞いてきた。冗談で聞いていると分かっていても、
何か漠然とした、恐ろしいものがある。一種の白痴美に似たような美しさ、と最近では感じられるのだが、
いや恐ろしいもんは恐ろしい。
573和菓子と洋菓子:2007/05/27(日) 00:05:54 ID:slnBDuWI
「疲れたなら、ここで休憩でも取る?」
ふと見ると、今まで気づかなかったが、少し落ち着いてみると、ちょうどここに一里塚のように木が植えられて、
しかもあずまやまであるという、まさに休憩には絶好のポイントであることに気がついた。
しかしうまく謀った、もとい計算したような感じで、北方さんの如才のなさに恐れ入った。
「じゃ、そうしようか。」
「理沙さんが用意してくれた食事を食べるには少し早いから、これでもどうぞ。」
と言って、羊羹を一切れ、手渡してきた。
確かに腕時計をみると十時になったばかりだった。たしかにこれでは昼食には早すぎる。
羊羹は嫌いじゃないし、糖分は貴重なエネルギー源だしちょうどいいだろう。
「前に和菓子、好きじゃないって言っていたけれど、それ、私が作ったのだけれど・・・・食べてくれないかしら?」
そう、少しはにかんだように言ってきた。
一口、口にする。
和菓子が嫌いと言うことはないのだが、大概甘さがしつこくて、嫌になってしまうことが多い。
けれども、北方さんの作ってくれたものは非常に甘さを抑えた上で、素材自体の味を生かしているようだった。
外見も几帳面な北方さんが作っただけあって、端正に仕上げてあり、
手作りではそうそうお目にかかることのできない一品だろう。
だから、少しもためらうこともなく、自然と賛辞の言葉が出てきた。
「とても、美味しいよ。」
彼女の抜けるように白い肌が少しだけ紅潮して見えたのは、
きっと陽気のせいだけではないだろう。
574和菓子と洋菓子:2007/05/27(日) 00:07:08 ID:slnBDuWI
お茶とサンドイッチに舌鼓を打ちながら、休憩をしているときにさっきの質問をしてみることにした。
「北方さん、何であんなに自転車こぐのが早いの?」
「ふふ・・・・あれ、電動自転車よ。」
「へ、電動?電気ですか?」
「そうよ、じゃ自転車を取り替えてみる?随分、楽よ?」
なんという、そんな落ちでしたか・・・細身の彼女が疲れずいられるのも何か理由があると思ったが、いくらなんでもそれはないだろ・・・・。
「あー、ブルジョアに負けた!!!」
「くすくす、では労働者のあなたに命じます、はやく乗ってみたら?」
で、結局お互いの自転車をかえることになった。

いわゆる電動自転車というのが、こんなに楽なものだとは思わなかった。
さっきとは打って変わって、心に余裕がある状態であるから、土手から見える新緑の光景もまた一味違っていた。
対して、僕の自転車に乗っている北方さんは表情にこそ出さないが、結構きつそうな感じだ。
少し、ペースを下げて話をすることにポイントを置くことにした。
最初はこの前の中間試験で化学は点が取れた、とか英語が厳しかったとかの話をしていたが、彼女の両親の話になっていた。
575名無しさん@ピンキー:2007/05/27(日) 00:07:21 ID:8pvXGbhz
支援
576名無しさん@ピンキー:2007/05/27(日) 00:08:03 ID:8pvXGbhz
私怨
577和菓子と洋菓子:2007/05/27(日) 00:08:12 ID:slnBDuWI

「そういえば、松本君。うちの父がこの前、何か失礼なこと言わなかったかしら?」
「え、失礼って・・・普通に人のよさそうな人だと思ったけれども・・・。」
彼女のお父さんは娘に嫌われていると言っていた記憶がふと、蘇った。
北方さんはフッと短く冷笑してから、僕にどんなことを話してきたのかをもう一度聞いてきたので、
話された内容をいくつか話した。
「・・・父は私のことを娘などと考えてくれたことなどなかったくせに、今頃になって・・・。」
「あんまり、話さないほうが良かったみたいだね。機嫌を悪くしたなら謝るよ。」
「いいえ、あなたは悪くない。それより、続きを話して。」
「それから、北方さんのお母さん、もう既に他界されていることと、
僕に北方さんと親しくしてほしいということ。」
両者ともを自分の口で言うのははばかれる内容であったが、
聞かれたのであらかたの内容をしゃべってしまった。
「・・・・・。」
内容を聞いて、切れ長の目に一刹那、強い光が宿ったのに気づいた。
彼女の持っていた家族の集合写真にも母親がうつっていなかったが、
母親には随分ひどい目に遭わされた、そう聞いていたので嫌悪が表れたのであろう。

