ニトロプラスでエロパロ

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1名無しさん@ピンキー:2007/03/27(火) 01:18:27 ID:XX7TL+EI
総合はないようなので立てました。
2名無しさん@ピンキー:2007/03/27(火) 01:35:24 ID:4ce53RxY
おらおら、WWF(World Wide Fund for Nature:世界自然保護基金)の
愛くるしいパンダ様が>>2ゲットだぜ! 頭が高いんだよ、ボケ!

.         ,:::-、       __     >1 クソスレ建ててんじゃねーよ。ビンスみてーに裁判で潰しちまうぞ。
    ,,r   〈:::::::::)    ィ::::::ヽ    >3 >>2ゲットも満足にできねーお前は、俺の着ぐるみ着てプラカード持ってろ(プ
  〃   ,::::;r‐'´       ヽ::ノ     >4 お前はカキフライのAAでも貼ってりゃいいんだよ、リア厨ヒッキー(プ
  ,'::;'   /::/  __            >5 汗臭いキモヲタデブは2ちゃんと一緒に人生終了させろ、バーカ。
.  l:::l   l::::l /:::::)   ,:::::、  ji     >6 いまさら>>2ゲット狙ってんじゃねーよ、タコ。すっトロいんだよ。
  |::::ヽ j::::l、ゝ‐′  ゙:;;:ノ ,j:l     >7 ラッキーセブンついでに教えてやるが、俺はストーンコールドが好きだぜ。
  }:::::::ヽ!::::::::ゝ、 <:::.ァ __ノ::;!     >8 知性のねーカキコだが、お前の人生の中で精一杯の自己表現かもな(プ
.  {::::::::::::::::::::::::::::`='=‐'´:::::::::/      >9 つーか、自作自演でこのスレ盛り上げて何が楽しいんだ?
  ';::::::::::::ト、::::::::::::::i^i::::::::::::/      >10-999 WWEなんか見てるヒマがあったら、俺に募金しろカスども。
.   `ー--' ヽ:::::::::::l l;;;;::::ノ       >1000 1000ゲットしたって、WWF時代の映像物に販売許可は出さねーよ。
        `ー-"
3名無しさん@ピンキー:2007/03/27(火) 05:51:17 ID:6WYlVtBz
□ファントム-PhantomofInferno-
□吸血殲鬼ヴェドゴニア廉価版
□鬼哭街-TheCyberSlayer-
□"Hello,world."
□斬魔大聖デモンベイン-DeusMachinaDEMONBANE-
□沙耶の唄
□PHANTOMINTEGRATION
□天使ノ二挺拳銃
□塵骸魔京 
□刃鳴散らす
□戒厳の野望
□戦国剣鬼ハナチラス
□サバト鍋
□機神飛翔デモンベイン(全年齢対象)
□斬魔大聖デモンベイン-DeusMachinaDEMONBANE- DVD版
□"Hello,world." DVD版
□字祷子D
□月光のカルネヴァーレ
4名無しさん@ピンキー:2007/03/27(火) 23:57:44 ID:8xF1Y556
エロゲは板違い
5名無しさん@ピンキー:2007/03/28(水) 02:57:38 ID:oalM2Zxx
移植されてるしいいんじゃないの?
6名無しさん@ピンキー:2007/03/29(木) 14:59:14 ID:Bh6Hs+5O
エロゲのエロパロってアリなのか?
7名無しさん@ピンキー:2007/04/02(月) 04:28:26 ID:oIOXwMfi
原則無し。

…が、「漫画・アニメ・小説とか全年齢化してるから」
で言い訳してるエロゲが多い。多分。

まあ実際デモベスレもあるし各作品乱立するよりは
まとまったほうが過疎らないしいいんじゃないか?
8名無しさん@ピンキー:2007/04/03(火) 16:51:31 ID:04eqiJ73
アンナさん待ち
9名無しさん@ピンキー:2007/04/08(日) 00:00:44 ID:NuwKA0Ix
モーラ待ち
10名無しさん@ピンキー:2007/04/08(日) 00:06:32 ID:CsUGejgo
エレン待ち
11名無しさん@ピンキー:2007/04/10(火) 22:30:33 ID:B9oSxnCY
さや待ち
12名無しさん@ピンキー:2007/04/11(水) 04:37:27 ID:AiedqDZW
 夜風の冷たさが肌を刺すのを意に介さず、タバコをふかすのも忘れ、ロメオはペルラ
が居住する移動車の前をしきりに右往左往する。
 苛立ちと動揺を隠せない彼の様子を、イリスとコルナリーナは遠くから見守っていた。

「ルナリアお姉ちゃん、大丈夫かな」

「杞憂が過ぎますわね。あの程度で壊れるほど小娘は脆く出来てはいませんわ」

 つい数時間前の出来事だった。
 人形曲馬団チルチェンセスは人里離れた平野で突然、狼の集団におそわれた。
 人狼殺しの兵器である銀貨(アルジェント)を率いて、ロメオがはぐれ狼を殺し回っ
ているという噂は、組織崩壊後ヨーロッパ各地に散った狼たちに知れ渡っている。
 組織の裏切り者であり同胞殺しでもある男を憎悪する彼らは、徒党を組んで襲撃して
きた。
 予期せぬ深夜の襲撃に怯むことなく、ロメオと銀貨たちは善戦した。
 かつてオルマ・ロッサの幹部と互角以上に戦った彼女たちを相手に、烏合の衆にすぎ
ない狼たちは攻撃の連携も碌にとれず倒されていく。
 だが、追い詰められた残り五匹が、満月の光を全身に浴びて獣性を開放させた。
 彼らの狙いは最初から命を捨てる特攻にあった。
 はぐれ狼たちとチルチェンセスの死闘は五対五の様相をみせ長期化していく。
 狼勢のうち一匹が、懐古時計(サポネッタ)で己を拘束していたペルラを鎖ごと強引
にたぐり寄せ、彼女の腹めがけて鉤爪を繰り出した。
 ペルラは数秘術(カバラ)の援用で破壊されても瞬時に修復する人形だが、この日だ
けは事情が違っていた。
 安息日(サバト)、それはペルラの唯一にして最大の弱点。
 この日だけは護符の刻まれたカチューシャを彼女は装着することができない。
 逆上した狼の強靭な鉤爪は、ペルラの心臓ともいえる円筒(シリンダ)目がけて放た
れる。
 ロメオ、コルナリーナ、イリスの三人はペルラから離れた位置でそれぞれ戦っていた
ため間に合わない。突然の反撃で宙に投げだされ、体勢を立て直せないペルラにとって
致命的な破壊の瞬間が訪れようとした刹那、

