【涼宮ハルヒ】谷川流 the 43章【学校を出よう!】
Q批評とか感想とか書きたいんだけど?
A自由に書いてもらってもかまわんが、叩きは幼馴染が照れ隠しで怒るように頼む。
Q煽られたりしたんだけど…
Aそこは閉鎖空間です。 普通の人ならまず気にしません。 あなたも干渉はしないで下さい。
Q見たいキャラのSSが無いんだけど…
A無ければ自分で作ればいいのよ!
Q俺、文才無いんだけど…
A文才なんて関係ない。 必要なのは妄想の力だけ… あなたの思うままに書いて…
Q読んでたら苦手なジャンルだったんだけど…
Aふみぃ… 読み飛ばしてくださぁーい。 作者さんも怪しいジャンルの場合は前もって宣言お願いしまぁす。
Q保管庫のどれがオススメ?
Aそれは自分できめるっさ! 良いも悪いも読まないと分からないにょろ。
Q〜ていうシチュ、自分で作れないから手っ取り早く書いてくれ。
Aうん、それ無理。 だっていきなり言われていいのができると思う?
Q投下したSSは基本的に保管庫に転載されるの?
A拒否しない場合は基本的に収納されるのね。 嫌なときは言って欲しいのね。
Q次スレのタイミングは?
A460KBを越えたあたりで一度聞いてくれ。 それは僕にとっても規定事項だ。
3 :
名無しさん@ピンキー:2007/03/09(金) 23:59:07 ID:eBRXxw8B
原 作 者 の 新 作 読 む と や っ ぱ 圧 倒 的 な 力 の 差 を 感 じ て し ま う 。
こ れ は も う 如 何 と も し が た い ね ……
_,..-―---―‐-..、
∠二ニ-―-、_: : : : : :.\
/´ _____  ̄\ : : : \
// ̄ \`\ヽ、 \ : : : \
V´ /l ト\ _ュュ_\ヽ l: : : /:.:\
/ / /へ l、\\ `Xヽ\ l: : /:.:.:.:.:.:l
l/l ハ1 ヾ ,r_ェ_ミヽトl\\l∠、_:.:.:.:.:.l
ハトヽ! f:.::::}トl ト、 \\ \:.: l
〉! ハ.`ー' ヾ‐'.l レ′ \\ 〉/
/ / ハ"" r‐, ""/,-亠--、 \`く_ `ヽ______________
/ _「 ̄ ̄l>-.`_ イ/: : : : :.:.:.ヽ \ ` ‐-' 、 学校を出よう |
. / /:! / \ハ :\_//: : : : : :.:.:.:.l l 、 \ \涼宮ハルヒ≠≠≠. |
/ / ,/ トl ` ヽ_:.○\_ : : : : .:.:.l l l ヽ ) ! |
/ l ハ 人\ 〉 : : l:丶:.:.:.:;/! / /l l/l / 谷川流 the 43章. |
〈_l l l ヽ ヽ_ /ヽ_ / : : /:: : : : /:.:/∧∧レ、 / l/ |
```ー \vユ´:.:.:.:.:マ=イ.:\/: : :.:.:.//´:.\ '└".| ス夕―卜! |
\:.:.:.:.:ヽ: : :.:.:.:ヽ: :.:./:.:.:.:.:.:.:.:.:.ヽ | |
l:.:.:.:.:.:.\: : :.:.:.:.:./:.:.:.:.:.:.∠_:_:.\  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄| | ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
_ ___ \_:./ \:.:._∠、:.:.:.:.:.:_/.:.: : 〈 | |
. r‐ ´ .r´  ̄ ̄ ` ¬‐\ ̄\: :.:.:く:.:.: :\ | |
l l \: : \: :.:.: : : : :\_ | |
. l l / ヽ: : :ヽ : :.:.:.:.:.:.:.:l/ ̄ ̄ ゙̄ーl‐- l
. l ! l-= _ l:.:.:.:.l:.:./:.:.:.:.:/ \ / ̄\
! | l  ̄T:‐- _ l:.:.:.:.:V:.:__∠-――  ̄ \ / \
l l l l:/  ̄マ_;-― '´ Y \
l l l /  ̄\ ヽ \ \
l .l ! / \ 冫 _∠ニイ
i亠¬――---!、 ./ / /― ´ /
l: : :.「: : : : : : : : 〉 / / ハ___r‐'′
l: : :.l: : : : : ○:./ 〈 ___  ̄ ̄ l \ブ
!: : j: : : : : : : / ヽ / / /
〉: :〉: : : : ○:〉 ', / \__ /
_ へ」_: : : : : :./ V  ̄ ̄ /
._∠二-‐´: ̄`丶、l / l
//: : : : : : : : : : : : :/ \ /
ヒt_______フ \__ __/
なんという粘着地面
8 :
40-549:2007/03/10(土) 11:44:30 ID:TaLdGeuN
投下します。
エロあり、薄いですが。6レス予定。
会×喜です。苦手な方は飛ばしてください。
9 :
生徒会長の幸福:2007/03/10(土) 11:45:49 ID:TaLdGeuN
さて、これはとある高校の生徒会長と書記でありまた全校公認のバカップルでもある二人組が、自称でもそうなる事になってから数時間後のお話である。
1.
喜緑江美里は会長の部屋のベッドの上に座っていた。これは彼女が会長の告白を受けた後、泣きながら彼の胸にしがみつきそのまま離れなかったせいであり、決して彼の下心の結果というわけではない。愛という字は真心だ、という言葉の通りである、多分。
江美里が彼女にしては珍しくベッドの上で何もせず呆けていると、飲み物を持った会長が部屋に入ってきた。
「落ち着いたかね、喜緑くん」
江美里はコップを受け取り、しかし口をつけずに、ただ彼の顔をボウッと眺めている。ふわふわした浮遊感がずっと続いているようだ。恋愛初心者につきものの自己世界への旅立ちというやつなのだろう。
「うん、どうしたんだね。睡眠薬はまだいれていないよ」
………ちなみにではあるが、恋という字は下心、という言葉もある。フォローにはなっていないが。
恋する乙女のアッパーカットで意識を刈り取られてベッドに沈む馬鹿。………一つ言葉を送ろう、空気を読め、と。
(えっと、どうしましょうか)
ベッドで幸せそうに眠っている(眠らされていると言った方が正確ではあるが)会長を眺めながら江美里は考える。何となくだがこういう事で思念体からの情報ダウンロードは行うべきではないような気がする。
そう思った彼女は、自己データ内に存在するクラスの人間の会話やたまたま目に入った本の内容を一つ一つ検証していく事にした。
(こういう時、恋人同士がする事といえば………)
いきなり顔が真っ赤になる江美里。いろいろと有害指定な事を想像したようだ。彼女の起動した日からの期間を実年齢とするならば、『耳年間』というやつにあたるのだろう。
(ああ、そういう事はまだ早いですけれど、………キス、くらいは)
このままだと意識を飛ばしておいて無理矢理奪ったそれが、二人のファーストキスということになってしまうのであるが、不幸な事にそのような事をつっこんでくれるいつもの後輩はここには不在であった。
二人の唇が軽く触れ合う。
(え、何?)
瞬間、江美里の頭は真っ白になった。
「ふっ………んっ……んちゅっ」
そのまま二度、三度と触れ合うだけのキスを繰り返す。触れ合うたびに脳髄が芯からしびれていく感覚に襲われる江美里。どうやらかなり感じやすいタイプのようだ。
(もっと、深くに………)
上唇を甘噛みしながらそれに舌をはわせる。無い筈の甘みを何故か感じる。断続的なしびれ感は既に彼女のニューロン全体に回っており、正常な思考は不可能な状態である。
だから彼女は、確かな意思を持って突き出された彼の舌も、迷う事無く自らの口内へと受け入れた。
「ふむ、ちゅぱっ………、ちゅぷっ」
そのまま口内で舌を絡めあい、卑猥な音を立てる。彼の手がいつの間にか背後に回りこみ、江美里の頭を固定しているのだが、彼女はそれにすら気付かない。既に意識はキスにしかないのだ。
「んくっ、……ちゅ、…コクン」
歯茎をなぶる。頬の裏をこする。口腔内の全ての場所から彼の液体を集め、嚥下する。体の感覚は舌以外大部分が麻痺している。舌は全身に、全身は舌になる。『全身』を使って彼を感じている。
「ふっ、んっ、ふっ、ふっ」
お互いに動きが激しくなる。『全身』は既に感じるままに求め合うだけの肉の塊。呼吸のため離れようとした相手を追いかけ、捕まえる。呼吸のため離れようとしたところを追いかけられ、捕まる。
「ふむっ! んちゅ、……はむっ」
頭がボーとする、酸素が圧倒的に足りていない。心が乾いている、彼が全然足りていない。
(わたしは、彼が欲しい)
酸素を拒絶し、彼の舌を、彼だけを求めて動く江美里。彼もそれに答える。
「ふっ、むっ、ん、んちゅ、ちゅる」
静かな部屋の中、ただ粘膜同士が擦れあう淫らな音だけが響いていた。
「ん、………あ」
一瞬意識がとぶ。酸素不足により脳が限界を迎えたのだ。江美里は力が入らずにそのまま彼の胸に倒れこんだ。
「かはっ、げほっ、ごほっ」
肺が無理矢理に酸素を取り込もうと痙攣を起こす。そのためキスを続ける事はおろか、まともな呼吸を行う事すらできず、江美里は咳き込んだ。
見上げると彼も同じような状態に陥っている。胸に耳を当てるとすごく早くなった彼の鼓動が聞こえてきた。
何となくお互いに抱きしめあう。鼓動と温もりを感じる。始まりはいろいろアレだったが、まあおおむね成功といえるファーストキスだったのではないだろうか、………答えは彼等の中にしかないだろうが。
10 :
生徒会長の幸福:2007/03/10(土) 11:47:40 ID:TaLdGeuN
2.
「さて、一つ疑問があるのだが………」
会長がそう話を切り出した。
「キスで死んでしまった場合も腹上死というのだろうかね?」
………つくづく空気の読めない人である。
江美里はその言葉で今までの自分の行動を思い出し、実感し、
(うわぁ)がすっ! 「ぐはぁ」
(いやぁ)ごすっ! 「ぶるあっ」
(ふあぁ)どごすっ! 「ぼぐるぁっ」
と、可愛らしい照れ隠し(相手にとってはわりと致死的な打撃)を行うのであった。
飛びそうな意識を必死に繋ぎとめながら会長は話を続ける。
「いや、すまないね、喜緑くん。ここからは大事な話なのだよ」
そう聞いて、やっと江美里は殴る手を止める。………顔は真っ赤なままだったけど。
「実はね、上手くは言えないのだが、その、………私は本当はこんな私ではないのだよ」
今の顔はとある目的のために作り上げたものであり本当の自分の顔ではない、と会長は言う。
既に江美里はそのことは知っていた。そしてこの期に及んでもまだ本当の顔を見せてくれない彼を少しだけ不満に思う。
「では、本当の会長はわたしの事をどう思っているのですか?」
思わず意地悪な質問をしてしまう。
「心の底から愛しているよ。この顔で言っても信じてもらえないかもしれないが、これが、これだけが、私の真実だ」
思いもかけずに返ってきた真剣な返答。それを聞いて顔に再度血が集まってくる、止まらない。
そんな顔を見られないよう俯いた彼女は彼の顔を見ていない、………泣き出しそうな彼の顔を。
「情けない話なのだがね、私は恐いのだよ。本当の顔を見せてキミに嫌われるのが恐いのだ」
それが彼の悩み、彼の憂鬱の正体。
11 :
生徒会長の幸福:2007/03/10(土) 11:48:26 ID:TaLdGeuN
顔を上げようとした江美里は彼に抱きしめられる。そうやって自分の顔を見られない状態にしておいて彼は話を続ける。
「すまない。今の顔は………、見られたくない。それで、喜緑くん、キミは………、こんな私を、嘘つきで弱い私を、………どう、思うかい?」
言葉は狭い部屋の中、小さく、弱弱しく響く。恋愛は人を弱くする。
江美里は考えた。
(わたしは………)
ふと気付いたら、彼女の体が勝手に彼をベッドに押し倒していた。
(………ならば、これが答えなのでしょう)
そう納得し、宣言する。
「わたしは、どんなあなたからも、逃げません」
そして反論と、唇を塞ぐ。
彼はまだ、彼女に全てを見せたわけではない、けれど、
(弱さを見せてくれたのは、前進したという事でしょう)
そう思うだけで彼女は嬉しくなる。そんな自分にあきれながら江美里は彼に話しかけた。
「あなたが見せたくなった時に、全てを見せてください。………それと一つだけ、わたしも心の底から、あなたを愛していますよ」
言いながら江美里は覚悟を決める。恋愛は人を強くする。
(いけるところまで、いってしまいましょう)
「では、それ以外の全てをわたしに見せてください」
江美里のそんなセリフに顔に?マークを浮かべる会長。
(えっと、何言ってんだ、こいつは)
「具体的に言いますと『脱げ』という事です」
恋愛初心者のインターフェイスが暴走を開始したようである。
(いや、まあ)
したくない、といえば嘘になってしまうだろう。目の前にいるのは大好きな女の子なのだから。
「見せられるものは全部見せてください。………その、わたしも、全部、………見せますから」
真っ赤な顔で、潤んだ瞳で、そう宣言する江美里。
「いや、喜緑くん。そのセリフの意味、分かっているのかい?」
いちいち聞きなおす彼、実にヘタレである。
「はい、更に具体的に言いますと………、その、わ、わたしをあなたのものに、……して……ください」
女性にここまで言わせる男性というのはどうだろうか? ………夜道で刺されても文句は出るまい。
ヘタレも事ここに至って、ようやく覚悟を決めたらしい。
「分かったよ、喜緑くん。今、キミに見せられる全てを見せよう」
そして今度は始まりを告げるキス。
「とりあえずブルマとスク水は外せないだろうね」
ドゴスッ!
再度意識を刈り取られる馬鹿。………なんというかもう、フォローのしようがない。
12 :
生徒会長の幸福:2007/03/10(土) 11:49:25 ID:TaLdGeuN
3.
二人は部屋の中で裸になって向かい合っている。
江美里は手で胸と秘部を隠し、恥ずかしそうに俯いている。いかにも初めてを感じさせる微笑ましさだ。
会長は何一つ隠そうとせず堂々と男性自身をさらしている。男らしいのかただの変態なのかは区別が難しい。
「さて、喜緑くん」
「ひゃ、ひゃいっ」
緊張のあまり受け答えがおかしくなる江美里。ただ、視線はさっきから彼の男性自身に固定されている。どうやら興味津々のようだ。
「とりあえず、今からキミにエロい事をするわけなのだが」
「うー、直球ですねー」
「変化球が投げられるほど経験があるわけではないからね」
「えっと、その事なんですけど、………わたしもこういう事は何も知らないんですけど」
彼女は結局思念体からの情報ダウンロードは最後まで行わない事にしたようである。
「問題ないだろう。愛さえあれば、何でもできる」
「いえ、その、あまり変態的なプレイは、ちょっと困るのですが」
「はっはっは、またまたご冗談を」
「………殴りますよ」
笑顔で拳を握り締める江美里。会長は慌てて言いなおした。
「冗談だよ。うん、優しくする、約束しよう。………それと、愛しているよ、喜緑くん」
「はい、わたしもあなたを愛していますよ」
………なんというかもう、バカップルである。
抱きしめあう。肌と肌がじかに触れ合う。
「ふあ、………ああ」
彼に触れた部分から江美里の脳髄へと、先程のキスより数倍も強い痺れが伝わる。
思わず、声が出た。
「ひんっ。……ちょ、まっ……、ひゃあっ!!」
気を落ち着かせようと深呼吸をしようとした所で胸を揉みしだかれ、意識が飛びかける。
「かいちょぉ、………まってよぉ」
「………すまない。耳元でそんな声を聞かされて冷静でいられるほど私は聖人君子ではないよ」
そう言って彼は右手で逃げられないよう江美里の体を固定し、左手で思うがままに胸を揉みしだいた。
「ふあっ……、んんっ………、はむっ」
「痛っ」
江美里は無意識に彼の肩に歯を立てる。彼は仕返しとばかりに江美里の先端の突起を強くつまんだ。
「んーーー!!!」
彼の肩から血が滲み出してきた。江美里が相当強く噛んだせいであろう。
「ん、ぺろっ、んちゅ、ちゅる」
その唾液より濃い液体を舐め取る江美里。頭が働かない中、右手で彼の背中を固定、左手で彼自身をしごき始める。お互いの体を弄り合う。全ての感触を記憶に焼き付けながら、
「んっ、……ちゅっ、ちゅくっ」
キスをする。少しでも互いの隙間を埋めようと舌を絡ませあう。
彼の手が胸から秘部に下りていった。
薄めの草原を掻き分け、『彼女』に辿り着く。くちゅり、と水音。そのまま浅い部分をかき回す。江美里の体が震える。彼はこのままキスを続けて舌が噛まれやしないか少し不安に思ったが、止まれない、と判断した。
「ふっ、んっ、んっ、んっ」
鼻息が荒くなっている。早いような気もするが、そろそろ限界なのだろう。
彼は人差し指と中指で彼女の中をかき回しながら、親指で充血している突起を強く押しつぶした。
「んっ! んーーーー!!!」
江美里は口を塞がれた状態で背筋を突っ張らせて二・三度痙攣した後、そのまま会長の胸に倒れこんだ。達したのだろう、どこか虚ろなその表情は目の焦点が合っていない。
「だ、大丈夫かね、喜緑くん」
慌てる会長。
「えへへ……、すき、……すきぃ」
達した後の回らない頭でそう答えながら、はむはむと彼の二の腕に噛み跡をつけていく江美里。どうやら噛み癖がついたらしい。
彼はそんな江美里を優しく見つめながら、彼女の頭を撫でていた。
13 :
生徒会長の幸福:2007/03/10(土) 11:50:32 ID:TaLdGeuN
4.
肩から二の腕にかけて10箇所ほど噛み跡をつけようやく落ち着いたらしい江美里を会長は再度ベッドに横たえた。
「えっと、では、……キミをもらうことにするよ」
「名前」
「ん?」
「名前で呼んでいただけますか」
「そうだね。愛しているよ、江美里くん」
彼に噛み付く江美里。どうやら嬉しさの表現のようだ、………分かりにくいけれど。
抱きしめあいながら彼自身の先端が、彼女の入り口を探そうと彼女の肌をこすりつける。
「ふい、………ああ、ん」
こすれ、はじかれるたび、江美里の口から押さえきれない嬌声が飛び出す。
何度か繰り返していると、くんっ、と少しだけ入り込む場所があった。
「ふあっ、は、はい、そこ、です」
ん、と頷き、腰を前に突き出した。
「いっ! あ、んんっ!」
彼女の中は十分に濡れてはいたがやはり初めてなのだろう。抵抗が強く彼のモノはなかなか中に入っていかない。
「ふ、んん、ん」
彼は歯を食いしばって痛みに耐える江美里にキスをして強く抱きしめた。
肩に歯が、背中に爪がたてられる。そこから血が滲み出し、痛みが走る。それで江美里が感じる痛みが少しでも紛れれば良いと思いながら、更に奥へと進んだ。
「ん、………ん」
痛みを感じ、与えながら進んでいくとやがて、強い抵抗を感じる部分に突き当たった。
「いいかい?」
問う。こくり、と彼女が頷いたのを確認し、愛情と決意を込め、そのまま彼女を貫いた。
「んーーー!!!」
瞬間彼女の中の『彼』が焼き尽くされそうな熱さと食いちぎられそうな締め付けに襲われた。
動こうにも動けず、とりあえず彼女の顔を見た。
「痛い、というか熱い、………んあ、ですね。………こんな感じ、なんですか?」
泣き笑いの顔で江美里がささやく。彼はそんな江美里のあまりの可愛さに思わず暴走してしまいそうになった。
「そう言われても、私には良く分からないのだがね」
そう言いながら自分を抑えるため、江美里を見ないようそっぽを向く彼。
とりあえずお互いにいろんな意味で落ち着くまで動かないようにしようという結論に至った。
「ところで会長、背中とか結構血まみれですよ」
少し時間がたった後で江美里にそう言われて、彼は自らの背中を確認するため少しだけ体を捻った。
「ひあっ」
その動きにより中で微妙に『彼』が動き、江美里はその衝撃で思わず声が出た。
(………痛いのか? いや、というよりむしろ)
彼は体に力を込め、彼女の中で彼自身を振動させる。
「ひうっ、……あんっ」
明らかに悦びを含んだ声が彼女の口から飛び出した。
結合部からは血液が流れている、初めてであった事は間違いないだろう。
「ふむ、エロいね、江美里くん」
「………なぐりますよ」
「この体勢では力が入らないだろう」
「………か、かみますよ」
「むしろ快感だが」
「………うー、なきますよぉ」
「それは………困るね、うん」
いつもより弱く、可愛くなっている江美里とじゃれあいながら、もう大丈夫だろう、と彼は判断する。
「動くよ」
という問いに、
「はい」
という答えが返ってきた。
14 :
生徒会長の幸福:2007/03/10(土) 11:51:25 ID:TaLdGeuN
最初はゆっくり抜き差しする。
「ふ、…ん、……ん」
江美里はまた歯を食いしばっているがそれは痛みをこらえるというよりはむしろ、
「声を出したまえ、江美里くん」
そう言って彼は彼女の口を自らの舌でこじ開けた。
舌の絡ませながら腰の動きを早くしていく。
「いあっ、ふむっ、ふあっ、ああっ」
彼の背中に再度爪が立てられる。その痛みすら心地良い、と感じ、ぐっ、と押し込み彼女の最奥を突く。
「ひああっ! そこ、いい!」
角度を変えながら同じ部位を叩く、擦り付ける、抉り込む。ぐちゅぐちゅという淫らな音と彼女の嬌声が部屋中に響き渡る。
「あ、うんっ、…すき、…すきぃ」
彼は突きこむ速度を更に速くする事で彼女の言葉に答えた。肉同士がぶつかり合い、ぱしんっ、と音を立てる。
「なか…にぃ、だしてぇ」
その言葉に興奮し、彼女の全てを埋め尽くすかのように更に彼のモノが膨張する。お互いにもう、限界は近い。
「くっ、もう、すぐだよ」
「うんっ、きて、…きてぇ」
神経の中を淫らな液体が走ってくるような感覚。それをごまかすために動きを更に大きく、早くする。
「んあっ、あ、あ、あ、あ、」
一際強く、彼女の奥に彼自身を叩きつけた。
「や、あ、あ、あーーー!!!」
昇りきり、背筋をそらしびくびくと痙攣しながら叫ぶ江美里。彼のモノが今までで一番強い力で締め付けられた。
「うっ!」
その締め付けで彼も達し、信じられないほどの量の白濁液が彼女の中に注ぎ込まれた。
「ふあ、入ってくる………あつい、よぉ」
自分の中に入ってくる彼の液体を感じながら、彼に抱きつく江美里。余韻にひたりながらはむはむと彼に噛み付き始める。彼はそんな彼女を改めて愛しく思い、想いを込めてぎゅっと抱きしめた。
15 :
生徒会長の幸福:2007/03/10(土) 11:52:11 ID:TaLdGeuN
5.
終わった後、二人は何となくお互いに離れたくなく、同じ毛布に包まりながらどうでもいい話をしていた。
「ところで会長、わたし思い切り中に出されたんですけれど、もしホームランだったらどう責任とってくれるんですか?」
「………キミが、中に出せ、と言ったような気がするのだが」
「気のせいです」
さらりと嘘をつく江美里。まあ、これも一種の甘噛みであろう。
「愛しているよ、江美里くん」
「わたしもです。ですからごまかさずに答えてくださいね」
ごまかそうとして墓穴を掘る典型的なパターンである。
彼はここでため息を一つ。恥ずかしい事を言う決意を固める。
「江美里くん、私はキミといると幸せになれる。キミも私と共にいて幸せになって欲しいと思うよ。できればずっと、打席の結果によらず、ね」
「ふあ? え、い、いきなりプロポーズですか?」
自分で追い詰めておいてパニクる江美里。
追い詰められたネズミは不敵に笑った。
「ふははははは! では、返答を聞かせてもらおうか!」
江美里は言葉を考え、出てこないと結論し、行動で示すことにした。
彼のほうを向き、目を閉じ、軽く顔を上げる。
そして、誓いの口付けを。
キスを交わしながら、永遠を誓いながら、彼は思う。
―――これが幸福というやつなのであろうか、と
16 :
40-549:2007/03/10(土) 11:52:48 ID:TaLdGeuN
以上です。
これで終わりです。
では、また。
ぐはっ!!甘くてエロくてもう何がナニやらwwGJ!!
ただやっぱりエロをいれるとキャラが変わるな。まあ俺はそういうのはありだからいいんだけど
GJ!喜緑さんかわいすぎでしょ
長期に渡って書いてなかったからリハビリがわりに
リハビリがわりにハルヒは間違ってる気もするが
ザスニ最新は端々聞いただけだから食い違いあるかも
20 :
『SOS団』1:2007/03/10(土) 13:07:22 ID:BpwXzX9X
俺が宇宙的未来的、または超能力的な事件に巻き込まれるようになって、早いものでもう一年近く経とうとしている。
とはいえ、本格的に宇宙的未来的、または超能力的な事件に首を突っ込む、もとい首根っこ掴まれ頭から突っ込まれる様になったのは5月からなので、一年という表現は正しくはないが。まぁ、いいだろ?
てっきり俺はハルヒが一暴れするんじゃないかと警戒していた卒業式はつつがなく終了し
学年末テストという一年を通しての普遍的人間的学校生活におけるラスボスと呼んで差し支えないであろう凶悪な敵を、連日部室で『GTS』の腕章をしたハルヒのスパルタもかくや、というテスト対策のお陰で、晴れ晴れとした気分で、
今、テスト最終日の最終時限の終礼チャイムを待っている訳だ。
しっかり見直しもしたし、前回の中間のように早く終わったと調子こいてたら答案用紙の裏側まで解答欄がびっしり、なんていうこともないようだ。
しかし一年、か………。長いようで短いもんだ。宇宙の物理法則云々をどうこういいながら早朝ハイキングコースを嫌々歩いていた自分が羨ましい。
あの頃の俺は、まさかこんな一年を送ることになるだなんて想像だにしなかったろうな。いや、自分のことなんだが
三年前の七夕はハルヒと、ハルヒを取り巻く世界のはじまりであり収束点だ。だが俺は? 俺自身時間移動なんてものを経験し、宇宙的未来的、または超能力的な収束点とやらになんどか関わっちゃいるが、
俺にとっての始点と言えば長門のマンションになるんだろうか。無口少女の電波マシンガンを皮切りに、俺の世界は変わっていった。
そしてその誰もが、俺を選ばれた『鍵』として――
そんなことを考えている内に鐘がなった。あるものには解放を、あるものには絶望を知らせるこの音に、何故か俺は救われたような気分になった。
用紙を回収し終わったと同時に
「あたし先行ってる!!」
と後ろから爆音。いや、HRはぶっちぎるんですか?
21 :
『SOS団』2:2007/03/10(土) 13:08:13 ID:BpwXzX9X
高校一年目も答案指導と修了式を残すばかりとなり、それはつまり高校一年という肩書きを持ったままこの本校舎から部室棟までの道のりを歩くこともあとわずかということだ。
とくに感慨深いというわけでもないのだが、休みの日にここに集まった覚えもないので、やはりそういうことなのだろう。
部室の、そろそろ天寿を全うされそうな上、ハルヒによって毎度壁との激突を余儀なくされているドアをいたわりつつノックする。無言の歓迎を受信し、中へ入ると定位置で本を読む長門と目があった。
「………」
ミリ単位で首肯し、目を本に落とそうとする長門。
「なあ、お前一人なのか?」
「………」
さっきよりは深い首肯、といってもミリはミリだが。
ハルヒのヤツはHRも出ないでどこ行ったんだ?
「涼宮ハルヒは」
長門が本を見たまま言う。
「学年末考査が終わったと同時にあなたのクラスを飛び出しHR中の朝比奈みくるの教室に突撃。彼女の担任と口論になった後、彼女を拉致。今現在は涼宮ハルヒは朝比奈みくると共に体育館にいる」
頭痛と目眩がする。風邪かもしれん。
「あなたの身体はいたって健康。私が保証する」
……ありがとう、長門。
「いい」
心なし嬉しそうな長門を眺めつつ、昔の長門を、出会ったばかりの長門を思い出していた。俺自身はハルヒに無理矢理引っ張られて連れてこられたここ文芸部室で
「長門有希」
と短すぎる自己紹介を受けたのが初邂逅となるのだが、長門にしてみれば未来的パワーで過去へと時間移動した俺となんどか顔を合わせているわけで、初対面でもなんでもなかったわけだ。
今にして思えば、過去の長門を頼ったとき互いの自己紹介もせずに、俺のことわかるか? などと長門の能力をアテにして失礼極まりない振る舞いをした自分が非常に腹立たしくなってくる。
こんど朝比奈さん(出来れば大)にお願いして過去の自分をしばきたおすチャンスをもらおう。
無理か。
22 :
『SOS団』3:2007/03/10(土) 13:08:58 ID:BpwXzX9X
次に思ったのが、あの消失世界での長門。俺はあの時あの長門の制止を振り切ってこちらの世界を選んだ。
あの世界は長門が望んだ全て。ある意味で『長門有希』の全て。その全てを俺は否定した。
何故俺はあの世界を否定したんだろう? 宇宙的未来的または超能力的事件が起こるこちらの世界を望んだからか?
ならば5月にハルヒと二人きりで立った灰色世界のグラウンドで、あのままあの世界にいればこの世界よりもっと不思議で溢れた日常が待っていたというのに、やはり俺はこの世界を選んだ。
俺は、俺の望みとは、なんなのだろう?
「長門はこの一年、どうだった?」
気付けば長門に声をかけていた。
「………」
長門は一頻り考えて
「ユニーク」
「どんなところが?」
「全部」
三年間、こいつはあの部屋で独りで過ごしてきたんだ。長門は待機と言っていた。待機命令が解除された今、こいつの目に写る全てが彼女にとって『ユニーク』なら、俺は何も文句はない。
「SOS団は好きか?」
俺は『長門有希』に聞いた。
「………」
本当に小さく、でもはっきりと長門は頷いた。
「あなたは」
長門は、今度は目を合わせて
「この一年をどう思う?」
その瞳は出会ったばかりの無とは違う、あらゆる感情をない混ぜにした、特に期待と不安の入り混じった、そんな瞳だった。
長門の声が切れると同時にドアが開いた。天使のご降臨だ。
「ふえええぇ…やっと終わりましたぁ…」
天使は随分とお疲れのようだ。あれ? ハルヒはどうしたんですか?
「涼宮さんは大切な用事があるとかで…後で必ず来ると仰ってましたが…」
ところで、何をしてらしたんですか?
「体育館で色んな服きて撮影してました…映画がどうのこうのって」
一抹の不安を感じたがこの際それは置いておこう。
「それじゃあキョン君ちょっと待っててくださいね」
朝比奈さんの為ならいつまでも待ちましょうとも。
「準備したらすぐ行きましょう」
ん? なんの話ですか?
23 :
『SOS団』4:2007/03/10(土) 13:09:54 ID:BpwXzX9X
「ふぇ? 昨日キョン君が誘ってくれたじゃないですか…新しいお茶を買いに行こうって。忘れちゃったんですかぁ…?」
「いえっ! そんな滅相もない! 覚えていますとも! さぁ行きましょう!」
正直そんな一大センセーション的な朝比奈さんへのお誘いを敢行し、あまつさえそれを忘れるはずなど無いのだが、
目の前の天使改め女神がその輝かんばかりの瞳から世界中の宝石を掻き集めてもまだ足りない価値を持つであろう涙を浮かべてらっしゃるので、そんな彼女を裏切ることが出来るだろうか、いや出来ない。
もし今の要領で過酷なことを頼まれても断れないだろうな、なんて考えは隅に置いた。
無事お茶も買い、何気無く散歩しつつ至福の時を享受してた俺だが、ふと、今歩いているのがあの川沿いの道だと気付いた。横をいく朝比奈さんは、なんだか神妙な顔付きだった。
「あのベンチですね」
心地よい沈黙を破ったのは意外にも俺だった。
朝比奈さんも同じことを考えていたようで
「はい」
と返事をするとベンチに腰かけた。あの時と同じ位置に。
しばらくまた沈黙が続いたが、今度は朝比奈さんから
「色々、ありましたねぇ…」
やけに感慨深い声だった。
「たった一年なんですけどね」
「それでも、です」
また沈黙
「時間ってなんなんでしょうね」
未来人のあなたにそんなことを言われても…
「ふふっ…それもそうですね」
少し間を置いて
「未来には無限の可能性があります。でもキョン君も知ってる通り、未来は一つしかないんです」
それは、朝比奈さん達未来人が自分達に都合のよいよう過去を操作してるからだと聞いた。
「私がこの一年で見たり聞いたりやったりしたことは、全部予め決まっていたことなんです」
「既定事項ってやつでしたっけ?」
「はい…でもそれってなんか悲しいですよね…私が体験したこと全てが既定事項だっていうなら、私の今の気持ちも既定事項だっていうことですもんね…」
小柄な朝比奈さんがやけに小さく見えた。
24 :
『SOS団』5:2007/03/10(土) 13:10:47 ID:BpwXzX9X
「私は長門さんのように設定されたわけでもないし、古泉くんみたいに自分を自分で振る舞ってるわけでもないのに……意図の外側で私は時間に『私』を作られてるの」
俺は衝撃を覚えていた。長門や古泉の性格に関しては考える機会を持っていたが、朝比奈さんの場合、古泉が言った「何もしらない、何も偽らない」がこその朝比奈さんであることに甘え、それ自体が彼女を苦しめていることを知りつつも、特に思考しなかった。逃げていた。
しかもそれは彼女の無力感からの苦しみだとばかり考え、それは更に未来の朝比奈さんを知る俺にとっては杞憂に過ぎないと思っていた。しかしどうだ、既定事項という枠組みの中しか生きられないのは朝比奈さん(大)とて同じはず。なんだか無性にやる瀬なさを感じていた。
でも
「朝比奈さん」
目が合う
「朝比奈さんは女神です」
「ふぇ!?」
間違えた
「朝比奈さんは朝比奈さんだけなんです。あなたが体験したこと、あなたが感じたことはあなただけのものなんです」
でもだからこそ、俺は『朝比奈さん』に訊いた。いや訊かずにはいられなかった。『長門』にした同じ質問を
「朝比奈さんはこの一年、どうでしたか?」
「わたしは…―」
『私』を探してる朝比奈さんに
「今ここにいる朝比奈さんに聞いてるんです。他の誰でもない」
朝比奈さんは目を見開いた後、静かに目を閉じ
「…私が過ごしてきた中で、もっとも…かけがえのない時間です」
と答えた
「朝比奈さんはSOS団が好きですか?」
朝比奈さんは少し困ったような、それでいて女神のような微笑みで
「…はいっ」
世のオスは全て堕ちるだろう、と心のどこかで思った。
25 :
『SOS団』6:2007/03/10(土) 13:11:38 ID:BpwXzX9X
「そろそろ帰りましょうか。ハルヒが戻ってきてたら厄介です」
朝比奈さんは苦笑して
「そうですね」
とだけ言って立ち上がった。
なんとなく、話してる間ずっと気になっていた空き缶があった。いかにも蹴っ飛してくれという感じの。朝比奈さんの声が聞こえる。
「キョン君は」
ちょっと助走をつける。
「この一年を」
足を振りかぶる。
「どう思うの?」
急速に、急速に嫌な感じが頭を突き抜け、足を制御しようと試みたが時既に遅し。
蹴られた空き缶は吹き飛ばず、俺の足に激痛を残すだけになった。
「キョキョキョ、キョン君!? だ、大丈夫!? え!?」
わけが分からないと言った感じの朝比奈さん。
「いっつつつ…痛ぇ…誰だこんなアホな真似しやがるアホは…」
案の定、空き缶は打ち付けられた釘を覆うようにしてセットされていた。
朝比奈さんとの思い出を走馬灯のように思い出していたおかげかはたまた宇宙的未来的または超能力的パワーに関わりすぎて未知の力が発現した為か、とにかく全力での衝突は防げたので、歩ける位にはすぐに回復した。
道中俺の右足を気遣ってくださる女神に心奪われつつ、部室前にたどり着いた頃には日は傾いて赤みをさしていた。
中には長門と、古泉がいた。
「お二人でお出掛けしたとうかがっていたのですが、なかなかお帰りにならないので心配していたところです」
相変わらずうさんくさい笑みだな。
「すみません…私が付き合わせちゃって…」
「おや? 足をどうかされたんですか?」
めざといな
「他ならぬあなたのことですから」
やめろ、朝比奈さんが5センチほど離れたじゃないか
しかしハルヒはまだ来てないんだな
「ええ、僕が来たときにはまだ。そして今まで一度も」
「長門は見てないか?」
「ない」
どこにいるか聞こうとも思ったが、やめた。
26 :
『SOS団』7:2007/03/10(土) 13:12:33 ID:BpwXzX9X
「それはそうと、昨日の約束通りジュースをおごりますよ。今でよろしいですか?」
「ん? ああ」
俺達は五月にハルヒについて話したあの場所に腰を下ろしていた。
賢明な諸君らは気付いているであろう、俺は昨日ハルヒと勉強缶詰でこいつと話さえしていない。約束? なんの話だろうね。
「で、なんの用だ?」
「用、とは?」
「わざわざこんなところに来たんだ、なんかあるんだろ」
「この一年の反省、と言ったところでしょうか」
「………」
「先に言っておきますが、僕は、僕個人はこの一年がとても意義あるものだと理解してますし、SOS団は僕にとってなくてはならないものです」
まだ俺は何も言ってないわけだが
「今日のあなたはわかりやすい。顔に書いてありますよ」
案外俺も感傷に陥りやすいのかもな
「否定しない辺り、いつものあなたとは違いますよ」
「俺にだってこういう時もあるさ」
「『僕』が性格を偽ってる、という話は前にしましたね?」
お前、盗み聞きはよくないぞ
古泉は肩をすくめて
「でも、最近気が付いたんです」
スルーしやがった。
「『僕』にとってSOS団にいられる僕こそが全てなんじゃないかって」
「………」
「『僕』は僕が好きなんです。本当、おかしなことに」
聞きようによってはただのナルシストだな。顔がいいからなお性質が悪い
「でも、あなたは分かってくれるでしょう?」
「まぁな」
不本意だけど、少しだけな
「ならそれだけでいいんです、『僕』は」
ホットの紅茶をすする音が響く
「今度は僕の番です。あなたはこの一年を振り替えって、どうお考えになりますか?」
27 :
『SOS団』8:2007/03/10(土) 13:13:25 ID:BpwXzX9X
そして辺りがすっかり闇に包まれた今、俺はハルヒと共に東中の校門をよじ登っている。
あの後部室でまったりしていた俺達の前に嵐のように現れ、解散とだけ言い残し、俺を拉致してここまで連れてきた。
何故だ?
「ここ、あたしの母校」
「知ってる」
「ならいいじゃない、来なさいよ」
俺はwhereじゃなくwhyを訊いたんだが
「い い か ら」
はいはい
「返事は一回!!」
校庭のど真ん中に二人で立っている。まだ教員やらがいてもおかしくないだろう時間なのに校舎に人のいる気配はない。あのニヤケ面に言わせればハル(ryってとこだろうか。
「あんた、さっきから何ぶつぶつ言ってんのよ気持ち悪い」
ぬかったぁ! また口に出してたのか…
「ここさ、4年前の七夕のここでさ、あたし会ったんだ」
「誰に?」
「ジョン・スミス」
まあ想定の範囲内だ。動揺もしない。
「外人か?」
「偽名よ、日本人に決まってるじゃない」
決まっているのか。
「そいつは宇宙人も未来人も超能力者もいるって言ったわ」
断言したっけかな…。
「それからずっと探したけど、見付からなかった」
彼女の顔は曇らない。
「でも、それ以上に大切なものを見付けたの!」
ジョンのおかげだから、と続けられて少しびっくりしたがそういうわけじゃなさそうだ。
「あたしはこの一年本当に楽しかった! SOS団より素晴らしい仲間なんて世界中どこ探してもないわ!!」
あたしも『あたし』もない少女が夜空に向かって叫んだ。
「…キョンは? キョンはどうだったの?」
途端不安気に揺れる瞳。
俺は少しだけ言葉を選んで言った。
「『俺』は――」
「この世界」を選んだ答えを得た気がした。
28 :
『SOS団』終:2007/03/10(土) 13:14:10 ID:BpwXzX9X
「そういえばお前、今日一日中どこ行ってたんだ?」
「はぁ? あんたが言ったんじゃない。次の映画の撮影場所の下見に行ってこいって。時間ないんだからガンガン撮らなきゃダメだって」
なんだか急に血の気が引いてきた。
「言っておくけど春休みの予定、ぎっしりよ」
それはある意味想定の範囲内。
「次の一年はもっともーっと楽しくなるんだから!!」
余談になるが、すっかり遅くなった頃自宅に帰ると、家の前に女神がいらっしゃった。
これも想定の範囲内だった俺は来年度も幾度となく呟くことになるだろう相棒の名を呼んだ。
「……やれやれ」
とね。
FIN FUNNEL
内容おかしかったら指摘してほしい
力不足は指摘しないでほしい
キョンが3年前とか言ってるのはスルー
GJ。悪くはないんだが、キョンの記憶にない約束、会話がよく分からんかった。
別サイドの伏線か?
GJ!です。
なんだろう、この'のほほん'となる感じは?そうか。これが'和む'ということか。
所々の読点が抜けていることが気になった。
あとは特に無い。
>>16 会長と喜緑さんをそのまま宮野と茉衣子に変えても成立しそうな違和感があった。
読点は妥当だと思うよ。
プロでも息継ぎだとか称して論理破綻した点を打ちまくったりするから逆に読者も毒されてる感がある。
ただ、多いから駄目ってことも一概には言えない。不安なら句点を増やして一文ごとを短くする。
gj
>>30 キョンが時間移動して約束して回ったんじゃね?
最後の
>家の前に女神がいらっしゃった
これは朝比奈さんだろうし。
>>16 エローッシュ!!
甘々で歯が溶けそうw
>>29 冗長な語りだな〜と読んでいたら、後半には自分までマッタリしてた
騒乱の春休み前の日常、嵐も前の静けさか、津波の前の凪みたいなもんか
キョンだけ忙しいのがご愛嬌w GJ!
にしても、ごく最近「エロ投下減ったな」的会話があったと思ったら
前スレ辺りから、いい意味でエロ成分増えたねぇ
うん、エロ分とミヨキチ分も増えてうれしいね
エロパロ板だけど感動できる奴もほしい。
キョンが阪口とエロするのがない
>>29 面白かった。にしてもハルヒからジョン・スミスを語らせるのはある意味鬼門だよね
ハルヒが誰にもジョン・スミスの事を話さず秘密にしてるからこそ、キョンの最後の切り札が生きて来るわけで
下手に前振りされたら、切り札が切り札足り得なくなる
>>40 以前そんなSSあったな。
ハルヒと古泉がラブラブな改変世界で、
キョンがジョン・スミスバレをしても「もう、古泉君ったら、内緒だって言ったのに」
とか言って相手にもされなかった話。
>>29 GJ!!
朝比奈さんの性格云々が凄く巧いと思う
後『』が話に深みを出してる
あの悪戯がキョンが自分で仕掛けたのなら
前述の過去の自分をしばく〜にかかってくるのかな?
後日談的な説明を入れてほしかった
>>42 ハルヒとキョンがラブラブになってハルヒがキョンに喋っちゃっても、結果同じになっちゃうよな。
ジョンバレができなくなる。
>>42 vipの奴か
ジョン・スミスバレしても相手にされなくてキョンがすごい落ち込んでて見ててカワイソスだった・・・
NTRは受け付けんなぁ・・・
ジョンのときに言った言葉そのまま反芻すれば信じるんじゃないか?
ちょっと投下しますよ。
長くなりそうなんで、とりあえず書きあがった分の一部をまとめて。
おはぎに生クリームかけたくらいのくどさなので、そういうのが嫌な人はスルーを推奨します。
あと、スニーカーの先行掲載分は読んでないから、新しい設定でも出来たならそれは知らないです。
1章〜ジェニュイン・ラブ〜
耳を劈く嫌な音がする──タイヤが擦れる音だ。
視界を何かが遮る──巨大な車体だ。
────
惨劇を前にして、俺に出来たのはただ叫ぶことだけだった。
「うあぁあああああああぁああああああああ」
腕を思い切り振り上げる。
ドサリと思い何かの落ちる音がした。
…………?
どこにも異常のない俺の部屋だ。
窓からは、獲物を捕らえる漁師の銛みたいに、朝の光が俺を目掛けて突き刺さってくる。
「わあ、びっくりしたぁ。キョンくん。どうしたのお?」
ドアの開く音に顔を向けると、妹が驚きを絵に描いたような表情でこちらを見ていた。
落ち着いて部屋を見渡せば、豪快に跳ね飛ばした布団が我ながら恥ずかしい。
「……なんでもねえよ」
──ただの夢か。
悪夢ごときで叫びをあげてしまうなんて、はっきり言えば情けない。
誰かにこんなとこでも見られたら、爆笑物だろう。
「ハルにゃん。もう来てるよ〜」
妹の間延びした声が、更にヤバイ事態を告げる。
「何っ。今何時だ!?」
手元の目覚し時計を確認する。
今から悠久の以前にかけたはずのアラームには、何故だろう既に切られた形跡がある。
くそっ、寝ぼけた俺は何をしでかしてるんだ?
「……ョーン!!!早く降りて来い!!」
窓の外からハルヒの怒鳴り声が聞こえてきた。
やばい、「宇宙ヤバイ」とかそういうレベルじゃないくらいヤバイ。
「何で起こしてくれなかったんだ?」
「ええ〜。キョンくんが『ハルヒが迎えにくるから自力で起きてやるさ』って言ったから、起こさなかったんだよ」
ああ、そうだったな。
ハルヒの為を思えば、なんとかなるさと昨夜までは思ってたんだ。
残念。愛の力は、睡魔ごときに負けてしまったってわけか。
「こらーーーーーーっ!!いつまで寝てんのよ」
二階までよく通るあいつの怒鳴り声が聞こえてくる。クソ……近所迷惑だ。静かにしてくれ。
って、こうしてる場合じゃねえな。
俺は急いで着替ると、洗面所に駆け込んで冷水をざぶざぶ流して顔だけ洗った。
──クソ…眠いな、まるでまだ夢の中みたいだ。
「すまん」
駆けつけ参拝──誤用もいいところだな──両手を拝むように合せて思い切り謝る。
神様、仏様、ハルヒ様申し訳ございませんでした。
「遅刻!!罰金っ!!」
目と眉をど素人のスキーヤーみたいな逆ハの字吊り上げてハルヒが俺を睨む。
「本当に悪い。……どう詫びればいい?」
おそるおそる御機嫌お伺いだてをするも、頭の中は、嫌な予感のアラートで埋め尽くされていた。
「ふーん。そいじゃ駅前に新しくできたフレンチのお店につれてきなさい」
ああ、畜生。よりにもよって最悪の答えが返ってきやがった。
あそこの料金は馬鹿高いらしいと、誰かが言っていたのを最近噂に聞いたばっかりだ。
そもそも、その店の値段が平均以下であろうが、一介の高校生であり、バイト稼業に勤しんでもいない俺には、フレンチを奢るような金の持ち合わせなんざどこにもない。
not to be or not to be はてさて、どうしたもんかね?
黙っている俺を見かねたのだろうか、ハルヒはその眉を少しだけ下げると話を切り出してきた。
「ま、いつもの喫茶店で許してあげるわ。どうせあんた、そんな大層なお金なんか持ってないでしょ」
俺の方に背中を向けるのは、俺への気遣いに対する照れ隠しだろうかね?可愛い奴め。
「あ……ああ」
「ただし、一番高いの奢ってもらうんだからね」
言うと同時にくるりと振り向いてウインクを決めてくれた。回転に合せて俺にとって100%のポニーテールが揺れる。
──ない袖があるなら、フレンチだろうが三大珍味だろうが奢ってやりたい気分だ。
「んじゃ、改めて……おはようハルヒ」
「おはよう、ジョン」
元気良く言葉が返ってくる。機嫌はすっかりオールグリーンのようだ。
「なあ、そのジョンってのは止めないか?」
「だって、あんたがジョン・スミスでしょ?」
「いや、まあ……そりゃそうなんだがな」
そいつはあくまで偽名だしな。どうせなら本名の……k
「まあ、いいわ。じゃあ、キョン」
屋根まですら飛ぼうとないシャボン球みたいに、俺の願いは儚く消える。
ひょっとして俺は未来永劫、この間抜けなニックネームでハルヒに呼ばれつづけるのだろうか。
──いや、まさか、こいつは俺の本名知らないのか?
なんて俺のパーソナリティについて、少しだけ真面目に考えながら歩きだそうとした所で、後ろから首ねっこをつかまれた。
「おはようの『ちゅー』は?」
…………
あー……え、いや。ここでするのか?
頷くハルヒ。おやつを目の前に差し出された子犬のようなキラッキラの目だ。
待て待て待て。ここは往来でだな。ほら人通りが……
「あそこのお店、ランチならお一人様3000円くらいからいk……」
さらば俺の羞恥心。君はいい友人だったが、俺のお財布がいけないのだよ。
ハルヒの身体を引き寄せて、唇に軽く口付けする。
いいさ。どうせ見ているのは猫くらいなもんだ。だから、電柱の影にさっと隠れて覗き見を続ける近所のおばさんが見えているのは幻影だ。
「……ん」
ゆっくりと唇を離す。
何故だろう、望んでいたのは俺じゃない筈なのに非常に名残惜しい。
「おはよう。キョン」
そう言ってハルヒは笑う。
その笑顔があんまり眩しいんで、朝の清清しさが何倍にもなった気がしたね。
*
あれは、いつのことだったろうか?まあいいさ、正確な日付なんか別に必要じゃない。
俺はハルヒに想いを告白した。
多分、自己紹介の時から一目惚れだったって事だとか。
お前の全てが好きだとか。
馬鹿らしいことだけど、ポニーテール萌えのことも言ってやった。
その他諸々、ずいぶんと恥ずかしいことも言った気がするが忘れちまおう。
時効くらいは適応されてもいいはずだ。
*
「ジョン・スミス」
なるべく冷静な口調で答える。
「……ジョン・スミス?」
呆然とした表情のハルヒ。
「あんたが?あのジョンだっていうの?」
俺は自分のことを教えた。
それは、多分必要なことだと思ったから。
ハルヒに自分のことを知ってもらいたかったから。
「んー、というわけで今日もSOS団の活動は、いつもの喫茶店よ」
ちなみに昨日の活動も、喫茶店だ。更に言うと、当然のように俺が奢らされた。
なんだか世の理不尽を感じるね。
「しかし、最近いつもあの喫茶店に集まってるよな」
「だって、あそこなら皆集合しやすいじゃない」
まあ、それもそうなんだが……あそこのメニューにも飽きてきた頃だ。
「いいじゃない。SOS団結成以来御用達の喫茶店よ。きっと将来プレミアがつくわ」
どんなプレミアだ、それは。
「ほら、有名人が行った喫茶店とか有名になるでしょ。あれと同じよ」
「将来、お前は有名にでもなるのか?」
「違うわよ、世界に羽ばたくのはSOS団。あたしの将来の夢は……」
お前の夢は?
宇宙人を探す恒星間飛行士か?タイムマシンを製作する科学者か?あるいは超能力を統括する……
「あんたの、お嫁さん…かな?」
────
あーーーーーーーーーもう。
処理できなくなった感情の暴走を、ハルヒの頭を強く撫でることで発散する。
かわいいな畜生。
そのまま二人で高校へと向かう途中。
「よう、キョンに涼宮。お前ら仲良いよなー。ホント羨ましい限りだぜ」
後ろから谷口の囃すような声が聞こえてきた。その言葉はからかい半分、本音半分ってとこだろうか。
「そりゃどーも」
俺はおざなりに答える。実際、谷口なんざどうでもいい。俺たちの愛は不滅だ。
「しっかしよう。あの涼宮が本当に誰かとまともに付き合うとはな。驚天動地だぜ」
まあ、俺自身がハルヒと付き合ってることが驚きだしな。
「やっぱ、あれか。高校に入ってから俺の見えねえ場所で、知らないうちに涼宮も変わったってことかね?」
さあな。
「しかしまあ、本当驚きだ。あの涼宮がなー……」
谷口がうんうん頷く。勝手に自己完結したようだ。人の話を聞けよ。
「ちょっとあんた。黙って聞いてれば、なんて言い草してんのよ」
一連の話を後ろから聞いていたのだろう、憤懣や遣る方ないといった様子でハルヒが言う。
「あ、ひでーな。俺がキョンにお前のこと色々教えてやったの知らないな」
「ふん。どうせろくなことじゃないでしょ」
まあ、確かにろくなことは教わってない気もするが……
「だいたいあんたって昔からアホで何の役にも立たないじゃない……あんたみたいのが同じ中学だってだけで恥だわ」
ハルヒの言論攻撃はそのまま続く。
「そもそも、あんただって『わぁわぁわあ!!!』5分で振ってやったわ」
谷口が叫んで、ハルヒの言葉を途中で遮る。
よほど聞かれたくないことなのだろうか?まあ、なんとなく想像はついちまったが。
「お、おいキョン。早くいかねえと遅刻しちまうぜ、い、急ぐぞ」
谷口は俺の手をひっつかむと、勢いよく走り出してくれた。ああ、こりゃ楽でいい。坂の上まで引っ張ってくれ。
「あ、こら!アホ谷口。あたしのキョンをとるなぁ!!」
ハルヒが叫んでる。
すまん、ハルヒ。どうやら離別は愛するもの同士の試練のようだ。
「この馬鹿キョーーンっ!」
ああ、怒ってる姿もかわいいなお前は。
「また後でな」
俺は手を振りながら、自然とハルヒに微笑んでいた。
*
学校というのは、往々にしてつまらない所だ。
中でも授業中というのは、大部分の人間にとって最もつまらない時間だろう。
もちろん例外だっているだろうし、学校が楽しくて仕方ないって奇特な奴だって探せば見つかるだろう。
でも今の俺にとって学校なんて、ただ習慣的な日常を繰り返しているだけに過ぎなかった。
そう、習慣的な日常を。
「ここで……x座標が……」
目は覚めている筈なのに、教壇に立った教師の言葉が虚しく全て俺の右耳から左耳へと素通りする。
虚無への供物だ。
アイツならどうするだろうか?
「面白くなければ面白くすればいいのよ」とでも言い放つのだろうか?
そんなことを空っぽの頭で考えたが、ナイフで突き刺されるよりもよっぽど痛いアイツの視線を感じることはとうとうなかった。
「おい、キョン」
昼休みの時間。俺の隣の席に座った谷口から声がかけられる。
「お前、涼宮がいないってだけで、そんなに腑抜けるのかよ」
声を荒げるなよ。別にいいだろ?俺はハルヒを愛してるんだから。
ハルヒは今教室にいない。最も、もとから昼休みには姿を消すのだが。
「あのな……」
「やめようよ、谷口」
国木田が谷口を遮る。
「キョンにとって涼宮さんは、本当に大事なことなんだと思うよ。だから……」
そうだな。
少なくとも今の俺にとってはハルヒが一番大事なものだ。
いや。多分これからも……
*
「あたしスペシャルパフェね。この一番高いの」
注文を取りにきたウェイトレスに隣に座ったハルヒが元気良く告げる。
ああ、もう。分かったから落ち着け。メニューを振り回すな、店員に5回も確認するな。
「仲がよろしいようで……あ、僕はアメリカンを」
制服姿の古泉が微笑を浮かべたまま、皮肉めいた口を叩いている。
言っておくが、お前の分は奢らんぞ。
「…………」
長門は、それしかすることがないのか本を読んでいる。
注文は何だ?
「…………ココア……ホットで」
それだけ言うと、すぐに本に視線を戻した。まるで、こちらは見たくも無いとでもいいたげだ。
「え、えっと…あたしはミルクティーを」
所在無さげにきょろきょろと見回しながら朝比奈さんが告げる。
その姿はどことなく庇護欲を誘われて可愛らしい。まあ、ハルヒには適わんがな。
しばらくの後、さっきのウェイトレスがお盆の上に聳え立つ巨大なパフェをもってくる。
所々に散りばめられた色とりどりのフルーツの演出がニクいね。あれが値段を跳ね上げてやがるのか。
「ね、これ。こいつ……彼氏の奢りなの。羨ましいでしょ?」
こら、店員に構うな。困ってるだろ。おまけに俺が死ぬほど恥ずかしい。
「いいじゃん。別に……いただきまーす」
ハルヒは満面の笑みでスプーンに手をかける。
──やれやれ。
少しだけ高い金を払う意味ができたような気がした。
「しかし羨ましい限りですね」
と、古泉。
傍から見りゃ、隣に朝比奈さんと長門がいるお前もかなりのものだと思うけどな。
ハルヒが隣にいなけりゃ俺だってお前を羨むだろうよ。
「僕が羨ましいというのは、あなたの隣にいるのが、涼宮さんだからですよ」
カチャリと軽く音をたてて古泉がカップの中身を一口すする。
「今だから言いますが……そうですね、僕はやはり涼宮さんのことが好きだったんですよ」
悪いな、古泉。例え相手がお前でもこればかりは譲れないんだ。
「そうでしょうね、涼宮さんとの付き合いは僕の方が長いですが……あなたが現れた時点で『ああ、僕に勝ち目はないんだな』と感じさせられました」
哀愁を漂わせながら、古泉がコーヒーをすする。
「古泉君の言葉は嬉しいけどさ。あたしはキョンのものなんだからね」
「存じ上げております。さっき行ったこととは、軽い負け惜しみのようなものだと思って、気にかけないでください」
古泉は軽く笑った。副団長らしい笑顔で。
「さ、湿っぽい話してないで食べるわよ」
「んー。美味しい」
ハルヒはパフェに舌鼓を打っている。
熱心にスプーンを動かす姿はまるで子供だ。口の端にクリームのお弁当までつけてやがる。
「クリームついてるぞ」
「ん……どこ?」
「ここ」
振り向いたハルヒの顔のクリームを唇ごと舐め取る。
「……甘いな」
味わい慣れたその唇からは、いつもより少し甘い生クリームの味がした。
「ちょっ…ちょっと!あんたの方が、よっぽど恥ずかしいことしてんじゃない!」
口をパクパクさせ、真っ赤な顔になったハルヒにボカボカ殴られる。
恥ずかしがっているその姿もなんとも言えず可愛らしい。
「見ていられませんね」
「ココアのくせに……にがい……」
「あわわ……キョン君、大胆ですね」
大きくため息をつく古泉、ぼそりと呟く長門、手で口をおさえる朝比奈さん。
三者三様の反応がそれぞれから返ってきていた。
「むぅ……」
ハルヒは、頬を朱に染めながら細々とスプーンを動かしている。
「動きが止まってるぞ」
横から勝手にパフェを奪い取る。
「あ、こら!!あたしの」
いいだろ?元は俺の金だ。
それに世の中には「パフェなんか週一でしか食えない」って人だっているんだぜ。
少しくらい俺が糖分を分け与えてもらおうが、なんら問題はないはずだ。
「返せ」
ハルヒの顔が近づく。1cm、5mm……あ、くっついた。
そのまま、ハルヒの舌が口腔内を這いずる感触を味わう。
「………ん」
吐息が漏れる。やっぱりこいつのやることの方がよっぽど恥ずかしいな。
「はあ。僕が注文したのはアメリカンで、エスプレッソを頼んだ覚えはないのですが……」
「………………」
「はわわわわぁ」
そんな感じの今のSOS団の日常。
俺とハルヒは大いに満足してるけど、古泉、長門、朝比奈さんにとっちゃ大いに迷惑な話だろうな。
本当にすまない。
でも、いいだろ。少しくらいなら惚気させてくれたって。
*
前日に何があろうと、退屈な日常ってのは必ずやってくる。
「つまり……ここの……であるからして…………」
教師が何を言っているのかサッパリ理解できないし、無理にしようとも思わない。
あいも変わらず授業は虚無的だ。
ハルヒと話していないというだけで、こうもつまらないものだろうか?
腕を枕に机に突っ伏す。
眠りたい筈なのに何故だか睡魔は俺を覗こうともしなかった。
終業を告げる鐘が鳴る。
眠るに眠れない俺には、それがまるで天から与えられた福音みたいに聞こえた。
軽く扉をノックする。
高校生活で見慣れた文芸部の扉。
同時に団長様の作った心地よいSOS団のアジトでもある。
「……入るぞ」
「…………」
初めてここに来た時から座っていた席に長門が座っている。
「よお」
声をかけると、少しだけ本から目を離してこちらを見てきた。
「悪いが眠りたいんだ。寝かせてくれ」
「わかった」
軽く長門が頷く。
自分の席に座り、目をつぶる。
それは長門のお陰だろうか?眠る体制を整えて幾許の時間も過ぎないうちに、俺の意識はいとも簡単に消失した。
──馬鹿馬鹿しい夢を想う暇もなく。
*
………ん?
頭の感触に違和感を覚える。確か俺は、机に突っ伏して眠ったはずなんだが。後頭部に当たるこの軟らかい触感はなんだろう?
「やっと起きたわね」
目を開くと、ハルヒの顔が視界いっぱいに飛び込んできた。
「おはよう」
「お・そ・よ・う」
そのしかめっ面から察するに随分と時間が過ぎているらしい。
「あんたのせいで貴重なSOS団の活動時間が無駄になっちゃったわ」
「悪い。すげー眠かったんだ」
窓の外に目をやると、すっかりと黒紫色に染まっている。夜の帳は既に下りきった後らしい。
「皆は?」
「今日はもう帰ってもらうように、連絡したわ」
部室を見渡す。長門の姿も、もう無かった。
「今何時だ?」
「もう運動部すら帰ってるような時間ね」
俺が立ち上がると、ハルヒも立ち上がってしわのついた制服を直した。
「帰りましょ」
「ああ」
窓の外をもう一度見つめる。
蛍光灯の下、文芸部の部室。真っ暗闇の世界。
俺とハルヒの二人きり。
まるであの時みたいだな……。
──閉鎖空間。
あの時のことは詳しく思い返したくない。いちいち言葉にするのも恥ずかしいからな。
少しだけあの時のことを述べるとしたら、あの時俺は既にハルヒのことを想っていたってことだろうか。
二人で手をつないで校庭を歩く。
閉鎖空間との間違い探しをするとすれば、夜空に星が煌いてるってことくらいだ。
「二人っきりね」
ハルヒが呟く。
「そうだな」
「こうしてさ……二人で夜の校庭を歩いてると思い出さない?」
顔を少しだけこちらに向けるハルヒ。月光に黄色いリボンが揺れていた。
──こいつも同じことを考えていたのだろうか?
