【ジャングル】ハレグゥでエロパロ アフロ2個目【都会】
2get!
新スレ乙です
前々スレ含めまとめサイトの1つでも作りたい所ですな
新スレ乙!
まとめサイト的な物は確かに欲しいね〜。
Wikiみたいな形式の方が良いかな?後からいじれるように。
この板は最初に10レスくらい書かなくても大丈夫だっけ?
とりあえず新スレ記念ぱぴこ
エロパロは即死なかったっけか?
まあ念のためカキコ。
即死回避のために雑談ネタでも
ハレの女性版はやはりサニィって名前で良いのだろうか
他に適当なのと言うと
・ユキ : ハレ、アメ、グゥ(虹)繋がりで
・エラ : elah ヘブル語で「神」 ウェダ(Weda:古代インド聖典)繋がりで…って、これはあんまし関連性無いけど
とか考えてみたが、名前としてさらりと許容出来そうなのは結局サニィかなーとも思いつつ。
あともう一つ、需要のあるカプも聞いてみたい所。
オレはベル×ロバがかなり見てえ。過去ログのSSにも無いし。
ハレ×ベルってのも読んでみたいけどかなり難しいだろうなぁ……。
前スレにあった『ハレ÷5=?』の青ハレとかでなら何とかなるかも。
都会のお屋敷で青ハレ参上。メイドさん達を誘惑してハーレム形成。
騒ぎを聞きつけベルが来て、メイドさん達と併せてハレを注意するが……。
ベル「ハレ様、このようなことをされては困りますわ。仕事に差し障ります」
青ハレ「ごめんなさい、ベル……でも、僕、寂しくて……」(ベルの手をそっと握る)
ベル「ハ、ハレ様……?」
青ハレ「ジャングルの友達と離れ離れになって、学校でも友達が出来ないんだ……
グゥも母さんも、最近そばにいてくれなくて、いつも一人ぼっちで、心細くて……」
ベル「ハレ様……いいんですのよ、私でよろしければ思いきり甘えて下さいな!
ベルはハレ様の味方ですわ!」
青ハレ「ありがとう、ベル……(計画通り!)」
で、物陰から見てる本物ハレが必死に心の中でツッコんでるけど誰も気づかない。
ドラマCDで寝付けないハレがノックもなしにベルの部屋に入ってベルに怒られるところは萌えたな
枕元で甘く切なくささやきかけるように……
バレンタインに投下する予定がずるずると伸びホワイトデーも過ぎてしまった今
投下して良いのかすら憚られますがとりあえず。あと長くなってしまったのでちょっとずつ。
↓から投下して行きます。
<<1>>
放課後も過ぎ、静まり返った教室に小さく、カラリと扉のスライドする音が響く。
窓から差し込む四角い夕焼けが、一つだけ照らし出していた長細い影をその空間にもう一つ、増やした。
正直、本当に来てくれるかどうかは賭けだった。それもどちらかと言えば、負ける確立の方を高く見積もっていたと思う。
ただその不安感は、彼女のオレに対する予測好感度の問題ではなく、彼女の掴み所の無い性格によるところが主な要因なのだが。 とにかく、彼女はこうして来てくれた。オレの心がトクトクと鼓動を早め、これから起こる…いや、起こすべき事に対する
準備をはじめる。
彼女は教室内にオレの姿を確認すると、後ろ手に静かに扉を閉め、真っ直ぐにこちらに向かいピタリと目の前で止まった。
そしてオレの目を一直線に捉え、いつものようにその瞳から何かを訴えてくる。恐らく、話って何?、と言いたいのだろう。
その感情の読み取り辛い、ポーカーフェイスな表情も相変わらずだ。まるでオレ一人がこの状況に心を乱しているかのようで、
少し悔しい。
だけど、オレだってずっとお前の傍にいたんだ。その表情からは、不自然なくらいに無感情に徹し過ぎているのがオレには
ハッキリと読み取れた。それは他のヤツから見たら、よっぽど注意していないと解らないくらいの変化だったかもしれないけど、
それを見逃すようじゃここにこうして居る資格なんて無いってものだ。
彼女は急かすようにもう一度、今度は先ほどよりもずっと力を込めた瞳で…それでも、やはり他人が見ればそこに変化など
到底見出せないのだろうが……真っ直ぐにオレに無言の言葉を投げ掛ける。恐らく、…だから、何?、と言いたいのだろう。
やはり、その態度はいつもよりどこか不自然で、必死で自分の感情を押し殺しているように見えた。
「えっ、あ、うんっえっとその……」
…まぁ通りすがりのガキンチョが見ても解るくらいあからさまに動揺してしまっているオレに比べたらそんな変化など無いに
等しいのかもしれないが…。
オレと彼女を足して二で割ったくらいが丁度いい普通人の反応なのだろうな…なんて、無意味な分析をしてもしょうがない。
こんな下らない事をこんな時に考える余裕をもっと別の所に発揮すべきなのだが、この無駄な能力を他人とのコミュニケーションに
利用できるならオレだって苦労はしないのだ。
ことさら愛だの恋だのといったポジティブな感情表現は苦手中の苦手だってのに、それを表立って、それも口から言葉を
ひねり出すなんて器用な芸当がそうそう簡単に出来てたまるもんか。むしろ出来るヤツの方がおかしいとオレは思う。
しかし、コトこの状況にあってはそんな言い訳も通用すまい。彼女はその自分の感情表現の希薄さと同じように、人の感情にも
鈍感と言っていいくらい無頓着なのだ。オレのこの気持ちを伝えるには、直球ド真ん中で勝負するしかない。…苦手だなんて、
言ってはいられないんだ。
オレは心の中で頬を数度叩き、小さく深呼吸をすると腹にぐっと気合いを込めて、彼女を真っ直ぐに見据える。
そして今言わなければならない事、伝えなければならない事を言葉に乗せ、喉から力いっぱい声を絞り出す。
「ラーヤ! オレ、お前の事すッ……!」
…絞り出すんだって!ほら、早く!!
しかし、どれだけ腹筋に力を入れても、喉を絞ってもオレの口からは一滴の声すら漏れてくれない。まるで金縛りにあって
しまったかのように全身が硬直し、指一本動かせる気がしなかった。
目を大きく見開き、「ス」の発音の形に口を固定したまま、まるでヒョットコみたいに口を尖らせているオレの顔は今、
かなり面白いことになっているに違いない。それはオレの正面に立つ少女の態度からもハッキリと伝わってくる。あの無表情な
ラーヤが、口を一文字に硬く結びスカートの裾を強く握り締め、肩をふるふると震わせている。あまつさえその目にはじんわりと
涙まで浮かんでいるではないか。よっぽどオレのこの顔がツボだったのだろうか。誰か鏡を持ってきてはくれまいか。
……出来れば、撮影はご遠慮願いたい。
これからオレが言おうとしていた事が解っているのだろう。ラーヤはその言葉を今も真摯に聞こうと、笑いを堪えてオレの
面白顔を真っ直ぐに見詰めてくれている。なんだか、ガマン大会の様相を呈して来た。だがこのままどちらかが参るのを待って
いても何の解決にもなりはしない。オレはもう一度「ス」から言い直そうと、思い切り大きく息を吸い込んだ。
「ッすヌッグピュふ!!」
…むせた。思いっきり、むせた。
ヒョットコ状態の顔を維持したまま、肺の奥から勢いよく声帯を通して吐き出された細く鋭い息は、
口笛交じりにひょうきんな音を教室中に響かせた。
続いて響く、プフッと、空気の破裂するような音。
彼女の感情のダムも、オレの放った怪音を切欠にとうとう決壊してしまったようだ。まぁ、しょうがない。
オレがオレの目の前に立ってその様を見ていても、きっと大爆笑しただろうさ。しかし超ツッコミ専門のオレが
彼女にそれだけの笑いを提供できた事を誇る余裕も、告白もろくに出来ない自分の情けなさを恥じる余裕も、
今のオレには無かった。次はオレの笑いのツボが、すぐ目の前に飛び込んで来たからだ。
そしてさらに続く、オレの口からも漏れる破裂音。ついでに一人で大笑い。
すまん、ラーヤ。これも多分、お前がオレの立場なら100%笑ってる。
よっぽどガマンしたのだろう、固く閉じられた口のせいで勢いよく肺から飛び出した空気が行き場を失い、その少女の
目と口の間に開いている2つの小さな穴からものすごい勢いで水鉄砲が噴出した、なんて、いくらなんでもそれは反則だろう。
笑うなと言うほうが無理だ。そうだ、オレだって笑いたくて笑ってるんじゃない。むしろ止めてくれ。このままじゃ、笑い死ぬ。
「………ごめんなさい」
ひとしきり笑い声が響いた後の教室には、すすり無く少女と床に頭をこすりつける少年だけが残された。…本当に申し訳ない。
ラーヤはひっく、ひっくと嗚咽を漏らしながら、ポケットティッシュを次々と涙と鼻水の塊として消費して行く。
オレのズボンのポケットに携帯していたものも既に彼女の手の内だ。
まだ嗚咽は収まらぬものの顔中の水分は出し切ってしまったのか、ラーヤはハンカチを顔から離し、すっくと立ち上がると
早足に教室のドアに向かって歩き出した。
ちなみに手持ちのティッシュは既に全て使い尽くし、床に散らばるがままになっている。勿論それは後で何とかするが、
今はラーヤを呼び止める方が先決だ。
「ちょっ、ちょっと待ってよ、ごめん! ごめんって!」
一瞬、赤く腫れた目でこちらを睨んで来たその瞳には満々と怒りの色が灯り、オレにはハッキリと言葉としてその感情が
伝わってきた。……ただ一言、帰る、と。
オレは必死でラーヤをなだめようとしたが彼女の憤りは収まる気配を見せず、むしろいよいよ出口に向かう足が早くなっていく。
「本当に悪いと思ってるよ、あんなに真剣に聞いてもらったのに、笑っちゃって本当にゴメン!!」
陳謝の言葉は何故こんなにもスラスラと言えるのか、自分で自分が腹立たしいが、今はそのスキルを最大限利用しない手は無い。
オレは誠心誠意、思いつく限りの言葉で謝罪し彼女を慰めた。
それでもラーヤは止まらず、最後にほんの少しだけこちらを向きまた無言のままオレに蔑みの感情をぶつけると
教室のドアをガラリと強く開けた。もうほんの1、2秒もすれば、この教室から彼女はの姿はなくなるだろう。
そう思った瞬間、オレの身体は脳が命じるよりも早く、行動に移していた。
「…………」
瞬間、この空間は沈黙に支配された。
ただこの期に及んでやけに冷静な自分の心臓の音と、腕から伝わるラーヤの鼓動だけが頭の中に大きく響く。
ラーヤは、教室の扉に手をかけたままの態勢で凍りついたように固まっている。オレも、そんなラーヤを後ろから腕ごと
抱きしめた状態で同じように固まってしまっていた。
すぐに離そうと思った。でも、出来なかった。ラーヤがさせてくれなかった。オレの腕をそっと、本当にそっと掴む手の感触が
オレの全てを静止させた。それは勢いに任せて振り切ってしまわなかった自分の腕を褒めてやりたいくらいの、か細い拘束。
くらりと、眩暈がした。ラーヤの身体は着衣の上からでも十分に解るくらい柔らかく、温かい。オレよりも頭半分程
小さい少女の後頭部が、オレの鼻先に埋まり甘いシャンプーの匂いが体中に流れ込んで行き、危うく理性が溶かされそうになる。
って、そんなこと考えてる場合じゃないだろ。これじゃ、直球勝負と言っても男の欲望ド真ん中だ。
「ラーヤ…?」
顔をラーヤの肩に回し、小さく呼びかける。耳にかかる息がくすぐったかったのか、ラーヤはピクンと身体を振るわせたが
それ以上の反応は示さなかった。そしてその瞳を見る事が出来ないオレには、彼女が今どのような感情でいるのかが解らなかった。
今頃になって、オレの心臓はドクドクとその鼓動を急速に早め出す。しかし体温は急激に低下し、肌も喉もカラカラに干乾び、
昼飯まで込み上げてきそうな圧迫感がオレの身体に重く圧し掛かる。……この沈黙は、きっとどんな拷問よりも耐え難い。
「ラーヤ?」
もう一度、呼びかける。だが、やはりラーヤはその態度にも、もちろん言葉にも何の感情も示してくれない。ただオレの腕の
中に抱かれ、その身を預けているだけだ。
……そうだ、抵抗もせず、オレの胸に背中を寄せてくれている。それって、十分に態度に示してくれているってことじゃ無いのか。
オレは、馬鹿だ。ラーヤは、きっとオレの言葉を待っていたんだ。
オレの身体に体温が蘇ってくる。心臓はまだ高く鳴り響いていたが、今はその鼓動がオレに勇気を与えてくれる。
喉の渇きは勿論、吐き気なんてものもとっくに収まっていた。
…言うんだ。ハッキリとその口で、オレの気持ちをラーヤに伝えるんだ。
「ラーヤ、オレ、お前の、こと……ッ」
一言一言、言葉を重ねる。しかし言葉を重ねる度に、核心に近づく度にオレの身体から力が、勇気が抜けていく。
…そして、言葉はそれ以上、続かなかった。オレってヤツは、本当に情けない。情けないけど、これ以上どうしろってんだ。
オレは搾り出せるだけ自分の中の勇気を搾り出したぞ。もう一滴も残ってなんかいやしない。オレの中には「告白」なんて
文字はもともとありはしなかったんだ。
身体に、力が入らない。全ての力を使い果たしてしまった。ラーヤを抱きしめる腕の力も、もうオレには残されていなかった。
しかし、ラーヤはオレを離してくれない。先ほどまでは軽く触れているだったその手は、今はオレの手をきゅ、と硬く握り、まるで怯えるようにその小さな身体をもっと小さく丸めていた。オレがいなければそのまま倒れてしまいそうなほどに強く
オレにその身をもたれ掛け、その肩は少しだけ震えているように見えた。
ラーヤも、耐えているんだ。オレ以上に感情表現が苦手なこの少女が今、必死でオレの思いを受け止めようと
してくれているんだ。
ラーヤの鼓動がその背中から、そしてオレの腕から伝わって来る。それはオレ自身の鼓動なんかよりもずっと、
オレに勇気を与えてくれるものだった。オレは今度こそ迷いを捨て去り、大きく息を吸い腹に力を込め……。
「好きだ…!!」
…ひと息に、やっとそれだけを口から吐き出せた。たったそれだけで、肺の中の空気はカラッポになってしまった。
自分の喉から出た言葉としては、あまりに現実感の薄いその三文字。まるでその声はどこか遠くから聞こえたような気がした。
再び、今度こそ本当の沈黙が訪れる。校庭で遊ぶ子供の笑い声も、木々のざわめきも、自分の心臓の音すら聞こえない。
耳が痛くなるほどの、静寂。
どれだけの時間、その沈黙に耐えたのだろう。ようやくラーヤの身体が、ピクリと小さく動いた。
きっと世間的には2秒や3秒程度だったのだろうが、この空間だけは恐らく、いや間違いなくその数千倍の時を旅したに
違いない。とにかく、ようやくだ。
しかしその後のラーヤの行動に、オレはまた戸惑ってしまう。ラーヤは腕に力を込めると、おもむろにオレから離れようと
身をよじり出したのだ。
サァッと、血液が急速に頭から降りて行くのが解る。オレは慌ててラーヤを拘束している腕を離した。
「ご、ごめんっ……」
まったく、謝罪の言葉だけは本当にスムーズに口から出てくる。何に対しての謝罪なのかなんて、自分でも解っちゃいないってのに。
「え?ちょ、なっ……!?」
そんなオレの狼狽をよそに、ラーヤはくるんと振り返るとオレの胸にとす、と寄り掛かって来た。
何が何だか、いよいよオレの頭の中がパニックになりかけた時、ラーヤの瞳が久しぶりに、真っ直ぐにオレに語り掛けて来た。
実際には数分程度だったのだろうが、もう随分と長く見ていなかった気がする。
それでもその瞳は、オレにその感情をしっかりと伝えてくれた。
「私も、大好きだよ」
──ハッキリと。これまでに無いくらいハッキリと、その無言の声はオレの耳に届いた。
そう言ったきり、彼女はオレの胸に顔を押し付け、背中に回した腕にきゅ、と強く力を込める。まるで、オレにその感情を
これ以上読み取らせたく無いかのようだった。
「ありがとう……」
当のオレは、まだ混乱していた。自分で言っといてなんだが、何のお礼だ、ソレは。
しかしそれも彼女にとってはツボだったのか、胸に顔をうずめたままラーヤはプフ、とまた空気交じりの笑い声を上げた。
頼むから、鼻水だけは付けるなよ。
気付くと、ラーヤはオレを抱き締めたまま顔を上げ、真っ直ぐにこちらを見詰めていた。さっきのオレの台詞がよっぽど
効いたのか、目には涙を浮かべている。オレは彼女の代わりに、その目に指を這わせ涙を拭い取ってやった。
とたんに見開かれるラーヤの瞳。何故かその褐色の肌を耳まで赤く染め、またぼふ、とオレの胸に顔を押し付けて来る。
…何なんだ、一体。さすがに今の感情の動きは、オレにも読み取れなかったぞ。
まぁ、解らないことは考えても仕方が無い。オレもラーヤの背中を抱き、目の前に差し出された丸い頭頂部に顔を押し付け
スゥ、とその甘い香りを吸い込む。先ほどよりも密着度が高いせいか、その香りも何故かずっと甘く感じられた。
…そして今度は眩暈は感じなかったが、逆にしゃっきりと目覚めてしまったある部分の存在が結局はオレの理性を溶かしていく。
もっと強く抱き締めたい。しかし肩を抱くこの姿勢ではこれ以上強く抱き締められない。なんというもどかしさか。
ラーヤはオレをしっかり抱き締める体勢になってるってのに。なんだかズルイぞ。しかし体勢を逆にしたら「高い高い」してる
みたいな状態になることは必至。結局、男がガマンするしかないってのか。
フと、またいつの間にか、ラーヤがこっちを見詰めていることに気付いた。その目はまた潤々と雫を湛え、頬も心なしか
先ほどよりも強く朱色に染まっているように見えた。
なんだ、また拭いて欲しいのか、と目線で返してみる。が、その瞳から伝わる感情はそんな暢気なモノではなかった。
「それは…まだ、だめだよ」
そう、彼女の瞳はハッキリとオレに伝えていた。
…何がダメなのか、なんて考えるより先に、オレは自分の身体の状態に気付くべきだった。そう、オレはさっきまで、
ラーヤの身体を強く抱き締めんとその身をなんとか密着させようとしていた。もちろん、下半身も。
そりゃあもう、グリグリと彼女に押し付けていたのだ。…無意識だった。誓って、無意識だった。
「ごっごめ……」
やはりオレには愛だの恋だのよりそっち系の言葉の方が似合っているのか、またも即座に出てくる、謝罪の言葉。
しかしその言葉は、ラーヤの手によりピタリと、止められてしまう。
いやこの場合、手、と言うのは正しくないか。正確には、ラーヤの唇により、だ。
「っム……?」
突然の事に、思わず目を見開いてしまう。ラーヤもその目を薄く開け、そこにオレの瞳だけを映していた。
触れ合う唇からも、その瞳からも、ラーヤの感情が体中に流れ込んでくる。それは、もうオレなんかが口に出したら瞬時に
羞恥で燃え尽きてしまいそうで、心の中で唱える事すら恥ずかしいような、愛の言葉だった。
トン。と言う音が聞こえた。ラーヤが、踵を床に下ろした音だったようだ。…いつの間にか、唇も離れていた。
オレはその瞳に魅入られたかのように、彼女が離れた後もそのままの体勢を崩せないでいた。
そんなオレの気を知ってか知らずか、ラーヤはオレの両手を軽く握ると、困ったような、怒ったような顔で、オレに言葉を
投げ掛ける。今は、これでガマンして。そう、その瞳は言っていた。
…ガマンできない
試しに、オレも瞳で語ってみる。
…ダメ
返ってきた。何だコレは。オレらはエスパーか。今、人類の進化の道標が見えた気がしたぞ。
よし、もう一度やってみよう。
ラーヤもちゃんと言葉でオレに好きって言ってよ
…やだ
やはり、即座に返事が返ってきた。
これはこれで凄いが、やっぱりラーヤの声も聞きたいと思うのが人情ってもんだろう。
じゃあオレももう何も言わない
…やだ
さっきよりもちょっとだけ強めの「やだ」が返って来た。ううむ、会話が成立していてもこいつの感情は読み取り辛い。
しかもなんだか、頭が痛くなってきたぞ。これは危険だ。副作用とかがありそうな気がする。やっぱりラーヤ専用の
コンタクト手段なのだろうか。
「でもさ、オレもあんまりラーヤの喜ぶ事、口に出して言えないと思うよ。そーゆーの苦手だし……」
今度はちゃんと、声に出した。しかしこれって、心の中でも恥ずかしい事が言えなくなってしまったのではないか?
まぁ心の中でくらいなら良いか。オレにとっても、想うだけで伝わると言うのは良いことなのかもしれないな。
そしてラーヤは相変わらず、オレの言葉に瞳で返答をして来る。大丈夫。私は多分、もっと苦手。とのことだ。
ついでに、恥ずかしい台詞は口でちゃんと言ってくれなきゃヤダ、と付け加えられてしまった。どこまで読まれているのか
ちょっと怖い。…とりあえず、何が大丈夫なのかは解らないが、結局オレがこれからもこの苦手な科目に立ち向かうしか
無いってことだけは解った。あと「多分」じゃなく、「絶対」だとオレは思うぞ。
……でもきっと、その想いをそのまま口に出したりなんかしたら、オレなんてそれだけで蒸発してしまうくらい凄い言葉が
飛び出すんだろうから、やっぱりラーヤは何も言わなくても良いかも知れない。
何も言わなくても、十分にその想いは届いてるからさ。…大好きだよ、ラーヤ。
「わわっ、ラ、ラーヤ?」
じっと瞳を見詰め、そんなことを考えているとラーヤは弾かれたようにオレを抱き締めてきた。
足をピンと伸ばし、頬と頬を摺り寄せるように密着させ、思いっきり肩を抱いてくる。
……もしかして、全部聞こえてましたか。
「好きっ」
うん、オレも大好きだよ。オレも心の中じゃ、これくらいは言えるんだけどな。
……あれ?オレ今、ラーヤの目、見てない…ってか、見えないよな?
「え? 今………んムッ」
そんなオレの疑問の声は、またその唇によって塞がれてしまう。そのまま、疑問そのものが頭からかき消されてしまった。
互いの目を見詰め合う、いろんな意味で、濃厚なキス。その時のラーヤの感情の流れは、オレにはちょっと刺激的過ぎた。
しかしそのままでも悔しいので、オレも瞳で語り掛けてやろう。
ラーヤの可愛い声、もっと聞きたい
…ばか
やっぱり、返事が返ってきた。
そしてどうやらこの間だけは、ラーヤの熱烈な感情表現は中断してしまうようだ。これは大発見。攻守逆転のチャンスでは
無いか。オレも、心の中でだけでもいっぱい語り掛けてみようかな。
…口で言って
提案は即座に否決されてしまった。
どうやらオレに残された道は一つしか無いらしい。場合によっては発声練習の一つもせにゃならん事態になってしまいそうだ。
…今は、こっちに集中して
少し怒ったような感情を含ませ、ラーヤの瞳はオレに強くその意思をぶつけて来た。はいはい、集中しますよ。
そしてまたはじまる、ラーヤの独壇場。…そのうちオレの理性が飛んで獣になったら、ラーヤのコレのせいだからな、絶対。
ともあれ、精神面ではラーヤに勝てる気はしない。結局、オレは口で彼女を骨抜きにする手段を考えるしかないってコトか。
まぁ、とりあえずそれは後で考えるとして、今はこの至福の時を堪能するのが正解なんだろう。
オレはラーヤの背中に回した腕にゆっくりと力を込め、静かにラーヤの愛の言葉に耳を傾ける。
窓から差し込む四角い夕焼けが照らし出していた、二つの影。
それは今、まるでそうなる事が自然であったかのように一つに重なり、いつまでも、いつまでも離れる事は無かった。
─ RAYA True end ─
………
……
…
バックにゾロゾロと流れていくスタッフロールには全て「Guu」の文字が刻まれている。
演出、効果、音楽、監督、……そして最後の脚本だけが「You」。もはや見飽きた光景だが、何度見てもむかつく。
妙に感動的なBGMに乗せて流れる、恥ずかしい単語を並べた歌詞のテーマソングもいいかげん聞き飽きた。
その上、歌っているのがグゥの無愛想な声と来たらその憎々しさも100倍増だ。
……まだ、頭がボーっとしている。身体にも、唇にも、心にもまだあの温かい感触が残っている。
小さな開放感と、大きな喪失感が同時に胸に渦巻く。…ダメだ。忘れろ。忘れるんだ。全部、嘘なんだから。
オレはつい今しがたまで心を満たしていた感情を捨て去るように、頬を強く叩いた。
とにかく、これで、全員クリアしたはずだ。やっとこの世界から解放される……。
<<2>>
「うむ、あの難関キャラ、ラーヤすらも落とすとは。さすが天性のギャルゲー体質ハレよ」
スタッフロールが終わると、これまた見飽きたタイトル画面に戻って来た。しかしこの場所だけは妙に落ち着く。
ここに居ると何のイベントも起きないからに他ならないのだが、とにかくここだけが今のオレの唯一の安全地帯だ。
…頭に響くこの皮肉めいた声さえなけりゃあもっと良いのだが。
「おいグゥ! これで全員クリアしたろー? さっさとこっから出してくれよ」
「まあそう慌てなさんな。お楽しみはこれからですよ」
「この状況を楽しんでんのは主にお前一人だけどな」
オレは頭の中に響く声に話しかける。ここに来てから、その声の主の姿は一度も見ていない。本人は今回はナビゲーターに
徹するとか言っていたが……どっちにしろ、その存在の鬱陶しさには変わりが無いのだからどうでもいい。
オレは中空に浮かぶメニュー画面を操作し、『Memories』と書かれたボタンに手を触れる。
すると目の前に浮かんでいた画面が分裂し、オレを取り囲むように周囲にウィンドウを展開した。
キャラクター別のイベント回想モード、BGM鑑賞、達成率……。それぞれのウィンドウが個別の情報を表示している。
「しかしこれほど早く完全クリアするとは……グゥもびっくりの恋愛スキルをお持ちのようで」
「そんなスキルは自覚して無いししたくも無いけどね。ってかゲームなんだからそんなの関係無いだろー?」
「なるほど、ならば訂正しよう。……グゥもびっくりのゲーオタスキルをお持ちのようで」
「そっちの方は多少の自覚を認めてしまいそうになる自分が嫌だなあ……」
……そう、ここはゲームの世界。
今オレは恋愛シミュレーションゲームのような世界に迷い込んでしまっている。またグゥの下らない思い付きのせいなのは
言うまでも無いが、今回のコレは「暇つぶし目的」にしてはあまりにも手が込み過ぎている。
嫌がらせ以上の何かがあるとはあまり考えたくは無いので、とりあえずオレはここを出る条件を満たす事に
集中していたのだが、ここに来て何か不穏な空気が流れはじめている気がする。
オレは嫌な予感を振り払うようにブンブンと頭を振り、メニュー画面に顔を戻す。
目を向けた先は、このゲームの達成率を表示するウィンドウだ。現在の達成率は99%。
……99%!?
なんだこれ、1%足りないぞ。ラーヤが最後の一人だったのは絶対に間違いない。「お楽しみはこれから」って、
これ以上まだ何か用意してるってのか。
「おやおや、これまで撃墜した女どもに思いを馳せたりなんかして…また恋しくなっちゃいましたか」
「っさいわ! 確認だよ、確認!!」
ああもう、この声を閉ざすためならさっさと『Start』を押してゲームの中に入っても良いかと思ってしまいそうになる。
この場にいたらまだその暴言にも抵抗が出来るってのに、これじゃあ対処のしようがない。
ゲームに入るとグゥの気配も無くなるのだが、そうするとまた誰か一人攻略しないとここに戻ってくることが出来なくなる。
せめてリセットボタンくらい用意してくれ、頼むから。セーブもロードも無い恋シミュなんてあってたまるか。
「電源ボタンならありまっせ」
「だから、そりゃゲームのじゃないだろ」
「強いて言えば…人生の?」
ここにはじめて来た時に、オレとこの毒舌ナビゲーターさんとで交わしたやりとりをもう一度繰り返す。
……だから、そんな恐ろしいボタン、押してたまるか。
「まぁ、人生にセーブもロードもリセットも無いのと同じですよ」
「だったら、全員攻略しないといけないってのもおかしいとは思って頂けないものかね……」
これも、ここにはじめて来たときにしたやりとりの一つだ。
ここに来た時にグゥから聞かされたことは4つ。
・ここは恋愛シミュレーションゲームを模した世界である事。
『Dokibeki Material 〜2nd Season〜』とか言うタイトルが上に浮かんでいるが、果てしなくどうでも良い。
・ここは、グゥの腹の中だという事。
RPG風や古代日本風の時のように、腹の中の世界を恋シミュ風に構築したらしい。
かなり苦労したそうだが、その努力をもう少し人の役に立つ事に使うべきだとオレは強く思う。
・攻略キャラを全員クリアしないと、ここからは出られないという事。
攻略キャラは全5人。これはグゥから直接聞いたのだから、間違いないはずだ。
そしてオレはそれを完全攻略したはずなのだが…。
・オレが今プレイしているモードは『中学生編』だと言う事。
もう一つ上に『高校生編』があるらしい。互いに行き来は出来ないが、そちらとこちらで攻略キャラが違うとか。
つまり、だ。そちらにも犠牲者が一人いる、ってことだ。というかそっちの人物こそ本来の主役であるはずなのだが、
プレイヤーがプレイヤーだけに正直かなり不安だ。
「向こうは今、どーなんってんの?」
「ふむ、相変わらずのようだな」
「……やっぱり…まだ一人もクリアしてないのか…」
「ま、気長に行こうぜっ」
「これ以上長々こんなとこ留まってられるか!そもそもオレは今回は巻き込まれただけだろー!何でこんな真剣にやらにゃならんのだ!」
「そんな……せっかくハレのためにがんばって舞台を用意してあげたのに……」
なんか、しくしくと泣き声のようなモノが聞こえるが100%演技だ。下手したらその手の効果音を再生してるだけだって
可能性すらあるな。オレのためを思うならさっさとここから出してくれ。
ったく、こんな事になったのも、元はと言えばアイツがあんなこと言い出したからなんだよな……。
…
……
………
「実は、俺とラヴェンナの事なんだが……」
───そう、事の発端はある一人の青年の、このいつもの定型句。
オレはあの日…と言っても、この世界にいる間は現実世界ではほとんど時間が経過していないらしいので今日、と
言い換えても良いのだが……とにかくあの日、「相談がある」と彼の部屋に招き入れられたんだ。
相談、と言われた時点で何の相談かは解っていたし、どうせ相談に乗ったところでこの青年の悩みは根本的解決を見せまいとも
思っていたが、オレは素直に彼の家に行く事にした。どう言う結果になるにしろ、しっかり決着を付けてくれればありがたい。
「で、グプタ。今度はどうするつもり? 何か作戦あるの?」
「おう、明日は確か、バレ、タ……っと、何つったっけな」
「……バレンタイン?」
「そうそう、それだよ、それ!」
バレンタイン。確かに、ジャングルに住む人間には聞き慣れない単語だろう。オレだってジャングルの皆と一緒に都会に
行った時にはじめて経験したイベントだ。彼…グプタもきっとその時に覚えたのだろう。
その単語は、グプタと違いあの日から丸一年経とうとしている今でもオレの頭からは消えてくれそうに無かった。
リタからその話を聞いたマリィに、熱烈な期待を込めた眼差しに背中を焼かれながら一日中追いかけ回された記憶が
バレンタインという単語と共に軽くトラウマ気味に今でも脳裏にしっかりと刻み込まれてしまっている。
「バレンタインってアレだろ? 確か男が好きなヤツに告白しても良い日、みたいなヤツだろ?」
「オレも良くは知らないけどね。まぁ、そんな感じだったと思うよ」
いったい誰がそんな日を定めたんだか、全く持って迷惑極まりない。文句の一つでも言ってやりたかったが、
誰を責めればいいのかすら解らないのでは諦めてその強制イベントを受け入れる事しか出来ないじゃないか。
結局その日のオレは、マリィに何度目かの「愛の告白」を無理やりにさせられるまでしつこく迫られ続けるしか無かったのだ。
そんなイベントを毎年毎年続けてるやつらの気が知れない。オレなら2月14日は家から一歩も出なくなるぞ。
「でもさ、この村ってそんな習慣無いよね。ラヴェンナも覚えてるかなあ?」
「何言ってんだ、一人いるだろ? こーゆーこと大好きなヤツがよ。今頃、村中にバレンタインのこと広めまくってると思うぜ」
そうだ、確かにこの村にバレンタインなんて習慣は無いが、そんな乙女イベントを知ったどころかあそこまで堪能した
あの少女がそのまま放っておくはずが無い。嬉々として村中にその話題を振り撒く姿がありありと、そりゃあもうありありと
目に浮かぶ。……明日のために、どこか隠れる場所を今のうちに探しとくべきではなかろうか。
「それに今回は俺に全面的に協力してくれるらしい。今日も呼んでたんだが……」
ああ、ついでに人の恋愛沙汰も大好物なあの少女の事だ……こうなる事は予想できたはずなのに。こうなれば彼女が来る前に
さっさとここを退散すべきか。
──そう思った矢先、コンコン、と扉をノックする乾いた音が部屋に響いた。
それはまるで、RPGでパーティが全滅した時のBGMの様な不気味な色を孕み、これから起こる惨劇の前触れを知らせる
鐘の音のように聞こえた。
「お、噂をすれば!」
いや、電源を入れた時にセーブデータが消えた事を知らせるあの音の様に絶望的な……って、そんな例えしか
思い浮かばんのか、オレは。ってかどうでも良いだろそんな事。
……とにかく、もはや手遅れ、と言う事らしい。
グプタは、行儀悪く背もたれを前に座っていた回転椅子から降りようともせず、その足に付いたキャスターをキィキィと
鳴らせドアに向かう。その音はそこいらに散らばる食べ残しのお菓子の箱や脱ぎっぱなしの服を蹴散らす聞き苦しい音と
見事なまでに不協和音を奏で、この部屋の持ち主の性格をそのまま現している気がした。ってか、モテるモテないを考える前に
この部屋を何とかしろ。ただでさえ、元々からして決して広いとは言えないこの部屋がゴミやら何やらのせいでその許容人口を
激減させていると言うのに、そんな風に無駄にダイナミックな動きをされてはオレの居場所はもはやベッドの上しか無くなって
しまうだろ。
「待たせてしまったかな?」
「おう、待ってたぜ! えれー遅かったなあ、なんかあったのか?」
「抜け出すのに少し手間取ってしまってな」
ドアから現れた少女は、オレを見つけるとニヤリと口端を歪めた。その少女は、オレの想像していた人物よりも
その肌の色も、髪の色も、表情から伺える感情も人間味もオレに対する情の厚みも何もかも、全てが圧倒的に希薄だった。
ああ、……こうなる事こそ、オレは予想すべきだった。
「……なんでお前やねん……」
「グプタの恋の悩みと言えばこの恋愛マスター、グゥの腕が鳴るというものよ」
グゥはふふん、と得意げに鼻を鳴らし、ベッドの上に身軽に飛び乗るとオレの横にストンと正座を崩して座る。
むしろお前の腕が鳴る限りグプタの恋は成就せんのだろうなとオレは心から思うんだけどなあ……。
「で、どうだグゥ? 首尾の方はよ」
「予定通りだ。目標他女子数名、皆マリィの部屋に集い先ほどまでグゥと共にバレンタインの相談をしていたところだ」
「ああ、なんかオレの知らないところで何かが着々と進行中のようですねぇ……」
役者が揃い、早速作戦会議が開始したようだ。もうオレの出番も無いだろうから、帰らせては頂けまいか。
「うふふ、どうやらハレも興味深々なようね」
いや、帰らせてくれつってんだよ。こちとら戦々恐々だっつーの。
「じゃあよ、ラヴェンナもまだ帰ってこないんだよな?」
「うむ、暫くはマリィの家に居るだろう」
「よかったぜ、さすがにラヴェンナが家に居たらこんな話できねーしなあ」
どうやらグゥは、ラヴェンナたちから情報を聞き出すスパイの役目を受け持っているらしい。
なんだか手馴れたやり取りだ。こやつら、以前にも似たようなことをやっていたのではと疑いたくなるが
あまり聞かないほうが幸せになれそうな気がするから放っておこう。
それよりも、なんだかグゥが妙に上機嫌だ。こいつがこんな表情をしている時は決まって何か悪い事を企んでいる。
と言うか、悪い事を企んでいない時の方が少ないのだが。とにかくオレにも被害が及びそうな気がして仕方が無いぞ。
「相談って、向こうじゃどんな話してたんだ?」
「うむ。あちらでもやはりバレンタインの話題で盛り上がってな。どうもグゥの話した日本式のやり方が随分と皆の興味を引いたようだ」
「日本式?」
一人悶々と苦悩するオレをよそに、会議はちゃくちゃくと進行している。まぁ、この際だ。ちゃんと話を聞いたほうが
オレも対策を立てやすいか。かなり不本意ではあるが、オレもこの話し合いに参加する事にしよう。
「なんだ、日本じゃ俺らが行った都会と違うことすんのか?」
「さよう。都会では主に男から女へプレゼントや告白などのアクションを起し、カップル同士ならば愛を確かめ合う
といったイベントとして定められているが、日本では女が男にチョコレートを渡す日として広く認識されているのだ」
「何でそんなに日本のイベントに詳しいのかね、君は……」
「グゥは日本人の知り合いが多いからな。ハレも良く知っているだろう」
「多いって…ロバート以外に誰か……」
ロバート以外に……なんて、考えるまでも無い。グゥと出会ったその日からお知り合いになった二人の男女と、
グゥがある日玄界灘とか言う所から拾ってきた危険人物が一人。確かに、よーっく知っている人々だ。
「思い出したか?」
「ああ、そーいやすっごく近くに三人もいらしたんですよね……」
そりゃあコレだけ傍に居たら、いくらでも日本の事は聞けるだろう。
二度目の都会行きの途中で、漂流した時に日本に辿り着いたのもそのせいじゃないのか?
「おい、何の話してんだ?」
「い、いやいやこっちの話!」
っと、今はそんな思い出を振り返ってる場合じゃないな。今のところこの話に不穏な空気は見られないし、
オレも無用なツッコミは控えよう。
「でもさ、なんでチョコレートなの?」
「形式は違えど、趣旨は都会のバレンタインとほぼ変わらぬものだ。チョコレートを渡す事が、告白や愛を確かめ合う儀式となっているのだよ」
「ふーん…儀式ねえ。なんか、解りやすいよーな回りくどいよーな……」
「日本人はシャイな人種だからな。面と向かっては伝えられぬ気持ちをチョコに乗せて届けるのであろう」
「へぇ、それってちょっといいかもしんねーなぁ。ロマンチックっつーかさ」
「うむ。マリィやラヴェンナもそこが気に入ったようだ」
オレの知る限りシャイな日本人など一人として思い浮かばないが、その話を聞いたマリィが「素敵ー!!」などと叫んでる
姿はありありと思い浮かぶな。
「それにチョコレート、という事にもれっきとした意味があるのだよ」
「へえ、やっぱチョコじゃなきゃ駄目なんだ?」
「無論だ。聞いたことは無いか? チョコレートにはある種の興奮作用を引き起こす成分……即ち媚薬が含まれていると言う事を」
「び、媚薬!?」
「古く中世ヨーロッパではチョコレートは愛の情熱を掻き立てる「禁断の媚薬」として珍重されたこともあるそうだ。
そもそもは古代文明におけるアステカ帝国の皇帝がチョコレートを溶かしたものを恋の媚薬として毎晩妃たちが住む
後宮に向かう前に愛飲していた事が起源であると言われている」
「だから何でお前はそーゆー余計な知識が無駄に豊富なんですかね」
「恐れ入ったか」
「あきれてるんだよ……」
朗々と、いつにも増してグゥの口がなめらかに滑る。本当にどこからそんな情報を仕入れてくるのやら、真偽の程は
オレには確かめようは無いが、得意満面に講釈を垂れるグゥのその声は妙に楽しげで、やはりかなりの上機嫌って事と
何かを企んでるって事だけは確かなようだった。
「で、でもよ、それってつまり……」
「ふむ……チョコを渡す、と言う行為が即ち、ベッドへの誘い文句と言えるであろう……」
「シ、シャイなんてとんでもねえぜ……なかなかやるじゃねーか、日本人もよ」
グゥの胡散臭いチョコレート講座にもグプタは真剣に耳を傾けている。
なんだか、話が怪しい方向に進んできた気がする。このままツッコミを入れずグゥの弁舌に任せて大丈夫だろうか。
「そーいやさっき、ラヴェンナも乗り気だっつってたよな!?」
「うむ。すでにチョコレートの材料はマリィの家に用意しているからな。これから皆で作ろうと言う所だったのだよ」
「そ、そうか、ラヴェンナが……それも手作りか……。で、でもよ?いきなりそんな過激な求愛行動に出られてもさ、
男としても困るっつーか……」
グプタが勝手に一人で照れ出した。本当にこのままで大丈夫だろうか。
まぁ、今の所オレに危害が加わりそうな様子は見られない。本人が幸せそうなら、いいか。どうでも。
「ふふふ、その点は大丈夫。返事は一ヵ月後でいいのですよ」
「一ヵ月後?」
「バレンタインの一ヵ月後…3月14日は日本ではホワイトデーと指定されており、その日に男はバレンタインの返事をする
ことになっているのだよ」
「一ヶ月も猶予があるってことか……なんて狡猾な仕組みだ! 日本人め、ますますやるじゃねーか!!」
「ちなみに名前の由来は、媚薬でたっぷりと蓄えたホワイトなアレを女にお返しする日だからだと思われます」
「……意味は解んないけど、聞かなかったことにさせてもらって良いかなあ……」
そんな慣習がある日本って国は一体どんな所なんだ。グゥの話をさすがに全て真に受けるワケにはいかないにしても、
ロバートや山田さんみたいなのが生産されるような国だってことを考慮に入れると無根拠に否定もし辛い。
これまで出会った日本人の中で至極マトモだったのなんて、ロバートの友達のクロダさんくらいじゃなかろうか。
「気に入ったぜ、日本式バレンタイン!! なぁハレ、お前も楽しみになってきたろ?」
「あ……そーいや、マリィの部屋に集まってるんだよね……」
マリィもまず間違いなくオレにチョコ渡すつもりだろう。このグゥの話をマリィも聞かされていたとしたら、明日は本当に
大変な事になりそうだ。やはり結局、オレにも被害が及ぶ仕組みになってるってことか……。
「結局さ、俺たちはただチョコをもらうのを待ってりゃ良いってワケだよな? ラヴェンナから告られるってのも叶うしよ、
なんだか男にとっちゃ夢みてーなイベントだよなあ」
「うむ……なればこそ、ここは男としての威厳をしっかりと見せるべきであろう……」
グゥは何事か考えるように顎に手を当て、薄く開いた目でグプタを真っ直ぐに見据えると、先ほどまでとは打って変わった
重く威圧的な声で語り掛ける。
……始まった。いよいよ何かが始まったぞ。
「威厳って……何だよ?」
「よもやグプタ、先ほど言った一ヶ月の猶予をフルに使うつもりではあるまいな?」
「そ、そりゃあ……そーゆー日が設けられてんだったらしょーがねえだろ?」
「愚かな……。それはある種の罠なのですよ」
「わ、罠!?」
「女にそこまで迫られておいて、一ヶ月もずるずると何のアクションも起さず返事を引き延ばすなど通常では考えられまい?」
「で、でもよ、そのためのホワイトデーなんだろ? 女の方だって解ってんじゃねーのか?」
「そうだ。しかしだからこそ、あえてその場で返事を出す事に意味がある……そうは思わんかね?」
「た、確かに……! その一ヶ月の猶予で、女は男の度量を計ってやがるワケか……!! 深い……深いぜ、バレンタインってやつぁよ!!」
なんだか、グプタが悪質な訪問販売にひっかかってしまった人みたいな感じになっている気がするのはオレだけか。
疑うことを知らない純粋なジャングル・キッズがこのまま狡猾な詐欺師の餌食になるのを黙って見ていて良いのだろうか。
「それにもしラヴェンナにチョコを貰ったとして、グプタには断る理由も無かろう?」
「あ、ああ。むしろ願ったりだぜ」
「ならば男らしく、その場でズバリと言うべきであろう。『一ヶ月も先送りになんてしてられっかよ!!』とな」
「おお、そいつは男らしいな!!」
「そして『今すぐ…お前が欲しい…』とでも言えばアンタ……イチコロですぜ?」
「おおおおおおおお!!!!!」
ああ、グプタが面白いように乗せられていく……イチコロなのはアンタの方だよ…。ここまで来るともう、そのままの君で
いて、とすら思ってしまう。だけどやっぱり友達がグゥの口車に乗せられる姿は見ていて心苦しい。
その姦計にハマる辛さをオレはよく知っている。ここは何が何でもグゥを止めなければ。
「おい、グフュ………ッ?」
──口を開いた瞬間、何かがオレのボディを瞬時に貫いた……ような気がした。何も見えなかった。何が飛んできたのかすら、
解らなかった。解る事と言えば、まだ自分が意識を保っている事が正直不思議なくらいの衝撃だったって事と、その衝撃で
身体も口もピクリとも動かせなくなってしまったって事くらいだ……。
食らった自分ですらその身に何が起きたか理解出来無かったのだ。グプタから見れば、オレはただあぐらの姿勢を保ったまま、
かくんと頭を垂れて俯いているようにしか見えないだろう。
ってか、オレはまだ何も言ってなかっただろがよ、何が何でも止まらないつもりかよ、コイツは……。
「さぁ、グプタよ。また告白の練習でもしようではないか?」
ダメだ…こいつ、ノリノリだ…。今のグゥを止められるヤツは……居ない……。
「でもよー、情けねえけど俺、自信無いぜ…。面と向かって映画にすら誘えない俺なんかにそんな事……」
ハレグゥ5巻ACT38『恋シミュ』の件で、グプタはすっかり自信を無くしてしまったようだ。しかし今はそれでいい。
さっさとグゥの誘いなんか断ってくれ。悪いこと言わんから。
「グプタよ、何のために我らがここにいると思っているのだ」
「……また、手伝ってくれるのか?」
「おうよ、グプタの気の済むまで、付き合ってやろうではないか」
「グゥ………お前、ホント良い奴だよな……ッ」
グプタ…良く見ろ、そいつの顔を。そんなニッコニコの凶悪な笑顔を本当に良い奴とやらがすると思うか。
うう…まだ身体が動かん……。ダメだグプタ、そいつの誘惑に乗っちゃ……。
「で、でもよ……この前だって、グゥ相手ならちゃんと俺も告白出来たんだぜ? だけどラヴェンナの前じゃ、どうしても
緊張しちまってよ……。やっぱ、本人が相手じゃねーと意味ねえと思うんだよ」
「そうは言っても、本人を前に練習など出来んだろう? 幾らでもやり直しの効くゲームのようにはいかないからな」
「ああ、結局、ぶっつけ本番しかねえってことだろ……」
「ふふふ、いやいや諦めちゃいけません。ゲームのように幾らでもやり直しが出来る世界があると言ったらどうしますかね?」
……ちょっとグゥさん?また何企んでやがんですかね?ってか、なんだその体中から発散されるゴキゲンオーラは……。
こいつ、この状況を心底面白がってやがる……。
「企んでるだなんて人聞きが悪い……グゥはグプタの恋を成就させてやらんと心を砕いていると言うのに」
これほど信用ならん言葉も無いわ。ってか、だからモノローグ読むなっつーの。
「な、なんか良く解んねえけど、グゥにはこの前もずいぶん助けられたからな。今回も、悪いけど頼らせてもらうぜ!」
「うむ、そう言ってくれると信じていたぞ」
オレもきっとそう言うと思ってたよ。ああ、また犠牲者が……。
「さて、それでは皆さんをゲームの世界にご招待しましょう」
グゥはベッドから降り、オレの隣にグプタを座らせると大仰に両手を広げテレビの司会者みたいな口ぶりでそんな事を言った。
ってか、皆さんって……オレも含まれてんのかよ!!
「何だ? 催眠術とかすんのか? 面白そうだな」
オレはちぃともおもろないですよ?グゥ、オレはいいからグプタだゲブフッ!!
「落ち着きなさい……」
動けないオレの身体に更に襲い掛かる衝撃。…また、見えなかった。
解った事と言えば、眉間、人中、喉、胸、腹、股間を同時に何か鋭いものに強烈に打ち抜かれたって事だけだ。
……オレの意識は今度こそ、真っ暗な闇の中に堕ち込んで行った。ってか、心ン中でくらい抗議させろや……ホンマ……。
「さぁ、グプタもハレのように目を瞑って、心を落ち着けて………」
「お、おう……」
「それでは行きますよ」
薄れ行く意識の中でオレは確かに見た。グゥがその顔に先ほどよりも更に凶悪な笑みを貼り付けて、恐らくは
ちんちくりんステッキなのであろう周囲が鋭く研磨された巨大なハート型の刃が先端に付いた鎌のような物で俺たちを
薙ぎ払うべくバッターボックスに立つ姿を……。
「古今東西」
<<3>>
思い返してみると、全てはグゥの掌の上だったってコトが良く解る。ここまで入念に凝った世界を作っているんだ。
グプタとのやり取りもほとんど予測の範囲だったのだろう。たとえあの通りの流れにならなかったとしても、どうにかして
この展開に持って行ったに違いない。オレや周囲の人間をイジって楽しむためなら本当に労力を厭わないヤツなのだ、この悪魔は。
「女はみんな小悪魔なのよ」
お前は正真正銘の悪魔そのものだろ。それもかなり上級のそれに違いない。もう魔貴族とかそんな偉そうな称号を持ってても
オレはちっとも驚かないぞ。
「せっかくグゥが男の欲望を具現化してやったと言うのに、そんな言われ方は心外ですな。ハレももっと素直に楽しんで良いんだZE?」
…なぁ、もうあんまり無意味な事を考えるのは辞めようぜ、オレ。
何も考える必要なんて無い。このイキイキとした楽しげな声が全てを物語ってるじゃないか。
ちくしょう、ここから出たらどうしてくれようか。
「だから、オレはさっさとこの魔窟から脱出したいんだっつーの。もう全員攻略しただろ?」
「何を仰る、まだ一人残ってますよ?」
「そんなはずないって! えっと……」
オレはイベント回想画面が映し出されているウィンドウに目を向ける。まず最初にクリアしたのはマリィだ。
マリィの攻略は実に簡単だった。なんせ、最初からオレに好意を持ってくれていたからだ。年下の幼馴染で、家族ぐるみの
付き合いで一緒に育ってきたってのも同じ。…何故かオレの事を「お兄ちゃん」と呼ぶのだけは慣れるのに苦労したが……。
環境の違いのせいか、オレへの接し方も本当の兄妹のようで少し戸惑ったけど、でもそれ以外は現実とほとんど同じだったおかげで、
普通に仲良く日々を過ごしているだけで何の苦も無くクリア出来てしまった。
…ただ、他のキャラを攻略している時のマリィだけは本当に洒落にならんかった。何度マリィの手によってゲームオーバーに
なった…と言うかされてしまったことか。
「ああ、あの時はハレの未来が垣間見えたよね〜」
「いいよな、お前は傍観者でよ……。ってかいくらなんでも、現実のマリィはあんなことしねーっつの!」
「いやいや、グゥはハレがプレイ中の時はハレの状態は解らないんですよ」
だから、ここにオレが戻って来たときの状態で判断したまで、とグゥは言う。
どんな状態だったのか、気になるけどやっぱり怖いから聞きたくない。なんせ、目が覚めたらここに帰ってきていたのだ。
恋シミュにもゲームオーバーなんてもんが存在するのか?……GameOverと言うか、DeadEndと言うか。
現実でも浮気だけは絶対にしないようにしよう、と固く心に誓った瞬間だったな、アレは……。
「えっと、次は……」
「リタですよ、リタ」
そうだ、マリィに比べてちょっと難しかったけど、リタも攻略しやすい方だったと思う。と言うか、他のキャラに比べて
マリィの次に「攻略しても良い」と思えるキャラだったと言うか……。
リタはオレのクラスに転入して来る帰国子女って設定だった。同じクラスのお友達って意味では、これも現実とほとんど
同じだな。何故か妙なカタコトで喋っていたのが良く解らなかったけど。
最初は、攻略対象の中では一番の難関キャラだろうと思っていた。現実でもヨハンの事もあったし、人当たりは良いけど
その気さくな態度の裏側に何が潜んでいるか解らない所がある。でも、こうして向き合って見ると実は誰よりも素直で解りやすい
性格の持ち主だって事が良く解った。
それに仲良くなるにつれ、思った事をちゃんと真っ直ぐに伝えてくれるようになった。逆にあまりに率直に
サラリと意見を口に出すせいで、キツイ事もいろいろと聞かされてしまったが……。
心を曝け出してくれるのは嬉しいけど、極端なんだよな。まぁ、基本的にはそんな事も苦にならないくらい
素で優しい子なワケで、リタと一緒にいて悪い気なんてほとんど起きやしなかったのだが。
強いて言えば…リタの方が背が高いって言うのが、ちょっと痛かった。それにその顔も、改めて見るとやっぱり
ありえないくらい可愛い。オレなんかとあんな関係になるなんてちょっと考えられなくて、最後まで現実感が持てなかったな。
「そう自分を過小評価するもんじゃないぞ? ハレだってリタの自己顕示欲を満たすくらいの役には立つさ!」
「お前のその心遣いだけはどれだけ過小評価してもし足りんな」
現実感なんて無くて当たり前だ。むしろそんなものを感じてしまったら本当の現実に帰った時が心配だ。
そう言う意味では次に攻略した、もっと現実じゃあり得ない人物の存在は助かった。
ってか、そもそもどこにあの人の入る余地があるのかすら疑問に思うわ。
「いやいや、メイドキャラはもはや常識ですよ」
たとえ本当にそんなのが世の常識だったとしてもオレの中の常識ってやつがそれと別物だってことを
むしろ誇りに思いたい。最初は攻略対象だなんて思っても見なかったっつーの。
「いや〜、グゥもまさかベルがハレになびくとは思っても見なかったわ」
「お前は自分のやってる事にもうちょっと責任感を持つべきだとオレは思うぞ?」
ベルはオレの家で住み込みで働いていて、基本的に学校では逢えないキャラだった。学校が終わってからや休日を狙って
接触を試みる必要があるのだが、最初はどう手を付ければ良いのか本当に困惑したもんだ。
そもそもベルは母さんにベタ惚れしてる人物だ。そんなキャラを攻略対象にされたらこちらとしてもどうアクションを
起こしたらいいのかわからんだろう。
だいたい、これまではグゥの腹の中のキャラクターは実際の団体・人物とは一切関係ありません、だったはずなのに、
この世界の人物は本物と性格も嗜好も、全てがまるっきり同じにしか見えないんだ。それどころか、本物の記憶すら
持ち合わせているような気がする時さえある。
「今回のウリはリアリティですから」
…だ、そうだ。本物の記憶があるならこの無理のある場面設定にも何かそれらしいリアクションを見せてくれても
いいんじゃありませんかね。都合の良い部分だけリアルに作りやがって。
「いやーグゥもがんばりましたよ」
だから、そのがんばりをもっと人類の明るい未来のために活用する気にはなれんのか、と問いたい。
とにかく、ベルを攻略するのは本当に苦労した。
元々ベルには悪く思われていなかったし、都会でも良くしてくれた人だ。あの暴力的な性格も、オレに発露したことは一度も無い。
…だけどこのゲームじゃ、何故か親しくなるにつれにその暴力性が徐々に現れて来て、そのうちちょっと機嫌を損ねたら
即座にあの反則気味のリアル無限コンボが飛び出すまでになってしまった。その後の介抱もベルがしてくれたのだが、
正直気が気じゃなかったぞ。
でも、最後には本物のベルが母さんにするみたいな態度をオレに取ってくるようになって、ちょっと怖かったけど
あんなのも悪くないかも、なんて思ってしまった。なんだかんだ言って、献身的なんだよな、ベルって。
…ただ、オレの事を「ご主人様」とか呼ぶのだけは本当に勘弁して欲しかった。お風呂にまで入って来られたし……。
背中を流してもらっただけ、って言うか背中を鼻血で汚されただけだったけど……。
「年齢差を考えるとどう見ても犯罪だよねー」
「そう思うなら攻略キャラからはずしてもらえませんかね……」
っつーか、それを言うならもう一人のあのオバハンのがダメだろ。ってかもう何て言うかここに存在する事が犯罪だろ。
「いや〜、メガネキャラが他にいなかったもんで」
そんな無意味なこだわりはこの際、底なし沼にでも放り捨てて頂きたい。
とにかく、四人目は思い出したくない。次いこ、次。
「ほほう、こんなにいろいろな思い出を作っちゃって、よっぽどお気に召したようですね」
「召してたまるか。作ったんじゃなくて勝手に作らされたんだよ」
イベント回想画面には何やらモジャモジャしたのとオレのツーショットがずらりと並んでいる。実に全体の7割を占める量だ。
……ホントに思い出したくは無いが、あれは地獄だった。あの拷問こそ、このゲームの(グゥにとっての)メインイベントに
違い無いとオレは確信している。
「攻略は楽だったっしょ」
「何より苦労したっつーの。正常な精神を保つのによ」
保険医と同じかそれ以上のトラウマを植えつけられたぞ、オレは。あの特徴的な髪型を思い出すだけで寒気がするわ。
……ダメだ。この事を考えると今こそオレの脳が破滅を選んでしまいそうになる。次だ、次。
最後は、さっき攻略したばっかのラーヤだな。
「…ラーヤ、か……」
ラーヤはマリィと同じクラスの友達で、休み時間や放課後の特定の場所じゃないと逢えない遭遇率の低いキャラだった。
最初はその存在にすら気付かなかったくらいだ。もちろん向こうからオレに話し掛けてくるなんて事も無いから、こちらから
率先して関係を築いていかなきゃならない。ラーヤが最初からオレの事を知っているそぶりだったのが助かったと言えば
助かったけど、なんだかラーヤの居る場所を探して学校中を徘徊する自分の姿がたまにどうしようもなく情けなく感じて
落ち込んだときもあったな。
「これはこれは、ジャングルのカリスマナンパ師とまで呼ばれた男の台詞とは思えませんな」
「そんな不名誉な称号を持ったどっかの誰かと思ってくれなくてむしろありがたいわっ」
でも放課後、教室の前で待ってくれるようになった時は正直、胸が高鳴ってしまった。それにその全然喋らない口や
何を考えているのか解らない表情にも慣れ、いつの間にかその感情が読み取れるようになっていた。何も喋らなくても、
ちょっとした目の動きや身体の機微だけでだいたいは察しが付いた。そうやって意思が通じたって解った時のラーヤの
少し照れたような笑顔は本当に嬉しそうで、オレもその笑顔を見るためにがんばれたんだよな。
「……惚れちゃった?」
「なっ!?ななななななな!ンなこたあ無いよぉぉぉお!?」
「全く、ゲームから出ても本物とキャラを混同しないで下さいよ?」
「す、するワケねーだろっ!あれはゲームのラーヤなんだからなっ」
そうだ、あれはグゥが作った架空のラーヤなんだ。現実のラーヤがあんなに……って、ダメだダメだ!
ラーヤの事もあまり考えない方が良さそうだ。オレはマリィ一筋、マリィ一筋なんだ……。
「おやおや、これは重症ですね」
「だから違うって!ラ、ラーヤは攻略が難しかったからちょっと印象が強いだけで……」
ラーヤは他のキャラに比べて際立った個性も無いし性格も穏やか極まり無いせいで、イベントも事件も何も起きなかった。
その上その表情や口数のせいでどの程度フラグが立ってるのかも全然解らなかった。
それにラーヤが喋らないせいで、ここに来てはじめて自分から告白の言葉を言う羽目に遭ったのだ。思い出すだけで体中が
真っ赤に火照ってしまう。あの時のオレはどこかおかしかった。きっと極限状態のせいで精神がどこかマヒしていたのだろう。
そうじゃなきゃ、告白なんて事も、あんな大胆な恥ずかしい事も、オレなんかが出来るはずがないだろ。
そうだ、ラーヤがそんな厄介なキャラだったせいで、ちょっと愛着が湧いてしまっているってだけの話に決まってる。
「そうだよ、ラーヤなんて、マリィに比べたら全然元気も無いしお喋りだって苦手だしさ〜?」
「リタのように美人でも無ければベルのように従順でもないと」
「そうそう……って、だからリタもベルも関係ないっての!!」
「そしてあの熟女のようにセクシーでも無いと」
「それは否定する事…と言うか比較対象として話題に出す事自体が他の皆に失礼な気がするからノーコメントとさせてもらっていいかなあ?」
いかん、またグゥのペースに乗せられてしまう。オレはマリィ一筋、マリィ一筋……ッ!
オレはマリィ一筋……この世界に来てから、何度も心の中で唱えた呪文だ。このゲーム世界の住人はグゥの作った
キャラクターだってのは解ってる。だけど、テレビの中に居るワケじゃない。実際に目の前に居て、喋ったり、遊んだり、
その身体にも触れ合える、外見も性格も実物と同じ存在がそこに居るんだ。
オレは心が乱れる度に、この呪文を唱える。そうして現実の自分を再確認しないと、心がこの世界に侵されてしまいそうになる。
「なんや大変そうやねえ……心中お察ししますよ」
「お前は察した上でオレにまだ試練を与えようって気満々ですよね?」
「おやおや試練だなんて。グゥはハレにマリィ以外の女も知ってもらおうと思ってこうして舞台を用意してあげたんですよ?」
「余計なお世話にも程があるわ!お前なぁ、まさかまたマリィとオレの仲を裂こうとか企んでんのかー?」
「グゥはただハレがマリィのことをまだ受け入れ切れてないように見えたもんでね」
「どこをどう見てそう思ったっつーんだよっ」
「少なくとも、明日のバレンタインを素直に喜んでいるとは思えませんでしたよ?」
「そ、それは……そうだけどさ……」
「ほれ見なさい、ハレはまだマリィの愛を受け止める事に迷いがあるのですよ……」
「そんな…そんな、大袈裟な事じゃないだろ?ちょっと恥ずかしいってだけだよっ」
「今は、どうですかな?」
「……今?」
「数々の女を相手取り、ハレも随分と鍛えられたのではないか?」
「…あ………」
もしかしてグゥは、本当にオレのためにこの世界を作ってくれたのかな。グプタもそうだけど、オレも好きな子に
ちゃんと気持ちを伝えるのってすごく苦手だもんな。でもここに来て、確かに随分と鍛えられた気がする。
そうだ、もうチョコレートを貰うくらい何てことは無い。きっと今ならオレも、ちゃんとマリィに真っ直ぐに想いを伝えられる。
グゥの言う媚薬だのなんだのの話は流石に容認し切れないけど、好き、くらいなら以前よりはずっと自然に言えるはずだ。
「グゥ……お前、ホントにオレのためを思って……?」
「ようやく解ってくれたか……」
グゥの声が、穏やかに頭に響く。それは、何かの呪縛から解き放たれたかのように本当に優しげで……
「そうだ、ハレよ……女はマリィだけじゃないんだぜ?」
……次のその一言の威力を、最大限まで高めるに十分なものだった。
ああ、オレは何度この魔貴族様に裏切られれば気が済むんだろうね……。
「小悪魔だってば」
「お前が小なら中くらいの悪魔の恐ろしさはどんなだ。少なくともオレの想像では追いつかんな……」
……考えて見たら、確かにいくらかは鍛えられたと思うがそれ以上にこの世界はオレの心を惑わせる要素が強い。
むしろ鍛えられる程に自分が汚れて行っている気になるぞ。何だかんだ言って、グゥが最初に言った通りここがやり直しの
効く世界だからあれだけオレも大胆になれたんだし、現実に影響が無いから後腐れ無く他の女の子に目が向けられたんだ。
…そりゃ、多少は罪悪感もあったけどさ。
このさい言ってしまうが他の女の子にだってそれぞれ魅力があるとは思う。でも現実じゃオレの傍に居るのはマリィ一人なんだ。
こんなヴァーチャル世界で他の子に想いを馳せてしまったら、現実世界に戻った時が怖い。
とにかく、ここはオレにとって毒が強すぎる。さっさと完全クリアして外に出なきゃそのうち本当にどうにかなりかねん。
「そうだ、まだ一人残ってるって言ってたけど、誰なんだよ?」
「まぁまぁ慌てなさんな。次のプレイで初お目見えですよ」
他のキャラを全員クリアすると登場する隠しキャラみたいなものか?全く面倒なことを。
もう他には隠し要素は無いんだよな?あるなら頼むからせめて今のうちに言ってくれ。
「大丈夫大丈夫、本当にこれで最後だからね〜。まあ完クリ後のオマケみたいなもんですよ」
「オマケねえ……。とにかく、そいつをクリアしたらここから出れるんだな?」
「………………」
「グゥ…?」
オレの質問に、グゥは妙な間を開ける。オレを不安がらせる演出のつもりか。
しかしグゥから帰って来た答えは、予想外のものだった。
「いや、クリアしなくてもいい」
「は……?」
「言っただろ、オマケだと。そしてもう一つ、言った通りこれで本当に最後のプレイだ。ハレの好きに過ごせばいい」
「好きに、って……何だよ、それ。本当に好きにして良いなら、何もしないぞ、オレ」
「ハレがそうしたいなら、それでも良い」
一体何を考えているのか、その真意は読み取れないが、その声はいつも自己中心的な彼女のものとは思えない程に軽く、
まるで予想していたかのようにあっさりとオレの言葉を受け入れる。それはその言葉にむしろ安心したかのような反応だった。
「とにかく、次のプレイが終わればこの世界ともお別れと言う事だ。悔いの無いように過ごすが良い」
「悔いも何も、元々この世界になんぞ未練なんてありませんがね」
……まぁ、心配するだけ損か。この気まぐれな少女のことだ、どうせグゥ自身そろそろこの世界に飽きてきて、
最後に何か盛大にやらかしてお開きにしよう、なんて腹積もりなんだろうよ。
とにかく、グゥの言葉をどこまで信じて良いのかは解らないが、今は信用するしかない。
オレは本当にこれが最後のプレイになることを祈りながら、ふよふよと空中に浮かぶ『Start』と書かれたボタンに手を添える。
瞬間、周囲に浮かんでいたウィンドウは全て消え去り、この空間も、オレの身体も、真っ白にフェードアウトして行く。
「最後の一人は超難関だ。落とすなら、覚悟をしておけ……」
身体と共にその意識も消失する寸前、グゥの声がやけに重々しく頭に響いた。
とりあえず、ここまでです。
ラーヤフラグに見えますがメインはハレ×おっきいグゥです。
まだラスト付近書きかけなので推敲しながら叙々に投下させて頂きますです。
長くてスマソorz
遅くなりましたが読ませて頂きましたよ〜。
投下された当日に気が付いたんだけど、出先だったので今迄読めんかった(;´・ω・)
もう何と言うか続きがマジデ楽しみですわ…激しく期待!!
ラーヤの喋らせ方に感銘を受けました。こういう手があったか。
普段殆ど喋らないからなぁ。動かそうとすると一工夫要りますな…
モノローグで会話する事に慣れている、ハレにしか出来ない芸当かも?w
グプタとグゥのやり取りにも笑わせて頂きました。
グゥ様オソロシス…計算し尽くされとるw ニッコニコの笑顔が目に浮かぶw
大人DEグゥとのやり取りは全く想像付かないので楽しみにしております。( *´・ω・)
あと、前スレの埋めネタ。読ませて頂きましたよ。
そりゃぁもうワクワクテカテカと通勤途中の電車の中で。
…( *´・ω・)
…( ・ω・)
…( ・ω・)ダマ?
…(・ω:;.:...