「ペルラさん!」

 荒ぶる狼の凶行を阻んだのは、相対していた狼をいち早く片付けたルナリアだった。
 彼女はペルラの体と鉤爪の間に割って入り、自らの体を盾とする。
 代償は大きかった。
 ルナリアは咄嗟に右手でペルラを突き飛ばし彼女の窮地を救った。
 だが狼の鉤爪と超越した腕力を相手に、無理な姿勢だったためルナリアは銀糸で迎撃
することができず、左腕を肩から根こそぎもぎ取られてしまう。
 衝撃で吹き飛ばされ、ゴム鞠のように弾んで転がるルナリアをロメオがみた瞬間、彼
の頭から理性は掻き消えた。
 大地を震わせる野獣の咆哮が平野の一面に轟いた時、むせかえる鮮血と臓物の匂いが
戦いの終焉を告げていた。
13名無しさん@ピンキー:2007/04/11(水) 04:40:52 ID:AiedqDZW
 ロメオは己の不甲斐なさを恥じる。
 大勢の敵に囲まれたときは、味方同士の円陣を崩さず迎え撃つのが定石だ。
 だがほとんどの狼を掃討していたロメオは油断してペルラを孤立させた。
 安息日で自己修復できないペルラの身は、己が体を張って守るべきだったのだ。
 ルナリアを傷つけられ逆上したロメオが、屠った敵の返り血を浴びて理性を取戻した
とき、片腕を失ったルナリアは破損した肩から水銀を大量に流し、ペルラに抱きかかえ
られぐったりしていた。
 自分が代わりになればどれ程良かったか、ロメオは同じ事を何度頭の中で反芻したか
知れない。
 ルナリアは恋人にして獣性を抑える鎖、ロメオにとって彼女を失うことは地獄の業火
で我が身を焼かれるより恐ろしい。
 今ルナリアは、曲馬団のなかで唯一人形の修理ができるペルラの手に委ねられている。
藁をもつかむ思いでロメオはルナリアの無事を祈る。イリスとコルナリーナは憔悴して
いる彼に声をかけることができない。
 重い沈黙がいつまでもつづくかとおもわれたその時、

「終わりました」

 ドアの向こうから、安堵したかのようなペルラの声が響きロメオの耳に入る。
 本能が意思よりも速く彼の体を動かし、ノックすることも忘れてロメオは移動車に飛
び込む。

「ルナリア、大丈夫か! ……あ」

「後は皮膚を修復いたしましょう。……ロメオ様」

 ロメオは冷や汗を滝のように流して石化する。
 部屋の中央におかれたテーブルには調律棒などの修理工具が整然とならべられ、ペル
ラはルナリアの左側に座って千切られた腕の接合作業をしていた。
 それだけならば良いのだが問題なのはルナリアの格好だった。
 肩から腕をもぎ取られたためルナリアは上の服および下着まで脱いでいた。
 即ち彼女の上半身は裸である。
 白磁のような肌が双丘を柔らかくつつみ、膨らみの中心にはピンクの可愛らしい突起
が顔を覗かせている。健全たる男ならば垂涎ものの光景だが、ロメオにそれを楽しむ余
裕は微塵もない。
 額に青筋を浮かべたルナリアの背後から燃えさかる怒りの炎、死亡確認の予感がロメ
オの脳髄を駆け巡る。

「まあ、その、なんだ、不可抗力だ」

「一秒で死んでください」

 それなりの固さを持つ物体を複数単位で雨霰のように投げつけられたロメオは、ほう
ほうの体で移動車から叩きだされた。
14名無しさん@ピンキー:2007/04/11(水) 04:44:31 ID:AiedqDZW
 不埒者を追い出しても治まらない怒りで身を振るわせるルナリアを余所に、ペルラは
散乱した時計や道具をため息つきながら片付ける。

「仲がよろしいのですね」

「どこがですか」

 大暴れして疲れたルナリアは椅子に座りなおし、再びペルラの修繕に身をまかせた。
 歯車と導線の露出している肩に、人工皮膚を張り直していくペルラの繊細な手際は見
事だ。
 熟練された動作にルナリアは眠気を誘われるような心地よさを覚えた。

「どうして、私を助けたのですか」

 まどろみの風船を針で割るような問いが、ペルラの口から零れ出る。

「私は、お姉様を奪ったロメオ様と貴女を今でも許せません。
 そのことは貴女も重々承知のはずでしょう」

 作業を続ける手は休めず表情にも変化はないが、真珠の瞳は感情の高ぶりをあらわす
かのように揺らめいている。
 ルナリアは予期せぬ質問に虚をつかれたが、ペルラの真意を理解すると月長石の瞳を
真っ直ぐ彼女に向けた。
 過去、二人はお互いを破壊しようとまでして戦った。ペルラが姉と慕った人形をルナ
リアは奪い、両者の間には未だに埋められない深き溝がある。
 ルナリアの答え如何によっては、ペルラは懐古時計をふるい凶行におよぶかもしれな
い。
 だが、それでもルナリアは逃げない。
 背負った罪を少しでも贖うためには、ペルラとの対峙が不可避だと悟ったからだ。

「確かに、ペルラさんの存在は私にとって脅威です。
 私は円筒が動くかぎりロメオさんの傍にいるつもりです。
 途中で破壊されるわけにはいきませんから」

「では何故」

「彼女なら、絶対に家族を見捨てたりはしない。
 貴女を助けたのはアンナさんです」

 ルナリアの手が、自分の腹部を優しくさするように撫でる。
 彼女の体内にはアンナの円筒が埋め込まれている。
 大切な宝石を慈しむような仕草を、ペルラはわずかな驚きと遣り切れぬ切なさを瞳に
こめて見つめた。