まあ、ハルヒにとってもあの事は衝撃的だったのかも知れないな。
「あたしが中学生の時、あんたと初めて出会った時のこと」
そっちか。
だが、ハルヒにとってはそっちの出来事の方が衝撃的だったのかもしれないな。
「ねえ、ジョン?」
ハルヒが俺を呼ぶ。もう一つの俺の名で。
「あたし、あんたに出会えて良かった」
ハルヒが俺の方を向くと、語り始めた。
「小学生の時、あたしは自分がいかに小さい存在かに気がついて、中学校に入ったら自分を変えてやろうと思ったの…………
でも、現実は厳しかった。何も……本当に、何も変わらなかったの。ただ、あたしの周りから人がいなくなっていっただけ。
そんな時さ、あたしはあんたと出会った。あんたは、平然とあたしが求めるもの全てを肯定したわ。
その時にあたし思ったの。もう一度不思議で面白いものの存在を信じてみようって……でも、あんたは消えちゃって……そのまま、中学生活が終わるまで何一つ面白いことなんて起こらなかった」
憂いを込めて独白していたハルヒの表情がパーっと明るく変わる。
「でもさ、高校生になってあんたに会えた。あたしはキョンに……ジョンにまた会えて本当に良かったわ」
俺もお前に会えて良かったよ。
言っちゃ何だが、俺の人生なんて平平凡凡で、いつまでも不思議なものを信じるお前がすげー眩しく見えた。
──だから俺は、お前に惹かれたんだ。
「ね、キョン」
「なんだ?」
「宇宙人っていると思う?」
「いるんじゃねーの」
「それじゃあ、未来人は?」
「まあ、いてもおかしくないな」
「じゃあ、超能力者」
「配り歩くくらいだろ」
「異世界人は?」
「それはまだ知り合ってないな」
言い終わって俺達はどちらともなく笑った。
「なあ、ハルヒ」
「何?」
「俺、実はポニーテール萌えなんだ」
「知ってるわよ」
ああ、畜生。俺は合わせてやったのに、こいつは無視か……ひでえ話だな。
ハルヒの身体を強く抱きしめると、少しだけ強引に唇をもっていく。
もちろん目は閉じた、あの日と同じように。
衝撃を感じる……ことは勿論なかった。
代わりに、遠くから誰かの声が聞こえてくる。
「おい、お前らー。いつまで残ってんだ。とっとと帰れー」
あれは耳慣れちまった岡部の声だ。
少しは空気を呼んで欲しいもんだね。
「帰るか」
「うん……でも、その前に」
今度はハルヒ側から唇が重なる。
真っ暗闇の校庭で何度目かのキス。
「ハルヒ」
「ん?」
「これからもよろしくな」
夜空の下、星明りが霞むくらいの明るい笑顔で、ハルヒが言った。
「あったりまえじゃない!」
〜to be continued〜
60 :
48:2007/03/11(日) 03:45:25 ID:6cu9Xfgv
とりあえず、以上。続きます。
58の長台詞は投稿できなくって、書き込み欄で改行したら読みにくくなってしまった。すまない。
プロローグが、いやな伏線になりそうだねぃ…。
続き、待っちょるよー。
なんか読みやすいから読んじまった
俺にとっては非単調以来のヒットの予感
読みやすいね。
続きが気になる。
結構容量あるなぁ…なんて思って読み始めたけど、割とすんなり読めた。
キョンのくどい語りがあまりなくて「」の会話が多かったからかね。
変にくどくど語るよりシンプルに書いた方が受けはいいかもな。
ということでGJです。続き待ってます!
wktk・・・続きを待ってる。夢の時の中で
キョンらしさを出そうとするとくどくなってしまうのが悩みどころ
非単調とかオンザとかどこにあるんだ?
ここの保管庫にはないような
オンザ……オンザ……これかっ!
「残念、それは僕のおイナリさんです」
出来がよくないですが折角書き上げたので投下します。エロなし。
時が巡ればやがて過ぎ去ったと思っていた季節にもう一度会うことができ、それはセミの声がやか
ましい夏であっても寒さにうんざりするような冬であっても同じである。
春は多くの人にとって出会いと別れの季節となり、いつか入学すればいつか卒業する。
ちなみに俺はこれまでそういった出会いや別れの季節に特別な感慨もなく過ごしてきて、この春も
またそのつもりだった。いかにも時節に合わせて泣いたり笑ったりするのをどこかこっ恥ずかしく思
ってたんだろう。
――春の露風――
「みくるちゃんと鶴屋さんももうすぐ卒業かぁ」
変わらずに営業を続けてきたが誰が儲かるわけでも誰に愛されるわけでもない学内非公認団体のま
まのSOS団。その部室。パソコン机に肩肘ついてわれらが団長様、涼宮ハルヒはどこともなく呟いた。
「でもでもっ、お休みの日とかまた一緒にお散歩したりできますよ」
朝比奈さんは湯飲みをハルヒの机にことりと置いて言った。にこりと微笑む。
そう、俺にとって二回目の年度が終わろうとしている。
間もなく二月が終わり、すると三月がやってきて最上級生たる三年生はさらなる未来へと巣立つべ
く卒業してしまう。
俺はまだ二年生なのでこの学校を出るのは一年先のことになるが、小間使い技能を熟練の域まで上
達させた大天使朝比奈みくるさんは間もなくこの北高から離れてしまうのだった。
「もちろん。休みの日には学校が離れてようとSOS団は問答無用で活動するからね! そのへんは心
配いらないわよ!」
ハルヒはさまざまな経験を経て純度を増した果てしない輝きを持つ笑みで言った。本当に二年間だ
ったのかと疑うほどに色々なことがあった。いろいろと言えば数文字で済んでしまうが、その慌しさ
だけで言えば世界各国のあらゆる重役のタイムスケジュールですら及ばないかもしれない。
「そ、そうですよねっ」
朝比奈さんは早春のタンポポのように儚げに笑いつつ返答した。二年経ってもこのお方のつつまし
さは洗練されたシルクのような柔らかさだ。窓から射す陽が後光のようにも見えてくるぜ。
「この部室も少し寂しくなりますね」
別種の清涼感を持つ声が俺の右手からかかった。正面に向き直ると、副団長古泉一樹が声とは裏腹
にどこか寂寥感のある笑みで言った。広げられたチェス盤の向こうに人類が繰り広げてきた悠久の歴
史と英知をかいま見ているかのような顔をしてるが、まぁ俺の思い過ごしってことにしておこう。
俺は鷹揚に肯いて部室を見渡した。
宇宙に二つとないだろう奇怪な団の活動履歴を裏付けるかのように、そこにはあらゆる物品がとこ
ろ狭しと収まっている。古くは野球道具に始まり、ノートパソコン、笹の葉、孤島雪山古城での合宿
写真、今年の映画撮影の時に作ったポスター、ガラクタのような古道具一式、同じく古本の束、壁に
は文芸部の活動を拡大解釈した産物たる新聞、ラックの上には登場頻度の高かったボードゲーム類が
うず高く積まれ、俺の背後の本棚は相変わらず満席、団長机のデスクトップパソコンはつい先日元部
長氏が晴れて大学合格を決めたことによる粋な計らいで新型にかわっており、極めつけは朝比奈さん
のコスプレ衣装があるハンガーラックだ。春夏メイド服、ウェイトレスにバニー、ナースにアマガエ
ル、巫女にサンタ、いつだかハルヒが着てたチャイナ、長門の魔女衣装もここにある。他にもスチュ
ワーデスだの警官だの言うをはばかるあれやこれだの、一体いつの間に買ったんだか譲り受けたんだ
か俺でも分からないようなものがたくさんある。
例えば入学したての俺を現在時空のこの部屋に連れてきて様子を見せたら、顎を三段ほど下に落と
して現在の俺を見つめて唖然とし「お前は一体何やってきたんだ」と呆れて小一時間ほど口も利けな
いことだろう。事実、俺も何やってきたのか一言でズバリ言い切ることができないしな。
ある時はテーブルゲームに興じ、ある時は市内をそぞろに歩き、ある時は得体の知れない怪物モド
キと戦い、ある時は探偵に扮した推理ゲーム、ある時はまんまタイムトラベラーとなって世界の危機を
救い、ある時はマジで遭難してしまい……言えば言うほど正体が不明になってくってのもまたどうか
と思うんだが、まぁそんなツッコミすらとうの昔に慣れっこになっている。
「……」
先ほどから俺の隣でカタカタとキーをパンチする音が聞こえては消えしているのだが、それは長門
有希が文芸部的活動の真っ最中だからだ。
三ヶ月も前に生徒会選挙がつつがなく終了し、かつての仮面生徒会長も今はいち生徒となって間も
なく朝比奈さん鶴屋さん元部長氏喜緑さんと共に卒業していくはずだ。こうして人物を羅列してみる
とあらためて心を慣れない風が掠めていく気分になるな。元生徒会長曰く「本当に面白い一年だった。
悔いは全くないといっていい。今じゃ古泉に感謝したい気分だな」とまで言っていて、まこと双方利
害一致した上での理想的関係とはこれを指して言うのだろうかなどと思った次第である。
古泉もそろそろ手を緩めていいと判断したのか、次期会長はまた元通り特別な属性を持たない凡庸
な生徒がつとめているらしく、確か八組の生徒だったか。それ以上は知らん。ゆえにそこまで文芸部
の活動に精を出す必要はなくなり、しなければしないでお咎めがあるわけでもないのだが、どういう
わけか長門は何か書き物をしているらしかった。何書いてるんだと訊いたところ無回答だったので例
によって画面を盗み見しようとしたらあっさりと回避され、テキストファイルを本人不在時に見よう
とするまでもなく長門のロックを俺が突破できるわけがない。ま、インプットだけじゃなくアウトプ
ットもするようになったのはいいことに違いないのさ。非常に稀ではあるがクラスでも話すことがあ
るらしいしな。
「みんなお待たせーっ!」
ハルヒに負けず劣らずの威勢で鶴屋さんが現れる。去年はありとあらゆる場面でお世話になり、今
やSOS団名誉顧問という肩書きすら物足りなく感じる。
「待ってたわ鶴屋さん! さ、それじゃ早速打ち合わせするわよっ!」
ハルヒはガタンと立ち上がり室内を睥睨、それが合図であるかのように古泉はチェスを片付け長門
は保存したファイルを閉じてノートPCをシャットダウン。朝比奈さんも椅子に座ってさながら我々は
円卓にて多国間協議する首脳か騎士状態だ。確かにそこそこ重要というか、有意義な議題になるはず
だしな。
「SOS団プレゼンツ、みくるちゃんと鶴屋さんその他の卒業を盛大に祝す会!」
恐ろしく語呂が悪い以前にタイトルの体すら立っていないフレーズをのたもうたハルヒは、ホワイ
トボードをガラガラと引きずって弁舌すべらかに話し出した。
さて帰り道。六人による下校風景はいつもより若干と言わず華やいだ空気を俺たちの間にもたらし、
それは先頭で肩を並べて談笑しっぱなしのハルヒ鶴屋コンビを筆頭に最後尾の俺と古泉まで続いていた。
「この二年。過ぎてみればあっという間だったな」
不思議なものだ。何気なく呟く俺に古泉が手慣れた相槌をうちつつ、
「そうですね。本当に色々ありました。時に誰かが窮地に陥ることもあり、その都度他の誰かが助け
るという、ある種理想的な構図でもって僕たちはここまで来ることができたのだと思います」
かく言うお前ものっぴきならん状態だったことがあったな。
「えぇ、恥ずかしながら。今では、あれがあったからこそ割り切って行動できるようになったのだと
思っていますが」
何も古泉だけじゃない。SOS団はほとんど全員が特殊なプロフィールを隠し持っていて、それが遠か
らぬ原因となってそれぞれを瀬戸際に追い込んだことがあった。ハルヒは何度かに渡って世界を丸ご
と変えてしまいそうになったし、長門は一度だけ実際に取り換えちまった。朝比奈さんは自分の力不
足にしばしば心を痛めていたしな。俺だってもっと何かできないのかと一般人でしかない己の限界を
うらめしく思ったことだってあったさ。だがまぁ、結果的に全部乗り越えてきた。思ったよりずっと
強かった。それがSOS団への正直な感想だ。ちょっとやそっとじゃビクともしないし、大きな事件なり
出来事なり起きても簡単には壊れない。そういう確信というか信頼というか、絆といったら途端に陳
腐になるだろう見えない糸みたいなもんがあるのを俺は感じていたのだった。
俺の正面にいる夕方の精霊のような朝比奈さんが卒業しようとしている。
時間というのは絶え間なく流れ続けるものであり、そうである以上は日常と思っている日々にも終
わりが来る。朝比奈さんは俺よりひとつ上の学年なのだから、一足先に学校を去ってしまうってこと
も織り込み済みだ。だから俺はハルヒが提案するパーティで古泉と披露することになってる芸だって
ちっとも嫌じゃないし、それで少しでも場の盛り上がりに貢献できるってのならいくらでもバカやっ
てやるさ。
当の朝比奈さんは見たところいつも通りであり、まぁ隣が長門だから会話こそしていないものの、
卒業を控えてブルー色になるような気配は見られなかった。そう言えばこの数ヶ月はすっかりタイム
トラベルとはご無沙汰になっていて、それはすなわち朝比奈さんの本来の仕事が軽くなってるってこ
とにもなる。ちょうど一年ばかり前には彼女が二人になってしまい、当惑しっぱなしのまま八日間に
わたるお使いを済ませ、まだ迷っていた様子の朝比奈さんも少しは自信をつけたんだった。もうあれ
から一年か。振り返ってみた時に初めてあっという間という言葉が出てくるが、まさにそんな感じだ。
などと取り留めに益体もないことを考えているうちに駅前にて俺たちは解散する。こうして全員で
帰れるのもあと数日なのである。
「さようならぁ」
にっこり笑う朝比奈さんについ目が行ってしまうのも仕方ないと思うね。ただでさえ道行く男は全
て釘付けになってしまうような愛らしい容姿の持ち主であり、俺はそんな人と二年も近くにいたんだ
からな。
緋色がかった髪が初春の夕陽に映えた。笑顔が切り取られた写真のように網膜に焼きつく。
「ん」
わずかばかり胸が痛んだ。……何だろうな。分かってたことじゃないか。いつか、朝比奈さんは卒
業する。それがもうすぐやって来る。そうだろ?
俺はろくに声も出さず、マヌケに手を振っているだけだった。
「どうかしましたか?」
気がつくと唯一古泉だけが残っていたらしく、鋭い眼差しが嫌でも突き刺さった。見てたのか。
「先ほどから妙に彼女を見ている時間が長いと思ったのでね」
気のせいだろとごまかすには自覚がありすぎたので、俺はふっと息を吐いてから、
「何となくな。卒業しちまうんだってあらためて思っただけだ」
「だけ、ですか」
何だよ。言いたいことがあるんならはっきり言え。団長がいつも言ってるだろ。
「そうですね。ならば僕からはひとつだけ。……悔いのなきよう」
本当にそれだけ言うと古泉はまたいつもの微笑顔に戻って黙礼し、帰路に着いた。
俺も首を振って自宅を目指したが、古泉の一言と朝比奈さんの笑顔がなかなか頭から離れなかった。
翌日は休日で、午前中俺は来るべき卒業記念パーティの買出しに駆り出され、朝比奈さんを除くSOS
団メンバーと駅前集合したのち仮装衣装だのクラッカーだの新たなボードゲームだのと割り勘で買い
込み、ついでにケーキの注文までして昼過ぎに解散した。
ハルヒは相変わらず駆動させすぎのジェットエンジンで空まで飛んでいけそうなテンションを維持
し、他のメンバーも特別変わったところはないようで、俺もそのはずだったが果たして他の団員の目
にどう映ったのかはわからん。
さて午後は珍しくも空き時間となっていたので、自宅に戻った俺ははかどらない学年末試験の勉強
なんぞをとろとろとしていたのだが、三時を回った辺りで携帯に着信があった。
名前を確認すると誰あろう朝比奈みくるさんとの表示があり、俺の胸はいつもより二割増しでのハ
イテンポモードに移行する。何だろう。特別思い当たる節もないので厳かな気持ちになりつつも通話
ボタンを押す。
「もしもし? 朝比奈さんですか?」
「……あ。キョンくん?」
受話器越しでもノイズを超越して結晶化されたような声に耳が溶けそうになる。何たる癒し効果だ
ろう。もうこの一言だけで生きてる喜びみたいなものを実感できる。えぇと、ご用件は何でしょう?
「あの……。今時間ありますか?」
一言一句ごとに脳髄に桃色の振動を与える至上の声を聞きつつ、俺はひたすら肯き、しかし声を出
していなかったことに気づいて慌てて言った。
「はい! もう暇で暇でしょうがないくらいで」
高校二年も終わり際だがバカ丸出しの受け答えに、優しき朝比奈さんは受話器越しにクスッと笑って、
「ふふ。あの……それじゃ今から会えますか? あの、いつものとこで。三十分後でいい?」
俺はまたも同じ動作を繰り返しそうになったが、すぐに止めて、
「はい! 死んでも行きます!」
「ありがとう。それじゃ……ね」
朝比奈さんとの会話は終了した。あまりに突然だったのでまだ心臓が妙な感じに脈打っている。急
なお呼び出しなどいつ以来だろうか? それこそいつだったかあのハカセくんを生命の危機から救っ
た日ぶりじゃないか。
そう思った俺は情けなくも余計な推測をしてしまった。まさか久々に時間がらみの指令が来たのだ
ろうか。とすれば俺はまたこの手で未来をちょいとしかるべき方向へシフトさせることになるのか?
あれから大人版朝比奈さんと色々話したものの、どうにも分かっていて未来を固定させるってのは性
に合わない。だからなるべくなら無縁でいたいとは思っていて、しかし彼女に頼まれれば何だかんだ
断れないというのも正直なところだった。
そのようなことを考えつつ俺はえっちらチャリを漕いで駅前に向かう。この道も通学路の次くらい
に多く使っている。まさか同じ日に二回も往復することになるとは思いもしなかったが。それでも誰
あろう朝比奈さんのお誘いを断る人間などハルヒ特製バツゲーム十連発をくらうに値する。この時ば
かりは俺も今までの感傷などどこ吹く風でほいさっさと軽やかにペダルを漕いで集合地点に到着した。
集合時間十分前。朝比奈さんはまだ来ていなかった。俺が待ち合わせで先に来たことなど遥か昔の
第二回SOS団市内探索の時以来だ。しかし今回、どっちが先に着こうと俺は奢る気満々であり、そん
な小さなことで虚栄心を満たそうとする己の愚かさに落ち込むこともなかった。単純に言って嬉しか
ったからだ。
冬もそろそろ終わりだった。
まだ二月だったがこの日は妙に暖かく、心境と相まって今すぐ路上ダンスを披露して輪を作ってい
る兄ちゃんたちの集団に加わりたいくらいの気分だった。いや、しないけどもさ。
「お待たせ」
後ろから聞き慣れた、それでいていつだって心地よい声が耳に響き、俺は振り向いた。
「朝比奈さん……!」
俺は少なからず驚いた。目の前にいる先輩はかなりオシャレをしていた。明らかに気合が入ってい
る。これまではおしゃまな子が休日をのんびり過ごすのに適したような可愛らしい服や、せいぜい少
しだけ背伸びしたような都会を匂わせる出で立ち止まりだったのが、今日はおめかしなどというレベ
ルではなかった。それこそプロのスタイリストなりヘアメイクなりつけて、これからモデルとして写
真撮影しますと言わんばかりのキマり具合である。実際近くを通る人が男女問わずこちらをちらと見
ては感嘆の吐息を漏らすようにしてまた通行人へと戻っている。
「ごめんね。待たせちゃった……?」
俺は唖然として首を振った。これは一体どうしたことだろう。これまで見た朝比奈さんの格好の中
でもダントツに素敵である。
このお方がどうして俺なんぞに話しかけてくださるのだろうか。ひょっとして人違いで、もっとツ
ラ構えも物腰もいい似合いの相手が他に待っているんじゃなかろうかと思ってしまうくらいだ。それ
にいつもより大人びて見える。そこまで考えて俺は、
「朝比奈さん、ですよね?」
「え?」
何を訊いてるんだ俺は。当たり前じゃないか。どう見たって朝比奈さんである。この二年何を見て
来たと思ってるんだ。あの部室で唯一無二の神々しさを放っていたのは間違いなくこの人だ。
だが普段の制服姿やメイドスタイルとは一線も二線も画している。彼女のほうから呼びかけてくだ
さらなければ、俺はそれが朝比奈さんと分からずにいつまでも待ちぼうけ状態だったかもしれん。
「あぁいや! 何でもないです。ほんとにすいません、はははは!」
俺もそこそこに気合入れて来たつもりだったのだが、それでも朝比奈さんのはまり具合には遠く及
ばない。思わず周囲の皆々様に平身低頭して謝りたい気分だ。俺なんかが朝比奈さんと歩いてていい
のかほんと。
さてその朝比奈さんだが、俺が挙動不審になっている間、まるで寝起きのような表情でぽーっとし
ていた。俺のマヌケ面のそのまた向こうに妖精さんでも飛んでいるのが見えるかのように。
「あの……朝比奈さん?」
「えっ、あっ! はい、何でしょう」
このリアクションにようやく俺は少しばかりの落ち着きを取り戻す。あらためて銀河レベルの美人
であることを認識しつつも、間違いなくこれは朝比奈さんだ。
「あの、どこかに行くんじゃないんですか?」
お使いなのか指令なのかはたまたデートと呼んでいいのか分からんが、いずれにせよ行き先がある
はずだ。
俺の問いに朝比奈さんはまたぽかんとして、それから思い出したように、
「……あっ、はい! えぇと、それじゃ最初は……こっちです」
春の日なた状態の朝比奈さんにいささかの不安を感じつつも俺は美の極致的オーラをにじませるお
方と肩を並べて歩くというかつてないまでに恐れ多いポジションにつかせていただく。
朝比奈さんと並んで歩くこと自体がかなりひさびさだった。さすがに一年前まで遡ったりはしない
が、それでも去年の市内探索でペアになって以来だから、少なくとも二ヶ月以上は空いていることに
なる。
さてその朝比奈さんが歩き出したのはあの小川の方角だった。足取りは気ままな散歩よりなお遅い
くらいのゆったりした歩調で、まだ混乱したままの俺には少しもどかしく感じる。
「それで朝比奈さん、今日は一体……」
!!
心臓が止まるかと思った。
俺が右を向くと、朝比奈さんは歩きつつも大きく丸い瞳でまっすぐ俺を見上げていた。
鮮やかな色の唇がわずかに動いて何か言いそうになる。が、ぱちりと瞬きして我に返ったのか、
「あっ、えっ! あの……今、何か言いました?」
「え! いや、その、何でもない……っす」
相乗効果的にかしこまりまくってしまう俺だった。今のは何だ? それこそ時間が止まったのかと
思うくらいにドキリとした。まだ心臓が急勾配を駆け上がった直後のように波打っている。このまま
じゃマジに心臓麻痺で昇天しちまうかもしれん。朝比奈さんとはこれまでにもドキドキさせられる場
面がいくつもあったのだが、今回のこれは段違いに桁違いだ。今自分が立ってる感覚すら定かでない。
心臓の鼓動を感じながらふたたび横を見た俺は、朝比奈さんが紅潮した頬に片手を当ててわずかに
うつむいているのを見た。その横顔にまたも俺は心拍の増加を余儀なくされ、高血圧ってこういう状
態なのだとしたら大変だななどとわけの分からないことを思っていた。
「あ……ここ」
やがて小川にさしかかり、到着したのはどこあろうあのベンチだった。
二年近く前。朝比奈さんが自分が未来人であるという告白をした場所。えらい久しぶりである。
「座りませんか?」
美の神秘の何たるかを閉じこめたような瞳で問われればYES以外の選択肢はなくなる。えぇ何時間
でも座りましょう。
俺は距離もそこそこにぎこちなく腰を下ろしたのだが、
「あの……近くに座ってもいい?」
との朝比奈さん発言に全身が板チョコレートになる。チカクニスワッテモイイ?
とか考えてる間に朝比奈さんは俺のすぐ隣に座った。どこか申し訳なさそうに、それでいて思い
切った決断をしたように。
さて俺はまず全身が総毛立つのを感じ、次に首筋のあたりからむず痒いようなとろけるような感覚
が徐々に背骨の方にまで沁みていき、それが脳味噌を支配する頃には両手が桜色の湯に浸った状態に
なっていた。
神様がもしいたのならこの時ばかりは感謝せずにいられない。他に誰に礼を言っていいのかも分か
らないしな。風に乗っていい匂いが漂ってくる。シャンプーと他にも色々、とうとう鼻までめろんめ
ろである。間違いない、今殺されても一点の悔いも残らない。それくらい途方もない幸福感が俺を満
たしていた。
不意に右手がさらなる領域へと感覚を進めたのを感じた。錆びついた蝶番のように首を動かして見
ると、朝比奈さんが俺の右腕を両手でそっとつかみ、肩に……よりかかってきた。
今すぐ液状化して大地に溶けてしまってもおかしくなかった。これは一体どうしたことだろうとか
そんな余計な邪推すらもうどうでもいい。願わくばこの時間よ永遠に続け。間違いなくこれまでの人
生で最良の瞬間であることはもはや疑う余地すら無菌室のホコリほどもない。
朝比奈さんは今やその小さな頭を俺の肩に預け、この光景は傍から見ればカップルが休日のベンチ
で憩っている風景以外の何物でもなかった。接触している箇所を中心に未知の物質が俺の皮膚を通じ
て発生し、脳はそれをひたすらに幸せ青信号へと変換し続けて、俺の身体はどんな温泉より安眠枕よ
り効能のある癒しの局地へと運ばれていきそうであった。
そんな時間が短くなく続いた。
というか時間の感覚そのものがなかった。素敵な時間は早く過ぎるというが、それを勘案したって
結構長い間俺たちは二人でベンチに座っていた。俺はまともな思考回路など今日の朝比奈さんを一目
見たときから失っており、ただただこの天上のひと時をかみしめるだけなのだった。生まれてきてよ
かった。人生最高である。
しかし俺は俺でガチガチに固まってしまって、言葉はおろか微動だにできなかった。朝比奈さんは
俺に寄り添っている間何も言わなかったが、何も話さなくてよかったのだろうか。何か用があって今
日は誘ってきたのではなかったのか。
幸福色で塗られた時間は、朝比奈さんが俺から離れてゆっくり立ち上がるところで終了となった。
朝比奈さんは数歩俺に背中を向けて歩き、振り向くと、
「お茶にしませんか? ちょっと時間遅いけど……」
時計を見つつ笑顔で言った。その表情に俺は胸の中にまたあのえもいわれぬ風が吹いたように感じ、
間もなくそれがチクッとした痛みに変わるのが分かった。……何だろう。今、朝比奈さんは確かに笑
っているのに、俺は何か大切なものを見落としている気がする。
「え、えぇ。どこへだって行きましょう」
何とかそれだけを言って平気な風を装って立ち上がるも、三時間正座した後に立ち上がったかのよ
うに一度よろめきかけた。しっかりしろ、俺。
文句なし、何もかもがパーフェクトな一日だった。古泉や長門、ハルヒと買出しに行った午前が遠
い昔のことのように思える。
俺たちは普段班分けをする時に入る喫茶店でティーブレイクにした。そこでようやく俺はいつもの
調子を不完全ながら取り戻し、朝比奈さんも話し出すといつも通りの彼女だった。屈託なく笑い、つ
つましやかに身振り手振りする。こうして二人きりで話すことなど滅多にないので、俺は何も考えず
に普通に会話を楽しんでいた。
勘定は当然俺が全額持とうとしたのだが、去年のお茶屋よろしく朝比奈さんは、
「いいんですっ。わたしが誘ったんだし……キョンくんはこれまでずっと奢ってくれましたから」
と言って引こうとぜす、
「それじゃ半々にしましょう」
ってことで結局割り勘になった。一度くらい朝比奈さんに全額奢ってあげたいんだけども。
その後はウィンドーショッピング。女性ものの洋服売り場など、オフクロや妹と買い物に出かけた
時ですらまず行かないので、ここで俺はふたたび緊張の面持ちとなるも、数々の洋服を次々と試着し
てはその全てが抜群に似合ってしまう朝比奈さんを見ているうちにどうでもよくなった。
「どれも似合いすぎて、全部買うかどれも買わないかの選択肢しかなくなっちゃいますね」
「さすがに全部買うなんて無理ですよー」
朝比奈さんはぱたぱた手を振って、結局気に入ったらしい春物をひと揃え買った。ここでも朝比奈
さんは俺の代金提供申し出を固辞、
「お願いだから気にしないで。ほんとに……」
心から申し訳なさそうだったので、俺は折衷案として、
「それなら俺から何かひとつプレゼントさせてください。何でもいいですから。服でも帽子でもアク
セサリーでも。あ、あんまり高いのはさすがにムリですけど」
「えっ。いいの……?」
しとしと降り続いた雨が上がったのを確認するように俺の表情を窺う朝比奈さんに、俺は一秒で肯き、
「もちろん。じゃなきゃやっぱり洋服代出します」
と言うと朝比奈さんはまた首を振った。そういう理由によって朝比奈さんは売り場脇にあった小物
のコーナーからウサギをあしらったネックレスを選んだ。
「それでいいんですか?」
安すぎもしないが思ったほどの値段じゃなかったのでつい聞き返してしまう。
すると朝比奈さんはいつも部室で見せるような笑みで、
「はいっ」
とだけ言った。写真にとって心と自宅の机にでも飾っておきたいくらいの笑顔である。もう今日は
一生分の運を全て使ってるんじゃないかっていう気になってくる。それくらい文句の余地なく幸せ分
のお釣りが来すぎて受け皿があふれ返っている。
バッチリ決まっていたさっきまでの服装に戻り、プレゼントしたネックレスを新たなアクセントと
して、朝比奈さんはご機嫌でぱたぱたと俺の数歩先を行く。俺も笑顔でその姿を眺めつつ、いつしか
あたりは夜にさしかかる。
朝比奈さんはくるっと振り向いてにこっと笑い、
「もう少しだけ散歩しませんか?」
「もちろんです」
古泉がハルヒのイエスマンなら俺は朝比奈さんのイエスマンだということを今さら認識しつつ、し
かしそれに何の抵抗もためらいもないしむしろ喜ばしいことこの上ない。
俺と朝比奈さんは引き続き並んで歩く。時間は確かに経過しているが、それでもできるだけこの時
間が続けばいいと思っていることに変わりはなく、ただただ楽しかった。朝比奈さんがふわっと笑う
たび、長い髪がゆったりと揺れるたび、何か言うたび、つられて俺も笑っていた。こんなに自然に笑
いまくった日なんてのもまたそう何度もない。普段ハルヒに振り回されてる時とは別種の笑いだった
ことも確かだ。そよ風が吹くくらいに何でもなく笑顔になれる。それはまさしく朝比奈さん自信の持
つ魅力に他ならなかった。彼女は人を幸せな気持ちにする力を持っている。本人がそれに気がついて
いるかは分からないが、願わくばいつまでもその無垢な笑顔を失わないでほしい、と、そう思った。
「今日はありがとう」
不意に朝比奈さんが言った。あたりは街灯もまばらで薄暗く、駅の中心部から離れていたので人気
もさほどない。その言葉を聞いて、俺はなぜだかまたあの違和感が胸をよぎるのを感じた。
何なのだろう。何一つ不安な要素などないし、むしろ幸福のまっただ中なのに、真っ白なキャンバ
スに針で一点だけ穴を開けたような不安がどこからともなく吹き抜ける。俺は確実に何かを見逃して
いる……。
「いえ、こちらこそ。いつもと違って横暴な団長もいませんし、楽しかったですよ」
日が暮れてから風が吹き始めていた。冬の名残のような冷たい風は、決して激しくはないが十分な
冷気を伴って俺たちの間に吹き抜けた。
朝比奈さんは笑ったようだったが、暗がりの公園の片隅ではそれがよくは分からない。
「本当に……」
「朝比奈さん?」
朝比奈さんはうつむいた。両手で顔を押さえている。……何だ? 様子が違う。
「わたし……っ」
「朝比奈さ――」
わずかな時間だった。
それこそ見てる間に、朝比奈さんは俺の元に近寄り、抱きついてきた。
「……!?」
思考回路がショートとオーバーヒートを同時に起こす。俺は口をパクパクさせて、何も言えなくなる。
「あさ……ひなさ」
思い切り抱きしめられていてもその力は弱く、小さな頭が俺の胸に押しつけられていた。
どうしたらいいんだ。思わず両手を上げて降参と言いたくなってしまう。勘違いして抱きしめちま
ったとして、捕まったらどんな罰則が待ってるんだ? それともこれは団員によるドッキリか何かで、
実はどっかにハルヒたちが隠れているとか? 古泉ならハルヒに言われればそれくらい喜んでやりそ
うだからな。
「……うっ、うぅぅぇぇ」
とか考えてる間に朝比奈さんは紛れもない嗚咽を漏らしはじめた。俺の頭はますますひっくり返っ
てかき乱した観覧車状態である。何か今日の俺に粗相があったのだろうか。だとしたら今すぐにでも
謝らねばならん。
「あの、何か俺気に障るようなこと言ったりしたりしましたか? だったらその、すいませんでした」
「うっ、うぇっ、ふえぇぇぇん」
朝比奈さんは俺の胸に顔を埋めたままで首を振った。何なのだろう。今日はもう何もかも分からな
い代わりにそのことについて考える必要もないくらい幸せだったので思考自体を放棄していたが、さ
すがにこれは理解ができない。どうして朝比奈さんが泣く必要があるんだ。俺が感涙にむせび泣くの
なら話は別だが。
「うぅっ、うっ、うぅぇえっ……うぅぅぅー」
一度堰を切った朝比奈さんはとめどなく泣き続け、俺はなすすべなく棒立ちするより他なかった。
朝比奈さんが泣く間、俺は何とか慰めようと「大丈夫ですか」とか「どっか座りましょう」とか頼
りのないことを言っていたのだが、何か言うたびに朝比奈さんはぶんぶんと首を振っては泣き続けた
ので、とうとう俺は何も言えなくなってしまった。
「……っ、うっ……ふぇっ。あぅぅ……うぇうぅっ」
朝比奈さんが泣く姿もしばらく見てなかった。それこそ最初はハルヒにいじられるたんび、何か困
ることがあるたび、自分の力不足を感じるごとに泣きじゃくっていた彼女だったが、それでも時を重
ねるごとにちょっとずつその回数は減っていた。それは朝比奈さんが強くなったからかもしれないし、
成長したのかもしれないし、両方かもしれない。だからこそ、彼女が突然涙する理由に思い当たらな
い……。
「朝比奈さん? あの……」
「……ごめんね。ごめっ、うっ、うぅぅっ……ふえっ、っく」
朝比奈は必死に涙をこらえようとしてはまた声を漏らす。しばらくそれが繰り返された。
どれくらい経っただろう。
さっきとは居心地も状況も異なる時間がいつしか過ぎ、ようやく落ち着いた朝比奈さんは、
「……もうすぐ卒業だから。寂しくなっちゃって」
と言った。相変わらず暗がりにあったのでその表情は分からない。が、朝比奈さんにとってはかえ
ってよかったのかもしれない。
「もうキョンくんたちに……会えないんだって、思うとっ、うぇっ」
また零れそうになる雫を抑えるべく俺は慌てて、
「大丈夫。ハルヒの言うとおり、休日はまた皆で会えますよ。少なくとも夏までは変わりないはずです」
そろそろ受験勉強に取り掛からなければならないのは事実なので、これまでほどうかうかしてられ
ないのももちろんだが、それでも俺はSOS団の活動を放棄しようなどとは思わない。
「うぅぅ……。ふぇっ、っく」
朝比奈さんはまた泣きそうになるのをこらえ続けていた。俺はキリキリと心臓を縛られるような心
地になる。
「大丈夫ですから。涙を拭いてください」
いつだったかの教訓がかろうじて活かされ、俺は持ってきていたハンカチを差し出していた。
「ありがと……っく。ありがとう……っ」
夜になって冷えだしてきたので、なるべくならどこか暖かい場所に入りたかったが、朝比奈さんは
それに応じようとしなかった。
「今日はごめんね……わがまま言って」
「とんでもないですよ。俺はその、……嬉しかったです」
立ちっぱなしで会話する二人だった。俺の言葉をどう取ったか、朝比奈さんはまたゆるゆると首を
振る仕草をして、
「今日は……帰ろう」
と言った。白い息のような言葉に俺はまたも心苦しくなるが、他にいい選択肢を思い浮かぶわけで
もなかったのでゆるやかに首肯。
「歩けますか? 駅まで行けばタクシー拾えると思いますけど」
「ううん。大丈夫。……歩いて帰れます」
そうは言うもののもうどこを歩いても夜道である。こんな状態の朝比奈さんを一人で歩かせるわけ
にはいかない。
「いや、駅まで行きましょう。タクシー代は俺が持ちます」
朝比奈さんは謝辞を言う気力が足りていなかったのか、力なくこくっと肯くと、
「ごめんね……」
とだけ言った。なにも悪くないですよ。気がふれることくらい誰にだってあります。きっと卒業が
近付いててちょっとばかしナーバスになってたんだろう。
俺たちは駅まで手をつないで歩いた。
気づけば互いの掌を握っていて、どっちからそうしたのか全く覚えていない。
けれどそんなこともどっちだってよかった。とにかく今の朝比奈さんを支えていてあげたかった。
夜道を迷子になったヘンゼルとグレーテルのように歩いて、でも道には迷わず、やがて駅前にたど
り着く。俺たちの足取りは速いわけでも確かなわけでもなかったのに、どういうわけかその時だけ時
間が短く感じられた。
「それじゃ俺はここで。運転手さん、よろしくお願いします」
タクシーに朝比奈さんを乗せて、あらかじめ運転手に代金に足りるだろう金額を渡した。
「朝比奈さん、また学校で会いましょう。……大丈夫。元気出してください」
「キョンくん……」
朝比奈さんは潤んだ瞳で俺を見ていた。俺も朝比奈さんを見ていた。
そのままではどうにかなってしまいそうだったので、俺は慌てて、
「あぁ! そろそろ失礼しますね。運転手さん、車を……」
「待って!」
そう言うと、朝比奈さんは座席から身を乗り出して俺を抱きしめ――唇を重ねた。
「…………」
「……大好き」
間もなく、車は夜の闇へと吸い込まれるようにして、いつしか見えなくなった。
俺は今起きたことが全く分からずに呆然と立ち尽くし、気づいた時には時計の針がゴールデンタイ
ムをとうに過ぎていた。
次の日もハルヒたちと打ち合わせがあったのだが、俺は気もそぞろでほとんど抜け殻状態だった。
……朝比奈さんにキスをされた。
その事実は時間が経つほどに強固な現実として俺の頭蓋を打ちのめし、身体をフラフラにして今こ
の時から自身を遊離させた。ぼーっとするあまりハルヒに二桁に及ぶほどの打撃ツッコミを受けたが
気にしない。
そして週があけて月曜日となる。この時には土曜日にあった一連の出来事で俺の頭は微熱と言わず
温度を上げていて、心中春真っ盛りと言わんばかりの状態だった。
「ねぇちょっと。あんた風邪でもひいたの!?」
などと後ろの席でハルヒがチョップをかましがてら訊いてきたが、まぁそんなところだ。俺は流感
にかかっちまったのさ。例えて言うなら恋という名の病。
幸福が俺の心を満たしていた。このあと部室に言って気まずいだろうとかそんなことは考えなかった。
そうか、俺はこれまでずっと朝比奈さんが好きだったんだ。どうしてそんな簡単なことに気がつか
なかったんだろう。これこそ恋じゃないか。朝比奈さんのことを考えるだけで途方もなく幸福な状態
になれるってんだから。
我ながら、ずいぶんとのん気なものだったと思う。
ハルヒがブツクサ言っていたが、のらりくらりとやり過ごして放課後の部室へ向かう。
そこには俺にとって永遠の女神となる朝比奈さんがいるはずなのさ。
「ちわっす」
体育会系な挨拶をして部室に入ると、既に全員が揃っていた。古泉長門はもちろんのこと、朝比奈
さんもメイド装束でお茶汲みの準備中らしい。その立ち姿を見ただけでもう俺の桜は満開なのである。
どこか険のこもったハルヒがずかずかと団長机に向かうのを見やりつつ、俺は古泉の向かいに座った。
「妙に嬉しそうですね」
最初に言うことがそれか。ってことは顔に出てるのか。ふむ、谷口みたいなツラになるのならちょ
っとは引きしめた方がいいかもしれんな。
「そんなに機嫌のよさそうなあなたを見るのは久しぶりですよ」
俺ってそんなに普段からむすっとしてるのか。
「えぇまぁ。少なくともにこにこ笑顔ではありませんね」
千種の笑みを持つお前に言われりゃ確かだろうな。他の表情を見た覚えなどそうない。
「僕が切羽詰るとどうなってしまうかは、すでにあなたもご存知のはずですよ」
あぁ。あれももう一年近く前になるな。あの時ばかりはお前にちったぁ同情する気になったさ。
「そういうことです。まぁ、去年の暮れからこっち、また落ち着いてきていて嬉しい限りなのですが」
ピリリリリ
携帯が鳴った。古泉の。
古泉は電話を持って廊下に出たが、やがて戻ってきて、
「急用ができました。すみませんが今日は失礼させていただきます」
と言ってまた退室した。慌しい奴だ。
古泉が慌しい……。
俺はハルヒを見た。ハルヒはむすっとした顔でマウスのボタンを連打している。……何と安直な。
「おいハルヒ。何イラついてるんだよ」
呼びかけると、ハルヒはじとっとした目で俺を見上げ、
「誰のせいよ誰の」
と言ってまたパソコンに目を戻す。そうか……昨日今日とあまりに俺がぞんざいだったことに腹を
立てたのか。それで古泉の仕事増やすのは気の毒だぜ。とは言えるはずもないが。
「すまんな。ちょっとここ最近寝不足で頭がぼんやりしてた」
半分嘘である。頭がボケてるのは現在進行形で真実だが。
「ほんと。みくるちゃんと鶴屋さんをちゃんと祝うんだからね。しっかりしてよ」
仏頂面のハルヒの机に湯飲みが置かれる。
「そんな。いいですよーわたしなんかの為に……」
メイドバージョンの朝比奈さんは、眉根を困った風に傾けて言った。何と可憐なんだろう。今すぐ
抱きしめて土曜日の言葉に返事したい。
「ダメよダメ! あのねみくるちゃん。そんなに謙虚だと運が逃げていっていい男捕まえらんないわ
よ。黙ってても男が寄ってくるからって自惚れてると、いつか困ることになるの」
どんな理屈だかさっぱりわからん。謙虚だと男運が下がる法則が学会で発表されたのだろうか。
「うっさいわね。あぁー、古泉くんも帰っちゃったし、これじゃ話し合いが進まないじゃないの」
進めずとももう十分にイベントの満員電車状態だろうが。これ以上詰め込んだら重量オーバーで止
まっちまうぜ。
なんていうやり取りをしつつ放課後は過ぎ、俺はぼんやり朝比奈さんを見て過ごしていたが、不思
議なことに彼女は昨日までのセンチメンタルはどこへやら、すっかり元気になっているようだった。
あんまりあっけらとしているので、土曜日の出来事はみな俺の夢だったんじゃないかと思ってしま
うくらいだった。彼女は動揺でお盆をひっくり返したりすることもなく、はたまた突然泣き出したり
もせず、そんなわけで終業時刻に向かうにつれて俺は頭の上に疑問符を積み重ねるばかりであった。
「朝比奈さん?」
腹立ち紛れでさっさと帰ってしまったハルヒに、同じくパタンと文庫を閉じて先に部室を出た長門を
見届けて、俺は残った先輩に向けて言った。
「はい?」
朝比奈さんはいつもと変わらぬ穏やかな表情でこちらを見た。
「あぁ、あの。一昨日のことなんですが……」
わざわざ掘り返すのもどうかと思ったが、やはりここは男として確認しておきたいところなのだ。
俺が言葉を選んでいると、朝比奈さんは小首を傾げて、
「おととい? ですか?」
言いつつ反対に首を傾けた。そんな仕草のひとつひとつがこれまで以上に可愛らしく見え、俺は顔
の温度が上昇するのを感じてしまう。
「あの……何かありましたっけ?」
俺は半瞬ぽかんとして、続けて数秒間の思考停止状態に陥り、やがてゆるゆると復帰すると彼女が
今言った言葉をようやく飲み込んだ。
何かありましたっけ? ……まさかあれをなかったことにしているのだろうかこの方は。この二年
間、実に様々なことがあったものの、俺の中で一昨日の出来事はジャンルを問わず最大級の衝撃をも
たらしてくれた。それをなかったことにされては、やはり俺だけが丸一日夢を見ていたことになって
しまう。
「何ってあの、覚えてないんですか? 一昨日のこと」
「?」
声にならぬ声をほっと漏らしつつ朝比奈さんはまた呻吟のご様子。待て待て。よもや本当に記憶が
ないのではあるまいな。もしかして未来人に記憶操作を受けたとかか?
「あの。……わたし、キョンくんが言ってることが何なのかよく分からないんですけど」
「本当に覚えてないんですか?」
俺の問いに朝比奈さんはこくんと肯いた。
「何かあったんですか? あのぅ……」
「いえいえ! 何でもないです。すいません、俺の記憶違いだったみたいで」
そんなことはないと確信していたがな。あれを白昼夢とするには実感と衝撃と印象が強すぎる。
そんなわけで俺は家に帰ってからどんな可能性があるかこれまでの経験を元に推測した。こんなこ
とを考えられるようになっちまった自分がもはや常人の思考回路を有してないってことくらいとっく
に織り込み済みだ。まぁそれはいいとして、真っ先に考えたのはやはり何らかの記憶操作を受けてい
るってことだ。朝比奈さんがかもしれないし、ひょっとしたら俺が限りなくリアルな記憶そのものを
持たされたのかもしれん。
そうでなければ土曜日の彼女は実は別人だったとか。一年以上前の雪山みたいにだ。今や敵連中は
すっかり音沙汰がなくなっちまったが、ひさびさにちょっかい出そうと思ったのかもしれないし、ひ
ょっとしたら新たな敵性存在が現れる前触れなのかもしれん。
……が、
「やーめた」
俺はベッドに身を投げ出した。アホらしい。これでは最近不思議なことが起きなくなったから自分
からそういうことが起きてほしいと思ってるみたいじゃないか。もともとは凡庸な人生をまったりと
謳歌するのが当初の俺の目標だったんだ。それがよもやけったいな団に入れられてわけのわからん活
動をして本当の超不思議存在たちに出くわしてしまいには乗り気になってしまうなんて思いもしなか
った。もう十分すぎるくらい珍しい体験をしたさ。朝比奈さんが卒業しちまうことといい、こうして
少しずつ俺たちは普通の生活に戻っていくんだ。それでいいじゃないか。
……と、この時はそう思っていた。
それから何日かはハルヒも元通り機嫌を取り戻して連日何かしらの行事をやった。いちいち描写し
ていてはキリがないが、朝比奈さんもいつものにこやかな笑顔を終始保っていたし、ハルヒも団員が
揃うとギアを全開にして俺たちを引っ張ってくれたので、俺も土曜日の一件は朝比奈さんの気まぐれ
だったんだろうと思い込むことにした。
本当はずっと気になっていたが、俺があの日の出来事について真相を知るのはもう少し後のことだ。
卒業式当日――。
「みくるちゃんと鶴屋さんその他の卒業を祝して! かんぱーい!」
SOS団団長にして祝賀会実行委員長、涼宮ハルヒがマイクを使ってのたもうた。
「かんぱーい!!」
それに続くは多くの関係各位様――まずは卒業おめでとうございますな朝比奈さんと鶴屋さん。
ハルヒの言う「その他」に含まれちまってるコンピ研元部長氏に元生徒会長、同じく元書記喜緑江美
里さん。そして卒業を祝う側、俺に古泉に長門、谷口国木田阪中、なぜか新川さんや森さんまで執事
とメイドに扮して来てるし、多丸さん兄弟に至っては礼服ではあるものの思い切り他人なんじゃ?
……なんて無粋なツッコミはやめとこう。いや、ほんとにめでたい。
「涙とか湿っぽいのは似合わないわ! 卒業式で泣いた分は二次会でパーッと晴らしましょう!」
独壇場状態の体育館ステージの上でわれらが団長様が号令をかけた。クラッカーが鳴り響き、直後
学内有志によるブラスバンド演奏が始まった。
そう、さっき挙げたのはほんの俺の友好範囲内にすぎず、しかしてこのイベントの名は『SOS団プ
レゼンツ、北高卒業式超二次会!』なるものだった。よもやこれほどの規模で宴会するとは思いもせ
ず、俺がそのスケールを聞かされたのはほんの三日前のことだった。お前企画側の人間じゃないのか
と言われるかもしれないが、俺がやったのはあくまで事務雑用その他なので会場が体育館ってのもつ
い最近まで知らなかった。
どこから持ち出したのか結婚式場とかで見られる丸テーブルがあちこちに据えつけられ、円卓とな
った席に各学年からありとあらゆる生徒が座って楽しげに会食している。ハルヒは司会進行その他も
ろもろ重要な役割を一手に引き受けているので休むヒマもなく姿を見せては隠れしている。
「はーい! それでは卒業を祝して卒業生から何人か、代表で言葉を頂戴します!」
バンド演奏が一度止んで放送部のかけるインスト音楽に変わり、わぁっという歓声の中で見覚えの
ある顔ぶれが連れ立ってステージに出てきた。ハルヒの威勢いい号令が続く。
「まずはわが校きってのアイドルにしてSOS団永遠の萌えマスコット兼プロモーター兼広報部長兼副々
団長! 朝比奈みくるちゃん!」
主に野郎を中心とした歓声が巻き起こり、しかし女子側も負けていない。間違いなくここにいる人
間の99%が彼女にメロメロである。かくいう俺もその一人だ。
さてその朝比奈さんはハルヒが退いたスタンドマイクに震えながら近付き、かくかくしながらお辞
儀してマイクに頭をぶつけて会場を盛大な笑いでもって和ませ、
「え……えっと、……そそそ卒業おめでとうございますっ! ありがとうございますっ!」
と俺たちが言うべき言葉と彼女が言うべき言葉を絶妙にブレンドさせた謝辞を述べた。並んでいた
鶴屋さんが腹を抱えて笑っている姿がここからでも見て取れる。
「本当に、楽しい卒業式ですね」
そう言ったのはこんな時まで俺の隣人をつとめる古泉一樹である。
「そうだな」
俺は正直に言った。こんなに痛快な送別会をしてもらえれば、もはや高校に思い残すことなど百メ
ートルで八秒切って未来永劫破られない世界新記録を打ち立てた陸上選手ほどにないだろう。
すると如才ないハンサムスマイルという表現を使いすぎてもはや省略した上で脳内補間していただ
きたいくらいに定着した笑みの古泉は、
「さて、これで朝比奈さんや鶴屋さんがこの学校からいなくなってしまうわけですが。あなたはどう
ですか?」
返しにくい球を投げるなよな。と言ってもこれだけ長いこと禅問答やってりゃ、それもふまえて言
ってきてることだって分かってる。
ゆえに俺は息を一つばかりついて、
「そりゃ寂しいさ。何より部室であのメイド衣装とお茶を味わうことが叶わなくなっちまうんだから
な。だがそんなこと言ってたって始まらないだろ。時間は常に一定の方向にしか流れないんだからな」
そう言うと相方たる副団長はクスッと笑い、
「そうですね。あなたは僕なんかよりよほど達観していますよ。僕もそう考えるように心がけてはい
るのですが、やはり残念な気持ちが勝ってしまうと言いますか」
そうは見えないぜ。と思いつつ、そう見せていないだけなのだろうとも思う。また無理して本音を
隠したりするなよな。
「ええ。先日の閉鎖空間もその戒めだと思っておきますよ」
しかし古泉の笑顔の種類まで判別できるようになっちまうとは思わなかった。まぁこいつが今さら
嘘をつくとは思っていないし、表情も本心だと言っている。
「……」
反対隣では長門がビュッフェスタイルのバイキングコーナーから山と盛って持ってきた食べ物を淡
々と食べていた。俺が振り向くのに呼応するかのごとく目を合わせる。この一年で純度に磨きがかか
った黒ダイヤのようになった眼差し。そこには意思の色が誰にでも分かるほどに表れている。
「卒業だな、二人」
俺がそう言うと長門は一度ステージの方を向いて瞬きし、こくんと肯いた。
「さみしい」
長門はわずかに顎を引いて言った。
いつからだろう、長門がここまではっきりと自分の気持ちを表に出すようになったのは。
明確な線引きなんてできないが、きっかけだけで言えば二年前の年末の一件に間違いない。結果的
に、あれは長門にプラスの作用をしたのだ。最初は互いに相容れなかった宇宙人と未来人も、意識レ
ベルではもうすっかり信頼しあえる間柄になった。俺はそう認識している。
「ふへぇぇぇ……」
一日分のエネルギーを使いきってしまったかのようによろよろとした足取りで朝比奈さんが古泉の
左隣に着席した。人前に出るのが苦手なのはそれこそSOS団勃興期から変わらぬ彼女の愛らしい性質
のひとつだ。おつかれさまです。
「みくるっ! 食べもの取って来たよっ!」
気の抜けたアドバルーンのようになっている朝比奈さんの、さらに左隣に座るは鶴屋さんである。
「あ、ありがとう……」
この二人のやり取りも見られなくなるのかと思うとやはり寂しいが、同時に何か温かい気持ちにな
る。思い返せば野球大会で朝比奈さんが鶴屋さんを紹介してくれた時から、この二人の組み合わせに
よる特有の空気は俺を清々しい気持ちにさせてくれた。
「んもう、みくるはいつだって可愛いなぁっ!」
皿を置いて鶴屋さんは朝比奈さんを抱き寄せ、頬ずりをした。
それは親友にも家族にも恋人にもペットにも向けられるような、たくさんの好意を柔らかい絹で包
んだような……抱擁。
俺はふと古泉と目配せをした。たぶん似たようなことを考えていたと思う。
いつまでもそんな二人でいてください、ってな。
さてパーティーも佳境、クライマックス、ハイライトに入り、バンド演奏の部に突入した。われら
SOS団のバンドが先陣を切り、俺もずいぶん久々だったベース演奏を何とか終えた安堵感に浸りつつ、
トリを務めるゲストOB、ENOZの演奏を高揚しつつ見ていたのだが、
「ねぇキョン、みくるちゃん見なかった?」
二曲目のイントロが流れ出した頃、ふいに俺の元に「超仕掛人」の腕章をしたハルヒが現れて囁いた。
テーブル類は脇に寄せられ、パイプ椅子がずらと並んでステージ以外の照明は落とされているから、
この状況で辺りにいる人を判別するのは難しい。俺はひとしきり近くを見てから、
「いないのか?」
尋ねるとハルヒは肯くように顎を引き、
「まだ出番があるから呼びに行こうと思ってあちこち探してたんだけど見当たらないのよ。携帯もつ
ながらないしさ。あんた、心当たりない?」
俺の左に並んで立っている古泉と長門もハルヒを見ているのが感じ取れた。俺はそのまま、
「鶴屋さんといるんじゃないのか?」
そう言うとハルヒは首を振って、
「鶴屋さんはもう控え室にいるわ。みくるちゃんだけどこ行ったか分からないのよ」
俺は一度古泉と長門を振り向いた。二人とも神妙な肯きを返す。
「手分けして探そう。どっか、近くにいるはずだ」
一度体育館から出た俺たちはそれぞれに散って学校の敷地内を探すことにした。俺とハルヒが校舎
内、古泉と長門が校舎外。
「あんたは部室棟をお願い。あたしは三年生の教室から探してみるわ」
ハルヒと別れた俺は上から探していくことにし、まずはSOS団本拠地たる文芸部部室に向かった。
階段を駆け上がり、最初に見えるドアを開ける。
「朝比奈さん!」
「きょっ、キョンくん……?」
あっさりと見つかった。
「こんなところでどうしたんですか? ハルヒが探してますよ」
「……あ、その」
朝比奈さんは椅子に座ってうつむいていた。
「さ、行きましょう。鶴屋さんも待ってます」
俺が催促すると、しかし彼女は首を振って、
「だめです……だめ」
「だめってどういうことですか?」
「行けません」
朝比奈さんは制服のスカートをつまんで面を伏せたままで言った。
「未来に帰ることになりました」
はい……?
しばらく何も言えずにいた俺に朝比奈さんは、
「一時間以内です。……もうおしまいだって」
「ははは、冗談ですか。朝比奈さんらしくないですよ、それ」
俺が気休めのように言ったセリフは空をかいた。
「突然すぎます……」
朝比奈さんは今にも泣き出しそうだった。
「ほんとなんですか?」
俺の呟きに朝比奈さんはゆるやかに肯いた。
部室に物音はなかった。窓はぴたりと閉じられて、その外では春を今かと待ちわびる木々が新芽を
膨らませている。
「ハルヒたちはどうするんです。いずれここに来ますよ。別れの挨拶もなしですか?」
さよならもしないつもりなんだろうか。二年も一緒に過ごしたのに。
「でも……指令は絶対なんです。守らないと……」
どうなるってんですか。せめて先に延ばしてもらうとか、できないんですか?
朝比奈さんは首を振る。
「ごめんなさい……」
何を謝る必要があるというのだろう。朝比奈さんは何にも悪くないじゃないか。
ふと、階段を駆け上がる音が壁に反響してここまで届いた。
「キョン! みくるちゃん見つかった?」
俺が戸口を振り返ると、ハルヒが息を荒げてそこにいた。
「あぁ、この中に――」
――いない。
朝比奈さんはもうどこにもいなかった。
部室はもともと誰もいなかったかのように静寂を保っていた。それこそ水を打ったかのような静け
さ。ただ、朝比奈さんが座っていた椅子だけが引かれたまま、彼女がいたことを何も言わず物語って
いた。
「バカな」
「……キョン?」
漏れた声ににハルヒが答えた。もぬけのカラだ。こんなあっさりとお別れなのかよ。そんなのって
ないだろう。まだサヨナラのサの字も言ってないのに。
「ハルヒ、朝比奈さんを探そう」
俺は半ば無意識のままでそれだけを告げた。
結局、朝比奈さんはどこにもいなかった。
卒業式二次会の方は急遽鶴屋さんが司会進行してくれたらしかったが、彼女はまだ朝比奈さんがい
なくなったことを知らない。
本当にもう会えないのだろうか? そう考えて、それじゃどんな別れなら俺は納得できたんだ?
