いつものように書類の山から逃げ出したところで偶然通り掛かった虎徹勇音を捕まえた。
そのまま本日非番の彼女に泣いて縋って頼み込み、現在勇音の私室に潜伏中である乱菊は、
絶妙な温度で出された茶をぼんやり啜りながら卓に向かい書類を片付けている部屋の主を眺めていた。
非番だというのに仕事熱心なことだ。しなやかな手が書類を纏め、筆を持ち、
また書類へと卓上を行きかいする。細く結った銀の髪が着物の襟に垂れていて、
うなじの無防備な白さが目に眩しかった。つくづく性的な匂いを感じさせない子だ。
それが経験豊富な乱菊には逆に色っぽく思える。着込んだ着物の袷を乱したり、硬い口調を崩してみたい。
ムラムラするってこういうことかしらとまで乱菊は考え、ふと思いついた疑問を投げ掛けた。
「勇音って早い話、セックスとかしてるの?」
訊いてから、今のはあけすけ過ぎたかな、と少し後悔する。
離れていても勇音の全身ががちがちに緊張したのがわかったからだ。
取り落とした筆が卓上を転がった。油の切れたカラクリのように銀髪の頭がぎこちなく振り返る。
乱菊はきょとんとした。
「何、あんたまさか、まだ処女なの?」
「ら、乱菊さん!」
「でも言われてみるとそうねぇ」
確かに勇音が肉欲に乱れる様はあまり想像がつかない。とにかく彼女は潔癖なのだ。
だが勇音からすると、乱菊の言葉は、男性から興味を持たれないつまらない女だと言われたにも等しかった。
ただでさえ身長が平均以上に高かったり小さくて可愛い妹がいたりとコンプレックスの多い勇音である。
振り向いた姿勢のまま肩が落ちる。
「…どうせ私は女らしくないです。背だって高いし、可愛い服は似合わないし…」
あっと言う間に卑屈の無限地獄に陥った勇音を、乱菊は湯呑片手にじっと眺めていた。
じっと唇を噛んで俯いている勇音は同性の自分から見ても充分魅力的だ。
身の丈とは別に気弱な小動物の気配も感じさせる。何が彼女をそこまでネガティブにさせるのかわからなかった。
八の字に寄った眉とか、おっきな目とか、いじめたら楽しそうねぇ。
乱菊はのんびり啜っていた茶をぽんと卓に置いた。
音に気付いた勇音が顔を上げ、乱菊が音もなく詰めた数歩分慌てて後ずさった。
肘が卓に当たり、がたんと大きく音を立てた。
それにすら驚いたように身を竦ませた勇音を更に追いつめる。逃げる。追いつめる。
壁まで追い込んで両腕で顔を囲うと、明らかに怯えた顔が向けられた。何を考えているかわからない、
こんなことになるならいくら頼み込まれても縋りつかれても私室になんか匿うべきじゃなかった、そういう顔だ。
その表情、逆効果よ。乱菊は思った。下腹部がじわりと熱を持つ。
「あたしだったら、ほっとかないわ」
目を瞑りそっと唇を寄せた。ほのかに花の甘い香り。胸がときめいた。
あたし、勇音に欲情してるんだわ。認めるのは容易いことだった。食らいつくようにキスをする。夢のように柔らかい。
下唇を軽く噛むことで強引に隙間を抉じ開け、ぬめつく舌を押し込んだ。勇音の目が哀れなほど大きく見開かれる。
それを見たと思った時には、既に薄い肩を掴んで床に押し倒していた。
「や、めて、乱菊さん、いや!」
勇音は懸命に抵抗している。だが手遅れだ。今更止められない。
死覇装の袷を大きく開く。乱菊などは面倒で直接素肌の上に襦袢を着ているが、勇音は更にさらしを巻いている。
案の定襦袢も開けると真白い布が目を灼いた。自分ほどではないが勇音もかなりの巨乳だ。
実際かなり柔らかいであろう大きな胸がぎゅうぎゅうに寄せられて押さえつけられた様はいかにも苦しげで、
乱菊は眉をしかめた。こんなもの解いてしまえ。
「あんた、よくこれで呼吸できるわね。窒息しない?」
「やだっ、解かないで!やめてください!」
必死で布を取り返そうとする手を避けてさらしを取り払うと、
途端に押さえつけられていたたわわな両胸がぼろんとこぼれ出た。
もう1カップ上の自分を棚上げして乱菊は唾を飲む。風呂場で何回か見たこともあるがそれとこれとは状況が違う。