「だから、今回のことでペルラさんが私に気負う必要はありません。
 私は自分の幸せが一番ですから」

 己の咎と向き合い、ルナリアは胸の内を全てペルラにさらけだした。
 ここでペルラの放つ刃に切り裂かれても彼女は微塵も後悔しない。
 彼女に心残りがあるとすればそれは、己の消滅でロメオを悲しませ、彼を幸せにする
というアンナとの誓いを反故にしてしまうことだ。
15名無しさん@ピンキー:2007/04/11(水) 04:47:30 ID:AiedqDZW
 ペルラは修繕を終えると工具を綺麗に片付けはじめた。
 彼女がルナリアの告白に対してどのような結論を出したか、いつもと変わらぬ調子で無
機質に作業をすすめる様子からは推し量ることが出来ない。

「ルナリア、貴女の罪は未だに許し難い」

 工具箱を持ってペルラは徐に立ち上がる。

「お姉様のことを忘れないでください。それが貴女の償いです」

 背を向けたまま投げかけられたペルラの回答に、ルナリアは陽炎のような淡い微笑で
応えた。
 わだかまりという氷塊は、未だ二人の人形を阻んでいる。
 だがいつかは春の陽気にあてられて、溶ける日が来るだろう。

「……入っていいか」

 奏効しているうちに外で待ちくたびれている人狼が、今度は慎重にノックしながら呼
んでいる。彼の声に反省の色を感じとったルナリアはロメオを許すことにした。

「どうぞ」

 青痣で顔中腫れているロメオが部屋に入ってきた。
 ルナリアは修繕の終えた肩を、彼の前で自由に動かしてみせる。
 気丈な彼女の姿をみて疲れた笑顔をみせるロメオは、心の底から安堵した様子だ。
 ロメオは完璧な修繕をしてくれたペルラの確かな腕に敬意を表すように、彼女に深々
と頭を下げた。

「ペルラありがとう。本当にすまない」

「ロメオ様、損壊したのはルナリアです。
 最初に声をかけるべきなのは彼女のほうではありませんか?」

 辛辣ともいえる強い口調でペルラは頭を下げた男を諭す。今回女性陣に遅れをとって
ばかりいるロメオは、頭を掻きながら気まずそうに薄く笑う。
 ルナリアは幾星霜も時を経たように老け込んでいる彼の顔をみて驚いた。
 精神的な重圧が彼をそこまで追い詰めたのかと想像すると、ルナリアは己の胸が張り
裂けそうになる衝動を覚える。
 ペルラがさっきまで座っていた椅子を動かして、ルナリアはロメオを自分の隣に座ら
せた。
16名無しさん@ピンキー:2007/04/11(水) 04:49:54 ID:AiedqDZW
 未だ打ちひしがれ、慙愧の念に体を震わせる男の両手に、ルナリアはそっと自らの両
手を重ねた。彼女の細やかな心遣いを、ロメオは素直に受け取る。

「私を失うのが、怖かったですか?」

「怖かったに決まってるだろ」

 アンナを失い、ノエルに見限られ、かつての仲間からもロメオは見放された。
その原因が自分にあることを承知しているルナリアは、ロメオの手を労わるように握る
と、自分の腹部へ彼の指先を導いた。
 ロメオの指に伝わってくる旋律、かつてアンナが奏で、今はルナリア自身が響かせる
音楽が其処にあった。
 心臓の鼓動を刻むような儚い音色に、狼はこの上ない安らぎを覚える。

「約束します。私はロメオさんが死を迎えるその日まで、絶対に壊れません」

「頼む。もう無茶はしないでくれ」

 人形(ヒトガタ)と人狼(ヒトオオカミ)は互いを見つめあう。
 いつの間にか二人の距離は縮まり互いの唇が触れ合おうとした直前、ルナリアは唐突
に硬直する。
 完全に置いてけぼりを食らっていたペルラが、鉄面皮にはめ込まれた無機質な双眸で
バカップル二人を見据えていた。
 突き刺すような視線に羞恥で耐えられなくなった二人は慌てて距離を離すと、ロメオ
は場を取り繕うようにタバコをふかし、ルナリアはおもむろに木彫りの人形を懐から取
り出して劇の練習をはじめる。

「私に気を遣わずとも、続きをなさればよろしいかと」

「できるか!」

「無理です!」

「ロメオおじちゃん元気になってる! ルナリアお姉ちゃん直ったんだ!」

「全く、その途端に乱痴気騒ぎとは節度がありませんわね」

 喧騒の輪に外で待ちぼうけをくらっていたイリスとコルナリーナも加わり騒動は泥沼
化していく。
 ロメオが全てを失って再び得た新しい絆は、騒々しくも陽気で彼に生きる力を与えて
くれるのだった。
17名無しさん@ピンキー:2007/04/12(木) 20:54:15 ID:63p9pYXD
GJ!!
18名無しさん@ピンキー:2007/04/12(木) 23:46:04 ID:DbjIXu1Q
>>17
感想ありがとう。
今度は団長END後のロメオと大人ノエルが対決する話を書く予定。
19名無しさん@ピンキー:2007/04/15(日) 13:22:08 ID:Kfkk7rmG