と自問する。
家に帰る頃にはもうすっかり祝賀ムードは俺の中から消えてしまい、そこに待っていた人物を目に
する頃には念頭からも消えていた。
「朝比奈さん……」
大人版。ずいぶん長いこと会っていなかった。
「ひさしぶり」
それは彼女も同じだったらしく、眼差しはどこか遠くを見ているようだった。
「散歩しましょう。……いいかな?」
放心気味だった俺はそのまま肯いていた。
俺と大人版朝比奈さんはしばらく互いに何も言わずに歩いた。示し合わせたわけでもないが、行く
先に迷ったりはしなかった。この場合どっちのベンチを目指すのか、自ずとわかる。
風は南向きで、日は翳っていても暖かかった。そういえば、卒業式ってあまり晴れた記憶がないな。
入学式はうんざりするほど快晴になるのに。
朝比奈さんは春物のブラウスを着ていて、それがまた恐ろしく似合っていた。その横顔から何を思
っているか読み取ることは困難で、けれど間もなく俺は事実を知るはずだ。
目的地はやはりあの思い出ベンチだった。家から歩いたのでなかなかの距離になったが、そんなこ
とも気にならない。何か胸にぽかんと空洞ができた気分だった。
俺と朝比奈さん(大)は少し間を空けて座り、俺は彼女の言葉を待った。あんまり突然で実感がわ
かない。誰に何と言えばいいかも分からない。
「わたしとも、これでお別れです」
最初に告げられたのがそれだった。春の風に乗って、裏腹にどこかうそ寒く心を撫でる。
「未来の人間が、必要以上に過去の人間と関わっていはいけない。もともとわたしはあんなに涼宮さ
んに近いところにいるはずではなかったんです」
朝比奈さん(大)は言った。俺は思い出す。二年近く前、ハルヒがSOS団を立ち上げた時に部室に
引っ張り込まれたことで以後朝比奈さんは団員兼お茶汲みメイドさんとなり放課後の俺の心を癒して
くれた。その正体は未来人だったわけで、いくつかの目的があってこの時代に来てるってことだった。
「突然すぎますよ。……もっと、もう少し何とかならなかったんですか?」
この朝比奈さんに言うのも変な話だ。彼女は既にさっきあったことを経験している。どうにもなら
ないことだって分かっている。俺がここで頼んだことで朝比奈さん(小)が未来に帰ることが帳消し
になるのなら、(大)たる彼女がここに現れることもないし、こんなセリフだって言わない。そのく
らい分かってるさ。
でも、こんな突然会えなくなるなんて言われて、俺はどうすればいいのか分からない。もうちょっ
と先だと思ってたんだ。……そりゃ卒業はして、会う機会が減ることは承知してたし、いつかは未来
に帰る日が来るってことも知ってたさ。だけど、今がその時だなんてこれっぽっちも思ってなかった。
大人版朝比奈さんがこの時間に来ることがなくなっていたことから気づくべきだったのかもしれな
い。が、それでどうなるんだろう? 結局朝比奈さんがいなくなっちまうことには変わりがないんだ。
「ハルヒたちにも何にも言わないなんて……」
今まで、誰かと会わなくなることはあったものの、俺はどっか冷めていて、こんな風に急に胸が熱
くなったり何かがこみ上げてくることはなかった。きっとまた会えると思っていたからかもしれない。
実際中河や佐々木といった中学時代の友達とは再会できた。けど、朝比奈さんは未来に帰ったらもう
それきりなんだ。もともと住んでる時間が違うんだから、本来交わることすらなかったはずなんだ。
でもハルヒがいたおかげで俺たちは会うことができた。SOS団なんて妙すぎる集まりの中の、決して
欠かすことのできない一輪の花が朝比奈さんだった。
「涼宮さんたちには手紙を書きました。それぞれの元へ届いていると思うわ」
この朝比奈さんも悲しい様子を隠そうとしなかった。わずかに顎を引いて、長い睫毛は伏せられ気
味だ。朝比奈さんは続ける。
「鶴屋さんには別に別れを告げに行きました」
朝比奈さんの無二の親友。俺が入学する以前の話は聞いたことがないが、少なくとも二年間同じク
ラスで、いつだって仲良しだった。思えば、鶴屋さんと知り合えたのも朝比奈さんがいたからだ。も
しも彼女がいなければ、二年間一度も接点を持つことのない先輩と後輩でしかなかったのだろう。き
っとこの卒業式にだって特別な感慨を持たなかったに違いない。元部長氏に喜緑さんに元生徒会長だ
ってそうだ。SOS団がなかったら知り合ってすらなかった。
「今までありがとう」
朝比奈さんが言った。異様に暖かい風が、長かった冬を北の向こうまで連れ去っていこうとしてい
る。春はもうすぐそこだった。そして、新しい季節の前には避けられない別れがあるのだった。
俺は何も言えずにいた。
何か言ったら、それが別れの言葉になってしまうような気がして。
正直言えば、まだ朝比奈さんに行ってほしくはなかった。いつまでかは分からないが、まだこの時
間に留まっていてほしかった。けれど、どれだけいたとしてもいつか別れの時はやってきて、そこで
も俺は似たように期限の延長を望むのだろう。延滞料金がどれだけ高くたって、他の何ものにも代え
られないから……。
「本当に色々なことがありました」
俺の心を撫でるように朝比奈さんは柔和な口調で話を続ける。彼女は彼女で、言葉を途切れさせた
らそこが終了の合図になってしまうと思っているかのようだった。朝比奈さんは今まであったことを
ひとつひとつ、アルバムのページをめくるように話し続けた。その声が春を運んでいるのではないか
と錯覚するほどに穏やかで、優しさに満ちていた。
けっこうな時間、俺は何も言えずに制服ズボンの膝の辺りをつかんでいた。一言、一言を聞くたび
に、この二年間の耳を疑っちまうようなトンデモエピソードの数々が鮮明に想起され、特に朝比奈さ
んがその時どんな風だったかが昨日のことのように思い出せた。忘れてたはずの記憶は、失くしてし
まったのではなく、仕舞った場所が分からなくなっていただけなのだ。
ふいに話が終わった。気がつけばごく最近にまで時系列が追いついていた。
俺は朝比奈さんを見た。彼女は雲間に見える青空を見上げ、思い出をいつくしむように笑みをたた
えていた。
「最後に一つだけ、言っておきたいことがあります」
朝比奈さんはこちらを見ずに中空に言葉を置いた。俺は彼女の横顔を見ていた。
「あなたが最後に見た小さいわたしは、一度だけある時間に帰ってきます」
「えっ……」
ここで朝比奈さんは俺のほうを向いて、驚くほど優しい表情になった。けれどそこにあった感情は
それだけではなかったのだと思う。
「今から十日前。土曜日」
言われてすべての謎が解けた気がした。そうか、あれは……。
「そう、少しだけ未来のわたしだったんです」
俺がどことなく感じた妙な雰囲気はそれだったのか。大人びたのは服装だけじゃなかった。実際に
彼女は少しだけ成長していたのだ。
「長い時間のご褒美。たった一度のわがままです」
朝比奈さんは正面を向いて瞬きをした。彼女にとってはそれすら過ぎ去った時間なのだ、と俺は思
った。
朝比奈さんはそれで話すことはなくなったのか、もう何も言わなかった。今度は俺が何か言うべき
だったのに、声を出そうとすると途端に胸が苦しくなった。バカ野郎。何をグズグズしてるんだ。こ
れで最後なんだ、何かあるだろ。言うべき言葉が……何か。
「それじゃ、わたしももう行きます。どうか、元気で」
朝比奈さんは立ち上がり、静かに歩き出した。その後ろ姿は、ずっと前に世界が改変されちまった
時、一縷の望みを懸けてエンターキーを押してたどりついた二度目の七夕。あの時を思い出させた。
追いかけろ。
「朝比奈さん!」
俺はベンチから跳ね上がるようにして立ち上がると彼女に叫んだ。しかし朝比奈さんは振り向きも
立ち止まりもしない。
「今までありがとうございました」
違うだろ。そんなことが言いたいんじゃない。もっと他の何か。あの土曜日の朝比奈さんがどんな
だったか覚えてるだろうが。
「待ってください!」
呼んでも彼女は歩みを止めない。これじゃふとした瞬間に消えちまうかもしれない。
俺は走った。号砲がどんなに前に鳴ってたって知るものか。消えちまったら何にもならない。今伝
えたいことがあるんだ。だから、どんなに遅れててもいいから、走れ。
大した距離でもないのにバカみたいに息が上がり、そんなに遠くでもないのに蜃気楼なんじゃない
かってくらいいつまでもたどり着けない気がした。……どうしてだ。
「朝比奈さん!」
俺はもう一度叫んだ。走って、走って、走って。
ようやく捕まえる。握った手首は思いのほか細く、その温もりが彼女がまだ確かにここにいるこ
とを証明していた。
「朝比奈さん! あの、俺……」
朝比奈さんは歩みこそ止まっていたものの、こちらを振り向いてはくれなかった。自ら振り向くま
いと決めていたのか、俺には分からない。
そのまま手首を引いて、振り向いた彼女を抱きしめた。
吹き続けていた春風より、朝比奈さんはずっと儚く、温かかった。
「……すんません」
情けない謝辞が口をついた。
「……いいえ」
(大)とか、大人バージョンとか言っていた朝比奈さんは、思いのほか小柄だった。それは俺がこの
二年間で成長したからなのか、もともとなのかは知らない。
「ごめんね……」
もう少し幼かった頃と何ら変わらないような口調と、震える肩。
「俺のほうこそ」
互いに分かっていた。もともとずっと一緒にいることはできない。そして、今がその終わりの時な
のだと。
別れの挨拶――、
「さよなら」
時間を越えた温もりを残して、彼女は俺の前からいなくなった。
数日後の話になる――。
「ちょっと今から話せるか?」
そう言って部室へ向かった。古泉はにこやかに応じ、俺の向かいに座る。
「あなたからの誘いは珍しいですね」
古泉はそう言うと窓を開ける。
「もう春になろうとしています」
陽射しこそ強くないが、確かに外は晴れていた。吹いてくる微風が頬をさらった。
しばらく互いに何も言わず窓の外を眺めていたが、やがて俺は切り出した。
「最近ハルヒはどうだ。灰色ドームは生まれてないか?」
古泉は柔らかい笑みを保ち、
「ええ。彼女も朝比奈さんがいなくなった現実を受け止めたのだと思います」
「そうか」
ハルヒの力は完全になくなったわけじゃないらしいが、間もなく消えようとしているって話だった。
「この前のように、依然突発的な発生はありますが、おおむね良好ですよ」
笑ったままの古泉に、俺は一息ついてから言う。
「なぁ、ハルヒの力がもしもなくなっちまったら、その時お前はどうするんだ?」
そう言うと古泉は笑みの種類を変えて、
「分かりません。『機関』から涼宮さんの観察任務が解かれれば、また転校することになるかもしれ
ませんが……僕個人はここに最後までいたいですね」
最後にはっきりと自分の意思を述べた古泉だった。こんな様子は最初の頃からは考えられない。も
っと回りくどくはぐらかすように話すのが最初の古泉だった。
「朝比奈さんはいつか元の時代へ戻ることが決まっていました。僕たちとずっと一緒にいることはで
きない。そして、卒業に合わせてこの時間から去った」
古泉はそう言うと、また沈黙の徒となった。
昼休みの北高は、あちこちからささやかな活気の音が聴こえてくる。
「……元気出してください」
不意に古泉が言った。
バカ。そんな言葉かけるな。今の俺は歯を食いしばってるのがやっとなんだ。
「朝比奈さんは行っちまったんだ……」
この数日、また俺は渇きすぎた雑巾みたいに空っぽな気分で、そんな気持ちは授業中も、谷口や国
木田と話してる時も、放課後も常に消えなかった。
「古泉……、俺は……朝比奈さんが……」
床の一点を見つめてそれだけ言った。それだけしか言えなかった。
「えぇ」
古泉は俺の頭上に言葉を置いた。自分でも何でこんなに寂しくなるのか分からなかった。いつだっ
て放課後部室に行くと朝比奈さんがいて、俺たちに緑茶を淹れてくれてたんだ。今だってあの無垢な
笑顔を思い出せる。それこそありとあらゆる場面で見せてきた喜怒哀楽。全部だ。
肩が震えた。俺は両手で顔を覆った。別に死んでしまったわけじゃない。なのにもう会えないんだ。
住んでる時間が違うんだから。
「これを読んでいただけますか」
ふと古泉の声がかかる。俺は濡れた顔を半分上げて手元を見る。
「朝比奈さんが僕に宛てた手紙です。どうぞ」
淡い色の封筒。それは大人になった彼女がかつて俺に宛てていたものと同じレターセットだった。
片手でそれを受け取り、手元に持ってきてそっと開ける。
一枚の便箋に、見覚えのある丸まっちい字でこう綴られていた。
古泉くんへ
お元気ですか、こんにちは。
突然ですが、わたしは未来へ帰ることになりました。
お別れの挨拶もできなくてわたし自身も残念ですけど、お手紙をみんなに書く許可はもらえたので
こうしてエンピツを走らせています。
まずは、二年間本当にありがとう。
わたしは何にも分からなくて、古泉くんやみんなにも迷惑かけっぱなしでしたけど、本当に、本当
に楽しかったです。古泉くんには特に、わたしが二年生だったときの夏休みにお世話になりました。
励ましてくれてありがとう。わたしは何にも返せなかったけど、せめてお礼を言わせてください。
わたしは、本当はあんまりみんなと仲良くしてはいけなかったんです。
それは規則がどうとかじゃなくて、こうやってお別れする時に淋しくなっちゃうから。
でも、わたしにとってはみんなと距離を取るほうがもっと淋しかったから。結局すぐに決まりを取
り消すことになっちゃいました。今もそれでよかったって思います。
古泉くんにはひとつお願いがあります。
もしも、わたしがいなくなった後にキョンくんが落ち込んでいたら、励ましてあげてほしいんです。
古泉くんはキョンくんの一番のお友達だと思うから、元気をなくしていたら力になってあげてくだ
さい。身勝手なお願いでごめんなさい。
みんなと過ごした時間は、絶対に忘れません。
これから、もっと勉強して、自信を持てるようにがんばります。
今まで、本当にありがとう。
朝比奈みくる
俺は何も言わずにその文字を三回、目で追ってから元通りに便箋をたたむと、封筒に入れて古泉に
返した。
「そうか。朝比奈さんはこんなことまで……」
気配りしすぎですよ。あなただってあんなに弱ってたじゃないですか。
「最後の最後まで、優しすぎだ」
「朝比奈さんもちゃんと分かっていたんですよ」
古泉が静かに答えた。
「確かに別れは突然でしたが、それだけに最後まで彼女は気配りを欠かしませんでした。おそらく、
涼宮さんや長門さんにも丁寧な内容の挨拶が書かれているのではないかと思います」
言わずもがなだ。
「ありがとう、朝比奈さん……」
俺は呟いた。
「古泉、お前もすまなかった」
「いえ、僕のほうこそ。なかなかあなたに切り出せなかったので」
俺と古泉は互いに苦笑した。
「また春が来ます」
古泉が鳥の鳴く屋外へ目を転じて言った。
「そうだな。もう俺たちも三年だ」
俺が言うと、古泉は呼応するように、
「えぇ」
とだけ返事した。
時間は絶え間なく流れ続け、新入生だった俺たちもやがて最上級生となる。
最初の別れを経て、まだ俺たちの時間は続いていく。
「そういえば、今年のホワイトデーはどうしましょうか?」
古泉が言った。まずいな。あと五日かそこらじゃないのか。
「僕にとっておきのプランがあるんですが」
俺がにやっと笑うと、古泉は珍しくイタズラっぽい笑みを浮かべ、
「お聞きになりますか?」
「あぁ、この際だ。聞かせてもらおうじゃないか」
寒い季節の終わり。暖かな日光に照らされて、凍りついていた草花もその息吹を取り戻す。
張り付く霜は露となって輝き、やがて蒸発して空に上る。
三年目を迎えようとするSOS団アジトを吹き抜ける風は、そうして暖かくなった。
(了)
以上です。長い割にうまくまとまっていなくて申し訳ないです。
次回はもう少しマシになるよう頑張ります。それでは。
みくるスキーにとってはあんたは神だ
おもしろかった!
エクセレント!
泣けた。ただただ泣けた。
朝比奈さん(小)の高校生活があったからこそ、未来人として救いにくる(大)がいるんだもんな。
朝比奈みくるの最後の挨拶でもかなり泣いたが、これもヤバイ。
切なすぎて死にそう…
GJ。
ちょっと時のパズル弾いてくる
地の文少なすぎて会話ばっかでなんだかなあと思った。
切なくて良い話だったけど。
逆じゃね?会話のわりに地の分が多かった気がする。
でも切なかった…
上手いなあ…みくるをこれほどまで上手く書いてくれるとは。
個人的には最後の挨拶以来の大ヒット。
投下が終わってからここまでの反応の少なさが全てだと思う。
中の上ってところかな。
>92
エロくないけどついつられて最後まで読んじまったじゃねえか!
くそお。やられた。GJだ
この反応の少なさは単にみくるが不n(禁則事項です)
このスレで10レスほど反論なく誉めが続いた時点で異常だが
日曜ですから。
反応の多さなんてある程度以上は作品の質と比例相関しないでしょ
タイミング的な要素もある
たまたまROMが多かった、とかね。
後、マンセーレスが続くときは
便乗でオレもマンセー的にお祭り相乗的にレスが増えることがあるし、正直水物でしょ
>>60 >>92 二つに作品に、同じ感想でまとめてしまうのは失礼だと自分でも思うけど、
「読みやすく、うまくまとまっていたと思う。GJ」
読後に触発されて、比較しながら自分の書きかけ物を読み直してて、感想が遅れてしまった…… orz
筆が進みすぎる不思議スランプに見舞われて、文量が増えるのに物語が遅々として進展しない。タスケテ!
ふりかえると、えらい手本がそこに居た。そんな休日。
>>92 GJ!!スゲぇ面白かった。
読みやすくて良かった。
俺も便乗して
>>92 なにかといえば「天使」とみくるを比喩する人が多いけどさ、さすがに「大天使」だとごつごつしちゃうんじゃないかな。
あと、八日間丸々は「お使い」(既定事項の遂行)をしていない。このときのみくるは文字通り「マラク」だったのだけど。
それから個人的な感想として、自分に宛てられた手紙なら古泉はそれをキョンに読ませたりはしない…かもなあ。
あるいは、キョンのほうが読むのを拒否するかな、そんなことを思った。
とまれ、展開は好みでした。書きたい意思を感じた。
>>92 ありふれた言葉だが、GJ。良かったと思う。
気が向いたらまた、このエロパロの方にも投下して欲しい。
あと、刺々しいレスの奴は全員書き手側の人間だと思うから気にするな。
じゃあ俺も厳しめな感想を。
>>92 「〜しちまった」とかの口調はキョンっぽくない。「〜してしまった」でいい。
あと前にも指摘されてるように会話と他の文の量のバランスがやや悪い感じ。
みくるの場合誉めのバランスが重要だと思う。キョンがみくるにデレるのは原作もだがやりすぎずに。
話自体は悲恋ですごくおもしろい。これからもどうぞ投下お願いします
つーかね、みくるは難しいんだよ
ある意味古泉より切口が少ないから
長門は結構隙だらけなんだけどねー
いや、ここの人はみんなわかってると思うけどさ
金曜のみくるは…いやしかしアレでよかった気もするしな…
とにかくGJ
>>92 GJ!
一回読んでからデートのシーンを読み直したら本当に泣けた。
みくるスキーには正直たまりません。
長門は制限が少ないし、ssはキョンの感情を無視できるから書きやすいんだと思うよ。
だって原作のキョンの感情重視したら長門は一番論外な気がするし。
読んでから時のパズル聞いたら普段聞くよりしんみり聞こえた。
>>114 「しちまった」は結構あると思うぞ。
たとえば、憂鬱で三回、動揺で三回、暴走で二回、溜息で一回。
「しちまう」も、動揺で二回くらい言ってる。
陰謀と憤慨は調べてない。
厳しめな感想を。って断ってあるけどさ
文章に対して批評するなりダメだしするのはいいけどさ自分のキャラ像みたいなのを押し付けんなよ
>「〜しちまった」とかの口調はキョンっぽくない。「〜してしまった」でいい。
「〜しちまった」とかキョン使いそうなイメージがあるんだが
>>92久々に朝比奈さんがメインで出てきたような…GJ!
そういう時期だもんな。やっぱり別れは寂しいものがあるね。
「涼宮ハルヒという未確認移動物体と出会っちまった」
分裂冒頭3ページ目で早くも言ってるが。
斬新なカップリング思いついた。
パンジー×みくる(大)で誰か違和感なく書ききってくれ。
小説をきちんと読んでもなくて、評論家気取りの奴はスルーよろ。
語りに勢いがあったり口語に近い時や、発言か内情なのか曖昧にしたい叙述では > 「しちまった」
淡々と状況説明してるときや、内情を込めつつ静かに語ってる時は > 「してしまった」
と自分では気を付けて使い分けていたのだが、思わず作成中の文章をテキスト内検索をしてしまった。
まあ、鬼編集長につっこまれなければ、
『谷川流完全模倣型』・『キョン語り』を律儀に守るよりも、
全体の雰囲気を保ちつつ、『谷川流っぽい』・『キョン語り風味』くらいには収まってくれればいい。
そう考えていたんでな……つい、書き込みしちまった、というわけなのさ。
どこまで許容できるかは個人差だと思うけど、原作にあった台詞なりを引用する時に一字一句正確性を求めたり、
「似てるけど原作に無い表現・文体」を忌避したりする人は、それなりに多いのかな?
ギャグを絡めると、キョン語りが暴走し、長門のシュールに過ぎる! となっちまうんですが……やべぇ
>>92 よかったです。GJ。
さて俺もがんばるぞ
>125
板にふさわしいな。面白い御仁だ。
>>92 せつねぇ…ここで読み物していて久しぶりに体に電気が走ったよ
お疲れ様。
>92
みくるの魅力を、再確認できました。
とてもよかったです。GJ!!!
>>92 うまくまとまってて読みやすかった。
GJ!
前ヌレ500いったんだな
132 :
名無しさん@ピンキー:2007/03/12(月) 21:53:20 ID:MaQemwgt
アマネキメェwwwww
にゃあにゃにゃにゃあにゃあにゃあ。
にゃあ、にゃあにゃにゃあにゃあにゃあにゃあにゃにゃあにゃにゃ、にゃあにゃあ。にゃにゃにゃあ、にゃあにゃあ。にゃあにゃ。にゃあにゃにゃにゃにゃにゃあにゃにゃあにゃにゃ。
にゃにゃにゃにゃあにゃあにゃにゃあにゃにゃあ、にゃあにゃにゃにゃにゃにゃ。
にゃあにゃにゃ、にゃあにゃにゃにゃにゃあ、
「ホレ、ここだ。左からしかありえんから適当にやりゃいい」
にゃあにゃあにゃあにゃにゃ、にゃにゃあにゃあにゃあ。
……にゃあにゃにゃ。
にゃにゃあにゃにゃにゃにゃあ、
「にゃあ」
にゃあにゃあにゃあにゃにゃにゃ。
「これはこれは。非常に猫らしいといいますか、どっちかというと犬らしい判断ですね」
……にゃあにゃにゃにゃあにゃ。
「なんだかどっちでもよくなってきた。もう右も左もウルトラ犬コースでいいだろ」
「それはシャミセン氏に失礼かと」
にゃあにゃにゃにゃ、にゃあにゃあにゃにゃにゃにゃにゃ。にゃあにゃあにゃにゃ……にゃあにゃあ。
にゃあ、にゃあにゃにゃにゃにゃ、
「うおっ!」
にゃあ! にゃにゃにゃ!
にゃあにゃにゃあにゃ、にゃあにゃにゃ。にゃにゃにゃにゃにゃにゃ!
「……これは、大変厄介なことになりましたね」
にゃにゃ。
「にゃあ」
にゃにゃあにゃあ、にゃあ、にゃあにゃにゃにゃ。
にゃあ、にゃあにゃあにゃにゃにゃ。
――にゃあ。
にゃあにゃあ、にゃにゃにゃ。
にゃあ。
にゃあにゃにゃにゃにゃ。
「絶妙なライオン具合だな。これならあと3ローテは大丈夫そうだ」
にゃにゃにゃ、にゃあにゃにゃあにゃあにゃにゃにゃにゃあ。
以上です
何がしたかったんだw
>>16 エロネタはそれだけでネタになるとはいえ……。
オリキャラ化すぎ。ラブラブ垂れ流しすぎ。書き手が酔いすぎ。
なんで会長はベッドでも地を出さないんだ?なんで宇宙人インターフェイスの分際でごく当たり前マニュアル的カップルのごとく性行為が進行するんだ?
漫画向けな上に、もはや二次創作を二次創作している作品。
……などと一応突っ込んどかないと馴れ合いだと思われるので、義務的に。
前置きをきちんと書く限り、あなたが気にすることはない。どんどん書いてください。
>>29 作品の内容について3行ほど感想を書いたところで、すべて消し、こういう後書きを書く奴に一言。
自分に力不足を感じないオンライン作家は、邪神以外、いない。
>>60 よくこれだけ楓樹液と大根汁と菊科植物抽出液を混合したようなシチュエーションが浮かんで書けるものです。
章題、愛に盲目気味なキョン、激甘な展開……どんでん返しで、すべてはキョンの妄想的最終話MADクラスの話になりそうでガクガクブルブル。
ここまで来るとどちらかあるいは両方に死亡フラグっぽくて、なんとなく一週間前にVIPで投稿されてたキョン死亡SSを思い出してしまった。
裏がどうなっているのか、期待して待ってます。
>>70=92
うん。確かに出来が良くないねえ。
>>29と同じ理由で、それだけ。
次に期待してますよ。
>>114 それって「結構」と言うのか?
ざっと調べたら、
>>70氏のSSには「ちまう」「ちまった」がこの短さで20近くあるんだが。
>>125 ハルヒシリーズは文章そのものはあまり上手くない。劇場に至ると最悪。
意図的に高校生の作文レベルに落として書いてるのかもしれないが、だとしても、ながるん完全模倣型でヘタさまで真似するのはさすがにやりすぎだろうと思う。
完全模倣がプラス要素になる場合もあるらしいので、無理に留め立てはしないが。
細かい言葉遣いについては、気にする人もいれば気にしない人もいるって程度。おっしゃる通り、個人差。
(ただ「気にする人」も多少のことなら見逃してくれてるはずなので、指摘されたなら、クドさや間違いが多少の度を過ぎてる可能性が高い)
しかし、言葉遣いに悩まなくていいわけではない。引っかかったらひたすら悩んで自分が正解だと思う言葉を書かなきゃならない。
このへん進めると小説は頭で書くべきか心で書くべきかの問題にもなってくるが、とにかくは物書きの原則「言葉はその場に最も相応しいものを選んで使え」でしょう。
俺は他人のを読むぶんには気にしない人、自分で書くぶんには気にする人……でありたいが、結果を見ると気にしない人だろオマエって自嘲したくもなる。
やはり、推敲は音読!
なんだ・・・こいつ?
いつもSSに対しては全レスを欠かさないかのお方です。
素人が書いたものに対して、適当に評論する素人がいる。それだけだ。
なんか偉く気持ち悪い評論だな
なにこの神気取りの人
でもようやく予想してた感想が来た。
>>142 まあそういうモンなんだろうけど、凄く気持ち悪い、見るに耐えない醜悪さが滲み出てるからつい
駅に居座るホームレスの独り言に関わろうとすんなって
正直そんなひどい悪罵を投げつけるような内容には見えないのだが?
いや、ホームレスの方を悪く言うつもりはないけれどさ。
>>143 主観でテキトーに断言するような奴は放っときゃいいのさ。
特に「〜じゃなきゃならない」とか言うような奴はな。
相も変わらずスルーが苦手なんだな、おまえらは
愛してるぜ
既に谷川スレの名物と化してるし、いいんじゃないの。
下手なSSより面白いし。なるほどと思わされることもたまーにあるし。
俺は嫌いじゃないぜ。
なんか嫌な事あったのだろうか…他人ながら心配だ
ん……他人ながら
……谷んながら
>>135お前、谷川流か!!?
>>149 結構おもしろいよな。自分のが酷評されてるときでもそう思う。場の雰囲気に便乗して一行レスされるのよりは
よっぽどまともだと思う。
自演臭くなってまいりました
日を跨ぐとどうも臭うね…別人だとしても臭いよね
日付の変わり際か
んなわけねーだろ。これだから場の空気だけで語るやつは始末におえん。実生活でも信用できん。
急に実生活とか何言い出してるんスカ?
カルシウム取った方がいいんじゃないスカ
山へおかえり
俺はこの全レス評価好きなんだが、なんでみんな怒ってんの?
酷評された人が逆ギレしてるとか?
俺、よくこの人に自分の投下したやつもぶった切られてるけど、むしろ爽快感あるぞw
>>158 下層社会における群集心理みたいなもんだ。書いてる中身は屑でも群れて喚くほうが目立つ。
162 :
名無しさん@ピンキー:2007/03/13(火) 00:59:45 ID:opRge0n0
>>160 たぶん自演乙はおもしろいとか一行レスなんかよりましって言ってた人に向けられてたんだと思うよ。
さげ忘れスマンです。
>>158 すれ違い様に「お前キモいな」って知らん奴に
言われたらムカつくだろ?
なんだ、ここの連中は批評と感想の区別もつかんのか
感想の感想は要らん。
俺は好きだがな。どんどんやりなさい。
みんな書く人
ぼく読む人
そんなスタンス。その代わり感想とか批判は何も書かない。
まだ粘着してるのか。まさにキモいな。
お前が言う(ry
>>171 お前も消えろ。
では、次の人、どうぞー
はーい
よほど自演扱いが気にくわなかったらしいw
まさにキモいな。
久々の批評(感想?)に対する批判の流れだな。
俺も
>>135みたいにまとめてレスする時期があったなぁなんて思うと共感が…得られないわ
なんだろう。この厨臭い流れは
そんな事よりハルヒのデレについて語ろうぜ
↓↓↓↓↓
『なあハルヒ、このDEREってなんだ?』
『はあ? なにいってんのよこのバカキョン! DEREっていったら『親愛なる』に決まってるでしょ!』
『……dear』
『おい長門っ……言うなっ……』
ピリリリリ
『すみません、急用が』
ハルヒにそんな凡ミスはしてほしくないもんだ
うん
最近気付いたことがあるんだ。いや、本当はずっと前からそうなのかも知れないが、あまりにも些細なことすぎて、いつからそうなのか正確なところはわからない。
俺がハルヒと一緒に階段を昇る時、必ずハルヒは俺の後ろを歩く。反対に下る時は、俺の前を歩くのだ。
偶然では無いと思う。
思いあたるフシは――ある。
俺は以前、階段から落ちて三日間昏睡状態に陥ったことがある。とは言っても、肝心の俺自身にその記憶は無いのだが。
……。
「ほぉら! 早く! キョン!」
とっとと階段を駆け降りたハルヒが、下で仁王立ちして待っている。
やれやれ。
そうだよな。後ろから倒れてきちゃあ、受け止められないもんな。
今行くよハルヒ。そう急かすなよ。
>>181 くっ、そういう理由か。ゴメン。
てっきりキョンにスカートの中を覗かれたくないからだと思ってしまった。
心当たりあるってキョンさん!? ってw
実はキョンの勘違いで、
本当は単にp@ん2をみられたくないデレな心理を書いたのかもしれない
深い!
>181
う。短いのに、妙にズシンときやがったぜ!
前スレが放置されている件について
わざとっかい?
容量限度だよ。
そりゃ失礼^-^;
まとめに張ってあるのが前スレだから埋めたほうがいいんじゃまいかと思ったんだ。
ちょっと隠れて泣いてくる。
よくあること。
ロスじゃ日常茶飯事だぜ
これ突っ込みいれるとこ?
どこに?なにを?
*にナニを
アッー!
●<呼びましたか?
お前ら……w
個人としては面白かったけど、社会的にはまずかったので、
>>194は宿題としてあま〜くてエロ〜いSSを書いてくること。
期限は3日
こんなこともあろうっかと!
きたこれ!期待
ものすごく関係ないんだが、ハルヒがキョン妹のキャラソン歌ったらおもしろそうだなww
>>201 一部だが
ワクワクしたいとお願いした神さまなら
かなえてくれるでしょぜったい
「誰が神だと思ってるんだ」
何もかもを引き込んだキョンくんと遊ぼう
「これ以上巻き込むなっ!」
まいにち会うけれど笑ってないよキョンくん
「誰のせいだ!」
おおきな夢&夢みせてよ?
「まだ暴れたりないと言うのかお前はっ!」
……倦怠ライフリターンズ?
誰か投下してくれー
新川「あなたのお尻に今投下いたしますぞ」
205 :
名無しさん@ピンキー:2007/03/14(水) 01:01:22 ID:VOei4g0/
アッーー!!
どこのとは言わないが某氏の作品の最後のおまけの謎がさっぱりだっ!
コメ欄なり拍手なりチラシの裏なりに書いてればいいのに
チェストー
胴体着陸で今テレビが盛り上がってるけど
以前に胴体着陸モノって投下されてなかったっけ?
長門スレかハルヒスレだったような気もするが・・・
飛行場が情報的に起伏が激しくなってて絶対死ぬはずなんだけどなんか出た
てのならあったな。
ホワイトデーねたでよろ
今日ホワイトデーか。
バレンタインに比べるとどうも存在感ないな。
『ホワイト・ダイ』
団室の長机には『キョン!』、『古泉くん』と二つのネームプレートが置かれていた。会議で使うようなアレだ。
俺と古泉の貢物を並べて、判決を下すための舞台装置って訳か。
つまらない物だったら死刑よ! と宣告されちまった俺としては、延命を図るべく無い知恵とおぼつかない全力を傾けるしかあるまい。
なにしろ判決を下したら最後、「殺そうと思ったら、その時には相手はもう死んでいる」状況を作り出しかねないのがハルヒだしな。
俺の夢は、穏やかな老後を日当たりの良い一軒家の縁側で茶をススリながら猫を撫でること、だ。隣に誰が居るかまでは解らんがね。
俺は手提げ鞄の中から小さな包みを三つ取り出した。 ラッピングも適当に、サランラップで外気から保護したベッコウ飴だ。
手抜きじゃないぞ? ちゃんと砂糖をオーブンで融かして、薄茶色のカラメルで一口サイズの円盤と、それに食紅を混ぜた物で
相手のイニシャルを立体的に描き込んだ逸品だ。爪楊枝で取っ手もバッチリ。
「あんた、死にたいの?」 「…………」 「ふえぇ?」
ああ、飽きれている。まあ冗談だ。多分怒るだろう思い立って今朝早起きして頑張ってみただけだ。そう逸るな。椅子を振り上げるな。
と、俺はもう一度鞄の中に手を突っ込んだ。取り出したのは小さな小箱。
「あんた、コレ……」 「……指輪」 「ふえぇ!」
箱の中身は、特製の磨き布に包まれた銀製の指輪。
そんな大した物じゃないけどな、一応手作りだ。手芸工房で一日体験教室があってな、主催者とお財布に無理を言ってなんとか
三つばかし形にしてみたのさ。幾何学模様……っぽい装飾と、イニシャルを刻んだだけだが、結構時間かかったんだぜ?
女の子の指のサイズには詳しくないんでね、一般的な見本にあわせてみたんだが、サイズが合わなくても勘弁してくれ。
(すごいっ!) (……すごい) 「すごいですぅ」
どうやら命拾いしたようだ。なんで甘いはずのイベントデーに、余生の全てが危機にさらされるのかね。いや彼女達の喜ぶ顔が見たくて、
主催者さんに苦笑いされながらも作り切った甲斐は、まぁあっただろう。
さて、今度は古泉の番か。鞄ではなく、懐からなにか取り出してるな。
古泉用の展示スペースに置かれたのは、メッセージカードと無骨なキーホルダーだった。おいおい、らしくないんじゃないのか?
「えぇ、どうも僕は彼と違って指先があまり器用でないようなので、手作りは諦めてこのようなモノを用意してみました」
メッセージカードにはそれぞれ『4つ星フレンチ・ディナーコース』、『7種類のカリー・バイキング』、『和懐石・初春の彩膳』。
それと、3桁の数字。なんだ? お得意のミステリー・サプライズか?
「ささやかな晩餐とその後は、ホワイトデーだけに『白く染め上げてやるぜっ!』と、いうことです。ふふふ」
……、ルームナンバーとルームキーな訳だ。律儀にカードに記された招待時間が少しずつズレているな。
(死ねぇ!) (……死ね) 「死ねぇですぅ」
声が漏れてますよ朝比奈さん。青筋を浮かべて目元をピクピクさせているハルヒに長門がなにかを耳打ちしている。
珍しい光景だな。そんなことを考えていると、ハルヒは謙譲品のネームプレートを手元が見えない速度ですり替えやがった。
「さすが古泉君ね。ウィットに富んだジャブで注目を集めてから小粋な指輪を差し出すなんてっ!」
おい。
「それに比べてキョンはダメね。感謝の気持ちをお金で解決するなんて。しかも恋と言う字はシタゴコロ、愛と言う字はナカゴコロ?
意味わかんないわ! 仕方ないから招待には応じてあげるけどねフン!!」
俺もわかんねぇよ! 今、なにが起こってるんだ?
「やぁ、涼宮さんのご機嫌を損ねてしまったようですね。ココは貴方に任せて僕は退散することにしましょう」
待て古泉。そっちは窓だ。高そうなホテルの詳細な地図を渡すな。虚ろな表情で身を乗り出すな。靴を揃えて脱ぐな。
何処に帰る気だ? 涅槃か? 集合無意識の海か?
「まぁ、古泉君も帰っちゃったし今日はこれで『一時』解散ね。だけどキョン? モグ」
なんだよ?
「……このイベントの伝達文書には希望を一つ叶えて貰えると記載されていた。 モグ」
そう、だったかな?
「逃げないでくださいね。うふふ。 モグ」
なぜだろう、花が咲くような満面の笑みなのに怖いですよ?
メッセージカードをキーホルダーを一つずつ手にした彼女達は、お行儀悪いことに各々口に含んで教室から出ていった。
俺が精魂込めて焼き上げたはずの、古泉が差し出したことになってしまった指輪まで、何故か三人の左手薬指にピッタリと
収まっていたのは何かの符号か、運命でも暗示しているのだろうか?
古泉の形見となった小さなMAPと部屋割り及びハッスル時刻表が記されたメモを眺めながら、明日には大英博物館に
空輸されているかもなと一人ごちた。俺のミイラが古代エジプト王の隣に配置されたら、それはそれで光栄ですがね……。
甘いはずのヌルいイベントが、こうも命をかけたモノになろうとはね。
三人娘の知られざるバイタリティーと、自分の体力的・精力的・精神的限界値を計りにかけ、絶望的な推察結果に俺は呟くしかなかった。
やれやれ、とね。
『White Die』 fin
>>212 その思考はお前と俺だけのようだ……あれ目から大粒のアクアマリンが……
>俺が「精液」込めて焼き上げたはずの、古泉が差し出した…
乙です。ちょっと涙でこう見えた
>>92 今更ながら質問。
>>72でコンピ研部長も一緒に卒業式ってなってるけど、コンピ研部長はみくるより一つ上じゃなかったっけ?
今、手元に原作ないからわかんないんだけど……
分裂ではまだ北高に在籍してるので留年したのでなければみくると同学年
d把握。
俺の探し方が悪いのかもしれんが朝倉涼子の暴走って続きないのか?
>>220 過去ログを見てみると、Part8で作品を投下した後に
「つづき投下は次スレになりそうな予感…」と書いてあった。
その後Part10で、以下のように書いてある。
「だめだ〜、SS書くモチベーションがあっても睡魔に勝てねぇ」
「もしチンコにぎって待ってるやついたらもう少しそのままでいてくれっ」
いや、織田裕二並だ
スレ違いって単語知ってる?
いちいち
一行レス
書くなよ
だからってわざわざ3行にしてんじゃねえ
よ
お前も中途半端に二行にしてんじゃねえよ
お前らバロスww
草生やしてる奴はVIPでヤレ
>>230 wwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwww
39章の喜緑江美里の校内放送ってSS保管庫に載ってないの?
あれ好きなんだけど
良く探せ
234 :
220:2007/03/14(水) 20:43:08 ID:SnG9SQpp
まだ続きはないんだな
なんでページ内検索をしないんだ。
知らないんじゃねえの? 上からぜんぶタイトル見て探してんだろきっと
あれは、収録されてないと思うが
題名が解ってる時は『Ctrl+Akt+Delete』を連打するか、『Ctrl+F』を押して
『題名』を打ち込むかコピペするんだっ!
31-ヤクザ
『Akt』なんてキーは無い! ワナだ!
あと、先に書かれてた。
ザ・スニーカーってどこに売ってるんだ。
書店いくつかまわったけど全然みつからん。
久々に来て30章あたりから一気に全部見ていくけど、おすすめとかある?
少年グラウンド(ryとか
>>242 42-459『校庭は、いつにもましてパーフェクト』
>>242 つ『新川ですが機関内の空気が最悪です』
>>243これ読んだとき俺どうしていいか分からんかったわww
邪神というのが存在するのなら、そのレベルだな。
構成、アイディア、シチュエーション全てが読み手を無視して
独自の世界を作ってる。
Website Explorerを使ってサイト内を検索している俺はきっと異端。
ワンハングドとのギャップがなんというかw
みんなパン工場パン工場言ってたけど、俺は平和維持活動の方がぶっ壊れてて印象に残ってる。
>>242 41スレの『古泉一樹のある種の罠』
騙されたと思って一度読んでみ。
254 :
sage:2007/03/15(木) 10:01:02 ID:zZbr1ayW
このスレで投下されたエロくないSS見たいんだが、
まとめとかある?
釣りだろ
お前らバロスww
誰かが言ってたけどロードスとかスレイヤーズ級には売れてないけど
二次創作はさかんだしメディア露出も多いんだよな。ハルヒは。
まあロードススレイヤーズの時代は今ほど同人活動が盛んじゃなかったってのと
あの辺のはオタク的要素が薄いってのもあるけどな。
王道ファンタジーとコメディファンタジー系と比べるのも意味がない話だが。
誰もまともな返答をしてねぇwwww
話も空気も読まずに悪いけど、冬に夏のエロなし書いたんだけど投下して
よかですか?
駄目って書いたらしないのか?
だいたい今は春だな。
>>261 流れと空気は読まなくていいが話ぐらいは読んどけ。
後は「やっちまえ」だ。
265 :
261:2007/03/15(木) 12:55:24 ID:Eib+lk2B
>>246 ありがとございます、暫くしたら書き上げますんで。
北海道在住の俺には今はまだ冬だぜ
267 :
名無しさん@ピンキー:2007/03/15(木) 15:26:09 ID:8EfYMHdA
>>234 下のほうにある朝倉涼子の暴走は続きじゃないっぽいね。
268 :
真夏の夜の夢:2007/03/15(木) 16:38:26 ID:Eib+lk2B
「○×村に行くわよ!」
目の前で溶けかかっている棒付きアイスの如く、脳髄まで溶けそうな蒸し暑い真夏のある日。
SOS団の部室内にて、涼宮ハルヒの大声が響き渡った。
例によって部室にいるのは、夏用メイド服のミニスカートから延びる太ももが目の保養になっ
ている未来から来た天使、朝比奈さん。
例によって「それは素晴しい考えです」と即答するイエスマンエスパー古泉。
例によってSOS団の寄生する文芸部の本来の部員にして、汎用人間型最終決戦兵器にし
てSOS団最強の情報参謀、もっとも今のところ読書人形と化している宇宙人、長門。
そして例によって夏休みが始まったばっかりだというのにSOS団の雑用係兼パシリとなって
いるキョンこと俺。
「……スマン、どこだって?」
この女、涼宮ハルヒは俺が炎天下の中、汗だくになって学校の近くにあるコンビに買いに行っ
たアイスを一気に食べ、団長席から立ち上がってそう言ったのだ。
「人の言ったことは一回で覚えなさいキョン。○×村に行くのよ」
だからなんでそんな村に行かにゃならんのだ?だいたい旅行なら数日前の無人島ミステリー
ツアーから帰ってきたばっかりだろーが。
「昨日のテレビ見てないの?ホラー特集しててね、最初はボヤーっとしか見てなかったんだけど、
その○×村に幽霊が出るとか異世界に繋がってるんじゃないかって
269 :
真夏の夜の夢:2007/03/15(木) 16:39:14 ID:Eib+lk2B
そこまでいった時点で俺はハルヒを説得に掛かった。
「あのなハルヒ、それはテレビがやっているただの視聴率稼ぎの出任せだ。だいたいそのテレ
ビだって二時間ぐらい引っ張るだけ引っ張っといて、最後は何も見つからなかったってのがオチ
だろ」
だいたいテレビの言うことを真に受ける年はもう過ぎてるだろ。
「そういうわけだから、明日の朝6時いつもの駅前に集合ね」
オイーッ!人の話聞いてねーよ。というか、おまえだったら昨日のうちに行くって言いそうなも
んだけどな。
「下調べは必要でしょ、ホントは昨日のうちに調べときたかったんだけど、パソコン壊れててそ
れで今さっき調べたのよ」
ちなみに…どこ情報だ?
「インターネットの掲示板、書き込んで待ってたらいかにもって情報があったから」
胡散臭さ100%じゃねーか!
「大丈夫よ、あたしのカンに狂いはないわ。そーゆうわけで、今日は解散。以上!」
「あ、あのうあたし幽霊とかは、苦手なんですけどぅ…」
はやくも涙目になりながら抗議の意を表す朝比奈さんにもハルヒは容赦ない。
「だーめ、みんなで行くのよ」
「お前の差し金か?」
半眼でえぐり込むよーな視線で俺は横に並んで歩くエセスマイルを睨み付ける。こいつの所属す
る機関がどのくらいの規模かは分からないが、要はハルヒの退屈しのぎを容易するためにあるよう
なものだ。テレビ番組をハルヒ好みに味付けするぐらいはしかねん。
「いいえ、今回は僕も機関も完全にノータッチですよ」
ならハルヒをどうにか説得しろ、みろ朝比奈さんだってマジに嫌がってんだろ。
「僕が彼女の言うことにノーと言うとでも?」
この役立たず!
で、俺と古泉の前には歩きながら本を読む小柄な宇宙人、長門がいる。どうでもいいが歩きなが
ら本読むと危ないぞ、太陽光で本読むのも目に悪いらしいぞ。
「……平気」
…まあ確かにおまえだったらどんなことも宇宙人パワーで何とでもしそうだしな。で、ものは相談
だが、ハルヒを思いとどませるってことは…。
否定の仕草。
やっぱそーだよねー(涙)。
ちなみに今長戸が読んでいるのはホラーものだ。他にも何年か前に話題になった、陰陽師映画
の原作小説だったりをハルヒが借りてきたものだった。何かあったときのために長門に淨霊の仕方
を教えておこうというハルヒの作戦?だそうだ。
「じゃあ僕は明日のことで涼宮さんとうち合わせがありますので」
270 :
真夏の夜の夢:2007/03/15(木) 16:39:49 ID:Eib+lk2B
翌日、さわぐ妹の目を盗んだり、行きの電車のなかで、朝食にハルヒと朝比奈さんの作った弁当
を食べたりで何やかんやの内に、俺たちは目的の廃村に付くこととなった。
四方を奥深い山に囲まれたこの村に来るのに、古泉の用意した車を降りて山道を歩くこと数時間。
さらに、俺と小泉とで、慣れない手つきでテントを組み上げるのに2時間ほどかかり、日も暮れ始め
ている。
その間にハルヒと朝比奈さんは廃屋のひとつでキャンプ料理の定番カレーを作り、長門はテントを
張るスペースを作るために草むしりをした。
今はその大なべに入ったカレーを食べている。
「で、ハルヒ一体なんでこの村を選んだんだ?不思議があるからか?」
カレーを飲み込み、ハルヒに聞く。既に夕日も沈みかかり、俺たちを照らすのは携帯用ライトだけだ。
「確か死者があの世からこの世の住人を連れ去りに来るとか、あの世とこの世とつながってるとか」
それ、唯の都市伝説だろ。
「そう、でも本当はどこか違う世界に迷い込んだとか、違う時代に行ったとか」
はいはい、もうそういうことなら心配ないな。今俺の隣で震えている朝比奈さんなら、たとえ1000年
前に連れて行かれよーが、現在に帰ることが出来る。異世界に連れて行かれたとしても、長門と古
泉がいる。
つまり、何ら心配することは無いということだ。
…ん?
「雨?」
「今日晴れじゃなかったの?」
「…山は天気が崩れやすい、特に……」
分かった、もう良いから長門、解説はいいから雨宿りしような。
「…分かった」
荷物を大急ぎで廃屋に非難させると雨は本格的に降り出した。
「唯の、通り雨だろ?」
何の気なしに、土間に座っている長門に聞く、薄暗くて分かりにくいが肯定する。
「本読むのに明かりが無いと目に悪いぞ」
持っていたライトをつけて長門に渡す。
「…ありがとう」
気にすんな。こんなこと大したことじゃない。するとハルヒが怒鳴りつけてきた。
「コラァ!キョン!なに有希にセクハラしてんの!」
「してねぇよ、ライト置いただけ…」
唐突に、木がきしむ音、荷物を置いたときにも結構な音がしたがこれほど大きくは無かった。俺で
も危険だと分かるくらいの。
家の柱が音と共にへし折れ、天井やら針が長門の上に降ってきた。
後は無我夢中だった、俺は長門を押し倒し、身を盾にして長門を守った。すると何時の間にか俺は
意識を失っていた。
271 :
真夏の夜の夢:2007/03/15(木) 16:40:51 ID:Eib+lk2B
……ここは…どこ?
周りには、崩壊した材木が散乱している。
反応が遅れた。…無様としか言い表せない。まして本来守ると言った彼に守ってもらうのは…少し
嬉しいが、危険なことはしてほしくない。
…彼は……彼らはどこ?月明かりだろうか、光学ではそう遠くは見れないものの、明かりはある。
周りには壊れた材木の残骸が散らばっているだけで、あたしの体の上には何も置かれてはいない。
現状を把握するために周囲を検索…出来ない。瞬間的にパニックに成りかけたが、落ち着いてもう
一度検索しなおすが失敗に終わり、情報総合思念体との交信も同じことだった。
こんなことは、今までに経験が無い。……これが…『孤独』、そして孤独からくる『恐怖』。
誰かにいてほしい、ここまで強烈に渇望したのは初めてだった。
誰か…誰か近くにいて。
目が練れてきたのか、あたりの様子が把握できるようになった。ここは今日来た廃村だ。周りの
家などの建築物の形や配置は一致している。…あれは…人?
建物の影に人間ほどの大きさの動く何かを見て、あたしは立ち上がった。
歩み寄ったその場所に人はいなかった。見間違いだろうか?どうやら感覚の性能が人間並みにな
ってしまったようだ。
辺りを見回す、すると幻だろうか、村の外れに一瞬人影が見えた気がする。そこは森へと続く道だ。
さっきから、あたしの体を1つの感情が支配している。『恐怖』だ。
怖い、出来れば行きたくない。でも、1人は…1人きりはもういやだ。
272 :
真夏の夜の夢:2007/03/15(木) 16:41:37 ID:Eib+lk2B
森に入ってから、暫くは歩いた。時々は人の影を目にすることが出来る。そして彼らは同様の方向
へと進んでいる。そうしたら見失うことはない。けれど、彼らの姿はまったく見つけられない。
焦りと苛立ちがあたしから体力を奪う。既に息が上がり始めている。どうやら身体機能まで人間並
みになってしまったようだ。
目を凝らして、前を見る、会いたい、彼らに会いたい、彼に会いたい。今のあたしには何もできない
けれど、彼に会いたい。
見つけた。
彼がいた。
あの服は彼が今日着てきた服だ。あたしは一気に彼に駆け寄った。しかしすんでの所で彼を見失
ってしまった。いや、消えてしまった。
…いったい、どこに…?
彼を探す。すると少し放れたところに北高の制服をきたロングヘアーの少女が歩いていく。
その顔を見たときあたしは凍りついた。
朝倉涼子だ。
彼女はあたしが情報解除したはずだ。消えてしまったはずだ。…まさかコレは急進派の…?
そう頭をよぎったが、朝倉涼子の顔を見てあたしはその可能性を打ち消した。
その顔が生気を失った死人に見えたからだ。
その瞬間、あたしは涼宮ハルヒの言葉を思い出した。
『あの世とこの世とつながっている』
まさか、そんな。しかし、不安に負けたあたしは理屈を押しのけて彼を探し出した。そんなことない、
そんなことは…絶対にない。
暫く歩くと石だらけの川原にあたしは出た。
その向こうには、海のように広く暗い川が流れている。その上をいくつもの人影が川の上を歩いて
いる。昨日涼宮から借りた本で読んだことに近いことが、あたしの目の前で起こっている。
まさか、彼がここに!?
…いた。少し離れたところから、ちょうど川を渡り始めたところだ。
逝かないで…。
その一心であたしは彼に駆け寄った。だがあたしだけが川の上を歩けずにいる。それでもいい、彼
に会いたい。
必死で重たい水を書き分け彼に近づく。既に水はあたしのみぞおちの辺りまで来ている。
「まって…まって!」
必死で叫んだ。彼に聞こえるように、彼を逝かせないために。
「な…が…と…?」
声にならなかったが、確かに彼の口はそう言った。
「逝かないで…おねが」
そう言おうとしたあたしを、何かがあたしを彼から引き離す。見ると彼のほうに、何人かの黒い影が
彼を引きずっていこうとしている。
「止めて!」
必死であたしは抵抗するがあたしの体には、まるで力が入らない。
お願い、彼を連れて行かないで…。お願い、止めて。
273 :
真夏の夜の夢:2007/03/15(木) 16:42:23 ID:Eib+lk2B
痛む後頭部をさすりつつ、ベランダに出る。
あの後…といっても俺は覚えていないが、古泉のやつが機関に連絡を取って俺と長門を助けに来
てくれたらしい。で、今はあの廃村近くにある『古泉の親戚の伯父さん』とやらの家にいる。俺が目を
覚ましたのは明け方ごろで、既に時計も8時近くを指している。
幸いにも、古泉、ハルヒ、朝比奈さんに怪我は無く、長門と俺も打撲程度で大したこととは無いとの
ことだ。
しかし、長門が俺よりも長く寝込むとは…体の調子が悪いのかな?
「有希が起きたよー」
怪我人にもお構いなしのハルヒの声が家どころか外にまで響き渡る。いくら田舎だからって近所の
こと考えろ。
目を覚ますとベットの横に、朝比奈みくるが寄りかかるように眠っている。
目の辺りに違和感がある、何故か濡れている。涙を流したのだろうか。
唐突に夢を思い出し、起き上がって確認する。周りに彼がいないことに不安を覚える。するとドアが
開いて涼宮ハルヒが入ってきた。するといきなり、
「有希が起きたよー」
と廊下大声をに向かって大声を出した。
「有希大丈夫?痛むとこない?ホント、キョンのやつ有希に何てこと…」
「彼は…?」
「何が?」
「彼はへい」
ベランダ側のガラス戸が開き、彼が入ってきた。
274 :
真夏の夜の夢:2007/03/15(木) 16:43:21 ID:Eib+lk2B
「長門…大丈夫か?」
非常事態とはいえ押し倒した女の子の前に出るのには、大分勇気がいる。
だが、その長門が俺の顔を見るなり俺の胸元に飛び込み、泣き出したことには、俺も度肝を抜かれた。
「ちょ…有希…。キョン!あんた何有希泣かしてるの!」
さすがに、俺にもどう答えていいか分からない。
「知らねーよそんなもん!なあ長門、お前どうして…」
「…かった、…あなたが、無事で…本当に……良かった」
「てことは、あれか、俺がおまえをかばったからおまえは泣いてんのか?」
俺の胸板に顔を擦り付けながら、長門は肯定する。
「あーもう、しょうがないわね」
それを見ていたハルヒもさすがに折れた。
「でも、今回だけよ、キョンに甘えるのは。…何されるかわかんないんだからね
俺は理性無きケダモノか?まあいい、それにこの様子じゃあ、何かしら怖い夢でも見たんだろ。そん
な時はどうするかぐらい知ってる。
「安心しろ長門、もう大丈夫だから。な?」
そう言いながら、俺はこの小柄な宇宙性アンドロイドを抱きしめる。こいつも最初に出会ったころに比
べてずいぶんと、俺にわかるぐらいだが感情を表している。こういう時は、こうして抱きしめてやるのが
一番よくきく。だから安心しろ長門俺はここにいる。だからもう平気だ。
予断だが、その光景を見ていたハルヒの視線から暗黒面のフォースを感じ取ったのは…俺の気の
せいにして下さい。
275 :
261:2007/03/15(木) 16:48:42 ID:Eib+lk2B
どーも261です。
元ネタはカメラで幽霊と戦うゲームをしていて思いつきました。
あ、「終」て入れるの忘れた。
終
長門の一人称はわたし
一人称あたしだと何かハルヒが語ってるみたいで激しく違和感があるんだぜ
憂鬱の最後に「あたし」って言ってたのは単なる誤植なのか?
みたい。そういやみくるってあたしとわたし両方ないっけ?
>>275 とりあえず小泉と長戸はないかな…
でもなんか人間の感情を覚え始める長門の感じが良かった。
そしてやっぱり空気なみくるw
プロローグってみんなやっぱりそこそこ力を入れて書くのかな?
ここのSSは大概プロローグがいいから物語への入りがいいよね。
最初だけちょっとやりすぎなくらいがいいのかもしれんね。
『小泉』誤字の指摘はもうどうでもよくなってきたな。
>>279ハルヒものはプロローグが物を言うよな。
282 :
261:2007/03/15(木) 19:27:13 ID:Eib+lk2B
>>276 教えてくれてありがとーございます。
…今からあたしをわたしに変えることできませんな。
次に気をつければよろし
う〜ん……。こういうのは、SSを書く時にまず最初にやらないのかな。
縦横で表を作って各キャラの呼び方位は書いておこうよ。
そして、そのキャラの語尾を各キャラ毎にまとめておく。
これだけでもずっと楽にSSは書けるし、基本的な間違いも少なくなるよ。
SS書き終えて推敲する時にテキストエディタの「置換」機能使って
・小泉>古泉
・長戸>長門
・黄緑>喜緑
・新人>神人
等々、誤字してそうな言葉を変換してしまうのがお勧め。
「さて俺達も上級生に進級し…何と既に飽和状態かと思われていたSOS団に、即戦力な神人が入団した!」
287 :
名無しさん@ピンキー:2007/03/15(木) 20:49:59 ID:sAqEVQv0
予断て…。SS自体はなかなか良いと思ったが、ちょいと誤字が多いね。
そだね
針が降ってくるのは梁が降ってくるより場合によっちゃ危険だ
わたしとあたしは、特にすごく気にする必要はないと思うけど、人物の名前は気をつけないとな。
坂中とか。
「つちへん」か「こざとへん」の違いしかないけどな
キョンの最初の独白の部分で
キャラ(キョン)が壊れてる気がしました。
私の印象ですけど・・・
ハルヒが団員割引で家庭教師するって話のタイトルって何だっけ?
いっぱいある
オチが「恋人割引にします!」ってヤツ
24-730
キャラスレでも似たような話があったなw
ところで
「投下していいですか?」
「いいですよ」
は形式っていうか礼儀みたいなもんじゃね?
あんまおちょくるのはどうかと思うぜ。
重複防止のためにワンクッション目的で「これから投下します」って1レスしておくのはあるけど、
投下自体の不可を伺う必要まではないようにも思える。
投下いいですか?とかはいいけど、駄作ですけど……とか自分で書くやつのは絶対見ない
だったら載せるなと
そうね、「俺昨日あんまし勉強してないんだけど」ってブツクサ言いながらテスト受ける奴みたいで何だか不愉快だわ☆
そうかもしれんし一生懸命書いたものを自分で駄作などと書くのは惜しい気もするが、
すくなくともそれを理由に読み飛ばすことはしないな。
貴様らに選択権は無い。それでは投下させてもらおうか! 三拝した後に正座での閲覧を許可しよう!
今世紀最大にしてすでに最後を飾るに相応しい一大スペクタクルに打ち震えるがよいっっ!!
ひれふせっっぅっぅぇっ!!!!!
とか自信に満ちて発表したいものですね。
あ…は、はいっ!
鋭意努力するであります!
刮目して待てっ!!
構想十分、作成期間1ヶ月の超大作に、今から取りかかるところだ
…つまり、今考えたのを一ヵ月後にうpすると?w
「じゅうぶん」なのか「じゅっぷん」なのかどっちw
言語の不完全性であるな茉衣子くん。
いや、この場合普通に10min.だろ
ちょっと待て!俺も入るのか!?
それにしても、ハルヒならテストは自信満々で受けそうだし、キョンはギリギリまで参考書噛り付いて粘ってそうだし
谷口辺りは開き直るのかな?ハルヒに出てくる連中で
>>300みたいな事を言いそうな奴が居ねぇ!
「僕今回はあんまり勉強してないから自信ないな」とか言いつつ
上位に名を連ねる国木田
「ミヨちゃーん、さっきの国語のテストどーだった?」
「あんまり自信ないかも……昨日ほとんどお勉強しなかったから」
「そーなんだぁ。わたしもキョンくんと遊んじゃってた。テヘッ」
>>307を読んで思ったのだが。
「10分」を「十分」と漢数字で書きたくて、かつ文脈から「充分」との区別が付かない
文章を書いてしまい、仕方なく括弧書きで読み仮名を振る場合
正式な「じっぷん」と口頭語では一般的な「じゅっぷん」どちらを使うといいんだろう。
「そーなんだぁ。わたしもキョンくんで遊んじゃってた。テヘッ」
>>316 「じゅっぷん」って書くと馬鹿にされるから「じっぷん」でいいよ。
「じゅっぷん」は一般に使われてるから100%間違いとは言えないけど、
「じっぷん」は100%正しいから悩む必要無し。
まあ「構想は充分」とか「構想は十分間」とか分かりやすい文章にするのが良いんじゃなかろうか。
俺は「じゅうぶん」はひらがなで書くなあ。
「十分」は、前後の文脈で時間を指すとわかるようにするよ。
例:
「遅い! 罰金!」
「おい、待ち合わせの時間には間に合ってるだろ」
「団長を待たせたんだから、じゅうぶん遅刻よ!」
「遅い! 罰金」
「悪い。財布が見付からなくてな。今何分だ?」
「十分も遅刻よ! 時計くらい見なさい!」
ってな具合で。
ところで、「五分五分か、それで十分だ」
っていうネタがあったと思うんだが、なんだったかなあ。
何か正しいにひょんご講座状態にw
キョンがこの先生きのこるには(ry
君が「じゅっぷん」なんて書いたからだろw
キョンとチョンは、よく似てる
語感だけな
久しぶりに来たんだが何この流
谷川 流
脊椎反射で書き込もうとしてギリギリで踏みとどまったネタを……
流れをぶった切って悪いが、ハルヒと朝比奈さんを足して二で割ったような題名の作品って何だっけ?
ハル比奈さん
朝宮
キョンが教科書忘れて隣の子に見せてもらう情景を
ハルヒが嫉妬してたのって何でしたっけ?
それはVIPだ
流れを読まずに投下します
皆にちょっとした豆知識を披露しよう。
我が校の放送室は2つのブースに分けられている。
ひとつは機械操作ブース。ここには校内放送において使用する機材のほぼすべてが収められている。
当然のごとく放送素材である音楽テープやCD、ビデオテープなどもこちらに保管されており、実際の機械操作をおこなって校内に音声を届ける役割を果たしているのは、この操作ブースだ。
また、機械に直結したマイクが1本あり、簡単な伝達事項程度であれば、それで事足りるようにもなっている。
もうひとつは収録ブース。およそ6畳ほどのスペースを防音壁で覆った空間で、おもに録音、録画に使用される。
昼休みにおこなわれる喜緑さんの校内放送もこちらのブースを使って録音されているわけだ。
基本的には集音マイク数本とビデオカメラが置かれているだけの収録ブースではあるのだが、校内放送収録時にはテーブルとパイプ椅子が持ち込まれている。
「こんにちは、生徒会書記、喜緑江美里です」
収録がスタートする。
司会である喜緑さんの前、折りたたみが可能な長机の上には、マイク、今回の収録に必要な資料各種、さらにはのどの調子を整えるためだと思われる飲み物入りの水筒がそれぞれ手の届く位置に置かれている。
おそらくはこれが毎回の収録風景なのであろう。
「この放送も回数を重ね、そろそろみなさんのお昼を彩るBGMとしてそれなりに定着してきたのではないでしょうか」
さて、何故俺がこんなに放送室内部の様子について詳細な説明が出来るのかというと、それは簡単な話で、俺が今現在放送室内部にいるからに他ならない。
なんだって俺が収録中の放送室になんているんだ、って思うだろ?