うはっす。催促したようで申し訳ない。寂しかったんだよ…orz
まだ途中までですが、とりあえず続き投下しますです。
↓から投下します。
[Dokibeki Material 〜 2nd Season〜]
『 - Hare Side - 』
ピピピピ……ピピピピ……
耳慣れた電子音が頭上から聞こえる。
いつ聞いても不快なその音は毎朝毎朝、飽きもせずにオレの意識を強制的に覚醒させてくれる。
オレはベッドのヘッドボードの上をまさぐり、まだ朦朧としている頭に痛いくらいに響くその音の発生源を手探りで探す。
コツンと指に当たる、四角く冷たい金属の手触り。その頭を指先で思い切り押し込むと、カチンと無機質な音を立ててようやく
その耳障りな騒音は止まってくれた。
ああ、もう起きなきゃあならない時間だ。起きて顔を洗って、制服に着替えて朝飯を食べて、そして学校に行く。これだけの
作業を朝一から毎日欠かすこと無くこなしている人間ってのは、きっと物凄く真面目で勤勉なヤツに違い無い。少なくとも、
オレにその素養が無いことは間違いなかろう。
オレは今度こそ誰にも邪魔されぬよう深く布団をかぶり、もう一度甘美なまどろみの中へと身を投じるべく寝返りを……
「ん……?」
…寝返りを、打とうとしたが、何故か打てなかった。身体の右側に強烈な圧迫を感じる。そう言えば、右腕の感覚も
どこか希薄だ。オレは右手の所在を確認すべく指を握る。
「ンッ……ふ……」
何かぽよんと柔らかい感触と共に、甘い声が耳に届いた。どこかで聞いたことのある声だ。オレはもう一度指をワキワキと動かす。
「やっ、ハ……ァン……ッ」
またも聞こえる甘く艶っぽい、しかしどこか幼い声。指にも確かに感じる、柔らかくも張りのある感触。指触りもスベスベ
と言うかツヤツヤと言うか、妙に通りが良くて心地いい。オレはさすさすと指を滑らせその指触りを確かめる。
「ひゃっわあっ!!」
瞬間、耳元から頓狂な金切り声が頭に叩き込まれた。……何なんだ、一体。
オレはガンガンといまだ脳内に響く残響音を外側から抑えながら、重いまぶたをこじ開ける。
そこには……ワインレッドのふわふわした丸い物が眼前に広がっていた。
ぐるんと、そのワインレッドが回転する。そこにもまた丸い、潤々と雫を湛えた二つのターコイズブルーがこちらを
真っ直ぐに捉え、まるでこの身が深海にでも沈んでしまったかのような錯覚を覚えた。
「お兄ちゃんのエッチ!!」
そして次の瞬間、バチン、と直に頬に叩き込まれる、本日二度目の強制覚醒。目覚ましにしては苛烈にすぎるその衝撃に、
元々ぼやけていた視界がなお歪み出す。……本当に、何なんだ、一体……。
「きゃ!ちょっとやだ、今何時!?」
ベッドが揺れ、布団の中からモゾモゾと一人の少女が現れた。えんじ色のショートボブの髪には軽い寝ぐせが付き、
その服にもうっすらとしわが刻まれている。
「やだもう、髪も制服もくしゃくしゃ……私、寝ちゃってたんだあ」
彼女はそそくさとベッドから降り、姿見の前で身だしなみを整える。……どうやらこの少女は、オレの腕を枕にして横で
ぐっすりと寝ていたようだ。なんでそんな事になってしまっていたのかは知らないが、本人も最初はそれが目的では無かった
ようでかなり狼狽している。
「って、ほらもうお兄ちゃん!早く起きないと遅刻しちゃうよっ!!」
かと思うと、今度は猛然とベッドに向かいオレをユサユサと揺すりはじめる。全く、せわしないヤツだ。朝からそんなに
動いたら昼まで持たんぞ。
オレは今度こそ落ち着いて夢の世界に沈み込むべく、母の胎内の感覚を辿るように身体を丸め布団を頭から被り、ゆっくりと
安らかに意識を……
「起きなさぁ〜〜〜いっ!」
「ごぼふっ!!」
……意識を、覚醒させられた……。本日、早くも三度目の、強制的な目覚めの合図は強烈なニーパット。思いっきりベッドに
ダイブしてきた少女の膝が、横を向いたオレのわき腹に深く重く突き刺さる。ゴリ、と言う謎の音がオレの体内から響いた気が
したが、誰か気のせいだと言ってくれ。ついでに、この痛みも否定してくれると助かる。
「お前なぁ〜……今の角度はヤバイだろ……危うく永眠しかけたぞ……」
「お兄ちゃんが起きないのが悪いんでしょ!それにエッチなことしたし、おあいこよおあいこっ」
オレはわき腹と怒りをおさえながらむっくりと布団から起きる。精神は確かに覚醒したが、身体にはすでに学校に
行く力なんて残されて無いぞ。体力ゲージが視認出来るなら、今のオレのそれは赤く点滅してるに違い無い。
「ほらほら、さっさと準備してっ」
「はいはい……あ、そこのズボン取って」
「あ、うん……って、キャアアアアア!!!!」
ビシャアと、まるで鞭を皮袋に叩き付けたような音が部屋に響いた。少女の叫び声と共に飛んできた灰色の物体は、
その美しく整ったスゥイングフォームにより十全に勢いを付け、最高のインパクトでオレの顔面に叩き込まれる。
オレはその衝撃で身体ごと横転し、頭をしたたか床にこすり付けた。ズシンと、地震が起こったかのような振動が脳を揺さぶる。
「もう、着替えるなら私が出てってからにしてよね!!」
「……お前が急げつったんだろ……」
息も絶え絶えになんとか反論をするが、床に頭を付けながらではどうにも分が悪い。しかもさっきのでいよいよオレの体力も
底を付きかけているようで、身体を起こそうにもピクリとも動かないぞ。
「私がいなくなってから急いで着替えて!ほら、制服渡したでしょっ」
どうやら、この少女がオレに向かって投げつけて来たものはオレの制服一式だったようだ。どうでもいいけど、せめて
ズボンの方をぶつけろ。ハンガーごとはヤバイから、マジで。
「急いでよねっ!私、中学生になったばっかで遅刻なんてしたくないんだから」
少女はくるりと後ろを振り向くと、スタスタと足早にドアへと向かう。その動きに合わせふわりと、レモンイエローの
プリーツスカートがまるでオレに見せ付けるかのように揺れる。その制服としては派手な色合いのスカートと、そこから伸びる
健康的な褐色の肌が俯瞰の角度で交互にオレの目に飛び込み、その二色の合間にチラチラと顔を覗かせるもう一色、真っ白な
生地が嫌でも視界に入ってしまう。
「あーもう、この制服、一週間も着てないのにぃ……」
少女はドアを手にかけながら、上着のしわを伸ばすようにぐいぐいと裾を引っ張る。その度にまたふわふわとスカートが
ひらめき、その奥に潜む少女の足の付け根から腰にかけてを覆う純白の布が見え隠れする。
「なぁ……」
「ん……なぁに?」
オレの呼びかけに、少女は顔だけを振り向かせきょとんとした表情でオレを見下ろす。自分とオレの今の状態について
何も感じる所が無いのだろう、まるで気付く様子は無い。ここは男として、年上としてオレが教えてやらねばなるまい。
「お前さ、その制服───」
「えっえっ!?に、似合ってる…かな?」
オレの言葉を遮り、少女はそんな事を言いながら一人で勝手に頬を染めてモジモジと腰をもじり出す。
相変わらず落ち着きの無いヤツだ。人の話は最後まで聞け。
しかし、その少女の何かを期待する眼差しを避けてまで我を通す強固な意志は今のオレには到底望めない。
とりあえずは彼女の話に合わせておくのが賢明であろう。
「ああ、似合ってるぞ」
「ホ、ホント!?」
さすがのオレでも、そこは素直な感想だと言わせてもらおう。
真っ白な上着に、緑の地に白のラインの入った襟と袖。それとは逆の配色の胸当ての根元には朱色の大きなリボンが結ばれ、
全体を締める役目を果たしている。
ベスト状に前で留める構造の、やや長めの上着は腰元で左右に開かれ、逆Vの字に入ったスリットからはスカートの黄色が
顔を覗かせている。背中にもそれに合わせるように深めの切れ込みが入り、あまり良いとは言えない発育状況の少女にも
まるでそこに括れがあるかのような錯覚を見る物に覚えさせること間違いなしだ。
「……なんか今、一瞬バカにされた気がした」
「気のせいだ。素直に感嘆してるんだぞ、オレは」
「ふ〜ん、なんか納得いかないけど……でも、ありがと!」
オレの気を察したか、ジトッと訝しげな顔で睨み付けて来たのも束の間、一転してキュッピルン☆と花のような笑顔を見せる。
……なんて言ったらいくらなんでも日本語を便利且つ乱暴に扱い過ぎだろうか。しかしまあ各々そんな感じで想像を働かせて
頂けるとオレもありがたいし話が早い。
さて、彼女のご機嫌も取った事だし、本題に入るとするか。
「でもなマリィ、もう中学生になったんなら、くまさんパンツはちょっとどうかと思うぞ」
───次の瞬間、本日最大級の衝撃がゴドン、と重々しい破壊音と共にオレの顔面を貫いた。何が落ちてきたのかは
解らなかったが、最後に見た光景……ヒラヒラと傘のように展開するレモンイエローの生地の中心に燦然と輝くくまさんパンツから
伸びてきた紺色の鉄槌……を考えると、恐らく、かなりの高確率でかかと落としだったのだろうと想像出来る。
「鼻血なんて出して、ホントエッチなんだから!!」
……いや、コレはお前のせいで出たものってことは間違いないけど、そんな色気の無いパンツによるものではないとオレは
強く言いたい。もはや声も出ないが……それだけはどうにか伝わってくれないものか。
「何よそんな顔して……もう見せてなんてあげないよ……で、でもお兄ちゃんがどうしても見たいって言うなら……」
……もとよりマリィには会話じたいがあまり成立しないのだ。心の声など届くはずも無いか。
しかしオレはそれでも、なんとかこの少女に伝えたい事がある。
とりあえず、床に埋まっているオレの不憫な後頭部を引き抜いてから妄想に浸ってくれ。
「って、もうこんな時間じゃない!早く着替えて降りてきてよっ!あんまり遅かったら置いてくからね!!」
バタンと、強くドアを閉める音にトントンと階段を降りる音が続く。
突然発生した局地的ハリケーンはようやく、一人で狼狽し、一人で何事かわめきながら一人慌しくこの部屋から去っていった。
……オレの一週間分の体力をアイツなら一時間で使い切るな、確実に。
結局、オレはその頭を床に半分ほど埋めたまま、かなり珍妙な体勢で固定されたまま放置されてしまった。
オレはゆっくりと頭を持ち上げ、いまだ痛む身体の稼動可能な箇所を探りながら優しく身体を起こした。どうやら、どこにも
後遺症は残っていないようだ。鼻血も既に止まっている。マリィのおかげでオレの身体も自然と頑丈に鍛え上げられてしまって
いるようだ。……あんまり胸を張っては言えないが、まぁ数少ない取り得が一つ増えたと思えばそう悪い気は……するな。うん。
いくら攻撃に耐えられても反撃が出来なければただのドM体質では無いか。この耐久力に見合う攻撃力も身に付けねば意味は
あるまい。まぁ、それは次の課題としておくとして、今はさっさと着替えを済ませて一階に降りよう。早くしないと、また更に
その勢いを増したハリケーンがここに舞い戻って来る気がするしな。
オレは乱雑にパジャマを脱ぎ捨てるとマリィに投げつけられた半袖のカッターシャツとズボンに着替え、姿見の前に立つ。
別に、自分の制服姿を確認したいワケじゃあない。これから、鏡を見ながらじゃないと出来ない作業をするからだ。
ハンガーに残る最後の一枚…一本と言う方が正しいだろうか、それは半分に折り畳んでもオレの頭から腰くらいの長さのある
細長い布切れだ。オレはそれを首に巻きつけ、鏡を凝視しながら結わえ付ける。ややぎこちない手付きではあるが、これでも
一年間以上、毎日のようにこの作業を続けて少しは慣れた方なのだ。それでも、なんとか格好の付く形に整えるまで三〜四回は
結んでは解きを繰り返すのだが……。
とりあえず、今回は三回で成功した。平均点と言った所だろう。一発で成功させる頃には卒業してるかもな、こりゃ。
最後に、首元でキュッと締め付ける。この圧迫感が実に不快だ。なんでうちの学校は、夏服でもネクタイ着用を義務付け
られているのだろうか。学校側は「ネクタイが校章代わり」と主張している。確かに紺色地のネクタイには薄らと校章のマークが
浮かんではいるが、それで簡単に納得しては学校の言い成りだ。生徒側の迷惑も少しは考えて頂きたい。嘆願書でも集めてみるか?
案外、票が集まって改正されるかもしれんな。いや、変わりに名札なんぞを着ける羽目になる可能性を考えたらそうもいかんか……。
まぁ、どうせ学校に着くまでの辛抱だ。マリィの目が届かなくなれば、ネクタイも緩めボタンも二つほど外して楽になれる。
オレはもう一度姿見で己の様を確認し、ネクタイの位置をきっちり正すと次にすべき事を考える。
次にすべき事……それは……
A:早く一階に降りよう。
B:もう一度ベッドに潜ろう。
C:自由に向かって窓から飛び出そう。
……Cだ。Cしかない。オレは何度そう思っただろう。
ようやく、オレの目は完全に覚めた。これもいつものことだ。十回近くはこのゲームを巡ったと思うが、この導入シーンだけは
オレの意思ではどうにもならない。まぁ他にもいろいろと意思に反している部分は多いが、何もオレの手を加えられない、
ツッコミすら許されないシーンはとにかく、最初のこの場面だけだ。
何度も何度もグゥに改善を望んだが、ことごとく却下された。理由は「過激な導入につきハレが獣にならないための処置」
と言う事らしい。じゃあその導入部分そのものを改善すると言う方向は望めないのだろうか。…それも何度も頼んだ事だが
要望は一切聞き入れてくれなかった。
なぁ、この時点でグゥがオレのために云々なんて考えは完全に捨て去ったはずだろ、オレ。
とりあえず、今更そんな事を気に病んでも仕方が無い。このまま手をこまねいていたら本当にもう一度凄まじいハリケーンが
オレを襲うのは三度目のプレイで体験済みだ。オレは急いでこの部屋を飛び出し、足早に階段を降りた。
……ちなみに、先ほどからぷかぷかと浮かんでいる選択肢は無視だ。どれを選んでも結局行動はオレの意思一つなのだから、
完全に無意味な選択なのだ。あれはオレをCに誘導しようとする心理的嫌がらせと断じて放置を決め込む事を一度目のプレイで
心に固く決めた。
「あら、やっと降りてきたの?遅かったわねーっ」
「ったく、ホンット、グズだなーお前」
「おはよう御座います、ハレ様。朝御飯、出来ておりますわよ」
「早く食べて食べて!」
階段を降りると、母さん、保険医、べル、マリィから四者四様の言葉が飛んできた。朝から賑やかな事だ。
「ほらほら、さっさと顔洗いなさい。ご飯もちゃんと食べんのよ? せっかくベルが作ってくれたんだからね」
「お、お嬢様……そんなお心遣いをして頂けるなんて、ベルは感激で御座いますわー!!」
「はいはい、いただきまーす」
悦った顔で鼻血を滝のように噴出するベルを尻目に、オレはテーブルに着き朝飯をパクつく。
この世界でもやっぱり母さんはほとんど料理をしない。ついでにどこかの富豪の令嬢で、屋敷を出る時について来たベルに
炊事、洗濯、掃除等々、家事の一切を任せている、なんて設定もほとんど現実と同じだ。
「あ、そうそう! おはよ、ハレッ」
「んも〜、ご飯食べてる時にキスすんなってのっ」
「うっせーな、朝くらい静かにしろ!」
「うふふ、いつも仲良し家族でいいな〜」
こんな環境でも皆の性格はそのまんまだ。変にいじられているよりは気が楽なのも確かだが、あまりこの世界に
馴染んでしまうのも怖い。オレはこの世界に愛着が沸いてしまわない様に、ある程度心に距離を置くように勤めていた。
「ごちそうさま! 今日も朝ごはん、美味しかったよ」
オレは手早く食事を済ませると、手で口をぐいと拭き、そそくさと席を立つ。
「ハレ様ったら……勿体のう御座いますわ」
「まー、母さんの料理は褒めてくれた事無いのにっ」
A.母さんの料理は褒められたもんじゃないですよ。
B.母さんが料理をする事があればそれ自体を褒めたいよオレは。
C.オレだって母さんの料理、褒めたいよ。母さんの料理、食べたいよ……。
また中空に選択肢が沸いてくる。これは他の人には見えていないらしい。正直、オレの視界からも消えて欲しい。
選択肢以外の行動も取れるのだが、まぁここは話を円滑に進めるために従っておこう。
→B.母さんが料理をする事があればそれ自体を褒めたいよオレは。
「あああああああああ!!! 言ったわねー!!!!」
言うが早いか、母さんはガタンとテーブルを立ち、ドスドスと足音を立てキッチンに向かう。
「ちょっと待ってなさい! お弁当作ったげるから!!」
「あ、あの……お嬢様? 今からお作りになられても……」
「っさいわねー! 邪魔だからあっち行ってて!!」
「じゃ! じゃじゃじゃじゃ邪魔!! 私が……お嬢様の……邪魔モノ……ッ!!」
ベルは大げさにヨロヨロとよろめきながら後ずさり壁の隅っこにうずくまってしまった。
可愛そうだが放っておこう。下手に構うとフラグが立ってしまう。
「イタッ! 熱っ!? きゃあああ! 火、火がっ!!」
キッチンからなにやら物騒な声と音が響いて来る。母さんがフライパン片手に懸命に炎と格闘しているようだ。
まな板の上に雑然と積み上がったあの食材の中の何割が料理として無事に活用されるのだろうか。
恐らく、一割に満たないだろう。オレは心の中で近い将来無残な消し炭になるであろう食材たちに手を合わせた。
ちなみに、Aを選ぶと鉄拳が飛んで来る。Cを選ぶと冷たい視線と含み笑いが突き刺さる。
……ろくな反応しやがらねぇところも本物そっくりですよね、ホント。
「……ってコトだからさ、マリィは先行っててよ」
「え〜っ! でもでもぉ〜っ」
「中学入ってすぐに遅刻なんて、ヤなんだろ?」
「う〜〜〜〜〜っ…………」
母の手作り弁当、なんて代物はマリィにとっても憧れだ。それを作る母さんを止められるはずも無い。マリィの分も
作ってもらうから、と付け加えると、それでも少し渋ってはいたがなんとか了承してくれた。
お昼を一緒に食べる約束を取り付け、マリィは一人寂しそうに玄関を出て行った。……ごめんね、マリィ。
よし、ここまでは順調だ。マリィを先に行かせ、一人で行動する時間が出来た。
グゥによると、これが最後のプレイらしい。何もしなくても良い……なんて言っていたが、どういう事だろう。
それに隠しキャラの存在も気になる。オレはこのまままっすぐ学校に行って良いのかどうかも解らなかった。
「で……できたわ……」
「ああ…お嬢様、こんな姿になって……おいたわしい……」
───待つこと十数分、やっとお弁当が完成した。満身創痍の母さんをいつの間にか復活したベルが介抱している。
「さぁ……これを持って、あなたは早く行きなさい……私の屍を乗り越えて……強く生きるのよ……」
あんたはどこの誰ですか。案外余裕そうでむしろ安心したよ、オレは。
母さんに仰々しく手渡された巾着袋には四角く弁当箱の形が浮かんでいる。マリィの分も一つの弁当箱に収まっているらしく、
そのサイズはかなり大きめだ。
「中身は、何?」
「……お………」
キッチンに置いてあった食材は全て消え去り、代わりに焦げ臭い匂いが辺りに充満している。なんとなく想像はつくが、
一応、お弁当に何が使われたのか聞いておいて損はあるまい。
「おにぎ……り………」
「おっ! お嬢様ああああ!!!」
それが、母の最期の言葉だった。……さて、学校に向かうとするか。
「……って、ちょっと待ちなさい! あんた冷たいんじゃないのぉ!?」
かと思ったら、あっさり復活した。やはり心配する程では無かったようだ。
ってか、おにぎりを作るのになぜそんなにボロボロになるのか。何を焦がす必要があったのか問いたい。
どうせ全ての食材を燃えカスにしてご飯だけが残ったってトコだろう。まあ、いつかの日の丸弁当よりはマシか……。
「ウェダちゃん、僕の分は?」
「え? あ、忘れてたわ」
「そ、そんな……」
あまりにもアッサリとした母さんの言葉に保険医はガックリと落ち込む。このへんの扱いも現実のままだな。
ちょっぴり哀れだが、まぁ何の問題もあるまい。むしろ良い気味だ。
「まぁまぁ、ハレと一緒に食べればいいでしょ。いっぱい作っといたから十分足りると思うわよ」
「え〜〜〜? コイツとぉ〜〜〜!?」
言いながら、保険医はあからさまに嫌そうな顔で睨み付けて来る。こっちだって嫌だっつーの。
「あ、そーだ。どうせなら先生、学校までハレ送ってってよ」
「学校に車で行ったらなんか偉そうじゃんか。いいよ、どうせ遅刻する……じゃなくて、とにかく大丈夫だからさ」
危ない危ない。どうせどうあがいても遅刻するんだから急いでも同じなのは確かだが、ここでそれを予言する意味は無い。
それはともかく、保険医の車に乗ったらあのモジャモジャのルートに強制的に乗ってしまうのだ。それだけは絶対に
阻止しないといけない。
ちなみに保険医はこの世界でも学校の保険医をしている。元は大病院に勤めていたらしく、母さんともそこで知り合ったので
いまだ「先生」と呼んでいる…なんて激しく無駄な設定も一応、あるようだ。
「僕も今日は無理だよ、学校行く前にちょっと寄るとこあるからね」
「あ……忘れてた。あの子が来るの、今日だっけ」
「相変わらずだなぁ、ウェダちゃんは……。ま、そーゆーコトだから、僕は空港に行かなきゃならないんだよねぇ」
「………え?」
こんな会話、はじめてだ。グゥの言う隠しキャラが登場したせいだろうか。オレは注意深くその会話に耳を傾ける事にした。
「ハレ、期待しとけ?昼過ぎくれーになると思うけどな、お前のクラスにめちゃ可愛い子が転校してくんぞ」
「え、そ、それってリタの事?」
「お、なんだ耳が早いな。流石僕の息子だねぇ」
しまった……思わず聞き返してしまった。オレがリタの事、知ってるはずがないじゃないか。オレがリタとはじめて合うのは、
学校に行く途中の曲がり角でだ。学校に向かう途中で道に迷ってうろついてる所をぶつかって、学校までオレが案内する事に
なるんだ。結局それでオレは遅刻するんだけど、その後、オレのクラスの転入生だって解って向こうから声をかけてきて、
マリィに嫉妬されて……なんて、どこかで聞いたような展開になる。リタのルートに入るための必須フラグだ。
「けどな、その子は昨日、日本に着いてんだ。オレが今から迎えに行くのはもう一人の子だよ」
もう一人……?転校生がもう一人、オレのクラスに?そいつが隠しキャラなのは間違い無い。一体誰なんだろう?
「ちゃんとハレの隣の空き部屋、掃除しといてよね」
「わかってるって! ピッカピカにしとくから安心して連れて来てね」
「え……何の話?」
「うふふ、学校に行ってのお楽しみよっ」
オレの気も知らず、母さんはいつもの楽天的な表情を崩さずピンと立てた人差し指をクルクルと回す。
また、不穏な話が出てきた。オレの隣の部屋は確かに空き部屋で、半ば倉庫のような開かずの間になっている。
何か、物凄く嫌な予感がするぞ……。
グゥは何もしなくても良い、と言っていたが、このままじゃ隠しキャラが誰なのか気になって落ち着かない。
こうなればさっさと学校に行って、その転校生を待つのが得策か。
「そ、そうなんだ! 楽しみだなー! それじゃオレもそろそろ行くよ!!」
オレは声高らかに、意気揚々と玄関を飛び出した。
……でも、保険医によると転校生が来るのは昼過ぎってことらしい。今すぐ行ってもどうせ会えないか……。
さて、どうするか。
A:やはりすぐに学校に行って教室で転校生を待とう。
B:お昼まで適当にぶらつくか。
C:このさい、保険医の車に乗せてもらおう。
……なーんて。自分で勝手に選択肢を頭に思い浮かべてしまう。
いよいよこの世界に毒されて来たかな、なんて思ったりもしたが、これで最後のプレイだ、ここはちょっと遊ぶか。
オレは自分の心の中の選択肢に従う事にした。
→A:すぐに学校に行って教室で転校生を待とう。
余計な事をして面倒な目に遭うのはやはり避けたい。オレは駆け足で学校に向かう事にした。
元々、歩いても30分とかからない距離にある学校だ。走れば10分もあれば着く。
オレの通う学校の名前は『私立雀友学園』。「雀友」は「ジャングル」と読むらしい。どんな当て字なんだかさっぱりだが、
どうせ知ったところで無駄な知識がまた脳のキャパシティを切迫するだけだからあえてグゥには聞いていない。
雀友学園は小・中・高までを一つの敷地内に収める巨大な学校だ。グプタはその高校校舎にいるはずだが、そちら側には
見えない壁があってどうしても行く事が出来なかった。
最初はこの細くうねった道路…グゥによると日本の道路はこんな風らしい…にも困惑したけど、今や目を瞑ってでも学校まで
行ける自信がある。この道はいつも車も通っていないし、歩行者もいない。リタのいる曲がり角までは遠慮なく走り抜けられる。
リタとの遭遇ポイントはあと二つ先の曲がり角だ。オレは走る速度をぐんぐんと上げ、スピードを落とさず一つ目の角を曲がった。
「…む?」
「え、うわっ!?」
───居ないはずだった。……誰もそこには、居ないはずだった。
勢い良くカーブを曲がろうとした瞬間、突然現れた人影に驚き、オレは足がもつれそのままの勢いでその人影に
激突してしまった。
(──あれ……?)
しかし激突の衝撃はまるで無く、代わりにふわりと身体が浮いたような感覚だけがその身を包んだ。
オレはまるで空を飛んでいるような感覚を覚えながら、激突の際の勢いを失うまでその人影と共に宙を舞っていた。
そのうちにすとんと、何の衝撃も無く足が地面に着く。一体今の浮遊感は何だったのか、慌てて後ろを振り返ると、
今自分が立っている場所は曲がり角から数メートル先の地点だった。
信じ難い事だが、その人影はまるで自身をクッションにするかのように瞬時にオレを抱きかかえたまま後ろに飛び、
その勢いを殺した、と解釈するしか無かった。
「大丈夫か」
「え? あ、え!?」
いまだ混乱する脳を更に揺さぶる、やけに感情の篭らない淡白な声。その聞き覚えのある声のした方を見上げると、
そこにはやはり見覚えのある顔があった。
透き通るような白い肌。風に揺れる桜色の長い髪。切れ長の目の奥には、髪の色を深くしたような朱が淡く輝く。
オレを優しく抱き締める腕からはその繊細さに見合わぬ力強さを感じる。そしてオレを全身で受け止めてくれたその身体は
女性ならではの柔らかさを持ち、特に顔に触れている部分のそれは今もクッションの様なふくよかな心地よさと温もりを
オレに与えてくれた。先ほどの空中遊泳で強張った身体の緊張も、解れて行く……この感触は……。
「──って、ご、ごごごごめんなさい!!」
「む?」
オレは自分よりも頭二つ分近くも背の高い女性に抱えられる形になっていた。思いっきり身体ごとぶつかって、オレの方からも
無意識にぎゅっと抱き締めてしまい、自らの顔でその女性の柔らかい二つの膨らみを思い切り押し潰してしまっていたのだ。
その感触の正体に気付いた瞬間、オレは自分でも驚く程の勢いで弾かれるように後ろに下がった。肩をしっかり抱えられて
いたため、離れたのは顔と手だけだったけど……。
「どうした?」
「いや、あのその……ありがと……?」
「……ふふっ、謝ったり礼を言ったり、忙しいな、ハレは」
ダメだ、まだ頭が混乱している。まるで思考がまとまらない。聞きたい事も言いたい事もいっぱいあるはずなのに。
いまだ顔に残る先ほどの感触の余韻が、その感触の元である至近距離で眼前に広がる二つの膨らみが、オレの頭を沸騰させる。
「Oh……ジャパニーズ・バカップルね」
いよいよオレの脳が混乱を極めている中、前方から珍妙なイントネーションの声が聞こえた。
そしてグゥの背後から、オレよりも頭半分くらい背の高い金髪の少女の姿が現われる。
少女は物珍しげな目線を投げかけながら、トコトコとオレの横を通り過ぎていく。
そうか、オレがここでグゥとぶつかっちゃったから、リタの方は無事に曲がり角を抜けられたのか。
「これハごちそうさまデース」
そのまま、よく解らないコトを口走りながら少女は曲がり角の向こうへ消えて行った。
……リタ……いつも思ってたけど、なんでこの世界じゃそんなキャラなんだ……?
「痛む箇所は無いか?」
「へ? え、あ……う、うん」
変なタイミングが重なり、逆に頭の回転が戻ってきた。リタとのフラグはこれで折れてしまっただろうけど、まぁいいか。
おかげで少し冷静になれたし。
「大丈夫……かな、多分」
オレの言葉に彼女は薄く微笑み、そうか、と返すとようやく身体を離してくれた。そして目の前にしゃがみこむとオレの身体の
無事を確認するようにぽんぽんと肩や腰に手を触れる。
「……怪我は無いようだな」
再び、カァッと顔が熱くなる。大人状態とはいえ、オレの良く知る人物と同じ姿をした人にそんな風に子供扱いされた事も、
先ほどまで一人でわたわたと狼狽していた事も、なんだかとてつもなく恥ずかしく思えてしまった。
「あああの、改めて…ありがと、助けてくれて! それにぶつかっちゃって、ごめんっ」
「ん? ふふ……うん、私も少し驚いたぞ」
言いながら、オレはグゥから逃れるように手を前に掲げ後ずさる。そんなオレの様子にまたグゥは微笑みを向けた。
……うう、死ぬほど恥ずかしい。
それでも何故か、その顔を見ているうちに先ほどよりは頭の熱は収まった。代わりに身体の表面が燃えるように熱いが……。
とにかく、思ったとおりに口が利けるくらいには回復出来たようだ。これもリタのおかげ、なのかな?
「グ、グゥ……?」
「ん、何だ?」
オレの問いかけに、彼女は微笑みを崩さぬまま真っ直ぐに応える。
やはり、グゥで間違いないようだ。ただグゥと言ってもオレの良く知る性悪少女では無く、その腹の中にだけ存在する
もう一人のグゥ。本物とは性格も口調も、随分と違うイメージを持つこの大人の女性をただグゥとだけ呼んで良いのかは
解らないが、他に呼びようが無いしずっとグゥ(大)と呼ぶのもなんだか気が引ける。まあ今はグゥ、と呼ばせてもらおう。
「えっと、何でこんな所にいるの?」
「……少し、散歩をしていたのだ」
「散歩?」
「ああ、この世界は実に興味深い」
グゥはしゃがんだまま、オレの両肩を支えにするように手を置き空を見上げる。言葉の意味は良く解らなかったけど、
オレは彼女のそんな仕草を見るだけで、なんだか体温がまた上昇してしまった気がした。
慌ててオレもグゥの姿をその目に映さぬように空を見上げる。そこには鳥一つ飛んではいなかったけど、その青空は
現実世界と同じように、どこまでも続いているようだった。
「……………」
「……え、な、何?」
気付けば、彼女の目線は既に空に無く、オレに真っ直ぐに注がれていた。体温と共にドキンと、鼓動までが上がってしまう。
「うむ、しばらく会わぬうちに随分と見違えたな」
「は…?」
グゥは一人で何かを納得したようにうんうんと頷くと、オレの首元に手を添えて来る。少し驚き身を引いてしまったが、グゥは
構わず指を伸ばし、よれていたネクタイに指をかけ、キュッと真っ直ぐに正してくれた。
「このような格好をしているから尚更か。凛々しいぞ、ハレ」
「…え……あ、そ、そんなこと……」
そんな言葉と共に、ニコリと微笑みまで投げ掛けられる。ついでに再度肩に置かれたその手にもきゅ、と力が込められる。
もうそれだけで、ボボッと音が出んばかりに、身体から湯気が出そうな程に体温が上昇してしまう。
何故こんなことがこんなに恥ずかしいのか。それが解らなくてまた恥ずかしくなって、身体の熱も心臓の音も再現なく
高まり続けてしまう。
オレは動揺を悟られぬように、グゥの微笑みから逃れるように目線を下に切った。しかしその先からもオレを困惑させるものが
視界に飛び込んでくる。
先ほどまで顔を埋めていた膨らみの先に見える、すらりと伸びた真っ白な脚。立て膝を付く形で縦に開いた脚は、立っていても
膝まで届くとは到底思えない長さのスカートを自然に捲くり上げ、本来そのヒラヒラとした布地が覆うべき場所をほとんど
申し訳程度に隠しているだけだった。
何故今まで気付かなかったのか、良く見てみればグゥの服装も普段のものではなく、まるで今朝見たマリィのような格好をしていた。
淡い桃色の上着は普通のシャツのようにボタンの付いた前留めタイプ。幅広の襟と袖には濃いピンクのラインが一本入り、
胸元はVの字に大きく開かれていた。藍色のリボンはマリィの制服のように大きな物ではなく、細いリボンタイを蝶結びにした
シンプルなもの。スカートは太い線と細い線が交互に、縦横に入るチェック柄。生地も柄も、配色は青系統で統一されている。
デザインこそ違えど、やはりそれはこの世界の、恐らくは日本の学校で使用されている制服と呼ばれているものに相違無かった。
そして明らかにその丈は、グゥの高身長に適合しているようには思えなかった。ワンサイズ以上小さくないか……?
「グ、グゥこそどうしたのさ、その格好」
「ん?おお、これか。この世界が今のように変わった後に、ともよに手渡されてな」
オレは慌ててもう一度目線を外し、中空に目を泳がせる。もうグゥの姿そのものを見ていられない。傍目から見たらかなり
挙動不審に映っていただろうが、グゥはさして気にした様子も無くオレの質問に応えてくれた。
「私もたまには、見栄えくらいは変化を付けようと思い着てみたのだが……どうだ、少しは変わったか?」
グゥはスックと立ち上がると、その場でファッションモデルのようにくるんと回ってみせる。その動きに合わせ、やはり
想像通りの短さだったスカートがふわりと浮かび、その白い肢体を惜しげもなく晒す。
オレの目はいよいよその置き所を失い、ますます挙動不審にきょろきょろとグゥの周囲を泳いでしまう。
「なんだ、ハレはあまり好きではないようだな」
「い、いやそんなことは無いんだけど……オレは普段の格好の方が好きかなぁ〜……」
自分でも何故そんなにその格好にドギマギしてしまうのか、良く解らなかった。肌の露出によるものか、とも考えたが、
普段着ている、全身を包み込む筒のようなワンピースを胸に巻かれた布で止めているだけの服装だって肩や胸元が大きく
露出しているのだ。でも、あの格好をそんなに意識した憶えは無い。今の格好は肩の代わりに脚が大きく露出しているが、
ここまで自分が動揺してしまう程のものとは思えなかった。元々オレは常夏のジャングルに住んでいるのだ。露出度で言えば、
村の大人の女性の姿は今のグゥの比では無い。母さんに至っては家じゃ裸がユニフォームだ。まぁ母さんの場合は、ただ肉親って
だけじゃなく下着姿のまま外にも出歩いてしまうような人間をオレが女として認識していないせいかもしれないが。
「ハレはあの格好の方が良いのか……」
グゥは、体操をするように身体を捻り自分の姿を確認しながら、そうか、ふむ、などとぶつぶつ呟いている。
その声は少し残念そうで、チクリと心が痛んだ。
「それに、これはどうも下半身が薄ら寒くてな」
「うわぁっ!? ちょ、ダメダメ!」
グゥはそう言うと、おもむろにスカートの端をつまみ、何の躊躇も無くペロンと持ち上げた。
オレは慌ててグゥの手を制止したが、その時に…バッチリと見えてしまった。ふわりと浮かんだチェック模様の布地の
奥にある、普段絶対に見る事の無い部分を。
そこにはマリィのようなかわいらしいものじゃあなく、母さんあたりが穿いていそうな実に大人っぽいものだった。
それも、母さんが普段穿いているようなものよりもずっとその生地の面積は狭く、両サイドを紐で結んだそのデザインは
海水浴に行った時に見かけた見知らぬ女性の着けていた水着を思い出させる。あの時は、あんなちょっと紐が引っかかっただけで
大変な事になりそうなモノをよく平気で着けられるものだと思っていたが、まさかそれをこのグゥが着けようとは。
一瞬、ほんの一瞬だけど、確かに目に映ったその光景はオレの目の奥にしっかりと焼き付いて離れてくれなかった。
もう、体温も動悸も臨界点を突破してしまって、自分でもどうなっているのかなんて解りゃあしない。
「…なんだ、どうした?」
「お…、女の人がそんな風にスカート捲くっちゃダメなのっ!」
「ふむ……だがこの腰の紐は気持ち悪いから取りたいのだが……」
「ンなっ!? そ、それはもっとダメ!!」
そう言いながら、グゥは今度はスカートの中に手を入れ、ゴソゴソと下着の位置を直し出す。よっぽど気持ち悪いようだ。
それよりもグゥは自分のしている事を良く解っていないみたいだ。これまで、女性の嗜みなどとはトンと無縁だったらしい。
グゥによると、その下着も制服と一緒に山田さんに渡されたものだそうだ。もしかして普段は何も着けていないのだろうか。
いつもの服装が、足首までかかる程の長いワンピースで良かったと妙な安堵を覚えてしまう。しかし今の格好ではそうも
言ってられない。せめてオレの前だけでも、激しい動きは控えて頂かねば。
「そうか、ハレを不快にさせてしまったようだな。これからは注意しよう」
「いや、不快っちゅーか何ちゅーか……まぁ、気をつけてくれたらいいよ。女の人はもっとお淑やかにしなきゃね」
「お淑やか、か。例えばどんな風にすればいいのだ?」
「え? っと……あんまり脚を広げたりしなけりゃそれでいいんじゃないかな。歩く時もこう、静かにね」
淑やかさ、なんてオレにも良く解らない。母さんの逆、と言えば解る人にはよーっく解るだろうが、彼女にはその説明も
通じまい。とりあえず見えちゃダメなものが見えさえしなけりゃそれでいい。オレはなるべくスカートが舞い上がらないような、
お行儀の良い歩き方を実演してみせる。
「成程、ハレは女に詳しいのだな。勉強になるぞ」
「そりゃ良かったけどそんな言われ方は甚だ心外だなあ……」
グゥは心底関心した様子で、オレの真似をしてしゃなりしゃなりと足元を確認しながら歩く。すらりとした細身の長身で、
それでも出るところはきっちり出ているバランスの良い体型の彼女がそうして歩く姿は、ますますもってモデルのようだった。
「ところで……ハレはどこかに行くところでは無かったのか?」
「あ………」
歩き方の練習をするようにしばらく短い距離を往復していた足をピタリと止め、くるりとこちらに向き直るグゥの言葉に
ようやくオレは当初の目的を思い出した。
そうだ、オレは学校に向かう途中だったんだ。予期せぬ人物の登場でその事をすっかり失念していた。
時計を持っていないので今が何時くらいなのか解らないが、この分だと教室に入るのは二時限目からになりそうだ。
どうせ転校生が来るのは昼過ぎだし特に問題は無いのだが、とりあえず早めに学校に行っておいて損は無い。
すいません、
>>46は投稿ミスです。
>>46の頭に↓のを追加して読んで下さいませ。
「あ、あの、別に似合ってないってワケじゃないんだよ? ただあんまりグゥのそーゆー格好見慣れてなくて……」
「良い、良い。私もいつもの格好の方が落ち着くのだ」
取って付けた様なオレの言い訳にもグゥは素直に頷いてくれる。……いや、言い訳じゃあない。自分で言って気付いたが、
今オレがドギマギしてるのはやっぱり、グゥがあまりに見慣れない格好をしているからに違い無い。
いつもなら、この世界がどう変わろうともグゥだけは普段と変わらぬ姿を保っていたのだ。あの三人の薦めとは言え、
グゥがこんな女の子っぽい格好をするとは想像もしていなかった。
>>46
「ごめん、オレもう行かなきゃ!」
「うむ、私のせいで時間を取らせてしまったな」
「ううん、元はと言えばオレがぶつかっちゃったのが悪いんだしね。それじゃ、バイバイ!」
「……待て」
「え……わわっ!?」
別れの挨拶もそこそこに、走り出そうとしたオレを呼び止める声。まだ何かあるのか、と頭だけを振り向いた瞬間、
いつからそこにあったのか、目の前に広がる薄い桃色のセーラー服に顔を押し付けられる。そして腰に何かが
巻きついたかと思うと、身体がふわりと宙に浮いた。
「学校、と言うところに行くのだろう?」
一体何が起こったのか、状況を確認すべく前に向き直る。が、視界に飛び込んで来た光景はいよいよオレの理解を超えたものだった。
その目に映るはまず家屋の屋根。そして屋根を踏み台に、空を走る電線を飛び越え更に上空を飛ぶ。まるでテレビで見る
空撮のような景色が高速で移動しながら眼前に迫ったり、離れたりを繰り返していた。
風を切る音と風圧を全身に感じながらも、その感覚はあまりに現実離れしすぎており、自分が今どう言う状態にあるのか
まるで把握出来なかった。
「ふふ、またお淑やかにしろと言われてしまいそうだな」
強烈な風切り音に紛れて誰かの声が聞こえたが、こちらはそれに耳を傾けている余裕も無い。たとえちゃんと声が聞けて
いたとしても、オレの口は呼吸をするので手一杯で、返事なんてとてもじゃないが出来やしないのだが。
それでもどうにか現状を認識すべく目を凝らす。視界が激しく上下に揺れる度に、巨大な建造物がぐんぐんと近づいて
来るのが解る。あの建物はオレも良く知っている。なんせ、これからそこに向かうところだったのだ。
その建物がいよいよ目前に迫って来た瞬間、オレの身体は一際高く宙を飛んだ。そのまま建物を飛び越えんばかりに高度を上げ、
屋上が一望できる高さまで上がるとそこに向かって急降下する。
オレはその墜落感と、襲い来るであろう衝撃に備え身を縮めたが、それまでの猛烈な勢いに比べその着地はあっけないほどに
ゆるやかで、まるで重力に逆らうかのようにふわりと屋上に舞い降りたのだった。
「着いたぞ。少しは遅れた時間も取り戻せただろう」
腰に巻きついていたものが緩み、ようやくその床に足を付いた途端、オレは情けなくもそのままへたりこんでしまう。
胸に手を当てると、今にも飛び出しそうな程にドクドクとその鼓動を上げているのが解った。一体、何がどうなったのか。
声のした方を見上げると、桜色の長い髪が風に流され大きく揺れていた。その人物が、オレをここまで運んだ張本人であろう事は
疑う余地も無い。その方法は定かではないが……いや、何となくの想像は着くが、あまり考えたくないし思い出したくも無いので
このさい不問とさせて頂きたい。どうあれ、二度と体験したくないものだって事に変わりは無いのだ。
とにかく彼女のおかげで随分とショートカットさせて貰ったようだ。ありがたいやら、勘弁して欲しいやら。
「それと、これはハレのものだろう?忘れてはならぬぞ」
そう言うと彼女は、オレの脇にトンと学生カバンを置いた。
ぶつかった時にでも落としてしまっていたのだろう、すっかり失念していたが、そう言えばオレはずっと手ぶらだった。
ここに来る間も彼女が持ってくれていたようだ。オレが持っていたら、確実にどこかで手放してしまっていただろうな。
「どうした、ハレ? 急いでいるのでは無かったか」
「え? あ、えっとその……グゥは、どうするの?」
「ん……風が心地よいからな。しばらくここに居るつもりだ」
「そう、オ、オレももうちょっとここで涼んでから行こうかなぁ〜」
……と言うか、身体が動かないだけなのだが、さすがに男としてそれは言えない。
グゥは特に詮索するでもなく、そうか、と言うと空を見上げた。オレも同じように目線を動かすが、どこまで見上げても
グゥの姿が視界から途切れる事は無かった。
風に揺れる髪が太陽に照らされ、キラキラとそれ自身が輝いているかのように見える。ここは風が強いのか、オレの髪も
バサバサと激しく揺れてかなり鬱陶しいが、グゥはオレよりもずっと長いその髪を抑える気も無いようだ。
その代わりにグゥの両手は今、自らの股間に伸びていた。風に煽られないようにしっかりとスカートを抑えている。
ちゃんとオレの言い付けを覚えてくれていたようだ。しかし、あのグゥに突然そんなに女の子らしい仕草をされてもなんだか
心休まらない、なんて思ってしまうのはさすがに我侭だろうか。
「ハレよ……私はお前たちに感謝している」
「え…?」
グゥは床にへたりこんでいるオレの隣に来ると、足を揃え正座を崩した姿勢で座った。スカートを気にする必要が無くなった
からか、
片手を膝の上に置き、もう片方の手で髪を抑えている。髪がオレにかからないようにしてくれているようだった。
「私は、人の意識が作り出した幻のような存在だ。ここに来るまでは、自我というものもほとんど無かった」
そう、このグゥは元々、ボーアの潜在的な恐怖が具現化した、本物のグゥとは全く別の存在なんだ。
「他人の夢の中で、胸毛を毟るためだけに存在していた私に、お前たちは生きる喜びを与えてくれたのだ」
「グゥ……」
言葉に、詰まる。元々の存在理由が、あまりにも哀れすぎて何も言えない。夢の中の存在を飲み込むなんて、あの時は
なんて無茶な事をするのかと思ったものだけど、今考えるとそれが正解だったんだろうな。
「私はこの世界を愛している。……しかしふと、外の世界に憧れを抱く時もある。私は誠一やともよ、ひろこと違って
外に出ることは適わぬ身……そこに不満などは無いのだがな……」
グゥはオレに肩をとん、と預けると、そのままゆっくりと後ろに倒れ込む。オレもそれにつられ、ぺたんと床に背中を付けた。
先ほどまで強く身体を煽っていた風は、爽やかにその身を通り抜ける優しいものへと変化していた。
「目まぐるしく変化するこの世界を見ていると、よほど楽しいところなのだろうな、と思うのだ」
指の間から太陽の光を通すように、グゥは片手を真っ直ぐに上げる。
自らの手で影を作り、その表情からは感情が読み取れない。無感情に、淡々と語るその流麗な声も、いつもと変わらない
凛とした端麗さを保っている。
他者との違いを妬むでも、恨むでも無い。寂しさも悲しさも、諦観の念すら感じられない。それが自分と言う存在なのだと
当たり前のように、ある種の清々しささえ感じるその声が何故か、オレの耳には何よりも悲く響いた。
それはオレなんかがどれだけ考えても、どうにもならない問題だろう。でもせめて一時だけでも、グゥを外の世界に
居るような気分にさせてやることは出来ないだろうか。
オレは身体を起こし、寝転がっているグゥに顔を向け真っ直ぐにオレの気持ちを伝えた。
A.一緒にどこかに遊びに行く
B.一緒に教室に入り授業を受ける
C.一緒に街中を散歩する
って、こんな場面でも勝手に頭の中に選択肢を浮かべてしまう。本当に自分がこの世界に染まりつつある気がして背筋が
冷たくなる。オレは頭をブンブンと振り、最初に思い浮かんだ気持ちを大きく声に出した。
→A.一緒にどこかに遊びに行く
「ねぇ、グゥ。これからオレと一緒に遊びに行かない?」
「………………」
……しまった。これじゃまるでナンパだ。
グゥはオレの言葉に、呆気に取られたような顔をしている。流石に唐突過ぎたか。
「ハレ………」
「いやその、グゥがダメだったら良いんだけど……いきなり何言ってんだろオレ、あはは〜……」
「それは喜ばしい提案だなっ」
「へ……?」
グゥもむくりと半身を起こし、両手を胸の前でパンと叩く。満面の笑みを浮かべるその顔は、まるで子供のようだった。
この女性のそんな無邪気な表情や仕草ははじめて見る。ついでにグゥがオレの提案に快い声で応えてくれた事にも驚き、
二重の意味で不意を突かれ、オレはしばし呆然としてしまう。
「しかし、ハレはここに用事があるのではなかったのか?」
「え、あ…うん、あるにはあったんだけど、そっちはもういいんだ」
そうだ、元々攻略なんてもうしなくてもいいんだ。転校生の事は少し気になるが、それよりも今はグゥを放っておけない。
何故かは解らないけど、今は彼女の傍に居る方がずっと大事な事のような気がした。
「ふむ……デートか?」
「ぐはっ」
グゥの口から飛び出したまさかの言葉が脳天に直撃し思わずつんのめる。どこでそんな言葉覚えたんだ……。
「デートなんだな?」
「まぁその……デートって言わないでもないかもしれないような気がしないでもない感じで……」
グゥは立て膝を付き、後ろにつんのめるオレを追いかけるようにずずい、と迫り、念を押してくる。
オレは背中が床に着きそうなほど思いきりのけぞり、しどろもどろに曖昧な返事を返した。
「うん、私も一度してみたかったのだ。そうか、デートか」
グゥはうんうんと何かに納得するように頷くと、きゅっと強くオレの両手を握りブンブンと振って来る。その手を離されたら
オレはそのまま床に後頭部を打ちつけてしまうだろう。いつの間にやらグゥに生殺与奪を握られてしまった。
ってかこの人、こんな性格だっけ……?あんまり喋ったこと無いから知らなかったけど、見た目と違い案外子供っぽいのかもしれない。
「しかし本当に良いのか? 随分と急いでいたではないか。大事な用だったのではないか?」
「い、いやホント大丈夫だから落ち着いて……」
オレを気遣ってか、グゥはやけに遠慮気味だ。その口はオレの用事の方を優先してくれようとしているのは解るけど、
とりあえずそのあり得ないほど強く握り締めてる手を離して貰わないと、どっちにしろどこにも行けないのですが。
「うむ、で、どこに行くのだ」
グゥはオレの身体を起こすと、両手を離しペタンと正座を崩して座る。その顔も声も、いつも通り淡白そのものだったけど
瞳の奥に凛々と輝く光はなんだか、何かの期待にワクワクと興奮しているように見える。
ううん、何をそんなに期待して貰っているのかは解らないが、とりあえず乗り気になってくれたようだからまぁ、良いか。
「そうだなぁ……どうせなら、普段この世界じゃ出来ないことがいいよね」
オレは中空に指をかざすと、何も無い空間にボタンを押すように指を立てる。するとタイトル画面で出ていたような
ウィンドウが空中に音も無く現れた。
そこには現在のオレのステータスが大きく表示されている。知力、体力、時の運等など……基本的に何の役にも立たない
情報なのでそれらは軽く無視するとして、ウィンドウの右上に並んでいるアイコンに目を向ける。
それぞれのアイコンを押すと、各キャラ毎の好感度チェックや持ち物、日付、所持金などが確認出来るウィンドウが現れるが
それらも基本的には役に立たない。持ち物や所持金はゲームみたいにデータで管理されているワケじゃない。どうせ手に持てる
以上の物は所持出来ないんだ。お金だって財布の中身を確認した方が早いくらいかもしれない。好感度などは、オレの主観による
チェック表でしかないので実質ただのメモ帳程度の存在だ。
それでも、役に立つ機能も一応ある。「場所移動」のアイコンだ。この世界はいくら凝って作られていると言っても
道が繋がっているのは自宅から学校までくらいのもので、他の場所に行くにはこの場所移動でワープするしかない。
プレゼントを買うためのお店や、デートスポットなどに瞬時に飛ぶ事が出来るこの機能だけは実に重宝させて貰っている。
開発者であるあの少女的にはただ途中経路を作るのが面倒だっただけなのだろうが、その手の手抜きはオレはもろ手を上げて
歓迎するぞ。
場所移動アイコンを押すと、オレの目の前にパネル状にウィンドウが広がる。それぞれのパネルが、移動可能な場所を
表示している。
いける場所はいつも同じ。商店街、百貨店、水族館、動物園、遊園地、映画館……といった所だ。
「おお、それは何だ?」
グゥは空中に浮かぶウィンドウに、興味深げに手を触れる。グゥの手はそのままウィンドウをすり抜けて向こう側へ
貫通してしまったが、このウィンドウが見えるだけでもオレにはかなり驚きだ。
これまで誰の前でこのウィンドウを展開しても、気付いた人間はいなかったのだ。グゥがこの世界の住人だからだろうか。
それでも、コレに触れられるのは結局プレイヤーであるオレだけらしい。
「遊園地にしようよ。外の世界にもあるものなんだ。グゥもきっと気に入ると思うよ」
「私は外のことは解らないからな。ハレに任せよう」
本物の遊園地に行った経験はオレにも無いけど、この世界でなら何度か行った事がある。
色々なアトラクションがあるし、グゥも退屈しないだろう。
「ちょっとビックリするかもしれないけど、安心して手、握っててね」
「……うむ」
オレはグゥの手を握り、遊園地の絵が描かれたパネルに手を触れる。すると瞬時に周囲も、オレ自身も真っ白な光に
包まれて行き、しばらくすると、まるで靄が晴れるように周囲にまた色が戻っていく。完全に靄が晴れた時には既に、
オレとグゥは遊園地の中に足を踏み入れていた。
この時ばかりは、こんな感覚ゲームの中じゃないと味わえないよな、なんてソコソコこの世界を楽しんでいる自分が居たりする。
「さて、と。最初はどれに乗ろっかな?」
とりあえず、ここまでです。うう、早く書き上げねば。
コピペミス申し訳ネエ。今度からもっと気ぃつけます。
>>34 ラーヤはいじってみて解りました。この子は萌えるw
もっといろいろ萌え所ありそうです。純粋なラーヤSSが読みたい。
>>42の選択肢は
B,ラーヤルート
C.グゥ(小)ルート
なんて考えてましたが日の目を見るのは難しそうですorz
一応そっちにいける様に体裁は整えてるつもりですがそのせいで
グゥ(大)ルートだけだと未消化なゴミ文も膨らんでしまったような。
誘い受け臭くて嫌だけどB&Cルートは需要次第ってことでw
ってか誰か投下してくれぇぇ
なんかスレ私物化してるみたいで心苦しいわ……(;'A`)
乙っす!
ていうか、本当に乙っす…
読ませて頂くこちらとしては嬉しい限りでつよ。
個人的には遠慮せず投下して戴きたい。
自分は最近ネタが浮かばんくて…昔はホイホイ書いてたんですがorz
ぶった切ってしまうのは悪いので、区切りがついたら頑張って投下してみようかと思います。
内容の保証はできないけどNe
もうこのさい「君が!泣いても!僕は!投下をやめない!」って勢いですw
ぶった切っても無問題ですよ。内容の保障なんて私の方こそアレなので無問題ですよ。
自分のSSじゃ……抜けんのだ……ッ
ついでにセコセコ作ってたまとめWikiなどで雑談を盛り上げてみるテスト
ハレグゥエロパロスレ@Wiki
ttp://www29.atwiki.jp/hgpink/ こうしてみると初代スレの投下量ハンパネエ
過去ログ持ってるけどどっか良い置き場所無いかなー。
まとめWikiの製作乙!!改めて見ると凄いボリュームですなぁ。
以前2次スレにあった宣伝を見てこちらに流れて来た者ですが…
結構人多かったのかな?当時の初代スレを見ていなかったのが本当に悔やまれる。orz
あちらに宣伝を書き込んでくれた方に感謝しておりますw
こちらのスレを見るまで、こういうSSの世界がある事すら知らなかったので。
しっかし、いろんな方の作品を読ませて頂きましたが皆うまいな〜。
ずっと読んでたら萌えすぎてどうしようもなくなって参りました。( *´・ω・) ハヒーハヒー
ハレグゥ22歳とかたまらんのだが……未完が多くて性欲をもてあますわー
フオオオ
確かに。「舌を」で終わってる作品とか、もうほんと生殺しですよ(;´Д`)
ハレグゥの現状を省みるに、果たしてハレは20まで生きられるのか心配だ。
グゥはどちらかと言えば生かさず殺さず末永くハレで遊ぶだろうが、
マリィは痴情のもつれからグサッ、でデッドエンドも十分考えうるしな。
グゥが傍にいたらグサッくらいじゃ死ねない気もするw
荒廃した未来のハレもグゥがいたから生き延びれた感じだし。
ってかあの未来のハレとグゥの関係が凄く気になる。
悪ダマ退治が成功したら自分たちは消える。
過去に戻る前にハレとグゥはお互いの想いを確かめ合ったりしたのだろうか。
タイムスリップ前夜……。やべえ萌えてきたw
>>57 うんうん。禿同。もうアレは生殺しの究極だよ…!!
ニヤけて読み進めてったら行き止まりだったorz
>>59 激しく素敵な萌えを持って来ないでくれ。
妄想が一気に破裂したではないか…!!!
もしそのSS作れたら…読みます?
>グサッくらいじゃ死ねない気もするw
@グッ、グゥ!!のんきに傍観しとらんで助け…!!」
Aぐさっ!ぶすっ!
Bハ「あっ…あぁっ…!!も、もう…ホントに逝…」
Cグ「しゃらんら〜」
Dハレ復活
E「@」に戻る
テラオソロシス…!!(゚Д゚;
未来のハレとグゥは多分…今のハレとグゥよりもかなり親密な間柄になっているでしょう。
助け合い助け合い。( *´・ω・) ハァハァ
前スレの虹ネタ、ホント良いなぁ。かなりお気に入りに。
ついつい何度も読み返してしまう…。
>>60 読まない理由が無い!
本誌でも未来ハレが「オレの方のグゥ」とか言ってるだけで萌え尽きそうだったってのに
ハレが腹ン中いるときの未来と現在のグゥのやりとりとか妄想し出したら脳汁が止まりません。
Jungle'sValentineの続きです。うう、まだ終わりません。あと4章くらいっす……。
↓から投下します。
<<6>>
この遊園地は現実世界にもある有名なテーマパークをそのまま再現しているらしい。ここに来る時だけは
複雑な気分ながらもついワクワクしてしまう。
ここは入場料さえ払えば、中のアトラクションは全てフリーだ。現実逃避のためにここに篭った事も何度かあった。
日が暮れるまでコーヒーカップで一人回り続けた記憶がもはや懐かしい。
とりあえず移動する事にしよう、と歩き出した瞬間、ぐんと腕が引っ張られつんのめってしまった。
いや、引っ張られたんじゃない。オレの腕が何かに縛り付けられその場からびくともしなかったのだ。
見ると、オレの腕にしがみついたグゥが、固く目を瞑り身を縮こまらせたまましゃがみ込んでいた。
「グ、グゥ?」
「………む。もう、着いたのか?」
ちょんちょんと肩をつつくと、電源が入ったかのようにぱっと目を開き、身体の強張りもゆるゆると解けていく。
「やっぱり、ビックリした?」
「む? いや大丈夫、大丈夫だっ!」
大きな身体を丸めて怯えたように固まるその姿はあまりにグゥらしく無く、オレは笑いが堪えきれずつい声が震えてしまう。
それに気付いたのかグゥは、カァ、と頬を赤く染めて、弾けるようにオレから離れ勢い良く立ち上がった。
「わ、私は外の世界の移動手段には疎いからな」
いや、あんな移動手段は外の世界にも無いから。むしろ瞬間移動なんてものに順応してしまっているオレの方が
どうかと思うから。
でもそんなグゥの姿もなんだか微笑ましく感じ、オレはついにクスクスと声を上げて笑ってしまった。
「……ハレ?」
───瞬間、ピシ、と何か鋭い音が聞こえた。何事かと周囲を見渡したが特に変化は無い。
「……何が」
グゥの足元に見える床の亀裂はきっと元々あったものだろう。
「……そんなに可笑しいのだ?」
グゥの周囲の空間が一瞬、ゆらりと歪んだ気がしたのもまぁ、蜃気楼か何かだろう。
「……よければ、グゥにも教えてくれないか?」
だってグゥはあんなに笑顔じゃないか。グゥさんもこの賑やかな子供の楽園に胸をトキメかせているに違いない。
グゥ様には今日はめいっぱい楽しんでもらえるよう誠心誠意尽くしますんでもうホントからかったりしませんから勘弁して下さい。
「全く。人を見て笑うなど、ハレは失礼なヤツだと私は思う」
「ごめんごめん。ってかホントすいません」
気を取り直して、出発しようとグゥの手を引き歩き出した瞬間またピン、と手が突っ張る。
グゥはオレに握られた手をじぃ、と見詰めていた。
「な、何?」
何の気無しに手を繋いでしまっていたが、これも失礼だっただろうか。すぐにパッと手を離す。
でもグゥの指はオレの手に絡んだままで、離れてくれなかった。
「……うむ、デートでは手を繋ぐものだ」
そう言うと、オレの横にピタリと並んだ。そんな風に改めて言われるとなんだかこっちが恥ずかしくなってくる。
でも今更、手を離してとも言えない。そもそも離してくれそうにもない。半分囚われの身のような気分になってきた。
再度気を取り直して、とりあえず遊園地と言えば定番のジェットコースターを目指す。
どこに居てもその威容は目立つので、ガイドブックや案内板を見なくても迷わずに辿り付く事が出来た。
「おお、これは車と言うものか?」
「ちょっと違うけど……まぁ、そんなとこだね」
グゥにとってここは珍しいものばかりらしく、先ほどからキョロキョロと落ち着き無く顔を動かしている。
周囲ははじめて見るものばかりといった様子だ。
「そうか、ドライブか! デートと言えばドライブは付き物だと聞いたぞ?」
「いや、それはだいぶ違うかなあ……」
誰から聞いたんだ、誰から。まあなんとなく想像は付くが。
グゥは言葉だけ知っている色々な事象を今まさにかなり間違った形で知識として吸収しているようだが、
ややこしくなりそうだからあえて深くは突っ込まないでおいた方が良さそうだ。
「うむ……しかし初手からドライブとは、ハレも存外に大胆よの」
突っ込まなくても何故か事態がややこしくなっていっている気がするが、怖いから無視だ、無視。
この遊園地にはお客さんやスタッフの人もちゃんといる。勿論みんな本体のグゥの記憶から構成された人物ばかりだ。
ほとんどの登場人物は学校に集中しているためか、ここも賑わってはいるがテレビで見た本物の遊園地の混雑ぶりに比べたら
雲泥の差と言っていい。
おかげでどのアトラクションも待たずに遊べるし、まるっきり人が居ないワケじゃないので寂しく感じる事も無い。
このジェットコースターも、すぐに順番が回って来た。それも先頭車両の一番前のようだ。やっぱりジェットコースターは
先頭が一番スリルがあって楽しい。……本物に乗った事は無いけど。
「お、ええなぁボク。母ちゃんと一緒に遊園地か〜」
コースターに乗り込もうとした時、横からやけに馴れ馴れしい声が聞こえてきた。
肩まで伸びる金髪。瞬きの度にワサワサと揺れる異様に長い下まつげ。それにこの特徴的な喋り方。
この無駄に濃いキャラは見間違えようも無い。紛れも無くアシオその人だ。
スタッフの役をあてがわれているのだろう。この遊園地の名前が入ったパーカーと帽子が妙に似合っている。
初対面での馴れ馴れしさも現実のアシオと同じだ。グゥの言う「リアリティ」は攻略キャラだけじゃなく、
モブキャラに至るまで徹底しているらしい。
「あんまりはしゃいで母ちゃん困らせるんやないで?」
言いながら、アシオはオレの頭をポンポンと叩いてきた。
……なんだか妙に腹が立つ。誰が誰の母ちゃんなのか。確かに、オレとグゥの伸長差を見たらそう思っても
仕方ないかもしれないけど、"ボク"扱いは捨て置けない。
「あのさ、この格好見ても親子だと思う?」
「ん? ああ、言われてみれば……」
アシオはオレとグゥをまじまじと見比べ、小さく頷く。
そう、オレもグゥも制服を着ているんだ。ちょっと考えれば親子じゃないって事くらいすぐに解ってくれるだろう。
「ボクの母ちゃん、えらい若作りやな」
「そーゆー問題!?」
……しかし、アシオには伝わらなかったようだ。
「どこの世界に制服着て子供連れ歩くオカンがおんねん!!」
「じゃあ何や、ひょっとして……」
アシオはあごに手を当て、再びオレとグゥを交互に眺める。
そしてハッと何かに気付いたように顔を持ち上げ、ポンと手を叩いた。
「姉ちゃんか?」
「残念!! 惜しい……いや惜しくも無い!」
「まさか……妹か!?」
「何その頑なな肉親への拘り!? ってかありないですよね!?」
……ってか、何でこんなトコでこんな漫才じみた事せにゃならんねん。
「ほら、グゥも言ってやってよ〜」
「む?」
オレとアシオのやり取りをまるで部外者のようにぼけっと傍観していたグゥに助け舟を求める。
グゥはオレの声で我に返ったように呆けた顔を見せた。どこか遠くの世界に旅立ってらっしゃったようだ。
「ふむ……。私はハレの母でも姉でも無いぞ」
グゥは少し困ったような顔でオレを見詰めると、つい、とアシオに向き直り口を開く。
一応、オレとアシオの会話は聞こえていたようだ。
「ハレと私は…………」
しかし、グゥの口はそこで止まってしまった。もう一度オレの方を向き、何事か考えるように俯きしばし沈黙の間が出来る。
オレも、何故かアシオまでもが緊張の面持ちでグゥの次の言を待つ。
……うっかり何の気なしにグゥに振っちゃったけど、また変なことを言い出すんじゃないだろうな。
さっきからデートだのドライブだのと怪しい発言が目立つし、まさかここでも恋人だとか何とか……。
「……友達だ」
「な、なに言ってんだよグゥ〜! そんな大げ……さ、な?」
真っ直ぐに、まるでオレに言い聞かせるようにハッキリとグゥはそう言った。
咄嗟にフォローを入れるべく開いた口がカラ回る。グゥの答えはなんともあっさりした物だった。
よかった。ここはグゥも空気を読んでくれたようだ。
「な、何よ! 男と二人でデートしてるのに恋人同士だなんて言ったらカッコ悪いでしょ!? ホントはあんたなんか、
ただの恋人以下なんだからね! か、カン違いしないでよっ!」
「……………は?」
と、思ったら突然、グゥはえらく平坦な棒読みボイスでひとしきり何事か喚くと、それを呆然と眺める男二人の様子を
しばし訝しげに見詰め「……む?」と小さく呟きくるんと背中を向けた。
「えっ、と……」
えっとって言った。
「むむ……?」
腕を組み、首を90度近く傾げている。何か必死で悩んでいるようだ。
「な、なんやあの姉ちゃん……大丈夫か?」
オレの隣で同じように硬直していたアシオがグゥの後姿をジト目で見ながら、ヒソヒソと話しかけてきた。
大丈夫か、と言われても、そんな事こっちが聞きたい。親族にも似たような持病を抱える大女優さんがいらっしゃるが、
グゥのそれはあの人の発作とはまた何か違う物を感じる。ってか、明らかに芝居がかっていたぞ。
「あの、グゥ?」
「む?」
いまだ背を向けうんうんと唸っているグゥに恐る恐る声を掛けてみる。
オレの想像が正しければ、今のグゥの行動は全てある人の悪知恵によるものだと言う結論が付く。
「逆、じゃない?」
「……?」
「恋人と、友達」
「……!」
身振り手振りで先ほどのグゥの台詞の訂正箇所を指摘する。
最初は眉尻を吊り上げていたグゥもしばらく黙考した後、感心したように胸の前でパンと手を合わせた。
そしてもう一度後ろを向き、なにやらぶつぶつと呟きながら指折り確認をする。
……あれ、オレは今、ここで何をやっているんだっけ?