 月明かりだけが頼りの薄暗い寝室で、二つの影が蠢いている。
 透き通った白い肌に玉のような汗を浮かべて、ルナリアは男の欲望を受け止めていた。
 
「ピウス様」

 愛しい主人の名を呼び、押し寄せる喜悦の衝動を人形の少女は必死で受け止めている。
 ピウスと呼ばれた男は少女の喘ぎに耳を傾けることなく、まるで機械のように律動を繰
り返す。人形よりも冷徹で無機質な行為に、情愛の類は一切感じられない。
 無感情なピウスを少しでも慰めようと、いつもルナリアは全身全霊で彼に自分の全てを
捧げた。
 ピウスが狼を掃討せよと命じれば一晩で数十体を血祭りにあげ、ピウスが夜に自分を求
めてくれば微塵の躊躇なく股を開いた。
 彼の命令に逆らったことは一度としてない。それがルナリアの誇りであり自身を縛る楔だ。
 突き上げてくるピウスの動きが速さを上げる。
 唇をかみ、シーツをきつく握り締め、息を荒げてルナリアは快楽の波に耐える。
 ピウスが彼女の体を壊さんばかりにきつく抱きしめるのと同時に、ルナリアは背を弓の
ように反らして歓喜の嬌声をあげた。
 少女の胎内を大量の白濁が満たし、頭の中が隅々まで真っ白くなるような情事の余韻を
ルナリアは堪能する。
 だがそれも束の間、彼女の心にはぽっかりと空洞が開いていた。
 ピウスは事を終えると、顔を紅潮させ肩で息をするルナリアに声をかけることもなく毛
布からでていく。
 ルナリアに背をむけるピウスから漏れ出てくるのは、軸が外れ空回りする歯車のような
嘲笑だった。
 人狼への燃え滾るような憎悪、彼を動かす行動原理は復讐の念ただ一つ。
 ルナリアがどれだけピウスを愛していようと、彼の心には何一つ届かない。
 底なしのクレパスは、埋める術がない。
 終わりの見えない絶望に今日も身を焦がしながら、ルナリアはピウスの背中に身を預けた。
 彼女は報いなど望まない。
 主人に唯ひたすら尽くすことでしか、ルナリアは己の存在意義を見出せなかった。
20名無しさん@ピンキー:2007/04/15(日) 13:23:26 ID:Kfkk7rmG

 暗い過去の回想を終え、ルナリアは意識を現在に戻す。
 円筒(シリンダ)に刻まれた記憶と同じベッドの上、一糸纏わぬ彼女と共に過ごす男は
ピウスではない。
 ぼさぼさの白髪に不精ヒゲをたくわえる狼は、もの思いに耽る人形の顔を怪訝そうに眺
めている。

「考え事か?」

「はい。昔の男を思い出していました」

 ロメオの目を引ん剥かれたような驚愕の表情をみて、ルナリアはおもわず吹き出しそう
になる。
 何かにつけてロメオをからかってしまう悪癖、彼女は当分止められそうにない。

「嫉妬しました?」

「馬鹿言え。昔のことなんか今は関係ないだろ」

「本当に?」

「本当だ」

 会話を強引に打ち切って、ロメオはルナリアの細い体を逃がさないようにきつく抱きし
めた。
 生き方は不器用でも、ロメオは彼女の想いをしっかりと受け止めてくれる。
 狼の胸に抱かれたルナリアは、今の幸せを目一杯噛み締めて瞼を閉じた。
21名無しさん@ピンキー:2007/04/15(日) 13:27:37 ID:Kfkk7rmG
 『ルナリアはピウスに抱かれていたのではないか?』という妄想を具現して投下。
 後悔はしていないかも知れない。
22ロメオとノエルの対決(前編):2007/04/19(木) 14:20:50 ID:UJ0grB4A

 ベッドに横たわるロメオの呼吸は荒く、体は風邪をひいたかのように汗ばんでいる。
 ルナリアは熱が治まらないロメオの額に、冷たい水で絞ったタオルをそっとかぶせた。

「わるいな」

「私は貴方の人形です。気にしないで下さい」

 ロメオの謝辞にルナリアは素っ気ない返事で答えた。
 傍からみれば病気の男を世話する女の何げない一幕、だがロメオが今横臥する理由は   
病気によるものではない。
 ルナリアは白魚のような自分の指先を、ロメオの腹部にそっと添える。

「うっ」

「あ、ごめんなさい!」

 刹那、ロメオは痛みに耐えかねたような短い呻き声を漏らした。
 ルナリアは傷ついた彼に配慮し可能な限り力を抜いて触れたつもりだったが、ロメオ
の負った傷は彼女の予想以上に重傷だったらしい。ルナリアは少しでも彼の苦痛を紛ら
わせようとロメオの手を握った。

 人狼の野趣溢れる大きな手と、人形の繊細で小さな手が重なり合う。
 ルナリアの手の平に伝わってくるロメオの温もり、血の流れている音まで聞こえそう
な生命の証を彼女は感じとる。
 同時に彼女の脳裏を、漆黒よりも爛れた絶望が覆う。
 温もりが消えたとき彼が死ぬという現実を、ルナリアは今も受け入れられずにいる。

「どうして、あのとき私を庇ったんですか」

「奴らはおまえの円筒(シリンダ)を狙っていた。壊されたら取り返しがつかない」

「だからって、ロメオさんが撃たれたら意味ないじゃないですか」

 人形曲馬団チルチェンセスはヨーロッパ各地で興行し、夜は組織から逸れた狼を狩る
という裏の顔を持つ。そんな彼らは必然的に多くの敵をつくってしまう。

 教煌庁直属のAAP(対・退魔特殊部隊)。
 神の名のもとに異端殲滅を掲げるこの組織も敵の一つだ。
 裏社会を仕切っていたピウスを殺し再び権勢を取り戻した彼らにとって、怨敵の銀貨
(アルジェント)を率いるロメオは害獣の一匹でしかない。
 巧妙な罠を組織だって仕掛けてくるAAPは、チルチェンセスにとって狼以上に厄介
な難敵だった。

 ロメオにとり憑いた死神の正体は、彼らの放った銀のライフル弾だ。
 弾はペルラの処置で取り除かれたが、傷に残る銀の聖性は狼の回復能力を阻害し、ロ
メオは未だに生死の境を彷徨っている。
23ロメオとノエルの対決(前編):2007/04/19(木) 14:22:21 ID:UJ0grB4A
「死んだら恨みます」

 ルナリアはいつのまにか自分が涙を流していることに気が付いた。
 体の震えが止まらない。
 ロメオを失うという恐怖で彼女の円筒(シリンダ)は軋みをたてる。
 悲しみに打ちひしがれて俯く彼女の頬を、動くのさえやっとなロメオの左手が触れた。
 彼女の頬を濡らす涙を、ロメオは慈しむように拭う。

