ageてしまった
吊られてくる
67 :
796:2007/04/22(日) 22:48:27 ID:DtxgkMfo
「ヒッ…!」
短い悲鳴を上げる綺羅を谷岡。奈美とラルヴェナが二人ににじり寄っているのだ。
「ウウッ…。ラルヴェナ!貴様、今まで我等をたばかっていたと言うのか!?」
綺羅の問いを、ラルヴェナはフンと鼻で笑う。
「ラルヴェナ?誰の事だ?生憎私はラルヴェナなどと言う名ではない、私達がそうやすやすと本当の名を名乗ると思っていたのか」
「な…、なんだと…!」
「私達は捕虜となった時、身元を隠す為に偽名を使う事にしている。貴方に教えた私達に関する情報は全て偽りだ」
あくまで冷酷な声でラルヴェナは言う。
「だが、もう名前を偽る必要も無い…。烈緒(レオ)!ミーア!人質を確保しつつ入り口に移動しろ!誰もこの部屋から出すな!」
「「了解!」」
ラルヴェナの指令に、二人は人質を伴って牢獄の入り口を塞ぐ。これで綺羅達の逃げ場は完全に無くなった。
「ヴィオネラ隊長!閉鎖完了しました。もう、誰も逃がしはしません!」
烈緒―先程まで渚と名乗っていた少女―がラルヴェナに告げる。
「ヴィオネラ…?烈緒、ミーア……!貴様らW.M.P.Aか!」
「W.M.P.Aだって!?」
綺羅の言葉に奈美が声を上げる。
W.M.P.A、すなわち世界治安維持軍は、近年多発している紛争や内乱から巨大犯罪組織の撲滅など、文字通り世界の治安を維持する為に作られた国際的組織である。
「すると…、貴女はW.M.P.A第37大隊のヴィオネラ・レブナス少佐?」
奈美の言葉にラルヴェナと名乗っていた女性が静かに頷く。
(顔を知っていたはずだ…。まさかあんな有名人だったとは…な)
奈美が内心で呟く。最も、有名とは言っても奈美のような仕事をしている人間限定ではあるが。
第37大隊の功績はW.M.P.Aの中でも群を抜いており。W.M.P.A全50部隊の中でも特に戦功の高い5部隊、通称テラー・ブレイカー(恐怖を砕く者)の一つである。
また、この部隊は大規模な戦場での任務の他に、犯罪組織の撲滅など小規模な任務を積極的に行っている事でも有名な部隊であった。
「な、何で貴様等がこんな所にいる!?」
「それは貴方にボク達の事を知らせた人に聞いてみた方が早いと思いますよ。ボク達を陥れる為に貴方達の事を知らせ、ボク達を捕らえる術を教えた人に」
ミーア―キャロンと名乗っていた少女―が答える。
「そう言う事だ。さあ、悪いが私達はいつまでも貴方達と遊んでいる暇は無い。早く本部に戻って私達を陥れた犯人を探さなければならないからな」
相も変わらぬ冷酷な声でヴィオネラが告げる。それは、奈美ですらも寒気を覚える声であった。
68 :
796:2007/04/22(日) 22:49:27 ID:DtxgkMfo
「お、おのれぇ…」
ヴィオネラを睨む綺羅と谷岡、しかし、その顔には冷や汗が流れている。怒りと恐怖があい混ぜになった表情を浮かべる彼等はそこから一歩も動く事は出来なかった。
一方、正治や赤坂達はまだ状況が飲み込めていないのか、呆然とした面持ちで立ち尽くしている。
「終わりだな、もう貴方達に逃れる術は無い…。だが、貴方達に引導を渡すのは私達ではない――奈美さん」
そう言ってヴィオネラが奈美の方を振り返る。
「決着は貴女に任せるわ…。奈美さん、皆を守る為に最後まで闘いぬいた貴女が全てのケリをつけるの」
ヴィオネラの言葉に、奈美は無言で頷く。そして、ゆっくりと綺羅達の方へ歩いていった。
「さあて、ご指名があったしケリをつけさせてもらうよ。…覚悟しな!」
指を鳴らしながら奈美が告げる。綺羅を守るように立ちふさがっていた谷岡が卑屈な笑みを浮かべながら奈美に懇願する。
「ね、ねぇ奈美ちゃあん。い、今までの事はアタシ達が悪かったわ…。だから、ネ。乱暴は止めましょうよ、ねえ、ねぇえ」
谷岡の言葉を奈美は鼻で聞き流す。
「悪いが何言ってるのか聞こえないね。とりあえずあんた達はぶっ飛ばすって決めてたから。あたしはともかく、お前達があの子達やヴィオネラさん達、何より洋子さんに行った非道をあたしは絶対に許さない」
奈美の言葉に谷岡の顔が凍りつく。次の瞬間、引きつった表情で谷岡が奈美に掴みかかってきた。
「キ、キィイイイ!アンタって子はァアア!」
ドガァ!
掴みかかろうとした谷岡の顔に、奈美のハイキックがカウンターで決まった。
「オベェエ!!」
そのまま顔を歪ませながら谷岡の身体は吹っ飛ぶ、そのまま床に倒れ伏した谷岡はピクピクと痙攣しながら白目を剥いていた。
「気安く触るな、この下衆が…!」
一撃で気絶した谷岡を一瞥して、奈美が履き捨てるように言った。
「さあて、残りはあんただけだな…、綺羅。今度こそこれで終わりだ!」
綺羅を睨みつけながら奈美が言う。激しい光を宿す奈美の双眸に、綺羅の顔は絶望に歪むのであった。
69 :
796:2007/04/22(日) 22:50:18 ID:DtxgkMfo
「な、奈美ィイイイイイ!!貴様ァアアアア!!」
激高した綺羅が、懐から拳銃を取り出して奈美に突きつけようとした瞬間、奈美が綺羅の手を蹴り上げる。
「グァ!」
奈美の蹴りで綺羅の手から拳銃が跳ね飛ばされた。
「ヒュウ、さすが奈美さん」
烈緒が感嘆の声を上げる。
「ヒッ、ギィイイイ!手が、私の手がぁああ!」
綺羅の絶叫が響き渡る。
奈美に蹴られた手が不自然に垂れ下がっていた。彼女の蹴りで、手首の骨が折れたのだ。
「ギャーギャー喚くな。お前が今までした事に比べればこの程度、蚊に刺されたようなものだろうが。あたしがお前に受けた借りはこんなもんじゃないぞ!」
吐き捨てるように奈美が告げる。
「ふ、ふざけるな。お前を責め立てたのは私だけではない、正治や赤坂達の方がもっとお前を責めていたではないか。そ、そこの女達もな。なぜ私だけを責めるのだ、こいつらだって同罪だろうが!」
「いい加減にして下さい!」
綺羅の言葉をミーアの声が遮る。
「み、ミーアさん!?」
奈美が面食らってミーアの方を見る。
「ボク達がどんな気持ちで奈美さんを責めていたか貴方に判りますか?奈美さんだけじゃない、この子達に対してもどんな思いで酷い事をしていたか…。その度に湧き上がる胸を裂かれそうな気持ち、貴方に判りますか!」
「ミーアさん…」
彼女の魂の慟哭が奈美の心を締め付ける。ふと後ろを見ると、洋子もミーアの苦しみが判るのか、彼女に悲しみの眼差しを向けていた。
「泣き言を言うな、ミーア・ヘヴンロッタ少尉!いくらここで叫ぼうと私達の犯した罪が消える訳ではない。私達がするべき事は奈美さんやこの子達に犯した罪を償う事。その為に我々が今、何を成すべきかを考えろ!」
ヴィオネラの一喝でミーアは平静を取り戻す。その様子を見ていた奈美は再び視線を綺羅の方へと向けた。そして、足元に転がっていた綺羅の拳銃を踏み潰して言う。
「ミーアさん、ヴィオネラさん、そして烈緒さん、貴女達が償う事なんて何も無い。―そう、償うべきは…。綺羅、貴様だ。皆の怒りを今、受けてもらうぞ」
奈美は強く拳を握り締める。決着の時が来ようとしていた。
70 :
796:2007/04/22(日) 22:51:08 ID:DtxgkMfo
「ヒ、ヒィイ…。や、止めろ」
綺羅が後ずさりしながら弱々しく言う、その姿に先程までの威厳はどこにも無かった。
「安心しろ、あたしの分は勘弁してやる。自分を見失う愚はもう犯したくないからな…。だが、皆の分は受けてもらうぞ」
そう言って奈美は一気に綺羅の目の前まで跳躍する。
「まずは人質となったあの子達の分!」
ドガァ!