よく見たら、オレの後ろにはずらっと他のお客さんたちが並んでいるでは無いか。しかし誰も文句を言わず、
事の成り行きを見守っているようだ。みんな良い人なのか、暇人なのか。
そうしてしばらくの間の後、不意に小さく、よし、と呟く声が聞こえたかと思うと、グゥはおもむろにこちらに向き直り
大きく口を開けた。
「……恋人だ!」
「やり直すんかい!!!!」
瞬間、二人の男の完璧にシンクロしたツッコミが園内に響き渡った。
次いでドっと、背後から湧き上がる爆笑。アンド拍手。
こうしてオレたちの初舞台は、この絶え間なく続く大きな歓声と共に、幕を閉じた。
……だから、オレは今こんなトコで何やってんだっつーの。
「あんたら、おもろいなあ! 気に入ったわ!」
アシオはまだ興奮冷めやらぬといった様子でクスクスと笑いながら、お客さんたちをコースターに案内している。
ようやく自分の仕事を思い出したようだ。オレとグゥもぐいぐいと背中を押され、コースターのシートに座る。
結局、アシオとは何の話をしていたんだったか。うやむやになってしまった気がするがまあ、良いか。
「グゥ……?」
「むー?」
隣に座るグゥをちらりと見やる。グゥは座席に行儀良く座り、降りてきた安全バーを不審げに眺めていた。
オレの言葉より、そっちに興味が行っているようだ。
「何だったの、さっきの?」
「ツンデレだそうだ」
何の躊躇もなく、ズバリとシンプルな答えが返ってきた。まあ、予想通りの答えだ。
「誰に聞いたの?」
「ひろこだ」
……これまた、まさしく予想通りの答え。グゥに何を教えてんだあの人は。
「しかし、失敗してしまった。ひろこはこれで殿方の心をがっちりと掴み取れると言っていたのだが」
「いやー、アレはもうやめといた方が良いと思うよ……」
「ふむ…………」
「……まあ、代わりに観客の心はがっちり掴んだみたいだし、いいんでない」
グゥは本気で自分の不甲斐なさを悔やんでいた。オレのよく解らない励ましにもグゥは、そうか、と何度も頷いた。
一途と言うか無垢と言うか。もう「綺麗なグゥ」とでも命名してあげたいくらいの神々しい純粋さだ。
考えてみれば、グゥは大人の姿はしているけれど、産まれてからの年月で言えばオレよりもずっと若い。世間の常識に疎く、
知識も乏しく感じるのはそのせいだろうか。その分素直なのは良いんだけど、誠一さんやともよさんの影響か、あまり物事を
深く考えない所がある気がする。
そう言えば以前、あの三人の願いを聞いて、勝手にアメを腹の中の世界に引き摺り込んだ事があった。あの時もグゥには
悪気があったワケじゃない。それは解るんだけど、どうにもその行動は短絡的と言うか、幼い所が目立つのだ。
「そうだ、それにあれは二人きりの時に言うべき台詞だったはずだ。く……私はまだ精進が足りないようだ……」
山田さんに教わった事を思い返しているのか、反省点を見つけてはいちいち、次こそは、と意気込む。
いやもう、次とか無いから。ホント勘弁して下さい。
「他にもなんか聞かされた事とかあるの?」
「うむ。ともよや誠一にもいろいろと教わったぞ。皆、実に博識でな」
「いやー、きっとものすごく偏ってるんじゃないかなあ……」
何故か誇らしげに、まるで自分の事のようにあのはた迷惑な三人を語るグゥを前にオレはツッコミを入れる気力も抜けてしまう。
もうちょっとマトモな教育係はいないのか。あの三人にアメを預けるのも考え直した方が良いかもしれん……。
そうこうしているうちに、警笛のような発車の合図と共に、コースターは緩やかに動き出した。
オレは体の力を抜き、シートにもたれかかり安全バーを両腕で抱える。グゥもオレを見て同じような姿勢を取った。
「ふむ、これからどうなるのだ?」
「まあ見てなって」
ガチャン、ガチャンと無機質な金属音を鳴らしながら、コースターはゆっくりと急な坂を上っていく。
グゥはこれからどうなるのか、見当もつかないようだ。ここは新鮮な感覚を味わって貰うために
あえて前情報無しで体験してもらうべきだろう。
先端がいよいよ上り坂の頂上に辿り着く。やがて下り坂に差し掛かり、先頭車両がかくんと首をもたげた瞬間、
コースターは物凄い勢いでレールを下り始めた。強烈な風圧が顔面に直接ぶち当たり、後方の乗客たちのキャーキャーと
わめく声が耳に届く。
だけど、オレは冷静だった。きっと少し前に体験したあの高速飛行が原因だろう。あれに比べたら、スリルもスピードも
段違いに劣る。あそこまでのスリルはもう御免だけど、それでもあの半分の速度すら出ていないというのでは物足りなさも
感じてしまうと言うものだ。一度体感しただけのオレがこれでは、グゥ本人などは退屈極まりないかもしれない。
チラリと隣を見る。グゥはまるで無表情で瞬きもせずに真正面を見据えていた。流石に悲鳴を上げろとまでは言わないが、
せめて眉の一つくらいはしかめてくれないとコレに乗せた意味も無い。ダメだ、やはりグゥにはつまらないか。
何か声の一つでもかけてみるか、と思った矢先、オレはある事に気付きすぐさま前に向き直った。
……そりゃそうだ、こんな凄い風に晒されて、スカートが捲れないワケがない。そりゃあもう、大変な事に
なってしまっている。やはり、色々な意味で選択ミスだったようだ。
「グ、グゥ? スカート、スカートッ」
オレは出来るだけ目線を上に集中させてもう一度グゥに向き直り声をかけるが、グゥはまるで聞こえていないようで
全くの無反応だった。
誰が見てるでも無し、オレも放置を決め込んだ方が良いのだろうが、気付いてしまった以上そのままにしておくのも忍びない。
オレは横目で、彼女のふとももがギリギリ見える位置に視線を固定し、出来るだけその肌に触れぬようにふとももの根元で
たわんでいるスカートの生地を引っ張ろうと手を伸ばす。
「っわ!?」
──その時、ガタンと車体が大きく揺れた。波状にうねったレールを高速で走り抜け、コースターはガクガクと上下に揺れる。
それに合わせ乗客の絶叫もいよいよ大きくなるが、こちらはそれどころでは無い。叫ぶ余裕があるうちはまだマシだ。
オレの喉は今の状況に、ヒッと小さく息を吸い込んだのを最後にその空気を吐き出すことすら忘れていた。
柔らかく、ひんやりと冷たい感触に掌の体温がみるみる奪われていく。それに反して、そこ以外の身体の熱は急速に沸騰し
心臓の音は周囲の音すらかき消さんばかりに高く鳴り響いていた。
オレの手は今どこにあるのか。せめてふとももの中腹あたりならまだ良い。だけど、小指にかすかに触れる
柔らかくすべすべとした衣擦れの感触は何を意味しているのか。
じっとりと汗がにじみ出る。掌が触れている場所は今やその冷たさも失われ、オレの体温が移っているかの様に熱を発していた。
すぐにでも手を離すべきなのは解っている。それが出来ればとっくにやっている。グゥがオレの手首を離してさえくれれば、
即座にオレはその危険区域から脱出させて貰うつもりだ。
オレの手がその柔らかい感触に埋まった次の瞬間には、グゥの手はオレを握り締めていたのだ。手を離すチャンスなんて、
ほんの一瞬すらも無かった。
唯一の救いは、グゥも気付いてくれたのか反対の手でスカートをぐいと引っ張り大事な所をやっと隠してくれたことだが、
そのせいで自分の手がどこにあるのかの確認は不可能になってしまっていた。
グゥはオレの手首を痛いほどに締め付け、掌を自らのふとももに押し付けている。幾度も声をかけたが、彼女は相変わらず
真正面を見据え声一つ上げない。
オレはグゥのスカートの中に手を突っ込んだ壮絶に如何わしい体勢のまま、早くコースターが止まってくれるのを
ただ心の中で祈るしかなかった。
そうこうしているうちに、コースターはようやく終点を向かえスタート地点に無事に停車した。安全バーが上がり、
オレはすぐに降りようとしたがグゥはいまだ前を見据えたまま微動だにしない。手を離してもくれない。
強引に手を持ち上げ引っ張ると、それに引きずられるようにグゥはやっと腰を上げてくれた。手を掴んでいるのは
グゥの方なのに、オレがぐいぐいと引っ張っている。なんだか妙な図だ。
「おう、お帰りー」
コースターを降りたら、またアシオが声をかけてきた。何か用事があるようで、出口に設けられた階段から少し離れた所で
くいくいと手招きをしている。
今はグゥの様子が気がかりなのだがしょうがない。オレはグゥの手を引き、アシオの傍に寄った。
「ほら、これやるわ」
アシオは満面に笑みを浮かべながら、ぐいと胸元に何かを押し付けてきた。
「……なにこれ」
「コースターには付き物やろ? 写真や、記念写真」
言いながら、胸元から手を離す。押し付けられていた薄い葉書サイズのものが落ちそうになり、オレはそれを
反射的に手で抱えた。それは一枚の便箋。中にアシオの言う記念写真が入っているのだろう。
「オレ、自分らみたいなおもろいヤツ大好きやねん。友情の証として受け取ってくれ。なっ!」
そう言うとアシオはオレの前にしゃがみ込み口元に手を添え、いかにも内緒話をしています、と言うような仕草で
ヒソヒソと「ほんまは金取るんやで?」と付け加えた。
確かに、このアトラクションから降りる時にはいつも記念写真の販売がある事は知っていた。たった写真一枚のくせに、
やけに高く感じる値段だったため今まで買った事は無かったのだが。
なんだか、先の一件で変な友情が芽生えてしまったようだ。まあ悪い気はしない。オレは小さくお礼を言い、
その便箋をカバンの中に入れた。
「さっきは母ちゃんや姉ちゃんや言うて悪かったな。なんや自分ら、熱々やないか〜」
「はぁ……?」
肩を抱き、オレを強引にグゥから背を向けさせるとまたヒソヒソとグゥに聞こえないような声で話しかけてくる。
グゥはと言えば、わざわざそんな配慮をしなくてもオレたちの声なんかまるで聞こえていないかのようにぼう、としたままだ。
「アレやな。自分らバカップル言うヤツやな? 仲良いのはええけど、あんまし人のおるとこでハメ外し過ぎたらあかんでぇ?」
何の話か解らないが、アシオは妙に上機嫌だ。最初は小さかった声のトーンも徐々に上がっていく。いつの間にか、
グゥに聞こえるどころか周りにいるお客さんまで何事かとこちらを振り向く程に大きくなっていた。
最後には、ハッハッハと景気の良い笑い声と共にバシッと一発背中を叩かれ、階段を下りた後もアシオの応援メッセージが
延々と背中に叩き付けられる。マジで何なんだ。新手の嫌がらせか。
周囲の妙に生暖かい視線に見送られ、オレはグゥの手を引っ張り頭からハテナマークを大量にばら撒きながら
そそくさと逃げるようにその場を去った。
……前言撤回。あの男との友情は、ありえん。
グゥは結局、そのまま近くのベンチに座るまで力なく身体を引き摺り、一言の声も発しなかった。ただその表情は、
コースターが走り出した時の無表情さとは違いどこか呆けた、風呂にのぼせたような浮ついたものになっている気がする。
一体どうしたと言うんだろうか。
「グゥ?」
「……………!?」
声をかけてみる。一応は聞こえているらしく、グゥはこちらを向くと口をぱくぱくと動かす。喋りたいけど喉から
何も出てこないといった感じだ。強風に晒されて喉がカラカラに渇いてしまったのだろうか。
「喉、渇いた?」
「……………!!」
ぱくぱくと動かすその口からはやはり何も聞こえてはこなかったが、代わりに首を縦に振る事で意思を示してくれた。
近くの自販機でジュースを買い、手渡すとぐい、と一息に飲み干す。よほど喉が渇いていたようだ。
「………っはぁ………」
真上を向き、缶の中の最後の一滴までを喉に流し込むと、息を吹き返したようにくは、と小さく息を吐く。
少しだけ身体に力が戻ったようだった。
「だ、大丈夫?」
「うむ………すまないな。少し、休ませてくれ……」
首を真上に向けたまま、そのままとすんと背もたれに倒れ込む。疲労困憊といった様子だ。
もしかして、グゥはジェットコースターが……。
「……怖かった?」
「……………ッ」
何気なく、思った事を口に出した瞬間、グゥはカッと目を見開いた。
「……なに、少し驚いただけだ。私とて身体を拘束された状態であんなに振り回されては、多少は心が乱れてしまおうと
言うものだ。むしろ、あんなものに平然と乗っているハレの方がおかしいと思えて仕方が無いくらいだ」
ゆらりと、グゥは静かに頭を起こし、実に穏やかな声でぽつりぽつりと言葉を重ねる。その顔にもうっすらと微笑みを湛え、
安穏そのものといった表情だ。
しかし何だろう、このやけに重くるしい空気は。そして先ほどから聞こえるパキパキと金属が軋むような鋭い音は。
「だいたい、私は車に乗る事自体がはじめてだったのだぞ? ハレが先に、あんな恐ろしい物だと伝えてくれていたら
少しは覚悟が出来ていたはずだ。ハレには少し、心遣いと言うものが足りない気がするのだが?」
その口調も表情も変わらぬままに、淡々と、静かにグゥは続ける。
そして場の空気も変わらず、むしろ益々重苦しくなって行く。耳に届く奇怪な音も益々高く鳴り響き、
もはや金属が軋む音では無くメキメキと引き裂かれるような音に変わっていた。
よく見ると、グゥがだらりと下げた両手の中で何かを玩んでいる事に気付く。ねじ切れんばかりにぐるぐると捻ったかと
思うとぎゅっと両手で挟み潰し、ぺったんこになったそれを指先で小さく折り畳む。まるで粘土細工のように変形しながら
こねこねと、徐々にコンパクトにまとめられていく。その度に先ほどから聞こえていた金切り音がグゥの手元から鳴り響く。
それは先ほど、グゥが飲み干したジュースの空き缶に相違無かった。
へぇ、金属ってあんな風に自由に形が変わるものだったんだ?……なんてのん気に傍観している間に、空き缶だったはずの
物はみるみると小さくなっていきついにはパチンコ玉より少し大きいくらいのサイズにまで縮小してしまう。
「そうは思わぬか? のう、ハレ?」
グゥは笑顔を崩さぬままくるんとこちらを向く。手のひらの上では小さな丸い金属の塊がコロコロと転がっていた。
その無残な様に数秒後の自分の姿を投影してしまい、全身からサァッと血の気が引いていく。
うう、これはなんと言うか、ひょっとして怒ってらっしゃるのだろうか。満面に貼り付けた微笑みでこちらを見やる
切れ長の目の奥に光る朱色の瞳は、その心を体言するかの如くユラユラと炎のように揺らめいて見える。
オレの罪状の如何に関わらず、ここは全力で謝るべきなのだろう。遊園地にグロい新名所が誕生しないうちに、
精神的にも肉体的にも平穏無事にこの場を収めるにはそれしか方法はあるまい。
「やっぱり、怖かったんだ」
……しかし、オレの魂に刻まれた熱いツッコミスピリッツはそれを許さなかった。
瞬間、ぎゅっと強く握りこんだグゥの手の中からバキンと破滅的な音が聞こえた。そして手を開けると、
そこには何も残されていなかった。ただサラサラと、砂のようなものが風に流されていく。
ゾゾ、と背筋に冷たいものが走る。数秒後の自分の姿が鮮明に、あらゆるパターンで脳裏を巡る。
ああ、思えば太く短い人生だったなあ。きっとオレの墓標にはこう刻まれる事だろうさ。
この男、ツッコミに生きツッコミに死ぬ……と。
「……むぅ………」
しかし次の瞬間、グゥの身体からは力がみるみる抜けて行き、そのまましょんぼりと俯いて黙り込んでしまった。
何とか命だけは繋ぎ止めたか。しかしオレは無事だったが、グゥには酷くダメージを与えてしまったようだ。……申し訳ない。
「……ああ、認める。私は怖かった。認めるから、そんなに笑ってくれるな」
「へ?」
言われて気付いた。どうやらオレはさっきから顔がニヤケっぱなしだったらしい。人は想像を絶する恐怖に直面すると
むしろ笑うと言うがきっとそれだろう。別にあのグゥがジェットコースターなんかでこんなに怖がっちゃってなんだ可愛いトコ
あんじゃん微笑ましいねなんてこれっぱかしも思っちゃいなかったさ。
……うん、罪悪感も何もあったもんじゃないな、オレ。
どうやら、ジェットコースターはグゥにとってとんだ恐怖体験だったらしい。あの時の硬直っぷりは平然としていた
ワケでは無く、ただ身体も口も動かせないほどに怯えていたからだったのか。
「外の世界の者達はアレを娯楽として楽しんでいるのだろう? 私は情けないな……」
グゥは更に俯きがっくりと肩をうなだれ、さっきまでの自分の姿を思い出し自己嫌悪に陥っているようだった。
流石にここまで落ち込まれては、本当に罪悪感が湧いてくる。
グゥの方がよっぽど怖い…じゃなくて速いのに、という疑問も投げ掛けてみたが、彼女曰く、自分で走るのと勝手に
高速移動させられるのでは感覚が随分違うらしい。もう絶叫マシン系のアトラクションはやめておいた方が無難のようだ。
「折角ハレがその気になってくれていたと言うのに、すまぬな……」
不意に、グゥは白い頬をほんのりと赤く染め、おずおずと恥ずかしげな表情で目線を上下に動かしながらそう小さく呟いた。
そして、スカートの上から自らのふとももにそっと手を置いた。恐らく、コースターの中でオレが触れていた箇所なのだろう。
そこはもはやふとももと言うより、完全に足の付け根と呼ぶべきポイントだった。
あの時の自分の醜態を思い出し、ついでにその感触も思い出してしまい、また身体中がぽっぽと茹だる。今、オレの顔は
グゥ以上に真っ赤に染まっている事だろう。
「デートたるもの、いずれ殿方がそのような行為を求めて来ると言う事はひろこに聞いて知っていたのだが、まさか
あのような過酷な環境下でそれが行われるとは……聊か、デートと言うものを軽んじていたようだ」
「いやいやいやいやっ、別にアレはそんなんじゃ無くて……ッ」
「良い良い。ハレの誘いに乗ったのは私だ。ただ、私に覚悟が足りなかっただけの事」
必死に弁解しようとするオレをグゥは前に突き出した手で制し、首を横に振る。
なんだか訳知り顔でとんでもない事を口走ってらっしゃるが、この女性が自分で口に出しているその言葉の意味をちゃんと
理解しているとは到底思えないぞ。きっと山田さんに植え付けられた如何わしい知識が頭の中で暴走しているのだろう。
「だが安心しろ、ここなら私も大丈夫だ。さあ、存分に先ほどの続きをしてくれ」
「え、ちょッ──!?」
言いながら、グゥはベンチに座ったままスス、とオレに寄り添い身体をピッタリと密着させ、オレの手を掴み
自らのふとももに押し付けた。
ジュッと、焼け付く音が聞こえたかと思った。それ程に、グゥのそこは予想外の熱を帯びていた。
その熱が移ったかのように、オレの体温も急激に上昇して行く。
「ん……そうだ、この感覚だ……」
「え……?」
「あの時、ハレに触れられた時、私は不思議な安らぎを覚えた。恐怖も少しだけ和らいだ。ハレの温もりが私を支えてくれたのだ」
グゥは目を薄く瞑り、コースターでの事を思い出すように静かに語る。
「ほら、あの時のように、もっと奥まで……」
さらに身体が密着するようにすり寄られ、石鹸の匂いだろうか、甘い爽やかな香りが鼻腔をくすぐる。
耳元に吐息混じりの声をかけられ、ふとももに乗せた手の上にグゥの手を重ねられ、いよいよオレの身体は
熱を上げていく。心臓もドクドクと唸りを上げ、グゥから逃げる余裕すら失われてしまう。
その感触はあの時、強風に煽られながら触れていたものと同じとはとても思えなかった。手のひらに触れている部分は
きゅっと逞しく締まり、撫で付けるとすべすべと肌理の細かい肌触りの上からうっすら筋肉の形が確認出来る。その内側、
指の当たっている箇所は少し指先を動かしただけでふるふると揺れ、力を込めずともその柔らかさは十分に伝わって来る。
ぴったりと重ねられたグゥの手に導かれ、オレの手はするすると滑るようにその根元へと上って行く。指先でつい、と
僅かに持ち上げられたスカートの中に、吸い込まれるようにゆっくりと進入する。もうグゥの手に引っ張られているのか、
自分の意思で動かしているのかも解らない。やがてオレの手は完全にスカートの中へと消えた。
どんどんふとももの根元へ、内側へと滑り降りていく。指先がくにゅくにゅと、温かい柔肉に包み込まれる。
薄い布切れに隠れたそこは今どうなっているのか。オレには想像が付かないくらいに柔らかく変形しているように思えた。
そのまま迷わず奥へ奥へと侵入していく。やがて小指が足の付け根に突き当たり、ぷにゅ、と布越しに柔らかい感触に
埋もれた瞬間、バチンと、頭の中で何かが弾けた。
「だっ、だだだだだだからそうじゃなくて!」
「む……?」
瞬間、オレの手は脳から意思を伝える前に、反射運動のようにそのふとももからグゥの指ごと一息に引っ剥がしていた。
たったそれだけの作業でオレはハーハーと肩で息をする程に体力を消費してしまう。
今のは、かなり危なかった……。ギリギリの所で理性を繋ぎ止められたが、正直あれ以上踏み込んでしまったら
どうなっていたか解らない。
「どうした、もう良いのか?」
「い、良いも何も……何考えてんのさ、もう!!」
ずるずるとベンチを滑り、グゥから人一人分の距離をとる。今はグゥの匂いや体温だけでもオレにとっては危険極まりない。
そんなオレの気を知ってか知らずか、グゥは強引に振り払われた自分の手とオレを見比べながら、きょとんとした顔で
大きく首を傾げる。
「む……ハレも男ゆえ喜ぶと思ったのだが……。また何か間違えてしまったか」
「また山田さんですかね……。一体、何をどーゆー風に聞いたのさ」
「ふむ。世の殿方は皆、女の身体に触れるのが生き甲斐、と聞いたが」
「……はぁ…約一名、そんなヤツ知ってるけどさ。オレはそんなんじゃないからね……」
グゥの言葉に、全身の力が抜けていく。世間の男どもが全員そんな保険医みたいなのだったらこの世は終わりだ。
少なくともオレはそんな変態行為を生き甲斐にしたくは無いぞ。
「ドライブに誘われれば十中八九、男はそれを望んでいるのだとも聞いた」
そんな指導まで……。ここまで来たらある意味関心するわ。恐るべし、山田ひろこ。
どうやらグゥは山田さんにその手の英才教育をみっちりと施されているようだ。惜しむらくは……いや、幸いにも、
グゥはそれを今回初めて実践で使うらしく、経験不足からその無駄に豊富な知識を活用するには至っていないという事だ。
出来ればそんな知識はそのまま永遠に封印していて欲しいとオレは強く思うぞ。
「や、やはり何か間違っていただろうか?」
うん、いろいろ間違っちゃったね。友達関係とか。もうあの人たちを無闇に信用するの、やめようね。
「……それは知らないけどさ。とりあえず、あれはドライブじゃ無いからね」
「む? ……そうか。そう言えば、二人きりでは無かったしな」
グゥは一人で勝手に納得したように頷く。まったく、これからも思いやられそうだな、これは……。
そうしてしばらく、グゥは何事か考えるように腕を組みうんうんと唸っていたが、はたと何かに気づいたように
顔を上げ、くりんとこちらを向いた。
「バカップルとは何だ?」
「ぶほっ」
突然の、予想外の言葉が頭に叩きつけられベンチから転げ落ちそうになった。
あんな状態でもグゥはちゃんとアシオの声が聞こえていたらしい。これからも、なんて楽観的な事を考えてる場合じゃない。
早速思いやられちゃってるぞ、オレ。
「そう言えば、ハレと出会った時にすれ違った少女も私たちを見てその言葉を口に出していたぞ」
良くそんな事覚えてますねアナタ。何気に地獄耳ですか。
「よほど私たちはそのバカップルとやらの特徴と合致しているのだな」
グゥは何か素晴らしい発見をしたようにキラキラと瞳を輝かせる。バカップルと言う単語に激しく何かを期待しているようだ。
「さ、さぁ〜? オレには良く解んないや〜! あははははーっ!!」
その意味を教えるのは簡単だ。問題はそれを聞いたグゥの反応なのだ。良きにつけ悪しきにつけ、どっちにしろあまり
喜ばしい結果が生まれる気がしない。
「ふむ……ハレでも解らないのか。バカップルとは何なのだろうな」
ダメだ、このままじゃそこらを歩いてる人にすら質問して回りかねない。早々に話題を変えねば。
何か別の話に持っていくネタは無いかと周囲を見渡すと、ふとグゥの頭が目に止まった。コースターで風をモロに
受け続けたせいだろう、あれから少し時間が経った今でもグゥの長い髪の毛はかなり乱れが目立つ。
「ほ、ほら、それよりグゥ、ちょっと頭貸して」
「む?」
その髪の毛に目を付けたオレはすぐさまグゥの前に立ち、小さく手招きをする。それに促されるようにグゥは
ベンチから背を離し、素直に頭を前に差し出してくれた。
そのままボサボサに乱れたグゥの髪を、手櫛で整える。
「な、何を……?」
髪に触れた瞬間、グゥはビクンと身体を震わせオレの手を掴んできた。それくらい自分で出来る、と抵抗するグゥを、
まぁまぁ、となだめ髪に指を通す。彼女の印象的に、あまり髪のお手入れなどに気を配るようなタイプとは思えなかったが、
髪に差し入れた指はさらりと何の抵抗も無くすり抜けて行った。
「……うわ、すごい綺麗」
「きっ…………」
思わず、素直な感想が漏れる。
グゥは一瞬身体を強張らせ、何かをぽつりと発した気がしたがよく聞こえなかった。でもやはり、何か言ったのだろう。
オレを掴んでいた手を静かに離し、オレの胸にとん、と頭を預けてきた。
……確かにこの方が髪を整えやすいが、次からはもうちょっとハッキリと伝えて頂きたい。こっちにも一応、
心の準備ってのが必要なのだ。
胸を押さえつけられているせいか、さっきの余韻がまだオレの中に残っているせいか、やけに心臓の音が高く聞こえる。
グゥに聞こえていたら何となく恥ずかしいぞ。
そうしてしばらく指で髪を梳いているうちに、すっかり元のサラサラヘアに戻った。
これで終わり、の合図としてグゥの頭を軽くぽむぽむと叩く。
「………………」
グゥは顔をオレの胸に埋めたまま、ずり、と顎を持ち上げ思い切り不満げに睨み付けて来た。
だからその目で睨まないで下さい。反射的に謝ってしまいそうになります。
何を訴えかけているのかは解らないが、これ以上その髪は整えようが無い。むしろこれ以上やったら
逆に汚れてしまう気さえするぞ。
しばらくそのまま放置していたら諦めてくれたのか、グゥはまだ不満を顔に表してはいたが
渋々とオレにもたれかけていた身体を起こしてくれた。
そしておもむろに自ら髪の毛をわしわしと持ち上げたり、ペタペタと撫で付けたりし始める。
……何なんだろうかね、一体。
まるでまた髪の毛を乱そうとしているようだ。しかしグゥの髪はどれだけいじってもすぐにサラサラと流れ元に戻る。
ジェットコースターのように、よっぽど強く縦横に揺すらないとあんな風にはならないのだろう。ガンコなキューティクル、
と言うのも変な言い方だが、まさにそんな印象だ。
そうしてしばらく、何故か不満げな仏頂面でグゥは自らの髪をいじっていたが、不意に何かに気付いたように遠くを見上げる。
つられてオレもそちらを見ると、少し離れた所で空を走るレールの上を、ゴォォ、と言う風切り音と乗客の悲鳴と共に
高速でコースターが駆け抜けて行った。
グゥはコースターが走り抜けた後もぼう、とそちらを見詰めている。あの時の恐怖を思い出しているのだろうか。
「……よし、もう一度あれに乗ろう」
「えええーッ!?」
……と思ったら違ったようだ。
グゥは空を見上げたまま、うわ言の様にそう呟いた。あれだけ怯えていたのに、実は気に入ったのだろうか。確かに癖になる
怖さってのもあるかもしれないが。どうせタダだしオレは何度でも乗っていいけど、今度は前準備が必要だな。
オレはグゥを連れて近くの売店に入り、土産物の小さな髪留めを一つ選んでもらった。バレッタと言う名前だったか、
髪を後ろで挟むタイプのものだ。コミカルなキャラクターがプリントされた子供っぽいデザインの物しかなかったが、
まあ一時的なものだ。我慢してもらおう。
早速グゥに後ろを向いてしゃがんでもらい、長い髪をポニーテール状に束ねてやる。これでもう髪が乱れる事は無いだろう。
あとは、発車前からしっかりスカートを抑えていて貰えば完璧だな。
「それじゃ、もっかい乗ろっか」
「……………」
しかしグゥは一本に束ねられた髪とオレを交互に見比べ、ジトっとまた睨み付けて来る。なんだか、不満そうだ。
やはり髪留めのデザインがちょっとアレだったか。
「気に入らなかった、かな?」
「………これは、貰って良いのか?」
「え? あ、うん。まあ、プレゼント」
「……………ありがとう」
グゥは指で髪飾りを確認すると、オレから目線を外すようにプイ、とそっぽを向いた。
やっぱり少し不満そうだが、一応の納得はしてくれたようだ。
「よし、次はどこへ行くのだ? まだまだ遊具はあるのだろう」
「え、ジェットコースターは?」
「誰があのような恐ろしいものに乗るか」
「えええーッ!?」
グゥは平然とそう言い切ると、オレの手を引っ張りスタスタと歩き出した。……本当にワケが解らない。
そのあまりに自信たっぷりの態度に、まるでオレの方が変な事を口走っているのではと錯覚しそうになる。
まぁ、こんな扱いは今に始まった事じゃないから良いですけどネ……別に。
「ところで……あの続きは本当にもう良いのか?」
「へ? ってまたその話ですか!? 良いも何も、ナシナシ! 無しだってのっ」
また振り出しに戻す気か。もうその話は良いっての。
今度こそグゥにオレの意思を解ってもらうべく瞳を真っ直ぐに見据え、目と目で会話を試みる。
その気持ちが通じたか、グゥからもオレの瞳を真っ直ぐに見詰めて来る。その表情は真剣そのものだ。
「……ああ、そうか。まだ日も高いし、ここは人気も多いものな」
グゥはオレから目線を切ると、辺りの様子を伺いながら、何かに納得したように頷く。
なんだか解らないが、とりあえずこの場は収まったようだ。
そして恐らく、オレの意思はこれっぽっちも理解して貰えなかったようだ……。
以上です。細切れですまんです。
あんまり長くなってしまってる上に、カプもシチュも特殊だもんで
これってハレグゥ?って気分満載です。エロ、エロも、少ないっ…!
ちょっと小休止してハレ×グゥの小ネタ書いてもよかですかorz
>>53氏も、もうガンガンぶった切ってくだせえ。むしろお願いしますw
荒廃した未来のハレグゥも勝手にワクテカさせて頂いております。
乙をする前に保全上げ。
落ちるぞマジでwww
では改めて……。
_, ,_
( `Д´)彡 乙! 乙! GJ!
⊂彡
>>76 エロ分不足に悩む同志ktkr。
でも読んでる分には意外とエロ不足は気にならない罠。
面白ければおkですよ(`・ω・´)
読ませて頂きましたよ〜GJ!続きに激しく期待。
大きなグゥの、普通のグゥとは違う方向で「何考えてるのか解らない」所がまた…!
超難関wktk。( *´・ω・)
俺もなんか書いてみたいけど、SS書いた事一度も無いしなぁ〜。
>>78 何事も第一歩から!w
いつでも投下しちゃって下さい。wktkして待っとります。
半角板あたりの同作品スレに絵など書いてエロパロスレの宣伝とかしてる人いる?
半角、エロパロまたいで参加してる作品があるんだが
なんとなく半角スレで絵投下した時に「たまには絵も良いですね」的な誘い受けをしたくなる俺は自己顕示欲の塊
ぶごは
誤爆スマソwwww
グゥ様に飲まれてきますorz
前スレついに落ちたか……。
過去ログ保管に良い場所ってないかな?
2日以上カキコがあくと悲しくなるので保守代わりに。
土日を使って小ネタ投下!と投下予告で誘い受けつつ
ついでに自分を追い込んでみるテスト。
確かに最近は書込み少ないですね(´・ω・`)ショボーン
ここと2次の方とWikiは毎日必ず見てるけど、あんまり見ずぎると萌え死にそうになってしまうw
色々萌えネタっぽいものは浮かんでくるんだけど、それをSSにするってのは
結構難しいもんですね〜。色々と勉強させて頂いています。(;´・ω・)
久しぶりにTV版見たんだが…
熊話の冒頭。ゲーム中のハレの真横で寝転がるグゥに、何故か異様に萌えた…!
何であんな近くに(;´Д`)ハァハァ
いて当然だからでつよw
んでハレが疲れてグゥの上に横になっちゃっても日常風景みたいな。
普段枕にしてるんだから疲れておなかの上で寝ちゃっても気づかなかったりw
グゥ様クラ欲しいなあ。枕から頭とか生えてる感じの。作りたいなw
そういえばそうだ。グゥは”枕慣れ”してるんだったw
グゥのおなかを枕にして寝るハレ?何それ激しく萌えるんですが( *´・ω・) ハァハァ
おなかの上に頭を乗せて寝てるハレを起こさないように、目が覚めた後もじっとしているグゥ様…
やばい萌ゆる(;´Д`)
グゥ様クラ、ワロタw なんか視線を感じて寝れなさそうだw
何だか当初のコンセプトとえらいズレてしまった気がするけども
ハレ×グゥ投下します。エロ本番は無いです。本番にもってけんかった…orz
↓から投下します。
「ほら、早く来て。母さん、最近全然シてないからすっごく溜まってるのよぉ……」
ベッドにうつ伏せに寝そべり、甘ったるい猫なで声でオレを誘う。自らの腕を枕にし、足をパタパタと
仔犬のしっぽのように振るその子供っぽい無邪気な仕草とは裏腹に、オレを真っ直ぐに見詰めるその潤んだ瞳や
艶やかな声は、実の息子であるオレから見ても十分に大人の女性としての魅力に溢れていた。オレはその瞳に、
その声に惹かれるように彼女の傍らに腰を下ろす。
「うふふ……ホントに久しぶりね……。私はもう準備できてるから、早くしましょ……」
母さんはそう言うとオレのふとももにくすぐるように指を這わせた。
じわりと、熱気が伝わってくる。湯上りのまだ乾き切っていない、ほんのりと上気した素肌がぴたりと密着し、
むっと湿り気を帯びた空気が周囲を包み込んだ。
「……でもさ、こんなこと子供にさせるなんて……やっぱりおかしいよ……」
「だって……ハレすっごく上手なんだもん。アレを知っちゃったらもう……もう一人じゃ満足出来ないの」
言いながら、待ちきれないとばかりに自らの小さな穴に指を挿し入れ、ほじくるように動かす。
既に十分に濡れているのだろう、そこは指の動きに合わせちゅくちゅくと空気交じりの液体音を立てる。
先ほどの言葉の通りよほどご無沙汰だったらしく、それだけで母さんはその顔をだらしなく弛緩させ、
ハァァ、と熱っぽい息を吐いた。
「ンン、もう駄目ぇ……ハレ、お願い、して……」
自分でそこを弄りいよいよ我慢が出来なくなったのか、オレの下半身に強く頭を押し付け、哀願するように
切なげな声を出す。
オレはコクリと小さく喉を鳴らし、彼女の敏感な部分へとゆっくり、しかし力強く真っ直ぐに突き入れた。
「ふ、ン……あ、ひぁッ、くぅぅん……ッ」
途端に、母さんはヒクンと小さく震え、蕩けた嬌声を上げた。オレは構わずにどんどんと奥へ侵入して行く。
「……あっ、そ、そこっ……もっと、強……くぅぅ……ッ」
先端を壁に押し付け、カリカリと擦るように何度も出し入れすると、母さんはシーツをギュっと握り締め、
何かに耐えるように身体を強張らせる。しかしその表情はとろんと弛緩し、恍惚に浸っているように見えた。
「あんまり強くしたらあとでヒリヒリするからダーメ」
「でもそこすっごく痒いのよぉっ! あ、そ、そこも! そこも気持ちいーッ」
棒の先端に付いた垢を、横に広げたティッシュに落とす。本当に長い間掃除していなかったようで、既に
かなりの量の垢がティッシュの上に散らばっている。この分だと反対側も相当な事になっていそうだ。
「ったくもう、何で息子が母親に耳掃除したらにゃならんねん……普通逆じゃないの?」
「よそはよそ!うちはうち!」
「それを口に出しちゃあもうオバサンだよ、母さん……」
耳かきなんて本来、母親が息子にしてあげる行為だろうに、このぐうたら人間は「怖いからやだ」と
これ以上ないくらいシンプルかつ情けない理由により断固拒否の姿勢を守っている。
オレがもっと小さかった頃はしてくれていた記憶があるのだが、いつの間にかパタリと母の耳掃除の記憶が
途絶えているのだ。母に問いただしても、何故か瞬時に青い顔になり口を閉ざしてしまう。その原因を探ろうと
記憶を辿ると何故か耳の奥がキリキリと痛む。思い出してもあまり良い予感がしないので、いつしかオレも
考えるのを止めた。
ジャングルはすっかり夜の帳が落ち、窓から見える家々の灯りもまばらになってきていた。我が家もとっくに
夕飯を済ませ、後は風呂に入って寝るだけだ。……と思っていたのだが、お風呂から上がってきた母さんから突然の
耳かき要請を受け、今に至るってワケだ。最初はオレも渋っていたのだが、母さんの駄々っ子には敵うはずも無い。
「……ところで、さっきから何見てんのさ、グゥ?」
そんなオレと母さんの様子を、ベッドの前にしゃがみあごに手を乗せじぃ、と観察するように眺めていたグゥに
声をかける。何か物珍しいものでも見るような興味深げな瞳でこちらを見詰めていた彼女はオレの言葉にスッと
眼を細め、小さく溜息を吐くと静かに口を開いた。
「……ありきたりなオチだな」
「いきなり何の話ですかね?」
そしてオレの声が聞こえなかったのかあえて無視したのか……恐らくは後者だろうが……突然ワケの解らない事を
口走る。まあ、きっと理解し難いと言うかしたくもないような部分から発せられた言動なのだろうから追求はせんが。
「いっそマジネタでもよかったと思うぜ?」
「流石に実母とソレはダメだろ……」
「なんだ、ちゃんと解ってんじゃん?」
「勝手に心読むの禁止!!」
「ああああああああもう、途中で放置するなあああ!!」
唐突に、軽く失念してしまっていたひざの上の母が暴れだした。
母さんはハァハァと息を荒げ、涙を湛えた瞳でこちらを睨み付けて来る。しかし焦らされるのも快感なのか、
その瞳はどこか媚びる様な、甘えた色を含んでいるように見え
「勝手に話をそっち方向に持ってくのも禁止ー!!」
「ちゃは☆」
ダメだ、こいつがいると話が捻じ曲がる。勝手にオレの心象世界に侵入した挙句に捏造まで図るとは……。
思えば冒頭からしてなんだかおかしかった気がするぞ。何が悲しゅうてオレがこの飲んだくれに大人の女性の
魅力を感じにゃならんねん。
「だから、放置するなって……み、耳が……かゆ、うま……」
意地でも自分で耳をほじるのは嫌だったのだろう、母さんはいつの間にか青い顔でふるふると小刻みに痙攣し
軽く泡まで噴いていた。痒みも極まれば拷問に成り得ると聞いた事がある。発狂する前に救ってやるべく
オレは速やかに耳掃除を再開した。
「はい、こっち終わり」
そんなこんなで、片側の耳はすっかり綺麗になった。オレは最後に耳かきの尻についている綿を
耳に入れ、ワサワサと回す。
「うわひゃっ! そ、それは良いって言って、ひょわうぉえあっ!」
コレをすると母さんはくすぐったいのか、いつも謎言語を発する。毎度毎度「それはやめろ」と
言われるのだが、反応が面白いので絶対やめてやらない。せめてものささやかな反抗の証なのだ。
綿での掃除も終わり、耳かきを抜き取ると一拍置いてくるんとこちら側に顔を向け反対の耳を晒す。
やはりこちら側もかなり垢が溜まっている。こんなの見たら、なおさらこの女に大人の魅力を
感じる事など永劫なかろうな、と強く確信を深めるぞ、オレは。
「母さんさ、ちょっとは自分で掃除しなよ〜」
「やーよ、近くにこんなテクニシャンがいるのに、自分でしたら勿体無いわ」
自分の耳かきの腕など自分で確かめようも無いのだが、母さんはいたくお気に入りのようだ。
自分で自分の耳をほじっても特に何も感じやしないのだが。下手でもいいからたまにはオレも
人にされたいものだ。
もう片方の耳の垢も綺麗に取り除き終わる頃には、母さんはオレのひざの上でぐっすりと寝こけてしまっていた。
このまま起こさずにそっとしておこう……なんて優しさは今のオレには微塵も無いぞ。オレは躊躇無く耳かきの綿を
耳に突っ込み念入りにほじくってやる。
途端に母さんは「ほにゃあ」と頓狂な声を上げ大きく目を見開き、「あぇやほょわ」やら「うにゅるにゅにゃ」などと
難解極まりない言語を発して悶え続ける。うむ、母さんの耳の中と共にオレの心もスッキリ晴れ晴れだ。
しかしあまりやりすぎると後が怖い。適当な所で綿地獄から開放してやり、これでおしまい、と母さんの頭から
ひざを抜きベッドから降りる。母さんはそのままの体勢でゴロゴロとベッドの上を転がり仰向けでのびのびと身体を広げ、
まるで憑き物が落ちたようなスッキリとした顔で、くはぁと大きく息を吐いた。早速お休みモードに入ったようだ。
お礼にあなたの耳もかいてあげる、なんて事は微塵も期待させぬその潔さにいっそ清々しささえ覚えるわ。
オレもさっさと風呂に入って寝るか、とバスルームに向き直った時、何やら訝しげな表情で固まっている
グゥの姿が目に入った。その手に持った耳かき棒をじっと見詰め、何か考えているようだ。
グゥがあんな顔をしている時は、たいていろくな事を考えちゃいない。オレはそそくさとバスルームに
引っ込もうと早足にグゥの脇を通り過ぎる。
「……ハレ」
……が、グゥに背を見せた瞬間、ガッシリと肩を捕まれてしまった。嫌な予感がする。物凄く嫌な予感がするぞ。
オレは小さく溜息を吐き、顔だけをグゥに向け、「何?」とだけ答えた。
「いつも見ていたのだが……これでハレはウェダに何をしているのだ?」
そんなオレの気を知ってか知らずか、グゥは妙に神妙な声で尋ねて来る。オレが母さんの耳を掃除している所は
グゥも何度も見ているはずだが、何をしているのかは解っていなかったらしい。
そう言えば、グゥが耳掃除をしているところなんて見た事がない。こいつは普段どうやって耳を洗っているのやら。
「あれ〜? グゥちゃん耳かき知らないのぉ〜? あの気持ちよさを知らないなんてもったいな〜い」
ベッドの上から酔っ払ったような声が届く。まだ眠ってはいなかったようだ。よく見たら母さんの周りには
いつの間にかビールの缶が数本転がっていた。酔っ払ったような、じゃなく普通に酔っ払いだ。
「ふむ……どう使うんだ?」
「どうって……普通にそれで耳をほじるだけだけど」
「ダメよぉ、初心者は自分でやっちゃ下手すりゃ大惨事よ〜。ハレにやってもらいなさいな〜」
自分で耳をほじる真似をするオレをよそに、母さんは無責任にオレの耳かき推薦状を発行した。
確かに、耳かきの使い方も知らない人間に一人で耳をほじらせるのは見ているこっちの心が休まらない状況ではあるが
相手は誰でもない、あのグゥだ。下手すりゃ耳の中も四次元に繋がってるかもしれん。変に耳をいじくって
吸い込まれでもしたらそれこそ大惨事だぞ。オレが。
「ハレのテクでグゥちゃんもメイドインヘヴンよ〜」
いいからアンタは早く寝れ。これ以上話をややこしくしないで頂きたい。
「ハレ……」
しかし、時既に遅し、か。グゥは何かを期待する眼差しでオレと自らの手に持った耳かきを見比べ、
「別に……ハレが嫌ならいいのだぞ……」
不安げにオレの目を覗き込むと、小さく、そう呟いた。
「い、嫌なんてそんな事ないよ! 耳掃除くらいいくらでもやってあげるから……」
その表情とその声は、反則だ。オレは半ば反射的に、そう答えてしまった。
「そうか、ならば早速やってもらおう」
そしてオレからの了承の言質を取るやいなや、グゥはパッと普段の仏頂面に顔を戻しベッドに寝そべった。
毎度釣られるオレもオレだが、何の躊躇も無くそれを利用するこの少女にも誰か何らかの天罰を与えてやってはくれまいか。
ついでにベッドの上で「アンタそんな風だと将来苦労するわよ」などとのたまっている酔っ払いの口も封じて頂きたい。
今だけで良いから。ってか、言われなくても既に苦労してますよね、オレ。
オレは小さく溜息を吐き、諦観の念でベッドの淵に腰を下ろす。グゥはオレの横でごろんと寝転がったままだ。
「ほら、してやるからさっさとこっち来なよ」
催促するようにぽんぽんとふとももを叩く。耳掃除をするならここに頭を乗っけてもらわないとやりようがない。
グゥはオレの言葉に何故かびっくりしたように目を開け、小さく「うん」とだけ呟くとおずおずと遠慮がちに
オレのふとももに頭を乗せた。まずは右側からか。グゥはオレに背を向ける状態で横たわっている。
しっとりと湿った髪の感触がふとももに伝わる。グゥも、先ほど母さんと一緒にお風呂に入ったばかりだ。
母さんの時に感じたような身体の熱気は感じなかったが、それでもまだ冷め切ってはいないのだろう。グゥの
色白な顔は少し上気し、赤みを帯びていた。
湿り気を帯び束になった髪が耳を完全に覆っている。母さんもそうだけど、耳が隠れてて気持ち悪く無いのかな。
オレはグゥの頬にまで流れている髪をそっと手で梳き、耳の後ろへ回した。
「──ぶげらッ!?」
瞬間、右頬に何か丸い物がめりこんだ。
「何をする」
そりゃこっちの台詞だ。
そのままベッドに倒れこんでしまいそうな目眩に耐えながら、グゥを見ると頭の位置はそのままに、肩越しに
不快感を満面に湛えた鋭いジト目をこちらに向けていた。
どうやら先ほどの衝撃は……どんな角度で飛んできたのかは解らなかったが……グゥのパンチだったようだ。
一体何処に殴られる理由があるってんだコラ。
「髪くらい自分で上げる……勝手に触るな」
それだけ言って、グゥは自分で改めて髪を耳の後ろに整え、プイ、とまた目線をオレの反対方向に戻した。
後ろからクスクスと母さんの笑い声が聞こえる。何だ、何なんだ。今の状況を把握してないのはオレだけか。
そしてグゥがオレを殴ったのは正当な行為ってことになってしまったのだろうか。勘弁してくれ。
「……それじゃ、お耳をお掃除させて頂きますよ。宜しいですね?」
早くも出鼻を挫かれ意気消沈気味だが、引き受けてしまった以上はやり遂げねばなるまい。さっさと掃除して
解放させてもらおう。
耳に触れる前に、今度はちゃんと断りを入れておく。グゥはこちらを一瞥もせず、頭を小さく縦に振った。
「苦しゅうない」とでも言わんばかりだ。まあコイツの尊大な態度は今に始まった事じゃないんだが。
とりあえず了承は得られたようなので、失礼してお耳を拝見させて頂く。耳の淵をつい、と引っ張り、
内部に蛍光灯の光を通すとそこはオレの不吉な想像のような異次元では無く、至って平和と言うか一般的な
人としての在り様が照らし出されていた。いわば普通の耳だったって事だ。
しかし形は至極フツーの耳なのだろうが、その内部の、何と言うか清潔ぶりはある意味人間離れしていると
言わざるを得ない。ぶっちゃけ、耳垢も汚れも何一つ存在しない。母さんとはえらい違いだ。
「何か言ったー?」
うっかり口に出してしまっていたのか、母さんの殺気を帯びた声が返って来た。いえいえ、何でもないっすよ。
「どうした、耳掃除とやらをするんじゃないのか」
今度はひざの上から訝しげな声が飛んできた。そんな事を言われても、これ以上オレは何をすればいいのやら。
足跡一つ無い砂浜と言うか、黒光りする高級車のボディと言うか、もはや触れる事さえ躊躇われる程の精練さだ。
まるで人形のようにつるっと整えられた耳内に対して、オレの右手の細い棒切れは全くの無力。一体何をどうすれば
ここまで綺麗になるんだか。石鹸をつけたブラシを入れてゴシゴシ磨いてる、なんて言われても信じてしまいそうだ。
下手に触れても逆に汚してしまうだけでは無いのか。オレとしては耳掃除免許皆伝でも差し上げてまたその耳を
髪の毛の奥に引っ込めさせて頂きたいのだが、グゥはいまだ目だけをこちらに向け、少し不機嫌そうに睨んでいる。
とにかく形だけでも耳掃除をしてやらないと納得してはくれなさそうだ。
とりあえず、その中に耳かきをゆっくりと挿し入れ適当にしわをなぞってみる。
「ひゃぁっ? ちょ、ちょっと待て!」
途端に、グゥは弾けるように頭を持ち上げこちらに向き直った。
「痛ッ!!」
「グ、グゥ!!」
───背筋が凍った。
グゥが動いた瞬間、オレは即座に耳かきを引っこ抜いたが、グゥは耳を押さえオレから頭を引いたのだ。
「だっ大丈ブギャンッ!!」
慌ててグゥに寄った瞬間、ボディに思いっきりグゥの拳がめり込んだ。しかし一瞬見えたグゥの顔に、腹の痛みなんて
消し飛んでしまった。グゥの頬には、一筋の雫が流れていた。
「ちょっと、耳、見せてンプル!?」
更に近づくオレのこめかみに突き刺さる衝撃。だがやはりそんな痛みにかまけている余裕は無い。オレはそのまま
グゥの両手を掴み、ベッドに押し倒した。
「な、なんだ、ハレも大胆───」
「いいから黙ってろ!!」
ジタバタと抵抗するグゥを抑え付け、怒鳴る。
グゥは小さく、ヒッと喉を引きつらせ身体を強張らせた。
「耳、見せてみろ」
「え……?」
「耳だよ、耳!」
返事も待たず、オレはグゥの頭をひざに乗せ髪をかき上げる。怒鳴り声が効いたのか、グゥにはもう抵抗する
意思は見られない。オレに素直に従ってくれているみたいだ。
恐る恐る、耳の中を覗く。特に外傷は見受けられないが、念のためティッシュをこよりにして耳の奥まで挿し入れ
壁に這わせる。グゥはくすぐったそうに身を硬くしていたが、先ほどのように起き上がる事はなかった。
そうしてしばらく耳の中をまさぐり、引き抜いたが血の跡は見られなかった。耳内をよく見てみると、
少し赤みがかっている箇所を見つける。恐らく、オレが耳かきを引っこ抜いた時にひっかいてしまったのだろう。
痛がっていたのはここだったのか。オレは大きく溜息を吐き、ホッと胸を撫で下ろした。
「いいかグゥ? 耳掃除してる時は絶対動いちゃダメだからな!」
「…………」
今回は大事に至らなかったが、ここは一つちゃんと灸を据えておかねば、と少し強めに嗜める。が、グゥはまるで
聞く耳を持たない様子で、普段の仏頂面に更に十倍ほど負の念を堆積させた不満面でブツブツと何事か呟いている。
「グゥ? 聞いてんのか?」
「………痛かった」
ひざの上でそっぽを向くグゥに顔を近づけ、もう一度念を押すがやはりオレの言葉は無視し、
グゥは一言、ぽつりと漏らした。
「何だって?」
「……痛かった!!」
聞き返すと次は強い語調で大きく返って来た。顔は相変わらずそっぽを向いたままだ。
どうやらさっきの事ですこぶる機嫌を損ねてしまったらしい。全く、困ったお姫様だ。勝手に動いたのはそっちなのに、
オレだって二発も殴られたってのに。だけど、いまだ潤々と涙を湛えているグゥの瞳を見ていたら、何故か全面的に
こっちが悪い気がして来る。ホントに自分の将来が不安になってきた。
「ごめんごめん。オレがちゃんと言わなかったのが悪い」
もう一度大きく溜息を吐き、素直に謝罪した。確かに、耳かき初体験のグゥにはその危険性は解らないかもしれない。
こちらとしては思い出すだけで背筋が凍る。ついでに自分の耳まで痛くなってくる。
グゥはチラリとこちらを見やり、また目線を前に戻すとくい、と頭を動かし耳をこちらに向けた。そして少しだけ、
ふとももにかかる頭の重さが増す。「よかろう、続けるがよい」と言ったところだろうか。
ともあれ、少しは機嫌を治してくれたようだ。オレは気を取り直して、再度耳掃除に取り掛かった。
「だけどさ、ホントにあんまり動いちゃダメだよ、グゥ。もしかしたら大怪我してたかもしんないんだからね」
優しく諭しながら、耳かきを入れる。グゥは身体を少し丸め、緊張しているようだが耳内の壁をまさぐっても
大人しくしてくれている。もうあんな事は無いだろう。
「あ……ン、ふぁ……」
もともと汚れも何も無いのだ。強く掻く必要は無い。オレは優しく、しわとしわの間の溝に棒の先を這わせ、
ゆっくりと滑らせる。
「ひゃっ……や、はぁ……ン、くぅ……」
それにしても、本当に綺麗だ。そう言えば、普段は髪に隠れてるグゥの耳をこんなにちゃんと見たのなんて、
初めてかもしれないな。
そこは色白なグゥの肌の中でも特に白く見える。頬なんかと比べても、その差は歴然だ。と言うか、むしろ
グゥの頬の方が何故か異様に赤く見える。まだ湯上りの熱が残っているのだろうか。なんだか、最初よりも赤みが
増しているような気がするぞ。
「ん、ふ……く、あぁ、は……ぁん……」
ってか、さっきからなんですかその声は。おおかた母さんの真似かなんかだろうけど。
そう言えば、あれだけ騒いだのに母さんの声が一言も聞こえなかったな。ちらりと後ろを向くと、母さんはそれはもう
ぐっすりと安らかな寝顔でお眠りあそばされていやがった。ビールの空き缶が先ほど見た時より倍程に増加している。
これはもう、近くで爆撃があっても起きやしないな。まあ野次馬が消えてくれたのは助かる。
「ンッ、ンン……ひ、やぁ………」
このグゥの妙な遊びも第三者がいなけりゃ不発ってもんだ。しかしグゥは向こう側を向いているため、その事に
気づいていないのだろう。一生懸命ヘンな声を上げていらっしゃる。
「はわっ、そこっ……そこ、もっと……ッ」
そんなトコまで真似せんでも……。とりあえず、ご要望に応えてそこをカリカリと擦ってやると、
グゥはくはぁぁ、と細く長く息を吐き出した。そのまま身体が一回りしぼんでしまったかのようだ。
いつの間にか身体の緊張もすっかりほぐれ、オレに完全に体重を預けていた。心地よい圧迫感が
ふとももにかかる。
「んーん、んん、ふぅぅん……はぁん……」
なんだか、声がどんどん怪しげな色を含み始めている気がする。ってか、いくら演技でも、その、グゥに
そんな声を出し続けられると流石にオレも気が気じゃなくなってくる。というか、股間の紳士はとっくに
戦闘態勢に入っておられる。おふざけはそろそろ止めにしてもらいたい。
「なあ、グゥ?」
「………はぁ……ん……」
一旦耳かきを抜き、声をかける。グゥは聞こえているのかいないのか、ぼぉ、と呆けた顔で妙に甘ったるい
呼吸を繰り返していた。
「グゥさん? おーい」
「っふわ? お、え、な、なんだ?」
ペチペチと頬を叩く。すると我に返ったかのようにビクンと身体を引きつらせ、目だけをこちらに向けた。
言いつけ通り、身体を出来るだけ動かさないようにしているようだ。
「あ、その、もう終わりか……?」
耳に何も入っていない事に気づいたのだろう。グゥは手で耳元を確認すると、小さく口を開く。
「綿は………?」
あくまで母さんにやってあげた通りの事をして欲しいのだろう。オレは耳かきを反転させると、綿の方を
グゥの耳にそっと差し入れた。
「はにゃっ、うやっ、ひゃわりゅあ……にゅあおっっ」
……だから、そんな所まで真似んでもええがな。
数度、耳の中で綿を捻り抜き取ると、しばらくグゥはぐったりとしていたがまた手で耳元を確認し、
よろよろと身体を起こした。なんだか全身の力が弛緩してしまっているみたいだ。
「これで、終わりか……」
ふらふらと身体を揺らしながら、妙に残念そうにそう言う。まあどうせ取る汚れも無いし終わってもいいのだが、
この際だ、反対側も確かめてみよう。
「左耳がまだ残ってるよ」
オレは向かい合うようにシーツの上にぺたっと座るグゥをそのまま横に倒し、再度オレのふとももの上に頭を
乗せる。グゥはいまだ身体に力が入らない様子で、何の抵抗も無くオレに身体を預けてきた。まるで寝ぼけている
ようだ。耳かきに催眠作用があるのは母さんで実証済みだが、グゥも眠たくなってきたのかもしれない。
グゥはとろんとした顔でふとももに顔をすりよせて来る。うう、股間の膨らみがバレないように祈ろう。
フと、その股間のあたりから、小さく……テクニシャン……などと聞こえた気がしたが、気にしない事にする。
「ほら、髪」
同じ過ちは二度繰り返さない。オレは耳にかかる髪には触れず、グゥにかき上げてもらうよう促す。
しかしグゥは一瞬、ちらりとこちらを向くとすぐに目をそらした。何の合図ですか、それは。
とりあえず、オレの言葉は聞こえている。そしてグゥは自分で耳を晒す気は無いようだ。その行為、
宣戦布告と認識する。
「いいんだな、怒るなよ」
オレは小さく呟くと、そっと髪を耳の後ろに流した。グゥを見るが、前を見詰めたまま特に反応は無い。
さっきはあれ程嫌がったのに、何を考えているのやら。釈然としないがグゥのする事を一々深く考えても
しょうがない。オレは耳かきを再開する事にした。
耳の淵を少し引っ張り中を覗く。案の定、そこは清掃業者が去った後の部屋のように汚れ一つ無い
ピカピカの空間が広がっていた。
こちら側も適当にまさぐってお開きとしよう。右耳のリプレイのように適当に耳内を緩く掻く。
「………………」
グゥは先ほどとは打って変わって、呻き声一つ上げなかった。表情は相変わらずとろんと蕩けていたが、
その瞳はじぃ、と真っ直ぐ、何かを凝視するように開いていた。なんだか、やり辛いな。
まあ、母さんの真似が飽きたのか、眠気が勝ったのだろう。どうせならその目も瞑って頂けると落ち着くのだが。
結局そのまま数分間、耳を掻いている間、グゥの態度は慎ましやか極まりなかった。時折、気持ちいい所に
当たったのか、ン、ン、と小さくくぐもった声を上げる程度で、そのまま平穏無事に耳かきを終える事が出来た。
最後に綿を挿し入れた時だけは、やはり「うにゅにゅるあ」やら「ほぁあにゃ」やら謎の言葉を操りながら
ピクピクと悶えていたが。
「終わったよ」
「………………」
綿を抜き取り、ぽんぽん、と頭を叩くがまるで反応が無い。先ほどよりも浮ついた、熱にうなされたような
顔をしている。そう言えば顔がやけに熱い。赤みがかっているというより、真っ赤だ。耳をいじっている時は
気づかなかったが、耳の表面まで赤く染まっていた。
オレは少し心配になり、グゥの頭をひざから抜こうと身体を起こす。しかしグゥはそれを阻止するように
オレの腰に手を回し、しがみついてきた。
「グ、グゥ? どうしたのさ?」
声をかけるが、返事は無い。一体どうしたと言うんだろうか。
ってか、それよりもグゥの顔の位置がヤバイ。オレのいまだ膨張したままの股間に顔をうずめる形になっている。
むしろ意識してそうしているように、グゥはぐりぐりと頭を押し付けて来ていた。
ハァ、ハァとやけに荒っぽい息が、ズボンの布を通して直に伝わる。時折、スン、スンと鼻を鳴らす音が聞こえる。
グゥは鼻で吸って口で吐くタイプか、なんてワケの解らん分析をしてる場合じゃない。とにかく離れてもらわないと。
何の遊びかは知らないが、ズボンの中が大変な事になっている事を気付かれたら生涯グゥにからかわれ続けかねない。
しかしオレが身をよじればよじるほど、グゥは腰に回した手の力を一層強めて行く。とうとうオレはベッドにばたんと
押し倒されてしまった。
「ハレ……」
仰向けに押し倒されたオレの身体をよじ登るように、グゥは身体をすり寄せ吐息混じりの声を上げる。
「ああ、ハレェ……」
うわ言のようにオレの名前を呼びながら、グゥはオレのお腹のあたりに頬を這わせ、こちらを見上げた。
そうして目が合った瞬間、グゥは一瞬身体を硬直させ、すぐに目を大きく見開きオレから飛び退いた。
「み、耳かきは終わったんだ、な!」
「いや、ってか、何だよいまンボフッ!?」
さっきの不審な行動を問い質そうとした瞬間、頬に重いパンチが突き刺さる。何なんだこの傍若無人なお姫様は。
「さっさと風呂に入れ。グゥは寝る」
言うが早いか、グゥは母さんの横にバタリと倒れ込み動かなくなった。これ以上の詮索は命に関わりそうだ。
腑に落ちない、と言えば確かにそうだが、オレとしても先ほどのグゥはどうにかして忘れてしまった方が良さそうだ。
このままじゃ心も股間も穏やかではいられない。
それにしても、我が家の女どもは皆どうしてこう一様にワガママなのやら。オレは家政婦でも耳かきマシーンでも無いぞ。
なんて今更文句を言っても始まらない。オレもとっとと風呂に入って寝てしまおう。
バスルームに向かう途中、ベッドの方から……メイドインヘヴン……などと聞こえてきた気がしたが、やはり気にしないで
おく事にする。
バスルームにて、オレは身体を洗うついでに耳の中を念入りに湿らせておいた、連続で二人も耳の中をいじっていたら、
なんだか自分の耳も痒くなってきたのだ。
その後、ゆっくりと湯船に浸かり、長時間人の頭の下敷きにされたふとももを労わってやった。
温かいお湯に身を任せていたら、股間の紳士も落ち着いてくれたようだ。オレは心も身体もサッパリとさせ、
清々しい気持ちで風呂を出た。
リビングに戻ると、母さんの横で寝ていたはずのグゥがちょこんとベッドの淵に鎮座していた。
その手には何故か例の細い棒を握り締め、ソワソワと落ち着かない様子でこちらを見ている。
「グゥ……さん?」
火照った身体に冷たい汗が流れる。
オレは脳をフル回転させ、これから起こるであろう緊急事態を回避する方法を全力で探る。
「早く来い」
グゥは真っ直ぐに、それだけを言った。
……いくら考えても、回避方法などどこにも見当たりはしなかった。
「あの、さ。ホントにやるの?」
「いいから、早く」
グゥの横に座り、何とか説得を試みようとするがまるで聞く耳を持ってくれない。確かに人に耳をかいて欲しいとは
思ったが、いくらなんでもついさっきまで耳かきと言う行為の具体的な内容を知らなかったグゥにされるというのは、
大げさじゃなく大惨事の予感、と言うか悪寒がもりもり沸いてくる。
「何事も経験だ」
お前が言うな。
……とは言え、確かに耳かきなんてものは実践してナンボではある。しかしその第一被験者がオレと言うのは
ちょっとどころじゃなく不安だぞ。事前に病院の手配をしておいた方が良いのではなかろうか。
しかしグゥはオレの気持ちも知らぬげに、早く早く、とふとももを叩き催促している。もう諦めるしかないのか。
オレは小さく深呼吸し、覚悟を決めるとえいや、とばかりにグゥのふとももに頭を乗せた。
「!? わわっ?」
───瞬間、飛び起きた。
異様な感触。あまりにも柔らかく、どこまでも頭が沈んでいくような気がした。……異様に、気持ちよかった。
「ハレ?」
グゥはオレの態度に驚いたような声を上げる。オレは「なんでもない」と体裁を整え、再度そのふとももに、
今度は慎重に頭を預けた。
やっぱり、グゥのふとももは無茶苦茶柔らかい。完全に体重を預けてしまうのが怖いくらいだ。
スカート越しでもそのぽよんとした感触や温かさが伝わってくる。都会のお屋敷のベッドや枕に
身体を沈めた時もその感触に驚いたものだけど、そんなものはまるで比較にならない。
それに、石鹸の爽やかな芳香の中に混ざるなんだか甘いミルクのような匂いが鼻腔から頭の奥まで
通り抜け、ささくれ立ったオレの精神を安らぎの新天地へと誘ってくれる。
「あの、ハレ……?」
「んー?」
「これでは、耳が見えない」
「え?」
言われて気付いた。オレはすっかり枕のつもりでグゥのふとももに顔を埋めていた。うつ伏せで頬をすり寄せ、
ついでにふとももの下に手まで入れていた。
「あ、ご、ごめんっ」
オレは慌てて手を抜き取り、グゥに背を向ける。
……左手はふとももじゃなく、もはやお尻の下だったような……いや、考えまい。グゥも何とも思ってないみたいだし。
ようやく耳かきの体勢が整うと、グゥは、いくぞ、と小さく呟きオレの耳の中に棒を滑り込ませる。
最初は緊張したが、始まってしまえば大したことは無かった。オレの手本をしっかり身体で覚えていたのか、
グゥは初めてとは思えないくらいスムーズかつ精密に耳かきを操作していた。
「ふむ、コレが耳垢と言うヤツなのだな」
耳から出た垢を興味深げに観察する余裕まである。オレとしては自分から出た汚れをそうして眺められるのはかなり
気恥ずかしいのだが。
「匂いは特にしないのだな」などと聞こえた時は正直焦ったが、頭を少し動かしただけで「動くな」と抑え付けられて
グゥの行為を阻止する事は出来なかった。……味も見てみよう、とか言うなよ。頼むから。
それにしても、心地良い。グゥの絶妙な耳かきさばきと、ふともものふかふかな柔らかさ。オレは内と外両方から
グゥに癒され、早くもウトウトと優しい眠気に包み込まれていく……………………
「────っふぁ!? ひゃわわわッ、ふぇあッ」
……突然、耳を襲ったこそばゆい感触に強制的に意識を覚醒させられた。
どうやら、耳かきの綿でまさぐられていたようだ。……なるほど、これは声、出る。ごめんよ母ちゃん。
オレはいつの間にか、寝てしまっていたようだ。あのまま、まどろみの中に沈み込んでしまいたかったが、
グゥの耳かきを最後まで味わわずに眠ってしまった事に対しても、なんだか勿体無かったな、なんて気持ちが
沸いてきた。耳かきを終えてから、グゥのふとももでぐっすり寝るのがベストか。
……って、何考えてんだオレ。ふとももでぐっすりって……。ダメだ、この感触はちょっと危険かもしれない。
「次はこっちだ」
そう言うと、グゥはオレの頭をつかみぐりんと反対側に捻る。いやそれくらい自分で出来るから。
危うく首だけ後ろを向く所だったぞ。
「ふぁ……ッ」
だけどそんな心の抗議も、耳を弄られると途端に掻き消えてしまう。
「ン、く……はぁ……ッ」
そうか、耳かきが気持ちいいと、思わず声が漏れるものなのか。自分でやった時はなんとも無いのに、
なんで人にされるとこれほどまでに違うのだろう。
「ンッ、くぁ……、ツッ……」
しかし何故か、先ほどに比べてその動きは明らかに精彩を欠いていた。
背中を向けていた時とは違い、今なら目を動かすだけでグゥの表情が見える。少し影になっていて
感情が読みづらかったが、その顔には動揺の色が浮かんでいるように見えた。
それに、オレのふとももの上に頭を乗せていた時ほどではなかったが、やけに頬が上気している。
目線もどこか浮ついていた。オレの耳だけに集中せず、チラチラとこちらに何度も目をやっている。
最初はオレ顔を見ているのかと思ったが、どうやら違う。もっと手前、グゥの下半身、足の付け根のあたりを
見ているような………。
その目線の先を追った瞬間、オレは思わず仰け反りそうになった。そうだ。オレのすぐ目の前には、
グゥの、その、股間……があるのだ。オレが最初に顔をぐりぐりと押し付けたせいか、薄いスカートの生地は
足の付け根の窪みに合わせ、くっきりとその形を浮き上がらせていた。
淡い眠気など、吹き飛んだ。オレは、気付いたらそこばかりを凝視してしまっていた。思わず、ちょっとずつ
その根元に向けて顔をずらす。思わず、鼻をスンスンと鳴らし匂いを嗅いでしまう。思わず。全部、あくまで思わず。
フと、目を上に泳がせるとグゥと真っ直ぐに目が合った。途端にグゥはボム、と音が出そうな程に顔を赤らめ
顔を逸らす。多分、オレも同じくらい真っ赤っかになっていると思う。
「───って! いててっ、ちょ、グゥ?」
そして耳かきの勢いがやたら早くなった。ついでにかなり雑になった。さっさと終わらせたい、と言わんばかりだ。
もしかして、オレの行動が気付かれのだろうか。うう、かなりカッコ悪いぞ。胸にムクムクと、後悔と自己嫌悪の念が
こみ上げて来る。
「な、いて! って、おま、おひょっ!? おひゃぅおっ!」
言い訳も謝罪も出来ぬ間に、グゥは耳かきを終え綿をねじ込みぐるぐるとかき回す。左耳でのあの心地よさは
幻だったのかと思いたくなるほどの大雑把なやり方に、綿を抜かれた後もしばらくオレは動けなかった。
いや、動けてもきっとしばらく動いてはいなかっただろうが。耳かきはともかく、この柔らかさは幻じゃない。
どうせあと数秒もすればグゥの方からオレを退かすだろうから、それまではこの感触に浸っていたかった。
……だけど、いつまでたってもグゥはオレを退かす気配は無い。逆に少し不安になり、チラリと上を見上げようとした瞬間、
目の前いっぱいに黄色の布地が迫ってきた。何事かと考える暇も与えず、オレはそのままポフ、と顔を包まれる。
「グゥ……?」
「………いいから、このまま……」
───そうして、オレもグゥも一言も漏らさず、ぴくりとも動かなくなった。
オレはグゥの身体に包まれ、不思議な安堵を覚えていた。グゥは上体を前に倒し、オレの顔を抱きかかえるような体勢で
いるのだろう。グゥの身体全体で柔らかく挟まれ、また心地良い眠気が頭の奥から染み出してくる。
「ハレ……お願………グゥ………もう、我慢…………」
何か、途切れ途切れに声が聞こえるが、もうオレの頭の中にまでは届かない。
オレはそのまま、このぬるま湯に浸かっているような温かな陶酔感と共に、今度こそゆっくりと
まどろみの中に深く、深く落ち込んでいった。
「おい、ハレ? ハレ……………馬鹿…………」
………
……
…
「……ン……ふぁ……」
窓から射し込む朝日が清々しい。余程熟睡出来たのだろう、こんな爽快な目覚めは久しぶりだった。
しかしまだ起きる気にはなれない。今日のベッドはやけに寝心地が良い。いや、ベッドでは無く、枕か。
ふかふかと柔らかく、適度に温かで手触りもすべすべ。少し汗の臭いが染みているが、それよりも
ずっと強く香る甘い芳香にまぎれ気になる程のものじゃない。
抱き締めるようにぎゅっと抱え直し、顔を深く埋める。それにしてもなんだか、やけに大きな枕だ。
オレは目を瞑ったまま、手探りで枕の大きさを確かめる。どこまで続いているのか、手を限界まで
頭の上に伸ばしてもまだ先があるようだった。伸ばした手で枕を掴み、ぐいと引っ張り込む。全身で
抱けるくらいの大きさがあるようだ。抱き枕と言うやつだろうか。そのまま足も絡め、オレは更に強く密着した。
ああ、抱き枕が気持ち良いってホントなんだな。でも今、顔に当たっている部分は変にごわごわとして、
肌触りが悪い。他の部分は薄いカバーに覆われているのに、ここだけタオルでも巻かれているような感触。
タオルの下に手を挿し入れてみる。どうやら本当に何かが巻かれているようだ。そのままタオルの中に
手を押し込んでいくと、カバーが途中で途切れ新しい感触に手が触れた。
「ひぁ……っ?」
そこはもう、これまでに感じた事の無いくらいの触り心地の良さ。ぷにぷにと柔らかく、指を押し込めばどこまでも
埋まる。それでいて指を離せばぷるんと張り良くすぐに元の形に戻る。低揮発性とか、そーゆーやつだろうか。
オレはその感触をもっと味わうべく、邪魔なタオルをぐいと引っ張り取り去った。
「や、嘘ッ……ハレ……」
再度強く抱き締めると、これまで心地良いと思っていた他の部分の感触など吹き飛んでしまうくらいの
しっとりぷにゅぷにゅとした吸い付くような肌触りが頬に伝わってきた。オレは上機嫌で抱き枕にスリスリと
頬をすり寄せ、その柔らかい感触を愉しんだ。
「んん……やぁ……」
そうしているうちに、口元にぷくんと、豆粒のような小さな膨らみがある事に気付く。
オレの中の男の本能がザワザワとざわめく。オレは本能に従い、その小さな突起をちゅぷ、と口に含んだ。
「ふああっ? は、ん、………くぅン……」
ちゅうちゅうと、音を立てて吸い付いているうちに、ふわりと何かが頭の上に覆い被さって来た気がした。
まるで枕からも抱き締め返されているかのような感覚。それはオレの頭を優しく包み込み、どこか懐かしい、
遠い記憶の奥に眠る赤ん坊の頃の気持ちを思い起こさせてくれた。
そのままオレは、母に抱かれるような安らぎの中、再度ウトウトと緩やかな眠気に誘われていった。
………
……
…
「……ン……ふぁ……」
窓から射し込む陽の光が清々しい。余程熟睡出来たのだろう、こんな爽快な目覚めは久しぶりだった。
なんだか、凄く心地良い夢を見ていた気がする。
口元に違和感を覚え指で触れると、涎の乾いたような感触があった。シーツが濡れていなかったのは幸いだが、
オレはかなりダメな顔をして寝ていたに違いない。きっと夢のせいだろう。どんな内容だったかは覚えていないが。
太陽はもう随分と高く昇っている。昼前、と言う程ではないが、早朝と言うには遅すぎる時間だ。少し寝すぎたか。
くああ、と大きくあくびをし、身体をむくりと起こす。隣でぐーすかと寝こける母さんはまだ起きそうに無い。
「ハレ」
不意に、背後から声が聞こえた。振り向くと、ベッドの上に神妙な表情で正座をしているグゥの姿が目に入る。
いつからそうしていたのか、グゥはその体勢を崩さずに「ちょっとこちらにお座りなさい」とどこかの小姑のような
台詞を言いながら、自分の座っている場所の正面を指差した。何の事やら解らないが、オレは促されるがままに
グゥの前に、律儀にも正座の形で座る。
オレとは対照的に、グゥはまるで眠れていなかったのか、オレを真っ直ぐに見詰める……と言うか睨むその目は
赤く充血していた。オレが寝ている間に何かあったのだろうか。
「一つ、聞きたい。……ハレは、グゥをどうしたいのだ……」
グゥはオレの顔と中空の間に目線をきょろきょろと挙動不審に泳がせながら、ためらいがちにそう呟いた。
そして質問の意味が解らず、ただ呆然としているオレをしばし眺め、呆れたように小さく溜息を吐く。
「二度も恥をかかされるとは…………」
またよく解らない事を呟きながら、グゥはふてくされたように頬を膨らませそっぽを向いた。……かと思うと、
急にこちらにくるんと向き直り、オレを睨みつけながら「勝手に寝るな」やら「ハレのせいで一睡も出来なかった」などと
突然のお説教モードに突入した。
……昨日……。そう言えばオレはいつの間に寝てしまったのか。グゥに耳掃除をしてもらっている途中で
記憶が途絶えているのだが……それとグゥが眠れなかった事の因果関係がいま一つ解らないぞ。
「あのさ、グゥ……オレ、昨日何かした? 変なコトしたんだったら謝るからさ……」
何故グゥが怒っているのかはまるで検討が付かないが、これだけお怒りになられているのだからきっとオレが悪いのだろう。
……と、精一杯下手に出たつもりだったが、それを聞いたグゥは一瞬驚いたように目を大きく開け、すぐに先ほどよりも
強い怒りをその瞳に宿し、ギロリと睨みつけてきた。
「覚えて……いないのか……」
メラメラと、瞳の炎がますます勢いよく燃え上がる。もはやそれは怒りを遥かに通り越し、もはや殺意と呼んでも
差し支えない程の圧力を備えていた。その眼光だけで、熊の二、三匹、人なら十人や二十人、ポクテに至っては
軽く千匹程度は圧殺してしまえそうだ。
「いやっ! その、確かに覚えてないけどさ? でもちゃんと話し合えばンダムッ!!」
ずりずりと正座の姿勢で後ずさり、必死で説得を試みるオレのテンプルにグゥのライトフックがノーモーションで
突き刺さる。そのままオレは数秒宙を舞い、ベッドから飛び出し床に転げ落ちた。
「まさか、今朝のコトも覚えてないのか?」
「け、今朝? ってオレ、今起きたばっかだけど!?」
ズシンと地響きを立てながら、床に這いつくばるオレにグゥは一歩ずつ近づく。もはや触れただけで蒸発してしまいそうな
オーラを身にまとってらっしゃる。
「あ、そうそう、聞いてよ! オレすげー良い夢ヲンドゥルッ!!」
なんとか場を和ませようと話題を変える間も無く、グゥは瞬時にオレの前に立ちボディ……のもう少し下あたりを
ガゼルパンチでカチ上げた。
───何だかお腹のあたりがきゅーんって苦しくて、切なくて、生きる意味を見失いかけちゃう。だって、男の子だもん。
「ふぉぉぉぉ…………ッ!?」
………数瞬、悟りの境地が見えた気がした。
床にうずくまり男の男たる部分を押さえピクピクと悶絶している中、グゥはオレの耳元で重々しく口を開く。
「今日も、耳かきの練習に付き合ってもらうぞ。するのも、されるのも……な」
勝手に寝たら次の日の朝日は拝めないと思え、なんて脅迫じみた言葉も付け加え、グゥはぷい、とオレから離れると
ベッドに上り母さんの隣にドサッと倒れ込んだ。
何がなにやら、昨日の自分の至らない部分を探るも今は頭も身体もそこにスペックを割く余裕も無く、ただ混乱するのみ。
ましてや今朝の事などと言われても、オレはまだ目覚めて数分しか経っちゃいない。
先ほどの爽快な目覚めなどどこへやら、いつの間にやら引きずり込まれた三途の川のほとりでオレは一人、
精神と肉体両面からの壮絶な苦痛を味わいながら、この理解不能な状況を何とか整理しようと懸命に頭を働かせる。
だが結局、解ったコトといえばただ一つ。
今夜から、オレはゆっくり安眠する事すら許されないのだろうな
……などという確信だけがいつまでも重く、重く胸に響き渡り続けていた。
END
以上です。
耳かきだけのネタのつもりだったけど
グゥ様の柔らかさに目覚めて方向性がおかしくorz
グゥ様クラ、欲しいなあw
そして次こそはエロエロなのを……
GJ!!