「すまない。俺は貧乏籤を引き当てる才能に恵まれているらしい」

「何馬鹿いっているんですか。死ぬには早過ぎます。いくらなんでも早過ぎます」

 最後の言葉が続かない。
 洪水が押し寄せてダムが決壊するように、ルナリアは今まで我慢していた感情を爆発
させてむせび泣く。

「私を一人にしないでください。置いていかないで……」

 人目も憚らず泣きじゃくるルナリアを、ロメオは優しく抱きよせた。
 共に生きていこうという誓いを守れず果てようとしている自分には、彼女を抱擁する
ことでしか慰める術がないというように。

「ロメオ様。大変恐縮ですが、お客様です」

 ドアの向こうから聞こえたペルラの呼びかけが、絶望で覆われた寝室の静寂を破る。
 ペルラは瀕死のロメオと悲嘆に暮れるルナリアの二人に気を遣い、外で待機していた
はずだ。
 時間と礼節には人一倍神経質な彼女らしからぬ浅慮に、ルナリアは若干の憤りを覚えた。

「後にして下さい。今は取り込み中です」

「どうしても今、ロメオ様にお会いしたいと仰られています」

 ドア越しから聞こえるペルラの声は、憤慨しかけたルナリアの感情を冷やすほど真剣
だ。客を部屋に入れるべきか迷ったルナリアは、目線だけをむけてロメオに判断を仰ぐ。
 ロメオは無言で静かに頷く。
 銀の弾が抉った傷痕は確実に彼の生命力を奪っているが、今すぐ死ぬということはない。
 ペルラは客と敵との区別ができないほど愚かではないし、客の方も彼女からロメオの
容態を聞かされているはずだ。それでも会いたいと訪ねてくれた客の想いを、ロメオは
無碍にできなかった。

「わかりました。ロメオさんの好きにしてください」

 ロメオの想いを、連れ添いの功で汲み取ったルナリアは観念する。
 彼女はドア越しのペルラに入室の了承を伝える。
 一呼吸ほど間をおいて、ドアノブが客の手によってゆっくりと回された。
 開け放たれたドアから現れた影、ルナリアとロメオは、入ってきた客の正体をみて愕
然となる。
24ロメオとノエルの対決(前編):2007/04/19(木) 14:24:02 ID:UJ0grB4A
「あなたは」

「……ノエル」

「ひさしぶりだな。この死に損ない」

 ロメオは呼吸するのも忘れて客人の姿に魅入った。
 グレーを基調としたスリーピースで全身を引き締まらせる姿は颯爽とした好青年をお
もわせる。だが、桃色がかったセミロングの髪と、柔らかな線で構成された双眸がその
人物を女性だと認識させた。
 
 ノエル。かつて、ベルモントでロメオと共に暮らしていた人狼。
 ルナリアと共に生きる決断をしたロメオに見切りをつけ、今はマルカントニオのとこ
ろに身を寄せていることはルナリアもロメオから聞かされ知っていた。
 決定的な破局をむかえ別れたはずのノエルが何故今になって現れたのか、いぶかしむ
ルナリアは彼女の意図を読み切れない。
 
 ノエルは遠慮もなくずかずかと部屋に足を踏み入れると、警戒しているルナリアを完
全に無視して歩みベッドの傍に立つ。
 ノエルは歯を食いしばり拳をきつく握り締め、横たわるロメオを睨みつける。
 傍目からみても肌が痛いくらい感じられる怒りと憎悪、ルナリアはノエルの行動に不
穏なものを感じ、髪留めの十字架(パルカ)を両手に構えた。

「何をする気ですか」

 ありったけの敵意を言葉にこめてルナリアは立ち上がる。
 瀕死の主人を守ろうとする人形に、ノエルは今更気付いたというように目線を移した。

「なんだ? おまえと話すことなんか何もないぞ」

「随分と礼儀を知らない人ですね。ロメオさんに手をだしたら貴女を殺します」

 ルナリアの警告にノエルは臆した様子をみせない。
 むしろ視界にいれることすら汚らわしい廃棄物を見るような眼差しで彼女を挑発する。
 一触即発、紫電が迸る様な緊張感で部屋が満たされる。

「止せルナリア。ノエルと話がしたい」

 剣呑とした空気に割って入ったのはロメオの一言だった。
 ルナリアは口を真一文字に結び拒絶の意思をあらわしたが、ロメオの穏やかでありな
がら凄みを秘めた眼差しをあびせられると、渋々得物を引っ込めた。
 ルナリアが構えを解いたのを確認すると、ロメオはノエルに向かって語りかける。

「元気そうだな」

「おまえは死にかけだな」

 ロメオの労いに、ノエルは強烈なカウンターを御見舞する。
 彼女が昔を懐かしみにきた訳でないことを、このやり取りでルナリアは理解した。
 
「どうして、俺がここにいるとわかった?」

「マルカントニオの情報網を舐めるなよ。
 AAPの罠に嵌まった馬鹿な人狼の居場所なんて直ぐに割れるさ」

 ロメオを侮辱する言動ばかり放つノエルに、背後で見守るルナリアは全身を震わせ、
憤りは頂点に達しようとしていた。
 ノエルは背中に感じているはずの怒気を意に介さないかのように、ロメオと話を続ける。
25ロメオとノエルの対決(前編):2007/04/19(木) 14:26:15 ID:UJ0grB4A
「感謝しろよ。
 本当は顔も見たくないおまえを、わざわざ笑いにきてやったんだからな」

 ノエルは腰に手をあてておどける様に嘲笑った。
 他者を見下し方を覚えたノエル、こんな彼女をロメオは今の今まで知らない。
 
「アンナを裏切るからそうなるんだ。ざまあみろ」

「いい加減にしてください。それ以上ロメオさんを侮辱したら」

「ルナリア、いいんだ」

 堪忍袋の緒が切れて銀糸を展開しようとしたルナリアをロメオが止めた。
 ふらふらの体で無理やり上半身を起こそうとしたロメオは肩から崩れ落ちてシーツに
突っ伏す。
 ノエルと対峙していたルナリアはロメオの元へ慌てて駆け寄り、彼の体を支えて負担
を極力かけないようにゆっくりと寝かせた。
 二人の一幕を、本当につまらないものを見る目でノエルは眺める。