奈美の右ハイキックが綺羅の頭を捕らえる。
「次はヴィオネラさん達の分!」
ゲシィ!
続いて、左の肘が綺羅の頭に炸裂した。
「これはお前に殺された捜査官の人達の分!」
ドボォ!
綺羅の腹に、奈美の膝がめり込む。以前谷岡が言っていた「生かしてもしょうがない男達はそっこー殺しちゃってぇ、女達は性奴隷として働いてもらっているわ〜」と言う台詞を奈美は忘れてはいなかったのだ。
「ウゲェエ…」
崩れ落ちそうになる綺羅の首根っこを掴み、容赦なく立たせる奈美。そして、首から手を離し、一瞬、呼吸を整える。
「そして、これが…」
そう言って、右の拳を胸の横に構える。
「これが、お前に虐げられてきた洋子さんの一撃だぁああ!!」
ドガァアッ!!
万感の想いを込めた一撃が綺羅の顔にヒットする。死なない程度に加減しているとは言え、その一撃は正に裁きの鉄槌と呼ぶに足るものであった。
「ギベェエ…」
派手に吹っ飛んだ綺羅は哀れな声を上げて床に倒れる。完全に気を失った綺羅が、もう立ち上がる事はなかった。
「奈美さん…」
「洋子さん、終わったよ」
奈美が洋子の方を向いて優しく告げる。
最後まで地獄の責めに耐え続けた奈美。それは、信念の強さが生んだ勝利であった。
71 :
796:2007/04/22(日) 23:01:49 ID:DtxgkMfo
続きです。
職人さんが来るまでの保守がてらにちまちま書いていこうと思います。
>>66 お手数をお掛けします、ご苦労様でした。
72 :
名無しさん@ピンキー:2007/04/27(金) 20:40:08 ID:FHV+lYpi
期待アゲ
74 :
796:2007/05/02(水) 00:22:21 ID:8iCT77+e
職人さんが降臨するのを待ちつつ保守ついでの投下です。
「さて、これで綺羅達はカタが付いたけれど…」
「判っているよ…。次は、君達だね」
ヴィオネラの言葉を受けて、奈美は振り返る。そこには正治と赤坂、そして緑川の三人がいた。
三人に向かって奈美がゆっくりと近づいていく。
「ヒッ!」
脅えた悲鳴を上げる緑川。その瞳には恐怖の色がありありと浮かんでいた。
「ふ、ん。どうやら僕達のお楽しみもこれまでのようだねぇ」
何の感情も感じさせない口調で赤坂が呟く。
一方の正治は、まだ状況が掴めていないらしくキョトンとしていた。
「見ての通りだ、この組織はもう終わる…。組織の悪事に加担した君達もこのままにしておく訳にはいかないんだ」
「す、するとボク達はどうなるんでふか?」
緑川が震える声で奈美に問う。
「君達も…、綺羅達と同じく法の元で罪を償うことになるんだ…。何年かの懲役は免れないだろうね」
奈美の答えに緑川は狂乱の声を上げる。
「な、なんでふと!そんなの嫌でふ!ボクも赤坂クンも好きでこんな事をやっていたんでは無いでふ!皆がボク達を醜いとかチンコがでかいとか馬鹿にしてきたからいけないんでふよ!ボク達のせいじゃないでふ、皆社会が悪いんでふぅう!」
緑川の叫びに、奈美は悲しげな顔をする。
「確かに…、そうかもしれない。君の辛かった時の気持ちは良くわかるよ。でもね、だからといって罪も無い人を苦しめて良い事にはならないんだ」
彼等の辛い過去を思うと心が苦しくなる。
烈緒やミーアも同じ気持ちなのか、彼女達も一様に悲しげな顔をする。さすがにヴィオネラは表情を変えていないが内心は同じなのだろう、無言で二人の会話を聞き入っている。
「君達は、こんな所にいちゃいけないんだ。君達にだって光あふれる世界に居る権利があるはずなんだ。その為にも、罪は償わなきゃいけないんだよ。あたしも出来る限りの協力はする、だから…」
「い、嫌でふぅううう!!!」
そう叫んで緑川は烈緒とミーアが立っている牢獄の扉に向かって走り出す。
彼女達の実力は判っている筈なのだが、混乱した彼の頭にはただここから逃げる事しか考える事が出来なかったのだ。
だが、そんな彼と奈美が併走する。そして、緑川の走る力を利用して、奈美は緑川を押し倒した。
「ごめんよ…」
そう呟いて奈美は倒れた緑川の首筋に手刀を叩き込む。
「いや…で…ふぅ…」
そのまま緑川は気を失う。倒れ付した巨体を見ながら、奈美は言いようの無い寂しさを覚えるのであった。
75 :
796:2007/05/02(水) 00:23:17 ID:8iCT77+e
「さて、次は君の番だけど…。やっぱり君も罪を償う気は無いのかい?」
赤坂の方へ振り向きながら奈美が尋ねる。
「ふんっ、どうせ嫌だと言っても許さない癖に。奈美君はずいぶんと意地が悪いんだねぇ」
陰気な顔で赤坂が答える。
「そ、そんな事…」
言葉に詰まる奈美。
「まあ、どうでもいい事なんだがねぇ。どの道こんな事がいつまでも続くなんて思ってはいなかったしねぇ」
「…そうと判っていながら、何故君はこんな事を続けていたんだい」
奈美が尋ねる。
「さっき緑川君が言っていた事をもう忘れたのかねぇ?容姿や性器の事で言われもない差別を受けてきた僕達はここでしか生きていける道は無かったのだよ」
「…」
「まあ、そんな事はもうどうでもいいじゃないか。どうせ君達も僕達を刑務所に送ったらすぐに僕達の事なんか忘れてしまうんだろう?」
「そんな事ない!」
奈美が突然強く答える。
「あたしは絶対に君達の事を見捨てたりはしない。必ず、君達を元の生活に戻して見せるよ。約束する」
「そうだよ!私達も手伝うから、諦めたりしちゃ駄目!貴方や緑川さんにだって良い所は絶対にあるはずだよ!」
奈美の言葉に烈緒が続ける。
「そうです!諦めちゃ駄目なんです!ボク達も貴方達を信じます。貴方達にだって絶対に優しい心があるはずなんです!」
ミーアもいつに無く熱い口調で訴える。
「ふ…、ん。まさか口だけじゃないだろうねぇ?本当に君達が僕達を普通に生きていけるようにしてくれるのかね?」
「それは貴方達しだいよ、赤坂君」
赤坂の問いに答えたのはヴィオネラだった。
「貴方達が心から罪を償い、穏やかな生活を望むのなら…。私達は最後まで貴方達に協力するわ。でも、私達は手伝いをするだけ。元の世界に戻れるかは貴方達の心がけ次第よ」
「ふんっ。散々君達を苦しめてきた僕達に対してやけに優しいんだねぇ」
「忘れたわ、そんな事は。ただ、私達は闇の世界に堕ちた貴方達を元に戻したいだけ。それが私達W.M.P.A第37大隊の使命なのだから」
ヴィオネラの言葉に、赤坂は薄笑いを浮かべる。
「そうかね、じゃあ君達の好きにやりたまえよ。奈美君、さっさと僕も眠らせてくれないかねぇ。もう君達と話をするのも疲れたのでねぇ」
赤坂の言葉に奈美は頷く。そして、そのまま赤坂の後ろに回りこみ彼の首筋に手刀を打ち込んだ。
「必ず、君達を元の世界に戻すからね…」
倒れ付す赤坂に奈美は誓う、それはヴィオネラ達の誓いでもあった。
76 :
796:2007/05/02(水) 00:25:35 ID:8iCT77+e
「正治君…」
そう言って、奈美は正治の前でしゃがみこむ。さすがの正治も今の状況をなんとなく理解したのだろう、今までに見せた事のない不安げな瞳を奈美に向けている。
「お姉ちゃん…。僕もお姉ちゃんに殴られるの?」
「ううん、そんな事はしないよ」
不安げな正治に優しく微笑みながら、奈美は答える。
「でも、正治君。君には色々学ばなきゃいけない事がいっぱいあるんだ。やっていい事と悪い事…、そして、他人の心を理解する事…。それらを知る為に、君は勉強しなくちゃいけない」
「ふーん…、お勉強すればいいんだね」
「でも、勉強する為に君は施設に行かなくちゃいけない。しばらくの間、不自由な生活を続けなくちゃいけないけど、君にはどうしても必要な事なんだ」
「え〜、好きな事も自由に出来なくなっちゃうの?そんなの嫌だよ。僕、もっと遊びたい」
ぐずる正治の頭を奈美は優しく撫でる。
「そうだね、でも、いつまでの続くわけじゃないんだ。君がしっかりお勉強して、いい子にしていれば沢山のお友達も出来るし、すぐにでも自由に遊べるようになるよ」
「ホントに?」
正治の顔がパッと明るくなる。
「本当だよ、あたしも時々君に会いに行くよ。だから、少しだけ我慢して。そして、誰にでも優しくなれるような子になろう」
奈美の言葉に、正治は頷く。
「判ったよ、奈美お姉ちゃん。僕、お勉強していい子になるよ。だから、時々は僕に会いに来てね」
「もちろんだよ、正治君!」
正治を抱きかかえながら奈美は答える。その様子を洋子や烈緒達が優しい眼差しで見つめていた。
「フッ、私達の仕事も増えてしまうな」
ヴィオネラが呟く。しかし、彼女の口調はむしろ嬉しそうでさえあった。彼女達も又、正治を最後まで見守るつもりなのだ。
それは、暗い牢獄の中に差し込んだ希望と言う名の一筋の光明であった。