少ししてから、北方さんは口を開いた。
「私の母は本当はまだ、死んでいないの・・・。」
開口一番、僕が想像した答えとは別の答えが返ってきて驚きを隠せずにいた。
「私の母は・・・」
578和菓子と洋菓子:2007/05/27(日) 00:09:05 ID:slnBDuWI
そう北方さんが言いかけたとき、僕は土手の端のほうを走らせていた自分の自転車が急に鈍い音を立てたのに気がついた。
そして坂の傾斜に向かって、ぐらりと大きく傾いたような感覚がして―。
危ない―、そう直感で感じ取ったときには壊れていく自転車ごと土手を転がり落ちていた。
不思議と何とか自分で転がり落ちるのを止まろう、いや、止めようとできなかった。
何度か、体を打ちそのたびごとに痛みの感覚が薄れていく。
そのいくつかも体を地面に打ち付ける痛みだけでなく、何かもっと重くて硬い何かも体を打った。
慣れてきた?いや、痛みに慣れるというよりは寧ろ気絶する、そういったほうが正しかった。

さっきまで自分が乗っていた自転車が突然壊れ、自分の何よりも愛する人が体を自転車の一部や
地面に打ちながら土手を転がり落ちていくのを、北方時雨はなす術もなく立ち尽くして見ていることしかできなかった。
絹を裂くような叫び声と嗚咽が誰もいない川辺に響いた。
579名無しさん@ピンキー:2007/05/27(日) 00:10:40 ID:8pvXGbhz
紫煙
580名無しさん@ピンキー:2007/05/27(日) 00:12:03 ID:slnBDuWI
うわー、無駄に長くなってしまった、そんな感じの第五話です。
読んでくださった方ありがとうございます。
こんな感じですが話は続けるので、今後もよろしく。
581名無しさん@ピンキー:2007/05/27(日) 00:12:17 ID:8pvXGbhz
支援
582名無しさん@ピンキー:2007/05/27(日) 00:12:53 ID:zx1A7W1I
>>580
GJ!!
583名無しさん@ピンキー:2007/05/27(日) 00:34:33 ID:GuWtP6KP
どーしてもケンゾーさんの髭面が浮かんでしょうがない、、、
584名無しさん@ピンキー:2007/05/27(日) 01:38:19 ID:TEqhtzQj
>>583
よく分からないがとにかくソープへ行け
585名無しさん@ピンキー:2007/05/27(日) 10:30:09 ID:B1XmPAna
>>580
おバカな主人公の松本君に似合わぬシリアスなピンチktkr
まあ彼なら大丈夫なような気がするがw
次回wktk
586向日葵になったら ◆KaE2HRhLms :2007/05/27(日) 12:23:51 ID:nfd27eRQ
 さつき姉が僕の住むアパートの一室にやってきて一晩が過ぎた、二日目。
 今日は朝から雨が降っていた。
 朝に目が覚めたときカーテンのすき間から空を見ると、青い色が見えなかった。
 部屋の空気はわずかに湿っている気がした。
 雨は強く降っているわけではなく、雨雲から命令されて嫌々降っているように思えた。
 風は弱く、空を覆う灰色の雲は長く居座るつもりのようだった。
 実際、(僕の勘よりはあてになる)天気予報も僕の感じたままのことを言っていた。

 さつき姉は朝に弱い。
 その事実を知ったのは僕がまだ小学校に通っていたころのことだ。
 登校するときは僕がいつもさつき姉の家に行った。
 おばさんに挨拶をしてから、さつき姉が家から出てくるまで待つ。
 玄関を開けるときのさつき姉は、いつも目を瞑っていた。
 僕の記憶の中に、さつき姉が朝から活発的になっている様子は存在しない。

 いつもさつき姉はふらふら歩いた。僕はさつき姉に声をかけながら歩いた。
 学校に着く数分前になるころさつき姉の意識はようやく覚醒しはじめ、隣を歩く
僕を確認すると手を握ろうとしてくる。
 僕は手を握られないようにランドセルに手をかけたり、走って逃げたりする。
 その繰り返しが、小学生のころの僕の日常だった。

 さつき姉は相変わらず朝に弱いようだった。
 時刻はすでに7時数分前をさしているから、僕の目ははっきりと覚めている。 
 だというのに横になったままのさつき姉は身じろぎ1つしない。
 昨晩さつき姉にからかわれた仕返しに起こしてやろうかとも思ったけど、
やめておくことにした。
 特に理由はない。しいて言うならば、早く顔を洗いたかったからだろうか。

 洗面所に行き、顔を濡らして髭を剃り、顔を水ですすぐ。
 蛇口から流れてくる8月の水は、目を覚ましてくれるほど冷えてはいなかったけど、
変わりなく水としての役目を全うしてくれた。

 さっぱりとした思考で考える。
 今日は雨が降っているけど、さつき姉はどうするんだろう。
 本でも読みながらじっとしてくれたら嬉しいんだけど。
587向日葵になったら ◆KaE2HRhLms :2007/05/27(日) 12:25:18 ID:nfd27eRQ
 焼いた食パンを台所で食べ終わった頃、さつき姉がやってきた。
「惣一、おはよ」
「おはよう」
「ね、今何時?」
 台所には時計を置いていない。
 全く必要がないというわけではなく、単に狭い部屋に数多くの時計は必要とされないからだ。
 居間の壁にかけてある時計を見て、両手で指を8本立ててさつき姉に見せる。