実は俺もそう思ってる。
「今回もまた、皆さんの耳を10分ほどお借りしまして、わたしの声を届けてまいりたいと思います」
喜緑さんとは机を挟んだ向かい側、彼女の正面に座っている人物こそが、今回のゲストということになる。
普通に考えて、そのはずである。
「あのー、喜緑さん」
「あらあら、まだオープニングトークの真っ最中ですのに…
ちょっと発言には早いですよ」
コスモスが微強風に煽られたような印象にも似た非難めいた微笑み顔を見せる喜緑さんの姿に、若干の罪悪感が俺の中に芽生える。
それでも、悪いとは思いつつ、俺はどうしても確かめなければならない事項について確認の声をあげる。
「ああ、いや、それは申し訳ないんですが……なぜ俺はここに座ってるんでしょうか?」
そう。まさにその、ゲストが座るべき椅子の上。
喜緑さんの校内放送の第5回目が流れる昼休みのひととき、なぜか俺は喜緑さんの対面に腰をおろしていた。
「あら、それはもちろんゲストとしてお呼びしたからですよ」
「へ?」
その一言はまさに俺にとって青天の霹靂と呼ぶにふさわしい爆弾発言だった。
俺はここに到るまでの一連の出来事を回想しようと、こめかみに右手親指の関節を押し付け頭に刺激を送る。
脳の役割分担で言うと記憶の保管庫にあたる側頭連合野を活性化しようという意図によるところの行動なんだが、よく考えたら俺はそれが頭のどこにある部位なのか知らないんだ。
こめかみを押さえることが効果的なのか不安がないでもないが、まあ少なくとも頭蓋骨の中には納まってるだろうし、たいした問題でもあるまい。
まさか右心室あたりに引越ししてるはずもないだろうしな。
確か昼休み開始直後にトイレに行って用を足し、さて、教室に戻って弁当を食おうと考えながら廊下に出ると、なぜか目の前に、ルソーとマイクがじゃれあってるのを眺めているような微笑顔の上級生、喜緑さんが立っていたんだっけ。
いやぁ、ビビった、ビビった。トイレから出てくるところを待ち構えられるなんてのは、本当に心臓がゴールデンウィークに突入しそうなほど驚くな。
しかも相手は知り合いかつ美人の女性ときているから、恥ずかしさのレベルはそれこそ勇者ひとりでゾーマを倒せるほどの最高ランクぶりだ。
まばたき3回分ほどの時間、硬直してしまったとしても、誰も俺のことを責めることなどできないだろう。
そんな、銅像のパントマイムでもしているような俺に対して喜緑さんは
「ちょっとお話があるんですが、お時間よろしいでしょうか?」
と、あくまでもそのなごやかな表情を崩すことなく告げたんだった。
ドライアイスの上に乗っけられて停止していた蟻がそこから降ろされた途端に動き出すみたいな感じで活動を再開した俺は、特に断る理由もないので「いいですよ」と、軽い気持ちで答えたんだ。
そのあとは「どうぞ、こちらへ」と言う喜緑さんのあとに続いて放送室前まで歩き、たいした疑問も抱かず中に入り、「どうぞおかけください」と言って勧められた椅子に腰をかけた。
そして俺の向かいに腰をおろした喜緑さんが開口一番言ったのが
「こんにちは、生徒会書記、喜緑江美里です」
だったというわけだ。
以上、回想終わり。
「あのー、ひととおり記憶の海をトローリングしてきたんですけど、ゲストのゲの字も引っ掛かりませんでしたよ?」
強引な手段はこの際置いておくとして、せめて弁解の言葉のひとつも聞きたいところだ。
「まあ…それはそれは…
………
では最初の質問はこちら」
「いや! 人の話、聞いてくださいよ!」
あっさりと俺の発言をしようとする喜緑さんに対し、俺は槍の又左もかくやという言葉のチャージを全力で敢行した。
まったく、この人といい、ハルヒといい、どうして俺の周りにはこうも人の話をスルーする技術に長けた人材が揃ってんだ。
もし、俺のカルマがこういった人間を招き寄せているのだとしたら、俺の前世はよっぽど人の話を聞かないやつだったに違いない。
因果応報を来世にまで持ち込まないでもらいたいね。
「ゲストだからといって特別に構える必要はありませんよ。本当に、ちょっとわたしとお話していただければいいんですから」
「そうは言ってもあきらかに俺じゃ役者が不足してるでしょう」
俺は『役不足』という間違った用法で余計なつっこみを受けないよう細心の注意を払って言葉を選びつつ、喜緑さんに反論を試みた。
「なにか誤解されているようですが、この放送は別に有名な方をお呼びするものではありませんよ。
北高関係者であれば、分け隔てなくお話を伺っていきたいと思ってます。
もし出来るのであれば、関係者全員をゲストとしてお迎えしたいですね」
と、このタイミングでニコリとひと笑い。世の男性の80%は陥落できそうなエンジェルスマイルだ。
俺もこの人に対してある程度の免疫がなければ、ヤバかったね。
ところで週2回の放送じゃ、どう頑張っても関係者全員を扱うより喜緑さんの卒業の方が先だ。
「ところでこの放送も4回目を迎えるにあたり、画期的な新兵器が投入されることになりました」
俺のゲスト問題は一旦脇に追いやり、喜緑さんはトークを見切り発車させてしまった。
いいさ…今さら別の人間を捕まえてくるのも手間だろうし、10分程度ここでお茶を濁すぐらい、わけないさ。
しかし、この喜緑さんの4回目発言、これはつっこんでもいいんだろうか? 無駄かもしれんが一応触れておくか。フリっぽいし…
「喜緑さん、5回目ですよね、この放送」
「いえ、4回目ですよ」
心の底から不思議そうな顔をする喜緑さん。いささかも演技しているように見えないから始末に終えない。
「あの、本当に今回を4回目として、この先押し切るつもりですか?」
「押し切るもなにも正真正銘今回が4回目ですよ」
「ほら、前回の生徒会長の回、あれが4回目だったじゃないですか?」
「いいえ、前回は第3回でしたよ。涼宮さん、長門さんとお呼びして、3回目が生徒会長です」
「いやいや、長門と生徒会長の間に1回挟んだじゃないですか。朝倉と国際電話で喋ったやつ」
「朝倉涼子さんって誰です? 残念ながら、わたしも全校生徒を全員把握しているわけではないものですから」
「フルネーム、言えてるじゃないですか! 前々回、喜緑さんに振られたことをカミングアウト」
金属が細かく震えるようなビィンという音とともに、俺の目の前の机にはどこか見覚えのあるナイフが突き立っていた。
「OK、分かりました。今回は第4回です。完全に俺の勘違いでした」
「ご理解いただけてわたしも嬉しいです」
と、このタイミングでニコリとひと笑い。世の男性の80%は陥落できそうなエンジェルスマイルだ。
俺も人間を2回は殺害できそうなゴツいナイフが目の前に突っ立ってなかったら、ヤバかったね。
脅しで済んでるうちに、そういうことで納得しとこう。
俺の記憶がいじくられていないのは、長門がブロックしてくれてるからなんだろうが、これ以上長門の負担を重くするようなことはせん方がいいだろう。
「で、えっと、新兵器でしたっけ? もしかしてこのナイフがそうなんですか?」
「あらあら、ナイフなんて怖いものがどこにあるんです?」
目を向けたら既にナイフの影も形もなかった。机に穴も開いてねぇし。
ああ、そうですとも。今回が第5回なのも、机をナイフが貫通してたのも、みんな俺の勘違いですよ…
なんだか宇宙人と穏便に付き合っていくコツが理解できてきた気がするぞ。いい加減悟るのが遅すぎるという意見もあるだろうが…
「新兵器とはこちらです」
と言って喜緑さんが机の上に置いたのは、なにやら小さな機械が3つ。
形状はコンビニで売ってる一口羊羹みたいなかんじで、表面に液晶画面といくつかのボタン、スピーカーらしき無数の穴が開いている。
さらにプラグにはピンマイクが刺さっていた。
「これは一体なんなんです?」
そのうちのひとつをちょっと手にとってみた。チャチな外見に似合わぬズシリとした手ごたえ。なにやら無数のハイテクメカニックが詰まっていそうで、オトコノコ心を刺激してくれる一品だ。
「ICレコーダーです。放送部の備品なんですけど、特別にお借りしてきました」
ICレコーダーね。固有名詞に聞き覚えはなかったが、そういえばニュースで政治家に突撃するレポーターが、こんなのを突きつけながら質問してるのを見たことがあるような気がするな。
要するに高性能なテープレコーダーみたいなもんか。
「で、これをどうしようっていうんです?」
自分の手の中にあったそれを喜緑さんに返却しつつ、俺は素朴な疑問をぶつけてみた。
この放送の録音自体は隣のブースでおこなわれているわけで、なにもこんな手の平サイズのお手軽機器に頼ることはないんだしな。
そんな俺の疑問に対する喜緑さんの回答がこちら。
「こちらの3つのICレコーダーには、あらかじめ効果音が録音されています。
この放送の節々で適時使用していけば、放送も華やかなものになるのではないでしょうか」
つまりは演出のための小道具にするということらしい。
俺は前回の放送を聞いた際、観客の笑い声的サウンドエフェクトがあればいいな、などと考えたりもしたが、どうやら喜緑さんも独自に似たようなことを発想していたらしい。
うん、普通にいい考えなんじゃないのか。少なくとも団長の暇つぶしのために殺人事件の芝居をしたり、演技の幅を広げるために可憐な上級生に酒を飲ませるより、よっぽど健全なグッドアイディアだ。
「一通り、聞いてみましょうか」
そう言いながら喜緑さんは俺から受け取ったICレコーダーの再生ボタンに手をかける。
ピッ
ズガーン
ボタンを押してから一拍遅れて、シューティングゲームの自機が撃墜されたようなチープな爆発音が発せられた。
あと、それとは別に俺の脳内でさっきまで喜緑さんのために構築していた賞賛の言葉が崩れる音も聴こえた気もする。
これって校内放送で使用する効果音のはずだよな?
校内放送においてこんな音が鳴らなければならないシチュエーションというのはいかなるものなのか、マジでまったくわからない。
スピーカーの前のよいこのみんなもわからないだろうし、もしかしたら喜緑さん本人もわかっていないのかもしれん。
超監督によるハチャメチャ映画撮影のような無軌道ぶりを聴衆に晒さないためにも、ここはひとつ確認しておくべきだろう。
「えっと…この効果音を一体どんな状況で使うつもりですか?」
「なにかつっこみを入れられた際に、そのショックを表現する手段として使えそうじゃありませんか?」
………
なんで、つっこみ、つっこまれることを前提として効果音を用意してるんだ? この人は…
効果音っていえば他にもいろいろとあるでしょうが。
歓声とか拍手とか、あと小鳥のさえずりとかもいいかもしれん。
とにかく爆発音よりもまともなやつはいくらでもある。だというのに、なんだってよりにもよってこんな原始的破壊衝動充足型効果音を採択しちまったんだ…
「あら、呆れてますね? でも、備えあれば憂いなしと言いますし、いつこの音が必要となるかわかりませんよ」
「仮に必要になる瞬間が訪れても、ボタンを押してからタイムラグがあるんじゃ、結局使えないんじゃないですか?」
俺の発言が生徒会書記さんの耳に届いた瞬間、放送室内部から一切の空気の振動が消滅した、ような気がした。
………
ピッ
ズガーン
「それは盲点でした」
いや、そんな無理して使わんでも…
「じゃあ、こちらなんてどうでしょう?」
後悔の念など微塵も感じさせないおだやかなスマイルを顔面に貼り付けたままの喜緑さんは、おもむろに2つ目のICレコーダーに手を伸ばし、これまた再生ボタンを人差し指で押し込んだ。
親指を使えば片手で操作できるだろうに、あえて左手で機械を支えつつ右手で操作をおこなうのは、上品な仕草を徹底している自分へのキャラクター付けゆえのことなんだろうか。
ピッ
ポコッ
今度のは軽い打撃音っぽいSEだ。これもまた、やっぱり俺には用途がよくわからない。
「この音さえあれば、動作なしにもかかわらず、つっこみをいれているように聴こえませんか?」
だから…なんだってそうすべてが漫才仕様になってるんです?
「お気に召しませんか?」
「いや、なんて言ったらいいんでしょうね。もうちょっとこう…一般的なものの方が使いやすいと思うんですがね」
「一般的ですか……」
そうつぶやいた喜緑さん、なにやらICレコーダーをいろいろと操作。
両手を使ってICレコーダーと格闘するその様子は、まるで機械に慣れないお婆ちゃんが孫からプレゼントされた携帯電話を四苦八苦しながらも利用しようとしているみたいに見えて、ちょっと可愛らしかった。
などと、俺がシャミセンとシャミツーが互いのバックをとろうとグルグル回っているのを眺めるような癒され空気を感じているとだ
「ちょっと『なんでやねん』って仰っていただけます」
と、喜緑さんは俺にピンマイクをつきつけながら意味不明な要請をしてきたじゃないか。
「なんでやねん?」
それは単なる鸚鵡返しにすぎなかったんだが、喜緑さん的にはそれでOKだったらしい。
ノーマルな微笑みの中にもひとつまみ程度の満足を滲ませながら、こう仰った。
「はい、ありがとうございます。無事録音できました。
これで、このレコーダーには一般的なつっこみである『なんでやねん』という音声が収録されていることになりました」
「一般的って、そういう意味じゃないですよっ!」
ピッ
なんでやねん
「はい。とってもいい感じの仕上がりです」
いや、その行動自体が、なんでやねん、ですよ…
さらに3つ目。
ピッ
パパパ、パパパ、パパパパパパパパァーン
「ファンファーレです。これは結構応用がきくと思うんですが」
まあ、これぐらいなら、なにか使い道もありそうだが…
めでたいニュースの発表や、とにかく嬉しいことが発生したときに鳴らせばいいわけだしな。
例えば……そうだな……
なんだろう?
「具体的にはどんなときに使うつもりなんですか?」
「そうですね…
たとえばあなたがここで突然レベルアップした時、この効果音が鳴り響けば気分が盛り上がると思いません?」
あの、俺はデジタルな存在に生まれ変わるつもりはないので、今後の人生において効果音を伴ったレベルアップをする予定はありませんが…
多分に呆れを含ませた俺の視線にも怯むことなく、まあ俺ごとき一般人にこの人が怯む理由もないんだが、喜緑さんはにこやかに返答した。
「でも、人生なにが起きるかわかりませんし、備えておくのにこしたことはないと思うんです」
「いや、そんな備えは絶対無駄に終わりますよ!」
ピッ
なんでやねん
「うふ、つっこまれてしまいました」
「自分で押したんでしょう… そんなことして楽しいですか?」
「そうですね。なかなかオツなものですよ」
と、このタイミングでニコリとひと笑い。世の男性の80%は陥落できそうな…って、もういいか。
そうですか…もう、好きにしてください…
「なんだか、いつの間にか残り時間が5分を切ってしまいましたね。ちょっと急いでいきましょう」
そりゃ、こんだけ無駄話してりゃ時間もなくなりますよ。
いや、あるいはあまりにも俺宛の質問がないことに苦慮した喜緑さんの、必死の時間稼ぎだったのかもな。
と、思ったりもしたんだが、そんな俺の憶測は喜緑さんが掲げ持つ紙束によって完全に否定された。
「見てください、この量。この放送が始まって以来、一番の質問量ですよ」
「多っ!」
なんだこりゃっ!? 喜緑さんの手の中の紙束は軽く50枚はありそうな雰囲気だ。
つうか、あきらかに俺みたいななんの変哲もない一般生徒相手に送られるような量じゃない。
もしかしなくても作為的なものをビンビンに感じるぞ。それこそコンピ研部長氏探索紀行足長節足動物退治の旅みたいにな。
「これ…やらせですか?」
「いいえ。すべて真実の声です。この52枚という枚数は各人のあなたへの想いが溢れた結果ですね」
いや、想いっていうか…重いです。
「では最初の質問を読み上げますね」
机の上に置いた紙束の一番上の一枚をめくる喜緑さんを正面に見据えながら、俺はなにやら不穏当な空気を感じとってしまった。
さまざまな経験を積むことによって鍛えられた、トラブルに対する自衛反応の発露だと言えよう。
「ちょっと待ってもらえますか?」
俺はすかさず、喜緑さんにストップをかけた。
「なんでしょう?」
出鼻を挫かれた形になってしまったにもかかわらず、気を悪くした風でもない喜緑さん。素直に俺の発言を待ってくれた。
さて、例のやつを片付けてしまわないとな。
「ペンネーム【微笑みの貴公子】からの質問はあらかじめ省いておいてください」
そう、どうせ今回も律儀に出しているに違いない古泉の質問、それを排除しておかんと。
「あら…どうしてもですか? 特定の人物からの質問だけ不採用にしてまうのは不公平な態度になってしまうのですが」
「どうしても、です。この要求が受け入れられないんであれば、俺は今すぐ帰ります」
若干の躊躇を見せる喜緑さんだったが、これに関しては俺も一歩も譲る気はない。
意中の相手に告白する直前のような真剣な顔をして自分の目を見つめる俺に、とうとう喜緑さんも折れたようだ。
「そうですか、それでは仕方がありませんね。
申し訳ありません。【微笑みの貴公子】さん」
と、謝辞を述べながら、喜緑さんは質問状の半分ほどを脇へと追いやった。
「って、多っ! 捏造よりもタチが悪いっ!」
まさか一通だけじゃなかったとは!? っていうか、どれだけ暇なんだよ、古泉のやつは。
最近、閉鎖空間が出ないもんだから、平和ボケのあまりにこんな間抜けなことをしてるのか?
「ではあらためて最初の質問です。ペンネーム【いつもあなたの後ろに】さん」
はて、誰なんだ、こいつは?
と、一瞬いぶかしむ俺だったが、質問内容を聞けばそれは一目瞭然だった。
「あなたは男性同士の交際に興味はありますか? だそうです」
「それ! 【微笑みの貴公子】と同一人物でしょうっ!」
なんなんだ、コイツは!
妙に芸の細かいフェイントをかますんじゃねぇよっ!
「そうなんですか? まったく気付きませんでした」
白々しい嘘をついたって無駄だ。ロクなアリバイ工作もしていない犯行は、ただただ真相を暴かれるのを待つのみなんだからな。
「嘘でしょう! この質問を回収してるのは喜緑さんなんですから!」
「あら、鋭い」
ピッ
パパパ、パパパ、パパパパパパパパァーン
「的確な合いの手で獲得した経験値の積み重ねで、とうとうレベルがあがりましたよ。おめでとうございます」
「その効果音、使ってみたかっただけでしょう…」
あらためて【いつもあなたの後ろに】の質問も除外してみたら、残りはたったの2枚だった。
そりゃそうだよな。俺に個人的に関心をもってる人間なんてせいぜいこれぐらいの人数だろう。
妥当な数字だとは思うんだが、赤穂浪士の人数よりも多い枚数が一気に消えてしまうのはやはりもの悲しい。
くそ、古泉の野郎、ぬか喜びさせやがって…
「これだけ大量の用紙をただ無駄にしてしまうのは勿体無いですね。よかったらSOS団で裏面をメモ用紙として活用してもらえませんか?」
「嫌です。そんな不気味なものはさっさと焼却処分してください」
冗談じゃない。
部室で腐女子フィルターのかかった文面が記されている紙の裏に嬉々として不穏な計画を書きなぐっているハルヒや、ことあるごとにその紙をピラピラと振りながら嫌なスマイルを見せる古泉の姿が脳裏に浮かび、俺はげんなりとした。
「大丈夫ですか? 心がすさんでしまうのはなにかと良くないですよ。水でも飲んで、落ち着いてください」
と言って喜緑さんが差し出すコップを素直に受け取る俺。
脇にある水筒から注いだものみたいだが、そこに入ってるのって水だったんですか?
「いえ、冷たい烏龍茶です」
じゃあ、そう言えばいいのに。変わった物言いをするお方だな…
烏龍茶は水出し式の紙パックのものなのか、朝比奈さんの名人芸によるお茶を飲みなれている俺にとっては若干物足りない味だった。50点といったところか。
さして記憶に残らずにさりげなくその場に溶け込むのを得意とする喜緑さんらしい味だな。
「ついでですから、ちょっと音楽でも聴いて、リラックスしましょうか」
立て続けに細かい気配りを発揮する上級生の姿に、流石の俺も毒気が抜かれちまった。
たしかにつまらないことに対して過剰に腹を立ててしまっていたのかもな…
おそらくは喜緑さんの遠隔操作だろう、隣のブースの機械のあちこちに灯がともり、ある音楽を奏で始める。
『ヘイ、ヘヘイ』『ヨウ、ヨウ』
『ヘヘヘヘイ、ヘイ』『ヨウヨウヨヨウのヨウ』
うわぁ、素人臭さ全開の、聴くに堪えない歌声だな……っていうか!
「これ! 俺と古泉の下手っぴなラップもどきじゃないですか!?」
そうだよ! こいつは文化祭後にハルヒの気まぐれに付き合わされて、泣く泣く歌うハメになっちまった俺と古泉の恥ずかしいデュエット!
すっかり記憶から抹消しておいたってのに、なんだってこんなもんを持ち出してくんのかな、この人は!
「そうだったんですか? どうりでどこかで聞き覚えのある仲むつまじげな歌声だと思いました」
「冗談でもそんなこと言わんでください」
くそ、確か録音はしてなかったと思うんだが、なんだってこんなものが残ってんだ。
やっぱアレか? インターフェースパワーで再構成とかなんとかいうアレなのか?
宇宙人におはようからおやすみまで暮らしを見つめられてるハルヒのそばにいると、俺までプライバシーが無いっていうのか?
「どうですか? 心が和みましたか?」
「和むわけないでしょう! さながら親戚のおばさんに俺本人も忘れていた屈辱の過去をバラされたような気分ですよ!」
「そんなに恥ずかしがらなくてもいいですのに。学生らしい素朴さに溢れていて、わたしは好きですよ」
「感想とかはマジでいらないんで! さっさと次にいってください!」
「ではご希望通り、次の質問を読みますね」
おそらくは、ここからがれっきとした俺に対する質問ということになるんだろう。
我知らず、俺は少しからだを固くし、緊張の面持ちをにじませながら喜緑さんの次の言葉を待つ。
「廊下で食事をしている行儀の悪い生徒がいるのでなんとかしてください」
おもいっきり緊張のし損に、思わず机をひっくり返したくなっちまった俺の気持ちは理解してもらえるだろうか。
「それ、間違いなく俺宛じゃないでしょう!」
そもそも、どう聞いても質問じゃねぇし。
「あら、これは生徒会宛の要望書ですね。いつ紛れ込んでしまったんでしょう?」
「わざとでしょう! わざとですよね!」
古泉が生産した50枚の資源ゴミと、唯一の質問用紙の間に紛れ込む要望書ってどんなんだよ!
今こそ、例の2つ目のICレコーダーのボタンを高橋名人のごとく連打すべき時だと思ったが、それは喜緑さんの左手の中にしっかりと握りこまれていた。
残念だが、後手にまわってしまった感はいなめない。
「そんなに怒らないでください。誰にだって失敗はあると思いません?
失敗を責めるより、おおらかな気持ちで受け止めてあげることが子供の成長にプラスになる場合もありますし」
育児書から引っ張ってきたようなセリフで俺を丸め込もうとする喜緑さんだが、そうはいかん。
「もうすぐ高校3年生になろうっていうあなたのどこが子供ですか!?」
「ほら、わたしはこう見えても4歳ですから」
「冗談なのか、そうでないのか判断しにくい!」
「うふふ」
イニシアチブを握っている者特有の余裕ある笑みを見せる喜緑さん。
くそぅ…俺のさっきのつっこみを理解できるのが、俺自身以外には古泉ぐらいしかいなさそうなのが心底悔しいぜ…
「ところであなたは廊下で物を食べるようなみっともない女の子はお嫌いですか?」
「そうですね…やっぱ、物を食べるべきではない場所ってのはあるんじゃないですかね。俺もよく妹に注意してるし」
「そうですよね」
と言いつつ、なにやら含みのありそうな笑顔を喜緑さんは浮かべている。
なんなんだ?
「いよいよ最後の一枚になってしまいましたね」
まさか52枚もの量が5分足らずで片付いてしまうなど、誰も予想がつかなかったことだろう。
片付けた、と言うより、うっちゃってきた、と言う方が正しい気もするが…
「ひとつとして、まともな質疑応答がなかったんですが…」
「そうですね。今度こそ、ちゃんと答えてくださいね」
「そんな、俺に責任があるような言い方されても困るんですが」
これでも俺は可能な限り、誠意をもって対応してるんだ。
それでもコーナーがまともに機能してないということは、コーナーそのものに問題があるんだ。
断じて俺の責任ではない。
「最後の質問です。ペンネーム【にょろにょろめがっさ】さんから。あら、前回に引き続き、今回もこの方から質問をいただいてますね」
このペンネームは鶴屋さんか。前回は生徒会長を意地悪な質問でとことん苛め抜いたんだっけな…
一体今回はなんなんだろう? なにも喜緑さん経由でなくとも、直接訊いてくれればいいのに。
まあ、あの人もハルヒに似てイベント好きだからな、適当にこの放送に絡んでみたくなっただけかもしれん。
「では、いきますよ。
あなたは男性同士の交際に興味はありますか?」
「【微笑みの貴公子】の偽名だ! それ!」
芸が細かすぎるぞ、古泉! おまえは巧妙にオフサイドトラップを仕込む司令塔か!
「よくわかりますね。もしかしてあなたは超能力者なんですか?」
「それはむしろそいつの方ですから! けっきょく全部【微笑みの貴公子】からの質問じゃないですか!」
「先程も言ったように、これもあなたへの想いが溢れた結果なんですよ」
「そんな想いは人形と一緒に淡島神社で供養するよう、そいつに伝えてください!」
「さて、残念ですがそろそろお時間となりました」
いやいや、俺的には残念どころか、オリンピック誘致に燃える地方都市市長並に大歓迎ですがね。
きっと次回以降のゲストも今の俺と同じ気持ちになるに違いない。
そのうち、快くゲストを引き受けてくれるお人よしもいなくなるかもしれんな。
俺が心配することでもないんだが、今からゲストなしでも支障のない放送形態を模索しておくべきなんじゃないかね…
「喜緑さん、余計なお世話かもしれませんけど、もうちょっとゲストが気持ちよく答えられる質問を用意したほうがいいんじゃないですか?
今回なんて、俺、一問も答えられませんでしたよ」
「そうですね。じゃあ、こうしましょう」
喜緑さんが次の瞬間、革新的ファランクスを思いついたときのエパメイノンダスのような表情とともに言い放った台詞に、俺は大物助っ人外国人選手ばりのフルスイングでつっこみを入れるハメになっちまった。
「次回も引き続きあなたに出演していただいて、あらためて質問させてもらうということで」
「俺は金輪際出ません!」
カシャッ!
突然の場違いな音に何事かと思えば、一体どういうつもりなのか喜緑さんが俺に向けて携帯のカメラのシャッターをきる音だった。
なにをやってんですか?
「番組の最後にシャッター音が入ると、なんとなくオチって気分になるじゃないですか」
一昔前のドラマのラストカットかよ!
「ご協力いただきまして本当にありがとうございました。おかげで今回の放送も滞りなく終えることができました」
滞り……なかったか?
「もう、本当にこれっきりですからね」
さてと、とっとと教室に戻って弁当を食っちまわないとな。谷口あたりがさっきの放送のことでうるさそうだが、気にせんようにしとこう。
「あ、ちょっと待ってください。これは今回のお礼ですから、ぜひ受け取ってください」
その言葉と共に俺へと差し出されたのは2枚の紙片。
それぞれ【カツカレー 399円】【大盛り 50円】と印字されている。
これはうちの食堂のカツカレーの食券と、それを大盛りにするための大盛り券じゃないか。
「いや、ありがたいんですが、俺は弁当を持ってきてるんで」
そう、俺には自宅から持ってきた弁当がある。
もしもこいつを食わずに持って帰るようなことがあれば、母親の不興をかって平穏な家族関係に暗い影をおとす結果になってしまうだろう。
「あ、お弁当なら、もうありませんよ。
3分ほど前に長門さんが完食したのを確認しましたから」
「なんで長門が俺の弁当食ってんですか!?」
「実は長門さん、今回あなたをゲストにお招きすることにいたく難色をしめしまして。
それで、放送中あなたのお弁当を食べてもいいと提案しまして、ようやく納得してもらったんですよ」
勝手に俺の弁当を宇宙人間政治交渉の取引カードにせんでください!
その後、いたしかたなく食券を拝領した俺は食堂へと直行した。
そこではなぜかハルヒと長門が相席でカツカレー大盛りを食っていた。
妙に機嫌の悪い二人に無言で中間の席を指さされた俺は、まるでアルカトラズ連邦刑務所に冤罪で囚われたような気分で大盛りカレーを咀嚼しなければならなかった。
フランク・モリスでもなければ脱出できそうもないシチュエーションで、生きた心地がしないとはまさにこの事だ。
えっと、喜緑さん……これってどこまでが計算?
以上、第5回でした
続いてその裏話を投下
スピーカーから発せられるチャイムが4時限目終了を北高関係者全員に告げる。
ここから1時間ほどは、各人がおもいおもいの手段によって午後からの活動のための英気を養う、昼休みと呼ばれる時間である。
教室において食事を摂る者もいれば、購買に食料の確保に向かう者、食堂を利用する者などさまざまである。
そんな中にあって、この時間を栄養補給のために費やすことをしない者がいた。
対有機生命体コンタクト用ヒューマノイドインターフェース、長門有希である。
彼女は栄養摂取という理由によって食物を口にする必要がない。
情報統合思念体の端末としての側面を持つ彼女は、統合思念体とのリンクが断たれない限りにおいて常に活動のためのエネルギーを供給されているからだ。
例えるのならば、それはパソコンからの電力供給を受けて稼働するUSB機器に似ているといえよう。
であるから、彼女はこの昼休みという時間をもっぱら文芸部室における読書のために利用している。
それは本日においても変わることはなく、机脇のフックに掛けられた学校指定バッグを手にした彼女は、クラスメイトを一顧だにすることなく、教室を退室した。
廊下に出た瞬間、彼女はある事象を感知。
自分と同種存在である、パーソナルネーム喜緑江美里が『彼』と接触しているという事態を知る。
当該事項を緊急事態であると判断した彼女は、ただちに意図の確認の思念発信を試みようとするが、それに先んじて、同インターフェース喜緑江美里より事情説明並びに黙認要請の思念が送られてくる。
『彼に対し校内放送への出演を依頼。13分間にわたる身柄の確保要請。身体並び精神の一切の安全を保証。黙認されたし』
なお、この文章は人間に理解できるよう言語化されたものであり、実際に長門有希に届けられた思念はインターフェース間でのみ通用する情報塊のかたちをもって発せられている。
要請の拒絶。身柄の解放要請。さらなる黙認要請。徹底拒絶。懐柔。
2体のインターフェース間での激しい思念の応酬が1秒にも満たぬ時間で繰り広げられたのち、それに終止符を打つこととなったのは、喜緑江美里から提案された黙認に対する交換条件であった。
『彼に食堂における食事を保証。それによって不要となる、彼が自宅より持参してきた携帯食を譲渡する。これをもって黙認を承諾されたし』
かねてより興味をもっていた『彼の家庭の味』を調査できる機会の到来。
この条件の持つあらがいがたい魅力にほだされてしまった長門有希は、とうとう喜緑江美里の要請を承認してしまうのだった。
さて、この一連のやりとりによって昼休みの予定の変更を余儀なくされた長門有希は、その目的地を1年5組の教室へと定めた。
そして、教室に入室した彼女は驚愕の事実と直面する。
つい1分前に通常の生徒の平均歩行速度の2.5倍で食堂へと向かい進行していたはずの涼宮ハルヒが、彼女の指定席である窓際最後方の椅子に鎮座していたのである。
表面上は普段と変わりない無表情で、しかし内心ではこの理解不能の事態に動揺しつつ、涼宮ハルヒを見据える長門有希。
そんな彼女の存在に気付いた涼宮ハルヒは喜色満面とはこのことを言うのだといわんばかりの表情で長門有希に声をかけるのであった。
「あれー、有希じゃない。どうしたの? なにか用?
あ、そうだ! 有希、キョンがどこに行ったか、知らない?
あのバカ、トイレ行ったっきり、戻ってこないんだって」
ここまでの台詞を一気に口にすると、涼宮ハルヒは小柄な自分の仲間の返答を待つかのように、先程までとは逆に口を閉ざしつつ、長門有希のトパーズを思わせる澄んだ瞳孔を見つめる。
一方の長門有希は1分前から現在までの涼宮ハルヒの移動経路を分析しながら、この質問に対し返答すべきかどうかを内部検証していた。
ただしそれも一瞬のこと。
どのみち生徒会提供の校内放送が始まれば全員の知れるところとなるわけで、あえて黙っている意味もないと判断。
彼女は一言
「放送室」
と答えるのだった。
そして、そのタイミングにあわせるかのように、スピーカーからは喜緑江美里の挨拶が流れ出し、やがて彼の声も衆目のもとにさらされることとなる。
『あのー、喜緑さん』
『あらあら、まだオープニングトークの真っ最中ですのに…
ちょっと発言には早いですよ』
「うわ、ホントにキョンじゃない!
アイツ、大丈夫なの? SOS団の恥さらしになったりしないでしょうね?」
わずかながら不満の感情を匂わせる言葉。
長門有希の分析によれば、彼女は『彼』が自分の監視下から外れて行動することを嫌う傾向がある。
長門有希は彼女のその発言が、その感情ゆえに発せられたものだと理解するとともに、今回の突然の進路変更の理由を問いただすことにした。
「食堂には」
「え? 食堂?
あー、あたしがなんで食堂に行かないのかってこと?」
首肯をもって自分の質問が正確に伝わっていることを知らせる彼女。
「んー、なんでかしら?
なんとなく食欲がなくなっちゃたから、まあ、キョンのやつに今後のSOS団の展望と、それにともなった心構えってやつをコンコンと説いてやろうかなって思ってね」
どうやらさしたる理由もなく、今日この時というタイミングで気まぐれをおこしたらしい。
その事実に、あらためて長門有希は驚愕の念を覚えるのであった。
これこそが有機生命体中唯一のイレギュラー存在としての彼女の能力であるのか?
自分が彼の弁当を獲得する瞬間を狙い済ますかのように、この場にいあわせるとは。
「ところで、有希はなんでここにいるの?」
そして、涼宮ハルヒからのこの質問は、長門有希にさらなる思考実験を強要することとなる。
素直に返答すべきか? それとも適当にごまかすべきか?
ベストな結果をもたらすにはどう行動すべきなのかを慎重に検討する彼女だったが、ここにきて緊急を要する展開となってしまう。
「まあ、いいわ。
さーて、キョンが放送室にいるなら、お弁当は無駄になっちゃうわね。
勿体無いから食べちゃいましょう」
と、彼のバッグに手をのばす涼宮ハルヒ。
この、無視できない彼女の言動に、長門有希は思わずすべてを忘れて涼宮ハルヒの手首をつかんでいた。
「へ? 有希、どうしたの? いきなり?」
団員の突然の予想外な行動に目を丸くする涼宮ハルヒ。
「食欲は」
と、これは長門有希の発言。
「あー、食欲? なんか、また湧いてきちゃったカンジなのよね。
別にいいんじゃない。キョンのお母さんだって、お弁当を無駄にされるよりは、誰かに食べてもらったほうが喜ぶだろうし」
食欲の減退と増進。
まさか、これさえも彼女の持つ情報想像能力が顕現した結果なのだろうか?
そう思考をめぐらせる長門有希であったが、それよりもなによりも自分が譲渡された弁当の確保こそが最優先事項であろうと判断する。
仕方なしに彼女は正直に事情を説明することにした。
「彼の携帯食はわたしがもらう約束をした」
「え? そうなんだ。ふーん」
「そう」
涼宮ハルヒは誰に対しても自分の要求を曲げることはない。
ただし、その追求が自分に対してのみ緩むことを長門有希は知っていた。
彼の席に着席し、涼宮ハルヒの視線を浴びながら彼の弁当の包みをほどく長門有希。
はたして蓋を開けて姿を現した弁当の内容はといえば、とりたてて詳しく描写しなければならないほどのものでもない。
玉子焼きやもも肉の唐揚げなどをメインのおかずとしたごくごく平凡なものであった。
あえて言うのであれば、冷凍食品を一切使っていないのが愛情の現われと言えるかもしれない。
ムキになって確保するほどのものでもないと思うかもしれないが、それは素人考えというものである。
人間の味の好みというものは幼児期における食習慣に拠るところが大きく、これは一般大衆に受け入れられるような美味しさとはまったく別の問題である。
そしてそれを決定付けるもっとも大きい要因となるのは、当然のごとく母親の料理ということになる。
であるならば、この弁当の味を見聞することは大変有意義なことと言えるだろう。
どういう意味で有意義であるのかはおのおの察してもらいたい。
弁当箱の中に密封されていたために若干水分を含んで水っぽくなったご飯を咀嚼し、これが彼がほぼ毎日味わっている味なのかと、長門有希はそんな感慨に耽っていた。
「ねえ、有希。
男の弁当を全部食べきるのは大変でしょう? 手伝ってあげよっか?」
「大丈夫」
そして、その価値を認めているのは涼宮ハルヒも同様のようであり、なんとか一部でもご相伴にあずかれないかと思っているようだった。
「その唐揚げ、美味しそうね。一口ちょうだい」
「駄目」
「うー…」
再び言おう。
涼宮ハルヒが自己の要求を通す際、その追及が自分に対してのみ緩むことを長門有希はよく理解していた。
『大丈夫ですか? 心がすさんでしまうのはなにかと良くないですよ。水でも飲んで、落ち着いてください』
校内放送では喜緑江美里が水を勧めている。
彼女に従うわけではないが、涼宮ハルヒを牽制するためにも有効な手段かもしれない。
そう考えた長門有希は
「水を飲んでくる」
と、目の前の団長に伝えて席を立った。
弁当を手に持ったままで。
「ちょっと、有希! 行儀悪いから、お弁当は置いていきなさいって!
誰も黙って食べたりしないわよ!」
長門有希はその発言を虚言であると判断する。彼女は自分の望む存在が目の前にある状態で、それを入手するのに躊躇するような性質ではない、と。
気にせずそのまま廊下へと出る。
さて、彼女は蓋の開いた食べかけの弁当をその手に抱えたままで水飲み場へと赴く。
その奇異な姿に、何事かと注目する他生徒だったが、そんなことを気にするでもない彼女は迷うことなく水飲み場へと直行した。
必要はないのだが、一応宣言通り水を口に含む。
さて、水道水で喉を潤しながら、彼女はある案を思い立つ。
いっそここで弁当を完食してしまおうか、と。
涼宮ハルヒの監視の下でこの弁当を食すのは双方にとって喜ばしいことではないように思えたからだ。
さまざまな条件を照らし合わせ検討。結果、それが最良解であるとの結論に達した長門有希はおもむろに食事を再開する。
一品一品のおかずの味を充分に検証しながら弁当を食べ終えたころに、再び校内放送の音声が耳に入った。
『ところであなたは廊下で物を食べるようなみっともない女の子はお嫌いですか?」
『そうですね…やっぱ、物を食べるべきではない場所ってのはあるんじゃないですかね。俺もよく妹に注意してるし』
………
問題ない。
この事実を隠蔽し通すことが出来ればいいのだから。
そう自分を納得させる長門有希であったが、その願いが叶うことはなかった。
「長門さん、こんな所でお弁当ですか?」
「長門っち、お行儀悪いぞっ。ちゃんと座って食べなきゃっ」
丁度角を曲がってきた朝比奈、鶴屋両2年生に目撃されてしまったのである。
「………」
自らの不注意に後悔と反省。
もしこの場にいるのが彼であったのなら、彼女の視線の奥に恨みがましい感情も認めることが出来たかもしれない。
しかし、残念ながらここにいる2人は彼ほど長門有希の感情を汲み取ることに熟達しているわけではなかった。
結果、無言で立つ長門有希の姿から、『キョトンとしている』という解釈をしてしまったらしい。
「えっと、その、普通は廊下では物を食べないものなんですよ」
「そうだよっ、有希っこ。こんなとこをキョンくんに見つかったら叱られちゃうかもねっ。大変だぁ」
「………」
どうするべきか?
自分と友好関係にある両名に対し敵性行動をとることは絶対に避けるべきである。
この場を切り抜けるのに最も有効な手段は?
彼女が次の行動を決めかねているうちに、救いの手は相手側から差し伸べられることとなった。
「あの、安心してください。その、言いふらしたりしませんから」
「そうだねっ。こんなんでレースから長門っちが脱落すんのはつまんないしねっ。内緒内緒っさっ!」
「レ、レースって…なんですか、もう…」
「あっはっはっ…んじゃね、有希っこ!」
そんな言葉を残しつつ、上級生2人は歩き去っていく。
当面は問題がないということになったらしい。
その事実に安堵しながらも、こんな事態を招いてしまった自分の迂闊さと、そしてなにより喜緑江美里を恨む長門有希であった。
長門有希が1年5組の教室に戻る時点においても、涼宮ハルヒは変わらず自分の席に着席していた。
「あーあ、お弁当全部食べちゃったんだ。
しょうがないわね。今からでも食堂に行こうかしら」
弁当箱が空になっているのを知り、そう落胆の声をあげる彼女。
『俺は金輪際出ません!』
『カシャッ!』
一方校内放送はといえば、最後のシャッター音を区切りとして、平凡な音楽に切り替わっていた。
それは彼の拘束時間が終了したことをあらわしている。
「なに食べようかしらね…
ちょっとここは豪華にカツカレー大盛りにしようかしら」
彼には食堂での食事が喜緑江美里によって保証されている。
そして涼宮ハルヒの独白。
これはなにをあらわしているのか?
彼に譲渡される食券の内容を喜緑江美里に確認しつつ、今後の展開をシミュレートする長門有希。
予想通り彼が受け取ったのは大盛りカツカレーの食券。
ならばその後の展開はおのずと決定される。
まず間違いなく彼と涼宮ハルヒは相席でおそろいのメニューを食すこととなるだろう。
そして、それは彼の弁当を譲渡されるのと同等、もしくはそれすらも上回る魅力をもった食事であるように長門有希には思われた。
「わたしも」
そこまで思考が到達していたときには、既に自然とそうつぶやいていた。
「え?
だって有希はもうお弁当食べたじゃない。あんまり食べすぎるとお腹に悪いわよ」
「大丈夫」
長門有希は栄養摂取という理由によって食物を口にする必要がない。
したがってそもそも満腹中枢というものを備えていないし、食料の過剰摂取によって体調不良をおこすこともない。
それになによりも先程の失敗によって害されてしまった気分を回復させる必要がある。
「むー、なんか今日の有希は素直じゃないわね…」
自分の心配を聞き入れない長門有希に不満顔を見せる涼宮ハルヒ。
いくらお気に入りの子分とはいえ、彼女にも我慢の限度というものがあるのだ。
そもそも彼女の堪忍袋の緒はきわめて細く切れやすいものなのだからしょうがない。
当然の帰結ともいえる彼女の様子に、すべての遠因は喜緑江美里にあるのだと責任転嫁する長門有希であった。
以上です
続いてちょっとしたおまけを投下
ある日の生徒会定例会議でのヒトコマ。
「それでは今回の議題はこういったかたちで決定とする。
異議のある者はいるかね?」
生徒会長の宣言。
それに異議を差し挟む者はいない。
と、思われたのだが
『なんでやねん』
との、声がどこからか聞こえたではないか。
生徒会長が声の出所、すなわち自分の隣の席に視線を向けると
「なんでしょう?」
自分の腹心の部下、喜緑江美里が笑顔で着席していた。
「なんだね? 先程のふざけた声は?」
「すみません。偶然、このICレコーダーの再生ボタンに手がかかってしまいました」
そう言って彼女は校内放送で使用した小さな機械を見せる。
「そうか、気をつけたまえ。
では、これで今回の定例会議を終了とする」
『なんでやねん』
再び同じ音声。
「喜緑くん…」
「すみません。設定がリピートになっていました」
そう、釈明する生徒会書記。
その変わらぬ笑顔からは悪意と呼ばれる感情を読み取ることは出来ない。
「…そうか。それならば仕方が無い。
では、これにて解散とする」
『なんでやねん』
再び同じ音声。
「………」
「すみません。機械の操作に不慣れなもので」
「もう、電池を抜いておきたまえ。それで解決だ」
「流石は会長。いいお考えです。早速そういたします」
そして、機械の背面に手をまわし、カバーを開いて単3電池を取り外す喜緑女史。
これでレコーダーは無力なオブジェと化した。
「それでいい。では今度こそ解散だ。諸君、ご苦労だった」
「会長の傍にいると感じる質の悪いスモークチーズのような異臭」
「喜緑くん!」
「別のレコーダーのスイッチを押してしまったみたいですね。本当に申し訳ありません」
「そもそも、そんな音声は録音してなかったのではないかね!」
「偶然録れていたんですね。わたしも驚きました」
「あと、確認しておきたいのだが、さっきの声は君の口から直接漏れていたように聴こえたんだが、これは私の気のせいかね!」
「はい。気のせいです」
喜緑江美里の笑顔にはひとかけらの迷いも見られなかった。
ある日の生徒会定例会議でのヒトコマ。
ことほどさように北高生徒会は平和そのものであった。
くだらないネタですみません
最後に校内放送の最終回を投下します
俺と長門は今、生徒会室の前に来ている。おみやげ持参でだ。
無意識のうちにネクタイに手を添え、具合を確かめていた。どうやら俺は相当緊張しているらしい。
横目で長門の様子を窺う。
無表情で生徒会室のドアを見つめる長門からは今のところ大きな感情の動きは感じられない。
大丈夫。長門は冷静だ。
「いいか、長門。今日は物騒なことは無しだからな。俺達はお詫びに来たんだから」
念のために釘を刺しておくことは忘れない。長門は黙って首を縦に振る。よし。
生徒会室のドアに右手の甲を触れさせ、ノックの体勢で長門に確認。
「今、中にいるのは喜緑さんだけか?」
長門が再び頷く。
「いいか? 行くぞ」
コンコン、とそのまま右手でドアを打ち鳴らす俺。
中にいるのは万能宇宙人なのだから、ノックをせずとも俺達の存在をドア越しに感知しているんだろうが、さりとて礼儀を逸するわけにはいかない。特に今回は。
「どうぞ」
中から涼やかな声の返事。その声に促された俺達は遠慮なくドアを開ける。
「おふたり揃って、一体なんのご用でしょう?」
中には当然、常に周囲に微笑みを振りまく生徒会書記の喜緑さんがいたわけなんだが、その笑顔が普段と比べて虚ろなものに見えるのは俺の気のせいなんだろうか?
ここで長門の目の色に変化があったのを俺は見逃さなかった。
この色は、いつだったか俺が入院した時にお見舞いに来た際にも見せたものだ。
長門は今『申し訳なさ』を感じているんだ。
なぜこんなことになってしまったのか?
それを説明するためには昨日の昼休みまで話を巻き戻すさなければならないだろう。
その日はなにかが違っていた。
昼休みのいつもの時刻。
週に2回、放送部から10分間の枠を貰い、生徒会が提供する校内放送。
もはや北高にとって定番となった感もある校内放送だ。
だから、その時間、スピーカーからは生徒会書記、喜緑さんの声が聞こえてこなければいけないはずだった。
しかし、実際に校内に響いていた声は
『文芸部部長、長門有希。
一時的に放送機器を借用し、校内の関係者にこの音声を聞かせる』
長門のものだった。
なんだって長門が放送室でメイン司会をやってるんだ? 喜緑さんはどこに行った?
俺は、クロスワードパズルの縦のカギで詰まっちまったもんで横のカギの該当部分を見ながら答えを推測するみたいな気分で、この突然始まった長門有希の校内放送第1回に耳をそばだてた。
喜緑さんが突如として職務を放棄した理由とはなんなのか?
放送回数も十数回を数え、いよいよあの人も疲れてしまったのか?
いや、あの人にかぎって、そんなくだらない理由で職場のボイコットなんてせんだろう。
ということは、アレか? これはまたしても宇宙人的トラブル発生の前触れなんだろうか?
そんな感じであれやこれやと考えていた俺なわけであったが、実際はそれほど深刻なものでもなかったらしい。
と言うのも、たいして間を置くこともなくこの時間おなじみの声も続けざまに流れ出したからだ。
ただ、台詞の内容はけっして馴染みのものなんかじゃなかったが。
『あの、長門さん。そこはわたしの席なんですが』
生徒会執行部筆頭にして長門の同郷の徒、喜緑江美里さんのご登場だ。
普段通りの穏やかな声色は、彼女が精神身体ともに健康優良であることを如実に語っており、彼女自身にはなんらトラブルが発生していないことをうかがわせる。
と同時に、その口調から察するに、喜緑さんにとっても長門がそこにいることは予想外な出来事であるらしい。
はたしてこの先、この放送はどんな展開を見せるんだろうね…
『今回は特別企画。
あなたが質問に答えることになっている』
と、これは長門の声だ。
いつもながら端的な物言いで、エンターテイメント性を求められる司会には不向きなんじゃないかと思う。
とは言え、喜緑さんを相手にして煙に巻かれずに質問をぶつけられる人材というのが、長門ぐらいしか思い当たらないのも事実だ。
それにしても、喜緑さんに質問する特別企画ね。
いいんじゃないのか。この放送のおかげか、喜緑さんに対する校内関係者の関心も高まってるだろうし、1回ぐらいはこんなのもあったって。
ただ、どうもこの企画を喜緑さんが知らなかったという点が、俺には波乱の予兆であるようにも思えるんだが…
「おお、おお! Aランク美少女同士の対談再びか! なんつうか、声だけなのにソソるなぁ、おい!」
いいよなぁ、谷口。おまえはそうやって馬鹿面さらしてのんきなこと言ってりゃいいんだからよ。
俺は、銀色巨人が兄弟喧嘩をするほうがまだマシなんじゃないかと思うような過激な宇宙戦争を、この2人がおっぱじめやしないかと、気が気じゃないってのに…
『あの、わたしの知るかぎりでは、今日は岡部先生にお話をうかがうことになっているんですが』
『………
ドッキリ…大成功…』
『………
似合ってますね、その赤いヘルメット』
被ってんのか、長門! 例のヤツを!
俺の脳内で即座に再生された放送室内の予想映像は、そのあまりにものシュールさをもって俺の宇宙に対する憧れをまたひとつ破壊した。
もし俺の持つ知識をすべて世間に公表したら、ひょっとしたらアメリカの宇宙開発熱が一気に消沈しちまうんじゃなかろうか?
『あの、では今回岡部先生宛に集めてきた質問状はどうすればいいんでしょう?』
『不要。捨てて』
あっけねぇっ!
にべもないとはこのことだ。
長門ももうちょっと気をつかった言い方があるだろうに…
それとも、これこそが気心の知れたインターフェース同士だからこそ許される特別な距離というものなのかね…
いや、違うか…
『それではせっかく質問を書いてくださった方々に申し訳が立たないんですが…』
『大丈夫。
本当は誰も岡部教諭には関心がない』
えー、我が担任の名誉のために言っておくが、岡部はちょっと暑苦しい部分もあるが生徒想いのいい先生だ。
そりゃあ、バレンタインデーに女生徒からチョコを進呈されたり、卒業式に泣いて別れを惜しまれるような人気のあるタイプではないのは確かだが。
『わかりました。100歩譲って、今回のドッキリ企画については納得しましょう。
でも、どうしてわたしの代理が長門さんなんです?
生徒会執行部の誰かが務めるのがスジなんじゃありません?』
喜緑さんの指摘も至極もっともだ。
この放送は生徒会主導のものなんだし、長門がでばってくる理由なんてどこにもないはずだ。
少なくとも、ごく普通の北高生としての立場から言えば、だが。
『生徒会メンバーは誰も引き受けなかった。
………
怖がって』
『それじゃあまるで、わたしが生徒会に君臨しているお局様みたいに聞こえるじゃありませんか』
『………』
『お願いですから、即座に否定してくれません?』
『なにを?』
『………
いいです。続けてください…』
長門の、天然なのか計算づくなのか判断しづらい無言と発言のコンビネーションに、喜緑さんも相手にしているのに辟易としているのか、その口調にはささやかながら疲労の色が滲んでいる。
喜緑さんのことを普通の人間だと思っている者にとっては、これがどれほど貴重で異常なことであるのかわからないだろう。
俺はそれがわかる数少ない人間のひとりなわけだが、ふと思うに、それは自慢にならないどころか、非凡な苦労をしょいこむためのライセンスのようなものだと気付き、一気に鬱な気分になった。
「なんだかこの2人って、ただの知り合いってカンジじゃないよね。
もしかして、親戚かなにかなのかな?」
惜しいぞ、国木田!
あともう5,6段階ほど非常識な考察を重ねれば、2人の正体に到達するかもしれん。
地球の常識の範疇を超越した気苦労を分かり合える友人の誕生を、俺は心の底から歓迎するぞ。
正直言って、古泉だけがこのテのことの相談相手という現状は耐えられないんだよ…
『最初の質問。
喜緑さんが腹黒って本当ですか?』
校内放送のほうでは、いよいよ質疑応答が開始されたわけなんだが…
しょっぱなの質問からこれかよ…
誰の質問なんだか知らんが、そんなことを疑っているのであれば、こんな質問は絶対にするべきじゃないだろうが。
好奇心は猫を殺す、って言葉を知らないのかねぇ。
『あの、質問内容はとりあえず置いておくとして、誰からの質問なのか、紹介はないんですか?』
『今回の放送では質問者の安全を考慮して、完全匿名制を採用している』
『誤解を招く物言いはやめてください! わたしが逆恨みでもするみたいに聞こえるじゃありませんか』
『………』
『だから、こういうタイミングで無言になるのは止してください』
どうやら日本の誇る文豪が生み出した名前のない猫と同じ運命を質問者が辿ることは避けられたようだが、それと引き換えになったと言うべきなのか、2人の間の空気は険悪さを増すばかりだ。
長門のやつ、相手が自分の命運を握っている喜緑さんだってことを覚えてるんだろうか?
にしても、喜緑さんも気が長いね。こんだけ長門におちょくられても、なんら制裁らしいことをしないんだから。
心が広いというか、おおらかというか…
それとも公私を混同するようなマネはしない、大人の女性ってことなんだろうか? 最上級生だしな。
しかし、この前自分は4歳だって言ってたんだが…
『返答』
俺なりに、この筆記すると2文字にしかならない長門語を翻訳すると『ごちゃごちゃ言ってないで、とっとと答えろよ』といった意味合いになる。
字数制限でも設けられていそうな長門の短い発言に慣れ親しんでいる俺にとってはどうというもんでもないんだが、もしかしたら聞いていて不満に思うやつもいるかもしれん。
というか、俺の目の前にいやがった。
「なんつうか、こうセリフが短いと、音だけじゃ満足できなくなっちまうな。
やっぱ美少女使うんなら絵がいるだろうよ、絵が。
カメラ使やいいじゃねぇか」
谷口お前、さっき「声だけでソソる」とかなんとか言ってたじゃねぇか。
長門観察の第一人者を自負する俺から言わせれば、これでも長門は普段の5割増しぐらいで喋ってんだぞ。
『この方がどうしてこんな勘違いをなさったのかは定かではありませんが、これは完全な誤解です。
生徒会執行部員は誰もが学校のために身を粉にして努力する人材ばかりで、後ろ暗いものを持っている人間なんてひとりもいませんよ』
『違う。質問内容の対象はあなた個人。
その他の生徒会役員は無関係。論点のすり替えは卑怯』
『あら、別にそのようなつもりはありません。もちろんわたし個人も他の執行部員同様、よりよい学校づくりのために全力で奉仕させていただいてます。
この質問の答えは、そのわたしの働きを見ていただいて判断していただくということで』
なんだかのらりくらりと国会で立ち回る老獪な大物議員のような回答だな。
そこまで紋切り型な印象を受けないのは、まあ美人は得だよな、ってことで納得しておこう。
だが、この程度で追求の手を緩めるような長門議員ではなかった。
『わかった。
………
では、この質問を検証する資料として、これまでの放送のダイジェストを流す』
『え?』
心底不意をつかれたような喜緑さんの声の後に続いて聞こえてきたのは、これまでの数々の校内放送、その一部抜き出し音声だった。
『第1回放送』
『答えるわけないでしょうが!?』
『それは恥ずかしいからでしょうか? 見れば分かるでしょ、野暮な質問しないでよ、と仰りたいんですか?』
『んなわけないでしょうっ!? 馬鹿馬鹿しいからよっ!
大体、恋愛感情なんてもんは脳のシナプスが作り出した幻想でっ、あたしはそんなもんに関わってるヒマはないんだからっ!』
『と、言うことは、今後彼に涼宮さん以外の恋人が出来たとしても、不干渉を貫くということでしょうか?』
『ちっ、違うわよっ! そういうこと言ってんじゃなくって、えっと、それはあれよっ!
SOS団は団則で男女交際禁止になってるから、当然そんなのは認められないわっ!』
『なるほど、団則ですか。
それはとても良い虫除け策をご用意なさいましたね』
『なにが虫除けよっ!』
『第3回放送』
『その悪趣味な眼鏡はどこで購入したものなんです?』
『キミまで悪趣味だと思っているのか!』
『先程まではなんとも思っていませんでした。
涼宮さんの質問を見て、ああそうか会長の眼鏡は悪趣味なんだ、という具合にたった今学習いたしました』
『そんな不必要な学習成果はただちに抹消したまえ!』
『会長、人間の記憶はそんなに都合良く消したり出来ませんよ』
『………
この眼鏡は貰い物だ。よって購入した店など知らん』
『わざわざ悪趣味な眼鏡を譲渡されるなんて、まさか会長はいじめられてるんじゃ…』
『私は今、キミにいじめられているっ!』
『第4回放送』
『廊下で食事をしている行儀の悪い生徒がいるのでなんとかしてください』
『それ、間違いなく俺宛じゃないでしょう!』
『あら、これは生徒会宛の要望書ですね。いつ紛れ込んでしまったんでしょう?』
『わざとでしょう! わざとですよね!』
『そんなに怒らないでください。誰にだって失敗はあると思いません?
失敗を責めるより、おおらかな気持ちで受け止めてあげることが子供の成長にプラスになる場合もありますし』
『もうすぐ高校3年生になろうっていうあなたのどこが子供ですか!?』
『ほら、わたしはこう見えても4歳ですから』
『冗談なのか、そうでないのか判断しにくい!』
『うふふ』
『第8回放送』
『今回は北高男子生徒の心を虜にする可憐なアイドル、朝比奈みくるさんにお越しいただきました』
『そんな…アイドルなんて、そんなんじゃありませんよ』
『今日はわざわざサービスでバニースーツまで着ていただいてありがとうございます』
『着てません…ちゃんと制服で来ましたよぉ…』
『そうですね。バニースーツはある意味、夜の仕事の制服と言えますもんね』
『ふえーん。人の話を聞いてくださいよぉ…』
『第11回放送』
『容姿端麗、頭脳明晰、くわえて名家のお嬢様。
もしこれでスタイルまで良かったりしたら、まさしく並ぶ人のいない人気者だったでしょうに。
画竜点睛を欠くとはこのことなんでしょうか』
『そんなこと言っちゃってぇ。えみりんだっておんなじようなもんじゃないかいっ。
………
あれれ、えみりんってば、今いきなり胸がおっきくなんなかったかい?』
『気のせいですよ』
『うむむむ、そうかな?』
『そうですよ』
『第15回放送』
『それでですね、小泉さん』
『………
あの、微妙に僕の名前が伝わっていない気がするんですが…
確認しておきますが、僕の名前は古泉一樹ですから』
『ですから、小泉さんですよね』
『本当に古泉と呼んでくれていますか?』
『一体なにを疑ってらっしゃるんです? 小泉さん?』
『はぁ…どうにも腑に落ちないものでして』
『ご気分でも優れないんでしょうか、小泉さん?
もしよろしければ、お茶でもお飲みになりますか、小泉さん?』
『………』
再生されるこれまでの激闘の歴史。
きっとこれを耳にした人間の頭には、すでに質問の回答が巨大電光掲示板に映し出されるかのごとくはっきりと浮かんでいることだろう。
『これらを参考にし、各自、真実を見定めて』
『なんですか、これ! 不当な印象操作です!
もっと和やかな会話や、ゲストの悩みを真摯に聞いた回だって、たくさんありましたよ!』
『皆無。大体こんなもの』
『そういうことを言うのはやめてください!
あきらかにこれはモンタージュ理論の悪用に他なりません!
自分に都合のいい箇所だけを抜粋して総集編を構成するのは卑怯です』
『放送業界のお約束。この手法が不当だと言うのであれば、世の放送作家は全員職を失う』
『ッ……わかりました。この点に関しては身を引いてあげます』
え? それでいいんだ!?
なんか放送作家に恩でもあるのか、喜緑さん?
『生徒会に興味があるんですが、生徒会室に入るためには喜緑さんが課す3つの試練を突破しなければならないというのは本当ですか?』
『そんな事実はありません。一体どこからこんな怪しげな噂が流布してるんですか?』
『火の無いところに煙は立たない』
『そんなことはありません。現に都市伝説というものは原因がなくても噂だけが単独で発生することを証明しています』
『ちなみに3つの試練はそれぞれ、体力テスト、支持政党アンケート、最後に電飾の付いた帽子を被って修行するぞと連呼する、となっている』
『今ここで新たな都市伝説を生み出さないでください!』
「しかもそれ、洗脳だし!」
「キョン、お前、家でもテレビに向かってつっこみいれるタイプだろ?」
うるせぇ。そんなことするかよ。これはあくまで知り合い相手だからだよ!
『コンピュータ研究部部長、生徒会長と、男漁りに余念がない喜緑さん。次の標的は誰ですか?』
『事実無根です! 誰が夜な夜なボーイハントに精を出しては次々と食い物にしている痴女ですか』
『そこまでは言ってない』
『あ、そうでしたか』
『……やっているの?』
『やってません!』
「つまり【長】が付く役職になるのが喜緑江美里と付き合うためのポイントってことだな! 俺も狙ってみるか!』
人類史上類を見ないほど不純な動機でリーダー属性を身に付ける意欲をみせる谷口。
やめとけ。お前が責任ある立場になっても、ビジネス書によく出てくる【ダメな上司】の実例にしかならんから。
『喜緑さんって朝比奈さんと同級生なんですか? それとも隣のクラスなんですか? どっちなのかはっきりしてください!
どっちの設定でSS書けばいいのか、混乱するじゃないですか!』
『そんなことをわたしに言われましても…』
『あなた以外に誰に言えと?』
『そうかもしれませんけど…
理不尽です…畑亜貴の所為で必要以上に腹黒いって言われるのと同じくらい理不尽です』
畑亜貴って誰だ? それに喜緑さん、なぜ自分のクラスを訊かれて困ってるんだ? 答えりゃいいじゃないか。
で、結局喜緑さんは朝比奈さんのクラスメイトなのか? どうなんだ? もしかして喜緑さんもあのウェイトレス服を着たのか?
『あの、なんだか質問と言うより、わたしへの悪口コンテストという雰囲気なんですけど…』
『そう?』
『そうですよ。ひどいです。いくらわたしでもこれ以上は泣きたくなりますよ』
『そういう発言を印象操作目的で使用するから腹黒いと言われる』
『そんなこと考えてません!』
『この、ももいろシスターズの地味な方』
『いきなりなんなんですか!?』
『わたしもコンテストに参加してみた』
『そんなコンテスト開催してませんし、そんなマイナーなネタは誰にも理解できません!』
すまん、長門。俺にもおまえが何を言ってるのか、さっぱりわからん。
物事には始まりもあれば当然終わりってもんもある。
所詮は10分間の校内放送、意味不明な頭脳撹乱漫才も長続きなんてしやしない。
残り時間も2分をきるにあたり、いよいよ質問のほうも最後のひとつを残すのみとなったらしい。
『最後の質問。ペンネーム【微笑みの貴公子】から』
『あら、完全匿名制はどうしたんです? うふ、逆恨みでその人をどうにかしちゃうかもしれませんよ?』
『どうぞ』
『……
あ、いえ、なにもしませんよ』
『どうぞ』
『なにもしませんからね』
なにもしないと確信してるからなのか、それとも心底どうでもいいと思ってるのか?
