嫉妬・三角関係・修羅場系総合SSスレ その33

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918小さな恋の嫉妬物語・前編 ◆y5NFvYuES6 :2007/04/18(水) 01:22:02 ID:cHnwACBh
ランドセルを背負った影が3っつ。
男の子が1人。
その両脇に女の子が2人。
仲良く並んで登校…遠目から見たらそう見えるであろう。

「ちょっと!引っ張らないでよ!」
右の女の子が左の女の子に向かって怒りをぶつける。
「そっちこそ!くっつき過ぎなんじゃないの!」
左の女の子が右の女の子に向かって怒りをぶつける。
「……はぁ。」
真ん中の男の子は溜息を吐き出し、がっくりと俯く。
男の子の右腕にしがみ付いてる女の子は、髪をツインテールにして、きつそうな印象を与える女の子。
男の子の左腕にしがみ付いてる女の子は、髪をショートにした、活発な印象をあたえる女の子。
どちらも与える印象は違うが、よく似た顔立ちをしていた。
恐らく双子であろう。
双子は互いに腕を引っ張りあいながら歩き。
男の子はその様子を諦めたかのような沈んだ顔で見ようともせず、ただ溜息をつく。

「大体なんであんたがいるの!早く起きた方が一緒に登校するって勝負したじゃん!」
「起きた時間は同じだったでしょ!」
「嘘言わないでよ!私の方が2秒早かったんだから!!」
「いーえ!本当はあんたより先に起きてたけど布団から出られなかっただけだもん!」
「この嘘つき!!」
「そっちこそ!!」
終始そんな調子で、教室で先生に怒られるまで双子は喧嘩を続けていた。
919小さな恋の嫉妬物語・前編 ◆y5NFvYuES6 :2007/04/18(水) 01:22:45 ID:cHnwACBh
男の子は「相葉巧」
ツインテールの女の子は「北条有香」
ショートの女の子は「北条美香」
3人はどこに行くのにも一緒の、産まれた時からの幼馴染。
3歳まではただの幼馴染という関係だった。
それが崩れたのは6年前。
3人が3歳になった頃。
ある時、相葉家で飼っている犬が双子に噛み付いてきた。
元々双子には懐いてなかった犬だったが、その時は機嫌が悪かったのか、いきなり強い力で噛み付いてきたのだ。
双子はあまりの痛さに泣き喚く。
犬は大型犬、まだ3歳の女の子は身を守る術すら知らず、ただ恐怖と痛みに泣くしか出来なかった。
丁度両親達も不在。
双子はあまりの恐怖に固まり、もうダメだと覚悟した――――その時。
「いじめるの、ダメ!」
双子と犬の間に割って入り、精一杯の勇気で立ち向かう巧。
その時から、双子の恋は始まった。

それ以来、双子は常に巧にべったりくっつき、今ではどちらが一緒にいるかで喧嘩するのが日課となっていた。
だがその双子にも最近注意しなければならない相手……つまり『ライバル』と呼ばれる者が現れたのだ。

「にいたんにいたん!!」
「ただいま、遥。」
小さな女の子が開いた玄関目掛けて走り、嬉しそうな表情で巧に思いっきり抱きつく。
その様子を双子は巧の後ろから睨みつける。
そんな双子には目もくれず…というか、最初から居ないかのように全く気にしていない様子の女の子。

相葉巧の妹、相葉遥。
弱冠4歳にして、双子にライバルとして認識されている(双子にとっての)危険人物である。
920小さな恋の嫉妬物語・前編 ◆y5NFvYuES6 :2007/04/18(水) 01:25:31 ID:cHnwACBh
「にいたんにいたん。」
「なぁに?」
巧は遥と目線を合わせる為、しゃがみこむ。

「(あ、あんなに顔を近づけて…!)」
「(私だってあんなに顔近づけた事ないのに!)」

双子は揃って唇を噛み締める。
遥は小さな手を開き、小さな輪っかを巧に差し出す。
「ゆいわ!作ったの!にいたんのよ!」
「お兄ちゃんに作ってくれたの?ありがとう!大事にするよ。」
にっこり微笑み、巧は嬉しそうに遥の頭を撫でる。
「ゆいわかして!はるかがにいたんにつけゆの!」
そう言い、巧の手から指輪らしきものを取り上げる。
「うん。じゃあお願いするね。」
双子に嫌な予感が走る。
「えへへ…にいたんとはるかのだいじだいじのゆいわ〜♪」
そんな歌を歌いながら左の薬指に指輪をはめていく。
「つぎはにいたんがはるかにゆいわつけて〜。おんなじとこによ。」
はいっとお揃いの指輪を渡し、にっこり微笑む。
「はいはい。じゃあつけてあげるね。」

「「(これってまさか…!?)」」

双子の嫌な予感は的中した。
これは俗に言う、結婚式ごっこというやつだ。
巧はどうやら気づいてないようだが、遥はわかっていてこれをやっているのだろう。
双子はなんとしてでも止めようと、2人に駆け寄る。
だがそこに白い影。
「ワンッ!」
「「ひっ…!」」
昔、双子を噛んだ犬だ。
双子は噛まれてからというもの、この犬が大の苦手になってしまったのだ。
犬はまるで2人を守るかのように門番の役割を果たす。
そうしている内に巧は遥の小さな指に指輪をはめようと、遥の手をとる。
「「あああぁぁ〜〜〜!!!!」」
指輪は遥の左の薬指にはまる。
それを嬉しそうに、子供とは思えない程『女』の表情を浮かべて喜ぶ遥。
「こえでにいたんとはるかはずっといっしょなのよ。」
「そうだね、お兄ちゃんはずっと遥の傍に居るよ。」
巧は遥の頭を優しく頭を撫で、愛しそうに目を細めて見つめる。
その姿はどこからどう見ても仲の良い兄妹にしか見えなかった。
――が、そうは見れない者が2名。
双子は握り拳を作り、悔しそうな目でそれを見つめながら逃げ去るかのように玄関の戸を閉めた。