俺個人の脳内設定として、グゥは「耳とうなじが弱い」って事になってるのでw、激しく萌えさせていただきました。
グゥは全身どこを触っても柔らかそうだもんなぁ…
良く手招きというか猫招きみたいな動きをしてるけど、その時の手が物凄い柔らかそうで何とも( *´・ω・)
つーか、ハレが色々とけしからんですな全くw
グゥ様クラは俺も欲しいw
ぬいぐるみを作った人を何処かで見たけど、枕は…
出来れば2タイプ欲しい。枕から顔だけ出してるver.と完全な抱き枕ver.のやつw
乙!!
いやぁいつもいつもお世話になっとりますw
文章の巧さは勿論の事、言い回しが巧い巧い。めっちゃワラタでつよ。
耳 掃 除 か よ !
グゥ様はホント何をしても萌えるなぁ…。グゥ様クラ商品化キボン。
しかし何だ…耳そうじをしてるハレ&グゥを想像すると激しく萌えるなぁ。マジデ…。(;´Д`)
もう完全に夫婦やんw
保守
保守ぅぅう
何か、何か話題は!!
っても雑談は半角で出来るからなあw
とりあえずリクでもするか。
ハレ×グゥ関連以外なら
ロバベル、トポユミあたりが読みたいなあ。
グプラヴェも正式カプになった事だし。
それとワジ(女)がやっぱり気になる。
新キャラのリムも実にツボったキャラだが
アルヴァ相手だと軽く近親入るんだよなw
あとありえないけどアンジェラ×ウェダとか
ちょっと想像して萌えたりするw
お前じゃ俺のマグナムは撃てねえんだよ
とかさ
そういえばあの2人は正式なカップルになったんだよな…
あの話はどうも、女教師グゥに目が行ってしまって駄目だw
一組ウホッなのが混じってる訳だが……
やはりグゥ受が好きな自分がいる。
半角の方を見てたらムラムラしてきたので、↑の耳そうじネタをまた読ませて頂きましたよw
何と言うか…知らない事or何か疑問があった時に考えこんでるグゥ様を見ると萌えるw
幼児プレイとかそういう台詞が出てくるわりにマリィが言った”落ちる”の意味が
解ってなかったみたいだし…( *´・ω・) ハァハァ
なんか危ない位置にあるので念のためage。
>>114 そうそう。無知なグゥ様すっごい萌えるw
絶対幼児プレイも意味知らないで言っていたと自分は信じている。
あとマグナムとかなw
直接的な言葉や意味は知っていても
恋愛の感情や些細な心の揺れ動きは理解できない
自分の気持ちも良く解らないでもやもやしてるとか
そのどうしようもない”何だか解らない気持ち”のせいで、
無意識のうちについ、ハレに悪さをしてしまう…とかだったら激しく萌えるな(;´Д`)ハァハァ
グゥって本をよく読んでるけど、図鑑とかそういう資料的な物が好きなんだろうか?
DX一巻で「PLANTS」とかいうのを読んでたけど巻数が既に12巻だし、
熊について妙に詳しかったり砂漠での過ごし方について参考文献を持ち出したりw
幼児プレイとかそういう知識もやはり、本とかを見て覚えたんかなぁ?
ちゅーって何だ?とか言ってた頃もあったのに一体どの辺で…w
やっぱ保険医の蔵書をこっそり読んでたりするんじゃないだろうかw
女性の裸ばっかの写真集系だけならともかくエロ漫画がいっぱいあったら
ファンタジーなプレイをまるごと鵜呑みにしそうだなw
「なんだ、5回や6回程度で…情けないぞ」とか言われそうw
文字にされた知識はあるけど実際どんなものなのかは
ハレに教えられるまでわからないんだよw
何気にハレも良く知ってるよな
アディ「場所を変えるとか」
にすら反応できるくらいw
マリィが実に歳相応の耳年増っぷりだから余計に際立つw
両親の教育の賜物っていうか
>>120 となると、幼児プレイがどうのとか海綿体に血液が集まってどうのとか
そういう事を全てハレと実践して教わった訳ですね?…全くけしからんな。(;´Д`)
何の話か忘れたが、ハレがグゥに”すっかりゆがんじゃって…”とか言われるシーンあったな。
あの環境では無理も無いような気がw
豚切って悪いんだけど、過去SS読んだあとにじっくり原作読み直してみたら、ワジにすっげぇ萌えた。
途中から作者も意図的に男か女かわからなくしてるような…?(デフォルメ時のまつげとか、リアクションとか、首の華奢さとか。あと遭難時に寝ている位置が女の子側だったのも気になる)
ワジ、ラヴェ、マリィで一つのシーツで寝てるよなあ
ハレとグゥが一つのシーツで寝てるので萌えすぎてしばらく気付かんかったがw
ワジ(女)は素直に萌えるなぁ。メイン回は無いのか・・・
>ハレとグゥが一つのシーツで寝てる
気が付かなかった…!!!家でも毎日一緒に寝てるんだろうなぁ。
2人にとって一緒に並んで寝るというのは、無意識というかごく自然な事なんだろうな。(;´Д`)ハァハァ
周りの人間も”2人は一緒に住んでるから”みたいな感じで特に反応しなさそうw
ハレとグゥは常に一つのセットなのですよ?w
いつも意識しない分、何かあったときにはドキドキだな。
気付いたら向かい合って寝てたとか…w
128 :
名無しさん@ピンキー:2007/05/13(日) 00:32:14 ID:hoaDfgxT
今月号読んだ。
カエルの子はカエルどころか、何か別の生物に変異したみたいな感じなんですがw
つーかあの未来でグゥ様はどういうポジションに居るのか気になるな……。
コミックス派にはもどかしい限りですな。
あの夫婦扉絵もいたく気になる…。
>>128 今日読んだ
アレはハレをいじるために作った世界だと信じたいw
グゥがいないのもきっとそのせいさ・・・ハハハ
しかしいつかぶち切れて「もうどうにでもなれ〜」って気になったら
ありえそうな未来ではあるw
まあそうなったらマリィに刺されて終了しそうな気がするがw
俺も読んだけど…一体何があったんだハレw
あの状態に至るまでに何があったのか、非常に気になる。
グゥのポジションは…ハレの姉貴?w
仕込んだハレを使って色々と(ry
*'``・* 。
| `*。
,。∩ * もうどうにでもな〜れ
+ (´・ω・`) *。+゚
`*。 ヽ、 つ *゚*
`・+。*・' ゚⊃ +゚
☆ ∪~ 。*゚
`・+。*・ ゚
未来…というか少し先の話を考えた時、いつも気になるのは
成長したアメがハレ&グゥを何と呼ぶか?という事。
多分アメは成長して行く過程で自然とグゥ>ハレという風に認識すると思うwので、
呼び方にも違いがあるはず。
グゥ=グゥお姉ちゃんorグゥ姉ちゃんorお姉ちゃん??
ハレ=兄ちゃんorハレ兄(にぃ) …とかかなw
急に”お姉ちゃん”とか呼ばれたら、対応に困りそうだなぁグゥ様。
目上に敬語使う習慣が無い村だしなあ
グゥはそのまま「グゥ」かもしれない。
グゥに一番なついてる感じがするし下手したら開口一番は「ママ」かもしれないのだがw
むしろハレこそ呼び捨てになる可能性のが高い気がw
グゥに「お姉ちゃん」は普通に萌えるなあ。是非採用して欲しいところ。
アメの世話は実の親よりもハレ&グゥの方が良くしてるように見えるもんなぁ。
ハレ=パパ、グゥ=ママとか普通に呼び始めそう…というかマジデそういう風に認識しそうw
FINALのジャングル通信だったかな?アメがグゥの真似して何か口に含んでる絵があったが、
ああいうのを見ると本当にグゥ様が一番なつかれてるように見えるな。(*´д`*)
しかしそうなると、アメの将来が色々と心配になってくる…w
「ふあ……んぎゃあああんっ」
「はいは〜い、どうしたのアメ〜……っと、グゥ。アメなんだって?」
「おしっこ。もう取り替えた」
「ん。これ、取り替えたやつね。捨てとくよ」
「ふあ……んぎゃあああんっ」
「ハレ、ミルク」
「うん、もうそろそろかと思ってた。もうちょっとで出来るよ〜」
……数分後
「は〜い、ミルク出来たよ〜。……グゥ? どうしたの、胸おさえて」
「……いや、何でもない」
「ふぅん……」
「……その年からあんなに激しく……。男はやはりケダモノよの」
「何の話ですかね?」
みたいな擬似夫婦像を妄想しつつ。
あーSS書きてー。そして読みてー。
137 :
名無しさん@ピンキー:2007/05/27(日) 11:27:52 ID:PHtfCeF2
まさしくそう思う。
その数行だけで萌えまくりっすよ旦那。
保守がてら何か小ネタを・・・と思いつつ軽い小ネタって苦手だorz
今週中に何かサクッと書きたいところ。
>>140 半角スレでミタヨーと言おうと思ったら違ったああああああ
これはアメのなのかグゥの目線の先に何かあるのかで激しく妄想の種類が変わるなあw
いつの間にかグゥもアメの世話に慣れてるけど、その過程もちょっと見たかった。
アメはギュンギュン回されても平気な胆力を持ってるからそんなに苦労も無かったかもしれんがw
実際グゥはマグナムとか海綿体とか言ってるけどホンモノは見た事あるんだろうか。
アメのはあるとして、ハレのも一緒に生活してるわけだし見た事ありそう。
しかしマグナムの海綿体に血が昇った状態のはどうか・・・いかん、どこまでも考えてしまうw
>>141 改めて見てみるとアメを適当に描きすぎたw
ハレ&グゥ共に、お互い1回は見た事ありそうですな。一緒に住んでる事だしw
保険医の本か何かで”海綿体に血が昇るとマグナムになる”という事を知り、
本当になるのか確かめたくてハレを(ry 興味津々のグゥ様(;´Д`)ハァハァ
ウヒョイ!またキタヨー
グゥ様の手は柔らかそうでいいなあ。不定形物に包まれてるような感覚を味わえそう。
ハレもどう考えても無抵抗ですw手を縛られてなくてもなすがままくさいw
グゥ様の手…というか全身?w ホント柔らかそうだもんなぁ。ほっぺたプニプニしたい(;´Д`)ハァハァ
あと、顔に手を当てた時に鳴る「ペチ」って音がたまらんw
漏れはもうダメかもしれん。( ´・ω・)
最近、ハレが洗濯してる姿を見ただけで妄想が膨らむようにorz
洗濯物の中には当然グゥの服とか下着もある訳で。(確か手洗いだったよね?)
ハレがグゥのパンツを洗ってる時にタイミング悪くグゥ本人が→2人とも真っ赤
…とか、そういうシーンが浮かんでくる(;´Д`)ハァハァ
グゥが真っ赤になるとかキャラ全然違うな…
俺的にグゥはハレのやることでは動じないと思ってる。常に冷静かつ優位。
性的に感じたりもしないし喘ぎ声などもってのほか。
>>147 気持ちは解るけどなw
俺的にはむしろグゥの鉄壁を崩せるのはハレだけと思っている。
常に冷静かつ優位な立場が崩れた時どうなるか・・・と考えるのが萌え
ハレがグゥの服もパンツも洗ってるんだよなーってのはずっと思ってたw
グゥとしてはそのへんどうなんだろうか。
>ハレがグゥのパンツを洗ってる時にタイミング悪くグゥ本人が
この場合ハレが一人でうろたえるか、逆に別にいつも洗ってるしで無頓着か
グゥはハレの反応に対応したいつもの皮肉を言ってその場は逃れ誰も居ない所で
一人内心大変な事に……とかw
最初は俺もそうだったなぁ。
グゥでエロ?全然想像つかねぇ!とか思ってたけど…色んな人の作品を読んでるうちに、
”普段見せない仕草や感情を露にしたグゥ”が猛烈に萌える事に気付いたw
洗濯物は多分…忙しいハレの事だから普段はそれほど意識してないんだろうけど、
いざ洗ってる最中にグゥが来たりしたら2人とも相当気まずいだろうな…w
グゥ的には干す時、取り込む時が一番心穏やかじゃなさそうw
関係無いが都会編のおしゃれさんぶりは最初結構衝撃的だったなあ。
ジャングルじゃいつも同じ格好なだけに。一番最初のぬくそうな格好が異常に可愛いw
ネクタイとYシャツも似合うし、空気はジャングル編の方が好きだけど都会編は
普段見れないものがいっぱい見れて良い。
グゥが真っ赤になるつったら
「原因と結果」でハレにマウント取られたグゥの顔が一瞬大変な事になってたようなw
グゥ様はネタなのかマジなのか判断つかないから困るぜ……。
ああ、アニメで「犯す気?」が見たくて仕方が無いwマジでOVA再開せんかな……。
自分も「犯す気?」を動画で是非見てみたい。超見たい。
どんな声で言ってくれるのだろうか…(悶々)
「犯す気?」のすぐ後で
「バカップルが何してるか解ってなかった」発言をするグゥ様は
どこまで俺の想像力を刺激すれば気が済むのか。
ちび和服グゥも可愛すぎるし大人グゥもいるしあの回はお気にだw
俺もあのシーンはマジデ萌えた…マグナムとか幼児プレイとか、
そういう台詞が出てくる割には良く解ってないんだなぁグゥさん。(*´д`*)
チビ和服グゥは髪型が新鮮で好きだw 和服だから下もはいてな(ry
洗濯っていやハレん家なぜか洗濯機ってなさそうなんだよな。
PCもネットもあるのにw
しかし毎日グゥの汚れ物を手揉み洗いしてると思うとかなりヤバス
156 :
名有りさん@ピンキー:2007/07/01(日) 06:14:12 ID:rFSLn1oK
確かハレの家には洗濯機あった気が・・・。
たしかデラックスで、ウェダとクライヴがグゥに子供にされて、
で、それをハレが育成させられるって話しの時に、
「お父さんの服洗うの嫌だから自分で洗って!」
っていう台詞の近くで、洗濯機が動いてたなぁ。
あああああ確かに
ときピヨで洗濯機出てたなー
TVシリーズ「黒くてry」の回のタライで洗ってたのは
おしゃれ着だったんだろうか。
158 :
名有りさん@ピンキー:2007/07/02(月) 18:11:24 ID:iP1C4ekq
夢の無いこと言ってごめんな。
俺も洗濯機なければいいと思ってた。
でもまぁ、洗濯機使ってても干す時は一枚ずつだからな。そう考えると(;´Д`)ハァハァ
>>124超遅レスだが同意 俺も激しくワジ(女)に萌えるタチです。
それどころかハレグゥ萌えの90%をワジが占めてるよ。
だが実際にの登場回数は1%にも満たないという…あーーーこの気持ちどうすれば。
さて明日はガンガンでも立ち読んできますか。
そろそろ保守
ワジって最初期の顔見せ回以外で目立った事してないし掘り下げが無いんだよな。
ジャングルメイツだとマリィが筆頭として、ネタでトポ。恋話でグプタ、ラヴェ。
あとウィグルも目立ってた。消えたけどw
ラーヤ、サギンみたいにモブとも割り切れんし
爆弾いっぱい抱えてるのに見せ場が無いのは惜しい。
だけど想像の余地を削られるのも困るんだよなあ・・・。特に性別に関してw
そういう妄想を悶々と繰り広げられる対象、というのがワジの役目だったりしてw
燃料補給燃料補給〜と今月のガンガン読んだら死に掛けたw
ずっとダマのターンかよ!たまにこーゆー話し書くなあ作者は
遅くなったけど俺も読んだ。マジデ全ダマワロタw
この作者の場合、真面目に読み進めて良いのか解らないから困るw
保守保守
前の投稿から3ヶ月か・・・ううう描きたいネタは数あれど余裕が・・・
この土日中はSSに専念しよう
期待保守ww
俺も俺も!
∧_∧ +
(0゜・∀・) ワクワクテカテカ
(0゜∪ ∪ +
と__)__) +
遅くなりました。ちょうど先週の土曜の「時かけ」見て閃いてしまい
書きかけのやつスルーしてそっちの流れに。
びっみょーに「時かけ」ネタバレ含むんでご注意。
あとエロくないです。しかもただのバカ話で終わるつもりだったけど妙に長く。orz
んでは↓から投下します。
169 :
時かけ01:2007/07/26(木) 00:38:58 ID:HLV/fE8K
「いや〜、結構面白かったな〜!」
2時間近くも凝視していたテレビから目を外し、ううん、と大きく伸びをする。
そのままバタンと後ろに倒れ込み、身体の緊張を解すようにゆっくり息を吐いた。
テレビを見ている間は意識していなかったけど、背もたれもなくただの床に長時間同じ姿勢で
座っているとやはり疲れる。ソファか、せめて座椅子くらいは欲しい所だ。
ただその疲れも、いつものようにTVゲームで遊んだ後ほどではないが。
「やっぱDVD買っちゃおっかなー、『時かけ』!」
そう、今日は知る人ぞ知る名作『時をぶっかける少女』の放送日だったのだ。
それも金曜の夜九時という時間帯。早朝でも深夜でも無く、休日前のこの日、
この時間に、一家団欒を彩る晴れの舞台でこの映画が上映されたという事実に
オレは深い感慨を覚えずにはいられない。
「地上波でこの手のアニメ映画やるなんて、想像もしてなかったな〜。まあこの枠ってアニメ映画
やる事多いけどさ? スタジオジヴリやらノレパン三世やら一般人にも認知度が高いものばっかで、
ぶっちゃけマイナーな部類に入る『時かけ』なんてのを放送する事なんてホント凄い事なんだぜー?」
「…………へぇ」
「他によくやるアニメ映画って言ったら『パチモン』に『クレしん(クレイジーしんちゃん)』だろ?
あと『名探偵ブナン』あたりかなぁ。どれも”まさに子供向け”って感じのもんばっかでさ。やっぱ
この時間帯に『時かけ』を地上波放送ってのはもう、快挙と言わざるを得ないね!」
「…………ふぅん」
「やっぱりこの監督は凄いよ。オレは『イカモンアドベンチャー』の頃から注目してたんだよね。
この人の作品は、シナリオや演出もそうだけど、まず作画に味があるんだよなぁ。影を付けず
動きを重視した作画なのに静止画でも十分に映える昔のジャパニメーションじゃ裏技的な───」
「はぁ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜……」
一人興奮するオレの声を、大きな溜息が遮る。オレの横で同じようにテレビを見ていた
少女からのものだ。
「……何? グゥ、なんか言いたい事あるなら言って」
寝転んだまま頭だけ少女……グゥの方を向く。
テレビを見ていた体勢のまま、ぺたんと床にお尻をつけて座る少女は目だけをチラリとこちらに
向け、もう一度小さく溜息混じりに口を開いた。
「オタク……」
「……素直なご意見、ありがと。でもこれがオレの素直な感想なんだしいいだろー?」
「その感想の内容がオタクくさい。もっと子供らしい感想は無いのか?」
グゥは真っ直ぐに伸ばしていた足をあぐらをかく姿勢に直し、テレビを背にするように
身体の向きを変えこちらを向く。オレも身体を横に向け、肘を立てて頭を起こす。
「子供らしいって……例えばどんなだよ」
「む……」
オレの言葉に、グゥはふむ、と小さく唸るとしばしそっぽを向き、考える素振りを見せる。
「例えば……『オレも時間を遡って過去の過ちを修正したい』……とか」
「……途中までは解るけどその願望はとても子供らしいとは思えませんよ?」
「ハレらしい願いを選んだつもりだが」
「そりゃあご配慮ありがとうございますねっ」
いつものグゥの皮肉げな微笑から目を逸らすようにごろんと床に背を倒し、そう吐き捨てる。
確かに、やり直したい過去はいくらでもある。主に横に座ってる少女関連の出来事で。
しかしあまりにも多すぎて10回や20回のタイムリープじゃ到底修正は効かんだろうよ。
170 :
時かけ02:2007/07/26(木) 00:39:49 ID:HLV/fE8K
「ってかさ。そもそもオレ、既に何度か過去に戻った経験あるからね?」
「うむ。未来にも1度あったな」
「あの未来はおいといて……。過去に行ってもロクな結果になった試しが無い気がするんですけど?」
子供の頃の母さんに余計な事を言ったせいで母さんの性格が著しく変貌してしまったり、
オレが思い付きで口走った名前が弟に付けられてしまったり、ひょっとしたら母さんに
逢えていたかもしれないおじいちゃんを迷わせたあげく謎の写真が残ってしまったり……。
むしろ”過去に戻った事”を修正したいくらいだぞ。
「そんなことはないぞ。ウェダは明るくなり弟の実質の名付け親になり生の祖父にも逢えたではないか」
「うわぁ、なんかすっごく前向きな解釈……。本気でそう思い込めたら幸せになれるかな、オレも」
「なんだ、結果に不満なのか?」
「原因がどれもオレが過去に戻った事に起因するのがイヤなんだよ……」
「複雑よのう……」
いかにも「心中お察ししますよ」と言わんばかりにえらく他人事な発言をかますこの少女も明らかに
原因の一端を担っている……と言うかむしろ原因そのもののはずなのだが突っ込んだ所でどうしようも
無いのであえて放置しておく。
それよりも問題視すべきは、過去だの未来だのの時間渡航をあっさり受け入れてしまっている自分だ。
コイツと一緒にいると何が正常で何が異常なのかたまに失念しそうになる。
だいたい、何でグゥはそんな事が出来るんだ? 今更すぎて疑問に思うことすらはばかれるが、
気にならんと言えば嘘になる。
「……なぁ、もしかしてグゥも…………」
「む?」
「……いや、何でもない」
……未来人なんじゃ? なんて、冗談混じりにでもなぜか最後まで口に出す事が出来なかった。
未来人じゃなく宇宙人や異世界人、超能力者でもオレは何ら疑いはしないってのに。
よしんば「私は神だ」、なんて言われても受け入れる覚悟はある。……悪魔だ、と言われた方が
より真実味は深まるが。むしろ納得。
「……ふふ」
そんな事を考えていると、グゥは一瞬、何かを考えるように天井を見上げ、すぐにこちらに
向き直るとそのままオレの横にパタンと倒れこんだ。
二人とも寝転がった体勢で、数十センチの距離で目線がぶつかり、咄嗟に目を逸らす。
「……ついに気付かれてしまったか…………」
「へ?」
よく解らない言葉に、思わず頓狂な声を返してしまう。グゥを見ると、そこには
かすかに浮かぶ微笑みとオレの顔を覗き込むように向けられた瞳。
その表情からは言葉の真意を読み取ることは出来ない。そして真っ直ぐに向けられた
その視線から、オレは目を逸らす事も出来なかった。
「ハレ…………よく聞いてくれ…………」
「………………ッ」
どれほどの間見詰め合ったか、ようやくグゥの口がゆっくりと、重々しく開いた。
こくりと、自分の喉が鳴る音がやけに大きく耳に響く。
「……実は、グゥは遠い未来からやってきた未来人だったんですよ……」
171 :
時かけ03:2007/07/26(木) 00:40:30 ID:HLV/fE8K
「そ、そんな……!」
その衝撃の告白に、オレは驚きを隠す事が出来なかった。まさか、本当に未来人だったなんて。
しかしこれで、これまでのグゥの人知を超越した行動の殆どに説明が付く。
そう、全ては未来の科学の力によるものだったのだ。時間渡航も、ちんちくりんステッキも、
人を操作するコントローラーも、グゥの腹の中も……。
しかし、それだけでは解消されない疑問もまだ残されている。
「そ、それじゃあ、ともよさんや誠一さんは?」
そう、グゥと出会った時から、既にグゥの腹の中にいたあの二人。まさかあの二人も
未来から来たと言うのだろうか。もしかしたら、グゥのお目付け役か何かなのかもしれない。
「ふむ……あの二人も、未来人なのだ。グゥのお目付け役でな」
「や、やっぱり……!」
予想通りの答えにも関わらず、オレは動揺を抑えきれない。一体何の目的でグゥたちは
この現代のジャングルにやって来たと言うのだろう。やはりあの映画のように、未来には
無い何かを求めて来たのだろうか。
「グゥたちは、未来には無いある物を求めてこの時代に来たのだよ」
「そ、それは一体!?」
「ふむ………」
オレの投げかける問いに対して、常に淀みなく動いていたグゥの口がここで停滞する。
まさか、目的までオレの予想通りだったなんて。でもあの映画のように、ここには
美術館なんて無い。あの映画の登場人物とは違うものを求めているのだろう。
この村で珍しい物と言えば、ポクテや満田……あとは長老の胸毛くらいだろうか。
「グゥたちの欲している物……。それはポクテや満田、そして長老の胸毛なのだ」
「ま、まさか!!」
まるでグゥの思考が流れ込んで来ているかの如く、オレの予感が次々と的中する。
もしかすると、未来人であるグゥと長い間一緒に暮らしていたせいでオレにも何か
特殊な能力が備わったのかもしれない。
「ハレ……。実はお前にも、グゥと長年共に過ごしたせいで特殊な能力が備わっているのだ」
「なんて事だ……。やっぱり、オレはさっきからグゥの心を読んでいたんだね!」
「……ハレも気付いていたか……」
「そうか、そうだったのか……。じゃあ、今グゥが何を考えているか当ててみてもいいかな?」
「うむ。やってみるがよい」
「……『このネタ、どこでオチつけよう』」
「………………」
オレの言葉にグゥは何も答えず、ただその口元に浮かぶ爽やかな微笑みが、
彼女の肯定の意思を十全に表していた。
172 :
時かけ04:2007/07/26(木) 00:42:16 ID:HLV/fE8K
<<2>>
「……って、投げっぱなしなネタを自信満々に振るなっての! 乗ったオレもオレだけどさ〜」
「いやいや、未来からハレの堕落した人生を修正しに来た便利なロボと言う設定がまだ残っていたのだが」
「ああ、確かにグゥって猫っぽいしねー。って、もうイイってのっ! もー絶対突っ込まないっ」
「…………むぅ」
ってか、オレらどこの若手芸人だっての。なんでこんな夜更けに二人っきりで漫才じみた事
せにゃならんねん。
「ったく、せっかくいい映画見たのに余韻が台無しだよ……」
まあ、グゥとじゃ元々そんなに濃い話は出来ないし、余韻を共に味わおう、なんて展開になるはずも
無いのは解りきっていたけれども。
ああ、ここにあの銀行強盗さんがいたら最高の余韻を楽しめたかもしれないのになあ。……いや、
あの人はゲームは詳しいけどアニメはあまり知らないかもしれないな。しかも今じゃそのゲームも
あんまりやってないかもしれないし。うう、オレはやっぱり孤独な性なのか……。
よろりと上半身を起こし、あくびを一つ。気持ちが落ち込んでいるせいか身体も妙にだるい。
時計を見れば、あと数分も経てば日付が変わろうかという時刻。ベッドの上には既に母さんとアメが
並んでぐっすりと熟睡中。母さんに関しては、”酔い潰れている”と言った方が正確だろうけど。
しかしこれは好機。母さんもアメもご就寝、そしてオレは明日は休日……と来れば、多少の眠気は
我慢せねばなるまい。
オレはさっそくテレビの下からゲーム機を取り出し、電源を入れた。勿論、アメが起きないように
音量をうんと下げるのも忘れずに。
「はぁ……アニメの次はゲームか。ハレはホントにオタクよの」
背後から侮蔑の意思を満々と込めた声が突き刺さるが、気にしない、気にしない。
オレはテレビ画面に神経を集中させる。
このゲームをやるのは久しぶりだ。母さんに何度もリセット攻撃を食らってすっかりやる気を
無くし、ハードごと封印していたRPGゲーム。今日こそはクリアしてやるぞ。
「ハレはゲーム以外する事が無いのか」
……無視、無視。
「……まったく、いつからこんなゲーオタに育ってしまったのやら……」
無視! 無視!
────いつから?
そういや、オレっていつからこんなにゲームにハマるようになったんだろう。
確かに、小さい頃からずっと家でゲームしてた記憶はある。……やっぱオタクなのかな、オレ。
でも昔はここまでゲームに執着してなかったと思う。むしろ、あの頃の記憶を思い出すとなぜか
暗い気持ちになるような。……何かあったのかな、昔のオレ。
「……なあ、ハレ」
ごろんと床に身体を倒したまま、グゥは言葉を続ける。
オレは変わらず無視を決め込んでいたが、しかし先ほどまでとは違う、酷く落ち込んだグゥの
声色に思わずコントローラーを操作する指を止めていた。
「グゥが本当に未来から来たとしたら……」
「なんだよ、またその話? 絶対乗らないから───」
「グゥが、いずれ未来に帰らねばならないとしたら、どうする?」
「───は?」
「もし、グゥがハレの前からいなくなったとしたら……ハレはどうする?」
「な、何の、話だよ……?」
思考がプツプツと途切れる。グゥの言葉にどう対処すれば良いのか、瞬時に判断する事が出来ない。
頭の中で何度も反芻し、その言葉の意図を飲み込もうとするが、グゥはお構いなしに言葉を続けた。
「ハレは家ではいつも一人でゲームをしているし、グゥがいなくても問題ないだろう」
「…………」
「どーせアニメの話も、グゥとじゃつまらんだろうしな」
「…………」
言葉を重ねるごとに、グゥの声はだんだんと不機嫌になっていく。それに合わせるように、
オレの思考回路もだんだんと回復し、グゥの言葉の意味を理解し始めていた。
173 :
時かけ05:2007/07/26(木) 00:43:50 ID:HLV/fE8K
……なんだ、ようは拗ねているのか。いつも平常心なグゥにしては珍しい。ってかお前、
また人の心読んだろ? 心の中で思った事で拗ねられてもコチラとしては困るんだが?
肩越しにじろりとグゥの方を見ると、グゥはぷい、とそっぽを向いた。その態度、
”Yes”と受け取っていーんだな。
「ったく。ンなこといちいち気にするんなら心読むなよ、グゥ」
身体ごとグゥの方に向き直り、睨みつける。
「……だって、ホントの事だろ」
グゥはうつ伏せで足をぶらぶらとぱたつかせながら腕を枕に顔を伏せる。
表情は見えないが、その声からはいつもの意気は感じられなかった。
「グゥは遊び相手にも話し相手にもならない。それは事実だろ」
「お前なあ、本気で言ってるなら怒るぞ」
「……もういい。一人でゲームでも何でも楽しんでろ」
そう言うとグゥはごろんと背中を向けて黙り込んだ。
「……なんなんだよ、もう」
オレもテレビ画面に向き直り、コントローラーを握る。
でも、ようやく静かになったのは良いけれど、オレの中でゲームに対する意欲はとっくに
失われていた。
「……一人じゃゲームやってても、楽しくないっての……」
…………?
あれ? 今、オレ、何て言った?
自分の口から出た言葉に、首を捻る。
確かにオレはいつも一人でゲームをしているけど、一人でやってる、なんてあんまり意識した事は無かった。
……昔と違って。
そうだ、昔はずっと、ずっと一人で、一人ぼっちでゲームをしていた気がする。
一人は怖い。一人は寂しい。昔はそうだった。小さい頃、一人でゲームをしている時、ずっとそう思ってた。
(……そうか)
小さい頃、家でゲームをする時、オレは一人だったんだ。本当に、一人ぼっち。
グゥも、勿論アメも居ない。母さんは狩りで出かけていて……あの頃はそれでも、オレが朝
目覚める時には帰ってきてくれていたけれど、夜はずっと一人ぼっちだったんだ。
まっくらなジャングル。何かの獣の遠吠え。風に揺れる木々の唸り声。全部が怖くて、怖くて。
オレは家中の電気を点けっぱなしにして、ただ母さんが無事に帰ってくるのを祈ってた。寂しさを
紛らわせるために。不安を、恐怖を忘れるために一人でずっとテレビ画面を睨んでた。
それも成長するにつれ無くなってはいったけど、当時の漠然とした不安感はずっと心に残っていたんだ。
───グゥがうちに来た、あの日までは。
あの日からオレは、母さんが留守の時も、一人でゲームをやっている時も何も怖く無くなった。
最初のうちは、別の問題が次々に発生したせいでそれ所じゃなかった、ってのもあるだろうけど。
でもやっぱりそれ以上に、オレの心にどっしりとした安心感が生まれたおかげだと思う。
グゥが、いつも傍にいてくれたから。
174 :
時かけ06:2007/07/26(木) 00:44:42 ID:HLV/fE8K
一緒にゲームはしないけど、ディープなオタクトークも出来ないけど、グゥはいつもオレの傍にいて。
炊事や掃除、洗濯も、一人ぼっちでするよりずっと楽しかった。オレ以外の誰かの存在感が、本当に
心強かった。
オレが安心してゲームにのめり込むようになったのは、きっとグゥのおかげなんだろうな。
あと、料理の腕がやたらと向上してしまったのも。
本人に自覚は無いだろうけど、グゥはずっとオレの心の支えになってくれていたんだ。
そのグゥのせいで被った甚大な心的被害を考慮に入れても、余りあるくらいに。きっと。……多分。
それにしてもこんな事、今まで考えた事も無かった。グゥが来てからこっち、いろんな事が
立て続けに起りすぎて考えるきっかけを失っていたのかもしれない。
そう、思い返してみれば、グゥが来て以来、オレと母さんのたった二人で住んでいたこの家に
いろんな人が来るようになったんだ。保険医にベルやアシオ、ロバート。あとジャガーも。
最初はみんな、”招かれざる客”って感じだったけどさ。
母さんのお家騒動やらなんやら、ゴタゴタしているうちに母さんが妊娠しちゃって、保険医と
母さんが結婚して。
……そして、アメが産まれて。
気付けば家族が倍以上に増えちゃってた。
まるでグゥが、この小さな家に大きな入り口を開けてくれたみたいだ。
こんな事、グゥにはとても言えないけど……グゥが傍にいない生活なんてもう、オレには考えられない。
グゥはオレにとって大切な家族で、友達なんだから。
……でもオレは、そんな友達を放って、一人でゲームばっかしてたんだよな。
今日だって、グゥとのお喋りを蹴ってまで一人でコントローラーを持って。
なんて馬鹿なんだろう、オレは。グゥが怒るのも、当然だよ。グゥはきっと、
オレから誘ってもらえるのを待っていたんだ。意地っ張りなもんだから、自分からは
そんな事、絶対に切り出せないだろうから。
「……なぁ、グゥ? たまにはさ、一緒にゲームやろっか」
今更かもしれないけど、それでも手遅れって事は無い。
オレは出来るだけ自然に、それでもテレ臭くて声が少し上ずっちゃったけど、素直な気持ちで
そうグゥに声をかけた。
「…………グゥ?」
だけどグゥは、後ろを向いて寝そべった姿勢のまま、何の反応も見せてはくれなかった。
寝ている様子は無い。寝息は聞こえないし、明らかに身体が強張っているのが傍から見ても
よく解る。
(……手遅れなんて事、無いよな)
そう、必死に自分に言い聞かせ、グゥの傍に寄り再度声をかける。
「ごめん、グゥ。オレ、グゥの事、全然考えてなかった」
出来るだけ優しく、気持ちが伝わるように、一言ずつ言葉を重ねる。
「一人ぼっちの寂しさ、知ってるはずだったのにさ。グゥを一人にさせてたんだよな、オレ」
すぐ傍に遊び相手がいるってのに、オレはいつも一人の世界に入り込んで、全然かまって
やれなかった。その事に、これまで何の疑問も感じていなかったなんて、自分で自分が憎らしい。
「…………ない」
「……え?」
「そんな事、無い」
オレの想いが通じたか。ようやくグゥは小さな、消え入りそうなくらいに小さな声でそう、
ぽつりと呟いた。
「グゥも……ハレが傍にいるだけで…………」
「え? ごめんグゥ、今何て……」
「……ッ」
しかし聞き取れたのは最初の一言のみ。その声のトーンは急速に縮小して行き、言葉の途中で
”消え入りそう”どころか完全に消えてしまった。
175 :
時かけ07:2007/07/26(木) 00:46:04 ID:HLV/fE8K
「あ、ちょっ、グゥ?」
聞きなおす間も無く、グゥは突然立ち上がり、一直線にベッドに向かい母さんの隣に
ダイブするような勢いで倒れこんだ。最後まで、オレから顔を背けたまま。
まさか、オレはそこまでグゥを不機嫌にさせてしまっていたのだろうか。でも、さっきの
グゥの言葉からはそんな印象は受けなかった。
とにかく、このままじゃ現状は悪化する一方だ。ここで話を打ち切るワケにはいかない。
「いきなり何だよ、グゥ?」
オレもベッドに上り、グゥの隣に座る。グゥはうつ伏せで、枕に顔を埋めるように押し付けて
ピクリとも動こうとしなかった。
一体グゥは何を考えているのか。よく解らないが、こうなれば多少強引にでも面と向かって
話をしなけりゃ前に進まない。
「おいグゥ!」
「……ッ」
オレはグゥの肩を掴み、ぐいと持ち上げ無理やり引き起こした。
「一体なに────……」
……しかし、グゥの表情を真正面に捉えた瞬間、オレの頭は真っ白になってしまった。
グゥの目には薄らと涙が浮かんでいた。その顔は真っ赤に上気し、オレと目線が合った瞬間
さらに、ボッと音がしそうなくらいに燃え上がる。
すぐにグゥは顔を逸らしたが、それ以上の抵抗の意思はもう無いようだ。肩に乗せられた
手を払いのけるような事もせず、ただ恥ずかしそうに俯いていた。
「……なあグゥ、一体どうしたんだよ」
「…………」
なんとか目を合わせようとグゥの顔を覗き込むが、グゥはきょろきょろと顔を動かして
一向にこちらを向いてくれない。仕方がないので、とりあえずそのまま話を聞いてもらう事にする。
「グゥさ。さっき、何言おうとしたんだ?」
「……ッッ」
まず最初に聞いておきたい疑問をぶつけてみる。が、その瞬間、グゥは身体をビクンと震わせ
既に真っ赤な顔をいよいよ沸騰しそうなほどに紅潮させていく。
随分と動揺しているようだ。多分、オレもグゥと同じくらい動揺していると思う。なんせ、
こんなグゥを見たのははじめてだから。
あのグゥがここまで感情を露にするなんて。一体なにが原因なのか、自分の言動にも行動にも、
その理由はとんと見つからない。
……ただ、一つの推測を除いて。
しかし、それを訊ねる事はオレにとっても恐ろしい。ある意味、タブー中のタブー。オレの推測が
正しければ、オレへのダメージも計り知れない諸刃の剣。
だけど今のところ、それ以外の推論が立たないのも事実。うう……聞くべきなのか。
オレは心を落ち着かせるべく大きく息を吸い込み、よし、と覚悟を決めゆっくりと口を開いた。
「もしかして……ずっとオレの心、読んでた?」
「…………ッッッ」
出来ればオレとしても、それだけは当たって欲しくない予想だった。絶対にグゥの耳に入れては
いけない言葉の数々が脳裏を駆け巡り、くらりと目眩がする。
頼む、嘘でもいい。グゥはただ否定の意思を示してくれればそれでいい。祈るような気持ちで
グゥの反応を待つ。
176 :
時かけ08:2007/07/26(木) 00:46:35 ID:HLV/fE8K
グゥはしばらく凍りついたように固まっていたが、ほんの一瞬、ちらりとこちらを見たかと
思うとすぐに俯き、また微動だにしなくなった。
その顔はいまだぽっぽと上気しており、何故かわずかに微笑んでいるように見えた。恥ずかしい
と言うより、照れている、といった感じだ。
もう、何と言うか、それだけで、オレは卒倒してしまいそうになった。
グゥの仕草、表情、その全てが、オレの質問に対しての答えをハッキリと示していた。
曰く、”Yes”、と。
今のオレの顔は、グゥに負けないくらい真っ赤に違いない。
全身の血が顔中に集まっていくような感覚。キンキンと耳鳴りがし、視界すらぼやけて来る。
このまま気を失い、全てを夢の中の出来事として記憶の彼方に葬り去れたらどれほど楽か。
全身の力が急激に抜け、ふらふらとゆらめくオレの身体にふいに、トン、と何かが押し付けれた。
その衝撃に、はたと我に返る。と、グゥがいつの間にかオレの身体を支えるように胸元に
しがみついていた。そのまま、何の反応も示せないうちにぐいと引っ張られ、オレはベッドに
横倒しに押し倒されてしまう。
一体何が起こっているのか、茹った頭でなんとか思考を回転させる。……が、現状を把握した
瞬間、オレの頭は更に沸騰してしまった。
腰にしっかりとしがみつき、きゅ、と力の込もったグゥの腕。胸元に強く押し付けられた顔。
グゥの肩に置いていたオレの手は背中に回り、その身体を包み込むような状態になっている。
少しあごを引けば、すぐ目の前に桜色の髪の毛。甘い爽やかな匂いがふわりと鼻先をくすぐる。
熱のこもった息が薄いシャツを通して胸元に当たり、その部分だけジンジンと熱くなっていく。
グゥの匂い。グゥの熱。腰を包む柔らかな圧迫感。グゥから与えられる情報はどれをとっても
致命的で、オレはグゥを引き離す事はおろか、指先一本動かす事さえ出来ない。
───心地良い。
今この状態を、そう思ってしまっている自分がいる。それがオレにとって、何よりも問題だった。
177 :
時かけ09:2007/07/26(木) 00:47:53 ID:HLV/fE8K
<<3>>
「……グゥ」
震える声で、やっとそれだけを口に出す。
それに応えるように、グゥの腕の緊張が少しだけ緩んだ。
「大切な家族……」
「え?」
胸元から、くぐもった声。グゥは相変わらず顔を伏せたままだったが、ようやく
会話をする体勢が整ったようだ。出来れば、もう少し心穏やかな状態に身を置かせて
頂けると助かるのだが。
「……グゥは、ハレの大切な家族で、友達なのか?」
「うぐぅ……ッッ」
開口一番から致死のダメージを孕んだ言葉が心臓に突き刺さる。ドクンと、地震でも
起きたかのように全身が揺れた気がした。
「……はぁ……。そうだよ。グゥはオレにとって、大切な家族で、友達ですっ」
もう、既に全部聞かれてしまったってのは解っていた事だ。多少なりとも覚悟は
出来ていた。オレは潔く……ある種、自暴自棄とも言うが……はっきりとグゥの言葉を認める。
「……それだけか?」
「へ?」
しかし、グゥから返って来た声は何故か不満げだった。
「それだけ……って、何が?」
「……いや、いい。……今は、それで」
そう、一人納得したように呟き、グゥは小さく溜息を吐いた。
ううん、よく解らないが、納得してくれたのならそれでいい。追求しても、いたずらに傷口を
広げるだけだ。
「グゥがいない生活なんて、考えられない?」
…………次は、ソレか。もしかしてコヤツ、オレの恥ずかしい心の声一つ一つに確認を取る
つもりでは。死ぬぞ、オレ。死因は極度の羞恥により、悶死。……絶対ヤダ。
「ああ、認める。グゥのいない生活なんて、考えられない。いちいち確かめなくても、グゥが
聞いた事は全部本心だよ」
だからもうその話はやめてくれ、と念を押すと、グゥは小さく頷き胸元に擦り付けるように
頬を寄せた。柔らかいぷっくりとした頬が胸に密着し、これまで以上に熱が伝わってくる。
ドクドクと早鐘のように高鳴る鼓動を直接グゥに聞かれていると思うと、なお更体温が上昇していく。
「……あと、これからは勝手に心の声を読むの禁止。次はホントに怒るかんな」
すでに一生ものの弱味を握られてしまっている気はするが、それを受け入れたらそれこそ
身の破滅だ。これだけはきつく窘めておかねば。
グゥはまた無言で、こくんと小さく頷く。やけに素直で逆に怖いが、今は信じるとしよう。
「それと、冗談でも、突然姿を消してオレの反応を見る、なんて事しないでよ?」
「む……」
もう一つ、念を押しておく。
自分で言っておいてなんだが、グゥなら本当にやりそうで怖い。今は普段の姿からは想像も
つかないくらいしおらしくしているが、本来のグゥの、とにかくヒネクレた性質を忘れてはいけない。
「……グゥが未来に帰ったら、困る?」
「ああ、すっごい困るね。宇宙でも異世界でも霊界でも魔界でも何でも、ここじゃないどこかに
帰っちゃうのは絶対ダメ。……グゥはここにいなきゃ、ダメ」
「ハレ……」
グゥはオレの言葉に何度も頷き、オレの腰をきゅっと強く抱き締める。……こんなグゥは
金輪際見れないかもしれない。しかしその珍しい姿もここまでだろう。
次の瞬間、オレの最大級の皮肉が炸裂するのだから。
178 :
時かけ10:2007/07/26(木) 00:48:48 ID:HLV/fE8K
「お前はずっと、オレの傍から離れちゃダメ。でないと、オレの心が休まらないからさ」
そう、オレが何より恐れているのは、グゥがオレの目に届かない所で何かをやらかしてしまう事だ。
はじめて都会に行った時の機内でのストレスは尋常のものではなかった。十数年のオレの人生の
中で、今でもダントツでトップに輝いている。
グゥの傍にいる事でオレが受けた被害は確かに少なくない。でも、傍にいる事で得られる
安らぎだってちゃんとある。しかしグゥが傍に居ないって事は、重大な不安要素以外の何者でもないのだ。
オレのこの反撃が予想外だったのだろう、グゥは一瞬、身体を引きつらせたかと思うと
そのまま硬直してしまった。ただふるふると小さく震えているのがオレの身体に直接
伝わって来る。
本来なら返す刀で数十倍の嫌味が飛んで来るはずだが、流石にグゥも堪えたのかもしれない。
まあ、オレだってここまで恥をかかされたのだ。皮肉の一つも言わせて貰わねば割りに合うまい。
しかしグゥはただ小さく「……うん」と呟くと、オレの腰をこれまでにないくらい強く抱き締めて来た。
更にグゥは頬を摺り寄せ足を絡め、出来る限りオレに密着しようとしているようだった。
今度はオレが予想外の展開に焦り出す。これがグゥの反撃なのか、とも思ったが、とてもそうは
見えない。何しろ気持ちい……って、それは置いといて。
「ちょっとあの……グゥさん?」
「んん……なんだ、ハレ……」
「いいいいやその……えっと……?」
胸元から聞こえてきた声は蕩けそうなほど甘く、オレは次の言を失ってしまう。
……いやいや、なんだ、この妙にイイ雰囲気は。オレ、なんかやっちゃった?
先ほど自分で口にした台詞を頭の中で何度も振り返る。が、まるで見当が付かない。
「グゥ? オレ、なんか変なコト言っちゃった? あの、別に深い意味は無いからね?」
よく解らないが、とにかく何らかの誤解が生じている事は間違い無い。それも早急に事態を
収拾せねば取り返しの付かない事になるとオレの心が警鐘を鳴らしている。
「そうだな……大切な家族、か。確かに、夫婦も家族に違い無い」
すいません、お願いだから会話をしてください。
グゥはオレの気も知らず、一人くすくすと上機嫌に微笑いオレを抱き締める。
腰に回されていた手はするすると背中を這い、股の間をすべすべの柔らかい
足が割り込んで来る。思わずこちらからも抱き締めてしまいそうになる衝動が
湧き上がるがぐっと抑え、オレは再度グゥとコミュニケーションを試みた。
「……グゥ?」
「…………」
「あの、グゥさん?」
「……もう一度、さっきみたいに呼んで」
「は?」
「……”お前”、って……。いや、これはまだ早いかな。……ふふ」
すいません、本当に勘弁してください。
ああもう、どうすればいいのやら。グゥ相手に会話が通じないなんてとっくに
慣れっこだが、この事態は己の理解力を遥か超越している。
「そ、そうだ、心を読めばすぐ解るよ! そうすりゃ一発でオレの本心が……」
「心を読んだら、怒るって言ったじゃないか」
「いやいやいやいや、もー許す! なんぼでも許すからじゃんじゃん読んで!」
「……やめておこう。そんな事をしなくても、ハレの心は十分、伝わったぞ」
あああああああもうどないしろっちゅうねん。
179 :
時かけ11:2007/07/26(木) 00:49:15 ID:HLV/fE8K
このままじゃあラチが明かない。オレはグゥの肩を掴み、強引に引き剥がした。
久しぶりにグゥの顔と対面する。
「な、なんだ、いきなり……」
この混乱を極めた状況を収めるにはこれしかない。オレはぐっと腹に力を込め、
静かに、しかしはっきりとグゥに告げた。
「……グゥ。落ち着いて、目を瞑って」
そして、そのまま寝てしまおうじゃないか。
そう。とりあえず、寝る。それが一番だ。一晩ぐっすり寝て、起きた時には
グゥのこのよく解らない興奮状態もきっと治まっているはずだ。
……断じて逃げじゃないぞ。これはシンプルかつ効率的な、れっきとした対症療法だ。
「な……ハ、ハレ……」
オレの言葉に、グゥはびっくりしたように目を丸くさせていた。
「い、意外とせっかちだな……。ウェダやアメが起きたらどうするつもりだ……」
今度はそわそわと落ち着き無く目線を移動させる。
どうやらまだグゥは眠くないらしいが、ここは無理にでも寝てもらわねば。
「大丈夫だよ、少なくとも母さんは絶対起きないし、アメだってぐっすり寝てるよ」
アメが夜中にぐずり出す心配をするなんて、オレが思っていたよりグゥは
冷静なのかもしれない。しかし油断は禁物だ。グゥの火照った顔はまだ治まって
いない。むしろ会話を重ねるごとに何故かその瞳がらんらんと輝いて行くように
見えるのはオレの気のせいだろうか。
「そ、そうか……」
ふいに、グゥは何かの覚悟を決めたかのようにきゅっと顔を強張らせ、
また真っ直ぐにこちらを見詰め小さく口を開く。
「解った。ハレがそうしたいのならグゥは……い、いいぞ」
そう、小さく呟くとグゥは静かに目を瞑った。
よかった。解ってくれたようだ。
明日の朝にはグゥの症状が回復している事を祈って、オレもグゥに背を向けゆっくりと
目を瞑った。
まだ身体にはグゥの感触が残り、動悸も治まりそうに無い。とても安眠出来るとは思え
なかったが、意外にもオレの意識はすぐに夢の中へと落ち込んでいった。それも瞬時に、
まるでプチンとテレビの電源を切ったかのようにあっさりと。
180 :
時かけ12:2007/07/26(木) 00:50:02 ID:HLV/fE8K
<<4>>
───目が覚めると、太陽はすでに高く昇っていた。早朝の空気ではない。お昼前頃だろうか。
頭が割れるように痛いのは、寝不足なのか寝すぎたせいか、それとも心労がたたったか。
上体を起こし、ぼやけた目で周囲を見渡す。
母さんとアメはもうベッドの上にはいない。家の中に人の気配は無く、ただ膝の上で丸まっている
グゥの寝息だけが聞こえ
「──────ッッ!?!!?」
次の瞬間、オレは自分でも驚く程の勢いでベッドから飛び出していた。
床をゴロゴロと転がり、そのままの勢いで壁に強か後頭部を打ちつける。
ガゴンと、部屋と脳内に響き渡る乾いた音。ただでさえガンガンと鈍痛に
苛まれていた頭に追加ダメージが入り、しばし悶える。
「なんだ、騒々しいな」
頭を押さえ一人ピクピクと小刻みに震えるオレをよそに、グゥはベッドの上で伸びをしながら
ふぁぁ、と大きなあくびを一つ。とっても快活なお目覚めを迎えたようだ。
「……朝から元気そうだな、ハレ」
床にしゃがみ込むオレに一瞥もくれず、トコトコとキッチンに向かうその姿は全くいつもの
グゥそのものだ。一晩寝て冷静さを取り戻す作戦はどうやら成功したらしい。
「いやあ……こちとら朝から元気あり余っちゃって。グゥさんの調子はどうですかね」
「……どうした、頭打ってイカレたのか? 休みだからっていつまでも寝惚けてたらただでさえ
シワの少ない脳がますます退化するぞ」
……間違いない。いつものグゥだ。いや、いつもより酷い。なんか寒気すら感じる程に酷い。
冷静を通り越して、冷酷さすら感じるぞ。
どうしよう、昨日の事を訊ねてみようか。しかし自ら墓穴を掘る真似はしたくない。
このまま記憶から消え去るまで黙っている方が得策なのかもしれない。
ズキズキと痛む頭をさすりながらふらりと立ち上がる。と、テーブルの上に書き置きのような
ものを見つけた。母さんが書いたものだろう。
そこには母さんらしくない、長々とした文章がぴっちりと紙いっぱいにしたためられていた。
まず一行目は、『ごめんなさい』と、何かの謝罪文。どうやら、昨日のオレとグゥの会話を
盗み聞きしていた旨に関するものらしい。へえ、そうか。起きてたんだ、母さん。ははは。
そして母さんは今日帰らない事。アメと一緒にレベッカの家に泊まる事と続き、残りは
『恥をかかせちゃダメ』だの『計画的に』だの、よく解らない事がつらつらと書かれていた。
ふと、書き置きを押さえていた小さな四角い箱に目が留まる。コン……何とかって商品名が
見えるが、用途は不明。放置しておく事にする。
181 :
時かけ13:2007/07/26(木) 00:52:23 ID:HLV/fE8K
「ウェダは明日まで帰らないらしいな」
丁度、グゥが首にタオルを垂らし、キッチンから出て来た。顔を洗っていたのだろう、
湿り気を帯びた前髪が陽の光に照らされ、どことなく艶っぽい。
グゥは既にこの書き置きを読んでいたようだ。せっかくシュレッダーよりも細かく
引き裂いたと言うのに、無駄骨だったか。
「……今夜は二人っきりだな?」
グゥの瞳が怪しく光る。まるで獲物を見つけた肉食獣のようだ。何か悪い予感を覚え反射的に
テーブルの上の小さな箱に手を伸ばしたが、それはいつの間にかオレの背後に回っていたグゥの
手の平の中に収まっていた。さっさと箱ごと燃やしておくべきだった。
「さてと、グゥはちょっと出かけてくるぞ」
独り言のように、そう言い捨てるとグゥはそそくさと玄関へ向かった。
「そろそろ自分の使命を果たさねばならんからな」
そして玄関先でこちらに向き直り、これ見よがしに、手の平サイズの黒い長方形の物体を
ひけらかす。どうやら何かの機械のようだが、ここからではその詳細は解らない。
「”ハレの堕落した人生を修正する”という、使命をな。……ああ、グゥは使命を終えても
未来には帰らないから、安心していいぞ」
グゥはニヤリと口端を歪めると、黒い機械の表面についた小さいボタンをカチリと鳴らす。
『───グゥのいない生活なんて、考えられない』
少しくぐもってはいたが、それは間違いなくオレの声だった。
どうやら、あの小さな機械はボイスレコーダー的なアレらしい。
へぇ。そんなの、いつの間に用意してたんスかね、グゥさんってば。
『グゥはここにいなきゃ、ダメ』
『グゥはオレにとって、大切、です』
『お前はずっと、オレの傍から離れちゃダメ。でないと、オレの心が休まらないからさ』
『……グゥ。落ち着いて、目を瞑って』
次々と再生される、オレの声。声。その内容の傾向には明らかに何らかの意図を感じたが、
オレはただ呆然と立ち尽くす事しか出来ない。その様子にグゥは満足げに微笑み、静かに
レコーダーの停止ボタンを押した。
「まずは、女関係の整理からはじめるとしよう」
そう言うとグゥは颯爽と背を向け、軽くオレに手を振り玄関の向こうに消える。
……このまま、放っておいて良いのだろうか。
182 :
時かけ14:2007/07/26(木) 00:52:51 ID:HLV/fE8K
(───良いワケ無いだろ!!)