「そっか。よかった、早起きして。今日はいろいろやりたいことがあるから」
 さつき姉はそこまで言うと、洗面所で蛇口をひねった。
 鏡に向かって顔を向けているが、2つのまぶたは閉じられたままだ。
 あの様子ではまだ意識が覚醒していないと思われる。
 僕は居間に敷かれたままの布団を畳むと、続いてテーブルを定位置に置いた。

 買い物に行こうとさつき姉が言い出したのは、パンを食べ終えたあとだった。
 実を言うとそれまでの間にさつき姉は一度倒れた。
 僕が駆け寄ってさつき姉の体を抱き起こすと、小さな寝息が聞こえてきた。
 寝ていた。大きく口を開けながら。
 口は開けたままなのに、鼻で呼吸をしていた。
 僕は肩から力を抜くと、さつき姉を仰向けにして頭の下に枕を敷いた。


 さつき姉は僕の左で、雨に濡れたコンクリートの地面を踏みしめながら歩いている。
「もう! 惣一が起こしてくれなかったのが悪いんだからね!
 今日は久しぶりに一緒にでかけようと思っていたのに!」
 だったら早めに言っておいてほしかった。
 さつき姉がしっかりと伝えてくれていれば僕は頬をつねってでも起こした。

 いや、それぐらいでは起きないか。
 さつき姉は一度眠ってしまうと、死んだように動かなくなるのだ。
 以前さつき姉が夏休みの宿題を片付けるために徹夜をしたことがあった。
 徹夜した次の日には、丸一日ベッドの上で眠りこけていた。
 僕は、その時のことをよく覚えている。
 なにせ、丸一日中僕の手を握ったまま眠っていたのだから。
588向日葵になったら ◆KaE2HRhLms :2007/05/27(日) 12:27:12 ID:nfd27eRQ
 アパートを出て、50分ほどバスに乗って、近くにあるコンビニで弁当を買い、
案内板を頼りにして海水浴場にやってきた。
 さつき姉の予定では、今日は海水浴場にくるつもりだったらしい。
 雨が降ったから予定を中止するかと思いきや、さつき姉はこうやって海を見に来ている。

 さつき姉は傘を持ちながら、人の居ない砂浜を見下ろしている。
 ため息をひとつ吐くと、まぶたを少し下ろして憂いの目をつくった。
「残念ね。せっかく惣一と一緒に海に来たのに、これじゃ面白さ半減よ」
「半減しただけ?」
「そ。水着を買って、泳ぎもしないのに海水浴場にやって来て着替えて、
 貸し出されたパラソルの下でのんびりとして、というのをやってみたかったから」

 疑問に思った。
 ただ海にくるだけならいつでもできるだろうし、なにも今日である必要は無い。
 ぼんやりするだけなら、僕は居てもいなくても同じじゃないか。
 僕が思ったことを口にすると、さつき姉はうーん、と呻いた。
「違うのよ。惣一と来るっていうことに意味があるの」
「僕と?」
「うん。私が惣一の部屋に泊まっているうちにやっておきたかったから。
 こんなところ、1人でくるものじゃないわよ。基本的にはね。
 男の人はナンパをするために1人で来たとしてもおかしくないけど、
 女の人が1人で海水浴場に来てぼんやりとしてたらなんだか変じゃない」

 僕は目を動かして灰色の空を見たあと、さつき姉に対して頷いた。
 頷いたのを見て、さつき姉は思い出したように声を出した。
「ねえ、もしかして惣一もナンパとか、したりするの?」
「なんでそう思うのさ」
「いいから質問に答えなさい」
 さつき姉は少しだけ眉根を寄せた。
 別に隠すようなことはないし、そもそも隠すものが無いので正直に答える。

「ナンパはしない」
「本当に?」
「しようと思ったことはあるよ。……ちょっと違うか。
 僕の想像の中にいる僕が、ナンパしようかどうか考えたことがある」
「……よかった。駄目よ、ナンパなんかしちゃ。
 遊びに行きたいんなら私を誘ったらいいわ。私はご飯は割り勘にする女だから。
 今日みたいにね」

 さつき姉は時刻を確認すると、屋根のあるベンチのところへ向かった。
 僕もベンチに座り自分の弁当を取り出して、次にさつき姉の弁当を差し出した。
 さつき姉の後ろにある雨の降る様子を見ていると、さつき姉に問いかけられた。
「想像の中の僕、とかいう言葉をよく使ったりするの?」
「普段は使わないよ。今日はさつき姉が二度寝した横で小説を読んでたから、
 なんとなく言ってみたくなっただけ」
 ふーん、と呻いてから、さつき姉は食事を再開した。
589向日葵になったら ◆KaE2HRhLms :2007/05/27(日) 12:29:15 ID:nfd27eRQ
 海水浴場から離れてバス停に向かう途中、お土産屋に立ち寄った。
 遠く離れた街までやってきたから、家族や友達に買うためのお土産を選ぶのだろうと
僕は思ったのだが、さつき姉はどうやら違うことを目的にしているらしかった。
 さつき姉はキーホルダーが大量に吊るしてある回転式ディスプレイを、何度も熱心に
回しながら難しい顔で睨み付けている。