その様子を俯きながらも横目で見ていた遥は。
口の端を吊り上げ、双子を嘲笑うかのような微笑を湛えていた。
921小さな恋の嫉妬物語・前編 ◆y5NFvYuES6 :2007/04/18(水) 01:27:53 ID:cHnwACBh
「なんなのよあの子!!!!」
有香はベッドにあったクッションを掴み、思いっきりドアへと叩きつける。
その反動でツインテールの髪が揺れる。
「ああーーーー腹立つ!!絶対あいつ見せ付けてた!」
美香は机を強く叩き、悔しさを露にする。
「何も知らない私の巧君にあんな事して………!!」
「…ちょっと、今聞き捨てなら無い言葉が聞こえたんだけど?」
「気のせいじゃない?」
しれっとシラを切る有香。
「言っておくけど、巧君は私の物なんだからね!あんたの物じゃ絶対ないから!っていうかありえないから!」
美香も負けじと言い返す。
「何よこの男女!あんたみたいな女巧君が相手にするわけないじゃない!」
「なっ…!なんですって!私とあんたなら、巧君が相手にしないのは蟹女の方でしょ!」
「蟹言わないでよ!この髪型気に入ってるんだから!」
そう言い、有香は2つの髪の束を掴んで睨む。
「何度でも言ってやるわよ。この蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹!!!!」
「言うなって言ったでしょーがーー!!」
思わず掴み掛かろうとするが、はっと先程の光景を思い出し。
「…こんな事してる場合じゃないじゃない!」
「それもだったわね…。」
双子は真剣な表情で黙り込む。
「……いっそあんな子、居なくなっちゃえばいいのに…。」
ボソっと、美香が呟く。
「…!?」
有香が何かを思いついたかのような表情をし、まるで悪戯を思いついたかのような笑みを浮かべ。
「それよそれ!」
「は?」
「あの子が居なくなればいいんだ。そしたら巧君は安全になる!」
「それはそうだけど、でもあの子が勝手に居なくなったりするわけないよ。」
「そんなの私だってわかってるもん。だからさ…。」
双子は顔を近づけ。
「あの子をどこかに置いてきちゃえばいいんだよ…。」
「ええーーっ!?」
思ってもみなかった有香の言葉に、美香は若干の戸惑いを覚えるが。
遥が居なくなった時の事を考えると、それもいいかと思い。
「…いいアイディアかも、それ。」
双子は互いの顔を確認し合うかのように見つめ、固い決心を秘めた目で頷き合う。


さて、双子は愛しい彼を泥棒猫の魔の手から引き離す作戦を思いつく事が出来るのでしょうか。
922 ◆y5NFvYuES6 :2007/04/18(水) 01:28:41 ID:cHnwACBh
後編は明日になります。
では、また。
923名無しさん@ピンキー:2007/04/18(水) 01:49:34 ID:3GBZwSqX
イヤッホオオオオオオオオオオオオオオオウ!
「携帯食料はちゃんとお持ちですか?」
「うん」
「異動命令書など、書類は忘れておりませんか?」
「…ん、大丈夫」
「蹄鉄の確認はしましたか?」
「あ、乗馬は苦手だから馬車で」

 最後に騎士らしからぬ発言をしつつ、荷物を確認する。
大して大荷物というわけではないが、国境沿いの駐屯地までの短い旅には違いない。
忘れ物がないかしっかり確認しないと。

「………それでしたら―――」
「ははっ。大丈夫だってば。
シャロンちゃん、今日はなんだか母さんみたいだね」

 俺が茶化して笑うと、シャロンちゃんは無表情ながらも、
やや不機嫌そうに――彼女のこの辺の機微は最近やっと解った――口を噤む。

「急に旅立つことが決まったのですから、何か抜けてるところがないか心配するのは当然のことでしょう」
「ごめんごめん、はははっ…」

 非難するような視線に謝罪。
荷物整理に付き合わせてしまっている負い目もあって、俺はただ苦笑するしかなかった。


 明日の早朝。
俺は王都を旅立つことになっている。
勿論、配属先である第零遊撃隊と合流するためだ。
本当は訓練部隊の解散まではまだ日にちがあるのだが。
何でも戦姫のたっての申し出ということで他の皆よりも早く王都を出ることになった。

 そういうわけで、こうして荷物の整理に追われてるわけなのだけど。

「―――そうそう。シャロンちゃん?」
「なんでしょう?」

 一点の曇りもなく俺を見つめるシャロンちゃんの瞳が。

「訓練部隊も間もなく解散だけど、シャロンちゃんはその後どうする予定なんだ?」

 微かに揺らいだ気がした。

「―――予定、と言いますと?」
「だってほら、皆はそれぞれ部隊に配属になるだろ?
給仕係のシャロンちゃんとか、俺たちを世話してくれた他の使用人さんたちは何処の仕事場になるのかなって」

 考えすぎだろうか。
シャロンちゃんは何かを言いたげに、だけどそれでも言ってはいけないかの如く固く口許を結んでいるように見受けられる。

「ゎ……私が次に何処にお仕えすることになるのか、まだ決められていないそうです。
解散までそう日もないですから、数日中には辞令が来るかと思うのですが……」
 シャロンちゃんにしては珍しく、少しだけ声を詰まらせて答える。
少し変だな…と首を傾げたものの、俺が知る限りでは彼女はいつもの表情だった。

「……そう。でも、まぁ……王都でやってる限りはまた会うこともあるかもね。
戦姫の部隊が王都に戻ってくることはそうそうないから、戦争が終わるまではどの道無理だろうけど……」
 無論、それは俺がこの戦争を生き延びられれば――の話ではあるが。