手枷足枷されながらホス。
79 :
796:2007/05/20(日) 23:28:36 ID:yJh17JGM
職人降臨を期待しながら投下。
「…さて、早くあの子達を連れてここから脱出しなきゃね」
人質の子達を見ながら奈美が言う。
その中には洋子と正治の姿もあった。
正治を説得した後、奈美とヴィオネラ達は気絶した組織の男達のベルトやシャツを即席の拘束具にして、男達の手足を縛りあげていった。
即席とは言え、奈美とヴィオネラ達の巧みな拘束はたとえ男達が意識を取り戻した所で抜けられるものではない。
男達への処置を終えた後、奈美は男の一人が来ていたシャツの切れ端を胸に巻きつける。
綺羅と谷岡によって奈美のスーツは股間と胸の部分が切り裂かれていた。股間部分は一直線に切られていただけなので、故意に裂かれた部分を広げない限りあまり目立たない。
しかし、胸の部分は乳房が露出するような感じで切り裂かれていた為、むき出しの乳房を隠す為に布を胸に巻きつけたのであった。
「脱出もそうですけど、この人達をこのまま放置する訳にもいかないですよね?どうするんですか?」
洋子の疑問にヴィオネラが答える。
「大丈夫、脱出する際に応援を呼ぶわ。この施設の管制室は通信室も兼ねているの、まずは管制室を押さえてそれから貴方達を脱出させるわ。その際に応援も呼ぶと言う寸法よ」
そして、ヴィオネラは部下である烈緒とミーアに指示を出す。
「私はこれから管制室を制圧する。制圧した際にこの区域の灯りを一瞬落とすから、それを合図に烈緒少尉とミーア少尉は人質達を連れてここから脱出しろ」
「「了解」」
「その後、私は残った組織の人員を捕獲しつつ、囚われている他の捜査官達を救出する。二人は人質を外まで脱出させた後、応援が来るまで人質達を安全な場所に避難させろ」
そう言って、ヴィオネラは奈美の方を向く。
「貴女はどうする?何をするかは貴女の判断に任せるわ」
「良ければ貴女と共に行動させて欲しい。一人より二人の方が確実に任務を遂行出来るだろうし、囚われている捜査官達も助けたい」
奈美の言葉にヴィオネラがうなずく。
「分かったわ、ならば私と共に行きましょう…。烈緒、ミーア、私はこれより奈美さんと共に管制室の制圧に行く。その子達の事は任せたぞ」
「「了解!」」
ヴィオネラの言葉に、二人の少尉は敬礼をしながら答える。最後の任務が始まろうとしていた。
80 :
796:2007/05/20(日) 23:29:32 ID:yJh17JGM
「それじゃあ行って来るよ洋子さん…、正治君の事を頼むよ」
「はい、任せてください、大丈夫です」
正治の肩に手を置いて、洋子は奈美に答える。
「大丈夫!私達に任せて!」
「皆さんの事は心配ありません。奈美さん、隊長をお願いします」
烈緒とミーアが奈美に告げる。
奈美は笑顔でそれに答えた。
「それでは行くわよ」
ヴィオネラの言葉に頷く奈美。
そして、二人は風の様に牢獄から出て行ったのであった…。
それから、二人は管制室へと向かっていった。
ヴィオネラの誘導で監視カメラの死角をぬって二人は移動する。
途中で組織の人間と何度か遭遇したが、二人は反撃を与える暇も与えず、組織の男達を速やかに気絶させていった。
そして、男達の衣服を使って拘束し、人目に付かない所に押し込んでいく。
二人は組織の人間達を無力化していきながら、着実に管制室の方へ向かっていく。
特にヴィオネラの動きは、まさしく外科手術的な正確で無駄の無い動きであった。
ヴィオネラの行動を見ながら、奈美は内心で脅威を覚えていた。
確かに、これなら彼女一人でも問題は無かっただろう。いや、この組織を潰すだけなら彼女一人で簡単に行えたかもしれない。
だが、奈美は内心の驚愕を表に出さず、ヴィオネラと共に先へと急ぐ。
そして、管制室もたやすく彼女達の手に落ちた。
管制室を制圧して、まずヴィオネラは通信機に手を伸ばす。そして、通信先の相手に向かって何やら話しかけた。
内容は何てことは無い世間話のようなものだった。だが、それが何らかの暗号である事は奈美にも理解できた。無論、暗号の意味はまるで分からなかったが。
しばらく話した後、ヴィオネラは通信機を切った。そして、電源装置に向かって行き、その中にあるブレーカーの一つを落とす。
次の瞬間、再びブレーカーを元通りにした。ヴィオネラが操作したブレーカーこそ、牢獄の電源に繋がっていたのだろう。
果たして、監視カメラの一つから、烈緒達に導かれていく人質達が映し出される。
烈緒とミーアはカメラに向かってウィンクした後、その場を後にした。
「フッ、しょうがない子達ね」
ヴィオネラが軽く息をつきながら呟く。
「次は捕らえられた捜査官達の救出だね」
奈美の言葉にヴィオネラは静かに頷く。そして、二人は速やかに管制室を後にする。
後には静寂だけが残った。
81 :
796:2007/05/20(日) 23:30:55 ID:yJh17JGM
管制室を後にした2人は、女性捜査官達が捕らえられている牢獄へと進んだ。
彼女達が捕えられている牢屋は、奈美が捕らえられていた牢屋とは別の地下にあった。
慎重な綺羅は、人質達を離れた場所に閉じ込めておく事で人質達が協力して脱走する事を防いでいたのだろう。
ヴィオネラの導きに従い、奈美は進む。途中で遭遇した組織の人間を拘束しつつ、二人は目的の場所へと近づきつつあった。
「ここを曲がれば、彼女達の閉じ込められている部屋まで一直線よ」
ヴィオネラと共に角を曲がり、突き進もうとしたその瞬間―
彼女達に向かって、拳銃の弾が飛んできた。
とっさに左右にかわして弾丸をやり過ごす二人。彼女達の視線の先には、拳銃を構えた一人の男がいた。
「あんたは…」
奈美が呟く。
この男には見覚えがあった。洋子を人質にして奈美を捕らえたカマキリ顔の男、たしかオカマ男の谷岡 正樹の弟で忠昭とか言う名前だったはずだ。
「やってくれたな、部下と連絡が取れなくなっていたからもしやとは思っていたが…」
忠昭が苦々しげな表情で言う。
「既に応援は呼んだ。間もなくW.M.P.Aの正規部隊がここに来る、観念する事だな」
ヴィオネラが鋭い瞳で忠昭を睨みつける。
「フンッ、まさかお前がW.M.P.Aの人間だったとはな。せっかく苦労して築き上げた闇の帝国もここで終わりか…」
「…!?まさか、綺羅を刑務所から逃がしたのは…」
忠昭の言葉に奈美が驚いて尋ねる。
「そうだよ、刑務所に入っていた綺羅を外に出したのはこの俺だ。この新生王狼を創設したのもな」
「!!なんでそんな事をしたんだ!」
奈美が怒りの声を上げる。
「訳か?簡単な話だ。俺には生きる居場所が必要だったからさ」
二人に拳銃を突きつけながら忠昭が答える。その声は暗く、虚無的であった…。
82 :
796:2007/05/20(日) 23:31:47 ID:yJh17JGM
「俺は…、いや、俺達兄弟はガキの頃から闇の仕事を続けていた。覚せい剤の売買や非合法の品物の輸送、そして、殺しなどな」
「…」
「そして、闇の仕事を行ってきた俺達には、もうまともな仕事など出来なくなっていた。俺達が生きる為には、俺達を必要とする存在がどうしても必要だったのだ」
「そこで、王狼を復活させたのか」
奈美の問いに、忠昭は頷く。
「そうだ、強大な力を持つ王狼の存在は俺達にとってとても魅力的だった。王狼がある限り、俺達の仕事が無くなることはないからな。だからこそ、危険を冒してまで綺羅を救出したのだ」
「お前は、奴がどんな人間なのか知らなかったのか?あいつに危険を冒してまで刑務所から出す価値があるとでも思っているのか!?」
奈美の怒号に、忠昭は冷笑で答えた。
「もちろん知っていたさ、奴が短気で自己中心的な男だと言う事はな。だからこそ、俺達は奴の下に使える事にしたんだ」
「何だと!」
「奴の性格…、人間としては最低だが、闇の世界で生きるのには最高だ。あの性格だからこそ『王狼』をここまで大きく出来たのさ。他人の事を気にしているようでは闇の世界では生き残れないからな」
「貴様…」
「だが、その性格が破滅を導く事になるとはな…。綺羅が人質をお前の所に連れて行くと言った時、俺は反対したんだが…。反撃される危険性などすぐに分かるだろうに、あの馬鹿が…!」
吐き捨てるように忠昭が言う。
「まあ、もういい。どうせ全てが終わりなのだからな、俺達兄弟も、綺羅も、王狼もな。…だが!」
そう言って、忠昭は目を見開く。
「貴様だけは許さん!久瑠須麻 奈美!俺が苦労して作り上げてきた闇の帝国もお前のせいで消え失せる。ならば、せめて貴様の命だけでも道連れに貰っておくぞ!」
そう言って、拳銃を上げたその瞬間。
ガギン!