「おまえみたいな馬鹿でも昔の馴染みだ。せめてもの情けで引導渡してやるよ」

 ノエルはジャケットのポケットから銀色に光る物体を取り出した。
彼女の得物である小型のナイフ、唐突な凶器の出現にルナリアは驚愕する暇もなくノエ
ルの前に立ちはだかる。

「動けないロメオさん相手に、卑怯者!」

「アンナの体を奪って殺した人形は、卑怯じゃないのか」

 ルナリアの円筒(シリンダ)に、強烈な罵倒の鉄槌が穿たれる。
 かつてルナリアが犯した罪、ロメオを想うあまり彼女がしてしまった咎、決して消え
ぬ怨恨の炎がルナリアの心を容赦なく焼き尽くす。
 ナイフを前方に突き出し、腰を低く落とした姿勢を維持するノエルは距離を徐々につ
めていく。隙のない身のこなしはルナリアに迂闊な反撃を許さない。
26ロメオとノエルの対決(前編):2007/04/19(木) 14:27:23 ID:UJ0grB4A
 刹那、赤い飛沫が舞った。
 ノエルのナイフが切りつけたのは、ロメオでもルナリアでもなく自分の左手だった。
 掌から鮮やかな真紅の血が噴き出る。ルナリアはノエルの自傷の意味を理解できない。
 ノエルは立ちはだかったまま固まったルナリアを乱暴に突き飛ばし、血だらけの手を
ロメオの顔にかざした。

「飲め」

 有無を言わさぬ迫力のノエルに凄まれ、ロメオは彼女に促されるまま血を口に運んだ。
 狼の血が彼の体を駆け巡り、焼けるような熱さにうなされる。
 ロメオを蝕む傷は、時間を過去まで巻き戻されるように塞がった。

「これで貸し借りは無しだ」

 吐き捨てるように呟き、ノエルは傷ついた手の血をハンカチで拭う。
 彼女から血を貰い傷が癒えたロメオは、ゆっくりとベッドから起き上がった。
 ルナリアは事態が飲み込めず床にへたり込んで呆けていたが、ロメオの生還を悟ると
 目の端に喜びの涙を貯めた。

「……ロメオさん、よかった」

 回復したロメオの胸に、ルナリアは我も忘れて飛び込んだ。
 暗澹としていた雰囲気は希望の光に照らされる。
 だがノエルが纏う空気は、未だ抜き身のナイフを連想させるように張り詰めていた。
 
「これで心置きなくやれる」

 血液の中に眠る獣性を呼び覚ますように、ノエルはロメオに殺気を叩きつけた。
 光明が差した雰囲気は一瞬にして消し飛ぶ。

「ロメオ、俺と戦え!」

 ノエルが血を吐き出すように告げたのは宣戦布告。
 かけがえのない家族だった人狼の男と女は、過去と向き合い決着をつけなければならない。
27ロメオとノエルの対決(後編):2007/04/20(金) 01:04:49 ID:mQPo86rl

 とある田舎町に腰を下ろしているチルチェンセスのテントは徐々に遠ざかり、人気のな
い道を選んでロメオとノエルは並んで歩む。
 彼らの間に会話はない。
 初冬の冷たい風だけが、二人の間を裂くように吹きすさぶ。
 そんな彼らの後を追いすがるようにルナリアはついていく。
 
「本当に、私たちは同行できませんの」

「今回のことはロメオ様とノエル様、御二人の問題です。
 私たちが介入する余地はありません」

 コルナリーナに尋ねられたペルラは、ゆっくりと頭を振る。
 夕闇のなか溶け込むように遠ざかる三人の背中を、テントの入り口でコルナリーナは嘆
息をまじえて見送っていた。傍らにはロメオの身を案じ不安そうな目でみつめるイリスと、
ただ無言で見守るペルラの姿があった。

「では、あの小娘だけは何故」

「彼女には、御二人の戦いを見届ける義務があります」

「……貴女はそれで、納得できますの」

「私たちにできるのは、信じて待つことだけです」

 度重なる問いにも毅然と答えるペルラ相手に、これ以上の問答は無駄だとコルナリーナ
は悟る。アンナを実の姉のように慕っていたペルラが、自分の想いを押し殺してまで覚悟
を決めているのならばコルナリーナが口を挟む必要はなかった。
 かつて己がこの世で最も嫌っていた女ルナリアの、今にも罪に押しつぶされそうな背中
を眺め、紅玉髄(コルナリーナ)の瞳は複雑な感情を織り交ぜて揺れている。
28ロメオとノエルの対決(後編):2007/04/20(金) 01:06:15 ID:mQPo86rl
 狭い町並みを一歩でてしまえば、地平線を見渡せるほどの荒涼とした草原が広がっている。
 邪魔するものは誰もいない。一般人を巻き込む心配もない。
 道中ノエルは一言もロメオと会話をかわさなかったが、彼女もこの荒野を戦場として認
めたようだ。その証にノエルは仁王立ちでロメオと向かい合う。

 桃色の髪が燃えるような怒気を帯びてたなびく。
 ノエルは懐をまさぐり、再び銀色の凶器を取り出した。
 ロメオはその正体に息を飲む。
 
「……方尖塔(アグッリャ)」

 先ほどまでノエルが使っていたナイフとは違う左右対称の単純極まる刀身、鋼をそのま
ま削りだして造られたようなその銀器は、かつてオルマ・ロッサの相談役でありロメオの
師でもあったグリエルモの形見だ。
 
「おまえが受け継いだのか」

「まだ扱える腕じゃないけどな。今だけはグリエルモに許してもらう」
 
 アグッリャを突き出すように構えるノエルの姿はかつてのグリエルモを彷彿とさせる。
 ルナリアとの対峙でもみせた隙のない物腰は、決してはったりではない。
 万全の戦闘態勢をとるノエルからただならぬ気配を感じとったロメオは、自らも銀器を
構えた。

 鉤爪(グランフィア)。
 かつて裏切り者の人狼を粛清するために鍛え上げられたロメオの牙。
 剣奴(グラディアトーレ)と呼ばれ讃えられたころの名残を今も残すかの如く、刀身に
刻まれた装飾は華美で、シンプルなアグッリャとは好対称の刃だ。