「そう、ですか……」
「ま、縁があったらまた会うだろうし」

 再会の約束なんてのは出来そうにない。
これが家族であれば願いにも似た、ある種の儀式的な意味で再会を誓い合うものなのだろうが……。
幸か不幸か、俺にはそういう人物はもういない。おかげで後ろ髪引かれるような気分にもならずに済みそうだ。


「………」
 僅かの沈黙の末。


「――これでよし、と」
 全ての荷物の確認を終え、俺はバシッと膨らんだバッグを一叩きした。
とりあえず準備は完了だ。後、王都を出る前にしておかなくちゃならないことと言えば―――。

「シャロンちゃん、ちょっとマリカに挨拶してくるから、悪いけどこれで……」
「…そうですか……」
 やはり。
シャロンちゃんは何かを言いよどんでる気がする。
彼女とは短い付き合いだし、確証もないが。
何となくそう思った。

「シャロンちゃん?今日はちょっと変じゃない…?」
 頭の中で考えたって埒が明かない。
わからないことは本人に直接訊くのが一番だ。
…と、軽い気持ちで尋ねたのだが。

「……ウィリアム様」
 彼女の声は酷く真剣だった。
そもそも差して声色の変化するような人物ではなかったけど。
表情もいつもと変わらない、仏頂面ではあったのだけれど。
 ただひとつ、違うとすれば。真っ直ぐに俺を見つめる瞳の奥には彼女なりの"真剣さ"みたいなのが窺い知れた。
だからだろう。いつもと違う声色に聞こえたのは。

「な、何?」
「どうか―――ご武運を」

 たった一言。
その一言だけだったけど、彼女の気持ちは嫌というほど伝わってきた。
死地の真っ只中に送り込まれることも珍しくない、第零遊撃隊。
これが俺と彼女との、最後の会話になるとしてもおかしくないのだ。

「………今日は本当に。
――母さんみたいだよ」
 その彼女の気持ちにはとても応えられそうになかったから。
俺はまた、茶化して誤魔化した。




―――――――――・・・・・




「………マリカ」
 シャロンちゃんと別れてから、俺は城中を捜し回った。
捜して捜して、捜し回った挙句の、陽ももうすぐ落ちようかという頃。
彼女はそこに独り立っていた。

「……墓参りかい?」
「ケノビラックか………いいのか?旅支度は」

 近づきながら声を掛けると、彼女は俺に振り向くことなく一点を見つめたまま答えた。

「それならもう済んだよ」
 彼女に倣い、その視線の先に目をやる。

雑多に置かれた墓石。そのどれにも名は刻まれていない。
城の一角で此処は最も薄暗く、特に用事がなければ先ず訪れることがない場所。

――無縁墓地。
戦中に様々な理由によって名を明かせない者たちが、殉職の末眠る場所だ。
此処に眠る者たちは、諜報活動をやっている――まぁ有体に言えばスパイが殆どなのだが。

そういう者たちの中に交じって一人、騎士の爵位を受けた者が此処に眠っている。

 エリオット=ジュダス。
王国騎士に選ばれながら、マリベル王女暗殺を目論んだ敵国のスパイ。
……そして、同僚のマリカに殺された男。

 本来なら彼の遺骸はゴミのように捨てられる定めにあったのだが。
マリカの強い要望で今はこの墓地に埋葬されている。
多くの騎士たちから諜報部員たちを冒涜する行為だと猛反対を受けていたのだけど。
それでも彼女は意見を曲げることなく、果ては彼女が最も忌み嫌っていたトリスタン家の力を使ってまで
半ば強引にエリオットの遺体を此処に埋めさせたのだ。

「昨日……な」
 不意にマリカが口を開く。
すこし疲れているようにも見えたが、彼女の瞳にはまだ輝きが失せていなかった。

「……ジュダスの遺族に会った」
「え?」
 彼女の視線はまだ墓に注がれたまま。
俺だけ驚いて彼女の横顔に目を向ける。

「……どうもあいつは北の貧しい農村生まれらしくてな。
件の顛末と、彼の死を報告しに行ったのだが………とんぼ帰りだったせいもあって少し疲れた」

 ふぅ、と肩を落としてため息をひとつ付く。
なるべく重荷ではないことを示すように、わざと大袈裟にため息を付いているのがすぐに解った。

「……それで?」
 マリカはきっと誰かに話しておきたいのだろう。
数日前の、あの事件のときの落ち込みようは尋常ではなかったし、これくらいは力になってあげないと。

「彼の両親はまぁ、なんとか解ってくれたのだが……妹の方がな……」

 何処を見つめるでもなく顔を上げ、苦い顔をするマリカ。

「妹……?」
「ああ。ジュダスには年の離れた病弱な妹がいたんだが……その彼女に張り倒されてしまった。
――兄を返せ、と。
本当はベッドから出られない身体なはずなのに、飛び起きてわたしに掴みかかってきたよ」

 そういえば。
エリオットは割と口数が多かったはずなのに、今思い返しても彼から昔のことを聞いた覚えがない。
せいぜい実戦経験があった、というくらいで何処の傭兵部隊にいたのかすら、俺は知らなかった。

「よく……家族に会おうなんて気になったね」
 自分が殺した者の家族と面会しようなど、相当の勇気が必要だったはずだ。

「……まぁ、自分への戒めかな。
わたしは騎士を続けると決めたのだ。これから先のことを考えれば、こんなことくらい――…と。
 話を削いでしまったな……。で、本題の方だが。
………彼らに会ったとき、そこでジュダスの父親から聞いて初めて知ったんだが……。
つい先日、大量の銀貨が彼らの家に送られてきたらしい。それまでの生活を充分立て直せるほどの大金がな」