考えた時には、飛び出していた。
思考が高速で回転をはじめる。今、やっと目が覚めた気分。
「グゥ!!」
幸いグゥは玄関を出てすぐの所にいた。大声で呼びかけるとグゥはくるんと振り返り、
「ハレ! 帰ったら一緒にゲームで遊ぼう!」
花のような笑顔と、快活な声がオレの身体を吹き抜けて行った。
そして、やっと目覚めたはずのオレの脳は、今度こそ完全に停止した。
気付けば、頭痛は治っていた。しかしオレの頭の中はいまだ靄がかかっているかのように
ぼやけ、思考が定まらない。
一体、グゥって、何。
時間渡航だの、ちんちくりんステッキだの、腹の中だの、そんなものが無くったって。
ただ一人の女の子としてのグゥ。それだけでも彼女は、十分に不可思議な存在だったのだ。
女心と秋の空……なんて、そんな次元じゃなく。
───魔性。そんな言葉が、真実味を帯びてオレの脳内を駆け巡った。
今のオレに解る事と言えば、オレの未来予想図における将来の選択肢は現在、音を立てて急激に
縮小しているのだろうな。……という実感。そして金輪際、オレに”一人ぼっち”なんて
贅沢な時間は味わえないのだろうな。……という確信くらいのものだった。
END
以上です。
書きかけのが残ってるんで週末あたりまでに何とかできたら……いいなあorz
次はエロスで一つ。
やっと書き込めた…何度も読ませて頂きましたよ〜。
”時かけ”見た事無いので新鮮な気分で楽しませて頂きましたw
なんかもう、2人とも可愛すぎてこっちが悶死しそうなんですが(*´д`*)ハァハァ
「グゥは俺にとって大切な存在」なんて事は、もし本当にそう思っていたとしても
絶対にハレの口から出てこないだろうからなぁ。
自分の事をどう思ってるのか、普段から結構な頻度で探りいれてそうだなぁグゥ様。 …ってか、夫婦ってw
ウェダも、「ウェダ過ぎ」て駄目駄目だなぁ全くw
息子たちの為に気を利かせて、自分の赤子をつれてお泊りとは。しかも実用的なお土産付きw
>まずは、女関係の整理からはじめるとしよう
グゥさんテラオソロシス…!!!((;゚Д゚)ガクガクブルブル
いよいよハレが、グゥ無しでは生きられない体に…w
エロスの方、wktkして待っとりますw
保守保守
グプタ(女)書きたいなあ。しかし相手が…
個人的にはハレなんだけど相性良さそうなのはグプタなんだよなあ。
でもグプタもうカップル成立しちゃったんだよなあ。
でもグプタのダメっぷりを見ると特に問題なさそうではあるんだよなあw
保守保守
ってか人いねえなw
wktkして何かを期待してるよw
ワロタ
今月号、フラグは立ってると思ったけど
ここまであからさまに攻めてくるとは…
この子らで妄想してた展開の斜め上を行かれたw
当たり前だけど作者には勝てんw
なんだなんだ、何が起こったんだ
保守保守
来月までに
絶対ありえない展開で今月号の続きを書いてみたいがw
アゲる
ワジ受けキボン保守
ゆるやかに期待保守
195 :
名無しさん@ピンキー:2007/08/29(水) 19:51:33 ID:6mWZ8uOp
保守、アンド期待アゲ
そろそろグゥ(大)×ハレの続き読みたいなー、とwktk
保守
夏の風物詩を適当に詰め合わせてるうちに異常な程長くなってしまいました・・・
前振りだけでハンパないのでとりあえずそこまで投下します。
エロ直前くらいまでなんでエロだけで良い人はもう少しお待ち下され。
↓から投下します。
<<1>>
「あー、都会も夏はあっちいわね〜」
大きなお屋敷に隣接するように設けられた小さなテラス。周囲にはお屋敷以外に背の高い
建物も植物も無く、風の通りは良いが容赦なく照りつける直射日光を遮る物も無い。
ビーチベッドにぐったりと寝そべりながら、彼女は乾いた喉から搾り出すように声を上げた。
その身には自らを太陽光線から守る物は殆ど身に着けていない。胸元と下腹部、必要最小限の
部分のみを隠し、その褐色の肌を惜しげもなく太陽の下に晒している。ここが都会の邸宅の
庭先では無く、海水浴場の砂浜といっても通じるような姿だ。ただし、その身を包む布地が
レースやら刺繍やらが派手に入った真っ黒なアンダーウェアでは無く、至って普通の健康的な、
出来ればセクシー系でもカワイー系でも無い水着であれば、の話だが。
「母さん、暑いのは解るけどさ……なんか着たら?」
「え? ちゃんと着てるじゃない」
オレの言葉に1秒の間も空けず、母さんはブラの肩紐を引っ張りながらさらりと即答する。
母さんの中では下着"のみ"の姿でも十分着衣を纏っている状態として成立しているのだろう。
まあ、予想はしていた答えだ。むしろ家じゃ全裸でいる事も多いこの人にしてはまだ控え目な
姿だと言っても言い過ぎじゃないくらいだ。
今更、突っ込む気も起きないくらいとっくに見慣れた姿ではある。が、しかし…その格好に
疑問を抱く事を忘れてしまってはオレの中の何か大切なものがまた一つ壊れてしまう気がする。
「見てるこっちが恥ずかしいんだよ。母さんは恥ずかしくないの?」
「ったく、解ってないわねーこの子ったら」
しかし母さんは心底呆れた、と言わんばかりに大げさに肩を竦め、深く溜息を吐いた。
「そんなの、気にするから恥ずかしいんでしょ。母さんはこれくらい、見られても平気だもーん」
「だから、こっちが平気じゃないんだっての」
「マザコンはコレだから……困ったもんよねー」
「マザコン言うな!」
大きく伸ばした舌の上で空っぽのビール缶を揺すりながら、ジトっとこちらを睨みつけて来る。
何度振っても一滴の雫も零さないその缶を無造作に放り投げると、既にビーチベッドの周囲の
床に無数に転がっている空き缶の一つに当たり乾いた音が響いた。
「それにすぐ似たようなカッコになるんだからいーじゃない。予行演習よ、予行演習」
「はぁ……?」
またよく解らない事を。
首を傾げるオレを尻目に、母さんは両腕を首の後ろに回し全身で太陽の光を受け止めるように
目を瞑る。
一体急に何の話をしているのか、突っ込みたかったがどうせまた適当な事を言って煙に巻かれる
だけだろう。まぁ、オレの言葉に聞く耳なんて持っちゃくれない事は最初から解り切っていた事だ。
オレはそこらに散らばる空き缶を拾いながら、小さく溜息を吐いた。
「……しょうがあるまい」
拾い集めた空き缶をビーチベッドに備え付けられた小さなテーブルに並べていると、足下から
聞き慣れた平坦な声。円形に地面に掛かる影に隠れ、猫のように丸まって寝ている少女が頭だけを
もたげこちらに目を向けていた。
「んだよグゥ、しょうがないって」
「ウェダはジャングルでもいつもこの格好だったのだからな。自らの肌を晒す事に対する
抵抗感が薄いのだろう」
「んー、そりゃ本人にとっちゃそうかもしんないけどさ……変なモン見せられるこっちの身にも
なって欲しいよ全く……」
グゥの隣に腰を下ろし、ヒソヒソと母さんに聞こえないように声を出す。
「ふむ……ハレとしてもウェダの艶姿をああも見せ付けられては目のやり場に困ると?」
「うんざりしてるだけだってのッ」
何が悲しゅうて身内の裸体なんぞを意識せにゃならんねん。それで無くとももはや見飽きたわ。
「まあそう言う事にしといてやりますかねえ」
「イミシンな言い方すんなっ」
くっくっく、といかにも不気味な笑みを浮かべながら、グゥもむくりと身体を起こして座る。
ノースリーブのワンピースを着ているグゥの露出した肩がぴたりとくっつき、その柔らかい
感触がTシャツの袖を通してでも伝わって来る。ずっと日陰にいたせいもあるだろうけど、
もともと体温の低いグゥの肌はひんやりとしていて傍にいるだけで心地良い。灼熱地獄の
日向とは雲泥の差だ。
グゥにしてみれば、自分より体温の高いオレにくっつかれても暑苦しいだけかもしれないが、
特に嫌がる様子は無い。むしろオレの肩を借りるように深くもたれかかり、右半身が重なる
くらいに身体を密着させていた。
きっと、狭いテーブルの影からはみ出ないようにしているだけなんだろう。でもオレにとっては
その素肌の汗一つかいていないかのようにすべすべな感触も、間近で見る横顔や真っ白な首筋も、
せっかく下がった体温を再び上昇させるに十分なものだった。
母さんになら抱きつかれても、裸を見ても何とも思わないってのに。同じように一つの家で暮らして、
一つのベッドで寝て、いつも一緒にいるのに、なんでこんなに違うんだろう。
……ついでに言やあ、母さんみたく女らしい凹凸も無いちんちくりんボディだってのに。
これで、グゥが母さんのように女としての恥じらいが皆無なヤツだったらどうなっていた事か。
うちに来てすぐの頃、グゥは母さんや周囲の連中からおはチューやら痴話喧嘩やらの悪影響を
受けまくっていたのに、露出癖だけは伝染しなかった事はオレにとって何よりの僥倖と言えた。
ずっと一つ屋根の下で生活しているのだ。そりゃあ、不可抗力でグゥのアレやソレが見えてしまう
事だってある。だけどそんな事をいちいち気にしたり、普段から意識していたらいろんな意味で身が
持たない。オレは極力グゥをそういう目で見ないように心がけていた。
……でもそれは結局、十分意識してしまってるって事の裏返しだ。それがグゥに知れたら最後、
オレとグゥの共同生活はその様相を一変させてしまうだろう。少なくとも、良きにつけ悪しきにつけ、
これまでと同じような接し方は出来なくなる。それがオレの理想的な関係に変化するならともかく、
「悪し」に比重が傾いてしまった場合など想像するだけで心が冷える。これだけは、絶対に悟られ
ないようにしなければならない。
「……なんだ、ぼーっとして」
「へ?」
しばし、物思いに耽ってしまっていた。グゥの声で我に返る。……と同時に、目の前に飛び込んできた
光景にまた意識が飛びそうになった。
ほんのすぐ目と鼻の先、至近距離にグゥの顔。いつの間にかグゥは先ほどよりも深く身体に擦り寄り、
オレの首元にしなだれかかるように頭を乗せ、オレの顔を訝しげな目で覗き込んでいた。
「あ、いやその、えっと……」
しどろもどろに、なんとか言葉を返そうと思考を回転させるが、首元にサラサラと流れる髪や
鼻先にかかる甘い匂いが、オレの頭から正常な判断力を奪っていく。
「ぐ、グゥが母さんみたく、変な格好しない奴でよかったなって……」
結局、ついさっき考えていた事をただ素直に口に出す。
グゥはオレの言葉に、ふぅんと意味深な笑みを浮かべた。
「グゥのなら、目のやり場に困る?」
「はぁ?」
言いながら、グゥはくったりと体の力を抜きオレにその身を預ける。偶然か故意か、
ぱらりと左の肩紐がずれ、肩のラインを滑り降りていく。ゆったりとした服の胸元が
きわどい位置まで捲れ、オレは咄嗟に目を逸らした。
グゥはそんなオレの反応を舐めるように眺め、目を細めてくすくすと笑う。
……しまった。オレはまた何か、グゥに新しい燃料を与えてしまったのでは無いか。
それも、とびっきり燃費の良い上等な奴を。
「な、なんだよ……また変なコト企んでんじゃないだろな」
「んー? 別にぃ?」
ジト目で睨みつけるがグゥはまるで意に介する様子も無く、そうか、そうかと小さく呟きながら
何かに納得したように一人こくこくと頷く。
……なんだ、この悪寒は。
目の前の少女の晴れやかな笑顔とは裏腹に、オレの心にかかる不安はひたすら増徴の一途を
辿るのだった。
「ウェダ様、お待たせ致しました。支度が整いましたわ」
不意に、お屋敷の方から快活な声が聞こえた。
「待ってました〜ッ! さっそく出発しましょ!」
その声に合わせ揚々と上体を起こした母さんの視線の先……屋敷とテラスを繋ぐ開け放たれた
大きなガラス戸の向こうに、ベルの姿。この暑い日にいつもと変わらず長袖のメイド服をびしっと
着こなし、平均台の上を渡っているかのように真っ直ぐこちらに向かってくるその姿には
一切の隙を感じさせない。……ただ一点、ダラダラと地面にも真っ直ぐに線を引く大量の
鼻血さえ無ければ。
「まあウェダ様ったら、またそのような格好で……はしたないですわよ」
その嗜めの言葉も益々旺盛に噴出する鼻血さえ無ければ説得力もあるのだが。
「せやでお嬢さん、はよなんか着てくれんと目のやり場に困りますわ。なあロバート」
「え? あ、えっと、そ、そうですね……」
ベルの後ろにはアシオとロバートが並ぶ。二人とも何故か両手いっぱいに大きなボストンバッグを
抱え、背中にも尋常じゃない量の荷物を背負っている。
母さんを視界に入れないようにしているのだろう、それぞれきょろきょろと落ち着き無く目を
泳がせていた。
「あれが正しい反応か」
そんなアシオたちを眺めながら、ふむふむと、また一人頷きながらグゥが何事か呟く。
突っ込みたいが今は下手に触れないほうが良い気がする。そっとしておこう。
「あんたたちはさっさと車に荷物運んどきなさい」
後ろを振り向きもせず、ベルが無感情な声でピシャリと言い放つとアシオたちは「ははッ!」と
口を揃え、逃げるように屋敷の奥に引っ込んでいった。なんだか、先ほどから妙に慌しい空気が
流れ始めている気がする。
「いきなりみんなどうしたんだろ。支度とか車とか……どっか行くのかな」
「うむ。ハレも早く支度を整えるがよい」
そう言ってむっくりとテーブルの下から這い出たグゥの背中には、大きなリュックサックが……
「っておまっ、いつの間にごふッ!?」
オレも慌てて立ち上がりテーブルに強か頭をぶつけた。ガコンと重々しい音が頭の中で反響する。
「なによハレ、今からそんなはしゃいじゃってたら持たないわよ〜?」
「まったく、落ち着きの無いヤツだ」
「しょうがありませんわ、ハレ様はまだまだ元気な盛りですものね」
うららかな日差しに包まれたテラスに木霊する、三者三様の朗らかな笑い声と、頭を押さえ
蹲るオレのうめき声。誰か、ちょっとぐらいは気遣ってくれませんかね。
「それじゃ、そろそろ行きましょっか」
「ハレ、さっさと起きろ。置いていくぞ」
「だ、だから行くって、どこへだよ……?」
よろよろと立ち上がるオレの言葉に母さんとベルはきょとんとした表情を返す。
ベルが口元に手を当て、ヒソヒソと何事か母さんに耳打ちすると母さんは一瞬
目を大きく見開き、
「……あ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜…………ごめん忘れてた」
などとぬかしながらにこやかな笑顔で頭をかいた。ベルの言葉は解らなかったがこれだけで
だいたいの経緯に察しがついてしまう自分がいっそ哀しいわ。
「申し訳ありません、ハレ様。やはり私がきちんと伝えておくべきでしたわ」
「あはは、もう言ったつもりになってたわ」
「……もういいからさ、結局、どこ行くのさ?」
「んふふー。それはね……」
オレの言葉に母さんとベルとグゥ、三人が顔を見合わせくすくすと笑う。そしてくるんと
こちらに向き直ると、その顔に満面の笑みを浮かべたまま示し合わせたように口を開いた。
「海よ!」
「海ですわ」
「海だ」
<<2>>
抜けるような青空の下、一面に広がるのは空以上に澄み渡った深い青。
水平線からもくもくと昇る巨大な入道雲はしかし太陽を包み込むには至らず、いよいよ
高い地点から降り注ぐ陽の光は砂浜を蜃気楼すら映し出さんばかりの灼熱の砂漠へと変える。
波の音、潮の香り、砂を蹴る感触。オレも海には何度か来ているのに、不思議と新鮮な感覚に
浸ってしまう。
───ベルの話によれば。
昨日の夕方頃、日が陰りを見せ始めてもまだジリジリと地表に残る蒸し暑さに業を煮やした
母さんが、駄々っ子のように「海行きたい」と暴れ出したのが発端だそうだ。
朝方や日中ならともかく、今から準備していては到着する頃にはまず外は真っ暗。夜の海は
危険すぎるし、そもそも楽しく無いだろう。そんなベルの説得の甲斐あってか、母さんは渋々
日程の変更を了承した、と言う事だ。
オレはその時、グゥと部屋でゴロゴロしていたので知らなかったのだが、「ハレ様とグゥ様にも
お伝えしておきますわね」というベルにあろう事か「いーのいーの、私が言っとくから」等と
母さんが提案したのが運の尽き。結果は、まあ、この通り。
「あえて教えなかった」「驚かせようと思った」「サプライズ」等々、イロイロとポジティブな
言い訳をかましてくれたが、この程度でいちいち怒っていたらきりが無いのでオレも気持ちを
切り替えて純粋に海を楽しむ事にした。ってか、こんなのとっくに慣れっこですよ、こちとら。
「わお! 海なんてひっさしぶりー!!」
車から飛び出して来た母さんが子供のように大きな声を上げた。
出発する前の格好と肌の露出面積はほぼ変わらないが、今の姿は一応、この場に相応しいものに
なっている。
ワインレッドの落ち着いた色合い。布地を結ぶ紐は細く、肩と腰元を蝶結びに結えるタイプの
ビキニスタイル。ベルの意向か、胸を覆う布の面積は比較的広く、アンダーの切れ込みも浅い。
まあ、オレとしてもなんとか許容範囲かな。
母さんはそのまま「うみー」とか叫びながら砂浜を駆け出していった。ホントに子供だ。
他の女性陣はまだ、車の中でお着替え中。この海はプライベートビーチ……いわゆる
海水浴場では無く自然の海岸なので更衣室などの公共施設が無いのだ。
オレやその他男連中は追い出されて外で待機中。……とは言え、暇してるのはオレだけで
ロバートとアシオは一足先に大荷物を抱え、砂浜でパラソルやらビーチベッドやらの設営の
真っ最中だ。……なんだか、いつも大変だな、あの二人……。
「同類相憐れむ……か」
「うっさい」
グゥも早々と着替えが終わったようだ。いつの間に車から出たのか解らなかったが、それでも
反射的に突っ込みを入れてしまう自分が怖い。
「……どうだ?」
「…………ッ」
腕を背中に回し、グゥが得意げに胸を張りくるんとその場で回る。
真っ白な肌に真っ白な生地。母さんと同じビキニタイプの水着だが、紐は首の後ろと背中の
二方向に伸びそれぞれ個別に結える至極一般的なデザイン。
平坦。まさにそうとしか言えない身体の線をふっくらと包む布地の柔らかな曲線は、大人の女性の
ふくよかな膨らみとはまた別の魅力を与えている。腰に巻かれたパレオのせいでアンダーの形状は
良く解らないが、そこから上を包む布地は胸元の二つの三角形のみ。普段見る事の出来ない透ける様に
色白なお腹がオレの目の前に恥ずかしげも無く露出され、その中心にはくっきりと小さなおへその
窪みが影を作る。まるで陶器で出来た彫刻のように艶やかで滑らかなライン。それでいて、胸元と
下腹部に食い込む水着との境界線にむっちりと浮かぶ僅かな盛り上がりが、その体が柔らかな肉に
包まれている事を十全に強調していた。
その姿はいつものグゥの姿からは想像も出来ないくらいに刺激的と言うか挑戦的と言うか、
とにかくオレにとっては破壊力が高すぎるものだった。
「……おい、ハレ?」
「ふぇっ?」
……いかん、思いっきり凝視してしまっていた。
しかしその身体から咄嗟に目を切ることが出来ない。下腹部からおへそ、胸元をじっくり
通ってようやくグゥの顔に辿り着く。
グゥはオレの顔を不機嫌そうな目でじっとりと睨め付けていた。怪しんでる。めちゃめちゃ
怪しんでる。いくらなんでも、あからさまにたっぷり見過ぎた。ここでエロガッパ認定されたら
どんな言い訳も立たなくなるぞ。
「……平気そうだな」
しかしグゥはそう、ぼつりと漏らすと、すたすたと母さんの方に歩いていってしまった。
……よく解らんが、助かったのだろうか。とりあえず今後あまり近くで鑑賞するのは
やめておこう。オレはなるべく目線を海に集中させたまま、グゥの後ろをついていった。
「あらグゥちゃん、かわいーじゃなーいっ」
胸の前で手を握り、母さんがキャピキャピとはしゃぐ。
……オレもあれくらい自然かつ素直に感想を言えたらな。いろんな意味で無理だけど。
「ねえグゥちゃん、いつ以来だっけ? 海に来たのって」
「うむ。飛行機が墜落して、無人島に遭難して、イカダで漂流して以来だな」
「あったあった! 懐かしいわ〜」
「………………」
母さんとグゥが当時を懐かしむように水平線の向こうに目を送る。
そんな和気藹々と談笑するような穏やかな思い出じゃあ無い気がしますけどね。
「その前はゴムボートで漂流してサメに襲われたっけな」
「そうそう、そんな事もあったわねーっ」
「………………」
ああ、そうか。海って場所はいろんな意味で、主に負のベクトルに思い出深すぎてオレは
自ら記憶を遮断しちゃってたんだな。だから新鮮な気持ちにならざるを得ないんだなーオレ。
……ははは。
「いやいや、海は思い出の宝庫よのう。海サイコー」
「海サイコー!!」
「ははは……サイコー……」
グゥがオレの両腕を持ち上げぶんぶんと振り回す。母さんも大はしゃぎだ。
くそう、本当ならもっと強気で反論したい所だが……この件だけはグゥに頭が上がらない。
思えば、海のトラブルに関してはいつもグゥに助けて貰いっ放しなのだ。
「あまり羽目を外しすぎないで下さいましね、お嬢様。海は大変危険なんですからね」
サクサクと、静かに砂を踏みベルも海岸に降りてきた。
長身をぴっちりと包む深いマリンブルー。鳩尾あたりまでを覆うスポーツタイプのトップスに、
太ももの中ごろまでを包むスパッツ。胸元に一直線に入る赤いラインが、その部位の起伏の
穏やかさ……言い変えればスレンダーな体型をくっきりと浮かび上がらせている。
てらいなく晒された腹部や肩、脚部から、そのしなやかな女性らしいラインの内側に秘められた
強靭さが素人目にもうかがえる。長い髪はお団子状に纏められ、普段のメイド姿しか知らない
人にはこの女性がベルだと一瞥で見分けられるかどうか疑わしい程に印象が違う。女って怖い。
「大丈夫だって。ベルってばホント、心配性なんだから」
オレも海は非常にデンジャラスな場所だと思いますよ。本来ならあんたこそ心配し過ぎなくらい
心配性になってておかしくないと思いますよ。大げさでなく。
「海を舐めてはいけません。海にはいろんな恐ろしい話が御座いますのよ」
───そう、あれは私の友人が海水浴に行った時のこと。
水泳が苦手だった彼女はちょうど胸くらいの深さの場所で泳ぎの練習をしている所でした。
すると突然、沖に向かって強烈な水の流れが起こりはじめたのです。
このまま流されてはたまらない。慌てて浜に上がろうとするのですが、 その流れは
すごい勢いでまったく移動できません。
足はちゃんと底に着いているのに、流されまいと踏ん張ると足元の砂が崩れていくのです。
必死でもがきながら、彼女は気付きました。夏場の混みあった海水浴場の中で、自分だけが
流されているのです。自分がいた場所の付近では、今その瞬間も小さな子供が無邪気に遊んで
いるのです。
なぜ自分だけが……? そんな疑問にもちろん納得のいく回答など出ず、いつしかそんな
余裕も無くなっていきました。
そしてついに彼女は体勢を崩してしまい、溺れながらあっという間に沖に向かって流されて
いったのです。
───次に気が付いた時、彼女は砂浜の上にいました。サーファーの男性が気を失った彼女を
発見してくれたおかげで、なんとか一命を取り留めることが出来たのです。
自分の事を心配して、涙まで浮かべてくれている友人たち。安堵の息を漏らす見知らぬ人たち。
皆に弱々しくも微笑みかけながら、しかし彼女の心には感謝の気持ちよりも強くある疑念が満たされて
いました。……一体、あれは何だったのか。
いや、きっと何かの偶然が重なって起きたただの自然現象だったのだろう。彼女はそう結論付け、
すぐに忘れようと心に決めました。
その夜の事です。
海の見える旅館で友人たちと温泉に浸かっていた時の事。
しばらく海には来ないでおこう。そんな事を考えながら湯船から上がった瞬間、友人の一人が
大きな声を上げたのです。
あなた、それ、どうしたの? 震える声でそう口にした友人の指差した先。それは自分の足首
でした。彼女は恐る恐る足下を見下ろし、ヒッと引きつるような悲鳴を上げました。
……そこには大きなアザが残されていました。それもただのアザでは無いのです。
それは間違いなく、人の手の跡でした。
自分の足首を握り締めた跡が、くっきりと残されていたのです……。
「……どうです? 海はかように恐ろしい所なので御座いますのよ」
「…………うぇぇあああああああぃぃいやああああああああああ!!!!!!」
このアマ…恐ろしいの意味がちゃうやろ、意味が。とーとーと語ってくれてっけどそれお前
どない注意せっちゅうねん。海を舐めるとか舐めんとか関係無いにも程があるわ。
「まあ、もしかしたら私たちがあの時流されたのも……」
「ええ、きっとそうに違いありませんわ」
「いやいやいやいやねーよ!! ってかあったら嫌すぎだっつーのッ!!」
こんな怪談話を真に受けんなよ。ただ普通に漂流した方がよっぽど心穏やかだっての。
うう、海に入るのが何か別の意味で怖くなってきた……。それで無くとも海には良い
思い出がほとんど無いってのに。
「まあウェダ、そんな事があったの?」
不意に背後から上品な女性の声。
胸元に赤ん坊を抱いたまま、頬に手を当て怪訝な顔で母さんに怪訝な眼差しを向けている。
ベルの話に聞き入っている間に、女性陣の最後の一人が車から降りていたようだ。
「そう言えば、私も一度、海でこんな体験をした事があるわ」
───そう、あれは私が仲の良いお友達と一緒に海に来た時の話よ。
「いやいやいやも〜〜〜結構です! 海の怖さはじゅーぶん解りました!」
どーせまたそっち系の話をするつもりだろう。せっかく海に涼みに来たというのに、
何故わざわざそんな嫌な方面から涼しくならねばならんのか。
「そーそー。それより私は母様のそのカッコの方がずっとおそろしーわ……」
「えぇ? どうして?」
母さんに"母様"と呼ばれる女性はその思いっきり皮肉を込めた声にもまるで動じず、
暢気な顔を返した。
言うまでもないが、この人はオレにとっては"おばあちゃん"に当たる。いや、母さんの
年齢を考えれば聊か"おばあちゃん"とは呼び辛い年齢である事は予想できる。できるのだが…
今、目の前で堂々と腰に手を当て澄ました顔でモデル立ちしているこの女性のその姿はいくら
なんでもやりすぎでは無かろうか。
均整の取れたその褐色の体躯を覆っている純白の布地はまるであつらえたようにピッタリと
身体のラインに張り付き、母さん以上の豊満な膨らみを見せ付けるようにくっきりとその形を
浮き上がらせている。
股間から肩までを前面、背面ともに真っ直ぐブイの字に形取らた布地の中心、深い谷間が
刻まれた胸元から真っ直ぐにへその下までは目の粗いメッシュの生地に包まれている。
背面はと言えば、もはや布と言うよりただの紐というべき代物がお尻に食い込み、その切れ目
から肩に向けて伸びているだけだった。
「母様……何考えてんのソレ……」
「似合わないかしら? 結構気に入ってるのだけど。どうかしら、ベル?」
言いながら、額に乗せていたゴーグル型のサングラスを目に当てる。エメラルドグリーンの
光沢がレンズの表面を波打ち、ますますその女性の元の印象とかけ離れた姿になっていく。
「え!? は、え、ええ、それはもう、とってもお似合いですわ!!」
「……いーのよ、ハッキリ言っちゃって」
「えぇ!?」
「そうよベル。ハッキリ言って頂戴」
「いえあの……そ、そそそそーですわ! アアアアシオたち、二人だけで大丈夫かしら!!
私、ちょっと様子を見て参りますわ!! それでは失礼致しますッ!!」
……逃げた。
ベルでもこの親子の間には入れないか……オレも逃げたい……。
「似合ってると思うんだけどなぁ……」
「そーゆー問題じゃないって言ってんの。……トシ考えなさいよ」
「あら、女は私くらいからが最も熟れ頃なのよ? あなたよりも……ふふ。自信、あるんだけど」
「あああああもう……なんなのこの人はもう……」
おお、母さんが翻弄されてる。さすが母さんの母さんだ。おばあちゃんにもこんな一面があったんだな。
「人の内面は一朝一夕では見えぬものよ……。特に女の心は言わば深遠なる迷宮……時に己すら迷い込む」
「さいでっか……」
オレの肩に腕を乗せ、グゥがアンニュイな表情でタバコをふかす真似をする。
もう、何か、良く解んないし突っ込む気も起きんけど、とりあえずおばあちゃんと母さんは
やっぱり似たもの同士って事が解ってちょっぴり微笑ましかった。
「ってゆーか、なんで母様がついてくんのよ!」
「何で、じゃないでしょう。アメちゃんを置いて遊びに行こうとするなんて……」
「あ、いや、それは母様にお任せしておけば安心安全確実だし〜……ね?」
「まったくこの子は……。だから、私も着いていくことにしたんです」
「だったら無理に着いてきて下さらなくても、お屋敷でゆっくりとお過ごし頂いた方が
私としても羽を伸ばせてありがたいのですが?」
「あなたが目に届く所にいた方が、アメちゃんも安心できるでしょう?」
「う……そんな事言って、母様も遊びたいだけなんじゃないの?」
「そ、そんなわけないでしょう! な、なにを言ってるのかしらこの子は……」
そろそろ、微笑ましいなんて言っていられる雰囲気じゃあなくなって来た気がするぞ。
どうしよう、止めるべきなんだろうか。しかしこの二人に割って入るのは勇気がいるな……。
「放っておけばいい」
「で、でも……」
「互いの不満をストレートにぶつけられる……それが親子というものだろう」
「グゥ……」
確かに、仲直りしたての頃はこんなにお互いの事を言い合ってる姿なんて想像も出来なかったな。
あれはあれで、正しい親子の姿なのかもしれない。
「奥様、準備出来ましたで〜」
「あら。それじゃ私はアメちゃんとゆっくり見学でもしようかしら」
「あ、まだ話は……んもう」
遠くからのアシオの声に、おばあちゃんは早々に母さんとの口喧嘩を切り上げてそそくさと
行ってしまった。母さんも、未練がましい素振りは見せていたがその表情はどこか楽しそうだった。
あんなに喧々諤々としていたのが嘘のようなさっぱりとした幕切れ。親子喧嘩って、こんなもん
なのかな。自分じゃ解らないけど、オレと母さんも傍から見ればこんな感じなのかもしれないな。
グゥの言うとおり、本当に心配する必要なんて無かったようだ。
「ほら母さん、オレらもアシオんとこ行こっ!」
安心したせいか、自分でも驚くくらい明るい声が出た。そのままの勢いで母さんの
手をぐいと引っ張る。
気持ちが妙に昂ぶっているみたいだ。今日はオレもめいっぱい海を満喫するぞ。
<<3>>
アシオたちのいる場所はすぐに解った。
広い砂浜に大きく陣取ったマット、その中央にずらりと並ぶ四台のビーチベッドにはそれぞれ
個別にパラソルと小さなテーブルが備え付けられ、まるで元々そう言う設備が用意されていたのかと
思う程に豪奢なものだった。アレだけ派手ならこの海岸のどこにいても一発で辿り着けるだろう。
車に積んでいた大荷物を思い出す。その大部分がアレのための機材だったのであろう事は疑う
余地も無い。
「うは、よくやるなぁ……アレ見てよ母さん」
「ん……うん」
思わず大きな声を出してしまう。だけど母さんから返ってきたのはそっけない空返事だった。
その表情もどこか浮かない。まだ何か気にしているんだろうか。
「母さん、どうしたの?」
「え? ああ、んー……良く解んないんだけど、この海、なんか変なのよねえ」
「変? ……って、何が?」
「だから、それが解んないのよ。違和感って言うか……なーんか私の知ってる海じゃないって言うか」
うんうんと唸りながら、母さんの首がどんどん捻じれていく。オレもそれにつられて首を傾ける。
……確かに、前に来た海とはどこか違うような……。
「……静かだな」
親子二人して首を捻っていると、オレの隣に寄り添っていたグゥがぽつりと呟いた。
静か? ……静か……。静か………………
「あーーーーーーーー!!!!」
オレと母さんが同時に声を上げる。そうだ。静か過ぎるんだ、この海は。
前に来たときは確か、それはもう人がわんさと居て、母さんが走り回る隙間はおろか、
ぼーっと突っ立ったままベルの怪談話を聞く余裕すらもありはしなかった。
しかし今はどうだろう。周囲をどれだけ見渡しても、人の姿は全く無い。ただ砂浜と大海原が
どこまでも続いているだけだ。
違和感の理由はコレだったか。しかし理由は解ったがまた新たな疑問に首を捻らねばならない。
「まさか……!」
母さんが何かに気付いたように目を見開く。そして言うが早いか、早足でアシオたちの元に
駆けて行った。オレも慌てて後に続く。
「ベル! アシオ! アンタたちなんかしたでしょ!!」
のしのしと砂を踏みしめながら、母さんが怒鳴り声を響かせる。その声に二人は明らかに
動揺を露にし、小さく悲鳴を上げた。おばあちゃんとロバートは母さんの突然の大声に
ぽかんと驚いた表情で固まっているだけだ。
「なんで私たち以外誰もいないのよ? 言ったでしょ? 私、そーゆー成金趣味嫌いだって!!」
「いいいいえあの別に邪魔者を排じょ……じゃなくてその、ええ、あの……アシオ!! あんたが
説明なさい!!」
「ぅええええ!? な、なんで俺が……俺は止めたのに先輩が強引に……」
「お黙り!!! 私に逆らったらどうなるか、解って言ってんの……?」
「…………はぁ……」
目の前で繰り広げられる、段々と連なる上下関係の流れに社会の厳しさを垣間見る。
いつかオレもああやって社会に揉まれるのだろうか。正直、自信ないなあ。
「ハレもバイトで十分味わっているだろう?」
「いやー、あそこまでの絶対服従な環境は無いよ?」
「何をおっしゃる。それは家で十分味わってるだろう」
「……うん。オレ、自信沸いて来たよ。なんでかすっごい哀しいけどね……」
そうだ自信持て、と肩を叩く少女の慰めの言葉にオレは何と応えればいいのだろう。
"虐げられ慣れている"等という不名誉なスキルを自覚せざるを得ないオレの目頭から湧き上がる
心の汗はきっと海の水よりもしょっぱいに違いない。
「ベルでもアシオでもいいから、この状況を説明なさい」
「うううぅぅぅ……そ、それはその……別に俺らがなんかやったワケやのうてですね……」
「じゃあどーゆーワケよっ」
「……はあ。しゃーない。誰にも言わんとって下さいよ……」
───そう、それはちょうど去年の今頃の話ですわ……。
そん時も今日ぐらい暑い、それはもう暑い日ぃやったそうです。この砂浜も連日大賑わいで
子供も大人もわいわい騒いどりました。
せやけどそんな時、砂浜で双眼鏡もって遊んでる子が海の向こうになんか見つけてこう言うた
んです。「ママ、向こうに何か黒いのがいっぱい浮かんでる」って。母親が子供に借りた
双眼鏡で海を見たら確かになんか黒いのがぼつぼつと浮かんで見える。最初はただのゴミか魚やろ
思てたけど、なんか違う。それがどんどんこっちに流れてきて、黒い塊が大きくなっていく。
そのうち、海で泳いでる人らもそれに気付いて、騒ぎ始めました。中には悲鳴を上げるもんまで
現れだす始末。みんな、その黒いのが何か解って驚いたんですわ。なんせ、砂浜に打ち上げられる
くらいまで流れてきたそれは……
真っ黒な、棺おけやったんやから。
それも1つや2つどころやない。それこそ100や200っちゅう大量の棺おけが次々と
流れてきて砂浜を埋め尽くしていく。それはえらい光景やったそうですわ。
あとで調べてみると、それははるか遠くの島の、海辺の切り立った崖の上に作られた墓地から
流れてきたもんやった。遡る事十年以上も前のこと。その島じゃ記録的なハリケーンが島を
襲ったそうです。強烈な風雨に晒されたその墓地の被害も尋常やなく、一部が崖崩れを起こして
墓石やら何やら、全部海に落っこちてもうた。
そんな中、棺おけだけが中の空気のおかげでぷかぷか浮いて、それが波に乗って海を漂う事
十数年。ついに、この砂浜に辿り着いたっちゅう話です。
……それからですわ。この海岸に、一つの噂が立つようになったのは。
流れ着いた棺おけは政府が協力して無事に元の島に返されたんやけど、まだ全ては戻っていないとか。
そりゃあ、十年以上も旅してきた棺おけたちや。途中で脱落したもんもおるやろう。崩れた崖の下敷きに
なったままの棺おけもあるやろう。
……せやけどな。この海岸にも何個かまだ、沈んでるそうですわ。
あと少しでこの砂浜まで辿り着けたのに、生まれ故郷に戻れたのに。もう少しの所で沈んでもうた
棺おけたち。それらの声が……夜な夜な聞こえるそうです。
───『家に帰りたい。帰りたい。探して。私たちを探して』───……、と。
「それ以来、この海岸には人が寄り付かんようになったんですわ……」
「…………きぃぃいいぃいいぃぃいいいやぁぁぁぁああああああああああ!!!!!!!」
お前、言い訳するにももうちょっとなんかマシなストーリーがあんだろ、コラ。
オレもう絶対この海に入れなくなっちゃったじゃんかよ。せっかく昂ぶったテンションも
奈落の底まで落ち込んだわ。
「そう、そんな事が……」
「哀しい話、ですね。俺も自分の亡骸は、やっぱり日本の地に還して欲しいと思いますから……」
「ごめんねアシオ、ベル。疑ったりなんかして……」
そんで信じるなよ、アンタらも。どんだけ純粋やねん。
「ア、アシオ……なんでそれを早く言わなかったの! お嬢様をこんな危険な場所にお連れするなんてー!!」
「ちょ、ちょっと先ぱ………ほほ、ほんまに絞まって…………ああ、見える、棺おけが見えるでぇ……」
ベルがアシオの首根っこを捕まえ残像が見える程の速度で振り回す。ああ、アシオの顔が
青紫色に染まっていく。でも止めてやらないでおこう。
ってかベル、アンタもかい……。オレか、オレがおかしいのか。オレ一人が捻くれてるのか?
「安心しろ……」
「……グゥ」
そっと肩に手を添え、グゥが優しげな声で諭すように語り掛ける。
「おかしいのは、お前だけじゃないぞ……」
……ありがとう。でもそれ、フォローになってないよね……?
「奥様、お嬢様。申し訳ありませんが、本日は遊泳禁止、とさせて頂きますわ」
「ええー!! なによそれぇっ」
「ゲホッ……せ、先輩……なにもそこまで……」
「お黙りなさいッ! アシオはお嬢様たちが心配ではないの!?」
「…………はぁ……」
母さんはがっくりと肩を落として溜息を吐いた。心底残念そうだ。だけど一番ショックなのは
アシオだろう。おろおろとベルや母さんを見比べ、申し訳なさそうに頭をかいている。
なんだか大変な事になってきたな。オレはまあ、今日はとてもじゃないが泳ぐ気には
なれないし、別に良いけど……。
「お願いします、お嬢様。お嬢様の身に何かあればこのベルは……ッ」
「ベル……」
「……まあ良いじゃない。今日はのんびり、寛ぎましょうよ」
「ぶー……解ったわよぅ」
こんな時のベルは強い。母さんも、自分の事を想ってくれての行動だと理解しているから
無下には出来ないのだろう。おばあちゃんの言葉に頬を膨らませながらも、その声からは
いつもの強気は感じられない。
「ま、いいわ。たまには、砂浜で日光浴しながらビールをグッ! ってのもね」
「それ、いつもと変わんないよ母さん……」
「あー、それもそうねぇ……でも他にやる事となると……日焼けとか私には無縁だしなあー」
あごに指を当て小さく唸る。しばしそうして何事か考える素振りを見せた後、ぱっと
顔を明るくさせ、荷物をまさぐりはじめた。
やがて、目当ての物を発見したのだろう、くるんとこちらに顔を向けるとニヤリと笑い、
「ねえ、たまにはみんな、小麦色に焼いてみない?」
……と無邪気な声で言った。
その手には黒い小さな瓶。先端部分をつまみ、ふりふりと見せ付けるように揺らしている。
「な、なんですかソレ?」
「決まってるでしょ。サンオイルよ、サ、ン、オ、イ、ル!」
何か新しい玩具を発見した子供のような目で、ベル、ロバート、アシオを順々に見比べる。
海での楽しみが減った分、ああなったら余計に手がつけられない。ご愁傷様、と早めに
言っておこう。
「お、俺はその、水着持ってきてないんで……いや、残念やな〜」
「俺も! 俺もです! 着替えも何も持ってきてませんからッ!」
アシオとロバートが我先にと声を上げて後ずさる。必死だ。
母さんは「そっかー」と残念そうに呟くと、三人の中で水着を着ているただ一人の
人物に目を向けた。
「じゃあベル、せっかく水着きてるんだし、どう? どう?」
「いえあの、わ、私が焼いて帰ったら他の使用人に申し訳が立ちませんから……」
「いーじゃない、塗ってあげるからさー」
「……お嬢様が……私に……直々に……?」
胸の前で手を握り締め、ベルは今にも泣き出しそうな表情でふるふると震える。
難を逃れたアシオとロバートはほっと胸を撫で下ろしながらも、2、3歩ベルの傍から
後ずさった。オレもそれを見てベルから少し離れる。
「ふっ不束者ですが宜しくお願い致しますぅぅッッ!!」
天を貫く咆哮。それと同時に、ドバシャアと一直線に噴出す大量の鼻血。
予想通りの展開だ。避難しておいて正解だった。
ベルは恍惚の表情を浮かべそのままの勢いでマットの上にどさんと倒れんだ。
鼻血はだくだくと流れたままだ。海に流れ込んで海岸線が赤く染まらない事を
祈ろう。それを誰かに見られたらそれこそ都市伝説化してしまいそうだ。
「ほら、アンタもッ」
「へ?」
突然こちらに向けられた母さんの声と同時に、何かが一直線に飛んできた。
反射的になんとかそれを受け取る。
「……これ……」
それは先ほど母さんが手に持っていた瓶と同じ物だった。
「うふふ。グゥちゃんに、ね!」
「え…………えええええええッッ」
腰に手を当てパチンとウインクまでかます母さんのその無邪気な笑みの前で、グゥが
とてつもなく邪悪な笑みを浮かべた。
「不束者ですが……宜しく」
胸の前で指を組みくねくねと腰を揺らしながら、三日月のように軋んだ口をぱっくりと開ける。
その目は先ほどの母さん以上に、完全に自分専用の玩具を愛でる目つきだった。
「いっ、いやいやいや! なんでグゥまで!? ってかなんでオレが!?」
この流れに乗ってはマズい。マズ過ぎる。何が何でも回避しなくては。
「なに照れてんのよー」
「ええんやないか? 子供は海に来たら焼かんとな〜」
「そうですね。せっかく海に来たんですし」
「そうそう。減るもんやなし」
「……お前が言うなっ」
グゥはともかく、アシオやロバートまでニヤニヤと物見遊山な笑みを浮かべ母さんの
味方に付いてしまった。
……こいつら、母さんの魔手から逃れたと思ったらさっそくか。
「照れてるとかじゃなくて……そう、グゥに日焼けは似合わないと思うんだよね〜オレ」
「あら、どうして?」
「やってみんと解らんでぇ?」
「いいじゃないですか、たまには」
「腹くくれや。往生際の悪い男は嫌われるぞ」
なんとか必死で逃げる口実を考えるがハンパな口上ではすぐに押し返されてしまう。
こいつら、結託したらマジで手に負えん。この中で最も強力な発言権を持っている
おばあちゃんに目で助けを訴える。が、返ってきたのはにこやかな微笑みだけだった。
アメを抱いたままビーチベッドにゆったりと座り、完全に観客気分だ。
……オレの味方は、誰もいないのか。
「ほら、グゥって白くて綺麗だし、焼いたら勿体無いじゃんか!?」
「あら、綺麗ですってグゥちゃん」
「……そう面と向かって言われると、照れるな」
「そこだけ取んな!! 肌だよ、皮膚の話!」
「ふぅん、そんなにグゥちゃんのお肌ばっか見てるんだ、いつも」
「……ふむ。最近、性的な視線を感じるとは思っていたのだが……このエロガッパめ」
「ちっ、違うっての!! グゥってほっといても目立つって言うか、いつも目に付くし……」
「なるほどねぇ、いっつも無意識に目に入っちゃうわけね、グゥちゃんのコト」
「……グゥも随分と慕われたものだな。よかろう、多少のストーキングは許してやるとしよう」
「うがあぁぁっ!! 違ううううう!!」
「そんなラブラブなグゥちゃんの日焼け姿なんて、新鮮味あって良いと思うわよ〜?」
うううう……いかん、喋れば喋るほど泥沼にハマっていく。逆に悪女二人はアクセル全開だ。
何とか話題を修正せねば……。
「……新鮮って、茶色く焦げたとこで印象なんぞ変わんないだろー?」
「あら、解ってないわねー。色白な子が日焼けしたら、水着の跡がクッキリ残ってね。それはもう
生唾もんのセクシーさなのよぅ〜?」
「…………ぅ……」
「あ、反応した」
「してませんーッッ」
……水着跡、か。地元が地元だけに実際に見た事は無いけど、雑誌とかテレビでは何度か見た事がある。
確かにあれは何というか、いろんな意味でクルものがあったような。……それを、グゥが……。
って、ダメだダメだ!! 流されるな、オレッ!!
「ちょっと待ってよ、その水着跡、出来たとしてもオレには見れないじゃんか」
「どうして?」
「グゥのその格好、よく見てよ……」
びしっと指差した先、グゥの身体をその水着が包んでいる部分は非常に少なく狭い。
パレオを取ってしまえば、残るは際どい部分のみだ。そんなトコだけ白く残っても、
どうやって見れってんだ。
「……ふぅーん」
グゥの身体をまじまじと見詰め、こちらに向き直った母さんの顔はこれ以上無いほどに
ニヤつき、込み上げてくる笑いをもはや抑えきれないと言わんばかりだった。
「ハレ、グゥちゃんの水着跡見たいけど見れないんだって。どうする?」
「……どうしても見たいと言うなら、グゥもそう邪険にするわけにはいかんな」
「だぁかぁらぁああそうじゃなくてえええええええええ!!!」
あああああもう、どないせっちゅうんじゃ……。大概にしろよこんちくしょうめらが。
このままでは埒が明かない。否定だ。とにかくヤツラの言う事は全部否定せねば。
「うふふ、今日のグゥちゃんもハレには眼福ものって感じ?」
「何が眼福なもん…………ッ」
母さんが後ろからグゥの腕を掴み、見せびらかすように持ち上げる。グゥも特に抵抗せず、
こちらをじっと見詰めたままぶらぶらとぶらさがっていた。
腕を真上に持ち上げられているせいで、腋の下から胸のラインがくっきりと浮かぶ。
思わずコクンと喉が鳴りそうになるのを必死で抑え、慌ててそっぽを向いた。
「あら、照れちゃって。結構大胆だもんね、これ」
「んな事ないよっ! 別にそんなの、なんとも思わないっての!!」
「へぇーっ、ほほぉーっ。だって、グゥちゃん」
「……うむ。実際、ハレに見せてもぼけっとしていたからな。つまらなかったのだろう」
「あらあら、贅沢なヤツねー」
「そんなワケあるかっ! 見惚れてただけだよ!!」
「…………」
「…………」
「……え……あっ、違……ッッ!!」
時既に遅し。言ってしまった後に盛大な自爆に気が付いた。
皆がオレを注視したまま一言も漏らさずにぽかんと大きく口を開けて呆然としている。
母さんやアシオ、ロバートは勿論、なぜか、グゥまで。
「な、なかなか言いますね、ハレ様……」
「男らしいやないか。流石やで、坊ちゃん」
「見惚れちゃったんだって。よかったね、グゥちゃん」
「…………」
……何でもいい、とにかくオレのボキャブラリの全てを総動員して今の己の言葉を完膚なきまでに
否定するんだ。思考を限界までフル回転させて早急に脳内で言葉を紡ぎ上げて行く。
……しかし次の瞬間、それらの言葉は口から出る事無く完全に真っ白になってしまう。
グゥの小さな笑顔。ただ何も言わず、母さんの言葉にこくんと頷くグゥの、本当に嬉しそうな
微笑みを前に、オレの口からは偽りの否定の言葉なんて吐き出せるはずがなかった。
「まあ、冗談はこれくらいにして。一応ソレ、渡しとくから。あんたらの好きになさいな」
と、母さんはオレの手に握られたサンオイルを指で弾いた。ついでに、小さく折りたたまれた
ビーチマットも押し付けられる。
「私らはここで寛いでるから、あんたたちは遊んで来ていいわよ。せっかく貸し切りなんだしね」
そう言って母さんはベルの隣に腰を下ろし、自分の持っていたサンオイルの蓋を開けた。
ベルは先ほどからうつ伏せに突っ伏したまま微動だにしていない。出血多量でヤバイ事になって
いるのでは、とも思ったがあのベルに限ってそんな心配は無用か。
母さんから解放されたグゥは、どこかまだ呆けた様子だったが迷わずオレの傍に寄り添い
オレの手をきゅ、と握った。
「グゥ……オレ……」
「解ってる。今は、何も言うな」
気恥ずかしそうに、柔らかな微笑みを向け小さく首を振る。
先ほどまでオレの中で渦巻いていたはずのいろんな感情がすぅ、と霧散していく。
もう何を言い訳する気も起きない。グゥの笑顔を見たら、もう、そんな事はどうでも
良くなってしまった。
オレからもグゥに微笑みかける。グゥは少し驚いたような顔をするとすぐにオレから
目を逸らし、ますます恥ずかしそうに俯く。そして目だけをちらりとこちらに向け、
ためらいがちに口を開いた。
「……心配するな。通報だけは勘弁してやろう」
「何の話ですかねえええええええええええええええええええ!?」
ああ、もう、何が真実で何が虚構なのか。考えるだけ丸ごと無駄だってか。
今度こそ本当の意味で、どうでも良くなった。
ある種、自暴自棄にも似た諦観の念がオレの心を満たしていく。
これが……悟りってヤツかもしれん。もう、どうにでもなれ。
<<4>>
「若いって良いわね……」
頬に手を沿え、おばあちゃんが小さく溜息を付いた。
「それじゃ、アシオとロバートは私が塗ってあげましょうか」
「ええ? お、奥様がっ!?」
被害を免れたと思っていた所にまさかそう来るとは思っていなかったのだろう。
アシオとロバートの二人が予想外の不意打ちに同時に声を上げた。ざまーみろ。
「い、いや、俺は結構ですわ……ロバート、してもらいや」
「いえいえ、俺もそーゆーのはちょっと……」
「遠慮しないで、ほら脱いで脱いで」
朗らかな笑顔を浮かべたまま、おばあちゃんがロバートの上着を捲り上げる。
なんか、デジャヴを感じると言うか、やっぱ母さんの血筋だなこの人っちゅうか。
「いやっ、その、ですから俺、水着持って来てないんで……」
「いいじゃない、そんなの。男の子なんだから」
「そ、そんな、いけません……てっ」
「……母様? それは遠慮じゃなくて、嫌がってるだけじゃないかしら?」
後ろから抱きすくめられ、逃げる術を失ったロバートのズボンにまで手がかかろうとした時、
母さんがベルの脚にオイルを塗りながら、溜息混じりに声を出した。
「あら、そんな事ないわよねえ。それともオバサンに触られるのは、嫌?」
「え? や、べ、別にそーゆーワケでは……」
「そうよねえ。ちょっと恥ずかしがってるだけよね」
「ふっ。ま、確かに恥ずかしいでしょうけどねぇ……」
「……どう言う意味かしら、ウェダ?」
「別に深い意味は御座いませんでしてよ、母様?」
双方あくまで穏やかに、あくまでにこやかな笑顔を絶やさずに。喧々としたいがみ合いとは別の、
寒気のする空気が周囲に立ち込めはじめた。
その只中に居るロバートは既に凍り付いてしまったかのようにびくともしない。
アシオもその少し後ろで直立不動のまま動かない。
「母様、若い男に触りたいだけなんじゃないの?」
「まさか。別に見てるだけで良かったのよ。でも誰もいないなんて思ってなかったから
ちょっと残念なだけ。せめて、それくらいしなきゃつまらないでしょう?」
「……母様? もしかして母様がついてきた理由って……男漁り?」
「そんな人聞きの悪い。ちょっとした目の保養です」
「あのねえ、父様に悪いと思わないの?」
「あら、ウェダったらいつの間に父親をそんなに慕うようになったのかしら?」
「そ、そーゆー問題じゃ……っ」
「天国のお父様も喜んでらっしゃるわね、きっと」
「は、話を逸らさないでよっ!」
あーあ。また何か始まったよ……。
ってか、なんだかオレの中のおばあちゃんのイメージがどんどん変わってくっつーか
崩れてくっつーか。
「言ったろう。女の心の内はかくも不可解なものなのだよ」
「ああ、今ならなんとなく解る気がするような、解りたくないような……」
ロバートを挟んで言い争う二人とそれを遠巻きに見守るアシオ。母さんの隣で恍惚に浸る
ベル。しばらくこの状況は収まりそうに無い。
「いこうぜ、グゥ」
「……ん」
グゥの手を引き、喧騒から離れる。砂浜を真っ直ぐ横切り、母さんやおばあちゃんの声が
完全に届かなくなる頃にはその姿は豆粒ほどになっていた。どれだけでかい声でわめき
散らしているのやら。他に誰も居なくてよかったよ、ホント。
あまり遠くに行き過ぎても不味い。これだけ距離を開ければ十分だろう。ビーチマットを
取り出し、砂の上に広げる。
強烈な太陽光線を浴びた砂浜はギラギラとその光を反射させ、もはや第二の熱源と化していた。
ビーチサンダルの上からでもその熱気は十分に感じられるのだ。ここに直接座るってことは、
熱された鉄板の上に座るのと同じようなものだ。
このマットはファミリー用なのだろう、完全に開くと少し大きすぎる。2、3度折り畳み、
オレとグゥ、二人が寝そべられるくらいの大きさにし、ようやく腰を下ろす。グゥもオレが
手を引くと、導かれるままにオレの隣にすとんとへたり込んだ。
「はぁ……。母さんも十分アレだと思ってたけど、おばあちゃんも何て言うか、強烈だなあ……」
「ふむ。女は周囲の注目を浴びて磨かれるものだからな。ああやってアピールしているのだろう」
水平線の彼方を見詰めたまま、グゥの瞳がきらりと光る。
「アピール? ……って、何のだよ?」
「『私、まだまだ食べごろよ』……とな」
「あのさ? 一応あの人、孫までいる三児の人妻なんですけどね?」
「そうとはいえど、まだ老齢とも言えまい。一人の女としての自信を失いたくないのであろう」
「……なんか急に生々しいなオイ。不安になるような事言うなよ」
「まあ、女とはそう言う生き物なのだよ」
口に手を当て、うふふ、と微笑いながら朗々と女を語るこの少女が一体これまでの人生で
どんな経験を積んで来たのかは知らんが、その確信的な声にはやけに説得力を感じてしまう。
女は周囲の注目を浴びて磨かれる……ねぇ。
「……グゥも?」
「む?」
「グゥも、そんな事思ったりするの?」
グゥも自分の体の線を見せる服や露出の多い服を着て注目されたい、なんて思う事があるの
だろうか。そんなグゥはちょっと、かなり想像し難いのだけど。
グゥはオレの言葉に、何故か意外そうに目を見開くと一瞬、じっとりと目を細め、
「さあな」
そう呟いてぷい、とそっぽを向いてしまった。
それきり、オレもグゥもしばし口を紡いで海を眺める。
まだ日は高く、さんさんと降り注ぐ太陽の光の下にオレたち以外の人影は無く。
耳に聞こえるは、ただ寄せては返す波の音のみ。
ふと、右肩に重みを感じる。同時にさらりと、首筋を流れる桜色の髪が陽の光を反射して
キラキラとそれ自体が輝いているかのように見えた。
オレの身体にぴたりと寄り添うその肌は本当に真っ白で、浜風に揺れる髪が形作る影との
境界だけがうっすらと桃色に透き通っている。……酷く、扇情的だった。
……って、何だこの雰囲気は。
ついさっきまでの騒々しさとのあまりのギャップに、頭がついてこれず身体も口も動かない。
まあ、別にオレはこのままでも……いやいやいかんいかん。何考えてんだオレは。
このままではまた妙な空気に引きずり込まれてしまいそうな気がする。ここは何でもいいから
口に出すべきか。
「グゥ」
「ハレ」
───瞬間、お互いの口からお互いの名前が同時に飛び出す。
至近距離で顔を向き合わせ、目線がぶつかった。
「……ぁ……」
「…………」
次の言が出ない。それはグゥも同じようだった。咄嗟に視線をはずす、なんてラブコメの
ようなリアクションも取れず、ただグゥと見詰め合ったまま時間だけが流れていく。
不意に強く、きゅっと手を握られる。それが合図のようにグゥは、静かに目を瞑った。
少しだけあごを持ち上げ、真っ直ぐこちらに向けられた唇がほんの小さく開く。
しっとりと濡れた下唇の表面が、陽の光に照らされ艶かしく潤み、まるでオレを
誘っているかのように見えた。
…………いやいやいやいやちょっと待て。さっきからなんだこの状況は。
心臓がドクドクと早鐘のように高鳴り出す。額から流れ出る汗の中に、蒸し暑い気温に
よるものではない冷たいものが入り混じる。
いつもの悪い冗談だろう。すぐに目を開けてまた皮肉げに笑うに決まってる。オレとしても
それが望ましい展開だ。グゥだってここでオレが本気で迫ってくるなんて思っちゃいないだろう。
……そう、オレには何も出来ないと高を括ってるんだ。
オレの気も、知らないで。
それならそれで良いじゃないか。どうせオレの期待通りの展開にはならないんだ。
全部、冗談で済まされるだけ。それなら、いっそ……。
コクンと唾を飲み込み、小さく深呼吸をし覚悟を決める。
グゥの肩を掴み、ゆっくり顔を近づけていく。薄く閉じた視界の先に、グゥ以外の
ものがフェードアウトしていく。そうして唇同士が触れ合おうとした瞬間……
……また、視界から遠のいていくグゥの顔。───ダメだ。やっぱり、そう簡単に
冗談だった、なんて割り切れるような行為じゃあ無い。朝の挨拶とは違うんだ。
たとえ、グゥの中ではお遊びの一つだとしても。
だいたい、あのグゥがこんなに解りやすい展開で何か仕掛けていないはずが無い。
十中八九、いや、十中十。100%、罠だ。
オレはグゥに感づかれないように肩に手を乗せたままそろりと後ずさり、ゆっくり
片手を退けると人差し指、中指と親指の先をくっつけ、グゥの口元に近づける。
上手くいけば、グゥの罠の裏をかける。最悪、そのままグゥに飲まれてしまう
かもしれないが、頭から飲まれるよりは幾分マシだ。
恐る恐る、静かに指先をグゥの口元につける。
グゥは一瞬、ビクンと身体を震わせたが、特に避ける事も指にかぶりつく事も無く、
静かにオレの指を受け入れていた。
僅かに開いた唇の細かい震えや表面の湿気が、指先からつぶさに伝わってくる。
思わず、本当にキスをしているような感覚に陥りそうになった。
不意に、指先に強い圧迫感を覚えた。瞬間、グゥの手がすっと前に伸び空を切る。
そこは、オレがまだそこに居たならばちょうど腰辺りだったであろう位置。
しかしオレは今、そこよりも人一人分くらい後ろに離れている。よっぽど体重をかけて
いたんだろう、グゥはそのまま前のめりに倒れ、マットに両手をついた。
慌てて顔を上げたグゥは目も口も呆然と開き、何が起ったのか全く理解していないようだった。
当のオレも、多分グゥとは違う理由で、今の状況が理解出来ていなかった。
今、グゥは何をしようとしたのか。
グゥはオレの指を相手に、何をしているつもりだったのか。
……グゥは、オレに何を望んでいたのか。
最もシンプルで明快な答えはすでに、最初から頭の中にある。だけどそれを素直に認めるわけには
いかない。認めてしまったら、オレはグゥの行為を最悪の形で裏切った事をも認める事になる。
───想像してドクンと心臓が跳ねた。急激に加速する心音と、頭痛がする程に熱くなっていく
頭に反して、首から下の体温は背筋にツララを差し込まれたかのように低下していく。冷や汗すら
かかない程に肌は乾燥し、喉の奥もカラカラに干乾びていた。
グゥはいまだ、マットに手をつけたまま動かない。伏せた顔からは表情を読み取る事も
出来ない。グゥの沈黙が、何にも勝る恐ろしげな声となって脳内に反響する。
「グゥ……」
何を言えばいいのか解らない。だけど口を開かずにはいられなかった。その方が、ただグゥの
反応を待つよりもずっと気が楽に思えた。
このままでは、自分の中で作り出した最悪の妄想に押し潰されてしまいそうだ。しかし、その口から
吐き出された言葉が本当に、本当にその「最悪」のものだったとしたら、オレはその時こそ本当に
心臓の動きの一つも止めてしまうのでは無いか。
「ハレ……」
「────ッ」
小さく。波の音にすらかき消されそうな程に小さな声で、グゥがオレの名を呼んだ。
ドクンと心臓が跳ねる。呼吸をする度に心臓ごと吐き出してしまいそうだった。
ゆっくりと頭を持ち上げるグゥの目線から逃げないように、必死で身体中に力を入れる。
ここで逃げたら、もう二度と取り戻せない何かを失ってしまう気がした。
「よくぞ見破った」
「…………へ?」
……しかし、パッと上げたグゥの顔は腹立たしい程にいつも通りで。
オレの葛藤など全くの徒労だとでも言わんばかりに、これまたいつも通りの平坦な声で
そう言葉を吐いた。
「聊か、シチュエーションがベタすぎたか?」
ふむ、と呻りながら、指であごをこする。
急激に、頭に溜まった血が下りていく。凍えていた身体にも体温が戻り、胸の中に蟠った
重く暗いものがすぅ、と解消されていく開放感が身を包む。
首の上に振り下ろされたギロチンが、紙一重で止まったような感覚。オレは長い間呼吸を
するのも忘れていた気がして、思い切り肺の中の空気を吐き出した。
「なんだよ、やっぱ冗談だったのかよ?」
「当たり前だ。……少しでも期待したか?」
「すっ、するわけねーだろそんなのッ」
「……だろうな。まったく、こ、こんな所ばかり……知恵を、つけおって……」
「…………おい、グゥ?」
「こっ、今度は……もっと、お色気、ほう…方面で………攻め……ッッ」
その口からは、相変わらず冗談めいた言葉ばかり出ているのに、その声は息切れしているように
ぷつぷつと途切れ、嗚咽すら入り混じっているように聞こえた。普段の不機嫌そうな表情を一層に
しかめ、瞳からは大粒の涙が零れる。
「お、おい、なんだよ、それ」
「…………な、んだ?」
戸惑うオレの様子に、グゥは「何かあったのか」と言わんばかりにきょとんとした顔を返す。
しかし、頬を伝う雫がマットにパタパタと落ちた時、はたと自分の顔に手を添え目を見開いた。
「……なんだ、これは」
掌に付いた液体をしげしげと眺め、呟く。自分が涙を流している事に、自分自身が
一番驚いているようだった。
「こ、れは……これは違うッ!」
ぐいぐいと腕を目に擦り付けるが、何度拭っても涙は関を切ったように溢れ出る。
「違う、違うんだ……」
何かに怯えるようにグゥはオレから後ずさる。そのまま勢い立ち上がり、オレに背を向けた時
ようやくオレは自分のしでかした事の罪深さに気が付いた。
───あの時、指先に感じたグゥの震えも、グゥの熱も、確かに本物だったのだ。
身体に戻った体温はあっさりと正常値を超え、いつの間にか全身を茹るような暑さで包んでいた。
頭は沸騰し、冷たい汗が止め処なく流れ出る。
オレの首はまだ、断首台に拘束されたままだ。放っておいたら、再度勢いを付けたギロチンが、
今度こそオレの首を撥ね飛ばさんと落下してくるだろう。もう、選択を誤るわけにはいかない。
「グゥ! ごめん、オレ、そんなつもりじゃなかったんだ」
グゥの背後に立つ。走って逃げられなかっただけ幸いとも思えたが、今後どうなるかは
解らない。肩にそっと手を乗せ、気持ちが伝わるように真っ直ぐに言葉を紡ぐ。
「少なくとも、グゥの思ってるような事じゃない。多分……絶対、違うから」
肩が小さく震えているのが解る。嗚咽は収まってきていたが、涙は止まらないのか
目を指で擦り続けていた。
「……お願いだからこっちを向いてよ、グゥ」
「………ふふふ」
不意に、グゥの肩が大きく揺れた。くすくすと笑う声と共にグゥは肩越しにこちらを見やり、
ニヤリと口端を歪める。
「今度は騙されたな、ハレ」
得意そうに含み笑いを続けながら、皮肉げに声を上げる。
「……流石に、それは無理あるよグゥ」
「無理でも、いい。冗談、って事に、……して、っく……くれ」
しかし、それは先ほどのようにオレの心を晴らしてくれるような物では無かった。
そんなに目の下を真っ赤にして、
そんなに顔を、耳まで上気させて、
まだ涙も細く頬を伝っているのに。
精一杯平静を装って、無かった事にしようとしてる。してくれようとしてる。
無理に作ったグゥの笑顔に、胸がちくりと痛む。
でも、今なら、それで本当に済ませる事が出来るんじゃないか。それを、グゥも
望んでいるんじゃないのか。……一瞬過ぎったそんな弱気に、心の中で頬を叩く。
「……グゥ!」
グゥの前に回り、肩を強く掴む。
正面から見たグゥの顔は、肩越しに見た時よりもずっと痛々しかった。胸に手を当て
縮こまるように肩を竦め、ひぐっと嗚咽に喉が鳴る度に身体を揺らす。あのグゥのこんなに
弱々しい姿を見るのは、はじめてだった。
もう一度、ごめん、と謝罪の言葉が口をついて出そうになるが、寸前でぐっと飲み込む。
ここで謝っても何にもならない。そんな言葉より、もっと言わなくちゃいけない事がある。
「グゥ。これは、冗談じゃないから」
「え……?」
オレは返事を待たず、グゥを強く引き込みその口に唇を寄せた。
───瞬間……バチンと、何かが破裂したような音が耳元で炸裂した。同時に、両頬が
じんじんとした痛みと強烈な圧迫感に襲われる。
グゥは、はぁはぁと肩で息をしながら思い切り身を引いていた。
オレの手が肩を掴んでいるためそれ以上離れられないのだろう、その腕はオレとの距離を
固定するようにオレの顔に真っ直ぐ伸びている。いまだ頬をぎゅうぎゅうと挟み込んで
いるものはグゥの掌だったようだ。
「何、考え、てる」
オレの頬をぐにぐにと捻りながら、荒げた息に合わせるように言葉を吐く。
「見ての、とおりらろ〜ッ」
ひしゃげた頬からひょっとこのように唇を伸ばし、無理やり顔を近づけるがグゥも腕に