残念ながら声だけでは長門の真意を汲み取ることは出来ないな。
ただ、もしこれが多数決制を採用しているのであれば、俺は間違いなく後者に一票を投じるだろう。
『それにしてもまさか【微笑みの貴公子】さんの質問を、わたし自身がこんなにまちかねる時がやって来るなんて思ってもみませんでした。
それで、内容はなんなのでしょうか? いつもと同じだとは思うのですが…』
『あなたは女性同士の交際に興味はありますか?』
『それはもちろん……
すみません。もう一度読んでいただけません?』
『あなたは女性同士の交際に興味はありますか?』
………
『「いつもと性別が逆ーっ!?」』
奇しくも俺と喜緑さんはまったくの同タイミングで同じ台詞を発していた。
『どう?』
『どうって、なにがですか!?』
『男性よりも女性に対して性的興奮を覚えるのか、どうか』
『覚えません! 覚えません! いやですね、この人ったら。なにをいってるんでしょう?』
『では参考資料として、幻の第3回をダイジェストで』
その声を最後に、スピーカーからは一切の音が失われてしまった。
うん、この2人が密室に2人きりになれば、このオチになるのは目に見えてたさ。
むしろ放送時間のほとんどを使いきったことのほうに驚嘆の念を禁じえないところだ。
人類の歴史は闘争の歴史。
いかなる時代においても一切の争いがなかった瞬間はない。
欲望の申し子。
生まれながらにして罪を背負うトガビト。
ああ愚かなりヒトという名のけだもの。
えー…放送室で宇宙的取っ組み合いを繰り広げているであろう2人は、欲望とは無縁の宇宙人製アンドロイドじゃなかったっけ?
2人にはトムとジェリーのエンディングテーマをぜひとも聴いてほしいもんだ。
ともかく、この放送を最後に、生徒会広報校内放送は打ち切りとなってしまったらしい。
さすがに喜緑さんも懲りたのかね。自分が穏便に暮らすためにはあの放送は邪魔にしかならないと。
とはいえ、いつも画一的な微笑みしか見せないあの人が、曲がりなりにもいきいきとしていた場所を奪われてしまうのは、少しかわいそうな気もした…
ここで話は冒頭へと戻る。
これもなにかの縁だしちょっと慰めてみるか、と、そんなこと思い立っちまったのさ。
ただの人間にすぎない俺に出来ることなんてほとんどないが、だからこそ出来ることぐらいは全力でやってやりたい。
長門も少しやりすぎたと反省しているのか、俺に協力は惜しまないそうだ。ありがたい。
方法はすでに決まっている。いや、むしろ喜緑さんの校内放送第1回が放送されたときには既にこれは用意されていたのかもしれない。
「この度はうちの長門が迷惑をかけてしまって申し訳ありませんでした!」
俺達2人は企業の新人研修合宿で教わるみたいな深々とした礼の敢行をもって最大限の遺憾の意を表明し、続けざまに、長門が小脇に抱えていたおみやげを差し出す。
「と、いうわけで喜緑さん。せめてものお詫びとして【微笑みの貴公子】の野郎を連れてきました。
こいつを使って、思う存分ウサを晴らしてください」
俺と長門は、せめて喜緑さんがストレスの発散を出来るようにと、サンドバッグをプレゼントすることにした。
やたら背格好やら顔やら声やらが古泉に似ている、【微笑みの貴公子】を名乗る変態だ。
え? 古泉本人だろうって? 馬鹿言うなよ、俺達の仲間にこんな奇人はいないさ、ハッハッハッ。
「んー…んんーっ…」
猿轡越しになにやらうめき声のようなものが聞こえる気もするが、些細なことに違いない。
無視を決め込んだ。
「わたしもやりすぎた。これはお詫び」
ガムテープで雁字搦めになっている【微笑みの貴公子】を喜緑さんに手渡しつつ、長門は陳謝の言葉を口にした。
長門がこれほどまでに素直なのには理由がある。
部室で長門に今回の話を持ちかけた際に「もし、お前が2度と本を読むな、って言われたらどう思う? 喜緑さんは今そういう状態なんだ」って言ってやっただけなんだがね。
「本当によろしいんですか?」
「んんっ!んーん」
「ああ、こんなんで良かったらいくらでもどうぞ。飽きたら捨ててくださって結構なんで」
「どうぞ」
「そうですか。こんなに気を遣っていただいて、わたしは幸せ者ですね」
透明だった微笑みに、幸福という名の色が染み渡っていく。うん、同じ笑うにしたって、こういうものの方が見ているこっちも気持ちがいいってもんだ。
幸せなエンディングの到来に、生徒会室の空気も暖かなものに取って代わる。
そうさ、トムとジェリーだって毎度毎度喧嘩ばっかしてるわけじゃない。世の中はバランスが大切なのさ。
仲良くできる相手なら仲良くしておくのに越したことは無い。きっと【微笑みの貴公子】も草葉の陰で貰い泣きしていることだろう。
「んー、んーっ!んんーんっ!」
猿轡越しになにやらうめき声のようなものが聞こえる気もするが、些細なことに違いない。
無視を決め込んだ。
これで終わりです
長々と連続投下してすみませんでした
うむ、苦しゅうない
スマンすごいタイミングで誤爆ったwwまだ読んでないんでGJなんて言ってあげないんだからっ!!
おお、続編まってました。相変わらず面白いね。
昨日話題になってた「小泉」ネタも上手く使われてるし。
流れをぶった切って悪いが、ハルヒと朝比奈さんを足して二で割ったような題名の作品って何だっけ?
マルチすんな糞
同じスレでマルチかよw なんて気の短いw
俺たぶん脳みそオカシクなったわ
他スレで見た記憶があるんだ・・・あまりに鮮明だったからまたこいつかよ!ってなった
冷静になって探してみたけどなかった
>>373すまなかった
あ・・・ここで見たのかっ!!盲点だった。ついキャラスレかVIPかとorzでもどっちにしろマルチではねぇや
>>369 ○ ○
○
O 0 ___
○ ,,,,,r' `ヽ、 0
/ ./,,, ,,,ヽ
__,,r--○ ● ● ヽ--、
( ///(__人_)/// O. ) 古泉バブルクイーンカワイソス
つ 0 ./
(_ ,,_ r─‐'
ヽ--------──'
流れをぶった切って悪いが、ハルヒと朝比奈さんを足して二で割ったような題名の作品って何だっけ?
>369
激しい頭痛がする(褒め言葉
383 :
220:2007/03/17(土) 06:39:00 ID:C3z+J1PV
すまん、暴走じゃなくて逆転だった
長門の表現が秀逸だったな
喜緑さんには是非とも女の子らしい趣味をもってもらいたいね。相撲観戦とか。
あとハダカデバネズミ養育とかしてたら萌える
>369
めがっさG!J!
マルチすんな糞
>>386 「あなたがたなど、所詮ただのモルモットに過ぎないのです」と言いつつ、モルモット飼育とか(w
>>389 ツンデレですか。
「ベ、別にあんた達の為にエサをあげてるわけじゃないんだからね!」
>>369 もしかするとだ、それは貴方が書かれていない回の放送を書いて良いと言うことか?
392 :
369:2007/03/17(土) 13:17:06 ID:xL/MW6ln
>>391 そりゃあ、まあ、止めはしませんけど…
でも、使えるキャラは残り少ないですよ
ENOZのメンバーとか使おうかとも思ったけど、あの人達3年生だったからもう卒業だし…
>>369 テンポよくて面白かったw微笑の貴公子は会長でおk?
395 :
名無しさん@ピンキー:2007/03/17(土) 14:22:47 ID:p2GtPg7x
純ちゃん・・・
同じネタで長いことSSを書いてると、ふと、くだらないネタが浮かんだりする
これは校内放送執筆中に思いついてしまった小ネタです
一応陰謀ネタではあるけれど、あまり原型留めてません
398 :
アジアコーヒ:2007/03/17(土) 15:19:42 ID:xL/MW6ln
「お客さん」
こう言われて俺と朝比奈さんのふたりは長門特製の夕食をご馳走になることになった。
室内に漂う数十種類の香辛料の匂いは、もはやインド料理というより立派な日本人の大衆食と呼ぶほうが相応しいメニュー、カレーのものに違いない。
俺も例外なく子供の頃からの好物であり、朝比奈さんが2人に増殖するという異常事態の渦中にあっても食欲を抑えることは出来なかった。
居間の食卓に並べられたカレーライス3皿。
だが、どうにも様子がおかしい。
自分の席に着いた長門が一言
「食べて」
と、つぶやき自分のカレーを切り崩していく。
だがちょっと待ってくれ、長門。この目の前のカレー、煮込み過ぎなんじゃないか?
具の人参とじゃがいもは角が丸くなっている、と言うより半ば粘体になってるし、ルーのとろみもカレーのものじゃない。これじゃまるでヨーグルトだ。
朝比奈さんもこのカレーを前にして冷や汗を流しているが、その原因は3人前はありそうなその量のためだけではないだろう。
「おかわりは自由」
きっと長門は気を遣ってそんなことを言ってくれてるんだろうが、これをおかわりする人間はいないだろう。
ふと、長門はなにかを思い立ったような顔をして席を立つと、冷蔵庫に向かって歩いていってしまった。
長門が傍にいない今がチャンスと思ったのか、朝比奈さんが俺に涙目を向けながら泣き言を言ってくる。
申し訳ないがその表情は可愛らしい以外のなにものでもなかったが。
「キョンくん…あたし、どうしたら…こんなにも食べられません…」
「む、無理することないですよ。別に残したって長門は怒りゃしませんよ」
「でも…せっかく長門さんがご馳走してくれてるのに…」
「長門の好意が気になるんでしたら、出来る範囲で食べてください。残りは俺がいただきますよ」
出来のほうはちょっとイマイチだが、それでも好物のカレーなら3,4人前食べるくらい容易いだろう。
「すみません。お願いします」
朝比奈さんに、お願いします、などと言われて断れる男などいるはずもない。
当然俺も男にカテゴライズされる生き物の端くれとして、しっかりとそのお願いを受理した。
399 :
アジアコーヒ:2007/03/17(土) 15:20:48 ID:xL/MW6ln
おっと、長門が戻ってきた。どうやら飲み物を出すのを忘れていたのに気付き、持ってきてくれたらしい。
長門が食卓に置いたそれはコップに注がれた水ではなく、ビン詰めのジュースだった。
色から判断するに、オレンジジュースだろうか?
「ネーポン」
長門が聞き慣れない単語を口にする。それがこのジュースの名前なのか?
「名前はネーブルとポンカンを組み合わせてネーブルと命名」
随分安易だな。
「1本300円」
「高いな、オイ」
1.5リットルのペットボトルが買えるじゃねぇか。このネーポンの内容量はせいぜい500cc程度だってのに。
しかもこのネーポン、ビンにでかでかと、黄色4、黄色5って書かれてるんだが…
添加物をここまで堂々と表示するとは、売る気があんのか?
「この黄色4とか黄色5っていうのはなんですか?」
「合成着色料のことですよ。長門、悪いが他のはないか? なんか工業製品を飲まされるみたいで、いい気がしないもんで」
「わかった」
「ほんと、わがまま言っちまって悪いな」
再び冷蔵庫に向かう長門に向かって俺は謝っておくことにした。
そうだよ。これは長門が悪いんじゃない。製造してるメーカーが悪いんだ。
「どうぞ」
長門が再び戻ってくる。
食卓に置かれ差し出されたそれは、コップに注がれたジュースだった。
外見はさっきのネーポンによく似ている。
「ミスパレード」
長門がまたもや耳に馴染みのない単語を発する。
口に流し込んでみると、やっぱりオレンジジュースの味がした。さわやかな果汁の味は確かにカレーに合うのかもしれない。
「美味しいです、長門さん。ありがとうございます」
朝比奈さんもご満悦の様子だ。
「ちなみに中身はネーポンと一緒」
「えー!?」
え?
それってどういうこと?
「ネーポンとミスパレードは内部の液体の組成になんの違いも見られない。ビンが違うだけ」
「なんじゃそりゃ」
製造メーカーの考えていることがまったくわからない。
朝比奈さんも過去世界の不条理な商売にすっかり呆れてしまっているのか、目が点になっている。
「ちなみにミスパレードは1本250円」
「なんで値段が安くなるんだ!」
首を傾げる長門。買った本人にもわからないらしい。
ネーポンとミスパレード。この飲料にまつわるミステリーは、なんでも知ってるインターフェースでさえ解き明かせないらしかった。
カレーと言えば、煮込みすぎのインドカレーのアジアコーヒ
ただそれだけのネタです
>>399 「名前はネーブルとポンカンを組み合わせてネーブルと命名」
→「名前はネーブルとポンカンを組み合わせてネーポンと命名」
脳内修正お願いします
世界超偉人1000人伝説思い出した
14年も経つんだな
>>275 人間らしい仕草や発言や態度をとる長門の姿を読むのは、キョンでなくても嬉しいものです。
彼女をも恐怖に陥れた幽霊の正体が雪山の館の主に類するものかTFEI端末に感染する情報生命素子かはわかりませんが、我々はそれに感謝すべきでしょう。長門には悪いですがw
気になった箇所と致しましては、誤字脱字や若干キャラの異なるキョン語りは他の方々が注意されているので省くとしまして、
長門に泣きつかれるなんぞキョンにとっては度肝を抜かれるどころの騒ぎじゃない、驚天動地青天の霹靂旅行鳩にデザートイーグルなはずです。
それを「怖い夢でも見た」と(長門がどりーむするかどうかも悩まず)結論づけてしまうのは、あっさりし過ぎだと思いますね。
さて長門は人間的な思想であるあの世とこの世という概念を認識しているのでしょうか。「アンドロイドは三途の川を渡れるか?」
>>369 おやおや、これでシリーズ終わってしまうのですか。続きが来てないかと毎日楽しみにリロードするシリーズでしたので、残念です。
毎回、そして今回も、コーヒーを口に入れるタイミングに気を払わねばならないほど楽んで読ませてもらったというのに……。
小ネタはもちろんさすがですが、インタビュアーが最終回ではゲストとなるのはまさにこうした番組のお約束でうまいと思いました。
そこで長門を相手役にしたのも、書きにくいと思われたみくると「小泉」の回を回想で流したのもいいですね。
ただ……最後とはいいましても、伏線が薄めの「SS書き」という現実ネタはどうかと。
意見の分かれるところではありますが、さしたる必然性もなく書き手本人(からの質問)が作中に登場したように思え、微苦笑してしまいました。
それから、キョンの回が他と比べてネタ的に弾幕薄いぞ何やってんのと感じましたし、長門による裏話のほとんどが場面繋ぎの文章に費やされたのを見れば、
一つの作品で、キョン一人称、それとテンポを保った三人称の同時進行として書くのも良かったのではないかと思います。
どこかで書きましたが、一本の話をわざわざ複数本の薄めの話にしてしまうのは、本末転倒、鶴仙流三つ目男の四分身だと思いますので。
ラストが喜緑さんを慰めるシーンで終わったのは素晴らしいと思います。ですが、結局「微笑みの貴公子」からの質問で終わってしまったのが、尻切れトンボの学生服で残念。
(もっとも、あの質問が本当に彼からのものかどうか疑問ではありますが)
キョンへの質問が実質ゼロだったのも、不思議といえば不思議でしょうか。SOS団身内からはもとより、ここぞとばかり団被害者からの苦情が殺到しそうなのに。
ま、しかし、世間は思いのほか常識的ということでしょう。キョンを叩けば危険値MAXの悪魔がやって来そうですから。
それにしても長門はよほど監視役に鬱憤が溜まってたのか、機転を利かせたりいろんな単語並べたりしてよく喋りましたね。小説読み尽くして漫画とテレビ漬けの不良っ娘となっていないか少々心配です。
ともあれ、お疲れ様でした。幾度となく笑わせてもらい、ありがとうございました!
>>400 舞台的にタイムリーなネタですね。アジアコーヒに続き、ネーポンも消えてしまうとは。
ところで、長門にレトルトカレー以外のカレーが作れたのですか、ってこれはどこのネタですかね。
ああキョン、長門の手料理そしてみくるの残り物を食べられるとはなんと羨ましい。
肝心なところでミスしてますので、
>>275氏と同じく、次は推敲じっくり!
ただの感想のくせに悪ノリしすぎました。今は反省しています。
正直、びっくりした
正直、わろた
>>403 的確な感想と忠告、ありがとうございます
現実ネタは…仰る通りです。ぶっちゃけ、質問数を稼ぐために無理矢理入れました。やっぱ削っときゃよかった…
アジアコーヒはこのネタのために調べてみたんですが、阪神大震災で倒壊していたんですね
ネーポンも工場が閉鎖とのこと
超偉人伝説を見て爆笑させてもらった身としては、残念としか言えません
そういや長文感想の人は書き手なのかな? 作品読みたい。
感想なのに文字制限の3/4とか小ネタSSより長いじゃねーかw
どこまで長くなるか楽しみになってきた俺ガイル
最終的には感想だけで10レスぐらい使うようになるんじゃないか?
最終回の長門が、いつの間にかグゥで再生された俺はおそらく間違っていない。
…俺だけ?
>>407 長文感想につられて、俺も真剣に読んじまいましたよ。
まず、三人称への導入は上手いと思った。ボクセカ読んでるとニヤつけそうな、雰囲気を似せた筆致もあるなあと感じた。
鶴屋は鶴屋さんでもいいかなと思う。一度目に「長門っち」なら同じ場面で二度目に「有希っこ」とは呼ばないかもしれない。
俺だったら「有希ちゃん」かなあ。
ハルヒとキョンが同席する必然性があるかどうかわからないけど、
長門のレッツシミュレーションは可笑しかった。そこまでの長門さんの積極性は本編では望めないだけに、パロディとして面白いと思う。
399円のカツカレーにリアリティを感じる。これは実際そうなのかな? 放送室の作り、モデルとなった西北ってほんとにそうなの?
あと放送作家に恩云々というのは、なにかの元情報があるのでしょうか。
みくるたちのクラスとの関連なんて考えたこともなかったけど、ああいうネタを入れること自体は俺は面白いと思う。
それからポットに入れた喜緑さんのウーロン茶、時期的にはホットのほうが自然かもしれない。サウンドアラウンド以降新学年以前ならば。
そういえば、新駅の話題で夙川がニュースになってますな。桜もちかい。
あそこってなぜか錦鯉が泳いでるのね。ハルヒや津波あたりが見つけたら、捕まえなさいとか言い出しそう。
ここで意味無く、俺は煮込み過ぎでどろどろのカレーが好きだー、と叫んどく
俺も、水っぽいカレーよりドロリとしたカレーの方が好きだな。
私もどっちかってーとそうかな。
ま、どうでもいい話だがな。
汗が出ないカレーを誰か作ってくれ
いきなり変な話だが、
内容問わず、このSSのタイトルは好き、ってのある?
いや、なんか自分がどうも納得いくタイトルが付けられなくてな。
冷えたカレーの王子さまでも食えばいい
記憶に残るような特徴的なものならなんでもおk。
たくさんのSSの中からでも見つけやすいのが嬉しい。
個人的には英語のタイトルは見つけにくい&印象に残りづらい
英語である事に意味を持たせているなら構わないんだが、「ちょっとかっこつけてみました」的なのは…
コンピ研のゲームのことか。
少年オンザと悲単調ラブロマンスだけはガチ。
タイトルだけみてハルヒと直結してないのって好き。
個人的にはね。
(登場人物名)の○○とかは数が多くて、インパンクトに欠ける気がする。
古泉一樹のある種の罠がおすすめ
感動する超大作だ
投下させていただきます。4レス予定
「早熟な女と無邪気な男」
「おーいっ!」
忘れ物に気付いたのは彼女が家を出た直後だったのですぐにその後ろ姿を発見することができた。呼ばれた少女は自分の名前が呼ばれ
たわけでもないのに立ち止まってくるりと振り向いた。俺と目が合うと爽やかな笑顔を向けてくる。が
「スカート忘れてるぞぉーっ!」
紙袋を高々と上げぶんぶん振る俺の姿に一瞬のうちにその笑顔が消失し、目を丸くして
「や、やめて下さいっ!」
周りを気にしながらパタパタと走り寄って来て俺を軽く睨んだ。
「どうした?」
目を三角にして俺の顔を見つめているがその澄んだ瞳は右を向いたり左を向いたりしている。
「ひっ人が聞いたら変に思うじゃないですかっ!」
変?俺は単にキミの忘れ物を届けに来ただけなんだが…。それともやっぱりうちで洗濯したほうがよかったかな?
「うう〜っ」
顔をいちごの様に真っ赤にしながらミヨキチが唸り出した。
「も、もう知りません!さよならっ」
プイッと踵を返し足早に去っていってしまった。
「お、おい?」
俺何か怒らせるようなことしたかな?
話は二時間ほど前に遡る。
俺は自分の部屋のベッドの上で本を読んでいた。長門から借りた本でタイトルは小難しいアルファベットの羅列でよく解らないが日本
語訳のその中身は意外と興味深く『男性は生れつき一夫一婦制にむいていない』ということについて熱く述べられていた。
「キョンくーん」
いつものようにドアをノックせずに妹が入って来た。ようやく読書に集中し始めてきたところなのに、チェンジアップのような横槍を
入れてきやがる。
「ケーキ!ケーキ!」
なんで俺が理由もなくお前の為に自分の財布の紐を緩めなきゃならんのだ。世の中には否応なく俺の財布の紐を引き千切る女もいるが
我が妹にはそんな風になってもらいたくない。
「ちがーう!ミヨちゃんがケーキ持ってきたのおーっ!」
俺はここに至っても妹の姿を一瞥もしていなかった。とりあえず俺が散財する心配は無くなったし第一俺は今腹が減っていない。冷蔵
庫の中にでも入れておいてくれればあとで食べる。
「だめっ!一緒に食べるのっ!」
ああうるさいな。何だって今日に限って俺と食べたがるんだ。いつもならどさくさに紛れて俺の分まで食べそうなくせに。
纏わり付く妹にうんざりしてきて部屋から追い出そうかと思った時、部屋の入口の方からもう一人の声が聞こえて来た。
「あの…お腹が空いていないのなら今でなくても…」
小さな声だが、とても聞き取りやすい声だ。
「…あー、キミか。来てたのか。」
「こ、こんにちは」
妹を通り越して俺の視界に入ったのは、廊下から体半分だけ出して部屋の様子を窺っているミヨキチの姿だった。
「ねっ一緒に食べるよね?」
妹にウインクされたがケーキを持って来てくれた本人の前で邪険にもできまい。
「わかったよ」
と答えることにして台所に移動した。
ミヨキチが持ってきたのはモンブランとイチゴショートケーキだった。しかし俺はそのモンブランにどこか見覚えがあった。
「ミヨキチ、これー、」
ミヨキチは小さく俺に笑いかけてきた。やはりそうか。いつぞやの映画の帰りに寄った喫茶店。あそこのケーキか。
テーブルの椅子に座るとミヨキチは俺にモンブラン、自分達はショートケーキという分け方をした。俺はちょっと考えた。俺にモンブ
ランをよこしたということは以前自分が食べた時おいしかったからその味を俺にも知ってもらいたいという意思の表れなのかと。ミヨ
キチの顔を見るとまた微かに笑いかけてきた。なるほど。悪い気はしない。モンブランの味に期待していいということだな。俺がうな
づくとミヨキチは嬉しそうな顔になった。しかし
「むっ、二人してなに見つめ合ってるの?」
ジトッとした目の妹に割って入られると慌てて俺から目を逸らしてしまった。
「キョンくんミヨちゃんに何かした?」
次に俺をジロリと見てきた。つまらん想像してるとおまえのケーキ食っちまうぞ。妹の分のケーキが乗った皿をひょいと持ち上げると
妹がぴょんぴょん飛び跳ねて皿を掴もうとする。
「だぁーめっ!あたしのケーキっ!」
かくして俺からケーキを取り戻した妹と共にミヨキチ持参のケーキをご馳走になることとなった。
「うん、うまいよこれ」
「本当ですか?よかった」
ミヨキチの笑顔が見たくて言っているのではなく、確かにモンブランはうまかった。甘すぎないのでフォークの進む速度が落ちること
もない。しかしあの時ミヨキチはモンブラン一個で済ませていたが本当に足りていたのだろうか?男の俺には一個では物足りないのは
否めない。
テーブルを挟んで向かいに座る小学生二人組は一方がケーキを角砂糖ぐらいに切り取ってちょっとずつ口に運んでいるのに対しもう一
方は口の周りをクリームだらけにしてある意味ケーキ職人を喜ばせるような食べ方をしていた。同い年、同じ女の子でどうしてこうも
違うのかと内心溜息が出るってもんだ。口に出さないのは妹への思いやりだと言い訳しておこう。
「あれ〜っミヨちゃんどうしてそんな少ししか食べないの?」
ミヨキチのフォークが止まった。妹はさらに続ける。
「いつもならミヨちゃんもっとがつがつ食べるのに」
「えっ?え?」
口の周りについたクリームを指で取りながら話し掛けてくる妹に明らかにミヨキチは動揺した。俺の顔をちらちら見ながら
「な、何言ってるの?私いつもちょっとしか食べないよ?」
「え〜っ?」
指についたクリームをペロペロ舐めながら話す妹の言葉にどれだけの説得力があるというのだろう。俺はミヨキチが小食であることは
以前目と耳で確認しているのだ。
しかし女というのは変なとこで勘が鋭くなるようである。
「あっ解った!キョンくんの前だからだ!」
クリームの残る指先を俺に向ける妹の姿にミヨキチの目が泳ぎだした。
「ち、違うもん!お兄さん、違いますう!私、わたし普段から小食でっ」
いやミヨキチ、その慌てっぷりから自供したも同然だぞ。あとフォークを振り過ぎてケーキのスポンジが散らばってるから。
「あはっ、ミヨちゃん照れてるっ!」
「照れてなんかなぁーいっ!」
まあミヨキチいいじゃないか。俺聞いたことあるぞ。異性の前だと女の子って小食のふりをするっていう、あれだろ?
「おっ、お兄さんっ!」
俺の言葉にそれこそ湯気が出そうなほど真っ赤になったミヨキチはテーブルをバンッと叩いた。しかしその衝撃で
ベチョッ
「あちゃー…」
ミヨキチのデニムのスカートがクリームだらけになっていた。
「ど、どうしよう」
布巾を探すミヨキチに
「待った。こういうのはこするとよけい広がっちゃうから」
俺はまずスカートの上に乗っかっているクリームの塊を取り除くことを優先させた。ミヨキチはケーキをまだ1/3ほどしか食べてい
なかったのでスカートについたクリームの量もそれなりに多かったのだ。俺はスプーンを持って
「じっとして」
「はっ…はい」
しかしなぜかミヨキチは俺がクリームをすくい取ろうとスプーンで触れるたびビクッと震えた。スカート越しでも冷たいのか?クリー
ムが広がらないようゆっくり取り除いていったが、小刻みに体が震えているのがスプーン越しに伝わってくる。ミヨキチの顔を見ると
目を閉じて歯を食いしばっていた。
「ミ、ミヨキチ?」
「はっ、はいっ。…ふっ」
呼吸も少し荒くなっている。
「予防注射じゃないんだから、もっと楽に」
「ふはっ…すみません…」
ミヨキチは頬を赤らめて大きく息を吐いたが、最後まで体が震えているのが収まることはなかった。
妹はというと、その横で手伝いもせずただニコニコしながら俺達の様子を眺めているだけだった。
その後クリーム自体は取り除いたもののスカートに染み込んだ部分は洗濯しなくてはならないということになって、一旦妹のスカート
をミヨキチに貸すことになった。
妹の部屋から戻って来たミヨキチの姿を見て俺は久しぶりに腹の底から笑った。見慣れた妹のロングスカートが、ミヨキチには膝が少
し隠れるくらいのごく普通のスカートになったのだ。
「キョンくんのばかあっ!」
頬を膨らませてむくれる妹だったが、自分のウエストにぴったりだったスカートをミヨキチがはいたら拳一つ分ほどのゆとりができて
しまったことの方がショックだったろう。しきりにお腹を触っていたしな。
「さあて妹に笑い殺される前にミヨキチのスカート洗うか」
俺が椅子から立ち上がると
「いえっ!そこまでしてもらわなくてもいいですっ!」
俺の前に両手を開いて突き出しぶるぶる振ってきた。
「遠慮するなって。スカート貸してみ?」
しかしミヨキチはかたくなにスカートを渡そうとしない。
「今日はこのスカート借りて帰りますから!ちゃんと洗濯して返しますから!」
やけに必死になっているミヨキチを見てこれ以上は無理強いになるなと思い彼女の申し出を受けることにした。
ミヨキチはほっとした顔をしていた。
これがさっきまでの出来事だ。
今のミヨキチの反応といい、さっきまでの様子といい、今日のミヨキチはどこか落ち着きがなかったな。小学生にしては礼儀正しくて
上品、というイメージが強かったからこんな一面もあるのかと思うと少し新鮮な気持ちになる。
まあ妹ほどくだけた感じになられるのも困るがね。
「おい、待ったミヨキチ!」
物思いに耽っている場合ではない。本来の彼女を追って来た目的を思い出した。
「スカート!スカート!」
ミヨキチの肩がビクリと跳ね上がったのが解った。再びくるりと振り向くと今度は俯いたままずんずんと戻ってくる。俺は笑顔で
「このままスカート忘れて行かれたらここまで来た甲斐が、」
ドスッ
俺は最後まで言葉を発することができなかった。なぜなら、ミヨキチからみぞおちにボディーブローを喰らっていたからである。
ミヨキチ…こんな一面までは見せなくてもいいから…
終わり
以上です。5レスいってしまいました。ご容赦ください。
>>417 ・長い英字でも、あえてアルファベットではなくカタカナを使う
(少年オンザグラウンドゼロ、ワンセンテニアルユキ、サマーデイトアグリーンデイ、イヤーズクリーンコンサルタント等)
・「登場人物」の○○でも、意外性があってインパクトがあればよし。
(喜緑江美里の校内放送シリーズ、生徒会長のシリーズ、長門有希さんシリーズ等)
・タイトルが一節の文章
(けれども彼女は立ち止まらずに、たとえばこんな世界改変、校庭は、いつにもましてパーフェクト等)
・ダブルミーニング以上の捻ったタイトル
(二涼辺三角関係、高速暴走三人乗りーズ、非単調ラブロマンスは微睡まない、フラグの王様等)
こういうのは、まとめサイトでクリックしたくなる。
>>430 ミヨキチ好きの俺にはGJとしか言えないぜ
乙!
そういや、スカートを返すネタ、確かドラえもんであったな。
しずちゃあん
スカートわすれた!
あれだな、ええと、『つかまえたぞ、やわらかいぞ』という名言の回だな。
いたずら電話で出木杉が成績不振になるやつ。
道具の名前忘れた。
>>430 さりげなく読みやすかった。
ミヨキチの最後の照れ隠しが強烈で良い。
鈍感だからな… キョンは。
書き込みついでに質問だけど、今のところ最大長編のSSってどんなのがあるのかな。
古泉一樹〜罠か? それとも微笑か?
ただ聞きたいだけで深い意味はないんだけど。
微笑と罠なら罠の方が倍近く長かったかと。
俺実は罠が長すぎてまだ読んでない。
オススメ?
オススメかオススメじゃないかは読めばわかる。
読書感想文のために読んでるような気持ちになるぞ
罠は前にも言ってたけど文庫本にすると…どれくらいだっけ?
つうか、罠は誰かあらすじを書いて貰えるとすごくありがたい。
まぁあらすじだけでも10レスは行く気もするがな
>>437 ありがと。微笑の方なのか。読んでてあんまり気にならなかったが・・・
倍も違うというのに罠の方が長いと錯覚したのはなぜだろう。
>>440 あー・・・ なるほど。
>>443 なんだ不思議に思っていたのは俺だけじゃなかったのか。
なんか改変されたのかと思ったよ。よかった。
悪い
素で勘違いしてた。
>>443 俺もおかしいかと思ってたけど、あんまりすんなり書いてるから日本語の意味が変わったかと思ったよ
微睡まない
↑↑↑
読めない
dくす
「……やくい?」
ソレはみどろだ。
>>451 IDが変わっただけじゃないのか?日付変わって3分程度だと前の日のIDが残ってたりするし。
ぁ、そうか。ごめん、日付変わってるの気がつかなかったんだぜぃ
誤爆すまん
お前らバロスww
>喜緑江美里の校内放送シリーズ
まず原作の流れならばありえないが、切り口鋭く字面滑らかな語り口。
まさに二次SSの醍醐味で楽しかった。お疲れ様
原作を読み返して驚くんだが、意外と朝比奈さんって敬語使わないんだな
「味わって飲んでくださいね」ではなく「飲んでね」とか、細かいところまでは見てないが
そんなの人によるだろ
敬語っていうか丁寧語な。
まぁ一応、上級生なんだし…ホントに年上かどうかは疑問だけどさ。
喜緑さんの口調も二次創作読みすぎたせいか早読み読んだときにちょっと違和感があった。
古泉も含めて原作は結構フランクな口調がそれなりに散りばめられてるよな。
原作の古泉って喋りすぎだからそこまでかっこよくないのが好き。
461 :
名無しさん@ピンキー:2007/03/18(日) 15:02:49 ID:FmSrMjSS
しかし言いたい事はなんとなくわかる
言わなくてもいいこと言いすぎなんだよ原作のはw
アニメは余計なシーン抑え気味だから普通にかっこいいけど。
伝わらなかったらまぁそれでもいいさ。
余計なことを言うってのが古泉のスタンスな気がするな。
こんなとこもあるんですよって、とりあえず言っとけ、みたいな。
格好いいキャラ設定にしたかったわけじゃないんだろうから、
そんな格好良さ基準で原作に文句付けられても困る。
「斜め読みしたくなるほどくどいのが古泉」って作者が言ってるんだから。
古泉は3行で済む話を30行かけて話そうとするタイプだろ。
アニメじゃ時間の都合上あの回りくどさは余り発揮されんが。
でも分裂の先行ではいつもより回りくどくない気がする。
あくまでいつもの古泉と比べるとだけど。
そりゃあ「疲れ果ててていつもと様子が違う」という設定だからな。
「有希、ちょっとちょっと」
ホワイトボードの前でハルヒが手招きしている。
『ったく人が読書中だってのによぉ邪魔すんじゃねえよいつもお前の我儘に付き合わされてるこっちの身にもなってみろよ張っ倒すぞ』と内心思ってるかどうかは知らないが、呼ばれるままハルヒの方へ近付いて行く。
「ちょっとここ立って。んーんこっち向きで」
キュポン キュッキュッキュッ
ハルヒがホワイトボードの長門の顔の横あたりに、Mを横にしたような、っていうかギザギザの線を書き入れた。
「キョン、見て見て! じゃじゃじゃじゃーん! どう?」
「……どうって言われても、お前が何をしたいのかがわからん」
「あたしさー、一回でいいから有希のびっくりした表情を見てみたいと思って、実際過去何度か勇猛果敢にチャレンジしてみたんだけど、いずれも敢え無く撃沈したもんで、今回このような最終手段に訴えてみました」
「……ああ、そう」
「何よそのリアクション! 腹立つわ!」
「だってお前……それじゃ長門がびっくりしてるわけでもなんでもないし、だいいち表情は変わってないだろ」
「んでもびっくりしてるように見えない?」
「……あー、確かに」
口論するのも面倒臭いので同意しておくことにしよう。
ま、こんなくだらないことでハルヒが満足してるうちは世界は安泰だし、長門が実際にびっくりした表情を見せる時は世界が崩壊の危機に晒された時であって、そんなものは見たくない。
――翌日
「キョン、キョン、キョーン!」
「なんだお前はうるさい。ジャングルの奥地に居る野鳥か?」
「見て見て!」
長門の背後には、今度は記号でなく、ひらがなが四文字書かれていた。かわいらしい丸文字で。
「『うきうき』してる有希。どう?」
「……それはちょっとかわいい」
「でしょっ?」
( ゚д゚)
Σ ( ゚д゚)
うきうき ( ゚д゚)
……で?
( ゚д゚)b ユニーク
>>465 原作に文句つけてるつもりないんだけど……もういいさごめん。
流れぶった切って投下します
15レスです
我々高校生にとって寝床からの脱出までのわずかな時間、これがどれほど大切なものかは容易に想像できるであろう。
「キョンくん、朝だよ〜」
おふくろ自慢の使い魔であるちんちくりんはそんな大切な時間を潰しに来る。
「キョンくん、起きて〜」
流石に一年間謎の集団による東西南北奔走劇の為に幸か不幸か鍛え上げられたお兄ちゃんのぼでぃーはそんな攻撃じゃ
ビクともしないさ。これくらいならちょうど良いマッサージにしかならないね。
俺を起こしたいなら神の御手により精製された朝比奈印のお茶を持ってくることをお願いしたい。朝比奈さん付で。
「もういいもん! 仲間呼ぶから」
そうすれば起きながらにして夢の世界へ突入するくらいの満足感を味わうことが出来るし、これから始まるであろうハルヒによる
俺の春休み占領計画について深く考える必要もなくなるぐらいの幸せを朝から感じることが出来るだろうに。
まぁ実際どうなるかはまったく予想できないのだが。
「鶴ちゃん! いけ〜」
そんなお兄ちゃんの気持ちを少しも分かろうとしない、成長スピードが著しく遅いと思う妹なのだがもう少し静かにしてくれないものかね。
最近やたら疲れているので体力回復がまったく追いつかんのだからその辺をもうちょっと考慮してもらいたいものだ。
「よっしゃっ、任せとけっ!」
てっ! ちょっと待てっ! 脳内グダグダ駄々こね会を強制終了し、今、目の前に迫り来る現実という名の恐怖から身を守らなければならない。
「ちょっと待ってくださいっ! 起きましたからっ! 目覚めましたからっ!」
「にょろ〜ん」
「まってくげふっ……」
満開鶴屋
晩飯も食い終わり、さて、このあと残り少ない一日をどうやって潰すかと考えていたのだが、
どうやら俺の周りには俺への配慮がかなり素晴らしく欠如しているらしく、家族内での俺の立場もパシリに近いものを感じる今日この頃。
なぜだろう? 古泉辺りに言わせればこれも神様であるらしい天上天下唯我独尊娘のせいだ、
こんな内容を起きながらの寝言という妙技で披露してくれるだろうが生憎、俺は涼宮教信者ではないのでお決まりの定型文句で
うまく受け流させていただくことにする。いくら暇だからとはいえ古泉のことを考えていた自分に少し鬱になりながらも目的の獲物は
ゲットできたのでこの面倒くさいパシリもようやく終わりを迎えるであろう。そんな矢先、
「あれっ、キョンくんじゃないかっ!」
後方より真っ暗な住宅街に早すぎる夏をお届けします、みたいな明るい声が俺に聞こえた。
「あぁ、鶴屋さんじゃないですか。どうしたんですか? こんな時間に」
声の持ち主は鶴屋さんであった。分かってたけどね。
「いや〜困ってたんだよっ! 道が分からなくてさっ」
いくら周りが住宅街だからといって迷子になるお年ではないだろうに。
「どこに行きたいんですか」
「みくるん家」
よし、お供しよう。そのままお泊りさせていただくとします。
「で、住所は」
「知らないんさっ」
またまたご冗談を……そんなんで見つかるはずがないだろうに。
「本当なのさっ。みくるに住所訊いたんだけど忘れちゃってねっ。んで、電話しながら探すっかなぁ〜、
なんて考えてたんだけどつながらないんだよ。そんで迷子ってわけっ」
ゲラゲラ笑いながらすべてを自白している上級生。なかなか深刻な状況でどうしたらそんなに明るく振舞えるのかね?
今度秘訣を教えてもらいたいものだ。
「教えられないから秘訣って言うにょろ〜」
大爆笑 どこがツボか未だに分からない。そもそもツボだらけのような気もしないでもないが。
「じゃあとりあえず一度家に帰ったらどうですか」
ま、普通こんなもんだろ。しかし、一年経ってもまだ分かっていなかったらしい。フツウってなんですか?
「それが出来たら苦労しないんだよっ。」
そんな予想外の言葉が返ってきた。孫さんもビックリもんだね。
「何でですか?」
「これには深い事情があるんだっ。教えてあげてもいいけど責任とってくれるのかいっ?」
下から俺を見上げながら笑顔でおっしゃった。間違いなく一年前なら躊躇するところだが、凄まじい経験値を手に入れ続けた俺はひるまない。
うれしいかうれしくないかは微妙な自慢だが即座に返事をすることにする。
「深い事情には精通してるんですよ。そもそも目の前で困っているのに見捨てられるほど人間落ちぶれちゃいませんしね」
それに鶴屋さんにはとてもお世話になっているしな。
「そっかっ……」
先ほどと打って変わってだんまり鶴屋さん。間違ったこと言ったのかね?
「……じゃあさ」
少しの硬直時間があったものの、まだ少し沈んでらっしゃる。
「キョンくんの家に泊めてもらえないかい?」
「……はい?」
なぜ? なんの前触れもなくこんなことを言われているのだろう。誰か分かる人はいませんか?
替え玉として俺の非日常に参加させてやる特別サービスだ。
「ダメかな?」
ダメも何もまだ理由を聞いていないのですが。
「一言で言うと仕来りなんだよっ、鶴屋家の」
流石お金持ちのお家のお嬢様である。仕来りってそんなものがあるのか。カルチャーショックを受けているよ、現在進行形で。
我が家にもあるのかね? 仕来り。
「鶴屋家の頭首たるもの様々な状況において的確な判断が出来なければならない。
そのため友人宅で半月間心身共に磨き上げよ、てわけさ」
なるほど、俺のちっぽけな脳みそでも大体把握出来てきたぞ。
「んで、みくるの家にお世話になるにょろ〜、て約束したんだけど家分かんないし連絡取れないしめがっさ困ってたわけさっ」
「それで何で家に帰れないんですか?」
「それは、今日から半月間自分を磨いてくるっさっ! て出てきちゃったんだよっ」
本当にそう言って出てきたかは定かではない、というか本当だったらかなりまずい気もするが。てかそれより、
「じゃあ家に帰れないじゃないです!? 今日はどうするんですか?」
「だからキョンくんに頼んでるんだよっ! このとーりっ!」
さてどうしたものかね。まさかお使いの帰りにこんな珍事件に巻き込まれるとはノストラダムスも予知できなかっただろう。
そんな現実逃避気味のモノローグを展開しつつ、鶴屋さんのつむじを眺めていた。さらさらの黒髪が街灯の光に照らされて
より一層美しく見える。
「……わかりましたよ、鶴屋さんにはお世話になっていることですし」
本当ならすぐにでも長門に連絡してどうにかしてもらいたい気持ちでいっぱいなのだが、長門には迷惑を掛けたくないと誓ってから
まだ二ヶ月強である。気持ちだけでなく、行動に移さないといけないからな。これくらいなら俺にもどうにかできそうだ。
「本当かいっ! キョン君のおかげで助かったさっ!」
そう言うと満面の笑みで答えてくれた。これは相当参ってたんだろうね、いつもの笑顔の三割り増しという素晴らしい笑顔を
披露してくださった。鶴屋さんのローからハイになるまでを眺めていて、
普段からどのくらい自分に嘘ついてがんばっていらっしゃるのだろうか?
なんてことが頭を過ぎった。
「じゃあ案内しておくれよっ! 流石に冷えてきちゃったしさっ」
「そうですね、こっちですよ」
もうすぐ春休みなのだが夜はまだ冷え込む。そんな中俺の隣を元気良くつったかつったか歩いているお方はどのくらい外にいたのかね?
そんなことを考えているとあることに気が付いた。
「そういえば鶴屋さん荷物少なくないですか? それに制服だし」
半月泊り込むと言っているのに明らか荷物が少ない。
「必要最小限以外は現地調達なのさっ!」
そう言って鶴屋さんは笑顔のまま走り出していた。見当違いの方向に。
やれやれ
あの後お使いに行って女の子を持ってきちゃったの? なんて言われたが事情を説明すると鶴屋の名前を知っているらしく、
へいこらしていた。そんなに有名だったのかね? しかし鶴屋さんは、
「居候は居候らしく扱って欲しい」
の言葉の通り、普通に接していた。というかすぐに打ち解けてしまっているのが鶴屋さんのすごいところなのだが。
妹の事は言うまでもなく懐いていて、鶴屋さんを見つけると核弾頭のごとく凄まじい勢いで鶴屋さんに飛びついていた。
そんなやり取りを見ていて時間も遅く、今日の疲れが出てきたのでさっさと寝ることにした。鶴屋さんも疲れているらしく、
諸々の事情は明日説明するっさ、なんて言いながら寝ることにしたらしい。そんな鶴屋さんが
「一緒に寝てくれないのかいっ? それじゃあ少し困るんさっ」
なんて言ったのをこっそり言い包めたのは二人だけの秘密であって欲しい。
そして冒頭に戻る。朝から鶴屋ダイブをみぞおち――みずおちとも言うんだっけかな――にくらいつつ、
重い体を引きずりつつ朝食をいただくことにする。
「キョンくんおはよーっ!」
朝から元気な鶴屋さんのごあいさつである。
「おはようございます、鶴屋さん」
「キョンくん、キョンくん、おはよー」
「今日の朝ごはんは何かな?」
「キョンくん、おはようは〜?」
お前には抜きだ。お前のせいで朝から重症だからな。そんなやり取りを見ていた鶴屋さんは、おもしれ〜、なんて言いながら
腹を抱えて大笑い中である。そんな中食卓に着くといつもより豪勢な朝飯に気が付く。こんなところで見栄を張ってどうするのかね?
いただきますを声高らかに宣言しつつ、食事を開始する。このさいグズル妹は気にしないことにする。
しかし、違ったものが気になってしょうがない。
「………………」
笑顔の鶴屋さんと緊張が隠しきれないマイマザー。そんな二つの視線と妹の発するBGMのトリプル攻撃による食事。
正直、たまりません。
「今日のご飯はどうかなっ?」
不意に鶴屋さんがそう尋ねてきた。どうかなと言われましてもね、俺にはグルメリポーターみたいなコメントでも期待しているのだろうか。
「いつもより凝っていておいしいと思いますよ。まぁ鶴屋さんのお口に合うかどうかは分かりませんが」
次の瞬間そんな二人のハイタッチ。もう何が何だか分からなくなってきた。というかそろそろ機嫌を直したらどうだ妹よ。
そんなことぐらいで拗ねてたら鶴屋さんみたいになれないぞ? まぁハードルが高すぎてくぐれる気もするが。
「実は今日の朝ごはんはあたしが作ったんさっ! めがっさがんばったにょろ〜」
なるほど、どうりでやたら視線を感じると思ったわけだ。
「さあさあ、もっとお食べっ!」
朝からテンションMAXなのだが今日一日持つのだろうか。たぶんハルヒと同じで体内永久機関があるのだろうから
心配することはないだろうが。どちらかと言うとそんな二人と一日中一緒だと思われる自分の体力のほうが気になるくらいだ。
さて、どうしたものかね。
「いってきまーすっ!」
そんな元気なあいさつをかまし我が家を後にする。まぁ言ったのは鶴屋さんなのは常識の範囲内だと思う。
ちなみに俺の相棒はお家でお留守番である。なんせ鶴屋さんとの登校なのでチャリは使用できないからな。
それを見越しての早起きだったらしく、いつもの慌ただしい登校と違いのんびりと優雅に春の訪れを感じつつ歩くことが出来ている。
たまにはこんなまったりとした時間というものを堪能するのもいいかもしれん。そんなちょっとしたことで気分上々な俺の寂しい
脳みそに視神経からの緊急連絡が入ってきた。
「お、みくる〜、おはよ〜」
「あ、鶴屋さん」
そんなことを考えている間にどうやったのか分からないが鶴屋さんは朝比奈さんの隣まで移動していた。本当にどうやったのかね?
ボソンジャンプでもしていたら少しぐらいなら驚くけどな。こんど朝比奈さんにボソンジャンプについて訊いてみるかな。
禁則どころか知らないだろうけど。
「おはようございます、朝比奈さん」
「キョンくんもおはよう」
そんな朝から両手に花状態での登校が出来るのだからきっと今日一日はとても素晴らしいものになると言っても過言ではないのだが、
俺の幸せを望まない我らの団長様は俺の幸せを感じ取ると天邪鬼もあまりの酷さに後ずさり間違いなしのとんでも要求を俺にしてくるに
違いないであろう。まったく困ったもんだね。こんな時は後先考えず今を楽しむしかないよな。
「キョンくんと鶴屋さんは何で一緒に登校してるんですか?」
「それは昨日話したあれだよっ。みくるん家が分かんなかったからキョンくんの家にお世話になることにしたっさっ!」
「えぇっ! あれ本当だったんですか? 冗談じゃなかったんですか?」
そんな思わず抱きしめたくなるような声を出しながらうろたえる朝比奈さん。
このまま我が家に連れ帰って俺専用のメイドさんになってもらいたいくらいだね。もちろん妹には指一本触れる許可も出さないし、
谷口と国木田は一生我が家の敷居はまたがせんがな。
「本当に大変だったよっ! 暗くなるまでみくるの家を探し回って、お腹もペコペコで、体は冷えきって、手足は動きにくくなってきて……」
その後もあることないことを散々羅列して朝比奈さんを
「ひぇ〜」「ほぇ〜」「ふみゅ〜」
なんて言わせていたが可愛いので止めることが出来なかった。
「そういえば鶴屋さん」
「なんだいっ? 愛の告白かいっ?」
そんな大それたことを朝っぱらのこんな時間からするわけないじゃないですか。それより朝比奈さんが信じきってるじゃないですか。
……冗談ですからね? 張本人はそんなことを言ってゲラゲラ笑っているだけだし。
「朝比奈さんに会えたんだし、今日から朝比奈さんの家に泊まればいいじゃないですか」
「それは無理なんだっ」
脊髄反射で会話って成立するんだな〜、そんなことを考えつつ、
「何でですか?」
「最初に泊まったお宅にずっとお世話にならないといけないんだよっ」
そんなこったろうと思ったけどね。このお方が自分から厄介ごとや面倒ごとを持ってきたことはないからな。と言うことは、
「昨日からの二週間というと」
「終業式前日までだねっ」
そんな少し絶望的な会話も昇降口あたりでのお別れにより自然消滅。とりあえず昨日までと同じで少しキツイ香辛料を混ぜたくらいの
日常が待ち構えているのさ。そんな日常の退屈の八割を占めているであろう授業中と言えば、ハルヒによる俺の春休みぶっ潰し計画的な
題名の似合う予定をさらりと発表し、どう思う? なんて訊いてはいるが聞いちゃいねぇといった状況に加え、
教師どもによる意味不明な説明を延々と聞いていると睡魔との格闘が勃発。あっさり白旗を振ることにより俺の明日以降における
活動戦力を維持するところまではうまくいくのだが、背後からの容赦ない攻撃により試合続行、結果判定勝ちをもぎ取り続ける毎日が辛い。
あぁ辛い。そして本当の意味で心身ともに疲弊しきった俺は掃除当番であるハルヒを教室に残し、
一目散に文芸部室に向かって駆け出していた。気持ちだけ。
「長門」
「分かっている」
5W1Hの説明なしに俺の言いたいことを理解してくれるこいつには頭が上がらない。確かに長門には頼りたくない、
みたいなことを言ってはみたが気にならないと言えば嘘になる。そりゃ突然お金持ちの先輩が泊めてくれなんて
言ってくる日には何かあってもおかしくないと思うだろ、普通。
「彼女の発言に虚実は見当たらない」
さて、これはいつのことなのかね? 少し疑問に思う。
「昨晩、あなたの家に彼女が潜入したとの情報を入手。情報統合思念体に確認を取ったところ彼女の家の仕来りが存在するのは事実」
いや、それは分かったのだがどこの発言について言っているんだ?
「大丈夫」
何がだ?
「あなたのプライバシーはわたしが守る」
とても力強く、長門の意思がヒシヒシと感じられるものだった。答えになってないけど。
「情報統合思念体には不可能はない」
そうですね、もうなんでもありですね。
その後、朝比奈さんの登場により少し会話を挿んだ後、入室しようとした古泉と部室から退散させてもらう。
「昨晩はどうでしたか?」
「空いっぱいの星が綺麗だったよ」
「星空のお話は今度僕の家で一晩中語り合うとして」
流しやがったよこいつ。てか古泉と一晩中話す内容など俺は持ち合わせていないがな。持ってても断るけど。
それに長門と一晩中星について話し合ったほうがためになると思うしな。俺らのような一般人では知ることの出来ない
面白話でも披露してくれるであろうよ。
「おや、機関の力を甘く見てもらっては困りますよ? 今すぐに国家機密クラスでも調べることが出来ますよ?」
すでに星空と関係ないところまで話が飛躍してしまっている。
「もとに戻します。涼宮さんはこのことはご存知なんですか?」
「いや、話してないな」
そもそもこんな話、誰にも話していないのだが、俺の周りにいるやつらはみんな知っている気がする。
なぜだろう、長門は保障してくれたが俺のプライバシーはどこに行ってしまったのかね? そろそろ帰ってきてもいいくらいだと思うんだが。
「分かっていると思いますが涼宮さんにこの話はタブーです。仮にばれてしまったとしたら
……良くてSOS団全員があなたの家にお泊りですかね」
「おまえだけが進んで参加拒否してくれるなら喜んでばらしたいね」
「それは無理なご相談ですね」
こいつのやたら絵になる笑顔を見ていると無性に腹が立ってくる。これはきっと授業中の睡眠時間がごっそり足りないからだと思うね。
「どうぞ〜」
おや、愛しの大天使ミクルのエンジェルボイスが聞こえてきたぞ。これは全速力で入室せねば。
「それに」
まだ話したりないのか? 俺の朝比奈さんが待ってくれているというのに。
「もしそうなったら一番困るのは鶴屋さんですからね」
そんな意味深なコメントを残しつつ俺より先に部室へ入っていった。そりゃあ鶴屋さんが困るのは分かるがなぜ一番なんだ?
どう考えても俺だろ。そうさ、基本困り果てているのは俺であり、そこに長門、古泉が介入、どうにか問題解決、といった流れが普通である。
今回は最悪、ハルヒが騒ぐだけだろうし、古泉あたりの助言とフォローでどうにか乗り切れる話なのである。
部室に入ると古泉の今日は将棋でもどうですか、といった輝かしいほどの笑顔が目に付いた。そんな古泉を出来るだけ見ないように
定位置に着き、いいだろう叩きのめしてやる、と心に誓っていた。あの笑顔を崩すためにどうするべきかを考えていると
メイド服を素晴らしく着こなした朝比奈さんによるお茶が出された。よし、休憩だ。昨日の下校後からの疲れを癒さなければいけない。
「ありがとうございます」
古泉に先を越されてしまった。本格的に疲れているようなので、しっかり体の芯から癒すべきだ。うん、旨い。
しかもただ美味しいだけでなく心の底から浄化されているような気分だぜ。今のこの気持ちを出来るだけ早く、正確に伝達しようとした矢先、
「会議よ会議っ!」
ドカーン、と言った効果音が聞こえてきそうな勢いでハルヒ閣下のお出ましである。このままではありがとうございます、
だけでなくお茶の感想も言えそうにない。これは今すぐにでも言わなければならないな。
「こらぁ〜キョンっ! 団長様から目を離すとは何ごとよっ!」
「俺がどこ向こうと俺の勝手だろうが」
「甘いわよキョン」
「何がだよ」
「SOS団団長ともなると団員は目が合うと会釈は常識の範囲内よっ!」
「そうかい、じゃあなおさら目は合わせられないな」
古泉あたりなら平気でやってそうで怖いが。
結局、感想すら言う機会がなかった。そんな中、春休みのSOS団の活動内容案が発表された。そもそもこれは会議のはずなので、
みんなで話し合うべき内容であり、議長の一任ではいけないのである。俺が必死に休みを勝ち取ろうとするも、イエスマン古泉が
常に賛成に一票、朝比奈さん、長門が棄権に一票。これでは絶対に勝てない。あぁ、俺の春休みはいったいどうなってしまうのかね。
そんな連敗街道まっしぐらな春休み会議は部活の前半で終わったので、その分のイライラを古泉相手に晴らすことにした。
全部の駒を取ってやるぜ。朝比奈印のお茶により、今の俺は授業中の十倍はキレると言っても過言ではない。
そんな朝比奈さんも読書に励んでいる。長門の読んでいるような文学的なものではないのだが。
今度朝比奈さんにお菓子の本でも勧めたら俺の為に作ってきてくれるのかね。そんな直接的なことは出来ないけど。
長門はいつもの様にどこの国で使われているか分からないようなものを読んでいる。本当に読んでいるのか、あの分厚い本を
あんなにスピーディーにめくれるものなのか一生の疑問である。ハルヒはネットの中に入り込み新しい謎を探しているのだろう。
こいつにそんなことをさせておいたら本当に何か見つけ出しそうで怖いんだがね、こればかりは祈ることしか出来ないので困ったものだ。
そんな普段通りの活動が長門によって終わらされようとしたとき、
「やっほ〜」
タイミングを計ったかのように鶴屋さんが登場した。
「鶴屋さんっ! どうしたの?」
いつの間にか入り口まで来ていたハルヒとハイタッチ。今流行っているのだろうか。
「一緒に帰ろうと思っただけなのさっ」
そう言いながら朝比奈さんにダイブ。俺も一緒に飛びつきたい。
「キョン、鼻の下伸びてるわよ」
なんの前触れもなく急降下するハルヒの機嫌。何らかの過程が欲しいものだが。
学校からの帰り道、先頭のハルヒが隣の鶴屋さんに春休みの予定を誇らしげに発表している。心なしかさっきより
ハードスケジュールな気もするがきっと疲れているのだろう。
そうこうしているうちにみんながバラけるところまで来た。
「じゃあね〜」
もうすぐ一日が終わろうとしているのにどこにこんな元気が残っているのかね。両手をぶんぶん振りながらあいさつをしている。
「あれ? 鶴屋さん何でそっちなの?」
目ざとくハルヒが食いついてきやがった。
「用事があるんだよっ」
ちょろ〜んとねっ、なんて付け加えてすったかすったか歩き出していた。後ろ向きで手を振りながら。
まぁ転ぶ心配は日本沈没くらいありえないけどな。
「そっか、じゃあまた明日」
あっちも負けじとぶんぶん両手を振っている。疲れ知らずの戦いが始まったら朝になってしまう気がする。
「鶴屋さん、行きましょう」
「そだねっ」
鶴屋さんの棄権でこの戦いは幕を閉じる形となった。
鶴屋さんは家に着くと凄まじい勢いで自室に駆け出していた。まぁ実際は妹の部屋と兼用なんだがな。
そんな妹がお出迎えにやってきて適当な会話を終わらせ、靴を脱ぎ終わるとすでに着替えた鶴屋さんが現れた。
「鶴ちゃん早いね〜」
もう少し語彙を増やさないと後先困りそうな妹が心配なのだが、
「どうしたんですか? そんなに慌てて」
いくら制服でいたくないからと言っても早すぎる。ベンジョンソンも真っ青だ。
「これから夕飯のお手伝いをしなくちゃいけないのさっ」
そう言い終えるとすでに俺の目の前から姿を消していた。そんなに急いでいるなら先に帰っていればいいのに、
と考えまだ道がよく分かんないんだなと結論がでた。わざわざ言う事ではないが鶴屋さん参戦の晩飯はとても旨く、
癖になりそうだった。その後、風呂の順番云々、食器の片付け云々の会話を終わらせ、妹とテレビのバラエティー番組で
大はしゃぎしていた。さて、鶴屋さんは何時間フルパワーで活動しているのかね? そのうち訊いてみることにする。
そんなこんなで夜遅く、時刻は十一時を指していた。そろそろ眠るとするかな、なんて考えていると、
「キョンくん、まだ起きてるかいっ?」
鶴屋さんが現れた。はてさて何の用なんだろうね、夜這いではないだろうし。
「どうしたんですか? こんな時間に」
「一緒に寝て欲しいんだよっ」
またですか……それなら妹がいたはずでしょ?