「それって……」
「――ああ。間違いなく"報酬"だろう。
企て自体は失敗したというのに、律儀なことだ。いや……成功・失敗の如何に関わらず送られる前金だったのかも知れないが。
ともかく、これでヤツがなぜ敵国に身を売ったか、理由は解ったわけだ」

 それでもマリカの顔が晴れるはずもなく。相変わらず苦い顔で墓石を眺めている。

「……よくある、話だよ」
 それだけ、俺はマリカに返した。
……そう。よくある話。
貧しい家族。病弱な妹。彼らを養うため。
こんなご時世だ。そんな話はそこら中に転がっている。
同情するつもりはない………が、かといって彼の行動を非難する気もない。
俺とて、それが必要なことだったとすれば、きっと―――。

「わたしは、姫様の命は救ったが……その代わりジュダスの家族を不幸にしてしまったのだろうな。
遺族に彼の遺体を引き渡すことすら叶わぬとは……。彼らにとって、わたしは疫病神に他ならない」

 辛いわけでもなく、悲しいわけでもなく、無表情にただ淡々と呟く。
エリオットの家族には大金が入った。生活には困らない。マリカのおかげで国から糾弾されることもないだろうが……。
それでも売国した者の家族としてずっと罵られるだろう。きっとこの国には居られないはずだ。

「………だけど、そうしなきゃ……あそこで代わりに転がっていたのはマリカだった」
「……そう、だな……」

 戦争なんて、そんなものだ。
どちらかが不幸になるだけ。かと言って、不幸にならなかった方が幸せになるわけでもない。
俺たちはこれから――いや、俺の方はもうどっぷり浸かっているか――そういう世界に足を踏み入れようとしている。
彼女が騎士を続ける道を選んで、果たして正解だったのかどうか……今はまだ解らない。

「大丈夫だ、これくらい。
そんな顔をするな。………覚悟はもう、ついている」

 俺の表情に苦笑すると、再び視線を墓に戻し呟く。
俺はそれを黙って見つめていた。

「それよりも。
ケノビラック、お前に渡す物があるんだが」

 何かに気付いたように、俺の方へ身体を向け歩み寄る。
暗がりだったせいで今まで気付かなかったが、彼女の手には麻布にくるまれた長い筒らしきものが握られていた。

「……俺に?」
「…まぁ、そんなところだ。いいから受け取れ」

 自分を指差しながら尋ねる俺から目を逸らし、ややぶっきら棒にその麻布を突き出す。
少し面食らいながら乱暴に突き出されたそれを受け取ると、その拍子にずしりとした重みが二の腕に伝わった。
どうやら結構な重量の品物らしい。

「それじゃあ………って、これ――」
 麻布が解かれ、その中にあったものが姿を現す。
 黒光りする鉄の長筒。それが二本。
それは見るからに質のいい鋼鉄製の鞘だった。長さは騎士団に支給されているものよりも少し短い。
……間違いなく、俺の剣に合わせて作られたオーダーメイド品だ。

「お前ときたら騎士になってもまだ、そんな安物の革製をぶら下げているからな。
王国騎士たる者、身だしなみくらいはちゃんとしろ」

 説教するように腰に手を当て、そう言うが。
それにしたって……こんな良質な鉄、刀身にだってそうそう使われるものじゃないぞ。
俺じゃ眩暈がしてしまうほど高価な代物のはずだ。

「いや……だけど、さ……」
「つき返されてもわたしには使えないぞ、それは。
お前の剣に合わせて作られた物だ。わたしの剣には合わん」

 今腰にぶら下げている鞘は、傭兵時代からずっと使っているなめし革の鞘だ。
騎士が使っている支給品の剣とは剣幅も刀身の長さも違うため、サイズが合わずやむなく引き続きこれを使っていた。
それも縫い目が解れて、そろそろ交換どきだったから丁度いいと言えば丁度いいのだが……。
だとしても、この鉄鞘は俺が持っていいような品物じゃないだろう。分不相応すぎる。

「なんだって急に……」
「本当は部隊の解散式のときにでも……と思ったのだが。お前の転属が早まったからな、今日中に渡しておこうと思って。
それに丁度いい。事件のとき助けてもらった礼もしたかった」

 手持ち無沙汰らしく腰の剣柄に手を置き、口早に答えた。
どうやらこういう贈り物には慣れてない様子で、右足、左足にと交互に重心を移して落ち着きなくもぞもぞしている。

「礼って言ったって、俺はなんにもしてないじゃないか。
マリカのところに行ったのだって全部終わった後だったし……」

「だが、その後で色々わたしを励ましてくれただろう?それだけでこの鉄鞘では相殺できないくらいの恩だ。
こちらとしては、わたしの未来がそんな鞘程度の価値しかないと思われやしないか不服なくらいなのだがな」

 一瞬の間。

「それに……あのとき、お前の顔が浮かばなければ……今頃――――」

 そこまで声に出してマリカは口を閉じた。
その様子を訝しく思って彼女を見つめるが、暗がりのせいで顔色は良く解らない。

「とにかく、だ。
お前がそれを受け取らなくてもゴミ箱行きになるだけだ。
……ならば、建設的に利用した方が得策だろう?」

 少し声のトーンを上げて、仕切り直しとばかりに肩を竦める。
……まぁ、彼女がそう言うんであれば受け取らない方が失礼ってものかもしれない。

「……わかったよ、そういうことなら有難く受け取ることにする。
それじゃあ―――」
 そう言ってベルトの留め金を外し、革製の鞘と彼女の贈り物を付け替える。
彼女が固唾を呑んで見守っているのが気になって、少しモタついてしまう。
なのに傍から「グズ」「ノロマ」とヤジが飛んでこないのは拍子抜けだったけど。
静かな城内の一角を、カチャカチャと鉄の擦れる音だけが響いていた。