力を込め、オレの頬を挟み潰さん勢いで押さえ付けて来る。
「こ、こんな時にふざけるな……このエロガッパッ」
「ジョーダンじゃないって、いったろッ」
互いに必死の形相で距離をせめぎ合う。それでもオレの力が幾分勝っているのか、
じわじわと少しずつ空間が縮まっていく。
「ちょ、っと待てぇぇ〜〜〜〜っ!」
「今さら、待てるかぁぁ〜〜〜〜ッ!」
肩を掴まれているためグゥは身をよじることも出来ない。首から上だけでもなんとか
逃げようと限界まで後ろに引き、顔を背ける。そうしなければ唇が付きそうなほどに
オレの顔はグゥに接近していた。
「ハレ……本当に、ほ、本気なのか……」
「さっきから、そう言ってるだろッ」
「本当に……本当に……もう、冗談で済ませたら、怒るぞ……」
「……そりゃこっちの台詞だッ! オレだって、あん時、グゥが本気って解ってたら……」
「────ッ」
言い終わる前に、ふ、とグゥの手が緩んだ。力いっぱい引き寄せていた勢いそのままに、
オレの唇はグゥにぴたりと吸着する。ただし、グゥが顔を背けていたため、ほっぺたに。
「ぅあ……ッ」
グゥのぽってりとした頬の柔らかさが、唇を通して伝わってくる。オレは構わず頬に吸い付き、
ちゅ、ちゅと音を立てぷるぷると張りのある弾力を味わいながら頬の上を這い回った。涙の跡を
消すように舌でなぞり、赤くはれた目の下や瞼にもキスを落とす。その度にグゥは口をぱくぱくと
金魚のように開け、小さく吐息混じりのくぐもった声を漏らした。
最初はグゥも肩を竦め全身に力を込めていたが、今やその身はくったりと弛緩し、ふるふると
小刻みに震えオレにされるがままになっている。
最後にちゅっと強く音を立て、唇を離す。グゥは、ハー、ハーと長く細い息を吐き、のぼせた
ような顔でぼう、と虚空に目を彷徨わせていた。オレが手の力を緩めると、そのままぱたりと
オレの肩に持たれかかる。首筋に熱い息がかかり、ゾクリと背中を生暖かいものが走り抜けた。
……ここまできたら、もう言い訳は出来ない。するつもりもない。
グゥの肌、体温、匂い、息遣い。この手が、唇が、全身がグゥを感じれば感じるほど、
益々グゥに対する想いは強くなる。身体の芯には熱がしっかりと灯り、はち切れんばかりに
張り詰めている。
この熱をグゥにぶつけたい。発散したい。その身体を今すぐ抱き締めたくなる衝動をぐっと
抑え込み、いまだオレに持たれかかっているグゥを抱き起こした。
「……ず……いぶん、好き勝手、してくれたな……」
乱れた息は幾分か回復し、その表情にも余裕の色が見える。だが身体にはまだ力が入らない
ようで、オレに支えられていなければ倒れてしまいそうだった。もう少し、休ませてあげた方が
良いだろうか。それでなくとも、グゥの心は今非常に不安定なのだ。このまま勢い任せに突き
進んでも、弱みにつけ込むようで気が引ける。
「どうした。何か言う事が、あるんじゃないのか?」
「……グゥ」
グゥはそんなオレの気持ちを見抜いていたのだろう。やっぱり、グゥはオレなんかよりも
ずっと強い。その強さに甘える自分の弱さも、認めなくちゃいけないんだ。弱いオレは、
ただ自分に出来る事をやるだけだ。難しい事を考えるな。素直に、真っ直ぐに自分の気持ちを
伝えるだけでいい。
喉の奥に溜まる唾をごくんと飲み込み深く息を吸う。
「オレ、本当に本気だからなグゥのことッ!」
真っ直ぐにグゥを見詰め、一息に、肺の中の空気を全て吐き出す勢いで言い切った。
しかし、その言葉が聞こえていたのかいないのか、オレの渾身の告白にもグゥは
その目に何も映さぬまま呆然としたままだった。
まさか、本当に聞こえていなかったのだろうか。もう一度さっきの台詞を言う羽目に
遭うのでは……。
しかしその時、パチンと、グゥの両手がオレの頬を鳴らす。ただ、先ほど受けたものよりも
ずっと柔らかく、オレの頬に手を添えるついでのように。
「……いいか。もう反故は効かんぞ。冗談だったら死を覚悟しろよ」
グゥの目が、生気を取り戻していく。
眉を顰め、口を一文字に結び、潤んだ瞳で真っ直ぐにオレを見る。その表情はまた、
今にも泣き出してしまいそうなものに見えた。
「お前なあ、自分の行動をちょっとは省みろっての。グゥが普段から嘘、大げさ、紛らわしい
言動繰り返してるから、こーなったよーなもんだぞ? 自業自得!!」
「……解ってる。反省した。でも、背中を押したのはハレなんだぞ?」
オレの言葉に、グゥは一瞬しょんぼりと俯いてしまうがすぐにぱっと顔を上げ、
拗ねるような声でそう言った。
「グゥだって、いつもならあんな真似はしない。でも、ハレが……」
「オレが、何だよ?」
グゥはまた俯き、きょろきょろと落ち着き無く目を泳がせる。言いかけた事を最後まで
口に出すかどうか、迷っているようだ。
しばしそうして俯いていたが、やがて決心が付いたのか、勢いよく顔を上げると、
「ハレが、グゥの事、綺麗だとか見惚れた、とか言うから……ッ」
そう、一直線にオレに言葉をぶつけた。
「…………は?」
その言葉に、オレは呆けた声を返してしまう。たったそれだけの事で、グゥの内情にいかなる
変化をもたらせたと言うのか。
「心の持ち様の話だ。……本当に、嬉しかったんだ。ドキドキした。心臓が爆ぜて口から飛び散るかと思った」
「……ありがとう。オレにとってもあれは素直な気持ちだったし、そんなに喜んでくれてたなんて
オレも嬉しいよ。でももうちょっとこう、乙女らしい表現は無かったのかな……」
「とにかく、あのハレの言葉で、グゥは勢いに乗ろうと思った。今なら、自分の心に素直に行動が出来ると」
「……いつも、これ以上無いくらい素直だと思いますけど」
「それとは別だ。解ってるくせに意地の悪いやつだ」
「いや、絶好の反撃のチャンスは今を逃したらもう無さそうだからね」
「まったく。ハレは乙女心と言うやつをもっと勉強した方が良い」
そう言ってグゥは、飽きれたようにくすりと微笑った。
ようやく、グゥに本当の笑顔が戻った。オレもつられて笑顔になる。
「───ホントはな。半分くらいは冗談のつもりだったんだ。叶わぬなら、それでいいと思って
いた。……だが思いのほか、グゥは期待してしまっていたらしい。あの醜態は、それでだ」
あの時の自分の姿を思い返しているのだろう。気恥ずかしそうに目を瞑る。
グゥの言葉が、真っ直ぐにオレの心に伝わる。その葉に衣を着せない言動は時として、
いやおおよそ毒舌へと成り果てる場合がほとんどだが、こうして自分の心を打ち明けて
くれている時の明け透けな物言いは、オレの心に本当に素直に響く。
「状況に流されやすいハレなら、まず食いついて来ると思っていたしな……」
「わあ、ご明察。こーゆー時くらい計算を織り交ぜないでくれると思い出がより輝かしいものに
なったと思うんだけどなあ?」
「……そう言うな。グゥは自分の意思のみを信じて行動する勇気を持って無いんだ。……臆病なんだ、これでも」
「グゥ……」
「グゥにしては頑張った方なのだぞ。計算なぞ、たった6割強程度だったからな」
「それでも過半数!?」
グゥの開けっ広げな口様は、本当にオレの心に素直に響き渡ってくれる。普段は何割が計算ですかね。
聞くのも怖いから、聞かないけど。
「……さて。グゥもここまで打ち明けたのだ。ハレにも素直になってもらおうか」
「へ? い、いや、オレはさっきから十分素直に気持ちを伝えてると思うけど?」
グゥの目がきらりと光る。もう、完全にいつもの調子が戻ったようだ。
嬉しい反面、その久々に感じる強烈なオーラに少し気圧されしてしまう。
「もっとハッキリ言え」
ぐっとオレに詰め寄り、痛いくらいに手を握って来る。
「ハッキリ言ってるじゃんか。オレ、グゥのこと、本当に大事に……」
「違う。もっと適切な言葉があるだろ。それじゃないと、聞かない。絶対、聞かない」
グゥの声が、段々そのトーンを上げる。いつもよりもずっと気を張った……いや、張り過ぎた声。
何かに耐えているかのようにじっとオレを見据え、オレの手を握るその手は少し震えていた。
───適切な言葉。具体的に、直接的に。最も率直にオレの気持ちをグゥに伝える、シンプルな
言葉。それを口に出す権利を、与えられたのか。それだけでオレの胸は張り裂けそうな程に高まる。
よし、と腹に気合を込め、オレは大きく口を開いた。
「……っす、……好……」
……しかし、何故か以前にも増してカラカラに乾いた喉がそれを阻止する。
たった二文字の言葉が、喉の奥につっかえて出てこない。
別に、難しい事じゃないはずなのに、たった二文字のシンプルな言葉なのに。
そのシンプルさ故に、その単語が意味するものは、重い。
そんな言葉、これまでどんな意味にせよ、グゥに対して使った事など一度も無いのだ。
何度か頭の中で予行演習じみた事を想像した事はある。オレの設定したプラン通りの
流れなら、いくらでも口に出来よう。だけどこんな急展開、想定もしていない。
頭の中をぐるぐると思考が渦を巻き、くらりと眩暈がした。
「───あれ?」
本当に目の前がぐるぐると回っている。グゥの顔が下方に消え、真っ青な空の中を白い帯が
高速で走り抜けていく。
最後に青い背景の上から白い砂浜が現れた瞬間ドサンと、背中に衝撃が走る。……はずだった。
地面に付く寸前で、オレの背中は何故か宙に浮いていた。
「ハレ、どうした? 大丈夫か?」
のけぞった頭を持ち上げ、声のする方を見る。グゥがオレの両手を握り締め、心配そうな
顔で見下ろしていた。グゥがオレの手を握ってくれていたおかげで、間一髪助かったらしい。
太陽がグゥの身体に遮られ、その輪郭を白く浮き立たせる。……綺麗だな。素直にそう思った。
それを伝えようと勝手に口が動く。でも、その前に感謝の言葉が先か。ぼやけた頭の中を今
言うべき適切な言葉が巡り、
「好きだよ、グゥ」
けろりと、当たり前のようにそんな言葉が口から零れ出た。
……なんだ、やっぱり簡単じゃないか。問題は、その言葉の意味する感情が
どんな時にこの少女に対して強く湧き上がるか、って事か。
「……なんだそれは」
ぐいと手を引っ張られ、オレはまたグゥの前に戻される。
グゥは眉間に深くしわを刻み、明らかに不機嫌な様子でオレを睨み付けていた。
ちゃんとしっかり目の前で、ハッキリと口に出してやったのに何故そんな顔を
されねばならないんだ。
「そんな、思わず口に出た、みたいな言い方で納得できるか」
「しょうがないだろ。思わず出たのは、本気でそう思ったからだよ……」
「そ……ッ!」
グゥはオレの言葉に一瞬目を見開き、すぐにぷいと顔を背ける。
「……それは、解ってる……」
そしてブツブツと小声でそう漏らした。
グゥの顔が、みるみる上気し赤らんでいく。オレの顔も、先ほどから赤くなったり青くなったり
忙しくてあまり自覚は無いのだが、きっとグゥと同じようなものだろう。さっきから、随分と
恥ずかしい言動や行動を連発してしまっている気がする。
「とにかくっ。グゥに言えと言われたから出た言葉じゃないんだろ、さっきのは」
「なんだよそれ、無理やり言わしたいっての?」
「そーだ。無理やり言わせる事に意味があるんだ」
うう、グゥの主張は良く解らん。しかしグゥにとっては大切な事らしく、その目は
真剣そのものだ。
……まあ、今さらいくらでも言ってやる事は吝かではないが。改めて面を向かって
言うのはやはり照れくさい。……だが言わないとグゥも収まりが付きそうにない。
ここはオレが折れるしかないのか。
「ほら早く。出来るだけ大声でな」
「……あーもう! 好きだよ、好きだっ! もう、グゥッ!!」
オレは海に向かい半ばヤケクソ気味に、水平線の彼方へ届けとばかりに大声で叫んだ。
「どーだ、これでいー────ンむッ!?」
そうしてくるんとグゥに向き直った瞬間、グゥは飛び掛るような勢いでオレに抱き着き、
その唇をオレの口に押し当てた。
水がいっぱいに張り詰めた、薄い皮膜。それが第一印象だった。頬のそれとは全く違う種類の
柔らかさ。オレの唇の形に合わせるようにくにゅくにゅと流動し、細かく揺れる。その表面は
常に水分が染み出しているのか過剰な程に潤い、しっとりと吸い付いて来る。
これまで味わった事のない、未知の感触だった。
「……もう一度っ」
ぷはぁ、と唇を離し、キラキラと輝く瞳にオレを映す。
「……次はグゥだろ。オレはグゥの気持ち、聞いてないぞ」
「む……」
オレの言葉にグゥは一瞬たじろいだが、すぐに薄く微笑うとまた強引にオレの唇を奪う。
唇を重ねたまま、グゥの口がもごもごと動く。そしてその動きに合わせるように口内に
二度、熱い吐息が流れ込んで来た。いつもグゥの傍で感じていた甘い匂いがもっと、ずっと
強烈に口内を通り鼻腔の奥へ流れ込んでいく。
グゥの匂い。石鹸のものでも、洗剤のものでも無い。グゥそのものの匂いがオレの中を
満たしていく。
「っぷぁ……聞こえたか」
「……ずりぃ……」
こんな時でもグゥは挑戦的な表情と態度を崩さない。やっと、グゥらしいグゥが見れた。
思わずくすりと笑みを漏らしてしまう。
「……なんだ?」
「なんでもないっ」
今度はこちらからグゥを抱き寄せ、唇を押し付けてやる。
グゥはむぅ、と不機嫌そうに小さく唸ると下唇を甘く噛んで来た。お返しに、上唇に吸い付く。
そのまま唇の裏に舌を伸ばし、粘膜部分をなぞるとグゥはピクンと震え、その身体がぎゅっと
固くなるのが解った。
……やりすぎただろうか。舌をそっとグゥから離す。が、その舌を追いかけるように何か生暖かく
ぬめった感触がぴたりとくっついてきた。それが舌の輪郭に沿ってつつ、と滑らかに移動する。
くすぐったいような心地いいような感覚が、ゾワゾワと背中の奥を走り抜けていく。
思わず唇を離すと、口の先からうっすらと細い糸が伸びているのが解った。その糸がUの字を
描きながら真っ直ぐに、グゥの口元、小さくちろりと出した舌の先へと伸びている。
「……いいぞ」
グゥはオレの肩に手を回し、気恥ずかしそうにこくんと頷き、舌を出したまま静かに目を瞑った。
ゴクッと、喉が鳴った。だけど、いくら飲み込んでも次々と口内に唾液が溜まる。もう一度
コクンと喉に水分を通し、オレからも舌を出してグゥに顔を寄せた。
ほんの少し、先端同士が触れただけで、身体が飛び跳ねた気がした。地震でも起きたかのように、
自分の軸がぶれたような感覚。
思わず、はぁぁ、と息が漏れる。今、オレはグゥに物凄い事をしている……それは昨日までは、
いや、ついさっきまでは想像も出来なかったくらいに大胆で、いやらしい事。ある種の背徳感と、
その行為を許されたと言う高揚感が交互に襲い、それがなんとも言えず快感だった。
腰が引けそうになるのを我慢し、しっかりとグゥを抱きグゥの舌の上に自らの舌を這わせる。
舌を少しずつ動かすと、グゥはその度に喉の奥から、んんッ、とくぐもった声を出し、小刻みに
震える。目は固く閉じられ、首に巻かれた腕にも力が入る。
そのまま舌の上を真っ直ぐ移動し、根元へと通じる入り口に舌で割って侵入する。グゥは
一瞬、身体を強張らせたがすぐに力を抜き、少しだけ口を開きオレの舌を招き入れた。
生暖かいゼリーのようなものがオレの舌に絡みつく。それは決まった形が無いかのように
柔らかく、ぬるぬると滑り、甘い味がした。
グゥはオレの首にしがみつき、ただ夢中で唇を押し付けて来る。オレも背中に手を回し、
唇も、身体もより強く密着するように強く抱き締めた。
「ん……く、ちゅ、っぷぁ……はム、ん、ふ……」
口内粘膜に舌を這わせ、表面を覆う唾液を掬い取る。くちゅくちゅと音を立て互いの唾液を
かき混ぜるように舌を絡め合い、溢れ出る粘液を口内で交換する。口端に立てた泡から垂れる
唾も舐め取り、口内に戻す。もう、自分の舌が何に触れているのか解らないくらいにその中は
とろとろに蕩け、自分の舌もその中に混ざり合ってしまうのでは無いかと思った。
息を継ぐため一旦唇を離してもすぐにどちらとも言わず唇を奪い、口内に舌を差し入れ、
そうして何度も貪るようにキスを重ねる。
頬や首筋、耳にも啄ばむようにキスの雨を降らせ、顔中にお互いの唇や舌が触れていない
場所が無くなった頃、ようやく唇が離れた。
そのまましばらく、オレもグゥも大き乱した息が収まるまで、互いの身体にもたれ
肩に頬を寄せ、支え合うように抱き締め合っていた。
<<5>>
若干陰りは見えたものの、まだ随分と日は高い。ただ、いつ頃からか空を厚く覆いはじめた雲が
陽の光を遮る時間を徐々に伸ばし、ここに到着した時よりは随分と過ごしやすくなった。
少しだが風も出はじめ、依然水平線の向こうから立ち上るように増え続けている雲に文字通り
雲行きの怪しさを感じるが、まだ気にするほどでは無いだろう。
膝の上に乗ったグゥの頭を撫でる。肌と同じように色素の薄い毛が指の動きに合わせ
さらさらと流れ、つまみ上げようとすると液体のようにするりと指の間をすり抜けていく。
頬に流れる髪を後ろに梳き、耳にかける。普段、髪に隠れ見る事の無い部分が露になり、
とくんと心が跳ねる。何故か、見てはいけないものを見ている気分になった。
グゥはオレと同じく海の方を向き、静かに目を瞑っている。寝ているのだろうか。
いや、寝ているならむしろ目は開いているはずで……ああ、ややこしい奴だ、コイツは。
オレはあくまで自然な素振りで、優しくグゥの頬に指を添える。特にグゥからの反応は無い。
そのまま頬をくすぐるように撫でるとグゥはくぅんと喉を鳴らしオレの膝に顔をすり寄せた。
一応、起きてはいるのだろうが、抵抗の意思は見られない。
頬の上をするすると移動し、小指で耳の内側の淵をなぞる。耳たぶを親指と人差し指で柔らかく
挟み、くにくにと弾力のある感触を楽しむ。人差し指を耳の裏側に這わせ、カリカリと掻くように
動かす。そこまでしても、グゥは嫌がる様子を見せない。時折小さく、ん、ん、とくすぐったそうに
声を上げるくらいだ。
……楽しい。なんだか、長年の夢が一つ一つ叶っているような充実感。
出会って以来、誰よりも多く傍にいて、寝食を共にして来た少女。最初はこの不可思議の塊の
ような少女とどう接していいのか戸惑ったものだけど、心を通い合わせるうちに必然的に
スキンシップの頻度も増えていった。主に叩く抓る捻る揺さぶるといった方向に、だけど。
それでも、やはりいつも一緒にいるのだ。肩を抱いたり、その髪や頬に触れる事はもう
あたりまえの行為で、服の上からにしろ本来触れてはいけない部分に触れてしまった事だって
何度もある。……偶然か、意図的かは置いといて。
でも、だからこそ、解らない。あんまりにも近すぎて、逆にどこまで接してもいいのかが
解らないんだ。
例えば今触れている耳や、首筋、鎖骨なんて部分はどうか。普段なら、髪の毛を撫でるなんて
事もとてもじゃないが出来やしなかったのだ。本来、意味無く触れる事を許されない場所と、
そうでない場所。その曖昧なようで明確な境界線にオレはいつも心を悩まされていた。
グゥが寝ている間にそっと首筋を撫でてしまった次の日は一日中グゥと目を合わせる事が
出来なかったし、グゥの方からいきなり背中にしがみついて来たり、ふざけてプロレス技を
かけて来た時もオレはどうしていいか解らず、ただ「鬱陶しい」と跳ね除けるだけだった。
そんなオレが、今はグゥに思う様に触れる事ができる。これまで当たり前のように触れていた
部分も、まるで違う感触を指に伝える。幸せ。簡単に言えばコレがそうなんだろうか。今はこの
幸せを一つ一つ、丁寧に噛み締めていたいと素直に思った。
グゥの身体のラインをゆっくり追う。鎖骨の少し下、白い布で覆われている部分に目を向ける。
横になっているせいだろうか、胸元が圧迫され、その中心にはほんの少しだけ谷間が確認出来る。
そのずっと下、柔らかそうなお腹に開いた小さな窪みが可愛らしい。ここなら触ってもいいんじゃ
ないか、なんて誘惑を抑えて目線は更に下へ。……パレオが邪魔だ。盛大に邪魔だ。剥ぎ取って
やりたい。せっかくの水着だってのに、お尻の形も確認出来ないなんて……
「ハレ」
「はぅぉぉッッ!?」
突然の自分の名を呼ぶ声にビクンと、思いっきり身体が跳ねる。ついでに、思わず頓狂な声を
返してしまった。
グゥはいつの間にか仰向けになり、真っ直ぐにこちらを見上げていた。
「な、なになに、何かな?」
「……ハレは水着にならないのか?」
グゥはオレの奇態に怪訝な表情を作ったまま、オレの身体の上に目線を這わせる。
そう言えば、オレはまだ家を出る前と同じ、Tシャツに短パンと言う姿のままだった。
「ああ、オレ持って来てないから、水着」
いきなり海に行くと言われて、着の身着のまま車に乗せられたのだ。そんな用意などしている
はずも無い。アシオたちが担いでいた膨大な荷物の中にあるのだろうと高を括っていたのだが、
中身は母さんとおばあちゃん用のものが大半で、残りはビーチグッズやタオルなど共用のもの
ばかり。オレのために用意されたものなど何一つとしてありはしなかった。
「どうせ今日は泳がないしさ。別にこのままでいいよ」
泳がないと言うか、泳げないと言うか。ベルとアシオの都市伝説好きはホント、どうにか
ならんもんか……。
「ふむ。しかしせっかくの海だしな。……グゥのを貸してやろうか?」
「へ?」
そう言うとグゥはむくりと起き上がる。
今着ているもの以外の水着も、用意しているのだろうか。って、そうじゃなくて。
女用の、それもビキニのアンダーなんてものを穿かせるつもりじゃあないだろうな。
そんなもん穿けるワケが無いだろう。恥ずかしいとか、そーゆー問題じゃあ無い。
グゥが穿いたことのある、グゥの、……その部分を覆っていた布をオレが……。
そんなものを穿いたら、マトモに立つ事すら出来なくなる。いや、一部確実にタツからこそ
立てないと言うか……って、上手い事言ってる場合じゃない。
「そ、そんなの借りれないよ! いいって、グゥ!」
「遠慮するな。ほら、これを着けるがよい」
グゥはにこやかに目を細め、スッと大き目のスカーフのような布を手渡してくれた。
それはグゥが身に着けていたパレオ。その薄い布地に隠されていた部分が惜しげもなく
眼前に曝け出される。
トップスに合わせた純白のアンダー。切れ込みは浅いが普段見ることの出来ないグゥの脚の
付け根までが露になり、ぷるんと張りのあるお尻もその形をくっきりと浮かびあがらせている。
先ほどまであれ程渇望していたものが突然目の前に現れ、またオレの目は釘付けになってしまった。
「なんだ、そんなにグゥのここが気になるか?」
グゥはにやりと微笑いクイッと片脚を持ち上げた。勢いよく開かれた股間部分を一瞬、凝視して
しまい思わずブハッと肺の中の空気を全て噴出す。
「エロガッパめ」
ゲホゲホと咽るオレを見るグゥの目は実に満足げだ。こんにゃろう、どんどん調子に乗って
きやがったな。
「ん、んなことより、コレをどーしろってんだよっ」
乱れた息を無理やり整えながら、手渡されたパレオをバサッと広げる。
まさか裸の上からこれだけを腰に巻けって言うんじゃないだろうな。いや、こいつの事だから
言うんだろうけどよ。オレはどこの原住民族だ。
「ダメか?」
「ダメですなッ」
「ふむ……別にハレの粗末なものがチラ見えしてもグゥは気にせんぞ?」
「オレが気にするわ!」
口に手を当て、くすくすと笑うグゥにパレオを投げ返す。パレオはグゥの身体に力なく当たり、
そのままヒラヒラと砂浜の上に舞い落ちた。
「しかし不公平だぞ。グゥの身体は散々視姦しておいて。グゥにもハレの裸体を見せろ」
「そーゆー不穏な発言はやめてもらえませんかね……。男の身体なんか見てもつまらんだろ、だいたい」
「……ハレのなら、グゥは見たいぞ?」
「…………ッ」
背中で腕を組み、小さく微笑みを向ける。それだけで、オレはそれ以上の抵抗の意味を
見失ってしまう。……こいつ、ますますオレのうまい操縦法を覚えて来てる気がするぞ。
ああ、乗せられるオレもオレだけどさ。くそぅ。
「……これで許してもらえませんかね」
「ふむ。まあ、勘弁しといてやろう」
さすがにパレオ一丁なんて姿にはなれないが、Tシャツを脱ぐくらいなら問題ない。
グゥはトランクスも水着も大して変わらんと主張して聞かなかったが、どうにか
短パンだけは死守させてもらった。
「それにしても、あっちぃ……」
シャツを脱いだ途端、衣服に守られていた上半身に太陽光線が直接当たりジリジリと
身を焦がす。なんだか気温が数度上がったような気分だ。
「うむ、絶好の日焼け日和だな」
ビーチマットに足を投げ出して座るグゥが、側に置いた小瓶を指先で弄び出す。
「ではさっそくやってもらおうか」
そしてオレの返事も待たずにごろんと、腕を枕にうつ伏せで寝そべった。
「マジでやるんですかね……」
「合法的にグゥの身体に触るチャンスだぞ?」
「だから、自分で言うなっての」
……なんて言葉とは裏腹に、小躍りをはじめるオレの心。今となってはこんなベタな
シチュエーションがたまらなく嬉しい。日焼けローションを考案した人に表彰状の一つも
送りたい気分だ。
「背中だけで良いからな。変な気、起こすなよエロガッパ」
「うっさい。解ってるっての」
……なんて言葉とは裏腹に、軽く肩を落とすオレの心。いや、背中だけでも十分な進歩だ。
贅沢は敵だぞ、オレ。
少し力の抜けた手でローションの小瓶をつまむ。
『使用方法 □ 適量をムラなくのばしてください。
□ 上下によく振ってから、お使いください。
□ 目に入らないように十分注意してください。
□ 乳幼児の手の届かない所に保管してください』
アメには触らせないようにしなきゃな。なんて心配は今は置いといて。
瓶をよく振り、手の上に少し垂らしてみる。無色無臭の粘り気のある液体がとろりと
糸を引き、手を濡らす。なんか、ヤラシイ。
いちいち手に乗せて塗ると手間が掛かりそうだ。グゥの隣に座り、直接その背中に
ローションを垂らす。
「───っひぅ!?」
瞬間、グゥがビクンと身体を引きつらせた。次いでギロリとこちらを睨む。
「なんか言ってからやれ……」
……すんません。
気を取り直して、今度は「いくよ」と合図を送り背中の筋に沿って真っ直ぐローションを
乗せる。グゥはまだ少し身体を緊張させていたが、今度は特に文句を言う事はなかった。
ふと、背中の上を横一線に走る一本の紐に気が止まる。そう言えば、こーゆー時って
水着の紐、解くんだよな。日焼けローションを開発した人はもしかしたら天才かもしれない。
「背中の紐、解くぞ?」
勝手に解いたらまたグゥの怒りを買うのは必定。一応確認を取る。
グゥは一瞬ちらりとこちらを見やり、何も言わずすぐに前に向き直った。
了承……って事で良いんだろうか。恐る恐る紐の結び目に手を伸ばす。
蝶結びされた紐の両端をつまみ、するすると解いていく。完全に解かれた瞬間、
ふわ、とほんの少し左右に引っ張られる感覚があった。水着の締め付けから解放され、
食い込んでいた部分が元に戻ったのだろう。
その平らなボディのどこに食いこむ余地があるのやら、なんて言ったら殺されるので
言わないが、実際、食い込んでいた部分なんて数ミリ程度だろう。それでも手に伝わって
来るのは、オレの全神経がそこに集中している証拠だろうか。
これで腋から胸元に至る間に邪魔者は何もいなくなった。しかしそこはやはり哀しい程に
まっ平ら。腕を伸ばしているせいで周囲の肉もそちらに引っ張られ、マットに押し潰された
胸元の肉がそこから僅かでもはみ出すなどと言う期待感は全く無い。
まぁ、ある種期待通りではあるのだが。むしろそんなものが見えたら自分を抑えられる気がしない。
安堵なのか落胆なのか解らない溜息を漏らしつつ、オレはいよいよその背中に手を伸ばした。
肩甲骨のラインを親指でなぞり、残りの指で全体に満遍なくローションを伸ばす。
そのまま肩の曲線に沿って移動し、首筋に掌を添え、背筋を真っ直ぐに降りる。
母さんに何度もやらされたマッサージの要領で、腰を左右に揉み込むように丁寧に塗り込める。
その身体はどこを取っても柔らかく、しなやかな体躯の表面をうっすらと肉付きよく脂肪が
覆っているのが解る。なめらかな手触りの皮膚が手の動きに一瞬引っ張られ、ローションの滑りで
戻る瞬間がたまらなく心地良い。
いつまでもこうしていたい気分だが、背中から腰にかけてという狭い面積を塗り終えるのに
そう時間は掛からない。出来るだけ丁寧に、時間を掛けて塗り込めたがそれももう限界だった。
説明書に書かれていた『適量』という言葉には一応、従うべきだろう。
「グゥ、終わったよ」
肩をちょんちょんと突き、声をかける。
だけどグゥは答えず、顔を腕に埋めたまま何かに耐えているかのように
拳を強く握り締め、身を硬直させていた。
「グゥ? グゥってばッ」
「……はぁ、ふぇ?」
耳元で大きく呼びかけると、今目が覚めたかのようにぱっと顔を上げた。呆けた声を返し、
とろんした目を呆然とこちらに向ける姿は本当に寝起きのように見える。
「終わったよ、グ────ッ!?」
もう一度、グゥに同じ事を伝えようと顔を近づけた瞬間、口を塞がれた。グゥからも
勢いよく迫って来た、唇によって。
「んく、ぷぁ……。もう、終わったのか」
すぐに唇を離すとグゥは小さくそう呟き、むくりと身体を起こした。そうしてしばらく
ぼう、と中空を眺め、うわ言のように「そうか、もう終わりか」と繰り返す。
なんだかグゥの様子が変だ。まさか本当に寝惚けているんだろうか。
……ちょっと待て。今、オレの目の前でとんでもない緊急事態が起っている事に気が付いた。
背中の紐が外れたまま起き上がったせいで、水着が涎掛けのように首からぶらさがり、
ゆらゆらと揺れている。
まだ辛うじてオレの見る角度からは隠れているが、胸元からは完全に浮いている状態だ。
グゥがもう少しでも前傾したらぽろりと簡単に捲れてしまうだろう。
「ちゃんと塗ったんだろうな」
「へっ?」
突然、素に戻り目を細め睨んで来たグゥから慌てて顔を逸らす。
まだグゥは自分の状況に気付いていないようだ。
「塗り残しとか……ホントに無いのか?」
「大丈夫だって、ちゃんと塗ったよ」
塗り残しなんて、あるはずがない。むしろ必要以上にたっぷり触って……じゃなくて、
塗ってしまったくらいだ。
「……ホントにホントか?」
オレの自身満々の声にも何故かグゥは納得せず、ますます疑いの眼を向けてくる。
ぐぐ、とその顔を近づけるたびに胸元の涎掛けが怪しく揺れる。オレは出来る限り
そこを視界に入れないようにそっぽを向いたまま、とある事情により腰も引きつつ
後ずさるしか無かった。
「ホントだってのっ! こんなの、嘘ついても仕方ないだろ?」
「……じゃあ何でこっち見ないんだ」
「ぅ……」
そりゃ、見ても良いなら思う存分ご拝謁させて頂きますけどね。
……ええい、このままじゃマトモに話も出来ん。
「とにかく、オレはきちんと塗ったんだからそれ、なんとかしろよ!」
顔を背けたまま、指を突きつける。グゥは一瞬、きょとんと顔を呆けさせたが
すぐに自分の胸元に目をやり、
「……ほほう」
……まるで意に介さず、涎掛け状態の水着とオレを見比べ、口端をニヤリと歪めた。
そうだ、コイツはこーゆーやつなんだ。いやん、なんて言いながら両腕で胸を隠したり、
そんな乙女チックなリアクションなど望むべくもない。
「目にやり場に、困る?」
グゥはいつか聞いたような台詞を言いながら、胸元をくい、と逸らした。両手をついたまま、
正座を崩した姿勢でお尻をぺたんとマットにつけ、肩を竦めて覗き込むように首をもたげる。
挑発的な目線。余裕たっぷりの笑み。その顔はいつものそれよりもずっと強烈で、ある種の
オーラすら発散しているように見えた。……簡単に言えば、すっげえ楽しそう、って事だ。
「こ、困るに決まってんだろ。それでなくてもその、そんなカッコしてんだから」
「おやおや。さっきまであんなに遠慮なく見てたくせに、今さらそんな事を言うとはな」
いまだグゥから目を逸らすオレを見上げながら、にじりと詰め寄る。
「ソレとコレとは別! 見て良い場所とダメな場所は、あるだろ」
「何故それをハレが決める? グゥは別に気にせんぞ」
「母さんみたいな事言うなよ、もう」
「ウェダとは違うぞ。グゥが見せていいと思うのは、ハレだけだからな」
「…………ッ」
さらりと、当たり前のようにそんな事を口に出す。グゥの事だから、誤魔化しや
冗談じゃなく本当にそう思ってくれているんだろう。
胸がきゅんきゅんと疼く。嬉しい。ただそれだけの感情が胸の奥に広がっていく。
だけどそれに流されるワケにもいかない。まだオレにも言い分は残っているのだ。
「……オレは、やっぱりグゥをそんな目で見たくないよ。グゥを、その……だから、か、かわいいって
思うのとさ。身体が見たいとかそーゆーヤラシイ気持ちは、別だと思うんだ」
「見惚れてたくせに」
「ぅ゛……そ、それは、あんましグゥの水着姿なんて見た事無いんだから、しょうがないじゃんか。
心でも身体でも、見た事ない部分が見れたら嬉しいって思うのは自然だろー」
「ならば遠慮なく見ればよかろう」
「だから、頭ン中がそーゆー事ばっかになったら、歯止めが利かなくなるっつってんの。そんで若さに
任せて怠惰で想像力豊かな日々送ってるうちに、後々絶対後悔する瞬間がやってくるんだって!」
「……14歳の少年の心配事とはとても思えんな。どんな人生送ってきたんだ」
「お前に言われたかねーっての」
グゥは呆れた様子でオレを見るが、グゥこそどんな人生を送ったらそんな性格になるのやら。
……オレの場合は、完全に環境のせいだろう。女にだらしない父に、全面的にだらしない母。
そんな二人がオレの寝てる横で平気でイチャコラしはじめるわ、いつの間にか弟まで作るわ。
自分の出生に関してなどは、枚挙に暇が無い。そこからはじまった問題が、つい最近まで尾を
引いていたのだ。他にも、山田ひろこやらユミ先生やら、男と女が絡んでろくな結果になった例を
オレは殆ど知らない。
あらゆるパターンの反面教師を見続けてきてオレは悟った。オレは、もっと慎重に、健全に。
大切な人とゆっくり歩んでいこうと。
「……とにかくさ。今はまだ、オレはグゥと一緒にいるだけで嬉しいんだ。だからグゥも、無理に
変なコトしてくれなくていいんだからな」
「ハレ……」
それが、オレの真っ直ぐな気持ち。もう、グゥから目を逸らさない。きゅっと手を握り、
胸を張りその瞳を真正面に捕らえ、オレの想いを真っ直ぐに伝える。
グゥは目を瞑り、オレの言葉を噛み締めるようにこくんと小さく頷く。そして穏やかに
微笑みを浮かべ、自らの胸元にそっと手を添えた。
「ほれ」
「───ぶッッ!!」
次の瞬間───目から、火花が散った気がした。いや、きっと本当に散ったに違いない。
一瞬。ほんの、本当にほんの一瞬だけ水着を捲り上げ、戻す。グゥがしたのはそれだけだったが、
それだけで、オレの頭の中は真っ白になってしまった。
腋からお腹までをまっすぐに伸びるラインの途上、陰影から僅かに確認出来る二つの膨らみと、
その頂点にぽつんと色づく艶やかな桃色。その一瞬の光景が目の奥に焼きついて、瞬きする度に
残像のように浮かび上がる。
「嬉しそうな顔しおって。一緒にいるだけの時にそんな顔は見た事なかったぞ」
「……うぅ……お前な〜……」
それも、オレの男としての真っ直ぐな気持ち。しかしそんなものに胸を張れるべくもなく。
グゥから目を逸らさない、と言う決意だけは守れたが、それがむしろ自分の駄目さ加減を
際立たせていると思えるのは気のせいか。
「グゥも、グゥが見た事が無いハレの姿をもっと見たいのだぞ?」
グゥはやっと年頃の女の子相応に、恥ずかしそうに頬を赤らめ水着をぎゅっと押さえる。
年頃の男の子相応に、恥ずかしそうに腰を引くオレとの対比が痛々しい。
「焦る事は無い、って話だよ。……オレだって我慢してんだからな」
「ふぅん。グゥとしては、とっくに我慢し飽きているのだがな……」
「そッ……それは、お互い様だよ……」
グゥは本当に、物怖じせずにそういう事を言う。その言葉が、どれだけオレの胸を熱くさせるか
解っているんだろうか。だけど、オレもあっさり誘惑に負けてしまうワケにはいかない。
「でも、だからこそだよ。勢いに任せたら、それこそオレ、保険医と同じになっちゃうかもだろ。
それだけは絶対ヤなんだよ」
それがオレの最後の防波堤になっていると言って過言ではあるまい。保険医みたいにはなりたくない。
この強迫観念にも似た想いさえあれば、オレは絶対に自分を見失わない自信がある。
グゥはオレの言葉に「ふむ」と小さく呻り、何事か考えるようにあごに手を当て目を細めた。
「なるほどな……」
「解って、くれた?」
「うむ。ようは、孕まなければ問題は無いワケだな?」
「いやいや極論すぎやしませんかね!? ってかグゥ的にはそれでいいの女として!?」
「む……女としてはやはり、二人は欲しいところだが。ハレのためだ、しばらく我慢するとしよう」
「そうじゃなくてええッ!!」
ああ、コイツに口で勝つのは無理なのか。明らかに意図的に話を曲解してきやがる。
「……ハレの言いたい事は解る。だがそんなに心配する程の事もあるまい」
頭を振りガリガリとかきむしるオレの様子に、グゥは優しげにくすりと笑った。
「ハレが恐れているのは、保険医のようになる事だろう。保険医のどんな所が具体的に気に入らんのだ?」
「どんなって、年端もいかぬ患者に主治医の身でありながら手を出し孕ませた挙句その後のフォローは
一切無し、母さんが勘当された事すら知らず再会した途端のうのうと関係を迫り再び妊娠させてようやく
結婚を決意。不治の女好き。浮気性。下半身に何よりも忠実。癇に障る声。ひ弱。メガネ。二本足で歩く」
「何もかもが気に食わんのだな」
「当、然、ですッ」
「しかし、概ねウェダとの関係における責任感の無さが原因であろう。ならば大丈夫じゃあないか?」
「え……?」
「ハレとグゥと、あの二人とでは状況も、立場も、何もかもが違う。確かに、ハレが女好きの血を引いている事は
疑いようも無い事実だが」
「そこは否定してくれ。頼むから」
「だがな、ハレにはグゥがいるだろう。保険医の時のウェダとは違う。いつも、傍にいるんだ」
「グ、グゥ……」
「見方を変えてみろ。あの保険医ですら、最終的にはウェダと結婚したのだぞ? その理由は何だったか覚えているか?」
「そりゃ、赤ちゃんが出来ちゃったから……」
「……違う。それもあるが、何より重要だったのは……ウェダが、傍にいたからだ。ハレの時と、違ってな」
「……ッッ!」
「安心しろ。グゥは、いつも傍にいる。ハレは大丈夫だ」
……そうだ。コイツは、虚言、悪言、妄言、弄言、言葉巧みに人をかどわかす事にかけては
とにかく右に出るもの無しだが、その実、正論を戦わせてもまったく隙が無い。そしてそれ以上に、
今のグゥから発せられる声にはオレの胸に深く染み渡る何かを持っていた。
オレの中で長い年月をかけて凝り固まった巨大な不安の塊が、グゥの言葉でゆるやかに
融けていくのが解る。
「浮気も心配していないぞ? グゥが二人産んだら、切るから」
「なななな何をですかね!?」
「ああ、竿は残しておいた方がいいか? ならば潰そう」
「いやああああああ!!!!」
ついでに、ついさっきの事で一時的に固まっていた小さな下半身の塊が、グゥの言葉で急速に
縮み上がっていくのも解った。
わきわきと何かを揉むように手を動かすグゥから、股間を押さえて後ずさる。
……頼むから、未来の展望に光を照らすか雨雲をかけるかどっちかにしてくれませんかね。
「───ハレがグゥを意識してくれる瞬間、グゥがどんな気持ちでいるか、ハレに解るか?」
そう言って、グゥはオレの頬に手を添え、ちゅっと軽く唇を交わす。
「これからも、遠慮なく愛でるがよい。グゥはそれが嬉しいんだぞ?」
「グゥ……」
……負けた。いや、最初からグゥに勝てるはずがなかったんだ。舌戦はもちろん、その笑顔に、
その眼差しにオレには逆らう力なんかありはしないのだから。
「……そう言えば、すっかり忘れていたな」
はたと、何かに気付いたように顔を上げ、グゥはくるんと背中を向けた。
「日焼けした姿を、ハレに見せねばならんからな。ハレも手伝え」
すっかり忘れていた、蓋が開きっぱなしの小瓶をつい、と指先で持ち上げる。
「え? で、でもあとは自分で塗れるだろ?」
「ほう。塗りたくなければ、グゥは別によいのだが?」
「…………」
───ああ、最終防衛ラインがみるみる後退していく。既に保険医という防波堤が瓦解した今、
このまま一直線にグゥという濁流に飲まれるリアルな予感が……いや、もはや確信と呼べる実感が、
ジワジワとオレの心を侵食していくのだった。
とりあえず、ここまでです。申し訳ねえ
続きもおおよそ書き上げてるのですぐに投下出来ると思います
>>195 出来てる分まで投下するかもう完成までいくかで揺れてます……
書きたいことばっかで浮気しまくりでスマンヌ
ワジ受けも書きたい。けど、何よりも、俺も読みたいw
なんだこのラヴラヴ夫婦はw
マジでグゥが可愛いっす。てか泣いた。全米が泣いた。グゥの醜態の後あたりでホロッとね…
SSという形で感謝できなくて申し訳ないっす;
なんていうか趣味が合い過ぎてて
>>232氏ので満足してしまうんだな俺はorz
とにかくGJでした。続きwktk期待しております!!
ああもうちょっと崩れたグゥは可愛いなあ!
原作でもグゥはハレ大好きのように見えるんだ
少なくとも俺は。
久しぶりに来てみたら新作キタコレ!
二人ともラブラブすぎて盛大に萌えさせて頂きました。(;´Д`)
グゥが可愛すぎて萌え死にそうですマジデ。続きに激しく期待。
なんか物凄く、挿絵を描いてみたくなるシーンが多いw
俺にも原作でグゥはハレ大好きにしか見えない。てか初期にそれは確定されてるw
むしろハレがいないと生きていけないのがグゥ様だとオモ。
>>236 描けばいいさ。盛大に応援する。
ちょっと古いけどウルトラマンとハヤタ隊員みたいな関係?
ちょっとなのかどうかすらわからないのですが
グゥはいい・・・すごくいい
続きが読みたくてモヤモヤしてる…
243 :
236:2007/09/08(土) 00:49:00 ID:Tdz16+4l
何枚か描いてみたんだが…
最近全然絵を描いてなかったから上手く描けねぇ!orz
要練習(;´・ω・)
是非頑張れ
糸目の方かとおもたらそっちかw
お待たせ致しました。続きを投下させて頂きます。
エロ分は豊富ですが、ネタ分も無駄に豊富で頭悪いくらい長いです。
↓から投下していきます。
<<6>>
「……では、早速やってもらおうか」
肩越しに流し目を送り、グゥは腕をしなやかに横に伸ばし、ローションを手首から肩まで
見せ付けるように真っ直ぐに垂らす。
「知らないぞ、どうなっても……」
オレは小さく深呼吸し、目の前に差し出されたグゥの腕に静かに触れた。
ローションの筋に沿って、両手で腕を包むように丁寧に塗り込めていく。
いつもの感触。ローションのせいで肌の触り心地はいつもと違ったが、何故か安心できた。
次いで、反対の手も同じように満遍なく塗る。ここまでは、滞りなく速やかに仕事は済んだ。
……問題は、ここからだ。
「……次は、ここだな」
そう言うと、グゥは鎖骨の上にローションを横一線に引いた。身体のラインに沿ってトロトロと、
何本もの線がお腹の下まで垂れていく。
コクンと喉が鳴る。その様子を肩越しに見るだけで、下半身に熱い血が集まるのが解った。
「……やるぞ、いいんだな?」
「早くしろ。ローションが流れるだろ」
オレの言葉に間を空けず平坦に、早口で答える。心なしかその声は無感情に過ぎるように思えた。
グゥも少しは緊張しているのかもしれない。
後ろから腰を抱くようにお腹に手を添える。どう触っていいのか解らず、牽制のつもりでそっと
指先でわき腹をなぞった。
「ひゃわわぅぅっ!?」
「───ぐホッ!!」
……瞬間、腹に、肘鉄が入った。眉をピクピクと吊り上げ口を尖らせたグゥと肩越しに目が合う。
「わざとやってるだろ……」
……すんません。
今度はしっかりと手を密着させ、円を描くようにお腹を揉み込む。肉を持ち上げるように
下から上に撫で上げ、おへそにも指を通すとグゥの引き結ばれた口元から「ぅんッ」と引きつった
声が漏れ、ピクンと肩が揺れた。
もう一度、下から上へ指を屈伸させるようにおへそをこねくる。
「んっ、ふぁ、あ……ッ」
ちゅぷちゅぷと粘着質な水音に、グゥの吐息交じりのくぐもった声が混ざり、耳に心地良い。
「───ごぶッ! ボほッ!!」
……左右のわき腹に高速で肘のワンツーが入った。またグゥと肩越しに目が合う。
「遊ぶな、馬鹿」
……すんません。
しかしその目は先ほどと違ってどこか弱々しく、頬も少し上気している。その声も、悪戯っ子を
嗜めるような、拗ねたような甘い色が含まれているように聞こえた。
もっと苛めたい衝動に駆られるが、後が怖いのでやめておこう。おへその上を通り、わき腹に手を回す。
しっかりとした肉付きの中に肋骨の波の感触が僅かに触れる。優しく撫で上げるとグゥはくすぐったそうに
身をよじり、身体を小刻みに震わせていた。だけどここは心を鬼にして丁寧に塗らねば。説明にも「ムラなく
塗れ」と書いてあったし。
ゆっくり、きっちりわき腹にローションを塗りたくる。グゥは水平に持ち上げた腕を捻り、
耐えるように拳をぎゅっと握っていた。
ようやくそこから手を離すとグゥは肩の力がみるみる抜け、はぁぁ、と大きな溜息を吐く。
「……ハレ、背中の時も思ったが、なんか慣れてないか?」
「へ?」
「なんと言うか……ハレに触られているとぼうっとしてくる」
グゥはカクンと力無く頭を斜めに倒し、のぼせたように赤くした顔をこちらに向けた。
その目はとろんと蕩け、息も少し上がっている。
「母さんにいつもマッサージさせられてたから……それでじゃないかな」
「ふぅん……」
「……もしかして、気持ち良い、とか?」
「バカ」
目を細め恥ずかしそうにそれだけを言うと、また前に向き直った。
そんな態度を取られると、こちらとしても非常に困るのだが……。既に下半身に灯った熱は
臨界点を超え、ズボンの中で窮屈そうに張っているのだ。オレの手つきが怪しくなっても、それは
オレだけのせいじゃない事をご理解頂きたい。……まあ、怒っているワケでも無さそうだし、
このまま続けるとしよう。
あと上半身で塗っていない箇所は、腋の下と鎖骨の辺りと……残りは、水着の周囲だ。
ブラの紐はローションを塗りはじめる前に、キッチリと結えてある。
とりあえず、腋の下に手を挿し入れる。腕を横に伸ばしているので、そこにはくっきりと
窪みが出来ていた。
指を揃え折り込み、窪みの内側を撫でる。やはりくすぐったいのか、またグゥはふるふると震え
今度は先ほどよりも大きな声で悶えていた。その声が耳を通るたびに、下半身に切ない痛みが走る。
腋の下から背中を回り、塗り残しの無いように肩へと滑らせる。そのまま鎖骨の上を撫で、
水着のラインを指でなぞる。
もう、グゥはどこを触っても、ぅん、ん、とくぐもった声を漏らし、息を荒げ身体を震えさせていた。
それに同調するように、オレの呼吸も徐々に昂ぶっていく。
鎖骨からまた背中を通り、腋の下の水着のラインへ。水着の周辺は他の場所よりも段違いに柔らかく、
もちもちと弾力があった。なんとも心地よい感触。
柔らかな肉に埋もれた指が少し、ブラの内側へ入った瞬間、グゥが敏感にその事に感づき
ビクンと大きく身体を引きつらせた。
「おい、何してる。そこは塗る必要ないだろ、エロガッパ」
「な、なんだよ。不可抗力だろ、これくらい」
「少し許したらすぐ調子に乗りおって……まったく、男というやつは」
「聞けよこらっ! 不可抗力だっつんてんだろっ」
「んー? さっきから怪しい手つきでグゥの横乳に触りまくってるくせに、今さら言い訳か?」
思い切り得意そうに、グゥはニヤニヤとオレに嘲笑をよこす。
……こんにゃろう。確かにその通りだがその態度が無性にムカつく。
「……へー、オレ、触っちゃってた? いやあ、ごめんねえ。背中触ってるのと区別つかなくてさー」
「…………ほう」
グゥの鋭い目線が突き刺さる。
殺気めいたものを感じ、即座に自分の言動を後悔した。……オレって弱え。
「……グゥのは、そんなに無いか?」
が、グゥはすぐに表情を緩め、不安げな声で小さくそう呟いた。
殺気はとっくに消えたが、その言葉にむしろ後悔が深まる。たとえグゥみたいなヤツでも、
女の子にとってそこはデリケートな問題なのだ。
「確かに、背中と変わらぬかもな。ハレもこんな乳じゃ、つまらんよな」
「い、いやそんな事ないよッ! 大きさなんて関係ないって!!」
「慰めなどいらん……男はみな大きい方が好きなのだろう」
慌ててフォローするが、グゥは前を向き顔を伏せてしまう。
ああ、もう。突然そんな風に普通の女の子に戻られてはこちらのペースが狂う。いつもみたいに
皮肉たっぷりの百倍返しをされたほうがずっとマシだ。
「ごめん、変な事言っちゃって。背中と同じなんて、思ってないよ。グゥの言う通り、ヤラシイ事
考えながら触ってた」
「…………」
「それに大きさなんて、ホントに気にしなくていいんだからね。オレが好きなのは胸じゃなくて……グゥ、なんだからさ」
「…………」
誠心誠意、言葉を尽くす。出来るだけ素直に……かなり相当に恥ずかしいが……自分の心を吐露する。
しかしグゥはますます俯き、胸を両手でぎゅっと押さえて身を縮こまらせる。
そんなに、傷つくような事だったのか。自分の軽率さに腹が立つ。
「グゥ、オレ……」
「も、もういいっ! それ以上恥ずかしいコトばっか言うな……ッ」
更に言葉を重ねようと開いた口を、グゥの両手が塞ぐ。振り向きざまに掌底突きのように勢い良く
手を打ち付けられ、パァンと乾いた音が頭に響いた。
「まったく、冗談の通じんやつだ……。こっちのペースまで狂う」
「……っぷは! そりゃオレの台詞だ。あーゆー冗談はヤメロよなぁ。……でも、ホントごめん」
「いいって言ってるだろ。グゥは自分の身体に不満など持ってない。ハレがいいなら、いい」
「……うん」
「しかし、確かにこの手の冗談はもう止めた方がよさそうだな。その度にあんな事言われたら……」
「……言われたら?」
「…………言ったらまたハレが調子に乗るから、言わない」
そう言ってグゥはぷい、とまた前に向き直る。
……グゥ、それはもう、言ってるようなもんだと思うぞ。それでも直接言葉にして聞いてみたいと
思うのは贅沢なのだろうか。
「……もっと、触りたいか?」
「え?」
「素直に言えば、聞いてやらんでもないぞ?」
「お前、自分は言わないでオレには言わすのかよ……」
「……触りたくないのか」
「…………」
ずるい。卑怯だ。グゥのあほ。ばかやろー。……くそう。
「……触りたいです」
「うむ。人間、正直が一番だな」
がっくりとくず折れるオレの頭をグゥの手が優しく撫ぜる。生暖かい微笑みと尊大な声に包まれながら、
オレはいつか絶対お返ししてやると胸に固く誓った。
「いいか、ハレにはどう見えようと、グゥにも多少はあるのだ。それを確かめさせてやるだけだからな?」
調子に乗ったらすぐやめる、と付け足し、グゥはまた両手を横に伸ばした。
口実なのか照れ隠しなのか本気なのか。……気にして無いんじゃなかったのか、とは口に出しては
言えなかったが、とにかくオレにとってはこれで口実が出来上がったようだ。
緊張を解すように自分の手をぎゅっと握る。まだローションでヌルヌルと滑る。はじめて触るのに
正しい感触が伝わり難そうで少し残念な気がしたが、コレはコレで実に、なんというか、エッチくさい。
ローションが満遍なく行き渡るように両手を擦り合わせ、オレは静かにグゥの身体に手を伸ばした。
鳩尾の上からブラの中へ指を挿し入れ、中心から腋の下まで滑らせる。指を揃え、くにくにと
旋回するように揉み込みゆっくりと水着の中へ指を侵入させた。
ひんやりとした皮膚の内側に、熱い脈動を感じる。トクトクとグゥの鼓動が伝わる。
きめの細かい肌はローションのせいかぴたりと吸い付き、肌の上を指が通るとそこだけ内部に
みっちりと詰まったゼリーのような感触が移動し、指が通り過ぎるとまた元に戻る。
サイズは小さいのに重量感があり、柔らかく温かで、そこがしっかりと女の子である事を
こんなにも主張している。
「ぅン……ッ」
尺取虫のような動きでじわじわと指を奥へ移動させている途中、違う感触が指に触れた。
少しざらりと起伏があり、中心に小さな豆粒のようなこりっとした固いものがある。
「ふあッ! うんんッ!!」
そこに中指の腹を擦り付けると、グゥはこれまでに無いくらい身を悶えさせ、大きな嬌声を上げた。
気付けば、グゥのブラはすっかり上に持ち上がり、代わりにオレの手がその胸を包んでいた。
ぴったりと隙間無く、それでいてオレの手に余る事も無く、オレの手がそこにある事が自然であるかの
ように、綺麗に収まっている。
呼吸を抑えようと口を閉じても、鼻から荒い息が漏れる。心臓はドンドンと内側からノックされて
いるように大きく響き、頭は下半身に集まっている以外の血が全て上っているように沸騰していた。
ぐらりと地面が揺らぐ。自分の立っている場所が安定していない感覚。また倒れてしまいそうな
不安感を抱いたが、視界は意外な程クリアだった。頭の中も冷静だ。……多分。
掌を軽く揺すると、たぽたぽと胸の奥が揺れるのが解る。全体を外側に押し広げ、離すと
張りよくすぐに戻る。逆に、きゅっと内側に寄せると微妙に谷間らしきものが出来る。周囲の
肉と、おっぱいとの境界は明確にあるようだった。少し、感動。
そんな動きにもグゥは敏感に反応していた。きゅっと目を瞑り、はっはっと細かく息を吐く。
───グゥはれっきとした女の子の身体を持っている。そんな事はこうして確かめるまでもなく、
とっくに解ってた事だ。でも、だからこそ、ここで止まれるはずもない。
指の感覚を開け、少し圧迫を緩める。途端に、ぷるんと桃色の突起が指の間から飛び出した。
首の後ろをジリッと電気が走り抜ける。今、オレの目の前にグゥの上半身が全て露になっている。
さっきみたいに一瞬じゃない。しかも、それはオレの手の中に納まり指の届く場所にあるのだ
「ど、どうだ、解ったか? もう十分じゃないか?」
「……もうちょっと。まだ、ちゃんと確認してない所あるし」
「そうか……もう少しなら、辛抱してやろう」
「うん、背中には絶対に無い部分を見つけたからさ……」
「……そこに触れれば、ハッキリするのか?」
「……うん」
「ならば、この際だ。念入りに検めればよかろう」
「…………」
「早く……」
「うん……」
互いに言い訳を探すように、確認を取り合うように言葉を交わす。グゥも、解っているんだろう。
もう、お互いに戻れない所まで来ている事に。
「グゥ、腕、上げて」
「……ん」
グゥはオレの言葉に素直に頷き、ばんざいをするように高く腕を伸ばした。
完全に無防備になったその胸のサイズを確認するように、柔肉の周囲を指先でなぞり上げる。
ぷにぷにと下から持ち上げるように揉み上げ、その頂点の突起に指の腹を押し当て、全体を
揉み込む。乳首に中指の腹を当て、柔らかく押し込みこねるように指を回す。乳首の先端部分を
触れるか触れないかの所で指をかすらせる。ぷっくりと隆起してきた突起を指で摘み、きゅっと
引っ張る。ローションの滑りでぬるりと指から逃れた所をまた摘み、ローションを乳首全体に
塗り込むように何度も摘みくりくりと捻る。
「ふっ……くぁ、ちょ、ちょっと待て……こ、これも、マッサージで覚えたのか?」
「んなワケないだろ。やりたいようにやってるだけだよ」
「……天然で、コレか……もはや才能と言うより、病気……うぅんッ」
「気持ち、いいの?」
「バ、バカッ! そんな事聞くな……ッ」
「言ってよ。どう、こんなのとか、いい?」
「ふぁぁんっ! ひぁぁっ!」
乳輪を押し広げ、乳首を根元から爪の先でカリカリと掻くとグゥは大きく声を上げ涎の飛沫を飛ばした。
オレは構わずその敏感な突起を責めながら、耳元でぼそりと囁く。
「お願い、グゥの口から聞きたいんだ」
「そっ、そんな仕返しは、卑怯だぞ……」
「そんなつもりないよ。グゥが良いなら、オレも嬉しいんだ。」
「ひぁ……んんんッ! ……イイ…なんで、こんなに……イイんだッ」
「グゥ……」
グゥは脚を開いて正座するオレの股にお尻を押し付け、オレに持たれかかる。
目を固く瞑り、何かに耐えるように俯き、伸ばした腕をオレの首の後ろに巻きつけオレから
離れないように体重を預けていた。
「解んないけど、多分……オレがグゥを大好きだからじゃないかな……」
「………ふぁ、ぁぁぁ……」
途端にグゥの目がとろんと蕩け、熱を帯びはじめた。カクンとオレの肩に首をしなだれかからせ、
艶っぽい吐息を漏らす。弛緩した口端から垂れた一筋の涎が首筋を汚し、つぅ、と糸を引く。
「ぐ、グゥも、ハレの事…んむ…ちゅ、…ハレのことぉ……ッ」
オレの頬や唇に見境無く吸い付き、キスをねだる。オレからも唇を寄せ、舌を挿し入れドロドロに
唾液に塗れたグゥの舌と絡めあった。
唇を重ねながらも、胸に添えた指は忙しなく動く。胸に膨らみが出来るように乳肉を寄せ上げ、
先端でピンと尖った突起を優しく撫でる。乳肉に乳首が陥没するように押し込み、くりくりと指を
捻る。胸の上を滑るように揉みこねながらチュクチュクと往復し、指の谷間に先端をきゅ、と挟み
擦り上げる。
本能の赴くままに、それでも特にグゥの反応がいいやり方を重点的に繰り返し徹底的に乳首を
苛めた。
「なんか…変だ……ンく、…胸の、奥が…っん………ぷぁ…熱いぃ……」
発情したように小刻みに息を吐き出しながら、キスの合間に言葉を繋げる。
両方の突起を同時に摘むと、グゥはガクッと一瞬、反射運動のように頭を倒した。そのまま
きゅ、きゅ、とリズミカルに先端を揉み込むとグゥは首をぶんぶんと横に振りながらオレの手を
胸から離そうと腕を掴んでくる。が、全身の筋肉が弛緩してしまったようにその手にはまるで力が
篭っていなかった。
先ほどからグゥは脚を閉じ、もじもじとしきりに腰をくねらせている。そのため、熱く腫れ上がった
オレの分身がその柔らかなお尻に布越しに圧迫され、淡い快感とそれを解放出来ない苦しみが交互に襲い、
酷くもどかしい。
最初はオレから逃げようとしているのかと思ったが、そうではないらしい。グゥは太ももを
ピッタリと密着させ、ぐにぐにと動かし自ら股間を圧迫して刺激を得ているように見えた。
トクンと、心にまた一つ新しい熱が灯る。
オレは片手で乳首を弄ったまま、もう片方の手をすっとグゥの下半身に伸ばした。素早くお腹の上を
滑り降り、パンツの中に一息に滑り込ませる。
「ぇ……えっ! ハレッ!?」
瞬間、グゥは椅子から転げたように脚を跳ね上げた。しかしオレがグゥの上半身も下半身も
押さえているため、いくら身をよじっても逃げる事は出来ない。
そうこうしているうちにオレの両手に同時に急所を責められ、またグゥはその身から力が抜ける。
パンツの淵に溜まっていたのだろう、ローションがオレの手の間を抜け流れ込んでくる。
それのせいか、オレの手が元々ローションに塗れているせいか、グゥの女の子の部分はやけに
ヌルヌルと粘着質な感触を指に与える。まるで最初からとろとろに濡れていたようだ。
そこの形を確かめるように、指先をゆっくりと撫で付けながら徘徊する。脚の付け根をなぞり、
下腹部を触診するように慎重に触れながら移動する。そのまま真っ直ぐに下り、ようやくグゥの
最も大事な部分に指が触れた。
そこはどんな形だったか。母さんのを見てしまった時は確か、毛の奥に隠れてよく解らなかったが
ちょっとグロテスクだった記憶がある。だけど今触れているものは何と言うか、一番近いものを
挙げろと言われたら、感触で言えばグゥのほっぺだろうか。柔らかくて、じわりと奥に熱を持っていて、
ツルツルと心地いい手触り。毛もまだ生えていないようだ。
周囲の柔らかいほっぺを揉みながら、中心に指を近づけていく。中指を這わせたそこには
ただ一本の浅い谷間があるだけのように思えた。
「ひっ─────!」
……そこを撫でた瞬間、グゥの身体がビクンと弾けるように大きく跳ねた。
「そ、そこはダメだ、今は胸だけで……」
薄らと涙を浮かべ、グゥが懇願するような目で見詰める。
だけど、そんな顔で、そんな事を言われて、止まれる程の理性はオレには残っていなかった。
中指で中心の溝をなぞりながら、残りの指で柔肉を揉みこねる。自分のよく知らない場所を触るのは
少し怖い。慎重に、優しく表面を擦る。
「ホントにダメだ……ハレ…ダメ……ッ」
それだけでもグゥは身体をぶるぶると震わせ、ダメだ、ダメだ、と小さく呟きオレの腕をぎゅっと
握り締める。余程敏感な場所なのだろう。より慎重に、ゆっくりと指を動かす。
小刻みな身体の震えの波の中に混じっていた大きな波の間隔が、徐々に狭まってくる。それが
どちらの波とも付かぬ程に激しくなった時、グゥはがばっと顔を上げ大粒の涙を零す瞳でオレを見上げた。
「…………離して……ハレ……」
「─────ッ」
その瞳から感じたものは、本当の拒絶。
オレの身体から、瞬時に力が抜ける。拘束から解かれたグゥはすぐさまオレから離れ、
一目散に砂を蹴った。
……グゥが、オレから離れていく。砂の足音が、迷い無く遠のいていく。
あんなに、心に誓っていた事なのに。オレは結局、保険医の息子なんだ。
身体が動かない。もう、グゥを追う気力すらなかった。
ザバァン、と。不意に背後から大きな波音が聞こえた。その音にかき消されるように、グゥの
足音が耳に届かなくなった。ふと顔を上げる。母さんたちの元へ走り去ったならまだ姿が見えて
いるはずなのに、その方向には何も見えなかった。
次いで、先ほどからジャブジャブとけたたましく水音を立てている海の方角に目を向ける。
…………いた。
海に腰まで浸かり、遠くを見詰めている。時折ぶるっと大きく身体を揺すり、その表情は
どこか恍惚としているように見えた。
「あ゛〜〜〜〜〜〜〜〜〜…間一髪……」
大きく吐き出した息のついでのように、妙な声を上げている。
……まさか。
…………まさかまさか……。
さっき、腰をくねらせていたのは別に、自身を慰めていたワケじゃなくて……。
「お、ま、え、な〜〜!!」
ザブザブと、着衣が濡れるのも構わず大股で波をかき分けグゥの前に立つ。
「どうした。……泣いてるのか?」
「……ッ! ねーよ!!」
慌てて海水で顔を洗う。グゥに言われてはじめて気付いた。すぐに止まったが、自分でも
何の涙なのかよく解らなかった。
「おい、今グゥの周囲はバイオハザード警報が発令中だぞ。顔を洗うなら向こうでした方が
賢明だと思うのだが……」
「……お前、やっぱりおしっこ我慢してたのかよ……」
「…………やだ、ハレったら」
頬に手をあて、思い切りわざとらしく恥ずかしがるこの奔放極まりない少女にオレは何と
言ってやればよいのか。オレの涙も後悔も反省も安堵も全て丸ごと空回りですか。
結果としてはそれで良かったけれども、なんだか素直に喜べない。
「お前、それならそうと言えよ、ちゃんとさ〜」
「グゥとて、乙女じゃけえのぅ……」
どこ生まれだよアンタ。なに黄昏てんですか。
「さすがにあの場で漏らすワケにもいくまい。そもそも、ハレが悪いんだぞ? せっかく
我慢してたのに、いきなりあんな事……」
「ぅ゛……そ、それは悪かったけどさ……もっと早く言ってくれれば良かったのに」
「……そんな余裕、無かったからな。ハレがテクニシャンなのが悪い。あれは逃げられん」
「…………へぇ」
そんな事を言われても、オレには自分の腕の程なぞ解らない。しかしそんな事を言われては、
その言葉の真偽に関わらずこちらが折れるしかない。くそ……やはり納得がいかん……。
「それより、ちょっと向こうへ行ってろハレ」
言いながら、グゥはいきなりピシャピシャと水をかけてきた。
「な、なんだよいきなり。オレは気にしないって」
「そうじゃない。ぱんつを洗いたいんだ」
「……は?」
「そのまましてしまったからな。ちょっと脱いで濯ぐだけだが、今のままよりは良かろう」
……なんとも律儀な事を言う。やっぱり、グゥでもお漏らしは恥ずかしいのだろうか。
「それって、オレがここにいちゃ出来ない事?」
「……エロガッパ」
オレをジロリと睨みつけ、まだたくし上がっていたブラを素早く下ろす。
完全にセクハラ野郎扱いだ。
「あー、どーせそーですよ。もう、認めるっての!」
「……開き直ったか…じゃあ、ハレも脱げ」
「うぇぇええ!? な、なんでオレが?」
「グゥだけ見せるのは癪だからだ。それにハレばかりグゥの身体を味わいおって。不公平だぞ」
「そんな大仰な……」
「いいから、見せろ。触らせろ」
「………はぁ」
……勝てない。
それに確かに、グゥの言う通りだ。下手すれば、オレにお漏らしまで見られていたかも
しれないのだから。
オレは罪滅ぼしの意味も込めて、渋々承諾した。
「んじゃ、いくぞ……」
「ほれ、早く」
水面に浮かぶオレの影を真っ直ぐに見詰め、グゥはワクワクと上機嫌に眼を輝かせている。
オレは溜息を一つ吐くとズボンに手をかけ、勢いよくトランクスごと一息にずり下ろした。
ズボンに溜まっていた空気が抜け、海水が一気に流れ込んでくる。
広大な大海原に下半身を曝け出している。なんだか、少しの不安感と開放感が入り混じった