「ぐあっ!」
どこからか飛んできた銃弾によって、忠昭の手にあった拳銃が破壊された。
「うぐぅ!き、貴様!」
弾丸が飛んできた場所を睨む忠昭。そこには、組織の組員から奪った拳銃を構えているヴィオネラの姿があった。
「言いたい事はそれだけか?下らない話をベラベラと。闇の世界でしか生きられない?甘ったれるな、表の世界に行こうと努力すらしないでただ楽な方へ逃げていっただけだろう。洋子さんを見ろ、彼女は命を賭けて闇の世界から抜け出そうとしたんだぞ」
拳銃を構えながらヴィオネラが言う。その瞳は全てを射抜くかのごとく、強い光を放っていた。
83 :
796:2007/05/20(日) 23:36:59 ID:yJh17JGM
「待って、ヴィオネラさん」
ヴィオネラの前に手を出して奈美が押しとどめる。
「奈美さん…」
ヴィオネラの声を背にして、奈美が忠昭の前に進み出る。
「あんた、今までの人生で楽しいと思えたことってあったのかい?」
「?」
穏やかな顔で話しかける奈美に、忠昭は怪訝な顔をする。
「小さい頃からヤクだ殺しだ…って、確かにそうせざるを得ない状況にいたんだろうな。普通の家庭で育ったあたしには想像も出来ない世界だ」
「…」
「そんな世界にいてあんたは楽しかったのかい?殺るか殺られるかの殺伐とした世界で、あんたの心は満たされていたのか?」
「…だまれ!」
黙って奈美の話しを聞いていた忠昭が吠える。
「貴様の俺の心が判るか!楽しいだの満たされるだのそんな事を考えている暇など俺には無かった!毎日が生と死の狭間にあった俺には、ただ今を生きる事しか考えられなかったのだ!」
「じゃあ、そろそろそんな毎日を終わりにした方がいいね」
奈美がニヤリとしながら言った。
「あんたはまだ闇の世界に未練があるんだろ?心の安らぎが来ない代わりに、自分の力で組織を作ることが出来るこの世界に…ね」
「黙れ…!」
「でも、もう止めなよ。あんたも本当はこんな世界から抜け出したいと思っているんだろ?でも、自分の力が通用するからまだしがみついているんだ…なら」
そう言って奈美は拳を構える。
「これであんたの目を覚ましてやるよ。あんたの崇拝する力って言う奴がどんなに痛いものか、その身体で感じてみな!」
拳に力を込める奈美。その様子を、ヴィオネラは黙って見つめていた。
84 :
796:2007/05/20(日) 23:41:16 ID:yJh17JGM
「…いいだろう、どの道貴様をこのままにしておくつもりは無いからな」
そう言って、忠昭も構える。
「…へぇ、あんた格闘技をやっていたんだ。…その構えは…、蟷螂拳か。面白いものをやってるんだな」
軽く口笛を吹きながら奈美が言う。
「他人を従えさせるのに暴力は最適だ、肉体的に敵わないと知れば頭の悪い雑魚は容易く従うからな」
「そうかい。じゃ、今度はあんたがその雑魚達の受けた痛みを知る番だな。あんたがやって来た事がどんなものなのか教えてやるよ」
一瞬の沈黙。
そして、両者は動いた。
「シャッ!」
忠昭が右の抜き手を奈美の顔めがけて突き出す。
その手を、奈美は左手で横に払いのける。
「チィ!」
すかさず忠昭は左の抜き手を奈美に突き出す。
「遅い!」
奈美は忠昭の左腕に自分の右腕を絡ませる。そして―
ボギィ!
そのまま忠昭の左腕を折った。
「…!!!!グァアアア!腕が、腕がァア―――ッ!!」
激痛に喚く忠昭に、奈美は右拳を固めて答える。
「そうだ、それがあんたの目を覚ます痛みだ!そして、これがあんたの悪夢を吹き飛ばす一撃だぁあああ!!」
ドガァア!
奈美の鉄槌が忠昭の顔を捉える。そのまま吹っ飛んだ忠昭は再び起き上がることは無かった。
「終わったようね」
ヴィオネラが奈美に話しかける。
「ええ…。でも、結局あたしも暴力でねじ伏せているんだよね。フッ、あたしも人の事は言えないと言う事なのかな…」
「そんな事はないわ」
奈美の呟きに、ヴィオネラは優しく答える。
「倒れている彼の顔を見なさい、とても穏やかな顔をしているわ。貴女の拳が彼の悪夢を取り払ったのよ。少なくとも、私では彼をこのような表情にさせる事は出来なかったでしょうね…」
貴女の心は彼に通じたのよ、とヴィオネラは付け加えた。
忠昭の悪夢は彼の作り上げた帝国と共に消え去った。それは、王狼の真の終焉を意味している。奈美の愛が闇を砕いたのだ。
おほっ!きてるきてるー!
796さん、毎度ながらGJっす!