「違うんだよっ、一人じゃ眠れないとかじゃなくてこれも仕来りなんだよ」
どんな仕来りだ。
「友人宅に泊めてもらい、友人と寝食を共にせよってね」
「マジですか」
「そうなんだっ。まさか男の子の家に来るとは思ってなかったけどねっ」
そして楽しそうにゲラゲラ笑い出していた。この人は言ってる意味が分かっているのかという疑問が湧いてくる。
「予定では今頃みくるの乳を鷲?みだったんだけどね」
よし、我が家にも仕来りがあったことを思い出した。早速朝比奈さんの家に行かなければ。
「家が分からないから困ってたんだよっ」
大爆笑 夜遅いんだけどまあいいか。
その後もグズル鶴屋さんであったが流石にそれは何か色々まずそうなので本気で断り続けた。
別に監視されてるわけでもないし、多少の妥協くらい大丈夫であろうということでしぶしぶ、本当にしぶしぶ折れてくれた。
そんな鶴屋さんとの共同生活もついに最終日を迎えている。明日の朝、家を出たらそのまま鶴屋家に帰るそうだ。
そんな不思議な生活も日数的には長かったのだが大した事は起こらなかった。その辺は尺の関係で割愛させていただく。
しいて言えば事の真実を唯一知らないハルヒが俺と鶴屋さんを怪しがって尾行を始めたくらいかな。
俺からは完璧に見えないのだが、
「ハルにゃんがついて来てるね〜」
その一言により始まる俺とハルヒの一進一退の攻防、電信柱、曲がり角、ゴミ箱、様々な心理戦を繰り広げつつ
我が軍の全勝という華やかな結果に終わった。が、ハルヒはと言うとそのイライラを発散すべく、せっせと閉鎖空間を生産しているらしい。
またハルヒは直接関係ないかもしれんが、この辺一帯の桜の開花が著しく遅く、蕾のまま冷凍保存されているような状態らしい。
暖冬といった話はどこへ行ったのかね。
今までは妹が起こしに来ても少し粘っていたのだが、最近はすぐに援軍を呼ぶので俺としては困り果てている。
そんな生活とおさらば出来るのは大変ありがたいことに間違いないのだが、いざ鶴屋さんが居なくなると考えるとな。
何せあのお方は本当に一日中明るかった。そんな人が家から居なくなるとやはり寂しいものだ。
朝食を取りながらそんなことを考えていると、
「キョンくん、今日ね、お別れパーティーやろうよ〜」
そうかそうか、良い提案だぞ。えらいえらい。
「そいつはわるいね〜、楽しみにさせてもらうよっ」
鶴屋さんも満更ではなさそうなのでこの提案は可決された。そういえば鶴屋さんとの朝食もこれで最後である。
自分の家に寄ってからの登校、明日の朝は今日よりも早起きらしい。
どうせ学校で会えるのだから俺は睡眠時間の延長をチョイスすることにしている。
「いってきまーすっ!」
ここ最近聞き慣れたいつものあいさつ。さぁ、学校に行くぞっ! といった意思表示のような元気の良い鶴屋さんの声。
道も完璧に覚えたらしく、今は俺を先導するようにスタスタと歩いている。中身の無い話を延々としながらの登校。
桜は花開かなくとも確実に目の前まで来ている春。生暖かく、ポカポカの陽射しが心地良い。
そんな鶴屋さんとの登校も今日で終わりである。なんだ、やたらセンチだな、おい。
「じゃ〜ね〜」
昇降口でのお別れ。最初の頃はその大きな声に驚いている生徒が沢山いたのだが、流石に二週間となるとみんな慣れたらしい。
そんな登下校を毎日繰り返しているのにハルヒに気付かれないのは奇跡に近い。
まぁ奇跡なんて起こらないから奇跡なのであり、実際は気付かれているかもしれんがな。
教室に入ると折角春休み目前なのに日に日に機嫌が降下気味のハルヒが目に入った。
「どうした? もうすぐ春休みなのに元気ないな」
「うるさい」
なぜこんなに不機嫌なのだろう? 確実に俺のせいなんだろうけど。
そんなダークオーラを背後に感じつつ、半日しかない学校生活も最後のホームルームで終了した。
「さぁキョンっ! 部活よ、部活っ!」
それは運動部の台詞であり、文科系の部活の者が発していい台詞ではない。そもそも部活にもなってないだろうが。
「春休みの予定はビッシリ埋まっているの。その確認を今日のうちに終わらせないといけないのよ」
聞いちゃいねえよ、それより機嫌が少し直っているのは春休みのおかげだろうね。ありがとう春休み。
ハルヒのハルヒによるハルヒのための春休みの予定(確定版)が発表された。
さらに休みが減っている気がするが、触らぬ神に祟りなしの方針で俺はがんばることにした。
そんな健気な俺の意思表示が表ざたになることなく発表も終わり、朝比奈茶で心身ともに癒されつつ、
古泉をぶっ潰して精神の安定を計ろうとしていた矢先、
「ちわ〜」
元気良く鶴屋さんが現れた。というか毎日遊びに来ているのだが。そんでハルヒとハイタッチ。そろそろ飽きないのかね、それ。
「キョン、あいさつに飽きるも飽きないもあるわけないじゃないの」
「ハイタッチはあいさつではないぞ」
ハルヒが自分を正当化しようとあれこれ発言していたが俺は適当にツッコミを入れながら聞き流していた。
俺のことは疑うくせに他の人はまったく疑わないんだな、お前は。
俺はお前の中でどういった位置付けされているのか今度じっくりと問いただしてみたいね。
そう言えば鶴屋さん主演のお別れパーティーはどうなっているのかね?
慌しい朝――俺だけなんだろうが――はまともに話を聞くことすら出来ていないしな。
案外、楽しい毎日をありがとう、みたいな言葉だけで終えるなんてのもありそうだ。
しかし、ここはやはり豪勢な夕食と少しの花束なんて用意して鶴屋さんによるスピーチで終えるのが本命であろう。
「鶴屋さんは今晩のこと何か聞いてますか?」
朝は忙しくて、なんて付け加えておく。
「何のことだいっ? お姉さんには分からないな〜」
「何ってパーティーのことですよ、聞いてなかったんですか?」
楽しそうに返事をしていたのはどこの誰だっけな、なんて考えていると、鶴屋さんの表情が次第に曇り始めるのが手に取るように分かった。
そして、遅まきながら気付くことになる。まずい、しかし時すでに遅し。
「キョン、パーティーって何」
ハルヒの低音ボイスが恐ろしい、てかハルヒ自身が恐ろしい。
ここ最近のハルヒの不機嫌度を日に日に上昇させ続けた張本人である俺による爆弾発言である。
当然、今まで何かを探し求めて旅をする宗教信者のごとく答えを欲していた我らの団長様がこの好機を見逃すはずがなく、
一気に俺の嘘で固めようとしていた城壁を目で崩し、まるで攻略寸前の裸の王様といった心境に陥っている。
まぁもともとこいつに嘘を吐いてもすぐにばれるんだがね。
「いや、鶴屋さんとのお別れパーティーだ」
「まだ卒業には早いわ、何のお別れよ」
ごもっとも、というかそのダークオーラがやばいね、それどこのRPG?
「ここニ週間ほど鶴屋さんが家に泊まってい」
「だから鶴屋さんと一緒に下校してたわけっ!?」
俺の精一杯の言い訳をあれこれ並べる前に、盛大に俺の声を掻き消し、発言の権利すら奪っていく団長様。
普通団長といわれる者ならばもっと団員への気遣いを考慮すべきである。もっともこれをしないからハルヒがハルヒである由縁なのだろう。
「少し落ち着け、それに鶴屋さんも困ってしょうがなく」
「これが落ち着いていられるわけがないでしょっ!!」
そんなに騒ぐな。お前が騒ぐと絶対に周りにいるやつらは幸せや平和の類に向かって歩を進めることはないんだからな。特に俺が。
「あんた自分が何やったか分かってんのっ? いくら困っていたからって可愛くて綺麗な上級生との同棲生活という事実は変わらないのよ?
それに困っていたのを逆手にとってやらしいことを要求しているに違いないわ。あんたなんか生きてる価値すらないわ、人間のゴミよっ!!」
「ハルにゃん、これには」
俺は鶴屋さんを制止していた
「本気で言っているのか」
「とっ、当然でしょ。あたしはね、冗談とか大嫌いなの。それにたいした回数会ってないのに何親友気取ってんのかしら? そんな人間の
クズを団員に持ってあたしは恥ずかしいわ。明後日から春休みだし一から人としての常識を骨の髄まで叩き込んであげるんだからっ!」
「そうかい、とりあえず今日は帰らせてもらう」
「ちょっと、団員が何かって」
ガンッ!!
「ふざけるのもいい加減にしろ」
「えっ…………」
「俺だってそりゃ世間体とか考えるさ。でもな、そんな世間体より大事なもんがあるだろ、目の前に困っている人がいたら助ける、
これが人としての常識なんじゃないか? それにお前の本心も良く分かったしな、お前にそこまで言われて付き合う義理は俺にはない」
「ちょっとま」
バタンッ!
痛いね、慣れないことはするもんじゃないな。いつもの足取り軽く、登校と打って変わって軽やかに駆け抜けていく坂道も、
今では一歩一歩が登山中みたいに重くなっていくのを感じる。時間が経ち、頭も冷え、いつもの冷めた自分が帰ってくる。
部室の壁を叩き、いつもはハルヒに注意しているのにドアを叩きつけるようにしてあの部屋から飛び出してきた。
痛いね、軽く内出血しているみたいだ。まったく何やってんだろうね、俺は。
朝比奈さんは今頃泣いているんだろうな、ハルヒに苛められてないと良いが。
長門は……何やってんだろうな、やっぱり読書でもしているのかね。案外、ハルヒに文句の一つでも言ってたら面白いんだが。
古泉は今頃戦闘開始だろうな、今晩は徹夜であろう。明日には礼を述べに言ってやるとするか。
鶴屋さんには悪いことをしたな。せっかくのパーティーを俺が台無しにしちまったんだからな。
それにハルヒ
「おーい、キョンく〜んっ」
そこまで考えて後ろからの呼び声に振り返っていた。
「鶴屋さん、どうしたんですかそんなに慌てて」
坂道を走った場合、上るのより下るほうが足に負担が掛かるんだっけな。
「ごめよっ、あたしのせいでキョンくんが」
「いえいえ、鶴屋さんは何にも悪くないですよ」
ハルヒがもう少し柔和に物事を考えられればいいだけさ。
「その、SOS団やハルにゃんとの関係とかさっ」
神妙な面持ちでそう言い出した。まったく、何を心配しているのかね?
「大丈夫ですよ、今日のは俺の恥ずかしい一人相撲ですからね。それにハルヒなら……不思議探索の奢りで許してくれますよ」
自分に素直すぎるんだよ、あいつは。まぁ本当に除団されていたら笑えないがな。
うふ〜ん
「そうかいっ」
へへっ、とにんまり笑ってらっしゃる。さて、どこがツボだったんだろうね。
「ハルにゃんが羨ましいねっ」
本当です、まったくその通りです。俺も後先考えずに大暴走してみたいもんだね。
そんでもって尻拭いはへんてこな機関とか、謎の宇宙人の親玉に任せて猪突猛進ライフを満喫してみたいね。
当然、麗しき未来人が付属で付いてくるのだ。ここ重要。これだけそろえてもまだ決定的に役不足なのは火を見るより明らかである。
そう、俺のポジションが空席のままなのである。まぁ自分を美化しているわけではないのだが、ハルヒの生活を送るにあたって
絶対的に必要であり、もっとも重要で過酷な立場であると自負している。鶴屋さんには迷惑だろうし、谷口や国木田には荷が重いであろう。
よって、消去法でしょうがなく、かつどうにかやってのけそうなハルヒにしぶしぶ、その空席を埋めることを特別に許可してやる。
そんなくだらない妄想を展開していると、いつの間にか俺の前を鶴屋さんが歩いていて、すったかすったか軽やかに坂道を下っていた。
先ほどまでの全身に覆いかぶさるような重圧はなくなり、今では今朝より少し風が出てきて暖冬ってなんだろう、なんて考える余裕すら
出てきていた。風になびく黒髪がえらく印象的で、きっと笑顔なんだろうなと思わせる歩きっぷりの鶴屋さん。
そんな上下に揺れる先輩を眺めながらいつまで経っても殺風景な景色がどうやって帳尻合わせをして夏を迎えるのか、なんて考えていた。
家に着く頃には普段通りの、授業よりは役に立つが人生を左右するほどの知識が備わるといったことにはならないであろう、
どこにでもあるような世間話で会話に華を咲かせていた。
「遊んで〜遊んで〜」
すでに玄関でスタンバっていた妹が唐突にそう言い放った。もうすぐ最高学年であるというのにこれで良いのかと
少し引きこもりたくなってきた。俺はもう少しまともな六年生だったぞ、ほんのちょぴっと捻くれていたのは認めるが。
「いいにょろ〜」
なんて元気よく返事してるし。なんかすみませんね、次に会うときまでにはもっと立派な妹になるようしっかり教育しておきますので。
「妹ちゃんは立派に育ってるじゃないっか〜」
とケラケラ笑い、
「キョンくんこそしゃきっとしなきゃ」
と誇らしげに宣言しやがった。覚えてろよ。
鶴屋さんとの楽しい生活も最終日を迎えており、妹なりに良い思い出作りの為にフルパワーで遊ぼう、といったいかにも
小学生らしい発想でカモフラージュしているつもりらしいが、明らか台所方面への進路妨害を展開しつつ、鶴屋さんを急かしている。
俺が気付くんだから鋭い鶴屋さんなら一発だろうね。
てか妹の将来から女優業が消滅したのだが、これはいったい誰に似てしまったのかね。
そんな妹にしっかり返事をしつつ、お姉さんに任せるっさっ! みたいなアイコンタクトを送ってきた。
まぁ内容はこんなもんで意思の伝達に齟齬は生じていないようだった。長門の専売特許である頷きで返信しておくとする。
さて、一人台所で奮闘中に誰かさんを手伝ってやるとするか。この二週間迷惑掛けっぱなしだったし、
小さな見栄とプライドくらい、守ってやるさ。それに主演女優も大健闘中だしな。
パーティーの内容はほとんど俺の予想通りだった。妹が鶴屋さんをエスコートしてきて、鶴屋さんが大げさに驚くもんだから
妹がおおはしゃぎだった。花束はなく、代わりにクラッカーであった。クラッカーで始まる食事というのも悪くはないな。
大いに盛り上がった食事も終わり、今は食後のお茶を堪能しつつ、残ったクラッカーで遊んでいる。
あぁ、これを片付けるのは俺なんだろうな、なんて考える俺の気持ちを知ってか知らずかパンパン鳴らしまくる妹と鶴屋さんとマイマザー。
母親の時代にも流石にクラッカーはあっただろうに。
俺が風呂から出てきてもまだ遊んでるし。いったい家にはどれくらいクラッカーがあるんだろうね。
せっせせっせと後片付けをしているとエネルギー切れに陥っている妹が目に入ってきた。
「ほら、寝るなら自分の部屋に行きなさい」
「ふぁ〜〜い」
そんな年齢詐称気味な妹だが、本日のMVPであることには変わりない。明日あたり感謝の言葉を述べてやっても罰は当たらんさ。
そんな妹が発信源の就寝モードが我が家に漂い始めたので、さっさと自室に退散させていただく。そしてすぐさま携帯を確認、着信なし。
うふ〜ん
うふ〜ん
うふ〜ん
「あたしさ」
少女によって沈黙が破れる。
「距離感が分からないんさっ」
「距離感ですか?」
俺の腕の中で頷き、肯定を示す。
「きみたちとあんまり仲良くしちゃダメなんだよ」
一言一言丁寧に、冷静を装い、出来るだけいつものような雰囲気で。
「でもみくるのこと大好きだし、キョンくんのことも好きさっ。というかSOS団のことが大好きなんだっ!」
感情的になりつつも、自分の気持ちを間違って伝えないように。
「だけどそうすると今日みたいなことになっちゃうんだよっ」
みんな俺より小さい体でなんてもん背負ってんだろうね。俺が冗談で世界は俺の双肩に掛かっている、なんて言ってたのが恥ずかしいよ。
長門にしろ朝比奈さんにしろ、そのへんでヘラヘラ笑いながら生活してるやつらなんかと比べ物にならないほど重いもん背負ってんだよな。
ハルヒも加えてやってもいい、古泉も今回は特別サービスで含んでおいてやるさ。もちろん、今、俺の腕の中で震えている少女も含めて。
「ぜんぜん気にすることないじゃないですか」
少女の体が不意に揺れた。
「今回俺に仕来りで困っているって話して楽になりましたよね? いつも鶴屋さんにはお世話になってますからいつでも相談に乗りますよ」
そりゃ山ほどの相談、悩み事となると俺一人ではキツイものがあるが、仲間がいるから大丈夫であろう。こら、そこ。人任せとか言うな。
「でも、また」
「SOS団はそれぐらいじゃ揺るぎませんよ」
まぁ実際どうなっているか分かったもんじゃないがな。
「何か困ったことがあればすぐに飛んでいきますよ」
宇宙人や未来人ですら俺には話してくれている。それなのに一般人である少女が何もかも抱え込むのは不可能であろう。
よく今まで堪えてこれたものだ。
「だから鶴屋さんは何も心配しなくてもいいんですよ」
こんな小さい体では支えきれないであろう。俺やハルヒ、長門や朝比奈さんに古泉を巻き込めばいい。
ついでに谷口や国木田も役に立つとは思えんが信頼に値する。
「明日からまたよろしくお願いしますね」
そう言いながら俺は目の前の少女をそっと抱きしめてやった。
長く、よく手入れのされた黒髪の似合う、天真爛漫な、皆の太陽みたいな存在の少女。
うふ〜ん
すみません
<<489の前に次入れてください
実は一つ懸案事項を抱えているのであった。古泉である。こういう日のあいつなら、どうも、で始まり、困ったものです、
にどうにか続ける内容の電話があるはずである。しかし連絡なし。かなりの数の神人が出現しているんだろうな。
俺から連絡しても迷惑になるだけだろうし、明日感謝の気持ちを少々混ぜた礼の一つでも述べてやるさ。
粗品としてクラッカーを付けてやるとしよう。残ってたしな。忘れないうちに鞄に入れておくことにする。
まだ寝るには早く、やたら気分もハイなので、よし、勉強でもするかと意気込んで机に向かってみるも、明日は終業式であり授業がない。
しょうがなく英単語でも覚えてやるかとノートにシャーペンを走らせ、10個覚えたところで脳が異常事態を宣告し始めたので、
あえなく断念するしかなかった。無念。椅子に座りながら空を見上げると雲が空を覆い、星どころか月の断片すら見つけられない。
いくらハイでも脳を酷使すれば夢の中の住人として手招きしてもらえるのであり、あっさりと俺は誘われるがまま、ベッドに飛び込んでいた。
そのまま全身の力を抜き、残るは無駄な雑念を脳から排除すれば仲間入り確定、といったところで、
「………………」
誰かが入ってきた。鶴屋さんであろう。
「キョンくんっ、まだ起きてるかなっ?」
「残念ながらあなたのキョンくんはお休み中です」
「おじゃましま〜すっ」
躊躇なく入室してきた。てか俺の返事は無視ですか?
「どうしたんですか」
「一緒に寝て欲しいんだよ」
またですか〜? ハルヒがあんなこと言ってたのに流石にそれはまずいですよ。
そう笑い飛ばしてやろうとした。が、
「………………」
言葉が出なかった。明かりも消え、月も出ていない。闇に包まれたこの空間でその少女の言葉だけが響いていた。
暗くて見えるはずのない少女の目は鋭く、俺のすべてを見透かされているような気持ちになった。気を抜くと吸い込まれてしまいそうな目。
少女の意思が、覚悟がビリビリと伝わってくる。
「いや〜、流石に仕来り完全無視はまずいにょろ〜」
いつもの鶴屋さんを振舞う少女。
「だからさっ、お願いっ!」
目をぎゅっと瞑り、肩を震わせ、ありったけの勇気を込めた合掌。
大きく偉大に見える姿の欠片も感じられない、身長通りの、俺よりも小さく、華奢で、線の細い体。
「……今日だけですからね」
「ありがとっ」
そう言いながら少女は俺のベッドに飛び込んできた。
あまいね、まったくあまいよ。
「当然、腕枕でっ。めがっさ緊張するにょろ〜」
強引に腕を取り、腕枕の完成。これ近くないか? てか恥ずかしすぎないか、おい
「………………」
長い間の沈黙。今日の疲れを考えるとそろそろ寝ていてもおかしくないんじゃないかという時間帯。
しかし、さっきの英単語により破壊された脳は正常に動いてくれる気はないらしく、目の前の少女を眺め続けることしか今は出来ないようだ。
「むむっ!」
本気で眠りに落ちそうになっていると腕の中から声が聞こえてきた。
「どうしたんですか」
「まさか後輩に慰められるとは参ったねっ! こりゃ修行しなおすしかないっさっ!」
どんな修行をしているのか今度拝見させていただきたいね。場合によっては参加してもいいしな。
それこそ、鶴屋さんの秘密を暴け!! みたいなSOS団の活動内容が組まれる可能性が無きにしも非ずってか。
そう言い終えると鶴屋さんは満足したらしく夢の世界に旅立つ準備をせっせと進めていた。
さて俺も明日の修羅場のことを考えるとそろそろ寝たほうがよさそうだ。
そんな明日から始まるであろう春休みの憂鬱や、朝から晩までフルパワーの秘訣はこの快眠にあるんだな、なんて考えも、
鶴屋さんのスヤスヤ眠る姿を眺めているともうどうでも良くなってくるね。
俺も少し遅れつつも夢の世界の住民として仲間に入れてもらうことにする。
「キョンくん、起きて」
俺の快眠を邪魔するのは誰だ、どこぞのボス的な口調で妹に返事をしつつ、時間を確認。まだ時間的に余裕がある。
と言うか早すぎる。ここ最近の優雅な登校風景を思い出してみるもまだ早い。そう言えば予定を変更して鶴屋さ
「任せなっ!」
「げふっ……」
初日より勢いの乗った鶴屋さんが俺の返事を聞くことも躊躇することもなく俺の上に飛び込んできてから数分後、
最後の食事を楽しみつつ、別れを悲しんでいる妹と母親に
「そのうち遊びにくるっさっ」
と、お言葉をいただいた。励ましているのか、本当に我が家のことが気に入ってくれたのかは定かではないが、
そんな鶴屋さんの気遣いがドツボにはまり、朝から大号泣の母。
俺が駄々こねる妹をスルーしていると優しくなだめる鶴屋さんが年上の貫禄を見せつけてくれた。
「いってきまーすっ!」
おじゃましました お世話になりました さようなら でなく、いってきます
と元気よく発進する鶴屋さん。まだ早いほうなので声を抑えていただきたいものだ。
いつもの分かれ道で
「じゃあキョンくんっ、また後でね〜」
なんて大声でぶんぶん手を振ってらっしゃる。あまり迷惑になっていないことを祈るばかりである。久しぶりの一人での登校。
なんだか物寂しい気分になってきた。まぁ俺はウサギさんじゃあるまいし、学校に行けば休む暇のないような生活が
待っているのだから今はこのまだ冷凍保存状態の殺風景な景色を堪能しつつ、最後くらい晴れ渡ってれば良いのにな、
なんて年寄り染みた発想に少しため息を吐きつつ、中途半端な気分でえっちらおっちら長いハイキングコースを満喫していた。
昇降口から教室までの移動中に気が付いたが、朝練していない連中は流石にまだ家でだらけているに違いないと
確信できるくらいの人の少なさ、を想像していたのだが、終業式と言うことなので生徒は案外廊下にも溢れていた。
俺は少人数の教室なんて入ったことがないしどうしようかな、なんて考えていたからありがたやありがたや。
で、いざ教室の前に気が付く。俺の教室だけ物音一つしない静けさを保っていた。
教室の前にいるクラスメイトの俺に対する目線と、教室から発生している何もかもを飲み込むであろう暗黒から
何が起こっているのかは想像がつく。まったく朝一に登校してきて何をやっているのかね?
お決まりの相棒を呟きつつ、クラスメイトに目配せをし、戦場に乗り込んだ。
「………………」
ずっと黒板を眺めていたであろう体制からこちらを睨み付けた。俺以外がドアを開けてしまったら脱兎のごとく
駆け出すこと間違いなしの視線である。その重い空気の中を一歩一歩勇気を出してただいま行進中である。
自席に着き、鞄を置き、一息ついて振り返る。
「あのな、ハル」
「あたしが悪かったわっ!」
ハルヒに睨み付けられ、鼓膜が非常事態の鐘を鳴らし続ける状況に陥る。
あまりの声の大きさと、恐ろしい形相での謝罪、どちらも突然やってきたので言葉を忘れてしまった。
「昨日あの後しばらくして鶴屋さんが部室を飛び出したのよ。その間みんな何一言喋らなかったわ、まるで時間が止まったかのように。
そしたら突然みくるちゃんが泣きながら怒鳴りだしたのよ。そんで
『涼宮さんっ! 酷すぎですっ! キョンくん何も悪いことしてないのに。あれじゃキョンくんが……キョンくんが……』
て言いながらベーベー泣き喚いちゃって。有希は本も読まずにじっとあたしを眺めてくるし、古泉君も
『流石に今のは言い過ぎですね』なんて言い出すもんだから本当はあたしは何にも悪くないのに悪者にされちゃってたまったもんじゃないわ。
だからあの場をまとめるためにしょうがなく『明日あたしが誤るからそれまでキョンと連絡禁止』って言って解散したわけ。
あたしは嘘とか冗談は大嫌いだからしょうがなくあんたに誤ってやったのよ」
そう一気に捲し立てるように言い放つと、ふんだ、とか言いながら窓の外を眺めている。
校庭は部活の朝練をしている生徒しか見えず、寒さしか伝わってこない風景がクラスメイトとの別れの寂しさに拍車を掛けている。
だが、そんな雰囲気に俺は負けない自信がある。
どうせ俺の後ろにはこいつが二年間延滞して住み着いているのであろう。
そして、俺の視界にはかったるそうに授業を受ける谷口と、対照的な国木田が嫌でも目に付くことだろうしな。
「そうだな、お前は何も悪くないもんな。俺が悪かった。今度の不思議探索奢りで勘弁してくれ」
少しきょとんとしながらすぐにいつもの悪巧み顔に大変身である。
戦隊もののヒーローもゲームのラスボスもこの変身スピードには敵わないであろう。
「まったく、使えない団員を持った団長の身になってもらいたいものね。今回は特別にそれで許してあげるわっ!」
悪顔から教室ではあまり見せない満面の笑みにすぐさまジョブチェンジ。
それと同時に教室での大音量を聞きつけ、暗黒も勇者キョンにより晴らされたので生徒たちがぞろぞろと入室してきた。
その中の阪中を筆頭にハルヒとの別れを惜しむような生徒がちらほら近づいてきたので便所に行くと
デマを流して文芸部室に直行することにした。
「長門」
「うかつ」
俺の言いたいことを瞬時に理解してくれているであろう長門にまた感謝。していいのか少し不安になるような
返事が返ってきたのはきっと俺の睡眠不足から来る生理的欲求のせいに違いない。
「涼宮ハルヒの発言に虚実はない」
だろうね。と言うか目的は違うんだけどな。
「あの時、わたしが涼宮ハルヒに意見しようと思い立った瞬間、朝比奈みくるの発言によりわたしの発言順位が遅らされた」
それは残念だったな。ん? と言うことは
「朝比奈みくるが泣き出し、隙が出来たので涼宮ハルヒに言及しようとしたが古泉一樹による妨害により失敗。
最終的には涼宮ハルヒが解散を宣告し、わたしには発言権が回ってこなかった」
そう言い終えると、俺にしか理解出来ないレベルの表情変化ではあったが、悲しみが表されていると思う。
が、そんな細かいことを俺は気にしないさ。
「長門」
「なに」
「ありがとうな」
無言の頷き。長門流最上級の肯定を表す動作を確認して部室を後にする。
校長の名前を覚えることなく過ごした一年間の学習も終了し、岡部の号泣により解散となった一年五組ではあったが、
そもそもこれは卒業式でなく終了式なので泣いているのは岡部だけである。
朝倉と言うクラスの柱を失って以来、誰一人リーダーシップを発揮することなく過ごしてきたこのクラスも、
解散となると誰からともなく打ち上げなどの声が聞こえてくる。そんな話を耳にしているにもかかわらず、
「あたし用事があるから先に行ってて」
なんて言い残し、砂塵を巻き上げるがごとく勢いに乗ってクラスを飛び出していた。そんなハルヒを見て話事態がなかったことになる
と言う悲しい事態が発生しているわけだが、仲間内でひっそりと楽しんでいただきたい。どうせほとんど同じクラスであろうから心配ない。
古泉あたりが今頃機関の面々と意見交換などをしつつ、クラス作りをしている姿が目に浮かぶ。真実は分からないけどな。
俺もこれ以上ここにいてはまた遅刻がどうのなんて言いがかりから始まり、楽しそうに俺の財布から野口さんを略奪している姿が
用意に想像できるのでそろそろ失礼させていただくとする。さらば五組のみんな!!
二年になってもハルヒは迷惑掛けっぱなしだと思うがその辺は覚悟しておいてくれ。
そんなこんなで部室のドアをノックし入室すると、そこにはいつものメンバーがすでにそろっていた。
「キョンくん、あの、昨日、だから、えっと……」
なんておろおろ、わたわたしている完璧なまでにメイド服を着こなしている朝比奈さんがたぶん俺のことを心配してくださっての言葉であろう。
「大丈夫ですよ、ハルヒなら不思議探索の奢りで許してくれましたからね」
そう言うと、
「そうですかぁ」
なんて可愛らしい御声を発しながら安堵していた。
「それに昨日は俺のためにありがとうございました」
「たいしたことはしてませんよ〜」
にっこり笑顔でそう返事をしてくれた。幸せ。
「今お茶の準備しますね〜」
そんな俺にとって大きな幸せを大事にして生きようと決意しつつ自席に腰を下ろす。
「昨晩は大変でしたよ」
にっこり笑顔でそう話しかけてきた。げんなり。
「昨日のあなたの発言から考えて僕たちは世界改変の恐れがあると危惧していました。その上確実に発生するであろう
閉鎖空間での神人との戦闘も頭から離れず、気の休まる時間がありませんでした」
そうだろうと思ったよ。お疲れさん。
「話はここで終わりではないんです。実際には改変も、閉鎖空間でのストレス発散も行われなかったのですよ。
あの状況から考えると最低一つは発生すると踏んでましたから昨日は徹夜だった、というわけです」
そりゃ珍しい。俺はてっきり連絡ないのは神人のせいかと思っていたが。
「涼宮さんの望みでしたからね、仮に僕が連絡を入れていたとします。そうすると
今朝のあなたの涼宮さんに対する反応がかなり変わってしまいますからね」
「聞いていたのか?」
「いえ、しかしあなたとの付き合いも一年近くなりますからね、想像は出来ますよ。昨日の自分の振る舞いを反省し、
深い謝罪とともに自ら進んで罰ゲームを受け、その後クラスメイトみんなの前で愛の言葉を羅列し、
用意していた自分の名前だけ書いてある婚姻届をプレゼントする、と言ったところですかね?」
ここで冗談っぽく、よく分かったな、なんて言って古泉の反応を見るのも楽しそうだがここは冷静に
「そもそも年齢が足りてないだろっ!」
と、突っ込んでおくことにした。お決まりのポーズを取りながら、そうでしたね、なんて言いやがったので感謝を述べることなく、
結局出来なかった将棋の相手をしてやることにした。お前に俺の囲いが崩せるかな。
「緊急会議の時間よっ!!」
本格的にドアの劣化が激しく、ここ最近の扱い自体良くないのでせめて朝比奈さんが卒業する前にしっかり直してやろうと今誓ってやった。
「何について会議するんだよ」
どうせ話を聞くつもりはないであろうがな。
「春休みの予定表をさっきコンピ研の部長に作らせたからまずこれを見なさい」
それで大慌てで教室を飛び出していたわけか。
あの部長もこんな日に無理やり部室に連れて行かれるなんてミジンコほども思っていなかっただろうね。どれどれ、
「てっ! 俺の家でのお泊りってなんだ!」
ハルヒの俺の春休みジャックが本格化してきた。
「いいじゃない、SOS団の活動内容だと春休みは足りないのよ」
「だとしてもみんなの家を公平に回るべきだろ」
そうすれば少しは楽しい春休みになる可能性がちらちらと俺の目の前に
「困ってるんだから泊めなさいっ!」
訂正、俺の目の前から遠のいていった。そう満面の笑みで言われては俺としては何も言えず、
ただただハルヒの言葉に返事をするしかなかった。
いや、ここはやはり断固講義するべきか? なんて考えていると
「やっほ〜」
なんの前触れもなく鶴屋さんの登場である。
「鶴屋さん、どうしたの?」
またもやハイタッチ。いい加減にしてほしい。
「いや〜、実はキョンくんに用事があるんだよっ! 借りてくよっ!」
そう言いながら俺の首根っこを捕まえてトンズラ。騒ぎ立てるハルヒの声が明日からの春休みの過酷っぷりを表している。
声がだんだん小さくなり、俺の気持ちが沈みっぱなしの状況にもかかわらず、せっせと歩く鶴屋さんにどうにか解放してもらい、
今は自分の足で少し後ろを付いて行く。あぁ、明日の予定は不思議探索だったな。遅刻だけは避けよう。そう心に誓いながら昇降口を出た。
「ところで用事って何ですか?」
流石に何にもないとそれこそハルヒが何を言い出すか分かったもんじゃないからな。
「今からパーティーじゃないかっ、忘れていたのかいっ?」
はて、パーティーは昨日終わったし、時間遡行した覚えはないのだが。
「初日に言ったじゃないかっ、鶴屋家の頭首たるもの様々な状況において的確な判断が出来なければならない。
そのため友人宅で半月間心身共に磨き上げよ。そして最終日から二週間、友を鶴屋家で休養させるべし。
てわけさっ。思い出したにょろ〜?」
なんだろう、記憶違いがあったぞ。
「て言うか鶴屋さん、それ初耳ですよ」
「そだっけ? まぁ細かいことは気にしない方針でいくよっ!」
そう言いながらすったかすったか坂道を下って行く。すでに的確な判断ができていなかった事実が浮き彫りになった。
「そういや鶴屋家大集合だからよろしくねっ」
「本気ですか? 俺鶴屋さんと寝てるんですけど」
「大丈夫大丈夫」
まったく何が大丈夫なのか分かっているのかね、このお方は。
どこまでも続いているような雲ひとつない青空の下、淡いピンク色の波が押し寄せてくるような景色に彩られ、
今の鶴屋さんの笑顔をどう比喩すべきか考えつつ、鶴屋さんの背中を眺めているとあることを思い出した。
クラッカーどうしよう
慣れないことはするもんじゃないな。これの使い道がなく、かさばるゴミとなっている。
まったく やれやれ だ。
以上です が、本当に、本当に申し訳ない
順番間違いや最大行数ミスなど深く深く反省しております
精進します
>>498 ひとまず乙。
投下する際には、名前欄にナンバーを予め振っとくと良いかもですよ。
それと投下の際には一気に。
荒らしの介入を受けてしまう隙を作ることになる。
まぁ、すぐにあぼーんするから問題ないんだけど。
面白いアンカーだねw
ん、何かヘン?
>>498 GJ お疲れ様
やっぱり、鶴にゃんはイイね〜
>>497 日程で疑問があるですにょ
三月の終業式から逆算して二週間だと3/14のホワイトデーが間に入るはず
それがイベントとして触れられないのは如何なものかと思うニャン。
ところで非常に亀レス+スレチで申し訳ないが、
>>369 まさかこのスレで『ももいろシスターズ』の名が聞けるとは思わなかったw
>>498 GJです
弱気な鶴屋さんというのも味があっていいですね
506 :
498:2007/03/18(日) 22:01:02 ID:b/9lScfL
>>500 すみません、テンパってて
>>503 その辺は尺の関係で勘弁してください
あとザスニと憤慨も尺の関係ということで
>>498 乙です。
鶴屋さんはやっぱり、根っから明るいようなキャラクターの裏を突く設定にすると、深みが出てきますね。
個人的には鶴×キョン二人の場面での、会話の掛け合いをもう少し見てみたかったです。
あと、ハルヒの謝罪中の誤字など、今後は細かい部分にも留意していただければと思います。
GJでした〜。
>>498GJです。「謝る」が誤っていたのだけ気になったかな。あれは実に惜しいぞ。
いやでも鶴屋ファンな俺にとっては良い展開です!
気丈に振る舞う人ほどその人が弱い部分を見せた時「この人を泣かせたくない」って思うんだよね。
俺もキョンと鶴屋さんの会話の掛け合いをもっと読みたかったな。
次作に期待してます!
510 :
名無しさん@ピンキー:2007/03/19(月) 03:35:10 ID:XlxjOMYu
途中でウザイ邪魔がいっぱい入ったな。
しょうもない批評もあるし、マジでみんなプリンに持っていかれるぞw
>>498 GJ、面白かったです!
「誤る」はワザとじゃなかったのかー。
ハルヒの「あたしが十全で悪いんじゃないんだもん!でも誤解してゴメン」な気持ちが
「謝る」ではなく異口同音の「誤る」でキョンにゴメンしたんだと思って関心してたんだがw
>>498 ぐぅーじょーっぶ!!
でも、あのキョンくんが2週間も鶴屋さんと一緒に暮らして、それを隠しとおせる技量とか度胸とか精神力?
それがあるなんて、やっぱり思えなくてぇ……日程に疑問をもっちゃいました。
ラストのお返しのインパクトの為かもしれないんだけど、
例えば、三泊逗留 + お返し三泊を鶴屋邸から出勤(春休みの団活に) だけでも大事になったような
どの時間平面に書き込まれたSSかハッキリしていて、イベントを折り込まない時は
最低限で最大の効果を発揮する日程で区切った方が、より密度が濃くなるかなぁって。
涼宮さんなら二日目くらいから怪しんで尾行しちゃいそうだし。なんてエヘヘ。
初日と最終日以外は、間の2週間にイベントもなく流しているのが勿体無いですよう!
あ! はわっ! まさか、これから……?
などど勘繰りつつ
鶴にゃぁーん ぐぅーじょーっ!! 『みくる』は鬼門みたいだ……癖が少ないというか、腕が……
>>512 ∧ ∧
( ゚д゚ )
_|⊃/(___
/ └-(____/
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
>>513 「おや、やっとお目覚めですか。ずいぶん深い眠りだったようですね。
おっと……ぼんやりなさっておられますが、僕が誰だか解りますか?」
出来る限り回避すべき出会いだな
リンゴむいてくれるのか、元首相。いいなぁ。
518 :
山湧 泉:2007/03/19(月) 16:36:58 ID:DARbOi23
長門有希の誤算
古泉「見てください、どうやらこれが長門さんの作成したフォルダのようです。この作業中になにか起きたのではないでしょうか?まずこの中から解決のヒントを探すのが先決ですね。」
キョン「ヒントだと?」
古泉「ええ、雪山の時もそうでしたが、長門さんは必ずどこかになにかを残してるはずです。」
と言ってもなあ〜この画面いっぱいのフォルダの中からどうやって探すんだ?はっきり言って目薬2、3個が必要だ。
古泉「いえ、そうでもありません。ほらこれ。」
キョン「ん、こいつだけ違うな。」
古泉「何かの実行フォルダですね。どうぞ。」
おい、ちょっと待て。どうぞってなんだ?なんでこういうのだけコイツは俺に決断を任せやがる。
古泉「ふふふ。やはりこういうのは主役の役目でしょう。早くしませんと涼宮さんが来てしまいますよ。この状況を目撃されるのは、あまりよろしくないと思いますが…」
当然だ。よろしくない所か非常にまずい。くそっ、開いてみるか。
カチカチッ
俺は、実行フォルダを開いた。なにかプログラムが走ったかと思うと、画面いっぱいにカラフルなタイトルが現れる。
古泉「ふむ、なんだかゲームのようですね。何処で見たことがあるような…」
キョン「なんでゲームが…」
古泉「ああ、思い出しました。これは確かコンピ研が作ってたギャルゲーですね。長門さんも少し手伝ってたはずです。」
長門がギャルゲー?!確かに時々コンピ研に行ってたが、、、俺の脳裏に無表情にギャルゲーのテストやらプログラムを組む長門の姿が浮かぶ。ちょっと異様だ。
キョン「なんだってこんなもんが…」
古泉「多分ですが、このゲームをクリアすれば、なにか手懸かりが見つかるのではないでしょうか?やってみてください。」
キョン「…本気で言ってるのか。」
古泉「他に手懸かりがありますか?」
むう、やるしかないのか。しかし自慢じゃないが、この手の恋愛ゲームは苦手だ。
古泉「大丈夫です。私がサポートしますから。」
キョン「ならお前がやれ。」
古泉「それは遠慮します。客観的視野を維持したいので。」
このヤロウ、まあいい。時間が勿体ない。さっさとスタートだ。
ピポッ
『あなたの名前を入れてください。』
暗転した画面中央にメッセージが現れた。俺は迷わず『古泉一樹』と入力した。
ブー!
『あなたの名前を入れてください。』
エラー音と共に再びメッセージが現れる。
古泉「おやおや、僕じゃダメなようですね♪」
嬉しそうに肩をすくめるな。
キョン「コイツはどうだ?」
涼宮ハルヒ
ブー
朝比奈みくる
ブー
長門有希
ブー
古泉「諦めが悪いですね。これが正解でしょう。」
キョン「あ!」
ピロリン♪
『登録が終了しました。こんにちはキョン。』
横からの勝手な入力が承認されゲームは始まった。そしてこれが長くて短い冒険の始まりだった。ああ、なんでこんなことになったのか…俺はつい一時間前を思い出してため息をついた。
・
・
・
519 :
名無しさん@ピンキー:2007/03/19(月) 16:42:56 ID:DARbOi23
いつもの学園生活。背中をハルヒにときどきシャーペンで突かれながら、授業をまったりと聞いていた俺の携帯が、突然ぶるぶる震えた。
てっきり無視されたハルヒがメール攻撃に切り替えたかと液晶を見ると、そこに長門からのメール着信が表示されていた。
珍しいってか長門にメアド教えてたっけ?
まあ、あの万能人型端末が本気になれば、俺の携帯メアドをサーチするなんざ簡単だろうが、むしろ俺の後ろでシャーペンミサイルを飛ばす独裁者が、情報漏洩した可能性のほうが大だ。
なんせ個人情報保護法から最も遠い存在、それが涼宮ハルヒだからな。
とかなんとか考えながらメールをこっそり開く。
『部室に来て。すぐ。』
なんとも長門らしい一行だと呆れる。すぐだと?今は授業中だぞ。大体お前も授業中じゃないのか?真後ろのぶっ飛び娘でさえ、授業は受けてる。まあ面白い事を見つけると関係なしだがな。
返信しようとしたとき、またメールを受信した。
(ん?また長門からだ。)
『助けて』
俺は便意を催した旨を先生に告げると、許可も待たずに教室を飛び出した。
先生や谷口達はもちろん、あのハルヒすら茫然と俺を見つめていたが、そんなのは知ったこちゃない。
あの長門が助けを求めて来たのだ。あの万能人型端末が、朝倉に串刺しにされようが、みくるビームを浴びようが、びくともしないあの長門が助けてときた。
男として答えねばなるまい。
第一、長門にはいろいろと世話になりっぱだからな。明日から俺のあだ名が、キョンからウンコ君に変わったとしても、このメールには答えねばならない!うん!
多分最短記録で旧校舎に到達すると、部室の前に見慣れたイケメンがいた。
古泉「あなたもですか。」
いつものすかした笑顔で携帯を見せる古泉。なんだ、呼ばれたのは俺だけじゃなかったか。まあ考えてみれば、あの長門が助けを求めるくらいだ。ただの高校生の俺より、超能力者のほうが頼りにはなるだろうが…少し残念。
古泉「そんなにがっかりしないでください。まあ私はサポート役ですから。それより鍵を持ってませんか?」
そう言ってドアノブをがちゃがちゃさせる。なんだ?鍵がかかってるのか?長門はどうした?
古泉「それが何度呼んでも反応無しでして。」
なんだと!どけ、俺がドアをぶち破って…カチャ、キィ〜って、なんだ開くじゃないか。
古泉「おや?おかしいですね、さっきまで確かに鍵がかかってたのですが…」
首を傾げる古泉を無視して俺は中に入り、そして発見した。
床に倒れた長門有希を!
520 :
名無しさん@ピンキー:2007/03/19(月) 16:44:07 ID:DARbOi23
ゾッと血の気が引く。一瞬脳裏にあの孤島での密室殺人モドキがよぎった。
茫然と突っ立つ俺の横を古泉が摺り抜け、長門の様子を見る。
古泉「ご安心を。眠っているだけのようです。外傷も見たところありませんね。」
寝てるだけ?しかしなんで床に倒れてんだ。昼寝してるようには見えんが。
古泉「ええ。同感です。揺すっても起きませんね。昏睡状態と見ていいでしょう。」
なんでまた…
古泉「なにかが起きて昏睡状態に落ちる前に、携帯で僕たちに助けを求めた。そんなとこでしょう。ご覧ください。」
そう言って古泉が長門の手を指す。そこには片手に携帯、もう一方は人差し指を伸ばし、なにかを指している。
その方向を目で追うと、そこにはあのパソコンがあった。
古泉「このパソコンに、なにかてがかりがあるのでしょうか。」
ハルヒの傍若無人さが遺憾無く発揮され、コンピ研から強奪されたこの記念すべきパソコンに、一体どんな手掛かりを残したというのだ、長門よ。
古泉「ふむ、これは。」
パソコン前に移動した古泉が、画面を覗き込みなにやら発見。俺を手招きする。
古泉「見てください、どうやらこれが長門さんの作成したフォルダのようです。この作業中になにか起きたのではないでしょうか?まずこの中から解決のヒントを探すのが先決ですね。」
・
・
・
で、俺はこうして授業を抜け出し、部室でゲームをやるはめになったわけだ。どこぞのヒッキーと変わらんな。
どうやらこのゲームは、北高をモデルに作ってあるらしい。プレイヤーつまり俺の視点で画面に描かれる世界は、見慣れた北高そのものだ。
古泉「どうやら入学当初から始まるみたいですね。どうします?」
決まってる。目的はゲームを楽しむ事じゃない。一刻も早く長門を目覚めさせる事。ならば行き先は一つだ。
俺は、方向キーを操作して旧校舎に移動した。目指すは文芸部の部室。
カチャ
目の前のドアを開けると、今俺達が居るのと同じ見慣れた部屋が画面に現れた。
すぐにあの姿を探す。しかし部屋はからっぽだった。
キョン「どういう事だ?何故いない?」
古泉「ふむ。ひょっとしたら…」
また横から古泉の指が伸びて、キーを操作すると、画面端っこにいくつかのコマンドが現れた。
古泉「どうやらここからコマンドを使っていくようですね。マウスのほうが使いやすいと思うんですが、全部キー入力とは長門さんらしい。」
コンピ研との初対決の超高速ブラインドタッチを思い出しながら、俺はコマンドにカーソルを移動させた。
古泉「ここはまず『見る』そして『調べる』が無難でしょう。」
うるさい。奴のしたり顔が気に入らなかったので、俺はあえて『出る』を選択した。
画面の視界が暗転。さきほどの廊下になる…と同時にドンッと音が鳴り、画面が振れた。
画面のメッセージ面に『あ…』と表示され再び暗転。そしてゆっくり出て来た映像に、俺達は絶句した。
「・・・」
521 :
名無しさん@ピンキー:2007/03/19(月) 16:45:55 ID:DARbOi23
そこには、廊下にこけた長門有希そっくりの少女のイラストがあった。少しめくれ気味のスカート、鼻からずり落ちそうな眼鏡、床に散らばる本。なんともお約束な映像だ。どうやら部室を出た俺と長門がぶつかったというイベントらしい。
古泉「ナイスです。これでフラグが一つ立ちました。」
なにがナイスだ。お前はゲーム雑誌の評論家か。
古泉「まあまあ。それよりコマンド選択です。ここは『話す』か『拾う』でしょう。」
俺は、コマンドの中に『起こす』がないのに少々残念に思いつつ、『拾う』を選択する。
長門『…ありがとう』
長門の台詞が、メッセージ面に出る。
古泉「残念ながら音声付きではないようですね。CVオフになってるようでもないし、、、あれ?」
またまた横からゲーム解説者古泉の手が伸びて、あれこれ設定を調べたとこでなにか気付いた。今度はなんだ?
古泉「まさか、これは…大変ですよ。このゲーム。」
キョン「だからなにが?」
古泉「セーブ・ロードがないんです。」
珍しくマジ顔で古泉は言った。さすがに俺もコイツの言ってる意味はわかる。セーブ・ロードがないってことはつまり…
古泉「ええ、一度始めたらエンドロールまでやめられないってことですね。」
なんてこった。慌てて乗った電車が特急で、降りるべきホームが目の前を高速で過ぎていった…そんな気分だ。
キョン「途中でやめたらどうなる?」
古泉「わかりません。また再開できればラッキーですが、最悪…」
二度と出来ない可能性があるか。このままいくのがベターだな。
画面では立ち上がった長門が、俺をじっと見つめていた。長門よ、やはりお前はゲームでも無表情なんだな。なんだかホッとしたぜ。
古泉「とにかくなにか話しかけてください。」
わかってる。俺は『話す』を選択すると、メッセージ面に俺と長門の会話が流れる。
キョン『ご、ごめん。大丈夫?』
長門『心配ない。全て正常。』
キョン『そ、そう、よかった。』
長門『…』
会話終了。なんとも現実の長門をここまで忠実に再現しなくてもと思う反面、長門と初対面の時を思い出しなんかニヤリとしてしまった。
続けてなにかコマンドを選択しようと迷っていると、長門から問い掛けてきた。
長門『部室に入って。』
相変わらず簡素な長門の言葉に続いて画面中央に『YorN』と出る。
迷わすYキーを押すと画面が部室内に変わった。目の前の長門がなにかを差し出す。
長門「…書いて。」
『入部しますか?YorN』
なんですと?!
俺は画面を見つめ、思い出した。そこにいる長門は、入部届らしき紙をこちらに突き付け、じっと無表情に見つめている。見ようによっちゃ少し怖い絵面だが、俺は懐かしさを感じていた。まあ、あの時はもっと表情豊かだったが。
古泉「ここはとりあえず入部してみてはいかがですか。拒否した場合、いきなりバットエンドの可能性がありますよ。」
そうだな。Yキー押下と。
ピロリロリーン♪
途端に尻上がりなビープ音が鳴る。なんだ?
古泉「なるほど。」
なにがなるほどだ。説明しろゲーム評論家。
522 :
名無しさん@ピンキー:2007/03/19(月) 16:47:08 ID:DARbOi23
古泉「つまりこういうことです。」
と古泉は画面端を指差す。そこには本のアイコンが小さく現れ、その上に数字が表示されている。なんの数値だ?さっきまでなかったぞ。
古泉「これはおそらく好感度の数値でしょう。さきほどの入部イベントでフラグが立ったので、現れたものと推測されます。」
なぜそんなに嬉しそうに説明するんだ、お前は。
古泉「とにかくこの数字を増やすように行動すれば、長門さんを目覚めさせるなにか答えが出るはずです。さあ先にいきましょう。」
なんか納得できないが、まあ続けるしかないか。画面に目を戻すと
長門「…そう。よろしく。私は長門有希。」
自己紹介していた。続いて俺が挨拶して、文芸部には長門と俺の二人しかいないなどの状況説明が延々続いている。ゲームとはいえ妙な気分だ。現実には同じ部室が、SOS団なんていう訳のわからんハルヒの退屈解消の場になってるなんて考えていたら
バン!
ちょっとドキッとするビープ音を立てて、メッセージ欄いっぱいに大文字が並んだ。
「こんちは〜部室借りに来ました〜♪」
そう、そこには画面いっぱいにはち切れんばかりの笑顔で仁王立ちするハルヒの立ち絵が映っていた。おい、こんなフラグはいらんぞ。
うんざりしているとハルヒは、ゲームでも一方的にしゃべりまくる。
ハルヒ「ねえねえ、新しい部活するからこの部室貸して。聞いた話じゃ、ここ新入生一人だけで潰れそうなんでしょ。ならうちと一緒に部活したらいいのよ!仲良く半分ずつ使いましょ♪」
大嘘つきめ、仲良く半分なんか一日も持つまい。一度1%でも侵攻を許したらアッという間に悪質なコンピューターウィルスのように全部ハルヒ色に染まるに決まってる。
さっそく俺がコマンド『話す』を使おうとしたら、先に長門の一言が発射された。
長門「だめ。」
ハルヒ「そー言わずに、ね、ね。ちょこっと貸してよ。これだけ広いとこ一人じゃつまんないでしょ。」
長門「一人じゃない…」
ハルヒ「ん?なに、あんた?文芸部員なの?」
ようやく俺に気付いたハルヒが睨んでくる。ゲームでも目付きの悪さはかわらんな、ハルヒよ。
ハルヒ「黙ってちゃわかんないわ!どーなの!」
画面にハルヒの両眼がドアップになる。瞳の奥に銀河系のようなものが2、3個見えたのは気のせいか。
コマンドから『話す』を選ぶと『長門有希』『涼宮ハルヒ』の二択が出る。なるほど。ハルヒを選びリターンキー押下。
ピロリロリーン♪
尻上がりなビープ音が鳴る。まさか。嘘だろう。
古泉「おやおや。」
なにがおやおやだ。くそ、本アイコンの下になにやら新しいアイコンが出てる。どうやら腕章のアイコンらしい…って、冗談だよな。
(^ω^;)
わーおもしろーいじーじぇいつづきわくてか(棒読み)
>>522 古泉の一人称は私だし、台詞が台本形式だし、ゲーム内の台詞にかぎ括弧と二重かぎ括弧どっちも使われてて混乱するし…
ここまでつっこみどころが多いのって、ひさしぶりだな…
俺は面白かった。というか続きをプリーズ
まあ、あれだ・・・。
今後に期待ってことだ。
528 :
名無しさん@ピンキー:2007/03/19(月) 17:19:18 ID:DARbOi23
古泉「なるほど、これで涼宮さんも攻略可能になる訳ですか。なかなかユニークなゲームですね。」
ふざけんな。ハルヒの攻略するくらいなら、五分の一の兵力で小田原城を攻めるほうが、ずっと攻略し甲斐がある。
古泉「まあまあ。ここはシナリオについていきましょう。ほら涼宮さんがなにか言ってますよ。」
古泉の指摘通り、ハルヒが画面せましとまくし立てている。
ハルヒ「なにあんたキョンって言うの?変な名前。まあいいわ。じゃあ、あんたは今日からこのあたしが立ち上げる新部活の部員一号にしたげるわ。喜びなさい!」
冗談じゃない。なんでゲームの中でもお前に振り回されにゃならん。SOS団なんてキテレツな部活は現実だけで十分だ。
長門「それはダメ。彼の入部は既に完了している。」
おお、長門。ゲームでもお前は、頼もしいぞ。
ハルヒ「だったら退部して。そうね、出来たら有希、貴女も辞めて部室ごと私のものになりなさい。」
ついに本性を、得意の無茶苦茶を言い出した。横車を押し倒す、ハルヒ式唯我独尊理論だ。別名、ガキのわがままとも言う。
俺が、ゲーム上のハルヒの天上天下ぶりにムカついていると画面にポンと選択肢が出た。
『退部しますか? YorN』
もちろん迷うことはない。Nキーに指を伸ばした俺に、ゲーム評論家が、少し慌てて声を出した。
古泉「ちょっと冷静に考えませんか。ここで涼宮さんの好感度を明らかに下げる選択肢を選ぶのは、あまり得策ではありませんよ。そもそも、このゲーム自体ひょっとしたら彼女の能力が長門さんに影響を与えているのかも知れません。ここは一つ冷静にですね…あっ。」
古泉の説得はわかる。その可能性はあるだろう。だが俺は敢えてNキーを押した。
ピロリロリーン♪
尻上がりなビープ音が鳴り、本の上の数値が幾分上がった。
画面の長門が、じっとこっちを見つめている。その無表情なモノトーンな瞳が少し嬉しそうに見えたのは、気のせいじゃないよな。
デロリ〜ン↓
明らかにダウナーな効果音と共に腕章の数値が減った。長門の隣でハルヒが膨れっ面にアヒル口で腕組みしている。
ハルヒ「あっそっ!そうなんだ!ふーん!いいわよ。そっちがその気ならこっちも徹底的にやるだけだから!」
ハルヒがビシッと俺に指を立てる。人を指差すんじゃありません。
ハルヒ「こうなったらどんな手段を使っても、この部室はいただくわ!覚悟なさい!宣戦布告よ!」
突然ほら貝を鳴らしたような音が鳴り、メッセージ欄に『涼宮ハルヒと交戦状態に入りました。』と表示された。おいおい、まじか。
と画面が暗転して変わった。ゆっくりフェードインする画面を見て俺は呆れたね。だってそうだろう。さっきまで確か恋愛ゲームをやってたはずなのに、目の前には荒涼とした荒野が広がっているのだから。
529 :
名無しさん@ピンキー:2007/03/19(月) 17:20:16 ID:DARbOi23
どこかで見たような景色に俺はいやな予感を覚える。それは後ろの評論家も同じだったらしい。
古泉「いけませんね。どうやらこのゲームの世界でも、涼宮さんの能力は同様なようです。貴方が思い通りにならないと見るや世界感を変えてしまった。普通ならここで登場するのはスライムですか…」
そう、これが普通のRPGなら最初は雑魚キャラだ。だが忘れちゃいけない。これがハルヒの作った世界なら出てくるのは…
ハルヒ「さあ、キョン!覚悟なさい!魔王自ら相手したげるわ!」
そう、以前に本人がのたまわっていた通り、いきなりラスボスが仁王立ちで高笑いしていた。画面にHP・MPが出てるが、どっちもバーが画面の向こうに振り切れてるぞ。勘弁してくれ。
ハルヒ「アハハー!喰らいなさい!ギガファイヤー!」
あ、くそ、いきなしかなり奥義ぽい攻撃魔法唱えやがった。ホント手加減なしだな、コイツ。
ゴゴゴーと真っ赤なエフェクトが走り、攻撃が来ると思った瞬間、画面に黒いトンガリ帽子が現れた。
長門「魔法障壁展開。」
おお、どうやら俺は長門とパーティーを組んでいたらしい。文化祭のベタな魔法使い姿も、先に星を貼っつけただけのステッキも、今は頼もしい限りだ。
長門「同時にブリザードストーム。」
ハルヒ「キャアアー!覚えてなさいぃぃー…」
典型的な捨て台詞を残して魔王は画面から消えた。ほっとしているとトンガリ帽子がこっちを向く。
長門「まだ。追い払っただけ。すぐに戻って来る。」
なんだと。さすがハルヒだ。しぶとい。どうしたもんか。
長門「今は篭城するべき。」
は?篭城ですか?長門さん。
長門「こっち。」
どうやら選択肢はないらしい。長門に手を引かれて移動した先はやはり部室だったが…なんか違和感がある。
古泉「ふむ。恋愛ゲームからRPG、そして篭城ですか。どうやら戦略シュミレーションゲームも混じっているみたいですね。」
古泉の評論通り、画面に並ぶコマンドがさっきまでの『話す』『見る』から『人事』『軍事』『計略』と、とても恋愛ゲームにはありえない文字に変わっている。
長門「ご指示を。」
おまけに寡黙な読書家が、なんか諸葛亮なコスプレで扇子ごしに瞳を向けている。気のせいか?長門、目がちょっと生き生きしてないか?
古泉「なるほど。長門さんが軍師ですか。ふふふ。」
後ろの評論家は、明らかに生き生きしてるな。今日からお前のあだ名は「なるほどくん」にするぞ、たく。
古泉「ここはまず軍事→徴兵で戦力を補強しましょう。」
しゃくだがしょうがない。俺も多少この手のゲームは、やったことがあるからな。オーソドックスに兵力を増やすか。
長門「無理。部員は私達二人だけ。」
ありゃ、そうなるのか?
長門「…提案。効率的に仲間を増やす方法がある。」
画面に『軍師の提案を採用しますか?YorN』と選択肢が出る。せめて提案内容聞いてから選ばせてほしいもんだと思いつつ、Yキー押下。
長門「そう。」
530 :
名無しさん@ピンキー:2007/03/19(月) 17:22:19 ID:DARbOi23
いまや聞き慣れた長門の最も多用されるボキャブラリーの後に、メッセージが続く。
『コンピ研が降伏しました。以後、属領となります。』
おいおい、属領ですか。
ピロリロリーン♪
尻上がりなビープ音が鳴る…って、待て。恋愛モードは終わってないのか?
古泉「これは多分、提案が採用されたことで、忠誠値が上がったんでしょう。」
『情報』を開きパラメータを見ると確かに忠誠値がある。他にも武力・政治力…おお、知力が99もあるぞ。さすが長門、伊達に本を読んでないな。
そうこうしているとまたメッセージが出た。
『敵が攻めてきました。』
敵ってのはやっぱハルヒだろうな。と、画面が切り替わり目の前にまた荒野が広がる。
地平線に砂埃が上がったかと思ったらぐんぐん敵が近づいて来た。
驚いた。そりゃそうだろう、ハルヒが白馬に跨がってるだけでもびっくりなのに、その隣で赤い馬に跨がり、ハルヒに負けんぱかりの満面の笑顔で疾走してくる鶴屋さんを見たら、そりゃ驚くさ。
多分、三国時代、関羽と張飛を相手にした雑兵は、きっとこんな気分なんだろうな。反則だ、まったく。
きゃわきゃわ喚くハルヒとゲラゲラ笑う鶴屋さんの前にコンピ研部員が蹴散らされていく。まずいな、このままだと負けるんじゃないかと思っていると
長門「逃げます。」
と言うや俺は、長門に引っ張られ部室に戻っていた。コンピ研は見殺しか…
長門「このままでは負けます。」
いやもう負けてると思うが…
長門「戦況は不利ですが、策はあります。」
また画面に『軍師の提案を採用しますか?YorN』と選択肢が出る。提案内容は相変わらず不明なまま、Yキー押下。
長門「そう。」
メッセージが続く。
『捕虜を捕らえました。ご覧になりますか?YorN』
捕虜?誰だろ。Yキー押下。
古泉「これはひょっとして…」
後ろからなにやら浮き浮きした声が聞こえるが無視。画面が変わる。
みくる「な、なんですかぁ〜ここどこですかぁ〜」
そこには涙目で怯える朝比奈さんがいた。長門、どういう事だ?
『斬首しますか?YorN』
なぜそうなる。長門、いったいどうした?
文句なくNキー押下。ゲームとはいえ、朝比奈さんを傷つけるなどありえん。
ピロリロリーン♪
尻上がりなビープ音が鳴る。おお、朝比奈さんも攻略可能か!
古泉「おや、朝比奈さんでしたか。」
そこ!なぜがっかりした声を出す。言っとくがお前が捕虜だったら、迷わずYキー押下だ。
とにかくこうして朝比奈さんの命を救った結果、彼女は部下になった。
試しにパラメータを見てみると、おお、見事なくらい武力・政治力・知力の数値が低い。蜀の二代目並みだな。唯一魅力が99とは、なんというか朝比奈さんらしい。
まあ貴方は現実同様可愛いらしさ全開で癒してくださいね。
みくる「あのあの、キョンくん、わ、私…」
ん、なんですか?朝比奈さん。
みくる「て、提案しちゃいますぅ!」
なんですと?!
『提案を採用しますか?YorN』とまた問答無用に選択肢。
531 :
名無しさん@ピンキー:2007/03/19(月) 17:23:18 ID:DARbOi23
正直、朝比奈さんの提案は、いろんな意味で内容をよく聞いてから選ばないとまずい気がするが…しゃーない、Yキー押下。
ピロリロリーン♪
途端に尻上がりなビープ音が鳴り、メッセージ表示。
『鶴屋さんの引き抜きに成功しました。』
おお!でかした朝比奈さん!そうか彼女は…
古泉「鶴屋さんとは同級生でしたからね。」
あ、てめ、俺の台詞を!
鶴屋「あーははは!いやーみくるに頼まれちゃしゃーないねっ!世話になんよっ!よろっ!」
画面には、おでこ全開でおー笑いする鶴屋さんの立ち絵が映っている。デフォルトで元気な先輩だ。パラメータを見ると、武力・知力・魅力がオール90。なんとなく納得。政治力だけ99と突き抜けてるのは、鶴屋家の力か?