妙な気分になってしまう。
「……ほう」
「……なによ」
「いや、やはりここからじゃ良く解らんな、とな。……触ってもいいか?」
「もう、好きにして……」
どうせ何を言ってもグゥの思い通りにしかならんのだ。むしろ下手に口を挟むと状況が悪化しかねん。
そうなるくらいなら素直に従っておこう。……実の所、グゥに大事な所を触られてしまうと言う背徳感に
オレの胸は静かに高鳴りはじめていたのだが。
「なんだ、柔らかいな」
グゥはおもむろに人差し指と親指で、オレのものを摘み上げた。
「そりゃそうだよ。グゥが逃げたのに驚いたし、水は冷たいし。そりゃ萎えるっての」
「グゥを弄ってる時はビンビンだったのか?」
「ちったー言葉を選べ、乙女! ……ビンビンだったけどさ」
「ふむふむ」
何故かオレの答えに満足げに頷き、グゥはオレの前で屈み今度は両手で弄り出した。
掌にオレのものを乗せ、もう片方の手でぷにぷにと突いたり、先を摘んで持ち上げたり。
分身を支えている手の指先が時折、袋に触り、くすぐったくてどうしても身体が震える。
「───あダッ!?」
グゥが先端の皮を引っ張り上げた時、中の粘膜に爪の先がかすり、股間から脳天まで鋭い
痛みが貫いた。思わず腰を思い切り引き、グゥの手から離れる。
「ど、どうした?」
「いや、なんでもない大丈夫。でももうちょっと優しくして……」
「すまん……デリケートなんだな」
「周りの皮はそうでもないんだけどね。中身がさ」
「ほ、ほほう……皮と中身、ね……」
グゥは興味深げにふむふむと唸りながら、またオレの股間に手を伸ばした。
やはり片手は竿を支え、よっぽど興味がわいたのか、もう片手で皮の先端部分ばかりをくにくにと
弄る。余った皮に指の腹を擦り付け、口の部分を摘んで揉みこね、時に竿全体をすべすべと撫でる。
継続的に淡い快感を与えられ、早くもそこに血が流れ込んでいくのが解る。
分身を乗せている方の手も波の加減かゆらゆらと円を描くように動き、それも密かに快感だった。
「おぉ……?」
一度その気になれば早いもの。あっという間に硬度を増し、ピクンピクンと脈を打つように
跳ねる度に首を高くもたげ、そのサイズも肥大していく。すぐにそれはパンパンに張り詰めた
状態に変化した。余っていた皮も外側に引っ張られ、皺だらけだった先端から少しだけ赤い
粘膜部分を露出させている。
「す、凄いな……。何と言うか、ケモノだな。ハレの凶悪な本性がここに潜んでいると言うワケだな?」
「好きに解釈すりゃええ……」
やっぱり、これは恥ずかしい。グゥはやけに感心した様子で、今にも拍手の一つも飛び出さん
ばかりに興奮している。
……膨張したオレのものを見て興奮するグゥ、なんて文面を想像すると、より一層オレの分身は
堅牢なものになっていく。男って、自分で言うのもなんだが単純と言うか、馬鹿だ。
しかし、そこまで言われる程凶悪か。自分じゃ解らんが。グゥにその辺を訊ねてみた所、
「佇まいというかスタイルというか、存在が凶悪」なのだそうだ。さっぱりわからん。ただ、
サイズとか見た目とか、そーゆー話じゃあない事は確かなようだ。……どうせ、年相応ですよ。
「次はグゥだぞー」
「あ……あ、ああ。うむ。……ハレが洗うか?」
「いらんっ」
こんな時にもこいつは冗談を忘れない。ある意味サービス精神旺盛というか仕事熱心と言うか。
グゥは家で着替えでもしているようにさらりと腰に手をかけ、すました様子でするりと、物凄く
中途半端な所まで水着を下ろしてこちらをジッと睨んできた。……具体的には、オレの、ものを。
「ハレ。いいかげんそれを鎮めろ」
「は?」
「そんなにやる気満々なものをこちらに向けられては、無防備な姿になるのが怖い」
そう言って銃口でも向けられたような眼で見詰められているオレの分身は勿論バリバリの臨戦態勢を
保っている。当たり前だ。目の前で愛しの少女が下半身スッパになろうとしている最中に萎える男が
何処にいる。
「グゥがそんなカッコで目の前にいる以上、無理」
こればかりはどうしようもない。直球で伝える。
「むぅ、パンツを洗うのも命がけだな」
いや、命まではかけんでもええがな。っつうか、貞操も大丈夫だっての。
グゥはもう一度オレのものを見ると、諦めたように溜息を吐き再度パンツに手をかける。
途中まで降ろすとあとは勝手に水中を漂いながら足首まで下りていく。それを足の指で
器用に摘み、持ち上げて手に渡す。ベルに怒られそうなくらいお行儀が悪いが、目の前で
その格好で脚を広げられたオレとしては言葉もなかった。生まれて初めて海の環境汚染と
水質の浄化について真剣に考えた瞬間だった。一瞬だけだったけど。
「……なんだ、いつまでそうしているつもりだ? 貧血で死ぬぞ」
「いや、大丈夫っす」
じゃぶじゃぶとパンツを洗いながら、怪訝な眼差しでまた見詰めてくる。
なんだか、本当に心配しているような目つきだ。
「もしかして、その、発散しないと収まらないのか?」
「いやいや、ほっといたら治るから。勃つたんびにしてたら、身がもたんわ」
「……普段そんなに勃ってるのか」
「ぐっ……」
墓穴を掘ってしまった。いや、実際普段そんなに勃っているのだが。普段は特別
気にかける程の現象じゃあ無いねってくらいに勃っているのだが。
「……ちょっとした拍子にすぐ元気になるもんなの、コイツは」
「ほ……ほほぅ……男とは大変なんだな」
「それにさっきまで、グゥとあんな事してたんだから、当分収まんないよ……」
「…………ふむ」
そう、先ほどまでグゥの身体を思うように弄んでいたのだ。いくら海の水で冷やしたとしても、
身体の芯で燃え上がった熱がそんなに簡単に冷めるはずも無い。
一旦は萎えたとしても、発散するまではまたすぐにこの状態に戻るだろう。お屋敷に帰ったら
まず最初に長めにトイレに入るであろう事はほぼ確実だった。
「……お互い様、という事か」
グゥは腰に手を当て、「なるほどな」と呟くと、真っ直ぐにこちらに向かってきた。
「え……? え? え!?」
そしてオレにぴたりと寄り添い、オレのものをオレとグゥの身体で挟み込む。
次いでオレの肩に腕を回し、そのまま唇を重ねた。
驚いて何も出来ないオレのぽかんと開けた口の中に、素早く舌が滑り込んでくる。
舌を絡め、唾液を掬い取り、それをまた口内に塗り付ける。
ぷは、と唇が離れた瞬間、唇の間に引いた糸が海面にまで届き、波に融けていった。
「グゥも、身体の火照りが止まらん」
「ぐ、グゥ……」
「ハレにいろいろ弄ばれたせいだからな……」
「───うぁッ?」
グゥは片手を水面に着け、おもむろにオレのものを握り込む。
「熱いな……」
小さくそう呟くとグゥはオレのものをぐっと前に倒し、そのまま真っ直ぐに自分の下半身に突き入れた。
「ぅあ! ふあぁっ」
……グゥの中に、入ったと思った。実際には、グゥの股と閉じた太ももに挟まれた状態になっていただけ
だが、経験の無いオレにはその区別など付かず、どちらにせよオレの分身にとってそれはとんでもない
快感である事に変わりはなかった。
ひたすら柔らかく、それでいてしっかりと適度な張りを残した圧迫感。
細い隙間に無理やり挿し込んだせいで包皮が剥き下ろされ、ほとんど外気に触れた事の無い敏感な
部分が完全にその姿を露出させていた。
ゾクリと、背中に冷たいものが走る。そこは自分を慰める時にも触れた事の無い場所。最近やっと
剥け切ったばかりの、まだ乾いてもいない傷口のようなデリケートな場所。そこに触る事なんて、
お風呂でおっかなびっくり洗う時くらいのものだ。それが今、グゥの柔らかい肉に包まれている。
少しの恐怖とそれを遥かに上回る高揚感が、オレの鼓動を高めていく。
「────ンぅぅッ!!」
剥き出しの状態の亀頭が太ももに擦られ、そのあまりに強い刺激にカクンと膝が折れる。
なんとかグゥの腰を抱き身体を支えるが、少し動くたびにビクビクと痙攣してしまう。
「なるほど、ハレの弱点か。形勢逆転だな?」
グゥはニヤリと笑うと腰をゆっくりと前後させはじめた。カリの広い部分がグゥの粘液で濡れた
スリットとこね合わさり、感じた事の無い快感と痺れるような甘い痛みが同時に身体を襲う。
先端部分はその殆どを太ももに揉み潰され、竿がゆっくりとグゥの肢体に埋まる度に鈴口が
パクパクと開く。
「か…は……っ」
喉元から何かを吐き出すように声が漏れた。
地獄のような快楽と苦痛の連鎖に、頭の芯がチリチリと痺れ、思考が定まらない。
オレはすがるようにグゥの胸にしがみつき、倒れないようにするのが精一杯だった。
「もっと、よくしてやるぞ……」
「ふ、ぐぅッ!? ……ぅあ、は、ああああッッ!!」
不意に、グゥは太ももを強く閉じたままぐりぐりと捻るように脚を交差させた。
太ももの片側にカリ首を根元から引っ張られ、その柔らかい肉に食い込んだまま傘の裏側を
勢い良くズリズリと摩擦される。もう片側には逆に押し込むように圧迫され、先端部分を
押し潰されたまま強引に擦り上げられる。
更にカリの上部は蕩けるようにぬめったプニプニの餅のような感触に優しく包まれ、
混ざり合いそうな程に絡み付き、吸い付いてくる。
「やめ、やめ……ダメだよ、こん、な……ッ」
パンパンに腫れ上がった敏感な部分にあらゆる方向から異なった刺激を素早く交互に、
擦り切れんばかりに何度も何度も与えられる。自分の分身に今どんな種類の刺激が
加わっているのか、もはや判別も出来ない。
「ダメ、っは…ホントに、ダメだよぉ……うんンッ、オレこんな…死んじゃう、よぉ……ッ」
何度も息を継ぎ、震える声で訴える。呼吸をする度にとろみがかった唾液が零れ、
だらだらとグゥの胸元に糸を引いた。
身体中が茹るように熱い。特に頬と額は湯気が上がっているのではと思う程沸騰し、
薄らと目頭に溜まる涙に視界がぼやけていく。
グゥに腰を強く抱かれ、逃げる事も出来ない。オレはグゥに力なく持たれかかったまま、
その拷問にも似た愛撫が止むのをただ待つしかなかった。
「ふふふ、お返しだ。ハレも離してくれなかったろ」
グゥはそんなオレの様子を舌を舐めずりながら見下ろしていた。オレ以上にふぅふぅと
短く早く息を切らせ、酷く興奮しているように見える。
「オレは、はっ、離したろッ!」
「む、そう言えばそうだったか。……ギリギリでな」
言いながら、グゥはニヤリと笑った。
その意味深な言い回しと表情に一抹の不安を覚える。が、それに構っていられる程の
余裕も今のオレには残されていなかった。
グゥは更に激しく太ももを擦り合わせ、オレの分身を搾り込み、捏ね回す。腰を扇情的に
グラインドし、前後運動も加え、オレはいよいよその快楽に逆らえなくなっていく。
親指よりふた周りほど大きいだけのただの棒を掴まれているだけなのに、今やオレの全身は
グゥに完全に掌握されていた。
「やっ、やっ、も、や、やだ、いく、でるぅ……ッ」
鼓動が際限なく加速する。息が細切れにしか出てこない。
身体の芯に灯る熱が、一直線にオレの分身へと流れ込んでいく。尾てい骨のあたりから
竿の根元までを甘い痺れが広がり、腰が小刻みに震えだす。根元からじわじわと快楽の波が
昇りつめ、その出口へと辿り着こうとした瞬間……
ふ…、と。オレのものを締め付ける圧迫感が、消えた。
「そ、んな……」
ぼやけた視界で前を見る。グゥはオレの身体から離れ、少しずつ後ろに下がっていた。
オレの分身は今や何にも触れてはおらず、ただ波の流れに逆らうように真っ直ぐそそり
立っているだけだった。
あとほんの少し、もう一擦りでオレはその熱情を放出できていただろう。腰はまだ震え、
分身に灯った熱も高まるばかりで、甘く切ない痛みが鼓動のようにズクズクと疼く。
「グゥ、なんで……」
「……もう、出そうなのだろう? だから解放してやったのだ。……ギリギリで」
「…………ッ」
腕を組み、ニヤニヤと口端を歪め、グゥはオレから二人分ほど離れた所で足を止めた。
……先ほど感じた不安は、コレだったか。こんな復讐を企んでいたなんて、幾らなんでも
酷すぎる。
分身に灯る熱は一向に収まる気配を見せず、むしろますます充血しビクビクとその脈動を
大きくしている。
このままじゃ、波の流れから受ける刺激だけで達してしまいそうだ。ここまで来て、
それは絶対に嫌だ。自分で触るなんてのも、虚しすぎる。オレは半ば麻痺したかのように
筋肉の弛緩した脚を動かし、ゆっくりとグゥに近づいていった。
「そうだ。ここまで来い」
グゥはそんなオレの姿に満足げに微笑み、両手を大きく広げた。思い通りの行動、って所か。
だけど、それでもいい。グゥに包まれて、グゥの身体にこの欲望を発散出来るなら。
一歩ずつグゥの傍に寄る。水の抵抗だけで、本当に出してしまいそうになる。グゥの身体に
触れた瞬間、それがどの部位だったとしてもオレのものは即座に暴発してしまう事だろう。
手を伸ばし、母の所に辿り着こうとする赤ん坊のようによたよたとおぼつかない足取りで
前に進む。
そうしてようやくグゥの目の前に到着した時、グゥは前に伸ばしたオレの手をきゅっと握って
引き寄せてくれた。
「ふふ。お疲れ」
「お前なあ〜。もう離さんからな、こんにゃろう」
「……うん。絶対、離さないでくれ」
「え……?」
オレの言葉に、グゥは穏やかな微笑みを返す。
一瞬、呆気に取られたオレにグゥはぐっと急接近し、
「───好きだ。大好きだぞ、ハレ」
直接、その言葉が息と共にオレの中に吹き込まれるくらいにすぐ傍で。そう小さな声で呟くと、
そっと唇を重ねた。
「…………ふっ? んっ───んんんふッ!!」
瞬間、ビクンと身体が大きく跳ね上がった。心臓が胸から飛び出したかと思った。
唇から入り込んだグゥの息吹が全身を駆け抜け、これまでにないくらいの大きな快感の
波となって一気に体外で放出された。
ドクン、ドクンと鼓動にあわせて強烈な快感が身体の芯を走り抜け、弾け飛ぶ。オレは
その最後の瞬間までグゥの唇を一瞬も離さないように、震える膝にぐっと力を込めていた。
やがて、体内に溜まっていた熱が全て外に排出され、波が収まっていく。途端に全身の
力が一気に抜け、オレはそのまま膝が抜けザパンと胸まで海に浸かった。
ハァー、ハァーと細く長い息を吐く。何が起こったのか、身体は理解していたが心では
今ひとつ納得できなかった。果たしてそんな事があるものなのか。いや、実体験した直後に
考える疑問では無いかもしれないが、しかし、俄かには信じ難い。
「どうした、ハレ?」
グゥがオレと同じように海にしゃがみ込む。突然オレがへたり込んだので驚いたのだろう、
心配そうな目でこちらを見詰めている。
「グゥ、あの、オレ……」
「……ん。脚に、ホースでぬるい水をかけられたみたいだった」
「……うん」
お互い、気恥ずかしそうに俯く。グゥもオレに何が起こったのか、一応は解っているようだ。
「我慢、出来なかったのか?」
そして何故かグゥは申し訳無さそうに、指を胸の前で弄りながらそう訪ねて来た。どうやら
グゥは、オレがグゥに辿り着く寸前で達してしまったのだと思っているらしい。
オレも最初はそうだと思ったのだが、多分違う。かといって、他の要因といえば一つしかない。
説明するのが恥ずかしすぎるのだが……ええい、ここは男らしく覚悟を決めよう。
「───多分オレ、グゥに……その、持ってかれたんだと思う」
「……え?」
「キスで、一気にキちゃったって言うか……」
「…………」
「それと、その前にグゥ、言ってくれたよね。好き、って。多分、一番の原因は……ソレ」
「…………ハレぇ……」
「い、いやまさかオレもそれでイ────っんぷ?」
照れ隠しに頭をかくオレに弾丸のようにぶつかり、グゥはオレの唇を奪う。そのまま
バランスを崩し、グゥもろとも海にドボンと沈んだ。
「────ぶはっ! お前いきなり何……」
「ハレ〜〜〜!!」
「ぉわあっ!!」
起き上がった瞬間、海面から飛び出てきたグゥにしがみ付かれまた海中に倒れ込む。
そんな事を、グゥが落ち着きを取り戻すまでしつこく繰り返した。
「鼻が痛い……」
「オレは耳ん中に入った……」
浅瀬にぐったりと膝を落とし、二人して息を切らせる。水中で暴れるのは危険だ。
特に塩水は場合によって思わぬダメージが追加されてしまう。グゥは目に涙を
浮かべながらしきりに鼻をかんでいた。オレも今日は塩分過多と診断されそうだ。
……塩水って、しょっぺえなぁ。当たり前だけど。
「……ハレ」
ぐいと目をこすり、鼻声でオレを呼ぶ。
「その、グゥはまだ……」
頬を染めて俯き、自らの腰を抱いて身をもじる。目だけをちらちらとオレに向け、
グゥは一瞬きゅ、と唇を結んだと思うと静かに立ち上がった。
「体が、もう、熱くて……どうしていいかわからない……」
ゆっくりとオレに近づく。すぐ目の前にまで来たとき、オレの視界にはグゥの胸元が
いっぱいに広がっていた。
「特に、その、ここが……」
言いながら、ブラの肩紐の根元に指をかけ、ぐぐ、と持ち上げる。
徐々にせり上がる水着のラインに胸の肉が柔らかくついていく。胸の真ん中あたりで一瞬、
詰まったかと思うと一気に水着が鎖骨のあたりまで抜け、持ち上がっていた乳肉がぷるんと
元の位置に戻った。
……釘付けになった。男なら当たり前だ。グゥが今、どんな表情でオレを見ているかも解らない。
真っ白い小さな二つの丘の頂点に、ほんのりと盛り上がる桃色の突起。その更に中心に見える
ほんの小さな窪みや根元の皺。白い肌に粟立つ鳥肌までも確認できる距離に、それがある。
「早く、さっきみたいに。じっと見られると、辛い」
グゥは焦れたように声を上げ、胸をぐっと張る。一層に近づいたグゥの胸は、少し首を持ち上げ
舌を伸ばせば届くくらいにすぐ傍まで接近していた。
震える手で、柔らかい丘を掴む。まだ敏感な部分には触れず、周囲の肉をくにくにと揉み込む。
二本の指で円を作るように囲み、きゅ、と搾る。ぷっくりと盛り上がった肉の中心で、小さな突起が
ふるふると揺れた。
こくんと喉を鳴らし、突起に顔を近づける。ハァ、と熱い息をかけるとグゥはビクッと身体を
強張らせ、もどかしそうにオレの頬に手を添える。
「や、優しくな……最初は、そっとしてくれ……」
オレは無言で小さく頷くと、その胸のサイズに合わせるように口を小さく開き、盛り上がった
乳肉全体を口に含むようにちゅぷっと咥え込み、吸い上げた。
「ハレ様〜! グゥさ〜ん!」
「─────〜〜〜〜〜〜〜ッッ!!!?」
不意に遠くから聞こえた声に心臓ごと身体が飛び跳ねた。咄嗟にグゥを引っ張り込み、
また一緒にザバンと海中に沈む。
「あれ、海で遊んでたんですか?」
「ぶはぁッ!! はぁ……ろ、ロバート?」
水中から顔を上げると、砂浜の上を真っ直ぐこちらに向かって来る背広姿の男の姿。
ロバートだ。……ロバートだよな。なんか黒いけど。
「どーしたのさ、ロバート?」
「はい、そろそろ帰る仕度をしますんでお迎えに!」
やっぱりロバートだったようだ。よかった。黒いけどロバートだ。
「もう帰るの? まだ日も沈んでないのに……」
「ええ。なんか、ひと雨来そうだってウェダさんが」
言われて空を見る。確かに、先ほどまで真っ白だった雲は鉛色に変化し、今や太陽を完全に
覆い隠しその空の殆どを埋め尽くしていた。風も随分と強くなっている。
「そっか。ありがとロバート? オレたちもすぐ行くから、そう言っといて」
「いえいえ、一緒に戻りましょうよ。片付けるのはマットだけですよね?」
「いやいやいやいーから、ロバート? は先、戻ってて!!」
冗談じゃない。ここに居座られたらオレたちは身動きが取れなくなってしまう。
オレもグゥも、下半身は丸裸なのだ。と言うか、オレは完全に素っ裸だ。
くそ、良い所で邪魔をしおって。……いや、まぁお屋敷に帰っても部屋で続きをすればいいか。
……オレって、ゲンキンだなあ……。
「……あの、ハレ様?」
「何、ロバート?」
「さっきから、俺の名前が疑問系になっている気がするんですが?」
「いや……何ていうか、今の姿がどうもいつものロバートの印象と相容れなくてね」
「え? あ、ああ。確かにそうですね、すいません」
「謝る事じゃないし別に良いけどね」
言われて今気付いたように、ロバートは自分の身体を見て頭をかく。
「ネクタイ、締める時間が無くて。ハレ様たちを呼びに出されて急いで着替えたもので」
「いやいやいやいや知らんよそんな細かいとこは!! もっと大局的に変動した部分あるっしょ!?」
ははは、と何故か気恥ずかしそうに照れ笑いを浮かべるロバート。そう言えば、いつも
きっちりと締めているネクタイは無く背広もシャツも全開にはだけていた。よっぽど
急いだのだろう。
……じゃなくて。なんでこうあのお屋敷のメンツは皆天然ボケが好きなのか。
「ああ……そんなに、印象変わりました?」
「変わった変わった。最初誰かわかんなかったもん」
「そうですか……なるほど、変装の手段としては一考の価値があるかもしれませんね」
はだけた胸元や腕をしげしげと眺め、何かを納得したように頷く。こいつの頭の中では今、
非常に物騒な物事が渦巻いているのだろう。
「それにしても、グゥさんも結構印象変わりましたよね」
「……そうか? 照れるな」
「へ?」
ロバートが目線を送った先、オレの隣にはもちろんグゥがいる。
黒いけど。
黒いけど………
「いやいやいやいやいやいやちょーーーーーー待てやあああああ!!!!」
「いやあ、一日で焼けるもんですね」
「うむ。太陽の力とはかくも強大なものよ」
「もしもーしグゥさーん!? 一体いつ、なにが、どう化学変化を起こしてそんな御姿に!?」
あああああああもう、ロバートはともかくグゥに関しては突っ込むだけ無駄なのだろうが
しかしこれが突っ込まずにいられるか。
「何を言っておる。お前が日焼けぐすりを塗ったのだろう」
「いやそんなどこから突っ込めばいいのかわからんけどとりあえず塗ったから焼けるとか
そーゆーマジックアイテムじゃないですからね!?」
「へぇ、やっぱりハレ様が塗ったんですか」
「うむ。全身くまなくムラなく塗ってくれてな」
「へ、へぇぇ……。お二人の仲はそこまで……なんだか少し妬けちゃいますねえ」
和気藹々と談笑を楽しむこの超狡猾と超天然のゴールデンタッグに対しオレの突っ込みなど
何処吹く風か。ええ、もう。慣れてますよ、この程度。
っつーか、またロバートにいらぬ誤解を……いや、誤解じゃなけどとにかく、いらん事を
吹き込むのは止めて頂きたいのだが。
「あっ……すいません、俺、お邪魔でしたか?」
「いやいや、良く知らせに来てくれた。だがまあ、あとはグゥに任せて先に戻るがよい」
「はい! それじゃ、ハレ様。なるべく早く戻ってきて下さいね」
おお、珍しくロバートが空気を呼んだ。
もしかして、グゥはこれを狙ってワザとオレとグゥの関係を仄めかしたりしたのかな。
でも、ちょっと恥ずかしいな。母さんたちには、もっとタイミングを計って伝えたい。
「ちょっと待ってロバート!」
「え、はい何でしょう?」
「あの、この事、さ。母さんたちには内緒に……」
「……ああ! はい、それはもう、ご安心を!」
ロバートは胸をトンと叩き、快活な笑顔をくれた。
よかった。ロバートは基本的に危険人物だが、こう言う素直な性格や忠誠心は本当に
信頼できる。呼びにきてくれたのがロバートで良かった。
「───誰にも言いませんよ、海で遊んでいた事は!!」
「ぅえええ!? ちっ、違ぁぁあ!!!」
結局、最後まで天然っぷりを発揮してロバートは走り去った。数分後には、オレとグゥの事は
母さんたちに知れるだろう。明日にはお屋敷中に広まっているだろう。うう、明日から周囲の態度が
露骨に変化しそうで怖い。
「はぁ……どーしよー、グゥ」
「……まぁ、そう気に病むな……」
がっくりとうな垂れるオレの肩にそっと手を乗せ、子供をあやす母のような優しげな、
それでいて芯のある声でグゥは言った。
「どうせ、明日には皆に知れる事になっていたのだ……」
……そう、確信めいた力強い言葉を。
ああ、そうだ。いくらオレが情報の隠蔽に苦心しようとも、パートナーがその方針に
従ってくれなくては全くの無意味なんですね。そしてこの少女がそんな協力をしてくれる
なんて無根拠に信頼しても確実に裏切られると言う事こそ長年の経験から導き出した信頼の
置ける唯一の情報だったんですよね。
暗雲の切れ間から差し込む陽の光は一転して輝ける太陽を厚く重く覆う不吉な雲という
ネガティブな立場に切り替わり、その今にも雨の雫が零れ落ちそうな不安定な空はまさに
オレという存在を体言しているかのように思えた。……ホントに勘弁して下さい……。
「過ぎてしまった事は仕方あるまい。グゥたちも戻る仕度をするぞ」
「はーい……」
言いながら、海から上がったグゥはいつの間にかきっちりパンツを穿いていた。
そしてパンツからすらりと伸びる脚もしっかりと小麦色に焼けていた。
そこは日焼けローション塗ってすらいねえ。なんて、とてもじゃないが突っ込む事など出来なかった。
突っ込むだけ無駄、なんて理由じゃない。グゥの今の姿に、単純に言葉を失ってしまったからだ。
こんがりと健康的に焼けた身体に真っ白な水着が眩しい。新鮮と言うよりも、全く別の魅力を放出して
いると言うかなんと言うかもう、嫌でも如何わしい事に想いを馳せてしまいそうな悩ましさがあった。
……ロバートの事も、日焼けの事も、すっかり頭から消えてしまった。やっぱ男って単純だ……。
まぁ、確かに過ぎてしまった事を悔やんでも仕方は無い。しかし一つだけ、重大な問題を解決する必要がある。
さっき発散したばかりだと言うのに、またアレな事になってしまっているオレのアレをどうにかしなくては
海から上がる事が出来ない。とにかく、オレもさっさとズボンを穿かねば。
……えっと。ズボンはどこかな。
…………えっと。トランクスも……。
「……グゥ?」
「どうした、早くしろ」
「いやその。オレのズボンが、どこにも……」
「…………ふむ。流されてしまったのかもしれんな」
「……は」
「砂に埋まったのかもしれんが……どちらにしろ今から探すのは無理だろう」
「……はは」
「安心しろ。グゥのを貸してやろう」
「……はは、はははははは…………」
今、完全にオレの精神とソウルリンクを果たした曇天の空は、枯れ果てたオレの心を潤さんばかりに、
そしてオレの代わりに涙を流してくれているかのようにぽつりぽつりと大粒の雫をもたらした。
あっという間に土砂降りに見舞われた海岸をパレオ一丁の姿で走るオレの心に虹がかかる日は
来るのだろうか。
母さんたちのいた所まで戻ると、ロバートが一人手を振り待っていてくれた。
急いで他のみんなが待つ車へと駆け込む。
車の中はびしょ濡れで、みんな水着のままバスタオルを羽織っていた。
「下に穿いていた物を全て無くした」と言うオレに一同は生暖かい眼差しを投げかけてくれた。
泣きたかった。
大きな一枚のタオルに包まれるオレとグゥに対しても終始、似たような目線を送られたが
それは不思議と気にならなかった。
雨は帰る途中ですぐに止んだ。通り雨だったようだ。
雲の切れ間に虹を見た。
タオルの中でグゥと手を繋いで見る、晴れた空に掛かる大きな虹。
その光景は何故か、とても温かなものに思えた。
<<7>>
「それにしてもほんと、よく焼けたわね〜」
あれだけ燦々と輝いていた太陽も今は地平線の向こうに身を潜め、代わりに現れた
弓のように細い月が今は地表を淡く照らしている。
長い長いテーブルに過剰な程に並ぶ豪勢な夕食を隔てた向かいの席で、母さんが
嬉しそうに声を上げた。
「特にロバート! え、ちょっ、アンタ何があったの!? 声まで変わって!! ……って感じ!!」
拳を握り、鼻息荒くきゃっきゃとはしゃぐ母さんに、ロバートはオレの後ろで
恥ずかしそうに頭をかく。ちなみに声までは変わってないからね。
確かに、ロバートの焼け具合はある意味異常だ。保険医と並ぶくらい血色の悪かった
あのロバートが、ジャングルで暮らすオレや母さんよりもずっと濃く焼けている。
たった一日でここまでなるものなのか。今後、ロバートの体調に何か深刻な変化が
起こらないか微妙に不安だ。
「きっとあれよ、ロバートは日焼けの才能があったのよ!」
なんだそのレアな才は。そら人それぞれかもしれんが、もうちょっと真剣に考えてやれよ。
しかしまあ、本人は今のところいたって元気そうだし、その様子からも不安な要素は見当たらない。
今具体的に深刻な状況に陥っているアシオに比べたら、十分健康体と言っていいだろう。
「……大丈夫なの? 別に部屋で休んでていいのよ?」
「いえ、平気ですから、心配せんとって下さい」
かすれた声でそう返し、アシオは震える手で母さんのグラスにワインを注ぐ。いつものツナギ姿とは
打って変わった、ウェイターのようなスーツ姿がやけに様になっている。
袖口から先やきっちり第一ボタンまで留めた襟元から上。その肌の見える部分は全て痛々しく
真っ赤に焼けていた。アシオはさしずめ、日焼けの才能が無かったって所か。
「そうですわ、お嬢様。このくらいの事で弱音を吐いては、このお屋敷に勤める資格は御座いませんから、ねッ」
「おごほぉぉぉッッ!!」
言いながら、ベルがアシオの背中を思い切りひっぱたいた。破裂音、と言うよりも鈍器で殴ったような
重々しい音が食堂に響く。
アシオは背中を思い切り弓なりに反らせ、たたらを踏む。転倒までには至らずなんとか体勢を
持ち直したが、背中を向けたまま肩で大きく深呼吸を繰り返していた。きっと、泣いてるのだろう。
「まったく、大の男が情けない……。少しは私を見習いなさい」
そう言って髪をさらりとかき上げたベルの顔や手足はこれぞ日焼けの見本とばかりに健康的な
小麦色の肌に焼けていた。ある種、一番才能があったのはベルなのかもしれない。
「あーあ、可愛そ。誰かさんのワガママにつき合わされちゃって、ほんと可愛そ〜」
「…………あらあら、ウェダったら。それは誰の事かしらね?」
「……自覚が無い所が、性質が悪いわよねえ。ねぇ、母様もそう思うでしょ?」
「そうねえ。日焼けしよう、なんて最初に誰が言い出したのか、自覚が無いなんて困ったものよねえ」
「えぇえぇ、誰かさんが勝手に付いて来さえしなければ、こんな事には……ねえ?」
「それを言うなら、そもそもの原因は海水浴の立案者、よね。ほぉんと、誰かしら?」
「あらあら〜。それって、イジメッコよりもイジメッコが通う学校を建てた人が悪い、みたいな
言い草ね〜。さっすが、偉い人は言う事が違うわ〜」
「…………ちょっと。さっきから母親に対してなんですか、その口の利き方は!!」
「今はそんな話をしてるんじゃないでしょ! 自分の非を認めたくないからって話を逸らすなんて
卑劣よ、ヒレツ!!」
「あなたって子は……! だいたい、あなたが嫌味ったらしい言い方をするから!! そりゃあ
私だって悪いって思ってるわよ? でも何、その言い方は! だいたいあなたに責められる事じゃあ
無いでしょう!? アシオにはちゃんと謝ったのよ? これ以上何が必要だっていうの!?」
「解ってないわねぇ!! アシオを休ませてあげてって言ってるの!!」
「言ったわよ! でもアシオが聞かないんだからしょうがないでしょう!!」
「命令でもなんでもいいから休ませなさいよ!! 気が利かないわねー!!」
「私はアシオの意思を尊重しているのよ!! 無理に休ませたらそれこそ彼を傷つける事に
なるかもしれないでしょう!!」
「そりゃあお優しい事で! その殊勝な気持ちをもーちょっと早くアシオに見せてあげられなかった
ものかしらね!?」
「あれはアシオにも楽しんでもらおうと思って……本気で嫌がっていたら私だってそこまで
無理にするつもりはなかったのよ!?」
「これだから……使用人が母様に逆らえるわけ無いでしょう!? なんでそれが解んないかなー!」
「そ、そんな、逆らえないだなんて大げさよ! 私は普段、使用人にそんなに厳しく当たった覚えは
ありません!!」
「ほら出た、自覚が無いのよねーホンット!」
「え、え、え? ね、ねえアシオ? ベル? 私はそんなこと、しないわよね?」
「え!? え、ええ! それはもう、普段はとてもお優しい方ですとも、奥様!」
「そ、そやそや! 俺がここにいられるのも、奥さんのおかげやし。いくら感謝してもし足りんくらいですわ」
「ほ、ほら見なさい。私がいつもどれだけベルやアシオに心を砕いているか、あなたは知らないでしょう」
「ふぅ〜ん。ま、普段はそうでしょうね。普段は」
「な、なによ、その持って回った言い方は……」
「母様、スイッチ入っちゃったら目の色がお変わりになられるものねぇ」
「な、何の事ですか? 言いたい事があるならもっとハッキリと……」
「おおおおお奥さん、お嬢さん!! 俺ならホント、大丈夫ですから!! オレのためにそんな、
お二人が喧嘩するなんてやめてくださいよ!」
「アシオ……いいの、ホントに?」
「そうですよ、アシオに何かあれば、あなたのご両親になんと言っていいか……」
「そんな、大袈裟ですよ。全然、平気ですって! ね、先輩! 他になんかやる事あったら遠慮せんと
じゃんじゃん言ってくださいよ!」
「え…ええ。勿論、そのつもりよ。……でも今の所、ここにはあなたの仕事はもう無いわね」
「そ、そんな先輩まで……」
「勘違いするんじゃないわよ。あなたにはこの後の準備をしてもらいます」
「……! 例のアレ、ですか?」
「あなたも、楽しみにしていたのでしょう? 今夜のメインイベントなんだから、気合入れて
手筈を整えなさい」
「はい、先輩! それじゃ、奥さん、お嬢さん、坊ちゃん、グゥさん。俺はここで失礼させて
もらいます!」
そう言って、アシオは意気揚々と部屋から退散した。皆がそれを見送る中、ベルが腰に手を当て
皆に聞こえないように小さく溜息を吐いた。
……しっかし、一旦始まったらホント、はた迷惑だなこの親子は。
アシオが割って入らなかったらどこまで発展してた事か。情けないが、オレはただ黙って
見守る事しか出来なかった。
当の本人たちは、あれだけ騒いだ後だと言うのに、今は涼しい顔で並んで食事を再開している。
喧嘩するのはいいのだが、人を巻き込むなと言いたい。ロバートなどは完全に気配を絶ち
空気と同化していた。己のスキルを最大限活かした処世術、お見事と言っていいのだろうか。
それにしても、さっきのベルとアシオの会話は聞き捨てならないものがあった。
例のアレ、だとかメインイベントだとか、かなり不穏な空気を感じるぞ。
「ねえベル?」
「はい、何で御座いましょうハレ様」
ベルはオレが呼ぶとすぐさま笑顔を見せ、素早く足音も立てずにオレの隣にやってくる。
プロの動きだ。ってそれは今はどうでもいい。
「あの、何? 今夜のメインイベントって」
「…………」
「ベル?」
「あら、グゥ様も綺麗にお焼きになられて!」
「……へ?」
「普段の儚げな淡雪のような白妙のお肌もお美しゅう御座いましたが、健康的な小麦色もまたよくお似合いで、
素敵ですわ! 今日は新しいグゥ様の魅力をご発見なさって、宜しゅう御座いましたわね、ね! ハレ様!?」
「へ? え? あ、あの、えっと、そうだねえ……」
「ええ、本当によう御座いました。そうそう、私そろそろデザートの準備をしなくてはなりませんわ。
皆様は続けてお食事をお楽しみ下さいませ!! それでは、失礼致します!!」
一方的にまくし立て、ベルまでがこの部屋から逃げるように退散してしまった。それもまたある種、
プロの動きだった。
……一体、なんだってんだ。嫌な予感は益々オレの中で膨れ上がっていく。
「慌しいわねー。みんな疲れてるんだから、そんなにがんばんなくていいのに」
「それが仕事ですもの。ベルにもアシオにも、ウェダのその気持ちは十分、伝わっているわ。ウェダには
いっぱい、元気を貰っているのよ。あの二人も、私も」
「母様……」
いい感じに親子仲良く会話している丁度向かい側にいるはずのロバートは現在、完全にその気配を絶ち、
もはや存在すら忘れ去られている。その妙技もある種、プロのものだった。
「そうそう、グゥちゃんもホントに綺麗に焼けたわね」
いきなりこちらに話が飛んできた。
グゥも無言で目の前の皿から母さんの方に向き直る。
「どうよ、ハレ? いーでしょ。こーゆーグゥちゃんも、たまには」
「な、なんでオレに振るんだよ?」
「だって、ねえ。グゥちゃんはハレのために焼いたのよぉ?」
母さんはニヤニヤと歯を見せて笑い、オレとオレの隣に座るグゥを見比べる。
グゥは少し椅子を引き、慎ましやかにひざの上で手を揃え、何か言いたげにちらりとオレに
目を向けた。
確かに、グゥもベルと同じくらい綺麗な小麦色に焼けている。白いワンピースから見える
褐色の肌にはことさら強調されるまでも無く、とっくにオレの目は釘付けになっている。
これが健康的な色気と言うやつだろうか。……それをグゥから感じる事になろうとは。
胸元が開いてない今の服装では、水着の跡は見えない。ただ胸元から首筋に伸びる二本と、
大きく開いた背中を横断する一本の、細く残った白い線だけは確認できるがその程度だ。
だけど、それだけでも何故か少しきゅんときてしまう単純なオレの心。他の部分も、見せて
貰えるのだろうか。なんて邪な考えに軽く自己嫌悪を覚えるが、しっかり期待してしまっている
自分を偽る事も出来ず。情けないやら、いっそ逞しいやら。
「どう、かな……ハレ」
「……ん、うん。かわいいよ、グゥ」
どこか不安げにこちらを見詰めるグゥに、オレは正直に感想を述べた。
「かっ……それは、感想として正しいのか?」
「え!? や、いや、あれ?」
……しまった、また自爆してしまった。
二人して顔を真っ赤に俯くグゥとオレを前に、母さんは後ろを向いて笑いを堪えている。
おばあちゃんも頬に手を当て微笑ましげにご鑑賞なさっておられる。くそう、見世物の気分だ……。
「ったくもー、まっすぐなんだから。こっちが恥ずいわよ」
こっちも十分恥ずかしいんですがね。茶化すのはもう止めにして頂きたい。
「ご馳走様!! ほら、いくぞグゥ」
これ以上オモチャにされては叶わない。急いで夕食を平らげ、グゥを椅子から引っ張り下ろす。
「あら、デザート来るわよ?」
「いらないよっ」
「ふぅん、一人でグゥちゃん鑑賞会?」
「あーのーねー!! もう、そーゆーんじゃないってのー!」
「ああ、そうだったわね。グゥちゃんだったらなんでもいいんだもんね、ハレは」
「もー!! 知らないよ、もう!!」
「あらら、牛さんになっちゃった」
「ウェダ、いい加減になさい。あまり男女の仲に割り込むものじゃあないわよ」
「いいでしょ、これくらい。息子の恋路は気になるものよ、母としては」
「ウェダだって、クライヴ先生の事はなかなか教えてくれなかったじゃないの」
「な、なんでそこでその話が出てくんのよぉ!」
「私だって、母なのよ? どれだけ心配したか……」
「もう、何よいきなり、もー!!」
「あら、ウェダも牛さんになっちゃったわね」
「もぉ!」
ぷりぷりと頬を膨らませて狼狽する母さんから一瞬、こちらに目を切り、おばあちゃんが
ぱちんとウィンクをくれた。
助けてくれたのだろうか。あまり深く考えている暇も無い。オレはおばあちゃんに小さく
頭を下げ、グゥの手を引きこっそりと部屋から抜け出した。
しかし……ううん、やっぱりおばあちゃんって、よく解らない人だ。
「なあグゥ。おばあちゃんって、ホントはどんな人なんだろ」
「んー?」
廊下を歩きながら、グゥに話しかける。
「最初会った時はさ? 上品で清楚で、お金持ちの奥様ーって感じでさ。それに泣き顔ばっか
見てたせいもあるかもだけど……なんか、今のおばあちゃん見てたらアレは何だったんだって
思えてくんだよなー。イメージ違いすぎって言うかさー」
「ふむ。そうは言うが、ウェダと再会してからの祖母はいつもあんな感じではないか。それ以前の
祖母の姿なぞ、一日二日見た程度だろう?」
「……まあね」
確かに、オレの中のおばあちゃんのイメージが変わりはじめたのは、母さんと仲直りしてからだ。
それ以前の姿なんて、グゥの言うとおり短い間だけしかオレは知らない。でも、あのお淑やかで
どこか寂しげなおばあちゃんの印象がオレの中で大きいせいか、どうにも納得がいかないのだ。
「祖母とてハレとは初対面だったわけだしな。猫を被っていたのではないか? ……グゥのように」
「ああ、なるほどね。最後の一言で思いっきり納得しそうになった自分が哀しいわ……」
母さんといきなり取っ組み合いの喧嘩をはじめたり、夜中に眠れないオレに怪談話を聞かせたり……。
あれが本性なのだとしたら、もしかしたら母さんよりも手強い性格なのかもしれないな……。
「いえ、やはり奥様は随分と変わられましたよ!」
「おわぁっ!?」
突然、にゅっと後ろから現れた黒い影に思わず飛び上がった。
「な、なんですかいきなり……驚かさないで下さいよ」
「驚いたのはこっちじゃ! どっから現れたのさロバート!!」
心臓を押さえ肩で息をするオレを何故か訝しげな目で見詰める男……ロバートは
オレの言葉にますます眉をひそめる。
「あの、ずっと後ろから付いていってたんですが……」
「……いやぁ、全く気付かなかったよ?」
部屋を出る時も出てからも気配を絶ちっぱなしだったのだろう。髪も肌もスーツも黒いせいで余計に
存在感が消えている。
「ロバート、日焼けが治るまではスーツはもっと明るい色にした方がいいと思うよ……」
「は、はぁ……解りました……」
頭をかき、肩を落とすロバート。少し気の毒にも思うが、この姿で物陰に潜まれでもしたら本気で怖い。
ここはお屋敷の平和のためにも本人に努力してもらおう。
「……で、さっきの話の続きだけど、おばあちゃんが何って?」
「ああ、えっと、はい。ウェダ様と再会する以前の奥様は、今のように……何と言うか、明るい姿を
お見せになることは殆どありませんでした」
「やっぱりそうだったんだ……」
「俺たち使用人には努めて平静に振舞っておられましたけど、時折、ふっと哀しげなお顔をお見せになる時が
ありまして。……その原因は、勿論我々も知っていました。でも、こればかりはどうする事も出来ませんから。
ベルさんも、いつも悩まれていましたよ……」
当時を思い出すように、顔を伏せて鼻をすする。オレにはとてもその様子を想像する事は出来ないけれど、
十一年と言う歳月の長さをロバートの表情は十全に物語っているように思えた。
「あんなにお元気な奥様を見るのは、俺ははじめてです。これもきっと、ウェダさんのおかげだと思います」
パッと持ち上げたロバートの顔はまるで憑き物が取れたかのように晴れやかで、まるで自分の事のように
誇らしげで、本当に嬉しそうだった。
『───ウェダにはいっぱい、元気を貰っているのよ』
食堂で聞いた、おばあちゃんの言葉を思い出す。ロバートたちも、皆きっとおばあちゃんと同じ想いで
いるのだろう。
そう言えば、いつか母さんが言っていた。ベルもアシオもロバートも、みんな、家族だって。
臆面も無く、当たり前のようにそんな事が言える母さんだから、みんなも、あのおばあちゃんも素直に
自分を出せるのかもしれないな。
「そうですわ! お嬢様はこのお屋敷の太陽なのです!!!」
「おわぁぁぁッッ!!」
どこから湧いて出たのか、突然現れた人影にまた飛び上がった。このお屋敷の人間はどうしてこう
みな同じような行動を取るのか。
「べ、ベル!? どうしたの、こんなトコで?」
「11年……それはもう長い長い、筆舌に尽くし難い程の風霜で御座いました。奥様はその日々をどのような
想いで耐えておられた事か……」
ベルはオレの声が聞こえていないかのように……実際、聞こえていないのだろうが……ぽろぽろと零れる涙を
スカーフで拭い、ぐすっと鼻をすすった。
「幼き頃の蒲柳のお姿、今もつい先日の事のように思い出せますわ。そのお嬢様があんなにも溌剌とした姿を
お見せになられて……。こんな事を、私などが口に出しすべき言葉ではない事は重々承知致しております。
でも、少し……ほんの少しだけ思う時があるので御座います。お嬢様はこの家をお出でになられて、良かった
のではないかと。この11年間があったからこそ、お嬢様はお変わりになられた。奥様との確執も晴れ、今は
あのように遠慮の無い会話をなされて……。私は、このような時が来る事を何よりも望んでいた気がするので
御座います……ッッ!!」
いよいよ溢れ出す涙を隠すようにスカーフで顔を覆い、目を押さえぐいと拭う。ついでにブフーと鼻をかみ、
流れるように優雅な動きでスカーフを折り畳み当たり前のようにロバートの胸ポケットに仕舞った。
ロバートは文句を言う事も突っ込みを入れるタイミングも見失い、ただその身を凍りつかせていた。
この遠慮の無さは家族の間のそれとはまた別種のような気がするが、あえてオレも突っ込むまい。
「申し訳ありません……少々、取り乱してしまいました」
「いやあ、普段から多々取り乱してるとこ見てるし、気にしてないよ?」
まだグスグスと鼻をすすりながらも、深々と頭を下げる。ようやく落ち着きを取り戻したようだ。
「お嬢様と再会してから、奥様は本当に笑顔がお増えになられました。いいえ、笑顔だけでは御座いません。
あのように感情を露にされる事は、お嬢様がこのお屋敷におられた頃ですら稀だったので御座いますから。
お嬢様と同じように、奥様もお変わりになられておられるのですわ」
改めて、母さんの影響力を思い知らされる。オレにとっては、ただのワガママでだらしないダメ人間としか
思えないのだが、そのワガママでだらしない所を隠さずさらけ出せる所にみんな惹かれていくのかもしれない。
そのワガママに四六時中付き合わされる身としては、あまり喜べないのだが。
「ハレ様のことも、奥様は本当に喜んでおられましたよ」
「え、お、オレ? なんでさ?」
「お嬢様のお腹の子の事も、ずっと奥様はお気になされておられましたから。ですがハレ様のお姿を見て、
本当に安心なさったようで御座いますよ」
……そうか。母さんがこの家を勘当された原因は、オレが出来ちゃったからなんだよな。
オレもその事で随分悩んだけど、おばあちゃんは喜んでくれていたんだ。
「こんなに優しくて可愛らしい男の子に育ってくれているなんて、きっとお屋敷ではこうは育たなかったろう、と
いつも仰っておられますのよ」
「そ、そんな……ちょっと大袈裟だってそれは〜」
顔がみるみる熱くなっていく。面と向かってそんな事を言われると、さすがに恥ずかしすぎる。
「ハレ様を、大事なお友達のみんなに紹介してあげたい。とも、いつも仰っておられますわ」
「と、友達?」
おばあちゃんの友達、って、みんな大人だよな、多分。もしかして、お金持ちにありがちな
社交界とかパーティーとか、そう言うやつだろうか。ちょっと堅苦しそうで、気乗りはしないけど。
「えぇ。奥様はそれはもう、大のお人形好きで御座いまして。特に気に入っておられるのがメリーちゃん……」
「───うぇえええええいやああああああああああああ!!!」
瞬時に、おばあちゃんに聞かされたあの物凄く嫌な話が脳裏を高速で駆け抜ける。
二度と思い出したく無かったのに……今夜も安眠できるか心配になってきた……。
「ど、どうなさいました、ハレ様?」
「い、いえいえいえ、なんでもないですよ……。そ、それよりさ、どうしたのベル? 食堂の方はもういいの?」
げふげふと咳き込みながら、なんとか別の話題を探す。放っておいたらベルからもメリーちゃん絡みの
ヤバイ逸話を聞かされかねない。
「奥様とお嬢様には、他の使用人を当たらせておりますわ。私はお嬢様のお使いで御座います」
「お使い?」
「はい。今夜はちょっとしたイベントが御座いますので、早めに汗をお流しになられますよう、お願い致しますわ。
グゥ様、お嬢様が日焼け跡を早く見たいと仰っておいでですわよ」
言いながら、ベルはにこりとグゥに微笑を向ける。グゥは何故かオレの方をちらりと見てから小さく頷いた。
「私も呼ばれたので御座いますのよ……ああ、お嬢様に私の恥ずかしい日焼け跡をじっくり、たっぷり、
舐り上げるように目で犯されるので御座いますわねーーーー!!!!!!!!!」
お屋敷中に響き渡らんばかりの絶叫と共に、長い廊下の先の先まで槍のように一直線に飛んでいく鼻血。
アレに当たったら冗談抜きで貫通するんじゃないか。いらん想像をして心が冷えた。
「それでは、私も入浴の準備を致しますのでこれで失礼させて頂きますわ。ハレ様、ご入浴がお済みになられましたら
3階の談話室にお越し下さいませ」
それだけを言うと、ベルはしずしずとその場を去った。その姿が廊下の先に消える頃にやっと、
イベントってのは結局何なのか、聞きそびれてしまったことに気が付いた。
「ねえロバート。イベントこと、聞いてる?」
「いえ……すいません、俺もよく知らないんですよ」
申し訳無さそうに頭を垂れるその様子からは、嘘や誤魔化しといった雰囲気は感じられない。
きっと本当に知らないのだろう。海での件もそうだが、ベルやアシオが企んでいる事は何故か
ロバートに伝わっていない事が多い気がする。信用されていないワケじゃあないのだろうが、
ロバートは隠し事が出来ない性格だ。その辺を考慮してロバートには知らせていないのだろう。
「まあ、いいや。ところで談話室って、どこにあるの?」
「はい、それなら解ります。中央の大階段がありますよね。踊り場から二股になっていますが
右の階段を上ってですね、3階のプレートの右手を……」
「ちょ、ごめん、さっぱりわかんないから一緒に行ってくれないかな?」
「あ、はい勿論それは構いませんが……」
ロバートはどこかバツが悪そうに鼻頭をかくと、視線をグゥとオレの間で何度か往復させ
おもむろにオレの傍に寄り、ヒソヒソと耳打ちをしてきた。
「あの、オレ、お邪魔じゃないでしょうか?」
「え、な、なんで?」
つられてオレもひそひそ声で返す。
「いえその、ハレ様、グゥさんと一旦部屋に戻るんですよね? 部屋の前に俺が待機していたら、
落ち着かないのでは、と」
「…………」
どうやらロバートは物凄く下世話な気遣いをしてくれているようだ。いや、ありがたいですけどね。
しかし、もはやどうにもこの問題は言い逃れの出来ない所まで来ているようだ。明日が怖いなあ。
「じゃあさ、ロバートも一緒にお風呂入ろうよ。先にそこで待っててくれたらいいからさ。
上がったら一緒に談話室に行こ」
「……は、はい、俺は全然、それで問題ないです! それでは、早速!」
言うが早いか、ロバートは早足で廊下を駆けて行った。
騒がしい人々がいなくなり、真っ直ぐな廊下を突然静寂が襲う。一人きりだったら、自分の部屋まで
思わず駆け出していたかもしれない。
無言で少し手を横に伸ばす。すぐに、掌がきゅ、と温かな圧迫感に包まれた。
「いこっか」
「ん……」
オレからも手を握り返し、静かに歩き出す。部屋に戻るまでの間、一言も声を漏らす事は無かったけど、
何よりも楽しい会話を交わしているようにオレの心は柔らかい熱を感じていた。
<<8>>
「あー、なんかドッと疲れたなー」
部屋に戻るやいなや、ベッドに備え付けられた大きなソファに持たれかかる。
グゥもオレの隣にちょこんと座り、オレの肩に体重をかけた。
「グゥ───」
何を言う間も与えられず、唇が奪われる。
すぐにパッと離れ、グゥは頬を染めてくすりと笑った。
もう一度、今度はオレからグゥの頬に手を添え、唇を重ねる。
深く密着させず、舌も使わず、唇だけを味わうように優しく吸い付き、離れる。
そうして何度も、グゥと見詰め合いながらキスを交わした───
「───なあ、ハレ」
「……ん」
「そろそろ、風呂に行った方が良いんじゃないか」
「……んー」
グゥの髪を撫でながら曖昧な返事を返す。
今、グゥはオレの股の間にお尻を収め、その背中をオレの胸に預けて座っている。
「もうちょっと、このままでいない?」
「……ウェダが風呂で待ってる」
「ん〜……。もうちょっとだけ……」
グゥの髪に鼻を埋め、頭を揺する。後ろから肩に腕を回し抱き締めるとグゥは一瞬、身体を
弛緩させたがすぐに頭をぐりぐりと捻りオレの顔を押し戻した。
「遅くなればなるほどウェダの想像力に火がつくと思うのだが?」
オレの腕を解き、肩越しに睨みつけてくる。
……確かに、あまり遅れてはまたいらぬ詮索をされてしまいそうだ。
どうせ風呂から上がって、イベントとやらが終わればここに二人で戻ってくるのだ。焦る必要も
時間を惜しむ必要も無いか。
しかし、一つだけ今やっておかなければならない事がある。
「グゥ。水着跡、ちょっとだけ見せて?」
「……ケダモノ」
「違うっての!」
冷やかな目線をオレに送りながら、グゥは自分の胸をガードするように抱いた。
「手触りは違うのかな? 味も見てみよう、とか言ってまたグゥを慰みものにするつもりなんだろう」
「するかッ!! ってか、"また"ってなんだよ、"また"って」
「だいたい、日焼けの跡など別に今見なくてもいいだろ。もうちょっとマシな口実を考えろ」
「……今じゃなきゃ、ダメなんだよ」
「ほう、その心は?」
グゥは腕を組んだまま肩越しにオレを見上げ、次の言を待つ。
ああ、もう。最初の言い方が不味かったか。自業自得ってやつか……。くそう、また恥ずかしい事を
告白せにゃならんのか。
「……母さんに先に見られるの、悔しかったんだよ」
「…………」
「オレが最初に見たかったのッ!」
顔中が熱い。グゥの顔をまともに見る事も出来ず、中空に目を泳がせる。
しばし無言の時が過ぎるが、不意に大きな溜息がその沈黙を遮った。
「ハレは意気地があるのかないのか……」
「……へ?」
「…………なんでもない」
グゥは何度も小さく溜息を付き、ぴょんとソファから降りると落ち着き無くオレの前をうろうろと
うろつく。最後にもう一度大きく息を吐くと目の前でぐっと屈み込みオレに顔を突き出した。
「……一瞬だけだからな」
「…………」
グゥは怒ったような困ったような顔で口を尖らせるとすっくと身体を起こし、ドアの前まで
歩きくるんとこちらに向き直る。
「……ちょっと待ってろ」
そしてそう言うと、グゥは突然後ろ手にスカートを捲り、ごそごそと何かを弄りはじめた。
こちらからはスカートの内部は見えないが、オレはその光景をただ呆然と見守るしかなかった。
「……よし。いいか、一瞬だけだぞ?」
「な、なんだよ……?」
何かの仕度を整え終えたのか、グゥはパンパンとスカートの皺を伸ばすようにお尻をはたくと、
少し前傾姿勢になり足を開く。
そしておもむろに勢い良く上半身を捻り、反動をつけて回転するようにクイッとお尻を前に
突き出した。
「ブ…………ッ!!」
ヒラリと傘を開くように展開するスカートの奥で、純白の膨らみがぷるんと揺れた。
最初は下着かと思った。だけど、褐色の肌とその白い双丘との間には何の段差も無く、
ただくっきりと色の境界線があるのみだった。
先ほどのグゥの怪しい動きはこれだったのだろう、下着はグゥのお尻の谷間に食い込み、
その根元にのみ逆三角形に布地が見えるのみだった。無理に食い込ませているためか、
布地の圧迫で尻肉がむっちりと持ち上がり、より豊満で柔らかそうに盛り上がっていた。
見えたのはほんの一瞬だったが、しっかりと目に焼きついた。小麦色の脚とのコントラスト
にくっきりと映える色白な双丘の、官能的とすら思えるようなふくよかな肉感。
グゥのスカートはとっくに膝元まで降り、更に上からガードするように前も後ろもグゥの
手で押さえられていたが、オレの目の前にはまだ先ほどの光景がそこにあるかのように
チラチラと浮かぶ。
「……満足したか?」
「…………」
「どうした、何か言え」
「………あ……」
「あ?」
「アンコール……」
「……馬鹿」
「アンコール! アンコール!!」
「黙れ!!」
オレの精一杯の掛け声にもグゥは応えてくれず、むしろ益々スカートを守りに入る。
くそう、ああなっては真下から竜巻が発生しても捲れはすまい。
「まったく。すぐ調子に乗りおって。これはサービスだ、サービス。別に、ハレがちゃんと言えば
グゥだってこれくらいの事はしてやっても良いんだからな」
「…………」
言ってから恥ずかしくなったのか、グゥは頬をほんのりと染めてぷい、とそっぽを向いた。
そこまでは、オレも期待してなかったってのに。こいつのやる事はまったく、ホントに……。
「じゃ、グゥは風呂に行くからな」
早口にそれだけを言うとグゥは後ろ手にドアを開け、オレを置いてそそくさと部屋を出て行った。
一人、取り残されたオレの意識と肉体が正常に戻ったのは、それから数分後の事だった。
風呂場に行くと、ロバートが物凄く良い顔で出迎えてくれた。脱衣所の前で随分と長い間
待ってくれていたようだ。「先に入ってくれて良かったのに」と言うオレの言葉にロバートは
ブンブンと首を振った。オレより先に入る事はロバート的に許されないのだそうだ。なんだか、
申し訳無い事をしてしまった。少し、反省する。
さっさと服を脱ぎ、中に入るとロバートも追って入ってきた。腰に巻いたタオルから覗く、
黒と白のコントラストに先ほどの絶景が上書きされそうになり慌てて顔を背ける。
どうやらロバートもアシオも海で本当にトランクス一丁にされたらしく、上半身はもとより
太ももの中ごろから下までもしっかり焼けていた。普通の水着の跡とまるで変わらない。
しかし男の日焼け跡はどこか間が抜けているように思えるのはオレが同性だからだろうか。
身体を洗い、ゆっくり湯船につかりながら部屋でのグゥを思い出す。……途端に、湯船から
上がる事が困難な状態になる。
自分で呼んでおいてなんだが、今ほどロバートが邪魔者に思えた瞬間は無かった。
「いやぁ、いいお湯ですねえ」
「…………ほんとにねえ」
「今日は疲れたでしょう。脚を伸ばした方が楽ですよ?」
「…………いや、オレはいいや」
「男同士なんですから、ほら、お気にならさずに」
「…………いいっつーの……」
最初に待たせてしまった手前、先に出ていてくれとも言えず、その理由を聞かれた際の言い訳も
思い浮かばず、オレは心地良いはずの広い湯船の中でひたすら窮屈な思いに悶々とするのだった。
<<9>>
───これは、あるストーカーの被害に悩まされとった一人の女性の身に起こった出来事です。
仕事の行き帰りに妙な視線を感じる。夜中に窓の外を覗いたら不気味な人影が立ってる。
毎日のように無言電話がかかってくる。
彼女はいつも背筋が凍る思いで過ごしてました。ドアは勿論、家中の窓をいつも閉めっぱなしに
していても不安は募るばかり。
今日も、いつもと同じ時間に電話の無機質な音が部屋に鳴り響いた。
もしもし? もしもし、どなたですか?
何度聞いても相手は無言。返ってくるのは不気味な沈黙だけや。
彼女はもともと気の強い方や無い、どちらかと言えば控えめな子やったけど、ここまでされては
黙ってもおれへん。今回ばかりはさすがに我慢の限界が来た。
「いい加減にしてよこの変態! アンタみたいに誰の心も理解できない人間サイテーだ!いっぱしの
つもりなんだろうけど傍から見ればちゃんちゃらおかしいだけ! なんもなし! 空っぽ! そーゆー
人間はね、結局死ぬまで今に見てろとホントのオレはこんなもんじゃないと、誰も解ってくれないで
誤魔化して! 根拠の無い自信と自己憐憫に溺れ生きていくんだわ! 大迷惑!! ッ死ね!!」
よっぽど腹が立っとったんやろう、彼女は饒舌にそこまで一気に捲くし立てると受話器を叩き付けた。
せやけどな、彼女の心は全く晴れへんかった。受話器を耳から放す瞬間、彼女は聞いてもうたんや。
いつも何を言うても無言やった受話器の向こう側から聞こえてきた、カスレた男の声。
「────死ぬのはお前だ」
彼女は途端に恐ろしくなり、警察に相談した。
幸いな事に、警察も最近はストーカーの被害者対策に力を入れとったから、彼女の相談に
すぐに対応してくれた。
「今度電話がかかってきたときには逆探知を行ってから携帯電話にかけるので、なるべくストーカーとの
電話を切らないようにして下さい」
そう警官に言われた彼女は、百万の味方を手に入れた気分やった。もう怖くない。
むしろ、電話がかかってくるのが楽しみにすら思えた。
そして、その夜も律儀に同じ時間に電話はかかってきた。
……しかし今日はいつもとは様子が違ったんや。
ククククク……ククククク……ククククク……
ストーカーの男はただ電話口で延々と不気味な笑い声を響かせとった。
恐ろしくなった彼女は電話を切ろうと思ったけど、警察が逆探知をしてくれることになっとるから
そうもいかん。我慢して受話器を持って、ただ男の笑い声を聞いてるしかなかった。
そして、ついに彼女の携帯電話が鳴った。警察からや。
彼女は急いで電話を取った。
「逆探知の結果が出ました!今すぐ外へ出てください!」
電話が繋がった途端、警官のテンパった声が聞こえた。
「ど、どう言う事ですか?」
彼女は慌てて聞いた。そやけど警官は、焦れたような声で「とにかく、早く家を出ろ」と
言うばかりや。
何が何だかわからへん。そやけど警官の声にただならぬ雰囲気を感じて彼女は靴も穿かずに
急いで外に飛び出した。
外に出た途端、一台の黒塗りの車が走ってきて自分の前で止まった。そこから二人の私服の男が
出てきて彼女を見てほっとした顔を見せた。その二人は彼女の相談を聞いてくれた警官やったんです。
こうして彼女は無事に保護されました。せやけど、警察署に向かう途中の車の中で聞いた警官の一言に、
彼女は最後の最後で、これ以上ないくらいの戦慄を覚えた。
────犯人は、あなたの家にいたんですよ。
「うぇぇぇええええええええいゃあああああぁぁぁぁぁぁあああああ!!!!!」
───談話室に、これで何度目とも知れぬ絶叫が木霊する。
しかし響く声はこの部屋に集まった人間のうちのほんの一握り……って言うか、ぶっちゃけ
オレ一人の声だけだった。
「いやー、坊ちゃんはホンマええ反応見せてくれるわ。話し甲斐があるっちゅうもんやで!」
言いながら、本当に愉快そうにアシオがカラカラと笑う。
……こちとらもう、叫びすぎて喉がカラカラに枯れる寸前なんですけどね。
「いやぁ、夏はやっぱり怪談に限るわ。昼は海で遊んで、夜は怖い話で盛り上がる……これぞ夏の風物詩!」
いや、限らないだろ。スイカ食べながら花火大会とか、普通にほんわか癒し系の夜を楽しんでも
罰は当たるまいよ。
「これで、78本目ね。次は誰?」
「俺、まだまだおもろい話残ってますよ?」
「続けて話すのはダメって決めたでしょう? 私だってまだまだ残ってるわよ」
「あらベル、私もメリーちゃんと体験した不思議なお話がいっぱいあるのよ?」
わいわいと子供のようにはしゃぐ三人をよそにオレは先ほどつい消えた七十八本目の蝋燭のように
燃え尽きる寸前だった。
薄暗い部屋を心許なく照らしている蝋燭の数は残り二十二本。その全てが消えるまで、この悪夢は
覚めることを許さないらしい。
一体、なんでこんな恐ろしい会合に参加してしまったのか。
ベルとアシオの企画した「納涼、百物語 -全ての蝋燭が消えた時、何かが起る-」
……もう既にオレの心中に甚大な何かが起っているのだが、それはともかく。
蒸し暑い夜を少しでも涼しくするため、入念に準備をしてくれたものらしい。確かに、その
気合の入れようはこの部屋に足を踏み入れた瞬間から十二分に伝わってきた。
足下が隠れるほどに厚く立ち込めるスモーク。部屋の中央に置かれた円形テーブルの上には
小さな透明の花瓶のようなものに入った蝋燭が整然と並ぶ。それを取り囲むように置かれた
ソファに円座を組んで座る皆の姿が蝋燭の灯りに下から照らし出され、否応無く不安感を煽られる。
確かに、今オレの身体を襲っている寒気を考えれば企画は大成功と言えるかもしれないが
オレは一言いってやりたい。お前ら、怪談話したいだけちゃうんか、と。
参加メンバーはオレ、グゥ、母さん、おばあちゃん、ベル、アシオ、ロバート、そしてアメ。
母さんとアメは既にソファでぐっすり快眠中。定期的に聞こえる絶叫をものともせずにぐっすり
お休み中だ。オレとグゥは聞き役に徹している。グゥはオレの腕にしがみ付き……いや、逆だ。
オレはグゥの腕にしっかりとしがみ付き、寄り添って座っている。グゥがいなければ、正直オレの
精神は今頃どうなっていたか。考えるだに恐ろしい。
語り部は勿論、都市伝説大好きベル、アシオ、おばあちゃん。……そして。
「ベルさん、アシオさん! 次は俺の番って、さっきクジで決めたじゃないですか!」
……そう、ロバートだ。コイツまでこの手の属性を持っていたとは。ホントに何なんだ
このお屋敷の連中は……。
「あら、あなたはもう話し終わったんじゃなかったかしら?」
「そ、そんな……さっきからそう言って飛ばされてばっかじゃないですか俺!! 俺だって
いっぱいネタ持ってるんですよ? なんたって日本は怪談大国なんですから!!」
オレは二度と日本へは行かない。今決めた。もう絶対決めた。
「しょうがないわねえ。じゃあ次はロバートで……その次はまたクジで決めましょう」
「よっしゃ、残り21本やから……一人あと5話ずつですね」
「もうそれだけなの? 物足りないわねえ」
「メリーちゃん以外のお友達のお話もいっぱいあるのに……残念ねぇ」
四人からあと五話ずつ……考えるだけで眩暈がしてきた。しかしここまで耐えたんだ。
ようやくゴールが見えてきた所じゃないか。諦めるな、オレ!!