 お土産屋の中は人がいなくて閑散としていた。 
 店内の広さは僕の部屋をひとまわり大きくしたくらいのもので、壁にまで商品が置かれていた。
 外観はお土産屋の看板がなければ素通りしてしまうほどに地味で、あまり繁盛していない
のではないかと僕は思った。
 今日は、雨が降っているせいで誰も店内に入ってこないどころか、路地を歩いている人すらいなかった。

「惣一、これ」
 さつき姉の声に振り向くと、目の前に目玉が現れた。
 形容しようもなく、目玉そのものだった。本物ではないが。
 目の前にかざされた目玉のキーホルダーは直径が1cm少々の大きさでとても軽く、
銀色のリングには200円と書かれたシールが貼ってあった。

「それ、買いなさい」
「なんで? キーホルダーなら間に合ってるんだけど」
「いいから買いなさい」
 同じやり取りを繰り返しても、さつき姉は強硬な姿勢を崩さない。
 仕方なくレジに行って会計を済ませると、さつき姉も同じものを購入した。

 さつき姉は右手で目玉のキーホルダーをぶら下げ僕に差しだし、左手のひらも差し出した。
「交換しましょ、このキーホルダー」
「……なんで? 同じものじゃないか」
「別々に買った、って点では別物でしょ。
 私は惣一のものを持つから、惣一は私のを持ってちょうだい」

 買わされた理由もわからないうえに、交換する意味も掴めない。
 とはいえ、断る理由はない。
 僕はキーホルダーをさつき姉に渡して、さつき姉のキーホルダーを受け取った。
「今日から私が居なくて寂しくなったときは、それを見て紛らわしなさい。
 私も寂しくなったときは同じことをするから」

 2人でお土産屋の外に出ると、空の色はたいして変わっていなかったものの、雨はまったく
降っていなかった。
 バス停に着いて到着したバスに乗り、降りてから自宅に帰るまでの間、僕は右のポケットに
入った目玉のキーホルダーを適当にいじった。
 何度触っても変わりなく、プラスチックの滑らかさしか感じられなかった。
590向日葵になったら ◆KaE2HRhLms :2007/05/27(日) 12:31:06 ID:nfd27eRQ
 部屋に戻ってきてから、僕は携帯電話を置きっぱなしにしていたことに気づいた。
 着信を確認すると、大学の友人の1人から何度か電話がかかってきていた。
 かかってきた番号に、折り返し電話をかける。
 4コール目で繋がった。
『もしもし? 北河君?』
「うん」
『どうして出なかったの? どこかに行ってた?」
「まあ、ちょっと散歩にね」
『ふーーん』

 部屋の時計で時刻を確認すると、長針は4時を差していた。
 時刻を確認できるだけの間隔を空けて、友人の声が聞こえた。
『聞いてくれますか、北河君』
「それって、聞いてくれることを前提にしての質問だよね」
『実は私、山川は本日朝7時に目を覚ましたところ、隣に彼氏が寝ていないことに気づきました。
 あれ? どこにいっちゃったの? と口には出さず彼氏を探して部屋を右往左往する私。
 トイレ、浴室、冷蔵庫の中、ゴミ箱の中を覗き、首を傾げながらテーブルを見ると!』
「見ると?」
『合鍵は返しておく 俺たちはこれで終わりにしよう。 と書かれたメモを発見しました』

 僕はほう、と言いそうになった自分を抑えて、次の言葉を待った。
『というわけで、明日の夏祭りアンド花火大会は北河君と行くことが決定されました。がちゃり』
「がちゃり、じゃないよ。なんで勝手にそんなことを決めてるんだ」
『いいから付き合いなさい! これは決定事項です!』
「……まあ、別にいいけどさ」
『よろしい。では明日の朝北河君の自宅へ迎えに行きます。シャワーを浴びて待っていてください』
 友人の山川はこういう冗談をしれっと口にする。
 性質の悪さが子供っぽくて面白いから、僕にとっては気の合う友人の1人だ。
「わかった。じゃ、明日会おう」
 と言ってから、僕は通話を終了した。

 携帯電話をテーブルの上に置いてから水でも飲もうか、と後ろを振り向くとさつき姉が
真後ろに立っていることに気づいた。
「惣一、今のは誰? ずいぶん楽しそうだったけど」
 言葉の中に隠しきれない不満の色が混ざっている。やけに機嫌が悪そうだ。
「大学の友達」
「女の子でしょ? 女の子よね? 女の子なんでしょう?」
「う……ん。そうだけど」
 なぜ言葉を繰り返したのはわからないが、喋るごとに目と眉がつりあがるさまから察するに、
さっきの電話の内容が面白くないものだったらしい。
 山川の声はよく通るから、真後ろに立っているさつき姉にも聞こえていたはずだ。