――あー……この気分、あのときと似てるなぁ。
村の豊穣祭の衣装をキャスに仕立ててもらったとき。初めて袖を通したときもこんな感じだったっけ。
食い入るような視線に邪魔されて上手く服を着れなかったのを、今でもよく覚えている。

 マリカの視線を誤魔化すため、昔のことを思い出しながら対の剣を鉄鞘に挿し換える。
刀身が完全に鞘に仕舞われる瞬間、カチンと小気味良い音と感触が伝わってきた。安い革物では味わえない感触だ。

「……と。ど、どうかな?変じゃない?
…やっぱり鉄製はいいね。すっぽり剣が収まる感じがする」

 彼女に背を向け、腰の部分で交差されている鞘を見せる。……なんだか少し気恥ずかしかった。

「………」
 それを堪えて尋ねてみたというのに。
マリカはぼうっとしていて返事を返して来なかった。

「あ、あれ?マリカ……?付けてみたんだけど……おーい?」
「え?…あ、ああ。まぁ悪くは、ないぞ。少しは騎士らしくなったかも知れないな」

 そんな生返事の後、目線を逸らしてコホンとひとつ咳払い。
……なんでマリカが恥ずかしがるんだ?

「そ、それより、重さはどうだ?
いきなり鉄製に変えたんだ、動きを阻害される感じがする……なんてことはないか?」

「いや、ちょっと違和感あるけど、これくらいならすぐ慣れると思う」
 鞘に収まる感触が心地よくて何度も抜き挿しする。
カチンカチンという音にしばし陶酔。

「……?何をしている?」
「いやぁ……この抜き差しが凄く気持ちよくて……クセになりそうだなって」

 剣を抜いて。
シュッ。
 挿して。
カチン。
 抜いて。
シュッ。
 挿し―――

「……マリカ?どうしたの?なんか顔が赤いけど……」
「……やかましい」

 マリカが少し紅潮した顔で剣柄を眺めていたので、不思議に思って尋ねたのだが。
なぜか怒られてしまった。

「まあ、ともかく。おかげでいい門出になりそうだよ。
大切に使わせてもらう。ありがとう、マリカ」

「ふっ…。あぁ、是非そうしてくれ」
 俺から麻布を受け取り、彼女は微笑む。

「さて、と。明日は早いからそろそろ部屋に戻るよ」

「確か、早朝出立だったな?すまないが見送りはできんぞ?」
「ん、大丈夫だよ。部隊はまだ解散してないんだ。そっちを優先した方がいい」

「……代わりと言ってはなんだが。
ウィル、ちょっとこっちへ」

 ちょいちょい、と指で俺を招き寄せるマリカ。
その仕草がかなり優しげだったのが、正直言ってかなり不気味だ。

「な、なに?」
 おっかなびっくり、首を竦めつつ彼女に近づく。
話をするには近すぎるその距離。こちらの鼓動が向こうの耳にも届きそうだ。
拳が飛んでくればとても避けられる自信がない。
でもこの距離なら剣を抜かれることはないから斬りかかられるよりはマシか。
というか、そもそも俺はマリカに殴られるようなことしたっけ、いや待て、ついさっき怒らせたば―――

 そんな風に割と失礼なことを考えていたら。

「あ……」

 マリカが俺の背に手を回していた。
少し驚いたけど、彼女が着てる鎧のおかげで変にマリカの"女の子"の部分を感じなかったのは幸いだった。
……なんとか声が上擦るだけで済んだ。

「……ちょっと、あの、マリカ?
これはいったい……なんの……うっ!?」

 前言撤回。
彼女の髪が俺の首筋を撫でた。ぞわりと気持ちいいような、気持ち悪いような鳥肌が全身を走る。
 こういうときはホントに困る。
普段は甲冑と男勝りな性格の陰に隠れて見えない、彼女の女の部分。
それが不意打ちまがいに表に出てくると、何でもないはずの事でも妙にドキッとしてしまうわけで。
早いところ彼女を引き放さないと俺の心臓がもたない――そう思って、凝り固まった両腕を彼女の肩に掛けようとした瞬間。

「―――貴公に、ヨセフの加護があらんことを」

「……え?」
 俺に抱擁したまま、マリカはこの国を建国した初代国王の名を囁いた。
兵士となった家族を見送る際、この国でよく使われる祈りの言葉だ。
残された者が、旅立つ者の無事を祈る言葉。

「お前のことだ、このようなしきたりの類は何も済ませていないのだろう?」
 背中に回された彼女の手に、僅かに力が篭る。辛うじて聴こえる彼女の囁き声はほんの少し掠れていた。
「ま、まぁ……そうだけど」
「まったく…このうつけが。こういうことは大事だと、いつも言っているだろう」
 やっぱり彼女の声は、少し掠れていた。

「元気でな、ウィル」
「……うん。マリカも」

 シャロンちゃんといい、マリカといい。少しナーバスになりすぎだ。
知り合ってたった一月ちょっとの人間に。
おかげで俺も少し―――。

 なんだかんだで結局後ろ髪を引かれる気分になっている自分に気付いて。
それを誤魔化すように、俺もマリカの背中に手を回した。
今回は以上です。
934名無しさん@ピンキー:2007/04/18(水) 03:28:57 ID:zh573g32
投下ラッシュが来たから立てておいた
嫉妬・三角関係・修羅場系総合SSスレ その34
http://sakura03.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1176833744/
935名無しさん@ピンキー:2007/04/18(水) 03:34:31 ID:wHWIxvHK
>>933GJ!!
やっぱりあんた最高だぜ!
936名無しさん@ピンキー:2007/04/18(水) 03:44:19 ID:GuXhYDnx
ひさびさの投下ラッシュktkt
937名無しさん@ピンキー:2007/04/18(水) 13:59:06 ID:kWMngpSI
投下はいいが駄作ばっかじゃなー
938名無しさん@ピンキー:2007/04/18(水) 14:10:12 ID:3GBZwSqX
イヤッホオオオオオオオオオオオオオオオウ!