浮上
88 :
名無しさん@ピンキー:2007/06/06(水) 23:08:34 ID:On5bZdJ9
期待age
89 :
名無しさん@ピンキー:2007/06/17(日) 05:14:40 ID:oFe5vFi3
捕手
90 :
796:2007/06/17(日) 22:45:29 ID:WiAz0nSu
お待たせしました、続きです。
忠昭を倒してから数分後。二人は地下にある一室の前に立っていた。
ヴィオネラが管制室から持ってきた束になった鍵の一つを鍵穴に差し込む。
扉を開けて部屋に入った二人が見たのは下着姿の数人の女性達だった。
「皆、助けに来たわよ。さあ、ここから出ましょう」
ヴィオネラの声で、女性達の顔に生気が宿る。
「貴方達は?」
女性の一人が奈美達に尋ねる。
「貴方達と同じ、綺羅に捕まっていたエージェントだよ。隙を突いて綺羅をぶっ飛ばして来た所さ」
奈美が答える。
「皆身体に異常は無い?ちゃんと歩ける?」
ヴィオネラの言葉に女性達は静かに頷く。ただ、皆ほんのりと顔が赤い所から、弱い媚薬は投与されていたのかもしれない。いずれにせよ、移動には支障は無い様であった。
「よし、じゃあ皆行こう。こんな辛気臭い所はとっととおさらばしたいしね」
奈美に続いてヴィオネラが言葉を続ける。
「服は…、出る途中でそこらに倒れている男達から失敬すればいいわ。とりあえず、靴くらいはないと外に出る時に困るでしょうしね」
「待って、私達の他にも実験体として捕えられている子達がいるはずよ。その子達も早く助けないと」
女性の一人が言う。彼女達もまた性奴隷に堕とされてなお、自らの使命を忘れてはいなかったのだ。
「心配ないわ、あの子達は私の部下と共に施設から脱出中よ」
「彼女達に任せておけばあの子達の事は大丈夫さ、後はあたし達がここから出れば脱出作戦は終了って事だね」
ヴィオネラと奈美の言葉に、女性達は一様に安堵の表情を浮かべる。
「さあ、行くよ!」
奈美の声を合図にエージェント達は脱出を開始する、地獄からの解放はすぐそこであった。
91 :
796:2007/06/17(日) 22:46:13 ID:WiAz0nSu
ヴィオネラを先頭に、奈美達は進む。
途中、拘束した男達から服と靴を奪い取り、囚われていた女エージェント達に着せていく。
それら一連の動作を無駄なく行うヴィオネラに、奈美は改めて自分との格の差を感じる。
彼女が味方であった事に改めて安堵する奈美であった。
そうしている内に施設の出口が見えてきた。
―あの扉を開ければ、この地獄の要塞から出られるんだ―
はやる気持ちを抑えて、外の様子を伺う。誰も居ない事を確認してヴィオネラは扉を開けた。
―まぶしい―
外に出た奈美達の瞳に太陽の光が差し込んできた。
太陽の光を見たのはいつ以来だろう。輝く光を見て、本当に悪夢から脱出出来たのだと言う実感が湧いてくる。
それは、他のエージェント達も同じだろう。いや、監禁されていた期間が奈美より遥かに長い彼女達の方がより強くそう感じているに違いない。
「こっちよ」
ヴィオネラが奈美達をいざなう。
改めて見ると、組織の建物は深い林の中にあることが分かった。滅多に人がやってくることの無い場所こそ、悪の秘密基地を建てるにふさわしいと言う事なのだろう。
検問は既に烈緒達に制圧されていた。拘束され、気を失っている組織の男達を尻目に、奈美達は林の奥深くへと移動する。
10分程度歩いただろうか、先を行くヴィオネラが皆を制して一人先を行く。木々の隙間から奥を覗いたヴィオネラは指を曲げて奈美達に来るように合図した。
そこは木々の無い小さい広場になっていた、その広場に烈緒達に先導された人質達がいた、洋子も正治もいる。
「皆…、無事に脱出出来たんだ…」
奈美の言葉に、ヴィオネラが優しく頷く。そして、ヴィオネラを先頭に烈緒達の方に向かっていった。
「「隊長!」」
烈緒とミーアが声を上げる。
「どうやら皆無事に連れ出せたみたいだな、二人ともご苦労だった」
ヴィオネラの言葉に二人は敬礼で答え、それに対してヴィオネラも敬礼で返す。それは、誰一人として犠牲を出さずに脱出出来た事を示す合図であった。
脱出は成功したのであった。
92 :
796:2007/06/17(日) 22:47:26 ID:WiAz0nSu
「奈美さん!」
手を振りながら、洋子が奈美の方に向かってくる。
「洋子さん!正治君も!」
洋子の方に向き直りながら奈美が答える。洋子の傍には正治の姿があった。
「烈緒さんとミーアさんのおかげで全員無事に抜け出す事が出来ました。奈美さん達も無事でよかったです」
安堵の表情で言う洋子。だが、まだ組織の施設から抜け出せたと言うだけで皆の安全が保障されたわけではない。何より、深い林の只中でどの方向に行けばよいかも分からないのだ。
「ヴィオネラさん、これからどうするんだい?」
奈美の問いにヴィオネラが微笑を浮かべながら答える。
「心配ないわ、すぐに救援がここに来るから…。ほら、聞こえるでしょ?救援がこちらに向かって来る音が」
確かに、耳を澄ませばヘリや小型飛行機がこちらに向かってくる音が聞こえてくる。
そして、奈美達がいる広場に次々と飛行機が着陸してきた。
「すごい…」
洋子が唖然として呟く。それは奈美も同じであった。
飛行機の中から次々と武装した部隊員が降りてくる。そして、彼らは一様にヴィオネラ達に敬礼を返していた。
「ヴィオネラ少佐、そして烈緒少尉にミーア少尉、よくご無事でいました」
「すまない、皆には心配をかけてしまったな」
「我々も少佐達の消息を調べようとしていたのですが…、上から圧力をかけられて今まで捜索すら出来なかったのです」
「分かった、その話は後で詳しく聞かせてもらおう。しかし、今は組織の制圧と彼等の保護が最優先だ。救護班!急いであの子達を病院に連れて行け!身体はもちろんだが、心の傷も深い。精神的ケアは丁寧に頼むぞ」
ヴィオネラの言葉に、隊員は敬礼で返す。そして、彼等は己が任務を果たすべく動き始めるのであった。
93 :
796:2007/06/17(日) 22:48:44 ID:WiAz0nSu
ヴィオネラの指示で隊員が人質の子達を飛行機に連れて行く。
人質の中には安心のあまり泣き出す子もいた、そんな彼等に隊員達は優しく話しかけて、彼等の不安を取り除こうとしていた。
「もう大丈夫だよ奈美さん。あの子達の事は心配ないから」
治療を受ける人質の子達を見ながら烈緒が奈美に言う。
「捜査官の人たちが受けた身体と心の傷も、ボク達が責任を持って治して見せます。後の事は任せてください!」
続けて、隊員にケアを受けている女性エージェント達を見ながらミーアも続けて言う。
「そうか、皆助かったんだね、あの地獄から…。もう、誰も苦しまなくてもいいんだ…ね」
奈美の呟きに烈緒達が頷く。
「よかった…。本当に…よかっ…た…」
彼女達の無事を見て、ようやく奈美の張り詰めていた緊張が解けた。
安堵の気持ちが奈美の心を覆い、彼女の身体から力が抜ける。そして、奈美の身体は糸の切れた操り人形の様にゆっくりと地面に倒れた。
「…!奈美さん!?」
洋子が慌てて奈美の元に駆け寄る。
「奈美さん!?こ、これは…」
ミーアが青ざめた奈美の顔を見て言葉を失う。呼吸も弱くなっているのが一目で分かった。かなり危険な状態だ。
「しっかりして!奈美さん!」
烈緒が涙を浮かべながら奈美を抱きかかえて必死に声を掛ける。
「止めろ!乱暴にするな!…救護班、応急処置の用意を。蘇生処置もすぐ行えるようにしておけ!何をしている、大至急彼女を病院に運ぶぞ!急げ!」
(彼女は私達の恩人、絶対に死なせはしない!)