 さつき姉は不機嫌から微笑へと表情を変化させた。
「そうなんだぁ。女の子の友だちねぇ」
 頷く動作を繰り返しながら、さつき姉は台所へ向かい夕食の準備を始めた。
 包丁とまな板のぶつかる音が、昨日とは違い甲高く響いた。
591名無しさん@ピンキー:2007/05/27(日) 12:32:39 ID:nfd27eRQ
次回へ続きます。
592名無しさん@ピンキー:2007/05/27(日) 12:55:26 ID:Syk0eZLV
最近投下も多いし保管庫も順調で調子がいいな
職人様と保管庫管理人様GJです
593名無しさん@ピンキー:2007/05/27(日) 13:27:40 ID:Bk2z3+GI
>>590
一服もった翌日とは思えないほのぼの展開にマターリ
でもさつき姉はまだ何かたくらんでそうでw

いつの間にか480KB越えてるな、次スレ立ててきます
594名無しさん@ピンキー:2007/05/27(日) 13:30:18 ID:Bk2z3+GI
立ててきました

ヤンデレの小説を書こう!Part7
http://sakura03.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1180240137/
595名無しさん@ピンキー:2007/05/27(日) 16:43:09 ID:aqP1ZS1J
>>594
ねぇ、どうしてみんなPart7のところにいっちゃうの・・・?
どうして私を一人にするの?なんでかな?どうしてかな?
あっ、そうか、そうだよ私わかっちゃった!

P a r t 7 が あ る か ら い け な い ん だ 。

596名無しさん@ピンキー:2007/05/28(月) 01:16:14 ID:D8neUUqs
ねえ、ど、どうしても行っちゃうの?
わかった・・止めないよ。行って欲しくないけど・・ でもきっと戻ってきてくれるもんね!
だから私、悲しくないよ。じゃあ、行ってらっしゃい。帰ってきたら、ずーっといっしょだからね!

じゃあいってらっしゃい!!
http://sakura03.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1176605863/




あれ、どうしたの?行かないの?・・ふふ、やーっぱりあなたも一緒にいたかったんだね。
ダメだよ、クリックしても行けないってことは、ほら、もともとそういう運命だったんだよ。
だ・か・ら、ずーっと一緒。あなたは、私と一緒にいるの。

・・・行かせないんだからっ!!!
597名無しさん@ピンキー:2007/05/28(月) 12:26:20 ID:xh81Vut7
「電波的な彼女」(集英社スーパーダッシュ文庫)に登場する堕花雨はヤンデレっぽいな。
前世から主人公に仕える騎士とか言ったり、主人公のピンチには駆けつけたりするところはかなりイイ。

598名無しさん@ピンキー:2007/05/28(月) 15:56:33 ID:NVdWZOU6
>>596
いけねーwww
599名無しさん@ピンキー:2007/05/28(月) 16:26:55 ID:LHLyR6Ff
>>597
雨はヤンデレとは違うと思うんだ。むしろ美夜こそがヤンデレだと、私は主張したい。
600名無しさん@ピンキー:2007/05/28(月) 23:54:31 ID:XJTuBkHm
雨は主であるジュウ様が例えば他の女とくっついても
辛くても黙って我慢するからな、単に前世云々言っている電波美少女だ
美夜の方がよっぽどヤンデレだしw
昔レイプされたせいで心が壊れちゃって
ジュウ様が好きなのに素直に好きと言えないで、いい友達止まりでいて
んでジュウ様に好意を寄せていた委員長殺す時は歓喜していたからな
最終的にはジュウ様を殺してジュウ様との思い出を完結させて美化しようとして
んで殺す寸前にジュウ様助けにきた雨に対し
「……なんで、邪魔するの? せっかくジュウ君と二人きりで、いい感じに終わりそうだったのに、台無しじゃん」
で「邪魔なのよ、あんたは! 邪魔なの!」
あの切れ方はいつもジュウ様と一緒にいる雨に対しての嫉妬を感じたねw
そして雨に護身用のスタンガンまともに喰らっても怨念で立ち上がり、雨を殺そうとするあの姿はまさしく病んでいるw
んで結局雨を庇ったジュウ様をナイフで刺しちゃって、刺された痛みを無理矢理抑え込みながら微笑むジュウ様と流れる血を見て正気に戻って
「こ、こんなの違う、こんなの違う、ジュウ君、違うんだよこれは、これは違うの、これは、信じて、わたしは、わたしはね、本当は……」
まぁ全て言い切る前に雨にスタンガンで止め刺されたんですがw

しかし長いな、コレ。まぁ埋めネタだと思って流してくれたら幸いッス
601名無しさん@ピンキー:2007/05/29(火) 06:47:16 ID:LZH3xKXm
知らない人のために補足。