下から掬い上げるようにして揉みこむといよいよ勇音が体を強張らせた。
「ふ、っう、くう…っ」
「我慢しちゃだめよ」
「っ、あ!ふうっ…んっ」
マシュマロのような丘を舌で這い登り、淡い色の頂点に狙いを定めてくりくりと押し込んでやる。
途端に体が跳ね、背中が浮いた。涙の滲んだ両目の淵に唇を落とし、
自分が普段される時のことを思い出しながら尖った乳首を焦らすようにぞろりと一舐めしてさすり続ける。
勇音の体がじっとりと汗ばんでくるのがわかった。触れている肌が熱い。
「ここ、弱いのね?」優しいだけの愛撫から一転して急に硬くなった粒をきゅ、と捻ると、
「ふああっ!あっ、んっ、んんっ」
耐え難いとでも言うように頭が振られた。右サイドの長い髪が汗の浮いた双丘に纏わりつく。
乱菊は相変わらず右手で尖りに爪を食い込ませたり意地悪く捻ったりしながら左手で自分の胸元をまさぐった。
同じようにじんじんと張りつめて硬く勃ち上がった自分の乳首をきつく抓む。
はぁ、と思わず漏れた熱い溜息に触れて、勇音が身を捩った。
「んんーっ…は、うう、んっ」
ここへきて勇音は声を出すまいと、懸命に指の背を噛んでいる。
だが勇音の必死の抵抗も、乱菊の目には苛め甲斐のある表情にしか映らなかった。
官能の渦が既に逃げられないところまで彼女を追いつめ、巻き込み、荒れ狂っていることも乱菊にはよくわかる。
その証拠に火照った頬へ掌を滑らせ、うつろな両目を覗き込むと、
恐怖と動揺の他にもっと色濃いものが淀んでいるのが見えた。
興奮が、勇音の澄んだ瞳を潤ませていた。防壁である理性が懸命に抵抗を示すもお互いの力は拮抗し始めている。
いじましい表情に、乱菊はたまらなくなった。可愛い。肉感的な唇が笑みを形作る。
それを見た勇音が怯えたように肩を竦ませた。
見るものが見ればそれは随分サディスティックな表情だった。肉欲に支配されている。
「ね、気持ちいいんでしょ?」
「ちが、います…っ!」
「あら違うの?だって」すっかり硬くなった頂点の粒を親指と人差し指で挟む。
すり潰すようにこねると勇音の腰がびくびくと跳ね上がった。
殺しきれなかった声がくぐもって漏れる。「乳首もこりこりに尖ってる。ここ弄られるといいんでしょ?」
「わ、私は…そんな…っあ、ぅああっ!ひっ」
「勇音のうそつき」
おっぱいきもちいいくせに、とわざとあからさまな単語を用いてからかわれ、勇音の頬がかっと熱くなった。
「そろそろいいかしら」
乱菊の指がするりと下帯の隙間から忍び込んだ。侵略者を押し退けようと頑なに膝を閉じる勇音を押さえ込み、
薄い茂みをさりさりと擦りつつ足の付け根を触れるか触れないか程度になぞる。
そこが女の性感帯であることは知っていた。案の定勇音の足からは力が抜け、
大人しく乱菊の為すがまま下帯を脱がされてしまう。
乱菊は満足した。抵抗も敵わず着物の前と下帯を解かれ、白い足をしどけなく崩して息を乱す様は、
彼女の魅力を存分に引き出しているように思った。乱菊の好みにもしっかり合致している。
「いい格好」
閉じた秘裂を爪の先で焦らすように撫でる。ねっとり濡れて少し汗ばんだ肉の感触が伝わった。
「挿れちゃおっかな」あえて次の行動を言葉にしてみせると勇音は蒼白になった。
なかなかいい反応だ。身悶えてなおも逃れる素振りを見せる体を押さえつけ、指を進ませる。
女陰を開かれたことでむっと女の匂いが辺りにたちこめる。乱菊の指はとろけきった襞と愛液のぬめりを借りて、
呆気ないほどずぶずぶと沈んでいった。勇音の白い裸体が押されるように反り、わななく。
「ぅぁあああ…っ、や、だ…ぁっ」
「エッチな体」火照った乳首を唇で挟み、乱菊は抑えがたい興奮を滲ませた声で笑った。
「嫌だ嫌だって言っても、こっちは充分とろとろじゃない」
「あっ、あぁうっ!いや、乱菊さ、ぃああっ」
「勇音は本当に嘘ばっかりねえ」
根本まで埋まった右の中指を内壁に押しつけてぐちょぐちょと掻き回す。卑猥な水音から逃げるように、