ウィリアムエロいよウィリアム
939名無しさん@ピンキー:2007/04/18(水) 15:19:25 ID:PGUgNwA+
>>937
日本語がおかしいですよ
940名無しさん@ピンキー:2007/04/18(水) 17:25:06 ID:8dq8Eham

                   γ⌒丶    I don't know, but I've been told
                  / =O=ヽ     Eskimo  pussy is mighty cold!
                  ̄(,,゚Д゚) ̄   Mmm good! Feels good!
                   /”つ C′    Is good! Real good!
                  人 Y        Tastes good! Mighty good!
             (( (( (__(__)         Good for you! Good for me!

                   ____    ____    ____    ______o
                  L__o__|_ L__o__|_ L__o__|_. /      /
  Haa Haa Haa        (,, ´∀`)  (,, ´∀`)  (,, ´∀`)  /____/
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    L__o__|_      L__o__|_ L__o__|_ L__o__|_   L__o__|__/
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  >>937↑         人  Y    人  Y   人  Y
        (( ((  (__(_)   (__(_)   (__(_)
           ZUM!  ZUM!  ZUM!
941名無しさん@ピンキー:2007/04/18(水) 17:43:34 ID:Zzm1I1b4
>>934
明らかに早えよハゲ
942名無しさん@ピンキー:2007/04/18(水) 17:55:55 ID:RxfskdRx
>>937
>>941
せっかく投下が来てるんだ、皆絶対に手を出すなよ!!
943名無しさん@ピンキー:2007/04/18(水) 20:13:21 ID:zWbYE+1K
テンプレ改変までやるとは姑息な。ガン無視放置でOKだっけか、こういう場合。
944名無しさん@ピンキー:2007/04/18(水) 20:27:34 ID:fMWSdikt
別にイイジャナイ

まあ、今更かもしれないけどテンプレ書き込みしとけばいいだろうよ
945名無しさん@ピンキー:2007/04/18(水) 20:35:12 ID:XJNxObI1
”なるべく”ってのがはいってるからそこまでギャーギャーいうほどでもないだろ
946名無しさん@ピンキー:2007/04/18(水) 21:00:39 ID:RxfskdRx
誰かここに正規のテンプレ貼ってくっれないか?
お願いします。
947名無しさん@ピンキー:2007/04/18(水) 21:05:13 ID:XJNxObI1
>>3みろ
948名無しさん@ピンキー:2007/04/18(水) 21:15:47 ID:RxfskdRx
>>947
いや、>>3なのか>>5なのか迷ってるんだ・・・
よかったら教えてくれまいか
949名無しさん@ピンキー:2007/04/18(水) 21:22:28 ID:YKzJ9wuf
両方使っちゃっていいと思うよ
重複する部分も有るけど

あと君は941に謝っとけ
950名無しさん@ピンキー:2007/04/18(水) 21:37:10 ID:RxfskdRx
>>949
有難う。ちょっと今から必要だったもので・・・

あと>>941
疑心暗鬼になって馬鹿なこと書いてしまって本当にすいません。
951名無しさん@ピンキー:2007/04/18(水) 21:51:45 ID:RxfskdRx
今回のスレ立てでは色々と批判・非難が出ていたようなので、こちらに来て頂ければ幸いです。
一応まだ作者さんは来ていない様なので・・・

嫉妬・三角関係・修羅場系総合SSスレ その34
http://sakura03.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1176900238/l50

952サイコロ ◆CM02jdYOrY :2007/04/18(水) 22:00:40 ID:RxfskdRx
身分証明です
953名無しさん@ピンキー:2007/04/19(木) 21:33:29 ID:QoyljwK3
滑稽だな
954名無しさん@ピンキー:2007/04/19(木) 21:36:13 ID:1OGQLC+4
ウコッケイだな
955 ◆y5NFvYuES6 :2007/04/20(金) 00:39:25 ID:WDy9haoV
申し訳ありません。
予想より長くなってしまった為、一日遅れました。
後編投下します。
956 ◆y5NFvYuES6 :2007/04/20(金) 00:40:11 ID:WDy9haoV
二段ベッドの下段にショートカットの女の子。美香。
2つ並んだ勉強机。その1つの椅子にツインテールの女の子。有香。
部屋はペアになっている物が多く、2人の少女のそっくりな容姿と相まって全てがペアになった不思議な空間となっている。
今この女の子らしい可愛らしい部屋には似つかわしくない空気が漂っている。
それは部屋の主である2人の少女の真剣な眼差しと、その背後から滲み出ているかのようなどす黒いオーラによるものであろう。
先に口を開いたのはツインテールの女の子だった。