美夜をレイープしたのはジュウ君ではありません。頭のおかしいサラリーマンです。
602名無しさん@ピンキー:2007/05/29(火) 09:15:19 ID:w9fXHkk5
まあ、なんだ。
あんまここで話す事じゃねえやな。
つうわけで興味をお持ちになった方はこちらへ。
エロパロ板
http://same.u.la/test/r.so/sakura03.bbspink.com/eroparo/1171037946/l10
603名無しさん@ピンキー:2007/05/30(水) 11:01:05 ID:2QP3LuSo
容量まだあるからヤンデレ関連の雑談はこっちでいいのかな
埋めネタを待ちつつ
604名無しさん@ピンキー:2007/05/30(水) 15:44:48 ID:HS3I2NJi
Part7建ってたんだな気づかなかった
でもなんで?
605名無しさん@ピンキー:2007/05/30(水) 15:49:04 ID:tFW0wJgA
>>604
ナニイッテンダ オレタチニハ6スレちゃんガイルジャナイカ
606名無しさん@ピンキー:2007/05/30(水) 22:45:10 ID:hK5TBuj7
藤子Fの短編にでてくるロボットの話がヤンデレだと思った今日この頃。
主人公の少年にデレた結果
自分を女性化したり主人公の女友達に嫌がらせしたり最後には主人公に
「アナタノタメデス」
と自分で自分を騙す嘘をついて自己正当化したり……

まあ萌え要素は皆無の作品だが
607名無しさん@ピンキー:2007/05/31(木) 22:15:40 ID:FDvRUO+h
キモウトのドラミちゃんがミーちゃん(ドラの彼女)をドラ焼きの具にする急展開マダー?
608名無しさん@ピンキー:2007/05/31(木) 22:17:31 ID:wBFZiGSg
>>607
無理あるだろその展開wwwww
609名無しさん@ピンキー:2007/05/31(木) 22:46:12 ID:rpZeIlfO
では、ジャイ子が兄の似顔絵をスケッチブックに描きまくっていて
その事実をひた隠しにしている、というのはどうだろうか
610名無しさん@ピンキー:2007/05/31(木) 22:53:19 ID:DYK+MQP2
>>609
それだ! と言おうと思ったが貴様には死んでもらう
611名無しさん@ピンキー:2007/05/31(木) 22:59:12 ID:zOQut7Pn
自宅に来たのび太を帰したくない

靴を隠してしまえば帰れないわ
という行動に出た女の子がいたが彼女はヤンデレの素質ありだな
612名無しさん@ピンキー:2007/05/31(木) 23:13:08 ID:j2cdc+Z7
>>611
最終的には
そうだ、足を切ってしまえばいいじゃない!
となるわけだな。
613名無しさん@ピンキー:2007/05/31(木) 23:40:45 ID:FDvRUO+h
>>609
口には出せない妄想をスケッチブックに書くことでかろうじて兄への気持ちを抑えている妹。
そんな彼女の前に青いタヌキが現れる。
そいつは一冊のスケッチブックを取り出し言う。
「このスケッチブックに描かれた事は現実になる」と。
半信半疑の妹だが何とは無しに「兄に抱き締められている自分」の絵を描く。
次の日、兄の友人の骨川が無惨な死体となって発見された。
忘我にある兄は温もりを求めて妹の体を抱き締める。
妹は抗いがたいスケッチブックの魔力に取り付かれて行く…。

これじゃどっちかてーと喪黒福蔵の仕事だな。
614名無しさん@ピンキー:2007/05/31(木) 23:53:06 ID:rpZeIlfO
オマイの想像力に脱帽したw
615名無しさん@ピンキー:2007/06/01(金) 04:38:51 ID:DFNbtShq
牡丹燈籠とかヤンデレじゃね?
ネタが古いけど
616名無しさん@ピンキー:2007/06/03(日) 13:02:26 ID:AWqSsNM3
誰も覚えて無いだろうけど埋めがわりに前スレにおいてった奴の続き。
前スレのを読んで無くても多分意味わかると思うけど、まあ埋めネタと思ってくれ。






 目が覚めた。

 部屋の白い天井はいつもと変わらず少し薄汚れている。
 何か素敵な夢を見ていた気がするのだけれど、上手く思い出せない。

 ため息をついて私は起き上がった。また今日も振り向かないあの人と、
あの人の可愛いあの子のいる学校に行かなくちゃいけない。私が休んでもあの人は
気にしないだろう。寂しい、淋しい、私の予測。けれどきっとあの子は心配して
しまうだろう。悲しい、哀しい、優しい事実。2人で見舞いになど来られた日には、そんなのは堪らない。
そんなのは耐えられ無い。許したく無い。
 重たい頭の霞を払うべく顔を洗って部屋に戻ってくると、急に今朝の夢を思い出した。