普段は冷静なヴィオネラが声を張り上げながら隊員達に指示している。
だが、それらの声を奈美は聞くことは無かった、既に彼女の意識は底なしの闇に沈んでいたのであった…。
94 :
796:2007/06/17(日) 22:56:20 ID:WiAz0nSu
長すぎたこの話も次回の投下で終わりです。
軽い気持ちで書き始めたこの話もいつの間にやら2年(3年だったっけ?)以上続いてしまいました。
最後の部分も他の職人さんの降臨を待ちながら書いていこうと思っています。
それでは、今回はこれで失礼します。
95 :
名無しさん@ピンキー:2007/06/19(火) 15:05:14 ID:OS1bqGE+
乙( ・∀・)っ旦~
旦
796さん、乙です
ほしゅ
99 :
名無しさん@ピンキー:2007/07/19(木) 01:22:31 ID:ds5lPiyk
捕手
100 :
796:2007/07/22(日) 13:38:51 ID:6yl8IDBZ
お待たせしました、奈美のお話もこれが最後の投下です。
―ここはどこだ?―
奈美は不可思議な空間を漂っていた。
澄んだ水の中と見まがう空間に奈美は浮きながら横たわっている。
奇妙な感覚ではあったがそれは不快なものではない、むしろあまりの心地よさについ脱力して空間にその身を委ねてしまう。
―そうか、これは夢なんだな―
奈美は思った。
自分で意識できる夢を見ていると言う事は、自分の目覚めが近いと言う事。ならば、目覚めるまでこの心地よい空間で少しでも休んでおこう。そう思い、奈美は再び安らぎの空間に身を横たえるのであった。
「う、うぅん…」
軽いうめき声を上げて奈美が瞼を開ける。
「…!?奈美さん!」
奈美の視界に見覚えのある女性の顔が映し出された。
「…洋子さん」
奈美の呟きに、洋子の目から涙があふれる。
「奈美さん…、よかった…本当に、よかった…」
ぽろぽろと涙を流す洋子に奈美は優しく微笑みかける。
「洋子さん…、ずいぶんと心配をかけてしまったね。でも、もう大丈夫だから…」
その言葉に、洋子はワッと奈美の胸の上で泣き崩れる。泣きじゃくる彼女の頭を、奈美は優しく撫でるのであった。
101 :
796:2007/07/22(日) 13:39:39 ID:6yl8IDBZ
「それで…、ここは一体何処なんだい?」
改めて回りを見渡す奈美。
彼女はベッドの中にいた、染み一つ無い清潔な白いシーツが奈美の身体を覆っている。
彼女の腕にはいくつかの点滴が打ち込まれていた。部屋の壁や天井は真っ白で、かすかに医薬品の臭いが漂っている。
そして、洋子の後ろには白衣を着た初老の男性が立っていた。
「ここは、W.M.P.A直属の病院だよ、久瑠須麻 奈美君」
洋子の代わりに初老の男が奈美の質問に答える。
「貴方は…」
奈美が男に尋ねる。
「私は君を担当していた医者だよ、洋子さんと一緒に君の容態を見守っていたんだ」
「そうですか…、ありがとうございます」
改めて男に礼を返す奈美。
「いや、お礼なら洋子君に言ってくれたまえ。彼女は君が起きるまで片時も傍を離れずに看病してくれていたのだからね」
そう言って、医者は洋子に向かって頷く。
「そうだったのか…、ありがとう洋子さん。…それで、起きるまでって、あたしはどの位寝ていたんですか?」
奈美の言葉に医者は壁に張ってあるカレンダーを見ながら答えた。
「9日、君がここに着てから目を覚ますまで9日間ずっと寝ていたのだよ」
「9日間も…」
答えを聞いて、奈美は言葉を失った。9日もの間、ずっと意識を失っていたままだったのだ。
奈美が受けていたダメージは、彼女が思っていたよりもずっと大きかったのだ。
「まあ、意識が戻って良かった。奇跡といっても言い。本当なら何回も死んでいる程のダメージを君は受けていたのだからね。まあ、今はあまり無理をしない方がいい。私は外に出ているから、洋子さんと話でもしていたまえ」
それは、奈美と洋子に対する心遣いなのだろうか、医者はそのまま病室を出て行く。
そして、病室には奈美と洋子の二人だけが残されたのであった。
102 :
796:2007/07/22(日) 13:40:27 ID:6yl8IDBZ
「奈美さん…、意識が戻って本当に良かったです…」
涙ぐみながら洋子が言う。
「ありがとう、洋子さん…。でも、洋子さんの方こそ大丈夫なのかい?あんな所に何日も閉じ込められていたんだ、身体の具合がおかしくなっていたんじゃないのかい?」
奈美の問いに、頷きながら洋子は答える。
「はい、私もお医者様に見てもらいましたが、少し衰弱していた位で奈美さんを見守る分には何の問題もありませでした。栄養のある食べ物を摂っていたので今ではすっかり元気です」
「そうか…、よかった…。でも、人質となっていた子達はどうだったんだい?」
「最初の頃は、肉体的な衰弱よりもむしろ精神的な障害が大きかったんですけど…。ここのお医者様達の懸命な治療のおかげで今では皆元気に退院しています」
「そうか…、よかった…」
洋子の言葉を聴いて、奈美は安堵のため息をつく。
「…『王狼』の連中はどうなったんだい?」
「はい、首領である綺羅をはじめ、組織の人員はW.M.P.Aの手によって一網打尽にされたようです。特に、綺羅は二度と逃げられないように厳重に勾留されています」
「それで、正治君達は?」
「正治君は施設に保護されました、ただ、やって来た事が事だけに外へ出られるのは当分先だと言う事です。赤坂さん達は…、組織の一員として取調べを受けています」
「…そうか…。あの子達をそんな目に遭わせるのは辛いけど…、でも、これはあの子達が普通の生活に戻る為には避ける事は出来ない事なんだよね…」
少し寂しげな表情を浮かべながら奈美が呟く。
「でも、あの子達が普通の生活に戻れるように手伝うと、あたしは約束したんだ。その為にもあの子達の力になれるように身体を癒しておかないとね」
そう言って、奈美は洋子に力強く微笑むのであった。
103 :
796:2007/07/22(日) 13:42:34 ID:6yl8IDBZ
「そう言えば、洋子さんも王狼にいたんだよね?洋子さんも取調べなんかは受けたのかい?」
「はい。私や一部の研究員は、組織に騙されて働かせられていた被害者と言う事で逮捕はされませんでした。なので、重要参考人と言う形で聴衆されたんです。
私は、特別にこの部屋で聴衆される事を許されました。奈美さんの横で話していたんですよ、貴女には聞こえていなかったでしょうが…」
少し寂しげに洋子が言う。
「でも…。なんで洋子さんのような優しい人が王狼なんかにいたんだい?あ、気にしているのならごめんよ。言いたくなければ無理に言わなくていいから」
奈美の言葉に、洋子は静かに答える。
「…奈美さんは自分の過去を私に話してくれました。ですから、私もお話します。なぜ、私が王狼にいたのかを―」
洋子が王狼にいた理由、それは早い話が金のためであった。
当時、母と二人暮らしであった洋子は薬剤師への道を志していた。母は苦しい生活の中洋子に自分の道を勧めるべく働き、学費などを全て一人で工面してきた。そんな母に、洋子は深く感謝していたのであった。
母の苦労を無にしない為に懸命に勉学に励む洋子。しかし、今までの過労が祟って、洋子の母親は倒れてしまったのだ。
大切な母を今度は自分が助け出す―そう決心した洋子は一刻も早く働く為、派遣として働き始めた。
しかし、それは大きな間違いの始まりだった。派遣では得られる収入もたかが知れており、母を養うのにはとても足りなかったのだ。
一生懸命働いても得られる収入は僅か、洋子は焦っていた。そんな折、怪しげな就職サイトで薬剤師のスキルを行かせる高収入の仕事がある事を知ったのだった。
それは、今まで聴いたことも無い会社だった。実態は、王狼の麻薬製造部署の隠れ蓑としての会社だったのだが、当時の洋子にはそんな事は知る由も無かった。
そして、そこで働き始めた洋子はすぐにその会社の実態を知る。しかし、病気の母を抱える身である上に、会社を抜ける事はすなわち死であった。
そうして恐怖と後悔に苛まれながら、奈美に出会うまで麻薬製造に関わってきたのであった。
「…ふふっ、本当に私は愚かですね、お金に目が眩んで何も見えていなかったんです。本当は私が人質の人達の分まで苦しまなければいけないのに、それを全て奈美さんに押し付けてしまった…」