「で、どうやってあいつを巧君から離すかだけど…。」
「うーん、正当にいってもあいつ結構頭いいから…。」
「こういう時は作戦を考えるのよ!」
「作戦………。」
有香と美香はそっくりな顔で暫く宙を仰ぎ、考えを巡らせていた。
と、美香がゆっくりと口を開く。
「…こんなのはどう?」
「なになに?」
有香はわくわくしながら顔を近づけ、美香の思いついた言葉を待つ。
「今度巧君と出かける約束あったでしょ?その時に、あいつだけ違う電車に乗せるの。」
どうだ!と、自信満々に言い放つ。
だが有香の表情はどこか不満そうだ。
「…つまんない。」
「はぁ?」
「つまんないわよそんな作戦!」
「つまんないってあんたねぇ……。」
「そんな作戦却下!だ〜い却下!」
腕で大きくバツを作り、断固拒否の意志を貫く。
美香は呆れの篭った大きな溜息をつく。
「じゃああんたは何かいい作戦思いついたの!」
「ふんっ、当然じゃない。」
「言ってみなさいよ…。」
不満気な顔でベッドに座りなおし、腕を組む。
「聞いて驚くんじゃないわよ……。」
「う、うん…。」
ごくりと生唾を飲み込み、何を思いついたのかワクワクしながら言葉を待つ。
957小さな恋の嫉妬物語・後編 ◆y5NFvYuES6 :2007/04/20(金) 00:41:06 ID:WDy9haoV
「あいつをダンボールに入れて、誰かに拾ってもらうの!」
「……。」
美香は呆れと落胆の表情で有香を見つめる。
「な、何よ、『拾ってください』って書けば誰か拾ってくれるでしょ!」
自分を見つめる目に呆れが篭っているのに気づいたのか、慌ててフォローする。
が、逆効果であったらしく、美香の呆れの色は益々濃くなる。
「…あんたばっかじゃないの。」
「なっ!バカにバカって言われたくない!」
「犬猫じゃないんだから、そんなのに引っかかる奴いるわけないじゃん。」
「う…、でももしかしたら拾ってくれるかもしれないじゃない!」
「ありえない!」
「そんな事無い!」
2人はそっくりな顔を近づけ、互いに睨みつける。
「……じゃあいいわ、妥協してあげる。」
「妥協って………まあいいけど。」
このまま喧嘩を続けていても平行線になるだけというのは互いによく解っているらしく、喧嘩は中断する事となる。
「あとは、あの子を教会に預けるとか!」
「教会?」
何故教会が?と、美香が疑問を持つのも仕方が無いだろう。
それ程有香の発言は意味不明だった。
「漫画とかでよくあるじゃん。教会で拾われた子が施設で育って〜…っていうやつ!」
「あんたさぁ…。」
今回二度目の、大きな溜息を吐き出した美香であった。
「これなら文句ないでしょ!」
美香とは対照的に、胸を張って自信満々の有香。
「文句っていうか、どこから突っ込んだらいいのかわかんないよもう。」
「む、それどういう意味よ。」
「その通りの意味!あんたの作戦どれもダメ過ぎ!!」
「なっ、なんですってぇ!」
「どれも実行したら警察に保護されて終わりでしょ!」
「…そ、そう?」
「そう!!」
途端に自信がなくなったのか、有香はしょんぼりして心なしかツインテールの跳ね具合も悪くなったような気がする。
「もう私の作戦に決めるからね。」
「な、なんであんなパッとしない作戦なのよぉ…。」
「文句言わない!あんたの作戦は穴だらけなんだから私の使うしかないじゃん。」
「……むぅ……わかったわよぉ……。仕方ないから妥協してあげるわ!」
不満そうにフンッと鼻を鳴らし、美香の立てた作戦に同意せざるおえない現実を受け入れる。

かくして、双子の作戦は決まったのであった。
958小さな恋の嫉妬物語・後編 ◆y5NFvYuES6 :2007/04/20(金) 00:42:09 ID:WDy9haoV
数日後―――。

「巧君早く〜!」
「早く来ないと置いてくよー!」
「ま、待ってよぉ……。」
「にいたんまってまって!」
有香、美香、巧、遥の4人は電車の改札を走りながら通っていく。
美香の手には可愛らしい袋がぶら下がっており、買い物をしてきた帰りだというのが窺える。
だが4人が駆けるのにはまだ若干時間が早い。
まだ電車が発車する時間ではない筈だが…これこそが、双子の立てた作戦の一端であった。

「もー、早いよ2人とも…。」
走るのが遅い遥を抱えながら、階段を駆けてきた巧は息を切らし、その様子を遥が心配そうに見ている。
「にいたんいじめるのだめ!」
頬をむっと膨らまし、双子を睨む。
双子はそんな遥には目もくれず、目当ての電車を目で追う。
双子の目が1番線のホームに止まっている電車で止まる。
どうやらこれが目当ての電車のようだ。
「ほら、電車来てるよ。」
「早く乗ろうよ。」
双子は互いの顔を見合わせると、巧の腕を強引に掴んで電車へと乗せる。
そのすぐ後から遥がとてとてとついてくる。

4人は一番前の車両に向かう為歩いている。
それは作戦の為であった。
車内には人が殆ど居ず、巧はその様子を見て首を傾げる。
「ねぇ、ホントにこの電車で合ってるの?」
双子は動揺を表に出さぬよう勤め、笑顔を浮かべながら。
「「気のせい気のせい。」」
なんとか巧を安心させようとする。
巧は2人の動揺に気づきもせず、言われた事を鵜呑みにして安堵の表情を浮かべる。
「そっか、僕の気のせいだったんだね。」
双子はほっと胸を撫で下ろす。
959小さな恋の嫉妬物語・後編 ◆y5NFvYuES6 :2007/04/20(金) 00:43:13 ID:WDy9haoV
「…ああぁぁぁ〜〜〜〜!!」
突然、有香が少々わざとらしいすっとんきょんな声を上げる。
その声は車内に響くが、そもそも車内に人影はあまりなかったせいか、注目される事も無く。
ただ、巧、遥を除き、その声に驚く者はいなかった。
「有香ちゃんどうしたの?」
「あ、あのね、私の買った物がないの……もしかしたらどっかに落としたのかも。」
確かに有香の手にあった可愛らしい袋はいつの間にか無くなっている。
「大変じゃない!急いで探そう!」
「そうだね、折角買ったものだし。」
3人は落としたであろう物の話題でいっぱいだったが、1人興味なさそうに持参したお菓子を食べ始める遥。
「ねぇ、もうすぐ電車出ちゃうから3人で探しに行かない? 遥ちゃん可哀想だし…。」
「それもそうだね。 遥、ちょっとの間待っててくれる?」
遥は巧に話しかけられるとやっと3人の方を見て。
「うん、はるかまってゆよ。」
にっこり、可愛らしく微笑む。
巧はその笑顔を見て安心した様子で。
「じゃあ待っててね。すぐ戻ってくるから。」
遥の頭を優しく撫でる。
双子はその様子を内心憎らしく思いながら、作戦実行の為にさっさと歩き出す。
2人を追うようにして巧もすぐ後ろからついていく。