……って、なんでそこまでして耐えにゃならんのだ……。何の試練だよ、これは。
「グゥ〜……失神したら部屋まで送ってくれな?」
「んー?」
かすれた鼻声で、グゥに弱々しく声をかける。
グゥは相変わらずのポーカーフェイスで気のない声を返した。こいつは基本的に物事に動じると
言う事を知らない。特に怪談やらの「お話」に関しては鉄壁の耐性を誇っている。オレの耐性が
紙のようにペライせいで余計にそう見えるのかもしれないが……。とにかく、グゥのこの毅然と
した態度がオレの精神を紙一重で繋ぎ止めてくれている要因の一つとなっている事は間違いない。
「なんだ、そんなに怖いのか」
「うう……恥を承知で言うけど、普通に怖いよ……」
「ふむ。少しは和らぐかもしれん方法が一つ、あるが。試してみるか?」
「な、なになに? どんな方法!?」
「ようは、他の事に意識を向ければよいのだろう?」
グゥの言葉にオレは目を輝かせ、藁にもすがる思いでグゥを見る。
グゥは一瞬、ベルたちの方に目をやり、すぐにこちらに向き直ると、
ほんの一瞬、唇を寄せてすぐに離れた。
「……どうだ」
「…………」
ロバートの話はもう始まっているようだった。だけど、キンキンと頭の奥に響く耳鳴りに
かき消され、すぐ傍にいるグゥの声しか聞こえない。
心に蟠っていた不安感も消し飛んだ。ただ、この会合の唯一の成果であった寒気も消え、
身体中がほこほこと火照り出す。でも、その暑さに嫌な感じはしなかった。
「うん。ホントに効果あった」
「ん。それはよかったな」
「……また、効果が切れたらしてくれる?」
「よ、よかろう……」
「もうそろそろ、切れそうな気がするんだけど……」
「……お前と言うやつは……」
一つ口実を見つけたら、もう止まれない。
なおも勝手に盛り上がっている四人の目を盗み、オレは何度もグゥと唇を交わした。
たった二十ちょいの小話を聞くくらいしか時間が残っていないと思うと、ちょっと残念だった。
「────うふふ。これでこのお話はおしまい。ついに、残り1本になっちゃったわね」
「あれ、坊ちゃんそう言えばさっきから、全然怖がってないみたいですやん」
「え? あ、あはは。さすがにこれだけ聞かされたら、慣れるって」
「そうよね、男の子ですものね。それに私の話は、怖い話じゃなくてちょっと不思議な
ファンタジックなお話なんだから。怖がる必要なんて、無いわよね」
「そ、そうですねぇ……ははは」
いや、むしろアンタの話が……ってか、アンタの語り口が一番怖かったよ……。
でも、グゥのおかげで、なんとかここまで耐える事が出来た。最後の一話も軽く聞き流して
終わりだな。ありがとう、グゥ。ありがとう、オレの理性。
「よっしゃ、ついに100本あった蝋燭の火も最後の1本が残されるのみとなったワケやけど、
さぁて次の語り部は誰や?」
誰でもいいから、さっさとやっちゃって下さいよ。
「ふっふっふ。実はそれはもう決まっとる。最初から、決まっとった事なんやで……」
テーブルの上に置かれた最後の蝋燭の前で、アシオがおどろおどろしい声を出す。元々からして
怖い目が蝋燭の火に照らされもはや凶器と呼べるレベルのキモさになっている。
「それは……坊ちゃん、グゥさん、あんたらやでぇ〜〜〜〜!!!!!」
これ以上無いくらいに精一杯演技がかった声を上げ、アシオがオレたちに震える指を突きつける。
怪談話は苦手だが、この手の演出はさすがにオレも素直に怖がってやれる年齢は過ぎてしまった。
逆に、一生懸命なアシオの姿に少し心がホッとする。
「……なんや、ホンマに怖がらんようなってもうたなあ……」
オレの平静ぶりにアシオの熱も少し冷めたのだろう。つまらなそうに口を尖らせた。
「……てかさ、オレ、怖い話なんて全然知らないよ? 最後の語り部って言われてもさあ……」
「いや、それは今語らんでええんです。坊ちゃんは普段どおりにしているだけで、ええんです……」
「……ど、どう言う事だよ……?」
アシオはまだ諦めずに演技を止めようとしない。しかしその不気味な語り口に、少しずつオレの中にも
また不穏な気配が漂いはじめていく。
「一晩で九十九話もの恐ろしい話を聞いた人間は、夜が明けるまでに自分も恐ろしい体験をしてしまうんです。
それが、百話目の話として追加されて、この百物語は完成するんですわ……」
「…………」
ゴクリと、喉が鳴った。
アシオの力技の成果があったか。オレは背筋にゾクリと冷たいものを感じ思わずグゥの手を強く握った。
迷わずに握り返される手の温かい感触に、少し悪寒が和らぐ。しかしそれも、今度ばかりは完全に晴れては
くれなかった。
「この蝋燭は、坊ちゃんが持っといて下さい」
そう言って、蝋燭の入った小さな瓶を手渡された。煌々と揺らめく小さな灯は少し離れた所からでも
ジリジリとその熱を感じる。しかし指から伝わるガラスの硬質な感触は、氷のように冷たかった。
「この蝋燭はいわばセンサーです。怪異が起こる前に、この火がその予兆を知らせてくれるんです」
「…………」
「不自然な揺れ。火が突然燃え上がる。そーゆー変化があれば、すぐそこまで何かが迫ってる証拠です……」
「…………や……」
「この火が前触れなくふっと消えた瞬間……その時こそ、何かが起る瞬間ですから。……気をつけて下さいね……」
「…………いや……」
「あ、これだけは言っときますけど、自分で火、消さんといて下さいね? もしそんな事してもうたら、
今この屋敷に集まってる大量の霊の怒りをかって、何が起こるやわかりませんから…………」
「───いやぁぁぁぁぁぁあああああああああああああああああああ!!!!!!!!!」
最後の最後、本日最大級の大絶叫が談話室を震わせる。
それは歓呼の調べか慟哭か。まるでこの会合の成功を祝うかのような最大最後の断末魔が
静まり返ったお屋敷にどこまでも、どこまでも高らかに響き渡るのだった。
<<10>>
「……疲れた……ドッと疲れた……」
部屋に戻るやいなや、ベッドに備え付けられた大きなソファに持たれかかる。
グゥもオレの隣にちょこんと座り、オレの肩に体重をかけた。
「なんか、デジャヴを感じるな」
「……んじゃこの後も、似たような展開になる?」
「お前は……まったく」
呆れ顔で小さく溜息を吐く。しかしすぐに笑顔をくれ、オレの胸元にトン、と額を寄せた。
「……熱い」
胸に顔を付けたまま首を捻り、オレの左手にじっとりとした目を送る。
そこには先ほどアシオに手渡された蝋燭の瓶が律儀にも握られたままだった。
……どうしよう、コレ。
───あの後、オレの最後の叫声と共に、怪談大会は無事幕を閉じた。
パチンと電気が点くとついさっきまで部屋に漂っていた重苦しい空気が一気に晴れた気がした。
時計を見ると、夜中の一時を回ろうとしている所。随分と長い間やっていた気がする。確か、
談話室に入る前に見た時刻が八時ちょっと前。……軽く五時間くらいあの空気の中にいたって事だ。
よく精神が崩壊しなかったものだ。自分を褒めてやりたい。
語り部の四人は皆、凝り固まった身体を解しながら実に晴れ晴れとした笑顔を見せていた。
それでいて、まだ物足りないといった寂しそうな声もちらほら。今度はあんたたちだけで
勝手にやってくれ。
火の消えた蝋燭の瓶や飲み物、お菓子の入っていたトレイなど、テーブルの上は一部を除けば
パーティーの後のような結構な散らかりようだった。後片付けを手伝おうとも思ったが、ベルや
アシオたちにやんわりと断られ、部屋から追い出されてしまう。おばあちゃんも外に出され、
名残惜しそうにオレとグゥにお休みなさいを言うと一人で自分の部屋に帰っていった。
アシオは母さんとアメを部屋に送ろうと背中に背負い、次の瞬間ベルにリアル無限コンボを
食らって昇天した。あれこそが百番目の怖い話として相応しいだろうと思ったのだが、蝋燭の火は
消える気配を見せなかった。あれ以上に恐ろしい事が待っているのかと思うと泣きたくなる。
母さんとアメは、ボロ雑巾のようになったアシオの代わりにベルに背負われて部屋に帰っていった。
ロバートはそんなアシオを背負って医務室に向かったようだ。アシオ、お大事に。
……そうしてオレとグゥは二人でオレの部屋に戻り、今に至る……というわけだ。
その間、ずっとオレの手には蝋燭の灯るガラス瓶が握られていた。そしてそれは今も手の中にある。
さて、これをどうしたものか。アシオの話を信じるわけじゃないが、全く無視するのもなんだか
憚られるものがある。
あれだけ長時間火を灯していたのに、この蝋燭はまだ半分くらいしか減っていない。丁度、瓶の
真ん中あたりでランタンのようにチロチロと淡い灯りが揺らめいている。
さぞ高級なものなのだろう。これなら普通の蝋燭のように蝋が垂れる心配も、倒してしまったり
火が燃え移らないか、なんて事にも気を回さずに済む。
「どうしよう、これ」
「さっさと火を消してそのへんに転がしとけばいいだろ」
「いや、そーゆーワケにもいかないだろ……」
「なんで」
「なんでって……とにかく、どっかその辺に置いとくよ、コレ」
「…………」
ソファから降り、部屋を見渡す。広いわりに殆ど家具の無いこの部屋で置く場所と言えば、
暖炉の上かベッドに備え付けられた小さな机の上くらいだ。オレはベッドに座り、机の上に
置かれたランプを少しずらし蝋燭の瓶を置いた。ここなら、ベッドに横になっても常に
蝋燭の火を確認する事が出来る。
「……随分と大事そうにしおって」
オレの隣に座り、ぱたんと背中を倒しグゥはつまらなそうに呟いた。
少し持ち上がった服の隙間からちらりと小麦色のおへそが見える。
グゥは今、前止めの半袖シャツに長ズボンというパジャマ姿に着替えている。襟は無く、首元は
丸くカットされたシンプルな形。上下共に薄いピンク色で統一されており、袖や裾など末端部分だけ
少し濃い色で太いラインが入っている。第一ボタンまできっちり留めているため、着替える前よりも
ずっと肌の露出が減っているのが少し哀しい。
ちなみにオレは寝巻きもTシャツに短パンだ。……オレって、変わり映えしないなあ……。
「聞いてるのか」
「あだだだッ!!」
言いながら、グゥは寝転がったままオレの耳を引っ張る。そのまま無理やり引き込まれ、
オレはグゥの隣に勢い良く身体を倒した。
「アシオに言われた事、本気にしてるのか?」
「いや、本気って程じゃないけど……でも気になるじゃんか」
「気にするな」
「え、でも……」
「気にするなと言っている」
平坦な声で、命令するようにオレに言葉をぶつけながら、真っ直ぐに見詰めてくるグゥの瞳は
何故か不機嫌そうに見えた。
「そんな事が、そんなに気になるのか?」
「そ、そりゃあ、だって……」
「グゥよりも、気になるのか……」
「…………え……」
一瞬、グゥが何を言っているのか解らなかった。それを理解するよりも早くグゥの口が再度開く。
「もういい。ずっとソレ眺めてろ」
言ったきり、グゥは背中を向けて黙り込んでしまった。何度呼んでも、肩を揺すっても、
グゥは何の反応も示してはくれなかった。
そのうちに、むぅむぅと静かに寝息が聞こえ出す。……この気分屋め、と毒づくも自分に全く
否が無いなどとはとても言い切れない。
時計を見るともう一時をとうに回っている。普段ならとっくに寝ている時間だ。どちらにしろ、
それほどグゥと共に過ごす時間も無かったか。
オレは部屋の電灯を消すともう一度グゥの背中をちらりと見やり、おやすみ、と小さく呟き
グゥの隣に横になった。
……明日、グゥにちゃんと謝ろう。微妙に納得いかないがそれが多分、一番良いんだ。
<<11>>
……眠れない。
カチ、カチと規則的に時を刻む時計の音が煩わしい。
ジワジワと身体にまとわりつく様な熱気は、いくら寝返りを打っても離れてはくれない。
背中や首筋を伝う汗もとにかく不快だ。
今は夜中の何時くらいなのだろうか。
明かりを消し、ベッドにその身を倒してからどれほどの時間が経ったのか解らない。
部屋を淡く照らす常夜灯の光に紛れ、ゆらゆらと揺らめく蝋燭の灯りは寝る前に見た位置よりも
随分と瓶の底に近づいている。
数時間は経過しているようだが、窓の外はまだ真っ暗で、僅かに部屋に差し込む月明かりは
まだ沈む気配を見せていない。
ベッドの後ろの棚に立て掛けてある目覚まし時計を見る動作すら億劫で、身体が言うことを
聞いてくれない。このままでは明日に支障をきたすことは明白だ。
別に明日は何を予定しているワケでもないが、今日はあまりにも色々な事がありすぎて
身も心もへとへとに疲弊しているのだ。
少しでも体力を回復しておきたいと思い目を固く瞑る。……しかし、どうにも身体が火照り
目が冴えてしまう。
都会の夏も確かに熱いが、湿度を考えれば体感気温はずいぶんと涼しい。
ジャングルで生まれ育ったオレにとって、この程度の暑さはむしろ快適と言えるものだったはずだ。
それなのに何故こんなにも、寝苦しいほどに身体が熱を帯びているのか。
……考えられる原因は、一つしかなかった。
自分の隣で寝息を立てる少女を見やる。
オレに背を向け、小さくゆっくりと肩を上下させているその様子から、少女は疑いようも無く
ぐっすりと安眠しているように見えた。
「グゥ……」
ぴたり、とオレの手が少女の首筋に触れる。グゥの身体はひんやりと心地よく、オレの火照った
体から熱を奪い取っていく。
そのまますべすべと肌の上をなぞり、手触りの良い柔らかな感触を楽しんでいるうちに、
オレは身体の熱がある一点に集中していくのを感じていた。
……起きてない、よな。
ぐっとベッドに肘をつき半身を起こす。グゥの顔を覗き見るように自分の顔を近づけ、その横顔に
かかっている髪をそっと指で梳き耳の後ろに回す。
小さな耳。自分のものと何が違うのかも解らないのに、何故こんなに愛らしく感じてしまうのか。
耳の淵をそっと指でなぞると、トクンと、また自分の身体を包む熱の温度が上昇するのを感じた。
吐息のかかるほどに顔を近づけても、グゥはむぅむぅと規則正しい寝息を立て目を覚ます様子は無い。
ぷっくりと丸みを帯びた頬に軽く唇を当ててみる。唇を離す際にチュ、と、わざと少し大きな音を
立てるがグゥに変化は見られない。
耳たぶを優しく唇で噛み、耳の裏に舌を這わせ、軽く口付けをし、首筋にも何度もキスを重ねる。
なおも規則正しく安らかな寝息を立てる少女とは対照的に、オレの鼓動はドクドクと高まりその速度を
上げていく。
たまらず、ギュウ、と己の股間を押さえる。そこはもうズボンの上からでもはっきりと解るほどに膨らみ、
ズキズキと疼きその存在を主張していた。
……グゥ。オレ、もう……。
荒れる呼吸を抑え、コクリと小さく喉を鳴らすと、グゥの肩に置いていた手をゆっくりと
その身体に這わせる。その手は脇を通り、腰を通り、少女の下半身へと滑り降りていく。
やがて服の上からでもその柔らかさが解る、ぷるんと肉厚なヒップへと辿り着いた。
まずは指先でその双丘の周りをくすぐるように周回し、その手触りを確認する。下着のラインを示す
段差はあるが、その生地は薄い。柔らかく張りのある感触が十分に指に伝わってくる。
少し力を込めただけで、くむくむとどこまでも指が埋もれ不定形物のようにその形を歪ませて行く。
指に込めた力を抜くと、プルンとすぐに元の形に戻る。
身体を横に倒しているせいか、ベッドに圧迫された側の尻肉はモチモチとより一層の張りがあり、
また違った感触をその手に伝える。尻肉の谷間に埋めた指を戻した際も、スカートの生地がその肉に
挟まったままにまりムッチリとその形を浮き上がらせていた。
ゾクリと、何かが背筋を通るような快感を覚える。オレは我を忘れてその身体をただ夢中で貪り続けた。
「ん……ふ…」
「────ッッ!!」
突然、耳に届く吐息。その少女の反応に、オレは瞬時に我に返りビクンと身体を引きつらせた。
慌ててグゥの身体を弄んでいた手を離し、目を瞑りたぬき寝入りを決め込む。
「…………」
しばらく凍りついたように硬直し、そのまま時の過ぎるに任せるが少女からはそれ以上の反応は
見られなかった。
何やってんだよ、オレ…これじゃ、まるっきり変態じゃないか……。
はぁ、と小さく溜め息を吐く。
いつの間にか動悸は幾分穏やかになり、身体の熱も引き始めていた。
もう、このまま寝てしまおう。そう思い心を落ち着けるが…どうしても一箇所、熱の引いてくれない
箇所がオレの心を悩ませる。
きゅう、と股に力を込める。自らの太股で強く圧迫するが、それは益々にジンジンと疼きを増していく。
トイレで、済まそう……。
身体を起こし、最後にグゥの寝顔を確認しようと覗き込む。
「うん……ん」
その時、小さな呻き声と同時に、グゥはゴロンと寝返りを打ち身体をこちらに向けた。
ただそれだけの事に、オレの心は大きく高鳴った。普段なら気にも止めないような小さな事に
今のオレは気付いてしまった。気付いてしまったばっかりに、トクン、トクンと、治まりつつ
あった鼓動がまた速度を上げていく。
グゥの胸元。ボタンとボタンの間に開いた小さな穴。寝返りを打った際に服がベッドに挟まれ
巻き込まれたのだろう。そこはくっぱりとひし形に隙間を開け、その向こうに真っ白なグゥの肌が
少しだけ覗いていた。
まだオレが見ていない部分の、日焼け跡。海での行為や、風呂に入る前に見たグゥの可愛いお尻が
フラッシュバックのように頭を過ぎる。
喉に溜まっていた唾を静かに飲み込み、オレはもう一度身体をベッドに倒しその胸元に顔を近づけた。
ちらりとグゥの顔を見上げる。先ほどと変わらず寝息を立て、ぐっすりと眠っているように見える。
オレはまた目の前のグゥの服に開いた穴に目を戻すと、ゆっくりとその隙間に人差し指を挿し入れた。
くにゅ、と指に心地よい弾力が伝わる。じっとりと汗ばんでいるのはグゥかオレの指先か。
少し指を浮かせ、また押し付ける。それを繰り返しながら、指を段々と隙間の奥に侵入させていく。
指が服の影に隠れる度に、指先に受ける感触は柔らかさを増していく。それに比例するように、オレの
鼓動も跳ね上がっていく。
そのまま指全体が根元まで隠れた時、指先に違う感触が触れた。屈伸するように指を曲げると
こりこりとした固い突起が柔らかい肉に埋まる。中指も奥まで挿し入れ、二本の指で摘みきゅ、と捻ると
グゥは身体を一瞬、ぶるっと震わせた。いよいよ心臓の音が身体全体を揺する程に昂ぶっていく。
もう気付かれても良い。そんな開き直りも手伝い、オレの指先はその動きに激しさを増していく。
突起を摘んだまま、親指をも服の中に侵入させ、反対の乳首に押し当てる。両方の突起を指の腹で撫で上げ、
くにゅくにゅと円を描くように揉み込む。
自らの股にあてがわれた指はズボンを盛り上げる膨らみの形を浮き上がらせるようにギュ、と強く握り、
その痛いほどに腫れ上がった己の分身全体を指で揉みこねるように動かしながら手のひらで擦り上げる。
もはや荒れる息や時折う、く、と漏れる呻き声もそのままに、オレは夢中で自らの身体を慰めていた。
「グゥ……グゥ…ッ」
グゥの寝顔を見上げる。その名を呼ぶと、益々その少女に対する想いがキュンキュンと昂ぶっていく。
しつこく弄り続けた乳首はピンと大きく勃ち、その固い膨らみが服の上からでも確認できる
くらいになっていた。
オレは服の上からその突起に舌を這わせ、チロチロと舐め上げる。たっぷりと涎を付けて何度も
舌を擦り付けているうちに、うっすらと透けた布地に乳首がピタリと張り付き、その形や色が浮かび
上がっていく。
ゴシ、ゴシと厚手の生地を擦る音が耳に響く。オレはいよいよ股間に押し当てた手の動きを
早める。その動きに合わせ、ハッハッと荒い息を吐き出すオレの唇が、少女のしっとりと濡れた
突起へと吸い寄せられる。
そうして少し舌を出したその口が、グゥの乳首に吸い付いた瞬間……
「────んぅ?」
不意に首に何かが巻きつき、グゥの胸にぎゅっと顔を押し付けられた。慌てて飛び退こうと
するが、今の体勢で頭を押さえられていては力が入らない。
まさか、グゥが起きたのか。ついさっき気付かれてもいいと思ったばかりなのに、実際に
その状況に直面すると頭から血の気が引いていく。
グゥの顔を見たくても、頭を上げる事も出来ない。なんとか振りほどこうと頭をぐりぐりと
動かすがオレを押さえつける力は益々強まっていく。
「慌てるな……落ち着け」
穏やかな吐息が頭にかかる。やっぱり、いつの間にかこの少女は目を覚ましていたらしい。
興奮の熱が引いていくにつれ、重い罪悪感が心にズシリと圧し掛かる。
……しかし、その声からは何故か、オレを咎めるような色は微塵も感じられなかった。
「それと、あまり激しく動くな。そこはグゥも敏感なんだぞ」
オレの頭にかかっていた力が緩み、何かが髪をさらりと撫でつける。顔を上げると、
グゥの優しげな微笑がオレを迎えてくれた。
「あ、あの、ごめん、オレ、その……」
いまだ状況を完全に把握し切れてはいなかったが、とにかく何か弁解せねばとしどろもどろに
口が動く。そんなオレの様子にグゥはくすりと笑い、額にちゅ、と唇を合わせまたオレを強く
抱き締めた。
「謝らなくてもいい。別に、ハレの夜這いなぞ今日がはじめてでは無いしな」
「ぅぇえッ!?」
首筋を冷たい汗が流れ落ちる。もしかして、これまでの行為も気付かれていたのか。
いや、夜這いなんて大それたものじゃあないつもりだったのだが。
この少女とは毎晩、並んで寝ているのだ。その無防備な寝姿にこれまで何の劣情も催さなかったと
言えば嘘になる。寝惚けたふりをして、寝返りを打ったふりをしてその身体に軽く触れた事は何度も
ある。だけど、次の瞬間には果てしない後悔と自己嫌悪に苛まれそれ以上は何も出来なかったのだ。
「ごめん、グゥ……で、でも、ここまでしたのはこれがはじめてだから……」
「…………」
「……だから……」
グゥの沈黙に、言葉が遮られる。どう言い訳をしても、自分のやった事は最低だ。
本当に、これほど大胆な行動を取った事はこれまでに一度も無い。しかし、程度の差はあれ
無抵抗な状態のグゥを好きに弄んでいた事に変わりは無いのかもしれない。
「グゥ……」
もう一度、声をかけようと口を開いた瞬間、グゥはオレの頭をぎゅうと強烈に抱き締めてきた。
グゥの胸元に頬が埋まり、その鼓動が耳に直接伝わってくる。
「ホントに、してたのか。……夜這い」
「ぐはっ……!」
しまった……またも、盛大な自爆をかましてしまったのか。
「いやそのっ、違っ!」
「違うのか?」
「……違、わない、けど……ごめん……」
何を言ってももう遅い。まんまと誘導尋問にハマってしまったオレに今出来る事と言えば、
ただひたすら謝罪の言葉を綴るくらいのものだ。
「もう、馬鹿だな、お前ってヤツは。……ホントに、もう……ッ」
グゥは両腕でオレを抱え、これ以上ないくらいに力を込めてオレをその胸に押し付ける。
そのせいか心臓の音は先ほどよりもずっと高く鳴り響き、その速度も増しているように思えた。
「ぐ、グゥ?」
「いいから、謝らなくていいから……」
グゥは押し殺すように細切れの声でそれだけを言うと口を紡ぎ、ただオレを抱き締める。
時折ふるふると身体を震わせ、足下からパタパタとシーツを叩くような音が聞こえる。
そうしてしばらくすると、はぁぁ、と大きな溜息と共にその身体から力が抜けていった。
「もっと、早く気付いていればよかったな……」
腕を離し、ずりずりとオレの目線まで滑り降りてくる。久々に真正面から見た
その表情はどこか残念そうに、寂しげな微笑を浮かべていた。
「……今日は、気付いたんだよね。どの辺から起きてたのさ?」
「む? 最初から寝てなどいなかったが?」
「ぐふっ……!」
……グゥは、就寝時も目はばっちりと開いているので寝ているのかどうかの判別が付き辛い。
それでもオレは長年の経験でだいたい見分けがつくようになってはいたのだが、たぬき寝入り
までを含められてしまうともはや判別は誰にも不可能だ。
「じゃ、じゃあ何でオレの好きにさせてたの……?」
「ふむ……。どのタイミングで声をかけたら一番ダメージが大きいか見計らっていたのだが」
「……へぇ、なるほどねぇ……」
こんな時でもこの少女はそんな事を冷静に計算していたらしい。何とも末恐ろしい……と言うか、
今現在既に十分恐ろしい。こうやってオレは今後もこの小悪魔に手玉に取られ続けるのだろうか。
「しかしな。その……あんまりにも、ハレが夢中だったから、邪魔するのも悪いと思えてな……。
……落ち着くまで、愛でていようと思っていたのだが……」
胸の前で両手を揃え、気恥ずかしそうに目を泳がせながらグゥは途切れ途切れに言葉を重ねる。
「結局、グゥの方が最後まで持たなかった。まさかハレがあそこまでするとは思っていなかったからな……」
「……ごめん……」
「だから、謝るなと言うに。……まだ、最後までしていないのだろう? その、グゥは別に、構わんのだが……」
オレを真っ直ぐに見据えたまま、グゥは自らの胸元、パジャマのボタンとボタンの隙間に指を
引っ掛け、小さく開く。
「こんな所から指を入れたのか。まったく、よく思いつくもんだな」
「……すんません」
「それに、パジャマが涎でベトベトだぞ。よっぽど夢中だったのだな?」
「……すんません」
うう、冷静に思い返してみれば、オレと言うやつはどれだけ必死だったのやら。
惨めというか哀れと言うか……人としてかなり情けない。
「……もう少し頭を使っていれば、服を汚さずに済んだかも知れんと言うのに」
そう言って小さく微笑むとグゥは少し腰を浮かせ、ボタンの隙間に入れた指をぐっと引っ張り、
服をずらしていく。強引にずらされた隙間が腋の下あたりまで到達した時、その穴からぷるんと
小さな突起が零れ出た。
「────ッッ!」
……ドクンと、心臓が飛び跳ねる。
半そでのシャツに長ズボン。普段よりもずっと露出の少ない格好をしているのに、ボタンだって
きっちりと全て留められているのに。その小さな隙間から、女の子が最も隠さなくてはならない
部分の一つ、艶やかな桃色の突起だけがてらいなく晒されている。
「ほら、こうすれば……直接、出来るだろ……」
胸を張り、ずり、ずりと少しずつオレの顔に胸元を寄せる。
オレはその様子に身動き一つ取れず、ただ目を皿のようにして見守る事しか出来なかった。
「……ンッ」
そうしてすぐ眼前まで迫ってきた突起が鼻の先に僅かにかすり、ぷるっと揺れた瞬間……
プツンと、頭の中で何かが切れた音が聞こえた。
「わぅっ? ハ、ハレ!?」
オレは弾かれたようにグゥに飛びつき、圧し掛かる。ベッドに背中を倒したグゥの腰をまたぎ、
その小さな隙間からツンと見える突起に唇を寄せた。
「おっ、落ち着……ふぁぁッ!」
隙間に指を掛け、限界まで穴を広げその中に舌を挿し入れる。ぷくんと桃色に膨らんだ乳輪と、
その中心で固くしこった乳首を、舌全体を使って大きく舐め上げる。
突起の周囲の膨らみは乳房よりもなお柔らかく、舌を這わせると乳首が一瞬その中にくぷ、と
埋まり、すぐに舌の動きに引かれて戻ってくる。
そのまま先端部分にちゅぷ、と吸い付き、啄ばむようにちゅうちゅうと音を立てて吸い上げながら、
口内ではただ夢中でペロペロと、何度も何度もグゥの乳房に唾液を擦り付ける。舌の上に伝わる全ての
感触が、オレを興奮させた。
「……ふふ、赤ん坊みたいだな」
グゥはオレの頭を優しく撫で付け、吐息交じりにそう呟いた。
その手が少しずつ、スムーズに身体を滑り降りていく。
「ここは、しっかり男の子なのにな」
「───うぁっ!?」
グゥの手はあっと言う間にするりとズボンの中に侵入し、オレの分身を直接、きゅ、と握り込んだ。
ビクンと腰が跳ねるが、その拍子にぬるりと指先に先端を摩擦され身体の力が一気に抜ける。
「随分と濡れているな……」
「ふっ、うんん……、んむぅぅ……っ」
既に十全に先走りの汁が溢れていた先端部分を、ちゅくちゅくと音を立てて擦り上げられる。
その遠慮の無い無骨な動きに包皮が捲られ、腫れ上がった肉傘に指の段差がコツコツとぶつかる度に
自分の意思に関係なく肩や爪先がぴくんぴくんと跳ね上がる。
それでもオレの口はグゥから離れず、思わず嬌声を吐き出してしまう時にも下唇や舌は
グゥの桃色の肌に這わせたままだった。
「いやらしい事を考えるとこうなるのか?」
分身の先端から分泌される粘液を塗り込むように撫で付けながら、ボソボソと耳元で囁く。
オレは乳首に吸い付いたまま上目遣いでグゥを見やり、ただコクコクと頷いた。
「ふむ……つまりグゥの事を考えるとこうなると」
「…………」
ニヤニヤと口端を歪め、ぎゅっと強く分身を絞り込み、オレに返答を促す。……このドS。
オレは顔を真っ赤にして強く頷いた。グゥも満足げにふむふむ、と頷き返し目を細めて微笑む。
「正直者にはご褒美をやらねばな……」
熱を帯びた瞳がゆらりと波を打つ。
グゥの手がオレの分身から離れたと思うと、グゥはもう片方の手もズボンの中に侵入させ
トランクスごとするりと膝元まで下ろした。
オレは何の抵抗も出来ず、ただグゥの所作に身を任せる。もう、羞恥心なんてどこにも
残ってはいなかった。長く焦らされ続けたオレの分身はもはや限界まで張り詰め、その解放を
待ち詫びているのだ。
窮屈な場所から解き放たれ、外気に晒された粘膜部分は空気の流れすらも敏感に感じ取り、
ピクンと跳ねる。粘液に塗れた表面はスースーと涼しいが、内部に蟠った熱は上昇する一方だった。
グゥはそのまま両手を自らの腰に当て、身をよじりながらスルスルとズボンを下ろしていく。
パンツは残しているのか、と一瞬思ったが、違う。そこに残っていたのは真っ白な水着の跡だけ
だった。勿論、オレの目には水着の跡だけじゃなくもっと大変なものも映り込んでいたのだが、
すぐに顔を上げた。今そこを凝視してしまったら、視覚刺激だけでオレの分身は簡単に爆発して
しまうだろう。
……ってか、何でいきなりグゥまで脱いでるんだ、おい。
「グ、グゥ……オレ、そこまでするつもりは……」
「馬鹿。何を勘違いしてる」
ブンブンと首を横に振るオレに、グゥは呆れ顔を返す。
「そのまま出されたらパジャマが汚れるだろう」
「……あ、そ……」
……どうやら、オレの早とちりだったようだ。
確かに、このままじゃグゥのパジャマもズボンも、オレの熱情の迸りにベッタリと汚されて
しまう事だろう。自宅ならともかく、それを洗濯するのはこのお屋敷のメイドさんたちなのだ。
そのまま手渡すわけには当然いかない。かといってこっそり洗面台などで洗うにしても、その
様を誰かに見られたらおしまいだ。例えばソレを見たのがメイドさんだった場合、彼女はまず
こう言うだろう。私どもにお任せ下さい、と。そして屈託の無い笑顔で言うのだ。ご安心下さい、
ご他言は致しません。……想像するだに恐ろしい。
「……まあグゥとしては、ハレが獣のように襲い掛かってきたとしても、別にいいのだが」
「グゥ……。その気持ちはすごく嬉しいけど、別にいいとか投げやりな言い方されるとちょっとショックだよ?」
「ハレが父親の二の舞になっても、グゥは本望だぞ。……これでいいか?」
「うん、絶対に暴走しないよ。誓うよ。命に代えてもグゥの貞操は守るよ」
まだ、オレの中の防波堤は完全には崩れていなかったらしい。今さらながらも決意を新たに
する事が出来た。ありがとう、保険医。オレは絶対、お前みたいにはならないからね。
グゥは足首まで降ろしたズボンをぺいっと蹴るように放ると、シャツのボタンにも手をかける。
一つ一つ、プチプチと淀みなく外していき、はだけたシャツの襟元に手をかけ左右に開く。
するりと袖から腕を抜き、上体を少し浮かせるとグゥはパジャマを背中から引っこ抜き
ズボン同様にベッドの脇に放る。これで、グゥの身を包んでいたものは全て無くなった。
小麦色に焼けた肌。そのほんの一部、胸元の二つの三角形とそれを結ぶ線、そして首筋に
伸びる二本の線のみが本来の肌の色を残し、その透けるような白さや緩やかな丘の頂点に
色づく桃色の艶やかさがより際立って見える。綺麗、と言うより単純に、エッチだと思った。
目の前に今、生まれたままの姿のグゥがいる。そう思うだけで、簡単に先ほどの決意が
揺らぎそうになってしまう。主の気も知らず、びくんびくんと嬉しそうに跳ねる自分の分身が
いっそ可愛らしい。
「おい、ホントに大丈夫か……流石に身の危険を感じるぞ、グゥも」
「……うう……だ、大丈夫だよ……ちゃんと、理性はあるから」
「ふむ……これはさっさと発散させてやらねばどうなるか解らんな」
「大丈夫だって……ふぁ!? ンッ……やぁ……ぅんぅぅッ!」
不意に、グゥの指先がつつ、と竿をくすぐるように滑った。そのまま裏筋から雛先までを
指の腹で何度も擦り上げられる。突然の刺激に腕の力が抜け、オレはグゥの胸元にその身を
トスンと倒した。
頬の全体を包む柔らかで張りのある感触と、その中に一点だけあるポチっと小さな固い感触。
顔を少し持ち上げる。すぐ目の前にぷるんと飛び出た可愛い突起に迷い無く吸い付くと、オレの
分身を包む圧迫感が一瞬、きゅっと強くなるのが解った。
オレは乳肉に唇を埋もれさせたまま、舌で乳房全体を舐め上げ、ぢゅるる、とわざと音を立てて
吸い立てる。そしながらもう片方の乳房もぐにゅぐにゅと柔肉全体を掌で押し包むように揉み込み、
乳首を人差し指と中指の谷間でしごき上げる。
徐々に吸い付く箇所を敏感な突起のみに絞っていき、強く吸引したままちゅぽっと引き抜く。
水着の跡をなぞるように反対側の乳房まで舌を這わせ、そちら側の乳首にも吸い付き、舌先で
ほじくるように突起を責める。
先ほどまで吸い付かれていた乳首は固く勃起し、指先で簡単に摘める程の大きさになっていた。
また唾液でとろとろに滑り、先端部分を摘み上げきゅ、きゅと強く捻ってもぬるりと指が表面を
滑っていく。逆に乳房の中に埋め込むように揉み潰し、先端を指の腹でチュルチュルと唾液を
塗り付けるように摩擦すると、グゥはそれが気に入ったのか絶え間なく漏らしていた嬌声を
一際強め、吐息交じりの甘くくぐもった声を上げる。
それに合わせるように、オレの分身への刺激も強くなっていく。
指で作った輪でカリ首をきゅ、と絞り込み、開いた傘の裏をなぞるように摩擦する。赤く腫れた
粘膜部分を掌で包み込み、すりすりと先端を磨くように撫で付ける。
オレからもカクカクと腰を振り、更に強い刺激を得ようとグゥの手に分身をこすり付けた。
グゥの手で作られた筒に向かって、まるでグゥ自身を犯しているように抽送を繰り返す。そんな
倒錯的な興奮も混ぜ合わさり、脳から直接分身の先端に向かって甘い痺れが流れ込んで行く。
……いよいよ限界が近い。オレは更に腰の動きを早くし、くちゅくちゅと音を立てて
その柔らかい手に粘液を擦り付け続けた。
グゥの胸元と、オレの下半身。二箇所から聞こえていた粘着質な水音にいつの間にかもう一つ、
ちゅくちゅくとテンポの速い、リズミカルな音が増えていた。ちらりと横目でその音のする方向……
グゥの下半身へと目を忍ばせる。
よく見ると、グゥの左手がその部分へ真っ直ぐに伸びていることに気がついた。オレのものを
弄りながら、自分の秘所をも慰めていたのだ。
「う……ぁ……」
急激に身体の熱が高まっていく。
オレはその指の動きに完全に心を奪われ、グゥの胸を責めるのも忘れ魅入ってしまう。
もはや、何もしなくてもグゥのその姿を見ているだけで達してしまうだろう。それでも
腰だけは動きを止めず、分身に物理的な刺激も与え続ける。
「も、もう……グゥ、…出る、よぉ……ッ」
身体中の熱が一気に分身の先端へと昇り詰める。このまま絶頂を迎えるべく、オレは更に強く
腰を振りつける。
……が、次の瞬間、オレの腰はグゥの手によってぴたりと止まった。
「ちょっと、待て……もうちょっと…だけ……」
「ぐ、グゥ……?」
言いながら、グゥはオレの分身を絞り込むように握り締めてくる。その強烈な圧迫感に、
オレは腰を引く事も押す事も出来なくなっていた。
しかしその手の中で、オレのものは絶え間なくビクビクと脈動を続けている。この圧迫すらも
今のオレには快感としか伝わらない。もう、とっくに限界は来ているのだ。
「ふ、っく……ホントに、んっ、もうちょっと、だから……一緒に……」
「グゥ……」
静まり返った部屋の中で、グゥの左手だけが忙しなく動く。
その指先が激しく自らの秘所をまさぐる度に、ヌチュヌチュと粘液をこねる音が耳に届く。
ぷっくりと盛り上がったほっぺを手のひらで覆い、全体を揉みこねながら、中心にあるスリットを
指でなぞるように擦り上げる。人差し指と薬指で柔肉を押し広げ、中指の腹でちゅくちゅく粘膜をこする。
そうしながら、掌はスリットの上部を強く圧迫し、何かをこねくるように円を描いていた。
「んっ、ク、うン、ふっ、んん……ッ」
身体を小刻みに震わせ、甘い声を漏らす。細切れに吐き出していた息が段々とそのテンポを上げていく。
その様を眺めるオレの息も徐々に上がり、無意識に腰が動く。早く、オレもこの熱を放出したい。
「グゥ、グゥ……」
うわ言のように少女の名を呼びながら、ぐっ、ぐっ、と強く腰を押し付けるが、急所を抑えられ
びくとも出来ない。それでも構わず、オレは何度も腰を振り続けた。尿意にも似たもどかしい
感覚に、下半身が麻痺したように痺れる。お預けを食らった犬のように、オレはただグゥのお許しが
出るまで腰をもじるしかなかった。
「い、いいぞ……も、もう、グゥも……ッ」
「───ッくあ!?」
不意に、分身に強烈な刺激が加わった。分身を包み込んでいた圧迫感が僅かに緩んだかと思うと、
グゥはその手に捻りを加えながら強くしごき上げたのだ。
オレは腰を振る勢いそのままに、その中に向かって自ら分身を強く突き込む。
「ハレ……ハレ……ッッ」
「……グ、ゥ……、ぅんんッッ!!」
そうして二、三度の前後運動にも耐えられず、限界まで張り詰めた膨らみはあっという間に
グゥの手の中で盛大に破裂した。
「…っく…ふン……ンッ……ん…はぁ……」
かくん、かくんと何度も大きく痙攣する。その脈動に合わせ、分身からはドプン、ドプンと
大量の精液が溢れ出し、その身体をドロドロに汚した。その度にオレは小さく嬌声を上げ、
グゥの胸元に唾液の糸を引かせる。
「ひン……ふっ……ぅ…」
白濁した粘液を身体で受け止めながら、グゥもくぐもった声を漏らす。
視点の定まらない虚ろな目でオレを見詰め、全身をふるふると震わせていた。
もしかして、ホントにグゥも一緒に……?
そう思うと、目の前の少女がより愛おしく思え、今すぐにでも抱きつきたい衝動にかられる。
そんな主人の気持ちなぞそ知らぬ顔で、焦らされ続けたオレの分身はその開放の喜びを全身で
味わっていた。どれだけ溜まっていたのか、いまだ小さく脈動を続けている。
「は…あ……ぁ…」
射精感が完全に止むまでの間、オレはグゥの胸元に唇を這わせたまま弛緩した身体を預け、
余韻に浸っていた。
すみません、一旦、休憩って事で
……残り計算するとギリギリのとこで500kを超えてしまいそうですorz
次スレ立ててそっちで投下続けてしていいものかどうか……。
>>245 うほああああああ
ものっそい柔っこそうや……これはあかんでえ……
俺がハレならこの時点で理性ないわw
いっぱいになったらスレ立てちゃえばいいじゃない!
続きを……
このままでもしょうがないので
次のキリのいいところまで進みます。
スレ立て…だれかお願いしますorz
↓から投下します。
<<12>>
「スッキリ、したか」
さらさらと頭を撫で付けながら、グゥはオレの額に小さくキスを落とす。オレはただ無言で
小さく頷き、グゥに頬をすり寄せた。
心地よい疲労感と眠気が身体を包む。このまままどろみの中に沈み込めたらどれだけ幸せだろうか。
だけど、まだ後始末が残っている。グゥの身体にべったりと付いたオレの欲望の跡をどうにかしないと
いけないし、それに一つ、どうしても確認せねばならない事がある。
「グゥ……。グゥは、どうなの?」
「む……?」
オレの言葉にグゥは訝しげな目を向ける。
「グゥもちゃんと、その、いけたの、かな」
「…………」
グゥはますます眉間にしわを寄せ、口を一文字に引くとぷい、とそっぽを向く。そして小さな、
消え入りそうな程に小さな声で「うん」とだけ囁いた。
「……グゥ〜〜〜ッ」
先ほど引いたばかりの熱とは別の、温かい感情がきゅんきゅんと胸を疼かせる。
オレは居ても立ってもいられず、この高揚感を全てぶつけるようにその身を強く
抱き締めた。
「好きだよ、グゥ……だいすき……」
首筋に唇を這わせながら、キスの合間に言葉を重ねる。グゥも無言でオレの肩に頬を寄せ、
そっとオレの腰に触れるが、その手はふるふると小さく震えまるで力が入っていないようだった。
「ぐ、グゥ? 大丈夫?」
そのあまりの力なさに少し不安になり、慌ててグゥを離す。グゥはぐったりとベッドに
四肢を投げ出したまま顔だけをカクンとこちらに向けていた。
「……どうやら、腰が抜けてしまったみたいだ」
「え? ……何で……」
「それと、そのせいで今、グゥは物凄く切迫した状況にあるのだが」
言いながら、グゥはぶるっと大きく身体を震わせ何かに耐えるように手を握ったり開いたりさせる。
足先も忙しなくシーツの上を泳ぎ、ぴったりと閉じた脚をもじらせていた。
……まさか。
…………まさかまさか……。
「トッ、トイレまで我慢できる!?」
「無理」
即答だった。そして、その答えは残酷にもオレの予想を真っ向から肯定するものだった。
「じゃ、じゃあじゃあ、えっと……」
おろおろと部屋を見渡す。ただでさえ物の無い部屋の中を常夜灯の灯りの元で、
この状況を解決する何かを探す。正直、不可能に思えた。
しかし一つだけ、この薄暗い部屋の中でもなおハッキリとその存在を主張し、
しかもある意味で確実に現状を打破しうる可能性を持つものが目に留まる。
他にももっと良い方法はあったかもしれない。だけど、この一刻を争う状況において
オレにはそれ以上に迅速に用意できる手段があるとは思えなかった。
オレは勢いベッドを降り、その脇に備え付けられた机の上から小さなガラスの瓶を手に取った。
「こ、これにして!」
「…………」
ぐっと突き出した小瓶の中から漏れる淡い灯りにグゥの顔が照らし出される。
心底から呆れたと言わんばかりにぽかんと口を開けた表情。が、次の瞬間には
侮蔑と憤怒に塗れたしかめっ面に変わった。
「何のプレイだそれは……変態ドエロガッパ」
「違うわ!! 他になんか良い方法あんのかよっ」
「…………」
オレの言葉にグゥは口に弓を引き、しばし考えるようにそっぽを向くが、もう一度ぶるっと
身体を大きく震わせた途端、サァっと顔が青ざめた。
「……それで、いい」
目を細め、溜息混じりにそう呟く。本当に切迫した状態なのだろう。
その代わり、とグゥは常夜灯を消すようにオレに頼んだ。日に二度もグゥのシモの事に
悩まされるとは。オレはともかく、本人にはショックな事だろう。
真っ暗な部屋を、窓から差し込む月明かりとオレの手元にある蝋燭の灯りだけがぼんやりと照らす。
蝋燭はもう殆ど無くなり、火も瓶の底の方でちらついているだけだったが、数分くらいは持ってくれそうだ。
暗闇に薄らと浮かぶ影の輪郭だけを頼りにベッドに上り、グゥの元へ戻る。
「グゥ、これで良…………」
小さな円形の光の先にグゥの足が見えたと思った瞬間、更にその先にあるものも同時に照らし
出され思わず息を飲んだ。
脚をよじり、腰を震わせ、いよいよ切羽詰った様子で身悶えするグゥの下半身だけがおぼろげに
浮かび上がる。
一時的に引いていた熱がまたトクンと下半身に集まって行く。が、今はそんな場合じゃない。
オレはぶんぶんと頭を振って煩悩を払い、グゥの傍へ寄った。
「……それも消して」
薄暗がりの向こうから、か細いグゥの声。
「でも、これが無いと何も見え……」
「消して」
冷ややかな声で、そう繰り返す。
グゥから見れば、オレの姿と自分の腰から下だけが闇に浮かんでいるのだ。これから行う事を
考えても、その羞恥は耐えられる種類のものじゃあ無いだろう事はオレにも解る。
オレはもう一度グゥの姿を確認し、フッと蝋燭に息を吹きかけた。
「……あれ?」
「どうした、早く消せ」
「いや、その……フッ! ……あれぇ?」
何度息を吹いても、火は揺らめくばかりで消えてくれない。真上から鋭く吹いても、
瓶をゆすっても、ひっくり返しても頑固に灯ったままだった。
ほとんど消えかけのような状態だってのに、これだから高級品は。
「なにやってんだ、馬鹿!」
「で、でもこれ、全然消えなくて……」
「そーゆーときは蓋を……ああッ! んんンッ、も、ういい……お願い、それ、早くぅ……」
グゥはその身を一際悶えさせたかと思うと脚の力をスッと抜いた。そしてオレを招き入れるように
おずおずと開いていく。
「…………ッッ」
思わず、何事か呻いてしまいそうになり口を押さえる。今はいらない事を考えている場合じゃない。
オレは口元を手で覆ったまま、小さく深呼吸をしその開かれた脚の付け根に蝋燭の小瓶を寄せた。
赤い光に煌々と照らされる、むっちりと肉厚のほっぺ。その中心を縦に割る一本のスリットの
上端にはぷっくりと膨らんだ豆粒大の突起が見える。海でそこを触ったとき、そんな感触に触れた
覚えは無いのだが。……なんて事はどうでもいい。
口元の次はドクドクと爆発しそうなくらいに跳ねる心臓をぎゅっと押さえ、はぁぁ、と息を吐き出す。
ただ真ん中に線が一本入っているだけなのに、何故こんなにも胸が高鳴るのか。
脚の付け根から先やお腹は日焼けしているためほとんど闇に融け、パンツの跡にくっきりと象られた
グゥの女の子の部分だけが淡い光を反射している。そこは既に漏らしてしまったのかと思えるくらいに
ぐっしょりと濡れ、お尻を通りシーツにも染みを作っていた。
「……熱くない?」
「…………っくぅ…大、丈夫……」
低くくぐもった声の中に引きつるような嗚咽が混じる。自分が今どう言う状態で
何を見られているのか解っているのだろう。グゥの為にも速やかに済ませなくては。
オレはもう一度深呼吸し、両手で瓶を持ちグゥの秘所へ柔らかくあてがう。
「ここで、いいのかな」
「……いい。もう、なんでもいい……ッッ」
途切れ途切れに言葉を吐き出し、ふっ、と最後に息を飲む音が聞こえた瞬間、プシャッと
黄色い液体が瓶の中に飛び出した。
ちょろろろ、とコップに水を注ぐような音がガラス瓶の中に響く。中の火はジュッと音を
立ててつい消え、代わりに黄金色の水がみるみるうちに瓶を満たしていく。その出所をオレは
じっと見詰め、溢れ出さないように瓶の位置を微調整しながら放水が止まる時を待った。
盛大に噴出していた水のアーチもやがて細り、勢いを失い、最後に何度かぴゅっと飛沫を
飛ばすとグゥの身体はくったりと弛緩し、持ち上げていた膝も緩やかにシーツを滑り降りていく。
……同時に、ぐす、ぐすと鼻をすする音が聞こえる事に気が付いた。
「グゥ……」
「…………」
返事は無い。ただ時折、低い呻き声が聞こえるだけだ。今は、そっとしておいた方が
良いのかもしれない。とりあえず、先にこの瓶の中身をどうにかしないと。
かなり溜まっていたようだが瓶から溢れる程では無かったようで、窓の明かりに透ける
液体の影は瓶の中ごろより少し高いくらいの位置で揺らめいていた。
瓶が傾かないように慎重にベッドから降り、月明かりを頼りに窓の前まで静かに移動する。
一瞬、躊躇したが、勢い窓を開け瓶の中身を撒きすぐに閉めた。
窓の外は緑の庭が広がっているだけだ。さすがにこの時間には誰もいないだろうし、
まあ、草木の栄養にもなるだろう。問題無い、問題無い。
オレは瓶を机に置き、そっとベッドの淵に腰を下ろしグゥが泣き止むのを待った。
「電気、点けて」
……やがて、グゥの震える声が耳に届く。
常夜灯を点け、ベッドに戻る。グゥは両腕で顔を伏せ、力なく肢体を横たわらせていた。
「グゥ、大丈夫?」
「……ハレのせーだ」
「へ……?」
グゥの隣に座り、声をかけるとグゥは腕の隙間からオレをギロリと睨みつけてきた。
「ハレのせいでグゥの腰が立たなくなったんだからな」
「あっ! そ、そうだよ! 何でイキナリそんな事になったんだよ?」
「……だから、ハレのせいだ。ハレが早漏なのが悪い」
「ンなッ!?」
突然の理不尽すぎる畳み込み。男のプライドを傷つける言葉がグサリと心に突き刺さる。
だけどその言葉の真意を読み取るにつけ、オレはその傷の痛みに構っている余裕が消えていく。
「……あのさ、ひょっとして……。一緒にイこうとして、無理させちゃったのかな……」
「…………」
オレの問いに、沈黙で返す。
だがその沈黙は、どんな言葉よりも雄弁に肯定の意思を示していた。
「グゥ……グゥ……っ! 全く、おまえってさぁ……ッ」
「ッハレ……苦しいぞ……」
自分でも気付かないうちに、オレはまだくったりと横たわるその身体を力いっぱい抱き締めていた。
普段はそんな健気さとは無縁の少女が、こんな時ばかりはどうしようもなく愛おしくなる。
オレのせいで、とはさすがに男として認めるわけにはいかないが、グゥがオレを想って取った
行動の結果である事に変わりは無い。そのせいで、恥ずかしい思いもさせてしまった。
精一杯労わってあげなくては。
今、オレがグゥにしてやれる事と言えば。さしあたって汚れた身体を綺麗にしてやる事だろうか。
「グゥ。身体、拭いた方が良いよね」
「ケダモノ」
「だから、違うっての!! グゥ、まだ身体動かないだろ? 安心してよ、グゥが嫌がる事はしないよ」
「……ケダモノ」
「あのなぁー。どーやったら信用してくれるんですかね?」
「……とりあえず、その元気なものをなんとかしろ」
「へ? ……あっ!」
グゥの目線がじっとりとオレの股間に伸びる。
言われて思い出した。そう言えば、オレの下半身は丸裸だったのだ。それも、先ほどから
完全に血が通い張り詰めた状態を維持し続けている。慌てて隠すがいったん灯った熱は
しばらく収まらない。そのまま股間から手が離せなくなってしまう。
「だ、大丈夫、ただの生理現象だから……」
「……ま、よかろう。確かに、このままだと気持ち悪いからな。やるなら早くしてくれ」
くったりとベッドに背中を預けたグゥの四肢が、シーツの上をしなやかに泳ぐ。
またズキンと疼きはじめた堪え性の無さ過ぎる自分の分身が情けない。
しかしもう、これは仕方の無い事だと諦めるしかない。実際、この少女が目の前にいる以上
静かに収まっている時の方が少ないのだ。
部屋を散策し、拭く物を探す。タオルやティッシュはすぐ見つかったが、やはり濡らした方が
良いだろうか。洗面所まで走るのも手だが、人の目を考えると怖い。他に何か無いかとタンスや
小物入れなどを漁っていると……ようやく良い物が見つかった。
ウェットティッシュ。小さな陶器の四角いケースに入っていたので一見でそれと気付けなかったが
ケースの中身は間違いなく市販のウェットティッシュそのものだった。
───よし、あとはこれでグゥの身体を拭いてやるだけだ。
陶器のケースを手に、ベッドに戻る。
そう、あとはグゥの身体を拭いてやるだけ。グゥが許してくれれば、服もオレが着せてあげよう。
それでおしまいだ。そうだ、決してやましい気持ちでこんなことするワケじゃない。紳士だ、紳士に
徹するんだぞ、と固く心に誓いグゥに向かう。
「よし、それじゃあ拭くぞ、グゥ───」
しかし一糸纏わぬ姿でベッドに横たわる少女を確認した刹那、視界がくらりと、軽く歪む。
これは何度見ても、慣れるものじゃない。
いかんいかん、心頭滅却心頭滅却……。スーハーと大きく深呼吸し、いざ少女の身体を開く。
まずはオレが汚してしまった場所からだ。もう随分と乾いていたが、その跡はくっきりと
残っている。おへその周りから胸元まで、付着した粘液の跡を綺麗に拭き取る。
次いで、粗相の方の後始末にかかる。今思えば綺麗に瓶の中に収められたものだと少し自分に
感心するがそれは置いといて。やはり多少は零れてしまっているだろう。太股の内側から
お尻の辺りまでを優しく、丹念に拭く。両足の付け根までは早々に拭き終わり、いよいよ
少女の秘所へと踏み入る。
いくら優しくしても、ごしごしと拭いたら痛いだろうか。自分の敏感な粘膜部分にそうされたらと
思うと、血が下がる。
そう考え、軽くポンポンと叩くようにウェットティッシュを押し付ける。
「ひっ…う……」
それでもティッシュが秘所に当たる度に、グゥはくぐもった声をあげビクビクと身体を震えさせる。
それはただ敏感な部分であるというだけではなく、何かに耐えているような印象を受ける。
「グゥ、もしかしてどっか痛いのか?」
グゥの態度に少し不安になり、オレはティッシュを退けグゥの秘所を晒した。あまり正常な精神で
観察出来るような場所では無いが、なんとか理性的に目を送る。
一番目に付くのは、スリットの上端に見える突起だ。そこはまるで腫れ上がったように隆起し、
赤く膨らんでいた。
ティッシュをそっとその部位に当てると、グゥはビクンと腰を大きく跳ねさせた。やはり、ここが
患部なのだろう。オレと同時に達するために、強く弄りすぎてしまったのかもしれない。
剥けた包皮の先端部分にツルンと見えるそれはジンジンと痛々しげにその存在を主張している。
オレを想って、こんなにしちゃったのか。……チクリと、心が痛む。
ウェットティッシュなんかじゃ、刺激が強すぎるんだ。もっと柔らかくて、水分を含んだ何かで
優しく撫でてあげないと……。
「ヒッ────!?」
突然、グゥの身体がビクンと跳ね上がった。
オレの口内粘膜が少女の小さな蕾に触れた瞬間と、少女のその反応は、どちらが早かっただろうか。
「ハ、ハレ……な、……何を……っ」
───誓って言うが、今この瞬間のオレの心にはやましい気持ちは微塵も無かった。
それがたとえ傍からどう見えようとも、目の前の少女の、腫れ上がった患部をどうにか
癒したいという純粋な気持ちから来た行動なのだと言う事をご理解頂きたい。
「ハレ、駄目だ……、もういいから……やめ……」
にちゅ、にちゅと粘液の擦りあう音が響く。
オレの舌が、優しく柔らかに少女の急所を何度も撫で上げる。たっぷりと唾液を含み、
根元から先端まで、ゆっくりと穏やかな摩擦を繰り返す。
「んぁっ、く、はぁ……そこ…だめぇ……ッッ」
グゥは必死で身をよじるが、それはティッシュで触れた時のように痛みから来る反応とは
違うように思えた。きっと、羞恥心から来るものなのだろう。
女の子にとって最も恥ずかしい部分にキスをされているのだ。恥ずかしがって当然だろう。
でも、ここの腫れが引くまではオレも止めるわけにはいかない。
「らめら……も……らめ………」
虚ろな声で、何度も抗議を訴える。それが、力なくベッドに身を預ける少女に出来る唯一の
抵抗であるかのように。
だけどオレはそれを聞き入れず、ただ少女の身体のたった一箇所をのみ見据え、愛撫を繰り返す。
「あ……ふぁ……ッ、あっ、あぅ……」
不意に、カクンカクンと反射運動のように足が跳ねた。息を細切れに吐き出し、ベッドに
投げ出した両手はシーツを固く握り締める。
ティッシュで丁寧に拭いたはずの秘所からは、またトロトロと粘液が滴りはじめていた。
いつか、本で読んだ事がある。これがいわゆる、女の子の気持ち良いサインってやつだろうか。
……感じてくれているんだ。それで少しでも痛みが和らいでいるのなら、もっと続けないと。
「は、きゅっ……! も、もう、お願ッ……ふや、やぁぁんッ……」
こんなに小さいのに、ここは相当に敏感なのだろう。皮に包まれた上からだとそれ程でもないが、
その中に覗く赤く腫れた膨らみに触れた時の反応の多きさは乳房にある突起の比ではない。舌先で
少し蕾をなぞるだけで、グゥは身体を引きつらせ大きな嬌声を上げる。
ここは、オレの分身の先端と同じようなものなのかもしれない。それなら、ちゃんと皮を剥いて
中身を撫でてあげないと。
莢に収まったままの秘蕾を唇で包皮ごとくにくにと揉みこね、舌を使い根元まで皮を剥き下ろす。
ぴょこんと露出した突起全体に舌を這わせ、じっくりと擦り上げる。スリットから流れ落ちる愛液を
掬い取り、ぬちぬちと敏感な突起に塗り込めるように粘膜刺激を繰り返す。
「ふっ……く、はぁっ、あっ……ッッ」
また、カクッカクッと足先が跳ね上がる。
これで何度目かも知れないが、そのサイクルは段々と短くなっているようだった。
ぴったりと閉じていたラヴィアも完全に弛緩し、くぱ、とその口を開けている。
その中心にある小さな穴からは絶え間無く愛液が滴り落ち、シーツには水溜りが出来ていた。
「なんれ、なんれそこばっかり……そこ、されうと、やぁなのに……やぁ、はれぇ……」
完全にろれつの回らなくなった声で必死に哀願するが、その願いを聞く事はまだ出来ない。
そこは何故か、オレが責める前以上にぷっくりと膨れ上がり、小指の先程の大きさに腫れていた。
どうすれば良くなるんだろう。このまま続けても大丈夫なのか、少し不安になる。
「あう……は、ふぅ……ん……」
あれから更に何度目かの痙攣を見せた時、グゥの様子が変わった。
プルプルと、全身を小刻みに震えさせ、憚る事なく甘い嬌声を吐き出す。
「す……ごい……、もっと、はれぇ……」
その身体はもはや抵抗する意思を無くし、ただ与えられる快楽を素直に受け止めようと
しているようだった。
本当に、感じてくれているんだ。痛みはもう引いているのかもしれない。……だったら。
グゥの顔をちらりと見上げ、オレも愛撫に変化を付ける。
これまではただ舌で舐め擦るだけだった突起を、きゅ、と唇で柔らかく啄ばみ、舌は突起の根元、
剥き下ろされた包皮の裏をくりゅくりゅとほじくる。そのまま、突起全体を引き出すように
ちゅっ、ちゅっと吸い立てる。
「ふぁぁぁッ!! そ、そこっ、おっぱいみたいにするのやぁ……ッ」
弛緩した身体に力を入れ、グゥはガバッと頭だけを持ち上げてオレの方を向いた。
オレもグゥを見詰め返し、目線を合わせたまま愛撫の動きを激しくさせる。
グゥをいかせてあげたい。グゥの反応を見ながら、気持ち良いやり方を一つ一つ厳選していく。
小さな突起を包み込んだ唇をゆっくり先端まで持ち上げ、根元まで一気に吸い付く。
そうして吸い上げたままちゅぽっと引き抜き、また強く吸い立てる。その度にグゥの恥丘に
叩きつけられた唇が、パチュ、パチュと粘着質な音を立てる。
「うそ、うそっ……おかしいっ、これ……グゥ、へんになるぅぅ……ッッ」
シーツを破れそうな程に握り締め、突っ張るように腕を真っ直ぐに伸ばす。足にも力を込め、
膝を立てて踏ん張るように左右に開く。
その表情は完全にとろけ、締まりの無くなった口からはダラダラと涎を垂れ流していた。
「ひ……きゅ……ッッ! くる……すごいの……クル……ッ」
完全に包皮を剥き下ろされた無防備な粘膜突起を根元から吸い上げ、強く圧迫する。
そこに舌でチロチロと、柔らかく根元をほじりながら全体をヌチヌチと舐め上げる。
その裏側に甘く歯を当て、少しずつ先端部分へと掻きこすっていく。
オレは思いつく限りの方法で、グゥの敏感な粘膜突起に快楽刺激を与え続けた。
「らにっ らに゛されて……ッ、しらなひ……こんなのっ、しらな゛い゛ぃぃッッ」
ビクンビクンと身体を大きく弓なりに跳ね上げ、足をバタバタともがかせる。その痙攣にあわせ、
呻くように声を漏らす。
気付けば、ビクビクと全身を震わせつつもその脚はオレの首に絡み付き、両手は自らの乳首へと
伸びていた。
「あーーーー!! あーーーー!! あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!」
身体を動かせない代わり、とばかりに、グゥは全力で叫声を張り上げる。
必死で身をよじるグゥの腰をがっしりと掴み、更に股間に顔を密着させ最後の瞬間までオレは
愛撫を続けた。
「いっ……くぅ……ッッ」
真っ赤に腫れた敏感な突起に這わせた歯が先端部分に到達し、ちゅぷっと強く音を立てその唇から
解放された瞬間、ヒュウと、グゥは喉の奥から声にならない声を吐き出した。
「くぁっ……あ、あぅぅンンンンンンンンン……ッッ!!」
がに股で下半身だけブリッジをするような体勢で、腰をガクンガクンと振り上げる。
その度に秘所から透明な液体が勢い良く噴出し、飛沫が降りかかる。
これが女の子の絶頂、なのだろうか。男と違って、どうなればそうと取れるのか
イマイチ良く解らないが、きっと達してくれたのだろう。
オレはようやくその秘所から顔を離し、静かにグゥをベッドに横たわらせた。
「あ゛…かは……ぁ…ひ……ぐ……」
グゥは大きな痙攣が治まった後もその身体を小刻みに震わせ、ぐったりとベッドに四肢を投げ出し
細切れにくぐもった呻き声を上げていた。
「グゥ……」
そっと傍に寄り、涙や唾液で汚れた顔を優しく拭う。
だけど何度拭っても、虚ろな眼差しでオレを見上げるその瞳からはぽろぽろと止め処なく雫が
零れ落ち、頬を細く伝っていく。
「大、丈夫……?」
涙をせき止めるように、頬に手を添える。グゥは憔悴し切った顔に笑みを含ませ、オレの手に
自らの手を重ね目を瞑った。
「この……ケダモノめ……。何が、嫌がる事は、しない……だ……」
乱れた呼吸を整えるように細く息を吐きながら、ぽつりぽつりと言葉を重ねる。
その強気な声に、心が安らいでいくのが解る。オレ、グゥのこう言う所に助けられてばっかりだ。
「ごめん、最初はホントにそんなつもり、無かったんだよ」
「まったく、よくよくのエロガッパよの……困ったヤツだ」
そう言って、グゥはくすりと微笑ってくれた。
でも、ただグゥの身体を拭くだけって約束だったのに。本人の同意も無しに、あそこまで
弄んでしまったのだ。何か償いをしなくては、自分で自分を許す事が出来ない。
「グゥの大事な所、あんなにしちゃって……ホントにごめん。やっぱり、嫌だったよね……」
「……馬鹿ハレ。嫌じゃないから、困ってるんだ」
「え……?」
グゥは拗ねたように唇を尖らせ、じっとりとした目でオレを睨む。
「あんなにされて……もう、グゥは……戻れないかもしれん……」
「え、え? も、戻れないって……」
「……自分でも、わからないんだ……」
うつろな声でそう呟きながら、グゥはオレの手を両手で握り指先に舌を這わせた。
「ぐ、グゥ!?」
「んむ……ちゅ、ん、ふぁ……ハレぇ……」
指の谷間をぴちゃぴちゃと舐め、掌にも大きく舌を這わせ、手の形をなぞるように
唾液を塗り付ける。一本ずつ指を口に含み、舌を絡めちゅうちゅうと吸い付く。
口内粘液でドロドロになった手を首筋にすり寄せ、そのまま胸元まで唾液の跡を残しながら
ヌルヌルと滑らせ、その乳房にオレの手を押し付け無理やりくにゅくにゅと揉みこねさせる。
「な、なにしてんだよ、グゥ……ッ」
「ハレ……グゥは今、多分、ちょっとおかしくなってると思う。でも、この気持ちを抑える事が
どうしても出来ないんだ……」
オレの手に掴まるようにして上体を起こし、グゥは潤んだ瞳をこちらに向ける。
そしてすがるように腕にしがみ付き、その唇をオレの口に強く押し付けた。
「……ん、ぷぁっ、ちょ、ちょっと待ってよ!」
慌ててグゥを引き剥がし、後ずさる。頼むから、状況を整理させてくれ。
グゥがおかしいって? ああ、確かにおかしい。なんだか、今まさに発情してますって感じだ。
その表情からも物腰からも、芬々と強烈なフェロモンを発散させている。
その桃色の空気に当てられまい、と気を張るも既に下半身はとっくにそっちの世界の住人に
なってしまっている。この上で理性まで溶かされては自分がどうなるか解らない。
「一旦、落ち着こう、グゥ。どうしたのさ、急に」
「どうもこうもあるか……ハレのせいなんだからな……」
グゥは正座の姿勢でオレの正面にすり寄り、オレの両手をきゅ、っと握る。
「ここが熱くて……どうしようもない……」
そしてその手をそっと自らの下腹部にあてた。
「ハレ。最後まで、して」
「──────ッッ」
真っ直ぐに、あまりにもストレートにぶつけられたその言葉に、混乱していた頭がさらに
揺さぶられる。
いやいやいやいや、待て待て待て待て。流されるな、オレ。こーゆー状況が一番危険なのだ。
ここで流されたら後々間違いなく後悔するって事は解っているはずだぞ。
下半身からの声はシャットアウトしろ。性欲に負けるな。気合だ気合ッ!!
「そ、そんなのダメだよ! まだ、早いよ……っ」
「ここまでしておいて……今さら何を言う」
「う……で、でもさ、ほら。その、オレ、そーゆーの持ってないし……そのまましちゃうと不味いだろ」
「……孕まなければ良いのだろう?」
「だから、その保障が無いだろぉ……」
「ハレが出さなければいいだけだ」
「難しい事言うなよ……そんなに制御できねえっての。それに、ホントにそれで大丈夫なの?」
「さぁ? 本にはそんな感じで書いてたぞ」
「うう……」
確かに、学校の授業で聞いた限りでは、中に出さなければ大丈夫的な感じだったけれども。
レジィの言う事だ。ぶっちゃけあまりあてになる気がしない。あの時もらった本、ちゃんと
読んでおけば良かった。
更にそっち系の本職である保険医ですら、母さんのお腹にアメがいるって解った時にあれほど
狼狽していたのだ。ますますあてにならん。不確定要素が多すぎる。
「やっぱりやめよ、グゥ。グゥだって今はちょっと興奮してるだけだよ。これからも
ずっと一緒にいるんだからさ。焦る事、無いと思う」
「ハレ……」
きゅっと手を握り返し、一言一言、はっきりと気持ちが伝わるように言葉を重ねる。
グゥはオレの言葉に眉を顰め、口を引き絞り今にも泣きそうな表情を浮かべると
その顔を隠すように俯き、小さく肩を震わせた。
「グゥも、解ってる。ハレの言う事は、多分正しい。でも……ハレ、今じゃなきゃダメなんだ。
ハレを今、いっぱい感じたいんだ。もう、抑えきれない……グゥはハレの事……ハレのこと……ッッ」
顔を伏せたまま、引き絞るように声を出す。
肺の中の空気を全て言葉に乗せて吐き出しているかのように、その声は徐々に重く、か細くなっていく。
そしてその声が完全に消え入った瞬間、グゥはぐっと顔を持ち上げ、清廉な眼差しでオレを真っ直ぐに捉えた。
「……ハレ……お願い、グゥを奪って……」
静かな、その少女の口からはこれまでに聞いた事の無い程に、穏やかな声。しかし、その声から
伝わる溢れ出さんばかりの感情はそれこそこれまでに感じた事の無い程に濃密で、純粋だった。
沸点を完全に振り切った爆発的な感情の発露。それは言霊に乗り、光の矢となって一直線にオレの
胸を貫いた。
「グゥ、ホントに……」
言いかけて、飲み込んだ。これ以上の言葉は語る意味を持たない。
グゥは、その思いの丈の全てをオレにぶつけてくれたんだ。後は、オレがどうするか、だ。
……そうなればもう、答えは一つしかない。オレはグゥと手を握り合ったまま、そっとその唇に
唇を重ねた。
下半身からの声も、性欲の奔流も感じない。代わりにオレを突き動かしているのは、心の疼き。
一つの感情が、胸をいっぱいに満たしていく。
───グゥが好き。それだけの感情。ただそれだけの気持ちで、オレはグゥの想いに応えようと思った。
うぐぐぐこ、ここまで……
ギリギリすぐる……申し訳ない……orz
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次スレサンクスです
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かゆい うめ
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うめうめうめうめうめうめうめうめ
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梅?梅?梅?梅?梅?梅?梅?梅?梅?梅?
梅?梅?梅?梅?梅?梅?梅?梅?梅?梅?
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上の改造Ver.