「ノエル、本当にやるのか」

 刃の輝きとは裏腹に、ロメオの心は儚い蜃気楼のように揺れている。

 ノエルは、彼にとって何者にも代えがたい存在だった。
 方向音痴というタクシードライバーとして致命的な障害を抱えたロメオを、ノエルは類
稀なる博識と記憶力で支えてくれた。
 円筒(シリンダ)の寿命が迫り動かなくなっていくアンナを、ノエルは誰よりも心配し
ていた。
 バンビーノを抜けると決意し、ロメオとはじめた厳しい修練にもノエルは必死で喰らい
ついてきた。
 走馬灯のように蘇るノエルとの思い出は、男の決意を鈍らせる。
 
「アンナの仇だ。いい加減覚悟を決めろ」

 ノエルの叱咤は微塵の容赦もない。
 睨み付ける彼女の瞳は戦いが不可避であることを告げている。

 二人の人狼が道を違えたのはいつからだったのか。
 ロメオがルナリアと生きる道を選択したとき、すでに運命の歯車は狂っていたのか。
 答えは今、この戦いで出る。
29ロメオとノエルの対決(後編):2007/04/20(金) 01:08:17 ID:mQPo86rl
「いくぞ!」

 裂帛の気合を発してノエルが先陣を切った。
 アグッリャを片手持ちに、ロメオの予測を遥かに上回る速さで彼の間合いを侵略する。
 鍛え上げられた脚力を見せつけ、息つく暇もなくノエルは数十回にも及ぶ突きを繰りだす。 

 目にも止まらぬ連撃の嵐、銀の戦慄がロメオを襲う。
 
 ノエルの攻撃はその実、ほとんどが囮だ。
 ロメオの動きを牽制し反撃を封じる蛇のような剣閃の中に、わずか数回だが囮とは段違いの
速さで繰りだされる燕の如き高速の刺突が巧みに混ぜられている。
 それこそが彼女の本命、ロメオが少しでも迷いをみせれば確実に彼の命を断つ脅威だ。
 
 ジリ貧の趨勢を挽回すべく、ロメオは多少の手傷覚悟で暴れ狂う蛇の中に飛び込んだ。
 囮には構わない。急所をねらってくる燕の刺突を確実に迎撃してノエルの懐に飛び込む。
 彼女の命を奪うつもりなどロメオには毛頭ない。
 銀の深手は致命傷だが、実力をあげた彼女を止めるには利き腕を封じるより他はなかった。
 
 切迫するお互いの顔、ロメオは寂寞の想いを必死で噛み殺しながらノエルの右腕を狙う。
 横薙ぎに繰りだされるグランフィアはノエルの反撃を退け、上腕部を串刺しにせんと迫る。
 だが、戦いの終止符を示すはずの血飛沫が舞うことはなかった。
 
 弾いたはずのアグッリャが、グランフィアの猛攻を舞い落ちる木の葉のように受け流した。
 先ほどの激烈な攻めとは打って変わって、ノエルは磨かれた石の如き鉄壁の守りをみせる。
 体格差を生かし力漲る斬撃を繰りだすロメオの猛攻を、ノエルは一つ一つ的確に捌いた。
 
 彼女は受け継いでいる。
 苛烈なロメオの攻撃と静謐なグリエルモの防御、二つの教えを使いこなせるほど習熟し
たノエルに、ロメオは心底感嘆する。
 
「腕を上げたな」

「黙れ!」

 ロメオの賞賛を打ち払い、ノエルは再び激烈な刺突を繰りだす。
 金属同士がぶつかりあう甲高い音は、人狼二人の実力行使による会話だ。
 
 今、ノエルはロメオと互角に斬り合えるほどの手練になっている。
 そうなるまでに彼女は命を削る修練を自らに課し、生き馬の目を抜く修羅場をいくつも
潜り抜けたのだろう。
 
 あの時、ノエルに血を与えるのではなく、彼女を人として葬ってやれば良かったのでは
ないか。ロメオは己の選択にいつも自問自答を繰り返す。
 ノエルに血塗られた道を歩ませてしまったという後悔と慙愧の念がロメオの全身を焼き
焦がす。
 彼の手に握られているグランフィアは徐々に熱を失っていった。
 迷いを断ち切れずに燻る主を、刃は拒絶している。
30ロメオとノエルの対決(後編):2007/04/20(金) 01:10:13 ID:mQPo86rl
「……俺だって、わかってる」

 一心不乱に攻めていたノエルが、唐突に呟いた。
 終始一貫して殺伐とした空気を纏っていた彼女から、僅かな綻びがあらわれる。

「おまえが俺に正体明かせなくて苦しんでいたことくらい、わかってる」

 迎撃を繰り返していたロメオの表情が崩れる。
 過去、親を奪った裏社会を憎むノエルに対し、ロメオは自分の素性を曝け出す勇気をど
うしても持てなかった。

「俺は、おまえとアンナが幸せになってくれればいいって、ずっと願ってた。
 おまえはどうしようもなく不器用で馬鹿だけど、根は優しいこと俺は知ってる」

 ノエルの独白は続く。
 先ほどまで空気すら切り裂くような太刀筋をみせていた彼女の斬撃が、見る影もなく鈍る。

「なのに、なんでだよ……」

 ノエルは泣いていた。

「どうしてそんなおまえが、アンナを見捨てたんだよ!」

 魂の叫び、ノエルの慟哭はロメオの心を容赦なく切り裂いた。

「おまえが必死になって救おうとすればアンナは負けなかった!
 ルナリアなんかに絶対負けたりしなかったはずだ!」

 ノエルは泣きじゃくりながらアグッリャを振り回す。その攻撃は技巧というものが露ほども
感じられない。

「この馬鹿野郎! 馬鹿野郎! 馬鹿野郎ー!」

 冷静さを完全に失ったノエルの攻撃は幼稚で稚拙極まりなかった。
 だが呆然と立ちつくしたロメオは狂乱の刃をただ浴びるように受け続ける。
 彼は完全に、戦意を喪失していた。