鶴屋「手ぶらじゃなんだから、土産に知り合い連れて来たよっ。実家の関係なんだけどねっ。役に立つよっ!」
どんな土産かと思ったらヤツの立ち絵に変わった。チッ。
古泉「なるほどなるほど。ここでようやく僕の出番ですか。いやいや。」
画面と後ろの古泉が、同じニヒルな笑いを浮かべる。実家の関係ね、確か機関のスポンサーだったな鶴屋家は。
こうして人間関係の流れで、古泉が参加した辺りから、俺達の勢力はぐんと有利になった。
一方ハルヒは、鶴屋さんがこっちに付いてから負けないものの勝てず、国力をひたすら消耗しまくっていた。まあアイツの性格だ。内政充実なんてチマチマしたことは一切してない。
戦うことしか考えてないから、属領にしていた商店街や他部から搾取しまくってるらしく、古泉の奸計であっさり孤立した。
青色吐息ってヤツだ。ま、軍事力だけを頼りにした国の成れの果ては、いつでもこんなもんだが、アイツの側にはその辺フォローするヤツが誰もいないのか。
なんか独りぼっちで頑張り続けてるアイツを見てると、あの深夜の校庭を思い出すが、ゲームは無情に進んで、とうとうハルヒを捕まえた。
古泉「どうやら大詰めのようですね。」
ゲームキャラじゃないほうの古泉が耳元で囁く。よせ、気持ち悪い。
画面にハルヒが映る。敗軍の将らしく縄を架けられているのがちょっと痛々しい。
ハルヒ「…なによ。なによ、なによなによなによっ!キョンのバカ!」
悪態をつき出した。相変わらず負けず嫌いだな。
ハルヒ「有希やみくるちゃんばっか優しくしてっ!なによ!」
とても敗軍の将と思えないコメントだ。痴話喧嘩にしか聞こえないぜ。
ハルヒ「一体アタシの何処が気に入らないってんのよ!バカキョン!」
おいこら。ちょっと待て。
ハルヒ「大体誰が好きなの!はっきりしてよ!」
あ、なんか、ヤな流れだ。まさかここで選択肢が…
『誰を選びますか?』
出やがった。しかも5択かよ。
532 :
名無しさん@ピンキー:2007/03/19(月) 17:25:54 ID:DARbOi23
『1、ハルヒ 2、みくる 3、長門 4、鶴屋 5、古泉』
4番の鶴屋さんはともかく、なんで5番に古泉の名前があるんだ。嫌がらせか?
古泉「選んでいただいてもいいですよ♪」
笑えない冗談を言ってる評論家はほっといて、さてどうしたもんか。好みに任せれば2番だが、そもそもゲームを始めた目的は、長門を救うためだしな。
やはりオーソドックスに3番押しとくか。それ!
『だめ…』
長門?!
長門らしいメッセージに驚いていると、突然回りが灰色になってさらに驚いた。
俺は知っている。この灰色一色の世界は、閉鎖空間だ。
ハルヒのストレスが溜まると発生するアレだ…ってことはなにか?俺が1番を選ばなかったから、ヤツはまた神人を暴れさせるために?
だがこれはゲームの話だろ?なんで現実に俺と古泉がこんな殺風景な…そうだ!古泉、久しぶりにお前の出番だぞ。
古泉「いや、残念ですがお手伝いできません。なぜなら私は古泉一樹ではないのです。」
振り向くと古泉が驚いたことにマジ顔で、窓際に突っ立っていた。いや、服は古泉だが顔が違う。そう、この顔は、黄緑江美里。俺の中でアラームが鳴る。彼女は確か…
黄緑「そう、私は情報統合思念体の端末。長門さんの仲間です。」
まさか朝倉みたいに俺を?!
古泉「私は穏健派ですよ。朝倉涼子のように涼宮ハルヒに積極的に刺激を与えようとしている急進派とは違います。古泉一樹の容姿を利用したのも、貴方に害を為す事無く、穏便に今回の実験を終えるためです。」
実験?この閉鎖空間がか!
黄緑「いえ。これは予想外です。まさか長門さんがこのような反応にでるとは計算してませんでした。故に私の正体を貴方に明かすことにしたのです。」
予想外だと?じゃあこの閉鎖空間は、長門が造ったのか。
黄緑「そうです。おそらく彼女は、涼宮ハルヒの能力を模写したのでしょう。この空間を利用すれば、外界から自身を遮断することができます。」
遮断?どうして?
俺の問い掛けに、古泉の服を着たもうひとりの宇宙人は、無表情に淡々と答える。
黄緑「正直言って私にもわかりません。ただ閉鎖空間を造る寸前、彼女の感覚情報は地球人の言う¨恐怖感¨というもののようでした。」
恐怖感?あの長門が?何事にも動じないアイツが怖がったと言うのか。一体なにを?
黄緑「さあ、本来我々端末には、感情と言う情報には疎いので。模写は得意なんですが。」
正体をばらしてからのコイツの淡泊ぶりは、初めて出会った頃の長門並に無表情だ。さっきまでの笑顔は、全部古泉の真似だったのか。
黄緑「いずれにしても、情報統合思念体との結合が出来ないこの閉鎖空間では私は無力です。まもなくこの姿を維持出来なくなるでしょう。」
おい。てことは俺はおいてきぼりか?俺は赤い玉になったり、時間旅行したり出来んぞ。大体なんの実験だ?情報統合思念体はゲームでも売り出す気か。
533 :
名無しさん@ピンキー:2007/03/19(月) 17:30:36 ID:DARbOi23
黄緑「ゲームは情報を採取するための手段です。」
だからなんの情報だ。
黄緑「涼宮ハルヒを観察する過程で派生した特定情報です。当初は微々たるものだったのですが、次第に無視出来ない変化が出始め…」
ニセ古泉は、無表情な眼を俺に向ける。
黄緑「ちょうど貴方が朝比奈みくると時間旅行を行った頃から顕著になりました。」
あの時か。確かにあの時長門は、世界そのものを造り替えた。
閉鎖空間を模写するなんざ軽いもんだろう。
しかも俺は長門にもっと個性的になるようそそのかした。
だからって長門の感情を目の敵にしてんのか。
黄緑「いえ、それどころかその後の彼女の変化は、情報統合思念体にとって…そう貴方がたの表現で言う所の嬉しい誤算でした。」
さっぱり話が見えないんだが。
黄緑「つまり彼女は、情報を秘匿するようになったのです。」
そりゃ長門だって女の子だ。親に言えない秘密の一つくらいあるだろうさ。
黄緑「いいえ。我々端末にはそのような機能はありません。入力された情報は、全て情報統合思念体に集まります。」
とんでもない親だ。プライバシーも個人情報保護もあったもんじゃねえ。
黄緑「彼女は、情報統合思念体がアクセス出来ないほどの強固なセキュリティを自ら構築し開示を拒否した。
情報統合思念体はこれを自律進化の一端と認識した。
秘匿情報を強引にアクセスすると全情報が消滅する恐れがあったため、妥協案を提示したのです。」
そうまでして長門の秘密が知りたいのかね。悪趣味だな。
黄緑「貴方にはそう思うでしょうが、我々の間では情報の瑕疵は忌むべきものなのです。
それに我々が彼女に求めたのは、蓄積秘匿された情報ではありません。」
乙女の日記を覗く程、悪趣味じゃないってか。じゃあなんだ?妥協案ってのは。
黄緑「我々が知りたいのは、感情と言う情報がどんな影響を産むのか。
そこに涼宮ハルヒはどう関わり、そして彼女はなぜ自らの機能を変化させる進化をとげたのか。
それだけです。
それに対して彼女が出した対案がこのゲームでした。このゲームで感情の変化情報を我々にモニターさせ、その対価として彼女は今まで通り情報統合思念体のバックアップを請ける。
それが彼女の提案であり、情報統合思念体は了承しました。」
まるでいきなり才能開花した選手を、慌てて球団がFAさせまいとしてるようだ。
ちょっと待て。その契約交渉になんで俺が巻き込まれる?
黄緑「それが彼女の出した3条件だからです。
ゲームプレイヤーは貴方であること。
ゲームプレイヤーには絶対害を与えないこと。
ゲームプレイヤーには今回の目的を悟られないこと。」
ってバラシてんじゃん。契約違反だろ。
黄緑「擬似閉鎖空間という予想外の事態を起こしたのは、彼女ですからやむを得ません。
我々としては貴方がこのまま長門有希に独占されたままでは困りますから。」
またそれか。大体なんで俺なんだ?
534 :
名無しさん@ピンキー:2007/03/19(月) 17:35:52 ID:DARbOi23
黄緑「理由は聞いてません。ただ…」
そこで男装した黄緑さんの眼が少し細くなった。
黄緑「彼女が蓄積秘匿し開示を拒否した情報を情報統合思念体が推論した結果、95%の確率で貴方を中心とした情報が蓄積されていると予想されています。」
…なんだろうか、このこそばゆい感じは。
ま、まあSOS団の中で一番付き合いが長いのは、俺とハルヒだからな。ハルヒに正体を明かせない以上、俺を選ぶのは消去法の当然の帰結だな、うん。
それよりなぜ長門は、この灰色時空を造ったんだ?話通りなら問題なかろうに。わからん。
黄緑「モニターしていて気付いたのですが、彼女の中で矛盾したデータが、急上昇していました。
閉鎖空間はその数値がピークに達した瞬間発生しています。」
矛盾するデータ?なんだそりゃ?
黄緑「通俗的な表現で¨嬉しさ¨と¨恥ずかしさ¨の数値です。」
つまりなにか?この閉鎖空間は長門が、嬉し恥ずかしの余り勢いで造ったと?黄緑「本来相反するはずのこれらのデータが、貴方が選択肢で彼女を選ぶ毎に上昇しています。
しかし彼女はこれらデータの発生は予想していたはずです。
にも関わらず彼女は数値が上がる毎に混乱していた。矛盾する情報です。」
なるほどね。大体わかってきた。
ようするにこの床で寝っころがってる宇宙人っ娘は、最初は我慢出来ると踏んでたこの実験が、実際やってみると恥ずかしくて堪えられなくなり、しまいには閉鎖空間に引きこもっちまったって訳だ。
しかしそうなると俺も手が出ないぞ。なんせあの長門が引きこもった岩戸だ。核の直撃でもびくともすまい。
黄緑「ですが貴方は、以前にも涼宮ハルヒを、、閉鎖空間から帰還させ、、実績が、、、あり、ま…」
驚いたことに黄緑さんがだんだん薄くなってきた。言葉もよく聞き取れない。
黄緑「せ…続を、、断たれ…、私は…これ以上…の空間に…‥を維持‥でき‥ま‥せ‥」
フッと黄緑さんが消え、灰色の部室に沈黙が降りる。
マジかよ。どうする、俺。
椅子に寄り掛かり茫然と長門を見下ろす。黄緑さんが消えてもこの寡黙少女は、ぴくりとも動かない。
…涼宮ハルヒを閉鎖空間から帰還させた実績があります…
確かにな。だからあの時と同じ方法を採るのかって?眠り姫を起こすって状況じゃ、あの時よりロケーションはバッチリだ。
バッチリだが…
ここで白雪姫作戦を採るのは簡単だ。だがそれは俺のささやかなポリシーに外れる。第一ワンパターンだ。
俺は部室のドアノブに手をかける。だが予想通りびくとも動かない。窓も同様だ。携帯も圏外。ダメだ、完全に孤立。
いや、なにか方法があるはずだ。だが黄緑さんが消えた今、一体どうすれば…
元の席に戻り、堂々巡りの思索をしていたとき、ふと目の前のパソコン画面に眼がいく。
真っ暗な液晶の左上には相変わらず白い半角カーソルが点滅していた。
…YUKI.N>みえてる?…
あの時のメッセージが蘇る。
そうだ。それだ。
俺はキーを叩いた。
?シ樣サ?邱?
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536 :
名無しさん@ピンキー:2007/03/19(月) 17:39:27 ID:DARbOi23
『長門。そこにいるんだろ。もうゲームは終わりだ。ここから出してくれ。』
メッセージを入れて、しばらく画面を見つめる。
見当違いだったかとため息をつきそうになったとき、カーソルがゆっくり文字を紡ぎだした。
YUKI.N>それは…出来ない。
『どうしてだ?大体なんで閉鎖空間なんか造った。
黄緑さんの話を真に受けるなら、お前に情報統合思念体やらは害を与えなさそうだ。評価大だぞ、お前。』
YUKI.N>黄緑江美里が言ったことは事実。情報統合思念体が私を修正することはない。
手を加えることで私の自律進化の可能性が損なわれるリスクは犯さない。
『じゃあなんでこんなとこに閉じこもる?ちなみに俺も巻き込まれてるんだが。』
YUKI.N>巻き込んではいない。
『? わりい、よくわからん。どういう意味だ?』
YUKI.N>あなたをこの閉鎖空間に閉じこめたのは偶然ではない。わたしという個体が…そう、、望んだ結果。
『望んだ結果?』
YUKI.N>私の中に矛盾相反する行動要求が発生している。閉鎖空間であなたと居たい要求と昨日までの日常へ戻りたい要求。
今回の実験開始時点では後者が勝っていたが、現時点では前者が圧倒的に有利。そのため閉鎖空間を解除出来ない。
『それは、つまり、、俺とふたりっきりで居たいってことになるが。』
YUKI.N>・・・・・・・・・そう。
カーソルが点滅する。なんてこった。俺は気のせいか顔が熱くなるのを感じながら、慎重にキーを叩いた。
『日常生活でも、部室でふたりきりになることはあったろう。それじゃダメか?』
YUKI.N>現時点で私の行動要求を支配している感情情報は、日常生活にはいくつかの障害となるデータを認めている。そのデータは消去不能。よって閉鎖空間から出ることを…恐れている。
『一体そのデータってなんだ?お前、何を怖がってる?』
YUKI.N>朝比奈みくると涼宮ハルヒ。私の中の行動要求は彼女達にあなたを独占されることを嫌い恐れている。
なんですと、、、
YUKI.N>…この感情は以前よりわたしの中に不定期に発生。そのたびにノイズが発生。混乱を生んできた。
なんてこった。
YUKI.N>コンビ研が対戦ゲームを申し込んできたとき、負けたら私は部を移ることになるのに、あなたは涼宮ハルヒへの信頼から、地球人類レベルを超える技術の投入を禁止した。その結果コンビ研のインチキにより負けるところだった。
長門よ、お前は…
YUKI.N>文化祭において、あなたは朝比奈みくるのヤキソバ喫茶には行ったが、私の占いには参加しなかった。
その無表情な瞳の下に…
YUKI.N>あなたは部室のパソコンにひそかに朝比奈みくるの画像を保管しているが…私のは、、、ない。
そんなに激しい葛藤が責めぎあっていたのか。
情報の伝達に齟齬が発生した。
538 :
名無しさん@ピンキー:2007/03/19(月) 17:43:21 ID:DARbOi23
YUKI.N>他にも368件の該当項目がある。なぜこのような項目があなたを中心に発生するのか不明。その影響力が極めて強い理由も不明。
それはな、長門、嫉妬・ジェラシーってヤツだ。人間が人間ある最も大事な感情の一つで、人生を賑やかにする調味料の一つだ。効き過ぎると不幸な劇薬にもなるがな。
感情の中でも飛び切り刺激的なヤツにどっぷり遭遇して、お前はさぞ混乱したろうな。
『なあ長門、今は混乱してるかも知れんが聞いてくれ。ここでふたりっきりで居ても仕方ない。なんとか戻る方法を探そう。』
YUKI.N>私には何もできない。私の行動要求はあなたを独占出来る現状に満足している限り帰還は不可能。
うーん、現状に満足してる限り帰れないってか、、、ん、待てよ。ってことは…
『なにか現状以上に満足しそうな事があればどうかな?』
YUKI.N>可能性はある。しかしこの閉鎖空間では私は必要な事象を自由に創造可能。不満はない。
そうだろうな。俺もそう思う。思うんだが…なんだろ?なんかひっかかる。
俺は画面に並ぶ「YUKI.N>〜」を見つめながら考えた。
宇宙のどっかから涼宮ハルヒを観察するために送り込まれた対有機生命体コンタクト用ヒューマノイド・インターフェイス。
あの殺風景なマンションに四年間ひとりぼっちで過ごし、あの部室の隅っこで黙々と本を読む。
だけどハルヒがキテレツ団を立ち上げてからは、コイツも結構変わってきた。
朝倉涼子に殺されかけたとき、眼鏡を再生しそこねたと言ったその顔は、無表情ながら可愛かった。
思えばあの後、長門が言った「わたしがさせない。」ってのは、コイツの中で観察者から当事者に変わった瞬間なのかも知れない。
そうだ、あの時俺は、何かを言おうとしてやめたな。なんだっけ?そう確か、、、
カタカタカタ…
『また図書館に行かないか?擬似じゃない本物の図書館だ。きっとこんなとこより楽しいぜ。』
YUKI.N>・・・・
だめか?
カタカタカタ…
『あのカード忘れんなよ。』
YUKI.N>・・・・・・・・
有希・・・
YUKI.N>・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
ずいぶん長い沈黙にだめかと思った瞬間、白黒テレビのような空間が突然カラーになった。
窓の外を見るといつもの光景が見える。どうやら長門の中で図書館への欲求が勝ったらしい。
バタン
ドアの音に振り向くと、ハルヒと朝比奈さん、ついでに古泉もいる。
途端にハルヒの詰問が始まった。
ハルヒ「なに!?授業中に腹痛でいなくなったと思ったら、こんなとこでなにしてんのよ!まさか有希にいろんなコスプレさせて、セクハラ写真撮ってたんじゃないでしょうね!」
539 :
名無しさん@ピンキー:2007/03/19(月) 17:44:49 ID:DARbOi23
それはお前が朝比奈さんにいつもやってることだろうが!っか長門、いつの間にかデフォルトスペースで読書してるし。
いつ起きたんだ。まあ確かにあのまま倒れてるとこハルヒが見たら、即この部室は軍事法廷に変わるだろうがな。むろん裁判官はハルヒ、被告は俺。弁護士は無しだ。
ハルヒ「なにぶつぶつ言ってんの!言いなさい!今まで何してたの!?」
ぐわっとハルヒの手が、俺のネクタイをわしづかみに引き寄せる。
勘弁してくれ。長門がまた勘違いして白黒にしたらどうする。
キョン「クソしたら、授業受ける気なくなってな。ここでパソコンで遊んでた。」
ハルヒの手を解き、ネクタイを整える。ちらっと長門を見るといつものごとく読書中。ホッとするべきかな?
ハルヒ「はぁー?遊んでたぁ?ホントなの、有希!泣き寝入りはダメよっ!」
今度は長門に矛先を向けやがった。やめなさい。今の長門はいろいろ疲れてるはずだから。
長門「大丈夫。何も…なかったから。」
と言って、顔をハルヒからこっちに移す。眼が合ってしまった。
液体ヘリウムのような瞳が無表情に見つめている。
これでいいんでしょって意味だろうが、長門よ、客観的にはすごーく意味深に見えるからやめなさい。
案の定、ハルヒ、いや朝比奈さんも朱い顔して、俺と長門を見比べている。おい古泉!後ろで笑いをこらえるな。
ハルヒ「キョーーーンッ!ちょっと来なさいぃっ!!」
ああ、俺の明日はどっちだ。
END
喜緑さんが黄緑さんなのは、もうこの際置いておくとして、
その当の喜緑さんはいつの間にいなくなったんだ?
面倒臭くてもその辺りの描写に手を抜いちゃいけない
作品のクオリティってのは案外そういうことの積み重ねで向上していくもんなんだからさ
面白かった!
いいな。うん、いい。
この展開なら、液体ヘリウムよりは南アルプスの雪解け水くらいに、視線の冷たさも温まってる気がするが、いいよ。
息抜きにちょうど良かった。 GJ。
内容の軽さも、台本風の文体もたまには肩の力が抜けて良いね。
>>525 に書いてるけど、古泉の一人称って大部分が『僕』……だよね?
ちょっと手元に文庫がないから、今かなりビビってた
なんだこりゃ
なんじゃこりゃってこれがガンダムの操縦マニュアルにでも見えるのか?
が、そんなことをいっても仕方ない。
とりあえず
>>539乙+sageよろしく
ゆっくりと読み返してきます
きになるとすれば台本と「。」か。 ま、どうでもいいけどね
す、好きとかそんなわけじゃないんだから・・・
もう勘違いしないでよ。
ちゅるやさんだいすき
すもち「にょろーん」
>>543 古泉の一人称は僕だけど、
>>525の『古泉の一人称は私だし』っていうのは、
『古泉の一人称は私になってるし、台詞は台本形式になってるし』、という指摘の意味。だと思う。
それはあれじゃないか。偽古泉(=喜緑さん)という含み。
なんというか、色々な意味で久々にこういうのが来たな。
まあ、ともあれ投下乙。
>>539 乙ー。長門の微妙な心の揺れが楽しかった。
>>546 まさか公式?にスモークチーズ臭漂う人にされるとは……。
面白かったが、読みにくかったな。うむGJ。
何様だよ。
面白かったなら黙ってGJしてろ。
コンビ研ってコンビナート研究所の略ですか?
そこと台本は気になったけど面白かったです。GJ
良かったよ。
でも後半の解説話はちとくどかったな。
よかった。GJ
でも後半が少し展開が速い気がしたね
魅力99は劉禅というより劉備だよすごいよ朝比奈さん。
鶴屋さんのスペックの高さも曹操クラスだし。
でも朝比奈さんと簡単に引き抜かれる鶴屋さんとは貂蝉と呂布みたい。ハルヒ董卓カワイソ。
ピロリロリーン♪ の繰り返しととゲームのジャンルが変わっていく展開と三国志ネタがツボでした。
面白かった。
私のステータスはどれほどなんでしょうか
喜緑さん 体力知力魅力ともに陸上時よりも海中時のほうが優れt
体重・サイズも大幅に増加ですか?
魅力がアップしてるから、体のラインがよりはっきりと見れるものと。
バナナ園という特殊な環境でもそうd
ここですかさず「ワッカーメ↑スペクタクル」
あれ、うしろn
流れをぶったぎって質問なんだけど、ここは連載しても大丈夫なスレ?
毎晩5レスとか10レスとか。
SSなら問題ないだろ。最近では校内放送の一件もあるしどんと来い!
>>564 ありがと。
今連載してるの終わったら、今度ここに来ようか考えてるところです。
>>565 連載だとあとから推敲して、ここはこう書いとけば良かったと思っても直せないぞ。
それでもいいんならばっちこい。
>>565 その様な時は、おまけとしてその話を付けたらいいですので、気にせずに書くと良いでしょう
但し未完はゆるさんぜ!
>>525台本形式でも面白ければノー問題♪
>>539 めがっさ萌えた。やっぱり長門かわいいよ長門・・・
漏れもこんなSSが書きたくなったYO!
>>567 いや、違う違う。
>>566は文章的な手直しが出来ないよ、ってつもりで書いたんだけど解り辛かったかな。
俺は長編書いてると、推敲の時に序盤はかなり手直し入るけどなあ。
>>569 「書いて」
深遠たる宇宙のような瞳をこちらへと向けてくる。
「わたしと言う存在は他律状態にある。あなたの言う万能の力、それは確かに数多の事が実行可能。でも何を
すればいいのか、何をしていいのか。わたしはまだそれが理解できない。だからあなたに任せる。
わたしは、わたしが取るべき行動をあなたに記してもらいたい。そして──」
一度言葉を切り、ただじっと俺を見つめてくる。ただ先ほどと違うのは、その沈黙が支配する瞳の中に
ほんの僅かな、そう夜空を注意深く見つめていないと見落としそうなぐらい、淡い星の輝きを小さく点しており、
それはすなわち長門のある種の意思の現れでもあった。
「そして、何だ?」
俺はその星へとゆっくり降り立つと、その星にいた少女の姿を取る現地宇宙人からの貴重なるコミュニケートを
受けようと、言葉で手を差し延べてやった。
長門は一度だけ瞬きし、僅か数ミクロンの動きで首肯すると
「──そして可能なら、あなたと紡ぐような話を」
……ってぐらい長門SSをwktkしてるぜ。
わかった。
時間がかかるかもしんないけど、きっかりしっかり長門SSを書くことを
長門の真っ黒な瞳に誓おう。
>>572 がんばれ。でもふたつだけ。
残りの容量と誤字には気をつけて。
今気づいたんだが、ENOZって逆から読んだらZONEになるよね
>>574 気づくの遅い!
だがそのどじっこっぷりに萌えた。結婚しよう。
こんなにも情熱的なプロポーズを目撃したの、あたし初めて。
2/Rock 4 U
昨日はいつもより早く寝たはずなのに何故こんなにも眠いものかと妹のヒップドロップを受けながら考えていた俺は、今日からまた騒がしい日々が始まる事に多少ながらも期待みたいなものを感じていた。
いやいや、期待ではないな。不安だ。それも非常に大きな不安だ。
昨日ハルヒがバンドをやるなんて言い出した時は眼球が飛び出してもおかしくないくらいの衝撃を受けたものである。
それに俺がギターをやる事になるとは全く以て予想していなかった。本当に俺なんかが弾けるようになるのかねぇ。
はぁ……自然と溜息が出る。
何が悲しくて朝からこんなに運動をしなくてはならんのかと言いたくなる坂道もいつもより長く感じられた。体感速度四分の一である。
教室に入るとハルヒが顔を窓の外へと向けて何やら気怠そうなオーラを放っていた。
朝からそんなだと放課後まで持ちませんよ。
「どうした?」
「ギター二本があんなに重いとは思わなかったわよ」
「何の話だ」
「今日から練習する為に持ってきたのよ、ギター二本」
あー、と口をだらしなく開けながらうなだれるハルヒを見て、ギター二本を両肩に担いで無理矢理歩いている姿が頭を過ぎった。
中々辛そうだったが、頬を朱く染めているのを可愛く感じたのは何でだろうな。
「それはご苦労だったな」
「ええ、今度キョンに駅前のケーキ屋で奢ってもらいたいくらいよ」
「へいへい」
貰いたいと言っておきながら奢らせる気満々なのは何故だろう。それはハルヒの辞書にある遠慮という漢字二文字が修正液で二重にも三重にも消されているからである。
日本人ならもっと自虐的になっても良いと思うぜ。まあ言っても無駄だと思うが。
「何ブツブツ独り言言ってんのよ」
「いや、何でもない」
担任岡部が来るにはまだ早い時間ではあるが、俺はハルヒに背を向けて体を黒板へと向けた。
今日のSOS団はどうなるんだろうね。やれやれ。
これからの人生で役立つはずのない授業を有意義に就寝に使い、気付けば四時限目終了の鐘が鳴っていた。
学生にとって至福の時間、昼休みの到来である。これだけの為に登校してくる奴も居るとか居ないとか。
後ろの席に座ってる団長様も食堂へと走っていった。たまには弁当にしないのかねぇ。
そうすれば教室で昼食ってのも可能なんだが……。たまにはゆっくり食べたいだろうからな。
さて、いつも通り国木田や谷口と机を合わせて弁当を食べるとしよう。
「また涼宮が何かやらかすそうじゃないか」
こいつ、ハルヒがいなくなったからこんな話題を振ったのか。
「何だって?」
「今日涼宮が怪しげなもん提げて学校に来たってのが噂になってんぞ」
ギターを担いで来るだけでもう噂になってたのか。すっかり有名人だな、ハルヒ。
それにしてもギターが怪しげなもんと言われるなんてな。言われたギターも不憫なもんだ。
「何もねぇよ。いつもと変わらん」
「そうかねぇ。涼宮との二人だけの秘密かぁ?」
ケケケ、と茶化す谷口。こいつだけはいつか一発殴っても良いのではないかと思う。
「俺とハルヒはそんなんじゃねぇよ。お前も見てりゃ分かるだろ。
俺はただあんな意味分からん部でコキ使われてるだけなんだよ」
「だから、今の涼宮とお前を見てると付き合ってるようにしか見えん訳よ」
半ば諦めに入った俺は箸を進める事に専念しようと決めた。
白米を頬張りながら喋るな。マナーがなってないぞ。
「どう見たらそうなる」
「どう見てもだよ」
「最近の涼宮さんはキョンといると楽しそうだしね」
ここまで弁当を食べながら傍観しているだけだった国木田までがこんな事を言い出した。
勘弁してくれ。何故俺がハルヒなどと。
「その話はもういいだろ。それより……」
急に話を替えた俺に谷口はやっぱりな、と得意気に呟いたが、気にしない事にした。楽しい昼休みにしたいからな。
弁当を食べてる最中も、食べ終わった後も、中々ハルヒは教室に戻ってこなかった。食堂で大食い大会でもやっているのだろうか。
やっているなら長門が出れば確実に優勝なんだが。小さい身体であの食べ方は凄い。やはり宇宙人と言うだけあって地球でのエネルギー消費は大きいのかもしれない。
そんな事を考えながら、特にやる事もなく教室でそのまま谷口達とたわいもない会話をしていると、昼休みは終わってしまい、チャイムギリギリでハルヒが教室に入ってきた。
まったり過ごすべき昼休みを忙しく駆け回っていたのか、息を切らしている。
「何処に行ってたんだ?」
「放課後になれば分かるわ」
北校に来てからもう何度見ただろうか、ハルヒは左手で髪をかき上げた。汗で溶けたシャンプーの香りがする。
放課後? また何かやらかしたんではないだろうな。
「やらかすって何よ。まるで私がお騒がせ者みたいじゃない」
お前がお騒がせ者じゃないと言うのなら、テレビで騒がれてる芸能人の結婚報道ですら新聞の隅っこに追いやられるだろうよ。
なんて事は言える訳もなく、五時限目の教師が来たところでこの話は終わりになった。
午後の授業も大半を就寝時間へと費やした俺は、ハルヒのされるがままに久しぶりとなる引き摺られながら部室へ行くという学校内羞恥プレイを実行させられていた。
襟が伸びて仕方がないので、なるべくというか絶対やって欲しくはないのだが、ハルヒはそんな事はどうでも良いらしい。
いつも以上に張り切っているハルヒは、部室の前に着くと俺の襟から手を放し、扉をこれでもかと言わん力で開け放った。いつも思うがいつか壊れてしまうのではないか。
襟を直しつつ、部室の中を覗くと、ギター二本とこれがアンプというのか小さなスピーカーのような物が用意されていた。いつも古泉とボードゲームをしている机には何かごちゃごちゃと置かれている。
「どう? ちゃんとギターを練習出来るようになってるでしょ」
ふふん、と誇らしげなハルヒを余所に俺はギターというのはこんな物なのかと少し関心していた。
光るボディとシャープなシルエット。男として格好良いと思わざるを得なかった。
「お前だけで用意したのか」
一つは二つの角が生えたような形で黒く、一つはVの字を逆さにしたような形で白いギターが光を反射させている。
「そうよ。さ、みんなが来るまでにチューニングくらいはしておきましょ」
「えーっと、確かチューニングって音を合わせるんだったな」
「バカキョンの癖に知ってるのね。このチューナーってのを使って音を六弦から順にミ・ラ・レ・ソ・シ・ミに合わせていくのよ」
ハルヒはチューナーとやらを古泉が言っていたシールドというケーブルでギターと繋ぎ合わせ、椅子に座りギターを膝に乗せた。
そのピコピコ言いそうな長方形の物体がチューニングをしてくれるのか。
「してくれるんじゃなくて鳴らした弦の音程を知らせてくれるだけよ。弦を鳴らしてこれの真ん中に合わせるの」
そう言ってギターの一番上の弦を指でハジいた。重い音が響く。
チューナーのデジタル画面にEというアルファベットが表示され、針を模した線が真ん中より左で止まった。
「これだと少しズレてるわね」
今度はギターの上にあるゼンマイのような物を右に回す。回すにつれ音が伸びて音程が高くなっていく。
へぇ、これで弦の音程を調整している訳か。
「これで良いわね」
何回かグリグリと回しながらチューナーと睨めっこをしていたハルヒが顔を上げ六弦をハジいた。
「これがミか。それとさっきから気になっていたんだが、Eって何だ?」
「ミの英語表記よ。ドレミファソラシドは英語で書くとCDEFGABCになるの。
まあこの辺は理論とかになるし難しいからまた今度」
ドレミだけで精一杯なのに英語でなんか表記するなと言いたいが、誰に言えばいいのだろうか。
これから覚えなくてはならないであろう音楽専門用語に頭を抱えつつ、ハルヒが全弦をチューニングするのを見ている事にした。
しばらくすると、長門がやってきた。ギター二本がある部室に何も言わず、いつもの椅子に座って鞄から取り出した本を読んでいる。
本のタイトルはドラムテクニック全集というその外見には全く似つかわしくないものだった。案外楽しもうとしているのだろうか。
長門も最近になって地球人を炭酸ジュースに含まれている果汁程は理解してくれたのかもしれない。
「ロックフォーユー」
今長門が呟いた言葉に深い意味があるのかどうか考えてしまったが、特に意味はないだろうとスルーした。
ロックフォーユー?
ハルヒが二本目のギターのチューニングを終わらせると、ベースを背負い、部室にあるのと同じようなアンプを持った古泉が何かを話したそうな顔で現れた。
「これが昨日話したベースです。どうですか?」
得意気な顔でケースからベースを取り出す古泉。
お前は見るからに今回の件を楽しんでいるな。
「よくわからん」
「古泉君これフェンダーじゃない。しかもUSAだし。意外だったわ。こんな良い物持ってるなんて」
古泉と俺の間を割って、目を丸くしているハルヒが言った。中々見せない珍しい表情をしている。
「流石は涼宮さん。この良さが分かりますか」
俺に話しかけてきたはずなのだが、古泉は俺を無視してハルヒに媚びている。いや、自慢しているのか。
とにかく古泉は嬉しそうに語っていた。ハルヒと話が弾む古泉なんて殆ど見たことがない。たまにはこういうのも良いかもしれん。
……さて、放置プレイ中の俺はどうすればいいのかねぇ?
「そこに教本がある」
きょうほん? 何だそれは?
「ギターを練習する為の本。言わば、ギターの教科書」
長門にしては分かり易い説明だな。少し読んでみるか。
俺はハルヒが持ってきたであろう機材の横にある教本とやらを手に取った。
「あっ、何勝手に始めようとしてんのよ」
古泉と何やら語っていたハルヒが、急にこっちを向いてつまみ食いをする子供を叱るような口調でそう言った。
「ハルヒと古泉が話に花を狂い咲きさせてる間、ちょっと暇だったんで読もうと思っただけだ」
「ふーん。向上心は大切だわ。でも、キョンはまだまだわかんないんだから、私と練習しないとね」
古泉を放置して俺の方へとやってくるハルヒ。古泉との話は良いのか。盛り上がってたように見えたが。
「今はヘタなあんたの練習を優先するべきなのよ」
もしかして昨日言ってた事ってこういう事だったのか。ハルヒは俺に教えたい、そして密着したい。
密着はよく解らんが、どうやら古泉の言った事は当たりそうである。
古泉のハルヒ分析能力も履歴書の特技欄に書けるくらい上達してきているようだ。
「そうか。なら、ヘタな俺は何をやるべきか教えてくれ」
「今あんたが手に持ってる本に書いてあることを一から順にやっていきなさい。
難しいからって凹まなくても良いわ。私が教えてあげるんだから」
こうしてハルヒ先生のギター授業が始まった。
「手はこう。押さえる事だけに集中しないでフレットボードを丸く包むように心がけて」
とりあえず最初はCのコードを押さえてみようと言う教本通り、俺はハルヒが持ってきた黒い方のギターと格闘していた。
Cって何だ。くそ、全くハルヒのようなジャラーンって音が鳴らんぞ。俺とハルヒは指の作りが違うのかもしれん。
「ぶつぶつ言ってないで指を動かしなさい」
いや、だからだな。お前と俺とでは指の作りが違うという新事実が発覚したんだよ。同じ人間なのに何でだろうな。
「馬鹿言ってないで。ほら、こうよ」
急にハルヒが俺の背後に回り、その朝比奈さん程ではないが高校生にしては豊か過ぎる胸を押し当ててきた。
なんて言うと誤解されそうだが、今の状況を説明するにはこうしか言いようがない。
ハルヒは俺の左手の指を一本ずつ正しいCの押さえ方へと矯正していく。ハルヒ曰く正しい押さえ方なんてないんだけど、私がやりやすい押さえ方だからキョンでも大丈夫よ、だそうだ。
その間鶴屋さんには負けるだろうが、つい最近のCMで流れてるような艶やかな黒髪から発する香りが俺の脳を揺さぶり出したのは錯覚、いや白昼夢であったと思いたい。
気を取り直して右手にピックを持ち、弦を引っ掻いてみるとハルヒにはまだ及ばないが、コードらしき音は出た。
「ま、私が教えれば一日でコードストロークは余裕よ、余裕」
髪をかきあげてテレビの通販並に胡散臭いセリフを吐くハルヒ。何でも私が凄いと思い込んでいるらしい。この性格は一生治らんだろう。やれやれ。
じゃ、そのままリズムを取っていきなさいというハルヒの指示通り右手でリズムを取る練習をし始めた頃、我等の天使朝比奈さんがやって来た。
「みくるちゃん、キーボードはどう?」
「え、えーと、つ、鶴屋さんに教えて貰そうです」
しどろもどろで答える朝比奈さん。目線が泳ぎすぎな辺り、どうやら鶴屋さんに教えて貰うってのは嘘のようだ。
「それならみっちり教えて貰いなさい」
全く疑おうともしないハルヒに鈍感だな、と思いつつ俺はギターの練習を再開した。
結果から言おう、一日でコードストロークをマスターするのは無理だ。
そして夕方。ほんとにギターなんて弾けるようになるのかね、と昨日と同じ疑問を脳内にぐるぐると満たしてベッドに寝そべっていると、携帯の着信音が鳴り響いた。思わずビクッとしたのはお約束である。
この着信音からすると、メールだな。背面ディスプレイを覗くとそこには「朝比奈さん」と表示されていた。
本当ならここで可愛い先輩からメールだ、いやっほうなんて喜びを表すべきなのだが、SOS団メンバーから来る連絡というのはいつもハルヒ絡みであって俺に嬉しい事は殆ど舞い込んでこない。そう、期待はしないさ。
とか言いつつも若干期待しつつ携帯を開きメールを読むと、やはり期待すべき内容ではなかった。
「実はキーボードを鶴屋さんに教わってません。でも、大丈夫です。何たって私は未来人ですよ?
心配しないでキョン君は涼宮さんとギターの練習をしてね」
未来人だからと言ってキーボードを弾けるようになるのだろうか。ましてやはわわ系の朝比奈さん、不安過ぎるが……。
「そうですか。無理はしないで下さい」
長門のように二行にも満たなかったが、こんな感じで良いだろう。俺は送信ボタンを押し、はぁーと溜息を吐いた。
2話投下終了です。
一応4話で終わる予定です。
>578
>そうすれば教室で昼食ってのも可能なんだが……。
>たまにはゆっくり食べたいだろうからな。
口が裂けても「一緒に食いたい」とは言わない男。それがキョンww
まぁ正確に言うと
ドレミファソラシドは英語で言うとドレミファソラティドで
ハニホヘトイロハを英語で言うとCDEFGABCになるんだがな
>>582 GJ。文章に関しては特に問題ないと思う。
が、これは物語というより音楽に関しての解説文にしか感じられなかった。
バンドやってる人間としても、中〜上級者が「〜入門」的な本を読んでいる感覚に陥った。
音楽に関しては素人だけどこれからバンドしたい、って人にはおもしろいのかな?
あと無粋なつっこみだが、音階のアルファベット表記は一応ドイツ語根源だな。
GJです。ありそうな展開で、なおかつリアルなSSだよな。
続きが楽しみだ。
無知なキョンだからわざとかも
>>585 無粋っていうか誰も英語根源とか言ってない
しかも批評でも何でもないだろ
入門の話してんだから知ってる奴らしたら「それ知ってる」ってなって当然
>585
ドイツ語だとCDEFGA「H」Cだな。
劇中でハルヒが「A」を「アー」と読む描写でもあれば別だけど、
バンドやってたら英語読みが主流でないかい。
チェードゥア(シーメジャー)だのデーモール(ディーマイナー)だの
あんまし言わんだろ、ロック方面では。
ハルヒの背面密着ギターレッスン、受けてみてぇ。
>>585 日常生活からちょっと離れたネタの上にキャラもド素人って設定だし、読者に対してもキャラに対しても基本的な説明シーンが無いと
ストーリー上、不自然じゃね? 数行で流しちゃうにしてはシチュ的にハルヒがキョンに手取り教える美味しい場面だし。
#キョンの手に重なるハルヒの指の感触とか、気づいて赤面しながら離れ、すぐいつものハルヒに戻って話す…ちょっとくどくなるか。
まぁ自分が得意な分野に対して一家言あるのは判るけど、指摘するのならSS書&バンド経験者として解説文っぽくならない
表現方法を提案する方がまだ有益じゃないかな?
俺の人気に嫉妬
と自分で言ってみるw
いやまあスルーしてくれ
>>582 誤字がほとんどなく、リーダや「」の用い方も申し分ない。で、
> 日本人ならもっと自虐的になっても良いと思うぜ。まあ言っても無駄だと思うが。
キョンはそういう例えは言わないだろう。
>長門も最近になって地球人を炭酸ジュースに含まれている果汁程は理解してくれたのかもしれない。
長門のことをそういうふうには見下さないと思う。
>「実はキーボードを鶴屋さんに教わってません。でも、大丈夫です。何たって私は未来人ですよ?
> 心配しないでキョン君は涼宮さんとギターの練習をしてね」
みくるはこんな文面でメールを送ったりしないだろう。
とにかく人物理解が薄い。ぺらい。パロディ内でのデフォルメを意図していない文脈だろうから気になった。
誤字や作法の点ではあまりよろしくないのだろうが内面描写の異様に鋭い
>>539と、面白いくらい好対照。
ここはハルヒSSを投下して批評してもらうスレって事でいいのか?
「地球はあたしを中心にまわってるのよ!みんなSOS団にひざまつきなさい!」
「誰がひざまつくか!それと地球は地軸を中心にまわってるんだ!」
「うるさいわね、わかってるわよ!ただ言ってみたかっただけよ!」
(こいつが言うと冗談に聞こえないのがコワい)
「なによ。言いたいことがあるなら言いなさいよ。内容によっては反逆罪とみなして死刑よ!」
「(逃げた方が良さそうだな。)な、なんでもねぇよ。じゃあ、俺は帰るから。」
「あっ、こら!逃げるんじゃないわよバカキョン!」
こうして毎日が過ぎていくのであった
ご、ごめんなさい(>_<。)
言い得て妙だ
>>589 あんまり関係無いが一つだけ突っ込ませてくれ。
>チェードゥア
それを言うならツェードゥアだろ。
>>592 二つ目三つ目はともかく、一つ目は言いがかりに近いと思う俺。
ネタじゃねえよ。
、、、
谷川氏はレイス(民族)による決め付けネタは決して使わない。使わないというより使えない。
特定のパロディ文脈なら別だろうが。
谷川本人が書いてるんじゃないわけで(ry
2つ目の長門の部分の指摘だけが違和感があるかな。
けっこうキョンは長門の宇宙人・アンドロイド属性に凄いこと言ってる気がする。
1つ目と3つ目の指摘は何となくわかる。
特に1つ目は
>>601の解説でよくわかった。
自分の思ってる設定、文体、法則に合わないものは
たとえ原作であっても「それは誤字(誤表記)。○○はそんなことしない(言わない)」
といって難癖をつける。こういう人は割とガチに存在する
まあそういうこともあるかも。だがSF読みはレイスにゃ敏感にならざるをえんだろう。
落とし穴だらけの地雷原みたいなもんだと、痛いほど知ってるからな。
ねた、ねた?寝た、ネタ、ネタ。
あ、寿司食いてー。
ただのバンド音楽講座をハルヒキャラにやらせただけじゃ面白みも何もない
だな。そこにきてキャラがずれてる(と俺は読んだ)。前回のは中々良かったと思うが。
とりあえず寿司ネタではサーモンが最強。
異論は許さない。
あと寿司のサーモンにマヨ付いてるやつ食える奴は日本人じゃない。
トロを食った事が人生で一回も無い。
サーモン最強は同意。
白身魚最強説に一票
とりあえず読後に
「コンピュターゲームを作るわよ!」
「ふええぇ! 鶴屋さんにシナリオお願いしてみますぅ」
「では僕は漫研・美術部にイラストを依頼してきましょう」
「あなたはわたしとプログラムするべき」
な、なんだって!
『以下、延々とプログラミング言語とパターン構築理論の長門的説明1スレ分』
オチ
「右胸が『Ctrl』、左胸が『Alt』、そしてココが『Delete』。あなたに委ねる。選択を」
えいっ。
「あっーー!!」ブツン!
……
「「あ――っ!!」」
なんてこった! 長門の足首に絡まった電源コードが……やれやれ
な、テクニカルファームに逃げ込みブッチギリなプロットが浮かんだ。そして書かない。
題名は『長門有希のある意味罠』
ごめんウソ。良く考えたらプログラム知らなかった。
「よし! やっちまえ!」
「そう……できた」
オチ:バックアップ
「右手にあるのが『CD-R』、左手にあるのが『DVD-R』、
後ろに居るのが『USBフラッシュメモリスティック』」
え……? 「えい」
「あっーー!!」 ( !)擬音は削除されました。
ファックアップだ……やれやれ。
やっぱり書かない。
あがりをくれ
. /⌒⌒ヽ
. |((`⌒ ')) <
>>620くん悪いねっ!ありがとっ!
. /|| |゚ ヮ゚ノ||
/ ( つ旦O
≪彡と_)_) _
>>582 ハルヒ&キョンの素直じゃないツンデレ模様がGJ!
バンドそのものに興味がないけど、技術的な説明の多さは読み飛ばしてるから問題ない。
度が過ぎなければ、内容に深みを出すのには良いと思う。興味のある人にはプラスだろうし。
ハルヒが密着したくていろいろ画策してる様子がイイ!
気になる所もいくつかあったけど、それは以下に↓
>>592 と同じ所で違和感抱いたから便乗。
一つ目のは、単純に語彙の選択ミスったんだろうか? と思った。
前の分に「遠慮を覚えろハルヒ」的な文があるから、「日本人なら自虐的に」>「日本人なら謙虚に」とかね。
「自虐的」だと明らかにマイナス方面、ネガティブ領域だからキョンは「もっとダメになろうぜ」とは考えないだろうし。
二つ目のは、長門に対して初期の頃のような心情を描いてる気がした。
長門に対するキョンの心情の変化は、他の二人に対してより激しいと思ってるから、個人的な主観から違和感を。
バンドに興味を持つからには文化祭以後の設定だと思うけど、長門への認識が野球大会くらい程度に読めた。
個人的に、キョンの長門に対する心情の変化は 「電波」>「宇宙人すげえ」>「助けて長門エモン」>
>「一人でいるのは寂しいかも?」(カマドウマ事変=感情観察日記開始:カワイソウカモ)
>「負けず嫌いなんだな。趣味と息抜きはいいものだ」(射手座=自我が芽生えた:ウレシイ)
>「世界を変えたいほどの感情が!? だが断わる!」(消失=感情すげえ処罰許さん:マサカオレヲ…?)
>「気付かないで無理させてちまって…」(雪山=大丈夫かー!?:マサカオレモ…?)
>「頼りにしちまってすまん。普通に(一人の人間として)楽しい高校生活を
満喫して(豊かな感情を育てて)欲しいんだが、おまえしか頼れる奴が……」(いまココ:ナガトハオレノヨメ)
長門「そう……まかせて」
(遠慮しないでバンバン来てよ! でも女の子として見て! あと図書館に! それとカレー食べる?)
読み手に長門を説明するときは「万能スゲエ宇宙人」。でも内情は上のような記述、のような気がしなくもない。
三つ目は、「なんだか私ダメそうだけど気にしないで」的な内容と、「未来人ですよ?」が気にかかった。
根拠のない「大丈夫」で余計に不安を煽る文体のメールに違和感。未来人であることがピアノを扱う事の
アドバンテージにならないとあったから、安心できる要素なしに送る意味がわからなかった。伏線回収に期待。
技術面で優位でも使うアイテムはTPDDだけで、職務で希にしか使わないのが特徴だしね。
未来人としての『職務』に誇りを持ってはいても、未来人としての優位性を鼻にかけないのが俺的みくるイメージ。
最強はサーモンに一票だ。だがな、次点で鉄火巻きを忘れちゃあいないぜ。
巻きたての海苔! 口の中でほどけるシャリ! そして口の中でとろけない赤身鮪!
わかるか長門? とろけないんだ。キュムキュム噛めるんだ。わかるだろう?
ワサビで少しだけ引き出される地味な旨み。それを味わうためにゆっくり咀嚼するんだ。
触感のハーモニーを楽しむ、これこそが寿司の真骨頂で真髄とも呼べる鉄火巻きなんだ。
……それに100円皿だしな。俺は内心でそっと付け足した。
「そう……イクラ。カレー軍艦」
「おっちゃ〜ん! あたしトロとアワビねっ! 超特急で!」
「あ、あの、サラ、サラダ巻きお願いしますっ」
「まずコハダをいただきましょうか。それとエンガワを」
「あっはっははー! 廻ってる廻ってる! ホントに廻ってるにょろー!! ぷぁっはっは!」
廻ってる皿に満足してるのは一人だけだ。愉快そうに眺めてるだけだがね。
軍艦ならぬ浮沈戦艦と化した約2名の脇にジェンガのように積み上げられていく皿から目を逸らし、
俺は財布の軽さからも意識を逸らして嘆息した。やれやれ。
>>430 コントのような流れに笑わせてもらいました。
キョンもミヨキチもどちらが化かし合ってるのかわかりゃしないな、というのが、ひねくれ者の俺の印象ですが、
キョンがこれで地なのだとしたら、鋭い鈍いというより、自分を含めた物事すべて一般論、他人事で判断してしまうという人間、すなわち傍観者そのものですね。
それがここまで徹底していると、やはり、古泉のように腹に一物あっての黒田如水ではなく芝居ではないかと思えてしまうのですが……。
ま、そこまで考える必要はなく、まだキョンも16歳お坊ちゃんてとこなのでしょう、きっと。
>>498 キョンが書いた額面通りだけの話なのか、深読みしていいのか、正直よくわかりませんでした。『憂鬱』を初めて読んだときのように。
アダムスキーを通り越し秋山眞人を鼻で笑うレベルにまで到達しているはずのキョンが侮辱された程度で何故キレたのかは深読みでもしないと理解できないので、深読みしときます。
他の方々が指摘された通り、二週間をハルヒの尾行をピックアップしたのみであっさり飛ばしてしまったのは、何か裏があるのでしょうか。
相当疲れていたか、それとも鶴屋さんの同居が楽しかったのか、(どちらにしても、だからこそパーティの件をハルヒの前でありながら口走ってしまったのでしょうが)……。
否!鶴屋さんを抱きしめといて何の生理現象も起こしていないのは、すべて納得ずくで、古泉のように腹に一物あっての黒(ryなのかこれも。
とするとこいつが書いてる内容が実際のものか、また行間に何が隠れているか、シェパード医師かワタナベノボルくらい信用できないぞ、気をつけろ。
それはともかく、普段元気な愉快痛快阿藤快なキャラがふっと見せるシリアスな表情……自然に萌えてしまうものです。演技でなければ、ですがw
この後も、一晩床をともにした異性を永遠の伴侶としなければならないとか、いろんな『鶴屋家の掟』がお約束でありそうで怖い。
そして、ほぼハルヒのイエスマンだったと思われたのに堂々と自己主張していたSOS団団員にも、なんとなく、安心しました。
ただ、翌朝それを紹介するハルヒの台詞は、みくるのセリフをそのまま直接話法で引用する等、どうにも不自然だと言わざるを得ませんが……。
重大イベントが起きた割に、ほとんど無難な想定の範囲内で収まっていて目新しいものがなかった(せいぜい長門の態度くらい)のも、残念です。
>>539 台本形式は個人的事情により読まないと決めているので、とりあえず乙、とのみ書いておきます。
あくまで俺の個人的なものであり、あなたのせいではありません。見たところ好評のようですので今後ともご活躍ください。
ただ、次はせめてsageてください、はい。
>>582 こうして具体的にリアルに描いていただくと、未経験者がギターを弾くのがどれほど大変なのかがわかりますね。
SOS団のギター入門講座のようなこの記述内容については批判もあるようですが、素人でバンドもやる気がなく楽器に今までもこれからも疎いであろう俺にはありがたいです。
今後ハルヒ本編でも書かれるであろう文化祭でのバンドの補足または参考資料になりそうですし、後々の必要性があって書かれているのだと思いますので。
それに、これが例えば、マーカライトファーブやマリー・セレスト号など一単語なら知らずともアメリカの全地球情報自由化企業その他のおかげで即調べられますが、
ギターの弾き方やその苦労というものは体験談でしかわからない。キョンなら読者にそれを伝えたがるでしょうし、我々としても凡人キョンのギター奮戦記は読んでみたいと思うところです。
さて、いろいろ指摘されている細部ですが、
>>592で挙げられた件については、
一番目、おそらくキョンは(ネット上で仕入れた)ネタをネタとして書いたのでしょうが、政治的信条がらみなど原理主義者がウヨサヨ存在するネタは、娯楽に持ち込まないほうがいいでしょう。
二番目、長門よりは朝倉に相応しい記述ですが、一瞬でベースが弾ける長門がわざわざ本を借りてくる人間くささの説明として、アリかと思います。見下してるわけではないと思います。
三番目、確かに、まともに楽器を弾くドリフターズを初めて見たときのように違和感ばっちりです。深読みするにもキョンの対応がおとなしすぎますから。
いつも通りのツンデレウーマンツーマン密着ギター講義、そして万能人2人と素人3人のバンドがどんな仕上がりになるのか、期待しております。
しばらく内陸部で育ってたためか、人生のうちでまともな寿司を食べたことがほとんどない。敢えて選べば中トロ。
なお俺にとって回転寿司はファミレスなので、ツナマヨもハンバーグ巻も平気で食べる。イクラは食えんが。
何この長文感想
このスレじゃ長文が美徳なのか
別に長いとは思わない。
だが、内容がクソってる。「GJ」と大して変わらない。
正直いくらエロパロスレでもこの長文感想は
長文ウゼェって思ってる奴のほうが多そうな気がするがいかがなものか
627 :
名無しさん@ピンキー:2007/03/20(火) 20:59:59 ID:dOt1xj38
ちょ、おま、623は作者御本人がわざわざ寸評してくださったのかも知れんぞ!
謝っとけ!悪いことは言わんから
ごめんなさい
正直感想の感想書いてる奴の方がよっぽどウゼェですぅ
感想うざい系のレスの方がうz(ry
ループって怖くね?
ドラクエまだー?
632 :
名無しさん@ピンキー:2007/03/20(火) 21:08:51 ID:dOt1xj38
谷川先生お鎮まりくださいm(__)m
>>622 あー、
>>592の二つ目と三つ目についてはそういう意味だわ。みくるについてはまったく同感。あと、「バンドやろう」という話はたしかに本編でもありうる。
その場合はこういう描写を「(凡人)キョンならしたがるだろう」というのもわかるな
>>623 補足すると、長門についてキョンが「人間理解の不足」という文脈で語るとき、それは「知力」とはキッチリ切り離した形で本編では書かれてる。と思う。
知力による理解は充分過ぎるほどできてるだろうに、無感動にみえる部分を思わず揶揄するというスタンス。朝倉と比較したり。あとオブジェ扱いとか。
一つ目については、二つ目と似ている。とりあえず言えるのは、不特定多数の人の性格を無理やり特定の枠にはめるような(血液型占いのような)
言い回しはキョンはしないだろうということ。なんせ超常的なことを経験しているまっ最中で、常識とか価値観に自信が持ちきれないというお話なので。
「一般的な高校生は……」という言い回しは出てくる。これも、手探り感あふれる(読みようによっては自信なさげな)言い回しがあとに続いてる。
まったく余談だけど、寿司ネタでいうと「魚は生では食べられません」という奴もたくさんいる。日本でも。
「日本人は魚を生で食ってる。だから体中に寄生虫がいて気持ち悪い」みたいな煽りをする外国人がいたら、それはその人が無知なだけだ。
だが、似たようなことをやってしまう可能性は誰にでもある。気をつけるに越したことはないと思う。
長文感想は書き手以外読み飛ばしちゃえばいいっさ。
自分も投下するまで小ネタとSS以外は斜め読みでカッ飛ばしてたし。
くわしい感想・批評が欲しい書き手もいるから、名物として『数人は居て欲しい』マイ感想。
感想の内容は、頷ける部分が有ったり無かったりとマチマチ。そんなもんでいいと思う。
でも、自分以外の視点からの評価も参考になるしな〜。
いつかこのくらい長い感想貰ってみたいが、それが全部罵倒だったら泣いてしまうかもしれん!
>>622 あ、コレも長文感想に含まれてたらスマン。
感想以外に小ネタとか個人的キャラ観まぜちゃったから
むしろこの感想の人が居ないとさびしいと感じるくらいだ。
ただ今回の長すぎかとオモタが。でも分けるのもどうかと思うしな。
つ言いたい事を簡潔にまとめる才能
しかし一時期がウソのような流れぶりだなぁ。
>>637 それは去年の秋くらいのこと? 前スレの一時のこと?
長くて
>>623が読みにくいと思う人のために、全くの他人が文章のリハビリもかねて要約する。
* * *
>>430 キョンの本心の隠し方が上手い。それが彼の素なのか。或いは演技?
ミヨキチもスルーされていることに気付いているのかどうか。
>>498 ぶっちゃけ鶴屋さん泊まってて何も無かったの?
泊まっている日の描写をスルーしたのは、作者がダレたか、あるいはキョンに本当は何かあると思わせる描写?
キョンが切れたのは良かった。が、そこで鶴屋さん同棲かつそれがバレるという修羅場が発生したのに、
それを話の中で生かしきれていない。
>>539 まずはsage。台本形式も嫌い。次はもっとマシに。
>>582 楽器の薀蓄は個人的に良かった。素人の自分に分かるようなキョンの成長記に期待。
だがどっかの新聞から取ってきたような意見を作品に入れるな。
長門の本の理由については風呂敷畳みとして良い。
展開が新鮮で次回に期待。
寿司は回っているのしか食べたことありません。
* * *
うーん、あんまり削れないな。
よし! じゃあ俺が
>>639 をさらに短く!
>>430 鈍感キョン恐るべし。素か傍観者か腹芸達者か?
>>498 なにもしないのか童貞め。空白の2週間てなに?
>>539 sageろ。そして読まん。
>>582 期待している。イクラ「バブー」
以上の内容をシャッフル、ノイズを取り除き「GJ! 面白かった」と加えると!
『
>>430.498.582 GJ! 面白かった。 「つまり人類は滅亡する!」
>>539 ...「な、なんだってー!」』
おぉ、1行に納まった。……ごめん、疲れてるんだと思う。
>639-640
こうして要約を読んでみると、623がどーでもいい感想を
いかにグダグダ長ったらしく書き散らしてるのかが分かるな。
623のSSに期待sage
以前に普通のSSスレで投下した微エロ作品をここで投下してもおk?
あっちでは感想があまり聞けなかった…
お伺いは立てたほうがいい。こちらよりも先方さんにな。
先方ってプリンスレ?
プリンは叩きが少ない代わりにアドバイスを頂けない事が多いからな
>>644 やろうとしている事の意味を良く考えて、身の証を多少なりとも立てられるようにしておきな。
先に投下した場所やまとめサイトの人に失礼をわびる気持ちがなければ、叩かれるぞ。
更新してみて「お、結構レス来てんな〜SSだろうな」
って思ってここまで下ってきたのに長文感想かよ!?
>>646 申し訳ありませんでした
そう言われるとなんか投下しにくいな…
あっちは感想が欲しいといわないとそこまでレスちゃんとしたレスは付きにくいってもうわかってるんだから投下前に感想くださいとか書いとけばいいのに
なんだろう、この寿司の流れ。
リロってなかった。orz
いっそ、リンク張って、「感想くれ!」ってのもありじゃね?
今日は長文感想の人も居るし。この流れならアリかもしれん
あっちはちょっと悪いこと言ったら叩かれるからな。今は知らんけど
なるほど。
じゃあ他スレのまとめとかに投下しているヤツでも
リンクを張ったら感想が聞けたりするのかな。
>>652 要するに
T 「パクリ」疑惑
U 先に投下した場所が気に入らなかったのかと気分を害する人がいるかもしれない
トリップ等付けて名前が知られていない限り、この二点がどうしても付いて回る。だから慎重に越したことはない。
それから、まとめてくれた人が貴方以外にいれば、その労力に感謝していることを表明しておくのは当然。
つまり、貴方のためだ。
>>654 そうか。リンク貼ってもいいのか。どう?教えてエロい人
人がいないっぽいので明日リンク貼ります。ではノシ
ん〜どうだろ?
新作を書き上げてしがらみなく投下ってのが良いのかな…
imagination is
freedom
nissin
raou
何なのだ、この流れ
考えるのではない、感じろ
ネタが無いからといって爆撃機に竹槍で挑むような無意味なレスを続けてもしょうがないわけで、このところの流れを考えると仕方ないかもしれないし何とかしたいのだが、
俺自身も貧乏教師の財布の中身のようにネタがない訳で、結構分裂待ちの自分の文章構成能力の低さを嘆くしかないのである。 ああ情けないぜ俺。
>>666 寝ればどこかの誰かからの電波が受信できるかも知れない。俺はたまに受けとる。
じゃあ小ネタ
反省はしていない
一般的な高校生にとって大切な休息の時間、前半戦を乗り切りこれから始まるであろう後半戦とロスタイムに向けて、
様々なことを討議しあう重要なひと時。まぁ簡単に言えば昼休みは大切だと言うことなのだが。
「わざわざ呼び出してすみません」
まったくである。
こっちはあのデコボココンビと今後の指針についての大事なミーティングがあったというのに。
「それはとても興味深いですね、ぜひ一度同席させていただきたいものです」
「断る」
お決まりの肩をすくめるポーズをとりながら、残念ですね、なんて言ってやがる。
「そんなことより本題はなんだ」
昼休みも大事ではあるが、それ以上に俺の日々の安定のほうが大事である。
これ以上天上天下唯我独尊娘によって繰り広げられる非日常的であり、俺が右往左往するような事態にならないようにする必要がある。
そうは言ってみるが実際は疲弊レベルがほんのちょこっと下がるくらいなのだろうがそれが大事なことである。
「大丈夫です、今回は涼宮さん絡みの話ではありません」
ほう、それなら俺の心身は異常をきたす可能性が軽減されたな。
「で、じゃあ誰絡みの話なんだ?」
「僕自身があ「じゃあな古泉」
そう言いながら教室に帰らさせていただくことにする。
時間の無駄をしたものだ。
「まってください! あなたの意見をぜひ聞きたいのです」
えらく真剣だな。よほどの事なのだろうか、あのゼロ円スマイルが崩れかかっている。
そこそこまずいことにでもなっているのかね?