泣き出した洋子に、奈美は優しく答える。
「以前、洋子さんはあたしに自分を責めるなって言ってくれたよね。今度はあたしが貴女に言うよ。洋子さん、そんなに自分を責めてはだめだ。洋子さんが勇気を振り絞って王狼から抜け出したから、人質の子達を救出することが出来たんだ」
「奈美さん…」
「洋子さん、貴女は何も悪くない。あたしは洋子さんと会えて本当に良かったと思っている。だって、こんなに優しい人があたしの事を想って苦しみを共に分かち合ってくれたんだからね。
だから、以前も言ったけどまた言うね。洋子さん、ありがとう、本当に…ありがとう」
そっと洋子の頬に手をやって答える奈美、その言葉に洋子の目から大粒の涙が零れ落ちる。
奈美の手に一筋の涙が触れる、それはとても温かい涙だと奈美は思った。
104 :
796:2007/07/22(日) 13:44:04 ID:6yl8IDBZ
その時、せわしないノックの後に扉が開いた。
「奈美さん、目を覚ましたんだね!良かった!」
そこには嬉しそうな顔をした烈緒がいた。後ろにはヴィオネラとミーアがやはり安心したような顔で立っていた。
「烈緒さん!ヴィオネラさんにミーアさんも!」
奈美の言葉を聞いて、3人は奈美の傍までやって来た。
「ドクターから話を聞いたわ。意識が戻って本当によかった」
ヴィオネラが嬉しそうに言った。
「一時はどうなるかと心配していたんですけど…、洋子さんの想いを込めた看病のおかげかもしれないですね」
そう言うミーアの顔も、また嬉しげであった。
「本当に皆心配したんだからね。ここで洋子さんに事情聴衆している時も、皆貴女の事で気が気じゃなかったんだから」
烈緒が少し怒った様な口調で話す。この部屋で洋子を聴衆していた人物とは、烈緒達のことらしい。
「う、うん、ごめんよ。体力には自身があるつもりだったんだけど、少し無理をしすぎたのかな…」
苦笑いを浮かべる奈美に、烈緒は真剣な表情で言った。
「そんなに自分を粗末に扱っちゃ駄目だよ!ここに来た時の奈美さんの身体はひどいなんてもんじゃなかったんだから!外傷だけでも打撲や裂傷が数え切れない程あったんだよ。身体の内部だってボロボロだったんだから!」
「烈緒…さん?」
強い口調で話す烈緒に奈美は戸惑った表情を浮かべる。
「内部出血も酷かったし、内臓にも傷があったんだよ!それに…、体内から高濃度の劇薬が検出されていたし…。組織の人達の供述内容を見てみたら、クロス・マインドを原液で注入されていたって言うじゃない!」
「う、うん…」
「本当だったら、奈美さんはもう何回も死んでいる程のダメージを負っていたんだよ!なんでそこまで無茶をするの?奈美さんの馬鹿!もっと自分を大切にしないと駄目だよ!そんな…、そんな苦しみを一人で背負うなんて…。馬鹿!馬鹿!奈美さんの馬鹿!」
烈緒は泣いていた、泣きながら大声で奈美に怒鳴っていた。
この時、奈美は烈緒がいかに自分の事を心配していたかを痛いほど理解した。烈緒の気持ちを想い、奈美は言葉を失う。
「止めろ、烈緒。奈美さんが無茶をしたからこそ、今我々はここにいられると言う事を忘れたのか。恩を仇で返すような真似はするな」
「…。す、すいません、隊長」
ヴィオネラの一喝で烈緒は押し黙る。そして、ヴィオネラはベッドで横になっている奈美に深く頭を下げるのであった。
105 :
796:2007/07/22(日) 13:44:54 ID:6yl8IDBZ
「烈緒が犯した無礼は代わりに私が謝ります。でも、烈緒も悪気があってあのような事を言った訳ではない事は理解して欲しいの」
ヴィオネラが烈緒を見やりながら言う。
「彼女は貴女一人に苦しみを与えてしまった事をすごく気にしているの。私達が医師に診て貰う時も『奈美さんの意識が戻るまで私は診察や治療は受けない』なんて言っていた位にね」
「…」
「もちろん、私達にはすることが山ほどあったから無理やり治療は受けさせたけど…。ここで洋子さんから話を聴いていた時も貴女の方ばかり見ていたわ。貴女に何かあったら私も死ぬ何て事も言っていた」
「…」
「全ては貴女を想うからこその言葉…。だからと言って暴言が許される訳ではないけど、それだけは分かって。烈緒は貴女の事が好きなのよ」
ヴィオネラの言葉に奈美はゆっくりと頷いた。
「うん、烈緒さんの気持ちは良く分かっているよ。あたしは少しも気分を悪くなんかしていない、むしろ、あたしの事をここまで心配してくれた事がとても嬉しかった」
「奈美さん…」
「あたしは何も気にしていないから…、だから烈緒さんも気にしないで」
その言葉に、烈緒が涙ぐみながら答える。
「…ありがとう奈美さん。でも、ごめんね、あんなひどい事言っちゃって。悪いのは私達の方なのに…」
今度は反省の弁が延々と続きそうな空気を感じて、奈美は慌てて話題を逸らす。
「そ、そう言えば貴女達を陥れた連中ってのはどうしたんだい?」
その質問にミーアが答えた。
「犯人はすぐに見つかりました。やはり、前々からボク達の事を疎ましく思っていた人達がボク達を秘密裏に始末しようと仕組んでいたんです」
烈緒が続ける。
「自分達では到底私達には敵わないし、そんな事をしたらすぐにばれてしまうからね。だからこそ私達が犯罪組織の手に落ちるよう仕組んでいたって訳なの」
ヴィオネラが更に続きを言う。
「連中の誤算は王狼が私達を処刑しなかった事。綺羅の下劣な性格までは読めなかったと言う事ね。おかげで、私達は生き延びる事が出来、彼等は軍規に乗っ取って処分される事となった訳よ」
「処分って…」
「心配しないで、銃殺とかじゃないから。除隊の上、王狼の共犯者と言う事で懲役刑と言う事で許してあげたわ」
ヴィオネラの答えに、奈美は何故と言う事も無くホッとする。
そんな奈美に、少しもじもじしながら烈緒が声を掛ける。
「え、と、それでね…。奈美さんに少し話しがあるんだけど…、ちょっとだけ、いいかな…?」
話が良く分からないままとにかく頷く奈美、それを見て烈緒は話を続けるのであった。
106 :
796:2007/07/22(日) 13:45:59 ID:6yl8IDBZ
「奈美さん…。もし良かったら、私達と一緒にW.M.P.Aで働いてくれないかな」
「W.M.P.Aに?」
唐突な烈緒の話に、奈美はいささか面食らう。
「うん、私達の所属する第37大隊に士官として来て欲しいの。もちろん、その前に士官学校に行く必要はあるけれど…、奈美さんなら問題なく卒業出来ると思うから」
「…はぁ」
「最初は私やミーアと同じ少尉から始まるんだけど、奈美さんならすぐに階級も上がると思うんだ。そうなれば、ヴィオネラ隊長の様に一個大隊を率いる事も出来るんだよ」
「あの…」
「私、奈美さんと一緒に仕事をしたいんだ。始めは同じ階級なんだけど、奈美さんが昇級したら奈美さんの下でずっと働きたいなぁ、って思っているの」
熱っぽく話しかける烈緒にさすがに辟易しながら奈美が尋ねる。
「え…と…。なんで、烈緒さんはあたしなんかをスカウトする気になったのかな。あたしの実力なんて貴女達の足元にも及ばないって言うのに」
「それは、奈美さんが私の理想の人だから…」
「あたしが?」
「うん。私ね、自分に厳しくしても他人に優しく出来る人になりたいんだ。奈美さんは綺羅に捕らえられていた時、自分の身を犠牲にしても洋子さんや人質の子達を守ろうとしたよね」
「…うん」
「私達が奈美さんを責めさいなんでいた時も、貴女は私達を憎むどころか何とかして私達を正気に戻そうとしてくれたでしょ?あんなひどい事をされたら罵声の一つも上げるのが普通なのに、奈美さんはずっと私達の事を考えてくれていたよね…」
「…」
「私も貴女のようにどんなにひどい事をされても他人に優しく出来る強い人になりたいの。貴女は私の理想の人…。だから、一緒に仕事が出来ればな、って思ったんだ」
奈美の顔を見つめながら、烈緒は真剣な面持ちで言う。
「奈美さん、私達と一緒に行こうよ。世界には王狼より大きな犯罪組織なんていくらでもあるんだよ。闇の世界から皆を守るのに奈美さんの力が必要なの。だから、私達と共に戦って、お願い!」
必死の顔で奈美に訴える烈緒。奈美を見つめるその瞳は恐ろしいまでに鋭く、そして澄んでいた。
107 :
796:2007/07/22(日) 13:47:07 ID:6yl8IDBZ