 もしくは今朝の夢が私のベッドに腰かけていた。

 白いタキシードの目の細い………きっとこういうのを優男って言うんだろう。
黒いシルクハットを組んだ足に載せている。

「もしかして悪魔さん?」
「覚えていていただけましたか」
「今思い出したのよ」

617名無しさん@ピンキー:2007/06/03(日) 13:04:21 ID:AWqSsNM3
 私はこの異常な事態を全く異常だと受け止められていなかった。
 昨日の月明かりの下で出会ったこの人。1人、ひとおり、独りの私の前ににあらわれた。

「本当にあの人を私のものにしてくれるの?」
「ええ。ただし条件がありますが」

 悪魔さんは微笑みながら言った。

「あなたの声を一部いただきます」

 私は笑って、嗤った。

「いいわ。声なんていくらでもあげる。けれどひとつ聞いてもいいかしら」
「なんですか」
「一部ってどういうこと?」

「それは学校へ行ってからのお楽しみです」

 悪魔さんは立ち上がってこちらへ近付いてきた。

「契約成立ということで宜しいですか?」
「ええ。お願いするわ」

 私は瞳を伏せた。悪魔さんがの細い指が顎を捉えて上を向かせ、唇をなぞって行く。

 私の中の、なにかが溶け出して流れて行くのがわかった。

「契約完了です」

 悪魔さんは微笑みながら言った。











うん、ここまでしか無いんだ。本当に済まない。
618名無しさん@ピンキー:2007/06/03(日) 13:19:54 ID:j3WZZpLi
>>617
すまないなんて言っても
続きを書くまで許してやらない

てことでGJ!
619埋めネタ:2007/06/04(月) 00:11:02 ID:nQXPpt1R
 最近妹がおかしい。
 なにをしているかわからないが、俺の部屋にときどき忍び込んでいるようだ。
 帰ってきてから部屋の中を荒らされていないか確認しても、何もなくなっていない。
 しかし、何かしていることは間違いないはずだ。

 妹は昔から、俺に対してきつく当たる。
 いわゆるツンデレという奴だ。
 比率は俺の大好きなツン9割、デレ1割……ではない。
 ツンが99%、デレが1%というところだ。
 妹が俺を兄として扱ってくれるのは、親戚が集まる正月ぐらいのものだ。
 それ以外はごみのような扱いだ。

 以前、妹の後ろに立ったことがある。
 決して、何かしようとしたわけではない。断じてない。
 だというのに、振り返りざまに回し蹴りを放たれたのは何故だろう。
 そのときに見えた妹のスカートの中は白だった。
 俺としては青と白のストライプであったら嬉しかった。

 今日のスカートの中は黒だった。
 俺がそのことを知っているのはなぜか?
 答えはひとつしかないだろう。今日はとび蹴りだったのだ。

 今日も1人でBBSPINKのヤンデレスレを覗いてみることにする。 
 ちなみに俺は18歳だから問題ない。
 まあ、去年から覗いているから関係ないけどな。

 さて、今日の書き込みは……
620埋めネタ:2007/06/04(月) 00:12:00 ID:nQXPpt1R

666 名前: 私のお兄ちゃん [sage] 投稿日: 2007/05/XX(日) 20:32:58 ID:B1XmPAna

「だめえ、お兄ちゃぁん!」
「なんだよ、お前から誘ってきたんだろ」
 私は今、お兄ちゃんに襲われている。
 お兄ちゃんが突然、私を部屋に呼んだかと思ったら、ベッドに押し倒したのだ。

「誘ってなんか、いないよぉ……」
「嘘つけよ、いつもあんなやらしい下着履いて、俺に見せびらかして……
 お前、本当はこうしてほしかったんだろ?」
 お兄ちゃんが私のスカートをめくって、太腿を撫でた。
 太腿をこねて、つまんで、容赦なくなぶる。
 私はすでに動けない状態になっている。

 だって……本当はこうして欲しかったから。
 いつも黒とか赤の勝負下着を履いているのは、いつお兄ちゃんに襲われてもいいように。
 お兄ちゃんを怒らせるためにいつも私は冷たく当たっている。
 本当は、本当は自分の体で迫りたいけど……恥ずかしいから、無理。
「や、やあぁ! そこ、だめぇ!」
「へえ、今日の下着は黒か。どこでこんなの買ったんだよ」
「そんなの、言えないよ!」
「言えよ、ほら」

 お兄ちゃんが、ショーツの上から私の入り口を指で弄った。
 耐えなくちゃ、耐えないと……興奮して、出てきちゃう。
 でも、すぐに理性の壁は決壊した。
「あっ、だめ……乳首、だめぇ!」
「へえ、綺麗なピンク色してるな。今まで男に触らせたことないんだろ」
「あ、あぁぁ……んんっ」

 お兄ちゃんが私の乳首を咥えて、下で転がした。
 耐えようとしても、私の理性は働かない。
 こんな優しい愛撫には、耐えられない。
 もう、だめ――――っ!