3人は車内をくまなく探すが、目当てのものは一向に見つからなかった。
それもその筈、その袋はホームに有香が置いてきたのだった。
これこそが双子の作戦。
電車が発車するギリギリに袋を発見し、それを取りに行くと電車のドアは閉まり。
残された遥1人だけが家の反対方向に行く事となる。
双子は小声で会話をする。
「ねぇ、この電車どこに行くの? 遠くじゃないとあいつ戻ってきちゃうかもよ。」
有香がツインテールを揺らしながら囁く。
「その辺に抜かりは無いわ。 山鈴村って辺鄙な村に行くみたいだからこの電車。」
美香がショートに切り揃えた髪を揺らしながら囁く。
「ふふふ…あいつの泣き叫ぶ声が聞こえるようだわ…。」
「巧君を独り占めした罰よ…。」
双子は10という歳には似つかわしくない黒い笑みを浮かべながら、想像の中の泣き叫ぶライバルを嘲笑う。
「そろそろ時間ね……いくわよ美香!」
「いつでもいいよ…有香!」
そして、作戦決行の時がやってきた。
960小さな恋の嫉妬物語・後編 ◆y5NFvYuES6 :2007/04/20(金) 00:44:06 ID:WDy9haoV
「あああーー!」
有香がホームを指差す。
「どうしたの有香!」
少しわざとらしく美香が駆け寄る。
「あったー!あったよ巧君!」
「よかったね有香!巧君、行こう!」
2人は後ろに居た巧に向かって振り向く。
――が、そこには後ろに居たであろう巧は居なかった。
2人は目を丸くし、固まる。
だがその2人をもっと驚愕させるものが目に映る。

「おーい!有香ちゃん美香ちゃん!」
巧の声が背後から聞こえ、2人は急いで振り向く。

何故かホームに居る巧の姿と…その手には探していたはずの袋。
そして、その隣には罠に嵌めようとした筈の遥の姿が…。

プルルルルルル―――――。

扉が閉まるベルが聞こえ、2人を乗せたまま電車のドアは閉まり、目的に地に向かう為電車は走り出した。
その間2人は固まったままだった。
2人が現実を理解したのは電車が走り出してからであった。
最後に見たホームの2人は、1人は慌てた様子で電車に駆け寄ろうとし。
もう1人は可憐な、歳相応の笑顔を浮かべ、双子に向かってその小さな手を振っていた。

「「なんなのよぉぉぉぉーーーーーーーーーー!!!!」」

双子の絶叫は車内に響き渡った。
961小さな恋の嫉妬物語・後編 ◆y5NFvYuES6 :2007/04/20(金) 00:44:49 ID:WDy9haoV
その後、山鈴村に到着した双子は泣きながらホームの周りをうろつくが、人一人来る事は無かった。
日も暮れ、辺りがオレンジ色に染まってくると1人の女性が彷徨っている双子に気づいた。
その女性は双子に事情を聞き、警察へと連絡を取ってくれた。
そして双子はその女性から色々な話を聞いた。
泥棒猫の撃退方法、好きな男の子への誘惑方法等等…。
およそ10歳の子供では理解できないであろう内容ではあったが、2人は真剣に耳を傾けた。
警察が到着し、別れ際にその女性はこういった。

「大丈夫だよ、男の子は女の子の身体には弱いの。だから2人とも、女の武器はちゃんと使うんだよ。」

その言葉は双子の頭にしっかり刻み込まれた。
女性は花のような笑顔を浮かべ、栗色の髪を揺らしながら振り向く事無く帰っていった。


家に帰ると両親にこっぴどく怒られ、翌日には学校中に知れ渡る事となっていた。
誰か……恐らく遥が流したであろう噂話は、双子をしばらく笑い者にさせたのだった。

だが双子は諦めてなどいなかった。
巧を遥から引き離す、その心は忘れず。
2人はいつもの、喧嘩の耐えない日々へと戻ったのであった。
962 ◆y5NFvYuES6 :2007/04/20(金) 00:46:18 ID:WDy9haoV
最初に題名を入れるのを忘れていました…申し訳ありません。
では、また。
963 ◆y5NFvYuES6 :2007/04/20(金) 00:58:53 ID:WDy9haoV
すみません、誤字発見です…。

×美香の手には可愛らしい袋がぶら下がっており、買い物をしてきた帰りだというのが窺える。
○有香の手には可愛らしい袋がぶら下がっており、買い物をしてきた帰りだというのが窺える。

本来はこうでした。
申し訳ありません…失礼いたしました。
964名無しさん@ピンキー:2007/04/20(金) 01:11:57 ID:QoMzoQYC
しょーもねー話だな。
一回死んでこいや
965名無しさん@ピンキー:2007/04/20(金) 01:23:05 ID:d7AE/jq1
>>962
GJ!
wktkしながら続きを待つぜ
966名無しさん@ピンキー:2007/04/20(金) 01:40:18 ID:xGfmEyOX
>>964
まだ、やってんのか? いい加減に呆れて物が言えないな
967名無しさん@ピンキー
こういった短編物もいいな、また次も書く時も期待してるよ