「…ごめん、烈緒さん。その話は無かった事にしてもらえるかな…」
少し間を置いてから、奈美は烈緒に答えた。
「えっ!?どうして、奈美さん!」
こうも簡単に拒否されるとは思っていなかったのだろう、少し声を荒げて烈緒が尋ねる。
「理由って言うのは特に無いんだけど…、あたしは他人に命令するのもされるのもあまり好きじゃないんだよね…。ガラじゃないって言うか、どうも集団で行動するって言うのが苦手でさ」
「大丈夫だよ、少し皆と一緒に過ごせばすぐ慣れるから!一人では無理な事も、皆で一緒に頑張れば出来るようになるんだよ。どんなに困難な事も、奈美さんと私達が力を合わせれば必ず乗り越えられるよ!だから、私達と一緒に行こうよ!」
必死に奈美を説得しようとする烈緒に対して、少し困ったように奈美が答える。
「…あたしは、誰にも迷惑をかけたくないし、かけられたくも無いんだ。それに、一人でやる方が自由に出来るしね。確かに烈緒さんの言う通り、皆で力を合わせればより大きな事が出来るけど、一人だからこそ出来る事もあると思うんだ。だから…」
「でも!」
「止めろ」
なおも声を掛ける烈緒を止めたのはヴィオネラだった。
「いつまで我侭を言っているんだ、我々に奈美さんを束縛する権利などないんだぞ。烈緒、貴女は自分の都合だけで恩人を縛りつけようとする人間だったのか?」
ヴィオネラの言葉に、興奮から冷めた烈緒はバツの悪そうな顔で奈美に謝った。
「…ごめんね、また奈美さんを困らせちゃったみたいだね…。そうだね、私に奈美さんをどうこうする権利なんてないんだし…、今の話は忘れて」
「ごめん、烈緒さん…」
「謝らないで奈美さん、悪いのは全部私の方なんだから。私、奈美さんには奈美さんの道があるって事、少しも考えていなかったから…。でも、道は違っても志は同じだよね。だから、またいつか一緒に仕事をしよ、奈美さん」
烈緒の言葉に奈美はゆっくりと頷いた。
「ありがとう奈美さん、約束だからね。後で私への連絡先を教えるから奈美さんの連絡先も教えて。じゃあ、私達もあまり長くはいられないからこの辺で失礼するね。後は洋子さんとゆっくりしていて」
「じゃあ、ボク達はこれで失礼します。ボクも奈美さんと一緒に仕事をする日を楽しみに待っていますね」
ウィンクをしながらミーアが言う。
「奈美さん、貴女は強いわ…。貴女のその強き心、私はいつまでも忘れない」
ヴィオネラがゆっくりと言った。
「じゃあね、奈美さん。ゆっくり休んで早く身体を治してね。…そうだ、最後に私の本名を教えるね。私の名は、三木堂 烈緒(みきどう れお)って言うの。…奈美さん、私、貴女に会えて本当に良かった」
そういい残し、3人は部屋から出て行った、己がなすべきことをなす為に。奈美との語らいは、彼女達に許されたほんの少しの休息だったのだろう。だが、その少しの時間は、彼女達にとって大いに意義のある時間だったに違いない。
108 :
796:2007/07/22(日) 13:47:54 ID:6yl8IDBZ
3人が部屋から出て行くのを見送った後、奈美は洋子の方を向いて尋ねた。
「洋子さんは、これからどうするつもりなんだい?」
「ええ…、私は母を養わなければいけませんから、すぐにでも新しい仕事を探すつもりです。犯罪組織にいた私にどんな仕事が見つかるか分かりませんけれど…」
少し寂しそうな表情を浮かべながら洋子が答える。
「あのさ…、烈緒さんじゃないけど、よかったらあたしと一緒に仕事をしてくれないかい?」
「え?」
奈美の以外な言葉に洋子が驚いた声を上げる。
「いや、別に洋子さんを危険な目に合わせる訳じゃないよ。パソコンを使っての情報収集とか、身の回りの世話とかしてもらえればいいんだ」
「…」
「ちゃんと洋子さんに給料は出すよ、あたしの仕事は危険だけどその分収入はいいんだ。でも、あたしはあまりお金を使う事がないから無駄に貯まる一方なんだよね。洋子さんのお母さんを養う位のお金は払えるからさ、洋子さんが良ければ来てくれないかな」
少し気恥ずかしそうに話す奈美。
洋子には、その言葉が自分を気遣ってのものだと言う事が分かっていた。そして、自分もこの優しい女性と共に居たいと言う想いを強く持っている。
しかし―と洋子は考える、自分はこの人と一緒にいる資格があるのだろうか―
「奈美さん、ありがとうございます。わたしも奈美さんと一緒に居たいです。でも、今回私のせいで奈美さんにご迷惑をお掛けしました。私は、これ以上貴女に迷惑をかける事は出来ません」
洋子の言葉に奈美は優しく微笑みながら答えた。
「迷惑をかけたなんてとんでもないよ。さっきも言ったよね?洋子さんが勇気を出して、王狼から逃げ出してきたおかげで皆が助かったって」
「…」
「それに、あたしも洋子さんが傍にいてくれたからあの地獄に耐える事が出来たんだ。今度は、あたしが洋子さんにお礼をする番。だから、あたしに貴女のお母さんを助ける手助けをさせて欲しいんだ」
そう言って、奈美は洋子の手をそっと握り締める。
そして、洋子も奈美の手を握り返した。
「…はい、分かりました。…奈美さん、どうかこれからもよろしくお願いいたします」
手を握り締めながら、互いの顔を見つめあう二人。もはや、二人に言葉は不要であった。
今、二人の心は一つとなったのだ。それは、何者にも裂く事の出来ない強い絆そのものであった。
109 :
796:2007/07/22(日) 13:48:44 ID:6yl8IDBZ
それから数ヵ月後―
「準備はどうだい?洋子さん」
人気の無い所に建っているビルの屋上で、奈美が口元のマイクに向かって呟く。
「…ええ、と。…はい、ハッキング終了です。ビルの管制システムは掌握しました」
少し離れた所で駐車しているワゴン車の中で、洋子が答えた。
「了解、これから突入するよ。サポートは頼んだからね」
「はい、気を付けて下さい、奈美さん」
奈美の言葉に、ワゴンの中に詰め込まれているパソコンをいじりながら洋子が返す。
あの日以来、洋子は奈美の補佐として働いていた。
今、彼女は身体にフィットした特殊スーツを着ていた。身体能力増加や防弾機能を備えた特注の品だ。
ベルトに巻かれたホルダーには拳銃が入っている。最も、入っている弾は殺傷能力の無い特殊スタン弾である。
洋子は奈美の世話係で終わることに満足せず、もっと奈美の役に立てるようになるべく自らを鍛え始めた。
始めは少しでも危険な目に会わせたくない奈美に反対されたが、危険な任務は行わず、あくまで奈美の補助役に徹すると言う約束で共に仕事を行う事を許されたのであった。
今では射撃のみならず素手や各種武器の格闘もこなし、今ではそこらのチンピラでは相手にならない程の実力を持っている。
格闘に関しては、護身術の意味合いも込めて奈美が丁寧に指導していた事もあって、短期間でここまで成長したのであった。
その他、奈美の補佐として必要なスキルを必死に学んで、今では奈美にとって欠くことの出来ない相棒となっていた。
洋子は、奈美の役に立てる事が何より嬉しかった。そして、奈美も洋子と共に居る事が何よりも幸せであった。
苦楽を共に分かち合う二人はこれからも戦い続けるのであろう。例え、傷つき、苦しむ事になろうとも、二人の間に絆がある限りどんな困難にも負けはしない。
「行くぞ」
一声呟いて、ビルの屋上から内部へと侵入する奈美。
満月の夜の元、新たなミッションが幕を開けるのであった。
〜完〜
110 :
796:2007/07/22(日) 13:54:01 ID:6yl8IDBZ
長く続いた久瑠須麻 奈美の話もこれで終わりです。
話を書くのに時間がかかりすぎた上、最後の方はエロなしなどとんだ話になってしまいました。
ですが、こんな話に最後までお付き合いいただいて、皆様にはいくら感謝しても感謝しきれません。
おかげさまで、なんとかこの話も終わらせることが出来ました。
どうもありがとうございました。
796氏、乙!!
お茶ドゾー(・∀・)つ旦~
乙です!
エロ無しでもいい話でした!
完結してうれしいです。
ラストもハッピーエンドで良かった。
奈美も良かったけどヴィオネラがかっこよくて好きでした。
物語を最後まで書ききるというのは素晴らしいことだ。
途中で様々な苦悩もあっただろう。その栄光を全力で称えたい。
G J ! !