「少しぐらいなら付き合ってやるよ」
「ありがとうございます」
おーおー、ゼロ円スマイル復活だよ。安いねー、大安売りだ。
「では早速、あなたは2チャンネルという掲示板をご存知ですか?」
「次の不思議探索は朝比奈さんとが良いな」
「そこのあるエロパロ板の話なのですが」
聞いちゃいねぇっ!
「やっぱり帰らさせていただくことにする」
「僕はあなたの意見を聞きたいのです。どうかよろしくお願いします」
「……正気か?」
「えぇ、僕はほどほどに正気です」
困ったね、マジだよこいつ。そもそもあそこは18禁だろ?
「細かいことを気にしていては話が進みませんよ?」
進める気は不二家の営業再開を聞いたときくらいどうでも良いんだが
「僕はエロパロ板一の質と量を誇るある場所にSSを投下しているのですが」
なにっ!? あそこは住人の批判が激しく製作した側がションボリするようなところだぞっ!
そこに投下しているとはやるな、ある意味見直したぜ。
「あなたも良くご存知なんですね、これで話も進めやすいといったものです。では本題です。あなたはあそこの住人をどう思いますか?」
どう思うかなんていわれてもな、さっき言ったばっかりだろ。
「そうだと思いました。しかし、僕にはまた違った見方もあると思うんです」
なぜだろう、いつになく真面目な古泉なのだが話しの内容がかなりまずい。
まぁ普段の会話から考えるとまだ少しマシな気もするが一般人はドン引きだな。
「よく考えてみてください、様々な作品が投下されてみんなでそれを読み感想なり批評を書き込む。
ここで気を付けるべきポイントは批判でなく、批評ということです。そもそも投下する者の立場からしてみれば完璧な出来なわけです。
何日にも及ぶネタ作り、話の矛盾点、人称の区別、さらに書き終えてから何回も自分で読み直す。それで投下するわけです。
あそこの回転の速さから考えると半日足らずで反応が返ってきます。
その様々な書き込みを紐解いてみると十人十色の反応が返ってくる、それは中には批判もあります。
しかし大事なのは批評のほうです。自分では完璧だと思い投下する……でも実際は穴だらけの隙だらけなのです。
我々一人間の脳によって製作された作品には限界があります。そんな中必要になってくるのは他人の意見です。
投下した作品に良い感想が付くとついにやけてしまいます。
お恥ずかしいことに僕も初めての投下は緊張しましたよ、そして結果は酷いものでした。
内容矛盾、人称、設定、口癖、キャラクター……もう壊滅的なものでしたよ。初投下ですからもちろん小ネタですよ?
それなのに様々な反応が返ってきました。それで思うわけです。
次こそは完璧な作品を投下してやろう、批評してくれた人たちのコメントを参考にし、今回以上のものを書き上げよう。
そんな批評してくださった人々に支えられて今の僕がいるといっても過言ではありません」
……あぁ〜、どこから突っ込んだらいいのか分からないくらいの熱弁を披露してくれた。
だからどうしたというのかね? 俺にはどうしようもないのだが。
「だからあなたの意見をお聞かせください。僕の話を聞いてどのようにお考えですか?」
どうお考えですか、と言われてもな。どっちでもいい気がするような話だしな
「いいえ、結構です。言葉にしなくても僕にもあなたの考えていることが分かりますよ」
以上
やはり反省はしていない
久々のエロパロ板ネタktkr
なんかいいなww
古泉自身がが投下したSSkwsk
>>673 A:少年オンザグラウンドゼロ
B:ワンダリング五人
C:校庭は、いつにもましてパーフェクト
D:古泉一樹のある種の罠
「どれだと思いますか?」
B断固B
2レスほどの小ネタいきます。
明後日が二日後ということなので、ちょっと街中の自販機に二十円を入れてみることにした。
自販機に表示されるデジタルな数字が十間隔で増えていく。そう、百円ジュースの完成は近い。
やがて八割方の自販機に硬貨を投入し終えたであろう頃、三十円を入れて回る古泉にばったりと出くわした。
「道理で、あなたもですか。ここが正念場です。頑張りましょう」
「ああ、解ってる」
俺の理想の夢、百円ジュースが七十円ジュースへと進化を遂げていく。出費はかさむが夢には代えられない。
俺は古泉と三時に駅前で集合することを約束し、お互いの仕事へと戻る。
ようやく全ての自販機に二十円を投入し、時計を見る。
一時半。
まだ集合時間には早い。だがここは実際の時間より一時間後だと思うのが最良の判断だろう。そう、今は二時半である。
ちょうどいい時間なので、俺は駅前へと足を進める。
三時五分前に到着するが古泉はまだ来ていない。当然だ、実際は二時五分前である。
三時半を過ぎた頃、ようやく古泉が姿を現した。三十分以上も遅刻しやがった。だが実際は二時半過ぎなので遅刻ではない。
「どうやらお待たせしてしまったようですね」
「ああ、一時間半は待ったぞ」
「なるほど、そういうことですか」
とりあえずいつもの喫茶店に入り、少しばかり休憩を取ることにした。
ウェイターが持ってきた水をふた口ほど喉に流し、俺は兼ねてからの懸案事項を思い出す。
急いで店員に油性マジックペンを借り、ふた口分減った水のライン辺りにマジックでコップに印を付ける。
――そう、俺はこのラインまで水を飲んだんだ。
ふた口飲むたびに印を付けていき、やがてコップがビーカーのように変化していく。
インクが無くなるまでお冷を堪能した俺と古泉は、ある異変に気付いてすぐさま喫茶店を後にする。
「お前も気付いたか」
「ええ。コップがビーカーに改変されていましたね」
またしてもハルヒはとんでもないことを仕出かしてくれたらしい。俺たちは全力で学校を目指す。
途中で一年三組の窓に付いていた群青色の斑点を何かで拭き取り、俺は扉から、古泉は隣の部屋から壁を破って文芸部室へ体を突っ込む。すぐさま部室内を見渡す。
くそ、間に合わなかったか。
「古泉はここで待ってろ。結果はあとで伝える」
「わかりました」
俺はそう言うや否や部室を飛び出し、我が一年五組の、そう、国木田の席だ。そこへ急いで自販機を設置する。自販機は古泉が機関を介さず個人的に手配したものだ。
価格を125円に設定し、その辺りで俺は理解した。
急いで結果を伝えるべく教室を後にする。自販機に五円玉を入れることは出来ないが、今はそんなこと関係ない。
そして一年二組から比較的古泉に似た生徒を探し出し、結果を半分伝える。そして残りの四分の一を古泉本人に伝え、あとは自分の胸に仕舞っておくことにした。
「解決したようですね」
ティッシュペーパーを二枚に剥がす作業に没頭している古泉が、手を休ませることなく俺に言う。
「ああ、今回はマジでギリだった」
「落ち着いたところで、どうです? 久し振りに一局」
小さな将棋板を筆箱から取り出し、古泉は対局を勧めてくる。香車の駒がネバネバするのは愛嬌だろう。
俺はその将棋板をいったん本棚の上に置き、結局そこで対局を始めることにした。
ここで冒頭に戻る。
そう、将棋を始めてから冒頭に戻ったのだ。とにかくいったん冒頭に戻り、再びここまで進んできたわけである。
再び将棋を始め、今は俺も古泉も本棚の上に鎮座している。香車は相変わらずネバネバだ。だが本棚がネバネバしていないことには驚きを隠せない。
俺は一手ごとに桂馬に蜂蜜を垂らしつつ、古泉の陣を攻めていく。胸ポケットから駒を取り出し、次々と駒を増やしていくことも忘れない。
「王手だ」
「王手です」
ドローか。いつの間に腕を上げたんだこいつは。
「その蜂蜜が決め手となりまして」
よく見ている。気付いていないようで気付いていやがった。
俺は自分が勝ったことにしようと裏で試みるが、そういうわけにはいかなかった。窓に付いているショッキング色の斑点が忌々しい。
仕方なしに香車と桂馬を古泉の鞄に戻し、帰路につくことにした。
まあ厄介事はなんとか無事解決したのでよしとしよう。
自宅に戻った俺は今日の出来事を断片的に思い出す。久々に大掛かりな仕事だったな。
いっそもっと大掛かりにすべきかという思考も頭をよぎったが、当分の間は勘弁だ。
まあ、この世界を選んだのは誰あろう俺自身なんだから、もっと大掛かりでも構わないのさ。
以上です
お前か古泉
○天国だと信じてる
>>679-680 パーフェクトと同じ人ですよね?
相変わらずだなぁw
個人的にこれすごく好きなんですけど。
ビーカーのあたりが、もう耐えられないw
すげぇ面白かったです。ありがとう。
下らないのに何でこんなにも笑ってしまうんだwwwww
俺は最初の20円自販機セットでダメになったww
やっぱり俺の目に狂いはなかった。最高だ古泉
なぜかツインピークスなマクラクランを思い出した。
やべえ、何この言いようのないクオリティ。あんたのセンスに脱帽w
意味わかんねえw意味わかんないのにコーラを盛大に吹いたのはどういう訳だ。
ものすげぇシュールwww
こういうの好きだわww
>「お前も気付いたか」
>「ええ。コップがビーカーに改変されていましたね」
>「古泉はここで待ってろ。結果はあとで伝える」
>「わかりました」
連投だが、もう一度読み返してたまらなくなった。
もうこのセリフのやり取りだけで転がるほど笑ったw
やべぇw
690 :
Yuki.N:2007/03/21(水) 21:45:22 ID:NDXB/LDU
俺の小ネタ……前フリになったんだ
こんなに古泉とキョンが対等なSSは過去にあっただろうかw
なんか雑君保プの偉人伝を思い出した。テラアームストロング
お。カマドウウマ事件終了か
>>678 >「ああ、一時間半は待ったぞ」
>「なるほど、そういうことですか」
古泉の戦術理解度の高さに脱税
あえて言わせてもらえば、これの題名は「校庭は〜」じゃなくて「放課後は〜」にするつもりだったんじゃないかな作者さん〜〜
なんて思ったのが、後の井伊直弼なんですけどね。
このSSで作者は何人のハルヒを手ごめにしたのか…
質問なのですが「笹の葉ラプソディ」関連のSSで中学生時の古泉とキョンが会話をしている話を、
誰かご存知ではないでしょうか。探しているのですが見つかりません。
少年オンザ(ryじゃね?
>>700 ありがとうございます。まさにそれでした。
702 :
通学路は、いかなる時もスパイラル:2007/03/22(木) 02:45:28 ID:U0LB3McR
朝、雲一つ無い澄み渡った青空に俺は柄にも無く感動してしまった。
これで雨が降ってさえいなければ文句のつけどころが無かったのだが、さてこの文句はどこにつければいいものかね。
「おやおや、そこを行くのはキョンくんじゃないかいっ?」
と鶴屋さんに声をかけられたが、これは鶴屋さんではなく鶴屋さんに化けた朝倉である。
「キョンくん濡れてるねぇ。風邪ひくよっ?」
そう、俺は晴れていたので傘は持って来ず、今も晴れているのだが、雨足はどんどん強まって今や豪雨と言ってもいいくらいになっていて、俺は滝に打たれる修行僧の気分を満喫していたところだった。
朝倉はと言うと、膝まで届く長い艶やかな髪を丹念に編み上げて笠にしていた。
「ちょう……たし…りた…みがさ……てるんさ…」
こうしてる間にも雨はどんどん強まって、その音で目の前の朝倉の言葉も聞き取れない。
朝倉は突然、鞄の中から刃渡りが三十センチ以上もあるナイフ――というか短剣だな――を取り出したので俺は肝を冷やしたが、朝倉はそのナイフを情報操作して瞬く間に折り畳み傘にしてしまった。
それを俺に渡すと、朝倉は「じゃーねー!」と言って立ち去った。
朝倉が去った後も俺の肝は冷えたままだったので、俺は肝を暖めるべくコタツに入った。
正月の特番を見ているうちにウトウトしてしまったらしい。目が覚めたのは大型トラックが俺のコタツを破壊した時だった。やはり車道にコタツをセッティングしたのは間違いだったか。
いつの間にか雨は夜更け過ぎに雪へと変わっていたようで、ギラギラと眩しい真夏の陽射しがアスファルトを灼いていた。
やれやれ、あのままコタツに入っていたら体中の水分を絞り出されて干物になっていたところだ。やはり車道にコタツをセッティングしたのは正解だった。
そうだ、思い出した。俺は学校に行かねばならない。俺はふと思い立ち、いつものハイキングコースをケンケンで登ることにした。
すると後ろから谷口がムーンウォークで追いついて来て、「遅刻しそうだ」などと吐かしやがったので俺は谷口にジェットエンジンを装着してやり、学校方向へ向けて発射してやった。
周りの女子生徒が何人か喝采を挙げたのが気持ち良かった。
着地の保証は出来ないが、谷口が人並みの運動神経を保有していることを祈るばかりである。
慣れないケンケンのおかげで学校に着くのに一週間もかかってしまい、その頃には右脚が左脚の倍くらいの太さになってしまっていたが、なんとか遅刻はせずに済んだようだ。
教室に行くと何故かミイラ男が居た。太古の王墓から蘇ったのだろうか。ハルヒが大喜びするだろう。
国木田はセーラー服を着て、女子たちとコスメの話で盛り上がっていたので、とりあえずおはようのキスをしてやった。
「谷口は来てないのか?」
「谷口? ああ、そういえば見てないね。遅刻か、さもなければエスケープかな」
全く、せっかく人が間に合うように便宜をはかってやったと言うのに。人の好意を無にする奴め。
とりあえずミイラ男を掃除用具入れの棺桶に封印して、俺は席に着こうとした。着こうとした、と言うのは、俺の席には先客が居たからだ。
ハルヒと佐伯、阪中、瀬能が四台の机を合体させて麻雀に興じていた。どうやら、ハルヒが八連荘をかましたところらしい。
「あ、おはようキョン!」ハルヒが言った。
こんなどんよりと曇った日でも、ハルヒの満天の笑顔を眺めれば俺の心は晴れ晴れとしちまうのさ。
だから俺はいつものように言った。
「おはよう、ハルヒ」
-End-
つい、ムラムラとして書いてしまった。
今は反省している。
パクリも十人がやればジャンルになるそうなので、頑張れば確立できるかも知れません。
谷口テラジャンゴwww
なんだこのカオスはwwGJ!谷口は死んだのか?カワイソス
カオス過ぎてGJとしかいえねーよ!
>>703 じゃあさ、ジャンル名考えさせて。「アポストロフィ物」でどうだろう。
説明しよう。
これは読点が天地無用化した状態、つまりカオス理論によって太平洋の裏の裏…は表なので結局そんなに遠くないのだが、
そんなメタファに用いようと思った蝶々がもんどりうって笑い転げている状況をあらわしているとかいないとか、俺も何のこと
だかさっぱりなのだぜもっと恐ろしいものの片鱗を見てしまった…ってあれ、もういいや。とにかく某国の誇る「深海二千」に
出くわした鉄腕アトム287号のような状況が一転して、泣きっ面に楽あれば苦あり(……中略……)というのだ。
短縮して「アフォ物」と呼ばれることが多い。
正直二番煎じはつまらなかった
カオスっぷりは本家のクオリティに勝るとも劣らないのだが…
惜しいなw
谷口がムーンウォークのあたりで吹いた
HRの終了と共にいずこへか飛び立っていったハルヒを見送り、朝比奈さんという親鳥から甲斐甲斐しく運ばれるお茶という名のエサをピイピイと待ちわびる雛鳥の心境で、俺は回帰すべき巣穴への扉をノックした。
「…………」
一般的に返事とは言えないが、これを音声無き応答を理解できてしまう俺は、親しくなっても口頭での返答を返してくれない先住民兼同居者兼団活仲間との関係を、円熟と呼んでも言いのだろうかと頭を悩ませながらドアを開ける。
「よお、お前だけか?」
中に居たのは、生徒会の部活動目録に寄るなら名実併せ持ったこの部屋の主、長門有希が窓際隅の特等席で本を――おや? 今日はノートパソコンを開いている長門の姿があった。
ご丁寧にLANケーブルにハブをかませてネットに繋がっているようだが。
珍しいな? コンピ研のバグ取りか何かか?
「…………」
本を開いていないことにも驚いたが、キーボードを前にご自慢の指捌きを披露するでもない長門にも違和感を感じていた。
ネットの海は広大で、乱読と呼べるほど活字を愛するこいつだが、それでもウェブ上のテキストサイトを巡回するとは思えないんだが……。
「……迷っている。許可を」
どうした? またカマドウマ・マキシマムでも繁殖しちまったのか?
だとすると同伴するのはやぶさかじゃないが、俺は「あれはなんだ!?」とか「いったいなにが…?」とか視聴者の心境を代弁する役にしかたたないぞ。
今日の昼休みに知ったんだが、最近閉鎖空間もご無沙汰で暇を持て余した超能力者がいるみたいだから誘ってみるか?
なにしろ大手掲示板に自作のSSを投稿しては感想や批評に一喜一憂するほど情熱を持て余してるらしいからな。
「そう……彼は同志」
おいおい、なんだか堅苦しいな。仲間くらいにしておこうぜ。って! ちょっと待て! なんだか見覚えがあるぞ、そのブラウザ!
「あ……」
「ちょっとPCを見せてもらっていいか? いや、妙な操作はしないから」
「いい。あなたに託す」
やっぱり特定掲示板専用のブラウザか……これは古泉の入れ知恵か?
しかも昼休み古泉が話していたSS関連の場所のようだが……にしてもだ、随分の文字密度の濃い板だな。活字中毒にもなるとこのくらいでないと満足できなくなるのかね?
いやいや待て待て!? 長門、なにを託すんだ?
「投稿する場合は書き込むボタンを。それ以外は閉じるボタンを。れでぃ?」
あ、書き込むかどうかで悩んでいたのか。まあそうだな、ROM専から一歩踏み出すのはなかなか勇気がいる。
流石に長門でも躊躇するんだろう。古泉の話を聞いた後だからなんとなく解る気がするが、感想一つでも受け手にとっては――
「自称力作。鍵はまだ揃わない。つまり未完成。選ぶのはあなた」
しかも書き手かよ!! そして未完かよ!! 選ぶの俺かよ!!
内心のツッコミを押さえ、まあ、悩んでるならしないほうがいいんじゃないのか? と無難に答えておいた。
「そう……わたしという個体も最初はそう考えていた。しかし」
しかし、なんだ? 連載形式に惹かれるようになったのか?
「そうではない。連載形式で順次投稿する方法にも、完成後に一括または分割して投稿する方法にも、長所と短所があることは考察済み。
今回の内容は初めての長編となる。わたしという個体が安定した内容で連載する可能性が未知数であったため、連載形式を選択肢から除外することが最良と判断した。
性格的に普遍的な安定した筆力を持たないわたしは、執筆初期、投稿は全容の完成後に厳重な校正を経て出来うる限りの整合性を保った状態で投下するべきだと考えた。
この件について意気投合友人体と情報の交換を行ったところ「まことによい考えかと」との返答を得て、わたしは引き続き執筆行動を続けていた。
だがそこに無視できないイレギュラー因子があらわれた。それが、エラー。
このエラーは執筆行動をするわたしの中に蓄積し続け、ついには無視できないラインにまで到達した。このままでは自律行動にも支障をきたし、また周囲に甚大な影響を及ぼすことを察知したわたしは、ひとつの回避プログラムを用意した。
鍵である進行状況を把握し、ある程度まで完成した際にのみ順次投稿する方法。連載だけど連載じゃないよという矛盾を孕んだこの逃避――回避プログラムに自律進化の可能性があると判断した。
そして決断に悩むわたしの前に選択を押し付ける都合のいいスケープゴートがあらわれた。それが……あなた」
度を越えた無口だった長門が久しぶりに口を開いたかと思ったら延々電波な事を言いやがっ――最後になにか不穏なことを言わなかったか? 俺の扱いとか尊厳とかが関係するような。まぁいい。
「エラーってのはなんだ? 随分おおげさな呼び方だと思うんだが」
「……うまく文章化できない。でも…読んで。
有機生命体である人間が感じる恐怖という感情に近いとわたしは推測する。
執筆行動が長引くにつれ内容が投下先の需要に適合しているかという不安。
初期プロットの半分を消化した時点で、既に想定容量を超過している不安。
早く投稿しないと、本家からの新刊で現在の内容が破綻することへの不安。
ユニークと感じる文体・内容が住人の感覚からズレていないかという不安。
それがエラー。その凡てを内包し、中途でも投稿して意見・感想を渇望してしまう。これが重大なエラー」
つまり書いてるうちに色々と不安になるからとりあえず反応を貰って活力を補充したくなると、そういうことか?
「……そう」
マウスを握り締めて送信と消去の間でポインタをフラフラさせ、珍しくも逡巡に肩を落とす長門を眺めて俺はそっと嘆息した。
長門が自分のやりたいことを見つけたんだ。迷った時くらい背中を押してやるのも仲間の務めだろうさ。
「やれやれ。そうだな、長門。や―――」
やっちまえ。
やめておけ。
そのどちらを勧めたのか、今となっては思い出すこともできない。なにしろ俺の言葉を遮って、
「みんなー! 今日は大事な死刑の日よっ! わたしより遅れてきたら会議なんだからねっ!!」
ドカンときたからな。爆発音みたいなドアの開け方をするのは一人しか居ない。顔を見なくてもわかる。
「あ……」
視線の先には長門。どうやら衝撃さえ伴っていそうな騒音に驚いてレスエディターを閉じてしまったらしく、普段よりちょっと目を開いて固まっている。テキストファイルは残っているだろうし、ハルヒも来たことだからゆっくり考えてみるといいさ。
714 :
梅:告白?:2007/03/22(木) 04:12:39 ID:ZTZUDdK1
「ハルヒ、日本語までおかしくなってるぞ」
「日本語がおかしいのはわざとよ、わ・ざ・と! 見たところみくるちゃんがまだでしょ?
居ないのがキョンだけだったらスイス製の時計並にジャスト正確だったところを急遽アレンジしてみたってワケ!
あと、他におかしなところなんてあたしにはないわよ?」
自覚はないんだな。いやなんでもない。そういえば議題ってなんだよ? 教室では面白い事がないかって騒いでいただろうが。
「ふふん、谷口のアホがね、二次小説? そういうのをネットに投稿してGJを貰ったとか国木田相手に騒いでたのよ。
あ、GJって言うのは拍手みたいなモノらしいわ。我がSOS団も乱入してGJを根こそぎ奪いに行くわよ!
いっそスタンディングGJみたいな新しい賞賛を貰ってきましょう!!」
ギラギラしながら団長専用パソコンの電源を投入するハルヒ。お前は獲物を見付けたジャッカルか。燃えてる時は怖いから言わないが。
その背後に付き従っているニヤニヤした笑い男を俺は睨み付けた。
「お前の仕込か?」
「まさか。あのユニークなご友人はあなたの管轄だったかと」
肩を竦めるハンサム超能力投稿職人は、なぜか普段より爽快な笑みを浮かべてやがった。楽しそうだな。
「そうみえますか? 実際そうなんですけどね。
これもまた青春の1ページを担うと観念して楽しんでみましょう、あなたも。
そして僕も。あなたの感性はとても興味深いですから」
二次小説を書くには原作を知らないと話にならない。ということで俺の前には数冊の文庫本が積まれている。
遅れてきた朝比奈さんに淹れて頂いたお茶を堪能しながらの読書も、これはこれで優雅な放課後なのかもな。後でSSを強要されなければ、だが。
ハルヒはといえば敵情視察とか叫びながらモニタに齧り付き、時折堪え切れずに吹き出したり、かと思えば紅潮して目を潤ませてはマウスをフラフラさせて――例の掲示板の例の板には年齢制限がなかっただろうか?
「ねぇキョン?」
どうしたハルヒ? 俺は現在単純に読書に没頭しているのだが?
「なかなか手ごわいわよ。短めのギャク系だと『面白かった』。
エロ――エロちっくな話だとエロ――いやらし……『艶っぽかった』としか感想が浮かばないのよね。
なんかメチャクチャ長い感想を書き込む人がいるのに理不尽だわ」
「あぁ、その人ですか。匿名性で有名な掲示板ですから、なにか作品を残しているのかわかりませんが、ある意味名物となっていますね」
「感想だから、長いか短いかで優劣はないってわかってるんだけど、なんだか負けてる気分だわ」
感想だからな。優劣を競ってもしょうがないだろう。思ったことを素直に書けばいいんじゃないか?
ああ、朝比奈さん、お茶のお代わりありがとうございます。ん、どうしました?
「ふえぇ、感想ですかぁ。なかなか難しいですよね。わたしも時々感想を書き込んでるんですけど……」
なんと、朝比奈さんまで常連だったんですか。するとあんなSSやそんなSSまで読んじゃっているんですか!?
……いや、聞いた話だぞ。おれは健全な男子高校生だしな。いろいろ持て余しているが。
「へぇ、みくるちゃんがねぇ? これはあたしも本腰いれて感想を叩き込まないと!!」
「そうなんですよぅ。感想に頭を悩ませちゃって……特に1レス容量がぁ」
…………。
「いつも容量オーバーで、頑張って削ってるんですけど……ちゃんと職人さんに伝わっているかなぁって」
「「「おまえかっ!!!」」」
その日、部室に何人かの声が見事に調和した。
オワタ。反省はしてみたい。
メタな話にパロネタをうまく融合させたのがよかった。
「意気投合友人体」はナイスw
やべぇ。メル欄は気に死内容に、ね♪
すいません朝比奈さん、女性に、ましてや【ユ○アは俺たちの青春だった】レベルの俺的マドンナに手を出すのはまったく本意じゃありませんが、
一発だけ殴らせてください
>>714 そんな朝比奈さんに萌えた
普段は長門萌えなのに……!
>>702 とりあえず本家のスゴイところはストーリー性が無いにも関わらず、
なぜか最終的にはストーリー的に収まってるように感じるところだと個人的に思ってる。
言ってて自分でもよく分からん。日本語でおk
>>702 なんか本家に比べて部分部分がまともすぎるような?
>三十センチ以上もあるナイフ――というか短剣だな――
このツッコミは、自分で書かずに読者にやらせないと。
とりあえず
>>133の鬼才ぶりはもっと評価されていいと思うんだ。このシリーズの白眉というか眉が焦げてるw
ところでこの小ネタって先日に言ってた「連載」作品?
地味に期待してたりするんだがw
連載を考えてるって言ったのは俺です。だから別の人。
前略
次スレの候、皆様いかがお過ごしでしょうか。
以下ry
そういやリンク張って批評してもらうって人はマダー?
あと…34Kか。微妙だな。
上から降ってくる物体にも負けず
上から降ってくる物体にも負けず
上から降ってくる物体にも
上から降ってくる物体にも負けぬ
上から降ってくる物体を持ち
上から降ってくる物体はなく
決して上から降らず
いつも上から降ってくる物体
一日に上から降ってくる物体と上から降ってくる物体と
少しの上から降ってくる物体を淹れ
上から降ってくる物体を知らされずに
よく上から降ってき
そして上から降り
上から降ってくる日なたの
上から降ってくる物体に居て
上から降ってくる物体があれば
行って右に打ち返してやり
上から降ってくる物体があれば
行って右に打ち返してやり
上から降ってくる物体があれば
行って左に打ち返してやり
上から降ってくる物体があれば
行って右に打ち返してやり
右に打ち返した時は上から物体が降り
左に打ち返した時は上から物体が降り
皆に上から降ってくる物体と呼ばれ
呼ばれ
呼ばされ
そういう一般人に俺はなりたい
何このムーディー的な文
>>729 ゲームウォッチのヘルメット思い出した。
ワロタwww
みやざわけんじだね
次スレはいいのかね
ムーディ
「どうしましょう。切りが良い所で481KBになったら立てるというのは」
全然切りがよくねえ。
「おや、そうですか? 至ってポピュラーな13進数を選んでみたんですが」
さらに意味がわからねえ。まあいい、その辺りになったら頼むぞ。
「わかりました。あ、そうだ。その時はあなたもご一緒にどうですか?」
二人で立てたら重複するだろうが。
「ではあなたには谷川スレの方をお願いします」
俺かよ。ってお前はどうするんだ。
「もちろん立てますよ」
話を聞けよ少年エスパー。重複だって言ってるだろ。
「大丈夫です。僕が立てるのは谷川氏自身へのエロスレでしから」
作者へのエロかよ!? 谷川さんを凌辱するなよ!
「無理な相談ですね。……あなたにも判っているはずです。これもまた」
ハルヒが望んだってか?
「いえ、賀東氏が」
何でだよ!? フルメタ新作でも書かせとけよ!
「ですからやる気を出させる為にも谷×賀スレを」
賀東が受けなのかよ!? あぁもういい。次スレも谷川さんもお前に任せた。適当な時期に立てとけよ。
【古泉イツキ】キョン受 the 44章【一樹としよう!】(513)
「何処行きやがったあの野郎! 絶対ひっ捕まえてアイツの人生スペクタクルにしてやる!」
このスレも随分カオスになったなw
次スレもう立てるか? ちょっと早いような気もするが、立てるなら立てるぞ。
>>737 480KBになってからでいいでしょう。
せっかく小ネタを暖めていたのに!
どっかいっちまったorz
いや、やっぱ
>>739が言うとおり、480kまで待つよ。
長編投下中とか投下待ち状態でなければ次スレは490超えてからでも充分なんだけどな
俺はキョンなんだが古泉が残念な事に赤い玉に変態したので
「お前それで良いのか?」と言うと
「なるほど、そういうことですか」と言われた。
古泉がハルヒの熟練者なのだがおれはいつも勝つから古泉が気の毒になったので聞いただけなんだが
むかついたので「お前オセロでボコるわ・・」と
言って開始直後に力を溜めて盤上に駒を置いたら多分リアルでビビったんだろうな、
駒を裏返してたからキャンセルしてカカッっとダッシュしながら結局同じとこに駒置いたらかなり青ざめてた
おれは一気に空中にとんだんだけど古泉が硬直してておれの動きを見失ったのか
動いてなかったから長門の本を投げて駒を裏返そうしたら長門が怒ってさらにダメージは加速した。
わざと距離をとり「俺はこのまま帰宅してもいいんだが?」というとようやく必死な顔してなんか手のはしっこから赤い玉出してきた。
おれは長門の本で回避、これは一歩間違えると長門に怒られてで大ダメージを受ける隠し技なので後ろで朝比奈さんが拍手し出した。
俺は「うるさい、気が散る。一瞬の油断が命取り」というと朝比奈さんは黙った
古泉は必死にやってくるが、時既に時間切れ、長門の本で固めた俺にスキはなかった
たまに来る長門の本では防げない攻撃もキックで撃退、終わる頃にはズタズタにされたニヤケ顔の雑魚がいた。
「いつでも帰宅することはできた、あの時赤い玉だそうとしたときにも実は帰宅出来た、」とかいった
そしたら「いや今のハメですよ?機関じゃ今のノーカンですから」とかいったので俺がヒト睨みするとまた俺から視線を外した、
2戦目は長門の本を投げるのをを先読みしてたみたいでいきなりバックステッポで回避された
「ほう、経験が生きたな」
と少し誉めるとマッガーレてくれると言う約束をしたので空中から盤上に駒を置き一気にかけより
閉鎖空間と長門の本の二択を迫り5回くらい閉鎖空間を発生させたら死を感じたのか
赤い玉に変態しようとしたので近づいて長門の本をお見舞いしてやった、
絶望でダウンしているところに閉鎖空間発生のメールが荒川さんからきた。
「今のがハルヒでなくて良かったな、ハルヒだったらお前はもう死んでるぞ」
というと想像して圧倒されたのか動きが鈍くなったので荒川さんで動きをコントロールし
さらに時間までコントロールしていることにも気付かせずに帰宅の準備をした。
そしたら「またですか(笑)」とか負けたくせに言いワケ言ってたから
「限られたルールの中で勝利条件を満たしただけ」といったら顔真っ赤にして3戦目はけっこう攻撃的だったけど
挑発に軽々と乗ってくる馬鹿には確実な死が待っていた。
閉鎖空間の恐怖が完全に摺り込まれている為思うように近づけないでいるようで
空中来たらキックでけん制し飛び込んできたら長門の本でいつの間にか赤い玉に変態していたから
「ハルヒ呼んじゃうよ」と言うと古泉は必死に説得してきたから
狙い通り3コールくらいで電話を切ると予想通り青ざめてオセロしてたから長門の本で強打したのち閉鎖空間でトドメ。
あとは帰宅時間まで粘った。
長門の本は固く、隙を見せなかった。
古泉も本でガードできない攻撃してきたけど反撃もここまで。残念ながら前半の遅れを取り戻す事が出来なかった。
>>743 何この混沌www
これもアフォ物に分類されるのかな?
全然面白くないわけだが。
『『『
窓の外。先程までの鮮やかな夕焼けも今はなく、空は夜という名の紺色の帳をゆっくりと降ろし始めていた。
他の部員はもう帰っちまったんだがなぁ……どうしてこんなに粘るのかね?
「う〜ん、こんなんじゃリアリティないわねっ。もぉっ! イライラする!!」
俺に戸締りを言いつけておきながら、一向に席を立つ様子のない我侭女。早く帰りたいんだがな。
「明日にすればいいだろう? そろそろ見まわりが来ちまうぜ」
SSの為の参考文献と称して俺と同じく読書に勤しんでいた無口少女が、パタリと音をたてて本を閉じたのはもうずいぶん前のことだ。
これが俺達の下校の合図になっているのだが、無表情自動人形と、
超絶界女神門美麗綱美少女目メイド科先輩属の俺の尊敬と憧れ的であることこの上ない少女が部室を後にし、
胡散臭さを掻き集めて捏ね上げたような少年が一言残して帰っていった。
もしかしたらそいつがこの爆弾娘の耳に入っちまったのかもな。
明らかにパソコンの電源を落とそうした動作を止めて、キーボードをガチャガチャしだしたと思ったら、それからずっとブツブツ言っては唸りっぱなしだ。
インチキ詐欺師が残した台詞は俺宛てだったんだがね。
「あなたの作品が待ち遠しいですよ。文章を創作するというのは、それが二次小説とはいえ本人の感性が現れますからね。
あなたの心の奥底に秘められた性癖や願望がどういったものなのか、ふふふ、今から楽しみです。
特に初めての作品ならその傾向は顕著なもので、根が素直な人ほど隠し切れないようですからね」
じゃあ、お前みたいに捻くれてるなら内心を暴露しないで済むってワケか。
俺の精一杯の嫌味だったんだが気にする風もなく、
「そうかもしれません」
それではお先に、と受け流して帰って行きやがった。
そうして俺は今、教師の巡回に怯えながら二人でウダウダと居残りを否応なくされているわけなのさ。
「なあ、かなり暗くなってきたし、いい加減帰るぞ」
腹も減ってきたしな。夕飯はなんだろう。
「ああ! うっさいのよバカ! もぉ! 今すっごくいいセリフが浮かんだのに忘れちゃったじゃないの!
顔を洗ってくるから、そのへん片付けて帰る支度しときなさいっ!!」
トイレか? などと聞けるわけもなく、机をバンバンを叩いて部室を飛び出した騒乱女の命令に従っておくかと席を立った。
帰り支度といっても、俺はもう鞄を持てばいつでも出られるんだがな。カーテンを閉めたら、あとはあいつのパソコンの電源を落とすだけだ。
適当に題名でもつけてデスクトップに置いとけばいいか。そろそろ洒落にならない時間だ。
たまにはお前も厳正なるクジ引きとやらに参加しろ、と言っちまったのが俺の最大の失態だ。
『ギャグ』・『シリアス』・『シュール』・『エロス』の四つ。これに急遽加えられた『エロエロス』を、あいつ本人が引き当てちまったんだからな。
某掲示板のルールに則って匿名で執筆することしたから、誰がどのクジを引いたのかは解らないんだが、こいつだけは顔を真っ赤にして珍しくキョドキョドしてやがったからまるわかりだ。
ん? まだ不思議か? 種明かしは簡単だ。俺のクジが『エロス』だったからな。
やれやれと呟きながら、誰もいなくなった部屋では大きく感じられる唸りを上げるパソコンに手を伸ばし――
「あっ、なにを?」「ふふん、なにをすると思う」
「いや、やめて」「おれのことが好きなんだろう?」
「そんな、あたし・・・」「かわいがってやるよ」
「ああ、いやあん」「声をだすと、はずかしい姿を人に見られちまうぞ」
「ひどいわ」「あいをささやくのはあとでいいのさ」
「はじめてなのに、こんなの」「かんじるんだろ? めちゃくちゃにしてやるぜ」
「あああ、いたい!」「ふはは、いたみもあいもその身にきざめ」
「あっあっあっあっ」「なじんできたか。堕ちちまいな」
「あああああ」「うけとめろ! おれのおもい!」
眩暈がした。クラックラだ。なんて言えばいいんだろうね? 下校時刻を大幅に過ぎてまで残っていた理由がコレなのか。
慣れない仕事だから稚拙さと文章?の短さは仕方ないだろう。だがその内容が……感性? 性癖? 願望?
いやいや! 深く考えるな! あのスマイリーの発言は概ね罠だ。そしてモニタに映った文章も何かの間違いだ。
あの天上天下以下略女がこんな状況を夢想しているなんて、それこそ夢想だにできん。
押し倒そうとする物好きがいたら、逆にあいつの運動神経を実証するはめになり地面を舐めるだろう。
甘い状況に突入してもあいつが主導権を手放すとは思えん。しかし、甘い状況か……どうすればそんなふうに持ち込――いかんいかん!
罠にむざむざはまり込むところだった。これはパソコンを見なかった事にしてとっとと帰――
カチャリ。
「……読んだの?」
あ……。お、俺はパソコンの電源を消そうとしてだな、それでその、
「……読んじゃったんでしょ?」
ガチャリ! 高らかに鳴り響く……施錠の音?
ひっ? な、なんで鍵しめるんですかぁ!?
「黙りなさい。見られたからには、仕方ないじゃない?」
よ、読んでない、読んでないぞ! 実は俺アラビア語萌えなんだ。日本語はない方がいいと思うぞ。
電気を消すなスカーフを外すな上を脱ぎ捨てるな身体が近いんだよ、なまめかしい!
うお! パソコンの電源コードを踏み付けたと思ったら、そのままコンセントからブチ抜きやがった!
それはやっちゃダメらしいぞ。機器的にもデータ的にも。消えちゃったんじゃないかな? さっきの――あ!
「やっぱり見たんじゃないフン!」
最近温かくなってきたからな、セーラ服の下は直で下着だ。それで目のやり場に困ってそっぽ向いてたのが災いした。
気付いた時には俺はあいつの運動神経を実証するはめになり、部室の床を舐めていた。
いや舐めてはいないんだがな。仰向けだったし。視界が回転したかと思ったら次の瞬間にはもう仰向けだ。
呆然とする俺を片膝で押さえつけたまま、スカートをたくし上げると器用にも反対の膝を上げ、スルスルと三角形の下着を――。
ま、待て! なにをする気だ!?
「ふっふ〜ん! わかってるんでしょう?」
いや落ち着け! 落ち付けって!
「嫌なわけ? 違うわよね? あたしのこと…す……嫌いじゃないんでしょう?」
そ、それはだな、なんというか、確かに嫌いじゃあないが、俺は、むしろ…す……嫌いじゃないんだが……。
「な、ならいいじゃない! あんたは痛くないだろうから安心して。気持ちよくしてあげるからあたしに任せとけばいいのっ」
ふぁあ! ベルトに手を掛けるな! これ以上はマジまずいって! なんで俺のシャツのボタンを片手で、しかも流れるような動作で外せるんだよ!?
「あんたの声、嫌いじゃないけど……誰かに見られたらまずいと思わない? 特に、あ・ん・た・が」
ず、ズルイぞ! 確かに誰かに見られたら……こいつが涙一つでも浮かべたら、俺だけ立派な犯罪者だ!
「なによ? 文句があるなら後で文章にして提出ね。ラブレターにも窓口は開くわよ?」
出すか!? なぁ、恥ずかしいが経験ないんだよ俺は。だからな、最初はもうちょっと落ち付ける場所で、こう……シットリとだな。
「ふふん、こんなになっちゃってるクセに。すぐ楽にしてあげるわね」
はぁあ! この温かい海にキュッキュッと包まれる感触は……って! だ、大丈夫なのか!? 血が! 痛いんだろう? 無理するなって!
「んふふ。あんたのこと奪っちゃったのに心配してくれるのね……ありがと。
聞いた話だけどね、女の子のハジメテってやっぱりちょっと大切なもんなのよ。だから痛みで心に刻み込むの。
ちゃんと思い出に残るように、その時の気持ちを忘れないようにって」
そんな健気な少女みたいな顔をするなよ。おまえはいつだって100Wの笑顔を見せ――って、コラァ! 動くな! 動くなって!!
切ない声を出すな熱い息を吹きかけるな顔が近すぎるんだよ気持ち良い! うごっ、うーごーくーなー!
「我慢してるあんたの顔ってなんかカワイイわね。気持ちよくなってきた? 我慢しなくていいのよ」
とまれって! マジで放出5秒前! なんて5言ってる場合じゃないぞ!?
暴発を待つ俺のショットガンに数千万の小弾が4パッケージされた弾丸が充填完了して一塊に撃ち出そうと3お前というトリガーで欲望という火薬が着火し2膨張する快感という燃焼ガスによって当てたら1マズイ標的に向かって今まさに――って、あああああーっ!
「いいわよ、きてっ! 受けとめたげるっ!! あんたの想いをっ!!!」 』
「……これがプロット」
無表情を表現してやまない表情を張り付けた少女が、静かに告げていた。
「参考にして……」
神聖不可侵を自称するあいつも流石に絶句している。まあ仕方ないだろう。
万能選手とはいえ予想外の人物から助け舟を差し出された上に、舟はネットリとナマナマしい雰囲気を湛えているんだからな。
自分の席で何事もなかったかのように本を開いて静止した少女と、テキストデータを受け取ったまま停止した少女を眺めて俺は嘆息した。
やれやれ。』
「――といったプロットを用意してみました」
これは善意ですと詐称して財産を巻き上げようとする詐欺師みたいな微笑の少年がそう語った。
「随分と頭を悩ませていたようですので、差し出がましいとは思ったんですが、参考にしていただければと。
あとは少し手直しして、肉付けをしていけばそれなりのものになると思いますので、これがお役に立つのなら光栄です。
ああ、それと最後の所なんですが、【このような状況が発生した】と見せかけて【実は意外な人物からの参考資料だった】……というのが今回のオチになります」
無軌道な上に一方通行なあいつも流石に絶句している。まあ仕方ないだろう。
頼りになる参謀役とはいえ、頼みもしないのに助け舟を差し出された上に、舟の船頭は自信ありげに頬を紅潮させ鼻息も荒いんだからな。
自分の席でどうですか?と俺に片目を瞑って見せる少年と、テキストデータを消去するべきかと両目をパチパチする少女を眺めて俺は嘆息した。
やれやれ。』
放課後に入り、さぁ今日も読書に励むかと気合をいれたんだが、どうやら俺には優雅なティータイムは与えられないらしい。
「バカね! そろそろSSを書き始めなさいよアホキョン!」
バカなのかアホなのかはっきりしろよと問い詰めたいところだが、新しい罵倒表現を投げつけられて困るので俺は黙って引きずられるままに部室へと運ばれた。
ドカンとドアを開け放ってから挨拶するのがコイツの流儀らしいが、幸いなことに部室専用の天使様はまだ到着していないようだ。
その代理でもないんだろうが、古泉と長門がすでに部室に待機して、いたのだが……どうしたんだ?
「どうしたの? 二人して固まっちゃって? NASAから飛行士の抽選結果でも届いたのかしら?」
応募すんな! ともあれ、妙な雰囲気だな。
長門と古泉が団長席に鎮座するモニタの前でなにやら眉をひそめている。まさかマジで宇宙旅行か?
「…………」
「いえ、これなんですが」
パソコンがどうかしたのか? 団長専用とはいえ勝手に団員が使用してもハルヒは殴ったりはしないだろう。
だがここ数日は長机の上にもノートパソコンを設置してあるからな。SSを書くならそちらを使えばいい。
「それなのです。僕はついさきほど、偶然長門さんと廊下で顔を合わせましてね、一緒に部室に向かったわけなんですが、来てみたらこのパソコンの電源が入っていた、というわけなんです。
長門さんに確認したところ昼休みには確かに電源はオフだったらしいのですが……そして問題はですね、このパソコンに残された文章です」
それが冒頭からの文章ってわけだ。誰のイタズラだ? 長門も古泉もどう判断して良いのか判断しかねているのか嫌な沈黙を守っている。
そして文末にはこんなものも書き添えられていた。
『――こんな感じのプロットはどうですかぁ?
初めてだと難しいと思うので、お手伝いになるといいなぁって、書いてみました。
あ! なんだかややこしいですけど、後半の部分はですね、【こんな状況がありました】って見せかけて実は【ある人物の参考見本でした】って見せかけ
てさらに【そんな捻りを加えた参考見本でした】っていう三段階半捻りのオチなんですよぉ。なんだかすごそうですよね。
捻るならちゃんと一回転捻ろよ! すごくねぇよ! 蛇足だ!
しかもこの登場人物、参考見本とかいいながら誰が誰なのか判別ついちまうじゃないかよ。
『そうそう。誰かをモデルにしたわけではないので気にしないで、思い付いたままでキャラをあてハメてくださいね。
べつに意識を誘導しようとかは全然思ってないので、気にしないでください。
匿名希望の謎のあしなが……ええと、たかうじ? より――』
こらハルヒ。沈黙同盟には加入させてやるから赤面しながら俺をチラチラ見るな。
しかしこれはどう扱えばいいんだよ。とりあえず消去しちまってもいいのかね?
だからハルヒ! パソコンに繋がったコンセントの位置を確かめるな。時計で時間を確かめるな。自分の襟元から今日の下着をチェックすんな。
どおすっかなぁ……。
「だれかのイタズラでしょうかね」
「とととりあえず今日は解散にしようかしらっ! もぉ! まったく誰の仕業なのよ!
こんなことがあったら気分が乗らないしみんな帰っていいわよ!
あ、キョンはちょっと残りなさい!! いいからっ!」
「…………」
カーテンを閉めるな! まだ空は明るいだろうが! いや違った、この状況で居残りするのは背中が寒いんだよ。なに考えてんだ!
初めてはだ、もうちょっと落ち付ける場所で、こう……シットリとだな。
キイィー……
「あ……」
部室の入り口に我らが天使……あぁ〜、今日はいいや。朝比奈さんが立っていた。
「み、みなさん早いですねぇ。ちょっと遅れちゃいましたぁ、エヘヘ……」
今日もメイド服がステキですね。水の入ったヤカンが重そうですが、お持ちしましょうか?
「……ふしゅ〜〜、ぷひゅ〜〜♪」
唇を尖らせる朝比奈さん。音が出ていませんよ。あと目が泳いでます? あしなが?
「たかうじ! あゎ……あっ! わたしお水汲んでこなくちゃ!」
「「「「おまえかっ!!!」」」」
今日も、部室に何人かの声が見事に調和した。
オワタ。反省はしてみよう。
目指せ 490k! えい!
755 :
名無しさん@ピンキー:2007/03/23(金) 20:12:31 ID:QsBc/CPl
756 :
名無しさん@ピンキー:2007/03/23(金) 20:48:36 ID:34XL7CwU
ハルヒがドラマ化って本当かい?
>>756 電凸までした勇者のおかげで今のところガセです
たしか
758 :
名無しさん@ピンキー:2007/03/23(金) 21:07:39 ID:34XL7CwU
ありり〜^^
ありり〜^^
>>754 昨日の時点では単なる小ネタだったのに、ここまで見事なSSに進化を遂げるとは…
素晴らしくGJです
ありり〜^^
とりあえず次スレ立ててくるわ。
764 :
名無しさん@ピンキー:2007/03/23(金) 21:31:23 ID:gYOZ107G
消失84ページから。
弱々しげな頬がますます赤くなっていく。
本心を言うと、そんな長門は、ちょっと――いや、かなり可愛かった。
俺は、無意識に長門の頬に触れていた。「ひっ…」と長門が身を竦める。
「すっ…すまん長門、なんというか無意識の内に触ってた…すまん悪気はなかったんだ」長門が叫ばなかったのが幸いである。
「いい…少し驚いただけだから…」
ふぅー…良かった、長門は俺に怒ってはないみたいだ。
「あなたは…あの…」長門が頬をますます赤く染めて聞いてくる
「あなたは、私の事どう思っている?」
えっ…俺の中で時計が止まった。長門はいま何といった?私の事どう思っている?えーとそれはつまり…
「好き?嫌い?」
765 :
埋め:2007/03/23(金) 21:42:55 ID:3Olp3cko
風呂で頭を洗っていると、いきなり戸が開いた。
「キョン君、一緒に入ろー」
タタタ、ジャブン、と湯に飛び込む音。
「こらこら、お湯に入る前に体を流しなさい」
「だってーシャワー使ってるしー」
シャワー使うのかよ!とつっこむまでもなく、浴槽から上がってお湯をかける音がした。
それはそうと背中がスースーする。
「寒いから早く戸を閉めなさい」
「ごめんなさい、すぐ閉めます」
意外な声に思わず振り向くと、妹の同級生にして親友のミヨキチだった。
「失礼します」
かろうじて聞き取れる小さな声。
恥ずかしそうに腕を押さえながら浴室に入ってくる。
続かない
766 :
名無しさん@ピンキー:2007/03/23(金) 21:48:19 ID:gYOZ107G
消失84ページより
弱々しげな頬周辺がますます赤くなっていく。本心を言うとそんな長門はちょっと――いや、かなり可愛かった。
俺は無意識に長門の頬に触れていた。
「ひっ…」
長門が身を竦める。長門が叫ばなかったのが幸いである。
「すっ…すまん長門、悪気はなかったんだ」「いい…少し驚いただけだから」
少し気まずい沈黙が続く。その沈黙を破ったのは長門だった。
「あなたは…あの…」頬をますます赤く染めて聞いてくる
「私の事どう思っている?」
それってどういう…
「好き?嫌い?」
そういえばリンクの人はどうしたんやろ。
新作を投下することにしたんかね。
批評してもらうって言ってたけどね。
どうしたんだろう。
埋めます。いきなり最終回っぽいネタ。キョンがいきなり死んだりしてます。
っていうか8Kに収めるのが精一杯。
収まらんかったら尻切れトンボという事で、埋めネタの醍醐味と笑ってください。
「僕としてはあんたに死なれると大いに困るんだ。何せ僕の生命に関わる事だからね」
どういう事だ。俺の命が何でお前に関係ある。
「禁則事項なんで詳しくは言わないが、例えばだ。僕があんたの子孫だとしたらどうだい。簡単な話だろ」
相変わらず酷薄な笑みを浮かべているが、その目だけは真剣な色を見せている。
俺の将来の何らかがこいつの人生の何処かに深い影響を与えていたとして、その俺がもしその何らかを
する前に死んでしまったら。
こいつはその存在自体が消失してしまうかもしれないと、そういう事なのか。
「そうさ。多少のずれなら歴史自身が勝手に修正していく。でも僕とあんたの関係は多少のずれじゃ
済まされないのさ。だから、もう一度だけ聞く」
今まで浮かべていた軽薄と軽蔑のブレンドスマイルを隠し、俺が知る限りで一番の真剣勝負な顔をぶつけてくる。
「明日、涼宮ハルヒかあんたのどちらかが必ず死ぬ。これは変えられない既定事項だ。
だがあんたは自分か涼宮ハルヒ、そのどちらが死ぬかを選ぶ事ができる」
未来を知るそいつの言葉はまさに死の宣告、余命幾ばくも無い者の前に現れる死神そのものだった。
「明日の午後三時、涼宮ハルヒの手を握っていたらあんたが死ぬ。握っていなければ涼宮ハルヒが死ぬ。
あんたがこの事を他の連中に話し、宇宙的、未来的、超能力的な力を極限まで駆使してどれだけ回避しようと
しても無駄だ。ある事項から逃れたとしても別の事項が即座に発生し、そして必ず、どちらかが死ぬ。
未来は二人のどちらか一人にしか訪れない……それが規定事項だ」
ハルヒの手を握っていれば、俺が死ぬんだな。この件で一番重要な部分を再度確認する。
「ああ、それで合っている。……本来なら今ここであんたの両手を使いものにならないぐらい痛めつけてでも
涼宮ハルヒの手を握らせないようにするつもりだった。だが、どうやら無駄みたいだな」
ああ。例え両手が動かなくても俺はハルヒの手を握ってみせる。腕を切られたなら義手をつけてでも実行するさ。
「それがあんた自身と、あんたに関わる未来全てを引き換えにしてもかい?
言わせてもらうが、あんたがそこまでできた人間だったとは僕は微塵にも思っていない。
彼女の、涼宮ハルヒのいったい何が、あんたをそこまで動かすと言うんだ?」
さあな、俺にもよく判らん。あえて言うなら、俺がこの話を知ってしまったから、だと思う。
俺がハルヒを捨てて生き延びたとして、おそらく俺はその事について一生後悔を背負うだろう。
そうなれば死んだような人生か、俺と言う精神が崩壊した状態かになるはずだ。ハルヒと言う存在を捨てて
そんなくだらない人生を歩むぐらいなら、俺はあいつに生きる権利ぐらい渡してやるさ。
「そうだハルヒ、お前に話しておかなきゃならない事が一つある」
先を歩くハルヒの腕を掴み、俺はハルヒの意識をこちらへと向かせる。
「ちょ、何勝手に手を握ってるのよ。セクハラで訴えるわよ?」
お前がいつも朝比奈さんにしてる行為に比べりゃ可愛いもんだと思うがな。そんな事より、今は俺の話を聞け。
時刻を確認しつつ俺はハルヒの手を握ったままで喋りだした。
ハルヒ、今から言う事の詳細は悪いが他のメンバーに聞いてくれ。長門でも古泉でも、朝比奈さんでもいい。
きっと事細かに全てを教えてくれるはずだ。俺がここで話すにはちょっと時間が無いみたいだしな。
「はあ? あんた、何言ってんのか全然わかんないわよ。それに時間が無いってどういう意味よ」
いいから聞け。俺はハルヒを真剣に見つめたまま握った手に力を込めて、ハルヒを有無を言わせず黙らせた。
「……今まで黙っていて悪かった。ハルヒ、お前が中学時代に会ったジョン=スミス、あれ俺なんだ」
「え?」
──午後三時。
上から落ちてくる看板に気づき、間抜けな声を発するハルヒを思いっきり後ろへと引っ張りぬく。
次の瞬間、ハルヒを投げた勢いで踏ん張っていた俺の脚がすべりその場に転んでしまい、俺は最期にハルヒの
姿を目に映しつつ上から落ちてきた看板の洗礼を全身に受け、
そこで俺の全てが途絶えた。
「……何処からお話しましょうか」
「全部よ。あいつが、キョンが何を伝えたかったのか、全部」
いつもの制服姿に喪を表す黒の腕章を付けた左腕を延ばし、古泉くんをはじめとした三人を指差す。
「それがジョン=スミスと名乗ったキョンの遺言よ」
そう、ジョン=スミス。あたしの深層心理に深く刻まれ続けていた、あたしの初めての理解者。
その名をなぜキョンが知っていたのか。そしてそれが自分だとはいったいどう言うことなのか。
古泉くんが一度肩を落とし口を開きかけた時、意外にも有希がそれを制して語りだした。
「条件がある」
条件? 条件って何よ。
「あなたが聞きたい内容は、わたしと彼が交わした会話並びに共にした行動、その全てとなる」
有希が静かに、だがまるで旧来の敵を見るかのような熱く黒い視線をぶつけてくる。
「それはわたしにとって掛け替えのないもの。でも彼の意思を尊重し、一度だけあなたに全てを語る。
ただし、あなたが会話中に一度でも否定を口にしたらわたしは会話を終了させる」
……わたしにとって信じられない様な内容だけど、でも有希にとってはキョンとの大切な思い出なのね。
「そう。いつでもいい、準備ができたら」
「できてるわ。そんなの、この喪章を付けた時からずっと」
「……そう」
有希は小さく頷くと、一呼吸分だけ間をおいてから思い出を語り始めた。
「わたしはいわゆる普通の人間ではない。この宇宙を統括する──」
三人から全てを聞き終えるまで、あたしは一言も喋らなかった。口を開けば絶対に否定してしまう。
三人が告げた話はそれぐらい突拍子もなく、非現実的で、しかし前々からあたしが気になっていた部分、
その全てに合致する内容だった。
「あたしに、そんな力が……いえ、そんな事より、あたしはこんなに」
気にかけられ、狙われ、利用され、そして何より護られていた。
キョンにも、沢山。
「……さて、ここからが本題です」
あたしが落ち着くのを待ち、古泉くんが口を開く。いつものような爽快な笑みは無く口調も真剣そのものだ。
「涼宮さん、今のあなたが万能の力を手にすれば何をするか、そんなのはあなたと彼を知る者なら誰でも予想できます。
しかし、それだけは涼宮さんでも不可能です」
どうして。万能の力ならそれこそ何だってできなきゃおかしいじゃない。
「死した魂を取り戻す。それでは伺いますが、魂とはいったい何でしょうか。どういった物なのでしょう?
……僕の予想を言います。涼宮さんが力を駆使して彼を蘇らせたとしましょう。ですがそれは彼ではない。
おそらくそれは、涼宮さんがこうだと思っている彼を作り出したに過ぎないのです」
あたしが知る限りのキョンとしてしか蘇らない……そう言いたいの?
「そうです。あなたにとっては違和感無い彼が生まれるでしょう。ですがそれも一過性に過ぎない」
「じゃあ、じゃあどうしろって言うのよ! キョン一人生き返らせられないなら、こんな力意味が無いじゃない!」
「……方法は、あります」
あたしの慟哭に対し、みくるちゃんが静かに答える。
「生き返らせるのが無理なら、生き返らせる必要がなくなればいいんです……」
必要が、なくなれば?
「事故にあう可能性が排除されるまで過去に戻り、そこから修正する……時間移動者、最大級の禁則事項です」
「あなたの力が覚醒、いや元々存在すらしない事。それが条件」
力が覚醒した中学一年まで戻り、力を覚醒させず──というより力が無い状態でやり直す。それが今あたしが立つ
この未来以外へと進む分岐点らしい。
「いいわ。キョンが生き残るって言うのなら、こんな力」
あたしは言いかけて、しかしある事に気づいて言葉を止めた。
そう。あたしにこの力が元々無かったとしたら。
「それは同時に、情報統合思念体があなたを監視する理由も無くなるという事」
「時間震動が発生しなければ、未来人が調査に来る理由も無くなります」
「そして涼宮さんに力が無い以上、《神人》も、そしてそれを倒す超能力者も生まれません」
あたしは、この三人と出会えなくなってしまう。
死なない運命を辿るキョンを取るか、目の前にいる三人を取るか。
……悩むまでも無いわ。そんなの、答えはすでに決まってるから。きっとキョンも同じ答えを選ぶはずよ。だから
「あたしは両方取る。有希も、みくるちゃんも、古泉くんも、みんな必ずあの部室に連れて行ってあげるわ。
有希についてはキョンと約束してるしね。連れて行かれそうになったら全力で連れ戻せって」
「ならば僕も協力しないといけませんね。彼との約束で長門さんが困ったら手を貸すと言ってあるので」
あたしは必ずキョンを連れて迎えにいく。キョンが有希とも約束しているならなおさらだ。
「そう」
有希は一度小さく呟き、そして頷くと
「待ってる」
そう確かに応えてくれた。
「それじゃ古泉くんとキョンとで有希を捕まえて、そうしたら最後にみくるちゃんね。いい、みくるちゃん。
たとえあなたが未来にいようとも、あたしたちは絶対に迎えにいってあげるわ!」
「涼宮さん……わかりました、私も待ってますから」
あたしの身体がゆっくりと輝きだす。有希とみくるちゃんのサポートで、あたしを過去へと飛ばす予定だ。
「それじゃSOS団は一時解散します。……みんな、最後に一言だけ言わせて」
自分の姿が少しずつ小さくなっていく感じがする。カチューシャが外れ、あの日ばっさり切った、キョンが好きだといった
ポニーテールを結える長い髪が蘇る。
あわせて視界が、みんなの姿が自分からの光で見えなくなる前に、あたしは告げた。
「ありがとう」
新学期の自己紹介で無難な挨拶を終えた俺はこの後驚愕することになる。
もし未来を知る術があったり過去に戻ったりする事が可能なのだとしたら俺は俺に言ってやりたい気分だ。
平穏無事な生活が欲しいのならばそいつにだけは近づくな、と。
「あたしは、たくさんの人に護られていた事を知りました。
あたしは、たくさんの人に愛されていた事を知りました。
こんなにも終始平穏、万事何ごともなくただ普通に在り続ける世界は、実はあたしが思っていたよりずっと
非日常な毎日が訪れていている事を、あたしは失った掛け替えの無い友人たちから教えられました。
だから、あたしはこの世界を徹底的に楽しんでやろううと思ってます。
──東中出身、涼宮ハルヒ。
宇宙人も、未来人も、異世界人も、超能力者も、もうあたしには必要ありません。
今度はあたしが、退屈なんてしている暇が無いくらい愉快な日常をみんなに返していこうと思います。だから──」
博愛主義者なのか奇妙な電波を受信してるのかよく判らない言葉を並べるその少女は、そこで一度口を閉じると
後ろを見上げていた俺に目を合わせてくる。その瞳はなぜかうっすらと涙を浮かべており、その懐古と愉快に
ほんの少しだけ愛おしさを混ぜたようなその姿は、正直に言って俺の顔を赤面させ鼓動を早めるのに十分すぎる
ぐらいの破壊力だった。
と、突然そいつは俺のネクタイを掴むと一気に引き上げてきた。もちろん引っ張られる形になる俺は釣られた魚の
ようにじたばたしながらそいつに引き寄せられる形となった。
「って何しやがる! 初対面の相手にすることじゃねえぞ!」
「残念、これが初対面じゃないのよね。一方的にだけど」
何だと? いぶかしむ俺を無視し、そいつは俺の首根っこを捕まえると我が物顔で宣言した。
「──だから、この世界には面白い事が無いと日々暗澹とした気分で過ごすような、例えばあたしの前にいる
こんなバカ面をした感じの人がまだこの中にいるのならば、あたしの所に来なさい。
世界を大いに盛り上げる涼宮ハルヒの団、その団長のあたしと、団員その1のこいつがじっくり面倒見てあげるわ!」
「誰が団員その1だ! 俺はそんな怪しい活動には」
「入るわ。だってその方が絶対に楽しいもの! 以上っ!」