 愛する主人が切り刻まれていく惨状をみて、ルナリアの顔が悲痛に歪む。
 だが彼女にはどうすることもできない。
 ノエルからロメオとアンナという家族を奪ったのはルナリアだ。
 彼女に戦いを止める資格はない。許されるのは見守ることのみ。
 
 一心不乱に刃を振り回し続け疲労の色をみせはじめたノエルは、呼吸を整えて己を取り
戻す。

「おまえを殺したら、次はあの女だ」

 アグッリャの切っ先をルナリアの佇む方向に向け、ノエルはロメオに宣告する

「ルナリアを壊してやる」
31ロメオとノエルの対決(後編):2007/04/20(金) 01:13:30 ID:mQPo86rl
 男の心の中に沈んでいた覚悟という錨が引き上げられる。
 全身の血液が逆流するような感覚が、崩れかけたロメオを再び奮い立たせた。
 狼男の手に、グランフィアを握る熱さが舞い戻る。

「それだけはだめだ。いくらおまえでも許さない」

 ロメオの全身は急所には達していないものの銀の刃でずたずたに切り裂かれ、ノエル
も命ごと浴びせるかのような攻撃を繰り返したため体力は限界に達している。
 次が最後の一撃となる。絶対の確信が二人にはあった。
 氷よりも冷たくなる戦場の空気、ルナリアは闘争を一瞬たりとも見逃さぬよう目を見開く。
 
 ノエルがアグッリャを両手持ちに構えた。
 彼女の筋肉がスーツを破らんばかりに隆起して、ノエルは姿勢を低く身構える。
 刹那、ノエルの体は電光石火の速度を以って、矢のように放たれた。
 
 ロメオは彼女の見据える先をみて確信する。狙いは彼の心臓だ。
 技巧を捨てた全身全霊の突き、それはノエルがロメオに下す審判の刃だ。
 
 彼が全てを失って過ごした幾星霜の歳月、何度も躓いて後悔を重ね、それでも新しい家
族のために刃を振るってきたロメオの生き様が今、問われる。
 
 グランフィアはかつて裏切り者を屠る断罪の刃だった。
 だが今は贖罪の刃となって過去の因縁を迎え撃つ。

「あの女を壊されたくなかったら、俺を殺して止めてみせろ!」

「それも絶対に御免だ」

 肉薄する男と女、交錯するアグッリャとグランフィア、祈るように手を握り合わせるル
ナリアだけが闘争の結末を見届けた。
 
 紅の虚空に、銀の刃が弧を描くように舞う。
 ノエルが全力で突き出したアグッリャは、ロメオが振るったグランフィアの一撃で持ち
主の手から離され、吸い込まれるように地に突き刺さる。
 決着はついた。

「それがおまえの答えかよ」

「すまないノエル。おれはまだ、死ぬわけにはいかない」

 刃を失ったノエルの静かな問いに、ロメオは苦渋を滲ませはっきりと答えた。

「ルナリアのためか?」

「ルナリアと、アンナのためだ」
32ロメオとノエルの対決(後編):2007/04/20(金) 01:16:48 ID:mQPo86rl
 想いを搾りだすようなロメオの決意を聞き、ノエルは身構えを解いた。

「もういい。勝手にしろ」

 ノエルは吐き捨て、ロメオに背を向け歩き出す。
 彼女は弾かれたアグッリャを拾い、ハンカチで刀身を拭って懐にしまった。
 
「ロメオ、おまえを助けるのはこれっきりだ。
 これから先、おまえがどうなろうがくたばろうが俺は知らないからな」

 彼女の肩は、強気な語調とは裏腹に小さく震えている。
 ノエルは全てを見届けたルナリアの元へ足をすすめる。
 ゆっくりと距離をつめてくるノエル、未だ晴れぬ憎悪の視線を彼女から叩きつけられル
ナリアは縮こまる。
 ノエルは今、怨敵ルナリアを初めて真正面から見据えた。

「もしアンナのこと忘れたら、絶対に許さないからな!」

 乾いた音が響く。ルナリアはノエルに平手で思い切り叩かれた。
 赤くなった頬をおさえてルナリアは耐える。
 彼女を襲うのは体ではなく心、円筒(シリンダ)を直接抉られるような痛みだ。
 そしてノエルはもう二度と、ロメオとルナリアの二人に振り返ることはなかった。
 決別の時は来た。

「ノエル」

 今まで想いを押し殺していたロメオがたまらず声をかける。

「何もしてやれなくて、すまない」

「……だからおまえは馬鹿なんだ」

 それが最後の会話だった。
 夕闇の中遠ざかっていくノエルの背中を、ロメオは成す術なく呆然と見送った。
 ロメオは腰が抜けてしまったように座り込んでいる。
 そんな彼の元へ、ルナリアが小走りで駆けつけた。
33ロメオとノエルの対決(後編):2007/04/20(金) 01:17:45 ID:mQPo86rl
「ロメオさん、ごめんなさい」

 傷心の狼に、ルナリアは月並みな言葉しかかけられなかった。
 ロメオはこれから先、こんな悲しい別れを何回繰り返すのだろう。
 全てはルナリア自身が過去に犯した過ちから端を発している。
 ロメオに自分を口汚く罵倒してほしい。彼に怒り狂うまま破壊されても構わない。
 それで彼の気が晴れるならルナリアは本望だった。
 
「気にするなルナリア。俺たち二人の罪だ」

 俯くルナリアの頭を撫で、ロメオは優しく諭した。
 これからも辛いことは吐いて捨てるほどあるだろう。
 途中で何もかも放り出して逃げ出したくなるときもあるだろう。
 それでもロメオと二人なら乗り越えていけるとルナリアは確信した。
 
 彼女は脱力したロメオの肩を担ぎ、家路へと足を向ける。
 その途端、ロメオの腹が唐突に鳴き声をあげた。
 さっきまで死闘を演じていたにもかかわらず、緊張感の欠片もない狼の食欲にルナリア
は苦笑する。

「お腹空いてます?」

「ああ、腹減った。はやく帰ろう。ペルラ達が待ってる」

「はい」

 人形と人狼二人の背中を、沈みかけの夕日が紅に染め上げていた。
34名無しさん@ピンキー
GJ!
そしてage

ルナリアもいいがアンナさんも読みたい