勇音が顔を背けた。溢れ出した愛液が手の甲を伝い、糸を引きながらふとももに垂れ落ちる。
半透明の液体を塗り広げるようにふとももを撫でながら、乱菊の左手は徐々に秘部へ上りつめていった。
辿り着いた先で、美しく手入れされた爪が、包皮の被さった隠核を引っ掻く。
「っふぁ、ぁああっ!あんっ、ひ、やぁっ」
途端、勇音の体が電流でも流されたように反り返った。ついに噛んでいた指が口から離れ、
行き場を失くした両手が哀れっぽく畳を掻きむしる。
快楽が理性を上回った瞬間だった。追い討ちをかけるように薄い皮を剥き、ぷっくり膨れた粒を直接つまんでこねる。
「あぁああっ!あっあっ、ひっ、いいぃっ」
「いい子…勇音、可愛いわよ」
あられもなく悶えながら淫らに腰を捩る勇音に乱菊はひとまず達成感を覚えた。涎でべとべとになった唇にむしゃぶりつく。
舌の付け根まで荒らしてきつく吸い上げると覚束無いながら応えてくるのが健気だった。
「ね、あたしのも、お願い」さっきから疼いて仕方なかった大きな乳房を揺すり、勇音の口元に差し出す。
ぼんやりと霞がかった目でそれを見上げていた勇音は暫くすると大人しく舌を突き出し、
充血して尖りきった頂点を猫のようにざらりと舐め上げた。寒気に似たものが背筋を走る。
「んん…っ、そうよ、勇音、上手ね」
「ふうっ、ん、んんー…っ」
赤子のように乳を吸い、舌を使う勇音の髪を愛おしげにかき混ぜながら、乱菊も一旦休めていた左手を再び動かしだす。
イク時はちゃんとイクって言ってね。吐息混じりに軽口を叩いて耳にキスを落とし、
中指と人差し指を纏めて蜜壺に突き立てた。口を塞がれた勇音の喉からくぐもった悲鳴が響くが無視して、
秘肉が捲れあがるほど強く中を掻きまぜる。行儀の悪い犬が水を飲む時のような、卑猥な音が部屋中に溢れた。
親指の腹で陰核をずりずりと多少乱暴なほど擦ってやるともはや絶頂は目と鼻の先だった。
「ぷぁ、やあっあああっ!や、乱菊さ、だめ、だめぇ」
堪え切れなくなったように口を離した勇音が殆ど泣きながら身を捩り、乱菊の肩に縋りつく。
互いのたわわな乳房が重なりあい潰れあって形を変えた。唾液でてらてらと濡れ光った乱菊の乳首が、
勇音の勃ち上がった頂点に引っかかり、豊満な丘の中心を押しこんだりさすり上げたりする、
それすら今の二人には腰がわななくほどの甘い快楽だった。
「ふふっ、いいわよ、イっちゃいな、さい…っ」
「あっあっ乱菊さんっ、ひぁ、やっ、イく、イくっ、っぁあああんっ!」
一際高く鳴いて、がくがくと全身を震わせた勇音が先に果てた。
乱菊はその数瞬後だった。緩やかで、穏やかな波のような絶頂だった。
案外悪くない感覚だと味を占めた頭で思いながら、全身の強張りが解けた乱菊は、
一足先に虚脱してとろけた肢体の上にようやくくず折れた。
時間が経ち、互いの肌の湿りが乾燥した風にさらわれて瞬く間に消えていっても二人は体を重ねていた。
勇音は一言も言葉を発しない。それは乱菊も同じことだったが、
自分の場合は気まずさによるものでも疑心によるものでもなかった。胸の動悸はまだおさまっていない。
今言うことじゃないかしら、とも思いつつ、乱菊はぽそりと呟いた。
「ねえ勇音」
「…」
「また来てもいい?」
だるい体をゆっくり起こして顔を覗き込む。勇音は暫くそっぽを向いていたが、
やがて諦めたようにすっと細い顎が承諾を示して頷いた。頬が赤い。照れているのだ。
その表情を見た途端乱菊の胸にこの部屋に上がる権利を貰えた安堵と、それともう一つ、
別の感情がまた沸き起こった。怒られるだろうなと思いながらも今目の前の唇を貪りたくてたまらない。
始まりはほんの好奇心だった筈だ。今となっては、これをただの好奇心と片付けてよいものか。
ただ一つわかったことと言えば、何だかんだ言いながらも結局最後には優しい勇音が全部許してくれるだろうことを、
既に見抜いて嵌まってしまったたちの悪い自分の本能だけだろうと、
乱菊は相変わらず明後日の方向を睨み続ける勇音の頬に笑顔で緩む自分の頬を柔らかく寄せた。
以上です
スレ汚しスマソ