「ん――――っ!」
 
 耐え切れず、私は秘部から愛液を出してしまった。
 恥ずかしさで、失神してしまいそう。
 私が、毎日お兄ちゃんを想ってオナニーをしてることとか……淫乱なところとか、ばれちゃう。
 お兄ちゃんは私の乳首から唇を離すと、ショーツを脱がした。
 そして……。
                                                       』
621埋めネタ:2007/06/04(月) 00:13:03 ID:nQXPpt1R
 ……これは、いいな。
 俺に妹属性はないが、なんとなく興奮する。
 よし、期待レスでもするか。


667 名前: 名無しさん@ピンキー [sage] 投稿日: 2007/05/XX(日) 23:58:08 ID:B1XmPAna

 wktkwktk
                                                       』

 ……あれ?IDが同じ?なんで……?
 俺が書き込んだ?いや、俺は長文を書くなんてできないぞ。
 仮に酔って書いたとしても、5行ぐらいで終わるはずだ。
 だとしたら、俺以外の、この家に住んでいる人間がやったということか?
 この部屋に出入りする人間というと、俺と妹と――――

「お兄ちゃん……とうとう見ちゃったんだね」
 妹の声が、耳のすぐ近くで聞こえた。
 まさか、この文章は――!
「おやすみ、おにいちゃん。明日は学校に行かなくていいからね。
 ううん、明日も、あさっても、その次の日も、ずっとずっと……あははっはははははは!」


埋め!
622名無しさん@ピンキー:2007/06/04(月) 01:44:43 ID:6XQkOeeY
こ、これは・・・
623名無しさん@ピンキー:2007/06/04(月) 03:21:08 ID:xcXryOKx
鬱っぽい感じのヤンじゃなくて、躁病っぽいハイテンションなヤンが見てみたい。
624名無しさん@ピンキー:2007/06/04(月) 20:20:07 ID:6DIa0wjA
実験

「見つけた! この人だっ!」
「えっ?」

通勤途中、電車の中で俺はいきなり女子高生に腕を掴まれた。
まさかこの俺に痴漢の冤罪がかかろうとは思わなかった……。
まてまてまて、俺は片手にかばん、片手はつり革だぞ!
周りの乗客が一斉に俺に視線をよこす。

女子高生はつり革を持った俺の右腕に絡みき、頭を摺り寄せてくる。
「にゅふふー。」 とか言いながら絡むのはやめていただきたい。

「そいつ、痴漢なのか?」

声のした方――後ろを振り向くと、ガタイのいい学生が俺を睨んでいる。
待てよ、どう見ても痴漢じゃねーだろ!
そいつはポキポキと拳を鳴らしながら、俺に近づいてくる。
ダメだこいつ、絶対に「電車男」を見てる!

逃げようにも、つり革を掴んだままの状態じゃ転倒することは必至だ。
八方塞がりとは、この事だな。 俺は諦めて目を閉じ、歯を食いしばった。
ふと、右手の荷重が無くなった。……何もこない。
625名無しさん@ピンキー:2007/06/04(月) 20:33:32 ID:6DIa0wjA
ドン!という大きな音が鳴る。

……俺は恐る恐る目を開けてみた。さっきの学生が
電車の隅に寝転がっている。そして、拳を天にかざした女子高生。

何、これ?

「もう大丈夫だよ、ダ→リンv」

何が?
626名無しさん@ピンキー:2007/06/04(月) 20:51:49 ID:6DIa0wjA
俺はこっそりと電車から降りたところを押し倒された。
「どこ行くの? v」

そりゃあ、きみの居ない所へ。 それに語尾にハートをつけるな。
「あ、もしかしてテレてるんだ v かわいいv v」

「いつまでも電車の扉の前で寝転がってたら踏み殺されそうなんだが。」
「あ、ごめんね――いたっ。 さっきので手首をひねっちゃったみたい……。」

よく見ると小柄な子だ。 150cmも無いような印象を受ける。
そんな子が大男をK・Oしたのだから怪我くらいはするだろうな。
仕方が無いので医務室に連れて行くことにした。
627名無しさん@ピンキー:2007/06/04(月) 20:52:39 ID:6DIa0wjA
難しい。
628名無しさん@ピンキー:2007/06/04(月) 20:59:51 ID:nQXPpt1R
>>627
正直な感想を述べよう。

武闘派ヤンデレ、イイ!ダーリン!
629名無しさん@ピンキー:2007/06/04(月) 21:15:16 ID:6DIa0wjA
埋め完了
630名無しさん@ピンキー:2007/06/04(月) 21:18:14 ID:iEXfw0h2
や、やめろ・・・くるなっ!
うわああああああああああああああああああああああ・・・・・・・・・


埋め
631名無しさん@ピンキー:2007/06/04(月) 21:22:02 ID:6DIa0wjA
逃がさない逃がさない逃がさない逃がさない
逃がさない逃がさない逃がさない逃がさない
逃がさない逃がさない逃がさない逃がさない
逃がさない逃がさない逃がさない逃がさない

わかってくれた?
632名無しさん@ピンキー:2007/06/04(月) 21:30:05 ID:nQXPpt1R
ヤンデレスレは!
633名無しさん@ピンキー
エロエロよ〜!